トダー ~人と共に歩む者~ (ローグ5)
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タフって言葉はトダーの為にある

去年のトダー・ショックとここ数年の仮面ライダーのタフ濃度の濃さ(男もイケるしな・アルファを超えたアルファ・ライダーバトルはルール無用だろ・やたらモラルに欠ける社会的地位の高いクズ)から一作書いてみたんだ。
アンチ・ヘイトタグが付いているのは1000%への愚弄があるからなんだ。

ちなみに本作には○○なんだという変な表現や不自然な中点(ライダー・キック)等が見られるが、それはタフの原作再現だと考えられる。
悔しいだろうが仕方ないんだ。




 人工知能が大きく進歩した新時代、飛電インテリジェンスによって作られた夢のマシンヒューマギアは登場してからごく短い期間で、現代日本社会に必要不可欠な存在となっていた。

 

 人間とほぼ変わらない外見やラーニングによる様々な職業に適応できる適応力。最早オーバーテクノロジー級の能力を標準的に搭載したヒューマギアは警備員から社長秘書まで多くの仕事に関わり、人間と共に未来へと歩み続けている。

 

 そんな一昔前からすれば夢のようなヒューマギアの各業界への進出は万年人手不足にあえいでいた介護業界でも大いに歓迎された。

 人間には根気のいる仕事や円滑なコミュニケーションが取れる介護対応型のヒューマギアは、導入から数年でもうすでに高齢化の進む日本社会には欠かせない大切なパートナーだ。

 

「守ちゃん。ちょっと私のマグカップをとってくれないかしら」

「承知しました! はい、桜子さんのマグカップ、一緒にお茶も持ってきましたよ!」

「まぁ本当に気が利くのねえ」

「えへへそれが僕の取り柄ですから」

 

 東京都内の老人ホーム、『平伸ゆーとぴあ』で働く介護士型ヒューマギアの皆見守(みなみ まもる)もその一人だ。

 爽やか青年風の外見をした守はロールアウトされてからこの職場に来てまだ日が浅いが、もうすでにご老人達のハートをがっちりと掴み、介護職員の中でも一番の人気者となっている。

 

「おーい守ぅ、儂の将棋の相手をしてくれんかのぉ。孫にいい所見せたいんじゃ」

「守君。こないだ選んでくれた本面白かったよ。ありがとうね」

「マモちゃん、今日の夕ご飯はなに?」

 

 それぞれ話しかけてくる老人達に巧に対応しながら守は日々職員が行うべきタスクをこなしていく。

 その手際の良さはまさしく熟練の職員のそれでありヒューマギアの優秀さを証明し続けていると考えられる。

 

「今日は成羊肉(マトン)を使ったシチューですよ! あ! 配達の人が来たようなんでちょっと行ってきますね!」

 

 彼の人気を証明するかのような和気藹々とした声を背に、守は車が停車する音を聞きつけてて外へ出ていく。

 今日は施設に食材が届けられる日であり、入居者に栄養を摂ってほしいと夕食用に彼自らが業者と交渉して仕入れたマトンも今日の配達分で来る予定だ。(ちなみに成羊肉を選んだのはマトンは食べる成羊肉と言われるほどに栄養豊富だからである)

 

「へっなかなか見せつけてくれるじゃねえか守さんよ。ほら、食材だ。今月は多めに来てるぜ。おまけに新規の家具もあるしな」

「おっ確かに多いですね……これは運ぶの骨が折れるなぁ」

 

 猿渡運送とマークが刻まれたトラックから降りたアフロ頭の大柄な配達ドライバーが指さす通り今月配達された荷物は多い。

 職員で手分けして運びこんでいくにしても結構な時間がかかりそうだった。

 

「ファファファ。コレハ私ガ運ビマショウ。マモルハ皆サンノオ世話ヲオ願イシマス」

「トダーさん!」

 

 其処に現れたのは守の先輩ロボットであるトダーだ。

 今でこそ医療用に少数が流通しているものの、元は軍用ロボットとして設計されたという武骨な四角いボディに筋肉の束に似たコードで構成された四肢を持つ、レトロ・フューチャー的なデザインをしたトダーはこの施設における守の先輩だ。

 その強力な馬力を活かして今も食材が満載された箱をひょいひょいと軽く持っていく様は頼もしい。

 

「ありがとうございます! トダーさんも体に気を付けてくださいね!」

「心配ハアリマセン。トダーハヒューマギアヨリ遥カニ頑丈……スナワチ"タフ"ナノデス」

「トダーさんその言葉好きですねー」

 

 礼を述べる守に対してトダーは鷹揚に返答する。トダーという守の尊敬する先輩は武骨なフォルムからすると意外なほどにユーモアがあるのかもしれない。

 そして二人の会話からは彼らが機械なりの信頼関係を築いている事が伺われた。

 

 

 

「タフッテ言葉ハトダーノ為ニアルノデス」

「タフ、ですか?」

「左様、タフデス」

 

 トダーと守の信頼関係は固いがその構築がなされてからまだほんの数か月と日が浅い。

 そのきっかけは守が施設に来て2週間後の事だっただろうか。トダーはたまたま仕事中に守と二人になった時にそう言った。

 

 トダ―のボディは先程述べたように武骨である。

 トダーは当初より介護方面での転用が見込まれていたが、その本質は次世代型軍用兵器だ。

 頑丈さや信頼性を重視した結果として自然とボクシーな形状でヒューマギアとは大違いのデザインになったし、AIもやはり細かな会話よりも戦場において役立つ方向に調整されているのは変わらない。

 ちなみにこれは余談なのだがトダ―は日本でも極秘裏に実践試験が行われており、一説には世界的な格闘大会での優勝経験を持つ"キー坊"と呼ばれた天才格闘家や彼の一族も関わっていたという。

 

 そんな訳で単純に介護士としての仕事をこなすならば守の方が遥かに優秀だ。

 トダーは守程細やかな作業は出来ないし、入居者の方々とのコミュニケーションを円滑に取れない。

 人気においてもすぐにトダーより守の方が高くなるだろう。

 

 しかしそれでもトダーはロボットだから当然ではあるのだが、めげる事はなかった。

 むしろ守のAIにはトダーが高いモチベーションに満ちている様に思えた。

 

「トダーハ見テノ通リロボットソノモノノ姿デ、介護士型ヒューマギア程ノ介護能力ハアリマセン。シカシソノ分ヒューマギアト違ッテ肌ノ汚レヤ破損ヲ苦ニセズ仕事ガ出来マス。マタパワーニ関シテモヒューマギア以上。ソレニ機械ニハ大切ナ事デスガ部品の調達モ非常ニ容易デス」

「な、成程……確かに四肢が損壊してもコードで代用できるほどの耐久性はヒューマギアにありませんからね」

 

 当時の守は素直に感心した。確かにヒューマギアは高性能だが、なまじ人に近づきすぎた為繊細な故に、他の機械がやるような力仕事はしにくいという点もある。

 無論入居者をベッドに寝かせる際に必要な力は守も備えているが、トダーの力もきっと役に立つはずだ。

 

 そしてトダーは守に対して続けた。それは先程のトダーならばできる事と直結する内容だ。

 曰く守という人手が増えた分空いた時間でトダは―施設の力仕事だけでなく、周辺の一人暮らしのお年寄りの手伝いや資金的な問題でヒューマギアを導入できない町工場への協力も出来るようになったという。

 機械である自分がより多くの人を助けられる。それは紛れもなく守のおかげだと。

 

「ファファファ、トダートヒューマギア、ニシュルイノロボットガ力ヲ合ワセル事デコノ社会ヲ理想郷ニシテイク(ライジング・ユートピア)事ガ出来ルノデス」

「わかりましたトダーさん……これからも宜しく、いや一緒に頑張らしてください!」

 

 一種類の完璧な存在ではない、異なる存在達が人々を笑顔にして社会をよりよくしていくから尊いんだ。絆が深まるんだ。

 トダ―のカメラアイは言外にそんな事を、長年何かに一心に奉職してきた者特有の誇りに満ちた目で伝えてきた。

 

 それからという物の高度なAI、もはや人格と言っていい程のそれの判断に基づき守は、トダーから施設について学びながら理想を目指していく。

 

 ある時は施設の催し物の為に一夜で巨大な看板を作成し門前に掲げたり

 

 またある時はトダーの手足の伸縮機能とヒューマギアの演算能力を活かした連係プレイで大掃除を3時間で終わらせたり

 

 さらにある時は空いた時間に入居者の方たちとゲームをして楽しんだ。

 

 それは紛れもなく人間らしいとすら言える、幸福な時間であったとトダーと守のAIは双方ともに定義づけられていた。

 

 

 

 

 

 トダーや守が務める老人ホームの程近くにある公園。

 東京には珍しい広大な土地を有し、どこか長閑な雰囲気があるその公園は、本来は人々の憩いの場になっているはずであったが、今ここにあるのは阿鼻叫喚の様相だけだった。

 

「なにっ」

 

 まず最初に気づいたのはたまたま公園を散歩していた若い女性だ。

 自分の頬を矢のように掠めた物に驚いて振り返ると其処にいたのは明らかに尋常ならざる存在だ。

 

「お前も血しぶきを浴びろよっ!」

 

 怪物は四方八方の設備を殴りつけ壊すと其処から引火したのか爆炎が上がる。

 穏やかな昼下がりは一瞬にして破壊された。

 

「いやあああああ」

「うああああっコ、コモドドラゴンの化け物が公園を練り歩いているっ」

「はひーっ!?」

 

 阿鼻叫喚を引き起こしたのはモスグリーンの装甲で全身を覆った怪人だ。

 全体的にメカニカルな印象を与える怪人の頭部はコモドドラゴンに似ており、口からは危険な色合いの吐息が漏れている。

 この怪人を仮に呼称するならばコモドドラゴン・レイダーと言うべきだろうか。

 

「あへあへあへ。頭の中でフライドチキンが躍っているぜ」

 

 幸いにと言うべきかこのレイダーの変身は正気を失い人々を積極的に害するそぶりは見せていない。

 だがこの変身者は薬中のヤクザであり、レイダーに変身する為の専用ベルトを開発元のZAIAから暴力を用いて強奪し暴れまわる危険人物を超えた危険人物である。

 ハッキリ言って人間のクズであり、人々が微塵も安心できる要素がなかった。

 

 対策組織のAIMSはまだ発生から時間がたっていない為来ず、だったらベルトの開発元のZAIA・エンタープライズは何らかの対応ができるのではと思うところだが……情報がすでに伝わっているにもかかわらず彼らは動かない。

 強盗が使っているとはいえ自社製品が凶悪犯罪に使われているのだから事態の収拾に協力すべきなのにもかかわらず、1000%おじさんこと、天津亥は社長室で案の定余裕気な顔を晒していた。

 

「ふふふ……所詮は我が社のあずかり知らぬ場で起きた事態、アズ イト ライズ(あるがままに)行きましょう」

「……ハイ承知いたしました天津社長」

 

 会社の金で作った感満載のミニゴルフコースでグラブを振るい意識高そうな事を言う1000%と、どこぞの格闘漫画愛好家達に似たマネキンみたいに覇気のない顔(マネモブ)で追従する刃唯阿。

 

 今回使われているレイダー変身用のベルトは社会のクズである薬中が強盗して手に入れた物の為、ちょっとばかりマスコミを誘導して犯人の批判に持っていけばZAIAの責任にはならない。

 それにだ、面倒事はちょうど良い相手が後始末してくれる。ここは見に回り今後のデータを収集するべきだ。

 なので1000%は全く自分から動くつもりはなかった。

 

 社員はともかくとして全責任を負うべき社長がこの態度。

 天津さん、一つだけ言っていいですか? ……あなたはクソだ。

 正直このコンプライアンスに欠けまくっている姿勢はどうかと思うッス。忌憚のない意見っス。

 

 話を戻そう。そしてさらに悪い事に守やトダーは今日この公園に入居者達を連れてこの公園に遊びに来ていた。

 当然ながらレイダーからは逃げきることが出来ず、ふらふらと動くレイダーの目に留まってしまい、意味不明の奇声を上げながらレイダーが人々に迫る。

 

「ホァーッ!? ホッホッホァーッ!」

「やめろ「危ナイッ」オォ!?」

 

 モンキーめいた咆哮を上げて迫る地獄のレイダーに対して守はせめて自分が盾になって人々を逃がそうとするが、彼よりも早く守の前に立ちふさがったのはトダーだ。

 その行為の代償としてレイダーのミリタリーチックな濃い緑で塗装された足がトダーを蹴り上げ、トダーは地面を転がり公園の石段に叩きつけられる。

 

「トダ―さんっ!?」

「……行キナサイ。私ガ時間ヲ稼ギマス」

「ホァーッ! 舐めるなっガラクタぁっ!」

 

 カメラアイにひびを入れながらもトダーは立ち上がりレイダーを挑発するように手招きする。

 するとレイダーは突如激高しトダーに殴りかかるが両腕から異音を響かせながらもなんとか受け止めた。

 リミッターを外したトダーの腕力は非常に強力で、こうした軍用スーツに対しても状況次第では匹敵する。

 

「今ナラマダ逃ゲラレマス。介護士ノ本分ヲ忘レズニ」

「っ!?」

「ファファファ。心配スル事ハアリマセン。何度モ言イマシタガ……トダーハ非常ニ"タフ"ナノデス」

「……皆さんこっちです! 転ばないように気を付けて!」

 

 唇をかみしめ悔しさに耐えながらも守は入居者や公園に来ていた人々の避難誘導を開始した。

 それでいい、とトダーは思う。

 何よりも守るべき人間たちの命を守る為にはこうするのが一番だ。

 

 ゴッゴッゴッ。レイダーの拳により鈍い音が響きトダーの武骨なボディにへこみが足されていく。

 当然ながらトダーは元は軍用とはいえ彼のような介護用モデルは予期せぬ事故を防ぐ為に再設計された段階から力に制限がかかっており、最新鋭の軍用兵器であるレイダーに抵抗するのは無理があった。

 更にロボットであるトダーは人間を傷つける訳にはいかないから、ただレイダーを食い止める事しかできない。

 

「放しやがれクソボケがァーッ!!」

「行カセ、ナイ……!」

 

 ガラス瓶で殴られて地べたをはいつくばってもトダーはレイダーを食い止める事を辞めない。

 トダーはそれを当然と考える。

 

 トダーの由来は一説にはヘブライ語で"ありがとう"という意味だと巷で言われている。

 一見軍事兵器らしくない普遍的な感謝の言葉を自分の名につけられたのは、兵士でも、老人でも誰でも、この世界に生きる人に感謝される存在になるべしと開発者がつけたのではないか。

 人によっては単なる妄想と片付けるかもしれないが、少なくともこのトダーはそう考えている。

 その思いは介護施設でスタッフの一員として入居者を支えていく内に強まっていった。

 

 だから、トダーは自身の身体が壊れようともレイダーを食い止め続ける。

 自分がいなくなっても所詮ロボット一つだ。有能で自分がそれぞれの入居者への対応に関する細かな点も伝え続けてきた守が何とかするだろう。

 故に損傷を問わずここでレイダーを止める。

 

 四肢が動かなければコードで代用し、機械的な力を働かせてレイダーからの壁となる。

 心配ない。トダーは人間より遥かにタフなのだ。

 

「ピッガガガ……ガピッ」

「あへあへっあー何言ってるかわかんねぇよ。まあ言ってることが分かった所で殺すんやけどなブヘヘヘヘ」

 

 しかしすぐに限界が来た。メインフレームをバキバキにおられたトダーは力なく崩れ落ちる。

 これ以上損傷すれば如何にタフなトダーと言えど不可逆の損傷、すなわち死が待ち受けているだろう。

 ここまでか。トダーは己の死を確信した。悔いは……ない。ただ人々の感謝の為に。

 そうして覚悟を決めたトダーに蛆虫にも劣るコモドドラゴン・レイダーの足が振り下ろされ、固い物が固い物に衝突する鈍い音が響いた。

 

「うぎゃあ! な、なんだぁっ!?」

 

 だがしかし、吹き飛んだのはレイダーの方だ。どこからともなく現れた巨大なメタリックなバッタがレイダーを蹴り飛ばしトダーから遠ざけたのだ。

 

「貴様―っ! この俺を愚弄するかぁっ!」

「トダ―さんしっかりしてください!」

「ピ……ガ……マモ、ル?」

「もう大丈夫ですトダーさん! あの人が、仮面ライダーが来てくれました!」

 

 いつの間にか戻ってきた守がトダーを引きずっていく。

 幸いにしてトダーはあちこちのパーツが脱落して軽くなっており、守ると共に来ていた清楚な印象の女性型ヒューマギアと共に引きずって何とかレイダーから遠ざけていく。

 代わりにレイダーに対峙するのはまだ若い茶髪の青年だ。彼の腰にはベルトが巻かれている。

 

「──────ありがとうトダー、みんなを守ってくれて。後は俺に任せろ!」

 

「社長の言う通りトダーさんはお下がりください。後は社長が」

 

 青年が力感のあるポーズをとると鋼鉄のバッタが周囲を跳ねまわる。

 その様は何処か主人の傍に仕える忠犬のようだ。

 

「変身!」

「飛電或人、仮面ライダーゼロワンが対応いたします」

 

『プログライズ! 飛び上がライズ! ライジングホッパー!』

 

 カードキーに似たアイテムをベルトにセットすると同時に金属のバッタが飛び散り、各パーツが彼の身体に装着されていく。

 

『A jump to the sky turns to a rider kick.(空へのジャンプはライダー・キックに変わる)』

 

 鳴り響く電子音、眩く、どこか優しい眩い光の一瞬後のあらわれるのは黒いスーツに蛍光イエローのアーマー。そして赤い複眼を光らせ、何処かバッタにも騎士にも見える仮面をかぶっていた。

 

「お前を止められるのはただ一人! 俺だ!」

 

 その名は仮面ライダーゼロワン。飛電インテリジェンス社長飛電人が変身するヒューマギアと人類、そしてそれ以外の全てのロボットが幸せに生きる事の出来る理想郷の実現の為に戦う戦士だ。

 

 

 

 

 

 

 公園の広い敷地を並走しながゼロワンとレイダーは互いに拳を交わしあう。

 

「しゃあっ!」

「ぬうぁっ!」

 

 ボボボッパンパンパンッ。打撃が交わされる度に空気が音を立て飛散していく中両者は幾度なく位置を入れ替え殴り合う。

 ベージックなスタイルのゼロワンに対してレイダーは総合格闘技の心得があるのか、歪で不安定ながらも構えをとりゼロワンをけん制しながら側面に回り込む立ち回りを見せる。

 

「ちょこまか動きやがってこの×××がーっ!」

「何だこいつ!? 滅茶苦茶口汚いぞ!? はぁっ!」

 

 が、バッタめいた脚力を活かしてゼロワンは決して側面をとらせず、飛び回りながら逆に翻弄していく。

 優位をとるのはゼロワンだ。

 当然な事であるは或人は飛電インテリジェンスの社長に就任してから、滅亡迅雷netやタイム・ジャッカー、1000%と戦い続けてきた。

 ハッキリ言って薬中のヤクザとは格が違う、基本性能が違う。

 

「舐めてんじゃねえぞコラッ! この世襲社長がぁっ」

 

 ゼロワンのパンチに一瞬怯むもレイダーは距離をとったゼロワンに対して、遮二無二怒りのままに罵詈雑言を吐きながら突進する。

 

「それは関係ないだろ! ……しゃあっコブラ・ソードッ!」

「うぎゃああっ!?」

 

 前傾姿勢で突進するレイダーに対してゼロワンは変則的な膝蹴りをぶち当てた。横合いからもろに顔面に入った膝蹴りにレイダーはゴロゴロと転がっていく。

 

(うお……見様見真似だったけどコレマジで効くんだ! TVで見たあのギャルアッドって人すげえ~)

 

 ゼロワンが使った技はついこの間に、なんか参考になるのはないかと見て見た格闘番組"鉄拳伝 DARK FIGHT"で見た技である。

 その中でもかつて強すぎるがゆえに試合が組まれなかった伝説のムエタイ・ファイターの得意とした技はバッタの脚力を持つライジング・ホッパーに合うと思い、見よう見まねで繰り出したが予想以上の威力だ。

 

「ヒーヒ―いわしたるわこの△△△が!」

 

 強烈な膝蹴りを喰らっても仮面ライダーでは小説版でも発言できないレベルの暴言を吐き、レイダーはへこたれないで腕部に装着された砲塔から特殊弾頭を撃とうとする。

 が、その前に飛びつくのはゼロワン。

 脚力を活かした低姿勢からの飛び込みで足に組み付き転がすとそのまま関節技を両腕に決めていく。

 

(これは確かシュート・ファイティングの朝昇さんって人の必殺技の毒蟲? 毒蛭? え~と何だっけ、まあいいや!)

「ライダー何とか開きっ!」

「ぐああああっ」

 

 彼が使ったのはこれまた格闘番組で見た1500の技を駆使して3000の骨をへし折ったとか言われているシュート・ファイティングで有名な関節技の達人の技のうろ覚えコピー。

 ゼロワン本人もどうなっているのかわからない複雑な関節技はどうにかこうにか、レイダーの両腕の砲をグッチャグチャに破壊した。

 さっきまでイキっていたのにゼロワンが出てきた途端この醜態。

 人生の悲哀を感じますね。

 

「くそがああああああああっ! ぶっ殺す! ぶっ殺す! ぶっ殺す! ぶっ殺す!」

「うわっ! 何だこいつ!?」

 

 が、やはり不完全な関節技故か、ゼロワンは激昂するレイダーに振りほどかれた。

 最早激情の限りにそのまま二十回程ぶっ殺すと叫ぶレイダー。

 その狂気にゼロワンはドン引きする。

 

「──────ぶっ殺す! ぶっ殺す! ぶっ殺す! ぶっ殺す! ぶっ殺す! ぶっ殺す! ぶっ殺す! ぶっ殺す!」

「お、お前狂っているのか……」

 

 当然ながら普段現代日本で暮らしていて他者を全力で攻撃するのに一切の躊躇を見せないような人間なんて普通見ることはない。

 いかなゼロワンでもそんな存在はどこぞの若作りした45歳ぐらいである。

 まともな精神の人間からは決して理解できない、その暗黒の精神性に恐怖の感情がないかと言えば嘘になる。

 

「────―だったら俺が、ここでお前を止めてやる! 人やヒューマギアを……トダーをこれ以上傷つける前に! 変身!」

『エブリバディジャンプ! オーソライズ!』

 

 それでも戦うのが彼の仮面ライダーゼロワンの選んだ道だ。

 無数の銀色のバッタがゼロワンに装着されていく。

 

『メタルライズ! Secret material! 飛電メタル! メタルクラスタホッパー! It's high quality!』

 

 ゼロワンが強化変身するのは全身銀の装甲に蛍光イエローの複眼とラインを持つ仮面ライダーゼロワン・メタルクラスタだ。

 

「今止めてやるっ! はああああっ!」

 

 更にスペックを上昇させたゼロワン・メタルクラスタは目にも止まらない迅さでレイダーの周りを駆けまわりプログライズ・ホッパーブレードで切りかかる。

 

 レイダーに刻まれる無数の傷。

 対して乱暴な腕の振り回しはゼロワン・メタルクラスタから分離した無数のバッタがインターセプトしゼロワンに届かない。

 瞬く間に無数の幻影を背に残身を決めたゼロワンに対して、レイダーは宙に吹き飛んでいく。

 

 ゼロワンはプログライズ・キーをセット。

 必殺技を発動しようとするが、その前にレイダーの口には毒々しい色の光弾がチャージされていた。

 毒々しい色の光弾が続けて放たれる。

 

「がぁぁ‥‥! 死ぬのはお前だ、お前が一方的に殺されるんだぁっ!!」

 

 レイダーから放たれた光弾は3発。

 最初の二発はゼロワン・メタルクラスタから分離したバッタが防いだが、最後の一発はそのまま殺到していく。

 

 対してゼロワン・メタルクラスタは動じない。

 むしろ両足を踏みしめ決断的に光弾を見据え、今日の戦いで何度も役に立った格闘番組の最後、いまだに格闘業界では伝説として扱われる宮沢熹一VS日下部覚吾の一戦。

 21世紀の始め、伝説的な古武術の継承者であり実の親子でもある二人が戦ったいまだ語り草である神域の格闘戦。

 かつてゼロワン・メタルクラスタも経験した親子対決の決め手となったフィニッシュムーブの再現だ。

 

「弾丸滑りっ!」

「なにっ」

「はあああああああっ!!」

 

 毒の光弾はゼロワンに着弾すると同時に奇怪な上半身のひねりで受け流される。

 身動きのとれぬレイダーに対して、回転の勢いを乗せてゼロワン・メタルクラスタが高く高く飛翔する。

 

 バッタたちの変形した銀色の円錐に拘束されたレイダーが恐怖して叫ぶ中、必殺技が放たれた。

 

「う わ あ あ あ あ あ あ」

『「メタル・ライジングインパクト!!!」』

 

 必殺の一撃がレイダーを貫いた。

 爆発四散するレイダーに対してゼロワン・メタルクラスタが華麗に降り立つ。

 中身の薬中ヤクザはちょうどよく芝生の上に転がり落ちた。

 

「はぅっ(カクーン」

「あっぶねえ~何とか芝生におろせたぁ……誰も死ななくて良かった」

 

 白目を剥き気絶するヤクザの呼吸が安定している事に安堵するゼロワン・メタルクラスタ。

 もはやコモドドラゴン・レイダーであったヤクザはいともロボも傷つけることはない。

 

 蛍光イエローの入った銀色の鎧をした仮面ライダーの姿。

 夕日に照らされたその勇ましい姿をトダーや守は感謝と共に見ていた。

 いつか来る理想郷の為に戦う戦士を、ずっと見ていた。

 

 

 

 

 

 およそ1か月後のトダーたちが勤めている老人ホーム。

 大広間に置かれたテレビに映し出されているのは飛電インテリジェンス社長の飛電或人だ。

 いつも通りつまらないギャグを言っている。

 

『はい! あ~る~とじゃ~ないと!』

『今の或人社長のギャグは────―』

『ふぅん、そういうことか』

『もっと面白いギャグ見せて』

『怒らないでくださいね? 今どきそんなギャグ時代遅れじゃないですか』

『あうっガチ目の愚弄が飛んできたっ』

 

 残念ながら彼にギャグのセンスはないようだ。

 番組司会のコメンテーターもチベットスナギツネみたいな顔で適当なコメントを送ったり、ギャグセンスを愚弄したりしている。

 如何に命の恩人とはいえ、ギャグが詰まらないという感想は守と修理され復活したトダーも同じだった。

 

「ファファファ。トダーハ或人社長ヲウワ回ル面白ギャグガ言エルノデス」

「怒らないでくださいね? 或人社長にギャグで勝ってもそれ何の自慢にもなりませんよ」

「ククク酷イ言ワレヨウデスネ。マア事実ダカラ仕方ナイケド」

 

 そう言って談笑していると表で車が止まる音が聞こえた。

 恐らく今月分の配達が来たのだろう。

 

「サア行キマスヨ守。手早ク運ビ込ンデイキマショウ」

「はい!」

 

 トダーや守は連れ立って仕事に出ていく。

 彼らやゼロワンが目指す理想の社会の実現は決して夢物語ではないと考えられた。

 実現の為に今彼らはただ、出来る事をやり続けるだけだ。

 

 いつか来るロボも人間も幸福に生きられる日が実現する(リアライジング)まで、二人で頑張っていくんだ。

 




人類とロボットたちが共存する理想郷の為に、いけーっヒューマギアの息子!!

……しかしなんで俺はこんな作品を10000字近くも書いているんスかね?



9/20 好評につき一部文章を追加したんだ。
正直タフとのクロスSSがこれほど好評になるとは思わなかったんだよね
低評価も覚悟していたのに9評価が複数ついて感想も沢山あるんだよね凄くない?

次回作の予定はないけどもしあるとしたら

・敵に肋骨を折られた後病院を練り歩く1000%
・弱き者繋がりでゲスト出演するマギア・レコードの宮尾時雨と安積はぐむ
・鷹兄の人外ぶりにガチ困惑する或人社長
・ゴリラを超えたゴリラと化した不破

とかのネタを活かしていきたいですねレアでね(ニィ


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