アクタージュ『銀幕の王』獲得RTA (銀幕)
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vol.1「アクターズ」
scene1『パントマイム』




流行りに乗ってもいいじゃない




 

 

 

 皆さん始めまして。鋼の意志を以て演じ続けるのに内心真っ青なままクランクアップRTA、はぁじまーるよー!

(淫夢語録は)ないです。大丈夫だって、安心しろよ〜。

 

 えー、今回持ち出したゲームはこちら。シナリオメーカーの頭の中おかしくなってんじゃねーのと思わず疑ってしまうほどのシナリオ量と自由度を誇るトーキング・アドベンチャー『アクタージュ 演劇綺譚』です。

 (頭のおかしい)ルート分岐や他社の追随を許さない豊富なエンド、そして作中に登場する作品のムービーのクオリティが"これもう映画かVシネマだよな"ってレベルの作品群がたくさん含まれてるのが魅力のフリーシナリオ形式を採用したアドベンチャーゲームです。

 このゲームでは、原作に登場するキャラクターたちと絆を育んだりバチバチに対立したり、逆に何もせずにぐーたら過ごすだけだったり、はたまた原作キャラをつけ狙うストーカーや暗殺者にまでなることができます。おいこれゲームか?

 マジで自由度が高いゲームなので実績解除の数も山ほどあります。というか作品内で作品が出ます。おまえらあたまおかしいよ(褒め言葉)

 

 えー、今回の目標は最短での『銀幕の王』エンド、トロフィー『稀代の一』獲得の最速攻略を目指します。このエンドを普通に攻略しようとすると最短ルートでも開始から十年かかります。

 どれだけ多くのドラマ、映画に出演しようとも十年かかります(328敗)

 

 走者がやった中でも一番酷かった時はエンドに行くまでに合計で130本近くの作品に出演しました。単純計算でも一年間に13本のドラマ・映画です。つまり最低でもワンクールの間に2〜3つドラマを並行していたことになります。なんだおまえ痴呆か?

 

 とまぁそんな感じで普通にやっても間に合いません。最速クリアを目指す場合、普通にたくさんの映画やドラマに出演して認知度を高めても『銀幕』エンドを得られないという悲しい事実があるのです。

 なので今回のRTAでは多くのドラマや映画に出演するのではなく三大映画祭やアカデミー賞の最優秀作品へのノミネート・受賞を目指します。

 チャート通りにいけば高校卒業後からの五年間という最速チャートでクリアできるので問題ありません。

 え? 五年間? 長いじゃねーか?

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 

 他に走者がいないから私が世界最速です。異論は認めません。

 

 

 それでは早速キャラクリしましょうか。容姿は勿論ランダム。RTAじゃなければガッツリ時間をかけたいところですが、今回はRTAなのでスキップです。性別はもちろん男です。当たり前だよなぁ?

 勿論、男を選ぶ理由もあります。今作では主人公にも隠しステータスというのがありまして男の場合、筋力・俊敏に補正がかかり、女の場合、器用さや人付き合いに補正が掛かるんです。

 なので単純に最速を狙うのであれば女性がいいのですが、色々死にかける必要性がある今チャートではステ的に男を選択します。

 

 名前は穂村元輝、略してホモとします。

 

 それじゃあゲームスタートを押したところから計測開始です。

 

 はい、よーいスタート。

 

 ゲームスタートとともにみんな大好きキャラガチャのお時間です。

 

 主人公の初期のステですが、『魅力Lv5』です。ここだけはこれ以外にあり得えません。初期値込みで菅◯将暉超えのクソイケメンが出るまでリセットしましょう。世の中顔です。顔さえあれば大抵のことは上手くいきますしチャートも安定します。

 ちなみに最低値が菅田◯暉超えなのは私の趣味半分チャート上の都合半分です。菅田将◯超えの魅力Lv5の今回の詳細値、実際どのくらいかというと夜凪景の男版くらいの顔面偏差値ですね。クソがイケメンが◯ね。

 ……。

 気を取り直してアビリティを見ていきましょう。

 

 今回のチャートではアビリティは『オーバーフロー』を採用しています。レベルは最低でも3は必要です。

 この名前を聞いて頭を痛めた兄貴も多いと思います。

 このアビリティ『オーバーフロー』は、各演技で成功度の振れ幅がより大きくなるものです。ジャックポット一発狙いのギャンブラースキルとでもいいましょうか。通常プレイではこんなアビリティクソの役にも立ちませんし、ついでに言えば一歩転けるとチャートも崩壊しかねない非常にリスキーなアビリティです。……が、今回は裏技を利用します。理由は後ほど説明しますので席に御着席下さい。ホモはせっかちなんだから……。

 レベルはLv1〜Lv5まで存在しますが、ホモくんのレベルは……

 

『オーバーフロー Lv5』

 

 ――ウッソだろお前!! 通常プレイでも見ねぇよ!! ……失礼取り乱しました。Lv5はちょっと色々とやり過ぎですね……。うーん、不味いかもしれませんねクレワァ……。……あれ、説明が読めん? ……? ウィキにも載っていませんがまぁいいでしょう。誤差の範囲内です(鼻ほじ)

 気を取り直して魅力の方は……ウッホ、狙い通り菅田◯暉似のイケメンですね。死ね(直球)

 まぁ特に意味はないので重要じゃありません。

 

 ちなみにアビリティを加味したホモくんの素のステータスですが……なんと銀河鉄道の夜編終了時の夜凪景とほぼ同じステータスです。ステ振りを上手くやれば夜凪景最終形態くらいになるんじゃないでしようか。もっと砕けばスカウターがイカれるレベルです。強スギィ!? 映画こわれちゃ~う。

 なんだこれ。このスキル持ちでもおかしい値ですねコレ……どういうことなんでしょうか……? まぁ悪いことではないので続行します。

 

 今作ではプレーヤー周りの環境設定はランダムで決まります。『二世』や『芸術家系』といった環境面におけるアド持ちか、『一般家系』かのどちらかです。

 ここはもちろん『芸術系一般家系』一択です(125敗)

 噛みそうな名前ですが、親類に業界人がいることでデビューのし易さがグッと下がります。『芸術家系』単体でもいいじゃねーかと思わないこともありませんが、様々な要因のせいで意味わからんうちにデビューするのが遅れるので要注意です(15敗)。なので今チャートではこちらを選択します。

 OP映像をスキップ。飛ばすことのできないラスト部分が流れます。

 

 頼む一般家系かつ親類芸術家系でオナシャス! センセーショナル!

 

 >あなたはカーテンから零れた朝日によって目が覚めた。

 >普通のベッドから起き上がると、寝ぼけた顔を洗いにリビングへ向かう。

 

 これは……

 

 >あなたは壁に貼ったポスターを目にした。叔父の映画撮影、資金繰りは大丈夫だろうか?

 >あなたは頭を振る。このままでは遅刻してしまう。

 

 

 や っ た ぜ !

 

 

 やりました! 一般家系で親類に撮影関係の人材がいます! しかもその文面からおそらくは監督に近い役職です! あとはこれで主人公の育成で演技等を組み上げれば完璧ですね。いやー、2文目の普通という所からただの一般家系に生まれたのかと思いましたが、どうやら大丈夫そうですね。もうこの際文句は言っていられません。これでいきましょう(125敗)

 

 因みに『芸術家系』単一では百城千世子や星アキラと知り合いになることができ、『一般家系』単一では夜凪景と知り合いになることができます。

 ここで『芸術系一般家系』だとその両方の知り合いになることが出来、かつ夜凪景のスキルを最初期に得やすいので非常にうま味です。

 

 本作の特殊スキル獲得の仕様上、どうしてもどちらかの演技を生で見なくてはいけません。なのでこの点においてこの『芸術系一般家系』というのはRTAにとても最適という訳です。

 ですが……。

 

 >あなたは制服に着替え、手早く朝ご飯を終えた。

 

 このチャートで唯一と言っていいほどに気をつけなくてはならないのはフラグが立つ前に百城千世子と夜凪景に同時に鉢合わせないということです。フラグ回収しきる前にコレやると(業界で)死にます(38敗)

 制作側もソレを危惧したのでしょう。同時期に知り合いになってる確率は芸術系一般家系で1%、一般家系で0.3%、芸術家系で0.3%です。

 

 わりと致命的なデメリットがある気もしますが、やはり切れる手札でも最高レベルのものを増やすことが早期かつ容易であるということはデカいですね。特に業界入り前に多少なりとも『メソッド演技(EX)』を取得できるのはデカいです。

 

 >文化祭も終わり、高校ももうすぐ終わる。あなたは僅かな寂寥感と共にホーム画面の写真を見つめた。

 >時間がないことに気づき、あなたはすぐに準備を整えた。

 

 さて、長々と解説しましたが無事にスナイプも出来ましたのでさっさと取得させましょう。遭遇条件は既に割り出しているのでパパっとやって、終わり――

 

 >準備が終わったと同時、インターホンが鳴った。

 

 ん? 

 

 >あなたは玄関に向かって扉を開けるとそこに立っていたのはぴょんと跳ねるふわふわの白いショートヘアー。周りから目を隠すためか大きめのハットに、目元を隠していたサングラスから透き通るような瞳が覗いていた。

 

 ヌゥン!

 

えへ(ねぇ)遊びに来ちゃった(私とデートしない?)

 

 >可愛らしくおどけた表情をする彼女はあなたの友人である百城千世子だ。

 

 

 オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!!(大迫真)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――無言劇(パントマイム)

 

 パントマイムは「全てを真似る人」「役者」を意味する古典ギリシア語pantomimosであり、その起源は古代ギリシアに遡る。

 ただし、このころのパントマイムは、私達が「パントマイム」という言葉で想像し、使う技術としてのものよりは、仮面舞踏に近いものであったのだという。

 

 ――『パントマイム』

 

 説にもよるが、2200年以上前から存在する演劇の基本。"肉体の芸術"と呼ばれるもの。

 口を使わず、体の動きだけで何かを魅せる技術。

 所作一つ。

 動作一つ。

 小さく手を動かし、姿勢の向きを動かし、目を自然に見開いて。

 

 たったそれだけのことで、()()()()()()()()()()()()()()

 

 少し体を動かし、少し演技をしただけで、人を操る。感動させる。

 

 まるで、催眠術か何かで操ったのかと思うほどに。

 何をすれば、それを見た人間の心がどう動くか。

 そこまで把握できてこその俳優(アクターズ)

 

 ――それが私の仕事。

 

 一秒の演技が、観客の足を完全に止める。

 刹那の動きが、一人の心を完璧に動かす。

 

 ……『ソレ』を見たのは偶然だった。

 

 あの監督の親類が文化祭で演技をする。

 アリサさんは嫌がるかもしれないけれど、少しの好奇心と冒険したさ。それにオフだったということも相まって、私は文化祭に足を運んだ。

 あの人が認めた、頂に届きうる俳優の卵。それなら、少しは『百城千世子』の足しになるかと思って。

 

 ――その横顔に。思わず、目を奪われた。

 

 ガツンと、頭をかち割られた。そんな感覚だった。

 

 

 真っ白なシーツの、大きなベッドの上で。

 私は、食い入るようにその映像を見ていた。

 何度も。何度も。何度も。

 

「……うん。やっぱり」

 

 私は『百城千世子』だ。

 芸能事務所『スターズ』に所属するトップ女優だ。

 

「ほんと、どうしてこんな演技が出来るんだろう」

 

 その表情を。目の微かな動きや指先の動きまで見落とさないように。隅から隅まで分析する。

 私は『天使』だ。

 演技と立ち振る舞いを評して『天使』と呼ばれているのはわかっている。

 絵画の中の天使のように。或いは地上に降りてきた天使のような。そういった評価が得られるまで緻密なエゴサーチと統計から血の滲むような努力でここまで押し上げてきた。

 そういう風にプロデュースしてきた。

 

「…………」

 

 だからコレは私のエゴだ。

 『百城千世子』であるために必要なことだ。

 

 

 

 

「――――アリサさん、一人、おもしろい子がいるの」

 

 だからごめんね。

 私が私である為に、貴方を利用させてもらうの。

 悪く思わないでね。

 




穂村元輝の見た目の詳細を訂正しました。
景さん男版くらいだと思っていただれば。申し訳ない。


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scene2『試す天使と案件と』


なぁにぃコレぇって評価なので実質初投稿です。





 

 

 

 

 >可愛らしくおどけた表情をする彼女はあなたの友人である百城千世子だ。

 

 …………(過呼吸)

 

 >可愛らしくおどけた表情をする彼女はあなたの友人である百城千世子だ。

 

 …………(心肺停止)

 

 ウッソだろお前。こんなことある……? ありえることが許されるのか……? おい神様なんとか言えよクソ野郎。ぶっころしてやる。

 またリセ? リセ案件なの……? 僕の一週間の努力が無に帰しちゃうの……?

 ……………………。

 

 

 

 続行します(鋼の意思)

 

 ぶっちゃけもう一回リセとか心折れ……いえ、この天文学的な確率でもって組み立ててきたチャートをぶっ壊――こんなあり得ないことが起きたのです。これを利用せずしてどうするのか。二兎を追って二兎得るのが走者というものです。ばっちゃんもそう言ってた(小並感)

 フラグ管理は少々面倒ですが、上手く管理しきれば大幅なプラスでタイム短縮に繋がるはずです。更にこの時点で『百式演技術(A)』を手に入れられるのは非常に素晴らしいです。遭遇させなければいいんです。遭遇したら? アイムアイアンマンッ(ユビパッチン)

 前回はホモくんの家系が『芸術系一般家系』であることが確定し、ステータスも予想を上回るものだったことまでやりました。

 では、ここで彼女の好感度を確認しましょう――!

 

 >千世子とそのマネージャーを家の玄関まで招き入れると、彼女のマネージャーが紙袋に入った菓子折を渡してきた。突然の訪問申し訳ないということらしい。

 

 ……あれ?

 

 ちょっと待って。

 本当に待って。

 今気がついたんですけど千世子ちゃんが家に来てるんですよね。マネージャー同伴とはいえ、あの百城千世子が来てるんですよね。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よね。

 

 

 

 ………………トラップカード! 『オリチャー』発動!

 

 

 

 続行ッしますッ(震え声)

 

 というか普通に気になります。好感度が気になります。流石にイヤンッなヤツだとリセ不可避なのでそれは避けたい所ですが……あの、御用件、なんですか……?

 

「個人的な用件でも期待してるのかな?」

 

 >笑いながら千世子が言う。あなたは唸りながらも返事をする。

 

 ヒェッ!!

 お前ッ……ここまで来て恋愛関係一歩手前とかマジでふざけんじゃねぇよ! どんな天文学的確率だよ! こんなのマジでリセじゃねぇかこれだからこの野郎馬鹿やろう(語彙消滅)……!

 

「この前話したオーディションについての話なんだけど」

 

 アイスティーあんだけど、話してかない?(掌ドリル)

 なんだぁ仕事関係の話なら大歓迎っすよ〜。天使ちゃんがスキャンダルとか自分のキャリアに傷付けるようなことするわけないじゃないですか〜。僕信じてましたよ〜。

 

「ウチの千世子から話は聞いてるかもしれませんが――」

 

 おっ、マネージャーさんから説明があるみたいですね。

 じゃあ天使ちゃんとマネージャーさんから説明を受けている間に。

 

 

 み な さ ま の た め にぃ(ねっとり)

 

 

 さっき私が気にしてた好感度システムについて軽く触っておきましょうか。

 

 

 本作には好感度システムが導入されています。既存のギャルゲとは仕様が異なるので注意が必要です。

 まず、どんなキャラクターにも初期好感度に差があります。

 

 計測開始以前に関係性があった場合。

 初期好感度の差はいつから一緒だとか家の距離、家族付き合いなどの要素から決まります。

 一緒にいる時期は高い順に幼稚園、小学校低学年、小学校高学年、中学生と上がっていきます。いわゆる幼なじみ、もしくは腐れ縁設定ですね。

 今回の場合は夜凪景と天使の両方よりも年上の設定なので、あり得たとしても『先輩・後輩』の関係です。まぁ天使との関係性があるので夜凪景とは遭遇しづらくなってしまいましたが、コレは『百式演技術』でカバーできるのでもーまんたいです。

 流石にここに夜凪景と知り合いとか言うのは起こり得ないでしょう。それだと天文学的確率なんて話じゃなくなってしまいます。そんなガバするわけないじゃないですが馬鹿じゃねーの?(高笑い)

 今回は『友人』扱いである為、好感度は比較的高くないでしょう。幼なじみでなかったのが数少ない救いです。コレで好感度MAXとかだったらリセ確定でした。

 

 そして二つ目のファクターは家の距離と家族付き合い。

 三つ目が家族ぐるみの付き合いなのか、よく話す、稀に話す、ないのか。 

 この3つの評価が合算することで決まります。大体10で仲のいい友人ってどころですかね。見た感じ3〜4ってところじゃないでしょうか。

 

 ではシナリオ内で初めて関係性を作る場合。この時菅◯将暉似のイケメンであるホモの魅力が火が吹く訳です。

 

 なんと! 初期の好感度は、新規の場合に限りィィ――!!

 

 基本的に『関係性』『はじめの会話』の二つを合算したものでありますが――そしてここに『魅力』が()()される訳です。ゲームでも顔という現実。泣きたくなるぜ。

 

「――という訳で、この日時でオーディションを行いますので、出来ることなら受けていただけるとこちらも助かります」

「期待してるよ」

 

 >あなたは『オーディション会場の地図』を手に入れた。

 

 おっと。どうやら話が終わったようです。 

 さすがにこんなレアケースはそうそうありません。記録のためにもこのまま走ります。それにもしかしたらタイム短縮に繋がるフラグが発生するかもしれないダルルォ!? 

 馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!(天下無双)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 では育成チャートです。

 さっさとステを完成させましょう。

 オーディションは高校卒業してすぐなので、後二週間あります。この時間を利用してある程度のスキル構成を作っておきましょう。

 取得するスキルは『メソッド演技』と『アンカーポイント』ですが、何とホモくん既に獲得してました。どちらも習熟度はまだまだですけど。

 この二つのスキルはどちらも後々に原作主人公たちからあれこれ習得する時に必要なので、既プレイニキも獲得したのではないでしょうか(唐突な語り口)

 

 >あなたはDVDを流して演技の勉強をすることにした。

 >感情移入する余り、思わず涙を流した。

 >『メソッド演技』の習熟度が1上昇した。

 

『アンカーポイント』に関しては現時点ではイメトレしかすることがないので映画を見るたびにクライマックスシーンのカメラワークを図りとり、絵に起こしましょう。コレを繰り返します。

 ただし、この時選出する映画は様々な感情を想起するものにして、順番をごちゃごちゃにしておきましょう。原作でも危惧されていた『感情の激しい移り変わり』です。スタミナも減少しますが、こうすることで『精神』のレベルも上昇します。

 最初はこれを目的の習熟度まであげるまで繰り返すので倍スピードでいきます。ハイクロックアップ(倍速)

 

 本来でしたらここで親類にアポ取ってオーディションやらなんやらの手筈を整えるのですが、今チャートではここの部分がカットできます(強気な姿勢)

 他のリスクを取らないよう、残りの二週間は基本的に学校の往復とこのステータス上げに全投与します。ここで学校をサボったのがバレるとオーディションが受けられなくなるかも知れないのでやめましょう(1敗)

 

 ビルドについてですが、今回目指すのは百城千世子のような『多くの作品に出るため』の通称【スターズビルド】ではなく、言ってしまえばアラヤさんのような【夜叉ビルド】でいきます。

 今チャートで登用している『オーバーフロー』を最大限活用するために少なくとも残り二週間で『精神』のLvを5にすることと、裏アビリティ『うたかたのアリア』の入手です(37敗)

 

 この裏アビリティのゲーム内での効果は『高すぎるものは下げて、低すぎるものは上げる』といったもの。

 コレ単体ではどんなプラス効果であろうとも、成功確率を逆転させる代物です。正直言ってクソの役にも立ちません。例えばアイテムを使ってクリティカル率を高めても裏アビリティのせいでクリティカル率が下がってしまうわけです。ゾンビにヒールかけてもダメージ喰らうみたいなものですな。

 ところがぎっちょん。『オーバーフロー』と組み合わせるとあら不思議、アビリティの効果で上昇したリスクを下げ、ファンブる確率を減らすことができます。その率なんと60%! なんと通常時(成功率80%)まで下げることができるのです! ただ成功判定がよりシビアになるというクソ仕様の為、私の他にチャートに利用している兄貴は見たことがありません。ですが私は安定を取らずに冒険します。虎穴に入らずんば虎子を得ずというヤツです。

 もちろんこの裏アビリティにも副作用はありますが、正直このチャートには何の影響もないのだもーまんたいです。

 ここの入手方法は判明してるのでサクっと入手しましょう。

 

 

 

 では本日はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『人に非ざるに優る』と書いて『俳優』と読むように、元より俳優というのはいわゆる人間ではないけれど。

 

 ――――役者に向いてる。

 

 その言葉が、私の背中を後押しした。

 その意味を当時の私は理解していなかったけど、私の前に立っているあの人が。かつて銀幕で輝いていたあの人に憧れて。あの人が輝いているあの場所へ、私も行きたいと思った。

 

 役者に向いてる、という言葉が正しかったことはすぐに証明された。

 

 私は『美しい物』がなにか知っている。

 

 それは人の手によって作り上げるもの。

 人の意思によって、人が長年かけて築き上げてきた技術によって作り上げるもの。

 

 そうして私は『百城千世子』という商品(オートクチュール)を造り上げた。

 

 技術は経験の積み重ね。

 異能は天才の持つ才覚。

 

 私は天才ではないけど、天使にはなれるから。

 だからあらん限りの時間を技術の習得に注ぎ込み、足りない分は先人の残した手法を参考にした。

 習得する技術の取捨選択を行うことによって必要な経験を選び取り、効率的に必要とされるであろう技能を獲得した。

 より多くの人が理想とする『完璧』な女優を目指した。

 

 

「――ねぇ、私とデートしない(えへ、遊びに来ちゃった)

 

 綺麗な男の子だと思った。

 パーマを当てたショートマッシュの髪の毛。側から見ただけでキチンと手入れをしているのがわかる。ほどよく引き締まった肉体と、朝焼けの中に浮かび上がる肌は、一般人にしては極めて不気味なほどに整っていた。

 人々の視線を釘付けにする確かな原石の塊が、私の前に佇んでいた。

 

「……。何の用ですか?」

「個人的な用件でも期待してるのかな?」

「質問に質問で返さないで下さいよ」

 

 不思議な男の子だと思った。

 会話のリズムが独特だ。人の輪の中の会話というより、映画の中の会話が身に付けさせた日常会話の発音だ。会話の間に挟む言葉がない、というか。

 それに発声も独特だ。よく届く声、不快にならない声、感情の乗った声を『映画の真似』で自然と身に着けていった結果として得たものだろう。私がそうだったように、レッスンを受けていた話も聞かないし、多分彼も映画を見ていくうちにでも自然と身に着けていった結果の代物だろう。

 玄関にある写真立てを尻目に映す。親類との写真かな? 姉妹はいないって話だったしね。

 

 さてと。

 

「この前話したオーディションの件なんだけど」

 

 ――ぞわり。

 

 ()()()()()()

 たまに、彼は"こう"なる。まるで全身を隈なく調べているような。医者が患者を至近距離でじっと観察するような、そんな執念にも近しい興味がじっと向けられている。

 興味には、微笑みを。

『百城千世子』としての笑顔は決して崩れない。

 

 君ならきっと、私の誘いを断らない。

 そんな確信にも似た予感があった。

 

「期待してるよ」

 

 振る舞いと言動で周りの反応と思うことを誘導するのが女優。

 大衆という、数億数千万の個人が徒党を組んで現れる怪物を操り切るのが『百城千世子』だから。

 

 私の知る限りの、彼の言葉と行動と分析。

 私の知る限りの、大衆の言葉と行動とエゴサーチによる『百城千世子』に対する分析。

 どちらの方が大変で、どちらの方が簡単か。

 そんなことは、とっくの昔に明らかだった。

 

 

 

 

 

 

 

「――元輝くんの演技、楽しみにしてるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ホモくん。
類稀なる豪運とクズ運を本番で発揮する走者の模範。

連続投稿で疲れたので失踪します。


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scene3『ハロー・ワールド』



恐る恐るの投稿なので初投稿です。
皆様の感想大変励みになってます。

(こんな小説がランキング5位とか……)正気か?(ありがとうございます)


 

 

 

 

 天使な女の子が暴虐無尽なRTA、はぁじまーるよー。

 

 さて。第一のリセットポイントであるオーディションですが、前回千世子ちゃんの手引きで初っ端からシード権を得ることが出来た為、書類選考の手間が省けました。その点については感謝しかありません。

 

 ということで。

 

 今日がオーディション当日です。会場へと向かいましょう。母親への挨拶を忘れてはいけません。ここ重要なのでテストに出ます。因みにホモくんの父親は単身赴任中らしく、今のところ帰ってくる目処もないらしいです。(拘束されない)自由って……最高やな!

 

 会場までは電車を使います。タクシーを使えればRTA的にはウマ味ですが、オーディションの時間が決まっているので交通手段はなんでもいいです。でもお金がないからってヒッチハイクはダメだぞ!(1敗)

 

 移動している間にオーディションシステムと今回のオーディションについて説明しておきます。

 

 本作のオーディションシステムは、大きく分けてランダムに与えられた課題をこなす演技アクトと面接アクトの二つのターンによって構成されています。

 演技アクトと面接アクトの二つの評価点によって合否判定がおこなわれ、同時に演技アクトの評価点によっては不合格であっても他のオーディションが紹介されたり、事務所のスカウトがあったりします。ここら辺はだいぶリアル目に設定されている為、評価方法も大分複雑なのですが正直無視して構いません。

 ホモくんの手にかかれば全部評価S取ることなんて簡単なんだよォ……(暗黒微笑)

 また、ドラマや映画の撮影も演技アクトとスケジュールや人間関係に関するアクトがいくつも存在し、その評価点、監督、脚本の出来によって成功率が決まります。これも詳細は後ほど説明しますが、よりいい監督に当たればその分成功し易くなるわけですね。そんなとこ現実に寄せなくていいのに……(くそデカ溜息)

 

 今回のオーディションは年から年中体にピスピスしてるのでお馴染み『CALPICE(カルピース)社』の新CMのオーディションです。毎年夏の時期になると高校生の格好した美男美女がやってるアレですアレ。

 ただ、ここ数年あのCMに出てる俳優陣がほぼスターズ出身が多いのでまぁなんとなく察せるというか……。

 

 今回ホモくんが受けるオーディションは2023年、つまり今年度のCALPICE(カルピース)社のCMの主人公役のオーディションです。今回のCMはネットCMの台頭に肖り、ショートムービー仕立てのCMとなっています。もちろん十五秒verに編集されたものも地上波で放送されるので、知名度を上げる為にも確実に取っておきたい案件です。

 今回のCMは年間で3〜4本のCMを放送・アップロードします。ショートムービーの仮タイトルは『Hello, world』です。

 どこかの臆病なチキンが歌ってそうな名前ですね。今回のCMは大きく分けて『部活と夏休みとCALPICE編』、『文化祭とCALPICE編』、『冬休みとCALPICE編』の三編によって構成されており、コレらを逐次放映するカタチとなります。よくある恋愛模様と友人関係の変遷を描く。

 内容自体はありふれたものですが、美男美女がやればそれはもうよく映えますし、スターズのノリに乗ってる女優を使うということで十分な収益も期待できます。しかも高名な映画監督がメガホンを撮るという贅沢仕様。ガッツリ印象付けられるようにフルスロットルの演技です。これぞ赤い彗星……!

 千世子ちゃんがこの案件を教えに来てくれたのも、彼女自身がこのCMのヒロイン役として抜擢されていたからみたいです。そういえば、ホモくんなんで千世子ちゃんと知り合ってたんでしょうか? 後で調べておきましょう(wikiチラ)

 

 今回のオーディションのお題は『高校生としての演技』です。与えられる題材はランダムですが、基本的には"帰宅中の高校生"か"休み時間の高校生"のどちらかを見知らぬ相手と数人で組んで行います。

 

 おっと、どうやら会場に到着したようです。パパッと受付を済ませて順番を待ちましょう。

 順番は……げっ、真ん中手前くらいですね。少し時間があるのでジャズでも聴かせてバフをかけておきますか。

 

 今回のオーディションの倍率、主人公役の合格確率が0.2%。バイプレーヤー、主人公の友人役として1人選ぶとのこと。

 『ジョニタレ』……あのジョニーズでも倍率が実技で100人、採用10人とかなので、確率1%以下とは中々鬼畜なオーディションです。コレを最初に持ってくる辺り千世子ちゃんの傍若無人っぷりが窺えます。

 

 そういえば、原作キャラもこのオーディション受けてるんでしょうか。基本的にランダム選出なので誰が来てるかわからないんですけど……というか烏山武光くん二つ隣の席に座ってますね。オフィス華野の源真咲くんは……残念、見当たりません。パイプを作れればタイムの短縮に繋がったんですが、ないものねだりをしても仕方ありません。彼ら原作キャラもチャートに直接影響するわけではありませんが、色々な撮影で何かと便利な存在です。彼らの好感度は稼げるタイミングがあるなら稼ぎますが、そこまで無理して稼がなくても問題ありません。

 

 そんなことをしているうちに順番がきました。さくっとやっていきましょう。今回は3人組での演技アクトです。烏山くんと同じチームですし、張り切っていきましょう。

 

 試験官は六人ですね。監督と副監督2人、美術監督とプロデューサー、それと星アリサ。……星アリサ!? なんでや!?

 ま、まぁ低確率でこのオーディションに出てくるというデータもあるので想定の範囲内ではあります。スターズのトップにホモくんのことを売り込んであげるというのは結構なアドです。

 お題は想定通り『休み時間の高校生』です。

 

 演技アクト開始――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――終了しました(1敗)

 なんの面白みもないのでさらっと流していますが、張り切りすぎてこんなとこでガバって暴走することもなく、つつがなく終了しました。こんなとこでガバるのは申年の猿くらいのものです(鼻ほじ)

 

 ここでS以上の評価を取ると、星アリサが試験官として参加していた場合、ほぼ確定で星アリサとのイベントが入ります。こちらの身の上や演技術などについて聴かれますが、何にもやってないよアピールを欠かさずに行いましょう。ここで下手な受け答えをすると芸能界での活動に響く為、最悪詰む可能性が浮上してくるので気をつけるべしです(1敗)

 

 上手いことアリサさんの追求を躱して、終わり次第すぐに家へと直帰します。オーディションの結果発表についてですが、先のオーディションで全てのアクトにおいてS++を獲得していた場合、殆どの確率で3日以内には連絡が来ます。

 

 なので結果が来るまでの二日間で歌舞伎か演劇を観に行きましょう。……すぐに動きたい所ですが、オーディションは予想以上に体力を食います。その日のうちに見に行くとデバフがかかってしまい、習熟度の上昇率に影響が出るので一晩しっかり寝ます。このゲームでは体力は全ての資本ですので、常に気に留めておく位はしておきましょう。

 既にチケットは用意してあるので、サブスクで映画をリピートしながら真っ直ぐに向かいます。オーディションまでの二週間でしっかり『アンカーポイント』の習熟度を上げておけば、二日間で三つの演劇を見さえすればアンカーポイントの習熟度が『百式演技術』の習得に必要な数値まで行きます。予定していたチャートより大分ギリギリでしたが、CMの撮影までに間に合いました。

 

 さて、コレで初仕事前までにやらなければならない仕事は一通り終えました。

 ここで完全な運による第一のリセットポイント。オーディションの合否判定です。コレは監督の趣向と芸能界特有の圧力の問題がある為、幾らオーディションで最高値の評価を取っても受からない時は受かりません。

 

 ……合格です! やりました! ここで連絡が来なかった場合、約二週間の間合否判定を待たなければならない為非常に痛手となっていたので、とても助かりました。相変わらずこの瞬間は緊張します。

 

 すぐに顔合わせと衣装合わせという名目のCMの撮影に関する説明とかいうクソイライラタイムが始まります。ですがコレを通り過ぎて一週間も経てば撮影開始です。千代子ちゃんを観察でもしながら耐え忍びましょう。

 短縮要素のないハイパーイライラタイムを過ぎればすぐに直帰してパソコンでぐーぐる先生を開きます。撮影開始までの時間も有効活用し、新規のwebCMのオーディションを探して応募しましょう。俺のマックが火を吹くぜェ……! 続け様に完全な運によるリセットポイントその2、みんな大好きガチャのお時間です。

 デスアイランド前までには最低でも二本のCM、もしくはドラマに出ておきたい所。……ですが、残念ながら今回のチャートでは開始時点の都合上、CMの様な短期の案件かデスアイランド終盤から撮影開始のものしか取ることができません。胃に穴が開くような切ない気持ちですが、ここは歯を食いしばりましょう。(いい案件)来い! 来い! 来いヤァァァァ!!

 

 ……でました!

 今回の応募要件(ガチャ)に適合したのは『洗剤男番外編』『カレーライスのwebCM』を含めた三つですね。中々の豊作です。こんなとこで豪運発揮しなくていいのに……。

 では一応三つとも応募しましょう。とは言っても上記の二つしかデスアイランド前に撮影しないのですが。

 

 一週間トレーニングと書類選考の準備をしていれば意外とあっという間に撮影開始です。ここの撮影アクトは事前に死ぬほど練習させたのでモーマンタイです。短縮要素のないイライラポイントですが、絶対NGさせないマンの千世子ちゃんのスキルを盗むべく、彼女の演技は見逃さないよう最新の注意を払います。ここは耐え忍ぶ所です。

 

 ずっと評価S以上のアクトをし続けていると千世子ちゃんとの特殊イベントが約50%の確率で発生します。メソッド演技の習熟度が高くなければ、ここでの会話はどんなヘマでもやらかしても基本大丈夫なのですが、一定ラインの習熟度を超えていた場合に限って変な受け答えをした瞬間によくわからないフラグが立ちかねないので常に気を使いましょう。自分で地雷を埋めるような真似はしない。それが走者の基本でありルールです。地雷原でタップダンスするのは他人がしてるの見るだけで十分です。

 とはいえ今日は撮影アクト初日、しかも初の共演なので撮影アクト中のイベント以外でコミュ以外の特定の話題についての特殊イベントが起こる可能性はほぼありません。一応起きることもなくはないみたいですが(wiki参照)、私は見たことがありませんので実質0%です。

 

 ……………………。

 なんで特殊イベント起こるんですか(激おこ)

 落ち着きましょう。be coolです。冷静にいこうじゃあないか……。確かにこれまでにないイベント発生ですが、話の内容は想定通りです。とりあえず「人の作ったものって……最高や……トレビアンッ」的なことを、言っておきましょう。

 

 …………。

 ……問題なさそうです。多分ないと思います。めいびー。

 千世子ちゃんとの特殊イベントは本当に何考えてるのか分からなくなってくるんでいつも緊張しますね……。

 

 基本的には残り撮影日も同じ流れです。千世子ちゃんの演技だけは見逃さないようにしましょう。『メソッド演技(EX)』が入手できていないので、『百式演技術』の獲得は必須です。確実にこの撮影で修得し切りましょう。

 

 それでは本日はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 芸能界は、才能の世界だ。

 そして同時に、才能だけで生きていくのは難しい世界でもある。

 かつて天才だと持て囃された子役は、頑張った他の後発組に抜かれていく。

 努力を怠り、自身の才能に胡座をかいた天才は、努力した他の天才に埋もれていく。

 そうやって。

 役者という人種は心を折られる。

 何かが折れて。何かに打ちひしがれて。僅かな成功だけを持って消えていく。

 "天才でない人々"は消えていく。

 

 そうやって。

 本物は、人々の心に傷跡を残していく。

 

 

 

「――うるせぇバーカ」

「むぅ。そんな悪い言葉どの口が言うのかなー?」

「知るか。わざわざ部活終わりに付き合ってやってんだから感謝しろっての」

 

 放課後。

 初夏手前。夕暮れが遅くなり始め、ジメリとした湿気が漂い始める。

 肌を撫でる斜陽を背に、清涼飲料水を片手に持ちながら二人の男女が河川敷を歩いている。

 

「わかってるよ。付き合ってくれてありがとね」

「……うっせ」

 

 いたずらっぽく笑って、自転車を押す青年の前にステップを刻んで躍り出る。

 滑らかにくるりと回り、スカートの裾を摘んで――おとぎ話の中のお姫様のように――彼女はしずしずと頭を下げた。

 芝居がかった自然な動作、という()()()()()()

 それを見て、青年は照れた様子も見せずに笑った。

 

 彼らにとってはそれが()()()()

 あたかもそう言わんばかりに、青年は()()()()()

 

 

 ────"Hello, world”

 

 

 俳優、穂村元輝。

 後に映画史にその名を残した名俳優。

 それは『銀幕の王』として知られる彼がその名を世間に轟かせたとされる、記念すべき一歩目だった。




……チャートぶっ壊したい(発作)
自分の誤字脱字がヤバすぎで助けられてばっかなので失踪します。


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scene4『Godzilla』



4話目にしてようやく原作主人公が出てきたので実質初投稿です。





 

 

 

 

 >「ん、また明日」

 

 ──『からだピスピス、CALPICE(カルピース)

 

 

 

 

 

「百城千世子さん、穂村元輝さん、これにてクランクアップです。お疲れ様でしたー!」

 

 (お疲れ)っしたー!

 花束と一緒にCALPICE社のCM撮影無事クランクアップが知らされます。よかった、本当に無事に終わってよかった……! 撮影途中にウルトラの母とかシン・ゴジラとかやってきたらマジでどうなるかわかりませんでした。どうしたってやってくる可能性を潰し切れないとか、これだからどう動くか分からないランダム性のあるキャラは嫌なんです。

 落ち着いたところで、お世話になった方々に挨拶して回りましょう。皆さんお疲れ様です。また何かの機会があればよろしくお願いしますー。

 業界の方々に顔を売っておきましょう。この業界、色々とベテランであればある程礼儀正しい青年の方が受けがいいのです。

 素行が悪くて業界で干されるとか洒落になりません(12敗)

 おっと、CALPICE社のプロデューサーさんですね……お話しませんかぁ……?

 

 …………。

 事前の連絡通り一ヶ月ほどでオンエアが始まるとのことなので、その間にこの前応募した案件をクリアできそうです。放送開始直前は、流石にこの規模の案件だと色々な方面でメディア露出に引っ張られるので、一月あるのは意外と助かりますね。

 監督と副監督あたりの重要ポジの方々ともコミュを取ります。ここまで多くの人とのコミュをキチンと取らなきゃ、後の撮影や映画等の出来に影響がでてくることがあるってのはこのゲームの特徴の一つですね。めんどくさいですけど。

 ここのコミュを消化している間に今のステを見ておきましょう。

 えーと。

 

 

 ──よし。キチンと『百式演技術(E)』を修得できてますね。いやーよかったよかった。残念ながら『メソッド演技(EX)』はもうしばらく手に入れられそうにありませんが、このスキルさえあればこれから先もなんとかなりそうです。

 

 ……おっと。そんなことをやってるうちにどうやら千世子ちゃんとのコミュに入ったみたいですね。この間にガンガン話しかけて好感度を上げていきましょう。好感度を上げておけばおくほど『百式演技術』のランク上げがやりやすくなりますので、こういったコミュはとても大事です。好感度調整がクソ難しいこのゲームですが、最低限分からないとこを質問できるくらいの関係性にはなっておきたいところ……。

 

 ただ好感度を上げるという点のみを考えて、彼女が好きだとされる虫に関する話題を持って突っ込めばいいんだよぉ! とでも考えて突撃した兄貴も多いと思います。ですが、彼女とのコミュはそんな簡単なものではありません。だったらこんな苦労してないです(逆ギレ)

 想像してみて下さい。仕事仲間とはいえいきなり男(高顔面偏差値)に虫の話を振られる──。

 側から見ると、というか見なくても大分ヤベー絵面になります。新しいクラスになってから一週間くらいでクラスのマドンナにイケメンが何の脈絡もなく虫の話題を話し始めるというシチュエーションに限りなく近いですね。頭おかしいんとちゃうか?

 ということであくまで話すのは日常的なものか映画や撮影に関するモノにしましょう。そもそもチャートの都合上、虫に関する知識の収集が十分でないのでそんなマイナーな話題で達者な会話が出来るわけがないのですが、まぁそれは兎も角。

 ともかく普通の好感度コミュについては死ぬほど練習してきてるのでもーまんたいです。普通にやりましょう。

 

 

 …………。

 ………………………………う゛ー。

 

 

 なんか会話の内容がヘビーなんですけどどういうことなんですか? ……デスアイランド編前に彼女の仮面についての言及が少しとはいえ行われるとは、千世子ちゃん幼馴染みルートでもないのに珍しいですね。

 ちょっと予想外でした。こんなこともあるんですね。チャートに書き込んでおきましょう。

 

 ……はい、コミュも終了しました。若干幼児退行して対応しちゃった気がしますが気の迷いでしょう。いい具合に好感度も稼げてるみたいなので大丈夫です。

 では帰宅します……と行きたいところですが、毎度恒例、監督主催打ち上げパーティーに参加します。

 特にホモくん、現段階では新人も新人のペーペー野郎なので参加は必須です。ここで断ったとしても、大抵の場合その後の活動にはほとんどの確率で影響はありません。ですがここではリスクより安定を取ります。ここで芸能界のあれこれについて監督あたりから教えてもらいましょう。監督とかプロデューサーとの密な関係は意外と重要なのです。

 

 

 

 

 

 ということで翌日になりました。いやー昨晩は大変でしたね。ベロンベロンになった男を介抱したところで一体誰が喜ぶというのか……。少なくとも走者は喜びません。オレはァ、ただのォ、ノンケだァ!!

 

 さっさと切り替えて次の案件に向かいましょう。webCMの方のオーディションもすぐに迫っているので、実技オーディションと並行してSNS関連も始めていきます。やっぱコレ、一人だと大変ですからマネージャー欲しいですね……。こういうマネージャー周りもしっかりしてるところもスターズの魅力だと思います(唐突なステマ)

 これからの予定ですが、取り敢えずwebCMの方のオーディションまでの間は『百式演技術』の習熟度上げに専念します。このスキルの習熟度上げにおいて最も大切なのはカメラワークを如何に把握しうるか、という点に尽きるでしょう。彼女の出てる作品を片っ端からみて、彼女が行なっているカメラワークの把握に努める、という形式を取ります。

 レッツトレーニン──!

 

 結果。

 オーディションは二つとも合格しました。

 結構あっさり受かったので倍速で流しておきます。カレーのwebCMの方の撮影は二日後とのこと。監督とか共演者についての話が聞けなかったんですが、多分立て込んでいるんでしょう(他人事)。よくあることです。

 それではトレーニングでもしながら撮影日を待ちま――

 

 >電話が鳴っている。

 >あなたは番号を見た。見覚えのないダイヤルだが……

 

 ――きたわね(雑お嬢様)

 スターズ共催の案件で一定ライン以上の評価を出し続けていた場合、高確率でスカウトの電話が来ます。

 評価によって電話相手が変わりますが、基本的には評価Bでスカウトモンキー(下っ端)、評価Aでスカウトマン(中間職)、評価Sで部長クラス(支部長)となります。評価S+以降も基本的には部長クラスですが、ごくごく稀にウルトラの母からかかってくることがあります。ウルトラの母からだと大分目をつけられてるのでちょっと不味いのでチャートによってはリセ決定もあり得るので中々の鬼門ですね。

 

「もしもし、私、スターズ事務所のアクター部門、部長の寺西というものですが――」

 

 ……部長でした。なら特に根回しもなく断れるので助かります。まぁウルトラの母からでもなんの問題ないんですが(強がり)

 ほうほう。やはり話はスカウトについてですか。先日スターズの女子部門のオーディションがあって? 男子部門も新しく一人募集するからホモくんにきて欲しい? ……申し訳ないんですが、僕ぁスターズに入る予定は今のところないんですよねー(熱い掌返し)

 

 ごめん(威風堂々)

 

 じゃ、また今度ご一緒することあったらよろしくお願いしま――

 

「寺西さん、ちょっと借りるね。もしもし?」

 

 ……………………。

 ……、…………。

 ………………ふぁっ!?

 

 えっなんで? 千世子ちゃんなんで?(困惑) チヨコエルなんで?(全ギレ)

 ちょっと意味わかんないッスね……。彼女からスカウトの電話が来るとかマジで訳がわからないッスね……(wikiチラ)

 いえ、やっぱり知人開始ルートでコレはありません。どういうことなんでしょうか? まさか好感度調整ガバったとか?

 

 ……………………。

 

 

 

 チャート、チャートが壊れるぅ……! 壊れちゃうぅ……! 何してくれとんじゃ貴様ァ……!

 

 

 

 ……ふぅ(胃薬処方)。落ち着きましょう。たかだかまだ発見されてない低確率の千世子ちゃんスカウトケースに遭っただけです。好感度は十分足りてますし、特に問題はありません。続行します(鋼の意思)

 俺はスターズには入らんのだよ。(RTA的には)君と目指すところ(NGなし)は同じだけど、スターズだと(命かけてでもやり遂げるとか)できないことがあるんだ……。

 

「君が欲しいから──って、言ってもだめ?」

 

 ン゛ッッッ!?

 流石原作でツートップの美しさを誇る千世子ちゃんですね……。撫でるような声だけで流石の私も一瞬頷きそうになりました……。

 でもウチのホモくんのメンタル世界最高なもんでね。そういうの効かないんだ。すまない。本当にすまない。

 

「……残念。気が変わったら電話してね」

 

 >「それじゃあ」とあなたは電話をきった。

 

 ……さて。

 気を取り直して撮影日まで待ちましょう。

 俺たちの戦いはこれからだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──遅い」

 

 スタジオ大黒天所属の制作担当、柊雪。

 今回の撮影で助監督のポジションに据えられた私は、撮影スタジオの前に立ちながら、苛立ちを含んだため息を吐いた。

 いつも通りといえばいつも通りなのだが――監督である墨字さんがいきなり無茶を言い始めたのだ。

 それに付き合わされた結果、墨字さんが連れてくると言った女優がまだ到着してないという事態に。そりゃあクライアントとプロデューサーの気が立って仕方ないわけだ。

 思わずため息をついてしまう。

 

「ふぅ」

 

 暇つぶしがてら状況を整理しよう。

 今回の案件、CM撮影の大まかな流れはこうだ。

 某食品会社が、『父の日にシチューを』企画で、シチューのウェブCMを作成を決定する。この食品会社がクライアントだ。

 依頼を受けた広告代理店のCMプロデューサーが動き出す。

 このプロデューサーが、CMのプロデュースを行う。つまりは現場よりももっと大きな規模の全体総指揮を執る。

 それで、ありがたいことに『スタジオ大黒天』にCM作成依頼が二本やってきて。プロデューサーが女優・スタッフ・撮影機材とかを手配しようとした。

 そこに墨字さんが待ったをかけて、CMの中心を件の原石にした、と。

 相変わらずやることが無茶苦茶だ。

 

「もう、毎回突然にものいうんだから……あ、きた」

 

 そして事故った。うそぉ!?

 粉砕された大道具を蹴飛ばし、黒髪の女の子を脇に挟んだ墨字さんが現れた。どうやら怪我はないらしい。

 

「──ほらぁ! 事故ったじゃねぇか! お前が暴れるから!」

「暴れて当然でしょ! この犯罪者!」

「んだとテメェ! 芝居教えてやるって言っただろうが!」

「信用ならないのよ! 現に誘拐でしょ!? どう見ても犯罪じゃない!」

「違いますぅ! 送迎ですぅ!」

 

 締まらない会話と雰囲気で。

 業界を破壊する、シン・ゴジラがやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──カレーライスだったわ」

 

 "弟と妹のために上手く作れるか"

 そんな、慈愛にも似た心配を浮かべた顔で、うまく切ろうとぎこちない手つきで野菜を切っていく。

 不安で。集中力が散漫になってしまったから、誤って指を切ってしまったかのように。

 

「──とても痛かったけど、二人を泣かせてはいけないから、笑ってごまかしたの」

 

 予想外の出来事にとても驚き、それを隠すように柔らかい表情を浮かべた。

 痛みをこらえ、静かに我慢していることを伝える表情へと移行する。

 

 どうしようもなくイカれていて。

 そして、どうしようもないほどに、彼女は本物だった。

 

 名女優、マリリン・モンロー*1

 メソッド演技の体現者。彼女は悲しみの演技をするため、悲哀のトラウマを繰り返し思い出しており、そのせいか頻繁に情緒不安定に陥っていたという。

 

 カチンコの合図と共に過去に戻り、カチンコの合図と共に現在へと戻ってくる。

 演じる役柄に応じて、その感情と呼応する自らの過去を追体験する。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それこそが──『メソッド演技』

 

「味は?」

「焦げて苦くて、みんなで笑っちゃったわ」

 

 墨字さんは正しかった。

 一体どんな半生を過ごせば、この年にしてこの境地へと到達するのか。

 私にはわからない。

 わからないけど、墨字さんが求めるものが揃い始めたのだと。

 ──その事実だけは、すぐに分かった。

 

「カット! OKだ! シチューがマジで焦げてるからコレは別撮りな!」

 

 撮影終了だ。カチンコの合図と共に夜凪さんが"戻って"くる。うん、確かにコレは墨字さんの言う通り『金の卵』だろう。

 

「ほら夜凪ちゃん、こっち来て! 手当てするよ!」

「……ありがとう、柊さん。でもコレくらいなら──」

「それくらいも何もないわよ! ほら早く!」

 

 「撮影するから指切ってね」と言われて本当に指を切れてしまう俳優が今の業界に何人いるのか……。

 すごいなと思うと同時、天才というのはイカれてるものなのかとも思う。流石にここまでの物を見た後だと。

 

「これは次の撮影、ちょっと荒れそうだね……」

 

 ついそんなことを考えてしまう。俳優に負担を強いることにならないといいけど……。

 夜凪ちゃんの指をアルコールで手早く消毒して絆創膏を巻く。そこまで深く切ってる訳じゃなかったからこれで大丈夫だろう。

 

「次の撮影? まだ何か撮るの?」

「ううん。今度はまた別のCM撮影。夜凪ちゃんが演じる訳じゃないよ」

「あら。じゃあその撮影、私も見学できるのかしら」

「んー、多分大丈夫かな。同じ系列会社のカレーライスのCMなんだけど、元々担当してた監督が骨折しちゃってね。同じスタジオで撮影してた私達にお鉢が回ってきたんだ。稼げる時に稼いどかないと。流石にこれ以上お金がないとさすがにヤバい……」

「た、大変なのね……。誰が演じるの?」

「……そういえばこの案件、珍しいことに俳優の名前聞いた途端に墨字さん受けることにしたのよね。えっと、名前は──」

 

 そう。珍しいことにこの案件、昨日の夜に決まった割には墨字さんが渋らなかったんだ。

 なんでか不思議だったけど、詳しくは教えてくれなくて。軽く調べてみても、事務所にも所属してないただの新人俳優で、酷く頭に残っている。

 そう、確か名前は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がこの撮影の監督をすることになった、黒山墨字だ。クソみてぇな演技したら即刻叩き出すからな元輝」

「なんで貴方がここにいるんですか……!」

「こっちのセリフだ。なんで俺がテメェの尻拭いをしなきゃならねぇのか」

「俺に言わないでください。

 ……さっさと撮影始めましょう。カメラワーク把握しときたいんですけど、絵コンテってあります?」

「……はん。今書くから少し待ってろ」

 

 スタジオ大黒天の大黒柱、柊雪は混乱していた。

 

 それも当然だろう。

 夜凪ちゃんの撮影が終わり、カレーライスの方のwebCMの撮影をしに別スタジオへと移動したのだ。夜凪ちゃんが自分の撮った素材を見てニヤニヤしてるのをおいてこっちにやってきたと思ったらいきなり"コレ"である。

 確かに、墨字さんが無茶するのはいつものことだ。その無茶振りだってさっきの撮影で十二分以上に発揮されていたのだから当然である。

 

 でも。

 

 でもやっぱりスタジオ入りと同時に俳優をボコボコにし始めるとかマジで意味がわからない。

 ……いや、それはまだいい。墨字さんは躊躇いもなく「お前の仕事はクソだ!」と言い切ってしまう人種だ。一歩間違えて手を出してもおかしくはない。……何もしてないのにヘッドロック決め始めるのはどうかと思うけど。

 

 じゃあ以前に主演の子と何かやっていたのか? と思い返してみても何も出てこない。じゃあ一体……とか思い出したらいきなり反抗しだしたのだからもう訳がわからない。

 

 というか、一番の問題は墨字さんが「コイツは俺の親戚だ」とか言い出し始めてることに尽きる。訳がわからなくて頭がパンクしそうだ。いやほんとに、洒落抜きで。

 

「……食べてるカットメインでいいんですか? 派手に動く絵面は墨字おじさんの趣味じゃない。──いや、というよりこれって」

「おじさんじゃねぇお兄さんとよべクソ元輝。さっさと撮影始めるぞ。尺は15秒、テストなしの一発撮りで行く。できるな?」

「当然。

 ちょっと向こうで準備してきます」

 

 は?

 彼が待合室から出ていくのを見る。驚きを隠さずに絵コンテを再確認してる墨字さんを見返した。

 

「えっ。ちょっと、正気ですか!? コレで撮影失敗したら態々こっちに回してくれたプロデューサーに示しがつきませんよ!」

「うるせぇ。俺がクライアントとかは説得しとく。それにアイツにはこっちの方があってんだよ。あと夜凪連れてこい。どうせそこら辺彷徨ってんだろ? アイツも見といた方がいい」

 

 夜凪景は『メソッド演技』を極めてる。特に"感情の再現性とその深度"という点に限って言えば歴代最高峰だといっても過言じゃねぇが──と。墨字さんは口元を三日月に歪めながら。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 ──断言してやるよ、と。

 

 カンヌ。

 ベルリン。

 ヴェネツィア。

 三大映画祭を総なめにしたその男は、薄く笑った。

 

 

 

 

 

 

*1
アメリカ合衆国の女優。典型的な金髪美女(ブロンド・ボムシェル)を演じた彼女は50年代を代表するセックスシンボルである。15年間とその活動時間は短いが、大衆文化のアイコンとして認知されるほどに人気のある女優だった。代表作品『ナイアガラ』『紳士は金髪がお好き』など。






ホモくん、まだGODZILLAとは未遭遇の模様。


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scene5『アクターズ』



チャート崩壊の兆候がブンブンすぎて難産だったので実質初投稿です。
全編通して小説形式なのであしからず。

アクタージュ作品増えてウレシイ…ウレシイ…
みんなもアクタージュRTA走って…



 

 

 

 

 ──優しい演技だった。

 

 ふわりと羽が舞うような。そんな演技だ。

 清潔に手入れされたキッチン。僅かに照り輝く炊きたてのお米を乗せた薄浅葱色のプレートにカレーを乗せ。

 ステップを刻みそうなほど楽しげに、チーズをカレーライスの上に散らばらせ、オーブンの中へと入れる。

 ここからが本番だ。

 ぐつぐつとチーズが焼き上がったのを見計らって、ミトンを嵌めた手でベランダへと持っていく。ステップでも刻むように、勢いよく。でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 木目調の屋外テーブルの上に皿を置き。満面の笑みで席に座ると堪え切れんとばかりに一口、頬張る。顔を綻ばせながら二口。続けてスプーンを動かしていく。汗をかいて湿気った胸元をバタつかせ、それでもやめられないとばかりにスプーンを止めない。

 カメラワークを完璧に把握しているからこそ。

 撮影範囲の中心から一切動くことなく、そして()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「────すごい」

 

 

 感嘆の声。同時に私はハッと気がつく。コレを撮り逃してはいけないと、気を取り直し──いや。

 違う。これは、『俺を撮り逃すな』と言わんばかりのその圧倒的な演技に、息つく間もなくカメラを動かしていた。動かされていた。

 穂村元輝の演技は、夜凪景のような"周りを巻き込むような演技"ではない。

 そんな、派手な演技ではない。

 そこにいるのは等身大の少年だ。

 休日の食事を楽しむ、ただの少年がいるだけだ。

 たったそれだけのはずなのに、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ただの等身大の少年がいるだけのはずなのに。

 ぎこちなさなど、最初の瞬間から一つもない。"カメラに映る自分"を逐次把握しながらそれを調整し、同時に"いつも通りの休日を満喫する少年"を演じる。

 ただ、それが恐ろしい精度なだけだ。

 末恐ろしい程の精度で、画面の向こう側の人に『カレーの美味しさ』を伝えている。彼が美味しいと思うと、見てるこちらですら"美味しい"と思ってしまう。明るく朗らかで、自信に満ち溢れた所作がカメラを離させてくれない。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………相変わらずの演技だな」

 

 墨字さんの呟き。確かに彼女にとって現段階でコレを見られるのは僥倖以外の何でもないかもしれない。

 

 夜凪ちゃんの演技は『観客の想像力を利用して"魅せる"演技』だ。

 いや、利用しているというのもチャチな表現かもしれない。この撮影が始まる前にオーディション映像を見せてもらってわかったけど、相手が知らないものを相手に観させる、つまりは"周囲全体の観客に同じモノを見せる"ことができる表現力を持つ演者だ。

 だから。

 彼女の演技の鬼気迫る様な感情は、メソッド演技ならではのものだ。

 "役そのものになりきったような迫真の演技"しかできないであろう彼女が、彼の様な"相手に伝えることに長けた演技"を手に入れたのならば──。

 

「カット!! オーケーだ!」

 

 本当に、あの役を演じられるかもしれない──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜凪景にとって、穂村元輝とは一体どんな存在か? と聞かれたら、非常に反応に困るというのが実際のところだ。

 

 知り合いというほど薄い関係性ではないし、かといって友人というほどありふれた付き合いでもない。

 じゃあ彼に持っている感情は、恋愛感情のようなもの? とでも尋ねられたとしても、決して恋人関係になりたいだとか、そういう訳ではない、と思う。恋愛がカサブランカ*1やローマの休日*2みたいな感情なら、私のコレはそういうものではなくどちらかといえば親愛とか、シンパシーみたいなものなんじゃないかな、と思う。

 

 小中学校と同じ学校に通っていたし、元輝くんが10歳の頃に引っ越すまでは家も凄く近かったから、偶に登下校を一緒にすることはあったけど。でも学年も違ったからいつも一緒だったという訳でもなかった。

 とは言っても小さい頃からの付き合いなのは間違いない。二人で一緒に映画を観てたのはいい思い出だし、お母さんが亡くなった時も穂村家総出で助けてくれた。

 三人で生活しなきゃいけなくなってからも、私がバイトで休日に家を空けなきゃいけなかった時は元輝くんがルイとレイの面倒をみてくれてたし、逆に元輝くんのお父さんとお母さんが出張で家を空けてる時はルイとレイを連れてご飯を作りに行ったりもしていた。

 そういうのもあってなのか、元輝くんのお母さんとお父さんはよくウチを気にかけてくれている。

 実際、今東北の方に単身赴任してる元輝くんのお父さんがこっちに戻ってきた時には、穂村家にお呼ばれしてご飯を一緒にすることもある。

 

 たぶん、こういう関係を幼馴染みというんだろうなぁ、とは思うけれど。

 

 元輝くんのお母さん曰く、高校を卒業する二週間前あたりからすごく忙しそうにしてるとは言っていたけれど、ルイとレイが寂しがってるからそろそろウチに顔出して欲しい。

 スターズのオーディションには落ちちゃったけど、髭のおじさんが私を女優にしてくれるって言ってたから後で元輝くんに報告に行こうと思っていたのがついさっきの話で。

 

「──綺麗」

 

 知らなかった。

 

 元輝くんが、穂村元輝という人間がこんな美しい演技をすることは知らなかった。

 

 目を引く姿勢。

 目を奪う仕草。

 

 大きな動きを伴う派手な演技をしていないのに、皆の注意を引き付けて離さない。

 元輝くんを撮るために用意された『中心』から、一瞬たりとも外れることがない。上下左右三百六十度。どこから見たとしても、元輝くんは綺麗に見えるんだろう。

 大きな動きを伴う派手な演技をしていないのに、みてる観客に"カレーのおいしさ"を叩きつけている。

 まるで観客と主演の境界線がなくなったみたいに。穂村元輝という人間が、心の中に巣食うような感覚だった。たぶん、他のみんなも同じ感覚なんだろう。

 

 それが私にも分かった。

 それは、私が持っていないものだ。

 

 だから。

 いつもの様に。

 

 

「元輝くん、その演技、どうやってるの?」

「コレは画面越しにいる観客を意識して、その人たちと自分の境界線を浮き彫りに──えっ」

「?」

 

 

 ────あ、コップ落とした。

 

 

「………………。

 ……。……なんで、いるの?」

「こっちのセリフなんだけど。お母さん忙しくしてるっていってたの、撮影してたからなのね。知らなかったわ」

「いや、そうなんだけどさ……」

 

 ここまで驚いた顔してる元輝くんを見るのも、大分久々な気がする。少なくともここ数年は見てない。

 それはそうとね、元輝くん。色々聞きたいことはあるけど──

 

「私、女優になったの」

 

 スターズのオーディションには落ちちゃったけど、今度シチューのCMに出るのよ。

 ふんすー。誇らし気に胸を張りながら両手でピースサインを作る。ぴすぴす。

 

「……そうだわ。ルイとレイも会いたがっていたから顔を見せてあげて欲しいし、今日の夜にでもご飯食べに来ない? 今日は特製カレーなの」

「カレーは辛えな」

「今日は中辛よ」

 

 一月ぶりの会話に花を咲かせていると、素材の確認を終えた墨字さんがこっちに来た。どうやらコレで仕事が終わったらしい。

 

「なんだお前ら、知り合いだったのかよつまんねぇ。というかお前の演技は相変わらずだな。もっと泥臭くてもいいんじゃねぇか?」

「ちょっと何言ってるかわかんないです。…………今回はそういう場合じゃなくないですか?」

「そうかよ。わかってんならいい。

 つーかお前この後暇だよな? ちょっと付き合え」

「…………わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──で、だ。お前、夜凪の演技についてどう思う?」

「どう思う、とは」

「お前アイツと幼馴染みなんだろ? 今までにも何かしらの片鱗は感じてたんじゃねぇか? 一応ここにオーディションの時の映像も用意してる。この際何でもいい。思ったことは全部言ってくれ」

「…………ちびちび」

 

 撮影終了後、スタジオ大黒天にて。

 バイトがあるからという理由で景は帰宅し──大分渋っていたが、後で元輝が伺うということで納得した──スタジオ内にいるのは墨字さんと(柊雪)の撮影組二人と、墨字さんの親戚という異例尽くしの経歴を持つ新人俳優『穂村元輝』だけである。

 そんな彼に墨字さんがパソコンの画面を向けて、先ほど見せてくれたオーディションの映像を再生した。どうやらけいちゃんの今後について意見を聞いておきたいらしい。

 

 スターズオーディションの大まかな流れはこうなってる。

 

 まずは景ちゃんを含む四人が会場に入ってくる。

 背の高いスラッとした前髪パッツンの女の子と、モデル出身の子と劇団出身の子。

 前髪パッツンの子は程よい緊張が最高の能力を発揮するのがわかっているからその状態を保っていて、逆にモデル出身の子は何も考えずにリラックスしていた。"私可愛いから最強"とかそんな感じだと思う。

 もう一人の劇団出身の子はリラックス状態を程よく保って微笑み、心証を良くしようと努めていた。で、景ちゃんは相変わらずぼーっとしている。オーディション中にこんな自然体なのは流石というかなんというか。

 私だったらたぶん耐えきれない。

 

「……ルイとレイも来てたのか」

 

 会場にいたのはスターズ代表の星アリサと息子の星アキラ。墨字さんと審査員の方々。あと子供が二人いる。元輝くん曰く景ちゃんの兄弟っぽい。家族同伴でオーディションとか相変わらず型破りだった。

 

 オーディションが始まった。お題は『野犬』、形式はパントマイムだ。星アリサの概要の説明に、墨字さんがより詳しいシチュエーションを付け足した。

 

『お前達は深い森へ迷い込んだ。

 野犬に出逢うとは運が悪かったな。

 鋭く尖った瞳、牙、爪……。

 全てがお前達に向けられている。ああ……あと。そいつ、()()()()()()()

 

 刹那。

 夜凪景が動いて、場の空気が一変する。

 

 夜凪景が"イメージの野犬"を見て。

 そのイメージが、世界を塗り潰したのだ。

 

 周りの審査員も。オーディションの競合者たちにすら『森の中で野犬と睨み合う夜凪景』という濃密で確固としたイメージを叩きつけている。

 森もなければ、野犬なんていない。

 それだというのに。観客(オーディエンス)は全員が同じ森を見て、一匹の野犬を見てる。

 

 そこで景ちゃんは噛みつかれる演技をして、野犬と戦って、逃走していく野犬を幻視させる。

 そして野犬から家族を守る演技をして、幻の野犬を倒した。

 それでオーディションはおしまい。

 

「もう一回見せてください」

 

 じっくりと。黒山さんが説明したところまでカーソルを戻して再生する。二回その動作を繰り返したところで、元輝くんが口を開いた。

 

「……正直言って、弱点だらけですよ。演劇関連は主演以外全部無理だ。目立ちすぎる。脇役(バイプレーヤー)として演じさせたとしても確実に主役を喰います。大粒揃いのスターズオーディションですらこうなんだ。──自分を殺す演技っていうのがまだできない。そういう役者ですよ、今のところの景は。

 それに表現方法もまだまだだ。伝わる奴にだけ伝わりゃいい──一歩間違えればそういう演技になってしまう可能性も高いです。何れにしろ表現技術の獲得は必須ですね」

 

 加えて。

 相変わらず暴れてるみたいな演技だよなと薄く笑いながら、元輝くんは続ける。

 

「今回のCM撮影みたいな"動かない演技"なら問題ないですが、大人数が参加する撮影とかアクションがある演技だと"カメラワークの把握"も必要になると思います。

 景はたぶん相当クセがありますから、経験を積んでスキルを獲得するというより、心の持ち方次第で爆発的に伸びるタイプじゃないですかね」

「テメェもそう思うか」

「…………ええ、まぁ」

「…………………………。そうか、わかった」

 

 ジッと墨字さんと元輝くんが何かを探り合うように見つめあっている。墨字さんが大きく息を吐きながら頭を掻く。

 パソコンを畳むと、コップの麦茶を大きく煽った。

 

「明日、夜凪にエキストラの役をやらせる。時代劇だ。そこで"役作り"を学ばせるが、お前も来る──」

「洗濯男の撮影あるんで無理です」

「喧嘩売ってんのかテメェ」

 

 

 

 

 

 

*1
1942年公開のアメリカの映画。当時フランス領だったモロッコ・カサブランカを舞台としたラブロマンス。

*2
イタリア・ローマを舞台とした1953年公開のラブロマンスの名作古典。




・夜凪景
 年齢:16 誕生日:20XX年5月15日
 身長:168㎝ 血液型:A型
 職業:高校生、女優
 好物:魚、納豆、ひじき 特技:短距離走、走り幅跳び
 好きな映画:ローマの休日、カサブランカ、風と共に去りぬ。など。
 備考:意外にラブロマンス好き

・百城千世子
 年齢:17歳 誕生日:20XX年4月1日
 身長:157㎝ 血液型:AB型 
 職業:女優
 好物(公式):生クリーム、ビスケット、マシュマロ
 好物(非公式):なまこ、このわた、松前漬け
 好きな昆虫:オキナワオオカマキリ、ヤエヤママルヤスデ、ロイコクロリディウム
 好きな映画:晩春、ローマの休日、時をかける少女(1983)、花とアリス
 備考:お気に入りの横型を探している様子

・穂村元輝
 年齢:18歳 誕生日:20XL年12月24日
 身長:176㎝(成長中) 血液型:O型
 職業:俳優
 趣味:映画鑑賞、読書、音楽鑑賞
 特技:ストップウォッチの10秒チャレンジ
 好物:肉料理、人が丹精込めて作った物チャート、夜凪カレー(非表示)
 好きな映画(表):
 好きな映画(裏): オール・ユー・ニード・イズ・キル、ハッピー・デス・デイ、ローマの休日
 備考:なぜか湧く親近感


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scene6『それは星に手を伸ばす愚行のように』



アクタージュRTA走者が増えてウレシイので実質初投稿です。
アンケートとってるので解答よろしくお願いします。




 

 

 

 

 ダイアモンドチャートは砕けない。そう思った矢先に木っ端微塵にされちまったRTA、はぁじまーるよー。

 

 前回*1は……死ぬかと思いましたね……。

 まさかブラック黒山がホモくんの親戚だとは思いませんでした。すごく僥倖です。同時にチャートにヒビが入ります。何で……ッ! 試行中に当たったことがないケースに本番で当たるんだよ……ッ! クソァ……ッ!

 黒山監督の親類というステは、正直今回のチャートでは大当たり中の大外れと言ったところです(矛盾)

 ぶっちゃけチヨコエルとゲームスタート時点で遭遇していない、知り合いの関係にないという状態であれば大当たりでした(wiki参照)。とはいえ、それでも彼の演出・指導を受ける可能性が僅かでも出来るというのはなかなかのアドなので続行します。

 

 今回の案件はカレーライスのwebCMです。

 CMの尺は15秒のみで、監督は黒山墨字が担当するとのこと。珍しいですね、あの人がこんなクソみたいな案件を了承するとは思いませんでした。兎にも角にも、彼が監督となっては下手な演技はできません。

 出来ることはやっておきましょう。墨字さんに頼んで絵コンテを見せてもらいます。絵コンテの把握をしておくと『百式演技術』の習熟度上げにバフがかかることがあるので、今後も出来る限りやっておくようにします。

 

 今回のCMのテーマは『休日にカレーを』、です。プロデューサー曰く、別CMのテーマと対の関係のwebCMとなる予定らしく、向こうに対してこちらのCMのメインターゲットは主婦とのこと。そりゃ清潔な見た目したイケメンが美味しそうにカレー食べてればそりゃその商品も売れますよね(鼻ほじ)

 ……絵コンテを見た感じですが、今回、15秒のシーンのうち最初の"チーズカレーの焼き上がり〜食卓へのセット"の3秒間弱のカットを除けば、大体がカレーを頬張ってるシーンですね。

 食べているシーンを撮られるため、綺麗な食べ方であること、かつカレーの美味しさを画面越しに伝える必要が出てきます。となるとカメラワークと撮影範囲の確認は必須になりますね。

 正直……あたりです。これは『百式演技術』の習熟度上げにはもってこいの案件じゃないですか。屑運と豪運交互に出るとかホントに……もう……(クソデカため息)。それにしても暗殺者ルートで死ぬほど苦労させられたこのスキルを育ててることになるのは中々感慨深いですねぇ。

 おっと。

 会議アクト(ミーティング)中でしたし、墨字さんから条件が提示されそうです。カレーは飲み物だろ? ほら一気で飲めよとか言われないといいんですが。

 

「おじさんじゃねぇお兄さんとよべクソ元輝。さっさと撮影始めるぞ。尺は15秒、テストなしの一発撮りで行く。できるな?」

 

 おま頭おかしいんじゃねぇの!?

 

 失礼取り乱しました。大丈夫です。何の問題もありません。別に黒山監督の作品で一発撮りとかありえねぇヤッベェ死んだわ俺、とか欠片も思ってません(精一杯の虚勢)

 これはちょっと気張らなきゃですねぇ……。撮影開始に撮影範囲の確認はしてましたがもう一度やっておきます。あと10分もすれば撮影開始です。やれることはやっておきましょう。

 

 撮影が始まりました。

 ただの撮影アクトなので、今の内に今回の撮影で行っておくこと説明します。

 

 今回の撮影アクトで注意するべきことは大きく分けて二つです。

 

 一つ目は先ほど言ったように、『百式演技術』の習熟度上げ兼カメラの撮影範囲の理解です。

 カメラの撮影範囲の確認は、映画やドラマといった撮影されただけの画面を通して見るだけでは完全に理解し切れないところがあるため、『百式演技術』を習得した上で撮影に及ぶ必要があります。

 事前に撮影班に頼み込んで撮影範囲の確認を行い、レンズの癖から規格まで頭に叩き込みましょう。昨日の夜の千世子ちゃんとの電話で色々教えてもらえたので助かりましたね……。継続的に教える代わりにと、ディナーとメソッド演技のコツを教えることを要求されてしまいましたが、等価交換(ギブアンドテイク)というのは世界の真理のなので仕方ありません。提示された条件が条件だったので、予約取ったり時間を合わせるのにも苦労しそうで嫌になりますけど、それを差し引いてもうま味です。

 

 ……話が逸れました。

 二つ目の目的は『メソッド演技』と『百式演技術』の併用の試運転です。"周りから完璧に見られる仮面を被りつつ他者との境界の薄い演技をする"──非常にハイリスクハイリターンな演技ですが、現在のホモくんの精神のステータスがカンストしているので採用する運びとなりました。これといった問題が起こることはないはずですが、念には念をということでジャブ程度に行っておきましょう。

 

 おっと。いつの間にやら撮影が終わったみたいですね。評価はS+です、テストなしの本番一発撮りにしては上手くいきました。本当にこういうリスキーな撮影はしたくないです。心臓が口から飛び出るかと思いました。

 ……うーん。やっぱりこの2スキルの併用はフラグを立て終えてないのでそう上手く噛み合ってくれませんね……。これに関しては私がどうこうできるものではないので、ホモくんの撮影中に試行錯誤してもらうしかないですが……。まぁテストくらいなら暴走しても誤差よ誤差。

 あっ、スタッフさん。わざわざジュースありがとうございます。

 

 そういえば(唐突)

 撮影──特にCM撮影で高い評価を得るには"馬鹿にでもわかるように演じる"というのが意外と大事になります。原作ではゴジラのオーディションの時に黒山監督が言っていましたが、今回のような撮影のイメージは若干異なります。どうやるのかというと──

 

「元輝くん、その演技、どうやってるの?」

「コレは画面越しにいる観客を意識して、その人たちと自分の境界線を浮き彫りに──えっ」

 

 >聴き慣れた声だ。振り向くとそこには貴方の幼馴染みである夜凪景が立っていた。

 >驚愕のあまり貴方はコップを落としてしまった。どうして景がここにいるのか尋ねても要領を得ない答えが返ってくるばかりだ。

 

 ……………えっ(難聴)

 

「こっちのセリフなんだけど。お母さん忙しくしてるっていってたの、撮影してたからなのね。知らなかったわ」

 

 ………………(心肺停止)

 

 

 えっ。

 

 

 えっ嘘でしょ? 嘘だろ? 嘘か? 嘘だな! 嘘じゃねぇの!?  ウッソだぁ! ……嘘じゃない? なんだよ一体俺が何をしたって言うんですか畜生!!!! クソァ!!!! テメェ神様なんとか言えよクソ野郎! ぶっころすぞクラァ!!

 

 >あなたの前に現れた景は、相変わらずのポーカーフェイス気味の顔を、くしゃっと歪ませながら両手を突き出した。ふんすー、と誇らし気に胸を張りながらピースサインを作った。

 

 

「──私、女優になったの」

 

 

 うわああああああああっっ!! なんだよ! なんッなんだよッ!! ふざっ、ふざけんじゃねぇッ!! 畜生ォ! 畜生ォッ! この馬鹿!! 馬鹿野郎ォォォオオ!! うわああああああっっっ!!!!

 ………………。

 …………。

 

 

 

 つらい、つらいよ……。なんだよ、なんなんだよコレ……。もう、殺せ。殺せよ……。もういっそ殺してくれよ……。

 

「……そうだわ。ルイとレイも会いたがっていたから顔を見せてあげて欲しいし、今日の夜にでもご飯食べに来ない? 今日は特製カレーなの」

「カレーは辛えな」

「今日は中辛よ」

 

 なんで。ああ、きえる、きえる、うすれていく。たもてない、ちゃーとを、たもてない。

 なんでこんな、こんなことに、わるいことなんかなにもしてこなかったのに、なんで──

 なんでこんなことに……。

 やだ……いやだよぅ……こんなのひどい……あんまりだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜凪邸に……やってきました……(瀕死)

 

 つい先ほど。

 というか撮影終えた瞬間に、ホモくん、実は夜凪景の幼馴染みだったとかいう衝撃のあまり全米が震えた事実が発覚しやがってくれやがりました。そりゃホモくん『メソッド演技』持ってる訳だよ……。

 

 ゴジラの幼馴染み、チヨコエルの友人、ブラック黒山の親戚──とんでもない豪運を発揮してしまいましたね。そんなことしなくていいのに……やめて……(懇願)

 あんまり記憶がないんですが、墨字さんとの会合が予想より長引いてしまったらしく。悲しいことにGODZILLAとの関係性を精査する時間もありませんでした。仕方なくではありますが、お誘いに乗る形で夜凪邸にやってきましたという運びです。

 墨字さんに蹴り上げられたというのも理由の一つということもなくはないですが、ここまで来てしまった以上、ここで夜凪家との関係を確認をしておかなければ死んでも死に切れません。リセかどうかはそこで決めたいですね……。

 開始時点で両者共に知り合いだったルートを走ったこともありますし、確かに上手くいけば大幅な時間短縮も望めます。……ただフラグ管理がマジでエグいことになることは避けられません。避けられません(強調)

 

 頼むからいたって普通の幼馴染みルートであって(必死の懇願)

 

 お呼ばれしてる時点で手遅れな気がしない訳ではないですが、同業者補正ということで見てないことにします。知らねぇ、俺何も知らねぇ。知らねぇって言ったら知らねぇんだ。

 ──行きます。

 オラァ! ホモくんのご挨拶だぞ! インターホンを(倍)プッシュだァ!

 

「あら、いらっしゃい」

 

 >クリーム色のエプロンをつけた景が玄関を開けてあなたを出迎えてくれる。

 >あなたは一言断ると、慣れた手つきで靴を脱いで部屋へと上がった。カレーの芳ばしい匂いが鼻を擽った。

 

「もうすぐできるからちょっと待ってて」

 

 

 慣れた手つき……? 

 

 

「あれ、元輝お兄さんだ」

「久しぶり!」

「こら、久々だからって元輝くんに飛びつかないの」

 

 

 ルイとレイと仲がいい……?

 

 

 

 狂いそう……!(静かなる怒り)

 

 

 

 待ってくれ。待ってくれよ。なんだってこんなに酷いことをするんだ。誰でもいい。誰か教えてくれよ……。

 ……いや、まだだ。まだ諦めるような時間じゃない……っ。まだ最高評価だとしてもは付き合いの長さと家族絡みの付き合いの二つだけだ……! ここを踏ん張れば時間短縮が見込めるんだから……! 諦めたらそこで試合終了だぞ……!

 

 >あなたがルイとレイに引っ張り回されながら遊んでいると、台所で景が静かに笑いながら手際よくカレーを作っていた。

 >十分ほど待てば、どうやら完成したらしい。あなたはルイとレイを引き連れてちゃぶ台を囲んだ。

 >景がいただきますと手を合わせた。あなたも手を合わせると、スプーンを手に取ってカレーを食べ始める。さきほどのカレーよりこっちの方が好きだと言うと、わずかに顔を赤くしながら景が顔を伏せた。

 

「姉ちゃんが照れてる」

「照れてる」

「…………照れてないわ」

 

 >『メソッド演技』の習熟度が3上がった。

 

 

 うそぉ。

 …………うそぉ(諸行無常)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『洗濯男番外編』

 

 2010年代後半からシリーズ的に放映されている某洗剤のCMだ。今をときめく俳優が、よくわからないテンションで洗剤についての愛を語り合うこれまたよくわからないCMだ。

 それでいて根強い人気があるのだから市場というのはわからないものだと思わず考えてしまう。

 

 というのも、僕、星アキラが今回演じるCMがその洗濯男のwebCMなのだ。

 今回のCMは新商品のドラム缶型専用洗剤について語り合うという内容になっている。汚れてしまった白いTシャツを二人して洗うという、撮影形式としては馬鹿やってる高校生を撮るドキュメンタリー、みたいなものに近い。

 いわゆる"素の演技"が求められる仕事だ。千世子くんにすごく適性のあるタイプだろう。

 

 "番外編"ということで今回の撮影に参加する俳優は僕含めて二人と本編に比べて少ないが、今のところはweb限定でのオンエアらしいので妥当なところだと思う。

 それで、今はその撮影が一段落ついたところだ。監督が素材の確認を行なっている間、僕たち俳優組は少し待たされることになる。もうワンシーン別の脚本で撮るからその準備待ちというわけだ。

 控室でスタッフから頂いたペットボトルの紅茶を飲んでいると、目の前の青年が頭を抱えながら項垂れている。ガリガリと頭を掻いた。

 

「なんで、こうなったんだ……?」

「どうしたんだい穂村くん……?」

「堀くんだけが俺の癒しだよチクショウ……」

「星なんだけどね」

 

 あんなに色々質問攻めされるとは思わねぇだろ普通……とボヤく彼は僕と同じ俳優組の穂村元輝だ。

 マネージャーから初めて名前を聞いたとき、どこかで聞いた名前だと思って調べてみたら千世子くんがこの前話していた俳優だった。世間とは中々に狭いものである。

 

「チクショウなんでこうなったかなぁ……」

「よくわからないけど大変なのはわかったよ」

 

 力なく項垂れる彼にそう声をかけながら、僕は先ほどの演技を思い返した。

 先ほどの撮影での元輝くんの演技は、素晴らしいものだった。隣で演じていて、思わず圧倒されてしまうような演技であることになんの間違いもない。

 "洗濯が好きだという自分"を演じるそのレベルが段違い──なるほど、千世子君がスカウトしようとする訳だ。

 

 そういえばと、千世子くんに一度、彼が出演していた演劇を見せてもらったことがあったことを思い出した。"演技をしていない自分"という演技ですらあのレベル。演劇の形式であればどうなるのか……事実として、舞台の上の彼の演技は、画面越しであるにも関わらず、ダイレクトに感情を伝えるような演技だった。かつての星アリサを彷彿としてしまうほどに。

 

「──ん?」

 

 穂村君の背中側のドアが開いて、誰かそっと顔を出した。

 ぬっと現れたのは白いボブカットがトレードマークの千世子君だった。しーっと口元に手を当てながら忍び足で元輝くんの背中へと寄っていく。

 

「だーれだっ」

 

 ざっくりとしたデザインのニットに包まれた腕が元輝くんの目元を隠した。んっ、という声が元輝くんの口をついて出てくる。微笑を浮かべた千世子君が上機嫌に頭を揺らしている。

 

「……百城さん?」

「正解。よくわかったね」

「あれだけ電話してれば声覚えますよ」

「もう、名字じゃなくて名前でいいのに──おはよう、元輝君、アキラ君」 

「ああ、おはよう千世子君」

「おはようございます、百城さん」

 

 これ差し入れと言って包み紙を渡してくる彼女に、どうしてここに? そう問いかけると、彼女はステップを踏むようにして僕たちの前に来て、くすりと笑いながら、

 

「仕事帰りなんだ。ここで撮影してるって話を聞いたからついでに来たの」

「百城さんも撮影だったんですか?」

「ううん。告知の仕事だよ。今度スターズ主催でやる映画のオーディションの告知。元輝くんも受ける?」

「……考えておきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 百城千世子は鬼才だ。

 僕は彼女の努力を知っている。そしてそんな彼女もまた、万人から美しく見られるという異能に近しい演技力を持っている。

 

 夜凪景は本物だ。

 母さん(星アリサ)を想起させるような憑依型の極致だろう。他者を圧倒するその演技は、周りの共演者を引き摺り込むような彼女の演技は本物だ。

 

 穂村元輝もまた、天才だ。

 カメラワークを把握しきり、画面越しにすら彼の抱く感情をダイレクトに叩きつける。決して観客を手放さないその演技は圧巻以外の何者でもない。

 

 だけど、僕が憧れてる才能は、星アキラの中にはない。

 それは欲しても手に入るものではないと、心のどこかで分かっている。

 だから、星アキラは無才でしかない。

 能力があって、無才なのだと。

 

 何もなかった。

 僕には、何もなかった。

 なりたいものになる力も。『本物』になる才能も。

 昔の僕は、そう見えた。

 

 それでも僕は、俳優という仕事を続けている。

 

 演技という麻薬から、抜け出せずにいる。

 彼女らが芝居で一瞬で流すその涙に、僕が何年も流し続けた汗が一度でも勝つことができたなら。

 努力の果てに、本物に勝つことができるのだと。

 そうやって、信じることをやめられずにいる。

 

「そろそろ撮影再開か。行こうぜ堀くん」

「僕の名前は星アキラだ……──元輝くん。負けないからね」

「……期待してるよ」

 

 知っている。

 それが、星に手を伸ばすようなことだと知っている。

 星アキラは、それがわかっている。

 でも諦めない。諦められない。

 

 確かに母の言う通り、不幸は不幸だろう。

 ただ、僕にとっての本当の不幸は、そうやって今なお役者をやっている自分を、後悔していないことだ──

 

 

 

 

 

*1
scene4『GODZILLA』






なんか堀くんシリアスなんですけど……なんで……?(純粋な疑問)
というかチヨコエルとゴジラは作者ですら翻弄するからほんとに扱いに困ります(切実)チャート跡形もねぇや(失笑)

そろそろデスアイランド入りたいので失踪します。


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vol.2「ガールズ・オーバー」
scene7『デスアイランドと配信ガール』




アンケート、感想ありがとうございます。励みになってます。
修羅場タグがアップし始めたので実質初投稿です。




 

 

 

『スターズ主催、映画『デスアイランド』は24名の若手俳優を起用します。現在発表されているように、私を初めとしたスターズの俳優が務めますが』

 

『残り12名は、一般オーディションから募ります』

 

『皆さん』

 

『──私達と一緒に映画を作りませんか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白ぇじゃねぇか」

 

 ──ガリッ。

 俺は舌で転がしていた氷を噛み砕き、口に満ちる塩素特有の苦味を麦茶で流し込む。ディスプレイから発せられたブルーライトを浴びながら、運が回ってきやがったと薄く笑った。

 スターズ主催──この撮影、なんとかして夜凪をねじ込みてぇ。

 ……黒山墨字の名前に力はない。権力のあれこれからは死ぬほど遠い俺だ、夜凪をキャストに入れるように手配する権威なんざ持ってねぇ。精々俺が持ってるのは世界一の映画を撮影する能力と数えられる程度のコネ、ついでに元輝をオーディションにぶち込むことくらいのもんだ。

 

「切り口をどこに見出すかが問題だな」

 

 スターズ主催『デスアイランド』

 主演・百城千世子。監督・手塚由紀治。集A社のコミックが原作の映画作品。

 一般応募の俳優12名と、百城千世子を筆頭とするスターズ俳優と共演可能とかいう奇跡みたいなチャンスだ。こいつを逃す手はない。

 

 百城千世子の技術を。穂村元輝の技術を。

 そして俳優21人分の技術を夜凪に一気に吸収させる。

 今の芸能界で主演助演という関係性で夜凪景と真っ向からやり合えんのは、同年代じゃ百城千世子と穂村元輝(あのバカ)くらいのもんだ。

 この機を逃せば夜凪を一気に成長させるチャンスはいつ来るか分からん。

 

「だが何の手も打たずにババァの監視を抜けられるとは思えねぇ」

 

 どうやって書類を通す? どうやって映像審査をクリアさせる?

 スターズオーディションで夜凪を落としたのは星アリサ(あのババァ)だ。スターズ主催である以上、夜凪景を通すなってお達しがあっても何ら不思議じゃない。

 監督の手塚には夜凪景を真っ当に評価しろと言ってあるが、手塚が肩入れできんのはアイツが直接選ぶ第三次審査からだ。

 手塚があの面白味のねえやり方を変える気がねぇ以上、一次の書類審査と二次の映像審査はどうにもならない。

 

「何かねぇか」

 

 何か。何かだ。

 星アリサを説得するだけの材料がいる。

 星アリサに、『夜凪景』という女優の幸せを認めさせるだけの何かがいる。

 対価を渡すか? いや、この短時間じゃ星アリサが納得するだけの代物を用意できる算段がつかねぇ。それじゃあダメだ。

 くそ、ここで賭けに出るのは些かリスキー過ぎる。このチャンスは逃すわけにはいかねぇからな。

 

 ──落ち着け。

 視点を変えろ。単一の考えだけに囚われるなよ黒山墨字。

 目的は星アリサの説得じゃない。夜凪景が映画の撮影に参加できるということだ。そこを間違えるな。

 

「……」

 

 そうだ。単純じゃねぇか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()。逆に考えればいい。出すことを許させるのではなく、出さざるを得ない、もしくは出演しても仕方がない状況にする。そうなれば何の問題もねぇはずだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 百城千世子に夜凪景を認知させる、それが一番手っとり早いな。

 その為には──いや、それだと百城千世子と共演する必要が出てくるな。クソ、振り出しかよ……あ?

 ピロンっという気の抜けた通知音と共に画面が点灯した。送り主は柊だが、どうせ夜凪が問題でも起こしたとかそこらだろう。アイツはトラブルメーカーの気質があるから──

 

「……なんだよ、丁度いいのがいるじゃねぇか」

 

 送付されたインターネットのリンク先。

 くだらない芸能ニュースしか取り上げねぇ、スターズ派閥のウェブニュースのまとめサイト。

 その見出しを見た俺は、思わず口元を歪めた。

 

「なぁ──元輝」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「乾杯」」」

 

 洗濯男の撮影終了後。時刻は夜六時を回ったところ。

 私は元輝くんとアキラくんと一緒に食事に来ていた。撮影の打ち上げ兼顔合わせみたいなものだ。元々は元輝くんと初共演だったアキラくんが彼との親睦を深めようと思って食事に誘っていたところを私も飛び入り参加して、結果として三人での食事会となった訳だ。

 場所は赤坂の焼き肉屋さん。アキラくんが店員に何品かオーダーしている。烏龍茶の注がれたグラスを両手で包み、ことりと傾けながら対面に座っている元輝くんを見る。こうしてみると、小さい頃の元輝くんから大きくなってもそのままだというのがわかる。

 

「焼き肉とか久々だな」

「…………」

「……? なんか俺の顔に付いてますか?」

 

 元輝くんの横顔は、役者の横顔だ。

 人の視線に晒されていることがわかっている、そういう代物。

 黒山墨字の作品に出ていた時の彼の面影を残した彼の横顔を見ていると、視線に気付いた彼がこっちを向いた。ボリボリと頬を掻きながら困ったように僅かに目尻を垂れた。演技していない時はあまり表情は大きくは変わらないけど、目尻や眉、口元とかにすぐ感情が出てくるから意外と分かりやすいのだ。

 

「なんでもないよ。というか私の方が年下なんだから敬語とかいいのに」

「そういう訳にはいきませんよ」

 

 そういってコップを傾ける彼に、私はくすりと笑った。

 ノックと共に、牛タンやハラミ、ハチノスといった色々な種類のお肉が小皿で運ばれてる。アキラくんがそれを受け取り、元輝くんがそれを焼き始めていく。ジュウッという肉の焼ける音がよく熱せられた網から発せられた。

 その僅かに緩んだ横顔を見ながら、程よく焼けたお肉をつつく。

 元輝くんの隣に座ったアキラくんが、トングでくるりと小さく手元で回転させながら、

 

「そういえば元輝くん、さっきの撮影で愚痴ってたのはなんだったんだい?」

「あー、あれか。幼馴染みが知らない間に芸能界入りしててちょっとな」

「なるほど。……じゃあ撮影で一緒だったのかい? 復帰してからそんなに経ってないだろう?」

「まあそんなとこ。一緒だったというか……危なっかしい演技しかしないからって理由でオジさんに全投げされたみたいなものだ」

 

 ……幼馴染み? そんな話は聞いたことがない。

 記憶の引き出しから元輝くんに関する情報を探し出してみてもそれといった話は出てこない。三日前に電話した時も、特にそれといったことは言っていなかったから一昨日あたりに遭遇したのだろう。なんだか嫌な予感がして、私はハチノスを小皿に移しながら、

 

「どんな子なの?」

「なんていうか、ブルドーザーみたいな奴ですよ。俺とかとは大分違う演技する役者です」

「へぇ」

「ブルドーザーって……」

 

 元輝君は目がいい。私が『百城千世子』という仮面を作り上げ、維持するためにどれだけの費やしている労力を一度の共演で見抜けるほどに、彼は才能や努力に関してとても目がいい。

 何者よりも正確で、過大も過小もなく。

 彼の目は本当に正確だ。正確に正当に、私の仮面を受け止めてくれている。

 

「でもたぶん、百城さんとはいいライバルになれるんじゃないかと思ってます」

 

 個人的な意見ですけどね、と付け足して元輝君はカルビを頬張った。

 ……ふーん。

 なんだろう。『百城千世子』という仮面ごと私を認めてくれている元輝君が、誰か知らない役者を褒めているのをみると。

 ちょっと、ほーんのちょっとだけど、イラッとする。

 

「元輝くん、ひょっとしてその役者って……」

「堀くんは自分のスタンス見返すと化けると思うよ」

「最後まで言わせてくれないし僕の名前は星アキラだ」

 

 アリサさんから、穂村元輝をスターズに来させることは了承を得ている。その為なら、ある程度のことまでなら許容するという許可も取って来ている。

 元輝君の親戚は()()黒山墨字だ。元輝くん本人はまだどこの事務所にも所属していないフリーランスだけど、黒山監督は恐らく穂村元輝を手中に収めようとしてくる可能性が高いというのがアリサさんの意見だ。

 スターズに入るように外堀を埋めていく──というのが今のところの方針だったのだけど、なんだか嫌な予感がする。

 元々はと言えば、今日私が同席したのも元輝君に『デスアイランド』のオーディションを受けるようにしてもらおうというのが理由の一つでもあったのだ。

 だから、これは、ちょっとした悪戯だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、と。

 デザートの苺のジェラートも食べ終わり、食後のコーヒーを嗜んでいるころ。私は徐にスマホ用のミニ三脚を取り出した。くるりと二人の方へと振り返って、

 

「せっかく三人集まったから、ちょっとだけ配信していいかな。十分くらいの雑談配信なんだけど」

「……僕はいいけど、マネージャーから許可は取ってるのかい?」

「大丈夫だよ、アリサさんから許可貰ってるから」

「……母さんが?」

「元輝君は大丈夫?」

「んー、……問題ないです。大丈夫ですよ」

「よし、じゃあっと」

 

 カチャカチャとアダプター部分にスマホを接続した。私がいつも配信で使っているアプリを立ち上げる。手早く配信の準備を整えながら、配信履歴を見た。この前のドラマ以来だから、一月半ぶりくらいの配信になる。

 

「……こんばんは。突然始まることもある、ゲリラライブです」

 

『こんばんは!』『この日のために生きてた』『千世子ちゃん可愛い』『相変わらず可愛い』『絶景や』『お店かな?』『告知見たよー』『というかCALPICEのCMがヤバい』『わかる』

 

 ピロンッという気の抜けた音共に続々と、コメントが流れ始めた。

 幾つかのソレらをピックアップしながら今日の視聴者のテンションを算出していく。……うん、問題ないかな。

 私は口元に微笑みを湛えながら、私一人が写り込むようにカメラを調整する。そのままの流れで視聴者のみんなに小さく手を振った。

 

「みんな久しぶりだね」

 

『久しぶり』『久しぶり』『備忘録以来だから一ヶ月半ぶりか』『久しぶりだねー』『かわいい』『誰かといるの?』『Twittersから飛んできました』『ゲリラとか最強かよ』

 

 反応は上々。

 大分期間を空けただけあって人の入り具合もいつもよりいい。CMの放映とデスアイランドの告知と重なったというのもあるだろうけど、中々に好都合だ。

 

「今日は雑談配信だけどいろいろとお知らせがあるんだ。まず一つ目は今年度のCALPICEのCMに抜擢されたこと。もう放映されたかな?

 みんなはもう見てくれた?」

 

『見た見た』『可愛さ天元突破してた』『僭越ながらCMから来ました』『ヤバい可愛い』『もうみた』『最高』『CMおめでとう!』『共演のイケメンもやばかったよな』『また同志が増えるぜ』『かわいい』

 

「二つ目が映画『デスアイランド』のオーディションの告知だよ。私も出るからみんな応募してくれると嬉しいな」

 

 カメラの撮影範囲を逐次修正しながらコメントを追っていく。元々、今回の配信の目的はオーディションの告知と拡散だ。ゲリラ的にやっておくだけでまとめサイトに取り上げられるから中々に広告効果が強い。スターズ主催だから出来ることではあるけど。

 

『あざとい』『でも可愛い』『応募しちゃう』『ちょっと郵便局行ってくるわ』『馬鹿野郎応募要項はネットからだ』『可愛いは正義』

 

「それで最後は──今回の配信、なんとスペシャルゲストが来てます」

 

 軽く一拍置いて期待感を高める。配信自体一つのカメラで行う撮影のようなものだから、やること自体は普段と変わらない。撮影の延長だの考えれば、いつもは全身に対して行なっているカメラワークの把握する分のリソースを、コメント欄からの『大衆』に対する統計とコメントの取捨選択に回せばいい。それで十二分に『百城千世子』を修正することは可能だ。

 観客に困惑が広がっているのがわかる。それはそうだろう。

 

『マジかよ』『やば』『誰だ』『町田リカ?』『デスアイランド組かな』『というかゲリラ配信でゲストいるのは珍しくない?』『ゲストいるのドラマか映画の時が多いもんな』『ゲリラじゃ初めてでは?』『それな』『星アキラだな』

 

「みんな察しがいいみたい。じゃあ紹介するね、今日のゲストはこの二人だよ」

 

 テンションを上げていく。コメントを見る限り男女比は五分五分と言ったところ。上出来だ。

 私の目の前で、元輝君とアキラ君が薄く息を吸った。目配せ。ここのタイミングだ。カメラアングルを調整しながらテーブルの端へとスマホを寄せ、ぐるりとカメラを回転させた。

 

「こんばんは、スターズの星アキラです」

「新人の穂村元輝です、はじめまして」

 

 静かに頭を下げるアキラくんと、ぴすぴすと軽くピースサインを作る元輝くん。素顔を晒した俳優二人は、くしゃりとカメラに向かって笑いかけた。

 効果は絶大だった。私に向けられた視線が減り、対比するようにしてコメント欄が一気に溢れ返る。

 

『は?』『んんん?』『元輝くん!?』『イケメンや』『ウルトラ仮面だ!』『初めて見る俳優じゃね?』『スターズ?』『デスアイランド組じゃないのか?』『というか穂村元輝だ』『CALPICEの共演者じゃんか』『それだ』『マジかよ』『CMの俳優の人だ!』

 

「ということで今回のゲストは俳優星アキラくんと穂村元輝君でした。みんな驚いたかな?」

 

『すごい』『ヤバい』『つーかヤベェ』『画面内顔面偏差値が高すぎな件について』『ずっと見てられるわ』『わかる』『顔面国宝』『ここは博物館かなにか?』『ここが桃源郷か』

 

「それで、今日のゲリラ配信、短い時間だけどせっかく三人集まったってことで質問コーナーと洒落込みたいんだけど、みんなどんどん送って来てね。

 二人が答えてくれるから」

「えっ、ちょっと千世子君……!」

……(コレマジ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




チヨコエル意外とホルモン好きそうという偏見。
あと配信というトレンドにのって置きたかった(ミーハー感)

独り言がてら時系列軽くまとめると、

『scene6〜7』
10:00/夜凪景エキストラ出演、スタジオへ
11:00/洗濯男撮影開始
    チヨコエルオーディションの詳細発表
15:00/洗濯男撮影小休止、チヨコエル合流(夜凪ライダーキック)
16:00/洗濯男撮影再開(夜凪"役作り"修得&カメラを気にし始める)
18:00/食事会スタート(夜凪反省会中)
19:00/配信開始(夜凪帰宅&黒山暗躍)

なんという過密スケジュール。
はたしてホモくんはチヨコエルとゴジラの間に挟まれることなくデスアイランドに入れるのだろうか……
……無理な気がしてきたので失踪します。


特に関係ないんですけど。一人称って当人が気づいてないことは書かなくていいので便利ですよね。関係ないですけど。


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scene8『祈りを持たない者ども』



●記録名
〈スタジオ大黒天が某食品会社に納品したCM〉

1.【"父親にシチューを"webCM】
  監督:黒山墨字 / 主演:夜凪景
   / 制作:スタジオ大黒天
  『5月10日より放送開始予定』

2.【"休日にカレーを"webCM】
  監督:黒山墨字 / 主演:穂村元輝
   / 制作:スタジオ大黒天
  『5月10日より放送開始予定』

3.【Behind the Scenes】
  監督:黒山墨字 / 出演者:夜凪景、穂村元輝
   / 制作:スタジオ大黒天
  『5月10日にアップロード予定』

 ※なお、【Behind the Scenes】についてはスタジオ大黒天より金額の変動なしで構わないとのことで納品された。我が社の公式アカウントよりアップロードして欲しいとの旨の報告あり。




 遅くなったけどいつもより多いから許して
 若干改稿しました。





 

 

 ──手塚由紀治(ぼく)は映画監督だ。

 

 スターズ専属の映画監督であり、誰しもが名監督だというようなタイプでは決してないというのは重々承知しているが、商業的観点から考えれば手塚由紀治という監督が齎した利益はとても大きいという自負もまた持っている。

 そういう意味では、手塚由紀治という男は間違いなく有能な監督なのは事実だろう。

 

 繰り返そう。

 手塚由紀治は、()()()()()()()()()()()

 

 大衆に広く浅く受け、商業的に成功する。そういう"売れる作品"というのを作る。劇的に面白いという訳ではないが、決して商業的に失敗することもまたない。

 

 渡された原作と、用意された俳優。

 そして売り出したい俳優を組み合わせ、それで映画を成功させる。

 ルーチンワーク化した仕事だ。原作からエッセンスを抽出し、観客が見たいであろう部分とストーリーラインを噛み合わせる。

 それだけのことを、ただ繰り返すだけに過ぎなかった。

 

 正直、うんざりしていた、というのも事実なんだ。

 

 ずっと、同じやり方だ。

 売れる映画の作り方がわかってしまったら、映画撮影は流れ作業でしかなかった。

 ずっと、同じもので、同じやり方でやってきた。

 

 何かが欲しいと、そう思っている。

 時代の破壊者が来ることを、待ち望んでいる。

 僕は、『百城千世子』という仮面が砕けるその瞬間を、心底欲していたのだ──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく始まるデスアイランド(比喩に非ず)なRTA、はぁじまーるよー。

 

 ということで千世子アキラのスターズ組と食事会に来ました。

 正直なんでやという感じなんですが、まあ友好を深めることができるので問題はないです。正直こういう変則コミュ、デスアイランド前だと気をつけることが非常に多いんですが、オーディションの詳細発表がもう済まされているので基本的にはのーぷろぶれむですね。

 ただ現状チヨコエルから『百式演技術』を教えてもらっている最中なので、『メソッド演技』の習熟度が上がってることは匂わせないようにしましょう。バレると死にます(2敗)

 そもそもがチヨコエルとゴジラの二人を同時攻略しようとすることが間違いなので皆さんはしないでください。まあそんなバカ滅多にいないとは思いますけど。

 

 食事会の場所は……赤坂の焼き肉ですね。ちゃんと個室な辺りアキラくんの気遣いが垣間見えます。やっべぇ腹減ったわコレ……。

 二人以上を同時に相手取る変則コミュ、こういった状況下ではアキラくんが非常に役立ってくれます。ウルトラ仮面というニチアサのヒーローを張っているだけあって、中々に(人間関係の)問題を解決してくれる訳です。ドロドロした人間関係になりやすいこのゲームに於いて数少ない清涼剤な上、余計なことを言うことも少ないので大切にしましょう(ホモ)

 

「そういえば元輝くん、さっきの撮影で愚痴ってたのはなんだったんだい?」

 

 なんだァテメェぶっ殺すぞ。

 

 ……取り乱しました。まさかアキラくんがそんなこと言うなんて……アキラくんのファンやめます!(人間の屑)

 それにしたってこういう変則コミュでこんなことを言うことはないはずなんですが……(自業自得)

 

 ……いえ、待って下さい。

 ここで今思い付いた革新的なコミュをやってみようと思います。こんな珍しい機会を逃す手はありません。

 誤魔化すのではなく、ここでゴジラのことを僅かに匂わせることでチヨコエルの対抗心を煽ってみましょう。彼女もまたトップであることに誇りを持っているので、こうすれば上手いことゴジラへの敵愾心を煽れるはずです。そうすれば両者共にデスアイランドでの大幅な成長が見込めます。夜凪景という名前も出していませんし、問題ないでしょう。コレは何という最高なテクニック(ゲスの極み)

 ……うまくいったみたいですね。少なくともマイナスにはならないはずです。何か忘れてる気がしますが、思い出せないなら重要な事ではないでしょう。ほっときます。

 

「せっかく三人集まったから、ちょっとだけ配信していいかな。十分くらいの雑談配信なんだけど」

 

「……僕はいいけど、マネージャーから許可は取ってるのかい?」

「大丈夫だよ、アリサさんから許可貰ってるから」

「……母さんが?」

「元輝君は大丈夫?」

「んー、……問題ないです。大丈夫ですよ」

「よし、じゃあっと」

 

 配信イベントですね。珍しいですが、スターズ組との会食イベだとそこそこの頻度で発生するイベントです。三人でやる上にゲリラとは中々に珍しいですが、正味ホモくんの知名度を上げられてうま味なので受けることにします。イェーイコッチ見えてる〜?

 

「……じゃあ、そうだね。

 これにしよっか。二人への質問です、好きな音楽は?」

「音楽はよく聞くけど……そうだな。僕はポップスとかが多いかな」

「俺はなんでも聞きますね。あ、でも最近ラップはよく聞きます。エミネムとか」

 

 >視聴者から様々な質問が飛んできた。その中からいくつか百城さんがピックアップしていたものに答える。

 >質問の内容は自体はありきたりなものだ。好きな物だったり将来の夢だったり。恋愛関係のものも一つ二つあったがコンプラ的には大丈夫なのだろうか。あなたはそんなことを考えた。

 

 ……。

 無事コミュも終わりました。帰り際にデスアイランド受けることだけ告げて帰宅します。日課のトレーニングだけ済ませて寝ましょう。睡眠は大事。気力で無限に仕事し続けることもできますが、それやると大抵過労死します(12敗)

 

 翌日になったら、インターネットからデスアイランドについての応募要項を引っ張り出しましょう。写真とか諸々を入力してさくっと応募します。コレで三週間後のオーディション開始までは時間がありますので、ステータスを弄るなりコミュを深めるなりして待つだけですね。

 待つだけと言っても、そう単純ではありません。この期間は景ちゃんも高校と仕事の両立のため休日に家を空ける必要が出てくる為、その埋め合わせに家に引っ張られることがあったりする訳です。

 正直リスクが高いので断りたいところなんですが、拒否った瞬間フラグ乱立してよくわからないうちに景ちゃんがスクールデイズ化するので死んでもやめましょう。やったら死にます(1敗)

 その上でスターズ関連──特にチヨコエルとのコミュ──と夜凪家周りの出来事がダブルブッキングしないよう気を付けましょう。ここで夜凪家にご飯作ってたりしたのがバレると、今度は天使もスクールデイズと化します。絶対に避けます。むしろ避けないと死にます(1敗)

 ここら辺は相変わらず要注意ですね。(フラグ管理しないと)死ぬので。というかコレやらかすと現実で羅刹女見るハメになります。アレホントにおしっこちびるんでもうやりたくねぇです。

 それ以外にも、ここら辺の事情がパパラッチのクソどもにバレると今度は一般市民から刺されてNICE BOAT! されるので死んでも避けましょう(12敗)絶対にバレないようにします。バレないガバはガバじゃねぇ。

 

 二週間の間にしておくことは上記のことを除けば、知り合いの俳優とのコミュを築くか、屋外イベント系か別の案件を入れたりすることくらいのものですが、既に十二分と言えるほど知名度を得ているので案件等は受ける必要はないです。代わりにルームランナーで走り込みするなり、アキラくんあたりを誘って観劇にいくなりしましょう。

 星アキラ幼馴染みルートであれば自宅に呼んで映画鑑賞会とか開いてもいいですね。自分のステも上がるしアキラくんのステも上がるしで非常にうま味です。まあ今回はやれないんですけど。

 

 とまあなんやかんやでオーディションです。

 墨字さんからデスアイランドを受けろやとか色々言われたりしましたが、元々受ける予定ですのでもーまんたいです。というかなんで言ってきたんでしょうね? 常識が通用しないのも困り物です。

 

 受付を終え、ナンバープレートを胸につけます。順番は──62番ですね。んー、景ちゃんと同じチームではないみたいですね。同じ組に入っちゃうと烏山くんたちのうちの一人が落ちちゃうので、正直助かります。

 

 一応周りを見渡して誰が来てるか確認しましょう。

 ……おっ、どうやら景ちゃんたちは予定通り茜ちゃんたちと同じ組分けになっていたようですね。……? 景ちゃんが小さく手を振ってますね。手を振り返します。

 ……うーんこの。チャート壊さなければかわいいのに……。

 

 待ってる間に『デスアイランド』のオーディションの概要について説明しておきましょうか。

 

 今回のオーディションではランダムに四人を組ませて即興劇(エチュード)を行います。

 しかも公平性を保つため、お題が審査の直前で出されるという仕様。事前にお題に合わせた作戦会議とかも不可能です。協調や連携はかなりやりにくくなってしまいます。

 

 しかも制限時間は5分間。コレまた短いですね。尚且つ見込みなしと判断されたその場で終了するクソ仕様となっています。

 五分間フルに演じられると仮定したとしても、一人一人がキチンとした台詞回しでやろうとすると一人一分しかアピールタイムを持てない計算になります。コレじゃあ受かるはずがありません。

 

 その為、素早く状況を把握し明確化、会話の主導権を握りエチュードそのものの舵を取る。そういった技能が試される形になります。その為台詞と演技をする時間を1秒でも長く確保する必要性が出てくる訳ですが……。

 

 そうは問屋が卸してくれません。

 5分で殺し合いの段階まで話を持って行く為には、他三人と協調して『狙い通りの話の流れに持っていくための会話』を作ることが必須になります。

 会話も無しにクラスメイトで友達同士だった四人が、突然殺し合いを始めるわけがありません。常識的に考えればわかりますよね?(隙あらば煽っていくスタイル)

 

 つまりです。

 結論から言えば、このオーディション、ハナっから協調性なんてものは求めていません。ぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱にでも突っ込んでおきましょう。いらねぇんだよこんなモン!

 このオーディションで必要なことは一つだけです。

 "自分の持つポテンシャルが手塚由紀治の目につくこと"。

 コレを気にしてさえおけば、なんの問題もありません。

 

 どうやらそろそろオーディションが始まるみたいですね。

 張り切っていきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒山さんが言っていた。

『お前の演技は思い出すことだ』

 

 元輝くんが言っていた。

『景は、自分自身を知れば、演じられない役なんてない』

 

 わかっている。

 私にできる演技は一つしかないのだと。

 色々考えたけれど。

 私がやれることは、きっと一つだけだ。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 

 

 ──修学旅行の機内が喧騒に包まれ、大きく揺れ始めた。

 

 クラスメイトの悲鳴が飛び交っている。ガタンッという機体が風の濁流に飲まれる音。メキリという嫌な幻聴と共に飛行機自体がどんどん傾いていく。

 一際大きな振動が全身を襲った。

 内臓が跳ねるような感触。窓の外が海に覆われる。

 ()()()()──そう察するよりも早くに浸水する。

 上下左右が滅茶苦茶にシェイクされた。平衡感覚が失われる。大質量が水に落ちた結果現れた強大な水の流れに飲み込まれた。身動きが取れない。

 

 気がついたら意識を失っていて──

 

「……ここは何処だ……!

 他のクラスの皆はどこだ!? 俺達だけか!?」

 

 

 ────今に至る。

 

 

「他の皆の姿は見当たらない。俺達だけがこの無人島に漂着したのか……」 

「なっ……嘘だろ!?」

 

「あんたのせいよ!」

 

 湯島茜(44番)が、怒りの表情を浮かべながら烏山武光(41番)に掴みかかる。胸元をねじり上げるようにしながら顔を近付けた。

 キッと目尻を吊り上げながらヒステリック気味に声を荒らげた。

 びくり、と。唐突な怒鳴り声に身体が震えた。ゆっくりと頭を上げる。左右に頭を振る。ここは、何処? 確か、私は飛行機の中に乗っていて……

 

「あんたがあの時非常口を開けたから一気に海水が流れ込んできたのよ! そのせいで私達は……!」 

「何だと!? どちらにしろ機内は浸水してた! 今更なんだよ!」

「いや、確かにあんたは早計だった!」

「……っ。お前まで何を……!」

 

 烏山武光(41番)に"コイツのせいで"というヘイトが集中する。"烏山が悪いのか?"という点にエチュードの軸が設定される。

 目蓋を瞬かせながら周りを見た。波が引いて砂が揺れる音。強い日差しに黒髪がチリと熱せられる感覚。

 

「このままじゃ皆餓え死によ! 全部あんたのせいよ!

 こんな無人島でどうやって生きていけばいいのよ!?」

 

 

 

「? 皆、何言ってるの……」

 

 

 

 静かな、大きくない普通の大きさの声。

 不思議だった。幸運にも、生きてこの島に漂流できているのに。

 どうしてみんなが、こうも異様なまでにヒステリックなのか。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………気味が悪いね」

 

 空気が変わった。

 

 湯島茜(44番)達が作った芝居の流れが壊された。

 夜凪景──面白い着眼点だが不可解だね。自分の首を絞めるどころか共演者に恨まれる所業だ。

 

「ちゃんと調べてもないのにどうしてここを、無人島だと知ってるの?」

「ど、どうしてってそんなの……」

 

 『よく分からない言動をしている三人』に、違和感を抱くという芝居。まるで審査のことなど忘れ、本当に無人島に漂着したような反応だ。

 ……ここまで喋らなかったが、ここでようやく動くとは。

 黒山に"正当に審査しろ"とは言われたものの、アリサさんの心情が悪くなるような選択に躊躇いはあったが……。

 

「勝手に決めつけて喧嘩して、あなた達……どうしたの?」

 

 積み重ねた演技の流れを粉砕して、自分を中心にして芝居を再構築する特異性。

 吸引力のずば抜けた、異様なまでの質感と説得力とを持つ演技。

 三人が作り上げた世界観を夜凪景の一言で完全に覆し、呑み込んでしまう世界観。そしてそれを見せつけるだけの表現力。

 ──なるほど、コレはアイツが執着する訳だ。

 

「漂流して浜で目が覚めたとしてもそこが無人島とは限らない……はは、一本取られたね」 

「笑い事じゃないですよ。正確に演じられたら確かにそういうことになります。我々のミスでは?」

 

 違う。基本的にこういうエチュードのようなお題であれば、不自然だと思う箇所なんていくらでもある。

 夜凪景(42番)のリアルな演技に引き摺られているに過ぎない。向こうのほうが正しいのではないかと思うほど──恐らくアレはメソッド演技の修得者だろう。それなら違和感のある演技は認められない訳だ。……そうだとしても彼女の吸引力は凄まじいものだが。

 

目的地(グアム)までの航路をフライト時間から逆算すれば……おそらくここは北マリアナ諸島の更に北。

 終戦後、多くの無人島が点在するエリアだ。この島も無人島と見て間違いないだろう」

 

 いいね。悪くない。

 合理性と知識で夜凪景の演技を論理的に自分達の流れに戻そうとしている。反応を見るに、原作通りの台詞回しだろう。原作のファンになってからオーディションに臨むタイプと見た。

 

「わ……私も見たわ。飛行機からこの島が見えたの。

 見渡す限り森だったわ! ここは無人島よ!」

 

「……なんだか皆で口裏を合わせてるみたいだわ。何が目的なの……?」

 

「────っ」

 

 ……なるほど。

 湯島茜(44番)の演技を見て、演技して騙そうとしている、という結論に到達するか。

 "女子高生の自然な振る舞い"ではなく"演じてることが見てて分かる演技"という認識……確かにリアルだ。あそこまでの深度で役に没頭している。そりゃあ彼女自身も戸惑う訳だね。

 

「ははは、そりゃ演技だもんな」

「あの子悪質ですね。

 ふざけて審査ごとぶち壊すつもりですよ。止めてください監督」

「……いや」

 

 プロデューサーたちがそう言っているのをやんわりと止めながら、僕は夜凪景の演技を見つめる。

 

 事実として夜凪景の演技が最も説得力が有る。

 そうである以上、他三人の芝居の説得力の無さが際立つのは避けられない。

 

 ()()()()()()()

 余りにも自然すぎる夜凪の演技が、他三人のソレを呑み込んだ。結果として、下手な企てで一人の少女を惑わそうとする三人と、それに気づき怯える少女の構図へと変化した──

 

「どうしたって、俺達はただ──」

 

 烏山武光(41番)、"黙ってたら駄目だ"と判断して動くか。

 悪くない判断だ。何もしなかったら、まず間違いなく夜凪景が全部"喰らい尽くす"だろう。

 そんな彼の台詞を遮って、湯島茜が怒鳴り声を上げる。いや、ちょっとコレは……。

 

「あんた──いい加減にしぃや!

 さっきから訳分からんことばっか何のつもりやねん!」

 

「その通りだ! お前さっきから変だぞ! どうしたんだ!」

 

 声を荒らげた湯島(41番)の演技を、真咲(43番)が"よくわからないことを言う夜凪にみんなが困惑し、思わず怒声を浴びせた"という演技に解釈させるか。しかもオーディション撮影カメラの死角内で湯島に冷静になるよう促してるね。

 

 ……素が出たといえど、迫力ある湯島の怒声。そしてそれを即座にカバーする真咲の機転。

 夜凪のせいで、周りのポテンシャルが見え始めた。

 

「──っ」

 

「えっ!? 何!? どこに……!」

 

 夜凪景が身を翻して走り出した。

 三人の不自然さが怖くなって、逃げ出した。いやそっちはセットだ。

 今回用意したのは10m×10mのセット、それほど広くな──ぶつかった。グッと呻きながら鼻頭を掴んだ。たらりと血が溢れる。

 

「うっ──来ないで!」

 

 痛ましい演技だ。僅かに鼻から血を垂らしながら、恐れ慄く少女の芝居。

 刹那、真咲や烏山の表情に罪悪感が浮かんだ。さて、どうする?

 

「クククク……はははは……そうだよ夜凪。

 すべて、俺達の仕業だ」

「───」

「皆殺したよ。残りはお前だけだ」

 

 悪役として演じるか。

 "不自然な演技をしているのはなぜ?"という疑問を解消する答えとしては中々に上出来だ。夜凪景が積み重ねてきた疑問の再利用。深く役に入り込んでいる夜凪が納得出来るレベルの答えを用意すれば、夜凪は疑うことはないだろう。

 夜凪の顔に義憤や悲哀といった感情が浮かぶ。ギリっと歯を噛みしめながら、セットの擬木をへし折って、両手に構えながら武器として烏山の頭を狙う──()()()()()()()()

 夜凪が木の枝を振り上げ、一番前に出た烏山が不敵に笑い。

 

 

 

「なんでこんなメチャクチャできんねん!」

 

 

 

 溢れんばかりの激情を湛えた湯島が、夜凪景を止めた。

 押し倒して、馬乗りになって。必死に両手で押さえつける。

 

 

 

 

 

 

 

「皆必死やのに! 真剣やのに!

 ──人の気持ちが分からんなら、役者なんかやめてまえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()だと、そう思った。

 嫌に目に留まって、嫌に鼻につく。

 

 初めて知ったのは、たまたまだった。元輝くんが出演したというカレーライスのwebCMの対となるクリームシチューのwebCM。

 その撮影の裏側。いわゆる舞台裏(behind the scenes)

 

 その撮影に元輝くんと映っていた、艶のある長い黒髪の頭身の高い少女。

 夜凪景という女優だ。

 所属事務所スタジオ大黒天の新人女優。スターズオーディションを受けていたという情報を聞いた私は、アリサさんに頼んで、少し前の時の録画を分析・研究させてもらった。

 

「──」

 

 その演技は。

 夜凪景という子の演技は。

 私とは違う、何も取り繕わない演技だった。

 

 嘘が無い演技。異様な質感を持つ、どこまでもリアルな演技。

 いわゆる迫真の演技を。激情に駆られた結果として現れるような、感情の発露を。

 落ち着いたシーンでも、激しい感情を見せる場面でも、()()()()()()()()()()()()()()

 目が眩むような、個性の塊のような演技だった。

 

 ……ああ、そうか。

 

 コレが。彼女が。

 夜凪景という女優が。

 元輝くんのいっていた、私のライバルになりうる存在で。

 どうしても勝たなくちゃいけない相手なんだと、理解した。

 

「────」

 

 どれだけ研究しても、修得できない。

 どれだけ分析しても、方法が分からない。

 彼女の演技を百回見直したところで、私は焦りを覚えた。

 

 穂村元輝の演技は、その役の為にチューニングした仮面を創るもので。

 百城千世子の演技は、『百城千世子』に求められる仮面を被る演技で。

 夜凪景の演技は、彼女自身が、役そのものになるような演技だった。

 

 ……メソッド演技だというのはわかる。

 『百城千世子』はメソッド演技の変遷を知っているし、それがメソッド演技以外のものに偽物というレッテルを貼ったこともまた知っている。

 どんなメリットがあって。どんな不具合があるのか。

 そして『メソッド演技』が本物で、それ以外が劣化に過ぎないという熱狂がかつて存在していた事実もまた、私は知っている。

 でもね。

 

「──お芝居に心は要らないんだよ」

 

 私は自分の『商品価値』を知っている。

 私は他人に見える自分自身を、意識して作り続けてきた。

 周囲の反応を理解し、カメラの仕組みを理解し、自分が撮られる世界全てを意識の下に収めるようにしてきた。

 

 私は『観客』を知っている。

 常に晒される視線を意識し、観客の求める虚構を作り上げてきた。

 SNSや掲示板。エゴサーチと統計によって自分のイメージを算出し、最善な状態へと常に修正してきた。

 

 幼く無邪気で悪戯で。

 それでいて美しくあることが、いかに観客を虜にするのか知っている。

 だから私は、『百城千世子』の役割を全うし続けてきた。

 

 負けられないと、そう思う。 

 見極めてみたいと、そう思う。

 彼女の、夜凪さんのこのよく分からない演技を。

 何か常人にはできないことをしていることだけはわかる、彼女の演技を。

 そして。

 

 

 ──胸に湧き出るこの感情が一体何なのか、私は知りたい。

 

 

 

 

 

 






 原作リスペクト多めでお送りしました。
 あといつの間にかお気に入り3000件、評価100行ってました。ありがとうございます。一重に読者の皆さんのお陰です。

 顔合わせまで行こうともがいた結果、ホモくんのオーディションシーン全カットされた挙句顔合わせにまで到達せず。その上データ紛失の為に演技シーンが無かったことにされたホモくんに黙祷。(修羅場れなくて)すまねぇ……。オラァ!ナンカイエヨ!クソクソフラペチーノォ!
 一応原作補填のために夜凪周りは書いてるんだけど、ぶっちゃけいるのか悩みどころですね。

 文体にもっとドロドロ感出したいと思う今日この頃。
 自粛で外に出られないので失踪します。


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scene9『To Pimp The Butterfly』


【pimp】
 1.誘惑する
 2.客引き
  アメリカスラング。最近ではもっぱら"女たらし"の意味のスラングとして使われる。また、クールという形容詞としても使われることがある。






 

 

 

 

 

「すごいなけいちゃん。本当に最後の12人に選ばれちゃうなんて。書類審査の段階でアリサ社長に落とされそうって思ってましたけど。どんな不正使ったんですか?」

「大したことはしてねーよ。真正に審査しろって頼みに行っただけだ」

 

 夜凪がデスアイランドオーディションに合格した。

 予定通りうまくいったな。書類選考と映像審査に関しちゃあ高々仕事一つ増やして千世子の敵対心を煽れば万事解決と言ったんだから、この前のwebCMもクソみたいな案件だったが偶には役に立つもんだ。

 

「だから今の夜凪(アイツ)じゃあ落とされても仕方ねぇとは思ってたんだが。

 手塚か……、アイツ思ったより酔狂だな」

 

 氷を噛み砕く。コレで夜凪に千世子の技術を盗ませられると思わず笑みが浮かんだ。

 ……悪くねぇ。悪くねえ流れだ。上出来と言ってもいい。

 

「あ、元輝くんも受かってたんですね」

「アイツが落ちる訳ねぇだろ。なんたって俺の甥だからな

「ソレが一番の不安材料でもあるんですけど……」

 

 千世子の俯瞰技術──

 一つの『目玉』だけじゃなく、多くの視点を意識することで"他者から見える自分自身"を把握し、撮影の全体像を俯瞰する技術。

 コイツを夜凪に覚えさせる。

 アイツには末恐ろしいほどに"周りからどう見られてるか"っていう視点が欠落してやがる。あのレベルまで一切の俯瞰視点を持ってねぇってのは一周回って才能だろうな。

 

 残念だが、俺は演出家であって役者じゃねえ。だから欲しい演技があっても、それを出来るようにする為の技術を教えることは出来ない。夜凪自身にその技術を盗ませる必要が出てくる訳だが……。

 

 この前の撮影で元輝の演技を見れたのが功を奏したな。

 元々は夜凪に習得させようとしてたのは『芝居をする自分』と幽霊のように『自分を見下ろす自分』に意識を分ける"幽体離脱"みてぇなモノだったんだが、夜凪と元輝の反応を見るに、恐らく夜凪に適してるのはアンカーポイント*1の類に属する俯瞰系──分かりやすく言えば三人称視点での俯瞰(ソレ)だろう。

 

 自分の持つ二つの目玉と思考だけで周囲を把握する主観的な俯瞰ではなく、所謂『神の視点』──全てを別の視点から把握して俯瞰を構築する三人称視点での俯瞰。

 千世子の技術とか元輝が最近やってるのがコッチの視点になる。

 

 全力で演技をする夜凪と、ソレを把握してコントロールする俯瞰。

 

 コレを夜凪が手に入れられればとんでもねぇメソッドアクターが出来る。客観性のあるメソッド俳優は強えからな。レオナルド・ディカプリオ*2とかがその最たる例だ。

 

 ……しかし。

 正直言って、この俯瞰技術という点じゃあ夜凪は千世子に勝てねえだろう。自分の目玉を捨てて、客観的な美しさだけを求めて自己を排した"作品"の為、"大衆"の為のプロの演技。

 メソッドアクターである夜凪が、プロである千世子に勝てる見込みは正直薄い。

 だが、アイツらの技術を盗んで物にすることは出来る。

 

 足元に何があるのか。

 カメラの撮影範囲に自分がどう写っているのか。

 周りの人はどう動き、自分自身がソレにどう対応すべきなのか。

 俯瞰視点を手に入れられれば、そういういろんなことを処理して、理解して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っていう演技ができるようになる。

 

「盗めるもんは全部盗ませる」

 

 面白え。

 撮影現場には元輝もいる。つまり夜凪が何やらかしても何とかなる。つーか何とかさせる。アイツの苦労とか知ったこっちゃねぇからな。

 

「……面白えことになってきたな」

「なにが面白いのか知らないですけど、すっごい悪どい顔してますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………どうも」

「お、お邪魔します……」

 

 夜凪邸からお送りしています。スタジオ大黒天所属の美人制作担当こと柊雪です。

 なんでけいちゃんの家に行くことになったのか──理由としてはそんなに難しくはないです。

 けいちゃんの高校は正当な理由があると認められれば公的欠席として認定されるとの校則だったのですが、今回のCM撮影やデスアイランドのオーディション合格などの"実績"が出来たので、無事ある程度の欠席は証明書があればどうにかしてくれるとの運びになりました。

 これで気負いなく女優を演れることになったのは喜ばしいことなんだけど……。

 

 とはいっても高校も学業施設、補填も何もなく芸能活動を許可してくれるほど甘くはなかった。

 公欠の影響が出てきてしまいました。

 けいちゃんが休日に学校に出席する必要が出てしまったのです。補習という形で単位の取得を許してくれたとはいえ、けいちゃんには夜凪家の家主としての仕事があります。

 なので"休日に家を空けなくてはならないが、二人をそのままにしておけない"という熱い要望をプッシュ。複雑な家庭状況というのもあって、私で良ければ一助になりたい、と。

 そんなちょっとしたお姉さん心でルイ君とレイちゃんたち夜凪姉妹の面倒を見に来たんだけど……。

 

「粗茶ですが。……朝早くから大変ですね」

「いえ、お気遣いなく……」

 

 なんでこうなったの。

 

 ルイくんが頭に乗った状態のまま、特に大きく表情を変えることなく緑茶を出してきた青年──墨字さんの親戚とかいう謎の経歴を持つ俳優、穂村元輝を見ながら思わずそんなことを考える。この意味がわからない状況に頭を抱えたいというのが正直な所だった。

 ……そういえば、景ちゃんから幼馴染みに一応連絡は入れたとは聞いていたけど。まさか本当に彼がいるとは誰が予想したのか。少なくとも私にはわからなかった。むしろわかる人がいたら呼んできて欲しい。

 

「あ、おはよーございます柊さん。

 兄ちゃんごはんまだ?」

「今から作るからちょっと待ってろ。なんか食べたいメニューでもあるか?」

「チーズケーキ!」

「……流石に今すぐは無理だな。今度作ってやるからそれで勘弁してくれ」

 

 時刻は8時30分を回った頃だ。

 バッと背中に飛び乗って、むにむにと後頭部から伸ばした手で元輝くんの頬をびよーんと引っ張ったり伸ばしたりするルイくんに僅かに口元を綻ばせる。

 よいしょと元輝くんが自分の顔で遊んでいたルイくんを持ち上げて横に置くと、ちゃぶ台の前に座っていた私に目を向けて、

 

「朝ごはんもう食べました? ルイとレイに作るから、まだ食べてないんだったら用意しますけど」

「う、ううん。別にお気遣いな──」

 

 ぎゅるる。

 

 小さく音を鳴らしたお腹を押さえる。目を白黒させながらも目の前の元輝くんを見ると、わずかに眉を上げた後にくすりと僅かに微笑みながら、

 

「準備しますね」

「……はい、お願いします」

 

 恥ずかしい。年上だからって張り切ったばかりに結構な恥をかいてしまった。超はずかしい。

 羞恥の余り耳朶を赤く染めている私の前に座っていた元輝くんが腰を上げ、昔ながらの台所に向かった。ぶんぶんと頭を振って元輝くんの後に続く。

 

「何か手伝えることある?」

「そんなに手間かからないんで大丈夫ですよ。お客様なんですし」

「まあまあそう言わずに」

 

 気にしなくていいのに、と言いながら元輝くんは冷蔵庫の中から卵を取り出した。慣れた手つきだ。

 小皿に卵を三つ入れると少量の水と砂糖、塩を手早く加えて菜箸で掻き混ぜた。片手間にグリルに余熱を入れながら、キッチンペーパーで銀鮭の水気を切って軽く塩を振る。

 

 ……ダメだ、手際的に私より料理上手いやつだ。南無三。

 

 元輝くんとの間にわりと高く聳え立っていた女子力の差に打ち拉がれた私は、取り敢えず何かしようと卑屈になりかけた思考を元に戻す。……うん、私は味噌汁でも作ればいいかな。お米も炊いてあるみたいだし。

 というか手早く私が作れるのもそれくらいのものだった。悲しいがソレが事実である。

 

 鍋に水を入れ、顆粒だしを加えて火にかける。豆腐を1cm角に切り揃えた。具材は豆腐にワカメと王道でいいだろう。

 せっせと調理を始めていると、元輝くんが私の方を横目に見た。

 なに? と元輝くんの方を見返すと、なんでもないですと言いながら、元輝くんは私の調理してる様子をこれといって気にした様子もなく視線を手元に戻した。予熱の終わった魚焼きグリルに鮭を四切れ並べる。グリルの火力を調整、キッチン下の収納棚から卵焼き用の四角いフライパンを取り出して、コンロの上に乗せて油を引いた。

 

 好奇心旺盛な年頃なのか、ひょっこりと台所に顔を出していたルイくんに危ないからちょっと離れろと言いながら、手首を回して油を全面に回らせる。卵液の三分の一くらいを菜箸に伝わせてフライパンに注ぐ。ジュという音と共に薄く卵液が広がっていく。

 

 ……うん、泣ける。

 年下の男の子に調理スキルで負けてるのは中々心にくるものがあった。

 

「レイはどうした? もうすぐ準備できるんだが……」

「兄ちゃんに別の女の匂いがするって。よくわかんないけどシャワー浴びに行ってるよ」

「……いや、何を言ってるんだアイツは」

 

 ボディーブローのような精神的ダメージをひっそりと受けつつも、私は切り揃えた具材を加えた鍋に味噌を溶かした。

 

 隣ではもうすぐ朝ごはんだと知らせといてくれ、と元輝くんもルイくんに指示を出しながら焼き上がった銀鮭を皿の上に載せ、黄金色の卵焼きを添えていた。

 

 ……よし、出来た。軽く味見して出来栄えを確認する。大丈夫だろうと判断。味噌汁を注いだお椀をちゃぶ台の上に配膳していると、隣の元輝くんもさっさとお米をついで、鮭と一緒にちゃぶ台に並べていた。

 

 メニューは焼鮭、味噌汁、ごはん。それと元輝くんの父親が送ってきたという東北名物(らしい)牛タンのしぐれ煮だ。

 さくっと作った割には中々の品揃えだと思う。

 

「あ、柊さん。おはようございます」

「うん、おはよーレイちゃん」

 

 よし、と静かに達成感に包まれていると、ホカホカと湯気を立てたレイちゃんが現れた。

 僅かに湿気ったけいちゃんよりも色素の薄い髪の毛をヘアゴムで結んでいる。将来有望な幼なさながらに目鼻立ちの整った彼女は、麦茶を注いでいる元輝くんを見て、

 

「お兄さん、昨晩はお楽しみだったんですか?」

「……? ……いや、何の話だ」

「……ふーん。やっぱり男って勝手なのね」

「変な言葉を覚えるんじゃない」

 

 さっさと準備してご飯食べるぞ、と元輝くんが二人をちゃぶ台へと促した。

 グラスに入った麦茶を受け取りながら私も席に座る。向かい側に元輝くんが座り、私から見て左にレイちゃん、右にルイくんという形になる。

 

「手を合わせて、いただきます」

「「「いただきます」」」

 

 ルイくんの言葉に従って私も手を合わせた。

 さくりと香ばしく焼き上がった鮭の身をほぐす。久々にここまでしっかりした朝ごはんだった。脂の乗ったソレをご飯の上に載せて頬張っていると、対面に座っていた元輝くんが私の方を見ながら、

 

「それで柊さんはどうしてここに?」

「けいちゃんから話聞いてない? 二人を置いていけないから面倒を見にきて欲しいって頼まれたんだけど。

 というか私的には元輝くんが来てたことの方が驚きだよ。結構忙しそうなのに」

「俺と景は幼馴染みですからね。流石の俺もアイツの頼みは断れないですよ」

 

 ルイとレイを二人だけにしておく訳にはいきませんし、と続けながら元輝くんはしぐれ煮をご飯の上に載せた。

 その横で卵焼きを頬張っていたルイくんが、にっとどこか得意げな笑みを浮かべながら、

 

「兄ちゃんはお姉ちゃんに頭あがんないからなー」

「……そうなんだ。元輝お兄ちゃんってよくここに来るの?」

「たまにですけどね。お姉ちゃんがバイトで忙しかったりした時とかはお兄さんがご飯作りに来てくれるんです」

「ふーん?」

 

 相変わらずのポーカーフェイスを貫く元輝くんを見遣ると、素知らぬ顔で味噌汁を啜っていた。

 

「懐かれてるんだねえ元輝くん」

「そんなことはないですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緊張、している気がする。

 ……ううん、やっぱり緊張してないかな。こういう状況だと、きちんと緊張していた方がいいのかしら。

 

 私、茜ちゃんにちゃんと謝れてない。ごめんなさいも聞いてもらえなかったわ。まだ役者として認められてない。

 コレじゃあ私ちゃんと茜ちゃんと共演できないわ。

 共演者として認められるように、頑張らないと。

 

 ギシリと映画で見たよりも安っぽいイスを少し軋ませながら横を見る。右には真咲君、茜ちゃん、武光君が座っていて、左には私と同じオーディション組の人が七人座っていて、一番端っこに掌に顎を乗せた元輝くんがいた。くあ、と元輝くんが小さく欠伸をして、チラリと私の方を一瞥した。小さく手を振ると、ちょっとだけ口角を上げながらも元輝くんはそのまま前を向く。……いつもより表情が固い気がする。元輝くんも緊張してるのね。

 

 他の俳優の人たちも、みんな私と同じくらいの年齢だった。デスアイランドのキャラクターはみんな高校生くらいって話を聞いたけど、キャストもその年齢に合わせたみたい。

 

 ……今日、私は天使に会える。

 

 どんな人なんだろう。私とは全然違った演技をする『スターズの天使』。

 全然顔が見えないのに、どこまでも人を惹きつけて魅了する、とても、とても素敵な仮面。

 百城千世子──どんな演技をするのかな。あんな綺麗な仮面を、一体どうやって創ったのだろう。

 私にないモノを持っている彼女は、一体どんな人なんだろう。

 ……幽体離脱できるって本当なのかしら。

 

 でも、どういうことなんだろう? 天使に会えるって思って楽しみにしてたのに、スターズの役者さんは誰も来てないわ。監督はきてるのに。どうして?

 

「ごめんね皆!

 せっかく時間通り顔合わせに来てもらったのに。

 スターズ(うち)の俳優がまだ一人も到着してないんだ」

 

 監督がにこやかにそう言った。なんだかドラマで見るような胡散臭い格好をしてる。元輝くん曰くすごく『有能な監督』らしいけど。

 でもすごく軽い男の人って感じがするっていうのが正直なところね。黒山さんよりはマシだけど。

 

「皆多忙でね。もしかしたら一人も間に合わないかもしれない。

 ま、よくあることだし気にしないでね。どうせ現場で会えるから」

 

 ……残念。折角天使と会えると思っていたのに。元輝くん、芸能界って嘘つきがたくさんいるみたい。実は大変な世界だったみたいだわ。

 天使っていえば、黒山さんは『天使は盗みがいがある』って言ってたけど、一体何を盗むべきなんだろう。技術? 態度? 他には何かあるのかしら。

 

「じゃ、台本を渡そうか。台本(ホン)読みでもする?」

 

 監督が台本を取り出して、口元を三日月に歪めたその時。

 ガチャリ、と。

 ドアが開く、音がした。

 

「ごめんなさい遅れてしまって。これでも撮影急いで巻いたんだけど」

 

 百城千世子。

 スターズの天使。

 何の演技もしていないのに、みんなの注意を引いて、彼女の虜にさせる綺麗な仮面を被った天使。

 

「……私以外誰も来てないじゃんスターズ。こんな日に顔合わせなんてダメだよカントク」

 

 綺麗な瞳。目を引く姿勢。目を奪う仕草。

 

 大きな動きを伴う派手な演技をしていないのに、皆の注意を引き付けて離さない。

 顔合わせという目的があったこの部屋の中心が、百城千世子へと移動したのが分かる。上下左右三百六十度。どこから見たとしても、彼女は綺麗に見えるんだろう。ソレが直感的にわかった。

 

「ま、顔合わせなんてしなくても作品には関係ないからね」

「大アリだよ! 酷い監督だな。第一これじゃみんなに失礼だよ」

 

 でも。

 どうしてか、よくわからないけれど。

 

「改めまして、遅れてごめんなさい。

 スターズの百城千世子です。よろしくお願いします」

 

 ドアが開いたその瞬間。

 今は綺麗で優しい瞳をしている彼女が。

 

 ギラリとした。

 刺すような瞳で、こちらを見ていた気がして。

 嫌に背筋が冷たくなって。

 

 なんだか、妙に嫌な予感がした。

 

 

 

*1
空間を作り出して自分の位置を把握する技術。空間に鋲を打ち込み、空間を立体的に把握すると言ったモノ。演劇などでよく用いられる。

*2
出演作品『タイタニック』『レヴェナント』など。役を演じるために生レバーを食したりしたとの逸話がある。







景「天使ってどんな人なのかしら(純粋)」
千「よろしくね(宣戦布告)」
ホ「胃がいてぇよ(吐血)」

二股ムーブメント決めてたホモくん、実際は三股決めようとしていた模様。子供は勘が鋭いからね、仕方ないね。

活動報告にホモくんの挿絵投下してます。イメージ固まってる人は見ないことをオススメしますが、別にいいよという人は見てくれると作者が狂嬉します。ついでに乱舞します。

ガバの嵐なんで失踪しますね……。


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scene10『開幕、デスアイランド』


ちょっと改稿したら1万字超えちゃいました。
難産でした。チヨコエルの内面難しすぎんよ……。

RTAパート少し改稿してます。



 

 

 

 

 奇妙な気分だ。

 どこか心が高揚していて、でも酷く冷静で。胸の奥がチリつくような、際限なく冷え切っていくような不可思議な感覚。

 

「ごめんなさい遅れてしまって。これでも撮影急いで巻いたんだけど」

 

 ドアを開ける。

 夜凪景と目があった。

 ……落ち着け、冷静を保て。私は『百城千世子』だ。

 

「……私以外誰も来てないじゃんスターズ。

 こんな日に『顔合わせ』なんてしたら駄目だよカントク」

 

 普段の振る舞いを保つ。私がずっとやってきたことを繰り返す。数百数千万という大衆を相手取ってきた私からすれば、十数人の流れを掴むことはさして難しいことではない。

 

「ま、『顔合わせ』なんてしなくても作品に影響ないからね」 

「大アリだよ! 酷い監督だな。第一皆に失礼だよ、これじゃ」

 

 十三に及ぶ視線が私に刺さった。その空気を感じ取りながら、この空間の軸を私へと移していく。同時に雰囲気を柔らかくしておこう。

 席に座らずに監督と話しながら、全員の視線を計算して立ち位置を算出する。私の笑顔がみんなに見える位置。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──ここかな。うん、天井の蛍光灯の光加減もここなら大丈夫だろう。若干立ち方を調整しつつ机に座ったオーディション組を見渡す。

 くるりとスカートを揺らしながら害のない笑顔を浮かべた。

 

「改めまして、遅れてごめんなさい。

 百城千世子です、よろしくお願いします」

 

 反応はどうかな?

 好意。対抗心。興味。無関心。はたまた猜疑心。

 人の感情には色々な種類がある。なんらかの精神的な刺激を受けて文字通りなんの反応もないというのは身体構造からしてありえない。ある程度ではあるけど、大まかな感情は表情筋の動きから見出すことができる。微表情学、エクマン理論*1というやつだ。

 

 興味を持ってくれたり笑顔を返してくれたりした人は基本的に友好的だ。

 逆に無関心を装っているタイプは特に私に興味がないタイプか、もしくは私自身と知り合いであることが多い。こういう人たちにはいつも通りの振る舞いをしておけば特に問題はないけど。

 

 ポイントは対抗心を持った人だ。そういう人たちを懐柔してしまえば、これからの流れを握りやすくなる。

 眉を下げ、瞳を薄くして此方を値踏みする視線は──あの子だ。

 オフィス華野の源真咲君かな。微笑みを湛えながら視線を動かして、此方を見つめる真咲君の方へと向けた。

 

「あ、源真咲君」 

「え……」

「『ザ・ナイト』の劇場版観たよ!

 ツカサ役すごくハマっててちょっとタイプだった! なんてね。

 でもドラマ『春の歌』の生徒役の時と印象あんまり変わらなかったね!

 演じ分け苦手なタイプ? 私と一緒だ」

 

 ほら、簡単。

 心象が変わった。『知られてる』って重いんだよね。

 私みたいなトップ女優に"自分の過去作品まで調べられていて、何故か好意的な感想を言われる"というのは、だいぶ重たく感じるでしょ? 少なくとも無視できるほど軽いことじゃない。

 私に一泡吹かせようとするの、いい心がけだと思うけど撮影には邪魔なの。そういう余計な力みが色んなところに影響与えちゃったりすることがあるから、ここでそういうのやめてもらえれば後の撮影が楽になるんだよね。

 

「あっ、湯島さんも真咲くんと同じ事務所だったよね!

 子供時代からの出演作全部観ちゃった!

 どんどん上手になってくから! 面白くて!」

 

 視線を更にずらす。流れを握ろうとしていることを悟られないように、話し相手を複数に拡充する。真咲君の隣に座っている女の子、湯島茜を見遣った。この子は私に好意的だったから特に問題はないんだけど。

 

 相手の呼吸を読む。思考回路をトレースして誘導する。そうやって()()()()()()()()

 第一ポイントだ。オーディション組に、スターズの俳優たちは好意的な考えを持っているということを植え付ける。

 

「てゆーか武光君ナマで見ると本当に大きいんだね! あはは。

 舞台DVDで観たよ、存在感あってすごく目立ってた。ちょっと目立ちすぎなくらい!」

 

 芝居好きな話好きキャラを演じる。笑顔を浮かべ、柔らかい雰囲気を纏う。

 人付き合いにおいて、笑顔は武器になる。無害で自分に好意的な笑顔を向けられてるだけで相手も好意的になってくれやすい。オーディション組に、私に対して友好的に、もしくは敵意が薄くなっていくのを感じ取った。

 

 観察。疑問。期待。

 色々な感情が私を見てるけど、もうここの流れは私が掴んだ。後は追々調整していけば問題はないかな。

 

 各々が私の応対に反応して考え込んでいる。悪くない……けど。

 二人だけ、私が流れを掴み切れていない。元輝君と夜凪景の二人だ。

 相変わらず感情の読みにくい表情を浮かべる彼と、黒曜石みたいな瞳でジッと私を見つめている夜凪さん。一番端に座っている元輝君は、一瞬だけ夜凪さんの方を見て、そのまま私の方に視線を向けた。僅かに眉が動く。

 ジリ……と、心の奥底が焦れる。よくわからない感情が噴出した。押し殺して微笑を維持しつつ仮面を再調整する。柔らかい笑みを浮かべながら、彼女の瞳を覗き込んだ。

 

「あ。夜凪景さん、オーディションの時の映像見せて貰ったの。まさに迫真、ってやつだった」

 

 夜凪景。

 穂村元輝の幼馴染み。よく分からない演技をする女優。

 何か常人にはできないことをしていることだけはわかる、ナニか胸の奥によく分からない感情を湧き上がらせる人。

 

「でもあれお芝居じゃないよね。一体どうやってるのアレ?

 ……お芝居にしては、不自然なくらい自然過ぎたから」

 

 くすりと笑いかける。覗き込んだソレは、夜空みたいな綺麗な瞳だった。

 見つめ返すように、私の底を覗き返すようにしながら夜凪さんが口を開く。

 

「私も聞きたいことがあったの。

 お芝居中の自分をフカンして、コントロールして、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 "天使"さんなら出来るって聞いたんだけど本当? 『幽体離脱』」

 

「は?」

 

 ……何言ってるのこのひと?

 僅かな困惑がオーディション組全体に広がっていく。

 

「……ああ。

 私、実は天使じゃないから、ぷかぷか浮いたりは出来ないよ?」

 

 出来るだけ和やかに会話を誤魔化す。真意を図りきれなかった質問にはそのままの反応を返すのは得策じゃない。空気が悪くならないように気を払いながらお茶を濁した。

 

「あははは」

「何あいつ」 

「夜凪、お前今日も変だぞ。大丈夫か?」

 

 クールな見た目とは裏腹にどうやら天然ちゃんらしい。

 

 ……いや、それにしたって末恐ろしい才能だ。

 私が掴んでいたこの空間の流れを、大きな声でもない静かな声で流れを持っていった。私のように人の感情の流れを掴む為に計算して論理立てている訳ではなく、ただその異様な存在感で強引に周囲の人間を引きずり込む。……なるほど。シャクに触るけど、コレは確かに元輝君が褒める訳だ。

 人の目を引く。たったそれだけのことでも、このレベルまで到達していれば、それだけで役者としては稀有な才能なんだ。

 

「ごめんなさい、あなたなら本当に出来るのかもって……」 

「あはは、なんでそう思うの」 

「だって」

 

 

 彼女は、至って不思議そうに。

 人間らしく、人間であるが故の疑問を口にした。

 

 

「テレビで観たあなたも。

 今目の前にいるあなたも。

 とても綺麗で。なのにどちらのあなたも顔が視えないから……人間じゃないみたいだなって」

「────」

 

 

 百城千世子は()()()()()()()()()()()

 

 

 周囲の視線を把握して、自分の振る舞いに反映して。

 撮影に使うカメラを全て理解して、自分の映り方を修正する。

 SNSや掲示板、エゴサーチによって為された統計によって、民衆の望む姿を具現化する。

 観客の望む姿を作りに作って作り続けて、子供の頃から作り上げて。元々の私が何処かに行ってしまうまで繰り返す。

 そうやって生まれたその果てが『百城千世子』だ。

 

 言い換えれば。

 最大多数であるということは、幾つもの大衆の理想を私は切り捨ててきたということを意味する。

 それは男のような演技であったり、はたまた激しいアクションで圧倒するような演技であったり。

 私は男にはなれないし、私のような小柄な体躯ではどんな努力をしても高い身長を活かした演技などは行えない。

 だからそれらの声は切り捨てざるを得なかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 役そのものに成り切ったような迫真の演技というのも、私が切り捨てた観客の理想の一つだ。

 アリサさんがそういう演技を嫌っていたというのもあるけど、それでも私は幾度となく"そういう役者"の演技を参考にして試行錯誤を繰り返した。

 レコーダーが擦り切れるほど夜凪さんの演技を見て、何度も私の演技に夜凪さんの演技を取り込もうと苦心した。

 けれど、たったの一度も夜凪さんのような演技はできなかった。

 

 『百城千世子は役になりきれない』

 

 大衆が私に望むものを、その統計を自分に反映してきた私が、唯一反映したくても出来なかった演技。例えどれほど望んだとしても、手に入ることのなかったただ一つの技巧。

 仮面を被るという私の演技の対となる素顔そのものを変化させるような演技。人間らしい演技。

 

 神様は残酷だ。どう足掻いたって、凡才は天才になることは出来ない。

 何百時間、何千時間、何万時間とソレに費やしたとしても、天才に容易く抜き去られるという事実があって。

 天才が持っていて凡人が持つことが許されていないものがきっと存在しているということは、とうの昔に気が付いていた。

 

 ……ねえ、夜凪さん。

 私が持ってるスキルは、きっとあなたも手に入れられる。

 だって私のソレは、時間と研鑽によって手に入れるものだから。

 もしもあなたがお芝居が大好きだというのなら。血肉全てを芝居に捧げて、眠ることも忘れてソレに取り組むことができるのなら。そういう人なら誰しもが手に入るものの延長線上でしかない私のソレは、たぶん習得できると思う。

 あなたの演技みたいに、誰にも真似できないようなものじゃないんだよ。

 

 だからね。

 たぶん、あなたは私になれる。

 でも私は、あなたにはなれない。

 

「────っ」

 

 夜凪さんの瞳を覗き込んだ。

 私の笑顔は崩れない。夜凪さんが僅かにたじろいだ。

 

「あなたの芝居はちゃんと人間だよ。私と違って」

 

 私には私が信じてるものがある。

 私を認めてくれた人だっている。

 あなたが私が持っていないものを持っていて、あなたが私を越えようとするのなら。

 私は負けられない。

 『百城千世子』は負けられない。

 

「幽体離脱が何のことかよく分からないけど、一つだけこっそりアドバイス。

 私達俳優の使命は、ウソを本当にして、観客を虜にすること。

 素顔を晒してありのままに演じることを人間と言うなら、だったら私は人間じゃなくていい」

 

 夜凪さん。

 あなたが素顔のまま天使になるというのなら、『観客の望む天使』である私とは分かり合えないよ。

 ……わかった気がする。

 どうしてあなたを見て、こんなにも心が揺さぶられたのか。

 怒りを覚えたのか。心の中に冷徹に燃え盛る炎が激しく沸き立っていたのか。

 

 ──ねえ、夜凪さん。

 

 私、どうにもあなたを好きになれそうにないや。

 

「これでいいかな? 夜凪さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく始める死地肉林(誤字にあらず)なRTA、はぁじまーるよー。

 

 オーディションも無事合格し、ようやく顔合わせとなりました。

 デスアイランドのオーディションでもそうでしたが、原作キャラが揃っている様は中々オツなものです。ただこれから始まるフラグ管理と修羅場の嵐に胃が痛くなります。あっちこっちに気を使わなきゃいけないとか、これだから(人間関係は)嫌になりますよ……。その点墨字さんとかは楽しそうに生きてますよね。羨ましい限りです。

 

 ということで天使とゴジラの初遭遇な顔合わせとなります。さっさとスターズ事務所の会議室まで全速前進DA!

 

 デスアイランドの顔合わせですが、正直フラグ建設のお祭りみたいなものというのが実情です。特にチヨコエルと景チャン周りでホモくんが関与できるところはほぼありません。……というよりもそれ以前のホモ君の行動で大体決まってしまうのですが。

 基本的にクソ乱数を引かなければこの顔合わせの重要度自体はさして高くありません。

 スターズに所属してチヨコエルと友人関係であり、かつ景ちゃんと知り合いでなければ、チヨコエルが景ちゃんに興味を持つだけですし。

 逆にチヨコエルと知り合いでなければ景ちゃんとのコミュが増えるだけです。両者とも知り合いとかいうことがなければ、フラグ管理に少し気を使っておくだけで血で血を洗う修羅場とか起きることは基本ありません。稀に勃発することがあったらしいですがまあ誤差でしょう。クソ乱数です。

 え、二人と知り合いになってる? こうなったのも全部乾巧って奴の仕業なんだ……!(責任転嫁)

 

 なので出席するのはその他のオーディション組とコミュを取ること以外にあんまりうま味ないんですよねー。

 じゃあスターズ組よろしく、この顔合わせをサボってトレーニングに勤しむか──と洒落込みたいところなんですが、そうするためにはいくつもの下処理をする必要が出てきます。コレをサボろうとする為の下準備はクッッッッソ面倒くさいです。

 

 まずはトップ俳優だったり、それなり以上に知名度のある有名事務所に所属していることが必要です。ペーペーの新人俳優の状態でこの規模の映画の顔合わせをサボったりすると、ほぼ無条件で「アイツ素人童貞なのにサボってるとか何なの死ぬの?」という風な印象を与えてしまい、オーディション組に盛大に嫌われる可能性が爆上がりします(2敗)。

 それなり以上の知名度を持っていたとしても、有名事務所所属じゃない限り、これといった下準備もせずにサボると今度はオーディション組の友好度が足りなくなってしまい、最終的に天使とゴジラの緩衝剤がなくなって結果乙ってNICE BOATエンドまっしぐらになってしまいます(2敗)。

 なので、たかだか三時間の地獄の為に一年近くチャートを伸ばすのは得策じゃないというのが実際のところなのです。悲しいなぁ。

 ……え、でもめんどくさい? (サボっちゃ)ダメです。諦めて出席しましょう。胃薬の準備を忘れるなよ。

 

 それでは心とお尻を引き締め、万全の体調で顔合わせに臨みます。

 今回はチヨコエルと景ちゃんの両方と知り合ってしまっている為、一矢報いる為に景ちゃんと一緒に行くことだけは避けましょう。時間をずらして入室するようにするのです。どっからどう見ても焼け石に水状態ですが、やらないよりもマシです。嘘じゃないヨ、本当ダヨ。

 

 

 ………………。

 

 …………………………。

 

 

 ……胃が痛え(吐血)。

 いえ、胃に穴が開きそうですが本当に予定通りなんです。何が問題って、この顔合わせイベントだと、チヨコエルと景ちゃん以外にも武光君とか真咲君とかがいるせいで上手いことチヨコエルと景ちゃんの会話から好感度を測れないのが一番の問題なんです。

 

 色んな人がいるからチヨコエルは相変わらず"仮面"を被ってますし、それに景ちゃんもホモくんへの好感度がどの程度だとしてもこのイベントじゃあチヨコエルにご執心ですので好感度はよくわかりませんし。

 いえ、仕様上コレは仕方のないことなんですけどね。

 

 なんにせよ両方とも分かりづらいのが悪い。アキラくんを見習って欲しいですね。分かりやすい上に緩衝剤になってくれるとかマジで天才以外の何者でもないです。(チャートに)優しくしろよぉ頼むよぉ……。

 

「幽体離脱が何のことかよく分からないけど、一つだけこっそりアドバイス。

 私達俳優の使命は、ウソを本当にして、観客を虜にすること。

 素顔を晒してありのままに演じることを人間と言うなら、だったら私は人間じゃなくていい。

 ──それでいいかな? 夜凪さん」

 

 おっ。怖い笑顔を浮かべていますが、いつもギリギリで進行していた顔合わせイベントもどうやら無事終わったみたいですね。

 

 元々は今日の顔合わせでは一応夜まで台本読みをする予定となっていますが、スターズ俳優が集まらなかった場合、殆どの確率でチヨコエルとゴジラの邂逅イベントが終われば即解散となります。

 この顔合わせ、偶にスターズ組の俳優も出席してくれるんですが、基本的には千世子ちゃん以外出席しないのでこうなるのは仕方ありません。むしろキチンと台本読みしてるルート見たことないですね。……余った時間を有効活用しましょう。

 それにしても(無事終わって)よかったです……。

 

 景ちゃんに関しても、彼女のオーディションでの様子は確認できていないのでしっかりした確証を持てていなかったのですが、オーディションでの湯島茜との確執は想定通り出来ていたみたいです。その為この後はほぼ確定で景ちゃんは茜ちゃんとのイベントに入ります。

 

 この後の予定としては、景ちゃんに捕まる前にそそくさと退散する──と行きたい所なんですが、今回のチャートだとそんな簡単にいかないんです。コレも最初に起きたガバが悪いんです。誰だよこんなガバチャート作った馬鹿。私でした。

 

 ということで景ちゃんに引っ張られて行かないように細心の注意を払いながらクソ有能な監督こと手塚由紀治監督とのコミュを行います。

 とはいえコミュと言ってもそんな難しいことではありません。ただ友好度を高めるためのものですのでいつも通りヤればもーまんたいです。ソレをチヨコエルと景ちゃんの両方にバレちゃいけないのがクソ仕様なだけで。

 

「ん、ああ。元輝くんか。…………ふむ。何か問題でもあったのかい?」

 

 >あなたは景が湯島さんを追って外に出るのを目尻に納めながら、手塚監督の方へと歩み寄った。

 >手塚監督はあなたの方を見て、顎に手を添えながら小さく笑った。大仰に手を広げながら胡散臭い笑みをうかべる。墨字さんもそうだが、映画監督というのにマトモなヤツはいないのだろうか。あなたはそう訝しんだ。

 

 

 ……ああ〜、たまらねぇぜ。

 

 

 ホモくんはホモなので、男と話してる方が落ち着くとか当たり前なんだよなぁ。

 手塚監督クソ有能なのでツテを作っておければRTA的にうま味です。だってルーチン化したチャートで安定してクソ速い記録を出し続けてるようなもんですよ? こんな人を逃す手があるか? いやない(反語)。

 

 はい。終わりました。

 オーディションでも少し話していたのもあってもーまんたいに進みました。予定よりすんなり目標の友好度まで行きましたね。

 チャート通りとかなんて素晴らしいんだろう(感覚麻痺)。その上以前オーディションで一緒になったこともあって武光君ともコミュを行えました。素晴らすぎて涙が、で、出ますよ……。

 

 そんなこんなで数日後に衣装合わせがあり、それが終わればすぐさま南の島へれっつらごーです。

 

 ようやくデスアイランドの撮影が始まります。多くの走者を諦めさせた第一の関門が目の前に迫ってきているのです。あかん吐きそう。

 バスと船を乗り継いで長いこと揺られていればいつの間にかデスアイランドに着きます。オーディション組なのでバスは景ちゃん達と同じバスですね。できることならアキラ君がいる方でコミュしながらステ振りをしたかったんですが、スターズ俳優ルートではないので仕方ありません。甘んじて現実を受け入れましょう。

 

 えっとー、今回の席順は……一番奥の席ですね。並び順は一番端に茜ちゃん、真咲くん、景ちゃんときて一番左がホモくんとなっています。

 (全員同じ列とか)マジかよお前……。いえ、真咲君が茜ちゃんと景ちゃんの間に座ってくれてる幸運に感謝しましょう。真咲君は犠牲になったんだよ、犠牲の犠牲にな。

 

 ということで移動時間とかいう短縮要素もなければひたすらにSAN値と体力を削るだけのクソイライラタイムを凌げば映画『デスアイランド』撮影スタートとなります。

 

 >『デスアイランド』クランクイン。

 >久々の映画撮影だ。張り切っていこう。あなたは意気込みと共に、周りを見渡した。

 >今回の撮影地は南の島を部分的に借りて行うとのこと。湿気った風が肌を撫でた。

 

 原作『デスアイランド』での舞台は北マリアナ諸島北の無人島です。当然そんなところで撮影を行える筈がありませんので、今回の撮影地は国内の南の島を部分的に使って行われます。こういう無人島を舞台とした映画では沿岸地に山を重ね合わせて行うこともありますが、デスアイランドの製作費は約6億円。役者自体もスターズの売れっ子俳優を使ってきているので今回の撮影地は妥当なところではないでしょうか。

 こういう撮影地だと軍艦島*2とかはやっぱり有名ですよね。まあ既に世界遺産に登録されているので撮影とか出来ないんですけど。爆薬の一つでもボンバーしたら一瞬で崩れ落ちかねませんし。

 まあ南の島の地盤も決して丈夫というわけではないので爆薬の扱いには注意が必要なんですけどね。

 

 ということでホモくんも出番があるまでは暇です。なので手塚監督の作業を見ながら時間でも潰しましょう。ここでホモ君に今回の撮影での手塚監督の目的が分かってもらえたりすると、後の撮影にうま味なので出来ることならやっておきます。ここは誰かとコミュを取っても構いません。

 

 撮影アクトについてですが、ホモ君はチヨコエルと一緒にスタートする組ですので最初の撮影では基本的にチヨコエルとの共演がメインとなります。いえ、共演というほどガッツリ演じるのは数えるほどしかないんですけどね。

 ただチヨコエルと共演できるのは中々にレアなイベントです。コレを逃すと羅刹女までできないことが多いので、彼女との共演を有効活用しないという手はありません。『百式演技術』のランク向上のためにも死に物狂いで活用しましょう。"映画撮影"という大義名分があるのでなりふり構わずに活用していきます。おばあちゃんも言っていました。理由があればどんな悪行も許される、と。

 

 そんなことをしていれば、なんやかんやで一日目の山場がやってきます。

 チヨコエルとゴジラの初共演──共演というよりかは、カメラの中に一堂に会する生徒24名が校舎前に集まるシーンですが。タイトルコール前の1番の見せ場ポイントですね。

 

 大体の流れはこうなっています。

 まず、主人公カレン(百城千世子)が11人のクラスメイトを引き連れて校舎前に現れる。

 そして茜さんが演じるキャラもカレンと同時に11人のクラスメイトと共に到着する。

 そこで生徒達は出会い、お互いの安全を確認する。

 そして島全体の形を画面に写してタイトルをドーンと映し出す、という流れになっています。これまた王道の演出ですね。

 

 会話自体はチヨコエルと茜ちゃんの二人しかありませんが、このシーンは景ちゃんがチヨコエルの本質に気づく重要なシーンですし、それに『百式演技術』ならではのミスのカバーもあります。一度で二度効くコンバットみたいなものでしょう。

 

 撮影には千世子ちゃんとのコミュをしっかり取ることに注意しつつ臨みます。

 今回のようにデスアイランド開始以前にチヨコエルとゴジラの両方の知り合いになってしまっていると、チヨコエルがある程度の確率でナイーヴ状態になっていることがあるので気を付けなきゃいけないんですね。ただ彼女自身はソレをホモ君に一切悟らせてくれません。

 ここもフラグ管理の重要ポイントです。チヨコエルは意外と繊細なのでやんわりとメンタルケアはしっかりしてあげましょう。NICE BOATを避けるためです。手段は選んでいられません。

 

「本番、よーいっ」

 

 カチンコの音が鳴りました。

 撮影アクト開始です。

 

「良かった、皆生きてたんだね。

 生き残ったのは私達だけかと……本当に良かった!

 大丈夫!? ケガはない?」

「うっ、うん。私達は大丈夫。皆こそ──」

「私達も大丈夫! 皆で協力すればきっとこの島から生きて帰れるよ!」

 

 千世子ちゃんか咄嗟に振り返って"後ろの人に呼びかける"演技を加え、共演者のミスをカバーします。これが絶対NG出さないマン、『スターズの天使』ならではのモノ。

 自分の映るアングルを理解しているからこそできるこのカバーには本当に脱帽です。まあホモ君にも後々出来るようになってもらうんですけど。現時点じゃあ流石のホモ君も撮影慣れが十分じゃないのがネックですね。

 

 ──はい。無事撮影アクトが終了しました。

 

 これで『デスアイランド』一日目終了となります。

 

 あとは最低限スターズ組の演技に打ち拉がれてるオーディション組へのカバーを含めたコミュと夜凪・烏山組の『目指せ俯瞰獲得レッスン』に顔出せば一日目は大丈夫です。アキラ君と少し話したりしましたが、さくっと終わったので睡眠を取りましょう。

 

 それでは本日はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

*1
ポール・エクマン博士が提言した人間の表情に関する理論。西洋文化圏から隔絶された文化圏の人々が、西洋文化圏の人の表情の意図を読み取ることができるということから、そして彼らの表出する表情もまた西洋文化圏のものと共通であることを見出した。基本的な6つの感情(怒り・嫌悪・恐怖・喜び・悲しみ・驚き)を表す普遍的な表情があるというもの。

*2
長崎県長崎市にある島。明治時代から昭和時代にかけて海底炭鉱によって栄えていた。撮影地としてその名を馳せた島である。ここで撮影した作品は『007』や『進撃の巨人』など。2015年に世界遺産に登録された。






 今作では原作開始時点を4/29と仮定。
 なので5/28にオーディション締め切り、6/18が三次オーディション当日となっています。クランクインが7/10。
 まあ夏ですしこんなところでしょうか。相変わらずガバガバですね私……。
 というか原作読み返したら10話で顔合わせしてました。RTAとは一体何だったのか。

 ホモ君が観測できないガバが現れてきたので失踪します。


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scene11『ガールズブルー・マスカレード』


原作11巻が発売されたので実質初投稿です。
ゲロ難産でした。頭おかしなるかと思った。  
*今作はルシエド様の作品、『ノット・アクターズ』の影響を多大に受けています。




 

 

 

 

 事件は突然だった。

 

 修学旅行中の24名の生徒を乗せた飛行機が、嵐に遭い海へと不時着した。

 無人島の浜辺で目を覚ましたカレンら12人の生徒たち。彼らの傍らには海に流されたはずの各々のスマートフォンが存在し、無人島にあるはずのないWi-Fiが繋がっていた。

 全てのアプリは作動せず、島外への連絡手段は皆無。

 唯一起動したアプリは、『デスアイランド』という身に覚えのないものだけだった。

 そんな時、『デスアイランド』から奇妙な命令とも取れるメッセージが届く。

 困惑する生徒たちだったが、百城千世子扮するカレンの下、島の中央へと歩き始めた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というのが、今回の映画『デスアイランド』のあらすじだ。

 生き残りたくば殺し合え! って感じのデスゲームもの。結論から言えば、最後まで生き残るのは主人公のカレンのみだ。つまりは百城千世子(わたし)だけしか生存しない。

 

 他の俳優は劇中に於いてみんな死ぬ。

 感動的に、そして時に残虐に、あるいは無意味にその命を終わらせる。彼らが持っているのはそういった役目だ。

 これがデスゲームだとわからせる為に最初に殺される者、力によって制圧しようとして知恵を絞った者に殺される者、裏切りによって殺される者──そうやって、他の人間が悲しみに暮れ、狂気に惑い、友人を殺める。

 そんな修羅場の中で、最後まで決して諦めず、そして誰も殺さずに生き残ろうとするカレン。そんな彼女だけが生き残るのだ。

 

 つまり、私は最後まで『綺麗であること』が求められる。

 観客に生き残った人物が妥当であると納得できるようにする為だ。観客に気持ちよく終幕を迎えてもらう為のこの印象の調整というのが、デスゲームものの難しいポイントの一つだろう。

 最後に生き残る人間は清廉潔白でなくてはならない。

 残忍でサイコな人物や小物感溢れる人が生き残ってしまうと、ソレを見た観客たちはどうしてももやっとしてしまう。どれだけ作品や脚本が素晴らしくても、最高評価を与えにくく感じてしまうことが多いのだ。こういう調整も今回はほぼ私任せだ。

 

 さてと。

 メイクアップアーティストに化粧の微調整をしてもらって、私は周囲を見渡した。俳優や撮影組の調子を確認していく。

 今は島の廃校舎に手を加えてセットを作り上げているところだ。撮影がスケジュール通りに進んでるのを確認して、私は小さく息を吐いた。

 

 今からの撮影は、クラスメイト24名が一堂に会するタイトルコール直前のカットとなっている。

 まず、カレン(わたし)が『デスアイランド』の指示に従って11人のクラスメイトを引き連れて校舎前に現れる。

 そして湯島茜が演じるキャラも同じく11人のクラスメイトを引き連れて現れる。

 再会を喜ぶ二つの集団。さあ24人一緒に島から脱出しよう、と私の掛け声でワンカット。映画本編も一区切りとなる。

 登場人物が出揃い、予定通りの演出だとここで登場人物達の下に名前のテロップとかがまとめて出て、重厚な音楽と共に島全体を映しながらタイトルコール。物語のスタートを知らせる重要なカットになっている。

 

「…………」

 

 懸念にも満たない一つの棘のようなナニカが、チクリと胸を刺している。喉の奥に引っかかっているみたいな嫌な感覚がした。

 ……撮影に支障はない。緊張もしていないし、コンディションも十分だ。カメラの撮影範囲の把握も問題なし、台本(ホン)も全部頭に入っている。いつも通りだ。いつも通りで、なんの問題もないはずなのに。

 

 そんなことを考えていると、メイクを終わらせて日陰に立っていた私の所にペットボトルを二本指に挟んだ元輝くんが現れた。ノーマルな制服の上に濃いグレーのベストを着込んだ彼が軽く腕を上げながらこちらに歩いてくる。少し微笑んで、私も元輝くんの方に向き直った。

 

「百城さん、お茶二本もらったんですけど一本どうですか?」

「せっかくだから貰おうかな」

「猪右衛門の濃い方でしたよね」

「覚えててくれてたんだ」

「当たり前ですよ」

 

 俺は普通ので構いませんし、と言いながら元輝くんが私に深緑のパッケージに包まれたペットボトルを渡してくれる。元輝くんがペットボトルを呷った。

 私も受け取ったペットボトルの蓋を開ける。買ったばかりなのか、それともクーラーボックスに入れていたのか、まだ若干の結露が付着していてひんやりと冷たかった。

 

「……ねえ、ウルトラ仮面。元輝くんと千世子ちゃんって仲いいの?」

「いや、僕に聞かれても困るんだが……」

 

 じんわりと汗ばんでいる元輝くんを少し見ながら、私は薄緑の液体を口に含む。

 少し落ち着く。張り続けていた気が少し緩んで、ジリジリと熱くなっていた頭が平静を取り戻していくのを自覚した。想定よりも少しだけ熱くなっていたみたいだ。いけない、ともう少しペットボトルを傾けた。すっきりとした苦みが喉元を通り抜けた。

 

 ……うん、ちょっと悪戯(しげき)と癒しが足りないかな。

 

「元輝くん」

「どうかしました?」

「芋けんぴ」

「…………?」

「冗談だよ」

 

 なんなんですか……? そう呟きながら若干気の抜けた表情で不思議そうに首を傾げる元輝くんを見て、私は小さく笑みを浮かべた。元輝くん、若干小動物感があるから弄った時の反応が少し可愛いのだ。

 クエスチョンを浮かべながらも緑茶を煽る元輝くんを目尻に納めながらスマホを取り出して時間を確認した。14時30分……廃れた校舎のセットが完成するまでもちょっと時間がある。オーディション組を見ても、これといって私が調整するべきところは見当たらないから少し休憩しても大丈夫かな。

 

「ねえ、元輝くん。なにか面白い虫の話してよ」

「虫ですか」

「うん、そう。私が知ってたら罰ゲームってことで」

「……ぬっ」

 

 そうだなあ、と顎に手を当てた元輝くんを見て、私は少しだけ頬を緩ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は十五時手前。撮影終了予定時刻は十八時。

 ビルや山によって太陽光が遮られることのない夏の南の島の日没は、基本的に十九時程度──。

 撮影を行えるのは日が射している時間のみであるため、撮影全体を通して言えば決して時間的余裕が十二分と言える訳ではないが……それでも撮影の進行具合は予定通りだ。

 撮影済みの素材を確認しながら手塚由紀治(ぼく)は時計をしまった。

 

「……」

 

 暑い。汗が滲んでアロハシャツが背中に張り付き始めている。パタパタと襟元を煽って風通しをよくする。

 ロケ地全体に熱が篭り始めていた。

 撮影直前だ、指示の怒号があちらこちらで飛び交い始めている。緊張をほぐすためだろう、会話をして撮影を待つ俳優陣も出て来た。

 

「……うーん」

 

 上手いこといくといいなあと、柄にもなくそんなことを考える。夜凪景に穂村くんと現状でも相当のリスクを背負っているのだ。これ以上狙ってもいない問題を起こしたくはないというのが紛れもない僕の本音だった。

 ……スターズの売れっ子俳優12人を動員という無謀による弊害は着々と現場に積み重なってきている。今のところ問題なく進んでいるが、12人全員がこの撮影に注力できる訳ではないのが懸念事項だ。……いや、調整の利かないところが出始めるのは仕方のないことではあるし、想定内と言えば想定内ではあるんだけど。

 

 そもそも、デスアイランドのスケジュール自体が一般的に考えてあり得ないほどにカツカツなのが実情だ。

 オールアップを迎えたら即東京に帰還するところからも、この撮影自体元々無茶振りだったことが窺える。

 

 にも関わらず、どんな状況でも"売れる作品にまで仕上げろ"というのがアリサさんからのお達しがある。

 黒山といいアリサさんといい相変わらず人遣いが荒い。思わず大きくため息を吐いてしまう。丸めた台本で軽く肩を叩きながらサングラスを掛け直した。

 

「手塚監督、廃校舎の仕上げ完了しました。確認よろしくお願いします」

「はいはい。……うん、オッケーかな。

 ──よーし、じゃあみんな撮影再開するよ。各自ポジションについてくれ」

 

 雨の染み付いたコンクリート壁。それに蔓を絡ませたり塗料を塗ることによって、廃墟を校舎に見せかける為の作業が完了したとの報告が上がってくる。カメラを通してただの廃墟が不気味な廃墟校舎に見えるようになっているのを確認。

 出来具合は──問題ないね。十分なクオリティだ。そう判断して美術スタッフにGOサインを下す。今から撮るタイトルコール直前のカットの流れを頭の中で軽く整理した。

 コキリと首を鳴らしながら撮影全体を見渡して、俳優陣に声を掛ける。不気味な廃校舎を背景にカメラを俳優に向けた。

 

「準備はいいかい?

 本番、よーいっ」

 

 カチン、とカチンコの音を鳴らす。

 百城千世子が『仮面』を形成して、遠巻きに立っている夜凪ちゃんと元輝くんが"役に没頭"し始めた。……うん、悪くない流れだ。

 

 

「良かった、皆生きてたんだね」

 

 このカット内で台詞があるのは百城千世子と湯島茜だけ。カメラも基本はこの二人を映すアングルだ。

 千世子(カレン)が茜に歩み寄る。彼女の瞳から、"友人の生存を喜ぶ"涙が零れ落ちた。

 

 涙を流す技術は二種類存在する。

 

 一つは涙腺にまで及ぶ身体制御によるもの。

 役に感情を入れ込むことなく、自分自身をコントロールすることによって自在に涙を流したり笑顔を浮かべたりする。そういった自分の肉体を制御することによって為されるシロモノ。

 

 二つ目はメソッド演技といった感情を想起することによって流す涙だ。感情的緊張によって生じた化学物質を体外へと除去する役割を持つソレを、過去の自分の感情によって"再現する"技術。悲しみによって涙を流しながら、その感情を理性で制御することによって()()()()()()()()()()()()()()という演技を行うことを可能にしている。

 

 そして、百城千世子の涙は身体制御に依るものだ。

 感情移入や想起するといったワンアクションが必要ではない為、ワンカットの中で普通の状態から嬉し泣きで涙を流す表情に数秒でシフトすることができる。その上、悲しみという余分な感情の混ざっていない"らしい涙"を流すことができるのがこの技術の強みだろう。

 

 自在に涙を流すなんて当たり前。

 相変わらず身体のコントロールが完璧だ、百城千世子。

 

「生き残ったのは私達だけかと……本当に良かった!

 大丈夫!? ケガはない?」

「うっ、うん。私達は大丈夫」

 

 湯島茜に歩み寄って、百城千世子が彼女の手に指を絡めた。

 "感情を伝える"ことに長けた非常に高い表現力を持つ彼女の演技に()()()()()、湯島茜が思わずどもってしまう。

 "こういう台詞でこういう演技を見せて"──そういうゼロコンマ数秒という刹那にも満たない思考の余白。頭の中が真っ白になっているのがわかる。ぐっとソレを飲み込んで、湯島茜が僅かに破顔して台詞を続けようとした。

 

「皆こそ──」

「私達も大丈夫! 皆で協力すればきっとこの島から生きて帰れるよ!」

 

 流石。

 ごくごく自然に湯島茜をフォローする。決して派手な動き(アドリブ)ではない。湯島茜の台詞を遮り、後ろを振り返って喋りかけるという演出を加えただけだが、それだけの動作で今の一連の流れを映画として加工した。

 湯島茜のセリフをカットして、今のシーンそのもののテンポを早くすることで湯島茜のミスを目立たない形にしている。

 さらにさり気なく移動することで"百城千世子の頭"と"湯島茜の顔"を映していたカメラアングルの中央に自分を据えた。

 湯島茜を体で隠すようなポジションで自分を映す──そうすれば、結果的にそのカメラに写るのは百城千世子だけだ。

 振り返って背後の仲間に呼びかけるようなその動きは、そのカメラに最高の形で納められたことだろう。

 

 本来把握する必要のないすべてのカメラの位置、画面サイズを把握し、かつ自分が映るべきアングルを理解しているからこそなし得る超絶技巧。

 他人のNGすらカバーしきり、自分を映させる為のファクターとして利用する。

 

 女優、百城千世子。もはや演出家要らずだ。

 

「……うん、OK」

「カット! OKです! OK!」

 

 カメラを止める。僕はお疲れ様と、周囲に声をかけ始めた。

 

 現在時刻、15時25分。

 撮影一日目、予定より三時間早く終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『幽体離脱』という表現自体は、実は芸能界やスポーツのような世界ではそれほど珍しいものじゃないと、クランクイン以前に元輝くんから言われていたことを思い出す。

 

『墨字さんの言ってる『幽体離脱』っていうのは、実はそんな不思議な表現じゃないんだ。

 例えば俳優、ジュード・ロウ*1

 『ファンタスティック・ビースト*2』で若かりしダンブルドア役を演じた彼は、その映画撮影を"奇妙な、幽体離脱しているような経験"だと表現してる。

 観客とキャラクターの二つの視点が重なり合うことで特別な感覚を覚えたってことだな』

 

 他にも今新潟で教授をやってる元体操選手の五十嵐久人*3も経験してるって話だと、元輝くんはそう言っていた。

 

 『幽体離脱』── お芝居中の自分をフカンして、コントロールする技術。

 アレは、墨字さんが言っていた、たくさんの『目玉』を選ぶことによって出来ていたんだ。

 

「千世子ちゃんは自分がどう見えてるかわかってたの。

 でもやっぱりイメージとズレるの。目玉がカメラと合ってないんだわ」

「うん、夜凪は定期的に変なことを言うな。大丈夫か?」

「大丈夫よ」

 

 私みたいなメソッドアクターの基本的な弱点は感情移入が激しすぎて熱中しすぎてしまうこと。

 エキストラのお仕事でお侍さんに蹴りを入れちゃった時みたいに、私が私自身を制御できなくなってしまう。

 そこまでじゃなかったとしても、カメラの撮影範囲から思わずフレームアウト──そういうNGを起こしても不思議じゃないわ。

 だからこそ、役になりきる演技しかできない私には、自分を客観視して制御する技能が要る。千世子ちゃんや元輝くんみたいに綺麗に映り続けることが必要なんだ。

 

「どうしても私だとほんの少しズレてしまうの。どうしてもカメラレンズに私の目玉が綺麗に入らない。

 千世子ちゃんはあんなにも沢山の視点から正確に把握できていたわ、どうしてなのかしら」

「……よくわからないが、夜凪、お前は明日台詞あるだろう? そっちの読み合わせをやった方が効率的なんじゃないか?」

「うん、そう思ってたんだけど」

 

 『あ、ごめんなさい私ばっかり。次は私が武光君を撮るから──』

 ピースサインをしながら画面に映る私を見る。どうしても『私が見ている風景(フカン)』と『カメラによって切り取られた景色(フカン)』が一致しない。

 んー、とその誤差を修正する様にカメラを通して海を撮りながら、

 

「……あのシーン、とても残酷よね。何度か練習してみたんだけど。

 私多分本番で嘔吐するわ、オエって。あんな風に友達が殺されちゃうと、私、どうしても吐くのを我慢できないみたいなの」

 

「なるほど。……ああ、だから視点を手に入れようとしてるのか」

「うん、明日までに何とかしたいから。がんばらなくちゃ。

 元輝くんなら何かわからない?」

「ん、オッケー。ちょっと見せてくれ」

 

 隣に座っている元輝くんにカメラを手渡した。

 カメラの前でぴーすぴーすしてる私の録画映像を元輝くんが確認する。

 

 それにしても、こうやって元輝くんと海に来るのは大分久々な気がするわ。海風に揺られた髪を手櫛で梳かした。磯の香りが鼻をつく。

 わかる? そう呟きつつ元輝くんの肩に頭を乗せるようにしながら、元輝くんの手元にあるスマートフォンを覗き込んだ。風に揺れた元輝くんの髪が私の鼻を撫でた。

 

「……いや、なんで普通に話してんだ君たちは!? 驚いたぞ俺は!?」

 

「相変わらずいい声してるな烏山。耳がキーンってなったぞ」

「そうね。私もそう思うわ。耳がキーンってなるもの」

 

「ノーリアクション!? いきなり現れたのになんの反応もないとか俺がおかしいのか!?」

 

 武光君が若干声を荒げていた。いきなり現れたって……そんなに驚くことだったかしら。

 はあ、とため息と共に武光君が頭を掻いた。驚きを飲み込んだのか、中途半端な表情で武光君が元輝くんの方を見やる。武光君が元輝くんを挟んで私と反対側に腰掛けた。

 

「いきなり出てきたのには驚いたが……改めて、今回はよろしく頼むぞ、元輝」

「ん、烏山とちゃんとした共演は初めてだもんな。よろしく頼むよ」

「……元輝くんと武光君って知り合いだったのね。知らなかったわ」

「大したことじゃないんだが、CALPICEのオーディションで色々あってな」

 

 ポリポリと、困ったように武光君が頬を掻いた。……CALPICEってなんのことかしら。後で調べてみよう。

 そんなことを考えていると、隣に座っていた元輝くんが、"やっぱり墨字さんの言うようにこっちのタイプになるよな"と静かに呟きながら、感謝の言葉と一緒にスマートフォンを私に返却した。

 

 いいか? と前置きして元輝くんが人差し指を立てる。

 

「カメラワークの把握っていうことにおいて、イメージというのは大事なファクターだ。

 5メートル測れって言われてもそうすぐ出来ることじゃないだろう? 意外と自分のイメージが大切になってくる。紐だったり箱だったり、イメージ自体はなんでも構わないが。

 ……有名どころはアンカーポイントだな。これを使ってる演劇俳優は多い。そうさな、演劇出身の烏山なら知ってるんじゃないか?」

「ああ、俺もアンカーポイントは使ってる」

「景は……そりゃ知らないよな」

 

 じゃあイメージの具体例はコレだ、と元輝くんが自分のスマートフォンを取り出した。指先で軽く回転させて私の方に背面を向ける。出っ張っているカメラ部分を指差した。

 

「このスマホのカメラの焦点距離*44.28mm。35mm判換算*5で26mm相当だ。

 画角*6はデフォルトで80度……水平67°、垂直53°ってところだ。で、ズームするとこれがそのまま水平移動する。望遠にまでなると少し仕組みが変わるんだが……。

 今の写真の被対象物距離を5メートルだと仮定すると……対角線距離は約5.6メーター弱になる」

「……よくわからないわ。

 元輝くん、簡単に言えばどういうことなの?」

「この範囲を撮影してる」

「……ふむ」

「わかったわ」

 

 元輝くんが立ち上がって木の棒を拾って軽くカメラの撮影範囲を描いた。視力は悪くないはずなのに、なぜか付けている伊達眼鏡が月光に反射してキラリと光った。なんで眼鏡掛けてるんだろう?

 木の棒をざくりと砂浜に突き立てると、木の枝を掴んでいた右手でそのまま自分の右目を指差した。

 

「人間の目の視界の画角は上側60°、下側70°で、左右合わせて120°というのが通説だ。これは35mm換算で12mmあたりに相当する。超広角レンズレベルだな。

 カメラは人の目に近いんだが、それでも広角レンズとかをつかってない通常のカメラなら、人間の目より少し見える範囲が少ないんだよ」

「あっ」

「……なるほど」

「そういうことだ。

 この撮影範囲の差っていうのが景が悩んでた"カメラに目玉が入らない"原因で、百城さんが見てる世界になる。百城さんがああいう演技ができるのは、この差を理解して即座に撮影にフィードバックしてるからなんだ」

 

 努力の集大成さ、本当に。元輝くんがそう呟いて、なんだかチクリと心が痛んだ。

 …………? 今のは何だろう。それにしても千世子ちゃん凄いわ、そんな凄いことをしてたのね。知らなかった。

 

「でも私にはできそうにないわ。……どうしよう」

「カメラマンに頼んで、撮影前にカメラを使わせてもらうといい。

 俺もやってるが、カメラの視点で見えるものを撮影前に頭の中に叩き込んでおくのが意外と大切なんだ」

「なるほど、わかったわ。ありがとう元輝くん。

 ……明日の撮影、千世子ちゃんに負けないように頑張らないと」

 

 ふんすー。

 

 気合を込めて鼻息を吐きながらそう意気込むと、武光君が同調するように大きく頷いて、元輝くんが困ったように笑った気がした。

 

 ……何か変だったのかしら。

 

 

 

 

*1

本名、David Jude Heyworth Law。ロンドン出身の俳優。北野武作品の大ファンであることでも知られ、北野監督本人にキャスティングしてくれないかとラヴコールを送ったことは有名なエピソードである。

*2
原題『Fantastic Beasts and Where to Find Them』。『ハリー・ポッターシリーズ』のスピンオフ作品。ハリー・ポッター第一作から70年前を描く魔法ワールド、第九作以降の作品群。

*3
1976年のモントリオールオリンピック、体操男子団体の金メダリスト。彼は金メダルを取った時、その人生で最初で最後の『幽体離脱』をしたと言っている。演技をしている自分がいて、それを見下ろしている自分がいたのだと。

*4
イメージセンサーとレンズの光学的な焦点の距離を示す。この距離は短いほど写る範囲が広くなり、長いほど狭くなる。

*5
35mm判に換算すると焦点距離○○mmのレンズに相当する画角になりますよっていう値。面倒臭いが慣習としての表記である。

*6
写る範囲を「画角」と呼ぶ。画角は広いと広い範囲が写り(つまり広角になる)、狭いと狭い範囲しか写らない(つまり望遠になる)。




虫のトリビアとカメラのところは完全に作者の力量不足です。許して。
虫のトリビアはルナ・モスしか思い浮かばなかったんや。許して。
あとチヨコエルと景ちゃん描きながらずっと血を吐いてた。爆ぜればいいのに……(怨念)

こっそりタグを増やしたので失踪します。




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scene12『宣戦布告』



デスアイランドの脚本、やっぱどう足掻いてもクソだったので実質初投稿です。
そろそろ原作との乖離が激しくなってくる時間……。


 

 

 

「じゃ次、竜吾君が和歌月さんに斬られて、それを目撃した3人のシーンを貰うよ」

「はいっ」

「はい」

「はい」

 

 デスアイランド撮影二日目、最後の撮影。

 監督に呼ばれた木梨さんが右隣で元気に返事をしていて、反対側で茜ちゃんが落ち着いた様子で答えていた。カメラマンさんがカメラを覗き込みつつ私たちに位置を指示を飛ばす。

 

「うー、初めての台詞緊張するね、がんばろ」

「……うん」

 

 周りを見渡せば、カメラの撮影範囲には今にも殺されそうな軽薄な役回りを演じる堂上さんと、怒りに狂って堂上さんを殺しそうな和歌月さんと、それを目撃してしまう普通の女の子三人(わたしたち)がいる。撮影範囲の外にこのシーンに出演する私たち以外の人達がいる。

 撮影範囲の外に目を向ければ、元輝くんも、真咲君も、武光君も、千世子ちゃんもいる。

 真咲君たちと三人で固まって話をしている元輝君に視線を向けると、武光君が期待してるぞとばかりにサムズアップをしてくれて、元輝くんが無表情のままに静かに頷いた。昨日手伝ってもらったもの、まかせて。ふんすっと鼻で息を吐く。

 ……うん。

 

「茜ちゃん。私、頑張るから」

 

 決意を新たにする。

 頑張るから──だから何だと言うわけではないけれど、これは自身への宣誓のようなもの。私が私を制御するという誓いだ。

 返答はくれなかったけど、私の方から茜ちゃんに認めてもらえるように歩み寄っていかなくちゃ。これ以上元輝くんたちに迷惑はかけられないし、私が頑張らないといけないわ。

 

「はいテストォ!」

「テスト!」

 

 ──カチン。

 撮影が始まった。

 

 

「リンが死ぬくらいなら、お前が死ねば良かったんだ!」

「やっ、やめ……うわああ!」

「……キャア!」

 

 『幽体離脱』……お芝居中の自分をフカンして、コントロールする技術。

 たくさんの『目玉』を選ぶことによって出来ていた、千世子ちゃんたちがずっと綺麗でいられるワケ。昨晩の元輝くんの授業のお陰で、なんとなく理解できた俯瞰というもの。

 

 ……今使われているカメラは三台。

 二人越しに私達を捉えているカメラ。

 堂上さんを斜めから捉えているカメラ。

 私たち三人を上手から捉えているカメラ。

 私を映しているのは、二人越しのカメラと上手からの二つね。

 ……大丈夫。ちゃんと把握できているわ。元輝くんの言う通りに撮影開始前にカメラを触らせてもらえたのが良かったみたい。

 

 ──……よし。

 

 撮影カメラの画角はスマートフォンのものより広かった。私の視界との差は比較的少ないから差分はさして気にしなくていい。

 私の把握する世界に楔を打って、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 首のない友人の死体を目の当たりにした和歌月さんが、怒りに体を震わせながらその原因となった堂上さんを睨め付けている。

 怒声と共に『デスアイランド』からの指示によって手に入れた刀で堂上さんを斬りつけて、それを受けた堂上さんが倒れた。バタンと堂上さんが崩れ落ちる音。

 それを見た木梨さんが叫んで、刀を血で濡らした和歌月さんが私たちに向く。

 

「あんた達もこいつとグルなんじゃないの!?」 

「ちっ、違うよ!」

「信じられない、証拠はあるの!?」

「来……来ないで!」

 

 フカンする。

 和歌月さんが正気を失った様子で、狂乱の演技で刀を振り上げていた。

 私の隣で木梨さんと茜ちゃんが後ずさった。恐れ慄きがらも弁明するも、朱子ちゃんと木梨さんは恐怖心に駆られている。ぶんっと、和歌月さんが刀を大上段に構えた。ライトに照らされて、磨かれた刀身が不気味に照り輝いた。

 

「?」

「ん?」

「……あれ?」

 

 …………?

 

「うん? 夜凪ちゃん? 次、君の台詞。『皆、逃げて』だよ。

 台詞飛んじゃった?」 

 

 ……あ。

 やってしまった。

 ? と手塚監督が首を傾げた。ごめんなさいと頭を下げる。俯瞰に気を払い過ぎて、ちゃんと役を演じられていなかったみたいだ。

 

「すみません」 

「緊張しちゃったかな。いいよ、テストはそのためにもある訳だし」

 

 あはは、と監督が笑って許してくれる。上手くやろうと意気込んだのにNGを食らってしまった。

 隣を向いて茜ちゃんに頭を下げる。

 ごめんなさい、私がちゃんと出来なかったから、茜ちゃんたちの演技をダメにしてしまった。私のミスだわ。

 

「ごめんなさい、うまく集中できなくて……」

「カメラ前は緊張するもんやから」

 

 しょうがないやっちゃな、と小さくため息を吐きながら茜ちゃんが前を向いた。そう言ってくれた茜ちゃんを見て、ぶんぶんと頭を振って、パチンと赤みが差さない程度に頰を張る。……よし、切り替えなくちゃ。

 集中しろ、私。

 ふう、と一つ息を吐いて精神を落ち着けると、隣で腕をぷらぷらさせていた木梨さんがぐっと親指立てて、私に励ましの言葉をかけてくれてくれた。

 

「どんまい」

「ごめんなさい。

 ……次は失敗しない。がんばるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「監督~、俺達の芝居は問題ないでしょ。次本番にしようよ」 

「な……それじゃテストの意味ないでしょ。

 竜吾さん、地べたに倒れる芝居少しでもしたくないだけじゃないですか」

「……んー」

 

 倒れる演技を繰り返していた堂上くんがオーバーなリアクションでそんなことを言い始めた。それを見咎めた和歌月ちゃんが反論している。

 まあ、そこまで清潔じゃない床に倒れ込む演技をそう何回もしたくはないというのが竜吾君の本音だというのは和歌月ちゃんの言う通りだろう。僕自身その気持ちは分からなくはない。

 

 普通、撮影にはテスト撮影がつきまとう。

 テスト……つまりは撮影テスト段階のリハーサルは、細かい調整を加えながら複数回行うのが一般的だ。

 基本的にはこういうテストを複数回重ねることで、俳優陣は自分の演技の微調整を重ねるし、撮影班もフィルムの感度と絞り値の関係だったり、色彩フィルターや立ち回りの細かな修正であったりを行うのだ。

 だから、テストに充てる時間を一、二回分減らすことに然程のメリットがあるとは言えないが──

 

「そうだね」

 

 ……僕自身すら、今の撮影でどういう画が撮れるか分からない。なにせ使う俳優があの黒山が推してきた夜凪景だ。何をやらかすのか予測がつかない。

 だから彼女を使うときは、テストにテストを重ねるというのが一番正しいやり方だというのはわかっている。

 本番は練習のように。そして練習は本番のように。

 役に入り込んだ彼女がどう動くかをテストで見極めて、周囲の俳優やカメラの動かし方を調整して寄り添うように撮影する形式が、一番適した撮り方であることになんら間違いはない。

 

「……」

 

 テストを重ねず本番を行えば、夜凪景の動きに周りを合わせるってことはできなくなってしまう。

 "迫真の演技しかできない"生粋のメソッド・アクターである彼女を使うことにおいて、テストを重ねずに撮影を敢行するということはそういうことだ。その上、仮にこれ以上のリスクを背負っての撮影を敢行するとなれば、どんな些細なミスがスケジュールに致命傷を与えるのかが分からなくなってしまうだろう。

 その上、どう動くが分からない演技になることは避けられなくなってしまう。ソレを本編に採用するということが、どれほどリスクの高いことなのかは理解している。

 

「夜凪ちゃんどう? 次本番でいけそう?」

 

 ……にも関わらず、僕は()()()()()()()()と、そう思っている。

 夜凪景という女優は異質だ。それこそ、僕がリスクを背負うことに対する躊躇いが劇的に減少するほどに。

 普通は初めての映画撮影じゃあ、緊張する自分を制御して、なんとか役をこなそうとするものだ。

 仮に場馴れしてる女優であったとしても、スターズ主催というアウェーなロケ地の空気に飲まれないようにと、自分の演技を見せようと苦心するものだろう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それがどれほど特異なことなのか。

 緊張でまだ堅い役者が多いオーディション組で、一際異質な存在感を放っている彼女の演技の本質がどういうものなのか──僕だって掴み始めているんだ。千世子ちゃんだって分かり始めているだろう。

 "仮面を被らない"夜凪景の演技。出来ることならお互いに影響し合ってほしいものだが……。

 

「……はい!」

「じゃ、本番で」

 

 一瞬夜凪ちゃんが不安そうな顔をしたが、すぐに返事をする。

 その元気のいい返事に、僕は頷いてみせた。席を立ち上がってスタッフに軽く指示を飛ばした。

 

 懸念事項は幾つかある。

 一番は元輝君だろう。黒山の甥っ子、アリサさんがスターズに引き込もうとしている"金の卵"。

 今の千世子ちゃんの精神的支柱となり得る男で。

 そうであるにも関わらず、夜凪景と同じように()()()()()()()()()()()()()()()()()オーディションでイカれた演技を見せた俳優。夜凪ちゃんの演技が、彼にどんな影響を与えるのかわからないというのが一つの懸念材料ではある──が。

 ソレを差し引いてもここで彼女の演技が一体どれほどのものなのか、どういう本質であるのかを正確に理解しておきたいというのが僕の本音だ。でなければこれから先の撮影でどう扱うかということを決め辛くなってしまう。

 僕は静かに笑みを浮かべながら、

 

「本番!」

「よーい!」

 

 カチン、とカチンコの音を鳴らした。

 ──『入った』。今度こそ、夜凪ちゃんの心が役の中に入り込む。

 楽しませてくれよ、夜凪ちゃん。しがない映画監督でしかない僕だけど、君には本当に期待してるんだから。

 

「リンが死ぬくらいなら、お前が死ねば良かったんだ!」

「やっ、やめ……うわああ!」

「キャアア!」

 

 そして。

 その演技は、一瞬だった。

 

 

 

「────皆……逃げて!」

 

 

 

 ……身震いがした。

 ただ一言のその演技に。刹那でしかないそれに。末恐ろしいまでにこの僕が身震いさせられた。

 和歌月さんが竜吾くんを刀で斬る演技をして、そのまま竜吾くんが倒れこむ。木梨さんが悲鳴を上げて、

 

 ──夜凪ちゃんが、嘔吐した。

 

 カメラに映さないように、撮影範囲の死角に吐瀉物を落とすことでNGを喰らわないようにしながら演技を続行。

 ふらついて、すぐ立ち上がった演技をしたように見せかけて、夜凪ちゃんは真っ青な顔で台詞を吐いた。

 予定通りではない台詞回し。

 湯島茜の台詞をスキップした、脚本の流れを無視したものだ。

 でも、とても自然な演技だった。

 人が、人を殺めてしまった瞬間を見た人間の反応(セリフ)そのものだった。

 

「……ははっ」

 

 思わず笑みが溢れる。

 一瞬前まで健康体そのものだった夜凪ちゃんが、一秒足らずの間に顔を真っ青にして、嘔吐して、なおも芝居を続けていた。

 普通の女の子のように、恐怖し、怯え、真っ青な顔で嘔吐して。

 根底から普通の女の子へと没頭しながら、しかして緻密な計算でその行動を制御する。

 二重人格に等しいソレを行いながら、尚も僕たちに現実と仮想の境目を疑わせるような演技。

 

 ()()()()()()()()()()()という矛盾。

 誰もが目の前の光景を疑うようなソレを見せられて。心配と期待に埋め尽くされているはずなのに。

 僕の口元には微かな笑みが浮かんでいた。

 

「──カット。OK」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マジでフラグ管理が絶望的な事(デスアイランド)になってくるRTA、はぁじまーるよー。

 

 前回は夜凪・烏山組の『目指せ俯瞰獲得レッスン』に顔を出して伊達眼鏡を掛けながら意気揚々とカメラの規格について語り倒したところまでやりました。眼鏡ホモ君の出番やかかってこい……! ってところまでですね(違う)

 因みに、ホモくんが眼鏡をかけて知的っぽさを演出しているのは、こういう何かしらのものを教えるときに伊達眼鏡かけて知的キャラを獲得しておくと、超低確率ではありますがスキルの熟練度が上がることがあるからです。

 まあ実際どうなのかというと、確率で言えば習熟度の向上が発生する確率は1%を切っているとのことなので、基本的には趣味が九割です。……眼鏡をかければ知的という発想自体がお馬鹿な気がしないわけではないですが、気にしたら負けです。

 さっさと帰宅して睡眠を取りましょう。

 

 ……ん、アキラくんとのコミュが入りました。

 アキラ君との友好度が一定以上だと、デスアイランド撮影の1週目のいずれかのタイミングでコミュが入ります。基本的には事務連絡とちょっとした話くらいのものなんですが……。

 

「やあ元輝くん。……ああ、部屋に帰るところだったのかい?」

 

 >手を上げながら爽やかに笑うアキラにあなたは手を振り返した。

 >そうだ、とあなたは伝えると、アキラはポリポリと頰を掻く。何やら伝えたいことがあったらしい。

 

「だから星だって……いや、明日、僕はウルトラ仮面の方の撮影で島を出てるからね。その連絡と僕がいない間は頼むよってことを伝えにきただけさ」

 

 アフターケアまで万全とかなんなんですかイケメンなんですか? イケメンでしたね。ぺっ。

 問題ありませんでしたね。いつも通り事務連絡込みのものでした。

 1日目にコミュが入った場合、二日目は堀くんが『ウルトラ仮面』の撮影で島にいないため、その連絡を兼ねてのものであることがほとんどです。これはスターズの俳優陣のスケジュールの兼ね合いのため仕方ないことではあるんですが、それでもやっぱり堀くんという緩衝剤がいないのは精神的な面で非常に辛いんですね(2敗)。

 ただ真咲君という第二の生贄がいてくれるのでそちらを頼って切り抜けましょう(他力本願)

 私は百戦錬磨の走者です。出来ねえことなんて(七割方)ねえよ……!

 

 アキラくんにそんなニュアンスのことを伝えます。若干心配されましたが、ここは気合で押し切りましょう。むしろホモくんも一週間後には同じことをする予定なのでキメ顔でもしながら"向こうのことは君に任せる"的なことを言っておきます。

 ……はい。これで完璧ですね。精神がイカれた時のための逃走用経路の確保が一つ完了しました(過言)

 アキラくんにおやすみの挨拶を言ったらさっさと自室に戻って睡眠とりましょう。こんなとこで気合とチャートに身を任せてオーバーワークしても過労死するだけなので意味がありません(2敗)。幾らやっても終わらないサビ残……これが社会の闇か……。

 

 ………………。

 

 はい、ということで『デスアイランド』撮影二日目になりました。サビ残なんてなかった。いいね?(虚勢)

 

 ということでスキンケアやらコンディションの維持に必要なことをこなして食堂に向かいます。途中でスターズ組やオーディション組と合流することがありますので、遭遇したら出来る限りコミュを取っていきましょう。とは言ってもそんなに積極的に接触する必要はありません。会ったら話すくらいのイメージで大丈夫です。

 ……今回は武光君と真咲君ですか。中々いい引きをしました。話題はそうですね……今日の撮影についてでも話しておきましょうか(思考停止)

 

 ……食堂に着きました。

 今回の撮影では朝ごはんはビュッフェ形式をとっています。バランスを考えながらさくっと取り寄せてしまいましょう。もう入らんというレベルにまでたくさん食べる必要はありませんが、少なくとも半日は動けるエネルギーを獲得しておきたいところです。正直私としてはウィダーで構わないんですが、やり過ぎると周りから心配されてしまうことが多いのでちゃんと食べます。景ちゃんとかにバレるとヤバいので仕方ないですね(1敗)。背に腹は代えられません。

 

 朝ごはんを食べてる間に二日目の大雑把な流れについて説明しておきましょうか。

 デスアイランド二日目の撮影アクトですが、ホモくんが参加するシーンはほぼありません。森の中を歩くシーンくらいのものです。その為今日はサポートに回ることで技術の習得に努めます。

 

 俳優が24人も参加している撮影なのでホモくんが参加できる撮影の絶対量が少なくなってしまうのはどうしても仕方ありません。

 経験を積むっていう観点のみで見れば、デスアイランドに参加せずに別の作品に出るのがウマ味だったりするんですが……。

 絶対量が少なくなるってことを差し引いても、『メソッド演技(EX)』と『百式演技術』の両方を同時に習熟度上げを行えるのがデカ過ぎるので、俳優ルートだと正直参加する以外の手がないんですよね……。

 それでも他にも『大黒天』に所属していた場合に限ってですが、半分くらいの確率で『デスアイランド』ではなく劇団天球のインプロ*1に参加することも出来るので、大黒天に所属してるならそっちのルートを狙ってもいいと思います。

 今回はフリーランスなのでその手は使えないので仕方ないんです。経験値の補填はデスアイランドの撮影期間中に別口でやれる算段はつけているのでもーまんたいです。

 気張っていきましょう。

 

 あ、撮影が始まるみたいですね。特にこれといって気にすることもないのでさくっと終わらせます。

 本日のメインイベントまでは特にこれといって真新しいこともないので倍速で流しておきますね。はいクロックアップ。

 

 

「じゃ次、竜吾君が和歌月さんに斬られて、それを目撃した3人のシーンを撮って貰うよ」

「はいっ」

「はい」

「はい」

 

 ということで今日のメインイベントこと、景ちゃんの初台詞シーンです。

 すでに今日のホモくんの撮影は終わっているので制服からなんだかんだ理由をつけて私服に着替えておきましょう。ここの手を抜いてしまうと衣装関連でトラブルが発生してしまうので気をつけます。ありえないと思うんですが……景ちゃんと幼馴染みなので吐瀉ったところに突撃をかますかもしれないので念には念をってことでやっておきましょう。

 

 メインイベントこと夜凪景の初台詞シーンですが、これは景ちゃんの俯瞰技術お披露目シーンであると同時に、千世子ちゃんと手塚監督が夜凪景の本質を掴み取るシーンでもあります。言うまでもなく重要なシーンなんですね。

 ぐっと景ちゃんがこっちを見てきたので取り敢えず頷き返しましょう。何か言うとよくわからんフラグが乱立するので下手なことは言えません。耐え忍びましょう。

 ……隣の武光君もサムズアップをしていました。"努力の成果を見せてもらうぞ"と言ったところでしょう。ええ、私もスキル獲得の為にも見せてもらいたいですね(人間の屑)

 ということでテスト撮影ですが──

 

「うん? 夜凪ちゃん? 次、君の台詞。『皆、逃げて』だよ。

 台詞飛んじゃった?」 

「すみません」 

「あはは、緊張しちゃったかな。いいよ、テストはそのためにもある訳だし」

 

 …………。

 相変わらずテストは失敗するんですね。これだからメソッドアクターはよお……!(特大ブーメラン) 

 とはいっても次の本番ではうまくやれてしまうんですが。一回のミスでほとんど全てクリア出来ちゃうとか本当に馬鹿げてます。普通は色々苦労してからクリアできるものなんですが……。リッキーといい阿良也くんといい、本当になんなんですか。なんでそんなに簡単にステ上げできるんですか。そんなんチートやチーターや……!(小並感)

 

 因みにですね。

 夜凪景の成長自体は"能力が伸びる"とかそういったものではありません。"撮影に最適化する"という形の成長の繰り返しに近いです。言ってしまえば、()()()使()()()()()という成長です。

 その為新スキルの獲得とかではないんですが、メソッド演技のランク上げには非常に役立ってくれるので見ておく事に損はありません。

 あ、どうやら手塚監督が次のテイクを本番にすることを決めたみたいですね。景ちゃん使ってるのにテストを重ねないとかホントにリスキーですよね。手塚監督らしくありませんが、正味RTA的にはありがたいのでもっとやってもらいたいところです。

 

「リンが死ぬくらいなら、お前が死ねば良かったんだ!」

「やっ、やめ……うわああ!」

「キャアア!」

 

 

「────皆……逃げて!」

 

 

 >……身震いするような演技だった。

 >顔を青ざめさせて、その場でしゃがんで吐いて。それでもなお演技を続行する。ふらついて、すぐ立ち上がった演技をしたようにしか見えてないだろうソレは。

 >映画に不都合なことは画面の外で行う。今のはそういう演技だ。──景のその演技に、あなたは思わず見惚れてしまった。

 >そして、景の為したその情景に、頭の奥を殴りつけられたような鈍痛がして。ダメだ、そう思うと同時に反射的に体が動いていた。

 

 ちょっとホモくん何してるんですか!?

 

 カットがかかると同時にホモくんが景ちゃんのところへと走っていきました。えっちょっまっ。

 どもる茜ちゃんを押し除けてホモくんが景ちゃんに回復体位を取らせます。心配のあまり飛び出してしまったみたいですね。驚かせんなよ……(クソデカため息)

 

 >……意識がない。景が横伏せのままもう一度嘔吐した。服に吐瀉物が付いてしまうが知ったことではない。私服に着替えているから問題もないだろう。

 >あなたは景をそのまま横に向け、口内の吐瀉物をかき出した。刺激しないように細心の注意を払う。気絶時の嘔吐は危険だ。喉に詰まれば、窒息に繋がり人を死に至らしめる原因となってしまうから。

 >気道は──なんとか確保できた。恐らくこれで大丈夫だろう。

 

 ……なんとかなりました。こんな時のためにと色々調べておいたのが功を奏しましたね。予定外ではありましたが、一応これもチャートの想定内です。なんの問題もありません。

 

 ……景ちゃんの失神──心因性による失神は、基本的に神経の混乱による低血圧が原因です。

 こういった脳震盪のような外的要因によらない失神は、多くの場合において血長時間の立位や温暖下での激しい運動、そして()()()()()()によって誘発されます。

 ストレス過多によって発生するコレは、血管迷走神経反射と呼ばれる症状です。横になっていれば全身に血液が戻って基本的に数十秒以内に目覚めることが大半です……が。

 ……目覚める様子がありません。恐らく相当深くまで潜ってしまっていたのでしょう。

 数時間も横になれば完全復活するはずです。担架で寝室に運んで看病しながら彼女の復活を待ちましょう。

 仕方がないんですが……うーん、流石の私も疲れましたね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目玉焼きには胡椒だろうが……!」

「いいや違うな! ソースこそ最強だ!」

「やんのか武光テメェ……!」

「上等だとも……!」

 

 デスアイランド、撮影三日目の朝。

 夜凪景リバース事件の翌日を迎えた源真咲(オレ)たちオーディション組三人は食卓を囲んでいた。

 長年分かり合えない目玉焼き調味料論争に火がついている。俺と武光がバチバチと火花を散らしている。ソースなんて邪道誰が認めるかよ……!

 

「両方とも朝っぱらから声が大きい。

 あと因みに目玉焼きには醤油だ。異論は認めん」

「あ、ワリィもと──いやサラッと煽られたな。止めたいのか悪化させたいのか一体どっちなんだよ」

 

 やんのかコラ。そう視線を向けるが、件の元輝は素知らぬ顔でサバの塩焼きをかじっていた。もぐもぐとリスみたいに食事を続けている元輝の様子に毒気を抜かれて、はあとため息と共に椅子に腰掛ける。対面の席で言い争っていた武光も仕方あるまいとでも言いたげな顔で座り直していた。……しょうがねえな、今回は見逃してやる。

 パキンとソーセージを頬張った。今回の撮影所で出される飯は中々に旨い。流石スターズ主催なだけはある。金をかけているところが違った。

 

 さっきまでとは打って変わってのんびりとした雰囲気の俺たちのもとに、夜凪が茜さんの手を引いてやってきた。

 俺の隣に座っている元輝の横に立つと、茜さんと繋いでいるのとは反対の手でピースサインを作った。ピスピスと人差し指と中指を動かしながら、自慢げに鼻を鳴らす。

 

「元輝くん、仲直りしたの、私達! えらいでしょ!」

「ん、おはよ、みんな。ちょいとお邪魔するで」

「……あ、そうだわ。おはようみんな。昨日は心配かけちゃってごめんなさい」

「朝の挨拶より先とか。よっぽど嬉しかったんだな景……。

 ん、おはよう二人とも」

「おはよーございます、お二方」

「うむ。仲がいいのは喜ばしいことだな。おはよう二人とも!」

 

 ……茜さん、夜凪のこと許したのか。

 茜さんしっかりものだからな。あの時の夜凪に悪気があったのかわかんなかったから許せないってのが大きかったんだろう。昨日の出来事で"ああいう演技をする奴"ってわかったのが功を奏したのか。

 悪気がねえって、それがわかるのは大事だもんな。茜さんもそうだったんだろう。

 ……うん。夜凪の謝罪も弁解も聞かんとばかりに無視を決め込んでいたから二人の仲が良くなったのは非常にいいことだ。身内以外に対するガン無視は俺の心が痛いからな。

 これで俺の苦労も減るだろ。

 

「みんなごめんなさい。あのオーディションは私が悪かったわ。武光君本当に殺そうとしちゃうし、私のせいでめちゃくちゃにしちゃったもの。ごめんなさい、もうしないわ」

「……ちょっと待ちぃ。あのオーディションで悪かったのは何も理解出来とらんかった私や」

「ううん、私が悪かったの」

「私や」

「……っ」

「……っ」

 

 ……うん。

 減るといいが。……なんか別のことで増えそうな気はするけど。

 

「俺たちも朝飯食ってるし、二人もご飯取ってきたらどうだ?」

「あ、そうね」

「せやな。景ちゃん、いこか」

 

 よくわからん空気になる前に話題を提供してさっさと話を回す。隣の前から生暖かい視線を感じた。うるせえこっち見んな。

 離れていった二人を尻目に、俺は視線を避けるようにそっぽを向きながら焼き鮭を頬張った。脂が乗っててうまい。

 俺が納豆に手を出したところで、なんとも言えない表情で俺を見ていた元輝が視線を仲睦まじく朝食のメニューを選んでいる二人に向けて、油揚げとネギの味噌汁の入ったお椀を傾けた。

 無事でよかったよ、と前置きすると。

 

「にしても景と茜さん、いい友達になりそうだよな。

 景があんなに喜んでるのも久々に見た。初めて出来た同年代同業者の友達って奴がよっぽど嬉しいらしい」

「うむ。

 本当に殺そうとしていたということを当人である俺に言うとは中々エキセントリックだったが……仲がいいのはいいことだ。真咲もそう思うだろう?」

「……ま、そーだな。

 友達と友達が仲良くしてるのはいいもんだ」

 

 せっかくの長期撮影だ。仲良くならなきゃ勿体ねー。

 俺はそんなことを思いながら、醤油を垂らした納豆をかき込んだのだった。

 

 

 

 

*1
即興劇(Improvisational theatre)の一種、インプロ・ゲーム。台本を用意せず、即興的な演技手法を用いて、俳優が自発的に演じるエチュードの中でも、決められたルールに基づいて、明快なシーンを作り上げるパフォーマンスを行うもの。役者のトレーニングのツールとしても有用とされる。多くの芸術家たちが、発想力や文章構成力の訓練として使用しする。「有機的な舞台」とも呼ばれ、ドラマセラピーの分野などでも活用されているとのこと。




目玉焼きには俄然醤油派の作者です。
きのこたけのこ戦争に次ぐ目玉焼きには何かかけるかの派閥争い。終わりなき戦いがここにある……!


私は気付きました。
原作の時系列通りに撮影する必要はないんだと。二次創作だしね、そこらへんは甘めに見ていただければ……。
というかこのSSの為にデスアイランドの脚本組み直してたんですけど、原作で明らかになってるシーンを上手いこと繋ぎ合わせようとするとやっぱりクソ映画なんですよね。というな23人が死ぬ映画が2時間で収まるわけがねーっていう。

そんな感じで早く羅刹女描きたいし特撮タグがヤベーイし始めそうなので失踪します。


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scene13『のぞむもの』



技名叫んでから殴るBLEACHが降ってきたり、かみんな目玉焼き大好きだったので実質初投稿です。
あと五千字に収まらんな?


 

 

「クハハハ!! かかってこいガキ共! カチンコソードだオラァ!」

「アハハ、ちんこだって!」

「よいしょっと……」

「ってコラ! 仕事道具で遊ばないの!」

 

 正義は必ず勝つのだー! と叫びながらポール片手に墨字さんに突撃するルイくんとそれにカチンコで応戦する墨字さんに頭を抱える。またたくまにレイちゃんに電源コードで簀巻きにされて、ポール*1で突かれていた。

 ふん、まいったみたいね、正義は負けないのよ。とレイちゃんが誇らしげに胸を張りながらドヤ顔していた。その横でルイくんもぴょんぴょん跳ねている。かわいい。

 

「まったく……」

 

 けいちゃんと元輝くんが二人とも『デスアイランド』の撮影に出張っている約一ヶ月間は、ルイくんとレイちゃんの面倒を『大黒天(ウチ)』で見ることになっている。二人とも小学校の夏休みと被っちゃうし、だからといって撮影に連れて行くわけにもいかないから。色々な複雑な事情があるみたいだし、そういうところは年長者である私たちがフォローしてあげないと。

 ……いやまあ、だからといって正直ここまで墨字さんと仲良くなるとは思わなかったけど。墨字さん、一ヶ月弱の間面倒見るのが決まった時は「えーやだーめんどくせぇー」とか言っていたけど、なんだかんだしっかり面倒を見ているあたりやっぱり子供は好きなのだろう。

 まったくもう。相変わらず正直じゃないんだから。くすりと微笑みながら、私はティーカップに入れた紅茶をすすった。

 穂村家でも面倒を見てくれてるらしいし、ずっと私たちがやらなきゃいけないわけでもない。なんにせよ、毎日とは言わないまでもスタジオがほんわかした空気になるのは悪くなかった。

 

 よきかなよきかな、そんなことを考えつつ備え付けの時計を見る。時刻は6時手前だ。撮影がスケジュール通りに終わってるなら──。

 

「今頃撮影二日目も終わってるか。

 …………二人とも、大丈夫かなあ」

「なんだ柊。心配してんのか?」

 

 墨字さんがうつ伏せのまま、ルイくんにガツガツと黒いポールで背中を突かれていた。そのままの体勢のまま顔だけ上げる。

 ぽりぽりと頬を掻いて、右手に持っていたティーカップをテーブルに置いた。

 

「そりゃまあ。元輝くんはともかく、けいちゃんが無事に撮影出来てる気はあんましないですし」

「アイツらの母親かよテメェは。過保護過ぎるだろ。

 そんな気になるんだったら電話でもすりゃあいいじゃねえか」

 

 墨字さんがぐるぐる巻きにされたコードを解きながら口を開いた。戦隊ごっこに飽きたのか、レフ板*2の周りを回っている夜凪弟妹の横で、墨字さんがパンパンと腕についたホコリを払った。

 座り直しながらごきりと首を鳴らした墨字さんにジト目を向けた。

 

「いや、撮影中だったらどうするのよ。迷惑なことが何なのかくらい考えてっていつも言ってるじゃないですか」

「あ? 誰が困ろうが俺の知ったこっちゃねえよ。ていうかな、撮影してんだったら流石のアイツらも電源切ってんだろ。常識だろうが。

 ……なー、ルイとレイも姉ちゃんと話したいよなー?」

「姉ちゃん! 話したい!」

「お姉ちゃん大丈夫かな……友達できたかな……」

「……うーん、レイちゃんのけいちゃんへの心配が重い……」

 

 ニヤニヤという笑みを浮かべなら墨字さんがルイくんの髪の毛をくしゃくしゃと撫で回した。

 むぅ。子供を使うとかこれじゃあ断り辛いじゃないですか。ていうか墨字さんに常識説かれるのはなんかムカつく。

 はあ、とため息を吐きつつスマホをバッグから取り出した。余り気は進まないけど……ええい、もうなるようになれだ。

 パパッと操作してトークアプリを立ち上げて履歴を辿った。手早くアカウントを開く。

 

「じゃあけいちゃんに掛けますねー」

「おう。

 あ、いやちょっと待て。……そうだな、元輝にしとけ」

「? どうしてです?」

「どっちでも変わらんからいいだろ」

 

 ……別にいいですけど。そう呟きながら画面を軽くスクロールした。元輝くんのアカウントはっと──ん、これかな。手早く操作して電話をかけた。撮影が伸びてないといいけど。

 三回目のコールでブチっという回線の繋がる音共にガサゴソという音がした。どうやら撮影中ではなかったみたいだ。ほっと一息つく。

 

『穂村ですが』

「あ、元輝くん。今大丈夫?」

『……柊さん? ええと、ちょっと待って下さい……あ、大丈夫です。

 柊さんから電話してくるとか珍しいですね、どうかしました?』

 

 何か問題でもありました? と電話の向こうで首を傾げている様子が目に浮かぶ。くいくいとジャージの袖が引かれた。下を見ると夜凪兄妹が上目遣いにこちらを見ていた。少ししゃがんで目線を合わせる。

 

「兄ちゃんと話してるの?」

「うん、そだよ。すぐ代わるからちょっと待ってね」

「はーい」

『あれ、ルイとレイも居たんスね。

 すみません、柊さん以外に頼める人いなかったんでホントに助かりました。お詫びって訳じゃないんですけど、今度何かしら買ってきます』

「いいっていいって。こういう時はオネーサンを頼りなさい。

 墨字さんも子供好きだし、全然迷惑じゃないから」

「好きじゃねーっつの」

 

 またまたぁと半笑いを浮かべがら墨字さんを見遣ると、胡座をかいた墨字さんがふんっと鼻を鳴らした。意識を通話に戻した。

 

「大したことじゃないんだけどさ、けいちゃん何か問題起こしてない? ちょっと心配で……。

 あれ、そういえばけいちゃんいないの?」

『景ですか? アイツならゲロ吐いて寝込んでますよ』

「…………。ごめん、今なんて言ったの?」

『ゲロ吐いて寝込んでます』

 

 ……………………。

 

「なんでッ!? なんでけいちゃん吐いてるのッ!?」

「おい。なんだそれ傑作じゃねえか。ゴジラかアイツは」

「ちょっと不謹慎ですよ墨字さん! え、それで大丈夫だったの!? ノロとかじゃない?」

『…………。まあ、大丈夫ですよ。一晩寝れば全快するはずです』

「……そっか、ならよかった。けいちゃん相変わらず心配させるんだから」

 

 元輝くんの言葉に安心しながらゲラゲラと笑っている墨字さんにキツめの視線を送った。

 ヒーヒー言いながら、ちょっと代われ、と言って手を差し出してくる墨字さんに、変なこと言わないで下さいよと釘を刺しながらスマートフォンを手渡した。

 ねえねえとルイくんが私の手を引いた。純粋な瞳をキラキラさせながら、

 

「姉ちゃんゴジラなの?」

「……うーんそれは違うぞー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備できたしさっさと行くか」

「うむ」

「了解」

 

 朝飯を食い終わったら、意外と直ぐに撮影三日目の撮影だ。

 衣装に着替えて外に出ると、じめっとした海風が頰を撫でる。今日も快晴だが、相変わらず南の島らしい湿度の高い天候は変わる予定がないらしい。

 ちくしょうめ、暑いのは好きじゃねえ。

 

「気温が高く湿度も高い……ふむ、南の島らしい気候だな!」

「オメーもな」

「俺が熱い男なのは沖縄出身だからな」

「……それって関係あるのか?」

「ねえだろ」

 

 武光の台詞に首を傾げる元輝を尻目に、俺はため息を吐きながらロケバスを待つ。今回の撮影場所はここから大分離れた沿岸部だから移動手段は必須だ。……意外とこういう移動時間が、俺たちみたいな俳優だと撮影の大半占めてたりすんだよな。今日も出番ほぼねーし。

 てことで今日メインで撮影する茜さんと夜凪は、先に出発したロケバスでロケ地に向かってる。昨日の撮影で嘔吐してた夜凪のコンディションが若干心配だったが、そんなんしてたかってレベルで良さげだから問題ねえだろう。スケジュール通りなら今ごろ特殊メイク施されてる頃じゃねーか?

 

「全員乗りました? じゃあ出発しますね」

「ウス」

 

 スタッフさんの回してくれた車に乗り込んだ。一番後ろの席に真咲(オレ)、元輝、武光って順だ。

 15分くらい車に揺られりゃあすぐ着く。その間に今日の撮影内容だけ確認しとくか。台本を取り出して付箋を貼ってあるところを開いた。

 

 今日やる撮影のメインとなるシーンは竜吾が殺された次のシーン、逃走シーンだな。大まかな流れとしちゃあ、殺されると思った茜さんたち三人が丸腰で逃げていて、それを刀持って追い立てる和歌月──っていう流れになる。

 和歌月が木梨を斬り捨てるってのでワンカットだ。で、茜さんと夜凪の二人は海に飛び込むシーンを後で合成する……らしい。詳しいことはわからねえが、そんな感じだって茜さんが朝飯のとき言ってた。

 で、それとは別に三人が廃校舎から出て来るシーンを別に撮って終わり。

 あとは細々とした撮影があるかもしんねえが、基本的にはこの3カットがメインだ。だから俺たちの撮影は今日はほぼない。

 

 ……ん、着いたな。

 スタッフさんにお礼をいいながら外に出た。ボキボキと音を鳴らしながら背骨を逸らす。相変わらず長期撮影の最初は環境が変わりすぎて直ぐに慣れない。

 

「竜吾さん昨日でもう今週はクランクアップでしょ、何してんですか」 

「昨日のシーンの続きだろ、今日。

 お前がそこまで言うなら夜凪の芝居もう一度見て帰ろうと思って。負けんなよ、和歌月」 

「あ、当たり前です」

 

 ……あれ?

 機材とか置いてあるテントを挟んで向こう側には竜吾と和歌月がいた。竜吾は昨日でクランクアップじゃなかったか? ……まあいいか、長期撮影じゃあそういうのもあんだろ。桐山漣*3とか確かそんなエピソードあった気がするし。

 

 ……つーか問題はそれじゃねえ。

 朝飯の時もそうだったが、竜吾が夜凪のこと嫌ってるあたりにわかりやすく現れてるが、なんというかいつの間にかスターズ組とオーディション組の間に対立関係が出来始めてやがる。

 あんまりいい状況じゃねぇな。

 スターズ俳優ってのは俺たちと違ってヒマじゃねぇんだ。こんなのが続いたら面倒になる。

 スターズの対抗馬みたいな感じで『夜凪組』とか出来なきゃいいんだが……。喧嘩になったら撮影どころじゃなくなっちまう。

 あ、でも木梨とかそれやらかしそうだな。一気に不安になってきた。

 

「監督のとこ行ってくる」

「あいよー」

 

 お腹を押さえつつ周りを見渡していると、俺の後に続いていた元輝がそう言って、手を振りながら監督のとこに歩いて行った。俺たちも行くか。そう武光に声をかけて特殊メイクを終わらせた茜さんたちの方に近付く。

 軽く手を振りながら声をかけた。

 

「茜さん」

「あれ、真咲くん、もう来てたんやな」

「今さっきだけどな。調子はどうだ?」

「……問題ないで。

 うん、ウチも景ちゃんに負けんように頑張らんとな」

「が、がんばるわ」

「そんな緊張せんでええのに」

「いやどんだけ仲良くなってんだよ」

 

 そう言って笑い合ってる二人に、俺は今までの面影どこいったよと嘯きながら小さく笑みを浮かべた。

 ぐっと両手で握り拳を作っていた夜凪だったが、クエスチョンマークを頭に浮かべながらキョロキョロと周りを見渡した。ねえ、と武光に声をかけ、

 

「武光君、元輝くんは来てないの?」

「うむ。アイツなら監督のところに行ったぞ。話があるとか」

「ふーん。なんの話なのかしら」

「すまないがわからんな」

「そう……よし。今日こそ上手くやるわ」

「その調子だ」

 

 ぐっと意気込むその様子に、俺と茜さんは目を見合わせて静かに笑った。

 がんばれよ、二人とも。

 

 

「はい、本番いきます」

「よーい」

 

 カチン、とカチンコの音が鳴った。

 撮影開始だ。同時に所定の位置から、茜さんたち3人が走り出して、その後を、刀を持った和歌月が追いかけ始める。

 ジッとその様子を見つめる。……やっぱりスターズ組は基礎体力が高いな。刀という重しを持って走ってんのに、追われる3人と同等のスピードに走ってやがる。……残念だけど俺にはできねえな。やっぱり個人の筋トレの量もっと増やすべきか?

 ……いいぞ茜さん。息を切らせながら言葉を吐く演技。音声は後で吹き込みになるだろうけど悪くねーぞ。

 刀を小脇に抱えながら和歌月が姿勢良く3人を崖側に追い詰めていく。

 

「行き止まりだ……!」

「飛び込んで!」

 

 ……うし、最後の台詞終了。

 ここで監督がカチンコ鳴らして、このシーンの撮影は終わりだな。後は3時間後に廃校舎での撮影か。こういう開けた場所じゃ太陽光の誤魔化しが利かない分最初に回した為、ここの部分の脚本が前後してるのか。……室内とか森の中ならある程度はライトアップでなんとかなるもんだからな──

 

「飛び込む瞬間は東京で別撮り*4するから。

 本当に飛び込まないでね、あはは、なんて──うん?」

 

 ……は?

 ザボンという水飛沫が跳ねた音がする。

 ……。……夜凪、飛び降りたよな。

 

 いやマジで飛び降りやがったぞアイツ!? 正気か!?

 

「あら」

「夜凪くん──くそ、僕が助けに!」

 

 監督の横で撮影の様子を見ていた元輝とアキラが飛び出しかける。それを手塚監督が手で制した。無駄にサングラスを光らせながら、

 

「待って。カットかけるの忘れてた僕のミスだけど。せっかくカメラ回ってるし勿体無いから続けて貰おう」

「ですが……!」

「監督」

「大丈夫だから安心してくれ。()()()()()()()

 

「──えい!」

 

 ……おいおいおいおい。

 嘘だろ、茜さんまで飛び込みやがった。続けざまに水飛沫が上がる。隣の武光が可笑しそうに笑った。

 

「はっは、夜凪にあてられたな!」

「何してんだよ茜さんまで、マジかよ」

 

「うっ」

「クッ……待……待て!」

 

 和歌月が木梨を斬り捨てて、木梨さんが倒れると同時に崖から飛び降りた。……あーもう。めちゃくちゃじゃねえか。これでスターズ組とオーディション組の確執が酷くなっても俺知らねーからな。

 内心頭を抱える俺の視線の先で、アキラと元輝の胡乱気な視線に晒された監督が、なんとも言えない雰囲気を漂わせながら指示を飛ばしていた。

 

「はい、カット!

 早く様子見てきて! 何かあったら大変だよ!」 

「は、はい!」

 

 撮影三日目、予定より3時間遅れて終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーディション組の子達は主に原作に準じた役。スターズ組は普段のイメージそのままの当て書き*5

 原作ファンと俳優ファン、どちらもターゲットにって感じかな。……極端だけど手堅いなあ手塚さん」

 

 三日目の夜。

 私はパチパチと二台のノートパソコンを同時に操作しながら今までの映像を確認していた。

 森を歩くカット、全員が集合するカット、堂上さんのミスでリンが殺されるカット──そういう20シーン96カットを一つずつ精査して、撮影現場と俳優たちのズレと私の把握しているその流れの差異と俳優一人一人の評価を微細に訂正して、私の認識と実際の数値をすり合わせていく。

 

「……手堅い人だと、思ってたんだけどなぁ」

 

 実際のところ。

 今回の撮影、正直あまりいい流れとは言いにくい。撮影自体は順調に消化しているとはいえ、スターズとオーディション組の間の対立が悪化し始めてきた。

 夜凪さんの"底の深さ"が、二人の女優を引きずり込み、結果として撮影全体に影響を及ぼし始めている。最悪、このままだと制御不能になってしまうかもしれない。

 それは監督の撮ろうとしてる映画が撮れなくなることであり、誰も望んでいなかった映画が完成することを意味する。

 それは避けなくちゃならないことで、そんなことは手塚監督が分かってるはずだ。分かった上で、采配してるはず。

 となると。

 

「……私に夜凪さんを焚き付けてるってとこかな」

 

 夜凪さんが海に飛び込んだトラブルでも、スタッフこそ驚いてたが、監督の指示で皆が崖から落ちてから助けに行く流れは、とてもスムーズだった。

 その上、手塚監督の"せっかくカメラ回してるし、続けてもらおう"というセリフ自体がまずおかしい。

 仮に撮影を続けたとしても、湯島さんが飛び降りなければ撮影を続ける意味はない。

 湯島さんと和歌月さんの二人が飛び降りなければ、崖の前で立ち止まるだけなんだから。夜凪さんが飛び降りている以上、二人のシーンは合成で済むものの筈。

 ……だからアレは期待だろう。

 続いて飛び降りてくれるかもしれないことへの期待。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ──ピタリ、と手が止まった。

 

 

 ……このシーン。

 夜凪さんが嘔吐してしまった、和歌月さんが竜吾くんを斬り捨てた時のカット。()()()()()()()()()()()()()

 

「…………」

 

 推測でしかないんだけど、ここで夜凪さんは和歌月さんが竜吾くんを斬り捨てて、鮮血が飛び散るところから死んでいく瞬間まできっちりイメージしていたんだろう。

 夜凪さんは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 口元の血を拭う所作で、嘔吐しそうなことを隠す所作だった。

 つまりあれは、竜吾くんの血が、口元にかかったことを想定した演技だった。

 

 メソッド演技。過去の自分を投影する演技。

 だから彼女が、実際に見たことがないであろう彼女が、知識でしか持っていないであろう"殺される瞬間"を具現化したということは、つまり──。

 

 一瞬の芝居だ。時間に直せば二秒にも満たない芝居だったけど。

 ……知っている。

 夜凪さんの演技がそういうものだと、私は知っていたはずだ。私が憧れたのは、そういう女優だったのだから。

 見たことがない人に見たことのないものを見せる演技。周囲全体の観客に同じモノを見せる──観客の想像力を利用して、ありえない景色ですら見せるのが夜凪さんの芝居。

 

 夜凪さんが嘔吐した理由はわかる。

 肌の感覚、視覚、聴覚──五感において人が殺される感覚をトレースしたからこそ、夜凪さんはあの瞬間に嘔吐した。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 カメラの撮影範囲に嘔吐した瞬間を映さずに、すぐ立ち上がった演技をしたように見せるその演技が行えたということは。

 

 つまり。

 夜凪景は。

 俯瞰技術を、手に入れたということだ。

 

 冷静に、正確に。撮影範囲の隙間に滑り込んでそこに余分なものを置いてくる。

 『吐いてしまう自分』を変えることが出来なかったから、不都合な芝居はカメラの外側で演じてしまおうとしたのだろう。自分自身の主観の他に、カメラ三つ。四つものマルチタスクを同時にこなすことで、自分自身を俯瞰する──。

 

 ()()()()()()()()()()()()()、緻密な計算でその行動を制御する。

 ……私がどうしたって、出来なかった演技法だった。

 

 このシーンで、夜凪さんが台詞を言うのは、少し早い。

 そのせいで、予定されてた他の人の台詞は言うこともできなかったけど。

 でもそれは自然なことだ。人が殺された瞬間に居合わせて、まだこの人がこう言っていないから叫ばないなんてことは、現実には到底あり得ることではない。

 人が斬られたその瞬間に叫ぶ方がリアルだ。だから夜凪さんは、予定の台詞をスキップして堂上さんが斬り捨てられたその瞬間に、なりふり構わずに叫んだ。

 だからこそそれは、リアルで、名演で。

 

「……」

 

 くしゃり、とスーツが少し歪む。

 私はふう、と息を吐いた。

 

「……外の空気、吸いに行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「元輝くんかな、アレ」

 

 ガコンと、アルミ缶の落下する音。

 自販機でお茶を買いにコテージの外に出ると、コテージの目の前にある海岸沿いに元輝くんが座っていた。

 暇そうに一人背中を揺らしている。周りに誰もいないけど、何かしてたのかな。

 そんな彼の様子にくすりと微笑んで、私は自分のお茶の他にもう一本追加した。元輝くんの好きなのはこれだったよね。

 忍び足で元輝くんの後ろまで行くと、彼の首筋にペットボトルを充てた。冷たっといいながらぶるりと身を震わせた。首元を摩りながら後ろを向く。

 

「誰だこのやろ──って、百城さん?」

「やっほー元輝くん。暇してた?」

「いや、暇といえば暇してましたけど」

「紅茶の無糖でよかったよね」

「覚えててくれてたんですか」

「当たり前だよ」

「……むっ」

 

 昨日の焼き直しのような言葉の応酬に、ふふっと私は少しだけ笑みを溢した。相変わらずのポーカーフェイスに驚きと喜びを半々でミックスした感情を浮かべながら、元輝くんが微かにくしゃりと目尻を窄める。

 

「なにかしてたの?」

「ちょっと夜風に当たりに。何かあった時はこうやってリラックスするんですよ」

「私と一緒だ」

 

 笑いかけながら、少しだけ間を空けて私は元輝くんの隣に腰を下ろした。三本のラインの入ったジャージの袖を少し捲る。両膝を立てて体育座りの要領で座り直すと、ぷしゅっとプルタブを開けて、紅茶を喉に流し込んだ。

 それを見ながら、隣で元輝くんもペットボトルの蓋を開けている。琥珀色の液体を喉に流し込んでいた元輝くんが、そういえばと私の方を向こうとして。

 ……ああ、この場所、誰かに渡したくないなあ、なんて。

 思わずそんなことを考えながら、私はこっちを向こうとした元輝くんの頬に指を這わせた。人差し指が元輝くんの頬を突く。

 

「……なにするんですか」

「なんでもないよ」

「なんですかそれ」

 

 散々悩んでたのが馬鹿らしいほどに、簡単なことだった。

 私が『百城千世子(わたし)』であるために、欲しいものは全部手に入れる。

 それだけでいい。単純明快な答えだった。

 

 むすっとした表情をポーカーフェイスの端に微かに滲ませるその様子に、私は微笑んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
伸縮式の棒。背景をかけるときに使う組み立て式のヤツ……だと思われる。

*2
撮影の被写体に光を反射させる板。乱反射鏡の一種。主に写真、映画、テレビの撮影で用いられる。カメラを用いた撮影を行う場合、太陽光や人工照明などの光源があり、それを反射させて間接光として利用することがある。

*3
神奈川出身の俳優。役に没頭する──というより表現であったり素のキャラであったりを演じるタイプの俳優。『仮面ライダーW』の左翔太郎役。最近は色んなドラマで見るようになった。

*4
映像や音声の収録などにおいて、時間面で後で、 または別の場所で撮ること。後で合成することで違和感をなくす手法。

*5
演劇や映画などで、その役を演じる俳優をあらかじめ決めておいてから脚本を書くこと。三谷作品などがこれにあたる。





この後めちゃくちゃ虫の話した。


最後のシーンの時系列的には、ちょうど竜吾くんが「認めねえよ」って言ってる辺りですね。反省会してるくらい。


〈以下補足という名の蛇足〉



 チヨコエルの内面全部書くとドロドロ過ぎて胸焼けしそうだったので爽やか風味にしたらわかりにくくなったので補足しておきます。

 千世子自身は、ホモくんの景ちゃんの嘔吐に対する行動についてはプロとして割り切っているのでそれほどではありません。プロですからね(目晒し)。
 その為NICE BOATされるほどではありません。ホモくん自体はクソが突くほど善人なので心配以外の感情がなかったのも大きいんですが。
 どちらかといえば、自分の技術盗んだ挙句にホモくんに迷惑をかけた景ちゃんへの敵態度がやばいですね。
 もう奪う気満々ですよ。コイツはやべえや……。


雪ちゃん先輩書いてたら止まんなくなって5000字に収まらなくなってきたので失踪します(今更)
長くても別にいいよな?(思考停止)




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scene14『ain't on the map yet』




 お気に入り4,000件行ってました。ありがとうございます。
 なのに(MAD作成にうつつ抜かして)執筆してなくて(なんか)ごめん。

 前話から結構時間とんでます。RTAだもの、コンパクトに進めないとね。
※予約投稿ミスって投稿してました。混乱させてしまって申し訳ない。誠心誠意陳謝します。かしこ。


 

 

 

 

「席ここでいいですか?」

「うん、大丈夫だよ。

 よし、じゃあご飯取ってきちゃおっか」

「りょーかいです」

 

 元輝くんが窓際の席にポリエステル生地のジャージを椅子の背もたれ部分にかけて席を確保する。

 真咲君と武光君のオーディション組二人がテーブルを囲みながらご飯をつついている横を通り抜けて、何があるかな、と色取り取りの料理の並べられたダイニングテーブルに目を向けた。

 隣の元輝くんからトレイを受け取って、私はナイフとフォークを元輝くんに手渡しながら、

 

「元輝くんって和食と洋食ってどっちが好きなの?」

「肉とかも好きですけど、基本的には和食とかの方が好みですね」

「へえ、そうなんだ」

「百城さんは?」

女は秘密を着飾って美しくなるものなんだよ(A secret makes a woman woman)──」

「それ迷宮入りじゃないですか」

 

 元輝くんと夜ご飯を食べるのもだいぶ久々だ。

 ここ二日間は私が撮影に追われてた所為であまり時間を確保できなかったのもあって、ここまできちんとした夜ご飯を食べるのはあまりなかった。

 

「……なあ、武光。

 元輝と千世子ってあんなに仲よかったんだな」

「ん、ああ。あの二人はCMでの共演経験があるからな。そういうのもあるんじゃないか?」

「CMって……ああ、CALPICEのアレか」

 

 今日は撮影十日目。

 予定していた撮影スケジュールも無事消化できた。

 残りの撮影日は20日。撮影の進捗度はパーセントに直せば36%といったところかな。もうちょっと早めたかったけど、スターズ組のスケジュール調整があったのにこのペースっていうのは十分だろう。

 余裕があるって訳じゃないけど、スターズの撮影を前半に押し込んだのが良かったみたい。この調子で行けば数日間の猶予ができるはずだから、何かトラブルが起きてもリカバリーが効くはずだ。

 

「いや、にしたって距離感近くねえか?」

「気にしすぎじゃないか。そういうものだろう」

「……だといいんだけどな」

 

 3人がクランクアップして、今島にいるスターズ俳優は9人。

 スターズ組とオーディション組の間の確執は未だに健在だ。……石垣さんとか翔馬くんたち数人は元輝くんや武光君とかと仲良くなってるみたいだけど、相変わらず竜吾君は夜凪さんを敵対視してるし、町田さんも湯島さんに対抗心を持ち始めてる。

 ……ま、それを考慮しても問題ないかな。みんなの様子は想定の範囲内だ。

 色々あるけど、何にせよ元輝くんとご飯を食べるのは久しぶり──

 

「や、おつかれ二人とも」

「ん、おつかれ」

 

 

 …………アキラ君はさあ。

 

 

 元輝くんと二人並んでバイキングでいくつかの料理を皿に載せていた私たちの所に、手を挙げてにこやかな笑みを浮かべたアキラくんが歩いてきた。風呂上がりらしく、髪が僅かに湿気っていた。

 トレイを取って私たちの所にやって来ると、元輝くんがドリアを皿に取りながら、ジト目をアキラ君に向けた。

 

「なんだよ、風呂入ってきてたのか? だったら俺も入れば良かったな」

「んー、でも僕以外にもスターズ組が結構いたからゆっくりはできなかったと思うよ」

 

 えー、と息を吐く元輝くんに苦笑を浮かべながら、トレイを持ったアキラ君が今日のメニューを物色し始めた。

 二人がこうやって笑い合っているのを見ると、男の子だなあと、思わずそんなことを考えてしまう。元輝くんがここまでラフに話しているのは男同士っていうのもあるのだろう。同性の気楽さというヤツだ。私の方が同業者としての付き合いは長いんだけど。

 

 ……まあ、いいんだけどね。

 元輝くんとアキラ君はこの10日間ですごく仲良くなったと思う。性格が合うのかもしれない。天然気味で感性の鋭い芸術家気質の元輝くんと、常識があって女心もわかるけど感性がそれほどでもないアキラ君って、結構良いコンビなのかも。

 それに元々ここには私たち以外の俳優陣だったりスタッフさんも利用してる訳だし、こうやってメンバーが入れ替わるのは日常茶飯事だから仕方のないことだ。

 

 ……うん。

 三人で一緒にご飯食べたら楽しいし、嬉しいものね。

 元輝くんもアキラ君も頑張ったんだから、心休まる時間が二人にあったっていいはずだ。

 二人が何も考えず喋れるような空間を、私が作ってあげよう。

 

 しょうがないんだから。

 

「百城さん? どうかしました?」

「なんでもないよ。

 ほら、さっさとご飯取りにいこ?」

 

 とんっと元輝くんの背中を左手で軽く押しながら、私はサニーレタスを皿に盛り付ける。

 

 私は天使だから、自分勝手に好きにはできないけど。

 でも今は。

 あなたといい映画を作るために。

 元輝くんに頼ってもらえるこの位置で、満足しておいてあげる。

 そうやって微笑みを浮かべた私の横顔を、アキラ君が微笑ましいものを見た時のような視線を向けていた。

 

 ……なにかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 精神が洒落にならないことになって来るRTA、はぁじまーるよー。

 

 ということで、なんやかんやありましたが映画『デスアイランド』の撮影スケジュールも十日目を迎えました。ようやく折り返し地点が見えてき始める頃ですね。

 そう、折り返し地点が間近なのです。

 つまりそれは、チヨコエルとゴジラの一騎討ちが近くなっているってことを意味します。おい冗談だろ?

 ここが多くの走者の心を襲った鬼門中の鬼門、その一つですね。

 原作通りに進めていれば問題ないのですが、今回みたいにチヨコエルとゴジラの両方と知り合いとなってしまっているためイベントの日程が前倒しする可能性が出てきしまいます。

 これは千世子ちゃんと景ちゃんのメンタルの両方が大幅にブレるリスク高くなってしまうことを意味しているのです。ふぁっきん。

 余談ですが、羅刹女RTAを走っていた時はここで双方の好感度上げまくって敵対心煽りまくって、その上NICE BOATを避け続けるという神業をこなすことによってここで羅刹女召喚することができます。ただその為には、開始以前に両方とも知り合いとなっていることだったり、好感度が規定値を超えている必要があったりと、中々面倒くさいことをこなす必要性があるんです。なので今回はできませんね。

 

 ()きませんよ(自己暗示)

 え、どう見たってやらかしそうだろって? ちょっと何言ってるかわかんないですね。……君みたいな勘のいいガキは嫌いだよ、ぺっ。

 ……お腹痛くなってきました。すみません帰っていいですか? ダメ? ……ですよね。知ってた(諦観)

 

「うん、大丈夫かな。

 よし、じゃあご飯取ってきちゃおっか」

 

 はァい!(脳死)

 

 話は変わりますが、今は千世子ちゃんとご飯イベントです。長期撮影中の前半の一週間くらいはチヨコエルは結構な頻度で研究に追われてるのでこういうコミュができないんですよね。なので受けれるなら受けておきましょう。ただ景ちゃんと鉢合わせないように時間だけは気を使います。遭遇すると胃に穴(物理)空いて死にます(1敗)

 

 ……。

 

 ご飯を食べてる間に今日の撮影と明日からの予定についておさらいしておきましょうか。ここのコミュ自体は(景ちゃんに見られない限り)問題が起きることがないのでもーまんたいです。……いやまあ見られた時点で即終了ってあたりクソゲー仕様なんですけど。そこら辺は気を使っていればどうとでもなるのでなんとかなります。というかします。

 

 もう再走は嫌なんだ……!(必死)

 

 ということで、繰り返しますが今日で映画『デスアイランド』撮影10日目です。

 10日目ともなると──なんやかんやありましたが──今日はホモくんがようやく千世子ちゃんと初共演を果たすことができました。初共演といっても、同じ撮影場所にはいましたし同じ画角にも写っているんですけどね。

 でもセリフはなかったので実質初共演です(強気の姿勢)

 

 今回撮影したのは一緒に行動していたチヨコエルとホモくんたち六人組が『デスアイランド』からの指示で二つに分かれなくてはならないシーンです。千ちゃんに追いかけられていた茜ちゃんとかと合流した後のカットにあたります。

 小西くんがNGだしかけちゃったんですが……チヨコエルのアドバイスと実際演技シーンを一緒にできたことが功を奏しましたね。ホモくんが立ち位置調整して千世子ちゃんが台詞回し少し弄ることでOKテイクにすることができました。NGをOKテイクにするのってホントに神経すり減らんすので、マジで死ぬかと思いましたよ……。

 まあお陰でスキルとアビリティが予定値まで行ったのでよしとしましょう。結果オーライです。

 

 いやあ、チヨコエルのメンタルが一瞬やべーことになってたり景ちゃんが海に飛び込んだりゲロ吐いたりと色々ありましたが、全部予定通りちゃんと『百式演技術』の習熟度が予定のところまで行ったのが不幸中の幸いです。これも全て計画(チャート)通り……!

 

「や、おつかれ二人とも」

 

 >何を食べようかとテーブルに並べられた色とりどりの食事と睨めっこしていたあなたたちのところに、髪を少し湿気らせたアキラがやってきた。

 >話を聞けば、どうやら風呂から上がったところだったらしい。あなたも入っておけばよかったと少しため息をついた。

 

 ──ってアレ? 説明に熱が入ってて直ぐには気付けませんでしたが、アキラ君もこのイベントに参加しに来たみたいですね。おいおいマジかよ(歓喜)

 千世子ちゃんと二人っきりの食事シーンとか景ゴジラとかに見られたりしたらオワオワリだったのでコレはデカイです。千世子ちゃんのメンタルケア以外にはもう特に気にすることもないですね。この戦い……我々の勝利だ!

 さくっと済ませてしまいましょう。野菜と肉とをバランスよく取ってお食事タァイムです。ガツガツと食べます。ちゃんと食べておかないと(心労と過労で)死ぬリスクが高まってしまいますので仕方ありません。体は……大事や……。

 

 

 

 ご飯おいしかったです(思考停止)

 千世子ちゃんの好感度調整なんて……私にしてみれば大変でもなんでもないんですよ……(過言)

 

 ごめんなさい冗談です。死ぬほど辛いので誰か代わって下さい。

 ええ、ほんとに。

 ホモに女心なんて分かるわけねーでしょうが。そんなの理解させようとするとか頭おかしいんじゃないんですか? ……なんやこのクソゲー、もう二度とやらんわ。

 …………。

 ということで、ご飯を食べ終わって自室に戻れば、堀君たちがもうお風呂に入ってしまったみたいなので、オーディション組と一緒にホモくんが大浴場に行くとかいうホモォイベントが入ります(鶏頭)

 でも男のサービスカットとかいりませんよね。私はホモですがホモはないので(矛盾)、お風呂入ってる間に明日からの予定について話しておこうと思います。ぶっちゃけ武光くんとか真咲くんとかに気をつかわなくちゃいけないほどのアレコレは今のところは基本ないので好感度だけ上げとけば問題ないです。好感度も目標の数値行ってますしね。これも時間短縮の為……許せサスケ。

 

 今後の予定なのですが、一番近いもの──というか今回の撮影で一番大事なものが明日に迫っています。

 二日間、ホモくんは島を出て別の撮影が入っています。これが予定していたデスアイランド外部のイベントですね。以前言及していた経験値不足の補填作業になります。

 

 何を隠そう、なんと出演作品は星アキラ主演の『ウルトラ仮面』です。CALPICEと洗濯男のCMを取った時に一緒に獲得していた案件ですね。

 ぶっちゃけ『特撮』って単純な演技技術の向上と経験値の獲得に加えて、殺陣に声当て(アテレコ)と一つの撮影で色んなことを経験できるので非常にうま味な案件なんですよね。今回は俳優ルートですが、制作担当とか美術関連の仕事について美術賞の獲得を狙っていく裏方ルートとかでも『特撮』関連の仕事は色んなステータスの上昇を同時に狙えると相当うま味です。

 特に今回のチャートのように出演作品を絞って特定のスキルの向上に時間を多く割いているとどうしても演技経験の絶対量が足りなくなってしまうので、こうやって一つの撮影で結構な経験値を稼げる特撮関連の仕事はうってつけなんです。

 

 俳優ルートで主演格を取ってしまうと一年近く拘束されてしまうのが難点だったのですが、今回のチャートではそれなりの立ち位置を獲得することができたので受けることにしました。

 二ヶ月間週2〜3日の撮影でそれなり以上の演技経験を得られるのは素晴らしいです。先駆者兄貴たちもこういった案件はみんな受けたんじゃないですかね。

 その上堀くんと一緒に島を離れられるのがデカいです。何も考えずに経験値と連絡だけ取ってればいいとかもうSAN全快してしまいますよ。ていうかします(確信)

 

 ずっとチヨコエルとゴジラのフラグ管理なんてやってられるか……!! ここはデスアイランドだぞ。馬鹿野郎、こんなとこにいられるか! 俺は実家に帰らせて貰う!(死亡フラグ)

 

 その為と言いますか。

 前述の通り、この案件を受けてしまっている以上、ホモくんが二日間島を空けてしまうのは避けられません。一先ず私が見える範囲のフラグ管理はしっかり出来ていますし、苦労人マサキ君とチャラ男竜吾君の友好度も十分です。ホモ君がいなくても、彼らがチヨコエルとゴジラの間を取り繕ってくれるでしょう。私は彼らを信頼しています(熱い眼差し)

 友好度が足りない時のアレは悲惨でしたね……まさか帰ってきた時に血の海と死体(擬き)の山が出来てるとは一体誰が予想できたというのか。

 

 ……やめましょう。

 そうですね、ホモくんの役回りについての話でもしましょうか。

 今回ホモくんが演じるのは敵方にいるライダーです。敵として戦ってるけど最終的には主人公に色々託して死ぬキャラですね。アレですよ、ダークカブトみたいなヤツですね。スーツも真っ黒みたいですし……なんかデジャヴ感じますね。気のせいでしょうけど。ヤベーイ!

 

 ん、そんなことを話してたらいつの間にやら風呂上がってたみたいですね。ウッホ(ホモ)

 じゃあコーヒー牛乳でも飲みながら真咲くんたちとコミュを取りましょうか。

 なんか地味な佐藤くんとかなんか太めの小西くんたちともコミュは取っていますが、ホモくんがいない間に景ちゃんの手綱をある程度握ってくれるのはやはり真咲くんと武光くんのコンビなので、今回のチャートではこの二人の好感度がホモくんの生死に直結するんですね。うーんこれは(オリチャー)の弊害……。

 コーヒー牛乳奢ったるからホモくんの居ない二日間、景ちゃんの撮影(とチヨコエルとの確執)の消化よろしくおなしゃす! センセーショナル!

 

 >一番最初にロビーに出てきたあなたは財布から小銭を取り出してコーヒー牛乳を3本購入した。明日からのあなたのいない二日間を頼むということで、あなたからの友人二人へのちょっとした餞別だ。

 >風呂上がりといえばコーヒー牛乳だろう。

 >暖簾を潜って寝巻き姿の二人に薄く焦げた色合いのパッケージをした瓶を渡した。困惑した様子の二人に、あなたはちょっとした餞別だ、と笑いかけた。

 

「ではありがたく頂こう」

「悪いな。……ま、二日間だけだろ? なんとかなるっつーの。心配し過ぎだよ」

 

 >百城さんとうまく付き合えてないと景が上手く演じられるかわからないからな、とそう言いながらあなたは自分の分のコーヒー牛乳を煽る。

 

「ま、確かに不安っちゃ不安だからな。俺たちもある程度気を付けとくよ」

「うむ、確かにそうだ。いいだろう、俺もある程度力になるぞ」

 

 ……よし。これで何とかなるはずです。真咲くんのお腹が悲惨なことになってしまうかもしれませんが、そんなことは知ったことではありません。ホモくんのメンタルの方が重要なのです。すまんな真咲くん。

 あとはくだらない話でもしながらコミュを取っておきま──あれ、景ちゃんと茜ちゃんたちも出てきましたね。どうやら同じタイミングでお風呂に入っていたみたいですね。

 

 ……。

 …………。

 景ちゃんとのコミュがちょっとだけ入りましたけど、問題なさそうです。撮影を成功させようという気概が上がってますし……もーまんたいですね。さっさと茜ちゃんたちともコミュを取ってしまいます。

 終わり次第自室に戻って明日の準備だけこなしてしまいましょう。

 

 では本日はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 




ホモくん死にかけることを察して地雷原に足を踏み入れるアキラ君はやっぱりイケメン。主人公かなにかかコイツ。
そして(初期から散々予想されてたけど)特撮要素がインしました。ヤベーイ

今月中にもう1話上げる予定(は未定)です。 



「くん」と「君」の違いがわからないのはホモ。
間違いないね。私は詳しいんだ。


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scene15『花と役者(aNYmORe)』




チヨコエルがCV花澤香菜な毎日。
連日投稿間に合わなかったぜ……。
どうやら私はエセ関西弁にしかならない呪いにかかってしまったようだ……。



 

 

 

 

「──すっきりしたわ」

「せやね」

「やっぱりお風呂って広いだけで気持ちいいですよね。久々すぎて私もテンションあがっちゃいましたよ」

「そうね。こういう温泉、長いこと入ってなかったら。

 ……うん、やっぱり温泉っていいものね。ルイとレイも連れてきたかったわ」

「おねーちゃんしとるなあ」

「……そうかしら?」

 

 ボディローションを腕に馴染ませている茜ちゃんと、力説しながらぐっと両手で握り拳を作る木梨ちゃん。木梨ちゃんのその様子に笑みを浮かべながら、私はフェイスタオルで軽く顔を拭いた。

 軽く水気を絞った髪の毛にタオルを巻き付けて、私は手に取ったローションと乳液を肌に塗った。役者になってから以前よりもスキンケアとかに気を使うようになったけど、未だに正しいやり方がわからない。今度雪さんに聞いてみよう。

 一先ずスキンケアを一通り終えて、髪の毛全体をコームで軽く梳かした。そのまま、鏡に自分の顔を写しながらぼんやりとした頭でぶおーと備え付けのドライヤーで髪の毛を乾かしていると、

 

「……景ちゃん本当に肌きれいやな」

「ひゃうっ」

 

 髪に指を通して軽く流しながらうなじに熱風を当てていた私の頬を、私の隣でローラーで顔をぐにぐにしていた茜ちゃんが、羨ましいわー、と言いながら軽くつついてきた。びっくりして身を震わせると、驚き過ぎやと笑いながらそのままむにむにと軽く引っ張る。

 私を挟んで茜ちゃんの反対側にいた木梨ちゃんも、恐る恐るといった様子で私の頬に人差し指を当てた。むにむにと私が二人の為されるがままになっていると、一頻り私の頬を弄った茜ちゃんが神妙な面持ちで顎に手を当てた。

 

「……うーむ、このもっちり肌。

 何か特別にやってることとかあるん?」

「え、ええと、……何かやってると言っても、特に思いつかないけど。私、こういうのにあんまり聡くないから」

「なんでこんな肌綺麗なんですかぁ……」

「? 茜ちゃんも木梨ちゃんも十分綺麗だと思うけれど」

 

 まあそんな気はしとったけど、と茜ちゃんが薄く笑みを浮かべながらヘアトリートメントを取り出した。

 なぜか照れた様子の木梨ちゃんを横目に、さくさくっとボディケアを終えた私はドライヤーでふわふわになった髪の毛をシュシュで軽く束ねる。ポニーテールとまではいかないけど、束ねた髪を前側に垂らした。

 ……うん、これで大丈夫。

 ふんすっと息を吐いて自分の身嗜みのチェックをしていると、ドライヤーで髪を乾かしていた茜ちゃんが、ジーっと私のシャツを見ていたことに気がついた。うーむ、と茜ちゃんが少し唸って、

 

「ホント不思議なセンスしとるよな、景ちゃん」

「? なんのこと?」

「そのTシャツや」

「そんなに不思議かしら?」

 

 茜ちゃんに指差されて、私は裾を引っ張って白いTシャツをピンと張る。胸元に大きく達筆な文字で『ヤドリギ』と書かれているヤドリギTシャツ。コレ、アサガヤTシャツ*1とデビルTシャツ*2に並ぶお気に入りのTシャツなの。

 

「いや、不思議というかなんというか」

「これ元輝くんにプレゼントした奴なんだけど」

「…………」

 

 元輝君も大変なんやなぁ……と呟きながら茜ちゃんが遠い目をしていた。隣の木梨ちゃんも困り顔で頬を掻いていた。どうしたの?

 ローラーをポーチに仕舞って、顔に乳液を馴染ませていた茜ちゃんが、首を傾げていた私に何でもないでと少し笑いかけた。

 

「ま、そろそろ上がろか」

「そうですね!」

「そうね」

 

 小物類を手に取って、入り口でスリッパに履き替えていると、暖簾越しになにやら話し声が聞こえてきた。元輝くんたちも入ってたのね。

 何話してるのかしら。少しだけ耳を欹てた。

 

「──ただの餞別だよ。

 明日から二日間、俺ここ出てるからな。こっちのことよろしく頼むってことで、ここは一つ奢られてくれ」

「……ふむ、ではありがたく頂こう」

「悪いな。……ま、二日間だけだろ? なんとかなるだろ。心配し過ぎだよ」

 

 ……そうだ、明日から元輝くんいないのね。今の今まで忘れてた。これじゃあ幼馴染み失格じゃない……ちょっと凹むわ。

 そうやって若干しょんぼりしていると、髪の毛をポニーテールにしながら後ろを歩いていた茜ちゃんがドア越しに元輝くんたちが話してるのに気付いたのか、なんや、みんなも来とったんかと笑った。木梨さんがその後ろでひょっこりと顔を出す。

 頭を振って気持ちをリセットして、私もみんなのところに交ざりに行こうと意気込み、

 

「百城さんと景がギクシャクしてるからな。

 十中八九暴走して問題起こしたりうまく演じられなかったりするだろう。出来ればそういう時に少し助けてやってくれると助かる」

「……ま、確かに不安っちゃ不安だからな。俺たちもある程度気を付けとくよ」

「うむ、確かにそうだ。いいだろう、俺もある程度力になるぞ」

「いやまあ、二人が仲良くなってくれるのが一番いいんだけどな」

「違いねえ」

 

 元輝くんのセリフに。

 思わず、手が、止まった。

 

 

 

 

 ──友情。

 

 友情。友達。

 ともだちって、一体なんなのだろう。そうやっていくら自分に問いかけても綺麗に答えが出てこないのは、私が私自身のことを分かってはいないからだ。

 自分のことを知るには、他人の印象を聞くのが一番いいって、なにかの本で読んだ気がするけど。

 でもこういうのを元輝くんに聞いたりして元輝くんに友人だよって言われたりするのもなんかダメな気がするし、どうしようかしら。

 ……うん。

 兎にも角にも行動あるのみ。

 ルイ、レイ。お姉ちゃん頑張るからね。

 

 とりあえずだけど、私が知ってる友情のほとんどは映画で見たものか、もしくはそれがベースになっているものだ、というのはわかる。

 家にある映画にたくさん載ってるアレが、私の知る友情だろう。

 友情の、具体例。

 ……私と元輝くんの友情も、どちらかと言えば友情というよりも親愛だし──何か違う気もするけど。

 でもきっと、元輝くんが私の友達ってことに、なんの変わりもない。

 

 たぶん、友達っていうのは。

 殺されそうになったら、命の危険があっても、飛び込んでしまうようなもの、かな。

 

 私はきっと、元輝くんのためなら死ねる。

 ずっと前から。多分、私が──『夜凪景』という存在(かち)が生まれ落ちたその日から。

 私は元輝くんのために死ねるのだ。

 だからきっと。今、なんとなくわかったけど。

 これが、私の友情なんだと思う。

 

「やっほーみんな」

「あれ、茜さんたちも風呂入ってたんスね」

「せやで」

「ここのお風呂大っきいから長風呂しちゃいました」

 

 ガラッと音を立てながらドアを開けて、茜ちゃんが暖簾を潜った。私と木梨さんとそれに続く。

 据置のテレビがチカチカとニュースを報道している前で談笑している元輝くんたちに茜ちゃんが手を軽く振った。髪を湿気らせて頬を微かに上気させた三人がこちらを振り向く。

 驚いた表情を浮かべて、煽っていたコーヒー牛乳を元輝くんと武光君が口元から離した。

 …………。

 元輝くんがコーヒー牛乳を飲みながら茜ちゃんたちと談笑しているのを眺めている。

 私は小さく頷いて、元輝くんの近くに寄ると、コーヒー牛乳を持っているのとは反対側のジャージの袖をくいくいと引いた。ぐっと元輝くんに顔を寄せる。

 私の行動にきゃあっと黄色い声を上げた木梨さんの様子を意に介さず、クエスチョンマークを頭に浮かべる元輝くん相手に、私は徐に口を開いた。

 

「……ねえ、元輝くん」

「? どうした、コーヒー牛乳飲むか?」

「後で貰うわ──って、そうじゃなくて」

 

 ──『ケイコ』は、物語の終わりに『カレン』を助けて死んでしまう。

 助けるために命を投げ捨てられるのが私にとっての友達だから、たぶん千世子ちゃんを友達と思えるようになれればいいはず。

 それが、この映画で私が役者としてできるようにならなきゃならないことなんだろう。

 

 ふう、と深く息を吸う。

 若干の緊張を孕みながら、私はこちらを見つめるダークブラウンの瞳を覗き込んだ。

 

「……私たち、幼馴染みよね」

「そうだが。なんかあったのか?」

「ううん、なんでもないの」

 

 頭を小さく横に振って、何かを振り払うように私はぐっと両手を握りしめた。

 私は役者だ。

 だからちゃんと『ケイコ』を演じるために、千世子ちゃんと仲良くなってみせる。

 仲良くなれば元輝くんも嬉しいみたいだし。なおさら私は千世子ちゃんと友達にならないと。

 

「……大丈夫。

 千世子ちゃんとの共演はまだ先だけど……任せて、私、きっと上手く演ってみせるわ」

 

 元輝くんの心配を杞憂にしてみせるわ。ここは私にどんと任せなさい。

 ちゃんと千世子ちゃんと友達になってみせるわ。

 ふんすーと鼻から息を吐いた。

 

「……不安なんだが」

「ウチもや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デスアイランドからの脱出を図るRTA、はぁーじまーるよー。

 

 はい、てことで映画『デスアイランド』撮影11日目の早朝になりました。時刻は朝の5時半ですね。まだ日も昇り切ってないですが、『ウルトラ仮面』撮影のためにこの時間には島を出なければなりません。

 ……ようやく。ようやくです。

 ようやっとここで(連絡を除けば)なんのストレスもないドラマ撮影でひたすらにステ上げを図ることができます。ここまで長かったなあ……(クソデカため息)

 今回の撮影では一日目は横浜市内、二日目は埼玉方面で行うスケジュールとなっています。一応予定では帰宅する時間はあるのですが、念には念をということでリュックに二日分の着替えだけ詰め込んでおきましょう。備あれば憂いなしです。

 外に出ると、ロケバスの前で堀君が待ってくれていました。どうやら堀君は既に準備を終えていたようですね。セッカチかお前は(違う)

 

「準備はいいかい? それじゃあ行こうか」

 

 >アキラの言葉にあなたは頷くと、朝早くから今日の撮影の準備をしていたスタッフさんが回してくれたロケバスに乗り込んだ。わざわざありがとうございますとあなたがそう言うと、これも仕事だとスタッフさんがニヒルに笑った。

 >あなたも知ってはいたが、やはり映画撮影というものは心身共に相当に酷使するらしい。

 

 ────わかるわぁ(熱い同情)

 映画撮影って……身体(物理)と精神(SAN値)、両方とも酷使するよね……。え、酷使する理由が違う? おい嘘だろバーニィ……。

 はい、ニヒルに笑ってるスタッフさん(疲労)に感謝しつつロケバスに乗り込んで港に向かいましょう。

 港に着いたら販売機で始発のチケットを買います。購入した始発のフェリーは、この島で数少ない横浜市内の港への直行便です。撮影開始に間に合わせるためにはどうしてもこの時間のフェリーに乗る必要があったんですね。

 

 運良く直通便に乗れたので、このまま長いこと波に揺られていればいつの間にか港に着きます。

 なので吐き気を堪えつつLINE等で向こうの様子を逐次確認しながら目的地へ向かいましょう。時間は有限です、有効活用していきます。

 

 …………。

 ……………………(脳死)

 ……あ、チヨコエルからLINEですね。えーと、内容は『おはよ。そっちは大丈夫?』ってLINEですね……相変わらず彼女への返信は緊張しますが。『こっちは問題ありません、そっちのことは頼みます』──と。うん、こんなところでしょう。

 稀にチヨコエルからの電話が来ますが、これは絶対に出ます。ていうか出て下さい。

 ゴジラの方は真咲くんや武光くんがある程度ケアしてくれるのですが、この二日間は堀君もホモ君も撮影にいない以上、何かあった時にチヨコエルをフォローできる人が(デスアイランドには)ほぼいない為、時間と体力とフラグが許す限り千世子ちゃんのケアは必須となってしまいます。背に腹は変えられません。

 

 ……こういう移動時間は短縮要素もなければひたすらにSAN値と体力を削るだけの代物ですが、このクソイライラタイムを凌げば『ウルトラ仮面』の撮影開始です。張り切っていきましょう。

 

 >『ウルトラ仮面』クランクイン。

 >あなたにとって、こういう連続ドラマの撮影ははじめての経験だ。張り切っていこうと、あなたはアキラにそう言いながら息巻いた。

 

 今日の『ウルトラ仮面』の撮影で撮るシーンは大きく分けて二つです。

 一つは堀君が敵キャラを倒して大団円を迎えてる様子と、そしてそれを見つめる不穏な(ホモ)という構図のシーンです。堀くんたち主人公組を画面の中央に映しながら、カメラを()()ことで彼らを見つめる影を演出する形となっています。これがホモくんの演じる『オニキス』の初登場シーンとなりますね。

 そして二つ目がホモくん自身が堀君たちの目の前に姿を現して、変身して初戦闘を飾り、ウルトラ仮面をフルボッコだドン! して無言のまま立ち去る不気味なカットでワンカットです。

 一応ここで堀君演じるウルトラ仮面とオニキスの殺陣も撮影するのですが、素材の仕上がりとホモ君と堀君二人のスケジュール調整の関係上、明日の晩にはアテレコをする予定となってしまい、中々に乱雑な強行スケジュールとなってしまいました。

 その為二日目は家に帰ることなく撮影とアテレコを終えたら即デスアイランドへと帰島します。

 もっとこっちにいたかったZE……。

 

 撮影自体は特にこれといって気にすべきことはありません。アビリティやスキルの獲得のために観察しなくちゃいけない相手もいませんので、撮影アクトにのみ専念して問題ありません。

 とりあえず脚本はこの二日間で十二分に読み込んでおいたのでもーまんたいです。ただ脚本の時間設定の都合上、最初に撮影するのは二つ目の堀君の目の前に現れるシーンとなります。

 さて、それでは。

 『メソッド演技』よし。

 『百式演技術』よし。

 さあ────ショータイムです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ふい〜。

 いい仕事、しましたねえ(小並感)

 これでロケ地をちょっと移動して夕方に一つ目のシーンを撮影すれば一日目終了です。予定(チャート)通り進んでいるので一応自宅に帰ることはできそうです。

 帰宅するためルイとレイにも会うことができる可能性が浮上してくるのが『デスアイランド』抜け出して外部の撮影受けることのメリットですよね。ここで二人が無事に過ごしているのがわかれば景ちゃんにも帰島後の撮影で安定性に微量ですが上昇補正入りますし、ここで会えるのはうま味です。これも景ちゃん幼馴染みルートの特権ですよね(満面の笑み)

 

 堀くんは──やっぱりというか、予想通りではありますが、流石にちょっと落ち込んでるみたいですね。ホモくんの主演を喰うような演技を見たらそういう類の才能を欲している彼からすると中々にクるものがあるのでしょう。

 ここでうまいこと好感度だったりフラグを調整しておけば、巌爺のトレーニングなしで堀君の"なすりつける"助演としての演技──いわゆる()()()演技の才能に少し気付くことがあるのですが……うーん、今回はそんな様子はなさそうですね。残念ですが仕方ありません。

 せめてホモくんとの共演で彼のステが少しでも上がると後々楽になってくるので助かるんですが……(人間の屑)

 ま、これについてはどうこう言っても仕方ありません。お茶でも買って堀君のケアをしてあげましょう。

 ケアといっても、チヨコエルにしてるような大層なものではないのですが。お茶かなにか買ってすこしコミュを取るだけです。こういうタイミングで堀君とのコミュを取れば堀君のステータスの伸び率に上昇補正が入ることがあります。

 うん、堀君にお茶でも買ってきてあげましょうか────

 

「……すみません、道を聞きたいのですが」

 

 

 

 

 

 

 そうやって自販機に向かったホモ君のところに、キャンバスノートを抱えた眼鏡美人が────

 

 

 

 

 ────………………はい?(幼児化)

 

 

 

*1
夜凪がよく着てる奴。

*2
原作scene24〜25より。夜凪が天球の観劇に着て行ったシャツ。





ウルトラ仮面の内容が思い浮かばなかった作者。安価でも取るかと頭狂い始めた模様。

6/1から諸事情により死ぬほど忙しくなるので今後は投稿数がグンっと減ってしまいます。
ちゃんと完走するつもりですので気長にお待ち頂ければ。夏までには1話出したいなあ……。


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scene16『パッチワーク』




短いですが生存報告です。
【バタフライエフェクト発生中……】


言い忘れてましたがアクタージュ『銀河鉄道の夜』舞台化おめでとうございます!!
アニメ化も映画化もかっ飛ばして舞台化するあたりアクタージュらしいですよね。







 

 

 

 

 

「……すみません、道を聞きたいのですが」

 

 

 ──スゥゥゥゥ……(チラ見)

 

 

 >あなたはアキラと自分用のペットボトルを両手に納めながら、キャンバスノートを脇に挟んだ女性を見遣った。どこかで見覚えのある顔だ。

 >いや、と。あなたは頭を振った。他人の空似だろう。というか、そんなことよりも眼前の眼鏡をかけた美女、どうやら道が分からなくなって迷子状態らしい。

 

 ──スゥゥゥゥゥゥ……(ガン見)

 

 嘘やん……。こんなことってある? 何パー? 何パーなの? しかも撮影中とか更に確率低いはずっすよね。

 

 卸すぞお前……!(威圧)

 ……何なんだよ、一体何なんだよ誰なんだよお前はぁ! 答えろッ、答えろジョジョォッ!!(錯乱)

 私は知らない……! 知っていてたまるかぁ……!(狂乱)

 

 落ち着きましょう。クールにいかなければ出来ることも出来ません。

 基本的に貴女みたいな美人過ぎる芸術家とか言われるアーティストなんて知るわけない……はずなんですが……なんだァ手前(テメェ)(自問自答)

 いえ、ホモくんはしがない天才俳優のホモに過ぎませんし、そんなに物珍しいツテなんてあるはずがな──結構ありましたね(諦観)

 …………いや、マジかあ。

 

「? どうかしましたか?」

 

 >いや、なんでもないと貴方は愛想笑いを浮かべた。そうですか、と呟きながら目の前の美女が貴方の後ろで撮影準備を進めているスタッフたちの方を見遣っている。

 >へえ、と目の前の女性が吐息を漏らした。パパラッチや野次馬といった類ではないみたいだ。どちらかと言えばアーティストのような印象だ。

 

 ……ええ、はい。

 皆さんご存知、原作本編で中々にクズムーヴかましたのに美人だから許された典型例こと山野上女史ですありがとうございます。オイ嘘だろバーニィ……(情緒不安定)

 いやまあ、確かにこの時期の花子さんは山に篭ってるかよくわからん僻地に行ってるか被写体探して全国飛び回ってるので、こういう所で羅刹女以前に遭遇する確率もゼロではないです。実際景ちゃんも考えなしに登った山で遭遇している訳ですし。

 とはいっても試行中にも2、3回しか当たっことない糞レアなのになんら変わりありません。

 まさか……これは、ガバ……?

 

 ────否。

 

 否、否です。続行します。私の辞書に不可能の二文字はありません。

 私がどうしてここまでの鍛錬を積んだのか。どうしてここまでホモくんを積み上げてきたのか……。

 

 この時の為だ……!(クソイベントを乗り切るため)

 

 ここでこそ私のリカバリー手腕を見せる時です。というかこんなとこまで来て止め(リセットくらっ)たらメンタルが終わります。失踪するぞオラァン……。

 因みにですが、羅刹女RTAだったり花子さんルートの時はこの時点で知り合う必要が出て来ますね。羅刹女RTAだと景ちゃんに至っては丁寧な好感度管理さえ行っておけば上手いことぼやかして花子さんとのことを伝えればそれだけで羅刹女召喚出来るので結構うま味です。それくらいしか現時点じゃ上手く扱えないんですが……。やめてくれよ……

 さっさと道教えておうちに帰ってもらいましょう。ステイホームです。

 ホモくんが夜凪家の知り合いかつ天才俳優とかいうのがバレなければセーフ。なんとしてもここでリカバリーしておきたいところですね。まかせろーバリバリ。

 

「……貴方、俳優なんですか?」

 

 えっちょまっはぁ⤴︎

 

 

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 

 はい、無事終了しました(震え声)

 こんなクソイベント、私にかかれば朝飯前です。名前は知られてしまいましたがまだマシな代償でしょう。むしろ羅刹女編への布石が出来たという考えも出来ます。ポジティブ大事。

 

 まあ、冗談を抜きにしても正直なところ上手いこと切り抜けられたのではないでしょうか。

 ぶっちゃけここで色々バレてると山野上女史が洒落にならないことになってデスアイランド乗り込みに来ることもあり得ますし、それになると羅刹女降臨してマジでデスアイランドと化してしまうところでした。これも全て夜凪パッパが悪いんです。太宰か何かかアイツは……。

 

 そう考えれば安い代償でしょう。これ羅刹女RTAじゃないのに……そんなチャートじゃないのに……なんで羅刹女やらかしかけてるの……なんで……?(純粋な疑問)

 

 まあ、いっか(悟り)

 

 切り替えて行きましょう。

 山野上女史襲来を切り抜ければ直ぐに撮影再開です。アキラくんにさっき話していたのをちょっと聞かれましたが、特に問題ありません。

 『ウルトラ仮面』の撮影も残り僅かです。

 手早く済ませてしまいましょう。

 

 

 

「おつかれ元輝くん。はいこれタオル」

「元輝にぃおつかれー!」

「お疲れ様ですお兄さん」

 

 >撮影が一段落つき、ベンチに腰掛けたあなたのところに雪さんがルイとレイを連れてやってきた。どうやら出向という形で今回の撮影のサポートに回っているらしい。

 >ありがとうございます、と言いながらタオルと瓶のサイダーを受け取る。ルイとレイに両脇を挟まれながら、あなたは程よく冷えた液体を煽った。視界の隅で墨字さんがアキラと話していているのが目に入る。

 

 『ウルトラ仮面』撮影二日目となりました。

 埼玉方面での撮影ですね。昨日は帰宅できた時間が遅くなってしまいこともあり、当初予定していたルイとレイの様子を見に行くと言うことが達成できなかったのですが……なんとありがたいことに、雪さんが『大黒天』として出向していてくれていたので二人をロケ地に連れてきてくれたみたいです。

 

 連れてきてくれて……ありがとう……!(エース感)

 

 お礼にストゼロあげますね。……え、同情するなら飯を奢れ? すみませんカツ丼で勘弁してください……(ギャグ未満クソ以下)

 それにしても、雪さんが態々二人を連れてきてくれるとは結構珍しいですね。いえ、雪さん自身がこうやって出向してくるのは珍しい訳ではやいんですが、ルイとレイ、それに墨字さんを連れてくるとは……中々やりますね。惚れるぜこれはよぉ……!(感謝感激雨嵐)

 

 ええと。

 撮影自体は特筆すべき点はないのでサラッと流していますが、一応ルイとレイは『ウルトラ仮面』の視聴者なので盛大なネタバレを喰らわせないように気をつけましょう。昨日と今日で何人かスタッフさんと仲良くなっておいて良かったです。これで二人の安全も確保できますし、雪さんも少しは動き易くなるはずです。別にネタバレしてるかどうかとか気にしなくてもいいんですが……あんまりリスクを取りたくはないので気をつけるくらいはしておきましょう。

 

 あ、スタッフさん。この二人、今ちょっと知り合いから預かってるんですけど、撮影の間だけでいいので面倒見てくれませんか────いや子供じゃないって言うとるでしょーが。

 え、雪さんとの子供だって?

 

 

 ちげーよぶっ殺すぞ(豹変)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、もしかして私達って……友達?」

 

 撮影11日目。

 『ウルトラ仮面』の撮影との兼ね合いで元輝くんが島外に行ってしまった日の夜のこと。

 撮影スケジュールを全て消化して。茜ちゃんたちと夕ご飯を食べていた私は、恐る恐るそんなことを口にした。

 ぬっとテーブルに身体を乗り出しながらそう尋ねた私に、同じ食卓を囲っていた三人が目を白黒させた。

 えぇ、と茜ちゃんが困惑気味に眉尻を微かに下げながら、

 

「今更何やのこの子……」 

「友達というより仲間だな」 

「どう違うんだよ」

 

 ……あっ。

 しまった、今の失言だったかもしれない。ど、どうしよう。どうしよう。両手をわたわたさせながら三人を見遣る。

 もしかして、まだ違うのかもしれない──そんな嫌な予感が頭を過った。動揺を隠し切れず、思わず私はオロオロと左右に視線を振った。

 

「もしかしてまだ友達じゃない……?」

「友達や友達!」

「なんで不安げなんだよ」

 

 ……ほっ。

 よかった。『友達』って難しいのね……。

 安堵のあまり大きく息を吐いていた私を見た茜ちゃんが、何言うとんねんと笑いかけてくれる。その後ろで武光君と真咲君が心配症だなとでも言いたげに口角を上げた。……むぅ。

 

「良かった……。

 私、昨日考えたのだけど。

 もし茜ちゃんが殺されそうになったら、きっと身を呈して助けると思うの!

 これって友達だからよね!?」

「なんで私が殺されなあかんの」 

「重ぇなお前の友情」

 

 友達(カレン)

 私は『友情』を──特定の誰かに、友情を抱く自分(わたし)を創らないといけない。

 『好き』という気持ちなら、元輝くんへの気持ちで代用すればいいと思ったんだけど……どうやら私、元輝くんの代替品を考えるの、どうしても嫌だったみたい。昨日試してはみたけど、全然うまくいかなかったわ。よくわからないけど、なんだか吐きそうになってしまったもの。……うん、もう撮影で吐いちゃうわけにはいかないものね。

 だから千世子ちゃんとうまく演じるようになるためには、友達への──俳優としての友達であるみんなへの想いがどんなものなのかを考えないといけない。『夜凪景』が茜ちゃんたちをどんな風に思ってるのか。それが知れれば、多分何とか出来ると思うから。

 

 ……ケイコは、カレンを助けて死んでしまう。

 だから私が演じるケイコという人物にとって、カレンという女の子は、クラスメイトで親友の、そして自分の命を躊躇わない程に信頼してやまないヒトであるはずだ。

 

 うん。

 だからね、みんな。

 

「私、千世子ちゃんと友達になろうと思うの!」 

「「「……」」」

 

 沈黙が痛い。

 

「……へぇ、え、なんで?」

 

 真咲君の困惑した声がなんだか辛い。どうやら気を使われてしまったらしい。

 ……言いたいことが正確に伝わってないみたい。……元輝くんなら別に話さなくても意思疎通できるのに……。ひょっとして、これが表現力が足りてないってことなのかしら?

 武光君なら結構私のこと分かってくれてるみたいだし、私が言いたいこと分かってくれてないかな……?

 

「……役作りって訳か」

「薬作り……?」 

「聞いたことねぇのかよ、どうなってんだお前」

 

 だって聞いたことないもの。

 

 墨字さんにも元輝くんにもそんなこと言われてないし……。

 首を傾げていた私を見た武光君がくつくつと笑み湛えながら、

 

「まあ、何にせよではあるが。

 役作りってことなら元輝に聞くのが一番早いんじゃないか? この中じゃあ、アイツが一番そういうのに詳しいはずだが」

「……うん、私も確かにそう思うんだけど。でも、いつも元輝くんに頼るわけにはいかないし……それに、出来ることなら自分の力でなんとかしたいの」

 

 特に理由があるわけではないけど。

 本能的に、そんな気がしていた。

 

 俳優として、女優として。

 夜凪景(わたし)が『穂村元輝』という俳優の隣に立っているためには、私は一人で立てるようにならなきゃいけないのだと。そんな風に感じている。

 これがどういう感情なのかはわからないけれど。

 でも、きっと。

 それが私が今やらないといけない事であるのに、何の間違いもないはずだから。

 

「ちゃんと千世子ちゃんと友達になってみせるわ」

「友達ってそうやってなるもんじゃねえだろ」

「相変わらず不思議ちゃんよな……」

「はっはっはっ」

 

 生温かい視線を受けながらも、私はギュッと両手を握り締めて意気込みを新たにする。

 ちゃんと『ケイコ』を演じる役者として、きっと千世子ちゃんと仲良くなってみせなくちゃ。

 元輝くんも仲良くなってほしいって言ってたし。

 ……うん。それならなおさら、幼馴染みの頼みなんだし、千世子ちゃんと友達にならないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とは言ったものの。

 

「……うーん」

 

 どうしよう……。

 友達のなり方って難しいのね……と。そんなことを考えながら私は一人夜の帳の落ち切った海岸線を歩いていた。

 街灯が微かに湿気った地面を照らす。夏虫が光に屯って、古めかしい白熱電球がジジッと音を立てた。

 

 というか。

 そもそもの話、千世子ちゃん自身、今を煌めく大女優だ。

 カツカツなスケジュールを縫ってここでの撮影に臨んでいる以上、相当な頻度で本土の方に別の仕事をしに移動するという、強行気味のスケジュールになってしまうのは避けられない。

 だからデスアイランドにいるときも、その分の穴埋めとしてプロデューサーだったり監督たちとよく話しているから、集団で話すことはあれど一対一の状況に持ち込めないというのが実際のところだった。

 今日一日、なんとか話そうとトライしてみたのだが、残念ながら見事に砕け散る様が続いている。

 裸の付き合いをすれば友達になれるって言うし、一緒にお風呂でも入りたかったのだけど。うまくいかないものね……。

 

「……?

 ──あ、元輝くんからだ」

 

 ピロンっという気の抜けた音と微弱な振動。

 画面に表示された名前に、私はなにかあったのかしらと、少しだけ首を傾げた。というか、まだそんなに連絡先を交換した訳ではないのだけど。元輝くんと雪さん、後元輝くんのおかあさんとお父さんくらいだった。

 

 画面の一番上に出てきた通知をタップすると、ディスプレイにルイとレイに挟まれながら三人揃って瓶のソーダを飲んでいる写真が表示された。

 どうやらルイとレイの写真を送ってくれたみたい。ふふっ、と仲睦まじげな三人の様子に笑みが溢れた。慣れない手つきで画像を保存する。

 

 私があまりルイとレイと連絡を取ってなかったことを察して、向こうの様子を教えてくれたみたいだ。

 ある程度の理解を示してくれた雪さんが『大黒天』で面倒見てくれてると言っていたし、元輝くんのおとうさんとおかあさんもいるから特に心配はしていなかったけど。

 定期連絡で二人が元気にやっていることはわかっていたというのもあるけれど。

 

 ……うん。

 そうね。そうだわ。

 私は、役者だもの。

 (わたし)で感じたことを、(だれか)で表現する。

 墨字さんも、元輝くんも言っていたように。そうやって心で演じるというのが私の演技法なのだから。

 ……うん、心がないと演じられない私だからこそ、ケイコ(わたし)千世子ちゃん(カレン)と友達にならなきゃいけないんだわ。

 演技のためにも、映画を完成させるためにも、元輝くんのためにも。今はまだ友達だと思えそうにないけれど、千世子ちゃんを友達だと思わないと。

 

 当たって砕けろ上等で、取り敢えず突っ込むべきだ。

 やってみないと、色々なことがわからないものね。

 

「──って、アレ?」

 

 見慣れた白髪が視界を過ぎる。

 私服の白いノースリーブのワンピースの上に、薄手のカーディガンを羽織って、琥珀色の瞳を和らげにしながらスマートフォンの青い光が顔を照らしていた。

 

「千世子ちゃん?」

 

 堤防を歩いていた足が、止まる。

 私が撮影で見てきた彼女よりも、優しく穏やかな表情を浮かべている。

 手元のスマートフォンを見て、くすりと笑みを浮かべながら砂浜を歩くその様子は、この世のものとは思えないほど神秘的で。

 ほうっと。息をすることさえ忘れて見入ってしまうほど──綺麗だった。

 

「……夜凪さん?」

「え、あ。

 こ、こんばんは。千世子ちゃん」

「うん、こんばんは。

 どうしたの、なにか問題でもあった?」

「えっと、その。違うの。問題とか起こしちゃったわけじゃなくて。偶然見かけて、話しかけようとしたんだけど。

 千世子ちゃん、すごく綺麗で、見惚れちゃって……」

「────そっか」

 

 10メートルも離れていないところで立っていた私に気付いた千世子ちゃんが、特に驚くことなく私に声をかけてくれた。

 驚いて、思わず肩を揺らしてしまう。

 そんな私の様子に、千世子ちゃんがくすくすと笑った。……そんなに変だったかしら。

 

「相変わらず面白いね、夜凪さんって」

「面白い……?」

「うん、面白いよ」

 

 そうやって、にこやかに笑う千世子ちゃん。

 すごく綺麗で。淀みがなくて。

 なのになんだか、嫌な予感がして。

 そんな私をよそに、千世子ちゃんがスマートフォンをチラリと見て、徐に口を開いた。

 

「……時間も時間だし、そろそろコテージに戻ろうかな。

 夜凪さん、この後予定ある? 私もそろそろコテージでやらなきゃいけないことあるから戻らなきゃなんだけど、ないなら一緒に話して帰らない?

 聞きたいことがあれば聞いてくれていいから」

「本当に!?

 行く。行くわ。一緒に帰りましょ」

「大袈裟だなぁ。うん。じゃあいこっか」

「ええ!」

 

 勢いよく返事をしたは私を見た千世子ちゃんが、くすりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





幼馴染みではないが故に景ちゃんほど距離は近くないが、俳優としての技量と独立性のお陰でホモくんに頼られて〝依存させるようとしている〟千世子ちゃんと。

女優としてまだまだであるが故にホモくんに頼られることがないが、幼馴染みとしての軽い共存関係にいたが為に深いところまで理解し合っていて、でもホモくんに並び立つ為に、〝頼られる為に独立しようとして〟距離を置いた景ちゃん。

そして何食わぬ顔でホモくんの写真を撮って二人に送りつけた挙句意図せずご飯の予定を取り付けた雪ちゃんに乾杯。

修羅場ってきたので疾走しますね……。

あ、あとホモくんに叫ばせたいウルトラ仮面の口上、活動報告で募集してるのでガシガシ送ってくれると泣いて喜びます。頼むよ〜送ってくれよ〜。


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scene17『紕と鰓』





いいヒーローができました(満足気)






 

 

 

 

「──()鹿()()()()()()()()()()()()()()

 

 シュルッ、と。

 

 細部に黄色があしらわれた、危険色を連想させるブラックカラーのベルトが元輝(カイリ)の腰に巻き付いた。

 禍々しい紋章の刻み込まれた、黒曜石のように輝かくバックルを弄ぶ。くるくるとそれを右手で回転させてながら、カイリは目の前に立つアキラを見つめると、ニヤリと口角を歪める。

 クハッと。嘲るような声が漏れた。

 頭上に投げたバックルを掴み取り、手元に収まったそれの側面にあるスライドを押し込んだ。

 

 

 

Standing(スタンディング) by(バイ) Proto(プロト) Zero(ゼロォ)…』

 

 

 

「信念なき『正義』に生きる価値などない。

 お前の『正義』を超え、俺は俺の『悪』たる信念を示そう」

 

 バックルをベルトのかま口に横からスライドさせた。パチリと音がして、くぐもった機械音が鳴り響く。

 目の前に立つヒーローを見ながら、ベルトの右上に現れたドライバーに手を掛ける。

 お前はどっちか、見せてみろよ。そう言いたげに、男は薄く笑って。

 

 

Execute(エクゼキュート) code(コード) : ONYX(オニキス)

 

 

「────『変身』ッ!」

 

 

HAZARD(ハザード) HAZARD(ハザードッ) HAZARD(ハッザァァッドッ)!』

 

 

 ノイズ混じりの、警告を知らせる機械音声。

 勢いよく打ち落としたドライバーが、金属の擦れ合う音と共に固定され、ベルトを中心に特殊な電磁フィールドが展開される。

 ガチリ、と。

 γを基調とした悍しい紋章の描かれたバックルが裏返り。まるで内在するエネルギーが噴出するかのように、赤い光が溢れ出した。

 刹那の内にカイリの体を黒いスーツが覆い隠し、黒曜石のようなアーマーが出現した。それらが絡み合うようにしてスーツの上に纏わり付き、増設されるようにして刺々しいプレートが滲み出した。

 

 ──ゆらり。

 現れたのは漆黒の瞳に紅を止まらせた、闇の戦士。

 バチリと空気の爆ぜる音を身に宿して、鎧のように身体を包む黒いアーマーが鈍く妖しい色を灯した。

 

 

Complete(コンプリート)OVERFLOW(ヤッベェェイッ)!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おつかれ元輝くん。はいこれタオル」

「元輝にぃおつかれー!」

「お疲れ様ですお兄さん」

 

 埼玉県、某所。

 夏真っ盛りの炎天下の中。一先ずの撮影を終えた元輝君が真っ黒の衣装のままベンチに座り込んだ。

 レーヨン製のロングシャツのボタンを開けて、中のシャツをパタパタと仰ぐ。時期が時期にだけに、というのもあるんだろうけど。

 やっぱりここまで全身真っ黒の長袖を着込んでいると流石に暑いらしい。そりゃそうだ。私もいつもの格好(ナイロンジャケット)じゃなくて袖の短い白のロゴシャツにデニムと夏の装いなわけで。

 

 お疲れさまと声をかけると、元輝くんが普段よりも少し気の抜けた柔らかい表情でくしゃりと目尻にシワを寄せた。

 我先にと元輝君の横へと飛び込んだ夜凪姉弟を尻目に、私は先ほどまでクーラーボックスに入れていた瓶のサイダーとタオルを元輝君へと手渡す。

 

「ん、ああ。ありがとうございます雪さん。

 お疲れ二人とも、よく来たな。暑かったろうに」

 

 笑みと共に助かりますと口にして、透明の液体の入った瓶とフェイスタオルを受け取った。かすかに施されたメイクを崩さないように気を使いながら軽く汗を拭うと、タオルを置いて両隣に座っていたルイくんとレイちゃんの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。

 二人揃ってうにゃうにゃ言ってる。マジかわいい。

 プシュっと炭酸の抜ける音。3人が横並びサイダーを煽った。一言断ってその様子を写真に映していると、サイダーを半分程度飲み干した元輝君が、

 

「それにしてもよく墨字さん連れて来れましたね。こういう案件とか絶対受けねぇとか言い張ってそうなものですが。

 いや、まあ。それ抜きにしてもこうやって二人を連れてきてくれてホントに助かりましたよ。今度何か差し入れしますね……」

「いいっていいって。もともと私もこっちに出向する予定だったし、ついでだから気にしなくていいよ。ね、ルイくん」

「でも雪姉ちゃんめっちゃ大変そうだったぞー。これ受けないと毎朝パンの耳で過ごさなくちゃいけないって」

「うん。墨字のおじさん、すっごい粘ってたもの」

「……何か食べたいものあります?」

「……お肉食べたいです」

 

 ……墨字さんまじ許さん。

 これもデスアイランドに行ってからというものの、何やら色々下準備をしているらしくろくすっぽに仕事していなかった墨字さんの所為だ。だから私がこうやって仕事入れなきゃいけなくなったんだ。

 挙げ句の果てにはこの仕打ち……どうしてやろうか……と思考巡らせていた私の横で。

 くすりと苦笑と湛えた元輝君が、デスアイランド後にでも行きましょうかとスマートフォンに指を走らせた。いや、ご飯に行く分には、こんなイケメンといけるとか目の保養になるし美味しいもの食べられるしで全然ばっちこいなんだけど。元輝君とも仲良い訳だし特に問題はないし。

 ただ。

 というか。

 ……年下にご飯を奢られる年上だというのには何の異論もなかったのだった。ちょっとつらい。

 

 少し時間が経って。

 撮影もひと段落ついた正午過ぎ。

 ロケ弁を乗せた木製のテーブルを挟んで、私たちはご飯を食べていた。元輝君はルイとレイについてスタッフさんに頼んでくるって今席を外しちゃったから今は一人だけど。

 

 ぎっしりと敷き詰められたお弁当を眺める。

 炊き込みご飯にカツサンド、それとミックスフライをこれでもかと詰め込んだとは、『ウルトラ仮面』のロケ弁は中々に豪勢だ。うらやましい。

 こういうロケ弁──撮影中に元輝君たち(アクターズ)だったり私たち(プロップマン)みたいな所謂"製作陣"に支給されるご飯は大抵がスポンサーが持ってくれるからこういう出向だとあまり気にしなくていいのはとても助かるのだ。

 

 はむっ。とカツサンドを頬張りながらルイくんとレイちゃんを連れて挨拶しに行っている元輝君を見遣る。

 すっげーウルトラ仮面だ! と叫ぶルイくんを肩車しながらスタッフさんに話しに行っている様は墨字さんの親戚とは思えないほどにイケメンだ。マジでどうなってるんだろうあの遺伝子……。突然変異過ぎないかな?

 

「元輝さん? どうかしましたか……子供?」

「所用で預かってまして。

 不躾なお願いだというのはわかっているんですが、撮影中の時だけでもこの子達を気遣って見守ってくださると嬉しいです──」

 

「おっけー」

「ほーほー」

「熱愛スキャンダルだと……」

「黒山の息子が観れるってマジ?」

「こうやってお前が子供連れてくるのを懐かしくて色々思い出すのはオレが歳食ったからか……」

「穂村くんの妹と弟ってどの子ー?」

「お前子持ちだったのかよ」

「穂村君もう子供作ったの?」

「誰? 相手誰? アキラくん?」

「雪ちゃんの子供ってホント?」

「美人過ぎる制作担当とイケメン俳優の子供がいると聞いて」

 

「ガバガバ過ぎませんかこの伝言ゲーム」

「にいちゃん人気者だなー」

「顔で判断するなんてまだまだね」

 

 ……ッ!?

 ぶふっと喉を潤していた緑茶を少しだけ吹き出した。変なこと言ったの誰!?

 いきなり耳に入ってきた言葉に思わず元輝君たちの方へと振り向いた。子育ての経験のある子持ちの既婚者──衣装部女性チームの下に夜凪双子を連れて行っていた元輝君の下で行われていたらしい。

 確か既婚者だという女性陣に元輝君が頭を下げていた。その横でニヤニヤをこっちを見ている墨字さんが憎たらしい。どうしてくれようか……。

 

「俺が忙しい時はお願いします。撮影中は面倒見られませんし……」 

「おっけーおっけー」

「任せて!」

「穂村さんも忙しくても目は離さないようにしてね」

「わかりました。助かります」

 

 

 

 

 

 

 

 

『グっ、ガァッ!』

『どうしたヒーロー。そんなもんかよ』

『こんの……ッ。まだだ……!』

『──甘い』

 

 

「──本日の撮影はここまでです。星アキラさん、穂村元輝さん、撮影お疲れ様でしたー」

 

 

 くぅ~疲れましたw。これにて完結です!(違う)

 実は、チャートを組んだのが始まりでした。本当はオリチャーなんてなかったんですが……(大嘘)

 とまあ、激ウマジョークはさておき。

 これにて『ウルトラ仮面』の撮影が一先ずの終了を迎えました。ホモくん演じるオニキスは死んでも第二ライダーにならない系ダークヒーローである、というのもありますが、監督やプロデューサーの計らいもあって『デスアイランド』期間中にはもう撮影が入ることはないとのこと。次の話はホモくん出番ありませんものね……。もっとやってくれよ……(諦観)

 プロデューサーいわくデスアイランド明けからは新規キャラ(幼女)との共演が入ってくるとの事らしく、そこから7話近くに渡って本編に絡むことになるので少し忙しくなるとのこと。まぁ、銀河鉄道編との兼ね合いを見てもまずまずといったところでしょう。予定通りです。

 

 で、問題のステータスは……殺陣やアフレコを筆頭にそこそこの値にまで達しています。予定通りの習熟度ですね。

 上昇率で言えばトータル60オーバーといったところ。やっぱり特撮系の案件は同時に色々なステを上げれるのでうま味です。ステ上げ美味しくて環境良くて人間関係気にしなくていいとか……最高やん(恍惚)

 

 唯一の懸念事項だったウルトラの母の到来もありませんでしたし、しかも1日目にルイくんとレイちゃんに会えていなかったことを察知してくれた雪ちゃんが態々二人を連れてきてくれましたのでほぼ予定通りです。

 

 ……え、花子さん? なんのこったかなぁ……。

 

「……? 元輝君、どうしたんだい? そろそろ船に向かわないと最終便を逃しちゃうよ」

 

 >なんでもない、とあなたは言いながら名残惜しそうに服の裾を掴んでいるルイとレイの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。流石に船に連れ込んでデスアイランドにまで連れていく訳には行かない。

 >うにゃー! と声を上げる二人に苦笑しつつも雪さんに目配せをする。任せなさい、と言わんばかりに雪さんが胸を叩いた。

 

「じゃーなー元輝にぃ! ねーちゃんによろしくなー」

「ばいばいです、お兄さん」

「元輝、テメェが何やろうが知ったこっちゃねぇが、夜凪がやらかした時はお前が全部なんとかしろよ」

「ちょっと墨字さん! ……じゃあまた今度ね元輝君! けいちゃんによろしく!」

 

 さらば我が天国。

 正直、本当に。

 ほんっと〜に、後ろ髪を引かれる断腸の思いなのですが……仕方ありません。ばいばいと手を振っている3人(ブラックを除く)に手を振り返していると、アキラくんがチケット買って来れたみたいです。ホモくんの様子をなんだか微笑ましいものでも見たような表情を浮かべているアキラくんに連れられてフェリーに乗り込みます。なんだホモかテメェ(歓喜)

 移動時間にすることは特にないので、映画を見てアキラくんとコミュを取ったという結果だけが残る――と思ったら電話ですね。クソが、誰だお前……チヨコチャンッ!?

 

 ………………………。

 …………。

 

 特に何事もありませんでした。なんだよ驚かせんなよ……。

 通話時間が25分間とデスアイランド中ということを考えてみれば少し長めの電話でしたが、千世子ちゃんとのコミュも取れた上に、ゴジラも特に問題を起こしていないことがわかりました。

 お前最高かよ。態々教えてくれるなんて惚れるじゃねぇか(手のひらドリル)

 あら、LI○Eにここ2日で撮ったであろう千世子ちゃんの写真が送られてきましたね。見覚えのあるザックリとしたデザインのカーディガンを着た千世子ちゃん――つまるところカレンの格好をして海辺で戯れている様子のオフショットです。なんか見覚えのあるイヤリングが夕日を反射していて、すごく神秘的ですね。かわいい(思考停止)

 返信にこちらもウルトラ仮面のときのオフショットを送っておきましょう。SNS用じゃなくて雪さんが撮ってくれてたやつなので何かレアなやつですね。何がレアなんだろう……(自問)

 ついでに景ちゃんにも夜凪双子と写ってる奴を送っておきましょうか。ポチッとなっと。

 

 そんなこんなで島についたという事実だけが残る(ジョジョ風)

 なんだか一昨日よりも窶れた様子のスタッフさんの運転する車でコテージに向かいます。スタッフさんとフェリーで少し仮眠を取っていたためにあまりコミュを取れていなかったアキラくんと少しコミュっておきましょう。まぁここで休めないのは私が電話してたせいなんですけどね!

 

 コテージにつきました。

 アキラくんと別れて自室に荷物だけ置きに行きましょう。

 

 これからの予定ですが、とりあえず大抵の俳優陣は明日に備えて睡眠を取っていますのであまりコミュは取れませんので、できることはだいぶ限られてきます。起きている人が少ないという時間の都合上、半分くらいの確率で二日間での様子が明日にならないとわからないという事態が発生してしまいます。

ます。

 それを避けるためにも「だれがおきてねぇが〜?」と秋田の妖怪なまはげよろしく深夜のコテージを徘徊するとかいう月曜サスペンスプレイをしなくてはならなかったのですが、先程の千世子ちゃんのファインプレイのおかげでその手間が省けました。ナマハゲ……。

 好感度をイカれさせるプレイをしなくていいとか、もう感謝しかありません。お前が好きだったんだよぉ!(唐突な愛の告白)

 本来であれば手作りの表彰状とメダルを持って添い寝しに部屋に突撃しに行くのが筋だと思うのですが、そんなのは望んでいない人もいらっしゃると思うので残念ながら出来ません。

 

 すまねぇ(陳謝)。

 

 ではここの時間を利用して手塚監督とコミュを取りに行きましょう。

 この時間帯なら丁度今日の材料が出揃ってその確認をしているはずなので、帰島報告ついでです。正直手塚監督は相当の食わせ者なので、めったに個人的な計画の進み具合とかのボロはでないんですが。

 

 正直、手塚監督がやろうとしてること自体はチャート的に成功しないとヤバいので、こちらからは特に手出しはしないしむしろ応援しとるでー、っていう意思表示くらいはやっておきましょう。まぁこれが意思表示って言えるかもあやしいんですが。

 

 たのむよ〜(イケボ)

 

 何も邪魔はしないからさ〜(満面の笑み)

 

 うまくやってくれよ〜(敵意なしの表明)

 

 でも怪我させんなよ(豹変)

 

 

 ……?

 あ、わかってくれたみたいですね。ホモくんに手塚監督を邪魔しようとするとかそんな意図がないことが判明すれば、手塚監督もだいぶ動きやすくなるでしょうし。ウィンウィンってやつですよ。

 

 手塚監督とのコミュが終われば本日のこれといったイベントは終了です。

 それでは本日はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 





沢山の口上のご応募ありがとうございました。お陰様でいいものができました(満足)
使わせて頂いたくまもんちさんとhuntfieldさん、ありがとうございました。その他の方々もご応募ありがとうございます。本来であれば枕と手作りの賞状を持って添い寝に行くのが筋だとは思うのですが、やって欲しくないという人もいるだろうということでこの場を借りてお礼を申し上げます。お前のことが好きだったんだよ!(唐突)
採用できなかった分も、まだライダーのシーンは出てくる予定なのでそこら辺でも使いたいと思います。


テンポ悪くなってきたのでサクサクやりたいこの頃。
明日も更新(予定)です。



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scene18『夕凪、某、空惑い』





連日投稿(ドヤ顔)







 

 

 

 

「う──ん……」

 

 なんというか。

 このままで大丈夫かなあ、とも。

 同時に、不謹慎ではあるけれど、面白くなってきたなぁ、とも思う。

 それも僕が映画監督という立場であるから──撮影の外にいて、映画の中にいるというある種中立に近い立ち位置にいるからだろう。 

 

 灯りを落として僅かに暗い部屋で、プロジェクターから映写された彩り豊かな映像が瞳を焼いた。

 撮影中は控えているアルコールの代わりに購入していたペリエの蓋を開ける。プシュ、と炭酸の抜ける音。軽めの泡が舌の上で弾けた。

 

 僕は映画監督だ。

 映画を作るという創作活動は、僕の頭の中を現実にするという点において一番の担い手であると言える。

 映画の失敗や責任は全て僕が負わなければならないもので、同時に求めてやまないものでもある。

 たった一本の映画のためだけに自分の人生全てを捧げられる。

 僅か数時間にも満たない映画一本で人生を駄目にしてしまう。

 そういうことに人生を懸けている()()()()()()が映画監督なのだから。

 そうやって考えれば、僕は当事者の一人だということになる。

 

 だが同時に、撮影という場所をコントロールしているのもまた僕なのだ。

 役者の暴走を抑え、滞りなく撮影を行えるよう現場を統制し、映画自体が破綻しないよう全体を俯瞰する。

 そういう仕事をこなしているのだから、僕はある種外野の一人であるとも言える。

 ……いやまぁ。

 今回に限って言えば、僕が暴走するよう仕向けている節があるのもまた事実なのだが。

 

「ただねぇ……」

 

 夜凪景。

 穂村元輝。

 ……二人に期待していない、といえば嘘になる。

 なにしろ、あの黒山の懐刀と執心相手だ。

 メソッド演技の極地の一人である夜凪景と、幼くしてあの巨匠に認めさせた穂村元輝。

 比較的使いやすい俳優である元輝君ならばともかく。

 あのブルドーザーみたいな演技しかできない夜凪ちゃんをオーディションで採用したのは、僕が彼女に可能性を見たからだ。

 周囲の考えや見積もりなど知らず、自分の道を進み、周りを変えて、暴走しながらも"誰も見たことがないもの"を生み出していく。

 

 確かにこういうリスキーな選択は僕らしくないな、と薄く笑って、僕は町田ちゃんが画面の中で逃げ惑う様子を見ながら瑠璃色の瓶を傾けた。 

 僕にしては、というよりも『スターズ』の手塚由紀治ならあり得ない選択だろう。

 アリサさんが夜凪ちゃんをオーディションで不採用とした結果内在化しつつあった風潮に逆らってまで、夜凪ちゃんを採用して脚本にねじ込んだ。

 ここまでリスキーなやり方が僕のスタイルではないのは事実で。

 

「────」

 

 ……だが。

 でも、それでも。

 僕は見たいと、思ってしまった。

 

 百城千世子の素顔を。

 百城千世子の仮面が壊れる瞬間を。

 

 同じやり方で、同じ役者を使ってやる映画に。

 僕は“大衆に求められる”百城千世子に飽きていて、そして何よりも“売れる映画を作る”僕自身に飽きていた。

 

 あの時。

 彼女の仮面の下に何かがあるかもしれないと、そう思ったあの時から、僕自身がソレを願っていて。

 だから、黒山が提示したその意見に僕は乗ったんだ。

 

 全てを壊して、まっさらに新しくできるのなら。

 見たことのないものを見ることができるなら。

 夜凪景に賭ける価値はあると、そう思っていた。

 

「手塚監督?」

「──……穂村くんか」

 

 控えめな三回のノックと、木材の軋む音。開いたドアの先には普段は流している前髪をセンターパートにした穂村くんがひょっこりと顔を覗かせていた。

 ……そういえば今日の夜には戻るって話だったね。パイプ椅子に座ったまま体を捻らせると、

 

「や、撮影おつかれさま。そっちは大丈夫だったかい?」

「予定通りでしたよ。これで俺はデスアイランド中に撮影が入ることはないですし、……ああこれお土産のピスタチオです。酒のつまみにでもどうぞ」

「いやいや、流石の僕もこのカツカツなスケジューリングで飲酒はしないよ。ま、でもありがとうね。後でいただくよ」

 

 インポート品のピスタチオが入った紙袋を受け取りながら、僕は目の前に立つ青年の顔を見遣った。

 

 俳優、穂村元輝。

 明神阿良也と同ジャンルの天才役者。

 千世子ちゃんと夜凪ちゃんを足して2で割らなかったような、といえばその異常性が伝わるだろうか。

 各々の得意分野には流石に一歩劣るとはいえ、千世子ちゃんの得意とする空間把握と、夜凪ちゃんの持つ異様な没入感を持つ演技を同時に行うという常人なら頭がイカれてもおかしくない負荷がかかっているはずなのだが。

 

 ポリポリと頰を掻くその様子は、黒山の甥っ子とは思えないほどに様になっている。正直アイツの親族とは思えないレベルの容姿である。似てるところと言えば、クセのある真っ黒の髪くらいのものだ──が。

 今は、それよりも。

 

「──何かあったのかい? スケジューリングの調整ならプロデューサーにも一言言ってくれると助かるんだけど……」

「いや、向こうの監督さんたちが気を使ってくれたみたいで。とりあえずはこっちに集中できそうです」

「そりゃなによりだ」

 

 コレは……どっちかな?

 僕の目的に、気付いて欲しくない、という不安もあるし。

 気付いていて欲しい、という期待もある。

 サングラス越しに眼を細めた僕を見て、流れていた映像に眼を向けていた穂村君が顎に手を当てた。

 

「――――」

「……なにかな?」

「いや、別に大したことじゃないんですが……」

 

 穂村君がここを空けたことで幾つのかの変化が生じてきている。

 一番わかりやすいのは夜凪ちゃんだろう。……微かな依存が見えていた彼女に、自立心が芽生えてきたのは僕としても女優・夜凪景にとっても嬉しい誤算なんだろうけど……。

 それだと予定から少しズレてしまう。

 人のいいと思われる彼のことだ。千世子ちゃんどころか、可能性は低いだろうが夜凪ちゃんに気付かれでもしたら、僕の個人的な目的は完全に頓挫してしまうだろう。

 僕の意図を完全に把握された上で、千世子ちゃんと穂村君の二人がかりで夜凪ちゃんの手綱を握ることになれば、僕にはもうどうしようもなくなってしまう。ゲームオーバーだ。

 

「────監督がやりたいのは作品の完成より、百城さんの仮面を壊すことでしょう?」

「…………ああ、やっぱり、わかっちゃってたんだ」

 

 ……あらら。

 そんな予感はしてたけど、やっぱりバレちゃってたか。

 

「いつから気付いてたんだい?」

「確信はありませんでした。今の監督の反応で、って感じですね」

「僕にカマかけ?

 やるね、黒山の血は伊達じゃないといったところかな」

「……そんな大層なものじゃないですよ」

 

 いや、この段階でそこまでわかってるのは君くらいだよ。千世子ちゃんも僕がやろうとしてることはわかってないみたいだし。

 それにしても、だ。

 ちょっと気付くのが早いな。少し想定外だ。

 彼の観察力でも、ここまで早く正確に見極められるとは思ってなかった。流石は黒山二代目。気付きと確信が予想以上に早い。

 過度の警戒……いや、元々片鱗自体はあった。見極めの甘さが失敗の要因だろうか。

 

「今のところ『あんな』演技しかできない景を採用したんですから予想自体は立てられます。

 大方景を百城さんにぶつけようとしてるってところなんじゃないんですか?」

「……あははは。

 そこまでバレてちゃ仕方ないかな」

 

 想定よりもだいぶ深いとこまでバレてるね。うん、詰みかも。

 千世子ちゃんの仮面の下にあるはずの素顔。

 僕の見たことがないものを、見たことがない百城千世子を。

 僕の心が揺れるもの。百城千世子という女優の素顔がそこにあるのならと、……そんな風に思ってたんだけど、こりゃ駄目みたいだ。

 

「で、どうするんだい? 僕がやろうとしてること、やめろとでも言うつもりかい?」

 

 あはは……。

 ここで頷かれでもしたら、そりゃもう僕が何しようと駄目な奴だ。

 二人とも僕がバレちゃったからってだけで中止するほど諦めがいいタイプじゃないってのはわかってるはず。二人揃って十中八九潰しに来るだろう。

 うん、まあこうなったらしょうがないかな。

 夜凪ちゃんが僕の予測も周りの予想も二人の努力も超えていくのを期待するしかない。

 

 あーあ。

 本日撮影12日目。

 スケジュール的にも折り返し地点はもうすぐだ。

 トラブルはあれど、撮影自体はすこぶる順調。

 けれども撮影には僕個人の個人的な暗雲が立ち込めていた。

 

 ……千世子ちゃんの素顔が見たかっただけなんだけどなぁ……。

 

 

 次の、瞬間。

 

 

 穂村くんの様子を伺うようにして、視線を向けた先にあったのは。

 誰も聞いたことのない、普段とは似ても似つかない表情を浮かべた穂村君だった。

 ────それじゃ、足りないな。

 確信が、ない。

 聞き違いだと思った。

 ゾッとするほど底の見えない瞳で、穂村君が顎に手を乗せた。スリ、と親指と人差し指で顎先を撫でる。

 どこか恐怖を覚えてしまうようなそれも、瞬きのうちにいつもの表情へと戻っていた。

 

 見間違い……かな? いや、でも……。

 両手をぶらぶらさせながら敵意がないことを話す穂村君に驚きと警戒心を高める。

 彼の台詞と表情、今までの動きから予測を立てつつ、僕は小さくため息をつき。

 

 ……まったく。

 君といい黒山といい、君の家系は好き勝手やらないと気がすまないのかい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シヌカトオモッタ……。

 

 地獄みたいだったロケ地までの移動時間を耐え忍ぶとかいうクソイベントから始まる、デスアイランド撮影13日目となりました。

 ホモくんがウルトラ仮面の撮影を終えて帰島してから一夜明けたわけですね。

 SAN値も全快し、手塚監督とのコミュもうまく行って、デスアイランド中は基本的にすべて予定通りだったというのに(例外あり)……なんなんですかこの胃に穴が開きそうな状況は……。

 まさかこれがウルトラ仮面の揺り戻しとでも……?(絶望)

 誰だよホモくんをあの二人の間においたヤツ。

 

 ぶっころがすぞ(全ギレ)

 

 そんなこんなありましたがロケ地に着きました。モウヤダオウチカエル……。

 というか車での移動中に感じたんですが、千世子ちゃんと景ちゃんの二人ともホモくんがいない間に仲良くなって……るとは口が裂けても言えないですけど、景ちゃんが若干距離詰めようとしてないですか? 気のせいじゃないですよねこれ(虚無)

 とは言っても千世子ちゃんが激塩対応から大分塩対応くらいに変化してるくらいなので。ちょっと機嫌が良かったりした時くらいの違いなので変わりないといえば変わりないんですが。……うーむ。

 

 あ、いや。これアレです。

 昨日の夜の電話が普通より長かったからその影響がここに出てきたみたいですね。その影響でしょう。なんだぁチャート通りですね!(目逸らし)

 

 ロケ地についたあとは、とりあえずは千世子ちゃんと茜ちゃんの二人が撮影の準備に入るので、少しだけではありますが一息つけます。

 大抵はここらへんで千世子ちゃん周りの景ちゃんとのコミュが入るんですが……ってあれ? なんかいつもより短い気が……み、短……いやいつも通りじゃねーか。ビビらせんじゃねぇよ(恐怖)

 

「千世子ちゃあん」

「こっち見てー!!」

「天使!」

「千世子ちゃん!」

 

「千世子が出てるってのもあんだろうが、大方番宣目的での公開撮影だろうな。茜さん、空気に当てられてないといいけど」

「うむ。まあ湯島なら問題あるまい。お前もそう心配するほどじゃないだろうさ」

「わかってるけどいてーし声でけーよ」

 

 >すごい人混みだなとボヤいたあなたに、隣に立っていた真咲と武光が言葉を付け足した。僅かに心配を滲ませた真咲の背中をバンバンと叩きながら武光が朗らかに笑った。

 

 ということで(唐突)

 気を取り直して、本日はスケジュール通りであれば茜ちゃんと千世子ちゃんの共演を行います。なので今回は海の撮影となるわけです。

 海辺に立つ千世子ちゃんと茜ちゃんの一対一での会話シーンですね。

 贅沢にも放水車六台を使って撮影を行います。使用するカメラは三台。内訳は二人が向かい合う様子を引いた位置で取るカメラで一台。千世子ちゃんのアップに一台、茜ちゃんのアップに一台となっています。

 

 このカットの内容は、カレンを信じた結果クラスメイトが死んでしまったという事実への責務を、悲哀と自己嫌悪に苛まれながら糾弾する茜ちゃんと、それでもと理想を語り茜ちゃんを諌める千世子ちゃん──というものになります。

 激情に駆られる茜ちゃんと、穏やかに決意を滲ませる千世子ちゃん。

 そういう二人の対比構造となるわけです。

 

 シチュエーションは雨です。

 基本的な演出方針は放水車から水を撒き、雨を演出し、それを大型扇風機で打ち付けるような雨に加工するものです。

 放水車の数はなんと贅沢にも六台。広範囲に雨を降らして、遠くからズーム。

 ライトはかなり拡散させ、二人だけでなく地面や雨にも当て、反射させることで質感を演出する。やっぱりここは相当凝った演出ですね。そうとう雨の質感に拘っているというか、スターズの本気度が窺えるというか……。

 

 雨の質感を出す為に広範囲に雨を降らせての演出ということで、かなり『引き』の撮影です。離れたところからのズームで撮影することになります。

 近くのカメラではなく、遠方からのズームのためカメラの間に入る雨粒の数が増えぼやけが出ます。

 結果として、普通のドラマの顔アップシーンで使われる『眉の僅かな動き』や『唇の僅かな動作』などでの感情表現は、この豪雨の中だと通じにくくなってしまいます。

 

 そのため千世子ちゃんならではの極まった表現技法が見れる訳です。

 まあ色々言いましたが絶対に見逃せないよってことですね。

 

 ……………………。

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 はい、無事もろもろが終了したみたいです(瀕死)

 撮影終了後にも景ちゃんとのコミュだったり千世子ちゃんのコミュ兼メンタルケアだったり景ちゃん千世子ちゃん二人の、お腹にダイレクトダメージのくる会話の観察を熟せば取り敢えず『デスアイランド』での久々の撮影となります(5敗)

 

 今回の共演相手は町田さんと千ちゃんです。

 刀持って追いかけてくる千ちゃんから逃げ惑う町田さんと、数日前に撮影した千世子ちゃんとのシーンで千世子ちゃんと別れたホモくんが遭遇するシーンとなります。

 

「──カツミくん!? ダメ、逃げて!」

「……ッ。お前、か……!」

 

 ……ふふふ。

 さあて、デスアイランド初の殺陣アクトです。

 テメェら! ボッコボコにしてやんよ!(ヒーローにあるまじき発言)

 お前ら二人とも私のストレス発散の的になるんだよォ! ニチアサヒーロー舐めんじゃねぇぞおおあ!!(炎上不可避)

 

 一応羅刹女編とデスアイランド後の案件の兼ね合いもあるので、なんの躊躇いもなく二人ともメンタルフルボッコにすることはできません。ここで役者やめられたらチャートぶっ壊れちゃってもう修正不可になってしまうので、二人のステ上げと役者としての『立ち方』の理解の一助になるくらいにしましょう。

 まあそれくらいに絞っても割とメンタルヤバくなっちゃうことがあるので気をつけましょう。アキラくんレベルでフルボッコには出来ませんね。

 

 やっぱ堀くんが至高なんやなって……(感嘆)

 

 あっそうだ(唐突)

 因みにデスアイランドの脚本ですが、乱数によってだいぶ変化します。クソ脚本であることには変わりないので大差はないんですが……。

 今回はリカちゃんを助けた後に景ちゃん千世子ちゃん組と再度エンカウントした後に二人を逃して死にます(無慈悲)

 結構見せ場作ってくれたので手塚監督には感謝ですね。

 

 あ、撮影アクトが終わったみたいですね。後は寝る前にでも景ちゃんとコミュ取って一先ずは終了です。

 それでは本日はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 






仲良くなろうとして空回りしてる景ちゃん。
着々と外堀を埋めてる千世子ちゃん。
ひとつひとつフラグを積み重ねていくホモくん。
そしてとても楽しそうな手塚監督。
ホモくんの見えないところで発生する修羅場と当たり前のように投げ込まれるカオス……

字数の関係で修羅場は次回となります。
そしてその前にアクタージュの甘めな短編の構想が降ってきたんで、ちょっとそっち書きたいので元々遅いのがさらに遅くなります。申し訳ねぇ……。

じゃあ疲れたんで疾走しますね……。


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scene19『ハルジオン』



原作とだいぶ乖離してきたからみんな原作読もうねって感じだったんですけど電子版すら絶版でしたね……




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デスアイランド、撮影13日目。

 

 元輝が別の撮影──ウルトラ仮面の撮影を終えてコッチに帰島してから一夜明けて。

 俺たちはなんだか妙な雰囲気が漂っていたコテージからスタッフさんの出してくれた車に乗ってロケ地へと移動していた。

 

 席順は助手席にスターズのマネージャー、一列目席に右から順に夜凪、元輝、千世子。二列目に俺、茜さん、武光っての順。

 ……割と親しい知り合いが固まってんな。元輝のお土産のグリーンスムージーをすすりながらそんなことを考える。つーかアイツのチョイスが大分ファンキーだ。

 まぁありがたいからいいんだけど。うまいし。

 

「なんだかこうやって元輝くんと話すの久しぶりな気がするわ」

「気のせいじゃないか?」

「……? 顔色悪いけどどうかしたの?」

「昨日遅かったみたいだからね、ちょっと寝不足なだけじゃないかな。紅茶ならあるけど、飲む?」

「……アリガトウゴザイマス……」

 

 待て。

 いや待て。

 顔色とか変わってなかったろ。血色よかっただろ。なんでわかんだよ。

 

 内心そんなツッコミをしながら、俺は残り少なくなってきたカップを片手に夜凪、元輝、千世子の順に並んで座ってるのを座席越しに見遣る。

 

 ……なんつーか。

 あの三人は、仲良い……のか?

 

 あのレベルの美女に囲まれるとか普通は代わってほしいくらいだが、実際のところ、あそこに居られんのは元輝とか星アキラレベルの演技力じゃなくて顔の良さだけを売りにしていけるレベルのイケメンだけだろうな。

 そのレベルのイケメンだってのには若干嫉妬しない訳でもねぇが。

 ……というか顔だけでやっていってる連中に並び立つ顔面を持ってる夜凪と千世子がスゲェのか。

 

 一つ前の席で行われている痴話喧嘩的な何かに耳を傾けながら、なんというか。

 所感だからあんま宛にならないかもしれないが、若干こう、空気が歪んでる気がするというか、既視感があるというか。

 

 こう、なんて言えばいいのか。うまい言葉を思いつかねえんだが。

 夜凪は千世子と距離を縮めてえ様子で。

 だが千世子も千世子で一線は越えられたくねえ様子。

 その間で距離を縮めたいのと距離を縮められたくない思惑の合間で元輝が緩衝材と中継地点として使われてる結果、なんかよくわからん空気になってるっぽい。

 

「千世子ちゃんって好きな物って何かある?」

「マシュマロだよ。ねえ元輝くん」

「そうだな」

 

「ねえ、元輝くん。

 元輝くんが好きなものって何かあるの?」

「ああ。それなら」

「海外の映画雑誌よ! そうよね元輝くん!」

「……そうだな」

 

 ……ああ、これ、アレだ。

 仲良くなりたい犬とそうでもねぇ猫みたいな感じだ。そりゃなんか既視感があるわけだ。

 

「────」

 

 若干虚ろな感じがしないでもない瞳をしていた元輝とバックミラー越しに目があう。焦点が僅かにあっていない視線がなんとかしてくれとでも言いたげなSOSサインを発していた。

 どうしたものかと俺は一瞬頭を悩ませて、

 

 とりあえずサムズアップしておくことにした。

 

 まぁ、その。なんだ。

 ……うん、がんばれ。俺はこっちで茜さんのフォローするから。そっちはそっちでなんとかしてくれ。ほら自分の撒いた種は自分で処理しなきゃな。

 真咲(メロス)貴様ァ!! と鋭くなったミラー越しの視線を無視しながら、とりあえず隣に座る茜さんを見る。こっちもこっちで大変だった。

 はあ、となんかこういう役回り多くないかと胸中でため息をつきつつ視線を寄せる。

 件の茜さんと言えば。

 今朝からずっとなにも喋らずに、ずっと外の景色を眺めている。言葉をかけても生返事しか返ってこない。

 

 まあ、仕方ないよな、とも思う。

 なにせ今日の茜さんの撮影は千世子と二人での共演だ。

 しかも怒声を浴びせて、千世子演じるカレンを咎めるとかいう作中でも屈指のカタルシスを誇るシーン。この映画の中でも指折りの白熱するカットになるのは間違いねえ。

 脇役とは言え、『デスアイランド』レベルの規模の作品でスポットライトを浴びるシーンを演じるってのは俺も茜さんも片手で数えられるレベルでしかやったことがない。今までの撮影でわかってるけど、俺らオーディション組はスターズ連中に比べて圧倒的に経験値が足りねえってのは事実だ。

 

 そんな状況下で相当の負荷の掛かる撮影だ。茜さんの感じてる負荷は並大抵のものじゃねぇだろう。

 つってもガチガチに緊張している……というよりはエンジンをかけて来ているみたいな感じもするけど。

 

 これも夜凪の影響か?

 

 ……俺たちオーディション組は、千世子との共演が他のスターズ組とのそれに比べてヤケに多い。

 単純にスターズ組と俺達の間にある経験の差と、それをカバーできるようにってことなんだろうが、このキャスティングの目的はもう一つある。

 何度か共演して解ったけど、千世子は──百城千世子は共演者を喰っちまう。スターズとしても『共食い』は避けたいだろうし、結果として俺らの共演回数が増えてるんだろうな。……癪だけど、流石はトップ俳優ってことなんだろうが、俺達オーディション組じゃあ千世子とまともに共演出来るのは元輝くらいのもんだろうしな。夜凪は危なっかしいし、あんまりうまくこなせるイメージがわかねぇ。

 予想よりスターズ組の経験と技術が高いせいで俺らの見せ場をうまいこと作れてねぇっていう現状の上に、そんな千世子とサシでの共演だ。

 

「ははは、元輝も大変そうだな!」

「……そうだな」

 

 腹から声を出しながら笑う武光に頷きながら、俺はストローをすすった。ずずっと、パックに入ったスムージーが底をつく。

 デスアイランド撮影13日目。

 スターズ組も何人かオールアップし始め、日程的にも折り返し地点はもう直ぐ。

 撮影自体は順調で。

 でも、なぜだか。

 なんとなしに見上げた空は、嫌に黒く重たい雲に覆われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千世子ちゃあん!」

「こっち見てー!!」

「天使ー!」

「千世子ちゃん!」

 

 

「……すごい人だわ」

「まぁ、告知というか広告みたいなものなんだろうけど」

「……茜ちゃん、大丈夫かしら」

 

 たくさんの観光客が、千世子ちゃんをひと目見ようと撮影現場の周りに集まっていた。

 周りを見ていると、スタッフさんが野次馬を宥めながらあっちこっちで指示が飛び交っているのが目に入る。千世子ちゃんとか元輝くんがしてるのを見習って撮影全体をフカンすると、私が今までやっていた事よりもたくさんのことがわかってくる。

 ……うん、なるほど。

 二人とも、こうやって撮影を理解してるのね。

 

「もらっていい?」

「ん、ほら」

「ありがとう」

 

 真咲君が心配そうに茜ちゃんを見ているのを武光君がバンバンと背中を叩いていてわちゃわちゃしているのを眺めながら、仮設テントの中のパイプ椅子に腰掛けた元輝くんと言葉を交わす。分けてもらった緑茶で喉を潤しつつ、目元をニギニギと揉みしだく元輝くんに視線を向けた。

 

「そういえば、あの写真。

 ルイとレイもウルトラ仮面の撮影に連れて行ってくれたのね。迷惑じゃなかった?」

「問題なかったよ。雪さんも墨字さんもいたし。

 まぁ、たまたま雪さんがあっちに出向しててさ、ありがたいことにそれで連れて来てくれたんだ」

「雪さんが? そう……。

 ……私も行ければよかったんだけど」

「馬鹿、そう気にすんなよ」

 

 こういう時はお互い様だろ、と微笑みながらそう続けて、元輝くんが視線を振る。

 昔からというか、こうやって気遣いしてくれるのは幾ら背丈が変わっても変わらなくて。

 それが、なんだか嬉しくて、恥ずかしくて。思わず口元が緩んでしまう。……いけない、ちゃんとしなくちゃ。

 うん、と頭を振って感情を入れ替えて、私は元輝くんが見ている方向に視線を送る。

 スタッフさんが準備していたフェンス越しに集まった野次馬さんたちに対して司会みたいに大立ち回りしている町田さんが映った。

 

「ご覧下さい! この人の数!

 千世子ちゃんをひと目見ようと、大勢の観光客の皆さんが押し寄せています!」

 

 観光客の声はどんどん大きくなっていき、千世子ちゃんに向けて大きな声が上げられ続け、もはやライブステージの観客じみたものになっていた。呆れたような表情で、元輝くんの口からノリ良すぎだろあの人という声が漏れる。

 ……うん、確かに。

 町田さん、なんだか「でで──ん!」って感じがするわ。

 

 視線を歓声を浴びる二人に向けた。

 相変わらず感情を表情に出すことなくさらりとした余裕を持った千世子ちゃんと、わずかに緊張をにじませた茜ちゃんが話している。

 ……まだまだ千世子ちゃんと友達にはなれていないけれど、頑張らなくちゃと意気込みを新たに鼻を鳴らす。

 

 今から茜ちゃんと千世子ちゃんが演じるシーンは、えっと、たしか。

 ……そう、千世子ちゃん演じる皆で協力して生き残ろう、と宥める『主人公』と、その理想の過程で多くの友達が死んでいったと主人公を弾劾する『脇役』を茜ちゃんが演じるシーンだったはず。

 頭の中で脚本家から該当部分を探し出していると、

 

「テストはなしで。雨に濡れるシーンだ、2人に負担はかけさせたくないからね」

 

 監督の声が聞こえる。

 元輝くんと顔を見合わせて、仮設テントの外に出て真咲君たちに合流する。そろそろ撮影が始まるみたいだ。

 

「本番!」

「お静かにお願いします!」 

 

 助監督や町田さんの声が、観客を静まり返らせていく。

 耳に優しい町田さんの声が通り過ぎると、後に残るのは物音一つ存在しない沈黙だけで。

 

「本番です!」

 

 

 

 

 ────アクション。

 

 

 

 

 カチンコの音が、鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カレンはいつも綺麗事ばっか! 私達に死ねって言うの!?」

 

 茜ちゃんが叫ぶ。

 ざぁざぁと音を立てながら降りしきる雨が砂浜を抉って、ビリビリと空気が振動するような錯覚。

 ひぅっ、と。観客の一人が息を呑んだ気がした。

 

「あなたの綺麗事を鵜呑みにして一体何人が死んだ!? 皆で生き残りたいなんて嘘ばっかり!」

 

 ……すごいわ、茜ちゃん。

 この前の、私と共演した時とはまるで別人みたいだ。

 

 〝怒り〟を発露した、激情に駆り立てられた演技。

 ……カレンの語った『綺麗事』で死んでいった人達への、不条理な現実への怒り。

 そこには友人が死んでしまった悲しみも、生き残れないかもしれないという絶望も、──そして、何もできなかった自身への自己嫌悪が渦巻いていた。

 

 醜くて、だらしなくて、ヒステリックで、でも人間らしくて、美しい。

 そんな演技。

 

 怒りの言葉。

 怒りの声。

 けれど、その裏に確かに存在する悲哀の感情。

 

 千世子ちゃん演じる、綺麗で美しい人間で在り続けるカレンと、醜くもどこか人間らしい演じる茜ちゃん。

 

 ……すごく対照的なシーンだ、と思う。

 

 ここまで追い詰められ、死に瀕しても尚揺らがずに人を殺めることなく友達みんなで脱出しようという理想に殉じる在り方を貫く、強くあることのできる『主人公』としての、千世子ちゃんと。

 

 友人の殺し合いを目の当たりにして、自身すら死の危機に陥ったことで友達を蹴落としてでも生き残ろうとする、どうしようもなく普通で、弱く人間らしい『脇役』としての、茜ちゃん。

 

 ……(ケイコ)もそうだけど、どこまでも理想を追い求めた『主人公』以外の人たちは。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、どうしたって死ぬ運命にある。

 それがデスアイランド。

 

 だから、きっと。

 死ぬ運命にあるから、この叫びは悲嘆なものだ。

 死んでいく犠牲者達の一人であるからこそ、この演技には感情を揺らす力が乗る。

 

「──カレンは……カレンはいつもそうよ!

 周りとは違うみたいな振る舞いで、いつも綺麗で……。

 あなたみたいになれないと思うと、みじめな気持ちにさせられて!

 友達を殺さないって言い続けてるあなたがどれだけ綺麗に見えてっ!

 生きるために殺し合いをしようとしてる私達が、どれほどみじめな気持ちか分かるッ!?」

 

 突き抜けるような怒りの感情が、雨のカーテンを貫いた。

 ピリピリと肌を張りつかせるソレに、思わず私は手に汗を握っていて。

 『主人公になれない』その叫びは。

 

「カレンになんてついて行かなければよかった!」

 

 すごい。

 とても泥臭い感情が、千世子ちゃんに叩きつけられる。

 

「そうすれば、死ななかったかもしれない人もいたのに!

 カレンに憧れてて、その後をついていったあの子は、もう、もう……!」

 

 

 …………でも。

 

 

 ……でも、どうして?

 茜ちゃんにあんなに熱くぶつかられて……。

 あんなに剥き出しの感情をぶつけられて。

 

 ──なのに、どうして。

 

 

 

 

 

「────ごめんね」

 

 

 

 

 

 とても、静かな演技だった。

 台本通りの台詞だった。

 でも、──違う。

 その一言で。

 

 流れが、微細に変わった。

 

 雪、みたいな。

 静かで、微かで、綺麗で、優しい。

 かつての詩人たちが表現しようとした。

 そんな、しんとした、雪が降り積もるような音で。

 

 百城千世子は、どうしたって綺麗でいなきゃいけないんだと。

 まるでそんな、脅迫されてるみたいな。

 どこまでも、()()()()()()()()()()

 

「謝らないで! 死んだ人は帰ってこないのよ、カレン!」

 

 ぴしゃり。

 それでも、茜ちゃんは罵倒じみた言葉を畳み掛けた。

 オーディションで私にした時のような、激した感情が乗った、痺れるような声で。

 10mと遠く離れた位置にいる野次馬達が茜ちゃんの声量に驚き、迫力に気圧されて小さく一歩引いたのが見えた。

 そのくらいに、今の茜ちゃんの演技には破壊力があって。

 

「──でも私は、諦められない」

 

 なのに。

 ……なのに、

 それでも尚、千世子ちゃんは綺麗なままだった。

 茜ちゃんの激しくて感情の乗った、熱くて『生きた』演技よりも、千世子ちゃんの、理性的で優しくて静かな声が、演技を塗りつぶした。

 ()()()()()、千世子ちゃんがお芝居を続けた。

 

「誰にも死んでほしくないんだ。

 誰にも殺してほしくないんだ。

 私は、自分が絶対に正しい人間だなんて思ってないよ。

 でもね。これが正しいことなんだと思いたい。これが正しいと信じたいんだ」

 

 なんで。

 ……とても泥臭くて、人間臭くて。激的な演技をした茜ちゃんよりも。

 いつも通り、静かに綺麗な演技をしていた千世子ちゃんの演技にしか、目が行かない。

 

「私にとっては、あなたも友達だから」

「……うっ」

「これが正しいことだっていう確信があるわけじゃない。

 でも、友達に殺されそうになると悲しいし、友達を殺したらきっと泣いちゃう。

 だから、友達は殺せないし、友達同士が殺し合おうとしたら、止めたいんだ」

 

 ……ああ、ひょっとして。

 だめ、かもしれない。

 元輝くんがいいものと言ったもので、私が好きになれそうにないというのは、はじめての経験かもしれない。

 茜ちゃんの激情の芝居を、リアルな質感の演技を。()()()()()()()()()()()()()、千世子ちゃんが静かな芝居でその演技を受け止めた。

 想定以上に劇的だった茜ちゃんの演技を、予定通りの終着点へと到達させる。

 

 とても、綺麗に。

 

 とても、美しく。

 

 とても、可憐に。

 

 台本と一字一句変わらない台詞を言ってるだけなのに。茜ちゃんの演技が、()()()()

 

 

「それが、私の願い。

 だから、あなたも生きて」 

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

「カット!! OK!!」

 

 なんだか。

 当たり前だろうというような、もしくは拍子抜けと言ったような、そんな表情を浮かべた手塚監督がそう言った。

 放水機から絶え間なく降り注いでいた雨が止み、着替えやタオルを持ったスタッフさんたちが二人のところへと寄っていく。元輝くんたちも寄っていくのが見えたけど。

 

 ……足が、動かなくて。

 

「…………千世子ちゃん、は、どうして、」

 

 あんな演技しか、できないのか。

 ……ううん、やらないんだろうか。

 あれだけの熱量をぶつけられて。人の熱に当てられて。

 なにも変わらない、いつも通りの演技しかしないなんて。

 

「ごめんね。皆に夜凪さんみたいな芝居して貰う訳にはいかないんだ。

 私が主人公じゃないといけないから」

 

 呆然と、なにも考えられないままに人の中心にいる二人に目を向けていると、ゾッとするような瞳をした千世子ちゃんと、目が 合 った、気 がし、て ──

 

 景? と。

 

 千世子ちゃんと話していた元輝くんの袖をギュッと握り締めて、私は千世子ちゃんの目の前に立った。反射的に、思わず元輝くんを自分の方に引き寄せてしまう。

 

「……ねえ、千世子ちゃん」

「…………。

 なにかな、夜凪さん」

「……あなたは……千世子ちゃんは、どうして」

 

 初めて千世子ちゃん演技を見た時、とても綺麗な芝居だと思った。

 実際に見て、画面の向こうに居るみたいな、手の届かない綺麗さを感じた。

 でも茜ちゃんの熱意を受けても何も変わらないそれに、人形みたいな綺麗さを感じて……初めて『合わない』かもしれないって。

 ずっと仮面を被っているその演技が、嫌いなのかもしれないって。

 

「…………どうして」

 

 わからない。

 

 ここまでわからないことが怖いなんて、初めてだ。

 まるで人形みたいな千世子ちゃんの演技が。どうしても好きになれなくて。

 元輝くんが素晴らしいといったその演技の良さが、なにもわからなくて。

 着替えを終えて、髪の毛をタオルで拭いていた千世子ちゃんを前に、私は身体が強張って。

 でも、と縋るみたいに。

 より強く、元輝くんを引き寄せた。

 

 私、は。

 

 

 

「────あんなお芝居を、するの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空気が、死んだ。

 

 今、あなたは。

 夜凪さんは、なんて。

 …………私の芝居を、なんて言った?

 

 ……あんな。

 あんな、お芝居?

 

 

 

 

 ────ねえ、ふざけないでよ。

 

 

 

 

 わかる。わかるんだ。夜凪さんの顔を見ればわかる。間違いなく、彼女は私を哀れんでる。

 私に同情してるんだ。

 あの演技しかできない私が、ずっと仮面を被っている私が、可哀想だから。

 私に、同情しているのか。

 

 

 ……ふざけんな。

 

 

 私は一度落としていた視線を上げて、夜凪さんを見る。

 ……わかる。

 鏡なんて見なくても、今の私は、ほんの僅かな表情すら浮かべていないのが、わかる。

 

 ……嗚呼。

 

 なんでだろう。

 バカにされるより、私より下だと蔑まれるよりも、

 私が可哀想と哀れまれたのが、嫌に癇に障る。

 

「……夜凪さん」

 

 ……なんでかな。

 なんで、私の仮面を、『百城千世子』っていうブランドイメージに対する批判なら、腐るほど受けてきたというのに。

 ただの技術を、私の仮面を被る演技について言われただけなのに。

 ここまでムカつくのは、どうして?

 

「お芝居に心はいらないんだよ」

 

 ……ああ、そっか。

 私、この仮面(しばい)のこと、結構気に入ってたみたいだ。

 

 これが好きだって言ってくれた人がいて。

 私がこれを作るのに、結構頑張ってきたからかな。

 ……私がこの人生を通して作ってきた『百城千世子』という仮面を、全て肯定してくれる人が、いたからかも。

 その事実を、その積み上げてきた誇りを、そしてそれを認めてくれた人の存在をじっくりと噛み締めながら、私は笑みを浮かべた。

 

「映画の撮影に、不確定なものなんていらない。

 そうやって削ぎ落として、リスクを減らして、素晴らしいものを作るのが私たちの仕事。

 それが、私や元輝くんがやってきたことなんだから」

 

 夜凪さんが、なんだか恐れ慄いている気がする。元輝くんが心配そうな表情をしていた。

 

 ──渡さない。

 渡したくない。

 私の仮面を理解できたというのは、夜凪さんが元輝くんの世界の一端を理解できることを示していて。

 それは、彼の理解者になれるということだから。

 

 でも、だから。

 

 渡したくないんだ。

 元輝くんが一人を選ぶのは、別に私じゃなくても構わない。恋人とか、家族とか、そういうのが、私じゃなくても、それは仕方のないことだ。私がどうこう言えることじゃない。

 

「だからね、夜凪さん」

 

 でも、でもね、夜凪さん。

 元輝くんが、あなたのものになるのだけは、許せないかな。

 

 ……ううん、許したくない。

 役者として、あなたが元輝くんの横に立つことだけは。

 それだけは、その場所だけは、絶対に譲れない。

 

「──あなたに同情される謂れはないかな」

 

 笑みを浮かべて、私はそう口にした。

 心で演じるあなたが、そうでない私に競り勝とうとするなら、容赦なく叩き潰す。

 殺してあげるよ、あなたの演技を。私の踏み台にしてあげる。

 自分の芝居に自信がなくなるまで、徹底的に叩き潰し続けてあげてもいい。

 私は席を立って、夜凪さんに背を向けた。元輝くんが声をかけたのがわかるけど、私は振り返らなかった。

 今、私がどんな表情なのか、自分でもわからなくて。

 でも、元輝くんにだけは、見せちゃいけないような気がしたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ということで(チャート的に)クライマックスなデスアイランドはーじまーるーよー。

 

 はい、ということでデスアイランド撮影14日目の夜となりました。

 そこそこにメインイベントの一つだった千世子ちゃんと茜ちゃんの共演も今日でひと段落ですし、よてい行けば明日の撮影は景ちゃんと千世子ちゃんの共演ですね。

 ……なんか日程が予定と違う気がしなくもないんですが、正直そこらへんは誤差なので気にしなくて大丈夫です。

 原作通りの撮影スケジュールなのがなぜか毎回やってくる台風との兼ね合いも考え見ると一番ベストなのは間違いないんですが……今のところの情報によれば台風は原作と同じ18日目に直撃しそうなのですが……今回は千世子ちゃんと景ちゃんのお腹痛くなるイベントが3日ほど前倒しになっています。

 

 あの……ですねぇ……。

 これは……ですねぇ……。

 

 

 雨で、二人の撮影が中断されないってことなんですよねえ……。

 

 

 これはほんとに……オワオワリ……でーす。

 

 

 ────ヤバくね?

 

 ……まぁなんとかなるんですが(唐突な運ゲーに震えが止まらない)。というかします。一応これを見越して手塚監督に頼んで撮影の順序後ろの方にしてもらったのでもーまんたいです。でも仮にここで撮影二度目に突入したら死にます(なんやこのクソゲー)。一応、走者の確認している限りでは千世子ちゃんの景ちゃんへの好感度は低いはずなので、二度目の共演はできる限り避けようとしてくるでしょうし。

 

 まあ、兎にも角にもこの撮影でやれることはほぼやりつくしています。

 デスアイランド前に双方と知り合いになってしまっている以上、景ちゃんが千世子ちゃんと仲良くしようとして、千世子ちゃんがそれを避けるという流れは基本的にかわりませんし。

 こっから先、とりあえず撮影まででやれることはほぼありません。二人とコミュを取るくらいですし……。

 二人の撮影をどうやって一回で止めるのかというのは後で説明するとして。因みに二回目突入で死亡フラグビンビンなので死にます(3敗)から避けないという選択肢はないです、ハイ。

 

 という感じでデスアイランド14日目の夜な訳なんですが。

 

「よう、珍しい組み合わせだなお前ら」

「や、おはよう竜吾くん」

「……ちっ」

「和歌月テメーあからさまに舌打ちすんじゃねぇよ」

 

 >アキラと和歌月と夕食を取っていたところに、半袖短パン姿の竜吾がプレート片手にやってきた。

 >和歌月と痴話喧嘩をしながらも和気藹々としている二人の様に、あなたは思わず仲良いなと呟いた。

 

「仲良くねーよ」

「仲良くないですよ」

「……文字数違うのになぜハモってるんだい……?」

 

 相変わらず仲良いなお前ら(血液混じりの白砂糖)

 というか千ちゃん、この間の演技でフルボッコになった割にあんまり凹んだ様子がないですね。通常より景ちゃんとの初遭遇の影響がデカかったんでしょうか。

 正直千ちゃんとのあれこれは羅刹女編まであまり差はないので気にしなくて大丈夫ですね。チャート通りに行けば千ちゃんのステが高いければ高いほど良いのは事実ですし。まあ揉まれてもらいましょう(人間の屑)

 

 ということで、天使とゴジラのいない平和な夕餉を満喫しつつ、今後の大きな流れについて説明しておこうと思います(唐突)

 

 今回の乱数では、15日目(明日)に景ちゃんと千世子ちゃんの初共演です。

 前述の通り、今回は撮影中に雨が降ることは恐らく低い確率なので、そうなってくれればありがたいんですが……基本的には人力で止めにいきます。そのための生に……弾丸は既に用意してありますし、本人も楽しそうですから進んでやってくれるんじゃないですかね?(人任せ)

 お前マジで頼むぞお前(豹変)

 これだから……これだから運要素の強いこのチャートは嫌なんですが、走者的にはこの手段がベストなので仕方ありません。異論は認めますが認めたくはありません(瀕死)

 で、翌日16日目は特にこれといってイベントはなく、17日目に台風情報が確定するのでイベントに使用可能になります。これを使って今のところ予定しているホモくんのクライマックスシーンをワンカットにするよう説得。

 18日目がホモくんのクライマックスシーンの撮影となります。詳細は後で説明しますが、基本的な流れはこうです。

 

 コミュと演技アクトを一つでもS以外の評価を取ったら即ゲームオーバー。その上運が悪くても一発でおじゃん。

 

 

 RTAとは一体……うごごごごご(吐血)

 

 

 まあ、今さら気にしても仕方ありません。

 昨日ほぼ一日がかりで千世子ちゃんのメンタルケアしてましたし……大丈夫だと信じたいものですが。

 

 ……なんというか、アキラくんとか竜吾君に囲まれてると安心するというか。お腹が痛くならないというか。

 

 ウン。やっぱ堀くんが最高なんやな!!(原点回帰)

 

 

「そういや、明日は初めての千世子と夜凪のマンツーマンだな」

「…………」

 

 

 ────おい。

 

 

 おいやめろよバカ竜吾。

 ぶっ飛ばすぞ(ブチ切れ)

 

 

 

 

 

 





 とりあえず投稿遅れてすいませんでした。
 いやあのほんとに忙しかったんです。
 ぎりぎり8月でしたし許してくれるでしょう。嘘です申し訳ねぇ。

 ということで修羅場ってきました19話です。お腹いてぇな……
 デスアイランド編もそろそろ終盤戦。
 デスアイランドのプロット変更したし、大河編はプロット組めないし、修羅場のレベル上がってるし。
 まぁでも原作から死ぬほど乖離してるけど、正直これはこれで……え、ダメ?
 予定通り行けば後四か五話でデスアイランド編は終了予定です。幕間挟んで銀河鉄道の夜編に入る感じ。プレイボーイ‼


 Q.……あの、一話に一ヶ月かかってるんですけど
 A.おいこれデスアイランド編年内に終わらないんじゃねえか。


 これは独り言なんですけど。
 デスアイランド編完結まで書き溜めして毎日投稿にするか、それとも出来次第投下して行くか。そこらへんですね。どっちの方がいいのかわからん。
 うんまあ。
 何にせよ早く書けって感じですよね。
 では、





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scene20『道端にて(But She Cries Remix)』




オヒサシブリーフ……





 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ元輝くん、少しいいかな」

 

 14日目、夜。

 茜ちゃんとの共演といった今日予定していた撮影スケジュールも全て消化し、夜に組み込まれていたスターズ関連の仕事を終えた私は、自室に帰る途中にエントランスで情報番組を観ながら難しい顔をしている元輝くんを発見した。

 ……ああ、そういう。

 

 そろそろと近くに擦り寄って、小さく声をかける。

 

「はい? ……ああ、大丈夫ですよ。そっちのインタビューは終わったんですね」

「うん、今回はスターズメインだったしね。記者さんもいつもの人だったから滞りなく。今から部屋に戻るとこだったんだけど、時間ある? ……あるならちょっと話したいんだけど、いいかな」

「いいですよ、なんでも聞いてください」

 

 なんでもって、そう簡単に言うべきじゃないと思うんだけど。

 まあ、いいけどさ。

 

 取り敢えずなんか飲み物でも買いましょうか、と言って近場にあった自販機で元輝くんが缶の紅茶を二つ購入した。横にあったベンチに腰掛けてステイオンタブを押し込む。

 ふう、と一息。

 元輝くんのその様子を確認して、私は間髪入れずに口を開いた。

 

「────彼女いる?」

「ンッ!?」

「なんてね」

 

 脚をプラプラとさせながら、壁に背中をもたれさせる。

 ぼうっと少し気を抜きつつ、

 

「来ちゃったね、台風」

 

「………………来ちゃいましたねぇ(なんで知ってんの???)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 百城千世子。

 

 大手事務所『スターズ』所属、16歳の売れっ子女優。

 子役デビューは7歳の頃で、そこから着実に売れてきた『天使』と評される、役者。

 ……役者って、『私じゃない誰か』を演じるものなんじゃないのかな。千世子ちゃんの演技を見ていると、ふと分からなくなってしまう時がある。

 

「……千世子ちゃん」

 

 ──どうして、なんだろうか。

 とても綺麗な芝居だとは、思う。

 画面の向こうに居るみたいな、手の届かないほんとうに天使みたいな美しさを……人形みたいな綺麗さを感じて、私は初めて合わないかもしれないって、思っている。

 私は人形みたいなあの人が。

 ……ううん、()()()()()()()()()()()()()()()()どうしても好きになれない。

 

 …………どうして、元輝くんはああいうのがいいって、言ったんだろう。

 

「夜凪くん」

「……アキラ君? どうかしたの?」

 

 撮影開始からちょうど二週間。ここの生活にもだいぶ慣れて来た。南の島特有の湿った夜風が肌を撫でる。

 そうやって一人ガレージで風に当たって頭を冷やしていると、ふと声をかけられた。視線を向ければ、ジャージ姿のウルトラ仮面の姿がある。

 なにかあったのかしら、と思わず首を傾げた。特に心当たりはないんだけど……最近は小道具も壊してないし……。

 

「いや、監督からの呼び出しだよ。

 今後の撮影の展望と、調整によるスケジュールの変化を説明するから会議室に来てくれとのことだ」

「……うん、そう。わかったわ」

 

 頭を振って、気分を切り替える。

 私が出来るのは、精一杯のお芝居をすることだから──

 そう思って、よっと、ガレージから飛び降りる。エントランスに隣接する会議室へと足を向けた。あそこに行くのは少し久々だ。

 気持ちを入れ替えた私を見て、アキラ君が少し驚いた顔をした。さて、と軽く咳払いをする。その様子を見た私が徐に口を開いた。

 

「呼び出しなんて珍しいけど、何かあったの? アキラ君は何か知ってる?」

「何かあったって、それは────んんっ。

 ……取り敢えず、台風が近づいて来てるのは知ってるかい?」

「台風」

「知らなかったんだね……」

 

 元輝くんから聴いてると思ったんだけど、とアキラ君が前置きして、

 

「2日程前に太平洋沖で発生してた台風がこっちに向かって来てるんだ。当初の予定じゃ九州方面に行くとの予想だったんだけど、黒潮の影響でこっちに来るみたいでね。

 元々『デスアイランド』のスケジュール自体相当カツカツだ。あんまり予備撮影日がないから、少し撮影を巻かなきゃいけない」

「うん」

「それで、幾つかのシーンを一本撮りにするから、それに類する説明と演出予定の変更の話し合いだよ。

 ……まあ、僕はあまり関係ないんだけどさ」

「なるほど。

 私のシーンも一本撮りになるところがあるから呼ばれたってわけね」

「それは……。

 ……いや、たぶんそうなるんだろうね」

 

 うんうん。

 なるほど。

 

 ──完璧に理解したわ、と呟きながら腕を組んで頷く。キランと瞳を煌めかせる。わりとキメ顔だった。

 大丈夫かな……? と苦笑を浮かべているアキラ君を尻目に、『ウルトラ仮面』での撮影の裏話を聞きながらコテージを歩くこと数分。

 

 木目調のドアを開くと、手塚監督にプロデューサー、美術監督と言ったスタッフの皆さんと、撮影で見慣れた俳優陣が並んでいた。何やら監督とプロデューサーが脚本片手に話し込んでいる。

 脚本片手に、その中に交じるようにして元輝くんと千世子ちゃんが立って話していて──

 

「……夜凪くん?」

 

 ごほんっ、と。

 

 会議室に私とアキラ君が入ったのを確認して、手塚監督が軽く咳き込んだ。はっと我に返る。アキラ君が心配そうに私の方を覗き込んでいた。

 大丈夫よ。そう言いつつ、私は頭をふって意識を切り替える。

 プロジェクターにパソコンを繋いだのを確認していたらしい手塚監督が、パンっと軽く手を叩いて口を開いた。注目が集まる。

 

「いきなり集めて悪かったね、さりとて緊急事態だ。幾分かの非礼は許してほしい。

 ……さて、それじゃあ始めようか」

 

 とりあえずは現状報告から、と前置きしてチーフがキーボードを叩く。プロジェクターに日本近海の天気図が映った。

 はぁ、とため息を吐きつつ微かに苛立ちを滲ませた手塚監督が、

 

「みんなもう連絡が入ってると思うけど、近いうちに──最短で明後日か明々後日に台風がここを直撃する予報になってるんだ。

 ……残念ながら、台風が過ぎ去ってから予定していた撮影を全て熟すにはいかんせん時間が足りない。俳優組のスケジュール問題もあるし、予算のことも考えるとリスケしてもう一度撮影するっていうのは現実的じゃない」

 

 ピシピシ、と脚本を人差し指で軽く叩く。

 パソコンを覗き込んでいた副監督が手塚監督の言葉を繋ぐ。画面が切り替わった。ガリガリと頭を掻き毟る其の様相が事態の急務さを如実に示していた。思わず視線をずらして見れば、苛立ちを滲ませた元輝くんが腕を組みながら指で二の腕を弾いていた。

 

 …………確かにやばいみたいだ。

 私にも、何かやれるのかしら。

 ……、ううん、やらなきゃ、かな。

 

「そもそも台風が撮影に与える影響ですが、最悪のケースを想定して最低でも二日間は予定通りの撮影が行えないと考えています。

 明日からの二日間で使用予定だったエリアに関しても、役所が三年前に公開した資料を参考にすれば、少し雨風の影響を無視できない箇所が出て来ています。

 ここ、ここです。

 ここの森林地帯が、二日から三日で撮影をできる状態にするには予算と時間がたりません。一応専門家の考えも仰ぎましたが、ここをロケ地としていた撮影では地面がぬかるんでアクションは危険とのこと」

「うん、だからね。

 何人かには申し訳ないけど、いくつかのカットを結合して長回しにすることで幾ばくかの撮影効率の上昇を図ろうと思う。

 ……無理を強いれば撮影を強行することはできなくないかもしれないけど、まだそれをやるには時期尚早というのが此方の見解だ」

 

 でもね、と手塚監督が眉間にシワを寄せた。

 

「幾ら長回しにすると言っても、助演組の台詞を無闇矢鱈にカットするわけには行かない。一つのカットが数分に伸びる分、ミスのリスクが出てくる。そこのリスクを軽減できるように今脚本を再構成してる。

 明日の朝に出来上がり次第配布するから、それを参考に撮影に臨んでくれ。演出に関してはその時に詳しい指示を出すけど、長回しになることだけは覚悟して欲しい」

 

 ええと。

 つまり、その。

 ウルトラ仮面の言ってたとおりに、私が次撮る撮影が長回しになるってことでいいのかしら。

 元輝くんの横で聴いていた千世子ちゃんが、ふわりとスカートの裾を揺らめせながら一歩踏み出して口を開く。

 

「でも、手塚さん。それだけじゃ全カットを撮り切るには少しキツイんじゃないかな」

「……うん、そうだね。今までのは対症療法に過ぎない」

 

 そうなんだよね、と手塚監督がオーバーに腕を振る。気取った海外俳優みたいな振る舞いだった。

 千世子くんに負担をかけざるを得なくなっちゃうからね、と言ってから人差し指と中指を立てた。

 

「此方から提示できるのは二つの案だ。

 まず一つ目。こちらはスポンサーチームからの提案なんだけど、クライマックスシーンの全カットによる余白部分の確保。これを行えば少なくても数日の余裕ができるけど……。

 二つ目はリスケによる撮影の強行だ。乾くのが早い土壌での撮影を台風明けに、それ以外のアクションシーンを含むシーン69から76を──タツミとカレン、ケイコのカットを明日の撮影に回す。元々ここはいくつかのカットにわける予定だったから、四日に分けて撮影する手筈だったんだけど、これを一まとまりにして撮影する」

 

 元輝くんが顎をさすって思案するのが目に映る。

 えっと、うん。……つまりそれって、4日後に撮影する予定だった元輝くんと千世子ちゃんとのシーンを、明日やるってことなのかしら?

 ……それは、つまり、あのシーンを。

 

 (ケイコ)は、元輝くん(カツミ)を見捨てなくてはならないという、あのシーンを、たったの一度で撮らなくてはならないんだ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────『情熱と結果は比例しない』

 

 そんなことはとうの昔に知っていたことで、手塚由紀治にとってみれば当たり前のことである筈だった。

 

 今となっては笑い話だが、かつて僕は自分の初監督作品で主演女優を泣かせてしまったことがある。自分の欲のためにNGを重ね続け、結果として当時の最高のカットが撮れたと同時に、彼女の事務所からのクレームで僕は仕事を失った。端的に言ってしまえば、干されたという訳だ。出る杭は打たれる──この業界の常に、僕も呑まれてしまった。ここじゃあありふれたことで、たったそれだけのことで。

 

 それから五年後。スターズに、アリサさんに拾われてから、僕は売れる作品を作るだけの監督になっていた。OKという言葉と共に上の用意した役者と原作、それを使って映画を()()だけ。

 作業的だった。

 なんの熱意すらなかった。

 ただルーチンと化した仕事を熟すだけでどの作品も売れ、商業的に成功し、業界からは重宝されるようになった。

 ……嗚呼、なるほど。これは確かに名声を得たと言えるのかもしれない。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 皮肉なことに、成功したかどうかの指標の一つである経済という観点のみでしか評価されなかった僕は、とても芸術家として名声を得たとは言えなかった。

 芸術家(アーティスト)ではなく職人(アルチザン)であるという、呪いにも似た自己意識が、僕を苛んで離さなかったのだ。

 

「取り敢えず思いつくネックは確保できる撮影時間が短い上に不明瞭ということ。つまり十二分に時間を確保できなくて撮影が途中で終了する可能性すらある」

「……そうだね。私と君──ううん。確かになんの対策も取らずにやるのは難しいかもね」

 

 そうだ。

 ……千世子ちゃんたちが言うそれは、事実だ。

 僕が提示しているこの案は穴だらけとはいかないまでも相当に貧弱なスケジュール。何か一つでも歯車が狂えば間違いなく撮影は失敗──映画を完成まで漕ぎ着けられるか否かという、そういうレベルの話になってしまう。

 

「百城さんの言う通りですよ、監督。

 夜凪さんには申し訳ないですけど、クライマックスシーンを削りましょう。元々原作にないシーンなんですし、問題ありません。それが一番効率的です」

 

 監督もわかってますよね、とプロデューサーが口を開く。

 

「この映画の主演は百城千世子です。彼女がいなきゃ撮影は始まらない。その彼女のスケジュールはパンパンだし、リスケも利かないときた。

 ……勘違いしないでください。我々の目的は映画を完成させることです。ここは飲んでもらうのがベストでしょう」

「でもさ、僕このクライマックス気に入ってるから。どうしても撮りたくてね」

「……らしくないですよ、手塚監督。あなたの──我々の目的は売れる映画を作ることです。急にオリジナルを入れたり脚本を変えたりする考えはわかりませんが、そこは間違えないでください。

 ……こんなの釈迦に説法でしょう、どうしたんですか」

「…………」

 

 そう、か。

 ……そうだね。確かにこれは僕らしくない。

 ──何かが変わるかもしれないと、そう思ってはいたんだけど。

 いつの間にか握り締めていたらしい左拳が解かれた。……はは、これでゲームオーバーか。なんてあっけない幕切れだ、畜生。

 

「……私と千世子ちゃんのシーンなくなっちゃうんですか?」

 

 微かな諦観。打ち破れなかったという、ある種のソレに思わず僕は首を跨げてしまう。

 いつの間にかテーブルを取っ払った会議室の真ん中にまで歩いていた彼女がそう口にした。それを聞いて、くそ、と内心悪態をつく。

 

「夜凪くん」

「ごめんね、見せ場削られて悔しいのはわかるけど、こればっかりはね。天気でシーンが削られるなんてよくあることだ。

 ……申し訳ないけど、諦めて──」

「でも私、まだ何もできてないわ」

 

 口先だけのプロデューサーの言葉をバッサリと切り捨てて、さらに一歩前に踏み出す。……まるで主演女優だな、と思わず僕は苦笑してしまった。縋るようなその視線に首を振りながら、僕は。

 

「よくあることなんだ。天気には勝てない」

「……監督。私、千世子ちゃんと演じたい。

 私は不器用だから、細かいことはよくわからないけれど。

 私は千世子(てんし)じゃないけど、でも。……でも、私はまだ何もできてないから。

 ──私にできるのはお芝居だけだから、やれることはやりたい、です」

 

 天気には勝てないというのは、ありふれた真理の一つだ。

 かつて日本人が自然現象に恐れを成して、八百万の神として祀った時から変わらず、どれほど科学技術が発展しても、相変わらず自然には打ち勝てない。だから、僕たちはカミサマって奴に祈ってきたんだから。

 

 いや、ダメだね。

 ……この作品を無意味に終わらせてしまうのだけは、ダメだ。

 僕の身勝手な願望と、夜凪景のわがままを優先して撮影をねじ曲げるのは決して起こってはならない。

 僕は……手塚由紀治は、百城千世子が主演の映画に、泥を塗ることなど出来やしない。最後に残ったそのチンケなプライドだけは、まだ捨てられていなかったらしい。

 

「監督。私、千世子ちゃんともっと演じたい。だから……」

「ダメだよ」

「ダメだ」

 

 その声は、とてもよく響いた。

 

「……千世子ちゃん、元輝君?」

「らしくないよ、監督」

「……え?」

 

 予想だにしなかった主演からの言葉に、話しかけられた監督ではなくプロデューサーの方が驚いたらしい。ぎょっと千世子ちゃんの方を向く。

 

「台風だろうとなんだろうと、私と夜凪さんのシーンは撮らないとダメだよ」

「い、いや……千世子ちゃん。でも……」

「後、2日。台風がくるのが遅かったら改稿のしようもあったかもだけど……もう遅いよね。ここまで撮影スケジュールを消化しちゃってる以上、クライマックスを切ってその他で補填するのは難しい。

 三幕構成くらい守らないと、流石にお客さん騙せないよ」

「いや、でも」

 

 それは。

 スターズの天使だからこそ、百城千世子だからこそ言えること。

 

「撮ろうよ。私たちなら巻ける。全然間に合うよ」

 

 思ってもいなかった援軍の登場に、夜凪くんがぽかんと口を開けて千世子ちゃんを見ていた。

 千世子ちゃんの横顔が、より獰猛なものへと変わって。

 

 ──祈りを持たない者ども(アクターズ)の戦いが、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくあることなんだ。天気には勝てない」

 

 >そう言って、手塚監督が悲哀と共に首を振る。

 >そんな彼の様子を見て、あなたはどうしたものかと首を捻った。なにかやれることはないだろうか?

 

 

 神様助けて(狂乱)

 

 

 あれ、あれれ? なんで? なんでこうなってんの? 明日のスケジュールは? チャートはどうなんの? え?(困惑)

 どういうことなんですか、手塚監督。アンタ僕を裏切ったっていうんですか……チャートにだって裏切られたことないのに!!(過去は顧みないスタイル)

 敗北者ァ……? そこは天気に負けとけよお前よぉ!!!!(人間の屑)

 まあ取り敢えず話を聞きましょう。情報を知らなければできることもできません。リセも出来ません。てかしたくありません(本音)

 ええ、ええ、なるほど──

 

 

 

 

 ………………………………つまりは台風の影響を回避するためにリスケする、と。

 

 

 

 なんでそんな有能ムーヴしてんだよ畜生……畜生……!!

 

 チャートが死ぬ、死んじゃう……ッッ!! お前よくも、ホントぶちころすぞお前よォ────ッッ!! アアァァ──────ッッ!!!(断末魔) もおおおおおおおおおおおおおおおおやぁだぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!

 

 

 

 ふう(賢者タイム)

 落ち着きましょう。取り敢えず発狂するのは走者としての嗜みですけど、そんなことはせずにKOOLに行きましょうKOOOOOOOLに!! それが大人にワタシの出来る子なのです(五里霧中) F◯CK YOU!(支離滅裂な言動)

 ……というか、これはほんとにどういうことなんでしょうか。え、リセ? 黙れ俺はまだ舞えるぞお前まだ舞うぞお前(必死)

 

 取り敢えず落ち着いて明日以降の予定を組みましょうか。スマホを起動して日本近海の天気図を……オゥ、台風あるやん。

 いえそれはいいんです(よくない)

 それは予定通りですので問題ないんですが、ネックなのは手塚監督が──というか撮影チーム全体としてこれに対処しようっていう姿勢があるってことなんですよね。いや普通はいいことなんですけど(疲弊)

 

 えぇと、ひとまず明日からの予定は──

 

 15日目と16日目に後日の撮影を繰り上げて美術スタッフの少なくて済むオーディション組諸々の撮影を行って、17日目に元輝くんのクライマックスシーンの撮影を行う、と。

 元輝くんのシーンは山の中で行うので、台風の後だとどうなるかわからないから、そこにスタッフを回してセットを完成させつつ他のカットを撮っていく──と。

 確かに(スタッフが死ぬことを除けば)効率的ですね。見てください美術監督が死んだ顔してますよ。ウケる(仮死状態)

 

 

 

 ……………………なるほど(SAN値チェック)

 

 

 

 これはリセ案件一歩手前でしたね(ファンブル)

 マジ危ねぇ。死ぬとこでした。マジでNICE BOATする五分前でした。こんなとこで再走とかホントに洒落にならん……!!(アイディアロール失敗)

 いや、ほんとにこの会議イベント始まる前に千世子ちゃんとコミュ取れて良かったです。ギリギリのギリでした。リアルフェイスかお前……!(不定の狂気発症)

 いやでもマジで危なかったです。ていうかなんでこうなったんですかね? いつもなら直前まで対策を取ることはないはずなんですけど……うーんわからん。これは後で調べる必要がありそうですね。でも千世子ちゃんと景ちゃんの共演スキップした上にクライマックスシーンでまとめてフラグ消化できるので一石二鳥ですね。結果オーライとも言います(目逸らし)

 

「らしくないよ、監督」

「……え?」

 

 >予想だにしなかった主演からの言葉に、話しかけられた監督ではなくプロデューサーの方が驚いたらしい。ぎょっとあなたたちの方を向く。

 

「台風だろうとなんだろうと、私と夜凪さんのシーンは撮らないとダメだよ」

「い、いや……千世子ちゃん。でも……」

「後、2日。台風がくるのが遅かったら改稿のしようもあったかもだけど……もう遅いよね。ここまで撮影スケジュールを消化しちゃってる以上、クライマックスを切ってその他で補填するのは難しい。

 三幕構成くらい守らないと、流石にお客さん騙せないよ」

「いや、でも」

 

 まあ論理もクソもない言いがかりだからその反応が正しいんですけどね(鼻ほじ)

 

 ということで、なんかよくわからないんですけど(走者としてあるまじき発言)、千世子ちゃんがうまいことプロデューサー説得してくれたんでよしとしましょう。

 ……恐らくさっきのコミュとオリチャーのお陰で千世子ちゃんから景ちゃんへの対抗心煽れてたのが良かったんでしょうね。たぶん共演してフルボッコだドン!! ルートに突入できたのでチャート通りです。チャート通りって言ったらチャート通りです。異論は認めません(必死)

 

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 

 

 はい。

 ということで会議アクトも終われば後はフリータイムです。コミュ取れよオラァン!! タイムです。千世子ちゃんはそそくさと部屋に帰っていったことを確認して……時間的にも、もう出来そうなアクションはあんまりないです──が!!!

 ここでそのまま寝てしまうとヤバいです。あと撮影まで2日間あるとは言え、ここで景ちゃんがホモくんと千世子ちゃんと共演できるようにしなくてはならないのでコミュを取りに行きま──ん?

 

 

 

 部屋の鍵が……開いてる……?

 

 

 

 

 

 

 






 鍵が開いてる?
 ならば聞き耳と目星をふろう(TRPG脳)
 初期値で25%もあるから十分だよ(アルコール脳)




 はい。すみません遅れました。言い訳はしない。恨むなら恨め(開き直り)
 とりあえず来年の春くらいまではこんな調子でしか更新できないと思います。申し訳ねえ。
 でもチマチマ描いてたり描いてなかったりするから……エタる? え、なんのことですか?(震え声)



 呪術廻戦面白……




【備考と補填、あと変更点】


 原作
 Day14:千世子ちゃんと茜ちゃんの共演
 Day15:景「私、千世子ちゃんと友達になろうと思うの」
 Day18:景と千世子、共演
     &台風襲来

 元々のチャート
 Day14:千世子ちゃんと茜ちゃんの共演
 Day15:景ちゃんと千世子ちゃんの共演
     &ホモくんがコミュとって瀕死
 Day17:台風情報確認
 Day18:ホモくんのクライマックスシーン撮影

 今のスケジュール
 Day13:ホモくん、手塚監督煽る
 Day14:千世子ちゃんと茜ちゃんの共演
     &台風情報確認、そしてミーティング(今話)
 Day15~16:セット組む、その他撮影
 Day17:ホモくんのクライマックスシーン撮影


 【敗因】
     手塚監督を煽ってしまった



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scene21『春の嵐を呼んで』


お待たせしました、ボチボチ執筆再開していきます。


 

 

 

 

 閉めます(問答無用)

 

 

 

 部屋を間違えましたね。

 ホモくん、倫理観がしっかりしてる以上、基本的には鍵を閉めているので鍵が開いてる訳がありません。そしてここは撮影所。つまり隣人がいるということです。これ即ち部屋を間違えたことを意味します。

 Q.E.D、照明終了。我ながら完璧過ぎる理論武装です。ABC問題ですら霞んで見えます。

 勝ったなガハハ、風呂入ってくる。

 

 

 

 …………………………。

 

 

 

 手持ちの鍵を見ます。205号室ですね。

 ドアに彫り込まれたタグを見ます。205号室ですね。ファック(直球)

 

 落ち着きましょう。ここは離島です。ストーカーぶっ殺ルートではないはず(18敗)

 ……いえ、羅刹女ルートには入ってないとは思うのですが……。

 念には念を、ひとまず聞き耳……ここは目星……クッソそんなスキル取ってないよう。初期値しかねえよお。実装されてねえよお(錯乱)

 恐怖と緊張でカタカタと手の震えが止まりません。クソ……お前……落ち着けよ……クソッ…………もう──失敗できない……ッ!

 

 

 止まらない動悸(ガバへの恐怖)

 熱くなる胸(オリチャーの弊害)

 呼吸が浅くなる(死の予感)

 

 

 もしかして────恋?

 

 

 

「……元輝、くん?」

 

 

 

 オゥゴッジーラ。

 

 なんであなたがいるんですか? 怪獣大決戦ですか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?(錯乱)

 そう来ましたか……そっかぁ。ええでしょう、まあええでしょう、ええ対応しましょう。千世子ちゃん再突撃ではない分まだリカバリーが利きますし、今から景ちゃんとのコミュのためにコテージを徘徊する手間が省けたのでRTA的には旨味(避けられないオリチャート)ですね。まぁたチャートが壊れるよ(クソデカため息)

 

 はい。うだうだ言っても仕方ありません。転ばぬ先のなんとやら。とりあえず現状の整理といきます。デスアイランド編も折り返し地点を越えてますし、この二週間の動きがこの後に直結してきますが、それでもここから先がこのパートのキモです。気をつけていきましょう。

 

 とりあえずではありますが、今の段階での最優先のタスクは『17日の撮影を完遂すること』です。ホモくんが景ちゃん千世子ちゃん組との問答の後になんやかんやで自死するクッソ熱いシーンですね。原作でも散々伏線を張られ続けていたシーンの種明かしでもあり新たな伏線を張り巡らせる名場面。単行本では見開きで非常にインパクトのあったシーン、チャートを抜きにしても、映画としての成功か否かの分かれ目となる、クライマックス一歩手前となるわけです。

 アレですね、ラスボス一歩手前で仲間が死ぬ奴です。今回は仲間とはちょっと言い難いかもですが……。主人公がガチ最終形態になる奴ですよ、ほらブラックカブト的な。

 

 今回の撮影では、後の撮影でもある、なぜか毎回台風が突撃してくるクライマックスシーンの兼ね合いも考えてほぼ確実に評価S以上は取る必要があります。

 このチャートに限った話なのですが、今回の撮影では評価A以下を取ってしまうと、景ちゃんと千世子エルの間の修羅場がある程度沈静化してしまいます。それ自体は喜ばしいことではあるのですが、どちらにせよデスアイランド撮影終了時である程度沈静化していれば良いので、ここで沈静化させてしまうと、羅刹女編におけるアクトが12%ほどの確率で微かに下方修正が入ってしまうことがあります。

 その為、クライマックスシーンまではある程度仲直りしていたとしても最低限役者としてはバチバチの関係でいてもらう必要があるのです。それにここで仲直りしてしまうとクライマックスまでに胃薬が手放せなくなるレベルで闇落ち修羅場が発生してしまう、ということもあるのですが、どっちかっていうとこっちがメインですね。頼むから2人だけで修羅場ってくれ……。

 

 というわけで、以上が現段階におけるタスクとなります。その為に必要なことはホモくん自身のことを除けば、大きく分けて、

 

 ①チヨコエルと景ちゃんを最低限共演可能な状態にする。

 ②手塚監督の計画と撮影状況の確認。

 ③スターズ組の説得とコネ作り。

 ④チヨコエルとゴジラとホモくんの好感度関係が火を吹かないようにする(最重要)

 

 の四つです。

 ①と④がほぼ同一な感じもしますが、この二つのタスクを完全にクリアしないと本当の意味でチャートがご臨終となりますので気にしないでください。ヤらないとヤられる。それだけなのです。弱肉強食こそがこの世界唯一の真理なのです。

 ばっちゃんもそう言ってた。ヤられる前にヤれって。

 

 名言ですね。

 

 時を戻します。②に関しては先ほどのミーティング時に軽く触ってきた感じ、これといって変化は見られませんでした。強いて言えば千世子ちゃんの素顔だけではなく景ちゃんへの期待その他諸々が想定より強くなっていたくらいですが、リカバリー込みでチャート通りです。

 ③は明日からの行動で全てが決まってきますが、正直なところ景ちゃんと千世子ちゃんの影響が大きいのもまた事実なので如何とも言い難いです。なので最優先としては④というわけです。

 

 それでは今の状況について考えていきましょう。

 ここで景ちゃんたちがこの行動をしてくるとなると、考えられる最悪なパターンは好感度調整をミスったという場合です。必要以上に好感度を稼いでしまっていた上に、千世子ちゃんとのアレコレで内心クソ修羅場ってる訳ですね。

 

 

 

 ……思ったよりヤバいの出てきたな。どうすんだこれ。

 

 

 

 大前提なのですが、まずリセはしたくありません。嫌です。

 なので続行しますが、羅刹女は召喚したくないです。嫌です。

 ですから一先ず話し合おうと思います。命を慈しむのです……たとえチャートボロクソIQ3人間だとしても……。

 取り敢えず話を聞いてみましょう。可能性としては好感度ミスは低いですし、基本的にはスケジュールの前倒しで千世子ちゃんと共演できないかも、というケースですが……。

 

 >ドアから顔を覗かせた景に驚きながらも、あなたはどうしたんだと声をかけながら部屋に入った。恐らく悩み事があるのだろう。

 >人生相談か? とあなたはからかいの色を言葉に乗せながらテーブル前の椅子に背中を預けた。景もベッドに腰掛ける。

 

 >心地の良い沈黙が流れていた。俯きながら考えをまとめていたのか、ふと景がシルクのような黒髪から顔を覗かせた。あなたの目を見つめながら、徐ろに口を開く。

 

「……千世子ちゃんって、映画を成功させたい人なのね。

 ──ずっと。わからなかったの、怖かったの」

 

 ヨシ(現場猫)

 なんの問題もないな。

 

 この言葉で始まった以上、ほぼ確定で景ちゃんは千世子ちゃんとの共演をひとまず完遂するだけの下地ができています。となれば今からやることは景ちゃんとのコミュをしっかりとることだけです。しっかり認めて、しっかり対話して、景ちゃんが自意識を再確認することの一助となることだけに注力すれば問題ありません。

 

「最初は、かわいい子だなって。綺麗な人なんだろうなって、思ってたの。すごく綺麗で、すごく可憐で。でも素顔が全然見えなくて、ホントに天使みたいで、ちょっと憧れたわ。すごく、綺麗だったから。

 会ってみて、でも、想像とは違ったの。なんでかはよくわからなかったけど……でも、きっと。私にないものを彼女は持っているのに、大切なものが取られちゃいそうな気がしたの」

 

 >黒髪が、景の顎先に触れた。

 >そっか、と。どこかしっとりとした、どこか艶のある瞳を見つめながら。あなたは景の言葉に耳を傾けていた。

 

「……千世子ちゃんの映画を、何本か見たわ。

 千世子ちゃんは、女優なのね。

 銀幕を成立させようと、私たちの映画を成功させようとしてくれてるの。そうやって、映画を照らす主役(スター)であろうとしてくれてる。

 だからきっと、怖かったんだと思う。

 みんなの為にあそこまで自分を殺しちゃうのが、『千世子ちゃん』を、どうしても私に見せてくれないのが、怖かったの。

 でも、きっと。

 私は千世子ちゃんと演じれる。まだ怖いけど、でも。映画を一緒に作ってくれる仲間として、きっとこれ以上ない人だと思うから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ねえ、元輝くん。

 

 

 

 

 私たち、幼馴染みよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうやって、危険な撮影場所に役者を送り込んできた裏方は、一体どんな気分だったんだろうか。

 

 先人が、僕の敬愛する巨匠たちが、いい作品のために、我が子のように可愛がっていた役者(こども)たちを、危険極まりない戦場に送り出すのは、どんな気持ちだったんだろう。

 

 僕も、助監督も、スタッフもプロデューサーも。ましてやキャストも主演たちも。

 誰も怪我なんて望んじゃいない。

 当たり前のことだ。みんなで笑ってオールアップできればいいって、そう思っている。

 それで、最高の作品ができれば、完璧だろうと。

 

 

「おいビニール足りねえぞ! 台風がいつ来るかわかんねえんだ急げ!」

「道具を最大限に台風に最適化してください! 僕らで出来る限り危険を排除します! 最悪の場合に備えて川辺にネットを! 急ぎましょう、あと三十分で撮影開始しますよ!」

 

 

「────本当に」

 

 

 ……ああ、本当に僕らしくない。

 いや、『スターズ』の手塚由紀治らしくない、というべきかな。

 アーティストとしての血が、騒いでしまった。俳優の覚悟に、その熱意に、突き動かされたんだ。

 新しいものが見たいと、僕のエゴとロマンだけで彼女を傷付けていた僕なのに、そんな彼女に、役者に願われて、危険な場所へと送り出している。

 

 酷い矛盾だ。

 役者の無事を願って。役者を危険な場所に送り出す。

 この場を預かる大人として、酷いことをしている自覚はある。

 これじゃあアリサさんに怒られちゃうよ、と。自嘲気味に笑った。サングラス越しに睨んでいた台本から視線を外して、忙しなく動く現場が目に映る。……なんというか、

 

「──大人失格だな、僕は」

 

 はは、と笑う。

 当然最善は尽くした。台風の影響が本格的に出てくるまで後1時間程度。最低限回収しなきゃいけない機材のことも考えれば、撮影できるのは一回が限度だ。

 つまり、ここで失敗すれば、この映画は破綻しかねない。

 現状を分析して、危険を減らして、やれることを全てやっても尚、僕が負えるのはこの場の責任だけだ。役者たちが負っている身の危険を肩代わりすることはできない。

 

「ホントですよ、リスケしても結局こうなっちゃうんですから」

「……元輝くん」

「どうも」

 

 自嘲気味にそう呟いた僕に反応したのは、黒いポンチョを目深にかぶった黒山の甥っ子だった。台本片手に黒いチョーカーを首に巻いている、どうやら準備はほぼ終わったらしい。

 

 ……少し、申し訳ないね。

 子供みたいに自分がやりたいことを追いかけた結果がこのザマだ。天候には勝てないからと、妥協と諦観と、それでも諦めてたまるかというチンケなプライドだけでこんなことをやってる。こんなの大人として失格だ。

 全くだよ、そう返した僕にどこか呆れたような表情を浮かべながら、

 

「でも手塚さん、楽しそうじゃないですか」

「え」

「いいと思いますよ、そういうの」

 

 じゃあ俺は最終チェックあるんで、と言い残して役者組のテントに向かった彼の後ろ姿に呆気に取られる。

 は、と軽く息が漏れた。なんとなく自分の頬に手を添えてみれば、微かに笑いを噛み殺したような歪なシワがある。

 

「────なんというか」

 

 ホントに君たちは。

 

「似たもの同士だな、全く」

 

 パチンと頬に叩いて、感傷的な意識を吹き飛ばす。

 デスアイランド開始より17日目。

 天気は最悪、スケジュールはカツカツ。挙げ句の果てには台風がすぐそこまで来てるときた。

 

 取り直し不可。

 一度のミスが映画の可否に直結する────

 

 この撮影における第一の山場が、すぐそこに迫っていた。

 

 

 

 

 

 




デスアイランド編、残り二話。

次回、クライマックス。


出来る限り早く出します。
感想くれると作者はアヘ顔決めながら執筆できるようになります。え?


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