大井「嫌いよ、提督なんて。……嫌い……だったのに……!」 (阿斗 らん太)
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前編:意地悪提督と新艦大井

 短編で終わらすつもりが意外と長くなってしまった………。

 前編、中編、後編の三部作で投稿します。


某日 母校 ──────

 

 「帰投しました…」ボロッ

提督「……………こりゃまー派手にやったなぁ。中破したのは初めてだったか?」

 「……作戦が悪いのよ」ボソッ

提督「ん?」

 「いえっ、なんでもありませんよ。ちょっと、肩に糸くずがー♪」

提督「…………………………………………」

 「……?」

提督「……………………………恥ずっ!!」

 「なっ!?」

提督「わざわざ聞こえるように悪態をついといて、聞き返されたら糸くずとかバレバレで流石に恥ずかしい!!」

 「ちょ、ちょっと!皮肉!皮肉ですから!そんなことも分からないんですか!?」

北上「ちょっと大井っち落ち着きなよー。ほら、駆逐艦達も見てるしさー」

提督「そうだぞ大井、あと顔真っ赤だけど大丈夫か?」

 「~~~~~~~~っ!!!」

 「もう入渠してきます!やっぱり提督なんて大嫌いです!!」

 

 私は提督が嫌いだ。すぐ癪に障ることばかり言う。

 つい先日も駆逐艦の子に「しれーかんから聞いたんだけどー、大井さんてー、くれいじぃさいこれず?ってやつなんですかー?」などと、とんでもないことを言われたのだ。

 提督はきっと、私の事なんてストレスをぶつけてもいい兵器のうちの一つとしか思ってないんだろう。デリカシーってものがない。だから、着任初日からあいつに平手打ちをかましてしまったのも、私は悪くないんだ──────

 

 

 

 「こんにちは。大井です。……北上さんはいますか?」

提督「…………おう、よろしく。しかし、一言目から北上の話か。お前、もしかしてだが……」

 「はい?」

提督「…………………レズなのか?」

 「っ!!違いますから!あなたこそ初対面なのにとても失礼です!!」バシーン!

提督「ヘブァッッ!!!」

 

 

 

 ──────嫌なことを思い出した。着任する鎮守府を間違ったかもしれない。

 そもそもここは入渠ドックも一つしかないような弱小鎮守府だ。軽巡の私ですら着任早々で主力扱いなのはどうかと思う。まあ北上さんがいたことは唯一の良いところだけれ。

 こんなことを考えているうちに入渠ドックにたどり着いている。私は苛立ちながら、一つしかないそれに入ったのだった。

 

 

 

 それから数日たったある日。北上さんを探して執務室の前を通ったところ、扉の奥がやけに騒がしかったもで気になってちらと隙間から覗いてみた。

 

北上「ふっふーん♪提督もまだまだだねぇー」カチャカチャ

提督「もう一回!次は絶対に勝つ!」

北上「どうかなー前から全然上達してないから、このスーパー北上様に勝つのは百年早いと思うよー」

提督「いいや、次は負けん!今にみてろぉー!」

 

ワイワイ ワイワイ

 

 ………とんでもない現場を見てしまった。提督と北上さんがゲームで盛り上がっている。

 ま、まさか北上さんはあの性悪と仲が良いのだろうか。あんなに親しげな提督は見たことがないのだが。そしてなにより、私の北上さんに易々と近付かないで欲しい。

 私は我慢できなくなって扉を勢いよく押し開けた。

 

 「ちょっと!」バァン!

北上「あれー。大井っちどうしたん?なんか慌ててるけど」

 「どうしたん?じゃないですよ北上さん!提督と仲良かったんですか!?」

北上「そだよー? 言ってなかったっけ」

 

 ……なんてことだ。

 私はちらりと視線を北上さんから提督に移す。あっ、こいつ視線を逸らしやがった。

 とにかく、北上さんは提督に騙されているんだ。よりにもよって北上さんがこの性悪に目を付けられるなんて!

 私がわなわな震えていると、北上さんが口を開く。

 

北上「大井っちは勘違いしてるかもしれないけど、提督はいい人だよー」

 

 あっもう大分深刻だわ、これ。

 私がどうにかしなければ! そうだ、提督の本性を暴いて北上さんに伝えれば、きっと北上さんの洗脳は解けるはずだ。

 よし、そうと決まったら徹底的に追い込んでやる! まずは現場証拠だ。提督が艦娘をただの道具としか思っていない決定的証拠をとらえてやる。

 今に見てなさい、私がその化けの皮を剥いでやるんだから!

 

提督「どうしたんだ、大井。そんなに怒ったり、悲しんだり、何か決心したような雰囲気出したり」

提督「情緒不安定か?……………あ、まさか今日も生理か……………?」

 

 ああ、ほんと嫌い!! 今日『も』ってなによ、『も』って! だいたい艦娘に生理なんてこないから!

 



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中編:提督の真の姿

 その日から私の提督監視が始まった。

 提督は吹雪ちゃんとケッコンしているから、彼女に聞けば早いと一瞬思ったのだが、ケッコンしてるとなるとまず確実に洗脳済みだろう。

 結局、自分で提督を尾行……いや、調査することになった。

 提督を探して歩いていると、早速駆逐艦に囲まれている提督を見つけた。

 きっと「気安く話しかけるな!」とか言いだすんだろう。早くも目的を達成してしまったかもしれないとほくそ笑みながら、物陰からこっそり様子を覗う。

 

子日「ねぇ提督、今日は子日だよぉー!」

提督「おう、それは良かったな!後でなんか買ってやろう。」ナデナデ

初霜「わたし、遠征がんばりました。だからわたしもその…」

提督「そうかよく頑張ったな」ナデナデ

初霜「……………♪」

若葉「そこでとても丸い石を拾ったんだ。提督にあげよう」

提督「ありがとな、若葉。大切にするよ」

文月「しれーかーん、いつになったら睦月ちゃん達にあえるのー?」

提督「すまないな、今申請中だからもう少し待っててくれ」

望月「司令官、新しいゲーム買ったからやろうぜぇー」

提督「おお、やるか。負けないからなー」

 

 ……納得いかない。なに普通に優しく接してるのよ!駆逐艦には本性見せないようにしてるってわけ?くっ、思ったより手強い!

 何とかして化けの皮を剥がせないだろうかと頭を悩ませていた時だった。

 

  ガシャアン!!!!

 

 かなり大きい音が倉庫の方から聞こえてきた。何事だろう。

 

提督「ちょっと見てくるからおまえらはここで待ってろ。いいな?」

 

 「「「はーい」」」

 

 提督が早足で音の方へ向かっていく。いけない、私も追いかけなきゃ!提督と駆逐艦達に見つからないように隠れながらその背中をを追った。

 

 

 

 

菊月「すまない…本当にすまない…き、菊月はとんでもないことをしてしまった……!」グスッグスッ

提督「………………………………」

 

 物陰からこっそり倉庫を覗いたところ、かなり大変なことになっていた。

 大量の高速修復材が床にぶちまけられ、その中心で菊月が大泣きしている。背中しか見えないが、提督もかなり驚いたようにその光景を見つめているようだ。

 

菊月「遠征から帰投して…それから手に入れた修復剤を倉庫に運ぼうと…!で、でも置く場所が高いところしかなくて…!無理やり置こうとしたらこんなことに…………」グスッ

 

 菊月は提督に必死で状況説明している。

 見たところ修復剤を保管している棚が倒れてしまっている。バケツのほとんどがこぼれてもう使えないだろう。無事に残っているのなんて片手で数えるほどだ。

 しかし、これは提督の本性を暴く絶好のチャンスだ。普段からバケツを大切に使っている提督のことだ、流石にこの惨状を見て怒り心頭だろう。

 提督がハッとしたように菊月に近寄っていく。

 ああ、可哀そうにあの子。普段のキャラも忘れて泣いている駆逐艦に、きっと提督は怒鳴り散らすんだわ。

 私はワクワクしながらその瞬間を待つ。

 

提督「おい、大丈夫か?怪我はないか?」

菊月「……え?」

提督「痛いところがあればすぐに言ってくれ、見たところ何ともなさそうだが、頭を打ったりしてたら……」

菊月「い、いや菊月は大丈夫だ。それよりも修復剤が…」

提督「いや、そんなことはどうでもいいんだ。また集めればいい。それより、お前に怪我がないなら良かった」

菊月「し、司令官……!」

 

 菊月が提督に抱き着き、提督も微笑んで受け入れる。

 なんかめちゃめちゃ優しいんですが?不覚にも私までキュンときちゃったじゃないっ!

思いもよらない私との対応の差に、愕然とする。

 この人、駆逐艦には優しかったんだ……

 

 「…………………………………………」

 

 んー、なんかなあ。違うなあ。

 

 

 

 

 あれから数ヶ月、毎日のように提督を監視したが一向にボロを出さない。

 それどころか他の艦娘への態度だったり、仕事ぶりだったり、いい所ばかり見せつけられている気がする。

 そのくせ、私に対する意地の悪さだけは変わらないし、なんか避けられている気もするから、もういっそ魚雷でも打ち込んでやろうかとも思った。……まあ仲が良いみたいだし北上さんのためにそれはしないけど。

 そんな時だった、この鎮守府初の海外艦が着任するという話を耳にしたのは。もうすでに執務室で待機中らしい。

 私は急いで執務室に向かった。扉は閉まっていたけど、耳を当てると声は割とはっきり聞こえる。

 なんか私、ここ最近ストーカーみたいになっているような。………いや、それも北上さんのためなんだから!

 

U-511「ドイツ海軍所属、潜水艦U-511です。よろしくお願い致します……」

提督「ど、ドイツか。ぐ、ぐるてんもーげん……?」

U-511「Guten Morgen? Admiral,was ist denn los?」

提督「…っ!お、おーう、ゆーあーそーきゅーぅと!」

U-511「???」

提督「……と、とにかくだな、着任大いに歓迎する。話は終わりだ。さあ出てった出てった」

 

 顔を赤くした提督が、半ば無理やりにその子を追い出そうとする。私は慌てて今ちょうど通り過ぎた風を装う。

 ぱっと見、この海外艦の子、心なしかシュンとしてるような……

 

提督「おっ、大井か。何か用か?」

 「いえ、たまたま通りかかっただけです。この子は新しい仲間ですか?」

提督「そうだ。それにしても、なんかやけに嬉しそうだな。北上とは仲直りできたのか?」

 「U-511ちゃんだっけ? よろしくね♪」

U-511「はい、よろしくです」

 

 変な事を言う提督は無視して、新しい仲間に挨拶をする。なんでこの人の中では私が北上さんと喧嘩している前提なのだろう。

 でもまあ、嬉しい気持ちなのは間違いない。だってようやく提督の尻尾を掴んだのだ。

 新任の艦娘と大したコミュニケーションもとらずに部屋を追い出したとなれば、今まで培ってきた信用もガタ落ちだろう。

 これを北上さんに伝えれば………うふっ、うふふ、うふふふふふふふふふふふ!

 でもまあ私も鬼じゃない。提督が今までの私への態度を謝罪するなら、黙っててあげてもいい。今夜にでも脅迫に……いや話をしにいくことにしよう。

 

 

 

 深夜になってしまった。なにを言ってやろうか長々と考えていたら、かなり遅い時間になっていた。

 提督はもう寝てるかもしれないが、一応執務室に向かう。起きてたらガツンと言ってやるのだ。

 見ると、扉が半開きになっていて部屋の光が漏れている。よかった、まだ起きているらしい。

 そっと中を覗いてみると、提督はなにやら難しい顔で本を読んでいる。目を凝らしてみると……ドイツ語入門?を読んでいるらしい。

 

「…………………………………」

 

 もしかしてだが、昼間のことを気にしてドイツ語の勉強をしているのだろうか。上手く話せなかったから次はきちんと会話できるようにしようと……。

 ただでさえ執務が忙しいのに、提督は睡眠時間をを削ってまで勉強しているのだ。たかが艦娘一人のために。

 それに比べ、私はなにをしているのだろうか。急に心が暗くなるのを感じ、今までの自分を思い返してみる。

 提督が悪いと決めつけて、毎日付け回して、粗探しをして、その度に提督の良さばかりに気が付いて、もう自分でもなにがしたかったのか分からなくなってきて。

 性悪なのはどっちのほうだ。明日から北上さんや提督にどんな顔して会えばいいのか分からない。

 ……もう戻ろう。

 すっかり落ち込んで、廊下をふらふら歩いていると、珍しい娘に声をかけられた。

 

 

吹雪「あれ、大井さんじゃないですか。大分調子悪そうですけど、大丈夫ですか?」

 

 



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後編:提督の思い

 

吹雪「提督と大井さんとの間にそんなことが………」

 

 夜もかなり遅くなっているが、吹雪ちゃんの部屋でお茶を出してもらっている。

 私は遠慮したのだが、かなり具合悪そうに見えていたらしく、結局押し切られてしまった。

 部屋では、それとなく何かあったのかと聞かれた。かなり精神が不安定だったのもあるが、吹雪ちゃんが昔から提督を知っているのが相まって、今までのことをすべて話してしまっていた。

 

吹雪「大井さんの気持ちも分かります。提督もああ見えて、かなり不器用な人ですから」

 「そうね……でも最後まで悪い所は見つからなかった。むしろ、提督の人の良さばかりに気が付いて……」

吹雪「いえ、大井さんの行動も仕方がないことだと思いますよ。提督も大井さんに対してだけは特別失礼ですから」

 「やっぱり、私は提督に嫌われているんだわ。でもそれだってしょうがない。こんなストーカー女誰だって嫌だもの……」

 

 話している内にじわじわと涙が出てきた。自分が何を言っているのか、どうして涙がでるのか、自分でもわからない。わからないが、吹雪ちゃんは優しい目で私を見ている。

 

吹雪「それでも、提督は絶対に大井さんを嫌ってなんかいませんよ。私にはわかります」

 「でも…」

吹雪「だって大井さんを含め、私たち艦娘が出撃するときは見送りと出迎えは欠かさないじゃないですか」

 「あ……」

 

 そうだ、思えば前にもめた時も母港だった気がする。

 あまり気にしなかったが、毎回のように出迎えをする提督など、そうそういないのではないだろうか。

 

 吹雪「それに提督は月に一回、私たちの艤装の写真を撮って、別の鎮守府にいる工作艦の明石さんのところに送っているんですよ。万が一にも不具合が起きないように、って。もちろん大井さんのも」

 「そんな……こと……」

吹雪「だから大井さんは嫌われてなんかいません。むしろ…………」

 「…?」

 

 どういう意味だろう。今日は色々ありすぎて思考が纏まらない。詳しく聞き返したいところだが、深夜にこれ以上居座るのも失礼だろう。

 

 「とにかくありがとう、話を聞いてくれて。これ以上は悪いから私はもういくわ」

吹雪「少しでもお役に立てたなら良かったです。提督とは一度しっかりと話してみるのがいいと思いますよ」ニコッ

 「……あなた、本当にいい娘ね」

 

 流石、あの提督がケッコンするだけのことはある。

 

吹雪「あっ、それと最後に一つ。私も、はじめは散々提督から嫌なことを言われたものです。懐かしいなー」

 

 

 

 あれから自分の部屋に戻って一度寝たのに、提督のことが頭から離れない。

 今は出撃中なのだが、出撃中の今でも昨日の吹雪ちゃんの最後の言葉が何度も頭によぎる。

 提督はいったい私をどう思っているのだろう。どうして私に対してだけ冷たい態度をとるのだろう。

 戦闘も上の空で、周りの音もかなり遠く感じる。考え事でぼーっとしていると、後ろから鋭い声がした。

 

吹雪「大井さん!大井さん!!避けてええええ!」

 

  ドォン!!!

 

 次の瞬間、体が海面に投げ出される。耳鳴りが酷く、腕も足も動かない。

 そうか私、撃たれたんだ。

 随分と前に出すぎてしまっていたらしい。遠のく意識の中、今更になって仲間への申し訳なさが首をもたげたのだった。

 

 

 

 気が付くと私は誰かに運ばれていた。

 途切れがちな聴覚の中、吹雪ちゃんの大泣きする声が聞こえる。たぶん私のせいだろう。吹雪ちゃんには申し訳ないことをした。きっと少なからず責任を感じさせてしまっているに違いない。

 

提督「大井が大破しているんだ!早くドックを開けてくれ!」

初霜「でも、まだ文月ちゃんが入渠中です!あと五分で終わりますからそれまで……」

提督「高速修復剤だ!高速修復剤を使っていいから、大井を早く治してあげてくれ!」

初霜「ですが在庫が……」

提督「そんなもの構うか!一刻も早くこいつを入れてあげてくれ……!」

 

 危機迫った提督の声がすぐそばから聞こえる。

 提督が私を運んでくれているんだ…。

 私のために一つしかないドックを開けようとしてくれているらしい。その上、たかが五分のために残り少ない修復剤も使おうとしている。

 

 「てい……とく……」

 

 なんで。どうして。いつものように冷たくあしらえばいいじゃない。次々と言いたいことが浮かび上がってくるが、体がボロボロで全然声が出てこない。

 もうホント、なんなのよ……。

 大破したせいで体も顔も熱い。顔が赤くなっているのも……傷のせいに決まっている。運ばれている間も、私はぼんやりとした視界で、提督の必死な顔を見つめるだけしかできない。

 結局、されるがままに私は入渠することになった。

 

 

 

 ドックに運ばれて数時間、入渠を終え、完全に回復した私はドックを出る。

 すると入り口に、ここ数ヶ月ですっかり目に焼き付いてしまった提督の姿が見える。運び終わってからずっと、ここで待っていたのだろうか?

 

提督「よう大井、体の方は大丈夫か?」

 「……ええ。おかげさまで」

提督「なーに言ってるんだ、俺は何もしてないぞ」

 

 どの口が言っているんだか。あんなに必死の形相で、今にも泣きだしてしまいそうな顔で、私を運んでいたくせに。

 私が気を失ったままだった、とか考えているのだろう。

 

提督「いやーびっくりしたぞ、お前が鎮守府近海なんかで大破してくるなんてな」

 「…………………………………………」

 

 私がジト目で黙っていても、提督はあくまで私が何も知らない前提で話を進める。

 

提督「まったく、一つしかないドックを占拠しやがって。任務も滞り気味だ」

 

 ……なによそれ。

 

提督「でも流石に焦ったぞ。俺はいいが、お前に何かあったら北上がな……」

 

 さっきまであんなに必死だったくせに。

 

提督「吹雪も大泣きで大変だったんだぞ。私のせいですーって」

 

 私の前ではすべてなかったことにしようとしているの?

 

提督「あんまり駆逐艦に心配かけんなよ?お前ももう雷巡なんだから」

 

 適当なことをつらつら言い続ける提督を前にずっと黙っていたが、私の中でなにかがプツンと切れる。

 

 「…………………………うるさい!!」バンッ!

 

 壁を叩いて大声を出す私を、提督は目を見開いて見ている。

 

 「私、知ってるんだから!提督が、私をドックに運んだことも、ドックを開けさせたことも、修復剤だって使ったことも!」

提督「……っ!!」

 「なんなのよ!いつもは冷たいくせに!こんな時だけ優しくして!」ポロポロ

 

 言葉と一緒に涙も溢れてくる。一度決壊した感情のダムは、簡単には元のようには戻ってくれない。

 

 「いつもいつも、私にだけ冷たくして!ほかの皆には優しいくせに!!」

提督「それは……」

 「私が嫌いならそれで構わない!でも!それなら変にちょっとだけ優しくなんてしないでよ!こっちだって迷惑よ!」

 

 もうとっくに自分でもなにが言いたいのかあやふやになっている。それでも、今まで溜め込んできたものを吐き出すように、次から次へと言葉が止まってくれない。

 

 「だから!私の事が嫌いなら!もう私に構わないで!」ポロポロ

提督「…………じゃねぇよ」

 「なによ! 文句があるならもっと大きい声で……」

提督「嫌いじゃねえよ!!」

 「っ!?」

 

 今までおとなしかった提督の急な大きな声に、私は少しひるむ。

 

提督「俺がいつお前のことを嫌いなんて言った!じゃあ逆に言わせてもらうけど、お前こそ俺のこと嫌いなんじゃねえのかよ!」

 

 なんなんだ、意味が分からない。これじゃ、ただの逆ギレじゃないか。

 

 「そうよ、嫌いよ! だってしょうがないじゃない! 最初から私には失礼なことばかり言って……!」

提督「俺だってしょうがないだろ! お前を一目見たときからずっと……」

 

 思いもよらない言葉に内心驚きながらも、その続きを待つ。しかし、待ってもなかなかその先を言う気配がない。

 

 「ずっと、なによ?」

提督「い、いやなんでもない。今のは忘れてくれ」

 「いいから言って。魚雷を撃つわよ」

提督「でもな、これはお前にとっても迷惑な話で…」

 

 いつまでも言い渋る提督の胸倉をぐいっと引っ張り、顔を寄せて声にドスをきかせる。

 

 「言いなさい」

提督「………………………」

 

 ようやく観念したのか、提督はゆっくりと口を開く。ちょっと顔が赤くなっているような……

 

提督「だってしょうがないだろ、一目惚れだったんだから……」

 

 ………………は?

 さらに顔を赤くして声を絞り出す提督を前に、私は思考が追い付かない。……つまり私を好きってことだろうか。……あの提督が?

 

 「ちょ、ちょっと、冗談はやめて。だってあんなに態度悪かったじゃない」

 提督「どうしていいか分からなかったんだよ! 俺だって自分の気持ちを抑えるのに精一杯だったんだから」

 

 目を逸らし恥ずかしそうに言い訳する提督に、なんだか拍子抜けする。

 提督は不器用だという、吹雪ちゃんの言葉の意味がようやく分かった気がする。そして、最後の言葉の意図も。

 

提督「でもお前は俺が嫌いなんだろ?だったらもう話は終わりだ」

 

 そう言い残すと、提督は私に背を向け歩きだす。その背中を見て、さっきの自分の言葉とは矛盾する思いが浮上する。

 いやだ、まだ行って欲しくない……!

 理性よりも早く体が動き、私は後ろから両手で提督の制服を掴み、体を密着させる。

 

「嫌いよ、提督なんて。…………………嫌い…………だったのに…………!」

提督「……………っ!?」

 

 ああ、顔が茹だりそうなくらい熱い。幸い、背中に密着しているためお互い顔が見えないが、私の速くなった鼓動は伝わっているだろう。私にも、ドクンドクンと提督の緊張が伝わってくる。

 

提督「……なあ、馬鹿馬鹿しい話だと思うし、タイミングも間違えているかもしれない」

 

 しばらく無言だった提督が、意を決したように口を開き、胸元からゴソゴソと何かを取り出す。

 

提督「けど、もしも、もしもお前がいいと言ってくれるなら…!」

提督「これを、受け取ってくれないか」

 

 そう言って、提督は後ろ手で小さいケースを差し出した。それを見て、ようやく私ははっきりと自分の気持ちを認識する。

 本性を暴くためだとか上辺の理由で自分を騙して、何度も提督を付け回して、でもいつだって悪い所なんて一つも見当たらなくて。

 ああ、もうとっくに私は……

 

 

 

某日 母校────────

 

提督「…………いよいよだな」

 「はい。いよいよ、ですね」

提督「じゃあ、首のそれを」

 

 私は、首にかけた指輪を提督に手渡す。ケッコンできる練度になったので、正式に提督に嵌めてもらうのだ。

 私はそっと左手の薬指を差し出す。

 提督からの指輪を受け取ったあの日から、提督を尾行して監視することはなくなった。今は代わりに、堂々と、提督の隣で、提督の一番近くで、色々な提督を発見している。

 あれだけ見てきたのに、毎日新しい一面を気付かされるとは。

 

提督「大井、……綺麗だ」

 

 顔を真っ赤にして私を褒めてくれる。恥ずかしいなら無理して言わなきゃいいのに。

 

北上「いやー、まさか大井っちと提督がねぇー」

菊月「フッ、おめでただな」

文月「司令官はいつ大井さんと仲良直りしたのー?」

 

 周りの皆も私と提督がケッコンするなんて思ってもいなかったらしい。

 ちなみに、今は遠征で不在だが吹雪ちゃんの了解も得ている。一夫多妻は鎮守府あるあるだそうだ。

 

提督「そういえば、俺は前に言ったが、おまえはいつからその……俺のことが好きだったんだ?」

 

 ついに長い間秘密にしたことをきかれてしまった。

 

大井「…………そうですね」

 

 きっと、提督は私が見ていたことなんて知らないだろう。

 それでも、提督には絶対に教えてなんてあげない。私を冷たくしてきたことの仕返しだ。

 だから、私はこう言ってやる。

 

「提督が思っているよりも、ずっとずっと前から、私はあなたを愛していましたよ」

 

 

 

                                  ─── 艦!!

 

 




 

 これにて完結です!!

 どんな内容でもいいので、気軽に感想を下さると作者がすごく喜びます。(感想はログインしなくてもできるので……)
 
 できれば評価のほうも…… ボソッ

 それでは、次回作でまたお会いしましょう!


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