TS転生したけど趣味で配信をするだけ (夜乃とばり)
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#読まなくても大丈夫なプロローグかもしれない

パソコンで見る事を想定して書いているので、スマートフォンだとタグが崩壊します……。
読み物としては普通に読めますが、面白さは半減する模様。出来ればパソコンで見てください。


 ある日起きたら女の子になっていた。そんな転生物のテンプレというべき状況が起きたのは私が3歳の時である。

 

 目が覚めたら知らない布団で知らない男女に挟まれているという状況に混乱し、しかし少しの冷静な思考に従い無音で離れようとした。が、身体を起こした時私の目に小さな手が映る。子どもの手としか思えないそれに意識を取られ固まっていると、横の女性が身動ぎをした。

 

「ん~……。すーちゃんトイレに行きたいの……?」

 

 その声を聞いて二人が私の両親だという記憶が脳裏に浮かんでくる。そして流されるままトイレに連れて行かれ一人で寝間着を脱ぐが、途端私の心は寂寥感に襲われた。

 

「あいぼうがいない……」

 

 元の私は魔法使い予備軍の男であった。その相棒が使われる事無く去って逝った悲しみは、男としてとても辛いものがある。私は生涯魔法使いとして生きる事になる未来を思い、一筋の涙を流した。

 

 

 

 

 そんな出来事から早10年。現在の私、音鳴(おとなり) (すず)は至って普通の女の子として生きている。

 

 人間とは慣れる生き物である。転生した当初は女の子という事に悩んだりもしたけど、それよりも思う事があってその悩みは何時の間にか消えていた。

 

 前世の私は所謂コミュ障……といっても業務的な会話だけは問題なく出来るが、それ以外が駄目で友人が一人も居なかった。中学・高校と虐められたせいか、元から一人で居るのが好きだったのが他人について無関心になった事が原因で、でも生きていくのに問題はなかったから当時は特になんとも思っていなかった。

 

 しかし、せっかく生まれ変わったのだ。気持ちを切り替えて友人を作ろうと思った私は頑張って、頑張って、頑張った。

 

 小学生の時は良かった。前世はインドア派で余りしたこともなかった男の子の遊びという物に混ざって楽しく遊んだ。最近の流行を調べて女の子とも話して友達も出来た。

 

 ……が、中学生になって失敗した。後から考えてみると前世の男としての感覚が駄目だったのだろう。男子が話す下ネタや少年漫画にもそれなりの理解を示す親しげな女子という、御多感なお年頃には効きすぎたのか。ある日学年で一番目にカッコイイと女子が噂している男子に告白されたのだ。私は彼の事を友人と思っていたけれど彼にとってはそうではなかったようである。

 

 ――私という存在は男として生まれ、生きて形作られたモノだ。そして女の子になって10年生きても、私は飽くまでも女の子っぽい男の子にしかなれなかった。つまり私にとっての恋愛対象は女の子であるのだ。

 

 なので私は彼の告白を断ったのだが、それが駄目だった。彼の事を好きな女子達に睨まれたのだ、しかもその中に女子の学年カーストでトップなグループも混じっている。ということはつまりもうどうしようもないという事で。

 

 幸いにも虐められる様な事にはならなかったが、私と喋るような女子は居なくなった。深い付き合いの友人は居なかったから被害を受けたくないのだろう、皆離れていった。

 

 男子には避けられているわけではないので話そうと思えば話せるが、何がきっかけで余計に女子の怒りを買って虐めが始まるかもしれない。そんな危険を避ける為に私は中学での友人を作ることを諦めた。

 

 という訳で私は放課後の今まで友人付き合いの為に使っていた時間が空いてしまい、どうするか悩んでいた。そんな時に父がパソコンを買い替え、私専用として古い物を貰える事になったのだ。

 

 古いといっても私が生まれ変わる前に使っていた物よりは遥かに高機能な物で、時代の流れという物を沁み沁みと感じてしまう。そして貰ったパソコンで時々見ていた動画サイトを眺めている時に目についた物がある。前世の私が一番嵌っていたゲームを配信している生放送だった。

 

 タイトルに引かれて見たそれは特に人気もある訳ではなく、コメントが来たら生主が少し喋る程度の配信ではあったのだが、それを見てふと私もしてみたいと思ったのである。

 

 それから両親の許可を得て貯金を叩いて機材を購入した私は、ゲーム実況者としてデビューしたのであった。

 

 

 

 

 

おつベル~

                 今日の配信も面白かった(`・ω・´)b

 

           おつベル~

 

 

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 ベルが行く!箱ダン実況#5

 2017/12/06(水) 19:57開始

 #ゲーム #BS3ゲーム配信 #箱庭のダンジョン~聖なる櫃の謎~ 

 今回はサイドストーリーの収奪の王と書の娘を攻略します!

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 という事があってから1年、始めた当初は人が来ない時もあったが、今ではコテハンを付けて来てくれる方も増えてきた。細々とやっているだけなのだが、千人を超えて来たコミュニティを見ると少し誇らしく思う。

 

 相変わらず学校では一度外れた異物は群れから追い出されるというもので、友人という物が出来ない私であるが、今のこの人生を楽しめているので良いのではないかと感じる今日この頃である。




TS転生動画配信者ベルさんの今まで。
次回からちゃんと配信するので許してくださいなんでもしますん!


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#ヤンデレってどう思う?私は大好きです

前話の後半を加筆修正しました。
一人称視点をどうやったら崩せるのかがわからない。どうしても固くしか書けないという悩み。


 今日も一人で勉学に励んでいた学校生活は終わり、待ちに待った放課後がやってくる。自宅に帰った私は今日は何のゲームを実況するか悩んでいた。私が配信している実況はフリーゲームか家庭用ゲームなのだが、昨日までしていたゲームがエンディングを迎えてしまい次のゲームを決めていなかったのだ。

 

 という事でフリーゲームを纏めているサイトを巡回していた私なのだが、気になるタイトルを見つけてそれをプレイすることにした。

 

 

 

 

 

                 あっ……これかぁ(察し)

 

 

           こんベル~

                       ダンベル~

 

  こんベル~

 

 Ю――――l          ◦LIVE 0:00:31/1:00:00         ▭ ↖ ◎ ⚙

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 ベルが逃げる!ぷりずんぶれいく実況

 2017/12/12(火) 16:38開始

 #ゲーム #フリーゲーム配信 #ぷりずんぶれいく 

 可愛い立ち絵に魅かれてこれにしました。URL:httb://milkon.jp/product/pribre

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 フリーゲームのダウンロードを済ませ、配信を開始してタイトル画面のまま30秒ほど待つとコメントが付いてくる。

 

 こんベル~

 こんベル~

 ダンベル~

 

 人が来たようなのでそろそろ始める事とし、私は最初の挨拶をする。

 

 「こんにちわ~。箱ダンは昨日終わっちゃったし、今日は新しくフリーゲームやるよ~」

 

 生主によっては独特な挨拶をする者も居るが、私は初期から一貫して普通に挨拶している。コメントには私の名前を使って挨拶をするコテハン付きのリスナーばかりの様だ。鈴という自分の名前を英語にしてベル、とは私の事ながら安直な名付けをしたものである。

 

 「絵が可愛かったからこれにしたんだけど、ゲームの説明とかは軽く流し読みしただけで詳しく見てないです」

 

 あっ……これかぁ(察し)

 見たことない

 知っているのか雷電!

 

 「察せられるとか何か不穏なんですが。……とりあえず始めていきます」

 

 そんな感じで挨拶を済ませた私は、はじめからをクリックしてゲームを開始した。

 

 [  ]

 俺の名前は上木志輝。高校2年のどこにでもいる普通の男子なんだが、

 ある日学校から帰っていたら後ろから殴られて気付けば檻の中に居た。

 どうにかして脱出しなければ!だが、俺の周りには何もない。

 (ガチャガチャ)こんな素手で檻を開けれる訳がないs……開いただって!?

 

 檻から出る   ←

 檻から出ない

 

 「まあ、これはとりあえず檻から出るよね」

 

 素直に檻を出るという選択肢を選んで押してみる。

 

 [  ]

 よし、檻から脱出するぞ!

 という訳で無事に脱出した俺は、周りを見渡す。

 如何にも普通の10代の女の子の部屋といったそれは、俺の知っている部屋だった。

 此処は俺の幼馴染であり恋人の、梁出玲弥の部屋だ。

 なんで玲弥の部屋に檻なんて物が……。

 

 部屋から出る   ←

 部屋から出ない

 

 俺も恋人を檻に閉じ込めたい。居ないけど

 通報しました

 おさわりまん此処です!

 

 「逮捕しちゃうぞ? んー、これも出るかなぁ……」

 

 [  ]

 檻があるなんて普通じゃない。急いで部屋から出ないと。

 しかし、俺がドアノブを回して扉を引くとそこには玲弥が居た。

 

 [玲弥]

 志輝くん、起きたんだね。でもなんで出ちゃってるのかな?

 どこに行くつもりだったのかな? せっかく志輝くんの為に用意したのに。

 

 [志輝]

 玲弥、お前が俺を閉じ込めたのか? なんでだ……?

 そもそもこんな事しておかしいだろ! 

 

 [玲弥]

 だって志輝くんが悪いんだよ? 今日あの女とキスしてたよね?

 私が居るのになんで他の女なんかと……志輝くんは私だけを見ていればいいんだよ……

 

 [  ]

 なぜ玲弥が音鳥さんとの事を知っているんだ。確かに俺は今日キスをしている。

 だがあれは俺が悪いわけじゃない。音鳥さんが誘惑してきただけなんだ。 

 そんなのしてしまうに決まってるじゃないか!だから俺は何一つ間違ってない。

 

 「……何、この屑男」

 

 屑やんけ!

 えぇ……(困惑)

 ああ、主人公の名前"うわきしてる"か!スッキリ!

 初見です、入ったら屑男って言われて嬉しいので出ません

 変態だー!

 

 「あ、そういう事。上木で浮気、志輝でしてると。初見さんはいらっしゃいー」

 

 [  ]

 いや、それよりも……玲弥が手にしたのは……包丁!?

 

 [玲弥]

 昔からずっと考えてたの。志輝くんを私だけのモノにするにはどうすればいいかって。

 こうしたら志輝くんはずっと私だけのモノ。ふふっ、なんでこうしなかったのかなぁ……

 志輝くん、志輝くん、志輝くん、志輝くん、志輝くん、志輝くん、志輝くん、志輝くん

 、志輝くん、志輝くん、志輝くん、志輝くん、志輝くん、志輝くん、志輝くん、志輝く

 ん、志輝くん、志輝くん、志輝くん、志輝くん、志輝くん、志輝くん、志輝くん、志輝...

 

 [  ]

 ヤバい、このままだと俺は玲弥に殺されてしまう!!どうにかして逃げないと!!

 

 「正直これは刺されるべき。玲弥ちゃん頑張れ!」

 

  (アカン)

 ベルさんの言う通り

 ベルさんwwww

 むしろ挿されるべき♂

 

 と、ヒロインの方を応援していた私だが、ゲーム内で説明が入る。どうやらここからQTE形式の様だ。QTEとはクイック・タイム・イベントの略で、画面上に出た指示に従ってボタンを入力して、その成否によって次のイベントが決まるのである。

 

 


 ↓SCORE Perfect:- Good:- Miss:-

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 ↑


 

 

 べるさんがんばえー

 これQTEか?音ゲーじゃなくて?

 QTEは悪。わかんだね

 

  「流石にこの速度で失敗はないって、ね、っと」

 

 SCORE Perfect:9 Good:6 Miss:0

 [  ]

 あ、危ない。玲弥が突き刺してきた包丁を後ろに跳んでかわした俺は冷や汗を流す。

 コイツは俺を本気で殺す気なんだ。

 

 [玲弥]

 なんで避けるの? ねぇ? なんで? なんで? なんでなんでなんでなんでなんで

 

 [志輝]

 刺されたら死ぬだろうが!? ふざけるな! 退けよッ!!

 


 ↓SCORE Perfect:- Good:- Miss:-

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 ↑


 

 

 「下、右、う……って、あー!? ミスった……けど1回だけなら、ってまたー! むぅー」

 

 そんな失敗で大丈夫か

 大丈夫だ、問題ない

 むぅーとか可愛いかよ

 

 SCORE Perfect:4 Good:14 Miss:2

 [  ]

 俺は玲弥を突き飛ばし、扉から逃げようとする。この部屋から出れさえすれば!

 

 [玲弥]

 痛っ、痛いよ、志輝くん。……ねぇ、逃げないで。逃げないで戻ってよ、戻ってよぉ。

 

 [志輝]

 うるさい、黙れ! こんな事されて、逃げねぇ奴なんて居ねぇよ!

 お前なんてもう恋人でもなんでもねぇ! 大ッ――

 


 ↓SCORE Perfect:- Good:- Miss:-

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 ↑


 

 

 「……っ! 早いけどなんとか出来そっ……あああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! ? ! ?」

 

 !?

 ベルさん!?

 どした!?

 !?

 

 画面を流れる指示に従いカーソルキーを叩く事に集中していた私は、突如反応しなくなったキーに一瞬の思考停止のち思わず叫んでしまった。さっとキーボードを見てみると電源部分にライトが灯っていない、そして私が使っているキーボードはワイヤレスである。男としての感性がカッコイイと思ってしまった故に買ってしまったモノだ。これが現す事柄とはつまり――

 

 「キーボードの電池が……なくなった……」

 

 え、ワイヤレス?

 (アカン)

 キーボードとマウスは有線じゃないと

 なんてタイミングで

 あー……

 

 SCORE Perfect:3 Good:6 Miss:21

 [志輝]

 ――嫌……い……だ?

 

 [  ]

 俺の背中に何かが突き刺さる音が、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛

 い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い...

 

 [玲弥]

 私は、志輝くんのことが、ダイスキだよ。ふ、ふふ、あははははははははははっは

 はははっはははははははははははははははははははははははははははははははは...

 

 [  ]

 狂った様に笑う玲弥の声を聞きながら、俺の意識は沈んでいく。ああ、寒い。

 どうして、こんな、こと、に……。

 

 【BAD END】

 

 

 私はバッドエンドを迎えるゲーム画面を横目に、机の引き出しから取り出した新品の電池をキーボードの電池と取り変えた。そして、このゲームをプレイして心に浮かんだ感想を口に出す。

 

 「……絵柄と内容、あって無くない?」

 

 わかる

 思ってた

 空気読み




今回ベルさんがプレイしていたフリーゲームはこちら。


【ぷりずんぶれいく】LoseXP/pista/7/8/10対応

Story:
起きたら檻の中に居た。無事に逃げ出そう!

character:
上木志輝(主人公)
デフォルメされたもっふもふの学ラン着た猫。

梁出玲弥(ヒロイン)
デフォルメされたもっふもふのセーラー服着た犬。

これを踏まえてもう一度読み直してみよう。
檻の中に居るもふ猫のスチル、ナイフを持ったもふ犬のスチル……。
ベルさんとリスナー達が感じてた空気読みを共感できるかもしれない。
ちなみに音鳥さんは上木くんと同じく猫。泥棒猫。


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#あらすじに配信するだけと書いてあるけど、あれは嘘だ

 私が使っている動画サイトのトップ画面には、人気のあるオススメの動画が表示される。その中から気になる動画を選んで視聴しているのだが、その時によく見かける物がある。

 

 【歌ってみた】というタイトルが付いたそれは、一言で言ってしまえば投稿者が好きな曲を自分で歌ったもので、歌い手によっては大幅なアレンジを加えたりオリジナルのミュージックビデオを作ったりと、その動画サイトでは人気のあるジャンルの一画だ。素人が歌っているのだが玉石混合で、上手い者はプロ並みであり実際に人気になってデビューしたケースもあるらしい。

 

 そんなオススメに表示されている歌ってみた動画のサムネイルを見ていて、ふとクリスマスに関連した曲がちらほら見られるという事に気付く。今は12月の下旬であり、街はイルミネーションに彩られているが、こんな所もクリスマスになったりするのだなと笑みがこぼれた。

 

 私は気まぐれにその中の動画を一つ選んで聞いてみる。知らない曲だったのだが、うん、良い曲だ。その動画の曲のオリジナルは、ボーカロイドという音声合成技術を使って作られた物で、先ほどの様に動画投稿で人気になりメジャーデビューしたプロデューサーの作品らしい。その曲を聞きながら私は、前にリスナーが書いていたコメントを思い出す。

 

 

 

 

 「まさかの領主様が槍と魔法の英雄だったとは、このリハクの目を以てしても読めなかった!」

 

 読めなかったが先やで

 北斗とか相変わらずネタ古い

 

 ダンジョンで危機に陥った所、実力を隠していたキャラが助けにくる。という良くあるテンプレ展開を見ている時に、確かそのコメントが書かれた筈だ。

 

 そいやゲーム実況以外せんの?歌とか

 

 「ん、歌? 歌い手って事?」

 

 コントローラーを操作しつつ、目に映ったそのコメントを拾う。だけど私はこの1年ゲーム実況以外は特に考えた事なんてなかった。最初は気になったからというきっかけだったが、実況をしてリスナーのコメントに返すという行為が、小学生の時に友人同士でゲームをしていた時の様な感じを覚えて楽しかったのだ。

 

 歌い手兼ゲーム実況者は少ない

 ベルさん声可愛いし聞いてみたい気はする

 

 「別にする気はないかなー。でも、まあ、気が向いたらするかも?」

 

 

 

 

 などと、あの時は適当に返した記憶がある。だがきっと私が歌う事なんてこの先もないだろう。

 

 見ていた動画を止めてランキングをずらせば、音楽以外にも政治や技術という項目があって、そしてその他に合わせた時だった。ランキングの全てがバーチャルアイドルという単語で埋まっていたのだ。その動画を開いてみると、私が普段実況をしているサイトとは別のサイトで仮想のキャラクターが配信をしている一部を切り抜いた物で、素直に面白いなと感じた。

 

 面白い場面だけを選んで切り抜いているからと言われればそれまでなのだが、でもその時の私は面白いと興味を惹かれてしまったのだから仕方がない。本来の配信はどんな物なのか覗いてみようと、別のタブでそのサイトを開いてみるのだった。




あとがき

プロットなどなくその場その瞬間に頭に浮かんだ事を書いている。
 つまり自分にもこの先どうなるかわからない真っ暗闇をただただ突き進んでいる。
  一寸先は闇とはよく言ったものだ。でもその先にはきっと光があると信じて――



 自分の好きなボーカロイドのクリスマス曲はSnow Song Showです。(唐突)

 実は利用規約しか読んでなかったので、今更ながらハーメルンの取扱説明書読みました。
 そして特殊タグの使用方法のリンク先を見てたら、『誤字報告から使われてるタグを見れます』との一文が。
 ……誤字報告機能使ってなかったから知らなかった。という訳でこれから特殊タグを使った作品を色々覗いてみて、先達に使い方を学ばせていただきます。
 (今までは所謂職人の見て技術を盗めという、師匠の技を見て、自分で再現してみて、失敗作を前にどこが間違ってるんだろうと試行錯誤、そんな感じの事を。実現できるという証明の完成品が既にあってなので、最初にそれを形にした開祖には頭が上がらないです)


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#アニメは3話まで見てから判断!ってよく言うよね

 年が変わって寒さも和らぎ始めた3月の初頭。本命の高校受験を目前に控えた受験生という事で、流石にゲーム実況は止め真面目に勉強をしている。

 

 と言っても私は転生者だ。元々の基礎もあり模試でも志望校はA判定を取れているので、余程の事がない限りは問題などない。滑り止めに受けた私立校でも合格している分、少しは気持ちを緩めてもよいだろう。

 

 なので慢心とまではいかないが、BGM代わりに仮想ユーチューバー、最近ではバーチャルユーチューバーと呼ばれているライバーの配信をパソコンで流しながら勉強していたりする。

 

 12月のあれから私はVtuberの配信を見るようになっていて、今は二つの企業所属Vtuber()良く見(推し)ていた。一つは元気な所が人気な来宮きりんや、うさ耳が魅力的なシャネルカ・ラビリットなどが所属する、あるてま。そしてもう一つは―――

 

 

 

 

ねがいちゃん可愛い

てぇてぇ

 

 

 

止まるんじゃねえぞ!

 

 

しかしこの数か月でVもよう増えた(定期)

 

▶ ▶❘ ♪ ・ライブ
 
 ⚙ ❐ ▭ ▣ 

【#ねがい生放送】マシュマロパーティーな雑談

 9,258 人が視聴中・46分前にライブ配信開始
 
 ⤴315 ⤵5 ➦共有 ≡₊保存 … 

 
 Negai Ch。ほしのねがいチャンネル 
 チャンネル登録 

 チャンネル登録者数 11.6万人 

 今日はマシュマロをもぐもぐします+☆(*╹x╹*)☆。+

 それからね~、なんとなんと良いことがあるんだよ!

 もっと見る

 

 『そろそろ最後のマシュマロかな~、もぐもぐ~』

 

 

                                 

こんすたー!僕は春から高校生なんですが、

知り合いが誰も居ないところに入学するので不安です。

ねがいちゃんは高校に入学した時

どうやって友達作りましたか?

 

 

マシュマロ

❏〟

 

 『私が入学した時か~、まずは席が横になった子と仲良くなって、そのまま他の子にどんどん話しかけに行ったかな?』

 

 普通の流れ

 コミュ力ある

 何それ凄い(コミュ症感

 トライ先輩

 \200

 ねがいちゃんの椅子になりたい

 

 もぐもぐとマシュマロを食べるポーズをしている3Dのアイドル。彼女はVtuber黎明期にこの動画サイトで生配信を始めたうちの一人で、今ではVtuber四天王の一人としても数えられている。所属しているのは私がよく見ているもう一つで、ぶいすてーじという事務所である。

 

 『さて、マシュマロを食べ終わったところで~、いいことの発表だよ~』

 

 待ってました!

 なんだなんだ

 なにかな?

 どきどき……

 

 『なんと~? 私たちの後輩が、1週間後デビューに決まったよ~!』

 

 な、なんだって~!!

 オーディション4日前だったのにまじか

 アトランティスの蝦夷

 \2,000

 おめでとうスパチャ

 やったー!後輩だー! Waon Channel 犬鳴わおん✓

 はっやーい(はやい)

 

 現在は所属タレントが2人という事務所で、先日は新人募集のオーディションの発表をしていた。しかしそれから半月しか経たないうちにデビューとは、中々に早いものだ。

 

 『4日間毎日20時からだから、みんな絶対に見てあげてね~』

 

 ライン@あるてま推し

 \1,919

 乗るしかないっ、このびっぐうぇーぶに!

 楽しみすぎて7時間しか寝れなさそうな予感

 

 

 

 

 そんな風に関心しながら聞いていると、弟から夕食の時間だと呼ばれたのでペンを動かす手を止めた。そして生放送が続いているブラウザを閉じて、部屋を出る事にする。

 

 そういえば、最後に読まれたマシュマロは私と同じ様な状況だった。4月になったその時には参考にさせてもらおう、と私は記憶の片隅に留めて置いた。




ぶいすてーじ所属のVtuberさん達の設定を考えてたら1時間オーバーしました。
昨日投稿したかったけど間に合わなかったよ……。

自分は一つの箱しか知らないので、二つ追ってる鈴ちゃんは凄い。
平日朝に毎日歌とニュースの配信をしてる所。最近は土曜日にも増えたけれど。
そこ以外のVtuberさんは殆ど知らないのです。


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#しゅ、主人公が喋った……

 手櫛で髪を梳かしながら、私は電車の窓に映る自分の顔を見つめる。背後にはスーツ姿のサラリーマン達が、詰め放題の袋の様に隙間なく立っていて。朝の通勤ラッシュの電車に乗るなんて十年振りだな。とそんな事を考えた。

 

 今日は受験の日であり、会場の高校へ向かう為に電車に揺られている。車掌のアナウンスと共に窓越しに見える景色が、駅のホームまでまもなくだという事を告げていて、私は忘れ物はないだろうかと足元をさっと目で確認を済ませた。電車も減速を始めホームに立つ人々が見え始めたが、既に一杯のこの電車には不可能であろう人数が並んでいる。しかしそれでもきっと乗れてしまうのだろう。サラリーマンという一山いくらの歯車はそういう物だ。

 

 停車した電車の開いていくドアを出て、改札へ向けての歩みを進める。4歩ほど進んだ時だろうか? 私の背から女の子の声が聞こえた。

 

 「す、すみませんー、降ります! 降ります!」

 

 しかし既に乗り込む人の列が進もうとしている。振り返った私は電車へと身を滑らせ隙間に手を伸ばし声をかけた。

 

 「手、掴むよ!」

 

 「……っ」

 

 そして隙間に見えた手を掴み引っ張って、人混みから外へと連れ出した。押し退けられたサラリーマンには睨まれたが、軽く頭を下げて手を引いたままドアから離れる。

 

 「あ、あの……」

 

 その声と共に掴んでいた手を放す。そして視線を彼女に合わせると、そこには美少女が居た。鳥の濡羽色をした艶やかな髪をハーフアップにしていて、ちらりと見える三つ編みは後ろで結んでいるのだろうか? 制服はこの辺りでは見たことがないセーラー服を着ていた。スカートと一体型で腰の辺りをベルトで止めるという変わった物だ。

 

 「えっと、いきなり手を掴んでごめんね?」

 

 「いえ、助かりました! 本当に出られなくて、降りれなかったらと思うと……」

 

 「通勤ラッシュの時間帯だから、大変だよねぇ」

 

 その少女の声も澄んだ物で、見た目にあっていてとても可愛らしい。しかし、今日この時に見たことがない制服という事は恐らく。

 

 「ねぇ、君ももしかして今日受験だったり?」

 

 「はい! あっ、貴女もですか?」

 

 どうやら当たりだったようだ。この駅から行ける高校は一つしかない。彼女が降りる駅を間違えていない限りは、目的地は一緒だろう。ならばこれも一つの縁かもしれない。

 

 「うん。これも何かの縁、よかったら一緒に行かない?」

 

 「ええ、是非!」

 

 「ん、よろしくね?」

 

 そのまま改札を出て、二人並んで学校へと向かう。時間にはまだまだ余裕がある。この調子だとどうやら無事に間に合いそうだ。

 

 「あぁ、そういえば名前を聞いてなかった。私の名前は音鳴 鈴だよ」

 

 「御門(みかど) 沙耶(さや)です。音鳴さんは――」

 

 二人で会話しながら進む。どうやら彼女は春から両親が転勤する事になり、こちらの高校へ一人で受験しに来たらしい。前日の昼に一度ルートは確認していたが、朝の電車がこんなに混む物とは思わず、人混みに埋もれてしまったそうだ。

 

 なんて会話をしていたら高校へと辿り着く。看板を持った先輩方の方向指示に従って進んでいくと、受験生への案内が掲示されていた。どうやら御門さんとは別の部屋で試験の様だ。お互いの健闘を祈って別れると、私は教室へと向かって席に着席し、最後の復習をするべく参考書を読み流した。

 

 

 

 

 第5限の社会試験も終わり、これで受験は終了した。昼食は教室で食べながら参考書を流し読んでいたのだが、保温機能付きとはいえお弁当にカツ丼とはいかがな物だろうか? 朝に揚げたてを味見していた弟は喜んでいたが、これは母と議論の余地があると思う。私はやはりお弁当はシンプルに玉子焼きが一番だと主張したい。

 

 帰る用意を済ませ校門へと向かっていると、御門さんと鉢合わせた。まだ桜の咲いていない並木道を、一緒に駅まで歩いて帰る。御門さんは帰りはそのまま家へと帰るので、別の方向の電車に乗るという事で改札でお別れだ。

 

 「次に会う時は、この桜が咲いてる頃だね。まぁ、お互い合格してたらだけど」

 

 「合格してますよ、きっと! ……うん、してる筈です」

 

 しまった、彼女を少し不安にさせてしまったか? 駄目だな、私は本当に。

 

 「ぁー、御門さん。なんていうか、漫画かって感じだけどさ」

 

 私は自分の鞄につけていたキーホルダーを外す。可愛らしいうさぎのぬいぐるみで、とってももふもふしているそれを、御門さんへと差し出す。

 

 「よかったら、ゲン担ぎって事で……次に会った時に返して、ってどうかな?」

 

 「……ふふっ」

 

 私が差し出したそれを、御門さんは笑って受け取った。きっと私の顔は赤くなっているのだろう。自分の事ながら、柄にも無い事をしたと思う

 

 「うん、まあ、あれです。恥ずかしい事する奴だなとか、思わないでね!」

 

 「そんな事思わないですよ。ありがとう音鳴さん」

 

 「じゃ、じゃあまた1か月後にね!」

 

 恥ずかしくなった私は、見えていた改札へ向かって駆け出す。そんな私の背に御門さんの声がかかる。

 

 「1か月後に、絶対会いましょう!」

 

 切符を通した改札を潜り抜け、丁度停車していた発車間際の電車へ飛び乗って私は心を落ち着ける。ふと振り返り閉まるドア越しに改札の方へ視線を向けると、御門さんが笑顔で手を振っていた。私も手を振り返して、彼女へ笑顔を向ける。

 

 電車が走りだし彼女の姿が見えなくなると、本当に恥ずかしい事をしたと改めて思う。勢いと思い付きとは怖い物である。けれど、彼女と。御門さんとまた会える事を何故か望んでしまう自分も居た。流れていく景色を眺めながら、もう一度会えると良いな、とそう願った。



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#ガールズラブタグさん仮採用で。早速明日から出勤いける?

 桜の花びらがはらはらと舞い散る並木道を歩く。周りを見渡すと友人と話しながら歩く者や、緊張した面持ちで進む者。そして私と同じ様に大きめの制服に着られている者など、十人十色の同じ制服を着た学生が歩いている。

 

 私は無事に高校に受かっていて、今日が入学式である。あの受験の日から数日後に合格発表があって、最近は学校へ行かなくともインターネットで見られる様になったらしい。昔の様に学校でも掲示はするそうだが、私はパソコンで済ませてしまった。

 

 学校に辿り着くと人の流れに沿って進み、玄関口にあるクラス分け表を見て自分のクラスを確認する。他にも見ようと並んでいる新入生が多いので、確認が終わったらすぐに離れて下駄箱へ向けて進み始めた。昔に通っていた高校では土足だったのだが、最近は学年毎に色分けされた上履きを履く様である。

 

 自分の教室へ辿り着いて入口から見渡すと、既に席の半分位が埋まっていて黒板に座席表があるのを発見する。確認すると名前順で席が決まっていたので、此処で御門さんの名前を探してみたが見つからない。同じクラスではないのかと考えつつも、2列目の一番前との事なのでそちらへ向かう。

 

 どうやら左の席(「隣に話しかける、)の人は既に座っ(隣に話しかける、隣)ているらしい。(に話しかける……」)私は背負っていた鞄を机に置いて、席に着席する。すると左の席の男子生徒から話しかけられた。

 

 「ょ、よぉ!今日はええ天気やと思わん!?」

 

 「え?あぁ、うん、晴れてて桜も綺麗で。いい入学式日和だよね」

 

 何処かで聞いた覚えがあるのだが、初対面の人間とは最初の1秒で第一印象が決まるという。なので私は今度こそ高校生活を失敗しない様に、最初が大事だと普段より気合を入れて笑顔を決めつつ返事を返した。

 

 「……ッ!?……あ、その、俺の名前は相川(あいかわ)って言うんや。よろしく!」

 

 「私の名前は音鳴だよ。よろしく相川君」

 

 「ってか知らない人ばっかで緊張せん? 俺はめっちゃ緊張しとる!」

 

 「わかる。同じ中学から受験してたの数人だったから、殆ど知らない人ばかりだし」

 

 受験の出願は同じ受験先の生徒が全員纏まって、直接現地まで移動して出しに行くというスタイルの中学校だったので、うちの中学校から数人受けたのは知っているが、彼らが全員受かっているのかは知らない。私には話す友人が居なかったので、そんな話をする事は無かったからだ。

 

 「いやー、せやけど横見んと話しかけたら、女子で焦ってしもたわー。高校生活終わった思たでほんま」

 

 「えー、そんな事で終わらないでしょ?」

 

 とは言いつつも、わかる気はする。女子に話しかけても許される男子というのは、クラスで一定以上のカーストに所属している者であり、このカーストが定まっていないタイミングでするのは賭けであろう。

 

 「いやいや終わってまうて! 俺ちゃんと見とったら音鳴さんみたいな可愛い女子に話しかけへんか……った……」

 

 「ん?」

 

 つい反応してしまったが、彼の困惑している様子からして思わず口が滑ったという奴だろう。相川君は外見から判断すると軽いという訳ではなく、至って真面目そうな少し髪型もオシャレにしている普通な男子だ。

 

 別に私は気にしないが、クラスメイトに初対面で軟派の様な事をするなんて、本人のキャラ次第ではクラスカースト最下位転落間違い無しで終わってしまう。何処かの動画のコメントで見たがイケメンに限るという奴である。

 

 「ああ、いや、違うんや! その可愛いって言っても、そのなんていうか! そう小学生みたいに小っちゃくてって意味でや!」

 

 うん、私は確かに小さい。(「……ぶっ、……ぷ……くく……」)背も140cmしかなく、胸もない。相川君の言う様に小学生に間違えられる時もある。最近は弟にも背を抜かされてしまった。いやそれよりも今は彼を落ち着けなければと声をかける。

 

 「あの、相川君」

 

 「って違っ……あ゛あ゛あ゛すまん音鳴さん! 何でもないんや!」

 

 そう言って彼は席を立ち、教室を出て行った。正直私にはどうすれば良かったのか、全くもってわからない。そんな風に呆気に取られていると、右側の席に座った女子生徒に話しかけられた。

 

 「あははっ、何アレ面白すぎでしょ! アンタもそう思わない?」

 

 「うーん、それよりも心配かな? ちゃんと戻ってくるのかって」

 

 「ぷっ、確かにこんなに目立ったらキツいわー」

 

 彼女の言葉で周囲に視線を向けてみると、クラスメイト達から視線を浴びていた。初日から悪目立ちしてしまったが大丈夫だろうか、と心配になってしまう。

 

 「私の名前は佐々木(ささき) 咲良(さくら)。よろしくね、お隣の音鳴さん」

 

 佐々木さんが挨拶をしたタイミングで、ドアから先生が入ってきた。その後ろを着いてきた相川君が、席まで戻ってきて座る。彼の顔が若干赤いが、武士の情けとして見ないでおこう。

 

 軽くホームルームとして担任の自己紹介と学校の案内を受けた後、クラス全員で整列して体育館へと移動した。在校生の先輩達と来賓の方々が並ぶ道を進んで、新入生用のパイプ椅子に座ったら式が始まる。

 

 校長の式辞や来賓の祝辞祝電、在校生の生徒会長による歓迎の言葉が終わって、次は新入生代表による宣誓である。そして呼ばれた代表の名前を、私は知っている。舞台に向かって歩いていく彼女の後ろ姿を見ながら、私の心は喜びで波打った。




登場人物紹介

音鳴(おとなり) (すず)
主人公でありTS転生者。配信時に使っている名前はベル。
身長140cmのまだ違法ロリ。胸も無い。実は美少女である。

御門(みかど) 沙耶(さや)
受験の時に出会った子。髪型はロングの三つ編みハーフアップ。
身長154cmで胸は普通な美少女。容姿端麗・成績優秀と今の所は完全無欠。凄い。 

佐々木(ささき) 咲良(さくら)
お隣の席の子。髪型はミディアムボブ。
身長は158cmで胸は普通。数日もすると軽くメイクをし始める系女子。

相川(あいかわ) 俊介(しゅんすけ)
やらかした男。勇者振りが男子にウケて、この後ちゃんと友人が出来る模様。
・高校デビューを決めるべくテンパる。友人作らねば!←1ストライク
・隣の着席音に気付き声をかけたら美少女だった。えっ!?←2ストライク
・美少女の超絶可愛い笑顔を至近距離で受けた。混乱の極致。←3ストライク、アウトッ!!


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#入学式でのLINE交換は、友達への大きな一歩

 入学式が終わって教室へ戻ると、出席番号順で自己紹介が始まった。私は先に発表した人と同じ様な、出身中学と趣味などで無難に終わらせる。最初に目立ってしまったのだ、これ以上悪目立ちをする訳にはいかないと気持ちを引き締める。

 

 それが終われば今日は解散となる。早々と帰って行く者や隣に声をかける者、元からの知り合いと話している者も居る中、私はどうしようかと考えていた。平穏に過ごすなら今も新しい子に声をかけている佐々木さんの様に、グループが出来る前に積極的に行動するべきである。しかし、もう一度御門さんと会って話したいと何故か思ってしまう。少しの思慮の後、私はどうするかを決めた。

 

 鞄を背負い教室を出る。私は彼女のクラスを知らないので、端から窓を覗き見て歩く。クラスメイトと話していたり、既に帰っているかもしれない。もしかしたら約束などどうでもいいと、忘れているかもしれない。そんな事を考えながら彼女の姿を探すも、見つからなかった。

 

 もう既に帰ってしまったのだろう、そう思い私は諦めて下駄箱へと向かう。一緒の学校に通っているのだから、また明日でも会う事は出来る。

 

 そして下駄箱で靴に履き替え、扉を出ようとした時だった。そこに彼女の姿があったのだ。

 

 「あっ、音鳴さん!」

 

 「御門さん?」

 

 私に気付いた彼女が名前を呼んでくれた。それだけの事で嬉しいと感じる。

 

 「よかったぁ。クラスが分らなかったから此処で待ってたんですよー」

 

 「私もだよ。御門さんのクラスがどこかは知らなかったから、端から探してたんだ」

 

 「ふふっ、見事にすれ違ったんですね」

 

 「うん、すれ違ってたんだねぇ」

 

 二人で笑いながら、私は思った。御門さんを探そうと決めて良かったと。仮に物語の様に別の選択肢、例えば佐々木さんの話に混ざるなどしていた場合はきっと会えなかっただろう。

 

 「あっ、借りてたこの子、お返ししますね!」

 

 「ありがとう。でも、御門さんは主席だったし……必要なかったかな?」

 

 「そんなことないですよ! とっても嬉しかったです」

 

 「それならよかった。……ねぇ、よかったらまた一緒に帰らない?」

 

 返してもらったもふもふしているうさぎのキーホルダーを鞄に付け直し、私は彼女にそんな提案をする。断られたらどうしよう、と不安になるが行動することが大事だ。

 

 「ええ、是非! って、前もこんなやり取りしましたねー」

 

 「ははっ、前は学校へ行く時だったけどね」

 

 そして桜の舞う並木道を二人で、駅へ向けて歩き出す。こんな風に誰かと学校から一緒に帰るのは1年振り位だろうか?

 

 「そうだ、御門さん。よかったらラインの交換とかしない?」

 

 「いいですね。えっと、私のは――」

 

 スマホを取り出しお互いのライン交換をしたりしながら歩いていると、楽しい時は時間が早く感じるとの言葉通りにもう駅まで着いてしまった。御門さんの家は逆方向になるらしく、今日は此処でお別れだ。

 

 「えっと、今回は1か月後じゃなくて……」

 

 「また明日、ですね!」

 

 「……うんっ! また明日会おう!」

 

 笑顔で御門さんと別れ、ホームへと向かう。対面で待っていると、今回は彼女の方の電車が先に来たので、私が外から手を振って見送った。

 

 

 

 

 家に帰った私は昼食を食べてから、学校でもらったプリントにペンを走らせつつ、作業用BGM代わりに動画を流す事に決めホーム画面を見ていた。ホーム画面のおすすめの中には、あるてまの来宮きりんの収益化おめでとう放送が公開予定と表示されていたりする。こんな風に放送予定の物は開始時刻が表示されていて、スケジュールを見なくてもいつから配信が始まるかとわかって便利だ。まぁ、中にはゲリラ配信という突然始まる物もあったりするのだが……。

 

 そして私がBGMとして選んだのは、ちゃぷちゃぷとした水音のASMRである。リラックスしながら作業が出来るので、これが意外と捗るのだ。ヘッドフォンで音を聞きながらプリントの記入を進めていたら、穏やかな眠気に襲われてくる。それでもペンを進めていたのだが、だんだんと瞼が重くなりそのまま眠ってしまっていた。

 

 沈んでいた意識が引き上げられたのは、振動音とそよ風の音によって。寝起きの頭では、ふわふわと思考がまとまらない。そんな私の耳が、女の子の息遣いと共に咥えられた。ぞくり、と甘い快感に身体が震える。意識は一瞬で覚醒し、舐められ始めた耳元へ手をやると、コンっと指先が固いものに当たった。ヘッドフォンを外してパソコンの画面を見れば、耳かき・耳はむ・耳舐めASMRというタイトルが視界に入る。寝ている間に動画が切り替わったのだろう。これは――駄目なモノだ。

 

 動画をホーム画面へと戻しプリントを見れば、最後に書いていた場所は文字が波打っている。その惨状に苦笑しつつ消しゴムで消していると、画面が暗転しているスマホが目に映る。そういえば先ほど振動音がした筈、と見てみれば御門さんからのラインが届いていた。

 

< 御門 沙耶
✆ 目 ∨

 今日 

音鳴さんは部活って決めてたりする? 11:54

私は和弓部に入りたいんだ~ 11:55

既読 11:56 特に入りたいってのは無いなー

既読 11:56 というか、何部があるか知らない…

なら部活紹介の日が楽しみだね! 11:57

既読 11:58 面白そうなのがあればいいんだけど

既読 11:59 あ、駅着いたから見れなくなるね

了解です(`・ω・´)キリッ 11:59

今からお話とか……しませんか? 16:41

                                 

+
うん、お話しよう?                       

 

今から通話でお話というお誘いだったので、了承の返事と共に通話ボタンに指を掛ける。繋がった電話から御門さんの声と吐息を耳に感じ、友人との会話が楽しみな気持ちと、胸にぽかぽかと温かな何かを抱いたのだった。



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#反抗期とは、子供が正常に成長している証

 桜も散って暖かくなり始めた四月の下旬、私は放課後の通学路を一人で歩いていた。高校生活にも慣れ始めたこの頃、既にクラブ勧誘の熱気は収まり、体育会系の部活などは多くの新入生を迎えて活気づいている。

 

 和弓部に入った御門さんも既に部活に精を出していて、毎日弓道場へと足を運び練習に日々励んでいる。私も和弓部の体験入部には一緒に行ったのだが、弓を引く事すら出来なかった。それに比べて御門さんは、知識の無い私が見ても綺麗だと感じる型で、的にも見事に当てていた。

 

 そんな弓を引けなかった事からわかる様に、私に力は余りなく体育会系の部活には入れない。それでもやりたいと思える情熱があれば別だが、特にその様な熱意は無く。では文化系の部活はどうなのかというと、それもやりたいと思える事がなかったりする。

 

 真面目に頑張っている者の中にやる気もなく入るのは、嫌われる原因になってしまうのでいけない。という訳で私はどんな高校でも一定の勢力を誇っている帰宅部に所属となり、今日は一人で帰っているのである。

 

 クラスでも今の所は上手くやれている。クラスメイトの女子とは程々に話す様になって、班決めで余る事は現状では無いので一安心だ。佐々木さんなどは流石というべきか、コミュ力の高さを生かしてカーストの上位へと駆け上がっていた。

 

 相川君はクラスの男子に誘われてテニス部に入っていた。毎日練習が厳しいのか授業が終わる頃に疲れた様な顔をしているが、是非とも負けずに頑張って欲しい。そういえば部活体験期間に、彼が将棋部に入って行く姿を見かけたが、その時に呟いていたりゅうおうになればもてるとは一体何だったのだろうか?

 

 

 

 

 最寄り駅に到着してそろそろ自宅に帰り着くという所で、前に小学生の男子と女子が三人で歩いているのを見かけた。その三人を私は知っている、取り分けその中の一人については特に、である。私は足早に歩みを進め、その男の子の横へと辿り着くと肩に手を回した。

 

 「健斗(けんと)、今帰りなの?」

 

 「うわっ!? 姉ちゃん外ではやめろって何回言えば!」

 

 最近絶賛反抗期を迎えている弟の健斗である。前までは喜んでくれたのだが、これも成長という物か。背も越されてしまい、姉として悔しい所もあるが嬉しくも感じる。

 

 「別にいいじゃない。佳那(かな)ちゃんと騎士(ないと)君も久しぶり」

 

 「お姉ちゃん! うわ~、中学校のも良かったけど高校の制服も可愛い~!」

 

 「鈴姉久しぶり。……それ制服大きすぎない?」

 

 「ふふん、可愛いでしょ? 大きいのは私がもうすぐ大きくなるから問題ない」

 

 弟の幼馴染の佳那ちゃんと騎士君は家の近所に住んでいて、昔から付き合いがある。二人とも私の事を姉と慕ってくれて可愛い子達だと思う。

 

 「姉ちゃん、いい加減に離せって! 佳那、騎士、早く行こうぜ!」

 

 「えー、健斗だけ先に行けばいいじゃん? 私はお姉ちゃんと話したいし~」

 

 「おい健斗待てって、……鈴姉ゴメン先に行くね。佳那も行くよ」

 

 「もー、健斗は仕方ないな~。お姉ちゃんまたね!」

 

 私の手から逃げ出した健斗が走り去り、それを追って二人も走って行った。あの方向なら騎士君の家にそのまま遊びに行くのだろう。三人を見送った私は家に帰る事にした。

 

 

 

 

 家に帰った私は、自分の部屋でパソコンを立ち上げる間にとスマホを操作していた。ブラウザで新しいタブを開くと検索画面の下におすすめの記事が表示されるのだが、その中に気になるタイトルを見つけたので開いてみる。

 

 ニュースサイトのそれは、ぶいすてーじのオーディションが実施されるというモノで、新たなキャラクター3名の内2名が募集対象の様だ。同じ企業系のあるてまでも、今日行われるリレー配信で7名が新たにデビューする事が頭に浮かび、最近はVtuberが増えてきたなと思う。

 

 スクロールをして記載されている募集要項を見てみると、18歳以上の歌・ゲーム・イラストの経験者と書かれている。しっかりとした責任を持てる事を考えると、18歳という大人と言える年齢以上と制限がかかっているのは当然であろう。

 

 ふと、今日デビューするあるてまの新人が募集されていたオーディションの情報も、前に見た事があるのを思い出す。あれにはそう、確か年齢制限もなく経験不問という風に書かれていた筈だが、実際は経験のあるベテランが採用されるのだろう。私はそんな事を考えながら、起動が終わりホーム画面が表示されているパソコンを操作してゲーム配信の準備を始めた。




あとがき

ちょっと別の箱にも手を出して見てたら数日空きました。許して。「お茶会を開く金髪ロリさん」や「花の妖精さん」が声を聞いてると凄い落ち着く。いい……


登場人物紹介(小学生組)

音鳴(おとなり) 健斗(けんと)
弟。小学5年生で最近身長が141cmとなり、姉の背を追い抜いた。
現在反抗期真っ只中である。主人公がちょっと接し方近すぎて鬱陶しい。

(あずま) 佳那(かな)
弟の幼馴染の女の子。主人公の事は慕っている。
が、最近は少し複雑な気持ちが湧いている。主に美少女具合のせい。

藤見(ふじみ) 騎士(ないと)
弟の幼馴染の男の子。初恋の相手は主人公だった。
キラキラネームについては折り合いをつけてる。
中学2年になるとイモータルナイトとか名乗りだすかもしれない。



茶番

はて?配信が書きたかった筈なのにどうしてこうなった?(進行具合を見つつ
……配信……配信させて……。
ハーメルンで流行のRTA走者系主人公だったらもっと進行早いのに……。
通常プレイしか書けない不具合が……。

「力が欲しいか……? よろしい、ならば我がくれてやろう……」
ひぇ!?

というわけでダイス様のお時間。
奇数:このまま通常プレイ
偶数:おめでとう。RTA流スキップを習得した
ぞろ:両 方 を 書 く の だ

2D6振って結果は……6,6のクリティカル!?
そう、そうだ。後から見返したくなったら番外編という手があるっ!!(おめめぐるぐる

訳:今話から5月下旬位に辿り着くまでスキップ程々に利用します。するったらするの!


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#放課後カラオケタイム、ドリンクバー付き600円にクーポンを添えて

 今日は学校の帰りにカラオケへと遊びに来ている。和弓部が三人と私を含めたその友人二人という組み合わせで、知り合いは御門さんともう一人同じクラスメイトである和弓部員の二人が居り、後の二人は知らない人で御門さんと同じクラスらしい。

 

 弓道場の整備の為に休みになったとの事で、クラスメイトに御門さんと仲が良いからと誘われた。逆に私と同じ和弓部じゃない子はこのクラスメイトの子と仲が良いそうだ。女子にとってカラオケとは、初対面の子とでもコミュニケーションを取れる手段の一つである。

 

 受付を済ませてドリンクバーで飲み物を準備したら準備は完了、楽しいお喋りと歌が始まりノリの良い者が一番手を持っていく。

 

 「んじゃ、歌いまーっす!」

 

 「今やってるドラマの曲だね。ってか最初は盛り上がる曲にしよーよ?」

 

 「へー、Lemonかー。デンモク貸してー……ありがと。なら同じ米津玄師で……ピースサインっと」

 

 ツッコミを入れて一番手が歌い始めたのを聞きながら、ストローでコーラを飲む。カロリー0の黒い方だ。歌い始める前に飲むのは辛いが、ジュースの中では一番これが美味しいと思う。ドリンクバーでお茶を選ぶのは個人的に負けな気がして少し躊躇する。

 

 「私も入れたので、次は音鳴さんですよー」

 

 「あぁ、うん、ありがとー」

 

 御門さんから回ってきたデンモクを受け取り、自分の入れる曲を考える。他の人が入れたのを確認しようと履歴を見ると……3番目はTime goes byとは懐かしい、昔から好きな曲だ。男の時は歌えなかったけど、今は高音域も声が出て歌えるのがいい。その分低い所が逆に辛くはなっているが。4番目の御門さんは乃木坂のインフルエンサーか。

 

 古い曲を入れてる人も居るから私も、という考えで同じ90年代の曲を選曲した。私の世代的に今でもその辺りの曲が一番好きだったりする。ミスチルとかSMAPが特に好きで昔はCDをよく聞いていた。

 

 楽しそうに歌っている御門さんを見ていたら、自分の順番が回ってきたのでマイクを持ち歌いだす。選んだ曲は広瀬香美のpromiseで、歌がサビに入った時先ほどピースサインを歌っていた子が、ばっと反応した。知っている曲だったりしたのだろうか?

 

 歌い終わってマイクを次の次の子に渡した私に、ピースサインを歌っていた別クラスの和弓部の子が話しかけてきた。

 

 「ねーねー、音鳴さんってさー……その、何かアニメ見たりしてる?」

 

 「ん? 弟が見てるのを一緒に時々見てるけど……ああ、さっきのピースサインも確かアニメの曲だよね?」

 

 「うん、そう。ま、まあカッコいいから(危なかった、)好きな曲なんだ(多分一般人だ)けどね」

 

 「え、何、アニメの話? 私はサザエさんとか見てるわ」

 

 「アニメですか? 朝早くに起きた時にプリキュアとか時々見てますね」

 

 アニメの話になってきて、大体皆メジャーなのを見ている感じだ。小学校の時にはクラスに深夜のアニメを見ている子が多くて私も録画して見ていた。

 

 「そういえば、小学校の頃は深夜のアニメも見たりしてたよ。少年漫画が好きだったからジョジョの奇妙な冒険とか」

 

 昔は週刊少年ジャンプを買って読んでいたのだが、正直今でも続いていて驚いている。

 

 「深夜のアニメねぇ、私は見てないわー」

 

 「お姉ちゃんが時々見てるから、アタシも一緒にお菓子食べながら見てる」

 

 「あ、私も昔は深夜のアニメ見てたんだー。シンフォギアっていう女の子が歌って戦うアニメとかカッコよかった記憶有るけど知ってる(一応、ね)?」

 

 ん? 確か動画サイトでライブシーンだけを見た事があるアニメだ。ランキングに高順位で上がっていた筈。

 

 「何それ? 知らないー」

 

 「アタシも知らない。お姉ちゃん男の子ばかりの見てるから」

 

 「動画でライブシーンだけ見た事あるね。不死鳥のフランメとかそんなタイトルの」

 

 「そう、それ!(やっぱ) ……歌え(り仲間)たりしない(だった)?」

 

 私が歌えるかといえば、その場面の所だけなら覚えている。という事は曲の1番だけだろう。

 

 「1番だけなら多分? その場面しか見てないし」

 

 「ねー、一緒に歌ってみない? デュエットやってみたいんだけど」

 

 「良いけど。間違ったらゴメンね?」

 

 という訳でデュエットをする事になった。その前に私は自分が入れていた硝子の少年を歌いきり、1曲を挟み順番が回ってきたのだが心なしか相方の表情が生き生きとしている様に感じる。

 

 「――見せてもらうわよ、戦場に冴える抜身の貴女を!」

 

 伴奏が流れ出した時に歌詞に載っていないセリフを相方が言った。ライブシーンで見た覚えがあるから、余程このアニメが好きだったのだろう。1番だけ歌って演奏停止をした時、相方を見るととっても笑顔だった。

 

 終始こんな感じで楽しくしていると、気付けば20時でフリータイム終了の時間となった。皆で駅まで向かって解散したのだが、家に帰ったら父が少し心配していたのには申し訳なく感じる。年頃の娘が遅くまで出歩くというのは、確かに心配になるかもしれない。けど、もう高校生なのでこの位までなら許して欲しいと思う。

 

 

 

 

 遅めの夕食を食べてから部屋でパソコンを操作していると、ぶいすてーじのオーディションの募集条件が変更になったというニュースを見かけて開く。確かに18歳以上の配信経験者から年齢不問でやる気がある方と変更されていて、こういう採用で急遽条件変更とは珍しいと思いながらもう一度前に見たキャラクターを見る。

 

 そこにはクマ・ネコ・リスの女の子の立ち絵があって、今回募集しているのはネコとリスの二人の魂だ。まずは白いショートヘアで青と黄のオッドアイなネコの女の子の方の説明文を読む。【農家の家族に飼われている猫。花や薬草を栽培している心優しい子】とだけ書かれている。名前は書かれておらず、前に誰かが配信で言っていた様に会社の人に決められるか魂の人が自分で決めるのだろう。

 

 もう片方のリスの子には【商人見習いをしているリス。将来自分の店を構える事が夢で、その為にお金を集めている】と書いてあって、見た目は何よりもまず大きなもふもふのしっぽに目がいく。そして茶色のツインテールな髪と緑の瞳が綺麗に描かれている。

 

 最後のクマの子は大人な女性の見た目をしていて、幼い見た目のネコの子と普通のリスの子でバランス良くなっている。一部の部分も見た目に比例していて、本当にバランスは良いと思う。

 

 そんな風に眺めていたら、ふと試しに応募してみようかという考えが頭に浮かんだ。採用されるとは微塵も思わないが、こういう物に応募してお祈りメールを貰うのも誰かとの話の種になるかもしれない。

 

 明日の帰りに履歴書をコンビニで買うのと証明写真を撮る事を頭に入れつつ、カラオケでの懐かしさから90年代のJ-POPを聞く事にして動画サイトで検索を始めた。




あとがき

GXの開幕歌いながらシャトル一本背負いで惹かれライブシーンで視聴決定しました。懐かしい。
GX→無印→G→AXZ→XVという順番で見た。

今回書いてて一番驚いたのは、米津玄師の曲の発表年調べにWiki見に行って元有名ボカロPって知った事。



とある日のどこかの出来事

【ぶいすてーじ運営】(*´ºдº)!?
【社内会議中】 アレ( ´・ω)ミケイケン(´・ω・)ヨネ(・ω・`)ウチモ(ω・` )タメス?
【決定条件変更】¢(・ω・o)カキカエ・・・


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#今は未だ、形にならないその想い

 スマホに映る一通のメール画面を前に、私は内心で大変困惑していた。

 

 応募しようと決めた次の日には履歴書を書いて郵送し、その数日後に書類選考に通って通話での面談をしたのだ。出来る技能やどういう事をしてきたのか、得意なゲームやキャラロールについてなども話した。他にも沢山の人が応募をしているだろうから、採用される可能性など全然考えておらず、その結果が――この、採用通知のメールである。

 

 電話が来たのが授業中だった為出られなく、代わりにメールでの連絡として届いたらしい。しかし採用のメールが来ていても、いくつかの関門が私には残っている。一つは両親へ軽くしか話していなかった事だ。面談の時には両親の許可は得ていると言ってしまっていたのだが、実際は履歴書を出す時にアイドルの募集に出すだけ出してみていいかという風に聞いただけである。まさか両親もこうなるとは思っていないだろう。

 

 そしてもう一つは学校から芸能活動の許可を得る事である。バーチャルでも企業に所属するタレントという扱いになるので必要らしい。芸能活動を禁止していない学校とはいえ、普通の芸能事務所のタレントなら理解はあるかもしれないが、まだ新しい分野のタレントとなると許可が下りるのか? という疑問が浮かぶ。

 

 一先ず折り返しで電話を担当者へ繋ぎ、両親へ採用の事を話してから学校の許可を貰う事を伝えて了承を得る。残りの授業を終わらせたら、今日は急いで家に帰る事に決めた。

 

 

 

 

 その日の晩御飯の後、両親に話し合いの時間を作ってもらう。先日に送った書類の後に面談をして採用になった事、それとVtuberについての説明をする。

 

 「色々と言いたい事はある。けど、これだけ聞く。鈴、これがお前のやりたい事なのか?」

 

 「……うん、送った時はその、記念とかそんな気持ちもあったけど。でも、今はちゃんとやりたいと思ってる」

 

 「父さんはまだVtuberが良く分かってないけど、会社に所属するという事は、仕事になる。趣味でやってるのとは違って、思い通りに出来ない事もあるかもしれない。辛いと思うかもしれない。それでもか?」

 

 「うん、それでもやりたい。――お願いします、Vtuberをやらせてください」

 

 父の目を見て、しっかりと言う。今の私はVtuberをしたいと思っている。帰ってから両親と話すまで、自分の心に尋ねていた。楽しんで実況をしていて、Vtuberを初めて見て、それからその配信を追い続けて。その気持ちの名前がなんなのか、まだはっきりと分からないけど――今まで見ていたVtuber達の様になりたい、とそう思う。

 

 「すーちゃんがやりたいなら、いいんじゃないかしら?」

 

 「そうだな。鈴が決めたなら、うん。……で、何か父さん達がする事はあるのか?」

 

 「ありがとう、お父さん、お母さん。後は学校に芸能許可証を貰う感じなんだけど……明日先生に聞いてみて、保護者のサインとか面談が必要だったらお願い」

 

 よかった。両親の許可を無事に貰えた……。後は、明日学校で許可を貰えれば……。

 

 そんな翌日の学校での芸能許可証については、結果として思いの他スムーズに許可を貰う事が出来た。朝に職員室で担任の先生にお願いして、校長先生にアポイントメントを取ってもらい、放課後に校長室で話す事となる。

 

 放課後のその場には校長と担任、それから何故か地理の先生が居て、地理の先生はVtuberについて知識があったから呼ばれたらしい。知識があるという話は本当で、ぶいすてーじに所属すると言ったら驚いた後に全面的に校長へのお話の協力をしてくれた。ぶいすてーじがVtuber業界では大手で怪しい所ではなく、最新の技術にも触れられて生徒にとっても良い経験となる。という先生のアシストもあって、電話で母とも確認を取り許可を貰った。

 

 

 

 

 無事に採用となったのでマネージャーさんも付いて、これからデビューまでの準備をしていく事となる。まず最初に決めるのは、私が演じる事になるリスの女の子の命名だ。先輩達の名前を見ながら、この子の名前をあーでもないこーでもないと考える。

 

 じーっとこの子の緑色の目を見つめていると、やっぱり最初に見た時の様に綺麗だと感じる。そう、まるで宝石のような。緑の宝石、エメラルド、翠玉、翡翠。その連想から、翠という字で悩む。

 

 何か一つ足りない、そう思いつつスマホの画面をとんとんと叩く。触れられないこの子、透明な壁、ガラス。……ガラス? 玻璃、璃……璃翠。うん、苗字はこれがいいと思う。

 

 コップを持ち、ふーっ、ふーっと湯気を立てるココアを覚ましながら飲む。考え事をする時には甘味を得ると頭が回る気がする。ずずっと飲んで甘さに落ち着くとともに天啓を得た。

 

 ――そうだ、ここあにしよう。この子の名前は璃翠(りすい) ここあ。音鳴(おとなり) (すず)と同じ、リスの字が入った私の片割れ。

 

 このリスの女の子と共に頑張ろう。そう、私は心に決めた。



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