アルカディア号になって艦これの世界にお邪魔してみた (Archangel)
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プロローグ(的なもの)
第1話 これは夢か現実か?


※そんなに真剣に読むものではない三文SSです。

 どうしようもなく暇を持て余した時などのお供程度にお考え下さい。

 合わないと感じたら低評価の前にそっとブラウザバックをお願いします。

※とかく主人公は調子乗りの変態さんです。


 西暦2020年02月10日。

 

 「ん、ここは?」

 目を覚ますと何もない真っ白な空間に水色の髪をした女が一人いる。

 

 「あ、気が付いた? あんた出勤途中に高齢者の運転する暴走車に撥ねられて死んじゃったのよ。」

 そういえば最後の記憶がこっちに向かってくる暴走車と小さな子供を抱きかかえたところまでしかない。

 ヲタ趣味街道をひた走る自分ではあるがここまで中二病全開な夢を見るのは珍しいな。

 先の記憶からしておそらく病院のベッドだろう。

 しばらく入院する羽目になるだろうが施設で育った自分に見舞客などないだろうし。

 

 え? 会社の同僚?

 ブラック企業の社畜どもに人の心配をする余裕なんてある訳が無いって。

 

 「あんた神様かい?」

 

 「トンデモねえ、あたしゃ神様だよ。」

 バックにオバちゃん達の笑い声が聞こえる中、女神が本題に入った。

 

 「本来ならあの世へ一直線なんだけど、自らの命と引き換えに子供を助けたあなたに敬意を表し、お望みの世界へ転生させてあげます!」

 夢はまだ覚める様子が無いらしい。

 ならそれもまた一興だろう。

 憧れの月姫やFate/Stay NightのTYPE‐MOONワールドなんか良さげだな。

 あ、念のため転生特典も聞いておかないと。

 

 「えっと、お約束だと思うんだけど転生特典とかあったりする?」

 

 「ありますよ。3つまで持っていけます!」

 水色の髪をした自称女神はフンス!と胸を張った。

 

 (とにかくまずハーレムは譲れないな。

 そうなるとやっぱりピチピチギャル(死語)が出てくる世界にしないと。)

 

 「では『艦隊これくしょん』の世界なんてどうでしょうか? たくさんの艦娘さんとキャッキャウフフ出来ますよ。」

 艦これかぁ…。

 っていうか自称女神さん、アンタ人の心が読めるの?

 そうだとしても勝手にのぞくのはどうかと思うね。

 でもそれだと艦娘に転生ってことだよな?

 女になってしまうのはちょっと…。

 

 「そこは大丈夫。艦娘ならぬ艦息として行けますから!」

 そうなんだ、いやだから人の心を勝手に読むんじゃありません。

 

 「でもそんな7,7ミリ機銃無くなってもあんまし変わらないと思うんだけど?」

 うん、もうそれ心の中どころかパンツの中まで覗いてるよね?

 ていうか覘くだよね?

 股間を抑えながら後ずさる。

 

 まあ、いいや。

 ところで、そうなるとチート艦である事は絶対条件。

 宇宙戦艦ヤマトやSDFマクロスなんてピッタリじゃないか。

 しかしハーレムのためにはイケメンである必要があるからな。

 

 ヤマトだと沖田艦長かあ。

 確かに男の中の男だし、カッコイイのだが…。

 渋すぎて何というか枯れた感じというかハーレムの臭いが全くしない。

 

 マクロスのグローバル艦長。

 うーん、この人もちょっとロマンスからは遠いな…。

 

 その時、歴史は動いたではないが一人の男が頭の中に思い浮かぶ。

 

 「宇宙海賊船アルカディア号の艦息として行きたいんだけど?」

 あの青いTV版の方でなくて緑の鯨っぽいヤツで。

 

 「了解です! では男性の存在が貴重な世界へ(1)、アルカディア号の能力を持った(2)、艦息子(3)として送り出しますね!」

 

 「ところでアナタ、ある人(カズマ)から駄女神とか呼ばれてませんか?」

 

 「…。ち、違います! だってほら話し方なんかも変えてますし!」

 図星かい…。

 

 「ではあなたの二度目の人生が良いものとなりますように。」

 こうやって送り出された時は変わった夢だとタカを括っていたのだが…。




文才0なのに見切り発車やってしまいました。

続くのか続かないのかも分かりませんが、取り敢えずここまで目を通して下さった方には感謝しかありません。


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第2話 本当に艦これの世界に?!

 気が付くと海に浮かんでいた。

 浮かんでいるといっても通常ではありえない状態、足で立って海上に浮かんでいるのだ。

 

 (やべーよ、やべーよ。俺、マジで艦娘、いや艦息になってる…。)

 水の冷たさ、海水の塩辛さなど全てこれが夢ではなく現実のものである事を嫌でも分からせてくる。

 

 (あちゃ~、これ俺マジで死んじまったのか。だから高齢者は免許自主返納をとあれほど…。)

 愚痴りながらスペースウルフを1機発進させ自身の姿を確認してみる。

 

 見た目は悪くない。

 何といっても、あの某宇宙海賊そのままである。

 違いは両目が見えるためアイパッチが無いぐらいか。

 後ろにはアルカディア号最大の特徴、スターンキャッスルと噴射口、両手には緑色のマッコウクジラ型の船体前半分。

 腰には二本のベルトとそれぞれに重力銃サーベルと戦士の銃、艦首にはこれでもかといわんばかりの髑髏のレリーフ。

 武装は三連装パルサーカノンが左腕に2基、右腕に1基の計3基、艦首には大型ミサイル6基、後はスペースバスターに艦載機発進口が確認できる。

 

 (まさにアルカディア号じゃないか。でもこれが深海棲艦に通用するのか? いやしてもらわないと困るんだが…。)

 

 重力サーベルを抜いてしげしげと見つめてみる。

 どう見ても剣の形としてはレイピアだよな、これ。

 日本刀ならまだしも西洋剣の切り結び方なぞ全くわからない。

 もし海外艦、特にヨーロッパ勢に会う事があれば指導してもらおう。

 ネルソンやアークロイヤル、ビスマルクにグラーフ・ツェッペリン、ガングート辺りが嗜んでいそうだ。

 指導による密着、そこからのオウフなムフフ展開、これだ!

 

 サーベルを戻し戦士の銃を抜く。

 重くはないがズッシリとした重厚感、さすがは名銃。

 何ともいえない凄みがある。

 

 取り敢えず艦娘達と接触しないと話にならないので、妖精さんにレーダー作動の依頼をする。

 すると可愛らしい生き物がヒョッコリと現れレーダーを動かし始めた。

 

 あー、これまんま有紀螢じゃん。螢が妖精になった見た目してるよ。

 おお、ドクターゼロ妖精やヤッタラン妖精も出てきた。

 ということは台羽妖精やミーメ妖精もいるのかな?

 ミーくん妖精もぜひ見てみたいぞ。

 

 (ん、早速レーダーに反応あり? 2時の方向41キロ先、数は…。24ってそんなバカな、多過ぎるぞ。一体何が起きてるんだ?)

 

 「行くぞ、魔地機関長!両舷一杯最大戦速!」

 (らじゃー、きゃぷてん!)

 

 一刻も早く艦娘に会いたい、邪な欲望に基づいてその思いから高度を取り一気にスラスターを全開にする。

 

 もしこの時、最大戦速(自分に正直)でなかったら18名もの艦娘が水底行きになっていたであろう。

 何も禁欲的な行動が全てに良い結果をもたらすとは限らないのだ(ドヤァ)。

 



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第3話 最悪の事態(日向)

※4月15日、誤字修正


第一艦隊:日向・妙高・青葉・翔鶴・瑞鶴・祥鳳

第二艦隊:霧島・足柄・摩耶・川内・秋月・不知火

救出艦隊:大和・武蔵・長門・陸奥・赤城・加賀

 

 「きゃあっ!」

 

 「翔鶴姉?!」

 

 「ちっくしょう、この私がここまでやられるなんて…。」

 

 「翔鶴さん、足柄さん、私の後ろに!」

 秋月が長10cm砲を必死に操り、襲い掛かる敵艦載機を打ち落としていくが、それでもバカげた数の敵機を全て打ち落とす事なぞ出来はしない。

 

 期間限定海域の最深部をようやく攻略し終えた私達連合艦隊だが、その帰還途中に三人の鬼と姫さらに随伴艦としてレ級三匹が待ち伏せしていたのだ。

 通常は帰還途中に会敵する事なぞあり得ない。

 

 私としても第一艦隊旗艦の重圧から解放された矢先の事態で艦隊としても完全に虚を突かれた形になった。

 連合艦隊同士の壮絶な殴り合いに力を使い果たした私達に交戦能力なぞ残っている訳がない。

 緊急救援要請を受けて駆け付けてくれた柱島第七艦隊の誇る精鋭、大和・武蔵・長門・陸奥・赤城・加賀達も鬼姫級三人にレ級三匹が相手では防戦一方だ。

 さらに一航戦のふたりは既に中破状態で交戦能力は無い。

 

 「うう、やられた。これじゃ戦えないよ…。」

 ついに祥鳳までもがやられてしまったようだ。

 

 (これで制空権は完全に失ってしまったな。私の瑞雲も残数は…。無し、か。)

 (すまないな、伊勢。私はどうやら帰れそうにない。)

 「霧島、大和・武蔵を殿にして全員を連れて最大戦速で離脱しろ。いいな。」

 

 「日向さん?!」

 

 「私は足が遅い、それだけの話だ。早くしないと本当に全滅してしまうぞ。」

 

 「何を言ってるんですか、そんな事できるわけ無いでしょう!」

 

 「ではこの長門が残ろう。なに、鈍足加減では貴様以上だ。」

 

 「あら、長門。貴方だけ残すと思うの? 私だって…。」

 

 「陸奥、お前はまだ小破だろう。皆に十分ついていける。残るのは私一人でいい。」

 

 「そんな…。長門、私嫌よ。」

 

 「いい加減にして下さい! 誰がそんな事させるもんですか!」

 霧島が鬼のような形相で睨みつけてくる。

 

 「皆、大丈夫よ。」

 ふらつきながら足柄が立ち上がった。

 

 「ふふ、足手纏いになるって本当にイヤよね。妙高姉さん、那智姉さんと羽黒によろしくね。」

 言うが早いか足柄は敵艦隊に突っ込んでいった。

 

 「バッ! 足柄、何をする気なの?! 戻りなさい!」

 

 「加賀さん、翔鶴姉を必ず無事に連れて帰って。足柄さん一人だけじゃ持たないでしょ?」

 

 「…。」

 

 「瑞鶴さん、これを。」

 祥鳳と赤城が残りの矢を全て差し出す。

 

 「赤城さん?!」

 

 「祥鳳さんも止めて下さい! 人の妹に何をさせるつもりですか!」

 

 「いいの、翔鶴姉。私は今までずっと翔鶴姉を始めとするみんなに守られてきた。今度は私が守る番。みんな、今までありがとね!」

 そう言って敬礼した瑞鶴もまた最大戦速で敵艦隊に突っ込んで行く。

 

 「嫌、そんなの絶対嫌! 戻って瑞鶴! お願い、お願いだから…。う、ううっ、うあぁぁ…。」

 

 妙高、翔鶴すまない、ふがいない私を許してくれ。

 なに足柄や瑞鶴だけを逝かせはしないさ。

 私も直ぐに後を追おう。

 足柄と瑞鶴、やや遅れて私の三人に雲霞のごとき敵艦載機の群れが殺到する。

 

 と、突然その敵艦載機が次々と爆発四散し始めた。

 




こんな駄作をお気に入り登録していただいた方には本当に感謝です。

また近いうちに次話を投稿できればと思っていますので、その時は
またお願い致します。


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出会い
第4話 出会い1(艦娘側:赤城)


※2020年04月17日 一部微修正


 それは見た事も無い噴進式の航空機隊でした。

 謎の航空機隊より発射された光線が敵艦載機を次々と撃墜していきます。

 さらにその恐るべき運動性能で数の不利をモノともせず、瞬く間に半数以上を叩き落してしまいました。

 どうやらあの遠くにいる黒服の戦闘艦から発艦してきたようですね。

 私も一航戦の旗艦として加賀さんと共に自分の妖精さんにはかなりの自信を持っているのですが、あれは機体性能、練度共に別次元です。

 

 「誰だ? あんな装備、いや艦娘は知らんぞ。」

 

 「私の戦況分析によると海外艦…、でしょうか?」

 

 「あの未知の艦載機、流石に気分が高揚します。」

 

 「んだよ、あのこれ見よがしな髑髏は。」

 脅威と見たのでしょう、生き残った敵艦載機がこの航空機隊を発艦させた相手に目標を変更したようです。

 が、黒服さんがハリネズミになった途端、敵艦載機のほとんどがその姿を消しました。

 いえ、大袈裟ではなくそれぐらい対空兵装が凄まじかったのです。

 

 「す、すげぇ。アタシと秋月を合わせても全然及ばねえぜ。」

 

 「ハ、ハイ、というかあの対空弾、明らかに目標を追尾してましたよね?」

 摩耶さんと秋月さんが驚愕する程の対空兵装に青葉さんもカメラを構えたまま、固まっています。

 いえ、この場合、一番感心するのはこんな状況ですぐにカメラを構える事の出来る彼女の胆力と記者根性なのかもしれません…。

 

 黒服さんの背中に黒い旗が掲揚されました。

 黒地に白く抜かれた髑髏、あれは…。

 海賊旗(クロスボーンフラッグ)?!

 間違いありません、海賊旗です!

 

 仲間を失った怒りか、駆逐棲姫が全力で黒服さんに突っ込んで行きます。

 それを黒服さんは艦首から飛び出た巨大な刃で突き上げるように貫きました。

 絶叫し絶命する駆逐棲姫ですが、同時に戦艦水鬼の主砲が黒服さんに命中します。

 

 「くっ、我々を助けようとしたばかりに! 不知火の落ち度、で…す?」

 

 しかし次の瞬間、爆炎の中から飛び出してきた空飛ぶ噴進式の空中魚雷とでもいうのでしょうか?

 な、何を言っているのか分からないと思いますが…(汗)。

 

 とにかくそれによって戦艦水鬼と空母棲姫は揃って中破に追い込まれました。

 レ級三匹は一旦はやり過ごしたものの、Uターンして戻ってきた噴進式空中魚雷?の直撃を背中に受けて全滅です。

 

 何でしょうあれは?

 目標を自動追尾するなんてそんなの聞いた事ありません。

 さらに爆炎が晴れると黒服さんに損傷は…、信じられませんがカスダメ程度です。

 もう意味不明な上、訳が分かりません。

 

 「え、嘘でしょ? あり得ないじゃん…。」

 川内さんが目を見開きました。

 いえ、彼女だけではありません。

 もう全員がポルナレフ状態です。

 

 すると黒服さんのお尻が唸り、体が宙に浮きました。

 え? まさかそれ(おなら)…。

 思わず鼻を抑えてしまいましたが、良かった違うようです。

 

 「と、跳んだ? いえ飛んだ?」

 

 「あら、あらあら!」

 あっという間に私たちを飛び越えた黒服さんが上空から狙いをつけます。

 左腕にある三連装砲塔二基、右腕にある一基からそれぞれ三本の光線が戦艦水鬼と空母棲姫を貫くと水鬼の両腕は切断され棲姫は水底へと消えていきました。

 

 さすがに次元が違い過ぎると悟ったか、撤退を始める戦艦水鬼。

 ですが黒服さんは上空からその距離を一瞬で詰めるとその首を跳ね飛ばしたのです。

 そのまま彼女は仲間の後を追って行きました。

 

 「助かったの?」

 

 「そ、そうみたいだけど…。どうなのかしら。」

 瑞鶴さんと足柄さんが顔を見合わせています。

 

 「どこの誰だか知らないが助かった。感謝する、ありがとう。」

 

 「ええ、あのままでは間違いなく私達は全滅するところでした。本当にありがとうございます。」

 

 「そうだな、日向と翔鶴の言う通り助けてくれた事には感謝する。だが貴様のような艦の存在など聞いた事が無い。一体何者だ?」

 

 「ちょっと、武蔵!」

 大和さんが止めに入ります。

 私もそこまで警戒しなくてもいいと思いますが…。

 ともかく誰も沈まなかったのでそこは上々ね。

 

 「いや、大和よ。武蔵の言う通りだ。この後、私達まで沈められる可能性がある。先程の戦闘力を見るにあの海賊旗、遊びで掲げている訳ではあるまい。」

 それを聞いた黒服さんがゆっくりと振り返りました(え?)。

 



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第5話 出会い1(アルカディア側)

※2020年0年10月月03日 誤字修正


 最大戦速で飛ばしていると眼下に艦娘達が見えてきた。

 

 あれは…、凄い!

 大和・武蔵・長門・陸奥・赤城・加賀じゃないか。

 更にはマイラブリーエンジェルの翔鶴さんまで!

 

 他にも日向・妙高・瑞鶴・祥鳳・青葉・霧島・摩耶・足柄・川内・秋月・不知火ですって!

 イイネ!を五回以上押したくなる編成ですって!

 

 いや、『BOB艦』好きなんです。

 あと、『しばふ艦』・『コニシ艦』・『しずま艦』…、結局みんな好きなんだよ悪いか(笑)?

 どう見ても、こっちのハートにドストライク編成です。本当に(ry。

 

 んんっ!

 よく見たら全員が手酷くやられてるではないかっ!

 砲撃戦を展開している相手が戦艦水鬼・空母棲姫・駆逐棲姫にレ級三匹ってイベント最終海域ですか?

 凶悪すぐる…。

 

 あっ、翔鶴さんと足柄さんが大破した!

 おまけに祥鳳さんまで!

 おのれ、深海棲艦マジ許すまじ…。

 

 へ? 足柄さん? 足手纏いになるのが嫌ってまさか…。

 あああ、行っちっゃたよ、本当に特攻しやがったァ!

 赤城さんと祥鳳さんはナンデ瑞鶴に矢を渡してるんですかね?

 ファ?! 瑞鶴そらアカンて!

 

 「スペースウルフ隊、発進急げ!」

 戦闘機隊を発進させて少し離れた所に着水する。

 

 (頼む、間に合ってくれ!)

 願いが通じたのか台羽妖精率いる戦闘機隊が次々とタコヤキを撃墜し始めた。

 よし、運動性能・武装共に圧倒してくれているな。

 行ける、行けるよ!

 どんなもんだとばかりに艦娘達をチラ見する。

 

 「誰だ? あんな艤装、艦娘は知らんぞ。」

 

 「私の戦況分析によると海外艦、でしょうか。」

 

 「あの未知の艦載機、さすがに気分が高揚します。」

 

 「んだよ、あのこれ見よがしな髑髏は。」

 彼女たちの会話が増幅機能で聞こえてくる。

 

 (あああ、見てる見てる。メッチャこっち見てるよ、緊張する!)

 ピンチに駆けつけたんだから悪いイメージは無いと思うんだけど…。

 あと、摩耶さん聞こえてますからね。

 そんなに人を中二病扱いしないでください、流石に気分が凹みます。

 

 あれ?

 何か生き残ったタコヤキがこっちに向かってくるんだけど…。

 げ、攻撃目標をこっちに変えたのか?

 おい戦闘機隊、仕事放棄しないで!

 こっちに向かってくるタコヤキも撃墜してくれよ!

 

 アアアアア! 痛い痛い痛い、ちょマジで痛いって。

 タコヤキ達には悪いが火の逆スコールで彼らの姿を消し去る。

 アルカディア号の誇る速射砲スペースバスターだ。

 エヘヘ、驚いてる驚いてる(笑)。

 

 「副長、我らの旗を掲げろ。」

 戦闘旗掲揚の指示を出す。

 そしてVサインでもしようかと思った矢先、駆逐棲姫がこちらに突っ込んでくるのが見えた。

 

 (きゃぷてん、らむでげいげきや!)

 ヤッタラン妖精に従ってラムをイメージすると巨大な白刃が艦首からせり出てきた。

 そのままカウンターを合わせてドテッ腹に突き刺し高々と持ち上げる。

 耳が痛くなるような咆哮を挙げ駆逐棲姫は動かなくなった。

 倒したのはイイのだが上から駆逐棲姫の吐血が降ってくるわ返り血が凄いわで、慌ててその辺に放り投げる。

 うげえ…、気持ち悪い…。

 涙目になっていると突然、強い衝撃と共に辺りが爆炎で包まれた。

 

 (てきおおがたかんのほうだんめいちゅう! ひがいをほうこくせよ!)

 有紀妖精が指示を出す。

 どうやら戦艦水鬼の砲弾が直撃したらしい。

 損傷らしい損傷は無い。いわゆるカスダメというヤツだ。

 さすがアルカディア号、何ともないぜ。

 

 今、相手は油断しているはず。

 このチャンスを逃す手は無いとレーダー射撃による艦首ミサイルをぶっ放す。

 ヤツらの悲鳴が聞こえる。命中弾があるのは間違いない。

 

 爆炎が晴れると戦艦水鬼と空母おばさんは揃って中破、レ級三匹は姿が無かった。

 スラスターに出力を回し上空へと飛び上がる。

 上空からのパルサーカノン斉射で戦艦水鬼の巨大な両腕を切断、空母おばさんには海底にお帰りいただく。

 

 さすがに分が悪いと悟ったのか戦艦水鬼が踵を返した。

 撤退するつもりらしいが、私のお気に入りである日向さんや翔鶴さん達をあそこまで痛めつけてくれたからには無事に帰れると思ってもらっては困ります。

 上空から急降下し距離を詰め重力サーベルで首を跳ねる。

 悲鳴を上げることも叶わず戦艦水鬼は仲間の後を追って行った。

 

 「助かった、の?」

 

 「そ、そうみたいだけど、どうなのかしら?」

 瑞鶴さんと足柄さんの声だ。

 

 「何処の誰だか知らないが助かった。感謝する、ありがとう。」

 

 「ええ、あのままでは間違いなく私達は全滅するところでした。本当にありがとうございます。」

 うほほおー、日向さんと翔鶴さんの生ボイス、大坪さんに野水さんそのままですよ!

 しかも直々にお礼を述べて下さっておられます、テンション上がるぅ!

 

 「そうだな、日向と翔鶴の言う通り助けてくれた事には感謝する。だが貴様のような艦の存在など聞いた事が無い。一体何者だ?」

 

 「ちょっと武蔵!」

 感激していると武蔵さんのドスの効いた声が。

 怖い怖い、凄まじい威圧感だよ。

 さすが大和型2番艦、キ〇タマが縮み上がるよ!

 精神的大破に追い込まれたが大和さんの一言で少しだけ持ち直しました。ありがとうございます。

 

 「いや大和よ。武蔵の言う通りだ。この後、私達まで沈められる可能性もある。それにあの海賊旗、先程の戦闘を見るに遊びで掲げている訳ではあるまい。」

 長門さん、あなたもですか…。

 俺もう泣いていいかな?

 

 ハーレムどころか艦娘とお友達作戦もC敗北な空気の中、肩を落としながらゆっくりと振り返った。




ようやく主人公は艦娘達と出会うことが出来ました。

これからどうなっていくのでしょうか?

でも世の中って都合よく物事すすんでいかないですよね。


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第6話 出会い2(艦娘側:霧島)

 謎の戦闘艦がゆっくりと振り返りました。

 

 あの不動を体現したかのような日向さんが固まっています。

 私も艦隊の頭脳として大抵の事には動じない方だと思っているのですが、それでも足が震えているのが分かります。

 

 そうです、ビッグ7なら!

 ダメです、長門さんも陸奥さんも放心状態です。

 

 武蔵さんは獲物を狙う猛獣の目をしていますし、こうなったら大和さん以外頼れる方がいません。

 目で合図を送りますが…。

 ああ、やっぱり駄目です!

 『はちゅね』のお目目になっています。

 ネギの代わりに傘を振り始めたりしないか心配です。

 

 「どうだ、立てるか?」

 謎の戦闘艦が翔鶴さんの手を取りました。

 翔鶴さんも口をパクパクさせながらコクコクと頷くだけです。

 

 「そっちもかなり手酷くやられているな。航行は可能か?」

 更に謎の戦闘艦はへたり込んでいる足柄さんにも手を差し出しました。

 その声を聴いて全員が確信した事があります。

 

 「や、やっぱりぃー! お、男(の人)だぁー!」

 私たちの声がキレイにハモりました。

 

 そんな中、真っ先に再起動を果たした妙高さん。

 足柄さんに駆け寄るとそのまま顔を埋めて大泣きし始めました。

 喉奥から呼吸音が鳴るような普通ではない泣き方にさすがの足柄さんもかなり戸惑っているようですね。

 しっかり反省してくれれば良いのですが。

 

 「瑞鶴、歯を食いしばりなさい。」

 今度は加賀さんが瑞鶴さんをグーパンで殴り飛ばしました。

 

 「何すんのよ!」

 瑞鶴さんも直ぐに立ち上がって加賀さんをボディスラムに捉えます。

 彼女だって気の強さでは負けていませんからね、まあそうなるな(違)。

 

 「あなたが! 沈んでしまったら! 私は! 翔鶴や皆に! なんていえばいいの!」

 出ました、加賀さんのフライングネックブリーカー!

 瑞鶴さんが海面に叩きつけられます。

 

 「こんな時だけ何なのよ、普段あれだけアタシの事ボロクソに言うくせに! 本当は私なんていなくなればいいと思ってるんでしょ、それぐらいわかってるんだから!」

 立ち上がりながら瑞鶴さんが後ろ回し蹴り(ローリングソバット)を放ちます。

 うーん、瑞鶴さん足長いんですね、羨ましい限りです。

 

 「あなたがどう受け止めようが構わないわ。でももう二度と命を粗末にしないって約束して。あなたがいなくなってしまうなんて…、私絶対に耐えられない…。」

 加賀さんも膝立ちのまま瑞鶴に縋り付いて泣き始めました。

 

 「なっ、ズルいよ、加賀さん。こんな時だけ…。」

 

 いくら厳しく接していても数多の戦場を共にして来た仲間です。

 今ではひよっこだと思っていた彼女に背中を預けることも多くなりましたからね。

 それに瑞鶴の成長を間近で見てきたのはあなただけでは無いですよ。

 機動部隊の護衛に就く事が多い私達金剛型もまたしかりです。

 

 ふふ、加賀さん、あなたの中で瑞鶴は思った以上に大きな存在となっていたんですね。

 でも、それを自覚したならもう少し五航戦のお二人には柔らかく接してあげてくださいね。

 私達金剛型四姉妹からのお願いですよ(笑)。

 

 「瑞鶴、加賀さんの涙の意味を考えなさい。あなたの事を大切に考えて下さっているからこそ…。」

 

 「キャアアアアア!」

 あ、瑞鶴さんのスカートが。

 加賀さん、それはまずいですよ。

 あら、瑞鶴さんくたびれ気味ですが随分と可愛らしい下着ですね。

 ひょっとしたら上下オソロなのかしら?

 だとしたら上だけ頂けないかしら。

 だって瑞鶴さんの場合、上は不要…、いえ何でもありません、ええ(眼鏡スチャ)。

 

 「ちょ加賀さん! わかった、わかったから止めて! お願いだから手を放してぇ!」

 瑞鶴さんの悲痛な叫び声が大海原を渡っていきました。 




文が短い上に読みにくくて申し訳ありません。

なかなか1000字って私にとってはハードルが高目です(汗)。


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第7話 出会い2(アルカディア側)

※2020年04月17日 誤字修正


 ギギギ、と潤滑油の切れた機械のような音を立てて振り返る。

 完全硬直している日向(でもかわいい)、口が半開きのビッグ7に『はちゅね(初音)』目の大和、ひざが笑っている霧島。

 武蔵さんに至っては物凄い目でこちらに視線を向けている始末。

 

 間違いない、長門さんが危惧するように自分たちまで沈められるのでは?と考えているのだ。

 しまった、ヒーロー気取りが過ぎたか?!

 艦娘お友達作戦もC敗北どころかD敗北、何事も過ぎたるはというヤツだ。

 

 これはマズイ。

 まずは怖くなんかないんだよ~♪という事を示すためにまず足部艤装が大破して身動きが取れなくなっている翔鶴さんに手を伸ばす。

 

 「どうだ、立てるか?」

 コクコクと首を振るだけで恐怖のあまり声が出せていない。

 

 「そっちもかなり手酷くやられてるな。航行は可能か?」

 藁にもすがる思いで足柄さんに手を伸ばしたその時…。

 

 「や、やっぱりぃー! お、男(の人)だぁー!」

 全員が絶叫した。

 

 何ですかアナタたち、映画館じゃあるまいしサラウンドで叫ぶんじゃありません。

 そういえばあの駄女神、男性の存在が珍しい世界とか何とか言ってたな。

 それにしてもそこまで驚く事か?

 ああ、そうか艦娘でなはく艦息という事に驚いているのか。

 

 あ、妙高さんが足柄さんを抱きしめて泣き始めた。

 加賀さんも瑞鶴とプロレスを始めたかと思ったら瑞鶴のスカートに縋り付いて泣き始めるし、一体この人達何なんだ?

 もう違う泊地の艦娘を探した方がいい気がしてきたわ。

 

 あっ!

 加賀さんが縋り付いたせいで瑞鶴のスカートがァ!

 

 おおっと、これは!

 瑞鶴の生パンツでありましょうか!

 カラーはオレンジ、薄いオレンジであります!

 更にはセンター上部には小さなピンクのリボン、オシャレですがややくたびれ気味なこのショーツは最終海域攻略であっても幸運艦の自分は被弾しないという自信でありましょうか!

 はたまたこの深海棲艦が跋扈する大海原、下着にまで気を使っていられないといった彼女の哲学なのか、いずれにしてもラッキースケベには変わりがないのであります!

 頭の中で何か(古舘伊知郎氏)が…。

 

 さすがの瑞鶴も悲鳴を上げるが彼女のスカートに顔を埋めている加賀さんは気が付かない。

 加賀さん、グッジョブ!

 欲を言えばショーツごとズルッといって欲しかった。

 このアルカディア号が瑞鶴のアルカディア(理想郷)とコンニチワできれば120点満点、1ケ月半はあなたの奴隷としてお仕えさせていただきましたのに…。

 え? 瑞鶴のアルカディア(理想郷)?

 うーん、そりゃあれですよ、男なら誰でも捕らわれてしまうであろう女が持つバミューダトライアングルです。

 ここにハマったは(おとこ)は決して抜け出す事はできないという恐ろしい魔の三角地帯。

 

 

 そういえばなんで皆さん意外そうな目を瑞鶴に向けてるんですかね?

 そりゃ彼女だって痴女じゃないんだからショーツぐらい履いていたっておかしくないだろ。

 まさかと思うけど、この艦隊の連中は履いていないのが普通なのか?!

 よし、他所の泊地の艦娘を探すのはもう少し後にしよう(キリッ!)。

 

 「ちょ加賀さん! わかった、わかったから止めて! お願いだから手を放してぇ!」

 半ベソな瑞鶴、いえたった今、この瞬間から瑞鶴様と呼ばせていただきます。

 その瑞鶴様に心の中で両手を合わせる。

 なにしろこの年までこういった事には縁がなかったのだから…、仕方ない、です、うん。



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第8話 出会い3(艦娘側:翔鶴)

 「うう、もうお嫁にいけない…。」

 真っ白になった瑞鶴の口から何やら白いモノ(エクトプラズム)が出ています。

 謎の戦闘艦が連れていた修理妖精さんと医療妖精さんが私達の艤装と傷をある程度まで修復して下さいましたが、あの子の心の大破までは直せなかったようです。

 

 ただ応急修理な事もあり足部艤装を手酷くやられた私は通常の航行速度を出す事は出来ないと伝えられました。

 眼鏡を掛けたおちょぼ口のぽっちゃり妖精さんが申し訳なさそうな顔をしていらっしゃいましたが、轟沈寸前だった事を考えれば感謝です。

 他にも長門さん、足柄さん、祥鳳さん達が医療妖精(謎の戦闘艦さんはドクターと呼んでいらしたけれど)さんのお世話になっていました。

 全員のHPも半分近くまで回復し帰投には問題なさそうです。

 

 それにしても瑞鶴ったら何処に嫁に行くというのかしら。

 まあ、私と違って幸運艦だから殿方を見つけるのかもしれないけれど。

 

 「その、手当と修理をしてくれた事には感謝するが一体あなたは何者なんだ?」

 さすがの長門さんも敵意が無いと判断したのでしょう。

 いまだ戸惑いを隠せないようですが先程までの警戒心は無いみたいです。

 

 「アルカディア号。」

 

 「え?」

 

 「宇宙海賊船アルカディア号。」

 

 「宇宙海賊船? な、なんだそれは?」

 もう、長門さんたら…。

 そんな些末事は後回しで良いでしょうに。

 今はもっと、例えばそう、絵物語でしか聞いた事のない要するに知識としてしか知らない男性という存在が目の前にいるという事の方が大事です(キッパリ)!

 

 『だ ん せ い』ですよ、男性。付いている(ほう)(意味深)、もとい(ほう)です。殿方ともいいますね。

 しかもこの殿方、アルカディアさんでしたっけ?

 物凄く渋いお声な上、お顔立ちも端正なんです!

 決めました、私アルカディアさんのモノになります!

 

 「まあいい、私は長門という。日本海軍の戦艦だ。」

 

 「そして私がその妹になるのかしら、二番艦の陸奥よ。」

 

 「初めましてアルカディアさん。第一戦隊の大和と申します。助けて頂いたのに旗艦である妹の武蔵が随分と無礼で申し訳ありません。」

 

 「なっ、大和お前! あ、ああ、今聞いた通りだ。戦艦武蔵、同じく日本海軍の戦艦だ。」

 

 「一航戦の赤城です。そしてこちらが僚艦の加賀さんです。」

 

 「航空母艦加賀です、よろしく。」

 こんな感じで順番に自己紹介が進んでいきます。

 さあ瑞鶴、トリは私達五航戦の番、いくわよ。

 

 「航空母艦翔鶴です。助けて頂き本当に感謝です。妹の瑞鶴共々よろしくお願い致しますね。」

 アルカディアさんの手を取って両手で包む。

 こういうのは迷ってはダメ、堂々とやるに限るわ。

 後、上目遣いも忘れずに、ふふ。

 

 (あら、赤城さん、こんな所に色目を使う鶴がいるわ。)

 

 (本当ですね。これからは『娼郭』さんとお呼びしないといけないわね。)

 

 あらあら、時代遅れの一航戦の遠吠えが耳に心地好いですね。

 もう戦いは始まっているのですよ?

 

 「ところでさっきの連中は一体何だ? マゾーンとはまた違うようだが。」

 

 「深海棲艦を知らないの?!」

 

 「ああ、ひょっとしたら俺は自分の知っているのとは違う世界に来てしまったのかもしれん。」

 自分の知っているのとは違う世界?

 一体何を仰っているのでしょうか。

 せっかくの挽き物、いえ殿方なのにとんでもないキ印なのかもしれません。

 だとしたら勿体なさ過ぎます(泣)。

 

 「ヤツらは何年か前から突然海に表れてな、見境なく人間を攻撃してきたんだ。しかも人類の持つ兵器は何一つ通用しなかった。そんな時に人類側として現れたのが私達、艦娘だ。」

 

 「あいつらには艦娘の艤装と呼ばれる兵装でしか対抗できないの。ヤツらに対抗できるのは私達だけなのよ。」

 簡潔にして明瞭な説明、さすがビッグ7ですね。

 でも、三歩も四歩も前に出て説明する事ではないですよね、ええ。

 取り敢えず離れて下さい、人の恋路を邪魔しないで。

 

 「それから今は西暦何年だ?」

 

 「2020年だけど。ついでに言えば2月10日だよ。」

 川内さん、GPS時計を見せるのにそんなに密着する必要なんて無いのではないでしょうか?

 しかも三人ともさりげなくボディタッチに持ち込んでいるのがムカつきますね。

 

 「ではあなたのいうマゾーンとは何なのだ? 逆に私達は聞いた事が無いのだが?」

 ああ、武蔵さんまでアルカディアさんの側に!

 キリッとした表情ですが鼻をヒクヒクさせているのが分かります。私の目はごまかせませんから!

 

 「マゾーンとは高度な文明と知能を持った外宇宙生命体だ。自分たちの母星が消滅し住めなくなったために第二の故郷とするこの地球に集団移住するつもりなのだ。」

 「見た目は奇麗な女の姿をしているが幾つもの星を配下に置き滅ぼしてきた。人類も同じ運命を辿るのは間違いあるまい。」

 

 「ええ…。じゃあ違う時代とは一体どういう事でしょうか?」

 

 「ふむ、祥鳳とかいったか。川内とやらの時計が正しければ俺は957年後の2977年から来た事になる。」

 何でしょう?

 あまりにも荒唐無稽な話です。

 やっぱりどこかの精神病院から抜け出してきたのでしょうか?

 ああ…、さようなら私のチ〇ポ恋…、って駄目です、やっぱり諦めきれません(泣)。




うーん、翔鶴さんの壊れっぷりが凄まじい気がしますがスルーして下さい。

一応、正室は彼女を予定しています。
そろそろストックが切れかけなので本当に不定期更新になりそうです。

ではまた暇を持て余した際は覗いてやってください。<(_ _)>


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第9話 出会い3(アルカディア側)

※2020年05月01日 誤字訂正


 「うう、もうお嫁に行けない…。」

 チーンという『おりん』の音と共に吐き出されるエクトプラズム。

 すいません瑞鶴様、流石のヤッタランやドクターも心の大破までは修理不可能なんです。

 両妖精が残り全員の応急処置をしてくれているが補給までは出来ないとの事。

 全員のHPも半分近くまで回復し彼女たちに燃料さえあれば帰投に支障はないが、足回りの損傷が激しい翔鶴さんだけは通常の航行速度を出せないらしい。

 

 「その、手当と修理をしてくれた事には感謝するが一体、あなたは何者なんだ?」

 良かった、長門さんの警戒が幾分か薄らいでいる気がする。

 

 「アルカディア。」

 

 「え?」

 

 「宇宙海賊船アルカディア号。」

 

 「宇宙海賊船? な、なんだそれは?」

 まあ、無理もないな。

 これについてはこの後に話すようにしよう。

 

 「まあいい。私は長門という、日本海軍の戦艦だ。」

 

 「そして私がその妹になるのかしら。姉妹艦の陸奥よ。」

 ビッグ7のご挨拶。

 いやあ、やっぱりむっちゃんは大人の色気がムンムンですなぁ。

 

 「伊勢型戦艦二番艦の日向よ。一応覚えておいて。」

 よく存じ上げております。

 戦艦娘では一番先に指輪を渡したのが貴方ですから。

 

 「よっ! アタシ摩耶ってんだ。よろしくな!」

 よろしく、重巡枠カッコカリ2番艦さん。

 

 「川内参上、夜戦なら任せておいて!」

 軽巡では一番好きな艦娘さんなんですよね、カッコカリは未だですがカッコガチなら今すぐにでもお願い致します。

 こんな感じで艦娘達の自己紹介(品定め)が進んでいく。

 

 「第五航空戦隊、航空母艦翔鶴です。助けて頂き本当に感謝です。妹の瑞鶴共々よろしくお願い致しますね。」

 何という事でしょう!

 ゲームでの翔鶴さんは指輪艦第一号なんです。

 その翔鶴さんが私の手を両手で包んでくれているという事実!

 できれば違う所も包んで欲しいが、これは一体?

 望みは完全に潰えた訳ではないという事かっ?!

 それにしてもなんて柔らかくキレイなお手々なんだろうか。

 しかし、一たび戦場に出ればこの手で弓を引くのだ。

 改めて五航戦のお二人だけではなく全員に尊敬の目を向ける。

 え? 普通に向けろ? はい仰る通りです、スミマセン…。

 

 「ところでさっきの連中は一体何だ? マゾーンとはまた違うようだが。」

 会話を引き延ばすため、何も知らない振りをしてこの世界の事を聞いてみる。

 

 「深海棲艦を知らないの?!」

 

 「ああ、ひょっとしたら俺は自分のいたのとは違う世界、違う時代に来てしまったのかも知れん。」

 さらっと違う世界から来た事を臭わせる。頭イイ。

 

 「ヤツらは何年か前から突然海に表れてな、見境なく人間を攻撃してきたんだ。しかも人類の持つ兵器は何一つ通用しなかった。そんな時に人類側として現れたのが私達、艦娘だ。」

 

 「あいつらには艦娘の艤装と呼ばれる兵装でしか対抗できないの。だからヤツらに対抗できるのは私達だけなのよ。」

 うん、ここまではゲームの内容通りだな。

 というかビッグ7のお二人から香水やコスメ品といった類の匂いではなく女性特有の素晴らしい体臭がする。

 特に長門さんは普段からそういったモノにお世話になっていないのか、純粋な体臭なのがウレシイですわぁ。

 

 「それから今は西暦何年だ?」

 

 「2020年だけど。ついでいえば2月の10日だよ。」

 川内が真横に来てGPS時計を見せてくれる。

 ぴゃああ、川内も女の子特有の良いニヨイがします。

 ビッグ7のお姉さんの匂いに対して川内は女子高生のソレですね、ご馳走様です。

 何、分からない? 意味不明だと?

 よし、今すぐラッシュアワーの地下鉄御堂筋線に乗って天王寺~梅田、もしくは難波~新大阪間を数回往復してきなさい、話はそれからだ。

 

 「ではあなたのいうマゾーンとは何なのだ? 逆に私たちは聞いた事が無いのだが?」

 武蔵さん、あなたはトリートメントの香りですね、わかります!

 もう、心のニヤニヤが止まりません。

 

 「マゾーンとは高度な文明と知能を持った外宇宙生命体だ。自分たちの母星が消滅し住めなくなったために第二の故郷とするこの地球に集団移住するつもりなのだ。」

 「見た目は奇麗な女の姿をしているが幾つもの星を配下に置き滅ぼしてきた。人類も同じ運命を辿るのは間違いあるまい。」

 マゾーンの襲来があるかどうかはわからないが、知識を持っておくのは非常に良い事だ。

 それらしいのが発見されればこちらにも情報が入りやすくなる。

 

 「ええ…。じゃあ違う時代とは一体どういう事でしょうか?」

 

 「ふむ、祥鳳とかいったか。川内とやらの時計が正しければ俺は957年後の2977年から来た事になる。」

 あ、全員が一気に冷めた目になった。

 メンタルがゴリゴリ削られますわ、次はSF好きな提督のいる鎮守府を探そう…。




※天王寺~梅田、もしくは難波~新大阪間を数回往復してきなさい
       ↓
 主人公が何を言ってるかチョット分かんないですが、本当に実行すると公僕のお世話になる可能性があるので良い子の皆さんはやめましょう(笑)。


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第10話 出会い4(艦娘側:青葉)

最初に三文SSなので、どうしようもなく暇を持て余した時などのお供程度にと記入したのですが、ありがたい事に多くの方々が訪れて下さっています。

COVID19による騒動が続きますが、諸兄氏が少しでもフッと笑って下さればこれ以上の喜びはありません。



 「まあ、いきなりこんな話を信じるとはこちらも思えん。だが俺の兵装はこの時代には存在しえないのも事実だ。」

 確かにアルカディアさんの艤装とその威力はすごいモノですからねぇ。

 ジャーナリストとしての血が騒ぎます。

 帰ったらブルーリーフネットワークで各地の私と情報共有をしなくては。

 

 「北大路です! みんな無事、無事なの?!」

 考えを巡らせていると北大路司令官からの無線が入りました。

 

 「こちら第一艦隊旗艦日向。第一艦隊、第二艦隊共に大破艦多くも轟沈者無し、救出艦隊は長門・赤城・加賀が大破で後は全員中破だ。」

 

 「良かったぁ~、心配したんですよ、もう。」

 執務室の安堵が伝わってきます。

 

 「でもあれだけの危機的状況をどうやって?」

 おおー、大淀さんいい質問です。

 

 「ああ、救出艦隊といいながら私達も防戦一方でな。不甲斐ない話だが、今ここにいる『野 良 艦 』に助けてもらったのだ。」

 

 「そう、それは是非その『野 良 艦 』さんにお礼をしないといけませんね。武蔵さん、その方をこちらにお連れ出来ませんか?」

 

 「だそうだが? 貴殿の補給もあるだろうし、できれば私達を曳航してもらいたい。」

 

 「ああ、旗艦であるこの日向からもお願いする。帰投にはいささか燃料が足りなくてな。恥ずかしながら動く事もままならない。」

 確かに燃料は帰投分ギリギリでしたからね。

 青葉も今の騒動でほぼスッカラカンです。

 武蔵さんや日向さんといった大型艦の方ならなおさらでしょう。

 

 「分かった、その代わり一つ条件がある。」

 アルカディアさんからの対価とは一体何でしょうか?

 18名もの命を救って頂いたのです、かなりの要求である事は間違いないでしょう。

 もし体で払えと言われたら、この青葉、喜んで(悦んで?)皆さんのために犠牲になりますから!

 青葉だけでなく、全員の喉が鳴ります。

 

 「ヤツらの返り血と飛沫、潮風で気持ち悪い。その…、風呂を貸してくれ。」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「全員結び終わりました!」

 秋月さんの元気な声が響き渡ります。

 風呂を貸して欲しいといわれた時は全員でズッコケましたが、北大路提督は好きなだけ使ってもらって結構ですと許可してくださいました。

 

 「お風呂、アルカディアさんのお風呂。背中を流して…、上々ね。」

 

 「さらに気分が高揚します。」

 赤城さんと加賀さんが鼻血を出していますね。

 何を考えているかわかりません(大嘘)が、翔鶴さんが曳航ロープを切ってやろうかしら?と不穏当な事を呟いています。

 

 言っておきますけどあなたが一番恨まれているんですからね!

 アルカディアさんに横抱き、いわゆるお姫様抱っこされているんですから。

 アルカディアさんの持っている曳航ロープが人数分なかった(1本足りなかった)ので仕方ないんですが、それにしても羨ましいです。

 それを聞いた時、全員が一触即発状態になりましたが、足部艤装が曳航可能レベルまで修理できなかった翔鶴さんがその栄冠を勝ち取りました。

 

 「翔鶴といったか? しっかり捕まっていろ、飛ばすぞ。」

 それを聞いた翔鶴さんがアルカディアさんの胸に顔を埋めました。

 あれ、絶対にスーハーしてますよね!

 当のアルカディアさんはそんな事は気にも留めずに『すらすたあ』とやらの噴射で海面から70cmほど浮き上がりました。

 そして、

 

 「アルカディア号、発進!」

 という彼の声と共に周りの景色が一気に後ろへ流れ始めました。



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第11話 出会い4(アルカディア側)

※2020年04月18日 一部修正


 「まあ、いきなりこんな話を信じるとはこちらも思えん。だが俺の兵装はこの時代には存在し得ないのも事実だ。」

 無理やりの一言でサッサと切り上げたつもりが、なおも武蔵さんだけは懐疑的な視線を向けてくる。

 もうやめてあげて、この変態野郎のHPはゼロよ!

 

 「北大路です! みんな無事、無事なの?!」

 突然、日向さんの持つ無線機に連絡が入った。

 

 「こちら第一艦隊旗艦日向。第一艦隊、第二艦隊共に大破艦多くも轟沈者無し、救出艦隊は長門・赤城・加賀が大破で後は全員中破だ。」

 

 「良かったぁ~、心配したんですよ、もう。」

 おや、女性司令官なのか?!

 男手が不足の世界らしいから別に不思議な事も無いが。

 優しそうな声の持ち主にこちらもホッとする。

 

 でもこの声って鷹森淑乃さんだよな。

 鷹森さん、北大路…。

 ええっ! ここの司令官ってサクラ大戦3&4の北大路花火さん?!

 

 「でもあれだけの危機的状況をどうやって?」

 よくぞ聞いてくれました、騎士王様。

 そこは大事な所ですからね。

 

 「ああ、救出艦隊といいながら私達も防戦一方でな。不甲斐ない話だが、今ここにいる『野 良 艦 』に助けてもらったのだ。」

 イイですよ武蔵さん、その調子でどんどん私の事を売り込みなさい。

 

 「そう、それは是非その『野 良 艦 』さんにお礼をしないといけませんね。武蔵さん、その方をこちらにお連れ出来ませんか?」

 うおおお、早速キター!

 こんなに簡単に事が運ぶなんて逆に疑ってしまうレベルですが?!

 上手く行けば北大路花火嬢と所属艦娘の親子丼ならぬ『泊地丼』が頂けるという事ですかァ!

 

 「だそうだが? 貴殿の補給もあるだろうし、できれば私達を曳航してもらいたい。」

 

 「ああ、旗艦であるこの日向からもお願いする。帰投にはいささか燃料が足りなくてな。恥ずかしながら動く事もままならない。」

 しかも曳航の依頼ですか?

 それは曳航ならぬ栄光ですって!

 結構結構、これでより自然にそちらの泊地にお邪魔できるってもんですわ(ダークスマイル)。

 

 「分かった、その代わり一つ条件がある。」

 風呂借りて一刻も早く駆逐凄鬼の血を流したい。

 メッチャ気持ち悪いんだよ、これ。

 

 北大路提督のお風呂ぐらい好きに使ってもらっていいという返答に感謝しながら全員に曳航用ロープを配っていく。

 ん、あれ? 一人分、足りない?

 こ、これは!

 早速のイベント、キター!

 

 「すまんがロープが一本足りん。誰か一人だけ俺が抱える事になるがいいか?」

 こんな合法的に艦娘と密着できるなんて女神様、感謝です!

 

 が、それを聞いた途端、全員の目の色が変わった。

 艦娘同士で火花を散らしあうどころか、中には艤装を動かすものまでいる始末。

 

 え? 何? アンタらそんなに嫌なの?

 やっぱり、他泊地の艦娘を探すか(泣)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「全員結び終わりました!」

 最後尾の秋月から元気な返答が返ってくる。

 恐らく自分が犠牲者にならなくて心底ホッとしているのだろう。

 

 ここまで嫌がられているならと、ちょっと大人し目のヤツを物色。

 祥鳳や秋月が適役だがここは足部艤装の損傷が最も酷いという理屈でカムフラージュできる翔鶴が一番と考えたのだ。

 という事で理由を(大嘘)を説明してサッサと横抱きしてやった。

 こういうのは迷ってはイカン、サッサとやってしまうに限る。

 あれ、妙なデジャヴ感が?

 

 

 

 おっほー、ヤバイですわこれ。翔鶴さんの匂いがマジでヤバイ。

 流れるような銀髪からはトリートメントの香り、体からは長門さんや陸奥さんとはまた違った何ともいえない女性特有の体臭が!

 こんなの人体的主砲の最大仰角不可避です、スイマセン…。

 

 「翔鶴とかいったか? しっかりつかまっていろ、飛ばすぞ。」

 って翔鶴さんが横を向いたァ!

 

 そうですかー(棒)、このような変態とは目を合わすどころか顔も見たくないと?

 端から見ればこちらの胸に顔を埋めるというバッチグー(死語)な状況なのに…。

 鼻血を出して遠くを見つめる一航戦のお二人(ナンデ?)を横目にスラスターを噴射。

 海面から浮き上がる。

 

 「アルカディア号、発進!」

 どうか柱島第七泊地にいる艦娘さん達とは良好な(主人公的に)関係を築けるように祈りながら進路を取った。



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帰還
第12話 帰還1(艦娘側:摩耶)


 (うわああ、早え、早えんだよ、クソがぁ!)

 アルカディア号に曳航され柱島第七泊地へと帰還途中のアタシ達。

 ラクだなー、なんて思ったのも束の間、三分後にはとんでもないスピードまで上がっちまった。

 これ絶対55ノット(時速100km)越えてんだろ!

 戦艦組も最初こそ楽しんでいたが流石に35ノット(時速65km)を超えたあたりからダンマリに。

 

 あろうことか途中ヤツが一度振り向いたので、こっち見んなクソが、と言ってやった。

 こんなスピード出してんのに余所見するんじゃねえよ、馬鹿じゃねぇのか?

 頼むから前向いてくれ。

 

 外湾から内湾に入った所でやっとスピードが落ちた。

 300mほど先に見える建物とガントリークレーン、それに続くブンカー、見慣れた景色に生きて帰ってこれた事を実感する。

 

 あれは…、瑞雲?

 飛んできた瑞雲に皆で手を振る。

 日向の周りを2~3週して帰っていったという事は伊勢のヤツか(笑)。

 

 お、ブンカーに人影が見えるぜ。

 あの特徴ある帽子、あれは高雄姉と愛宕姉だな。

 他にも伊勢・瑞鳳・金剛型に妙高型、青葉型や川内型、後は陽炎型と秋月型、それに提督まで。

 全くみんな心配性だなあ。

 何だよ、鳥海のヤツ泣いてやがんのか?

 普段口煩いクセにこんな時はダメなんだよなぁ、アイツ(笑)。

 

 「着ているモノからすると僚艦の連中か。随分と仲間想いだな。」

 

 「ええ、自慢の姉たちです。」

 

 「そうだね、でもそれは金剛型だけじゃないよ。」

 

 「川内さんの言う通りですね。絆は北大路提督が一番大事にしている物ですから。」

 妙高さんの言う通りアタシ達の提督は仲間の繋がりを最も重要視する。

 北大路提督の前任はそりゃあ酷いヤツだったからな。

 不眠不休の遠征や出撃は当たり前で大破撤退の原因となったヤツは晒し者にさせられるわ、姉妹艦も補給と食事は抜きにされるわ、しかも質の悪いことに決して艦娘を沈めたり資材の横流しをしたりしない。

 そのために長い間、海軍監査部の目を潜り抜けてきたという経緯がある。

 ところが提督同士の宴会で酔っ払った際にまだ士官学校生だった子爵令嬢の北大路候補生に取入ろうとして色々と自慢げに喋ってしまったらしく前任はそのまま帰ってこなかった。

 宴会に随伴していた武蔵さんが全員を集めて前任が降格の挙句、海軍陸戦隊に放り込まれた事を告げると駆逐艦の中には安どのあまり気を失うヤツまでいた位だ。

 武蔵さんが次に着任する司令官はその北大路候補生であり皆思う所はあるだろうが、どうか新しい提督を信じてやって欲しいと皆に頭を下げたのは忘れられない。

 

 出迎えの連中が手を振っている。ガントリーをくぐれば、もうブンカーだ。

 

 (ああん?)

 急に出迎え組が瞬間接着剤でもぶっかけられたかのように固まってしまった。

 ここぞとばかりにシャッターを切る青葉、クスクスと笑う大和さん。

 何が起こったんだ?

 

 「アハハ、あの神通の顔。青葉、しっかり撮ってやって。」

 

 「了解です。しかし皆さん、一様にいい表情ですねえ。」

 

 「私達もあんな感じだったんでしょうか。そう思うとちょっと…、恥ずかしい。」

 俯いちまう祥鳳さん。

 ああ、なるほど。そりゃそうだよなあ(笑)。

 曳き手が見た事も無い船だし、宙に浮いているし、さらには艦娘でなく艦息?ときたもんだ。

 おまけにあのでっかい髑髏と海賊旗、まさかアタシ達が海賊船に曳航されて帰ってくるとは夢にも思ってなかったってトコだろうな(笑)。

 出迎え組の目の前へと着地したアルカディア号が私達を引き上げてくれる。

 後ろで手袋組がこの手袋は永久保存だとか呟いていたのは聞かなかったことにする。

 それよりも日向さんが帰還の報告をしようとしたら、提督がいきなりダッシュで建物内に駆け込んで行った。

 

 「一体、指令はどうされたんでしょうか?」

 

 「艦隊の頭脳を持ってしてもわからんモノが脳筋の私に分かる訳なかろうが。ひょっとしたら艦隊司令部に新艦発見の一報を入れに行ったのかもしれん。」

 

 「お、お待たせして申し訳ありませんでした。ここ柱島第七泊地を預かる北大路花火と申します!」

 数分後、慌てて戻ってきた提督を見た赤城さんと陸奥さんが小さく吹き出した。

 いっちょ前にメイクしてきやがったのか。

 男の前だからって色気づきやがって(笑)。

 

 「宇宙海賊船アルカディア号だ。無理を言ってすまなかったな。」

 

 「い、いえ、とんでもありません! 皆を無事に連れ帰って下さりこちらこそありがとうございます。本当にどうなる事かと思いましたので(ぽっ)。」

 

 「提督、皆さん入渠と補給がありますし、お話は執務室にお越し頂いてからにされては?」

 本日の秘書官は高雄姉か。

 冷静を装っても、目を真ん丸にしたままじゃあ説得力無しだな(笑)。

 

 「そうですね、詳細は入渠と補給後で構いません。それから入渠に関しては高速修復材を使用して下さい。ではアルカディアさん、どうぞこちらへ。」

 提督、お前もちったあ落ち着けよ。この摩耶様を見習ってさ。

 右手と右足が一緒に出ちまってるぜ。

 

 「ふむ、ではそうさせてもらうとしよう。さあ翔鶴、着いたぞ。」

 あれ、翔鶴さんが降りようとしない。

 顔をアルカディアの胸に埋めたまま首を横に振る。

 何か様子が変だぜ。

 しがみ付いて小さく震えて…。

 

 「五航戦?」

 

 「翔鶴さん?」

 

 「翔鶴姉!」

 皆が一斉に翔鶴さんに駆け寄った。



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第13話 帰還1(アルカディア側)

 さあ、柱島第七泊地へ向けて出発、カワイ子ちゃんが待っている!

 30ノット(時速56km)で速度を固定、時間にして約1時間か。

 

 「ひゃっほう、最高よねぇ!」

 陸奥さん、そこまで言うならもう『最高だぜぇ!』で良いと思われます(笑)。

 

 「これが30ノットか、胸が熱いな!」

 

 「見て武蔵! 走行波が膝の高さを超えたわ!」

 

 「霧島よ、自力でここまでの速度を出せるとは貴様達四姉妹が羨ましいぞ、ハハハ!」

 後ろでは戦艦組の黄色い声が(マザリタイ…)。

 

 ん? はしゃぐ戦艦組とは裏腹に抱きかかえている翔鶴さんの様子が少しおかしい。

 相変わらず顔を埋めたままで余程、目を合わすのが嫌とみえる。

 心なしか息も荒い気がするし、わずかに見える耳と頬には赤味が。

 しかも何かを我慢しているようにも見える。

 トイレか? と聞いても小さく首を振るだけ。

 

 ギュウと掴まっている手に力が加えられる。

 え、何? もっと速度を上げろという事なのか?

 どうやら一刻も早く解放されたいのかさらに力が加えられる。

 

 痛い、痛い、痛い!

 止む無く巡航速度を55ノット(時速100km)まで上げる。

 え、早過ぎる? 速度超過?

 いやいや、一刻も早く到着して離れてもらわないと文字通りコチラの身(物理で)が引き千切られそうなんですって!

 

 一度、翔鶴さんの様子がおかしい事を伝えようと後ろを向いたが、摩耶様にこっち見んなクソが、と怒鳴られてしまった。

 そりゃ、あなたの口の悪さは知ってます、知ってますよ。

 ましてや好きになってくれとは言いません(本当はなって欲しいけど!)、でもちょっと酷過ぎるダルォォ!

 初めてですよ、私をここまでコケにしたおバカさんは(血涙)。

 

 おかげであっという間に外湾から内湾に。

 ブンカーまでぶっ飛ばしたかったが、さすがにそれをやると大事故になりかねない。

 建物とガントリークレーンが見えたあたりで下駄履き機が飛んできた。

 某瑞雲教の御神体は日向の周りを2~3週するとブンカーに帰って行く。

 そのブンカーでは結構な人数が心配そうな顔をして整列しているのが遠目にも確認できた。

 

 「着ているモノからすると僚艦の連中か。随分と仲間想いだな。」

 

 「ええ、自慢の姉達です。」

 

 「そうだね、でもそれは金剛型だけじゃないよ。」

 

 「川内さんの言う通りですね。絆は北大路提督が一番大事にしている物ですから。」

 この世界でも北大路花火嬢は思いやりのあるお嬢様らしい。

 大変結構な事だが、コチラの姿を確認した途端、姉妹艦達の振っていた手がピタリと止まってしまった。

 

 「アハハ、あの神通の顔。青葉、しっかり撮ってやって。」

 

 「了解です! しかし皆さん一様にいい表情ですねぇ。」

 

 「私達もあんな感じだったんでしょうか。そう思うと…、ちょっと恥ずかしい。」

 相変わらず、後ろは楽しそうでよろしゅうおすなぁ。

 こっちはさっきの摩耶様の一言で心が折れました。

 おかげでもう振り向く勇気がありません(キッパリ)。

 

 出迎え組の目の前へと着地し全員をブンカーに引揚げる。

 

 おお、目の前にあの北大路花火嬢が!

 サクラ大戦では一番好きなキャラなんですよぉ、グヘヘヘヘ(ジュル)。

 早速、挨拶をと思った矢先、彼女はいきなりダッシュで建物内へ逃げて行った。

 

 ちょっと待って、なんぞこれ?

 先程の摩耶様より酷いパターンが用意されているなんて誰が思うよ?

 顔見ただけで逃げるって…。

 まさかとは思うが霊力とやらで心の中を覗かれたのか?!

 

 「一体、司令はどうされたんでしょうか?」

 ほれみなさい、霧島さんだって変に思っているではないか。

 

 「艦隊の頭脳を持ってしてもわからんモノが脳筋の私に分かる訳なかろうが。ひょっとしたら艦隊司令部に新艦発見の一報を入れに行ったのかもしれんが。」

 あら? 武蔵さん、自らを脳筋と認めてるんですね(笑)。

 

 「お、お待たせ致しました、ここ柱島第七泊地を預かる北大路花火と申します!」

 数分後、慌てて戻ってきた花火嬢。

 桜色のルージュに上品なメイク、なるほど化粧しに行ってたと。

 

 以前、雑誌の記事で女性は心を許した相手にしかスッピンを見せないと読んだ記憶がある。

 という事はやはり警戒されていると思って間違いないだろう。

 その証拠に手足が小刻みに震えている。

 

 「宇宙海賊船アルカディア号だ。無理を言ってすまなかったな。」

 しかし、お礼はちゃんとしておかなければ。

 男の好感度は掛け算だが、女のソレは足し算だというからね。

 

 「い、いえ、とんでもありません! 皆を無事に連れ帰って下さりこちらこそありがとうございます。本当にどうなる事かと思いましたので(ぽっ)。」

 

 「提督、皆さん入渠と補給がありますし、お話は執務室にお越し頂いてからにされては?」

 おお、高雄さん。ナイスな提案ですよ。しかし、何がとは言いませんが隣の愛宕さん共々デッカイですなぁ。

 

 「そうですね、詳細は入渠と補給後で構いません。それから入渠に関しては高速修復材を使用して下さい。ではアルカディアさん、どうぞこちらへ。」

 さらに日向さんに全員高速修復材を使用するように命じると、右手右足同時出しという不思議な歩き方で執務室へ歩き始めた。

 

 「ふむ、ではそうさせてもらうとしよう。さあ翔鶴、着いたぞ。」

 降ろそうと声を掛けるが…。

 

 あれ、翔鶴さんが降りようとしない。

 顔をこちらの胸に埋めたまま首を横に振る。

 ここに来るまでも時折、体を強張らせて何かを耐えていたようだったが…。

 

 「五航戦?」

 

 「翔鶴さん?」

 

 「翔鶴姉!」

 皆が異変に気付いて駆け寄ってきた。




※ストックが尽きてしまったので、少しの間お休みとなります。
 できるだけ早くまた投稿できるようにコツコツ書き溜めていきますので、期待せずにお待ち下さい。

※この話を考え付いた元となったアルカディア号が完成しました。
 コイツで艦これの世界に行ったらどうなるのかな?とふと気になってしまって(笑)。

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第14話 帰還2(艦娘側:瑞鶴)

※2020年04月23日 誤字修正
※2020年04月26日 一部表現修正


 無事に帰ってきたというのに翔鶴姉の様子がおかしい。

 アルカディアさんから降りようとしないのだ。

 気分が悪いのか、具合が悪いのか、どこか痛いのか聞いてもアルカディアさんに顔を埋めたまま首を横に振るばかりで一向に要領を得ない。

 

 私も少し腹が立ってきて、

 「もう翔鶴姉、一体どうしたっていうの、ハッキリしてよ! みんなドックにも行けず困ってるんだから!」

 と声を荒げてしまった。

 

 ボソボソと何かを必死で伝えようとする翔鶴姉に耳を寄せる。

 え、何?

 力が抜けて立てない?

 何でよ?

 

 「アルカディアさんの匂い、男の人の匂いが凄くて…。ダメ、ダメだから、こんなの! 私ずっともう…。あっ、また! くっ、ううっ?!」

 

 ゴメン、翔鶴姉、悪いけどもう一回言って?

 

 「とにかく、もう顔もグチャグチャで上げれないの。悪いけど頭にタオルを掛けて。後、入渠ドックまで肩を貸して欲しいの。」

 

 ………。

 ……。

 …。

 

 「みんなゴメン、心配して損したわ。さっさと入渠しましょ。」

 ハイ解散~とばかりに翔鶴姉にタオルを掛けて肩を貸す。

 全くもう、マスクを剥ぎ取られた覆面レスラーかっての。

 

 「待て待て、一体何があったというんだ?」

 

 「それはドックで浸かりながら説明するわ。さすがにココじゃ可哀そうだから。ただ、翔鶴姉も提督さんの耳には入ると思っておいて。」

 

 「うう、やっぱり?」

 

 「当り前じゃない、提督さんだって心配してくれてるんだし、それに女としてもね。」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「はあ?! 軽イキ?!」

 カポーンと桶の音が響く入渠ドックに人数分の声が重なり響く。

 隣にいる翔鶴姉は両手で顔を覆って耳まで真っ赤になってしまった。

 現在、ドックを占拠しているのは私達五航戦と日向さんと青葉さんの4名。

 残り全員は対面の木製長椅子に座って順番待ち。

 

 「軽い気ってなんですか?」

 うん、秋月、あなたはずっとこのまま穢れを知らずにいて頂戴。

 間違っても隣で真っ赤になった俯き加減の眼光が戦艦クラスな駆逐艦みたいにならなくていいからね。

 

 「だってその、アルカディアさんっていうか、男の人の体臭って物凄い破壊力なんです、これ以上、嗅いではいけないとわかっているのに止められなくなってしまって…。」

 

 「確かに以前、時雨や妹の雪風がそんな事を言ってはいましたが…。」

 幸運艦といわれる彼女達は艦隊司令部や演習先で時々、殿方に会うらしく男の人って凄くいい匂いがします、なんて言って羨望の眼差しを浴びていたっけ。

 まあ確かに私もちょくちょく大本営や演習先で男の人と会ったり話をしたりする事があるんだけど確かにドキッとする匂いだから、やっぱり長く嗅いでいたらおかしくなっちゃうのかな?

 

 「あー、でも分かるなぁ。私も何て良い匂いがするんだろうって思ったもん。」

 アンタ、頼むからアルカディアさんに違う意味での夜戦を挑んだりしないでよ。

 

 「ええ。でも何ていうんでしょうか、ただ単にいい匂いという訳ではないというか…。」

 

 「あーら、祥鳳。それはフェロモンっていうのよ。」

 

 「女としての部分に訴えてくる感じ、これだ。」

 あーあ、うら若き乙女がなんて話してるのよ。

 止めなくていいの、と武蔵さんと大和さんに視線を送ったら二人とも赤くなって目を逸らしてしまった。

 ブルータス(第一戦隊)、お前もか…。

 

 「まあまあ瑞鶴さん、そんな難しい顔をしなくても良いではありませんか。」

 

 「滅多にお目に掛かれない男の人が目の前に現れたのよ。これぐらいの反応ならまだ可愛らしいモノじゃなくて?」

 

 「赤城さんと加賀さんのおっしゃる通りですね。海賊といえば片手にお酒、もう片方の手には女のイメージです。しばらく滞在していただけるなら私にも勝機があるかもしれません。ふふ、ふふふ、あははははは!」

 アンタ誰?!

 こんなの私の知っている妙高さんじゃないから!

 

 「そうよね! よーし漲ってきたわ、試射(ためしうち)してみても良いかしら?」

 あ、こっちは平常運転だわ。

 でも試し打ちするのは20.3cm砲よね?

 ナニか違うモノじゃないわよね、ねっ?(違)

 

 「でもそうなるとアルカディアのヤツが誰を選ぶかだよなぁ。」

 

 「私の戦況分析によると胸部装甲の厚い(熱い?)方がお好みでしたら我々大型艦や高雄さん、愛宕さん、蒼龍さん、雲龍さんでしょう。家庭的な方でしたら鳳翔さんや古鷹さん、それに羽黒さんでしょうし、凛とした方がお好きなら長門さん、那智さん、木曽さんといったところかしら。」

 

 「この長門が…。いや、そういった事も嫌いでは、無い(ハイライトオフ)。」

 

 「貞淑な方がお好みであれば大和さん、榛名さん、翔鶴さん、妙高さん辺りでしょう。よーし、夜にでも青葉、単独取材に突撃しちゃうぞー!」

 言うが早いが大浴場に飛んでいく青葉。

 入渠が似たような時間であっても、修復完了後は大浴場へ移ってそこで待つというのが柱島第七泊地暗黙のルール。

 これは4つしかない入渠ドックの占拠を防ぐためになっているの。

 

 「よし、お陰で私も完治だ。後は大浴場で待つとしよう。(入渠ドックを)先に使わせてもらえて感謝するよ。」

 

 「さ、翔鶴姉、私達も上がるよ。次は一航戦の先輩と祥鳳さん、それから霧島さんの番だからね。」

 そう言って翔鶴姉を大浴場に送り出すと私達の使ったバスタブ周りを軽く拭く。

 赤城さんが気にしないでと言ってくれるけど、やっぱり後の人には気持ち良く使って貰いたいじゃない?

 最後に桶を元の位置にセットする。

 これで私も大浴場へと思った矢先、カララと戸が開く音がして先に大浴場に向かった3人が放心状態で戻って来た。

 

 「青葉、見ちゃいました…。」

 見た? 見たって何を?

 市原悦子さんの家政婦は見たじゃあるまいし何を見たってのよ?

 

 「ねえ瑞鶴…。私、見たの…。うん、あれが、あれがそう、そうなのね…。」

 焦点のあっていない瞳で天井を見つめる翔鶴姉。

 

 「な、何を見たんだ! オ、オバケか! 違うよな、頼むから違うと言ってくれ!」

 あーあ、ビッグ7ともあろうお方が涙目だよ。

 この方にこの手の話はタブーって知ってんでしょうが。

 長門さんも落ち着いて、まだ真昼間じゃないのよ。

 

 「あれは知識として知ってるモノでは無かった…。あのようになっているとは。」

 日向さん?

 全く訳が分かんないんだけど?

 その後、一航戦のお二人と大和さん、妙高さん、足柄さんも大浴場へ確認に行き同じようになって帰ってきた。

 

 埒が明かないので残り全員で大浴場へ乗り込む。

 ああ、そういうコト。

 結果は全員、ミイラ取りがミイラになっただけだったわ、うん。

 

 ああ、日向さん。今ならあなたが言っていた事が分かるわ。

 (男の人って)ああなっているの…、ね。

 




※今回は瑞鶴さんにご登場いただきました。
 このメンバーの中では結構、常識人の立ち位置になってますね。

 そして彼女たちの見たものとは!

 次回は週末にでも投稿できればと思っています。


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第15話 帰還2(アルカディア側)

※2020年04月26日 誤字、および一部修正


 翔鶴さんの様子がおかしい。

 瑞鶴様が心配してあれやこれや聞くのだが…。

 

 「もう翔鶴姉、一体どうしたっていうの、ハッキリしてよ! ドックにも行けずに全員困ってるんだから!」

 あ、まずい。瑞鶴様がイライラしだしたぞ。

 観念したのか翔鶴さんが耳を寄せる瑞鶴様にボソボソと何かを伝えると、急に拍子抜けした表情になった。

 

 「みんなゴメン、心配して損したわ。とにかく入渠しましょ。」

 アハハ、と乾いた笑いと共に姉にタオルを掛けて肩を貸す。

 

 食い下がる武蔵さんに説明は入渠中にするという瑞鶴様。

 翔鶴さんはそのまま連れていかれてしまった。

 そのままゾロゾロと出撃組が後を追う。

 同性として北大路提督の耳に入るという事は月の障りなのか?

 そうでもなさそうだったが…。

 

 「アルカディアさん、それ血ですか!」

 残された三人で首をひねっていたが、秘書艦の高雄さんが返り血に気付いたようだ。

 

 「え、負傷されていたんですか?! 気が付かず申し訳ありません!」

 

 「いや、これは駆逐棲姫の返り血だ。俺がケガをしたわけではない、よって北大路提督が気にする事は無い。」

 

 「それでお風呂を借りれないかという事だったのですね。納得しました。ではアルカディアさんも先に大浴場へどうぞ。」

 この細かな心遣い、さすがは北大路花火嬢である。

 ぜひともマイハーレム構成員として迎えねば(使命感)!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 これはいい。大浴場というだけあって、ちょっとした銭湯より規模が大きい。

 これを独り占め出来るとはかなりの贅沢というものだ。

 秘書艦の高雄さんから教えてもらった通り『貸切』(赤)の札を取って入り口にぶら下げておく。

 裏返すと『使用可』(緑)の文字。ほかにも『清掃中』(黒)や『修繕中』(黄)などの札があるが、裏は全て『使用可』だ。

 服を脱いで洗濯機に放り込みスイッチを入れる。

 現在時刻はPM02:10、軍ではヒトヨンヒトマルだっけ。

 後は乾燥までやってくれるらしく出て来る頃には全部終わっているだろう。

 

 シャワーで返り血を流し湯船に浸かる。

 ふう、気持ちいい。

 前世での疲れまでが取れていくようだ。

 

 ん、誰だ?

 脱衣所で走り回る音がする。

 

 おっそーい、という声と共に待ちなさいというあの声は…。

 すりガラス越しでも分かるあの特徴ある衣装と吹き流し。

 間違いない、ぜかまし嬢と天津風だ。

 思わず入ってくるのではと身構えてしまったが、彼女たちはそのまま全力で扉の前を駆け抜けて行った。

 全く驚かせてくれるぜ(笑)。

 

 だが、あの二人が走り去る前と後ろで小さいが大きな変化が発生してしまっていたのである。

 風圧という風の妖精の悪戯によって…。

 そう、札の色が赤から緑にクルッと裏返ってしまったのだ。

 

 体を洗おうと湯船から立ち上がった時である。

 引き戸が軽快な音を立てて開くと同時に青葉に翔鶴さんと日向さんが入ってきた。

 

 お互い完全に硬直した。

 誰も一言も発しない、発せられない。

 何しろ全員ノータオル、生まれたままの姿、全裸と色々と呼び名があるもの、早い話がスッポンポンという状態である。

 硬直したまま、目だけを動かすと翔鶴さんはバミューダトライアングル(海藻なし)、青葉と日向さんはサルガッソー海(海藻あり)という事が判明した。

 

 今度は海から山へと目を向ける。

 意外といえば失礼になってしまうが、翔鶴山より日向山の方が少し標高が高い。

 νガンダム(戦艦クラス)は伊達じゃない、という事か。

 青葉山は全体的なバランスに優れてますねぇ。

 どのお山もキレイな山頂で登り甲斐がありそうであります(笑)。

 

 ただ、三人の視線はこちらの一部に釘付けなのに対して、コチラは視線を三人の上下に向けないといけないので忙しい。

 ちょっと不公平である。1:6なんてケーニッヒティーガーとM4シャーマンですか?

 どれぐらい時間が経ったのか?

 青葉の失礼しますという消え入りそうな声と共に三人が撤退していった。

 一緒に浸かってくれても良かったのに(笑)。

 

 取り敢えず、脳内SSDに先程の映像・画像を保存する。

 湯船に浸かり直して一息つこうとするが、スイマセンとても無理です。

 思考回路はショート寸前。

 

 落ち着かない(じっとしていられない)ので再び体を洗おうと立ち上がった時、またしても先程と同様の光景が目の前に展開された。

 ただし、メンバーが『赤城さん・加賀さん・大和さん・妙高さん・足柄さん』にチェンジされていたが…。

 

 「「「「「…。」」」」」

 

 「…。」

 大丈夫だ、問題無い。

 先ほど硬直しあった時は3対1でこちらに味方は居なかったが、今回は心強い援軍が要る。

 硬直し合うのは5対1+1本なのだ(意味不明)。

 第二陣のバミューダトライアングル組は『大和さん・足柄さん』でサルガッソー組は『赤城さん・加賀さん・妙高さん』である。

 

 いやあ大和さんはやはり凄い。

 次が加賀さんで僅差で赤城さんか。

 しかし、何が凄いって三人ともそれだけのモノをお持ちなのに重力に負けていない所ですよ。

 ハラショー、こいつは素晴らしい!

 妙高さんと足柄さんはバランス型か。

 圧倒的な物量が苦手とか型を求めるのであればむしろこの二人だ。

 しかし、見ないといけない箇所が多すぎて、やはり目が忙しい。

 

 「お邪魔、しました…。」

 大和さんの一声と共に五人が後退していく。

 何が起こったのか?

 なぜ彼女達まで来たのか?

 色々と考えが巡り頭の中がグチャグチャだ。

 おかげで『二度あることは三度ある』という昔からの謂れが頭の中から抜け落ちておりました。

 

 「一体、皆さんどうされたんでしょう?」

 霧島さんの声と共に扉が全開になった。

 ハイ、どう見ても残り全員ですね、本当に(ry。

 

 

 拝啓、瑞鶴様。

 寒い日が続きますが柱島第七泊地ではいかがお過ごしでしょうか。

 本日は意図していないとはいえ、あなたの瑞鶴山が秋月山よりも低かった事を知ってしまい誠に申し訳ございませんでした。

 しかも秋月山はまだまだ成長途中。

 これからも差は開く一方だとは思いますが、どうか気落ちなどなされませぬよう…。

 

 っていかんいかん、人の身体的特徴をどうこういうのは良くないんだぞ、全く。

 先の二組と違いこれだけの人数が要れば誰か一人ぐらい悲鳴を上げそうなものだが、3分はお互いにじっくりと眺めあったのではないだろうか?

 

 「体を洗おうと思うのだが…。」

 

 「え、ええ。私達は浸かりますので気にせずどうぞ。」

 出て行ってくれないかという意味で言ったのだが、祥鳳さんはそのまま湯船に入ってしまった。

 それを見て次々と艦娘さん達が入っていく。

 

 それにしても気まずいなァ…。

 背中に凄い視線を感じるよ。

 全員の目が八尺様みたいになってんじゃないか?

 

 頭と体を洗い終わって振り向くと、日向さん達や大和さん達まで湯船にいた。

 一体いつの間に?!

 

 秋月さんと祥鳳さんがススッと左右に分かれる。

 え?

 これココに入れって意味デスカ?

 

 「あの…、どうぞ。」

 なるほど、例え不信感が拭えなくても嫌いでも、これが彼女達なりの御礼なのかもしれない。

 

 最後に浸かりながら思った。

 表にある大浴場の看板を大欲情に取り換えるべきではないのかと…。




主人公ですが、最初はTV版のアルカディアで出した方が良かったかなあ。

で、艦娘の改、あるいは第二改装みたいな感じでマッコウクジラ型になると。





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柱島第七泊地
第16話 執務室編1(艦娘側:加賀)


※お待たせしました(待ってる人がいるかどうか怪しいですが)。




※2020年06月28日 後書き付け足し。



 私達は今、執務室の壁に沿って並んでいるわ。

 前にはアルカディア号さんの広い背中、そして執務机を挟んで北大路提督がいらっしゃいます。

 

 「アルカディアさん、今回は当泊地所属艦娘18名の命を救って頂いて本当にありがとうございました。改めてお礼を言わせて下さい。」

 

 「本日の秘書艦である私、高雄からもお礼を申し上げます。一度は愛宕や鳥海と共に摩耶を失う覚悟を決めた程でした。」

 そう言って高雄は目尻をそっと拭いました。

 高雄の気持ちは痛いほどわかるわ。

 私だって赤城さんを失う事を考えたら正気ではいられないもの。

 

 「気にしなくていい。逆にこちらこそ彼女達にこの世界の情報を貰えたことに感謝せねばならん。」

 ああ、アルカディア号さん。

 決して驕る事の無い謙虚な心が素敵です。

 全くどこかの五航戦に見習わせたいものね。

 

 「まず最初に…。武蔵さん、男性なら男性だとそういって欲しかったですね。」

 提督が武蔵にジト目を向けます。

 

 「ん? 私はちゃんと伝えたはずだが?」

 

 「武蔵、あなた『野良艦娘』って言ったじゃない。」

 しれっとする武蔵に大和が突っ込みます。

 

 「いや違うぞ、大和よ。私は『艦⤵娘⤵』とは言っていない。かんむすはかんむすでも艦息子なので『艦⤵息⤴』と発したが?」

 そんなの分かりません!全員で武蔵に突っ込んだのは言うまでもないわね。

 

 「さて、アルカディアさん、いくつかの質問をお許し頂いても宜しいでしょうか?」

 

 「うむ、わかる範囲でなら何でも答えよう。」

 さすがアルカディア号さん、こういうのを男らしいというのね。

 

 「まず、今まではどうされていたのでしょうか?」

 

 「ふむ、それは私にもわからん。何しろ気が付いたら海上だったのだ。」

 アルカディア号さんは『マゾーン』と呼ばれる外宇宙生命体と戦っていた事、それは西暦2977年の出来事である事、自分はキャプテンハーロックという宇宙海賊の乗船する宇宙戦闘艦である事などを一通り説明したわ。

 

 当然、提督は信じられないという表情をしていたわ。

 でも、あの武装や戦いを見ていないのだから当然というべきかしら。

 

 「では何故この子達を助けてくれたのでしょうか?」

 

 「俺のキャプテンは信と義に篤い男でな。女子供が危険な目に合っているのに、それを見過ごせるようなヤツでは無かった。乗船である俺自身も勝手に体が動いただけの話だ。海賊行為も決して民間船相手ではなく腐った地球政府の輸送船が相手だった。」

 アルカディア号さん、もうやめて頂戴。

 貴方が眩し過ぎて私もう、どうかなってしまいそうだわ。

 

 「何という男らしい、感激しました。」

 隣では高雄がポケットティッシュで鼻をかんで…。

 

 ちょっと待ちなさい、そのポケットティッシュの広告は何?

 

 『BAR魔の巣 あなたの心の隙間お埋めします、ドーン!』ってあなたそんな所に出入りしてるの?!

 身の破滅が待っているからスグに止めなさい!

 オーッホッホッホッホッと嗤うキモイ黒服がいるのではなくて?

 

 不本意だけれど、心の隙間はアルカディア号さんとお話しする事で埋めてもらいなさい、いいわね?

 

 「ほかにアルカディアさんと同じような艦の方はいらっしゃらないのですか?」

 

 「それはわからん。俺も気が付いたらここにいただけなのだ。似たような船に心当たりはあるが、彼女たちがこちらの世界に来ているかどうかまではわからない。」

 

 「救出に向かった6名は当柱島第七泊地のエース級達です。失礼ですが、その6名でも防戦一方だったのにアルカディアさんはどうやって戦局をひっくり返されたのでしょうか?」

 提督の言い方は柔らかいけれど全てがアルカディア号さんを見定める的確な内容ね。

 北大路花火、わが提督ながら恐ろしい子…。

 

 「ふむ、見てもらった方が早いか。青葉、撮影した動画ファイルをここで再生してくれ。」

 わかりましたとばかりに青葉が大画面で動画ファイルの再生を始めたわ。

 最初は訝しげに眺めていた提督でしたが、だんだんとその目が大きく開かれて…。

 

 「こ、こんなのって…。」

 高雄が両手で口元を抑えています。

 摩耶に小さく、この動画本物なの?と聞いていましたが彼女が頷くと提督同様に青ざめました。

 

 まあ、無理もないわね。

 敵を自動追尾する対空火器と噴進式の空中魚雷、光線弾を発射できる三連装主砲が三基。

 さらに噴進式の航空機隊を発艦させる事の出来る空母としての一面。

 私達の様に喜ぶわけにはいかないわね。

 だって敵に回った時、アルカディア号さんはそのまま恐ろしい存在となるのだから。

 

 見終わった後も提督はまだ信じられないといった表情だったけれど青葉に本日限りで動画データの消去を命じました。

 青葉は消沈していたけれど、アルカディア号さんの青葉、またいつかこの大海原で会おう、その時には好きなだけ見せてやるといわれて立ち直ってたわ(チョロイわね)。

 

 「え? アルカディアさん、行ってしまわれるのですか?!」

 大和がアルカディア号さんの腕をガッチリと両手でホールドしました。

 

 「キャプテンハーロックは『俺の旗の下、俺は自由に生きる』という男だったからな。乗組員42名にも他人のためではなく自分の信じるモノのために闘えと常に言っていたぐらいだ。それに海賊船を匿ったとなれば北大路提督どころかこの柱島第七泊地自体の存続が危うくなる。」

 ああ、あれほど忠告したのに。

 今、この瞬間をもって一航戦加賀、完全に堕ちました。

 こんな船(アルカディア号さん)ならまた一緒に出撃(ネオン煌びやかな宿泊施設に)したいものです。

 

 「そんな、せっかく出会えたのに、大和は嫌です! 次回の期間限定海域には一緒に出撃しましょう、ねっ?」

 全員が頷く。

 本来なら一航戦として大和のワガママを諫めるべきなのでしょうけど、そのつもりはないわ。

 何とかギリギリで留まっていた私を陥落させたあなたの責任よ。

 

 「提督! 提督からも何とか言って下さい!」

 さすがに大和のワガママを見かねたのでしょう、北大路提督が席を立ってコチラにやってきました。

 

 「アルカディアさん、失礼ながら行く宛はおありなのですか? もし無いのでしたら私からもここでの生活と共闘をお願いします。」

 提督!

 皆の顔が輝いたわ。

 この時ほど、この提督についていこうと思った事はなかったわね。

 

 「海賊船である以上、軍属になるつもりはないぞ?」

 

 「ええ、それで結構です。海賊船とはいえ海賊行為を行うとは思えないですから(笑)。」

 「あと、当泊地の設備は好きにお使い下さい。行動も自由にして頂いて結構です。海外艦の方もたくさんいらっしゃいますし、所属艦娘とは『いろんな意味で仲良く』してあげて下さい。もちろん私ともですよ(笑)。」

 「という訳で鳳翔さん・伊良湖さん・大鯨さん、そこにいらっしゃるんでしょう? 今夜は歓迎会です、早速の準備を!」

 執務室の扉が開くと…。

 柱島第七泊地所属の艦娘大半が集まっているわね。

 聞き耳を立てていた中からバツが悪そうに鳳翔さん・伊良湖さん・大鯨さんが入って来たわ。

 

 同時に執務室の中と外に響き渡る大歓声。

 

 今日は一体どうしたっていうのかしら?

 一日に二度も泣いてしまうなんて…。

 

 でも仕方ないわね、全員だもの。

 私も赤城さんはもちろん、あの五航戦の鳥頭とも抱き合ってしまったわ。

 あら、五航戦の白髪の方が内腿をモジモジさせているわね。

 まったくあのはしたない鶴はまだイキ足りないというのかしら?

 

 かくいう私も先程の超刺激的な光景とこれからのアルカディア号さんとの生活を想像するとヤりました濡れました(ドヤァ)。




※今回は加賀さんに登場していただきました。
 鉄面皮の加賀さんですが意外と陥落は早かったようです。

 頑張れ主人公、あと少しで大和さんもイケるぞ(笑)。

※期間限定海域:大和型は資材を大量消費するので、日常やE.О海域ぐらいでは
 出番がありません。
 ですから大和さんが『期間限定海域へ一緒に出撃しましょう』という事は彼女に
 とって普通に一緒に出撃しましょうという事なんですけどね…。


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第17話 執務室編1(アルカディア側)

※お待たせしました(だから誰も待っていないって)17話です。

※2020年05月01日 誤字修正



 気まずい…。

 執務室で北大路花火提督と向き合っているのだが、後ろに並ぶ18名から半端ない視線を感じる。

 おまけに誰も一言も発しない。

 見つめられ過ぎて椅子の背もたれに穴が開くのではないかと思われた時、ようやく提督が口を開いた。

 

 「アルカディアさん、今回は当泊地所属艦娘18名の命を救って頂いて本当にありがとうございました。改めてお礼を言わせて下さい。」

 先ほどの手足の震えがウソのように背筋を伸ばし凛とした北大路花火嬢。

 それに引き換えコチラは何でもない状態を装うのにも必死なのだ。

 まさに凛(りん)と憐(れん)、一字違いだが大違いである。

 ついでに言えばリンとレンでもない(歌う方ね)。

 

 「はい、本日の秘書艦である私、高雄からも御礼を申し上げます。一度は愛宕や鳥海と共に妹の摩耶を失う覚悟をきめた程でした。」

 うーん、読めない。

 この言葉と表情だけでは彼女が何を考えてるかまでは分からない。

 後ろにいる加賀さんは口をへの字にして何かを考えているようだ。

 

 「気にしなくていい。逆にこちらこそ彼女達にこの世界の情報を貰えた事に感謝せねばならん。」

 取り敢えず下手に出る。

 いや貴方達に敵意はありませんし出来るだけ早く他の泊地(フレンドリーな)を探しに出て行きますから。

 しかし何でこうなったんだ?

 ああっ女神さまっ、私はどこで間違ったんでしょうか…。

 男自体が珍しいんじゃなかったの?

 存在がツチノコ並なんでしょーが!

 キャプテンハーロック、イケメンだろ!

 なのにハーレムにならないのはナンデ?!

 

 「まず最初に…。武蔵さん、男性なら男性だとそういって欲しかったですね。」

 北大路花火提督が武蔵にジト目を向ける。

 ひょっとしてこの柱島第七泊地は男子禁制で判っていれば招き入れなかったという事だろうか?

 そんなの悲し過ぎる…。

 

 「ん? 私はちゃんと伝えたはずだが?」

 北大路花火提督の指摘に不思議そうな顔をしつつ説明する武蔵さんだが『艦⤵娘⤵』と『艦⤵息⤴』では理解できないのも無理はない。

 流石は自他共に認める脳筋である。

 案の定、彼女は全員に突っ込まれていた。

 

 「さて、アルカディアさん、いくつかの質問をお許し頂いでも宜しいでしょうか?」

 来た、ついに来てしまったよ…。

 一体何を聞かれるんだろう?

 一部屋で多勢に無勢、こんなのまるで査問か尋問である。

 

 「うむ、わかる範囲でなら何でも答えよう。」

 そう答えたものの、気が気ではない。

 

 「まず、今まではどうされていたのでしょうか?」

 ド直球な質問である。

 何と答えるべきなのか?

 まさか馬鹿正直に『違う世界でブラック企業勤めしてました』なんて言えるはずがない。

 

 「ふむ、それは私にもわからん。何しろ気が付いたら海上だったのだ。」

 大体、艦娘が顕現(特にドロップ)するのなんてそんなもんだろ。

 艦としての記憶を持ったまま気が付いたら海の上でしたって事じゃないのか?

 

 だが、これでは北大路花火提督が納得するはずがない。

 仕方ないので『マゾーン』とは何か、それは今から約960年後である事、船長の名前はキャプテンハーロックという宇宙海賊であった事などを一通り説明した。

 当然、北大路提督の表情は信じられないというモノだ。

 

 「では何故この子達を助けてくれたのでしょうか?」

 このままでは埒が明かないと考えたのだろう、次の質問が来た。

 そんな分かり切った事を聞く?

 ピンチにさっそうと登場→夢精無双してスゲー→感謝される→ではこれぐらいエエよなぁ(ゲス顔)→あ、イケマセン…→良いではないか(ジュル)を実行するためである。

 

 …。

 ……。

 ………。

 これも言える訳が無い。

 もしこんな事を馬鹿正直に答えてしまったらあっという間に各鎮守府や泊地はおろか海外泊地にまでも噂が広まってしまうだろう。

 自らの手でハーレムを潰す事などあってはならない。

 

 「俺のキャプテンは信と義に篤い男でな。女子供が危険な目に合っているのに、それを見過ごせるようなヤツでは無かった。乗船である俺自身も勝手に体が動いただけの話だ。海賊行為も決して民間船相手ではなく腐った地球政府の輸送船が相手だった。」

 我ながら上手く答える事が出来たのではないだろうか?

 キャプテンハーロックの性格を考えれば、これは事実である。

 

 「他にアルカディアさんと同じような船はいないのでしょうか?」

 クイーンエメラルダス号の事かーっ!

 あ、これは違う作品(ドラゴンボール)。失礼しました(笑)。

 

 しかし、それはどうなんだろう?

 考えた事も無かったが他に転生者がいれば可能性はあるかもしれない。

 他に作品繋がりだと、ヤマトや999だよなぁ。

 

 「うむ、さっきも言ったが俺も気が付いたらここにいただけなのだ。似たような船に心当たりはあるが、彼女達がこちらの世界に来ているかどうかまでは分からない。」

 というかエメラルダス号が来ていればとっくに噂になっているだろう。

 

 「救出に向かった6名は当柱島第七泊地のエース級達です。失礼ですが、その6名でも防戦一方だったのにアルカディアさんはどうやって戦局をひっくり返されたのでしょうか?」

 なるほど、この質問の意図は分かる。

 それだけに説明するより青葉の動画ファイルを見てもらった方が良いだろう。

 

 「ふむ、見てもらった方が早いか。青葉、撮影した動画ファイルをここで再生してくれ。」

 青葉が待ってましたとばかりに動画ファイルを再生し始めた。

 最初は訝しげだった北大路提督だが、どうやら彼女の中で先の話が真実味を帯びてきたのだろう、顔色が変わり始めた。

 高雄さんも妹の摩耶に動画の内容が事実なのかを確認してたし(笑)。

 

 動画ファイルを見終わった後も北大路提督は信じたくないようだったが、弱々しく動画ファイルの消去を命じた。

 青葉のがっかり具合に何か掛けてやれる言葉は無いか探す。

 『鉄郎、いつかまた星の海の何処かで会おう』だったけ?

 よし、これで行くか。

 

 「青葉、いつかまたこの広い海の何処かで会おう。その時にはまた好きなだけ見せてやる。」

 さすがはキャプテンハーロックだ。一発で青葉のヤツが立ち直ったぞ(チョロイな)。

 が、この言葉は思わぬ副作用を生んでしまった。

 

 「え? アルカディアさん、行ってしまわれるのですか?!」

 大和が腕をガッチリと両手でホールドしてきたのである。

 

 「キャプテンハーロックは『俺の旗の下、俺は自由に生きる』という男だったからな。乗組員42名にも他人のためではなく自分の信じるモノのために闘えと常に言っていたぐらいだ。それに海賊船を匿ったとなれば北大路提督どころかこの柱島第七泊地自体の存続が危うくなる。」

 ええ、私はもっとフレンドリーな艦娘さん達のいる泊地を探す旅に出ますので、その手をお放し下さい。

 

 「そんな、せっかく出会えたのに、大和は嫌です! 次回の期間限定海域には一緒に出撃しましょう、ねっ?」

 大和さんのこの言葉に全員が頷いた。

 恐ろしい。

 彼女達はこう言っているのだ。

 

 次の期間限定海域はお前が主になって攻略しろ。

 所詮、私達は数合わせかルート固定要員である。

 最終海域ボスマス手前では大和ホテルと武蔵屋旅館でドンチャン騒ぎやってるからお前一人が鉄砲玉となってこい、と…。

 

 「提督! 提督からも何とか言って下さい!」

 北大路提督も席を立つと呆れ顔でコチラに来た。

 それにしても大和さんがこんな子供みたいな駄々をこねるなんて意外だわ。

 

 「アルカディアさん、失礼ながら行く宛はおありなのですか? もし無いのでしたら私からもここでの生活と共闘をお願いします。」

 待って待って!

 花火さん、アンタ大和さんのワガママを諫めに来たんとちゃうんかい!

 

 「海賊船である以上、軍属になるつもりはないぞ?」

 ここに残るなら短期間とはいえ軍属になる必要があるだろうとおもったのだが…。

 

 「ええ、それで結構です。海賊船とはいえ海賊行為を行うとは思えないですから(笑)。」

 ナ、ナンダッテー!

 これで退路は完全に防がれた…。

 

 「あと、当泊地の設備は好きにお使い下さい。行動も自由にして頂いて結構です。海外艦の方もたくさんいらっしゃいますし、所属艦娘とは『いろんな意味で仲良く』してあげて下さい。もちろん私ともですよ(笑)。」

 いろんな意味で…、ってどういう意味なんだよ、怖すぎるよ。

 私でも手に負えない艦娘さん達は任せますねって事デスカ?

 

 「という訳で鳳翔さん・伊良湖さん・大鯨さん、そこにいらっしゃるんでしょう? 今夜は歓迎会です、早速の準備を!」

 北大路提督がそう言うと執務室の扉が開いて鳳翔さん・伊良湖さん・大鯨さんが入ってくる…。

 何ですかこの既定路線感?

 

 その後ろにも大勢の艦娘が集まっている。

 次期イベント海域はそれほど苦労しなくて良いと分かったのだろう、執務室の中と外に大歓声が響き渡った。

 

 これだけの人数を前にしては、そのような意味ではないと言えるはずがない。

 ハメるつもりが嵌められたのだ。

 北大路花火、恐ろしい子…。




※主人公も色々と惜しいですねぇ…。

 でもね、やっぱりこれだけの戦闘力を持った上で、見目麗しい艦娘さん達に頼られ
 たら大体の人は調子に乗っちゃうんじゃないかなぁと思うわけです(笑)。

 少なくとも私はそうなので、主人公には共感できるかな…。
 目指せ、等身大の主人公?!


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第18話 控室編1(艦娘側:不知火)

※眼光鋭い駆逐艦の登場回です。
 作者は駆逐艦の中でもかなり好きな艦娘ですね。


 現在、不知火は陽炎達と共に2F階段前で立ち往生しています。

 理由は向こうから来た秋月型の四名と鉢合わせしたからですね。

 陽炎型と秋月型全員で階段が上がれる訳がありません。

 お互いが邪魔になって道を塞いでいる状況です。

 

 他にも階段途中には川内型の御三方、2F踊り場では妙高型の皆さんと高雄型の皆さんが、階段を上り切った3Fでは伊勢型のお二人と金剛型の四名が火花を散らし合っています。

 

なお、扶桑さんと山城さんは自分たちが出遅れた事を知ると、不幸だわと肩を落として自室に帰って行きました。

 

 「悪いが通させてもらうぞ。休養急用も戦いだ。」

このままでは埒が明かないと判断したのでしょう、妙高型の急先鋒である那智さんが高雄型を押しのけて通ろうとします。

 

 「何処へ行かれるのか知りませんが私達高雄型はこれから摩耶を助けて頂いたお礼にアルカディアさんのお部屋へ行くだけです。ですからその邪魔をしないで頂けるなら何処へ行かれても構いません。」

 鳥海さんも言いますね。

 それにしても高雄さんと愛宕さんの胸部装甲にそういう使い方(ブロッキング)があるとは…。

 こちらも浜風と浦風を秋月型と鉢合わせしている最前面に引き摺り出します。

 二人とも何か言いたそうな目でこちらを見ていますが。

 

「何でしょう、不知火に何か落ち度でも?」

 残念ですがこの不知火、陽炎型の中でもかなり無い部類に入るのです。

 その…、落ち度というか落ちる度合いさえ無いのです(泣)。

 

 「ほう。鳥海、貴様言うではないか。だが、ここに来たのは我ら妙高型が僅かだが早かったはずだぞ。」

さらに那智さんは、胸部装甲の差が重巡洋艦の決定的な差では無い事を教えてやると息巻いています。

 まるで何処かの赤い人みたいですね。

 

 「あら、その理屈だと階段を上り切った所にいる我ら金剛型に優先権があるという事ですね。金剛お姉さま、行きましょう!」

 階段を上り切った所で得意げに眼鏡をクイッとする霧島さんが見えます。

 不味いですね、陽炎型があそこまで到達するのは難しそうです。

 

 「さすが霧島、艦隊の頭脳は伊達ではないネ!」

 喜ぶ金剛さんですが、その先からさらに声が聞こえました。

 

 「ふむ、では三歩程度とはいえ先にいる私達が最優先という事だな。行くぞ、伊勢。」

 

 「なっ! 勝手は、榛名が、許しません!」

 榛名さんが両手を広げて立ち塞がります。

 

 「伊勢さんはともかく日向さんは海上でも執務室でも御礼を済ませたハズです。」

 

 「秋月、それは貴方もでしょう。人の事が言えるとは思えませんが?」

 危ない危ない、上ばかり見てる間に秋月型に出し抜かれるところでした。

 

 「呆れました、不知火さん。貴方には明日以降、自分自身を見つめ直すという訓練を取り入れる必要があるようですね…。」

 

 「神通さん、それは違います。不知火は陽炎がお礼を言いに行くのに付いていくだけですから。」

 アナタの訓練はタダでさえキツイというのに…、これ以上メニューを増やされてたまるもんですか。

 

 「なら私達はその逆です。秋月姉を助けて頂いたお礼を言いに行くだけです!」

 くっ、減らず口を!

 というか何故ブーメランを投げあっているのですか?

 私達はただアルカディアさんにお礼を言いに行くついでに彼と懇ろになりたいだけだというのに!

 

 「あらあら、これは通るのが難しそうね。」

 

 「全員、落ち着け! ここは柱島第七泊地のリーダーであるこの長門が代表して行く!」

 

 「それはちょっと強引過ぎではないかい?」

 そうですね、不知火も武蔵さんの意見に賛成です。

 長門さんには職権乱用という概念を教えてあげないと。

 

 「ちっ、この脳筋戦艦が…。」

 

 「何か言ったか?」ガシャン

 

 「止めなさい武蔵。全員で行けばいいじゃないの。」

 

 「いい考えですがとても入りきらないのでは?」

 

 「赤城さんの言う通りね。戦艦組はもう少し考えられないのかしら。」

 

 「何ですって!」

 大和さんが食って掛かります。

 

 「ねー、そこ3Fの談話コーナーなんだから出てきてもらったら良いんじゃないの?」

 

 「あら、五航戦のクセに良い事を言うのね。」

 

 「座る位置はどうするのでしょう?」

 翔鶴さん、何故あなたは最悪のタイミングで天然を発揮するのです?

 せっかく良い方向に向いていた空気がまた一触即発になってしまいました。

 

 このままでは本当に埒があきません。

 こうなったら陽炎型18名、人海戦術という名の実力行使で3Fにあるアルカディアさんの控室に突入します。

 この不知火、じっとしているのは性に合わないのです。

 

 「ども、恐縮です、青葉ですぅ! ちょっと前を通ります、お願いします!」

 突然能天気な声がして青葉さんがやってきました。

 

 「北大路司令官に歓迎会の準備ができたので、アルカディアさんをお呼びするように言われたのでお迎えに上がりましたぁ。」

 何という事でしょう。

 結局、勝者は歓迎会の準備ができた事を知らせに来た青葉さんだったなんて…。

 青葉さんは皆の脇をすり抜けて、そのままアルカディアさんの控室に入っていきました。

 

 一体、我々は何をしていたのでしょう?

 軽く2時間以上はウダウダ言いながら睨み合っていた気がしますが…。

 

 さらに一足先に廊下へ出てきた青葉さんですが、振り返るとまだ部屋にいるアルカディアさんに爆弾を投げたのです。

 

 「ところでアルカディアさんの好みのタイプを教えてください。やはり胸部装甲の質量こそが正義なのでしょうか?」

 それこそ廊下にいる者から踊り場にいる者から階段にいる者まで全員が固まりました。

 全員の耳がダンボになっています。

 

 「ふっ、艦隊のジャーナリストは伊達ではないか。胸部装甲に関して俺はそれ程気にしない。」

 瑞鶴さん・葛城さん・龍驤さん・酒匂さん達がガッツポーズをしています。

 大鳳さんに至っては腕を大きく突き上げました。

 名前をコールされたプロレスラーですか、あなたは。

 

 「ほうほう、では一体どのような方がお好みですかぁ? 青葉、気になりますぅ!」

 

 「胸部装甲は程々でもいいがストンと伸びたキレイな脚だな。パンストが似合う美脚の持ち主が理想だ。あと外反母趾は生理的に苦手だ。」

 廊下に出て来たアルカディアさんと全員の目が合います。

 

 全員が一気に地響きを立てながら走り去っていきます。

 部屋に帰って早速ストッキングを着用するつもりなのでしょう。

 持っていないものは明石ショップに殺到するでしょうし、すぐにSOLDOUTになるのは間違いありません。

 

 こうしてはいられません、我々陽炎型はそれを見越して近所のダ〇ソーかシマ〇ラ、パー〇ィハウスに先回りです。

 背伸び感ならぬ背伸び艦、ですか?

 いえ、ちょっと大人びてみるだけです。

 

 陽炎型18名、水雷戦隊、出撃します!

 




※今回はいつにも増してグダグダ回です。
 シリアスでもなくコメディでも無くダラダラと彼女達が時間を
 ムダに過ごしたというだけですね、申し訳ありません(汗)。

※文才も無いのにWEB小説投稿をするとこのような事になります…。

※宴会が終われば、主人公は北大路花火提督と共に艦隊司令部からの命により
 大本営に出向く事になります。
 その時はアルカディア号2度目の実戦です!


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第19話 控室編1(アルカディア側)

※艦娘達が膠着状態にあった時に当の主人公は何をしていたのでしょうかねぇ(笑)。


 「ふう…。」

 北大路花火提督に案内された控室。

 椅子に深く掛けながら大きく息をつく。

 

 期間限定海域攻略客員教授ならぬ客員艦息子として自分はここ柱島第七泊地に(なし崩し的に)身を寄せる事になった。

 

 大和さんの期間限定海域を一緒に攻略しましょう、か…。

 日常海域やE.O.海域ならまだわかるが、期間限定海域とハッキリ断言されておられるのだ。

 この期待を裏切ってしまったら、恐らくここ(柱島第七泊地)から放り出されるのだろう。

 近い泊地や鎮守府と言えば佐世保と呉があるし、何より柱島第七泊地という位なので一~六までは当然あるのだろうし、ひょっとしたら八以降もあるかもしれない。

 

 北大路花火提督は大人しい娘だとばかり思っていたが、やはりそこは一つの泊地を任されるだけはある。

 投げられた質問はコチラを見定める的確な内容ばかりだったな。

 正直、上手く誤魔化せることが出来たかどうか自信が無い…。

 

 まあ、それでも中にはコチラに好意を持ってくれる艦娘もいるだろう(いやあって欲しい!)。

 予想では榛名さん、足柄さんや伊勢さん愛宕さん辺りが友好的では?

 うーん、完全にイメージだけで選んでしまっている気がする。

 何とか引き込めそうなのは足柄さんだけではないか。

 

 いや、数は少ないがコチラになびく艦娘もいるはずだ。

 ましてや姉妹艦を無事に救ってくれたのだ、お礼を言いに来る艦娘もいるに違いない(グッ)。

 湯呑にお茶葉、お茶請けはあるみたいなので、テーブルにあるポットに水を入れコンセントを突っ込む。

 部屋はビジネスホテルを和室で再現したらこうなりました、という作りである。

 恐らくは急なゲスト用の部屋なのだろう。

 今夜にでもここがビジネスから意味深ホテルになるかどうかは歓迎会での粉撒きに掛かっている。

 皇国(ハーレム)の興廃、この一戦にあり。各自一層奮励努力せよ、ってか?!(笑)。

 

 よし、お湯が沸いた。

 お茶の準備も万全、お茶請けと座布団の準備も万全である。

 最初に来てくれる艦娘は誰かを想像するとしよう。

 

30分後

 もうそろそろ誰か来てもいい頃だが。

 人当たりの良い伊勢が日向を連れて来るのか?

 あるいはパーフェクトレディ妙高さんが姉妹を連れて来るのか?

 例えキライでも嫌な奴だと思っても彼女はそういう所はキッチリしているからな。

 さらに瑞鶴が翔鶴を連れて来てくれればもう最高、グヘヘ。

 

60分後

 あれ、おかしいぞ?

 何故、誰一人として来ないんだ?

 そうか、女性は着るものを始め色々と身だしなみに準備が掛かるからな。

 必然的に時間も掛かろうというもの。

 艦娘の私服姿というのもまたイイものであるし、夜戦用(おや?)の下着を吟味してくれているのだろう。

 そこまでしてくれるのかと思うと、目から出る汗で窓の外が見えません。

 

90分後

 …。

 ……。

 私は貝になりたい…。

 

120分後

 ようやく失礼しまーす、と艦娘が部屋に入って来たが顔を上げる気力が無い。

 それでもだれかぐらいは声で判る、青葉だ。

 彼女は部屋の隅でイジケ座りしているコチラを見て一瞬ビックリしたが歓迎会の準備ができましたよ、と呼びに来たらしい。

 何だよ、親交を深めに来たんじゃないのかよ。

 一瞬でも感激してしまった自分がバカみたいじゃないか。

 

 いやいや、これでも呼びに来てくれた事に感謝せねば。

 千里の道も一歩からである。

 

 青葉に促され部屋から出ようとするとジャーナリストとしての魂に火が付いたのか、俺の好みのタイプを聞いてきた。

 なに?

 胸部装甲の質量が正義かだと?

 

 フッ、青葉よ。まだまだ甘いな。

 世の男全員が胸部装甲に吸い寄せられるとは思うなよ(笑)。

 いや胸部装甲はもちろん大好きだが…。

 

 「ふっ、艦隊のジャーナリストは伊達ではないか。胸部装甲に関して俺はそれ程気にしない。」

 青葉は書物で読んだ男性についてと少し違いますねぇ、と呟いていた。

 え? 書物に頼らないとアカンほど男性が少ない世界なのか?

 歓迎会で北大路花火提督にそれとなく聞いてみるか。

 

 「ほうほう、では一体どのような方がお好みですかぁ? 青葉、気になりますぅ!」

 

 「胸部装甲は程々でもいいがストンと伸びたキレイな脚だな。パンストが似合う美脚の持ち主が理想だ。あと外反母趾は生理的に苦手だ。」

 廊下に出ると大勢の艦娘達と目が合った。合ってしまった。

 

 次の瞬間、全員が地鳴りかと思うくらいの音を立てて逃げて行った。

 アンタら何で…、何でそんなトコに居るんですか…。

 

 ♪~ アルカディアです。誰か一人ぐらい、救出のお礼を言いに来てくれると思っていたのに誰も来んかったとです。

 2時間待ってやっと来たと思ったら宴会準備ができた事を知らせに来た青葉だけでした。

 巨乳が好きかと聞かれてそこまで重要視しないと答えたら、じゃあ何が好きかと聞かれました。

 ストッキングでより引き立つ美脚に憧れるといったら聞いていた艦娘全員が逃げていきました。

 姉妹を楽しみしていたら御終いになってしまいました。

 解せんとです…。やらかしたとです…。

 アルカディアです…。アルカディアです…。




※今回は短めです。次回はいよいよ歓迎会に突入です!

 果たしてどんなラッキースケベが待っているのでしょうか?
 (そもそも、そんなのなかったりして…)

※しかし、勇気を出して誰か一人でもアルカディアの控室に飛び込めば…。


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第20話 宴会編1(艦娘側:長門)

※お待たせ致しました、というか忘れ去られたのでは?(汗)





※2020年06月28日 誤字修正。


 「えー、ほとんどの娘が聞き耳を立てていたから知っていると思うけど…。」

 北大路提督が執務室前で盗み聞きしていた艦娘をチクリと皮肉る。

 まったく艦娘ともあろうものが何をしているのか、提督からは特にお咎めはなかったようだが、私から後でしっかりと言い聞かせておかなくてはなるまい。

 

 「改めて紹介します。今日から、私たちと共闘して下さる事になったアルカディア号さんです。男性が貴重というこの世の中、しかも男性艦だなんて海軍軍令部に報告を入れた際も大変に驚かれました。」

 皆が息を呑む音が聞こえるなか、なおも提督は続けられた。

 

 「海軍軍令部からは、明後日の朝にアルカディア号さんを御連れするように言われています。明日の夜から、私と翔鶴さんとアルカディア号さんの三人で艦隊司令部へ行きますので長門さん、留守をよろしくお願いしますね。」

 提督が留守の間、ここを任せられるという事で緊張する。

 しかし、同時に名誉な事でもある。この長門、全力でその任を全うすることを誓おう。

 

 「心得た、提督。しかし大丈夫なのか? 無事に帰ってこれると良いが。何ならこの長門型か大和型を伴った方が良いのではないか?」

 

 「ありがとう長門。でも大丈夫、アルカディア号さん自身も戦闘力は桁外れだし、彼は軍属ではないというのがこちらの切札よ。」

 軽く翔鶴に睨まれたが、こちらもとんでもない確率で巡り合えた男性がそのまま帰ってきませんでした、では困るのだ。

 

 「ではアルカディア号さん、一言お願いしますね。」

 

 「北大路花火提督から紹介のあった宇宙海賊船アルカディア号だ。軍属になるつもりはないが共闘依頼を受け今日からお世話になる事になった。この世界の事は良く判っていないので色々と面倒を見てくれるとありがたい。」

 「なお、当船の規律はかなり緩い。これは私のキャプテンが、いざという時に動ければそれでいい、家でも畏まる必要はないという主義からきているものだ。なのでそこは大目に見てくれると有難い。」

 アルカディア号が挨拶を述べる。

 一瞬、静まり返ったが次の瞬間、割れるような大歓声が食堂に響き渡った。

 あるものは姉妹艦同士抱き合い、あるものは涙を流し、あるものは内腿をモジモジさせ…。

 

 おい、陸奥。お色気担当艦と呼ばれているのは知っていたが、まさか隣にいるお前まで…。

 今夜は戦艦寮の談話スペースで寝るとするか。お互いのためにも…。

 

 「みんなグラスは持った? じゃあアルカディア号さんと柱島第七泊地のこれからに乾杯!」

 北大路提督の乾杯の掛け声とともにあちこちで響き渡る乾杯の声。

 この長門もアルカディア号はもちろんの事、僚艦の陸奥や武蔵に赤城とグラスを合わせる。

 

 皆が思い思いに談笑している(主に駆逐艦)のを眺めていると視線を感じる。

 ふと顔を上げるとアルカディア号と目が合った。

 鋭くそして舐める様な視線だ。

 やがてそれが隣にいる陸奥に移り、伊勢、日向、扶桑、山城、金剛型へと順を追っていく。

 私と目が合う前に大和型の観察は済んでいたのだろう。

 

 どういう意味があるのか考えてみた所、そういう事かと私は感心した。

 この宴会という艦娘全員が集まる場を利用し、次期期間限定海域へ共に出撃するメンバーを吟味しているのだ。

 宴会など一番気を抜いてしまうこの状況。

 いかなる時も戦場を忘れぬその姿勢に私は自分を恥じぬ訳にはいかなかった。

 何が柱島第七泊地のリーダーであろうか。

 先ほどの自分を張り倒してやりたい気持ちで一杯だ。

 しかし、今はそれ以上に、この人と共に出撃したい、何としても御眼鏡に適いたいという熱い気持ちがフツフツと沸き起こってくる。

 いや出撃時だけではない、いかなる時もこのお方と一緒にいたい。

 もし、これが恋だというのであればそうかもしれない。

 自分でも信じられないがビッグ7の堅物の方といわれたこの長門が殿方に思いを寄せる日がこようとは(笑)胸が熱いな。

 ライバルは多く確率は低そうだが、黙って指を咥えているのは性に合わない。

 この戦艦長門、正妻戦線に名乗りを上げよう。

 

 名乗りを上げるからにはライバルの分析が必要だな。

 各艦とも長い付き合いだが…。

 

 大和型:期間限定海域専担

  大和:頼れる装甲と火力担当である。

  武蔵:脳筋。後は姉と同じ。

 

 長門型:期間限定海域専担(大和型には劣るがタッチ発動狙い)

  長門:改二を活かした装甲と火力

  陸奥:運の低さが気になるが砲火力ではやはり頼りになる存在。

 

 伊勢型:地味な存在ながら北号作戦を成功させた武勲艦

  伊勢:航空火力艦。瑞雲を運用できるのは大きい。

  日向:伊勢と違い、こちらは改二。航空運用、対潜運用可能な不動心の瑞雲マスター。

 

 扶桑型:改二で化けた薄幸姉妹

  扶桑:航空戦艦となり空母と出撃できない海域では頼りになる。

  山城:姉と出撃すればシナジー効果。薄幸が嘘のよう。

 

 金剛型:機動部隊を守る高速の近衛兵。実力は折り紙つき。

  金剛:英国生まれの帰国子女。外人訛の怪しい日本語だがムードメーカー。

  比叡:改二丙に進化して僚艦夜戦突撃という攻撃か可能になり夜戦火力が増大した。

  榛名:運と対空値が高く、さらに思いやりのある意志の強い娘。

  霧島:姉妹ナンバー1の火力、柱島第七泊地では一番機動部隊の護衛につく事が多い。

 

 一航戦:訓練によって獲得したチート艦載機群

  赤城:艦載機運用の天才。それが鳳翔によって徹底的に鍛え上げられた。

  加賀:ストイックの鬼であり努力家。

     もともと持っていた素質を赤城と同じく鳳翔によって開花させられた。

 

 二航戦:中型空母の基本形を確立。彼女たちもまた鳳翔の犠牲者、か。

  蒼龍:少しオッチョコチョイだがその艦載機運用能力は本物。

     一航戦との違いは搭載機数のみといっても良いだろう。

  飛龍:ミッドウェーにおいて一矢を報いた武勲艦。

     柔和な顔立ちからは想像できない技量の持ち主。

 

 五航戦:大戦を通して活躍した帝国海軍機動部隊そのもの。

  翔鶴:その清楚さ、儚さからはかけ離れた技量を持つ。

     改二になっても優し過ぎる性格は健在。

  瑞鶴:雪風(グヘヘ)と並ぶ柱島第七泊地の武勲艦ナンバー1。

     加賀との関係が改善すれば作戦がスムーズに行くのだが…。

 

 雲龍型:中型空母の完成形

  雲龍:先輩達に劣るものの艦載機運用技量はかなりのもの。

     性格が宇宙人なのが難。

  天城:着任しておらず。

  葛城:弓と式神両方を操る器用な空母。性格は瑞鶴に近いか。

 

 大鳳:期待の装甲空母。低い運だが今まで作戦の障害となったことはない。

 

 高雄型:重巡洋艦トップクラスの性能

  高雄:昼戦、夜戦、執務と何でもこなせる万能艦。

     妙高の陰に隠れているが彼女もパーフェクトレディか。

  愛宕:フワフワした見た目とは違い能力はとても優秀。

     片付けが苦手なのを何とかして欲しいが…。

  鳥海:運は少し低めだが高い火力がそれを補う。夜戦も得意。

  摩耶:いわずとしれた対空番長。口が悪いのがたまにキズだ。

 

 妙高型:全体的に高くまとまっている4姉妹。

  妙高:柱島第七泊地でも一、二を争うパーフェクトレディ。

     高雄と同じく何でもこなせる万能艦。

  那智:妙高型の急先鋒。武人としてこの長門とも通じるものがあるので、

     よく話し相手になってもらっている。

  足柄:姉妹の中でも攻守バランスのとれた戦闘狂。

     何気に料理上手なのは羨ましい。

  羽黒:優しさが戦闘の邪魔をする事があるが姉妹トップの火力を持つ。

 

 さらに青葉型や古鷹型、最上型に利根型、軽空母に軽巡洋艦、駆逐艦など多過ぎるライバルに頭が痛くなる。

 

 驚くのはアルカディア号は満遍なくその目を全員に向けている事だ。

 殿方からすれば魅力的ともいえる胸の大きな艦だけではなく、そうではない艦にも舐めるような目を向けて性能を測っている事から体目的ではないことがよくわかる。

 

 うーむ、やはりあの方と共に出撃し戦ってみたい。

 認められたい、そして彼に抱かれたいなどと以前の自分では考えらない思いが頭をよぎる。

 

 この長門、貴殿が望めばいつでも…、ふふ。

 

 さあ、陸奥よ、私たちも彼に注ぎに行こうか。

 ついでにこの想いも…。

 

 しかし、このストッキングとやらは未だに慣れないな。

 大本営や艦隊司令部に行くぐらいしか身に着けない私と違って陸奥はすぐに慣れるわよと言っていたが…。




※今回は長門さんに登場していただきました。
 私の中で長門さんといえば戦闘以外にとんと興味が無い武人のイメージがあります。

 その長門さんまで早々と陥落させてしまうとはアルカディア号、恐るべし!


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第21話 宴会編1(アルカディア側)

※今回は主人公がひたすら艦娘さん達を物色する話っぽい!


 「えー、ほとんどの娘が聞き耳を立てていたから知っていると思うけど…。」

 北大路花火提督が宴会の口火を切った。

 執務室の外で盗み聞きをしていた事を差しているのだろう、ほとんどの艦娘が肩を竦めて小さくなってしまっている。

 

 「改めて紹介します。今日から、私たちと共闘して下さる事になったアルカディア号さんです。男性が貴重というこの世に初の男性艦だなんて海軍軍令部に報告を入れた際も大変に驚かれました。」

 いつの間に?

 勝手は、アルカディア号が、許しません!

 

 「海軍軍令部からは、明後日の朝にアルカディア号さんを伴って出頭するように言われています。明日の夜から、私と翔鶴さんでアルカディア号さんを艦隊司令部へお連れしますので長門さん、留守をよろしくお願いしますね。」

 出頭ってナンデスカ?!

 伴っていらして下さいでは?

 ちょっと穏やかならぬ響きがそこはかとなく感じられるのですが…。

 

 「心得た、提督。しかし大丈夫なのか? 無事に帰ってこれると良いが。何ならこの長門型か大和型を伴った方が良いのではないか?」

 無事に帰ってこれると良い?!

 一体、向こうでナニされちゃうの?

 まさかアンナ事やコンナ事、(〃ノωノ)恥ずかしい事を一杯されちゃうのか(期待)?

 

 「ありがとう長門。でも大丈夫、アルカディア号さん自身も戦闘力は桁外れだし、彼は軍属ではないというのがこちらの強みよ。」

 え? ひょっとして物騒系デスカ?

 穏やかならぬ雰囲気になって来たぞ。

 翔鶴が長門を睨んでいる。

 間違いなく俺と一緒に行きたくないのであろう。

 何故、もっと強く言わないのだ?というオーラが背中に見える。

 

 「ではアルカディア号さん、一言お願いしますね。」

 翔鶴は一体、こちらの何が気に入らなかったのかを考えていると北大路提督からボールを投げられた。

 やべーよ、何も考えてねえよ。

 第一、そんな物騒な話の後いきなり言われても困る…。

 

 「北大路花火提督から紹介のあったとおりだ。デスシャドウ級3番艦、宇宙海賊船アルカディア号だ。軍属になるつもりはないが共闘依頼を受け今日からお世話になる事になった。この世界の事は良く判っていないので色々と面倒を見てくれるとうれしい。」

 来たばかりなのでよくわからない、これは転勤・転部・転校において最強の免罪符である。

 ここで一発、申し訳ない雰囲気を出しておくのだ。

 下手に頑張りますなんてやると後々、大変な不幸に見舞われる(経験済み)。

 時雨や夕立、雷や電なんかはこれでいけるだろう(勝手な推測)。

 

 「なお、当船の規律はかなり緩い。これは私のキャプテンが、いざという時に動ければそれでいい、家でも畏まる必要はないという主義からきているものだ。なのでそこは大目に見てくれると有難い。」

 キャプテンハーロックがそう言っていたんだ。

 断じて俺自身がだらしないせいではないぞ(多分)。

 これも最初にかましておかないと、だらしないとか、何たるザマとか、クレームが舞い込むに違いない。

 特に隣にいる柱島第七泊地のリーダーさんとか、パーフェクトレディとか、その二番艦とか執務室に生息する眼鏡っ子あたりから、ハイ。

 

 言い終わるか終わらないうちに宴会場が大歓声に包まれる。

 僚艦同士抱き合うもの、涙を流すもの、内腿をモジモジさせるもの…、ってトイレか?

 我慢はよくないぞ。膀胱炎になってしまう危険があるからな。

 泣いている者は水雷戦隊に編成される面々に多かった。

 イベント海域に輸送や水雷戦隊で挑む時の心細さと不安さはよくわかりますぞ。

 これからは俺に丸投げでき、その重圧から無事解放された安堵感から涙が出てきてしまったのだろう。

 しかし俺、ドラム缶や大発動艇を装備できるのか?

 わかんねーよ…。

 

 「みんなグラスは持った? じゃあアルカディア号さんと柱島第七泊地のこれからに乾杯!」

 ウダウダ考えを巡らせていると北大路提督の乾杯が掛かった。

 それに続いてあちこちで乾杯の声が上がる。

 

 真っ先に北大路提督がグラスを合わせにくる。

 ああ、貴女には他に合わせたいもの(凸凹:意味深)があるというのに…。

 

 続いて長門ともグラスを合わせる。

 長門ももう少しファッションに気を配ればイイ女になれるのにモッタイナイ。

 そこは日向にも言える事ではあるが。

 

 しかし、両名とも十分ハーレム構成員である。

 数時間前に二人のバースデースーツ*1を見ているだけに間違いない、太鼓判である。

 

 グラスの中を空にして宴会場の面々を眺めてみる。

 北大路提督によれば全員が集まっているとの事であるので、ハーレム構成員を探すのには持って来いのこの機会、しかと利用させて貰おうではないか!

 

 そうと決まれば早速の物色開始である。

 

 まず大和型。

 一番艦の大和さんであるが、その清楚な外見に騙されてはいけない。

 夕方、執務室で見事にこのアルカディア号を嵌めてくれた謀略家である。

 いつかハメ返してやるぜ。

 このアルカディア号の夜戦火力を甘く見るなよ?

 二番艦の武蔵さん、姉と同じ演習&イベント番長であるが脳筋*2である。

 しかしケモミミチックなヘアスタイルを止めてコンタクトにすれば十分ハーレム構成員である。両名とも採用決定、おめでとう。

 

 次は長門型。

 長門さんは先程、評した通りだからメインターゲットは陸奥さんか。

 見た目と雰囲気は戦艦娘の中ではトップクラスの評価を与えちゃうからね。

 その思わせぶりな焦らせ方もまたイイ、という訳で採用決定です。

 

 さらに伊勢型。

 伊勢さんはそのフレンドリーさと可愛さで強制徴用です。

 日向さんもゲーム内で最初に着任した戦艦という事で彼女も強制徴用です。

 それに大浴場でもその、素晴らしかったですから(鼻血)。

 それに何故か着用してくれている海自の制服が素晴らしい。

 

 どんどん行きますよ、ハイ扶桑型。

 物静かと不幸だわの不幸姉妹。

 その儚さの中にある美しさに一部熱心な固定客がついているらしいが、ちょっと当船のハーレム構成員としては次点である。

 いや勘違いしないで欲しい、美人ではあるが当方の琴線に触れない*3だけなのだ。

 自分でも失礼だとは思うが、声に出していないのでバレる事はないであろう…。

 

 戦艦娘の最後は金剛型の登場である。

 明るく元気な似非外人と姉さまラブとチョロインと頭脳か。

 全員、スタイル抜群(ロングブーツは足が長くないとサマにならないのだ。)なのでオール採用と行きたいが比叡さんは金剛お姉さま一筋なのでコチラを向いてくれる可能性は低い。

 なので採用は自動的に3名である。4名中3名であれば上出来であろう。

 

 続いて航空母艦に目を向ける。

 まずは一航戦。

 愛想良い戦闘狂とクールビューティーの鉄面皮、艦娘界のジャッキー佐藤とマキ上田こと、赤城さんと加賀さんだ。

 ♪♪ビューティ~、ビューティ、ビューティペア~♪(知ってるよね?ねっ?)

頭の中で何か(メロディー)が…。*4

 やはりレスラーたるもの大食漢なのだろう、二人とも噂にたがわぬ大食漢である。

 恐らく彼女達が北大路提督でも手に負えない猛獣軍団の筆頭に違いない。

 が、ハーレム構成員として飼い馴らす事が出来ればこれ以上の双丘双弓は無くチャレンジしてみる価値は十分にある。

 

 続いて二航戦。

 多聞丸推しとやだやだやだぁである。

 二人とも健康的な素足が眩しいのだが、コトある事に父親代わりの多聞丸を推してくるキュートな山吹色のファザコン娘には要注意だ。

 やり過ぎると多聞丸なる怖いおじさんが出てきてハイエースされるに違いない。

 ハーレム構成員にするには障害が大き過ぎる。

 やだやだやだぁさん(ちゃんと名前で呼べ? スイマセン…。)、この娘はいい!

 このセリフだけでずっと抜き、いやヌキ続けられる。

 鞘(皮?)から抜くという意味では間違いではない気もするが…。

 嫌がる蒼龍を手籠めにするプレイに心がときめきメモリアルである。彼女も強制徴用待ったなし!

 

 五航戦。

 いつも一航戦の青い方から虐められる可哀そうな薄幸姉妹。

 翔鶴は器量良し性格良しで当方にとっては全艦娘中ナンバーワンのお気に入りである。

 それだけに目も合わせてくれなくなったのはツライ…。

 瑞鶴だっていい娘なのに何故加賀があれだけ毛嫌いするのか謎だ。

 胸部装甲が貧弱ではあるものの俺的には許容範囲だ。

 幼馴染ポジにいて欲しいキャラのトップランカーと断言していい。

 早ければ今夜にでも酒席上のハプニングとして膝枕を期待しよう。当然、ハーレム構成員として逃がしはしない。

 

 「アルカディア号よ、失礼するぞ。」

 戦艦と性器正規空母だけでも結構なハーレム構成員が確保できるとほくそ笑んでいると、突然名前が呼ばれた。

 妙高型二番艦の那智である。

 横には妙高、後ろには足柄と羽黒の姿があった。

*1
誕生日の服ではなく生まれたままの姿という意味ですって。

*2
武蔵さんの評価が長門さんと主人公の両方で一致しました。

*3
扶桑型提督の諸氏、お許しください。

*4
戦争終結後は五航戦とのドル箱タッグマッチカードか?




※次回は重巡洋艦以降の品定め回になります。


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第22話 宴会編2(艦娘側:足柄&川内)

※前回、重巡洋艦以降の品定め回になりますと記したのですが、
 出撃組がまだ全員出てなかったので急遽、変更となりました。

 大嘘ついて申し訳ありません…。


 「さあみんな、アルカディアさんの所に行くわよ。」

 

 「その意気だ、我ら妙高型こそあの人の側にふさわしい。」

 

 「ええ…。あ、待ちなさい、こら那智!」

 

 「うう…。男の人、緊張します。」

 もう羽黒、取って食われはしないわよ。さっさと付いていらっしゃいな。

 

 「アルカディア号よ、失礼するぞ。」

 那智姉さんがアルカディアさんに声を掛けたわ、これで妙高型がお酌一番乗り!

 

 「今日は妙高姉さんと足柄を助けて頂いたそうだな。姉妹二人を救ってくれた事、感謝する。改めて私からも礼を言わせてもらおう。」

 

 「はい、私からもお礼を言わせてください。特に足柄姉さんは足手纏いを嫌って敵艦隊に特攻したとか。足柄姉さんには私からキツく言っておきましたので…。」

 

 「ほう、珍しいな。こういうのはてっきり妙高か那智の役目だと思っていたが?」

 

 「ちょっと羽黒! わかったわよ、アルカディアさんもその話に触れないで。」

 もう羽黒ったら!

 理路整然と退路を全て塞ぐ説教は妙高姉さんとはまた違う妙な怖さがあるのよね。

 

 「ふっ、足柄も苦手なものがあるのか。いずれにしろお前が沈むという事は姉妹が悲しむのはもちろん、この世から美女が一人減るという事だ。男としては考え直して欲しい。」

 ア、アルカディアさん、今何て言ったの?

 び、美女って私の事よね?

 飢えた狼とか色気が無いとかいわれるこの私を?!

 この不肖足柄、一生貴方についていくわ!

 

 「ひっ、足柄姉さんが幽体離脱しちゃってます!」

 

 「あ、足柄! 帰ってきなさい、早く!」

 危ない、危ない。羽黒と妙高姉さんがいなかったら本当に天国に行っていたかもだわ…。

 

 「さあ那智、飲め。」

 あら、アルカディアさん随分と奇麗な色のお酒ね。

 那智姉さんだけでなく私達にもお願いするわ。

 

 「アルカディアさん、貴方いける口なの? 私からも注がせてもらうわね!」

 念願の殿方へのお酌!

 

 「私からも改めてお礼を。今日は本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません。」

 うぐぐ、私よりもずっと上品なお酌。敵は身近にいたなんて…。

 

 「そうそう、私達4人とも色は白のままですがタイツからストッキングにしてみました。どうでしょうか?」

 妙高姉さん、それ私が言おうと思ってたのに!

 

 「いいではないか。妙高型の清楚で大人なイメージに良く合っているぞ。」

 清楚で大人なイメージ…。清楚で大人なイメージ…。清楚で大人なイメージ…。

 ハッ、姉妹四人でトリップしてたわ。

 

 「それはそうと足柄は揚げ物が得意だそうだな。機会があればぜひ頼む。」

 キター!

 まさかの手料理、手料理の依頼よ!

 このまま胃袋をガッチリつかんで見せるわ!

 よーし、漲って来たわ!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「川内、参上、夜戦なら任せておいて! やっほー。アルカディアさん、私達も注ぎに来たよ。」

 

 「ね、姉さん。それはあまりに失礼では…。」

 

 「川内姉さんを助けてくれてありがとね。そうだ、今度ライブに招待しちゃうね、きゃは!」

 

 「執務室でも言っただろう。礼には及ばん。」

 さすがアルカディアさん、話が分かるぅ。

 

 「何も見返りを要求してこないなんて…。アルカディアさん、何て男らしい。」

 隣で感心している暇があったらほら、神通もアルカディアさんに注がないと。

 何しに来たのかわかんないじゃん。

 

 「アルカディアさん、私達もストッキングにしてみたんです。喜んでいただけましたか?」

 げっ、神通が太腿部分をつまんでアルカディアさんにアピールしてる。

 

 「お前たちもか。妙高達も言ってたんだが何故だ?」

 

 「アルカディアさんがそう言ったんじゃん。」

 えー、そんなこと言われたら不安になっちゃうじゃん。

 そんなきょとんとしないでよ。覚えてないの?

 

 「ほら、さっき控室から出て来る時。青葉に好みのタイプを聞かれて胸部の質量なんかどうでもいい、パンストフェチなんだって。」

 

 「あら、本当ですか? じゃあ、いつも黒いストッキングの私は一歩リードですね。」

 上機嫌でアルカディアさんにワインを注ぎ足す北大路提督。

 心なしかもう顔が少し赤い。

 

 「待て待て、川内。確かにパンスト映えする美脚の持ち主がイイとは言ったが、パンストフェチとは言ってないぞ。その証拠に二航戦の健康的な素足だって十分キレイで魅力的だと思っている。」

 くっ、向こうの空母組席で飛龍さんと蒼龍さんが歓声を上げてハイタッチしてる。

 

 「えー、一緒じゃん。そ・ん・な・事・よ・り…。」

 えーっと、こんな時は雑誌の情報だと上目遣いだよね。

 

 「アルカディアさんは夜戦得意? 夜はイイよね、夜はさ!」

 上半身を乗り出してアルカディアさんに迫る。

 

 「勿論だ、海賊の戦いにおいても夜戦を制する者は戦いを制するからな。」

 

 「やったぁ、アルカディアさんも夜戦好きだあ! ね、今度私と夜戦しよ?!」

 そっか、何ていったって海賊船だもんね!

 そりゃ夜の戦いにも慣れてるに違いないよね、うんうん。

 

 「いいだろう、アルカディア号の夜戦火力を甘く見るなよ。」

 

 「じゃあ、あたしが勝ったら週一で夜戦演習してよね?」

 

 「よかろう、では俺が勝ったら川内は何をしてくれるんだ?」

 よっし! その言葉、待ってたんだよね。

 

 「うーん、じゃあアルカディアさんの彼女になってあげるよ!」

 い、言っちゃった!

 シーンとなって時が止まったのが自分でも分かるけど、もう後には引けない。

 

 「ヘーイ、川内! そそそそ、それは一体どういう事デース?!」

 「致し方ありません、追撃戦に移行します!」

 「ここは譲れません!」

 「敵艦(川内)見ゆ。砲戦用意、みなさん行きましょう!」

 「面倒だな、ここで殲滅させてもらう。」

 「全航空隊発艦始め!」

 「練習巡洋艦を甘く見ないで。装備と練度は十分です!」

 「提督さん、新しい船(恋敵)できたみたい…。」

 「ふふ、不知火を怒らせたわね…。」

 「っ、敵艦(川内)もなかなかやるな。」

 「ふふん、ここで全力で叩くのさ。いっけぇー!」

 「敵艦(川内)補足、全主砲薙ぎ払え!」

 「さあ、青葉も追撃しちゃうぞ。」

 「勝手は、榛名が、許しません!」

 「お前…、あたしを怒らせちまったなぁ…。」

 「私を本気にさせるとは悪い子ね。死にたいの? うふふ…。」

 やっば!

 みんなの目が本気だよ。

 でも何故か私ではなく、アルカディアさんに殺到したので命からがら逃げだした。

 神通と那珂には散々文句言われたけど、やっぱり想いは伝えないとね。

 ライバルは半端なく多そうだけど(笑)。

 




※待っていてくださった方々も、そうでない方々もお久しぶりです。

 だいたい週一ペースで投稿できればと思っていますが、なかなか難しいですね。

 次回辺り、ついに主人公の変態ぶりが爆発します。
 お酒で寝入ってしまうとスンスンされたぐらいでは気が付きませんからね。
 いやぁ、怖いですねぇ。特に脇が丸見えの金剛型や大和さんは気を付けないと。


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第23話 宴会編2(アルカディア側)

皆様、お久しぶりです。

今回は要望のありましたタグの『主人公は変態』と『主人公は臭いフェチ』を実装させ
てみました。

キレイ好きな方や汚い描写が嫌いな方、変態は悪である、という方は注意してください。





※2020年05月31日、一部修正


 「今日は妙高姉さんと足柄を助けて頂いたそうだな。姉妹二人を救ってくれた事、感謝する。改めて私からも礼を言わせてもらおう。」

 比叡ェ、いやヒエエエ!

 恐ろしい目つきである。アンタ怖いわ!

 もはやそれ感謝どころか敵意しか感じられんよ。

 

 「はい、私からもお礼を言わせてください。特に足柄姉さんは足手纏いを嫌って敵艦隊に特攻したとか。足柄姉さんには私からキツく言っておきましたので…。」

 妙高型の癒し担当、羽黒ちゃんであるが…。

 その目には姉さんには手出しをさせないという決意が宿っている。

 というか妙高型は先の那智を除いて是非ハーレム構成員にスカウトしたいと思っていたのに凹む。

 仕方が無い、こうなったら口の悪いのが一匹いるが高雄型をスカウトしよう。

 (あぁん? クソが!)

 

 ところで足柄に(一方的だと思われる)お話し?をしたのは妙高も那智でもなく、末妹の羽黒とは実に意外である。

 

 「ほう、珍しいな。こういうのはてっきり妙高か那智の役目だと思っていたが?」

 まあ、妙高は足柄が助かっただけでもう安心し切ってしまったからな。

 だからこそ、那智がその役を担うと思っていたが?

 

 「ちょっと羽黒! わかったわよ、アルカディアさんもその話に触れないで。」

 足柄が慌てている。

 那智よりも羽黒の方が怖いのだろうか?

 

 「ふっ、足柄も苦手なものがあるのか。いずれにしろお前が沈むという事は姉妹が悲しむのはもちろん、この世から美女が一人減るという事だ。男としては考え直して欲しい。」

 こうなればとにかく褒める作戦に出る。

 何かで読んだが、やはり女性というのはお世辞に弱いらしい。

 

 「ひっ、足柄姉さんが幽体離脱しちゃってます!」

 な、何が間違っていたのだろうか?

 目の前の足柄が白目をむいて動きを止めたと思ったら天井付近に半透明の足柄がもう一人!

 

 「あ、足柄! 帰ってきなさい、早く!」

 妙高が大慌てで足柄を呼び戻す。

 足柄を呼び戻す事に成功したものの、妙高・羽黒からはジト目を向けられてしまった、凹む…。

 

 「さあ、飲め。」

 もう、アンタらアルカディア号に積んでいるワインを注いであげるから、さっさと自席にお帰り下さい…(泣)。

 那智・妙高・足柄・羽黒にそれぞれ注ぐが…。

 

 「アルカディアさん、貴方いける口なの? 私からも注がせてもらうわね!」

 何と足柄から返盃が!

 

 「私からも改めてお礼を。今日は本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません。」

 何と妙高さんまで!

 これは一体どういう事でありましょうか?

 顔色を窺うと穏やかな表情である。本当に危ないところを救ってくれたと感謝してくれているのか?

 それとも何か含むところがあるのか?

 

 「そうそう、私達4人とも色は白のままですがタイツからストッキングにしてみました。どうでしょうか?」

 え、何?

 どったの?

 何でそんな事を突然聞いてきたのかサッパリわからん。

 まあ、ナースコスは嫌いではない。

 むしろ大好きだが(グヘヘ)、それなら全部揃えて欲しかった。

 

 「いいではないか。妙高型の清楚で大人なイメージに良く合っているぞ。」

 質問の意図が読めないんだから当たり障りのない返事しかできないが、4人とも納得してくれたようだ。

 

 「それはそうと足柄は揚げ物が得意だそうだな。機会があればぜひ頼む。」

 そんなどうでもイイ事よりも足柄といえばカツである。

 

 そうそう、諸兄氏も覚えておいて下さい。

 揚げ物が上手な女性は大体、料理上手なんですよ。

 

 まあ妙高型で誰か一人選べといわれたら、足柄さんだな。

 ハーレム構成員はショッカー戦闘員よりも待遇が良いよ、どう?

 ダメ?

 そうですか…(泣)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「川内、参上、夜戦なら任せておいて! やっほー。アルカディアさん、私達も注ぎに来たよ。」

 

 「ね、姉さん。それはあまりに失礼では…。」

 

 「川内姉さんを助けてくれてありがとね。そうだ、今度ライブに招待しちゃうね、きゃは!」

 ようやく妙高型四姉妹が自席に戻ってくれたと思ったら、今度は川内三姉妹がやって来た。

 

 「執務室でも言っただろう。礼には及ばん。」

 ライブって何だよ。

 別にライブなんて行くつもりは無いんだが。

 

 「何も見返りを要求してこないなんて…。アルカディアさん、何て男らしい。」

 いえ、取り敢えずお礼は大型艦の方々からしてもらうつもりなんで。

 特に大和さんとか陸奥さんとか翔鶴さんとか赤城さんとか夢と股間が膨らみますわ(笑)。

 

 「アルカディアさん、私達もストッキングにしてみたんです。喜んでいただけましたか?」

 神通が太腿部分を摘まんで見せてくる。

 

 「お前たちもか。妙高達も言っていたんだが何故だ?」

 妙高型も同じ事を言っていたが、何でみんなパンスト推しなんだ?

 訳が分からん。

 

 「アルカディアさんがそう言ったんじゃん。」

 なんですと?! そんな事言った覚えが全く無いんですが…。

 え?

 いつ?

 帰還途中で?

 いや違う、大浴場か?

 ダメだ、思い出せない。

 

 「ほら、さっき控室から出て来る時。青葉に好みのタイプを聞かれて胸部の質量なんかどうでもいい、パンストフェチなんだって。」

 一向に思い当たる節が無いのが顔に出ていたのだろう。

 川内が教えてくれる。

 

 「あら、本当ですか? じゃあいつも黒いストッキングの私は一歩リードですね。」

 ワインを注ぎ足してくれる北大路提督。

 小声でこんなのが武器になるなんてという呟きが聞こえる。

 

 「待て待て、川内。確かにパンスト映えする美脚の持ち主がイイとは言ったが、パンストフェチとは言ってないぞ。その証拠に二航戦の健康的な素足だって十分キレイで魅力的だと思っている。」

 聞こえていたのだろう、あちらの空母組席で二航戦の二人がハイタッチの後、ウインクを返してきた。

 

 「えー、一緒じゃん。そ・ん・な・事・よ・り…。アルカディアさんは夜戦得意? 夜はイイよね、夜はさ!」

 さらに上半身を乗り出してくる川内。

 

 「勿論だ、海賊の戦いにおいても夜戦を制する者は戦いを制するからな。」

 ひょっとしたら成り行きでベッド上の夜戦が実現するかもしれん。

 これは期待できるぞ!

 

 「やったあ、アルカディアさんも夜戦好きだあ! ね、今度私と夜戦しよ?!」

 何だかんだ言っても川内は美少女なのだ。

 恥ずかしながら軽巡洋艦では一番好きな艦娘である。

 ハーレム構成員に姉妹揃って強制徴用とさせていただきます。

 

 「いいだろう、アルカディア号の夜戦火力を甘く見るなよ。」

 股間の聖剣性剣、エクスカリバーエクスカウパーを磨いておかねば!

 

 「じゃあ、あたしが勝ったら週一で夜戦演習してよね?」

 週一? 毎日でもいいんですがそれは(笑)。

 ところで俺が勝った場合、川内は何をしてくれるのだろう?

 念のために聞いておくか。

 

 「よかろう、では俺が勝ったら川内は何をしてくれるんだ?」

 三人姉妹の姉妹丼を吹っかけて…、いや未だ早いな。

 

 「うーん、じゃあアルカディアさんの彼女になってあげるよ!」

 えーっと…、聞き間違い?

 まだ全然アルコールが回ってはいないんだが。

 隣にいる北大路提督も笑顔のまま固まっている。

 宴会場となっている食堂がシーンとなっている以上、聞き間違いではなさそうだが。

 やったあ、待ちに待った彼女だぁ!と、喜んだのも束の間、全員の目からハイライトが瞬時に消えた。

 

 「ヘーイ、川内! そそそそ、それは一体どういう事デース?!」

 「致し方ありません、追撃戦に移行します!」

 「ここは譲れません!」

 「敵艦(川内)見ゆ。砲戦用意、みなさん行きましょう!」

 「面倒だな、ここで殲滅させてもらう。」

 「全航空隊発艦始め!」

 「練習巡洋艦を甘く見ないで。装備と練度は十分です!」

 「提督さん、新しい船(恋敵)できたみたい…。」

 「ふふ、不知火を怒らせたわね…。」

 「っ、敵艦(川内)もなかなかやるな。」

 「ふふん、ここで全力で叩くのさ。いっけぇー!」

 「敵艦(川内)補足、全主砲薙ぎ払え!」

 「さあ、青葉も追撃しちゃうぞ。」

 「勝手は、榛名が、許しません!」

 「お前…、あたしを怒らせちまったなぁ…。」

 「私を本気にさせるとは悪い子ね。死にたいの? うふふ…。」

 全員が手に酒を持ち津波の様に押し寄せて来たのである。

 

 まずい、さすがのアルカディア号(ハーロック)とてこれだけの酒は捌き切れない!

 逃げようにも油断していた状態から、これだけ一気に侵攻を許してしまってはとても逃げ切れるものではない。

 さらには全員が川内を守るという目的のために一致団結、まさに一丸となって押し寄せて来るのだ。

 加賀・翔鶴・足柄・高雄・大和・武蔵・長門・秋月・陽炎・木曽・陸奥・最上・古鷹・龍田・金剛・赤城・磯風・伊勢・榛名、後は…。

 日向・飛龍・瑞鶴・ビスマルク・アークロイヤル・イントレピッド・ウォースパイトら海外艦、その辺りから記憶が怪しい。

 最後の方は口移しで飲まされた気もするが…、いやまさかな(笑)。

 覚えている最後の記憶は飛龍と蒼龍が自分のスカートを摘まんで少しだけ上にずらしてくれた光景である。

 くそう、あの程度の悪戯にドキッとしてしまうとは(不覚)。

 いや、悪いのは光を反射する程の張りときめ細かさをもったあの二人の素足である。

 決して俺は悪くない、ハズ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの時間が経ったのか?

 ふと朧気ながら意識が戻った。頬に感じる温もりとザラザラスベスベした不思議な感触。

 何だろう、酒と眠気のせいで開けたくない目を少し開ける。

 場所は食堂、か。

 やはりそのまま酒で眠ってしまったようだ。

 照明も少し明るさが落とされていて時間は…。

 AM03:30。

 まだ夜中とも朝とも言えない中途半端な時間。

 まあ、この季節はやはり夜中だろ。

 壁掛け時計から視線を戻すと顔の前にある細かな黒い繊維の目が視界に入った。

 んー、何これ?

 あ、黒ストか。

 川内が何か言ってたなぁ。

 俺、足フェチなのにパンストフェチにされちまったんだっけ?

 ………。

 ……。

 …。

 

 ん?!

 これ、誰の足?

 足の裏を枕にして寝ているなんてこれは(足フェチには)素晴らしい状況である。

 先ほどまであれだけ開かなかったオメメがウソのようにパッチリと開く。

 赤いロングスカートに銀髪…、JALコラボ衣装の翔鶴さんだ!

 横向きに寝ているおかげで体温を感じる距離どころか、片方の足に顔を乗せてもう片方の足が顔前にあるというウハウハなこの状況。

 ただ、翔鶴さんちょっと、いえ夕方前に風呂入ってこれはヤバイです(笑)。

 その…、芳香がちょっと芳醇過ぎます(笑)。

 前世の女子社員なら殴り飛ばしているかスプレーをぶっ掛けてやるところだが、この危険な香りも『あの翔鶴さんがここまで!』と思うと逆に興奮材料にしかならず、やめられない!

 何で? オレ、変態だったのか?

 

 (こんな事をしておいて今さらですか?)

 あれ?

 今、翔鶴さんの声が聞こえた気がするけど、大丈夫だよな、寝てるよな?

 うん、大丈夫だ、問題ない(希望的観測)。

 かなりの時間、翔鶴さんの香り(におい)を堪能させてもらった後、後ろ髪を引かれる思いで反対を向く(因みに同じ『におい』でも不快な方が臭いで快く感じるのが匂いと表記するそうです)。

 これ以上続けると本当に新たな扉を開いてしまう(自重)。

 

 反対を向くと大和さんと正対した。

 俺と頭と足を逆にし、自分の腕を伸ばし枕替わりにして寝ている大和さん。

 それはイイのだが、ちょうど目の前に無防備な脇が!

 これはもう行くしかないっ、いや行けという天のお告げに違いない(力説)!

 キレイに脱毛された脇をスンスンすると女性特有の体臭と、その部分特有の臭いが!

 ふっ、人を嵌める謀略家にしては、文字通り脇が甘~いようですな(笑)。

 

 (シタは伸ばして下さらないのですか?)

 あれ?

 今、大和さんの声が聞こえた気がするけど、大丈夫だよな、寝てるよな?

 うん、大丈夫だ、問題ない(希望的観測2回目)。

 しかし、シタとはどちらのシタなのか?

 舌なのか下なのか?

 ちなみに下であればもう十分に伸びています(拝)。

 あとその艶やかな髪の香りも…。

 

 しかしここで飲み過ぎたせいかトイレに行きたくなってきた。

 ヨロヨロと覚束ない足取りで寒い廊下をトイレに向かい小用を足して戻ってくる。

 

 ふう…。よっこいしょ、と。

 どっちを向いても前門の虎(翔鶴)、後門の狼(大和)なので、さっきと頭の位置を入れ替えて横になる。

 

 ………。

 ……。

 …。

 本当に足フェチ認定かよ。

 周りのほとんどがこっちに足を向けて寝てるって…。

 つまり俺は悪くない。

 そこに足があるのが悪いのだ。

 

 さて、これ誰?

 金剛型の巫女服でスカートの色が赤…、榛名だ。

 地味だが上品な大人し目の肌色パンスト。

 もちろん、上品な榛名らしくてイイのだが、素足勢はドコ?!(泣)

 二航戦は…、ダメだ、遠すぎる!

 モガミンは、もっと遠い、凹む…。

 まあ、折角だし榛名も体験しておかなくては(喜々)。

 あー、翔鶴さんと同じ香りだわ。ロングブーツ組は伊達じゃないわ。

 それにしてもあの清楚な榛名が、ねえ(歓喜)。

 こうなったらいっそ、新たな扉とやらを開き切って…。

 いや、いかんいかん。

 名残は尽きぬが次のターゲットに参ろうではないか(自重は?)。

 

 (やだ、こんな…。翔鶴さんよりも時間が短いなんて榛名は大丈夫じゃないです!)

 うーん、こんなに空耳が聞こえるとは。未だ相当、アルコールが回ってるらしい。

 

 最後の獲物は…。

 翔鶴さんと同じ黒パンスト、北大路提督、あなたですか。

 

 うーん、提督業というのは相当ハードなお仕事なのが分かりました(ゲス顔)。

 先の二人以上に黒酢の瓶にでも足を突っ込んだのか!というレベルである。

 

 (そうなんです。でもこれからはアルカディア号さんのおかげで海域攻略もスムーズにいく事ですし、少しはマシになるでしょうか?)

 やっぱりもう少し寝よう。

 こう空耳というか脳内に謎の声が響くようであれば明日に差し支える。

 楽しみ過ぎて、起こしてしまうような事になれば、せっかく転生させてもらったこの人生?船生?が詰んでしまいかねない。

 危ない橋は渡ってはいけないのだ。




※ミッドウェーと違い、今回は蒼龍も遠く離れていて無事だったようです。
 もう一隻の幸運の空母、瑞鶴さんも無事でした。

※主人公の空耳だったのか、はたまた彼が二度寝したあと、翔鶴さん・大和さん・榛名
 さん・北大路提督がニヤリとした、かどうかはわかりません。
 ご想像にお任せします(笑)。

※次回からは北大路提督と翔鶴さんと主人公が横須賀の艦隊司令部へと出向きます。
 ちょっと、いえかなりコメディ成分が減りますのでご了承下さい。


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横須賀鎮守府
第24話 会議室編1(艦娘側:北大路花火1)


ついに艦娘側に北大路花火提督が登場!

※各地の主な指揮官
 横須賀第一鎮守府:神崎すみれ中将
 呉第一鎮守府:藤枝殺女(あやめ)中将
 佐世保第一鎮守府:桐島カンナ中将
 舞鶴第一鎮守府:マリア・タチバナ中将

 横須賀第二鎮守府:グリシーヌ・ブルーメール少将
 宿毛湾第一泊地:藤枝かえで少将
 鹿屋基地:李紅蘭大佐



※2020年06月01日 誤字修正
※2021年01月31日 設定修正


 四大鎮守府である横須賀・呉・佐世保・舞鶴は中将が提督として、各地の第一泊地は少将が、それ以外は私と同じ佐官が指揮官を務める事が多いのですが、ここ横須賀のような大きな鎮守府等は第一以外でも将官が指揮官として着任します(例外あり)。

 ちなみに親友のグリシーヌ・ブルーメールは少将として横須賀第二鎮守府で指揮を執っています。

 そしてここ艦隊司令部おひざ元のトップナンバーである横須賀第一鎮守府を指揮するのは神崎すみれ中将です。

 

 「着きました。ここが横須賀第一鎮守府です。」

 ふぅ、いつ見ても立派な門構えですね。

 緊張しながら門をくぐると、ここの明石さんと夕張さんの工廠組が駆け寄ってきました。

 

 「お待ちしておりました。『柱島第七泊地指令』北大路花火大佐殿、並びに同泊地所属第五航空戦隊旗艦翔鶴殿、当横須賀第一鎮守府の兵装実験軽巡夕張です!」

 

 「横須賀第一鎮守府、工作艦明石です!」

 

 「お二人ともありがとうございます。ここにいる間は宜しくお願いしますね。」

 両名とも奇麗な海軍式敬礼で迎えてくれます。

 やはり神崎先輩の部下だけありますね。

 

 「はい! で、そちらの方が例の男性艦の方ですか?」

 

 「そうだ。宇宙海賊船アルカディア号だ。二日間宜しく頼むぞ、明石。」

 アルカディア号さんがフッと笑いかけるとそれだけで明石さんは固まってしまいました。

 おかげでアルカディア号さんが差し出した手を握る事も出来ずにあうあう言うばかり。

 そろそろご自身の女性に対する破壊力に気が付いて欲しいものですが…。

 アルカディア号さんは不思議そうな顔をしていましたが埒が明かないと思ったのでしょう、夕張さんの名を呼びました。

 

 「夕張、後で明石と青葉を伴って部屋に来てくれ。」

 ですが、そんな言い方をしてしまったら…。

 ああ、やっぱり彼女たち勘違いしてしまってますね。

 勝負用下着を持って無いだとか、今日は安全日だとか小声で話しているのが聞こえます。

 後ろにいるウチの翔鶴さんから表情が消えたのが振り向かなくても分かります。

 しかし舞い上がっているお二人には届いていないらしく、私達の荷物を持つとウキウキしながら控室まで案内してくれました。

 

 「疲れましたね、ちょっと休憩しましょう。」

 靴を脱いでベッドに大の字になります。

 向こう(柱島第七泊地)を出たのが昨日の夕食後。そのまま夜汽車に乗って横須賀に到着したのが今朝早くですから。

 おかげで横須賀第一鎮守府到着も私達が一番早かったみたいです。

 

 横を見ると翔鶴さんも同じようにベッドに寝転がっていますね。

 うふふ、ペットと飼い主ではありませんが、所属艦娘って指揮官に似てくるのでしょうか?

 アルカディア号さん自身は椅子に深く腰掛けて微笑みながらこちらを見ています。

 はぁ…。

 いい加減にしてほしいです。そんなに私なんかに惚れられたいのですか?

 こんな根暗女、何も良い事なんて無いでしょうに。

 そりゃあ、私も女ですから恋愛に憧れた事もあります。

 特に大神さんへの想いは東京まで追いかけようとしたほどですから。

 しかし、大神さんが選んだのは現『連合艦隊司令長官』真宮寺さくら大将でした。

 作り笑いで真宮寺先輩におめでとうございますと告げたものの、フィリップに続き、もう恋愛で辛い思いをするのが嫌で怖くて…、殿方への想いは封印したんです。

 ですからもう掘り起こすような事はしないでください。

 

 

 「失礼します。横須賀第一鎮守府所属第六戦隊青葉、並びに明石、夕張参りました。」

 30分ほど過ぎた頃、ここ横須賀第一鎮守府の青葉さん、明石さん、夕張さんがやって来ました。

 アルカディア号さんが出て何やら話をしています。

 御三方とも驚かれていたようですが、

 

 「分かりました、青葉にお任せください!」

 

 「ええ、でも…。どうしよう明石、絶対神崎提督に叱られちゃうよぉ。」

 

 「それで……が助かるなら協力します!」

 という返事が聞こえてきました。

 

 「アルカディア号さん、あまり良からぬ事に御三方を巻き込まないで下さい。私まで神崎先輩に叱られてしまいます。」

 廊下の先へ向かって声を掛けます。

 

 「まあ、そう言うな。艦娘兵器派というか艦娘達を使い捨てと考えている連中も大勢いるから気を付けろと言ったのは北大路提督自身だぞ(笑)。」

 

 「アルカディアさん、何か仕掛けるおつもりですね?」

 翔鶴さん、どうしてあなたまでそんな嬉しそうな顔をしているのですか?

 神崎先輩、申し訳ありません。私ではどうしようもないみたいです…。




さあ、主人公が意図せず他所で粉を撒く第二章の幕開けです!

今回お邪魔する横須賀第一鎮守府はあのキツイ性格の高飛車泣きボクロで有名な神崎すみれ嬢が率いるコワイ所です(笑)。

緩い規律のアルカディア号に対する神崎提督の怒り爆発となるのでしょうか?
それは未だ私にも分かりません(笑)。



いつの間にかお気に入りの数が160を超えてしまいました。
最初は数人の方でも見て頂ければいいかな?と軽く始めたのですが、自分でもまさかの
事態に大変驚くとともに、このような駄作に目を通して頂き感謝に堪えません。

今一度、お礼を申し上げます。


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第25話 会議室編1(アルカディア側1)

「変態、襲来」

 横須賀第一鎮守府の艦娘さん達、逃げて、超逃げて!



 「着きました。ここが横須賀第一鎮守府です。」

 そう言って北大路提督が門を見上げる。

 さすがは帝都に近い鎮守府のトップナンバー。

 門構一つとっても堂々たる風格である。

 冬の凛とした早朝、守衛に身分証明書を見せて門をくぐると、明石と夕張がこちらに駆け寄って来るのが見えた。

 

 「お待ちしておりました。『柱島第七泊地指令』北大路花火大佐殿、並びに同泊地所属第五航空戦隊旗艦翔鶴殿、当横須賀第一鎮守府の兵装実験軽巡夕張です!」

 

 「横須賀第一鎮守府、工作艦明石です!」

 

 「お二人ともありがとうございます。ここにいる間は宜しくお願いしますね。」

 北大路花火提督が横須賀第一鎮守府の工廠組に敬礼を返す。

 

 「はい! で、そちらの方が例の男性艦の方ですか?」

 

 「そうだ。宇宙海賊船アルカディア号だ。二日間宜しく頼むぞ、明石。」

 そう言って手を差し出すが…。

 下を向かれてしまった。

 何だよ、あ~う~って…。

 大平総理大臣かよ。

 柱島第七泊地が無理ならここでハーレムを作って移籍を目論んでいたのに…。

 

 「夕張、後で明石と青葉を伴って部屋に来てくれ。」

 仕方が無いので隣のヘソチラ軽巡を主体(メインターゲット)にする。

 夜汽車の中で北大路提督から艦娘達は只の兵器であるとするブラック提督達が後を絶たず、そのような連中からはアルカディア号さんは目の敵にされる可能性が大きいでしょう、と告げられた。

 場合によっては解体を言い出す可能性もあるとの事。

 何それ怖い、物騒どころの話では無いではないか。

 

 海軍では何度も艦娘達に人権を与えようとする法案が提出されたが、ブラック提督達の強硬な反対により未だに採択されていないのだという。

 要するに捨て艦戦法や駆逐艦を大型艦の盾にする、食事は最低限しか与えない、ドックの使用をギリギリまで許可しない等、まあテンプレ通りのブラック鎮守府が半数近くあるという事らしい。

 一応、海軍では艦娘達に対する非人道的な扱いや行いは禁止されているものの、その判断は各司令官に任されている事が抜け道になっているとの事であった。

 

 俺が軍属でないのが強みであるという彼女の言葉の意味がようやく分かった。

 軍属ではなく共闘なのでお互いに対等な関係である、従って自分には命令権が無く強制的にいう事をきかせられないという事なのだ。

 身を守るためなら降りかかる火の粉を払う事も出来るという訳だな。

 しかしこれは同時にこちらから命令できないという事でもあるまいか?

 彼女に良いではないかを実行しても私、拒絶できますからという事でもある、再び凹むわ…。

 

 が、案内された部屋に3つ並んだベッド(意味深)を見て少しメンタルが回復した。

 しかしここ(横須賀第一鎮守府)の艦娘達に夜這いを仕掛ける事を考えると、ベッドは北大路提督と翔鶴用の2つで良かったのでは(笑)?

 

 「疲れましたね、ちょっと休憩しましょう。」

 ぽすっと音をさせて北大路提督と翔鶴が早速ベッドに転がった。

 やはり長旅で疲れたのだろう、その可愛らしい仕草にこちらまで癒される。

 

 ………。

 ……。

 …。

 うーん、どうしても二人の無防備にさらけ出されたパンストの足裏と補強加工された足先に目が(笑)。

 その清楚な見た目からは想像できない程の危険な黒酢の香りを思い出してついニヤニヤしてしまう。

 

 「失礼します。横須賀第一鎮守府所属第六戦隊青葉、並びに明石、夕張参りました。」

 半時間ほど過ぎた頃だろうか、指名した三人が緊張の面持ちでやって来た。

 

 「よく来てくれた、呼び出してすまなかったな。」

 手籠めにされるとでも思っているのだろうか?

 滅茶苦茶、警戒されてる(泣)。

 

 「実は今日の司令官会議なのだが…。」

 議題が自分についてであり、未知の艦が現れた事、それが男性艦である事、艦娘兵器派の提督達からは解体論が出るであろう事など状況を伝える。

 

 「そ、そんな解体だなんて…。」

 横須賀第一鎮守府の青葉が目をウルウルさせてこちらを見る。

 横鎮青葉、お前イイヤツだったんだな。

 やはり全ての艦が男嫌いでは無いのだ、希望が見えて来たぞ。

 

 「そこでだ、お前達に頼みたい事がある。」

 三人が真剣な表情でこちらを見る。

 

 「何かトラブルが起こったら全ての鎮守府・泊地・警備府に内容を中継しろ。この俺と柱島第七泊地には手を出せない事を教えてやる。さらにブラック提督達の撲滅もな。」

 ブラック鎮守府を救えば簡単にハーレムが手に入る、ここに気付いた俺は天才ではなかろうか?

 しかし、これを悟られてはイカンというのにニヤニヤが止められない。

 ブラック鎮守府を開放していけばどこかでアタリを引けるだろう。

 まさか一つも無いという事は…、今は考えたくない。

 

 「分かりました、青葉にお任せください!」

 

 「ええ、でも…。どうしよう明石、絶対神崎提督に叱られちゃうよぉ。」

 

 「それでブラック鎮守府の方々が助かるなら協力します!」

 横鎮青葉と明石は協力的だが夕張がそのラインからハミ出している。

 これぞまさしくハミ出しヨコチンというヤツか?!

 

 「アルカディア号さん、あまり良からぬ事に御三方を巻き込まないで下さい。私まで神崎先輩に叱られてしまいます。」

 奥から北大路提督の声がする。

 

 「まあ、そう言うな。艦娘兵器派というか艦娘達を使い捨てと考えている連中も大勢いるから気を付けろと言ったのは北大路提督自身だぞ(笑)。」

 

 「アルカディアさん、何か仕掛けるおつもりですね?」

 当柱島第七泊地の翔鶴にも協力してもらえることがあるなら依頼しよう。

 俺の事ではなく仲間の事だから手を貸してくれるだろう。

 

 「青葉さんは撮影担当として、私達は何をすれば良いのでしょうか?」

 

 「ふむ、明石と夕張には機器に強い点を活かして電波ジャックと編集を頼みたい。」

 

 「分かりました。じゃあ手付としてアルカディアさんの船の姿を見せて下さい。絵とかでも良いですから!」

 

 「こんなんで よかったら もって かえってや。」

 ひょっこりと出て来たヤッタラン妖精が1/1500サイズの模型を取り出して明石に渡す。

 三人はおおー、と目をキラキラさせながら戻って行った。

 




※今さらですが、この世界観として、以下のようなものがあります。
 1.同じ艦娘は複数存在
 2.ただし同一地に複数存在できない
 3.深海側の1/5は沈んだ艦娘と言われている
 4.男性と女性の比率は1:500
 5.新幹線が無い

※もう少し増えると思います。

※まあ、何ですねぇ。惚れた弱み(北大路提督自身は未だ自覚無し)というのでしょうか?
 ニヤニヤと視線を向けてくる主人公が微笑んでいるように見えるようでは、もうかなりの危険水域です。
 ダメだコイツ、早く何とかしないと!


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第26話 会議室編2(艦娘側:北大路花火2)

※ブラック鎮守府提督達 VS ホワイト鎮守府運営者

 大神元帥と真宮寺さくら大将は夫婦そろって艦娘にも人権を!派です。



※2020年06月06日、一部修正


 大階段を3Fまで登り切り、左へ曲がります。

 廊下の突き当りに一際目を引く大きな扉、横須賀第一鎮守府大会議室。

 時間も丁度ですね。

 

 「『柱島第七泊地指令官』北大路花火大佐、ならびに同泊地所属第五航空戦隊旗艦翔鶴、保護艦アルカディア号三名参りました。」

 

 「遠路はるばるご苦労様です。入って下さい。」

 深呼吸をしてドアをノックすると、大神元帥の返事が返ってきました。

 大神、真宮寺と二重の意味で嫌ですね。

 出来れば顔を合わせたくありません。

 いえ、別にお二人に非がある訳ではなく私、北大路花火の極めて個人的な理由によるものです。

 別に大神さんが私を選ばなかったとか真宮寺先輩が私の想い人を横取りしたとかではありませんよ、ええ(ギリッ)!

 

 中に入ると各鎮守府・泊地・警備府の提督さん達の目が一斉に私達に向けられると同時にどよめきが起こりました。

 真宮寺先輩、いえ現『連合艦隊司令長官』真宮寺さくら大将からいつもの真宮寺スマイルで席に着くよう指示をされます。

 

 これは…、私達が最後になるように10分ほど指定時刻がずらしてあったみたいですね。

 今日の進行役は…、ああ『海軍軍令部長兼参謀本部長』細川ミロク大将ですか。

 なるほど、彼女らしいやり方ですね。

 大神元帥を挟んで真宮寺大将と反対に座る細川大将に目を向けて席に着きました。

 

 あぁん?

 さくら先輩、何ですか、その嗤いは?

 ひょおっとして勝者の余裕ってヤツですか?

 確かに私、パリ花組の中でも地味でしたし、その上さらに無い方でしたし将来的にもコクリコに抜かれる可能性大ですが、貴女だって日本人としては平均よりやや上なだけですよねぇ?

 それが数少ない男性でしかも当時の女性人気トップ3の一人、大神元帥をゲットしたからって、ふーん、へーえ、そう来るんですかァ。

 しかもプロポーズされた時に、私を選んでくださるんですかって言ったら、あの人、『さくら君、それは違うよ。僕が君を選ばせてもらうんだ』って言ってくれたんです、どぅえすってぇ~?

 年寄じゃあるまいし、同じ話を会う度に何度も何度も…。

 東京花組の皆さんも辟易としていらしてるというのに。

 まあ、いいです。

 私がアルカディアさんで同じ事をして差し上げますから(勝手に未来予想図)。

 

 「では、私から改めて…。急な招集にもかかわらず集まってくれた事、感謝する。本日の案件は事前に伝えた通り、柱島第七泊地で保護されたという男性艦についてだ。」

 私が色々と考えを巡らせていると細川大将が切出しました。

 

 「柱島第七泊地指令、北大路花火大佐。そちらの保護艦について現時点で判明している内容の説明を願おう。新たに判明したものがあればそれも含めて頼む。」

 私はアルカディアさんが今とは別の世界の未来(約960年後)からきた事、艦種は海賊船である事、鬼姫級三隻+レ級三匹が相手でもたった一隻で戦局を変えてしまう程の戦闘力を持つ事、軍属になる気は無い事、そのため共闘を依頼して了解を得ている事などを伝えましたが、説明が終わるか終わらないというタイミングでダン、と机を叩く音がしました。

 

 「手ぬるい! 艦娘とは建造はもちろん、顕現(ドロップ)艦であってもこの世に生まれ出た時から軍属と相場が決まっているんだぞ! だというのに北大路、貴様一体何を考えている!」

 あれは…、『呉第一鎮守府』の藤枝殺女中将ですか。

 細川大将一派、日本有数のブラック鎮守府運営者ですね。

 

 「落ち着いて下さい姉上、どうしてそう極端なのですか? 共闘して下さるというのならそれで十分でしょう。焦ると元も子も無くしますよ、閣下。」

 『宿毛湾第一泊地』司令官である妹の藤枝かえで少将が咎めますが…。

 妹のかえでさんは超が付くほどのホワイト鎮守府運営者です。

 同じ姉妹なのにどうしてこうも違うのでしょうか?

 

 「では北大路、藤枝の両司令官に問おう。その話が事実だとして海賊船など無法者の極み。今後そのような『ならず者』が我々に反旗を翻さないという保証があるのか?」

 さすがは藤枝中将、反論しにくい所を突いてきます。

 

 「それは我々も同じでしょう。配下の艦娘達が強硬手段に出るという可能性は何も彼だけではないと思いますが?」

 ここ横須賀第一鎮守府司令官である神崎中将の目がスッと細められます。

 

 「だから艦娘に人権などを与えてはイカンのだ! 中途半端に甘い顔をするからそのような心配をする破目になる。普段から姉妹艦を盾に取るなりして徹底的に押さえ付け反抗できないという事を分からせないといつ寝首を欠かれるか分かったものではない!」

 

 「だからこそ、抑えるだけではダメだというのです! 指揮官と艦娘、お互いの信頼が無いと戦果だって上がりません。さらに信頼があればそのような心配事をする必要だって無いはずです!」

 神崎中将が藤枝中将に反対意見をぶつけます。

 

 「神崎、貴様は甘過ぎる。軍属にならないなら、そのようなならず者の危険因子は即刻解体すべきであろう!」

 そう言うと藤枝中将はホルスターから対艦娘専用銃を出してアルカディアさんに向けました。

 その他のブラック鎮守府運営を是とする提督達からも賛同の声が上がります。

 

 「殺女くん、その銃を下したまえ。」

 

 「大神元帥?! しかし!」

 

 「聞こえないのか、藤枝中将。銃を下すんだ。」

 有無を言わせぬ大神元帥の様子に渋々、ホルスターに銃を戻します。

 

 「まあ、何だ。せっかく協力してくれるってんだ、何もそう頭から危険なヤツとか敵認定する事はねえんじゃねえか、な?」

 

 「そうね、噂ではかなりの戦闘力らしいし、ここは協力して頂けるように持っていくのが最良だと思いますが?」

 『佐世保第一鎮守府』指令官の桐島カンナ中将と『舞鶴第一鎮守府』司令官のマリア・タチバナ中将がとりなしてくれましたが、強硬派の表情は変わりません。

 しかし銃を向けられてもアルカディアさんは顔色一つ買えませんでしたね。

 何と男らしいのでしょう。そんな所も素敵です(ぽっ)。

 改めてこの方を我が『柱島第七泊地』に迎え入れる事ができた事を神に感謝しなくてはいけません。

 後は…、えと、あの、その…、アルカディアさんの分身を私の(検閲により削除)に迎え入れたいです(きゃっ)。

 

 でもその後、小声でコッソリとマリア・タチバナ中将に『きのこの山』と『たけのこの里』のどちらがお好きなのか聞いてらしたのは何故でしょうか?

 

 ハッ?!

 マリア・タチバナ中将は背も高いし凄く精錬された感じのする美人です。

 アルカディアさんは、ああいった方が好みなのでしょうか?

 お茶請けを持って押しかけようとしているのでは?!

 ダメです! 舞鶴第一鎮守府に奪われる訳にはいきません!

 

 「アルカディアさん、私には聞いて下さらないのですか?」

 

 「うん?」

 

 「私は『たけのこの里』派です。たけのこというぐらいですから竹の幼子ですよね。形もチョコっとした姿で可愛らしいですし。」

 あれ?

 私、何かおかしな事を言ってしまったのでしょうか?

 アルカディアさんが固まってしまいましたが…。

 

 その時、慌ただしく廊下を走る音が聞こえて来たかと思うとドアが乱暴に開けられました。




※真宮寺さくらの嗤い:彼女はそんな事を思っていません。友人に会えた事が単純
 に嬉しいだけです。

※焦ると元も子も無くしますよ、閣下:何故かはわかりませんが眼鏡を拭きながら言う
 と効果的です。制服さんの悪いクセだ、という一文を前に付け足すとさらに効果があ
 ります。

※対艦娘専用銃:一撃で艦娘の息の根を止める事が出来るシロモノ。万一に備え、司令
 官全員に支給されている

※きのこの山とたけのこの里:ご存じ日本を代表するお菓子。貴方はどっち?


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第27話 会議室編2(アルカディア側2)

※先のお話、主人公はどう感じていたんでしょうか?





※2020年06月07日 一部修正


 「『柱島第七泊地指令官』北大路花火大佐、ならびに同泊地所属第五航空戦隊旗艦翔鶴、保護艦アルカディア号三名参りました。」

 

 「遠路はるばるご苦労様です。入って下さい。」

 北大路提督がドアをノックすると男の声で入室を促す返答が聞こえてきた。

 大きな鎮守府だからか帝都のおひざ元だからかは分からないが、やはり軍にも男性が存在するらしい。

 

 中に入ると真宮寺さくら大将が穏やか笑顔で席に着くよう指示してきた。

 北大路提督によると大神元帥と真宮寺さくら大将が艦娘を人間と同じようにみなすホワイト派のトップとの事だ。

 彼女の隣には…、性器世紀の12股男、大神隊長デスカ。

 まあ、なんとなく予想はしてましたケド。

 

 くっそー、自分ばっかりハーレムを作りやがって(今に見てろ)。

 しかしムカつく事ばかりではない、ハーレムの先達として色々とノウハウをお聞かせ願おう。

 さらには東京花組の中で一番のお気に入りである神崎すみれ嬢が前の方ではあるが座っているし、俺の隣にはロシアンビューチーであるマリア・タチバナ嬢が!

 俺自身は着席したものの、マリア・タチバナ中将の女性特有の体臭と肉付き加減に体の一部が反対に起立してしまった。

 どうすんだよ、コレ…。

 他にも桐島カンナ嬢や李紅蘭嬢の姿も見えるな。

 後でサインを貰おう。

 

 「では、私から改めて…。急な招集にもかかわらず集まってくれた事、感謝する。本日の案件は事前に伝えた通り、柱島第七泊地で保護されたという男性艦についてだ。」

 げ、コイツ紅のミロクじゃねーか!

 もう悪者決定じゃん、何らかのイベントを待たずにここで始末してもいいんじゃなかろうか?

 

 「柱島第七泊地指令、北大路花火大佐。そちらの保護艦について現時点で判明している内容の説明を願おう。新たに判明したものがあればそれも含めて頼む。」

 北大路提督は俺が今とは別の世界の未来(約960年後)からきた船である、艦種は海賊船である、鬼姫級三隻+レ級三隻が相手でもたった一隻で戦局を変える力を持つ、軍属になる気は無いが共闘依頼は了承済みである等を説明すると前の方でダン、と机を叩く音がした。

 

 「手ぬるい! 艦娘とは建造はもちろん、顕現(ドロップ)艦であってもこの世に生まれ出た時から軍属と相場が決まっているんだぞ! だというのに北大路、貴様一体何を考えている!」

 ああ、藤枝あやめさんか。

 それもあのツラは殺女に堕ちた方だな。

 うん、もうワル確定。やはり何らかのイベントを待たずして(ry。

 

 「落ち着いて下さい姉上、どうしてそう極端なのですか? 共闘して下さるというのならそれで十分でしょう。焦ると元も子も無くしますよ、閣下。」

 姉上?

 ではこちらの方が妹のかえでさんか。

 ダークサイドに堕ちた姉と違い表情も随分と穏やかだ。

 俺的にはコチラの方がずっと好みである。

 いくらキレイでもあまりに尖り過ぎな女はお断りだ。

 まあ、向こうもそんな気は一切ないだろうが…(泣)。

 

 「では北大路、藤枝の両司令官に問おう。その話が事実だとして海賊船など無法者の極み。今後そのような『ならず者』が我々に反旗を翻さないという保証があるのか?」

 アンタ達がこちらに手を出して来たり卑怯な手を回してきたりしなければ、こちらもかかわる気ゼロなんですけど?

 

 「それは我々も同じでしょう。配下の艦娘達が強硬手段に出るという可能性は何も彼だけではないと思いますが?」

 神崎中将がブラック鎮守府運営をするから、いつ反旗を翻されるのかと怯える必要が出て来るのだと真っ当な意見を述べる。

 

 「だから艦娘に人権などを与えてはイカンのだ! 中途半端に甘い顔をするからそのような心配をする破目になる! 普段から姉妹艦を盾に取るなりして徹底的に押さえ付け反抗できないという事を分からせないといつ寝首を欠かれるか分かったものではない!」

 何じゃそら?!

 台本を読んでいるのではないかという位の典型的なブラック鎮守府に仰天する。

 だが、真宮寺大将の険しい表情を見るに間違い無くこれは寸劇などではない。

 

 「だからこそ、抑えるだけではダメだというのです! 指揮官と艦娘、お互いの信頼が無いと戦果だって上がりません。さらに信頼があればそのような心配事をする必要だって無いはずです!」

 神崎中将の言う通りである。

 というかよくこれで呉第一鎮守府の艦娘さん達が我慢してるな。

 楽園(ハーレム)を抜きにして本気でブラック鎮守府撲滅を実行したくなってきたぞ。

 

 「神崎、貴様は甘過ぎる。軍属にならないなら、そのようなならず者の危険因子は即刻解体すべきであろう!」

 あれは花火が持っているのと同じ対艦娘専用銃?!

 宴会の時に見た司令官のみが携帯を許されるというシロモノらしい。

 ヒエエエ、なんちゅう物騒なモノをむけてくるんじゃい!

 その他のブラック鎮守府運営を是とする提督達からも賛同の声が上がる。

 

 「殺女くん、その銃を下したまえ。」

 

 「大神元帥?! しかし!」

 

 「聞こえないのか、藤枝中将。銃を下すんだ。」

 あまりの事に固まっていると12股男が藤枝中将に銃を下すよう命令してくれた。

 渋る彼女に、しかし逆らい難い雰囲気で再度命令する大神元帥。

 うーむ、やはり元帥の肩書は伊達ではない。

 ここぞという時のオーラは特筆すべきものがある。

 俺には無いだけに羨ましい(グギギ)。

 

 「まあ、何だ。せっかく協力してくれるってんだ、何もそう頭から危険なヤツとか敵認定する事はねえんじゃねえか、な?」

 

 「そうね、噂ではかなりの戦闘力らしいし、ここは協力して頂けるように持っていくのが最良だとおもいますが?」

 『佐世保第一鎮守府』指令官の桐島カンナ中将と『舞鶴第一鎮守府』司令官のマリア・タチバナ中将も助け船を出してくれる。

 桐島カンナ中将とは離れているので無理だが、隣のマリア・タチバナ中将には小声で礼を言っておく。

 い、いえと返事をくれたものの、その一瞬目を合わせただけで彼女は下を向いてしまった。

 くっ、そんなに下を向きたいなら、俺の下にあるモノを剥かせてやるぜ。

 

 …。

 ……。

 ………。

 うん、素直に軍警事案です、スミマセン…。

 

 起立しっぱなしだった体の一部もいきなり銃を向けられた事ですっかり大人しくなってしまった。

 お隣のマリア・タチバナ中将はどちらの状態がお好きなのだろうか?

 ここはひとつ確認しておかなくてはなるまい。

 

 「タチバナ中将殿。」

 前を向いたままタチバナ中将に小声を掛ける。

 

 「は、はひっ?!」

 

 「中将殿は(形状的に)『きのこの山』と『たけのこの里』どちらがお好きか?」

 

 「え? いや、は?」

 

 「『きのこの山』と『たけのこの里』どちらがお好きか?」

 

 「お菓子の、ですか?」

 

 「うむ。」

 

 「え、ええ、(味的に)『きのこの山』ね。軸(クラッカー)の食感が固い方が好みかしら。」

 

 「そうか。」

 やはりクワッサリーことマリア・タチバナ中将は軸の(意味深)固い方がお好きらしい。

 まあ、年齢的にも大人だしな。

 

 ん、何やらタチバナ中将が不思議そうな顔をしている。

 ははあ、どうやら俺が7.7ミリ機銃しか装備していないと思っているな?

 ふっ、近いうちにそれが間違いであることを教えてやろうではないか(ダークスマイル)。

 

 「アルカディアさん、私には聞いて下さらないのですか?」

 

 「うん?」

 

 「私は『たけのこの里』派です。竹の子というぐらいですから竹の幼子ですよね。形もチョコっとした姿で可愛らしいですし。」

 何ですと!

 幼子がお好きと申されますか!

 

 北大路提督、ここでまさかのショタコン、いや稚児フェチをカミングアウトである。

 あまりの事に固まっていると誰かが走ってくる音がして扉が勢いよく開けられた。

 

 全員が何事かと視線を向けた先には息を切らせた大淀が立っていた。




※アルカディア号、二度目の実戦が近づいてきました。

 しかし、本人の希望する意味深の実戦は未だ訪れる気配が無さそうです(笑)。

 頑張れ、主人公! 少しづつではあるが確実に距離は縮まってきてるぞ!


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第28話 会議室編3(艦娘側:北大路花火3)

※月一の夜勤でプロットが進んだので今日も投稿させていただきました。
 またしばらくは投稿間隔が開くと思います(スイマセン)。

※さて、横須賀第一鎮守府での会議はアルカディア号どころでは無くなって
 しまう案件が飛び込んで来たみたいですよ。


 「大淀、会議中よ! 一体、どうしたというの!」

 大慌てでドアを開けたのはココの大淀さんでした。

 会議中にもかかわらず、飛び込んできた事を神崎中将が叱責しますが…。

 

 「大変ですっ、哨戒部隊旗艦由良偵察機より緊急入電! 鬼姫級12隻が2部隊に分かれてここ横須賀第一鎮守府と横須賀第二鎮守府を目指して侵攻中ですっ!」

 

 「何ですって!」

 神崎中将が立ち上がりました。

 大神元帥や真宮寺大将をはじめ会議室内が俄かに色めき立ちます。

 

 「成程な、各地の指揮官が一堂に集まる機会を狙ったという訳か。」

 艦娘達はいくら無能やブラック提督でも指揮官がいなければその力を半分も発揮できません。

 考えてみれば各地に侵攻するよりもアルカディアさんの言う通り月一の指揮官会議、この瞬間を最大戦力で狙う方がはるかに効率的で効果的です。

 

 「既に横須賀第二鎮守府からは『金剛(改二)』・『榛名(改二)』・『赤城(改二)』・『大鳳』・『飛龍(改二)』・『瑞鶴(改二)』さん達が迎撃のために出撃しました!」

 

 「何を勝手に!」

 横須賀第二鎮守府司令官は私の親友グリシーヌです。

 それを聞いた彼女が会議室を飛び出そうとします。

 

 「待ちなさい、ブルーメール少将。大淀、敵の編成はどうなっているの?」

流石、神崎先輩です。こんな時でも無闇に慌てずしっかりと司令官として行動されています。

 

 「はい、ここ横須賀第一鎮守府への侵攻部隊は『戦艦棲姫』・『戦艦水鬼』・『空母棲鬼』・『空母水鬼』・『重巡棲姫』・『駆逐水鬼』、横須賀第二鎮守府への侵攻部隊は『戦艦棲姫』・『戦艦水鬼』・『空母水鬼』・『軽巡棲鬼』・『潜水新棲姫』・『潜水棲姫』です!」

 

 「そんな!」

 何てこと…。

 迎撃に向かった横須賀第二鎮守府部隊に潜水艦への攻撃手段を持った艦種が一つもありません。

 せめて五十鈴さんか由良さん、いえ神通さんでもいてくれればよかったのですが、これでは夜戦はもちろんの事、雷撃戦に持ち込まれたらかなり危険です。

 出来るだけ遠くで食い止めようと相手編成が分からないまま出撃したのでしょうが、このままでは改二の高レベル艦といえども最悪の事態を招いてしまう可能性があり、特に大鳳さんが心配です。

 グリシーヌが会議室に備えられている無線を使ってすぐに撤退するよう指示を出そうとしますが…。

 

 「無線が、通じない…。」

 グリシーヌが顔を覆ってカーペットにへたり込んでしましました。

 

 「しっかりなさい! 指揮官がそんな事でどうするの?! こうなったらあの子達を信じるしかないでしょう!」

 神崎先輩がグリシーヌにカツを入れますが…。

 

 「沈むっ、沈むうっ! あの子達が、沈んで…、イヤアアアアッ!」

 いつものグリシーヌからは想像もできない程、取り乱してしまっています。

 出撃メンバーが戻ってきたら親友の私からもしっかりと言い聞かせる必要がありそうですね。

 戻ってきたら…、ですが。

 

 「ブルーメール少将とやら。気持ちはわかるが、貴様の指揮する第二鎮守府にはまだ大勢の艦娘達がいるのだぞ。」

 見かねたのでしょう。

 そう言ってアルカディアさんがグリシーヌの肩に手を置きます。

 

 「俺の予想ではあるが『五十鈴』・『由良』・『皐月』の三人を中心に救出艦隊を編成して少将閣下の出撃命令を待っているはずだ。それなのに指揮官がみっともない姿を見せてはいられまい。事態も好転はしないぞ。」

 アルカディアさんに見つめられたのと触れられた事でグリシーヌは真っ赤になってしまいました。

 これは個人的に大いに面白くありません。

 いくら親友でもこれは許しがたいです。

 アルカディアさん、早く離れて下さい。

 

 グリシーヌもアルカディアさんに諭されて目が覚めたのでしょう。

 内線で救出艦隊の編成を指示しようとしたところ、アルカディアさんの言う通り『五十鈴』さんを中心とした編成を組んで出撃命令を待っていたようです。

 アルカディアさん、あなたという人はどこまで…。

 いけない、私まで涙が出てきてしまいました。

 

 「大淀、『武蔵(改二)』・『大和』・『赤城(改二)』・『大鳳』・『翔鶴(改二)』・『瑞鶴(改二)』を至急ブンカーに! 大和型にはタービンを忘れずに装備させて!」

 そう言い残してブンカーに走っていく神崎先輩の後を全員が追います。

 高火力艦と装甲空母、ブンカーには既に先程の六名が出撃準備を整えて待っていました。

 恐らく命令が無くとも神崎先輩ならこの布陣を組むと分かっていたのでしょう。

 

 「武蔵(改二)以下5名、出撃準備完了だ。いつでも出れるぞ。」

 

 「ごめんなさい、かなり厳しい戦いにあなた達を出す破目になってしまったわ。恨んでくれても構わないのよ。」

 

 「なに話は聞いている。指揮官が集まった所を最大戦力を以て叩く。フッ、連中も考えたものだ。」

 

 「まだ敵の第一艦隊と第二艦隊はそれほど離れてはいるまい。最大戦速で飛ばせば第二鎮守府の連中と共闘できる。今は撃退ではなく少しでも生存確率を上げる事を考えろ。」

 アルカディアさんからの的確なアドバイスに神崎先輩と出撃メンバーの顔が少し綻びます。

 

 敬礼で出撃メンバーを見送った後、大神元帥の提案でここ横須賀第一鎮守府の大会議室を急遽、作戦本部とする事になりました。

 大会議室に戻ろうとした時です。アルカディアさんがウチの翔鶴さんに何かいると柱を指さしました。

 

 あれは…、駆逐イ級が各柱に一体ずつ!

 しかも体に爆薬を?!

 いけない、自爆する気です!

 瞬間、轟音がしてブンカーが大きく揺れました。

 




※横須賀第二鎮守府の出撃メンバーは相手が4隻だと思い込んでいるのでかなり
 危険です。

※アルカディア号が動くのはもう少しだけ先になります。

※少しづつ北大路花火提督が音無響子さんチックになりつつある気が…。

※本文に動画URL等を埋め込むのはハーメルンの規約違反になるのでしょうか?
 どなたかご存じでしたらご教授ください。<(_ _)>


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第29話 会議室編3(アルカディア側3)

※本日はお休みでしたので頑張ってみました。

 ひょっとしたらもう夕食のメニュー次第では一話分
 頑張るかもしれません。


 「大淀、会議中よ! 一体、どうしたというの!」

 

 「大変ですっ、哨戒部隊旗艦由良偵察機より緊急入電! 鬼姫級12隻が2部隊に分かれてここ横須賀第一鎮守府と横須賀第二鎮守府を目指して侵攻中ですっ!」

 

 「何ですって!」

 思わず立ち上がる神崎中将と俄かにざわつき始める大会議室。

 

 「成程な、各地の指揮官が一堂に集まる機会を狙ったという訳か。」

 指揮官がいなければその力を半分も発揮できない艦娘達。

 ならば個別に侵攻するよりも、指揮官全員が集まったこの瞬間を最大戦力で狙う。

 考えたものだとは思うが、これはヤツらにもブレーンが現れたかもしれないという事だ。

 長期的に見ればむしろそちらの方が問題かもしれない。

 

 「既に横須賀第二鎮守府からは『金剛(改二)』・『榛名(改二)』・『赤城(改二)』・『大鳳』・『飛龍(改二)』・『瑞鶴(改二)』さん達が迎撃のために出撃しました!」

 さらに大淀が驚くべき事を口にする。

 

 「何を勝手に!」

 あれはパリ花組のグリシーヌ・ブルーメール?!

 

「待ちなさい、ブルーメール少将。大淀、敵の編成はどうなっているの?」

会議室を飛び出そうとする彼女を神崎中将が止める。

 

 「はい、ここ横須賀第一鎮守府への侵攻部隊は『戦艦棲姫』・『戦艦水鬼』・『空母棲鬼』・『空母水鬼』・『重巡棲姫』・『駆逐水鬼』、横須賀第二鎮守府への侵攻部隊は『戦艦棲姫』・『戦艦水鬼』・『空母水鬼』・『軽巡棲鬼』・『潜水新棲姫』・『潜水棲姫』です!」

 

 「そんな!」

 ブルーメール少将の顔が歪む。

 無理もない、横須賀第二鎮守府の出撃メンバーに潜水艦への攻撃手段を持った艦種が一つも無いからだ。

 

 まさか敵の艦種が分からないまま出撃したとでもいうのか?

 出来るだけここに敵艦隊を近付けないようにとする意図なのかは知らないが良い考えとはいえない、むしろ不味い。

 メンバーが翔鶴と瑞鶴ではなく飛龍と瑞鶴のは幸運艦だからだろうが、その考え方は一番危険である。

 潜水ソ級やカ級ならまだしも相手は姫級の潜水艦二隻、運だけでどうこうなる相手ではない。

 更に当たり所が悪ければ大和型や装甲空母であろうとも一撃大破は十分にあり得る。

 嫌な予感がする、外れてくれれば良いのだが…。

 

 ブルーメール少将が大急ぎで無線機に飛びつくが…。

 どうやら無線が通じないみたいだ。

 

 「しっかりなさい! 指揮官がそんな事でどうするの?! こうなったらあの子達を信じるしかないでしょう!」

 

 「沈むっ、沈むうっ! あの子達が、沈んで…、イヤアアアアッ!」

 へたり込んでしまったブルーメール少将に神崎中将がゲキと飛ばすが配下の艦娘を失うかもしれない恐怖からか錯乱状態に近い。

 

 「ブルーメール少将とやら。気持ちはわかるが、貴様の指揮する第二鎮守府にはまだ大勢の艦娘達がいるのだぞ。」

 ブルーメール少将が顔を上げてこちらを見る。

 

 「俺の予想ではあるが『五十鈴』・『由良』・『皐月』の三人を中心に救出艦隊を編成して少将閣下の出撃命令を待っているはずだ。それなのに指揮官がみっともない姿を見せてはいられまい。事態も好転はしないぞ。」

 グリシーヌの肩に手を置く。

 一瞬、動きを止めた彼女は次の瞬間、この貴族令嬢である私に気易く触るな、とばかりに真っ赤になってしまった。

 まさに怒髪天を衝くというヤツである。

 ブルーメール少将がこちらを突き飛ばすように離れる。

 女性のコチラに対する反応というのは一向に好転する気配が無い、凹むわ…。

 だが、立ち上がった彼女の目には力が宿っていたので良しとしよう(泣)。

 

 彼女が第二鎮守府に内線を入れると本当に『五十鈴(改二)』・『由良(改二)』・『皐月(改二)』・『鈴谷(改二)』・『熊野(改二)』・『龍驤(改二)』が待機していたとの事。

 マジかよ?!

 

 隣にいる北大路提督がクスンと鼻を鳴らした。

 親友のグリシーヌに俺が気易く手を触れてしまったことに対して彼女に申し訳ないと思っているのだろう。

 スイマセン、もう二度としませんのでそこまで思い詰めないで下さい、マジ反省してます。

 

「大淀、『武蔵(改二)』・『大和』・『赤城(改二)』・『大鳳』・『翔鶴(改二)』・『瑞鶴(改二)』を至急ブンカーに! 大和型にはタービンを忘れずに装備させて!」

 大淀に的確な指示を出してブンカーに走っていく神崎中将。

 一方、ブンカーには名前を呼ばれた六名が既に出撃準備を終えて整列していた。

 以心伝心、神崎中将は配下の艦娘達と理想的な関係が出来上がっているようだ。

 

 「武蔵(改二)以下5名、出撃準備完了だ。いつでも出れるぞ。」

 

 「ごめんなさい、かなり厳しい戦いにあなた達を出す破目になってしまったわ。恨んでくれても構わないのよ。」

 

 「なに話は聞いている。指揮官が集まった所を最大戦力を以て叩く。フッ、連中も考えたものだ。」

 藤枝中将閣下よ、貴殿の配下の艦娘達はこのような事を言ってくれるのか?

 

 「まだ敵の第一艦隊と第二艦隊はそれほど離れてはいるまい。最大戦速で飛ばせば第二鎮守府の連中と共闘できる。今は撃退ではなく少しでも生存確率を上げる事を考えろ。」

 先と同様、口から出任せのアドバイスであるが、全くの的外れではなかったらしく神崎中将と出撃メンバーが大きく頷いてくれた。

 

 敬礼で出撃メンバーを見送った後、12股男の提案でここの大会議室を作戦本部とする事になった。

 戻ろうとした時、柱の陰で何か小さな鯨のようなモノがチラと見えた。

 よく見ると各柱にそれは付いておりコチラを窺っているように見える。

 隣にいた翔鶴に何かいると伝えると彼女の目が見開かれた。

 

 「あれは! 駆逐イ級?!」

 同時に爆発音がブンカー内に響き渡った。

 



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第30話 ブンカー編1(艦娘側:一鎮明石1)

※やれやれ、こんな時にそんな低次元の争いをしている場合では無いのでは?
 細川大将に藤枝中将、聞いてます?

※実際、神崎すみれ嬢やグリシーヌ・ブルーメール嬢の性格を考えたら、もっと
 早い段階で先の二人に向かっていきそうな気もします…。


 『柱島第七泊地』翔鶴さんが『駆逐イ級!』と叫んだ途端、轟音と共に画面が真っ白になりました。

 一体何があったのでしょうか?

 とにかく神崎提督の無事を確かめなくては!

 

 「提督、ご無事ですか! 一体何があったんです?!」

 館内スピーカーを通して安否を確認します。

 

 「ケホッ、どうやらブンカー内の出入口の柱全てに駆逐イ級が爆薬を抱いて自爆待機していたらしいわね。これで私達は本当に一か所に固められてしまったわ。」

 

 「そこから出られないという事なんですか?!」

 大淀が焦って割り込んできます。

 

 「待ってて下さい! すぐに明石と夕張を向かわせます!」

 

 「止めておいた方がいい。複数本の柱を失ったこの状態で無闇に重機やドリルを使えば天井全体が崩落する危険があるわ。」

 あれは…、藤枝殺女中将。

 日本でも一二を争うブラック鎮守府運営者ですね。

 画面の視界が晴れて来たので確認できます。

 

 「残念だが藤枝中将の言う通りだ。今は無闇に脱出しようとするべきではないだろう。」

 

 「そうですね。海側から瓦礫を丁寧に除去していくしか…。」

 監視カメラを切り替えて確認しますが、大神元帥と真宮寺大将の言う通り、本当に出入口のみを瓦礫が塞いでいます。

 

 「さて、見事に閉じ込められてしまった訳だが…。」

 藤枝中将と細川大将が神崎提督を睨み付けます。

 

 「神崎中将、貴様この責任を一体どうするつもりだ? 帝都おひざ元の第一鎮守府にあれだけの工作員の侵入を許しおって! これが貴様らのいう艦娘に人権を与えた結果という事か?!」

 先程の爆発音のせいで私と夕張の後ろには大勢の艦娘達が集まっていました。

 その中で一際、真っ青になっているのが本日の近海哨戒部隊だった名取さんと第七駆逐隊の方々です。

 

 「艦娘達を甘やかすからこのような結果になるのよ! あれだけの数の工作員の侵入を見落とすなんてどういう事なの!」

 藤枝中将が神崎提督の襟首をつかんで壁に叩きつけます。

 大神元帥も止めようとしますが、逆にその甘さがこの結果だと細川大将に詰め寄られてしまう事態に。

 

 「申し訳…、ありません。」

 神崎提督が声を絞り出して頭を下げます。

 そんな、止めて下さい!

 提督は何も悪くありません。悪いのは私達です。

 後ろでは名取さんが床に崩れ落ちてしまいました。

 長良さんも五十鈴さんも掛ける言葉が無く立ち尽くしています。

 

 七駆の四人もごめんなさいを繰り返しています。

 特に潮ちゃんはひたすら、もう止めて下さいと…。

 

 中継を止めようと装置に手をやると青葉がそっと手を伸ばしてきました。

 首を横に振って中継を止めるべきではないという意思表示をしてきます。

 

 「どうして? これ以上、神崎提督のこんな姿を余所に中継したくなんかないよぉ…。」

 実は会議が始まった時点から生中継していました。

 青葉が噂の男性艦を全国の艦娘達が見たがっているに違いないと…。

 

 「きっと事態は好転します。青葉には分かるんです。ジャーナリストとしての感がそう告げているんです。余所の青葉は知りませんが、私はガセや間違った情報を流した事が無いのが自慢です。ですからここは私を信じて下さい。」

 確かに青葉の言う通りですが…。

 彼女のカンは勘ではなく感なので今回も何かを感じたのでしょう。

 私は彼女の意見を受け入れる事にしました。

 

 出撃した横須賀第一鎮守府と横須賀第二鎮守府の艦隊も交戦に入ったらしく無線を通して激しい砲撃音と航空機のプロペラ音が聞こえてきます。

 第一鎮守府の艦隊が到着した時には潜水棲姫と新潜水棲姫の開幕雷撃によって第二鎮守府の飛龍さんと瑞鶴さんが中破した状態だったようです。

 第二鎮守府の対潜水艦艦隊が到着するも単横陣が取れなかったため、潜水棲姫と新潜水棲姫に有効な一撃を与えられません。

 逆に装甲の薄い彼女達は相手にとって良い攻撃目標です。

 次々と一撃大破に追い込まれていく悲鳴が聞こえてきます。

 不味いのはその中に赤城さんや武蔵さんといった大型艦も入っているという事です。

 突然、ブルーメール少将が無線機に飛びつきました。

 

 「もう、もうたくさんだ! 撤退、撤退しろ! このままでは第一鎮守府・第二鎮守府両艦隊ともに全滅してしまう!」

 

 「武蔵! ブルーメール少将の言う通りになさい! あなた達は良くやったわ、今ならまだ間に合います、早く!」

 神崎提督も必死で呼びかけますが…。

 

 「バカか、貴様ら! 撤退などあり得んだろうが! 少しでも相手の戦力をそぐ必要があるのに何を甘ったれた事を抜かしている! いいか、参謀本部長として命じる、最後の一艦になっても撤退は許さん!」

 

 「細川大将、止めて下さい! あの子達は私の部下です、貴女に指揮権はありません!」

 

 「ええい、離せ! 貴様のようなヤツに司令官としての資格はない、私が代わる!」

 そう言って細川大将が神崎提督とブルーメール少将を蹴飛ばしました。

 

 「細川大将、あなたいい加減になさい!」

 それを見ていた真宮寺大将が細川大将を張り飛ばしました。

 

 ところが細川のヤツ、逆に真宮寺大将まで蹴飛ばしやがったんです!

 私たちの提督である神崎中将はおろか真宮寺大将にまで何て事を!

 

 そもそも何が代わるですかっ、私達の提督は未来永劫、神崎すみれその人です。

 ふざけるのも大概にしろ!

 お隣である横須賀第二鎮守府のブルーメール少将も大事な方です。

 おのれ細川に藤枝、貴様達だけは絶対に許さない!

 ところがそんな逆上せ上った私でも青くなる事態が起きました。

 何とブルーメール少将が細川大将に銃を向けたんです。

 

 「グリシーヌ!」

 ブルーメール少将の親友である北大路提督が叫びます!

 誰もが最悪の事態を覚悟した時、空気を切り裂く音と共にブルーメール少将の銃が宙を舞いました。

 




※ブルーメール少将の銃を弾き飛ばしたのは誰なんでしょう?
 主人公では無いみたいですが…。

※細川大将を張り飛ばすのは我らが大神隊長にやってもらいたかったのですが、
 「細川大将、いい加減にしないか!」よりも「細川大将、あなたいい加減に
 なさい!」の方が当方としては、しっくり来たのでさくらさんにお願いしま
 した(笑)。


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第31話 ブンカー編1(アルカディア側4)

※細川大将と藤枝中将のブラックぶりが少しは伝わったでしょうか?


 ブンカーが揺れた瞬間、俺は無意識に翔鶴と北大路提督に覆いかぶさっていた。

 いやむしろ押し倒したという方が正しい。

 完全に役得である。

 男だったらレ〇プ願望あるだろ?

 え、無い?

 またまた御冗談を(震え声)。

 

 爆炎と砂埃が晴れてくると出入口が完全に瓦礫で埋まっているのが分かった。

 なるほど、ヤツらの狙いはこれか。

 

 「提督、ご無事ですか! 一体何があったんです?!」

 館内スピーカーから明石の声が響く。

 

 「ケホッ、どうやらブンカー内の出入口の柱全てに駆逐イ級が爆薬を抱いて自爆待機していたらしいわね。これで私達は本当に一か所に固められてしまったわ。」

 神崎中将がイタタ…、と体をさすっている。

 

 「そこから出られないという事なんですか?! 待ってて下さい! すぐに明石と夕張を向かわせます!」

 焦る大淀が工廠担当チームを向かわせようとする。

 

 「止めておいた方がいい。複数本の柱を失ったこの状態で無闇に重機やドリルを使えば天井全体が崩落する危険があるわ。」

 あれ、藤枝中将にしては珍しくまともな意見じゃないか。

 しかしこれで神崎中将がかなり不利な立場になってしまったぞ。

 

 「残念だが藤枝中将の言う通りだ。今は無闇に脱出しようとするべきではないだろう。」

 

 「そうですね。海側から瓦礫を丁寧に除去していくしか…。」

 12股男と真宮寺大将の言う通り、瓦礫が出入口だけを塞いでいる。

 これはかなり厄介だぞ。

 

 「さて、見事に閉じ込められてしまった訳だが…。」

 神崎中将をに鋭い視線を送りながら細川大将が口を開いた。

 

 「神崎中将、貴様この責任を一体どうするつもりだ? 帝都おひざ元の第一鎮守府にあれだけの工作員の侵入を許しおって! これが貴様らのいう艦娘に人権を与えた結果という事か?!」

 あー、ヤダヤダ。

 人がミスをしたらここぞとばかりに乗っかってくるヤツ。

 ウチの会社にも数人いたわ。

 

 「艦娘達を甘やかすからこのような結果になるのよ! あれだけの数の工作員の侵入を見落とすなんてどういう事なの!」

 藤枝中将も神崎提督に詰め寄る。

 おい12股男さん、止めなくていいのか?

 

 「申し訳…、ありません。」

 歯を食いしばって言葉を紡ぎ出す神崎中将。

 あんな連中に頭を下げなくてはならないなんて、その気持ちは察するに余りある。

 さらに悪い事には交戦に入った横須賀第一鎮守府と横須賀第二鎮守府の艦隊が無線を通じて苦境に立たされているのがハッキリと分かる事だ。

 

 「もう、もうたくさんだ! 撤退、撤退しろ! このままでは第一鎮守府・第二鎮守府両艦隊ともに全滅してしまう!」

 第一鎮守府の無線機に飛びついてブルーメール少将が指示を出す。

 

 「武蔵! ブルーメール少将の言う通りになさい! あなた達は良くやったわ、今ならまだ間に合います、早く!」

 神崎提督も撤退指示を出すが…。

 

 「バカか、貴様ら! 撤退などあり得んだろうが! 少しでも相手の戦力をそぐ必要があるのに何を甘ったれた事を抜かしている! いいか、参謀本部長として命じる、最後の一艦になっても撤退は許さん!」

 

 「細川大将、止めて下さい! あの子達は私の部下です、貴女に指揮権はありません!」

 

 「ええい、離せ! 貴様のようなヤツに司令官としての資格はない、私が代わる!」

 げっ、あろう事か細川のヤツ神崎中将とブルーメール少将を蹴飛ばしやがった!

 

「細川大将、あなたいい加減になさい!」

 ついに見かねた真宮寺大将が細川大将を平手打ちで張り飛ばすも逆に細川のヤツに倍返しされる始末。

 細川のヤツこそふざけるのもいい加減にしてもらう必要があるな。

 女に手を上げるのは主義ではないが、これ以上の蛮行が続くようだと仕方あるま…、い?!

 って、逆上したブルーメール少将が細川大将に銃を向けたァ!

 

 不味い、戦士の銃を使おうが、重力サーベルを使おうが間に合わない。

 クソッ、ブルーメール少将の手を血にまみれさせてはならん!

 

 「グリシーヌ!」

 北大路提督が叫んだその時、一本の矢がブルーメール少将の銃を弾き飛ばした。

 




※お待たせしました。次回、いよいよアルカディア号が救出に向かいます!

※アルカディア号が返ってきたら細川大将と藤枝中将は全国中継された前で
 大恥をかくことになります(笑)。

※その前にですね、大神元帥。あの…、もう少し仕事してください(泣)。
 力の使い方を間違えなければ、道を正すのも優しさというものです…。


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第32話 ブンカー編2(艦娘側:一鎮明石2)

※お待たせ致しました、アルカディア号発進!です

※アルカディア号発進のイメージ。
 YouTubeでアルカディア号と探すと上から三番目に出て来る『Captain Harlock movie with Theme of Pirates of the Caribbean』ってヤツです。
 こちらは本物のアルカディア号ですが何となくこんな感じという事で…。



※2020年06月14日、誤字修正。


 宙を舞うブルーメール少将の銃。

 音のした方を確認すると柱島第七泊地の腕章をつけた翔鶴さんが厳しい表情で弓を構えていました。

 

 「ブルーメール少将、貴様!」

 藤枝中将がブルーメール少将を取り押さえようとしますが…。

 

 「私に触れるな!」

 そう言って今度は剣に手を掛けますが、またしても柱島第七泊地の翔鶴さんの矢が剣を弾き飛ばしました。

 

 「翔鶴、貴様! いくら花火の艦娘とて許さんぞ!」

 ブルーメール少将が柱島第七泊地の翔鶴さんを睨み付けます。

 

 「藤枝よ、構わん。今はそれどころではない、放っておけ。どの道そやつらの艦隊は全滅だ。その時の顔が見ものだ。それでチャラにしてやるわ。」

 細川大将が大声で笑いました。

 決死の覚悟で出撃した武蔵さん達、それを嘲り笑うなんて…。

 長門さんが両手のこぶしを握り締めます。

 

 「提督よ、撤退はせん。」

 無線を通じて武蔵さんの声が!

 

 「第一鎮守府の武蔵が言う通りよ。相手艦隊がそちらに着くまでに少しでも削っておかないと鎮守府ごと陥落の危険があるわ!」

 第二鎮守府の瑞鶴さんも撤退はしないと告げてきました。

 

 「バカな事を言うな! そんなに戦いたければ両艦隊ともバケツをひっ被ってからにしろ!」

 ブルーメール少将が何とか帰ってくるように説得を試みますが…。

 

 「神崎提督、申し訳ありません。私も瑞鶴も足部艤装破損で戻れそうにありません。こうなってしまった以上、少しでも相手戦力を削ぐ事に注力します。」

 

 「そんな…。どうして言う事を聞いてくれないのよ! あなた達は…、聞き分けの無い娘達ではなかったはずよ、そうでしょう?!」

 神崎提督も必死で説得を試みますが、込み上げる想いのせいで言葉も、途切れ途切れに…、なってしまって…。

 後ろにいる大勢の艦娘達からも啜り泣きが…。

 

 「提督よ、そう悲しまないでくれ。我らは艦娘として生まれた以上、いつ戦いの中で沈むかもしれない覚悟は出来ている。」

 

 「第一鎮守府の武蔵さんが言う通りです。ブルーメール提督、勝手なお願いですが加賀さんが寂しがると思うので、なるべく早く次の私を建造してあげて下さい。」

 

 「次の私達にも同じように接してやってくれ。最後に貴方のような立派な提督の下で働けた事を嬉しく思う。さあ、大和よ、もうひと踏ん張りするぞ。提督、すまないがこれ以上は我らの決心も揺らぎかねん、さらばだ。」

 

 「ヒッ、駄目、駄目よ! 応答なさい! 武蔵、武蔵いいいっ!」

 

 「頼む、帰って、帰ってきてくれ! 帰って…。」

 神崎提督もブルーメール提督も、もうそれ以上言葉を紡ぎ出す事は出来ませんでした。

 崩れ落ち肩を震わせるお二人に盟友の桐島カンナ中将やマリア・タチバナ中将を始め藤枝かえで少将らが側に寄り添いますが…。

 その藤枝かえで少将も涙を流しています。

 あの人は特に人の心が分かるお方ですから、お二人の胸中を思う以上にあの姉に対して情けなさと悔しさで一杯なのでしょう。

 

 「ところで柱島第七泊地の翔鶴よ。よくぞこの私を救ってくれた。後ほど、禄を送ろう、何が望みか?」

 本当にKYですね、この人。いえ、わざとやってるんでしょうが…。

 

 「いいえ、結構です。」

 翔鶴さんの厳しい表情はそのままです。

 

 「ほう、随分と無欲だな。」

 

 「細川とやら、貴様ずいぶんとお目出度いな。」

 その時です、ついにアルカディア号さんが口を開きました。

 

 「何?」

 

 「うちの翔鶴は貴様を救ったのではない。ブルーメール少将殿を救ったのだ。」

 それを聞いた柱島第七泊地の翔鶴さんの表情がようやく綻びました。

 なるほど、そういう意味だったのですね!

 

 「どういう事だ?」

 

 「ブルーメール少将の手を汚させたくないという事だ。ましてやそれが殺す価値も無いともなれがなおさらであろう。」

 

 「貴様、この私に向かって!」

 細川大将がアルカディア号さんを張り飛ばしますが、かれは微動だにしません。

 あ、これ男性保護法違反では?

 

 「アルカディアさん!」

 柱島第七泊地の翔鶴さんがアルカディア号さんに駆け寄ろうとしますが…。

 

 「心配はいらん。元来、男の体というのは女よりも遥かに丈夫だ。」

 アルカディア号さん、カッコイイ!

 

 「ぐすっ、アルカディアさん、神崎提督を、いえ神崎先輩とグリシーヌを…、助けてあげて下さい。お願い…、します。ですが、私から対価としてお渡しできるのは何もありません、ですから…。」

 ちょ、北大路提督!

 何をしているんですか!

 ジャケットを抜いでブラウスのボタンに手を?!

 

 「ふっ、嫁入り前の娘が何をしている。感心出来る事ではないぞ(笑)。」

 そう言ってアルカディア号さんは北大路提督の行為を止めました。

 

 「対価など要らん。あの二人を救いたい、それだけで十分だ。花火のそれは気持ちだけ受け取っておこう。いつか本当に好きな人が出来た時まで取っておけ。」

 ぐすっ、アルカディア号さん、貴方という人はどこまで男なんですか…。

 この明石、いえ後ろにる横須賀第一鎮守府の艦娘達のゲージ(何の?!)が天井知らずですよぉ。

 

 「全く、役に立たないガラクタ共なら指揮官も役に立たないという事か。」

 くそっ、出入口が塞がってなかったらこの明石が細川大将を撃っていたでしょう。

 これ以上、横須賀を馬鹿にするなら本当に許さない!

 

 「姉上。それに細川大将殿。お二人は先の無線の何を聞いていらしたのですか。」

 ついに妹の藤枝少将が藤枝中将に詰め寄りました。

 

 「お前達のために死ぬと分かりながらなお、躊躇もせずに出撃してくれる部下など誰一人としておるまい。」

 

 「命令されてイヤイヤ出撃するのが関の山じゃないのか?」

 さらにアルカディア号さんが、そして大神元帥が私達の想いを代弁してくれます!

 

 「じゃあアルカディア号さん!」

 北大路提督の顔がパッと明るくなります。

 私の後ろにいる横須賀第一鎮守府の艦娘達もザワつき始めました。

 

 「うむ。」

 アルカディア号さんが出撃を了承してくれたようです!

 北大路提督が喜びのあまりアルカディア号さんに飛びつきました。

 ちょっと何してるんですか?!

 少しぐらい早く知り合ったからってズルいですよ!

 

 「それと神崎中将閣下、出撃にあたって修復バケツ18杯を貰えるか?」

 アルカディア号さんの要請に顔を上げた神崎提督は涙の後を拭おうともせず直ぐに許可を出してくれました。

 万一に備え、ブンカーにはバケツ20杯が常備されているのです。

 

 「アルカディア号さん、本当ですか? しかしどうやってここから出撃を?」

 そうでした、中に閉じ込められている状態でアルカディア号さんはどうやって出撃するのでしょう?

 大神元帥が心配するのも分かります。

 

 「一度水中に突っ込んでそのまま地中を進む。瓦礫を抜けた時点で水中に出てそこから飛び出す。岩盤は堅そうだが何とかなるだろう。」

 そ、そんな事が可能なんでしょうか?!

 

 「神崎中将、ブルーメール少将、お二人の艦娘は必ず連れて帰ろう。それまでには指揮官らしくシャキッとしていろ。それに二人とも…。」

 ア、アルカディア号さんが神崎提督の手を握って?!

 

 「いつまでもメソメソしていてはせっかくの美人が台無しだぞ。」

 アアア、アルカディア号さんが私達の提督を、神崎提督を口説いてる?!

 おまけに返す刀でブルーメール少将までもですか!

 

 神崎提督もウソのつけない誠実な方は嫌いではありませんわ、どうかあの子達をお願いしますとアルカディア号さんの手を握り返しています。

 後ろでは北大路提督と柱島第七泊地の翔鶴さんが能面に!

 ひ、ひいぃ~、怖過ぎですよぉ~(泣)。

 

 「全員、出来るだけ後ろに下がっていろ。」

 アルカディア号さんが閉じ込められた全員に安全な場所まで下がるよう命じました。

 同時にアルカディア号さんから個性豊かな妖精さん達が姿を現します。

 

 「花火、出撃依頼を。」

 それを聞いた北大路提督の顔が輝きました。

 

 「は、はいっ! 海賊船、いえ宇宙海賊船アルカディア号、その最大戦速を以て横須賀第一鎮守府、並びに横須賀第二鎮守府の艦娘達の救援を要請しますっ!」

 アルカディア号さんは剣を抜き胸の前に掲げ踵を合わせました。

 

 あー、もう本当にイチイチ格好良いんですから!

 後ろにいる榛名さんと伊勢さんのオメメがハートになってますよ。

 他にもあのお堅い妙高さんや高雄さんまでもが恋する乙女の顔に!

 

 「花火、両艦隊を撤退させるのはイイが、別にあれを倒してしまっても構わんのだろう?」

 キャー、またまたしびれちゃいますうっ!

 でもどこかで聞いた事がある感じもしますが、それにしてもあの鬼姫12隻を倒す?!

 そんな事が可能なんでしょうか?

 いえ、このアルカディア号なら出来るかもしれません。

 ですが、またそんな事を言ってしまったら…。

 ほら、後ろにいる艦娘達の陥落ゲージがヤバい事になってますよ。

 ひょっとしたらコレ、中継先の各鎮守府や泊地でも同じような状態なんじゃ?

 

 「え、ええ。ですが決して無理はしないで下さい。」

 北大路提督もさすがに不安なのでしょう。

 

 そんな私達の気持ちを知ってか知らずかアルカディア号さんが艤装を展開しました。

 いやはや艤装もカッコイイですねぇー。

 さっき頂いた模型そのままです。

 やはり最大の特徴は艦首にある巨大な髑髏と後腰部のスターンキャッスルでしょう。

 そしてついにアルカディア号さんの艤装に火が灯り始めます。

 

 「カタパルトじょうしょうかく40ど。」

 「バランスせいじょう。」

 「ぜんかいろシールドはいじょ。」

 「ぶそうシステムへの どうりょくかいろ、セイフティオフ!」

 「シリンダーないの しんどうすう まいびょう さんおくろくせんまん すべてせいじょう。」

 「すいりょくでんどうかん へいさべん かいじょ。じんこうじゅうりょく はっせいかいし!」

 艤装の上をあの個性豊かな妖精さん達が慌ただしく動き回ります。

 そしてアルカディア号さんが宙に浮くと各地の提督さんとお連れの艦娘さん達からどよめきが起こりました。

 

 「ライフルレーダーにゅうりょくオン!」

 「スロットル びそくぜんしん から ぜんかいへ!」

 

 「アルカディア号、発進!」

 アルカディア号さんの凛とした声がブンカー内に響き渡りました!

 




※いやあ~、長かったです。
 アルカディア号の出撃まで自分でもここまで掛かるとは思ってもみませんでした(笑)。

※果たしてアルカディア号は横須賀艦娘18名を無事に連れ帰る事が出来るのでしょうか?

※ところで、アルカディア号が北大路提督を呼ぶ際、途中から『花火』呼びに変わりましたね(おや?)。


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第33話 ブンカー編2(アルカディア側5)

※前回のお話でお気に入りが200を超えてしまいました。
 大変うれしく思うと同時に感謝に堪えません。
 諸兄氏の大切な時間を奪ってしまってなければ良いのですが…。

 これからも遠いハーレムに向かって行きますので、主人公共々宜しくお願い致します。<(_ _)>


 隣にいる翔鶴が弓でブルーメール少将の銃を弾き飛ばした。

 って、翔鶴さん、アンタそんな芸当が出来るの?!

 惚れてまうやろー!

 いや、もう惚れてました。

 スイマセン…。

 

 「ブルーメール少将、貴様!」

 藤枝中将がブルーメール少将を止めようとするが…。

 

 「私に触れるな!」

 今度は剣を抜こうとするも、またもや翔鶴さん弓から放たれた矢がその剣を弾き飛ばした。

 凄え、まるでウイリアムテルである。

 まるで北大路提督がマスターで翔鶴さんがサーバントみたいだ。

 

 「翔鶴、貴様! いくら花火の艦娘とて許さんぞ!」

 ブルーメール少将が翔鶴さんを睨み付ける。

 まあ、二度も邪魔をされたらなあ…。

 

 「藤枝よ、構わん。今はそれどころではない、放っておけ。どの道そやつらの艦隊は全滅だ。その時の顔が見ものだ。それでチャラにしてやるわ。」

 うわー、こいつホンマ性格悪いわぁ。

 

 「提督よ、撤退はせん。」

 細川大将に呆れかえっていると無線から武蔵の声がした。

 

 「第一鎮守府の武蔵が言う通りよ。相手艦隊がそちらに着くまでに少しでも削っておかないと鎮守府ごと陥落の危険があるわ!」

 待って、待って。

 第二鎮守府の瑞鶴様が怖い事を言いだしたぞ。

 

 「バカな事を言うな! そんなに戦いたければ両艦隊ともバケツをひっ被ってからにしろ!」

 ブルーメール少将の言う通りである。

 戦場は鎮守府近海だ。地の利を生かさぬ道理は無い。

 が、第一鎮守府の翔鶴さんから帰ってきた返事は予想外だった。

 

 「神崎提督、申し訳ありません。私も瑞鶴も足部艤装破損で戻れそうにありません。こうなってしまった以上、少しでも相手戦力を削ぐ事に注力します。」

 まさかの帰投不可能を告げる絶望宣告。

 これ、このままだと神崎中将、絶対に自分を責めて責めて責め抜くぞ。

 何とか小破艦か中破艦に曳航させてでも帰投させないと神崎・ブルーメール両提督の自我が崩壊する可能性が高い。

 下手をすれば精神病院行きである。

 まだつまみ食いをしてないのにそんなトコ行かれては困る!

 

 (女神:アンタもあの二人に負けないぐらいのクズな気がするよ。)

 

 「そんな…。どうして言う事を聞いてくれないのよ! あなた達は…、聞き分けの無い娘達ではなかったはずよ、そうでしょう?!」

 

 「提督よ、そう悲しまないでくれ。我らは艦娘として生まれた以上、いつ戦いの中で沈むかもしれない覚悟は出来ている。」

 待て武蔵、覚悟があるから沈んでいいというのは間違っている。

 

 「第一鎮守府の武蔵さんが言う通りです。ブルーメール提督、勝手なお願いですが加賀さんが寂しがると思うので、なるべく早く次の私を建造してあげて下さい。」

 赤城も何をアホな事を言ってるんだ?

 新しい赤城が建造されたとして、共有する記憶が一切無いのに替わりになる訳が無い。

 そんなの新しく建造された赤城が可哀そうなだけだ。

 

 「次の私達にも同じように接してやってくれ。最後に貴方のような立派な提督の下で働けた事を嬉しく思う。提督、すまないがこれ以上は我らの決心も揺らぎかねん。さあ、大和よ、もうひと踏ん張りするぞ。」

 艦娘達と理想的な関係にあるのは、この武蔵の返答からも分かるが…。

 

 「ヒッ、駄目、駄目よ! 応答なさい! 武蔵、武蔵いいいっ!」

 

 「頼む、帰って、帰ってきてくれ! 帰って…。」

 嗚咽が響く中、親交のある桐島カンナ中将、マリア・タチバナ中将、エリカ・フォンティーヌ大佐、ロベリア中佐や藤枝かえで少将らが側に寄って声を掛けるが…。

 

 「ところで柱島第七泊地の翔鶴よ。よくぞこの私を救ってくれた。後ほど、禄を送ろう、何が望みか?」

 うーん、ただのKYなのか、おバカなのか分からんがとにかくクズである。

 

 「いいえ、結構です。」

 感謝されているにも拘わらず翔鶴さんがその厳しい表情を崩す事はない。

 

 「ほう、随分と無欲だな。」

 

 「細川とやら、貴様ずいぶんとお目出度いな。」

 あ、とうとう言っちゃった。

 こんなの12股男さん、アンタのお仕事でしょーが全く。

 

 「何?」

 おっと、細川大将が前に出て来たぞ。

 

「うちの翔鶴は貴様を救ったのではない。ブルーメール少将殿を救ったのだ。」

 

 「どういう事だ?」

 

 「ブルーメール少将の手を汚させたくないという事だ。ましてやそれが殺す価値も無いともなれがなおさらであろう。」

 

 「貴様、この私に向かって!」

 細川大将からロケットパンチが飛んでくるが…。

 全く、飛ばしてくるならパンチではなくパンツにしてくんねえかなぁ。

 まあ、しょせんは女の力である。

 多少痛い程度に過ぎない。

 前世での上司から受け続けた理不尽な鉄拳に比べればどうという事は無いわ、フハハハハハ!

 しかし、まさかあのクソ上司に感謝する時が来るとは。

 世の中何があるか分からんな。

 

 「アルカディアさん!」

 駆け寄ろうとする翔鶴さんを制する。

 こんな事で泣き言を言っちゃ男が廃るってもんだ。

 

 「心配はいらん。元来、男の体というのは女よりも遥かに丈夫だ。」

 まさか前世でヘマし過ぎて殴られ慣れしてますなんて言える訳が無い。

 

 「ぐすっ、アルカディアさん、神崎提督を、いえ神崎先輩とグリシーヌを…、助けてあげて下さい。お願い…、します。ですが、私から対価としてお渡しできるのは何もありません、ですから…。」

 うぎゃあぁー、タイミングが悪い、悪過ぎるぞぉーっ!

 さすがの変態を自認する俺でも衆人環視の中で事に及ぶ趣味は無い!

 というか絶対にイヤだ。

 ひょっとして北大路提督はこれを見越して?!

 北大路花火、やはり恐ろしい子…。

 

 「ふっ、嫁入り前の娘が何をしている。感心出来る事ではないぞ(笑)。」

 せっかくのチャンス、せっかくのチャンスが(血涙)…。

 

 「対価など要らん。あの二人を救いたい、それだけで十分だ。花火のそれは気持ちだけ受け取っておこう。いつか本当に好きな人が出来た時まで取っておけ。」

 涙を呑んで北大路提督の蛮行を止めさせる。

 

 「全く、役に立たないガラクタ共なら指揮官も役に立たないという事か。」

 おや、12股男さんと真宮寺大将の表情が厳しくなったぞ。

 やれやれ、そんな顔をするぐらいなら自分で何か言えばいいのに。

 

 「姉上。それに細川大将殿。お二人は先の無線の何を聞いていらしたのですか。」

 これは意外?!

 藤枝少将が静かに、しかし大きな怒気を孕んだ声を?!

 

 「お前達のために死ぬと分かりながらなお、躊躇もせずに出撃してくれる部下など誰一人としておるまい。」

 思わず乗っかってしまったぜ。

 調子乗りの本領発揮である。

 

 「命令されてイヤイヤ出撃するのが関の山じゃないのか?」

 さすがの大神元帥までもが細川大将と藤枝中将に詰め寄る。

 

 「じゃあアルカディアさん!」

 北大路提督が嬉しそうに胸の前で両手を合わせる。

 さすがフランス育ちの子爵令嬢、仕草の一つ一つがあまりにも可愛らしくて昇天しそうになる。

 天秤が神崎すみれ嬢から北大路花火嬢に大きく傾いた。

 

 「うむ。」

 出撃を了承した途端、北大路提督が飛びついてきた。

 くっ、手を出せないというのが分かったら途端に大胆になりおってからに。

 

 「それと神崎中将閣下、出撃にあたって修復バケツ18杯を貰えるか?」

 いくらヤッタラン妖精とドクター妖精とはいえ18名の手当ては相当厳しい。

 万一に備え、ブンカーにはバケツ20杯が常備されているらしく、神崎提督はどうかあの子達をお願いしますとバケツを託してくれた。

 

 「アルカディア号さん、本当ですか? しかしどうやってここから出撃を?」

 12股男さんが心配そうに聞いてくる。

 

 「一度水中に入ってそのまま地中を進む。瓦礫を抜けた時点で水中に出てそこから飛び出す。岩盤は堅そうだが何とかなるだろう。」

 多分だけど…。

 

 「神崎中将、ブルーメール少将、お二人の艦娘は必ず連れて帰ろう。それまでには指揮官らしくシャキッとしていろ。それに二人とも…。」

 蛮勇を奮って神崎提督の手を握る。

 うっはー、手白い、指細い、柔らかい、きめ細かい(ただし家事は全くしていないと思われる)!

 

 「いつまでもメソメソしていてはせっかくの美人が台無しだぞ。」

 真っ赤になって怒ったグリシーヌ嬢と違い、神崎提督は嘘のつけない誠実な方はきらいではありませんわ、どうかあの子達をよろしくお願いします、とこちらの手を握り返してくれた。

 くっ、こんな事なら手袋を外しておけばよかったぜ。

 天秤が北大路花火嬢から神崎すみれ嬢に大きく傾いた。

 

 「全員、出来るだけ後ろに下がっていろ。」

 ずっと神崎提督の手を握っていたかったが事態は一刻を争う以上、そうもいかない。

 

 「北大路提督、出撃依頼を。」

 北大路花火が子爵令嬢としての顔から提督としての顔に変わる。

 

 「は、はいっ! 海賊船、いえ宇宙海賊船アルカディア号、その最大戦速を以て横須賀第一鎮守府、並びに横須賀第二鎮守府の艦娘達の救援を要請しますっ!」

 剣を抜き胸の前に構え踵を合わせる。

 

 「花火、両艦隊を撤退させるのはイイが、別にあれを倒してしまっても構わんのだろう?」

 おっと、いかん。これは違う作品の某弓兵だったわ(笑)。

 

 「え、ええ。ですが決して無理はしないで下さい。」

 北大路提督が心配そうな目を向けてくる。

 恐らく俺が身動きの出来なくなった余所様の艦娘さん達におかしな事をしないか不安なのだろう。

 

 柱島第七泊地の時と違い、今回は間違いなく厳しい戦いになるのは間違いない。

 少しでもトラブルを避けるため動力伝達関係に無茶をさせないよう手順を踏んでいく。

 

 「カタパルトじょうしょうかくマイナス40ど。」

 「バランスせいじょう。」

 「ぜんかいろシールドはいじょ。」

 「ぶそうシステムへの どうりょくかいろ、セイフティオフ!」

 「シリンダーないの しんどうすう まいびょう さんおくろくせんまん すべてせいじょう。」

 「すいりょくでんどうかん へいさべん かいじょ。じんこうじゅうりょく はっせいかいし!」

 「ライフルレーダーにゅうりょくオン!」

 両翼のスラスターに出力を回し浮き上がる。

 よし、問題はないようだ。

 

 「スロットル びそくぜんしん から ぜんかいへ!」

 両腕を合わせてアルカディア号の船体形状を形作る。

 これで岩盤を割れるはずだ。

 

 「アルカディア号、発進!

 そのまま、海中から海底に突っ込んだ。

 いやあ、これやってみたかったんだよ(笑)。

 さすがに気分が高揚します!

 




※ついにアルカディア号が動きました。
 各地の提督さん達はその力に仰天することになります。

※深海棲艦鬼姫級12隻さん達、今ならまだ間に合うぞ。逃げるんだ!


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第34話 出撃編1(艦娘側:一鎮明石3)

※今回と次回は(も?)短めです。


 青葉さんがブンカーの外に待機させた水偵からの映像を確認します。

 未だアルカディア号さんの姿は確認できません。

 しかし、見事に出入口が崩れ落ちた瓦礫で封鎖されていますねぇ。

 これはかなり修復が厄介そうです。

 

 ん、あれは?!

 青葉さんが水偵の高度を海面ギリギリまで下げます。

 来ました、アルカディア号さんです!

 海が大きく盛り上がり、水面を割って飛び出てきました。

 どうやら脱出に成功したようです!

 

 さあ、編集担当者としての腕の見せ所ですよ。

 まずはBGM。

 EVA‐02なんかいいですねぇ、いや緊迫感を出すならNervや使徒襲来の方がピッタリでしょうか?

 逆襲のシャアに使用されているνガンダムのメインテーマも捨てがたいです。

 うーん、迷いますが、やはり海賊とくれば『彼こそ海賊』、これで決まりではないでしょうか?!

 夕張も先程、頂いたアルカディア号さんの模型をもとにした画像を差し込んできます。

 水面を割って大空に飛び出すアルカディア号さん、その背景には宇宙海賊船アルカディア号が透かしで飛びパイレーツオブカリビアンの『彼こそ海賊』が流れる…。

 

 うん、我ながら上手く編集できたんじゃないでしょうか?

 ま、アルカディア号さんはここまでやれなんて一言も言ってないんですけどね!

 ちょっと悪ノリし過ぎちゃいました(笑)。

 って、早い早い! 早いですよ、水偵が追い付けません、待って下さ~い(泣)!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 ようやくアルカディア号さんに追いついた水偵からの映像は凄惨なものでした。

 片足を失い血まみれでピクリとも動かない飛龍さんを大鳳さんが抱えています。

 その大鳳さん自身も大破状態でかろうじて意識を保っている状態です。

 

 第二鎮守府の赤城さんに肩を貸してもらって何とか立っている第一鎮守府の赤城さん。

 その第二鎮守府の赤城さんもよく見れば左手が無く弓を引けない状態です。

 

 肩で息をする二人の瑞鶴さん。両名とも中破になりながら、なお矢面に立ち続けています。

 もう一人の大鳳さんと共に三人で航空戦を展開し続けていたのでしょう、装甲空母の面目躍如といったところでしょうが、かなり消耗しているのが見て取れますね。

 

 さらに大破した翔鶴さんが意識を失いかけている武蔵さんに必死で呼びかけています。

 

 メイン火力となって敵戦艦4隻と殴り合っていたのであろう大和さん・金剛さん・榛名さん。

 金剛型のお二人はその高速性能を活かし未だに中破で止まっていますが大和さんが大破状態です。

 気丈に振舞っていはいますが、額から血を流し立っているだけでも限界なのではないでしょうか?

 重巡棲姫と駆逐棲姫の姿が見えないという事は撃沈に成功したのでしょうが、対潜水艦部隊の六名は沈んではいないものの全員海上に倒れている状態です。

 

 しかし、どうしたというのでしょうか?

 現在、アルカディア号さんを挟んで両陣営とも睨み合ったまま微動だにしない状況です。

 

 「オマエハ イッタイ ナニモノ イヤ ナンナノダ?」

 その緊迫した中、戦艦水鬼が口を開きました。

 




※誰も沈まないうちにアルカディア号が戦場に到着したようですね。

※深海棲艦側がアルカディア号にその存在を問いかけました。
 本来なら居るはずの無い、居てはいけない存在なのを本能的に
 感じ取ったのでしょうか?


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第35話 出撃編1(アルカディア側6)

※お待たせしました、アルカディア号が戦闘海域に到着しましたよ。

※鬼姫級12隻よ、逃げる準備は十分か?


 くっ、固い!

 そりゃ地盤の柔らかい所に軍事施設を作る訳ないのだが…。

 岩盤を割りながらブンカーの外を目指して突き進む。

 まるでゲッターロボGのゲッターライガーになった気分だ。

 計算では後5メートル進めば地下とはいえブンカーの外のはずである。

 距離をもう一度、確認して一気に上を目指す。

 海底を割って水中へ、そして水中から水面へと飛び出す。

 よっしゃ、脱出成功だ!

 

 ん、これは?

 アルカディア号のレーダーが電波をキャッチする。

 ああ、明石と夕張か(笑)。もう各地に映像を流してるんだな。

 渋ってたくせにBGMとか背景とか二人ともノリノリじゃねえかァ!

 でもちょっと凝り過ぎだろ(笑)。

 ニヤけながらもフルスロットルで戦闘海域を目指す。

 先の無線内容だと出撃した18名は本当に危険な状態だからだ。

 

 レーダーではとっくに捉えられているというのに肉眼では未だ見えない事にどうしても焦って苛立ってしまう。

 そこで前回と同様にレーダー射撃で艦首ミサイルをぶっ放す手段に出た。

 ミサイルは追尾式である事に加え、軽い分このアルカディア号よりも早いからだ。

 次々と発射されては視界から消えるミサイル12発を祈る思いで見送る。

 40秒ほど経った頃、次々とヤツらの悲鳴が聞こえてきた。

 

 9名分の悲鳴、やはり潜水艦は仕留められなかったか。

 そして十数秒遅れでようやくこちらも戦闘海域に到着。

 18名全員の無事を確認(轟沈者がないだけだが)してホッとする。

 さて海面までの高さは7~8メートルといったところか。

 

 口が開きっぱなしの赤城さん二人と龍驤、目が点の金剛と榛名。

 瑞鶴の頬を引っ張っているもう一人の瑞鶴、反応が無い艦娘達は意識が無いか立っているのもやっとでコチラが見えていないと思われる。

 発進した台羽妖精のスペースウルフ隊が上空から修復バケツを艦娘達にぶっ掛け始めた。

 そうそう、今なら無料オプションで白いのもぶっ掛け追加コース有にできますよー。

 お申込みお待ち致しております(笑)。

 

 (女神:うわ、引くわぁ…。)

 

 艦娘達の傷が白煙を上げながらものすごい勢いで塞がっていく。

 ええー、修復バケツってあんなに凄いシロモノだったのか?!

 

 あんれ?

 全員が歯を食いしばってこちらを睨んでいるんですけど?

 イヤな予感しかしない。

 俺また何かやらかしたんだろうか?

 

 意識の戻った『武蔵』、視力の回復した『大和』に片足が再生した『飛龍』、その他の水雷戦隊のメンバーもコチラに気付いたようだ。

 スラスターの出力を調整して海上に降り立つと彼女達を守るように前に出る。

 面白いのは深海棲艦側も固まっている事だ。

 戦艦水鬼・戦艦棲姫・空母水鬼・空母棲姫それぞれ2名、果ては潜水棲姫に新潜水棲姫までが浮上してこちらを見ている。

 戦艦勢は4隻とも小破、空母勢は水鬼1名が小破で残り3人は中破、潜水勢は二人とも小破である。

 さすがは戦艦、装甲の厚さは伊達ではないという事か。

 重巡棲姫と駆逐棲姫がいないという事は撃沈に成功したのか?

 

 「オマエハ イッタイ ナニモノ、イヤ、ナンナノダ?」

 戦艦水鬼が口を開いた。

 




※ミサイルの数と悲鳴が合いませんが、重巡棲姫は艦娘達が撃沈しています。
 12名-潜水艦2名-重巡棲姫=9名です。

※高速修復材は凄すぎる性能のため、原液で使用すると激痛を伴います。
 通常はバケツ一杯(5L)を風呂桶(200L)にいれるので、
 そりゃ濃過ぎですよね。

※横須賀艦娘さん達、特に二鎮の艦娘さん達はアルカディア号の姿を
 見ていないので余計に混乱していますね。
 一鎮の艦娘さん達もアルカディア号の戦闘見るのは初めてなので、
 仰天する事になります。

※次回はアルカディア号が到着するまでの横須賀二鎮視点になるので、
 アルカディア号視点が一話飛びます。
 ちょっとズレが発生したので足並みを揃えるためです。


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第36話 出撃編2‐1(艦娘側:ニ鎮金剛)

※アルカディア号が到着するまで横須賀第二鎮守府のメンバーはどうしてたのでしょう
 か?

※旗艦なのに財布、じゃなかった無線機を忘れた愉快な金剛さん視点です。

※2020年06月19日 章分けとタイトルを修正しました。


 「さあ、敵艦隊が見えましたヨー! この横須賀第二鎮守府に手を出したおバカさん達には痛い目を見てもらわないとネー!」

 

 「はい、お姉さまの言う通りです! 勝手は榛名が許しません!」

 

 「さあ始めるわ! 航空艤装を全面的に近代化したこの瑞鶴、普通の空母だとは思わないでね。」

 

 「さあ友永隊、頼んだわよ!」

 

 「全航空隊、発艦始め!」

 

 「第一機動艦隊、旗艦大鳳、出撃します!」

 ウソですネ。

 みんな、掛け声とは逆に怖くて仕方が無いのが手に取るように分かりマス。

 いや、むしろ鬼姫級4隻が横一列に並んだ姿を目の当たりにして背筋が凍らないヤツなんているのでしょうカ?

 さらに横須賀第一鎮守府に向かう鬼姫級6隻までもが近くにいマス。

 幸いにもヤツらはコチラを一瞥しただけで、私達には目もくれずに横須賀第一鎮守府を目指すらしいデス…。

 デモ、今は他所の心配をしている場合では無いですネ。

 目の前にいる『戦艦水鬼』・『戦艦棲姫』・『空母水鬼』・『空母棲姫』と正対し、空母勢の開幕航空戦の行方を見守りマス。

 

 「くっ、なんてデタラメ!」

 「こんなの馬鹿げてるわ!」

 「うそ!」

 「金剛さん、榛名さん、申し訳ありません。」

 唇を噛む空母勢4名。

 

 「ノープロブレム! 優勢が取れなかっただけで制空争いでは負けていないはずデース。さあ、榛名いきまショウ!」

 空元気で自らを無理矢理、奮い立たせマス。

 しかし『赤城改二』・『大鳳』・『翔鶴改二』・『瑞鶴改二』の4空母を投入しても航空優勢が取れないなんて相手の制空値は一体どれだけ馬鹿げているのカ?

 考えるだけでも恐ろしい、いや考えたくないデス。

 チョット待って下サイ、あれは?

 

 「飛龍、瑞鶴ッ、避けるデース!」

 

 「「えっ?」」

 上を見上げる二人。

 違ウ、そうではありまセン!

 その瞬間、海面下に糸を引いてきたモノが二人に突き刺さり水柱が上がりマシタ。

 

 「飛龍さん、瑞鶴さん!」

 榛名が駆け寄りマス。

 どうか、どうか無事でいてクダサイ!

 

 「もう! 私が被弾するなんて!誘爆を防いで!甲板は大丈夫ね。まだまだ戦えるわ!」

 

 「やられた…、誘爆を、防い、で…。」

 飛龍が、片足を失って?!

 これでは傾斜回復はもう無理デスネ。

 

 「飛龍、下がるデース! もうアナタは戦えまセン!」

 その時、水中から背筋の凍るような声が響き渡りマシタ。

 

 「フフ、キタノネェ、エモノタチガァ!」

 「アナタタチハ、トオサナイ、カラ。」

 

 「潜水棲姫に新潜水棲姫?!」

 榛名だけではありまセン、全員の顔が恐怖に染まりマス。

 横須賀第一鎮守府へ向かう相手艦隊だけではなく、この横須賀第二鎮守府を相手取る艦隊も六隻で編成されていたというコトですカ?!

 

 今のは開幕雷撃。

 という事はもう一度、あの魚雷が撃ち込まれてきマス。

 夜戦までいけばさらにもう一回。

 これはタダでは済みまセン。

 

 「金剛、榛名! 他も無事か?!」

 龍驤?!

 一体どうしてここニ?

 

 「相手の艦種編成が分からんまま出撃するアホがおるかいな! せやからこないな事になるねん!」

 Oh…、もっともデス。

 後ろにいた対潜番長の五十鈴と由良、皐月が爆雷をバラ撒きますガ…。

 

 「ダメだわ、単横陣がとれない分、相手は小破どまりよ!」

 

 「そんな!」

 

 「泣き言は後や! 来るで、今は回避に専念せえ!」

 龍驤が指示を出しますが、一人また一人と装甲の薄い水雷戦隊のメンバーが一撃大破に追い込まれていきマス。

 

 ほんの少し離れた所では横須賀第一鎮守府の迎撃部隊が交戦に入ったようで、そちらもかなり旗色が悪いですネ。

 赤城が、そして翔鶴を庇った武蔵がいとも簡単に無力化されてしまいマシタ。

 

 こうなったらワタシも覚悟を決めなくてはイケマセン。

 たとえこの身がどうなろうと横須賀に相手艦隊が到達した際に少しでも相手を消耗させてみせマス!

 瑞鶴も提督の撤退命令を拒否しました。

 

 「瑞鶴、ナゼ撤退命令を拒んだのデスカ! あなたは生きて帰って横須賀第二鎮守府の航空隊と空母を導く役目があるのですヨ!」

 

 「今、ここで撤退したって肝心の横須賀第二鎮守府が陥落してしまったら意味が無いじゃない。ブルーメール提督や他の皆を危険な目にあわせる訳にはいかないわ!」

 

 「そうでしたカ。悪いですネ、ワタシがダメなせいで…、アナタ達まで巻き込む破目になってしまいマシタ…。」

 ワタシは旗艦失格デスネ。

 

 「もう、金剛さんたら。まだ帰れないと決まったわけじゃないでしょ。」

 

 「いまさらそんな事は言いっこなしですよ、金剛さん。」

 

 「そうです、あなたにはずっと私達機動部隊の護衛をしてもらってきました。感謝こそすれ誰も貴女がダメだなんて思っていません。」

 

 「謝るのは…、イテテ、私の方ですよ、あんな潜水艦に…、やられるなんて。」

 

 「榛名はいつもお姉さまと一緒ですから!」

 こんな不甲斐ないワタシに付いて来てくれるというのデスカ?

 視界がにじんで…、しまいマス。

 

 

 

 それからどれくらい経ったでしょうカ?

 いつの間にか横須賀第一鎮守府と横須賀第二鎮守府艦隊との距離は無くなり、自然と共闘となっていまシタ。

 デスガそれは相手もそうだというコト。

 鬼姫級12隻、それは単純に6隻の鬼姫×2ではなく、3倍いや4倍もの力となって私達に襲い掛かってきマス。

 肩で息をする二人の瑞鶴、大破した横須賀第一鎮守府の赤城に肩を貸す横須賀第二鎮守府の赤城。

 そのニ鎮の赤城も左手がありまセン。

 ワタシの後ろにいる大量出血で動けなくなった飛龍を抱える大破した大鳳。

 膝をつく砲塔のへしゃげた榛名。

 水雷戦隊の6名は言わずもがなですネ。

 

 顔を上げると空母水鬼の艦載機と戦艦棲姫の主砲がこちらを指向するのが見えまシタ。

 デスガ飛龍と大鳳の事を考えると避ける訳にはいきまセン。

 提督…、どうか武運長久を。

 私、ヴァルハラから見ているネ…。

 

 「金剛お姉さまっ!」

 妹の声が聞こえマス。

 榛名、アナタは生きて帰るのですヨ…。

 




※アルカディア号が到着するまでもう少し掛かりますので、次も艦娘側のお話に
 なります。


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第37話 出撃編2‐2(艦娘側:ニ鎮榛名)

※お待たせ致しました。本来ならアルカディア号側の話になるのですが、足並みが揃わなくなったので…。



※2020年06月22日 一部修正


 空母水鬼の艦載機と戦艦棲姫の主砲が金剛お姉さまを捉えました。

 なのにお姉さまは避けるつもりが無いのか動こうとしません。

 どうして?!

 ハッ?!

 お姉さまの後ろには意識の無い飛龍さんを抱えた大鳳さんが!

 いけない、お姉さまはそのまま盾になるつもりです!

 

 「金剛お姉さまっ!」

 口の端を釣り上げる戦艦棲姫。

 全てがスローモーションに見える中、戦艦棲姫の主砲から尾栓を閉じる音が聞こえました。

 思わず手を伸ばしますが、僅か数メートルの距離が縮まりません。

 間に合わないのはわかっています。

 それでも榛名は、榛名はっ!

 

 と、突然その戦艦棲姫と空母水鬼が叫び声を上げたかと思うといきなり小破と中破状態になって海面をバウンドしながら転がっていきました。

 それだけではありません。

 残りの鬼姫達も次々と爆炎に包まれ海面に叩き付けられていきます。

 天性の勘か、『駆逐棲姫』は辛うじて何かを躱したようですが、Uターンして戻って来たその細長い何かが無防備な背中に突き刺さりました。

 爆炎が晴れると彼女の姿は…、もう…。

 それにしても一瞬見えたあれは何だったのでしょう?

 魚雷のようなものが飛んできたように見えましたが。

 

 「人が! 人が宙に浮いて?!」

 戦闘中にもかかわらず、五十鈴さんが上を見上げてポカンとしています。

 真上で聞こえる噴進音に榛名も上を見上げると本当に黒い服を着た人が!

 さらにその人は見た事も無い艤装を纏っています。

 後ろにある艤装は帆船のような板張りで出来ていますが、船体と思われる部分は瑞鶴さんと同じような緑色です。

 その船首には左右に分割されているとはいえ大きな髑髏が!

 

 「何…、あれ?」

 

 「ブンカーにいた人だと思うけど?」

 

 「一鎮の?」

 

 「うん、男の人だけど…。」

 

 「男の人? まさかぁ。そんな訳無いじゃ…、いひゃい(痛い)! やるなら自分でやりなさいよ!」

 一鎮の瑞鶴さんがニ鎮の瑞鶴さんの頬を引っ張りました。

 見てる方は瑞鶴さんがゲシュタルト崩壊しそうです。

 さらにその人からバケツを抱えた噴進式の航空機が発艦してきました。

 助かりました、あれは高速修復材です。

 

 って、嫌な予感がします…。

 ああっ、ヤッパリです。

 原液をそのまま掛けるなんて何て無茶を?!

 

 痛い痛い痛いっ!

 そんなの怪我人が濃縮されたオキシドールに浸かるようなものです。

 轟沈の心配こそ無くなったものの、思わず睨み付けてしまいました。

 

 「ヘーイ、榛名。あれは一体何デース?」

 痛みが治まってきたのでしょう、金剛お姉さまが訊ねてきました。

 

 「わ、分かりません、ですが榛名には男の人に…。」

 

 「ウソ、あの人、本当に戦えるの?」

 

 「男の人が艤装をへひぇおって(背負って)…、ひょんな(そんな)バヒャな(馬鹿な)。」

 というか一鎮の瑞鶴さん、いい加減に二鎮の瑞鶴さんの頬から手を離した方が良いのでは?

 

 「そんな、ありえません! 艦娘ではなく艦息だとでもいうのですか?!」

 こちらの赤城さんも驚愕しています。

 

 「で、ですがそうとしか考えられません。艦種は伊勢さんや日向さんと同じ航空戦艦では?」

 

 「ただでさえ男の人はツチノコみたいな存在じゃん。なのに艦息子ってどれだけの確率なのよ?」

 

 「わ、私、男の人って初めて見ました。ただでさえ少ない運を使い果たしてしまったのでは…。」

 翔鶴さん、飛龍さん、大鳳さんがヒソヒソと話しています。

 

 「でもあんないい男がピンチに駆けつけてくれたなんて、やっぱりココはヴァルハラかもしれないネー。」

 金剛お姉さまがチョット怖い事を仰っていますが、榛名もいえ皆さんも同じ意見です。

 背が高くイケメン、おまけに体型に生える(意味深)、いえ映える漆黒の衣装、その胸元にある大きな髑髏。

 そして一撃で鬼姫達を小中破させてしまう戦闘力。

 榛名、キュンキュンです!

 

 「あれは…、アルカディア号。来てくれたのか。」

 意識を取り戻した一鎮の武蔵さんが呟きました。

 

 「アルカディア? 理想郷という意味ですネ。英国(イングランド)ではアーケーディアとイイマース。」

 アルカディア号?

 それがあの男性艦のお名前なんでしょうか?

 

 「柱島第七泊地の提督、北大路花火大佐殿がお連れしている船だ。」

 

 「何やて! ほな噂はホンマやったんか?!」

 

 「「「え?! じゃああの人が噂の男性艦(ですか)!」」」

 龍驤さんと飛龍さん、いえニ鎮の全員がようやくそこに思い当たりました。

 

 「オマエハ イッタイ ナニモノ イヤ ナンナノダ?」

 私達を守るべく前に出たアルカディア号さんに戦艦水鬼が問いかけました。

 

 「宇宙海賊船アルカディア号。」

 

 「アルカディアゴウ?」

 

 「そうだ、宇宙海賊キャプテンハーロックの船だ。この18名を連れ帰るためにここに来た。」

 

 「オマエガ ナンナノカ ワカラナイシ ナンデモイイ。ダガ、コノセカイニ オマエガイテハ イケナイコトダケハ ワカル。」

 言うが早いか轟音と共に戦艦水鬼の主砲が火を?!

 それを合図にもう一人の戦艦水鬼、戦艦棲姫達が次々とアルカディア号さんに一斉射を行っていきます。

 

 「Oh! ジーザス!」

 

 「そんな! 私達のために!」

 

 「これでは北大路提督殿に申し訳が!」

 金剛さんに翔鶴さん、武蔵さんの悲鳴が響きました。

 いくら噂の戦闘艦といえどもこれでは!

 

 え? ちょっと待って下さい。

 今、煙の中から残念だったなという声が聞こえた気がしましたけど…。

 爆炎が晴れてくると、そこには不敵な笑みを浮かべ仁王立ちするアルカディア号さんの姿が!

 

 「ウソやろ?! 何で小破どまりなんや?!」

 

 「馬鹿な! 有り得ん!」

 龍驤さんや武蔵さんの言う通りです。

 だって全ての攻撃がクリティカルヒットしていたんですよ?!

 さらにアルカディア号さんは戦艦水鬼の主砲一基を掴むと左右の砲身を捻じ曲げてそのまま蝶結びにしてしまいました。

 これを見た全員の口があんぐり開いたままに…。

 

 アルカディア号さんが前に出ました。

 そのまま睨み合いが続きます。

 

 「戦う者であれば危険を顧みず、死ぬと分かっていても行動しなければならない時がある。」

 「負けると分かっていても…、戦わなければならない時がある。」

 彼がさらに一歩踏み出します。

 

 「この18名はそれを知っていた。」

 あ、ああ…。

 

 「これ以上、全員に掠り傷一つけるな! 無事に横須賀へ帰すのだ!」

 もう、もうダメです。

 榛名、歓楽陥落です…。

 

 「「「「了解!」」」」

 榛名の陥落を余所にアルカディア号さんのお連れしている妖精さんが返事と共に彼の艤装へと配備に付きます。

 そして上空では相手艦載機とアルカディア号さんから発艦した噴進式の航空機隊が航空戦に入りました。

 あの不思議な航空機隊は一体何でしょう?

 不思議な音と共に発射された光線が相手艦載機を次々と撃墜していきます。

 さらにアルカディア号さん自身からも吹き上がる凄まじい火の逆スコール。

 それが100機近くあった相手艦載機を三分かからずに全滅させてしまいました。

 

 「ちょ、あの対空火器と航空機隊どんだけデタラメなのよ?!」

 

 「もう私達、要らないんじゃないかな?」

 飛龍さんと瑞鶴さんが弓を背中になおしてしまいました。

 

 「ゼ、ゼンメツ?!」

 

 「90キノカンサイキガゼンメツ?! 3プンモタズニカ?」

 

 「タカガ キズツイタ イッセキノ センカンニ カンサイキガ90キモ?!」

 

 「バ、バケモノカ?!」

 相手空母勢の悲鳴が!

 そりゃそうでしょう、だって90機ですよ?

 それを二分半程で壊滅させてしまうなんて榛名もこの目で見ていなければとても信じられなかったでしょう。

 

 「あの噴進弾、相手を追尾してるわ!どういう原理なの?!」

 さらに信じられないのが大和さんが気付いたように、アルカディア号さんの対空兵装に追尾式の噴進弾が装備されている事です。

 相手艦載機は逃げても逃げても追いかけてくる噴進弾に最後は捕まり、あるいは逃げ切ろうと回避運動中に味方同士衝突したり、噴進弾に気を取られている中、『すぺえすばすたあ』という対空兵装や噴進式航空機隊の餌食になったりして瞬く間に数を減らしていきました。

 

 ですがそれ以上にもっと信じられない事が、いえ信じたくない事態が起きたのです!

 




※ニ鎮の金剛さんは少し気弱なところがあるものの、妹想いな所は他の金剛さんと変わりません。

※一鎮の艦娘さん達と違い、二鎮の艦娘さん達はアルカディア号を直接見てはいませんのでかなり驚く事に。

※この世界の男性は『男性保護法』なるもので過保護に守られているので、軍属の方は片手で数えられるぐらいしかいません(軍隊なんてとんでもない!)。

※弓を背中になおす→なおすとは関西弁で元の所に戻すという意味です。修理ではありません(汗)。

※横須賀に戻ったこの(ニ鎮)榛名さん、一鎮の榛名さんと刃傷沙汰になりかけるのはまた別のお話(笑)。
 気が向いたりリクエストがあればまた…。


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第38話 出撃編2(アルカディア側7)

※すいません、勤務の都合上なかなか続きが投稿できずな上、
 短くて申し訳ありません…。


 「オマエハ イッタイ ナニモノ イヤ、ナンナノダ?」

 海面に降り立った俺に戦艦水鬼が問いかけてきた。

 

 「アルカディア号。」

 何だかんだと聞かれたら答えてやるのが世の情けって、某三人組も言ってたし(笑)。

 

 「アルカディアゴウ?」

 

 「そうだ。この18名を回収するためここに来たのだ。」

 この分からず屋共の回収が今回の命令なんです。

 いくら残された者のためとはいえ、命令無視ダメ、ゼッタイ。

 ましてや両提督とも軽い錯乱状態だった事を考えれば尚更である。

 カワイ子ちゃんを困らせてはいけないのだ。

 ちなみにこれは俺の人生訓でもあります!

 

 「オマエガ ナンナノカ ワカラナイシ ナンデモイイ。ダガ、コノセカイニ オマエガ イテハ イケナイコトダケハ ワカル。」

 言い終わるか終わらない内に戦艦水鬼のヤツが主砲をぶっ放してきやがった!

 更に次々と残りの戦艦達による砲撃と空母勢による空爆(浮いているおかげで魚雷は無かった)が加えられる。

 なんか俺、よっぽど恨まれてるのか?

 全部、クリティカルヒットなんですが…。

 

 (てき おおがたかんの ほうだん およびばくだん たすう めいちゅう! あるかでぃあごう、せんたい しょうは!)

 有紀妖精からの報告が上がってくる。

 くそッ、小破してしまったか。タダで、イテテ…、済むと思うなよ?

 

 「Oh! ジーザス!」

 「そんな、私達のために!」

 「これでは北大路提督殿に申し訳が!」

 金剛さんや翔鶴さん、武蔵さんの焦る声が爆炎越しに聞こえてくる。

 まだだ、まだ終わらんよ(赤い人風)!

 マゾーンやイルミダスとの死闘を繰り広げてきたアルカディア号の装甲を侮ってもらっては困る(笑)。

 

 「残念だったな。」

 煙の中から戦艦水鬼に声を掛ける。

 消し飛んだと確信していたのだろう、信じられない顔をする戦艦水鬼。

 奇襲の返礼として主砲一基を掴んで左右の砲身を蝶結びにしてやった。

 うん、ちょっと可愛くなったよ?

 

 あと、せっかくバケツを被ってもらったのにまた中破や大破されてはたまったもんじゃない。

 彼女達を守るために前に出る。

 

 「ヒッ!」

 戦艦水鬼が後ずさった。

 何これ?

 俺、深海さん達にも嫌われてるの(泣)?

 あと、キャプテンハーロックがこんな時にピッタリな事を言ってた気がする。

 えーっと何だっけ?

 

 ………。

 ……。

 …。

 マズイ、早く思い出さないと、傍から見たら妙な睨み合いにしか見えんぞ。

 ハーロック名言集を必死でめくる。

 あ、これだ!

 

 「戦いに身を置くものであれば危険を顧みず、死ぬと分かっていても行動しなければならない時がある。負けると分かっていても戦わななくてはならない時がある。この艦娘達18名はそれを知っていた。」

 思い出せて一安心(笑)。

 

 「これ以上、あの18名にかすり傷一つ付けるな! 無事に横須賀へ帰すのだ!」

 

 「「「「了解!」」」」

 アルカディア号クルー達が頼もしい返事を返してくれる。

 直後、台羽妖精率いるスペースウルフ隊が深海棲艦の空母勢の艦載機と航空戦に入った。

 いくら相手が鬼姫級の艦載機多数とはいえ、こちらのスペースウルフ隊はジェットとレーザー光線である。

 さらにアルカディア号のスペースバスター&対空ミサイルとのコンビネーションの前に二分半程で壊滅してしまった。

 

 「ちょ、あの対空火器と航空機隊どんだけデタラメなのよ?!」

 

 「もう私達、要らないんじゃないかな?」

 しまった、またやり過ぎたか?

 飛龍さんと瑞鶴さんが自分達の存在意義に疑問を感じてしまったぞ。

 

 「ゼ、ゼンメツ?!」

 

 「90キノカンサイキガゼンメツ?! 3プンモタズニカ?」

 

 「タカガ キズツイタ イッセキノ センカンニ カンサイキガ90キモ?!」

 

 「バ、バケモノカ?!」

 四人そろって何コンスコンやってるんだ?

 どうやら相手空母勢はファースト世代らしい(笑)。

 敵でなければ熱く語り合えたかもしれないのに残念だわ。

 

 が、やはりここでヤツらにもブレーンが現れた事を知る事になった。

 




※某三人組:三人とありますが、正しくは二人と一匹です。

※まだ終わらんよ:赤い人がシロッコと戦った時に出た名言。

※戦いに身を置くものであれば:本来は『男なら』です。

※90キノカンサイキ:これも本来は『12機のリックドム』です。
 ホワイトベースと白い悪魔に対してコンスコンが言い放ちました。


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第39話 出撃編3(艦娘側:神崎すみれ1)

※投稿間隔が空いてしまい申し訳ありません。
 その分、少し長くなっていますのでお許しを。<(_ _)>


 アルカディアさんが戦闘海域に到着しましたわ。

 お願いです、どうかどうか…。

 全員を無事に連れて帰って下さいまし。

 ブンカーにある65インチのモニターを全員で食い入るように見つめます。

 あ、当然このモニター我が神崎重工製でございましてよ?

 ですがこの時、私はこの映像、誰が撮っているのかしらとは思いましたが、まさかウチの青葉・明石・夕張の仕業だとは夢にも思いませんでした。

 そしてこれが全鎮守府や泊地、警備府、基地にまで中継されているとも…。

 

 「一体どうなっているの?! あの航空機隊の武装、光線兵器よ!」

 

 「それだけやあらへん、あの噴進弾も追尾式やで!」

 アルカディアさんの対空兵装と航空隊にマリアさんと紅蘭さんは驚きを隠せない様子ね。

 無理も無いですわ、本格的な噴進技術も光線兵器も追尾システムも全てがまだ実用化されていないのですから。

 私も何度目を擦ったか分かりませんわ。

 尤も一番驚いて悲鳴を上げていたのは100機近くあった艦載機を三分経たずして壊滅させられた相手空母勢でしたわね。

 コチラでもそこかしこから信じられないとか有り得ないとか是非うちに引き入れたいとか聞こえてきますわ。

 あの細川や藤枝まで帝都防衛にとか呉一鎮にとか聞いて呆れますわ。

 自分達が先程まで彼に何と言っていたのか覚えていないとは言わせませんわ。

 

 「アルカディアさん、やっちゃって下さい!」

 

 「よーし、いっけぇー!」

 モニターの前ではエリカさんとアイリスさんがイケイケになっています。

 

 「これならいけるかもしれねえぜ!」

 カンナさんまで…。人の気も知らないで全く能天気な。

 

 『戦艦全員でタイミングを合わせて一斉射を行いなさい。』

 圧倒的なアルカディアさんの力に喜んだのも束の間、突然ゾッとするような冷たい声が聞こえました。

 モニター越しでもハッキリと感じ取れる冷酷さ、妬み、敵意、いえ殺意に全員の表情が一気に険しくなります。

 特に大神元帥とさくらさんの表情が険しいですわね。

 花火さんとお連れの翔鶴さんに至っては真っ青になっています。

 あの四人、何か御心当たりがるのでしょう。

 そうでなければあのような反応は有り得ません。

 

 「大神元帥さん…。」

 

 「うむ、間違いない。」

 何かの間違いであって欲しいとする花火さんですが、大神さんの返答は厳しいモノでしたわ。

 

 「そんな…。」

 さくらさんも悲痛な面持ちですわ。

 これはハッキリさせておくべきですわね。

 各地の司令官も集まっている事ですし聞いてみましょう。

 

 「花火さん、あなた今の声が誰かご存じなのね?」

 

 「はい…。影山サキ提督です。」

 影山サキ…。

 『前』柱島第七泊地指令、今の細川大将や藤枝中将に並ぶ、いえそれ以上の外道。

 ブラック鎮守府の提督達は往々にして姉妹艦を盾に取る事が多いですが、実際に解体まで行うのはそこまで多くありません。

 しかし彼女はそれを日常的に行っていました。

 この事からも彼女の異常ともいえる冷酷さと残虐性が浮かび上がってきます。

 演習で出向いた当横須賀第一鎮守府の長門が、あんなのは解体ではなく殺害だったとも…。

 

 「今の柱島第七泊地提督は花火さん、貴女です。それにもう彼女は提督ではありません。」

 

 「そうだ。前提督の亡霊におびえる必要など微塵も無い。」

 怯える花火さんにさくらさんと大神さんが声を掛けます。

 

 「でもあの人は陸戦隊送りになったはずですわ。それが何故?」

 

 「彼女が所属した陸戦隊は全滅したんだが、それは深海棲艦に寝返った彼女の仕業だという話があるんだ。」

 

 「何ですって?!」

 聞かなければ良かったですわ。

 提督地位の剥奪と陸戦隊送りに関してあの人が並々ならぬ恨みを海軍に抱いていた事は私を含め全員が知っていますが…。

 

 「単なる噂話だと思っていたが…。影山サキ、彼女は我々の思っている以上だったという事か…。」

 彼女の行動を読めなかった、あるいは軽く考えていた後悔でしょうか?

 大神さんが悔しそうに呟きました。

 1年前、憲兵に両腕を固められ、無理矢理退出させられていくときの彼女の目と表情は私も未だに忘れられません。

 人はあそこまで憎しみを顔に出せるものかと。

 

 「させませんっ!」

 

 「黙って見てると思ったら大間違いネ!」

 モニターの向こうでは再びアルカディアさんを捉えようとする戦艦水鬼と戦艦棲姫達に大和とニ鎮の金剛が主砲を向けます。

 ですがそれよりも早くアルカディアさんの主砲が火を噴きました。

 

 「パルサーカノン発射!」

 アルカディアさんの号令と共に三連装主砲三基から炸薬音とは違う独特の音と共に三本の光の矢が伸びていきます。

 次々に一撃大破に追い込まれる戦艦水鬼と戦艦棲姫。

 まさに恐るべき威力です。

 花火さんが彼と共闘関係を築いてくれた事とそのおかげで彼が敵に回らなかった事を神に感謝すべきでしょう。

 

 「よっしゃ、いちごうじゅうばくらい(1号重爆雷)!」

 アルカディアさんが何か命じると、おちょぼ口の眼鏡を掛けた妖精さんがポイッと何かを鬼姫達の後ろに投げ捨てました。

 山なりの弧を描いて着水したそれはそのまま海中に沈んでいきます。

 

 数秒後、轟音と共に鬼姫達が立っていた海面が盛り上がり始めました。

 しかもただ盛り上がるだけではありません。

 鬼姫達ごと持ち上げて?!

 すぐにそれは天まで届くような巨大な水柱となり滝のような雨となって海水が辺りに降りそそぎます。

 

 「ば、爆雷?! たった一発なのに何て威力なの!」

 

 「だが潜水棲姫と新潜水棲姫の悲鳴が聞こえなかった。ちゃんと仕留められたのか?」

 

 「大丈夫だ、グリシーヌ。あれでは生き残る方が難しいだろう。恐らく悲鳴すら上げる事が出来なかったに違いない。それに生き残っていたら五十鈴や由良が見逃すはずが無いからね。」

 

 「だね。ありゃ自分に何が起こったかさえ分からなかったろうさ。」

 大神さんとロベリアさんが頷き合います。

 

 『あら、残念。先にやられちゃった(笑)。』

 またあのゾッとする声が響き渡りました。

 

 「信じたくはなかったが…。やはり影山君か!」

 

 『あら、その声は大神さんね。お久しぶり(笑)。』

 武蔵が持つ無線機を通して会話をする二人。

 

 「影山君、何の意図があってかは知らないがこのような事は止めるんだ!」

 

 『そんなのあなた達への復讐以外なにも無いに決まってるじゃない。おまけにこの私を陸戦隊送り?! ふざけるんじゃないわよ!』

 今までとは一転してヒステリックに叫ぶ影山サキ。

 

 『まあ、いいわ。また機会と作戦を練り直して各地にお邪魔するから。そうそう、今の私ね、影山サキじゃなくて五行衆の水弧っていうの。覚えておいて下さいネ(笑)。』

 それからはもう影山サキ、いえ水弧の声は聞こえなくなりました。

 

 その間にもアルカディアさんは敵艦を次々と戦闘不能に追いやっていきます。

 当然、彼にも水弧の声は聞こえていたのでしょうが、全く動揺する気配がありません。

 特に圧巻でしたのは『移乗白兵戦用アンカーチューブ』とやらを側頭部に打ち込まれた空母棲姫二隻。

 こんなものが刺さった所で痛くも痒くもないと言っていましたが、突然白目を剥いて苦しみだすと舌をだらしなく出したまま動かなくなってしまいました。

 周りの鬼姫達も何が起こったのか分からず立ち尽くしています。

 

 「ナノ戦闘員を直接、頭に送り込んで脳を破壊。これが海賊のやり方だ!」

 アルカディアさんは今、何て仰ったのかしら?

 ナノとはとても小さなという単位のはず。

 ミクロの戦闘員を頭の中に送り込んで脳を破壊?

 仰っている意味が分かりません、いえ理解は出来ますのよ…。

 

 「凄いです、まるで今週のビックリドッキリメカですね!」

 未だ半信半疑の域を出ない私と違い、エリカさんは素直に感心していますわ。

 

 「きっとアルカディアさんを小さく小さくしてディフォルメした小人さんが『カイゾク、カイゾク、カイゾク』って行進して乗り込んでいくんですよ。」

 エリカさん、止めて頂けませんこと?

 頭の中でその通りの光景を想像して(出来て)しまいましたわ。

 

 「艦首ミサイル!」

 立ち尽くしている空母水鬼二隻に噴進式空中魚雷(『みさいる』というらしいですわ)が直撃します。

 絶叫と共に沈みゆく空母水鬼。

 どの道、艦載機を壊滅させられた時点で手足をもがれたも同然でしたから、遅かれ早かれですわね。

 空母勢だけではありません。

 彼の主砲に捉えられた戦艦水鬼と戦艦棲姫二隻もあっという間に水底へと姿を消していきました。

 提督全員がアルカディアさんの戦闘力に興奮していますが相手は鬼姫級達ですのよ?

 それを考えると彼は決して敵に回してはいけない存在ですわ。

 アナキン・スカイウォーカーがダースベイダーになってしまったように、彼が道を外してしまったら誰も止める事など出来ません。

 今日、真に話し合うべき案件はこれではなかったかしら?

 

 「ウアアアッ!」

 ついに自分だけになってしまった戦艦水鬼が自棄を起こしたのか、あの巨大な両腕を振りかざしアルカディアさんに向かっていきます。

 アルカディアさん、危ないですわ!

 その巨大な左腕が彼の顔面を捉え…。

 いえ、彼の右手がそれをしっかりと受け止めました。

 

 「クッ、ハ、ハナセ!」

 まさか自慢の怪力を止められるとは思わなかったのでしょう、焦った彼女はもう片方の腕でアルカディアさんを殴り飛ばそうとします。

 が、彼はその手もガッシリと受け止めてしまいました。

 必死の形相で挑む戦艦水鬼と軽く笑みを浮かべるアルカディアさんではどちらに分があるかなんて子供でも分かりますわ。

 ジリジリとアルカディアさんが押し込んでいきます。

 

 「ヒッ、ヤメロ! ヤメテクレ!」

 両腕が胸元まで押し込まれた時、戦艦水鬼が悲鳴を上げてアルカディアさんに蹴りを入れました。

 手四つに組んでいる距離なので彼に避ける術はありません。

 おかげでアルカディアさんが膝をついてしまいましたわ。

 しかし、彼は再びそのまま低い位置で戦艦水鬼の腕を押し込んでいきます。

 上から押し込みに耐える彼に形勢逆転かと心配しましたが、どうやら杞憂のようですわね。

 それにしても許せませんわ、私のアルカディアさんに何という卑怯な手段を!

 

 …。

 あら?

 今、私なにを?

 私の?

 私のアルカディア…、さん?

 あら嫌ですわ。私ったら、いつの間に(笑)。

 でもあの見た目で中身もしっかり伴っていらっしゃるのよ?

 陥落しない方が女としてどうかしているのではなくて?

 その証拠に花火を始めマリアやカンナ、紅蘭やグリシーヌ、果てはロベリアまで少し顔が赤いですわ。

 え、エリカさん?

 彼女なら目がハートになって…。

 もう処置無し、手遅れですわ。

 他提督の方々も言うに及ばずですが、連れている護衛艦娘までが女の顔になってますわね。

 花火さんには悪いですが、何とか横須賀一鎮に移って…。

 いえ、これでは細川や藤枝と同じね。ウチの子達には悪いけど諦めましょう。

 もっとも彼が自発的に移るというなら…、問題ありませんわね(ダークスマイル)。

 

 司令官である私自ら枕営〇、性〇待で…、え?

 何か仰りたい事でもあるのかしら?

 枕〇業、性接〇を行ったところで、彼は我が神崎家に相応しい方です。

 そのまま婿養子にすれば何も問題ありませんわ。

 

 「アアアッ! ヤメテクレ! イヤダ、イヤダ!」

 ふとモニターに目を移すと敗北を悟った戦艦水鬼が蝶結びにされた主砲を暴発させたところでした。

 大破状態だった彼女はそのまま沈み始めます。

 アルカディアさんはそんな彼女を一瞥すると出撃時と同じく踵を合わせて剣を前に構えました。

 

 「己の信念に殉じたか。例え許しがたい敵だとしても使命のために倒れた者には最大の敬意を表す。俺も信念の赴くままに死にたい。」

 アルカディアさん、カッコイイですわ!

 ですがお願いです、どうか死ぬなんて仰らないで下さい。

 たとえ違う世界の住人といえどもここにいらしたのは何か理由があるはずですから(主に私と幸せな家庭を築くとか)。

 

 その後はもう大海原を渡る海風の音しか聞こえませんでした。

 




※どうやら横須賀第一鎮守府&横須賀第二鎮守府の18名を
 無事に救出することが出来たようです。

※両鎮守府の18名、アルカディア号の艤装に興味津々みたいです。

※影山サキはかなりの美人さんでお気に入りなので個人的には何とか
 してあげたいなぁと思っています…。

※ビックリドッキリメカ:今は亡き富山敬さんの説明しよう!で有名ですね。

※リアルでも大規模イベント始まりましたね。
 本当にアルカディア号が編成出来たら駆け足でイベント終わらせる
 事が出来るんだろうなぁ。


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第40話 出撃編3(アルカディア側8)

※イベント丙と乙の差あり過ぎ…。


 『戦艦全員でタイミングを合わせて一斉射を行いなさい。』

 サッサと片付けて早く花火と翔鶴の下へ帰ろうとお仕事に勤しんでいると、何処からか声が響いた。

 レーダーの感度を最大にまで上げるが何も感知できるものは無い。

 仕方ない、気にはなるが今は目の前の敵に専念しよう。

 

 「させませんっ!」

 

 「黙って見てると思ったら大間違いネ!」

 一鎮の大和とニ鎮の金剛が相手に主砲を向けて援護してくれる。

 「パルサーカノン発射!」

 独特の音と共に三本の光が伸びていく様は機械化惑星で暴れまくった本物のアルカディア号を髣髴とさせてくれる。

 

 「ええ?!」

 戦艦水鬼と戦艦棲姫二隻が一撃で大破したのを見て目を丸くする飛龍。

 飛龍と蒼龍の魅力はそのコロコロ変わる表情とあのキレイな素足といってもいいぐらいですからな。

 ここの飛龍が多聞丸推しでなければ是非ハーレム構成員にスカウトしたい。

 

 「潜水艦を始末する。副長、爆雷を!」

 

 「よ っ し ゃ 、 い ち ご う じ ゅ う ば く ら い!」

 ヤッタラン妖精が鬼姫達の後ろに爆雷をポイッと投げ捨てる。

 すぐに地鳴り(海鳴り)と共に巨大な水柱が吹き上がった。

 

 「あ、あれ爆雷だったのかい?!」

 

 「なんちゅう威力や! あれ絶対、海底の地形まで変わってるやろ!」

 皐月と龍驤が驚くのも無理は無い。

 何といっても約960年後の技術なのだ。

 

 (また地図を書き換えなきゃならんな…。)

 ん、気のせいですかな?

 今、冬月コウゾウ先生の声が聞こえた気が?

 

 「でも『イタイ、ヤメテヨォッ!』って叫び声が聞こえませんでした。本当に大丈夫なのでしょうか?」

 

 「心配は要らんだろう。仮に大鳳、お前が潜水艦だとしてあれが無傷で、いや生き残れるか?」

 

 「絶対に無理です。あんなの真上に立っていても大破は免れないでしょうから。」

 

 「叫ぶ暇さえ無かったという事でショウ。いずれにしろ凄まじい威力ですネ。」

 大鳳も金剛も潜水艦には手痛い目に合わされてるからな。

 気になってしまうのは無理もない。

 

 『あら残念。先にやられちゃった(笑)。』

 またあの声が聞こえてきた。

 

 「信じたくはなかったが…。やはり影山君か!」

 

 『あら、その声は大神さんね。お久しぶり(笑)。』

 武蔵が持つ無線機から大神元帥の声が。

 

 「影山君、何の意図があってかは知らないがこのような事は止めるんだ!」

 

 『そんなのあなた達への復讐以外なにも無いに決まってるじゃない。おまけにこの私を陸戦隊送り?! ふざけるんじゃないわよ!』

 一体この女は何なんだ?

 えらく大神元帥に恨みを持っているみたいだが?

 ははーん、12股男さんよ、アンタ失敗したな(笑)。

 遊びで手を出した女が本気になってしまい、これ以上の深みに嵌らないうちに陸戦隊に放り込んだ、そうだろう?

 

 『まあ、いいわ。また機会と作戦を練り直して各地にお邪魔するから。そうそう、今の私ね、影山サキじゃなくて五行衆の水弧っていうの。覚えておいて下さいネ(笑)。』

 それからはもう12股男さんの元愛人、いや水弧さんの声がする事は無かった。

 それにしても水弧か。なかなか良い源氏名?クラブ名?ではないか。

 五行衆というお店がどこにあるのか知らないが、ぜひ近いうちにお邪魔してみたいものである(期待大)!

 

 さてそのためにはお仕事再開しなくては。

 空母棲姫二人の側頭部に『移乗白兵戦用アンカーチューブ』を打ち込む。

 

 『コレガ ドウシタッテ イウノカシラ。ジツダンニモ タエレルノニ コンナノ イタクモ カユクモナイワ。』

 そう、では遠慮無く(笑)。

 

 『アガッ?!』

 

 『グギッ?! グゲ、ゲ…。』

 突然空母棲姫二人が白目を剥いて苦しみだす。

 周りの鬼姫達も何が起こったのか分からず立ち尽くす中、空母棲姫二人は舌を出して死んでしまった。

 

 「ナノ戦闘員を直接、頭に送り込んで脳を破壊。これが海賊のやり方だ!」

 これ一撃で仕留められるから便利なんだよね。♪

 

 「艦首ミサイル!」

 空母水鬼二隻に艦首ミサイルをぶっ放す。

 空母棲姫二人の突然死にあっけて取られていた分、反応が遅れたのだろう。

 数発の直撃を受けあっけなく彼女達の後を追って行った。

 

 戦況を判断したのか逃亡を図る戦艦水鬼と戦艦棲姫二隻。

 うーん、どうも背中を見せている相手を狙うのは気が引ける。

 スラスター噴射で海上をホバーで滑走、そのまま正面に回り込みパルサーカノンで撃沈。

 あいつらでも恐怖で顔が引き攣るんだな。

 ちょっと撃つのを躊躇ってしまったわ…。

 

 「ウアアアッ!」

 一人になってしまった戦艦水鬼が破れかぶれで突っ込んできた。

 降り降ろされてくる巨大な拳を受け止める。

 

 「クッ、ハ、ハナセ!」

 せっかくの女?の手を握れたというのにそう簡単に離してたまるかい(必死)。

 もう片方の腕も受け止めたため、手四つに組んだ状態になってしまった。

 そういえば深海戦艦とこんなに近くで向き合うのは初めてだ。

 深海さん達も混乱や大破したらある程度、御召し物(笑)が破れるらしい。

 それを見て以前から気なっていた事を思い出した。

 

 「なあ。」

 

 「ナンダ?」

 

 「深海棲艦の乳首って何色?」

 

 「ハ?」

 

 「ちょっと見せて。」

 

 「ナニヲ…、イッテイル?」

 

 「いいだろ、減るもんじゃないし。ほらケチケチしないの。」

 

 「ヤダ! ゼッタイ ヤダ!」

 

 「よろしい、ならば戦争(力比べ)だ。」

 

 「ヒッ! ヤメロ、ヤメテクレ!」

 双丘の先端まであと少しという所で戦艦水鬼が蹴りを入れてきた。

 あ、これこの距離じゃ避けられないやつだわ。

 

 「ぐっ、良い蹴りじゃないか。」

 思わず膝をついてしまったぜ。

 しかし、前を見ればこれまた際どいバミューダトライアングル(ショーツ)があるではありませんか!

 

 「なるほど、下ならいいのか。実は海藻の存在(意味深)も気になるんだよなぁ。では遠慮なく(喜々)。」

 そのまま、前方へと戦艦水鬼の腕を押し返していく。

 

 「クッ、コノォ、ヘンタイヤロウガ(鬼気)!」

 

 「変態で結構、俺にとっては誉め言葉だしな。変態と書いて紳士と読むのを知らんのか(笑)。それそれ、御開帳まであと少しだぞぉ?」

 

 「アアアッ! ヤメテクレ! イヤダ、イヤダ!」

 目の前の三角布を引っ掛けるために人差し指をピンと伸ばした時、戦艦水鬼が砲身を蝶結びにされた事を忘れて主砲をぶっ放した。

 ア、アホかっ!

 そんな事したら…。

 ああ、やっぱり暴発事故になっちゃったじゃん。

 完全に浮力を失ってしまった彼女はゆっくりとその身(実?)を海中へと没していった。

 

 「己の信念に殉じたか。例え許しがたい敵だとしても使命のために倒れた者には最大の敬意を表す。俺も信念の赴くままに死にたい。」

 まさに敵ながら天晴というべきであろう。剣を前に構えそのまま彼女を見送った。

 へ?

 この場合の信念?

 そりゃ、ハーレムですよ、ハーレム。

 実現への道は遠そうだが…。

 土から傀儡を作る方が簡単かも、ってそりゃゴーレムか。

 

 ハア…、何つまんない事言ってんだろう。

 ため息をついて辺りを見渡す。

 先程までの激しい戦闘があった事を示すものはなにも無い。

 深海さん達とはいえ、何かしら彼女達の存在した証でも見つけてやりたかったが…。

 

 「さあ、帰るぞ。」

 振り向いて横須賀の18名に帰投を促す。

 

 「はい!」

 そこには最高の笑顔を浮かべた戦乙女達の姿があった。

 




※大神元帥さん、あなた何か盛大な勘違いされてますが大丈夫ですかね?

※主人公と戦艦水鬼の間でこんな会話があったとは…。
 大浴場に乱入してくる艦娘達と違い、深海さん達の方が恥じらいを持っていたとは!

※主砲発射の暴発事故で沈んでしまった戦艦水鬼ですが、主人公は構成員、
 いえ捕虜として連れ帰ろうと考えてたみたいです。


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第41話 帰投編1(艦娘側:二鎮飛龍)

※皆様、イベントの進み具合はいかがでしょうか?


 「さあ、帰るぞ。」

 アルカディア号さんが振り向いて帰投を促してきた。

 ホントに?

 ホントに帰れるの?

 潜水棲姫と新潜水棲姫の先制雷撃で片足を失った時は死を覚悟したのに。

 でも今はどちらかというと帰れるという喜びよりも沈まずに済んだというのが大きいかな?

 

 それにしても鬼姫級の戦艦や空母を一撃で戦闘不能にしてしまうなんてアルカディア号さんの兵装は凄いなぁ。

 不思議な兵装も一杯あったし。

 特にあの逃げても追いかけてくる噴進式の空中魚雷みたいなヤツ。

 あと噴進式の航空機隊とか炸薬音の一切しない主砲とかどうなってんの?

 

 「その前に話しておく事がある。」

 そんな事を考えているとアルカディア号さんが一鎮の会議室からブンカーまでの一連の出来事を話してくれた。

 

 「それは本当なのか?」

 一鎮の武蔵さんが言葉の出ない私達に代わって聞いてくれる。

 

 「ああ、内容は全て青葉・明石・夕張によって記録されている。帰ったら見てみるといい。」

 そんな…。

 確かに細川大将は私達も大嫌いだけど、少将が大将に銃を向けたとなるとこれはもう大問題だよ。

 下手をすれば今頃、ブルーメール提督は軍警に拘束されてるかも。

 

 「そんな…、テイトク…。」

 茫然とする金剛さん。

 

 「ブルーメール提督はあれほどしっかりした方なのに…、どうして?」

 

 「ふむ。では瑞鶴、史実で翔鶴が先に沈んだ時、お前はどうだった?」

 「あるいは今、翔鶴が沈んだらどうだ?」

 

 「どうって、そりゃあ…。」

 

 「ブルーメール提督も同じだ。彼女はそれを12人一度に味わう事になるところだったのだ。いかな少将閣下といえども取り乱してしまうのも無理は無い。」

 僚艦を失うだけでも辛いのにそれを12人。

 改めてそう考えると言葉が無い。

 だってブルーメール提督は私達を家族として扱ってくれているから。

 

 「武蔵、神崎中将も同じだ。台風では固く太い木ほど折れやすい。逆に柳のような木は受け流しが出来る分、折れにくいだろう?」

 一鎮の出撃メンバーも悲痛な面持ちに。

 

 「ここからは俺の独り言だ。」

 アルカディア号さんはそう言って続けてくる。

 

 「お前たちの言い分も分かるが、やはり撤退するべきだった。撤退して鎮守府の艦娘全員で立ち向かう事も出来たはずだ。二鎮のメンバーも勇み足にならず一鎮の由良哨戒機からの続報を待てば編成も変わっただろう。」

 アルカディア号さんの言う通りだ。

 

 「もしお前たちが沈んでしまったら二人とも心を病んで精神科送りになった可能性が高い。あるいは自らを責め抜いた挙句、間違いなくお前達の後を追っていただろう。これではお前達も浮かばれまい。」

 「短い時間だが俺も両閣下の艦隊運営方針(艦娘に対する扱いと想い)は良く分かった。だからこそ花火の救出依頼を受けたのだ。」

 

 「依頼? 命令では無くてですか?」

 

 「む、赤城か。俺は軍属ではなく、あくまで共闘の依頼を受けているに過ぎん。」

 アルカディア号さんは北大路提督が共闘という形をとった理由を説明してくれた。

 

 「もし、細川大将や藤枝中将が少将閣下を陸戦隊送りや銃殺などと言い出したら俺の出番という事だ。」

 そう言ってアルカディア号さんはニヤリと笑った。

 この人、私達の事だけじゃなくてブルーメール提督の事までちゃんと考えてくれているんだ。

 そう思うと胸が熱くなってくる。

 

 「私達は提督のお気持ちも考えず、勝手過ぎたのですね。」

 榛名さん…。

 

 「そうネ、帰ったら真っ先にブルーメール提督に謝りまショウ!」

 

 「それは勿論だけど…。あーあ、それでもかなり怒られるだろうなぁ。」

 瑞鶴さんが溜息をついた。

 

 「ふっ、安堵のあまり怒るどころではないかもしれんぞ。」

 

 「えっ、ホント?」

 いやまあ、あんまり喜んではダメなんだけど(笑)。

 

 「心配するな。その場合は盟友の花火から顔の形が変わる程の制裁を貰うと覚悟しておけ。むしろ少将閣下の方が良かったかもしれんぞ(笑)。」

 

 「まさかぁ。だって花火さんってあの北大路提督の事でしょ?」

 「っていうか、アルカディア号さんは北大路提督の事を花火って呼ぶんだ。へぇー。」

 瑞鶴に言われるまで気が付かなかったけど、そういえばアルカディアさん、北大路提督の事を花火って…。

 詳しく聞こうと思ったけど、航空搭乗員が填める様な四点式のハーネスが回って来た。

 どうやらこれで曳航してもらえるみたい。

 順番は一鎮の武蔵・大和・赤城・大鳳・翔鶴・瑞鶴ときて二鎮の金剛・榛名・赤城・大鳳・私・瑞鶴・五十鈴・由良・龍驤・鈴谷・熊野・皐月ね。

 

 「先に聞いておこう。曳航速度はどうすればいい?」

 

 「逆に何キロ出せるじゃん?」

 

 「亜光速まで出せるぞ。」

 

 「『アコウソク』って何ですの?」

 

 「亜高速とはほぼ光の速さという事やな。一秒間に地球を7周半出来る速さや。時速でいうと10億8千万キロ、秒速でも30万キロやな。」

 何それ?

 凄過ぎて龍驤さんの説明を聞いても理解が追い付かないんだけど?

 第一、そんな速度で曳航されたら体がバラバラになっちゃうから!

 っていうか、そもそもアルカディアさんて一体何者なんだろう?

 翔鶴の言う通り航空戦艦だと思っていたけど、魚雷(艦娘達はミサイルを空中魚雷と思っています)に爆雷を普通に使ってたし。

 

 航空巡洋駆逐戦艦…。

 ダメだ、そんな艦種ある訳ない。

 あれこれ考えを巡らせていると、一鎮の大和さんが前に出た。

 

 「アルカディア号さん、助けて頂いて本当にありがとうございます。私、もっとあなたの事…、知りたい、です。」

 そう言ってアルカディア号さんの腕を自分の腕に絡めてきた。

 もちろん、上目遣いというおまけ付きで。

 




※お久しぶりです。

※これはこれは(笑)。
 帰る前にひと騒動ありそうな予感が…。
 騒動に発展しなくても、18名の心中は如何に?!

 まあ、大和さんに限らず横須賀の艦娘さん達は積極的みたいですよ?


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第42話 帰投編1(アルカディア側9)

※現在、イベントの進捗状況はE-3です。
 皆さまはどうですか?


 「さあ、帰るぞ。」

 時刻はAM11:30。

 今から帰れば昼飯には丁度いい。横須賀第一鎮守府は大規模鎮守府のエースナンバーだけあってメニューも豊富で味も特に良いと聞く。

 だがその前にブンカーで何があったかはこいつらにも話しておく必要があるだろう。

 

 「その前に話しておくことがある。」

 一鎮の会議室からブンカーまでの一連の出来事を伝えると明るかった雰囲気が飛んでしまった。

 え、ナニコレ?

 ひょっとしなくても俺のせいですね、凹むわ…。

 

 「それは本当なのか?」

 一鎮の武蔵が絶句している二鎮の連中に代わって聞いてくる。

 

 「ああ。内容は全て青葉・明石・夕張によって記録されている。帰ったら見ておくがいい。」

 細川のヤツは確かにロクでもない女だが大将は大将である。対していくら艦娘達から慕われていてもグリシーヌは少将なのだ。

 出撃した艦娘達が沈まなかった今、やっぱ軍法会議♪なんて平気で言いだすだろう。

 

 「そんな…、テイトク…。」

 

 「ブルーメール提督はあれほどしっかりした方なのにどうして?」

 どうしてって…。

 艦娘を部下ではなく家族として考えているからに決まってんじゃん。

 

 「ふむ。では瑞鶴、史実で翔鶴が先に沈んだ時、お前はどうだった?」

 「あるいは今、翔鶴が沈んだらどうだ?」

 適切かどうか分からんが、これが一番わかりやすいだろう。

 

 「どうって、そりゃあ…。」

 

 「ブルーメール提督も同じだ。彼女はそれを12人一度に味わう事になるところだったのだ。いかな少将閣下といえども取り乱してしまうのは無理もない。」

 ブルーメール提督よ、俺はわかるぞ。

 僚艦ハーレム構成員を独り失うだけでも辛いのに、それを12人。

 改めてそう考えると言葉が無い。

 

 「武蔵、神崎中将も同じだ。台風では強く硬い木ほど折れやすい。逆に柳のような木は受け流しが出来る分、折れにくいだろう?」

 ああいう外も芯も強い女性ほど折れる時はポッキリいくものだ。

 

 「ここからは俺の独り言だ。」

 これから彼女達は部下として神崎中将とブルーメール少将をより深く理解してもらわねばならん。

 

 「お前たちの言い分も分かるが、あそこはやはり撤退するべきだった。そうすれば鎮守府の艦娘全員で立ち向かう事も出来たはずだ。二鎮のメンバーも勇み足にならず一鎮の由良哨戒機からの続報を待ては編成も変わっただろう。」

 まあ、彼女達を責めるのはここまでだ。

 これ以上は嫌われてしまう可能性が出て来るからねぇ。

 

 「もし、お前たちが沈んでしまったら二人とも心を病んで精神科送りになった可能性が高い。あるいは自らを責め抜いた挙句、間違いなく後を追っていただろう。これではお前達も浮かばれまい。」

 ここからは提督の為という内容に切り替える。

 大体、あんなキレイどころが二人も精神科送り?

 冗談ではない、つまみ食いをする前にそんなトコ行かれてたまるか!

 

(女神:アンタが何を考えているか皆に教えてあげたい(ウズウズ))

 

 「短い時間だが俺も両閣下の艦隊運営方針(艦娘に対する扱いと想い)は良く分かった。だからこそ花火の救出依頼を受けたのだ。」

 花火とブルーメール少将は親友だからな。

 これで両名に恩を売れた訳である。まさに一石二鳥、頭イイ!

 

 「依頼? 命令では無くてですか?」

 さすが赤城さん、そこに気付くとは天才か?!

 実際、この人のIQって凄く高そうだし、真の艦隊の頭脳ってこの人ではなかろうか?

 

 「む、赤城か。俺は軍属ではなく、あくまで共闘の依頼を受けているだけに過ぎん。」

 北大路提督が共闘という形態をとった理由を説明すると全員が心底感心していた。

 

 「もし、細川大将や藤枝中将が少将閣下を陸戦隊送りや銃殺などと言い出したら俺の出番という事だ。」

 そうなったら大神元帥はじめ連合艦隊司令長官の真宮寺大将にも恩を売れる。

 いけませんわ、ニヤニヤが止まらないですー(山雲風)。

 

 「私達は勝手過ぎたのですね…。」

 俯く榛名。

 

 「そうネ、帰ったら直ぐにブルーメール提督に謝りまショウ。」

 

 「それは勿論だけど…。あーあ、それでもかなり怒られるだろうなぁ。」

 

 「ふっ、安堵のあまり怒るどころではないかもしれんぞ。」

 柱島第七泊地の足柄が助かった時の妙高さんを思い出す。

 

 「えっ、ホント?」

 飛龍の顔が明るくなった。

 相変わらずコロコロ変わる表情が可愛らしい。

 

 「心配するな。その場合は盟友の花火から顔の形が変わる程の制裁を貰うと覚悟しておけ。むしろ少将閣下の方が良かったかもしれんぞ(笑)。」

 だって花火ちゃん、前世のブラック企業に勤めていた時の上司と同じ顔と目をしてたもん。

 

 「まさかぁ、だって花火さんてあの北大路提督の事でしょ?」

 甘いな、瑞鶴よ。

 恐らく花火はそれが出来る娘だぞ。

 子爵令嬢だからいつも大人しいとは思わない事だ。

 帰投した際の楽しみが増えたわい(笑)。

 

 (女神:全く性悪なんだから。)

 

 さて帰りますか。

 四点式のハーネスを全員に配っていく。残念ながら今回は人数分あるらしい(血涙)。

 順番は一鎮の武蔵・大和・赤城・大鳳・翔鶴・瑞鶴と来て二鎮の金剛・榛名・赤城・大鳳・飛龍・瑞鶴・五十鈴・由良・龍驤・鈴谷・熊野・皐月である。

 

 「先に聞いておこう。曳航速度はどうすればいい?」

 

 「逆に何キロ出せるじゃん?」

 

 「ふむ、亜光速まで出せる。」

 

 「『アコウソク』って何ですの?」

 

 「亜高速とはほぼ光の速さという事やな。一秒間に地球を7周半出来る速さや。じそくでいうと10億8千万キロ、秒速でも30万キロやな。」

 龍驤が亜光速について説明しだした。

 え? 何?

 何か予想外の方が大変お詳しいんですけど?

 が、もっと予想外の事が起こったのである!

 

 「アルカディア号さん、助けて頂いて本当にありがとうございます。私、もっとあなたの事…、知りたい、です。」

 今まで、あまり言葉を発しなかった大和さん。

 その彼女が前に出てきて腕を絡めてきたのである。

 しかもあざとさ満点の上目遣いとくれば、わかっていても即陥落である。

 このような状況、俺に抗う術などあるはずが…(ガクリ)。

 




※大和さんが捨て身?の戦法に出たようです(笑)。
 アルカディア号の引き抜きに成功するのでしょうか?
 成功すれば神崎中将から大変に感謝されること間違いなし、ですが。


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第43話 帰投編2‐1(艦娘側:二鎮熊野)

※いつの間にか、お気に入りの数が280を超えてしまいました。
 本当にありがたい事です。
 毎日、見間違いでないかチェックしてしまいます(笑)。

 また興味を持っていただけるように頑張っていきたいと思いますので
 よろしくお願いいたします。


※イベント、現在はE‐4輸送第二ゲージです。
 諸兄氏はもう後段作戦に入られましたでしょうか?


 や、大和さん?

 貴女、一体何をなさっているのかしら?!

 

 あまりの事にアルカディア号さんも動きが止まっていらしてよ?!

 全員雷に打たれたように固まっていた中、次に行動を起こしたのは榛名さんでした。

 

 「申し訳ありません。そういえばまだきちんとお礼を言ってませんでした。アルカディア号さん、この度は助けて頂いて本当にありがとうございました。」

 「一度は捨てたこの命、榛名、アルカディア号さんのために捧げます!」

 そう言って彼女もまたアルカディア号さんの腕を取りましたわ。

 

 「そうだよ、そんな大事なこと忘れてたなんて。アルカディアさん、助けてくれて本当にありがとね。」

 一鎮の瑞鶴さんも後ろからアルカディア号さんに抱き着きましたわ。

 しかも最後に耳元で『私、一生忘れないから』と耳元でボソッと。

 全く何ですの、あの人たちは!

 淑女としての振る舞いがなっていませんわ!

 

 そこからはもう止まりません。

 金剛さん、瑞鶴さん(二鎮)、赤城さん(一鎮)、翔鶴さん、大鳳さん(一鎮)、由良さん、鈴谷、赤城さん(二鎮)と次々にアルカディア号さんの下に集まっていきます。

 

 『ア ル カ デ ィ ア 号 さ ん ?』

 先程の水弧とやらに負けない北大路提督の底冷えする声が武蔵さんの無線機から!

 

 『神 崎 先 輩 も グ リ シ ー ヌ も 部 下 の 無 事 の 帰 投 を 待 っ て い ら っ し ゃ る の で す よ ?』

 『出 来 る だ け 早 く お 戻 り く だ さ い ね っ(ガシャン!)!』

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 その後、何故か(恐怖)直ぐに曳航速度は時速60㎞と決まりましたわ。

 それから帰投途中でアルカディアさんが教えて下さったお話の内容は到底、信じられないものばかり。

 宇宙海賊の乗船する宇宙海賊船という宇宙戦闘艦である、マゾーンと呼ばれる外宇宙生命体と戦っていた、今から約960年後の未来から来た等々。

 でも何より先程の戦闘内容が彼の話が事実であることを物語っていますわ。

 あの兵装というか艤装はどう考えても現代の技術ではあり得ませんもの。

 本来なら内湾に入った時点で私達は二鎮へと向かうのですが、ブルーメール提督が一鎮にいらっしゃるという事もあり、そのまま一鎮のブンカーへと向かっていますわ。

 あら、一鎮のブンカーですがポッカリと穴が開いていますわね。

 どうやら閉じ込められていた提督の方々は無事救出されたようで良かったですわ。

 

 一鎮の神崎提督が無線でスロープがある埠頭奥に着岸するよう指示を出されました。

 全員がハーネスを外している間にアルカディア号さんは神崎中将やブルーメール少将ではなく、真っ先に柱島第七泊地の北大路提督の元へ帰投報告を行われましたわ。

 

「柱島第七泊地指令『北大路花火大佐殿』、宇宙海賊船アルカディア号、全任務完了により帰投した。」

 剣を前に構え踵を合わせた海賊式敬礼が素敵ですわ。

 

 「はい、お帰りなさい。私のワガママを聞いて頂き、本当にありがとうございました。本当に誰一人として欠けること無く連れ帰って頂けたのですね。」

 

 「外ならぬ花火の頼みだ、当然だろう。野良艦息でいた所に帰る所を与えてくれた礼は忘れんさ。」

 アルカディア号さんが北大路提督の頭と髪をそっと撫でていますわ。

 おかげで北大路提督が蕩けていらっしゃいますわ。

 なんて羨ましい、この熊野にも同じようにして頂いて構いませんのよ?

 

 「もう、アルカディアさん、私も心配していたんですからね?」

 柱島第七泊地の翔鶴さんが頬を膨らませていますわ。

 ふふ、随分と可愛らしい光景ですわね(笑)。

 

 「それは済まなかった。清楚系の代表艦娘である翔鶴のような美人にそう言ってもらえるとは望外の喜びだ。それが本当ならこれからも翔鶴が待っていてくれる限り、俺は帰ってくる事を約束しよう。」

 

 「ハイ!」

 何でしょう、あのエリアだけ空間がピンクになっていますわ。

 でもウチの青葉によるとアルカディア号さんは未だフリーのはず。

 ウチ(横須賀一鎮)の青葉は青葉の中でも№1の情報収集力ですから間違いはありませんわ。

 

 「提督…。」

 一鎮の武蔵さんがおずおずと神崎中将の前に立ちます。

 

 「お帰りなさい。よく帰ってきてくれました。」

 そう言うと神崎中将はそっと目尻を拭われました。

 一鎮の皆さんが一斉に神崎中将の下へ集まります。

 さあ鈴谷、いえ皆さん、私達もブルーメール提督に帰投報告を致しましょう。

 

 「第一艦隊『金剛・榛名・赤城・大鳳・飛龍・瑞鶴』以上6名、帰投、シマシタ…。」

 

 「第二艦隊『五十鈴・由良・皐月・龍驤・鈴谷・熊野』以上6名、帰投です!」

 

 「…。」

 ですが、ブルーメール提督は腕を組んで黙ったままです。

 

 「あの、テイトク…。」

 

 「…。」

 

 「ゴ、ゴメンナサイ、デス…。」

 金剛さん恐る恐るブルーメール提督に謝ります。

 

 「提督さん、あの…。本当に申し訳ありませんっ!」

 金剛さんと今の瑞鶴さんに続いて全員で謝りますが…。

 

 「…。」

 それでも提督は何も仰って下さりません。

 マズいですわ。これは相当、頭に来ておられますわね。

 

 「どうして撤退してくれなかった?」

 ブルーメール提督の第一声はそれでしたわ。

 

 「戦線を下げる訳にはいかないと思って…。下げてしまえば鎮守府ごと陥落の危険があったし、提督の身にも危険が…。」

 

 「ふう…。」

 瑞鶴さんが返答するとブルーメール提督が大きく息をつきましたわ。

 

 「よく誰も沈まずに帰ってきて…、ありがとう。帰ってきてくれて本当に、本当に…、ううっ。」

 あのいつも厳しい貴族然とした提督が両手で第一艦隊のメンバーを抱き寄せると人目も憚らず泣き始めましたわ。

 

 「テイトクー!」

 金剛さんの涙腺も崩壊してしまったようですわ。

 他にも榛名さんや瑞鶴さんが次々と提督に飛びついていきます。

 かくいう私も気が付けば提督に顔を埋めていましたわ。

 この熊野、いえ全員が二度とこの素晴らしい指揮官を泣かせないと誓った瞬間ですわ。

 そしてこの日から、わが横須賀第二鎮守府に後々まで伝わる事となった有名なモットー『御旗(グリシーヌ・ブルーメール提督)の下に!』が出来たのでしてよ?

 

 ブルーメール提督は恥ずかしいから止めろと本気で仰っていますが、今のところそれは虚しい願いのようですわね。

 今では神崎中将やエリカ大佐、果ては演習で訪れた他提督さんからも『御旗』少将や閣下と揶揄われる始末。

 その度に少々、短気なブルーメール提督は相手を追い掛け回していますわ(笑)。

 

 いずれにしろ、これもアルカディア号さんのお陰ですわね。

 宇宙海賊キャプテン・ハーロックが乗船、『宇宙海賊船アルカディア号』そのセカンドシップ。

 その名前と存在は横須賀第二鎮守府の艦娘達の間で憧れとなりましてよ。

 

 そして特定の艦娘達が連日のように彼を引き抜いて下さいと執務室に訪れブルーメール提督を困らせる事になったのはまた別のお話ですわ。

 え、私?

 私は某高速巡洋戦艦の一番艦や三番艦、あるいは某大食い空母や装甲空母達とは違いましてよ?

 ええ、違うんですわ。方法が、ね(黒笑)。

 




※ついに二鎮にも何かが燻り始めました。
 グリシーヌは花火の親友なので、いくら引き抜きをお願いされてもそりゃ
 無理ですよね?

 無理と言いつつ、偶に執務室には『ゼクシィ』とか『素敵な奥さん』とかいう
 冊子(察し?)が置いてあるんだとか(笑)。

※そういえば火災って、燻っている時間が長ければ長いほど大火事になる
 らしいですよ。


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第44話 帰投編2‐2(艦娘側:二鎮龍驤)

※二鎮の龍驤さん視点です。
 彼女は外から眺めるだけで十分派みたいですね。


 ウチら二鎮第二艦隊の横を無表情の北大路提督が通っていった。

 一体、どないしたんや? あの人のあんな顔、初めてみるわ。

 

 「貴女達、ちょっと。」

 二鎮第一艦隊の6名が振り向いた途端、派手な音が六発鳴った。

 まるで野茂のストレートがミットに飛び込んだ音みたいやったわ。

 

 「グリシーヌがどれだけ心配したと思ってるの! 一鎮のメンバーみたいに指示を受けて出撃したのならまだ分かります! でも貴女達は勝手に出撃した、それなら撤退命令には従いなさい!」

 ウチも他の皆も開いた口が塞がらへん。

 あの大人しい北大路大佐があないに怒ったんは初めて見るわ。

 それ以前に、あれホンマに北大路大佐か?

 

 「特に赤城! 次の私を建造して下さいってどういう事なのですか?! もし次の貴女が来たとしてそれが加賀にとって代わりになると本気でそう思うのですかっ!」

 頬を抑え黙ったままの赤城。

 

 「その赤城は加賀との記憶を何か一つでも持っているのですか?! 何も知らない状態で建造され他人の代わりを要求されるのですよ?!」

 赤城の足元に雫が落ちる。

 

 「申し訳…、ありません。」

 次の瞬間、再び赤城が派手に張り飛ばされた。

 

 「まだ分らないのですかっ! 貴女が謝るべき人は私なんかではないでしょう!」

 顔を上げた赤城の目が合ったのは…、まあそうなるな(笑)。

 

 「加賀さん…。」

 

 「赤城さん。北大路提督の仰る通り、新しい赤城さんが来たら私は分かっていても、貴女の代わりを求めてしまうわ。」

 「もちろん、そんな私が悪いのは分かっているのだけれど。でもそれは私だけじゃないわ。言葉に出すか出さないかの違いはあるでしょうけど、きっと皆がそうよ。」

 少し寂し気の加賀。

 

 「なあ、赤城。確かにウチらは飛龍や蒼龍、翔鶴や瑞鶴のように姉妹艦ちゅーのはおらん。せやけど僚艦と呼べる存在は居てるやろ。それは誰や? 北大路提督か? それともブルーメール提督か? 違うやろ?」

 

 「赤城、よく聞きなさい! モノと違い、生きとし生けるものに決して代わりはありません。壊れたから無くなったからといって同じものを用意すればいいなんてそんなバカな話があるものですか! それが分からない貴女に一航戦である資格などありません、今すぐ大鳳と交代なさい!」

 

 「私は、私は…。」

 珍しい、あの赤城が子供の様に泣いとるわ。

 

 「すまないな、花火。本来なら私の役目なのだが、全員が無事だった事で気が抜けてしまったようだ。」

 

 「構わないわ。どの道、誰かが言わないといけない事ですもの。ついでに私ならサラやイントレといった海外艦と交代させます。」

 あーあ、よりによって海外艦てか。赤城のヤツ、プライドもズタボロやな。

 

 「赤城、今のところ私は一航戦からお前を降ろすつもりは無い。せっかく、改二になった事だしな。その代わり今すぐ加賀と共に二鎮へ帰れ。そして二人だけでよく話をしてこい。」

 

 「はい…。」

 

 「提督、お心遣い感謝いたします。さあ赤城さん、今度は一緒に行ってくれるかしら。」

 こうやって一足先に赤城と加賀は横須賀第二鎮守府へと帰って行った。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「横須賀第一鎮守府司令官『神崎すみれ』中将殿、並びに横須賀第二鎮守府司令官『グリシーヌ・ブルーメール』少将殿、このアルカディア号、任務完了により帰投した。」

 そうか、アルカディアはウチらが落ち着くのを待ってくれとったんか。

 海賊いうんはもっと乱暴というか粗野やと思っとたけどコイツはなかなか人間出来とるみたいやな。

 

 「アルカディア殿、大儀であった。今回は多大な迷惑を掛けてしまい本当に申し訳無い。」

 ほっほおー。ウチらの提督が殿を付けるのは余程の事やで。

 

 「此度の事、貴殿には感謝してもしきれるものでは無い。来週、柱島第七泊地と演習を行うために、そちらにお邪魔するのだが、その時に改めて礼をさせてもらおう。」

 そうか、来週は柱島第七泊地と月一の定期戦やないか!

 これは両提督との間で行われる個人的な練習試合やさかい、通常の演習とは別やねん。

 5戦すべて柱島第七泊地と横須賀第二鎮守府との間で行われるんや。

 って、ウチ誰に説明してんねやろ?

 5戦×6名で30人か。これは是非、選抜メンバーに入れるようにせんと。

 

 「少将閣下自ら柱島第七泊地に? それは楽しみだが大袈裟過ぎないか? あと礼なら花火に言うといい。これは彼女からの依頼だったからな(笑)。」

 アンタ、男やなあ!

 今の世の中、男いうだけでチヤホヤされて横柄になる男ばかりやのに、こないしっかりした自分を持ってるのはウチが知る限り大神はんだけやわ。

 

 「わかった、そうしよう。それから金剛、貴様も旗艦としてアルカディア殿に礼を忘れるな!」

 

 「了解デース! ヘーイ、ミスターアーケーディア! 私達を助けてくれて本当にありがとうゴザイマース! あとで榛名とお邪魔するネー!」

 何や、金剛のヤツ、今なんか言いよったで?!

 

 「アルカディア号さん…。」

 神崎中将もアルカディアに声を掛けてはるわ。

 

 「この度は本当にありがとうございました。何とお礼を申し上げれば良いのか…。」

 

 「先程、ブルーメール少将にも申し上げた通りだ。礼なら俺よりも花火だぞ(笑)。」

 北大路提督はウチらの提督と仲がエエからな。

 いや、このアルカディア号の事や。

 例え出撃したのが一鎮だけでも救出に向かったはず。

 あの柱島第七泊地をここまで立て直した人格者や。

 あの提督にしてこのアルカディアありなんやな。

 

 「いえ、そのような訳には参りませんわ。当然、北大路提督にもお礼は致しますが、この娘達のためにアルカディア号さんを小破させてしまったんですのよ。」

 何でもアルカディアが最初に出会ったのが柱島第七泊地の艦娘で、そのまま身を寄せる事になったんだとか。

 かあーっ、つくづくファーストコンタクトが横須賀第二鎮守府とちゃうかったんが惜しまれるわ。

 

 「フッ、こんなものはケガのうちに入らんさ。螢、デスシャドウ島を呼び寄せろ。それよりも神崎中将閣下、昼飯を摂りたいので食堂の利用許可を。」

 

 「それは構いませんが、そのデスシャドウ島というのは?」

 

 「アルカディア号専用の補給兼入渠施設だ。人工島で隠れ家にもなっている。」

 何やて?!

 そない大層なモンまで持ってんのかいな。

 はー…。

 ホンマにウチらの尺度では測り切れんやっちゃな。

 

 「そんなものまでお持ちなの? 本当にアルカディア号さんは規格外の方ですのね。」

 

 「そうだな、影山君のお陰ですっかり午前中が飛んでしまった。午後からの会議はそれを緊急案件にする。恐らく本日中には終わらないだろうから、各自着任地に一日予定が伸びると連絡を入れておいてくれ。」

 大神元帥が各提督にもう一日、滞在予定を伸ばすよう指示を出す。

 まあ、そらそうやな。

 

 と、その時、突然手を叩く音が聞こえた。




※花:私、ここまで怒った事あるでしょうか?
 筆:サクラ大戦4は知らないけど、3では無かったね。
   大神さんがマスク・ド・コルボーから君を救い出そうと
   した時もここまでではなかったね。
   パリチームでは一番大人しかったし地味子だったから。
 花:地味子…。
 筆:最初、なんて可愛い娘なんだろうと思っただけにネクラ気味
   だったのはショックで…。
 花:ネクラ?! 仕方ないでしょう、結婚式で新郎が目の前で亡くなったのですよ?!
 筆:ゴメン、ゴメン! その分、ここでアルカディア号と幸せにするから(汗)。
 花:本当でしょうね?
 筆:勿論(君一人だけとは言っていない)…。


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第45話 帰投編2(アルカディア側10)

※梅雨イベント、まだ一ヶ月以上あるんですね。
 チョコチョコ進めて行きたいと思います。


 雲の切れ間から差す幾筋もの光。

 何処からともなく聞こえるパイプオルガンの荘厳な音色。

 そして俺の周りを飛び交う小さなエンゼル達。

 選択肢を間違えるとワンちゃんと一緒に天に召されてしまいかねない状況の中(いや犬も夕立も居ないが)、必死に記憶をたどる。

 最後の記憶は大和さんがお礼を言ってきたところだが…。

 

 大和さん?!

 そうだ、それまで無口だった大和さんが確かとんでもない事を言いだしたんだ!

 俺の事をもっと知りたいとか言って腕も絡めて…。

 そこで意識が現実に引き戻された。

 やっぱりだ!

 大和さんが俺の腕をとって寄りかかってる?!

 

 「申し訳ありません。そういえばまだきちんとお礼を言ってませんでしたね。アルカディア号さん、この度は助けて頂いて本当にありがとうございました。」

 そして何と今度は二鎮の榛名さんが反対の腕をとって来たのである。

 

 「一度は捨てたこの命、榛名、アルカディア号さんのために捧げます!」

 ウハウハな状況に再びトリップしそうになったが、この一言で一気に現実に引き戻された。

 榛名さん、ちょっとそれ重過ぎやしませんかね?

 そういえば榛名さんて時雨の陰に隠れているが、ヤンデレラ(ヤンデレキャラ)の上位だった気が…。

 

 「そうだよ、そんな大事なこと忘れてたなんて。アルカディアさん、助けてくれて本当にありがとね。」

 一鎮の瑞鶴も後ろから抱き着いて感謝してくれる。

 良かった、この娘は普通だ。

 

 「私、一生忘れないから。

 ボソッと耳元で囁かれる低い声。

 待って、それ全然普通じゃない!

 重い、一番重いよ!

 おかげで背中に感じていた瑞鶴の胸部装甲の感触が飛んでしまった。

 え?

 瑞鶴に胸部装甲がある訳ない?

 いやいや、一般に胸部装甲が無いと言われている彼女だが、そうともいえないんだよなぁ(笑)。

 アーケード版の彼女は意外な程の質量をお持ちなのだ。

 そこの提督諸氏、ぜひご覧あれ!

 

 さらに金剛、瑞鶴(二鎮)、赤城(一鎮)、翔鶴、大鳳(一鎮)、由良、鈴谷、赤城(二鎮)と一鎮、二鎮問わず艦娘達が次々に集まって来た。

 

 これは分かる。これだけの数でくればいくらハーレムに目がくらんでいても分かる。

 こんなのに手を出したら後々、どうなるか分かったものではない。

 いわゆるハニーフラッシュハニートラップというヤツに違いない!

 

 『ア ル カ デ ィ ア 号 さ ん ?』

 武蔵の無線機から今まで聞いた事の無い花火の声が!

 

 『神 崎 先 輩 も グ リ シ ー ヌ も 部 下 の 無 事 の 帰 投 を 待 っ て い ら っし ゃ い ま す。』

 『出 来 る だ け 早 く お 戻 り く だ さ い ね っ(ガシャン!)!』

 あ、これ花火ちゃん、おこですわ。

 まあ、無理もない。

 余所様の艦娘達に手を出そうとしているようにしか見えんからな。

 大慌てで曳航用のハーネスを配っていく。

 曳航速度も時速60㎞とすんなり決まりましたです、ハイ。

 

 鎮守府近海で戦っていたこともあり帰投は早かった。

 二鎮の艦娘達もブルーメール提督がいる一鎮のブンカーへと曳航していく。

 うん、一鎮のブンカーに穴が開いているな。

 閉じ込められた提督連中はあそこから救出されたのだろう。

 神崎提督からスロープがあるので埠頭最奥に着岸するよう指示が来た。

 全員がハーネスを外しているのを横目に真っ先に激おこ?だった花火の所に向かう。

 悪いが神崎中将やブルーメール少将は後回しだ。

 

 「柱島第七泊地指令『北大路花火大佐殿』、宇宙海賊船アルカディア号、全任務完了により帰投した。」

 

 「はい、お帰りなさい。私のワガママを聞いて頂き、本当にありがとうございます。本当に誰一人として掛けること無く連れ帰って頂けたのですね。」

 海賊式敬礼で帰投報告を行うとようやく花火が笑顔になった。

 

 「外ならぬ花火の頼みだ、当然だろう。野良艦息でいた所に帰る所を与えてくれた礼は忘れんさ。」

 外ならぬという部分を強調し、身長差を利用した頭ナデナデでご機嫌を取る。

 花火自身をハーレム構成員にする事を諦めた訳ではないからな(笑)。

 

 「もう、アルカディアさん、私も心配していたんですからね?」

翔鶴さん、貴女まで私が余所様の艦娘に手を出さないか心配だと仰るのですか(泣)。

 まあ、手を出す気満々でしたが、あれだけ分かりやすいハニートラップを仕掛けられては…。

 

 「それは済まなかった。清楚系の代表艦娘である翔鶴のような美人にそう言ってもらえるとは望外の喜びだ。それが本当ならこれからも翔鶴が待っていてくれる限り、俺は帰ってくる事を約束しよう。」

 思わず適当な事を言ってしまったが、余所様の艦娘達が安全だと分かり翔鶴さんは大層お喜びになられた。

 

 横を見れば一鎮の出撃メンバーも二鎮の出撃メンバーもそれぞれの提督と生還を共に喜びあっている。

 無粋な俺ですら良いなあと思える場面だ。

 まあこの後、二鎮の第一艦隊は全員、グリシーヌがどれだけ取り乱したと思っているの! という事で花火に思い切り平手打ちされていたが(笑)。

 

 「横須賀第一鎮守府司令官『神崎すみれ』中将殿、並びに横須賀第二鎮守府司令官『グリシーヌ・ブルーメール』少将殿、このアルカディア号、任務完了により帰投した。」

 一鎮と二鎮の感動的場面が落ち着いたのを見計らって、両閣下にも海賊式敬礼で帰投報告を行う。

 

 「アルカディア殿、大儀であった。今回は迷惑を掛け通しで本当に申し訳ない。」

 貴族上がりだけあって、ブルーメール少将の敬礼は見事なものだった。

 

 「貴殿にはいくら感謝してもしきれない。来週、柱島第七泊地と演習を行うためにそちらにお邪魔するのだが、その時にまた改めて礼をさせてもらおう。」

 

 「少将閣下自ら柱島第七泊地に? それは楽しみだが大袈裟過ぎないか? あと礼なら花火に言うと良い。彼女からの依頼で動いただけだからな。」

 これについては、後で花火から演習先に出向く際には提督自ら指揮を執るのが通例なのだという事を教えてもらった。

 

 

 「分かった、そうしよう。それから金剛、貴様も旗艦としてアルカディア殿に礼を忘れるな。」

 

 「ヘーイ、ミスターアーケーディア(発音記号だとこんな感じです)! 私達を助けてくれて本当にありがとうゴザイマース! 後で榛名とお邪魔するネー!」

 

 「アルカディア号さん。」

 今度は神崎中将が声を掛けてきた。

 

 「今回は本当に、本当にありがとうございました。何とお礼を申し上げれば良いのか…。」

 

 「先程、ブルーメール少将閣下にも申し上げた通りだ。礼なら俺よりも花火だぞ(笑)。」

 ニヤリと笑って花火に目を向ける。

 

 「いえ、そのような訳にはいきませんわ。当然、北大路提督にもお礼は致しますが、アルカディア号さんを小破までさせたんですのよ。」

 

 「フッ、こんなものはケガのうちに入らんさ。螢、デスシャドウ島を呼び寄せろ。それよりも神崎中将閣下、昼飯を摂りたいので食堂の利用許可を。」

 

 「それは構いませんが、そのデスシャドウ島というのは?」

 

 「アルカディア号専用の補給兼入渠施設だ。小惑星で隠れ家にもなっている。」

 

 「そんなものまでお持ちなの? 本当にアルカディア号さんは規格外の方ですのね。」

 

 「そうだな、影山君のお陰ですっかり午前中が飛んでしまった。食事の後、午後からの会議はそれを緊急案件にする。恐らく本日中には終わらないだろうから、各自着任地に一日予定が伸びると連絡を入れておいてくれ。」

 大神元帥がそういうと素晴らしいという声と共に手を叩く音が聞こえた。




※パトラッシュ、僕を探しに来てくれたのかい? 何だかとても眠いんだ(ry
 危ない、危ない!
 出撃メンバーに夕立や時雨といった忠犬勢がいたら主人公は天に召されて
 しまう所でした。

※金剛さんの後で部屋に訪れる予告が入りました。
 でも彼女は何時頃に突入するかまでは言ってないようですよ?

※素晴らしいと手を叩いた人は…、ああ、また貴方ですか…。


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第46話 帰投編3(艦娘側:北大路花火4)

人物位置関係

 翔鶴 大神 真宮寺 藤枝中将
 花火        細川       アルカディア号 神崎 一鎮出撃メンバー
                   藤枝少将 グリシーヌ 二鎮出撃メンバー


 「素晴らしい、アルカディア君! 君は英雄だ!」

 手を叩きながら細川大将がアルカディア号さんの横にやって来ました。

 どうしたというのでしょう、先程とは全く違う態度です。

 

 「む、細川大将殿。一体、どうされたのか?」

 

 「大将殿は貴殿を救国の英雄だと仰られているのだよ。」

 藤枝中将が怪訝そうな顔をするアルカディア号さんにそう伝えました。

 嫌な予感がしますね。隣にいる翔鶴と目配せをして最悪の事態に備えます。

 

 「今後はその力をぜひ帝都防衛に! いやその力は帝都防衛にこそ発揮されるべきであろう!」

 やっぱりです!

 自分達が朝方に何と言っていたのか忘れたのでしょうか?

 

 「どういう事…、でしょうか?」

 自分でも相当震え声だったのが分かりますが、何とか言い切る事が出来ました。

 手に嫌な汗が次から次へと滲み出てきます。

 いえ、手だけではなく足もですね。

 靴の中でストッキングが足裏にべったりと張り付いているのが分かります。

 

 「決まっているだろう、こいつを貰っていくという事だ。」

 予想していた通りですね。

 ですが最悪でもあります。

 改めて聞くと心臓が止まりそうです。

 未だ私はアルカディア号さんを自身の(検閲により削除)に迎え入れていないのですよ?!

 それなのに渡してなるものですか!

 

 「そんな、横暴過ぎます! それに彼は軍属では無いと説明したではありませんか! それなのに転属命令だなんて!」

 

 「なるほど、確かにそうかもしれんな。」

 

 「だったら!」

 翔鶴も声を上げます。

 

 「だがこれは彼に対しての命令ではない。貴様の主に対しての命令だ。上官命令である以上、北大路大佐には従ってもらおうか(笑)。」

 全く人の話を聞かない方ですね。

 私に命じたところで彼には従う必要が無いというのに。

 

 「なに簡単な事だ。北大路大佐はアルカディア殿に何も命令する必要は無い。ただ一言、『柱島第七泊地では貴殿の身柄を預かる事が出来なくなった』といえば良いのだからな。」

 何ですって?!

 確かに私は細川大将の命を受け、アルカディア号さんには何も命令しない形ですが…。

 だからってそんなやり方が許されて良い訳がありません!

 

 「…、です。」

 

 「何?」

 

 「イヤですっ! 真宮寺大将や神崎中将、グリシーヌといった方ならともかく、艦娘を消耗品のように考えていらっしゃる貴方のもとになんて絶対にやれません!」

 自分が気に入ったなら人の恋人でも平気で取り上げる、どれだけ人の道を外れた方なんでしょうか。

 え? あ、いえ…。まだ、予定なんですけど(ぽっ)。

 

 「では、本日現時刻を以って北大路花火大佐殿、貴様は戦死だ。」

 何と、細川大将はそう言って私に銃を向けて来たのです!

 

 「いい加減にしないか!」

 大神さん!

 ついに見かねたのでしょう、今度は大神元帥が細川大将に銃を向けてくれました。

 

 「細川大将、すぐに銃を降ろすんだ!」

 聞いた事も無い低い声で大神元帥が命じます。

 

 「あなたは甘過ぎるのですよ。それこそ元帥、いえ将官としても失格な位にね。」

 が、今度は藤枝中将が真宮寺大将の側頭部に銃を?!

 

 「藤枝中将、あなた…。」

 真宮寺大将が横目で藤枝中将を睨み付けます。

 

 「姉上、それに細川大将殿! あなた方は自分が何をしているのか分かっておられるのか?!」

 

 「フン、かえでか。私に意見するとは随分と偉くなったものだ。だがな、姉より優れた妹など存在しないのだよ!」

 藤枝中将、もう貴女には妹である『かえで』さんの声も届かないのですか…。

 

 「軍にクーデターは付き物だしな。さて大神元(もと)元帥殿、夫婦別姓とはいえ最愛の人の頭に穴を開けたくなかったらその銃を降ろしてもらおう(笑)。」

 細川大将、あなたという人は一体どこまで!

 

 「細川大将殿。帝都防衛なら柱島第七泊地にいても十分可能だ。幌筵泊地やラバウル、タウイタウイ泊地であっても瞬時に急行可能だ。」

 アルカディア号さん!

 

 「分かっていないな。貴様の任は帝都防衛だけではない。私の剣としても役立ってもらう必要があるのだ。」

 「これを切っ掛けに海軍はおろか陸軍をも掌握し新たな政権を造るのだよ(笑)。」

 

 「く、狂ってる…。」

 そう漏らした私の右足を銃弾が掠めました。

 

 「あぐっ!」

 足に力が入りません。痛いというより熱い!

 

 「提督!」

 

 「北大路君!」

 

 「花火っ!」

 翔鶴や大神元帥、グリシーヌが駆け寄ろうとしますが、次は掠めるだけでは済まないでしょう。

 

 柱島第七泊地の皆、ごめんなさい。

 私ではもう…。

 アルカディア号さんを守ることが出来ず指揮官としては失格です。

 アルカディア号さんは私達を助けるため、間違いなく帝都防衛の任に付くでしょう。

 何もできない自分か情けなく悔しい…。

 涙でもう彼が見えません。

 

 「返して、返してよ…。」

 一歩一歩、細川大将のところへ歩いて行くアルカディア号さん。

 ストッキングが破れて血がにじむ私の足にハンカチを当てる翔鶴が懇願します。

 

 「そうだ、そのまま私の所へ来い。」

 前を向いて銃を構える細川大将と藤枝中将の後ろにアルカディア号さんが立ちました。

 




※イベント、丙なのに難易度高い気がします。
 うちにもアルカディア号、来てくれないかな…。

※素晴らしい、アルカディア君! 君は英雄だ!
 これを言うと、床に穴が開いて落下してしまう可能性があります。
 特に特務の青二才にむかって言う際には注意しましょう。
※姉より優れた妹など存在しない
 ジャギ様による至高のお言葉。


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第47話 帰投編3(アルカディア側11)

※あー。お二人さん、とうとうやってしまいましたか。

 アルカディア号自身は知らないけど、彼にもキャプテンハーロックの血が
 流れています。
 ま、当然といえば当然ですが。

 ここで、クイズ?です。
 こんな事をあの『キャプテンハーロック』の前でやったらどうなるでしょう?


 「素晴らしい、アルカディア君! 君は英雄だ!」

 手を叩きながら細川大将が後列より出て来た。

 

 「む、細川大将殿。一体、どうされたのか?」

 何ですのん? 出撃前と偉い違いますやん。

 

 「大将殿は貴殿を救国の英雄だと仰られているのだよ。」

 あ、そういう事だったんですか(笑)。

 いやあ、それ程でもぉ(某園児風)。

 

 「今後はその力をぜひ帝都防衛に! いやその力は帝都防衛にこそ発揮されるべきであろう!」

 へ?

 なんかこの老け顔細川大将の言う事ってもう一つ良く分からん。

 

 「どういう事…、でしょうか?」

 ほら、花火も訳が分からないみたいではないか。

 

 「決まっているだろう、こいつを貰っていくという事だ。」

 ファ?

 何だよ、パチンコの景品みたいに。

 失礼なヤツめ。

 待てよ?

 帝都防衛といえば横須賀所属になるのか?

 まあ、ここの艦娘さん達の方が積極的でハーレムを作りやすそうな分、アリといえばアリなのかもしれんが(笑)。

 でも未だ俺は自身の分身を花火の(検閲により削除)にパイルダーオンさせていない。

 想いを遂げずに余所に移る訳にはいかん(キッパリ)!

 丁重にお断り申し上げようとしたところ、それよりも早く花火が叫んだ。

 

 「そんな、横暴過ぎます! それに彼は軍属では無いと説明したではありませんか! それなのに転属命令だなんて!」

 ほら、花火だって反対しているではないか。

 嬉しくなってしまうが、これはもうすぐ始まる期間限定海域の攻略要因としてなのだ…。

 

 「なるほど、確かにそうかもしれんな。」

 

 「だったら!」

 いや翔鶴さん、せめてあなたは期間限定海域へ一所に出撃して下さい(涙)。

 

 「だがこれは彼に対しての命令ではない。貴様の主に対しての命令だ。上官命令である以上、北大路大佐には従ってもらおうか(笑)。」

 「なに簡単な事だ。北大路大佐はアルカディア殿に何も命令する必要は無い。ただ一言、『柱島第七泊地では貴殿の身柄を預かる事が出来なくなった』といえば良いのだからな。」

 はーん、なるほど。そうきましたか。

 

 「…、です。」

 

 「何?」

 

 「イヤですっ! 真宮寺大将や神崎中将、グリシーヌといった方ならともかく、艦娘を消耗品のように考えていらっしゃる貴方のもとになんて絶対にやれません!」

 あの大人しい花火がここまで声を上げるとは実に意外である。

 いや、柱島第七泊地の艦娘達を曳航した時に川内や霧島、それに摩耶が花火は絆を非常に大切にすると言ってったっけ。

 

 「では、本日現時刻を以って北大路花火大佐殿、貴様は戦死だ。」

 え? 細川のヤツが花火に銃を?

 アイツ、気でも狂ったのか?!

 

 「いい加減にしないか!」

 今度は見かねた12股男さんが細川に銃を向ける。

 

 「細川大将、すぐに銃を降ろすんだ!」

 低い声で命じる12股男さんの迫力に細川が少し怯むが…。

 

 「あなたは甘過ぎるのですよ。それこそ元帥、いえ将官としても失格な位にね。」

 しかし藤枝中将が真宮寺大将のこめかみに銃を当ててきた。

 

 「藤枝中将、あなた…。」

 

 「姉上、それに細川大将殿! あなた方は自分が何をしているのか分かっておられるのか?!」

 藤枝少将も結構、尖ってるなぁ。

 雰囲気的にも髪型的にも姉の『殺女』よりはずっとタイプであるが、果たしてこの俺に乗りこなす事が出来るのだろうか?

 自信が無くなってきた…。

 

 「フン、かえでか。私に意見するとは随分と偉くなったものだ。だがな、姉より優れた妹など存在しないのだよ!」

 藤枝中将、たった今、何かしらの良くないフラグが立ったよ…。

 

 「軍にクーデターは付き物だしな。さて大神元(もと)元帥殿、夫婦別姓とはいえ最愛の人の頭に穴を開けたくなかったらその銃を降ろしてもらおう(笑)。」

 これは意外、お二人とも恋人同士だと思ったら御結婚されてるんですか?!

 夫婦別姓なんで分かりませんでしたわ。

 でも何で夫婦別姓?

 いやいや、そんな事を言っている場合では無い!

 

 「細川大将殿。帝都防衛なら柱島第七泊地にいても十分可能だ。幌筵泊地やラバウル、タウイタウイ泊地であっても瞬時に急行可能だ。」

 さすがの俺にも事態が大変な事になりつつあるのがわかる。

 こんな事なら会議室でこの二人を緊縛拘束しておけばよかったぜ。

 

 「分かっていないな。貴様の任は帝都防衛だけではない。私の剣としても役立ってもらう必要があるのだ。」

 何だよ、横須賀ではなく海軍軍令部行きかよ?!

 それもお前の用心棒…、いや凶器として行くのか?

 

 「これを切っ掛けに海軍はおろか陸軍をも掌握し新たな政権を造るのだよ(笑)。」

 え、何この人?

 完全に危ない人ですやん…。

 大体、古今東西においてクーデター政権が長続きした例はあまりない気が。

 もはや凶器ではなく狂気である。

 

 「く、狂ってる…。」

 花火が呟く。

 いや、全く持って同感ですわ。

 この俺だってそんな事をしようとは夢にも思わん(ひょっとしたら出来るのかもしれんが)。

 そんな事(政権掌握)よりもハーレムっすよ、ハーレムぅ!

 

 「あぐっ!」

 は?

 いや、え?

 コイツ、本当に花火を…、撃った?

 

 「提督!」

 

 「北大路君!」

 

 「花火っ!」

 翔鶴や大神元帥、グリシーヌが駆け寄ろうとするが、細川の銃がチャキッと音を立ててそれを阻んだ。

 だが、細川大将と藤枝中将は忘れている。

 銃の扱いにかけてはこの人の右に出るものはいない事を。

 視界の端でマリア・タチバナ中将がそっと銃を抜くのが見えた。

 

 「返して、返してよ…。」

 このアルカディア号こと期間限定海域特攻チート艦が引き抜かれると思っているのだろう、翔鶴と花火が泣き始めた。

 細川に藤枝よ、花火と翔鶴を泣かせたか。

 いやそれだけではない、あのキレイな花火の足に傷を付けたな。

 あれは擦り傷ではなく火傷だ。破れたように見えるパンストは恐らく熱で溶けているはず。

 間違いなく後が残る傷だ。超えてはならん一線を超えたな。

 

(女神:足フェチにとってだけどね…。)

 

 「そうだ、そのまま私の所へ来い。」

 前を向いて銃を構える細川大将と藤枝中将の後ろに立つ。

 安心し切っている所を悪いが、そのまま細川の手首を思い切り鷲掴みにして吊り上げてやると同時にマリア・タチバナ中将の銃弾が藤枝中将の銃を弾き飛ばした。

 




※筆:え? 『かえで』少将を乗りこなせると思っているんですか?!

 ア:最悪、乗ってもらうでもいい(キッパリ)。

 筆:横須賀、行かなくていいの?

 ア:神崎中将閣下の所なら構わん。あと横須賀ではないがマリア・タチバナ中将
 の舞鶴一鎮やシー・カプリス中佐、エリカ・フォンティーヌ大佐の所でもな(笑)。

 筆:…(アンタ、いつか絶対、刺されるわ)。

 細:ちょっといつまでこんな役回りさせるつもりなのかしら?

 藤:スチュワーデス物語であの嫌な役、誰だっけ?
 名前忘れたけど、あの女優さん、日常の買い物に出かけても子供達から石を投げら
 れたっていうじゃない。

 細:そうならない内にサッサと退場させて欲しいわね。

 筆:あー、申し訳ないです。
   もう少しなので我慢して下さい。<(_ _)>


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第48話 帰投編4(艦娘側:マリア・タチバナ中将)

※とうとうお気に入りが300を超えてしましました。
 そして50話も目前に!
 よくここまで続いたと思いますが、これも諸兄氏のお陰です。本当に感謝しかありません。
 どこまで続けられるか分かりませんが、これからも宜しくお願い致します。


※イベントようやくE‐6まで来ました(笑)。


 「ぐあっ!」

 

 「あうっ!」

 2つの悲鳴が上がった。

 一つは銃を弾き飛ばされた藤枝中将、もう一つはアルカディア号さんに手首を鷲掴みにされた細川大将のもの。

 

 「タチバナ中将、貴様!」

 右腕を抑えながら藤枝中将が睨む。

 

 「何をするかっ! 放せっ、この狼藉者が!」

 狼藉者? 貴女がそれを言うというの?

 

 「細川、貴様…、ウチの翔鶴と花火を泣かせたか。いや、それだけでは無い。あの美しい花火の足に傷を付けた罪は重いぞ!」

 アルカディア号さんがさらに力を込めたかと思うとパキッともペキッともつかない乾いた音と共に細川大将の悲鳴が響き渡った。

 艤装なしの状態で骨を折った?!

 艦娘といえども艤装を展開していなければただの人間と変わりないのはアルカディア号さんとて同じはず。

どれだけ力が強いのかしら?!

 

 「動かないで。少しでも動いたら次は足を撃つわよ。」

 細川大将を助けようとする藤枝中将に釘を刺す。

 

 「放せと言っているのだ! 小汚い海賊船の分際で私に触れるな!」

 まったく、騒ぐ奴ほど小物とはよくいったものね。

 

 「出来ればこちらもお前のような老け顔の女に興味も無いし触れたくも無い。が、二人を泣かせたとなると話は別だ。おまけに貴様が花火に付けた傷、あれは擦り傷ではなく火傷だ。間違いなく後が残るぞ!」

 フフッ、アルカディア号さんも随分ね(笑)。

 でも跡が残る傷を付けるなんて彼の言う通り論外だわ。

 

 「知った事か! 上官の命令を聞かなかった北大路にこそ責任がある!」

 

 「貴様、神の造形物ともいえる花火の足を傷付けておいてよくそんな事が言えるな!」

 あら、お二人がやり合っている側で面白い現象が起きてるわ。

 北大路大佐がどんどん赤くなって(笑)…。

 

 「何が神の造形物か、笑わせるな! 私と変わらぬ平々凡々ではないか!」

 

 「細川よ、貴様は少し感受性が鈍過ぎる。美しいモノを見れば素直にそう思えるようになれ。男から見て可愛げが無いぞ。それに踵の荒れた貴様の足を花火の足と一緒にするな。花火は柔らかくしっとりしてぷにぷにだ!」

 

 「まさか確かめたというのか?! この破廉恥海賊船が! 大体、しっとりなどただの油足なだけではないか! いいからさっさと手を放せ!」

 

 「…っ。」

 とうとう北大路提督が、両手で顔を覆って首を横に振り始めてしまったわ(笑)。

 

 「大神元帥への無礼を含め反省の色無しか。」

 そのまま、彼はコンテナまで細川大将を放り投げると剣先を向けました。

 

 「ひっ!」

 

 「アルカディアさん、止めるんだ!」

 大神元帥も叫びます。

 が、それよりも早くアルカディア号さんの剣先から光線が!

 誰もが最悪の事態を想像したけれど、弾け飛んだのは細川大将のピアス。

 

 「最初見た時はダルシムのような下品なピアスだと思ったが、これで随分と上品になったではないか。その方がずっといいぞ(笑)。」

 ニヤリと笑って細川大将を見下ろすアルカディア号さん。

 確かに一番根元の小さな円だけが残って随分と上品というか地味になったわ(笑)。

 でも『だるしむ』って誰なのかしら?

 

 「細川よ、翔鶴と花火を再び泣かせる事があったら次はその耳ごと無くなる、と…。」

 アルカディア号さん?

 

 「フッ、こいつは傑作だ。明石、応急修理妖精をよこせ。細川大将殿に派手な浸水、いや漏水が見られるぞ。」

 あら?!

 細川大将ったら、随分と大きな『水 溜 ま り』ね。

 私達、ホワイト鎮守府運営者から漏れたのは失笑だけど、貴女からは何が漏れたのかしら(笑)?

 

 「細川、自分がそれ程の恐怖を感じる事を何故、平気で他人に向ける? これから生きていく中でそれを忘れるな。」

 軍警に拘束されていく細川大将にアルカディア号さんが声を掛ける。

 まあ、彼の言葉が届くことが無いでしょうけど。

 さらにアルカディア号さんは踵を返し、藤枝中将の足の甲を踏み抜きました。

 声にならない悲鳴を上げ、のたうち回る藤枝中将。

 あれ間違いなく骨にひびが入ってるわね。

 そんな彼女を一瞥して北大路提督の下へ向かおうとするアルカディア号さん。

 その時、彼からひょっこりと出て来た妖精さんが突然、声を上げました。

 

 「きゃぷてん!」

 さすがアルカディア号さん、お連れしておられる妖精さんも随分と違うみたいね。

 

 「どうした螢?」

 

 「あるかでぃあごうの れーだーが さきほどから びじゃくでんぱを とらえています!」

 

 「そんな、また敵襲なのですか?」

 エリカ・フォンティーヌ大佐が不安そうにしてるわ。

 

 「螢、発信源は分かるか?」

 

 「はい、ぎゃくたんち しゅつりょく さいだい! はっしんげん かいせきかんりょう、ふじえだちゅうじょうの ねっくれす!」

 皆が一斉に藤枝中将に目を向ける。

 彼女を拘束しようとしていた軍警の動きまでが止まった程に。

 

 「藤枝中将、あなたそのネックレスどうしたの?」

 

 「これか? これは数年前に夜店の露天商から売れ残りとして貰ったものだ。」

 返事を聞いた真宮寺大将が厳しい表情になったわ。

 

 「何故そんな顔をする?! 失礼だぞ、これは貰ったもので盗んだ訳ではない!」

 大神元帥と真宮寺大将、いえ『さくら』さんは頷き合い、藤枝中将の前に立つ。

 

 「な、何をする! 貴様、無抵抗な者を切るというのか!」

 それでも厳しい表情を変えることなく剣に手を掛ける。

 誰も一言も発しない、アルカディア号さんもじっと見守るだけ。

 

 「破邪剣征、桜花放神!」

 気合一閃、さくらさんの剣が藤枝中将のネックレスを一刀両断すると、真っ二つになったネックレスから声が!

 

 「気付かれたか。せっかく海軍中枢部に我が傀儡を送り込めたというのに。」

 

 「貴様、何者だ?」

 アルカディア号さんがネックレスを拾い上げますが…。

 

 「私は波野静香。アルカディア号、この礼は近い内に必ずさせてもらう!」

 その言葉を最後にネックレスはアルカディア号さんの手の中で青白く燃えてしまったわ。

 同時に意識を失った藤枝中将が、その場に倒れ込みます。

 

 「大神元帥、それに真宮寺連合艦隊司令長官。話さなくてはならないことが出来た。午後からの会議では私にも少し時間を貰いたい。」

 藤枝中将が海軍軍令部の医療棟へ運ばれていく中、アルカディア号さんがお二人に直訴する。

 もちろん、お二人も直ぐに了承をして下さったけれど。

 

 「翔鶴、行くぞ。」

 アルカディア号さんが北大路提督を抱え上げたわ。

 

 「神崎中将閣下、救護室か医務室への案内を頼む。花火の手当てをしたい。」

 

 「は、はい! こちらです。」

 

 「あ、あのアルカディアさん、歩けます! 自分で歩けますから!」

 ジタバタする北大路提督だけど、彼から脱出できるはずもなく…。

 

 「提督さん、思ってる事が顔に出てるよ…。まあ、分からないではないけれど。」

 強制連行されていく北大路提督を目で追っていると護衛艦として連れてきた呆れ顔の瑞鶴が。

 そんなに分かりやすかった? と聞くと周りぐらいにはね(笑)と返される始末。

 

 「決めたわ。」

 物欲しそうな表情の周りを見て反省する(少し)も、やっぱり羨ましい!

 

 「提督さん?」

 

 「私もお姫様だっこにチャレンジするわ。え、身長186cm? 男役はさんざんやって来たの。たまには良いじゃない。」

 

 「…。」

 

 「ありがとう瑞鶴。応援してくれて嬉しいわ。この横須賀にいる間は難しいかもしれないけど、無理なら演習の際にでもお願いするつもりよ。」

 瑞鶴のジト目を受け流しこれからの予定に考えを巡らせる。

 

 「でも柱島第七泊地と演習予定なんて無かったというか、今まで一度もしたこと無い気が…。」

 

 「瑞鶴は当然主力メンバーなんだから気合を入れてもらわないとね。」

 

 「提督さん、ホント?!」

 姉の翔鶴が顕現(ドロップ)した時よりも嬉しそうね。

 やっぱり貴女もアルカディア号さんが気になるんじゃない(笑)。

 

 「だから、ね?」

 

 「心得たわ。でも流石は東京花組の重鎮、提督さんも悪いわね(笑)。」

 

 「ええ、どこぞの五航戦のお陰かしら(笑)。」

 二人で顔を見合わせてクックックッと哂う。

 舞鶴に帰ったら早速、予定の確認をしないと。

 

 アルカディア号さん、逃げられると思わない事ね(ペロリ)。

 




※細川大将から何か漏れたようですが、さすがにそこは見て見ぬふりというのが
 我々紳士でしょう。
 まあ、これもしっかり全鎮守府・泊地・警備府・基地に中継されてるんですけどね(ご愁傷様)。

※花火ちゃんの足:この一件以降、かなり自分の足を気にするようになります。
 出来るだけアルカディア号の期待に応えるつもりのようです。自分では微塵も
 キレイな足だとは思っていないのですが健気ですねぇ(笑)。

※どうやら藤枝中将は潜伏していたマゾーンから操られていたようです。
 TV版を見ていた方なら波野静香という名前はもうご存知ですよね?

※マゾーンと深海棲艦にどのような繋がりがあるのでしょうか?!
 アルカディア号も本腰を入れて戦場に立つ必要が出て来たのかもしれません。


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第49話 帰投編4(アルカディア側12)

※さあ、いよいよマゾーンの存在が明るみに出てきました!

※この両者は海底ピラミッドをキーにして繋がっているようです。


 「ぐあっ!」

 

 「あうっ!」

 細川が悲鳴を上げる。

 さらに銃を弾き飛ばされた藤枝中将の悲鳴が後を追って聞こえてきた。

 

 「タチバナ中将、貴様!」

 マリア・タチバナ中将を睨む藤枝中将をよく観察し他に武器は持っていない事を確認する。

 

 「何をするかっ! 放せっ、この狼藉者が!」

 自己紹介乙である。

 

 「細川、貴様…、ウチの翔鶴と花火を泣かせたか。いや、それだけでは無い。あの美しい花火の足に傷を付けた罪は重いぞ!」

 柱島第七泊地の宴会場で型と香りを堪能した時は傷一つ無いキレイな足だったのに。

 腕を掴んだまま細川を吊り上げる。

 が、宙ぶらりんになった細川が逃れようと暴れたのでつい力を入れ過ぎてしまった。

 パキッともペキッともつかない乾いた音がして細川大将が悲鳴を上げる。

 あ、折っちゃった?!

 

 「動かないで。少しでも動いたら次は足を撃ちます。」

 細川大将を助けようとする藤枝中将をマリア・タチバナ中将の銃口が捉えた。

 

 「放せと言っているのだ! 小汚い海賊船の分際で私に触れるな!」

 えー、先までその海賊船を用心棒としてそばに置こうとしていたのは誰でしたかね?

 

 「出来ればこちらもお前のような老け顔の女に興味も無いし触れたくも無い。が、二人を泣かせたとなると話は別だ。おまけに貴様が花火に付けた傷、あれは擦り傷ではなく火傷だ。間違いなく後が残るぞ!」

 お互い言いたい放題である。

 それに出撃前には確か妹の『藤枝かえで』少将も間接的とはいえ泣かせていたな。

 

 「知った事か! 上官の命令を聞かなかった北大路にこそ責任がある!」

 ハァ?!

 知った事かだと?

 

 「貴様、神の造形物ともいえる花火の足を傷付けておいてよくそんな事が言えるな!」

 傷を隠すためにタイツを履くようになったらどうしてくれるんだ?!

 タイツは透け感が無いのと生地の厚さからくるモッサリ感が大嫌いなんだ。

 

 「何が神の造形物か、笑わせるな! 私と変わらぬ平々凡々ではないか!」

 細川、お前ここの明石か夕張にでも頼んで高性能な眼鏡でも作らせろ。

 文字通り世界が変わるぞ、知らんけど。

 

 「細川よ、貴様は少し感受性が鈍過ぎる。美しいモノを見れば素直にそう思えるようになれ。男から見て可愛げが無いぞ。それに踵の荒れた貴様の足を花火の足と一緒にするな。花火は柔らかくしっとりしてぷにぷにだ!」

 

 「まさか確かめたというのか?! この破廉恥海賊船が! 大体、しっとりなどタダの油足ではないか! いいからサッサと手を離せ!」

 油足ねぇ。あれだけの危険な黒酢の香りはそのせいなのかぁ。

 あ、ヤバイ。

 また堪能したくなってきた…。

 

 「~っ!」

 花火がとうとう両手で顔を覆って首を横に振り始めた。

 可哀想に、子爵令嬢ともなれば傷一つで商品価値(言い方は非常に不適切だが)が落ちてしまう事を嘆いているのだろう。

 俺や世間一般からすればナンセンスだが、未だに華族や子爵では家柄や体傷などに煩いのは容易に想像できる。

 時代錯誤も甚だしいが、結婚は家の為にするというのが当たり前の世界だと聞くしな。

 

 「大神元帥への無礼を含め反省の色無しか。」

 怒りに任せてコンテナまで細川を放り投げる。

 

 「ひっ!」

 重力サーベルを突き付けてやると彼女の顔が恐怖に引き攣った。

 

 「アルカディアさん、止めるんだ!」

 殺してしまうと思ったのだろう、大神元帥が叫ぶ。

 そのまま引き金を引いて両耳のピアスを飛ばしてやった。

 

 「最初見た時はダルシムのような下品なピアスだと思ったが、これで随分と上品になったではないか。その方がずっといいぞ。」

 年を取るにつれて派手なモノを好むようになっていくと聞いた事がある。

 老け顔とはいえ、貴様の年齢であればそれで十分だろう(笑)。

 

 「細川よ、翔鶴と花火を再び泣かせる事があったら次はその耳ごと無くなる、と…。」

 細川大将一派のブラック提督達に釘を刺そうと彼女を見下ろすと不思議な水溜りがあるのに気付いた。

 それだけなら水溜りの上に座ってしまったと解釈できるが、現在進行形で水溜りが広がってる?

 

 「フッ、こいつは傑作だ。明石、応急修理妖精をよこせ。細川大将殿に派手な浸水、いや漏水が見られるぞ。」

 

 「み、見るなっ! 頼む、見ないでくれ!」

 懇願する細川に対しホワイト提督達から失笑が漏れる。

 

 「細川、自分がそれ程の恐怖を感じる事を何故、平気で他人に向ける? これから生きていく中でそれを忘れるな。」

 軍警に拘束されていく細川大将に俺の言葉が届くかどうかはわからんが…。

 それにどうだ? 実際、弱者の立場に身を置いてみた感想は(笑)。

 続いて藤枝中将の足を踏みつけてやる。

 油断していたのか避けようともしなかったため、喉奥から悲鳴を上げ転げまわった。

 

 「きゃぷてん!」

 花火のものとへ向かおうとした時、螢が声を上げた。

 

 「どうした螢?」

 

 「あるかでぃあごうの れーだーが さきほどから びじゃくでんぱを とらえています!」

 

 「そんな、また敵襲なのですか?」

 エリカ・フォンティーヌ大佐か。

 ドジっ子属性はあまり好きではないが、日髙のり子さんは大好きなので声を聞けたのは素直にうれしいですわ(癒し)。

 

 「螢、発信源は分かるか?」

 

 「はい、ぎゃくたんち しゅつりょく さいだい! はっしんげん かいせきかんりょう、ふじえだちゅうじょうの ねっくれす!」

 藤枝中将に全員の視線が集まる。

 まさかコイツ、スパイなのか?!

 

 「藤枝中将、あなたそのネックレスどうしたの?」

 

 「これか? これは数年前に夜店の露天商から売れ残りとして貰ったものだ。」

 返事を聞いた真宮寺大将が厳しい表情になった。

 細川の後ろ盾を失った今、藤枝中将がウソをつくとは思えない。

 となると考えられる事は一つだ。

 

 「何故そんな顔をする?! 失礼だぞ、これは貰ったもので盗んだ訳ではない!」

 真宮寺大将が居合の構えをとって彼女の前に立つ。

 

 「な、何をする! 貴様、無抵抗な者を切るというのか!」

 

 「破邪剣征、桜花放神!」

 気合一閃、藤枝中将のネックレスを一刀両断する真宮寺大将。

 実に見事、惚れ惚れする程の腕前である。

 でも夜には大神元帥の腰前にある剣(意味深)を握ってるんでしょ?

 貴女もスミに置けませんなぁ、知らんけど(笑)。

 

 「気付かれたか。せっかく海軍中枢部に我が傀儡を送り込めたというのに。」

 あ、これどこかで聞いた事のある声だ。

 思い当たるのは一人しかいないが、もしそうならメンドクサイ事になるなぁ…。

 

 「貴様、何者だ?」

 まあ、確定だろうが一応聞いておこう。

 

 「私は波野静香。アルカディア号、この例は近い内に必ずさせてもらう!」

 ネックレスが青白く燃え落ちる。

 やっぱりかぁー、うん。

 マゾーンの先遣部隊が噛んでやがるよ…。

 藤枝中将が意識を失ったみたいだが、もうそんな事どうでもいいや。

 

 (女神:いやダメだからね!)

 

 「大神元帥、それに真宮寺連合艦隊司令長官。話さなくてはならないことが出来た。午後からの会議では私にも少し時間を貰いたい。」

 マゾーンに付いてある程度詳しく説明しておく必要が出てきてしまった。

 それよりも問題なのはマゾーンと深海さん達とどういう御関係なのかという事である。

 

 「翔鶴、行くぞ。」

 花火を抱え上げる。

 

 「神崎中将閣下、救護室か医務室への案内を頼む。花火の手当てをしたい。」

 

 「は、はい! こちらです。」

 

 「あ、あのアルカディアさん、歩けます! 自分で歩けますから!」

 ダーメ。放す離すわけないでしょーが。

 花火の髪から感じられるシャンプーの匂いに顔が緩む。

 これで文字通り『頭のてっぺんから足の先』まで花火を制覇である(意味不明)。

 

 神崎中将に案内された救護室はカーペット張りで、どうしようかと思ったが直ぐに翔鶴が気を利かせて花火の靴を脱がせてくれた。

 そのまま診察用ベッドに座らせる。

 

 ん? 花火の様子が少しおかしい。

 目の焦点が定まっておらず、少しばかり息も荒い。

 

 「北大路提督? いえ、もう花火さんで良いわね、どうしたの?」

 神崎中将が声を掛けるも目はトロンとしたままで反応が鈍い。

 冗談抜きで心配である。一体どうしたというのか?

 

 「!!」

 何かに気付いたのだろうか? 翔鶴が息を飲む音が聞こえた。

 

 「と、取り敢えずパンストを。神崎中将は左足をお願いできますか?」

 

 「では俺は右足だな?」

 

 「アルカディアさん、さすがにそれは殿方の出番では無いわ。私と翔鶴に任せて。」

 ハイ、閣下の仰る通りです、スイマセン…。

 すごすごと部屋の隅に移動する。

 

 「いえ、あのアルカディアさん、心配なのは分かりますがじっと見ているのはどうかと…。」

 

 「花火の素足が見れると聞いて。」

 (やはり心配なのでな。)

 しまった、逆になってしまったぞ。

 

 「そんなに女の素足が見たければ後ほど、執務室にいらして下さいな(笑)。」

 私でよければと、小声で中将が本日一番のハニトラを仕掛けてきた。

 これはさすがに抗えませんわ、もうただのYESマンですわ…。

 楽しみにしておこうと返答し救護室を出ようとすると神崎中将が再度、耳元で囁いてきた。

 

 「アルカディアさん、あなた足フェチなのね(笑)。」

 さすが神崎中将閣下である。一発で看破されてしまった。

 

 「否定はしない。」

 ニヤリと笑って振り向くと中将閣下も同じように笑っている。

 改めて閣下に目を向けると年はそれほど花火と変わらない(1907年1月と1908年5月)なのに神崎中将のほうが遥かに大人びて見える分、制服もよく似合っている。

 黒パンストも花火はセーラー服に対するソレであるのに対し(それはそれでイイものだ!)、中将の場合は大人の女性が脚を引き締めるために履きこなしているソレだ。

 

 後ろ髪を引かれるが、神崎中将と翔鶴に花火を頼むと告げて艦娘専用食堂に向かう。

 彼女には士官専用食堂の使用を勧められたが、これ以上ブラック提督からの勧誘を避けるために丁重にお断りしておいた。

 あと、やっぱりここの艦娘達とも親善をはからないとな(笑)。

 

 その後、何故か調子を取り戻した花火はしばらく目を合わせてくれないようになった。

 翔鶴に理由を聞いても、彼女も赤くなるばかりで何も教えてくれない。

 神崎中将は複雑な顔をしていたが、理由を聞かないのも優しさですと言われてしまった。

 うーん、訳が分からん。

 女というのは複雑怪奇な生き物である…。




※ア:少しあの二人に対する制裁が甘過ぎるのではないか?
 筆:私もそう思ったんだけどね。
   でもキャプテンハーロックは必要以上に相手を傷付ける事は好まないのではな
   いか、そこも彼の男としての部分ではないかと思ったんだよ。
 ア:それ程でもない(フンス!)がな。
   ただ、翔鶴と花火を泣かせたのかと思うとちょっと『プチ』切れてしまったんだ。

 筆:あといくら何でも老け顔はまずいよ。相手は女性だし…。
 ア:反省はしている、後悔はしていない!
 筆:水溜りも黙ってあげるのが紳士ってものでは?
 ア:柱島第七泊地に手を出せない事を分からせるための尊い犠牲になってもらった。
 筆:…。

 筆:ところでついにマゾーンが出て来たみたいだけど?
 ア:うむ、戦場に出てもこれまで見たいにはいくまい。
 筆:そうだね、艦娘達にも光線兵器を装備させる必要があるから、明石と夕張は忙しくなるよ!

 筆:あ、諸兄氏も北大路提督がちょっとおかしくなった理由が分からなくても追求しちゃダメですよ。
   翔鶴さんも同じ経験をしたので、絶対に主人公には教えないですね(笑)。


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第50話 食堂編1(艦娘側:一鎮伊勢)

※とうとう50話になりました。
 もっと早く終わらせるつもりだったので自分でも本当に驚いています。
 お気に入りも300を超え本当にありがたい限りです。
 これからも少しづつ筆を進めていきたいと思いますので、宜しくお願い致します。

※諸兄氏はもうイベントクリアされましたでしょうか?
 私はようやく最終海域第一ゲージ突破です。
 早くホーネット迎えたい…。


 「まだ信じられないわ。全ての艦載機が噴進式な上に光線兵器を実用化しているなんて。」

 

 「うふふ、加賀さんはリアリストですから。」

 

 「いえ姉様、私も半信半疑です。」

 

 「妹まで…。不幸だわ。」

 

 「でもあの男性艦、アルカディアさんだっけ? イイ男だよねー。」

 ここ、横須賀第一鎮守府の艦娘用大食堂はお昼時という事もあって、柱島第七泊地提督である北大路大佐の随伴艦が一人で鬼姫級の連合艦隊を壊滅させた話で持ち切り状態。

 

 「伊勢には水を差すようで悪いが、我ら伊勢型のような地味艦など彼の目に留まるとは思えんぞ。」

 日向が呆れ顔で視線をこっちに向けてくる。

 

 「もう、日向ったら少しぐらい夢を見させてくれても良いじゃない。」

 そうは言ったものの、私も日向と同じ意見(笑)。

 だからまさかこの後、アルカディアさんとランチを共にできるなんて思ってもみなかったんだよね。

 ちょうどそこに出撃メンバーだった『武蔵・大和・大鳳・赤城・翔鶴・瑞鶴』の6名が入って来る。

 

 「おかえりなさい、大変だったわね。本当によく帰ってきてくれたわ。」

 出撃メンバーを労う陸奥さん。

 

 「で、どうだった?」

 北上ったら早速なの?(笑)

 

 「ええ、大変でした。もうここへ帰れる事は無いと…。」

 

 「もう、赤城さんてば。そうじゃなくて、ほら例の男性艦だよ~。」

 

 「ああ、アルカディアさん? いやぁ凄かったよ。もう、全てが桁外れだもん。」

 あー、瑞鶴ったら北上が聞きたいのはそういう事じゃなくて…。

 

 「そんなの中継されてたから知ってるよ。だからイイ男だったかって事だよ(ニヤニヤ)。」

 

 「ええ、背も高いしイケメンで最高ですね。まだ大和の腕にはアルカディア号さんの腕を抱きしめた感覚が残っています。」

 そうそう、そういう話を聞きたいんだって(期待)。

 

 「私、横須賀関係者以外の男の人を初めて見ました。その上、ハーネスを渡して頂く時に手が触れてしまって…。まだ胸がドキドキしています。」

 

 「大鳳さん、アルカディア号さんと手が触れたのですか?!」

 妙高も普段の淑女ぶりはどこへやら、か(笑)。

 でも、よくよく考えたら彼女がパーフェクトレディの仮面を脱ぎ捨てるぐらい大変な事なんだよね。

 ここの艦娘でも横須賀第一鎮守府や海軍軍令部以外の男性を一度も見た事が無いって娘も結構いるはずだし。

 

 「お声も渋いですよね。女として今夜は色々ともう…。」

 あの榛名と並ぶ清楚系艦娘代表の翔鶴だってとんでもない事を口走ってるし。

 

 「それからあの男の人特有の匂い! もう堪らないよね!」

 

 「ちょ、瑞鶴、今なんて言ったの?!」

 私達のほとんどは男の人を見かける事はあっても触れ合うことはまず無い。

 たまに運の高い艦娘が男の人ってなんだかいい匂いがしますなんて言ってみんなに小突き回されていたりする(笑)。

 

 「元帥さんとはまた違った匂いなんだけど、それでも何ていうかまさに男の人っていう匂いだったなぁ。」

 

 「ああ、あれは香水では無く純粋な男の体臭だ。この武蔵、思わずクラクラしてしまったぞ。」

 

 「ええ、確かにあれは危険ですね。私も違う意味で轟沈寸前でした(笑)。」

 ええ、何よそれ。めちゃくちゃ羨ましいんだけど。

 

 「仰られることもカッコ良かったです! 榛名もいろいろ言われてみたいです!」

 

 「私が痺れたのは体を差し出そうとした北大路提督を止めた時かな。あんなに可愛らしくて若い女性だよ? 普通はパクっといっちゃうって!」

 まるで映画のワンシーンのようだった場面を思い出す。

 今夜は北大路提督を私に変えて脳内ヘビロテ、これで決まり(笑)。

 

 「あの…、それはどういう意味でどういう状況だったのですか?」

 

 「北大路提督は神崎先輩とグリシーヌ、それから二人の艦娘18名を助けてあげて下さいと涙ながらにアルカディアさんに依頼されたのですが…。」

 

 「ただ、対価としてお渡しできるものが無いと、その…、体で払おうとしたんだ。」

 高雄と日向が大和に説明する。

 

 「でも、アルカディア号さんは嫁入り前の娘が何をしている、感心出来る事ではないと仰って…。」

 胸の前で手を合わせうっとりした表情の妙高。

 へぇー、妙高のヘビロテシーンはそこなんだ(笑)。

 

 「ええ、花火が本当に好きな人が出来た時にまでとっておけって受け取らなかったんです。その気持ちだけ受け取っておくと。榛名、感激しました!」

 うんうん、そこも良い場面だったよね。

 アルカディアさん出撃前の超感動シーン、クライマックス!

 

 「馬鹿な、配下の艦娘ではない我々になぜそこまでして下さるのだ?!」

 

 「盟友のブルーメール少将の艦娘達ならまだ分かるけれど…。」

 妙高と榛名の説明を聞いた出撃メンバーは一様に戸惑っていたけど、赤城の提案で食事後、改めてお礼に行こうとなったみたい。

 

 「でも午後からまた会議では?」

 

 「大鳳さんの言う通りですね。夕方になるけれど仕方が無いわ、瑞鶴?」

 

 「うん、後で二鎮の私にも知らせておくね。」

 

 「うむ、それが良いだろう。二鎮のメンバーは北大路大佐に張り飛ばされていたからな。この事実を知っておくべき…。」

 日向?

 どうしたの、目が点になってるじゃない。

 え?

 何、後ろ?

 

 「え、嘘。そんな…。」

 

 「やだ、こんな…。榛名は大丈夫じゃ、ないです…。」

 高雄と榛名までおかしくなった原因を見ようと後ろを振り返った私の目に飛び込んで来たのは…。

 

 黒い上着に黒いマント。

 胸にある大きな髑髏。

 両腰には西洋剣とガンホルダー。

 ライトグレーのパンツに黒のブーツ。

 中継で見ていた通りの出で立ちで食堂の入り口に立つアルカディアさんの姿が!

 

 ど、どうなってるの?

 なんでアルカディアさんがここに?!

 横須賀第一鎮守府の艦娘用大食堂が一瞬にして静まり返る。

 先程まであれだけ騒いでいたとは思えないほどの静けさの中、彼がゆっくりと歩みを進める音だけが響く。

 やがてカウンターの前で止まると、奥にいる鳳翔さんに声を掛けた。

 

 「女将、いや鳳翔殿。ここは現金精算か?」

 

 「いえ、艦娘であれば無料です。それに神崎提督からアルカディア号さんが来られるのはお聞きしておりますので。」

 鳳翔さんが慌てて前に出て来た。

 

 「あと鳳翔殿なんてそんな、鳳翔とお呼びくだしゃい。」

 よほどテンパっていたのか最後、カワイイ噛み方をしてしまった鳳翔さん。

 真っ赤になって目から下をトレイで隠しちゃったよ(笑)。

 

 「そうか。しかし皆が敬意を持っている中、俺だけ貴女を鳳翔などと呼び捨てにする事など出来ん。悪いが我慢してくれ。」

 

 「わ、分かりました。では何にされますか?」

 

 「カツ丼、いやネギトロ丼を頼む。」

 てっきり洋食にされると思っていただけに鳳翔さんも驚いているみたい。

 

 「お待たせ致しました。どうぞ。」

 量からすると長門盛と加賀盛の中間ぐらい。

 ここで割り箸を取ろうと伸ばした鳳翔さんの手が、同じく割り箸を取ろうとしたアルカディアさんの手を上から握ってしまった。

 あーあ、食堂の空気が変わっちゃったよ。

 

 「ひゃうっ! もももも、申し訳ありません!」

 私ったら殿方に何て事を、と先程以上に真っ赤になって右往左往する鳳翔さん。

 あの人がこんなに取り乱すのを見たのは初めてだよ。

 

 「悪かったな。気になるなら消毒液や石鹸で手を洗ってくれ。」

 鳳翔さんが違うんです、そんなつもりではと完全涙目になっちゃったよ。

 でさ、当のアルカディアさんは気にも留めずにトレイを持ったまま振り返ったのよね。

 

 「あ、あの! どうぞこちらに!」

 ここで、すかさず妙高がアルカディアさんを呼んだ。

 榛名と高雄が慌てているけど妙高、よくやったよ!

 ただし、先程以上に空気が変わってしまったけど。

 

 「すまないな、助かる。」

 何と、そう言ってアルカディアさんが本当に私達のテーブルにやって来てくれたの!

 

 「高雄に妙高、それに伊勢型と榛名か。艦娘を代表するパーフェクトレディ2人に世界初の航空戦艦、浮砲台となりながらも日本海軍の戦艦として最後の主砲を撃ったフロイラインに同席できるとは光栄だ。」

 アルカディアさんが私達を褒めてくれてるよ!

 しかも、ちゃんと私達一人一人の事も知ってくれていて泣いちゃいそう。

 でもこれでまたまた空気が変わっちゃったみたい。

 全員の刺すような視線が痛いけど負けないからね!

 

 「いえ、光栄なのは私達の方です。先程のアルカディア号さんの戦いぶりを見せて頂きましたがあれほどとは…。」

 

 「ああ、艦載機も私達とは違い噴進式なのに驚いたよ。おまけに君の武装はあの空中魚雷と対空兵装を除いて全て光線兵器なのだな。」

 

 「ああ、あれはレーザーという。俺は伊勢型は勿論、航空戦艦や航空巡洋艦には武装をレーザーに改装した瑞雲のファンネル化が出来ないかと考えている。」

 アルカディアさんによるとあの光線兵器はレーザーというみたい。

 しかも私達の瑞雲に搭載? 素敵じゃない!

 でも『ふぁんねる』って何かしら?

 

 「さ、では食べるとしよう。」

 アルカディアさんが箸を割る。

 

 「どうしてカツ丼を止めたのですか?」

 ああっ、高雄が何気ない質問をする振りをしてアルカディアさんをスンスンしてる!

 

 「柱島第七泊地の歓迎会で足柄に振舞ってもらう約束をしたのでな。それまではカツ断ちという訳だ。」

 

 「向こうのあの娘(足柄)ったら、そんな約束を…。ここの足柄を呼びましょうか?」

 ちょっと、妙高までフンフンしてるじゃない?!

 

 「足柄さんほどではありませんが、榛名も作れます!」

 くっ、榛名までアルカディアさんをクンクンしてる!

 こうなったら私も!

 

 「私はそんなに…。アハハ…。」

 そう言いながらアルカディアさんの匂いを目一杯吸い込む。

 

 え、ちょっと何なのよ、これえ?!

 もう催淫薬レベルなんですけどぉ!!

 何とか正気を失わずに済んだものの、次の攻撃で私は沈められちゃった…。

 

 テーブル上のお醤油差しを掴んだ私の手ごとアルカディアさんが握りしめてきて?!

 そのまま、彼は私の手ごと自分のネギトロ丼に付いてきた山葵の御皿にお醤油を注ぎ始めた。

 ゴツゴツした男性特有のがっしりとした手の感触が私の、私の手に伝わって?!

 

 「お先。」

 何がお先よぉ、こんなの絶対確信犯じゃん。

 真っ赤になって睨み付けるとアルカディアさんが山葵をお醤油で溶きながらニヤニヤしてる。

 でもちょっと待って?

 もしかしたらお前は俺のものだって事じゃない、これってば?

 そうか、そうよね!

 それが分かった今、もはや周りの絶対零度の視線も気にならない。

 むしろ見て、もっと見てよ!

 

 宇宙海賊船アルカディア号、戦艦の火力と正規空母並みの航空機運用力…、ね、(彼って)素敵でしょ?

 




※いや改めて文字にするとアルカディア号と北大路提督のシーンは良いシーンですねぇ。
 典型的なお互い知らない方が幸せという例ですね…。

※ここ横須賀第一鎮守府の伊勢が選ばれたんだから柱島第七泊地に付いて行くなんて言い
出さない事を祈っています。


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第51話 食堂編1(アルカディア側13)

※お久しぶりです。
 イベント最終海域の攻略に忙しくてなかなか投稿できませんでした。
 お許しを…。

※難易度丁にもかかわらず、未だE-7最終ゲージ攻略中です。
 今週中には終わらせたいです。


 神崎提督に教えてもらった通りに進むと艦娘達の楽しそうな声が聞こえてきた。

 ちょっとお昼を過ぎてしまったが、まだまだ多くの艦娘達が昼食をとっているのだろう、チャンスタイム継続中ってヤツに胸が膨らみますわ。

 そして夜にはこのアルカディア号の単砲身が膨らむのだ。

 ん、どちら様かな?

 単砲身を短包芯などと仰られた方は?

 オジサン怒らないから手を上げなさい(怒)。

 

 ところが食堂の入り口に立った途端、一瞬にして中が静まり返った。

 え、ナニコレ?

 まだ何もしていないのにメチャクチャ警戒されてるんですが?!

 

 お嬢さん達、大丈夫だよ~、オジサン怪しい者では無いし、何もしないから怖くないよ?

 まあ古今東西、自分で怪しくないなんていうヤツが怪しくなかった試しなど無いのが世の常なのだがな、はっはっは…。

 

 それにしても先程まであれだけ賑やかだったとは思えない。

 何しろ食器の触れ合う音さえもしないのだ。

 空耳や幻聴では無かったのかと言われれば、そうかもしれないと納得してしまうレベルですよ。

 代わりに痛いほどの視線を浴びつつ、カウンターにまで辿り着くと奥にいる鳳翔さんに声を掛けた。

 

 「女将、いや鳳翔殿。ここは現金精算か?」

 

 「いえ、艦娘であれば無料です。それに神崎提督からアルカディア号さんが来られるのはお聞きしておりますので。」

 伊良湖や大鯨を制して奥から鳳翔さんが出て来た。

 

 「あと鳳翔殿なんてそんな、鳳翔とお呼びくだしゃい。」

 普通に聞いたつもりだったのだが、怯えてしまった鳳翔さんが噛んでしまい目から下をトレイで覆ってしまった…。

 これはマズイ、周りから見たら俺が鳳翔さんを脅したようにしか見えないではないか!

 何しろ鳳翔さんを敵に回すなど、そこの所属艦娘達を敵に回すのと同義である。

 

 それだけは断じて避けなくてはならない。

 しかし、何もしていないのに余りにも理不尽過ぎる(泣)。

 

 「そうか。しかし皆が敬意を持っている中、俺だけ貴女を鳳翔などと呼び捨てにする事など出来ん。悪いが我慢してくれ。」

 とにかく敵意など持っていない事を伝えなくては。

 呼び捨てなんてとんでもない。

 

 「わ、分かりました。では何にされますか?」

 

 「うむ、カツ丼、いやネギトロ丼を頼む。」

 カツ関係は柱島第七泊地の足柄に振舞ってもらう約束をしていたのを思い出してネギトロ丼にする。

 なんせ彼女は俺と普通に接してくれる数少ない艦娘だ。

 ならばこちらも約束を違える訳にはいかん。

 ミーメも第一話で『ハーロックは約束を守る男です、それがどんな小さな約束でも命を懸けて守る男です』と言っていたしな。

 さらに足柄は妙高四姉妹の中でも一番のお気に入りだし(笑)。

 人気が高いのは長姉の妙高と末妹の羽黒だとは思うんだが皆の意見が聞きたいところですわ。

 

 「お待たせ致しました。どうぞ。」

 出てきた丼をみて仰天した。

 奈良にある西大寺というお寺で年3回、大茶盛という行事に使われる器と同じくらいの大きさなのだ。

 もはや丼ではなく鉢じゃねーか、これ。

 とてもじゃないが食い切れんよ、こんなの…。

 ギャル曽根でも無理だって。

 

 しかし、ここで多過ぎるから減らせだの作り直しを要求しようものなら、また冷たい目を向けられるのは間違いない。

 思わぬところで意趣返しをされてしまったが、頑張って完食するしかない(泣)。

 覚悟を決めて箸を取ろうと手を伸ばした時、その伸ばした手を鳳翔さんが抑えてきた。

 一瞬にして食堂の空気が変わったのが分かる。

 

 「ひゃうっ! ああああ、あの申し訳ありません!」

 箸すら使わせたくなかったので、思わず手が出てしまったのだろう。

 しかしいくら何でも余りといえば余りではないか。

 俺一応、そこにいる6名を救出してきたんですからね!

 箸ぐらい貸して下さいな!

 

 「すまんな。気になるなら消毒液や石鹸で手を洗ってくれ。」

 触れてしまったのがよほど嫌だったのか鳳翔さんが涙目になってしまっている。

 大丈夫、さすがの俺でも石鹸や消毒液に勝つ程の細菌は持ち合わせていない(つもり)。

 しかしこれでは座るというか、座っていい席があるのかかなり疑問だわ。

 どこかにボッチ席があればよいのだが…。

 

 「あ、あの! どうぞこちらに!」

 思案していると後ろから種田梨沙嬢の救いの声が!

 明石か祥鳳かと思って振り向くと妙高が伊勢との間に1席の空きを作ってくれた。

 他には日向に高雄と榛名か。

 いや助かった、これで何とかなりそうだ。

 

 「すまないな、助かる。」

 着席して一息ついたのも束の間、妙高と高雄がじっと俺を見つめているのに気が付いた。

 いや、このパーフェクトレディ二人だけではない、日向も榛名もこちらを見つめている。

 そんなに見つめるなよ、照れるじゃないかと言いたいが、いつも笑顔の榛名に無表情で見つめられるのは少々キツイものがある。

 日向もいつもの柔らかい笑顔ではなく、いつぞやのイベント海域時のような表情だ。

 いつもと変わらないのは伊勢だけである。

 

 「高雄に妙高、それに伊勢型と榛名か。艦娘を代表するパーフェクトレディ2人に世界初の航空戦艦、浮砲台となりながらも日本海軍の戦艦として最後の主砲を撃ったフロイラインに同席できるとは光栄だ。」

 高雄と妙高は大抵の鎮守府や泊地で秘書官を務める事が多い事から戦闘に限らず事務処理能力も高い万能艦と評価が高い。

 伊勢型は世界でも類を見ない航空戦艦だし榛名の主砲はまさに弁慶の立ち往生というに相応しい最後だったと聞く。

 はい、ここは彼女達を褒めるところですよ!

 

 「いえ、光栄なのは私達の方です。先程のアルカディア号さんの戦いぶりを見せて頂きましたがあれほどとは…。」

 妙高がさらに視線を向けてくる。

 ここで俺は彼女の狙いに気が付いた。

 俺がここの艦娘さん達に手を出さないよう見張るつもりなのだ。

 

 「ああ、艦載機も私達とは違い墳進式なのに驚いたよ。おまけに君の武装はあの空中魚雷と対空兵装を除いて全て光線兵器なのだな。」

 日向は純粋にこちらの武装に興味を持っているみたいでまだ可能性がある。

 瑞雲師匠の異名を持つ彼女にはやはり瑞雲をチラつかせるのが一番だろう。

 

 「ああ、あれはレーザーという。俺は伊勢型は勿論、航空戦艦や航空巡洋艦には武装をレーザーに改装した瑞雲のファンネル化が出来ないかと考えている。」

 腰の剣をビームサーベルに改装し、シールドを兼ねた飛行甲板から瑞雲ファンネルを射出する伊勢と日向を想像する。

 伊勢姉妹をνガンダム化か、胸が熱いな(笑)。

 柱島第七泊地に帰ったら明石と夕張に話を持ち掛けてみよう。

 

 「さ、では食べるとしよう。」

 考えがまとまった所で箸を割る。

 

 「どうしてカツ丼を止めたのですか?」

 高雄がネギトロ丼を覗き込んで鼻を動かしてきた。

 

 「柱島第七泊地の歓迎会で足柄に振舞ってもらう約束をしたのでな。それまではカツ断ちという訳だ。」

 

 「向こうのあの娘(足柄)ったら、そんな約束を…。ここの足柄を呼びましょうか?」

 妙高も酢飯の匂いにつられたのか鼻を動かす。

 

 「足柄さんほどではありませんが、榛名も作れます!」

 榛名までもがクンクンと鼻を鳴らしている。

 

 「私はそんなに…。アハハ…。」

 え?何ですのん、そんなにネギトロ丼の匂いに惹かれるなら自分も頼めばよかったのに(笑)。

 それに伊勢嬢、あんた鉄火丼ですやん。

 同じ酢飯を使ってるんだから匂いも同じだろうに?

 

 ん、待てよ?

 伊勢のヤツ、ヅケ丼でないという事は、俺と同じく醤油を使うはず。

 じっと観察しているとやはりテーブル上の醤油差しに手を伸ばした。

 

 醤油差しを掴んだ伊勢の手ごと上から掴む。

 伊勢が状況を理解できていない内にそのまま山葵の小皿に醤油を注ぐ。

 ちなみに手袋は外しています。先程の神崎提督の手を握った時に学習したのだ(ドヤァ)。

 

 うっほほーい(某園児風)!

 神崎提督ほどではないが伊勢も十分キレイな手ですわ!

 女性特有の細い指、若さからくる決め細かさ、マニキュア無しでも十分な光沢を持った爪、どれをとっても一級品ですわ!

 

 「お先。」

 堪能し過ぎて少し醤油を入れ過ぎてしまったが、伊勢の手を握れたことに対して考えれば些末事だ。

 小皿の山葵を溶きながら伊勢を見ると真っ赤になってこちらを睨み付けている。

 

 ふふふふ、伊勢。俺の心の声が聞こえていたら君自身を呪うがいい。

 君は素晴らしい艦娘であるが、君の可愛らしさがいけないのだよ、フフフフ、ハハハハハ!

 この後、さすがに『アルカディア! 謀ったな、アルカディア!』とか『横須賀第一鎮守府に栄光あれー!』とかは聞こえてこなかったが(笑)。

 

 日向と榛名、高雄と妙高も目をパチクリさせていらっしゃる。

 電光石火、パーフェクトレディ二人の目を盗んでの一瞬の早業である。

 後で彼女達に小一時間の説教部屋行を命じられるかもしれないが安いもんですわ。

 その時には腫物扱いの俺にここまで諭してくれたのは高雄と妙高、お前達だけだと言ってまた手を握ってやろう。

 

 宇宙海賊船アルカディア号、戦艦の火力と『性器』空母並みの航空機運用力…、ね、素敵でしょ?




※妙高四姉妹の一番人気って実際、誰なんでしょうね?
 アニメではお嫁にしたい艦娘ナンバーワンとして羽黒が紹介されてましたが。

※鳳翔さんの涙目
 この後、立ち直らせるのに大鯨と伊良湖さん二人掛かりで1時間も掛かったそうな(笑)。

※俺の心の声が聞こえていたら~
 元ネタは赤い人とガルマ・ザビとの最後やり取り。
 有名なので分からない方は『ガルマ・ザビ 名言』ググってみて下さい。


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第52話 会議室編4(艦娘側:大神元帥)

※イベント無事完走しました。
 E-6とE-7は丁にヘタレましたがおかげで資源の大減りは避けられました。

※完走後、E-5でヘレナ発掘に成功しました。

※今回の視点は数少ない男性である我ら大神隊長視点です。

※申し訳ありませんが、ほとんど会話文です(汗)。



 午後からの会議ではアルカディアさんが先程の波野静香という謎の女性について説明をしてくれた。

 それによると彼女はマゾーンと呼ばれる異星人らしい。

 

 『花火』くんも最初にマゾーンについて簡単に説明してくれたが、彼からもたらされた詳細はもっと驚くべきものだった。

 マゾーンとは高度な文明を持った外宇宙生命体であり、そして大昔から地球を第二の故郷と呼んでいたらしい。

 更に母星の寿命が尽きた際の移民をスムーズにするための指標としてペナントと呼ばれる構造物をいくつか地球に準備しているという事だ。

 

 「外宇宙生命体か…。そもそも何故そんなものが地球に?」

 深海棲艦だけでも頭が痛いというのに…。

 

 「何らかの理由で母星を捨てざるを得なくなったのだろう。俺がマゾーンの女王ラフレシアと戦った時には『母なるマゾーンの大地に時間無し』という通信や文字を何度も見聞きした。」

 

 「では彼らはこの地球に移住を?」

 

 「彼らではなく彼女らだ。深海戦艦と同じく女性体しか存在しないというのが共通した特徴だ。見た目は非常に美しい女の姿をしているが、どちらかといえば人型をとった植物に近い。連中は生殖行為によってではなく種子から生まれる。」

 生殖行為というところで大部分の提督と艦娘が赤くなってしまった。

 アルカディアさん、もう少しオブラートに包んでやってくれないと(笑)。

 ん、隣にいる『さくら』くんから視線が?

 これは今夜ってヤツかな、ハハ…。

 

 「それに元帥殿、マゾーンを友好的な連中と捉えるのは止めた方がいい。移住などという生易しいものではない。地球に向かう途中、数々の星を滅ぼし、従え自分たちの軍勢に取り込んできた連中だ。」

 

 「つまりは侵略、という事ね。」

 『マリア』くんが呟いた残酷な事実にアルカディアさんが大きく頷いた。

 

 「そのペナントは何処にあるのでしょうか?」

 あれは『メル』くんの護衛艦『神通』か。

 

 「マヤやナスカなど世界各地に点在する。マゾーンの使用する文字はほぼ古代マヤ文明の文字そのものだ。

 『メル』君の『神通』、恐らく隠密性を発揮して破壊しようとしているな。

 だが、そのような危険過ぎる任務や作戦を許可する訳にはいかない。

 

 「何ですって? そんな大昔から?」

 『かえで』さんからも驚きの声が上がった。

 

 「ほう、ならヤツらにしてみれば後から出て来たくせに我が物顔で地球を占拠しているのは我々人類だという事になるじゃないか。」

 

 「その通りだ、ロベリア中佐。従ってヤツらは決して引くことは無い。大多数の人類が悲惨な運命を辿るだろう。」

 アルカディアさんの説明を聞く限り、どうやらマゾーンという連中は話し合いで解決を図れる連中ではないようだ。

 

 「でもその外宇宙生命体が深海棲艦とどうつながるのかしら?」

 

 「そりゃ真宮寺長官、手駒として目を付けたに決まってんじゃねーか。兵力を送り込まずとも幾らでも補充が効く便利な連中だ。」

 

 「あるいは深海棲艦側と何か取引をしたか、ね。」

 『カンナ』くんと『シー』くんの意見は尤もだが、現段階では確定は出来ない上、もう一つ大事な事が欠けている…。

 

 「取引ですか? でも一体どこで?」

 そうなのだ、どうつながるのかという予想は出来ても肝心の何処でという事に関しては全く想像がつかない。

 

 「北大路提督の言う通りね。洗脳するにしろ従えるにしろ、それなりの設備や基地が必要なはず。そんな報告は聞かないけれど…。」

 

 「その通りだ、タチバナ中将閣下。だが北大路提督からは深海さん達の活動が活発になっていると聞く。恐らくマゾーン側は深海棲艦を建造する技術と設備を手に入れたとみて良いだろう。」

 しかも狙った艦種を建造できる技術をな、とアルカディアさんは付け加えた。

 

 「そして恐らくマゾーンと深海棲艦を結び付けているのは海底ピラミッドだ。」

 我々が最も知りたかった情報がアルカディアさんから?!

 彼は恐らくと言っているがほぼ間違いないだろう。

 

 「海底ピラミッド?! それは一体どこにあるのですか?」

 『かえで』さんが身を乗り出す。

 

 「バミューダトライアングルの真ん中だ。大規模侵攻がまだ終わったという確証はない。ヤツらの動きが落ち着き次第、調査に向かおうと思う。」

 

 「何ですって?! 我がステイツの領海内にそんなものが? 調査の際には是非ともアメリカ太平洋艦隊として私達も同行を!」

 

 「アトミラール・ジェミニ、それは合衆国が決める事であって我々ではない。海外艦はその国から託された大切な預かりものらしいからな。」

 アルカディアさんがアメリカ太平洋艦隊司令『大河新次郎』指令とジェミニ中将を牽制する。

 帯同にはやぶさかではないが、お国の返事次第という事だろう。

 

 むうう…、と『ジェミニ』くんが難しい顔をする。

 どちらにせよ動くにはアルカディアさんの言う通り、深海棲艦の動きが落ち着かなくては無理だ。

 海底というからには潜水艦娘達に頼る事になるだろう。

 それにこれからの戦いには彼の協力無しでは戦線の維持さえ困難を極めるかもしれない。

 

 「アルカディアさんに花火くん、これからも危急時には協力を依頼できないだろうか? さらにブラック鎮守府の調査摘発にもその力を貸して貰いたい。」

 

 「いいだろう。もとよりこの力は人類と地球を守るためであり仇をなすためではない。」

 

 「アルカディアさん!」

 『花火』くんの顔も輝いた。

 

 「この船(アルカディア号)が気に入ったか? あまり気に入らんか。だが貴様が真の男ならこのアルカディア号の手を取れ。海賊戦艦アルカディア号の同志として!」

 

 「もちろんだ、我々の目指すところは同じ。そこに垣根など無い。海軍としても可能な限りバックアップさせてもらう事を約束しよう!」

 差し出された手を取る。

 

 「お、いいですねぇ! お二人ともコチラを向いて下さい、ハイそのまま!」

 あの『青葉』は『シー』くんの護衛艦娘か。ブイン第二基地所属だな。

 丁度いい、ブラック提督の牽制も兼ねて号外を出してもらおう。

 アルカディアさんと二人で選挙ポスターもビックリな笑顔を向ける。

 

 え? 何故そんな…、全員が鼻血を?




※ここに国民的スターである軍人と人気急上昇中(一般庶民には知られていないが)
 の海賊船のタッグチームが結成されました。

※超イイ男同士の握手シーンに提督達も艦娘達も失神者が続出したとかしなかった
 とか。
 スクープを逃がしたおひざ元である横須賀一鎮の青葉は地団駄を踏んで悔しがった
 みたいです(笑)。

※『シー・カプリス』少佐率いるブイン基地第二基地所属の青葉、この写真データを
 JPGではなくBMPで残すあたりにアレな拘りを感じます。
 携帯の待ち受けやPCの壁紙ダウンロードでかなり懐が潤ったのか、ここの青葉の
 機材が3~4ランクアップしました(笑)。


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第53話 屋上編1(艦娘側:グリシーヌ・ブルーメール)

※本来なら会議室編4のアルカディア号視点なのですが、さすがに彼も真面目モードだったので特に記す事も無く無事に?すっ飛ばしとなりました。

※そのかわり、今回は数名の方からリクエストのあったグリシーヌが登場です。
 今までは知識として艦娘は轟沈するものだと認識していた彼女ですが、自分の艦娘が本当に轟沈寸前にまで追いやられた事で、他人事ではないとなったみたいです。

※諸兄氏はイベントの戦果はいかがでしたでしょうか?
 筆者は第4号海防艦と駆逐艦有明が未入手に終わってしまいました(泣)。


 「近海哨戒部隊、能代・睦月・如月・弥生・卯月・皐月以上6名、参りました!」

 

 「ご苦労、近海とはいえ、はぐれ艦がウロ付いている可能性もある。気を抜かずに任務に当たれ。それから明らかな戦力差のある敵艦隊に遭遇した場合は直ぐに連絡を入れ…、ぐっ!」

 心音が聞こえるのではないかと思う程の動悸、さらに立っていられない程のめまいに襲われた私はその場にしゃがみこんでしまった。

 

 「テートク?!」

 二鎮から護衛艦娘として連れてきたコマンダンテストの声も、実際はすぐ側にいるのにずいぶん遠くから聞こえる。

 さらに呼吸も思ったようにできず視界がブラックアウトしてしまった私はそのまま意識を手放してしまった。

 

 「気ガ付ツカレマシタカ?」

 意識を取り戻した私をコマンダンテストが心配そうに覗き込んでいる。

 あれから彼女は私の代わりに近海哨戒部隊に出撃を命じ、私を医務室まで運んでくれたとの事だった。

 

 「一体、ドウサレタノデスカ?」

 

 「出撃を命じようとしたら急に動悸が激しくなってめまいと呼吸困難に…。恐らく午前中の迎撃部隊が全滅するかもしれない状況になった恐怖からだと思う。」

 アルカディア殿がいなければ間違いなく『金剛・榛名・赤城・瑞鶴・飛龍・大鳳』を一度に失っていただろう。

 そう考えると震えが止まらない。

 

 「迷惑を掛けてすまなかった。私は少し頭を冷やしてくる。貴艦は先に護衛艦娘控室に戻ってくれ。」

 医務室を後にする。

 宿泊棟の階段を上り切り、屋上への扉を開くと冬の冷たい海風が私を迎えてくれた。

 そのまま居並ぶ給水塔への裏へと身を滑り込ませる。

 

 「もう嫌だ。皆、良い娘ばかりなのに…。何故、神はこのような惨い仕打ちを…。」

 「出撃が死を意味する場合でも私は命じなくてはならないのか!」

 知らぬ間に涙が頬を伝っていた。

 

 「皆、争いを好まぬ心優しい娘たちばかりだというのに。」

 「何故、艦娘というだけであの娘達を戦場に送り出さないといけないのだ!」

 私の叫びは風にかき消されてしまい、誰も答えてはくれない。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「グリシーヌ。」

 突然、後ろから花火の声がした。

 

 「は、花火?! どうしてここが…。」

 コマンダンテストに聞いたのか?

 だが彼女には頭を冷やしてくるとしか伝えていない。

 

 「アルカディアさんが呼びに来てくれたの。」

 花火が目を向けた先には壁に背中を付け腕組みをしたまま前を見つめるアルカディア殿が!

 

 「ア、アルカディア殿?! そんな…。いや、貴公も私を気遣ってくれての事であろうな。だが、すまない。忘れてくれ。」

 何故、屋上に来るのか?

 何故、わざわざ隠れているのに見つけるのか?

 何故、みっともなく泣いている時なのか?

 アルカディア殿に理不尽な怒りを抱いてしまう自分がますます嫌になる。

 

 「それは構わんが、花火にも話せないような事なのか? そう思ってきてもらったのだが。」

 いや、彼は私を心配してくれただけではないか。

 だからこそ自ら声を掛ける事はせず花火を呼んでくれたのであろう。

 アルカディア殿のような方が面白半分に他人を連れてくるはずが無い。

 

 「グリシーヌ、貴女が泣くなんて…。アルカディアさんには外してもらうから…。」

 

 「いや、アルカディア殿は横須賀の恩人だ。その方に外せなどとは…。」

 アルカディア殿であればこのような私に何と答えるだろうか?

 聞いてみたいと思った私は彼にとどまってもらう事を選択した。

 

 「私はもう…、指揮官でいることが出来ない。」

 

 「配下の艦娘達が沈んでしまったらと思うと哨戒部隊にさえ出撃を命じることが出来なかったのだ。」

 二人に先程の一件を話す。

 

 「それなのに、さらにマゾーンなどという得体のしれない連中まで現れて…。」

 

 「ふむ…、少将閣下ほどのお方が。いや、貴女ほどであるが故か…。」

 

 「なに?」

 

 「少将閣下が真に艦娘達の事を想い考え、彼女達と良好な関係を築けている証拠であろう。」

 違う、そんな良いものではない。

 

 「今日の事で思い知ったのだ。それにアレほど取り乱すようでは私に指揮官の資格など無いのだと。まして部下を戦場に送り出したくないなどという指揮官がどこにいる?」

 手に力を込めるとフェンスがギィと鳴いた。

 

 「だからこそ皆、貴女に付いて行くのだと思うが?」

 アルカディア殿も笑わせてくれる。

 

 「いい、下手な慰めなど止してくれ。」

 私は幼い頃から望むものすべてを与えられてきた。

 だが、与えられたモノには価値など無い。

 今の階級もそうだ。

 この国と海軍軍令部が祖国フランスとブルーメール家に忖度したに過ぎない。

 そんな娘に誰が好き好んで付いてくるというのか。

 

 「まず撤退命令は絶対だという事を徹底させる必要がある。守れない時は後を追うと脅してでもな。」

 

 「だが、やはりあの子達が沈んでしまったら私は正気でいられん。それにもう決めたのだ。」

 

 「グリシーヌ、あなた…。」

 花火の視線に堪え切れず目を逸らす。

 

 「あれだけ貴女を慕ってくれている大勢の艦娘達を残してここを去るなんて無責任が過ぎるわ。」

 花火、お前まで私を買いかぶり過ぎだ。

 

 「どうしてもという状況になったら柱島第七泊地に緊急連絡を頂戴。またアルカディアさんが駆けつけてくれます、ね?」

 花火がそっと私の肩に手を置いた。

 

 「だが、それでは…。」

 結局、自分で何もできない事に変わりがない上に私だけアルカディア殿に甘える事になってしまうではないか。

 

 「気にする事は無い。俺も男として少将閣下のような美しい人に正気を無くしてもらっては困るのでな(笑)。」

 

 「ふっ、私にそんな事を言って良いのか? 花火の怒りを買っても知らんぞ。」

 そういえば一鎮のブンカーでも同じような事を言ってくれていたな。

 

 「大丈夫だ、花火はそんな事で機嫌を損ねたりしない。」

 ほう、貴公は花火の事をまだ良く分かっていないとみえる。

 ああ見えて意外と嫉妬深いところもあるのだぞ。

 

 「花火、少し少将閣下を借りるぞ。」

 アルカディア殿に突然マントを掛けられそのまま抱き上げられる。

 

 「ちょっと、アルカディアさん! グリシーヌをどうするつもりですか?!」

 花火と花火を捜しに来たであろう翔鶴が慌てて止めようとする。

 

 「しばしの遊覧飛行だ。少し待っていてくれ。」

 アルカディア殿が艤装を展開し、ゆっくりと離陸する。

 

 「貴公も…、大胆だな。私にこんなことをするなんて…。///」

 

 「ここを去る前に少将閣下には是非とも見てもらいたいモノがある。」

 アルカディア殿が私の耳にインナーヘッドホンを填める。

 初めて聞く旋律だが非常にキレイな曲。

 そのまま、私は彼に抱えられ海上へと連れ出された。

 かなりの高度だがアルカディア殿に抱えられているという安心感から恐怖は不思議と無い。

 

 「少将閣下、あれを見てみるがいい。」

 水平線の向こうへ今まさに太陽が沈むのが見える。

 

 「トワイライトか。キレイなものだ…。」

 朱色と紺色が美しく溶け合うこの瞬間。

 日が落ちるのが早いこの時期は貴重な眺め。

 もっと見ていたかったが直ぐに朱色は消えてしまった。

 アルカディア殿が内陸側を向く。

 

 「街の明かりがあんなに…。」

 

 「そうだ、横須賀一鎮と二鎮、ひいては神崎閣下とブルーメール閣下が守り抜いた場所だ。」

 

 「何を言う、守ったのは貴公であろう…。」

 それ以上は、と私の唇にアルカディア殿の人差し指が当てられた。

 

 「いや、間違いなくお二人とお二人の艦娘が守ったのだ。」

 

 「あの子達が…。フフッ、そうか。そうだな、そういう事にしておこう。」

 自らを犠牲にしてここを守り抜く覚悟だった18名。

 私は部下にも恵まれていたのだな。

 

 「少将閣下、1回だけで良いのか?」

 「この景色をこれからも見なくて良いのか?」

 

 「これからも?」

 

 「そうだ。」

 アルカディア殿の力強い目。

 

 「私は…。」

 貴公は卑怯だ。

 そう言われては私もブルーメール家の一人として答えは決まっている。

 

 「見たい…、何度でも! この海もこの街も横須賀の全てを!」

 

 「なら、もう心配は要らんか。神崎閣下にも少将閣下もいえる事だが、誰かを頼るのは別に悪い事でも恥ずべき事でもない。一人で出来るのならそれに越したことは無いが、意地を張って取り返しのつかない結果を招いてしまう方がよほど恥ずかしい事だと俺は思う。」

 

 「そうだな。心配をかけてすまなかった。さ、花火が般若になる前に戻ろう。」

 

 「それは怖いな(笑)。」

 

 「これは意外だな。貴公でも怖いものがあるとは。」

 花火よ、もう尻に敷いているのか。

 お前がそんなに手が早いとは知らなかったぞ(笑)。

 

 「そうだな。怒らせるのは別に構わんが嫌われるのは困る。」

 

 「ほう、聞かせてくれるではないか。どうやら私が花火と貴公の間に割って入る余地は無しか。」

 

 「すまないな、閣下。何しろこのアルカディア号、『花火』と『翔鶴』に一目惚れでな。」

 ん?

 今、花火と翔鶴がコロンビアのポーズを?

 聞こえているのか?

 いや、まさかな…。

 

 「では花火に嫌われたら横須賀第二鎮守府に来ると良い。部屋は用意しておこう。それに私の所にも翔鶴はいる。」

 

 「それはありがたい、だがそうならないように祈ろう。」

 

 「それからあと一つ、貴公に私の我儘を聞いてもらいたいのだ。このまま私の部屋まで頼む。」

 悪いが私もこれだけ殿方の匂いに包まれて続けていては流石に…。

 

 「分かった。ではそうさせてもらおう。」

 

 「グリシーヌ、大丈夫? 立て…、ないわね。アルカディアさん、急いでグリシーヌを部屋へ運んであげて下さい。」

 一鎮の屋上へ戻ると花火と翔鶴が駆け寄ってきた。

 

 「ああ、少将閣下からもそのように依頼を受けている。」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「すまなかった、もう大丈夫だ。後は一人にして欲しい。」

 部屋に運ばれた私は一人になるのを待ってドアに鍵を掛けた。

 更に用心を重ねチェーンを降ろしカーテンを閉める。

 限界を超えてしまったせいだろうか、逆に落ち着いてこなすことが出来た。

 

 が、それもここまで。

 次の瞬間、大きく息を吸い込むと一気にスカートをたくし上げる。

 パンストに手を掛け、そのままショーツごと乱暴に破くような勢いで一気に膝まで引きずり降ろした。

 後は話すような、いや話せる内容ではない。

 

 花火よ、これだけの殿方を決して手放すな。

 もし、油断する事があれば直ぐにでも私が貰い受けよう。

 




※私は幼い頃から望むものすべてを与えられてきた。だが、与えられたモノには価値など無い:サクラ大戦4のグリシーヌエンドでの彼女自身のセリフです。

※実際のグリシーヌはもっとしっかりした女性なので、こんな気弱になる事は考えにくいのですが、お話の都合上なので彼女のファンは許して下さい。

※直ぐにでも私が貰い受けよう:これもサクラ大戦4のグリシーヌエンドで、私はまだ貴公を婿にする事を諦めた訳ではないと宣言する一幕がありました。ここの彼女はどうするのでしょうか?!


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第54話 屋上編1(アルカディア側14)

※やっぱり好きな人/気になる人から屋上に呼び出されたらドキドキしますよね?
 その後をつけていく翔鶴さんの心中やいかに!

※さて主人公君がこの世界に来たのが10日、夜汽車で柱島を立ったのが11日夜、横須賀着が12日。二泊して柱島に帰るのが14日。
 今月は2月ですからええっと…。

※2020年09月07日 一部修正。


 12股男さんから海軍の全面協力を取り付け上機嫌の俺は、会議終了後に横須賀第一鎮守府の屋上へと足を向けた。

 別に用事があった訳ではないんだけど、まあ夕食までの暇潰しというか横須賀一鎮の探検だ。

 屋上への出入口は施錠されているかとも思ったが、ドアノブに手を掛けると…。

 あれれ? 簡単に開いてしまったぞ。

 

 更にドアを開けると冬の風が音を立てる中、微かに女の鳴き声がする。

 誰かは分からないがまさか自らの命を?!

 風に乗ってすすり泣きが聞こえるのは給水塔が並ぶエリアだ。

 民間の建物と違い、リスク管理の点から中型が複数設置されているので、その後ろは完全に死角になっている。

 

 そっと覗くと…、あれはブルーメール少将閣下ではないか?!

 一体どうしたというんだろう?

 あれほど気丈なグリシーヌちゃんがシクシクするなど…。

 

 ここは弱っている所をついて押し倒す千載一遇の機会だと思ったが、こんな寒い所でオイタしてしまっては風邪をひいてしまうし、何よりこちらの砲身が縮こまったままとなる公算が大である。

 よって普通に声を掛けようと思ったが、やはりこの場合はお友達である花火の出番だろうと判断し急いで戻った。

 

 「花火、少しいいか。」

 

 「あ、はい。何でしょうか?」

 

 「悪いが屋上まで一緒に来てくれ。」

 途端、花火と翔鶴が固まってしまった。

 いや、屋上が寒いのは分かるけどそこまで固まらなくて良くない?

 二人で階段を上り屋上への扉を開ける。

 

 「あ、あの…。アルカディアさん?///」

 花火が胸を手で押さえている。

 え、これだけの階段を登っただけで息が上がったの?

 顔も少し赤いし、さすがにそれはちょっとインドア派過ぎる。

 よし、柱島第七泊地に戻ったらグラブを買ってあげよう。

 空いた時間のキャッチボールを日課にして運動不足を解消だ。

 ついでに愛のキャッチボールも…(キャ)。

 後、翔鶴さん、隠れているつもりだろうけどコッソリ付けてきてるのが丸わかりだよ…。

 花火の息が整うのを待ってから給水塔の奥を指さす。

 

 「アルカディアさん、グリシーヌに何をしたのですか?

 グリシーヌちゃんを見た花火の目がスッと細くなった。

 

 「分からん、それは少将閣下に聞いてくれ。」

 失礼な、何もしてはいないぞ。

 『こ れ か ら』何かするのだ。考え違いをしてもらっては困るな(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「グリシーヌ。」

 花火が声を掛けると少将閣下が振り向いた。

 

 「は、花火?! どうしてここが…。」

 あらら、だいぶ目が赤いし瞼も腫れっぽく…。

 

 「アルカディアさんが呼びに来てくれたの。」

 花火がこちらを見る。

 

 「ア、アルカディア殿?! そんな…。いや、貴公も私を気遣ってくれての事であろうな。だが、すまない。忘れてくれ。」

 

 「それは構わんが、花火にも話せないような事なのか? そう思ってきてもらったのだが。」

 

「グリシーヌ、貴女が泣くなんて…。アルカディアさんには外してもらうから…。」

 まあ、慌てるグリシーヌちゃんを見れただけでも良しとするか。

 何かするのは演習に柱島第七泊地に来てもらった時でもイイしな。

 さっさと戻って翔鶴との心の距離を埋めるとしよう。

 

 「いや、アルカディア殿は横須賀の恩人だ。その方に外せなどとは…。」

 それを聞いた花火に襟首を掴まれてしまった。

 

 「私はもう…、指揮官でいることが出来ない。」

 「配下の艦娘達が沈んでしまったらと思うと哨戒部隊にさえ出撃を命じることが出来なかったのだ。」

 そう言ってグリシーヌちゃんが話してくれたのは、配下の艦娘がまたあのような危険な状況になったら、まして沈んでしまったらと思うと出撃させる事に恐怖を覚えてしまったとう事だった。

 事実、お昼からの哨戒部隊に出撃を命じようとしたところ、急激に心拍数が上がり立っていられない程の眩暈がしてしゃがみ込んでしまったらしい。

 さらに呼吸困難にも襲われたらしく異変に気付いたコマンダンテストによって事無きを得たとの事。

 

 「それなのに、さらにマゾーンなどという得体のしれない連中まで現れて…。」

 成程ねぇ、そういう事でしたか。

 だからって提督業を辞めたいというのは感心しませんですよ、ハイ。

 

 「ふむ…、少将閣下ほどのお方が。いや、貴女ほどであるが故か…。」

 

 「え?」

 

 「少将閣下が真に艦娘達の事を想い考え、彼女達と良好な関係を築けている証拠であろう。」

 適当な事を言ってしまったが、あながち間違いではないしイイよね?

 それよりまだ味見をしていないのに体液、いや退役などされ実家に帰られては非常に困る。

 

 「今日の事で思い知ったのだ。それにアレほど取り乱すようでは私に指揮官の資格など無いのだと。まして部下を戦場に送り出したくないなどという指揮官がどこにいる?」

 彼女のフェンスを握る手に力が籠められる。

 

 「だからこそ皆、貴女に付いて行くのだと思うが?」

 

 「いい、下手な慰めなど止してくれ。」

 

 「まず撤退命令は絶対だという事を徹底させる必要がある。守れない時は後を追うと脅してでもな。」

 ハーロックが『まゆ』にオカリナを掘ったのと同じ海賊ナイフを渡す。

 これを普段からチラ付かせておくと抑止の一端になるだろう。

 

 「だが、やはりあの子達が沈んでしまったら私は正気でいられん。それにもう決めたのだ。」

 

 「グリシーヌ、あなた…。」

 グリシーヌちゃんが花火の視線から目を逸らした。

 

 「あれだけ貴女を慕ってくれている大勢の艦娘達を残してここを去るなんて無責任が過ぎるわ。」

 「どうしてもという状況になったら柱島第七泊地に緊急連絡を頂戴。またアルカディアさんが駆けつけてくれます、ね?」

 花火、がグリシーヌちゃんの肩に手を置く。

 

 「だが、それでは…。」

 他の鎮守府や泊地に対して遠慮しているのか歯切れが悪いな。

 気にするな少将閣下、遠慮はいらんぞ。

 何も駆け付けるのは横須賀第二鎮守府だけではない。

 西に東に、北に南にと好感度アップのためにあちこちお邪魔する所存でございますゆえ(笑)。

 

 「気にする事は無い。俺も男として少将閣下のような美しい人に正気を無くしてもらっては困るのでな(笑)。」

 

 「ふっ、私にそんな事を言って良いのか? 花火の怒りを買っても知らんぞ。」

 

 「大丈夫だ、花火はそんな事で機嫌を損ねたりしない。」

 とは言ったものの、かなり機嫌を損ねてマス。

 後ろの空気が変わってしまっている。振り向きたくない…。

 

 「花火、少し少将閣下を借りるぞ。」

 グリシーヌちゃんにマントを掛け抱き上げる。

 

 「ちょっと、アルカディアさん! グリシーヌをどうするつもりですか?!」

 花火と花火を捜しに来たであろう翔鶴が慌てている。

 

 「しばしの遊覧飛行だ。少し待っていてくれ。」

 そのまま艤装を出してゆっくりと離陸する。

 

 「貴公も…、大胆だな。私にこんなことをするなんて…。///」

 

 「ここを去る前に少将閣下には是非とも見てもらいたいモノがある。」

 グリシーヌちゃんの耳にインナーヘッドホンを填める。

 曲はミスターロンリーでいいかな?

 城達也氏のナレーションがあればジェットストリームの再現が出来たのに(笑)。

 そのまま、彼女の制帽が飛ばない程度の速度で海上へ出る。

 

 「少将閣下、あれを見てみるがいい。」

 水平線の向こうへ太陽が沈んだ瞬間。

 

 「トワイライトか。キレイなものだ…。」

 今度は内陸側を向く。

 

 「街の明かりがあんなに…。」

 

 「そうだ、横須賀一鎮と二鎮、ひいては神崎閣下とブルーメール閣下が守り抜いた場所だ。」

 

 「何を言う、守ったのは貴公であろう…。」

 グリシーヌちゃんの唇に人差指を当てて首を振る。

 次は下の唇に指を当てて…、いや入れてイイですかね?

 

 (女神:ダメダメダメ! 多分、彼女も受け入れちゃうから!)

 

 「いや、間違いなくお二人とお二人の艦娘が守ったのだ。」

 

 「あの子達が…。フフッ、そうか。そうだな、そういう事にしておこう。」

 そうだ、それでいい。

 鬼姫達12隻という厳しい戦いに立ち向かう勇気を持った艦娘達だ。

 

 「少将閣下、1回だけで良いのか?」

 グリシーヌちゃんがどういう事だと目で聞き返してきた。

 

 「この景色をこれからも見なくて良いのか?」

 

 「これからも?」

 

 「そうだ。」

 

 「私は…。」

 逡巡するグリシーヌ。

 

 「見たい…、何度でも! この海もこの街も横須賀の全てを!」

 力強く宣言した彼女の目には力が宿っていた。

 

 「なら、もう心配は要らんか。神崎閣下もブルーメール閣下もだが、誰かを頼るのは別に悪い事でも恥ずべき事でもない。一人で出来るのならそれに越したことは無いが、意地を張って取り返しのつかない結果を招いてしまう方がよほど恥ずかしい事だと俺は思う。」

 これで大丈夫だろう。

 後は花火からも適当に声を掛けておいてもらうとしますか。

 

 「そうだな。心配をかけてすまなかった。さ、花火が般若になる前に戻ろう。」

 

 「それは怖いな(笑)。」

 

 「これは意外だな。貴公でも怖いものがあるとは。」

 あります、あります! ありますとも!

 主に艦娘達に嫌われるとか…(現在進行形?)。

 

 「そうだな。怒らせるのは別に構わんが嫌われるのは困る。」

 

 「ほう、聞かせてくれるではないか。どうやら私が花火と貴公の間に割って入る余地は無さそうか。」

 いえいえ、そんな事は無いです。

 このアルカディア号、提督正室は花火と艦娘正室は翔鶴と決めてはいますが、門戸は広く24時間365日受付可能っス!

 

 「それはすまない。何しろこのアルカディア号、『花火』と『翔鶴』に一目惚れでな。」

 ただNo.1はあの二人だとはっきりさせておかなくては。

 

 「では花火に嫌われたら横須賀第二鎮守府に来ると良い。部屋は用意しておこう。それに私の所にも翔鶴はいる。」

 

 「それはありがたい、だがそうならないように祈ろう。」

 あの二人に嫌われたらもう立ち直れない自信がある。

 考えただけでも恐ろしい。

 

 「それから最後に一つだけ貴公に私の我儘を聞いてもらいたいのだ。このまま私の部屋まで頼む。」

 ん? グリシーヌちゃんの額に汗が?

 防寒用に掛けたマントがそんなに暑かったのか?

 

 「分かった。ではそうさせてもらおう。」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「グリシーヌ、大丈夫? 立て…、ないわね。アルカディアさん、急いでグリシーヌを部屋へ運んであげて下さい。」

 一鎮の屋上へ着地すると花火と翔鶴が駆け寄ってきた。

 

 「ああ、少将閣下からもそのように依頼を受けている。」

 花火と翔鶴から急いでと言われて慌てて本日宿泊予定の部屋がある3Fの307号室へと担ぎ込みソファーに座らせた。

 

 「すまなかった。もう大丈夫なので後は一人にして欲しい。」

 相変わらず、額の汗が引いていないが花火と翔鶴は頷くと、俺の背中をグイグイと押してサッサと部屋から出てしまった。

 

 うーん、一体どうしたというのだろう?

 まるであそこに居てはいけない、というか一刻も早く一人にさせてあげないとダメみたいな感じだったが…。

 それとなく聞いてみたが、病気ではないので心配ありません、と言われてしまった…。

 

 というかグリシーヌちゃん、隣の鎮守府なんだから別に一鎮に留まる必要なんて無かったんじゃ?

 




※『これから』何かするのだ:相変わらずですねぇ。グリシーヌに手を出したら返り討ちにあいますから止めなさいって!

※ジェットストリーム:黒い三連星によるアタックではなく、ラジオ番組の方です。JALがスポンサーだった気が?

※『地球滅亡まであと3??日』、間違えた『決戦日まであと2日』。
 柱島第七泊地の調理場では、艦娘さん達がその決戦に向けて期間限定海域最深部攻略時以上の真剣モードに(笑)。 
 そしてここ横須賀第一鎮守府でも14日に間に合わせるため阿鼻叫喚の事態が繰り広げられています。

※神崎提督から明日の横須賀第一鎮守府の案内を仰せつかった重巡洋艦の『高雄』さんと『妙高』さん。
 お昼は重巡寮のロビーに集まって全員でサンドイッチを食べようという素晴らしい計画を思い付いたようです。
 でも浮かれ過ぎて決戦日が頭から抜け落ちる事に…。


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第55話 最終日編1(艦娘側:一鎮高雄)

※随分長かった横須賀鎮守府編も終わりに近づいてきました。
 ここまで読んでくださった方には感謝しかありません。

 もしお時間が許すならこれからも目を通して下さると大変うれしく思います。


 「ここが中庭です。これだけの広さがあるので水路や池、花壇に温室といった区画も広くとれるんですよ。」

 現在、私、高雄は妙高さんと二人でアルカディア号さんに横須賀第一鎮守府の案内をしています。

 北大路提督と柱島第七泊地の翔鶴さんは昨日に続いて会議に出席していらっしゃいますが、アルカディア号さんは出席の必要が無かったという事で、提督の命により私達二人が彼を案内する事になりました。

 後から聞いた話では彼が深海さん側に付いたらどうするか、またそれを防ぐにはどうすればいいか、という案件だったらしいです。

 ずいぶん失礼だとは思いましたが、分からなくもありません。

 何しろ彼の戦闘力はすさまじいものでしたから。

 

 「そしてこちらが士官専用食堂になります。艦娘専用食堂と違って食材もそれなりに良い物を使用していますので、海軍軍令部の方も結構ここを利用される方が多いです。」

 裏庭→運動場→本館ロビー→カフェテリアと回った後、今度は妙高が士官専用食堂を案内します。

 

 「そういえばアルカディア号さんはどうして士官専用食堂を利用されないのですか?」

 これほどのお方であれば利用しても何も言われないでしょうに。

 事実、神崎提督も士官専用食堂の利用をお勧めになられたとも…。

 

 「海賊船という無法者が士官専用食堂を利用する訳にもいくまい。それに艦娘専用食堂の方がお前たちの様に見目麗しい娘がたくさんいるからな。」

 両頬に手を当てる私達ですが、それを気にすることなくアルカディア号さんは次の建物へと足を向けます。

 その後、戦艦寮→空母寮→軽巡寮→駆逐艦寮→潜水艦寮と回り重巡寮のロビーでランチを全重巡で共にしました。

 鳥海・羽黒・古鷹・ヒューストン達が作ったサンドイッチにオイゲンが作ってくれたフランクフルトにポテト類を車座になって頂いたのですが、アルカディア号さんにも満足して頂けたようで何よりです。

 しかも提督さん達の月例会議二日目が終わる夕方まで重巡寮のロビーに滞在してくれました。

 まさに夢のような時間と言って差し上げますわ。

 ただ、彼を重巡が独占してしまった事で随分と他艦種の方から恨みを買ってしまう事となったのですけれど…。

 

 翌14日の午前中、救出して頂いた『大和・武蔵・赤城・翔鶴・瑞鶴・大鳳』の6名が、二鎮からは『金剛・榛名・赤城・瑞鶴・飛龍・大鳳』と『五十鈴・由良・皐月・龍驤・熊野・鈴谷』の12名が気合の入ったチョコレートをアルカディア号さんに渡されたのです。

 

 そう、今月の14日といえばバレンタインデーです!

 さらに私達の一鎮からも戦艦組・空母組・軽巡組・駆逐艦組・潜水艦組と全員が実質二日しかなかったのに、各自かなり凝ったモノをお渡しされていました。

 

 え?

 重巡組?

 それがあろうことか全員が浮かれ過ぎていて誰も一大決戦日に気付かなかったんです。

 せめて既製品でも、と思ったのですが既に横須賀第一鎮守府からはチョコレート自体が姿を消しており、外に出て購入しようと思っても外出申請は基本前日までに済ませておく必要があるので、どうしようもありませんでした(泣)。

 

 どなたか他艦種の方、一声掛けて頂ければ…。

 黙っていた上に必要のない分までチョコレートの買い占めなんて、それはあんまりです。

 

 アルカディア号さんを調子に乗って独占した自分達と、意地悪な仕返しをする他艦種の方々に『バカめ!』と言って差し上げますわ!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 お昼前になると続々と各提督とその護衛艦娘さん達がここ横須賀第一鎮守府を出発していきました。

 柱島第七泊地の御三方は最後でしたので全員でお見送りです。

 さらに横須賀第二鎮守府のブルーメール提督と救助された12名も来られました。

 

 「北大路提督、それにアルカディア号さん。今回の事は本当に感謝していますわ。」

 

 「うむ、私の場合は翔鶴にも感謝せねばならん。止めてくれなければ本当に細川を撃っていたであろう。」

 

 「いえ、あれはアルカディアさんの言う通りです。手を汚す価値さえありませんから。」

 柱島第七泊地の翔鶴さんがこれ以上ない笑顔です。

 あの忌々しい細川がいなくなったのですから皆そうですけれど(笑)。

 

 「それから花火。此度の事、あらためて感謝する。あのままでは私は…。」

 

 「気にしないでグリシーヌ。その代わりもうやめるなんて言わないで頂戴。」

 

 「Oh! そ、それは一体どういう事デース?!」

 騒然となる二鎮の方々に北大路提督が説明をされました。

 成程、そのような事があったのですね。

 

 「ア ル カ デ ィ ア 号 さ ん。」

 て、提督?!

 

 「私はその遊覧飛行とやらに連れて行って頂いておりませんわ! 一体どういう事ですの?!」

 ブルーメール提督、ドヤ顔は止めて下さい!

 神崎提督に対する挑戦になってます。

 ところが神崎提督は何を思ったかニタァという嗤いを浮かべると、それ以上の追及はお止めになられました。

 

 「アルカディア号さん。」

 建物入口の階段を下りた彼を提督が呼び止めます。

 

 「今回の御礼ですわ。」

 何と提督は振り向かれたアルカディア号さんにそっと唇を重ねられたのです!

 後ろにいる私達艦娘からは悲鳴に似た声が!

 

 なるほど、身長差を無くすために門ではなく建物入口で見送る事にしたのですね。

 すべては計算づくと…。

 

 ですが流石に北大路提督と翔鶴さんから表情が消えました。

 お二人ともアルカディア号さんの足をヒールでグリグリやってますわ、痛そう…。

 

 「初めてですのよ。」

 さらに提督がとどめの一言を!

 アルカディア号さんは一瞬何が起こったのかわからないようでしたがフッと笑うと光栄だと返して下りました。

 形勢逆転ですわ、今度はブルーメール提督がぐぬぬ…、と唸ってらっしゃいます。

 ブルーリーフネットワークに載せるネタが手に入ったと喜ぶ一鎮と二鎮の青葉でしたが、柱島第七泊地に帰ってからのアルカディア号さんの事を思うと…(合掌)。

 




※おまけ 二鎮大鳳

 「アルカディア号さん。」
 ん、何でしょう?
 神崎提督がアルカディアさんを呼び止めました。

 「今回の御礼ですわ。」
 何と神崎提督がアルカディアさんに唇を重ねて?!
 向こうの艦娘さん達からも悲鳴が!

 「初めてですのよ。」
 神崎提督が彼の唇を吸いながら離れました。

 ちょっ、提督!
 何してるんですか、固まっている場合ではありません!
 ほら早く、提督も行かないと!

 私の唇の方が美味であろう、で対抗しましょう!
 とにかく早く!
 って、ああ…。
 行ってしまわれたではありませんか。

 「テートク! どうしてテートクもミスターアーケーディアにキスをしなかったのですカ?!」
 二鎮の執務室に帰ってから金剛さんがブルーメール提督に詰め寄ります。

 「出来る訳ないだろう! あ、あんな破廉恥な…。」

 「ヘタレ」×12

 「うっ、イイではないか。私はリアルアラジンをやって頂いたのだぞ。これ以上、何を望むことがあるというのだ?!」
 大ありです。
 彼が提督に想いを寄せるようになって横須賀第二鎮守府に移籍する。
 これが私達にとっても最高のストーリーなのですから(怒)。


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第56話 最終日編1(アルカディア側15)

※諸兄氏も主人公君の初チョコ、お祝いしてあげて下さい。

※今回はかなり短めです。


 「ここが中庭です。これだけの広さがあるので水路や池、花壇に温室といった区画も広くとれるんですよ。」

 高雄と妙高が横須賀第一鎮守府の案内をしてくれている。

 花火と翔鶴は昨日に続いて月例会議とやらに絶賛出席中だ。

 なお、俺は別に出なくてもいいらしい。

 

 というより明らかに出られては困るといった感じだったな、あれは。

 青葉が教えてくれた内容によると俺が何かの理由で深海さん側に付いたらどうするか、またそれを防ぐにはどうすればいいのか、という内容らしい。

 

 そんなのカンタン!

 枕〇業、性〇待、これに尽きます!

 特にタチバナ中将や神崎中将なんかだと一晩に付き複数年契約+出来高払?のインセンティブ契約まで付けちゃうね!

 

 「そういえばアルカディア号さんはどうして士官専用食堂を利用されないのですか?」

 妙高さんが士官専用食堂を案内してくれた時、高雄さんが不思議そうに聞いてきた。

 こんな所で食べていたら勧誘してくる連中が鬱陶しいからだが、ここは好感度を上げる場面ですよ!

 

 「海賊船という無法者が士官専用食堂を利用する訳にもいくまい。それに艦娘専用食堂の方がお前たちの様に見目麗しい娘がたくさんいるからな。」

 指揮官の中にも帝国華撃団や巴里華撃団のメンバーみたいな別嬪さんもいるが、やはり平均すれば艦娘さん達の方が上だしな。

 それに艦娘専用食堂を利用したおかげで伊勢の手を握れた訳だし(笑)。

 

 その後は、戦艦寮→空母寮→軽巡寮→駆逐艦寮→潜水艦寮の順で回っていく。

 特に戦艦寮でのアイオワ・ビスマルク・ウォースパイトと空母寮でのイントレ・グラーフ・アークロイヤル・サラの熱烈歓迎は凄かった。

 特にステイツ艦のグイグイとくる距離感の近さとバルーン(おっぱい)攻撃?は彼女達の体臭も相まって破壊力抜群で、思わず横須賀第一鎮守府に錨を降ろそうとかと思ってしまったほどですわ。

 

 お昼は重巡寮のロビーで鳥海・羽黒・古鷹・ヒューストン達が作ったサンドイッチとオイゲンが作ってくれたジャガイモ料理を頂く。

 彼女達は不安そうにしていたが味に関しては全く問題が無い。

 モグモグしながらサムズアップで応えるとパァッと顔が明るくなった。

 というかサンドイッチを不味く作るのはカレーを不味く作るようなものだしな。

 

 「重巡洋艦古鷹です。あの、アルカディアさん、もし向こうが嫌になったらいつでもここにいらして下さいね。私達待ってますから。」

 大天使フルタカエル様のお願いである。

 先の海外艦に続き揺らいでしまった。

 

 さらに翌14日には『大和・武蔵・赤城・翔鶴・瑞鶴・大鳳』の6名に加え、二鎮からは『金剛・榛名・赤城・瑞鶴・飛龍・大鳳』と『五十鈴・由良・皐月・龍驤・熊野・鈴谷』の12名がチョコレートを持ってやって来てくれた。

 訳が分からずポカンとする俺に瑞鶴が今日はバレンタインデーじゃない、と教えてくれた。

 

 アルカディア号、感動であるっ!

 思わず某塾長みたいになってしまったが人生初チョコである。

 大目に見てもらいたい。

 他にも次々に艦娘達や提督さん達がチョコを渡してくれてテンションが上がりまくってしまった。

 

 ただ、重巡組からは一つも無く昨日のお誘いは只のリップサービスだったという事が判明した、凹む…。

 それでも神崎中将はROYCE製、タチバナ中将はモロゾフ製と高価なものを戴けたし、花火と翔鶴は柱島第七泊地に帰ってから渡してくれるとの事。

 

 帰り際には神崎中将から結構マジなキスをされたし俺、明日死ぬんじゃなかろうか?

 

 (女神:すでに一回死んでるけどね。)




※俺、明日死ぬんじゃなかろうか?

 なかなか的確な未来予想ですね。
 柱島第七泊地の艦娘達は帰ってきてくれたことを非常に喜んでくれるのですが、直ぐに極上の笑顔を浮かべた『大和』・『榛名』・『伊勢』・『瑞鶴』・『高雄』・『妙高』に主人公は何処かへ連れ去られてしまいます。


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第57話 柱島帰投編1(艦娘側:北大路花火5)

※主人公ことアルカディア号と北大路提督&翔鶴に進展が!


 横須賀から帝都へと出た私達。

 それにしても神崎先輩ったら、腹立たしいです。

 何が今回の御礼ですわ、何でしょうか?

 ピンチになっても次は無いと思って下さい。

 でもそれ以上にアルカディアさんに八つ当たりする自分に腹が立ちます。

 

 「翔鶴さん、お昼は何を食べましょうか?」

 翔鶴なら私を諫めてくれる、そう期待して楽しそうに彼女にだけ聞いてやります。

 そうしたら素直にアルカディアさんに謝りましょう。

 何しろ彼は何も悪くな…、いえ神崎先輩からキスをされた時、一瞬ですがニヤけましたね。

 ギルティ、ギルティです!

 

 「ハイ、経費は海軍軍令部持ちですよね。『提督と私の』好きな『今半(すき焼き)』か『とよだや(天ぷら)』か『すきやばし次郎(お寿司)』に行きましょう!」

 

 ………。

 ……。

 …。

 

 翔鶴、貴女もなのね(溜息)。

 

 昼食を取った後はお決まりのウィンドウショッピングです。

 百貨店やアクセサリーショップ巡りをしたりして夕方まで時間を潰すのですが…。

 アルカディア号さんと回っているんです、楽しい時間のはずでしょう?

 どうしてこんなことに?!

 いえ、原因は私(と翔鶴)ですね。

 分かっています。自分で蒔いた種です、分かっていますとも!

 

 列車の出発時間が近づいてきたので駅に向かうのですが…。

 その間も私とアルカディアさんとのヤリトリは『はい』か『いいえ』の2つだけ。

 足取り重く駅の階段を登ります。

 私の心の中とは正反対に活気づくプラットホームが恨めしいです。

 

 そんな中、PM07:00発の『あさかぜ』3号が10分前にやって来ました。

 寝台特急でしかもA寝台。

 せっかくグリシーヌが快適な旅になるように計らってくれたというのに、これでは彼女に申し訳が立ちません。

 荷物を二段ベッドの上部奥に押し込むと翔鶴はお手洗いに行ってしまいました。

 今しかありません。

 勇気を振り絞って寝台に腰かけているアルカディア号さんの前に立ちます。

 

 「アルカディア号さん。」

 こちらを見上げた彼の顔を両手で包んで腰をかがめます。

 

 「し、消毒です…。ぽっ」

 や、やってしまいました。

 パリの公園で他のアベックを見ただけでもアタフタしていた私がです。

 しかも自分から。

 

 「どうした花火。このような事は真に好きな人が出来た時までとっておけと…。」

 アルカディア号さんは相変わらず分かってらっしゃらないのですね。

 まあ、分かるぐらいなら横須賀で他の提督さん達や艦娘達に手を出しまくってたでしょうけど…。

 

 「え、ええ。ですからその…、お分かりになりませんか? ぽっ。」

 ですが乙女(と自分では思っています。最悪、年齢的には大丈夫ですから!)がここまでしているのですから流石に分かって欲しかったですね。

 いえ、分かりなさい。

 

 「アルカディア号さんはグリシーヌに私と翔鶴に一目惚れしたと仰られました。それを聞いた私は天にも昇るほど嬉しかったのです。」

 彼の目を見つめ息を吸う。

 伝えないと、もうこんな思いをするのは嫌ですから。

 

 「アルカディア号さん、この北大路花火、あなたの事をお慕いしております。」

 「私に勇気が無かったばかりに神崎先輩に先を越されて…。」

 「申し訳ありません、自分のせいなのにアルカデイアさんに八つ当たりをしてしまいました。」

 「せっかく貴方と過ごせたというのに今日は全然楽しくありませんでした。そのせいでアルカディア号さんにも嫌な思いを…。」

 今さら泣くなんて虫が良すぎですね。

 

 「それはすまなかった。だがあれは不意打ちに近い。許してくれると助かる。」

 いえ、悪いのは私の方です。アルカディア号さんが謝る事は…。

 

 「それに正直に言えば俺も男だ。神崎閣下のような美しい女性にああいう事をされれば嬉しかったのも事実だ。」

 

 ………。

 ……。

 …。

 

 やっぱり謝って下さい。

 それも私の気が済むまでです。

 それとも秋、いえオオタムクラウドさんの薄い本のように靴や足先を舐めてもらおうかしら?

 

 「怖かったんですよ、私も提督も。」

 いつの間にか翔鶴も戻っていました。

 

 「アルカディアさんが横須賀第一鎮守府に残ると言い出すのではないかと、細川大将に帝都防衛の任に就くよう要請された時と同じ恐怖を感じたのです。」

 

 「花火に叩き出されるか、所属艦娘に出て行けと言われたら話は別だが、他所へ行くつもりは無い。それに翔鶴が待っていてくれる限り帰ってくると約束したはずだ。もちろん花火もだぞ。」

 アルカディア号さんが優しく私と翔鶴さんの手を取って下さいました。

 

 「知っていますか? 女性というのは身勝手で面倒くさい生き物なんです。一目惚れしたとか帰ってくるとか言葉だけでは提督も私も納得しません。ですからその…、確たる証を下さい。」

 翔鶴は一体どうしろというのでしょうか?

 アルカディア号さんも戸惑っていらっしゃるみたいですが…。

 

 「提督と私にアルカディア号さんからキスして下さい。」

 翔鶴、あなた今、何て言ったの?

 しかもそれを聞いたアルカディア号さんが立ち上がって?!

 え? ホントなんでしょうか?

 

 ………。

 ……。

 …。

 

 こ、これが殿方からの口付け?!

 舌で睦み合う本格的な…、もう体が蕩けそうです。

 

 翔鶴、よくやったわ!

 帰ったら提督権限で間宮好き放題の権利50日よ!

 視線を送りますが、今度は彼女がアルカディア号さんから証を頂いている最中でそれどころではないようです。

 車内放送も聞こえてなさそうですね。

 

 停車駅とその時刻案内、それから…、え? あと3分で発車します?

 そういえばまだ列車は揺れていません。

 恐る恐る窓の外を見ます。

 

 は、早く出して下さい!

 車掌さーん(泣)!




※ようやく主人公君に旗が二本立ちました!
 ここからドシドシ回収する事は出来るのでしょうか?
 柱島第七泊地に帰ってからは日常編を少し挟んでマゾーンの息が掛かったブラ鎮に乗り込みます!


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第58話 柱島帰投編1(アルカディア側16)

※主人公君、花火さんと翔鶴さんのハートを掴んだみたいですね。
 おめでとうございます!!


 横須賀から帝都へと出た俺達は昼食を取った後、百貨店や貴金属店のハシゴをしたりして夕方まで時間を潰した。

 お昼は結局、築地市場(この世界では豊洲移転していない)で海鮮丼三昧となったのだが、場所もメニューも花火と翔鶴の間だけで決められこちらは完全無視であった、凹む…。

 本来ならキャッキャウフフタイムになるはずなのに花火と翔鶴はずっと不機嫌。

 プイッという感じの翔鶴に対して花火は無表情で『はい』か『いいえ』の二択モード。

 キツイ…。

 恐らくは俺と神崎提督がキスをした事が気に入らなかったのだとは思うが、あれ彼女にやられた側ですから!

 あんな不意打ち避けられません(避けるつもりもないけど、エヘヘ)。

 

 気落ちしたまま帝都駅のホームを上がる。

 さすが帝都、PM06:30過ぎともなるとプラットホームは活気にあふれている。

 PM06:50に『あさかぜ』のヘッドマークを付けたC62型蒸気機関車が青20号の車体に銀帯を撒いた客車を牽引してホームに滑り込んできた。

 本来ならEF65型電気機関車が牽引するのだが、この世界ではまだまだ蒸気機関車が現役らしい。

 

 行きは只の夜行列車でキツかったが、帰りは寝台特急列車(ブルートレイン)のA寝台。

 聞くところによるとこれはグリシーヌちゃんの個人的な計らいによるモノらしい。

 来週、柱島第七泊地にお越し頂いた際は忘れずにお礼を申し上げなくては。

 

 花火と翔鶴に続いて荷物を二段ベッド奥に押し込み腰を下ろすと翔鶴はそのまま、お手洗いに行ってしまった。

 

 「アルカディア号さん。」

 不意に目の前に花火の足が現れた。

 顔を上げると、その上げた顔を花火が両手で包んで?!

 

 「し、消毒です…。ぽっ」

 くぁwせdrftgyふじこlp !!!

 花火さん、アナタ一体どうしたというのですか?!

 

 「どうした花火。このような事は真に好きな人が出来た時までとっておけと…。」

 声が裏返りそうになるのを必死でこらえる。

 何だ、新手のハニートラップか?!

 しかし花火がハニトラを仕掛ける意味が分からない。

 

 「え、ええ。ですからその…、お分かりになりませんか? ぽっ。」

 「アルカディア号さんはグリシーヌに私と翔鶴に一目惚れしたと仰られました。それを聞いた私は天にも昇るほど嬉しかったのです。」

 おっふ。アナタ一体どんな聴力を持っているんですか?

 もはやそれ003レベルですよ。

 え、諸兄氏は003と言うかサイボーグ009自体をご存じない?

 またまた御冗談を(迫りくるジェネレーションギャップに震え声)。

 

 「アルカディア号さん、この北大路花火、あなたの事をお慕いしております。」

 「私に勇気が無かったばかりに神崎先輩に先を越されて…。」

 え?

 

 「申し訳ありません、自分のせいなのにアルカディア号さんに八つ当たりをしてしまいました。」

 待って、まって! さっきなんて言ったの?

 

 「せっかく数少ない男性と過ごせたというのに今日は全然楽しくありませんでした。そのせいでアルカディア号さんにも嫌な思いを…。」

 花火がポロポロと泣き始めた。

 ちょ、止めて!

 まるでコチラが泣かせたみたいじゃないか。

 え、さっきのは気がありますって意味?!

 

 「それはすまなかった。だがあれは不意打ちに近い。許してくれると助かる。」

 どういう心境の変化があったのかは知らないが、もし本当にそうだとしたら確かにあの場面は不安になってしまうだろう。

 

 「それに正直に言えば俺も男だ。神崎閣下のような美しい女性にああいう事をされれば嬉しかったのも事実だしな。」

 花火ばかりが罪悪感を感じる必要は無いという意味で言ったのだが、彼女がジト目になってしまった。

 

 「怖かったんですよ、私も提督も。」

 いつの間にか戻って来ていた翔鶴。

 なるほど彼女にとって俺は期間限定海域攻略要員だからな。

 

 「アルカディアさんが横須賀第一鎮守府に残ると言い出すのではないかと、細川大将に帝都防衛の任に就くよう要請された時と同じ恐怖を感じたのです。」

 そう言って翔鶴は今日一日、申し訳ありませんでしたと頭を下げた。

 

 「花火に叩き出されるか、所属艦娘に出て行けと言われたら話は別だが、他所へ行くつもりは無い。それに翔鶴が待っていてくれる限り帰ってくると約束したはずだ。もちろん花火もだぞ。」

 そっと二人の手を取る。

 え? 何故かそうしないといけない気がしたんですよ、ハイ。

 

 「知っていますか? 女性というのは身勝手で面倒くさい生き物なんです。一目惚れしたとか帰ってくるとか言葉だけでは提督も私も納得しません。ですからその…、確たる証を下さい。」

 確たる証? 何だそりゃ?

 

 「提督と私にアルカディアさんからキスして下さい。」

 え?

 マジで?

 マジですか?!

 もうドッキリでも何でもいい、だってこんなチャンスはもう無い!

 ウッソぴょーんなんて言われる前にやってやるぜ!

 

 立ち上がって花火の唇を奪い、舌で歯をノックして開けさせる。

 そのまま舌を侵入させて絡め合う。

 舌を強く吸ってやると急に花火から力が抜けた。

 そのまま寝台に座らせ、今度は翔鶴の唇を頂く。

 いや、翔鶴のようなイイ女を前に冷静でいられる訳が無く貪るといった方が正しい。

 列車の発車する揺れに合わせて離れると彼女も寝台に座り込んでしまった。

 

 うーん、獲物自らこの兵隊さん、いや変態さんに飛び込んでくるなんて驚きだわ。

 本当に一体どうしたというんだろう?

 まあ、目的地までは長いし色々と探りを入れてみますか。

 




※主人公君、分かってるのかな? 翔鶴さんもアナタが好きなんですよ?


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第59話 柱島帰投編2(艦娘側:翔鶴)

※北大路提督に危機が訪れたようです!

※アルカディア号と翔鶴には最大のピンチが!


 「嬉しい…、です。」

 

 「はい、私も。」

 北大路提督が噛み締めるように想いを…。

 私も胸が一杯です。

 だって、想いがアルカディアさんに通じたんですから!

 しかもブルーメール少将とのお話の中でアルカディアさんも私と提督に一目惚れだった事が分かりました。

 まあ、これは話半分でしょうけれど今夜は嬉しくて眠るどころではありません。

 

 「二人ともいいか?」

 何でしょう、アルカディアさんが真剣なお顔で…。

 

 「嫌な思いをさせるかもしれん。だが一応、聞いておきたいのだ。」

 

 「わかりました。」

 

 「アルカディア号さんにとって大切な事であれば構いません。」

 今度は私と提督が彼に応える番です。

 

 「これ、『ドッキリ大成功!』というプラカードを持った青葉が出て来たりとか?」

 

 「「…。」」

 はい?

 

 「いや、申し訳ないとは思うが花火も翔鶴も俺には眩し過ぎる。そんな二人が何故、俺のような無法者にと…。それゆえに聞きたいのだ。」

 ふふ、アルカディアさんも私達と同じなんですね。

 本当なのか心配になってしまったと(笑)。

 

 「さすがに青葉さんでもそんな事はやらないと思いますよ? 多分…。

 まあ、ドコの青葉さんでも多少の疑いは掛けられても仕方ないのでアルカディアさんが警戒するのも仕方が無いですが(笑)。

 「二人とも本当にいいのか? 海賊船など無法者の極みだぞ。」

 

 「はい。それにアルカディア号さんは決して無法者なんかではありません。」

 

 「ええ、北大路提督の仰る通りです。それこそあなたは自分の胸に自分の正義をお持ちですから。」

 

 「偏った性的志向(足フェチ&匂いフェチ)を持っていても?」

 

 「要するに変態さんという事ですね、わかります!」

 脚フェチなんてメジャーな部類ではありませんか。

 それぐらいなら変態上等です!

 私の脚なんて好きにして頂いて結構なんですよ。

 というか私の全ては貴方のモノなんですから。

 

 「恥ずかしかったですが、キレイな脚だと褒めて頂いて嬉しかったです。私も二人きりの時なら…。ぽっ。」

 

 「そう言ってもらえるのは有り難いが、俺が好きになったのはあくまで北大路花火と翔鶴という個人だ。それは忘れないでくれ。」

 嬉しい、ちゃんと私を見てくれてるなんて!

 

 「それに何を勘違いしておられるか分かりませんが、私はアルカディアさんが思っているような女ではありません。むしろはしたないぐらいです(笑)。」

 

 「それこそまさかだ。翔鶴がはしたないなど…。」

 

 「そうですか? ではもう言ってしまいますがアルカディアさんの匂い、男の人の匂いというのでしょうか? どうしようもなくドキッとしてしまうんです。ね、提督?」

 

 「ええ、まあ、その…。大神元帥さんの匂いとはまた違いますが、それでも男の人の匂いにクラクラしてしまって…、やだ、翔鶴ったら何を言わせるのよぉ…。」

 真っ赤になってしまった提督が両手で顔を覆ってしまいました。

 

 「いや、それをいうならこちらもだ。女性特有の何ともいえないあの甘い体臭が堪らなくてな。」

 

 「なら私もです! ずっとアルカディア号さんの臭いに包まれていたいなんて考えているんですから!」

 て、提督…。

 

 「「「…。」」」

 

 「フッ。」

 「うふふ。」

 「あはっ」

 今回の横須賀行に同行させていただいて本当に良かったです。

 北大路提督には感謝しかありません。

 これで争奪戦レース(何の?!)艦娘の部は私が大きくリードです。

 ランボルギーニ(イタリア艦)、テスラ(アメリカ艦)、ポルシェ(ドイツ艦)、ロールスロイス(イギリス艦)、ボルボ(スウェーデン艦)になんかに負けませんから!

 失礼しました、あまりのハイテンションにわけのわからない例えを…。

 

 翌朝、柱島第七泊地に私達が到着すると門前で待っていた所属艦娘全員から歓声が起こりました。

 やはりアルカディアさんの姿を見るまでは皆、不安だったのでしょう。

 

 「お帰りなさい、提督。それに翔鶴さん、アルカディア号さん。」

 大和さんが代表して前に出てきてくれました。

 

 「はい、ただいまです。特に変わった事は無かったですか?」

 

 「変わった事ですか…。そう…、ですね。はい、特には…。」

 

 「え、どうしたの? その間が気になるのですが。」

 提督が首をかしげました。

 

 「何かあったのなら遠慮なく言って下さい。特に軍では些細な事が重大な結果を引き起こしてしまう事もありますから。」

 北大路提督が瞬時に司令官の顔へと変わります。

 

 「そうですか、では。」

 オホン、と大和さんが一呼吸置きました。

 

 「アルカディア号さん、提督を呼んでみて下さい。」

 

 「ん? 花火をか?」

 

 「はい、もうそれで結構です。」

 一体、大和さんは何がしたいのでしょうか?

 

 「大和、貴女一体どうしたの?」

 北大路提督も訳が分からないといった感じですが…。

 

 「まず一つ目、アルカディア号さん。いつから北大路提督を名前で呼ぶようになったのでしょうか? 何かお二人の(かんけい)に変化でも?」

 北大路提督とアルカディアさんが固まります。

 

 「それから二つ目、『何 故 か』伊勢さんが大荒れで大変でした。私達、宥めるのに大変だったんです。」

 何があったの? 伊勢さんの目が据わってる?!

 

 「三つ目、妙高さんと高雄さんどうぞ。」

 妙高さんと高雄さんも前に出てきました。

 

 「アルカディア号さん、明日は私達が、ここ柱島第七泊地を隅から隅まで案内いたしますので、お昼は重巡全員でサンドイッチにしましょう。」

 アルカディアさんがナゼシッテルノ?的な顔になっていますね。

 私達の知らない何かがあったという事なのでしょうか?

 

 「四つ目、瑞鶴さんどうぞ。」

 完璧重巡レディースが下がり今度は妹の瑞鶴が出てきました。

 

 「私だけじゃないわ。ね、大和さん、榛名さん?」

 大和さんと榛名さんも前に出てきました。

 瑞鶴、あなたまで一体?

 

 「提督、アルカディア号さんを少しお借りします。」

 そういって大和さんと榛名さんがアルカディアさんの腕を取ると瑞鶴と伊勢さんの四人で戦艦寮へと足を向けました。

 

 「え、でも…。」

 北大路提督は何か言いたそうでしたが、大和さんの次の一言でまた固まってしまいました。

 

 「そうそう、遠慮なくという事でしたので夕食後にでも先程の返答を聞かせて頂きますね。提督?」

 北大路提督が涙目に…。

 

 「も、もう、アルカディア号さんに聞いて頂戴!」

 そう言うと提督は本館建物内に駆け込んで行ってしまいました。

 私も後を追おうとしたのですが…。

 

 「待ちなさい五航戦の白い方。貴女にも聞きたいことがあるわ。」

 

 「ええ、向こうで何があったのかではなく、行き帰りを含めてアルカディア号さんと何があったのかを、ね?(ニッコリ)」

 ヒイイイイ! 今、最も声を掛けられたくない&聞きたくない方(第一航空戦隊のお二人)から!

 

 「そうだねぇ。こんなのを見せられたんじゃ、第二次攻撃の要を認めない訳にはいかないよね?」

 そう言って飛龍さんと蒼龍さんが今朝、発売のゴシップ誌(金曜日?)を開いて差し出してきました。

 そこにあった画像を見た瞬間、私は悲鳴を上げていました。

 

 誰が撮ったのでしょう、そこにはブルートレインの客車窓越しにアルカディアさんと私がその、舌を絡め合うシーンが?!

 

 「そりゃあ、帝都駅みたいな人が大勢いる所でこんな事をしたら格好のネタというか餌食だよねぇ。」

 と蒼龍さんに極上の笑顔を向けられた私はその場にへたり込んでしまいました。

 

 か、神様、助けて下さい!

 




※この後、翔鶴さんと主人公君はどうなったのでしょうか?
 筆者も恐ろしくて聞けずじまいです…。
 命に別状は無かったみたいですが、数日は憔悴しきった表情だったとか。
 まあ、安い代償ですよね。

※空母艦娘達は艦種正妻の座をほぼ奪われた訳ですからかなり荒れたみたいです。
 まあそうなるな…。
 残る側室筆頭の椅子を手に入れるのは誰でしょうか?!


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第60話 柱島帰投編2(アルカディア側17)

※アルカディア号にツケが回って来たようです(笑)。
※ドルアーガの塔:ナムコの名作ゲーム。凄く面白いです。


 「嬉しい…、です。」

 

 「はい、私も。」

 花火と翔鶴がそれぞれ両肩にもたれ掛かってきた。

 嬉しいのだがここまで事態が急変したのは何があったんだろう?

 

 「二人ともいいか?」

 まさかとは思うが、学生時代によく揶揄われた黒歴史が蘇る。

 

 「嫌な思いをさせるかもしれん。だが一応、聞いておきたいのだ。」

 要するに怒らないで、という事なんだけどね。

 

 「わかりました。」

 

 「アルカディア号さんにとって大切な事であれば構いません。」

 うん、そう言ってもらえると助かりますわ。

 

 「これ、『ドッキリ大成功!』というプラカードを持った青葉が出て来たりとか?」

 

 「「…。」」

 あ、ヤバイ。二人の視線がどんどん冷たくなって…。

 怒らないって言ったじゃん?!

 

 「さすがに青葉さんでもそんな事はやらないと思いますよ? 多分…。

 え、最後に多分って小声で聞こえたんですけど?!

 人を不安にさせるんじゃありません!

 

 「いや、申し訳ないとは思うが花火も翔鶴も俺には眩し過ぎる。そんな二人が何故、俺のような無法者にと…。それゆえに聞きたいのだ。」

 

 「青葉が聞いたら間違いなく本気で怒りますよ。まあ、今回は黙っておきますが。」

 眩し過ぎるというのを聞いた途端にジト目から一転、目尻を下げて体をくねらせる花火と翔鶴。

 ドルアーガの塔に出て来るローパーを思い出してしまった。

 

 (青葉:危なかった…。)

 

 「二人とも本当にいいのか? 海賊船など無法者の極みだぞ。」

 横須賀でこの二人に何があったのだろう?

 それこそ会議で無理矢理、俺を繋ぎ止めるために体を差し出せと言われたのではないだろうな?

 もし、そうなら彼女達を本気で振り向かせられるようにこの不肖アルカディア号、一層の奮励努力をしなければ!

 

 「はい。それにアルカディア号さんは決して無法者なんかではありません。」

 

 「ええ、北大路提督の仰る通りです。それこそあなたは自分の胸に自分の正義をお持ちですから。」

 

 「偏った性的指向(足フェチ&匂いフェチ)を持っていても?」

 変態さんの部分も含めて念を押す。

 

 「要するに変態さんという事ですね、わかります!」

 翔鶴さんェ。

 そんなに明るく答える事も無いと思うのですが(泣)。

 

 「恥ずかしかったですが、キレイな足だと褒めて頂いて嬉しかったです。私も二人きりの時なら…。ぽっ。」

 え、何?!

 二人きりに時ならドコまで許されるんでしょうか?

 またその危険な黒酢の香りを堪能できるんですか?

 それとも足〇キ・素〇タですか?!

 

 「そう言ってもらえるのは有り難いが、俺が好きになったのはあくまで北大路花火と翔鶴という個人だ。それは忘れないでくれ。」

 好きな事をしていいのは足だけなんて勿体ない!

 あくまで全身を使ってお願い致します。

 

 (女神:うわ…。いいセリフなのに齟齬がスゴイ…。)

 

 「それに何を勘違いしておられるか分かりませんが、私はアルカディアさんが思っているような女ではありません。むしろはしたないぐらいです(笑)。」

 

 「それこそまさかだ。翔鶴がはしたないなど…。」

 

 「そうですか? ではもう言ってしまいますがアルカディアさんの匂い、男の人の匂いというのでしょうか? どうしようもなくドキッとしてしまうんです。ね、提督?」

 

 「ええ、まあ、その…。大神元帥さんの匂いとはまた違いますが、それでも男の人の匂いにクラクラしてしまって…、やだ、翔鶴ったら何を言わせるのよぉ…。」

 花火が真っ赤になって両手で顔を覆ってしまった。

 

 「いや、それをいうならこちらもだ。女性特有の何ともいえないあの甘い体臭が堪らなくてな。」

 

 「なら私もです! ずっとアルカディア号さんの臭いに包まれていたいなんて考えているんですから!」

 って、我々は何のカミングアウトをしてるんだよ(笑)。

 

 「「「…。」」」

 

 「フッ。」

 「うふふ。」

 「あはっ」

 お互いに顔を見合わせた後、誰からともなく吹き出してしまった。

 それにしても今回の横須賀行きは収穫が大きかったな。

 神崎中将やブルーメール少将、タチバナ中将、その他大勢の提督達に顔を売れたし、おまけに大神元帥から海軍の協力を取り付ける事までできた。

 これで少々の無茶と思える動きもある程度までなら出来るだろう。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 翌朝、柱島第七泊地に到着すると門前で待っていた所属艦娘全員が歓声を挙げて迎えてくれた。

 期間限定海域攻略要員のお帰りという事で、特に輸送部隊を組む水雷戦隊のメンバーの喜びは殊更だった。

 そしてまた秋月型と白露型はやはりハーレムに加えなければと再認識した瞬間でもある。

 

 「お帰りなさい、提督。それに翔鶴さん、アルカディア号さん。」

 大和さんが前に出てきた。

 

 「はい、ただいまです。特に変わった事は無かったですか?」

 留守中の確認を行う花火。

 

 「変わった事ですか…。そうですね。はい、特には…。」

 気のせいだろうか?

大和の歯切れが幾分か悪いような…。

 

 「え、どうしたの? その間が気になるのですが。」

 花火も同じ事を思ったのだろう、掘り下げて聞いてしまった。

 

 「何かあったのなら遠慮なく言って下さい。特に軍では些細な事が重大な結果を引き起こしてしまう事もありますから。」

 花火にしては当たり前の事を言っただけに過ぎない。

 が、この一言によって彼女は『私、死にます!』ボタンを押してしまったのである!

 

 「オホン。そうですか、では。」

 「アルカディア号さん、提督を呼んでみて下さい。」

 

 「ん? 花火をか?」

 

 「はい、もうそれで結構です。」

 大和は何を確かめるつもりだったんだろう?

 何かメッチャ、イヤな予感がする…。

 

 「大和、貴女一体どうしたの?」

 花火がふざけるなら怒りますよ、的な感じだが…。

 

 「まず一つ目、アルカディア号さん。いつから北大路提督を名前で呼ぶようになったのでしょうか? 何かお二人の(かんけい)に変化でも?」

 …。

 ……。

 ………。

 

 ここに至って初めて自分でも知らない間に北大路提督呼びから花火呼びになってしまっていた事に気付いた。

 

 「それから二つ目、伊勢さんが大荒れで大変でした。私達、宥めるのに大変だったんです。」

 い、伊勢が、伊勢が据わってた目でこっちを見てるぅ!

 

 「三つ目、妙高さんと高雄さんどうぞ。」

 あ、この組み合わせ…。

 

 「アルカディア号さん、明日は私達が、ここ柱島第七泊地を隅から隅まで案内いたしますので、お昼はサンドイッチを重巡全員で取りましょう。」

 ハイ、やっぱりですか。

 

 「いや、ここの事はある程度わかって…。」

 

 「案内いたします。」

 デスヨネー。

 

 「四つ目、瑞鶴さんどうぞ。」

 重巡完璧レディースに続き、今度は瑞鶴が前に。

 

 「私だけじゃないわ。ね、大和さん、榛名さん?」

 大和と榛名も誘った瑞鶴。

 これも何となくわかった気がする。

 

 「提督、アルカディア号さんを少しお借りします。」

 そう言うと大和と榛名が腕を取ってきた。

 うほほーい!

 う、腕が、腕が!

 腕が大和と榛名のパ〇ズリ状態に?!

 

 「え、でも…。」

 

 「遠慮なくという事でしたので夕食後にでも先程の返答を聞かせて頂きますね。提督?」

 大和の次弾がクリティカルヒットした花火。

 

 「も、もう! アルカディア号さんに聞いて頂戴!」

 彼女は捨て台詞を残して建物内に駆け込んで行ってしまった。

 え、これ俺が答えなくてはいけない状況になったじゃん。

 自分だけ逃げるなんて酷すぐる…。

 

 こうなれば翔鶴、お前だけが頼りだ!

 頼むぞ!

 

 が、翔鶴に目を向けると青鬼(加賀)と赤鬼(赤城)に詰め寄られ震えあがっている始末。

 あ、これ翔鶴死んだわ。

 俺よりもヤバイ状況だわ。

 

 「そうだねぇ。こんなのを見せられたんじゃ、第二次攻撃の要を認めない訳にはいかないよね?」

 二航戦が差し出した携帯を見て翔鶴が悲鳴を上げた。

 

 な、何だ? 何が写っているんだ?

 気にはなるが確かめる勇気などとても持ち合わせていない。

 さらに追い打ちを掛けられた翔鶴はへたり込んでしまった。

 

 「アルカディア号さん、翔鶴さんが気になりますか(人の事を気にしている場合では無いですよ)?」

 

 「向こうの私達との触れ合いは楽しかったですか? 楽しそうでしたよね?」

 何故だろう、ニコニコ顔の大和と榛名から凄いプレッシャーを感じる。

 

 「取り敢えず、戦艦寮に行きましょう、か。」

 伊勢が移動を促してきた。

 

 「あ、大和さん、私もいいよね。」

 

 「ええ、勿論です。瑞鶴さんがいないと再現できませんから。」

 暗く濁った瞳で四人がニヤリと嗤う。

 ハイ、世に言う拒否権無し、というヤツですねこれは。

 はっはっは、これ翔鶴だけじゃない、俺も死んだかも。

 いや、死んだわ(笑)。




※この後、全てをべてをゲロさせられてしまう3人達。
 次回、主人公のアルカディア号の様子だけ中継して横須賀鎮守府編の終了です。


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第61話 柱島帰投編3(アルカディア側18)

※このお話で横須賀鎮守府編は終了となります。
 次回からはカルチェラ少佐が率いるタウイタウイ第二泊地が舞台となります。

※この世界では男性が少ない事から、側室を持つ事が奨励されている事を説明される主人公君。
 なにより一人だけだと人間関係で柱島第七泊地が崩壊する危険があるからでしょうか?


 連行される前にアルカディア号の妖精たちが飛び出してきた。

 狐が狸が化けるようなポンという音がしたかと思うと、妖精の姿から各々の姿になって皆の前に姿を現していく。

 艦娘達があっけにとられる中、勝手に自己紹介を始める連中たち。

 

 「アルカディア号の副長、ヤッタランや。この姿は初めてやけど、宜しゅう頼むで!」

 

 「同じくアルカディア号の戦闘指揮官、有紀螢です。よろしくね。」

 あちこちからキレイ…、というため息に似た声が。

 

 「台羽正です。有紀さんの副官を務めています。戦闘時にはスペースウルフ隊を率います。空母艦娘さん達は特によろしくお願いします。」

 やはり若い男だけあって黄色い声があがる。

 う、羨ましくなんかないんだからねっ!

 

 「ジュラ星最後の生き残り、ジュラ星人のミーメです。主食はアルコールなのでお酒が大好き、珍しいお酒をたくさん持っています、よろしく。」

 目を輝かせる那智・隼鷹・ポーラ。

 早速お邪魔するつもりだぞ、あれ。

 

 「綱島ますだよ。アルカディア号の司厨担当さね。台所が忙しかったら手を貸すよ。」

 

 「砲術と機関を担当する魔地だ。機関のメンテならまかせてくれ。」

 

 「ドクターゼロだ。ケガや病気は見てあげるよ、いつでも来なさい。」

 

 「ニャー。」

 

 「あー、お前もいたね。この子はミーくん。私の飼い猫だ。可愛がってやってくれ。」

 カワイイのです、と電が早速ナデナデ。

 最後は全員でキャプテン、頑張って下さいと体良く送り出されてしまった。

 お前達、ネズミかっ!

ネズミは沈む船や船火事を起こす前に居なくなるというが、我がアルカディア号の妖精たちも見事に逃げ出していったわ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 戦艦寮のロビーで一方的なお話をされるのかと思ったが、連れて行かれた先は談話スペース。

 瑞鶴がお座り下さいとばかりに椅子を引いてくれる。

 大和達4名は対面のソファーに先に座った。

 

 「さてアルカディア号さん。北大路提督を花火と名前呼びするようになった経緯をお聞きいたしましょうか?」

 

 「どうしてまた?」

 こっちだってキャプテンハーロックの眷属なのだ、別に怖くなんて…。

 

 「ええ、北大路提督は私達にとって大切な方ですから。その方を名前呼びするとなると、ねぇ(ギロッ)。」

 ヒイイイイ、嘘です! チビりそうです、すいますぇん(涙目)…。

 

 「で? どうなんですか?」

 大和が片頬をつきながら足を組む。

 スッと真っ直ぐに伸びるキレイな素足、その先端には桜貝のような美しい光沢をもつ足爪が!

早速、脳内SSDに永久保存である。

 それに黙秘すればそれだけ長くその素足を堪能できるのでは?!

 

 「ア ル カ デ ィ ア 号 さ ん?」

 が、表情の消えた榛名のこの一言で黙秘という選択肢はあえなく消滅してしまった。

 見た目は行儀よく足を斜めに揃えて座っている榛名だが大和さん以上の黒いオーラを感じる…。

 おまけに素足ではなく肌色パンスト(ひょっとしたらガーターかもしれないが確かめる勇気が無い)の補強部分が邪魔をして大和の様に足爪が見れない。

 

 「うむ、早い話があの二人に一目惚れだったところに、その翔鶴から私達にキスしてくれと…。」

 姉の名前に瑞鶴の眉が吊り上がる。

 彼女も大変な美脚の持ち主なのだが、おかげで鑑賞している余裕なんて飛んでしまった。

 

 「翔鶴さんの一言で飛びついてしまった、と…。」

 大和さんの視線が痛い…。

 

 「翔鶴姉はともかく、提督さんは嫌がらなかったの? まさか無理矢理、唇を奪った訳じゃないよね?」

 

 「もしそうだったら、ココから出て行ってもらいますからね。」

 ブルーメール閣下、こりゃ案外早くそちらに行く事になりそうです(泣)。

 それにしてもホーム(柱島第七泊地)の榛名さん、ちょっと厳し過ぎない?

 榛名の皮を被った悪魔かよ(泣)。

 皮なら俺だって半分ほど被ってるんだぞ…。

 

 「さすがにそんな事はしない。花火が好きだと言ってくれたからこそだ。」

 

 「北大路提督が先に言ったのですか?!」

 

 「分かりました。但し後で提督さんにもウラは取らしてもらいますからね。」

 大和と榛名が顔を見合わせて頷く。

 ええ…。

 どんだけ信用無いんだよ、俺…。

 

 「翔鶴姉ったら協定違反ギリギリじゃない。鬼共(赤・青・緑・山吹)から助けに行けないよ、こんなの…。」

 

 「協定違反?」

 何だろう、またロクな予感がしないんですが…。

 

 「アルカディアさんには直接関係無い事です。」

 「詮索も無用ですから。」

 先程と同様、息の合ったピシャリ攻撃を繰り出してくる大和と榛名。

 ハエ叩きで叩き潰されるハエの気持ちが良く分かった(出来れば分かりたくなかったが)。

 

 「まあ、正規空母の正室は翔鶴さんでしょうね。」

 

 「ええ、翔鶴さんで決まりでしょう。私達、戦艦で良かったですね。」

 何が良かったのだろう?

 こちらにすれば何も良くないんですがそれは。

 

 「伊勢さん、もう少しだけお待ち下さいね。」

 そう言って大和・榛名・瑞鶴が一斉に立ち上がった。

 

 「うふふ、横須賀の連中に負けてたまるもんですか。」

 

 「ええ、向こうさんはコチラを田舎の一泊地という感じで見ているようですから。」

 

 「思い知らせてやるわ。アルカディア号さんは柱島第七泊地のモノなんだという事をね。」

 頷き合う三人。

 何でしょうか、横須賀の方々に何か落ち度でも?

 前には伊勢、後ろには瑞鶴、左に大和、右に榛名。完全に退路を断たれて絶体絶命。

 

 「アルカディア号さん。私、もっとあなたの事…、知りたい、です。」

 ヤッパリだわ。

 うん、台詞もほぼ同じだし。

 違うのはコチラの腕をとるのではなく、完全に胸に手を当てている事だ。

 

 「この命、榛名、アルカディア号さんのために捧げます!」

 なお、榛名も同様の攻撃を見舞ってきた模様。

 

 「そうだよ、そんな大事なこと忘れてたなんて。アルカディアさん、助けてくれて本当にありがとね。」

 後ろから瑞鶴が手を回してくる。

 一体何故、知ってるのか不思議で仕方ないがとても聞ける雰囲気ではない。

 

 「私、一生忘れないから。」

 おい瑞鶴、オリジナルは耳元でボソッとだったぞ。

 そんな大きな声じゃなかったから。

 

 「どうですか? 横須賀の私より柔らかいと思うのですが(笑)。」

 

 「横須賀の大和は腕をとっただけだ。そんな押し付けるような事は…。」

 

 「私、徹甲弾パッド外してるんです。」

 何ですと、指動かしていい?!

 

 「指、動かしたいですか? 榛名は大丈夫です。」

 大丈夫ですか、では遠慮なく(笑)。

 

 「まだなの? 食堂で鳳翔さんが待ってるんだけど?」

 が、伊勢の一言で二人が手を離してしまった(血涙)。

 

 伊勢に曳かれて食堂にやってくると予想通りテーブルに鉄火丼とネギトロ丼、そして御丁寧に醤油差しまでが置いてある。

 ここでも同じ事を再現する羽目になった事は言うまでもないが、鳳翔さんまで加わってくるとは予想外だったわ。

 しかし、このままでは面白くない。

 まず伊勢の手を握る時間を長くしてやる。

 

 「横須賀の伊勢よりキレイな手をしているな。それに髪も向こうの伊勢より良い匂いがする。」

 そう言うと横須賀の伊勢と同じく真っ赤になって睨み付けてきた。

 

 「そんな顔をするな、伊勢。五周年記念の海自制服、すごく良く似合っていたぞ。また日向と共に生で見せてもらいたい(笑)。」

 

 「え、あんなの見たいの? ちょっと…、いやでも…。うーん、まあ頼まれた事だし協定違反にならないからいっか。日向には強制できないから私だけになるかもだけど。」

 結構、結構。

 文句などございませんですよ、ハイ。大歓迎です!

 

 「で、アルカディア号さんは当然、北大路提督と翔鶴さんの気持ちを受け入れたんですよね。まさか本命は他所の提督さんや艦娘だなんて事は…。(ジャキッ)」

 うん、それは脅迫というんですよ、知ってます?(泣)




※横須賀の明石、夕張、青葉による中継は戦闘後も続けられていた事をアルカディア号は知る由も
 なかったようです。

※その後の経緯
 1.アルカディア号目当てに連日の演習申込が殺到、柱島第七泊地の艦娘さん達の練度がバグ状態に。
 マリア・タチバナ中将の舞鶴第一鎮守府はしっかり月一の定期戦を勝ち取ったようです。
 2.各地から転属願いが続々で海軍軍令部の人事担当がパニックに。これは結局、誰も認められなかったようです(笑)。
 3.アルカディア号目当てで脱ブラックを果たした提督もチラホラ。
 4.柱島第七泊地はおろか他泊地の艦娘さん達まで好感度がヤバイ事に(でも本人は気付いていない)!
 5.空母組の正室は翔鶴さんかと思いきや他の空母艦娘達から思い切りクレームがはいったの で、めでたく全艦娘という別枠設立対応となりました。因みに対峙した翔鶴さんは普段の大人しさはどこへやら一歩も引かなかったそうです(笑)。

 提督 正室:北大路花火 側室筆頭:神崎すみれ
 全艦 正室:翔鶴 側室筆頭:日向
 戦艦 正室:大和 側室筆頭:陸奥 側室:残り全員
 空母 正室:赤城 側室筆頭:加賀 側室:残り全員
 軽母 正室:祥鳳 側室筆頭:飛鷹 側室:残り全員
 重巡 正室:足柄 側室筆頭:摩耶 側室:残り全員
 軽巡 正室:川内 側室筆頭:龍田 側室:残り全員
 駆逐 正室:秋月 側室筆頭:村雨 側室:残り全員
 潜水 正室:58 側室筆頭:19 側室:残り全員

 そうそうたるハーレム構成ですが、アルカディア号の方は期間限定海域攻略要員の繋ぎ止めとして承諾したに過ぎないと思っているような?!


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タウイタウイ第二泊地
第62話 遠征艦隊1(艦娘側:タウイタウイ翔鶴1)


※新章開幕です。
 思い切って第1話を投稿してから半年、お気に入りも380台となりたくさんの方々に支えられてここまで来ました。
 これからも細々と身の丈投稿を続けていけたらと思いますのでお時間のある時にまた覗いてやって下さいませ。<(_ _)>

※この章から艦娘視点とアルカディア視点が不規則になります。


 タウイタウイ泊地。

 旧日本海軍の空母基幹の第三艦隊と戦艦重巡基幹の第二艦隊の泊地として有名なこの場所から少し遠く離れた位置を6名の艦娘達が航行しています。

 もちろん『艦これ』プレイヤーさん達なら、すぐにその6名が『陸奥』・『翔鶴』・『羽黒』・『名取』・『潮』・『電』である事がわかるでしょう。

 

 資源を大事に抱えて母港のタウイタウイ第二泊地を目指す6名ですが何か様子がおかしいですね。

 通常は遠征艦隊に大型艦を入れる事はあまりありません。

 共通する事といえば比較的大人しい艦娘達で構成されている気がしますが。

 

 それに南方の暑い日差しが容赦なく照り付ける中、自然と俯きがちになるのは仕方ないとしても陸奥は名取を、翔鶴は潮を、羽黒は電を曳航?しています。

 おまけに曳航されている3名は意識を失っており、陸奥・翔鶴・羽黒の息も荒く、目の焦点もあっていません。

 一体、どうしたというのでしょうか。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 私の後ろで突然、バシャッと水音がしました。

 虚ろに霞む目を向けると電さんを曳航していた羽黒さんが倒れています。

 ですが、私も陸奥さんも大丈夫ですか、と聞くことはありません。

 二人無言で機械的に曳航ロープを結び直します。

 以降は私が羽黒さんと潮さんを、陸奥さんが名取さんと電さんを曳航しないといけません。

 普段なら、いえ普通の状態であれば大型艦である私達には何でもない事ですが、この状態で曳航人数が増えるのはかなりキツイです。

 

 私達の所属するタウイタウイ第二泊地はいわゆる隠れブラック鎮守府。

 提督のカルチェラ少佐は大型艦にしか補給と入渠を認めず軽巡洋艦や駆逐艦といった小型艦に至ってはほぼ使い捨て状態。

 その大型艦もギリギリでないと認めて頂けません。

 食事なんて当然なく、ほんのを僅かな補給のみで過ごす毎日。

 当然、私達も最初は演習相手の艦娘さん達や提督に助けを求めました。

 実際に軍警の方や監査官の方たちが幾度もやって来ましたが、そのどれもが問題無しと報告されてしまい、ことごとく希望の目は摘まれてしまいました。

 信じられないお話ですがカルチェラ少佐は相手に幻影や幻覚をみせるという不思議な力があり、それを使って誤魔化しているらしく、無駄な事は止めるんだね、と高笑いされてしまいました。

 そしてそんな日は密告した奴がいると全員が罰を受ける羽目に。

 でも私やその他一部の艦娘達は知っています。

 私達が遠征で得た資源を横流し、その利益で宝石を買い集めている事を…。

 あの中の一つで、どれほどの遠征に出る軽巡や駆逐艦の艦娘に補給がいき渡ったのか。

 どれだけの艦娘が使い捨てられずに済んだのか。

 希望を持って建造ドックから出て来た駆逐艦の目が直ぐに絶望に染まっていきます。

 いえ、染まるならまだマシかもしれません。

 そうなる前に私達、大型艦の盾として沈んていく駆逐艦の何と多いことでしょうか…。

 

 (この感覚?! ああっ、駄目っ、嫌!)

 15kmほど航行したでしょうか、急に脱力感に襲われました。

 足先から徐々に力が抜けていきます。

 

 「陸奥さん。」

 陸奥さんが振り返ります。

 

 「ごめんなさい。燃料切れ…、です。羽黒さんと潮さんをお願いします。」

 燃料切れを起こした大型艦など敵潜水艦の格好の餌食。

 羽黒さんと潮さんを巻き込むわけにはいきません。

 

 「謝らないで翔鶴。私もここまでなの。」

 

 「どうしてですか? 陸奥さんはまだ…。」

 

 「私こそ黙っていてごめんなさい。数分前に電探が敵艦載機群を捉えたの。私の燃料を移すわ。翔鶴こそ名取と電を連れてあの島まで逃げて。」

 残酷な事実とは違い陸奥さんの優しい笑顔が私の胸を締め付けます。

 本来なら空母としての役目を果たすべき私の矢筒にはもう一本たりとも矢が残っていません。

 

 「止めて下さい、そんなこと聞きたくありません! 陸奥さんこそまだ砲弾が残っているはずでしょう?!」

 

 「私の足ではどう頑張ったってもあの島までは辿り着けないわ。翔鶴、これは貴女にしかできないことなの。」

 

 「それでもできません! 私には、私には!」

 

 「謝らなくていいわ。あのクソ提督を諫めることが出来なかった私自身の責任よ。」

 長い間、お風呂に入れなかった上に潮風にさらされ続けた私の指通りの悪い髪を陸奥さんが優しく撫でてくれました。

 

 「ごめんなさい、私に…、艦載機が無いばかりにこんな…。」

 この時ほど私は自分の役目を果たせない事がこんなにも悔しく情けないと思った事はありませんでした。

 

 「最後まで気を使わせてごめんなさいね。でもこれでようやく沈んだ皆の所に行け…。」

 最後まで言い切れずに陸奥さんから力が抜けました。

 

 「陸奥さん!」

 駆け寄ろうとする私の膝にもそれだけの力はありませんでした。

 いえ、正確には指先の力でさえも…。

 そんな中、幻覚でしょうか?

 陸奥さんと私の体を誰かがガッシリと受け止めた気がしたんです。

 私の意識は相手の胸元まで視線を上げたところで完全に途切れました。

 あれは…、髑髏?




※相手に幻影や幻覚をみせるという不思議な力ですか…。
 あー、いましたね、台羽くんも幾度となく苦汁を舐めさせられたあのマゾーンと同じ力ですね。


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第63話 遠征艦隊2(艦娘側:有紀螢)

※救助した名取・潮・電の三名が目を覚ましたようです。


 「ひどいきずあとです…。」

 死んだように眠る軽巡艦娘と駆逐艦娘の三名。

 彼女達を最初に見た時は余りの酷さに声も出なかったわ。

 今はデスシャドウ島にいるので通常の姿でもイイのだけれど、彼女達が目覚めた時に怖がらせないよう一応妖精の姿です。

 

 (それにしてもすいじゃくがひどいです。ぎそうもぼろぼろでおそらくまともなほきゅうもしょくじもないのでしょう。)

 所属票を確認するとカルチェラ少佐が率いるタウイタウイ第二泊地の所属の艦娘達であることが判明。

 ヤッタラン副長ったら、ワイ、ちょっとソコについて調べてみるわと部屋に籠った切り…。

 ここまで部屋から出てこないなんて、これはかなり何かあるのね。

 

 「うーん。」

 あ、山の駆逐艦が意識を取り戻したみたい。

 そしてそのまま、丘の駆逐艦を起こしに掛かります。

 え?

 山とか丘とか何を言ってるんだ、ですって?

 まあ、体の一部を指した比喩表現よ。

 もっと詳しい説明を、ですって?

 これ以上はセクハラになっちゃうわ、気を付けてね(ニッコリ)。

 

 「ここは何処? 陸奥さん・翔鶴さん・羽黒さん達は?」

 

 「分からないのです、電も目覚めた所なのです。」

 

 「名取さん、起きて下さい。ここ何処ですか?」

 

 「ふぇ…。潮ちゃん? みんなドコ、ドコ行ったの? ふぇーん…。」

 名取さんと呼ばれた軽巡艦娘はベソをかき始めてしまいました。

 

 「きがついたですか?」

 彼女達に声を掛けます。

 

 「誰なのです? 貴女のような妖精さんは見た事が無いのです。」

 

 「ここは何処ですか? 陸奥さん・翔鶴さん・羽黒さん達はどうされたのでしょうか…。」

 山の駆逐艦、潮さんが大型艦の三名について尋ねてきました。

 

 「わたしは『ゆうきけい』。あるかでぃあごうのくるーようせいです。」

 「のこりのさんにんもだいじょうぶ。おおきなべっどにねかせています。」

 「ですがそんしょう、ひろうともひどく、いまだめざめてないです。」

 

 「アルカディア号?」

 

 「はい、なとりさんはきいたことがないです?」

 

 「ごめんなさい…。」

 

 「そうですか。いまはとにかくきずをいやすです。」

 肩を斜め45度に落としてがっくり具合を演出ね(笑)。

 

 「え、傷を癒すって?」

 潮さんが不思議そうな顔をしているわ。

 

 「にゅうきょです。というか、このけいたいはふべんです。つうじょうのじょうたいにもどるです。」

 ポンと音を立てて『ゆうきけい』妖精から皆が知っている有紀螢になると三人の目がまんまるになっちゃった。

 

 「うふふ、どう? 私達、アルカディア号のクルー妖精は人型の形態も取れるの。驚いた?(笑)。」

 

 「こ、こんなのって…。」

 

 「す、凄いのです。」

 

 「ほぇー…。」

 ふふ、三人ともビックリしてるわ。

 でもとにかく今は入渠ね。

 

 「実は私も昨日、お風呂に入り損ねたの。だから一緒に入るわね。さ、付いてらっしゃい。」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「あー、アルカディア号は海賊船なの。ま、正確には宇宙海賊船ね。」

 

 「「「宇宙海賊船(なのです)?!」」」

 アルカディア号について聞かされた三人が驚いているわ(笑)。

 

 「私がこんな時間にお風呂に入っている事からわかるようにアルカディア号は海賊船だけあって規律はかなり緩めよ。キャプテンはアルカディア号は自分たちの家なんだから家でまでかしこまる必要な無い、やるべき時に動ければそれでいい、っていう考えの人だから。」

 あっけにとられる三人を残して湯船から上がる。

 

 「着替えは置いておくわ。また後で部屋に迎えに行くから待っててね。」

 上がり場で体を拭きながら考えたんだけど…。

 キャプテンは仲間を傷付けるヤツを決して許しはしないわ。

 それに私も結構腹が立っているの。

 カルチェラ少佐とやら、覚悟しておきなさい。

 




※あの有紀さんが怒りを覚える程の彼女達の生傷。
 原作のカルチェラ・タンは宝石大好きの蛇怪人でコクリコの心を弄んだ中々の外道ぶりでしたが、こちらでもそれに負けず劣らずの活躍をと思っています(笑)。


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第64話 遠征艦隊3(艦娘側:タウイタウイ陸奥)

※今度は大型艦の三名が目を覚ましたようです。


 「…。」

 ここは一体どこなのかしら?

 記憶にあるのは翔鶴に燃料を移そうとしたのが最後。

 

 ハッ?! 翔鶴、翔鶴はどうなったの?

 いえ、翔鶴だけじゃない、羽黒や他の艦娘達は?!

 

 「う…。」

 隣で聞こえる呻き声に顔を向けると翔鶴と羽黒が。

 

 「良かった…、でも一体誰が?」

 翔鶴を起こす。ひょっとしたら何か知っているかもしれない。

 

 「え…、陸奥さん。ここは?」

 

 「そう、翔鶴も知らないのね。私も気付いたばかりなの…。」

 

 「ヒッ! こ、ここは何処なんですか?! 私達どうなるんですか、名取さん達は?!」

 同じく目を覚ました羽黒が周りを見渡して怯えているわ。

 何とか落ち着かせないと。

 

 「大丈夫よ、このベッド医療用だもの。もし、私達にとって危険な相手ならこんな対応はしてくれないわよ。」

 それにしても医療用ベッドでさえこんなに寝心地良く感じるなんて。

 これならずっと体調を崩していたくなるわね(笑)。

 

 「気が付いた? 良かった、危なかったのよ、貴女達。」

 全員が目覚めるのを待っていたのかドアが開いて優しそうな女性が入って来たわ。

 ただし、私達が最も忌むべき存在である事を示す提督服を纏ってだけれど。

 

 「…誰?」

 お陰で自然と声が低くなってしまったわ。

 

 「私は北大路花火。柱島第七泊地を任されています。」

 

 「柱島? 内地の提督がどうして?」

 

 「所属は調べさせてもらいました。タウイタウイ第二泊地、カルチェラ少佐の所ね。」

 

 「それで? 私達をどうするつもりなのかしら?」

 万一の事があれば私が矢面に立たないと。

 でも、この人どこかで…。

 

 「ここは移動する人工島、デスシャドウ島です。私の知り合いが持つ補給兼入渠施設。これで確証が持てました。」

 

 「あら、何がなの?」

 一体、何の確証なの?!

 これ以上、私達を苦しませるのは止めて!

 布団の中で膝がどうしようもなく震えてる。

 

 「貴女達のタウイタウイ第二泊地、ブラック鎮守府なのね。」

 そうよ! そんなの誰だって見れば分かるじゃない!

 でもそんな事実を肯定したことがカルチェラ提督の耳に入ればまた多くの艦娘達が酷い目にあってしまう。

 それだけは避けないと…。

 

 「…違うわ。」

 

 「そう、失礼な事を言ってごめんなさいね。」

 そう言って北大路提督は翔鶴と羽黒の頭を優しく撫でたのだけれど、それより早く私達は叫んでしまった。

 

 「止めて! 翔鶴と羽黒に何をするつもりなの?!」

 

 「「ヒッ、嫌! もう痛いのは嫌ぁっ!」」

 

 「燃料無し・艦載機無し・弾薬僅か。おまけに遠征にしては航路が不自然。まるで傷だらけの姿を見られないように。何故かしら?」

 羽黒と翔鶴を優しく抱きしめる北大路提督。

 

 「ハッ、遠征! し、資源は、資源は何処?!」

 悲鳴のような叫びを上げる羽黒。

 

 「資源? 発見された時は何も無かったと聞いています。」

 羽黒の顔が絶望に染まっていくわ。

 

 「そんな、やっと手に入れた資源なのに…。ダメ、姉さん達が…。」

 姉妹の中では着任が遅かった事から一人だけ練度が低く失敗が目立っていた彼女にとって、何かあれば姉妹艦全員が処罰される今のタウイタウイ第二泊地はまさに地獄。

 姉妹全員がムチの餌食になった夜は妙高型の部屋からあなたのごめんなさいと泣き崩れる声がしていたわね。

 そんなあなたを私達、大型艦はどうしてあげる事も出来なかった…。

 でも今回は大丈夫、お姉さんに任せなさい。

 

 「羽黒、資源を無くしたのは私よ。皆を曳航するのに獲得した資源を使うしかなかったの。だからあなたは悪くないわ。心配しないで。」

 

 「え? でも陸奥さん…。」

 

 「本当よ。だから、ね?」

 それを聞いた翔鶴が手をギュっと握りしめる。

 

 「…。取り敢えず入渠していらっしゃい。随分と不思議な損傷が沢山あるみたいですから。それにあなた達をここへ連れてきた方からもそう頼まれています。」

 北大路提督、貴女も全てお見通しなの…。

 

 「提督、残りの三人が目を覚ましたので強制的に入渠させました。現在は再び部屋で休ませています。」

 ドアが開いて入って来たのはとんでもなくキレイな人。

 でもあの髑髏のプリントはちょっと趣味が悪いかしら。(笑)

 

 「残りの三人とは名取さんと潮さんと電さんですか?!」

 

 「無事なんですね!」

 

 「ええ、無事です。安心して下さい。それから螢さん、テキパキと良く動いてくれました。ありがとうございます。」

 

 え、この人ったら今なんて言ったの?

 提督よね? それがありがとうございます、ですって?!

 




※役付きであってもキチンと『ありがとう』といえる人の許には自然と人が集まります。
 しかしタウイタウイ第二泊地の艦娘達にとっては凄いカルチャーショックだったようです。

 カルチェラさん、登場前からこれですか…。
 うん、外道に仕立て上げてゴメンね。


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第65話 遠征艦隊4(艦娘側:タウイタウイ羽黒1)

※待遇の差に戸惑う艦娘さん達。
 超絶ブラック企業からホワイト企業に転職したらこんな感じなんでしょうか?


 「それからキャプテンが貴女達の事を心配していたわ。」

 螢さんが私達の方に向き直りました。

 

 「キャプテン?」

 

 「ええ、この人工島の持ち主でその方も一応『かんむす』、気を失った貴女達をここまで運んでくれた船でもあるわね。」

 螢さんがキャプテンという事は彼女が乗り組んでいる船になるのでしょうけれど…。

 

 「艦娘が島一つを持ってるって…、本当なの?」

 陸奥さんが半信半疑ですが、私も翔鶴さんも同じです。

 

 「提督、先の三人を含めこの六名は間違いなく恒常的な虐待を受けていると思われます。」

 

 「ええ、提督である私に対して異常に怯えていました。羽黒さんの様子から虐待は姉妹艦まで及ぶとみて間違いないでしょう。到底、許される事ではありません。」

 螢さんと北大路提督さんの話す内容が理解できません。

 いえ、内容は分かりますが私達のためにというのが理解できないのです。

 何より私達に関わっても何も良い事なんてありません。

 なのに保護までして頂けるなんてどういうおつもりなんでしょうか…。

 

 「取り敢えず全員入渠して下さい、これは命令です(ニッコリ)。その後は着替えを用意しますので、それに着替えて食堂へいらして下さい。」

 北大路提督さんは私達が遠慮すると踏んでのでしょう、入渠を命令という形にして下さいました。

 

 「本当にいいんですか…。」

 困惑する翔鶴さん。

 

 「どうしてそこまでしてくれるの? 私達に関わっても何も良い事なんて無いのよ?」

 

 「理由ですか? 貴女達はこの国とこの国の人々を守るために命を懸けてくれている、それで十分でしょう?」

 陸奥さんも私と同じ事を思ったのでしょう。

 ここでも北大路提督さんから帰って来た答えは私達には想像もつかないものでした。

 いえ、想像というか理解の範疇を超えていたという方が正しいでしょうか。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「あの人達は一体何なのかしら…。」

 

 「思い切って助けを求めてみてはどうでしょうか?」

 

 「無駄よ。翔鶴、貴女だって知ってるでしょ。今まで沢山の監査官や軍警の連中がやって来たけれどみんなあの不思議な催眠?幻術?にやられたわ。」

 私が髪を洗っている間に陸奥さんと翔鶴さんが助けを求めるべきかどうかを話し合っていました。

 それにしてもシャンプーなんて久しぶりです。

 タウイタウイ第二泊地では、演習に出る艦が前日に許可されるだけでしたから。

 ボロボロの状態では怪しまれると踏んだカルチェラ提督の姑息な考えですが、それでもキレイになれる事から演習メンバーに入ると羨ましがられたものです。

 でも、このシャンプー何か変わったシャンプーです。

 爽快感が凄いんです。香りもタウイタウイ第二泊地にあるフワッとしたものではなく、スッと鼻に抜ける感じです。

 ショートヘアの陸奥さんはそれ程でも無かったようですが、ロングヘアの翔鶴さんは頭が寒いと二人で笑っていました。

 ここは笑うことが出来る場所…、みたいです。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「わあ!」

 

 「奇麗…。」

 

 「いいのかしら…。」

 素敵なお風呂にも驚きましたが用意されていた着替えにもまた驚きです。

 私には薄い黄色のノースリーブワンピースに素足が映える白いサンダル。

 翔鶴さんはピンクのツーピース、足元は同じくピンクのパンプス。

 陸奥さんは白いワンピースに白いパンプス。

 さらに肌色のストッキングでお二人とも足元がより上品な感じです。

 

 食堂では名取さん・潮さん・電さんが席に座っていました。

 お互いの無事をひとしきり喜んだ後、私達も席に着きます。

 それと同時にドアが開いて人が入ってきました。

 

 「あら、台羽君。あなただけなの?」

 ふぇ? 台羽君?

 螢さん…、(くん)っていう事はその…。

 え?! ええええええ!

 




※艦娘さん達はトニックシャンプー初体験だったようです(笑)。


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第66話 遠征艦隊5(艦娘側:タウイタウイ電)

※アルカディア号の医療担当であるドクターゼロさんですが、クルーの中でもかなり温厚でいい人なのではないでしょうか?

※今回の電ちゃん、かなりプラズマ成分が多目です。電提督諸氏、お許し下さい。<(_ _)>


 皆の目が点になりました。

 だって仕方ないのです、陸奥さんや翔鶴さん以外、初めての男の人を見たのです。

 扉が開いて入って来た人はやはり何処をどう見ても男の人なのです!

 しかも若くてかなりイイ男、いわゆるイケメンなのです!

 

 「いや、皆すぐに来るさ。」

 螢さんが台羽君と呼んだその人が言った通り、直ぐにドヤドヤと人が入ってきました。

 

 ヤバいのです、今度こそヤバいのです。

 中年ばかりですが男の人ばかりなのです。

 いや、一人だけ先程の台羽さん以上のイイ男がいるのです。

 年は彼より一回りほど上でしょうか?

 それにずっと落ち着いた感じがするのです。

 本来ならば中二病臭い胸にある髑髏の刺繍もバッチリ決まってカッコイイのです!

 

 「あ、貴方は?!」

 

 「あの時の?!」

 陸奥さんと翔鶴さんが何やら驚いているのです。

 ひょっとしてこの電の知らない何かがあったという事なのでしょうか?

 何を自分達だけ『あら、貴方は?』的な事をやってやがるのですか。

 これは小一時間問い詰める必要があるのです。

 

 …。

 ……。

 ………。

 失礼しましたなのです。ちょっと素が出ただけなのです。

 本来の電は良い子なのですよ(威圧)?

 

 「気が付いたか?」

 髑髏さんが後ろから陸奥さんの両肩に手を置くと、それだけで陸奥さんは真っ赤になってしまったのです。

 

 「ここ、構わないかい?」

 台羽さんが羽黒さんに隣に座っても良いか聞いています。

 なぜ電の隣では無いのですか?

 これは貴方とも小一時間お話する必要がありそうなのです。

 

 それから羽黒さんも何を耳まで赤くなってやがるのですか?

 その状態で下を向いてコクリなんてなかなかやるのです。

 ですが、いつまでも清純ぶるのは良くないのです。

 後で台羽さんには羽黒さんではなく腹黒さんなのを教えてやるのです。

 

 ハッ、いけないのです。

 また素が出てしまったのです。

 電は良い子だというのに(てへぺろ)。

 

 「いやぁ全員、意識が戻って良かったよ。みんな酷く衰弱していたからね。」

 そう言ってくれたのは優しそうなおじさん。

 頭に赤い十字の入った白い帽子を被っているという事は軍医さんなのでしょう。

 その軍医さんは屈むと電と潮ちゃんの頭を優しく撫でてくれたのです。

 電にお父さんがいたらきっとあんな感じなのでしょうか?

 

 「お父さん…。」

 しまったのです、そんな事を考えていたらつい…。

 

 「ごめんなさいなのです。電にもお父さんがいたらこんな優しい感じ人だったのかなと思ったらつい…。」

 あれ、何故なのでしょう?

 電の目から何か温かいものが。

 

 「いいんだよ、何も謝る事なんて無いんだ。私も電ちゃんのようなイイ子にそう呼んでもらえて嬉しいよ。」

 そう言って軍医さんは電をギュッとしてくれました。

 

 「さあさあ、みんな食事だよ! 特にアンタ達、しっかりお食べ!」

 今度は年配の女性がみんなのテーブルに平たく浅い鉄鍋を置いてくれたのです。

 さらにテーブルには白く細いキノコ、シイタケ、白菜、お豆腐がたくさん載ったザルが、更に卵が山と盛られたカゴが出て来たのです。

 これは?!

 卵なんて生還の見込みがない作戦に出撃させられるものにしかタウイタウイ第二泊地では与えられません。

 やはり電たちはもう…。

 

 「こんなに…。最後に素敵なご馳走をありがとうございます。」

 名取さんも自らの運命を受け入れたみたいなのです。

 

 「え、どうしたの? 最後だなんて言わずに向こうへ帰るまではもっと食べていいのよ?」

 

 「だってタウイタウイ第二泊地では卵なんて贅沢なものは生還の見込みがない作戦に出撃する際にしか与えられなくて…。だからこの後はその、難関海域への出撃命令があるのでは?」

 私達には当たり前の事ですが、柱島第七泊地の方たちには違うみたいで驚かれてしまったみたい。

もっと食べていいと進めてくれた螢さんは固まり、台羽さんに至っては箸を落としてしまうぐらいには…。

 

 「馬鹿な事を言わないでおくれよ。縁起でもないねぇ、この子達ったら。」

 先程の老婦人がそんな私達を笑ってくれました。

 

 「ここでは、旨い物はまた帰ってくるために食べるのだ。覚えておくといい。」

 

 「そうだよ、キャプテンの言う通りだ。」

 髑髏さんはどうやらキャプテンと呼ばれているようなのです。

 っていうか髑髏さん、まだ陸奥さんの肩に手を置いていたのですか?

 いい加減に離すのです…。

 

 「魔地機関長は少し遠慮するぐらいでちょうどいいんじゃないかねぇ?」

 

 「えー、ますさん、そりゃないよ。」

 ん、お二人のやり取りを聞いていた翔鶴さんと羽黒さんがクスッと。

 

 そして私達は本当に理想郷(アルカディア)に紛れ込んでしまったみたい…。

 だって目の前には白いご飯とお肉が山盛り出て来たのです!

 

 「あの…、ひょっとしてこの白いのはお米を炊いた、ご飯というものでしょうか…。」

 

 「この薄い赤いのは何?」

 流石に翔鶴さんと名取さんのこの一言に柱島の方々はズッコケてしまったのです。

 でも無理もありません、電も知識として知ってはいますが見たのは初めてなのですから…。




※電の天然パパ活、恐るべし!なのです。

※タウイタウイ第二泊地の羽黒さんは台羽くんをかなり意識しているようですが?!


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第67話 遠征艦隊6(艦娘側:北大路花火1)

 「あ、貴女達は普段一体何を食べているのですか?」

 最初は冗談で言っているのかと思ったのですが、翔鶴さんも名取さんもどうやらそうでは無さそうです。

 

 「補給すらほとんど無いのよ、食事なんて無いわ。」

 

 「ほんの少しの資源が私達の食事替わりです。難関海域攻略時は駆逐艦の子達が自分達の分をコッソリ私達に分けてくれるんです。それでタウイタウイ第二泊地はどうにか海域攻略を果たしてきました。」

 陸奥さんと翔鶴さんからタウイタウイ第二泊地の実態が語られます。

 私はてっきり泊地周りでとれたお魚でも食べているのでしょう、と思っていたのですがまだ考えが甘かったようですね。

 これはいけません。

 少しでも早いタウイタウイ第二泊地の開放が望まれます。

 

 「そう、大変だったのね。でも私達がそれを分かるなんて無責任な事は言えませんし言いません。確実なのは、そんな日々ももうすぐ終わりという事です。アルカディア号さんがきっと何とかしてくれますから。」

 しかし大丈夫なのでしょうか、アルカディア号さんから提供されたこのお肉はかなりの高級黒毛和牛のはず。

 違う意味で彼女達が心配です。

 

 やがてテーブルのあちこちから牛脂が溶ける音とワイワイという楽しそうな声が聞こえ始めました。

 私は有紀さんや潮さんとペアですね。

 アルカディア号さんは陸奥さん、台羽さんは羽黒さんとミーメさん、ドクターさんは電さん、魔地機関長は翔鶴さん、綱島(ます)さんは名取さんとヤッタラン副長とペアになっています。

 

 あれ、割り下が見当たりませんね。

 私が不思議に思っていると有紀さんがいきなりお肉を焼き始めました。そしてお砂糖とお醤油で直に味付けを?!

 なるほど、これが関西式のすき焼きなんですね。

 割り下を使う関東式とは随分違います。

 

 「ささ、お替りも沢山あるからね。遠慮せずどんどんお食べ。」

 あっという間に消えていく大量のお肉を綱島さんがそれ以上の勢いで追加してくれます。

 

 「ううっ…。」

 

 「ぐすっ。」

 

 「どうしたんだい、口に合わなかったかい?!」

 綱島さんが戸惑っていますが、一体どうしたのでしょう?

 

 「いいえ、美味しい。美味しいです…。」

 首を横に振る羽黒さんの目からもポロポロと涙が。

 

 「ええ、とても…。」

 陸奥さんのお箸が止まってしまいました。

 

 「ひっく…。瑞鶴にも…、一航戦や二航戦の先輩にも食べさせてあげたいです。」

 

 「はい、妙高姉さんや那智姉さんにも、何より沈んでしまった足柄姉さんにも食べさせてあげたかった、です…。」

 それ以上羽黒さんは言葉を紡ぎ出すことが出来ませんでした。

 

 「足柄が沈んだ?! いつですか、そんなの海軍報には!」

 毎週の海軍報は必ずチェックするのが提督の義務なので私も目を通していますが、ここ一ヶ月半の轟沈艦は何処も無かったはず…。

 

 「そんなの…、公表するとでも思ってるんですか。」

 

 「あり得ません、主力重巡ですよ! 隠しきれるなんてとても…。」

 重巡のような大型艦の轟沈を名取さんの言うように隠し通せるものでしょうか?

 

 アルカディア号さん、私はどうすればいいのでしょう…。

 タウイタウイ第二泊地の皆さんのお話を伺う限り、今すぐにでも乗り込むべきなのでしょうか?

 そう思ってアルカディア号さんに縋るような視線を向けると彼も同じように涙を流していました。

 

 ああ、貴方という人は他人の為に涙を流せる人なんですね。

 そんな正義感と優しさを持った方が私の許に来てくれただけでも嬉しいのですが、そんな方が私を選んでくれたという事が未だに信じられません。

 

 「カルチェラ提督には不思議な力があるのよ。今まで何度も軍警や海軍監査官がやって来たわ。でも全員が催眠に掛けられたみたいになってしまって…。」

 信じられませんが陸奥さんの表情は真剣です。

 

 「なので問題なしと報告されてしまうんです。」

 な、名取さん?!

 

 「お願いです! 私達を、タウイタウイ第二泊地を助けて下さい!」

 羽黒さんが台羽さんにしがみ付きます。

 羽黒さん…、貴女、虫も殺さないような顔をして結構大胆なんですね。///

 

 「キャプテン!」

 台羽さんが立ち上がります。

 

 「これは間違いなくアイツ、あのマゾーンと同じ力ですよ! マゾーンの連中は深海棲艦だけでなくブラック鎮守府の提督達にも接触を図ってきてるんです!」

 台羽さんが憤っています。なお彼もしっかり羽黒さんに両手を回している模様です。

 

 「いやワイもな。色々と調べてみたんや。軍警や監査官が軒並み問題なしと報告しとるのは事実やで。ちょいと手強いんとちゃうか?」

 

 「我々の考える通りだとすると人間である以上、花火はデスシャドウ島に残ってい方が良い。」

 

 「分かりました、では皆さんを宜しくお願いします。」

 

 「最善は尽くそう。それから柱島第七泊地の長門・加賀にも出動依頼を。あとは足柄・大鯨・鳳翔・間宮・伊良湖の台所組にジャーナリストもな。」

 

 「キャプテン、急がんとこの子達の捜索隊も危険にさらされてしまうぞ。」

 

 「魔地機関長さん、その心配はありません…。」

 

 「う、潮ちゃん?! いやしかしだね…。」

 

 「捜索隊が来ることはありません。私達を探すより次の艦隊を編成して遠征に行かせる方が効率的という方ですから。」

 もう開いた口が塞がりません。

 やっぱり私もタウイタウイ第二泊地へ乗り込む事にします。

 

 「やっぱり私も行きます。ここまでなんて許せません。」

 

 「駄目だ、ローラのあの能力は手強い。それは何度も苦汁を舐めさせられた僕が一番よく知っている!」

 

 「あら、その時はアルカディア号さん、貴方が助けてくれるんでしょう(笑)。」

 一応、相思相愛(と思っています)なのですから。

 

 「何故分からないんです! マゾーンの中でも特にアイツは人の心の入り込んでくるのが上手いんだ。」

 そうなんです。

 この時、私はアルカディア号さんに選んで頂けた、いえ選ばれたという思いで増長し調子に乗っていたのです。

そしてこの後、台羽さんの意見に耳を傾けなかった事を死ぬほど後悔する破目になるとは考えもしませんでした。

 それと同時にマゾーンの恐ろしさを垣間見る事にも…。

 




※基本、北大路提督が艦娘をさん付けで呼ぶ時は他所の艦娘さんを呼ぶ時です。
※タウイタウイ第二泊地で卵が珍重されるのはやはりカルチェラ・ターンが蛇の怪人だからでしょうか?(笑)
※沈んだとされている足柄さんですが実は余所の鎮守府で無事に保護されています。安心して下さい(笑)。


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第68話 遠征艦隊7(アルカディア側1)

※現在、アルカディア号は各地から引っ張りだことなって飛び回っています。
 アルカディア号と演習すると敗北でも莫大な経験値が得られるので、時々こうやってレベルの低い泊地や基地にまで足を延ばしています。

※おかげで柱島第七泊地には半月ほどしかいることが出来ませんが、行く先々で『お も て な し』されるので本人はさほど文句は無いみたいです(笑)。





※2021年01月31日 一部修正


 暑いな…。

 ブイン第三基地への演習へと赴いた帰り路。

 今日も太陽さんはご機嫌で『ぺかー』と元気いっぱいの恵みを地球に届けてくれていらっしゃる。

 海上150mを飛行中とはいえ、やはり切る風は生温く涼しくは無いんだよなぁ。

 藤井かすみ中佐率いるブイン基地、ここでも熱烈歓迎を受けた俺は少し我儘を言って自由時間に海で遊ばせてもらった。

 いや、だって仕方ないだろ?

 あんなキレイな海を見たら誰だってリゾート感覚で遊びたいじゃん?

 一人でビーチベッドに寝転がったり、素潜りしたりあちらの艦娘さんとビーチバレーを楽しんだりと羽を伸ばした訳ですよ。

 

 以前に一度、某基地所属の艦娘さんと『仲良く(意味深)』しようとしたら、すぐさま青葉から無線が入ったことがあった。

 曰く、『ブルーリーフネットワーク』なるものがあり全ての行動が筒抜けなのであまり羽目を外さない方がよろしいかと思います、というありがたい御忠告(脅しともいいます)を頂いた事があったので、せいぜい一緒に遊ぶにとどめた訳です。

 

 何故か流されてしまった(投げ捨てたようにしか見えなかったが…)藤井中佐の水着の上を取って来て下さいとか、陸奥のオイル塗って攻撃を耐えた俺に誰か特別報酬を出して欲しいわ!

 

 「きゃぷてん! ふじいちゅうさのえいぞうぷれいばっくちゅうもうしわけありません、かんむすとおもわれるはんのうをれーだーがとらえました!」

 いや、何でそんな事わかるんだよ?

 ウチのレーダー手、優秀過ぎじゃない?!

 

 「螢、反応の数は幾つだ? 後、何で藤井中佐の映像をプレイバック中だと?」

 

 「はんのうは6つです。いや、ずっとにやにやしているのできっとそうなのではと。」

 うん、間違っちゃないね、間違っちゃいないけれど触れないで欲しかったよ…。

 タウイタウイ泊地付近に差し掛かった時に有紀妖精から受けた一報、これが後の一大騒動へと繋がるとはこの時の俺は夢にも思っていなかった。

 進路は丁度、デスシャドウ島への帰還道中、黙ってても見つかるだろう。

 アルカディア号の巡航速度ならあと10分ほどあれば接触できる。

 もし、交戦後で傷つき方が酷ければ送り届けようと軽く考えていたのだが、彼女達の姿を確認した途端、そんな考えは吹っ飛んでしまった。

 

 何だ、あれ?

 艦種と艦名が認識できる距離になった時、俺は目を疑った。

 陸奥・翔鶴・羽黒・名取・潮・電の6名による艦隊。

 最後にドラム缶を曳航しているという事は資源獲得の為に編成された遠征艦隊だろう。

 

 だが、普通の遠征艦隊と決定的に違う所が一つある。

 陸奥は名取を、翔鶴は潮を、羽黒は電を曳航し、曳航されている三人は意識が無い。

 おまけに曳航している側の三人もかなり辛そうにしている。

 あちこち傷付き血が滲んでいる。どうみてもあれは砲撃によるものではない。

 転んだとか躓いたとかで出来る擦過傷だが程度が酷過ぎる。

 陸奥は体中にミミズ腫れの痕が、翔鶴はあの美しい銀髪の面影が全くなく潮風でボロボロだ。

 

 やがて翔鶴の行き足が止まってしまった。

 会話を増幅して聞いてみると…、燃料切れ?!

 普通遠征など燃料満タンで行くもんだろーよ。

 うーん、これは何かよくない臭いがしますよ。

 私は女性の体臭は大好きですが、こんなきな臭いのは好きじゃないんです!

 

 おまけに陸奥は翔鶴に燃料を移すから皆を連れて近くにある島まで逃げろという。

 あのすいません、あの島デスシャドウ島といいまして私の島なんですけど…。

 真横から二人に近づくが視界が霞んでいるのか、意識を手放す直前なのか全然こっちに気付く様子が無い。

 あー、やっぱり限界だったのか。

後ろに倒れる陸奥、そしてそれに続いて膝の力が抜けた翔鶴の二人を受け止める。

 

 さて困った。ここからどうしよう。

両肩に大柄な女性(コラ)を抱えてしまっては余り自由が利かない。

散々苦労して海面に浮かぶ曳航ロープを拾い上げてデスシャドウ島へ駆け込むのと同時に敵艦載機が雲霞のごとく押し寄せて来た。

攻撃目標を発見できずに敵艦載機が帰って行くのを確認し、海岸の洞窟から出てブンカーへ入港するとドクターゼロの姿が。

 

 「ドクター、酷い衰弱だ。後を頼む。」

 そう言って後を託し俺は花火に一報を入れに通信室へ向かった。

 

 「ハーイ、こちら柱島第七泊地執務室デース!」

 今日の秘書艦は金剛か、いつも元気があって非常に宜しい(笑)。

 

 「元気そうで何よりだ金剛。妹達も元気か?」

 

 「オフコース! ですがミスターアーケディア、アナタがいないと詰まらないデース、早く帰って来て下サーイ。榛名と霧島は溜息ばかり吐いてますヨー。」

 

 「フッ、霧島はともかく榛名はそんなはずないだろう。ところで花火はいるか?」

 

 「むー、一週間も会えなかったのに話が短いデース。テイトクー、王子様からデスヨー?」

 

 「はい、北大路です。定時連絡にはまだ早いですが一体どうされたのですか?」

 無線越しに金剛の悲鳴が聞こえる。

 金剛に何かしながら何食わぬ声を出せるなんてやっぱり花火ちゃんも女の恐ろしい一面を持っているのね。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 先程保護した艦娘達について話すと無線越しでも花火の様子が変わったのが分かった。

 柱島第七泊地には日付が変わる頃に帰還予定だが、デスシャドウ島の高度を高めにとって少し飛ばせば4時間ほどで日本に着く。

 さすがに宇宙空間ではないので亜光速なんて出すわけにはいかない(笑)。

 ドクターによる診察の後は螢に頼んでそれぞれ医務室のベッドに寝かせてもらった。

 

 「いやあキャプテン、みんな酷い傷と衰弱だよ。可哀そうに何名かは背中に焼き鏝を当てられた痕まであったんだ。これ以上(脱がせては)はという先は有紀君が薬を塗ってくれんだが…。」

 ドクターゼロがいうには余りの酷さに螢が泣いていたらしい。

 今は六人とも死んだように眠っているらしいが一刻も早く入渠させないと後が残ってしまう可能性もあるとドクターゼロは心配していた。

 

 「やはり彼女達はブラック鎮守府の艦娘達に間違いあるまい。」

 

 「で、どないするんやキャプテン? まさかこのまま放っておくっちゅう事はせえへんやろ?」

 

 「うむ、大神元帥からの依頼もある。だが花火からは一度、柱島第七泊地で保護をして証拠の一つとするらしい。あの手の連中は一つ二つの証拠を突き付けたところで躱されてしまうからな。」

 どうやら怪我を写真に収めるのもその一環らしい。

 ぜひその役目は俺がと言いかけたが青葉もいる事だし、何より先程の魂が凍る金剛の悲鳴を聞いてしまうと生存本能が俺を思い留まらせた。

 

 「ドクター、悪いが彼女達が目覚めたらすぐに入渠を頼む。彼女達が拒否しても構わん、縛り上げてでも強制的に放り込んでくれ。」

 ドクターが頷くとヤッタラン副長もワイ、ちょっとソコについて調べてみるわと言ったきり部屋に籠りっきりになってしまった。

 所属票から判明したのは全員がタウイタウイ第二泊地の艦娘だという事だった。

 

 「自室に戻る、彼女達が目覚めたら教えてくれ。」

 そう言い残すと部屋に戻りベッドに寝転がった。

 あの分ではまだまだ目を覚ます事はあるまい。

 柱島第七泊地に着くまで眠る事にしよう。

 




※アルカディア号はデスシャドウ島をタウイタウイ泊地付近に留めて、ブインやトラック、ショートランド、リンガ、パラオ、ブルネイなどに出向いています。
 今回はブイン第三基地が最終だったのでデスシャドウ島に帰投後、今度はデスシャドウ島ごと柱島第七泊地へという流れですね。


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第69話 遠征艦隊8(アルカディア側2)

※アルカディア号がデスシャドウ島ごと柱島第七泊地へ帰投したようです。


 デスシャドウ島を柱島第七泊地へ隣接させると直ぐに花火が駆け込んできた。

 一応、自身の目でも識別票を確認し大神元帥と真宮寺大将のいる海軍軍令部に連絡を入れたのだが想像していた以上の酷さに花火の手が震えている。

 

 「花火、目が覚めるまでそっとしておいてやろう。今は少しでも長く寝かせてやるのが一番だ。」

 タウイタウイ泊地を出発してから4時間ほど経つが、余程疲労が溜まっているのだろう。

六名とも起きる気配が全く無い。

 

 「螢とドクターには六人が目を覚ましたら花火に連絡を入れるように指示してある。執務室で待っていてくれ。俺はそれまで『ます』さんに食事の段取りを依頼してくる。」

 大神元帥から褒賞として貰った商品券がかなり溜まっていたはずだ。

 それで牛肉を買ってすき焼きにしよう。

 うん、俺が食べたいだけなんです、すいません…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 ドクターから六人が目覚めたと連絡があったのはそれから30分ほど経ってからだった。

 もうすでに螢と花火によって入渠も終わっているらしい。

 食堂へ向かうと先程とは全く違う小綺麗になった彼女達が座っていた。

 

 「気が付いたか?」

 むっちゃん(長門型二番艦陸奥)の肩に両手を置く。

これを役得と言わずして何というのか、肉付きの良い柔らかさを堪能する。

 

 「やはり素材が良いと違うな。良く似合っているぞ。」

 そう言うと陸奥は真っ赤になってしまった(チョロイな)。

 ブラック鎮守府を救済すれば一気にハーレム構成員が増えるだろう。

 種は多く撒いておくに越したことは無いのだ。

 

 「いやぁ全員、意識が戻って良かったよ。みんな酷く衰弱していたからね。」

 そう言ってドクターが電と潮の頭を優しく撫でる。

 思わず電も父親を視てしまったのだろう、ドクターにお父さんと呟いてしまった。

 

 「ごめんなさいなのです。電にもお父さんがいたらこんな優しい感じ人だったのかなと思ったらつい…。」

 

 「いいんだよ、何も謝る事なんて無いんだ。私も電ちゃんのようなイイ子にそう呼んでもらえて嬉しいよ。」

 ドクターも満更ではなさそうだが度が過ぎるとロ〇コン疑惑が発生するぞ。

 その辺にしておくんだ(笑)。

 

 「さあさあ、みんな食事だよ! 特にアンタ達、しっかりお食べ!」

 ますさんがカーゴにのせて器と食材を持ってきてくれる。

 うん、卵も沢山あって非常に宜しい。卵をケチるすき焼きなんて魅力が半減してしまうからな(個人的感想)。

 肉も上品なサシの入り具合で見た目だけで御飯3杯はいけそうだ(笑)。

 

 「こんなに…。最後に素敵なご馳走をありがとうございます。」

 ん、名取がおかしな事を言いだしたぞ。

 食べた後に解体されるとでも思っているのだろうか?

 そんな事しないぞ、人を何だと思っているんだよ…。

 

 「え、どうしたの? 最後だなんて言わずに向こうへ帰るまではもっと食べていいのよ?」

 ほれみなさい、螢だって慌ててるじゃないか。

 何と名取によるとタウイタウイ第二泊地では卵なんて生還の見込みがない作戦の時にしか与えられないのだという。

 うーん、そういえばカルチェラ・ターンって蛇の怪人だったよなぁ。

 蛇って卵好きだし分からなくも無いが…。

 

 「ここでは、旨いものはまた帰ってくるために食べるのだ。覚えておくといい。」

 これは嘘でも何でもなく、このデスシャドウ島の教義(大袈裟な!)である。

 たった今、俺が決めた事でもあるのだが(笑)。

 テーブルに並んだ食材に目を丸くする六人だったが、魔地機関長とますさんの掛け合いに翔鶴と羽黒がクスッと笑った。

 そうそう、アナタ達は笑う事を思い出すところから始めないと。

 これをお友達から始めましょうに変えると、俺が前世で散々言われた事になる、凹むわ…。

 

 「あの…、ひょっとしてこの白いのはお米を炊いた、ご飯というものでしょうか?」

 

 「この薄い赤いのは何?」

 マ、マジかい…。

 翔鶴も名取も冗談を言っているようには見えない。

 恐らく本当に知らないのだろう。

 

 「あ、貴女達は普段一体何を食べているのですか?」

 

 「補給すらほとんど無いのよ、食事なんて無いわ。」

 思わず花火が陸奥に確認するが、その返事はやはり予想通りなものだった。

 うん、もうここでは好きなだけ食べていいからね。

 既に卵を溶いて準備万端の陸奥の目の前で鉄鍋に牛脂を引きA4ランクの牛肉を4枚放り込む。

 何を隠そう俺もここまでの牛肉を食べるのは初めてなのだ。

 前世の社畜生活では小間切れ肉しか買えなかったし、何より家に帰る事すら3日に一回ぐらいだったからな。

 砂糖と醤油で味付けした肉2枚を陸奥の器に放り込み、残り2枚は自分の器に。

 早速、口に放り込むと卵が良い具合に甘辛さと混ざり合い、ご飯が進む味になっている。

 こらアカン、箸が止まりませんですわ!

 この世界に転生して本当に良かったと思った瞬間である。

 後であの駄女神には礼を言っておこう。

 

 次から次へと肉を焼いては陸奥と二人で平らげていく。

あ、イカン。あまりの旨さに思わず涙が…。

だってクリームでもないのに舌の上でトロける感覚なんだぞ?

 

 「キャプテン!」

 一人感動に浸っていると台羽の声で急に現実に引き戻された。

 

 「これは間違いなくアイツ、あのマゾーンと同じ力ですよ! マゾーンの連中は深海棲艦だけでなくブラック鎮守府の提督達にも接触を図ってきてるんです!」

 うん、そうだね。ローラのあの不思議な力にはキミ、もっとも苦汁を舐めさせられたからね。

 でもなんで羽黒ちゃんに両手を回しているのかなぁ?

 ほんでもって羽黒ちゃんも何で台羽に両手を回しているのでしょうか?

 アナタ達、出会って〇秒で合体ってヤツですか?

 リアルでやる人いるなんて麻美ゆまもビックリなんじゃないかな?

 

 「いやワイもな。色々と調べてみたんや。軍警や監査官が軒並み問題なしと報告しとるのは事実やで。ちょいと手強いんとちゃうか?」

 ヤッタラン副長も色々と調査をしてくれたらしい。

 

 「我々の考える通りだとすると人間である以上、花火はデスシャドウ島に残ってい方が良い。」

 話を聞く限り艦娘達は大丈夫なところをみると恐らく対象は人間だけなのだろう。

 我々だけで乗り込む方が花火を危険にさらさなくて済む。

 

 「分かりました、では皆さんを宜しくお願いします。」

 

 「最善は尽くそう。それから柱島第七泊地の長門・加賀にも出動依頼を。あとは足柄・大鯨・鳳翔・間宮・伊良湖の台所組にジャーナリストもな。」

 正義感の強いビッグ7にクールビューティ、戦闘もキッチンもお任せの狼さんに純台所組にも協力を依頼しなくては。

 

 ところが花火が潮の話を聞いてやっぱり自分も行くと言い始めた。

 さらにはピンチになったら助けてくれるんでしょう(笑)と来たもんだ。

 そりゃ勿論だが、無茶はしないでくれよ。

 台羽も最後まで反対したのだが結局、花火を止める事は出来なかった。

 お陰で俺と台羽の二人は後で螢にしこたま雷を落とされる破目になったのだが(泣)。

 




※北大路提督、どうやらアルカディア号は他人の為に涙を流してはいなかったみたいです…。

※次回、満を持してカルチェラ・ターン提督が登場します!


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第70話 タウイタウイ1(艦娘側:タウイタウイ大淀1)

※カルチェラ提督、満を持して登場!


 「あの6人はまだ帰ってこないのかい?! 全く持って役立たずだよ!」

 カルチェラ提督がテーブルを蹴飛ばしながら叫びました。

 

 「はい…、依然として連絡・足取り共に不明です。」

 提督が癇癪を起こす度に体がビクッとしてしまいます。

 幾度となく振るわれた鞭の痕、秘書艦という立場上その痕が増える事があっても減る事はありません。

 

 「もういい、次だ次! 次の遠征隊を編成しな!」

 

 「提督!」

 カルチェラ提督が仰った事は陸奥さん・翔鶴さん・羽黒さん・名取さん・潮さん・電さんの6名を見捨てるという事に他なりません。

 捜索隊を出すどころか本当に私達艦娘を使い捨て間隔で運用するこの提督に改めて戦慄を感じます。

 

 「提督、もうお止め下さい! すでに私達は限界です、どうしてもと仰るならせめて遠征メンバーだけでも補給と入渠をお願いします!」

 

 「あぁ?! 何馬鹿な事を言ってんだい、アンタ達に回せる資源なんて無いんだよ!」

 

 「お願いします、補給が万全でないと遠征も失敗する確率が高くなります! どうか、どうかもう一度お考え直しを!」

 

 「ええい、やかましい! そこを成功させるのがお前たちの役目だろうが! 甘ったれるんじゃないよ、全く。」

 

 「がはっ…。」

 必死に縋り付きますが鈍い音がした瞬間、私は床に転がっていました。

 床をのたうち回るほどの激痛が腹部に。

 

 「ううっ…。」

 

 「どうしてくれるんだね。ヒールが折れちまったじゃないか、ええ?」

 立ち上がろうとした私の頭をカルチェラ提督が踏みつけてきました。

 

 「申し訳…、ありません。」

 何故、私が謝らなくてはならないのでしょう。

 演習で訪れる余所の艦娘さん達は凄く楽しそうにしているというのに、ここには地獄しかありません。

 毎日のように解体され資源になっていく駆逐艦達、それを見てこれだけの資源にしかなりゃしないと悪態をつくカルチェラ提督。

 

 私達にできる事は建造された艦娘は仕方ありませんが、ドロップした艦娘は極力連れ帰らないようにするぐらいでした。

 途中にある島に上陸させ、余所の泊地の艦隊が通ったら連れ帰ってもらう。

 理由を説明し、くれぐれも記憶がない振りをするよう念押しして祈る思いで島を離れるのです。

 お陰でその島は色んな泊地や基地から駆逐艦娘の湧く島と呼ばれているとか。

 

 「おい、大淀! 第三艦隊が帰って来たぞ!」

 執務室の扉が開いて天龍さんが飛び込んできました。

 

 「本当ですか?!」

 

 「ああ、しかも各資源を5,000も持って帰ってきやがった!」

 

 「何だって?! 一体どうなってんだいそりゃ?」

 大量に手に入った資源にカルチェラ提督の顔が輝きました。

 普通なら艦隊が無事に帰って来た事を喜ぶはずなのに…。

 

 「陸奥が言うには行き倒れたところを余所の提督が救ってくれたらしい。しかもここまで連れて来てくれたそうだ。」

 

 「じゃあ、その資源はそこの提督さんが持たせてくれたのですね?」

 天龍さんに確認を取ります。それだけあれば駆逐艦や軽巡洋艦、果ては大型艦の皆さんにまで行き渡るでしょう。

 ただしその提督さんの前で補給し、それを見届けて頂かないとまた不正に流用されてしまいます。

 特にボーキサイトは単価が高いですからカルチェラ提督に横流しされないよう特に注視しないといけません。

 まあ注視したところで私達にはどうする事も出来ないのが現実なのですが…。

 

 「ちっ、マズいじゃないか。してその提督は何処に?!」

 

 「…。」

 天龍さんが提督を睨み付けます。

 

 「黙ってちゃ分からないだろうが! 一体どこに行ったんだって聞いてるんだよ!」

 カルチェラ提督が手にした鞭が空気を切り裂くと同時に天龍さんの服が大きく裂けました。

 

 「天龍さん?!」

 駆け寄ると肩口から腕にかけて血が滲んでいます。

 

 「そんなの…、俺に聞かれても知らねえよ! 今までの監査官と同じで入渠施設か食堂かじゃねえのか?」

 

 「ああもう面倒くさいったらありゃしないね、可愛そうだが最悪消えてもらうとしようじゃないか(笑)。」

 カルチェラ提督はそう言いながら小走りで執務室を出て行きます。

 できれば先の理由でその提督さんの前で全員に補給が行き渡れば良かったのですが…。

 私と天龍さんはその後ろ姿を見ながら、どうかその提督さんが既にこのタウイタウイ第二泊地を離れているように祈るしかありませんでした。

 




※ようやく登場したカルチェラ提督ですが、まだそれほど外道ぶりを発揮しておりません(笑)。
 次辺りから徐々に期待にお答え出来るようになってくると思います。


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第71話 タウイタウイ2(艦娘側:足柄1)

※アルカディア号は、この後に行われるであろう深海棲艦やマゾーンの襲撃を予想してデスシャドウ島で迎撃準備をしています。
 それが終われば合流予定ですが…。

※カルチェラさん、あまりオイタが過ぎると知らないうちにキャプテン・ハーロックの地雷を踏み抜いてしまいますよ?



 「ここが食堂です…。」

 

 「な、何なのこれ? 資源をとっているだけじゃない、食事なんていえないわよ、こんなの!」

 翔鶴に案内された食堂を見て全員があっけにとられたわ。

 お世辞にも清潔とはいえない食堂とは名ばかりのその場所でほんの僅かな資源と栄養ゼリーのパウチをトレーに受け取って席に戻って行く艦娘達。

 

 「これでも補給が出来る艦娘はマシなのよ。」

 陸奥が言うには補給さえも珍しいらしいわね。

 無茶苦茶よ、こんなの。

 

 「青葉、よく記録しておいて。」

 加賀も表情こそいつも通りだけど怒りで声が震えているのが分かるわ。

 噂に聞くブラック鎮守府、そんなものが本当に存在するなんて…。

 大破艦が大半で中破艦はまだマシな方。

 目から光の消えた艦娘達が機械的にそれらを摂取し直ぐに食堂から出て行く。

 さらに体中に付けられた痛々しい擦過傷はムチによるものだと陸奥が教えてくれたわ。

 初めて目にするブラック鎮守府の実態に全員言葉を失ってしまった状態よ。

 

 「あ、足柄…?」

 

 「足柄…、本当に足柄なのか?」

 一刻も早くここの執務室に乗り込むよう北大路提督に進言しようとした時、私に声を掛けて来た人がいたわ。

 

 「妙高姉さん? 那智姉さん?」

 振り向いた先にいたのは私の大事な二人の姉。

 ただここの艦娘の例に漏れずムチ打ちの痕が…。

 所属は違えど、妙高姉さんと那智姉さんをこんな目に遭わせるなんて絶対に許せない!

 

 「うっ、うわあああ! 足柄、足柄っ! 一体今まで何処に行ってたの! 貴女が沈んだと聞いて私…。」

 

 「グスッ、私達がどれだけ…、悲しんだと思ってるんだ。さあ、もっとよく顔を見せてくれないか。」

 妙高姉さんと那智姉さんが私に飛びついてくる。

 (言えないわよ、こんなの。私は余所の足柄ですなんて。)

 

 「妙高姉さん、那智姉さん。気持ちは分かりますが、その方は私達の足柄姉さんではありません。」

 は、羽黒、貴女?!

 

 「そんな…。でもそう、そうよね…。」

 

 「そう…、か。やはり私達の足柄は…。」

 せっかく喜んでもらえたのに一気にしんみりとしてしまったわ。

 ごめんなさい、こんな時どんな顔をすればいいか分からないの。

 

 「何だい、君たちは?」

 笑えばいいと思うよ、の代わりに返事をしてきたのは響だったわ。

 

 「私は柱島第七泊地を任されている北大路花火です。こちらタウイタウイ第二泊地所属の陸奥さん・翔鶴さん・羽黒さん・名取さん・潮さん・電さんの6名を保護したので送り届けさせて頂きました。それでこちらの提督さんはどちらにいらっしゃるのでしょうか?」

 

 「内地の司令官が何故? いやそれはこの際どうでもいい。ここはまともな人の来るところじゃない。私が時間を稼ぐ。早くここから出るんだ。」

 

 「そうはいかん、ここの艦娘の扱いは何だ? 酷過ぎるぞ!」

 長門の言う通りよ、これだけの事を見て見ぬふりなんて出来るもんですか!

 

 「ええ。大破状態で放置、さらに満足な補給を受けていない艦が多過ぎるわ。そんなに修復材が不足しているのかしら?」

 

 「不足というか元からそんなモノここには存在しねえな。あっても10あるか無いかってトコだ。それから悪い事は言わねえ、響の言う通り皆を連れて直ぐにココから出て行きな。」

 加賀の問いに木曽が耳を疑う返事を?!

 修復バケツのストックが10前後ですって?!

 怒りを通り越して呆れてしまうわよ、こんなの。

 

 「響や木曽の言う通り早くここから出るんだ。陸奥たちを助けてくれたせめてもの礼に私も時間稼ぎに参加しよう。」

 

 「そうはいかないよ、武蔵! ここの内情を知られたからには可哀そうだが生かして返す訳にはいかないさね!」

 

 「くっ、遅かったか。」

 あれがカルチェラ少佐なの?

 一切の慈悲を感じさせない蛇のような冷たい目。

 確かに底知れない不気味さを持った女性である事は間違いないわね。

 

 「カルチェラ少佐、ここの艦娘達の状況はどうなっているのですか? それに資源類も公表されている数字よりも随分と少ないようですが?」

 

 「ふっ、アタシは宝石が大好きでね。資源なんてほぼ横流しさ(笑)。おかげでこの間も良い石が手に入ってねぇ、ヒヒッ。」

 何ですって?!

 横流しした資源で宝石なんて何を考えているのよ!

 もはや軍法会議ものよ、覚悟しておきなさい!

 

 「あなた?! 自分が何をしているのか分かっているのですか!」

 北大路提督にここまで大きな声を出させるとは大したものよ、違う意味で褒めてあげるわ。

 

 「ああ、わかっているさ。艦娘なんかよりも石の方がずっと価値があるって事はねぇ(笑)。」

 こ、この女…、今なんて言ったの?

 あまりの事に理解する意志さえ無くしてしまいそうになったわよ!

 

 「この感じでは他にも重大な軍規違反を重ねておられるご様子。相応のお覚悟をなるように!」

 

 「今までも軍警や監査官が何度もやって来たさ。でもその度にマゾーンのローラとやらに貰ったこの不思議な力が役に立ってねぇ。」

 ヒヒッと気味悪く笑うカルチェラ少佐。憎らしい事に動じる気配が全く無いわね。

 陸奥や名取の言う通り本当に何か奥の手を持っているとでもいうのかしら?

 逆にいうと何故、これだけの事を今までやってこれたのか、そこが凄く不気味なのよね。北大路提督に何も起こらないといいけれど…。

 

 「マゾーン?! カルチェラ少佐、あなたという人は!」

 北大路提督がカルチェラ少佐に詰め寄ったわ。

 

 「ヒッヒッ。殺してしまうと面倒くさいからねえ、自ら命を絶ってもらうのが一番手っ取り早そうだね(笑)。」

 

 「なんだと!」

 長門が北大路提督とカルチェラ提督との間に入ったわ。

 

 「青葉、しっかり撮影するんだよ!」

 

 「はい…。」

 タウイタウイ第二泊地の青葉が撮影機材を?

 

 「ヒヒッ、では始めるとするかね(笑)。」

 カルチェラ少佐がそう言うとパサッと音がして北大路提督のジャケットが床に落ちた?

 いえ、正確には落ちたというより北大路提督自ら脱いだんだけど。

 落ちた上着を拾って渡そうとしても提督は受け取らない。

 

 「提督?」

 北大路提督の目が、瞳孔が半開きに?!

 拙いわ! アルカディア号さん、早く来て!

 北大路提督が大変な事になってるわ、デスシャドウ島の準備はまだ終わらないの?!

 




※ごめんなさい、こんな時どんな顔をすればいいか分からないの
 解説の必要が無いぐらい有名な綾波レイの台詞。
 これを言われたら笑えばいいと思うよと返すのがお約束です。

※北大路提督に何も起こらないといいけれど→足柄さん、人それをフラグといいます。

※さてカルチェラ少佐の悪漢ぶりが少しづつ発揮されてまいりました。我らが北大路花火嬢に一体何が起こった&起こっているのでしょうか?!


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第72話 タウイタウイ3(艦娘側:タウイタウイ響)

※北大路提督はどうやら台羽君と同じように幻影を見せられているみたいですが…。


 「提督! どうしたの、しっかりして!」

 足柄さんが北大路司令官を揺するも反応が無いようだね。

 

 「ヒッヒッヒッ、無駄さ。この子はもう私の作り出した世界に居るんだからねぇ。ほら手伝ってやろうじゃないか(笑)。」

 カルチェラ指令は不気味に笑うと手を伸ばして北大路司令官のブラウスのボタンを外し始めた。

 

 「んっ…。」

 北大路司令官は顔を赤らめて横を向くだけで一切の抵抗はしない。

 ダメだね、あれはもう完全に捕らわれてしまっている状態だ。

 

 「貴様、北大路提督に何をする?!」

 向こうの長門さんがカルチェラ指令に飛び掛かった。

 

 「ヒヒッ、無駄さね。彼女を見てみな。さ、次はスカートだよ。」

 いつの間にかブラウスも床に落ちてしまっている。

 

 「あなた、北大路提督に何をしたのよ?!」

 向こうの足柄さんが睨み付けて来てもカルチェラ指令の陰湿な暴走は止まらない。

 だから言ったじゃないか。

 こうなる前に君達は出て行くべきだったんだよ。

 

 「聞こえなかったのかい?! さ、スカートも脱ぐんだ!」

 モジモジする北大路司令官にカルチェラ指令がピシャリと言い放った。

 

 「はい…。」

 

 「足柄、北大路提督を止めるんだ!」

 カルチェラ指令を押さえ付けながら長門さんが叫ぶ。

 

 「ダメ、間に合わない!」

 止めようとした足柄さんをあざ笑うかのように北大路司令官のスカートが床に落ちた。

 

 「ヒッヒッ、いい眺めじゃないか。」

 ブラ・ショーツ・パンティストッキングだけになった北大路司令官をみて舌なめずりをするカルチェラ指令。

 どうしてあの人は平気でこんなことを思い付くんだろう?

 感心するよ全く。

 

 「さて、お次は素足になってもらおうかねぇ。子爵令嬢様にとって素足を晒すというのはどういう感覚なんだろうねぇ(笑)。」

 

 「いい加減にして下さい! こんなことをしてタダで済むとでも?」

 向こうの青葉さんも本気で憤っているね。

 更にこんなものを撮影しているウチの青葉さんにもその怒りは向けられているみたいだ。

 ウチの青葉さんは向こうの青葉さんの視線に耐えきれず下を向いてしまった。

 

 「思っているさ。これをバラ撒けば間違いなく自死を選んでくれるからねぇ、ヒヒッ。」

 勝ち誇った顔のカルチェラ指令。

 でも私はウチの青葉さんが下を向いた時、一時停止を押したのを見たんだ。

 良くやった青葉さん。これなら撮影中を示す赤いランプを消さずに済む。

 カルチェラ指令が気付いた様子も無いみたいだ。

 

 「卑怯者!」

 足柄さんがカルチェラ指令に飛び掛かった。

 

 「提督、許せ!」

 

 「あ、かっ!」

 はからずしも足柄さんと役目を交代する事になった長門さんが北大路司令官を締め落とした。

 

 「提督?! 長門、貴女!」

 

 「いや、よくやってくれたわ。提督は気を失っただけよ、心配はいらないわ。」

 焦る加賀さんに足柄さんが説明する。

 

 「ちっ! 邪魔するってのかい?!」

 カルチェラ指令が舌打ちする。

 

 「もう止めなさい! こんな事をしたって何もならないわ!」

 ダメだよ加賀さん、ウチの司令官にはそんな言葉は届かないさ。

 でもそれでも黙っている訳にはいかないのも事実だね。

 

 「司令官、向こうの加賀さんの言う通りだ。それに向こうの青葉さんもこの一連を撮っているんだよ。それを抑えられている限り貴女に勝ち目はない。今ならまだやり直せる。どうか…。」

 私が言えたのはそこまで。

 あの恐ろしいムチが私を窓際まで吹っ飛ばしたんだ。

 

 「おだまり! どうやら痛い目に遭いたいようだね、余所の艦娘だとて容赦しないよ!」

 

 「響っ!」

 薄れていく意識の中で私を呼ぶ長門さんの声が聞こえた気がする。

 柱島第七泊地の皆、すまない。

 仲間を助けてもらったというのに私は何も恩返しができなかったみたいだ…。

 




※本来のローラは10~12話に登場します。
 台羽正の亡き母への想いを利用し非常に狡猾な戦いぶりを見せてくれたのですが、最後はそれを乗り越えた彼に討たれてしまいます。
 幻影?幻覚?を自由に操る一風変わった敵役として印象に残ったキャラでした。


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第73話 タウイタウイ4(艦娘側:加賀)

※柱島第七泊地の加賀さんはカルチェラさんを提督と認めていないので少佐呼びになっています。


 「はっ?!」

 北大路提督の意識が戻ったわ。

 良かったとそう思ったのも束の間、北大路提督が自分の姿を見て悲鳴を上げたわ。

 まあ当然といえるのだけれど。

 

 「私、私…。」

 北大路提督の顔が蒼白になってしまったけれど私にはどうする事も出来ないわ。

 

 「ヒヒッ、好きな男にベッドへ誘われたシーンを見せてやっただけで脱いでしまうとはねぇ。言っておくけど全て自分の欲望通りに進んだはずだからね(笑)。」

 

 「あ、あ…。」

 北大路提督がへたり込んでしまったわ。

 あなた、何て酷い事をしたの!

 

 「何が北大路家の子爵令嬢だよ、一皮剥けば所詮こんなものかい、ヒヒッ。」

 

 「アナタがやったんじゃない!」

 

 「おやおや、そちらの足柄さんはおかしな事を言うじゃないか。アタシは手伝ってやっただけに過ぎないんだがね?」

 言ってくれるわね、この外道が。

 

 「ううっ、お父様、お母様、ごめんなさい…。私…。」

 北大路家の名に傷を付けてしまったと、北大路提督が泣き出してしまったわ。

 アルカディア号さん、まだなの?

 早く来て!

 

 「さて、この女はこれで終わりだよ。後はウチの青葉の撮影データをバラ撒けば良いだけさね。」

 何ですって?!

 そんな事をされたら本当に北大路提督は!

 

 「北大路提督は陸奥や翔鶴達の恩人だぞ、そんな事はさせん!」

 

 「フンッ、生意気いうんじゃないよ!」

 なんていう凄まじいムチ捌きなの?

 まるでムチ自体が意思を持ったかのようだわ。

 そう使い手同様、冷酷な意思を持った蛇のように…。

 さらに倒れた武蔵をカルチェラ少佐が踏みつけます。

 

 「あなた、いい加減になさい!」

 私も流石にこれ以上は指を咥えて見ていられません。

 

 「くうっ!」

 しかし、私にもそのムチが牙を剥いてきます。

 恐らく切れたのでしょう、左頬を生温い物が伝っているわ。

 拭うと手が赤く…、やっぱりね。

 

 「加賀!」

 駆け寄ろうとした長門を制します。

 カルチェラ少佐に癇癪を起されて北大路提督までムチの餌食になってしまったら…。

 ましてや、お顔に傷が付いてしまったらそれこそ取返しがつかないもの。

 

 「燃料さえあれば…。」

 武蔵が唇を噛んでいるわ。

 

 「ヒッヒッヒッ、燃料かい? いいだろう、鳳翔、燃料を一本よこしな(笑)。」

 そう言うとカルチェラ少佐、いえこの外道は燃料の小瓶を窓の外へ放り投げました。

 

 「ほら、取って来たらどうなんだい?(笑)」

 

 …。

 ……。

 ………。

 もう許せません、さすがの私も堪忍袋の緒が切れました。

 矢筒に手を伸ばそうとしたその時、私達にとっての待ち人であり切り札である彼の姿が食堂入口に現れました。

 静まり返った食堂に彼がゆっくりと歩みを進める音だけが響きます。

 さすがにタウイタウイ第二泊地の皆も驚きの目でこちらを見ているわね。

 たった一人、武蔵を踏み付けるために下を向いているカルチェラ少佐を除いては…。

 

 「今日という今日はその体に分からせてあげるよ! 提督と艦娘の主従関係ってヤツをね!」

 

 「ぐふっ!」

 激しい蹴りで武蔵の肺から音が鳴ります。

 

 「そうだ。皆、そんなに資材が欲しければコイツを解体してやろうじゃないか。大型艦だけあって少しは足しになるだろうさね。」

 

 「提督、あなた正気なの?!」

 陸奥の悲鳴に近い叫び。

 

 「正気も正気、大真面目だよ。お前達もあれほど資源資源と…、アガッ?!」

 アルカディア号さんがカルチェラ少佐の首元を掴んで持ち上げました。

 さらにムチを持った右手首を躊躇なくへし折ったわ。

 

 「ぎゃああ! 手が、手が?!」

 

 「あ、貴方は?! アルカディア号!」

 悲鳴を上げるカルチェラ提督を余所に武蔵が彼を見て驚きました。

 彼を知っているという事は…、カルチェラ提督は護衛艦娘としてこの間の横須賀へ貴女を連れて行ったのね。

 

 「ヒッ、お、お前は?!」

 さあカルチェラ少佐、覚悟なさい。

 貴女も提督であるなら横須賀での彼の活躍は知っているわよね?

 

 「女将(オヤジ)(鳳翔)、燃料(ミルク)をくれ。」

 アルカディア号さんがカウンターにいる鳳翔さんに燃料を要求したわ。

 武蔵に渡してあげるのね。

 

 「どうぞ…。」

 燃料ボトルの大きさはヤクルト大より少し大き目。

 本来武蔵のような大型艦なら20~30本必要なのだけれど。

 

 「一杯やれよ(笑)。」

 そう言って彼はボトルの蓋を指で割ったわ。

 ちょっと待ちなさい、武蔵に渡すのではないの?!

 いくら何でも人間が重油なんて飲める訳が無いわ!

 

 止めなくていいのと長門&足柄に目で合図を送ります。

 でも二人ともニヤニヤするばかり。

 ちょっと、貴女達まで一体どうしたのかしら?

 

 「な?! アンタ一体、何考えてんだい?! 人間がそんなモノ飲める訳ないじゃないか。勘弁して…、グボッ?!」

 アルカディア号さんはカルチェラ少佐の懇願を無視して彼女の口に燃料ボトルを突き立てました。

 もがくカルチェラ少佐ですが男の力をどうこう出来るはずもないわね。

 この腐れ外道はそんな事も分からないのかしら?

 あら、重油って粘性が高い割に意外とすんなり喉へ落ちていくのね。

 いやいや、そうじゃないわ!

 私は何を感心しているのかしら…。

 

 ボトルが空になるとようやくアルカディア号さんは手を離しました。

 カルチェラ少佐は吐き戻そうとするけれど今度は逆に重油は重たく粘性が高いため、なかなか出せず苦しんでいるみたいね。

 

 私もマヒしてしまったのかしら。

 その様子を長門や足柄と同じようにニヤニヤしながら眺めるようになっていたわ。

 私達の提督をあんな目に合わせたのよ、まだまだ足りないわ。

 カルチェラ少佐、アナタは決して触れてはいけないモノ(海賊の正室:北大路花火)に手を出してしまったのよ。

 

 「加賀、花火を頼む。落ち着かせてやってくれ。」

 アルカディア号さんは泣きじゃくる北大路提督にそっとマントを掛けました。

 まったく…、こういう心遣いができるところもニクイものね。

 ただ強いだけじゃない、改めてこのような方に空母枠の『側室筆頭艦』として選んで頂けた事に感謝しないと。

 ちょっと、そこのおばさん、隣でゲーゲー煩いわ。

 感動に浸ってるんだから静かにして頂戴。

 




※アルカディア号が食堂に入ってくるシーンですが、星野鉄郎が戦士の銃を取り返しに行った酒場にハーロックが入ってくるシーンそのままの感じです(もちろんあのBGM付きで)。

※加賀さん、とうとう最後にはカルチェラ少佐を『そこのおばさん』呼びしてしまいました。

※怪人といえども重油なんか飲んで健康被害とか大丈夫なんでしょうか?
 ちゃんと病院に行って胃洗浄してもらうんですよ!


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第74話 タウイタウイ5(艦娘側:北大路花火2)

 私は…、私は一体何を?

 つい先ほどまで見ていた景色と内容は一瞬にして消え去り、タウイタウイ第二泊地の食堂で下着姿になっている自分がいました。

 何も理解できない、いえ理解したくない、そんな中でカルチェラ提督の北大路家の子爵令嬢もこんなものかという言葉だけが頭の中を回っています。

 

 「ううっ、お父様、お母様、ごめんなさい…。私…。」

 私…、北大路家にとんでもない傷を…。

 台羽さんのいう事を聞いていればこんな事にはならなかったでしょう。

 調子に乗ったばかりにとんでもない事態に。

 

 私の一番の願い。

 それはアルカディア号さんに女として求められること。

 あまりの浅ましさに心の最奥に隠していた願いですが、それがいとも簡単に取り出されてしまいました。

 いえ自分で取り出したというべきですね。

 今になってマゾーンは巧妙に人の心に入り込むという意味が分かりましたがもう手遅れです。

 

 「加賀、花火を頼む。落ち着かせてやってくれ。」

 泣きじゃくる私にそっと何かが羽織らされました。

 どうして神様はこうも残酷なのでしょうか。

 今一番、顔を合わせたくないのに…。

 

 「あら、あらあら。アナタ達、ひょっとしてデキてるの(笑)?」

 

 「ああ、花火は俺の…、これ以上ない大切な存在さ。」

 

 「?!」

 ひぐっ…、アルカディア号さん。こんな私にまだそう言って下さるのですか。

 

 「そう、ウチの提督ったら事もあろうに海賊の正室に手を掛けたのね?」

 聞いた事も無い陸奥さんの低い声。

 

 「ヒッ! し、知らなかったんだよ、許し…、ウエェェェ…。」

 カルチェラ提督、まさか本当に燃料を飲んだのですか?!

 

 「俺の船長であるキャプテンハーロックにとって許せないものがいくつかある。」

 

 「だ、だから悪か…、ウゲェーッ。」

 

 「一つ目は自分の仲間を傷付けたり裏切ったりする奴だ。貴様はここの指揮官でありながら配下の艦娘達を日常的に虐待していたな。」

 

 「虐待?! とんでもないさね、あたしゃ、効率のいい艦隊運営をしていたに過ぎないんだよ!」

 

 「二つ目は俺の仲間を傷付ける奴だ。貴様は俺の(泊地の)加賀と長門に傷を付けた。」

 

 (俺の加賀、俺の加賀俺の加賀…。さすがに気分が高揚します!)

 (俺の長門だと?! 胸が熱いな!!)

 同じ女だからでしょうか、私にも加賀と長門の声が。

 

 「そっちの提督の教育不足じゃないか。余所の提督に掴み掛るなんて、あたしが替わりに教育してやったんだよ、感謝しな!」

 教育?!

 何の教育だというのですか!

 ウチの艦娘達にそんな必要なんてありません!

 

 「三つめは人の心を弄ぶ奴だ。貴様は俺の大切な女(人)の心を弄んだ上に辱めを与えようとした。トリプル役満達成だ。」

 俺の大切な女(ひと)…。

 ぐすっ、私に幻滅したのではないのですか?

 

 「や、やめとくれ! 何がトリプル役満だよ、お前のやっている事はただの弱い者虐めじゃないか!」

 

 「弱い者虐め? その弱い者苛めを散々やって来たのは何処の誰なのよ?! よくそんな事が言えるわね!」

 武蔵を抱え起こしながら足柄が言い放ちます。

 いえ、もう叫びです。

 ここにいる艦娘全員の叫びと言って良いかもしれません。

 

 「足柄、遠慮はいらん。たった今も感謝しろと言われたんだ。花火の分も含めてし切れない位の感謝をしようじゃないか。長門も加賀もそう思うだろう(笑)。」

 

 「心得た、任せておけ。」

 

 「ええ、じっくりと時間をかけて…、それこそ炭火の遠赤外線で焼き鳥を焼くようにね。」

 

 (瑞鶴:wwwww)

 何故でしょうか、瑞鶴のニヤニヤする顔が。

 

 「お前達、何を見てるんだい! さっさとそいつらを排除しな!」

 カルチェラ提督が命じますが、タウイタウイ第二泊地の艦娘達は全員が死んだ目で彼女の命令が聞こえているのか聞こえていないのかも分からない状態です。

 

 「聞こえないのかい! アタシを助けるかそいつらを排除するんだよ!」

 再度カルチェラ提督が命じますがタウイタウイ第二泊地の艦娘は濁った眼を一瞬向けるだけでした。

 

 「青葉、撮影を止めて今すぐデータを流しな!」

 

 「ひっ! 止めてっ、止めてぇ!」

 恐怖のあまり真っ白になった頭でそれだけを叫んでいました。

 今の私にはどうする事も出来ないのです。

 

 「出来ません…。青葉にはできません。」

 青葉さん!

 彼女のお陰で少しだけ体温が戻って来た気がします。

 

 「衣笠がどうなってしまってもいいのかい?!」

 

 「カルチェラ少佐、アナタという人は!」

 卑劣な脅しに足柄が詰め寄りますが…。

 

 「さあ、選ぶんだよ! データを『つべ』か『ニコ動』に流すか、それとも衣笠の解体かをね!」

 

 「い、嫌あっ!」

 自分の下着姿が不特定多数にバラ撒かれるなんて考えただけでも気が狂いそうです。

 恐怖からくる強烈な〇意、ここへ来る前にお手洗いに行ってなかったら間違いなく細川大将の二の舞になっていたに違いありません。

 

 「カルチェラ指令、アナタは…。」

 皆、固唾を飲んで青葉さんを見つめます。

 

 「例え私が命令に従ったとしても、いずれ衣笠共々解体されるのは目に見えています。それならば青葉は人の道を踏み外したくはありませんっ!」




※カルチェラ提督、『つべ』とか『ニコ動』なんて良く知ってますね?

※〇意って何でしょうね? そういえば人は恐怖を感じた時にオシッコをしたくなる気が…。


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第75話 タウイタウイ6(アルカディア側3)

※ついにアルカディア号がタウイタウイ第二泊地に乗り込んできました。


 「では三人(長門・加賀・足柄)とも花火を頼むぞ。」

 沖合にデスシャドウ島を停泊させた後、ランチに乗り込む一行に声を掛ける。

 余談だがデスシャドウ島はステルス電波を出しているのでそう簡単に発見される心配は無い。

 

 予想が正しければ噂のカルチェラ提督を片付けた後、タウイタウイ第二泊地にはマゾーンか深海さん達の襲撃があるに違いない。

 ヤツらとしては繋がっている痕跡や証拠を消したい以上、タウイタウイ第二泊地は跡形もなくなるだろう。

 それまでに監禁されている者を含め、艦娘達全員を収容しなければならないし、先に保護した六名を見るに入渠は補給は勿論、食事も必要に違いない。

 すでにデスシャドウ島の調理場では『ます』さんをはじめ『鳳翔』・『伊良湖』・『大鯨』・『間宮』のキッチン組が大忙しで走り回っている。

 最初は足柄にも要請したのだが、彼女自身はカチコミ組希望だったので、それが終わり次第という事になった(狼さん、こえーわ)。

 

 シェルターの点検、迎撃ミサイルの種類と数、対空兵装の動作確認等を行い異常の無い事を確認すると花火達がデスシャドウ島を出発してから20分は経っている。

 これは急がねばと艤装を出してタウイタウイ第二泊地の建物入口までひとっ跳び、小走りで食堂へ向かった。

 ところが食堂まであと少しという所で花火の悲鳴が?!

 

 「あなた、いい加減になさい!」

 さらに入口前に来た時には加賀の鋭い声が飛ぶ。

 何が起こったのか尋ねようと思って中に入ると、そこにはそんな事など飛んでしまう光景が!

 

 何と花火が薄桃色のブラとショーツに黒いパンスト、そしてパンプスだけになってへたり込んでしまっていたのである。

 おまけにその傍らでは鞭を片手に武蔵を踏んづけるカルチェラ・ターンと脱ぎ捨てられた花火の制服が!

 

 え、ナニコレ?

 さっぱり分からんのですけど…。

 いや、撮影機材を構えた青葉と激しく泣いている花火を見て大体の事が分かった。

 

 カルチェラよ、貴様…、花火のあられもない姿を撮影して脅したな。

 子爵令嬢にとってそれがどういう意味を持つか分かって…、いや分かっているからこそか。

 俺の正室である花火に何をして…。

 いや失礼、これはそんな事関係なく、また誰であっても許される事でありませんですよ。

 ま、花火の下着姿を見せてくれた事には感謝するけど(笑)。

 

 その上、武蔵に投げた燃料を取ってこいだと?!

 その燃料を取って来たのは貴様ではあるまい。

 一体、誰がどんな苦労をして採ってきたと思ってるんだ?

 これはキツイお仕置きが必要ですな。

 

 「そうだ、皆そんなに資源が欲しければコイツを解体してやろうじゃないか。大型艦だけあって少しは足しになるだろうさね(笑)。」

 うひゃあ、前世で勤めていた会社が普通の企業に思えてくるわ!

 南光太郎も裸足で逃げだすほどのブラックぶり!

 

 「提督、あなた正気なの?!」

 陸奥が悲鳴を上げた。

 無理もない、こんなの陸奥でなくても悲鳴を上げてしまうわ。

 

 「正気も正気、大真面目だよ。お前達もあれほど資源、資源と…、アガッ!」

 いい加減にしろよ、テメー。

 そう思った時にはカルチェラの首根っこを掴み上げて鞭を持った右手首を圧し折ってしまっていた。

 

 「ぎゃああ! 痛い痛い!」

 あ、またやっちゃった。

 もっとアンガーマネジメントの能力を身につけないと、いつか大変な事になりそう…。

 まあいいや、どうせ貴様がここの艦娘にしてきた事を思えば大したことでもあるまい。

 

 「アルカディア号さん!」

 あれ、加賀が泣きそうになってる?

 あ、しまった。これ女性に見せてはいけないヤツだったわ。

 よりによって空母枠の側室筆頭艦の好感度を下げてしまうとは…(泣)。

 

 「ヒッ、お、お前は?!」

 何だよ、横須賀で見た事を今頃思い出したのか?

 貴様のせいで俺に対する加賀の好感度がダダ下がりになっちまったじゃねーか。

 

 (女神:うわ、凄い責任転嫁…)

 

 「あ、貴方は!」

 そういえば、このカルチェラのヤツ、この間の横須賀へは武蔵を連れて来ていたっけ。

 

 「女将(鳳翔)(オヤジ)燃料(ミルク)をくれ。」

 カウンター越しにここの鳳翔に声を掛ける。

 

 「どうぞ…。」

 やはりというか部外者の俺に少ない資源を渡したくなどなかったのだろう。

 少し逡巡した後、1本だけカウンターに差し出してくれた。

 まあいい、俺が摂取する訳ではないしな(笑)。

 

 「一杯やれよ(笑)。」

 フタを指で割ってカルチェラに突き出してやる。

 

 「な?! アンタ一体、何考えてんだい?! 人間がそんなモノ飲める訳ないじゃないか、勘弁して…、グボッ?!」

 小田真理。

 じゃなかった、おだまり。

 花火に何をしたか思い出しながら飲め。

 

 「加賀、花火を頼む。落ち着かせてやってくれ。」

 未だ泣き止まない花火にマントを掛ける。

 どうした加賀、そんな顔して?

 だってこのままだと花火がまた服を着てしまうじゃん?(笑)

 




※南光太郎氏:仮面ライダーブラックに変身する人です。
 え、ブラックしか合ってない? すいません…。

※だってこのままだと花火がまた服を着てしまう:つくづく救い難いですね、この主人公。でも加賀さん始め、長門や足柄達は素晴らしい気遣いだと思っているようです(笑)。
 まあ、残念変態主人公ですが、それでも結構仲間想いだったりするんですよね…。


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第76話 タウイタウイ7(アルカディア側4)

※すいません、今回はつなぎ回なので短かく詰まらないです…。


 「あら、あらあら。アナタ達、ひょっとしてデキてるの(笑)?」

 陸奥が軽く冷やかしてくる。

 全くいつの時代も女というのはこういう話に目が無いらしい。

 

 「ああ、花火は俺の…、これ以上ない大切な存在さ。」

 何といっても北大路花火嬢は私にとって脱童貞をさせて頂ける(かもしれない)一番手なのだ。

 大切にしなくてはそれこそ罰が当たろうというものだろう。

 

 「?! ひぐっ…。」

 ところが私をそんなふうに思っているのかという表情で花火がこっちを見上げたのである。

 しまった、好きと言ってもらっただけではまだ早かったか?!

 そういえば前世でお世話になった肌色成分多目のゲームでも、ここからが本番みたいな感じだったわ!

 俺は一体何を焦ってしまったのだろう。

 取り返しのつかない事をしてしまった気が…。

 

 「そう、ウチの提督ったら事もあろうに海賊の正室(人間部門)に手を掛けたのね?」

 

 「ヒッ! し、知らなかったんだよ、許し…、ウエェェェ…。」

 ゲーゲーと煩いな。

 元はといえばお前のせいだぞ。

 これで翔鶴の攻略?まで失敗してしまったらどうしてくれるんだよ?

 そうなったら本当に脱童貞への道のり(道程)が断たれてしまう。

 こんな騒動さえなければ今夜あたり『アンドロメダ・レッドバーボン』を飲ませてひっくり返った所をムフフ出来たかもしれないのに…。

 

 いや、それもそうだがその前に艦娘はお前の便利な道具ではない。

 彼女達だって嬉しい時には喜び、腹が立てば怒り、哀しれければ泣き、楽しければ笑うんだぞ。

 それに効率というなら駆逐艦を解体するよりキラ付けして燃料弾薬ともに満タンで遠征に行ってもらう方が余程いい。

 

 さらに加賀は左頬、長門は脇腹から血が出ているじゃないか。

 クールビューティの美しい御尊顔と黒髪ロングの柔肌に何しれくれてんですかね?

 俺が堪能する前に傷を付けた代償はキッチリと払ってもらおうか…。

 そして一番許せないのが花火を脅した事だ。

 こんなの一歩間違えば女同士による性暴力だぞ?

 第一、こんなもの公開されたら本当に花火は…。

 

 長門・加賀・足柄、それに俺の視線に恐怖を感じたのかカルチェラが狂ったようにアタシを助けろだの俺達を排除しろだのと喚き始めた。

 が、ここの艦娘達は相変わらず生気の無い目を一瞬向けただけで誰も動こうとはしない。

 

 「青葉、今すぐ執務室のPCを使ってデータを流してきな!」

 

 「ひっ! 止めてっ、止めてぇ!」

 泣き叫ぶ花火。

 

 「衣笠がどうなってもいいのかい!」

 姉妹艦を盾にするという卑劣極まりないやり方に長門の目と表情が怒りに染まる。

 足柄もカルチェラに詰め寄るが、それでも衣笠の解体をチラつかせる事を止めはしない。

 

 「い、嫌あっ!」

 花火が本気で怯えている。

 これ以上の錯乱を防ぐためにガンホルダーからコスモドラグーン(戦士の銃)を抜いて青葉の撮影機材に狙いを付ける。

 青葉が脅しに屈しそうになったら直ぐに撃ち抜かなくてはならない。

 

 「カルチェラ指令、あなたは…。」

 少しの沈黙の後、青葉が口を開いた。

 

 「例え私が命令に従ったとしても、いずれ衣笠共々解体されるのは目に見えています。それならば青葉は人の道を踏み外したくはありませんっ!」

 青葉、よく言ってくれた!

 お陰で花火の目にも幾分か光が戻っている。

 カルチェラよ、恐怖で人は支配できないのだ。

 何せあのラオウでも無理だったのだ、覚えておくといい。

 いやその必要は無いか。

 貴様は少しやり過ぎたのだ。




※ラオウ…ご存じ「わが生涯に一片の悔いなし!」のお方。

※次回は週末に投稿する予定です。<(_ _)>


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第77話 タウイタウイ8(艦娘側:タウイタウイ大淀2)

 「その通りよ、青葉! 耳を貸しちゃダメ!」

 タウイタウイ第二泊地の食堂に大きな声が響き渡りました。

 

 「ガサ?! どうして?!」

 青葉さんが信じられないという顔をしています。

 それもそのはず、何と食堂入口には衣笠さんが立っていたのですから。

 

 「私だけじゃないわ、地下の懲罰房にいた全員が一緒よ!」

 他にも龍田さん・摩耶さん・瑞鶴さん・長門さん達が初めて見る人たちに支えられて立っています。

 しかもその方達は一人を除いて全員が殿方です!

 感情というものをほぼ無くしてしまったタウイタウイ第二泊地の艦娘達までがざわめき始めました。

 

 「そんなバカな! 地下懲罰房はアタシしか開けられないはず、一体どうなってるんだい!」

 

 「何言うてまんねん、バカはアンタや。あないなモン、わてに掛かったらチョチョイのチョイやで。」

 おちょぼ口の男性が事も無げにそう仰いました。

 私達も散々試しましたが、物理の大型南京錠と『でんしろっく』の『ぱすわーど』という2つの山を越えなければならなかったはず。

 一度、明石と夕張が大型南京錠の解錠に成功したことがあったのですが、『でんしろっく』の『ぱすわーど』とやらがどうしても突破できませんでした。

 それを事も無げに破ってしまうなんて…。

 素敵です(ぽっ)。

 

 「いやあキャプテン、みんな酷い状態だよ。中でもここの長門・瑞鶴・摩耶が特に危険な状態だ。」

 今度は白い帽子を被った男性が黒服さんに懲罰房から救い出された方々の状態を告げています。

 帽子に赤い十字が入っているからには軍医さんなのでしょうが、それよりもこの黒服さんですね。

 カルチェラ指令と武蔵さんは知っているみたいですが、一体どこのどなたなんでしょうか?

 

 「へっ、これぐらい何ともねえぜ。」

 

 「この程度、掠り傷なんだから!」

 摩耶さんと瑞鶴さんは息巻いていますが、かなり無理をしているのが分かります。

 

 「瑞鶴?! 良かった、私てっきり貴女が解体されてしまったのかと…、ううっ。」

 翔鶴さんが駆け寄りました。

 

 「大丈夫よ、翔鶴姉。この外道に痛い目を見せてやるまでは死んでも死ねないわ!」

 

 「あー、馬鹿な事を言っちゃいかん。立っていられるのも不思議なぐらいなんだよ。」

 強がる瑞鶴さんを軍医さんが諫めますが…。

 

 「ドクター、ヤッタラン副長や螢と協力して救出した全員を先にデスシャドウ島へ頼む。大浴場の湯は全て高速修復材だ。芋を洗うようになっても構わん。次から次へと湯船に放り込んでくれ。それでもまだ手当てが必要な艦は個別に診察と治療を頼む。」

 

 「そうよ瑞鶴、まずはケガを治して頂戴。デスシャドウ島では限界まで補給が出来るしアルカディア号さんたら美味しい食事まで用意して下さっているのよ。」

 し、翔鶴さん…、今なんて?

 アルカディア号ってあの噂の男性艦の方ではありませんか!

 

 横須賀から帰って来た武蔵さんが話してくれたんです。

 私達をこの地獄から救出せる者がいるとすれば、ただ一人。

 未来から来た宇宙海賊船『アルカディア号』であると。

 鬼姫級12隻をたった一隻で壊滅させるその戦闘力もさることながら、義侠心に篤く義を貫く男の中の男である彼ならきっと…、というものでした。

 それ以降、私達はまだ見ぬ彼を心待ちにする日々が続いたのです。

 それが今ようやく叶ったのです!

 

 「せやで。キャプテンは柱島第七泊地から『鳳翔さん』・『伊良湖』はん・『間宮』はん・『大鯨』はんを連れて来てますねん。そない意地張らんと行きましょ(笑)。」

 ヤッタラン副長と呼ばれたおちょぼ口の方が摩耶さんと瑞鶴さんを、ドクターさんがその他の方をお連れしようとしますが…。

 

 「おい、何処へ連れて行く気なんだよ! 放せってば!」

 摩耶さんが渋っていますね。

 あまり酷いようですと私からも言わなくてはなりません。

 

 「イテッ! 何すんだよ!」

 

 「いや、放せ言うたさかい…。」

 摩耶さんに詰め寄られたヤッタランさんがタジタジになっています。

 

 「本当に離す奴がいるか、バカ! しっかりアタシを捕まえておけよな…。///

 

 「え、そらまたどういう意味ですねんって…。ニャハハハ…。///」

 摩耶さんもヤッタランさんもお互い赤くなって顔を逸らしてしまいました。

 二人とも何やってるんですか、こんな時に…。

 第一、その方は私の獲物です。

 そう思って溜息をつこうとした時、それは起こりました。

 

 「畜生!」

 突然、カルチェラ提督はそう叫ぶとアルカディア号さんに対艦娘専用銃を乱射したんです!

 

 「ぐっ!」

 アルカディア号さんが後ろにあるテーブルと椅子を薙ぎ倒しながら数メートル吹っ飛びました。

 

 「きゃああああ!」

 

 「「「アルカディア号(さん)!」」」

 北大路提督と柱島第七泊地の皆さんの悲鳴が響き渡りました。




※対艦娘専用銃を数発叩きこまれたアルカディア号。
 一体どうなってしまうのでしょうか?!


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第78話 タウイタウイ9(艦娘側:タウイタウイ翔鶴2)

※対艦娘専用銃という一撃で艦娘の息の根を止めるという提督だけに支給される銃で撃たれたアルカディア号、果たして無事なんでしょうか?!


 尻もちをついたまま微動だにしないアルカディア号さん。

 悲鳴が消えた後は皆、無言です。

 口に手を当てたままの陸奥さん、立ち尽くす長門さんと足柄さん。

 加賀さんがペタンと座り込んでしまいました。

 あまりの出来事に誰も動けず声すら上げられません。

 

 そう、よね…。

 あれは艦娘が暴動を起こした際の最終手段。

 何処に当たっても一撃で息の根を止める事が出来る威力を持つそれを至近距離から5~6発も叩き込まれたのですから。

 でも私は何一つご恩を返せていません。

 格納庫や燃料庫が悲鳴を上げる程の補給、食べた事も無い豪華なお食事、修復材では治り切らなかった怪我の手当てにお風呂まで。

 そう思うと私の両目から一気に涙が溢れてきました。

 

 「そんな…。私、イヤよ。ね、アルカディア号さん起きて。起きて頂戴。」

 加賀さんが掠れ声で呼びかけますが彼からの反応はありません。

 

 「…。」

 加賀さんが立ち上がりました。

 ギリッと歯を鳴らしながらカルチェラ提督に向き直る加賀さんの手にはしっかりと矢がつがえられています。

 

 「ひっ!」

鬼気迫る加賀さんにカルチェラ提督が後ずさりました。

 

 「提督、何処へ行くというのですか?」

 気付けば私も提督に向けて矢をつがえていました。

 

 「何だい、お前も撃たれたいのかい!」

 そう言ってカルチェラ提督は私に対艦娘専用銃を向けてきます。

 あの銃の装弾数は8発のはず。そう考えると少なくとも後2発は残っているとみて間違いありません。

 もちろん、あんなもので撃たれたら私なんかは即死でしょう。

 ですがそんなの関係ありません。

 アルカディア号さん、待ってて下さい。

 この外道は刺し違えてでも地獄へ送ってやりますから。

 それにカルチェラ提督に狙いを定めているのは私と加賀さんだけではありません。

 長門さん、足柄さん、陸奥さん、おまけにあの大人しい羽黒さんや名取さんまでもが提督に砲を向けています。

 だれがいつ指を動かしてもおかしくはない、そんな状況の中パンパンとほこりを払う音と『よせ、お前達』という声が聞こえました。

 振り返るとそこにはアルカディア号さんが立っていたのです!

 

 「良かった、無事だったのね!」

 加賀さんが駆け寄ってアルカディア号さんの手を取りました。

 って、加賀さん何してるんですか!

 私だってしたいのにズルイです!

 

 「お前達が手を汚す必要は無い。これこそ海賊の仕事だ。」

 そう言うとアルカディア号さんは加賀さんの弓をそっと抑えました。

 

 「そんなバカな! 対艦娘専用銃が効かないっていうのかい?!」

 立ち上がったアルカディア号さんをみたカルチェラ提督が驚愕しています。

 

 「…。」

 アルカディア号さんはそのまま無言でカルチェラ提督の左腕を銃で打ち抜きました。

 

 「うぎゃああああ! う、腕が、腕があっ!」

 アルカディア号さんの構えた銃から不思議な音と共に一筋の光線が発射されたと思うとカルチェラ提督の対艦娘専用銃を持った左腕の肘から先が吹き飛びました。

 何でしょう、あれは?

 一切の炸薬音がありませんでしたが…。

 

 「カルチェラ少佐、貴様は艦娘達に虐待はしていないといったな。」

 アルカディア号さんが口を開きました。

 

 「勿論だよ! な、皆、そうだろう?! ほら、誰も虐待を受けていたなんて言わないじゃないか!」

 何が言わないですか。

 誰も返事なんてしたくないだけですっ!

 

 「陸奥、タウイタウイ第二泊地戦艦組のリーダーは誰だ?」

 

 「長門だったけど、その長門が地下懲罰房に入ってからは武蔵ね。」

 

 「では武蔵、戦艦組で一番ひどい目に遭わされていたのは誰だ?」

 

 「陸奥だ。駆逐艦達に被害が及ばないように率先して被害担当艦をやっていたからな。」

 

 「翔鶴、空母組のリーダーは?」

 今度は私に?!

 

 「赤城さんです。」

 

 「一番ひどい目に遭わされた艦は?」

 

 「加賀さんですね。お二人とも一航戦だというだけで空母組に不始末がある度に呼び出されていましたから。」

 

 「羽黒、重巡組はどうなんだ?」

 

 「はい、まとめ役は妙高姉さん、最もひどい目に遭ったのは那智姉さんです。」

 

 「さっきから何なんだい、人聞きの悪い事を言うんじゃないよ! アタシは艦娘達を大事に扱っているって、アガッ!」

 アルカディア号さんは先が銃になった剣をカルチェラ提督の口に突き入れました。

 

 「黙れ。二度は言わん。」

 この小煩い女を一発で黙らせてしまうなんてアルカディア号さん、流石です。

 何なら永遠に黙らせてしまっても誰も文句は言いません、いえ是非そうして下さい!

 

 「軽巡は?」

 

 「は、はい、リーダーは大淀さん、最も痛い目に遭ったのは天龍さんです。」

 名取さんも即答しカルチェラ提督に口を挟ませません。

 

 「電に潮、駆逐艦組は?」

 

 「駆逐艦のリーダーは朝潮さんなのです。」

 

 「最もひどい目に遭ったのは不知火さんですね。」

 補給とは名ばかりですがそれでも時間的にほとんどの艦娘が食堂に集まっていたのが幸いしました。

 アルカディア号さんは名前の挙がった10人に小さな何かを配ったのです。

 それに対してほとんどの艦娘が死んだような目を向けただけです。

 

 「これは…、何ですか?」

 唯一、赤城さんだけが配られたモノについて聞いてきました。

 それでも抑揚のない声で顔も目も上げようとはしません。

 

 「解除スイッチだ。」

 

 「解除スイッチ…。何のかしら?」

 赤城さんと向かい合って座っているコチラ(タウイタウイ第二泊地)の加賀さんがそれを掌に載せました。

 

 「直ぐに分かる。」

 アルカディア号さんはそう言うとニヤリとしました。

 




※アルカディア号が渡したスイッチは一体何のスイッチでしょうか?
 少なくとも某社のゲーム機のように楽しい物で無いのは間違いありません(笑)。


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第79話 タウイタウイ10(艦娘側:長門1)

※配られたスイッチは一体、何のスイッチなんでしょうか?


 「カルチェラ少佐よ、もう一度聞くが配下の艦娘達との関係は良好だったのだな?」

 これが最後とばかりにアルカディア号がカルチェラ少佐に確認をする。

 

 「当り前じゃないか! ここは笑顔の絶えないアットホームな職場なんだよ!」

 馬鹿な奴だ。

 アルカディア号が何故、今一度真実を語る機会を与えてくれたか全く分かっていないとは…。

 

 「…。」

 テーブルを見つめたまま無言のタウイタウイ第二泊地艦娘達。

 

 「二の句が継げないわ…。」

 加賀と足柄に至ってはもう言葉もないといった感じになっている。

 

 「ではそんな理想的な職場を運営してきた貴様にプレゼントだ。もちろん花火を泣かせた分も加賀や長門に傷を付けれくれた礼も込みでな。」

 アルカディア号はそう言うとカルチェラ少佐の首元にマッチ箱サイズの何かを取り付け窓から中庭へ放り出した。

 ドサッという音と共にカルチェラ少佐が窓下に倒れ込む。

 

 「な、何するんだね! 痛いじゃないか! ヒッ、ななな、何だいこりゃあ?!」

 喚くカルチェラ少佐だが、首元に取り付けられた装置が時を刻んているのを見てギョッとした。

 

 「960年後の未来技術で作られた高性能対人爆薬だ。小型だが貴様を跡形無く吹き飛ばすぐらいは十分できる。」

 

 「悪い冗談はやめておくれ! あたしゃアンタのお陰で両手が使えないんだよ!」

 右手首を砕かれ左腕が肘から先が無い状態では確かにそうだろうな。

 だが、その状態を招いたのは己である事を分かっているのか?

 

 「冗談? 冗談なものか。貴様は俺が最も大切にしている花火を泣かせ加賀や長門に怪我をさせた、それだけで万死に値する。いずれにしろ残り時間は5分だ。」

 

 「いいから止めろ、外せぇっ! こんな事が許されると思っているのかい?!」

 

 「カルチェラ少佐、さっき10名の艦娘達に配ったのはその解除スイッチだ。お前が真に艦娘達と良好な関係であったのならすぐに誰かが押してくれる。もっとも5分以内に押さないと手遅れだがな。」

 

 「ヒッ! お、お前達、早く押すんだ!」

 フッ、そういう事か。

 アルカディア殿も人が悪い。

 誰も押す者がいないと分かっていながらこのような茶番を行うとは(笑)。

 

 「大丈夫だ、カルチェラ少佐。10人もいるのだ、焦る事はない。」

 

 「武蔵、お前は戦艦組のリーダーじゃないか! こんな事が間違っているのは分かるだろう、早くそのスイッチを押しな!」

 

 「…。」

 腕組みしたまま微動だにしない武蔵。

 食堂の方が建物の中にある分、少し高くなっているので自然に艦娘達の方がカルチェラ少佐を見おろすようになっているのが笑える。

 

 「陸奥、そのボタンを押すんだよ! 押してくれたなら長門を地下懲罰房から出してやろうじゃないか、え?」

 武蔵にスイッチを押す意思が無いと踏んだか、カルチェラ少佐が陸奥に向き直った。

 

 「長門はさっき救出されたじゃない。だから要らないわ、こんなの(メリッ)。」

 ビッグ7パワーでスイッチを破壊し、窓の外へと放り投げる陸奥。

 奇しくもそれは先にカルチェラ少佐自身が武蔵の燃料を放り投げたすぐ傍に転がった。

 

 「な、何て事をするんだい!」

 

 「赤城、加賀! 一航戦のお前達なら押してくれるんだろう? 何ていったって艦隊の模範、一航戦だからね!」

 今度は一航戦の二人に縋るカルチェラ少佐だが…。

 

 「…。」

 赤城も加賀も光の無い目をチラリと向けただけ。

 それからはいくら喚かれようが騒がれようが無反応。

 

 「朝潮、不知火! あんた達はこの私を見捨てるなんて事はしないだろう?! さ、早くそのボタンを押しておくれ!」

 カルチェラ少佐に憎しみの籠った眼を向ける朝潮。

 

 「指令…。」

 窓際のテーブル席に座っていた不知火が立ち上がった。

 

 「ああ、不知火! アンタは私を助けてくれると思ってたよ。これからは陽炎型を優遇してやろうじゃないか。」

 

 「こんな時だけ不知火の名前を呼ばないで下さい、不愉快です!」

 そう叫ぶとそのまま不知火と朝潮は食堂を出て行った。

 彼女達の目には憎しみと悲しみが浮かんでいた。

 数えきれない程の姉妹が顕現・建造され、そして消えて行ったのだろう。

 

 「お待ち、一体どこ行くんだい?! この私を見捨てるっていうのかい?! 戻れ、戻るんだよ!」

 

 「妙高、那智! お前達は助けてくれるんだろう?! そうだ、助けてくれたなら足柄を再建造してやろうじゃないか、いい考えだろう?」

 つくづくこの女の馬鹿さ加減には溜息しか…、いやため息も出ないな。

 

 「…っ、いい加減になさって下さい! アレしてやるからコレしてやるからばかり…。どうして今までの御自身の艦隊運営を顧みようとなさらないのですか! どうしてこれからは私達を人として見てくれると言えないのですか! 不知火さん達がどうして食堂を出て行ったのか分からないのですか!」

 

 「もう行こう、妙高姉さん。羽黒によるとデスシャドウ島とやらでは入渠や補給はおろか旨い食事まで提供されるらしい。」

 そう言うと那智は妙高の肩にそっと手を置いた。

 

 「愚か者の末路に相応しいな。本来であれば那智も貴様の最後を目に焼き付けて酒の肴としたいところだったであろうが、もはやその価値すらないという事だ。」

 振り返る事はなかったが、アルカディア殿の言葉に那智が右手を上げて答えた。

 だが、この時私は本当に愚か者の末路といえる最後をこのカルチェラ少佐が辿るとは思いもしなかったのだ。

 それも直ぐに…。

 

 「お、お待ち! か、金だ、助けてくれたなら支払えるだけ金もやろう! こう見えてもうまくやりくりしてこの泊地にはかなりの金があるんだ、だから…、ヒッ?!」

 

 「その金はどうやって作ったのだ? 我らの犠牲の上にため込まれたものなど、あの二人が受け取るとでも思うか?」

 武蔵に副砲を向けられカルチェラ少佐がすくみ上った。

 

 「お黙り! アタシは(資源を売って)もっと素敵な石を手に入れるんだ! もっと…、ああああああああ!」

 誰も助けてくれないと分かり恐怖に耐えきれなくなったのか、錯乱し闇雲に中庭を走り回り始めるカルチェラ少佐。

 

 「ぐはっ!」

 突然カルチェラ少佐が悲鳴を上げたかと思うとそのまま地面に倒れて動かなくなった。

 同時に小型飛行艇の風防が開き見た事も無い妖精が!

 

 「お前は?!」

 台羽の顔色が変わった。

 

 「久しぶりね、台羽さん。」

 

 「ローラ!」

 

 「これで貸し一つね。このままだと、ここの艦娘さんとアルカディア号、ひいては北大路提督さんに責任が掛かってくるでしょう?」

 

 「嘘だ、口封じのために決まってる!」

 台羽が歯噛みする。

 

 「ふふ、賢い人は嫌いじゃないわ。またね。」

 

 「待て、ローラ!」

 そう言うとローラとやらは飛び去った。

 

 「キャプテン、レーダーが敵影を捉えました。至急デスシャドウ島にお戻りください!」

 台羽が追いかけようとしたのと、デスシャドウ島にいる有紀殿から敵影発見の知らせが入ったのはほぼ同時だった。

 




※カルチェラ少佐を誰に始末させようかと迷ったのですが、マゾーンに白羽の矢を立てました。
 不要と判断され切り捨てられる。
 それが一番、この人の最後に相応しい気がしたので…。


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第80話 タウイタウイ11(アルカディア側5)

※とうとう80話まで来ました。
 色々と感想や誤字報告を頂ける方やお気に入り登録をして頂ける方に支えられての事だと感謝しております。
 これからも宜しくお願い致します。


 「アルカディア号さん、これで全員よ。地下懲罰房もその他の場所も生体センサーとやらを使ったけれど反応は無かったわ。」

 報告をくれる加賀さんは足柄・長門と三人で協力して全ての艦娘達をデスシャドウ島へ避難させてくれたのだ。

 だが、避難の様子はゾンビが列を作って移動しているようにしか見えず、改めてタウイタウイ第二泊地の闇深さが垣間見える。

 

 「済まなかったな、加賀。長門も足柄もよくやってくれた。」

 こちらとしては普通に感謝したつもりだったのだが、加賀は一言『いえ』と言った切り目を逸らしてしまった。

 

 あのう、以前部屋の前に置かれたバレンタインチョコの中にアナタの名前が入ったヤツもあったように記憶してるんですけど?

 本当に義理も義理ですか?

 もはや義理どころかギリってヤツじゃん、凹むわ。

 

 やっぱ、あれですよね。

 お伺いも立てず側室筆頭艦に任命して誠に申し訳ございませんでした。

 何なら飛龍か蒼龍のどちらかに交代して頂いても…。

 夜、枕を濡らす事はあっても恨んだりしないので大丈夫ですから(泣)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「キャプテン、台羽妖精からの映像が届きました。スクリーンに拡大します!」

 螢がデスシャドウ島のメインスクリーンに敵艦隊の映像を投影してくれた。

 レ級×3・ヲ級×1・タ級×2が2艦隊。

 先の対艦娘専用銃で撃たれた後だけに少しキツイな。

 何でレ級が三匹も居るんですか?

 せめてそこはネ級にしようよ…。

 

 後ろでクスン、と花火が鼻を鳴らした。

 可哀そうに、カルチェラに脅されたのがよほど怖かったのだろう。

 俺を受け入れてくれた花火の為にもサッサと片付けなければ!

 そして上手くいけば夜に上と下両方の口にアルカディア号の砲身を受け入れてもらうのだ。

 おっと、上の口だと上手くではなく美味くかもしれないな(笑)。

 そう考えると出撃も苦にならないというか少し気が楽になった。

 

 「加賀、花火を頼む。」

 加賀に花火を託そうと彼女の肩に手を置いたのだが…。

 

 「ダメ、私に触っては!」

 激しく拒絶されてしまった。

 え、ナンデ?!

 

 「提督、一体どうされたのですか?」

 ほれ見なさい、加賀さんだって不思議に思っているではないか。

 

 「私はもうアルカディア号さんに大事にしてもらう資格なんてありません。浅ましい自分の欲望に取り込まれてあんな…。」

 

 「確か好きな人にベッドに誘われたって言ってたわよね。イイじゃない、どうせ相手はアルカディア号さんなんでしょ?」

 花火がピクッとした。

 

 「足柄姉さん、もう少しオブラートに…。」

 赤くなる羽黒。柱島第七泊地の羽黒もこんな感じなんですかね?

 ご愁傷様ですおめでとうございます、この瞬間私の中で貴女の攻略順位がかなり上位に上がりました。

 しかし三番艦と四番艦でこうも違うとは面白いな(笑)。

 

 「あら、どうして? アルカディア号さんも嫌じゃないのよね?」

 

 「うむ、それが俺以外なら肩を落とす所だが。」

 

 「じゃあ何も問題無いのに女の幸せを放棄するつもりなの? それこそ神崎中将に取られちゃうわよ?」

 ナイス判断フォロー、提督ぅ足柄ぁ!

 

 「アルカディア号さんは提督をこれ以上無い大切な存在と仰られたではありませんか。正室である提督がアルカディア号さんを信じずしてどうするのです?!」

 いいぞ、翔鶴!

 もっと言ってやれ!

 

 「わ、私は…。」

 

 「うふふ、提督が勝手に悩んでる間に私が人間部門の正室の座も頂いちゃ…。え、何これ?」

 あ、しまった。

 後ろから抱き付いてきた足柄の真っ白なグラブとパンストの太腿部分が真っ赤に。

 さっき、カルチェラに撃たれたところからの出血で足柄の制服を汚してしまったぞ。

 

 「すまん、足柄。クリーニング代は請求し…。」

 

 「きゃああああ!」

 クリーニング代は請求してくれと言おうとしたのだが、残念ながらそれは花火の悲鳴によってかき消されてしまった。




※さすがのアルカディア号も対艦娘専用銃に対しては無傷ではいられなかったようです。
 黒服な分、皆からは出血が分からなかったのでした。


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第81話 タウイタウイ12(艦娘側:北大路花火3)

 赤く染まった足柄の白いストッキングと手袋。

 どういう事か理解した途端、私は悲鳴を上げていました。

 アルカディア号さんは黒服のため、出血が目立たなかっただけなのです。

 

 「アルカディア号さんっ!」

 掛けて頂いたマントがはだけ落ちるのも構わずに私は彼に駆け寄っていました。

 

 「どうした…、うおっ?!」

 足柄を見た武蔵さんの顔色が変わりました。

 

 「さっきの対艦娘専用銃ね?! ドクター、早く、早くして頂戴!」

 あの冷静沈着な加賀さんもかなり取り乱しています。

 

 「こりゃ酷い! どうして黙っていたんだね、キャプテン。」

 ドクターさんがアルカディア号さんを咎めますが、そんなのは後です。

 今は一刻も早い手当てを!

 

 「手当は帰投後でいい。台羽、螢、出るぞ。総員戦闘出撃準備に掛かれ!」

 は?

 アルカディア号さん、今何て言ったの?

 返答次第では女の怖さを教えて差し上げる事になりますが?

 

 「あなた馬鹿じゃないの?! よくこんなので出撃できると思うわね!」

 足柄が血の付いた手と足を彼に見せつけます。

 

 「心配は要らん、アルカディア号の装甲は伊達ではない。それに花火を想う気持ちに変わりはないと証明するためにもな。」

 自分の血を見せられたにもかかわらずアルカディア号さんに一切の怯みや迷いは見られません。

 それに私のせいだと仰るのですか?!

 いえ…、その通りですね。

 彼は私を信じてくれているのに私が彼を信じなかった…。

 

 「もう分かりましたから! 私を好きでいてくれてると分かって安心しましたから! ですからこんな状態で出撃なんて止して下さい!」

 そう懇願する私に彼は優しく微笑むと再びマントを掛けてくれました。

 

 「そうはいかん。あれだけの編成だ、恐らくタウイタウイ第二泊地ごとマゾーンは消し去るつもりだろう。」

 

 「絶対にダメです! あなたに万一の事があったら私…。」

 私はもう一人では生きていけないんです!

 

 「心配するな。ベッドの上で待っているがいい。なに、こういうのが掛かれば男は強い(笑)。」

 

 「だとしたら尚更です! それにこれは指揮官としてではありません。貴方を…、貴方を愛する一人の女として絶対に行かせる訳にはいきませんっ!」

 

 「その通りよ! 私だって重巡の正室として行かせるもんですか!」

 

 「加賀、空母の側室筆頭艦として何とかできないか?」

 私と足柄さんに詰め寄られたアルカディア号さんは困り顔になって加賀さんに助けを求めました。

 

 「そう…、では私は側室筆頭艦としての役目を果たせばいいのね。」

 そう言うと加賀さんはアルカディア号さんにデコピンをかましました。

 

 「これが答えよ。私も貴方をこのまま戦場へ送り出すなんて絶対反対だわ。空母の側室筆頭艦としての役目というなら尚更ね。これは柱島第七泊地艦娘達の総意でもあると思って頂戴。」

 

 「アッ、ハイ。」

 ふーん、そうなんですか。

 私や足柄さんといった正室ではなく側室筆頭艦の加賀さんの言う事なら素直に聞くんですね…。

 いよぉーっく覚えておきます。

 

 「アルカディア号よ。貴様がここに来てから演習申込が殺到しているのは知っているだろう。おかけで私達の全員が練度上限に達している。」

 

 「そりゃあ貴方から見れば頼りないでしょうけど、普通の深海棲艦なら戦えるわ。指輪艦はそれこそ練度バグ状態だしね。」

 長門さんや足柄さんの言う通り、アルカディア号さん目当ての演習に随伴艦として出していたら柱島第七泊地の全員があっという間にLv99になってしまいました。

 

 「ここは私達を信じて欲しい。どうしてもというならキチンと入渠してからにしてくれないか?」

 

 「分かった。それまでは必ず持ちこたえてくれ。」

 長門さんに言われてようやくアルカディア号さんが諦めてくれました。

 

 「鬼姫級がいないからって気を抜かないで下さい。少しでも無理を感じたらその時点で必ず撤退する事、イイですね?」

 横須賀第一鎮守府と第二鎮守府の事が頭をよぎります。

 

 「勿論だ、ビッグセブンに二言は無い。」

 長門さんが手を前に出すとその上に足柄さんと加賀さんの手が重ねられます。

 長門さんが号令を掛けようとした時、もう一本の手が重ねられました。

 驚く三人ですが、さらに二本三本とその上に別の手が重ねられていきます。

 

 「ビッグセブンはここにもいるわ。」

 「枯れ木も山の賑わいだ。この武蔵も出よう。」

 「助けて頂いたご恩は忘れません。五航戦旗艦翔鶴、出撃します!」

 「わ、私も!」

 「信頼の名前は伊達じゃない、出るよ。」

 「なのです!」

 「潮、入ります!」

 「貴女達の背中は私が守ります! 足柄姉さん、一緒に戦って下さい!」

 何とタウイタウイ第二泊地の陸奥・武蔵・翔鶴・名取・響・電・羽黒までもが手を重ねてきたのです!

 

 「勿論よ! よーし、漲って来たわ!」

 足柄さんが俄然、やる気になってますが…。

 

 「ま、待ちなさい貴女達。私は余所の艦娘達の指揮まで執れません。もし、取り返しのつかない事が起こってしまったら私は責任が取れないのですよ?!」




※北大路提督さん、仰ることは分かりますが…。
 次回、北大路提督にカツを入れるのは誰なんでしょうか?!

※貴方を愛する一人の女として絶対に行かせる訳にはいきません→これはまた大胆な発言ですね、北大路提督さん(笑)。
 柱島第七泊地の艦娘達のワーキャーいう声が聞こえてきそうですが?


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第82話 タウイタウイ13(艦娘側:タウイタウイ翔鶴3)

※2020年12月08日 一部訂正


 「て、提督?!」

 足柄さんが驚いて北大路提督に目を向けました。

 

 「そんな。私達だってこのまま長門さん、加賀さん、足柄さんに行ってらっしゃいと言える程、恩知らずではありません!」

 デスシャドウ島で受けた補給や食事、入渠など私達からすれば夢のような時間でした。

 今こそ、その恩に報いる時です!

 

 「提督、正直なところ私も陸奥や翔鶴達が戦力として加わってくれるなら非常に有り難い。何しろ相手はレ級だけでも6隻いるのだ。」

 長門さんも北大路提督に意見しますが…。

 

 しかし、皆さんはタウイタウイ第二泊地の立て直しには必要不可欠な方々ですからと北大路提督は首を縦に振ってはくれません。

 私達にとって提督の命令は絶対です。このままで指を咥えて見ているしかないのでしょうか。

 全員が黙り込んでしまいました。

 

 「花火。」

 そんな沈黙を破ったのはやはりアルカディア号さんでした。

 

 「彼女達の指揮を、いや彼女達を加えた艦隊の指揮を執ってやってくれ。」

 陸奥さんの顔がパッと輝きました。

 

 「花火の言う事は分からないでもない。しかし彼女達は今初めてその人のために戦いたいと思える提督と出会えたのだ。」

 羽黒さんが何度も頷きます。

 

 「俺は…、それが花火である事を嬉しく、そして誇りに思う。」

 そう言うとアルカディア号さんはそっと北大路提督の手を取りました。

 

 「ズルいです、そんな言い方…。///」

 北大路提督は赤くなってそのまま横を向いてしまいました。

 え、チョロイですって?

 あんなイケメンにそんな事を言われたら誰だってああなってしまいます///。

 私なら気を失ってしまう(ついでに処〇も)自信があります(キッパリ)!

 

 「頼む。花火が無茶な指揮をするはずがないというのは全員が分かっている。」

 アルカディア号さんは北大路提督の手を取ったまま膝を折りました。

 

 「や、止めて下さい! もう、私が悪者になってしまってるじゃないですか…。」

 北大路提督からため息が漏れました。

 

 「貴女達、本当に私の指揮で良いのですね?」

 北大路提督が私達に向き直りました。

 もちろん全員の答えは決まっています!

 

 「北大路提督よ、改めて聞くまでもない。現時刻を以ってタウイタウイ第二泊地所属『戦艦武蔵』・『戦艦陸奥』・『航空母艦翔鶴』・『重巡洋艦羽黒』・『軽巡洋艦名取』・『駆逐艦響』・『駆逐艦潮』・『駆逐艦電』以上8名、臨時とはいえ柱島第七泊地提督『北大路花火』大佐の指揮下に入る!」

 武蔵さんの凛とした声が響きます!

 

 「柱島第七泊地所属『戦艦長門』・『空母加賀』・『重巡足柄』、タウイタウイ第二泊地所属『戦艦武蔵』・『戦艦陸奥』・『空母翔鶴』・『重巡羽黒』・『軽巡名取』・『駆逐艦響』・『駆逐艦潮』・『駆逐艦電』以上11名は長門を旗艦とし、ここタウイタウイ第二泊地に侵攻中の深海棲艦12隻の迎撃に出撃して下さい!」

 待ちに待った出撃命令に全員一糸乱れぬ敬礼で答えます。

 

 「先も言いましたが、くれぐれも無茶はしないで下さい。状況をよく見て危険だと思ったらすぐに撤退して下さい。全員での帰還以外は決して許しません、いいですね!」

 人命軽視の無茶な迎撃や作戦を平気で行うカルチェラ提督とは全てが違います。

 このような立派な方の指揮下で戦えたのです、これが最後になろうとも悔いはありません。

 

 「陸奥・翔鶴・羽黒・名取・潮・電、覚えているな。また旨いものが食いたければ戻ってこい。」

 アルカディア号さんたら(笑)。

 分かりました、あんな美味しい物が食べられるなら何度でも戻ってきます!

 どうやら悔いはありませんが、食いがあるようです(笑)。

 五航戦旗艦翔鶴、出撃します!




※悔いはありませんが、食いがあるですか(笑)。
 やはりそこは翔鶴さんも正規空母だったということですね。

※アルカディア号がいない状態でどこまで持つか?!


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第83話 タウイタウイ14(艦娘側:長門2)

※レ級1 レ級2 レ級3 ヲ級1 タ級1 タ級2
 レ級3 レ級4 レ級6 ヲ級2 タ級3 タ級4

 この超重量編成に対して艦娘達はどう戦うのでしょうか?
 救いは深海さん達にお互いの信頼や連携といったものが全く見られないという事ですね。


 「21号対空電探に反応あり、敵艦載機群探知!」

 武蔵が敵艦載機群発見を告げる。

 少し遅れて私の21号電探にも敵艦載機群と思われる反応が出た。

 

 「各艦三式弾装填、対空戦闘用意!」

 武蔵・陸奥・足柄・羽黒に指示を出す。

 

 「行くわよ、五航戦!」

 「ハイッ!」

 一糸乱れぬ動きで加賀と翔鶴の二人が弓を曳く。

 烈風・彗星一二甲・流星改はタウイタウイ第二泊地の翔鶴にとっては初めての機体。

 彼女にとってはかなりピーキーに感じるはずだが、彼女はそれを難なく発艦させてしまった。

 補助が必要だと思っていた加賀もかなり驚いている。

 ここの翔鶴は化ける、これを見ただけで私と加賀はそう確信した。

 ただ、さすがの私も彼女が全翔鶴中の中で五指に入るほどの実力を持つまでになるとはこの時、夢にも思わなかったが…。

 まあ、それにはあのお方(アルカディア号)の存在が大いに関係しているのだろう(笑)。

 

 「やるさ。」

 響のそれが合図となって全員の砲門が火を噴き始めた。

 その先では既にお互いの艦載機が入り乱れている。

 加賀も翔鶴も最大スロットと次点スロットに艦上戦闘機『烈風一一型』を積んでいる。

 そうそう制空争いで負ける事はないだろう。

 だが敵も手練れには違いなく、加賀隊と翔鶴隊をすり抜けた攻撃機がこちらに向かってきた。

 三式弾が12.7cm高角砲が25mm三連装機銃が次々と敵艦先を捉えていくが、やはり全てを撃ち落とす事は無理というものだ。

 

 大型艦は目立ちやすいため攻撃目標になりやすい。

 私や陸奥よりも武蔵に、加賀よりも翔鶴に攻撃隊が群がったのはそのせいだろう。

 右に左に必死に舵を取り投下された爆弾と魚雷を躱す翔鶴。

 だが、やはり実戦経験の少なさからか左右からの挟み撃ちでついに爆弾一発の命中と至近弾を許してしまう。

 

 「きゃあっ! も、もう、何で私ばっかり…。」

 幸いにも小破で済んだが相手艦載機の練度は決して油断できるものではないな。

 そう気を引き締めた途端、私の後ろで大きな水柱が上がった。

 振り返ると武蔵がいる位置に水柱が?!

 

 「武蔵っ!」

 「武蔵さん?!」

 悲鳴を上げる陸奥と翔鶴。

 だが、その水柱の中からまるで何事も無かったかのように平然と武蔵が現れた。

 

 「この武蔵、魚雷の1本や2本どうという事はない! それよりも陣形を乱すな、長門殿に続け!」

 事実、武蔵の航行速度は全く落ちていない。

 改になったばかりとはいえ、やはり大和型二番艦は伊達ではないという事か。

 実に頼もしい存在だ。

 そして二式艦上偵察機と視界をリンクさせていた翔鶴からタ級1中破、ヲ級1大破、ヲ級2撃沈という航空戦の結果がもたらされる。

 相手空母を無力化できたのは大きい。よし、これで砲撃戦に集中できる!

 

 「ビッグセブンの力、侮るなよ!」

 北大路提督から頂いた私自慢の試製41cm三連装砲がタ級4を捉え中破に追い込んだ。

 

 「第三砲塔を敵に指向、急いで!」

 

 「10門の主砲は伊達じゃないのよ!」

 

 「撃ち方、始めて下さーい!」

 陸奥の41cmはレ級2を捉えるも小破止まりであったが、足柄と羽黒の息の合った攻撃がタ級2にダブルクリティカルヒット!

 しかも連撃というおまけつきを喰らった彼女は海中へとその姿を消した。

 

 「当たって下さーい!」

 タ級1にも名取の15.5cm連装砲が命中する。

 大破となった彼女にもう戦闘力は無い。

 

 「そこなのです!」

 「えーい!」

 電、潮が武蔵に狙いを付けた敵艦載機を2機撃墜する。

 

 「そこだね、行って!」

 そして魚雷をバラ撒く響。

 これは一体何だというのだ?

 大規模作戦などで余所の鎮守府と共闘する事は幾度かあったが、ここまで息の合った戦いができた事は今まで無かった。

 多くは敵の数を減らしたいという事で取り巻きの殿艦から順に狙いを付ける者が多い中、攻撃が当たった敵艦を確実に追い込んでいく。

 北大路提督の旗印の下、全員が一つに…。

 胸が熱いな。

 と、両頬が緩みかけた私の側で味方の被弾音がした。




※一体、誰が被弾したんでしょうか?
 誰であれ大した被害が無ければいいのですが…。

※現在の状況
 レ級1 レ級2小破 レ級3 ヲ級1大破 タ級1大破 タ級2撃沈
 レ級3 レ級4   レ級6 ヲ級2撃沈 タ級3   タ級4中破


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第84話 タウイタウイ15(艦娘側:足柄2)

※現在の状況
 レ級1 レ級2小破 レ級3 ヲ級1大破 タ級1大破 タ級2撃沈
 レ級3 レ級4   レ級6 ヲ級2撃沈 タ級3   タ級4中破



 被弾音?!

 しかもすぐ傍だわ、一体誰なの?!

 

 「頭に来ました。」

 振り向くと顔に付いた煤を袖で拭う加賀さんの姿が!

 小破で止まる辺りはやはり一航戦としての実力ね。ホッとしたわ。

 

 「加賀さんっ!」

 

 「五航戦! 私に構っている暇があるなら航空戦に集中なさい!」

 

 「ハイ、すみません!」

 ふふ、加賀さんに駆け寄ろうとした翔鶴が雷を落とされてるわ。

 でも確かににキツイわね。でもまだまだこれからよ!

 え、『かみなり』よ『かみなり』。『いかづち』じゃないわ。

 ソコんとこもよろしく頼むわね(違)。

 って、駆逐艦『雷』が降って喜ぶのは長門だけでしょうに。

 

 「弾幕を張りなさいな! 撃て、撃てー!」

 タ級3に狙いを付ける。外れるなんて期待しない事ね。

 この足柄ご自慢の20.3cm3号砲よ、有り難く受け取りなさいな!

 

 「きゃああああ!」

 あれは羽黒の悲鳴?

 

 「駄目…、見ないで見ないでえーっ!」

 ちょっと羽黒、落ち着きなさいな。まだ中破じゃないの。

 羽黒を撃ったのは…、先のタ級3ね。

 小破ではまだまだ元気みたいね。次は仕留めて見せるわ!

 

 「羽黒さん! くっ、直掩機を増やします、烈風隊発艦!」

 翔鶴が烈風の矢を二本手に取ったわ。

 

 「いい判断ね、負けてられないわ。」

 さすが加賀さんの航空隊、一撃でレ級4を中破に追い込だわ。

 ひょっとしたら加賀さんって私以上に『やられたらやり返す』を地でいくんじゃないかしら?

 

 「皆ドコ、何処なの? うわーん…。」

 今度は名取が中破に!

 当然敵もやられっ放しではないという事ね。

 イイじゃない、漲って来たわ!

 

 「名取!」

 武蔵が名取を守るように前に出ると飛んできた砲弾を主砲で防ぐ。

 46cm砲塔を盾にするなんていいアイデアじゃない!

 

 「これが大和型の力だ、全砲門開けっ!」

 さすがは大和型、武蔵ったら一撃でレ級2を大破に?!

 感心していると私の目の前を白い航跡が2本横切った。

 

 「潮、羽黒っ、避けなさい!」

 

 「きゃああ!」

 

 「もう、もう止めて下さい…。」

 

 「潮、羽黒! 大丈夫か?!」

 声を掛けたのが遅かったのか間に合わず大破した二人に…、いえ潮に長門が駆け寄ったわ。

 全く、こんな時でも長門はブレないわね。

 電が引いてるじゃない…。

 

 「ごめんなさい、皆さんの足を引っ張ってばかりで…。」

 「やっぱり私いない方が…。」

 

 「バカ、そんな訳あるか! 陸奥!」

 ねえ長門、それもちろん羽黒にも言ってるのよね?

 ずっと潮しか見ていないみたいだけれど…。

 

 「陸奥よ、この長門に続け! 第一戦隊突撃、主砲一斉射!撃て――ッ!!」

 

 「あーら、長門ったらアレをやるの? 任せて、撃てーっ!」

 

 「46cmの威力、とくと味わうがいい!」

 

 「畳掛けます、五航戦の娘!」

 

 「ハイ!」

 

 「今度こそこの足柄が沈めてあげるわ、それッ!」

 

 「遅いよ。」

 ながもんタッチこと長門と陸奥の一斉射発動に武蔵の主砲一斉射と空母二隻、それに私と響の攻撃が絶妙のタイミングで被った?!

 お陰でレ級1中破、レ級2大破、レ級3撃沈、レ級4撃沈、レ級5中破、レ級6大破、タ級1撃沈、タ級3撃沈、タ級4撃沈、ヲ級1撃沈という信じられない戦果になったの!

 でももっと信じられない光景を目にする事になるなんて思いもしなかったわ。

 

 「ヘエ、ヤルジャナイカ。」

 

 「チクショウ…。」

 

 「ボクタチダケニ ナッテシマッタ ミタイダネ。」

 

 「クソッ、サイゴノ コウゲキハ ナンナンダ。コンナハズデハ…。」

 

 「クソジャナイヨ。タタカエナクナッタ ヤツナンテ イラナインダヨ。」

 

 「ナニヲスル?! ヤメロ!」

 

 「ヨセ、ボクハマダ タタカエル!」

 なんとレ級1とレ級5が大破したレ級2とレ級6を攻撃したの!

 当然、レ級2とレ級6は波間に…、消えて行ったわ。

 




※現在の状況
 レ級1中破 レ級2撃沈 レ級3撃沈 ヲ級1撃沈 タ級1撃沈 タ級2撃沈
 レ級4撃沈 レ級5中破 レ級6撃沈 ヲ級2撃沈 タ級3撃沈 タ級4撃沈

※潮ちゃん逃げるんだ、敵はより近くにいるぞ!

※最後の一斉射ですがまあ、決まってもここまでにはならないですよね。
 特にいま絶賛開催中のイベントなんかでは…。
 まあ、物語という事で許して下さい。


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第85話 タウイタウイ15(艦娘側:タウイタウイ羽黒2)

※イベント攻略が忙しい上に難しくてなかなか更新が出来ません。

※現在の状況
 レ級1中破 レ級2撃沈 レ級3撃沈 ヲ級1撃沈 タ級1撃沈 タ級2撃沈
 レ級4撃沈 レ級5中破 レ級6撃沈 ヲ級2撃沈 タ級3撃沈 タ級4撃沈


 「アイツ等、仲間を?!」

 信じられないといった感じで長門さんが生き残ったレ級達に目を向けました。

 

 「ナカマ? アンナ フガイナイヤツラガ?」

 

 「イヤイヤ。ムコウノ イウトオリダヨ、タマヨケニモナルシ、イレバ ソレダケ コウゲキガ ブンサンサレルンダカラサ。」

 

 「ソレモソウダナ。ドウヤラ、ボクガマチガッテイタミタイダ(笑)。」

 何でしょう、相手が仲間を減らしてくれたというのに少しもホッとしません。

 それどころか不快感、いえ怒りがこみ上げてきます。

 

 「貴様ら…。」

 武蔵さんも同じ気持ちなのでしょう、一切の躊躇もなく46cm砲が轟音を立てました。

 加えて長門さんの41cm三連装砲も火を噴きます。

 

 「やったわ!」

 至近距離からの大口径砲による砲撃が命中、それを見た足柄姉さんが勝利を確信したのかガッツポーズを?!

 姉さん、それはフラグというんです、止めて下さい!

 

 「ヘエ、カッタツモリナンダ。」

 

 「ワラワセテクレルヨナ。セイゼイ アガクガイイサ。」

 が、心配した通りにはならずレ級二匹とも撃沈寸前です。

 

 「負け惜しみを!」

 そして加賀さんと翔鶴さんの艦戦・艦爆・艦攻連合のカットイン攻撃が決まりレ級1とレ級5を海底へと追いやりました。

 

 「だって私、足柄がいるんだもの! 当然の結果よね、大勝利ィ!」

 足柄姉さんが勝利の雄叫びを上げています。

 それと同時にようやく皆の表情も柔らかくなりました。

 やはりレ級が6隻もいる艦隊、しかも随伴艦としてタ級4隻、ヲ級2隻の12隻を相手にすることが出来るのか皆、不安だったのです。

 特に旗艦を任された柱島第七泊地の長門さんにとっては凄い重圧だったに違いありません。

 ですが誰一人欠ける事も無く、という北大路提督から課せられた使命を成し遂げたのです。

 さすが改二艦、私もいつか改二になる事が出来たなら長門さんや足柄姉さんのような闘いができるのでしょうか?

 

 「さ、羽黒。帰るわよ、このままデスシャドウ島まで肩を貸すわ。しっかり捕まりなさいな。」

 そう言って足柄姉さんは私の腕を肩から首に回してくれました。

 同時に感じられる足柄姉さんの匂い。

 私を逃がすために足柄姉さんが沈んだのが一か月前。

 久しぶりに感じる足柄姉さんの匂いです!

 妙高姉さんとも那智姉さんとも違う足柄姉さんの匂い。

 どんな時でも私を庇い守ってくれた優しくて懐かしい匂い。

 私にとって何よりも安心できる匂い…。

 

 「うにゃっ! うにゃあ!」

 気が付けば私は体を入れ替えていました。

 しかも涙をポロポロこぼしながら足柄姉さんの胸に顔を埋めて思いっ切りスリスリし鼻を鳴らすという傍から見たら限りなく怪しい女になっていたのです。

 

 「ちょっと羽黒! 何してるのよ?! ハッ! まさかあなた…、ドコか頭を打っておかしくなったんじゃ…。」

 ただ、足柄姉さんにそんな事を言われる日が来るなんて思ってもみなかったですが…。

 

 「悪いわね、足柄。少しだけ好きにさせてあげて。羽黒ったら貴女の匂いで沈んでしまったタウイタウイ第二泊地の足柄を思い出したのね。同じ匂いだから仕方ないわ。」

 

 「姉妹の中で誰よりも羽黒さんの事を気に掛けていたのが足柄さんだったんです。最後は羽黒さんを逃がすために…。」

 

 「そうだったの…。」

 陸奥さんと翔鶴さんの話を聞いた足柄姉さんが頭を撫でてくれました。

 ああ、いっそこのまま柱島第七泊地の足柄姉さんがタウイタウイ第二泊地に移動してくれればいいのに。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「うう、申し訳ありません。」

 ひとしきり足柄姉さんの胸の中で泣いてスッキリすると同時に猛烈な羞恥に襲われました。

 

 「何言ってるのよ。貴女は私の妹なんだからそんな事は気にしなくていいわ!」

 

 「よし、ではデスシャドウ島へ帰投し…、うあっ!」

 長門さんが帰投を促そうとした時、天空から伸びてきた一条の光線が艦隊の側を横に抜けたのです!

 蒸発する海水で周りが見えなく無くなった程です。

 一体、これは?!

 




※ようやく、イベントがE-4まで進みました。
 でもここも3ゲージあるんですよね。もうウンザリです…。

※さて、艦隊の横を通り過ぎた光は一体何だったのでしょう?
 いずれにしろ、無害とは思えません。
 彼女達は大丈夫なのでしょうか?!


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第86話 タウイタウイ16(艦娘側:タウイタウイ名取1)

※イベントようやく終わりました。

※後はシロッコとシェフィールド掘りをどうするかです(正直、やりたくない)…。





※2021年01月23日、加筆修正


 「これはアルカディア殿と同じ光線兵器!」

 

 「一体、何処から?!」

 長門さんの声に上に目を凝らしますが何も見えません。

 ですが上空の一点がキラッと光ったかと思うと、今度は私達の足許を光が抜けました。

 

 「撤退、撤退よ! デスシャドウ島へ急いで!」

 加賀さんの叫びでようやく我に返った私達。

 大破艦に曳航ロープを掛け長門さんと陸奥さんを先頭とした複縦陣をとり最大戦速で海域を後にします。

 上空の一点が光る度、右に左に回避運動を行って海面に突き刺さる光を躱していきます。

 幸い一発を撃てば次弾までかなり間が空く上に、狙いもそれほど正確ではありません。

 まだ敵もこの兵器を扱い切れていないみたいです。

 ですが、同型艦である羽黒さんに肩を貸しながらの航行では思うように速度を出せない足柄さんが徐々に艦隊から落伍しつつあります。

 

 「足柄姉さん、手を離して下さい!」

 不味いです、足手纏いを嫌って羽黒さんは足柄さんから離れるつもりです!

 

 「馬鹿なこと言うんじゃないわよ! 必ず連れ帰ってみせるわ!」

 羽黒さんの手を離してという願いを足柄さんが一蹴しました。

 こんなところで取り残されてしまったらどうなるかなんて子供でも分かる事です。

 事実、上空からの光は足柄さんを集中的に狙うようになっています。

 少しずつ蓄積していくダメージ。

 

 「ちっくしょう、この私がここまでやられるなんて。」

 ついに足柄さんが中破に追い込まれました。

 

 「足柄姉さんっ?!」

 自分だけなら逃げ切れる、そう考える羽黒さんは今度こそ足柄さんを振りほどこうとしますが…。

 

 「いい加減にしなさい、羽黒! 何のためにここの私は沈んだのよ?! 何があっても貴女に生き延びて欲しかったからじゃない、それなのに一体どういうつもりなの!」

 

 「それは分かっています! でも今度は私が足柄姉さんを助ける番です!」

 

 「ハイハイ、それは帰ってから好きなだけやって頂戴。とにかく今は少しでもデスシャドウ島へ向かうのが先決よ。」

 

 「陸奥の言う通りだ。我々にはここで足踏みしている時間は無い。」

 そう言うと長門さんは足柄さんの背中を押し始め、陸奥さんは羽黒さんにロープを掛けました。

 

 「ちょっと長門! あなたまで狙われるわ!」

 「陸奥さん、私は大丈夫ですから!」

 

 「済まないが足柄の言う事も羽黒の言う事も聞いてやる訳にはいかん。何しろ我々の提督である北大路花火大佐から全員での帰還以外は認めないと言われているのでな。」

 

 「だったら曳航してくれた方が!」

 

 「フッ、足柄の考えなど手に取るようにわかるさ。途中でロープを切るつもりだろう(笑)。」

 

 「…。」

 足柄さんが黙ってしまいました。

 

 「さあ、もうひと踏ん張りだ。何としても全員で帰還するぞ!」

 足柄さんを押しながら紙一重で攻撃を避ける長門さんですが、徐々に至近弾がお二人を蝕んでいきます。

 

 「くっ、敵もなかなかやるな…。」

 航行速度に影響は無いとはいえ小破になった長門さんが悔しそうに呟きました。

 足柄さんに至っては大破状態になっています。

 

 「長門さん?! また私のせいで…。そんなの、そんなの…、だめえっ!」

 そう叫んだ羽黒さんが急に光に包まれました。

 これは一体?!

 光が消えるとそこには一切の損傷が無い羽黒さんが?!

 ダメコン発動かと思いましたが、身に付けている衣装が柱島第七泊地の足柄さんと同じです。

 あれは?!

 間違いありません、改二です!

 羽黒さんの強い意志と足柄さんへの強い思いが彼女を改二へと至らせたのでしょう。

 

 「こ、これは? 足柄姉さんと同じ制服?!」

 そして誰よりも改二になった事に驚いているのは彼女自身。

 レベル的にはもう十分改二へと到達していたのでしょう。

 それがカルチェラ提督の下では改二へと至る環境では無かったという事でしょうか。

 

 「羽黒、今度は貴女が足柄を引っ張る番よ。」

 加賀さんが羽黒さんの肩に手を載せます。

 

 「ハイ! 足柄姉さんの背中は私が支えます!」

 そう言うと彼女は足柄さんを米俵の様に頭上に抱え上げ最大戦速でデスシャドウ島を目指し始めました。

 足柄さんがジタバタしながら何か叫んでいます。

 ま、まあ、確かに背中を支えていますから宣言通りと言えばその通りですが(汗)。

 

 「デスシャドウ島はもう目の前だ、急げ!」

 全員がデスシャドウ島のブンカーに入ったと同時に光線が入口を撫でていきました。

 私達という目標を失った光線が今度はタウイタウイ第二泊地を蹂躙していきます。

 無人の建造物が相手の攻撃を引き受ける形になり私達は全員無事でした。

 アルカディア号さんはこれを見越していたのでしょう、やはり凄い方です!

 

 「よくやってくれた、ここからは任せてくれ。」

 へたり込んで息を切らせている私達の頭上からアルカディア号さんの声が!

 

 「アルカディア号さん…。」

 

 「どうした加賀、まるで幽霊でも見た顔をしているぞ(笑)。」

 

 「うっ…。」

 

 「ん?」

 

 「よかった…、本当によかった。貴方に万一の事があったら私…。」

 加賀さんがアルカディア号さんの胸に顔を埋めて泣いています。

 鉄面皮といわれる加賀さんがここまで感情を露わにするなんて…。

 いえ、アルカディア号さんがそれだけのお方だという事なのでしょう。

 

 「お前達だって入渠すれば損傷が治るだろう。珍しい事ではあるまい。」

 

 「対艦娘専用銃で複数発撃たれたのよ。いかな貴方といえども駄目なんじゃないかって…。」

 

 「大袈裟だな、加賀は(笑)。」

 

 「せっかく正規空母の側室筆頭艦に選んでもらえたのよ。それなのに女として見てもらえないままなんて私は嫌です。」

 そう言って加賀さんは何とアルカディア号さんにキスを?!

 北大路提督が指をポキポキ鳴らしてますが大丈夫なんでしょうか…。

 あ、北大路提督がアルカディア号さんの足を踏んづけてグリグリしてます。

 

 「オホン、アルカディア号よ、私は北大路提督の全員で帰投せよとの命令を守った。今度は貴様が無事に帰ってくる番だ。」

 咳払いをした長門さんが少々上ずった声でアルカディア号さんに無事に帰ってくるように声を掛けました。

 

 「わ、わかった約束しよう。ん?」

 アルカディア号さんが何かに気付いたらしく長門さんに近づきました。

 

 「やはりか。この長く真っ直ぐな美しい黒髪に焦げ跡が…。」

 

 「いやこんなものは出撃するたびに…。」

 

 「待っていろ、長門。必ず生け捕りにしてお前の前に突き出してやる!」

 アルカディア号さんが艤装を展開しました。

 初めて見るアルカディア号さんの艤装です。

 暗緑色の船体前部には大きな髑髏のレリーフ、そして後ろには帆船を模した船尾艫。

 そして大きな三連装砲塔が左腕に二基、右腕に一基。

 胴体横から伸びる翼、それに艦載機発進口のハッチ。

 あらゆる面で私達の艤装とは一線を画しています。

 そして、その…、とにかくカッコいいんです!

 隣りにいる陸奥さんと翔鶴さんの目がハートになってますね。

 

 「いや、だから出撃すれば私に限らす焦げ跡ぐらい何処にでも付く…。」

 

 「濡れ羽色とはよくいったものだ。もっとも長門に会うまでは現実に存在するとは思ってみなかったがな。」

 そう言ってアルカディア号さんは長門さんの髪をそっと手で梳きました。

 

 「いや、そういった事も嫌いではない…。」

 長門さんが赤くなって俯いてしまいました。

 

 「花火、先ほど言った事は覚えているな? そのまま大人しく待っていてくれ(笑)。」

 

 「分かりました。ですが返ってきたら僅かな損傷でもあっても入渠して下さい。」

 

 「分かった。約束しよう、という事で足をどけてくれないか?」

 

 「ふんっ。」

 

 「行くぞ、補助エンジン全開! アルカディア号、発進!」

 アルカディア号さんの艤装後部から巨大な墳進音がすると彼は一気にブンカーを出て高度を上げて見えなくなってしまいました。

 




※お気に入り登録の数がかなり増えて大変ありがたく思っております。
 年末で業務が忙しい中、投稿頻度が落ち気味ですが出来るだけペースを上げたいと思ってますので、お時間が許せばまた覗いて下さいますようお願い致します。


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第87話 タウイタウイ17(艦娘側:北大路花火4)

※皆様、明けましておめでとうございます。
 投稿を始めたのが去年の4月、飽きっぽい上に文才の無い私がよくここまで持ったと感心しています。
 何とか完走に向けて走り切りたいと思いますので今後ともよろしくお願い致します。

※長門さんのお話をロクに聞かず、すっ飛んでいたアルカディア号ですが入渠中は一体どうしていたのでしょうか?


 デスシャドウ島のブンカーで長門たちを見送った後、アルカディア号さんは早速ドックへと足を向けられました。

 

 「皆さん、大丈夫でしょうか?」

 

 「今は信じるしかあるまい。俺も入渠などせず今すぐにでも出たいのは山々だが。」

 

 「まだそんな事を仰るのですね。分かりました、このまま入渠場まで私も行きます!」

 あれだけ腹部から出血しているというのにどういうおつもりなんでしょうか?

 ここで私の未来に狂いを生じさせる訳にはいきません。

 え、どんな未来予想図なのかですって?

 それはまあその…、色々です…(ぽっ)。

 

 「しっかり見張らせてもらいますから(喜々)。」

 アルカディア号さんの後ろを歩きながらそう宣言しました。

 傷が治り切らないのに出撃したり、そもそも入渠室に入っただけで浸からなかったりと悪い事ばかり想像してしまって…。

 だからこれは(主に私の心の安寧の為に!)仕方の無い事なんです。

 ええ、仕方ないんですよ(大事な事なので2回言いました)!

 

 「バスタブに入ったら教えて下さい。」

 脱衣所に着くとアルカディア号さんに背中を向けます。

 

 「は、花火?!」

 アルカディア号さんが狼狽しているようですが、こちらだってもう引けません。

 

 「申し訳ありません。アルカディア号さんの事を信用していない訳では無いのですが、以前に婚約者のフィリップを失ったせいで物事を悪い方へ悪い方へと考えてしまって…。もし、完全に治り切らないのに出てきたらとか…。」

 

 「わ、分かった。俺もまだまだだという事か。これからはより花火の信用を得られるよう努力しよう。」

 後ろを向いたままなのを利用してサッと目薬を差しクスンとやると、アルカディア号さんたら面白いほど簡単に引っ掛かってくれました(笑)。

 自分でやっておいてなんですが、ここまでチョロ過ぎると逆に心配です。

 しっかりとした自分をお持ちなので誘惑にはお強いでしょうが、この調子ですとドコか演習に出向いた先でコロッと絆されてしまいそうで…。

 特に神崎中将やマリア・タチバナ中将なんか要注意ですね。

 あ、でもどうでしょうか?

 アルカディア号さんは神崎先輩を提督枠の側室筆頭にと思ってらっしゃるようですが、プライドの高いあの人の事ですから正室でなければお受け出来ませんわ!と辞退されるかもしれません。

 いえ、して下さい。

 やっぱり正室として赤ちゃん授かるものは先に授かりたいですから…(ぽっ)。

 そんな事を考えているとアルカディア号さんから入渠槽に入ったとの声が。

 

 「はい、分かりました。」

 ついに来てしまいました。

 意を決してパンティストッキングを膝まで下ろします。

 お側に控えるだけとはいえ奥手の私が自ら殿方の入渠に付き合うなんて、少し前なら自分でも考えられなかった事です。

 もう心臓が口から飛び出そうです。

 まあでも…、さすがにタオルぐらいは巻いていらっしゃるでしょう(フラグ)。

 

 「待て、花火。ひょっとして入るつもりか?!」

 そのままパンストから足を抜き取ると扉の向こうからアルカディア号さんの焦った声が。

 

 「ええ、そのつもりです。アルカディア号さん、貴方を、好きな人を信じることが出来ない私を許して下さい。そして物事を悪い方へと考えてしまう私を助けて下さい。時間が掛かっても構いません、私を安心させて下さい…。」

 扉を開け一歩一歩アルカディア号さんの入渠漕へと足を進めます。

 艦娘用と違いアルカディア号さんの入渠漕は水色の液体です。

 透明度は全く無く、ホッとした気持ちと残念だという気持ち(3:7)で、逆さまにした桶を椅子代わりにするとアルカディア号さんの側に腰を下ろしました。

 




※あと一話だけこの入渠場の話になります。


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第88話 タウイタウイ18(アルカディア側6)

※出撃した11名は必死だというのにこの人達、何をやってるんですかね…。



 「ぐすっ…。」

 相変わらず花火は下を向いたままだ。

 可哀そうにやはり人前で下着姿を晒してしまった事を気にしているのだろう。

 子爵令嬢の立場や世界などこっちには到底分からない。

 やはり長年身を置いてきた彼女にしか分からない事があるのだ。

 

 「そう泣くな。女に泣かれるとどうしていいか分からん。」

 こちらの前では気にするなというつもりだったのだが…。

 

 「そこは女ではなく私の名前では?」

 逆に機嫌損ねてしまった。

 

 「そ、そうだな。すまなかった。」

 

 「やっぱり私、嫌われたのですね。こんな浅ましくはしたない女ですもの…。」

 目をしばたたかせる花火。

 これはマズイ、そんなつもりは全然無いのに!

 

 「やはり花火の信頼を得るためには出撃…。」

 

 「駄目です! それこそ私の信用を無くしますから!」

 ブルーメール閣下が言っていたのはこれか。

 一度殻に閉じこもってしまうと超面倒臭いのだ。

 

 「大丈夫か、花火。響子さん化してきてるぞ。」

 思わずボロアパートの管理人さんを思い出してしまった。

 

 「響子さん? 響子さんって…、誰なんですか?」

 

 「一刻館というアパートの管理人さんだ。知らないのか?」

 ウソやん?!

 この世界では高橋留美子は存在しないの?

 

 「ええ、どんな方なんでしょうか? 場合によっては…。」

 場合によっては?!

 メッチャ物騒な感じがするんですが、それは…。

 

 「柱島に帰ったら視てみるがいい。単行本とアニメ版とどちらがいい?」

 まあ、無かったら例の女神に頼んで元の世界から取り寄せてもらおう。

 

 「え、単行本? アニメ版?」

 花火がキョトンとした顔になる。

 

 「人よりも苦労を背負い込んでしまう世渡り下手な青年である主人公の五代裕作と、生来の鈍感さと亡き夫へ操を立てるがゆえの真面目さを合わせ持つ音無響子さんが織り成す物語だ。簡単に言うとハートフル&ラブコメディだな。」

 

 「最後はどうなるのですか?!」

 確かそんな話だったはずだと思うんだけど何でそんなに食い気味なんだ?

 実は読んだこと無いから詳しい事なんて分かんないんだよ。

 

 「もちろん、ちゃんと結ばれる。特に五代のプロポーズの言葉とそれに対する響子さんの返答は明言中の名言だぞ。」

 ま、そこだけは有名なんで知ってるんだよね(笑)。

 

 「そ、それは一体どういう御返事だったのですか?!」

 いやだから何でそんなに食い気味なんですかね?

 

 「それは柱島に帰ってからのお楽しみだ。」

 スイマセン、私よりも長生きして下さいの部分しか知らないんです(汗)。

 

 「よし!」

 入渠残り時間を示す数字が丁度0になったので立ち上がる。

 

 「…。」

 

 「あ…。」

 しまった、まさか花火が乱入してくるとは思わなかったからタオル巻いてなかったわ…。

 

 「ヒッ!」

 花火が手で顔を覆って…、いや指の間からしっかり見てますよね、アナタ!

 ってか何で女の人ってそれやるんですかね?

 悲鳴上げて顔を覆うぐらいなら目を瞑ればイイと思うのですが。

 

 「す、すまん。だがどうせ後でまた目にする事になるのだ、気にするな。」

 サクラン坊ーイらしく控え目な脱童貞の依頼(なつもり)だが果たしてどういう返事が?!

 どういう意味とか、そんなつもりはありませんとか言われた日には立ち直れない自信がある。

 いやまだ翔鶴がいるではないか、逃げ道は常に用意しておくものだからな。

 はっはっはっ…。

 

 「そ、そうですね。私を抱いて頂けるという事は無事にお帰りになられると信じています。ですから…。」

 サクラン坊ーイ卒業キター!

いや、だからってそんなにシゲシゲと見つめるのはどうかと思います…。




※アルカディア号、北大路提督で念願の脱童貞なるか?!

 それとも翔鶴が先か加賀が先になるのか、はたまた飢えた狼さんがパクッと?!


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第89話 タウイタウイ18(アルカディア側:台羽妖精1)

※タウイタウイ第二泊地の艦娘さん達は未知の闘いを見る?!




※2021年02月06日 誤字修正


 「アルカディア号、発進! 補助エンジン全開!」

 キャプテンがデスシャドウ島のブンカーを飛び出すと同時に敵のビームが命中する。

 

 「キャプテン!」

 

 「心配は要らん。流石はキャプテンハーロックが我が友と呼ぶ男が作っただけはある。トチローには感謝しかないな。」

 船体を確認するとキャプテンの言う通り本当に掠り傷程度だ。

 そのまま一気に高度を上げていくアルカディア号。

 

 「あれか!」

 艤装を展開した女性とその周りに浮かぶマゾーンの戦闘艇。

 

 「ローラ!」

 その中の一機に忘れようもない相手が!

 カルチェラ少佐に北大路提督を辱める力を与えた元凶だ。

 向こうもコチラに気が付いたのだろう、操縦席の中で彼女が嗤った。

 あれは自分が勝つことを確信している目だ。

 クソッ、僕だっていつまでもやられっ放しじゃない、見てろ!

 

 「キャプテン、発進許可をお願いします!」

 

 「よし、スペースウルフ隊発進! 台羽、分かっているとは思うがローラは強敵だ、術中に嵌るなよ。」

 

 「了解、分かっています!」

 そう叫んで艦載機発進口ハッチが開くと同時に飛び出す。

 狙いは当然、編隊長であるローラ機だがいきなり一対一の闘いには持ち込めない。

 まずは相手の数を減らすのが先だ。

 ドッグファイトの最中、マゾーンの母艦から発射されたレーザーがキャプテンの頬を掠めたのが見えた。

 ニヤリとしてその紅い筋を手で拭うキャプテン。

 久々に骨のある相手と戦えるのが嬉しいのかもしれない。

 

 「パルサーカノン発射!」

 アルカディア号の放ったパルサーカノンが相手の主砲二門を吹き飛ばす。

 悲鳴を上げてヒットバックするマゾーン母艦。

 こちらを睨み付け口元の血を拭うその姿には焦りと苛立ちがハッキリと見て取れる。

 向こうの主砲だってアルカディア号を捉えたというのにカスダメしか与えられていないというのでは無理もない。

 だが同情は出来ないし、その余裕もない。

 ここは命のやり取りをする場所なんだ。

 余計な事を考えず戦闘艇を一機、また一機と撃墜していく。

 それでもボレット1号&スペースウルフ隊をすり抜けた戦闘艇がアルカディア号に襲い掛かった。

 

 「台羽、こっちは気にするな! お前はローラだけを追え!」

 アルカディア号に群がる敵戦闘艇の後を追おうとする僕にキャプテンからの指示が!

 キャプテンの的確な操艦技術もあり、アルカディア号のスペースバスターとデスシャドウ島からのミサイルに迎え撃たれ戦闘艇は一気にその数を減らしてしまった。

 

 (見つけたぞ、ローラ!)

 ローラの機体を発見した僕は直ぐに後ろを取った。

 だがその時、急に目の前に父さんと母さんの顔が現れたんだ。

 

 『何をしているんだ、正。お前はそんな殺し合いをするような子ではなかっただろう。』

 『ああ、あなた。あれだけ優しかった正が戦いに身を投じるようになってしまうなんて…。』

 くそっ、ローラ!

 お前はまた人の心を弄ぶのか!

 場所も地球にあった自分の家の庭になっている。

 以前は幻覚だと認識する事さえ出来なかったけれど、今はハッキリと幻覚である事が分かる。

 でも分かるだけではダメだ、ダメなんだ!

 父さんと母さんが何か言っているけれど全く耳に入ってこない。

 聞こえるのは自分の心音と息遣いだけ。

 

 父さんと母さんがこっちにやってくる。

 このまま動けなければやられる、頭では判っているのにトリガーを引くことが出来ない。

 

 『『さあ、正。こっちにおいで(いらっしゃい)。』』

 右から来た父さんと左から来た母さんが真ん中で重なった。

 

 「父さんも母さんも死んだんだ!」

 そう叫ぶと同時にボレット1号のトリガーを引く!

 

 不意に周りの景色が戻り正面には炎上するローラの戦闘艇が!

 操縦席の中で高笑いする彼女はそのまま脱出する事も無く機体と運命を共にした。

 ホッとしてアルカディア号に目を向ける。

 マゾーン母艦の主砲が再びアルカディア号に命中するも、やはりカスダメ程度。

 改めてアルカディア号の偉大さに驚かされる。

 反撃かと思いきやキャプテンは腰の銃(コスモドラグーン)を抜いてマゾーン母艦を撃沈ではなく戦闘不能に追いやった。

 相手も戦闘続行不能と判断したのか成層圏から宇宙空間へと逃走を図る。

 それをキャプテンは体当たりで気絶させると鎖で雁字搦めにしてしまった。

 

 「よくやってくれた、台羽。帰還するぞ。」

 アルカディア号のハッチが開く。

 ヘルメットを脱ぎため息を吐くと生きている事を実感できた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「どうした、お前達?」

 キャプテンがデスシャドウ島に帰還するとブンカー内が大騒ぎになったんだ。

 鹵獲?捕虜?にしたマゾーン母艦を見た途端、北大路提督さん・長門さん・加賀さん・足柄さん・鳳翔さん・伊良湖さん・間宮さんが真っ青に。

 

 「こいつは?!」

 

 「知っているのか、長門?」

 

 「ああ…。前柱島第七泊地の司令官、影山サキだ。」

 何でもこのマゾーン母艦は前柱島第七泊地の提督であった人物らしい。

 つまり彼女は人間なのに艤装を装備して戦っていたという事になってしまう。

 一体、どういう事なんだ?

 人間を艦娘?にしてしまう技術をマゾーンが開発していたという事なのか?!

 北大路提督が軍令部に緊急報を入れると既に真宮寺大将がここタウイタウイ第二泊地の摘発に専用機で向かっているらしい。

 そしてキャプテンは影山サキを担ぎ上げると北大路提督を連れてデスシャドウ島の収容施設へと行ってしまった。




※何とアルカディア号が捕虜として生け捕って来たマゾーン母艦は前柱島第七泊地の司令官であった影山サキでした。
 これから物語は一体どう動いていくのでしょうか?!

※そしてタウイタウイ第二泊地に専用機で向かっている真宮寺大将ですが、一人ではないようです(謎)。


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第90話 タウイタウイ19(艦娘側:タウイタウイ妙高)

※瓦礫の山と化したタウイタウイ第二泊地。所属艦娘達は何を思うのでしょうか…。





※2021年01月23日 一部修正
※2021年01月25日 一部修正
※2021年02月06日 一部修正


 「私達のタウイタウイ第二泊地が跡形もなく…。」

 一瞬にして瓦礫と化してしまったタウイタウイ第二泊地。

 昼過ぎまでは汚いながらも存在していた建物、それがこうも簡単に無くなってしまうなんて。

 まるで私達を見ているようです。

 

 「これでいいんですよ。私達にとってはこれ以上無い忌まわしい場所なのですから。」

 

 「不知火さん…。」

 駆逐艦は特に建造、あるいは顕現(ドロップ)しては沈むを繰り返してきました。

 その最たるのが朝潮型と陽炎型だった事を思うと彼女の気持ちは察するに余りあります。

 

 「私達これからどうなるのでしょうか…。」

 私達全員の心中を代表する赤城さんの呟き。

 新たに着任する提督がまた同じような人なら…。

 あるいは提督を見殺しにした艦娘達だと判断されたら…。

 

 「連合艦隊司令長官である真宮寺大将がこちらへ向かっています。指示を仰ぎましょう。」

 北大路提督によると遠征艦隊の『陸奥』さん・『翔鶴』さん・『羽黒』さん・『名取』さん・『潮』さん・『電』さんを保護した時点で連絡を入れたところ、その日に二式大艇で横須賀を立ったらしく、あと一時間もしない内に到着するとの事です。

 

 「解体かもしれないわね、私達。」

 

 「解体? どういう事なのかしら?」

 ここ(タウイタウイ第二泊地)の加賀さんに柱島第七泊地の加賀(改二)さんが理由を尋ねます。

 

 「経緯はどうあれ解除スイッチを渡された私達10名はカルチェラ提督を見殺しにしたという事です。」

 

 「ええ、海軍軍令部にとっては艦娘の反乱とも取れますからね。そんな危険分子を野放しにしておくとは思えません。」

 加賀さんに代わって私と不知火さんが理由を説明しますが、柱島第七泊地の長門(改二)さんが真っ向から反対意見を唱えます。

 

 「それは考え過ぎだろう。そもそもこの酷過ぎる艦隊運営を見過ごしてきたのは軍令部だ。責任はむしろ向こうにあると考えるのが普通ではないのか?」

 

「長門、少し口が過ぎますよ。真宮寺大将がどのようなお方か貴女も知らない訳では無いでしょう?」

「皆さんも安心して下さい。真宮寺大将に限ってそんな事はありません。万一の場合だってアルカディア号さんが守ってくれます。」

 アルカディア号さんが守ってくれます、の部分を強調される北大路提督。

 

 「私とてそれは分かっている。私が不安なのは大神元帥や真宮寺大将の意思がそのまま通るほど軍令部は一枚岩では無いという事だ。」

 

 「心配は要らん。花火の言う通りあの二人がそのような決定を下す事はない。それに大神殿からはブラック鎮守府の撲滅依頼を受けている以上、ここの艦娘達を守りきるのも俺の仕事だ。」

 

 「そうか。そうだったな。」

 長門さんは最後に不安を煽ってすまなかったと私達に頭を下げられました。

 

 「ええ、その通りです。ところでアルカディア号さん、あの小型対人爆弾とやらは本物だったのですか?」

 

 「ふっ、バレていたか(笑)。」

 ニヤリとするアルカディア号さんですが、それこそ一体どういうことなのでしょうか?

 

 「カップ焼きそばにお湯を入れた後、フタの上に同じものを置いて時間を計っていらしたのを見たものですから(笑)。」

 な、何ですって?!

 じゃあ、あれは只の計測時計(ストップウォッチ)?

 北大路提督からの驚くべき種明かしが!

 

 「だそうですよ、皆さん。それからアルカディア号さん? 健康上、夜中にあのようなモノを口にするのは控えるのが良いかと。」

 

 「む、善処はするが難しいな。深夜、小腹が減った時に食べると何ともいえない背徳感と満足感があってそれがまたイイのだが。」

 そう言うとアルカディア号さんは北大路提督の可愛らしい頬をチョンと突っつきました(笑)。

 

 「それに『初雪』・『望月』・『秋雲』達もよく食べにくる。『川内』なんかは常連だし、この間は晩飯を食い損ねた『赤城(改二)』と『摩耶(改二)』がやって来たぞ。何でも筆頭事務官の大淀に晩飯抜きの厳罰を言い渡されたらしい。何をしでかしたかまでは聞かなかったが(笑)。」

 

 「そ、そんな…。」

 

 「だが花火の頼みだ。出来るだけ控えよう、その代わり以降は花火を食べるとするか(笑)。」

 それを聞いた北大路提督は両手で顔を覆って真っ赤になってしまいました。

 アルカディア号さんたら何て大胆なんでしょうか。

 

 不意に袖がくいくいと引っ張られました。

 見ると雷さんが真っ青になっています。

 

 「アルカディア号さんたら、カニバリズムなの?! 北大路提督さん、食べられちゃうの?!」

 目を潤ませて声を震わせる雷さんですが、一体何と答えればいいのでしょうか?

 

 「いえ、そういう意味ではないと思いますよ。ですから安心して下さい。」

 今度は私が震え声になってしまいました。

 カニバリズムを知っていて、この食べるの意味が分からないなんて雷さんワザとなのではないでしょうね…。

 

 「え、じゃあどういう意味なの? ね、ね? パーフェクトレディの妙高さんなら知ってるわよね!」

 もう止めて下さい、これ以上私にどうしろというのですか!

 周りに助けを求めますが、誰も目を合わせてくれません。

 

 「雷。意味が分からないなら後で秋雲に聞くといい。」

 思わぬところ(響さん)から助け船が!

 

 「う、うえぇっ! あ、あたし?!」

 秋雲さん、ごめんなさい、後はお任せします!

 

 「ああ、お手製の教科書やら参考書が沢山あるだろう? 先に言っておくけど君のペンネームを知らないとでも思ったら大間違いだ。」

 手製の教科書やら参考書?

 ペンネーム?

 響さんが何を言っているのか分かりませんが、私の手を離れたならそれでいいです。

 

 「では秋雲さん、後はお願いしますね。」

 項垂れる彼女の肩にそっと手乗せて雷さんを押付けお願いしました。




※あらあら…。これは本当に北大路提督さん、食べられちゃいそうですね…。
 しかし雷さんの無垢な瞳でこんな事を尋ねられたら妙高さんでなくても言葉に詰まるのは間違いないでしょう。
 艦隊の頭脳さんや飢えた狼さんなら何と答えたのでしょうか?(笑)

※秋雲先生のお手製の教科書やら参考書? はて一体何なのでしょうね?
 ドギツイ内容でなければいいのですが…。


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第91話 タウイタウイ20(艦娘側:鳳翔)

※デスシャドウ島の大食堂に集められたタウイタウイ第二泊地の艦娘さん達。
 これからの身の振り方などどうするのでしょうか…。






※2021年01月28日 一部修正


 デスシャドウ島の大食堂に集まって頂いたタウイタウイ第二泊地の艦娘さん達ですが、生気というものが感じられません。

 よほど酷い扱いを受けていたのでしょう、私達の北大路提督に対してさえ怯えている方もいらっしゃいます。

 まるで影山提督時代だった私達と同じですね。

 改めて柱島第七泊地に北大路提督が着任された事に感謝しないと。

 

 それでも白いご飯、さらには肉の焼ける匂いと音に少しずつ反応が出てきました。

 こういう時は温かくて美味しい物を頂くのが一番です。

 さすがはアルカディア号さん、良く分かっていらっしゃいますね。

 一航戦のお二人や武蔵さんといった大型艦の方達が箸を持つと、それにつられて他の方々も恐る恐る食事に手を付け始めました。

 直ぐにあちこちから美味しいという声とすすり泣きが。

 

 「あの子達にも食べさせてあげたかったよね…。」

 那珂さんがしんみりと呟きました。

 私のイメージでは持ち前の明るさでどこの艦隊でも艦隊のムードメーカーのはずですが、それが一切感じられません。

 

 「ああ、俺は今でも沈んで行ったチビ達の顔を忘れた事はねえよ。」

 

 「昨日沈んだ駆逐艦達が新たに建造されて、またそいつを連れて遠征に行く。流石の俺も途中から数えるのを止めちまったぜ…。」

 天龍さんと木曽さんのお箸が止まってしまいました。

 

 「アンタ、もっと早く来れなかったの?! あれだけの力を持っていながらどうして…。」

 

 「五十鈴っ! アルカディア号さん、申し訳ありません!」

 長良さんが五十鈴さんとアルカディア号さんとの間に割って入りました。

 本来なら五十鈴さんだってこんな八つ当たりをするような方では無いはずです。

 彼女をここまで変えてしまうような酷い艦隊運営がなされていたという事実に私も憤りを禁じえません。

 

 「でもやっぱり私達だけ解放されていいのかという思いはあるんです…。」

 

 「だからといって残された者が幸せになってはいけないという事はあるまい。散っていった者達もそう願っているはずだ。」

 俯く長良さんの肩にアルカディア号さんが手を置きました。

 

 「そうでしょうか? 私も何人もの同じ艦娘が沈んでいくのを見てきました。その子達の犠牲の上に今があるのかと思うとやはり複雑です。」

 

 「神通さん…。」

 北大路提督が膝の上で手をギュッと握り締めました。

 

 「だが沈んで逝った者達もそれに縛られることを望んではいまい。結局、残された者はそれを超えていく事しかできないのだ。」

 

 「犠牲になった方達を忘れない、その心がある限り貴女達は大丈夫です。このタウイタウイ第二泊地はそう時間を置かずに生まれ変わる事が出来るはずです。」

 「またそれぞれ新たに姉妹艦が着任する時が来るでしょう。思い出を共有する事は出来ませんが、また新たな思い出作りができるよう祈っています。」

 さすがはアルカディア号さんと北大路提督です。

 いつまでも下を向いていてはいつまでたっても立て直しも出来ませんからね。

 

 「陽炎姉さん、また来てくれるやろか?」

 

 「きっと来ます! 雪風にはそんな気がするんです!」

 陽炎型の関西弁といえば黒潮さん、その彼女に幸運の女神のキスが(笑)。

 

 「足柄姉さんも来てくれるでしょうか?」

 

 「ええ、きっと。それも案外早いかもしれません。」

 羽黒さんと妙高さんのお二人も前向きなお話をされていますね。

 

 「でしたら私達金剛型も出来るだけ早く金剛お姉さまをお迎えできるように気合入れていきます!」

 

 「ええ、私の頭の中では既にどこの海域でお姉さまと出会える確率が高いか計算済みです!」

 

「はい、榛名も大丈夫(捜索準備OK)です!」

 足柄さんだけでなく金剛さんまで沈んでいたというのですか?!

 もう開いた口が塞がりません。これは軍令部の監査部や軍警にまで責任問題が及ぶでしょうね。

 重要証人としてアルカディア号さんも北大路提督もまた軍令部、下手をしたら大本営まで足を運ぶ破目になるかもしれません。

 

 「その意気だ。ただ待っているだけでは事態も好転はしない。捜索に関する海域攻略には俺も手を貸そう。」

 何という事でしょう、アルカディア号さんが協力してくれるなら確率はグッとアップです。

 そう思ってホッとした時、食堂に大きな声が響き渡りました。

 

 「ちょっと待つデース! 比叡・榛名・霧島、なに人を勝手に死んだことにしてるデスカー?!」

 

 「羽黒、私はまだ生きてるわよ! 妙高姉さんも縁起でもないこと言わないで(笑)。」

 

 「本当よ、せっかく真宮寺大将の専用機で文字通り飛んで来たってのに死んだ事になってるなんて。化けて出てやれば良かったかしら(笑)。」

 




※作者:最後に三人分の謎の声が聞こえたようですが、一体?!

 アル:随分と白々しいな。金剛に足柄、そして陽炎じゃないか。

 作者:それはそうなんだけど(笑)。
    次章ではこの件に関して軍令部に行ってもらうからよろしく!

 アル:存分に暴れていいという事だな(笑)。

 作者:違います。花火さんに迷惑を掛けないよう行儀よくして下さい。


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第92話 タウイタウイ21(艦娘側:真宮寺大将)

※真宮寺大将がタウイタウイ第二泊地に到着しました。

 


 「「「う、うわあああーっ! 金剛お姉さまぁーっ!」」」

 

 「「「足柄…、本当に私達の足柄(姉さん)なの(か)?」」」

 「「「陽炎っ!」」」

 「このアホっ、生きてたら連絡ぐらい寄越しーな! 今までウチらがどれだけ心配したと思うとんねん…。グスッ。」

 

 「お久しぶりです、北大路大佐。それにアルカディアさん。」

 再会を果たした三人の邪魔にならないよう、ゆっくりとお二人の前に足を進めると全員が敬礼で迎えてくれました。

 

 「横須賀の月例会議以来ですね、真宮寺長官。早速ですが、あの…、これは?」

 北大路大佐が戸惑っていらっしゃるようですが無理もありません。

 

 「一ヶ月ほど前に識別票さえ失ってしまった程の大破艦がタウイタウイ沖にある小島で発見されました。」

 「意識を取り戻した彼女達の話を聞いてくれたタウイタウイ第一泊地のサジータ・ワインバーク少将からタウイタウイ第二泊地所属では酷い艦隊運営がなされている、助けてやってくれないかというものだったんです。」

 金剛、足柄、陽炎が頷きます。

 

 「もちろん、ワインバーグ少将自身も第二へ調査員を派遣したのですが何も問題は無いという事でした。ですが彼女は逆に何も無いというのに引っ掛かりを感じ私に連絡をくれたのです。」

 

 「最初は半信半疑でしたが、何度軍警や監察官を送り込んでも調査結果は問題無しというものばかり。彼女達がデタラメを言っているようにはみえませんし、何より体中の痣や傷が事実であることを物語っていましたから。ですから怪我が治っても簡単にはタウイタウイ第二泊地へ帰すことが出来なかったのです。」

 

 「なるほど、当然それでは生存報告も出来ないな。」

 さすがアルカディアさん、理解が早くて助かります。

 

 「ええ、私自ら乗り込んでも良かったのですが、カルチェラ少佐は人に対して不思議な暗示能力を持っているから絶対に行ってはいけないと…。」

 「そんな時に北大路大佐からアルカディアさんと共に乗り込むという連絡を頂いたのでご一緒させ…。」

 北大路大佐?

 どうしたのでしょうか、急に彼女の目が泳ぎ出しましたけど?

 

 「足柄だけでなく金剛と陽炎も轟沈扱いになっていたのか。いずれにしろ三人も無事だったのは喜ぶべき事だ。」

 アルカディアさんの仰る通りなのですが、私がもっと早くに気付き動けていればもっと多くの艦娘達が助かったでしょう。

 そう思うととても喜ぶ事は出来ません。

 

 「真宮寺大将、お願いがあります。」

 加賀が私の側にやって来ました。

 改二でないという事はここタウイタウイ第二泊地の加賀ですね。

 

 「私に? 一体、どのような事ですか?」

 

 「私は解体になっても構いません。そのかわりここの立て直しに関しては出来る限りの支援をお願います。」

 これは穏やかではありません。

 一体どういう事なのでしょうか?

 

 「待って! 加賀さんはここの立て直しには必要不可欠よ、それは私が!」

 

 「これだから五航戦は…。ここの立て直しには貴女達の力こそ必要なのよ。翔鶴と共に新生一航戦として…。」

 

 「いい加減になさい二人とも。そもそもいきなり解体だなんてどういう事ですか。私にも分かるように説明なさい。」

 全く…。

 私がその言葉を最も嫌うのは知っていると思っていましたが。

 

 えッ?!

 そういえばカルチェラ少佐が見当たりません。

 まさかとは思いますが加賀が彼女を?!

 

 「真宮寺大将、それは俺が説明しよう。」

 加賀と瑞鶴が顔を見合わせているとアルカディアさんが立ち上がりました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「なるほど、そのような事が…。」

 

 「ただの茶番だったのだが、助けようとしなかったのは事実だ。反乱と捉えられても仕方ないと…。」

 あらあら、これはまた『スカッとジャパン』に即採用されそうな話ですね。

 くぅ~っ、その場に居たかったなぁ。

 

 「あ、え?」

 側にいる霧島の眼鏡を借ります。

 その眼鏡をいったん掛けてから震える手でそれを外します(笑)。

 

 「…。アルカディアさん、加賀さん、瑞鶴さんは残りなさい。」

 いや、これやってみたかったんです(笑)。

 もう、軍令部にいると息が詰まって息が詰まって…。

 

 「どうしてローラとやらは私が到着するまで待ってくれなかったのですか! マゾーンのヤツらは深海さんだけではなくブラック鎮守府の提督にまで接触を掛けて来るし、軍令部としても頭が痛いんですよ! 大本営には何て説明すればいいんですか?! 陸軍なんてイチイチ海軍の事案に反対してくるし! あんな連中なんて大っ嫌いだ! でも艦娘を人として扱わないヤツはもっと大嫌いだ、バーカ!」

 案の定、全員が唖然としていますね。

 でもきっと分かる方がいらっしゃるはずです。

 見渡すと『秋雲』・『初雪』・『望月』・『明石』・『夕張』、それからドイツ艦の皆さんが笑いをこらえていますね。

 あ、結構いるいる(笑)。

 

 「総統シリーズネタ、ktkr!」

 

 「いやあ意外だねえ、真宮寺大将がこのネタをブッ込んでくるなんてさ(笑)。」

 

 「良かったです、誰も知らなかったらどうしようかと思いましたから。」

 

 「あのそれは一体…。」

 相変わらず北大路大佐は真面目ですね。

 知らなけば知らないに越したことがありません。

 

 「ああ、気にしないで。第一、そんなの解体なんてする訳ありません。というか私だって絶対押しませんから(笑)。」

 押すヤツこそ解体して良いぐらいでしょう。

 

 「では私は…。」

 

 「ええ、安心して下さい。当然、解体なんてしませんし、させません。その上で軍令部を上げた全力の支援を約束します。それから当面全員の身分は軍令部預かりです。横須賀で本格的な訓練と演習をして練度を上げて頂きます。タウイタウイ第二泊地の建物が復旧次第、戻ってもらう事にはなりますが。」

 

 「さすがは真宮寺長ネー!」

 

 「それでこそ連合艦隊司令長官だ。俺も出来る限りの事は協力しよう。」

 そんなに持ち上げられると少し恥ずかしいです。

 取り敢えずここの艦娘達は早急なLv.上げが必要ですから、集中演習はアルカディアさんにお願いしましょうか。

 

 「ところでアルカディアさん、お話の途中で影山サキを捕虜にしたと仰いましたが…。」

 

 「ああ、マゾーンの宇宙艦娘となった姿だがな(笑)。この島の収容施設に収監している。何か聞きたいことがあれば後で案内しよう。」

 まともに話してくれるかどうかは分かりませんが、ぜひそうさせてもらいましょう。

 

 誰も解体が無いと分かったからでしょうか、その後は雰囲気が随分と良くなりました。

 食事量も全員が補給を限界まで済ませていたせいで人間と変わらないぐらいでしたし。

 うーん、アルカディアさん、なかなかの策士ですね(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

※おまけ(妙高型のテーブル)

 

 「羽黒、改二なったのね。おめでとう。」

 

 「足柄姉さん…。」

 羽黒さんたらさっきからウルウルしっ放しですね(笑)。

 

 「もう、相変わらず泣き虫なんだから。ほら、しゃんとしなさいな。」

 

 「私が改二になれたのはあちらにいる柱島第七泊地の足柄姉さんのお陰なんです。」

 

 「そう、じゃあ向こうの私にお礼を言っておかないとね。」

 そう言うと足柄さんは席を立って柱島第七泊地の足柄さんの所へ行きました。

 

 「アナタが羽黒を改二にしてくれたって聞いたわ、ありがとう。」

 

 「私は何もしてないわよ、恥ずかしながら大破して羽黒に助けてもらったぐらいだし(笑)。」

 

 「それでもあの子はアナタに感謝しているわ。私には出来なかった事なのよ。」

 

 「あの子にとって足柄とは私ではなく貴女よ。これからも妙高姉さんや那智姉さんと共に三人で支えてあげて。」

 

 「勿論よ。それには私達も出来るだけ早く改二にならないとね。」

 

 「ええ、応援してるわ。」

 ふふ、タウイタウイ第二泊地の足柄さんと柱島第七泊地の足柄さんが拳を突き合わせています。

 いいですね、こういうの。

 




※総統シリーズネタ
 解説の必要性が無いぐらい有名。
 演習先の同型艦や自分に見せてもらったのでしょう。
 やはり何処の彼女達も血は争えないという事でしょうか(笑)。

※重要
 ちょくちょくリクエスト頂く事があるのですが、主人公君と花火さん達との合体シーンはR18タグが無いのでちょっと…。
 え? そっちに新しく投稿?
 ちょっと何言ってるか分かんないですね(メソラシ)。


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第93話 タウイタウイ22(艦娘側:北大路花火5)

※リクエストくれた方々、申し訳ありません。これで許して下さい…。



 夕食後、真宮寺長官はアルカディア号さんと共にデスシャドウ島の収監施設に収容された影山サキの所へ向かわれました。

 その後、長官にお聞きした話によると、やはり影山サキは殆ど何も話さなかったそうです。

 今後はその身を軍令部に移し本格的な査問・尋問を行うとの事。

 もっとも、これは表向きの理由で、彼女を、いえマゾーンの艦娘と化した彼女の艤装を研究し、自分だけのモノにしようとする提督達が大勢いると…。

 ブラック鎮守府の提督達がそんな艤装を手に入れてしまったら人類同士で争う事になるでしょうと長官は嘆いておられました。

 ブラック提督達が未知の技術や武装を手に入れてしまえばどうなるかなんて長官の仰る通り考えるまでもありません。

 不安になった私は自分でも知らない内にアルカディア号さんの部屋のドアをノックしていました。

 

 「…。」

 私が不安にしているのを見て彼は何も聞かずに部屋に入れてくれました。

 サイドテーブルにはショットグラスと酒瓶が置かれてあります。

 

 「私も一杯、頂いて良いですか?」

 そう言ってベッドに座る彼の隣に腰を下ろしました。

 

 「アンドロメダ・レッドバーボンだ。気を付けないと強いぞ。」

 水割りですが香りが凄いですね。度数も相当キツそうです。

 

 「影山サキは軍令部にその身を移す事になったそうです。ついては真宮寺長官からデスシャドウ島ごと横須賀沖まで護送して頂きたいと。」

 

 「そうか…。」

 

 「明日、正式に真宮寺長官からアルカディア号さんに要請があると思います。」

 

 「彼女の艤装を研究材料にするつもりの連中が大勢いるという事か。ブラック提督達が欲しがるのは目に見えている…、と。」

 

 「どうしてそれを…。」

 

 「艦娘兵器派の提督達にとって大神元帥と真宮寺長官を始めとした艦娘人権派は目の上のナントカというヤツだ。あの二人を排除、あるいは黙らせる事が出来ればと考えても不思議ではない。その為により強い力を求めるのは当然だろう。」

 

 「ええ…。」

 

 「今、『伊勢』と『日向』、それから『扶桑』と『山城』に『特別な瑞雲』の訓練をさせている。使う機会が無い事を祈るが…。」

 一体、いつの間に?!

 

 「もう、私に内緒でそんな事をしていたなんて。」

 あの子達なら力の使い方を間違える事は無いと思いますが…。

 

 「過ぎたる力を手にするなとは言わん。だが必要以上にその力を使おうとする者や使った者はいずれその力に飲み込まれ自滅する。」

 グラスをゆっくりと回しながらアルカディア号さんは続けました。

 この事はよく覚えておいて欲しいと…。

 

 「分かりました。もしもの時はアルカディア号さんが私を正して下さい。」

 そのまま彼の腕をとってもたれ掛かります。

 正室なのですからこれぐらい良いですよね。

 それにこれだけの強いお酒なのですから酔いが早く回ったって仕方ありません。

 ええ、仕方ないんです。

 

 耳を傾ければそれほど大きな音ではありませんが、イイ感じのMellowJazz。

 さらに男の人の匂いとアルコールの香り、そして好きな人に身を寄せていたからでしょうか、突然ドクンと自分の心音が聞こえました。

 どうしたのでしょうか、急に体が?

 

 世界が回るような感覚、その中でもう一人の私が囁きます。彼が欲しい、彼が欲しい…と。

 ショーツの下の熱い疼き。

 本来なら自室でシャワーを浴びてから訪れるつもりだったのですが、もうそんなのはどうでも良くなってしまいました。

 多くの女性が(検閲により削除)を知る事無く一生を終えるといわれるんです。

 それが手を伸ばせば届く所にある、そう思った途端、私の中で何かが簡単に千切れました。

 気が付けば私は彼の首に手を回し舌を絡めていたのです。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 朝チュン…。

 やってしまいました(///)。

 窓辺にいる南国特有のキレイな小鳥。

 時刻は朝の06:10…、ですか。

 ベッドの周りに散らかる片方だけ見事に解けた紐パン、ボタンが数個飛んだブラウス、ブラ、ジャケットにスカート…。

 あれ、ストッキングが見当たりません。

 え? この感覚…、履いてる?

 そこで一気に昨晩の記憶が?!

 

 私、もっと乱暴にとお願いしたんでしたっけ。

 ブラウスのボタンが飛んでいるのも紐パンの片方だけ解けて落ちているのもパンティストッキングを脱いでいない(大事な部分にはしっかり穴が…)のもみんな私のせいなんですね…。

 他にも色んな所を嗅がれたのを思い出して真っ赤に。

 

 「起きたのか?」

 洗面所からアルカディア号さんが顔を出しました。

 

 「変態…。」

 シーツで顔を半分隠したままジト目で抗議します。

 

 「なんだ、今頃(笑)?」

 

 「カンフル剤だなんていって体中を嗅ぎまくるんですから。足フェチですから足は分かります。でも脇はさすがに…。」

 

 「その割には随分と楽しそうな顔を…。」

 

 「く す ぐ っ た か っ た ん で す。」

 何が楽しそうですか、全く。

 私、そこ弱いんです。覚えておいて下さい。

 

 「そ、そうだったのか。」

 

 「ふふっ、もう良いですよ。むしろあんな事が出来るなんて本当に好きでいてくれないと無理ですから。」

 あっ、アルカディア号さんにお伝えするのを忘れていた事がありました。

 

 「そうそう、アルカディア号さん、私も子爵令嬢の端くれです。これでもう袖にする事は出来ません(クーリングオフ不可能)から。」

 え、脅迫?

 失礼ですね、『私が正室で無くなるような事があれば社会的に多大なる痛手を負わせてやるのでお気を付け下さい』とご忠告申し上げただけです。

 むしろ親切だと思うのですが。

 

 浴室を借りようとベッドから降りるとほんの少しですが鈍い痛みが残っている事に気付きました。

 でもこの痛みを知らない人たちの方が圧倒的に多い事を考えると自然と顔が緩んでしまいますね。

 ふふ、何か世界の見え方まで違うような感じがします(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

※おまけ(長門改二)

 洗顔を済ませて部屋に戻る途中、アルカディア殿の部屋の前に加賀がいた。

 それだけなら別に不思議は無いのだが、ドアをノックしようとしたまま固まっている。

 

 「どうした、加賀?」

 

 「いえ…。(///)」

 声を掛けると明らかに動揺しているのが分かる。

 彼女とは長い付き合いだが珍しい事だ。

 

 「もしかしてアルカディア殿に何かあったのか?!」

 獅子身中の虫というではないか、アルカディア殿を何か病魔が蝕んでいるというのだろうか?

 

 

「しっ、声が大きいわ(コソコソ)。」

 加賀が私に耳打ちする。

 

 「なっ?! そ、それは時間を改めるしかあるまい。もう少し二人だけにしておこう(///)。」

 




※うぷ主:間違いなく花火さんに盛ったよな?
 アルカディア:そんな事は…、しない。一服盛らなくても良いようにアンドロメダ・レッドバーボンにしたのだ。
 うぷ主:ちゃんと目を見て話せ。サクラン坊ーイが錯乱坊ーイになってるぞ。
 アルカディア:失礼な、俺はいつだって紳士だ。
 うぷ主:変態という名のだろ?
 アルカディア:…。


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第94話 タウイタウイ23(アルカディア側7)

※横須賀へ行く前に柱島第七泊地に立ち寄ったアルカディア号。
 誰かを降ろし替りの誰かを連れて行くようですが…。




 デスシャドウ島を柱島沖に停泊させランチに乗り込む。

 無事に柱島第七泊地に戻れた上に三日間の特別休暇が貰えたとあって『長門』・『加賀』・『足柄』の柱島出撃組は上機嫌だ。

 

 「…。」

 そう、一人そっぽを向いている花火を除いては…。

 サクラン坊―イ卒業から一夜明けた朝、俺と台羽は螢にタップリと有り難い御講話(お説教&カミナリ)を頂いた。

 辻説法(お説教)の内容は何故、もっと強く北大路提督を止めなかったのか、というものでしたわ。

 特に俺はタイミング的にもギリギリだった事もあり、最愛の人をあんな危険な目に遭わすなんてどういう事ですか、正室さえ守れないで何がハーロックの乗船ですか、と散々だった。

 いたたまれなくなった花火が悪いのは私ですからと何度も助けようとしてくれた程である。

 その度に怖かったですよね、と花火に声を掛けた螢がまた俺と台羽の二人をチクチクしてくると…。

 で、懲りた俺は今回、花火を柱島に残す事にしたのである。

 真宮寺大将も驚いていたが、ブラック提督達がどんな卑劣な手を使ってくるか分からないし、万一の事を考えると花火の安全の為には横須賀に連れては行けないと説明すると、その方が良いでしょうと賛成頂いた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「アルカディア号さん、お帰り!」

 ブンカーでは瑞鶴が待っていてくれた。

 

 「出迎えか、わざわざ悪いな。」

 キチンと礼を言っておく。

 彼女はコチラと普通に接してくれる数少ない艦娘だ。

 姉の影響もあるのだろうが、こういう人材は大切にしないといけません(笑)。

 

 「そりゃそうだよ、やっと帰ってきてくれたんだもん。翔鶴姉なんて明け方からソワソワしてるし(笑)。」

 翔鶴か。うん、こっちも早く会いたくて仕方ない。仕方ないのだが…。

 

 「そうか。だがこの後、直ぐに横須賀に向かわなくてはならん。悪いな。」

 ゆっくりできるのはもう少し先だ。くそっ、ブラック提督達め、マジ許さん!

 

 「そんなぁ…。翔鶴姉、絶対に泣いちゃうよ、知らないからね。」

 

 「もちろん翔鶴の所にも顔を出すさ。それに今回の横須賀行はそれほど長くない。」

 

 「どういう事?」

 瑞鶴がキョトンという顔をした。

 

 「実はな…(コソコソ)。」

 

 「ええっ?!」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 ドアに貼られた『翔鶴』と『瑞鶴』(第五航空戦隊)のプレート。

 久しぶりに訪ねると緊張するわぁ…。

 後ろからは瑞鶴と二航戦が、ほらほら翔鶴が待ってるよと急かしてくる。

 俺達の声が聞こえたのだろう、ものすごい勢いでドアが開いた。

 

 「元気だったか?」

 だが翔鶴は何も答えずに飛びついてくると、いきなり唇を重ねてきた。

 後ろでは二航戦の翔鶴ったら大胆とか、さすが全艦種正室は違うよね~とか、瑞鶴の加賀さん艤装はマズイよとか聞こえる。

 本来なら見られて一番マズいのは花火だが、幸いなことに?彼女は上陸するなり執務室に閉じこもってしまった。

 終始、俯いたままだったのと無言だったのがコワイ…。

 

 「ぷはっ。熱烈なお帰りなさいをしてくれたのに申し訳無いが、直ぐに横須賀に向かわなくてはならん。悪いな。」

 それを聞いた翔鶴がポロポロと涙をこぼし始めた。

 いや、そんな泣かなくても…。

 っていうかまだ一言も声を聞いていないんだが…。

 

 「2週間ぶりに会ったのに涙でご挨拶かい?」

 

 「あーあ、翔鶴を泣かせちゃった。いくらアルカディアさんでもこれは感心できないなー(棒)。北大路提督に言ってやろー(笑)。」

 ハーロックが『まゆ』に言った言葉だが、キザ過ぎたのかまた二航戦の二人に囃し立てられてしまった。

 

 「いやこれは…。翔鶴、明日か明後日には帰れると思う。もう少し待ってくれないか。」

 

 「本当ですか?」

 クリスチャンのように両手を前で合わせウルウルする翔鶴。

 カワイイ、かわいい、可愛い! 大事な事なので三回(ry

 横須賀に連れて行きたいが、今回の帯同艦は貴女ではないんです…。

 

 「翔鶴姉、それから飛龍さんと蒼龍さんも。実はね…(コソコソ)。

 

 「「「…。」」」

 影山サキをマゾーンの艦娘として捕虜にしたと聞いた三人は絶句してしまったが、同時に俺が横須賀へ行く理由も理解してくれた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「お帰り、待ってたよ。さ、私と夜戦しよ!」

 廊下を歩いていると後ろから佐倉綾音さんの声が。

 彼女が担当する艦は多いが『夜戦』とくれば一人しかいない。

 

 「ね、、姉さん。アルカディア号さんは長期遠征でお疲れなのですから。」

 

 「すまないが、これから直ぐに横須賀行きだ。」

 夜戦(意味深)はもう少し待って下さい、お願いします!

 

 「えー、アイドルにとってファンとの触れ合いは大切なんだよ?」

 

 「実は…(コソコソ)。」

 影山サキの件を話すと三人から表情が消えた。

 

 「何処にいるのですか?」

 オイオイ、神通さん、いきなりクナイを取り出すなんて物騒にもほどがあるぞ。

 

 「ふふ、直ぐには殺さない。直ぐにはね。」

 川内、魚雷をクナイのように構えるのは止めない、建物にまで被害が及んでしまいます。

 

 「舞台裏案件だね、キャハ…。」

 舞台裏は見ないでね、というヤツだろうか?

 そこで何をするのかは聞かないでおきます…。

 いずれにしろ物騒過ぎる。

 こりゃハーレムどころではないかもしれん。

 良く考えて手を出さないとエライ事になりそうな気がするですよ、ハイ…。




※エライ事になりそうな気がする
 心配無用、もうなっています。知らぬは本人ばかりなり…、ですね。


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第95話 タウイタウイ24(アルカディア側8)

※この回でタウイタウイ第二泊地編は終了となります。
 お付き合いいただいた方、読んでくださった方、ありがとうございました。



 川内達を何とか宥めた後、一直線に戦艦寮へと向かう。

 今回の帯同艦は二人とも戦艦娘だからだ。

 戦艦寮に入るとロビーに『陸奥』と『長門』が。

 どうやらタウイタウイ第二泊地での出来事について話しているようだ。

 

 「そこでアルカディア殿は言われたのだ。待っているがいい、必ず生け捕りにしてお前の前に突き出してやろう、とな。」

 長門さんェ、何故そんな事をドヤるんですか…。

 恥ずかしいからヤメテ!

 

 「ふうん、良かったじゃない。それで?」

 陸奥め、こっちにチラと視線を向けたな。絶対面白がってやってるだろ、この小悪魔お姉さんめ!

 

 「うむ、私の髪を見て濡れ羽色とはよくいったものだと…。」

 陸奥の視線を追った長門が振り返った。

 当然目が合うよなぁ…。

 

 「…。」

 

 「…。」

 うん、まるでいつぞやの大浴場で鉢合わせした時みたいだわ。

 

 「陸奥、お前、アルカディア殿が来てたのを知ってて…。」

 ギギギと長門の首が音を立てて前に向き直った。

 うん、ありゃクレ556が2~3本必要だろうな。

 

 「あら、何の話?」

 マズいな、長門がメルトダウンしかねないぐらい真っ赤になっている。

 姉妹艦の関係にヒビが入れば今後の作戦展開に影響を与えかねないし、幸いにも『長門』は見た目だけで好き嫌いをいうようなヤツではないから大丈夫だろう。

 なら行動あるのみ!

 

 「知りたいか、陸奥? こうしたのだ。」

 そう言って長門をマントの中に抱き寄せる。

 ああ素晴らしきかな、女の匂い(笑)。

 

 「いや、違っ! そのような事は…、はふん。」

 そのまま長門は蒸気を上げて目を回してしまった。

 何だろう、心なしか幸せそうな表情に見えるんですが、ひょっとして攻略可能なのか?!

 これで横須賀での用事を早く終わらせる理由がまた一つ増えた。

 取り敢えず『長門』を『陸奥』と二人でソファーに寝かせる。

 

 「伊勢姉妹はいるか?」

 

 「ええ、二人とも午前中は非番だから居るはずよ。」

 

 「今から横須賀へ連れて行く。影山サキの護送にな。」

 マゾーンの艦娘となった影山サキを生け捕った事を伝えると陸奥はブラック鎮守府の提督達もそうだが陸軍にも注意するようにと教えてくれた。

 何としてでも彼女を奪おうとしてくる可能性が高いので真宮寺大将や神崎中将に万一が無いようにと…。

 陸軍の事など全く想定外だった俺は彼女に礼を言い階段へと足を向けた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 もともと柱島第七泊地の各寮は小さいながらもかなりプライベートに配慮した構造となっている。

 一部屋の中は小さいながらも各共有部屋一室と各自室というとても贅沢なものだ。

 これは四大鎮守府以外ではとても珍しい事で花火がいかに艦娘達の事を考えているかが良く分かる。

 戦艦寮は二階建てで一階は金剛型と扶桑型、二階は伊勢型に長門型、大和型となっており、尋ねるべき部屋は一番端だ。

 名前を確認し、ドアをノックする。

 部屋の主である二人の名前に上には小さいが誇らしげに『第四航空戦隊』のプレートがあった。

 郵便配達員ばりに二度呼び鈴を鳴らす。

 返事が無い、ただの屍の様だ…。

 いや、屍では困るだろ、と一人ツッコミを入れる。

 

 「全艦種側室筆頭艦の『日向』と姉の『伊勢』は居るか? 二人の愛らしい顔を見たいのだが。」

 途端、先の翔鶴以上に物凄い勢いでドアが開いた。

 負圧により風(内開きのため)が発生したほどである。

 そのまま、日向に部屋に引きずり込まれるように中へ招かれた俺は仰天する光景を目にする事になった。

 同時に部屋に充満した若い女性特有の甘ったるい匂いが鼻をくすぐってくる。

 お陰で脳内に『幸せ向上委員会』が流れ始めた。

 

 部屋の中では目を擦りながらペタンコ座りしている伊勢が。

 きちっとパジャマを着ている『日向』と下着だけの伊勢。

 おまけに部屋の共有スペースには脱ぎ散らかした御召し物が(見ろ、下着がカーペットのようだ)

 ん、今、特務の青二才が私に語り掛けてきたぞ。

 いや、それよりも伊勢が艶かし過ぎる!

 その肌の白さ・美しさ・きめ細かさはまるで高級陶器(マイセン)のようだ。

 どちらかといえば地味艦といわれる彼女達だがそのギャップも相まって素晴らしい!

 

 「ねえ、日向ぁ。誰か来たの? 武蔵? それとも長門が帰って来たの?」

 そう言いながら散らばった伊勢が御召し物を集め始めた。

 まあ、今日は天気もいいしな。それ程寒くもないから洗濯日和といえるだろう。

 ところが伊勢はかき集めた御召し物の中から発掘したパンストにモゾモゾと足を通し始めたのである。

 さらにはこれまた黒インナーを発掘するとそのまま着てしまった。

 

 「「…。」」

 あれって靴下の一種だと思っているんだが違うのか?

 ちゃんと毎回洗濯…、なんて勿体な事はせず私に下さい!

 黒インナーなんてさらに高価買取致しますから。

 あ、いや…、両方洗濯するのが正しいんですけども(ナニイッテンダ、オレ)。

 

 「伊勢、パンストを二度履きするんじゃない。ましてやそれは一昨日、伝線したと言っていたヤツだろう…。」

 

 「伝線したのは内腿部分だから目立たない…、よ。」

 ようやく頭が回り始めて来たのだろう、伊勢の耳が真っ赤になった。

 

 「ちょ、日向! こんな散らかってるのにアルカディア号さんを部屋に入れるなんて!」

 

 「知らん、いつも脱ぎっ放しにするなと言っているだろう。ああ、安心してくれていい。あれは全部伊勢のモノだ」

 

 「日向ぁ!」

 

 「構わん、完璧主義も良いが全く隙が無いのも可愛げが無いからな。」

 朝からエエもん見せてもらいましたわ。

 お礼にここはソフトにいっときましょ(笑)。

 

 「そ、そうだよ、日向。アルカディア号さんももっと言ってやって。」

 

 「伊勢を想うなら甘やかすのはダメだぞ。第一、脱ぎ散らかしたものが床に貼り付いてしまってるのを可愛げで済ませてはいかんだろう。」

 「それよりも朝からとは貴殿も大胆だな(///)。不束者だが姉の伊勢共々どうかよろしく頼む。」

 そう言って日向がパジャマに手を掛けた。

 

 「そ、それはまた後で頼む。二人とも俺と一緒に横須賀へ来てくれ。特別な瑞雲(瑞雲ファンネル)を忘れるなよ。」

 何で皆そんなにタイミングが悪いんですか…。

 まあいい、上手くいけば横須賀の晩は熱くなりそうだ。

 

 「行く行く! 日向、40秒で支度しなよ!」

 

 「支度に時間が掛かるのは伊勢の方だろう。インナーも私のを貸してやるからそれに着替えろ。それから伝線しているパンストもな。」

 ため息と共に日向がタンスの引き出しから出した着替えを伊勢に渡す。

 他にも色とりどりのナニかが見えたのでシッカリとそれは脳内SSDに保存しておいた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「やはり私は連れて行ってもらえないのですか…。」

 花火から恨めし気な視線を向けられる。

 執務室に『伊勢』と『日向』を連れて横須賀へ行く旨を告げに来たのだが…。

 

 「済まないが、相手がどう出て来るか分からない。それに陸軍も横やりを入れてくることも予想されるのだ。花火を危険な目に合わす訳にはいかん。」

 

 「男なら何があっても私を守るぐらい言って欲しかったです…。」

 

 「提督! アルカディア号さんは提督を守り切るためにここに残るように仰られているのですよ?!」

 本日の秘書艦、妙高が花火を諫めてくれるが…。

 

 「妙高、邪魔をするつもりなのですか?」

 

 「足柄からタウイタウイ第二泊地で何があったか聞きました。あれだけの危険な目に遭ったというのに一体どういうおつもりですか!」

 あ、花火さんやっちゃったかも。

 三大怒らせてはいけない艦娘の一角、妙高さんがお怒りモードに?!

 

 「横須賀には神崎中将がいらっしゃるのですよ? もしアルカディア号さんが奪われてしまったら…。」

 花火が目をクシクシと擦った。

 

 「花火。俺は花火より先に抱いた女はいない。これがどういう事かを考えてくれればいい。」

 

 「?! アルカディア号さん…。」

 どうやら納得してくれたか。

 これで一安心…、ではなかったわ。

 

 「提督、後でじっくりお話しましょう(ニッコリ)。」

 海老ブルー氏の異端艦もビックリの表情な妙高さんが!

 

 「やってしまいました…。」

 花火が顔面蒼白になってしまった。

 済まない、俺が横須賀から帰ってくるまで何としてでも生き延びてくれ(御武運を!)




※郵便配達は二度ベルを鳴らす
 昔の洋画ですがなかなかのシーンがあります。

※幸せ向上委員会
 お時間のある方は動画を見て下さい。

※40秒で支度しな
 某空賊の女ボスがパズーに言った言葉。

※海老ブルー氏
 一癖も二癖もある艦娘のイラストは秀逸。
 一度見たら忘れられません!

※やってしまいました…
 やってしまったのは主人公のような気が?


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海軍軍令部
第96話 軍令部編1(艦娘側:伊勢1)


※新編、次なる騒動の始まりです!
 なにやら陸軍の将官や士官達の姿が?!


 「止まったか。」

 外を見ていた日向の言う通り外を流れる景色が止まったわ。

 デスシャドウ島が横須賀沖に着いたみたい。

 それにしても軍令部かぁ。一度しかいった事が無いけど、すごく緊張するのよね。

 いつもの艦娘服ではなく海自制服というのもあるんだろうけど(笑)。

 

 アルカディア号さんが横須賀第一鎮守府の埠頭のズーム映像をディスプレイに映し出す。

 何やら神崎中将と陸軍将官が揉めてる?

 それに報道陣も多数集まっているみたい。

 

 「あれは『すみれ』さん? 相手は陸軍のようですね。まさか向こうさんまで彼女(影山サキ)を狙っているとは…。」

 

 「陸奥の言った通り陸軍が出て来たか。どうする?」

 

 「どうすると言われても行くしかないでしょう。アルカディアさん、お願いします。」

 

 「分かった、大事になる前に急ごう。」

 全員でランチに乗り込み埠頭へと向かいます。

 その間も影山サキは黙ったまま。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「ですから何度申し上げればよろしいのですか! 影山は先に海軍が調査と査問を行います!」

 ランチを接岸させると同時に響き渡る神崎中将の声。

 アタシ、神崎中将のこの感じ(ヒステリック)がちょっと苦手なんだけど(笑)。

 

 「これはこれは。南国バカンスからお戻りになられた連合艦隊司令長官の真宮寺大将ではないか。」

 コイツ…、また厄介なヤツが出て来たわね。

 神崎中将の抗議を涼しい顔で受け流し、あまつさえ長官に嫌味で挨拶をしてきたのは陸軍少佐『山崎真之介』。

 何かにつけて海軍や私達艦娘を目の敵にしてくる嫌な男よ。

 でも世間ではその見た目で絶大な人気があるの。

 TVクルーを含めた報道陣を集めたのも全て計算ずくに違いない。

 

 「山崎少佐、長官をバカになさるおつもり?! それは今後、陸軍は海軍による一切の協力が不要という事でよろしいのね!」

 

 「はっはっは! 成金の小娘が面白い事を言いますね! 『まぞーん』とやらの技術があれば我が陸軍は海軍なぞに頼ること無く深海棲艦撃滅の遂行が可能となるのです。」

 あれは陸軍大臣『京極慶吾』?!

 こんなヤツまで出て来るなんて!

 どうやら陸軍は本気で『影山』元提督を手に入れるつもりみたい。

 おまけに成金って、神崎中将には一番の禁句を!

 

 「海軍さんとしても願ったりかなったりではありませんか。それとも海軍さんは陸軍よりも立場が上でないと困るとでもいうですか(笑)?」

 全国中継された前で『影山』元提督の引き渡しを拒めば海軍は陸軍に対する協力姿勢を問われるどころか研究成果を独占しようとする悪者扱い。

 報道陣もそれを計算して集めたに違いないわね。

 

 「京極陸軍大臣、並びに山崎少佐、わざわざのお出迎え痛み入ります。ですが、ウチの神崎と一体何を揉めているのか教えて下さい。」

 この時、ランチから降りようとする長官をアルカディア号さんが止めたの。

 何かあった時はこの方がいいからって。

 

 「そちら(海軍さん)の神崎中将が捕虜である影山サキの引き渡しを拒んでおられるのだ。これは相手の艤装を徹底研究できるチャンス。陸軍としてもこの機を逃す訳にはいかん!」

 「しかも捕虜の影山サキとやらは元海軍の提督で人間だったというではないか。人間に装備させる事が可能な艤装となれば一気に戦力地図を書き換え可能だ。これを機に人類は大規模反抗作戦に移る事になるだろう!」

 山崎少佐が捲し立て…。

 ちょっ、汚いわね。唾飛ばさないでよ!

 女が全員、アンタのファンだなんて思わないで。

 

 「しかも艦娘と違って陸軍兵なら幾らでも赤紙で補充可能だ(替えが効く)。」

 陸軍兵なら幾らでも赤紙で補充可能?!

 人の命を何だと思ってるのよ!

 大臣がこれでは陸軍に救いは無いわ…。

 

 「そうですか、ですが神崎の言う通り影山は元海軍の人間ですから海軍が先なのは当然です。」

 

 「何と! これは困りましたね(笑)。国民の皆さん、海軍は陸軍に対して協力する気は一切ないようです!」

 くっ、京極のヤツがTVカメラに向かって大袈裟に嘆いてる。

 

 「そう解釈されるならそのようにされるがいいでしょう。少なくとも海軍としては先というだけで引き渡さないとは一言も申し上げておりませんので。」

 あの男二人と取り巻きの女士官達の重圧を跳ね返しハッキリとNOを突き付けるなんて流石は真宮寺長官だわ。

 

 「真宮寺長官、陸軍大臣の命令だぞ!」

 山崎少佐がランチと埠頭に渡された板の前に出た。

 

 「では海軍は大神元帥の命令です。どうぞお引き取り下さい。」

 

 「何だと?! 真宮寺大将、陸軍と京極大臣を愚弄するつもりか!」

 京極大臣がバックにいるからかしら、それを聞いた山崎少佐が腰の軍刀に手を?!

 マズいわ、真宮寺長官の剣術は海軍一と云われる程だけど今は帯刀されていない!

 ところが剣を抜こうとした山崎少佐の動きが…、止まった?!

 

 「それは戦闘の意思があるという事だな?」

 そこには誰よりも早く長官の前に出て山崎少佐に剣を突き付けるアルカディア号さんの姿が!




※それは戦闘の意思があるという事だな。
 キャプテンハーロック次元航海(第一巻)でのハーロックの台詞です。

※伊勢の口調って意外と難しいですね。あまり伊勢感が出せておらず申し訳ないです。

※4月末に資格試験の更新があるので毎週更新のペースが難しくなりつつあります。
 出来るだけ時間を作って細々と更新していきたいと思ってはいますが、更新頻度がかなり落ちると思いますのでお許し下さい。
 大変申し訳ありません。


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第97話 軍令部編2(アルカディア側1)

※新たな大物登場です!





※2021年03月07日 誤字修正


 デスシャドウ島を横須賀沖に停泊させて鎮守府埠頭のズーム映像をディスプレイで確認する。

 念のために上陸場所の確認をしておこうという訳だ。

 

 あー、やっぱり陸軍が出てきてるな。

 後、多数集まっている報道陣まで纏めて神崎中将閣下が一人で相手にしていると…。

 んんっ!

 あれは…、男が二人?!

 男が二人も混じっているだと!

 

 「あれは『すみれ』さん? 相手は陸軍の様ですわね。まさか向こう(陸軍)さんまで影山サキを狙っているとは…。

 真宮寺長官がため息をついた。

 

 何ですと?!

 やはりあの二人も男として影山サキを狙っているというのか?

 彼女はこっちが先に目を付けたんだ、渡す訳にはいかん。

 陸軍は研究材料として狙っているのかと思っていたのに油断も隙も無いな。

 こっちは連結準備万端だというのに。

 

 「陸奥の言った通りだな。どうする?」

 本来ならどうするなんて聞いている場合では無いのだが長官の手前、勝手に暴れる訳にはいかない。

 

 「どうすると言われても行くしかありません。アルカディア号さん、お願いします。」

 まあ、そうだよな。さて陸軍さんにはどうやってお引き取り頂こうかな?(笑)

 力で抑え込むのが一番手っ取り早いのだが、それはあくまで最終手段。

 万一、報復と称して別働隊で柱島第七泊地に乗込まれたりしたら花火を残してきたのが裏目に出てしまう。

 

 「分かった、大事になる前に急ごう。」

 鎮守府や泊地と云えども場所は陸の上なので陸戦専門の部隊に攻込まれては防ぎようがない。

 艦娘の武装が強力でも戦術に関してはやはり陸軍の方が数段上だろうからな。

 特殊部隊の潜入により司令官(花火)を抑えられてしまってはそれで終わり(ゲームセット)なのだ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 ランチを接岸させると神崎閣下の声が聞こえてきた。

 おそらく海軍の立場を説明しておられるのだとは思うが…、何?!

 驚いた事に神崎閣下が正対していたのは『山崎慎之介』こと葵叉丹ではないか!

 後で伊勢に聞いたところ階級は少佐、世間では美青年だけあって大神元帥を抑えて女性人気No.1だそうな。

 TVクルーまで集めやがって…。

 この非モテ同盟の(バラモス)め!

 まあ、冷静に考えればサタンってルシフェルで元は天使だし、そりゃそうか。

 高位の悪魔ほど元は位の高い天使だから見目麗しいと聞いた事がある。

 が、さすがは神崎閣下である。その程度で私がなびくとでも? といった感じでかなり強気だ。

 あれだけの美人である。

 これだけ男の少ない世界でも引く手あまたなのだろう。

 そうすると俺なんかもっとダメという事ではないか。

 はっはっは…。

 

 ところがそんな神崎閣下を子供扱いするヤツが現れたのである。

 山崎少佐の取り巻き連中が左右に分かれると出て来たのは陸軍大臣の『京極慶吾(ゾーマ)』!

 これサクラ大戦2のラスボスじゃん…。

 こんなヤツまで影山サキを手に入れるつもりなのか?

 オッサン、もう45才だろ?

 ちょっとは自重してくれよ、いつまで盛ってるんだよ、マッタク…。

 このカブトムシ野郎め。

 

 「『京極』陸軍大臣、『山崎』少佐、わざわざお出迎え痛み入ります。ですが、一体何を揉めているのか教えて頂けるかしら?」

 ランチから降りようとする長官を止める。

 陸に上がってしまったら多勢に無勢になってしまうからだ。

 

 「そちら(海軍)さんの神崎中将が影山サキの引き渡しを拒んでおられるのだ。これは相手の艤装を徹底研究できるチャンス。陸軍としてもこの機を逃す訳にはいかん。」

 「しかも影山サキは元海軍の提督で人間だったというではないか。人間に装備できる事が可能な艤装となれば一気に戦力地図を書き換え可能だ。これを機に人類は大規模反攻作戦に移る事になるだろう!」

 オイオイ、お前が研究しようとしているのは影山サキの二連山(おっぱい)谷川(クレバス)だろう?

 上手いこと誤魔化すじゃないか。

 

 「そうですか。ですが神崎の言う通り影山は元海軍の人間ですから海軍(の査問)が先なのは当然です。」

 よっしゃ、真宮寺長官のお墨付きが出たぜ!

 海軍側(オレさま)が先に味見をしていいという事ですね、分かります!

 

 「何と! これは困りましたな(笑)。国民の皆さん、海軍さんは我が陸軍に対して協力的ではないようだ!」

 山崎がTVクルーに向かって肩を竦めて見せている。

 

 「そう解釈されるならそのようにされるがいいでしょう。少なくとも海軍としては先というだけで引き渡さないとは一言も申し上げておりませんので。」

 そうだそうだ! もっと言ってやれ!

 

 「真宮寺長官、陸軍大臣の命令ですぞ!」

 諦めの悪いヤツだな。

 空気を察知したのか伊勢と日向も飛行甲板と特別な瑞雲を準備完了だ。

 

 「では海軍側は大神元帥の命令です。どうぞお引き取り下さい。」

 

 「なんですと?! 陸軍と京極大臣を愚弄するおつもりか!」

 は?

 山崎のヤツ、剣に手を?!

 くっ、丸腰の女性に武器を使うとは許せん!

 

 「それは戦闘の意思があるという事だな?」

 そう思うと気が付くと考えるより早く体が動いていた。




※筆:影山サキが気に入ったの?
 ア:うむ、かなりの美人だしな。それに何故かバラの女王様(アマノカズミ)を思い浮かべてしまって…。
 筆:ふーん。
 ア:どうした?
 筆:北大路提督よりも?
 ア:それは無い、花火は特別な存在だ。
 筆:被るとすれば同じ系統『すみれ』嬢という事ですね、分かります!
 ア:無理に火種を作りに行かないで下さい、お願いします!
   それよりもカブトムシ野郎とは一体、どういう事なのだ?
 筆:小さい頃、カブトムシ飼ったこと無い?
 ア:当然あるぞ。よく捕まえてきたものだ。
 筆:カブトムシって寝てるか食べてるか盛ってるかだったでしょ?
 ア:ああ、そういう…。


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第98話 軍令部編3(艦娘側:日向1)

※海軍の闇も深いようですが、陸軍も負けず劣らずのようです。




※2021年03月13日 誤字修正


 「貴様?!」

 アルカディア殿を睨み付ける山崎。

 だが喉元にサーベルを突き付けられた状態では滑稽なだけに過ぎない。

 

 「真宮寺長官や神崎閣下に銃や剣を向けるというなら容赦はせん。」

 事実、自らに向けられる忌々しい視線をアルカディア殿は全く気にしていない。

 彼がサーベルをさらに数センチ前に突き出すと山崎の後ろにいる取り巻き連中から悲鳴が上がった。

 

 「何だ、お前は?」

 京極がアルカディア殿に顔を向ける。

 

 「何だお前はか…。そうだ、私が変な海賊船だ。」

 

 「ほう、貴様が例の…。」

 

 「アルカディア号だ。知ってもらっているとは光栄だな。(笑)」

 京極がアルカディア殿を知っている?

 彼が陸軍の前に姿を見せるのはこれが初めてのはずだが…。

 

 「海軍さんにも陸軍に対して協力してくれる真の愛国者がいるのでな。では彼女(影山サキ)の艤装だけ渡せ。それで手を打ってやろう。」

 真の愛国者だと?!

 どうせブラック提督達だろうが呆れかえる事実だ。

 艦娘の立場としては溜息も出ない。

 

 「あー、ちょっと良いかね?」

 

 「うん? 何だ貴様は?」

 京極といい山崎といい、どうして陸の連中はこう不遜なのか。

 

 「あー、私はアルカディア号の船医だよ。一度、彼女(影山サキ)を診察したことがあるんだが恐らく艤装の切り離しは出来ないだろうね。」

 「彼女の体の中には種子があって、そこから脳や艤装へと神経が伸びている。つまり埋め込まれた種子が頭や体を乗っ取っていると思われるんだよ。」

 

 「やはり噂通りマゾーンとやらは植物人間に近いのだな。ならば話は早い、艤装をむしり取ればいい。」

 

 「正気かね?! そんな事をすれば彼女(影山サキ)が死んでしまう可能性が高いんだよ!」

 ドクターゼロが信じられないといった顔をした。

 

 「艤装さえ手に入ればそんなヤツ(捕虜)どうなっても構わん。」

 馬鹿か、敵の情報の宝庫といえる彼女を死なせるなどと!

 

 「アナタ?! 捕虜の取扱いは国際条約で決められているでしょう!」

 真宮寺長官の人道的立場に立った発言に胸を撫で下ろす。

 やはり我が北大路提督の上官だけある。

 

 「理想論だけでこの戦争、勝てると思っているのか! ましてや相手は人間ではない、親子共々甘い理想論ばかり振りかざしおって。だから貴様の父は無駄死にだったのだ。」

 長官の父君を無駄死にだと?!

 海軍ではその身を挺して多くの士官学校生を救った英雄ではないか!

 

 「何ですって?! 京極大臣、取り消しなさい、今すぐに!」

 父君を馬鹿にされた真宮寺長官が怒りをあらわにする。

 

 「ふん、無駄死にした者を無駄死にと言って何が悪い?」

 京極が言い終わるか終わらない内に真宮寺長官が目にも止まらない早業で私の腰から剣を奪い取った。

 

 「うわっはっは! 海軍さんはどうやら軍刀まで張りぼてか。やはりこんな連中に国防を任せるなどハナから間違っていたのだ(笑)。」

 

 「国民の皆さん、見ての通りです。やはり国防は陸軍がやらねばなりません!」

 京極や山崎が笑うのも無理は無い。長官の手にあるのは懐中電灯に似た柄だけだったからだ。

 

 「な、何なのこれ?!」

 

 「長官、そのまま柄を握り締めて刀身をイメージしてくれ。」

 目を丸くする長官に声を掛ける。

 

 「え?」

 

 「長官、日向の言う通りにして。イメージした刀身に気を流す感じよ。」

 伊勢のヤツも止める気はないらしいな。

 むしろ『やっておしまい』的なノリだ。

 

 「え、ええ…。ってこれは?!」

 戸惑う長官だがビシュンという音と共に桜色に輝く奇麗な光の刀身が一気に伸びた。

 

 「何だと?!」

 「ちょっと、ウソでしょ?!」

 今度は逆に伊勢と私が戸惑ってしまった。

 私も伊勢もアドバイスはしたが、長官がいきなり刀身が出せるとは思っても無かったからだ。

 出せても懐刀か脇差ぐらいだろうと考えていたのだ。

 

 A&Y(明石&夕張)重工謹製の光線剣(ライトセイバー)

 あの二人と妖精さん達はアルカディア殿から簡単な概念の説明と設計図を渡されただけだというのに三週間程度で試作品を完成させてしまったのだ。

 その後、アルカディア殿の御尽力もあり完成品第一号と二号を私達が、三号と四号を扶桑姉妹が受け取る事となったのだ。

 霊力の類を持たないと刀身が出せず使い物にならないが、幸いにも大抵の艦娘は艦内神社(分御霊)を持つので使うことが出来る。

 しかし逆にこれは人の身では使う事が難しいという事でもある。

 それなのにあれだけの刀身を出せるとは真宮寺長官の霊力はかなり高いという事だ。

 いや、桁外れとみて間違いあるまい。

 ちなみに艦娘では伊勢(伊勢神宮)扶桑(石清水八幡宮)がトップクラスだ。

 やはり特別力の強い神社の加護を受けている事もあるのだろう。

 

 「な、何だと?!」

 「これは!」

 今まで見た事も無い剣(ライトセイバー)に京極と山崎も驚きを隠せない(まあそうなるな)。

 長官が軽く剣を振る度にヴォンヴォンという音が響く。

 

 「父を、父を馬鹿にするなんて絶対に許さない!」

 長官が大上段ではなく居合の構えを取った!




※やっておしまい
 ドロンジョ様を思い浮かべるか、グランディス(ナディア)を思い浮かべるかで世代が分かる?!


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第99話 軍令部編4(艦娘側:真宮寺さくら1)

※あと一話で100話になります。
 自分でもよくここまで続いたと思いますが、これもお気に入り登録をして頂いている方々に支えられての事です。
 これからも完結に向けて進んでいきますのでよろしくお願い致します。




※2021年03月19日 一部修正



 「京極大臣!」

 私の横薙ぎを受け止めようと山崎少佐が京極の前に出ました。

 

 「なっ!」

 「えっ?!」

 次の瞬間山崎少佐と私の声が重なりました。

 だって刃を合わせた途端、山崎少佐の軍刀が根元付近から折れたんですから。

 いえ、折れたではありません。

 私の剣が山崎少佐の剣を切ったという方が正しいでしょう。

 それに刃が合わさった時の金属音も全くありませんでした。

 

 「このぉーっ!」

 私も山崎少佐も一瞬、固まりましたが頭に血が上っていた私は、チャンスとばかりに京極大臣と山崎少佐に向けてこの不思議な剣を振り下ろしたのです!

 ですが、私の剣が京極大臣と山崎少佐を真っ二つにする事はありませんでした。

 

 「よせ、長官。」

 私の剣をアルカディアさんが止めていたのです!

 

 「え…。」

 しかも剣を受け止めた彼の腕からは血と白煙が?!

 

 「ここからは海賊の仕事だ(笑)。ライトセイバーは日向に返しておくがいい。」

 彼は私に優しく微笑みながらそう言いました。

 私のせいで負傷したというのに、どうしてそんなに優しい顔が出来るのですか!

 

 「あ…、わたし、わたし…。」

 足元でカランと音が鳴りました。

 大変なことをしてしまったという思いから私はライトセイバー?とやらを落としてしまったのです。

 さらにアルカディアさんが『すみれ』さんに何か依頼されたようですがそれさえも私の耳には入ってきません。

 ただ、その『すみれ』さんが側にいたアイオワ・武蔵・イントレピッド・大鳳に何か命じたかと思うと彼女達は私の四方を固め横須賀第一鎮守府へと引っ張っていきました。

 

 「逃がすか!」

 山崎少佐が追いかけようとしますが、それをアルカディアさんが阻止します。

 そのまま小走りで私は横須賀第一鎮守府の執務室に連れ込まれました。

 一息つく間もなく窓の外からは伊勢の驚く声が!

 窓から下を見下ろすと先程まで私が使っていたライトセイバーを構えた山崎少佐がアルカディアさんと対峙しています。

 どうやら彼もあの剣を使えるようですね。

 ただ、私と違うのは彼の刀身が赤である事です。

 しかもただ赤いだけではありません。何というか毒々しく禍々しい赤です。

 あの剣は使用者によって刀身となる光の色が異なるというのでしょうか?

 

 「邪魔立てするか! どけぃ、この海賊船風情が!」

 いきり立つ山崎少佐に対しアルカディアさんが艤装を展開し飛び上がりました。

 

 「卑怯だぞ、降りて来い!」

 

 「ふっ、悪いな。これが海賊のやり方だ。」

 悔しそうにする山崎少佐をアルカディアさんが重力サーベルと戦士の銃で牽制します。

 

 「堂々と勝負する事さえ出来んとは…。男のくせに情けないヤツよ。」

 

 「これは京極大臣殿。俺にとっては最高の誉め言葉だ、感謝しよう(笑)。」

 煽り返すアルカディアさん。

 

 「ふん、だから貴様は我々と違い二人しか女を連れることが出来んのだ。しかもそんな地味な女をな。」

 

 「京極大臣、あれは航空戦艦娘の『伊勢』と『日向』というヤツでありましょう。戦艦とも空母ともつかない半端モノです。ある意味、海賊などという海の半グレが連れまわすには相応しいかと(笑)。」

 

 「はっはっは! 半端者ではなく半端モノか。改造したは良いが搭載する機体を回してもらえず一度も航空機運用をさせてもらえなかったというあの役立たずの航空戦艦姉妹とやらか(笑)。」

 な、何ですって?!

 言って良い事と悪い事の区別さえつかないのですか!

 あの子達だってどれだけ彗星や瑞雲を積んで闘いたかったと思っているの!

 

 「戦艦であれば『大和』・『長門』、せめて『陸奥』あたりを連れていないとな(笑)。」

 「花でいうなら桜か薔薇、向日葵といったところですな。雑草はお呼びでないと(笑)。」

 「まあ、あれも己を勘違いし思い上がった四空母(赤城・加賀・飛龍・蒼龍)の哀れな犠牲者ですわ。あの悲劇もわれわれ陸軍に作戦統制権があれば、あのような悲劇(四空母&航空機350機以上喪失)は起きず無様な敗退を防げましたものを(笑)。」

 京極大臣に山崎少佐、そして女性佐官の話を聞いた取巻きの連中が一斉に笑い出しました。

 唇を噛む伊勢、両手を握り締める日向。

 今すぐ飛んで行ってあの子達を抱きしめてやりたい、なのにそれすらできない私は…。

 

 「京極、それに山崎。」

 いつのまにかアルカディアさんが地上に降り立っていました。

 

 「ああん?」

 

 「お前達は人目に付く所に咲いている、それも分かりやすい花しか目に入らないのか?」

 アルカディアさんが一歩前に出ます。

 

 「確かに『大和』()『陸奥』(薔薇)『金剛』(向日葵)は美しい。だが、どこかでひっそりと咲いている花はそうではないと?」

 

 「当り前だ。雑草になど興味はない(笑)。」

 

 「雑草か、だが雑草でも花は咲く。雑草だ、あるいは小さいからといってその花に美しさを見出せんとは哀れが過ぎる…。」

 「それに戦局の厳しい中、『伊勢』と『日向』は北号作戦を成功させた立役者だ。」

 

 「ふん、そんな雑草の功績など知った事ではない。第一、彗星を搭載できたとして着艦回収は不可能といったお粗末ぶり、その上、下駄履機(瑞雲)でさえ回してもらえなかったというではないか。」

 

 「その通りだ、山崎少佐。だが彼女達はその瑞雲さえ搭載される事が無いと分かっていても…、それでもなお帝国海軍の誇りを忘れず最後まで自分の胸の中にあるモノの為に戦い抜いたのだ。その志たるや貴様らと比べるべくもない!」(重力サーベル、ビシィ!)

 

 ♪~♪♪

 何処から湧いて出たのか妖精さん達の楽隊がとてもカッコ良く魂が震える旋律を?!

 

 「くっ、海賊風情が偉そうに!」

 山崎少佐ったら(笑)。いくら言い返せないからって、それはカッコ悪いわ。

 やはりアルカディアさんの方が男としても、いえ人間としてもずっと上ですね(笑)。

 

 「京極大臣もよく聞くがいい、伊勢も日向も断じて雑草ではない! 例えひっそりと咲いていてもその美しさと愛らしさは他のどんな花に引けを取るものではない、まさに幸福(幸せ)をもたらすと云われる七色の花そのものだ!」

 ア、アルカディアさん! やはり貴方という人は(感涙)!

 でも隣にいる『すみれ』さんの素敵ですわ、やはり彼は神崎家の婿養子にという呟きは聞かなかったことにしないと…。




※どこかでひっそり咲いている
 キャンディキャンディの最終回、あの嵐のような余韻が冷めやらぬ中、翌週から始まったのがこの『花の子ルンルン』。
 さあ、諸兄氏も幸せをもたらすと言われてる七色の花を探しに行きましょう!

※妖精さんの楽隊
 以前、アルカディアに金平糖をおねだりした際、持って無いからと代わりに貰ったチョコベビーに感動した妖精さん達。
 義理堅く有志による『ムード盛り上げ楽団』を結成し、キャプテンハーロックのOPを演奏してくれました(笑)。

※聞かなかった事にしないと…。
 こんなの花火さんに聞かせられる訳ないじゃないですか…、とは真宮寺大将の弁。


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第100話 軍令部編5(艦娘側:横須賀一鎮伊勢1)

※ついに100話まできました。
 お気に入りは500件を超え、UAは130,000を超えと投稿を始めた時には全く考えてもみなかった数字に大変驚いています。
 三文小説にも拘わらず目を通して頂いている方には感謝しか無いのですが、かといってコチラには何もお返しできる事がありません。
 ついては物語を完結させる事が皆様に対する恩返しだと思いますので、何としてもこのまま走り切りたいと思います。
 これからもこのお話をよろしくお願いいたします。

※今回は100話記念と諸兄氏への御礼で101話と同時投稿です。



 「これだからお金持ちの一人娘とやらは。この国のためにも卤獲した捕虜とやらをこちらに引き渡して頂かないと困るのですがね(笑)。」

 

 「ですから何度申し上げればよろしいのですか! 影山は先に海軍が調査と査問を行いますと申し上げているでしょう!」

 TVに映し出されている陸軍の山崎少佐と神崎提督。

 任務や哨戒に当たっている者は別だが、それ以外の全員がここ横須賀第一鎮守府の大食堂に集まってる。

 当然、全員の目は画面に釘付けね。

 中にはTV画面ではなく、窓から直に正門を見ている艦娘もチラホラ。

 

 『マゾーン』の技術があれば海軍に頼る事が無くなるですって?

 まあ陸軍の本音はそんなトコかしらね。

 作戦遂行時、どうしても海軍を頼らないといけないのが不満なんでしょうけど、アンタ達に協力しないといけないこっち(海軍)こそが不本意なんだから!

 しかも陸軍兵なら幾らでも補充可能(替えが効く)って…。

 ウチの暗部も深いけど、あちらさんも相当ね。

 人が戦う陸軍に対して艦娘が戦う事になる海軍は世間から気味悪がられたり疎まれたりすることも多い。

 勿論、好意的に接してくれる人も多いんだけど、やっぱり半数近くはマイナスイメージを持たれてるんだよね…。

 

 あれは…、アルカディアさん?!

 そうか長官と捕虜の護衛として来てるんだ。

 確かにこれ以上の適役はいないもんね、こりゃ真宮寺長官も考えたもんだわ。

 あら、山崎少佐ったら早速、剣を突き付けられてる(笑)?

 京極大臣に山崎少佐、彼がいる以上、TVやマスコミを呼んだのは逆効果だったかもよ?

 先に剣に手を掛けたのがバッチリ映ってるんだもん(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 ちょっと待って。日向も私も理解が追い付いていないんだけど。

 だってアルカディアさんが私達の事をすごく褒めてくれてるんだよ?

 

 地味な女…。

 それは華やかな見た目を持つ者が多い艦娘の中で私達がずっと言われてきた事。

 そう、確かに大和や陸奥、金剛は女の私から見ても魅力的だし『華のある花』といった表現がピッタリ。

 それに比べて私達は大和のように美人でもない、陸奥のように艶っぽくもない、長門や武蔵のように凛々しくも無い、金剛のように華やかさも無い、扶桑のような儚さも無い典型的なしばふ村出身者。

 ましてや先の大戦では京極大臣が言うように艦載機を搭載すること無く何のために航空戦艦になったのか分からないという事実が私達に伸し掛かってくる。

 

 でもそんな私達に対してアルカディアさんは雑草でも花は咲くって。

 小さい花でも美しさが見い出せるって。

 第四航空戦隊として立派に礼号作戦を成功させたって。

 例え搭載機が無くても帝国海軍の誇りを忘れず最後まで自分の胸の中にあるモノの為に戦い抜いたって。

 京極大臣と山崎少佐にそう言ってくれたんだ。

 

 隣ではもう止めてくれぇ、という日向の弱々しい声。

 なに、日向ったら陥落寸前なの?

 そう言ってやろうと思ったのに、次の言葉で私の方が先に撃沈されちゃった(笑)。

 ひっそりと咲いていても美しさと愛らしさを備えた七色の花、それも幸福をもたらすと云われる七色の花かぁ。

 うん、もういいよね。

 前に手も握られてるんだもの。

 ひょっとして私達がここ横須賀第一鎮守府の『現地妻』って事じゃない、これってば!




※この日を境に全国の伊勢型によるSpace Pirateship Fan Club(SPFC)が結成されました。

※『現地妻』
 何やら不穏なワードが出てまいりました(笑)。


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第101話 軍令部編6(アルカディア側2)

※100話記念で二話まとめて投稿です。


 「このぉーっ!」

 真宮寺長官が京極と山崎に向かってライトセイバーを振りかぶった。

 これはマズイ!

 連合艦隊司令長官ともあろうお方が陸軍大臣とその秘書官である少佐を殺害とあっては陸軍と海軍の全面衝突は避けられなくなってしまう!

 下手をすれば内戦勃発、その隙を突いて深海棲艦の上陸すら許してしまう危険性も出て来る。

 だが俺自身は艦内神社(分御霊)が無いのでライトセイバーを使う事が出来ない。

 え、重力サーベル?

 これまた御冗談を!

 受け流すならともかく重力サーベルだと受け切れない可能性があるって!

 

 「よせ、長官。」

 どうしていいか良い考えが浮かばなかった俺。

 気が付けば体が勝手に動き腕で長官の剣を受け止めていた。

 情けない俺に代わってトチローが助けてくれたのだろうか?

 受け止めた部分からは白煙と少し血が出ているがほとんど痛みを感じない。

 おかげで何でもないような顔をする事も出来て助かったわ。

 

 「ここからは海賊の仕事だ(笑)。ライトセイバーは日向に帰しておくがいい。」

 とは言ったものの、内心ではかなり驚かされた。

 だってこれ、訓練も無しにいきなり刀身を出せるとは理力(霊力)が半端じゃないって。

 流石はサクラ大戦キャラといったところか。

 だが、真宮寺長官も剣を止められた事で少し頭が冷えたのだろう。

 大臣に斬り掛かったという事実にライトセイバーを落としてしまった。

 

 「神崎閣下、長官を頼む!」

 ただ、真宮寺長官は茫然自失状態になってしまっている。

 今、逆に斬り掛かられれば彼女に防ぐ手立てはない。

 神崎中将に頼むと彼女はアイオワ・武蔵・イントレピッド・大鳳に命じ横須賀第一鎮守府へと真宮寺」長官を避難させてくれた。

 

 「逃がすか!」

 後を追おうとする山崎を重力サーベルで牽制する。

 さすがはラフレシアと互角に渡り合ったハーロック、その乗船であるからか体が自然に動いてくれた。

 

 いや、トチローが銃は苦手だがこちら(重力サーベル)は得意だと言っていたから彼のお陰かもしれないな。

 と調子に乗って山崎をあしらっていると、ヤツが落ちていたライトセイバーを手に取った。

 

 「邪魔立てするか!どけぃ、この海賊船風情が!」

 は?

 山崎までがライトセイバーの刀身を?!

 理力って霊力だけでなく魔力でもOKなん?

 しかも刀身は彼岸花や赤い人もピックリな程の赤。

 おまけに流石は葵叉丹(正体はルシファー)だ、その魔力で真宮寺長官に負けない長さの刀身を作り出しとるわ…。

 

 「なっ、アイツまで?!」

 驚く伊勢だが、そりゃこっちが言いたい。

 切り込んでくる山崎のライトセイバーを軽く受け流すべく、アルカディア号の犠装を展開し宙へ逃れる。

 

 「卑怯だぞ、降りてこい!」

 

 「ふっ、これが海賊のやり方だ。」

 忌々し気に悪態をつく山崎を重力サーベルと戦士の銃で足止めしていると陸軍大臣である京極からも声が飛んで来た。

 

 「堂々と勝負できんとは…。男のくせに情けない奴だ。」

 

 「これは京極陸軍大臣殿、俺にとっては最高の誉め言葉だ。感謝しよう。」

 何と言われようと真っ二つになってたまるかって話ですよ。

 

 「ふん、だから貴様は我々と違い二人しか女を連れる事が出来んのだ。しかもそんな地味な女をな。」

 何だよ、今度はモテる自慢かと思ったが伊勢と日向が地味な女だとそう言いたいのか?

 

 「大臣、あれは航空戦艦娘の『伊勢』と『日向』というヤツでありましょう。戦艦とも空母ともつかぬ半端モノです。ある意味、海賊などという海の半グレが連れまわすには相応しいかと(笑)。」

 

 「はっはっは!半端者ではなく半端モノか。改造したは良いが搭載する機体を回してもらえず一度も航空機の運用をさせてもらえなかったというあの役立たずの航空戦艦姉妹とやらだな(笑)。」

 

 ほぉー?

 ずいぶんと面白い事を仰り抜かし晒しケツかってくれますなぁ?

 俺を馬鹿にするのは未だいい。前世でもうだつの上がらない社畜だったからな。

 だがあの二人を馬鹿にする事は絶対に許さん!

 

 「お前達は人目に付く所に咲いている、それも分かりやすい花しか目に入らないのか?」

 気が付けば地上に降り一歩踏み出していた。

 確かに大和・陸奥・金剛のルックスは抜群だ。

 それぞれを桜・薔薇・向日葵に例えられても十分理解できる。

 だが、伊勢と日向を雑草扱いとはチョイと口が過ぎるってもんだ。

 おまけに無能だから瑞雲を回してもらえなかったとは無知もイイ所だよ、それ…。

 あのね、当時の日本には航空母艦に搭載する航空機さえ無かったの!

 瑞鶴や葛城がイイ例だろ?

 何も伊勢や日向だけじゃなかったんだよ。

 頼むからそんなこと言ってやるなよ…。

 

 「その通りだ、山崎少佐。だが彼女達はその瑞雲さえ搭載される事が無いと分かっていても…、それでもなお帝国海軍の誇りを忘れず最後まで自分の胸の中にあるモノの為に戦い抜いたのだ。その志たるや貴様らと比べるべくもない!」

 あ、これイカンやつや。

 思わず重力サーベルを突き付けてしまったが覆水盆に返らずである。

 

 「京極大臣もよく聞くがいい、伊勢も日向も断じて雑草ではない! 例えひっそりと咲いていてもその美しさと愛らしさは他のどんな花に引けを取るものではない、まさに幸福をもたらすと云われる七色の花そのものだ!」

 伊勢も日向も十分に愛らしいじゃないか。

 日向だってちょっと朴訥としているところがあるけれど、それがマイナスになることなんて決してない。

 

 「京極大臣に山崎少佐、野球は好きか?」

 

 「どうした、唐突に。まあよく見るがそれがどうしたというのだ?」

 

 「そうか。なら話が早い。かつてノムさんはONに対し自らを月見草と例えたそうだ。だがその月見草はひっそりと咲き、誰に見られるとも無く終わってしまったのか?」

 「断じて否。その花は立派にONと同じく名球会にその名を連ねている!」

 

 「ふっ、山崎よ。これは一本取られたな。」

 

 「は? え、いやしかし!」

 山崎少佐が面食らっているが無理もあるまい。

 京極大臣の意図が理解できていないのだろう。

 

 「その剣(ライトセイバー)はくれてやる。今日はそれで帰れ。」

 顎で埠頭出口をしゃくり指してやる。

 

 「良かろう、だが影山サキとその艤装はまた必ず貰い受けに来る! せいぜい良く研究しておくが良い。」

 そう言うと京極大臣は納得のいかない山崎少佐と取巻きの女性士官を連れて踵を返した。

 あと虎の威を借る狐、いやこの場合は女狐だな。

 その女狐連中達の置き土産(罵詈雑言)の酷い事。

 性格の悪い美人が集団になるとあそこまでトンでもなくなるとは知らなんだ…。




※筆:随分と四航戦に入れて込んでるね?
 ア:うむ、艦これを始めた時、どうしても戦艦か正規空母が欲しくてな。
   資源課金までしたんだがそれでも出なかったのだ。
   そしてようやく来た初の戦艦が日向さんだったもので…。
 筆:あー、出ない人はなかなか出ないからねー。
 ア:後、ファミ通の表紙を飾った五周年記念の立ち絵、可愛いかったし…。
 筆:うんうん。


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第102話 軍令部編7(アルカディア側3)

※お久しぶりです。ただいま、試験勉強も佳境に入りつつあります。
 もう少し、投稿間隔が空く日が続きますがお許し下さい。m(__)m


 「キミ、大丈夫か?!」

 陸軍連中が去ると日向が血相を変えて飛んで来た。

 

 「傷を見せなさい、早く!」

 何と伊勢に至ってはこちらの腕をとってくれているではないか!

 これは切り付けてくれた真宮寺長官と原因を作った京極に感謝せねばいけません(笑)。

 

 「問題ない。この程度であれば自己修復が働く。それにしても初っ端からエライ騒動だったな。どうした日向、そんな怖い顔して?」

 力こぶを作って大丈夫な事を示すが日向の表情は依然として険しいままだ。

 

 「キミ、私が何を怒ってるのか分からないのか?」

 あら、いつもより一段階トーンが低い?

 いや真宮寺長官は逃がしたし、陸軍連中にはお帰り頂いたし、上手く収めたんだから日向の怒りを買うところなんて…。

 あ、そうか。

 

 「ああ、この場を収めるためとはいえお前のライトセイバーを渡してしまった。済まなかったな。」

 そういえばあの剣、日向のだったわ。

 でも柱島第七泊地では全力で量産体制に入っているはず。

 向こうに帰ればまた日向に合ったのがあるだろう。

 そんな睨まなくったってイイのでは?

 

 「バカ者、そんな事は些末事だ!」

 あら、違った?

 うーん、ではあれだな。俺にとっては非常につらい事だが仕方あるまい。

 

 「そうか、事前に断りもなく全艦種枠側室筆頭艦に指名して悪かっ…。」

 そう言おうとしたのだが⋯。

 

 「いい加減にしないか!」

 あらやだ怖い。

 

 「私が怒っているのは何故、考え無しに自らを傷付るような真似をしたという事だ!」

 

 「とっさに体が動いたのだ。連合艦隊司令長官『真宮寺さくら』大将ともあろうお方を刃傷に及ばせてはならん。」

 「ましてや海軍と陸軍の内戦勃発ともなれば取り返しがつかなくなる。今は人類同士で争っている場合では無いのだ。」

 

 「じゃあ、どうして剣で受け止めなかったのよ?!」

 あれ、これ伊勢っちまでマジおこですか…。

 いや大坪由佳さんの声で言われるとさすがにツライな(泣)。

 

 「真宮寺長官は居合いの達人ゆえ、重力サーベルでは受け切れないと判断したのだ。」

 斬り合いを主とする剣と突き合う事を主とする剣では刀身の幅が全く違う。

 

 「それはそうかもしれないけど…。」

 渋々だが伊勢っちの方は納得してくれたみたいだ。

 

 「というか、お前達そんな事で怒ってるのか?」

 そう言った途端、日向から平手打ちを貰ってしまった。

 

 「そんな事だと?! 君はもう柱島第七泊地にとってなくてはならない存在だ。北大路提督にとっても、もちろん私達所属艦娘にとってもだ!」

 「そんな大事な存在が平気で自らを傷付けるなんてあっていい訳が無い!」

 あらやだ、カッコイイ…。

 って、そうか。

 もう少ししたらまたイベント海域攻略が始まるんだったわ…。

 大丈夫です、デレマス、いや出れますから。

 

 「大丈夫だ。このアルカディア号はお前達が思っている以上に頑健だ。(笑)。だが二人の気持ちはあり難く受け取っておこう。」

 「まあ、あの陸軍大臣と少佐に助けてやる価値があったかどうかは甚だ疑問だが…。」

 まあ、そう遠くない先で本性を現すだろうからな。

 何せ京極に至っては人間辞めてるし…。

 

 「それは違いないな。だが、もうこんな事は止めてくれ。キミが良くても私と伊勢が困まる…(///)。」

 

 「でもアレ(ライトセイバー)を陸のヤツが量産しだすと厄介かもしれないわよ。」

 

 「案ずるな。あれはコピーすら大変なはずだ。量産はできまい(笑)。」

 あれの扱いには理力や霊力が必要だしな。

 それに中核部品のカイバークリスタル自体がそう簡単に手に入らない。

 そう二人に説明しようとした時、日向を呼ぶ声がした。




※主人公の言う通り、初っ端から騒動が…。
 ここから一体、話はどう動いて行くのでしょう?


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第103話 影山サキ編1(艦娘側:日向2)

※すいません、今回はつなぎ回なので短い上にいつもに増してツマラナイし短いです…。




 「日向。」

 ライトセイバーについての懸念をアルカディア殿や伊勢と話していると後ろから私を呼ぶ声がした。

 いや、振り向かなくても分かる。柱島第七泊地で散々私達を苦しめてきたあの声を忘れるはずはない。

 

 「貴様に気安く名前を呼ばれる覚えはない。一体何の用だ?」

 私は振り返る事もしなかった。実際、返事さえもしたくなかったのだが仕方ない。

 ところがここで影山サキは予想だにしなかった行動に出た。

 

 「持っていきなさい。」

 何と自らが持つ剣を私に渡してきたのだ。

 

 「これはアルカディア殿と同じタイプの剣ではないか?! 貴様、一体どういうつもりだ?」

 何を企んでいるというのか?

 全員に一気に緊張と警戒が走る。

 先端に少し膨らみがあるあの形、あれは問違いなく重カサーベルだ。

 

 「だって私が持っていても仕方ないもの。」

 が、当の本人はあっけらかんとした調子だ。

 

 「話して見ろ(用件を聞こうか)。」

 私達を少し後ろに下げたアルカディア殿が前に出る。

 何故だろう、今一瞬だけ太眉の厳つい殿方がアルカディア殿に重なって見えた気がしたが…。

 

 「もう私には使えないもの。だってマソーンの種子を抜くって言ってたじゃない。」 

 そう言った影山サキの目には達観と諦めが浮かんでいた。

 

 「しかしそれではキミが死んでしまうかもしれないんだ。医者というのは人の命を預かり救うのが使命だからね。そんな危険な橋を渡る訳にはいかないんだよ。」

 アルカディア殿と初めて会った時を思い出す。

 ドクターゼロはあれだけ派手にやられた私達を小破前後にまで直してくれた腕利きの名医だ。

 もちろん、それにはヤッタラン副長の修理技術もあってこそだが、そのドクターゼロが二の足を踏むとなるとやはりマゾーンの種子を取り除くのは本当に難しいに違いない。

 いや、それどころか失敗にかこつけた自決を狙っているのかもしれない。

 いずれにしろ貴様の思い通りにはさせんぞ。

 

 「貴様をどうするかは貴様自身が決める事ではない。決めるのは軍令部だ。」

 アルカディア殿が影山に釘を刺す。

 

 「とにかく今は貴女を軍令部へと移すのが先です。さ、後を付いてきて下さい。」

 長官はそう言うとサッサと廊下に出て行ってしまった。

 私達も慌てて後を追う。

 

 ん、部屋から何か影山の慌てる声がする。

 そして手足を拘束された影山サキが出て来た。

 それも何とアルカディア殿に抱えられてだ。

 

 「万ーという事がある。軍令部までこのままにさせてもらうぞ。」

 アルカディア殿は私達の視線や神崎中将のぐぬぬという唸りをどこ吹く風と受け流しそのまま長官の後を追い始めた。




※最近、グダグダ回ばかりで本当に申し訳ありません。事実、☆1も(笑)。
 まだしばらくアルカディア号の出撃は無いです(影山サキの状況と艦娘達と本音のやり取り等が続きます)。
 ただ、京極大臣や葵叉丹の陸軍上層部は良からぬ計画を進めているというか牙を研いでいますので嫌でもアルカディア号は駆り出される破目になります。


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第104話 影山サキ編2(アルカディア側4)

※資格試験まであと一週間…。


 影山サキを軍令部へ送り届けた後、横須賀第一鎮守府へと戻ってきた我々三人(アルカディア号・伊勢・日向)

 大ロビーにある自販機前でノンビリと午後の紅茶を啜って(ちなみに伊勢は伊右衛門、日向は綾鷹をチョイス)いると、以前に救出した六人(『武蔵(改二)』『大和』・『赤城(改二)』・『大鳳』・『翔鶴改二)』・『瑞鶴(改二)』)が顔を出してくれた。

 あれからもう二カ月以上も経つというのに丁寧なお礼を言われてしまい、逆にこちらが恐縮してしまったぐらいだ。

 

 「アルカディア号さん。」

 先の六人に癒されていると神崎中将が声を掛けてくれた。

 

 「神崎閣下か。陸軍への対応、お疲れであらせられた。ところで長官は?」

 

 「今は落ち着いていらっしゃいます。ですが、大神さんにかなり叱られてしまって…。」

 神崎中将が眉を寄せる。

 うーん、やはり美人はどんな表情でも絵になるなぁ。

 

 「そうか。だが珍しいな、長官があれほど感情を剥き出しにするとは。」

 

 「長官のお父様は深海棲艦との戦いで犠牲になられたのですわ。」

 意外な事実を告げる神崎中将。

 

 「ああ。士官学校生達を逃がすために時間稼ぎをされた末の最後だったと…、私もそう聞いている。」

 なんとウチの日向も知っているほどの有名な話らしい。

 

 「その士官学校生の中には私達も、そして長官、いえ『さくら』さんもいらっしゃったのですわ。」

 

 「そうか…。」

 あまりの残酷な事実に言葉を無くしてしまう。

 親は子供のためなら何の迷いもなく行働を起こせると聞くが、さらにそれを他の学生達にまでとは…。

 俺にはとても真似が出来ない。

 

 「あの時の『さくら』さんを見ているのはとても辛かったですわ。」

 

 「立派な父上だったのだな…。」

 たしか真宮寺一馬殿であらせられたか?

 俺もいつかその境地に辿り着きたいものだが…。

 

 「ええ…。ですから長官が怒るのも当たり前ですわ。『さくら』さんが我慢していらしたら私が同じ事を(薙刀で)したでしょう。」

 あ、こらヤバイわ。

 今後は何があっても神崎中将だけは怒らさないようにしないと…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「真宮寺長官はおられるか?」

 長官のいる横須賀第一鎮守府の控室をノックする。

 神崎中将から長官が俺のケガを心配されていたと聞いたからだ。

 

 「アルカディアさん?!あの、お怪我の方は?!」

 直ぐにドアが開いて真宮寺長官が顔を出した。

 

 「アルカディア号は一種のサイボーグ戦闘艦だからな。あれぐらいならスグに自己修復が働く。心配は要らん。」

 というか四航戦の二人にも言える事だが、心配し過ぎだよ。

 

 「ですがアルカディアさんは北大路提督、いえ花火さんにとって大切なお方です。そんな方に怪我をさせてしまうなんて…。本当に申し訳ありませんでした!」

 

 「いや怒って当然だ。神崎閣下も長官が黙っていたら私が同じ事をしたと言っていたぐらいだからな。ところで大神元帥殿は?」

 花火さんにとって大切なお方?!

 いいねぇ、この調子でドンドン外堀を埋めていこうっと(笑)。

 

 「お昼からの会議に出席されています。何かお伝えする事でもあれば承りますが…。」

 

 「いや彼には同じ男として言っておく事がある。もっと長官に寄り添ってやるように進言しようと…」

 

 「ですよね、ですよね!」

 えぇ、何でそんなに喰い気味なんですか?

 上手くいっているように見えて真宮寺長官もストレス貯めてるんだなぁ…。

 

 「あそこには神崎閣下だけではなく大神元帥もいてしかるべきだ。忙しいのは分かるが、陸軍の暴走を止めるのも彼の役目だからな。」

 「いくら忙しくても優先すべき事項を見誤るといつか取り返しのつかない事になってしまう。今回のケースでは陸軍が出てくること自体、十分に予測できたことだしな。」

 

 「アルカディアさぁん(うるうる)…」

 あの…、真宮寺長官、袖をお離し下さい。

 アナタの旦那様は大神さんでしょ?

 私、相手がどれほどイイ女でも既婚者には食指が動かないタイプなんです。

 

 「ところで影山はどうした?」

 

 「軍令部です。あと30分ほどで私と大神さん・神崎中将・ブルーメール少将による査問が始まりますからアルカディアさんにも同席をお願いしようと思っていたんです。」

 

 「分かった、是非ともそうさせてもらおう。少しでもいいから色々情報が欲しいところだ。」

 マゾーンの情報もだが、以前に影山サキが話していた五行衆というお店がどこにあるかも大変重要な情報だ。

 一度、そういった夜のお店に行ってみたかったんだよ。

 お知り合い枠という名の+@サービスがあるかもしれないからな(期待大)。




※五行衆の水弧:第40話を参照して下さい。
 のちにアルカディア号はこの盛大な勘違いをサクラ大戦キャラ提督達の前で話してしまい大笑いされてしまいます。


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第105話 影山サキ編3(艦娘側:影山サキ1)

※試験終わったー! でも合格してるかどうかは知らん…。
 失礼いたしました、ついに影山サキが登場です!



 今、私はテーブルをはさんで大神さんと向かい合っているわ。

 他に部屋にいるのは真宮寺長官、神崎提督、ブルーメール提督、後はアルカディアとかいう海賊船。

 後は艤装を展開した大和型の二人が部屋の外に待機、これは神崎提督による万一の事を考えた発案だそう。

 勿論、私の手足はしっかりと拘束されているし、あのアルカディア?とやらに手も足も出なかったからそんな心配なんて要らないと思うんだけど(笑)。

 

 「で、何から聞きたいのかしら? 言っておくけど私の知っている事なんてそれほど多くないわよ?」

 どうせこの尋問が終わったら私は消される。

 それならそこそこ協力するからなるべく楽な方法でお願いしたいわね。

 

 「まず体から種を抜いて欲しいとは一体どういう事なんだ?」

 ロ火を切ったのは大神さんね、マッタクこんな時でもイイ男なのは変わらないんだから(笑)。

 

 「マゾーンは異星の植物人間ともいうべき存在なのは知ってるのよね? マゾーンは単体で発芽すればマゾーン本人として、人に種を植付て発芽させればその人を乗っ取って活動する事が出来る。で、今の私は艤装が大破したおかげで(種子の力が弱まって)元の私を出せているってわけ。」

 一昨日、私を戦闘不能にした海賊船に視線を向けながら答える。

 

 「何だって?!」

 あら大神さんったら、そんな驚く事かしら(笑)。

 

 「それは他にも同じような佐官や将官がいる可能性があるという事ですか?!」

 その通りよ『さくら』さん。

 いち早くそこに気付くなんてさすがね。

 連合艦隊司令長官という肩書は伊達ではないということかしら。

 

 「間違いなくネ。私は士官学校卒業式の帰りに何者かに襲われた。今にして思えばあれがマゾーンの先遣部隊か工作員だったのでしょうけど。」

 

 「貴様、この場しのぎの出鱈目であれば承知せんぞ!」

 ブルーメール少将ったら早速、剣に手を掛けてるわ。

 まったく頭に血が上りやすいのは相変わらずみたいね(笑)。

 

 「そう言われでも私には証明する手立てはないワ。だから信じるも信じないもアナタ達の自由。」

 

 「いや、かのじょのいうことはしんじつだろうね。」

 

 「ドクター?!」

 『すみれ』さんが驚いて顔を向けた先には何処から現れたのか軍医帽を被った妖持さんが!

 そしてその軍医妖精さんはポンと音を立てると私達と同じ大きさに…、なった?!

 

 「今、彼女の体は隅々まで種子から出た神経が張り巡らされているんだよ。誰も好き好んでこんな状態になりたくなどないだろうしね。それよりも入楽や治療が出来ないのが厄介なんだ。」

 え!

 この人って妖精さんだったの?!

 埠頭で京極や山崎に私の説明をしていた人じゃない!

 

 「治療や入渠をすると勢いを取り戻した種子によって再び彼女の自我が抑えられてしまうという事か…。」

 

 「キャプテンの言う通りだよ。種子を取り除くのであれば今の状態でやるしかないんだが、戦闘で傷ついたこの状態で彼女の体が手術に耐えられるかどうか…。」

 

 「医療技術の問題だけではないという事ね。」

 

 「デスシャドウ島の医療施設ではどうでしょうか?」

 真宮寺長官が軍医さんに提案する。

 

 「やるとすればもちろんそうなるだろうが、それでも神崎中将の言う通り医療技術の問題だけではないからね…。」

 

 「「「「「…。」」」」」

 大神さんも真宮寺長官も神崎提督もブルーメール提督もアルカディアとやらも皆、押し黙ってしまったわ。

 

 「いいワ、やって頂戴。」

 

 「いや、しかし!」

 

 「構わないワ。どうせ怪我が治ればまた体を乗っ取られるんだから。」

 

 「今の状態でいるよりはという事か…。」

 私を見るアルカディアの目には深い悲しみが浮かんでいる。

 

 「ええ。それに陸軍の研究機関に行けば生きて出られるかも怪しいもの(笑)。それに生きているのに体を乗っ取られているというのはとても辛い事よ。そんなの死んでいるのと大して変わらないワ。」

 

 「よし、査問は後だ、ドクターさん!」

 

 「「「ええ、お願いします(する)(しますわ)。」」」

 大神さんに続き皆が立ち上がる。

 

 「分かった、やってみよう。」

 

 「ありがとう。もし失敗しても気にする事はないワ。その時は存分に生態研究に回して頂戴。」

 学生時代からどことなく皆に距離を置かれいつも孤独を感じていた私。

 何が原因かと思うも帰ってくる答えはふいんき(なぜか変換できない)という訳の分からないモノ。

 おかげで士官学校時代は完全に孤高の人になるしかなかった。

 でもやっぱり心のどこかでは人との繋がりと温もりを求めていたのね。

 そしてそれは今でも変わらない…。

 だって手を差し伸べてもらえた事にこんなに喜びを感じているんだもの。

 

 「いやドクター、影山は決して死なせてはならん。」

 

 「「「「?!」」」」

 最後に私を受け入れてくれた人が出来たと喜んでいたら、例の海賊戦艦が私を死なせてはいけないと…。

 それにこれには真宮寺長官も神崎提督もブルーメール提督も、そしてなにより私自身が一番驚いてしまったワ。

 

 「え…。」

 自分でもどういうことか分からないまま彼を見る。

 

 「確かに彼女は許し難い艦隊運営をしてきたのは事実だ。だがこれは彼女の本意ではなかった事が皆にも分かったはずだ。」

 「俺はこれからの彼女を信じてみたい。影山サキの提督としての船出はこれから始まるのだ。」

 

 「ドクターゼロさん、私からもお願いします。どうか影山君を助けてやってくれないか?」

 

 「大神元帥の言う通りだ。ドクター、今かけがえのない仲間をその手に委ねる。その手腕が不純物を無事取り除く事が出来ると信じてな。」

 

 「柱島第七泊地の艦娘達が聞いたら絶対反対するか怒るわよ? 何なら連れてきた伊勢と日向に聞いてみなさいな(笑)。」

 嬉しいのを鼻で笑い誤魔化す。

 

 「日向は俺の全艦種側室筆頭艦だし伊勢はその姉だ。確かに良い顔はしないかもしれないが、この俺が選んだ女だ。何も心配はしていない(笑)。」

 

 (ポッ…。)

 やだ、顔が熱く…。

 こうなったら私もそれに報いないとネ。

 

 「万一があるといけないから先に行っておくワ。ここ軍令部や横須賀第一、第二鎮守府からマゾーンの気配はあまり感じられなかった。という事は怪しいのは政治家と陸軍よ。京極とやらは間違いなく私と同じ匂いがしたワ。」

 大神さんやさくらさんが気付いていない大事な事を伝える。

 これで私もマゾーンのお尋ね者ね。

 そして、皆の顔が驚愕に染まったわ。

 




※果たして影山サキからマゾーンの種子は取り除けるのでしょうか?
 ん? 今、どこからか私なら出来るという渋い声が聞こえましたが…。
 でも頼んだら一千万円ほど掛かりそうな気が(汗。)
 
※アルカディア号が戦場に赴くのはもう少し先になります。
 柱島第七泊地に戻ったら数人の艦娘さん達との日常を挟んでから出撃となります。


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第106話 影山サキ編4(艦娘側:神崎すみれ1)

※影山サキを救うんだったら、もっとマシな話があるんじゃないか?
 いや自分でもホンマそう思います。申し訳ございません…。



 手術中のランプが消えドクターが出てきましたわ。

 

 「ドクター!」

 アルカディアさんがドクターゼロさんに駆け寄ります。

 

 「最善は尽くしたよ。後は本人の気力と意思次第といったところだね。」

 

 「そうか!」

 アルカディアさんが嬉しそうに頷かれました。

 

 「いずれにせよドクターゼロさんのお陰だ。ありがとう!」

 そう言って大神さんもドクターゼロさんの肩に手を置きましたわ。

 

 「いや自分でも良く成功したと思うよ。こりゃキャプテンに高い酒を所望しないといけないね(笑)。」

 ドクターゼロさんも摘出手術が成功して上機嫌なのか、お猪口を傾ける仕草をされています。

 

 「それは海軍から報酬として出そう。でもドクターゼロさん、本当にそんなものでいいのか影山君の命を救ってもらったんだ、もっと違うモノでも…。」

 

 「随分と影山さんに入れ込んでおられるのね?」

 全員の目が厳しいのは私の思い過ごしではないはず…、ですわ。

 

 「お お が み さ ん?」

 

 「さ、さくら君?!」

 大神さんがさくらさんに詰め寄られてタジタジになってますわ。

 さくらさんの言う通りですね。

 女性に優しいのは昔からですが、それも時と場合によりけりですわよ?

 まあ、私達団員はそんなアナタだからこそ大好きだったのですけれど。

 

 「いやそれはたまたま影山君が美人なだけであって!」

 …。

 もう処置無しですわ、ご自身でキングス弁を開いて(自沈レバーを引いて)しまわれるなんて…。

 

 「大体、僕はただの一度だってさくら君を悲しませるようなことは…。」

 

 「ふーん、へーえ、ほー。(ニッコリ&ゴゴゴ)?」

 「アルカディアさんに『もっと長官に寄り添ってやるように』と言われたぐらいなのに?」

 幽鬼のようにゆらりと立ち上がったさくらさんがゆっくりと大神さんに歩みを?!

 

 「うわ、さくらくん、何をするんだ、やめ…、くぁwせdrftgyふじこlp…!」

 大神さんたらどこかへ連れて行かれてしまいましたわ。

 どうかご無事で…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「大神さん。」

 どれくらい経ったのでしょう、影山さんが目を覚ましました。

 

 「影山君! 気が付いたのかい?!」

 いつの間にか復活した大神さん(沢山の引っ搔き傷&打撲痕には誰も触れる事が出来ませんでしたわ)と共に全員で駆け寄ります。

 

 「ええ、おかげさまでね。数日後には生態研究にも協力できそうよ。急がないと陸軍さんは随分と気が短いみたいだしね(笑)。」

 皆の顔に影が落ちましたわ。

 手術が成功し彼女も意識を取り戻したというのに、この後の事を考えると…。

 

 「いや、その件だが君を陸の連中に渡す事はしない。」

 

 「大神さん?!」

 引き渡したくないのは皆同じですけれど…。

 一体どうされるおつもりなのかしら?

 

 「うむ、俺もその意見には賛成だ。陸軍に引き渡してしまえばどうなるかなど考えるまでもあるまい。」

 アルカディアさんまで?!

 いえ、でも彼がそう言うと本当にどうにかなりそうで不思議ですわ。

 流石は神崎家の跡取りですわね(あら、何か仰りたい事でも?)。

 

 「影山君。」

 何と大神さんはベッドの側に行き影山さんに銃を渡されました 。

 

 「あなたっていつもそう。終わってみればどんな荒唐無稽な作戦でも成功させでしまう。不思議な人ね(笑)。」

 そう言うと溜息と共に影山さんは大神さんに銃を向けたのですわ!

 

 「うわー、ほりょにじゅうをうばわれてしまったー、たすけてくれー!」

 

 …。

 ……。

 ………。

 何という超棒読み。

 おかげで大神さんの意図する事が分かったのですけれど(笑)。

 

 「これはイカン! 大神殿の救出が最優先事項だ、捕虜の射殺もやむを得…。」

 アルカディアさんは最初から分かっていらしたのでしょう、銃に手を掛けましたが…。

 

 「待って二人とも。私も一時期劇団員(誤字ではない)でもあったのよ。大神さん、その読みは余りに酷いワ。リテイクよ、リテイク。」

 

 「そ、そんなにかい?!」

 「コホン、では。」

 「うわー、捕虜に銃を奪われてしまったー。助けてくれー(棒)。」

 

 「これはイカン! 大神殿の救出が最優先事項だ、捕虜の射殺もやむを得ん!」

 アルカディアさんはそう叫ぶと銃を影山さんの耳横に燃ったのですわ。

 

 「ああっ!」

 影山さんは掛け布団の上にそっと銃を置くと再びベッドに体を横たえましたわ。

 

 「かげやまくんー!」

 

 「残念ながら反乱を起こした捕虜から元帥殿をお守りするにはこうするしか無かったのだ、許せ。」

 

 「そうかー。仕方ないなー。」

 

 「まるで舞台稽古初日のさくらさんを見ているようですわ。」

 

 「いくら何でもあそこまで酷くありませんでしたから!」

 

 「まあ人には向き不向きというものがあるという事ね。大神さんは軍人だもの、仕方ないワ。」

 

 (ズーン….)

 大神さんが凹んでいらっしゃいますが、仕方ありませんわ。劇団員であった私達と違い彼は元から軍人ですもの。

 

 「いずれにせよこれで陸の運中に渡すのは艤装だけで済む。影山サキは摘出完了後、反乱を企てたためにやむ無く射殺、あるいは航装摘出中に死亡のどちらかで押し通せばいい。」

 (ぽっ。///)

 マズいですわ。影山さんがアルカディアさんに対して女の顔に?!

 新参者がイイ度胸ですわね。

 

 「そうだな、京極陸軍大臣と山崎少佐には2~3日後に取りに来るよう伝えよう。」

 どうやら連絡は大神さんから入れて頂けるみたいね。

 さくらさんの負担が減ったのは良い事でしょうけど…。




※新参者がイイ度胸:すみれさん、アナタ花火さんの存在を忘れていませんか?

※この回にて影山サキの净化?が完了しました(え?!)

※次回はInterlude回なので短いです。
 柱島第七泊地の伊勢&日向の為に横須賀第一鎮守府では戦艦娘&空母艦娘達だけの宴会が居酒屋鳳翔で開かれたようです。
 そこに出席したお二人のお話なのですが、当然ここの艦娘遠からは質問攻めに(笑)。


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第107話 宴会編1(艦娘側:赤城1)

※お昼に特別な瑞雲によるショーを披露した柱島第七泊地の伊勢と日向。
攻防一体の瑞雲ファンネルに全艦娘が見入っていたようですが、やはり航戦四人衆と航巡六人衆が目を輝かせていたようです。



 「ではお昼に特別な瑞雲のショーを見せてくれた柱島第七泊地の伊勢さんと日向さんに感謝しましょう、乾杯!」

 

 「「「「「「乾杯(うぇーい)!」」」」」」

 私の乾杯の声と共に皆のグラスが次々と合わさっていきます。

 居酒屋鳳翔を武蔵さんが貸し切ってくれたおかげですね。

 最初は戦艦娘だけだったみたいですが、鳳翔さんが空母の()達も入れてくれるならという条件で貸切になりました。

 本当に鳳翔さんには感謝してもしきれません。

 

 「あの瑞雲はいいな。私達に配備されるのはいつなのだ?」

 

 「それは分からん。ウチでもまだ試作段階なのだ。それにあれは誰にでも扱える代物ではない。かなりの空間訓練が必要だ。」

 早速、ウチの日向さんが柱島第七泊地の日向さんに特別な瑞雲の事を聞いていますね。

 

 「私はあの瑞雲の真価は攻撃よりも防御にあると見た。三機で囲えば三角形、四機で囲えば四角形の防御壁を展開できる、あれは凄い。」

 「瞬時に相手の攻撃を防ぎたい箇所に持っていけるし大きさも自在に操れる。これからは航空戦艦の時代が来るぞ。」

 そう言って武蔵さんが柱島第七泊地の日向さんの肩を叩いています。

 

 「なんだか面はゆいな。だがここの武蔵殿は話が分かるようだ。さあ、飲もう!」

 執務室ボイスでも分かるように日向さんも伊勢さんもお酒が好きですからね。

 まだ始まったばかりだというのに瞬く間に空になった瓶と空になった料理皿が並んでいきます。

 

 「でもペラが無くてカウルからあの不思議な光線が出ていマシタ。推進源というか動力はどうなっているのデスカ?」

 

 「ああ、金剛の疑問も尤もだな。あれは思念派で操るんだ。だからあまり遠くへは飛ばせないし、距離があれば使えない。」

 

 「それであの瑞雲には妖精さんが搭乗してなかったのですね。」

 私もどうして無人の機体にあれだけの動きが出来るのか不思議だったのですが、これでようやく合点がいきました。

 

 「そういう事(笑)。まあ分類としては近接戦闘用ってトコね。」

 柱島第七泊地の伊勢さんは何でもないような感じですが、あれだけの数を操れるという事はやはりかなりの訓練を積まれたのでしょう。

 

 「当面は瑞雲だけよね。私達にまで実装されたらとても操り切る自信なんてないなぁ。」

 

 「良かったわね、五航戦。お払い箱にならなくて。」

 

 「な、何よ! 加賀さんだってあんなの操り切れないでしょーが!」

 

 「私達にも瑞雲ではないけれどそれに代わるもの(噴進弾ファンネル)が近接防御用として各自試験配備される予定よ。せいぜい励みなさい。」

 

 「げっ!そんな情報要らなかったよ…。」

 ふふ、あの二人(瑞鶴さんと加賀さん)ったらいつも通りですね。

 

 「でさ、今回の宴会の趣旨ってもう一つあって(ニヤニヤ)。」

 

 「アルカディア号さんのこと色々と教えて欲しいんだよね〜(ニヤニヤ)。」

 蒼龍さんと飛龍さんったらいきなりですか。

 まあ誰しも(当然私も)知りたい事なので全員が身を乗り出しました。

 

 「やはりか。」

 

 「いいよ、知ってる事なら(笑)。何から聞きたいの?」

 柱島第七泊地の伊勢さんと日向さんも予想していたようですね。

 こうなったら好みのタイプから好きなべ物や趣味まで徹底的に丸裸にしてやりましょう。

 もちろん、物理的に丸裸にできればなお良しです!

 

 「ちょっと、二人とも!」

 さすがに横須賀第一鎮守府筆頭秘書官の大和さんは止めに掛かりますが、逆にこんな時ぐらいお堅いのは無しと瑞鶴さんに止め返されてしまいました。

 

 「コホン、ではまず酒は強い方か?」

 

 「強いぞ。酔わせてどうこうはまず出来ないと思った方が良い。」

 

 「くっ、そうか…。」

 それを聞いた長門さんが項垂れます。

 

 「好きな女性のタイプはどうでしょうか?」

 いきなり核心に迫る榛名さん。

 でもおかげで全員の耳がダンボのようになっています(笑)。

 

 「初日に青葉が皆の前で好みのタイプを聞いた事がある。その時は胸部装甲よりも美脚に憧れると。」

 日向さんから予想外の事実が?!

 

 「まさかの脚フェチ?! 瑞鶴さん!」

 

 「先輩、これは私達にもチャンスですよ!」

 

 「二人とも何で私を見るかな…。」

 

 「「やっと私達にも日の目が当たる時が来たんです!」」

 

 「だから何で二人とも私にすり寄ってくるかな…(泣)。」

 顔を輝かせる大鳳さんと葛城さんに対してうんざりした顔の瑞鶴さんですが、これはいけません。

 私達、大型艦最大の武器が消えてしまいました。

 

 「大丈夫、胸部装甲はそれほど気にしないってだけみたいだから(笑)。」

 伊勢さんのフォローも、それほど脚に自信が無い私にはツライ宣告です。

 

 「他には何か仰っておられませんでしたか?」

 何か他に突破口は無いのでしょうか。

 藁にも縋る思いで日向さんに目を向けます。

 

 「そうだな、ただのキレイな足ではなくパンストが似合う美脚の持ち主がどうのと言っていたな。」

 

 「あら、あらあら?! まさかのパンストフェチなの?」

 陸奥さんがニヤニヤしていますが、事実だとすればまだ私にも希望が!

 

 「どうかなあ。それが似合う脚ってだけで健康的な素足なら十分だって言ってと思うけど…。あ、でもタイツはキライなんだって。」

 

 「外反母趾もな。生理的に受け付けないそうだ。」

 これは上々です。幸いにも私も加賀さんも該当しません。

 

 「食べ物の好みはあるのでしょうか?」

 鳳翔さんは胃袋から掴みにかかる気ですね、流石です。

 

 「脂身の多い肉だな。中でも特に牛肉が好きみたいだ。スジ肉を柔らかく煮て甘辛い味付けにしたモノが大好きだ。あとは粉物・ラーメン・寿司・カレー・ハンバーグ・天ぷら等だ。」

 

 「逆に嫌いなのは瓜系統だね。キュウリは勿論、スイカもメロンも駄目みたいよ。漬物は大丈夫って言ってたけど。」

 あらら、随分と可愛らしい味覚(子供舌)をお持ちなのですね。

 

 「お酒は御強いとの事ですが甘いモノは苦手なのでしょうか?」

 来年のバレンタインデーに向けた情報収集(索敵)は大事です!

 

 「いや、それは大丈夫だ。彼は和菓子も洋菓子もいけるぞ。」

 これは朗報です。

 今度横須賀に来られた際は彼をスイーツデートに誘ってみましょう。

 そして甘いモノも良いがもっと食べてみたいものがある(君を食べてみたい)なんて言われたら私…。

 ですが、そこから先の想像に待ったが掛かりました。

 陸奥さんが禁断の領域に踏み入ったのです!

 

 「ふーん、じゃあ私からの質問。アルカディア号さんはもう各艦種とも正室と側室筆頭は決めたのよね? 誰と誰なの?」




※アルカディア号が選んだ各艦種の正室と側室筆頭に一喜一憂する横須賀第一鎮守府の戦艦娘と空母艦娘達。
自分が選ばれた訳ではないのに名前が出るたびキャーキャーと黄色い声が!

※しばらくは日常回の投稿を考えています。その傍らで月一の提督会議に陸軍が乱入し提督達を人質に取る話を考えているのですが、これがなかなか話がまとまらずで…。


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第108話 宴会編2(艦娘側:神崎すみれ2)

※意外や意外、神崎提督はプロレスごっこ、しかもグラウンドの展開がお好きなようで…。


 あの後、デスシャドウ島の医務室から戻ると執務机に置かれた書類の量に眩暈を覚えましたわ。

 いっそ全てを放り出してアルカディア号さんと街へ繰り出そうかと思いましたが、まだ何も言わない内から事務官?艦?の大淀と筆頭秘書の大和が海老ブル一氏も真っ青になる程の表情を向けてきたので止めておきましたわ…。

 一斉にため息をつき、三人で『たれぱんだ』状態になりながら業務に取り掛かります。

 

 「提督~、もう少しシャキッとなさって下さい。横須賀第一鎮守府の指揮官がそんな事じゃだめです~。」

 

 「そうですよぉ、それにこの間も縁談を断ってしまったんですって? 少しはこの大和に回して下さいよ、全く。そんなこと繰り返していると行き遅れになる可能性大ですからね。」

 

 「ぐっ、行き遅れ以外はアナタ達にそっくり返してあげますわ。それに横須賀の大淀や大和が机に垂れてるなんて知れたらココ(第一鎮守府)のイメージがガタ落ちですわよ?」

 それから二時間ほど経った頃でしょうか?

 ようやくティータイムという頃、アルカディア号さんが顔を出して下さったのですわ。

 花火さんから預かっているとタウイタウイで採れた南国フルーツを大和、いえ山と入ったカゴを持って。

 

 「まあ、こんなに? あちら(タウイタウイ第二)では大変な騒動があったというのに…。北大路提督さん、気を使って下さったのね。」

 

 「そこが花火だ。同じ指揮官として中将閣下の気苦労も手に取るように分かるのだろう。それにいかなる時でも花火は他人に対しての思いやりは忘れない娘だ。」

 

 「ええ、気苦労ばかりですわ。ずっと監視の目が光っているだけでも…。」

そう言って大淀と大和に目をやります。

 

 「そうか。俺にできる事があれば言ってくれればいい。なんなりと…。」

 

 「本当ですか?!では息抜きに行ってみたいお店がありますの。今宵の食事、付き合って下さらないかしら?!」

 やったわ!

 自然な流れで上手くお誘いできたましたわ!

 

 (自然な…、流れ?)

 

 (大和には強引にとしか思えませんが。)

 

 「構わんがこんな無法者でいいのか? 海賊船などを連れ歩いては中将閣下の評判や名誉に傷が付いてしまわないか心配だが…。」

 

 「とんでもありませんわ! 今やアルカディア号さんは全艦娘、いえ海軍にとって憧れの英雄ですのよ? ほとんどの基地や警備府、泊地では演習で来られるのを待ちわびているとか。」

 ただブラック鎮守府ではTVやモニターが無かったらしく彼の事を知らない艦娘達がまた大勢いるのも事実なのですけれど…。

 まあ、彼を知らしめるきっかけとなった『鬼姫級十二隻による横須賀第一鎮守府及び横須賀第二鎮守府急襲事件』を中継したウチの主犯格三人(青葉・明石・夕張)は後で吊し上げておきましたが…。

 

 「ではPM06:00にこちらにいらして下さいな! お待ちしていますわ!」

 

 「そ、そうか。中将閣下のような美しい人からお誘い頂けるとは光栄だ。楽しみにしておこう。」

 美しい?!

 まあ自分でも分かっていましたけれど、アルカディア号さんのような方から改めて言われると照れてしまいますわね…(///)。

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか彼はそのまま執務室を後にされました。

 

 (いえ、絶対知らずだと思いますけど…。)

 (ええ、大和もそう思います。)

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 窓を開けているからでしょうか、居酒屋鳳翔の方からここまであの子達(戦艦娘と空母艦娘)のはしゃぎ声が聞こえてきますわ。

 時刻を確認するとPM05:30。

 いささか宴会に早いのではないかと思いつつ外を見ると丁度、夕日が落ち始めた頃。

 春のお彼岸もひと月も過ぎた4月中旬だと、この時間でもだいぶ明るいですのね。

 そして明るいのは外だけではありません、私の心もですわ!

 ああ、早くPM06:00になりませんこと?!

 

 私の名前である『菫』色のワンピースにローヒール。

 その出で立ちの自分を何度も鏡に映しておかしなところが無いかチェックしていると、大淀から一体、何度確認されたら気が済むのですかと呆れられましたわ。

 大和と交代した高雄からはウロウロしないで下さい、床が減りますなんて言われる始末。

 

 「そんなこと言ったって…。枝毛なんか気になるでしょう?」

 

 「そんなトコ、男の方は気にしませんし気が付きません。」

 お、大淀…、アナタそんなに辛辣だったかしら?

 

 「そうですね、そんな事より歯紅やストッキングの伝線にはこまめに気を配って下さいね。」

 彼は足フェチらしいのでいっそ素足の方が良いのではと高雄。

 歯紅は何度も確認していますし、素足も試してみたのですが、ちょっと艶めかし過ぎて勇気が出なかったのですわ。

 そして仕上げに香水を思った矢先、大淀が私の手を止めました。

 

 「提督、アルカディア号さんは女性の匂いが大好物なんです。そのままで勝負して下さい。」

 な、何ですって?!

 大淀、あなた何処からそんな情報を?!

 

 「私達が殿方の匂いに反応するのと同じです。若い異性の匂いというのはそれだけで武器になるんですよ。」

 この時は半信半疑でしたが、後で大淀に感謝する事になるとは思いもしませんでしたわ(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「ここか。暖簾も看板も出てないが…。」

 アルカディア号さんが首を傾げていますが無理もありませんわね。

 ここは退役した先代の鳳翔さんと伊良湖さんが営まれている会員制のお店です。

 艦娘とその一部関係者以外は門をくぐる事が出来ませんし、一見すれば大きな純和風の邸宅ですから普通の人は分からないでしょう。

 

 「先代、お久し振りですわ。」

 

 「いえ、こちらこそご無沙汰いたしております中将閣下。」

 出迎えてくれた先代の鳳翔さんがアルカディア号さんに目を向けましたわ。

 表情こそいつもの鳳翔スマイルですが、じっと何かを観察するような視線が彼に注がれます。

 

 「成程そちらの方が…。」

 

 「宇宙海賊船アルカディア号だ。なにやら俺には不相応な場所のようだが…。」

 

 「いえ、中将閣下がお連れされたのなら何もいう事はございません。十分信頼に値するお方のはずですから。では、ようこそ艦娘専用料亭『料(理)山泊』へ。」

 そう言うと先代は私達を離れの一室へと案内して下さいました。

 それからは緊張するも楽しい時間でしたわ!

 アルカディア号さんとのお喋りも楽しかったし、次々と運ばれてくる料理も絶品でしたし言うこと無しでしたわ(少々、値が張るのが痛いですが…)。

 少し飲み過ぎて失敗したと思いましたが、おかげで帰り道は彼に寄り掛かって歩く事が出来たので良しとしないといけませんわね。

 というかさっきから青葉がチョロチョロと…。

 もう少し上手に隠れなさいな。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「本当に申し訳ありませんでしたわ。私とした事がつい飲み過ぎてしまって…。」

 鎮守府内にある私室のソファーに座らせてもらう頃にはかなり酔い醒めていました。

 ですがもう少し酔ったふりをしておきますわ。

 え?  何ですの? あざとい?

 おかしな事を仰るのね。

 これは駆け引きですわ、駆け引き。

 

 「中将閣下。」

 アルカディア号さんが隣に座りました。

 ああ、殿方の匂いがたまりません!

 そしてそんな私に止めの一発が!

 何と私を提督部門の側室筆頭にというお誘いですわ!

 

 「一応、お伺いしますわ。正室はどなたですの?」

 (やだ、何を言ってるの私! サッサとOKしてしまいなさいな!)

 

 「正室は花火だ。閣下に側室とは甚だ失礼だとは思ったがどうしても諦められず…。」

 やはり花火さんが正室なのですね。

 まあ、彼女の可憐さは誰もが認める所ですから納得ですわ。

 

 「もし、私が嫌だと言ったら次は誰に?」

 ああ、もうどうして私ったらこんな時まで素直になれないのかしら?!

 つくづく自分が嫌になりますわ。

 

 「タチバナ閣下に頼もうと思う。」

 

 「そう、マリアさんにね。それはもう彼女にはお話ししていらっしゃるのかしら?」

 

 「いや。一度に複数に話を持っていくことは俺の主義に反する。」

 

 「それは賢明な判断ですわね。で、私にというのは本気ですの?」

 

 「もちろんだ。」

 キタアアァァァ! さあ言質はとりましたわよ!

 

 「分かりました。ではその本気を見せて頂けませんこと?」

 やりましたわ、震え声にならず上手く言えましたわ!

 

 「ん?」

 

 「今…、ここで…、私を抱いてくださいな。」

 アルカディア号さんの逞しい胸の中に顔を埋めます。

 少し戸惑われたようですが、背中のファスナーが…(///)。

 あとはもう彼に身を任せるだでけしたわ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ!

 アルカディア号さんたら本当に私の匂いで元気を取り戻すなんて。

 大淀の言った通りですわ。

 でもどう考えても脇なんてイイ匂いだとは思えないのですけれど、ヘッドロックを極めるたび面白いように彼の分身は最大仰角に…(キャ)。

 グラウンドの展開ばかりですけれど、これぞベッドの上でのプロレス(白いマットのジャングル)ですわ(笑)。

 さ、次は腕ひしぎ逆十字固めですわよ。

 顔全体でストッキング越しの足を十分に味わって頂きますわ、って…。

 

 ぼ、暴発?!

 

 ふーん…。そうなんですのね。こちら()の方がお好きだったなんて(ニタァ)。

 花火さん(正室)さえも知らないであろう大変なモノ(性癖)を発見してしまいましたわ、どうしましよう(笑)?




※これで提督部門の側室筆頭が無事埋まりました。よって全ての大奥メンバーが出揃った事になります。
 また機会を見つけて各自との距離を縮めるエピソードなんかも入れていけたらと…。

※白いマットのジャングル:タイガーマスクのOPです。知ってる人、いるかなぁ(笑)。

※花火さん(正室)さえも知らない:いやいや『すみれ』さん、『花火』さんはちゃんと知ってます(笑)。


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第109話 軍令部編7(アルカディア側)

※諸兄氏は艦これの春イベ、進み具合はいかがでしょうか?
 私はこれからE‐3海域の攻略を開始する所です。
 堀りは大嫌いなので新規実装艦が一人も拾えないまま、終わりそうですが(泣)…。



 ふと目が覚めた。

 時計を見るとAM04:40。

 隣ではあの『神崎すみれ』嬢が全裸で寝息を立てている。

 まあ胸の谷間までが少し見えるだけで、あとは毛布でしっかりと隠れているのだが…。

 それでも常夜灯(淡いオレンジ)に照らされた姿は十分官能的(見応えあり)ですわ。

 椅子には彼女の着衣が二つ折りで掛けられており、ブラとショーツを手に取ってスーハーしたい誘惑にかられる(だって手を伸ばせば届く所にあるんだぜ?)。

 が、本体?中身?が隣で寝ている以上、そちらで楽しむべきだろう。

 そんなの悩まなくても両方楽しめばいいじゃん、という同志諸君。

 万一、彼女が目を覚ましたら人生詰んでしまうかもしれないのだ。

 命あっての物種だぞ(帰ろう、帰ればまたこられるから)

 

 つーか、ヘッドロックを極められ過ぎて首が痛い(ついでに腕も)!

 それにしても、これだけキレイな人でも脇や足はあの特有の臭いがするのか…。

 花火ほどではなかったが、それでも十分だったわ。

 まてよ、神崎中将閣下は夕方、スミレ色のワンピースに合わせて肌色のパンストになってたな。

 ひょっとしたら、執務中からずっと履いていた黒パンストだと花火を超える熟成具合だったりするのか?

 いずれにしろ、あれだけ搾り取られたのにそのギャップからくる破壊力で暴発させてしまった程ですわ!

 

 「まだ10代後半ながら帝都お膝元の第一鎮守府を任されているのだ。遊びたい年頃の中、色々と気苦労も多いだろうに。」

 寝顔を堪能しつつ、気持ちよさそうに寝ている彼女の頭を撫でる。

 

 「一刻も早く戦争を終わらせ、再び皆と共に帝国華撃団の舞台に立たせてやりたい。何より普通の女の子に戻してやりたいものだ。」

 撫でる度に香る髪の匂いを堪能した後、シャワーへ向かった。

 え?

 女性の部屋のシャワーを勝手に?

 お守りの中身(意味深)を捜すつもりだろって?

 起きたら勝手に使っていいって言われたんだよ!

 いや、勿論探しますけどね(笑)。

 

 シャワーから戻ると『すみれ』が目を開けていた。

 いや、起床されたからには中将閣下と呼ぶべきだろう。

 

 「む、すまん。起こしてしまったか。」

 髪を拭きながらベッドに腰掛ける。

 

 「頭を撫でて頂いてる間に目が覚めましたわ。」

 クスッという笑い声。

 

 「聞いていたのか。」

 

 「アルカディア号さん。」

 体を起こすと彼女はコチラに寄り掛かってきた。

 

 「先ほど仰っていただいた事、私とても嬉しかったですわ。そう言ってもらうだけで十分ですわ。それこそ思い残すことは無いぐらいに。」

 

 「そちらは無くても俺が困る。次は俺が閣下を連れまわす番だ。」

 

 「アルカディア号さん…。」

 キスをくれた後、中将閣下は小走りでバスルームへと消えてしまった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 少し熱めのお湯が昨晩の汗と一緒に私の不安まで洗い流してくれるようですわ。

 石鹸とボディタオルを手に取りそのまま体を洗っていきます。

 ちょっと勿体無いですが、内腿に伝う初めての証もキレイに洗い流さないと。

 その間も先程、彼に掛けて頂いた言葉が頭の中から離れません。

 思えば前回の騒動(『鬼姫級十二隻による横須賀第一守府及び横須贺第二鎮守府急襲事件』)から私、『神崎すみれ』は陥落していたのですわ。

 

 「何か気の利いた朝食でも作れたらいいのに…。」

 私は調理に関しては一切何も出来ません。

 今ほどそれが恨めしいと思った事は無いですわ。

 バラ色の新婚生活に必要なモノ、それは私の料理スキルですわ!

 早速、今日から大鲸さんに弟子入りですわ!

 え?

 Hで始まる名前の誰かを忘れていないか、ですって?

 鳳翔(HOSHO)さん(上級コース)は大鲸さん(初級コース)を履修してからですわ(違)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 朝食後、金剛型の部屋で紅茶を頂いていると神崎中将閣下から呼び出しが掛かった。

 不服そうだった金剛四姉妹も軍令部からの依頼であると聞き、只ならぬ事態である事を悟ったようだ。

 何でも軍令部に京極と山崎が部下十名程度を引き連れて影山とその艤装を引き渡せとやって来たらしい。

 

 「ヘーイ、提督ゥ! 大神サンは二〜三日後と言っていたはずデース。それが何故、今日に?」

 

 「恐らく海軍(私達)が影山さんを保護するのを防ぐためでしょう。アルカディア号さんたら、よくぞデスシャドウ島へと収容して(匿って)くれましたわ。」

 全員が小走りで軍令部へと向かう。

 勿論、特別な瑞雲を装備した伊勢と日向も一緒だ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「大臣殿、私は三日後と伝えたはずだが?」

 

 「それについては申し訳なく思っている。だが我々にも時間が無いのでな(笑)。」

 軍令部の大ロビーに着いた時には既に元帥殿と陸軍大臣が対峙していた。

 それぞれの後ろ(セコンド)には…、ブルーメール少将と山崎少佐か。

 

 「一刻も早くマゾーンや深海棲艦側の技術が必要なのだ。何せ海軍さんにはこれ以上任せておけんという事が分かったのでな(笑)。」

 

 「なんだと! 貴様…。」

 落ち着くんだ、少将閣下(ブルーメール提督)。ここで山崎の挑発に乗ってしまっては奴等(陸軍)の思う壺だぞ。

 それに連れている部下達も全員が女とはいえ(この世界では当たり前か)只者ではない雰囲気だな。

 間違いなく特別警護隊のエリートばかりを集めているのだろう。

 直ぐにドクターゼロが種子と艤装を運んで来た。

 それを見た京極と山崎がおお、と声を上げる。

 

 「ところで肝心の影山サキは何処だ?」

 

 「摘出後に反乱を企てたため、アルカディアさんが巳む無く艤装で射殺した。」

 元帥殿が言い終わらぬうちに特別警護隊の一人が銃を向けてきた。

 

 「大神元帥殿。京極大臣殿も山崎少佐殿もふざけている訳では無いのでありますよ。」

 胸にぶら下げているモノの数から見るにコイツが隊長なんだろう。

 本当に元帥殿を狙って撃つかもしれない以上、迂閣に動くのは危険だ。

 

 「もう一度、聞くであります。影山サキは何処(いずこ)に?」

 

 「くっ、何度聞かれても答えは同じだ。摘出後に反乱を企てたため、アルカディアさんが已む無く艤装で射殺した。」

 もう一度同じ返答を繰り返す大神元帥。

 俺が前に飛び出すと同時に再び発砲音が!

 間に合うか?!

 

 「デヤーッ!」

 重カサーベルを一閃させる。

 全員が息を止める中、チャリーンと音がして真っ二つになった銃弾が床で刎ねた。

 飛んでくる拳銃の銃弾を見切り、さらに(重力サーベル)を走らせるなんて芸当など普通は出来るはず無いのだが、何故かこの時の(拙者)には出来るという確信があったのでごさる。

 さらに(拙者)が切ったのは銃弾だけではござらん。

 

 「ヒッ?!」

 特別警護隊長が悲鳴を上げた。

 見ると下着姿になったヤツ(隊長)が涙目で上と下を抑えている。

 その周りではヒラリハラリと先程まで賑やかな勲章を付けた制服が細切れになって彼女の周りを舞っていた。

 

 「また、つまらぬモノを切ってしまった…。」

 「大神殿をお守りするために影山サキは間違いなく拙者が始末致した。疑われるのであれば貴殿で再現してみせても良いが、いかがなされるか?」

 そのまま剣先を突き付ける。

 後ろでは伊勢と日向が特別な瑞雲(瑞雲ファンネル) を展開(準備) させている。

 二人ともよくやった、今使わずしていつ使うのかという場面だからな。

 

 「これは失礼したな。では影山サキはこの海賊船の武装で吹っ飛んだと?」

 

 「貴様、部下が元帥殿に向かって発砲したのだぞ?! 何を呑気に!」

 

 「いや、ブルーメール閣下。あの警護隊長は俺に向かって撃ったのだ。大神殿を守るために飛び出てしまった俺に思わず引き金を引いてしまったのだろう。」

 

 「ふむ、思った以上に話の分かるヤツのようで助かる。で、影山サキは死亡したと言うのは間違いないのだな?」

 

 「ああ。その通りだ。」

 

 「では大臣、仕方ありません。この艤装と種子を七三一部隊へと持ち込みましょう。」

 そう言うと彼らはお邪魔したなと一言残して帰って行った(もちろん下着姿の隊長も回収されていった)。

 

 「一体どうしたというのだ? 何か気になる事でもあるのか?」

 全員が一様に安堵の表情を浮かべる中、一人難しい顔をしていたのが気になったのだろう、ブルーメール閣下に声を掛けられた。

 

 「うむ。ああも陸の連中があっさりと引き下がるとは…。」

 

 「そうだな。事実、私も拍子抜けしたぐらいだが、それならそれで良いであろう。」

 

 「少将閣下、次の月例提督会議はいつだ?」

 

 「二週間後だが…。それがどうかしたのか?」

 

 「嫌な予感がする。」

 考えたくは無いが深海棲艦側に現れたブレーンがマゾーンの地球侵略先造部隊の誰かであれば、再び月例会議が狙われる可能性がある。

 それも陸軍によってだ。

 ましてや影山サキが言っていた通り、陸軍や政治家の中にもマゾーンの種子を仕込まれている連中がいるとなれば可能性は低くない。

 

 「伊勢、日向、帰りは鉄路だ。デスシャドウ島はここに置いていくぞ。」

 

 「ええっ?!」

 

 「どういう事なんだ?!」

 伊勢だけではなく日向までが慌てている。

 

 「大神殿、真宮寺長官。それに神崎・ブルーメール両閣下! 月例の提督会議までに軍令部、及び第一鎮守府と第二鎮守府の機能を一時的にデスシャドウ島へ移転させる!」

 

 「そ、そんな急に! 一体どうしたというのですか?」

 

 「そうですわ、機能を移転と仰られても機材はおろか重要書類まで一切合切を運ぶ必要がありますのよ! そう簡単にいきませんわ!」

 

 「相応の理由が無ければ難しい話だな。聞かせてもらおう。」

 神崎・ブルーメールの両提督も何を言い出すのかといった感じだ。

 

 「どうせ直ぐに影山サキは手に入れる事が出来るのだ、今の時点で大騒ぎすることは無いと陸軍の連中が考えているとしたらどうだ?」

 

 「言っている意味がよく分からん。どういう事なのだ?」

 ブルーメール少将が首をかしげる。

 

 「再び月例会議が狙われるかもしれんという事だ。しかも今度は陸軍にだ。陸軍や政治家の中にもマゾーンの種子を仕込まれている連中がいる以上、クーデターに似た形でここに攻め込まれる可能性が高い。」

 

 「なっ、馬鹿な…。」

 絶句するブルーメール閣下。

 

 「長官、藤枝中将のネックレスを切った時に聞こえた声の主、波野静香とやらを覚えているか?」

 

 「もちろんです、あれだけの騒動だったのですから。」

 

 「俺の思い過ごしであれば良いが、その名前は現首相秘書の名前と同じではないか?」

 全員の顔色が変わった。

 やはり元帥や連合艦隊司令長官、また横須賀鎮守府の提督ともなると政府の高官ともそれなりに面識があるのだろう。

 

 「少しづつでいい、今日から日が暮れたのを見計らって出来るだけ多くの機材や書類を運び出せ。勿論、他には悟られないようだ。」

 

 「それぞれ使用できる区画エリア等がある。付いてきてくれ、実際にデスシャドウ島で説明しよう。」

 が、この時、俺は次回の月例提督会議開催時に自分が柱島に残されたままになるとは思ってもなかったのである。




※Hで始まる名前の誰か:『HOSHO』さんではありません。『HANABI』さんです。

※また、つまらぬモノを切ってしまった:どこかで聞いた事があるような気もするのですが、はて?
 またハーロックが侍言葉を話すはずが無いのですが、違和感が無いのは何故でしょうか?

※海軍の中枢を抑えに来る:嫌な予感ほどよく当たるモノですが果たして?!

※柱島に残されたまま:今回の仕返しに今度は主人公が花火さんに置いて行かれるようです。


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対陸軍(京極・山崎)
第110話 柱島第七泊地編1(アルカディア側1)


※艦これ』2021年春イベント、ようやくE-4の輸送ゲージ突破です。
後、突破報酬の『ノーザンプトン』と『桃』、以前掘り損ねた『有明』を演習に突っ込んで目下絶賛育成中です。



 柱島第七泊地の門を潜ると真っ先に花火の許へと向かう。

 え、翔鶴と川内のトコ?

 いくらハーレムに向かって努力をしていても優先順位を間違えてしまっては全て台無し(パア)になってしまう恐れがありますからな。

そ こはキッチリと優先順位を守らないといけません(笑)。

 

 そして今、横須賀では機能移転の真っ最中。

 恐らく上や下への大騒ぎになっているはずだ。

 

 花火と今週の秘書官である妙高さんに横須賀であった事を報告する。

 二人とも大層驚いていたが、首相秘書の名が『波野静香』である事を伝えると顔色が変わった。

 

 「分かりました。アルカディア号さん、色々とご尽力ありがとうございました。でもとりあえず…。」

 そう言うと花火は立ち上がった。

 でも?でもって何だ?そこは『でも』ではなく『では』じゃないの?

 そのまま花火はジリジリとこちらに近づいてきた。

 

 「て、提督?!」

 何が起きているか分からない妙高を尻目に花火はコチラに飛び付くと顔を埋めてスリスリしだした。

 花火さん?

 嬉しいんですけど、妙高さんの視線が痛いです…。

 

 「提督、猫じゃあるまいし、何をなさっているのですか。今は執務中です、お二人とも控えて下さい!」

 ほら、妙高さんの額に青筋が浮かんでるじゃん。

 どこの鎮守府や泊地、基地、警備府でも鳳翔と妙高は怒らせてはいけない艦娘として有名である。

 これ以上続けると大奥メンバーを白紙にされたり、最悪ここから放り出されるかもしれない。

 

 「これは確認です。ほら、妙高も。」

 

 そう言って花火が妙高さんをグイッと引き寄せた。

 

 「ちょっと提督?! あ、あの! し、失礼、します…。」

 花火と同じように妙高さんがスリスリ、スンスンし始めた。

 何だこれ、もう一匹増えちゃったよ…。

 

 「ね?」

 

 「そんな…、でも確かに…。これは由々しき事態ですね。確認して良かったです…。」

 いつの間にか彼女のハイライトまで消えてる…。

 いや、それ以前に確認って何なんだ?

 犬や猫じゃあるまいし、余所の女の匂いがしないか確かめているとでも?

 ハハ…、まさかァ…。

 

 「「神崎先輩(提督)の匂いがします!」」

 そのまさかだったわ…。

 

 「さあ、妙高。上書きしましょう。」

 二人が顔を見合わせニタァと笑った。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「「アルカディア(号)さん?」」

 自販機コーナーで、缶コーヒーを片手にグッタリしていると陸奥と扶桑に声を掛けられた。

 

 「ああ、お前達か…。珍しい2ショットだな。」

 

 「ええ、長門とはなかなか女の子同士の話が出来なくて。」

 長門さんェ…。

 さらっと妹にエラいこと言われてるぞ。

 

 「そ、そうか。」

 まあ、脳筋さん(長門・武蔵)相手ではファッションやコスメ品の話なんて出来ないだろうなぁ。

 

 「どうしたんですか?疲れていらっしゃるようですが、横須賀で何かあったのでしょうか?」

 

 「ああ、横須賀ではなく執務室でだがな…。」

 俺はさっき執務室で花火と妙高さんにスリスリされた事を話した。

 

 「「…。」」

 二人とも黙ったまま。

 

 「どうした、お前達?」

 

 「「上書きよ(ね)…。」

 二人からはハイライトが消失していた。

 逃げた。飲みかけの缶コーヒーもそのままにダッシュで逃げた。

 ぶっちゃけ武器無しで深海さん達に囲まれるより怖かった。

 消失は初音ミクだけにしておいて下さい!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「アルカディア号さん!?」

 「お戻りになられたんですね!」

 息を切らせて戦艦寮に飛び込むとロビーには大和と翔鶴が。

 

 「ああ、たった今な…。」

 遠くを見つめながら返事をする。

 

 「どうしたんですか?何かあったんですか?」

 心配そうな翔鶴。

 だが執務室でかくかくしかじか…、なんて馬鹿正直に答えてしまったら先程の二の舞になってしまうかもしれない。

 大和はともかく翔鶴は好意をもって(行為は持っていないが)くれているからだ。

 取り敢えず、以下の大事な5点を二人に説明する。

  1.今度の提督会議では陸軍の襲撃がある可能性が高い事

  2.よって軍令部と横須賀第一鎮守府、第二鎮守府の機能をデスシャドウ島へ一

    時的に移転させる

  3.陸軍高官、及び一部の政治家がマゾーンかその手先である

  4.首相秘書が波野静香(マソーン名:パフィオ)である以上、国や内閣からの指

    示や助けは得られない可能性が高い

  5.影山サキは当面の間、デスシャドウ島に匿う

 

 「それは大変でしたね。でも次の提督会議による横須賀帯同艦は確か赤城さんだったはず。ですからきっと大丈夫でしょう。」

 

 「そうですね、私も大規模作戦の際には随分と制空を取って助けて頂きました。一航戦旗艦の実力は伊達ではではありません。」

 なるほど、今度、花火は赤城さんと横須賀行きか。

 俺もあの赤城さんのポワンとした感じ、好きなんだよね(笑)。

 夜にはあの立派な双丘に着艦失敗、いえオッパイしたいです!

 

 「ところでアルカディア号さん?」

 腕を取ってくる大和。

 

 「どうした?」

 

 「どうして神崎中将と北大路提督の匂いがするんですか?」

 

 「あと妙高さんの匂いもですね。」

 アンタら怖いわ!

 何でそんなに他人の匂いが分かるんだよ?!

 

 「「上書きです。」」

 デスヨネー。

 ハイライトこそ消えていないがこれ拒否できないヤツですわ、ハイ。

 

 「翔鶴はともかく、大和は艦種正室が嫌ではなかったのか? なら無理強いはしないが?」

 スリスリを続けていた二人から解放された俺はグッタリしつつも思い切って大和に聞いてみた。

 だって、ひたすらスリスリされるだけでそっから先が無いんだぜ?

 新手の生殺しプレイじゃねーか、キツ過ぎますわ…。

 

 「アルカディア号さんに選んで頂だけたのに断る訳無いじゃないですか。天にも昇るくらい嬉しかったんですから!」

 

 「摩耶とか榛名とか風当たりが強く思うのだが?」

 

 「榛名さん、がですか? 金剛さんからはいつも悶えてると聞きますけれど…。」

 

 「摩耶さんも喜んでいると高雄さんが仰ってましたね。毎日、念入りに体を洗って何時でも準備万端だとか。」

 ホンマかいな、にわかに信じられん話ですが…。

 

 「ところで…。提督の正室と側室筆頭とくれば次に契るのは全艦種正室の私ですよね! 今夜お待ち、いえお伺い致しますから!」

 なにか途中に堅物重巡が挟まっていますが、実際は北大路提督と神崎提督のお二人だけでしょうと翔鶴。

 まさかの逆夜這い宣言?!

 しかも何でそんな事(経験人数)まで分かるんだよ!

 

 「そして次は戦艦正室の私…。」

 

 「甘いな、大和。全艦種側室筆頭の私を忘れてもらっては困る(笑)。翔鶴の次はこの日向だ。」

 どこからか現れた日向が大和をけん制する。

 日向さん、アナタひょっとしてどこかに隠れていたとか?

 

 「ぐっ、日向さん…。」

 

 「じゃあ、私は大和の次ね(笑)。」

 ヒョッコリと廊下の曲がり角から顔を出す陸奥。

 

 「じゃあ、私は日向との姉妹井で!」

 

 「ちょっと待つネー! 私達四姉妹はいつデース!」

 

 「不幸だわ(私達も)…。」

 戦艦組がワラワラと集まって来た。

 だからアナタ達、一体どこにいたんですか?!

 

 「空母正室である私を忘れないで下さい! というか戦艦側室筆頭である陸奥さんの後は私達の番です!」

 

 「ここは譲れません!(そうです!)

 アナタ達、空母でしょうが!

 何故、一航戦がここ(戦艦寮)にいるんだよ?

 そして恐ろしい勢いでスケジュールが埋まっていく。

 しかも当人の意向を抜きにしてだ。

 このままだとマネージャーという名前のスケジュール管理(射精管理)担当者が付きかねない。

 いくら(ハーロック)の夜戦火力が高いといっても、俺自身はとっかえひっかえではなく一人とじっくり一晩掛けて愛し合いたい派なのでそこは汲み取ってくれないと困るのだが…。

 あ、皆がこっちを向いたぞ。

 しかも全員がハイライトオフ?!

 ジリジリと包囲網が狭められる。

 この後、こちらを向いた皆にこちら(単砲身)を剥かれそうになった俺は花火の許へと飛び込み事なきを得た。




※意外とハーレムって体力がいるんですね。知りませんでした(笑)。


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第111話 柱島第七泊地編2(艦娘側:翔鶴1)

※春イベの新規実装艦が本当に一人も来ない。


 アルカディア号さんがここ(柱島第七泊地)に帰られてから一夜明けた今朝、私は提督のいる執務室へと向かっています。

 もちろん隣にはアルカディア号さんがいらっしゃいます。

 実は部屋を出た時点から一緒なんです!

 まさかの同伴出勤です、同伴出勤! まさに全艦種正室の特権です!

 さらに言えば昨日の夜から一緒なんです(キャ///)。

 

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 夕食の後、直ぐにアルカディア号さんの部屋に押し入るを訪ねると大型の青ダンス(JBLの大型モニタースピーカー)からゆったりとしたジャズが流れる中グラスを傾けておられました。

 平気な顔をして飲んでおられるようですが凄い香りです。

 北大路提督が仰っていた『アンドロメダ・レッドバーボン』とは間違いなくコレでしょう。

 提督によると水割りを一口、いえ一舐めしただけで心音が聞こえたとか。

 

 「私も持って来たんです。どうですか?」

 そう言って赤ワインをテーブルへ置きました。

 

 「あと牛肉がお好きという事でしたので(笑)。」

 後は『おつまみ』ですね。牛肉の赤ワイン煮です。

 

 「これは有り難い。わざわざ作ってくれたのか?」

 アルカディア号さんはそう言ってくれますが、残念ながら安いお肉しか手に入らなかったのでそこだけが心配です。

 彼の隣に腰を降ろしグラスを合わせます。

 

 「はい、あーん。」

 お肉をお箸に挟んで差し出すとアルカディア号さんは固まってしまいました。

 

 「いや、そういうのは…。」

 

 「あーん(笑)。」

 彼はやんわりと抵抗を試みますが逃がしません。

 こっちも恥ずかしいんですから早く諦めて下さい。

 

 「ウマい…。」

 観念したのかアルカディア号さんが口に入れてくれました。

 

 「スジ肉か。ここまで柔らかく丁寧に仕上げるには相当な手間と暇が掛かったはずだ。やはり翔鶴の女子力は高いな。」

 心配でしたが、気に入って頂けたようです。

 

 「初めてお会いした時の事を覚えていらっしゃいますか?」

 彼に寄り掛かり目を閉じます。

 

 「初めて? あの期間限定海域攻略の帰りか?」

 

 「ええ、そうです。あの時、決めたんです。私、この人のものになるって。」

 私だって貴方に一目惚れだったんですから。

 だって、見た事も無い航空機隊に見た事も無い光線兵器で相手を圧倒、おまけに空は飛べるし、その上、そんな殿方に命を救って頂いたとなれば誰だってそうなるでしょう?

 

 「言いましたよね。北大路提督、そして神崎提督の次は私だと。」

 上着の前を開き、そのままアルカディア号さんに伸し掛かります。

 

 「この時をずっと…、待っていました。」

 スカートをたくし上げます。本来ならパンティストッキングの下にあるべきショーツは存在しません。

 

 「翔鶴、お前…。」

 

 「北大路提督は紐パンだったそうですので、私はその上を行きますね。」

 

 「それに提督から少しぐらい乱暴(破る)なくらいがより距離を縮められる(燃える)と…。」

 そのまま唇を重ねます。

 

 「あと、女の匂いや髪の匂いは勿論、こんなの(脇や足)も喜ばれるとお聞きしました(笑)。」

 一航戦や二航戦の下駄をモチーフとした足部艤装と違い、私達五航戦の足部艤装はブーツです。

 そのせいでストッキングこそ上品な肌色ですが、足先や足裏からは正反対の下品な(饐えた)臭いが。

 普通なら幻減されるはずですが、先駆者(北大路提督)からの情報は事実のようですね。

 だっていつの間にか握っていた彼の一部が私の手の中で激しく自己主張しているのですから。

 再び、唇を重ね合います。

 やがて下腹部で乾いた音がすると同時に、私の女としての部分だけ圧迫感が消え(風通しが良くなり)ました。

 ………。

 ……。

 …。

 

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 執務室に入ると北大路提督と今週の秘書艦である赤城さんがいらっしゃいました。

 

 「花火、四日後の月例提督会議だが柱島を立つのは何時だ?」

 

 「明日の一番列車で向かいます。それが何か?」

 北大路提督のアルカディア号さんに対する反応が事務的です。

 何故でしょう、それとも私の思い過ごしでしょうか?

 

 「俺は憑いて、いや付いて行かなくていいのか?」

 

 「アルカディア号さんは残って下さい。」

 何と北大路提督からは耳を疑う返事が!

 

 「え? 一緒に行って頂けるのではないのですか?!」

 大先輩である一航戦旗艦の赤城さんも戸惑っておられます。

 

 「赤城は一航戦の旗艦であり歴戦の勇士です。貴女一人で十分でしょう。」

 

 「そんな…。どうして?」

 北大路提督はそう仰いますが、赤城さんは到底納得していないようです。

 まあ、そりゃあそうですよね。

 次は私(何が?)、と意気込んでおられましたし(笑)何より陸軍の鎮圧部隊に対抗するにはアルカディア号さんの力が必要でしょうから。

 

 「先々週アルカディア号さんは私を置いて行きましたよね? 今度は私の番です(ニッコリ)。」

 どうしたのでしょう、普段の北大路提督なら絶対にそんな事は言わないはずですが…。

 

 「提督! 何を子供みたいな事を仰っているのですか!」

 赤城さんが怒るのも無理はありません。

 私としてはここ(柱島第七泊地)に残って頂ける方が一緒に過ごせる時間が増えて万々歳ですが…。

 

 「あら、赤城は私を守ってくれないのですか?」

 

 「そういう問題ではありません! 妙高さんからも今度の横須賀行きは普通では無いとお聞きしています!」

 

 「提督、どうしてもというなら私、一航戦赤城、体調不良により今回の横須賀帯同任務は辞退、もしくは他数名の増員を意見具申いたします!」

 

 「よせ、赤城。辞退の必要はない、増員は第四航空戦隊が適任だろう。ライトセイバーと瑞雲ファンネルを持つ伊勢と日向なら安心して花火を任せられる。」

 

 「お二人は横須賀から帰って来たばかりなのに気が引けますが…。」

 

 「とりあえず俺は残ろう。だが、軍属でない以上、何かあった時は俺自身の判断で動かせてもらう。」

 

 「どうぞご勝手に。」

 

 「提督、いい加減になさって下さい! 一体、どうしたのですか?!」

 

 「三週間、会えなかったというのに帰ってきたと思ったら私を置いて横須賀ですか? 向こうで『すみれ』さんに骨抜きにされて帰ってこなくても赤城は良かったというのですね?!」

 案の定、神崎先輩をお妾さんにしてくるんですから…、と提督がボソッと呟きました(笑)。

 

 「殿方が極端に少ない今の御時世、側室制度は国からも推奨されているというか、半ば義務。それでもアルカディア号さんの正室は提督一人です。」

 「それがどういう意味を持つかもう一度よくお考えになって下さい!」

 

 「赤城のいう通りだ。もし崖に花火と誰かがぶら下がっていたら、俺は迷う事なく花火を助ける。」

 

 「少し一人にして下さい」

 北大路提督はそれだけ告げると執務室を出て行かれました。

 

 「一体、花火はどうしたんだ?」

 

 「ふふ、ちょっとした仕返しなんでしょう。」

 

 「さすがの戦闘海賊船も女心はお手上げですか(笑)。」

 首を傾げるアルカディア号さんが可愛いです。

 

 「二人とも揶揄わないでくれ。キャプテン・ハーロックだって生涯愛した女はマーヤただ一人だ。ましてやその乗船である俺が女の心など分かる訳が無い。」

 

 「あらあら、これは困りましたね。」

 

 「そうですね。これは他の方々の為にも私達でみっちりとお教えする必要があるようです。」

 

 「いや、それはそうだがまたの機会に教えてくれれば…」

 

 「「さ、空母寮へ参りましょう!」」




※お手付き艦娘の第一号はやはり翔鶴さんでした。
 物語の進行上、大和さんも必要なので彼女も犠牲?になってもらいます。

 主人公であるアルカディア号とゴニョニョした艦娘にはある変化が起きる予定ですので(笑)。


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第112話 横須賀駅編1(艦娘側:北大路花火1)

※投稿間隔が空いてしまい申し訳ありませんでした。
 ついに陸軍が不穏な動きを始めたようです。

※『艦これ』2021年春イベント、ようやく終了しました。
 新規実装艦は報酬のノーザンプトンとホノルルしか来ませんでした。
 宗谷は何処に…。



 未だ暗い中、始発列車を変引するC59型蒸気機関車が岩国の駅に滑り込んできました。

 横須賀行きに関しては大淀から特急列車の使用を勧められるのですが、贅沢をすると何かあった(言い争い)時のネタにされそうなので控えています。

 もちろん、他の提督さんによっては『つばめ』や『はと』といった豪華特急や『あさかぜ』・『さくら』といった寝台特急を使う方も多いです。

 

 各自荷物を手に持ち無言で客車に乗り込みます。

 やはり『赤城』も『伊勢』も『日向』もアルカディア号さんが同行しない事に納得していないのでしょう。

 席に着き荷物を網棚へ載せると『伊勢』が口を開きました。

 

 「ねえ、提督。本当にアルカディア号さんを連れて行かなくてかったの?」

 

 「またその話ですか。今度は私が置いてく番だと言ったでしょう。」

 昨日からその話ばかり。いい加減にして欲しいです…。

 私が彼を置いていくという話は直ぐに柱島第七泊地に広まりました。

 そのせいで当日の秘書艦である『赤城』はおろか『鳳翔』『妙高』『武蔵』『長門』『大淀』達からも御高説を頂戴する破目に。

 さらには青葉通信運盟(ブルーリーフネットワーク)を通じて情報を得た宿毛湾第一泊地の『藤技かえで』少将まで事実確認の連絡を入れてくる始末。

 

 「アルカディア殿は提督を守るにはここに残すのが一番だと判断したのだ。決して提督が疎ましくておいて行ったのではないのだぞ。そこは分かっているのか?」

 日向の言う事は分かっています、分かっているんです。

 ですからこれは私が気持ちの整理を付けられるかどうかなんです。

 そのための時間が欲しいだけなんです。

 

 「まあ、何かあった時は独自の判断で働いて頂けるみたいですから。」

 

 「甘いぞ、赤城。いくら未来の宇宙戦闘艦といえ瞬間移動できる訳では無いのだ。彼がいないという前提で北大路提督を守り切る算段を立てておかねばならん。」

 

 「らいじょうふれす(大 丈 夫 で す)! ひんへいのひゃんしゃいひも(新 鋭 の 艦 載 機 も)ひゃっひりれふ(バ ッ チ リ で す)!」

 お饅頭を口に入れたまま幸せそうな顔をして返事をする赤城。

 そういえば昨日のお昼過ぎに、明石と夕張から渡された新鋭の艦載機である戦闘攻製機を受け取っていましたっけ。

 

 「これがX‐ウイング。綺麗な翼、この子達なら!」

 そう言って目を細めていた彼女と妖精さん達は、夕方にはもうある程度まで扱えるようになっていました。

 赤城と瑞鶴は天才肌という点では非常に良く似ています。

 ある程度までは何となく感覚でできてしまうので、努力はそこからで済んでしまう。

 加賀も翔鶴もまずあの二人が感覚でできてしまう所までの努力が大変だと…。

 そんな事を考えていると汽笛が鳴り列車が動き出しました。

 電車やディーゼルカーと違い、客車には走行用モーターやエンジンは付いていないのでリズミカルなレールの通過音が良く聞こえます。

 

 「もういいでしょう。長旅なのですから今のうちに少しでも寝ておく事、良いですね?」

 無理矢理に話を切り上げ目を閉じると朝早かったこともあり、直ぐに私は眠りへと落ちて行きました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 大阪までの乗り継ぎは岡山と神戸。

 特に神戸から京都までは電車という電気で動く列車に乗れる区間は皆、物珍しさもあって誰も寝る事はありませんでした。

 アルカディア号さんがこれからは電気の時代だと仰っていましたので鉄道もそのようになっていのでしょう。

 大阪駅に着いたのが丁度お昼時。

 昼食は『赤城』の希望でお好み焼きとなりました(笑)。

 柱島第七泊地では広島焼を食す方が多いので純粋なお好み焼きは新鮮です。

 さらにガイドブックから厳選したお店だけあって非常に美味しかったのですが、一体彼女は何冊ガイドブックを持ってきたのでしょう?

 それも全て食べ物関係のガイドブックを…。

 日向から呆れたヤツだと言われていましたが赤城自身は全く気にもしていない様子。

 だって今度は横須賀のガイドブックに目を通し始めたのですから(笑)。

 

 「あら、タチバナ中将ではありませんか。お久しぶりです。」

 京都からはタチバナ中将(マリアさん)とその護衛艦娘である那智さんが乗車されてこられました。

 舞鶴から湖西線でいらしたのですね。

 あれだけ背の高いキレイな人ですから直ぐに分かります。

 京都からは再び蒸気機関車による客車列車の旅です。

 

 (その…、何だ。例の海賊船は一緒ではないのか?)

 京都を出てからずっとそわそわしていた那智さんが日向にコッソリと聞いています。

 もう、聞こえてますからね。

 やっぱりアルカディア号さんの事が気になるんですか…。

 

 「アルカディア号さんには残って頂きました。本来なら、護衛も赤城一人のはずだったのです。」

 

 「そ、そうか。しかし意外だな、今回は陸軍のクーデターがあるやもしれんというではないか。てっきり今回もご一緒だとばかり…。」

 私が何と答えようかと困っていると…。

 

 「痴情のもつれってヤツね(笑)。」

 マ、マリアさん?!

 

 「ほう、良く知っているな。」

 

 「私のところにだって『青葉』はいるわよ(笑)。」

 マリアさんはそう言いますが、この分だと殆どの提督さん達に筒抜けでしょう。

 青葉、帰ったら覚えておきなさい!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 ようやく横須賀に着いたときにはPM10:00を回っていました。

 弾丸列車計画が実現するのが待ち遠しいという話をしながらホームへと降り立ちます。

 

 「提督、何か変な感じがしないか?」

 突然日向がおかしなことを言い出しました。

 いえ、おかしくはないですね。

 実は私もホームに降りた途端、違和感を持ったんです。

 

 「ああ、私も列車を下りた時から感じていた。何がとは分からないが…。」

 舞鶴第一の『那智』さんも用心深く周りを見渡しています。

 

 「とにかく改札口へ向かいましょう。違和感の正体が分からない以上、ずっと駅にいるのは好ましくないわ」。

 タチバナ中将(マリアさん)に続き全員が小走りで跨線橋を渡り改札出口に向かいます。

 

 突然先頭を急いでいたタチバナ中将(マリアさん)が立ち止まりました。

 どうされたのでしょう、特に何も変わった所は無いように思いますが…。

 取り敢えず乗車券を駅員さんに渡そうと取り出した時、私にもタチバナ中将(マリアさん)が立ち止まった理由が分かりました。

 改札にいるべき乗車券収受を行う駅員さんが居ないのです。

 声を掛けようと目をやった駅事務所も『もぬけの殻』。

 ここに至ってようやく全員が違和感の正体に気付きました。

 そうです、駅員が誰もいない、いえ駅員どころか人っ子一人いないんです!

 照明も意図的に間引くように消されており駅全体がいつもより暗くなっています。

 さらに改札を出た(ロータリー)に至っては一切の街灯も電灯も付いておらず夜の闇が広がるばかり。

 

 突然、後ろでチャキッという音がしました。

 振り向くと銃を構えたタチバナ中将(マリアさん)が!

 

 「タ、タチバナ中将?!」

 どうして銃を向けられるのかわからず、固まっている私を那智さんが皆がいる後方まで引っ張ってくれました。

 私がいなくなったにもかかわらず、タチバナ中将は誰もいない改札に、いえその先の暗闇に向けて銃を構えたままです。

 

 「出てきなさい!」

 タチバナ中将(マリアさん)が暗闇に一喝すると、暗闇から鬼面を被った剣士が姿を現しました。

 剣を抜いていないにもかかわらず、凄まじい殺気です。

 前に出ようとする護衛艦娘達を制止したタチバナ中将は私を連れて駅構内へ戻るよう指示をされました。

 

 「私は残るぞ、(あるじ)を見捨てて後退なぞ出来ん!」

 那智さんが艤装を展開しました。

 

 「そんな、タチバナ中将を置いてなんて…。」

 

 「二手に分かれた方がどちらかが無事でいられる可能性が上がるわ! 北大路大佐、これは命令です! 行きなさい! 早く!」

 

 「提督!」

 伊勢と日向が特別な瑞雲を展開させて駅構内へと走り出しました。

 ところが跨線橋を登ろうとした時、日向が立ち止まったのです。

 

 「はっはっは。どこへ行こうというのかね(笑)?」

 そこには対艦娘専用銃を構え艤装を背負った陸軍の男性佐官が!




※鬼の面を被った剣士:あれ? ひょっとしたら…。

※何処へ行こうというのかね(笑)?:銃を構えたまま、これを言うと高い所から落下してしまうフラグが立つ可能性があるのでなるべく控えましょう。

※X-ウイング:スターウォーズに出て来る反乱軍の主力戦闘機。
 戦闘時には両翼をX字型に展開して運動性能を上げることが出来ます。
 決してグリザイアシリーズを世に送り出したゲーム会社ではありません
(そりゃフロントウイングだ)。


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第113話 横須賀駅編2(艦娘側:北大路花火2)

※イベント最終日前日、宗谷キター!
※今回はちょっと変わった方の視点が入っています。
※挟み撃ちにされた花火さんと赤城・伊勢・日向。一体どうなってしまうのでしょうか…。


 跨線橋の階段裏から海軍の連中が急いで改札へ向かうのを見てニヤリとする。

 六組目と七組目という獲物が一度に来たのだ。

 しかも一組は四大鎮守府の舞鶴第一を預かるマリア・タチバナ。

 京極陸軍大臣へのいい土産になるのは間違いない。

 それに引き換え、もう一組は愛らしいと云えば聞こえがいいが、いかにもな小娘(オボコ)

 海軍はあんな小娘まで駆り出さねばならぬほど人手不足なのか?

 まあいい、やはり国防は我が陸軍が担うべきであるというのがこれでハッキリした。

 

 「嬉しそうですな、山崎少佐殿。」

 

 「うむ、こうも事が上手くというか簡単に運び過ぎるとは(笑)。」

 これから起こる事を考え顔が綻んでしまっていたのだろう。連れてきた部下二名に茶化されてしまった。

 

 「少佐殿も存外お人が悪いようで。しかし海軍連中の呆けた顔を見るのは痛快でありますな。」

 

 「全くだ。さてそろそろ頃合いだ、準備を致そう。」

 さて可哀想だが前の五組と同様に客人(人質)となってもらうとするか。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「はっはっは。どこへ行こうというのかね(笑)?」

 嫌な笑いを浮かべた陸軍佐官、しかも殿方が私達の前に現れました。

 手には銃を構え背中には見た事も無い艤装を背負っています。

 

 「なっ、山崎少佐?! 貴様は人間のはずだ、なぜ艤装を扱える?!」

 最初は陸軍艦娘かと思いましたが、日向が人間…、ですって?!

 

 「どうせ良く出来たハリボテ(コスプレ)でしょ。そんなので私達を騙せるとでも思ってるの?」

 伊勢もどうやら相手が誰なのかを知っているようですね。

 あの艤装を良く出来たオモチャだと言い切りました。

 

 「ハリボテになるかどうかはお前たち次第だ。今、この横須賀駅とその周辺は陸軍が抑えている。大人しく投降しろ。」

 随分と偉そうに言ってくれますね。

 確かに陸海軍と云いますが最近の海軍は人数も増えています。

 そこまで陸軍さんに偉そうにされる謂われはありません。

 一体、いつまで自分達の立場が上であると思っているのでしょうか?

 

 「投降? 私達が投降しなくてはならない理由など一切ありません。貴方達(陸軍)こそどういうおつもりですか?」

 最近の陸軍は横暴が過ぎますね、ここまでだと見過ごす事は出来ませんよ?

 

 「なに、簡単な事だ。これからは陸軍が主になって国政と国防を行う。因みにこれは総理の決定事項でもある。」

 

 「そんな馬鹿な!」

 

 「馬鹿なものか。ここに総理の命令書がある、見てみるがいい。総理第一秘書である波野静香殿から京極陸軍大臣へ直々に手渡されたものだ。」

 

 「波野静香だと?!」

 

 「マゾーンの地球先遣隊と種子を植え付けられた者達が動き出したというのですか?!」

 日向の波野静香というのはまだしも、私のこれは完全な失言でした。

 彼女の正体を知っているという事とマゾーンの操り人形が政府内にいるという事を海軍が掴んでいるのが筒抜けに。

 

 「少佐殿、こ奴らは波野静香殿がマゾーンの先遺隊と知っているようでありますな。直ちに排除せねば危険であります。」

 

 「そうだな、艤装のテストはこいつらで試してみるとするか。」

 山崎少佐とやらがそう言うと、お付きの武官の単砲身ですが巨大なロ径の砲が働き私達に向けられました。

 足元ではキュラキュラと音がして軍靴に履帯が?!

 

 「貴様らの艤装がどれほどのものか知らんが戦艦の大口径砲に敵うとでも思っているのか?」

 

 「そうよ、技術供与を受ける為にマゾーンに取り入った国賊が! 私達こそアンタに引導を渡してあげる!」

 『日向』と『伊勢』も四基八門の主砲と特別な瑞雲(瑞雲ファンネル)を展開します。

 

 「ふっ、面白い。跡形も残らぬよう吹き飛ばしてくれるわ(笑)!」

 山崎少佐の足元にはバラストに枕木、そしてレールが現れました。

 そしてどうやったら支えられるのかというような長砲身の大口径砲が?!

 お互い発射体制に入った時、改札口の方で数発の発砲音が鳴りました。

 

 「伊勢、日向! もう一度改札まで戻ります!」

 

 「ほう、この私ではなく『鬼王』を相手に選ぶと(笑)。」

 『鬼王』? あの鬼面を被った男は『鬼王』というのでしょうか?

 

 「選ぶのではありません、退路が確保できたという事です。あの銃声はタチバナ中将のエンフィールドNo.1。あの人の銃から逃げられる者などいる訳がありませんから(笑)。」

 タチバナ中将の銃の腕前は陸軍にも有名なのでしょう、山崎少佐が黙ってしまいました。

 

 「ふ、ふふ、ふはははは!」

 が、しばらくすると彼は笑い出したのです。

 

 「これは面白い。聞いたか、『鬼王』よ!」

 驚いて振り向くと暗い廊下から現れたのはタチバナ中将と那智さんを両肩に抱えた先程の剣士が。

 そしてドサッという音と共に地面に投げ出される二人。

 

 「そ、そんな!」

 

 「うそ…。」

 私も赤城も信じられません。

 

 「安心しろ、気を失っているだけだ。ところで山崎よ、こんなところでカールやクルップK5を使う気か? まだ、後続で数組やってくるのだぞ。コイツ等は私がやる。」

 『鬼王』が剣を抜きます。

 カールにクルップK5?!

 足部艤装が履帯と鉄道路盤、確かにあれはカール自走臼砲とレオポルト列車砲(クルップK5)に違いありません!

 私とてフランスにいたのですからナチスドイツの有名な凶悪兵器ぐらい知っています。

 極地運用ではなく本格運用がなされていれば凄まじい威力を誇ったに違いありません。

 あんなものを喰らったらいかに伊勢や日向といった戦艦娘や大型空母の赤城と云えども最悪の結果を招いてしまう可能性が…。

 下手をしたら本当に消し飛んでしまう可能性だってゼロでは無いはずです!

 

 「赤城は弓を、伊勢と日向は艤装と瑞雲を仕舞いなさい。」

 

 「「「提督?!」」」

 

 「タチバナ中将を置いて逃げる訳にはいきません。第一、私達であの『鬼王』とやらをどうこう出来るとは思えませんし、皆もカール自走臼砲とレオポルト列車砲がどんなものか知っているでしょう?」

 この時点で私は彼の言う通り投降を決意しました。

 タチバナ中将の銃は海軍一の腕前です。それでもダメだったとなれば…。

 それと同時に詰まらない意地でアルカディア号さんを連れて来なかった事をまたしても悔やむ破目に。

 私達を仕留める必要が無いと知ったのでしょう、鬼面を付けた男も剣を収めました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「いい眺めではないか。そのまま大人しくしておいてもらおう。」

 後ろ手に縛られてそのままトラックに放り込まれた私達。

 タチバナ中将の意識は未だ戻りません。

 暗い中、目を凝らすと他にも多くの提督と護衛艦娘の方々がいるのが分かりました。

 

 「何だい、アンタも来ちまったのか。」

 その声はロベリアさん?!

 

 「ロベリア中佐、一体どうして?」

 

 「どうしたもこうしたもないさ。アンタと同じだよ、あの面を付けた男にやられちまったのさ(笑)。」

 

 「なあ、エリカ、シー、かすみ、椿?」

 ロベリア中佐が荷台の奥に向かって声を掛けると、エリカさんのアハハという声が聞こえました。

 暗闇に目が慣れると段々と誰がいるのかが分かるようになってきました。

 どうやらロベリアさんの他はエリカさん・シーさん・藤井さん・高村さんとそれぞれの護衛艦娘のようです。

 その後も続々と捉えられた提督さんと護衛艦娘さん達が放り込まれてきました。

 ただ、彼女達の話を聞くと何組かは上手く逃げる事が出来たみたいです。

 分かっているだけでも紅蘭・カンナ・アイリス・レニの四組が無事だと。

 

 「まあ、アイツ等が海軍軍令部に辿り着いたら助けを寄越してくれるだろうよ。それまで 窮屈だけど休憩時間と思う事にするさ(笑)。」

 相変わらずロベリア中佐は男前ですね。

 私のようにオロオロしている様子は全くありません。

 

 「ところで北大路大佐、例の海賊船はどうしたですかー?」

 暗くて分かり辛いですが、あの声はトラック第一の織姫少将ですね。

 

 「彼は柱島第七泊地です。今回の護衛艦娘は赤城と四航戦の二人ですから。」

 

 「使えないですねー。こんな時こそ彼がいれば状況をひっくり返せたはずでーす。」

 そ、それを言われるとツライです…。

 

 「だから痴情のもつれってヤツよ。」

 イタタ、と云いながらタチバナ中将が体を起こしました。

 

 「タ、タチバナ中将?! 良かった、気が付かれたのですね?」

 

 「ちょっと待つでーす、痴情のもつれってどういうことですかー?」

 織姫少将?!

 

 「えーっと…。この間、アルカディアさんが海軍軍令部へ行った時、北大路提督を連れて行かなかったんですよね。あと、その時に神崎提督をお妾さんのトップにしちゃったんです。で、置いてきぼりにされた北大路提督が二重に怒っちゃったと。」

 エリカさんが楽しそうに説明してます。悪気は無いのでしょうが、その分より質が悪いです!

 

 「馬鹿だねえ、アンタ。」

 

 「全くでーす、正室に選ばれているんですからどっしりと構えていればいいんでーす。」

 うう、ロベリア中佐と織姫少将のジト目が痛い…。

 

 「反省してます…。」

 私がそう言った時、またしても荷台の幌が開いてもう一組がやってきました。

 メル提督と護衛艦娘の飛龍さんです。

 

 「ハハハハハ! だいぶお仲間が揃ったではないか(笑)。後は逃げた奴らを捕まえればもっと賑やかになるぞ、待っているがいい。」

 

 「山崎といったね。アンタ、人間に艤装を装備させる技術欲しさにマゾーンに手を出したのかい?」

 ロベリア中佐が山崎少佐、いえその艤装に目を遣りながら問いました。

 

 「貴様、ロベリアとかいったな。それがどうした?」

 

 「別に。ただ、そうやって未知の連中と技術に手を出すのは危険だ。そう言いたいだけさ。」

 

 「ハッ、何を言い出すのかと思えば(笑)。これから我が陸軍が国防を担うためには必要なのだ。虎穴に入らずんば虎子を得ず、マゾーンの力を使って海軍を無くし陸軍直属の海戦隊を作る!」

 

 「正気なの?!」

 信じられないといった表情のシー・カプリス提督。

 

 というか山崎…、山崎…。

 どこかで聞いた事があるような気がします…。

 中日と楽天の主砲、いえそれは山崎武ですか。

 笑ってはいけない…、違う、それは方正です。

 ええっと山崎…、山崎…。

 山崎慎之介?!

 陸軍の天才技術員にして、前呉第一鎮守府提督『藤枝あやめ』中将の恋人。

 どうりで深海棲艦やマゾーンの技術に興味を持つ訳です。




※花火:あの…、大丈夫でしょうか?
 作者:何がです?
 花火:陸軍の艤装です。某戦車道の要素を感じるのですが?
 山崎:うむ、これでは我々は艦娘ならぬ戦車娘ではないか。
 作者:仕方ないですよ。チハや89式ではとても艦砲に太刀打ちできないですから。ティーガーの88mmやヤークトティーガーの128mmでもお話にならないんじゃないですかね?
 花火:だからってカール自走白砲を持ち出すなんて…。
 山崎:いやいや、北大路提督殿。カール自走白砲はまだいい、私の艤装などレオポルト列車砲だぞ。一体、どう扱えというのだ?
 作者:そこは異星人のオーバーテクノロジーですよ!
 山崎:オーバーテクノロジーか。
 花火:便利な言葉ですが、何でもそれで済まそうとするのは…。


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第114話 横須賀埠頭1(艦娘側:李紅蘭1)

※今回は逃げおおせたチームのお話です。
 デスシャドウ島へと渡るランチを埠頭で待っているようですが?!



 横須賀埠頭にウチと護衛艦娘の夕張の靴音が響く。

 照明も無く人の気配すら無い埠頭の隅っこを目指してひた走る。

 もう追ってくる足音も気配もあらへん。せやけどあの『鬼王』とやらの存在と凄まじい殺気がウチらの足を急がせとるんや。

 

 「ここまでくればもう大丈夫やろ。」

 横須賀埠頭の一番隅っこ、『すみれ』はんから指定された場所に辿り着くと同時にコンテナに背を預け座り込んだ。

 

 「ハアハァ…。」

 護衛艦娘の夕張が息も絶え絶えになっとるわ。

 まあ色々積み過ぎて鈍足艦娘の代表といってもええぐらいやからな。

 かなり無理をさせてしもたのは問違いあらへん。

 背負いカバンの中からペットボトルを二本出し片方を夕張に渡したる。

 二人でお茶を流し込んどるとコンテナの陰から声が。

 

 「無事だったみたいだね、紅蘭大佐。」

 

 「紅蘭! 良かったぁ〜!」

 

 「レニ、それにアイリスやないか! アンタらも無事やったんやな!」

 お互いの無事を喜び合ってると今度は暗闇の向こうから声がしたわ。

 

 「無事にここへたどり着いたのはアタイ達だけかい?」

 

 「まだ、迎えが来るまでもう少しあるからゆっくり待ちましょう。その間にもう一組ぐらい来るかもしれないわ。陸軍の連中は私達が鎮守府へ向かうと思っているでしょうから、逆にここは安全よ。」

 

 「カンナにラチェットはんやないか! 他に無事やったモンはおらへんのかいな?」

 

 「残念だけど今のところはこれだけね。」

 夜の埠頭にラチェットはんの溜息が吸い込まれていった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「ヘーイ!」

 

 「あれは…。アイオワにジェミニ総司令! 無事だったのか!」

 手を振りながらこっちに向かってくるアイオワ、後ろには帽子を手で押さえながら走る合衆国太平洋艦隊総指令(ジェミニ・サンライズ)が!

 隣で手を振り返すカンナはん。

 

 「ミー達以外は…、たったこれだけ?!」

 

 「いや、むしろあの鬼面サムライからよくこれだけ逃げれたもんだよ。というかアイリス、よく無事だったね?!」

 

 息を切らせながらアイリスに目を向けるジェミニはん。

 

 「アイリス、ずっと寝てたんだよ。全然起きないから横須賀駅で降り損ねて次の駅まで行く破目になっちゃった。」

 アイリスの護衛艦娘、島風がまさかの種明しやわ。

 

 「なるほど、そっから歩いたんか。それで助かったちゅー訳やな、アイリスらしいわ(笑)。」

 

 「クスッ、人生何が幸いするか分からないね。」

 

 「紅蘭もレニも酷ーい! 助かったんだから良いじゃない!」

 アイリスが唇を尖らせとるけど彼女の言う通りやわ。

 今は少しでも仲間と戦力が欲しいところやさかいな。

 

 「僕はアイオワのお陰さ。線路に飛び降りてミニガーダー橋の下に潜り込んだんだ。他はどうやって逃げおおせたんだい?」

 線路上ってあんなに走りにくいものだったなんて、とこぼしながら体に着いた泥汚れをはたくジェミニはん。

 

 「ウチらは夕張との共同発明品のお陰やな。煙幕閃光弾3発で逃げおおせたわ。」

 ドヤ顔の夕張が無い胸を張っ…、いやこれ以上はやめとこ(笑)。

 

 「私達は違和感を感じた時点でトイレに入った。後はトイレの窓から外へ出たという訳だ。」

 提督(レニ)と違い大柄な私は苦労したがと首を振るグラーフ。 

 

 「違和感を感じた私達(ラチェット&カンナ組)は改札へ行く振りをして、上りの列車が発車する直前に飛び乗ったの。」

 「ちょうど、アイリスと反対方面から歩いてきたって訳さ。」

 カンナはんはそう言うと立ち上がって海へ向かって手を振り始めた。

 

 「どうやらお迎えが来たようだぜ。」

 

 「「「「言い方ァ!」」」」

 何でそんな縁起でもあらへん言い方するんや…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「自分は横須賀第一所属の神州丸であります。皆様をデスシャドウ島へお連れするよう任務を…。」

 ウチらを見た神州丸が固まってしもたけど、無理もあらへんわ。

 本来やったら何往復もするはずの人数が待ってるはずやったさかいな。

 

 「んー、どうしたの?」

 

 「アイリス殿、他の方々はどうされたのでありますか?」

 

 「それは向かいながら説明するわ。実はエライ事になっとるんや。」

 陸軍艦娘である神州丸には酷な話になるはずやけど、伝えん訳にはいかんしな。

 

 「了解であります、急ぎましょう!」

 直ぐに神州丸が操船する大型ランチは埠頭から離れデスシャドウ島へと向かい始めた。




※今回はつなぎ回なので短めです(いつも言ってる気がする…)。
 次回はいよいよ横須賀第一と横須賀第二鎮守府に陸軍特殊部隊が展開します。
 果たして一時的とはいえ両鎮守府は無事に移転できているのでしょうか?!
※無事に横須賀埠頭に辿り着いた提督と護衛艦娘達
  李紅蘭&夕張組
  アイリス&島風組
  レニ&グラーフ組
  カンナ&武蔵組
  ラチェット&ホーネット組
  ジェミニ&アイオワ組


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第115話 軍令部(仮)編1(艦娘側:大神一郎1)

※その頃、デスシャドウ島へと避難していた軍令部と横須賀第一&第二鎮守府の様子はどうだったのでしょうか?


 PM11:30、軍令部、及び横須贺第一&第二鎮守府。

 

 数台の兵員輸送車が正門近くに止まった。

 そこから出てきた目出し帽に黒服の連中が暗闇に紛れ正門前と裏門前に展開する。

 アルカディアさんからもたらされた技術(ドローン)が新月だというのに相手の装備品や人数など細部までハッキリと移し出してくれているのだ。

 やがて一人がカギ縄を使い塀を乗り越え鎮守府内に侵入、門のロックを解除しハンドサインを送ると外で待機してた連中が一斉に、しかし静かに両鎮守府内へと突入を開始した。

 

 「やはりか…。」

 グリシーヌの呟き。

 

 「当たって欲しくは無かったが…。」

 ここにいる誰もが予想できなかったというのに…、やはりアルカディア殿の先を見る目は凄い。

 あのままでは横須賀第一&第二鎮守府とも簡単に無力化されてしまっていただろう。

 いくら艦娘とて陸での戦いとなれば苦戦を強いられるに違いない。

 

 「でもいい気味ですわ。軍令部はおろか第一第二鎮守府までもぬけの殻と知った時の連中の顔が見ものですわ(笑)。」

 そういうと『すみれ』君がカップを口に運んだ。

 

 「ところがそうもいかないんだ。」

 扉が開くと同時に息を切らせながら飛び込んでくるジェミニ・サンライズやカンナ、レニ達が?!

 

 「ジェミニ(アメリカ太平洋艦隊)総司令?!」

 皆の目が一斉に向けられる。

 

 「その様子では只ならぬ事態のようですね。一体、何があったのです?」

 

 「真宮寺長官、いや皆も落ち着いて聞いて欲しい。アタイ達以外は全員、護衛艦娘ごと陸軍に拘束されちまったんだ。」

 

 「横須賀駅で待ち伏せされてね。」

 カンナとレニがもたらしてくれたこの情報によって、ここ軍令部(仮)は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。

 まず驚いたのは陸軍が主になって国政と国防を行う総理の命令書が首相第一秘書である波野静香から京極陸軍大臣に発行されたという事実。

 これは波野静香が総理に働きかけた、あるいは総理自身がマソーンの種子を植え付けられているかのどちらに違いない。

 さらに山崎少佐とお付きの武官二名が艤装を装備していたという事だ。

 この短期間でどうやら陸軍(あちらさん)は本当に人間に装備させる事が可能な艤装を開発してしまったらしい。

 そして剣を抜かずとも凄まじい技量の持ち主だというのが分かるという鬼面を付けた謎の剣士の存在。

 もう色々あり過ぎて頭がパンクしそうだ。

 

 「ハッ?! 花火は、花火はどうしたのだ?!」

 花火君の姿が無い事に気付いたグリシーヌがカンナに詰め寄る。

 

 「ここにいないという事はまあ…、そういう事だ。」

 

 「アルカディア卿が付いていながら何故?! 不甲斐ない、卿は一体何をしていたのだ!」

 カンナの非情ともいえる宣告にグリシーヌが憤る。

 

 「ブルーメール提督、北大路大佐の護衛艦娘は赤城と伊勢姉妹です。今回、彼女はアルカディアさんをお連れになっていません。」

 

 「何だって?! 彼の力が必要になるかもしれない事が分かっていたのにどうして…。」

 さくら君から花火君の護衛艦娘がアルカディアさんではないという事実が!

 彼がいれば何とかなるのでは…、という期待が飛んでしまった。

 

 「あら、何もご存じありませんの? 軍令部の青葉さんと横須賀第二の青葉さんたら職務怠慢ですのね(笑)。」

 すみれ君が彼が柱島に居残りとなった理由を説明してくれた。

 

 「花火のヤツ、一体何を考えているのだ。私情に流され線引きを見誤るとは…。」

 片手で顔を覆いながら嘆くグリシーヌ。

 

 「何というか…。まあ自分とさくら君の間でも色々と…、そりゃあ色々とあったから、ね。イデッ!」

 ただ、今回は良く考えて欲しかったが…、と言おうとした矢先にさくら君のヒールが右足の甲に突き刺さった!

 

 「全ては私のせいですわ。私が美し過ぎるのがいけないのですわ。」

 一切の誘惑などしておりませんのにと『すみれ』君が嘆く。

 何だろう、いま彼女の後ろにふたば?アクション?幼稚園に努める(まつざか)先生が見えた気がするんだが。

 

 「と、とにかく主要な所はいつ同じように攻め込まれても不思議じゃない。一刻も早く各鎮守府・基地・警備府・泊地へ緊急連絡を入れないと。」

 が、ここから打てば我々がここ(デスシャドウ島)にいるのが丸わかりになってしまう。

 何か良い方法を考えないと。

 

 「自分が横須賀鎮守府近くへ行き打電するであります!」

 一体どうすれば…、という『さくら』君に、ここ(横須賀第一鎮守府)の神州丸とあきつ丸がその役目は自分達がと前に出た。

 

 「却下ですわ、あなた達にそんな危険な事をさせる訳にはいきませんわ。」

 

 「この陸軍の暴走は野心を持つ一部の輩がマゾーンに利用された結果。」

 「ならば身内の不始末は我々が何とかするのが道理であります!」

 食い下がる二人。

 あきつ丸は横須賀鎮守府付近へ、神州丸は海軍大臣山口和豊殿の所へ向かうというのだ。

 

 「逆に海軍が貴様らを陸軍側として拘束してもおかしく無いのだぞ。見つかれば陸軍側からも裏切り者扱いされお尋ね者だ。」

 帰る場所が無くならないようにというグリシーヌなりの配慮。

 

 だが、二人の目には強い光が宿っていた。




※ふたば?アクション幼稚園?に努める某先生:『まつざか梅』さんですね。
 年長組の薔薇組を受け持つ美人でスタイルも良く可愛い一面もあるのですが、
 ナルシストでもあり少し性悪に取られがち。
 ですがお人好しで世話好きなところも『すみれ』嬢とよく似ていますね。
 実際は中の人繋がりです(笑)。


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第116話 軍令部(仮)編2(艦側:あきつ丸1)

※陸軍の不始末という事で自ら危険な役を買って出た陸軍艦娘二名(あきつ丸と神州丸)。
 無事任務を成功させる事が出来るのでしょうか?!



 「「では行ってくるであります。」」

 デスシャドウ島のブンカーで見送りの方々に敬礼を返す自分と神洲丸。

 

 「気を付けて行きなさい。何かあったら直ぐに知らせる事、良いですわね?」

 そう言って神崎提督が持たせてくれたのは緊急信号発信装置。

 くれぐれも使う機会が無い事を祈るでありますが。

 さらに二鎮のブルーメール提督からは無理をするな、任務困難となれば引く事も賢い選択肢であると念を押されたのであります。

 お二人とも普段はとても厳しい方でありますが、その実は大変な部下と仲間想いなお方。

 陸軍艦娘である我々にも同じように接して下さる素晴らしい指揮官であります。

 それに比べて陸の連中(我々)ときたら…。

 このあきつ丸、今回の件で陸軍には、ほとほと愛想がついたであります。

 命じられても戻る事など無いでありましょう。

 

 「神州丸さんも山口海軍大臣の事を頼みます。軍令部と横須賀とくれば大臣殿の御身も危険です、何としても無事にここへお連れして下さい。」

 このような時にこそ私が動くぺきなのにと首を垂れる真宮寺長官。

 

 「長官には長官のお役目がありましょう、ここは神州丸にお任せ下さい。」

 貴女はいかなる時でも無事でいなければならい存在でありますから、と神州丸。

 そして自分がカンテラを消すと同時に神州丸がフードを深く被り直しました。

 こうして我々二人は間に紛れ、横須賀埠頭へ向け出港したのであります。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

同時刻、軍令部および横須賀第一&第二鎮守府。

 

 突入した特殊部隊が明かりの付いた部屋のドアを乱暴に開けていく。

 が、どの部屋もガランとして艦娘はおろか備品さえ殆ど無い。

 軍令部突入部隊は大神元帥と真宮寺長官の部屋を、横須賀第一鎮守府突入部隊は神崎中将の部屋を、横須賀第二鎮守府突入部隊はブルーメール少将の部屋を特に念入りに捜索するも、隠れる場所は無く唯一、裏山の古井戸に繋がっている抜け道が発見されたのみ。

 その通路も狭く机や本棚などはとても運び出せそうにない。

 ましてや襲撃を受けてからの短時間で全員がここを通って脱出したなど考えられなかった。

 

 「そんなはずがあるか!屋上は?! 探せっ、草の根を分けてでも探し出せいっ!」

 無線機に向かって鬼のような形相で叫ぶ一鎮の襲撃隊長。

 

 「何故だ、一体どうなっている?! 軍令部突入班は!? 二突入班は?!」

 部下から報告を受けた隊長が壁を叩く。

 

 「こちら軍令部突入部隊、大神・真宮寺はおろか艦娘一人としていません!」

 「こちら二鎮突入部隊、同じくブルーメール提督も所属艦娘の姿は確認できず、もぬけの殻であります!」

 状況は何処も同じという返答に一鎮の襲撃隊長は思わず床にヘッドセットを叩きつけていた。

 

 「どうやらしてやられたようだな…。山崎少佐に連絡だ。」

 一方、兵員輸送車の中、鎮圧部隊指揮官だけは事態を冷静に分析していた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「あきつ丸殿はどう思われるでありますか?」

 無言で横須賀埠頭の端を目指していた我々でありましたが、神州丸殿がその静寂を破られました。

 

 「どう、とは?」

 振り返る事も無く聞き返します。

 正直、今回の件は色々とあり過ぎて、自分も何を訊かれているのか分からないという始末なのでありますから。

 

 「今回の件であります。黒幕は一体誰なのかと…」

 

 「普通に考えればマゾーンの地球先遣隊が血気盛んな一部の輩を焚き付け裏から操っていると考えるのが道理でありましょうが…。」

 成程、神州丸殿が気になるのは黒幕でありますか。

 

 「が?」

 縦列に航行していた状態から神州丸殿が隣に並んでこられました。

 

 「自分は陸軍の一部がマゾーンを利用しようとしているのではと考えているであります。」

 

 「そんな事が出来るのでありますか?! 相手は我々よりもはるかに優れた技術を持つ存在でありますよ?」

 確かに彼女の言う通りゾーンは我々よりもはるかに優れた技術を持つ存在、普通の将官では到底無理でありましょうが…。

 

 「ええ、ですから陸軍でもかなり頭が良く地位の高い人物、そして野心を持つ人物でありましょう。そして自分の知る限りそれはたった一人…。」

 

 「それは一体…。」

 神州丸殿の喉が鳴ります。

 

 「京極陸軍大臣であります。」

 

 「な、何ですと?! あきつ丸殿、滅多な事は!」

 自分も憶測の域を出ないのでありますが…、と前置きしたにも関わらず神州丸殿は大変に驚かれた様子。

 

 「ほぼ100パーセントの確率で間違いないでありましょう。ただ、普通に考えてマゾーン側が見抜けないはずが無い。逆に利用されているだけである気が自分はするのであります。」

 

 「マゾーン側は知ってて泳がせているという事でありますか…。」

 海面に視線を落とす神州丸殿。

 自分と同じく今の陸軍にやるせなさを感じているのでありましょうな。

 

 「自分も信じたくはありませんが、十中八九そうでありましょう。さ、埠頭に付いたであります。上陸するでありますよ。」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 あきつ丸と別れた神洲丸は横須賀駅を目指し埠頭をひた走る。

 周りの気配を敏感に察知、そして自らの気配を消す。

 隠密行動に掛けては川内型に匹敵、それ以上だ。

 二人一組で展開する陸軍兵を後ろから気配を消して接近、無力化を繰り返していく神洲丸。

 横須賀駅に着いた時には最終列車が出た後とあって陸軍兵の警備も随分と手薄になっていた。

 

 「これは…、何たる僥倖。しかも牽引機はD51、これはツイているであります。」

 留置線に目をやった彼女はそう呟くと線路脇から駅へと侵入する。

 留置線に止まっているのは貨物列車。それも煙と蒸気の具合から直ぐに出発だろう。

 そして貨物列車への接近は神洲丸にとっては造作もない事であった。

 そのまま炭水車によじ登っていく神州丸。

 D51型蒸気機関車はテンダー機だ。フードを被り身を低くすれば運転手と機関助手からも姿が見えることは無い。

 哨戒の陸軍兵も気付く様子はなくノンビリと煙をふかしている始末。

 十数分後、神洲丸を乗せた?貨物列車は汽笛と共に力強いドラフト音を響かせながら横須賀駅を出発して行った。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 ご武運をと拳を突き合わせ神州丸の背中を見送った後、打電するための適当な場所を探しに掛かります。

 と、埠頭端に丁度良いコンテナの隙間が!

 一刻も早く通信装置をセットし全鎮守府と泊地、ならびに基地と警備府へこの状況を知らせなくては!

 が、この時、自分は通信装置の準備に気を取られ背後から近付く気配に気付けなかったのであります。

 

 「がっ?!」

 激しい衝撃を後頭部に感じた自分が見たのは通信装置が埠頭の先、海へと飛んで行った光景。

 

 「このネズミめ。」

 そしてもっとも聞きたくない声(自分の声)が!

 

 (む、無念…。み、皆、申し訳ない、であります…。)

 

 




※テンダー機
 蒸気機関車は石炭と水を機関車本体に積んでいるタイプと炭水車という専用のカーゴをすぐ後ろに従えているタイプがあります。
 これをテンダー機関車といい中型以上の機関車に多いです。前者はタンク機といい比較的小型の機関車によく見られます。

※もっとも聞きたくない声
 大本営にいる『あきつ丸』達。基本、陸軍所属の陸軍艦娘なので陸軍の方針に従っています。

※通信装置が埠頭の先、海へと飛んで行った光景
 あれれ、大変です!
 これでは各地に現在の状況を知らせることが出来ません!


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第117話 柱島第七泊地編1(アルカディア側1)

※大本営の落花狼籍な振る舞いを各鎮守府・泊地・基地・警備府へ知らせる事はできるのでしょうか?!


 同時刻、件の横須賀埠頭先。

 海中に没するかと思われた通信機を小さな手がキャッチする。

 あきつ丸が引き摺られて行き、再び埠頭先が静けさを取り戻すと、ようやくそれは顔を出した。

 

 「あきつ丸さん、必ず助けに行きますから…。待って下さいね。」

 あきつ丸が連れ去られた方を見ながらそう呟いたのは横須賀第二鎮守府所属の陸軍特殊潜航艇『まるゆ』。

 万ーを考え、グリシーヌ・ブルーメール少将が独自の判断であきつ丸と神洲丸の後ろを追わせていたのである。

 あきつ丸の意思を継いだその彼女によって、今度こそ全鎮守府・泊地・基地・警備府へ向け、大本営の狼籍が一斉配信される事となった。

 当然、それは柱島第七泊地にも届いたのである。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「キャプテン!」

 寝る前のルーチンとして小用を足していると、トイレのドアが勢いよく開き血相を変えた螢が飛び込んで来た。

 

 「どうした螢?」

 首だけを出来るだけ後ろへ向けて聞き返す。

 若き日のリンダブレア(エクソシストに出て来る少女)じゃあるまいし、首を真後ろに向けるなんてムリなんだから仕方ない。

 

 「緊急事態です、北大路提督がいえ、他の提督さん達も!」

 その前にちょっと待って。

 いくら緊急事態といったってトイレの戸を平気で開けてくるってどうなのよ?

 

 が、まさしく緊急事態という内容に思わず放水を停め、首を真後ろどころか体ごと正対してしまった。

 

 「あ…。」

 

 「…。」

 思わず二人で固まってしまったが、ややあって螢が口を開いた。

 

 「短小包って…、何気に詫び寂びよねぇ(笑)。」

 待つんだ、螢。色々と間違えているぞ。

 誤字報告しておくから後でちゃんと適用するんだ、いいね?

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「明石、いるか?!」

 

 「どうしたんですか、そんなに慌てて? ひょっとして私に会いに来てくれたとか?」

 蹴破るような勢いで工廠のドアを開けると直ぐに明石が出迎えてくれた。

 

 「勿論それもあるが、今回は緊急事態だ。ライトセイバーの使用可能な本数は?」

 

 「50本ちょっとありますね。現在もX-ウイングと併せて生産ラインが絶賛稼働中です!」

 彼女が指し示す方には段ボール箱に入ったライトセイバーが。

 艦娘用が30本ちょっとに提督用が20本以上か。

 

 「上出来だ。ん、こいつは? 随分と変わった形だが…。」

 何だろう、ライトセイバーの柄にしては妙な形をしてるのが1本ある。

 

 「ああ、それは神崎提督専用です。薙刀になってるんすよ。しかもスイッチーつで両薙刀にもなる優れものです!」

 奥から夕張が顔を出した。

 ライトセイバーの技術を応用したビーム薙刀か。ゲルググみたいでカッコイイな。

 俺もぜひ使ってみたいが、薙刀なんて扱えない上にそもそも霊力が無いんだった、凹む…。

 それから二人には言っておかなくてはならない事がある。

 

 「二人とも仕事熱心なのは悪い事ではないが睡眠不足はいい仕事の敵だ。それに美容にも良くない。」

 熱心なのは大いに結構だが、工廠に寝泊まりするのはやり過ぎというものだ。

 

 「二人とも緊急事態だ。落ち着いて聞いてくれ。」

 先程受信した電文の内容を伝えると二人とも絶句してしまった。

 だが、いつまでも呆然としていてもらっては困る。

 花火は勿論、他の提督達を救い出すために無理をきいて貰う必要があるのだ。

 

 「副長、今から大至急、こいつを造ってもらいたい。明石と夕張は仮眠をとった後、彼を手伝ってやってくれ。」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「大変ですっ! 陸軍が、大本営がっ!」

 本日の秘書官である長門の許へと向かうべく廊下を執務室へと急いでいると、後ろから駆けて来た大淀が凄い勢いで執務室に飛び込んでいった。

 まるで二匹の子ヤギが置いてきぼりにされる程の勢いである。

 

 「ほとんどの提督さん達と護衛艦娘達が、大本営によって拘束されました!」

 

 「何?! 一体どういう事だ?!」

 廊下の外にまで二人の声が聞こえてくる。

 中に入ると大淀が、

  1.首相から今後の国政と国防は陸軍が行うとの命令書が京極陸軍大臣に渡った事

  2.海軍は武装解除し陸軍に投降する事

  3.抵抗する場合、そこの提督の安全は保障しない

 とする電文を受信した事を告げていた。

 

 「当然、海軍としてはそんな要求は認められん。陸軍もそれは織り込み済みであるが故、人質として各地の提督を次々と拘束していったという事だろう。」

 

 「こうしてはおれん! 今すぐにでも北大路提督の救出に向かうぞ!」

 

 「待ちなさい、武蔵。まだ北大路提督がどこに捉えられているか分からないのよ。」

 いきり立つ武蔵を諌める加賀。

 

 「そんなもの大本営か横須賀一鎮に決まっているだろう! 今こそ海軍、いや艦娘の力を陸のヤツに見せてやる時だ!」

 そう言って武蔵が壁を叩いた時、ドアが開いてビスマルクにオイゲン、そしてワシントンとアークロイヤルも入って来た。

 

 「私とワシントンのレーダーがとんでもない通信を捉えたわ!」

 やはり通信設備や電波探知機は海外艦の装備の方が優れているみたいだ。

 

 「ええ、ここの通信設備でも受信しました。各地の提督が大本営に拘束されたというモノでしよう。問題はこれが本物かどうかです。」

 

 「海軍暗号で打たれた電文なのよ、本物に決まってるじゃない?!」

 ビスマルクとワシントンが大淀に食って掛かる。

 もう、この頃になると日付が変わったにもかかわらず多くの艦娘が集まっていた。

 戦艦組はビスマルク、空母組はアークロイヤル、重巡組はオイゲンによって話が広がったのだろう。

 

 「とにかくこうしてはおれん! 帝都に向かうぞ!」

 頭に息巻くビスマルク・ワシントン・サウスダコタ・霧島・瑞鶴・アークロイヤル・ホーネット・足柄・摩耶・天龍・不知火・磯風達。

 

 「まて、武蔵。どうやって行くつもりだ? もう最終列車が出てしまってる以上、始発を待つ以外あるまい。」

 それに鉄路を含め陸路は抑えられているとみた方がいいだろうとは長門の意見だ。

 

 「そんな…、北大路提督は私達をあの地獄から救い出してくれた恩人なのよ!」

 

 「それなのに私達には何も出来ないなんて…。」

 拳を握り締めるビスマルクとホーネット。

 

 

 それから2時間は進展も無く執務室で過ごしただけだった。

 中には貨物列車を強制停車させ乗り込むべきとかいう意見もあったが、信号やポイントを側線側に切り替えられるとそれだけで詰んでしまう。

 鉄路を使うのは相当難しいと見ていいだろう。

 道路も幹線は軒並み抑えられているだろうし、長門の考えている通りと見て間違いあるまい。

 この間にもひっきりなしに他所の泊地や基地などから先の通信について連絡が飛び交っている。

 大方、他もここと同じようになっているのだろう。

 

 「ねえ、アルカディア。」

 不意にビスマルクが俺を呼んだ。

 

 「その…、アルカディアは平気なの? 最愛の人が拘束されて人質状態になってるのよ?」

 まあ、そう見えても不思議ではないか…。

 

 「当然平気ではないさ。今すぐにでも大本営に乗り込みたいぐらいだ。事実、俺一人なら案外早く着けるだろう。」

 じゃあ、どうしてという顔をする彼女には『待つのだ、時が来るのを…。』と返す。

 

 

 更に1時間ほど経った時、執務室のドアがバーンと開きヤッタラン副長が飛び込んで来た。

 

 「キャプテン、お待たせや! 完成したで!」

 

 「流石は副長、バラすも造るも仕事が早い(笑)。」

 自信作でっせ、とヤッタラン副長が胸を張る。

 

 「よし、大本営に殴り込みを掛けたい奴はブンカーに集合しろ!」

 




※だが睡眠不足はいい仕事の敵だ。それに美容にも良くない
 ジブリ好きな方はピンと来るかもですね。某ブタさんが女技師に送ったアドバイスです。

※二匹の子ヤギ
 本来なら一緒に透き通った日差しの中を駆けなければいけません(笑)。

※待つのだ、時が来るのを…。
 ある立派な方が焦る古代進と島大介に落ち着くように指示された時のお言葉。

※流石副長、バラすも造るも仕事が早い
 元ネタは福屋工務店の関西ローカルCM。売るのも買うのも仕事が早い?!


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第118話 柱島第七泊地編2(艦娘側:アークロイヤル1)

※ヤッタラン副長達が完成させたものとは?!


 「こ、これは?!」

 

 「信じられん、わずか数時間でこれを?」

 高雄と長門をはじめ全員が驚いている。

 まあ、これだけのモノを2時間程度で作り上げてしまうあの四人(副長・明石・夕張・北上)とここの妖精さん達がおかしいのだから無理もないか。

 

 「でも主翼が小さすぎるわ、飛べるとは思えない…。」

 

 「全員を収容できるだけの体積は十分ありそうですが…。」

 加賀と妙高が不安そうにしている隣でウォースパイトを始めとする我々英国チームは全員が目を輝かせている。

 かくいう私もその一人だ。

 

 「ええ、残念だけどこれは飛ぶことは出来ないの。」

 

 「自力ではね。あくまでもエンジンノズル部分は見せかけで方向舵と主翼のフラップ機能だけなんです。

 後は姿勢制御のために補助ノズルが付いているだけですから。」

 

 「ええ…、じゃあ…。」

 夕張と明石の説明に肩を落とす古鷹。

 

 「もう、古鷹さんってば。自力では…、って言ったじゃん(笑)。」

 北上がニカッと白い歯を見せた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「明石、武器は搭載したか?」

 

 「はい、ライトセイバー、X-ウイング、瑞雲ファンネル全てOKです!」

アルカディア殿の問いに明石がサムズアップする。

 

 「よし、ネルソン、アークロイヤルは操縦席に行け!他は速やかにコンテナに搭乗しろ!」

 

 「「ラジャー!」」

 アルカディア殿の命令にネルソンと共に敬礼、操縦席へ乗り込む。

パチパチと各パネルのスイッチを入れ操縦桿を握り昇降舵と方向舵の動きと効き具合をチェックする。

 

 「今から俺が特殊ワイヤーでこいつを引っ張る。海上に出たら離水、四国を飛び越えた後、太平洋岸に沿って飛行し帝都を目指す。」

 

 「俺達の花火に手を出した罪は重い。各自、一切の情け容赦は無用だが一番の目的は各提督達の救出だ。決して大本営の殲滅ではない、そこは間違えるな!」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 ブンカーのシャッターが開いていく。

 そこから見える夜の瀬戸内海ははるか先で起こっている出来事など知らぬ存ぜぬと穏やかな状態だ。

 彼の艤装から噴進音が聞こえると共にゆっくりとこの飛行機型カーゴが瀬戸内海に引出されていく。

 

 「アルカディア殿、藤枝かえで少将閣下率いる宿毛湾第一泊地から入電だ。ぜひ我々も乗せてもらいたいとの事だがどうする?」

 

 「よかろう、道中でもあるし、どうせ瀬戸内海を抜けるまではそれほど速度を上げる事は出来ん。全員、直ぐに収容できるよう準備しておくように伝えろ。」

 ネルソンが宿毛湾第一泊地からの要請をアルカディア殿に伝えると彼は二つ返事でそれを了承した。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 「宿毛湾第一泊地筆頭事務官の大淀です。無理を聞いて頂き感謝します!」

 アルカディア殿が牽引してきたカーゴを見て舞い上がっているここの金剛や英国艦達を尻目に大淀が敬礼する。

 

 「大本営へ殴り込み希望者は速やかにコンテナに搭乗するがよい、時間は待ってはくれぬぞ!」

 ネルソンのこの言葉に宿毛湾第一泊地の艦娘達が一糸乱れぬ動きでコンテナ部に吸い込まれていく。

 流石はあの藤枝かえで少将の艦娘、よく訓練されている。

 

 「全員、搭乗終わりました!」

 

 「よし、では出発だ! 国際救勤隊、出動!(Thunderbirds are go!)

 100m程前にいるアルカディア殿が親指を立ててくる。

 こちらも親指を立てて返すとアルカディア殿に合わせてサンダーバード2号(ハリボテだが)はコンテナの方からワーとかキャーという悲鳴が聞こえてくるほどの凄まじい加速を始めた。

 機首がグンと上に向けて引っ張られるのに合わせて操縦桿を引く。

 後は大本営か横須賀沖までこのアークロイヤルとネルソンが快適な空の旅を約束しよう。

 おっと、そこでうなされている約二名を除いてだが(笑)。

 何でも仮眠を取らなかったという事で、二人ともアルカディア殿に強制的に寝かしつけられてしまったのだ。

 彼は金剛と瑞鶴にブーツを脱ぐよう依頼すると、名前を呼ばれ振り向いた明石と夕張の顔にそれを押し当てた。

 おおよそ女性が出してはいけない悲鳴と共に崩れ落ちた二人には、金剛の何て事するのデスカー!と瑞鶴の信じらんない!という抗議は聞こえていなかったに違いない。

 それにしても提督の救出に国際救助隊のメカ(サンダーバード2号)とはアルカディア殿もシャレが効いているではないか(笑)。

 陸の連中よ、待っているがいい。私のソードフィッシュが貴様達にたっぷりと反省と後悔を与えてくれるだろう。

 




※ヤッタラン違が作り出したのはエンジン無しのサンダーバード2号だったようです。
コンテナ部には所属艦娘以外にも沢山のオモチャ?が積まれているようですが?!


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第119話 軍令部(仮)編3(艦娘側:真宮寺さくら1)

※一方、アルカディア号が柱島を立つ少し前のデスシャドウ島では…。


 「長官、山口海軍大臣をお連れ致しました。」

 ドアが開いて神州丸さんと山口海軍大臣が入ってこられました。

 全員で弾かれた様に立ち上がり敬礼で迎えます。

 

 「大神君に真宮寺君、ここにいる神州丸君に話は聞いたよ。大変な事になったね。」

 開口一番、山口大臣は私達に向かって仰いました。

 同時に自身も危ない所だったと感謝をして下さったのです。

 

 「大臣、我々の現有戦力は海軍軍令部と横須賀第一&第二鎮守府の艦娘達です。これを多いとみるか少ないとみるかですが…。」

 軍令部も横須賀第一&第二鎮守府も現状確認されている艦娘は全て揃っています。

 普通に考えればかなりの戦力ですが、やはり艦娘の数と陸軍兵の数とでは比べ物になりません。

 それに陸軍兵が艤装を装備しているとなると数だけの不利ではないでしょう。

 

 「ここへ来るまでにも軍令部や横須賀第一&第二鎮守府はおろか町の至る所にチハの艤装を背負った陸軍兵がいて苦労したよ。」

 「神州丸君がいなければとてもここへは辿り着けなかっただろう。私としてはもっと戦力が欲しいと願うところだが…。」

 やはり大臣殿も数の面を不安視されておられるようですね。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「ところであきつ丸殿は?」

 神州丸さんがあきつ丸さんの姿が見えない事に気付かれました。

 

 「念のため、隠密で貴様ら二人の後を追わせた『まるゆ』から別のあきつ丸に捕まったと報告があった。」

 

 「そんな! では他鎮守府や泊地への連絡は?!」

 焦る神州丸さんですが、神崎提督から二鎮の『まるゆ』さんがしてくれましたわ、と聞かされ少し落ち着いたようです。

 

 「こうしてはいられないであります! 一刻も早く全員の身柄を取り戻さないと!」

 彼女の言う事は尤もですが、『まるゆ』さんからの情報では拘束された提督達は大本営と帝都湾第二海保の二か所に分かれて収容されているらしく、救出部隊を二手に分ける必要があるのです。

 間違いなくアルカディアさんは大本営に乗込むでしょうから、ここ軍令部(仮)からは第二海保に囚われている提督達の救出を行う事が決定されました。

 現在、第二海保へ駆逐艦(小型艦艇六人)で突入を試みてはどうかという作戦が立案されつつありますが、事態はそう簡単ではありません。

 

 もともと第二海保は陸軍が外国船の帝都湾侵入を阻止するために見張り台として設置した構造物です。

 警備自体はそこまで厳しくない事から上陸が出来れば駆逐艦六隻でも十分なのですが、その手前に立ちはだかる『名波論島』の存在が厄介なのです。

 岩肌をくりぬいて作られた洞窟にはドーラ列車砲とグスタフ列車砲の艤装を付けた陸軍兵が居座っているらしく、第二海保へ向かおうとすれば間違いなくその巨砲が火を噴くと…。

 

 さらに岩で出来たこの島は四方を切り立った断崖絶壁で囲まれており船を着ける事の出来る場所はたったの一か所しかありません。

 そこには多くの陸軍兵が目を光らせており、正面切っての突入は不可能なのです。

 従って、第二海保へ突入し提督達を救出するためには、『名波論島』に居座る巨砲二門を無力化する必要があるのです。

 そうでなければ間違い無く六名の駆逐艦娘が海の藻屑となってしまうでしょう。

 艦載機を使って爆弾を放り込むという手段も検討されましたが、『まるゆ』さんの撮影した写真からは対空兵装が鬼のように設置されており文字通り難攻不落の天然要塞です。

 

 「警備の手薄さを考えると裏側の崖を登るしかなさそうね…。」

 ラチェット・アルタイル提督が島の写真を見て呟きました。

 

 「50m以上ある崖を登れたとして、そこから爆薬を仕掛けて撤収し脱出、その後に起爆装置による発破か…。」

 ブルーメール提督が大きく息をつきます。

 

 「ハードルはかなり高いと言わざるを得ないね。」

 ジェミニ太平艦隊総司令の言う通りですね。

 いえ、高いどころかほぼ不可能といっても良いでしょう。

 ですが可能性がある限り諦める事なんてできません。

 

 「神崎提督にブルーメール提督、お二人とも明石と夕張を呼んで下さい。ここにも第二海保と『名波論島』の見取り図があります。これを基にウチ(軍令部)の明石と夕張を含めた六名で技術的な事も含め、作戦の立案を致しましょう。」

 テーブルの上に見取り図を広げながら指示をすると、お二人とも直ぐにそれぞれの明石と夕張を呼んでくれました。

 

 「何が起こっているかは知っていますね? 陸軍はマルナナサンマル(07:30)までしか待たないと一方的な通告をしています。時間を逆算すると出撃はマルロクサンマル(06:30)、突入するメンバーは『白露』・『初春』・『朝潮』・『暁』・『吹雪』・『陽炎』の六名とします!」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 突入メンバーを集め、作戦概要を説明すると一気に場は騒然となりました。

 

 「よーし、イッチバーンに突入してやるんだから!」

 

 「各地の提督達を拉致監禁とは…。この初春の怒りを買ったようじゃのう!」

 

 「この朝潮、必ずや突入を成功させてみせます!」

 

 「暁の出番ね、見てなさい!」

 

 「司令官達のために私、頑張ります!」

 

 「いよいよ私の出番ね。陽炎型ネームシップとして妹達に参考になる戦い方を見せてあげなくちゃ!」

 

 「その意気や良しです。ですが時間内に巨砲を無力化できなかった場合、貴女達は突入する必要はありません。巨砲の射程圏内に入る前に反転し帰投して下さい。」

 そう伝えるとまたしても騒然となりました。

 彼女達は全員、そのまま突入するべきだというのです。

 『まるゆ』さんからは、あの巨砲は見かけによらずレーダー射撃が可能らしく射程を抜け切るまでに全滅する可能性が非常に高いという情報が寄せられているというのに…。

 

 「黙りなさい。これは連合艦隊司令長官でもあり海軍軍令部直属艦隊の指揮官である私、真宮寺さくらの命令です。異を唱える事は許しません。」

 

 「帰ろう、帰ればまた来られるから…、ですわね。」

 神崎提督はそう言うと暁の頭をそっと撫でられました。

 暁自身は、『頭をナデナデしないでよ、もう子供じゃないって言ってるでしょ!』とプンスコしていますが(笑)。

 結局、これは中を取って大破艦が一隻でも出たら反転という事に落ち着きました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「まず、夜が明ける前に50m以上ある崖を登り切る必要があるわね。」

 夕張(二鎮)が『名波論島』の崖の写真を見ながら顎に手をやりました。

 

 「爆薬、起爆装置、リモコンを背負って、かぁ…。キツイわよ、これ。」

 溜息をつく明石(軍令部)。

 

 「何か崖をこうピューンと登れる機械、作れないの?」

 

 「無茶ですよ、そんなの。夕張さんこそ作れないんですか?」

 夕張(一鎮)のリクエストに明石(二鎮)が首を振ります。

 

 「取り敢えず、自動でハーケンを打てるだけでもかなり楽になると思うのよね。自動釘打機ならぬ自動ハーケン打機を作ったらどうかしら?」

 

 「じゃあ、私は腰に装備する艦娘用の小型ウインチを六台開発しますね。」

 夕張(軍令部)と明石(一鎮)が素晴らしいアイデアを!

 

 「となると暗視用ゴーグルも必要か…。」

 

 「歩哨を無力化となると持続力を持った麻酔弾も必要よね(笑)。」

 次々と開発をするモノと担当が決まっていきます。

 ですが爆薬を仕掛ける場所の選定で再び話し合いは暗礁に乗り上げてしまいました。

 

 「皆、ちょっといいかな?」

 沈黙を破ったのはレニ提督。

 

 「あれだけの大きな列車砲の艤装だ。当然、砲弾もかなり大きいと見ていいだろう。そんな大きな砲弾を岩山のかなり上にあるグスタフとドーラの周りに置いておけるとは思えない。」

 

 「どういう事ですの?」

 

 「神崎提督、もし僕の考えが正しいければ砲弾供給用のエレベーターで上に運んでいるはずだ。そのエレベーターに仕掛けてはどうだろうか。あんな岩山に急造で作るとなると間に合わせ的なものだろう。」

 

 「それだ!」

 私達全員の声が重なりました。

 




※名波論島
 さて何と読むのでしょうか(笑)?
 古いですが、結構有名な映画なのでご存知の方も多いのではと思います。
 救出に向かうのは駆逐艦六隻というのもここからとっています。

 勿論、日本はおろかエーゲ海にもこんな島は実在しません(笑)。


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第120話 大本営突入編1(艦娘側:ネルソン1)

※今回のモチーフはサクラ大戦2の第八話、帝都の一番長い日です。
 ほんのチョットだけですが…。


 このサンダーバード2号の操縦席に座っているのは世の他にはアークのみ。

 そのアークは先程とは違い、少しリラックスしているように見える。

 それもそのはず、先程からは余が操縦桿を握っているのだ。

 そのアークの視線の先にはコンテナの様子を映し出すモニターがあり、二航戦が加賀に話し掛けている様子が映っている。

 

 「ねえ飛龍、もう知多半島を通過だって。」

 

 「うん、なんか凄過ぎて実感が湧かないよね。ね、加賀さん?」

 

 「赤城さん、赤城さん、赤城さん、赤城さん、赤城さん、赤城さん、赤城さん、赤城さん、赤城さん…。」

 

 「「…。」」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「加賀のヤツ、大丈夫なのか?」

 アークから加賀を心配する声が出た。

 

 「案ずるな。あれでも戦闘中は頼りになる。それは一緒に出撃した事のある余が保証しよう。というか、それは同じ正規空母である貴様の方が良く分かっているであろうに(笑)。」

 赤城が絡むと何処の泊地や基地の加賀でもああなるのはよくある事だ。

 それでも周りが見えなくなる程ではない、心配は要らぬであろう。

 

 「何とか日が昇る前に突入したいけれど…。」

 ワシントンが主砲を磨きながら呟いた。

 

 「ああ、少しでも暗い内に突入、そして殴り合いだろ? 任せて!」

 耳をほじっていた小指をフッと吹くサウスダコタ。

 ちょっと汚いじゃない、というワシントンの非難にアタシのはダシにも使える位だから問題無いというサウスダコタ(ブラックプリンス)

 

 まて、今のは聞き捨てならんぞ。

 今月の厨房当番は我々戦艦組ではないか。

 そして昨日は大和や長門と共にヤツだったはず。

 昨日のコンソメスープ…、いやまさかな(汗)。

 

 一方、戦艦組でも日本艦は新兵装の光線剣とやらを握って上機嫌だ。

 コンテナのそこかしこからビシュンという音やヴォンヴォンという音が聞こえてくる。

 分御霊という船神社が無いため、ライトセイバーが使えない我々海外艦組には羨ましい限りだ(笑)。

 

 「夜明けまでは?!」

 

 「あと一時間!」

 大和がグラーフの問いに大本営の見取り図を見ながら返答する。

 彼女の飛行甲板にはズラッと艦載機が並んでおり、突入の際には真っ先に夜戦可能空母の艦載機が先陣を切る手筈になっている。

 さらに夜間誘導灯のチェックを終えた加賀やサラトガ、ガンビアベイ、大鷹らの飛行甲板にも所狭しと艦載機が並んでいた。

 他にも、軽巡洋艦娘ではあるが川内が九八式夜間偵察機の手入れを入念に行っている。

 皆、やる気満々の様だ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

大本営作戦指令室

 

 「こ、これは?! 天笠少佐、見て下さい!」

 

 「どうした?」

 天笠と呼ばれた男がモニターを見上げた。

 どうやら階級は少佐らしい。

 

 「未確認飛行物体が超高速で伊豆半島沖からこちらに向けて接近中!」

 

 「時速は…、有り得ん! 時速1200km/h、音速近いだと?!」

 

 「来たか(笑)。コチラも迎撃機を上げろ! ミサイルの射程にまで入ったらハチの巣にしてやれ!」

 部下たちの有り得ないという悲鳴にも似た報告にも天笠とやらは顔色一つ変える事は無く迎撃命令を下した。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「正面より接近してくる飛行物体を多数探知!」

 計器パネルを見たアークが声を上げた。

 

 「ほう、随分と早い歓迎ではないか(笑)。」

 余が感心すると同時に、アルカディア号からも総員第一種非常態勢が発合される。

 

 「アーク、ネルソン、本船はこれより敵と交戦に入る。操縦桿を順むぞ!」

 

 「了解した! 搭乗員全員に告ぐ、アルカディア号並びに本機はこれより対空戦闘に移る、各自、衝撃に備えよ!」

 コンテナ部に搭乗している者達にも緊張が走る。

 

 「来るぞ!」

 前を飛ぶアルカディア号に習い操縦桿を左に倒す。

 サンダーバード2号の機体はお世辞にもスマートとは言い難い。

 ドン亀のような機体形状はレースカーで云えば直線番長なのだ。

 前から迫ってくるミサイルがドンドン大きくなってくる。

 余とアークの喉奥が鳴った時、ようやく機体が大きく左に傾き始めた。

 そしてそのすぐ横をミサイルが通り過ぎて行く。

 

  「パルサーカノン、繋ていっ!」

 アルカディア号の主砲から放たれた赤い光線がマゾーンの三艦に命中する。

 艤装を真っ二つにされ三人の女達は紙のように燃えながら灰となって落下していった。

 成程、あれがマゾーンという連中か。

 初めて見るが本当に灰になってしまうのだな。

 さらに彼はすれ違いざま、艦橋下部と両横の速射砲と艦首ミサイルで相手の攻撃機をほとんど撃墜してしまった。

 しかし、喜んでばかりもいられない。

 アルカディア号も四発のミサイルとレーザーを被弾したのだ。

 後ろにいる我々の為に盾になってくれたのであろう。

 

 「アルカディア殿!」

 アークが立ち上がって叫ぶがアルカディアには掠り傷程度。

 それにしても何という騎士道精神であろうか。

 このネルソン以外にもここまでの者がいたとは…。

 

 「アークよ、この海に平和が戻ったら…。」

 

 「ああ、ジェーナスやジャービスから聞いている。必ずや我が女王陛下の海軍(ロイヤルネイビー)に彼を連れて行く、だろう?」

 

 「その通りだ、そのためにもまずは提督達の奪還だな(笑)。」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 目的地である大本営に近づくにつれ激しさを増してくる対空砲火。

 だがアルカディアは重力波ミサイルと艦底部ビーム砲塔で強引にスペースを作ると、このサンダーバード2号ごと強行着陸を行った。

 

 「アルカディア号クルーに告ぐ、砲雷紫戦用意、総員戦闘出撃準備に掛かれ!」

 「搭乗の艦娘達! 狙うは(大本営)中央庁舎だ、フル回転で突入するぞ!」

 アルカディアの指示と共に、2号本体がロッドによって持ち上がりコンテナ部のシャッターが開くと中から一気に艦娘達が雪崩出て来た。

 

 「アークよ、また後で会おう。余も戦艦としての役目があるのでな!」

 それだけ言うとこのネルソンも艤装を展開して飛び出した。

 提督達の救出に成功したら、このクーデターに手を染めた連中には必ずや高い代償を払わせてやろうではないか(笑)。

 日本艦と違って我々海外艦は甘くは…、ない!

 




※夜明けまでは?! 後一時間!
 これまた有名なジブリ作品ですね。
 おそらくトップ3に入る人気では?

※女王陛下の海軍に彼を連れて行く
 イギリス艦チームもトンでもない計画をお持ちのようで…。


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第121話 大本営突入編2(艦娘側:武蔵1)

※とうとうお気に入り登録が550件を超え、総合評価も800を超えてしまいました。UAに至っては160,000以上に!
 ここまで来れた事に感謝です!
 亀更新になっても必ず完結させたいと思いますので、これからもお時間がありましたらお立ち寄り下さいませ。

※さあ、柱島第七泊地と宿毛湾第一泊地の艦娘達が到着!
 どんな暴れっぷりを見せてくれるのでしょうか?


大本営作戦司令室

 

 「迎撃部隊全滅! 未だ未確認飛行物体は、こちらに向かって侵攻中であります!」

 大本営中央序舎の作戦指令室に電探係の悲鳴が響く。

 

 「何だと! 信じられん、マゾーンの技術を持った空中戦艦三隻と迎撃機二十機を一瞬で葬ったというのか?!」

 

 「狼狽えるな、天笠! 貴様はマゾーンの地上部隊と技術供与された武器を使ってヤツらの侵攻を食い止めろ! その後は名波論(ナバロン)島へ迎え!」

 

 「私は最上階にいるゲスト共(提督達)を地下の最下層にある大空洞へと連れて行く!」

 そういうと彼はエレベータへと姿を消した。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「やったぁ! 待ちに待った夜戦だぁ!」

 まず先陣を切って飛び出すのはライトセイバーを持った我々日本戦艦組、になるはずだったのだが…。

 

 いち早く我々の前に躍り出る黒い影。

 その黒い影は魚雷をクナイのように持ち、次々とマゾーン戦闘員に投げつけていく。

 言うまでもない、重篤な夜戦病患者である軽巡洋艦娘の『川内』だ。

 

 「あのバカ…。」

 長門が頭を抱えてしまった。

 真面目過ぎる彼女にはさぞかし頭痛の種であろう。

 

 「長門よ、夜戦が抜けているぞ。」

 

 「ああ…、そうだな。夜戦バカが正真正銘のバカになってしまっただけだ。大丈夫だ、大丈夫だとも…。」

 二人してため息が出てしまったのだが、後で彼女のこの行動が我々にとって大いに役立つ事になるとは思ってもみなかった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「さあ、道を作るぞ!」

 

 「モガミハン、私が道を作ります。突撃なさい。」

 ネルソンとリシュリューの主砲が轟音を立てると、それを皮切りに次々と戦艦組の主砲が火を噴き始めた。

 その度にチハやチヌの艤装を装備した陸軍兵が吹っ飛びモーゼの十戒のように道が出来ていく。

 

 「この日ノ本に巣食う寄生虫共が、この大和型二番艦『武蔵』が成敗してくれる!」

 

 「今回はさすがのお姉さん(陸奥)もちょーっと頭に来てるかな。それ!」

 横4列で吶喊を開始する。

 両端にはライトセイバーを持った我々日本戦艦組、内側二列は海外戦艦組と重巡以下という配置だ。

 道を閉じようとする陸軍兵はライトセイバーで艇装を真っ二つにし、前からくるマゾーン戦闘員に対しては海外戦艦組と重巡組の主砲が迎え撃つ。

 さらに上空を見上げると艦戦隊が舞っており制空権も完全に掌握済みだ。

 いつの間にか夜間戦闘可能空母勢より発艦していたのだな。

 おかげで中破艦や大破艦が未だこちらには出ていない。

 

 「伊勢と日向には負けたくないの!」

 「五月雨を集めて早しって、芭蕉だっけ?」

 「私がクマクマ言ったっていいわよね?」

 「うわ、きんもー!」

 幾ら数を揃えてもチハの3.7cm砲などこちらに何のダメージも通らない上に、カール自走白砲の大型砲弾やマゾーン母艦からの光線兵器は扶桑や山城、あるいは航空巡洋艦勢の瑞雲ファンネルが防いでくれているからだ。

 が、中央庁舎まで50mと迫った時、こちらの艦戦隊が次々と落とされ始めた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「あれは?!」

 

 「マゾーンの戦闘艇!」

 夜空を見上げる加賀とサラトガ。

 最高練度を誇る一航戦の艦戦隊といえどもやはりマゾーンとの技術格差を埋める事は出来ない。

 よく見ると艦戦隊は一ヵ所に集まりまるで何かを守っているようだ。

 

 「サラの子達、何してるの?! 散開なさい!」

 サラトガが叫ぶが艦戦隊の妖精達はバラける様子が無い。

 目を凝らしてみるとその中心に何かが見える。

 あれは…、川内(夜戦バカ)の九八式夜間偵察機!

 そうか、こちらの攻撃が面白いように敵に命中していたのは彼女が装備していた夜偵を飛ばしてくれていたからか!

 艦戦隊の妖精達はそれを守ろうとして…。

 夜偵妖精も身振り手振りで離れるように伝えるが艦戦隊の妖精達がその意を汲む様子は無い。

 台羽妖精率いるスペースウルフ隊がこちらに向かおうとするも数多のマゾーン戦闘艇に阻まれてしまっている状態だ。

 

 「くっ!」

 艦載機発艦用の銃を構えるサラトガ。

 だが加賀がそっとその手を抑えた。

 夜間戦闘可能空母勢の矢筒やマガジンにはまだまだ余裕があるのだが…。

 

 「加賀、何故止めるのです?!」

 

 「今、また艦戦隊を上げても同じよ。無駄にしかならないわ。」

 未だ艦戦隊が全滅となっていないのは真下にいるアルカディア殿が戦士の銃と重力サーベルでマゾーンの戦闘艇を撃ち抜いてくれているからだ。

 

 「でも!」

 

 「あと五分、あと五分よ。あと五分待ちなさい。」

 果たして五分待てば何か変わるのだろうか?

 最後は加賀自身、自分に言い聞かせているようだったが…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 戦闘中の五分なぞあっという間だ。

 だが五分経ったにもかかわらず、何も変わる様子が無い。

 

 「ねえ加賀、もう五分は過ぎたわよ。一体、何がどうなるというの?」

 陸奥が加賀に向き直る。

 すると加賀は黙ってある一方向を指した。

 

 「東? 向こうから増援隊でも来るというの?」

 押し寄せてくる陸軍兵の艤装を切捨てながら陸奥が首を傾げる。

 いや陸奥だけではない、長門や大和達もだ。

 

 「いえ、増援なんて来ないわ。」

 加賀の増援など無いと聞いて唖然とする私達の顔を建物の間から漏れてきた朝日が照らし始めた。

 その時だった。私達の良く知る声が響き渡ったのは。

 

 「第一次攻撃隊、発艦始めっ!」

 

 




※名波論島
 忘れてました。『ナバロンの要塞』から名前を取ってあります。

※いや、さすが『川内』ですねぇ。
 いくら打合せをしても作戦概要を説明しても夜戦とくれば全てが頭から飛んでしまうとは…。

※第一次攻撃隊、発艦始めっ!
 艦隊これくしょんの提督達であれば、誰であるかなどは説明不要かと(笑)。
 一航戦の赤い方であるあの方ですね。
 夜が明けたので、残り空母勢からも艦載機(明石&夕張重工謹製のX-ウイング)が発艦可能となりました。
 加賀さんはこれを待っていたのですね!
 この後、夜間空母勢も補給艦『速吸』と『神威』からX-ウイングの矢を受け取ります。


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第122話 大本営突入編3(艦娘側:速吸1)

※宿毛湾第一泊地&柱島第七泊地の艦娘達vsマゾーン兵&陸軍兵!


 「第一次攻撃隊、発艦始め!」

 夜明けと共に赤城さんの凛とした艦載機発艦命令が響き渡りました。

 

 「友永隊、頼んだわよ!」

 「対空見張りも厳として、よろしくね!」

 「さあ、始めるわ! 完全にアウトレンジにしてあげる!」

 「全航空隊、発艦始め!」

 「私だって航空母艦です、やります!」

 それを合図に二航戦(飛龍&蒼龍)五航戦(翔鶴&瑞鶴)、さらには祥鳳さんといった今まで戦闘に参加できなかった空母勢からも満を持して発艦の号令が掛かりました。

 各空母から次々と発艦を開始した反乱軍主力戦闘機(X - ウ イ ン グ)が再び制空権奪回へと朝焼けの中へと舞い上がっていきます。

 さあ、私達も自分の役目を果たすとしましょう。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「加賀さん、サラトガさん、お待たせ!」

 砲弾が飛び交う中を細心の注意を払って夜間戦闘可能空母勢の許へと急ぎます!

 

 「はい、グラーフさん!」

 隣りでは同じ補給艦である『神威』さんがグラーフさんや大鷹さんに新鋭機の矢を渡しています。

 

 「この矢…、見た事が無いわね。私達にも新鋭機という事かしら?」

 

 「ハイ! 何でもX-ウイングというらしいです!」

 ええ、ウチの明石さんと夕張さんは皆が思う以上に優秀なんですから(笑)。

 

 「という事で至急妖精さんの機種転換を行って下さい!」

 

 「了解した。グラーフ・ツェッペリン航空隊、全機帰投せよ!」

 神威さんの依頼を受けたグラーフさんの命令を皮切りに加賀さんやサラトガさん達も一斉に着艦収容を始めました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「数が、相手の数が多過ぎますわ!」

 

 「それにしても思ったより進軍速度が遅いわ! こちらに目立った損害も無いのに一体どうしてなの?!」

 

 「ああ、カール自走臼砲やレオポルト列車砲は全てアルカディア狙いだ。大型弾を彼が引き受けてくれている上に敵の兵装・兵力だってこっちの想定内だ。理由が分からねえ!」

 熊野さんの悲鳴に振り替えると、ワシントンさんとサウスダコタさんも進軍速度が想定以上に遅い事に焦っています。

 

 「私の計算によるとマゾーン戦闘員と陸軍兵が混ざっているからですね。」

 

 「霧島、それは一体どういう事デース?」

 

 「選別の手間です。マゾーン戦闘員は遠慮なく撃てますが、陸軍兵に対しては必要以上に傷付けないよう対応が光線剣(ライトセイバー)になりますから!」

 なるほど、そういう事ですか!

 流石は艦隊の頭脳さん、状況を的確に分析されているようですね。

 

 「ならどうする? いっその事、選別無しでぶっ放すか?」

 

 「止めるんだ、ガングート! 陸軍兵の多くは命令に従っているだけに過ぎん。そんな彼女達の命を奪うわけにはいかん!」

 アルカディアさん…。やはり貴方は強いだけじゃない、他人を思いやれる方なんですね。

 速吸、感動です!

 

 「嘆いたって庁舎入口までの距離は縮まらないわ! あと30m少し、何としてでも辿り着くわよ!」

 ビスマルクさんが重力サーベルを振るいます。

 流石はドイツ海軍、いえ欧州最強の戦艦ですね!

 しかし、矢面に立ち続けているせいか船体が小破しています。

 それを見たマゾーン戦闘艇がビスマルクさんに集まり始めています。高角砲と副砲で必死に迎撃を試みる彼女ですが、増え続けるその数には対応できません。

 

 これは不味いです、(速吸)だって兵装が全くない訳ではありません。

 神威さんと共に12.7cm連装高角砲を構えます。

 

 「給油艦と補給艦が何してるの?! 貴女達を待っている艦が大勢いるのよ、私に構っている暇があるなら、その人達の所へ行きなさい、早く!」

 

 「ダメですよ、ビスマルクさんこそ何を言っているんですか! 仲間を見捨てて行けるほど私も神威さんも腐っちゃいません!」

 

 「そうですよ、それこそ北大路提督に怒られちゃいます!」

 

 「私はテルピッツと共にドイツ海軍最強と呼ばれた戦艦よ、これぐらい…、くっ!」

 その時またしてもビスマルクさんが一発貰ってしまいました。

 私達も周りにいる駆逐艦勢と一緒に対空砲火を打ち上げますが、如何せん給油艦と補給艦。

 実戦経験の少なさが災いして思うように命中させることが出来ません。

 遂にビスマルクさんが膝を着いてしまいました。

 

 「ビスマルクさんっ!」

 (当たれ、当たれっ!)

 必死で対空砲火を打ち上げる私達を嘲笑うかのようにマゾーンの戦闘艇が次々とビスマルクさんに急降下を始めました。

 その戦闘艇の腹が赤く光り始めました。

 いけません、あれは光線弾(エネルギー弾)?!

 あんなものを喰らったら戦艦と云えども一撃大破、いえバラバラになりかねません。

 そう思った私はビスマルクさんを突き飛ばしていました。

 

 「なっ、痛いじゃない! って、速吸っ!」

 

 「速吸さん!」

 ビスマルクさんと神威さんの叫び声が聞こえますが戦艦一隻の火力&戦力というのは給油艦とは比べ物になりません。

 絶対に失う訳にはいかないのです!

 覚悟を決めて上空を見上げた時、一本の赤い光の矢がマゾーンの戦闘艇を貫きました。

 それを合図に急降下体制に入っていたマゾーン戦闘艇がラウンデルの入ったX‐ウイング隊に次々と撃破されていきます。

 

 「苦戦しているようだな、ビスマーク(英語読み)(笑)。」

 そこには大型のクロスボウを構えた女王陛下の航空騎士団長(英空母アークロイヤル)が!

 

 「ヒッ、アーク?! 貴女!」

 何故でしょう、助けてもらったにも拘わらずビスマルクさんの顔が引き攣っているのは?

 

 「速吸、今のはあまり褒められる行動ではないな。」

 そう言うとアークロイヤルさんは私のこめかみをグリグリし始めました。

 痛い痛い、私は某園児(しんちゃん)でありません!

 

 「全く、アナタとんでもない無茶をするのね。後でたっぷりと反省させてあげるからサッサと航空戦艦&航空巡洋艦の所へ行きなさい!」

 

 「で、でも…。」

 

 「ふっ、そんな顔をするな。ビスマークはこの私が決して沈ませはしない、女王陛下の名に懸けて守り切ってみせよう。」

 

 「さんざん私を追い掛け回した挙句、沈めてくれたのは何処の誰だったかしら?」

 ビスマルクさんがボソッとアークさんに恨み言を呟いた時でした。

 

 「扶桑、山城! 屋上へ上がる、援護を頼むぞ!」

 しびれを切らしたアルカディアさんが屋上へと上がると言い出したのです。

 恐らく屋上から突入を試みるおつもりなのでしょう。

 

 尤も相手もそう簡単には屋上への到達を許すつもりは無く、アルカディアさんの考えを察知したマゾーン戦闘艇が次々と彼に群がり始めました。

 

 アルカディアさんは艦首ミサイルにスペースバスターで、扶桑さんと山城さんは瑞雲ファンネルでマゾーン戦闘艇を撃墜していきますが数が多過ぎです!

 

 「アルカディア号さん!」

 「アルカディアさんがマゾーンの戦闘艇に!」

 「下がれ、鳥海! 対空ならアタシの出番だ!」

 悲鳴を上げる愛宕さんと鳥海さんを下がらせた摩耶さんが対空カットインを発動させます。

 

 「落ち着きなさい、あの方はあれしきの事ではビクともしません。」

 さすが高雄さん、戦闘中でも随分と冷静です。

 

 「でもあれじゃ、まるでヒッチコックの『鳥』(THE BIRD)状態じゃない。いくらアルカディア号さんでも…。」

 

 「ヒッ、鳥?! いやあああああ!」

 今度は高雄さんが一番取り乱してしまいました。

 ゴミ出しの際、多くのカラスに群がられた事があり、以降それが軽いトラウマになっているとか。

 

 「パルサーカノン、撃ていっ!」

 が、私達の心配をよそにアルカディアさんが主砲を撃つと面白いようにマゾーン戦闘艇の姿が消えていきます。

 彼はその隙を見逃さず、一瞬にして距離を詰めると屋上に到達しました。

 




※屋上へ到達したアルカディア号、ここから建物へ突入するのですが、提督さん達は無事なんでしょうか?

次回はかなり胸糞展開になります。特に『かえで』さんのファンは見ない方がいいかも…。


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第123話 大本営突入編4(艦娘側:藤枝かえで1)

※次回と今回のお話は胸糞話です!
 特に『かえで』さんのファンはご注意下さい。


 「外が騒がしくなってきた。全員、ここから地下シェルターへと移ってもらおう。」

 そう言って山崎少佐と鬼王が入ってきました。

 

 「サッサと立て。私も気が長い方ではないのだ。」

 それは悪いわね。

 でもアナタが手を後ろに縛ってくれたものだから、そうテキパキとは動けないの。

 そのまま随分と長い間貨物用エレベータの乗せられて着いた先は、先が見通せないぐらい広大な何も無い場所。

 

 「提督諸君、大本営地下シェルターにようこそ(笑)。」

 大袈裟に両手を広げて歓迎のポーズをとる京極大臣。

 その後ろでは、いい眺めだねぇと高笑いしている女と黙って見ている女が一人。

 縛られているのにも拘らず乱暴にシェルター内に放り込まれるため、私達の半数は床に転がされてしまう破目に。

 そして私の目の前にはエリカさんが!

 

 「ぐふっ!」

 勢いよく床に打ち付けられたせいでエリカさんの肺から空気が圧し出されます。

 

 「アナタ、捕虜の扱いは条約で決められているでしょう?! 無抵抗な者に対して何て乱暴な事をするの!」

 

 「そう睨むな(笑)。ここはマゾーンの技術を使った縦450m、横350m,高さ180mの一大避難施設だ。お仲間が来てもそう簡単に出入りは出来ん。」

 

 「山崎とやら、この者達の拘束を解いてやれ。」

 私達全員が山崎に厳しい視線を向ける中、一人だけ違う雰囲気を持った女が口を開きました。

 間違いないわ、あれがマゾーンね。

 

 「ジョジベル殿、それは本気か?!」

 山崎少佐が驚いてマゾーンの女に目を向けたわ。

 

 「勿論だ。それに我らマゾーンはこのようなやり方は好まぬ。それにトイレが間に合わなかったら貴様が後始末をするのか?」

 すると山崎少佐は、間に合わない所は見てみたいが後始末は困るなと嗤うと、銃を持った護衛兵二名に命じ私達の手枷を外させました。

 

 「山崎少佐、アンタ随分と変わった性癖だね。」

 呆れ顔で呟くロベリアさんですが、それに対して女の排尿が見たいだけだという彼。

 

 「アナタ、頭がどうかしてるんじゃないの?!」

 一体、私達を何だと思っているのかしら?

 

 「幾ら数が少ない男性だからって何でも許されるなんて思わないでもらえるかしら。少しはアルカディア号さんを見習ったらどうなの、この変態!」

 

 「…。」

 あら、どうしたのかしら?

 北大路提督が横を向いてしまったけれど…。

 

 「そのトイレはそれぞれ四隅にある。少々遠い故、余裕を持って向かった方が漏水事故にならずにいいぞ(笑)。」

 

 「偉そうに…。どうして姉さんはこんなヤツを好きになったのかしら。」

 この男の全てに反吐が出そう。

 我が姉ながら精神構造を疑ってしまうレベルよ、これは。

 

 「見る目があるからに決まってるからだろう。同じ姉妹でも貴様とは随分と違うな(笑)。」

 

 「違って結構だわ、その代わり私と姉さんを一緒にしないで!」

 思わず歯をギリっと鳴らしてしまいました。

 

 「ハハハハハ、威勢が良いのは姉譲りか! 気に入ったぞ、気の強い女は嫌いではない(笑)。京極大臣殿?」

 

 「ああ、好きにするがいい。ただ、殺すなよ(笑)。」

 京極陸軍はそれだけ言うと出て行ってしまいました。

 

「ええ、タップリと楽しませてもらいますよ。」

 そう言うと山崎少佐は私の顎を無理矢理持ち上げたのです。

 

 「ぐっ!」

 い、痛い! 顎が砕けそうに?!

 片手なのに何て力なの?!

 この時、私は初めて男というものに恐怖しました。

 後になってみれば、相手が人間でない事を感じ取っていたのかもしれません。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「触らないで、虫唾が走るわ!」

 それでも思い切りヤツの手を払いのけると、イキが良いとか、ますます気に入ったと言い出す始末。

 

 「アナタ、藤枝少将をどうする気?!」

 

 「これはこれは。聡明なタチバナ中将らしくありませんな。取り敢えず、私と一緒に来てもらうだけだ。だが男と女、する事はただ一つしかあるまい(笑)。」

 

 「そんな事させるもんですか! 提督から離れなさい!」

 私を守ろうと護衛艦娘の大鳳が山崎少佐に飛び掛かろうとした瞬間、何と彼女の両足が光線銃で打ち抜かれたのです。

 

 「大鳳っ!」

 

 「うう、て、提督…。」

 苦悶の表情を浮かべ床に転がる大鳳。

 それでも護衛艦娘の役目を果たそうとする彼女は手だけでこちらに来ようとします。

 膝を打ち抜かれるなんてどれほどの痛みが私には想像もつきません。

 

 「さすがはマゾーンの技術、一撃で艦娘を行動不能に出来るとは。感謝いたしますぞ、ジョジベル殿。」

 再び銃を構え直す山崎少佐。

 

 「っ! 止めさない、言う通り付いて行くから!」

 頭を打ち抜かれたりすれば大鳳が死んでしまうかもしれない、そう思った私は思わず叫んでいました。

 

 「ふん、手こずらせおって。」

 

 「こんな時にお愉しみか…。」

 「山崎よ、どうしようと勝手だが私はお前を軽蔑する。」

 鬼王とジョジベルやらも山崎に侮蔑の視線を送りますが…。

 

 「フッ、このような気の強い女を屈服させるのが私の趣味なのでな(笑)。」

 当の山崎は気にも留める様子はありません。

 それどころか大鳳の『うう、提督…。』という声や『正気なの?! 止めなさい!』という他の方々の声が聞こえる中、本当に私は連れ出されてしまったのです。

 




※藤枝かえで少将を手籠めにするために連れ出した山崎少佐。
 間違いなくアルカディア号の地雷を踏み抜く事になる彼は一体どうなるのでしょう?
 TV版のキャプテンハーロック同様、アルカディア号は人を手に掛ける事はしない主義ですが、さすがにこれはヤバいのでは?!

※かえで:ちょっと待ちなさい。
 作者:はい?
 かえで:これ、私が山崎少佐にその…、そういう事をされちゃう…、のよね?
 作者:ええ、まあ…。
 かえで:ふうん。で、どうして私なのかしら?
 作者:ファンの方々から出番をというリクエストが結構ありまして…。
 かえで:そう(ニッコリ)。
 作者:ホッ。
 かえで:私にこんな事をするなんて『お気に入り登録』が激減するわよ?!
     覚悟なさい(大事なところに一撃)!
 作者:グハッ?!


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第124話 提督救出編1(艦娘側:北大路花火1)

 藤枝少将が連れ去られてからどれくらい経ったのでしょうか?

 重苦しい空気が流れる中、不意に扉が開き山崎少佐と藤枝少将が戻ってきました。

 嫌な嗤いを浮かべた山崎少佐が藤枝少将をこちらに突き飛ばしました。

 

 大きくはだけられたブラウス。

 肩ひもが千切れた下着(ブラ)

 無残な姿へと変貌を遂げた白いパンティストッキング。

 内腿に伝う紅い線。

 彼女が何をされたかは一目瞭然です。

 ヨロヨロと歩みを進めた藤枝少将は力なく床に座り込んでしまいました。

 丸見えになった双丘を隠そうともせず声を押し泣く彼女に私達も掛ける言葉がありません。

 

 「山崎、テメェ!」

 凄まじい形相で山崎少佐を睨み付けるロベリア中佐。

 

 「アナタ、自分のやった事が分かって…、あぐっ?!」

 タチバナ中将が山崎少佐に掴み掛りますが、逆にその手を取られ捻りあげられてしまいました。

 

 「この世の中、男とましてや私と契りたい女はたくさんいるのだぞ。イイ思いが出来てよかったではないか(笑)。」

 何ですって?!

 

 「卑劣な! 恥を知りなさい、恥を!」

 大鳳さんを盾にとったくせに何が何がイイ思いですか?!

 私も珍しく大声を出してしまいました。

 少なくともここにはアナタの様な男に抱かれたい女なんていません!

 泣きながら何度も申し訳ありませんと繰り返す護衛艦娘の大鳳さん。

 護衛艦娘として役目を果たせなかった事を悔いているのでしょう。

 私達もあまりの事にどうしていいか分かりません。

 まさか本当にこんな落花狼藉の振る舞いに及ぶなんて…。

 

 私が、私がアルカディア号さんと一緒に来ていればこんな事には…。

 伊勢に日向、赤城も何言いませんが同じ事を思っているに違いありません。

 そして山崎少佐は私達が何も出来ないのをイイ事に姉妹丼も悪くないと高笑いしながら扉を閉めると出て行ってしまいました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 それから10分ぐらい経ったでしょうか、藤枝少将と大鳳さんのすすり泣きが止まぬ中、ドアノブがガチャガチャと乱暴に音を立てました。

 全員、身構えてしまいましたがドアの外から聞こえた声は私達が心待ちにしていた人の声。

 

 「全員、無事か?!」

 心なしかアルカディア号さんの声にも若干の焦りが感じられます。

 

 「え、ええ。ですが…。」

 藤枝少将の事をどうお伝えすればのでしょう。

 ましてや相手は殿方です。

 

 「ドアを破壊する、全員そこから離れてくれ。」

どうすればいいのか分からず困っていると彼がドアを破壊すると言い出したのです。

 

 

 「ダメです、いけません!」

 藤枝少将のこんな姿を見せてはいけないと佐世保第二のメル・レゾン中佐がドアの外にいるアルカディア号さんに向かって叫びますが…。

 

 

 「悪いが、そういう訳にはいかん。」

 そうですね。彼もただ入って来ないで!では納得しないでしょう。

 

 

 「花火さん!」

 メル中佐が半ベソ顔で私に助けを求めますが…。

 

 「あ、あの…。アルカディア号さん、実は…、きゃあっ!」

 ドアに豪雨が当たるような音がしたかと思うとドアが少し歪みました。

 これは…。速射砲、スペースバスター?!

 ですが山崎少佐が言う通りかなり頑丈なドアみたいですね。

 

 「ダメですってば! ああ、もうこんなの説明できません、どうしたら…。」

 オロオロするメル中佐ですが、ついにドアが吹っ飛びました。

 中に掛け入ってきた彼は真っ先に私を抱きしめてくれると怪我はないかと聞いてくれたのですが、これではもう誤魔化しきれません。

 

 「あ、あの、藤枝少将が…。」

 

 「…。」

 彼女を見たアルカディア号さんは黙って立ち上がると彼女にそっと自分のマントを羽織らせました。

 

 「誰だ…。」

 怒りに震える背中。

 後ろを向いていても分かる凄まじさに圧倒されて誰も返事が出来ません。

 

 「花火っ!」

 

 「ハ、ハイ!」

 

 「誰だ! 誰がやった?!」

 

 「山崎よ。護衛艦娘である大鳳をこれ以上傷付けられたくなければ、と…。」

 何も言えない私達に代わってタチバナ中将が答えてくれました。

 既にアルカディア号さんから飛び出て来たドクターゼロさんが大鳳さんの治療を始めています。

 

 「花火、いや皆すまない。少しやる事が出来た。悪いがもう少し待っていてくれ。」

 「それから螢、悪いが少将閣下の側に付いてやってくれ、頼む。」

 

 「了解です、キャプテン。その代わり…。」

 同じように飛び出て来た螢さんは藤枝少将の両肩にそっと手を置くと軽く自分の方へと引き寄せました。

 

 「ああ、分かっている。」

 彼が立ち上がります。

 

 「何処へ行くの?」

 

 「タチバナ閣下か…。俺がいた世界では藤枝閣下の受けた屈辱は『魂の殺人』とまでいわれている。」

 

 「魂の…、殺人?」

 下を向いていた藤枝少将が顔を上げました。

 

 「そうだ。俺の世界では立派な犯罪だ。」

 

 「当り前じゃない、この世界でもそうよ。いくら殿方の数が少なくても…、ね。」

 呆れ顔のマリアさんですが、アルカディア号さんがこれからやろうとしている事が見えて来たのでしょう。

 私も連れて行って欲しいと依頼されました。

 

 「タチバナ中将ともあろう聖女が何を言っているのだ。マリアの名が泣くぞ。」

 「俺がこれからやろうとしている事は汚れ仕事、まさに海賊の仕事だ。」

 

 「じゃあ、アタシを連れて行きな。アンタなら見えんだろ、アタシの背中にある黒い羽がさ(笑)。これでも海軍に入る前は散々やらかしてきたお尋ね者だったんだ、お誂え向きじゃないか。」

 ロベリア中佐が前に出ます。

 

 「待ちなさい、アルカディアさんたら私をどんな女だと思ってるの(笑)。私がどこでどうやって銃の扱いを覚えたと思っているのかしら?」

 どうやらタチバナ中将も引き下がるつもりは無いようですね…。

 

 「ヤツを軍法会議に掛けるという考えはないのか?」

 

 「残念だけど山崎が世の女性に人気があるのも事実なの。本気で掛かっても握り潰されるに決まってるわ。」

 ですがアルカディア号さんはロベリア中佐とタチバナ中将に自分を信じて待っていて欲しいと告げると懐中電灯のようなモノを渡されました。

 

 「これは?」

 

 「それは剣の柄だ。イメージした刀身に気を集中させてみろ。」

 アルカディア号さんから説明を受けるロベリア中佐とタチバナ中将は戸惑いながらも言われた通りに集中を始めました。

 するとビシュンという音がしてロベリア中佐からは深緑に輝く刀身が、タチバナ中将からはダークシルバーに輝く刀身が現れたのです!

 残り全員にもその不思議な剣が配られました。

 私達自身も知らなかったのですが、彼によると全員が優れた霊力を持っているので使えるはずだとの事。

 その証拠にビシュンというという音と共に、あちこちから『出来た!』とか『凄い!』とか聞こえてきます。

 私もやってみると紫色に光る刀身が出現しました。

 これで自分の身ぐらいは守れるだろうとはアルカディア号さんの弁。

 

 この光線剣があるならと私も連れて行ってもらえないか頼んだのですが、先のお二人同様、かれは首を縦には振ってくれませんでした。

 どうしてでしょう?

 私が意地を張らずに彼を護衛艦息にしていれば『かえで』さんがこんな目に遭う事は無かったはずなのに…。

 

 「悪いな、花火。俺はもうこれ以上、誰一人として傷付いて欲しくは無いのだ。」

 花火の大切な仲間という事は俺にとってもそうだからな、と彼は私の頭に手を置きました。

 全ては私の我儘が引き起こしたというのに彼がそれを咎めるどころか私にも螢さんと二人で『かえで』さんに付いてやってくれと頭を下げてこられたのです。

 この時ほど、私は穴があったら入りたいと思った事はありませんでした。

 それと同時に彼の偉大さと心の広さ、それに男らしさに改めて惚れ直しました(ぽっ)。

 が、彼はヤッタラン副長と台羽妖精さんに彼はおかしな事を聞いたのです。

 

 「副長、それに台羽。のさばる悪を何とする?」

 

 「天の裁きなんてまってられまへん(天の裁きは待ってはおれぬ)。」

 

 「この世の正義なんて宛に出来るもんか(この世の正義も宛には出来ぬ)!」

 

 「「闇に裁いて仕返しや(だ)(闇に裁いて仕置きする)!」

 

 「「「南無阿弥陀仏!」」」




※やはり山崎少佐こと葵叉丹はアルカディア号の地雷を踏み抜いてしまったようです。
 これからアルカディア号はどうす…。
 あれ、どこからか聞き覚えのあるトランペットが?


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第125話 提督救出編2(アルカディア側1)

※いつもご訪問頂きありがとうございます。
 そろそろ夏の暑さが和らいでくる+雨で涼しい+冷房で私は見事に風邪を引いてしまいました。
 最近のアホは風邪ひくという事を初めて知りました。
 おかげでいつも以上に何を書いているか分からない状態です。
 申し訳ありません…。


 「三人。三人よ。」

 俺達が地下シェルターから出ようとした時、少将閣下が顔を上げて上半身を起こした。

 そのせいでマントの隙間から双丘の片方が先端まで丸見えに…。

 派手に破かれながらもなお本来の役目を果たそうと健気に纏わり付いて白いパンストと相まって非常に扇情的(エロティック)な眺めだ。

 本来なら人目構わず押し倒しかねないところだが、さすがの俺もあまりの事態に全くそういう気分になれず、ただただ不快感と嫌悪感しかない。

 こんなものはAV(妄想)だけに留めておくべきなのだという事が良く分かった。

 

 「私を弄んだのは山崎だけじゃない、その武官二名も…。」

 少将閣下が声を絞り出した。

 何だと?!

 輪姦とはなんと卑劣な!

 

 「分かった、副長、台羽、飛龍の彩雲によるとヤツは最上階だ。行くぞ!」

 せっかく花火と再会できたというのにまたしばしのお別れである。

 まあ全員にライトセイバーを持たせている上、螢もいるし多少は留守にしても大丈夫だろう。

 

 上に向かおうとするもエレベータは既に止められており、最上階に行くには階段を使う以外ない状況になってしまっている。

 考えるより先に階段を駆け上がり始めた俺に副長と台羽も続いてくれる。

 

 途中、立ち塞がるマゾーン戦闘員や陸軍兵をコスモドラグーンや重力サーベルで薙ぎ倒しながら、ひたすら階段を登っていく。

 逆に彼女達の光線銃や武装程度なら、このアルカディア号の装甲には掠り傷一つ付けられない。

 またマゾーン戦闘員が異星人だと知らされていないのか、彼女達が紙のように燃えるのを見た陸軍兵は恐怖のあまり戦意を無くすものが続出した。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 登り始めて三十分、ついにヤツのいる最上階に到着した。

 流石はハーロックと副長に台羽、全く息が乱れない。

 指令室と思われる部屋のドアにスペースハープーンで大穴を開ける。

 

 「キャプテン!」

 「もぬけの殻でっせ?!」

 中を覗いた台羽と副長が叫んだ時、一瞬だが艦娘達とマゾーン戦闘員との砲撃音が止んだ。

 お陰で真上で聞こえるエンジン音に気が付いた。

 

 「屋上だ!」

 そう叫ぶと同時に駆け出していく台羽。

 ヤッタラン副長も同様に屋上で入口へと続く。

 

 「ダメだ、開かない!」

 

 「台羽、下がれ!」

 重力サーベルでドアの鍵部分を破壊する。

 扉を蹴飛ばすと京極と鬼王、山崎と武官二名を乗せた百式司令部偵察機二機がカタパルトに乗っているのが見えた。

 

 「くそっ、逃がすか!」

 台羽が銃を撃って牽制するも京極と鬼王が乗せた方は止められず発進を許してしまった。

 それにしても陸軍機である百式司令部偵察機をカタパルト発進可能にしてあるとは驚きだ。

 間違いなく陸の連中はマゾーンの技術をかなり取り込んでいると見ていいだろう。

 

 「キャプテン、スペースウルフで追っかけます!」

 

 「いや、構わん。山崎を抑える方が先だ、カタパルトの基部を狙え!」

 三人でカタパルトの基部に銃を集中させて山崎の乗る百式司令部偵察機ごと横転させる。

 ミサイル? パルサーカノン?

 そんなモノ使ったら連中ごと消えてなくなりますから!

 

 「どこまでも私の邪魔をするつもりか、アルカディア号(ネモくん)!」

 百式司令部偵察機から出て来た山崎が銃を抜いた。

 

 「マゾーンの技術を投入した対艦娘専用銃だ。流石の貴様も無事では済まんぞ。大人しく戻るというなら後ろから撃つのは止めてやろう(笑)。」

 

 「…。」

 黙って戦士の銃を構え直す。

 キャプテンハーロックは如何なる時でも敵に背を向ける事は無い。

 彼の船である以上、俺も同じだ。見損なってもらっては困る。

 

 「それが返事という訳か。後悔するなよ!」

 憎悪に顔を歪めた山崎が銃を構えたまま艤装を展開した。

 ヤツの得物はあれ(レオポルト列車砲)か。

 

 「副長、台羽、山崎は俺がやる。お前達は残りの二人を頼む。ただし、絶対に殺すなよ。」

 

 「ええ、半殺しにして藤枝少将の前に連れて行く、で良いんですよね(笑)?!」

 

 「死ねいっ、この思い上がり者めが!」

 男爵ディーノかよ、アンタは…。

 台羽の返答が気に入らなかったらしい山崎の一声が合図となって打ち合いが始まった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「ぐうっ!」

 台羽が相手の武官の銃を弾き飛ばした。

 さらにもう一人の武官の両腕を副長が射貫く。

 これで向こうは山崎一人、チャンスと見た俺はコスモドラグーンと重力サーベルを乱射しながら勢いよく飛び出した。

 

 「くっ、何故だ、何故当たらん?! ぐあっ!」

 海賊式体当たり戦法で山崎を吹っ飛ばす。

 悲鳴を上げて転がった山崎はそのまま動かなくなった。

 あ、これ間違いなく骨にヒビが入ってるな。

 下手したら折れてるかも…。

 

 「立て。」

 重力サーベルを突き付ける。

 自分でも無茶を言うなぁ(笑)とは思うが藤枝少将閣下にあのような落花狼藉の振る舞いに及んだのだ。微塵も気の毒だとは思わない。

 

 「さて、大人しく一緒に来てもらいましょか。」

 いつの間にか台羽と副長もうずくまっている武官に銃を突き付けていた。

 

 「待て、副長。山崎、ジョジベルはどうした?」

 

 「ジョジベル殿は一足先に名波論島へ向かった。もうここにはいない。」

 吐き捨てるように山崎が答える。

 

 「名波論島?」

 

 「残りの提督達の所だ。」

 残りの提督?

 残りの提督とはどういう事だ?

 また嫌な予感がする。

 

 「ここには捕らえた半分しかいない。」

 

 「何だと?! あれで全員ではないのか?!」

 俺達三人の声が重なった。

 




※名波論島の続きはもう少し先になります。
 次はこの三名が『かえで』さんを始めとした皆の前に連れてこられます。


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第126話 提督救出編3(艦娘側:マリア・タチバナ1)

※ワクチン接種2回目の発熱から復帰いたしました。
 後遺症のせいで相変わらず何を書いているか分からないと思いますが、よろしくお願い致します。


 ドサッと音がしてボロボロになった三人が私達の前に投げ出される。

 

 「少将閣下、この三名(山崎と武官二名)で間違い無いか?」

 アルカディアさんが藤枝少将に確認するも彼女は黙って下を向いたまま。

 

 「見るのはツライと思うが…。」

 再度、アルカディアさんに促された『かえで』さんは三人に目をやると黙って首を縦に振りました。それも一瞬でまた下を向いてしまったけれど…。

 

 「これで言い逃れは出来ん。貴様らは男複数人でもって、か弱き乙女を傷付け汚したのだ、当然それなりの覚悟はできているな?」

 アルカディアさんがサーベルを山崎に突き付けたわ。

 

 「この私に抱かれるという贅沢を享受しておいてふざけるな!」

 『かえで』さんが『か弱き』というのはともかく、貴方のような男に抱かれる事の何が贅沢なのかしら。

 

 「それはあくまで同意の上でだ、少将閣下が泣いていらっしゃるのが望まなかった何よりの誕拠だ!」

 

 「しかも三人掛りやで。男として一番恥ずべき事やないか。」

 拳を握り締める台羽さんと呆れ顔のヤッタラン副長。

 

 「その通りね、貴方達は自分が何をしてしまったかを認識する必要があるわ。」

 山崎達の言動からは微塵も大変な事をしてしまったというのが感じられない。

 

 「何にしても謝って済む事ではないわよ。」

 「同じ女として許せない!」

 射殺すような視線を向ける螢さんとシー少佐。

 

 「お前遊こそ、自分が何を言っているのか分かってるのか! 我々に女にして貰えた事を…、ひいっ!」

 アルカディアさんが武官の傍に重力サーベルを撃ったわ。

 全く反省の色が無いのだから無理もないわね。

 

 「口を閉じろ、雑種。貴様に心配してもらわなくとも少将闇下のような美しい女性であれば、お相手の心配は無用だ。それが分からんとは度し難い。」

 そのまま射殺しても良かったのにと思ったのは私だけではないはずよね。

 

 それから、『かえで』さん?

 アルカディアさんに美しいと言われて『ピクッ』としたのを皆、見逃してはいないわよ。

 

 「貴様、動けぬ者に向かって!」

 あら、山崎も部下(子飼い)を守るぐらいはするのね。

 

 「それを貴様(犯罪者)が言うのか? それに俺は軍属ではなく海賊だ。海賊にそんな道理は通用しない。」

 

 「ぐうっ!」

 足で山崎をギュッと踏み付けるアルカディアさん。

 

 「花火、それにタチバナ閣下。この手の犯罪の最も恐ろしいのは何か分かるか?」

 

 「被害者の心に生涯残る傷を負わせる事でしょうか?」

 「好奇の目に晒される(セカンドレイプ)事よね。」

 

 「それもあるが、この手の犯罪は再犯率が非常に高いのだ。」

 

 「そう…。じゃあ、もう私みたいな不幸な女を生み出さない様にしないと…。」

 それを聞いた『かえで』さんがフラリと幽鬼のように立ち上がる。

 

 「少将閣下もそう思うか。」

 待ってましたとばかりにアルカディアさんがニヤリとする。

 

 「どうするの?」

 思わず聞いてしまったけれどその答えはトンでもないもの。

 

 「犬猫と一緒や。去勢ってヤツやな。」

 副長のこの言葉にアルカディアさんが頷いたわ。

 

 「面白そうね、それ私にもやらせてもらえるかしら。」

 台羽さんから銃を受け取った大鳳が日の端を吊り上げる。

 ドクターゼロさんの的確な治療もあってもう大鳳の脚は大丈夫みたいね。

 

 「ひいぃ!」

 悲鳴を上げて後ずさる武官二名。

 大鳳とヤッタラン副長はお構いなしに武官の股間をレーザーガンで撃ち抜いた。

 

 暫くの間、別映像(海外艦の水着映像)でお楽しみ下さい。

 (余りの事に描写できません!)

 

 「ヒッ!」

 今度は山崎が出口へ向かって這い始めたわ。

 

 「少将閣下」

 それを見ながらアルカディアさんが『かえで』さんの手を…、取った?!

 

 「俺の…、ん?」

 

 「二人の…、え?」

 アルカディアさんと『かえで』さんが何か言おうとしたみたいだけど、なにやら齟齬があったみたい。

 

 「閣下(の台詞)は『私の』では…。」

 

 「いいえ、二人の。二人のよ、いいわね (ニッコリ)。」

 

 「アッ、ハイ。」

 目が笑っていない『かえで』さんに恐怖を感じたのかアルカディアさんが首を縦に振ったわ。

 一体、何だというのかしら?

 

 「じゃあ、もう一度よ。」

 

 「分かった、最後の仕上げだ。」

 

 「二人のこの手が真っ赤に燃えるゥゥ!」」

 

 「幸せ掴めとッ!」

 

 「轟叫ぶゥ!」

 

 「「爆()、ゴッドフィンガー!」」

 

 「石!」

 

 「破!」

 

 「「ラブラブ天(去勢)拳!」」

 二人の手によって(ピー)を握り潰された山崎から、この世のモノとは思えない悲鳴が!

 見ていた副長、機関長、台羽さん達は皆、前屈みに(笑)。

 私達には分からない痛みだけれど、相当なモノなのは間違いないわね…。

 でも『かえで』さんたらこの悲劇さえ利用するなんて…。

 とても『か弱い』とは云えないんじゃないかしら?

 むしろ私達の中ではお強い方というイメージなんだけど。

 さっきまで、さめざめと泣いていたのにアルカディアさんと体を密着させていた時はニヤつきが隠せていなかったわよ?

 アナタ、強いだけじゃなく(したた)かでもあったのね…。

 さて、アルカディアさん?

 表情の抜け落ちた花火さんと赤城・伊勢・日向さん達を一体どうするのかしら(笑)。

 



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第127話 提督救出編4(艦娘側:日向1)

※いつもご訪問ありがとうございます。
 基本的には毎週更新で頑張っているのですが、次回は勤務の都合上難しそうです。
 申し訳ありません。

※水色の髪の(駄)女神
 はい、カズマの相方である方です。


 「提督!」

 陸軍兵とマゾーン戦闘員を突破してきた艦娘達が雪崩れ込んで来た。

 あれは…、ウチの艦娘達か。で、もう一つは…。

 マズいな、あれは宿毛湾第一泊地の艦娘達だ。

 自分達の指揮官が輪姦された後の姿を目にするなど最悪のタイミングでしかない。

 北大路提督の無事を喜ぶ柱島艦娘とは対照的に藤枝少将を前に固まっている宿毛の艦娘。

 やがて宿毛の艦娘達がゆっくりとアルカディア殿にハイライトの消えた目と砲を(空母組は弓)向けた。

 

 「アルカディア号さんに何をしてるの?! 彼に対する無礼は許さないわよ。第一、彼がそんな事をするはずがないでしょう!」

 藤枝少将閣下は彼女達を一喝すると、直ぐにアルカディア殿に謝った。

 この状況だけを見れば宿毛の艦娘達がそう思うのは無理もないが少将閣下の言う通りだ。

 アルカディア殿を犯人扱いするなど彼の側室筆頭艦としてとても許せるものでない。

 思わず腰のライトセイバーに手を伸ばしそうになってしまった。

 

 「止せ、少将閣下。この状況だけを見れば彼女達がそう思うのも無理は無い。」

 だが、やはリアルカディア殿は私と器の大きさが違った。

 宿毛湾の艦娘達の反応は当然だとばかりに受け流してしまったのだ。

 私など全艦種側室筆頭に選ばれただけで舞い上がってしまったというのに…。

 

 「私を辱めたのはそこに転がっている三人よ。アルカディア号さんは私にマントまで掛けて下さったのだから。」

 納得したのか次々とアルカディア殿に非礼を詫びる宿毛艦娘達。

 

 「おい、お前ら! アタシたちの提督に何してくれ…。うおっ、何だ?」

 宿毛の天龍が武官二名を殴り飛ばし、摩耶が山崎の襟首を掴んで持ち上げた時だった。

 突如として建物が激しく揺れ始めたのだ。

 天井にヒビが入る中、スピーカーから聞こえる京極の声。

 それは『この大本営庁舎は海軍の反乱による攻撃で倒壊』するというもの。

 

 「反乱? 反乱は貴方達でしょうが!」

 それを聞いた伊勢が天井に向かって叫ぶ。

 伊勢よ、スピーカーを睨み付けても仕方が無いんじゃないか?

 

 「ふ、こちらには首相閣下の勅命書があるのです。逆族の海軍提督達の半数はここが墓場となるのですよ。ハハハハハ!」

 京極の勝ち誇った声がだだっ広い空間(シェルター)に響き渡る中、天井が崩れ始めた。

 

 「うわあぁっ!」

 「きゃあああ!」

 「ひいいっ!」

 逃げ惑う提督と艦娘達だが、大和に武蔵、長門や陸奥といった戦艦勢達が各提督達に覆い被さる。

 

 「ダメです、エレベーターは動きません!階段もかなり埋まっていてこれだけの人数はとても…。」

 廊下を確認した不知火からの絶望的な報告。

 

 「そんな! 何とかならないデスカー?!」

 

 「アルカディア号さん!」

 織姫少将殿の悲鳴を聞いた北大路提督が彼に縋るような目を向ける。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「駄女神(アクア)!  聞こえるか、駄女神(アクア)!」

 アルカディア殿が突然、宙に向かって何か叫ぶと何処からともなく声が聞こえ水色の髪をした女性が…、現れた?!

 

 「はいはい。ってか駄女神は止めなさいよ、駄女神は!(プンスコ)」

 全員、何が起こっているか分からない中、彼と謎の女性のやり取りが続く。

 

 「今だけでいい、俺を船の状態にしてくれ!」

 

 「何でまた? どういうコト?」

 

 「全員を乗せて脱出する!」

 

 「あー、なるほどね。了解、っと。」

 水色の髪の女性が頷いた途端、彼女の姿は消えて全員が近未来的な設備・装備・計器類で埋め尽くされた広い一室にいた。

 

 そして不思議な事に全員、ここがアルカディア殿、いやアルカディア号の艦橋である事が理解できたのだ。

 既に各ポジションには副長・台羽・魔地・ヤッタラン達がついている。

 

 「これがアルカディア号さんの船の姿…。ぽっ。」

 内外を見回した後、両手を顔に当て頬を赤くする北大路提督。

 柱島と宿毛の両明石と夕張も(松本メカ特有の)計器パネルにうっとり&大興状態だ。

 

 「待って、あそこに誰かいるわ!」

 さあ、脱出とヤッタラン殿がスロットルレバーを引こうとした時、タチバナ中将の悲鳴に似た叫びが響き渡った。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 山崎へと駆け寄る人影が大型モニターに映し出される。

 あれは…、藤枝中将?!

 

 「姉さん?!」

 「どうしてあやめさんが?!」

 藤枝少将をはじめ他の提督の方々からも驚きの声が上がる。

 藤枝中将は巨大なアルカディア号の真下で呻く山崎に駆け寄った。

 一体、どういうおつもりなのだ?

 今ここで彼を連れて脱出できる可能性は限りなく低いというのに。

 

 「あ、殺女…。」

 白目を剥いて痙攣する山崎が掠れ声と共に藤枝中将に手を伸ばす。

 

 「動かないで。」

 男女の事は私には分からないが、悪人でも恋人同士、最後は二人で迎えようという事なのだろう。

 もちろん、私だって男女の事はこれからアルカディア殿に手取り足取り、最終的には腰取り教えてもらうつもりである(ムフー)。

 アルカディア殿とのこれからに想いを馳せていた私だが、次にディスプレイに映し出された状況は私を現実に引き戻すには十分なモノだった。

 何と藤枝中将が山崎に銃を向けたのだ。

 

 「今、楽にしてあげるわ。だから動かないで。」

 「アナタのせいであの子は一生消えない心の傷を負ってしまった…。そして、私にあのネックレスを貰うように仕向けたのもアナタ。そのせいで私は呉第一鎮守府の艦娘達に取り返しのつかない事を…。」

 「これが元・恋人としてのせめてもの情けよ。」

増幅装置を介して聞こえてくる藤枝中将の声。

 

 「…。」

 応える気力も無いのか、それとも激痛のせいか山崎がそれに対し応えることは無かった。

 何か謝罪の言葉でも考えていたのだろうか?

 残念だがそれは分からない。

 乾いた音がした後は、もう彼が動く事が無かったからだ。

 

 

 

 

 

 

 (もうこれで貴女を縛るものは何もないわ。この悪夢を忘れる事なんて出来ないでしょうけど…。)

 (一度くらいはアルカディア号さんに抱いてもらうのよ。姉らしい事は何一つできなかったけど、これで許して頂戴。)

 アルカディア号の巨大な船体を見上げる。

 暗緑色の船体、船首に鎮座する巨大な髑髏、艫にあるスターンキャッスル。

 初めて見るけれど直ぐに彼の船としての姿だと分かった。

 以前見た艤装の特徴と同じね。

 

 艦の何処にいるか分からないけれど、ふと『かえで』、いえ他の皆とも目が合った気がした。

 皆さん…。どうか妹を、かえでをよろしくお願いします。

 天井の崩落が激しくなる中、何時まで出来るか分からないけれど、せめて(アルカディア号を)敬礼で見送りましよう。

 

 

 

 

 

 

 「姉さんっ!」

 艦橋から飛び出そうとする藤枝少将を宿毛の武蔵殿が捕まえる。

 

 「放しなさい、武蔵! 放して!  このままじゃ、姉さんが! 」

 

 「ダメだ、行かせる訳にはいかん!」

 何とか振りほどこうとする藤枝少将だが、武蔵殿も彼女の手を離さない。

 今、行けば無事では済まない。

 武蔵殿の判断は尤もだ、私でもそうするだろう。

 大揺れで天井が崩れる中、藤枝中将がアルカディア号を見上げ敬礼する。

それに気付いた各提督達も敬礼を返す。

 ある者は拳を握り、ある者は唇を噛み締め、またある者は涙を流しながら…。

 

 「イヤアァァ!姉さんが、姉さんが!う、ううっ…。」

 最早、姉を救う手段は無いと理解したのだろう。藤枝少将が床に突っ伏してしまった。

 

 「あ、ポチッとな。」

 そんな中、突然ドクターゼロ殿が能天気な声と共にボタンを押した。

 何故かその声に違和感が無かった。いや、むしろ懐かしい感じさえする。

 するとアルカディア号の船体からチューブが伸びて敬礼を続る藤枝中将をスッポリと覆ってしまったのだ。

 全員がへ?という顔をする中、キャアという短い悲鳴と共にそのままバキュームされた彼女はアルカディア号の艦橋へと転送されてきたのである。

 

 「姉、さん…?」

 

 「かえで…?」

 

 「う、うわあああぁあっ!姉さん、あやめ姉さんっ!」

 ペタンコ座りのまま何が起こったのか分からず呆然とする藤枝中将に藤枝少将が飛び付いた。

 

 「キャプテン、いやアルカディア号クルーなら絶対に見殺しになんてしないからね(笑)。」

 他の提督達も最悪の結果を覚悟していただけに喜びもひとしおだ。

 

 「さあ、急ぎましょう! アルカディア号発進!」

 台羽殿がスロットルレバーに手を掛る。

 

 「キャプテン、頼んまっせ!」

 サムズアップで応えるヤッタラン殿。

 

 「「「「「おーっ!」」」」

 私達も腕を突き上げる。

 今思えば、この瞬間から私達はアルカディア号クルーとして一つになったのだ。

 この後、艦息子に戻った彼の息子(意味深)に私達が次々と乗船(意味深の意味深)する事になったのはまた別の話だ。

 なに? 無賃乗車ならぬ無賃乗船だと?

 失礼な、この伊勢型二番艦『航空戦艦日向』、全艦種側室筆頭というパス(定期券)を持っているのだ。切符は一度使えば無くなってしまうがパス(定期券)は何度でも使えるからな(笑)。

 




※ポチッとな
 ドクターゼロとボヤッキーは中の人が同じです(八奈見丈治氏)。

※彼の息子に私達が次々と乗船
 やっぱり乗船というぐらいですから艦娘の方が上になっているんでしょうか?
 それとも上になったり下になったり?
 おや、取材のために青葉がアップを始めたようです(笑)。

※全艦種側室筆頭というパス(定期券)
 これより優先されるのは、北大路提督が持つ『提督正室』と神崎提督が持つ
 『提督側室筆頭』、並びに翔鶴が持つ『全艦種正室』の三つだけ。
 日向さんが持つこのパスはかなり強力ですな(笑)。


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第128話 提督救出編5(艦娘側:レニ・ミルヒシュトラーゼ1)

※お待たせいたしました。
 グダグダ展開が続いていますが、作者の限界でありますのでお許し下さい。
 それでもお気に入り登録して頂いている方や訪問して頂いている方には感謝しかありません。m(__)m



 第二海保の一室ではジョジベルと京極が大本営中央庁舎の崩れる様をモニター越しに見届けていた。

 提督の半数以上が下敷きとなったと確信したのだろう、どちらかともなくグラスを合わせようとする二人。

 と、突然スピーカーから地鳴りが聞こえて定点カメラが揺れ出した。

 

 「何だ、どうした?!」

 

 「一体何が起こっている?!」

 モニターの中では悲鳴を上げるマゾーン戦闘員が次々と地面の割れ目に飲み込まれていく様が映し出されていた。

 

 「地震か?!」

 

 「いや、あれだけ揺れであれば、ここも揺れないとおかしいはずだ。地震ではない何かだ!」

 京極が叫ぶと同時に地割れの中から巨大な髑髏のレリーフがチラリと姿を見せた。

 そしてその後には見たこともない巨大な暗緑色の物体が地面を割りながら出て来るのが見える。

 

 「な、何だあれは?!」

 

 「アルカディア号…。」

 茫然とするジョジベルが呟いた。

 

 「何?! まさか奴ら本物のアルカディア号を建造したというのか?」

 

 「そ、それは分からない。だが私の知るアルカディア号とは色も形も少し違う…。とにかく私はラフレシア様に報告を!」

 ここを頼むと京極に告げたジョジベルは急いで通信室へと姿を消した。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「何か巨大な物体がこちらに向かってきていますわ!」

 

 「しかもかなりのスピードです。」

 レーダーを見つめていた『すみれ』とラチェットが声を上げた。

 どうやら何か計器に反応があったみたいだね。

 隣では新手はもう勘弁だぜ、と肩を竦めるカンナ。

 

 「紅蘭!」

 

 「分かってるって、大神はん! 今、画面に出すさかい。えーっと…。」

 紅蘭が計器パネルを操作すると、空を行く巨大な物体が映し出された。

 

 「こ、これは?!」

 

 「アルカディア号?!」

 

 「本物のアルカディア号…、なの?」

 長官にグリシーヌ、ラチェットが驚きの声が上がる。

 

 「な、何て大きさなの…。」

 「すごい迫力…。でも素敵だわ。」

 やれやれ、アイオワもホーネットもすっかり女の顔だね。

 いや、人の事は言えないか。

 僕も画面の中の空行く船に釘付けになってしまっていたんだから。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 『こちらアルカディア号、軍令部応答願います。』

 アルカディア号から通信が入った。

 

 「その声はマリアか?! 無事で良かった。」

 

 『ええ。全提督、及び全艦娘脱出成功です。』

 怪我人、および治療の必要な提督や艦娘はいないのかと元帥が心配するが、それもドクターゼロのお陰で問題無いという返事が返って来た。

 

 数分後、アルカディア号がデスシャドウ島に到着した。

 初めて目の当たりにするその威容。

 その巨大さと迫力に出迎えた全員が圧倒される。

 下船してきたマリアをはじめとする提督達と艦娘達をみてようやく全員の表情が緩んだ。

 

 「長官、少し良いかしら?」

 が、マリアが何かを耳打ちすると長官から表情が抜け落ちた。

 どうしたんだろう、何かあったんだろうか?

 

 「藤枝少将に個室を用意してあげてもらえるかしら。しばらく一人か姉妹だけにしてあげて。」

 

 「分かりました。でも誰であろうと…、絶対に許せません。」

 何故、マリアや長官がそんな事を言うのかと思ったけれど、最後に下船してきた藤枝姉妹を見て納得がいった。

 はだけられたブラウス、内腿部分が無残に破かれた白いパンストに泣きはらした目。

 無事を喜んでいた空気が凍りついてしまった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「…。」

 元帥も何て声を掛ければいいか分からないみたいだ。

 何とか言葉を絞り出そうとしていたみたいだけれど長官から何をジロジロ見てるんですかっ、と目潰しを喰らってしまった。

 

 「真宮寺長官、勅命書とはまたエライ事になってもうたなぁ。」

 

 「ええ。ところでアルカディア号さんは?」

 目を抑えて地面を転げまわる元帥を気にも留めないヤッタラン副長と長官。

 さすがに彼が気の毒になってしまった。少しだけど(笑)。

 

 「キャプテンやったらそこにおるがな。全員を乗せて脱出するために船としての形態になったんや。」

 凄い! そんな事まで出来るなんて、と思ったけれど瞬時に元の姿に戻った彼が言うには今回限りなんだそう。

 そして傍らでは早くも恋の鞘当てが…。

 

 「そんな事まで出来るなんて素晴らしいですわ、さすがは神崎家の跡取り…!」

 

 「跡取り? 神崎家の跡取りがどうかされたんですか?」

 ゴゴゴゴという字が見えるんじゃないかというぐらいの花火。

 

 「くっ!」

 ふふ、強気な『すみれ』もやはり正室相手では分が悪いね(笑)。

 それにしても二人ともこんな時に何をやってるんだか。

 特に『すみれ』ったら、いつか私が正室にとって代わってあげますわ、それまで束の間の幸せを享受しておくがいいですわ、って顔してるじゃないか。

 悪いけど、案外彼みたいなのは小柄で中性的な女性に惹かれるものなのさ。

 そう、僕みたいにね(笑)。

 え、九条昴? あそこまで行くと逆にどっちか分からなさ過ぎるだろうから、あの人の事は考えなくて良いんじゃないかな(震え声)…。

 

 「キャプテンはこのまま、首相官邸まで向かうつもりでっせ。勅命書を取り下げさせるつもりやな。」

 

 「よし、僕も行こう。」

 

 「いや、大神殿は関わらない方がいい。却って相手に餌を与える事になってしまう。これは海賊の仕事だ。」

 「それにただ勅命書を取り下げさせるつもりは無い(ニヤリ)。」

 まさかの逆粛清宣言?!

 いつの間にか復活した元帥が同行を申し出たものの、海軍トップが武力(アルカディア号)をチラつかせて勅命の取り消しを迫ったとなれば相手に付け入るスキを与える事になってしまうと窘められてしまった。

 まあ、尤もな意見だね。

 

 その時、遠くですさまじい爆発音が!

 外を見ると大爆発を起こしながら崩れ落ちていく名波論島が見えた。

 明石と夕張達が潜入爆破に成功したんだ!




※すみれさんの表記ですが、平仮名表記だと見にくいと思い『すみれ』とカッコ表記にしました。


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第129話 提督救出編6(アルカディア側)

※最後だけ第三者視点となります。


 ブンカーで整列する『白露』・『初春』・『朝潮』・『暁』・『吹雪』・『陽炎』の長姉達。

 タチバナ中将から『鬼王』という凄まじい剣技を持った謎の剣士がいるから気を付けなさいという忠告がなされると艦娘達がざわつき始めた。

 

 (真宮寺一馬殿だな。本来なら実娘である真宮寺長官をぶつけるべきだろうが、この事実は彼女にとってあまりに残酷。ここは薙刀の達人に…。)

 

 「では私が行きます。」

 そう言って真宮寺長官は部屋に掛けてあった『霊剣荒鷹』を手に取った。

 

 (何でやねん! いや心の声が聞こえる訳が無いな。こりゃ失礼。)

 

 「いや、長官は行ってはならん。ここは薙刀にかけては右に出る者無しの神崎中将が適任だ。閣下、これを。」

 これは?と不思議がる神崎中将に光線兵器の技術を応用した光線剣、その薙刀版だと告げると彼女の目が輝いた。

 刀身をイメージしてそれに気を流し込むようにと説明すると、さすがは東京花組一の霊力を持つだけあってビシュンという音と共に奇麗な紫色の刃が直ぐに出た。

 

 「ここをこうすると…。」

 

 「両薙刀になるんですの?! これは凄いですわ、やはり私の事を大切に思って…。」

 

 「いえ、私が行きます。」

 はしゃぐ神崎中将に真宮寺長官は自分が行くとキッパリ宣言した。

 え、でも…と戸惑う神崎中将に長官は中将に自分が行くからすみれさんは残って下さいと命じてきた。

 あの気が強い神崎中将を黙らせてしまうとは流石は連合艦隊司令長官だけはある。

 が、感心ばかりしてはいられない。

 

 「駄目だ、長官! 行けば必ず後悔、いや自身が悲しむ事になってしまうぞ!」

 

 「長官、婿殿は私をご使命ですのよ?!」

 いや、婿殿だなんてテレるなぁ(笑)。

 婿に入れば毎日こう、何といいますか周りの目を気にせず励む事が出来る訳だし、またその脇に顔を突っ込んでスーハーって…、痛い!

 下を見れば足の甲に花火と翔鶴の踵が載っており、顔を上げれば表情の抜け落ちた二人が神崎中将はなくこちらを見つめていた。

 もしもし、お二人とも何故、神崎閣下ではなく私なのでしょうか?

 それにハイライトをどこかにお忘れですよ。

 

 「行ってはいけないって何故ですか? この子達は軍令部直属の艦娘です。だったら私が行くのが当然でしょう!」

 そう言って長官は内火艇に乗り込むと、先の六名と共に行ってしまった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「一体どうされたのですか? いつもの『アナタ』らしくなかったです。」

 花火さん、アナタのイントネーションが少し変では?

 タを上げて読むのと下げて読むのとでは随分と意味が変わってくるんですがそれは…。

 

 「そうよ、この重巡正室『足柄』からみても『アナタ』らしくなかったわ。」

 「ええ、どうしてそこまで長官を止められたのでしょうか? 良ければ理由をお聞かせ頂けませんか?」

 空母正室の私になら教えて貰えますよね、アナタとこちらもアナタ呼び。

 しかもやはり『アナタ』の強く読む位置がおかしいです。

 他にも祥鳳・川内・秋月・伊58に大和までが…。

 こりゃ明らかに神崎中将の婿殿に対抗しにきてるな。

 お陰でタチバナ中将をはじめとした他の提督達からは白い目を向けられてしまった、凹む…。

 

 「あら、皆さん必死ですこと(笑)。私と違って未だお情けは頂けていないみたいですのね、おーっほっほ!」

 す、すみれェ!

 何、口に手をあてて笑ってるんですか。

 そんな事をハッキリと人前で公言しないで頂きたいのですが(恥)。

 

 「神崎先輩の仰る通りですね。『一番』『最初』に契って頂いた身としては全てが微笑ましく思えてしまいます(黒笑)。」

 花火の勝利宣言に唇を噛む神崎中将。

 が、花火の勝利宣言も翔鶴の爆弾発言に比べればまだ可愛らしいものだった。

 

 「もう、皆さんたら…。私の『旦那様』を困らせるのは止めて下さい(●~* ポイ!)。」

 心の中で頭を抱える俺を尻目に、この場を一喝して収めてくれたのはタチバナ中将でした。

 タチバナ中将殿、マジ感謝します。

 

 「で、アルカディア号さん? どうして長官を行かせたくなかったのかしら?」

 

 「うむ、あの『鬼王』の正体は真宮寺一馬殿なのだ。」

 この俺の言葉に周りは先程とは比べ物にならないほど騒然となった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「何だって?! アルカディア号さん、滅多な事は!」

 

 「そ、そやで! それに長官のお父さんはもう…。」

 

 「紅蘭の言う通りですわ。あの人は先の深海棲艦による士官学校襲撃事件の際に私達を庇って戦死されましたのよ?!」

 

 「神崎閣下、それに皆。それは俺も知っている。確かに真宮寺一馬殿はこの世の人ではない。」

 それを聞いた全員が訳が分からないといった顔に。

 

 「京極の一族は陰陽師。当然、ヤツほどの霊力があれば陰陽道をそれなりに極めていてもおかしくはない。」

 

 「反魂の術ってやつか…。」

 それであれば京極の操り人形になっているのも理解できると納得する桐島中将。

 が、真宮寺一馬殿を知る藤枝中将は彼ほどの強者(霊力的にも)であれば京極の支配から逃れられそうだが、と首をかしげる。

 

 「それほどヤツの支配が強いという事だろう。言い換えれば京極の霊力というか魔力がいかに強力かという指標となる。」

 反魂の術を使うぐらいだ。しかも呼び出された方はそれだけで術者の強力なコントロール下におかれるのは想像に難くない。

 ロベリア中佐とブルーメール少将は信じられないと一蹴。

 さっさと長官を追う準備を整えるために部屋を出て行ってしまった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「しかし本当に良かったのかのう、長官?」

 初春の問いに何故ですか、と鋭い目を向ける『さくら』。

 

 「あれだけの御方があそこまで言うのじゃ。何かあるのは間違いないじゃろうて。」

 

 「あー、私も不思議に思ったのよね。何でアルカディアさんはあそこまで長官を行かせたくないんだろうって。」

 不思議がる陽炎に、そんなの連合艦隊司令長官に万一の事があったら大変だからに決まっているじゃない、と無い胸を張る暁。

 分からない事でもないが、あのマリアが銃を抜くだけで精一杯だったのだ。

 剣技に覚えのある自分としては艦娘達を守るためにも自分がと思ったのだろう。

 

 「でもアルカディア号さん、最後に気になる事を仰ってたような…。」

 

 「気になる事?」

 陽炎さんは聞こえませんでしたかと、吹雪が首を後ろに向ける。

 

 「ええ、行けば必ず長官自身が悲しむ事になってしまうというと…。」

 あー、確かにと陽炎。

 実は『さくら』自身も、そこが引っ掛かっているのだ。

 白露からは実は長官の子供が成長したとか、と言われる始末。

 

 「何で私が子持ちなんですかっ(笑)! そりゃあ、子供は早く授かりたいと思っていますけど。ゴニョニョ…。」

 最後は何と言っているか聞き取れなかったが、白露にそれで一昨日の元帥さんのお昼は『うな重』に『カキフライ』、晩御飯は『スッポン鍋』に『とろろご飯』だったんだねと暴露されてしまった。

 

 「?!」(六名分)

 そこからは、大神殿の装弾数は凄い事になっておったのじゃな(初春)とか、ギンギンってヤツね(暁)とか、オタマジャクシ(意味深)をいっぱい貰うという献立ですね、感服いたしました(朝潮)とか言われた『さくら』は真っ赤になって顔を覆ってしまった。

 

 (長官が悲しむか…。身内であるとすれば白露の言う事はあながち間違いでないのかもしれぬ、な…。)




※最後の初春殿、実に鋭い考察ですね!

※次回、鬼王と真宮寺さくらがいよいよ対面か?!

※鬼王こと真宮寺一馬殿についてアンケート調査を致しております。
 原作通りに『さくら』達を庇って再びあの世へ舞い戻るか、それともドクターゼロと957年後の未来の医療技術により一命と取りとめた後はこちら側について活躍してもらうかで迷っています…。


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第130話 提督救出編7(艦娘側:真宮寺さくら1)

※真宮さくら、ついに実父である鬼王と対峙!


 陸軍が人員を名波論島に向けたせいでしょう、手薄になった第二海保へあっさりと上陸した私達。

 おまけに入り口を固めていたのがマゾーン戦闘員だった事もあり遠慮なく始末できた事も幸いしました。

 突入するメンバーも『白露』・『初春』・『朝潮』・『境』・『吹』・『陽炎』の六名だけではなく、後を追って来てくれた東京花租メンバーと巴里花組のロベリア中佐とブルーメール少将が加わった事により戦力大幅増です。

 何より大神さんとアルカディア号さんが一緒なのが心強いですね。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「ロベリア中佐ととブルーメール少将はここに残って下さい。私達が突入して残りの提督を救出するまで誰も通さぬようお願いします。」

 お二人にそう依頼し、意を決して第二海保内へと足を踏み入れます。

 まず驚いた事はまるで有機物で出来ている様な内部です。

 しかもまるで迷路です。

 

 「こっちです。」

 別れ道に来るたびに全精神と霊力を集中させます。そうすると自分でも何故か分からないのですが、頭の左上辺りにキラリと何かが光りキュピーンと音がして正しい選択が出来るのです(汗)。

 どれくらい進んだでしょうか、かなり奥まで来たのは間違いありません。

 やがて広い場所に出るとそこには囚われている提督達が?!

 

 「長官!」

 「どうしてここが?!」

 アリエッタ少将とワインパーグ少将が檻の扉まで駆け寄ってきました。

 救出に来ましたと告げると、『名波論島の海峡を突破してくるなんて無謀な事をしないで下さい』と言われる始末です。

 せっかく来たのに(泣)!

 誰がそんな無茶をするものですかと、軍令部と横須賀第一の明石と夕張達による潜入工作で無力化してから行動を起こした事を伝えました。

 全員、納得してはくれましたが、昔に随分と無茶をした前料がありますからねぇ(笑)と返される始末…。

 まあ、いいです。全員に下がるよう指示を出して『霊剣荒鷹』に手を掛けます。

 掛け声と共に剣を一閃させると、重たい音がして檻の格子戸が内側に倒れました。

 喜びに沸く私達でしたが、アルカディア号さんが何故あれほど私を止めたのかを知る破目にもなったのです。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「…!」

 この気配、間違いありません。

 

 「さくらくん、どうした?」

 私の只ならぬ様子に気付いたのでしょう、大神さんが声を掛けて下さいました。

 

 「この気配、お父様…。だわ!」

 

 「何だって?! やはり…」

 やはり? まさか知っていたのですか!

 だからアルカディアさんも私を止めようとした?

 でも何故そんな事を?!

 

 「ここから先は…、通す訳に行かん。」

 ゆっくりとですが地の底をうような感じの声と共に鬼面をつけた男が私達の前に現れたのです!

 

 「鬼王!」

 大神さんが前に出ます。

 

 「お父様…。」

 

 「ここを通りたければ私を倒す事だ。」

 

 「待って!お父様…、あたしです! さくらです!」

 

 「…。」

 それでも鬼王、いえお父様は黙ったままです。

 

 「お父様! 何故ですか?!」

 「自らの命を捨ててまで私達を逃がしてくれたお父様が…。何故?!」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「…。言いたい事はそれだけか?」

 私の言葉が届いていない?!

 

 「お父様?!」

 

 「わが使命は京極様を守る事…。京極様の理想を実現するために戦う事…。」

 「その邪魔をする者は…、斬る。」

 

 そんな!

 お父様ほどの方が一体どうされたというのですか!

 

 「真宮寺大佐…。」

 隣では大神さんとアルカディア号さんも厳しい表情です。

 

 「目を覚まして下さい、真宮寺大佐!」

 「貴方の娘さん…、さくらさんの事を忘れたのですか?!」

 大神さんも必死に呼びかけてくれますが…。

 

 「そちらがこないならこちらから行くぞ。」

 お父様からの非情な宣言。

 脅しではありません。お父様は間違いなく本気です。

 

 「真宮寺大佐…。」

 大神さんが唇を噛みます。

 

 「あの人は…、強力な術で心を失っている。その呪縛を解くにはもっと強力な力が必要だ。だけど、その術を解く方法を捜している時間が無い。今は戦うしかない。」

 レニの言葉に大神さんから何て事だ…、という声が漏れました。

 

 「お父様…。」

 「…。お父様…。あたし…、戦います。そして…、きっとお父様に勝ってみせます!」

 こうなったら私も覚悟を決めねばなりません。

 勝ってお父様を邪悪な力から解放してみせます!

 

 「さくらくん…。よし…、みんな行くぞ!」

 大神さんも光線剣を抜きました。

 瞬時に白い光の刀身がビシュンと音を立てて現れます。

 

 「アルカディア号さん!」

 榊(由里)少佐がアルカディアさんに縋るような目を向けますが…。

 

 「榊少佐、これは誰にも手出しの出来ない親子の闘いだ。長官の、いや東京花組のためを思うのであれば手を出してはいかん。」

 見守るべきだと…、彼はそう言ってくれました。

 ただし割り込む者がいるなら、容赦なく排除するとも…。

 

 「お父様…。あたし達は負けません。お父様に必ず勝ちます!」

 これでお膳立ては整いました。

 お互いもう後には引けません。

 アルカディアさんによると、彼が出てきたという事はここが第二海保の中心部であり、奥にある核を破壊すれば魔を弱める事が出来るみたいです。

 

 「しかし、相手はカルニバルの仮面男…。正面突破は厳し過ぎまーす!」

 

 「織姫さん、いえ皆さん、鬼王が攻撃してくる時は柱の陰に隠れて下さい。」

 そう指示を出し『霊剣荒鷹』を抜きます。

 え、どうして分かるのかですって?

 それは…、えーっと…。ほら、またキュピーンってヤツです(汗)。

 

 さあ真宮寺一馬が娘、『真宮寺さくら』参ります!

 




※長官の、いや東京花組の為を思うのであれば手を出してはいかん
 星野鉄郎と黒騎士ファウスト、この親子の決闘に際してエメラルダスが妹のメーテルに放った「メーテル、これは誰にも手出しの出来ない男の闘い。鉄郎のためを思うなら手を出してはいけない。」が元ネタです(ご存じですよね、失礼!)
 『長官のためを思うなら』にしたかったのですが、このステージは東京花組の全員で戦うので『長官と東京花組のためを思うなら』にしました。

※勤務の都合により、ひょっとしたら来週の更新が難しくなるかもしれません。出来るだけとは思っていますが、厳しい状況です。<(_ _)>


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第131話 提督救出編8(艦娘側:藤井かすみ1)

※皆様、アンケートにご協力ありがとうございました。
 結果は真宮寺一馬殿には『さくら』さんと共に親子鷹で頑張ってもらう事と相成りました。



 「ふんっ!」

 

 「はああああぁっ!」

 周りに響き渡る派手な金属音。

 火花を散らしあう『鬼王』の剣と真宮寺長官の『霊剣荒鷹』。

 

 「うっ!」

 

 「させるもんですか!」

 体制の崩れた真宮寺長官を押し切ろうとする『鬼王』でしたが、タチバナ中将のエンフィールドNo.1がその危機を救いました。

 

 「小賢しい真似を。」

 が、そのせいで今度はタチバナ中将が狙われます。

 中将もライトセイバーとやらを展開し横薙ぎを受け止めますが、やはり剣技は二枚も三枚も相手の方が上。

 片方の手でエンフィールドが抜ければ良いのですが相手は殿方、しかも剣豪。

 両手で受け止めるのも精一杯なのに、とても片手を放す事など出来ません。

 歯を食いしばって耐えるタチバナ中将ですが、やはり男と女の力の差を埋める事は出来ません。

 そのままじりじりと押し込まれて行きます。

 

 「マリアくん!」

 今度は大神元帥さんがマリアさんと『鬼王』との間に割って入ります。

 

 「リディニーク!」

 油断してたのでしょうか、タチバナ中将から氷河という意味の大技を喰らった『鬼王』がよろめきます。

 でもちょっと待って下さい。

 至近距離でしかもまともにあの攻撃がヒットしたんですよ?!

 それなのによろめいただけなんて…。

 

 「やるじゃねえか、ならコイツはどうだ?! 一百林牌!」

 

 「くっ!」

 桐島中将渾身の一撃を受け僅かに『鬼王』がヒットバックします。

 東京花組一の馬鹿力(失礼!)の攻撃を受けたにも拘らず彼は涼しい顔のままです。

 あ、いえ。面を付けているので本当に涼しい顔をしているかどうかは分からないのですが…。

 

 「何やて?! あれだけの攻撃を受けたのに何ちゅーヤツやねん!」

 紅蘭大佐もチビロボ攻撃を繰り出しますが、有効打を与えられません。

 体勢を立て直し、再び真宮寺長官と剣を交える『鬼王』。

 

 「お父様! どうして私が分からないのですか!」

 必死に呼びかける真宮寺長官。

 勿論、他の東京花組メンバーも指を咥えて見ているだけではなく、あらゆる方向から攻撃を試みます。

 しかし、相手の剣技の前にその尽くが防がれてしまう始末。

 そんな中、一進一退の膠着状態を破ったのは大神元帥さんの白い光線剣でした。

 

 「大神殿、霊力を最大にして刀身に送り込め!」

 アルカディア号さんのアドバイス通りに大神元帥さんが霊力を送り込んだのでしょう、光線剣が一層輝きを増しました。

 

 「小癪な!」

 そう叫ぶと同時に剣を振り下ろす『鬼王』。

 それを大神元帥さんが光線剣で受け止めました。

 

 「うおおおーっ!」

 

 「何っ?!」

 『鬼王』が驚くのも無理はありません。

 渾身の力を持って振り下ろした刃を受け止められた上に、大神さんの光線剣が『鬼王』の剣を切ったのですから。

 

 「今だ! 皆、面を狙え!」

 アルカディア号さんが指示を出します!

 

 「よし! 全員、あの面に攻撃を集中するんだ!」

 

 「イリス・ブロディジュー・ジャンポール!」

 さらにアイリスさんのナイスアシストが!

 全員の体力と傷が一気に回復です。

 

 「アイリス、グラーチェでーす! オーソレミオ!」

 

 「元帥、了解した。ブラウアー・フォーゲル!」

 

 「ぐうっ!」

 織姫さんとレニさんの攻撃がダブルヒット!

 そして『鬼王』の面にヒビが?!

 

 「いきますわよ! 神崎風塵流、不死鳥の舞!」

 今度は『すみれ』さんの薙刀が唸りを上げます。

 紫色に輝く薙刀の刃が右に左に踊る様はまさに鳳凰が舞う姿そのもの。

 更に彼女は得物を両薙刀に変形させると、もう片方の刃で再度、不死鳥の舞を放つ離れ業をやってのけたのです。

 

 「ぐあっ!」

 これにはさすがの『鬼王』も耐え切れずに片膝を着きました。

 さらに面の上をヒビが多数に走ります。

 あと少し、あと少しです!

 息をする事も忘れ、全員で見守ります。

 

 「大神さん!」

 

 「さくらくん!」

 大神元帥さんと真宮寺長官が頷き合い背中を合わせます。

 

 「二人の心に正義を込めて(大神)」

 「明日を導く光とならん(さくら)」

 「勇気の刃と(大神)」

 「希望の剣を(さくら)」

 

 「「今、一つにして!」」

 

 「「破邪剣征、桜花天舞!」」

 お二人の合体攻撃が見事に訣まりました。

 堪らず両膝を付く『鬼王』に真官寺長官が駆け寄ります。

 

 「お父様! あたしです、さくらです!」

 

 「お前と話す事など…、何もない。」

 「ぬう! くうっ!」

 あれだけ鬼面にダメージが入ったというのに『鬼王』、いえ真客寺一馬さんは自我を取り戻せていません。

 

 「どんなに邪悪なものに心を奪われても…。心のどこかに…。お父様、思い出して!」

 「仙台のおばあさまやお母様を! 貴方は私の父です!」

 長官の客葉は届いているのでしょうか?

 未だ『鬼王』からの反応はありません。

 

 「私は……。私は…。」

 「真官寺一馬…。」

 

 「…!」

 大神元帥の息を飲む音が聞こえました。

 

 「お父様!」

 真宮寺長官が『鬼王』を、いえお父様である真宮寺一馬さんを抱きめます。

 

 「帝国華撃団…。そして…、さくら…。」

 

 「お父様!」

 

 「…。」

 

 「お父様…。あなたの剣はこうしてあたしの中に…。あたしの中に受け継がれています。」

 「お父様が仙台で教えてくれた正義の剣が…。」

 再び比黙してし主った真宮寺一馬さんに必死で時びかける長言。

 

 「う…。くっ…。」

 

 「あたしは真宮寺一馬の娘、真宮寺さくらです!」

 

 「ううっ…。面が…、面がぁ!」

 私はあなたの娘であるという長官の力強い宣言。

 それと呼応するように一気に面に亀裂が走り『鬼王』の面が砕け散ったのです!

 

 「お父様ぁ!」

 「お父様! しっかりして、お父様!」

 

 「さくら…、大きくなったな。」

 真宮寺一馬さんが長官に手を伸ばしました。

 

 「お父様…。どうして。こんな…。」

 死んだと思っていた父親に会えた長官。

 様々な思いが混ざり合って言葉も途切れ途切れに。

 

 「八年前の降魔戦争で失ったこの命。京極の反魂の術によって呼び戻された。京極のために戦う戦士として…。」

 長官のお父様から明かされる驚愕の事実。

 最官のお父様はやはりあの時ににお亡くなりになっていたのです。

 そして京極陸軍大臣による反魂の術で私達の敵として生き返らされたと…。

 

 「そんな…。」

 やり切れない思いのせいか、長官の目から大粒の涙がこぼれました。

 その思いは私達も変わりません。事実、あちこちからすすり泣きが…。

 

 「ヤツの術は、強かった。だが、お前達がその術を破ったのだ。流石は…、私の娘…。」

 「さくら…、よくやった。強くなったな…。」

 

 「お父様…。」

 長官がお父様にそっと手を重ねられました。

 

 「ささ、今はそこまでだよ。キャプテン、私は一足先にお二人を連れてデスシャドウ島へと帰るよ。」

 ドクターゼロさんがお二人をデスシャドウ島への医療施設へお連れしようとしたその時、最も憎むべきあの男の声が!

 

 「『鬼王』…。どうやら、お前の使い道もここまでのようだな。」

 




※ついに『サクラ大戦2』のラスボスである京極が出てきましたね。
 誰にも手出しの出来ない親子の闘いは終わりました。
 ここからはアルカディア号の出番です。
 どうやらある程度は原作を知っていても、今の彼はお怒りのようですから。


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第132話 提督救出編9(アルカディア側3)

※申し訳ありません、京極とアルカディア号の対決は次回以降に持ち越しです…。


 「また会ったな…。帝国華撃団。」

 そう言って我々の前に立ったのは陸軍大臣京極慶吾。

 まあ、分かっていましたとも。アンタがここで登場する事は。

 しかし、そうなると真宮寺一馬が長官を庇って再び三途の川を渡ってしまう時が近付いているという事でもある。

 真宮寺親子に何かあった際は直ぐに動けるようにと目で合図を送るとドクターゼロが頷いてくれた。

 

 「京極!」

 大神殿の歯がギリッと鳴る。

 

 「真宮寺…、山崎…、共に私が仮初の命を与えた者。いわば人形だ。」

 「新皇が復活した今、もはや人形に用は無い。」

 

 「京極…。貴様、許さん!」

 「人の命を弄ぶような真似はこの俺が断じて許さん。しかも貴様が弄んだのは真宮寺一馬殿だけではない、娘のさくら嬢まで…。相応の覚悟は出来ているな?」

 許さんが大神殿と被ってしまったが、この後の事を考えれば出来るだけ俺に矛先が向くようにしておく必要がある。

 それに今の俺、ちょっとカッコ良くない(笑)?

 

 「身の程を知れい、この海賊船風情が!」

 「高い理想の前に多少の犠牲は付き物だ。偽りの正義の許にこの帝都を支配した虫けら共よ!」

 京極の両手が青白く光り始めた。

 拙い、ヤツはここでもう法力を使うつもりだ!

 

 「これが最後だ! 死ねいっ!」

 バレーボールになった光球がヤツの両手から放たれる。

 原作では片手のはずだが、先の行動によって攻撃目標を俺と真宮寺長官の二つにしたというのか?!

 

 「きゃあああっ!!」

 真宮寺長官の悲鳴が響き渡る。

 いや、彼女に避ける術が無いと悟った他の提督や護衛艦娘達からも悲鳴が!

 

 「くそおおおっ!」

 さすがの大神殿も成す術が無い。

 あの程度の攻撃、アルカディア号の装甲であれば耐えれるのだが俺の後ろにも大勢の提督や護衛艦娘達がいる。

 ここから動けば彼女達が犠牲になってしまうため真宮寺親子の盾になる事が出来ない!

 

 「ぐわああっ!」

 が、ここで原作通り真宮寺一馬が長官の前に立ってその身で攻撃を防いだ。

 

 「ぐっ!」

 同時に俺にもヤツの光球が命中する。

 瞬間、体内をとてつもない衝撃が抜けた。全身の力を半分近く持っていかれた感じだ。

 自身の体を見てみるが、何一つ傷がある訳では無い。

 これが法力か…。物理攻撃とはまた違う厄介な手段だぞ、これは。

 

 「な、何いっ?!」

 まさか京極もこちらが防ぎ切るとは思っていなかったのだろう。

 ヤツの表情にも焦りが浮かんだ。

 

 「き、京極…。お前の思うようには…、させぬ!」

 「私の娘…、さくらを殺させはしない!」

 すかざす真宮寺長官がよろめく父親を支えた。

 

 「さくら…、よく聞け…。この部屋の巨大な水晶が降魔兵器を操るための…、妖力の出力体だ。どんな手段を使ってでも水晶を破壊して魔を封じるのだ。」

 「そして、この奥にある御柱の間にて…、御柱を…、斬れ!」

 「京極の野望を砕けっ!」

 絶叫する真宮寺一馬。

 

 「ぬうっ…、貴様!」

 歯噛みする京極だが、ヤツは先程の攻撃で法力全てを使い切っている。

 新たな攻撃は出来ない。

 

 傍らでは長くはもたないと悟った真宮寺一馬が、長官にもう一度その顔を見せてくれだの、強く生きろだの、迷いのない剣を使うようになっただの縁起でもない事を口走っている。

 神崎中将閣下もこれ以上話されてはお体に障りますと止めに掛かるが…。

 

 「ほんの…、少しだけだが…。父として、お前と話せて良かった。さくら…、母さんによろしく…、伝えてくれ。」

 

 「お父様ぁーっ!」

 長官が叫ぶ。

 

 ん、待てよ?

 原作では真宮寺一馬の体は消え、長官は父の刀だけを抱えていたはず。それなのに彼が消えずに残っているという事は…。

 法力を二つに分けた事によりその威力が半減した?!

 

 「ドクター!」

 考えるより先に俺は叫んでいた。

 飛び出してきたドクターゼロが真宮寺一馬に何かを注射(強心剤?)、マッサージのコースを行った後、魔地機関長と共に担架で彼をスタコラサッサと運び出して行く。

 

 ん? マッサージとは心臓マッサージだぞ。何?

 コースも相まって紛らわしい? 他に何かあるとでも?

 

 「ぬうっ、この海賊船めが…。我が法力を全て注いだ術を耐え抜くとは…。」

 忌々し気に吐き捨てる京極。

 

 「貴様、俺が957年後の未来から来た宇宙海賊船だという事を忘れたのか?」

 

 「私にはマゾーンが付いている(笑)。貴様の存在など恐れるに足らん。だが法力が尽きた以上、私はいったん引かねばならぬ。

 「お前達は運がいい。だが…、次に会った時がお前達の最後だ。」

 

 「くそっ、京極…。」

 ヤツに切り掛かろうとする大神殿を制する。

 

 「京極…。貴様、高い理想の前に多少の犠牲は付き物だと言ったな。」

 

 「当然だ。最も貴様らのような虫けらは犠牲ともいわん(笑)。」

 相変わらず無茶苦茶な理屈をこねおるわい。

 

 「そうか。では次に犠牲になるのは貴様自身だ。もっともお前の場合、付き物ではなく憑き物だろうがな(笑)。」

 

 「この私を愚弄する気か…。」

 ヤツの目がスッと細くなる。

 

 「まあいい。どうせ次に会う事はあるまい。しばしの時間をやろう、神仏に祈るが良い(笑)。」

 エレベーターへと京極が姿を消す。

 

 「フッ。生憎だがキャプテン・ハーロック同様、このアルカディア号、神や仏からは最も縁遠い。」

 最も死神といわれれば違うとは言いにくいが。

 

 「京極、念仏や呪詛は貴様自身の為に唱えるが良い!」

 追い掛けたかったが、提督達や護衛艦娘達を置いてまで行く事は出来ない。

 

 「さあ、ヤツがいなくなった今がチャンスだ。御柱の間とやらへ急ぐぞ!」

 確かに大神殿が言うように柱を破壊するには今しかない。京極を諦めた俺は皆と一緒に御柱の間へと突入した。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 何だよ、御柱ってただの柱じゃないのか?!

 東京花組の全員で斬り掛かるも、そう簡単に破壊できるものではなかったのだ。

 それでも残り一本までこぎつけた俺達を褒めて褒めて(夕立風)!

 

 「これが…、最後の柱だ。帝都を守るために…、この柱を打ち砕く!」

 「いくぞ、みんな! それぞれ思いをぶつけろっ!」

 

 「「「「「「「「おーっ!」」」」」」」」

 

 「お父様!(さくら)」

 「人々の喜びを奪うものは絶対に許さないっ!(マリア)」

 「わたくしたちには…、待っている人がいます!(すみれ)」

 「人間の幸せが街を作るんだ!(カンナ)」

 「アイリスは、皆を傷付ける者を許さない!(アイリス)」

 「人を不幸にする道具は要らんのや!(紅蘭)」

 「愛をあざけるものは愛によって滅びまーす!(織姫)」

 「信じあう仲間の力を思い知れ!(レニ)」

 

 「柱よ…、砕けろおおっ!! 喰らえっ!」

 全員の全霊力を乗せた光線剣の一撃が次々と醜悪な柱へと叩き込まれていく。

 そしてついに最後の柱が崩れ落ちた。

 

 「やった…、のか?」

 大神殿、またそれ盛大なフラグを…。

 

 「エネルギーの流れは…、止まっているよ。」

 相変わらず慎重なレニ。

 

 「これで第二海保の制御も失われたはずや!」

 「ひゃっほーっ! やったぜー!」

 

 「な、何か…。まだヘンです…。」

 紅蘭大佐と桐島中将は喜ぶが織姫少将も何かを感じているのだろう。

 

 「…。」

 警戒を緩めず周囲を警戒するレニ。

 

 「邪悪なエネルギーを感じますわ。」

 流石は東京花組一の霊力を持つ神崎中将、まだ終わっていない事を感じ取っているようだ。

 

 「みんな、油断しちゃダメよ!」

 タチバナ中将も気を抜かないよう指示を出している。

 

 「大神さん…。」

 長官も胸騒ぎを感じているのだろう。

 得体の知れない不安からか大神殿に身を寄せる。

 

 「俺も邪悪なエネルギーを感じる。闘いは未だ終わりじゃない。前進しよう。」

 

 「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

 この時、俺は京極が『親皇』に搭乗して出て来ることは知っていたのだが、まさかあんな登場の仕方をするとは思ってもみなかった。

 




※相変わらず無茶苦茶な理屈をこねおるわい。
 食べ物に煩い新聞記者の屁理屈に高名な陶芸家が呆れて言った一言。欠けた茶碗は『そばがき』と命名された。

※しばしの時間をやろう、神仏に祈るが良い
 本来は御仏。厳娜亜羅十六僧の一人、嘲笑法師がある塾の生徒に向けた放言。
 どうやらこの坊主、硬砕数珠という硬い上にバカでかい数珠で相手の脳天をカチ割ってトドメを刺すらしい。


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第133話 提督救出編10(艦娘側:神崎すみれ1)

※遅くなって申し訳ありません。
 艦これの秋イベ実施に付き提督業が忙しく…。



デスシャドウ島

 「エネルギーの流れが止まりました。」

 モニターと睨めっこをしていた軍令部の大淀が振り返った。

 

 「制御を失っているという可能性もあるわ。遂に大神さん達が第二海保の中枢に辿り着いた様ね。」

 

 「あやめさんの言う通りなら、いよいよ最後の大詰めってヤツやな。よっしゃ、デスシャドウ島ごと第二海保へ横付けするで。キャプテン達をいつでも助け出せるようにスタンバイや!」

 

 「了解!」

 ヤッタランがデスシャドウ島を第二海保へ向けると同時に一同の力強い返事がブリーフィングルームに響き渡る。

 隣りでは有紀螢が、キャプテン、誰一人傷付かせないで下さいと胸の前で手を合わせていた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「前方に強力な霊力反応あり。」

 

 「何かいる。」

 不意にレニさんとマリアさんが立ち止まりました。

 ええ、私にもビンビン伝わってきますわ。

 この先、とてもヤバイ何かが待ち受けているのが…。

 あのマリアさんの足が止まるくらいですわ。

 私の薙刀を握る手にも汗が滲みます。

 

 「みんな、行くぞ!」

 ここで大神さんが先頭へと出ましたわ。

 やはり以前からのカッコ良さは変わらないですのね。

 以前なら真宮寺長官を羨むばかりでしたが、今の私には彼がいますわ。

 そっと寄り掛かると、婿殿(アルカディア号)は肩をポンとして微笑んで下さいました。

 私も笑顔を返し、(二人で)大神さんの後に続きます。

 

 「?! ここは一体…。」

 どれくらい進んだのでしょう。

 広場に出た大神さんが立ち止まりました。

 

 「ふふふ…。来たな、華撃団。」

 京極?!

 まさかこの短時間で法力を補充したというの?!

 

 「京極?! 出てこい!!」

 大神さんが辺りを見回しながら叫びましたわ。

 同時に婿殿(アルカディア号)が私の前に出ます。

 いえ、正確には私を後ろに隠すようにして前に出て下さったのですわ。

 側室筆頭として当然の扱いですわね。

 

 「ここだ、虫けら!」

 

 「うわっ!!」

 

 「な、何ちゅう大きさの儀装や?!」

 声のする方を見上げたカンナさんと紅蘭さんが目を見開きましたわ。

 無理もありませんわ。

 婿殿(アルカディア号)の儀装でさえかなり大きいと驚いたものですが、京極の犠装は上下左右にさらに巨大なモノ。

 

 「これが第二海保を守る古き皇神の儀装、『新皇』だ、わははははは!」

 「しかもマゾーンと深海の技術をふんだんに取り入れた最強の魔儀装だ!」

 

 「新皇ですって?!」

 長官の表情が再び険しいものになりましたわ。

 

 「この『新皇』をもって貴様らを殺す、我が理想の為に!」

 「貴様らは理解できまい、我が理想を!」

 

 「貴様の理想だと?」

 婿殿(アルカディア号)が狂人を見るような目を京極へと向けましたわ。

 

 「聞きたいか? ならば教えよう。」

 いえ、誰も聞きたいだなんて一言も言っておりませんわよ?

 

 「我が理想とは…、この地に真の帝都を築く事!」

 両手を広げ大袈裟に芝居掛かった宣言する京極。

 下手ですけど(笑)。

 

 「真の帝都だと? 何だそれは?」

 大神さんが前に出ましたわ。

 

 「真の帝都…。それは人と魔が共存する世界。」

 

 「な、何だと?!」

 今度は婿殿(アルカディア号)が前に出ましたわ。

 待って下さらないかしら、私を置いて行かないで欲しいですわ。

 という事で私も彼の後ろに付いて前に出ますわ。

 それに京極のヤツ、今何と言ったのかしら?

 人と魔の共存ですって?!

 そんなの出来る訳ないではありませんか!

 駄目ですわコイツ、早く何とかしないと…。

 

 「帝都の地下には降魔と呼ばれる怨霊が眠っている。人間どもはその怨霊の力を都市エネルギーとして利用し帝都を発展させてきたのだ!」

 「そんな帝都が汚れていないと誰がいえる?!」

 なっ、この帝都の地下にそんなものが眠っているだなんて!

 帝都と云えども広いですわ、一体どこに?!

 

 「汚れた帝都など不要! 帝都は私の力で浄化されるべきなのだ!」

 「私によって破壊され、私によって生まれ変わり、私によって支配される…、それが真の帝都なのだ!」

 「大神一郎、そして海賊船よ、真実を見ろ! この帝都は净化されるぺきなのだ!」

 要は自分が帝都の絶対的支配者になると…、そういう事ですのね。

 馬鹿馬鹿しい、付き合っていられませんわ(ハァ…)。

 

 「貴様の考えは間違っている。帝都に住む人達の未来を奪うなど誰であっても許されるべき事ではない!」

 

 「アルカディア号さんの言う通りよ!」

 長官が光線剣を構えましたわ。

 ピシュンという音と共に美しいピンクの刀身が一気に伸びましたわ。

 

 「あの『新皇』とやらも都市エネルギーを吸収して動いているはず…。」

 相変わらずマリアさんは落ち着いていらっしゃるのね。

 状況を的確に分析されていらっしゃるわ。

 

 「アナタは自分の都合が良いように理由を付けているだけでーす!」

 

 「ふふっ、もとより貴様らに真実が分かるはずもない。そんな虫けらがここまでやるとは誤算だった。」

 口の端を歪める京極。

 それは悪かったですわね。ですが私達にも務持と誇り、そして絆はありますのよ。

 誤算ではなく必然と言って欲しいですわ。

 

 「だがタダでは死なん! 費様ら、地獄への道連れにしてくれるっ!」

 マズいですわ、京極が叫ぶと同時に霊力? いえ、もう魔力と呼ぶべき禍々しさですわね。

 もはや瘴気と化したそれが急激にヤツの許に集まっていきます。

 

 「くっ!」

 婿殿(アルカディア号)がいう霊力?が強い私達はその療気に当てられ立っているのも苦しい状況に!

 ですが、そんな私達を救ったのもやはり婿殿(アルカディア号)でしたわ。

 

 「地獄への道連れ? ほう、貴様死ぬつもりか。だが俺達は全員で生きて帰る。地獄へは貴様一人で行け!」

 

 「なんだと…。」

 

 「死ぬこと前提な者と生きて帰る事が前提な者…。戦えばどちらが勝つかなど分かり切った事だ。」

 その通りですわ!

 あぁ、もう貴方という人はどこまで私の心を奪えば気が済むのかしら?

 さっさと京極を片付けてまた熱い一夜を…。

 あ、いえ失礼致しました///。

 

 「地獄か…」

 そして婿殿(アルカディア号)も剣と銃を抜きましたわ。

 

 「闇に惑いし哀れな影よ。」

 「人を傷つけ貶めて…。罪に溺れし業の魂。」

 「一度、死んでみるか?」

 な、何ですの、その恐い…、いえその怖い言い回しは…。

 まるで本当に生きたまま地獄に送られそうですわ。

 無表情の彼から感じられる黒い影。

 戦場ではなく…、亡者共の叫び声が聞こえてくる暗く、冷たい本物の地獄がそこにはあったのですわ。

 




※死ぬこと前提な者と生きて帰る事が前提な者
 かつて巌流島で官本武蔵が剣の鞘を投げ捨てた佐々木小次郎に、「小次郎破れたり!」といった理由と同じですね。
 勝って帰るのであれば、何故剣の鞘を捨てた?と言われ小次郎はかなり動揺したとか。

※闇に惑いし哀れな影よ、人を傷つけ貶めて…。罪に溺れし薬の魂。いっぺん死んでみる?
 御存知、地獄少女『間魔あい』ちゃんの決め台詞です。
 藁人形の紅い紐を解くとこの声が聞こえ相手は生きたまま地獄へと流されてしまいます。
 もっとも、紐を解いた本人も死後は地獄行きとなるので藁人形を使用する際は良く考えてから使用する事をお勧めします(笑)。

※提督さん達は親皇の儀装を付けた京極とは戦えません。
 攻撃は出来ますが、身を守るモノが無いからです。
 よって京極vsアルカディア号といった展開になります。


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第134話 提督救出編11(艦娘側:マリア護衛艦娘 那智1)

※いよいよ京極とアルカディア号の対決です。

※来週は勤務の都合上、更新が難しい状況です。
 申し訳ありませんが、お休みさせて下さい。<(_ _)>


 「ほざけ!理想なき虫けら共に何が分かる?」

 「力こそ正義だ!勝つ事こそ正義だ!血を流す事こそ正義だ!」

 激高する京極。同時にヤツが装備する『新皇』の儀装がまるで生き物のごとくドクンと音を立てた。

 

 「力が正義…、勝てば正義。血を流せば正義…、か。」

 アルカディア号殿も儀装を展開する。

 結局、勝った方が正義なのだ。

 ならば闘って決めるしかあるまい。

 

 「全艦娘に告げる! それぞれ自分の提督を連れ入り口まで下がれ、そして何があっても守り切れ、いいな!」

 アルカディア号殿が私達護衛艦娘に命を下す。

 だがこの那智、元よりそのつもりだ。

 艦娘として、いや何より武人としてわが提督(タチバナ提督)守り切って見せよう!

 

 「ちょっと、那智! どこへ連れて行くつもりなの!」

 

 「ん、提督よ。貴様、先ほどアルカディア号殿が言った事を聞いていなかったのか?」

 入り口までは100m以上ある。あそこまで離れればあの二人に戦いに巻き込まれることは無いだろう。

 

 「聞いていたわよ。でも私達花組にはこの光線剣(ライトセイバー)があるわ。」

 「いや、しかし…。」

 渋るタチバナ提督に戸感っていると、アルカディア号殿から声が飛んで来た。

 

 「武器だけで身を守れると思うのか。大人しく下がっていろ。」

 

 「でも…。」

 

 「タチバナ閣下、一撃でも貰ってしまえば四肢の欠損限度では済むまい。俺としてはこれからも月一の定期演習には無事な姿でお越し頂きたいのだ。」

 

 「那智! 何してるの、サッサと下がるわよ!」

 それを聞いた我が提督は私の手を取ると凄い勢いで入口へと後退した。

 以前、横須賀に同行した瑞鶴から聞いた通りだな。

 やはり我が提督もあのお方にお熱…、いやこれ以上はヤボというものか(笑)。

 しかし人間が艦娘を引き摺るとは一体どういう事なのだろう?

 

 「アルカディアさん! 帝都の未来の為、俺たちの未来の為、艦娘達の未来の為、必ずヤツを倒して下さい!」

 元帥殿がアルカディア号殿に我々の意思を託す。

 

 「俺の前に立ち塞がるものは例え誰であろうと叩き潰す。それが海賊の…、いや、俺のやり方だ!」

 やはりこの御仁は言う事が違う。

 おかげで提督&艦娘のほぼ全員が女の顔になってしまった。

 隣に目をやれば我が提督も例に漏れずである。

 何、私か?

 私は…、その…。

 ええい何だ、悪いか?!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 巨大な両腕でアルカディア号殿を薙ぎ払おうとする京極の『新皇』。

 それをものともせず受け流すアルカディア号殿。

 接近すれば戦士の銃と重力サーベルで、離れればその三連装主砲で確実に京極を捉えていく。

 もちろんヤツもただやられている訳では無い。

 ヤツの催装である『新皇』も異星人の技術をふんだんに取り入れでいるのだ。

 一斉射撃されたミサイル、アルカディア号殿でも落とし切れなかった数発が彼に命中する。

 

 「「「「アルカディア(号)さん!」」」」

 だが当のアルカディア号殿が受けたダメージはせいぜいカスダメ程度に過ぎなかった。

 やはり宇宙戦闘艦の名は伊達ではないのだな。

 

 「馬鹿な?! 直撃のはずだ!」

 異星人のオーバースクノロジー、確かに我々艦娘であれば例え一発でも大破は免れない。

 下手をすれば大破ストッパーさえ効かない可能性すらある。

 だが彼は命中直前で更にミサイルを数発を切断した上、クリティカルを一発も受けなかった。

 それに宇宙戦闘艦の名と装甲は伊達では無い。

 

 「この()を造ったのは我がキャプテンの友。偉大なる我がキャプテンの友が造った。」

 顔に付いた媒汚れを腕で拭うアルカディア号殿。

 そして独特の音を立て主砲が京極へと指向されていく。

 

 「我がキャプテンの友の名は大山敏郎。キャプテンはその友をトチローと呼ぶ。彼は肉体こそ失ったが、その魂はなおもこのアルカディア号と共にある。」

 「俺が生き続ける限り、我がキャプテンの友も永遠に生き続ける。そして彼の指示によりこのアルカディア号は常に随時改造や改良を行っているのだ。」

 彼がそう言うと同時に9本の光の矢が京極を捉えた。

 

 「ぐああぁあっ!!」

 

 「勝負あったようだな…。」

 片膝を付く京極に重力サーベルを突き付けるアルカディア号殿。

 

 「うぐぐ…くく…、ふふふ…、わははははは!」

 「こ、これからが『新皇』の本当の力…。うげげげげ…。」

 な、何だ?!

 京極のヤツ、高笑いを始めたかと思ったらいきなり苦しみ始めた?!

 

 「な、何事ですの?!」

 「こ、これは一体…。」

 神崎提督殿も我が提督殿も京極の只ならぬ様子に気付いたようだ。

 

 「見せてやる、『新皇』の真の力を…。ぐ、ぐわああぁああ!」

 

 「悪夢だ、『新皇』が京極を…」

 レニ提督殿の言う通り夢なら悪夢でも良かろう、だが京極は目の前で『親皇』に取り込まれてしまったのだ。

 

 「我は…。我は…、『新皇』。」

 地の底から響いてくるような声が京極から、いやさっきまで京極だったモノから発せられる。

 

 「な、何て事なの…。」

 「醜い…、ですわ。」

 『親皇』のさらなる力を引き出そうとした京極だったが、ヤツの法力を持ってしてもアレは制御できる存在ではなかったのだ。

 

 「くそっ、信じられねえモンが出できやがったぜ⋯.

 ヤツを取り込みまた新たな形態へと姿を変えた『親皇』。

 その姿は巨大な両腕で這い回る鬼の上半身に女王蟻の腹をくっつけたモノとなっている。

 さらにその腹からはサザエのトゲのようなものが多数生えておりそこから蒸気が噴き出ている。

 神崎提督殿が醜いと評したが実際その通りだ。

 

 「力無きものは…、死ね。」

 言い終わるが終わらないうちに『親皇』の両腕がアルカディア号殿を薙ぎ払った。

 

 「アルカディア号さん?!」

 「キャプテン?!」

 「あなた?!」

 我々、提督&艦娘から悲鳴が上がる。

 約一名からは何がおかしな悲鳴が上がっていたが⋯。

 側壁まで吹っ飛んだアルカディア号殿だが損傷は見られない。何とも頼もしい限りだ。

 

 「速射砲!」

 トゲから再び発射された無数のミサイルをスペースバスターで撃墜し、一気にアルカディア号殿が距離を詰める。

 『親皇』も鈍重な動きながら前に出た。

 

 「撃ていっ!」

 擦れ違いざま、主砲とエネルギー弾を撃ち合う両名。

 すれ違う両者の間に閃光と轟音が響き小さな破片が飛び散った。

 アルカディア号殿のパルサーカノンを無数に叩き込まれた『親皇』が使い物にならなくなった腹部儀装を切り離す。

 

 「取舵、反転180度!」

 再び接近する両名。またも擦れ違い様に行われるノーガードの撃ち合い。

 

 「怯むな、撃ち続けろ!」

 アルカディア号殿がクルー妖精達に指示を飛ばす。

 だがそのアルカディア号殿からも黒煙が噴き出ている。同じ艦娘?艦息?としてわかるが、あれは中破寸前だ。

 

 「攻撃を『親皇』の核に集中しろ!」

 『親皇』の核。それは取り込まれた京極自身だ。

 アルカディア号殿のありとあらゆる武装がヤツに叩き込まれていく。

 

 数瞬の後、『親皇』がグラリと揺れた。

 アルカディア号殿がサーベルを抜きその前に立つ。

 

 「わ、私の理想が…、こんな所で…。」

 「いや…、我が理想を受け継ぐ者は必ず現れ…、る。」

 「その日の為に…、貴様らを地獄の道連れにしてやる!」

 

 「悪を蹴散らし正義を示す。真宮寺長官から聞いた海軍の大儀を教えてやりたかったが、もはや人としての自我もそう残ってはいまい。」

 「それに先ほども言ったはずだ。地獄へは貴様ひとりで行けとな。」

 そう言うと彼は京極の額に深々とサーベルを突き立てた。




※以前、横須賀に同行した瑞鶴から聞いた通り。
 舞鶴第一鎮守府が柱島第七泊地との定期演習を勝ち取った際にはマリアと瑞鶴の両名は所属艦娘からそれはそれは感謝されたそうです。
 しばらくの間、舞鶴第一鎮守府では加賀が瑞鶴の肩や足を揉む光景が見られたとか?

※神崎家の跡取り
 はい、すみれさんですね。
 デスシャドウ島に帰還した際、花火さんから冷えっ冷えの視線を向けられる事になるのですが、さすがは鋼のメンタル。全然気にしなかったそうです。

※この船を造ったのは我が友。偉大なる我が友が造った
 アルカディア号に乗り組む事になった台羽正にハーロックが語った一文です。


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第135話 提督救出編12(艦娘側:レニ護衛艦娘 グラーフ・ツェッペリン1)

※山崎、京極という最大の障壁を取り除いたアルカディア号と海軍。
 どうなっていくのでしょうか?


  アルカディア号の勝利に私達護衛艦娘からも喜びの声が上がった。

 提督と抱き合う者、ハイタッチを行う者など様々であったが皆一様に嬉しそうなのは同じだ。

 

 「きゃああっ!!」

 だが、そんな私達を嘲笑うかのように突然激しく第二海保が揺れ出し天井や壁にヒビが入り始める。

 

 「みんな早く脱出するんだ!」

 

 「脱出といっても出口までかなりの距離があるわ、急いで!」

 大神殿とタチバナ中将が皆を急がせるが…。

 

 「提督、危ない!」

 

 「階段が?!」

 私がレニ提督を引き戻したのと同時に階段がガレキで塞がった。

 

 「こら拙いで!」

 

 「くっ! アタイ達、ここまでなのかい?!」

 紅蘭大佐や桐島中将が唇を噛む。

 京極に山崎といった国賊を討ったというのにこれでは…。

 だが、神はどうやら私達を見捨てはしなかったらしい。

 側壁に穴が開いて移乗用アンカーチューブが撃ち込まれてきたのだ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「全員、無事でっか?!」

 

 「時間がありません、急いでください!」

 ヤッタラン殿と螢殿に急かされ続々と駆け込んで行く提督達。

 が、最後尾にいるタチバナ中将と護衛艦娘の那智へ天井が落下する!

 

 「マリアさん!」

 

 「っ!」

 思わず目を背けるもお二人が圧し潰された気配が無い。

 恐る恐る目を向けるとアルカディア号が落ちてきた天井をささえていた!

 

 「アルカディア号さん!」

 

 「アルカディア殿!」

 

 「二人とも何をしている、早く行け。」

 

 「でも!」

 

 「俺の事は心配しなくていい。」

 

 「約束して、無事に脱出するって!」

 

 「フッ、分かった。」

 タチバナ中将と那智がチューブに入ると同時にシャッターが閉まった。

 京極という主を失ったせいだろうか?

 デスシャドウ島が第二海保から離れた途端、全てが崩れていく。

 アルカディア号が無事であれば良いのだが…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「アルカディア号さん…。」

 へたり込んでしまう北大路大佐。

 護衛艦娘の赤城、そして伊勢と日向も呆然として第二海保があった辺りを見つめている。

 

 「まさかキャプテン、化けて出てこやへんやろな?」

 

 「ヤッタラン副長、縁起でもない事を仰らないで頂きたいですわ! あの人に限ってそんな…、大事がある訳ありませんわ!」

 

 「落ち着いて下さい、神崎提督。それよりもタチバナ提督、キャプテンは何か言っていましたか?」

 流石は台羽殿、アルカディア号のクルーだけはある。

 それほど慌てたり取り乱したりはしないのだな。

 

 「絶対に脱出するって…、そう約束を。」

 

 「なら大丈夫。キャプテンは約束を守る男です。それがどんな小さな約束でも…、命をかけて守る男です。ほら。」

 ミーメ殿が指差した先には小さな黒い点が。

 やがてそれは段々と大きくなりハッキリと人の形と認識できる形に。

 暗緑色の船体、艦種にある巨大なTotenkopf(トーテンコップ)、そしてゼーアドラー。

 間違いない、アルカディア号だ!

 

 「アルカディア号さん!」

 

 「良かった(グスッ)…。」

 神崎中将と北大路大佐の顔にようやく安堵の色が浮かんだ。

 

 「ふぅ…。」

 タチバナ中将も大きく息を吐き椅子に背中を預ける。

 あれだけの気丈な方でもさすがに凄い重圧だったのだろう。

 今や、彼は柱島第七泊地だけでなく海軍全体の希望の星なのだ。

 自分を助けたせいで彼が戻らなかったらと、その気持ちは察するに余りある。

 が、全員が安堵したその矢先、今度は神崎中将と北大路大佐との間で砲弾が飛び交い始めた。

 

 「さすがは神崎家の跡取りですわ。」

 これには正室の北大路大佐も負けて(黙って?)はいなかった。

 

 「神崎提督、それは違います。彼は北大路家の跡取りなのですから、これからはお間違えにならないようお願いしますね。」

 いつもの柔らかい北大路スマイルはそのままだったが、室内の温度が一気に下がった。

 

 「あら、花火さんたら面白い事を仰るのね(笑)。」

 

 「いえ、とても神崎先輩には敵わないと思っているのですけれど(笑)。」

 正室と側室筆頭との間で絶対零度の寒風が吹き荒ぶ。

 

 「そう? でも私の方が婿殿を満足させて差し上げることが出来ると思いますわ。何をすれば彼が喜ぶ(悦ぶ?)か知っておりますもの。」

 

 「あら、女性の匂いが好きという事なら私も存じ上げています。体臭で硬度70%、髪で85%、脇や足で100%回復するのですから(笑)。」

 

 「まあ、硬度の回復だけなんですの? 私は足で暴発までさせてしまいましたわ(フフン)。」

 

 「あらあら、神崎先輩ったら暴発ですか。それは勿体ないですね、私は無駄玉なんて撃たせませんでしたけど(クスッ)。」

 これ以上無い笑顔のままバチバチと火花を散らす北大路大佐と神崎中将。

 思わず引火物が物が無いか周りを確認してしまった程だ。

 

 「おほほほ。」

 

 「うふふ…。」

 どちらからともなく二人が笑い始めた。

 

 「おーっほっほっほっ!」

 

 「あはっ、あはははは!」

 やがて神崎中将は扇子を、北大路大佐は口に手を当てた高笑いへと変わって…。

 帰りたい、いやせめてこの部屋から出たい。

 台羽殿は女の怖さに免疫が無いのであろう、まるで生まれたての小鹿のように震えている。

 他の提督や護衛艦娘もあまりの内容に目が点に…、なっていない?!

 って、揃いも揃って何を熱心にメモしているのだ?!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「ふうん、あの人は女の匂いが好きなのか…。」

 て、提督?!

 隣りを見れば我がレニ提督も髪で85%、脇や足で100%の硬度を回復するのかと呟いている。

 ダメだ、頭が痛くなってきた。

 だが、非常に有益(何の?!)な情報でもある。

 わが提督にもシッカリと有効活用して頂かねば。

 提督もビスマルクも私もオイゲンも同じドイツ系として演習で彼が訪れるチャンスを逃すまいと手ぐすねを引いて待っているのだ。

 窓の外に目を向けると、海賊旗をなびかせデスシャドウ島の隣を飛ぶアルカディア号が見える。

 改めて考えるとあれだけのお方だ、皆が夢中になるのも無理は無い。

 

 おや?

 アルカディア号からの電文が入ったようだ。

 ヤッタラン殿が読み上げてくれる。

 

 「キャプテンから入電や。えー、なになにデスシャドウ島は横須賀沖に帰還されたし。本船はこのまま首相官邸まで向かう…、やてぇ?!」

 




※大神:それでは本日のメインイベント、アルカディア号争奪選手権、無制限一本勝負を行います!
 青コーナー、側室筆頭(挑戦者)『神崎すみれ』ェ!
 赤コーナー、正室(チャンピオン)『北大路花火』ィ!

 真宮寺:レフリーは台羽君にお願いしますね。

 台羽:ええっ! ボクですか?!
    できれば遠慮したい、かな…。

 青葉:で、どっちを応援するんですかぁ?

 台羽:いえ、その…。すいません、無理ですっ!

 花火:あっ!

 すみれ:逃げましたわ! 花火さん、追い詰めますわよ!

 青葉:追いかけるではなく、追い詰めるですか…。

 真宮寺:そりゃ逃げても不思議ではありませんね。


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第136話 後始末編1(アルカディア側1)

※位置関係

  アルカディア号♂
 ------------------               --------
          |------------|------------|
          |------------|------------|階段
          |------------|------------|
          |------------|------------|
        波野静香♀


 (後は反海軍派の一層だな。京極や山崎らを失った今ならそれ程、難しい事ではないだろう。)

 (恐らく今回の海軍解体の命は波野静香が色仕掛けか何かで首相に迫ったのだろう。ならば首相秘書や首相本人にもお礼をしておかないとな(笑)。)

 そうこうしている内に首相官邸に到着したので、そのまま門兵?陸軍兵?に声を掛けた。

 

 「首相閣下にお目通りを願いたい。」

 ところが俺の姿を見た途端、門兵達は悲鳴を上げて職場放棄。

 労せずして中に入れたのは良いのだが、結構なカワイ子ちゃん二名だったので、おじさんは結構傷付いてしまった(泣)。

 建物内を歩き回っていると何人かの陸軍兵やSPが銃を向けてきたが、視線を向け返すと慌てて退散していく。

 半時間ほど歩き回っただろうか、ようやくこの階段を登れば首相の執務室という所で後ろに誰かが立ったのが分かった。

 

 「止まりなさいハーロック、いえアルカディア号。」

 

 「嫌だと言ったらどうする? 首相第一秘書、いやマゾーン地球総司令『パフィオ』(笑)。」

 ワザとマゾーン地球総司令の部分に力を入れてやる。

 

 「私の事を知っているのか。やはり貴様は我がマゾーンにとって危険な存在だ。」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 いきなり銃の引き金を引いてきたパフィオ。

 床に伏せコスモドラグーンで応戦する。

 しかし、普通いきなり撃ってくるか?

 キレイなお顔立ちして随分と物騒なお嬢さんだな。

 普通なら、ここは二階にあった軽食ラウンジでお話でも?の流れだろうに(願望)。

 廊下と階段の上がり場の角を利用して撃ち合うもパフィオの銃の腕前は流石、地球総司令を任されるだけはある。

 このままでは埒が明かない。そう考えた俺はワザと銃を弾き飛ばさせるように仕向けた。

 

 「勝負あった様ね(笑)。」

 近づいてくる足音…。

 一撃で仕留めないとコチラがやられる。

 音を立てないようにゆっくりと重力サーベルを抜く。

 

 「あうっ!」

 姿が見えた瞬間を狙い、彼女の足を打ち抜く。

 倒れ込むパフィオ。同時に彼女の手から銃が落ちる。

 

 「そうか、重力サーベル…。」

 何故、という表情だったが俺の重力サーベルから立ち上る煙を見てすべてを理解したみたいだ。

 ガックリと項垂れるパフィオを後に俺は首相がいる部屋へと向かった(勿論、コスモドラグーンは回収した)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 首相執務室の扉をノックする。

 おかしい、反応が無い。

 もう一度、ノックするもやはり反応が無い。

 

 「返事がない、ただの屍の様だ。」

 お約束をやった途端、中から声が聞こえてきた。

 

 「開いておるよ、入り給え。」

 

 「失礼する。帝国海軍『柱島第七泊地』北大路花火大佐の許に仮所属している宇宙海賊船アルカディア号だ。」

 この世界の事だから女性首相かと思ったが以外にも首相は男性であった。

 でもキャプテン・ハーロックにでてきたあの首相そのままなのが、イヤな予感しかしない。

 首相はコチラの姿を見るなりよく辿り着いたと褒めてきたが、直ぐに出て行き給えと告げてきた。

 

 「それは無理な相談だ。地球連邦首相閣下、まずは今回海軍に対して出された命令の取り下げをお願いしたい。」

 俺の分までとは言わないが、このままでは大神殿や真宮寺長官をはじめ多くの提督達や艦娘達が逆賊になってしまう。

 それだけは何としてでも避けなければならない。

 

 「それこそ無理だというものだよ、チミィ。武装解除どころか逆に陸軍大臣の京極君や山崎少佐まで…。」

 そんな恐ろしい組織を野放しになんて出来んよ、チミィと取り付く島もない。

 どうやら彼等がマゾーンと繋がっている事を知らないらしい。それどころか、マゾーンの恐ろしさすら分かっていない可能性がある。

 仕方ないので彼にはマゾーンとは何かという事とその恐ろしさを丁寧に説いて聞かせてやった。

 そしてあの二人がマゾーンと繋がっていた事も、さらには他にもつながっている者が多数いると思われる事もである。

 勿論、扉の向こうで転がっている波野静香がそのマゾーンの地球総司令である事もだ。

 首相は黙って聞いていたが、やおら葉巻を灰皿に押し付けると今度はゴルフクラブを手に取り窓際へと歩いて行った。

 

 「チミの話はなかなか面白い、何なら出版社にでも持ち込んだらどうかね?」

 「だが生憎、私はSF雑誌の編集者でもないし作家でもないのでその辺の面倒は見てやれんのだよ。」

 首相はコチラに目を向けようともせず、ゴルフクラブをゆっくりと上下させる。

 

 こら、あかんわ。

 全く、いつの時代も政治家というのは自己の保身と利益しか考えていない。

 完全にこいつらのために戦う気が失せてしまった。

 これからは花火や神崎閣下、果てはこの国のために戦ってくれている崇高な艦娘様達のためにこの力を振るう事にしよう。

 

 「ならばオレ達はオレ達で勝手にやらせてもらう。今回のようにその邪魔だけはしないでくれ。」

 

 「あ~、ダメダメ。それは無理と言うものだよチミ。今回、陸軍に投稿しなかった海軍の連中は全員Zナンバーだ。Zナンバーはいわば死刑囚と同じく犯罪者扱いでね、市民権も無い。人間として認められんのだよ…、ひいっ!」

 首相がゴルフクラブを放り出して机の下に身を隠したと同時にそれまで彼が立っていた後ろのガラス窓が砕け散った。

 振り向くとパフィオがよろめきながら銃を?!

 しまった、トドメを刺さなかったのが仇になったか!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「マゾーンの事を知られたからには首相といえども生かしておく訳にはいかない、死んでもらう!」

 ハチの巣になる首相の執務机。

 

 「ひいい! アルカディア君とかいったかね?! チミ、何とかしてくれ給え!」

 

 「今の今でよくそんな事が言えるな…。」

 前世ではオレも散々やらかしてきたが、その自分が呆れてしまう程である。

 何かもう逆に感心してしまうわ(笑)。

 

 「ほら、早く! 反逆罪は無しにしてZナンバーも取り消してやろう、なっ!」

 「提督と艦娘の個人情報もキレイに…、うひゃあ!」

 あの執務机、かなりハチの巣になってしまっているが、どうやって躱してるんだろう?

 気になって執務机の裏を見ると、あの狭い中でシャーロックホームズの踊る人形というかマトリックスさながらの状態になっている。

 なかなかに器用なオッサンだな(笑)。

 

 が、あんなオッサンでも死なせてしまえばオレの、ひいては海軍の責任になってしまうだろう。

 仕方ない、パフィオを止めるとするか。

 狂ったように銃を乱射する彼女だがアルカディア号にとってはなんの効力も持たない。

 手首を鷲掴みにし彼女の手から銃を取り上げ、延髄に手刀を入れて意識を刈る。

 そのまま亀甲縛りにすると、彼女を連れてデスシャドウ島へと帰還した。

 何、あまりよろしくない単語?

 チョットなに言ってるかわかんないデス…。

 

 なお、首相の『無しにしてあげるから』という部分はシッカリと記録に残しておいた(笑)。

 




※主人公:本編でも触れた通り(教育上)よろしくない単語があった気がするのだが?
 作 者:はて、そんなのがありましたかね?
 主人公:普通、亀甲縛りは知っていても縛り方を知っているヤツはいないぞ。
     これではまるでオレが普段からそういうプレイに勤しんでいるみたいではないか。
 作 者:神崎中将やタチバナ中将、あるいは藤枝少将といった男勝りな方々なんかどうです?
 主人公:それも捨てがたいが、そういう事とは無縁のワースパイトやアークロイヤル辺りを…。
 作&主:悪くは、ない(ネルソン風)!×2
 主人公:さて、こんな与太話をお気に入り登録や評価をしてくれた方々にアナウンスがあるのではなかったか?
 作 者:そうでした!
     いつも目を通して頂いている皆様、本当にありがとうございます。
     年内の投稿はこれが最後です。
     また年明けにお会いできるのを楽しみにしております。
     この後始末編が終われば、少しの間ですが提督達や艦娘達には平和に過ごしてもらいましょう。


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第137話 後始末編2(艦娘側:日向1)

※皆様、あけましておめでとうございます。
 旧年中はお世話になりました。本年もよろしくお願い致します。

 そして、日向さん。一段落付いたら早速アルカディア号に凸ですか…。


 日が水平線に沈もうかという頃、ようやくアルカディア殿が帰投した。

 波野静香をデスシャドウ島の一室に放り込んだ後、首相官邸での経緯を説明するアルカディア殿。

 

 命令を白紙に、なんてアテに出来ないんじゃないのかというロベリア提督だったが、首相閣下がマトリックス状態になっている映像を見ると納得していた。

 ついでに、これならアルカディア殿に縋りたくなる気持ちも良く分かると大笑いされていた。

 更に約束を違える事があれば二度と助ける事は無い、と言われた首相閣下が残像が残るぐらいの勢いで首を縦に振っている映像を見た時は私まで吹き出してしまったな、あれは(笑)。

 

 そこからデスシャドウ島を横須賀へと横付けしたアルカディア殿。

 大神殿と真宮寺長官と共に第一鎮守府と第二鎮守府を占拠している陸軍兵に引揚げる様に依頼したのだ。

 首相閣下の命令が取り下げられたと大神殿や長官が説得するも、受け入れられないと一点張り。

 止むを得んか、とアルカディア殿が腰の銃に手を掛けようとした時、横一列に並んだ陸軍佐官達の後ろから大きな声がした。

 

 「てめえら何チンタラやってやがる、サッサと引き上げだ!」

 あれは…、陸軍中将の米田一基殿?!

 

 「米田中将殿?! しかし!」

 

 「聞こえなかったのか! 首相閣下から海軍に対する陸軍への投降命令は確かに解除されている。店仕舞いを急げ!」

 再び米田中将に一喝され渋々、引き揚げ準備を始める陸軍兵。

 

 「お前がアルカディアってヤツか。成程、良い目をしてやがるぜ。俺は陸軍の米田ってもんだ。今回は色々と騒がせちまったな。」

 

 「その階級章は…、中将閣下であらせられたか。感謝する。」

 

 「いいって事よ。俺も今回の件に関しては随分と納得のいかない部分が沢山あるんでな。」

 礼を述べるアルカディア殿に対して米田中将は気にする事は無いと彼の肩を叩いた。

 とにかく全員、逆賊にならず一安心だ。

 

 「取り敢えず今日はもう休みましょう。この二日間、いろんな事があり過ぎましたから。」

 長官の仰る通りだ。

 割り当てられた部屋へと向かっていく提督と艦娘達。

 だが、私にはまだやる事があるのだ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 アルカディア殿の部屋の前。一呼吸した後、ドアをノックする。

 ややあってドアが開き彼が顔を出した。

 

 「日向か、珍しいな。何かあったのか?」

 

 「頼みがあるんだ。」

 ジャケットをサイドテーブルへ置き、ソファーに座る彼に後ろから手を回す。

 

 「日向?」

 

 「私も…、頼む。北大路提督に神崎提督、それに翔鶴とくれば…、分かるな。」

 「ここ最近、先の三人は明らかにふいんき(何故か変換できない)が変わった。君のせいなのだろう。」

 アルカディア殿が焦っているのが手に取るように分かる(笑)。

 

 「全艦種側室筆頭は俺が勝手に選んだだけだ。無理にとは言わん、嫌なら断ってくれていい。」

 

 「何故だ、君に選ばれて断る女なんているはずが無いだろう?」

 

 「いや、摩耶とか榛名とか…、んっ。」

 彼が振り返った所を狙って唇を重ねる。

 同時に感じられる殿方の濃密な臭いを堪能する。

 

 「女の匂いなら分かるが男の体臭など何が良いのか分からん。」

 

 「同じ事だ、君だって女の匂いが好きなのだろう。なら私のはどうだ?」

 

 「女の…、堪らない匂いがする。」

 長門に次ぐと云われているカタブツの私だが、そう言われてそれを保っている事など出来はしなかった。

 アルカディア殿に伸し掛かると、蹴る様に靴を脱ぎ捨て足を開放する。

 予想以上の恥ずかしい臭いに、しまったと思ったが丸二日、風呂どころかシャワーさえ浴びる事が出来ていなかったのだ。

 まあこれも女の臭いだ、我慢してくれ。

 

 そのまま足を絡めるたび、パンストが擦れる特有の音が響く。

 他に聞こえるのは私が彼の唇を貪る音だけ。

 立ち上がりスカートを床に落とす。

 普通なら上品に見える薄茶色のパンストも伊勢や私だとさらに地味さを強調しているようにしか見えない。

 だが、その下には何もない。云われる直穿きというヤツだ。

 

 「この方が良いと教えてもらったんだ。」

 そう言うと自分で一部分に穴を開ける。

 

 「あいつ(翔鶴)め…。」

 殿方特有の逞しい手が私の双丘に触れる。

 明らかに自分で触るのとは違う明確な快感。

 擦り潰される度に硬さを増して立ち上がってくるその先端は自分の女として淫欲逞しい様を見せつけてくる。

 加えて時折に出る艶やかな声、それが自分の声だという事実がより私を昂らせていく。

 さあ、私にも君の証を…。

 ………。

 ……。

 …。

 

 ふう…。

 心地良い気怠さに包まれながら二人の時間を思い返す。

 時計を見ると夜中の03:20。

 何度も愛し合ったのもあるのだが、私とて艦娘だ。人間とは体力も違う。

 一段落しても彼の匂いに包まれている内にまた…、と相成ったのだ。

 勿論それは私だけではない。アルカディア殿も私の髪や脇、果ては女としての部分まで…。

 色んな意味で君を知れて良かったよ。

 私を全艦種側室筆頭に選んでくれて本当にありがとう。

 でもたまには伊勢も相手してやってくれ。

 彼女だって君にベタ惚れなんだ。

 ただ、私を超えるような事があってはダメだぞ(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 翌日の提督会議ではこれからの事が話し合われ、色々な方針が決定された。

 まずは波野静香。

 彼女の様子からしてマゾーンと深海棲艦は決して一枚岩ではないみたいだ。

 下手をするとマゾーンよりも深海棲艦の方が強敵になるかもしれない。

 

 その日の晩、夕食は立食形式だったのだが、北大路提督がお手洗いへと席を外した時にタチバナ提督がアルカディア殿に声を掛けてきた。

 

 「花火、柱島第七泊地として恒例の年間行事予定は何がある?」

 戻られた提督に年間行事の確認をするアルカディア殿。

 一体何故、そんな事を聞くのだろう、と思ったがこれはタチバナ提督をはじめとした他提督達にまんまとしてやられてしまった結果となった。

 

 「年間の恒例行事ですか? ウチとしては『初詣』・『お花見』・『秋祭り』・『クリスマス』ですね。」

 

 「四つか。節分や海開き、忘年会は?」

 

 「節分は海防艦や駆逐艦、軽巡艦娘に気の向いた大型艦が好きにやってくれていますし、忘年会はクリスマスが兼ねています。あと海開きに関してはありません。」

 艦娘達にとっては年中海開きのようなものですから、と提督がクスッと笑った。

 提督の言う事は尤もだ。まあ、そうなるな。

 今度はそれを聞いたアルカディア殿が他の提督達に何やら伝えに行く。

 

 やがて北大路提督以外の提督と護衛艦娘が一か所に集まり始めた。

 中央には箱が置かれているが…。

 護衛艦娘の面々は雪風・時雨・瑞鶴・隼鷹・飛龍…、か。幸運艦ばかりだな。

 まずはエリカ提督の瑞鶴が箱に入っているカードを取り出した。

 

 「やったあ! 提督さん、夏祭りだよ!」

 エリカ提督に『夏祭り』と書かれたカードを見せる瑞鶴。

 二人して飛び跳ねている。

 

 続いては宿毛湾第一泊地の大鳳。

 藤枝提督はあんなことがあったのばかりなので提督会議には代理で彼女が出席していたのだ。

 気合十分でカードを取り出した彼女だったが、書かれている『ハズレ』の字を見た途端、頭を抱えてしまった。

 

 三番目にカード引いたのはタチバナ提督自身。

 トボトボと戻って行く大鳳を尻目に外さないわよ、と言っていたが銃の腕を信じての事だろうか。

 ふんっ、と鼻息荒く引いたカードには『忘年会』の文字。

 軽いブーイングの中、カードを持った手を突き上げてピョンピョンと飛び跳ねるタチバナ提督。

 あの人、あんな表情が出来たのか…。

 

 四番目は横須賀第二鎮守府の時雨。

 ここは譲れない、と引いたカードには『雛祭り』の文字が。

 この勝利、僕の力なんて些細なモノさ、とあくまでもクール。

 

 この調子で神崎提督は『新年会』、レニ提督は『節分』、メル提督の飛龍は『端午の節句』、ラチェット提督は『七夕』、ダイアナ少将は『花火大会』、ソレッタ提督は『お月見』、シー提督は『紅葉狩り』のカードを引いていく。

 

 ここまでくると私にも見えてきた。

 各行事にかこつけてアルカディア殿を招待するつもりか。

 あらかじめウチの行事と重なって断らせないように、前もってアルカディア殿に確認を取らせた、と。

 

 「グリシーヌ、あなたまで…。」

 隣では北大路提督がブルーメール提督に恨みを籠った眼を向けている。

 

 「わ、私は止めたのだぞ!」

 

 「そうですわ、ブルーメール提督が辞めた方がいいと仰ったのは本当ですわ。」

 

 「まあ、そうね。一応だけど(笑)。」

 タチバナ提督がクスッと笑ってブルーメール提督を見た。

 

 「そうだったの。悪かったわ、グリシーヌ。でもさっき、間宮券を四束も時雨の内胸に捩じ込んでいたのはどうしてかしら?」

 極上の笑顔を向けられたブルーメール提督は頬をポリポリしながら、いや白露・村雨・夕立の分もと強請られてゴニョニョ…、と歯切れが悪い。

 

 「まあまあ、最初にアルカディアさんに確認しに行ってもらったじゃないですか。」

 同じ巴里組のエリカ提督が宥めにやって来た。

 

 「来年からはウチでも全部やりますからね!」

 プイッとそっぽを向く北大路提督だったが、

 

 「そんな事をしても日程が重ならないようにすればいいだけの話じゃないか。なあ、みんな(笑)。」

 ロベリア提督が二本の指に挟んだカードをピッと裏向ける。

 どうやらここの雪風も幸運の女神のキスを感じたらしい。

 なに、カードの文字?

 こう書かれていたよ、『ハロウィン』と…。




※波野静香
 この後、彼女からこの世界の深海棲艦の成り立ちに付いて驚くべき内容が語られます!
 それは一体?!

※日向さん
 不動心の塊のように思われている航空戦艦娘。
 でも結構、ムッツリだったことが判…(ドゴーン)。

 「主砲、四基八門一斉射!」

※ハロウィン
 トリックオアトリート、ですが圧倒的にイタズラさせろの艦娘が多くなりそうな気が…。
 この『一番くじ』は毎年、少し形を変えて行われるようになったそうです。
 秋口になると、各鎮守府・泊地・基地・警備府から幸運艦が集まって各希望行事でクジを引く光景が。
 なお、翌年からは台羽君は勿論、ヤッタラン副長・魔地機関長も強制参加になったとか。
 完全にプロ野球のドラフトの様相を呈するようになってしまったようです。

 ※来週は勤務の都合上、投稿はお休みさせて下さい。
  申し訳ありません。


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第138話 後始末編3(艦娘側:桐島カンナ1)

※皆様、お久しぶりです。
 今回はこの物語の中での深海棲艦がどうやって誕生したかが波野静香から語られます。


デスシャドウ島ブリーフィングルーム

 今、アタイ達はコの字型に並べられたテーブルに座っている。

 中央には拘束された波野静香。そして艤装を展開したアルカディア殿が睨みを利かせているといった状態だ。

 

 元帥も真宮寺長官もいつになく深刻な顔をして座っている。

 いや海軍関係者だけではなく、先の米田一基陸軍中将までもが大神元帥の隣に座っているのだ。

 隣にいる『すみれ』や『マリア』にコッソリと聞いてみたが、二人とも一体何事かは知らねえって事だった。

 護衛艦娘さえ排除する位だ、軍機扱いに準ずるのは間違いねえ。

 やがて長官がおもむろに口を開いた。

 

 「皆さんは深海棲艦がどうやって誕生したかご存知ですか?」

 皆顔を見合わせる。

  1.どうやって誕生したのか?

  2.目的は何なのか?

  3.ドコから現れるのか?

 この三つは奴等が現れてから今までずっと謎だった事だ。

 

 「ここにいる波野静香はマゾーンだ。マゾーン名はパフィオ、マゾーンの地球総司令官だ。」

 途端に今まで静かだった室内が俄かにざわつき始める。

 異星人と聞いていただけにホイミスライムのような見た目を想像していたが、私達と何ら変わりはない(それはそれで可愛いが)。

 聞けば艦娘や深海棲艦と同じく女性体しか存在しないというじゃねえか。

 そして何より…、ため息が出るほど美しい。

 女のアタイから見ても、だ。

 『すみれ』や『ラチェット』に引けを取らないどころか、それ以上なのは間違いねえな。

 

 「ちょっと待ってえな。ほな長官は深海棲艦がどうやって誕生したか知っとるんか?!」

 

 「落ち着いて下さい、紅蘭大佐。私もつい先程ですけれど、ね。波野さん?」

 長官が波野静香とやらに目を向けた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 話を振られて観念したのだろう、波野静香とやらが口を開いた。

 

 「貴女達は降魔、と呼ばれる闇の存在を知っているかしら?」

 そういうと彼女は陸軍の中に降魔と呼ばれる魔の力を持って戦争を有利に運ぼうという考えがあった事から説明し始めた。

 そして、その中心にいたのが山崎少佐や京極陸軍大臣だったって話だ。

 降魔というか魔物など、先日までは一笑に付していただろうが、京極の力を見せつけられた今となっては信じざるを得ない。

 彼等は数少ない男性である事を活かし、周りの女性士官や将官を取り込むと降魔を降ろせそうな対象を見つけようと躍起になった。

 その中にマゾーンの地球侵略先遣部隊の兵がいたらしい。

 通常なら使用する兵器が段違いなのでマゾーン兵が遅れを取る事は無いのだが、まれに人海戦術に屈する者がいた。

 まあ、あれだ、ティーガー戦車がM4シャーマンやT34に飲み込まれていくようなもんだ。

 

 だが、マゾーン兵でも降魔を降ろす器とは成り得なかった。

 おかげで計画は頓挫するかに思われたが、ここで起こってはいけない奇跡が起こってしまったのだ。

 陸上植物に同化していたマゾーン兵ではなく、海藻に同化していたマゾーン兵に降魔を降ろす事に成功したのだ。

 何度やっても結果は同じで水生植物に同化、あるいは擬態していたマゾーン兵だと降魔を降ろす事に成功する。

 

 ここで辞めておけばよかったのに欲をかいたのが仇となった。

 更なる究極の生物兵器となるように放射線を当て続けたっていうじゃねえか。

 だが見た目に変化が無くても、ヤツらはその裏で日に日に進化を遂げていやがったんた。

 そしてそんな危険な存在を人類が制御できる訳が無い。

 

 そして、事故は起こってしまったのだ。

 ある日、研究員のミスに乗じて一体の研究生体が脱走、地下の研究施設を破壊し(研究員曰く、檻が飴細工のように曲げられたとの事)、仲間達と共に全検体が海へ川へと帰って行ったらしい。

 脱走した検体の捕獲を試みたが所詮は陸軍、海の戦い方など分からない彼らに勝ち目など無かった。

 それ以前に、そもそもの戦闘力が違い過ぎた。

 捕獲部隊の全滅が二桁を超えた頃、今度は密かにマゾーンへと泣きつき協力を依頼したのだ。

 彼女達の地球侵略を手助けする代わりに始まりの深海棲艦の捕獲、そして侵略後の自分達ポストの保障と引き換えに、だ。

 

 マゾーン側も最初は突っぱねたかったらしいが、ある時マゾーンの大隊が全滅した。

 調査の結果、この始まりの深海棲艦達とそれが作り出した鬼姫達の攻撃を受けた事が原因だと判明。

 このままでは人類とは比べ物にならない障害になると判断した彼女は地球総司令官として、何とかしようとしたが、始まりの深海棲艦達はレーダーに引っ掛かりにくい上にマゾーンの地球先遣隊では鬼姫までしか攻撃が通じないのだという。

 マゾーンにしてみればかつては自分達の一兵卒に過ぎない連中が牙を剥いてきたのだ。

 当然、面白くはないだろうし、このまま放っておく訳にはいかねえ。

 已む無く、京極や山崎と情報共有をしてたって訳だ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「それは本当ですの?」

 『すみれ』の言う通りだ。

 アレを作り出したのが人類?

 冗談じゃねえ、そんな話があってたまるかよ…。

 

 「信じるも信じないも貴女達の自由よ。でも、いずれ女王ラフレシア様の本隊が始まりの深海棲艦の殲滅をしてくれるはずだわ。」

 

 「その始まりの深海棲艦とやらは…、何隻おるんや?」

 

 「五隻ね。そして彼女達は単独で動く事はあまり無いわ。普段は海底ピラミッドの奥深くで、侵攻してくる時はお互いの長所を活かし短所を補うために五人一体となってやってくる…。」

 

 「なんだい、そりゃ。アンタ達でもどうにもならないってんなら、一体こっちはどうすれば良いってんだ…。」

 ロベリアの言う通りだよ、全く。

 何でも放射線を当て続けたのが悪かったらしく、それに対する耐性が出来てしまったとも…。

 

 「俺もそんな連中が三位一体どころか五位一体となっていたなんて聞いた事が無いがな。一体、いつの事なんだ?」

 

 「米田さんが知らないのは無理もないわ。それはマゾーンに対してだったから。それに、連中は自分たちが耐性がある事を利用して大規模な放射線兵器を開発してる事も私達は掴んでいるわ。」

 な、何だって?!

 大規模な放射線兵器って…、何だそりゃ。

 そんな物騒なモン使われたら人類どころか地球が終わっちまうぞ!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「とにかくだ。そこにいる波野静香の言葉を信じるってんなら、あんな連中を作り出したのは我が陸軍って事だ。責任を持って研究施設の跡地や研究結果が残っていないか徹底的に調査を行うことを約束しよう。」

 米田中将は何か分かり次第、いや見つかったものは全てデスシャドウ島の研究施設へと持ち込むと約束してくれた。

 

 けど、アタイ達に出来る事って一体何なんだ?

 武装や武器だけ未来技術を取り入れても使う艦娘達が今のままでは限度がある。

 第一、陸軍の大半は海軍に対して協力的ではないし、他にもまだまだ問題点は山積みだ。

 ただ100%鵜吞みには出来ねえが、幸いにも波野静香が言うには大規模侵攻などの動きは見られないという。

 だが、それもいつ連中が攻勢に出るか分かったもんじゃない。

 それに対する備えと対策、対応などをシッカリと協議しておく必要があるだろう。

 私達はここで一旦、解散となったが元帥と長官、それにアルカディアの三人は夕食前までブリーフィングルームから出て来る事は無かった。

 




※この世界の深海棲艦の誕生秘話が波野静香から語られました。
 彼女によると大規模な放射線兵器を使う可能性もあるとの事。
 もし、地球が放射線で汚染されてしまったらどうすれば…。


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第139話 後始末編4(艦娘側:青葉1)

※アルカディア号はもちろん、各提督さん達も艦娘達も激務続きだったので、少しお休みを上げたいと思います。(意訳:暫く戦闘回はありません。<(_ _)> )

 あと、総合評価がとうとう900を超えました。
 多くの方々に支えて頂いている事を改めて実感した次第です。
 これからもよろしくお願いいたします。



 今後の方針について話し合った翌日、横須賀一鎮と横須賀二鎮を再度、元の建物に移転させる事になりました。

 当面、深海棲艦の大規模侵攻も無いみたいですし、各地は資源の備蓄に努めて下さいとの長官からのお達しです。

 艦娘達にも来るべき時に備えて英気を養っておくように指示が下りました。

 で、帰る前に青葉達もこうやって横須賀一鎮と横須賀二鎖の移転作業をお手伝いしている訳ですが…。

 

 お、あそこに二航戦のお二人がいらっしゃいますねぇ。識別票は…、二鎮ですか。

 ちょっーと会話に耳を傾けてみましょう。

 

 「もうデスシャドウ島を司令部にしてしまえば良いじゃん。また移転なんて…。」

 

 「そうそう、蒼龍の言う通りだよ。トイレもハイテクだし、水回りもキレイだし冷暖房も直ぐに効くし、そこから戻れなんて…。ねえ、加賀さん?」

 

 「戻る事はやぶさかでは無いのだけれど…。」

 

 「どうかしたんですか?」

 

 「こう変更が続くとあの時(ミッドウェー)を思い出してしまって…。」

 

 「「「あー…。」」」

 なるほど、一航戦と二航戦の方々には運命の五分間とダブってしまったんですね。

 

 「心配するな。俺がいる限りお前達を沈ませはしない。」

 肩を落とす四人に後ろから来たアルカディア号さんが、俺が守ってやると大胆宣言!

 おかげで四人とも真っ赤になってフリーズしてしまいました。

 特に肩ポンされた加賀さんに至ってはシュンシュンと蒸気タービンの音がここまで聞こえています。

 いやはや、相変わらずアルカディア号さんは無自覚に粉をかけまくっていますねぇ (笑)。

 ここはウブな機動部隊四人衆を一枚頂きっ、と。

 次回の良いネタが出来たと喜んだ青葉でしたが(嬉しい事に)、これで終わりではなかったんです!

 

 「ちょっといいかしら?」

 

 「どうした加賀?」

 今度は険しい表情をしたウチの加賀さんが!

 いえ、加賀さんだけではありません。

 

 「どうしたではありません! 一体、どういう事ですかっ!」

 何時も柔らかい装情の赤城さんも、アルカディア号さんを睨んで一喝です。

 これは修羅場のヨカーン(グッ)!

 

 「私達は沈んでもいいというのね。側室筆頭艦に選ばれて喜んだ私が馬鹿だったわ…。」

 ヨヨヨとワザとらしく目元を押させる加賀さん。

 

 「あーあ、私達が接待をしなかったばかりに…。」

 飛龍さんが蒼龍さんの胸元を覗き込みます。

 言葉には出していませんが、正規空母ナンバー1の立派な二連山を遊ばせていた事を責めているようです。

 

 「そうですね。私も空母枠の正室に選ばれて営業努力を怠ってしまったのは事実です…。」

 おおっと、今度は赤城さんが意味深発言!

 飛龍さんの言う接待と赤城さんの言う営業とは一体どんな接待と営業なのでしょうか?

 ひょっとして性とか枕が付くアレですか?!

 

 「待て待て、そんな訳があるか。ウチの所属艦娘であればそれこそ沈ませることは無いぞ。」

 珍しくアルカディア号さんが慌てていますねぇ。

 ここも一枚頂きっと(笑)。

 

 「本当ですか?」

 赤城さんが目をウルウルさせてアルカディア号さんを下から見上げます。

 普段はあんなおっとり系のお姉さんを演じているのにやばり女の武器を知り尽くしているんですねぇ、いやぁ女というのは怖い怖い(笑)。

 

 「勿論だ、水雷戦隊だけではなくお前達大型艦の救出に向かった事も何度かあっただろう。」

 「それに最初に助けられたのは誰だか忘れたのか?」

 

 「「あ…。」」

 一航戦のお二人の声が重なりました。

 

 「お前達が沈んでもいい、というのであれば、あの時点で助けはしない。」

 そう言うとアルカディア号さんはニヤリと笑ってお二人の頭をポンポンしてウチの一航戦も大破させてしまいました。

 青葉には赤城さんの『真上…、直上?!』という心の悲鳴が聞こえたような気がしたのですが、ま、気のせいでしょう(笑)。

 当然、これも一枚頂きです。

 

 「ほう。では私の南雲部隊と花火の南雲部隊が危機的状況にあった場合、貴公はどうするのだ?」

 

 「それは私も気になりますね。どうなんですか?」

 後ろから聞こえてきた声に振り返るとブルーメール指令官と北大路司令官のお二人が!

 

 「そんなの両方助けるに決まってるだろう。このアルカディア号ならそれが出来る!」

 胸を張るアルカディア号さんですが、これはちょーっと頂けませんねぇ。

 その返答はこういう場合、一番ダメなヤツだと…。

 

 「確かにそうかもしれないけれど…。」

 

 「そんな答えを聞きたかったわけじゃないんだよねぇ…。」

 青葉の思った通りです。

 加賀さんと蒼龍さんがジリジリとアルカディア号さんに詰め寄った時、これまた特上のネタが転がり込んできたんです!

 

 「そんな質問をしてアルカディア号さんを困らせるものではないわ。」

 アルカディア号さんが両方の南雲部隊に囲まれた時、なんと藤技少将と台羽さんが腕を組んでやってきたんです!

 

 「かえでさん、って貴女?!」

 

 「花火さん、色々と心配をかけたわ、ごめんなさいね。」

 

 「いえ、それは構いません。でもそれ…。」

 

 「昨日ね、汚れてしまった私に台羽君は心まで汚れた訳では無いって言ってくれたのよ。」

 ウフフと喉奥から笑う藤枝司令官。

 ハイライトが消えた目が怖いです。

 桐島司令官がおーい、帰ってこーい、と手をヒラヒラさせていますが、当の藤枝司令官はまるでミュージカルのように両手を上に広げその間で二〜三回く一るくる。

 そのせいでスカートが広がって…。

 

 おおーっと、これは吊り下げ式(ガーター)

 藤枝指令ってば、結構大胆なのを着けているんですねぇ。

 身長の高いタチバナ司令官がサイズがないので吊り下げ式(パンストではなくガーターストッキング)だというのは有名ですが…。

 とにかく、これも頂きです、ハイ(パシャパシャ)!

 っていうか、これで台羽さんを誘惑したんですね?

 

 「彼は私に貴女が汚れているはずがないって。そう言って私を受け入れてくれたの。」

 そう言って台羽さんに寄り掛かる藤枝指令ですが…。

 

 (絶対嘘だ。『かえで』さんが彼をパクッといったに決まってる…。)

 困ったような顔の台羽さんを見てそう思ったのは青葉だけではないはずです。

 妖精さんの姿に戻った台羽さんを藤枝司令官がカエルのように舌を伸ばして捕食するシーンが青葉の脳内で再生されると同時に謎のナレーションが!

 

 ♪~♪♪

 アルカディア号が活躍した頃、宿毛湾の第一泊地に『藤枝かえで』という怪しいが美しい女性がいました。

 その女性の側にいた台羽妖精はたちまち捕食されてしまったといいます。

 その正体は何か?

 海軍軍令部は『藤枝かえで』の謎を探るため一人の新聞記者艦娘を呼びました。

 その名は…、青葉参上!

 って、古い古い。

 今時このネタが分かる方が一体どれだけいるのやら(汗)。

 

 「と、とにかく、アルカディア号さんにとっては全員が大切な仲間よ。順位付けなんでさせるものではないわ。」

 私達から目を逸らしつつもっともな事を仰る藤枝司令官。

 

 「そうですね、おかしなことを聞いて申し訳ありません。」

 

 「そうだな、私としたことが費公には随分と失礼な事を…。」

 北大路司令官とブルーメール司令官が謝りますが…。

 

 「アルカディア号さん?」

 何故でしょうか、今度はアルカディア号さんが呆然としていますねぇ。

 一体どうしたんでしょうか?




※アルカディア号が活躍したころ…。
 正しくは豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だったころ琵琶湖の南に金目教という怪しい宗教が流行っていた…です。
 あの忍者のOPですね(笑)。

※さすがの青葉もアルカディア号が自分のクルーである台羽君に藤枝かえで少将を取られて大変なショックを受けているとは見抜けなかったようです(笑)。


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第140話 後始末編4(アルカディア側2)

橫須賀第一&第二鎮守府

 現在、横須賀一鎮と横須賀二鎮はデスシャドウ島から移転作業の真っ最中。

 帝都お膝元の鎮守府ともなればかなりの規模となる。

 当然、機材から書類まで膨大な量に上るため、宿毛湾第一泊地と柱島第七泊地の艦娘達も総出で手伝う破目になった。

 いや、破目などと言ってはイカンな。

 ここは一つ、アルカディア号のイイトコを見せておくか(笑)。

 

 コンテナを吊り上げ横須賀鎮守府の二階三階の窓へと寄せる。

 後は待機している艦娘達が窓から中身を部屋へと運び込むという方式だ。

 このやり方のお陰で格段に効率が上がり夜明け前から始めた事もあって昼前には第一鎮守府、夕方には第二鎮守府の再移転作業を終わらせる事が出来た。

 所属艦娘達にも感謝されまくりで、コチラも鼻の下が伸びないようにするのに大変だったわ。

 

 ん、あれは第二鎮守府の一航戦と二航戦ではないか。

 何を話しているのかと思えばコロコロと変る命令がミッドウェーを思い出すだと?

 ふっ、このアルカディア号が(ハーレム構成員である)お前達が沈むのを見過ごすはすが無いだろう。

 少しでも不安が和らげばと思って加賀の肩にそっと手を置いたところ、缶が爆発しそうなぐらい真っ赤になってしまった彼女を見たウチの一航戦と二航戦に私達は助けてくれないのがと詰め寄られたりと相変わらず柱島第七泊地での扱いは一向に良くなる気配が無い…、凹む。

 

 それとは別に横須賀の艦娘にもウォシュレットは大好評。

 少しでも好感度を上げるために、ここの明石と夕張に図面を渡しておこう。

 後は勝手に量産してくれるだろうし。

 ついでに隠しカメラも…、いや何でもないぞ、うん。

 

 (女神:それ犯罪だから! ダメだからね!)

 

 バカな事を考えていると、今度は花火とブルーメール提督からそれぞれの南雲部隊がピンチの場合、どっちを助けるのかと聞かれてしまった。

 自信を持って両方助けるど答えたら、そんな答えを聞きたかったわけじゃないとまで言われる始末。

 オーマイカラー(アサヒペン)、じゃなかったオーマイガーだが、さらにそれを上回る出来事が!

 なんと台羽と藤枝少将閣下が腕を組んで現れたのだ。

 何でも傷心の少将閣下に、心まで汚れた訳では無いだの、貴女が汚れているはずがないだのと言葉巧みに入り込んだらしい。

 

 (女神:実顔は逆だけどね…。)

 

 藤枝少将閣下はタチバナ中将閣下に続く最重要(ハーレム)構成員として狙っていたというのに…。

 まさか伏兵に搔っ攫われてしまうとは…。

 仕方がない、略奪は趣味じゃないしな(血涙)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

デスシャドウ島

 「また貴方に助けられてしまいましたね。」

 

 「頼りっ放しで申し訳ないが、これからもよろしくお願いしたい。」

 デスシャドウ島の桟橋まで見送りに来てくれた長官と元帥殿。

 神崎中将閣下も、また近いうちに来て頂くことになると思いますわ、と手を握ってくれた。

 うん、おかげでメンタルが少し回復しました。ありがとうございます(拝)。

 

 (呼ばれるという事は護衛艦か。だが、次回の護衛艦はたしか足柄だったはず…。)

 そう思って次回の護衛艦は俺ではないと伝えたのだが…。

 

 「では、側室筆頭として要請致しますわ。これなら何も問題がありませんわね?」

 実は私の家に招待させて頂きたいですの、とお誘いを受けてしまった。

 実家? 神崎邸に?

 一体、どういう事なんだ。

 父上と母上がいらっしゃるのではないのかと聞いたら、だからこそですわと言われてしまった。

 神崎中将閣下の御両親とくればかなり厳格な方なのは間違いない。

 ハーロックとアルカディア号は大宇宙の無法者ゆえ、そのような方々は最も苦手な部類の人種。

 出来れば御免こうむりたいのだが…。

 

 「ではアルカディア号さん、私の実家にしましょう。北大路家ならそこまで厳しくありませんから。」

 考えていた事が顔に出ていたのだろう、今度は北大路邸へのお誘いが来た。

 

 「いや北大路家だって神崎家とそれ程変わるまい。やはり遠慮…。」

 

 「「お返事。」」

 

 「ん?」

 

 「「お返事は?」」

 二人とも超絶良い笑顔ですね〜。

 でも背中と腹に何か硬いものが…。

 って、それ対艦娘専用銃ってヤツじゃないですか、ヤダー。

 元帥と長官に目で助けを求めるも二人はこちらを向いたまま高速ホバリング走法で横須賀第一鎮守府の桟橋まで下がって行った。

 

 「さ、アルカディア号さん。帰りましょうか?」

 笑顔で出発を促してくる花火。

 なお、背中には対艦娘専用銃が押し当てられたままである。

 藤枝少将閣下にも助けを求めたのだが、台羽とラブラブで全く反応してくれなかった(泣)。

 そしてこの時、遠くにある禍々しい潜望鏡に誰も気が付く事は無かったのだ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

柱島第七泊地

 柱島に帰ってこれたのはPM08:30過ぎ。

 やっと帰ってこれたとか疲れたとか、ヘロヘロの艦娘達が大半の中、執務室へと向かう。

 

 「花火、入るぞ。」

 ノックしてドアを開ける。

 

 「少し話がしたい。」

 そう言った途端、花火がヒッと小さな悲鳴を上げた。

 小さく震えていたかと思うとポロポロと泣き出す始末。

 

 

 「あーっ、アルカディア号さんが司令官を泣かせたー!」

 ダッシュでどこかへ飛んでいく吹雪。

 もとより配下の艦娘達からは大変に人望のある花火だ、その彼女を泣かせたとあってアッという間に執務室が艦娘達で埋め尽くされてしまった。

 全員から向けられるジト目が痛うございます…。

 

 「アルカディア号よ。提督に一体何をしたのだ?」

 何もしてませんってば。

 ですから武蔵さん、そんな睨まないで下さい…。

 

 「何もしていない。部屋を訪ねたらいきなり泣き出したのだ。俺がいては花火も何があったか話難いだろう。螢、一体どうしたのか聞いてやってくれ。」

 有紀妖精がポンと人間体になったのを見届けた後、逃げるように執務室を後にする。

 いや実際逃げ出したんですけどね(泣)…。

 




※TV版の台羽くんは14歳、かえでさんは23歳とほぼ一回り違うんですねぇ。
 今は良いですが将来は…。
 おや、誰が来たようだ。

※実家へ連れて行って何する
 神崎:外堀を埋めるに決まっていますわ。
 北大路:お父様は孫の顔が見たいと仰ってましたから。

※禍々しい潜望鏡
 これまた何が不吉というか不穏な…。
 大事にならなければ良いですが…。


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第141話 後始末編5(艦娘側:赤城1)

※やはり赤城さんの食欲は半端ではなかったようです。


柱島第七泊地 執務室

 一体提督はどうされたのでしょうか?

 一緒にいた吹雪さんによると、アルカディア号さんは本当に何もしていないし、提督にお声を掛けただけだったらしいのです。

 

 「で、何があったんですか提督。私達もアルカディア号さんが提督に何かしたとは思えないのですが?」

 

 「…ちゃう。」

 

 「え?」

 

 「行っちゃう、アルカディア号さんがここを出て行っちゃう!」

 当然、執務室内は大騒ぎになりました。

 

 「提督、落ち着いて下さい。吹雪さんのお話ではアルカディア号さんは提督と少し話がしたいとしか仰っていないはずです。執務室の中へ入れてもらっただけなのにどうしてそうなるのですか?!」

 

 「私が最初からアルカディア号さんをお連れしていれば…。」

 「きっと…、あの人は私に愛想が尽き果てたに違いありません。それを告げに来たに決まっています!」

 さらに蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった執務室。

 私も目の前が真っ暗になりました。

 

 「有紀さん、何とかならないのですか?」

 大鳳さんが『螢』さんに縋るような目を向けます。

 

 「フフッ。」

 彼女は一人ポカンとした表情をしていましたが、笑い出したのです。

 

 「安心して。キャプテンは何処にも行かないわ。それこそ、貴女達に出て行けと言われない限りね。」

 

 「本当…、ですか?」

 

 「ええ。だってキャプテンは花火さんにベタ惚れだもの。」

 それを聞いてようやく私達にも生きた心地が戻ってきました。

 

 「(この世界に)側室制度が推奨されている以上、心配なのはわかるわ。」

 「でもキャプテンにとって一番は北大路提督、貴女なのよ。信じてあげなきゃダメ(笑)。」

 『螢』さんはそう言って提督を指でチョンしました。

 

 「まあ、強いて言えば『すみれ』さんに要注意ね。『マリア』さんは拒まずだけど勧誘までするような感じではないし。」

 「でも宿毛湾第一泊地だったら、そこの司令官ともども宇宙のワームホールに放り込んじゃうかも…。」

 背中を合わせて座り込む妙高さんと高雄さん。

 アルカディア号さんがここからいなくなるというのはパーフェクトレディと呼ばれるあの二人でも取り乱してしまう程の事なのです。

 

 「提督、貴女はここの司令官ではありますが、だからといって私情を優先させ過ぎるのは良くありません。」

 「これに懲りたら一人で、いえ独りよがりでトチ狂った判断はせず現状をよく見た上で色々と判断をなさって下さい!」

 少々キツい言い方になってしまいましたが仕方ありません。

 なにしろ彼がいなくなってしまったらここ(柱島第七泊地)は崩壊するのです。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

赤城・加賀(一航戦)自室

 部屋に戻ってからも先程の恐怖が頭から離れません。

 もし先の話が本当だったなら…、そう思うだけで胸が締め付けられます。

 

 「赤城さん?」

 余程、思い詰めていたか顔色が悪かったのでしょう。

 同室の加賀さんが心配してくれます。

 

 「加賀さん、私達がアルカディア号さんに初めて会った時の事を覚えていますか?」

 

 「ええ、あれだけの圧倒的な戦闘力、覚えていない方がどうかしているわ。」

 

 「私が言いたいのはその後です。全員で一緒にお風呂に入りましたよね?」

 その様子を思い出したのでしょう、加賀さんはボンッと音を立てて耳まで真っ赤になってしまいました。

 

 「え、ええ、そうね。その…、見てしまったわね…。」

 

 「そうです! という事は今更何も問題はありません!」

 「一航戦、赤城出ます!」

 

 「あ、あの…。赤城さん、どちらへ?」

 

 「食べてきます。」

 ドアノブに手を掛けたまま振り向くことなく答えます。

 後ろでは、機内食を食べたのでは?という加賀さんの声が。

 

 「喰ってきます。」

 そう言い直して部屋を出ました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

柱島第七泊地 アルカディア号自室

 アルカディア号さんのお部屋を訪ねると、驚きながらも部屋へ入れて下さいました。

 ああ、ダメです。やっぱりこの人が何処かへ行ってしまうなんて考えたくはありません。

 そう思うと無意識に彼に飛びついてしまっていました。

 

 「何処へも行かないですよね?! 私達の前から居なくなったりしませんよね?!」

 

 「落ち着け赤城、一体どうした?」

 

 「聞いてるのは私です! どうなんですかっ、答えて下さい!」

 

 「いつも言っているだろう。お前達や花火に出て行けと言われれば話は別だが、それ以外で出て行く事は無い。」

 

 「やっと…、聞けました。」

 安堵のあまり、ポロポロと涙がこぼれます。

 

 「みんな怖いんです、貴方を失うのが。執務室は大騒ぎだったんですよ。」

 「昼間だって私達より向 こ う(横須賀第二鎮守府)の南雲部隊に優しくしちゃって…。ここを捨てて横須賀へ行ってしまうのではないかと不安になっても仕方ないではありませんか。」

 そう抗議すると彼は私の髪を優しく手で梳きながら悪かったと言ってくれました。

 でもまだ駄目です(笑)。

 やっぱり私達だけの特別が欲しいです。

 

 「それだけですか?」

 「他の私との差別化は無いのですか?」

 

 「ふっ、ならばこのアルカディア号がお 前 達(柱島第七泊地の南雲部隊)だけの未来を変えて見せる。全員で運命の五分間を越えるぞ!」

 他の私達とは違い『沈ませない』ではなく、その圧倒的な力であの運命の五分間を一緒に越えて下さると仰るのですか?!

 これが柱島第七泊地『南雲部隊』だけの特権なんですね!

 それを聞いて私は普段のおっとり系のお姉さんキャラなんて何処へやら、履物を脱ぎ捨てると彼を廊下に床ドンしていました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

柱島第七泊地 食堂

 翌朝、食堂で朝食をとっていると後から来た二航戦のお二人と瑞鶴さんが私の方を見て何やらヒソヒソと話しています。

 確かにあれからアルカディア号さんとは組んず解れつ…、いえ組みっぱなし(ゲフンゲフン)でしたが夜が明ける前には自室に戻りました(加賀さんも未だ寝ていましたし)し、バレるはずが無いのですが(汗)…。

 

 「ねえ赤城さん、化粧品変えた?」

 隣に座った飛龍さんが私の顔を覗き込みます。

 

 「うん、ハリとツヤが凄いよ。一体、何を使ったの?」

 蒼龍さんに至っては銘柄まで教えて欲しいと食い下がってきました。

 

 「そういえば翔鶴姉もこの間、同じような感じになってたなぁ。作った感じじゃなくて自然な感じでハリとツヤが凄いんだよね。」

 翔鶴さんが?!

 薄々、感じてはいましたがやはり先を越されていましたか…。

 翔鶴、もとい娼郭(νガンダム)の名前は伊達じゃない、と言ったところですね。

 いえ、感心している場合ではありません。今はこのピンチをどう切り抜けるかです。

 

 「そ、そうでしょうか。昨日食べた(意味深)モノが良かったのでは(汗)。」

 

 「そう言えば赤城さん…、昨晩アルカディア号さんの所へ食べに行くって部屋を出て行ったわね。」

 

 「加賀さん、それホント?! あの人にそんな良いモノ貰ったなんて羨まし過ぎるよ! まあ翔鶴姉も同じモノ貰ってるんだろうけど…。」

 

 「ま、まあしいていうなら神経伝達物質・エンドルフィン・ホルモン・免疫抑制物質に、コルチゾール・エストロン・セロトニンといったところでしょうか(汗)。」

 

 「皆さん、どうされたのですか?」

 ここでようやく翔鶴さんがトレイを持ってやって来ました。

 飛龍さんと蒼龍さんのボヤキを聞いた翔鶴さんがジッと私を見つめます。

 そして半目になると、そう…、そうなのねと呟きました。

 

 「やっぱり翔鶴姉も同じモノ貰ってる…。」

 

 「何よもう…、二人とも正室の余裕ってヤツ?」

 

 「どうした? 朝から荒れているじゃないか。」

 唇を尖らせる飛龍さんの隣に日向さんと伊勢さんがトレイを置きました。

 話を聞いた伊勢さんが二~三日前アンタも…と日向さんをジッと見つめます。

 翔鶴さんと違ってこれは意外です。

 まさか彼女にも先を越されて…、いえ考えれば全艦種側室筆頭なのですから以外ではないですね。

 

 「まあ順番で行けば加賀、次は君の番だ。」

 それを聞いた加賀さんは首を傾げていましたが、日向さんがコッソリとテーブルの下で作った指の形を見てまたまた真っ赤になってしまいました。

 

 「そういえば肝心のアルカディア号さんが未だ来てないよね。」

 

 「えーっと、昨晩に私がたくさん頂いたので(貪 り 尽 く し た の で)未だ起きてこないかと…。」

 この時の二航戦・瑞鶴さん・伊勢さん(分 か っ て な い 組)翔鶴さん・日向さん(分 か っ て い る 組)の視線の温度差ったら!

 

 提督も午前の演習ではアルカディア号さん相手に海防艦達の経験を積まそうと考えていたみたいで、急遽私が責任を取ってキッズ達の相手をする破目に。

 しかも一切の装備を剥ぎ取られた上でです!

 さらに大淀さんにお聞きした所によると、予定がパアになった理由を知った北大路提督は指令書にこう記入したらしいです。

 

 赤城の屠殺と…。

 




※『マリア』さんは拒まずだけど勧誘までするような感じではない
 これは有紀さん、考えが甘いですね。
 次回から少し続く日常編では舞鶴第一鎮守府にアルカディア号が出向く話もあります。
海産物も美味しい上にハーフの美人司令官がいるとなれば…。

※司令官ともども宇宙のワームホールに放り込んじゃう
 どうやら藤枝かえで少将は完全に虎の尻尾を踏んでしまったようですね。
 原作では男としての台羽君に全く興味が無かった感じだったように思うのですが…。

※神経伝達物質・エンドルフィン・ホルモン・免疫抑制物質に、コルチゾール・エストロン・セロトニン
 あれの主成分らしいです。え? あれとは? 
 それはほら、言わせんな恥ずかしい(〃ノωノ)ってやつですよ(汗)。

※北大路提督は遠く離れたタウイタウイ・イン・デスシャドウ島で済ませたため、気付かれずに済んだようです。

※屠殺
 完膚なきまでや抹殺ではない辺りに北大路花火嬢の陰の部分が見えていますね(笑)。


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第142話 後始末編5(アルカディア側3)

※盗聴なんてするから(笑)…。


 「どうしたというんだ、全く。」

 ソファーに座りアンドロメダレッドバーボンをグラスに注ぐ。

 執務室からの戦略的撤退となった訳だが、ただ逃げただけでは無い。

 実は執務室を出る時に超小型の盗聴器を仕掛けてきたのだ。

 ただ、そのサイズゆえ指向性と電波到達距離にやや難があり、加えて俺の自室は電波遮断性が高いため受信状況はすこぶる悪いと思われる。

 『螢』を信用していない訳ではないのだが、伝え漏れがあったりしてはいけないので背に腹は代えられない。

 手の中にある小さな機械のスイッチをオンにする。

 

 「イっちゃう。アルカディア号さん…で…イッちゃう…」

 アンドロメダレッドバーボンを盛大にグラスへ吹き戻してしまった。

 顎から床へと垂れ落ちる液体をタオルで顔を拭うという事すら頭から飛ぶほどの衝撃的な発言。

 

 「提督…アルカディア号さんと…したいと…仰って…()()()もらった…。」

 今度は赤城の声だ。

 え、何? 花火さん、俺としたいと言ってたの?

 で、()()()もらったって…、ヤりました自慢ですか?

 

 「私が…アルカディア号さん…して…。」

 「…私…が…果てた…。」

 執務室は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなっている。

 そりゃそうだろう、男の少ない世界でこんな赤裸々な事を聞かされて皆、冷静でいられる訳が無い。

 今からアルカディア号さんと夜戦してくると息巻く川内を神通と那珂が必死で止めている。

 いやそこは止めなくて良いんですよ?

 

 「フフッ。」

 『螢』の笑う声が?!

 

 「…キャプテンは…イかないわ。それこそ…限りね。」

 どうやら何かが無い限り達することは無いと言っているらしい。

 多分、女の匂いがないとイけないと性癖の暴露をされているのではないだろうか。

 どうしよう、明日からどんな顔して皆と顔を合わせればいいんだ?

 俺、分かんねーよ…。

 

 「本当…、ですか?」

 しかもシッカリと確認されちゃって、まあ…。

 どちらかというと髪の匂いや体臭はカンフル剤なだけで無いとイけない訳ではないんですが、それは。

 

 「側室…心配…分かるわ。」

 「…キャプテンにとって一番は…なのよ、信じて…」

 何だろう、側室まで順が回ってくるかどうかを心配しているのだろうか?

 大丈夫です、この不肖アルカディア号、一層の奮励努力を致します!

 でも一番は…、って何だ?

 何と言われてるんだ?

 騒然となっているという事は髪の匂いとかではなく禁断の香り(脇や足)だと言われてるのか?

 まあ普通、そんなの信じないのも無理は無い。

 だから『螢』は最後に信じてと付け加えたのだではないだろうか。

 

 「まあ、…『すみれ』さん…『マリア』さん…拒まず…感じ…ないでしょう…」

 げげっ?!

 神崎中将閣下を相手にした事までシッカリと情報共有されているではありませんか!

 まだ誰にも言っていないというのに『女の子だけが持ってるウルトラエクセレンス、第六感コンピューター』恐るべしである。

 が、悪い事ばかりではない。

 どうやらタチバナ中将閣下が(俺を)拒まずらしい(よっしゃ!)。

 次のターゲットは決まりと思ったら、何と彼女が(俺では)『感じないでしょう』だと?

 くっ、見ているがいい、必ずタチバナ中将を満足させてみせる!

 

 「…貴女はここの司令官…私情を優先…良くありません。」

  これは提督部門の正室だからといって俺を独り占めしたり、他の正室や側室に嫉妬するなという事に違いない。

 まあ、こちらも当面は向こうから飛び込んでくる獲物だけにするつもりだしな。

 そう思ってスイッチを切ろうとした時、赤城の声が飛び込んで来た。

 

 「…一人で…よがり…狂った…はせず…。」

 Oh…。

 これ以上、衝撃的な内容が聞こえてこないよう俺は手の中の機械を握り潰したのであった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 30分ほどしてからその赤城が訪ねてきた。

 ドアを開けるなり鬼気迫る表情で、ここからいなくなってしまうのですか?!と勢い込む。

 だが、これに関してはいつも言っている通りで、追い出されない限り出て行くことは無い。

 彼女にもそう答えたところ、少し落ち着いたのだろう、尋ねてきた理由を話してくれた。

 昼間の件で横須賀二鎮の南雲部隊の方が大事にされていると思ったらしく、自分達は捨てられてしまうのではないかと不安になったらしい。

 

 「それは悪かった。だが一番はココ(柱島第七泊地)の艦娘達だ。お前達を犠牲にして余所を優先することは無い。」

 それでもまだ不安だったのだろう、今度は他の私との差別化は無いのかですかと訊いてきた。

 

 「欲張りだな(笑)。」

 

 「一応、空母の正室ですから(笑)。」

 

 「ならばこのアルカディア号がお前達だけの未来を変えてみせる。全員で運命の五分間を共に越えるぞ!」

 我ながらイイ感じの台詞ではないか(サムズアップ!)。

 

 「そんな事を言われたらもう我慢できません。イイですよね?」

 どうやら赤城には想像以上に刺さったらしい。

 まあ、拒む理由なんで何も無いしな、うん。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 翌朝…。

 朝食の時間だというのに起きる気がしない。

 理由は散々赤城に搾り取られたからで、最大の原因はこちら(ハーロック)の夜戦火力が高過ぎた事だ。

 通常は戦車でも軍艦でも大口径・大火力の砲身は耐用年数があり、何発撃てば新品に交換となる。

 だが、アルカディア号のコカンカノン?は重装甲を誇る船体と同じマテリアルで出来ており、耐用年数などあって無い様なもの。

 砲身は最大仰角を保っているというのに、めでたくエネルギーの方が先に尽きてしまったという訳だ。

 という訳で朝食を食べに行くより少しでも横になっていたい…。

 何しろデスシャドウ島にあるエネルギー鉱石『グラビューム3006』を取りに行くのも憶劫なんだよ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「アルカディア号さん、どうかされたのですか?」

 食堂に姿を見せなかった事を心配した花火が明石を伴って部屋に来た。

 鳳翔さんも朝食をカートに載せて傍に控えており、不安そうにしている。

 

 「着任、いえここに来られてがらずっと激務でしたから疲れがどっと来たのでしょう。精の付くものをご用意致しましたので召し上がって下さい。」

 カートには鳳翔さん特選印の『ウナギの蒲焼』・『山芋の短冊』・『レパ刺し』・『カキフラィ』・『生卵』・『赤まむしドリンク』、さらにはアツアツの『スッポン鍋』が鎮座していた。

 まさかとは思うが、花火が研ナオコさんのようにナマタマゴ~やアカマムシ~とかやったりしないだろうな?

 

 「…。」

 何だろう、随分と意味深なモノばかりだ。

 ひょっとしたら赤城から何か聞いたのかもしれない。

 頭の中でバツが悪そうな赤城がペコペコと鳳翔さんに頭を下げている様子を想像してしまった。

 

 「直ぐに手配します、呉か佐世保で精密検査を受けて下さい。」

 

 「少しガス欠になっただけだ。心配は要らん。」

 

 「駄目です。もし貴方を失うような事があったら私は生きていけないのです!」

 検査入院なんてヒマな上につまらない事この上ない。

 仕方なく何故ガス欠になったか理由を説明する。

 真っ赤になって固まる明石。

 それに対して、あらあら、あの娘(赤城ちゃん)ったらと何故か嬉しそうな風翔。

 おまけに、じゃあ次は加賀ちゃんの番ですね。なんてニコニコしている。

 で、花火は…。

 

 「あ゛?」

 怖っ、三白眼?!

 おまけに聞いた事がないほどの低い声!

 鷹森淑乃さんってそんな低い声出さないから!

 取り敢えず明石を無理矢理に再起動させ、デスシャドウ島の資材がらグラビューム3006を持って来てもらうよう依頼をする。

 

 「…ない。」

 

 「ん?」

 

 「足りない!」

 「私の方が全然足りない! 今のお話では私の倍以上の回数を赤城と(ギリッ)…。」

 さっさとこれ全部食べやがれ下さいとスッポン鍋を無理矢理スプーンで流し込んでくる花火。

 熱い熱い、って駄目だ、完全にハイライトが仕事を放棄してしまってますよ!

 あらまあ、提督まで済ませておられたなんて、とこれまた嬉しそうにする鳳翔とは対照的。

 さらには揚げたてのカキフライを口に突っ込まれ…。

 

 この日、執務室の全艦娘の名前が記されたボードには俺の欄に『一航戦旗艦により腎虚』とで記入がなされていたという。

 多くの海防艦キッズ達や駆逐艦達からは『腎虚』について質問が飛んだらしいが花火や大淀は何と答えたのだろう?

 またこの日を境に大型艦達の目の色が変わっていった気がするのだが…。

 




※『女の子だけが持ってるウルトラエクセレンス、第六感コンピューター』
 とあるアニメのOPですが、殿方にとってはEDの方がドキドキしたものです(笑)。

※私の方が全然足りない
 二~三日掛けてシッカリと赤城を超える回数を務めさせた北大路提督。
 (加賀:私の番はまだでしょうか…。)

※ここまでお付き合いありがとうございました。
 長かった対陸軍編はこれで終了となります。
 以降、しばらくは日常回となりますのでアルカディア号が戦闘に出向くことはありません。<(_ _)>


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スリガオ海峡
第143話 新たな姫級編1(艦娘側:軍令部足柄1)


※新章開幕です。


タウイタウイ第一泊地 ワインバーグ少将自室

 「サジータ提督、遠征部隊より緊急入電です! スリガオ海峡にて姫級が確認されました!」

 執務も終わり部屋でゆっくりしようという時、扉が勢いよく開かれると同時に秘書艦の長良が血相を変えて飛び込んで来た。

 

 「何だって! 昼間に別の遠征部隊が通った時には何も異常はなかったはず、報告をしてきた遠征部隊の旗艦は?!」

 新たな姫級の出現、まさに寝耳に水の事態にタウイタウイ第一泊地司令官であるサジータ・ワインバーク少将の表情が一気に険しくなる。

 エクストラ・オペレーション、通常E・O海域と呼ばれる海域に定期的に陣取る個体は確認されているものの、それ以外に鬼姫級は大規模侵攻作戦以外に出現した事は無かったからだ。

 

 「川内さんです。」

 

 「川内か…。夜目に優れる彼女が誤認するとは考えにくいね。直ぐに軍令部に報告を、それから当該遠征艦隊の帰投を以って偵察部隊を編成するからね!」

 何かの誤認である事を期待したが、無類の夜戦好きである川内からの入電であればまず間違いない。

 

 「川内達には交戦を避けるよう指示を! それが難しければ航路を変更しても構わない、何としても無事に帰らせて!」

 通信室へと急ぐ長良の背中を祈るような気持ちで見送る。

 だが、この時の彼女には後の騒動など知る由も無かった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

海軍軍令部参謀総長室

 夜間当直室を出て足早に参謀総長室へと向かう。

 結構遅い時間だけれど、そんな事も言っていられない。

 当直の足柄である事を告げ、ドアをノックする。

 

 「真宮寺参謀総長、タウイタウイ第一泊地より緊急入電! スリガオ海峡にて新たな姫級を確認せりとの事です!」

 そう、真宮寺長官のお父様であらせられる真宮寺一馬さんはあの騒動以来、細川大将の穴を埋める形で参謀総長として勤められているの。

 細川派の人間からは反対があったものの、肝心のトップが失脚してしまっては意見を押し通せるはずもなかったってわけ。

 

 「分かった、大神君とさくらには?」

 前代未聞の報告であるにもかかわらず、真宮寺参謀長はそれほど慌てた様子も無いわね。流石といったところかしら?

 

 「真宮寺長官には羽黒が報告に向かっています。大神元帥についてはこれから私が…。」

 

 「いや、構わん。大神君には私から連絡を入れておこう。遅い時間で申し訳ないが、君は羽黒君と共に第一作戦室へ向かってくれ。そこで続報を待つ。」

 大神さんには私が、と思ったのだけれど参謀総長は自分がやると仰ったわ。

 

 「了解致しました。」

 ちょっと残念だけれど(何が?!)、仕方ないわ。

 代わりに送られてきた写真を人数分プリントしておきましょうか。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

海軍軍令部第一作戦室

 「お父…、いえ参謀総長、大規模侵攻でもないのに新たな姫級というのは本当なのですか?」

 長官たら、参謀総長をお父様って…。

 気を付けないとそれはマズいわよ(笑)?

 

 「残念ながら本当だ。足柄くん、羽黒くん。」

 参謀総長に促された後、羽黒と二人で全員に写真を配る。

 

 「これは…。」

 

 「二体?!」

 大神さんと長官の目が大きく見開かれたわ。

 

 「そうだ。だが、ワインバーグ少将によると、ただ二体という訳ではなくどうやら二体で一個体を形成しているようなのだ。」

 さらに昼間には確認できず、夜に出現した事から夜間にのみ出現する可能性があるとも。

 

 「夜戦しか出来ないという事ですか?!」

 夜戦というのは火力や射程を含め昼戦におけるそれとは少し違う。

 射程距離に関係なく、お互いに旗艦から順番にノーガードで殴り合っていくのが夜戦。

 攻撃も良く通るけれど、こちらも相手の攻撃を受けやすく、喰らってしまえばほぼ一撃大破。

 夜戦火力の高い艦を編成しても攻撃を行う前にこちらが無力化される可能性が十分にあるわ。

 

 「決戦においては空母艦娘が役に立たないという事ですか…。」

 空母艦娘は基本夜間攻撃が出来ない。

 大多数の空母艦娘は道中に置いて活躍の場があるものの、肝心の新たな姫級との決戦に於いて攻撃手段が無い。

 ごく一部に夜間攻撃可能な空母艦娘もいるものの、搭載機数の関係で今度は逆に昼戦での攻撃力に欠けたりするわ。

 

 「そうだ。しかし、道中を考えると空母艦娘を編成しない訳にはいかぬ。かといって空母艦娘の投入は前述の理由から最小限に抑える必要がある。」

 

 「そうすると空母艦娘は多くても二隻。これでは道中を突破してスリガオ海峡に辿り着くのも難しく…。」

 腕組みをして大神さんが唸る。

 

 「あるいは三隻にして、その中の一隻を夜間攻撃可能な空母艦娘にするか、ですよね…。」

 

 「連合艦隊が使えればいいんだが…。」

 

 「最低でも遊撃部隊は欲しいところです。」

 確かに大神さんの言う通り連合艦隊が組めるとなるとかなり攻略の幅がグッと広がるわ。

 遊撃部隊も連合艦隊に比べれば劣るけれど、通常六隻で編成される艦隊が七隻使えるという点では長官の仰る通り空母三隻の投入も一気に現実味を帯びてくるわ。

 

 「現在もサジータ・ワインバーグ少将が偵察部隊を編成し、情報を収集中だ。何か進展というか朗報があれば良いのだが…。」

 全員が押し黙ってしまった中、ドアがノックされてタウイタウイ第二の時雨がコーヒーを淹れて来てくれたわ。

 現在、タウイタウイ第二の艦娘達の身分は軍令部預かりとなっていて、私達軍令部直属艦娘と演習を行う事で練度上げを行っているの。

 あと、たまにアルカディア号さんが来た時は大型艦を中心に特別演習が組まれているわね。

 さらに提督との本来の接し方などを学ぶための一環として将官達のお世話なども同時に行っているってわけ。

 ところが、その時雨が新たな姫級の写真をみてまるで雷に打たれた様に固まってしまったの。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「こ、これは?!」

 

 「時雨さん、軍機扱いを覗き込むのは感心しませんよ?」

 長官が時雨に注意をしたんだけれど、大神さんがそれを制したわ。

 

 「いや、いい。時雨くん、何か思い当たる節があるのかい?」

 大きく頷く時雨。

 

 「これ、タウイタウイの近くで撮影されたんじゃないのかい? もっといえばスリガオ海峡じゃないのかい?」

 時雨?!

 

 「え、ええ。その通りです。でも一体何故分かったのですか?」

 時雨の返答に驚く真宮寺長官。

 いえ、長官だけじゃないわ。私も羽黒も、いえここにいる全員が驚いているわ。

 

 「僕だけじゃない、最上だって山雲だって朝雲だって満潮だってわかるさ。」

 

 「西村艦隊の面々だね。でも一体…。」

 どうして?と言いかけた大神さんだけど、直ぐにピンと来たみたいね。

 

 「まさか…。」

 

 「…。」

 長官も参謀総長も気が付いたみたい。

 

 「そうだよ、これは扶桑と山城だ! それも僕たちの…、タウイタウイ第二の扶桑と山城に間違いないよ!」

 




※新たな姫級はどうやらいつぞやのイベントで提督諸氏が苦戦した『海峡夜棲姫』のようです。
 カルチェラ提督の無謀な指揮によりスリガオ海峡でMIAとなった彼女達の成れの果てですが、元同僚の時雨は直ぐに見抜いたのでした。

※この後、ワインバーグ少将より払暁戦が可能という情報がもたらされます。
 夜戦で日が昇るまで足止め、そして昼戦という逆の流れになるのですが、昼戦が後に来るため火力キャップが制限される状態でトドメを刺さなければならず苦戦は必至です!


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第144話 新たな姫級編2(アルカディア側1)

※海峡夜棲姫。
 2017年秋イベントでのラスボスです。
 ‐壊‐にするまでも苦労しましたが、そこからもまた過酷でした。
 ゲージを割った時には深夜にも拘わらずPCの前で叫んでしまったぐらいです…。



同時刻、柱島第七泊地隣接デスシャドウ島

 「キャプテン、タウイタウイ第一より横須賀軍令部へ向けた電文を受信しました。」

 デスシャドウ島ブリーフィングルーム内に緊張感を伴った螢の声が響いた。

 

 「内容は?」

 

 「スリガオ海峡にて新たな姫級の存在を確認、です!」

 

 「分かった、続報があれば頼む。」

 スリガオ海峡という事は恐らく海峡夜棲姫か。

 2017年の秋イベで随分苦しめられたヤツだな。

 

 「北大路提督への報告はどうされますか?」

 

 「構わん。他所の電文をキャッチ出来てしまうというのは余り好ましい事ではない。必要があれば横須賀軍令部から花火にも連絡がいくはずだ。」

 アイアイサ、と引き続きモニタリングに戻る螢。

 そして予想通り、直ぐに花火にもこの事態は知らされる事となった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

二日後、柱島第七泊地併設飛行場

 一式陸攻から真宮寺長官が降りてきた。

 さらにその後ろには『最上』・『時雨』・『満潮』・『朝雲』・『山雲』達の姿も見える。

 

 ん、一式陸攻?

 連合艦隊司令長官?

 うっ、頭が?!

 

 「ごめんなさい、北大路提督。またアルカディア号さんの手を借りたい事案が発生してしまいました。」

 

 「いえ、大規模侵攻作戦でも無いこの時期に新たな姫級が確認されるなんてただ事ではありませんから。それからこの艦娘達は?」

 人が謎の頭痛に頭を抱えている間にも長官と花火との間でヤリトリが進んでいく。

 

 「それは後で説明します。さ、貴女達。」

 

 「久しぶりだね、北大路提督。貴女のお陰で以前とは全く違う生活を送れているよ。本当にありがとう。」

 僕っ娘の最上が前に出た。

 という事はタウイタウイ第二の所属艦娘達だな。

 以前に救出した時とは表情もまるで違う。

 お陰で一安心なのだが、それが普通なんだよなぁ…。

 

 「その識別票…、タウイタウイ第二ですね。再建は大変だと思いますが頑張ってください。」

 花火もやはり気になっていたのだろう、嬉しそうだ。

 そしてすぐに庁舎へと向かう。

 

 作戦室には予め呼ばれていたのだろう、ココ(柱島第七泊地)の扶桑と山城が着席していた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

柱島第七泊地作戦室

 「これは…、二体も?!」

 写真を見て驚く花火。

 

 「ええ、ですがそれにも理由があります。最上?」

 

 「半年前、カルチェラ提督によって無理な作戦に投入された僕達、タウイタウイ第二の『西村艦隊』は作戦こそ辛うじて成功させたものの、帰投さえ困難な状況に陥ってしまったんだ。」

 長官に指名された最上が頷くと、当時の状況を説明し始めた。

 

 「それでも僕達は足の遅い扶桑と山城に合わせて必死で母港を目指した。何としても全員で帰投すると皆で誓ったからね。」

 

 「でもぉ、スリガオ海峡に差し掛かった時には~、完全に日も沈んでしまっていてぇ、不気味なほど静かだったわぁ。」

 

 「敵潜に見つからないように灯火管制をしいていたんだけど、月明かりにハッキリと私達のシルエットが浮かんでしまっていたのね。」

 

 「周りを警戒しながら進む私達の周りに突然、幾つもの水柱が立った。タ級の複数個体による挟撃、当然私達は全滅を覚悟したわ。」

 時雨・山雲・朝雲・満潮からも当時の状況が語られる。

 

 「でも扶桑と山城が自分達を犠牲にして僕達を逃がしてくれたんだ。それなのに二人はMIAとして処理されて捜索隊も出される事は無かったんだ。」

 両手を握り締める最上。

 

 「ではこれは…。」

 花火も全てを理解したのだろう。

 先程までとは全く違う沈痛な面持ちで、それ以上の言葉が出てこない。

 

 「そうです、タウイタウイ第二の扶桑と山城の成れの果てです。」

 長官はそう言うと、このような姿になっても皆の所へ帰りたいという事なのでしょうか?それとも…、と視線を落とした。

 

 「扶桑と山城を助けてやりたんだ。頼むよ、アルカディア号さん。僕達タウイタウイ第二の西村艦隊をスリガオ海峡に連れて行って欲しいんだ。」

 

 「なるほど。練度的にスリガオ海峡への突入は自分たちだけでは難しいという訳か。」

 長官をはじめタウイタウイ第二の艦娘達が頷いた。

 

 「だが行ってどうする。説得でもするつもりか? それとも自分達で引導を渡してやるのか?」

 

 「それは…。」

 押し黙ってしまう時雨。他の四人も引導を渡すという部分でハッとした顔になった。

 何だよ、行ってどうするかは考えてなかったという事は無いだろうが、最悪の事態になった時の覚悟くらいはしておいてくれないと困るんだけど…。

 間違いなく深海棲艦、しかも姫級と化した扶桑と山城に彼女達の呼び掛けなど通じまい。

 かといって自分達の手でトドメを刺すというのも心情的にかなり厳しいだろう。

 かつては強い絆で結ばれた艦隊のメンバーだったのだ。

 生き残った五人の目を見るにそれが容易に想像できる。

 だからこその覚悟が必要なのだ。

 

 「どうしたいか決まったなら部屋に来るがいい。」

 

 「アルカディア号さん?!」

 

 「条件は二つある。一つはお前達の意思の統一だ。二つ目は最上・時雨・満潮の改二改装。急ぎ故、改装可能練度になるまで俺が集中して演習相手を務めさせてもらう。」

 

 「時雨ちゃんと満潮ちゃんはイイけどぉ、最上さんの改装設計図や戦闘詳報何かはどうするのかしらぁ?」

 山雲が首を傾げる。

 

 「それは真宮寺長官が何とかしてくれるさ。三人の改二改装化次第、デスシャドウ島ごとタウイタウイ第二へ出発する。」

 長官に目を向けると、勿論ですと言いつつ頬がヒクついている。

 許せ、長官。ウチ(柱島第七泊地)も改装設計図は勿論だが、戦闘詳報はもっと貴重なのだ。

 

 「あの、私達は何故呼ばれたのでしょうか?」

 

 「姉様、それを聞きますか。やめましょう、この山城にはロクな未来が見えません…。」

 

 「ああ、ごめんなさい。忘れていました(笑)。扶桑と山城の欠けた穴を貴女達(ウチの扶桑と山城)が埋めてあげて下さい。」

 西村艦隊の体を成していないと羅針盤に弾かれる可能性がありますからと花火に言われた扶桑姉妹は不幸だわ、と嘆いていた(笑)。

 

 「心配するな。俺がいる限り誰一人として決して沈ませはしない。安心するがいい。」

 そう言って彼女達の肩に手を置くと、

 

 「姉様が男に…。やっぱり不幸だわ。」

 と山城に盛大な溜息をつかれてしまった。

 

 どないせーちゅーねん…。




※柱島第七泊地の扶桑と山城
 山城の予想通り、自分達が西村艦隊の欠けたピースになってしまいました。
 瑞雲ファンネルが唸る日も近い?!

※姉様が男に…。
 文字通りの意味もあるのですが、姉より私を!という思いも混じってこのような呟きが(笑)。


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第145話 新たな姫級編3(艦娘側:タウイタウイ時雨1)

※提督諸氏なら周知の事実ですが、鬼姫級のゲージを割るには撃沈が絶対条件です。
 いくらゲージを0にしても駄目で艦隊として決定的なモノが欠けている彼女達は最後までこれに苦しむ事になります。


一週間後、柱島第七泊地執務室

 「ではアルカディア号さん、その子達をお願いしますね。」

 

 「うむ。だが辿り着いてからは彼女達に掛かっている。部の悪い賭けだが彼女達を信じるしかあるまい。」

 北大路提督とアルカディア号さんの心配も当然だ。

 ボク・最上・満潮が改二に、山雲と朝雲もアルカディア号さんによる集中演習でそれなりの練度になってはいるけれど皆、実戦経験がほとんど無い。

 カルチェラ提督の下では実戦なんて経験したら最後、即轟沈というケースが多かったからだ。

 

 「ええ、では出来るだけ早い帰りを期待しています(チュッ)。」

 僕達五人から悲鳴に似た声が上がる。

 

 「アルカディア号さん、君は北大路提督とその…、そういう関係だったのかい?」

 僕の問いにアルカディア号さんが何か言いかけた時、北大路提督が被せてきた。

 

 「私はアルカディア号さんの(提督)正室です。もし割って入ろうとする方がいるなら…。」

 

 「いるなら?」

 全員の喉が鳴る。

 

 「カルチェラ提督以上に酷い目に遭うのは間違いないでしょうね(笑)。」

 凄く柔らかい表情だというのに目だけは笑っていない北大路提督。

 それが却って僕達をゾッとさせるには十分だったよ。

 まあ、それ以上にブルっていたのは前にいるアルカディア号さん自身だったんだけどね(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

デスシャドウ島

 「驚いたわぁ~。まさかアルカディア号さんと北大路提督が~、そう言った関係だったなんて~。」

 

 「アンタ、結構手が早かったりするの?」

 山雲と満潮ったらそんなに気になるのかい?

 まあ、艦と云えども一応女の子なんだから仕方ないか(笑)。

 

 「今のところ、各正室と側室筆頭だけだ。」

 

 「へえ、モテるんだね君は。」

 軽く冷やかしを掛ける最上。

 

 「まあ、この世界では当たり前だと思うけれど。」

 殿方には側室制度を持つように勧められているし、それがまた当たり前だからね。

 正室一人だけは大神元帥だけじゃないかな?

 だからかなり揉めたって聞くけど。

 それも特に将官の間でね(笑)。

 

 「北大路提督は提督の正室なのよねぇ~。じゃあ~、側室筆頭は誰なのかしらぁ~?」

 

 「聞いてどうするつもりだ?」

 

 「別にぃ~。ただ気になるだけよぉ~(笑)。」

 こういう時って、山雲特有の間延びした話し方が思わせぶりに聞こえるんだ。

 それでも彼は神崎中将だと教えてくれたんだけど。

 お陰でまた僕たちは勝手に盛り上がってしまったんだけどね(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

タウイタウイ第一泊地

 デスシャドウ島が(再)建設中のタウイタウイ第二泊地に到着。

 隣りの第一泊地からワインバーグ少将とサラトガさんが出迎えてくれる。

 

 「タウイタウイ泊地へようこそ。例の姫級討伐にお力をお貸し頂けるとお聞きしました。貴方がいれば百人力です。」

 握手を交わすワインバーグ少将とアルカディア号さん。

 

 「長旅でお疲れでしょう。夕食はご用意してありますのでこちらへどうぞ。」

 秘書艦のサラトガさんも早目の夕食をとって後はゆっくりして下さいと僕達を労ってくれた。

 信じられるかい?

 第一と第二でこんなに艦娘の扱いが違うなんて…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「ほう、やはりあの姫級は夜しか出現しないと?」

 アルカディア号さんのフォークが止まる。

 

 「ええ、ですがウチの川内達によって足止めを行えば払暁戦が可能な事が分かっています。」

 

 「いつもと逆という事かい?!」

 

 「スナイプに夜戦火力を載せることが出来ないという事ね。私達駆逐艦にとってキツイわよ。」

 満潮の言う通り駆逐艦は昼間の攻撃ではほとんどカスダメしか与えられない。

 それが夜戦になると、敵大型艦にその速力を以って肉薄し日本海軍が誇る必殺の酸素魚雷を叩き込む。

 だからこそ駆逐艦の夜戦火力は昼間に比べて跳ね上がるんだ。

 

 「トドメは柱島第七泊地の扶桑と山城、そして僕(最上)の連撃しかないという事だね。幸運艦である時雨のカットインが期待できないのは痛いよ。」

 

 「逆に言えば私達はいかに夜戦で相手を落とせるか、あるいはその新たな姫級にどれだけ集中してダメージを入れる事が出来るか、よ。」

 腕を組む朝雲。

 夜戦は昼戦と違って戦艦がいても攻撃が二巡しない。

 相手に対する攻撃のチャンスは一度だけ。

 攻撃を外すなんてミスは許されない。

 それだけでも大きな重圧だというのに、果たして僕達に扶桑と山城が撃てるんだろうか?

 いや、その覚悟でここへ来たんだ。

 これ以上、扶桑と山城を苦しめ続ける訳にはいかない。

 僕たちが終わらせてあげないと…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

翌日夕刻、デスシャドウ島

 夕日がブンカーに一列に並んだ僕達を照らしている。

 

 「全員(みんな)スリガオ海峡(ニューヨーク)へ行きたいかーっ?!」

 

 「「「「「「「おーっ!」」」」」」」

 

 「大破(罰ゲーム)は怖くないかーっ?!」

 

 「「「「「「「おーっ!」」」」」」」

 アルカディア号さんが僕たちの意思を確認してくれると同時に激を入れてくれる。

 彼はスリガオ海峡へは僕達だけで突入するように言ったんだ。

 その代わり必ずお前達をスリガオ海峡へと突入させてやると約束してくれた。

 自分がいると海峡夜深棲姫が話を聞くどころではなくなってしまうのでは、という配慮からだと…。

 ありがとう、どうなるか分からないけれど、(扶桑と山城の説得)やってみるよ!

 

 ワインバーグ少将とサラトガさんが敬礼で見送る中、ブンカーから内湾へとゆっくりと出航する僕達、タウイタウイ第二泊地の西村艦隊。

 外湾へ出ると、日が水平線へと沈むところだった。

 

 扶桑、山城、待ってて。

 今助けに行くよ!

 




※「みんな、ニューヨークへ行きたいかーっ?!」&「罰ゲームは怖くないかーっ?!」
 ご存知、『アメリカ横断ウルトラクイズ』です(笑)。

※西村艦隊
 扶桑・山城・最上・時雨・満潮・朝雲・山雲の七隻。
 アメリカ海軍の戦艦六隻に加え、六十隻以上の艦艇が待ち構えていると分かっていながらスリガオ海峡に突入を試みた西村祥治中将。
 圧倒的な戦力の差に次々と撃沈されていく各艦ですが、辛うじて時雨が舵の故障にもめげず離脱に成功、生き残ったという事実があります。



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第146話 新たな姫級編4(艦娘側:タウイタウイ最上1)

※ついにスリガオ海峡入口へと到達したタウイタウイ第二泊地の西村艦隊。
 当然、深海棲艦もすんなりとは通してくれるはずはありません。



スリガオ海峡入口

 「レーダーに感あり!」

 完全に日が水平線に消えようという時、螢妖精からの一報で艦隊に緊張が走った。

 

 「ええっ! 私には何も反応が無いわ、山城はどう?」

 扶桑の言う通り僕達には何も反応が無い。本当なんだろうか?

 

 「距離と数は?」

 

 「ハイ! 距離はおよそ54キロ、数は4隻です!」

 アルカディア号さんが音紋の採取、そして艦種の特定を急ぐよう指示を出す。

 少しの間、台羽妖精と螢妖精が計器パネルと睨めっこをしていたんだけど、すぐに音紋採取は完了、彼から潜水ソ級・潜水カ級・潜水カ級、それぞれ3隻ともエリートらしい。

 

 「冗談、潜水艦を50キロ先から探知なんて出来る訳ないじゃない。何カッコつけてんのよ。」

 そんな満潮に対して960年後の未来技術なんだからそれ位出来るわよ~、と朝雲。

 一方のアルカディア号さんは、今やるかそれともこのまま泳がせておくかどうすると聞いてきたんだ。

 

 「相手の魚雷到達距離は10~15キロ前後だね。こちらから爆雷をバラ撒きに行けるほど燃料に余裕がある訳でもない以上、相手が接近してくれるのを待つ方がイイと思うけど?」

 

 「時雨の言う通りだね。それにアルカディア号さんに任せたとしても、(彼が)僕達から離れる時間が出来てしまう事を考えると、もう少し泳がせておくべきじゃないかな。」

 

 「そうね、演習で彼の力はイヤというほど思い知らされてるし。」

 特訓演習でアルカディア号さんにカスリ傷一つ付けられなかった事を思い出したのだろう、満潮が溜息をついた。

 

 「分かった。螢、台羽、引き続き水中は勿論、水上と対空にも注意しておいてくれ。」

 アイアイサと計器パネルに向き直った螢妖精と台羽妖精。

 やっぱり、お連れしている妖精さんも頼もしいや。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

対潜戦闘

 泳がせておいた敵潜水艦を朝雲のソナーが探知した。

 まずは対潜装備の朝雲・山雲があいさつ代わりの先制対潜攻撃。

 いきなり2隻の撃沈に成功も、残り1隻から先制雷撃。

 しかし、これを全員が難なく躱す。

 

 「え、躱せた?!」

 

 「デコイかもしれないわよぉ。だってあんなに分かりやすかったんだもの~。」

 

 「いや、俺の水中レーダーには雷撃の反応は無い。あれが先制雷撃だったと見ていいだろう。」

 

 「それにしてもあっけなさ過ぎない?!」

 満潮のこの言葉に山城が振り向いた。

 

 「アレを簡単だと思えるなら…。全員アルカディア号さんに感謝なさい。」

 

 「今の貴女達はあの程度なら何とも思わないレベルにまで鍛え上げられているという事よ。」

 

 「「「「「?!」」」」」

 山城の真意を説明してくれた扶桑、それを聞いた全員が驚いた。

 狐に包まれたようだったけど、事実残りの1隻も満潮が簡単に仕留めてしまったんだ。

 この事は自分達の実力が全くの未知数で不安しかなかった全員に大きな自信となったんだよ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

初空襲

 先程の対潜戦闘の余韻が冷めやらない間にまたしてもアルカディア号さんの電探が反応を捉えた。

 

 「キャプテン、レーダーが敵艦隊を捉えました。」

 

 「数と艦種は分かるか?」

 いえ、数は分かりますが艦種まではという螢妖精に対してスペースウルフで出ると息巻く台羽妖精。

 確かに、宇宙戦闘機なら敵艦隊まであっという間だろう。

 夜空に消える機体を全員が祈るような思いで見つめる。

 やがて、航行を続けるボク達に台羽妖精から相手艦隊の構成がもたらされた。

 

 「キャプテン、台羽妖精より入電! 敵艦隊の編成は『軽母ヌ級改elite(艦載機白)、軽母ヌ級elite、駆逐ロ級後期型、駆逐ロ級後期型、駆逐ロ級後期型、駆逐ロ級後期型』の六隻です。」

 再び艦隊を緊張が襲う。何しろ、こちらには艦隊防空を担える艦がいないからね。

 頼みの綱は柱島第七泊地の扶桑と山城、そして僕の瑞雲のみ。

 

 「台場妖精からさらに追電、軽空母二隻が艦載機発艦準備に入ったようです!」

 アルカディア号さんは台場妖精にそのまま飛び立った敵艦載機の後を気付かれないように追尾するように指示を出した。

 緊迫した時間が過ぎていく。

 そして、ついに扶桑の21号電探が相手艦載機群を捉えた。

 

 「敵艦載機群探知、各艦は対空戦闘の準備を!」

 扶桑と山城が32機の瑞雲を発艦、ボクも同様に瑞雲10機を発艦させ三式弾を装填する。

 瑞雲…。下駄履き機ながら驚異的な性能を誇る急降下爆撃機。

 でもそれだけじゃない、ボク達の瑞雲はファンネル化されているんだ。

 さらに相手は夜間でこちらが航空機を発艦させることが出来ないと考えているに違いない。

 初の実戦だけど日向さん直伝のこの武装、必ず使いこなせてみせる!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 突然、前を航行するアルカディア号さんから闇を切り裂く幾筋もの光線が上空へ向けて照射された。

 そしてそれを合図に後ろをつけていた台羽妖精が次々と相手艦載機を撃墜していく。

 そのせいで相手艦載機から爆弾と魚雷が投下が早まった。

 ベストなタイミングでない分、躱すのは容易いね。

 

 こちらも瑞雲に意識を集中させる。

 三機を展開させて三角を形作り満潮を山雲を、そして時雨を狙う爆弾を防いでいく。

 防御壁に触れた爆弾はいとも簡単に霧散してしまった。

 扶桑と山城も全瑞雲を展開させて艦隊の防御に徹してくれている。

 満潮が上げてくれた照明弾のお陰で魚雷の航跡がハッキリと見えるよ。

 そして、アルカディア号さんがハリネズミになったと同時に敵艦載機のほとんどが姿を消してしまったんだ。

 残存機も台羽妖精のスペースウルフと対空ミサイルであっという間に壊滅。

 凄い、ひょっとしたら本当に彼は僕達を無傷でスリガオ海峡最深部へと突入させてくれるかもしれない。

 

 そう思ってホッとしたのも束の間、あれは…。

 扶桑に急降下爆撃機?!

 山城が姉様!と叫ぶと同時にアルカディア号さんのスペースバスターが火を噴いた。

 

 「ありがとうございます、助かりました。」

 

 「戦場では油断した者から死んでいく。戦闘が終わったと思った時こそ周囲に気を配ることだ。」

 そしてこの後、僕たちは嫌というほど、この言葉の意味をかみしめる事になったんだ。

 




※本来、この潜水マスと空襲マス、そしてあと数マスは昼戦なんですよね。
 全部が全部、夜戦マスじゃなかったの忘れてました。
 申し訳ありません。

 ではまた次の投稿まで気長にお待ち下さいますよう、お願い申し上げます。


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第147話 新たな姫級編5(艦娘側:タウイタウイ満潮1)

※本格的な艦隊戦に突入です!


敵艦隊発見

 あの後、もう一度同じ編成相手からの空襲があった。

 もっとも、瑞雲ファンネルを持った扶桑・山城。最上たちが防御に徹してくれたお陰で、今回も完全勝利。

 通常の空襲と違って無理にこちらも艦載機を飛ばし消耗させる必要は無いのが大きいわね。

 こと防空に関してだけはアルカディア号さんのスペースバスターと併せて私達の艦隊には隙が無いといっても良いかもしれない。

 が、航空戦ばかりな訳が無い。前を行くアルカディア号さんが振り返った。

 

 「扶桑。山城。」

 

 「ええ。分かっているわ。」

 

 「総員、艦隊戦に備えて!」

 前を航行する三人の表情が変わった。

 再び瑞雲ファンネルを準備する最上、同時に螢妖精から敵艦隊の編成が告げられる。

 

 「キャプテン、水上レーダーに敵艦隊の編成が出ました。先頭から『軽巡ヘ級flagship、軽母ヌ級改elite(艦載機白)、重巡リ級elite、軽巡ツ級、駆逐ロ級後期型、駆逐ロ級後期型』です!」

 また軽母ヌ級が入っているが、今回は空襲戦ではなく純粋な艦隊戦だ。

 全員に緊張が走る。

 ヌ級に注意は勿論だけど、重巡リ級にも要注意ね。

 しかもエリートとくれば私達のような駆逐艦なんて一撃で大破させられてしまうのは間違いない。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

艦隊戦

 「会敵、砲戦距離に突入します!」

 螢妖精によって戦闘開始が告げられた。

 

 「副長、魔地機関長、総員第一種戦闘配置、砲雷撃戦用意!」

 スリガオ海峡へ突入するまではお前達に傷一つ付けさせはしないと、アルカディア号が私達の矢面に立つ。

 彼の三連装三基のパルサーカノンが音を立てて回転し、上下する砲がピタリと一定の仰角で止まった。

 

 「パルサーカノン発射!」

 彼の号令と共に光の矢が一直線になって伸びていく。さながらその様は神の槍(グングニル)が闇を切り裂いていくようね。

 

 「徹甲弾装填確認、主砲・副砲撃てぇっ!」

 

 「主砲、よく狙って! 撃てえっ!」

 それを合図に扶桑と山城の砲も轟音を立て火を噴いた。

 

 「山城の砲弾ヌ級に命中、大破を確認! 扶桑の砲弾、軽巡ツ級への至近弾です!」

 「アルカディア号の主砲、重巡リ級と駆逐ロ級2隻に命中! 三隻とも姿が確認できません!」

 

 「主砲、下げ角0.8度! 次弾装填急いで!」

 扶桑が主砲妖精に指示を出す。

 しかし相手もやられっぱなしなハズが無い。

 改エリートの艦載機が次弾装填の為に思い切った回避が出来ない扶桑と山城に群がった。

 

 「前に出るよ、攻撃機を撃ち落とす!」

 

 「了解! でも時雨、出過ぎちゃ駄目だよ!」

 そう叫んで山城と扶桑を守るために瑞雲ファンネルを展開する最上。

 時雨の見事な対空、そしてスペースバスターにより瞬く間に相手艦載機は全滅してしまった。

 私達はといえば射角を計算してくれた魚雷妖精に従って魚雷を発射する。

 バシュバシュバシュと水中へ姿を消したそれは野に放たれた猟犬のように一斉に獲物へと駆け出していく。

 

 数分後、巨大な水柱が上がった。

 撤退しようとする軽巡ヘ級flagship、軽母ヌ級改elite(艦載機白)に鋼鉄の鮫達が襲い掛かったのだ。

 腹を食い破られた敵艦は次々とその身を海中へと沈めていく。

 今度こそ扶桑の徹甲弾をまともに喰らい爆散してしまった軽巡ツ級を含め、向こうにしてみれば闇に紛れて奇襲を掛けるつもりが逆に先制攻撃を浴びた上、訳の分からない光線が命中した仲間は一瞬で姿を消したのだ。

 さらに自信をもって送り出した艦載機まで全滅したのだから、たまったものではなかっただろう。

 自分達に現在進行形で何が起こっているのか全く理解できなかったに違いない。

 少し気の毒になってしまった。

 尤も下位の深海棲艦に自立意思があるかどうかは分からないけれど。

 

 「満潮、気持ちは分かるがそんな顔をするな。お前達はタウイタウイ第二泊地の扶桑と山城の事だけを考えろ。」

 表情に出ていたのだろう、アルカディア号が自分達の扶桑と山城の事だけを考えろと言ってくれた。

 余計な事を考えるなではなく扶桑と山城の事を…、か。

 こんな所にも彼のイイ男としての部分が出てくるのね。

 その後、彼はこの思い空気を吹き飛ばすためか軽い感じで、『悪いけど、これ戦争なのよね』と呟いた。

 

 それにしてもほんの数週間前までは何もできないままやられていた私達がここまで戦えるようになったなんて、やっぱり彼との演習で本当に鍛えられたということなのかしら?

 やるじゃないかと親指を立ててくるアルカディア号に、

 

 「ふん、どうも! ありがと…。」と言っておく。

 ありがと…だけ小声になってしまったけど、そんな事は些末事。

 まだまだ先は長い。ここからが本当に私達の力が試されるといってもいいわ、気を引き締めていかないと。

 こちらを見てニヤニヤする最上と時雨に、ふんっとそっぽを向く。

 アンタ達だって集中演習の時に女の顔してたじゃないのよ。

 特に時雨、命中率低下の原因は肘が下がる事だって、彼に後ろから腕を持ってもらった時の顔を青葉にバラ撒いてやってもいいんだけど?

 




※『悪いけど、これ戦争なのよね』
 おっと、これまた中の人繋がりなネタですがお分かりになりまたでしょうか?

※青葉にバラ撒いてやってもいいんだけど?
 うーん、相変わらずというかどこの満潮ちゃんでも手厳しいのは同じなのでしょうか(笑)。


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第148話 新たな姫級編6(艦娘側:タウイタウイ朝雲1)

※お久しぶりです!
 仕事とイベントで大忙しで随分と更新が遅れてしまいました、申し訳ありません。



気のせい

 「待って!」

 殿を行く私の声に皆が振り返る。

 

 「一瞬だけどソナーに反応があったわ! 皆はどう?!」

 全員が顔を見合わせる。

 どうやら誰一人として反応が無かったみたい。

 結局アルカディア号にも反応は無く、私のソナーだけが海底の岩にでも反応してしまったのだろう。

 ごめんなさい、と小さくなる私に彼は気付かない方が恐ろしい、これからも反応があれば頼むと頭をポンポンとしてくれた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

今度は?!

 「螢。」

 

 「ええ。」

 岩礁地帯に差し掛かった時、アルカディア号と螢妖精が目配せをした。

 アルカディア号と違い飛行するなんて出来ない私達は大幅に航行速度を落とさないといけない。

 運悪く、月が雲に隠れてしまい辺りは墨を流したような闇に包まれる。

 そんな中、ガリッと音がして前を行く満潮があっ、と声を上げた。

 どうやら低速とはいえ、かなり強く岩で足部艤装を擦ってしまったみたい。

 

 「満潮?!」

 最上が満潮に駆け寄った。

 

 「大丈夫よ。少し擦っただけだから。」

 

 「でも…。」

 不安が拭えない最上。いや最上だけではない、私達全員が不安な顔をしていたと思う。

 なにせ当時の西村艦隊の運命を考えればあらゆる不安材料を取り除いておきたいと思うのも当然だ。

 そんな時、突然振り返ったアルカディア号が私達に近くの岩礁に上がる様に指示を出した。

 急げ、という彼の言葉に従って訳が分からないまま、それぞれが一番近くにあった岩礁によじ登る。

 次の瞬間、扶桑が上った岩礁から水柱が?!

 同じように山城・最上・時雨・山雲・私が上った岩礁に次々と水柱が上がる。魚雷だ。

 

 先のアルカディア号と螢妖精の目配せというかヤリトリはこれだったの?!

 次は殿の満潮と彼女に目をやったその時、目を疑う状況が飛び込んで来た。

 足部艤装を破損したためか満潮が上手く登れずまだ水の上に?!

 必死で登ろうとする彼女だがどうしても足が滑ってうまく上れない。

 霞が叫ぶと同時に私の目の前で水柱が!

 誰も一言も発しない。水柱が消えた後には何もなかったからだ。

 

 「満…、潮?」

 

 「うわあああっ! 満潮、満潮っ!」

 呆然とする扶桑と半狂乱になって叫ぶ最上。

 

 「大丈夫だ、満潮ならここにいる。」

 真上を見上げるとアルカディア号に抱えられた満潮が!

 安堵のあまりへたり込む最上と時雨。

 そんな二人を余所にアルカディア号が直ぐ近くの岩礁に満潮を降ろすとヤッタラン妖精が飛び出てきて彼女の足部艤装を修理し始めた。

 

岩礁地帯

 「今のぉ~、魚雷はぁ~、何処からかしらぁ?」

 山雲の言う通りだ。いくら岩礁で電探が効きにくいとはいえ、全員の電探が無反応なはずが無い。

 そう考えると浮かび上がってくる存在はただ一つ、潜水艦。

 ここまで気付かれずに接近を許してしまったという事はかなり上位の個体に違いない。

 

 「キャプテン、満潮ちゃんの足部艤装、修理完了や!」

 

 「全員、主機を止めろ。岩礁地帯を抜けるまで俺が曳航する。」

 

 「それだと、再び魚雷を撃たれたら私達に成す術は無いってことじゃない?!」

 それを聞いたアルカディア号は岩礁地帯の出口を指差した。

 

 「ここを抜けるためにはどうしてもあそこを一列になって通らなくてはならん。相手も我々を仕留めたかどうか分からない以上、コチラの動きを注視しているはずだ。」

 「主機を動かせば間違いなくその一列になる所を狙われるぞ。」

 

 「なるほど、やるなら月が隠れている今という事ね。」

 山城が頷いた。

 

 「そうだ。」

 

 「やりましょう。このままでは動けないし夜が明けて敵艦載機の攻撃に晒されてしまったら私達にはどうする事も出来ないわ。」

 扶桑の言う通りね。そうと決まれば急いで全員を曳航ロープで繋いでいく。

 最後尾の満潮から繋ぎ終わったと返事が返って来た。

 

 「スロットル微速前進。」

 アルカディア号が魔地機関長妖精に指示を出す。

 ゆっくりと引き出されていく私達。出口までは約50mといったところ。

 じれったい程、距離が縮まらない。

 あと30m、20m、10m…。

 

 突然アルカディア号が左に寄って止まった。

 山城がどうしたのと聞くのと螢妖精の魚雷来ます、というのがほぼ同時。

 すぐ右を白い航跡が単縦に複数本横切っていく。

 

 「今のはこちらを仕留められなかったことを分かってたのでしょうか?」

 

 「いや、分からないからこそ撃って来たはずだ。」

 「次に魚雷を撃ってくるまでに少しだが間があるはずだ。それまでにここを一気に抜けるぞ!」

 アルカディア号のエンジンが唸り一気に周りの景色が後ろへと流れ始める。

 そのまま一気に狭まった出口を抜ける。

 

 「敵潜水艦、魚雷発射音感知! 来ます!」

 出口を抜けると同時に、螢妖精が敵潜水艦の魚雷発射を伝えてきた。

 

 「全艦主機の再起動を急いで!」

 旗艦の扶桑が指示を出す。

 主機の起動を終え全員が雷撃に対する体制を取ると同時に航跡が確認できた。

 今ので相手も私達を仕留め損ねたというのが分かったのだろう、その数、キッチリ7本。

 でも今の私達にとってその程度の雷撃であれば躱すのは容易い。

 アルカディア号相手の演習が効いているのだ。

 ただ、夜間に潜水艦を撃沈するというのはほぼ不可能。

 最大戦速で逃げ切るしかない。

 ところがアルカディア号が潜水艦を始末すると言い出した。

 

 「いつぞやの一号重爆雷とやらを使うのかい?!」

 こんな浅深度であんなものを使ったら航路が塞がってしまう可能性があるじゃない。

 時雨が心配するのも尤もだわ。

 

 「いりょくを ちょうせつしたら ええねん。」

 ヤッタラン妖精が顔を出す。

 そんな事できるの、という私達の不安を意に介さず彼は、

 

 「こういうのは ワイがやらんと あきまへんのや。」

 そう言いながら何やら機器を覗き込む。

 これで大丈夫と彼が親指を立てるとアルカディア号の発射口からポイッと何かが投下された。

 直ぐに、

 

 「イタイ、ヤメテヨォッ?!」

 という叫びと共に海中の気配が無くなった。

 無くなったのはいいけれど…、全員の顔が青くなってしまった。

 だ、だって今の叫びは新潜水棲姫じゃない?!

 アルカディア号の力があるとはいえ、よくあんなのを相手に無傷で岩礁地帯を脱出できたというのが全員の偽らざる心境よね…。

 

 「そんな顔をするな。今のお前達ならもっと自信を持っていい(笑)。」

 そんな私達の顔を見て彼はそう言ってくれた。

 正直、未だ半信半疑の私達だけれど彼がそう言ってくれた事で随分と雰囲気が軽くなったわ。

 艦隊の雰囲気もだいぶ上向いてきたし同じ事でも彼に言ってもらうと効果倍増なのね(笑)。

 




※朝雲ちゃんのアルカディア号を見る目が(汗)…。

※次回の投稿もいつになるか分からない状態です。
 申し訳ありませんが気長にお待ちください。

※お気に入りと総合評価が随分と増えました。
 この場をお借りして皆様にお礼を申し上げます。
 読者様を裏切らないよう完結に向けて頑張らねば!


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第149話 新たな姫級編7(艦娘側:タウイタウイ時雨2)

※いやー、ひと月近く開いてしまいましたね。どうもお久しぶりです。
 春イベ(もう夏やけど)も残すは最終海域の最終ゲージのみとなりました。
 攻略完了の諸兄氏も多いとは思いますが、私も出来るだけ早く終わらせたいです…。

 次もひと月近く開くと思いますが、気長にお待ちくださいませ。


アルカディア

 周りを支配する闇がさらに濃くなった。

 肌にネットリトまとわりつくような濃密な闇。明らかに夜の闇とは違う異質の闇がこの先に広がっている。

 扶桑と山城によれば昼間ボスマスに辿り着いた時に感じられるあの何とも言えない嫌な感じがこの先からヒシヒシと伝わってくるらしい。

 それがさらに闇と同化しているという。

 確かに俺も異質な雰囲気をヒシヒシと感じる。

 数多の修羅場を潜り抜けたキャプテンハーロックの勘。いや感だろう。

 あれからも多くの戦闘を経てここまで辿り着いたタウイタウイ第二泊地の西村艦隊。

 特に手強かったのは魚雷艇が深海棲艦化したPT小鬼達。

 あまりに小さ過ぎて彼女達の攻撃が当たらないのだ。

 そして討ち漏らすと最後に魚雷を撃ってくる。

 山雲と朝雲が小破させられてしまった。

 副長とドクターゼロがいなければ大変な事になっていたに違いない。

 だが、俺はここからは進むことが出来ない。

 後は西村艦隊を信じるしかないのだ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

時雨

 先導してくれているアルカディア号さんが止まった。

 

 「扶桑。」

 

 「ええ…。」

 アルカディア号の隣に並ぶ扶桑も彼と同じくこれから進むべき先をじっと見つめている。

 感じているんだ、この先にあるモノを。

 この先に居座る異形のモノ達を。

 

 「いるね。」

 最上の喉が鳴った。

 

 「この先は通常艦隊でしか入れない。残念だが俺はこれ以上進む事は出来ん。」

 アルカディア号さんがボク達に向き直った。

 ボク達を守ってくれた彼がいなくなる。

 不安は増すばかりだけどタウイタウイ第二泊地(ボクたち)の扶桑と山城を連れ帰るには行かないとダメなんだ!

 

 「ここまでありがとう。どうなるか分からないけど死力を尽くすわ。」

 満潮の言葉を聞いた彼は帰りも必ず無事に連れて帰ると約束してくれた。

 だから思う存分暴れて来いと…。

 

 「西村艦隊、これより全力でレイテに突入します!」

 旗艦として全艦隊突入の指示を出す扶桑、単縦陣をとり闇の中へと突入を開始。

 さあ、ここは譲れない!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

海峡夜棲姫

 

 「ココ…ハ…トオレナイシ……。……トオサナイ……ヨ……ッ!」

 真っ暗な中をどれくらい進んだんだろう?

 海底から響いてくるような声が響き渡る。

 

 目を凝らすと徐々に闇の一部が薄くなりついにその相手が姿を見せた。

 二人で一体を形成しているその姿は…。

 写真で見る以上に扶桑と山城だった。

 深海棲艦化してもなお、お互い片方の手をしっかりと握りあっている。

 君達はこんなになってもお互いを思いやる心は忘れないというのかい…。

 

 「姉様…。」

 

 「あれが私達の成れの果て…。いえ、一歩間違えれば私達もああなってしまっていたかもしれないのね。」

 いつも穏やかな柱島第七泊地の扶桑と山城の目にも深い悲しみが浮かんでいる。

 柱島第七泊地もタウイタウイ第二泊地に負けず劣らずなブラック鎮守府だったというから、他人事とは思えないんだろう。

 そんな中、最上が扶桑・山城、迎えに来たよと前に出た。

 

 「っ! 下がりなさい!」

 満潮がそう叫んで最上を引き戻す。

 それと同時に、今まで私達がいた場所に海峡夜棲姫の随伴艦が姿を現した。

 第一艦隊に戦艦ル級flagship、戦艦ル級elite、戦艦ル級elite、戦艦ル級elite、戦艦ル級eliteが、第二艦隊に駆逐ナ級後期型、駆逐ロ級、駆逐ロ級、駆逐ロ級、PT小鬼群(D)、PT小鬼群(D)が展開される。

 やはり戦わずしての説得は無いみたいだね。

 やるしかない、そう覚悟を決め砲を構え直す。

 上空には山城から発艦した夜間偵察機が舞っていた。

 扶桑・山城、少し痛いかもしれないけど我慢してもらうよ!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「くっ!」

 

 「朝雲っ!」

 被弾した朝雲を庇って最上が前に出た。

 

 

 「山雲の攻撃、どうかしら~?」

 

 「私が出なきゃ話にならないじゃない!」

 山雲と満潮が朝雲を狙った駆逐ロ級達を次々と葬っていく。

 

 「残念だったね。」

 そして僕の攻撃が運良くPT小鬼を一匹仕留めた。

 これで相手第二艦隊の残りは駆逐ロ級とPT小鬼の二隻!

 だけど、ここで水平線の向こうが明るくなって日が昇り始めた。

 くそっ、夜戦の間に第二艦隊だけでも全滅させておきたかったのに!

 

 夜の闇が徐々に消えていく。

 でもこの肌にまとわりつくような嫌な感じは未だ残ったままだ。

 第一艦隊の戦艦ル級たちの薄ら笑いを浮かべた顔がはっきりと確認できる。

 第一艦隊全部、戦艦ル級っていったいどんな脳筋編成だよ…。

 心が折れそうになった時、遠くから力強いエンジン音とプロペラ音が聞こえてきた。

 

 




※山雲と朝雲が小破
 ヤッタラン副長とドクターゼロにより途中修理されています。

※魚雷艇が深海棲艦化したPT小鬼
 コイツらなかなか攻撃が当たらないんですよねぇ…。

※力強いエンジン音とプロペラ音
 一体、何が何処からやって来たのでしょうか?!


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第150話 新たな姫級編8(艦娘側:柱島第七泊地 扶桑1)

※お久しぶりです。
 諸兄氏は春イベントの結果は如何でしたか?
 比較的早く終わった方、ギリギリになってしまった方、ドロップに恵まれた方、お目当て艦の発掘作業に熱心だった方と色々いらっしゃったと思います。
 私は伊201と倉橋の入手こそならなかったものの、正規空母のラストピースだった天城が来てくれたのでメリーランドちゃんと併せて満足の結果で終わることが出来ました。

※そして夏の終わりに夏イベ開始とイベントラッシュという鬼畜攻撃を繰り出してくる運営さん。
 資源がまだ回復してへんちゅーねん!


 編隊を組み深海棲艦の艦隊に襲い掛かる一式陸攻、胴体には1本の白い白線、胴体にはT‐01のレターコード。

 あれは…。

 

 「姉様、間違いありません。タウイタウイ第一泊地の機体です!」

 サジータ提督が飛ばしてくれたんですよ、と興奮気味の山城。

 無理もありません。

 第一波で第二艦隊の残存艦全てを、第二波で第一艦隊の戦艦ル級2隻を葬ってしまったのですから。

 よく訓練されているのでしょう。

 さすが第一泊地の編隊です。

 

 「扶桑、山城!」

 最上の呼び掛けに私達も瑞雲ファンネルを展開させます。

 

 「行って、瑞雲達!」

 

 「瑞雲達、あそこよ、行けっ!」

 

 「そうさ、瑞雲だよ。ちゃんと定数目一杯飛ばして見たかったんだ!」

 言い出しっぺのボクが遅れを取る訳にはいかないね、と最上。

 三人のカタパルトから射出された瑞雲ファンネルが残った戦艦ル級と海峡夜棲姫の周りを飛び回ります。

 幾らル級フラッグシップや海峡夜棲姫とはいえ、ファンネルの機動性の前には成す術がありません。

 縦横無尽に瑞雲ファンネルが舞った後にはさらにル級が一隻姿を消していました。

 

 「主砲、副砲、撃てえっ!」

 飛び道具の後はいよいよ砲撃戦。

 

 「主砲、よく狙って、てぇーっ!」

 私と山城の徹甲弾が海峡夜棲姫の砲身下にある大きな口の中へと飛び込みました。

 凄まじい咆哮を上げ両手を振り回す彼女の主砲ですが、やがて二門の砲身が力なく垂れさがるともうそこから動く事はありませんでした。

 これで残る主砲は一基のみ。

 

 ええ、主砲の火力だけは自慢なの。

 山城も近代化改装済み、これで欠陥戦艦とは言わせないしと息巻いています。

 え、防御力と速力?

 そんなの…、欲しいけど…。

 

 でも未だ終わりではないわ。

 直ぐに腰のライトセイバーを抜き海峡夜棲姫に一太刀を浴びせます。

 今度は海峡夜棲姫自身の悲鳴が響き渡ります。

 

 相手が闇のモノであればあるほど、また強ければ強いほど艦内神社の力を乗せたこの光線剣は威力を発揮するの。

 扶桑姉妹の持つ石清水八幡宮の力、とくと味わって頂戴。

 そして最上の連撃でまた一隻ル級が海底へと還っていきます。

 が、海峡夜棲姫も覚醒したのかもしれません。

 隣にいる山城を彼女の攻撃が捉えました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「やだ魚雷? 各艦は私を顧みず前進して! 敵を撃滅してくださぁーい!」

 山城の悲痛な叫び。

 

 「ダメだよ! その結果がどうなったかはみんなが知っているじゃないか、また同じ事になるのはもう嫌なんだよ!」

 山城を守るため瑞雲ファンネルを展開しつつ、最上もライトセイバーを構えて切り込みます。

 

 「今の僕は負けないよ、甘い甘い!」

 さすがは960年後の未来技術、そのままル級の砲身を真っ二つに。

 

 「うーん ちょーっと、真面目にやらないとダメかなー。」

 

 「や、やられた…でも、まだ航行できる…!沈むもんか!」

 ですがまたしても海峡夜棲姫の一撃で山雲と朝雲がいとも簡単に無力化されてしまいました。

 急がないともう時間がありません!

 海峡夜棲姫に狙いを定めもう一度、瑞雲ファンネルで全方位攻撃、主砲の連撃、そしてライトセイバーで薙ぎ払いますが…。

 

 ダメです、倒し切れません!

 最後の時雨による連撃も残ったル級に吸われてしまいました。

 薄ら嗤いを浮かべ撤退していく海峡夜棲姫。

 私達はそれを成す術も無く見送る事しか出来ませんでした。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「くっそぉ、攻撃力が全然足りないじゃないかよぉ、冗談じゃないよ…。」

 呆然と立ち尽くしていた私達ですが、最初に我に返ったのは最上でした。

 

 「仕方ないじゃない、アンタだって一回で成功するとは思ってなかったんでしょう?」

 満潮に宥められる最上ですが、もっと追い込めるはずだと思っていた私達にとってはかなりのショックです。

 事実、海峡夜棲姫はHPにかなり余裕を残していましたから。

 

 「ごめんなさい、最上。火力には自信があると言いながら海峡夜棲姫を逃してしまったわ。」

 

 「私が中破せず万全で戦えていたら…。」

 山城と共に謝罪すると、いや扶桑と山城は十分に活躍してくれたよ、と最上が労ってくれたのですが、このままでは何度挑んでも結果は変わらないであろうという残酷な事実に全員が打ちのめされてしまいました。

 

 「取り敢えず帰投しましょう。今後の事も含めて話し合いと作戦の再立案も必要でしょうから。」

 もうすっかり日が昇り明るくなったスリガオ海峡。

 山城の言葉に肩を落としながら皆でアルカディア号の待つ海峡入口へと向かい始めます。

 途中、何度も何度も振り返りながら…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 海峡入口ではアルカディア号さんが待っていてくれました。

 打ちひしがれる私達を見て彼は何も言わず、ドクターゼロ妖精さんとヤッタラン妖精さんに皆の手当てを頼むと依頼されました。

 やはり強いだけでなく人の心を思いやれる方なのですね…。

 

 「アルカディア号さん…。」

 最上が彼を呼びました。

 

 「…。」

 振り向いた彼は黙って私達を見ています。

 

 「ごめん、せっかく連れて来てもらったのに…。海峡夜棲姫を倒せなかった…。」

 

 「そうか…。」

 力不足だった私達を責めるでもなく叱るでもなく彼はそれだけを呟くと再び前を向きました。

 最上は逆に責めて欲しかったのでしょう。

 怒られる方が気が楽という時ってあるわよね?

 事実、今度は時雨が何かを言いかけましたがそれよりも彼の声が先に聞こえました。

 

 「俺はお前達をここへ連れてくると約束した。だが、それは一度だけだとは言った覚えは無い。お前達が海峡夜棲姫に引導を渡すまで何度でも連れてくるつもりだ。」

 

 「い、いいのかい?!」

 

 「ああ…。」

 彼は一度約束した事はどんな小さな事でも命をかけて守る方です。

 おかげで沈んでいた私達の心は少しだけラクになりました。

 山城と山雲、朝雲の応急修理も終わったようです。

 さあ、タウイタウイ第二泊地へと進路を取りましょう。




※この後、何度も海峡夜棲姫に挑むタウイタウイ第二泊地の西村艦隊。
 しかし、何度挑んでも一向に活路が見いだせない状態に諦めムードが!
 一体、彼女達はどうなってしまうのでしょうか?


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第151話 新たな姫級編9(艦娘側:北大路花火1)

※ハーロックと鉄郎の酒場でのイメージといえば、映画版があまりに有名ですが、TV版にも二人の酒場シーンがあります。
 今回はそのTV版のシーンを取り入れさせてもらいました。


横須賀第一鎮守府大会議室

 私は今、アルカディア号さんと横須賀第一鎮守府の大会議室にいます。

 いや、正確にいえばタウイタウイ第二泊地の西村艦隊と一緒にですけど。

 月一の定例会議の場を利用して、海峡夜棲姫という新たな姫級の出現とそれに対する戦闘詳報の提出、集まった各提督達への情報共有です。

 タウイタウイ第二泊地の西村艦隊の欠けた扶桑と山城は柱島第七泊地(私の所)の扶桑と山城ですから私としても戦闘報告は気になる所です。

 ですが、旗艦を務める彼女からの報告は色良い物ではありませんでした。

 海峡夜棲姫には攻撃があまり通らず、かなり余裕を持った上での撤退を許してしまうらしいのです。

 大神さんからは諦めたらそこで終了だ、何とかして海峡夜棲姫を撃破し変わり果てた扶桑と山城に安寧を与えてやって欲しいと仰られました。

 真宮寺長官からも出来るだけの援助はしますからという有難い申し出がありました。

 タウイタウイ第一泊地のサジータ少将も無限という訳にはいかないが出来る限り陸攻隊は出すと約束して下さいました。

 西村艦隊全員(タウイタウイ第二泊地)がお礼を述べますが、全員表情が暗いですね。

 ですがそれ以上に気になるのがそれを忌々しそうに睨む提督達が一定数いる事です。

 間違いなくブラック提督達でしょう。

 会議でも、そんな役立たず達に資源を回すなんて無駄な事は止めるべきだと強硬に主張を繰り返していましたから。

 資源については分からないではありません。

 万一に備えて各地の提督達は毎月一定量の資源を税金のような形で軍令部に供出する事になっているからです。

 勿論、軍令部所属の艦娘も遠征には出るのですが、泊地や基地が新しく設立された際や、深海棲艦の大規模侵攻で大きな被害を受けた海外泊地や基地にはこのストックされた資源が使われる事になっており、いわば保険組合というかお互い様なものだと思うのですが…。

 

横須賀第一鎮守府艦娘用食堂

 お昼はアルカディア号さんがここの艦娘用食堂を利用されるという事ですので私もご一緒させて頂く事にしました。

 え、べったり?

 半月ぶりなんですから仕方ないではありませんか!

 むしろ提督部門の正室としては当たり前だと思うのですが、何か問題でも?

 当然、昨晩は向こうでお妾さんを作っていないかどうかのチェックもさせて頂きましたし(どうやってだ?)、タップリと搾り取らせて頂きもしましたけれど。

 それにアルカディア号さんも久しぶりの花火の匂いだと(ぽっ)…。

 

 あ、当の西村艦隊の面々もいますね。

 ですが、食事時だというのにやはり表情が暗いです。

 扶桑も山城も貴女達が主力艦なのですからもっと明るく振舞いなさい。

 苦しい時こそ笑っていないと、と声を掛けようとした時でした。

 先程の提督達がやって来て彼女達を取り囲んだのです。

 

 「ちょっといいかしら?」

 あれはナーデル少将?!

 また厄介な方が出てきましたね…。

 

 「何かな、ボク達に用事かい?」

 タウイタウイ第二泊地の時雨が振り向きました。

 

 「何かなですって?! それはこちらの言う事よ!」

 一体、いつまでこんな無駄な事を続けるつもりなのよ、と喚くのは…、取巻きの蝶大佐ですか。

 あの平安朝の眉毛、間違いありません。

 いえ、別に妙高さんをどうこう言うつもりも無いですし、悪口を言っている訳では無いのですよ?

 

 「そんなの決まってるじゃないか、扶桑と山城を助けるまでだよ!」

 

 「冗談、これ以上、燃料や弾薬を無駄にされたらたまったもんじゃないわ!」

 食い下がる最上をナーデル少将が一喝します。

 

 「弾薬も燃料も出してくれているのは軍令部よ、そっちに迷惑を掛けている訳じゃないわ!」

 満潮だって負けてはいません。

 

 「これだから兵器共は。我々各地の提督達が軍令部に毎月資源を供出しているのを知らないとは言わせないわよ?!」

 ブラック提督達からもそうだそうだ、と次々に賛同の声が上がります。

 何も言い返せない西村艦隊の面々とは対照的に勝ち誇った表情のブラック提督達。

 その時、突然アルカディア号さんが口を開きました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「行かせてやれ。」

 

 「あん?」

 ナーデル少将だけではなく、取り巻きの提督達や食堂にいる全員がこちらを向きました。

 

 「行かせてやるんだ。」

 

 「あの人、前にも横須賀(ここ)で会った…。」

 横須賀第一鎮守府の羽黒が気付いたようですね。

 ですがどうして後ろ姿で分かるのでしょう?

 って、今そっと胸に直したロケットペンダント、まさか?!

 青葉がコッソリと隠し撮りした写真を入手してニヤニヤしていないでしょうね…。

 そんな私の胸中などお構いなしに彼はコップを手にしたまま微動だにしません。

 

 「ちょっと! 今なんて言ったの?!」

 ナーデル少将が彼の後ろにツカツカとやって来ました。

 

 「行かせてやれ…、と言った。」

 

 「横から余計な口を挟まないでちょうだい、このアタシにケンカを売ろうっての?!」

 ジタバタと床を踏み鳴らすナーデル少将。

 

 「そのつもりは…、無い。」

 一方のアルカディア号さんはヒートアップすることなく静かに対応していらっしゃいます。

 さすがは北大路家の跡取りです。私も鼻が高いですね(神崎:あ?)。

 彼はそのままコップを呷りました。

 

 ですが後先考えずに短気に走る所があるナーデル少将です。

 落ち着いた態度が気に障ったのでしょう、対艦娘専用銃に手を伸ばしました。

 アルカディア号さんも振り向きはしていないものの、戦場を潜り抜けてきた勘と経験からナーデル少将の気配を感じ取っているようです。

 

 ナーデル少将が銃を掴むチャッという音と共に彼の目が光りました。

 そして不思議な音と共に光線が寸分の狂いも無くナーデル少将の銃だけを弾き飛ばしたのです。

 しかもそのままマント越しに、一切後ろを見る事なくです!

 神業としか例えようがありません。

 

 「くうっ!」

 痺れる手を抑えるナーデル少将。

 アルカディア号さんがゆっくりと立ち上がります。

 

 「戦う者には負けると分かっていても行かなければならない時もある。」

 「死ぬと分かっていても戦わなくてはならない時もある。」

 以前にもほぼ同じ事を仰っておられましたが、何度聞いてもカッコイイですね。

 これで心を惹かれない女なんているのでしょうか…。

 

 「ここにいるお前さん(ブラック提督)達はいざという時に行く事も戦う事も出来なかった。それでここへきて自分達の立場を利用し憂さ晴らしをしているんだ。」

 さらに彼は周りにいる取巻きの提督達にも目を向けました。

 

 「だったらその7人を行かせてやるんだ。」

 「みんなで励まして行かせてやるんだ。」

 

 「それくらいの事はお前さん達にも出来るはずだ。」

 ナーデル少将が唇を噛みます。

 恐らくグウの音も出ないのでしょう。

 ふんっ、と弾き飛ばされた銃を回収すると取巻き連中を連れて出て行ってしまいました。

 

 「これを飲んでいきなさい。」

 それを見ていたここ(横須賀第一鎮守府)の鳳翔さんが、日が落ちてもタウイタウイは暑いですからね、と涼し気なドリンクを西村艦隊のテーブルに置いてくれました。

 横須賀第一鎮守府が大規模作戦に出る前には必ず振舞われる景気付けの一杯なんだそうです。

 

 「南の夜空に十字星が輝いている。その下に重く浮かぶ鉄の城のように見える小島、そこが海峡夜棲姫が身を潜めているアジトだ。」

 ア、アルカディア号さん?!

 聞けば独自に偵察機を出していたというではありませんか。

 

 いえ、それ以前に横須賀第一鎮守府の艦娘達が熱い視線を向けているのが気になります。

 そんなモノ欲しそうな顔をしたって上げませんから!

 私の想い人をそんな目で見るのは止めて下さい(ヤメテヨォッ)

 特にそこっ、伊勢と榛名!

 

 ああっ、高雄や妙高、羽黒に古鷹まで!

 後ろからは神通の溜息まで聞こえてくる始末。

 ですがアルカディア号さんは私の気持ちを知ってか知らずか何事もなかったように、お前達も分かっているのだろうと時雨の横に立ったのです。

 

 「うん…。」

 

 「ええっ、海峡夜棲姫に私達の攻撃が通じない理由が分かってるの?!」

 朝雲が驚きますが無理もありません。

 ですが、私も薄々は気付いていた事でもあるのです…。

 

 「提督の存在だよ。僕達艦娘は提督がいなければその力を半分も発揮できない。ブラック提督達が無くならない理由の一つだよ。」

 あんな連中でもいなければ艦隊として成り立たないからね、と最上。

 

 「何よ、理由が分かっているなら、サッサと新しい司令官を着任させてもらうべきじゃない!」

 

 「提督の絶対数が足りていないわ。誰でも簡単になれる訳では無いのは知っているでしょう。」

 扶桑がいきり立つ満潮を宥めます。

 

 「第一のサジータ提督にお願いしてみればどうかしらぁ~。」

 

 「サジータ提督は今、リランカ島開放作戦で手が一杯のはずよ。ああは言って下さっているけれど、陸攻隊もいつ切られるか分からないわ。」

 山城の言う通りですね。

 出来る限りとは仰っていただいていますが、逆にその範囲を超えた時は…、という事ですから。

 と、その時です。

 

 「全員、冴えない顔してるワ、一体どうしたって言うのかしら?」

 この場には似合わない能天気な声が聞こえました。

 




※映画版もTV版も酒場でハーロックに絡む男の中の人は銀河万丈さんなのですね(笑)。

※資源回復の目途が立たない状態で、もう夏イベの告知が運営からされました(泣)。
 諸兄氏の所はもう万全でしょうか?

※最後に出て来たのは右手にモップ、左手にバケツを持った掃除婦さんです。
 はてこの方は?


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第152話 新たな姫級編10(アルカディア側1)

※夏イベが始まりました。
 諸兄氏はもう攻略を始められたのでしょうか?

※西村艦隊の面々は今度こそ海峡夜棲姫を倒すことが出来るのでしょうか?
 またタウイタウイ第二泊地の扶桑と山城は一体どうなるのでしょうか?

※随分と間が空いた割にはこんな話しか出来ませんでした。
 お許し下さい。 m(__)m


横須賀第一鎮守府艦娘専用食堂

 「「「「「「「あ。」」」」」」」

 その女を見た全員の声が重なった。

 

 「え(ゾクッ)?」

 何かを感じたのだろう。

 その女、『影山サキ』の背中に悪寒が走ったのか体が震えた。

 

横須賀第一鎮守府第二小会議室

 「ムリ、ムリ、ムリ! そんなの絶対に無理だワ!」

 現在、真宮寺長官からタウイタウイ第二泊地の臨時?司令官として着任を打診された影山が高速で首を横に振っている。

 そんな影山に対して、どうしてですかと涼しい顔で長官がコーヒーを啜った。

 ふっ、連合艦隊司令長官としての肩書は伊達ではないという事か(笑)。

 

 「無理よ、私はもう提督ではないワ。ここにいるのは海軍軍規に背き艦娘達に散々酷い事をしてきた犯罪者よ!」

 だからここで掃除婦をやってるんじゃない、と影山が唇を尖らせた。

 

 「それこそナンセンスです。」

 

 「ナンセンスですって?! 私がどんなことをしてきたかは貴女達だって良く知っているでしょう!」

 

 「ええ、勿論です。」

 

 「だったら!」

 それに対し、だからこそですと返す長官。

 信じられないといった顔をする影山に長官が続ける。

 

 「貴女はあれだけ酷い艦隊運営をしながら誰一人として沈めなかった。そんな人が今度こそまともな艦隊運営をしたとしたら?」

 なるほど、長官が買っているのはソコか。

 ま、私はサクラ大戦キャラの敵役一の美貌を買っているんですけどね(笑)。

 え、先程のナーデル?

 まあ、不細工ではない思うが彼女の場合、どっちかというとお笑い担当だからなぁ…。

 

 「だから私にそんな資格はないワ。第一、もう私は提督では無いもの。それにまともな艦隊運営なんて一度も…。」

 影山が下を向く。

 花火は黙って影山と長官の話を聞いているだけだ。

 

 長官が俺に視線を向けると小さく頷いた。

 こちらからも何かを言えという事なのだろう。

 

 「影山。」

 名前を呼ぶと同時に右手を彼女の手に重ねる。

 

 「お前は肩書が無いと何も出来ないのか?」

 顔を上げた影山と目が合った。

 そこにはかつての冷徹な女司令官ではなく不安に圧し潰されそうな女がいるだけだ。

 いやぁ、それにしてもヤッパリ別嬪さんですな~。

 夜のオカズにするために脳内SSDに保存しようとした時、花火の踵が足の甲に突き刺さった(泣)。

 

 「アルカディア号さん、今、彼女は生まれ変わろうとしています。西村艦隊の皆さんだけでなく影山提督も支えてあげて下さい。」

 後押しをお願いしますと長官。

 

 「良かろう、今さら一人増えた所でそれほどかわるものではないからな。」

 イイですよ~、手取り足取り支えてあげますね。

 そして最後は腰取りで合体不可避、これだ!

 

 「何を勝手に決めてるんですか! やらない、いえ出来ないと言っているでしょう?!」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

横須賀第一鎮守府 北大路花火宿泊部屋

 「アルカディア号さん、ちょっとそこに座って下さい。」

 花火が前に座るように促してきた。

 

 「いや、もう座って…。」

 

 「はい? 椅子ではありません、() () () ()。」

 怖い、その笑顔がめっちゃ怖いです…。

 

 「影山さんに鼻の下を伸ばしていましたよね?」

 花火の目がスッと細くなった。

 

 「いや、そんな事は無い。そもそも花火は俺のオンリーワンなのだ。それに美人がイイなら正室は神崎中将閣下を選んでいる。」

 途端に相好を崩す花火。

 チョロイな(笑)。

 少し気が緩んだのだろう、くっつけていた両ひざが少し開いている?!

 おかげで夏期第二種の白い海軍制服、タイトスカートの中が見え…、ない!

 あと、ちょっとだ、頑張れ(何がだ)。

 

 「柱島第七泊地に帰ってくるのも花火が待っていると分かっているからこそだ。これからもカルチェラのように花火に害をなす者は俺が許さん。」

 最後の一言が効いたのだろう、ついに秘密の花園が!

 薄桃色のショーツの上に走る白いパンストのセンターシーム。

 同じ白パンストでも長官や神崎中将閣下がアイボリーなのに対して花火は純白のため、陽光で脚がピンクに透けて見える。

 これも実に悩まし気で得点が高いですぞ。

 いやあ実にハイテンション、いや履いてんしょんですな(ゲス顔)。

 

 「あ…。」

 

 「あ?」

 

 「貴方という人はっ!」

 ヤバい、バレた?!

 マズい、こりゃ言い逃れ出来ないヤツだわ。

 

 「昨日あれだけ頂いたというのに、まだそんな余裕がおありとは。ごめんなさい、私、アルカディア号さんの火力を侮っていました。」

 そのままドアにカギを落としこちらを振り向く花火。

 オイオイ、ハイライトが無いなんてレベルじゃないぞ。

 瞳孔が最大限にかっ広がってんじゃん…。

 って、いうか最近私の周りにいる女性の目から光が消える事象が頻発している気がするんですが、気のせいでしょうか?

 そして、こうなったら徹底して私の匂い(体臭)を物理的に刷り込んで覚えさせてあげますからと妖艶な笑みを浮かべて俺の首に手を回してきたのである。

 あの…、まだお昼過ぎですよ?

 ねえ、花火さん、聞いてま…(ンンッ、ムグッ)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 横須賀第一 敷波:「ねえ、柱島第七泊地の提督さんと例の海賊船の男性艦、部屋から出てこないんだけど?」

 

 横須賀第一 磯波:「例の海峡夜棲姫攻略の作戦を練ってるんじゃないかな?」

 

 横須賀第一 敷波:「そっか、じゃあ大丈夫だね。」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

タウイタウイ第二泊地 ブンカー

 夕焼けの中、女性士官用帽子にジャケット、スカートと白い海軍夏期制服に身を包んだ影山、いや影山サキ提督が出撃前の西村艦隊の面々に立った。

 結局、なし崩し的に手続きを進められ彼女は臨時提督としてここに着任する事となったのである。

 海軍制服に身を包んだ影山にこの間見た掃除婦としての面影は何処にもない。

 さらに白いスカートから伸びる美脚と、磨かれたパンプスが大変眩しくございます。

 先の制服姿と併せて脳内JPGに保存していると、

 

 「ではアルカディアさん、お願いするワ。皆も彼に迷惑を掛けないように。頼りきりでは無くて出来るだけ自分達の力で何とかする事、いいわネ。」

 

 「「「「「「「了解!」」」」」」」

 もうチャンスがそれほど無いと分かっているのか、全員が悲壮な表情だ。

 

 「必ず無傷で海峡夜棲姫のいる所まで連れて行こう。もし、皆が力及ばず海峡夜棲姫が撤退したとしても今度はコチラがヤツのアジトまで追いかけていく番だ。」

 そう告げると同時に旗艦の扶桑から総員揚げ方用意!(総員抜錨)の号令が掛かった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

おまけ

 何故、影山サキはあれだけ固辞していたのに着任を引き受けたのでしょうか?

 ちょっと数日前の夕刻、長官室で行われた二人だけのヤリトリを覗いて見ましょう。

 

 真宮寺:「作戦完遂までアルカディアさんがそちらに居てくれますよ?」

 

 影 山:「え?」

 

 真宮寺:「本土と違って正室である北大路提督の目は届きません。こんなチャンスは滅多にないと思いませんか?」

 

 影 山:「あ、あの…。それってどういう…。」

 

 真宮寺:「そうですね、お好きなだけ火遊びが出来る(羽目を外しても黙っています)と…。そういう事ではないでしょうか?」

 

 影 山:「そ、それは…。あの、私にもお情けを頂けるという事でFA?!」

 

 真宮寺:「ええ(ニッコリ)。ですから…、ね?」

 

 影 山:「分かりました。引き受けるワ。」

 




※北大路:またですか…。
 うぷ主:何がでしょうか?
 北大路:影山サキです! 一体、何人私の邪魔をしてくるんですか?!
 うぷ主:えっと…、物語の進行上必要なので…。
 北大路:怒らないから正直に言って下さい。あと何人ライバルが増えるんですか!
 うぷ主:(すでに怒ってるし…。)
 北大路:うぷ主さん?
 うぷ主:えっと、あと大和さんとエリカ・フォンティーヌ提督は絶対です。
 北大路:大和さんはまだしもエリカさんが何故?
 うぷ主:えっと影山サキとエリカ提督は合体してもらう必要があるので…。
 北大路:ええっ、同性愛はマズいのでは…。
 うぷ主:違います、あの二人は単体では弱い火ですが、二人合わされば炎となるんですよ。
     炎となった二人は無敵です、アルカディア号にとっても頼もしい戦友となるハズです!


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第153話 新たな姫級編11(艦娘側:最上2)

※夏イベ、前段作戦だというのにキツイ箇所が多過ぎ…。
 諸兄氏はもう前段作戦の攻略はお済でしょうか?

※今回、少し古いですがある映画のワンシーンを取り入れてみました。
 分かる方、いるかなぁ。


 アルカディア号と別れた後、僕達は海峡夜棲姫のいるボスマスへと突入を開始。

 それにしても本当に約束通り全員が無傷だね、凄いよ。

 全員が武装を展開するのと同時にタウイタウイ第一の陸攻隊がやって来た。

 

 ええっ!

 今までは最低でも一部隊は戦闘機隊の護衛が付いていたのに、今回は4部隊とも全て陸攻隊じゃないか!

 サジータ提督は被害を度外視で全てを攻撃に割り振ってくれたんだね?!

 おかげで第一艦隊の2/6、第二艦隊の3/6を撃沈という素晴らしい戦果に。

 ただ、やっぱりそれと引き換えに未帰還機が多数出てしまった。

 

 あれでは第一といえども次の部隊を送る事は難しいかもしれないね。

 やはり何としても今回で決めないと!

 

 隣では扶桑と山城が瑞雲ファンネルを展聞してこちらに向かってくる艦載機を次々と落としてくれている。

 僕の瑞雲爆整隊も熾烈な対空砲火の中、敵艦隊に肉薄し随伴艦三隻を中破に追い込んだ。

 

 どうだい、これが航空巡洋艦の実力さ。

 ヘリ搭載護衛艦の魁、いや先駆けのようなボクだからね。

 そして何とここで更なる追い風が!

 

 独持の音と共に赤い光の矢が次々と相手艦隊に突き刺さった。

 間違いない、アルカディア号のパルサーカノン(主砲)による砲撃だ!

 おかげで本格的な砲雷撃戦に入る前に敵艦隊は海峡夜棲姫を残して全滅だよ!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「い、今のは?!」

 

 「アルカディア号の砲撃よ。」

 

 「見ればわかるわよ、それよりもどうして?!」

 

 「落ち着きなさい。あれはアルカディア号による決戦支援、おそらく影山提督が要請してくれていたに違いないわ。」

 それを聞いた満潮が最初からやってくれればいいのに、とお冠に。

 

 「あの方にはあの方なりのお考えがあるのよ。というか支援要請が出されていなければ流石のアルカディア号とはいえ動けないのではないかしら。」

 やれやれ、説明してくれる山城の方がずっと冷静じゃないか(笑)。

 

 「トオサナイッテ…、イッテルデショウ!」

 「シニタイノ?! マップタツニナリタイノ?!」

 

 暗い水底から響いてくるような声、いよいよ海峡夜棲姫のお出ましだ。

 

 「来るわよ!」

 扶桑の叫びと同時に海峡夜棲姫の主砲が火を噴いた。

 狙われたのは朝雲と山雲。

 でも甘い、甘い。

 難なく砲撃を躱す二人。

 さらに時雨の砲撃が海峡夜棲姫に命中、駆逐艦の砲とは思えないダメージを叩き出した。

 提督が着任した今、僕達の戦闘力を今までと同じに考えてもらって困っちゃうな(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「提督(着任)の力だよ、ただし、『まとも』なっていうただし書きが付くけど、ねっ!」

 僕の20.3cm砲が連撃で命中すると海峡夜棲姫から悲鳴が上がった。

 満潮がやるじゃないと言ってくれたけど、僕だけ乗り遅れる訳にはいかないじゃないか(笑)。

 さらに海峡夜棲姫が怯んだ隙を逃さず、朝雲・山雲・満潮の砲が次々と海峡夜棲姫を捉えていく。

 

 「姉様!」

 

 「主砲の火力だけは自慢なの。」

 戦艦二人の主砲による連撃がついに海峡夜棲姫を中破へと追い込んだ。

 

 「ヤメッテッテ…、オネガイシテルノニィ!」

 絶叫する海峡夜棲姫の主砲が再び咆哮を上げる。

 

 「時雨っ?!」

 拙い、説得を試みようと海峡夜棲姫に近づいていた時雨と霞が一撃で大破に追い込まれてしまった。

 

 「やっぱり駄目なの?!」

 朝雲がボロボロになった時雨と霞を後退させる。

 

 「仕方ない。こうなったら僕達で終わらせてあげるよ。それがせめてもの償いだ。」

 

 「手加減なんてしていたらこちらがやられるわよ!」

 海峡夜棲姫に戦艦組の連撃が決まる。

 さらに特効を持つ朝雲と山雲の魚雷が突き刺さり、海峡夜棲姫が海面に叩き付けられた。

 それでも立ち上がってくる姿に、今回もHPを削り切る事が出来ないのかという不安に襲われてしまう。

 そんな彼女に時雨が再び手を伸ばした。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「っ?! 下がりなさい、時雨!」

 山城が時雨の腕を引っ張った。

 

 「おーい、扶桑に山城! いっしょにタウイタウイ第二泊地へ帰ろう!」

 「扶桑、山城! 君達なんだろう?! 遅くなったけど迎えに来たよ!」

 「大丈夫、もうアイツは居ないんだ、新しい有能な提督が着任したんだよ!」

 必死に呼びかける時雨。

 

 「ええ、愚か者の末路に相応しい最後だったわ。」

 時雨に続き霞も加わって呼びかける。

 それでも海峡夜棲姫は黙ったままだ。

 

 「みんな二人が帰ってくるのを待っているんだ! だから…。」

 その時、海峡夜棲姫が何かを取り出した。

 あれは…、竪琴?

 あっけにとられる僕達を無視して海峡夜棲姫は手にした竪琴を静かに鳴らし始めた。

 これは…、埴生の宿に仰げば尊しじゃないか。

 そして演奏が終わると海峡夜棲姫は一礼して撤退し始めた。

 

 「だ、めだ…。二人をあのまま返してしまっては…。」

 ヨロヨロと立ち上がる時雨。

 

 そうだよ、時雨。君のいう通り諦めてはいけないんだ。

 

 「何としてでも、絶対に二人を連れて帰る…。」

 でも立つているのがやっとな上に激しい失血と痛みで12.7cm砲のトリガーを引く指に力が入らない。

 さらに流れてきた血が入ったせいで目が霞み照準が定められない。

 

 「くそっ、ここまで来て…。」

 まさに意識と主砲を手放す寸前で時雨の手にもう一本手が重ねられた。

 

 「ア、アルカディアさん…。どうして?」

 

 「影山提督が決戦支援だけではなく友軍支援も要請してくれていたのだ。このチャンスを無駄にはできん、時雨!」

 

 「うん、決めて…、みせる!」

 二人がトリガーを握る手に力を込める。

 発射された砲弾が撤退しようとする海夜棲姫の背中へと吸い込まれていった。

 

 みんな教動だにせず成り行きを見守る中、少しの間をおいで海峡夜棲姫の巨体がグラリと揺れた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 先程まで海域を支配していた禍々しさが一気に晴れていく。

 

 『ソウナノデスネ。アナタタチハ、ソレデモコノサキニススモウト…、イウノデスネ。ナラ、アナタタチハ…。ススンデ…、コノサキニマツモノヘ・・・。』という言葉を最後に残し海峡夜棲姫は波間に消えて行った

 その時の彼女、いや扶桑と山城の頭は実に穏やかだったよ。

 

 「終わった…、の?」

 

 「ああ…。」

 

 「そっか…。」

 海峡夜棲姫の沈んだ海面を見つめる。

 アルカディア号が僕の頭に手を置いた。

 

 「これであの二人は本当の意味で解放されたのだ、お前達によって救われたのだ。」

 

 「でも結局、僕達は扶桑と山城を連れて帰る事が出来なかった…。」

 そう思うと一気に涙が溢れてきた。

 アルカディアさんが波間に漂う何かを拾い上げ僕に渡してくれる。

 

 「これは…」

 三日月形に反った円離柱が二本。

 間違いない。

 海铁夜捷焼(扶桑と山坡)の角だ。

 それが何かわかったんだろう、彼の目にも涙が。

 一滴、また一滴とみんなの水滴が角を濡らしていく。

 と、急に手にした角が光り始めた。

 驚いた僕はあろうことか角を二本とも落としてしまったんだ。

 

 「ああっ!」

 慌てて拾おうとしたけれど、あっという間にそれは水中へと消えて行ってしまい水中のぼんやりとした光も完全に見えなくなってしまった。

 さっきは波間に浮かんでいたというのに…、って?!

 

 「ええっ?」

 角が消えていった水中から強烈な光が!

 やがてそれは段々と強くなり、氷面には光の粒子までが立ち上る程になった。

 あまりに眩しくて全員が目を開けていられない。

 目を瞑っていても明るさを感じられるほどだ。

 どれくらい座ったんだろうか。

 懐かしい声がした。

 

 「扶桑型超弩級戦艦、妹の方の山城です! あの…、扶姉さま見ませんでした?」

 

 「扶桑型超弩級戦艦、姉の扶桑です。妹の山城共々よろしくお願い致します。」

 でもこれは悪い冗談だ。

 いや、冗談を通り返して悪趣味だよ。

 僕達の気持ちを弄ぶような真似は許さないと目を開けて柱島第七泊地の扶奏と山線を睨み付ける。

 ところが当の柱島第七泊地の扶桑と山域が目を真ん丸にして口をポカンと開けていたんだ。

 その視線の先を追うと…。

 そこにはもう一組の扶桑と山城が?!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「う、うわぁあぁぁぁっ、扶桑、山城っ!」

 

 「二人とも帰って来てくれたのかい?!」

 

 「良かった、本当に…。」

 

 「お帰りなさい〜。本当に良く帰って来てくれたわあ。」

 朝雲、時雨、霞、山雲達が次々に飛びついていく。

 

 「ただいま、と言っていいのがしら。いえ、恥ずかしながら帰ってまいりました、ね…。」

 

 「姉様、それ小野田少尉さんですから。ところで時雨、こちらの方は?」

 山城、それはちょっと早いんじゃないのかい?

 振りむいた扶桑もアルカディア号の姿を見た途端、雷に打たれてしまったみたいに硬直してしまったんだけど、まあ、仕方ないと云えば仕方ないか(笑)。

 

 「宇宙海賊船アルカディア号だ。二人ともよく帰って来てくれた。おかげで俺も真宮寺長官をはじめ花火やサジータ提督に良い報告が出来る。」

 

 「さあ、タウイタウイ第二泊地へ帰りましょう。」

 

 「扶桑、それは違うよ。ウチ(母港)に帰るんだ。」

 綾波もピックリの包帯を巻いた時雨がイイこと言った!

 あれ、でも綾波って包帯なんか巻いてたっけ?

 敷波と同じくモチモチのっぺ、典型的な『しばふ村』出身で、ええっと…。

 うっ、頭が…。

 ま、まあヤッタラン副長とドクターゼロさんによって手当されたんだからイイよね。

 それに帰ったら影山提督はもちろん、サジータ・ワインバーグ少将にも御礼と報告をしないとね。

 さあ、今度こそみんなで帰ろう!




※アルカディア号の知らない所でまた一つ伝説が出来てしまったようです。
 ここの艦娘達にはかなり美化されてしまうのですが、果たしてどうなる事やら?

※影山サキ改め、影山提督がアップを始めました(ポチった品物が届けられました)。
 中身はええと…、ドラゴンクエスト女性用コスプレ衣装?!
 『エッチな下着』『天使のレオタード』『バニースーツ』『危ない水着』『まほうのビキニ』『ピンクのレオタード』…。
 あまりの際どさに手にした本人も唖然としています。

 「こ、これを着るの? わ、私が?」
 「で、でもやるしかない、ワ…。」
 何やら違う方向に決意と覚悟を決める人がいたようです(笑)。


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第154話 新たな姫級編12(アルカディア側2)

※諸兄氏はもうマサチューセッツと会えましたでしょうか?
 私はやっとE-5が終ったところです。

※ヤッタラン、アンタ何ちゅうモンを完成させたんや…。


タウイタウイ第一

 「最上・時雨・満潮・朝雲・山雲、おかえりなさい。」

 「それから柱島第七泊地の扶桑と山城も反対派の妨害にも負けずによくやってくれました。」

 そう言ってサジータ・ワインバーグ少将がタウイタウイ第二泊地のメンバーに右手を差し出してくれた。

 真っ先に陸攻隊の御礼をと思っていたのだが、彼女はすでにタウイタウイ第一泊地の桟橋で秘書艦(官)のサラトガさんと一緒に我々の帰投を待ってくれていたという訳だ。

 こちらも剣を前に掲げ海賊式敬礼を返し、ヤックラン妖精に依頼をする。

 

 「副長、タウイタウイ第一陸攻隊の損失は甚大だったはずだ。ここの開発妖精と協力して代わりの機体を大急ぎで頼む。」

 サジータ少将の目が輝いたが普通の陸上攻撃機だぞ?

 オーバーテクノロジーな機体ではないからな?

 だが気付くべきだったのだ、工廠妖精が飛行場を拡大し始めた時点でおかしいと。

 

 艦娘達の入渠後、サジータ少将がささやかな宴を開いてくれた。

 終わって帰ろうとするところを呼び止められる。

 

 「今回の扶桑と山城についてですが、大神殿と長官以外には普通にドロップしたということにした方が良いと思います。」

 不思議そうな顔をする7人だが影山提督は意味が分かったようだ。

 

 「絶好の検体となる、深海棲艦のスパイ扱い(不信感)、あるいは奇異の目で見られるという事ね。」

 

 「ええ、特に兵器派からは風当たりが強いどころでは済まないでしょう。」

 

 「なるほど、扶桑と山城の身が危険に晒されるという事だね。」

 両提督の説明に最上達7人も理解したようだ。

 

 「ところで…。アルカディア号さん、あれは何かしら?」

 3倍ほどに拡大された飛行場に駐機されてる巨人機を指さすサジータ少将。

 しかも1機だけではない、30機程がターボプロップ音を響かせているのだ。

 

 「おい、副長。」

 俺の呼びかけにドヤ顔をしたヤッタラン妖精が現れた。

 それだけではない、腕組みをした同じポーズの工廠妖精もその後ろにずらっと一列に並んでいる。

 ちなみに、一式陸攻の穴を一式陸攻で埋めるなんで能が無いでっしゃろ、とは副長本人の弁だ。

 いや、だからって何?

 え、いいの、あんなの本当に良いの?

 あれ幻の超重爆撃機ってやつじゃないの?

 

 「な、何だい、あのバカでかい機体は?!」

 時雨もこんなの本当に飛べるのかい、と目を真ん丸にしている。

 

 「富岳や。」

 ややあって副長が口を開いた。

 

 「しかもただの富岳やあらへん。エンジンは6発ともジェットエンジン化してますねん。B-29が空の要塞なら、富岳は空中戦艦や!」

 確かにイベントでは絶大な威力を発揮するだろう。

 その武装は相手戦闘機でも容易に近づけないに違いない。

 顔を引き繰らせた俺の横でサジータ少将は次の大規模作戦が楽しみです、とご満悦だった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

海軍軍令部

 「タウイタウイ第二泊地臨時指令影山サキ、並びに海峡夜棲姫攻略部隊参りました。」

 影山提督がドアをノックすると、中からこの度は作戦完遂お疲れ様でした、お入り下さいという長官の声が聞こえてきた。

 中に座っていたのは大神殿・長官・参謀総長の御三方。

 皆、今回の結果にとても満足そうだ。

 長官から椅子に座る様に勧められ影山提督はじめ全員が着席する。

 その後、大神殿と参謀総長からも全員が労いの言葉を賜り、海峡夜棲姫となっていた扶桑と山城の両名は良く帰って来てくれたという事と後で聞きたいことがあるので長官室に来てもらいたいという事だった。

 「長官、サジータ少将からですが今回の扶桑と山城については普通に顕現した事にした方が良いのではというご意見を頂きました。」

 

 「なるほど、研究施設送りと海軍内のパニック防止という訳だな。」

 それは一体…、と不思誰がる長官だったが、御父上の真宮寺参謀総長は直ぐに理解してくれたようだ。

 長官も私の不徳とするところで情けない話ですが、その方が良いでしょうと賛成してくれた。

 

 その後は横須賀第一鎮守府食堂を貸し切っての祝勝会。

 もちろん、軍令部に仮所属のタウイタウイ第二泊地の艦娘達も一緒だ。

 扶桑と山城を見て涙を流す長門や加賀達に長官もそっと目尻を拭われていた。

 やはり人の心が分かる人間がトップにいるとこちらもホッとする。

 サプライズで台羽機による最終決戦の映像を流すとあちこちで歓声が。

 特にクライマックスシーンで流れた『栄光の架橋』がハマったのだろう、7人は勿論、その他の艦娘達の多くが大泣き。

 

 中でも、

 『決して平らな道では無かった』で時雨がカルチェラ提督に吹っ飛ばされたシーン、

 『幾つもの日々を越えて辿り着いた今がある』で海峡夜棲姫のボスマスにたどり着いたシーン、

 『もう駄目だと全てが嫌になって逃げだそうとした時も~たくさんの支えの中で歩いてきた』で長官とサジータ提督の資源援助と陸攻隊援助シーン、

 『希望に満ちた空へ』で俺が時雨の手を取って引き金を引いたシーン、

 『幾つもの日々を越えて辿り着いた今がある』で扶桑と山城が帰って来たシーン、

 『だからもう迷わずに進めばいい 栄光の架け橋へと』で、今度こそ全員で帰ろうと誓ったシーンでは泣声しか聞こえなくなってしまった。

 特に真宮寺長官などは2~3回ハンカチを絞っていたぐらいだ。

 誰だよ、これ編集したの?

 さっきまで楽しい宴会だったのにどうするんだ、これ?

 いや、自分自身だったわ、えらいこっちゃ…。

 まさかこのような事になるなんて思わなかったんだよ!

 

 後日、この時代にはない曲だという事で多くの艦娘や提督からも問い合わせが合ったほど、『栄光の架橋』は上場の反応だった。

 そしてこれ以降、演習で住島第七泊地を訪れたメンパーの中にはデスシャドウ島のAVルームに入り浸る者が多数出るようになった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

おまけ:タウイタウイ第二泊地海峡夜棲姫攻略当日夜

 影山提督の部屋のドアをノックするが返事が無い。

 鍵は掛かっていないので入って来てくれてよいとの事だったが、まさかただの屍になっているのでは?!

 

 「お邪魔しまーす…。」

 扉を開けて中を覗く。

 部屋の奥へ進むと廊下を曲がった先の部屋、鏡の前でハンガーに掛かったままの際どい衣装をとっかえひっかえしている彼女がいた。

 

 「やっぱり清楚・清純系の白でいくべきかしら? でもあれだけの事をしておいて今更…、よね。となるとヤッパリ黒基調の方が…、うーん。」

 

 (あれってどこかで見た事があると思ったらドラクエシリーズの衣装だよな?)

 

 「でもそうすると夏季第一種正装の白ストから黒ストに兵装転換…。パンストって脱ぐのも履くのも面倒なのよねぇ、でも…。あー、決まらないワ!」

 

 「では、天使のレオタードだな。」

 よくよく考えればこの兵装転換とやらがミッドウェーで運命の五分間を作り出したのだ。

 ここに山口多門少将がいればきっと同意見であろう。

 

 「そうね、ヤッパリそれがいいかしら。」

 

 「ああ、それに良く似合うと思うぞ。」

 

 「そんな、似合うだなんて(テレテレ)。でもちょっと待って。私はさっきから誰と会話をしているのかしら?」

 

 「少なくとも独り言ではないのは確かだと思うが?」

 

 「そうよね、そう言えば私、あの人にこの時間に部屋に来てって…。」

 ギギギ、と擬音が聞こえそうな感じで影山提督の首が後ろを向いた。

 

 「…。」

 

 「…。」

 

 「やだ、何時からいたのよぉ…。」

 両手で顔を覆って影山提督が座り込んでしまった。

 

 「この時間に部屋に来てくれと言ったのは影山提督自身だぞ。開いているから勝手に入って来てくれと…。」

 それはそうなんだけど、顔を覆ったまま首を横に振る。

 

 「うう…。」

 気を取り直して?くれた影山提督とグラスを傾ける。

 色々と話してくれた中で分かった事は意外にも彼女は寂しがり屋という事だ。

 いつも心の奥底で誰かとのつながりを求めていたという。

 

 「一度だけでいいの…。私にも殿方の温もりというのを教えて下さらないかしら…。」

 コンバイン、OK! コンバイン、OK!

 キター!

 ホームの柱島第七泊地よりも他所の提督や艦娘達の方が好感度が高いのはナンデ?

 ともかく脳波が一致という事で…。

 

 では…、レエエエェェェェツ、コンバイン!




ふふ、こんなに女の臭いに反応する人も珍しいわネ。
タウイタウイなんて暑いから汗も酷いのに…。

でもこれは使えるワ。
ただムダ毛の処理だけはキッチリしておかないと。


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第155話 新たな姫級編13(艦隊側:タウイタウイ加賀1)

※ようやくイベント終了しました。
 もうね、今回難易度高すぎやん…。
 あとはマサチューセッツと出会えれば(ブルックリンはもういいデス)。

※長らくのお付き合いありがとうございました。
 新たな姫級編は今回でお開きとなります。


 

祝勝会翌々日:柱島第七泊地飛行場

 私達は今、柱島第七泊地飛行場に駐機されている富岳とやらの前に並んでいるわ。

 前には真宮寺長官・北大路提督・アルカディア号さん、それに柱島第七泊地の方々が数名いらっしゃいます。

 今日は私達が全員タウイタウイ第二泊地へと帰還する日。

 本来なら軍令部に隣接された横須賀海軍飛行場から直行すればいいのだけれど、大神(元帥)さんから北大路提督の所にも顔を出しておきなさいとの事で立ち寄らせて頂いています。

 

 「やはりタウイタウイ第二泊地へ戻るのか?」

 ややあってアルカディア号さんが口を開きました。

 

 「ええ、(タウイタウイ第二泊地の立て直しは)私達の為に散っていった仲間との約束ですから。」

 「それに助け出した仲間も全員が一緒に来てくれるそうよ。」

 それを聞いた彼は、そうか、と呟くと私の両肩にポンと手を置きました。

 おかげで私は頭から湯気が出そうなぐらい真っ赤になってしまったわ。

 

 「ちょ、熱い! 加賀さん、熱いって!」

 そのせいで、加賀さんが(海鷲の)焼き鳥製造機になっちゃってる!と隣にいた五航戦の鳥頭に距離をとられてしまったわ。

 

 「私達をあの地獄から救い出して頂けた事、本当に感謝しています。」

 

 「私からも…。北大路提督、それにアルカディア号さん。今回の事は本当に感謝しているわ。」

 深々と頭を下げた五航戦の姉の方に続き私も頭を下げます。

 本来なら先の鳥頭をブレーンバスターで放り投げてやるところなのだけれど、それは後にして北大路提督に御礼を述べます。

 

 「礼には及ばん。それにブラック鎮守府の撲滅は大神殿にも依頼されている事だしな。」

 

 「それでも北大路提督に来て頂けなければ私達はもっと多くの仲間を失っていたはずです。本当に何と御礼を言っていいか…。」

 目を瞬かせた妙高の目からも一筋の雫が伝っているわ。

 無理も無いわね。

 那智と共に最もひどい目に遭いながらも庇い切れなかった子達が沢山いたのをいつも悔いていたのだから…。

 

 「貴女達の練度は総じて低めです。またLV上げの為にアルカディア号さんを派遣しますから演習でしっかり鍛えてもらって下さい。」

 

 「北大路提督に感謝ですね。アルカディア号さんを派遣して頂けるなんて(笑)。それに大変なのはこれからです。」

 そう、真宮寺長官の仰るように大変なのはこれから。

 

 「でも私達で立て直しが出来るのかしら…。」

 思わず不安を口に出してしまったのだけれど、アルカディア号さんからの返答は思ってもみないものでした。

 

 「出来るさ。ウチ(柱島第七泊地)の加賀達はやり遂げたぞ(笑)。」

 

 「どういう事なのかしら?」

 

 「私達も貴女方と同じでした、マゾーンに意識を乗っ取られていた影山サキが提督だった時に…。」

 向こうの私から衝撃の事実が!

 一気に言いようのない不安に襲われる私達。

 折角悪夢の日々が終わりを告げたと思ったらまた同じような生活が待っているなんて…。

 

 「貴女達の不安に思う気持ちは分かります。ですが、マゾーンから切り離された影山さんに何も心配する事はありません。私が保障します。」

 

 「長官の言う通りだ。それに加賀、お前は勇敢で立派な艦娘だ。不幸にして途中、高みを目指す事が出来なかった時があったが、お前はウチの加賀によく似ている。」

 

 「笑わせないで頂戴。あれだけの戦いができる方に私が似ている? そちらの私に謝った方が良いのではなくて?」

 

 「私達はここの一航戦としては二代目なんです。先代は皆を逃がすために立派な最期を遂げました…。」

 そう言って俯く赤城さんに彼はこう問いかけたわ。

 

 「赤城・加賀、お前達は一航戦として胸の中にあるモノはあるか?」

 

 「ええ、辛うじてという所だけれど。」

 それを聞いた彼は、ならそれでいいと言ってくれました。

 

 「たとえ所属が違っても今を生きる艦が未来を創るのだ。先代からお前達へ、お前達からまたその次の代へと思いは流れ永遠に続いていく。」

 

 「それが艦として永遠にあり続ける事だと俺は信じる。」

 もちろん、それは私達一航戦だけではなく皆にも当てはまる事だと…。

 もう全員、言葉が無かったわ。

 いえ、感動で何も言えなくなったという方が正しいわね。

 

 「と、とにかくお前達ならどんな試練をも乗り越えで立て直しが出来ると俺は信じる。なんせ加賀は俺の正規空母側室筆頭艦だからな。」

 シーンとした中、彼はさらにこう続けたあと、向こうの私をマントの中へと抱き寄せました。

 

 「な、何を言うの、何を…。///」

 今度はアチラの私(柱島第七泊地)が先の私とは比べ物にならないぐらい、真っ赤になってしまいました。

 蒸気タービンの音から察するに今なら島風やタシュケントの倍の速度は出せるんじゃないかしら、知らないけれど。

 

 「でも残念だわ。一緒に来てはくれないのね。」

 人差し指を顎の先端に当てた陸奥が思わせぶりな視線を送ります。

 でもその声に一抹の寂しさが混じっていたのは私の思い過ごしではないはずよ。

 

 「俺の、いや俺達の出番はもう終わりだ。これからはお前達の出番だ。」

 そう言うと彼は長官や北大路提督と共に私達を送り出して下さったわ。

 不安が無くなった訳では無いけれど、アルカディア号さんをはじめ皆がタウイタウイ第二泊地を後押ししてくれている。

 そう、私達にはたくさんの頼れる、しかも頼もしい仲間がいる。

 それを気付かせてくれた彼には本当に感謝しかありません。

 次に彼と会うまでにどれだけ強くなれるか、それが一番の恩返しになるわね。

 必ず貴方の傍にても恥ずかしくない女になって見せるわ。

 だからそれまで待ってて頂戴。

 




※あ、あれ?!
 ここの加賀さんも陥落してしまったようです。
 いえ、陸奥や武蔵、羽黒に翔鶴といった出撃組はもちろんですが、おそらく他の艦娘達もでしょう。
 彼が他所の艦娘に手を出すことは無いと思いますが、柱島第七泊地の艦娘で台羽君にとられた艦娘だとわかりませんね。

※今回はサヨナラ銀河鉄道999の有名なシーンを少しだけ取り入れてみました。


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集積地棲姫の憂鬱
第156話 無人島と洞窟1(艦娘側:大和1)


※新章開幕です。

※艦隊は武蔵・大和・陸奥・瑞鶴・ビクトリアス・照月です。


海域攻略帰投途中

 「陸奥さん、何処ですか?!」

 

 「ここよ!」

 十数メートル先さえ見えない激しいスコールの中、左後方から陸奥さんの声が聞こえます。

 現在、私達は難関海域攻略中なのですが、照月さんの大破により旗艦である武蔵はすぐさま複縦陣での撤退を選択しました。

 ですがこの激しいスコールに捕まったせいで最後尾の私達二人は皆とはぐれてしまったのです。

 

 「くっ、ついてないわね。」

 

 「ごめんなさい、大和。私の運が悪いばかりに…。」

 

 「もう、陸奥さんったら。誰も貴女のせいだなんで思ってなんかいませんよ。」

 でも、小破状態の大型戦艦が二隻、おまけに陸奥さんは対空電探しか積んでいない上に、私の水上電探は完全に破損、そしで通信設備に至っては二人とも使えない状態と拙い状況には変わりありません。

 おまけに燃料も心細い状態です。

 

 「大和、なんなら貴女だけでも皆の後を追ってくれてもいいのよ。」

 いつも明るく振舞っている彼女ですがこれは重症ですね。

 

 「もう、気にしてないって言ってるじゃない。いい加誠にしないと本当に怒るわよ?」

 

 「やっぱり怒ってる…。」

 あのねえ!と言いかけた時、前方に島影が見えました。

 雨に煙る中、見にくいですが間違いありません。

 それもそこそこ大きな島です

 

 「見て、陸奥さん! 前方に島があるわ、上陸してこのスコールをやり過ごしましょう!」

 海原では敵機から身を隠す術はありませんが、上陸してしまえばその限りではありません。

 ゆっくりと救援を待つ事だって出来ます。

 暗くなり始める頃、ようやく島に辿り着く事ができました。

 周りを見渡しますが人の居た跡が見当たりません。

 どうやら無人島の可能性が高いみたいですね。

 上陸すると直ぐに陸奥さんが水偵を発艦させてくれました。

 夜間とはいえ島全体を調査してくれるみたいです。

 この頃にはあれだけ激しかったスコールも収まっていました。

 木を倒し簡易的なログハウスを作り始めます。

 なにしろ戦艦二人掛かりでやるのだから面白いように作業が進みます。

 妖精さん達も協力してくれたおかげで虫の声が聞こえる頃には小さいながらも仮宿?が完成しました。

 

 「陸奥さん、島に何かあったかしら?」

 

 「ここから100mほど先に滝があったわ。水の心配は無いわね。」

 私連の前にはうず高く積み上がったヤシ、マンゴー、ココナッツの殻。

 食べ過ぎてひっくり返ってしまったまま、しかもお腹を擦りつつの会話です(笑)。

 

 「後は特にこれといったものは無かったわ。だだ…。」

 彼女の水偵からもたらされた情報によると、此処の反対側に洞窟があり人の手が加わったような跡があるらしいのです。

 明日にでも行ってみましょう、と意見の一致を見た私達はそのまま深い眠りについたのでした。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

期間限定海域攻略本隊(瑞鶴)

 「二人からの連絡はまだか?!」

 

 「いや、さっきから平文で通信を試みているが一向に反応が無い。」

 今にも掴み掛かりそうなビクトリアスさんとは対照的に落ち着いてる武蔵さん。

 でも、武蔵の通信設備からはずっと平文で大和さんと陸奥さんに対して電文が発し続けられている。

 

 「私が引き返して捜索に!」

 捜索志願を願い出る照月をビクトリアスさんが一喝する。

 大破している彼女にそんな事をさせる訳にはいかないから当然なんだけど…。

 

 「だって元はといえば私のせいなんです! そのせいで大和さんと陸奥さんに何かあったら私…。」

 泣き出してしまった照月を宥めに掛かる。

 まあ、私だって自分のせいでこんな事になったら取り乱してしまうし…。

 

 「止めないか、二人とも。我々もこれ以上ここに留まっていてはいつ敵艦載機や敵潜水艦の攻撃を受けるか分からん。巳むを得ん、出発しよう。」

 

 「二人を見捨てるというのか?! 誇り高き英国艦隊の一員としてそんな事は出来ん!」

 

 「見捨てるとは人聞きが悪いな。こんな時、頼りになるヤツがいるだろう(笑)。」

 そう言うと武蔵さんはニカッと笑った。

 

 「なるほど、アルカディア卿か。」

 

 「ああ、北大路提督からも捜索は義兄上に任せて我々は速やかに帰投せよ、との命令だ。」

 

 「待て、武蔵。貴様、今アルカディア卿の事を何といった?」

 ピクトリアスの首がキギキと音を立てて武蔵さんの方を向く。

 

 「ん、義兄上(あにうえ)と言ったが?」

 

 「そ、それだ! 何故、あの方が費様の兄上なのだ?!」

 

 「兄上ではない、義兄上だ」

 そういうと武蔵さんは姉の大和が戦艦の正室なのだから私からすれば義兄になるのは当然だろうと言い放った。

 

 「じゃあ、翔鶴姉は全艦種正室なんだから私もアルカディア号さんをお義兄さんって呼んでもいいって事だよね?」

 私だって負けていられるもんですか!

 ココはしっかりと義妹アピールしておかないと。

 

 「くっ! こうなったら、海外艦の正室は何としてもオールドレディを選んで頂かなくては…。」

 彼女の呟きは波間に消えていったのだけれど、数日後に柱島第七泊地ではイギリス艦だけで三日三晩にも渡る緊急会議が開かれ(らしい)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

柱島第七泊地執務室(高雄)

 「提督、旅艦である武蔵さんからの緊急電文です!」

 内容は照月さんの大破により撤退するとの事ですが、複従陣の最後尾であった陸奥さんと大和さんがスコールによって皆とはぐれてしまったというものでした。

 北大路提督が直ぐにアルカディア号さんを呼びます。

 

 「平文にも返答がないという事から、二人とも通信設備が破損して使えなくなっている可能性があります。」

 

 「なるほど、通信を打っても応答がない可能性が高い、それどころか不用意な無線は相手に傍受される危険が高いということか。」

 

 「はい。捜索は電探頼り、それも近未来の電探を持つアルカディア号さんしか出来ない事なのです。」

 「直ぐに牧助に向かって下さい、お願いします…。」

 提督が縋るような目をアルカディア号さんに向けました。

 

 「分かった、直ぐに出よう。」

 彼は頷くと、花火を泣かすような事はしない、安心して待っていろと提督を抱き寄せました。

 

 「別な事 (お妾さん多数)では随分と泣かされているのですけれど…。」

 

 「ん、何か言ったか?」

 

 「いいからさっさと行きやがれ下さい!」

 北大路提督に蹴り出されたアルカディア号さんは解せぬという一言を残し飛び立って行きました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

目覚め

 窓辺に訪れた小鳥のさえずりに薄っすらと目が開きました。

 窓(といってもガラスはありませんが)から見えるのは、あれだけ激しかったスコールが嘘のような青空。

 隣を見るとまだ陸奥さんは寝ています。

 取り敢えず艤装を展開し、電探を直せるかどうが妖精さんに聞いてみましょう。

 

 「そう、やっぱり…。」

 妖精さんが皆を横に振りました。

 操作は出来てもやはり修理までは…、という事なのですね。

 

 「ん…。やま、と?」

 陸奥さんも目覚めたようですね。

 

 「おはようございます、陸奥さん。」

 

 「ふふ、おはよう。」

 朝食は昨晩と同じく自生しているマンゴーとバナナ、そしでミルクと超健康的です。

 もっともミルクといってもココナッツミルクですが(笑)。

 

 それにしても陸奥さんとはいえ武蔵以外の前でスッピンになるなんて随分と久しぶりです。

 お互い、ちょっと気恥すかしかったのですが、南国特有の開放的な雰囲気のせいでしょうか?

 それも直ぐに気にならなくなってしまいました。

 

「さて例の洞窟へ行きましょうか」

 どうやって行くの、という私の問いに陸奥さんは陸からはとても無理だというのです。

 まあ、海岸線の後ろは崖に近い急斜面が続いていますし、登れたとしても熱帯雨林の中を進む事になるでしょうから陸奥さんの仰る通りでしよう。

 

 「じゃあ、海岸線に沿って行くしかないわね。」

 こうして私達は燃料節約のために歩けるところは歩きながら島の反対側を目指したのですが、この時は、よもやあのような光景を見る事になろうとは思ってもみませんでした。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

洞窟

 海岸線が岩で途切れたりしている所は主機で航行しましたが、一時間ほど歩いた頃でしょうか?

 先を行く陸奥さんが急に立ち止まったかと思うとしゃがみ込んで岩陰に身を隠しました。

 

 「陸奥さん?」

 訝しがる私に陸奥さんがとゼスチャーで覗いて、と伝えてきたのです。

 そっと覗いてみた私は危うく大声を上げる所でした。

 この先は急に視界が開けており陸奥さんの水偵が伝えてきた通り洞窟があったのですが…。

 何とその中へ次から次へと輸送ワ級が入っていくのです!

 さらに洞窟の脇には空母ヲ級が4隻、戦艦夕級が2隻と超厳重な警戒態勢を敷いており、それを集積地棲姫が監督しているのです。

 成程、海上洞窟なのを利用してここへ資源をため込んでいるという訳ですか。

 しかし、ワ級の数は10や20どころではありません。まさに一大補給地というべき拠点です。

 ここを叩けば一気に深海棲艦達の補給路を断つことができる、気が付けば私は無意議に艤装を展開していました。

 小破状態とはいえ、自慢の46cm砲は戦闘に何ら支障はありません。

ですが陸奥さんは黙って首を横に振ったのです。

 

 「陸奥さん?! 何故です?!」

 これ以上資源をため込まれる前に何とかした方が良いのでは?とする私に陸奥さんはどんな奴が資源を取りに来るのか、それも調査するべきだというのです。

 渋々艤装を収めた私でしたが、この後やってきた連中を見て陸奥さんが正しかったのを知る事になったのでした。

 




※先日、松本零士御大がお亡くなりになられました。
 小学校の頃に銀河鉄道999でハーロックを知った小生、それ以来
 鉄郎と同じく彼は私の男として目指す所に人物になりました。
 そんな偉大な男を生み出してくれた御大に感謝とご冥福をお祈りいたします…。


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第157話 無人島と洞窟2(艦娘側:陸奥1)

※間が空いてしまい申し訳ありません。
 実は会社の係変えに伴って時間が一層取れなくなってしまって…。
 下手をしたらこれから月一更新になってしまうかも(泣)。


洞窟

 見張っていると物資の受け取りにやって来たのは鬼姫達。

 その間も輸送ワ級達が物資を運びこんでいく。

 成程、鬼姫達の為だとういならあれだけの量を溜め込む必要があるのも当然ね。

 

 「一体、あれだけの資源を何処から持ってくるのかしら?」

 

 「突き止めてみたいけれど私達だけじゃ到底無理ね。」

 大和の言う通り、小破とはいえ戦艦二隻だけじゃどうにかなるとも思えない。

 ここにいてもいずれ見つかってしまうだろうし、取り敢えず戻る事を提案すると大和も了承してくれたわ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

アルカディア号到着!

 小屋に戻るともうお昼過ぎ。

 くうくうとなるお腹に自分でも笑ってしまう。

 悲しい時、嬉しい時に関わらずお腹というのは減るもなのね。

 残ったヤシの実に齧り付く。

 大和の手には帰りに見つけたパイナップル。

 夢中になって食い散らかしていると入口から声がしたわ。

 

 「よう、お嬢さん方(笑)。」

 

 「「ぶふっ!」」

 

 「お、おい、大丈夫か?!」

 

 「「げほっ、げほっ!」」

 二人して思い切り咳き込む。

 

 「驚かさないで。器官(機関?)にココナッツミルクが入っちゃったじゃない。」

 思わず抗議してしまったけれど、これ救助に来てくれたのよね…。

 

 「む、すまん。とにかく二人とも無事で良かった。」

 彼から飛び出てきた副長(ヤッタラン)妖精さんとドクター妖精が私達の儀装と怪我をを治してくれる。

 

 「あ~ら、ありがと。」

 ふふ、彼(副長)にはこういった攻撃(ウインク)が効くのよね(笑)。

 あら、大和が何か言いたそうな目を向けてるわ。

 

 「青葉さん、緊急電文です。陸奥さんが戦艦枠側室筆頭の座を降りるようです。」

 

 「ちょっと、大和!」

 おかしな事言わないで!

 私は彼の寵愛を放棄するつもりは無いのよ?

 

 「なら、あまり殿方に思わせぶりな態度をとるのはどうかと…。」

 

 「う、分かったわよ。」

 もっともこの時の私は、先の電文を受け取った青葉によって戦艦組による次期側室筆頭決定戦が開催されようとしているとは思いもしなかったわ。

 

 「さあ、帰ろう。」

 彼の言う通りね。

 燃料も満タンになったことだし、北大路提督に無事な姿を早く見せないと(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

大和の提案

 「島の反対側に?」

 

 「ええ、輸送ワ級が次々と物資を運び込んでいたわ。そして各地の鬼姫達がそれを受け取りにやって来ている…。」

 鬼姫達はそれこそバカみたいに攻撃を行ってくる。

 当然、相応の弾薬や燃料が必要になるのは間違いないわ。

 あれだけの資源をどうやって調達しているのか謎だったのだけれどこういう事だったのね。

 このままアレを放置すれば一層、各海域の攻略が困難になってしまう。

 

 「では来た時よりも美しくの精神でキレイにしていくか(笑)。」

 彼はそう言って立ち上がったんだけれど、大和がとんでもない提案をしてきたわ。

 

 「待って下さい!」

 

 「どうしたの、大和?」

 この時の私と彼は間違いなく怪訝な顔になっていたと思う。

 

 「アレ全部、そのまま頂いちゃいましょう!」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

作戦会議?

 「では洞窟の入り口を空母ヲ級4隻、戦艦タ級2隻で固めている訳だな?」

 

 「ええ。で、物資の運び込みを集積地棲姫が監督しているってわけ。」

 アルカディア号さんの天映スクリーンとやらに映し出されたこの島の見取り図。

 凄く便利に思うんだけど、コレ一体どういう原理なのかしら?

 

 「ならば艦載機を発進させられる前にまずはヲ級を始末せねばなるまい。」

 

 「そうは言っても私達の奇襲で何とかなるのはヲ級3隻まで。残りの一人と戦艦タ級2隻からの反撃は覚悟する必要があるわね。」

 

 「ええ、砲撃音でハチの巣を突いた様な騒ぎになってしまうのではないですか?」

 私達の疑問に彼は適任者がいるだろう、そいつを呼べばいいとニヤリとしたわ。

 そして彼の要請を受けた台羽君が操縦する機体に乗って来たメンバー、その顔触れを見た私達は驚く事になったわ。

 もっとも降りてきた人たちの顔を見るにその人達も自分達が何のために呼ばれたのか分かっていないようだったけれど(笑)。

 




※果たして降りて来たメンバーとは一体誰なんでしょうか?
 夜の闇に紛れアルカディア号が招集したメンバーに一人、また一人と無力化されていく洞窟のガーダー達。
 気付いた時には集積地棲姫一人という状況に?!


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第158話 襲来1(アルカディア側)

※皆様、遅くなり申し訳ございません。
 ようやく投稿することが出来ました。

※いや今回のイベント、ここまで大規模だとは全く思いませんでした。
 難易度も中々でして…。

※おや、何処からともなく聞き覚えのあるトランペットの音が?


到着メンバー

 ボレットから『鳳翔・川内・コマンダンテスト・天龍』が降りてくる。

 キョロキョロと辺りを見回し自分達が何故呼ばれたのかを分かっていない様子だ。

 それでも大和と陸奥の姿を見た鳳翔とコマンダンテストが駆け寄って来た。

 

 「良かった、二人とも無事だったんですね!」

 

 「皆デ心配シマシタ。陸奥、ケガハナイノデスカ?」

 

 「ありがとう、コマンダンテスト。私のせいで大和どころか貴女達にまで迷惑を掛けてしまったわ、ごめんなさいね。」

 

 「もー。陸奥さん、なに言ってんのさ、水臭いじゃん。」

 

 「そうですよ。川内さんの仰る通りです。誰も陸奥さんのせいだなんて思っていません(笑)。」

 鳳翔の一言に大和が、私の言った通りでしょうと胸を張った。

 

 それにしても相変わらず相当豊かなモノをお持ちですなぁ。

 しかし、パッドの分を引き算すると、やはり加賀同様に日ノ本産どまりか?

 

 「何でしょう、この大和に何か落ち度でも?」

 いつの間にか大和さんが半目でこちらに目を向けていらっしゃっいました。

 ご心配なく、いつも拝見させて頂いておりますが、まだ落ち度、いえ落ちていませんから(汗)。

 

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急襲計画

 「ええっ、この島の反対側に?!」

 鳳翔だけではない、陸奥から話を聞いた全員が目を丸くした。

 

 「いいじゃねえか、この世界水準を軽く超えた天龍様が先陣を切ってやるぜ!」

 フフ怖さんが胸を張る。

 

 「しかし、何故私達なのでしょうか?」

 急襲となれば大和さんのような大火力艦の方が適任では?と鳳翔が首を傾げた。

 

 「そりゃ、夜にやるからだよ!」

 川内の目が輝く。

 

 「それなら夜戦火力に優れた重巡の方々が…。」

 

 「違うよ、ゴトランド。砲撃音を立てちゃダメって事だよ。」

 なるほど、単なる夜戦バカだと思っていたが、こと夜戦に関しては頭が切れるようだ。

 

 「その通りだ。闇に紛れつつ一人、また一人と無効化していく必要がある。」

 天龍は日本刀、川内はクナイ、コマンダンテストはレイピア、ゴトランドは短剣といった獲物がある。

 まさにこの計画にはもってこいなのだ。

 

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 「いいか、あいつらも生物である以上、給水の必要がある。そのために持ち場を離れた時を狙う。」

「幸いにも連中の各持ち場はそれぞれ離れているし、相手に叫ばれたりしなければ気付かれる事はあるまい。」

 

 「で、でもナイフで相手を仕留めるなんて私にできるんでしょうか…。」

 

 「それに私には得物なんてありませんし…。」

 ゴトランドと鳳翔が戸惑う。

 

 「大丈夫だ、お前なら出来る。それに鳳翔、お前にはこれ以上無いモノがあるではないか(笑)。」

 この一言に鳳翔だけではなくそこにいる全員が首を傾げた。

 

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コマンダンテスト1

 墨を流したような闇の中、僅かな月明かりを頼りにコマンダンテストが台羽から受け取ったトランクを手に取った。

 中には秋雲が用意してくれた衣装が入っているらしく、それは夜の闇に紛れることが出来るように黒を基調としたものらしいが…。

 

 「C‘est?! Ce Deguisement?!」

 (これは?! この衣装は!)

 

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鳳翔

 雲の間から糸の様な月が僅かに顔を覗かせる。

 少し先にはこちらに背を向けて立っているタ級。

しかし、立ち上がった鳳翔のシルエットがそれを遮った。

 月の光が逆光となり鳳翔の表情を窺う事は出来ないが、その手には艦載機発艦に使用する弓の糸が握られている。

 彼女がその一端を口に咥えるとキリリと糸が鳴いた。

 

「クアッ?!」

 次の瞬間、空を切る音と共に伸びてきた糸がタ級の首に絡みつく。

 タ級にしてみれば自分のみに何が起こったか分からなかったに違いない。

 何か空を切る音が聞こえたと思ったら自分の体が宙吊りになっていたのだから。

 アルカディア号の燃料であるグラビューム鉱石3006。

 ソレを一齧りしただけでこれだけの馬力を出せるとは鳳翔自身思ってもみなかったろう。

 いずれにしろ、トンでもないチートパワーに藻掻き続けていたタ級だが、鳳翔が糸をピンと弾くとそのまま動かなくなってしまった。

 

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川内

 ヲ級が給水の為に持ち場を離れやって来た。

 屈んで水を飲もうとした彼女の後ろに音も無く降り立つ川内。

 彼女はいきなり、しかも強引にヲ級の首を掴み上を向かせた。

 

 「ゲボッ?!」

 気管に水が入った、いや入れられたヲ級。

 そのまま躊躇なく取り出したクナイを首の後ろに突き立てる。

 あの可憐な川内からは想像もできないほどの残忍な手口。

 一瞬でヲ級の命を刈り取った川内の手腕には脱帽という以外ないだろう。

 彼女にとって夜戦とは砲雷撃戦だけでは無いのだ。

 

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コマンダンテスト2

 「Bonne nuit hein(良い夜ね)?」

 給水場所へ行く為に獣道へと足を進めるヲ級。

 後ろから聞こえてきた声に驚いて振り帰ろうとした彼女の頭にゴスッという音が響いた。

 

 「何者?!」

 そう叫んで振り返ったヲ級が見たモノは黒いブーツに濃紺のレオタード、黒いマントに身を包み頭にはベレー帽、手にはサーベルを持った謎の女。

 しかも極めつけにド派手な赤いアイマスクとまるで劇画から飛び出て来たとしか思えない出で立ちにすっかりヲ級は混乱してしまった。

 そう、メダパニに掛かってしまったぐらいには、だ。

 

 「ラ・セーヌの星がサーベルの柄で相手を殴る訳ないだろ! 貴様、『タイガージェットシン』と間違えてるんじゃないのか?!」

 

 「タイガージェットシンハ、ベレー帽デハナクテ、ターバンデショウガ!」

 と同時に彼女のサーベルがヲ級の左胸、心臓を貫いた。

 ヲ級が最後に見たのは謎の女がUn bon reve(良い夢を)と呟いてチンという音と共に剣を鞘に仕舞う姿だった。

 




※グラビューム鉱石3006
 アルカディア号の燃料らしいです。
 Wikiにあったので間違いないでしょう。

※川内がかんざし職人の秀に?!

※ラ・セーヌの星
 ご存じない方は昭和世代に聞いてみましょう(笑)。

※メダパニ
 国民的RPGに出て来る相手を混乱させる呪文。
 何故か攻撃担当ばかり掛かってしまった気が…。
 でも最近のドラクエには無いですよね(笑)。


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第159話 襲来2(艦娘側:集積地棲姫)

※イベント、終わらせることが出来ました。
 しかし、ここまで中身のない大規模作戦だとは…。

※『艦これ』10周年、おめでとうございます!
 出来るだけ続いて欲しいですね!


集積地棲姫

 「オカシイ…。」

 夜明けも近いというのに哨戒に立つ6名の誰からも定時報告が無い。

 監督者として持ち場を離れるのは良くないのだが、このままにしておくわけにもいかない。

 そう思い私は戦艦タ級の所へと向かった。

 獣道をしばらく歩くとヤシの葉の中にタ級の顔が見えた。

 

 「オイ、タ級、ナニヲヤッテイル? 定時報告ノ時間ハ、トックニ過ギテイルゾ。」

 タ級が確認できたことでホッとしたが何かおかしい。

 

 「…。」

 タ級からの返事はない。

 

 「タ級?」

 近づいてタ級の頬をペチペチとした途端、ゴトリと鈍い音がしてそれは地面に転がった。

 

 「ヒイッ?!」

 よく見れば枝の上にその首だけが置かれていたのだ。

 数メートル離れた所にはタ級の胴体が転がっており、明らかに殺られたものだ。

 

 「っ!」

 残り5人の所へと走り出す。

 ココも! ココも!

 ココも! ココも!

 ココもか!

 行く先々で冷たく転がっている仲間達を見る度に歯がギリッと鳴る。

 

 「コウシテハオレン、一刻モ早ク他ノ鬼ヤ姫ニ連絡ヲ!」

 洞窟へと急ぐ。

 

 「ナッ?!」

 洞窟の入り口が見えたところで私の足が止まった。

 そこには深海情報網で嫌というほど見た男、アルカディア号とやらが立っていたのだ!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

謎の男

 「コレハ名ヲ上ゲル絶好ノ機会、イツマデモ資源ノ番人ナドヤッテラレナイカラナ!」

 物資を集める事しかできない、姫級の面汚し、ヤツは姫の中でも最弱…。

 散々にいわれ続けてきたが私とて姫の端くれ、今ここでこの海賊野郎を討ち私をコケにしてきた連中を見返してやる!

 これは天が私に与えてくれた千載一遇の好機に違いない。

 

 「名を上げるといったな。俺を倒して名を上げるという意味か?」

 例の海賊野郎は私が砲口を向けているというのに何ら動じることなく聞いてきた。

 

 「ソウダ!」

 

 「殺し合うのは良そう。見ろ、朝日があんなに美しいぞ。」

 海賊野郎はそう言うとコチラに背を向け上って来たばかりの太陽に向かって両手を広げた。

 

 「誤魔化スナ! コッチヲ向ケ、私ハ集積地棲姫!」

 

 「どうしてもやりたいか?」

 何だ、時間稼ぎか?

 

 「ソウダ、私ニハ居場所ガ要ルンダ! 生キテイクタメノ居場所ガ!」

 こいつを倒せば皆私に一目置くどころかひれ伏すだろう。

 

 「負けたら居場所どころか命も無くなるぞ?」

 だというのに、さもこちらが負けるかのような言い方が私をイラつかせる。 

 この男、何から何まで気に入らない。

 

 「負ケヤシナイ! 私ハ、私ハ…。」

 しかし一体どうしたというのだろう、姫たる私の膝が震えている。

 

 「しかし、その体では砲の狙いも外れる。」

 この男、後ろを向いているのにこちらの様子が分かるというのか?!

 

 「大キナオ世話ダ!」

 万一、砲が使い物にならなくなってもこの爪でドテッ腹を貫いてやる!

 

 「もう一度聞く。どうしてもやるのか?」

 海賊野郎は後ろを向いたままだ。

 

 「当然ダ!」

 胃袋の下にグッと力を入れて恐怖を打ち消し叫ぶ。

 ところが、その時、不意に何処からともなく肉の焼ける音とイイ匂いが?!

 

 「ふふ、昔に空母組のみんなで行ったキャンプを思い出しますね。どうですか、決闘をするならご飯をいっぱい食べてからにしては?」

 岩陰から声が聞こえる。

 

 「貴様ハ鳳翔?!」

 振り向くと空母艦娘の教導艦である鳳翔の姿が。

 

 「あら、私の名前を(笑)?」

 

 「当リ前ダ。ヲ前達二人ヲヤッツケレバ…。」

 

 「より多くの尊敬と名声を得られる、という事でしょうか?」

 「ま、喜びたかったら食べてからにしましょう。」

 そして、はい、出来ましたよと小さく呟くと彼女は立ち上がった。

 

 「どうぞ。」

 そう言うと彼女は未だ音のする肉を載せた白米の入った器を差し出してきたのだ。

 くそっ、それは反則だろ!

 

 「ソンナノ、ヲ前達ヲ倒シテ自分ノ力デ食ッテヤル!」

 その匂いと音に思わず喉が鳴ってしまったが、私にも姫としての矜持がある。

 そう簡単に食い物で釣られると思うなよ!

 

 「なかなかの強情さんですね(笑)。ではこうしましょう、貴女がアルカディア号さんに負けたら、これを食べると。」

 

 「イイダロウ。サア、コッチヲ向ケ、アルカディア号! 向クンダ、後ロカラハ撃チタクナイ!」

 飛んだ邪魔が入ったが気を取り直して砲を構え直す。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

装甲空母鬼

 「アルカディア号確認、近クニハ鳳翔シカイマセン!」

 

 「ヨシ、艦載機ヲ発艦サセ、生捕リニシロ!」

 資源物資の補給に来てみれば例のアルカディア号とやらがいるではないか。

 偵察機からの入電を聞いた時には耳を疑ったが、何という僥倖であろう。

 我ら深海棲艦の未来の為にはここで始末するしかあるまい。

 

 「シカシ、集積地棲姫ガ砲ヲ構エテ対峙シテイマス。ドウサレルノデスカ?」

 攻撃機を指揮する隊長機からだ。

 

 「何ヲ迷ウ必要ガアル? 一緒ニ吹キ飛バシテシマエ(笑)。」

 やれやれ、何を甘い事を言っているのだ。

 あんな役立たずなどに配慮する必要などあるものか(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

決闘

 アルカディア号がこちらに向き直った。

 その瞬間、私の砲が火を噴いた。

 

 (やった!)

 そう思ったのも束の間、私の砲団は狙いを外れ彼の剣先から何やら光線が発射されると私の片腕が吹き飛んだ。

 

 「クッ、マダダ、マダ終ワランヨ!」

 反対側の手でヤツを貫こうとするが、今度はその腕を剣で薙ぎ払われてしまった私は無様に地面に転がった。

 

 「ナ、何ダ! ソノ剣ハ!」

 剣先から弾が出るなどそんなバカな!

 あっけにとられる私に鳳翔が近付いてきた。

 

 「さあ、約束ですよ。食べて下さいね。」

 そう言って先の肉を差し出す。

 

 「チクショーォ!」

 何度もいうが私も姫の端くれ、約束は違える訳にはいかない。

 奪うようにして食べ始める。

 

 「そう、それで良いんですよ。それでね…。」

 そう小さくこぼす鳳翔の目は微笑ましいモノを見るような慈愛に満ちたものだった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「左側面ノ配備完了!」

 

 「右側面、及ビ前面ノ配備完了!」

 

 「上空ノ配備完了!」

 あれは装甲空母鬼の艦載機?

 そういえば物資を取りに来る手筈になっていたな。

 しかし、なぜアルカディア号どころか私まで取り囲んでいるのだ?

 

 「隠れなさい!」

 首を傾げていると鳳翔が私を岩陰に引っ張り込んだ。

 

 「アルカディア号、オ前ノ負ケダ。降伏シロ、サモナイト射殺スル!」

 隊長機からアルカディア号へ向けて降伏勧告がなされる。

 

 「集積地棲姫、お前は背中から撃たなかった。足は震えていたが、正面から堂々と立ち向かってきた。どうだ、その資源を持って俺達の所に来ないか?」

 

 「オ、オ前達ノ所ニ?」

 

 「そうだ、俺達の所だ。」

 鳳翔も私を見て頷く。

 

 「な、何ヲ馬鹿ナ! 私ハ艦娘ノ敵、ソレニコノ資源ハ!」

 私があっけにとられていると、またしても隊長機から声がした。

 

 「アルカディア号、アト3ツ数エル内ニ降伏シロ。」

 サン、ニイ、イチと隊長機がカウントをダウンさせていく。

 と、その時、大地が震えるような砲撃音がして攻撃機が次々と吹っ飛ばされ始めた。

 

 「ア、アレハ! 大和ニ陸奥ダト?!」

 他にも川内、コマンダンテストに天龍達までが攻撃機に向けて対空砲火を打ち上げていた。

 

 「来るか、俺達の柱島第七泊地に?」

 

 「ええ、お姉さんも丁度、資源が欲しかったのよね。」

 洞窟の中を指差す陸奥。

 

 「好キニシロ…。」

 私がそう答えるとアルカディア号から艤装が!

 

 「クソッ、アルカディア号ノ奴! 戦闘用意!」

 十分引き付けて葬り去るのだ、と狂ったように配下の妖精達に指示を出す装甲空母鬼。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「左20度、艦隊接近中。」

 アルカディア号の妖精が装甲空母鬼艦隊の位置を告げる。

 

 「よし、中央突破!」

 しかし、装甲空母鬼といえば私達鬼姫の中でもかなりの上位種のはずだ。

 それを正面中央突破など果たして可能なのか?

 

 「さあ、見ていなさい、アルカディア号さんの戦いを。」

 鳳翔が私の肩に手を置いた。

 

 「狼狽えるな、撃ち続けろ!」

 狂ったように指示を出す装甲空母鬼、そしてアルカディア号がすれ違う。

 と、アルカディア号から何かが打ち出されて装甲空母鬼に突き刺さった。

 

 「クッ、抜ケナイ?!」

 もがく装甲空母鬼。

 

 「これが海賊のやり方だ!」

 アルカディア号はそう叫ぶと彼女の頭に突き付けた剣の引き金を引いた。

 音もなく崩れ落ちる装甲空母鬼。

 その後、あっという間に随伴艦まで全滅させてしまったアルカディア号は自身以外を全員、ボレット?という飛行艇に載るように命じた。

 

 「さて、集積地棲姫さん。これからも色々あると思うけれどアルカディア目指して頑張っていきましょう、ねっ?」

 突然、私に話しかけてくる大和。

 

 「アルカディア?」

 

 「アルカディアっていうのは理想郷っていう意味なんですって。私達はね、アルカディア号の名前の由来となったそこへ皆で行きたいの。」

 あの人に一番ふさわしい名前ね、と嬉しそうな大和。

 こんな仕草を見ているととてもあの大戦艦だとは思えない。

 

 「我が青春のアルカディア号、発進!」

 アルカディア号のエンジンが轟音を立てヤツが大空へと舞い上がる。

 我々を載せたボレットとやらもその後をついていく。

 

 しかし、私は一体これからどうなるのだろう…。




※たくさんの資源と一緒に集積地棲姫を連れ帰った(生け捕った?)アルカディア号。
 彼女の姿を見た花火さんは気を失ってしまったそうです(笑)。
 しかし、集積地棲姫の固有能力で資源の心配は無くなったのですから安いもんですよね?


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第160話 襲来3(艦娘側:北大路花火1)

※お久しぶりです、生きてます…。

※連れ帰られた集積地棲姫はどうなるのでしょうか?


横須賀第一鎮守府会議室

 「…。」

 真宮寺参謀総長がゲンドウポーズでジッとこちらを見つめています。

 

 「…。」

 

 「…。」

 

 「…。」

 他にも真宮寺長官、神崎中将に桐島中将もコチラに視線を向けて黙ったままです。

 

 「…。」

 その視線の先にはこの全員が言葉を失ってしまった原因、集積地棲姫がこれまた黙って座っています。

 まったくもって気まずい事この上ありません。

 私のせいでは無いのですからそんなにコッチに目を向けないで下さい。

 思わず窓の外に目をやれば横須賀第一鎮守府の艦娘達が監視する中、集積地棲姫の子飼いである輸送ワ級が次から次へと資源を持ってきてはまた出て行く光景が。

 

 「アルカディア卿」

 その時、ようやく真宮寺参謀総長がアルカディア号さんの名を呼びました。

 

 「その…、集積地棲姫を連れ帰ってきたのは何故だね?」

 参謀総長の問いにアルカディア号さんが経緯を説明します。

 

 「それに集積地棲姫は武装解除している。問題は無いと思うが?」

 

 (いえ、大有りでしょう! 私だって最初見た時は気を失いかけたんですから!)

 

 「あの、よろしいでしょうか?」

 エリカ大佐が参謀総長に発言の許可を求めました。

 

 「取り敢えず集積さんに敵対意思は無いんですよね?」

 

 「敵対しようにも一切の武装をお前達に抑えられた状態ではどうにも出来ん。今の私であれば数人の戦艦娘がいれば取り押さえられてしまうだろう。」

 

 「じゃあ、暫くウチに滞在してもらいたいのですが。」

 

 「エリカさん?!」

 真宮寺長官が目を見開きます。

 周りの提督さん達からも次々に正気か、の声が上がりました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

集積地棲姫の利用法?!

 「実はこの間の期間限定海域の攻略にちょっと、いえかなり手間取ってしまって…。」

 資源がかなり心許ないんです、とエリカ大佐。

 バツが悪そうに胸の前で人差し指をチョンチョンとしています。

 

 「ちょっと待て、ワ級達が集めてきた資源を全部持って行くつもりか?!」

 酷過ぎると集積さんが立ち上がりますが、台羽さんと有紀さんに銃を突き付けられると再度、椅子に腰を降ろす以外ありませんでした。

 

 「嫌ですねぇ、半分だけですよ、半分(笑)。」

 それでも十分に酷いと思いますがエリカさん自身はとても良い顔をしています。

 

 「ふむ、そういった利用の仕方があるのか。」

 真宮寺参謀総長ェ…。

 

 「なるほど、資源の少ない、あるいは立ち上げたばかりの弱小基地や警備府、泊地を転々とさせれば!」

 長官まで?!

 隣ではタチバナ中将も同じ事を思ったのか、やっぱり親子なのね…、と呟きました。

 

 「確かに配下の輸送ワ級が資源を持って帰っては来るが…。」

 

 「協力はして頂けないと?」

 参謀総長の目が光ります。

 

 「そうではない、恐らく協力できる期間はそれ程長くはないだろう。」

 

 「どういう事かしら?」

 それを聞いた神崎中将が首を傾げました。

 

 「それは…。」

 集積さんが何か言おうとした時、警戒警報が鳴り響きました。

 会議室がにわかにザワつきます。

 

 「長官、哨戒中の利根偵察機より今まで確認された事の無い個体が多数の深海棲艦を率いてこちらに向かっているとの事です!」

 

 「またですか…。」

 長官が片手で顔を覆いました。

 

 「やはりか。これがその理由だ。間違いなく私を連れ戻しに来たのだろう。」

 

 「そういう事ですか。しかし、前回の鬼姫級12隻といい向こうは随分と思い切った戦力投入を行いますね。」

 長官はそう言うと、こちらも重巡以上の大型艦全員で迎え撃ちます!と席を立ちました。

 どうやら軍令部の艦娘達で迎撃を行おうというようですね。

 

 「では長官、横須賀第一鎮守府からも艦隊を出撃させますわ。」

 「私の所からも出そう、前回の轍は踏まんぞ!」

 神崎中将とグリシーヌも立ち上がります!

 私もアルカディア号さんに視線を送ると彼も黙って頷いてくれました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

深海降魔のお出まし?!

 「待ってくれ、確認された事の無い個体というのは恐らく、深海降魔様の誰かだろう。」

 血気に走る真宮寺長官、神崎中将とグリシーヌを集積地棲姫が慌てて止めました。

 

 「始まりの深海棲艦か?!」

 

 「ほう、流石に元帥ともあれば知っていたか。では無闇に戦ってよい相手ではない事も知っているだろう。」

 集積地棲姫はそう言うと、私が大人しく帰れば無用な戦いは避けられるだろうとゆっくりと立ち上がったのです。

 今度は台羽さんも有紀さんも銃を向ける事はありませんでした。

 

 「ここにいる間にワ級が持って帰って来た資源は置いて行こう、そこの海賊に命を助けてもらった礼にな。」

 

 「そうか。」

 

 「アルカディア号さん?!」

 

 「いや、皆は忘れているかもしれないが捕虜返還は認められている制度だからね。」

 それが深海棲艦に通じるかどうかは分からないが、と大神さん。

 

 「しかし…。」

 

 「さっきまで集積地棲姫をどうするか悩んでいたが、これで処遇に困る事も無くなったではないか。」

 神崎中将はまだ何か言いたげでしたが、参謀総長が笑いました。

 もっともエリカ大佐にとっては残念だったかもしれないが、とそう言って集積地棲姫の拘束を解いたのです。

 勿論、万一に備え傍にはアルカディア号さんが付いています。

 

 「せっかく声を掛けてもらったのに済まなかったな。私も降魔様が出てくるとは思わなかったのだ。」

 それに対してアルカディア号さんは、お前はお前の信じる者の為に戦えばいいと、そう集積地棲姫に言ったのです。

 何てカッコいいんでしょうか!

 次は再び敵として会う事になるかもしれないという相手に対してなかなか言える事ではありません。

 帰っていく集積地棲姫を全員が複雑な顔で見送ります。

 後はアルカディア号さんが発進させたスペースフォッケウルフから沖合で集積地棲姫が合流を果たすまでを大型モニターで見守っていたのですが…。

 

 「ええっ?!」

 

 「なに?!」

 

 「馬鹿な!」

 

 「一体何が?!」

 長官は勿論、アルカディア号さん、参謀総長にマリアさんからも悲鳴が上がります。

 それも仕方ありません、私だって自分の目を疑ったぐらいですから。

 何と深海棲艦達が次々と集積地棲姫を攻撃し始めたのです!




※一体何故、集積地棲姫は攻撃されたんでしょうか?!
 深海さん達に一体何が?!

※合わないと思ったらブラウザバックして下さいと記しているのに…。
 辛いナァ…。


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第161話 襲来4(艦娘側:北大路花火・横須賀一鎮大和・集積地棲姫)

※戦闘描写って難しい…。

※ついに深海降魔の一角である『駆逐降魔』が出てきました。
 この戦いはどうなるのでしょうか?!


北大路花火

 「アルカディア号さん?!」

 ですが、彼は私が叫ぶより先に集積地棲姫の救助に飛び出していました。

 沖合までの距離を一気に潰すと、集積地棲姫の前に出るが早いか自慢の主砲を次々と最前列にいた深海棲艦達に浴びせていきます。

 私は違う主砲を向けて頂き…、いえ何でもありません(///)。

 

 悲鳴すら上げる事も出来ずに海の藻屑と消えていく深海棲艦達。

 しかし、深海棲艦達も黙ってやられている訳ではありませんでした。

 後列以降の深海棲艦達の砲撃がアルカディア号さんに次々と命中します。

 凄まじい爆炎に包まれ彼が見えなくなってしまいました。

 

 「きゃあああ!」

 悲鳴を上げてしまいましたが、爆炎が晴れると傷一つ無い彼が。

 私は安堵のあまり思わず椅子に座り込んでしまいました。

 

 「軍令部所属の戦艦・正規空母・重巡に告げます、沖合より多数の深海棲艦が接近中!」

 「戦艦娘と重巡艦娘は正規空母艦娘を中心に輪形陣を、軽巡艦娘と駆逐艦娘は軽空母艦娘を中心とした鶴翼陣をとって迎撃に向かって下さい!」

 「なお、当該戦場海域には既に柱島第七泊地所属『アルカディア号』が到達、集積地棲姫を救出するために戦闘を開始しています!」

 真宮寺長官が一瞬で連合艦隊司令長官、並びに軍令部司令官としての顔に替わります。

 

 「長官!」

 神崎先輩も立ち上がります。

 長官は頷くと、

 

 「横須賀第一鎮守府と横須賀第二鎮守府の空母艦娘は陸上から艦載機による攻撃を発艦させて下さい、比率は艦戦4・艦爆2・艦攻2でお願いします!」

 「戦艦娘は軍令部艦娘と同様に戦闘海域へと出撃、重巡艦娘は負傷艦娘の撤退時に護衛として付くようにお願い致します。」

 相手はあれだけの数です。

 万一の轟沈を防ぐために空母艦娘に対して陸上からの艦載機発艦を指示したのでしょう。

 

 「横須賀第一鎮守府艦娘に告げます! 戦艦娘は大和型を中心とした複縦陣、重巡艦娘は線艦娘の両脇に展開し大破艦の撤退護衛に努めるように!」

 

 「第二鎮守府艦娘は大和型を中心に輪形陣を、重巡艦娘は第一鎮守府同様に負傷戦艦娘の撤退救護に当たれ!」

 神崎先輩もグリシーヌも配下の艦娘達に出撃命令を出しました。

 

 「砲戦距離に入った者から順次砲撃を開始して下さい!」

 長官のこの命令と共に三艦隊の大和型6名の主砲が一斉に火を噴きました。

 さすがにタ級もル級も大和型の砲戦距離には遠く及びません、一方的に46cm徹甲弾が相手を蹂躙していきます。

 

 「パルサーカノン、発射!」

 一方、敵艦隊と対峙したアルカディア号さんは次々と大型艦から仕留めていきます。

 主砲は勿論、艦首ミサイルにスペースバスター、スペースハープーンと正に全火力を持って深海棲艦を薙ぎ払っていく様はまさに戦神といってもいいでしょう、カッコいいです!

 あるタ級はミサイルの爆炎が晴れた後に姿が無く、またあるル級は彼の主砲の一撃を受け数名の仲間を薙ぎ倒しながら最後は周りを巻き込んで爆沈していきました。

 上空でも彼のFw190が制空権を掛けて展開、まさに全火力を持って応戦しています。

 しかし、これだけの数を相手にするには技術格差を持ってしても厳しくなかなか制空が取り切れません。

 ところがここで突然、相手艦載機が次々と落とされ始めました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

横須賀第一鎮守府大和

 「くっ!」

 相手艦載機の攻撃が私に命中しました。

 幸いにもカスダメのため担当継続に於いては何の支障も無いのですが、相手艦隊から発艦してきた艦載機の数が多過ぎます。

 あのアルカディア号さんから舞い上がったスペースフォッケウルフが制空を未だとれていないという事からもそれが分かるという者でしょう。

 

 「おっ? 有り難い!」

 隣りで武蔵の声が聞こえました。

 私も上空を見上げると埠頭から空母組が発艦させてくれた『X‐ウイング』の小編隊が何編隊も上空を覆い始めていました。

 こうなるとこちらのモノです。

 制空が取れた以上、命中率も大幅に上がりますからね。

 さあ武蔵、いくわよ!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

同時刻横須賀沖合 集積地棲姫

 「これは駆逐降魔様。わざわざお迎えに御足労頂いた事に感謝いたします。」

 

 「…。」

 私が挨拶をするも『駆逐降魔』様は黙ったまま。

 尖った耳、瞳が無く本当に見えているのかもわからない黄色い目。

 異様に長い手にはこれまた異様に長い指と爪。

 どちらかといえば『駆逐降魔』様は下級悪魔といった方が早いだろう。

 その駆逐降魔様が振り上げた手をスッと下ろすと、それが合図となって率いてきたル級やタ級の砲撃が一斉に私に降り注ぎ始めた。

 

 「降魔様?! こ、これは一体?!」

 

 「私は集めた資源を相手に奪われるのを防ぐために貴様ごと始末しに来ただけだ。」

 一切の表情を変えずにそれだけの事が言える事からも『駆逐降魔』の残忍度が伺えるといえる。

 

 「そ、そんな! 私はまだ戦えるし役に立てる! 私の資源収集能力は集積地棲姫の中でも上位のはず!」

 そう叫ぶ間にも容赦なくタ級とル級の砲撃が加えられる。

 いかな姫級であるといえどもこれだけの攻撃を浴びてはたまったものではない。

 と、爆炎に包まれる私の腕を何者かが引っ張った。

 

 「貴様?! アルカディア号?!」

 

 「このまま俺の後ろに居ろ。直ぐに横須賀の艦娘達が救出に来る、そいつらに護衛してもらって横須賀に帰れ、いいな!」

 が、このままやられっ放しでは引き下がれん、一矢報いてやらねば気が済まない。

 そう伝えたのだが…。

 

 「良かろう、だが横須賀の艦娘達が来るまでにしておけ。後は俺達に任せろ。」

 そう言ってアルカディア号が相手艦隊に向き直った。

 顔色一つ変えないアルカディア号が全砲門を次々と深海棲艦達に叩き込んでいく。

 瞬く間に数を減らしていく深海棲艦達(私の元同僚達)を尻目に私もヤツらに反撃を開始する。

 が、駆逐とはいえ降魔と呼ばれる存在がやはり別格の存在である事を私も艦娘達も知る事になったのだ。




※どうやら駆逐といえども降魔と呼ばれる者はかなりの存在みたいです。
 何か特別な攻撃手段を持っているのでしょうか?!


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第162話 襲来5(アルカディア側)

※艦これ、夏イベ始まりました。
 今回は大規模イベントになるので資源と精神が持つかどうか…。

※現在、E-2の攻略が終わった所です。


駆逐降魔

 「艦首ミサイル、パルサーカノン発射!」

 押し寄せる深海棲艦達にアルカディア号の全火力を持って応戦する。

 ル級やタ級はこれで十分に海底にお帰り頂くことが出来る(笑)。

 連中にとってこの未来兵器はゴマ粒のようなモノを確認したと思ったら、次の瞬間には轟音と共に自らが炎に包まれるといった感覚だろう。

 そして艦娘達であれば抜くのに苦労するその装甲も身を守ってくれはしない。

 あるものは弾薬庫に、あるものは機関部まで食い破られ次々と爆沈していった。

 と、その中に今まで見た事も無いヤツがいる。

 尖った耳、顔横まで裂けた口から除く牙、瞳の無い目、蝙蝠のような羽を背中に生やした不気味な個体。

 深海棲艦はおろかマゾーンにもあれだけの禍々しさを持った個体は見た事が無い。

 RPGやB級ホラーでよく見る悪魔や魔族といった出で立ちじゃないか。

 間違いない、あれが深海降魔か。

 ソイツがニヤニヤしながらコチラに砲を向けている。

 集積地棲姫がいうには駆逐降魔、艦種は駆逐艦らしいが…。

 

 「直ぐに横須賀の艦娘達が来る、それまで俺の後ろに入れ。後はそいつらに護衛してもらって横須賀第一鎮守府に戻るんだ!」

 側にいた集積地棲姫に戦場から離れる様に指示を出す。

 ところが集積地棲姫は首を横に振った。

 何でも一矢報いないと気が済まないらしい。

 万全の状態ならまだしも今は大破?壊?状態で出来る訳が無い。

 押し寄せる深海棲艦達を相手にしながら押し問答をしていると高雄型と妙高型がやって来た。

 

 「集積地棲姫を横須賀第一鎮守府へ頼む。かなり損傷が激しいみたいだ。」

 なおも渋る集積地棲姫であったが大破?壊?状態では第四・第五戦隊に抗えるはずが無い。

 彼女は未だ何か叫んでいたが無事に(妙高によるゲンコという物理で)連れられて行ってしまった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「ぐっ?!」

 突然背中に衝撃を感じた。

 

 「ソンナ屑野郎ヨリ自分ノ心配ヲシタラドウダ?」

 降魔といえども所詮は駆逐艦、このアルカディア号にとってはカスダメに過ぎない。

 が、これは京極の攻撃を受けた時と同じだ。

 見た目とは裏腹に内部にダメージを与えてくる非常に厄介な攻撃手段。

 しかも降魔というだけあって京極とは比べ物にならない。

 深海棲艦達を相手にするには無尽蔵といえるエネルギーを持つこのアルカディア号だが数を喰らうとヤバいな。

 早めに蹴りをつける事にした俺は、戦艦娘達の砲弾が届き始めたのを利用して一気に駆逐降魔に迫った。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

同時刻首相官邸

 「ガイアフリート?」

 いつものごとく葉巻を加えゴルフクラブを磨いていた首相が首だけをこちらに向けた。

 

 「はっ、このままでは軍の発言力が増大し首相閣下の求心力が低下してしまう危険性があります。そうならないためにも地球連邦政府独自の深海棲艦達、はては例のマゾーンとやらを相手にしても引けを取らない例の海賊船と同等の力を持った艦娘で構成された宇宙艦隊の設立を目指されてはと。」

 

 「そりゃ困るよ、切田長官。ワシは偉大なる地球連邦首相として後世に名を残さねばならんのだ。何でもいいから早く何とかしたまえ。」

 今から研究などしてもン十年、下手をすると百年単位の時間が掛かるというのに何という呑気な連中だろうか。

 しかし首相も切田と呼ばれた男も大真面目なものだから始末が悪い。

 傍から見れば寸劇、いや喜劇である。

 いや、これを喜劇というなら吉本興業に失礼であろう。

 

 「さらに現在、横須賀沖には今まで確認されたことが無い深海棲艦の上位種が大軍を連れて押し寄せております。」

 さらに、ここは首相のお名前で避難命令を出された方が民衆への気配りが出来るという事が出来て宜しいかと切田は首相に意見を出した。

 

 「おおそうか。切田長官、チミはなかなか気が利くじゃないか。直ぐにそうしておいてくれたまえ。」

 切田長官は首相がゴルフバッグを持ち非難を開始したのを確認すると分かりましたと一礼し部屋から出て行った。

 廊下には首相のくれぐれもワシの名前でな、と念を押す声が響いていたが彼にそれが聞こえていたのかどうかは分からない…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

海軍軍令部参謀総長室

 「参謀総長、たった今、政府から市民に深海棲艦の侵攻による避難勧告が出されました!」

 勢いよくドアを開けて大神元帥が参謀総長の元に駆け込んできた。

 

 「なに?! 軍からは避難勧告を出さなかったのか?!」

 真宮寺参謀総長が元帥と共に入って来た真宮寺長官に厳しい目を向けた。

 

 「は、はい、横須賀第一鎮守府と第二鎮守府、それからアルカディア号さんがいらっしゃるので…。」

 参謀総長に何かマズかったでしょうか、と長官が問うと、

 

 「確かにアルカディア君と横須賀の精鋭艦隊で当たれば防衛ラインを突破される可能性は少ないかもしれん。だが、それでも政府は避難勧告を出した。市民がこれをどう受け止めるかだ。」

 

 「成程、実際に避難の必要に関係なく勧告を出す事で政府、いや首相閣下は市民の安全を考えているのに軍はそうでは無いと取られてしまう可能性があるという事ですね。」

 そんな、と呆然とする真宮寺長官を横目に大神元帥に参謀総長が現在の交戦状況を確認する。

 

 「現在は、お互いの戦艦勢によるノーガードの撃ち合いになっています。相手艦隊の空母が少ないので制空が取れた事により着弾観測射撃が出来る分、我が艦隊が有利な状況です。」

 それを聞いた参謀総長が怪訝な顔になった。

 

 「空母の数が少ない、だと?」

 

 「はい、平均すると20隻に1隻の割合でしか確認されておりません。ただ、その空母も空母棲鬼であるため決して侮れる存在では無いのですが…。」

 

 「分かった、この後も敵の増援に注意しつつ作戦を展開してくれ。」

 海軍からは避難勧告ではなく避難命令を出す様に長官と元帥に指示を出した参謀総長はその後もマップと戦力展開図をジッと見て何かを考えているようだった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

アルカディア号vs駆逐降魔

 重力サーベルを抜き駆逐降魔に接近する。

 見たところヤツに得物は無い。

 イケると踏んで斬り掛かった瞬間、キンと金属音がして重力サーベルが弾かれた。

 斬り掛かった瞬間、ヤツも腕を横に振りぬいたのだ。

 長い手の先にはこれまた鋭くとがった爪、なんというか繰り返しになってしまうがRPGの世界に放り込まれた気分だ。

 

 「成程、貴様ガ例ノ海賊船トヤラカ。」

 

 「お初にお目に掛る。だが出来れば最後にしたい(笑)。」

 ハーロックの不敵な笑みを真似ながら重力サーベルを構え直す。

 でも内心はドキドキだったりする…。

 だって魔族の攻撃なんて対処のしようがないじゃん。

 切り付けた瞬間、魔貫光殺砲!なんてやられたら堪ったもんじゃない。

 まあ、いい。

 やられたらあの謎の光が入る『股間光殺砲』でやり返し…、いやさすがにそれは雑食過ぎる。

 深海さん達にはともかく降魔にそれは無いわ…。

 

 「ドウシタ? 余所見シテイル余裕ナドアルノカ?」

 目の前をその鋭い爪が薙いでいくと同時に前髪がハラハラと落ちた。

 お返しに重力サーベルの引き金を引く。

 

 「グアッ?!」

 まさか剣先からレーザーが出るとは思っていなかったのだろう。

 お返しに左手の手首から先を飛ばしてやると駆逐降魔が蹲った。

 チャンスとばかりにパルサーカノン3基9門、艦首ミサイルにスペースバスターの一斉射を叩き込む。

 降魔の耐久力は未知数だがかなりの深手を負わせることが出来たのは間違いない。

 

 「やった!」

 台羽?!

 それフラグだからみんな言わなかったのに、ってほらヤッパリ立ち上がってきたじゃないか!

 それもこれ以上無い憎悪をこちらに向けてるよ…。

 ところが駆逐降魔はそのままゆっくりとその身を海中に没し始めた。

 どういう事だ?

 まだ余力を残しているように見えたが気のせいだったのだろうか。

 だが気にしていても仕方が無い、俺は違和感を残しつつもタ級やル級、しいては空母棲鬼の殲滅に向かう。

 しかしこの違和感を見逃したことが後でひと騒動を招く事になってしまうとは思ってもみなかった。

 




※艦これの夏イベ絶賛開催中により、次話投稿が遅れ気味です。
 無理のない範囲でと思っていますので生暖かく見守ってやって下さいますようお願い申し上げます。 <(_ _)>


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第163話 襲来6(艦娘側:横須賀第一鎮守府 大和)

※お待たせしました。
 両手の親指が腱鞘炎になってしまい、上手く動かなくなってしまったのです…。

※艦これ、夏イベE-6の第三ゲージがどうしても割れません…。
 資源と精神が持たない…。



横須賀沖

 敵戦艦部隊と空母部隊の姿が見えました。

 まさに恐ろしい数です。

 ですが、アルカディア号さんはそんな敵の数をものともせずに、私達がフラッグシップやエリートと呼ぶ敵艦隊の中に突入し暴れまわっています。

 戦いは数だよ、兄貴、といわんばかりの戦術ですが、あちらさんも初めて見る彼の兵装に戸惑いを隠せないようです。

 何しろ、光の矢が伸びて来たと思ったらもう既に命中しているのですから。

 空母夏姫やヲ級達の深海空母勢は自慢の艦載機を発艦させたと思ったら逃げても逃げても追いかけてくるミサイルに容赦なく撃墜されていくのです。

 考えればこの海賊戦艦の情報を深海側に持ち帰った者などいないのですから無理もない事かもしれません。

 

 「よし、もらったぞ! 大和よ、見てろ…、撃てぇっ!」

 隣りでは武蔵が自慢の主砲を誰よりも早く放ちました。

 

 「第一・第二主砲、斉射始め!」

 一番艦であるこの大和も負けていられません。

 え、アルカディア号さんの目に留まりたいだけなんじゃないのかって?

 ええ、無いとは言いません。

 ですが、そんなのは理由の80~90%程度でしかありませんから。

 

 「陸奥よ、この長門に続け! 第一戦隊突撃、主砲一斉射、撃てぇ!」

 

 「第三砲塔を敵に指向。逃がさないわ、撃て!」

 私達の徹甲弾がタ級とル級を捉えた次の瞬間、長門と陸奥の主砲も火を噴きました。

 それを合図に金剛型や伊勢型、扶桑に山城達の主砲も一斉に轟音を立て始めます。

 あれだけの数で押し寄せて来た相手が瞬く間に数を減らしていきます。

 さらに上空には空母組から発艦したX‐ウイングがアルカディア号さんのミサイルから逃れた一つ目鳥達を次々と撃墜し始めました。

 

 「オノレエッ! 何故ダ、何故コレダケノ部隊ヲ編制シテオキナガラ…。」

 あれは装甲空母鬼と装甲空母姫?!

 

 「何故か…、それは知らん。だが、俺達に手を出したからには一切の容赦はせん。」

 アルカディア号さんの対空兵装であるスペースバスターが彼女達の艦載機を全滅させます。

 

 「アルカディア号さん、危ない!」

 攻撃手段を失ってしまった装甲空母鬼がアルカディア号さんを貫こうとその鋭い鬱目が付いた巨大な手を振り上げたその瞬間!

 

 「いきまっせー。」

 その場に似合わないヤッタラン副長の声と共にアルカディア号さんのラムアタックが装甲空母鬼と装甲空母姫を先に貫きました。

 

 「馬鹿ナ、我ラ装甲空母ガコウモアッサリト…。」

 

 「アレダケノ艦載機ガ一瞬ニシテ…。」

 沈みゆく装甲空母鬼と装甲空母姫。

 今ここで自分が沈むなんて考えもしなかったのでしょう。

 私もいくらアルカディア号さんのラムアタックといえども、まさか一撃で2隻の装甲空母を串刺しにしてドテッ腹に大穴を開けてしまうとは思いもしませんでした。

 

 「地獄の業火で焼き鳥でも作って鬼共にでも振舞うんだな。」

 沈みゆく二人に目をやるアルカディア号が告げます。

 

 「ふっ、焼き鳥か。うまく例えたものだ。なあ、大和。大和?」

 

 (カッコイイ…。)

 

 「大和、戻ってこい。おーい。ダメだなこれは…。」

 

 「ヘーイ、武蔵。どうしたデスカ?」

 

 「いや大和が、な。」

 

 「あー、ウチの榛名と同じネー。まあ、仕方ないヨ。」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

帰投

 「お帰りなさい、アルカディア号さん。」

 横須賀第一鎮守府の埠頭では大神さんや真宮寺長官、北大路提督と一緒にエリカ大佐が迎えてくれました。

 

 「あれ? エリカ大佐もいらしてたんですか?」

 

 「はい、明日は横須賀第二鎮守府と演習なんです。」

 満面の笑みで帰って来た艦娘達に手を振るエリカさん。

 アルカディア号さんも埠頭から武蔵さんに手を伸ばしてもらってもらっているところですね。

 

 「死ネェッ!」

 その時です、いきなりエリカさんの前の海面が盛り上がり海中から駆逐降魔が飛び出て来たのです!

 

 「え?」

 余りの事に理解が追い付かないエリカさん。

 いえ、理解が追い付かないのは彼女だけではありませんでした。

 全員が一瞬とはいえ固まってしまったのです。

 

 「エリカ君!」

 「エリカさん!」

 「エリカ?!」

 我に返った大神さんや長官が叫びますが、もともとドジっ子シスターである彼女がとっさに動ける訳がありません。

 頼みの綱であるアルカディア号さんも手を引っ張ってもらっている状態ではどうする事も出来ません。

 

 「ぐっ?! かはっ…。」

 ビシャッという音と共にエリカさんの顔半分と体が血に塗れました。

 降魔の腕が体を貫いたのです。

 本人は何が起こったのか分からないといった表情を浮かべていましたがやがて力なくその場にペタンと座り込んでしまいました。

 誰もが最悪の事態を想像したのですが、なんとエリカさんの降魔の間には両腕を広げた集積地棲姫が?!

 今度こそと反対の腕を振り上げる降魔ですが、それよりも早くアルカディア号さんのコスモドラグーンが降魔の額を貫くとヤツはそのまま灰となって消えていったのです。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

集積地棲姫

 「集積地さん?!」

 

 「集積地っ!」

 

 「集積地さんっ!」

 長官にアルカディア号さん、花火さんが一斉に駆け寄りました。

 当然その中にはエリカ・フォンティーヌ提督の姿も。

 

 「どうして?!」

 倒れた集積地棲姫を抱き起そうとするエリカ提督ですが…。

 

 「どうして、か…。それは私にも分からん。ただ気が付けば体が動いていたのだ。」

 

 「もういい、喋るな!」

 そしてアルカディア号さんが依頼するよりも早くヤッタラン副長とドクターゼロさんが飛び出てきたのです。

 ですが、二人とも集積地棲姫を見るなり悲しそうな顔をして首を横に振りました。

 

 「とにかくデスシャドウ島の医務室へ!」

 北大路提督が叫びますが、それを聞いた集積地棲姫さんは…。

 

 「いい、どの道…、私は助からん。」

 

 「そんな私のせいで!」

 あの能天気なエリカ提督が子供の用に涙を流しています。

 

 「これは私が望んでやった事だ。気にするな。」

 

 「でも!」

 いつの間にか集積地棲姫子飼いの輸送ワ級達も集まってきていました。

 

 「死ぬな、集積! お前を慕うワ級達の為にも死んではならん!」

 アルカディア号さんも必死に呼びかけますが、誰の目にももう彼女が助からない事は明らかです。

 彼も集積地棲姫が助からないと悟ったのでしょう。

 もう死ぬなとは言いませんでした。

 

 「アルカディア号、か…。もし、私がまたこの世界に生まれてきた時は…。」

 

 「ああ、全員で…。桜咲くこの日の本の国で待っているぞ。」

 アルカディア号さんのその言葉を聞いて安心したのでしょう、集積地棲姫の腕がダラリと力なく垂れ下がりました。

 

 「集積地さん? 集積地さん?!」

 

 「いやあああああ!」

 真宮寺長官とエリカ提督の悲鳴が埠頭に響き渡りました。




※書類を大量に処理し、数を数えたりハンコを押したりで両手の親指が動かなくなってしまいました(泣)。
 一体いつ治るのやら…。
 キーボードを打つのにも一苦労です。
 お陰でだいぶ投稿間隔が空いてしまいました。<(_ _)>


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第164話 ドロップ?!(艦娘側:北大路花火)

※エリカ提督に『とんでもない船』がドロップしたようです。


横須賀埠頭(エリカ・フォンティーヌ)

 「さあ、花火。」

 

 「はい…。」

 アルカディア号さんに促された北大路提督が集積地さんの棺に花をそっと置かれました。

 大神さんから始まった献花は真宮寺長官、真宮寺参謀ら重鎮、そして各第一鎮守府提督達を得て私へと回ってきました。

 私もそっと棺の中に一輪を置きます。

 棺の中に横たわる集積地さんの顔は非常に穏やかでした。

 それこそ見ず知らずの私の為に命を落としたと思えない程に…、です。

 

 「さくらくん。」

 

 「ええ…。」

 大神さんに促された長官が棺のふたを閉めます。

 そして後ろではアルカディア号さんが海賊式敬礼を?!

 

 「我々は一人の勇敢な戦士だったお前の事を忘れはしない。僅かな間だったが、お前はこの旗の下に集った俺達の大事な仲間だった。」

 それを聞いた多くの提督さん達がそっとハンカチを目に当てます。

 私が気を抜くことなくもっと周りに気を配っていれば集積さんが命を落とす事は無かったでしょう。

 そう思うと悔やんでも悔やみきれません。

 神に仕える者としてあまりにも不出来、失格です。

 後は棺を小型ボートに載せて長官がレバーを引けば…。

 そう思うとなぜか私は居ても立っても居られなくなり集積地さんの棺に駆け寄っていました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

覚醒?!(北大路花火)

 アルカディア号さんの遠く時の輪の接する所でまた会おう、という呼び掛けの後、真宮寺長官がレバーを引こうとした時でした。

 突然、エリカさんが棺にしがみ付いたのです。

 

 「集積地さん、普段はあれほど私達を手こずらせるじゃありませんか! 悪い冗談は止して下さい、趣味が悪過ぎます! 集積地さん、集積地さんっ!」

 必死に呼びかけるエリカさんですが、見ているこちらの心も痛いです…。

 自分を守るために犠牲になったという事実が重い罪悪感となって彼女に押し寄せているのでしょう。

 

 「エリカくん。」

 見かねた大神さんが彼女の肩に手を置きました。

 

 「大神さん、私、私…。」

 大神さんにしがみ付くエリカさん。

 これは…、長官が恐ろしい事になりそうです。

 あ、やっぱりです!

 長官が腰の霊剣荒鷹に手を?!

 と、エリカさんの叫びが響き渡ったのはその時でした。

 

 「この寝坊助野郎っ、いい加減に起きやがって下さい!」

 私達の目が点になりました。

 聖職者(最近はアルカディア号さんを狙って生殖者?になりかねない)であるエリカさんが発したとは思えない台詞だったというのもあるのですが、彼女から目がくらむばかりの白い光が溢れ周りを包んだのです!

 そして背中から両翼で5mはあろうかという白い翼が!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 やがて光が収まると同時に彼女の背中にあった白い翼も消えてしまいました。

 と、エリカさんがしがみついていた棺が突然、ガタガタと音を立てて揺れ始めたのです!

 悲鳴を上げてエリカさんが飛びのきました。

 いえ、彼女だけではありません、私達だってです。

 誰だって突然、棺桶が揺れ出したら怖いじゃないですか?!

 

 「ちょっとエリカさん、あれどうなっているんですの?! 確かめてきて下さいな!」

 神崎提督がエリカさんに棺桶を確認するように依頼しますが…。

 

 「嫌ですよ、ってか何ですかあれ!」

 棺を指差しながら逆ギレ気味なエリカさんですが…。

 

 「私にだって分かりませんわ! っていうか、さっきまで集積さんに目を覚まして下さいって呼びかけていたんですから貴女が確かめなさいな!」

 

 「だから嫌ですって! そんなに仰るなら先輩も一緒に行って下さい、ね?」

 神崎提督に縋るような目を向けるエリカさんですが…。

 

 「いえ、こういうのはマリアさんの方が適任ですわ。ね、マリアさん?」

 

 「私だって嫌よ! そうね、神も仏も信じないと公言なさっているロベリア中佐が適任じゃないかしら?」

 視線を向けられたロベリアさんですが、彼女も首を横を首に振りました。

 

 「さすがの私も目の前で見てしまってはな。というかアレ段々と音が大きくなってきていないか?」

 そうなんです、こうしている間にも集積地さんの棺から聞こえてくる音がますます大きくなってきているのです!

 この時には大神さんや真宮寺長官までが棺を遠巻きにするようになっていました。

 一部の提督さんに至っては海に落ちそうなほど距離をとっている始末です。

 

 と、突然、あれだけガタガタと音を立てていた棺の揺れが止まりました。

 全員で固唾を飲んで見守る中、ゆっくりと棺のフタが持ち上がったのです!

 そして持ち上がったフタと棺の間からゆっくりと青白い手が?!

 それを見て全員が悲鳴を上げました。

 何人かの提督さん達は既に気を失ってしまった方もいらっしゃいます。

 そして棺の中からエリカさんを呼ぶ声が!

 

 「貴女が目を覚ましてというから…、桜咲くこの国で待っているというから…、地獄から舞い戻って来たのに…。」

 「そんなに避けられると私、傷付いてしまいます。」

 当のエリカさんといえば十字架を前に捧げコンクリート埠頭で平身低頭状態。

 そして棺のフタが持ち上がり中から手と同じ色した女の人が?!

 もう駄目です、私も限界を超えてしまいました。

 だって真昼間から幽霊ですよ、って足?! 足がある?!

 その女の人が必死でお祈りを捧げているエリカさんの前に立ちました。

 

 「デラメヤ級強襲揚陸艦、デラメヤ着任しました! エリカ提督殿、よろしくお願いいたします!」

 




※集積地棲姫からドロップしたのはなんと『ガミラス艦』でした。
 肌の色が青白かったのも納得ですね。
 しかも強襲揚陸艦、だと?!

※固有能力である癒しに目覚めたエリカ提督。
 これ以降、彼女の指揮するラバウル基地では実質、ドックが5つあるのと同じ状態に。
 また、月一の定例会議では多くの提督さん達が彼女の加護を受けに来るようになったのだとか(笑)。


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第165話 ドロップ?!(アルカディア側)

※遅くなり申し訳ございません(毎回言ってるような気がする)。
 集積地棲姫からドロップしたのは何とガミラス艦、それも強襲揚陸艦だったようです。
 期間限定海域攻略においてはエースとして活躍してくれること間違いナシ、ですが…。


横須賀埠頭

 「この寝坊助野郎っ、いい加減に起きやがって下さい!」

 今まさに長官が水葬用のレバーを引こうとしたその時、エリカ大佐が集積地棲姫の棺にしがみ付いた。

 と、同時に目を疑う光景が!

 彼女が白い光で包まれ背中から白い翼が現れたのだ。

 

 まあ、サクラ大戦キャラとしての立ち位置として分からんではない。

 ただ、その白い翼も一瞬で消えてしまいまったし、ハッキリと視認できたのは俺以外に誰もいないかもだけど。

 

 そう思っていると、エリカ大佐がしがみついていた棺が突然、ガタガタと音を立て始めた。

 悲鳴を上げて皆が飛びのく。

 もちろん、その中にもエリカ大佐が入っていたのは言うまでもない。

 え、何ですか?

 俺?

 ハイ、腰が抜けてしまいその場から動けませんでした…。

 はい、そこ笑ってはいけません。

 チビらなかっただけでも大したモンです。

 

 後ろでは神崎閣下とエリカ大佐が、タチバナ閣下とロベリア中佐を巻き込んで誰があの棺を確認するかスッタモンダを繰り広げている。

 当然だが、二人とも首を縦に振る訳が無い。

 

 と、突然、あれだけガタガタと音を立てていた棺の揺れが止まったと思ったら棺のフタが持ち上がって中から青白い手が…。

 提督達からも悲鳴が上がった。

 そりゃそうだろう、まさかとは思うが集積地棲姫がゾンビ化したのか?!

 しかし、怖がってばかりもいられない。

 万一に備え、恐怖のあまり固まった足を無理矢理に動かし花火の前に立つ。

 

 棺の中からチョッとしたエリカ大佐への恨み言聞こえる中、当の本人といえば平身低頭で十字架を前にした状態。

 っていうかアナタ、元の職業柄、除霊やお祓いはお手の物だと思っとりましたが、違うんですかね?

 そしてゾンビはエリカ大佐の目の前までくるとキレイな敬礼と共に、自らをデラメヤ級強襲揚陸艦だと名乗った。

 なんだ、あれゾンビじゃなくてガミラス星人の肌の色だからか。

 

 って待て待て!

 ガミラスだと?!

 ひょっとしなくても宇宙艦としては二人目だ。

 しかし、デラメヤ級自体はそれ程戦闘力が高くなかったはず。

 

 「キャプテン、デラメヤ級の武装は連装陽電子ビーム砲塔1基、宇宙魚雷発射管2門でっせ。いうてもこの時代、そして深海棲艦達には充分過ぎでっしゃろ。」

 ヤッタラン副長が彼女の武装を教えてくれる。

 

 副長の言う通り各提督達にとっては喉から手が出る程の存在なのは間違いない。

 戦車大発だけでも陸上型鬼姫に対してはかなりの威力なのだ。

 それが宇宙艦ともなればどれだけの威力を発揮するかなど深く考えるまでもないだろう。

 これは争奪戦が起こるかもしれん。

 それにしても彼女、どこかで見た事ある気がするんだが…。

 

 って、髪こそ肩まで伸ばしているがあれは…。

 間違いない、『メルダ・ディッツ』だ!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

ガミラスとは?

 「アルカディア号さん、あのガミラス艦を沈めて下さい、早く!」

 余りの展開に誰もが呆然としていた中、神崎中将閣下が叫んだ。

 

 「何故だ? 私は何も敵対行為はしていない。どういう事だ。」

 

 「長官、ガミラスといえば未来において、もっと言えば2199年に遊星爆弾で地球侵略を行った異星人国家です! こいつらのせいで地球は滅亡まであと1年という所まで追い詰められたのですよ!」

 

 「そ、それは本当なのですか?!」

 

 「ふむ、貴官は?」

 

 「この国の総艦隊司令長官を務めている真宮寺さくらと申します。」

 真宮寺長官がメルダ、いやデラメヤの目を真っ直ぐに見据えながら返答する。

 

 「ほう、では貴官がここのトップなのか。」

 今度は真宮寺長官に対し敬礼を行うデラメヤ。

 

 「先の女の話は本当だ。今が西暦何年かは知らぬが、我々ガミラス星人は滅びゆく母星に替わり移住可能な惑星としてこの地球に狙いを定めた。だが、地球人たちは崖っぷちからではあったが見事に我がガミラスを撃退しこの星を守り抜いたのだ。」

 

 「その後、民主化に舵を切ったガミラスは移住先を新たに発見したガルマン星へと変更し地球と惑星間同盟を結んだ。これ以降、ガミラスの復興支援の一環として地球の科学は飛躍的に発展を遂げより遠くへの外宇宙へと乗り出す事が可能となった。」

 

 「アルカディア号さん?!」

 デラメヤの後を受けてその後の流れを述べると神崎中将閣下だけではなく、皆が信じられないといった表情になった。

 当のデラメヤも驚いているがそりゃ無理もない。

 案の定、彼女は一体何故、そこまで知っているのかと訊いてきた。

 

 「俺は2977年に進宙したからな。よって見てきた訳では無いが歴史の知識として知っている。」

 

 「では貴殿も宇宙艦なのか?!」

 デラメヤは2977年?進宙?と呟いていたがやおら顔を上げるとこちらの手を取りブンブンと上下に振り始めた。

 

 「あ、ああ(汗)。宇宙海賊船アルカディア号だ。大規模作戦時には貴官の力は絶大なモノとなるだろう。エリカ大佐をよろしく頼む。」

 

 「心得た、このメル…、いやデラメヤ、必ずや期待に応えて見せよう!」

 ちょっと待て、お前今、何かメタいこと言いかけただろ!

 まさかとは思うがお前も転生者なのか?!

 

 「真宮寺長官、当面の間、私はエリカ大佐の所に身を寄せようと思う。」

 「不安だというのであればそこのアルカディア号とやらを目付にするが良…。」

 

 「ダメですっ!」

 「いけませんわ!」

 デラメヤが俺を監視役とすればいいと言おうとしたのだが、言い切る前に花火が俺の右手、神崎閣下が左手を引っ張った。

 

 「明日はアルカディア号さんにウチ(横須賀第一鎮守府)の艦娘達と演習を組んで頂いていますのよ!」

 

 「明々後日からは久しぶりに柱島第七泊地に帰投いただいて私と一緒に過ごしてもらうんです! ウチの艦娘達も楽しみにしているのですから予定の変更など出来ません!」

 それを聞いたデラメヤは訝しげな表情を浮かべていたが、実に良い笑顔になった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「ほう。ほう、ほう。ほーう(にぱっ)。」

 顎に手を当てて俺達三人をデラメヤがやや下から覗き込む。

 

 「な、何ですの?」

 

 「アルカディア号とかいったか。両手に花とは中々の色男ぶりだな。」

 神崎閣下がデラメヤをキッと睨む。

 

 「で、どちらを選ぶ? 色男よ。」

 神崎閣下とは好対照に赤くなっていた花火だが、デラメヤが放ったこの一言で彼女にも火が着いてしまった。

 コイツ、トンデモない事を更なる笑顔で?!

 

 「神崎中将、『私の』アルカディア号さんから手を離して頂けませんか?」

 

 「花火さんこそ、『私の彼』からその手を離して頂けるかしら。私、この後はアルカディア号さんと明日の演習に関して打ち合わせがありますの。」

 

 「『私の』アルカディア号さんと打ち合わせ、ですか…。しかし、演習前に打ち合わせを行ったところで結果が変わるとはおもえませんが…。」

 

 「ウチ(横須賀第一鎮守府)が弱いとでも仰りたいのかしら? だとしたら聞捨てなりませんわよ?」

 

 「いえ、とんでもありません。演習で横須賀第一鎮守府さんに勝ったなんて1回か2回しかありませんから。ただ、いかな横須賀第一鎮守府といえども『私の彼』が相手では、と思っただけで…。」

 二人とも煽り合うのは止めて下さい。

 何故、お互い『私の彼』を強調するんですか!

 

 「あら、花火さんたら(笑)。『私の彼』でもある事をお忘れにならないで下さるかしら。」

 ダメだ。

 だんだん、胃が痛くなってきた。

 

 分かれに片手を振る時も、振る時も♪

 横目で時計を見る時も、見る時も♪

 私の私の彼は~♪

 

 って、いかん、いかん。

 現実逃避したって始まらない。

 それに俺は左利きではないしな…。

 その後、

 

 「いや、この二人とは限らない…、か?」

 というデラメヤの更なる爆弾発言で他の提督や艦娘をも巻き込んだ新たな騒動へと発展した。

 お陰で花火と神崎閣下の二人を満足、タチバナ閣下や影山大佐、その他に関しては約束(何のだ?)させられる破目になってしまった…。

 

 

 




※私の彼は左利きっていう曲、ご存じでしょうか?
 フリも完コピでぜひ那珂ちゃんにやってもらいたい(笑)。


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艦娘達とのエピソード(本編とは無関係)
摩耶(高雄型重巡三番艦)


※この章は本編とは関係なく独立章となっています。
 
【挿絵表示】



給湯室

 給湯室にお茶っ葉を補充しに行くと赤城がいた。

 手に持っているモノを見るにアタシと同じ目的で来たんだろうが、彼女の視線はテーブルの上にある白い箱に絶賛中で注がれている。

 

 「何だか随分と高そうなブツだな、洋菓子か?」

 

 「ええ、開けてみましょう。って、エクレアですか。ん~、美味しい。いけますねぇ~。」

 彼女はそれをヒョイと摘まむと、止める間もなく口の中に放り込んだ。

 

 「お前、何やってんだよ?! 誰のモノかも分かんねえのに、止せ止せ!」

 幸せそうにエクレアを平らげていく赤城とは逆にこっちが青くなる。

 

 「大丈夫ですよ。テーブルの上に落ちていたんですから。」

 

 「置いてあるんです!」

 後ろには大魔神と化した大淀が立っていた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

執務室

 「提督、ネズミを二匹捕まえました。」

 大淀が執務室の扉をノックする。

 

 「ネズミ?」

 

 「はい、かなりの大型ネズミです。」

 二人して提督の前に突き出される。

 執務室の中には提督ともう一人…。

 げ、ブルーメール提督じゃねえか?!

 そういえば今日は月一の定期戦の日。

 アタシの中でこの二つ(来客とお菓子)が繋がった(繋げたくはなかったが…)。

 

 「実はブルーメール提督にお出ししようと思っていたお菓子を赤城さんが…。」

 やっぱりかよ!

 

 「ええっ?!」

 

 「でもあれはテーブルの上に落ちて…、痛い痛い!」

 

 「まだ言いますか?!」

 大淀が赤城に絡みつく。

 おおぅ…、コブラ(ツイスト)かよ。

 またガッチリと極まって…。

 

 「提督、すまねえ。止める前にもう…。」

 

 「大体、どうして勝手に食べたりしたのですか?!」

 「摩耶さんにも誰のモノか分からない以上、止めるように言われたでしょう!」

 大淀がさらに赤城を絞り上げる。

 

 「そこにお菓子があるからです!」

 悲鳴を上げながらもドコかドヤ顔の赤城。

 

 「「「登山家か?!」」」

 執務室でタカ&トシをやらせるんじゃねーよ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「では摩耶は赤城を止め切れなかったのですね?」

 

 「はい、提督。摩耶さんをここに引っ張ってくるのはいささか可哀そうだとは思ったのですが。」

 彼女は手を付けていないという事をお伝えしておこうと思いましたので、と大淀。

 と、それまで黙ってカップを傾けていたブルーメール提督が笑いだした。

 

 「何処の赤城でも同じだな。私もこの間、ケーキを半分づつと言ったら上半分を持っていかれたぞ(笑)。」

 オイオイ、そっちの赤城も大概じゃねーか。なるほど、その手がありましたか、と妙な感心をして更にギュウギュウと絞られる赤城。

 と、その時、ノック音と共にアルカディアの声がした。

 

 「北大路提督、アルカディア号、二日間にわたる佐世保第一鎮守府との演習任務より帰投した。」

 

 「ほら、王子様のお帰りだぞ(笑)。」

 

 「も、もう、グリシーヌったら!」

 赤くなりながら彼を部屋へ迎え入れる提督。

 剣を構えたまま、踵を合わせて立つアルカディア。

 

 やっぱカッコイイよなぁ。

 でも何でアタシ、重巡の側室筆頭に選ばれたんだ?

 正室は足柄だし、言っちゃなんだが重巡枠だけイロモノ臭が半端ない。

 (足柄:摩耶、後でちょっと顔貸しなさい?)

 

 「お帰りなさい、随分と早く戻ってきてくれたのですね。」

 

 「やはりここの方が落ち着くのでな。戦績は20戦20勝、あと桐島中将閣下より長崎名物の高級カステラを沢山いただいている。ん、ブルーメール閣下ではないか。今日は一体…。」

 

 「月一の定期演習だ。早く着いたので朝からお邪魔させてもらっている(笑)。ウチ(横須賀第二鎮守府)の演習メンバーも卿に会いたがっていたぞ。用事が無ければこの後、訊ねてやってくれ。」

 花火と此処の艦娘達は面白くないかもしれないが、とブルーメール提督。

 ま、これも有名税のようなものだ、諦めろと笑って提督の肩をポンと叩いた。

 

 「もう、グリシーヌったら。丁度いいわ、代わりにこれ(カステラ)を頂きましょう。」

 

 「はい!」

 

 「何でイイ返事してるんですか! 貴女(赤城さん)の分はありませんからね!」

 大淀からの非情な宣告。

 ま、自業自得ってヤツだ(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「提督、赤城さんに対する処罰は如何致しましょうか?」

 

 「私からは特にありません。」

 そもそも柄ではありませんし、と提督は涼しい顔だ。

 それでは示しがつきませんとする大淀に、

 

 「桐島中将の高級カステラで何とかなったので良いではないですか。無ければ非常に困った事になる所でしたけれど。まあ、この事態が空母艦娘教導艦の耳に入らなければいいですけどね(笑)。」

 首筋にゾッとする感覚。

 振り返ると、切ったカステラと紅茶をカートに載せた鳳翔さんがこれ以上無い笑顔で立っていた。

 だが、あの笑顔は危険だ。現に鳳翔さんの背後には黒い何かが漏れ出ている。

 これが二航戦から聞いた鳳翔さんの黒化ってヤツか。

 本家(間桐桜)に一歩も劣ってねーな、こりゃ。

 生まれたての小鹿よりも震えてる赤城が何だか可哀想になっちまった。

 

 「赤城ちゃん?」

 

 「は、はひっ!」

 

 「ちょっとお話があります。空母寮へ帰りましょう(ニコニコ)。」

 いえ、あの私、ちょっと用事が…、と渋る赤城の襟首を掴む鳳翔さん。

 そのまま赤城は鳳翔さんに曳かれて空母寮へと消えて行った。

 

 「提督もお人が悪いですね。よりによって鳳翔さんに言いつけるなんて…。」

 

 「偶然、私が嘆いた時にカステラを切ってお茶を入れてくれた鳳翔がいただけです。それをチクったようにいわれるなんて心外ですね(笑)。」

 提督、やっぱお前が一番怖えーよ…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

夜:重巡療高雄型(第四戰隊)部屋三番個室

 「なるほど、そんなことがあったのですネ。」

 とんだ災難デース、とは戦艦寮から回覧物を持ってきてくれた金剛。

 特段忙しくないからというので今日あった事を愚痴ってるって訳だ。

 それにしても腹減ったなぁ…。

 赤城を止められなかったバツとして大淀から言い渡された罰は晩飯抜き。

 もっとも赤城は明日一杯まで飯抜きと、彼女にとってはこれ以上ないキツイお仕置きとなっている。

 おまけに食堂には必ず顔を出して皆が食べているのを見ていないとダメなんだとか(笑)。

 

 「鳥海が風呂に行ってる間にコッソリ貰い置きしていたお菓子でも食うか(笑)。このままじゃ体が持たねえからな。」

 アルカディアから貰った森永のエンゼルパイ。

 金剛にも一つ進呈する。

 これ美味えんだよなぁ(笑)。

 口を大きく開けて半分ほど一気にかじり付く、いやかじり付いたはずだった。

 でもソレは忽然とアタシの手から消えちまった。

 

 「あん?」

 落としたのかと思って下を見る。

 落としてない、おかしい。お菓子だけに。

 代わりに目に入ったのは黒いストッキングに包まれた足。

 

 「摩耶?」

 

 「摩耶ちゃん?」

 恐る恐る見上げると消えたはずのチョコパイが愛宕姉の手に収まっている。

 

 「大淀さんから聞いたわ。摩耶、あなた赤城さんを止める事が出来なかった罰として夕食抜きなんですって?」

 

 「そうよぉ、なのにこんなお菓子を食べちゃダメじゃない。」

 

 「だから晩飯の代わりなんじゃねーか。返してくれよ!」

 が、手を伸ばすより先にチョコパイは愛宕姉にモグモグされてしまった。

 こうなったらテープルの上にある袋だけは…、無い?!

 

 「駄目よ、一晩絶食なさい。」

 高雄姉の手にはしっかりとチョコパイの袋が。

 二人はそのまま部屋を出て行くと、共用スペースで風呂から上がった鳥海と三人でミニ茶会をおっ始めやがった。

 開こえてくるのは高雄姉のあら、美味しいとか、鳥海の私の計算ではこんな美味しいお菓子有り得ないとか、愛宕姉のぱんぱかばーんとか、缶を開けるカシュッという音。

 楽しそうだな、全くよぉ…。

 

 「摩耶。」

 

 「あん?」

 

 「これ。私のを食べるですヨ。」

 せっかく頂きましたが、と金剛。

 チョコレートの甘さと生地のフワフワ感、そして金剛の優しさが身に染みる。

 

 「取り上げるならまだしも自分達のモノにするのはチョット酷いデスネ。」

 金剛は摩那の気持ちを代弁してあげマースとニヤッと笑った。

 

 「くっそー、こっちは演習に全戦出ず張っりで腹減ってんのに。」

 「大体、高雄姉も愛宕姉もそれ以上パイ(意味深)は要らねえだろ。」

 「デブだ、デブになっちまえ、それで鳥海と三人で柱島第七泊地の森三中結成ってか?! なあ、金剛?」

 金剛、お前!

 やるなら地声でやれよ!!

 しかも無駄に似てるドコロかドコをどう聞いてもアタシだぞ!

 やはりというか、ドアの向こう、共有スペースでピシッと空気が凍った音がした。

 

 「そうね、 じゃあお言葉に甘えて運動しようかしら。」

 指を鳴らしながら距離を詰めてくる三人。

 それからの事は多く語らない、いや語りたくない…。

 ただ一ついえるのは…。

 

 金剛のヤツぜってー許さねえ!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

デスシャドウ島

 あれから不貞腐れてベッドに潜り込んだものの腹が減って眠れない。

 おまけにモノが二重に見える…。

 空腹もあるが、主な原因は鳥海のフライングボディアタックと姉貴達のツープラトン・バイルドライバーを喰らったせいだ。

 寮を抜け出しデスシャドウ島に向かう。

 デスシャドウ島へと渡る桟橋を歩いていると月明かりの中、同じようにフラフラしながら少し先を歩くヤツがいる。

 騒動の発端、元凶の赤城だ。

 アイツも考える事は同じかよ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「それでここへ来たのか?」

 

 「頼む…。何か、何か食わせてくれ…。」

 

 「私もです、お腹が空き過ぎて胃がキリキリと痛んで…。」

 アルカディアはそれを開くと戸棚からカップ焼きそばを取り出した。

 げ、アタシの空飛ぶ奴と違って赤城のは4184キロカロリーもあんのかよ、凄えな…。

 お湯を注いで待つ事3分、書かれてある通りにお湯を捨てソースを入れると香ばしいイイ香りが!

 二人して貪るように喰い始める。

 そんなアタシ達の前にアルカディアはマヨネーズを置いた。少し入れるとコクが出るんだとか。

 さらに摩耶も一つでは足りないだろうと、もう一つ『夜店の焼きそば』(一平ちゃん)とやらも出してくれた。

 帰る時、今度は見つかるなよと新しいエンゼルパイまで持たせてくれた。

 くそっ、ますます惚れちまうじゃねーか。

 

 よーし、待ってろよ、必ずお前と釣り合うイイ女になってやるからな!

 




※タカ&トシ
 御存知、〇〇か!のツッコミでお馴染みの漫才コンビ。
 最近見ないけど、舞台が忙しんでしょうか?

※ケーキを半分ずつって言ったら上半分を持っていかれた
 娘が小さい頃、実際にやられました。

※用事が無ければこの後、訪ねてやってくれ
 アルカディア号が控室に訪ねたところ横須賀第二鎮守府の全員が戦意高場(キラ付け)状態になってしまい柱島第七泊地の前習メンバーからはかなりの不評を買ってしまったようです。

※本家の間桐桜に一歩も劣っていない
 さすがにタコさんウインナーのようなモノは出でいなかったようですが…。

※ドコをどう聞いてもそれアタシの
 金剛型も高雄型も全員、中の人が『東山奈央』さんです。声真似なんてお手のモノに違いない、メイビー。

※空飛ぶヤツ
 ピンクレディーの歌にも…。ええっ、ピンクレディーをご存じない?!
 と、とにかく摩耶はこれが一番お気に召したようです。


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加賀(第一航空戦隊)

※この章は本編とは関係なく独立章となっています。

※カーブの打ち方ですか?
 ボールがググッとしたら自分のスイングに合わせて、いわゆるバットをこうブワッとですね、ハイ。


 「何でよ、何で出来ないのよっ!」

 ヒステリックに喚き散らす五航戦の娘(瑞 鶴)に、コチラまでため息が出ます。

 ペイント弾で真っ赤に染まったその姿は赤鬼もビックリといったところかしら。

 

 噴進弾ファンネル。

 私の運命の人(アルカディア号さん)からもたらされた攻防一体の夢のような兵装。

 それをヤッタラン副長とA&Y(明石&夕張)重工が形にしてくれたのだけれど、どういう訳かあれだけ器用な五航戦の娘(瑞 鶴)が上手く扱えません。

 自身で身を守る事が苦手な私達(空母艦娘)にとってはこれ以上無い福音のはずなのだけれど…。

 

 こういうとあの子だけがダメなように思われるけれど、そうではないわ。

 一組(三基)だけなら十分に扱えています。

 ただ、激しさを増す深海棲艦との戦いにおいて一組だけではやはり心許ないのも事実です。

 二航戦の二人は勿論、『雲龍』・『天城』・『葛城』・『大鳳』、はては姉の『翔鶴』まで何とか形になりつつあるというのだから、あの子が焦るのも無理は無いのだけれど…。

 

 「少し休憩なさい。そんな冷静さを欠いていては出来るモノも出来なくなってしまいます。」

 

 「駄目だよ、加賀さん。皆に追いつくためには立ち止まっている暇なんて無い、このまま戦場に出たら私が足を引っ張る存在になっちゃう!」

 

 「いい加減になさい。感情に翻弄されたまま行う訓練に意味があるとでもいうの?」

 「この兵装は特に集中力が必要なの。それは貴女も分かっているのではなくて?」

 

 「だったらどうすれば出来るのか教えてよ!」

 

 「だから意識を向けて集中なさいと…。」

 

 「私だって集中してるわよ! でもそれじゃ出来ない、出来ないし分かんないのよおっ!!」

 そう叫び、突っ伏してしまった五航戦の娘(瑞 鶴)はその日、もう立ち上がる事はなかったわ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「どうでした、瑞鶴さんは?」

 部屋に帰ると赤城さんが気を使って声を掛けてくれます。

 でも私は黙って首を横に振る事しかできません。

 

 「そうですか。まあ、あまり追い込まない方が良いでしょうね。」

 テーブルの上にあるお煎餅に手を伸ばす赤城さんからのアドバイス、いえ忠告です。

 窓の外を見ると件の五航戦の娘(瑞 鶴)が姉に連れられてトボトボとデスシャドウ島へと歩いていく所でした。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 次の日の訓練は賑やかだったわ。

 アルカディア号さんに台羽さん、そして有紀さんに赤城さんまでが瑞鶴の訓練を見守っています。

 相変わらずペイント弾で真っ赤になり続ける瑞鶴。

 目は完全に虚ろで、いつもにも増して酷い状態だわ。

 見るに見かねたのでしょう、有紀さんが前に出ました。

 

 「瑞鶴さん、一組だけでやってもらっていいかしら?」

 

 「うん…。」

 一組だけを使った訓練はあの子だって十分できる。

 あの四航戦にだって引けは取らない。

 

 「反応速度は悪くないのね。」

 

 「ええ、それどころか群を抜いていると思います。」

 有紀さんと台羽さんも驚く程の反応速度。

 でもやっぱり二組の使用となると全然駄目だわ。

 ここでアルカディア号さんが瑞鶴を海上から呼び戻しました。

 

 「瑞鶴、加賀からはどのような教導を?」

 

 「あれは意識と集中が大事だから常に集中し意識を向けて、ヒューと来たらピシュンのピシュンでキュピーンしなさいって…。」

 

 

 「ふむ、加賀は長嶋茂雄か。」

 あのミスターと同じと言ってもらえるなんてと喜んだのけれど、

 

 「加賀さん、今のはあまりいい意味ではありませんよ。」

 言いにくいですが、と赤城さん。

 

 「名選手は必ずしも名監督・名コーチではないという事だ。」

 顔に出ていたのでしょう、アルカディア号さんが説明して下さったわ。

  1.何故、自分が出来る事を他人が出来ないのか分からない。

  2・自分はこの感覚で出来ているので、これ以外に説明のしようがない。

  3.よって自覚は無いが、人に教えるのが苦手である、あるいは教える才が無い。

 

 「教導艦に求められるのは実績ではない。いかに引出しを沢山持っているかだ。」

 「これで伝わらなければ別の表現で伝えてみよう、それでも駄目ならまた違った表現で伝えてみようと…。それが引出しを多く持っているという事だ。」

 これが名監督・名コーチと呼ばれるのだと、そう仰ったわ。

 

 「瑞鶴、一方向だけを向かず向きを変えたり、一歩下がったりして出来るだけ多くの模擬攻撃機を視界に入れるようにしてみろ。」

 そこからの瑞鶴の動きは別人でした。

 模擬攻撃機が速度を最大にしても追い付きません。

 今までの突っ立ったままとは違い、DQ4のミネアとマーニャもビックリの華麗なステップと動きで全ての攻撃を防ぎ切ってしまいました。

 更に圧巻だったのは攻撃を防ぐだけではなくこちらから仕掛ける余裕まで見せた事ね。

 ついには模擬敵機の方が持たず全機燃料切れを起してしまったわ。

 

 満面の笑みを浮かべ戻って来た瑞鶴。

 そのままアルカディア号さんの所へ行くのかと思いきや、あの子は私に飛びついてきました。

 

 「やったよ、加賀さん! 出来た、私出来たよ!」

 良かったわね、と撫でてやると瑞鶴が小さく震え出しました。

 

 「うん…。加賀さんの…、お陰だよ。ありがと…ね。」

 

 「私は何もしていないわ。むしろ私の教え方が邪魔をしていたのね、悪かったわ。」

 瑞鶴が私の中で首を横に振る。

 

 「そんなこと無いよ、加賀さんじゃなかったら私とっくに投げ出してたもん。」

 

 「これで一件落着ですか。良かったですね、加賀さん。」

 

 「赤城さんの言う通りですね。やはり瑞加賀は正義なんだ。」

 台羽さん? その…、瑞加賀って何かしら?

 え、カップリング? ウスイホン?

 碓氷峠なら知っているけれど、それとも薄いフォンというぐらいだから薄型の電話かしら。

 知らなくて良い事よ、と有紀さんが台羽さんの耳を引っ張ってドナドナして行ってしまったわ。

 二人が桟橋を曲がって姿が見えなくなった後、何か大きなものが水に落ちた音が聞こえたのだけれど、あれは一体何だったのかしら…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 夕食の後、色々と考えました。

 私の教導では誰であっても結果を出せなかったに違いありません。

 いえ、もともと自分に教導艦なんて無理だったのでしょう。

 おかげで、あの子にも辛い思いをさせてしまったわ。

 こんな時、あの人なら何て言うかしら?

 

 「行ってきたらどうですか。というか行くべきだと思いますよ(笑)。」

 鉄面皮といわれる私が顔に出るほどだったのでしょうか、いえ僚艦の赤城さんにはすべて筒抜けなのでしょう。

 

 「あの、ちょっと、赤城さん?!」

 そのまま私は赤城さんに廊下に追い出されてしまいました。

 部屋の鍵を掛ける音と共に中からは、一晩掛けてじっくりと彼のお話を聞いてきて下さいと赤城さんの声が。

 これで本当に彼の所へ行くしかなくなってしまったわね…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

デスシャドウ島 アルカディア号自室

 

 「どうした、面白そうな話を持ってきてくれた訳ではなさそうだが。」

 

 「…。」

 出されたアンドロメダレッドバーボンを一舐め頂きます。

 噂には聞いていたけれど、本当に喉が焼ける程のキツい度数ね。

 

 「聞きたいことがあるの。」

 彼は黙っていましたが、目で続きを促してきました。

 

 「五航戦の娘に視界を広くとるように言ったのはどうしてかしら?」

 

 「瑞鶴の武器はその抜きんでた反応速度だ。他の空母艦娘は分からないが、彼女は視界に入った情報を基にそれを瞬時に処理して反応している。」

 これで何かを掴むことが出来れば、直ぐに予測に基づいた動きもこなせるようになる、安心しろと、彼は私の隣に腰を下ろしました。

 いけない、殿方特有の体臭に頭がどうにかなってしまいそうです。

 

 「あなたはあの短時間でそれに気付いたのね。私はあの子に何一つ役立つアドバイスが出来なかったというのに…。」

 「あの子には辛い思いをさせてしまったわ…。」

 

 「瑞鶴本人も気にする事は無いと言っていただろう。無理に自分を悪者にしたり責めたりするのは止せ。」

 また、それ以上はあの子にも失礼になるとも…。

 

 「何だ、泣いているのか?」

 そう言われて自分でも初めて泣いている事に気が付きました。

 

 「一体、お前は瑞鶴が好きなのか嫌いなのかどっちなんだ(笑)。」

 

 「深く憎み、そして深く愛しているわ。」

 あの子が聞いたら卒倒しそうだけれど、事実なのだから仕方ないわね。

 

 「お願いがあるの。」

 

 「うん?」

 

 「私の引出しを増やすのを手伝ってもらえないかしら?」

 そう言って彼に寄りかかります。

 このチャンスを利用しない手は無いわ。

 そう思いつつ、今にも口から飛び出てきそうなぐらい心臓バクバクです。

 

 「お前の頼みだ。喜んで手を貸そう。」

 アルカディア号さんが私の手を握って下さいました。

 ついでに(貴方の)ミル貝と(私の)アワビも握ってもらえないかしら?

 お醤油も甘ダレも無し、何も付けず(着けず?)頂きたいのだけれど…、って私は何を言っているのかしら。

 やはり殿方特有の麻薬のような体臭で頭がおかしくなってしまったのね。

 五航戦の娘、私も今そっちへ行くわ…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

柱島第七泊地 第五航空戦隊自室

 

 瑞鶴:キュピーン!

 

 翔鶴:どうしたの、瑞鶴?

 

 瑞鶴:分かんない。でも今、すっごい加賀さんに失礼な事を言われた気がする!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

(ドラクエの一夜明けたチャイム)

 

 生レバーのごま油とお肉の焼ける派手な音が食欲をそそります。

 泊地の食堂ではなく、お泊り(意味深)したアルカディア号私室での朝食。

 これには流石に気分が高揚します。

 生レバーを次々と平らげながらトングでカルビをひっくり返す殿方特有の逞しい手に私の目は釘付けです。

 

 でも少し待って頂戴、どう考えても朝食にこれは(炭火焼肉)おかしくないかしら?

 ティファニーで朝食をとは言わないけれど、これではあまりにムードが無いのではなくて?

 

 「どうした加賀、舌に会わなかったか?」

 大丈夫よ、舌にも下にもあって…、いえ何でもありません。

 

 「いえ、美味しいわ。でも朝食だったら珈琲か紅茶にパン、あるいは御飯に焼き魚とお味噌汁だと思うのだけれど?」

 

 「そうだな、俺もこんな朝食は初めてだ。だが、昨晩にお前を愛し過ぎてしまったのでな、体力チャージのためには仕方あるまい。」

 消え入りそうな声で謝る私に、悪いのは私ではなく私の美しさだと彼はそう言ってくれました。

 

 「さらに気分が高揚します!」

 この後、調子に乗ってお肉を食べまくってしまったせいで、3-5にいる北方棲姫にまで違う意味でカエレ!と叫ばれる破目になってしまったのだけれど…。

 




※瑞加賀
 意外と薄い本でみかける組み合わせ。
 主に鶴が百万石を責めるパターンが多いです。

※(貴方の)ミル貝と(私の)アワビも握ってもらえないかしら
 気まぐれクックさんの動画をご覧になって下さい。
 いかに危険な形状の貝かが分かります(笑)。

※ティファニーで朝食を
 加賀さんにも乙女な部分が?!

※カエレ!
 焼肉臭が(笑)…。


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マリア・タチバナ1(東京花組)

※この章は本編とは関係なく独立章となっています。

※あまり笑うことが無いマリアを笑わせたかった。後悔はしていない…。

※今回、アルカディア号が選定した『山吹色のお菓子』ですが『有限会社セントラル・スコープ』さんから実際に販売されています。
面白い上に大変美味しいお菓子なので興味ある方は是非!


柱島第七泊地(大淀)

 「一昨日お帰りになられたばかりなのに…。」

 北大路提督が恨めしそうにアルカディア号さんを見上げます。

 無理もありません。提督が仰るようにアルカディア号さんは一昨日の夕方にリンガ泊地から戻られたばかりなのです。

 もっと二人だけの時間を過ごしたいという思いは正室として当然でしょう。

 

 「そんな顔をするな。こちらも出来るだけ早く戻る。」

 アルカディア号さんが北大路提督を抱き寄せました。

 あの人にとっても北大路提督は特別な存在ですから悲しい思いをさせるのは当然本意では無いのでしょう。

 

 「早く帰って来て頂きたいのは山々なのですが…。」

 マリアさんとの時間も取って下さいと提督。

 

 「正室・側室を問わず私達はアルカディア号さんのものです。ですが貴方は…、皆のものですから。」

 確かに彼を独り占めしてしまえば、艦隊というか海軍自体が回らなくなってしまう可能性がありますから少しは大目に見ないといけないのですが、提督にとってもこれは複雑な心境です。

 

 「うん?」

 不思議そうな顔のアルカディア号さんですが、これはいただけません。

 彼には一度、女心というモノを教えて差し上げないとダメなようですね。

 

 「一日~二日くらいはタチバナ中将とプライベートでご一緒下さいという事です。」

 未だ首を捻るアルカディア号さんに私から説明します。

 後はタチバナ中将に失礼の無いよう海賊船としての振る舞いは程々にと注意しておきましょう(笑)。

 

 「ところであの…。何かお忘れではありませんか?」

 北大路提督がモジモジしながらアルカディア号さんに視線を送ります。

 見送りの私達も一気にヒューヒューな感じだったのですが…。

 格納スペースを点検しだす彼に全員ヤレヤレというか一気に冷めてしまいました。

 むくれる北大路提督の代わりに妖精姿の有紀さんが小さなハリセンで彼にパコン、と一発!

 とにかくそのお陰でキスという忘れ物をせずに済んだアルカディア号さんは、そのまま舞鶴第一鎮守府へと飛び立っていきました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

舞鶴第一鎮守府

 「アルカディア号さん、舞鶴第一鎮守府へようこそ!」

 今日の秘書艦である瑞鶴と共に正門前でアルカディア号さんをお出迎え。

 それにしても瑞鶴ったら全然物怖じしないのね。

 

 「お邪魔させて頂いた事はあるけれど、いらして頂いたのは初めてね。よく来てくれたわ。」

 ウチ(舞鶴第一鎮守府)の艦娘達が遠巻きにこちらを見ている中、庁舎内へと案内します。

 廊下では敬礼してくれる艦娘もいるけれど、柱の陰や曲がり角から様子を窺っている艦娘が大半。

 どうせ執務室の中へ入ったら全員が扉の前に集まるんでしょうけど。

 

 「一昨日リンガ泊地から柱島に戻られたばかりだったんですって? 花火さんとの時間もあまりとれなかったでしょう、悪い事をしてしまったわ。」

 

 「花火だってその辺はわきまえている。それにリンガへ行く前は一か月以上、柱島第七泊地にいたからな。」

 それからこれは花火からだと包みを差し出してくれたわ。

 

 「頂き物まで。悪いわね、後で北大路提督に…。」

 北大路提督にお礼をしないと、と言いかけた時、アルカディア号さんからの強烈な不意打ちが私を襲った。

 

 「それからこれは俺からだ。」

 一日遅れになってしまったが、とまた別の包みをアルカディア号さんがテーブルの上に置く。

 訳が分からないといった私にバレンタインのお返しだと…。

 後ろでは提督やったじゃん、と瑞鶴がニヤニヤしながら覗き込んでくる。

 でもちょっと待って。

 男の人から何かを頂いたなんて大神さんとココの職員数名、それから市長さんぐらいなのよ?

 免疫の無い私に何ていう事をするのかしら…。

 すまんがソイツを仕舞ってくれんか、ワシには強すぎる…、って違う違う。

 私はポム爺さんじゃない。

 

 「あ、ありがとう…。それで、あの…、中身は…。」

 本来ならもっと喜ばないといけないのに、あまりの事に思考は殆ど停止状態。

 

 「中将閣下の好きな少々重たい菓子だ。」

 薄紫の包装紙を開けると黒い印籠箱。

 紙製のしっかりした硬さの箱、その蓋には金文字で『山吹色のお菓子』の文字が?!

 蓋を開けると薄紙を通してうっすらと見える小判の束。

 そっと小判の束を一つ取り出すと、それ自体が入れ物になっている。

 開けると胡麻クリームを挟んだダックワース。

 思わず瑞鶴と顔を見合わせる。

 やがてどちらからともなく笑いだしてしまった。

 

 「やだ、アルカディア号さんたらこんなの何処から見つけて来たのよ(笑)?」

 

 「なになに、胡麻クリームなのは胡麻を擦らないと作れないからですって(笑)?」

 ちゃんとエスプリとユーモアが効いてるんだと瑞鶴。

 

 「ちょっと重たいお菓子ねぇ。まあいくらあっても困るものではないけれど。してアルカディアさん、いえこの場合はアルカディ屋さんかしら。一体、この私に何を(笑)?」

 

 「いつも通りお計らいを一つ(笑)。」

 

 「さすがは海賊、貴方もなかなかの悪ね。」

 

 「いやいや、中将閣下ほどでは(笑)。」

 お決まりのやり取りの後、瑞鶴と二人で思いっ切り笑ってしまった。

 こんなにお腹を抱えるほど笑ったのはいつ以来かしら?

 さらにアルカディア号さんは瑞鶴にもお返しを差し出したわ。

 

 「え、あたしにも? いいの?!」

 加賀さんに自慢してやるんだからと、ルンルン気分で箱を開ける瑞鶴。

 

 「えっ、これ…。」

 箱から出て来たのはアクリル製のケース。その中に鎮座する精巧な艦船模型。

 木製の台座にあるプレートには『1/700 日本海軍航空母艦 瑞鶴』の文字が。

 しかもその精密さは飛行甲板に並ぶ艦載機と共に凄まじく瑞鶴自身も言葉を失うほど。

 

 「本来、この時期のお前は迷彩塗装だった。だが、あの塗装が施された後、お前は姉の後を追う事となった。あれはお前の死化粧だと俺は思っている。」

 「二度と瑞鶴を失うという事があってはならん。史実通りの迷彩塗装ではなく軍艦色で作り上げたのはそのためだ。」

 

 「…。」

 押し黙ってしまった瑞鶴に大事に飾っておきなさいと声を掛ける。

 これを入れるガラスケースぐらいは用意してあげましょうか。

 そんな事を考えていると瑞鶴が、

 

 「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!」

 「う゛れ゛し゛い゛よ゛ぉ!」

 絶叫しながらアルカディア号さんに飛びついた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「いっそ殺して…。」

 恥ずかしさのあまり顔を覆う瑞鶴。

 それよりも感極まったとはいえ、殿方に抱き着くなんて相手がアルカディア号さんでなかったら軍警(MP)事案もの。

 下手をすれば軍法会議で解体かもしれなかったのよ、笑って済ませてくれた彼に感謝なさい。

 

 とにかく直ぐにでも午前演習、午後演習もPM03:00に実施して、後はウチの艦娘達と交流を持ってもらいましょう。

 ゆっくりしてもらうのは夕食後でいいわね(もちろん私の部屋でだけど)。

 一日目の今日は補助艦艇・海防艦・潜水艦・駆逐艦が夕食に参加、二日目は軽巡洋艦・軽空母・重巡洋艦、三日目は正規空母・戦艦の予定になっていたはず。

 え、私?

 おかしな事を聞くのね。そんなの三日連続に決まってるじゃない。

 職権乱用?

 なんとでも言いなさい。殿方が少ないこの世界、なりふり構っていられるもんですか。

 




※次回はマリア編2になります。
 その後は再びタウイタウイ第二で事件が起こります。
 再び戦場へと向かうアルカディア号。
 再建途中のタウイタウイ第二で一体どんな事件が?!

※マリア編といいながら半分ぐらい舞鶴瑞鶴のお話になってしまった。
 これも後悔はしていない。

※笑って済ませてくれた
 嗤っての間違いでは?
 鼻の下を伸ばして『うほほー』だったハズ。


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マリア・タチバナ2(東京花組)

※この章は本編とは関係なく独立章となっています。

※流石は四大鎮守府の舞鶴、その第一ともあって三日連続の大宴会。
 正確にはアルカディア号と出来るだけ交流を図れるようにと、マリアが一日目は小型艦、二日目は中型艦、三日目を大型艦と分けてくれただけなのですが、やはり艦種が大型になるにつれて乱れが…。


舞鶴第一鎮守府食堂(大淀)

 「アルカディア号さん、当鎮守府所属艦娘との交流に時間を割いて頂きありがとうございました。」

 「それから本当に申し訳ありません。あのようなお恥ずかしい醜態を…。」

 痴乱騒ぎの果てに畳の上にひっくり返ってしまった連中を横目にしつつ、アルカディア号さんにお礼を述べます。

 

 「気にするな。そもそもコチラは海賊船だぞ。あの程度ならまだ可愛らしいものだ。」

 なんて心の広い方なんでしょうか。

 鬼姫級12隻による横須賀急襲の中継を見て彼のカッコ良さというのは理解していたつもりでしたが、想像以上です。

 あの時の彼の一言一言は見ていた私達の心にも深く刺さりました。

 細川と藤枝の企みを限止した際には全員から歓声が上がったものです。

 

 「それであの…、明日、明後日とタチバナ提督ともお時間を取っていただけませんか?」

 蛮勇を奮って本題を切り出します。

 ずっととは言いません。ただタチバナ提督にも少しは…、それだけなのです。

 

 「それは構わんが…。そういえばウチの大淀にも同じことを言われたな。」

 本当ですか、そちら(柱島第七泊地)の私に感謝ですね。

 

 「ただ、タチバナ提督はここではかなりお顔の広い方なのです。ですから…。」

 随分と身勝手だとは思いますが、あまり噂にならないようにして頂ければ…。

 

 「人目に付かない所が良いという訳か。分かった。」

 どうやらアルカディア号さんには考えがあるみたいですね。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

舞鶴第一鎮守府執務室

 「で、何か言いたい事はある?」

 私の前に並んだ『一航戦(赤城・加賀)』・『二航戦(飛龍・蒼龍)』・『金剛型(金剛・比叡・榛名・霧島)』・『第一戦隊(大和・武蔵)』、そしていわずもがなの『那智』・『隼鷹』・『千歳』・『陸奥』の呑兵衛達。

 

 「あと少しだったというのに…。」

 唇を噛む那智に、何がもう少しだったのですかと大淀のこめかみがヒクついている。

 

 「いや、全然もう少しではなかった。酒に関して彼は我らの想像の遥か上だったな…。」

 

 「武蔵さんもなに遠い目をしてるんですか! あなた方は自分が何をしたか分かっってるんですか?!」

 あ、大淀が爆発した(笑)。

 まあ、でも司令官としては形の上だけでも言っておかないとね。

 

 「少々の誘惑なら私も何も言わないわ。でもさすがにちょっと…、色々とやり過ぎたわね。」

 二航戦から始まった『ぱふぱふ』に金剛四姉妹の太腿比べ、さらに呑兵衛達の痴態騒ぎ。

 え、ポーラ?

 確か早い時点でザラに手刀で意識を刈られて離脱していたわ。

 まあ、でもみんなよくやったわよ。

 アルカディア号さんも満更ではなさそうだったし、これぐらいじゃないと余所に勝てないでしょうから(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「それから提督、今日の執務はお休みです。」

 『一航戦』・『二航戦』・『金剛型』・『第一戦隊』・『那智』・『隼鷹』・『千歳』•『陸奥』を解放した後、大淀が不思議な事を言い出した。

 

 「どうしたの? いきなりそんな事を言われても困るんだけど。」

 

 「直ぐ駐車場に行って下さい。アルカディア号さんが待っていますから。」

 それを聞いた私は駐車場へ向けて走り出していた。

 

 「どうした? そんなに慌てて。」

 息を切らせている私を見て彼が驚いている。

 

 「ごめんなさい、さっき大淀に聞いたばかりなの。」

 というか、お誘いならもっと早く言って欲しかったんだけど…。

 

 「で、何処へ連れて行ってくれるのかしら?」

 鳳翔が持たせてくれたお弁当と共に二人して1BOXに乗り込む。

 

 「大淀からは目立たない所へと言われているのでな。」

 気にしなくて良かったのにと苦笑いする私に、彼は後ろを指差した。

 あれは…、釣り竿?

 

 「釣りデートってわけね。期待してるわ。」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

京都府由良川某所

 「さあ、着いたぞ。」

 海から少し離れて街中を走ること一時間ほどして車が止まった。

 ここ…、由良川よね。

 え、川? 川釣りなの?

 そんな事を思っている間にアルカディア号さんはサッサと道具を降ろすと手際良く準備を始めた。

 菜の花が咲き乱れる河原にシートを敷いて頂く鳳翔のお弁当はまた格別。

 二人だけの時間がゆっくりと過ぎていく中、釣れたのは86cm・82cm・76cmの鯉が三匹。

 さすがに80cm台ともなるとかなり大きくずっしりとした手応えで感動してしまった。

 

 夕方、鎮守府へ帰ると大淀が出迎えてくれる。

 どうでしたか?と問う彼女に獲物を見せると、こんなに大きいのが釣れたんですかと驚いていた。

 そのまま裏庭の池に放すと三匹とも悠々と泳ぎ出していく。

 自分が、いえ二人で釣ったという事実に自然と顔が緩んでしまい、いつまでも見ていられそう。

 

 「さ、夕食の準備が出来ています。急いで食堂へいらして下さい。」

 鳳翔に言われて初めてお腹が減っている事に気が付いた。

 食堂へ向かう間も視線は彼の背中に吸い寄せられたまま。

 186cmの私が自分よりも背の高い人を見る事は滅多にない。

 花火さんはいつもどういう思いで見ているのかしら。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

舞鶴第一鎮守府マリア自室

 「今日はありがとう、楽しかったわ。」

 それに対してアルカディア号さんは楽しんでもらえたなら何よりだと言ってくれた。

 

 「大方、妙高が大淀に頼まれたんでしょう? 断ってくれても良かったのに(笑)。」

 

 「何故だ?」

 何故、か…。

 貴方のその優しさは時にどうしようもなく人を傷付けるわ。

 

 「同情されたって惨めなだけだわ。それならいっそ…。」

 

 「なるほど。花火が言っていたのはこれか。』

 花火さんが? 一体何を…。

 

 「一つ思い違いをしておられるようだが…。」

 彼がこちらを見つめてくる。

 

 「俺は別に中将閣下がお考えになっているような理由で今日一日を過ごした訳ではない。」

 「俺が中将閣下と一緒にいたいと思ったからお誘いしただけの話だ。そうでなければ頼まれたとしても声を掛ける事は無い。」

 

 「本当なの?」

 

 「ああ…。」

 そこから先はあまり覚えていない。

 以前、憧れた横抱き(お姫様抱っこ)で抱え上げてもらえたのと、娼婦のような下着(黒いガーターストッキング)に幻滅されないかといった心配をしたのは覚えているのだけれど…。

 どうやら鯉だけではなく、とんでもなく大きな恋も釣ってしまったみたい。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 翌日、皆の態度が妙によそよそしい。

 というか、反応に困っているような…。

 

 「そんな気がするんだけど…。大淀、貴女何か知らない?」

 顔を赤らめどうしようか逡巡した彼女からは…。

 

 「昨夜は…、その…、お楽しみでしたね。///」

 




※あの程度ならまだ可愛らしいものだ
 いったい海賊の宴会とやらはどんな感じなんでしょうか?

※ぱふぱふ
 御存知、ドラクエにおける謎の一つ。
 はたしてどのような行為なのでしょう?

※昨夜は…、その…、お楽しみでしたね
 マ、マリアさん、そんなに声が大きかったのでしょうか(汗)?
 この後、彼女は天照大御神ごとく、しばらく天岩戸(自室)から出てこなかったとか…。

※しかし男性の数が少ないこの世界でないと到底、アルカディア号のやっている事は許されない気が(笑)。

※次回からは再び、アルカディア号が戦場へと出向くお話が始まります。

※それから活動報告にも記載させて頂いたのですが、四月からは部署移動に伴い、更新速度が大幅に遅れると思います。
出来るだけ時間を見つけてとは思いますが、やもめ暮らしな事もあり生暖かい目?で見守ってやってくだされば幸いです…。  <(_ _)>


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北大路花火1‐1(アルカディア号)

※艦隊これしょんの絵師のお一人であらせられた草田草太さんがお亡くなりになられました。
 艦これにおいて駆逐艦睦月・如月・弥生・卯月・水無月、軽巡パースを生み出してくれた方です。
 突然の訃報に驚きと悲しみを禁じ得ませんが、今はただただご冥福をお祈りするばかりです。



横須賀第一鎮守府艦娘休憩室

 昼は温かいが日が落ちると未だ冬といった三月の初旬、花火と足柄が月例の提督会議に参加するのに併せて俺も横須賀第一鎮守府へと同行する事になった。

 提督の護衛が二名もいるのかと言われそうだが何の事は無い、要は神崎提督に来鎮を要請されたのだ。

 それを聞いた花火は最初もの凄く不機嫌になったのだが、高雄に何か耳打ちされると急にニコニコ笑顔になった。

 では、その間は妙高と二人でお願いしますね、と何やら高雄と目配せをする花火。

 気になって聞いてみたのだが、上手くはぐらかされてしまい教えてもらう事は出来なかった。

 

 そんな訳で会議に参加の必要が無い俺は第一鎮守府の休憩室でここの艦娘達に囲まれ上機嫌。

 夜は神崎中将閣下がまた例の料(理)山泊へ連れて行ってくれるという。

 これは上手くいけばまた閣下呼びではなく『すみれ』呼びできるかもしれない状況になるってヤツですね、わかります!

 

 素敵な想像を巡らせていると、ふいにタ立が未来の宇宙船って他にどんなのがいるっぽい?と訊いてきた。

 

 「宇宙船技術が一気に進歩したのはガミラス戦役以降だ。ガミラスの地球侵略を跳ね返す力と技術は地球防衛軍艦隊に無かったのだが、イスカンダル星より波動エネルギ一関連技術がもたらされ人類はギリギリの所で侵略を免れたと聞いている。」

 

 「なにそれ!  夕立、そのガミラスとやらについて知りたいっぽい!」

 詳しく記録した媒体があるので見てみるか?と訊くと、タ立だけではなく大半から見たいと返答が。

 アルカディア号の格納庫からプレイヤーを出し大型TVに繋ぐ。

 ディスクをセットするとややあってガミラスの遊星爆弾で真っ赤になった地球が映った。

 木村幌氏のナレーションが聞こえてくると同時にすっかり干上がってしまった地球を見て艦娘達が言葉を無くしてしまった。

 

 慌てて、これはあくまでも俺のいた世界の話で、この世界の未来ではないから安心するように伝える。

 火星でサーシャからの通信カプセルを回収し、地球で偵察機を撃墜するために出撃した古代と島が錆びた鉄の塊を発見した時、後ろから声がした。

 

 「あれは…、私?」

 いつの間にか大和さんも休憩室に来ていたらしい。

 丁度良かった、呼んできてもらおうかと思っていたぐらいだったからな(笑)。

 え、いや彼女の反応を見たかっただけなんです、面白そうだし。

 再び木村幌氏の大和は未だ眠りから覚めてはいないとのナレーション。

 そして(あんな状態の)私に一体何が出来るのかしらと不思議がる大和さん。

 ああ、あれだけの美人さんがあどけなく小首を傾げる仕草をするなんて反則です。

 柱島第七泊地へ帰ったらウチの大和さんにもやってもらおう。

 来月のデジタルカレンダーの背景画像に決定ですわ(笑)。

 

 (まさかタダでとは言わないですよね?)

 ん、いまウチの大和さんの声が聞こえた気がしたけど気のせい…、ですよね?

 

 画面ではガミラス攻撃空母から発進した艦載機のミサイルが次々と大和の周りに着弾していた。

 その度に首を竦める横須賀第一鎮守府の大和さんが面白可愛い。

 擬人化するとこういう反応になるのかと変な所で感心してしまった。

 いつの間にか戦艦組から空母組は言うに及ばず、巡洋艦に駆逐艦や潜水艦達まで食い入るように見入っている。

 

 そして補助エンジンが始動し、沖田艦長の傾斜復元、船体起こせぇっ、の命令と共にヤマトが姿を現すと多くの艦娘達からどよめきが起こった。

 二話においてのクライマックスシーンですな。

 

 胸の前で手を組み少女のように目を輝かせている大和さん。

 いやぁ、期待以上の反応です(笑)。

 

 「す、凄い! 私、宇宙戦艦になるんですか?!」

 言うが早いか彼女は斜め前に座っていた明石の所へ飛んで行き、両肩を揺さぶり始めた。

 いや、摇さぶるなんで生易しいものでは無い。

 首から上が残像しか見えなくなってしまっている。

 

 「明石さん、今すぐ私をあれに改造して下さい! さ、工廠へ行きましょう、早く!」

 

 「落ち着け大和、あれは俺のいた世界の話だ!」

 ようやく大和さんを引き剥がした時には明石は自目を剥いており口からも何やら白いモノが出ている有様。

 

 「大和さんたら酷いですよぉ。まだ物が二重に…。」

 意識を取り戻した明石がコメカミを抑えながら大和に恨めしそうな目を向ける。

 一方の大和は小さくシュンとなってしまった。

 

 余談だがここの艦娘達は全26話、単純計算して13時間をなんと4日間で見終わってしまったという。

 1日あたり3時間、しかも全員が分け隔てなく視聴できるよう午前の部と午後の部という具合にNHKの連ドラばりの方式を取ったらしい。

 

 これ以降、横須賀第一鎮守府内のみにおいて腕を胸の前で真横にする地球防衛軍式の敬礼が流行った…、かどうかは知らん(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

横須賀第一鎮守府食堂調理場

 翌日、朝食を摂ろうと食堂へ行くと入り口には全面休業の立札が。

 傍にはカゴに山と積まれたトーストサンドと紅茶ポットがありどうやら代わりにこれを食べろという事らしい。

 残念だが仕方あるまい、どれにしようが迷っていると現場責任者の鳳翔が飛んで来た。

 何でも大鍋を支えるステーが腐食してしまったため、修繕ついでに他の部分も点検、及び大掛かりな清掃を行っているとのことらしい。

 ペコペコと頭をさげる鳳翔だが別に彼女は悪くない。

 かえって気の毒になってしまった。

 

 それよりもトーストと云えばパン、紅茶と云えばティー、パンとティー、つまりはパンティーである。

 白いサンドイッチの三角形といった形からもそれは十分に証明されているといえるだろう。

 ということは鳳翔さんのブツが頂き放題ということでもある…、って何でやねん。

 しかし、お艦こと鳳翔はどんなのを履いているんだろうか?

 思いっ切り色気のないモノか、それとも思いっ切り大胆なのモノか両極端に振れていそうな気がする。

 メッチャ気にもなるし、確かめる術も一応はあるのだが、明日からの人生を考えると確かめる勇気が無いだけなのだ。

 

 奥に目をやると大鯨・間宮・伊良湖・大和・武蔵・長門・陸奥・一航戦・二航戦の大食いメンバー達も調理場や調理器具の油や焦げ付きを殲滅せんものと動いている。

 若干、大和と武蔵に覇気が無いのは昨日の宇宙戦艦になれるかも、といった期待が外れてしまったからだろう (笑)。

 特に武蔵はヤマトがあるならムサシもあるに違いないと思ったらしく、落胆ぶりもひとしおだった。

 お詫びに俺も手を貸そうと申し出たのだが…。

 

 「アルカディア号さんは客人です。そんな方に手伝わせる訳には参りません!」

 

 「そうだぞ、そんな事が神崎提督の耳に入ったら我々が何を言われるか分からん。」

 鳳翔だけではなく長門にまでノーサンキューを突き付けられてしまった。

 

 「無問題だ、丁度試したいものが幾つかあってな。」

 未来のお部除用具を甘く見るなよ(笑)。

 

 「試したいもの…、ですか?」

 

 テテテッテ、テッテッテー♪

 

 「スチームクリーナー!」

 ん、あれ? 何故か声がおかしく?!

 まあいっか。

 早速、実演してみせる。

 流石はケルヒャ一製、期待に違わぬ威力で見る見るうちに油汚れが落ちていく。

 

 「あら、あらあら!」

 

 「高温の蒸気を高圧で噴出するため、殺菌も同時にできるという訳だ。排水構やトイレ掃除にも威力を発揮してくれる。」

 あとはキレイにしたい箇所に合わせて専用のアタッチメントを付け替えるよう説明し、三台とも武蔵・長門・加賀に預けてやった。

 

 「さて次はこれだ。メラミンスポンジ〜。」

 だから何で声が変わるんだ?

 

 「これは水を付けでるだけで見る見るうちにキレイになる魔法のスポンジだ。案外早くチビて無くなってしまうのが泣き所だが。」

  見る間にピカピカになった蛇口を見て目を丸くする鳳翔と大鯨。

 さらに、クリーニングシートにマイクロファイバー手袋、ダイヤモンド焦げ落としなど彼女達にとっては未知のお掃除道具が次々と並んでいく。

 

 あまりの威力(21世紀の科学力)に感動する横須賀第一鎮守府烹炊所のメンバー達。

 まあ年代こそ俺の元いた世界と変らないものの、未だに蒸気機関が主流で電気が珍しい世界だからな(笑)。

 おかげで鳳翔達はもちろん神崎閣下にも大いに感謝されることになったのだが、実はスチームクリーナー以外はダイソーに代表される100均アイテムなんです。

 

 なんか…、申し訳ない。

 




※いつの間にかというか早い段階で神崎中将閣下も熱心に視聴するようになっていたとか。

※ここの艦娘さん達の間では古代戦闘班長・島航海長が人気を二分する結果に。
 もっとも若干二名、主にピンク髪の工廠担当と黄緑の実験軽巡が真田技術長推しでしたが。

※お掃除用品紹介の際にはぜひ『大山のぶ代』さんの声で再生して下さい。


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北大路花火1‐2(北大路正道)

※北大路邸への訪問は気が進まなかったアルカディア号ですが、早々に大活躍してしまったようで…。
 ですがこの主人公にそんな崇高な理念なんてありましたっけ?



北大路邸玄関

 黒塗りのハイヤーが止まり愛娘である花火が護衛艦と共に降りてきた。

 約3ヶ月振りの再会、見たところ元気でやってくれているようで何よりでもある。

 ところが驚くことに三人目が助手席から降りてきたのだ。

 

 黒い衣服に黒いマント。

 胸には大きな髑髏、腰には西洋剣と銃という物騒な出で立ち、しかもあれは…。

 私と同じ男ではないか?!

 隣では妻も驚いた顔でその男を見つめている。

 ハイヤーに乗っていた時は分からなかったが、たいそう背が高い。

 男はそのまま何も言わず娘と護衛艦娘二人分の荷物を手に持った。

 

 (男の少ない世界だというのに女である娘の荷物を持ってくれるだと?!)

 

 「花火、コチラの方は…。」

 

 「お父様、お母様、お久しぶりです。彼はアルカディア号さん。足柄と共に私の護衛という事で柱島から来て頂きました。彼は唯一の男性艦なんです。」

 

 「まあ、それはそれは。ようこそいらっしゃいました。」

 

 「北大路提督の御父上と御母堂であらせられるか。提督殿にはいつもお世話になっている。今回、提督殿から直々に護衛任務を拝命し同行させて頂く事となったアルカディア号だ。」

 全力で任務を全うすることを誓おう、そう言うとアルカディアとやらは剣を抜いて前に掲げた。

 数多の戦地、いや死地を越えてきたのだろう、意志の強さが宿る目をしている。

 

 (でかしたぞ、花火! この世の中、自分のカで男性を見つけて来るとは。しかも男性艦ときたか! さすがに気分が高揚するな。)

 ついてこいとだけ告げ踵を返す。

 後で聞こえる妻の声も実に嬉しそうだ。

 

 「ん? あれは…。」

 門から玄関へ向かう途中、後ろでアルカディアの訝しそうな声が聞こえた次の瞬間…。

 

 「危ない!」

 という叫びと共に彼が石畳みを外れ脇にあるツツジの茂みに頭を突っ込んだ。

 全員ポカンとしていると彼は茂みの中から青白い子供を引き摺り出した。

 いや、それは体系こそ子供ではあるものの、形としては異形ともいえる存在。

 頭が牛鬼のようになっており、一目見て人間では無い事が分かる。

 

 「PT小鬼?!」

 もう一人の護衛艦(足柄)が我々を守るように前に出る。

 

 「アルカディアさん、他には?!」

 

 「今のところコイツだけだ。だが襲撃が失敗した以上、再度、刺客が来る可能性が高い。足柄、油断するな。」

 何という事だ。

 娘と会えた事で浮かれていた私達と違い彼は警戒を怠ってはいなかったのだ。

 足柄と花火の荷物に付着したを叩き落としながら彼が石畳に戻って来た。

 なるほど、両手が塞がっていたため彼は頭突きという手段を取ったのか!

 

 「PT子鬼は我々が通り過きた後、後ろから狙うつもりだったのだろう。大した武器は持っていないが、それは艦娘に対してだ。相手が人間であれば十分な脅威となる。」

 人間…、それはすなわち(花火)と私達夫婦だ。

 改めてゾッとする。

 娘も怯えてしまったのだろう、ピッタリとアルカディア殿に身を寄せている。

 とにかく彼には感謝せねばならない。

 出会って早々だが私は彼に信頼を寄せ始めていたのである。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

北大路邸居間

 娘の荷物を部屋へと運んでもらったあと、彼と足柄にも居間に来てもらった。

 緊張から喉が渇いていたのだろう、何杯もお茶をお代わりするアルカディア殿。

 

 「お父様、お母様。北大路花火、ただいま戻りました。」

 ややあって、正座した花火が私達に帰宅を告げる。

 

 「うむ…。」

 

 「元気そうで安心しました。お父様はブルーメール家のお嬢さんの下で働いてもらえれば家から通えるのにといつも仰っているのですよ。」

 

 「そうですか。でも私も一つの泊地を任されていますし、多くの艦娘達がいるのでそれを捨てていく事は出来ません。」

 その代わり、月一の提督会議の帰りには出来るだけ戻るように致しますと約束してくれた。

 何とも残念な事だが、ハッキリと娘が自分の意見を言えるようになったのだ。

 これも成長の証。

 さらに表情や話し方などからも婚約者であるフィリップの死を乗り越えてくれたとみえる。

 

 ん、アルカディア殿の様子が少しおかしい。

 何か先程からソワソワと落ち着きが無いのだ。

 娘の近祝報告を聞いていると、やおら彼が少し失礼すると部屋から出て行ってしまった。

 

 「どうしたというのでしょう? 何か気に障る事でもあったのでしようか?」

 

 「いえ、そんなことは無いと思いますけれど…。」

 妻と花火が首を捻る。

 

 「そうよね、でも心なしか落ち着きが無かったような…。」

 もう一人の護衛艦娘である足柄とやらも私と同じ事を感じていたようだ。

 

 「そうそう、提督ったらアルカディアさんに正室に選ばれたのよ。」

 

 「あ、足柄?!」

 

 「あら、あらあら。じゃあ孫の顔を見る事が出来る日も近いという事かしら(笑)?」

 

 「も、もう、お母様ったら!」

 妻の言葉に娘は真っ赤になって顔を覆ってしまった。

 しかし、初係か。

 さらに気分が高揚するな。

 ましてやそれが男児なら尚更である。

 さすがの私もニヤけ顔が止められそうにない。

 そう思った時、明らかに人間のモノとは違う叫び声が響き渡った!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

北大路亭中庭

 全員で居間から飛び出す。

 廊下の先、中庭の厠前にいるアルカディア殿を見て我々は再び驚愕する事となったのだ。

 厠の扉は開かれており、彼の手に握られた西洋剣の先には何と先程とは別個体のPT子鬼とやらが串刺しになっていたのである。

 

 成程、先ほどからアルカディア殿がソワソワしていたのはこれか!

 アルカディア殿はまだ刺客がどこかに潜んでいるのが分かっていたのだ。

 この中庭にある厠は私達家人はおろか使用人でさえも滅多に使うことは無い。

 PT子鬼とやらはそれを分かってここに忍んでいたのであろう。

 それを発見したという訳か。

 

 「一つお聞きしたい。アルカディア殿には近くにという事が分かっておられたのか?」

 

 「ああ、そう遠い場所なはずが無い。」

 そう遠い場所なはずがない?!

 なんと、彼は刺客が居間の近くに隠れる事まで予測していたというのか?!

 我々が言葉も出ない位感心している間に彼は井戸水でPT子鬼の血を洗い流していた。

 

 「御父上、万全を期し今宵は北大路提督自室の前で待機させてもらう。螢、アルカディア号の全レーダーの常時作動を頼む。」

 娘の自室前で待機、そしてレーダー?とやらの常時作動。

 寝ずの番をしてくれるというのか、胸が熱いな!

 

 「正道さん?」

 感心していると妻が私に耳打ちしてきた。

 ふむ、なるほど…。

 

 「アルカディア殿、申し訳ないが万全を期すというのであれば娘の部屋の中で待機していてもらいたい。」

 いや、それは…、と言葉に詰まるアルカディア殿であったが、君に拒否権は無いのだ。

 妻の言うように間違いが起きる可能性は出来るだけ多い方が良い。

 娘も、その方が…、安心できます(ぽっ)と頬を赤らめている。

 それにアルカディア殿は素晴らしい活躍で横須賀、いやこの日ノ本を救った義賊だというではないか。

 いや、何から何まで気に入った。

 君には是が非でも娘と一緒になっていただこう。




※花火さんのお父上に早々に気に入られてしまったアルカディア号、次回はアルカディア号視点のお話になります。


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北大路花火1‐3(アルカディア号)

※高雄:提督、半分騙したような形で彼を実家へお連れするのはあまり感心しませんよ(棒)?
 妙高:仕方ありません。北大路家が神崎家に後れを取る訳には参りませんから。



大船駅

 横須賀第一鎮守府で行われた月例提督会議の帰路、荷物を網棚に押し込んでいると隣から花火のハミング聞こえてきた。

 例の会議もつつがなく終わったのだろう、いつになく上機嫌。

 大船駅で横須賀線から東海道線に乗り換える。

 京急ではなく国鉄を利用すれば必ず通る駅のため、他にも大勢の提督と護衛艦娘達が降りてきた。

 何人にも会釈し会釈されながら東海道線の下りホームへと向かう。

 

 「アルカディア号さん、そちらではありません。こちらです。」

 見れば花火と足柄は上りホームへ向かっている。

 なるほど、一旦帝都(東京)駅へ出るのか。

 

 「ほう、特急を使うとは珍しいな。」

 花火は何かあった時、大淀からグチグチ言われるのを避けるためワザと特急を使わないのだが…。

 

 「いえ、柱島に帰るのは明日です。今から私行くのは私の実家ですから(ウキウキ)。」

 えと、あの…。

 すみません、北大路花火嬢。

 今、何と仰いましたのでしょうか?

 

 「こちらに来た時は出来るだけ顔を出すようにとお父様から言われまして。」

 「丁度アルカディア号さんもいらっしゃる事ですし、両親へ紹介させて頂こうと(ぽっ)…。」

 そう言うと花火は両手を頬に当ててキャーな顔になった。

 

 …。

 なるほど、高雄が花火に耳打ちしたのはこれか。

 

 (謀ったな、高雄! 謀ったな!)

 いやガルマさんの真似をしてもどうしようもない。

 一応、親子水入らずで過ごしてはどうかと進言するもあえなく却下されてしまった。

 花火の父である北大路正道殿は非常に厳格な方である。

 『一夜限りのサーカス』をチョイ見しただけでもそれは十分過ぎるほどに分かるのだが、そんな人とキャプテンハーロック、いや違ったその乗船であるアルカディア号のような無法者を引き合わせるなんてメントスをコーラの中に入れる様なもんだぞ。

 足柄に止めなかったのかと聞いたところ、要らぬ手出しはするなと長姉の妙高に説得されかけた(主に物理で)らしく、また止める理由も無いしという事だった…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

北大路邸前

 タクシーが豪邸、いやお屋敷と呼ぶような建物の前で止まった。

 こうなったら被害が大きくならないうちにトコトンやらかして二度と来るな、と言われるようにするのが一番だろう。

 そう思うと幾分かドアも軽い…、気がする。

 そのまま後ろに回りトランクから二人の荷物をそれぞれ両手に持つ。

 どうだ、まずは勝手に娘の荷物を持ってやったぞ(笑)。

 この間も北大路正道殿とその奥様とは一切目を合わしていない。

 が、正道殿から向けられる視線は痛いほど感じられる。もはや睨まれているといったレベルですわ。

 

 「花火、コチラの方は…。」

 このような無法者を目にして不安にならない訳が無い、花火の御母堂様が探りを入れてきた。

 

 「お父様、お母様、お久しぶりです。彼はアルカディア号さん。足柄と共に私の護衛という事で柱島から来て頂きました。彼は唯一の男性艦なんです。」

 

 「まあ、それはそれは。北大路家にようこそ。」

 それを聞いた御母堂様は笑顔になったが内心はどう思っているか分かったものでは無い。

 何しろハーロックもアルカディア号もニュータイプでは無いのだ(近いかもしれないが)。

 だがいきなり無礼に出る訳にもいかない。

 少しづつ積み重ねていかなくては。

 

 「提督の御父上と御母堂であらせられるか。提督殿から直々に護衛任務を頂いたアルカディア号だ。」

 全力で任務を全うすることを誓おう、そう言って剣を抜いて前に掲げる。

 だが、正道殿は黙ったまま。

 そりゃそうだろう、車内で聞いたところによると花火が実家に帰るのは3ヶ月ぶりだというではないか。

 愛娘との水入らずを邪魔された不満はかなりのものに違いない。

 

 「ついて来なさい。」

 正道殿はそれだけを告げると屋敷へとむかって歩き出した。

 付いていっていいのかどうか迷っていると、御母堂様がさあ、どうぞと案内してくれた。

 屋敷へと続く道は石畳となっており両脇にはツツジが庭との境界をなしている。

 

 「ん?あれは…。」

 門から玄関へ向かう途中、左側に立派な池があるのが目に入った。

 中にはこれまた立派な錦鯉が気持ちよさそうに泳いでいる。

 

 いや錦鯉だけではない、大きな真鯉も悠々とヒレを振っているのだ。

 転生する前は専門に狙うほど鯉を釣るのが好きだった事もあり、つい池を覗こうと石畳を外れてしまった。

 が、魚にばかり気を取られていたせいだろう、何かに躓いた?!

 しまった、両手に荷物を持っているせいで手を着く事が出来ない!

 思わず危ないと叫んでしまったものの、後の祭りだ。

 

 てか何だよ、危ないって。

 自分で躓いて自分で叫んでりや世話無いわ。

 そのまま俺は全盛期のダイナマイトキッドを彷彿とさせるような見事なダイビングヘッドバッドをツツジの茂みに決めてしまった。

 早速、やらかしカウント1である。

 と、オデコにガツンと強い衝撃が走った。

 イテテ、と思いながら目を開けると何とPT子鬼が気絶していたのである。

 

 てかコイツら陸地で活動できるの?

 取り敢えず、茂みから引っ張り出すと気絶したと思っていたPT子鬼は息絶えてしまっていた。

 全長400mもあるアルカディア号に突っ込まれたと考えれば無理もないか。

 

 「PT子鬼?! アルカディアさん、他には?!」

 

 「今のところコイツだけだ。だが襲撃が失敗した以上、再度、刺客が来る可能性が高い。足柄、油断するな。」

 二人の荷物についた泥を落としながら立ち上がる。

 どうだ、大事な娘のカパンを汚してやったぞ(笑)。

 

 「PT子鬼は通り過ぎだ後、後ろから狙うつもりだったのだろう。大した武器は持っていないが、それは艦娘に対してだ。相手が人間であれば十分な脅威となる。」

 だが、PT子鬼という刺客が潜んでいた以上、何の警戒も無く過ごしてもらっては困る。

 危機感を持ってもらわなければ命が幾つあっても足りないからな。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

北大路邸居間

 花火の両親と花火、そして足柄の5人で居間の座卓を囲んでいる。

 最初は部屋の隅に控えようとしたのだが、花火から座卓に着くよう言われてしまった。

 それにしても気まずい。何しろ誰も一言も発しないのだ。

 正道殿はムスッとしているので話しかけられない。

 御母堂は表情からは何を考えいるのか分からない。

 只でさえ堅苦しいのは苦手なのに…。

 気まずさから逃げるためにかなりのお茶をお替りしてしまった。

 庭にある鹿威しが何回目かの小気味よい音を立てた時、ようやく花火が帰宅の挨拶をした。

 背筋を伸ばし三つ指を付くその姿はさすがに子爵令嬢として精錬されていて思わず見とれてしまった程である。

 

 厳格とは云え、やはり正道殿も人の子なのであろう、娘である花火には近くにいて欲しいらしくブルーメール閣下の下での勤務を希望されておられるようだ。

 だが、花火も一泊地を任されている身、配下の艦娘達を残していくわけには…、と言葉は柔らかいがハッキリとこれを拒否。

 代わりに月例会議の帰りには必ず里帰りするという事で正道殿を納得させていた。

 だが、このあたりからお茶を飲み過ぎたせいか猛烈にトイレに行きたくなってきたのである。

 どんだけ利尿作用が強いお茶なんだよ、と思ったがよくよく考えれば、乗り継ぎの関係もあり途中、一度もトイレに行けていなかったのを思い出した。

 やらかしてやろうとはいったが、粗相とくれば話は別である。

 流石にこれは恥ずかしいな(by響)、が頭の中でリフレインし始めた。

 

 「少し失礼する。」

 そう言って席を立つ。

 膀胱が臨界点を迎えそうなのだから仕方ない。

 廊下へ出ると中庭に小さな建物があった。

 ドアを開けると、汲み取り式ではあったがビンゴである。

 存外、近くにあった事にホッとしながら放水を開始すると、中からイギャアアア!という叫び声と共にPT子鬼が飛び出してきた。

 

 このままだと飛び付かれる?!

 そう思った俺は反射的に重カサーベルを抜いてPT子鬼を突き刺してしまっていた。

 え、可哀想?

 だって幾ら自分のでもソレで濡れたら嫌じゃん?

 さらにPT子鬼が叫んだせいで、居間にいた全員が出てきてしまっていた。

 

 「一つお聞きしたい。アルカディア殿には近くにという事が分かっておられたのか?」

 正道殿がこちらを真っ直ぐ見据えたまま近づいてくる。

 

 「ああ、そう遠い場所なはずが無い。」

 普通、トイレって居間から遠い場所に設置する訳が無いと思うんだが?

 多くのご家庭でも近くにあるもんじゃないの?

 そうは思いつつも正道殿の厳しい視線に耐え切れなかった俺は重カサーベルを洗うためにPT子鬼ごと近くにあった井戸へ足を向けた。

 

 ともかくこれで刺客の気配は完全に消えた。

 アルカディア号のレーダーにも反応は無い。

 念のため、夜間は花火の自室前で待機しようと思っていたのだが、正道殿からは部屋の中でと要請されてしまった。

 より娘の側にいて(守って)やってくれという事か。

 

 ふっ、正道殿も意外と甘いようで(笑)。




※「一夜限りのサーカス』
 OVAであるサクラ大戦『ル・ヌーヴォー・巴里』の第一話です。

※「妙高に説得されかけた」
 その夜、銀行窓口係のように何十枚もの間宮券を数えている妙高と高雄が目撃されたとか…。

※「正道殿も以外と甘いようで」
 元は紫のオバさんが兄である総帥に掛けた最後のお言葉、兄上も意外と甘いようでが元ネタ。

※この後、タウイタウイ第二泊地であった事件についてアルカディア号は正道殿に大変感謝されたそうな。
 さらに横須賀での活躍や人質となった娘の救出劇などを聞かされたご両親から、義賊扱いされぜひ北大路家を継いで欲しいと話が広がったとか…。


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祥鳳1

※投稿間隔が空いてしまい申し訳ありません。
 年末が近づいてくると人様のお金で飯を食っているぎんこーいんという種族はトンデモなく忙しくなってしまうのです…。

※3-5海域は正規空母でもキツイものがあるので祥鳳さんのボヤキも良く分かります。
 本来ならBマス、Cマスとか呼称するのですが、ここでは地点と呼んでいます。



3-5海域攻略途中 大井・摩耶・飛鷹・千歳・祥鳳・北上

 「きゃあっ!」

 

 「祥鳳さん?!」

 

 「うう、やられた。これじゃ戦えないよ…。」

 戦艦タ級の主砲が直撃した私は気が付けば弦の切れた弓を握り締めたまま、両膝を海面についていました。

 

 「提督、祥鳳さんが大破しました、これより撤退します!」

 

 「分かりました、陣形は祥鳳さんを中心として輪形陣を組んで下さい。帰投中も気を抜かないように。良いですね?」

 

 「旗艦大井、了解。輪形陣に移行後、帰投します!」

 大井さんが指示を出すと単縦陣だった艦隊が直ぐに輪形陣へと変わりました。

 

 (これで三度目。しかも全て私のせい…。他の方は無傷、あるいはカスダメだというのに…。)

 もう腹立たしいやら悔しいやらで気が付けば涙が頬を伝っていました。

 

 「しけたツラすんなよ(笑)。そんなんじゃまたやられちまうぜ?」

 

 「遠征に出てくれてる子達には悪いけど、この海域の攻略にはどうしても掛かるからねぇ。」

 摩耶さんと北上さんが声を掛けてくれますが、私は自分に対する情けなさで一杯でした。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

柱島第七泊地執務室

 「祥鳳の大破はタ級の一撃ですか。では直ぐに入渠して再出撃とします。他のメンバーは補給後、ブンカーへお願いします。」

 バケツを使った後、急いで弓の弦を張り直し皆が待っているブンカーへと向かいます。

 でも結局この後の出撃もボスマスへとたどり着く事は出来ませんでした。

 理由はまたしても私が大破してしまったからです。

 皆さんは仕方が無いと言って下さいますが…。

 

 帰投した後、提督からの指示は今日の出撃は無しにしてまた明日にしましょうと、というものでした。

 妹の瑞鳳と交代させて下さいと申し出たのですが、貴女を外すつもりはありませんと…。

 

 「それよりも祥鳳。貴女、私が撤退を指示した時に自分が何と言ったか覚えていますか?」

 

 「はい…。」

 珍しく北大路提督が怒っていらっしゃいます。

 しかも静かに。

 

 「もう一度同じ事を言ってみて下さい。」

 

 「…。」

 

 「覚えているのではなかったのですか?」

 

 「私に構わず進軍して下さい、と…。」

 

 「そうですよね? それがどういう結果になるか知って…。いえ、艦娘であるなら知らないはずはない。」

 「それなのに…。」

 一呼吸置いて提督から発せられた言葉は私に深く突き刺さりました。

 

 「妹である! 瑞鳳の前でも! 同じことが言えますか?! 言えるのですか?!」

 机を叩いて提督が立ち上がりました。

 

 「まってくれ、提督。今回会敵した連中はいつもと違う感じがするんだよ。」

 そんな中、摩耶さんが提督に今回会敵した連中はいつもと違う感じがすると進言して下さいました。

 すると北上さんや千歳さん達を始め、次々に私も同じ事を思っていましたと…。

 

 「え、待って下さい。いつもと違う、とはどう違うのですか?」

 具体的にお願いしたいのですが、と提督は仰りますが何がと聞かれると全員が顔を見合わせてしまいました。

 そんな中、北上さんがいつもの飄々とした感じで、

 

 「あれ? 皆、判んないんだ。ま、アタシもさっき気が付いたばっかなんだけどね(笑)。」

 そう言うと、あたしの観測妖精がつけている戦闘記録、と提督のテーブルに独自の戦闘詳報を差し出したのです。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

意外な事実

 「まずB地点の戦闘記録なんだけどね。」

 北上さんが戦闘詳報を広げました。

 B地点で会敵する敵編成は軽巡ホ級flagship、戦艦タ級elite、重巡リ級elite、雷巡チ級elite、駆逐イ級後期型、駆逐イ級後期型です。

 

 「空母勢の開幕ひき逃げアタックで雷巡チ級elite、駆逐イ級後期型を撃沈、アタシと大井っちの開幕雷撃で軽巡ホ級flagshipと駆逐イ級後期型を撃沈。」

 

 「イイ感じで露払いできてんじゃねーか。」

 摩耶さんの仰る通り、ここは開幕から良い展開でした。

 

 「でね、戦艦タ級eliteが真っ先に主砲を撃ってくるんだけどさ…。」

 まあ、射程の関係上こっちの誰よりも先に動けるんだから仕方ないんだけど、と北上さん。

 

 「第一射は祥鳳さんへの至近弾。次に摩耶の主砲がその戦艦タ級eliteを捉えるんだけど…。」

 初弾だから夾叉で装甲を抜く所まではいかずだったね、と指で次の行を差しました。

 

 「次は飛鷹さんの攻撃隊が重巡リ級eliteを小破させたんだけど、その後コイツも祥鳳さんを狙ったんだよね。」

 その後は千歳さんの攻撃隊と祥鳳さんの攻撃隊で戦艦タ級eliteを撃沈、北上さんと大井さんと摩耶の砲撃で重巡リ級eliteを撃沈となっていました。

 

 「で、次のD地点はどうだったんだよ?」

 

 「D地点の編成は確か、空母ヲ級改flagship・空母ヲ級flagship(艦載機白)・戦艦タ級flagship・重巡リ級elite・駆逐ロ級後期型・駆逐ロ級後期型だったわ。」

 さすが飛鷹さん、北上さんの戦闘詳報とぴったり合致しています。

 

 「そうだね、まず開幕航空戦はコッチは空母勢が三人いるから航空優勢だったよ。」

 アタシの対空カットインもあったしな、とドヤ顔の摩耶さん。

 今回の出撃では対空番長の面目躍如、八面六臂の活躍をされています。

 

 「そう、摩耶の対空カットインもあってこの時も祥鳳さんはカスダメで済んでる…、と。」

 でも、この後の開幕雷撃ではアタシと北上さんの目標が駆逐ロ級に重なってしまった、と大井さんが悔しがります。

 

 「でやっぱり長射程の戦艦タ級flagshipから撃ってきた訳だけどさ…。」

 この時狙われたのは千歳さん、高速を活かした回避によって小破で持ち堪えたのは流石というところでしょうか。

 

 「面倒だから敵の動きだけを追って行くよ。そうすると次の重巡リ級eliteも空母ヲ級flagship(艦載機白)も祥鳳さんを狙ってるんだ。」

 「旗艦である空母ヲ級改flagshipは摩耶を狙ったけどこれは一番近くに居たからだね。っていうか、アンタ前に出過ぎじゃん。」

 あー、それでアタシが小破したんだっけ、と摩耶さんが頭をポリポリ。

 

 「で、この後も空母ヲ級改flagship・戦艦タ級flagship・重巡リ級eliteの全員が祥鳳さんを狙ってる。」

 さらに北上さんは撃沈した空母ヲ級flagship(艦載機白)と駆逐ロ級後期型二隻も健在であれば私を狙った可能性が高いと…。

 

 「まー、これだけ狙われたらしょうがないね。そりゃ誰だって大破に追い込まれるよ。」

 

 「少し大人し目の艦娘を狙って攻撃を集中、そして大破撤退に追い込み確実に精神を削っていくということですか…。」

 深海棲艦達の知性が上がったということでしょうか、と顎に手を当てる提督。

 ですが深海棲艦達が急に知恵を付けることが出来るモノなのでしょうか?

 

 「取り敢えず、明日の出撃では相手の動向を全員で注視して下さい。そこでも祥鳳が一人狙いされるのであればアチラさんも戦術というものを摂り始めたということでしょうから。」

 そうなると軍令部にも報告しないといけませんし、と提督は仰いました。

 

 「祥鳳、大破撤退をしたからといって貴女を責める者はここにはいません。遠征艦隊には申し訳ないと思う気持ちは理解できますが、よく覚えておきなさい。」

 そして遠征艦隊に申し訳ないと思うなら二度と大破進軍なんて口にするべきではないと…。

 それだけ仰ると提督は席を立ち執務室から出て行かれました。

 残された私達がどうしたらよいのか分からず困っていると、入れ替わりでアルカディア号さんが入ってこられたのです。

 

 「花火は…、居ないのか? ん、どうした祥鳳。何故泣いている、何かあったのか?」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

アルカディア号さんの怒り

 「あー、実はよぉ…。」

 摩耶さんが今までの経緯を彼に話し始めました。

 彼は黙って聞いていましたが、提督と同じ事を仰ったのです。

 

 「ヤツらが組織立ってきたという事か。だとすると厄介だな、これは。」

 その上で彼は信じられないというか、私がどうしようもなく赤面する事を平気で言ってのけたのです。

 

 「それ以上に、俺の軽空母正室である祥鳳を虐めてくれるとは許せん。次回は俺も出るぞ。」

 

 「何だよ、祥鳳だけかよ。重巡側室筆頭のアタシだって小破させられちまったんだぞ。」

 

 「そうよ、軽空母側室筆頭のあたしだっているんだから!」

 摩耶さんと飛鷹さんがブーブー言っていますが、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆っていた私にはほとんど耳に入ってきませんでした。

 

 「私もいるのですけれど?」

 アルカディア号さんの事となると黙ってはいられないのか、いつの間にか戻っていた北大路提督も参戦です。

 

 「おお、花火。どこに行っていたんだ? 頼まれていた開発計画の件だが…。」

 何か言いかけたアルカディア号さんですが、提督がハンカチで手を拭いておられるのを見たのでしょう、なんだ、トイレだったのかと口走ってしまったのです。

 

 「も、もう! せめて花を摘むぐらいにして下さい!」

 提督が抗議しますが…。

 

 「それは野外における表現だろう、ってまさか外で放尿を、いや小とは限ら…、ぐあっ!」

 その瞬間、北大路提督の膝頭がキレイに入りました。

 いえ、ドコにとはいいません。

 というか申し上げられません、といった方が正しいでしょう。///

 ただ、その場にいた全員の耳に『おりん』に似た甲高い金属音が聞こえたのは間違いないです(赤面)。

 提督はドアを乱暴に閉めるとそのまま夕食を摂りに食堂へと行ってしまいました。

 

 「いやあ、今のは流石にアルカディア号さんが悪いよ…。」

 

 「そうですよ、子爵令嬢の北大路提督に何ていう事を言うんですか。」

 

 「そうねぇ、さすがにちょっと…。」

 北上さん、飛鷹さん、千歳さんがジト目を向けますが…。

 

 「あー、アタシはその…、お前が望むなら構わねえからな…。///」

 ま、摩耶さん?!

 そ、そんな嘘でしょ、懐が広過ぎませんか?!

 そんな事でアルカディア号さんにとっての株を上げなくても!

 ハッ?! ひょっとして株ではなく下部をあげるつもりなのでは(錯乱)?!

 ダメです、軽空母正室として負ける訳にはいきません!

 

 「アルカディア号さん、大丈夫ですか?!」

 この時の私は一体何を考えていたのでしょうか(汗)。

 彼に駆け寄ると手で擦ってしまっていたのです(ドコを?)…。

 




※あー、アタシはその…、お前が望むなら構わねえからな…。
 摩耶さん、アナタ頭がオカシイんじゃ…。

※そんな摩耶さんに対抗してあの祥鳳さんが何と大胆な事を?!
 擦っては『さすって』と『こすって』と両方読めますが、彼女の場合は一体どっちだったのでしょうか(ニヨニヨ)?
 おっと今、窓の外からスクープです、とカメラを抱えたまま走り去った某重巡を摩耶さんと祥鳳さんが凄い勢いで追いかけて行ってしまいました。


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祥鳳2

※作者:祥鳳さん、フェードイン、違ったベッ〇インおめでとうございます!

 祥鳳:勇者ライディーンに謝って下さい!


柱島第七泊地執務室:北大路花火

 「祥鳳がいない?」

 

 「はい、瑞鳳さんが仰るには部屋に戻ったらいなかったらしくて…。」

 戸惑った表情の大淀。

 

 「まさか一人で3‐5に?!」

 大井が最悪の可能性を口にしました。

 ですが私も真っ先に考えてしまった事でもあるのです。

 

 「いえ、出撃した様子はありません。」

 それなら街に気晴らしにでも出かけたのでしょうか?

 

 「守衛室は何と?」

 

 「それが…、出て行く姿を見ていないと。」

 大淀は筆頭事務官らしく私が指示する前に守衛室に確認を入れてくれていたようですが、それなら一体、何処へ行ったというのでしょう。

 全員で顔を見合わせてしまいました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

柱島第七泊地裏庭花壇前

 裏庭の花壇前で黄昏れていると、後で砂利を踏みしめる音がしました。

 

 「こんな所にいたのか。」

 振り返る事も返事をする事もできません。

 せっかく、憧れの方がいらしてくれたというのに…。

 

 「皆心配していたぞ。」

 

 「…。」

 やがて妹の瑞鳳と大淀さんも息を切らせながらやって来ました。

 捜したんですよと言われましたが、以降の出撃や当番もありませんし、無断外出をした訳でもありません。

 

 「花を…、見ていました。」

 

 「花?」

 妹の瑞鳳だけではなく全員が花壇に目を向けます。

 

 「あら、そういえばどれもキレイに咲いていますね。」

 いつの間にか北大路提督もいらしていました。

 

 「マリーゴールドがこんなに。私、大好きなんです。」

 大淀さんがそっとマリーゴールドに触れました。

 

 「ホントに! 他にもチューリップやマーガレット、ラベンダーがいっぱい!」

 瑞鳳の言う通り、どれも表花壇に負けないぐらいキレイに咲いています。

 違うのは規模くらいでしょうか。

 ですが表花壇を正規空母、ここの裏庭花壇を軽空母と置き換えたなら私は…。

 

 「花は皆キレイに咲けるのにどうして私はダメなんでしょうか…。」

 

 「まだ気にしているのですか? あれだけ集中的に狙われたら仕方ないでしょう。」

 

 「でも…」

 北大路提督が気にする事は無いと仰ってくれますが、今月は軽空母強化月間。

 次回はアルカディア号さんが付いてくれるとはいえ、私が3‐5攻略メンバ一から外れることが無いと思えば憂鬱にもなってしまいます。

 

 「祥鳳、あの花壇にある花はどれが一番美しく咲いている?」

 

 「え?」

 質問の意図が分かりません。

 思わずアルカディア号さんと花壇を交互に見つめてしまいました。

 

 「人それぞれの好みがあるとは思うがどれも皆美しいとは思わないか?」

 

 「ええ…。でもそれが一体?」

 

 「俺のいた世界で大ヒットした歌がある。」

 そう答えた彼から妖情さん達が飛び出てきました。

 そして一列に並ぶとアルカディアさんのオカリナに合わせて歌を歌ってくれたのです。

 それもとてもステキな唄を。

 曲の名前は『世界に一つだけの花』というのだそうです。

 

 「お前達こそ世界に一つだけの花なのだ、それを良く覚えておくがいい。」

 そう言うと彼はフッと笑って私の頭を撫でてくれたのです。

 そうですね、アルカディアさんの仰る通りですと顔を輝かせる大淀さん。

 いつの間にか建物の窓という窓から首が出ていました。

 それぐらい素敵な歌だったのです。

 ですが、有紀さんや台羽さんはどもかく、ヤッタランさんや魔地機関長さん、ドクターゼロさんといったお腹ポッチャリ妖精さんが歌って踊っているのは何というが非常にシュールな光景でした。

 だって…、その…。

 動く度にお腹が揺れるんです(笑)。

 特にヤッタランさんにはデブとかブタは禁句らしいので笑いを堪えるのは大変でした。

 そうそう、これを機に那珂さんが本格的なオーディオを単品コンポで揃えてアルカディア号さんのいた世界の曲を聞きまくるようになり、同室の川内さんと神通さんが頭を抱える姿がよく見られるように。

 同じ軽巡寮の大淀さんは頭を抱えていいのは神通さんだけです、と突っ込んでいましたが(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

3‐5 D地点

 「キャプテン、レーダーに敵艦隊の反応!」

 

 「数は?」

 

 「空母ヲ級フラッグシップ・空母ヲ級フラッグシップ(艦載機白)・戦艦タ級エリート・重巡リ級エリート・駆遂イ級後期が2隻の合計6隻です。」

 全員に緊張が走ります。

 B地点でも多くが私を狙ってきました。

 ここでも集中的に狙われるのは間違いありません。

 

 「大井っち、魚雷の準備は良い? 制空争いはアルカディアさんの宇宙戦闘機隊に任せて空母勢はまず直掩機を上げて!」

 「その後、全攻撃機の突入で出来るだけ多くを撃沈・無効化! 摩耶は重巡リ級の無効化を! 何としても祥鳳さんを守り切るからね!」

 

 「よーし、任せな!」

 摩耶さんが指ぬきグラブをはめた両手をバチンと合わせます。

 今回、私達は直掩用として艦戦を最小スロットにしか積んでいません。

 制空は北上さんが仰るようにアルカディアさんのスペースフォッケウルフ隊が担うのです。

 その分、私達は残りスロット全てに艦爆・艦攻を積むという極端さで3‐5を攻略しようというのが北大路提督の作戦です。

 やがて水平線近くで宇宙戦闘機隊と深海棲艦の艦戦が入り乱れ始めました。

 未来の異次元戦闘機隊をすり抜けてこちらに攻撃を仕掛けてきたのは…、たったの2機ですか(笑)。

 それもあっと言う間に上空直掩のX‐ウイングの餌食です。

 

 「きゃあっ!」

 ホッとしたのも束の間、私のすぐそばに大きな水柱が上がりました。

 言うまでもありません、タ級エリートの主砲弾が私を襲ったのです。

 装甲の薄い私にとっては至近弾でも脅威。

 事実、小破判定手前までダメージを追ってしまいました。

 

 「喰らいやがれ!」

 今度は摩耶さんの主砲が重巡リ級を捉えます。

 ですが相手の輪形陣に限まれ小破どまり。

 そのリ級が主砲を私に指向するのが見えました。

 もし捉えられれば確実に大破に追い込まれるでしょう。

 その時、上空から急降下してきたアルカディア号さんが私の前に出てくれました。

 ですがそのせいでリ級の砲弾はそのままアルカディア号さんに直撃してしまったのです!

 爆炎が晴れると…、彼には掠り傷一つ付いていません!

 何という重装甲でしょうか?!

 

 「な、何それ?! 塗装すら剥げてないじゃん…。」

 

 「直撃…、のはずよね。し、信じられない…。」

 北上さんと飛鷹さんが驚愕していますが、それもそのはず。

 私と摩耶さん以外、彼の戦いぶりを見るのは今回が初めてなのです。

 

 「バカナ、チョクゲキノハズダ!」

 驚くリ級ですがアルカディア号さんの光線銃(戦士の統)に額を撃ち抜かれ、そのまま絶命してしまいました。

 それを見た大井さんの目が真ん丸に。

 無理もありません、ダメージによる撃沈ではなく絶命ですよ?

 もう驚くなという方が無理な話です。

 さらに彼は空母ヲ級勢の艦載機をスペースバスターと重力サーベルで全て撃墜すると主砲の一撃でヲ級(艦載機白)と夕級を海に還してしまいました。

 呆気にとられる私達を横目に彼は、駆逐イ級は任せると言うと一瞬で敵旗艦であるヲ級フラッグシップとの距離を詰めその肩に飛び乗ったのです。

 

 「ナ、ナニヲスル! ハナセ!」

 もがくヲ級ですが、後ろから頭に手を掛けられては振り解く事など出来ません。

 まるでしばふ艦…、いえ芋類を畑から引っこ抜くような感じです(汗)。

 

 「何故、祥鳳ばかりを狙う?」

 

 「クチクコウマサマジキジキノシジダ。ソウコウノウスイヤツヤ、キノヨワソウナヤツヲシュウチュウシテネラエトイワレタノダ!(駆逐降魔様の直々の指示だ。装甲の薄いヤツや気の弱そうなヤツを集中して狙えと言われたのだ)」

 

 「駆逐降魔? 始まりの深海棲艦の一人か。」

 

 「ソウダ。アノオカタタチハイマハカイテイピラミッドカラデルコトハデキナイ。ダガ、イズレシンコウノトキハクル、ソノトキガオマエタチノサイゴトナル(そうだ。あの御方達は今は海底ピラミッドから出る事は出来ない。だがいずれ侵攻の時は来る、その時がお前達の最後となる)。」

 そう言うとヲ級はニヤリと嗤いました。

 

 「そうか。ところで俺の軽空母正室である祥鳳を随分と泣かせてくれたらしいな。」

 アルカディア号さんの推進機関が唸りを上げた途端、大井さんと千歳さんが口元を抑えました。

 私も込み上げ掛けたものを必死で抑え込みます。

 だって首が脊柱ごと抜けて来たんですよ?!

 戦場の凄惨な光景を数多く見てきた私達ですが、流石にこれは無理です!

 

 「忘れてたぜ。ヤツが海賊だってことを…。」

 摩耶さんの仰る通り、アルカディア号さんの海賊(船)としての一面を見てしまった私達。

 改めて彼は決して敵に回してはいけない存在だという事を全員が再認識する事になったのです。

 その後もあの北方棲姫さえ一方的に蹂躙し3-5を制圧、無事に今月分の勲章を持ち帰ることが出来ました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

デスシャドウ島 アルカディア号自室

 「いやあ、しかしアルカディアさん凄かったよねぇ。」

 「はい、北上さんの仰る通りです。色々と聞いてはいましたがあれほどとは…。」 

 

 「しかし、首が脊髄ごと抜けて来るなんてあれはやり過ぎだろ。小便チビりそうだったぜ…。」

 

 「摩耶の言う通りよねぇ、千代田に言っても信じてくれなかったけど。というか祥鳳も飛鷹も、さっきから黙ったままじゃない。祝勝会なんだからもっと嬉しそうにしたらどうなの?」

 千歳さんの言うように私達は今、アルカディアさんの自室で祝勝会の真っ最中。

 ようやく重圧から解放され祝勝会となったものの、軽空母正室と側室筆頭だからと彼の隣に座らされてしまった私と飛鷹さんはガチガチに。

 さらに隣から感じられる殿方特有の臭いにもうそれどころではありません。

 

 「おーい、二人とも?」

 北上さんが目の前で手をヒラヒラさせますが…。

 

 「も、もう北上さんたら! ちゃんと見えてますって!」

 なら、いいんだけどさ、と北上さんがグラスに手を仲ばします。

 

 「ほらほら、『しょーほー』も飲まないと、はい。」

 これって、アンドロメグレッドバーボン?!

 噂には聞いていましたが香りが凄いです。

 度数も相当強いに違いありません。

 それなのに緊張から逃れたい私は事もあろうにコップ半分を一気に煽ってしまったのです!

 

 気が付くと私はベッドに寝ていました。

 慌てて時計を見ると時刻は真夜中の2:30。

 

 「起きたのか?」

 ソファーに座って銃の手入れをしているアルカディア号さんと目が合います。

 

 「申し訳ありません、私ったら…!」

 年甲斐もなくお酒で醜態を晒してしまったなんて顔から火が出そうです。

 

 「気にするな。意外と可愛らしい寝顔だったぞ。祥鳳を軽空母正室に選んで正解だった(笑)。」

 

 「も、もう!止めて下さい!」

 思わず両手で顔を覆ってしまいました。

 

 「む、すまん。イヤなら無理をしないでくれていい。」

 

 「違うんです、そんな意味で言ったんじゃ!」

 彼は柱島第七泊地だけではなく余所でも絶大な人気を誇る優良物件です。

 そんな人に選ばれて嬉しくない訳がありません。

 この人から離れたくない、そんな思いから気づけば彼に抱き付いていたのです。

 ………。

 ……。

 …。

 

 

 

 

 

 「3‐5の攻略、よく頑張ったな。」

 そう言ってアルカディア号さんがベッドの中で優しく髪を怖いてくれます。

 

 「お前は俺の軽空母正室だ。何かあれば出来る限りの事はする。」

 だからもっと頼ってくれていい、抱え込むなど…。

 このような方に選んで頂けた嬉しさを噛み締めつつ、私は再び朝まで幸せなまどろみを噛み締めたのでした。

 




※他の方は手に汗握る戦闘描写ができるのに、自分で書くとなると難しい…。
 ホント、申し訳無いです。

※深海棲艦達との戦いに集中するためにマゾーンとの戦いに早期決着をつけるべきか、いや逆ですかね?
 それとも三つ巴か?!


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北大路花火2‐1(北大路花火)

※本来別の話だったのですが、次期的なお話という事で二人には恋人らしく過ごしてもらいました。
 後悔は…、していない。


柱島第七泊地 北大路花火自室

 11月も終わりの頃、アルカディア号さんがお昼ご飯を持って来てくれました。

 実はこの季節の変わり目に油断をした為でしょうか、風邪を引いて寝込んでしまったのです。

 彼は、具合はどうだと言いながらトレイをテーブルに置くとベッドの側に会った椅子に腰掛けました。

 

 「はい、昨日から熱は下がりましたし、もう問題ありません。お昼を食べたら着替えて執務室に行こうかと…。」

 それを聞いた彼は一瞬驚いたようでしたが、ドアに向かって、

 

 「らしいぞ、良いのか?」

 と言ったのです。

 途端、もの凄い勢いでドアが開いて大淀が?!

 

 「提督っ、何を考えているんですかっ! まだ病み上がりではありませんか、あと2日は療養なさって下さい!」

 2日も?!

 そんなに休んだら書類が溜まってしまって、かえって(休み明けが)大変です。

 ですが大淀は、

 

 「執務関連は私と妙高さん・高雄さん・長門さん・大和さんで済ませておきます。提督の御目通しが必要な書類だけ後ほどお持ち致しますので決済をお願いします。」

 彼女はアルカディア号さんにでは提督の見張りをお願いしますね、と告げるとそのまま出て行ってしまいました。

 体調を崩してしまうなんて…、と溜息をつく私に彼はいやむしろ持った方だろう、その小さな体で良く今まで頑張ってきたとそう言ってくれました。

 そして支えているつもりだったがまだまだ足りなかったようだ、すまないとそう言って彼は私の手を取ったのです。

 

 「そんな、アルカディア号さんにはこれ以上無いくらい助けて頂いています!」

 色々と返し足りないのは私の方なのです。

 

 「では一つ頼みがあるのだが構わないか? もちろんダメなら断ってくれてもいい。」

 項垂れる私に彼はそう切り出しました。

 

 「はい? 一体どのような事でしょうか?」

 思わず顔を上げてアルカディア号さんを見てしまいましたが、今度は逆に彼が私と目を合わせようとしません。

 

 「アルカディア号さん?」

 

 「いや、その…、な。24日の夕方から25日に掛けて一緒に過ごして欲しいのだが…。」

 

 「24日と25日ですか? それは構いませんが、何かありましたでしょうか?」

 その途端、部屋の外でドタッという音が複数聞こえました。

 いえ、空耳ではないですね。

 提督さんたら何言ってるぽい~という声まで聞こえましたし。

 夕立、いるのですか?と扉に目を向けるとドアが開いて夕立・村雨・飛龍・蒼龍が顔を覗かせました。

 

 「提督さん、アルカディア号さんはクリスマスをイブから一緒に過ごしたいって言ってるぽい!」

 ああ、クリスマスですか。

 そういえば24日と25日はそうでしたね。

 なるほど、クリスマスをイブから私と一緒にという事なのですね、って…。

 

 「えええええええ!」

 思わず叫んでしまいましたが私は悪くないです、ええ多分ですけど。

 だってクリスマスですよ、クリスマス!

 私だって、その日が男女にとって特別な日であることぐらい分かります(知識としてですが)!

 それをその…、私と一緒に過ごしたいという事は…。

 どういう事でしょう、急に体が火照ってきてしまいました。

 シュッシュッと血の流れる音と口をパクパクさせる度に出るポッポッという音で自分が蒸気機関車になったのではないかと錯覚するぐらいです…。

 おかげでせっかく下がった熱がまた一気に上がってしまいました。

 それでも何とか目を回してしまう前に、私で良ければと答える事が出来た自分を誰か褒めてくれても良いのではないでしょうか…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

デスシャドウ島 アルカディア号自室

 執務を午前中で終わらせアルカディア号さんの自室に向かいます。

 お風呂は起床後のお手洗いの後に早々と済ませましたし、女性の自然な体臭を好む彼の為に香水類は一切つけていません。

 彼の部屋の前でもう一度自分の容姿をチェックします。

 コート、スカートの糸のほつれ、ストッキングの伝線、全て大丈夫(オールグリーン)ですね。

 ちなみに今日は赤いコートに緑のスカート、アイボリーホワイトのパンティストッキングにライトブラウンのブーツとクリスマスツリーをイメージした装いです。

 意を決してドアをノックするとドアが開いて彼が部屋に迎えてくれました。

 黒い革のジャケットにジーンズとその辺に吊ってあるのを適当に組み合わせただけのように見えますが、これがまたよく似合っていてとても素敵です(ぽっ)。

 

 「かあーっ、何だいキャプテン、意中の女性がクリスマスに合わせた恰好で来てくれたんだよ?」

 

 「黙ってないで何か言う事があるんじゃないんですか?」

 お互い見つめ合ったまま固まっている私達を見かねたのでしょう、マスさんと有紀さんが助け舟を出してくれました。

 

 「あ、ああ。よく似合っている。清楚な花火にピッタリだと…、思う。」

 

 「あ、ありがとうございます(ぽっ)。」

 思わず両手を顔に当ててしまいましたが、アルカディア号さんに対する有紀さんの採点は中々に厳しいモノでした。

 

 「思うってなんですか、思うって…。キャプテン、そこはハッキリと言い切る所です。それに花束の一つも用意してないなんて…。」

 

 「今渡されてもデートの間ずっと持っていないといけないから、かえって困るんじゃ…。」

 女性の迎え方もご存じないなんて、と溜息をつく有紀さんに台羽さんが尤もな意見を出しました。

 

 「台羽君、『かえで』さんは将官なのよ? たとえそうだとしても訪ねる際にはちゃんと用意すること、いいわね?」

 台羽さんは、藤枝少将閣下は関係無いじゃないか、そもそも僕はあの人を名前呼びした事なんてない、と抗議しますが、それを聞いた有紀さんは頭を抱えてしまいました。

 

 「申し訳ありません。夕方という事だったのですが、その…、待ちきれず来てしまいました。」

 夕方にもう一度出直した方が良いでしょうかと尋ねたのですが、何故かアルカディア号さんではなく有紀さんから、今からでも大丈夫よ、と二人とも部屋を追い出されてしまったのです。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

内地ショッピングモール

 映画館やショッピングモールと一通りのデートコースを回った後は『猫カフェ』という所で可愛い仔猫と戯れます。

 夢中で抱っこしたりミルクを上げたりと、外が暗くなっているのにも気づかなかったぐらいです。

 帰り道では柄の良くなさそうなお姉さま方に絡まれたのですが、アルカディア号さんがケガを負わせること無く撃退してくれました。

 私自ら物理で説得しようと思ったのですが、彼が言うには私の目が完全に座っていたらしくヤバイと思ったと…。

 まあ、あれだけの方ですから言い寄ってくる連中がいても不思議ではありません。

 ですがいきなり勝手な自己紹介をしてきた挙句、そんな女より私達と遊ぼうよなんて失礼過ぎますね。

 自己紹介が事故紹介になるところだったのですよ?

 護身用ホルスターのボタンをパチンと留め直します。

 

 「あら、失礼。ついうっかりホルスターのボタンが外れてしまいました(笑)。」

 

 「あ、ああ。気を付けないとな(笑)。」

 若干、彼の笑いが乾いた感じだったのが気になりますが、まあそんな事は些末事です。

 俺達の場所に帰ろうと彼が私の手を取ってくれたのですから。

 人生初めての恋人繋ぎ。

 また一つ、自分がこの方と繋がっているんだという実感に包まれます。

 

 「どうした、花火? まだ寄りたいところがあったのか?」

 

 「いえ、アルカディア号さんの仰るように早く帰って二人でイブを過ごしたい、でも手を繋いでいるこの時間がいつまでも続いて欲しいと思って…。」

 呆れられるかと思ったのですが、それを聞いた彼は、

 

 「帰ったら離してもらえるとでも思ってるのか? 甘いぞ。」

 と耳元で囁いてきたのです。

 それを聞いた私は嬉しいやら恥ずかしいやらで何処をどう通って帰ったのか記憶が所々にしかなくなってしまいました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

柱島第七泊地 北大路花火自室

 クリスマスケーキの蝋燭、その揺らめきが優しく私達二人を照らします。

 窓の外には急に舞い始めた雪。

 少なくとも今日は降るような天気ではなかったのですが、アルカディア号さんは外を見ると、副長だなと笑ったのです。

 そんな中、彼がメリークリスマスの一言と共に私の指にそっと指輪を嵌めてくれました。

 

 「えっ、こんなの頂けません!」

 

 「ん、何故だ? 5月の誕生石はエメラルドだったと思うが?」

 それはそうなんですけど、このエメラルドの大きさ!

 指、いえ手の震えが止まりません。

 

 「これ絶対に高かったでしょう! 私には過ぎたモノです!」

 

 「気にするな。いままで花火には俺のモノであるという証が無かった。第一、子爵令嬢の花火に安物は似合わない。正道殿と御母堂様に怒られないぐらいにはしたつもりだ。」

 各地の依頼で拡張海域作戦に手を貸していたら報酬がだいぶ貯まっていたからな、それにまだ残りは十分にある、と涼しい顔です。

 

 「貴方のモノ…。私が…。」

 その意味を理解した途端、また私の中で一気に何かが飛んでしまったのです。

 激しいキスを交わした後、ベッドに視線をやるとアルカディア号さんは何も言わず私を抱えてくれました。

 ですがここで私は大変な事に気が付いたのです。

 

 ブーツ、履きっぱなし!

 今になって中がとんでもない事になっているのに気付きましたが、もうどうしようもありません。

 これではいくら彼が足フェチでも幻滅されてしまうに違いありません!

 そして無情にも両足が引きずり出されていきます。

 さようなら、私の恋…。

 

 

 

 ですが彼は筋金入りでした。

 この酷い臭いを全く気にする事は無く、それどころか私に白いストッキングが似合うのは清純さを示しているからだと(ぽっ)…。

 その後は夜明け前までお互いを激しく求め合うお決まりのコースに。

 

 え、アルカディア号の夜戦火力でも無理がある?

 大丈夫です。足先を差し出すだけ(足の臭い)で砲身が最大仰角を取り戻すんですから。

 最強のカンフル剤を手にした私にもはや怖いものはありません。

 あら、何故か神崎先輩の随分と悔しそうな顔が頭に浮かびますね、一体どうしてでしょうか(ウフフ)?




※筆者:まだ確定では無いですけど年末年始は翔鶴さんと過ごしてもらいましょうかね?
 翔鶴:いえ、確定で良いです。そうして下さい。
 筆者:いやそれはまだ…、って何故手に弓を持ってるのでしょうか…。
 翔鶴:知りたいですか(必殺のトランペット)?
 筆者:ダッ!
 翔鶴:逃がしません!

※副長だな
 ヤッタランお気に入りの人工降雪機というメカがあるのですが、アマゾンで危機に陥ったハーロックを救ったのがこの機械です。
 雪を降らせ気温を下げる事でハーロックの危機を救ったのでした。


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北大路花火2‐2(北大路花火)

※年末年始は翔鶴さんと過ごすといったな。
 あれはウソ、いや延期だ。


柱島第七泊地元旦 北大路花火自室

 ふう…。

 お湯に身を沈めると昨夜の情事後の気怠さも相まって自然と声が出ました。

 火星にいる某昆虫(黒く光るアイツ)人間がいうところの『じょうじ』ではありません。

 情事ですよ、情事。

 少し前の私なら、その単語を聞いただけで失神するぐらいだったのに人間変われば変わるものです。

 これが愛の力なんですね!

 あ、コホン…。

 

 今日は元旦、さらに時刻はAM09:00。

 いつもと違って当泊地も開店休業状態なのでこんな時間にお風呂に浸かることが出来ているのです。

 今年の近海警備と出撃待機は第二泊地が担当ですので、私達は新年会を絶賛開催できるという訳です。

 勿論、年によっては私達の第七泊地が担当する事がありますので、その時はクリスマスパーティにリソースを回す事になります。

 まあその分、その年のクリスマスパーティは凄まじい事になってしまうのですが(汗)…。

 

 お風呂から出るとアルカディア号さんがいつもの海賊服で再度訪ねてこられました。

 一度部屋へ戻られた後、そのまま新年会の会場である食堂へ向かわずにわざわざ私と一緒に行きたいという事で来てくださったのです。

 それを聞いた私は思わずバスタオルがはだけ落ちるのも構わず彼の胸に飛び込んでしまっていました。

 

 「さ、着替えて食堂へ行こう。花火がいなければ始まるものも始まらん。」

 急いで着替えて食堂へと向かいます。

 扉の前ではまだ20分前だというのに皆が集まっていました。

 先頭は…、やっぱりですか。

 何処の鎮守府や泊地、基地や警備府でもウワバミと恐れられる呑兵衛軍団です。

 まあ、毎年の事なんですけれど今年は『ミーメ』さんが加わった事で呑兵衛軍団がより一層のパワーアップ(より乱れる)するのは間違いありません(汗)。

 アルカディア号さんによると『ミーメ』さんはアルコールを主食とする星の方らしくポーラを酔い潰せる唯一の存在なんだとか。

 

 「少し早いですがもう準備は出来ていますのでどうぞ。」

 大鯨と鳳翔が扉を開けてくれると同時に当泊地所属の全員が一斉になだれ込んでいきます。

 思わず圧倒されてしまった私はアルカディア号さんと一番最後になってしまったのですが、入ろうとした時にカメラを構えた青葉から声を掛けられました。

 

 「さ、泊地報に載せますのでお二人ともそこで腕を組んで入って来て下さい。ハイ、そうです!」

 良い顔、とご満悦な青葉の声と共にシャッター音が連続で聞こえます。

 と、入口一番手前に座っていた秋雲が『にぱっ』としました。

 秋雲?

 

 「ふふふふーん、ふふふふーん♪」

 「ふふふん、ふふふん、ふふふん、ふふふん♪」

 こ、これは?!

 メンデルスゾーンの結婚行進曲!

 

 「「ラーラーラ、ラーラーラーラ、ラーララ、ラーララーラー♪」」

 「「ラーラーラ、ラーラーラーラ、ラーララ、ラーララーラー♪」」

 金剛に榛名まで?!

 

 「パパパパーン、パパパパーン♪ パパパン、パパパン、パパパン、パパパン♪」

 「パーパーパ、パーパーパーパ、パーパパ、パーパパーパー♪」

 「パーパーパ、パーパーパーパ、パーパパ、パーパパーパーン♪」

 後はもう全員総立ちです。

 え、えええ!

 疑似的とはいえ、こ、こんな…。

 女性であれば誰もが憧れるシーンを、しかもアルカディア号さんとなんて!

 後で秋雲には間宮券を一束、いえ三束渡しておきましょう。

 しかし余りの事に足が震えて上手く彼に合わせて歩けません。

 と、突然、体が持ち上げられました。

 

 「ふぇ?」

 指笛をならず瑞鶴と伊勢。

 横抱きされたという状況を理解するのにそれほど時間はかかりませんでしたが、逆に理解した途端、『0‐G LOVE』状態になってしまいました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

柱島第七泊地元旦 食堂

 「ぜ、全員グラスは持ちましたか?」

 まだ声が震えています。

 海防艦や駆逐艦の子達は一部を除いてソフトドリンクが多いですね。

 大型艦は逆にほとんどがアルコールです。

 

 「今年も誰一人欠ける事も無く新年を迎えることが出来ました。これも至らない私を皆さん全員で支えて頂けた結果だと感謝しています。」

 「相変わらず戦況は厳しいですが、それでも出来るだけ明るく楽しく過ごせるようにこの泊地を運営していきたいと思っています。では…。」

 

 「新年あけましておめでとうございますっ!」

 

 「明けましておめでとうございます!」×全員

 グラスの合わさる涼やかな音と大歓声があちこちから聞こえてきます。

 隣に座るアルカディア号さんも、例のアンドロメダレッドバーボンとやらが入ったグラスを掲げていらっしゃいます。

 目が合うと彼は私とグラスを合わせて下さいました。

 いつもなら私の隣は大淀なのですが今年は彼が座っていますので彼女は軽巡席です。

 あ、いえ、今年からですね(笑)。

 え、アルカディア号さんが大淀を軽巡席に追いやった、ですって?

 違います、以前から大淀自身が軽巡席に座りたいと希望していたんです!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

初詣

 お昼を過ぎた頃、生き残っている?者の中で晴れ着に着替えて初詣に行こうという事になりました。

 私・大和・長門・比叡・扶桑・山城・アイオワ・ウォースパイト・リシュリュー・赤城・加賀・翔鶴・天城・レンジャー・瑞鳳・神鷹・衣笠・ヒューストン・大井・川内・大淀・香取・迅鯨・大鯨・明石・401・47・203、他にも駆逐艦数名の大所帯です(笑)。

 神社へと続く階段を上がると多くの人たちがお参りに来られていました。

 私達も一人一人鈴を鳴らしお賽銭の後、手を合わせます。

 ふふ、海外艦にお参りの作法を説明する大和と赤城が微笑ましいですね。

 御神籤の結果に一喜一憂する者、露店に速攻で飛んで行く者と様々です。

 

 「私はこの戦いが一刻も早く終わる様にお願いしたのですが、アルカディア号さんは何をお願いしたんですか?」

 露店に目を輝かせる皆の姿を後ろから眺めつつ、隣にいる彼に聞いてみました。

 

 「アルカディア号クルーの無事と花火や此処の艦娘達と出来るだけ長く一緒に居られるようにと、うむ。」

 こ、これってプロポーズ?!

 だとしたら、やはり実家に連れて行って大正解でした!

 さあ、帰りに本屋さんによって『ゼクシィ』を買って帰りましょう。

 それから何件かホテルのピックアップもしておかないと。

 今年は忙しくなりそうです!

 




※0‐G LOVE
 超時空要塞マクロスのリン・ミンメイが歌う曲の一つ。
 懐かしいですねぇ。

※以前から大淀自身が軽巡席に座りたいと希望
 これは事実です。
 決して北大路提督の願望による幻聴ではありません。

※翔鶴:年末年始は私と過ごすのではなかったのですか?
 筆者:いえ、確定では無いと申し上げたはずですが…。
 翔鶴:確定で良いです、そうして下さいといいましたよね?
 筆者:いやそれは…。ほら、年始って3日までありますから。
 翔鶴:なるほど。ではあれをどうするんですか?
 花火:ここの結婚式場、素敵ですね。あ、でもこのホテルも捨てがたいです! うふふ…。
 筆者:ハイライトが完全にお仕事を放棄してる…。
 翔鶴:私は『知 り ま せ ん か ら ね』。


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提督達のライン事情1(シーチキンと浮気)

※知恵袋に寄せられた内容を花火さんに落とし込んでみました。
 有名なお話なのでご存知の方も多いと思います(笑)。
 誰が誰か考えて見て下さい。


                        FEU D’ARTIFICE:神崎先輩。

 

 

パンジー:何かしら?

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:アルカディア号さんに関

                        する事なんですけれど…。

 

 

パンジー:あら、あの方に関する事ですの?

パンジー:ならお聞きしない訳にはいきませんわ

     ね。

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:私と神崎先輩以外の女の

                        影が感じられます。

 

パンジー:何ですって?!

パンジー:詳しく話して頂けるかしら。

 

 

聖母:ちょっと待って、それ本当なの?

聖母:あの人に限ってそんな不義理なんて。

 

 

発明狂:せやな、ウチもマリアと同じ意見やわ。

 

 

聖女:そんな! 私なんてまだ手を出してもらって

ないのに!

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:エリカさん?

 

 

聖女:あ、いえ。何でもないです(汗)。

 

 

lettre bleue:何か決定的な場面や証拠を見つけた

のか?

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:いえ、そういう訳では無

                        いのですけれど。

 

 

彦星:落ち着いて下さい。何故そう思ったのです

か?

 

                        FEU D’ARTIFICE:その…。最近、アルカ

                        ディア号さんが夜になるとコッソリと埠頭

                        の方へと出掛けて行くんです。

 

 

僕子:後はつけたのかい?

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:いいえ。

 

 

大悪党:煮え切らないね。聞いてみたらいいじゃ

ないか。

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:一度聞いてみたのです

                        が…。

 

 

大悪党:で?

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:集会と仰っていました。

 

 

空手バカ:ほえー、集会ねえ。

空手バカ:川内と夜釣りでもやってんじゃねえの

か?

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:夜釣りですか。ではあの

                        シーチキンは餌にでもしてるのでしょうか。

 

 

大悪党:シーチキン?

 

 

彦星:それって缶詰のですか?

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:はい。毎回必ず持って行

                        くんです。

 

 

パンジー:私と花火さんが居ながら浮気なんて!

パンジー:一体どういう事ですの?!

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:全くです!

                        FEU D’ARTIFICE:まさか対艦娘専用銃を人

                        間に使う事になるとは思いませんでした。

 

 

僕子:まあ、二人とも落ち着きなよ。

 

 

聖女:そうですよ、花火さんもそんなモノを人?

に向けちゃダメなんですから!

 

 

パンジー:これが落ち着いていられるもんですか!

パンジー:どこの馬の骨とも知れない女が私の彼に

チョッカイを出しているんですのよ!

 

 

発明狂:浮気、ねぇ(笑)。

 

 

lettre bleue: ふっ。

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:???

 

 

lettre bleue:相手は女とは限らんかもしれんぞ。

男かもしれん(笑)。

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:そ、そんな!

 

 

パンジー:そうですわ、いい加減な事を仰らないで

頂きたいですわ!

パンジー:あの人に限ってそんな事があるはずがあ

りませんわ!

 

 

大悪党:いや、そりゃどこかにいるのさ。

大悪党:ヤツのハートを掴んだ圧倒的な可愛い子

ちゃんがさ(笑)。 

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:うう、ヤッパリ…。

 

 

僕子:そう悲観する事も無いよ。

僕子:何なら一緒に集会に行くべきだと僕は思うけ

どね。

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:そうですね。

                        FEU D’ARTIFICE:そのまま相手を対艦娘専

                        用銃で、その後はブロックを数個括り付けて

                        海中に…。

 

 

チェリー:物騒過ぎます!

 

 

パンジー:長官、これは私と花火さんの

事ですから黙っていて頂きたいですわ!

 

 

空手バカ:すみれも花火さんももう一回、最初

から自分の書いた内容を読み返して見な(笑)。

 

 

チェリー:それが良いですね。でもシーチキンって

油と塩分が多いから浮気相手さんの健康には良くな

くて心配です。

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:長官、私には浮気相手の

                        心配をするなんて出来ません!

 

 

パンジー:待って、これって…。

 

 

聖女:あら、すみれさんも気が付いたんですね(笑)。

 

 

パンジー:何だ、そういう事ですのね。

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:?

 

 

僕子:北大路提督、本当に君は彼の事となると他の

事が目に入らないんだね(笑)。

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:はい、彼は私の全てです

                        から。この間も…。

 

 

発明狂:ストーップ、それはもうエエから!

 

                        FEU D’ARTIFICE:良いのですか?

 

 

発明狂:なんで二人の夜事情を聞かされんとアカン

ねん。

 

 

大悪党:私は聞きたいけどね。ま、でもそれはまた

別の機会に、だな。

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:いえ、そんな事情をお話

                        ししようとしたわけでは…。

 

 

彦星:ま、お相手は夜になると目が光った

りするあの子ですね。

 

 

聖母:ええ、きっとシッポの生えた浮気相手ね

(笑)。

 

 

lettre bleue:ま、餌付けといった方が正しいだろ

うな(笑)。

 

 

パンジー:長官の仰る通り今度からはシーチキンで

はなく猫缶に替えてあげるよう彼に伝えなさいな。

 

 

                        FEU D’ARTIFICE:あっ!




※随分と時間が空いたのにこんな短くてすいません。
 ワクチン接種の副反反応が酷くてずっと伏せって(今も)おりました。

※FEU D’ARTIFICE:北大路花火(フランス語で花火)
 パンジー:神崎すみれ
 聖母:マリア・タチバナ
 発明狂:李紅蘭
 大悪党:ロベリア・カルリーニ
 聖女:エリカ・フォンティーヌ
 lettre bleue:グリシーヌ・ブルーメール(フランス語で青い手紙)
 彦星:ラチェット・アルタイル
 僕子:レニ・ミルヒシュトラーゼ
 空手バカ:桐島カンナ
 チェリー:真宮寺さくら
です。


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柱島第七泊地節分砲撃戦1

※各艦娘の節分ボイスを聞いて考え付きました。
 後悔はしていない、多分…。


2月2日、岩国駅

 「では横須賀第二鎮守府へ行ってきます。留守中は宜しくお願いしますね。」

 岩国駅で寝台列車に乗り込む花火が留守を預かる矢矧に声を掛けた。

 

 「了解、この矢矧にお任せ下さい。」

 矢矧は妙高にも匹敵するクソ真面日な艦娘である。

 留守を任せるにこれほど適任な艦娘はいないだろう。

 

 「伊勢さんも日向さんも大変だとは思いますが、特別な瑞雲は私達の戦い方を一変させてくれました、あちらの方々にもぜひその恩恵を。」

 今回、ブルーメール閣下の要請で花火と四航戦の二人は特別な瑞雲(瑞雲ファンネル)の指南役として向かう事となったのだ。

 剣を前に構え花火と四航戦の二人を見送る。

 客車のテールランプが夜の闇へと吸い込まれていった後、ホームに人はほとんど残っていなかった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

同時刻、柱島第七泊地食堂

 所属するほとんどの艦娘達が集まった柱島第七泊地の大食堂。

 異様な熱気と興奮に包まれた中、金剛4姉妹が前に立った。

 

 「Hey、皆サーン!  今年の節分はこの金剛型四姉妹がディレクションさせて頂きマース!」

 「今日から3日間、提督が不在になりマース! 何時も良い子の我々ですが今こそは破目を外し我々の野望を実現させる時ネ!」

 

 「本命(アルカディア号)に行くも良し、ナイスミドル(魔地機関長)に行くも良し、デブ専(ヤッタラン副長)に行くもし、若さ(台羽君)に狙いを定めるのも良し、皆さん! 気合! 入れて! 行きましょう!」

 

 「大豆は一人一升を鳳翔さんが用意して下さいました。なお、この戦いには当然鳳翔さんも眼鏡っ娘委員長の大淀さんも参戦されますが榛名は大丈夫です!」

 

 「姉妹艦同士に限らず、艦種を超えて共闘して頂いても結構ですが、床に落ちた豆を再装填するのは禁止です。戦いの開始時刻は明朝マルロクマルマル。なお、朝食・昼食・夕食の間は一切の戦闘を中止すること。この協定を破ったものは即失格となります!」

 

 「では各自の健闘を祈りマース!」

 金剛、比叡、棒名、霧島と続き、そして最後に再び金剛が挨拶を締めくくった途端、割れんばかりの歓声が沸き起こった。

 その誰もが鼻息荒くターゲットの名を口にする。

 やがて各自、升に入った大豆を受け取り帰って行ったのだが、戦いはもう始まっているらしく、あちこちで作戦会議を行うグループが見受けられたらしい。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

2月3日、柱島第七泊地

 起きた途端、俺は謎の寒気に襲われた。

 風邪でも引いたのだろうか、そう思ってパブロンゴールドを飲もうとした時、ドアがノックされた。

 

 「キャプテン、風邪薬をお持ちでしたら頂けないでしょうか? なんだか朝から寒気がして…。」

 台羽の声だ。

 

 「お前もか。実は俺もなんだ。」

 そう言って薬を渡してやると、副長も機関長も寒気がするって言っていましたから、全員なにか流感にでもかかってしまったのかもしれませんと顔を曇らせた。

 

 「だが、熱も無いし関節の痛みも無い。取り敢えず朝飯を食いに行くぞ。」

 食堂へ歩いていると、ふと台羽が立ち止まった。

 

 「キャプテン、これ…。」

 

 「な、なんだこれは…。」

 何と廊下には俺達4人の顧写真が貼ってあり『節分、お豆砲戦懸賞』の文字が?!

 俺達が理解できずにいると、見い~つけたと後ろから声がした。

 

 「は、早潮さん?!」

 

 「早く食堂へ行ってご飯を食べた方が良いよ~。食事時以外は私達がアルカディアさん達を好きにできるんだから(笑)。」

 

 「好きにできるって…、一体どういう事だい?」

 

 「それは勿論、あんな事やこんな事よね~。もちろん、そこを砲撃して奪い取るのも自由。正面から堂々と撃ち合って相手を排除するのも自由。」

 「要するにアルカディアさん達は『節分お豆砲戦』の賞品なんだよね(笑)。」

 それを聞いた俺達は全力でそこを後にした。

 そのままデスシャドウ島の自室へ逃げ込もうと思っていたのだが、庁舎の出入り口にはしっかりと鍵が掛かっている!

 え? 自分だけなら逃げれるだろ、って?

 そりゃそうだが、台羽と機関長と副長を残していくのはさすがの俺も気が引ける。

 さらに、逃げる際に皆とバラバラになってしまったのも思い留まった一因だ。

 魔地機関長と副長は望むところ、と息巻いていたが台羽が心配だ。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

柱島第七泊地重巡寮屋上

 対人(妖精?)レーダーを作動させると台羽が重巡寮の屋上にいる事が分かった。

 あいつ、重巡寮へ逃げたのか?

 いや逃げたのならいいが、連れ去られたとすると既に美味しく頂かれてしまっているかもしれない。

 急いで屋上へ出ると給水塔の後ろから声がする。

 

 「んー、んんーっ!」

 

 「もう、往生際が悪いですわよ? 大人しくこの熊野に頂かれて下さいな。」

 なんと給水塔の裏では拘束された台羽が熊野に伸し掛かられていた。

 傍には当然だが鈴谷の姿も見える。

 

 「節分ねー、熊野、節分って何やるか知ってる? って、あぁー、何か咥えてるねぇ。あぁー。」

 

 「はむっ、ふっふっ、ふっふん、いいこと鈴谷?  この恵方巻は…、ん、ん…、一気呵成に食する事で、はむっ、一年の無術息災等を…、はむっ、ふっふっふっ、ぐっーん、んっ、痛っ!」

 

 「きゃあっ!」

 突然、熊野と鈴谷が悲鳴を上げた。

 彼女達の前方には大豆の入った升を持った那智が!

 

 「ふふ、こんな所にいたとはな。節分砲戦もこの那智に任せてもらおう!」

 そういうと那智は両腕をピンと天に伸ばし体を捻る。

 あ、あれ知ってるわ。

 日本人メジャーリーガーのパイオニアとして海を渡った野茂英雄のトルネード投法だ。

 この追撃を叩き込まれた鈴谷と熊野はあえなく沈(珍)黙。

 

 「節分か。まあ、今日ばかりはポン酒(白酒:意味深)にしてみるか。足柄、羽黒、貴様らもどうだ?」

 

 「台羽さん、節分ですね。あの…、羽黒がお相手を致しましょうか? えっ、それは…(顔真っ赤)。」

 何が起こって、いやこれから何が行われるか見当が付いた俺は台羽の冥福を祈りつつ重巡寮を後にした。

 まあ、若いし干からびたとしても数日すれば元に戻るからいっか(鬼畜)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

柱島第七泊地空母寮

 「鬼は外! 福は内!」

 空母寮から威勢の良い声が聞こえてくる。

 良かった、空母達は俺の知る節分をやってるみたいだ。

 丁度いい、空母組には全艦種正室の翔鶴がいるし、空母正室と側室筆頭は一航戦だ。

 ここに逃げ込めば誰も手出しは出来ない…、はず(そう思っていた時が俺にもありました)。

 

 空母寮へと飛び込んだ途端、後ろで扉が閉まる音がした。

 後から思えばこの時点でこいつらも危険だという事に気付くべきだったのだが…。

 

 「節分かあ。良いわね、楽しそう! 南雲部隊の鬼役は…。え、加賀さん?!」

 

 「節分ね、いいんじゃない? 鬼は…、加賀さんかぁ。誰よ、決めた人。提督? 赤城さん?」

 ロビー入り口では鬼役を示す仮面を頭にチョンと載せた加賀を前に蒼龍と飛龍が豆を投げて良いのか迷っているところだった。

 ところが遠慮する二航戦の二人を尻目に加賀に大量の豆を浴びせた勇者が!

 

 「痛い。豆? そう、節分の…、って私に当てた子は誰? そう…。」

 加賀の視線の先にはドヤ顔の瑞鶴。

 

 「翔鶴姉、毎年節分だからって鬼役を買って出なくていいの! 鬼はちゃんとあそこにいるんだから!」

 

 「面白いわね。ではこちらも遠慮なくいかせてもらうわ。」

 加賀が両手腕を高々と突き上げる。

 

 「ちょ、何で鬼役の加賀さんが豆を持ってんのよ?! おかしいじゃない!」

 

 「鬼役だからってアルカディア号さん争奪戦に参加してはいけないという決まりは無いわ。」

 「瑞鶴、貴女は手強い。一撃で仕留めさせてもらいます。」

 あ、あれは?!

 マサカリ、まさかのマサカリ投法ですよ!

 轟音と共に空気を切り裂いた大豆が先程まで瑞鶴が立っていた場所を通過する。

 

 「な、何て威力?! ちょっとは加減しなさいよ、この焼き鳥空母っ!」

 割れ落ちた廊下の壁を見て驚愕する瑞鶴。

 というかあれ本当に大豆か?

 バチンコ玉と言われても別に不思談ではない威力だぞ、あれは。

 怪我人が出る前に辞めた方が良いんじゃなかろうか?

 

 「言ってはいけない事を…。分かりました、そこまでいうなら生意気な七面鳥を焼き鳥にしてあげます。」

 再び加賀が両腕を突き上げる。

 

 「くっ、望むところよ! 搭載機数だけが取り柄の大食い空母になんか負けてたまるもんですか!」

 モビルスーツが動く時と同じ音を立てて瑞鶴もダイナミックに振りかぶる。

 加賀のマサカリに対して瑞鶴はオーンドックスだが無茶苦茶ダイナミックな投球フォームだ。

 あれは…、たしか…。

 

 二階堂定春! 緑山高校の超剛腕、二階堂定春だ!

 あんなのを喰らったら幾ら元戦艦といえども加賀が危ない!

 止めようとしたのだが、時すでに遅く、

 

 「うっ!」

 

 「ぐはっ!」

 二人ともこれ以上無い見事な相打ちとなりその場に崩れ落ちてしまった。

 

 「加賀さんも瑞鶴も熱くなり過ぎじゃない?」

 

 「ホントホント。しかしこうも狙い通りにあっさりと争奪戦から退場してくれるなんて(笑)。」

 薄ら笑いを浮かべアーニャの目をした二航戦がこちらに振り向いた。




※果たしてこの男性四人の争奪戦の結果は如何に?!
 北大路提督の帰還まであと3日…。

※恵方巻…。彼女達が追い求める恵方巻とは一体?!


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柱島第七泊地節分砲撃戦2

柱島第七泊地空母寮

 「さて、アルカディア号さん?」

 

 「悪いけど大人しくしてもらえる?」

 ジリジリと距離を詰めてくる二航戦の二人。

 

 「悪いがマルチプレイはしない主義なんだ。どちらか一人にしてくれ。」

 が、なおも彼女達はアタシ達に任せてくれればいいから、と手を前に出して迫って来た。

 マズイな。

 いくらなんでも艦娘へ攻撃を仕掛ける訳にはいかない。

 これが一人ずつなら直ぐにでも釣りバカ日誌的合体を行うのだが…。

 

 「アルカディア号さん?」

 更に後ろから翔鶴がニコニコ顔で現れた。

 私に来て頂ければ私の豆(意味深)とアルカディア号さんの恵方巻で節分が完成しますね、だと?!

 大変ナイスなアイデアですが、まずはこの状況を何とかしなくてはなりません。

 

 こりゃい艦、いやこりゃいかんですよ、何としてでも逃げなくては。

 

 アルカディア号は逃げ出した!

 しかし回り込まれてしまった!

 

 二航戦の攻撃!

 アルカディア号はマントを剥ぎ取られてしまった!

 

 翔鶴の攻撃!

 アルカディア号は攻撃をかわした!

 よし、この隙に階段を上れば…。

 

 「あら、翔鶴さんの豆は小豆ですよ。それに比べてこの赤城の豆は大豆ですから私の方がよりふさわしいですね(笑)。」

 何と唯一の逃げ道であった階段から赤城が現れたのだ。

 翔鶴も赤城も表情こそ穏やかなものの目は完全に捕食者(プレデター)の目になってんじゃん。

 TーREXに囲まれたブロントサウルスもこんな気持ちだったんだろうなぁ。

 

 「「さあ!(二航戦)」」

 

 「さあ!(翔鶴)」

 

 「さあ!(赤城)」

 前には二航戦の二人、右には赤城、左は鍵のかかった出入り口、後ろには翔鶴と絶体絶命?!

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

全空母の母、参戦!

 「きゃあっ!」

 突然、翔鶴が被弾した。

 

 「くっ!」

 

 「おっと!」

 

 「甘い!」

 ギリギリで交わした二航戦と赤城。

 

 「鳳翔さん?!」

 驚く四人。

 休む間もなく次弾が三人を襲う。

 小柄な鳳翔だが大きく振りかぶるせいか、見た目以上に大きく見える。

 そこから深く沈み込んでいくせいか、あれでは豆の出所が相当見づらいだろう。

 上手投げのような始動なのに途中がら深く潜航していくあれは…。

 明訓のエース(里中 智)だ!

 今度こそ鳳翔の膝元から放たれた大豆が蒼龍に吸い込まれていく。

 

 「何でまた甲板に被弾なのよ、痛いじゃない!」

 どちらかといえば彼女から当たりに行ったようにも見えたが…。

 

 「ふふ、駄日ですよ蒼龍ちゃん。予想外の事が起こった時に一瞬止まる癖がまだ治ってないのですね(笑)。」

 

 「何で鳳翔さんが参加するんですか?!」

 

 「棒名さんも言っていたではありませんか。大淀さんと私も参加するとね。」

 いつもの鳳翔スマイルを浮かべながら赤城と飛龍の反撃を容易く躱す。

 

 「くっ、やられた! 誘爆を防いで!」

 今度は飛龍に大豆が吸い込まれて行く。

 決して早くはないのに躱せないどころか当たりに行ってるようにしか見えないのが不思議で仕方がない。

 

 「飛龍ちゃんも未だに逃げる方向とは逆に一瞬視線を向ける癖が治らないのですね、残念です。」

 そういうと鳳翔は後は赤城ちゃんだけですね、といいながら升に手を入れた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

全滅?!

 「まだ二階には雲龍さん達や大鳳さんがいるはず、全員で囲めば…。」

 それを聞いた鳳翔はため息をつきながら首を横に振った。

 

 「それが慢心だというのですよ。」

 

 「何故ですか! あの時以来、私はもう二度と慢心はしないと響ったんです、今だって!」

 

 「では何故、雲龍さん達や大鳳さんが無事だと思うのですか?」

 赤城の顔色が変わった。

 同時に鳳翔の手の中でジャリッと豆が音を立てる。

 

 「そうですよ。とっくに制圧済みです(笑)。」

 

 「そんな! 大体、人妻である風翔さんが参加するなんておかしいですっ!」

 

 「私は一度たりとも結婚なんてしてませんっ、勝手なイメージで語らないで下さい!」

 再び、鳳翔の膝元から節分弾が故たれる。

 

 「遅いっ(弾速)、この程度なら十分躱せます!」

 赤城が右へ体を反らせるが…。

 

 「えっ?」

 なんと鳳翔の投じた大豆が軌道を変えて赤城に向かっていくではないか?!

 何とか躱そうと、そこからさらに身を屈めた赤城だったが無情にもそれすら見透かしたように大豆が命中した。

 

 「一航戦の誇り、こんな所で失う訳には…。」

 

 「何度も言ったはずですよ、戦闘中に右へ右へと動く癖があるから直しなさいと。」

 右に曲がりながら沈む…、なるほど下手投げ最大の武器(シンカー)か。

 

 しかし鳳翔さんの性能自体は高くはない、いやむしろ低い部類に入るはず。

 それを技術でカバーするどころか相手のクセまで見透かし相手の行動を完壁に予測してみせたのだ。

 節分弾が吸い込まれるように見えたのはそのせいだろう。

 まさに空恐ろしい御方である。

 やはり怒らせてはいけない艦娘の筆頭だということだけはあるな。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

鳳翔さんは魔地機関長狙い?!

 「大丈夫ですか? その様子ですとまだ誰にも頂かれていないようですね。」

 

 「いや助かったぞ。恩に着る、鳳翔。」

 おおかた翔鶴ちゃんと一航戦の二人に守ってもらおうと考えたんでしょう、と鳳翔。

 空母達だけでなくコッチの考えまでもお見通しかよ。

 

 「ところであの…、魔地機関長さんはどちらに?」

 

 「それが途中で全員バラバラにはぐれてしまってな。戦艦寮へと走って行くのを見たのが最後なんだ。」

 

 「そうですか。では今から戦艦療を制圧してきますので待っててくださいね。」

 鳳翔がそう言うと同時に首筋にチクリとした痛みが。

 薄れゆく意識の中、最後に見たのは鳳翔の薄ら笑い。

 くっ、鳳翔までこれとは…。

 一体、誰を信じれば…。




※北大路提督が帰って来た時、何故か4人とも干からびたミイラ状態になって発見され
 たとか。
 さすがは鳳翔さん、望む者達全員に機会をお恵みになりあそばされたようです。

※何があったかを察した北大路提督、1ケ月以上自室にアルカディア号を幽閉するとい
 う暴挙に(怖)。

※これ以降、鳳翔さんと魔地機関長さんが良く手を繋いで買い出しに行ったり、機関長
 が厨房掃除を手伝ったり、よく二人でいる光景が見かけられるようになったそうな。
 私は結構お似合いの組み合わせだと思うのですがどうでしょう。


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瑞鶴(第五航空戦隊)

※連休なので何か一つお話を上げてみました。
 実際は本編の続きが書けなかっただけです(笑)。

※中川家さんの『となりのおっさん』を参考にこの二人に落とし込んでみました。
 最初は桐島カンナさんと神崎すみれさんにお願いしようと思っていたのですが、そうすると提督達の宴会となって大掛かりになってしまうので…。



瑞鶴

 私は今、間宮さんにあの焼き鳥空母と一緒にいる。

 何でそんな事になったって?

 今度の宴会の出し物のペアが翔鶴姉ではなくこの焼き鳥空母になったからよ!

 

 「で、どうするのかしら?」

 

 「どうって、私が上げたヤツはみんなアンタが難癖付けて却下してきたじゃない!」

 「今度は加賀さんが案を出してみてよ!」

 

 「貴女の頭の上に載せたリンゴを私が射貫くというのはどうかしら?」

 

 「絶対、イヤ!」

 

 「大丈夫、80%の確率で成功すると思うから。」

 断固拒否。

 100%でもイヤなのに80%?!

 しかも思うですって?

 冗談じゃないわ!

 

 「また賑やかだな。どうしたんだ?」

 

 「あ、お義兄さん。」

 キーッとなっている私達に声を掛けてくれたのはお義兄(アルカディア)さん。

 

 「待ちなさい、貴女が言うお兄さんに何か違和感を感じるのだけれど?」

 

 「あら、何故かしら? 翔鶴姉が『全艦種正室』なんだから私から見ればお義兄さんでしょ?」

 加賀さんに『空母側室筆頭』のくせに何を気にする事あるのよ、と言ってやったら、あの焼き鳥空母たっら歯ぎしりしだす始末だったわ(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 「なに、出し物が決まらない?」

 アルカディア号さんはそう言うとうーん、と腕組みをした。

 

 「五航戦の娘が相手だとあまり難しい事は出来ないわ。」

 言ってくれるじゃない、この焼き鳥空母が。

 上手くできたら間宮スイーツ全制覇の代金持ちなさいよ?

 

 「よし、二人でこれをやってみろ」

 そう言ってお義兄(アルカディア)さんがコントの書かれた台本を出してくれた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

当日舞台上

北大路花火

 「今回の休暇、良かったなー。念願の鎌倉観光と江ノ電、それに翔鶴姉のお土産も買ったし、あとは柱島まで帰るだけっと。」

 ガラガラの車内で足を靴から解放し伸びをする瑞鶴。

 そこへニット帽、サングラス、マスクをした女(加賀)が現れました。

 この時点でもう何名かの艦娘からはクスクスと笑いが起こっています。

 手にした乗車券を見ながら瑞鶴の前で加賀が止まりました。

 

 (嘘でしょ…。てかこれ顔隠してるけどメッチャ加賀さんじゃない。一体どこの加賀さんなのよ…。)

 瑞鶴の声が流れました。

 どうやらこれは瑞鶴の心の声を現しているみたいですね(笑)。

 

 「失礼するわ。」

 

 「あ、はい。」

 沢山の荷物を抱えているせいで加賀のお尻が瑞鶴の顔を撫でるようにして通っていきます(笑)。

 

 (もー、それだけ荷物あるなら小荷物で送ればイイじゃない。全くはた迷惑な女なんだから!)

 毒づく瑞鶴の隣に加賀がドスッと腰を下ろしました。

 空母一の排水量を誇る(なお、体重)加賀、椅子のフレームが繋がっているせいで瑞鶴の体が椅子ごと跳ねます。

 

 (てか、他にも席が沢山空いてるじゃない。何でよりにもよって私の隣なのよ?!)

 降りたら国鉄に文句言ってやるんだから、と瑞鶴がむくれてしまいました(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

武蔵

 カシュッ、と音をさせて加賀が缶ビールを開ける。

 

 (まだ10:30じゃない、朝から結構なご身分だ事。一航戦様は違うという事かしら。)

 喋ってはいないが瑞鶴の声が流れる。

 なるほど、瑞鶴の心の声だけ先に収録してあるのだな(笑)。

 クシャッと加賀が空き缶を握り潰す。

 

 (え、早?!)

 目を丸くする瑞鶴を尻目に紙袋から今度は缶チューハイを取り出す。

 

 クシャッ。

 瞬く間に缶チューハイもイッキ飲み。

 

 (だから早いって!)

 若干引き気味の瑞鶴を尻目にドンと加賀が窓際に一升瓶を置いた。

 

 (一升瓶?!)

 (しかも加賀岬って、さりげなく自分の歌を宣伝してるし!)

 私の隣に座っている伊勢が既に大笑いしている。

 

 (どうしよう、紙コップに注いで差し出されたら…。)

 瑞鶴が加賀と目を合わせないように横を向く。

 

 キュポン!

 ゴッ、ゴッ、ゴッ…、ぷはー!

 

 (ラッパ?! まさかのラッパ?!)

 

 「あら、買ったと思っていた『よっちゃんイカ』が無いわ…。」

 紙袋をゴソゴソとまさぐっていた加賀が落胆する。

 

 (あんな臭いのキツいモノを隣りで開けるつもりだったの、って…、何すんのよ!)

 加賀が脱いであった瑞鶴のパンプスを手に取って嗅ぎ始めた(笑)。

 

 「いえ、臭いだけでもと思って…。」

 大和も加賀さんたら、とハンカチを目に当てて大笑い。

 

 「バッカじゃないの?! やるなら自分のでやりなさいよ!」

 

 「だって私のはせいぜい都の『酢昆布』ぐらいだもの。」

 ハハハ、そう(都酢昆布)きたか。

 

 「それで十分よっ、この焼き鳥空母!」

 二航戦の二人も瑞鶴ったら、今を幸いと堂々と焼き鳥空母呼びしてるじゃん(笑)、と膝を叩いて笑っている。

 

 「焼き鳥空母、誰の事かしら?」

 

 (しらばくれやがって!)

 澄ましている加賀を睨み付ける瑞鶴。

 確かに普段の事もある以上、演技なのか本気なのか分からんな(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

吹雪

 加賀さんが携帯を取り出して何処かへ電話を掛け始めました。

 

 「あ、赤城さん? 私です。ええ、戦果? 上々よ。」

 

 (戦果? 何処かへ演習にでも行ってたのかしら?)

 瑞鶴さんが加賀さんにジト目を向けています(笑)。

 

 「赤城さんの戦果は…。まあ、瑞加賀本が沢山? さすがに気分が高揚します!」

 

 「するか、さらに気分が低迷するわ!」

 瑞鶴さんの悲鳴のようなツッコミにドッと爆笑が起こりました。

 さすがにここは心の声ではないみたいです。

 

 (てか何?! 戦果って同人誌の事?! 同人誌即売会に行ってきたっての?! しかもよりにもよって何で瑞加賀?!)

 そのトランクと紙袋の中身が全部同人誌なの、と瑞鶴さんが頭を抱えます(笑)。

 

 (落ち着くのよ、瑞鶴。そうだ、駅で買っておいたシャーベットを。)

 

 「フフン。」

 

 (なに? 鼻で笑った?)

 ゴソゴソと紙袋から加賀さんがアイスを取り出しました。

 

 (サーティーワン? まったく、アイスごときでマウントを取りに来るだなんて…。)

 

 「…。」

 「くっ…。」

 

 (どうせさっき買ったばっかりなんでしょ、そりゃ硬いわ。)

 

 「冷たい…。」

 木のスプーンをアイスに突き立てようと悪戦苦闘する加賀さんにまたしても爆笑が起こります。

 

 (ほらほら、あんまりムリしない方が良いんじゃないの(笑)。)

 

 パキッ。

 

 「「あ…。」」

 とうとうスプーンが折れてしまいました(笑)。

 ここでもう妹の白雪・初雪・深雪達は呼吸困難一歩手前です。

 

 (プッ。あ~あ、だから言ったじゃない。ムリしない方が良いって、ちょっと…。)

 

 「物欲しそうにこっち見るの止めてくれない?」

 

 「別に物欲しそうに見てはいないわ。」

 

 「人差し指を第一関節まで咥えて身を乗り出してるくせによくそんな事が言えるわね?!」

 それは瑞鶴さんの言う通りです。

 ていうか加賀さん、半分以上瑞鶴さんに覆いかぶさってるし(笑)!

 

 「分かったわよ、少しあげるから!」

 

 「やりました。」

 MVPをとった時と同じドヤ顔の加賀さんにまたしても全員が大爆笑。

 

 「あっ!」

 目にも止まらない速さ、残像も残らない速さで瑞鶴さんのシャーベットを口に放り込む加賀さん。

 忽然と消えたシャーベットに何が起こったか分からないといった瑞鶴さんの表情がまた可笑しくて(笑)…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

青葉

 「な、なに?」

 ふて腐れて寝ようと目を瞑っていた瑞鶴さんが椅子ごと揺れ始めました。

 隣りの加賀さんが目を閉じて体をモゾモゾさせているからですねぇ(笑)。

 

 (なによ、ポジションが決まらないの?)

 これには多くの艦娘達が共感しています。

 お布団に入ってもなかなか体制が決まらず寝付けない事がありますよね、あれと同じでしょう(笑)。

 

 「何処なのよ?!」

 その間にも段々と加賀の動きが激しくなっていき、とうとうダンスみたいになってしまいました。

 

 「どうしたいのよ! ぶふっ。」

 ズイズイまでやり始めた加賀さんにとうとう瑞鶴さんが吹き出してしまいました。

 瑞鶴さんが噴出してしまったという事は完全に加賀さんのアドリブなんでしょうが、これは卑怯です!

 出演者が吹き出すぐらいなのですから、私達観客は艦種問わず全員が涙を流して笑ってしまう始末。

 後ろの方では長門さんが、もう駄目だ息が出来ないと悲鳴を上げています(笑)。

 

 「ちょ、アンタ一体どこの加賀さんなのよ!」

 加賀さんのニット帽とサングラスを瑞鶴さんが剥ぎ取りました。

 

 「私の正体を見破るとは流石ね。」

 

 「分からいでか(笑)!」

 正体がバレても顔色一つ変えない加賀さん。

 

 「私だと気付いた事に敬意を表して教えてあげるわ。私の所属は…。」

 

 「所属は?!」

 イライラして先を促す瑞鶴さん。

 

 「柱島第七泊地よ。」

 

 「ウチの加賀さんだったの?!」

 そう言って瑞鶴さんが崩れ落ちたところで緞帳が降りてきました。

 いや、これは面白かったですねぇ!

 あの不知火さんもハンカチを目に当ててヒィヒィ言ってますし(笑)。

 これはぜひ映像化しないといけませんねぇ。

 これでまた青葉の懐が潤うこと間違いなしです!




※演習で柱島第七泊地を訪れた艦娘さん達にも大好評で、このコントを見に演習に訪れる鎮守府や泊地も決して少なくなかったとか。
 当の二人は黒歴史だと触れて欲しくはないみたいでしたが(笑)。


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霧島1(金剛四姉妹)

※皆様、明けましておめでとうございます。
 年明け早々、地震に津波、飛行機事故など大変な事態が続いておりますが被災された地方の方々が一刻も早く元の生活に戻れますように。
 またお気に入り登録者数も700越え、総合評価も1000を超えるに至りました。
 これからも感謝の心を忘れずに持ち続けたいと思いますので宜しくお願い致します。



ソロモン沖

 「霧島さん、危ない!」

 後ろへと飛びのいた途端、それまで私が立っていた場所で大きな水柱が上がりました。

 夜目が効く川内さんが教えてくれなければ、一撃で戦闘不能になっていたでしょう。

 

 「ありがとうございます川内さん、助かりました!」

 

 「どういたしまして。さてこれから反撃だよ、やられっ放しは性に合わないからね!」

 ソロモン海域に深海戦艦多数出現の報を受け同海域へと向かった私達ですが、巧妙に姿を隠していた相手艦隊を発見することが出来ず、会敵は夜間、つまりいきなり夜戦へと突入する事になってしまったのです。

 更にこちらが気付く前に先制攻撃を受けてしまった事もあり、現在、高雄さんと愛宕さんのお二人がともに小破状態からの戦闘開始となってしまいました。

 小破とはいえ重巡のお二人をいきなり小破させることが出来る砲撃…、となれば相手は電探射撃を行ってきた戦艦である可能性が高いですね。

 ですがこちらも川内さんのいうようにやられっ放しで終わる訳には行きません。

 川内さんの仰るように反撃開始と行きますよ!

 日頃の訓練により陣形を立て直すのは早かったのですが…。

 

 「気合、入れて、探照灯いきます!」

 いきなり比叡が探照灯を照射しようとしたのです。

 その為、比叡は一手に敵艦隊の攻撃を引き受ける事となってしまいました。

 集中砲火を浴び舵が効かなくなった比叡を私達は半ば見捨てる形で…。

 

 「き、霧島?!」

 二度と比叡を失いたくないという思いから私は自身の探照灯を相手艦隊に向けて照射していました。

 いえ、勝手に体が動いたというべきでしょうか。

 

 「霧島さん?! くっ、皆、霧島さんから離れて!」

 川内さんが指示を出します。

 私の側にいればこの後、間違いなく巻き添えになるに違いありません。

 

 「ソロモンの悪夢、見せてあげる!」

 夕立が両手に抱えた酸素魚雷をバラ撒き相手艦隊へと突入を開始します。

 私の探照灯が一際大きな艦影を浮かび上がらせました。

 周りに立ち上がる水柱の大きさから相手艦隊には戦艦がいると確信していましたが、やはりです。

 他にも重巡2隻、軽巡2隻がいる様ですね。

 私に続き比叡・高雄・愛宕が相手戦艦を狙い砲撃を開始しました。

 多数の命中弾を受けた戦艦は撤退しようとしたが最後は綾波の放った魚雷が命中。

 あえなく海底へと帰って行きました。

 ホッとして敵重巡洋艦へと目標を切り替えようとした瞬間、激しい衝撃と痛みに襲われたのです。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

集中砲火を浴びる霧島

 「ぐふっ?!」

 凄まじい衝撃で海面に叩き付けられます。

 

 「霧島?!」

 

 「霧島さん?!」

 比叡と高雄さんが助け起こそうとしてくれますが…。

 

 「がはっ!」

 再度、熱風と衝撃が私を襲います。

 危険を顧みず今度は愛宕さんが探照灯を照射してくれました。

 その先にはハッキリと戦艦のシルエットが!

 もう一隻いたというの?!

 

 (煙突周辺で火災発生、後部副砲火災、舵故障、後部主砲火災発生、機関故障!)

 妖精達の悲痛な叫び声が次々と聞こえてきます。

 

 「霧島ぁーっ!」

 駆け寄ろうとする比叡を手で制します。

 使い物にならなくなった全ての砲塔、割れた眼鏡、ブッチャー顔負けの流血。

 何とか立ちあがりましたが、何かおかしいですね。

 自分の身長が縮んでいるのです。

 

 「霧島っ、霧島っ! 駄目、妖精さん、お願い!」

 比叡の悲痛な叫び声で理解しました。

 私が膝まで沈んでいるのです。

 無理もありません。

 僅か7分間ほどの間に9発の大口径の砲弾が突き刺さったのですから。

 

 「来るな、来るな…。来るなぁーっ!」

 比叡だけではありません、駆け寄ろうとした高雄や愛宕達を制します。

 

 「全員私から離れて下さい。そして川内さん、何としてでもあの戦艦を…、残りの巡洋艦4隻を沈めて海域の開放を、お願い、し、ます…。」

 朦朧とした意識の中、何とかそれだけは伝えます。

 比叡が何かを叫んでいるようですがもう私の耳には入ってきません。

 

 「比叡、帰ったら金剛お姉さまと榛名に伝えて下さい。霧島は皆の妹であれて幸せでしたと。」

 血で視界がぼやける中、気丈にも川内さん・高雄さん・愛宕さんが敬礼をしてくれているのが見えました。

 それでもよく見ると…、皆さん私の為に泣いてくれるというのですか…。

 私は姉達だけではなく仲間にも恵まれていたのですね。

 

 皆、さようなら。

 指令、不甲斐ない私をお許し下さい。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

ソロモン沖:高雄

 「離して、離しなさいよ!」

 暴れる比叡さんを無理矢理に引き連れ離れた場所に移動しようとしたのですが…。

 

 「私は艦の時に置いて行かれる辛さを知った、そして今度は置いていく辛さを知らなければならないの?!」

 

 「比叡さんだけだと思うの? それは霧島さんも同じなんだよ。」

 川内さんが珍しく真面目モード(失礼)で比叡さんの前に立ちました。

 

 「今、必死になって救助をしても相手の攻撃に阻まれてロクな救援活動が出来ないんだよ?」

 「それどころか救援活動に当たっている私達だって取り返しのつかない事になる可能性も高い。」

 「だったら相手艦隊を殲滅、もしくは撤退に追い込んで海域を開放する事だよ。」

 そう言うと川内さんは踵を返し敵艦隊の砲雷撃戦を再開しました。

 

 「川内さんの言う通りねぇ。一刻も早く霧島さんの救援に移れるように頑張りましょう。それにほら、誰よりも強く頼もしい方が来てくれたみたいよぉ(笑)。」

 近づいてくる墳進音、そこには愛宕の言う通り霧島さんを抱えたアルカディア号さんの姿があったのです!




※さすがは大淀さんと北大路提督、夜戦となった時点で嫌な予感がしたのでしょう。
 ちゃんとアルカディア号にバックアップを命じていたようです!


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霧島2(アルカディア側)

※轟沈寸前でアルカディア号に救出された霧島ですが違う危険からは逃れられなかったようで(笑)。


柱島第七泊地指令室

 「大淀、霧島達からまだ接敵の知らせは無いのですか?」

 

 「はい、索敵機を増やしているみたいですが敵艦隊の居場所は掴めていないようです。」

 利根からは自身の索敵機がかなりの戦力を持った敵艦隊が航行しているのを発見したとの事。

 しかし誤報で艦隊を動かす訳にはいきません。

 送られてきた偵察写真を確認すると確かに航跡が6本確認できます。

 このソロモン沖付近に他泊地や基地の艦娘を含む味方艦隊が航行しているという話はありません。

 従って必然的に深海棲艦である可能性が高いのです。

 

 「提督、これ以上は時間的にはギリギリです。どうされますか?」

 大淀が外に目をやりながら私の判断を求めてきました。

 私も史実としてのソロモン沖海戦で今回のメンバーである比叡・霧島・高雄・愛宕・川内・夕立がどういう運命を辿ったかは知っています。

 なので迷うことなく泊地に帰投を命じる事にしたのですが…。

 

 「提督、艦隊が敵艦隊と接敵!」

 最悪の報に外を見ると殆ど夜の帳が降り始めており、間違いなくこれは夜戦です。

 恐れていた事態が起こってしまったのです。

 

 「提督!」

 

 「ええ!」

 大淀と目を合わせ頷き合うと迷うことなく彼の部屋に内線を入れました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

デスシャドウ島アルカディア号自室

 部屋でくつろいでいると指令室にいる花火から呼び出しが掛かった。

 指令室に入ると花火も大淀もいつもとは様子が違う。

 何というか二人ともいつもの明るい様子が全くなく思い詰めたような顔をしている。

 

 「どうした二人とも?」

 

 「急いで夜戦に行って下さい!」

 大淀の表情に一切の余裕がない。

 一体どうしたというのだろう?

 

 「夜戦?」

 意味が分からず怪訝な顔で聞き直すと、比叡・霧島・高雄・愛宕・川内・夕立達との夜戦に向かえという。

 比叡にはそれ程興味はないが、霧島は大淀と並ぶ眼鏡美人だし、高雄と愛宕といえば海外艦を含めた全艦娘の中でもかなり豊かなモノをお持ちではないか!

 それに川内は軽巡正室だし、夕立も駆逐艦とは思えないナイスバディの持ち主ですよ!

 そんな6人との夜戦となれば、むしろお断る理由が無い。

 なるほど、花火から表情が消えている理由が分かった。

 そりゃ、彼女からすれば自分以外の女と夜戦(意味深)をすると思うとニコニコなんてしていられないわな(笑)。

 しかしそれなら、何で他の女と夜戦しろなんて言い出したんだろう?

 しかも6人とだぞ?

 俺は急いで艤装を展開し(花火の気が変わらない内に)指示された座標へと向かった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

アルカディア号戦場海域に到着

 「キャプテン、0.3宇宙キロ先で艦隊同士による夜戦を確認!」

 もう少しで大淀から指定されたポイントへと到着するという時に螢が叫ぶような声を上げた。

 浮かれていて気がつかなかったが、闇の中、目を凝らすと激しい砲火の火が見える。

 それ以上にレーダーに併設された収音機から霧島や比叡の悲鳴や川内の叫び声が。

 ここに至ってようやく鈍い俺にも事態が飲み込めた。

 このメンバー全員がソロモン海戦に縁のある者達だ。

 そしてこの戦いで舵をやられた比叡、そしてすぐに霧島もその後を追う事になったあの戦い。

 これは不味いと思った俺は大気圏内で出せる最大戦速で彼女達の元へと向かった。

 その間にも螢が霧島が絶望的な状況にある事を伝えてくる。

 史実では比叡が真っ先に脱落したはずだが、やはり史実とこの世界で起きている事は少しづつのズレがあるようだ。

 

 「霧島、大丈夫か! しっかりしろ、今助けるぞ!」

 俺は霧島に横付けすると今にも海中に没しようとする彼女の手を取り強引に引き上げようとするが…。

 くっ、重い!

 沈みかけの艦娘を助けることが出来ないと噂に聞いた事があるが、こういうことか。

 普通の艦娘ではとてもではないがこの状態の艦娘を引き上げる事など出来ないだろう。

 だが、この海賊戦艦アルカディア号のパワーをもってすれば何の事は無い。

 腕の次は後ろから両脇に手を入れ少しエンジンにパワーをくれてやると霧島のサルベージに成功した。

 

 「アルカディア号、さん…。どうして…。」

 

 「今はじっとしていろ。ドクター、霧島の応急処置を頼む。その後は久しぶりに暴れるぞ!」

 

 「「「「「「了解!」」」」」」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 応急処置の終わった霧島を抱き抱え少し離れた5人の所へと向かうと真っ先に愛宕が気付いてくれたようだ。

 彼女によると霧島がここまで集中砲火を浴びたのは探照灯を照射してしまったせいだという。

 何でも艦の時代に比叡がソレが原因となって沈んでしまった事を思い出したらしい。

 で、代わりに自分がやったと…。

 本来ならデコピンでもかましてやりたいが、思いやりを持つからこそともいえるだろう。

 後は金剛に任せて俺は敵艦隊の撃滅に努めるとするか。

 霧島を抱きかかえたまま、相手艦隊の上空へと到達すると真上から一気に探照灯を照射する。

 相手艦隊もまさか真上から通常の何倍もの明るさがある光が降ってくるとは思わなかったのだろう。

 何が起こったのか分からないという表情を見せていたがやがて狂ったようにこちらに攻撃を始めてきた。

 だが、ヤツラがどれだけ足掻こうとこのアルカディア号の重装甲には傷一つ付けられない(笑)。

 逆に巡洋艦3隻はパルサーカノンの一斉射により海底へと還っていった。

 逃げようとする残りの戦艦もこのアルカディア号の夜戦(意味深)を邪魔してくれた罪は重い、あの世で後悔するがいい。

 

 「乾杯だ、貴様の確実な死に!」

 某塾の巨大な日本刀を持つ2号生筆頭の台詞と共に主砲を向ける。

 ちなみにその時の諦め切ったレ級の顔はなかなかの見物だったな(笑)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

金剛型姉妹の5人目?!

 「ヘーイ、ミスターアーケディア! 霧島は無事ネー?!」

 泊地に帰投すると真っ先に飛んできた金剛が霧島を入渠場へと金剛が連れて行く。

 

 「アルカディア号さん、よく皆を助けてくれました。ありがとうございます。」

 

 「もう少しで史実のソロモン海戦をなぞるところでした。本当に感謝以外ありません。」

 花火と大淀の二人が深々と頭を下げる。

 いや、これぐらいの事は何ともない、またいつでも頼ってくれと返答したが何とも面映ゆい。

 間違えても意味深の夜戦と勘違いし、突撃一号をたんまりと格納庫に詰め込んだ上、喜び勇んで飛び出して行きましたなどとは言えん…。

 

 明け方、トイレからの帰り金剛型の巫女服を着た一人の別嬪さんとすれ違った。

 すれ違う時に軽く会釈をしてくれたのだが、あんな人いたっけ?

 艶やかな黒髪ショート、金剛型の証でもある長くキレイな脚、バストも爆乳過ぎず丁度いい感じだ。

 いっぺんに眠気が覚めた俺は慌てて振り向くも女性はその先の階段に消えており肩を落としながら部屋に戻る事になった(泣)。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

アルカディア号自室

 その夕方、部屋で金剛型5人目に付いて考えているとドアがノックされた。

 ドアを開けると焼いたスコーンを持った金剛が立っていた。

 いや金剛だけではない、姉妹全員で来てくれているようだ。

 

 「オゥ、ミスターアーケーディア! 昨晩は霧島を助けてくれて本当にアリガトウネー!」

 

 「構わん、あの程度どうという事は無い。とにかく間に合ってよかった。」

 丁度いい、明け方に見た金剛型5人目について聞いてみよう。

 

 「あー、ところでお前達に五人目というのは存在するのか?」

 

 「いいえ、私達金剛型は4人だけです。一体、なぜそんな事を?」

 榛名の問いに明け方の事を話すと全員が顔を見合わせた。

 

 「ヘ、ヘーイ、いくらミスターアーケディアといっても気味の悪い冗談は良くないネ。おかしなことを言わないで下サーイ。」

 気味悪がる金剛だったが、隣にいた榛名がハタと何かに気付いたようで、ニヤニヤしながら姉である金剛に何かを耳打ちした。

 それを聞いた金剛はポンと手を叩くと比叡と霧島を呼び寄せ小さなサークルを組むとこちらを気にしながら何かコソコソ話し始めた。

 何を話しているのかはほとんど聞こえなかったが、やけに霧島の名前が何度も出て来る。

 さらには金剛の大丈夫ネー、とか榛名は大丈夫だと思います、とか聞こえてくる。

 当の霧島は『ええ…』、とか『でも…』、とかこちらをチラチラと見ながら何か恥ずかしそうにしているが…。

 やがて金剛はこちらを向くと、私達には5人目はいませーン、何かの見間違いですネーとニヤニヤ。

 

 「い、いや、でも確かに…。」

 私達は気合入れて4姉妹です、と比叡。

 いやそれは気合入れても入れなくても変わらないだろ…。

 しかし、ここまで頑なに5人目の存在を否定されてしまってはこれ以上食い下がる事は出来ない。

 諦めて踵を返そうとした時、金剛に呼び止められた。

 

 「ヘーイ、ミスターアーケーディア。」

 

 「ひょっとしてアルカディア号さんが見た黒髪ショートの別嬪さんとはこんな感じでは無かったですか?」

 榛名の問いに後ろを向いていた霧島が顔に手をやる。

 そして眼鏡を外すと恥ずかしそうにこちらを向いた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

霧島、アルカディア号自室に取り残される?!

 「あー! あーあー!」

 アルカディア号さんが驚いています。

 榛名の言う通り、彼の言っていた5人目とはやはり明け方に入渠ドックから出て自室へと帰る私の事だったのですね。

 お姉さま方は、ヘーイ、霧島、上手くやるんですヨ、とか榛名は2番目でも大丈夫ですとか言って私を置いて自室へ帰ってしまいました。

 あとはお決まりの…、というヤツです。///

 ただ、数少ない男性からの寵愛、という事で私も何かが外れてしまい幾度もお願いする事になってしまったのですが、もうダメかと思っても私の脇に顔を埋める度にまた彼の分身は元気になるのです。

 さらにそれからもストッキングの足先(加圧ブースト)で際限なく主砲身が仰角を取り戻すのに味を占めた私は明け方近くまで彼を求めてしまいました(笑)。

 北大路提督と翔鶴さんが話しているのをチラッと盗み聞ぎした時はまさか、と思いましたが…。

 だって、ロングブーツのせいでかなりの恥臭なんですよ?!

 でも私達4姉妹が悩んできた事がプラスに転じた瞬間です。

 私の計算ではこれは大きな武器になりますね。

 

 おかげで翌日はお姉さま方の視線よりも北大路提督と翔鶴さんからの視線が痛かったです。

 あの分では今晩と翌晩も彼に休みは無いでしょうね(てへっ)。

 




※霧島さんは今晩(北大路提督)、翌晩(翔鶴)だけの予想を立てているようですが螢さんが甘いですね。
 赤城さん、加賀さん、日向さん、祥鳳さんを始め、次は大和さん、陸奥さん、果ては川内もカレンダーに印をつけているみたいですから(笑)。


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大和1(ホワイトデー・ラプソディー)

※お待たせいたしました、ちょっと(かなり)過ぎてしまいましたが
 ホワイトデーが題材です(笑)。
※アルカディア号に危険が迫りつつあります!



柱島第七泊地空母寮2Fロビー(翔鶴)

 「ここにいたのか。お前だから聞くがお返しで欲しいモノはあるか?」

 ロビーでファッション雑誌を見ていた私(翔鶴)の姿を見つけるとアルカディア号さんと台羽さんが私に近寄って来てこんな事を訪ねてきました。

 イーヤッホウッ!

 何せ、私は全艦種正室。

 どうせなら私が望むモノを上げたいと思うのは当然だという事ですね、分かります。

 

 「え?! 私、貴方からのお返しであればなんでも構いません、こちらから指定するなんてそんな!」

 ですが、ここは顔を赤らめながら優等生的な返答をしておきましょう。

 これでまた彼に対する私の好感度がアップです!

 ところが丁度、一航戦の先輩(赤鬼&青鬼)が階段を上がって来たのです。

 思わず心の中でチッと舌打ちをしてしまいましたが何と青鬼(加賀、いえ加賀さん)から思ってもみない援護射撃が!

 

 「良いんじゃないかしら? アルカディア号さんがああ言って下さってるんだし。」

 

 「加賀さん?!」

 偶にはこのイケず、いえ逝けず、ああ二回も間違えてしまいました(笑)。

 イケズ空母も役に立つのですね。

 今回は素直に感謝する事にしましょう。

 

 (素直? ドコが?)

 舞鶴第一鎮守府へと演習に出向いている瑞鶴の声が聞こえた気がしましたが、恐らく気のせいでしょう(笑)。

 

 「私と加賀さんは…、白いヤツ(意味深)(子種)でお願いしますね。」

 なるほど、先程のは全然私への援護射撃などではなく自分達が欲しかっただけ、と…。

 

 「では私もあの…、ソレでお願いします…。」

 ちょっと恥ずかしそうにしながら同じモノをリクエストします。

 鬼共(一・二航戦)に対する怒りを露わにしたり、がっついたりしては好感度を下げてしまいますからね。

 しかし、何が白いヤツ(子種)ですか(ケッ)、アルカディア号さん、お二人の部屋にはRX-78(連邦の悪魔)のMGでも部屋に放り込んでおきましょう。

 

 「分かった、白いヤツ(マシュマロ)だな。」

 

 「「「え、本当に宜しいのですか?!」」」

 自分で言っておきながらなんですが、そんな銀色のヤツみたいな感じで軽く言われても…。

 まあ彼の夜戦火力は何度か身をもって知っていますし私達三人を連続で相手しても兵器、いえ平気なのでしょう。

 早速、私達はセ○ールやワ○ールのカタログを手に取りあーだこーだと夢中になりました。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

柱島第七泊地調理室(間宮

 私と鳳翔さん、伊良湖さんに大鯨さんが夕食の仕込みを始めたお昼過ぎ、アルカディア号さんと台羽さんがやってこられました。

 軽い挨拶を交わした後、彼は私にマシュマロの作り方を聞いてこられましたのです。

 

 「マシュマロ…、ですか?」

 

 「ああ、そういえばもうじきホワイトデーですもんね(笑)。」

 伊良湖さんも手を拭きながらコチラにやって来ました。

 

 「うむ、翔鶴や一航戦に聞いて回ったのだが、白いヤツが欲しいという事だったのでな。」

 でもどうして三人ともあんなに恥ずかしそうにしてたんでしょうね、と首を傾げる台羽さんを見て思わず伊良湖さんと顔を見合わせてしまいました。

 だって、御三方が仰っておられる白いヤツって絶対マシュマロではなく、その…。

 伊良湖さんに目で合図を送りますが、凄い勢いで首を横に振られてしまいました。

 まあ、普通に考えてそんなこと指摘できませんよね。

 それに本当にマシュマロ、っていう事も無いとは限りませんし…。

 そこへ夕食の下拵えを済ませた鳳翔さんが、夜の後片付けが済んだ後でしたら、調理場をご自由にお使い頂いて結構ですよと言いながら出てこられました。

 

 「全員分となると結構な時間が掛かるでしょうから、休憩にはそこの和室をご自由にお使い下さい。」

 調理室には休憩スペースとして小さな和室が隣接してあるのです。

 それを聞いたアルカディア号さんがヒョコッとその和室を覗き込みました。

 

 「これは…、凄いゴボウだな。」

 畳に転がっていた細長い大きな茶色いモノをみた彼が驚きました。

 

 「あ、いえ、これはその…、違うんですよ!」

 どうしたのでしょう、鳳翔さんがあそこまで慌てるなんて珍しいですが。

 台羽さんも不思議に思ったのでしょう、同じようにゴボウをジッと見つめていたのですが顔色が変わりました。

 私もあれが何だか分かった途端悲鳴を上げそうになったぐらいです。

 あれはゴボウなんかじゃありません、魔地機関長です!

 搾り取られてカッスカスになってはいますが間違いないです。

 

 「あらやだ、私ったらこんな所に転がしたままだったなんて。」

 鳳翔さんは足先でその細長いモノを部屋の隅へと転がしました。

 それでも何か言いたそうな私達に誤魔化せないと思ったのでしょう、観念したのか白状しました。

 

 「嫌ですねぇ、昨晩チョッとここで頂き過ぎてしまっただけですよ(笑)。」

 その時、私は初めて目が笑っていない鳳翔さんの笑顔を見ました。

 これ以上、イけない、間違えました、いけない、全員がこの件についてはこれ以上触れる事はありませんでした。

 だってイケないどころか逝ってしまったらシャレになりませんから…。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

柱島第七泊地戦艦寮大和型自室

 「うー、寒い寒い。」

 トイレから帰ってくると急いで炬燵に肩まで潜り込みます。

 食べる物や飲み物であれば武蔵に頼んだりできるのですが流石にこれ(トイレ)は代わりに行ってもらうわけにはいきません。

 しかも妹(武蔵)は瑞鶴さん達と共に舞鶴第一鎮守府へと演習に出張中。

 ようやく少し温まってきた私は膝まで下げていたパンストをモゾモゾと上げ始めました。

 ですが寝転んで炬燵に入っているためになかなか上手く引き上げることが出来ません。

 立てばいいのですが、やはり少しとはいえ炬燵から出たくはありません。

 え、トイレで上げて来い?

 だから寒いんですって!

 ズボラ?

 ええ、それで結構です。

 大和型だっていうだけで艦隊の模範となるように振舞うのが当たり前みたいに思われている事がそもそも迷惑なんです!

 と、折り悪くドアをノックする音が。

 

 「ちょっと待って。今炬燵の中でパンスト上げてるの。ホント、この時期はトイレも大変だわ。」

 そうなんです、この時てっきり私はドアをノックしたのが隣の陸奥さんだと思い込んでいたのです。

 よく考えれば割と朝ゆっくり目な彼女がAM08:30に他人の部屋を訪ねてくるなんて事は無いのですが…。

 もう一度、ドアをノックする音が聞こえました。

 

 「ハイハイ、開いてるから入って来て…。って、アルカディア号さん?!」

 まだ完全に引き上げていないパンストと格闘しているとドアの外にはアルカディア号さんが立っていたのです。

 

 「やだ、言って下さいよ、もう…。」

 終わった…。

 私、終わってしまいました…。

 せっかく戦艦の正室に選んで頂けたというのに(泣)。

 寝転がりながら炬燵の中でモゾモゾとやっている姿をバッチリと見られてしまいました。

 彼もどう対応したらいいのか分からずお互い目が泳いでいるこの状況。

 この状況を打開しようと思って下さったのでしょう、部屋を見渡した後、武蔵はと尋ねてきました。

 

 「武蔵なら舞鶴第一鎮守府へと演習に行っていますよ。」

 と、慌ててお茶を出そうとしたのですが慌てて立ち上がった途端、派手にすっころんでしまいました。

 原因はパンストを完全に上げ切る前に立ちあがったからというのは内緒です、ええ絶対に!

 

 「ところで大和。お前、ホワイトデーに何か欲しいモノがあるのか?」

 私のおでこに貼られた白いバッテンから目を逸らしながら彼はこんな事を聞いてきました。

 

 「ええ?! リクエストを聞いて頂けるのですか?!」

 欲しいモノならありますとも!

 ええ、貴方との赤ちゃんがどうしても欲しいです!

 全艦種&空母枠の正室と側室筆頭の四名は以前のようにガツガツする事が無くなりました。

 恐らく女にして頂いた(オボコ卒業)と、そういう事なのでしょう。

 ここは連合艦隊旗艦として負けていられません!

 

 「大和?」

 両の人差し指をチョンチョンし始めた私を見て彼が訝しげな顔に。

 

 「あの、私、小さな可愛いの(赤ちゃん)が欲しいです…。」

 俯きながら時々、上目遣いで彼に目を向けます。

 

 「分かった。小さな可愛らしいヤツ(ぬいぐるみ)だな?」

 

 「本当ですか?! では一筆お願いします!」

 蛮勇を奮ったつもりだったのですが、彼はいともアッサリと了承して下さったのです。

 これには私の方が驚いてしまいました。 戸惑う彼でしたが、そんなのは関係ありません。

 では楽しみにしていますね、と彼の手を取ります。

 さらに翔鶴さんと一航戦の御三方は白いヤツが御所望なので同じのでもいいし、何なら茶色いヤツ(クッキー)でもいいぞと仰って下さりました。

 茶、茶色いヤツ、ですか?!

 白いヤツ(液体)なら私も欲しいですが、まだその茶色いヤツ(固形ブツ)はハードルが高すぎます!

 っていうか、私そこまでアブノーマルじゃありませんから!

 彼が帰ると私は急いで母港であった呉や広島の特産品である牡蠣に浜名湖名産のウナギ、たどり着けなかった沖縄からハブ酒を取り寄せる手続きを済ませました。

 これで彼を迎え撃つ手筈は全て整えることが出来ましたね。

 ふふ、(子宝)を授かったら全艦種と空母の正室と側室筆頭の4人が歯噛みするのが目に浮かびますね。

 金剛さんから教えてもらった格言、まさに『All is fair in love and war.』です。

 この大和、戦艦のトップ、いえ連合艦隊旗艦として負ける訳にはいきません!




※茶色い固形物:半流体だってありそうですが…。
 いやそれこそ、これ以上はいけないってヤツです。

※金剛さん:同じ英国繋がりとしてやはりこの格言を知っていたみたいですね。


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