ワールドフロントライン (K-Rex-V)
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第一話「混沌の内戦」
「とっても素敵な海だと思わない?ちょっと海水浴でもしてみる?」
「ええ、そうね…空に戦闘機がいなければね…」
そう言って空を見上げる彼女たちの視線の先には、哨戒任務を終えて島の滑走路に着陸しようとする戦闘機の姿があった。
現在反逆小隊の4人はロシアのカラ海にて青い海で囲まれ、人工的に造られ緑が美しい諸島に来ていた。その海域は崩壊液によって汚染されていないエリアのため、現政権の新ソ連(本編現在の正規軍及び政府等)によって壊滅的被害を受けた旧ロシア政権派が、この島々を軍事基地として改造・利用しており、ロシア各地に散らばった友軍を集結させ反撃の機会を伺っていた。
しかし正規軍も様々な方法(スパイや拷問等)で、この情報を取得しており、旧ロシア政権派の戦力が整う前に島を攻めて、その後の島に集結しようとしていたロシア各地の残党軍を各個撃破するという作戦が立案され、今日作戦が開始されようとしていた。
そして今回、反逆小隊がアンジェリアから受けた命令は、この戦闘に乗じて後の作戦に邪魔な存在となる正規軍のある高級将校を暗殺せよ、というものだった。
「それにしても、何故わざわざ将軍が前線に出る必要があるのでしょうか?」
「馬鹿ね94、あの島には将軍である自分でしか分からない物があって、それは自分の身を危険に晒してまで欲しいナニカがあるのよ」
「ナニカとは…?」
「さぁ?でもナニカがあるのは間違いないわ…M4もそう思わない?」
AK12がそう言いながら後ろに振り返ると、黒髪と桃色の髪をした2人の女性がいた。
「私はただ命令された任務を遂行するだけです」
M4と呼ばれた黒髪の女性が素っ気なく答える。
「お喋りはそこまでにして…そろそろ時間よ」
桃色の髪の女性がそう忠告するが、AK12からニヤけた顔をされて機嫌を悪くしてしまった。
「あら残念、でもどうせ来るのは大半が無人機よ?もうちょっと気楽に行きましょAR15」
「私はアンタのそういうところが嫌いだ」
AR15はそう言ってAK12を睨みつけるが、彼女は薄く微笑むだけだった。
「皆さん、備えて下さい…来ます」
AN94が見上げる方向から正規軍の戦闘機型ドローンが大量に飛来してきた。それに迎撃し始める島の対空兵器達。
島の滑走路からは次々と旧ロシア政権派の有人戦闘機が青い空に飛び立つ準備をしていた。
≪こちら管制塔 ザヴォディーラ隊からタキシングを許可する≫
≪了解 我が祖国に勝利を!≫
Su-30の編隊が青い空に上がり、眼前に無人機の大軍を視認する。
≪ドローンばかりだと?舐められたものだな≫
≪隊長!我らの力を椅子に引きこもっている連中に見せつけてやりましょう!≫
≪当然だ 同志諸君!祖国に恥じぬ戦いを見せてやれ!≫
≪≪≪ナシュ ウラーー!!!!≫≫≫
旧ロシア政権派の元軍人達の士気は高く、皆祖国を取り戻すためならば、己の命を捨てる覚悟もあった。
≪ザヴォディーラ1 エンゲージ!≫
≪ザヴォディーラ5 エンゲージ!≫
≪ザヴォディーラ14 エンゲージ!≫
ついに戦闘が始まった。旧ロシア政権派のパイロット達は精鋭揃いのようで、その練度の高さを生かし、無人ドローン相手にAIにとっては若干だが苦手分野である格闘戦を持ち込んでいた。さらに地上の対空砲火も味方機に当てないように弾幕を張り、数機を撃墜している。
「あら?これは少々不味いわね」
「同感ね、このまま彼らが優勢だとヴラジミール准将が上陸できないわ」
旧ロシア政権派残党軍は予想外にも正規軍相手に勇戦していた。それに肝を冷やし始めた正規軍はドローンの追加投入しようとしていた。
「やはり一筋縄ではいかぬか…」
「准将、この艦から制御するドローンが増えてしまうと、この艦に搭載されている光学迷彩が機能しなくなります」
「構わんよ…私もすっかり歳でな…そういうったハイテク機能がイマイチ信用ならんのだ」
そう若い士官に話す熟年の男は反逆小隊の暗殺対象であるヴラジミール准将であった。今回の作戦にあたりヴラジミール准将は旧友であるカーター将軍から譲り受けた最新式で光学迷彩付きのステルス駆逐艦に乗り、そこからドローンを制御していた。本土より直接前線に出てドローンを制御しているので、タイムラグが少なく相互通信が行えるためにドローンの動きが活発だった。
「しかしステルス機能も弱まり、敵にレーダーで発見される恐れが…」
「だからといって戦力の随次投入は愚策だよ君…」
「はぁ…」
「それに軍人になった以上…後世に語り継がれるほどの戦果を残し死ぬか、何もできぬまま幾多の歴史の一つとして埋もれ死ぬかのどちらかしか無いのだ…今更逃げも隠れもせんよ…残りのドローンを全て出せ!」
「はっ!」
艦の射出ポッドから吐き出されるドローン達…無人機達はすぐさま交戦エリアに向かい始めた。
≪2時の方向から多数の反応が…ドローンの増援だ!≫
≪敵の増援は俺達ザヴォディーラ隊とマリーナフカ隊でやるぞ≫
≪ウィルコ!スクラップに変えてやる≫
≪ここのドローンは我々2隊で抑える 気にせずに行け≫
≪了解!…死ぬなよ≫
戦力を分け、増援の迎撃にあたる残党軍達。
≪マリーナフカ4と5は右から回れ!挟み撃ちにするぞ!≫
≪こちらザヴォディーラ6!後ろに付かれた!≫
≪FOX2!…命中を確認≫
≪助かった…礼を言うよザヴォディーラ7≫
≪……なら後で美味いボルシチを作ってくれ 久々に食べたくなった≫
≪Да 熱々のボルシチをご馳走してやるよ≫
互いに連携し合いながらも奮戦していたが、徐々にドローンの数に押されていく。
≪数が…多すぎる!≫
≪待ってろ!今助け…ザーッ≫
≪マリーナフカ2!≫
≪ちくしょう!被弾した!…ザーッ≫
≪ザヴォディーラ7がロスト!くそったれ!≫
≪俺が囮になる!AIには出来ない飛び方を見せてやる!≫
≪エンジンに食らった!制御不能!イジェ…ザーッ≫
数的不利な状況でもなんとか奮戦していた旧ロシア派の戦闘機達だったが、ドローンによる圧倒的な数の暴力によって徐々にその数を減らす。だが…。
≪こちら第207飛行中隊所属のスラーヴァ隊だ 我々は独自の判断でここまで来た そちらの指揮下に入る≫
≪第150飛行大隊のヴァローナだ 我が隊も同じだ≫
有人戦闘機の編隊が多数現れ、次々と援軍の無線が入る。実は数時間前にドローンの大群を観測したロシア本土にいる残党軍が、元々集結予定であったこの島をやらせるわけにはいかないと、各地の基地から足の速い戦闘機を先に援軍として送り出していたのだ。敵ドローンを視界に捉えた友軍達は、そのまま交戦中のエリアに次々と突っ込み、格闘戦を繰り広げる。
≪援軍か!助かる!≫
≪なに気にするな…共に勝利を!≫
旧ロシア派の援軍によって形勢は逆転、ドローン側の連携が崩れた。
「准将…このままでは…」
「うむ…敵戦力が集中してしまったか…できれば例の物を奪取し、直接カーターに渡したかったがな…」
「なにっ!?ドローンの反応が急激に減っているだと!?いくら敵に増援が来たからといって…」
「青いデジタル迷彩のSu-37だ!特に機体に9と書かれているヤツだ!なんてスピードだ!」
青いデジタル迷彩のSu-37の編隊…それは先程援軍として駆け付けたスラーヴァ隊だった。
そして、その9番機が巧みな機動でドローンを撃墜していく。
≪スラーヴァ9 フォックス3≫
≪こちらスラーヴァ4 敵機の撃墜を確認した お見事だユーリ≫
≪スラーヴァ9だ 名前で呼ぶな ディミトリ≫
≪お前だって名前で呼んでるじゃねぇか≫
≪うるさい それにほら 喋ってる暇は無さそうだよ≫
≪何言って…ヒュー♪あんな所に駆逐クラスの艦があるじゃねぇか≫
彼らが偶然発見した艦はヴラジミール准将が乗っている艦だ。
≪もしかしたらアレがドローンを制御しているかもしれない≫
≪了解 いっちょやるか!全機続け!≫
スラーヴァ隊がドローンの群れを突破しながら、ヴラジミール准将の乗る駆逐艦に迫っていた。
「准将!奴らに我が艦が見つかりました!こちらに向かって来ます!」
「ぬぅ…やはり艦のステルス機能などあてにはならんな…ミサイル駆逐艦も持ってくるべきだったか」
「主砲一番二番…撃て!」
駆逐艦から戦闘機群に向けて主砲が放たれる。この駆逐艦は光学迷彩とステルス機能を獲得する代わりにミサイルを犠牲にしてしまったために防空能力が極端に低いのだ。
≪くそっ ラダーに当たった!離脱する≫
≪了解!スラーヴァ2!離脱した8のポジションに就け!≫
≪分かった!≫
≪ターゲットロック!…撃てます!≫
≪……全機攻撃開始!飽和攻撃だ!≫
駆逐艦からの砲撃を掻い潜るスラーヴァ隊からミサイルが発射される。
「ミサイル多数接近!」
「近接防御急げ!」
「駄目です!間に合いません!」
駆逐艦の近接防御火器によってミサイルがいくつか落とされるが…3本が駆逐艦に命中し、艦がゆっくりと沈みだす。
「機関室にて浸水発生!」
「艦が傾斜しています!」
「ここまでか…そこの君たちは脱出しなさい」
「そんな…自分もここで!」
「若い者はこんな場所で死ぬべきではないのだよ…退艦したまえ」
「くっ…今までお世話になりました!」
ヴラジミール准将が若者達を優先的に脱出させると艦内で爆発が起き始める。
「すまんなカーター…後は任せたぞ」
そして駆逐艦はとうとう弾薬庫に誘爆し、真ん中から真っ二つに折れた。
≪敵駆逐艦の撃沈を確認!≫
≪ドローンも墜ちていくぞ!ざまぁ見やがれ!≫
≪我らの勝利だ!ウラー!≫
≪≪≪≪ウラーー!!≫≫≫≫
制御を失い青い海へと墜ちていくドローン達を見て勝利の雄叫びを上げる旧ロシア派の残党兵士達。そして…
「ねぇ12…これって私たちの出番は無い感じかしら?」
「そうみたいね…私としても、これは予想外だわ」
「まぁ…ヴラジミール准将が死んだだけでも良しとしましょうか」
予想外の結果に思わず戦闘機達が飛び続ける空を見上げる反逆小隊。
正規軍に物量で負けるはずの残党がまさかの番狂わせ。旧ロシア派に各地から大勢の援軍がやって来て、尚且つ自分たちが暗殺する予定であったヴラジミール准将まで彼らが殺したのだ。
「ハァ…皆帰りましょう…もうここにいる意味は無いと思えます」
「そうねM4」
「私も同意します」
「それもいいけど…折角だし日光浴でもしていかない?きっと楽しいわよ?」
「するなら一人でして頂戴」
今回彼女達は出番がほぼ無く、弾の一発すら撃っていないが旧ロシア政権派によって准将は見事死亡したため、アンジェに伝えるべきと判断し帰還を決める反逆小隊。
「あの青い機体…特に9番機…危険ね」
「何か言いましたか?12」
「いいえ…何でもないわよ」
「そうですか…では帰還しましょう」
しかし、これは始まりに過ぎなかった。
後に旧ロシア派のこの小さな勝利と大きな復讐心から計画されたある物が、世界をも巻き込む戦争へと発展するのであった。
パイロットレコード
マトヴェイ・ダニーロヴィチ中尉 KIA
コールサイン:ザヴォディーラ7
AEG:45
所属:ロシア空軍第314航空団第8攻撃飛行隊
AIRCRAFT:Su-30M2
旧ロシア政権崩壊前にカーター将軍率いる新ソ連政権派との大規模な戦闘に参加し敵地上部隊多数とイージス艦1隻に深刻な損害を与えた。この戦いで彼はジューコフ勲章を授けられた。なお旧ロシア政権崩壊後に治安維持を担当していたG&Kの人形によって犯罪者(罪状は不明)として捕まった当時11歳の息子が処刑されており、最期まで息子が大事にしていたSu-30のデフォルメ化されたストラップを常に身に着けていた。息子の好物はボルシチだったため、息子に美味しいボルシチを振る舞おうと、基地の食堂内でボルシチの研究をしている彼の姿がよく見掛けられ基地では一つの名物となっていた。
ロシア語調べるの結構大変でした...
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第二話「残存兵力結集」
先の戦闘の報告を受けたアンジェリアは信じられないとばかりに、帰還したばかりの反逆小隊に目を向けた。
「敗残兵?…バカな、連中相当な練度を積んでるわよ」
「AR15の言う通りです。彼らの動きはベテランレベルのものでした」
「私も同感です」
「ふふっ…私から見れば、彼らは死に急いでるように思えたけどね…」
それぞれ思い思いの感想をアンジェリアに述べる。
「まっ、彼らも腐っても元軍人達だし…練度は積んでいるか…それに死に急いでるか…」
そう言って顔を暗くさせるアンジェリアにAK12が普段は閉じている目を見開いて分析し始めた。
「あら?何か心当たりがあるのかしら?…大体想像はつくけどね」
アンジェリアはため息を吐く。
「まぁね…旧ロシア派がカーター将軍達新ソ連派に敗北したとき、彼らの家族や友人を表向けにはスパイ容疑で拘束されられたわ」
「でも実際は拷問の末に処刑したか、過酷な地域で使い捨て要員として労働させられたか…そうでしょ?」
「正解だ…それを知った彼らは怒り狂い、そして必ず新ソ連政権に復讐すると誓ったそうよ…」
「それは…」
本来ならば守るべきはずの民間人が、虐殺も同然の扱いを受けていることに、言葉が詰まるAN94。
「だけど勘違いしないで!同情出来る部分もあるけど、彼らもロシア国内各所でゲリラ的活動を行い、それに巻き込まれた民間人もいる限り、彼らも例外無くテロリストだということを忘れるな!」
「「「「了解」」」」
力強く断言するアンジェリアに頷く反逆小隊。
だが突然、アンジェリアの端末にメールが届いた。差出人は書かれておらず、不信に思いながらもメールを開く。
「……」
「どうしましたか?」
「…すぐに出発の準備よ…今度は私も同行する」
「やれやれ…人形使いが荒いわね」
メールを見てすぐにどこかに出発を決めるアンジェリア。休憩の間も無く、出撃させられることが決まった人形たちは、また面倒な任務が始まったと思いながらも出発の準備に取り掛かった。
一方旧ロシア残党軍の軍島近くでは、各地に散らばっていた旧ロシア派の海軍が徐々に集結しており、一つの艦隊が出来つつあった。だが、それを阻止したい新ソ連政権は数時間置きに正規軍のドローンをあの島に送らせて、その度に迎撃の為に残党軍の戦闘機が発進し、戦闘を行っていた。
≪アリオール5 FOX2!≫
≪奴ら動きにラグがあるぞ!右から攻める!アリオール3、4は俺に続け!≫
≪了解 集結中の味方艦は俺達が守るぞ!≫
Su-57が敵ドローンから島に合流中の味方艦隊を守るために交戦している。ドローン達はロシア本土から遠距離で制御されているせいか、ヴラジミール准将のドローンよりも動きが悪かった。
≪くそっ!…ドローン相手じゃ妹の仇にすらならん!≫
≪そう焦るなよアリオール4 いつか復讐するチャンスがやって来るさ≫
連日やってくるドローンの襲撃で、復讐したい相手はロシア本土にいる新ソ連政権の人間であって機械が相手では無いという旧ロシア派残党兵達にとっては、不満が溜まる一方であった。
≪分かってるさ3≫
≪なら良いんだが…ん?待て…2時の方向から何か2つやって来る!UAVじゃないぞ!≫
アリオール3の言葉を確かめるべく、アリオール4もレーダーを確認すると確かに航空機の反応が2つあった。しかも、ロシア式のIFFでは味方か識別出来なかった。
≪IFFに反応しない?…まさか他国の…≫
≪機体が見えて来た!なっこれは…タイフーンか!?≫
段々とはっきり見えてくる所属不明機…それは欧州連合が主に所有している機体だった。
≪なぁ…これで良かったと思うか?≫
≪閣下は我らに使い捨ての駒になれと仰られた…ならばその使命を果たすのみ≫
≪そうだな…せめて祖国の民が健やかに生きられることを祈る≫
≪俺もそう願うよ……オプファー隊 エンゲージ!≫
黒のタイフーン2機が一気に加速し、前方にいるアリオール隊にミサイルの狙いを定める。
≪ちくしょう!ロックオンされた!回避する!≫
≪くっ俺が相手をする!≫
≪アリオール4!?…無茶だ!止めろ!≫
仲間からターゲットを外させるために、アリオール4がタイフーン2機相手にドッグファイトを挑む。
≪このタイフーン…動きが良い!このSu-57の機動について来れるとは!だが!≫
アリオール4が減速しながらクルビットを行い、自分を追っている機体の後方へと移動…
そして素早くターゲットにロックオンし、ミサイルを撃った。
≪ジークハイ…ザーッ≫
タイフーンの片割れにミサイルが命中し、爆散していくが…アリオール4の目には、燃え堕ちるタイフーンの尾翼に鉄十字のエンブレムが映った。
≪馬鹿なコイツら!ドイツ軍だと!?≫
そう動揺したアリオール4にもう一機のタイフーンからミサイルが4本も放たれる。
≪ブレイク!ブレイク!≫
アリオール4はすぐにチャフを展開しながら回避するが、機体に1つ命中してしまった。
≪ぐっ まだこんなところで死ぬわけには…ザーッ≫
≪アリオール4がやられた!救助を!≫
アリオール3が仲間に救助を求めるが、彼の機体は無残にも爆発…誰がどう見ても即死だった。
≪即死だ!諦めろアリオール3!≫
≪クソがッ!仇は取る!!≫
他のアリオール達もドローンとの戦闘を終わらせ、徐々にタイフーンの周りを囲み、攻撃を仕掛けている。
≪良い腕だが…これで終わりだ!≫
攻撃を回避仕切れなくなったタイフーンは呆気なくミサイルを受け撃墜された。
≪ドイツ軍め…何を考えている≫
≪早くアリスタルフ中将に知らせないとマズイ≫
≪この情勢下で仕掛けて来るか…嫌な予感がするな≫
突然のドイツ軍の介入によって一気に緊張状態になる旧ロシア兵達…そして遠くからドローンで、この戦いを見ていた者達がいた。
「閣下、いかがでしょうか?」
「ああ…彼らは良く忠誠を示してくれた」
閣下と呼ばれた男は金髪赤目で細身の男性だった。さらに彼が着ている軍服はナチス時代のデザインにそっくりだ。
「新ソ連政府軍に向かった隊も撃墜されたようです」
「そうか…彼らは見事役目を果たし終えた…そうは思わないか?」
「はっ、我らも彼らに恥じぬ戦いをせねばなりませんな」
「よろしい…ではこの基地の全兵士を集めよ」
「そう仰ると思い、すでに集合させております」
「ほぉ…素晴らしいな!お前はいつも私を満足させてくれる」
「恐悦至極にございます」
男がそう満足そうな笑みを浮かべながら、席を立ち、兵士達がいる場所へと向かった。そうしてたどり着けば、屈強な戦士達が後ろに腕を組み、整列している。閣下と呼ばれている男は演壇に登り兵士達を見渡し、兵士達に向かって演説を行う。
「諸君!先刻、我がドイツ軍は4人の戦友を失った!
何故か?それは私が死ねと命じたからだ!私はこれから諸君にも同じことを命ずる!死んでくれと!
今、我らが愛するドイツは崩壊液によって国土の大半が汚染されている!もはや人が住める場所ではない!
食料も満足に得られないこのドイツでは、もはや民は苦しみながら死ぬしかないだろう!
…だが!そうはさせない!
例え、この先何世紀にも渡って非難されようが、どんな手を用いてでもドイツを救う!
…その為には諸君の死が必要だ…想像せよ!愛する家族が!恋人が!友が!苦しみ喘ぎながら冷たくなっていく姿を!
私に付き従う精鋭達よ!諸君は強い!他人の命を奪う資格がある!
故に…私は約束しよう!諸君の魂を以て民を必ず救済すると!
牙を研がれし者達よ!今こそ立ち上がり戦え!
我がドイツが誇る精鋭達よ!その身と魂を国に捧げよ!
…さぁ、私と共に我がドイツを救おうではないか!」
男の演説が終わると1人の兵士が一歩前に出る。すると他の兵士達も続々と続き一歩前に出る。そして兵士達は片腕を上げ…
「「「ハイル!ドイチュラント!」」」
このドイツ全土に響き渡らせんと、己の魂を震わせて力強く何度も連呼した。
「そうだ…それでいい」
男はそう冷たく笑うと、兵士達の叫びを背にしながら、広場を後にした。
パイロットレコード
エフィーム・ヴォルコフ大尉 KIA
コールサイン:アリオール4
AEG:35
所属:ロシア空軍第218航空団第12戦闘飛行隊
AIRCRAFT:Su-57
クラスノヤルスクでの戦いで旧ロシア派の友軍を攻撃中だった正規軍に対して補給物資の運搬をしていたG&Kの人形部隊に爆撃を行い、多大な損害を与えた。なお彼の両親はすでに他界しており、唯一の肉親であった妹は新ソ連政府に連行され拷問の末に死亡。彼が妹への誕生日プレゼントを買いに少し離れにある街へ出掛けている最中の出来事であった。
まだ何も進展してないのにドイツ軍が登場したよ!これからどうなるのかな!?(愉悦)
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第三話「緩やかに浸食する狂気」
「またこの島に来るなんてね」
「私は結構好きよ?この島ってとても綺麗じゃない?」
ため息混じりにそう呟くAR15と再び島の美しい景色を見れることに喜ぶAK12。
現在、反逆小隊とアンジェリアは旧ロシア派が拠点とする、あの島にまた来ていた。それは旧ロシア派残党のリーダーであるアリスタロフ中将からアンジェに会って取引をしたいと、アンジェリアの端末に秘匿メールで送られて来たからだ。
「内務省の者だな?アリスタロフ中将がお呼びだ、着いて来い」
十数人という少々大袈裟な人数で案内されるアンジェ達…旧ロシア軍人達は反逆小隊を信用しておらず、いつでも射殺できるように目を光らせていた。
数十分程歩き中将がいる部屋まで到着し、兵がドアをノックする。
「中将、失礼します。例の者達を連れて来ました」
「入っていいわよ~」
そう言われ、部屋に入ると…
「テロリスト達が住む楽園にようこそ!歓迎するわ!盛大に…ね?」
そこ居たのは女性というには、あまりにも大柄で筋肉質な体…薄く髪を残す程度には剃っている頭と眉は銀髪に染めており、少し薄く化粧もしている。唇には淡いピンク色の口紅をしていた。
「アリスタロフ中将…真面目な話をするときに女装はお辞め下さいとあれほど…」
「ちょっと!アリスタロフじゃないわ!アリスとお呼び!」
「中将、それは英国人の名前です」
「お黙り!」
部下に注意される目の前の化け物…いや、失礼…男はオカマだった。
「随分と個性的な趣味をお持ちのようで…ご存知の通り、私がアンジェリアです」
若干引きながらも挨拶をするアンジェ。
「あら嫌だわ!はしたない姿を見せてごめんなさい…私がここの残党軍を率いているアリス中将よぉ~」
「アリスではなく、アリスタロフ中将です」
挨拶しながらもしれっと自分好みの名前に変えようとするアリスタロフ中将だが、側近の部下に訂正される。
「んぅもう!細かい男はモテないわよ!」
「残念ながら私は既婚者ですので」
「知ってるわよ!…くっ、何で私には白馬の王子様が来ないのかしら!」
「筋肉モリモリマッチョメンの変態オカマだからでは?」
「誰が筋肉達磨の変態だこの野郎」
裏の性別がちょっと出ながらも、残党軍を仕切る将軍とは思えない会話を部下と繰り広げるアリスタロフ中将。
「中将、そろそろ本題に入っても良いでしょうか?」
無駄話が終わりそうにない中将達に話を切り出すアンジェ。
「そうねぇ…。まず貴方達を呼んだ理由は、現在内務省からMIA認定されてる貴方達がちょうど都合が良いから…ということを前提として話を聞いて頂戴ね?」
「………分かりました」
中将が部屋を暗くして、リモコンでスクリーンを起動させる。スクリーンにはロシアの地図が映し出される。
「私たちは現ロシア政府…新ソ連から政権を取り戻すという目的の為にクーデターを起こしている…ということは知ってるわね?」
「…勿論です」
中将の問いに頷くアンジェと反逆小隊の4人。
「貴方達には、これから2日後に決行する作戦に参加して欲しいの」
「…メリットは?」
「そうねぇ…これから襲撃する基地にリコリスのとある研究データが存在すると言ったら?」
「…ぜひ参加させて下さい」
「待って、まだどんな内容かすら聞いてないわよ?」
中将から提案されたメリットに作戦の参加を即決するアンジェにAR15が反対する。
「今説明するから落ち着いて。ヴォロンツォヴォの少し北…私達の島があるカラ海から見てちょっと手前側ね…そこにカーター将軍指揮下にあるД21基地があるのよ」
「確かに、あそこには要塞と化した基地があると聞いたことが…」
「そこに貴方達が欲しがってる…又は何かの役に立つデータがあるわ」
「本当に役に立つと良いのだけど…フフッ」
「止めなさい12」
中将が咳払いをし、話を続ける。
「私たちの目的はД21基地で何かの会議をするために複数の高級将校らが集まるみたいだから、そこを狙って一気に邪魔な将校を排除しようって話よ?簡単で分かりやすいでしょう?」
中将が気持ち悪いウインクをしながら説明する。
「貴方達に手伝って欲しい理由は、10日前に私達の内乱にドイツ軍が介入したから…そのときの戦闘で私達の同志も1人失なったわ」
「ドイツ軍が!?それはあり得ない!」
現在のドイツの悲惨な現状を知ってるアンジェは信じられずに驚愕する。
「私も最初は耳を疑ったわ…でも本当よ…同時刻にエストニア国境付近にある正規軍のプスコフ基地が襲われたわ」
「バカな…今のドイツに戦争する余裕なんて…」
ドイツは崩壊液による領土の環境汚染が酷く、他国に戦争を仕掛ける余裕など無いのだ。
「だから貴方達に協力して欲しいの…本当ならこの作戦も準備にもっと時間を掛けてから決行つもりだった…それを早める理由…貴方なら分かるでしょ?」
「ええ…」
最早ドイツは止まらない…ならばドイツが本格的にロシアに侵攻する前に、新ソ連政権と旧ロシア政権をまとめ上げ、ロシアに侵攻するであろうドイツにロシアの総力を上げて対処する必要があった。
「あの襲撃以来ドイツ軍が動いた様子は無いけど、予断を許さない状況よ」
「………」
「それにドイツ軍が攻めればカーター達は喜んで報復と称して世界大戦を始めるわ…それは絶対に阻止しないと」
「貴方達が政権を取れば、それを阻止出来ると?」
アンジェの問いに中将は頷く。
「新政府もね…一枚岩では無いのよ…戦争を望んでない政治家や将校もいるわ」
「分かりました…協力しましょう」
「ありがとう…乙女同士仲良くやりましょ?」
そう言いながら手を差し出す中将。
「乙女…?」
疑問を浮かべながらも中将の握手に応じた。
「何か言ったかしら…?」
「イイエ、ナンデモナイデス」
握手しながら威圧する中将に萎縮するアンジェリアだった。
一方ドイツのベルリン国会議事堂では、10日前にロシアに対して勝手に攻撃を命じたことの責任追及をすべく、閣下と呼ばれていたあの男の処罰を決める会議が行われていた。
「貴様!これは一体どういうことだ!」
「そうだ!勝手に軍を指揮し始めたと思えば…何故戦争を起こした!?」
「貴様のせいで我がドイツ連邦はロシアに滅ぼされる!どう責任を取るつもりだ!?」
「答えてもらおう…ツァールトハイト・ドゥム・クラウン国防大臣」
議事堂でツァールトハイトと呼ばれた男に向けて怒声が飛び交い、今にも人一人殺せそうなほどの殺気の籠った目を向けられている。しかし、ツァールトハイトは意にも介さないような態度で、冷汗さえ搔かずに狂気とも似た笑みをしていた。
「フフフッ……可笑しなことを言うものだ」
「何が可笑しい!?」
「ハハハハハッ‼…ドイツなどすでに滅んでるも同然ではないか」
「なんだと?」
まるで演劇を観ているかのように笑いながら、ドイツはすでに滅んでいると述べるツァールトハイトの言葉の真意を理解出来ず思考を停止してしまう議員達…。
「第三次世界大戦の事実上の敗戦によって他国の言いなりになり下がった我が国が、まだ生きていると?…笑わせる」
「そっ、それは…」
心当たりがある…いや、目から背け続けていたドイツの現状を指摘され、言葉に詰まる者、ツァールトハイトから視線を逸らす者達がいた。
「複数の他国に崩壊液による災害に対しての援助金…という名の一方的な我がドイツへの戦争賠償…しかも金だけでは飽き足らずに日用品や食料に労働者まで他国に送り続けてきた。これに耐えられる程、国民の心と体力はもう残っていないのだよ」
「……」
ツァールトハイトの口から放たれる悲惨な事実に言葉を失う議員達。ドイツは第三次世界大戦の敗戦に近い結果によって他国の搾取を黙って受け入れ続けている。
しかし国民は限界だ。崩壊液に汚染されていない限られた土地でようやく作物を育てたとしても、その半分もが他国に奪われる。
当然日用品も、体を温めるストーブの燃料でさえも…そのせいで毎年数多くの餓死者や凍死者、希望の見えないドイツに絶望し自殺する者が後を絶たない。
「奴らには交渉という選択肢は無い…むしろ反抗的な意見を出せば更なる搾取を求めてくるだろう。当然だ、彼らはあくまで勝者で我々は敗者なのだから」
「だからどうした…それが他国を攻撃する理由になるか!」
「なるさ…我々と違って国民は素直で単純な良い人達でね」
「まさか…貴様!?」
男の言っている意味が分かった議員達はその顔を驚愕の表情でツァールトハイトに畏怖する。
「なに…少々ドイツ各地を回って国民に顔も知らない赤の他人に搾取され死ぬか、愛する家族や友人達のために死ぬか天秤にかけてもらっただけだよ」
この会議が行われるまでの間、ツァールトハイトはドイツの各地で狂気的な演説を行い、国民にどんな死に方が良いか選択させ支持を集めていた。
「こ、国民まで巻き込んで一体何がしたい!?」
「違うな…国民はもう巻き込まれているのだよ。そこを履き違えてもらっては困るねぇ」
「き、詭弁だ!そんなものは!」
「では国民はいつまで耐えればいい…最後の一人が息絶えるまでか?否、今こそ文字通り死力を尽くし、奴らの圧政から解放されるべきなのだ!」
「いや、お前はただ戦争がしたいだけだ!!」
「やはり分かりえないか…」
今だにドイツの現状を打開しようとせず、むしろ諦めている議員達に失望の色を見せるツァールトハイトは突然指をパチンと鳴らした。
すると扉が勢い良く開き、室内に武装した軍人が大勢なだれ込み、議員達を取り囲みながら銃を向ける。部屋に入ってきた者の中には戦術人形も数名程いた。
「貴様ら…これは国家反逆罪だぞ!分かっているのか!?」
「家族が苦しむ姿を見るのはもうたくさんだ…閣下、ご命令を」
閣下と呼ばれたツァールトハイトはゆっくりと席から立ち上がり、配下の兵達に命ずる。
「彼らは敗北主義者だ…殺せ」
「はっ!」
「よ、止せ!やめっ」
議員達が助けを求めるも銃声が無慈悲に鳴り響き、弾丸に身体を貫かれ、顔の肉や内臓や指などを削がれながら悲鳴を上げる。やがて議員達は息絶え、部屋は血の匂いでむせ返った。
「これでやっと前に進める…そうは思わないか?G36C」
そう問い掛けながらG36Cと呼んだ少女がいる方向に振り返る。ある事情から戦術人形でありながらも姉のG36と共にツァールトハイトに付き従っていた。
「私には分かりません…ただツァールトハイト様のご命令に従うまでですわ」
「ハァ…思考を止めるなど愚の骨頂だ。…これだから側だけ人間そっくりの人形は嫌いなんだ」
「……申し訳ございませんわ」
元来与えられた役割をこなすことしか想定されていない人形に、人間と同じように自分で複雑かつ論理的に思考しろというのも酷な話だが、そんなことはツァールトハイトには知ったことではなかった。
「まぁいいさ…老害共は始末できたんだ。…伍長、後片付けは任せた」
「はっ!お任せ下さい!」
伍長と呼んだ兵におびただしい程に血が飛び散っている部屋の掃除を命令し、ツァールトハイトはG36Cを含む数人の部下と共に部屋から退出した。
「さぁ…戦争を始めよう!我々を虐げてきた者達に目に物を見せてやるのだ!」
ツァールトハイトは高らかにそう宣言し、ただ一人高笑いをあげていた。
パイロットレコード
デニス・バルリング少尉 KIA
コールサイン:オプファー2
AEG:19
所属:ドイツ空軍第3空軍師団第1戦闘飛行隊
AIRCRAFT:ユーロファイター タイフーン EF-2000
過去にE.L.I.Dから襲われている村を発見し、村を守るためにE.L.I.Dに果敢に攻撃を仕掛け、見事に村の防衛に成功した。この功績が称えられ【ドイツ防衛名誉賞】が授与された。
彼の父は第二次労働者派遣でフランスに派遣されており、過酷な労働によって死亡している。彼に残された家族は足の不自由な母とまだ年幼い弟のみであり、最期の出撃前にはドイツは救われると、俺達は解放されるんだと語り、家族を安心させようとしていた。
何か分からない用語や単語があれば感想の方で受け付けていますので、気軽にご質問下さい。
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第四話「アリスタロフ中将の計画」
-Д21基地強襲作戦前日-
「さて、以前からいる者達は知っているでしょうけど、最近来たばかりの新入り向けに改めて作戦概要を伝えるわ」
アリスタロフ中将が陸・海・空のトップと、それぞれの参謀達や主力部隊の隊長達に加えてアンジェリアを含む反逆小隊のメンバーを集め、ついに明日に決行される作戦内容を説明していた。
「まず本作戦の最重要目標はД21基地に集結する7人の高級将校の殺害よ。
その中でも陸軍大将アレクサンドル・レオニート、参謀本部情報総局長官イリイチ・アントノーヴナ上級大将、ヴィクトル・アナ―トリー国防相の3人は必ず殺して頂戴。
この3人は軍内部での発言力が高く、それ故にルクセト連合反対派のまとめ役を担っている大物達よ。
彼らを排除すれば、新ソ連政府内部のルクセト連合反対派の求心力を一気に削ぐことが出来るわ。
それに彼らは13年前の反乱を主導した者達でもある。
これまでに散っていった同志達の為にも、絶対に逃してはならない敵よ。」
アリスタロフ中将の発言に、旧ロシア派の者達は散っていった同志達を脳裏に浮かべながら頷く。
「第二目標は同基地内で保管されているリコリスの研究データね…
但し、これは何のデータなのかはまだ分かってないの。
その為、データの奪取はあくまでサブ目標とする。
最優先は高級将校達の殺害。…まぁ、とは言うものの、私もあのリコリスが何を研究していたかは気になるからね…出来れば確保して欲しいわ。
リコリスの研究データについては、そこにいる反逆小隊に任せるわ」
だが反逆小隊の名前が出た途端に複数の方向から鋭い視線がアンジェリア達に突き刺さる。
彼らにとっては反逆小隊とは、自分たちが幾多の犠牲を払って計画した作戦に突然、何の代償も無く横から介入してきた余所者である。
しかも、彼女らは元新ソ連政府内務省という胡散臭い肩書きを持つ者達であり、スパイの疑いがある…。
そのため彼らは、未だに反逆小隊を信用せず必要以上に警戒している。
「止しなさい…彼女達は味方よ」
「ですが中将…やはり私はこの作戦に彼女達を使うことは反対です!」
「貴方の気持ちも分かるけど、今はこらえなさい…今回の作戦には電子戦に強い戦術人形が少しでも多く必要なの…」
「それは重々承知しておりますが…」
「なら聞き分けなさいな…彼女達が裏切ることは無いと、私が保証するわ」
「…貴方がそう仰るのなら……」
「はぁ…先が思いやられるわね」
「12…私語は包しみなさい」
「はいはい、了解よ」
反逆小隊が作戦に加わることに不満を訴えた者が、引き下がっていくのを確認したアリスタロフ中将は作戦の説明を再開した。
「……続いてД21基地までの進行ルートを説明するわね。
まず、カラ海に集結中の揚陸艦含む艦隊をディクソン港に向かわせ、機甲師団と歩兵部隊を上陸させる。
ただ、敵もその辺は予測しているわ。ディクソンに航行中に艦隊は襲撃されると考えた方が自然ね…イヴァン提督、稼働出来る空母の数は?」
中将が自分の斜め右側にいる60代くらいの男性に尋ねる。
「現在、正規空母のゴルシコフ1隻と重航空巡洋艦クズネツフォフ級2隻が航行可能です」
「そう…ならゴルシコフを旗艦として艦隊を編成して頂戴。今から、その空母3隻が艦隊の要よ。
敵が航空戦力で襲って来た場合を想定して、空母に精鋭部隊を載せて対処させなさい。
敵の潜水艦にも十分警戒して頂戴。
護衛する揚陸艦の損害は陸軍の上陸完了まで一つも許さないわ」
「はっ!我らロシア海軍の誇りにかけて!」
イヴァン提督がロシア海軍の魂を、その腕に乗せながら敬礼する。
「ただ、敵もディクソンに大軍を配置するはずよ。…上陸戦となれば消耗戦となるのは必須。
であれば最初の上陸はキュクロープスで構成されている人形部隊になるわね。
一番槍を頼めず、ごめんなさいね」
「とんでもない!陸軍としては中将のご配慮に感謝申し上げます」
Д21基地到達まで、陸軍の損耗は最小限に抑えたい旧ロシア軍としては、陸軍の初戦となるディクソン上陸戦で人形に盾になってもらう必要がある。
「そして、敵は我々の上陸の食い止めに失敗したとき、Д21基地前方に戦線を引き直す。
そこで艦隊を半分に分けるわ。片方は我々がいる本島に一度帰還し、そこで陸軍の増援部隊を乗せ再度輸送する。もう片方はエニセイ湾に移動し、そこからД21基地を襲撃する味方の支援をする…これで地上部隊はある程度の支援を受けつつ進軍できるはずよ」
「しかし、そんな悠長にしていては上級大将達の脱出を許してしまうのでは?」
アンジェリアは誰もが思うであろう疑問を口にする。
「あの基地は強固な要塞…下手な場所に逃げ込むよりも、あそこに留まって地下シェルターにでもいた方が安全なのよ」
さらに彼らには基地に立て籠る最大の理由が別にあった。
「それにね…あの基地は施設内の至るところに上級将校達のホログラムを出すことができるの…あれはダミーとしては完成度が高くてね。機械によるサーモグラフィや声紋認識では完璧に誤魔化されて、直接肌に触れでもしない限り、本人かどうか判別が出来ないのよ」
「それではどうやってターゲットを判別するのですか?」
基地のホログラムは無数に出現させることが可能であり、敵と戦闘を行いながら人海戦術で上級将校達を探す余裕は無く、ホログラムの突破は事実上不可能に近い。
「ホログラムでは匂いは誤魔化せないわ。…とはいえ、鉄の雨が降り注ぐ過酷な戦場では軍用犬は少々能力不足が否めない…だから太古の動物に頼ることにしたわ」
「太古の動物…?」
その言葉を聞き、その場にいたアンジェリア達反逆小隊以外の皆は中将が過労で、とうとう頭がおかしくなったのかという目で中将を見ていた。
「ちょっと!私は大真面目に言ってるのよ!
…昔にね、お金儲けの為に恐竜を蘇らせようと、太平洋のとある島に研究施設を建てた馬鹿がいたのよ。
まっ、恐竜のクローンは大量生産出来たけど、案の定恐竜達が暴走して島は恐竜達の楽園に…
そこで国連軍が島に調査隊を派遣したのだけど、そこで何匹かラプトルの子供を勝手に保護した部隊があるそうなの。
だから国連軍にルクセト連合加盟を条件に、その噂の部隊を貸してくれることになったのよ~」
その話を聞いてアンジェリアの顔がひきつった。
「あら…貴方この話知ってるの?」
「えぇ…知ってるもなにも…島から勝手に恐竜を持ち出した人物とは、深い知り合いですから…」
まるで頭が痛そうにアンジェリアが言う。
「そ、そう…まぁ、恐竜なら嗅覚も優れているし、犬よりかは戦場に耐えられるはずだから。
…まさかこんなことで太古の生き物とお目にかかれるとは思っても無かったけど」
「恐竜というワード一つでB級映画みたいな雰囲気になりそうね」
「M4…そういうジョークも言えるようになったのね」
冗談一つ言えなかったM4がジョークを口にすし、ほんの少しだけ驚くAR15。
「…ということは、またあの人に会えるのか」
「少しは人形嫌いが治ってると良いのだけど…」
勝手に恐竜を連れ出した人物を思い出しながら、少し嬉しそうに微笑むAN94とは対称的に面倒くさそうな表情をするAK12。
「知ってるなら丁度良いわ…あとで国連軍の特殊部隊がいる区画まで案内してあげる」
「え、えぇ…ありがとうございます」
知り合いなら積もる話もあるだろうと、中将はアンジェリアに気を遣ったが、彼女は気まずそうに答える。
「基地内部のマップについては後で、それぞれの端末にデータを送っておくわ。各部隊で確認しておいて頂戴。
…ということで解散よ。各自、明日に備えて休みなさいな」
お開きとなり、中将に敬礼して退出していく軍人達…反逆小隊も後に続いて退出する。
そして部屋にたった一人残ったアリスタロフ中将…。
「カーター達の戦争を再開させたいっていう気持ちは分かるけどね…私はあの子の願いを優先させてもらうわ」
そう静かに決意を口にする中将…胸ポケットから写真を取り出して、写真を見つめ、悲しそうに微笑んだ。
「ユーリ、聞いたか!俺達スラーヴァ隊は爆撃隊の護衛だってよ!」
「ああ、さっき聞いたよディミトリ…また面倒な任務を回されたね」
「はぁ~毎度こんな任務ばっかりで嫌になっちまうよ…」
そう愚痴るディミトリ達はスラーヴァ隊や他の隊の機体がズラリと並んで置かれている格納庫で自身の乗る機体を眺めていた。
「ユーリ!ディミトリ!」
すると格納庫の入り口から男が現れ、二人の名前を呼びながらユーリ達の方へ駆け寄っていく。
「アイツは…」
「アレグなのか!?」
「ああ!アレグだ!また二人に会えて嬉しいぜ!」
「ボクも会えて嬉しいよアレグ」
「またそのツラを拝めるなんてな!」
ユーリとディミトリはアレグとハグを交わしながら戦友との再開を喜んでいた。
アレグはザヴォディーラ隊の6番として、この島の防衛初戦から参加していた。
「そういえばマトヴェイの旦那は元気にしているのか?」
「マトヴェイは……」
ディミトリからザヴォディーラ7であるマトヴェイの名前が出た途端、アレグの顔が暗く沈み始める。
それだけで二人はマトヴェイが戦死したことを悟る。
「そっか…マトヴェイさんは逝ったのか…」
「あの旦那が…」
「すまねぇ…マトヴェイは俺を庇って…」
「いいんだ…お前は生きてくれたんだ…」
「息子のように思ってたアレグを救って死ねたんだ…マトヴェイさんも本望だったと思うよ」
二人からの言葉に静かに泣くアレグ。
「なぁアレグ…旦那からボルシチ教わってたよな?」
「あ、ああ…」
「ならボルシチを作ってくれよ…皆で食べようぜ!…勿論、旦那の分も作ってな…」
「いいねぇ…ボクもマトヴェイさん直伝のボルシチは大好きなんだ」
「お前らなぁ…そういえばあの日…後でボルシチを馳走してやるって約束してたっけな…たくっ、しょうがねぇな!皆を呼んでこい!たらふく食わせてやるよ!」
「よし!早速準備しよう!」
「俺はザヴォディーラとスラーヴァの奴らを呼んでくるぜ!」
その日の夜、ザヴォディーラ隊とスラーヴァの隊の全員が集まって再開を祝したパーティーが開かれた。
皆が座っている、それぞれのテーブルにはアレグが作ったボルシチが置かれている…しかし、ボルシチは誰も座っていないはずの空席にも置かれていた。
それはマトヴェイ含む両隊の戦死者達の分だった。
久しぶりの友人達との再開を楽しみながらも、ふとマトヴェイの遺影が置かれている席を見てみると、ほんの一瞬だがマトヴェイがアレグが作ったボルシチを嬉しそうに食べている姿が見えた気がした。
機密情報‐A4703
カラ人工群島ザジヴレーニイ基地
カラ海にある人工によって造られた複数の島々によって構成された軍事基地。
元々は大戦前に自然再生活動のために緑豊かな島として造られた。
だが、三次世界大戦が始まると、この島の有用性に気付いたロシア政府が島を軍事利用しようと陸海空すべての機能を兼ね備えた基地を建設した。
現在はアリスタロフ中将率いる旧ロシア派残党軍に軍事拠点として利用されている。
新ソ連正規軍に制圧目標として指定されているが、その自然を利用した防衛術は幾度も正規軍を返り討ちにしており、未だかつてその防衛網の突破を許したことがない要塞である。
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第五話「国連軍の特殊部隊と国連の思惑」
アリスタロフ中将のД21基地攻略作戦の説明が終わり、部屋から退出したアンジェリア達反逆小隊達は、国連軍の極秘精鋭特殊部隊『ゴースト』に会うため中将が呼んだ案内役の兵士に従って歩いていた。
「着きました…こちらの部屋です」
「ええ…ありがとう」
ゴースト達がいる部屋にたどり着き、役目を終えた案内の兵士はアンジェ達に敬礼し、もと来た道に戻っていく。
そしてアンジェリアは事前に渡されていたカードキーで扉のロックを解除し、部屋に入る…そしてM4達も後に続いた。
「邪魔するわ」
そう言ってアンジェ達が部屋に入ると、突然現れた来訪者を威圧するかのような視線が突き刺さる。
部屋には室内という空間にも関わらず、スカルが描かれている目出し帽(フェイスマスク)を被ったゴーストの兵士達が約30人程いた。
その部屋はとても広く、銃やドローンなどの装備品を整備する部屋となっている。
「あんたらは……」
「久しぶりね、彼はいるかしら?」
「隊長なら奥の部屋だ…ちっ…疫病神が来やがった…」
「ずいぶんな言い様ね…まっ、いいわ」
「ハッ!いいか?下手な真似はするなよ?…俺達がどういう存在かは知ってるだろ?」
「ええ、もちろん」
国連軍の特殊部隊である『ゴースト』は基本的に極秘とされているため存在を知るものは少ないが、その存在を知る者からは国境や人種を問わず選りすぐりの精鋭を集め、任務にも忠実であり、時には自身の死すら厭わない忠誠心がある世界最強の特殊部隊の一つとまで認知され、非常に恐れられている部隊である。
しかし、そんな恐るべきゴーストから威圧の目と脅しの言葉を向けられても、アンジェは特段気にせずに飄々とした態度で言われた通りに奥の部屋へと向かう。
そんなアンジェを見て、M4とAR15とAK12とAN94の4人は依然として反逆小隊に嫌悪の目を向けてくるゴースト達に警戒しながらもアンジェに続いていく。
奥の部屋に入ると、そこには他のゴースト達と違い、スカルマスクを被っておらず、素顔をさらしている、隊長というには比較的若い20代くらいの男がいた。
そんな男の前には大きい檻があり、その檻の中には3頭のヴェロキラプトルがいる。このヴェロキラプトルこそゴーストの隊長である彼が助け出した恐竜だ。
「久しぶりね…龍馬…」
「そうだね…久しぶりだね」
彼の名は『北条 龍馬(ほうじょう りゅうま)』。
名前から分かる通り、日本人だ。
顔つきは日本人らしく童顔で、体つきも軍人というには極端に華奢で体格のいい軍人と格闘すれば骨が折れそうな印象を受けるほどには腕や足が細い……しかし若いながらも、その優秀な戦術能力と部隊の統率力からゴーストの隊長を任せられている。
「G&Kにスパイとして指揮官になり、皆を裏切った気分はどうかしら?」
「黙れ、AK12」
龍馬は過去に怪我を負って国連軍を退役したという経歴でG&Kの指揮官に転職したが、実際には国連軍を退役しておらず、ゴーストに所属したままであり、スパイとしてG&Kに入社していた。そして、ある時に彼は用済みになったG&Kから人知れずこっそりと姿を消した。
そのことをAK12から口にされたが、彼はそのことをあまり思い出したくないのかAK12を睨んだ。
「はぁ…で、いったい僕に何の用だ?…まさか世間話をするために来たわけじゃないだろう?」
「えぇそうね。私も回りくどいのは嫌いだから率直に聞くわ…貴方達ほどの精鋭がどうして新ソ連ではなく勝つ見込みがほぼ無い旧ロシア派に加担しているの?」
「中将から聞いてないのか?」
「ルクセト連合の加盟と……」
「そういうこと…もちろん新ソ連の政府が連合入りを目指しているのは知ってる。
けど新ソ連の軍部は違う…あくまで汎ヨーロッパ連合とは敵対するべきという考えの軍人が多い…だからこそカーター達はクーデターを起こした。
そして、政府はカーターを排除しようにも軍部を動かせない…なぜならカーター達以外の他の軍人もほとんどがカーター達と同じく継戦派だから…クーデターを起こしてないだけで裏ではカーター達に支援しているさ」
「やけに詳しいのね…さすが国連といったところか…」
アンジェは国連の情報収集能力の高さに感心していた。恐らくアンジェが元いた国家保安局にもスパイがいただろうと当たりをつけながら…。
「正規軍はクーデター軍と化したカーターの部隊を見つけても何もせず素通りさせるだろう…それどころか資金や装備、人員まで貸すだろうね。だが政府は表向きにはクーデターも起こしていない他の軍人を処罰することはできない…ますます、カーターへの支援は止まらないわけだ」
「そう…私達は現状カーター達に対抗するだけの戦力がまったく足らないわ」
「だからこそ国家保安局は軍とは指揮系統の違うAK12やAN94のような戦術人形を使った」
「それでも彼らには一歩及ばなかった…その結果がこれよ」
アンジェはコーラップス爆弾によって出来た自身の傷痕を指す。
「どうやってもアイツらに敵わないと…私はあの爆弾を使ったわ」
「そしてアンジェは国家保安局からも追われるようになった。
そして国連はこの一連の出来事を知り、他の介入なくして新ソ連のルクセト連合入りは不可能と判断した。
そこで目をつけたのが政権争いに敗れてなお徹底抗戦を続ける旧ロシア派だ」
「待って。そもそも国連はどうして新ソ連を連合に加盟させようと?国連にとってはルクセト連合なんて邪魔な存在でしょう?そこに新ソ連を入れるなんて敵に塩を送ってるようなものじゃない」
突然AR15が至極当然の疑問を投げる。
すると龍馬は一度ため息を吐きながらもそれに答える。
「答える義理はない…と、言いたいところだけど…僕とアンジェの仲だ…答えに近しいヒントは言おう。
外側から直接殴り合わせるよりも、時にはある程度権限を保有した者が内部から足を引っ張る方が厄介ということだよ」
「それをアリスタロフ中将達は…」
中将らが受け入れたか問おうとしたAN94に龍馬は頷く。
「もちろん中将達にも承諾を得てる。だからこそ我々ゴーストが来たんだ。
…初めての経験だよ…外部の人間に指名されて呼ばれるなんて…。
基本的に高級将校でもゴーストを知る者は少ないけど、どうやら中将はしっていたらしい…しかも先代のゴーストのことも…ね」
「それはまさか戦時中に…?」
「ああ、そうだよM4。先代のゴースト達は今のゴーストよりも強かった。
どんな物量をぶつけても、いかなる戦術を持ち得ようと先代のゴーストには通用しなかった…中将はそう言っていたよ」
第三次世界大戦時中にアリスタロフ中将は先代のゴースト達と戦ったことがあった。当時、中将が指揮を取っていた前線で、ある機甲大隊が突然正体不明の敵部隊によって奇襲を受け、40%以上の損害を出したと報告を受けた。
その機甲大隊は敗走中だった敵アメリカ軍の部隊を追撃するために、最新の戦車に迫撃砲や、当時はまだ試作段階だった重装型戦術人形まで投入されていたにも関わらずに…。
相手はたったの60名ほどの人数だったらしい。今のゴースト達と同じく皆スカルマスクを着用していた。それが先代のゴースト達だった。
その後も中将は所属不明の敵部隊を撃退するため、策を練り、討伐部隊を送ったが先代のゴースト達は神出鬼没で、ことごとく撃退された。
やがて、その情報は他の部隊にも伝わり、恐怖が伝染した。スカルマスクを被った謎の部隊は死神が、この世に送った生きる亡霊だと…。
「貴方達よりも強いって……」
今のゴースト達の実力を知るAK12は信じられないとばかりに顔を引きつらせる。
「この子達まで出せと言われたときは流石に困ったけどね」
そう言いながら龍馬は3頭のヴェロキラプトルを優しく見つめる。ちょうど寝る時間なのか3頭で仲良く固まって寝ていた。
「普通だったら驚くべきなんでしょうけど…何故だろう…慣れてしまった自分がいるわ」
そう言ってため息を吐くAR15。
本来なら絶滅しているはずの恐竜が目の前にいるとなれば大騒ぎどころの話ではないのだが、アンジェを含む反逆小隊と、ここには居ない404のメンバーは以前にもゴーストと作戦を共にしたことがあり、その際にヴェロキラプトル達の恐るべき能力を嫌と言うほど見てしまった。
「またこの子達と一緒に動くのね……。この子達の…その…敵の殺し方ってなんかグロいのよねぇ…」
その時の光景を思い出して顔を青くするアンジェリア。
「まぁね…。僕の部下達も最初の頃は、しばらく肉は食べたくないって言ってたよ」
「でしょうね」
苦笑しながら答える龍馬につられて同じく苦笑を浮かべながら同意するアンジェ。この光景だけだったら、2人は仲良のいい友人同士に見えるだろう。会話内容は別に置いとくとして…。
「おっと…聞き忘れるところだった。今回の作戦で投入する、そっちの戦力を聞いてもいいか?」
龍馬は作戦時に効率よく部隊を動かすために、アンジェリアに作戦に参加する戦力を問う。
その意図に気づいたアンジェリアは包み隠さずに自分たちの戦力の全てを伝える。
「今いる私達5人と、今ここにはいない404小隊の4人…あと新顔が2人ほどね。そっちは?」
「なるほど…こっちは僕を含めて34人のゴーストにラプトルが3頭。それに小型飛行ドローンも多数ある」
「多いわね。確か貴方達って6人ずつのチームでしょ?」
「そうだね…本来なら世界各地に少数を派遣して行動するはずの僕らゴーストが、これだけ召集されるのは珍しい」
国連軍の特殊部隊であるゴーストは、少数精鋭で潜入・救出・暗殺・強襲などのミッションをこなす前提での運用になる。
それには一人育て上げるのに莫大な費用と訓練時間を掛ける必要がある。そのためゴーストは一人歩兵一個小隊ほどの実力を有している。
そんなゴースト達が34人も呼び出されるということは、今回の任務が如何に大規模な任務だということか想像に難くない。
「分かってると思うけど、今回の作戦は激しい戦闘は避けられない…多くの死者が出るだろう。それを想定した上で行動して欲しい」
「ええ…分かってるわ」
「OKだ。じゃあ、悪いけどもう自分の部屋に帰ってくれないかな?まだ他にやることが残っているっていうのもあるけど、ゴースト隊員のほとんどは人形嫌いばかりだから…僕も含めてね」
そう言って龍馬はM4達4人を見る。だが彼女達はゴースト達が人形嫌いだということは以前から知っていたので特段驚いた様子は見られなかった。
「ええ、知ってるわ。さっきも熱烈な歓迎を受けたばかりだからね」
AK12は、フフフと笑いながら部屋に入った時のゴースト達の態度を思い出す。
「だろうね…この前の作戦で仲間のガイルとマッコイの2人が死んだんだ」
そう言って顔を暗くさせる龍馬。そしてアンジェリア達はガイルとマッコイとは以前の作戦で共に行動したゴースト隊員であり、酷く驚いた。ガイルとマッコイは龍馬とは訓練生時代の同期で共にゴーストに入隊した仲である。
「重要情報を持った特権階級の人形を救出する任務だった。だけど、その人形はどうしようもないクズだった。
敵に追われながら回収地点に向かっていた時に、あいつは突然一緒に逃げていた自分の秘書の足を撃った。囮にするためだったらしい…僕らはそれを責めたけど、奴は聞く耳をもたなかったよ」
龍馬は当時を思い出し、怒りに感情を囚われながらも、ひと呼吸して気持ちを落ち着かせ、話の続きを語る。
「そしてヤツにとって口答えする僕らが邪魔だったんだろう。わざと敵に見つかり自律ドローンを引き連れてきた。それで口封じをするつもりだったんだ。それで激しい交戦状態になり…2人は死んだ」
「人形嫌いにしては、いつもよりもおかしいとは思ってたけど…そんな事情があったのね」
アンジェリア達は顔見知りのガイルとマッコイの悲劇的な戦死に少し複雑な表情を浮かべる。
「そんなこともあったせいで、今僕らは機嫌が悪いんだ。お互いのためにも長居はしない方がいい」
「そうね。そうさせてもらうわ」
アンジェリアは龍馬に背を向けて部屋の出入口へと歩く。M4とAR15、AK12の3人もすぐにアンジェの後に続くが、AN94だけは龍馬を少し不安そうな瞳で見つめてからアンジェ達の後を追い去っていく。
機密情報―A000061
国連の最精鋭極秘特殊部隊「ゴースト」についての調査報告
ゴーストととは 、一人ひとり違うデザインのスカルマスクを着用した精鋭中の精鋭部隊だ。
彼らゴーストは、主だって軍を派遣できないような任務に少数精鋭として任務を行う。
それゆえに彼らには十全なサポート及び潤沢な資金が用意されている。装備も最新鋭から開発段階の試作品まで使用が可能。
そして彼らは、その恩恵を得るに十二分な実力を保有している。
単独行動でも任務をこなせるよう訓練されているゴーストだが、仲間達との連携によってこそ真価を発揮する。彼らは一人で歩兵一個小隊並みの戦闘力を誇っており、一個部隊での戦闘能力は歩兵一個中隊規模までになる。
忠誠心も高く任務にも従順。模範的軍人と言えるだろう。さらに彼らゴーストにはあらゆる打算的な賄賂が通用しない。
それは彼らの根底には、常人では対処不可能な世界各地のあらゆる悪事から力無き民を守り世界を安寧へと導くという信条があるからだ。
それゆえに最近の調査では、一部の腐敗しきった上層部や特権階級に不満を抱いているゴースト隊員が少なくないということが判明した。
もしも彼らの不満が高まり、クーデターが発生した場合に備えて、ゴーストの抑止力となる対ゴースト用のカウンタウェイト部隊の編成を提案する。
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第六話「本格化するドイツのクーデター」
・・・決してゲームに夢中になっていたわけではありませんよ(目そらし)
その代わりにお詫びということも含めて今回は一万文字以上のボリュームでお送り致します!(ほのぼのとは言ってない)
お楽しみいただければ幸いです!!
ドイツ 国連軍マクデブルク基地
爆音が轟き、銃声が悲鳴を上げるように鳴り響く。
迫撃砲やロケット砲による砲撃を受けて、体を吹き飛ばされる兵士。
「こちらマクデブルク基地!現在ドイツ軍による攻撃を受けている!出撃中の全部隊は至急基地に戻れ!繰り返す、ドイツ軍に攻撃され…ぐわッ…!」
任務やパトロールで出払っている部隊を呼び戻そうと通信をしていた管制塔が砲撃を受けて崩れる。
「管制塔が崩れるぞー!逃げろぉ!!」
崩れ落ちる管制塔から近くの兵士達が逃げるが二人ほど逃げ遅れてしまい、落下してくる管制塔に押し潰される。
「増援はまだなのか!?」
「このままじゃやられるぞ!━はっ、砲撃来るぞー!」
絶え間なく撃ち込まれる砲撃によってマクデブルク基地は半壊し、死傷者が続出していた。
ドイツ軍は突如としてマクデブルクから西隣にあるニーデルンドデレーベンに機甲師団や砲兵師団を中心に展開し、国連軍のマクデブルク基地を奇襲している。
この奇襲に国連軍は対応出来ず、またドイツ軍の機甲師団や砲兵師団に対抗出来る兵器も最初の砲撃で大半が大破させられていた。
そしてドイツ軍が集結しているニーデルンドデレーベンにはドイツ軍の簡易な前哨基地が設置されている。そしてこのドイツ軍の指揮を取る者は…
《閣下、奇襲は成功しました》
「ああ、ご苦労。…さて、次は機甲師団を前に出せ。奴らが狼狽えている今がチャンスだ」
《ヤー!》
流れるような金の髪に、まるで宝石のように透き通った深紅の瞳、そして女に見間違えるかのような整った顔…。
あの ツァールトハイト・ヴァム・クラウンが前哨基地で直接指揮を取っていた。
「全機甲部隊に次ぐ、マクデブルクに向けて進軍せよ」
ツァールトハイトから指示を受けた師団長によって機甲部隊に進軍の命令が下る。
命令を受けた、レオパルト2A7+を中心とした機甲部隊はゆっくりと前進し始めて、マクデブルクを目指している。
その機甲部隊を盾にするように後続として歩兵部隊も随伴する。
だが、当然そんな様子を国連軍も黙って見ているわけが無く、砲撃を免れた戦車『テュポーン』5輌がドイツ軍の機甲部隊を待ち構えている。
このテュポーンは元々新ソ連の兵器だが、第三次世界大戦の停戦後に、その性能の高さと無人で運用出来る事から新ソ連から輸入しており、カラーリングも通常のグリーンから国連軍カラーのブルーに変更されている。
《テュポーンの存在を確認!砲撃支援を求む!》
《HQ了解。60秒後に砲撃を開始する》
《聞いたな野郎共!全車散開!奴らに喰われるなよ!》
テュポーンを視認した戦車部隊はすぐさまにHQに砲兵師団による支援要請を出し、テュポーンに攻撃されても被害を最小限になるように戦車を散開させ、最大加速で前進する。
《攻撃来るぞ!回避しろぉ!!》
テュポーンのレールガンがドイツ軍の戦車目掛けて一斉発射され、先行していたレオパルト2Aの3輌がレールガンを直撃され撃破される。
《ギャアアアアァァァァァ!!!!熱いっ!!体が燃えッ━━ああああああああッ!!!!!》
撃破され、燃え盛るレオパルト2Aから身体が炎に包まれた戦車兵が飛び出す。
自身が焼かれる激痛に叫びながら地面に倒れ伏す。
《テュポーンを有効射程内に捉えたッ!攻撃開始!》
テュポーンを捉えたレオパルト2Aの砲口から火が吹く。その直撃に1輌のテュポーンに120mmの砲弾が直撃し大破する。
《いいぞ!命中だ!残った連中もスクラップにしてやれ!》
続けて2輌目のテュポーンにも砲弾が2発命中し、大きな爆発が起こり大破した。
残ったテュポーンも負けじとレールガンのチャージを終わらせ、砲塔を自身に迫り来るレオパルト2Aへと向けるが…。
《こちら砲兵隊 砲撃を開始する!》
テュポーンの頭上から砲兵隊の砲撃が降り注ぎ、残ったテュポーン3輌は木っ端微塵に破壊された。
《弾着確認!効果あり!》
《今だ!突き進めッ!!》
最大脅威を排除したドイツ機甲部隊は我先にと国連軍マクデブルク基地へと急ぐ。
ドイツ機甲部隊が向かってきてるのを見て、少しでも時間を稼ごうと国連軍は基地の入り口であるメインゲートを閉じるが…。
「ゲート閉じろ!急げ!」
「駄目です!間に合いません!」
ゲートを閉じようとするが、閉じきらずに後一歩というところでドイツ機甲部隊の戦車の砲撃によってゲートが破壊される。
メインゲートを破壊し、もはや戦車部隊を阻む物が無くなった彼らは勢い良くマクデブルク基地に雪崩れ込む。
マクデブルク基地に侵入した戦車部隊は突破した入り口の少し先で停止し、国連軍兵士達と激しい交戦をしながら後続の歩兵部隊の到着を待つ。
「閣下、機甲部隊は順調に基地に侵入したそうですわよ」
そうツァールトハイトに告げるのは、旧ナチスの軍服をイメージした服を身に纏った、足元まで美しく長い銀色の髪をした女性だった。
ツァールトハイトが指揮を取る部屋には彼と銀髪の女性の二人しか居ない。
「よろしい。このまま内部へと侵入し、基地を制圧せよ。…現時点を持って作戦は第3フェイズへと移行すると全部隊に告げたまえ、kar98k」
「はい、閣下」
kar98kと呼ばれた彼女はパッド型タブレットを取り出し、作戦中の全部隊に第3フェイズ移行の合図を送った。
「閣下ッ!大変です!敵の増援がバルレーベンにて出現!このままでは機甲部隊が挟み撃ちにされますッ!」
1人の兵士が血相を変えて作戦室に駆け込んだ。
その内容は味方の危機を知らせる内容だった。
「ふむ…それに関しては作戦前に全部隊指揮官に通達しているはずなのだがね。安心したまえ。敵の増援は別動隊が対処している」
だが、ツァールトハイトは顔色を変えずに告げる。
「それに━━ 私は私に付き従う兵士一人一人の顔を覚えているが……残念ながら君の顔を見たことがない。君は一体どこの者なのかね?」
「なッ…」
そう言いながらツァールトハイトは、自身にとって見覚えの無い兵士に向かって顔をニコリと微笑む。
「君のような手の者が来る事くらい予想してないとでも?━━なぜ私がわざわざ誰に任せても良いような、この作戦の指揮を取っていると思う?」
「な、何を言ってッ…」
兵士の顔が徐々に青ざめ恐怖に怯える。
「私が取るに足らないような作戦でも、いちいち前線に立てば君のようなスパイや暗殺者を、まるで猫をマタタビで釣りだすかのように炙り出せるからだよ」
「きょ、狂人めッ!自分が殺されるとは思っていないのかッ!」
そう叫びながら兵士が懐から拳銃を取り出し、銃をツァールトハイトに向ける。
「無駄ですわ」
バンッ!と大きな音がなると同時に兵士の右肩に銃弾が着弾し、血渋きが舞い散る。
「ぐッ…!」
撃たれた兵士は手にしていた拳銃を落とす。
ツァールトハイトの右横を見れば、先ほどのkar98kと呼ばれた女性が自身と同じ名前を持つ銃を手にし、銃口からは硝煙が立ち上がり、空薬莢が地面にキンッと響くような音が響いた。
「ちくしょッ…!━━があぁッ!!」
兵士はすぐさまに身を翻し逃げようとするが、左足をkar98kに撃たれる。
kar98kは次の射撃に備え、即座に銃のボルトレバーを引き、役目を終えた空薬莢を排出する。
「無駄だと言ったはずですわ」
「さすが戦術人形━━射撃能力は惚れ惚れするほど高いな」
「お褒めに預り光栄ですわ。…ですが閣下は人形嫌いなのでは?」
「ふっ…私は個人的に人形を嫌ってはいるが、評価すべきところは評価しているさ」
「あら…意外ですわね。それでこの者をどう致しますか?」
右肩に続き左足を撃たれた兵士は大量の血を流しながらも這いずって部屋から出ようとしていた。
「ああ、あまり痛め付けているのも可哀想だろう?…楽にしてやれ」
「ヤボール」
「や、止めてくれッ…!」
射殺許可が出たkar98kは兵士にゆっくりと近づき、必死に命乞いをする兵士の頭に狙いを定めて引き金を引く。
すると何かが爆発するような激しい音が鳴り響き、撃ち抜かれた兵士の頭からトマトが破裂するかのように鮮血が飛び散り、kar98kの頬に返り血が付く。
「ご苦労。ふふっ━━さぁ作戦を続けよう。これからが見物なのだから…」
「ええ、とても楽しみですわね」
頬に返り血が付いたままkar98kは恐ろしい程に天使のような微笑みでツァールトハイトに返答した。
一方国連軍マクデブルク基地では後続のドイツ歩兵部隊も到着し、激しい攻防戦が繰り広げられていた。
レオパルト2Aの主砲によって吹き飛ばされる国連兵、国連兵の銃撃によって蜂の巣にされるドイツ歩兵…ドイツと国連双方の兵士達が死力を尽くして戦っている。
「何でいきなりドイツ軍が襲ってくるんだよッ!クソッ!」
「知るかッ!これ以上ドイツのクソッタレ共の侵入を許すな!撃ちまくれッ!」
「おい…あの戦車…こ、こっちを向いてないか?」
仲間が指差した方向を見ると砲塔を自分たちに向け、自分たちが隠れている障害物ごと撃ち抜こうとするレオパルト2Aの姿があった。
「ヤバいッ!逃げろぉぉ!!」
戦車に狙われる遮蔽物に隠れていた五人の兵士は咄嗟に離れるものの、レオパルト2Aの砲口が火を放ち、3人の国連兵が吹き飛ばされる。
残る2人は一番速く駆け出した甲斐もあってレオパルトの55口径120mm滑空砲を喰らわずに済んだが、敵に背を向けて逃げ惑う姿を戦車に随伴しているドイツ歩兵が見逃す筈も無く、せっかく直撃を避け生き延びた国連兵の2人は後ろからドイツ機関銃兵が手にするMG5によって撃たれ、血を撒き散らしながらズタズタにされていく。
「こちらブラボー2、第二演習場前はほぼ壊滅!第一滑走路からの戦力抽出を求む!」
《現在そちらに回せる部隊がいない 現状戦力で持ちこたえろ》
「チクショウッ!!」
ドイツ軍の苛烈な攻撃に徐々に数を減らす国連兵。増援を呼ぼうにも、どこも手一杯だった。
「いいぞ!このまま国連のクソ共を殲滅せよ!」
「ジークハイル!!」
そんな劣勢の国連軍に追い打ちを掛けるようにドイツ軍の猛攻が続く。
ドイツ軍による迫撃によって大地が揺れ響き、その揺れはマクデブルク基地の地下深くにある作戦指令室にまで激しく伝わり、機材や資料が撒き散らされ、室内にいる国連の人間は必死に揺れに耐える。
「クッ━━『アルファ作戦』に出動中の部隊は、まだ呼び戻せないのか!!」
「駄目です!各部隊との通信繋がりません!」
「まさかELID掃討作戦中を狙われるとはな!」
作戦指令室では基地指令官が冷や汗をかきながらオペレーターの報告を整理し、状況の対処に追われていた。
「第二演習場前が制圧されました!第一滑走路は未だ健在ですが、時間の問題です!」
「防衛ラインを基地内部まで後退!遅滞戦術に切り替え、非戦闘員の脱出の時間を稼げ!」
「りょ、了解ッ!」
基地指令官はもはや味方増援が来るまでの防衛は不可能と判断し、非戦闘員が脱出できるまで基地が制圧されないように戦闘中の部隊に時間を稼ぐように命令する。
だが、その行動はツァールトハイトに見抜かれていた。
「もうそろそろか…もうすぐ国連兵共が基地を放棄して逃げ出すだろう。奴らが脱出する際に、必ず脱出する国連兵に紛れてティミッド基地指令官が脱出する筈だ。━それも自分だけ悠々と車かヘリ…あるいはその両方でな」
「あら…どうしてそれが分かるのですか?」
「なに…哀れな愚者の妄想さ」
「本当の事は言ってくれませんのね。…いけずですわ」
何故そうもはっきりと基地指令官が脱出できると断言出来るのか不思議に思ったkar98kがツァールトハイトに聞くが、冗談を混ぜた返答しか帰ってこなかった。
それはツァールトハイトが人形に対して信用はしないという意思の現れだと悟ったkar98kは、わざとらしく悲しそうに妖しく目を伏せる。
「それにしても両方とはどういうことですの?」
「ああ…それは、どちらかは囮ということだよ。それに同時に脱出する国連兵さえも彼にとっては囮だ」
「なるほど…自身の為ならば部下をも使い捨てると」
ツァールトハイトは静かに頷き、Kar98kの言葉に肯定する。
「あの基地には地下から地上に続く車道用の隠し通路がある。それを悟らせないように多くの国連軍兵士あるいはスタッフを脱出させ、ダミーとする狙いなのだろう」
それはティミッドが車で逃げることを確信している言葉だった。
「でも閣下は何故か、その隠し通路を知っていた…当ててみましょうか?」
そう言いながら無邪気な小娘のように微笑むkar98kに対してツァールトハイトもニコリと笑いながら彼女の言葉を待つ。
「普通なら基地にスパイを送り込んだと考えるのが妥当なのでしょうけれども…閣下は違う」
「ほう…」
「実は閣下でも基地の内部構造までの詳細な情報を入手していない。…ただ基地とその周辺の地形、さらにティミッド指令官の性格と経歴を事細かくにプロファイリングし、それらの情報を統合させ、脳内で隠し通路の存在を立体的に割り出した…━━違いますか?」
「ふむ…面白い推理だね。短絡的なクーデターを起こし、独裁者の悦に浸っている私がそこまで有能な人間に見えるのかい?」
くつくつと笑うツァールトハイトにkar98kは、さも当然かのように彼が有能な人間であると肯定する。
「ええ!だってそんなものは貴方がわざとそう見せてるだけの、虚像の姿に過ぎないではありませんか」
そう言いながらkar98kは椅子に座るツァールトハイトに机越しに顔を肌と肌が触れ合うギリギリの距離までグッと近付け、彼の両頬に両手を添えるように触れる。
「ツァールトハイト・ヴァム・クラウン様…貴方様はその名の通り、自ら『おどけ役』を演じて人々を惑わし、観客を意のままに操る道化師そのもの…」
「仮にも組織の統率者を道化師呼ばわりか…ふふっ、面白い」
kar98kは彼の両頬に添えた手に少し力を込め、頬から目元までゆっくりと、しかし官能的に指先を這わせる。
「貴方様を理解したくば、欺瞞で固められた表面を見ては駄目…貴方様から発せられる言葉一つ一つも鵜呑みにしてはいけませんわ。
閣下はこの反逆を持ってして一体何を望むのかしら…独裁者となって贅の限りを尽くす?違いますわ…では、文字通り祖国ドイツ救済のため?それも違いますわ…それとも━━個人的な復讐のため?いいえ、それすらも貴方様の本質では無い…ならば一体どれが本当の貴方様なのでしょう…ね?」
「実に簡単なことだよ…私はただ戦争がしたいだけの狂人さ」
尚もおどけるように彼女に対し、川を流れる水のような清らかな声で言葉を掛ける。
「本当に嘘つきな御方ですわ…」
そうして彼女はとても残念そうに彼の頬から手を放して後ろに下がるように距離を取る。
「そういえばティミッドが地下の隠し通路から逃げるという話でしたけれど、何か手は打ってるのでしょうか?」
「勿論だとも…既に奴らが通るルートは割り出している。それに合わせて襲撃用の部隊を配置済みだ」
「流石ですわ」
「万が一に奴がヘリで逃げることを選択した場合にも備えて、基地に突入させた機甲師団がヘリを撃墜する算段だ」
「まぁ…わざわざ囮の方も排除致しますの?」
kar98kが口元に手を当てて意外そうに驚く。
「囮を撃墜するのに割く時間も惜しいといえば惜しいが、わざわざ生かしておく意味もないからな」
「うふふ…貴方様は敵にとって悪夢のような御方ですわね」
「あまり誉めてくれるな…私が調子に乗ったらどうしてくれる?」
「そう仰っておられる間は大丈夫ですわ」
そんなジョークを言い合ったツァールトハイトは目の前にあるモニターを見ながら無線を取り出す。
「さて、そろそろ頃合いだろう。作戦中の各員へ伝達、作戦を最終フェイズへ移行…諸君らの力を持ってして我等ゲルマン民族の力と祖国への忠誠心を知らしめてやれ」
基地施設内部に侵入を果たしたドイツ軍兵士達は建物内のフロアを制圧しようと、国連兵と戦闘を繰り広げながらもツァールトハイトからの指示を受け取る。
「総統閣下のために!我等が愛するドイツのために!ジークハイルッ!!」
構えているG36で射撃しながら一人のドイツ兵がそう叫ぶ。
それに呼応するように「オオォーー!!」と回りのドイツ兵達が雄叫びを上げ、室内に響き渡る。
「このイカれ狂信者共がッ!…ぎゃッ」
応戦しようと壁から顔を出した国連兵の頭部に風穴が空き、身体が崩れ落ちる。
だが、撃たれた国連兵がいた場所から全身を強固な装甲で覆われ、左手に半身をカバーできる盾を装備した機械兵『イージス』が3体現れた。このイージスもテュポーン同様に新ソ連からの輸入品であり、カラーもブルーへと変更され、身体の一部と手にしている盾に『UN』と書かれている。
「ブリキ人形のお出ましだ!」
「ん?あれは…」
一人のドイツ兵がイージスがいつもの電撃武器ではなく銃を手にしていることに気付き、イージスの右手に持っている銃を注視した。
「なッ…あのイージス…マシンガンを持ってるぞッ!」
「チッ…!隠れろぉ!!」
イージスがマシンガンを装備していると気付いたドイツ兵達は咄嗟にそれぞれ自身の近くにある遮蔽物に隠れるが、4人のドイツ兵が仲間が隠れる時間を稼ぐために遮蔽物から身体を出し、射撃を続けていた。
そしてイージス達は身体に被弾しながらも、隠れなかったドイツ兵達目掛けてマシンガンを連射する。
結果ドイツ兵4人はマシンガンの銃弾を何十発もその身体で受け止めることになる。
ドイツ兵達は自身の身を鉄の雨に貫かれていくのを感じながら意識をシャットダウンし、地面へと倒れていく。
イージスが現れてから、わずか30秒ほどの出来事であった。
「ラケーテン準備よし!フォイアー!」
しかし仲間の犠牲を無駄にすることなくドイツ兵がパンツァーファウスト3とよばれるロケットランチャーを構え、発射の掛け声と共にランチャーをイージスを狙って撃つ。
ロケット弾を喰らったイージスは盛大な爆音と周りのイージスを巻き込んだ爆風と共に粉々に砕け散った。
「ここのフロアは制圧した!急ぎ、次のフロアに向かうぞ!」
ドイツ兵の隊長が部下達を連れて次のフロアへと移動しようとした時、フロアの窓の外から風を切るようなプロペラの音がして、窓の外を見る。
すると国連のヘリが基地から飛び立ち、脱出をしていた。
「目標のヘリを発見!現在逃走している!」
《了解!TOWによる攻撃を開始する!》
ヘリが逃走しているのを発見したドイツ兵の隊長は自分達がいる施設の外で待機している味方戦車部隊に報告した。
報告を受けた戦車部隊は未だ遠く離れていないヘリを狙い、砲塔側面に左右2本ずつ装着しているBGM-71 TOW(ミサイル)を発射する。
発射されたミサイルは2本の有線で接続され、砲手が手動で目標まで誘導する。
ミサイルは真っ直ぐに目標のヘリまで飛んでいき、国連のヘリはチャフを展開するもミサイルは有線式のため効果がなく、そのまま無慈悲にもヘリに着弾し、大きな音と共に爆散する。
破壊されたヘリは燃え盛りながら地上へと墜ちていく。
《こちらアイゼン1 目標のヘリを撃墜した。確認してくれ》
《こちらHQ こっちでも確認できた。アイゼン隊はそのまま待機して施設内に突入した味方部隊を防衛しろ》
《アイゼン1 了解》
一方もう一つの目標…ティミッドが乗るSUVが基地から離れ、マクデブルクから東隣にあるケーニヒスボルン経由で逃走していた。
「くそッ…奴らめ!この屈辱は絶対に忘れはせんぞ!」
「しかしティミッド指令…ドイツ軍は一体どうやって我々のレーダーを掻い潜ったのでしょうか?」
逃走するSUVの中で何故ドイツ軍が奇襲できたのか気になった護衛の兵士がティミッド指令官に聞いた。
「恐らく、奴らはコーラップス汚染によってレーダーでは探知出来ないルートを通って来たのだろう…」
「まさかイエローエリアを?イエローエリアといってもELIDがウジャウジャいるのに」
「そのまさかだ…あのドイツ軍はイエローエリアの中をELIDを排除しながら進んだんだ…丁度その頃我々の主力部隊はコルビッツ=レッツリンガー・ハイデでELIDの掃討作戦中だった。我が軍の攻撃によって激しい戦闘音がしていたはずだ…奴らにとっては自分達の音をかき消せる、いいチャンスだったろうなッ!」
マクデブルクの北にあるコルビッツ=レッツリンガー・ハイデは、かつては緑豊かな自然が美しい国立保護区だったが、今ではコーラップス汚染の影響で見る影もないほど荒廃しており、ELIDが支配するレッドエリアとなっている。
ツァールトハイト率いるドイツクーデター軍はレッドエリアに国連軍が出撃している間に国連軍とELIDによる戦闘音で自軍の音をかき消し、イエローエリアを突破した。
そしてマクデブルク基地に奇襲を仕掛け、自分達の帰る場所が襲われたことに気付いた、レッドエリアに出撃中の国連部隊は急いで基地に戻ろうとしたが、ツァールトハイトの命令によって待ち伏せしていたドイツ軍の戦闘ヘリ部隊によって国連部隊は壊滅した。
このお陰でドイツ軍は背中を刺されることなくマクデブルク基地攻略に集中することが出来たというわけだ。
「なッ…あれは!?」
突然ドライバーがサイドミラーで後方を見て驚く。
つられて車内の者も全員が後ろを見ると、ドイツ軍が保有する中型ヘリ『NH90』がティミッドが乗るSUVへと迫っていた。
「なッ、何故この道がバレたッ!?」
「全速力で走ります!しっかりとお捕まり下さい!」
ドライバーが追っ手のヘリから逃げる為にアクセルを全開で走らせる。だが、ドイツ軍のヘリは車の左方向へと並走させ、それに合わせてNH90の右サイドのハッチが開く。
すると中から黒い制服の上にコートを身に纏い、頭に軍帽を被った女性の姿が現れ、自身の身長とほぼ同じ長さのある対物ライフルを持ち、逃走するSUVを狙っている。
「外すなよ、PzB39」
「分かってるわ」
同じくNH90に搭乗しているドイツ兵からPzB39と呼ばれた女性は戦術人形であり、自身の名と同じ対物ライフルを構え、ティミッドが乗る車を狙っている。
同時にSUVのドア窓から護衛が半身を出してNH90に向かって銃を撃つ。
放たれた弾丸はNH90に数発着弾するが、PzB39の排除までには至らず、PzB39はSUVのフロントエンジンを狙い撃つ。
エンジンを撃ち抜かれコントロールを失ったSUVはフラフラと右左と激しく揺れ、やがて車体が横転し始めて、ドア窓から半身を出していた護衛を振り落としながら転げ回る。
やがてSUVは逆さまの状態で停止して、大破したSUVの前にUH60が降りる。
逆さまになったSUVから護衛の国連兵士2名が這いつくばりながら出てくる。
護衛の兵士達はすぐに立ち上がって接近するドイツ軍のヘリに応戦するも、すでに降り立っていたドイツ兵士達によって射殺される。
自分達を妨害する者がなくなったドイツ兵士達はそのままSUVへと近付く。
SUVの中ではティミッドが逆さまになった車から脱出しようともがいていた。
ドイツ兵達は少々乱暴気味にティミッドを車の中から引っ張り出す。
外に出されたティミッドは左右の兵士に両肩を押さえつけられ、コンクリートで固められた地面へと座らされる。
「私にこんなことをしてタダで済むと思うなよ!」
「侵略者風情が黙れ!俺達ドイツ人が苦しむ姿を見ながら何も助けもしなかったくせに!!」
ティミッドに積年の怒りをぶつけたドイツ兵はティミッドの目の前に手のひらサイズの円盤状の機械を置いた。
するとその機械から人の形をしたホログラムが現れる。
よく見るとそのホログラムの人物は現在前哨基地で指揮を取っているツァールトハイトだった。
「ごきげんよう、ティミッド司令殿。調子はいかがですかな?」
「貴様…!テロリスト風情がよくも国連基地を!我が基地の戦略的重要性を知っての所業か!」
「戦略的重要性?ふっ、そんなものマクデブルク基地にあるものか」
「な、なに!?ならば何故基地を襲った!?」
読みが外れたティミッドは驚いた。
ティミッドは当初マクデブルクの広さに目をつけ、後にドイツ軍の大規模な駐屯地とするため…あるいはそれ以外の戦略的観点からマクデブルク基地を襲ってきたのだと思いっていた。
「確かにマクデブルク基地は素晴らしい広さだ…軍の施設とするにはうってつけだろう。━━しかしだ。見晴らしのいい場所というのは今日のように弱点ともなるのだ。おかげで支援砲撃だけで十二分に基地の防衛力を削ぐことが出来た」
「くっ…」
ツァールトハイトは偵察ドローンで基地の全体を観察し、国連兵が防衛ラインを築く位置、強力な戦車等が格納されている格納庫、国連無人機の精度を向上させるレーダーアンテナを稼働させるための電力元…それら全てを割り出して支援砲撃を担当する砲兵師団に伝達していた。
「さて、ちょっとした奇襲を行えばテロリスト風情でも制圧出来るような基地のどこに戦略的重要性があるのだろうか?」
「ひッ…」
ティミッドに薄く笑いながら問いかける姿は、ホログラム越しとはいえティミッドには彼が悪魔のような存在に思い、反射的に小さく悲鳴を出す。
「…我々がマクデブルク基地を襲撃した理由はただ一つ。━━マクデブルク基地で研究されている物を『破壊』するためだ」
「何故部外者の貴様がそれを!?それを知っているのはレベル5以上のアクセス権限を持つ者だけだなのだぞ!」
「ティミッド司令…あれはこの世にあってはならない物だと思わないかね。ソレを求めて人類同士で争い、自滅する。ELIDという人類共通の敵を倒さねばならないこの時に」
「貴様に何が分かる!あれは…人類の未来のための研究だ!」
「そのためなら罪も無き民をモルモットにしても良いと?」
「……致し方ない犠牲だ。彼らは我等人類の糧になり、彼らの献身は未来永劫子孫達に語り続けられるだろう」
「ならば我等の軍事的行動によって出る犠牲者も致し方ない犠牲ですな…当然ティミッド司令…貴方の犠牲も」
ツァールトハイトの言葉と共にヘリで待機していたPzB39がティミッド司令に向けて銃を構える。
「人は大義のためなら如何なる行動も正当化される…人々のため、正義のため…だが残念な事に自分にとっての正義は誰かにとっての悪ともなる。大義のため正義を行使するということは他人から悪だと非難される覚悟が必要だ」
「覚悟だと!?いくら口から立派な持論を語ろうが貴様達がやっていることはただのテロ行為だ!!」
「ははははっ!ならば国連が秘密裏に行っている非人道的な実験はテロ行為ではないと?この私がお前達のやり方を知らないとでも?」
「くっ…アレを軍事利用するでもなく破壊するなど愚かな選択だ」
「愚かどうかは後の歴史が証明するさ」
そう言いながらツァールトハイトはティミッドに背を向ける。
「ではさようなら、ティミッド司令。━━PzB39、後始末は任せたぞ」
「ヤー♪」
ツァールトハイトのホログラムが消え、その先をティミッドはゆっくりと目線をやれば、そこには『死』が待っていた。
《ティミッドのバイタルが消えた》
《なに?…まぁ奴も計画に噛んでいるとはいえ所詮はただの駒だ…そう困ることもあるまい》
《だが我々の計画の存在が何者かにバレていると考えていいだろう》
《では少し早いが実験を再開させよう》
《同意する》
《同じく》
《異論はない》
《それではオペレーションD(デルタ)を発動する…この実験によって出る犠牲者は推定1000万人といったところか》
《それで済むなら安いものだ》
《我等の計画のために我等はそれ以上の犠牲を払っているのだ…今さら誰にも止められんよ》
《そうだな…全ては新世界の輝きとなるべく》
《新世界の輝きとなるべく》
《新世界の輝きとなるべく》
《新世界の輝きとなるべく》
タンクソルジャーレコード
エッボ・アウラー曹長 KIA
コールサイン:アイゼン14
AEG:38
所属:ドイツ陸軍第1装甲師団第25戦車大隊
Battle tank:レオパルト2A7+
第三次世界大戦中にバルト三国一帯を掛けた戦いにて新ソ連軍相手に奮戦。
しかし、停戦後にやっとの思いで故郷であるドイツ・ザクセン州ローバウに帰郷するも、既にそこは新ソ連軍によって更地にされてELIDが徘徊しており、かつての美しい街並みは見る影もなかった。
肝心の政府は敗戦に近い不利な状況もあってか他国の言いなりになっており、国内の復興すらしない有り様で、その状況に絶望している中ツァールトハイト・ヴァム・クラウンの演説を聞き、故郷を取り戻したいという気持ちから彼のクーデターに参加した。
だが、国連軍マクデブルク基地襲撃作戦の際に敵無人戦車のテュポーンの砲撃によって自身が乗る戦車が大破炎上し、アウラー曹長の体も炎で焼かれ始め、戦車の外に逃げるも戦死した。
なお同車に搭乗した他2名も砲撃が直撃した際に戦死している。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
宜しければ感想や評価など頂けると作者の励みになります!
次回もお楽しみに!
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第七話「ディクソン上陸作戦」
と、そんなわけで今回はロシア視点のお話になります。
いよいよ大規模な戦闘がドルフロ世界で勃発です!どうぞお楽しみ下さい!
新ソ連 クラスノヤルスク地方ディクソン近海
「アリスタロフ中将、予定通り全戦闘艦は所定位置に着きました。全艦砲撃準備よし」
「よろしい、では作戦開始予定時刻にて全戦闘艦は支援攻撃を開始せよ。支援攻撃開始400秒後に上陸部隊は順次発進し上陸せよ」
暖かい太陽の光に照らされ、満天の青空が広がるディクソンではアリスタロフ中将率いる旧ロシア政権派の残党軍が当初の予定通りディクソン近海に大規模な艦隊を集結させていた。
中将は元旧極東方面所属ロシア太平洋艦隊の旗艦であるガングート級戦艦セヴァストポリに乗艦しており、セヴァストポリのCICから全軍の指揮を執っている。
艦隊の主力である原子力正規空母アドミラル・チェルナヴィン級二番艦アドミラル・ゴルシコフは艦隊の後方(水平線の盾)の位置に就いている。アドミラル・ゴルシコフにはイヴァン提督が乗艦し指揮を執っている。
アリスタロフ中将の支持は厚く、空母を含めた戦闘艦だけでも集まった艦は42隻にも及ぶ。
ここに揚陸艦や補給艦等を含めると総勢113隻の大艦隊となる。
ちなみに余談ではあるが集結している艦隊の大半(艦隊の7割ほど)は先ほど記述した旧ロシア太平洋艦隊に所属していた艦挺だった。
アドミラル・ゴルシコフ等の一部の艦艇は北方艦隊から離脱して旧ロシア派艦隊に合流した艦艇だ。
なお新ソ連軍が保有する主力艦隊にはバルト艦隊、黒海艦隊、カスピ小艦隊、対欧州艦隊(しかし対欧州艦隊は第三次世界大戦時に当時のイギリス王立海軍第一艦隊との海戦で壊滅的被害を受けており、無傷な艦艇が少数しか残っていないことから現在では活動しておらず軍港基地で待機中である)の四つがある。
「それにしても変ね。ここまでの道中で潜水艦からの攻撃が無かった…。それとも私達が上陸支援のために砲撃するタイミングで来るのかしら?…いえ、こんな浅瀬で艦を沈めても座礁する程度で艦挺の攻撃能力は失われない。奴らが絶好の機会を見逃すなんて思えないのだけれどねぇ…」
現在、中将の艦隊がいる位置は第三次世界大戦の核攻撃によって小規模な地核変動が起きており、地形が盛り上がったことにより水深が浅くなっている。
そのために現在地では軍艦を完全に無力化することが難しくなっていた。
それゆえに艦隊に打撃を加えるチャンスは道中の移動時のみだったので、その時に備えて警戒していたアリスタロフ中将だったが何故か敵からの攻撃が一切なく無傷のまま指定ポイントまでたどり着いたことに違和感を感じている。
「中将、失礼します…」
「あら、ゴーストの隊長君じゃない。一体何のご用かしら?」
考え込む中将の元に国連軍の特殊部隊ゴーストの隊長である北条龍馬がやって来た。
「先ほどドイツのクーデター軍がドイツ領マクデブルクにある国連基地を襲撃しました」
「そう…予想よりも手が早いわねぇ」
龍馬は先ほど国連から入ったドイツによるクーデターの情報を中将に報告した。
中将は慌てる様子も無く、落ち着いた態度でこれから取るであろうドイツ軍の動きを予測する。
「マクデブルク基地は既に陥落し、ツァールトハイト・ヴァム・クラウンはドイツ東西の統一にほぼ成功。これでドイツのクーデター軍はドイツ国内に存在する他国の勢力を完全に排除したことになります」
「この分だと新ソ連に対して戦争を仕掛けるまで、そう時間は掛からないでしょうね」
「ええ…、さらに今回のドイツの動きを見て、アリストクラシー復権派が怪しい動きをしていると欧州各地から報告がありました」
アリストクラシーとは少数の特権的な貴族が支配階級となる貴族制度のことである。
完璧な人工知能によって国家の運営を任せようとするロクサット主義が欧州で広まったことにより欧州各国の王族や貴族等はその身分と権利を貴族制度廃止と共に剥奪された。
その結果、歴史ある伝統や文化、民族としての存在理由が失ってしまうと不満を持ち反発した勢力が欧州全体で現れ始め、その勢力はアリストクラシー復権派または復古主義者と呼ばれている。
「ロクサット主義を母体とする汎欧州連合も黙ってはいないでしょうね」
「ええ…彼らにとっては何が何でも排除せざるを得ない脅威となるでしょう」
「欧州も荒れるわね…」
二人は、これから欧州で起きるであろう悲惨な未来を想像する。
「あぁ…そうそう。この後貴方達ゴーストにやってもらう任務のことなんだけど…こちらから戦術人形を一人そちらに同行させたいのだけれど良いかしら?」
「は、はぁ…我々の足を引っ張らないのであれば構いませんが…」
「なら大丈夫よ!実力に関しては申し分ないはずだから…じゃあ早速紹介するわね。VSKちゃん、こっちにいらっしゃい」
中将が近くにいる戦術人形を手招きして呼ぶ。
すると金髪のショートヘアの女性型人形が中将達の前に立つ。
「どう?うちの子は可愛いでしょう?宜しくして頂戴ね」
「中将、私は貴方の娘ではないのですが…。コホン、ご紹介に預かりました、VSKです。宜しくお願い致します」
「……宜しく頼むよ」
人形嫌いの龍馬は内心複雑な心境になりながらも、足手まといにならなければそれでいいか…と自身を納得させて業務的な笑みで対応する。
「爆撃隊による敵地上部隊への攻撃の成否は貴方達ゴーストと反逆小隊がレーダー施設を破壊できるかにかかっているわ、宜しく頼むわね」
「了解、大きな花火を上げてやりますよ」
そう答えると龍馬は仲間の元に戻るため部屋から退出した。
「それじゃあVSKちゃんも準備してらっしゃい」
「はい、必ず任務を果たしてみせます」
「期待しているわ…あ、でも貴女好みの童顔だからってゴーストの隊長君を襲っちゃダメよ?」
「なっ…しませんよ!?私をなんだと思っているのですか!?…失礼します!!!!」
中将にからかわれたVSKは顔を真っ赤にしながら部屋を出ていく。
「あらら…からかいすぎたかしら」
「今のは普通にセクハラですよ、ゴリラ中将」
「誰がゴリラだ、殺すぞ」
アリスタロフ中将に煽るような苦言をしながら現れたのはアンジェ達反逆小隊がカラ軍島で中将に初めて会った時に中将の側にいた側近だ。
「だって彼VSKちゃん好みの子供みたいな可愛い顔してるんだものー。アジア人は成人していても子供に見えるって本当ね~」
「はぁ…これが私の上官だと思うと本当に胃が痛みますね」
「どういう意味だコラ。そんなにアツい抱擁が欲しいか?あ?」
「…私はこれでも妻一筋ですので慎んで遠慮させて頂きます」
中将の色々危ない発言に頭を抱える側近。しかしこの軽口の言い合いからも二人が長い付き合いだということが伺える。
「中将、時間になりました」
「分かったわ」
そうこうしているうちにオペレーターから作戦開始時刻になったことを知らされる。
アリスタロフ中将はマイクを全軍に繋げ、待機中の全部隊に砲撃の号令を出す。
「全艦隊砲撃を開始せよ!現時刻を持ってオペレーション・PERVYY SHAG作戦を開始する!我が祖国の明日のために全身全霊を掛けて戦いなさい!」
「「「「ウラーーー!!!!」」」」
中将の声に応えるように旧ロシア派の全将兵が声を上げ、自身達の上陸を迎え撃つ為に決死の覚悟で待機しているであろう新ソ連軍がいる大地に向かって各艦の砲撃、ミサイルが数多く飛んでいく。
対して新ソ連軍も向かってくるミサイルや砲弾を迎撃用レーザー砲台で迎撃していく。しかし、やはり数が多い為全てを迎撃するには至らずに新ソ連軍の陣地に撃ち漏らした砲弾とミサイルが降り注ぐ。
次々と大地を揺らさんとする爆発が新ソ連軍の兵士や人形、無人兵器群を焦がしながら鳴り響く。
《こちら第二防衛線からHQ!敵の集中砲撃によって第一防衛線にいる人形共が吹き飛んだ!至急反撃の許可を!》
《こちらHQ、反撃を許可する。旧ロシア派の連中を盛大に歓迎してやれ!》
新ソ連軍の無線通りに新ソ連軍のレーザー砲台やロケット車両、ミサイルが旧ロシア派の艦隊に向かって反撃を開始する。
《艦尾VLS開け!ミサイルを迎撃!対レーザー用攪乱幕の展開も急げ!》
《くそっ!迎撃しきれない!近接防御開始!対ショック姿勢を取れ!》
旧ロシア艦隊も迎撃処置を取り、対レーザー用攪乱幕でレーザーの威力を減衰させ、VLSでミサイルやロケット弾を撃墜させるが、それでも撃ち落としきれなかった新ソ連軍の攻撃が迫り来る。
近接防御としてCIWSを起動し、各艦に搭載されているコールチクCIWS等の30mmによる圧倒的な弾幕にて迎撃するが、それでも迎撃を掻い潜った幾つかの攻撃が旧ロシア派の艦に命中する。
《こちら駆逐艦マルスカーヤ・ズヴィズダー!右舷に被弾!浸水発生!行動不能!だが砲撃はまだ出来るぞ!引き続き支援を続行する!》
《スィゾーンも被弾した!航行速度が低下した為一旦隊列から離れ後続に道を空ける!》
新ソ連軍の攻撃によって旧ロシア派の艦艇に大小はあれど被害が出始める。
だがそろそろ砲撃開始から400秒が経とうとする。
《HQより全揚陸艦へ、砲撃から400秒が経過した!各艦は前進し各上陸部隊を発進させよ。繰り返す、前進し各上陸部隊を発進させよ》
オペレーターの指示によって多数のイワン・ロゴフ級揚陸艦が座礁しないギリギリまで浜辺に近づこうと前進し始める。
《こちら揚陸艦ファザーン、敵の砲火が激しい!このままでは揚陸艇を出せない!狙い撃ちにされてる!》
《駆逐艦シチートだ、我が艦が盾になる!貴艦はそのまま進まれたし!》
一隻の揚陸艦が敵の集中砲火を喰らい足止めされていると、ウダロイ-Ⅱ級駆逐艦シチ―トが揚陸艦ファザーンを守る為にファザーンの進路を塞がない程度に前に出て盾となり敵の攻撃を受け止めている。
戦艦セヴァストポリ CIC室内
「駆逐艦シチート、被弾!艦首大破!尚も戦闘継続中!」
「ミサイル接近!近接防御開始!」
「放射線濃度上昇!レーダーアウト!近接データリンクに切り替えろ!急げッ!」
CIC室内にてオペレーター達の緊迫した声が飛び交う。
「中将!各揚陸艦から揚陸艇が発進!上陸を開始しました!」
「輸送ヘリ部隊も順次発進させなさい。それと同時にゴーストと反逆小隊にも出撃許可を出しておいて」
「はっ!」
「さぁ、お手並み拝見といこうかしら」
アリスタロフ中将は腕を組み、CICのモニターを見つめながら不敵に笑みを浮かべた。
新ソ連軍・旧ロシア軍の両軍の砲撃が飛び交う中、軍の標準作戦人形キュクロープスを乗せた輸送ヘリMi-8MTVの大群が陸を目指して空母や強襲揚陸艦から飛んでいく。
その中にはゴーストと反逆小隊を乗せたヘリMi-35M(ハインド)の姿もあり、戦艦セヴァストポリのヘリポートから飛び立っていく。
そして陸を目指し飛んでいる多数のヘリの下には数多くの揚陸艦から発進した揚陸艇が自律型無人戦車テュポーンを乗せて陸地まで海を進んでいく。
《砲撃で機体が揺れる。衝撃に備えておけよ》
「おいおい、乗客の皆様に快適な空の旅をお届けするのがお前の役目だろ?」
《こんな戦場で無茶言うな!》
ヘリを操縦しているゴースト6からの警告に対し、隊長である北条龍馬は煽りジョークで返す。この様子からもゴーストのメンバー達から緊張した姿は見られず、むしろ音楽をつけてリラックスさえしている隊員もいた。
彼らゴーストは皆それぞれデザインの違うスカルマスクを被り、ヘルメットのNVG(ナイトビジョン)の位置を調整する者、仲間のバックパックからお気に入りのお菓子を取り出す者など、激しい砲撃によって揺れる中、自分たちが乗っているヘリが落ちるなどとは微塵も心配していない様子だった。
「随分と余裕そうね…。慢心するのは勝手だけど私達を巻き込まないで頂戴」
同じヘリに同乗しているAR15から冷たい目と非難の声がゴースト達に向けられる。
今回の作戦にゴースト1~6の6人と反逆小隊からはM4とAR15の二人が投入されたが、依然として険悪なムードが漂い、同じく同乗しているVSKはただ困惑しているしかなかった。
「落ち着けよ、お嬢ちゃん。こんな戦場は飽きる程潜ってるんだ。少しは余裕にもなるだろう」
「まぁ待てゴースト3、初めての本物の戦場でAR15は不安なのさ」
「ハハハハハッ、それは気付かなかったぜ!悪かったなお嬢ちゃん!」
「貴方達覚えてなさい…いつか地獄に落としてやるから」
態度を直す気のないゴースト3とゴースト4からの煽りにキレるAR15。
「地獄か…安心しろ、僕達が地獄に落ちることはもうとっくの昔に決まってるよ」
だがAR15の脅し文句に突然自虐のようなことを言うゴーストの隊長。
その言葉が気になったM4が口を開く。
「あの…それってどういう意味なんですか?」
「僕達がどれだけ人を殺したと思ってる。…天国なんてものには行けるわけがないだろう?」
そう言う龍馬の表情はスカルマスクによって隠されているせいで、よく分からないが唯一マスクに隠されていない目は悲しげに揺れていた。
「さぁ、そろそろ無駄話は終わりにしよう。この上陸作戦はД21基地進行のための重要な足掛かりとなる。気合入れていけ」
龍馬は気を入れなおすために話を切り上げ、部下達やM4とAR15、VSKに活を入れる。
《今から敵の第三防衛線を突っ切る!着陸に備えておけ!》
ヘリを操縦するゴースト6から現時点で対空砲火がもっとも激しい第三防衛線に突入するとの知らせが入る。ここを抜ければ目標のLZ(ランディングゾーン)まで後わずかだ。
「了解した!聞いたか野郎共!パーティー会場にお邪魔する用意はいいか?」
「勿論です!ドレスコードも見ての通りバッチリですよ!」
ゴーストリーダーである龍馬の声にゴースト2がユーモアたっぷりに自身が身に着けているショルダーアーマー付きタクティカルベストを指しながら答える。
「きゃっ!」
すると彼らが乗るヘリの右隣を飛行していたヘリが敵のミサイルの直撃を受け、爆発しながら残骸が墜落していく。
その衝撃がゴースト達が乗るヘリにも伝わり激しく揺れ、VSKが転倒しそうになるも隣にいたゴースト5がVSKを支えていた。
「あ、ありがとうございます…」
「気にするな…レディーファーストってやつさ」
「は、はぁ…」
そう言うとゴースト5はVSKの腰に回していた手を離した。
《快適な空の旅をお楽しみ中のお客様へ、当機は間もなく着陸いたします!忘れ物などが無いようお降りしやがれ!》
ヘリパイロットを務めているゴースト6から、からかい混じりの連絡が入る。
敵の第三防衛線を突破したのと同時に機体は旧ロシア派のヘリの集団から静かに外れ、敵に見つからないように少し迂回する形で目的のLZ(ランディングゾーン)まで目指す。
「口の悪い機長だな!」
「何が快適な空の旅だ!もう一遍その言葉を辞書で引き直して来い!」
だが、ゴースト3とゴースト4から苦情が入る。
《エコノミークラスごときがうるせぇ!上質なサービスが欲しいならファーストクラスを取ってから出直してきな!》
「エコノミー席だからって差別するような機長がいるなんて問題ね…」
ゴースト6のエコノミー差別発言に呆れながらツッコミを入れるM4。
だがそのM4にAR15が、問題はそこじゃないわよ!?と更に突っ込まれることになる。
「お前ら口を動かす前に手を動かせ!各自装備のチェック!戦闘準備!」
「了解、ボス」
龍馬の一言でゴースト達の空気が変わる。
それまで他愛もないお喋りを繰り広げていたゴースト達は、歴戦のプロが発する特有のプレッシャーを出しながら装備のチェックを開始する。
「緊張感が…」
VSKは仕事モードに切り替わった彼らから感じる突然の重圧に驚きつつも、緊張感の切り替えが上手い軍人は総じて優秀な者が多いと聞いたことがあるのを思い出した。
《LZに到達!周囲に敵影無し!降りろ降りろ降りろ!》
ヘリが目的のLZ(ランディングゾーン)に到着し、機体の両サイドのハッチを開き、そこから最初に龍馬を先頭に、ゴースト5以外のゴースト達が降りて周囲の警戒をしながらエリアの安全を確保する。
それに続くような形でM4、AR15、VSKの三人も機体から降りる。
「エリアクリア!ゴースト2、先行して敵がいないか調べろ」
周囲の安全を確認した龍馬は更に前方に敵がいないか確認するためにゴースト2に先行偵察を命じる。
これは突然の接敵によって部隊に損害を出さないようにするためだ。
「ゴースト6、もうヘリを出していいぞ。セーフポイントまで退避しろ。ゴースト5、ヘリの守りは任せたぞ」
《ゴースト6、了解!帰りはちゃんと拾ってやるから安心しろ》
《そっちも無事でな》
そして先程まで彼らが乗っていたハインドは徐々に高度を上げ、予定していた待機ポイントに飛び去っていた。
「さて…これからどうするわけなの?」
AR15は飛び去って行ったハインドを見つめつつ龍馬に問いかける。
「できる限り敵との接触を避けつつレーダー施設を目指す。爆撃予定時刻まで後一時間しかない。急ぎ足で行く」
「了解よ…あれから腕が鈍ってないか拝見させてもらうわ」
「勝手に言ってろ…チッ…そこを動くなよ」
龍馬は嫌味を言いながら自身を睨みつけるAR15に突然、手にしているアサルトライフル『Honey Badger(ハニーバジャー) 』の銃口を向ける。
「はぁ!?ちょ…」
AR15は抗議の声を上げるが、その声は龍馬が発砲したことによって中断させられる。
放たれた弾丸はAR15の顔の左横の空間を通り過ぎ、バシュッと肉を貫通する音が響き鮮血が飛び散る。
するとAR15の後ろに突然、何もなかった空間から新ソ連兵の姿が現れては糸が切れたように地面に倒れる。
「光学迷彩だ…ゴースト4、そいつを調べろ」
そう言われて倒れた新ソ連兵の元へ行き、身体をまさぐりながら身元を調べるゴースト4。
「光学迷彩持ちがなんでこんなところに…」
「人間が光学迷彩を見破るなんて…すごい…」
貴重な光学迷彩を装備した者が何故一人で居たのか、どうして自分の真後ろに居たのかを考えこむAR15。
一方VSKは龍馬が光学迷彩を瞬時に見破ったことに驚き、素直に称賛した。
「ボス、どうやらコイツは部隊からはぐれたようだ。今もコイツが持ってた無線から仲間と思わしき声が聞こえる。お前は今どこに居るんだ!返事をしろ!ってな」
「そうか…ならこっちの存在は敵にバレたと考えたほうがいいな…」
身元を調べ終えたゴースト4から光学迷彩持ちの新ソ連兵がはぐれ者で無線機を所持していることを聞いた龍馬はすぐにゴースト達の存在が敵側に報告されたと考えた。
「いや、その心配はないぜ。この無線機は故障してるみたいだ。受信は出来るが送信が出来ない…多分砲撃でも喰らったんだろうさ」
「そいつは朗報だ…運が味方してくれたな」
ゴースト4から無線機が故障していることを聞き、龍馬はスカルマスクの下で笑みを浮かべる。
「あ、あの…光学迷彩を装備しているってことは敵も特殊部隊を投入していると考えていいのでしょうか?」
VSKが疑問に思ったことをゴースト達に聞く。
「そりゃそうだろう…僕達のような何らかの特殊部隊が裏をかくことくらい敵も分かってるさ。待ち伏せ用の部隊として配置されてたんだろう」
龍馬は遠回しに敵も馬鹿ではないという。
「だが無念にも敵の砲撃に遭い、部隊はバラバラになったってところか?嫌だねぇ…」
ゴースト3がわざとらしく両手を上げながら話す。
「コイツ第4独立特殊任務旅団の奴か…」
ゴースト4が新ソ連兵のワッペンを見て彼の所属する部隊の正体に気付いた。
「スペツナズ…?こんな防衛戦にも投入されるのね…」
「それだけこの緒戦が重要ってことよ…気を引き締めなさい」
M4は敵の死体がスペツナズということに驚いた。
しかしAR15はこの戦いがどれだけ国の命運を懸けた重要な戦いなのかを自分に言い聞かせるようにM4にも注意を促す。
「……」
そうして二人が喋っている間に龍馬は死んだスペツナズの兵士を見て、彼が銃ではなく、ナイフを握っていることに気が付いたが特に口に出す必要がないと考え話さなかった。
《こちらゴースト2、200M先まで進んだが敵は見当たらない…恐らく進んでも大丈夫だろう》
先行していたゴースト2から連絡が入り、周囲に敵無しとの報告が入る。
「了解、こっちは今、光学迷彩のスペツナズに襲われた…無力化はしたが他に仲間がいる。十分に警戒しながら待機してくれ」
《了解 最大限の警戒で当たります》
ゴースト2との通信を終えた龍馬は仲間の方へと振り返る。
「7分もロスした…いつまでもグズグズしてないで急ごう…レーダ施設に侵入後は最短方法で制圧する…AR15、M4、VSKもそれでいいな?」
「了解…つまりドンパチしてやればいいってことでしょ」
「SOPMODⅡが居れば喜びそうな話ね」
「私もそれで大丈夫です」
龍馬が提案した案に戦術人形の三人は特に否定することもなく同意した。
「それに早く帰らないとお腹を空かせた連中がいるからな…」
今にも消え入りそうな声でボソリと呟くが、龍馬はすぐさま歩き出し、部下達もそれに続いて行く。
だがその声は戦術人形の三人には聞こえていた。
「あの…今のは…」
ゴースト達とは今回が初対面で付き合いが短いVSKは何のことか分からなかったために反逆小隊の2人に聞いてみた。
「ああ…VSKは知らないんだっけ?中将が言ってた例の切り札のことよ」
「彼らが軍用犬の代わりとして飼っている恐竜…ラプトルでしたか…やっぱりおとぎ話では無いんですね」
恐竜というものがクローン技術で復活していたなんてことは、ただの与太話だろうと信じていなかったVSKだったがAR15からの冗談を言っていない真剣な目を見て、自分が間違っていたことを自覚した。
「おい!何してるんだ!置いてくぞ!」
龍馬が動かない三人に向かって叫ぶ。
「悪かったわね!今行くわよ!」
彼女達も亡霊達の後に続くように先を急いで激しい爆音が未だ鳴り響く大地を駆けて行った。
ソルジャーレコード
マルコヴナ・オーシプ曹長 KIA
コールサイン:不明
AEG;28
所属:新ソ連軍第4独立特殊任務旅団第34独立任務支隊
第三次世界大戦を経験していない若き兵士。
元は第92独立自動車化狙撃旅団に所属していたが、同部隊が大型ELIDとの交戦で壊滅したためスペツナズの試験を受けて合格し、第4独立特殊任務旅団へと転属した。
旧ロシア政権派を自称する(真偽は不明)テロリスト集団によって両親と幼い弟を失った過去があり、旧ロシア政権派残党軍によるディクソン上陸作戦を阻止する作戦に参加した際も家族の敵討ちだ…と己を鼓舞していた。
しかし同部隊は、敵部隊による奇襲攻撃を阻止するために第3防衛線からの迂回ルートにて待ち伏せしていたが敵のガングート級戦艦セヴァストポリによる砲撃が着弾したため急ぎ撤退をした。
だが敵の砲撃に身を晒されながらの撤退だったためにマルコヴナ曹長だけ部隊からはぐれてしまった。
さらに彼にとって最悪なことに砲撃の衝撃で無線機と銃が破損してしまった。
彼の所属する同部隊が賢明にマルコヴナ曹長を探したが、無念にも…何者かに頭部を撃ち抜かれた状態で遺体として発見された。
設定解説のオマケコーナー
ゴースト3「えー初めましてゴースト3だ」
ゴースト4「え…自己紹介からするのか!?あー…ゴースト4だ、宜しくな」
ゴースト3「このコーナーでは毎回ワールドフロントラインの登場キャラに時系列やオリジナル兵器、国家の情勢と思惑などを軽~く語らせるコーナー…だそうだ(台本を読みながら)」
ゴースト4「それを俺達がやるのか?何も聞いてないんだが…」
ゴースト3「俺もだ…まぁ作者から台本渡されてるし大丈夫だろう」
ゴースト4「お、おう…で今回は何を解説するんだ?」
ゴースト3「今回は絶賛活躍中の旧ロシア政権派残党軍についてだ」
ゴースト4「アリスタロフ中将が率いる組織だな」
ゴースト3「そうだ…オリジナルのドルフロ本編ではほぼ無いに等しい組織らしいんだが、俺たちの世界では大規模な軍事力を保有している」
ゴースト4「もはや残党とは言えない組織力だよな…何か理由でもあるのか?」
ゴースト3「ああ…そもそもドルフロ本編では第三次世界大戦が始まる数年前くらいに新ソ連勢力がクーデターを起こしてロシア政権が倒れるという形になるらしい」
(*本編で新ソ連勢力がいつクーデターを起こしたのかは正確な日付が出ていないので、この情報は間違っている可能性もあります。誰か詳しい人いませんか…切実)
ゴースト4「だが、そこに俺たちの世界ではアリスタロフ中将という特異点があるわけだ」
ゴースト3「その通りだ…アリスタロフ中将は軍内部でも国民からも支持が厚い人物でな…同期のカーター将軍やクルーガー社長と比べてもメディア受けが良かったそうだ」
ゴースト4「だがそのせいで新ソ連勢力はクーデターを起こそうにもロシア政権派のアリスタロフ中将がいるせいで本編通りに起こせなかったのか」
ゴースト3「クーデターやっても軍部を掌握出来ていなければ意味がないからな。当時は新ソ連政権派とロシア政権派で軍部は5:5の比率で支持が分かれていたそうだ」
ゴースト4「それは確かにクーデターを起こす側にとっても確実な勝利は難しそうだな…」
ゴースト3「しかし、そんな中で第三次世界大戦が勃発した…対アメリカ戦のために一時首都のモスクワから離れてシベリアに移動したんだ」
ゴースト4「ロシア政権派の中心人物が首都から離れてしまったのか」
ゴースト3「その隙をついてカーター将軍率いる新ソ連政権派閥の軍がクーデターをおこしてロシア連邦が崩壊したというわけだ」
ゴースト4「だけどアリスタロフ中将はまだ死んでいない…なら…」
ゴースト3「そう…ならまだ希望はある…まだ残存する旧ロシア政権派の軍人達はそう思ったんだ」
ゴースト4「そしてアリスタロフ中将自身も諦めていなかった」
ゴースト3「新ソ連は選民思想が激しいからな…等級が高い国民じゃなければ安全な都市で生活できない…そういうところが中将にとって気に入らなかったらしい」
ゴースト4「その結果泥沼の内戦が続くわけか…救えないな」
ゴースト3「ちなみに第一話で旧ロシア政権派残党軍がカラ軍島で集合するまでは各地で散り散りにちらばっていて大規模な組織的行動はほとんどなかったらしい」
ゴースト4「なるほど…恐らく主にゲリラ戦が主要な戦い方だったんだろうな」
ゴースト3「ああ、そんな感じだ…と、台本には他にも色々情報が載っているが後はワールドフロントライン本編で出す予定だそうだから、ここまでみたいだ」
ゴースト4「じゃあ、そろそろお別れの時間ってわけか」
ゴースト3「これを見ている皆、ここまで見てくれてありがとうな!面白いと感じたら是非とも感想を送ってくれ!またな!」
ゴースト4「ちなみに作者は超亀更新だから期待せずゆっくり待ってくれよな!またどこかで会おう!あばよ!」
ゴースト3「…それにしても何で俺たちがやらされたんだろうな…」
ゴースト4「本当だよ…戦術人形ですらないぞ俺たち…」
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