現実世界で遊戯王! (たけぽん)
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1. 入学早々遊戯王

空は青く晴れ渡り、並木道には桜の花が綺麗に咲いている。道を行くほとんどの人間が、どこかせわしなく、そしてどこか浮かれた様子で歩いている。

春。始まりの季節。なんて言っても、16年も繰り返しているとそのありがたみも殆どない。ただ、俺も少しは期待している。それはこの春から高校生になるからだ。そのせいでいつもより15分も早く家を出てしまった。たった15分だろって?言っておくが、中学までの俺からしたらこれでも大躍進なんだぞ?

 

「そろそろですね」

「いやー春ですねー。空気が気持ちいです♪」

「のんきですね君は。マスターにとっては重要な日なのですよ?」

 

なんて会話が俺の左右でかわされてはいるが、俺は特にそれに答える訳でもなく歩き続ける。と言うよりは答えることに抵抗がある。なぜなら、傍から見ると俺は一人だからだ。だが、俺の左右には確かに意志を持った生命体が存在している。一応言っておくが俺がイタイ人だとかそういう話では無い。いや、その方が幾分マシだったのだが。

 

「むー。いいじゃないですか。みんなで外に出るのは久しぶりなんですから」

 

俺の右を歩く……というか浮いているのは白いローブに身をつつみ、白い髪をした少女。その顔はかなり整っており、スタイルもいい。多分俺と同年代の男子100人に聞いたら100人が美少女と答えるだろう。

 

「だからと言って、緊張感のかけらもない。少しは気を引き締めてください」

 

左にいるのは青いコートの様な服をまとい、頭には何とも形容しがたい形のかぶとを被る、金髪の青年。これも俺と同年代の女子にきいたら全員がイケメンだと答えるだろう。

さて、流石にこんだけ左右で騒がれると朝のさわやかなムードがぶち壊しだ。俺はいったん路地裏に入り大きくため息をつく。

 

「どうしましたか、マスター?」

「ほら,ソードマンががみがみうるさいからマスターもつかれてるんですよ」

「……お前たち、わざわざ出てこなくてもデッキは俺の鞄に入ってるから、引っこんでくれないか」

 

俺をマスターと呼ぶ二人、そして俺の言葉から分かるとおり、この二人は人間じゃない。では何か、ときかれれば『精霊』と言うのが正解だ。『遊戯王デュエルモンスターズ』というカードゲームの、カードの精霊なのだ。女の方はサイレントマジシャン、男の方はサイレントソードマン。どちらも俺のデッキに入っているモンスターだ。だが、精霊と言うのはどこにでもいる訳ではない。むしろ俺もこの二人以外に精霊を見たことはないのだ。そもそも、こいつらが俺の目の前にいるこの状況こそが異常なのだ。なぜならここはアニメでも漫画でもない、れっきとした現実世界なのだ。精霊どころか幽霊すら存在が不確定なこの世界にはデュエルディスクもソリッドヴィジョンも存在しない、それどころかカードゲームってのは陰キャの遊びという認識が一般的だ。

 

「しかしマスター、今日は大事な入学式、私たちも同席せねば……」

「いや、いいから。むしろお前らの席ねーから」

 

サイレントソードマン、俺はソードマンと呼んでいるこいつはかなり生真面目で、しっかりしているのだが俺に対してあまりに過保護すぎて正直うざい。

 

「大丈夫!席なら私が魔法で増やしちゃいますよ!」

「それやるとお前、レベル4に戻るんじゃないのか?」

「うぐっ」

 

サイレントマジシャンのことは基本的にサイマジと呼んでいる。こいつは天然と言うか能天気というか、いつも突拍子の無いことを言ってくる。正直めんどくさい。

 

「それよりマスターそろそろ行きましょう。予定より5分遅れています」

 

そしてこの二人がマスターと呼ぶこの俺、武藤ハルカはどこにでもいる普通の高校生……だったらいいのだが、精霊が見えてる時点で普通じゃないよな。あ、ちなみに名前から誤解されるけどれっきとした男です。

 

「お前らがデッキに戻るならここを動く」

「ぐ……流石マスター、巧みな会話運びです。恐れ入りました」

 

ソードマンは悔しそうな顔をしながら鞄の中のデッキケースへと姿を消す。

 

「ほら、お前も」

「はーい」

 

サイマジもしぶしぶと姿を消す。二人の気配が完全に消えたところで俺は路地から出て、再び学校へと向かった。

 

 

***

 

入学式はつつがなく行われ、新入生たちは配属されたクラスへの教室へと移動した。俺のクラスは1年A組。席は窓際とまではいかなかったが列の中では一番後ろだ。取りあえず携帯にイヤホンをさして耳に付ける……がとくに曲を聞くわけではない。ただこうしていれば話しかけられる確率が格段にさがる。別に進んでボッチになりたい訳でもないが、どうしても今すぐに友達が欲しいわけでもない。そういうわけで、イヤホンで耳をふさいだままそれとなく周囲の様子を伺う。見たところ男女比は男子の方が多い、あとは……知らん。そもそも誰とも話さずに得られる情報なんてこれが限界だ。もういいや、寝よう。周りで連絡先を交換したり、さっそく告白して撃沈したりするクラスメイトたちから意識を切り離し、俺は眠りに就いた。

 

「なあなあ」

 

5分もしないうちに俺の意識は現実へと引き戻された。それは前方から聞こえた声のせいだった。仕方なく起き上がりイヤホンを外し、そちらへと視線を移す。それは俺の前に座っていた金髪の男子の声だったようだ。おかしいな、さっき確認した時は俺の前の席は別の奴だったような気がするんだが。

 

「なに聞いてたんだ?」

 

金髪は屈託のない笑顔で俺に話しかけてくる。

 

「何も聞いてない」

「なんじゃそりゃ?じゃあなんでイヤホンなんか?」

「こうしてると教室で話しかけられる確率が減る……まあ乱数調整だな」

「らんすーちょーせー?なにそれ、英語?」

 

しまった。こんな事言っても陽キャには通用しないのか。何か別の事言わないと……。

 

「なあ、お前遊戯王ってやってた?」

 

だが金髪はすぐに話を繋いでくれた。めっちゃいい奴じゃんこいつ。

 

「遊戯王か。小学校の時くらいにかなり流行ってたよな」

 

当たり障りのない解答をする。実際ここ数年人と遊戯王をしたことはない。だから俺の返事に嘘偽りは一切ないのだ。

 

「だよなー。ブラックマジシャンとかさ、後なんだっけ、神のカード……だっけか。あの赤い竜なんていったけか」

「オシリスの天空竜だな」

「そうそれ!あれの赤いカードもってたんだよなあ」

「ゲームの付録の奴か」

「そうそう!お前詳しいのな」

「……まあな」

 

 

この金髪はどういう意図で俺に遊戯王の話をしてくるのだろうか。ひょっとしてこいつ、高校デビューってやつか?いや、それにしてはコミュ力が高い。一朝一夕でこうはならないだろう。

 

「それで、遊戯王がどうかしたのか?」

「なんかさ、この学校、遊戯王部ってのがあるんだと。初心者大歓迎って言ってたからい一緒に行く奴探してたんだよ。お前、どう?」

 

遊戯王部。そんなのが部活として成立するのか。どうやって実績残すんだ?ショップ大会を総なめにするとかだろうか。とはいっても、部活、ねえ……。

 

「すまん。俺は特にその部には興味がない」

 

すこし、具体的に言うと5秒くらい考えてから断ることにした。

 

「えーマジか~。まあ俺も単にちょっと懐かしくなったからってだけだししゃーないか。他のやつ当たってみるわ」

 

そう言って金髪は立ち上がる。

 

「あ、そうだ。俺、五和ダイゴ。お前は?」

「……俺は、武藤ハルカ」

「そっか。また暇な時話そうや。そんじゃな~」

 

そう言って金髪は入り口近くの自分の席へと戻って行った。

 

そこからは至って普通。担任が入ってきて寒いギャグを交えて自己紹介。そして生徒たちが出席番号順に自己紹介する。終わったらオリエンテーションをして帰りの挨拶。どこでもやるような普通のホームルームだった。

 

 

***

 

 

そして放課後。とはいっても入学式は午前登校なので、まだまだ日は高い。新入生たちは、各自家に真っすぐ帰宅するもの、できたばかりの友人と早速カラオケにいくもの、部活動を見に行くものに分かれ、さっさと教室を出て行った。

俺はと言うと、何をするわけでもなく、誰もいない教室で自分の席に座ったまま宙を眺めていた。

 

「暇そうですね、マスター」

 

いつの間にか鞄から出てきたサイマジが俺の隣から声をかけてくる。

 

「……出てきていいって言ってないぞ」

「だって、ずっと鞄の中にいても面白くないんですもん」

「ソードマンは?」

「瞑想してます」

「いつも通りだな」

「マスター、さっきの五和さんの誘い、どうして断ったんですか?」

「興味無かったんだよ」

「誰かと遊戯王ができるチャンスだったのに」

「いいんだよ、やらなくて」

「でも……」

 

そこから先の言葉を遮るように俺は鞄を持ち席を立つ。サイマジもそれをみて諦めたのか、大人しく後ろをついてきた。

 

「帰ったら何しますか?」

 

が、大人しかったのは教室を出るまでだった。沈黙の魔術師とは何だったのか。

 

「いつもどおり」

「竹田さんのところですね」

「そうだな」

 

そこからはサイマジの話を適当に聞きながら玄関を目指し、階段を下り、廊下を歩き、角でまがり、階段を下り、階段を上がり、廊下を歩き、階段を上がった。つまりどういうことかというと……。

 

「迷ったな」

「迷いましたね」

 

この学校、やたら敷地が広くて玄関までの道のりがさっぱりわからない。壁にかかっている案内板を見るとどうやら一番奥の部室棟まで来てしまったようだ。ともあれ、案内板のおかげでどうにか帰れそうだ。

 

「……ん?」

 

案内板から目を離し歩き始めた矢先、一枚のカードが落ちていることに気付いた。裏面からして遊戯王カードのようだ。拾ってみる。

 

「これは……虹クリボーか」

「あ、可愛い!」

 

サイマジがはしゃいでいるが、俺はふと気になったことがあった。

 

「虹クリボーって、シクレアあったっけ……」

 

俺が知っている虹クリボーは確かスーパーレアとノーマルだった気がするが、手元のカードはシークレットレアの加工がされていた。

 

「なあ、これ、偽造カードか?」

 

聞いてみたがサイマジは首を横に振る。

 

「いえ、これはれっきとした公式のカードです」

 

カードの精霊が言っているのだから疑う余地もない。ってことは、エラーカードか何かだろうか。

そう思っていると、近くの教室の扉が開いた。

 

「んーつかれた……」

 

中から出てきたのはこの学校の制服をきた女子。上履きの色からして1年生ではない。

 

「ん?」

 

その女子生徒は俺の存在に気付くと、首をかしげた。

 

「えっと……」

 

俺もどうしていいか分からずにいると、彼女は俺の手元に視線を向ける。

 

「君、ひょっとして入部希望者?」

「え?」

「いや、ほらそれ、遊戯王カードでしょ?」

 

彼女は俺の持っている虹クリボーを指差す。しかし入部希望者とは?

俺が疑問に思っていると、教室から愉快な話声が聞こえてきた。

 

「だーかーら、あの伏せはミラフォだっつってんだろ!」

「底知れぬ絶望の淵へ、沈めえ!」

「MATTE!これは事故だあ!」

 

そのどこかで聞いたセリフを聞きながらドアの上のプレートを見て状況を理解する。

 

「ああ、ここが……」

 

ここがさっき五和が言っていた『遊戯王部』だったのだ。

 

 

***

 

「ようこそ遊戯王部へ!」

「ウェーイ!」

 

強引に誘いこまれた部室の中で、唐突に歓迎会が始まった。

 

「ちょっとみんな落ち着いてよ」

 

バカみたいなテンションの歓迎に思わず苦笑いを隠せずにいると、さっきの彼女が周りを静め、口を開いた。

 

「こんにちは。わたしは真崎キョウコ。2年生で、この部の部長です」

「はあ……」

「そしてここは遊戯王部。みんなで楽しく遊戯王をする部なの」

 

周りを見渡すと、本棚には遊戯王の漫画や関連書籍が所狭しと並んでおり、他にも長机の上にはカートン買いしたであろう大量のボックスが置いてあった。これで遊戯王部じゃなかったらギャグだ。

 

「えっと、あなた1年生よね?名前は?」

「武藤ハルカです」

「武藤君ね。えっと、何のデッキを使ってるの?」

「え?」

 

唐突な質問に我ながら間抜けな声を出してしまった。

 

「真崎、こいつ初心者なんじゃないのか?」

 

真崎の隣に座っていた男子生徒が俺のほうを見ながら言う。

 

「島田君。あっていきなりこいつ呼ばわりは失礼よ」

「しゅ、シュイマシェーン」

 

真崎の威圧に島田と呼ばれた生徒は縮こまる。それを見た周りの男子も震えあがっている。

よく見ると、この空間で女子は真崎しかいない。オタサーの姫ってやつだろうか。

 

「えっと、それで武藤君は遊戯王やったことないの?」

「いや、そういうわけでは……というか俺は入部希望者じゃ……」

「あー復帰勢ね。じゃあルールとかは一通り分かるんだ」

 

肝心なところは聞かずに真崎は何かの用紙にメモしていく。

 

「うん。わかったわ。それじゃあこの用紙に名前を書いてくれれば入部成立よ」

 

そう言われて差し出された用紙は、当然入部届けだった。備考欄に『復帰勢』と書かれている。

 

「いや、だから俺は……」

「いーじゃないですかマスター。入っちゃいましょうよ♪」

 

教室内をふわふわと浮かびながら眺めるサイマジが能天気にそんなことを言ってくる。

 

「すみません。俺、遊戯王部には興味が……」

「なるほど!ただでは入らないってことね」

「へ?」

「だったら、デュエルよ!」

 

なにが、『だったら』なんだ?接続詞って知ってる?

 

「おお!あれは真崎部長の103の技の内の一つ、『答えはデュエルの中でしか見つからない』だ!」

 

え?なに?どういうことだ?

 

「武藤くん、君の顔には遊戯王がしたいって書いてるわ。でも今更復帰しても新しいカードには勝てないとか思ってるのよね?」

「え、べつにそんなことは……」

 

「それならデュエルしましょう。デュエルで私が勝ったら入部。それで決まりよ」

 

もう何を言ってもこの状況は変わらないような気がする。事実、島田を始めとした部員たちはせっせとテーブルを片付けているし、真崎も鞄からデッキケースとプレイマットを出している。

 

「ささ、マスター。デュエルですよ♪」

 

 

サイマジがにこにこしながらテーブルの方へと向かっていく。だが俺はできればやりたくない。さっさと竹田のところでも行っていつも通りの日常を送りたい。

 

「さ、武藤君。準備できたわよ」

「いや、ほら、俺デッキ持ってないんで……」

「大丈夫よ。初心者用におためしデッキもあるから」

「最近のカード知らないんで……」

「むー」

 

なんとか回避しようとする俺にいら立ったのかサイマジがこちらまで近づいてくる。そして俺の鞄を持ち上げ……逆さに振った。

 

「お、おい!」

 

一瞬の出来事だったので他の連中には何かのはずみで鞄が落ちたようにしか見えなかっただろう。ただ問題なのは、鞄から俺のデッキケースが落ち、中身が散らばったこと。それは当然、真崎にも見えているだろう。

 

「あれ、なんだ武藤君デッキ持ってるじゃない。じゃあそれでやりましょ」

 

詰んだ。ここで俺がカードを持っていることがばれた以上、もうこのノリを覆すことは不可能だ。俺はがっくりとかたを落とし、散らばったカードを拾い……テーブルについた。

それを見たサイマジは少し驚いた様子でこちらを見る。お前がやれって言ったんだろうが。

 

「よし、それじゃお互いのデッキをカット&……」

「真崎先輩」

「え?なにかしら?」

「先輩はデュエルで勝ったら俺に入部しろって言ってるんですよね?」

「え?それはまあ、そうだけど?」

「じゃあ、俺が勝ったら入部しなくていいんですよね?」

「え?」

 

俺の返事にギャラリーはざわめく。それもそうか、復帰勢ってことになってる俺が仮にも遊戯王部部長に勝つつもりって言うのはいくらなんでもおかしいわけだし。

 

 

「凄い自信ね……」

 

それにこたえるわけでもなく俺は真崎のデッキをカットして渡す。

 

「それじゃあカットも済んだし始めましょう」

「……はい」

 

 

「「デュエル」」

 

 

第一ターン

 

先攻 真崎キョウコ ライフ8000 手札5枚  デッキ40枚 エクストラデッキ15枚

後攻 武藤ハルカ ライフ8000 手札5枚  デッキ40枚 エクストラデッキ15枚

 

「私のターン!」

 

最新のマスタールールのため、当然先行はドローなし。真崎の様子を見ながら俺は自分の手札を見る。……まあ、大丈夫そうだな。

 

「私はマジシャンズロッドを召喚」

 

真崎の出したカードによって真崎のデッキタイプは少なくとも『ブラックマジシャン』であることは決定した。

 

「マジシャンズロッドの効果でデッキからテキストにブラックマジシャンと書かれたカードをサーチするわ。私は黒の魔導陣を手札に」

 

いいスタートだ。ブラックマジシャンデッキはあの魔導陣がキーカードになってくる。それをサーチするマジシャンズロッド。初動としては悪くない。

 

「そしてそのまま黒の魔導陣を発動。デッキトップを3枚めくり、永遠の魂を手札に加える」

 

永遠の魂、そして場には魔導陣。これはほぼ確実に次のターンでブラックマジシャンが来るな。

 

「カードを一枚伏せてターンエンドよ」

 

第2ターン

 

「俺のターン、ドロー」

 

 

さて、あの布陣。黒の魔導陣はブラックマジシャンが召喚されるとターン1でこちらのカードを除外してくる。さらに伏せられたであろう永遠の魂は毎ターン手札か墓地からブラックマジシャンを特殊召喚するカード。つまり、このターンほぼ確実に俺のカードは一枚除外される。正直真崎の初動は理想的すぎる。だからこそ……

 

「つまんねえな……」

「ん?何か言った?」

「いえ、なんでもありません」

 

思わず口に出た感想を誤魔化しつつ、俺はドローカードを確認する……って、は?

 

「クリクリ~」

 

なにか聞こえたような気がする。いや、聞こえたとしてもクリクリ~じゃ分かんねーよ。てかなんでこのカード俺のデッキに入ってんの?

俺が引いたカードはさっき廊下で拾った虹クリボーだった。だが、あのカードはポケットに入れたはず。そう思いポケットに手を入れると、虹クリボーのカードは影も形もなかった。

 

「え~と、マスター?実はその……」

 

隣にいたサイマジが俺の方を申し訳なさそうに見てくる。やっぱりお前の仕業か。そう言えば以前も入れた覚えのないカードが入ってたな。あれはたしか、モリンフェン……。

まあ、今回に限って言えば全く使えないカードじゃないだけマシか。

 

「……手札からマジシャンズロッドを召喚」

「マジシャンズロッド……私と同じブラックマジシャンデッキってことね」

「マジシャンズロッドの効果でデッキから魂のしもべをサーチします」

 

チェーンもないようなので俺はデッキを手に取り魂のしもべを手札に加える。

 

「え?魂のしもべ?」

 

効果処理が終わった後、真崎が間抜けな声を上げる。

 

「どうかしました?」

「いや、武藤君、復帰勢よね?」

「まあ、そうですね」

「ロッドはともかく魂のしもべって最近のパックのカードなんだけど……」

「カードは拾った」

「いや、5dsは見てたとしても……んん?」

 

尚も首をひねる真崎は無視して俺はプレイを続行する。

 

「手札のマジシャンズソウルズの効果発動。デッキからブラックマジシャンを墓地に送って、このカードを墓地に送る効果を選択します」

「ソウルズって……。もう意味不明なんだけど……」

「チェーンは?」

「……無いわ」

「それじゃあソウルズの効果でブラックマジシャンを墓地から特殊召喚します」

「それならここでトラップ発動!永遠の魂!」

「よっしゃ!これであの一年のブラマジは除外だぜ!」

 

大声を上げる島田だったが、真崎がそれをにらむと即消沈した。

 

「ゴホン。これで私は手札から……!」

「ライフを半分払って、手札から罠カード、レッドリブートを発動します」

「え?」

「相手が発動した罠カードを再セットし、相手はデッキからトラップを一枚伏せる。その代わり、このターン相手はトラップを発動できない」

 

ハルカLP8000→4000

 

「手札からトラップ!?」

「手札からトラップだって!?」

「手札からトラップなんて……すごい!」

 

周囲の部員たちがアニメのセリフを引用しているが、あんまりやるとだんだん寒い感じがするからやめていただきたい。

 

「先輩。トラップ、伏せますか?」

「くっ……デッキからマジシャンズナビゲートをセットするわ」

「やべえ!部長のマジシャンコンボが完全に封じられた!」

「でも、今セットしたマジシャンズナビゲートも強力なトラップだし、次のターンで……」

「ばかやろう!なにフラグ建ててんだ!」

 

この人たちはいつもこんなノリなのか?燃費の悪そうな部活だな。

 

「それじゃあ、ここで魂のしもべを発動します」

「デッキからテキストにブラックマジシャンかブラックマジシャンガールと記されたカードをデッキトップに置くカードね……」

「ここで置くとしたら、やっぱり黒・魔・導だよなあ?」

「そうだな、そうすればレッドリブートでセットされたカードともども部長の魔法罠を破壊できるし」

 

まあ、普通のブラマジデッキならそういう選択肢もあるが、俺のデッキにはそのカードは入っていない。

とはいえ、この雰囲気で俺の欲しいカードを選択すると一気にしらけそうな気もするんだが……。

一応、隣にたたずむサイマジの表情をうかがう。俺の次の行動を知っているこいつがどんな反応をするか、それを判断基準にしよう。

 

「さあ、マスター!やっちゃいましょう!」

 

……まあ、そうだよな。どんな形であれデュエルに手を抜くことは許されない。

 

「デッキから黒魔導の執行官をデッキトップに置きます」

「は?」

「え?」

「ひょ?」

 

その場にいた部員全員が拍子抜けしたように呟く。まあ、このカードが収録されたストラクチャーデッキもトーナメントパックもすでに遥か過去のものだし、当然と言えば当然だろう。

 

「ちょ、ちょっとテキストを確認してもいいかしら?」

「はい、どうぞ」

 

俺は真崎にカードを手渡す。それを受け取った真崎はじっとカードのテキストに目を通しだした。

 

「……なるほど。通常魔法を使うたびに1000ポイントのバーンダメージが入るのね。わかったわ。ありがとう」

 

手元に戻ってきたカードをデッキっトップにおいて、俺は次の行動に移る。

 

「魂のしもべのもう一つの効果。このカードを墓地から除外して、互いのフィールド、墓地のブラマジ、ブラマジガール、守護神菅モンスターの種類につき一枚ドローします」

 

フィールドには俺のブラマジが一体。墓地には該当するカードはないので俺はさっきデッキトップにおいた黒魔導の執行官をドローする。

 

「フィールドのブラックマジシャンをリリースして、黒魔導の執行官を特殊召喚します」

「ここから毎ターン、通常魔法を使うたびに1000ダメージ……痛いわね」

「手札から、トゥーンのもくじを発動します」

「え?トゥーン?」

「デッキからトゥーンと名の付くカードを手札に加えます。選ぶのは、トゥーンのもくじ」

「な、なるほどね。そのカードを連打してダメージを稼ぐって戦略なのね……。でも、そうはいかないわ!手札から幽鬼うさぎの効果発動!このカードを墓地に送って黒魔導の執行官を破壊するわ!これでダメージはこの一回きりよ!」

「おお!手札誘発!」

「レアコレで再録された優秀なカードだな!」

 

幽鬼うさぎか。まあ、確かに優秀なカードなんだが……。

 

「えっと、その幽鬼うさぎは発動できません」

「え?」

「幽鬼うさぎの発動条件は効果の発動ですが、黒魔導の執行官の効果は永続効果。つまり、発動する効果ではないんです」

「え、そ、そうなの?」

「そうです」

 

真崎はポケットからスマホを取り出し、操作しだす。おそらくwikiを確認しているのだろう。まあ、このカードはまだテキスト整備される前のカードだから、字面だけじゃ判断できないからな。

 

「……確かに、永続効果って書いてるわね……」

「それじゃあ、ゲームを再開します。俺がトゥーンのもくじを発動したので、黒魔導の執行官の効果で1000ポイントのダメージです」

 

真崎LP8000→7000

 

「今サーチしたトゥーンのもくじを発動し、最後のもくじを加えます。そして1000ダメージ」

 

真崎LP7000→6000

 

「最後のトゥーンのもくじを発動。でっきからトゥーンブラックマジシャンをサーチ。そして1000ダメージ」

真崎LP6000→5000

 

「闇の誘惑を発動。カードを2枚ドローして、トゥーンブラックマジシャンを除外」

 

真崎LP5000→4000

 

「グリモの魔導書を発動。デッキからセフェルの魔導書を手札に」

 

真崎LP4000→3000

 

「セフェルの魔導書を発動。手札のヒュグロの魔導書を見せて、墓地のグリモの効果をコピーし、ルドラの魔導書を手札に」

 

真崎LP3000→2000

 

「ルドラの魔導書を発動。手札のヒュグロの魔導書を墓地へ送って2枚ドロー」

 

真崎LP2000→1000

 

「ヒュグロの魔導書を発動。黒魔導の執行官の攻撃力を1000ポイントアップ」

 

真崎LP1000→0

 

「……負けたわ」

「ありがとうございました」

 

一応礼儀として挨拶をしておく。教室内で言葉発するものはもういなかった。完全な沈黙だ。まあ、後攻ワンキルなんてかまされたらこうなるよな。

 

「えっと、それじゃあ俺はこれで失礼しま……」

「すごい……」

「え?」

「すごいわ武藤君!こんな華麗なプレイ、初めてみたわ!どうしてもあなたが欲しくなった!」

 

真崎は俺の手を握りぶんぶんと振る。それを見た周りの生徒たちも駆け寄ってくる。

 

「すげーな武藤!」

「ホントに復帰勢かよ!」

「こりゃうちの部に革命が起きるぜ!」

 

そんな中、島田だけは面白くなさそうに椅子に座ったままだった。

 

「武藤君、どうかな、うちの部に入部してくれないかしら。あなたがいたらきっと楽しいわ」

「よかったですね!マスター」

 

サイマジも万歳して喜んでいる。

だが、俺はこのままこの部に入部するつもりは無いのだから、しっかり伝えておいた方がいいだろう。

 

「真崎先輩。俺はデュエルに勝ちました。それなら約束通り入部に関しては俺の意思で決めていいんですよね?」

「あ……」

「あ」

「あ」

「あ」

 

真崎を含め全員がやっと思い出してくれたようだ。

 

「そうだったわね……それじゃあやっぱり……」

「ええ、俺はこの部には入部しません」

 

俺がそう言った時、一番悲しそうな顔をしていたのは、サイレントマジシャンだった。

 

 

 



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2. 新科学研究所

遊戯王部でのひと悶着のあと、俺は普通に帰路についていた。横にはサイマジがふわふわとついてくる。帰路といっても、遊戯王部での出来事は1時間にも満たなかったし、なにせ午前授業だ、まだ時計は2時まえを挿している。このまま家に帰っても相当な時間を持て余すことになる。なので俺は中学の時から通っている場所に寄り道することにしていた。通学路をはずれ、古い建物が並ぶまるでスラムとも言えるような場所の奥にその場所は位置している。ボロい2階建てのビル。1階は以前なにかの店がやっていたようだが今は店じまいしたようでガランとしている。そこはさっさと通り過ぎ、階段を上り2階へと向かう。

『新科学研究所』

そんな汚い字がぼろっちい表札に書いてある。いつも通り合鍵を使い、無言で中に入る。

部屋の中にはたくさんの文献や工具が散らばっており、気をつけてあるかないとそれらに足をとられてしまいそうなほどだ。そんな室内をなんとか歩き、ソファで熟睡している白衣の男に声をかける。

 

「竹田、俺だ」

「ん……ふああああ」

 

竹田は目をこすりながら上半身を起こす。

 

「おーうハル君か。今日入学式じゃなかったけ?」

「入学式で午後まで拘束されてたまるか。お前こそ、今年で3年だろ?単位とか大丈夫なのか?」

「へーきへーき。まだ4個しか落としてないからね。ふあああ……」

 

尚ものんきにあくびをするこの男は竹田シゲハル。このあたりでもトップクラスの偏差値の大学所属する今年で3年生の現役大学生だ。

 

「昨日も徹夜か?」

「ああ、もう少しでソリッドヴィジョンシステムタイプ7が完成しそうなんだよ」

 

竹田は入試でトップの成績で今の大学に合格し、特待生として周りから有り余るほど期待されていたのだが、なにをとち狂ったのかソリッドヴィジョン開発という前代未聞のプロジェクトを一人で立ち上げ、この研究室にこもり日夜研究に明け暮れているかなりの変人だ。俺とは以前ちょっとした事で知り合い、俺の持つ精霊のカードに大いに興味を示し、異世界研究とか言うソリッドヴィジョンより数段狂った研究に足を踏み入れたらへんでこの研究室の合い鍵をもらい今に至るわけだ。

 

「にしても汚い部屋だな」

「おかげさまでね」

「サイマジ、掃除してくれ」

 

隣にたたずむサイマジに頼んでみるも、彼女はじとーっとした目でこちらを見るだけだった。

 

「お、今日はサイマジちゃんもいるのか。それじゃあこいつの出番だな」

 

竹田はソファの前のガラクタだらけの机をひっかきまわすとバカでかいサングラスの様な機械をとりだした。

当たり前だが、サイマジの姿を目視できるのは俺しかいないわけで、竹田は見ることができない。だが、精霊の存在についてなぜかあっさり信用した竹田はサーモグラフィーやら何やらを組み合わせ、精霊を見ることができる機械という世紀の大発明をやってのけたのだ。ただ、残念なことに、竹田の人脈的な都合でこのサングラスの使用者が竹田しかおらず、精霊がいるのか、はたまた俺と竹田の頭が偶然同じベクトルで狂っているのか判断に困るところである。

 

「やっほーサイマジちゃん。元気?」

「あ、はい。元気ですよ~」

 

姿は見えても声は聞こえないため、サイマジは手を振って答える。

 

「さて、話しを戻そう。サイマジ、掃除してくれ」

「マスター、私をお掃除ロボットと勘違いしてませんか?」

「掃除してくれたら帰りにコンビニであんパンを買ってやろう」

「ホントですか!掃除します!」

 

これがたったの120円。みなさん如何でしょう、一家に一枚サイレントマジシャン。

 

「それじゃあ行きますよ~それえ!」

 

サイマジが杖をふると、落ちていた工具や辞典が宙に浮き、もとあった棚へとひとりでに収まっていく。物理法則をまったく無視したこの様子が確認できる以上、俺も竹田も精霊の存在を否定できないのだ。

 

「さて、ハル君コーヒーでも飲むかい?」

「そうだな、もらおうか」

 

竹田がコーヒーメーカーをセットしている間、ゆかに胡坐をかき、鞄からデッキをとり出す。

 

「あれ、ハル君がデッキを見てるなんてめずらしいね。いつもは滅多に鞄から出さないのにさ」

 

コーヒーの入ったカップを持ってきた竹田が物珍しそうに言う。俺は受け取ったコーヒーでのどを潤す。

 

「気になることがあってな」

「気になること?」

「このカードなんだが」

 

俺はさっき廊下で拾ったシクレアの虹クリボーを竹田に見せる。

 

「虹クリボーか。使いやすいカードだよね」

「……それだけか?」

「それだけって?」

「このカードの加工だよ。シクレアになってるだろ?」

「うん?僕には普通のスーレア加工に見えるけど……」

 

どういうことだ?俺にはシクレアに見えて竹田にはスーレアに見えている?そんなバカな。

 

「ハル君にはシクレアに見えるのかい?」

「ああ」

 

隣に座っているサイマジも頷く。どうやらこいつは俺と同じように見えているようだ。

 

「なるほど、これは非常に興味深い!」

 

竹田が急に高らかに声を上げる。

 

「なんだよ急に」

「僕には見えないものが精霊のサイマジちゃんとそのマスターであるハル君には見える!つまりこの虹クリボーは精霊とおおきな関係がある可能性を秘めているという仮説がたつ!」

 

そう言えば、さっき虹クリボーをドローした時なにか聞こえた気がするが、あれも精霊だったのだろうか。だが、360度見回しても虹クリボーの姿はカードのイラストの中にしかない。

 

「ハル君、しばらくこの虹クリボーのカード、あずかってもいいかい?ぜひとも研究したい!」

「それはいいけど」

 

どうせ拾ったカードだしな。

 

 

***

 

その後すぐに竹田は虹クリボーの研究に没頭してしまったため、やることがなくなった俺は街の中央にある広場でホットドックを食べていた。

 

「マスター、さっきの虹クリボー、竹田さんに預けて本当に良かったんですか?」

 

隣でコンビニのあんパンを食べるサイマジが尋ねてくる。

 

「いいも何も、竹田に調べてもらった方がお前たちの為にもなるだろ」

「それはそうですけど……」

「お前まさか、今のままでいいなんて思ってないだろうな?」

「そんなことは……ないです」

 

サイマジはしょぼんとうなだれる。流石にそれ以上追撃するわけにもいかないので俺は再びホットドックをかじる。

 

『ここで臨時ニュースです』

 

ひろばの真ん中に位置するモニターが急にニュース画面に切り替わった。とくにやることもないのでそれに視線を向けてみる。

 

 

『先ほど、○○駅周辺の飲食店で、原因不明の火災がありました。現在、消防が出動し、消火作業に当たっています。この火災で、死者は出ておりません。繰り返します……』

 

物騒なもんだな。そういえば ここ最近火災のニュースが多い気もする。放火魔でもいるのだろうか。さっさとつかまってくれるとありがたいんだが。

 

「物騒ですね」

 

そう呟いたのは俺でもなくサイマジでもなく、いつの間にか俺の横に座っていたソードマンだった。

 

「お前か。瞑想は終わったのか」

「はい、今日の分は」

「そうか」

 

そこで沈黙が訪れる。どうにも俺は会話するのがヘタだ。それは人間相手でも精霊相手でも変わらないようで、今まで人と会話して10分もった記憶がない。

 

「そういえば」

 

ソードマンが沈黙を破る。沈黙の剣士とは何だったのか。

 

「先ほどの遊戯王部の勧誘、本当に断って良かったのですか?」

 

その質問に、サイマジが不安そうにこちらを見ているのが分かる。質問を投げかけてきたソードマンも、表情が曇っていた。

 

「いいんだよ。俺はもう誰かと遊戯王を楽しむことはできないんだ」

「そう……ですか」

「それに、真崎のデュエルははっきり言って弱かった」

「ずばっといいますね……」

「本人に言ってないんだからいいだろ」

 

時計が4時を回ったのを見て俺はベンチから腰をあげる。そろそろ帰るか。

 

 

***

 

家、といってもそんな大層なものではなく、家賃が安いアパートの一室。俺は鍵を開けさっさと靴を脱ぎ、台所で手を洗う。そんな俺を迎える住人は残念ながらこの家にはいない。とある事情で今年から俺はここで一人暮らしを始めた。まあ、家族がいなくとも俺の周りには二人の同居人がいる訳だし、さわがしさに変わりは無い。

 

「さて、家についたし実体化してもいいですよね?マスター」

「好きにしろ」

「かしこま!」

 

 

そう言うとサイマジは目を閉じる。するとさっきまで半透明だったからだが変わって行く。これが、精霊の実体化。ソードマンもサイマジも最初はこれができず、現実世界のものはマスターである俺が触れたものしにか触れなかった。だが、ある時を境に自由に実体化ができるようになったのだ。

 

「それでは私も」

 

ソードマンも実体化する。彼は実体化するとすぐに食卓の椅子に引っかかっていたエプロンを腰に巻き、冷蔵庫を開ける。この家でのこいつの役割は料理当番なのだ。

 

「マスター、掃除機かけるんで床のものどけてください」

 

サイマジはそう言いながら掃除機のコンセントを挿す。こいつの役割は掃除当番。

そして俺はというと、特にやることがない。一応家賃の為にバイトをしているが、今日は休みなため本当にやることがない。そして、なぜ俺が料理と掃除を二人に任せているかというと、俺は料理も掃除も全くできないからだ。そういうこともあって、俺もこいつらを家に置かざるを得ないわけだ。

なので俺は床のものをかたづけ、食卓の椅子に座りながら週刊誌を読む。これがいつもの日常なのだ。まあ、今日は入学早々デュエルなんてイレギュラーもあったのだが。

 

「あ、マスター。申し訳ないのですがスーパーで卵を買ってきていただけないでしょうか」

 

冷蔵庫を見ていたソードマンが申し訳なさそうに頼んでくる。

 

「構わないが……卵このまえ買わなかったか?」

「いえ、その卵はこの前オムライスに全部使いました」

「はあ……飯作ってくれてるからあんまり偉そうには言えないけど、もうすこし計画的に使ってくれ」

「以後気をつけます」

「はいよ」

 

卵を買うには商店街まで行かなくてはいけない。俺は駐輪場でエコバックを自転車のかごに乗せ、サドルにまたがりゆっくりとこぎ始めた。

温かな春の風を感じながら川沿いをゆっくりと自転車をこぐ。この街に来て間もないが、この川沿いの景色は格別だ。、川の水はきれいできらきらと光っているし、なにせ人通りが少なく、落ち着いた雰囲気を感じられる。商店街まで行くには遠回りだが、俺はいつもここを通っている。そんな川沿いを通り過ぎ、今日登校した並木道を横切り、商店街へとやってきた。商店街の通りはせまいので、自転車からおり、押して歩く。スーパーまではまだ少し距離があるので、俺はイヤホンを耳につけ何を聞くでもなく歩き続ける。

精肉店を通り過ぎ、門で曲がろうとした時、体に強い衝撃を感じ、俺は自転車ごと倒れた。

い、いてえ……。なんだ?

 

「ご、ごめんなさい!」

 

見上げると、立っていたのはメガネをかけた小柄な男だった。申し訳なさそうに差し延ばされた手に遠慮なくつかまり、自転車を起こしながら立ち上がる。

 

「本当にごめんなさい、急いでたもので……」

「いや、俺も不注意だったし……」

 

ごく普通の言葉を返すと、メガネの男は急に俺の方をじろじろと見てきた。

 

「な、なんだ?」

「き、君武藤君だよね!?」

 

なぜこの男は俺の名前を知っているのだろう。俺は基本的に誰かと仲良くなって自己紹介をすることは無いし、この男は俺の知人ではない。ならば誰だ?

 

「あ、ぼ、僕は溝口!遊戯王部の部員で……」

 

そういえば、さっきの真崎とのデュエルを見ていた部員の中にこいつはいたような気がする。

「さっきの君のデュエル、本当にすごかったよ!部長を相手にワンターンキルだなんて!僕、感動した!」

 

早口になりながら喋り捲る溝口は意に介せず、俺は倒れた自転車を立て直す。

 

「え、ちょ、ちょっと武藤君!」

「ぶつかって悪かったな。それじゃあ」

「い、いや、せっかくだしもっとデュエルの話を……」

「おーい!溝口、てめえ!」

 

尚も食い下がってくる溝口を振り払おうとした矢先、遠くからものすごい形相でこちらへ走ってくるスキンヘッドの男が見えた。

 

「げ!や、やばい!武藤君、逃げよう!」

「は?おい、なんで俺が」

 

俺の疑問に答えずに、溝口は俺の腕を引っ張り走り出す。その勢いが強すぎて、俺の後方では俺の手元から離れた自転車が盛大にひっくり返る音がした。

 

 



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3. 不良集団と遊戯王(前編)

溝口に引っ張られること10分。俺たちは河川敷の階段に腰掛けていた。流石に急な運動過ぎて、俺も溝口も呼吸を整えようと必死に空気を吸い込んでは吐いていた。

 

「はあ……はあ……。ご、ごめん武藤君……」

「ごめんじゃねえよ。なんでこうなった」

「そ、その……実はさっきの人は……」

「いや、興味ない。俺は自転車のところに戻る」

「え、ええ!?ま、待ってよお!話だけでも聞いてって!」

「断る」

「そ、そんなあ……」

 

がっくりとうなだれる溝口を放置して戻ろうとしたが、そこでふと思った。このままだとスーパーに行って卵を買って帰っても晩御飯の時間に間に合わない。そうなればソードマンもサイマジも文句を垂れるに違いない。

ならば、ここで溝口の与太話を3分くらい聞いておくことで、面倒な奴に絡まれたからという言い訳もたつではないか。

 

「……3分で終わるか?」

「さ、三分って!公式大会の一ターン程度しかないじゃないか!」

「一ターンあれば十分だろ」

「う、うう。わかったよ……」

 

俺はさっきよりもうなだれる溝口の横に腰を下ろし、彼が話すのを待つ。

 

「さっきのスキンヘッドは、うちの学校の不良グループの一人で、いつも僕をカツアゲするんだ。おかげで僕の財布はすっからかんで、Vジャンプを買うお金すら残らないんだ……」

 

Vジャンプは一冊500円くらいなので、わかりやすく例えるならファストフード店で少し高めの商品を頼むことすらできないくらい金がないということだ。

 

「でも、親にも先生にも相談できなくて……。そしたら今日の帰りにまたカツアゲされて、お金はないって言ったらあいつら僕のカバンを開けて、デッキケースを取り出したんだ。僕のデッキは、その、高レートのカードが多くて……」

「デッキをカツアゲされたってことか?」

「ううん……。実は、その、勢いで彼を蹴飛ばして、デッキとカバンを取り返して逃げ出したんだ……」

「それで、不良たちがお前を探し回ってるってわけか」

「うん……」

 

つまり、溝口がどう逃げ回ろうと、明日学校へ行けばそこで不良グループにフルボッコされることは間違いない。そうなると、デッキどころか身ぐるみはがされてもおかしくない。

 

「なるほどな、大体わかった」

「む、武藤君……!」

「じゃあ俺は不良が来る前に帰るわ」

「ええ!ちょっと待ってよ!そこは協力してくれるところじゃないの!?」

「お前さ、高校生にもなってカードゲームやってる陰キャの俺が不良に勝てるわけないだろ」

「す、すごい自虐だね……。じゃなくて!お願いだよ!助けて!」

「断る」

「む、武藤君!」

「ようやく見つけたぜ溝口!」

 

高らかに叫ぶのは、階段の上に立つ先ほどのスキンヘッドだった。見れば他にもその仲間らしき男たちが数人いる。

 

「ひっ!と、虎尾君……!」

「さっきはよくもやってくれたな!溝口の分際で俺に蹴り入れるなんてよ!」

 

ずかずかと階段を下りてくる虎尾とやらは相当お怒りの様子だ。これは例え溝口が土下座したとしても効果はないだろう。

 

「た、助けて武藤君!」

 

そう言って俺の後ろに隠れる溝口のせいで、不良たちの視線はすべて俺に向いてしまった。

 

「なんだお前?溝口の知り合いか?」

「いえ、違います」

「んなわけねえだろうが!今明らかにお前の名前よばれてただろ!舐めてんのか!」

「……」

「何黙ってんだこら!」

「……」

「へっ、しょうがねえ。溝口の前にお前をぶっ潰してやるぜ!」

 

俺は殴られることを覚悟して目をつむる。まったく、とんだ災難だ……。

 

「さあ、デュエルだ!」

「……は?」

 

虎尾の言葉の意味が分からず目を開けると、そこには赤いスリーブに入ったデッキをこちらに向ける不良少年の姿があった。

 

 

「何黙ってんだ!さっさっとデッキ出せこらあ!」

「いや、まってくれ。あんたら、俺や溝口をぶっ潰すとか言ってなかったか?」

「?言ったぜ?」

「で、なんでデュエル?」

「なんでって……男の勝負といえばデュエルだろうが!なあ!?」

 

周りの不良たちもそろって首を縦に振る。

 

「いや、そこは殴ったり蹴ったりするんじゃないのか?」

「な、なに言ってんだお前……。まさか、リアリストなのか!?」

 

なんだこれ。どういうことだ。

落ち着け。状況を整理しよう。逆上した不良に喧嘩を吹っ掛けられました。方法はデュエルです。

いや、どういうことだよ。この町はバトルシティかなんかなのか?

 

「いや、でもあんたら溝口からカツアゲしてたんだろ?それなら殴る蹴るしてたんじゃないのか?」

「はあ?それはこいつがデュエルに応じねーからだろうが!戦えないデュエリストにターンは回ってこないんだよ!」

「……確認なんだけど、今不良界隈で遊戯王流行ってるのか?」

「不良だと!?てめえ言葉には気を付けろ!俺たちはデュエルギャングなんだよ!」

「でゅえるぎゃんぐ?」

 

訳が分からないので俺は後ろの溝口に視線を向ける。

 

「え、えーと……最近流行ってるんだよ!アンティ勝負を吹っ掛けて従わなかったらぼこぼこにしてくる不良集団が!彼らは自分たちをデュエルギャングって言ってるんだ!」

「……それ、デュエルする意味あるのか?」

「……よくわからないんだけど彼らはデュエルで決着を付けようとするんだよ!」

「それは確かによくわからないな」

 

俺は不良たちの方に視線を戻す。うん、どう考えてもカードゲームより喧嘩のほうが得意そうな見た目だ。

 

「おら!さっさとしろ!それともデュエルはしねえのか!?」

 

もはや意味不明な状況だが、要するにデュエルで勝てば彼らは俺たちを見逃してくれるらしい。それはかなり平和的な解決手段だ。

ただ、今俺の手元にはデッキがない。だって、スーパーで卵買いに行く道中でデュエルするなんて思わないし。

 

「やれやれ、帰りが遅いと思えば……」

 

唐突に右から聞こえる声に俺は少し口角を上げる。

 

「マスター、寄り道とは感心しませんな」

「悪いな、卵までの道のりが険しくてよ」

「……やるのですか?」

「選択肢がそれ一つで埋まってるんだよ。ほら、さっさとデッキ出せソードマン」

「御意」

 

という一連の会話を俺とソードマンは脳内で行い、ソードマンの姿は消える。それと同時に、俺の上着の内ポケットが少し膨らむ。俺はそこに入っている物体、デッキケースを取り出す。

 

「わかった。そのデュエル受けてたとう」

「よし!おらてめえら!デュエルの準備をしろ!」

 

虎尾の言葉に、周囲の不良たちがカバンを開け、パイプのようなものを取り出し、それをもって俺たちの間で何か作業を始めた。

1分もしないうちに目の前に腰くらいの高さのテーブルが出来上がった。テーブルの上にはラミネートされたプレイマットが敷かれており、どうやらこれを使ってデュエルしろということらしい。

まあ、今日は風もないし、この集団とカードショップに行くというのも憚られる。それなら、ここでやるのが一番いいだろう。

 

「お互いのデッキを、カット&シャッフル!」

 

意気揚々とデッキをシャッフルする虎尾に戸惑いながらも、俺もデッキケースからデッキを取り出し、シャッフルしてからカットを要求する。

 

「お前、カードの扱い手馴れてんな。結構強いってことか?」

「シャッフルで強弱がわかるなら苦労しないな」

「けっ、生意気な……。よし、行くぜ!」

「「デュエル!」」

先攻 虎尾 ライフ8000 手札5枚  デッキ40枚 エクストラデッキ15枚

後攻 武藤ハルカ ライフ8000 手札5枚  デッキ40枚 エクストラデッキ15枚

 

第一ターン

 

「先攻は俺だ!俺は手札から召喚僧サモンプリーストを召喚!召喚成功時、こいつは守備表になる!そして手札から錬装融合を捨て、効果発動!デッキからBKスイッチヒッターを特殊召喚するぜ!」

 

BK(バーニングナックラー)か。あれは遊戯王ゼアルのアリトが使用したテーマ。かなり安価で組めることと、エクシーズして殴るというわかりやすいコンセプトから初心者に勧めやすいテーマだ。

 

「行くぜ!俺はサモンプリーストとスイッチヒッターでエクシーズ召喚!ランク4!ガガガガンマン!守備表示!」

 

ガガガガンマン。ライフ800以下のプレイヤーを撃ち殺す無慈悲なガンマンだ。エクシーズ全盛期は常にこいつの存在を警戒しなくてはいけなかったほどに強力なモンスターといえる。

 

「ガガガガンマンの効果!素材を一つ取り除き、相手に800ポイントのダメージを与える!」

 

ハルカLP8000→7200

 

「そして俺はおろかな埋葬を発動!デッキからBKグラスジョーを墓地へ!」

「……」

「グラスジョーの効果!墓地へ送られたとき、墓地のBKを手札に加える!俺はスイッチヒッターを手札に戻す!そして、墓地の錬装融合の効果!このカードをデッキに戻し、カードを一枚ドロー!一枚カードを伏せて、ターンエンドだ!」

 

虎尾 手札3枚 フィールド ガガガガンマン(守備表示) 伏せカード 1枚

 

第二ターン

 

「俺のターン。ドロー」

 

ドローしたカードを確認し、手札に加える。このデュエルで使うデッキは、さっき遊戯王部で使った黒魔導の執行官を主軸としたデッキとは全く別のデッキ。

基本的に、俺の作るデッキのタイプは2つ。一つはサイレントマジシャンなどの魔法使いを主軸にしたデッキ。そしてもう一つはサイレントソードマンなどの戦士族を主軸にしたデッキだ。といっても、内容は固定されておらず、俺が自宅でソードマンたちとその時の気分で作っていることが多い。

そして、今回俺が使うデッキは……。

 

「闇の誘惑を発動。2枚ドローし、手札から幻影騎士団ダスティローブを除外する」

「え?幻影騎士団?さっき部室で使ってたのとは別のデッキ!?」

 

後ろで観戦している溝口が驚きの声を上げる。

 

「幻影騎士団……奇しくもエクシーズテーマ対決ってわけだな!」

「そして俺は手札から沈黙の魔導剣士サイレントパラディンを召喚」

「は?サイパラだと?」

「おい、マジかよあいつ……サイパラなんて産廃カード入れてやがるぜ!」

「もしかして、初心者なんじゃねーか?」

 

周囲の不良たちから笑いが巻き起こる。

確かに、このサイレントパラディンはVジャンプの付録でありながらまるで詐欺のように弱い能力を持つモンスター。登場当初はネットでも酷評の嵐だった。俺自身、最近までこのカードの使い方なんて考えたこともなかった。

でも、1万種もある遊戯王カードの中には、このカードの真価を発揮できるカードがちゃんと存在する。せっかくだし、こいつらには後で盛大に掌返してもらおう。

 

「サイレントパラディンの効果でデッキからサイレンとソードマンLV3を手札に加える。そしてカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

ハルカ 手札4枚 フィールド 沈黙の魔導剣士サイレントパラディン(攻撃表示)

伏せカード 2枚

 

第3ターン

 

「俺のターン、ドロー!なんだよ攻めてこねえのか?」

「……」

「ったく、少しは会話のキャッチボールをしたらどうだこの野郎!」

「ドローフェイズに何かすることがあるのか?ないならゲームを進めてくれ」

「……ガガガガンマンの効果!800ポイントのダメージ!」

 

ハルカLP7200→6400

 

「さらに俺はスイッチヒッターを召喚!効果により墓地からグラスジョーを特殊召喚するぜ!」

「チェーンはない」

「なんだあ?その2枚の伏せカードは飾りか?……まあいい。俺はスイッチヒッターとグラスジョーでエクシーズ召喚!こい、BK拘束蛮兵リードブロー!」

 

リードブロー。BKの中でもかなり強力なモンスターだ。元の攻撃力は2200と低いが、自身のエクシーズ素材をBKの破壊の肩代わりにできる効果、そして素材が減るたびに攻撃力が800上がる2つの効果が単体で完結しているのだ。

 

「ガガガガンマンを攻撃表示にしてバトルフェイズ!まずはリードブローでサイレントパラディンを攻撃!」

「攻撃宣言時、永続トラップ明と宵の逆転を発動。手札から光属性戦士族のサイレントソードマンLV3を墓地に送り、闇属性・同レベル・戦士族モンスターである幻影騎士団サイレントブーツを手札に加える」

「そんなの無駄だぜ!リードブローの攻撃で大ダメージよ!」

「トラップ発動、ガードブロック。戦闘ダメージを0にして一枚ドローする」

「この……いちいち面倒な小技使いやがって!」

 

ダメージを与えられなかったことがよっぽど気に障ったのか、虎尾は露骨に舌打ちする。

 

「そして、今のバトルで破壊されたサイレントパラディンの効果。墓地からサイレントソードマンLV3を手札にもどす」

「なっ……つまりサイレントパラディンが疑似的な幻影騎士団サーチモンスターに変わったってことかよ!?」

「す、すごいよ武藤君!」

 

溝口が歓喜の声を上げるが、デュエルはまだ始まったばかり。俺のデッキにはまだ秘められている力がある。サイパラのコンボはその一角でしかない。

 

「くそ!ガガガガンマンでダイレクトアタック!」

「手札からガガガガードナーの効果発動。直接攻撃を受けた時、手札から特殊召喚できる」

「守備力2000……ガンマンじゃ倒せねーか。メイン2!俺はカードを一枚伏せてターンエンドだ!」

 

虎尾 手札2枚 フィールド リードブロー(攻撃表示) ガガガガンマン(攻撃表示)伏せカード 2枚

 

第4ターン

 

「ドロー。スタンバイ、メインフェイズ。明と宵の逆転の効果。サイレントソードマンLV3を墓地へ送り、デッキから幻影騎士団ラギットグローブを手札に。そしてそれを召喚」

「なにもないぜ!」

「ガガガガードナーとラギットグローブでリンク召喚。聖騎士の追想イゾルデ。召喚時、デッキから幻影騎士団フラジャイルアーマーを手札に。そしてもう一つの効果を発動。デッキから装備魔法カードを3枚墓地へ送り、レベル3の戦士族を特殊召喚する」

 

墓地へ送るのは、一角獣のホーン、月鏡の盾、剣の煌き。このデッキでの役割は、イゾルデのコストくらいしかないがどれも有用なカードだ。

 

「デッキから、幻影騎士団ダスティローブを特殊召喚」

「そら、そこだ!トラップ発動!激流葬!」

 

激流葬は、モンスターの召喚時、フィールドのモンスター全てを破壊する。一見自分のモンスターも破壊されるのがデメリットに思えるが、破壊をトリガーにするカードや、墓地で発動するカードと組み合わせればメリットにもなりうる。

BKではリードブローが破壊を防ぎ攻撃力を上げるので強力なシナジーを発揮する。

 

「ガンマンは破壊されるが、リードブローは素材を取り除き生存!さらに攻撃力800アップだぜ!」

「そして俺のイゾルデとダスティローブは破壊される」

「そのとおり!お前は召喚権も使ってる!ターンエンドしな!」

「墓地のラギットグローブの効果。デッキから幻影翼を墓地へ送る」

「……!そういや、幻影騎士団は墓地を多用するデッキだったな」

「そして幻影翼を除外し効果発動。墓地のダスティローブを蘇生。さらに場に幻影騎士団がいることで手札のサイレントブーツを特殊召喚」

「レベル3のモンスターが2体!来やがるか!?」

「俺はダスティローブとサイレントブーツでエクシーズ召喚。彼岸の旅人ダンテ」

「ブレイクソードじゃなくてダンテかよ……。プレミか?」

 

確かに、ブレイクソードをエクシーズ召喚し、その効果でリードブローのエクシーズ素材をはぎ取り、蘇生したモンスターでダークリベリオンエクシーズドラゴンをだせばリードブローは倒せる。

だが、問題はやつの伏せカード。さっき伏せた激流葬は俺が行動するたびめくって確認していたが、最初のターンに伏せたほうは全く確認していない。それはなぜか。考えられる理由としては俺が一度もバトルフェイズに入っていないことが上げられる。つまりは攻撃反応か戦闘時にモンスターの攻撃力を変化させるカードの可能性が高い。

ならばこのターンはダンテで墓地を増やした方がいいだろう。

 

「ダンテの効果。素材のサイレントブーツを使いデッキからカードを3枚墓地に」

 

墓地に送られたのは幻影騎士団クラックヘルム、明と宵の逆転、サイレントパラディン。あまりいい落ちではないが、まだこのターンにやることは残っている。

 

「手札から彼岸の悪鬼スカラマリオンを墓地へ送り、永遠の淑女ベアトリーチェをダンテの上に重ねてエクシーズ召喚。これでターンエンドだ。エンドフェイズ、スカラマリオンの効果でデッキから魔界発現世行きデスガイドを手札に」

 

 

ハルカ 手札5 フィールド 永遠の淑女ベアトリーチェ(守備表示) 明と宵の逆転

伏せカード なし

 

第5ターン

 

「ドロー!スタンバイ、メイン……」

「スタンバイフェイズ時、ベアトリーチェの効果。素材を取り除き、デッキから沈黙の剣を墓地に送る。さらに素材として墓地へ送られたダンテの効果。墓地の彼岸モンスターを手札に戻す。よってスカラマリオンを回収」

「おい、あいつ手札全然減らねーぞ!?やばいんじゃねーのか?」

「ばーか、アドバンテージだけ稼いでもデュエルは決まらねーよ!」

まあ、確かに。アドだけで勝てるならRRが環境とるだろうし。

 

「ベアトリーチェの守備は2800.確かに高い方だがリードブローは3000!簡単に粉砕できるぜ!」

「……」

「なんだよその顔は。そんなブラフに俺は引っかからねーぞ!バトル!リードブローでベアトリーチェを攻撃だ!」

 

言葉の通り、ベアトリーチェは破壊される。

 

「ベアトリーチェの効果。エクストラデッキから彼岸モンスターを……」

「そうはいくか!カウンター罠、エクシーズブロック発動!」

「……!」

 

エクシーズブロックだと?あれはエクシーズモンスターの素材を取り除くことで相手のモンスター効果の発動を無効にするカード。確かにリードブローと相性の良いカードではあるが、それならこれまでのターンで使える機会は何度もあったはず。

まさかこいつ、俺が伏せカードを警戒するところまで計算して振舞っていたというのか?

いや、仮に俺が前のターンにブレイクソードを出していてもエクシーズブロックは発動できたはず。こいつの真意はなんだ?

 

「いやー、激流葬の発動ばっか考えててこのカード忘れてたわ。あぶねーあぶねー」

「……おいおい」

 

どうやら、ただのあほだったらしい。いや、それでもこいつの行動は前のターンの俺の行動を大きく変えた。無自覚でやったとしてもこちらは警戒せざるを得ない。もはやこいつの挙動でカードを読むのは危険すぎる。

 

「じゃあ、エクシーズブロックの効果で、リードブローの素材を使いベアトリーチェの効果は無効!そして攻撃力800アップ!どうだ!これで俺のリードブローは攻撃力3800だぜ!」

 

3800。それはランク4のカードが放つ攻撃力としてはかなりのオーバースペックだ。こんなカードがパックではノーマルで店のストレージを漁ればわんさか出てくるんだから遊戯王というゲームは面白い。

 

「なんだ?ベアトリーチェの効果は無効だぜ?」

「わかってる。俺はこれ以上発動するカードはない」

「なら俺はカードを2枚伏せてターンエンドだぜ!」

「エンドフェイズ、明と宵の逆転の効果。手札のサイレントソードマンLV3を墓地へ送りデッキからラギットグローブを手札に加える」

 

虎尾 手札1枚 フィールド リードブロー(攻撃表示) 伏せカード 2枚

 

 



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4. 不良集団と遊戯王(後編)

リードブローの効果に誤りがあったので訂正しました。素材2個取り除いても攻撃力は800しか上がりません!そりゃそうだ!


第6ターン

 

「俺のターン。ドロー」

 

これで俺の手札は7枚。そのうち相手にも公開されているのは、デスガイド、スカラマリオン、フラジャイルアーマー、ラギットグローブの4枚。後の2枚と今引いたカードは虎尾も確認のしようがない。

 

「墓地の沈黙の剣の効果発動。このカードを除外し、デッキからサイレントソードマンモンスターを手札に加える。俺は沈黙の剣士サイレントソードマンを手札に」

「お待たせしました。マスター」

 

手札に加えたカードから、ソードマンの声が脳内に届く。だが、基本的にソードマンやサイマジがデュエルの内容に口を出すことは無い。デュエルは1対1の真剣勝負。俺がそう決めているからだ。

 

「サイレントソードマンか。さっきからLV3がちらちら見えてたが、確かに戦士族テーマの幻影騎士団とは相性いい。なかなか考えられたデッキじゃねーの」

「……あんた、デュエル好きなんだな」

「はあ?なんだよ、急に心理フェイズか?」

「いや、率直な感想だ。最初のターンで俺がサイパラを出したとき、周囲のやつらはそれをあざ笑ったが、あんたは何も言わなかった。むしろ俺がサイパラをどう使うか、そんな好奇心を強く感じた。それに、あんたのプレイからはまるで無邪気な子供のようなものを感じたしな」

「てめえ、俺を馬鹿にしてんのか?」

「いいや。逆だよ。本来遊戯王ってゲームの前じゃみんな子供であるべきなんだ。デュエルが好きって気持ちを素直に抱けるのは子供にしかできないからな」

「……なるほどな。確かにそうかもしれねえ。なら、てめえもデュエルが好きなんだな」

「それは……どうだろうな」

「なんだよ?違うってのか?」

「……ゲームを再開しよう。俺のターンのメインフェイズだったな」

 

手札に加えたソードマンからいったん注意を外し、その隣のカードをプレイする。

 

「手札から、幻影騎士団ラギットグローブを召喚。そして墓地のダスティローブの効果。このカードを除外し、デッキからサイレントブーツを手札に加える」

「ならばトラップ発動!キャッチコピー!相手がデッキサーチをしたとき、俺もデッキからカードを手札に加える!俺が選ぶのは、鬼神の連撃!」

 

鬼神の連撃。あれは自分のエクシーズモンスター一体の素材をすべて取り除き、2回攻撃を可能にするカード。確かにこれもリードブローと相性のいいカードだ。だが、今フィールドにいるリードブローの素材はゼロ。ならば奴が次に打つ手は……。

俺の思った通りのことをしてくるとしたら、今の手札では防ぎようがない。

ならば……。

 

「闇の誘惑を発動。カードを2枚ドロー。……手札からフラジャイルアーマーを除外する」

「へへ、なんかいいカードは引けたか?」

「俺は手札からサイレントブーツを特殊召喚。そしてラギットグローブと共にエクシーズ召喚。幻影騎士団ブレイクソード」

「来やがったか……」

「ラギットグローブを素材にしたことでブレイクソードの攻撃力は1000ポイントアップする。そしてブレイクソードの効果。素材を一つ取り除き、俺の場の明と宵の逆転と、あんたのリードブローを破壊する」

 

これで向こうにモンスターはいない。あるのは伏せカードのみ。だが、次のターンのことを考えると少しでもダメージを与えておきたい。

 

「バトル。ブレイクソードでダイレクトアタック」

 

虎尾LP8000→5000

 

攻撃は通ったか。ということはあいつの伏せカードは召喚反応でも攻撃反応でもないということか?いや、さっきみたいに忘れてるだけの可能性もあるが……。

 

 

「メインフェイズ2。ブレイクソードをリリースし沈黙の剣士サイレントソードマンを特殊召喚。カードを3枚伏せてターンエンドだ」

「おおっと!エンドフェイズ、トラップカード、エクシーズリボーン発動!墓地のリードブローを特殊召喚し、このカードをエクシーズ素材にするぜ!」

 

伏せカードの正体はエクシーズリボーンだったか。これでまた破壊耐性のあるリードブローと戦うことになるわけだが……。

 

ハルカ 手札 4枚 フィールド 沈黙の剣士サイレントソードマン 伏せカード 3枚

 

第7ターン

 

「俺のターン!ドロー!」

「スタンバイフェイズ、サイレントソードマンの攻撃力が500ポイントアップする」

「たしかそいつは一ターンに一度、魔法カードの発動を無効にするんだったよな?」

「ああ」

「なるほどねえ。なら、こいつはどうだ!魔法カード!カップオブエース!」

「なんだと……」

 

カップオブエース。あれはコイントスをして表が出れば自分が、裏が出れば相手が2枚ドローするカードだ。要するに二分の一で強欲な壺を打てるわけだが、なぜBKにそのカードが?今までのターンでやつが使ったカードの中にもギャンブルカードやそれをサポートするカードは見えていないのだが。

 

「驚いているみたいだな。言っとくが、俺は運ならだれにも負けねえ!生まれてこの方じゃんけんで負けたことはねえし、アイスのあたりを連続で15回引き当てて店から出禁を言い渡されたほどだ!」

 

突然の豪運宣言。だが、確かにこの状況下でカップオブエースを引き当てたのはこいつの運に他ならない。

 

「さあ、サイレントソードマンの効果を使うか?」

 

かといってこいつの言った武勇伝を丸ごと信じるかと言われれば微妙なところだ。ブラフかもしれないし、本当かもしれない。今の駆け引きさえ確率は二分の一だ。

 

「さあ、どうすんだよ!」

「……その効果はスルーだ」

 

仮にカップオブエースが失敗すれば俺の手札は2枚増えるし、やつの手札にある鬼神の連撃を警戒したほうがいいだろう。

 

「なら、いくぜえ!運命の、コイントス!」

 

虎尾はポケットから100円玉を取り出し、数字の書かれている方を指で示す。そちらが表だと言いたいらしい。……本当は逆だけど、突っ込まないでおこう。

 

「おらああああ!」

 

虎尾の指からはじかれたコインは俺たちの目線くらいの高さまで舞い上がり、そのまま重力に従いテーブルに落ちる。結果は……。

 

「よっしゃああああ!表だあああ!」

「……!」

 

まさか、本当に二分の一を当てたというのか?にわかには信じがたいが、結果は覆らない。

 

「カップオブエースの効果で俺は2枚ドローするぜ!」

 

まずいな。これであいつの手札は3枚。しかも今引いた2枚のカードは正体不明。俺が前のターンに伏せたカードで対応できるのだろうか。

 

「いくぜ!俺はさらにハーピィの羽箒を発動!手前の魔法罠をすべて破壊だ!」

 

流石にそれを通すと俺の場には攻撃力1500のサイレントソードマンだけになってしまう。それはまずい。

 

「サイレントソードマンの効果。羽箒を無効にする」

 

とりあえず、コレで向こうの手札は2枚。流石にこのターンで死ぬことは無いだろう。

 

「かかったな!俺は手札からカップオブエース発動!」

「……えぇ」

 

俺はもう呆れるしかなかった。つまり虎尾はさっきのカップオブエースで2枚目のカップオブエースを引き当てたということらしい。はっきり言って意味不明だぜ。

 

「再び運命のコイントス!」

 

再びコインが宙に舞い、テーブルに落ちる。結果は……。

 

「おらあああ!表だ!」

「……まじかよ」

「それにより、2枚ドローするぜ!そして、三枚目のカップオブエース発動だあああ!」

 

なんなんだ一体。積み込みか?今回用いたテクニックはストリッパーか?

 

「おい、ソードマン」

 

不正ではないかを確かめるためにフィールドに出ているソードマンに話しかける。

 

「いえ、マスター。信じられないかもしれませんが、彼のデッキにも、コインにも不正はありません」

 

まじかよ。こいつもうBKよりラッキーストライプ使ったほうがいいんじゃないのか?

 

「三度目の!コイントス!……当然正位置!2枚ドロー!」

 

これで手札が4枚。それだけあればもはややりたい放題できるだろう。

 

「俺は手札から、スイッチヒッターを召喚!墓地からグラスジョーを蘇生するぜ!」

 

これで再びレベル4のBKが2体。

 

「この2体でエクシーズ召喚!こい!2体目のリードブロー!」

 

フィールドにリードブローが2体並ぶ。

 

「そして、鬼神の連撃発動!今召喚したリードブローの素材を二つ使い、二回攻撃の権利を与える!」

 

そして、素材が2つ無くなったことで攻撃力が3000まで上がるわけだ。

 

「そしてもう一枚、鬼神の連撃発動!」

「……」

「もう一体のリードブローの素材をすべて取り除き、二階攻撃可能に!そして攻撃力アップだ!」

 

これで場には攻撃力3000のリードブローが2体。更に両者とも2回攻撃が可能。

だが、俺の伏せカードを使えば……。

 

「行くぜ、バトルフェイズ!一体目のリードブローで攻撃だ!」

「トラップ発動!幻影霧剣!リードブローの攻撃と効果を封じる!」

「そいつは読んでたぜ!速攻魔法、コズミックサイクロン発動!ライフを1000払い、霧剣を除外する!」

「永続カードは効果解決時にフィールドに残っていなければ不発になる……」

「そのとおり!さらに墓地での効果も使えねえってわけよ!」

 

虎尾LP5000→4000

 

「バトル続行!サイレントソードマンを粉砕!」

 

ハルカLP6400→4900

 

「マスター!」

 

俺はソードマンの声に無言でうなずく。

 

「沈黙の剣士サイレントソードマンの効果!戦闘で破壊されたとき、デッキからサイレントソードマンLV7を特殊召喚する!守備表示!」

 

攻撃表示にしてオネストを警戒させる手もあったが、やつがそこまで考えてくるかわからないので守備表示を選択する。

 

「無駄無駄ぁ!もう一体のリードブローでサイレントソードマンを粉砕するぜ!」

「マスター、ご武運を!」

 

サイレントソードマンのカードは墓地へ置かれる。だが、やつのリードブローは2体とももう一度攻撃を行うことができる。2体分食らえば俺のライフはゼロだ。

 

「いくぜ!まずは一体目のリードブローでダイレクトアタック!」

「……!トラップ発動!パワーウォール!」

「な、パワーウォールだと!?」

「デッキからダメージ500につき一枚カードを墓地へ送り、戦闘ダメージをゼロにする!俺は6枚のカードを墓地へ!」

「……だが、まだもう一体リードブローが残ってるぜ!行けえええええ!」

「む、武藤君!」

 

この一撃を食らえば俺のライフは風前の灯。そして虎尾のデッキが普通のBKじゃないことが分かってる以上、次のターン以降なにかバーンカードが飛んでくるかもしれない。

そうだ、この何が起きるかわからない感じこそが、遊戯王だよな。アニメや漫画で俺たちが見た、限界ぎりぎりの攻防。

でも、俺は負けない。そのための布石は既に打ってある。

 

「墓地の、光の護封霊剣の効果!このカードを除外し、相手の直積攻撃を封じる!」

「な、なにいい!」

「そ、そうか!武藤君はさっきのパワーウォールであのカードを墓地へ送っていたんだ!」

「まあ、見えてたけどな」

「ああ、見えてたよな」

 

そこで俺と虎尾は顔を見合わせ、虎尾は大きな声で、俺は小さく笑った。

 

「あはははは!いやー、聞いたかよ今の溝口のセリフ!アニメかよ!って思わず笑っちまったぜ!」

「まったくだ。パワーウォールの処理の時に俺もあんたも護封霊剣が落ちたのを確認してたのにな」

「ちょ、ちょっと!ひどいよ2人とも!せっかく熱いデュエルになってきてたのにさ!虎尾くんだって『な、なにいい!』とかリアクションしてたくせに!」

「ノリだよノリ。その方が面白いじゃねーか!」

 

再びげらげら笑う虎尾だったが、数十秒くらいで笑いを止め、俺の方へ向き直る。

 

「そういやまだ聞いてなかったな。お前、名前は?」

「俺は、武藤ハルカ」

「そうか、俺は虎尾ギン。武藤、お前の言う通り、さっきの俺たちはまるでガキみてえだったな。たかがカードゲームに熱くなって、アニメみたいな演技までしてよ」

「そうだな」

「でも、遊戯王ってゲームの前じゃみんなガキ同然ってのも真理だよな。俺は今楽しいぜ。『あの人』とデュエルしてる時みてえにな!」

「そうか」

「けっ、相変わらず愛想のねーやつだな!まあ、それはいいか!俺はバトルフェイズを終了してターンエンドだぜ!」

 

虎尾 手札0 フィールド リードブロー(攻撃力3000) リードブロー(攻撃力3000) 伏せカード なし

 

第8ターン

 

「俺のターン、ドロー」

 

これで俺の手札は5枚。フィールドには伏せカードが一枚、モンスターは無し。対する虎尾は手札と伏せカードこそないが高攻撃力のリードブローが2体。ライフは互いに4000近く。つまりあの2体のリードブローを何とかしないとやつのライフは削れないわけだ。

 

「俺は手札から魔界発現世行きデスガイドを召喚。召喚成功時、デッキからレベル3の悪魔族モンスターを効果を無効にして特殊召喚する。彼岸の悪鬼グラバースニッチを特殊召喚」

「レベル3が2体か」

「俺はデスガイドとグラバースニッチでエクシーズ召喚。幻影騎士団ブレイクソード」

「だが、そこからダークリベリオンにつないでも俺のライフは残るぜ?」

「……俺は伏せカードを発動。異次元からの埋葬。除外されているモンスターの中からダスティローブ、ラギットグローブ、フラジャイルアーマーを墓地に戻す」

「何?それを使わなくても墓地にレベル3の幻影騎士団は2体いるんだぜ?」

 

疑問を募らせつつも、虎尾の目はキラキラと輝いている。心の底からデュエルを楽しんでいる目だ。俺も、『かつて』はこうだったのにな……。

 

「俺はブレイクソードの効果発動。素材を一つ取り除き、ブレイクソードと、リードブロー一体を破壊」

「ちっ……やるな」

「そしてブレイクソードが破壊された場合、効果発動。墓地から幻影騎士団2体を特殊召喚し、レベルを一つ上げる。俺が選択するのは、クラックヘルムとフラジャイルアーマー」

「な、なに?レベル4の幻影騎士団を蘇生するのか?」

「特殊召喚した2体はレベルが上がりレベル5となる。そして俺は、この二体でエクシーズ召喚。現れろ、RRエトランゼファルコン」

「レイドラプターズ……だと?」

「そして墓地の剣の煌きの効果。エトランゼファルコンをリリースし、このカードをデッキトップに置く」

 

その俺のプレイに溝口も、不良集団も、対戦相手の虎尾さえもがポカンとしている。確かに、盤面だけ見れば俺のフィールドは空っぽなわけだし、召喚権も使っている。今の挙動は理解不能なのが普通の反応だ。

 

「行くぞ。俺は手札からRUMソウルシェイブフォースを発動。ライフを半分払い、墓地のRRモンスターを蘇生し、ランクが2つ上のエクシーズモンスターにランクアップさせる」

 

ハルカLP4900→2450

 

 

「ランク7のRRを出す気か……?」

「いいや、このカードはランクアップする先のモンスターにRRの指定はない。つまりランク7なら何でも出せる。俺が出すのは……覇王烈竜オッドアイズレイジングドラゴン!」

「オッドアイズだと!?」

「オッドアイズレイジングドラゴンの効果。エクシーズモンスターを素材にしたこのモンスターのエクシーズ素材を取り除き、相手フィールドのカードをすべて破壊。一枚につき攻撃力が200ポイントアップする」

「俺の場にはリードブローが一体……。こいつが破壊されてレイジングドラゴンは攻撃力3200になるのか」

「そして、オッドアイズレイジングドラゴンは、一ターンに2回攻撃できる」

「……俺にはリバースカードも手札も、墓地から使えるカードもない……。終わりか」

「バトル。レイジングドラゴンで2回ダイレクトアタック」

 

虎尾LP4000→800→0

 

「負けたぜ……」

 

虎尾が膝を地面に着く。周りの不良たちもそれに戸惑っているが、俺は構わずにデッキを片付け、テーブルを離れる。

 

「俺の勝ちだ。これで俺は殴られずに済むんだよな?」

「ああ……。デュエルの結果だからな……」

「そうか」

 

俺はそれだけ言って河川敷から立ち去ろうと歩き始める。

 

「おい、武藤!」

 

だが、それを引き留める声は虎尾だった。

 

「一回勝ったくらいで調子乗んなよ!次はぜってー俺が勝つからな!覚えてやがれ!」

「……次があればな」

 

一度止めた足を再び動かし、俺は今度こそ河川敷を後にする。

 

「いいデュエルでしたね、マスター」

 

精霊状態で隣を歩くソードマンが語りかけてくる。

 

「まあ、な」

「カップオブエースを3回連続で当てる豪運。そしてデュエルを楽しむ姿勢。彼とはまたデュエルすることがあるかもしれませんね」

「そうかもな」

 

それにしても、今日だけで2回もデュエルをすることになるとは、これから先が思いやられるな……。

 

「……おい、ソードマン。今何時だ?」

「午後6時32分48秒です」

「卵、今から買って帰って飯作ったら何時になる?」

「あ」

「あ、じゃねーよ……」

「これは、しばらくうるさいでしょうね、彼女」

「やれやれ……」

 

***

 

――ハルカの家

 

「もー!マスター!ソードマン!晩御飯まだですかー!早く帰ってきてくださいよー!」

 

この後卵を買って帰ってきたハルカたちはサイマジに小一時間問いただされたらしい。

 



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5. 金髪リア充と遊戯王(前編)

俺が高校生になってから1か月が経過した。朝の教室ではクラスの連中がそこら中でグループを組み、担任が来るまでの時間を雑談に費やしている。

俺はというと、初日から変わらず自分の席で音のならないイヤホンを耳にさして机に突っ伏している。

つまりは、俺は友達作りに失敗したのだ。最初のうちは声をかけてくるやつもいたが、俺の会話が下手すぎて一週間もすれば彼らと話す機会もなくなっていた。

まあ、別に気にしてはいないが。

 

「よ、武藤!」

 

だが、一人だけ違うやつがいた。それは入学式の日に俺に声をかけてきた五和ダイゴだった。こいつだけは毎朝俺の席にやってきてはよくわからん世間話を一方的に始めるのだ。

 

「……なんだ五和」

「相変わらずテンション低いなあお前は」

「朝からハイテンションな方がおかしいんだよ」

「まあ、そう言うなって!」

「それで、何の用だ?」

 

俺はイヤホンを外して顔を上げる。話す気はさらさらないのだが、一応礼儀として話している五和が不快感を抱かないようにはしている。

 

「いやそれがさ、こないだ姉貴に言われて部屋片づけてたんだけどよ、そしたらなに見つかったと思う?」

「いかがわしいゲームか?」

「ちげえよ!俺を何だと思ってんだ!見つかったのはこれだよこれ!」

 

そういって五和が机の上に出したのは、紅茶の箱だった。

 

「流石に数年越しで見つけた紅茶は飲まない方がいいと思うぞ」

「飲むかそんなの!てか、これ中身は紅茶じゃねーんだよ!ほら!」

 

箱のふたを開けた五和が俺に見せたのは、クリボーのカードだった。

 

「……クリボー?」

「クリボーだけじゃねえんだよ、これ、俺が小学生くらいの時に集めてた遊戯王のカードがたくさん入ってたんだ!」

 

五和は意気揚々と箱からカードを取り出し、机の上に並べる。

 

「いやー、懐かしいなーこれ!ほら、マハーヴァイロとか、デーモンの斧とかさ!あーあとブラッドヴォルス!昔近所に住んでた友達とトレードしたんだよなあ!」

 

確かに、机の上に出されたカードは懐かしいものが多かった。イグザリオンユニバースやマジシャンオブブラックカオス。処刑人マキュラなんかもあった。

 

「それで?このカードを俺に見せてどうするんだ?」

「いや、あれだよ、ネットで見たんだけど、今って昔のカードが価値上がってんだろ?俺もそれに便乗して小遣い稼ぎしようかなーってさ!」

「なるほど」

「なあ、なんか値段つきそうなカードあるか?」

「なぜ俺に聞く」

「いや、前に遊戯王の話したら詳しそうだったからさ!」

「……」

 

仕方ない。このまま延々と話されてもいい迷惑だ。さっさと査定して、あとはカードショップにでも任せよう。

 

「そうだな……このウルトラレアのマキュラは値段つくと思うぞ」

「まじ!?いくらだ!?」

「まあ、500円くらいか」

「ずこーっ!ご、500円って!1時間アルバイトしたほうが高いじゃねーか!」

「これでもかなり譲歩した査定だ。キズや折れもあるからショップに持っていけば200円すればいい方だぞ」

「うう……俺の億万長者への道が……」

 

カードで億万長者って、もしこいつがDMの世界にいたら王の右手の栄光にすぐに食いつくだろうな……。

 

「うーん……それしか値段つかないなら保管しとくしかないな……」

「そうだな」

「そういえばさ、こないだ遊戯王部の見学に行ったんだけどよ」

「まだ続くのか……」

「部長の真崎先輩、めちゃくちゃ可愛いよな~!遊戯王もすげー強かったし、いいよな~!」

「……お前、真崎先輩とデュエルしたのか?」

「え?ああ、まあな。貸し出しデッキ借りてやったんだけど、もうボロ負けでさー。今ってブラックマジシャンすげー強いんだな!」

 

あの先輩、初心者相手にブラマジ使ったのか……。いや、真剣にやることは悪くはないけど。

 

「でさ、今度は武藤も一緒に行こうぜ!」

「行かない」

「えー、なんでだよ?デッキなくても貸してくれるし、部室も広いし、先輩可愛いし、最高だと思うぜ?」

 

そろそろ担任が来てくれると嬉しいんだが、残念ながらホームルームまであと10分もある。このまま五和と話していると全くリラックスできない。

なら……。

 

「五和、お前真崎先輩に負けたんだろ?仮にもう一度行ってデュエルしてまた負けたらカッコつかないぞ?」

「そ、それはそうかもしれねーけど……」

 

よし、これでこいつも諦めるだろう。

 

「だったら、特訓だ!」

「は?」

「特訓だよ特訓!遊戯王の腕上げて、そんでもってまた真崎先輩とデュエルする!そして勝つ!どうだ?完璧だろ?」

「いや、どこが?」

「よーし!そんじゃ放課後、駅前のカードショップに行くぞ!武藤、頼むぜ!」

「は?なんで俺まで……」

「はーい、席つけー」

 

俺が断りを入れようとした矢先、担任が教室に入ってきたため、俺の発言はタイミングを逃してしまった。

 

***

 

そして放課後、何とかうまく姿を消そうとした俺だったがチャイムと同時に五和につかまり、勢いに流されて駅前のカードショップに来てしまった。

 

「おっほー!まだ5時前なのに人がたくさんいるな!」

 

デュエルスペースやショーケースに密集する客たちを見て、五和は歓喜の声を上げている。

 

「よかったですね、マスター!お友達とカードショップに来れて!」

 

ふわふわと俺の目の前に出てくるサイマジは上機嫌だが、俺はそれに反応はしない。この場で急にしゃべりだしたらどこぞの宝玉獣使いと勘違いされそうだし、脳内で会話するのも面倒だし。

 

「あ、武藤!あそこ空いたぜ!座ろう!」

「お、おい!」

 

容赦なく俺の腕を引っ張る五和。仕方なく長机の隅っこの席に着席することになってしまった。

 

 

「それで?特訓ってなにすんだよ?」

「まずはデッキだ!俺のオリジナルデッキを作るんだよ!」

 

まあ、デッキがないと始まらないのは確かではある。

 

 

「で、デッキってどうやって作るんだ?」

「丸投げかよ……。取り合えず、予算はいくらだ?」

「え?2000円くらいで作れんじゃないの?」

 

2000円って……。確かに遊戯王やってない人ならそれで足りると考えてもおかしくないが、2000円だとストラク3個合体すらできない。単品で集めても2000円となると難しいところだ。

 

「予算はこれ以上増やせないって認識でいいんだな?」

「え?ああ、まあそうだな。今月カラオケとかボウリングめっちゃ行ったし」

「なら、まず主軸にするカードを決めよう。そこからそのカードをサポートできるカードを集める。できればショーケースの中のものよりストレージに落ちているものだけで組めるようなデッキだ」

「すとれーじってなんだ?」

「……要するにノーマルカードコーナーだ」

「なるほどな!ノーマルなら安価で組めるってことだな!」

 

そこから、五和のデッキの主軸になるカードについての話し合いが始まった。

 

「やっぱドラゴンだよドラゴン!攻撃力の高いドラゴンで勝つ!」

 

ドラゴン。様々なカードゲームがあるが、その中で一番人気なのはやはりドラゴンなわけで、遊戯王にも強いドラゴンはたくさんいる。ブルーアイズやレッドアイズ、カオスエンペラー……。

ただ、人気というだけあってドラゴンやそのパーツのカードはそこそこ値段がする。レアリティコレクションなんかで再録されているものもあるが、2000円で全部揃うかは怪しいところだ。

「ドラゴン……か」

「え?無理そう?」

「無理ってわけじゃないが、2000円だとそこそこのが作れるかどうかってとこだ」

「まじかよ……」

「だが、方法はある」

「え?」

「今の遊戯王にはエクストラデッキから出せる強いモンスターがたくさんいる。メインデッキはそれを出すための素材カードで固めて、切り札級のドラゴンをエクストラデッキから特殊召喚すればいい」

 

まあ、流石にヴァレソとかスカルデットは厳しいけど。

 

「なるほどな!今の遊戯王ってそんな構築もあるのか!」

「それじゃあ一端ショーケースを見てみるか。500円くらいのカードなら予算的にも間に合いそうだ」

「おうよ!」

 

そこからショーケースを眺めること10分。

 

「よし!こいつにするぜ!」

 

五和が選んだのはヴァレルロードドラゴン。ハノイの崇高なるモンスターであるこいつは強力な効果を持ったリンクモンスターだ。以前リボルバーストラクで再録されたのと、たまたま特価コーナーにあったため、380円で購入できた。

 

「後は、このカードと相性のいいカードをストレージから集めよう」

「えーと、このヴァレルロードは効果モンスター3体以上を素材に出せるのか」

「ああ、つまりたくさんモンスターを展開できるカードが相性がいいだろうな」

 

まあ、本当ならリボルバーストラクを3つ買えば相性のいいヴァレットデッキを組めるんだが。

 

「どんなのにすればいいんだ?」

「それは自分で考えろ。俺がカードを選んでも、それはお前のデッキじゃない」

「おお、なんか深いな今の言葉!」

「ほら、ストレージはあっちだ」

「よし!わかった!行ってくるぜ!」

 

 

意気揚々とストレージコーナーへ向かう五和を見送った後、俺は近くの空席に腰掛けて、小さく息を吐く。

 

「五和さん、どんなデッキを作るんでしょうね?」

 

その俺の上空でせわしなく飛び回るサイマジが今度は脳内に話しかけてくる。

 

『さあな。もしかしたらとんでもないジャンクデッキを作ってくるかもな』

『むー。それならマスターが教えてあげればいいじゃないですかー』

『いやだよめんどくさい。それに、さっきも言ったろ?俺が指示して作ったデッキは五和のデッキにはならないって。最初は手探りでも自分でカードを選ぶ方が後の成長につながるんだ』

『あれえ?マスター渋々って感じでここに来たのに結構親身になってあげてるんですね?』

『まあ、そうかもな』

『何か理由でもあるんですか』

『今朝教室であいつが部屋から引っ張り出したカードに値が付かないと知った時、あいつは保管しとくって言ったろ?」

『言ってましたね』

『遊戯王に何の興味もなければそのカードたちは古ぼけたブリキ人形同然。すなわち捨てるって選択肢になる。でもあいつはそうはしなかった。それはあいつの中にあのカードたちと一緒に遊んだ記憶が残っているからだ』

『なるほど……流石マスター!そんな何気ない一言からそこまで察するなんて!』

 

サイマジは大げさにうなずく。

 

「クリクリ~」

『?なんか言ったかサイマジ?』

『え?何も言ってないですよ?』

『いや、今確かに何か聞こえたぞ?』

『そりゃあ人たくさんいますし』

『……聞き間違いか』

 

それから20分くらいで五和は戻ってきた。

 

「武藤!カード買ってきたぜ!あと、スリーブってやつも買ってきた!この黒いやつが70枚入りで安かったぜ!」

 

そう言って五和が見せてくるのは、俺がよく使うものと同じスリーブだった。

 

「お疲れさん。てか、スリーブも予算内で買えたのか?」

「いや、それがさ、小銭入れに500円玉入っててさ、結局予算は2500円にしたんだ」

「なるほど。じゃあ買ってきたカードをスリーブにいれとけ」

「おうよ!」

 

五和はカードを包装から取り出し、70枚入りのスリーブを開封してカードを入れ始めた。その様子を見ながら、俺はふと昔のことを思い出していた。あの頃の俺も、今の五和のように小遣い貯めてカード屋に入り浸っていた。お年玉なんかもらった日には新弾を2箱も買って親に怒られた記憶がある。あの時の記憶は、今でもはっきりと覚えているのに……。

 

「よっし!買ったカードは全部入れたぜ!後は……」

 

五和はカバンを開けて、今朝の紅茶箱を取り出す。

 

「えーと……あ、あった!クリボー!」

「クリボーを入れるのか?」

「ああ、実はこのクリボーは昔初めてパックを買ったときに出たやつでさ、昔は弱っちいなって思ってたけど、アニメで活躍してたからデッキに入れてたんだ。まあ、お守りみたいなもんだな!」

「そうか。いいんじゃないか」

「後はこれをシャッフルして……と。よし、武藤!デュエルだ!」

「……え?」

「なんだよ、早くやろうぜ?」

「いや、俺そろそろ帰ろうと思ってたんだが」

「何言ってんだよ、特訓だって言ったろ?」

 

五和はぐいぐいと詰め寄ってくる。

 

「別に、俺じゃなくてもその辺のやつにフリー対戦を申し込めばいいだろ」

「いや、でも初対面で話しかけるのは……」

「学校で一緒の連中と知り合うときも初対面だったろうが」

「いや、でもなあ……」

 

はあ、全くこいつは陽キャなんだか陰キャなんだか……。

 

 

「なあ、頼むよ!」

「いや、でもほら、俺デッキが……」

「え?お前の目の前に置いてあるじゃん」

「は?」

 

テーブルに視線を戻すと、そこには確かに俺のデッキが置いてあった。思い当たる節は十二分にある。

 

『おい、サイマジ』

『デッキづくりに協力したのなら最後まで付き合ってあげましょうよ!』

 

全く。遊戯王部の時といい勝手に俺のカバンからものを出すのはやめていただきたい。

だが、五和もサイマジもデュエルをしろと俺に要求している。2対1、多数決は俺の負け。

 

「……わかったよ。一戦だけな」

「おお!さんきゅ!」

「ルール説明はいるか?」

「いや、それは遊戯王部で教えてもらったぜ!確か先攻ドローは無いんだよな?」

「ああ。それじゃあ始めるか」

 

俺は携帯をとりだして電卓アプリを起動して五和にも見えるように置く。

 

「へえ、そんなアプリあるんだ。俺もあとで入れとこ」

 

俺はシャッフルした自分のデッキを五和に渡しカットしてもらう。それと同時に五和のデッキをカットしようとしたが……。

 

「おい、やけに分厚いんだが」

「え?60枚以下ならいいんじゃないのか?」

「いや、まあルール的に問題はないが……」

 

こりゃもう少し教えたほうがよかったか?というか2500円でよく60枚も揃えたな……。

 

 

「よーし。カット終わったぜ!」

「よし、じゃあ行くぞ」

「「デュエル!」」

 

 



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6. 金髪リア充と遊戯王(中編)

先攻 五和ダイゴ ライフ8000 手札5枚  デッキ60枚 エクストラデッキ 10枚

後攻 武藤ハルカ ライフ8000 手札5枚  デッキ40枚 エクストラデッキ15枚

 

第1ターン

 

「先攻はお前からでいいぞ」

「お、あざす!それじゃあ俺のターン!ドロー……はないと」

 

さて、五和はどんなデッキを組んだのやら……。

 

「お!いい手札だぜ!俺はマジックカード隣の芝刈りを発動!自分と相手のデッキの差分カードを墓地に送るぜ!」

「え?」

 

し、芝刈りだと?確かにそこまで高いカードではないが、問題は五和が芝刈りを買ったうえでデッキを60枚にしたところだ。つまり、こいつは芝刈りの使い方や強さをさっきの20分程度で理解したということになる。

 

「お、おい?俺なんか間違ったか?」

「いや、別に問題ないぞ。えっと、俺のデッキは初手5枚引いて35枚だ」

「俺は初手5枚引いて55枚だから20枚墓地へ送るぜ!」

 

五和はデッキの上から20枚数えてからそれを表替えして墓地に置く。

 

「えーっと、そんでまだモンスターを召喚してないから……モンスターをセットしてターンエンドだ!」

 

五和 手札 3枚 フィールド 裏側守備モンスター 伏せカード なし

 

第2ターン

 

「俺のターン。ドロー」

 

さて、五和のフィールドには裏守備モンスターが一体で伏せカードは無し。だが、隣の芝刈りで増えた20枚の墓地がある。五和が芝刈りを真に理解しているのなら、墓地で発動するカードがふんだんに入っているはずだ。

 

「五和、墓地を見せてもらっていいか?」

「え?ああいいよ。ほい」

 

渡された墓地のカードをなるべくすばやく確認する。

 

「……なるほど。そういうデッキか」

「え、もう俺の手ばれたの?」

「まあ、とりあえずゲームを続けよう。俺はスタンバイフェイズからメインフェイズに入る。手札から炎舞天キを発動。発動時の効果処理により、デッキから獣戦士族を手札に加える。俺が加えるのは十二獣モルモラットだ」

「十二獣ってことはあと十一種類もいるのか?」

「まあカードとして存在はしてるな」

 

一人獄中だけど。

 

「俺は今加えたモルモラットを召喚。効果発動。デッキから十二獣カードを墓地へ送る。十二獣サラブレードを墓地へ」

「ネズミとサラブレ―ド……馬か!」

「そして俺はモルモラット一体でエクシーズ召喚。十二獣ハマーコング」

「え?おい、ちょっと待て!エクシーズ召喚ってモンスター2体以上を重ねて出すんじゃないのか?」

「十二獣エクシーズモンスターは共通効果として同名以外の十二獣モンスターの上に重ねてエクシーズ召喚できる」

「なんで?」

「そういうカードだからだ」

「なんじゃそりゃ!」

 

まあ、俺も激しく同意するが、できる以上使うのがデュエリストだ。

 

「それじゃあハマーコングの上タイグリスを、その上にワイルドボウを、その上にライカを重ねる」

「お、おい!そのモンスター素材何枚あるんだよ!」

「現在4枚だ」

「すげーな……」

「それじゃあライカの効果。素材を一つ使い墓地の十二獣を特殊召喚。今墓地へ送ったタイグリスを蘇生。そしてライカの上にドランシアを重ねてエクシーズ召喚」

 

投獄されていた経験もある最強の十二獣も今じゃ制限カードだ。

 

「それじゃあここでマジックカード、エクシーズギフトを発動。場にエクシーズモンスターが2体以上いるとき、素材を2つ取り除いてカードを2枚ドローする」

「条件付きの強欲な壺ってことか」

「俺はドランシアとタイグリス、同じ種族のモンスター二体でリンク召喚。アカシックマジシャン」

 

リンク先のモンスターを手札に戻す効果は使えないが、このデッキでのアカシックの役割は魔法使いであることだ。

 

「俺はアカシックマジシャンをリリースし、沈黙の魔術師サイレントマジシャンを特殊召喚。こいつは魔法を一ターンに一度無効にする効果と、手札一枚に付き攻撃力が500ポイント上昇する効果がある」

「え、武藤の手札は5枚もあるぜ?」

「よって攻撃力は3500だ」

「3500!?俺のヴァレルロードよりも攻撃力が高いじゃねーか!」

 

まだヴァレルロードは出てないけどな。

 

「それじゃあバトルフェイズ。サイレントマジシャンでセットモンスターを攻撃」

「セットモンスターはクリッターだ!墓地へ送られたことでデッキからジェットシンクロンを手札に加えるぜ!」

 

そういえばジェットも最近再録されて値段下がったんだったな。

 

「俺はカードを一枚セットしてターンエンドだ」

 

 

ハルカ 手札 4枚 フィールド 沈黙の魔術師サイレントマジシャン(攻撃表示)

伏せカード 一枚 炎舞天キ

 

第3ターン

 

「俺のターン、ドロー!」

 

五和はドローしたカードと手札のカードを見比べて小さく唸る。

 

「えーっと、サイレントマジシャンは魔法を無効化するんだよな?」

「ああ」

「てことはむやみに魔法を打つと無駄になるのか……うーん」

「焦らなくても、ゆっくり考えろ」

「よし、これだ!俺はジェットシンクロンを召喚!そしてこいつを素材に転生炎獣アルミラージをリンク召喚!」

 

この店のストレージすげえな。優良カード多すぎるぞ。

 

「そして手札を一枚捨ててジェットシンクロンを墓地から特殊召喚!さらに墓地へ送ったドットスケーパーを特殊召喚!」

「これでレベル1が2体か」

「俺はこの二体でエクシーズ召喚!ゴーストリックデュラハン!」

 

デュラハン。ランク1ながら強力なカードだ。

 

「デュラハンはゴーストリックカードの数だけパワーアップ!攻撃力1200だ!そして効果発動!サイレントマジシャンの攻撃力を半分に!」

 

魔法カードを使わずにサイレントマジシャンの攻撃力を下げてきたか。これで攻撃力は1500、そして五和の墓地には……。

 

「バトル!デュラハンでサイレントマジシャンを攻撃!そして墓地からトラップカードスキルサクセサーを発動!攻撃力800ポイントアップだ!」

 

サイレントマジシャンは破壊されてしまう。

 

ハルカLP8000→7500

 

「サイレントマジシャンの効果。破壊されたとき、デッキからサイレントマジシャンLV8を特殊召喚する」

「ええ、せっかく倒したのに……って攻撃力3500!?つ、強いなそのカード……」

『えっへん!』

 

隣にいるサイマジが得意げに胸を張るが、五和には見えるはずもないので俺も特に何も言わずにプレイを続行する。

 

「それじゃあメインフェイズ2で、アルミラージ一体でリンク召喚!セキュアガードナー!」

 

セキュアガードナーがいると、一ターンに一度効果か戦闘によるダメージが0にされてしまう。低い攻撃力のモンスターたちの弱点を補う。とてもよく考えられたコンボだ。

これで復帰勢っていうんだから恐ろしい。遊戯王部でどんなスパルタ指導を受けたのやら。

 

「これでターンエンドだぜ!」

 

五和 手札 3枚  フィールド セキュアガードナー(エクストラモンスターゾーン)

ゴーストリックデュラハン(攻撃表示)

伏せカード なし

 

第4ターン

 

「ドロー」

 

さて、先手を取られてしまったが、俺の場にはサイレントマジシャンLV8がいる。

手札も5枚あるしまだまだこれからだ。

とはいえ、セキュアガードナーをどかさないとダメージは通らないし、デュラハンの効果は誘発即時効果。こちらが攻撃するタイミングで使ってくるはずだ。

ならば、俺の一手は……。

 

「貪欲な壺を発動。墓地のライカ、ハマーコング、ワイルドボウ、ドランシア、サイレントマジシャンをデッキに戻して2枚ドローする」

「めっちゃドローするなあ」

 

墓地から選んだカードをエクストラとメインデッキにそれぞれ戻してシャッフルし、五和にカットしてもらって2枚引く。

 

「トラップカード、エクシーズリボーン発動。墓地からタイグリスを蘇生して、このカードをエクシーズ素材にする」

「げ、さっき貪欲な壺で戻したカードがまた……」

「その通り。タイグリスにハマーコングを重ねて、その上にワイルドボウ、ライカ。ライカの上にドランシアを重ねてエクシーズ召喚」

 

さっきは表側のカードがなくて使えなかったが、今度はドランシアの効果を使える。

 

「ドランシアの効果。素材を取り除き、セキュアガードナーを破壊」

「ああ、せっかく出したのに」

「バトルフェイズ!サイレントマジシャンでデュラハンを攻撃!」

「なら、デュラハンの効果発動!サイレントマジシャンの攻撃力を半分に!」

「速攻魔法、禁じられた聖杯発動。デュラハンの効果を無効にし、攻撃力を400アップする」

「えーとそれじゃあデュラハンの攻撃力は……?」

「自身の上昇効果が消えて1000.そこに聖杯で400プラスして1400だ」

「って、どっちにしろ大ダメージじゃん!」

 

 

五和LP8000→5900

 

「メインフェイズ2。俺はカードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

ハルカ 手札5枚 フィールド サイレントマジシャンLV8(攻撃表示)十二獣ドランシア(守備表示 素材4つ) 伏せカード1枚 炎舞天キ

 

第5ターン

 

「俺のターン!よし!いいカードを引いたぜ!マジックカード、終わりの始まり!」

 

終わりの始まりは、墓地に闇属性モンスターが7体以上存在する場合そのうち5体を除外してカードを3枚ドローするスーパードローカードだ。

 

「えーと、墓地からデュラハン、ダークアームドドラゴン、ダークネクロフィア、終末の騎士、金華猫を除外して3枚ドローだ!」

 

これで五和の手札は6枚。一体何を繰り出してくるか……。

 

「俺は手札から金華猫を召喚!その効果で墓地のレベル1モンスター、クリボールを特殊召喚!」

 

またランク1のエクシーズモンスターを出すつもりなのか、それとも……。

 

 

「そしてここで地獄の暴走召喚を発動!デッキ、手札、墓地からクリボールを増殖させる!」

 

なんか言い回しがどこぞの王様っぽいが、うまいコンボだ。こちらのフィールドのサイレントマジシャンとドランシアは特定条件下でしか場に出せないモンスターなので、暴走召喚で増やすことはできない。

 

「よっしゃ!これでモンスターが4体だぜ!ようやくヴァレルロードが……」

「ドランシアの効果。素材を一つ使い金華猫を破壊する」

「えええ!そいつ相手ターンでも使えんのかよ!」

 

そりゃあ当時環境を蹂躙した十二獣のトップレアカードだし、これくらいのカードパワーは普通……と思うのは俺が遊戯王に毒される証拠だな。

 

「うう……金華猫は墓地へ……くそう!武藤容赦ねえなあ!」

「ヴァレルロードになられるとドランシアじゃ対処できないからな」

「うわーマスターこわーい」

「……」

「ひっ!ご、ごめんなさい!許してください!」

 

サイマジをにらんで黙らせてから、俺は再びフィールドに目を向ける。

 

「じゃあしょうがねえ、俺は3体のクリボールでエクシーズ召喚!LLアセンブリーナイチンゲール!」

 

俺はそのモンスターの登場に少し口角が上がる。カードのチョイスが面白いなこいつ。

 

「アセンブリーナイチンゲールは素材一つに付き攻撃力が200アップし、素材の数だけ相手に直接攻撃ができる!いくぜ!三回連続攻撃!」

 

ハルカLP7500→6900→6300→5700

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

五和 手札 2枚  フィールド LLアセンブリーナイチンゲール(攻撃表示 素材3つ)

伏せカード 2枚

 

第6ターン

 

「俺のターン。ドロー」

 

アセンブリーナイチンゲールを放置しておけば俺のライフは毎ターン確実に削られる。だがあの伏せカード……。正直、もう五和を素人扱いするのは危険だ。どうやらカードの経験は浅くてもこいつはもともと頭がいいらしい。

 

「手札から刻剣の魔術師を召喚」

「お!これがペンデュラムモンスターだな!」

 

まあ、このデッキだとあんまりペンデュラム召喚はしないんだが。

 

「刻剣の魔術師の効果。このモンスターとフィールドのモンスター一体を次の俺のスタンバイフェイズまで除外する。対象はアセンブリーナイチンゲール」

「やべ、除外されたらエクシーズ素材は墓地に行くんだよな?」

「ああ」

「じゃあここでアセンブリーナイチンゲールの効果!素材を一つ使いターン終了時まで俺が受けるダメージは0になる!」

 

当然そう来ることは分かっていた。だが、場に居座られて3ターンも効果を使われるのは面倒だ。

 

「それじゃあ俺はこれでターンエンドだ」

 

ハルカ 手札  5枚 フィールド サイレントマジシャンLV8 十二獣ドランシア

伏せカード 一枚 炎舞天キ 除外ゾーン 刻剣の魔術師 

 

第7ターン

 

「俺のターン!」

 

さあ、次はどうくるんだ五和。

 

「ターンエンドだ」

『えええ!次のターンマスターが攻撃したら大ダメージですよ!?』

 

サイマジは驚いているようだが、五和の墓地の内容を知っている俺は素直に喜ぶことはできなかった。フィールドにモンスターこそないが、大量の墓地と2枚の伏せカード。つまり五和は攻撃を誘っているのだ。

 

五和 手札 3枚 フィールド モンスターなし 伏せカード2枚

除外ゾーン LLアセンブリーナイチンゲール

 

第8ターン

 

「ドロー。」

 

さて、このまま五和の思惑通り攻撃するか否か。攻撃宣言すれば十中八九あのカードが発動する。そうなると状況はがらりと変わる。

 

「スタンバイフェイズ。刻剣の魔術師とアセンブリーナイチンゲールはフィールドに戻る」

 

だが、攻撃しなければ延々とターンが進むだけだ。それなら一枚でも多くカードを消費させるべきだろう。

 

「……バトルフェイズ!サイレントマジシャンでアセンブリーナイチンゲールを攻撃!」

「攻撃宣言時、墓地のクリボーンの効果!このカードを除外し、墓地からクリボーモンスターを任意の数だけ特殊召喚する!墓地からクリボール2体を攻撃表示で特殊召喚!」

 

これが五和が芝刈りで墓地を増やした一番の目的。墓地にクリボーモンスターをため込み、クリボーンで壁にする。芝刈りクリボーというデッキを短時間で作り上げたのだ。

 

「だが、サイレントマジシャンの攻撃は止まらない!」

「まだだ!トラップ発動!スウィッチヒーロー!」

「何……?」

「お互いのフィールドのモンスターが同じ数の時、そのコントロールをすべて入れ替える!」

「ならば、ドランシアの効果!フィールドの表側カードを一枚破壊する!対象は……」

 

どうする?とにかくモンスターの数が変わればスウィッチヒーローは不発。だがもしドランシアの効果で選んだ五和のモンスターを何らかの手段で守られれば、スウィッチヒーローは成功してしまう。その場合一番困るのはサイレントマジシャンが向こうのフィールドに移ること。攻撃力3500で魔法効果を一切受け付けないこいつと素材が残っているドランシアをセットで渡してしまえば大ピンチだ。だから、選ぶならドランシアかサイレントマジシャンのどちらかだ。

 

「……サイレントマジシャンを破壊する」

「ここで自分のエースを選ぶなんて、やっぱ武藤はすげーな!でも、俺の狙いはこっちだ!トラップ発動!ギブアンドテイク!」

「なっ!?」

「俺の墓地からモンスター一体を相手フィールドに守備表示で特殊召喚し、そのレベル分、クリボール一体のレベルをアップする!甦れ、速攻のかかし!」

 

ここでチェーンは組み終わり、逆順処理が行われる。まず、ギブアンドテイクで俺の場に速攻のかかしが特殊召喚され、クリボール一体のレベルが1上がる。そしてドランシアの効果でサイレントマジシャンが破壊され、最後にスウィッチヒーローの効果で俺の場のドランシア、刻剣の魔術師、速攻のかかしと五和の場のアセンブリーナイチンゲールと攻撃表示のクリボール2体のコントロールが入れ替わる。

 

「くそー、せっかく攻撃力の高いサイレントマジシャンを奪えると思ったのに!」

「自分のカードは自分で葬る」

「なんか聞いたことあるセリフだ!」

 

さて、冗談言ってる場合じゃないな。こちら側のクリボール2体とアセンブリーはすべて攻撃表示。しかもアセンブリー以外はこのターン守備表示にできない。つまり、攻撃力の低いモンスターをさらしたまま五和のターンを迎えなければならないのだ。

この状況をなんとかするには……。

 

「俺はアセンブリーを守備表示に。カードを一枚伏せてターンエンド」

 

ハルカ 手札5枚  フィールド アセンブリーナイチンゲール(守備表示)クリボール×2(攻撃表示)伏せカード 2枚 炎舞天キ

 

 

 



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7. 金髪リア充と遊戯王(後編)

第9ターン

 

「俺のターン!ドロー!」

 

さて、五和のターンだ。モンスターは三体。そしてすべてが効果モンスターということは……。

 

 

「俺はドランシアの効果発動!素材を取り除き、アセンブリーナイチンゲールを破壊!」

 

アセンブリーが俺のフィールドから五和の墓地へと戻る。

 

「さあ行くぜ!俺は手札を一枚捨ててジェットシンクロンを蘇生!そしてドランシア、刻剣の魔術師、速攻のかかし、ジェットシンクロンの四体でリンク召喚!現れろ!ヴァレルロードドラゴン!」

 

豪華なのか何なのかよくわからない素材を使って、五和は切り札、ヴァレルロードドラゴンを場に出してきた。

 

「うおー、かっこいいぜ!」

「くっ……」

「よし、ここは一気に行くぜ!死者蘇生を発動!武藤の墓地からアカシックマジシャンを特殊召喚!」

 

死者蘇生も、今じゃストレージの肥やしなのか。

 

「バトルフェイズ!ヴァレルロードでクリボールに攻撃!そしてこの瞬間、ヴァレルロードの効果!今攻撃対象にしたクリボールの攻撃力を500下げる!そしてこの効果に対して、相手はカードを発動できない!」

 

これがヴァレルロードの効果の一つ。これを使えば相手モンスターの攻撃力を下げつつ、チェーンを封じることで攻撃反応のカードも防ぐことができるのだ。

 

「クリボールの攻撃力が0になったことで、武藤への戦闘ダメージも増加する!」

 

ハルカLP5700→2700

 

「さらにアカシックマジシャンでもう一体のクリボールを攻撃!」

「……」

『ま、マスター!』

「トラップ発動!マジカルシルクハット!」

「し、シルクハット!?」

「デッキから魔法、罠カードを2枚選択し、自分フィールドのモンスターと混ぜてフィールドに出す!俺は、サイレントバーニングと錬装融合をセット!」

 

これで確率は三分の一。ついでに言うと、俺の手札に次のターン召喚できるモンスターはない。ここでクリボールを当てられて、次のターンモンスターを引けなければ俺の敗北は濃厚だろう。

 

「うううん……どれだ……?ってスリーブで見分ければいいじゃねーか!えーっと……」

 

だが、俺のフィールドには黒い無地のスリーブに入ったカードが3枚。

 

「うわああ!なんで武藤と同じスリーブ買っちまったんだああああ!」

「安くて丈夫だからな、このスリーブ」

 

俺が大切に使っていることもあり、五和の新品のスリーブとでもちょっとやそっとじゃ区別がつかない状況になっている。

 

「く、くそお!一番右だ!」

 

俺は一番右のカードをめくる。

 

 

「このカードは、サイレントバーニング。外れだな」

「あ~外したぁー!」

「バトルフェイズ終了時、シルクハットでセットしたカードはすべて墓地へ行く」

「俺はこれでターン終了だぜ……」

 

五和 手札 2枚 フィールド ヴァレルロードドラゴン アカシックマジシャン

伏せカード なし

 

第10ターン

 

「俺のターン。ドロー」

 

ピンチは乗り切ったが、俺のドローカードもモンスターではない。

 

「墓地のサイレントバーニングを除外して効果発動。デッキから沈黙の魔術師サイレントマジシャンを手札に。そして墓地の錬装融合をデッキに戻し、カードを一枚ドロー」

 

まだ引けない。次の一手で状況を打破できるカードを引けなければ最悪負ける。

 

「トラップ発動!活路への希望!ライフを1000払い、相手とのライフの差2000ポイントに付きカードを一枚ドローする!」

 

ハルカLP2700→1700

 

「えーと、俺のライフは5900だから……差は4200!」

「よって、カードを2枚ドロー!」

 

ドローしたカードをゆっくりと視界に入れる。

 

「来たか」

「え?」

「俺は手札から、ブリリアントフュージョンを発動!デッキから素材モンスターを墓地へ送り、ジェムナイトモンスターを攻守を0にして融合召喚する!」

「ゆ、融合!しかもデッキから!?」

「俺はジェムナイトラズリーとギャラクシーサーペントを墓地へ送り、ジェムナイトセラフィを特殊召喚!」

「で、でも攻撃力も守備力も0なんだろ?」

「だが、効果は残っている。まずは今素材として墓地に送られたジェムナイトラズリーの効果!墓地から通常モンスター、ギャラクシーサーペントを手札に!そしてセラフィの効果で俺は通常召喚とは別にモンスターを召喚できる!ギャラクシーサーペントを召喚!」

 

これでピースはすべてそろった!

 

「俺は、サーペントとセラフィでリンク召喚!水晶機巧ハリファイバー!」

 

レアコレで安くなった超汎用カード。禁止にされる前に使っておこうと思って買ってみて正解だったな。

 

「ハリファイバーの効果で、デッキからレベル3以下のチューナーモンスター、ジェットシンクロンを特殊召喚!そしてジェットシンクロンでリンク召喚!サクリファイスアニマ!」

「お!サクリファイス!たしかペガサスの使ってたカードだ!」

「俺はアニマをリリースし、沈黙の魔術師サイレントマジシャンを特殊召喚!」

「武藤の手札は8枚……攻撃力5000!?」

「さらに、ハリファイバー一体でリンク召喚!リンクロス!」

「な、なんだ?リンク2のモンスターをリンク1に?」

「リンクロスの効果で、ハリファイバーのリンクマーカーの数分トークンを生み出す。ハリファイバーはリンク2、よって2体のトークンを特殊召喚!」

 

これで俺の場には、サイレントマジシャン、裏守備表示のクリボール、リンクロス、リンクトークンが2体。

 

「行くぞ五和。俺はセラフィの効果でサーペントを召喚したため、通常召喚権がまだ残っている。リンクロスとリンクトークン2体を生贄にささげ……」

「え、三体の生贄?」

「オシリスの天空竜を召喚する!」

「お、オシリスううう!?」

 

俺の場に現れた紙のカード……げふん。神のカード、オシリスの天空竜。DMで闇遊戯が従えていた三幻神の一体。流石に原作のようないかれた効果ではないが、それでも、この状況だけで言えば圧倒的な神だ。

 

「俺の手札が減ったことで、サイレントマジシャンの攻撃力は500ポイントダウンする。だが、オシリスの特殊効果!手札一枚に付き攻撃力が1000ポイントアップ!俺の手札は7枚!」

「じゃ、じゃあ攻撃力は……7000!?」

「俺のバトルフェイズ!サイレントマジシャンでアカシックマジシャンを攻撃!」

 

オシリスの召喚で攻撃力が下がったとはいえ、それでもサイレントマジシャンの攻撃力は4500。アカシックマジシャンとの差は歴然だ。

 

五和LP5900→3100

 

「この一撃で終わりだ!オシリスでヴァレルロードを攻撃!」

「ヴァレルロードの効果!オシリスの攻撃力を500下げる!……でもダメージは3500か……」

「くりくり~」

「え?」

「ん?」

『あら?』

 

俺たちは唐突に聞こえた声に反応する。

 

「なあ、今なんか言ったか?」

「いや、オシリスの攻撃宣言しかしてない」

『でもマスター、私にも聞こえました!』

 

俺たちは顔を見合わせるが、結局声の正体がわからないのでプレイを続行することにした。

 

「それじゃあ、オシリスの攻撃で俺の負け……!いや……」

「ん?」

「まさかな……俺は手札からクリボーの効果発動!」

「……!」

 

それはさっき、五和がお守り代わりにデッキに入れたクリボーのカード。たしかに、五和の使ったクリボーンの効果で蘇生できるモンスターではあったが、このタイミングで手札にそのカードがあったとは。

 

「クリボーの効果でオシリスとの戦闘ダメージをゼロに!」

「……。俺はカードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

ハルカ 手札6枚 フィールド オシリスの天空竜 沈黙の魔術師サイレントマジシャン クリボール(裏守備表示)

伏せカード  なし 炎舞天キ

 

 

第11ターン

 

「なあ、武藤。確かオシリスには召喚したモンスターに2000ポイントのダメージを与える効果があったよな?」

「ああ。攻撃表示限定だが、2000以下のモンスターは場に出た瞬間破壊されるな」

「あちゃー、まじか。実はさ、俺のデッキ、もう攻撃力2000以上のモンスター居ねえんだよな」

 

終わりの始まりで除外したカードの中にあったダークアームドやダークネクロフィアも一枚ずつしか買えなかったということか。

 

「まあ、でもせっかくこんな熱いデュエルができたんだ。サレンダーなんかじゃ終わりたくねえ。だから、ドローするぜ!」

「五和……」

「……俺はターンエンドだ」

 

五和 手札 2枚 フィールド モンスターなし 伏せカード なし

 

第12ターン

 

「俺のターン。ドロー!バトルだ!サイレントマジシャンでダイレクトアタック!」

 

五和LP3100→0

 

「俺の負けだぜ……!」

 

 

***

 

「いやー、楽しかったなあ!」

 

午後8時。俺たちはカードショップを出た後、ファストフード店で休憩し、帰路についていた。

 

「まあ、楽しかったならよかったよ」

「テンションひっくいなあ。デュエルの時は結構熱くなってたのによ!」

「え?俺が?」

「ああそうよ。武藤も結構熱い奴なんだって知れてうれしいぜ!」

「よせよ、気持ち悪い」

「でも、結局負けちまったしなあ。やっぱり強い奴には勝てねえのかなあ」

「いや、お前十分強かったぞ」

「え?まじで?」

「ああ。20分、それもストレージのカードが大半を占めるデッキで、それを最大限に活かすプレイングをしていた。特に最後のクリボーの発動には驚かされた」

「あーあれなー。なんかわかんねえけど、クリボーが使ってほしそうな顔してたんだ!……なんつって、絵柄が急に変わったらホラーだっての!」

「いや、それはどうだろうな……」

 

もしかしたら、五和のクリボーにも……。

 

「っと。俺の家、こっちだから」

 

曲がり角で五和は右側を指さす。俺たちの家は左側なので、必然的にここで解散になる。

 

「ああ、それじゃあな」

「おう!武藤、いろいろありがとな!デュエル、楽しかったぜ!またなー!」

 

こちらへ大きく手を振ってから自宅へと走りだす五和を見送ってから、俺も曲がり角を左に曲がる。

 

『マスター、楽しかったですか?』

「……普通だよ」

『あの……もう気にしなくていいんじゃないですか?『あの時のこと』』

「……」

『いえ、すみません。今の言葉は忘れてください……』

 

そこから家に帰るまで、俺とサイマジが言葉を交わすことは無かった。

 



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