個性『レユニオン』な転生少女 (なめろう)
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ぷろろーぐ 病院から脱走しましょう!

今流行りの人気要素を取り入れて省エネ執筆して勢いだけで書き上げた作品です。
みんな! アークナイツはいいぞ!

2020.04,13:主人公の台詞追加。


「この子の、この子の症状は一体……?」

 

 某月某所某大学病院。

 路地裏で意識を失って倒れていたという、とある少女が深夜に運び込まれた。

 小学生初等部の平均的な背丈。透き通るように輝く、全身より長い銀髪に見目麗しい顔をしたその少女は、目立った外傷もないのに眠り続けており、医師は当初ただの栄養失調だろうと高をくくっていたが……念の為精密検査を行った所、驚く羽目になった。

 

 なんと、少女から未知のウイルスが発見されたのだ。

 

 既存のどの病気とも当てはまらない遺伝子パターン。

 体内で遅々とはしているが着々と増え、体質を作り変えていく症状。

 よくよく彼女を観察してみると、その下腹部には小さいが真っ黒な鉱石と思える物が生えていた。

 

 恐らくは異形系の個性の発現中なのだろう。

 世間一般的に個性の発現は4歳までに起こると言われているが、後天的に個性を取得するケースも稀に報告されている。

 

 今までありとあらゆる研究がなされてきた個性。

 しかして個性の発現メカニズムがはっきりと解明されてはいない。

 だがこの少女のウイルスがもしも『個性』の原因であるとすれば。

 これは『個性』のメカニズムを紐解く重大な鍵になるのではないのか?

 

 そこまで考えた医師は色めきたった。

 彼女を更に調べ、研究を進めれば……自分は医学界でもトップの立場になれるのでは。

 そういった欲が彼の心の中でむくむくと芽生えてたのだ。

 

「……そうと決まれば、彼女をしばらく缶詰にしないといけないな」

 

 思い立ったが吉日。医師はすやすやと眠り続ける少女を囲い始めた。

 幸いな事に彼女は身元不明の、いわゆる孤児。

 個性社会になった今ではよく見る社会不適合者(ドロップアウト)なら何も問題はないだろう。

 彼は嬉々として治療と見せかけた研究を行っていった。

 

 病院に運び込んで3日目になって、少女が目覚めた。

 医師は虚実を織り交ぜ、少女に長期入院が必要であるという事を伝えた。

 身寄りもお金もないのに治療を受ける事なんて出来ないと慌てる、常識的な一面を持つ少女だったが病気なんだから気にする必要はないよ、と優しく説き伏せて少女はソレを了承した。

 

 病院に運び込んで5日目。少女の検査が続く。

 (鉱石の発露以外)身体的に異常はないが、嘘の病状が進行していると伝え、医師はこれみよがしに様々な検査を行っている。

 血液検査だけに留まらない、ありとあらゆる検査。

 若干非合法な検査も行って未知のウイルスを丸裸にしていく試みが行われた。

 少女は苦痛に耐えながらも従順に指示に従っている。

 

 病院に運び込んで9日目。

 少女の検査は終わらない。

 検査の範囲内で(へそ)下に出来ていた鉱石がnm(ナノメートル)単位ではあるがじわじわと範囲を広げ始めている事を確認した。

 やはりこれは個性の発現を促すウイルスなのだろう。

 医師は研究に更にのめり込み始めている。

 しかし、この頃から少女が反抗的になって退院を欲するようになってきた。

 

 病院に運び込んで12日目。

 少女は最早退院することしか考えていないようだ。

 口を開けば「もう結構です」「早くここから出してください」。

 検査は確かに多いが、身寄りもない彼女に住処を与え、かつ三食ご飯がついてくる待遇を与えている。医師は十分な対価を与えてやってると思っているので少女の発言が理解が出来ない。

 コレは医学の進歩に必要な事なのだ。我慢して貰わなければ。

 そして、退院を望む少女に業を煮やした医師はとうとうベッドに彼女を(くく)り付けた。

 

 病院に運び込んで13日目。

 彼女が病院から脱走した。

 鍵付きの拘束用のベッドで縛り付けた矢先の事だった。

 そのベッドは粉々に破壊されており、周りには鉱石のクズと思える破片が散乱していた。

 恐らくは発展途中の個性を使って逃げたのだろう。

 まだ十分な検査が出来ていない医師は、脱走した少女を人知れず、かつ非合法に探し出す事にした。

 彼には約束された未来をもたらす道具を手放すという選択肢は、もうなかったのだ。

 

 ――彼が研究しているそのウイルスが、世界に破滅を(もたら)す物と気付く事もなく。 

 

 

 § § § 

 

 

 廃墟のビルからおはこんばんわ&初めまして!

 起きてたらヒロアカ世界だった少女です。

 祝☆リアル転生☆ イエーイ☆

 ……って喜ぶ事も出来ない詰み状態に涙が止まりません。

 

 目が覚めたと思ったら怒涛の展開の連続ですよ。

 これにはロクに言葉を発する事もできなかったよ。

 

「何、この状況……」

 

 まず自分の体が銀髪ロングの幼女化している事に気付くでしょ。

 それで身寄りがない事を伝えられるでしょ。

 最後にお前病気かもだから検査のため長期入院ねって言われるじゃん。

 オイオイ、どういう状況だよマジでってなった。

 

 何分前世の記憶はおぼろげながらあるもんだけど、その前世と今の俺……いや、私の体には隔たりがありすぎる。

 起きたら幼女でしたなんて信じて貰える訳もなし。

 もういっそ流されるがままに入院しようとしてたら、追加の驚きポイントがやってきた。

 

 そう、この世界がヒロアカ世界であるって事。

 

 気付いたのは医者にしれっと「キミ、個性はあるのかい?」って言われた時の事。

 へ、何? 私今からアイドルのプロデュースでもされるのかって思ってたら、医者がなにもない空中から消毒液を取り出して驚いた。

 手品なんかじゃない、人それぞれに持つ『個性』っていう超能力。うん、ヒロアカじゃんかよー!

 

 わーい、転生世界ら~☆ って頭真っ白にしながらどう答えようか迷ってたら「キミのおへそに鉱石が出始めてる。もしかしたら異形系の個性が今発現してるのかもね?」って言われたので、すん……ってなった。

 折角転生特典で『銀髪幼女』ってステータス貰えたのに、最終的には異形系になるのか……全身鉱石人間ってなんかやだなぁ。強そうだけど。

 

 んでまあ大人しく入院生活していったんですよ。

 味のうっすい病院食食べて。軽い運動して。血液検査して。

 時々すっぽんぽんにされてなんかレントゲンやら検尿やらスキャンやら……。

 まあ毎日調べること調べること。

 俺……いや私ってどんだけヤバイ病気なの?ってなるよねそりゃ。

 

 お医者さんに聞いてもなんか小難しい病気名と病状だけ言われてちょっとはぐらかされた感ある。まあなんよかんよヤバイ物らしいんだけど、なんかなぁ……。

 

 それで、何日か経った後。消灯時間の早い病院で暇をつぶすために私の個性って本当に異形系なのかなーって思って、なんかでろーって試してみたら。マジで出た。

 

 超でっかいボタ餅みたいな形した、

 トゲトゲしてる鉱石の生物が。

 

 心底驚いた。

 所々黄色いその謎生物は目的もなくうねうねと這いずり回ってるけど、謎生物が出せた事よりもその正体を知っているからこそ驚いていた。

 

「――『オリジムシ』だコレ!」

 

 オリジムシとは、TD(タワーディフェンス)ゲーム『アークナイツ』に存在する敵キャラの事だ。

 この生物はゲーム上では雑魚敵として遭遇する、マリオで言わばクリボーみたいな存在。

 そして、そしてこれの最たる特徴というのが……………。

 

 『鉱石病(オリパシー)』と呼ばれる感染症にかかっている事。

 この病気、ゲーム内で治療不可能な致死率100%の厄介な物で。

 しかも動物だけでなく多種多様な種族(勿論人間)にも感染するのである。

 

 その事から推察するにこのへその鉱石も、そして病院が躍起になって私を調べてる理由も、多分異形系とかじゃなくて『鉱石病』に感染している事の証左であることに違いないと考えられた。勿論私は泣いた。

 

 ヒロアカ世界に鉱石病なんて存在しないというのに、私という存在が唯一の感染源とか泣ける。

 っていうかそこそこ技術発展したっぽいアークナイツ世界ですら治癒方法分かってないのに、ヒロアカ世界でも早々に見つかるとは思えない。

 長期滞在はパンデミックの元では……? ヤバイ! 早く退院しないと! この病院が鉱石病患者まみれになっちまうーっ!

 

 とりあえず出てきたオリジムシは頑張って念じたら跡形もなく消えてくれたので(便利)、私は翌朝どのようにして医者にこの事実を伝えればいいか迷ったが、この事実も前世知識でしかないという前提を踏まえると信じてもらえる可能性は0%。私は二回むせび泣いた。

 

 もうこうなると早く退院させてもらうしか道はない……!

 折角助けてくださったお医者様のためにも……!

 

「あ、あの……もうそろそろ退院させてもらっても良いですか?」

 

「その、これ以上タダで診て貰う訳には……後は自然治癒出来ますので……!」

 

「あー治ってます! 治ってますよコレ、今日は絶好の退院日和だなー!」

 

 で、毎日毎日退院させてくれるようにお願いしたのだけど、一向に話を聞いてくれない。それどころか何故か拘束ベッドにくくりつけられる羽目になった。えぇ……(困惑)

 

 お医者様の治療精神は素晴らしいがマジでこれ感染増えちゃうから駄目だって!

 なので私は最終手段として夜中、気付かれぬようにオリジムシを召喚。勢い余って3匹くらい出してしまって、そいつらに何とか拘束ベッドを壊すようにお願いしたら、マジで容赦なくベッドが壊れて尻もちをつく羽目になった。やだ……この芋虫力結構強いのね、雑魚キャラ侮りがたし。

 

 

 そして窓から患者衣のみで脱走! 

 すまねえお医者様、オラ逃げるだ……! 

 書き残しも何も出来ずにすまねえお医者様……!

 

「オリジムシ達よ、私と共に"ぱらいそ"さ行くだ――!」

 

 ……と、薄汚れた路地裏に飛び込んで今に至る。

 

 結論:現状が詰みすぎてて草すら生えない。

 

 お金がない、食料ない、身寄りもなければ住むとこない。

 土地勘ない、名前もない。頼りになるのはオリジムシ。

 オラこんな転生嫌だ。オラこんな転生嫌だ。

 

 ……まあ、嘆いていた所で仕方がない。現状把握も終えたしとりあえず寝る事にした。

 廃墟ビルに偶然落ちていたボロマットとダンボールを何処からか拾ってきて簡易ベッド完成。

 クソ惨めで草。もう涙は枯れ果てましたよ。とほほ。

 

「……あ、でもダンボールって思った以上に温かいんだね……新発見」




感想・評価お待ちしております。


《レユニオン図鑑》
・『オリジムシ』:
 巨大な鉱石に棘が生えてるようにしか見えない感染生物。
 のっそのっそ這い回って、のっそのっそ攻撃する。
 原作アークナイツでは腐る程出てくる雑魚敵。
 感染源である原石を体に埋め込んでるとかいないとか。


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第1話 食料と仮拠点を手に入れましょう!

リユニオンとレユニオンは間違えやすい。
みんなも気をつけようね!(タイトルから間違えていた駄作者)

2020.04,13:主人公の台詞追加。


 おはヒロアカ! 転生少女だよ!

 

 良き眠りでした。

 窓枠ごと外れた廃ビル外からの朝チュン音が清々しい……。

 とりあえず眠りから目覚めたのでこれからの方針を考える事にします。

 

「……さくせんタイム!」

 

 とは言え……方針……方針かぁ……。

 まあこういうときは今後必要になる物を整理するのが大事ってばっちゃが言ってたから、脳内で思い描いて見ます。

 

 まず大事なのは食料。これは超大事ですね。

 でも現状は食料の調達のめどがない状態です。

 これをクリアするためにはお金が必要になってきますね。

 ではお金、どうやって手に入れられるのでしょうか? 

 勿論働いてゲットするのが正しい道ですね。

 そうなると雇用のための証明書が必要になります。

 では証明書はどこで手に入れられるでしょうか。

 勿論お役所ですが、そもそも身寄りもないし7歳の時点で働く事なんて無理ですよね。

 というか運良く働けても感染したこの体では人の多い所なんて行ける訳ないですよね。つみです。お疲れさまでした。

 

 はい考えている途中で詰みました。

 この時点でもう一回ダンボールにくるまって寝ようかと思ってしまいます。

 

「……で、でもっ、さっきのはあくまで正規手段ルートで考えた場合。属性を混沌(カオス)寄りにしたルートにすれば……!」

 

 混沌ルート! つまりハイリスクハイリターンを取るチャレンジャーな道! 例えば強奪とか万引が手段になりますね!

 幸いにもオリジムシ召喚能力という何とも微妙だけど戦う力はあるようなので、武力で強盗出来なくはないですが、前世と違って悪いことをすると過敏なくらいにヒーローがすっ飛んでくるこのご時世、かなり辛い道のりになりそうです。

 というかそもそもパンピーな俺が悪いことを容赦なく出来るかといえば……無理。自慢じゃないけど私は万引程度でも胸痛めるレベルの小心者でしたわ。

 みんな! 悪いことなんてしてはいけないよね! つみです。お疲れさまでした。

 

「い、いちかばちかしか、もう……ない……!」

 

 そうなると最終手段。媚びるか自分を売るルートになります。

 今の所考えるに、誰か善性に全振りした人にひっそり(かくま)って貰うとか、風俗落ちするか……。

 ……風俗、いけるかなぁ。小学生は流石に厳しい……? 

 いや、病院の鏡で見た時は神秘的なレベルでめっちゃ可愛かったし、ぺったんこでつるつるだけど、そういう趣向の人には受けるだろう。

 そんなロリ風俗があるかは知らないけどさ。っていうか風俗だとそもそも濃厚接触じゃん。つみです。お疲れさまでした。

 

 こうなるとかっちゃんの名言にあやかって来世に賭けてワンチャンダイブした方が良い気がしてきたぞ。

 畜生なんて時代だ。オーイオイオイ。オーイオイオイ。

 

「あ……? おい、クソガキ。この俺の縄張りに勝手に入りやがって、何してやがる!」

 

 で、一人でオイオイしていたらガマガエルみたいな顔した浮浪者っぽい人に叱られた。

 どうやらホームレス達には縄張りがあって、ソレを勝手に侵しては駄目みたいなようです。この人にとってはこの6階建てビルまるまる縄張りとか。すげぇ縄張り意識高いな。

 

 不法侵入したのは私だし、すみませんすぐに出ていきますって可能な限り丁寧に謝って立ち去ろうとしたら、勝手に使った分何か置いてけというありがたいお言葉を頂戴しました。

 勿論そんな物持ってないですと言ったら、想像した通り体を要求されたテンプレ展開。私は泣いた。

 

 流石に純潔をここで散らす訳にはいかぬ! と、ダッシュで逃げようとしたらカエルめいた舌伸ばしで絡め取られてしまった私。

 ひっ、キモイ! ねばねばする! おっ、おっ、オリジムシー! なんとかしてくれーっ!?

 

「げっへへへ、暴れたらその分だけ痛くしちまうからなぁ……だから大人しく……あぁ?」

 

「やめてっ、は、離して、離し……あ、あれ?」

 

 って無我夢中に個性を使ったら……オリジムシが出たのはいいんだけど、出過ぎた。

 大体50体くらい。廃ビルのフロアを埋め尽くすレベルでずわっと。

 蛙のおっちゃんもこれには苦笑いと冷や汗の滝。

 直後驚きまくって逃げようとしたけど、勿論逃げられずにオリジムシ達にめちゃくちゃ群がられていた。

 体長50cmくらいの鉱石みたいな硬い生き物に襲われるんだ、そりゃ堪らんだろうなぁって最初は悠長に見てたけどまずい。これって死ぬんじゃ……!

 

「駄目! その人を殺しちゃ駄目だから! 中止! ストップ!」

 

 咄嗟に命令だして攻撃中止させたけど、オリジムシの海から出てきた蛙のおっちゃんは潰れた蛙みたいにボロボロだった……。

 い、命に別状はないよね? 

 でもそもそもの話少女を襲おうとするのがよくないよね? 

 うん、よくないよねそうだよね。生きてるだけでハッピーだよおっちゃん!

 

 まあそれはそうとして声かけしてこれに懲りたら二度と幼女を襲うなって誓わせました。

 後、水とか食料あったら迷惑料ついでに下さいってオリジムシチラつかせながら笑顔でお願い。勿論喜んで食料の在り処とか教えてくれました。

 やっぱり人間ってのは力を合わせなきゃだよね! 平和主義最高!

 

 さてさてひと悶着あったけど、とりあえず優雅に食事にでも洒落込もうと出しすぎたオリジムシを仕舞い込もうと考えてたんだけど……よく見ると、オリジムシ以外にも何かが居るぞ!

 

 それはまるで狼を思わせるフォルム。黒い体毛に背中に載せられた謎の監視装置。しかしてその実態は――お馴染み、アークナイツからの敵キャラその2! 猟犬だった!

 

「――わんわん!」

 

「……」

 

 わんわん! わんわんじゃないか! と出てきたわんわんに思わず抱きつく私。

 ゲームだと足が素早くて小癪(こしゃく)にも防衛をすり抜けてくる厄介な敵だが、味方(?)である以上はただの愛らしいわんわんだ。幸いにも抱きついてきても別に抵抗することもなくキリっとしており、躾の行き届いた猟犬感をめっちゃ出してくれた。くぅ~、クール! でもめっちゃ嬉しいぞ!

 

 しかしてそうなると私の個性って実はアークナイツの敵キャラを創造する力ってなるのかな。そりゃまた無駄に強個性だなぁ。

 こういう強固性ってなんかデメリットとかありそうなものだけど、現状は身体の異常とか体調が悪くなったりする症状は見られない。

 マジかよいいの? 私一人で軍隊出来るじゃん。ヒュー!

 

 ……って思ってたけど、多分コレデメリットあるわ。

 私のおへその鉱石。これが地味に広がっていってる気がする。

 もしかして、使えば使うほど鉱石病の進行が早まるってことかな? 

 ……やべぇ、使い所もうちょっと考えないと。私が死ぬ。

 

 鉱石病の末路ってゲームじゃ触れられてないけど、設定的には最終的に鉱石が全身に広がって機能不全起こして死んで、死後は新たな感染源として周りに鉱石病を撒き散らすって書いてあるし。っべ~……。

 

 とりあえず俺は召喚したわんわんを精神保養兼ボディガード役として残して、食料を取りに行こうと移動するのであった。

 わんわん……今後も私を守ってくれわんわん……。

 

 

「はむはむ……むぐむぐ」

 

 さて所変わって今の私はデブ蛙さんが貯めていた食料保存場所に来て、朝食を流し込んでおります。

 この食料、保存食メインなのかクッキーとかレンチン食品ばっかり。

 お湯とかはどこで沸かすんだろうかコレ……まあいいか、味気ない病院食と違ってクッキー美味しいし。

 

「ぷはー☆」

 

 これで一応食料は確保出来ましたが、ずっとこの場所にたかり続けるのもデブ蛙さんに申し訳がない感じがする。

 デブ蛙さんが気まぐれでこのビル、明け渡してくれると嬉しいけどなぁ……。

 ねえわんわん、私どうすればいいと思う? 

 え? 話し合えばいい? 

 そうだよね、話せばデブ蛙さんも分かってくれるよね!

 

 という訳でこれで衣食住のうち、食住に関しては当面は最低限大丈夫になったと(勝手に)思っていますので、次は衣の問題に移ります。

 そう服です。今はヨダレでベトベトになってしまった貫頭衣しか無いっていう状態なので、これもまた至急解決しないといけない問題です。

 ただ服に関しては……こればっかりはねぇ。

 お金がないとやっぱり厳しいかも。

 とは言っても。デブ蛙さんにはこのビルを明け渡して貰った手前、お金まで奪うのは気が引けるし……うーん。また問題が……。

 せめて何か売れる物でもないか。私は貫頭衣とパンツ以外持ち物なんてないし。

 

 ……ちらりとわんわんを見れば、背中になんかゴツイ監視装置みたいなのがついてるじゃあありませんか。

 

「高そうなカメラ……売ってもいい?」

 

「……グルル」

 

 でも手を出そうとしたら唸られたので断念。

 アイデンティティーだから外したくないのだろうか。

 ……あっ、なんかわんわんとの距離感が広がった気がする! 

 ごめんわんわん! もうしないから!

 

 そうなると本当にどうしたものか……。

 お金の問題は特に私にとって一番のネック。

 気持ちとしてはコツコツと働いて稼ぎたいのだけれども……。

 ん? わんわん、いきなり唸り出してどうしたの?

 

「おいガキ! さっきはよくも……!」

 

「え……?」

 

 あれ、なんですかデブ蛙さん。見知らぬ人達を引き連れちゃって……ここはもう私のビルですよ。って、そう言えばまだ話し合いしてなかったか。

 ……あ、あれ、これってもしかしなくてもリベンジ的な?

 

 見れば鉄パイプ持ったムキムキのおっちゃんとか、全身岩肌の男だったり、魚っぽい顔した人間だったりと悪い言い方すると真っ当な生き方なんて無理ーって顔した人ばっかりだった。

 や、ヤバイ。駄目だよこんないたいけな幼女に全員で襲いかかるなんて! 

 一応あれは正当防衛で、襲われた迷惑料を頂いただけだって身の正当性を必死でお伝えしたけど、焼け石に水だった。

 

「野郎ども気を付けろよ、あいつは変な生き物を出してくるぞ!」

 

「わぁっ!?」

 

 襲いかかってくるアウトローな皆様方!

 うひゃ、飛び道具まであるのは本当まずいって!? 

 咄嗟に身を屈めたら意図せずとも飛び出したオリジムシが飛び道具(多分ナイフ)をガードしてくれた。お、オリジムシ! お前ってやつは何ていい奴なんだ!

 

 そして勢いよく向かってきたむさくるしい男連中には、私の目の前から突如と表れるわんわん軍団が逆に襲いかかっていった。

 男達、当然ながらびっくりして噛みつかれてしまって倒れる存在続出! 

 中にはそのわんわんすら殴り飛ばしてまでこっちに襲いかかってくる奴もいて肝を冷やしたけど、何か私の危機感に呼応してミサイルが如くわんわんとオリジムシ達がどんどん飛び出していって、最終的にはわんわんとオリジムシの海に埋もれて、デブ蛙と同じ運命を辿っていった。

 

 気分はまるで666の獣だよ、強いぞー恰好いいぞー!

 でもこれ、フルオートで召喚してくれるの超嬉しいけど、明らかにオーバーキルすぎるし、出しすぎると鉱石病の症状進行早まるからマジで駄目だ。制御技術を学ばないと……。

 

 まあそんなこんなでアウトローのリベンジも見事返り討ち出来ました。わーぱちぱちぱち。

 冷や汗めっちゃ出たけど怪我一つなく制圧出来て本当によかったです……。

 その代わりにおっちゃん達はオリジムシ、じゃなくてわんわんの攻撃のせいで全身に噛み傷だらけの血だらけで、若干申し訳ない感あるけど殺されなかったのを感謝して欲しい。

 

「出すもの出して、めーわく料。早く。やくめでしょ」

 

「ぐ、ぐふ……ッ、ゆ、ゆるして……」

 

「……5000円、しけてやがるぜ」

 

 帰りの交通代くらいは残してあげるから、もうこれに懲りたら襲ってくるんじゃないぞ。

 あとこのビルの縄張りは今日から私のだから。

 何? デブ蛙文句ある? 出来るなら平和的に解決したいんだけど駄目?

 あ、文句ない? そう。それならよかった。(満面の笑み)

 

 ってな訳で目出度く私の住居の確保も出来たし、いよいよ持ってお金もゲット。これで着替えがようやく買えるってなもんよ!

 まあ女児服なんて何着ればいいか全然わかんないけどな、5千円でフルセット買えるかな……後この世界でしま●らあるかな……。

 

 さぁて外の世界に出かけますか……って思ったんだけど、ここで今更ながら一つ問題が浮上しました。

 私。外見小学生。一人で買い物しにいったら、怪しまれんじゃなかろうか。

 あとこの小学生、貫頭衣を身に着けててかつその服が涎でべっとべとになってるんじゃが……ガッデム。

 外出た瞬間補導からの病院行き間違いなしじゃん。超ガッデム。

 

 これじゃお金はあっても買い物もロクに出来ないじゃないですかやだー!

 わんわん助けて! この世の不条理を感じる!

 

 もうこうなったらわんわんの首に札でもかけて買い物させるしかないじゃないの! なんてマットの上でごろごろと身悶えていたら……ふと、いいアイディアを思いついた。

 

 私の個性、アークナイツのオリジムシと猟犬が出せるよね。

 これは法則的に敵側のキャラを召喚させる個性と言っても良いかもしれない。

 ならば、もしかすれば人型の敵もここで召喚出来るんじゃないか!? 

 ……な~んて思ってたけど、人を召喚ってのはなぁ……犬や謎生物と違って流石にそれは出来ないよね?

 

 

「……指導者よ。俺は何をしたらいい?」

 

 

 出 来 ま し た。

 

 




感想・評価お待ちしております。

《レユニオン図鑑》
・『猟犬』:
 レユニオンの技術偵察部隊が操る生物。
 獲物を逃がさないよう、体には監視装置が取り付けられている。
 優れた隠密性と機動力を生かして襲いかかる訓練されたわんわん。
 もっぱら転生少女のもふもふの為に存在する。


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第2話 服を買ってきましょう!

おや、メフィストの出番が……!?

2020.04,13:主人公の台詞追加。


 おはヒロアカ! 転生少女です。

 

 原作キャラと遭遇すらせずに、廃ビルの王となった私。

 とりあえず患者衣から別の服に着替えたいと願った矢先に、私の個性から新たなメンバーが追加となりました。わーい。

 

「えっと……貴方のお名前は?」

 

「……俺の名前なんてどうでもいいだろう。俺は指導者たるお前についていく。ただそれだけだ」

 

 黒のパーカーに年季の入ったズボン、手袋。フードをかけて簡易マスクもして、素顔の見えないようにゴーグルをつけたら。はい出来上がり。

 その姿まさしくアークナイツの敵ユニットの一人、雑魚キャラその3の暴徒さんである。

 片手にぶら下げた鉄パイプがまさに暴徒感を更に出していていい感じである。

 よし、君は今日から暴徒君だ!(酷い)

 

 でも、その前にちょっとまって欲しい。

 

「……私が指導者ってどういう事なの?」

 

「? 変な事を言うな、お前はレユニオンを纏める代表だ。感染者という立場を虐げる全ての悪どもをぶちのめす目的を持ったな……そうだろう?」

 

 レユニオンっていうのは原作、アークナイツで出てくる敵集団の総称で、鉱石病というだけで虐げられてきた感染者が、虐げてきた国や人物と対抗するための集まりみたいな感じなんだが……(うなず)けねえよ。

 

 このユニット、アークナイツ知識も原作通りなのかよマジで。

 このヒロアカ世界にはそんな感染者を虐げる存在なんてどこにもねえよ。

 なにせ感染者が私だけなんだからな畜生め!

 

 あーこれ、何かそんな目的なんて持ってないんだよってぶちまけたら駄目かなぁ。

 あんたらのリーダーとやらは今別世界で着るものにも困ってるレベルで困窮してて、感染者の復権なんて到底狙ってないって事。

 ……まあぼかして伝えるしかないか。私達は今新天地にいるって。

 

「新天地? にわかには信じられないが……何? ここにはウルサス帝国も龍門の連中も、ロドスでさえ居ないって言うのか!?」

 

 ほら驚いた。でも事実なんだよ。

 だからね、この新天地で我々は慎ましく生活しないと駄目なんだよ。

 感染を広げるのも駄目だから人目のつかないところでひっそりとね。

 

「……なるほど。ようするに、ここで我々は力を蓄えていずれウルサスに戻ったときに一気に叩くって事か。是非もない」

 

「……う。うん、そうなの(棒読み)」

 

 非常に気合の入った勘違いありがとう。

 でももう訂正はしとかないでおく。

 真実を知ったときに激怒して反逆されたら困るけど……まあその時は個性で消しちゃえばいいかな。今はそれよりも――

 

「貴方の力がなによりも必要なの……」

 

「……! あぁ言ってくれ。何でも手伝うぞ」

 

 持つべきものはやはり人型レユニオンだったか……頼もしいぜ!

 それじゃあ早速命令を下します。いいですかよく聞いてくださいね?

 

 

「どこかのお店で女児服を一式買ってきてください――予算5千円でお願いします」

 

 

「……はい?」

 

 いや、ほら、私の格好見てよ暴徒君。ぴろぴろ。

 これ病院から脱走した時のままの貫頭衣なの。くるり。

 これじゃあちょっと外出歩けないの。分かるよね。ぴろぴろ。

 

「……」

 

 多少ぶかぶかでも全然OKだから……わっ、鉄パイプなんで落とした!?

 何でうつむいてるの!? そんなにショックだった!?

 でもごめんね、他に方法がないの! だから行ってきてお願いだよー!

 

 

 ――それから待つこと数時間。

 

 

 暴徒君は5000円という少ない予算で女児服を買ってきてくれたみたいです。

 ちゃんと命令に従ってくれてほっとしました。

 でも帰ってきてから何て声をかけても無言だったの相当お(かんむり)みたいです。

 そりゃ大のオトナが女児服買うんだもんね……怪しまれただろうねぇ、ごめんよ。

 

 ……おぉ。しかしこの女児服。中々の女児女児感だ。

 子供用ホットパンツに、何か英語の書かれたポップなTシャツ。

 私の容姿と合わせると今どきのメスガキ感が凄い。めっちゃ童貞煽れそう!

 

 よくぞまあ5千円でこんなの買えたもんだなぁ……偉いぞ暴徒君。褒めてあげる。だから機嫌治してー。

 

「……」

 

 もう、引きずりすぎる男はモテないゾ!

 あ、調子ノリすぎましたゴメンなさい(にら)まないで。

 ま、まあでもこれで私も町内徘徊チャレンジが出来るからさ、本当に嬉しいよ?

 

「そうかそれは良かったな……次はどうすればいい?」

 

 そんな内心の喜びとは関係なく、暴徒君はもっと何か別の事をしたそうに次を命令を急かしてくる。

 もう、無政府主義者だからってそんな血気盛んだとそのうち本当に拍子抜けしちゃうぞ。

 なにせ私は平和主義者(パシフィスト)なんだからな。

 

「まあでも……実際次するとしたらやっぱりお金稼ぎになると思います……やっぱりお金が無いと最低限の事も出来ないので」

 

「……龍門弊*1が使えないから仕方がないか。そうなると手っ取り早く考えれば強奪」

 

「だめ」

 

 奪うのは駄目だって。

 あいあむ平和主義者。言ったよね?

 そう云う悪いことをしてお金を得るとね、分かる? 後で軋轢(あつれき)が待ってるのよ。ただでさえ感染者という肌身の狭い存在なんだ。最初は馴染めるように腰を低く低くして生きないと……。

 

「何、難しく考える必要はない。指導者が平和的な方法を望むっていうのならやり方はある」

 

 マジかよ暴徒君プランあるの!?

 君をただの抑圧された暴力を解放したいだけのパンピーだなんて思っててごめん。やっぱり持つべき物は仲間だよ!

 

「俺を一体何だと思って……まあいい。ようするに奪える所から奪えば」

 

「ばいばい暴徒君」

 

 女児服買ってきてくれてありがとな。

 短い間だったがあばよ。またどこかで会おうな。

 

「待て待て待て、言葉が足りなかった。奪うのは無辜(むこ)の民ではなく悪党を狙えばいいという話だ。聞けば指導者を襲ってきた下衆どもが居ただろう」

 

 ……まあうん。そういう悪い奴はこの世界、結構いるみたいだね。

 でも、えぇ……? つまりそれってさ……。

 

「……ヒーローになれって事?」

 

「ヒーロー? 我々からもっとも程遠い言葉だな。立場なんてどうとでも取ればいい、ただ我々は欲するがままに奪うだけだ。そうすれば体面だけは整えられるだろう」

 

「……」

 

 その思想、完全に悪役のそれじゃん。

 まあ、でも……それしかないか。正義の名のもとに、じゃなくて義賊っぽい感じで頑張る!

 悪い奴の金品は確かに奪ってもあんまし胸傷まないしね。

 とは言え、やるなら気付かれないようにしないと。

 

「問題ないだろう。指導者と我々の力を以ってすればこの町なんてすぐに制圧出来るさ」

 

「本当かなぁ……」

 

 えー私ただの幼女なんだけどねぇ。

 とは言えこの召喚の個性もどこまで出来るか謎だし……。

 人も呼べたしボス級とか呼べるのかね。あはは。ほらメフィスト出てこーい……って流石にあいつは強すぎて呼べないk

 

「やぁ呼んだかい指導者。こんな辺鄙(へんぴ)な所で一体僕に何を求めて」

 

「ひァっ!?」

 

 ――とか冗談言ってたら本当に白髪でニヤニヤ笑いの小さな子供が出てきたとかさぁ!

 消去! 消去です! 今君に出番はありませんッ!

 

「ちょ」

 

 あ、焦った……この召喚の力想像以上にヤバイな。

 彼が出せるってことはそれはつまり、クラウンスレイヤーやスカルシュレッダー、Wやフロストノヴァ、果てはまだ敵ユニットとして出ていないタルラも出せるって事!? 

 マジでこれらの幹部が出せたら地域制圧なんて容易い気がしてきたぞ。

 

 でも、多分あれなんだろな……こういうヤバい幹部って出すだけで鉱石病の症状がガツンと進むんだろな……。

 今は体表だけだけど、鉱石病って体内にランダムで出来る場合もあるし……。

 脳みそに出来たらマジでぱっぱらぱーになる……怖。

 

「……おい指導者。何故メフィストをしまった?」

 

「……暴徒君。ぐっどくえすちょん」

 

 それはだね。現状で彼が全く必要ないからさ。

 

「しかし、メフィストの治癒能力と指揮能力は中々捨てがたいぞ。これから地域の制圧をするというのであれば……」

 

「過剰戦力だし、何処攻めるかすら決めてないし……あと性格がちょっと……部下を使い捨てするのもダメなポイントだし……」

 

 快楽主義者で破滅主義者。使い所が難しすぎるよ本当。

 私はどうか知らないけど、暴徒君100%使い捨てされちゃうよ?

 

「……」

 

「分かってくれた?」

 

 身に覚えあるでしょ。だからまた今度ね。

 何かヤバそうになったときに出すわ。

 ……つっても正直強さだけならスカルシュレッダーとかサルカズ連中で事足りてそうだし……あれ、本気で出番全然ないかも! 悲報メフィスト、出番終了のお知らせ!

 

 さぁて暴徒君。私達はようやく現状把握と目標が出来たんだ。

 目的成就のためにいざ邁進しようじゃあないか。

 

「これから色々頑張らないとだから、いっぱい支えてね?」

 

「……分かった」

 

 さぁて、これから忙しくなるぞぉ!

 ビバ、静かに暮らせる生活圏!

 転生少女は静かで優雅に暮らしたいんだ!

*1
アークナイツで使われる通貨。




おめでとう! 
メフィストの出番が当分先になったぞ!
メフィスト「何でさァ!」

感想・評価お待ちしております。

《レユニオン図鑑》
・『暴徒』:
 紛争地域で姿がよく見られる感染者。
 簡素なマスクで身分を隠し、手製だったり辺りから拾ったりした武器で攻撃してくる。
 暴徒なので戦闘訓練は受けていない、THE虐げられし者。

・『メフィスト』:
 レユニオンの医療術師にして幹部。
 支配下の部隊を指揮し進行させ、自分は治療に専念する。
 軍師的な立場だが、嗜虐趣味を持っている性格の悪い白髪ショタ。
 馬鹿にするのは大好きだけど馬鹿にされるのは大嫌い。
 この作品では滅多に出番は無いと思います。なんでさ。


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第3話 お金を手に入れましょう!

 

 死穢八斎會(しえはっさいかい)の下っ端はその日、そのバーに訪れた事を後悔した。

 日の当たらぬ路地裏でひっそりと営業を続ける「サロンド・ドメゾン」。

 そこは裏の人間のたまり場でもあり、また非合法な取引がよく行われる場所でもあったのだが……。

 

「……て、テメェらここで何をやってやがんだ!?」

 

 彼が見たその小さなバーは内装がほとんどボロボロになっており、店主も店員も、そして客すらも。その全てが()()()()いたのだ。

 そして下手人と思える存在は、数十人。

 鉄パイプや刃渡り80cm以上の剣をぶら下げた、全員が顔をフードやマスクで隠した異様な存在達。

 彼らは思い思いに壊れたバーの机や椅子でくつろぎ、訪れた下っ端に顔を向けていた。

 

「……ただここで飲もうとしただけで難癖つけられたからな、正当防衛と言った所だ」

 

「っ、ここは一見お断りのバーなんだよ! なんたってこんな……お前ら、死穢八斎會を敵に回してえのか!?」

 

「シエ……はっさい、カイ?」

 

「そうだ、テメェらも裏の人間なら聞いた事あるだろうが! ここら一帯は俺らのシマだ!」

 

「……」

 

 おかしい。と男は思った。普通の人間、それも裏を知る存在なら自分達の名を知ってる筈。

 かつての隆盛は最早ないが影響力はまだまだ強い。

 だと言うのに、そいつらは動じる所かまるでその名を初めて聞いたかのように振る舞ってやがる。

 

「畜生、店をぐっちゃぐちゃにしやがって……覚悟しやがれ、お前ら全員ボッコボコにぶちのめして海に沈めて――」

 

「それは怖いな」

 

 男は増強系の個性の持ち主で、喧嘩っ早く。そこそこの腕のも自信もあった。

 だが、気付けば隣に居た角の生えた見上げるほど巨大な男――地面に付くほど長い、大剣をぶら下げた男に睨みつけられてしまうと……動く事が出来なかった。

 仮面越しに見るそいつの目からは人を人とも思わない、今すぐ相手を肉塊に変えても心痛めないと言わんばかりの冷めきった感情を向けられていたからだ。 

 

「店をぐちゃぐちゃにして悪かったとは思っているんだ」

 

「だがな、我々も気分を害された以上、動かざるを得なかった」

 

「それにな……ここじゃあ人に言えない悪い取引をしているそうじゃないか」

 

「それは良くない。それは良くないぞ」

 

「だから善意の第三者たる我々が仕方なくお灸を据えたんだ」

 

「そう、仕方なくね」

 

 投げかけられる三者三様の言葉。ケラケラとした(あざけ)るような笑い声と共に聞いて、何が仕方なくだ、と男は叫びたくなった。

 仮面越しに見る目はどいつもこいつも暴力に飢えている!

 これはまずい、早く応援を呼ばねばと後ずさりをした矢先、その両腕を謎の連中に掴まれた。

 

「は、離せ! 離しやがれ畜生ッ!?」

 

「我々と君、いやシエハッサイカイだったか。君達には行き違いがあった」

 

「だから我々は君と仲直りをしないといけない」

 

「大丈夫、殺したりはしない。指導者からは()()()()()()()()とのお達しを受けているからな」

 

「や、やめろっ! やめ、い、今なら見逃してやる! だから!?」

 

 

「さぁ仲直りをしよう。その前に――君の知ってる事を洗いざらい、教えて貰おうじゃないか」

 

 

 

 § § § 

 

 

 おはヒロアカ! 転生少女だよ!

 

 とりあえず今後の目標を決めました!

 悪い奴をぼっこぼこにして、お金を巻き上げてひっそり生活する! コレです!

 え? ヒーローになるって事? ノンノン、私はヒーローになれません。

 戸籍も身寄りもない存在がどうしてヒーローになれようか。いやなれまい。(反語)

 

 なので、とりあえずこのデブ蛙さんから頂いたビルを仮拠点とし、周りで悪いことをしている奴らを探してお金を巻き上げるって事をやろうとしています。

 

 とりあえずあれだね、兵隊さんを呼ぼう。

 原作じゃコンスタントにやられる雑魚キャラ召喚ならあんまり鉱石病の進行も少ないだろう……と信じているので。

 まあ自分の限界を知るのも大事だしね。うん。出しちゃお出しちゃお。

 手始めに鉄パイプ持った暴徒さん10名。

 剣を持った兵士さん5名。

 後は隊長役の角の生えて大剣を持ってるサルカズ大剣士さん1人。これで行きましょう。

 

「呼んだか、指導者よ」

 

「わ、わっ……!? すっご、おっきぃ……!」

 

 で、でっけぇ~~~~。やだ……サルカズ大剣士の身長デカすぎ……。

 2m何cmですか? 私見上げると首痛いよ。

 え、えっとですね。かくかくしかじかで。

 

「成程。今後の活動資金を周辺から奪ってくるんだな」

 

 奪うんじゃなくて頂戴するね。しかも悪い人限定!

 出来る限り殺しちゃ駄目だからね、あくまで平和的に解決してよ!

 

「……承知した。待っていろ」

 

「お願いします、大剣士さん」

 

 ……うーん。ちゃんと伝わってるのか不安。

 っていうか、一気に召喚しすぎたかな……ゲームだといつも50人とか100人単位でやられてるから、ついアレぐらい出しちゃったけど……。

 

 ま、まあいいや、わんわんもふりながら結果を待とう。

 今までの活躍を考えるに、命令すれば殺さないでくれるし大丈夫でしょ。

 ……た、多分大丈夫でしょう。

 

「……大丈夫だよねわんわん?」

 

「……」

 

 うぅ、クールなわんこめ~~! でもそこがスキ~~!

 と、マットの上でごろごろーってして数時間後。足音が1つ、廃ビルの階下から聞こえてきた。

 何か早くね? っていうかコレ。まさかデブ蛙のリベンジリターンズ!?

 しつこいなぁ、今度はスカルシュレッダー辺りにボコって貰おうか……何て思ってたけど、違った。暴徒君だった。ちょっと安心。

 

「指導者。報告だ。()()()()がのさばるバーを1つ。我々は制圧した」

 

「お、おぉ制圧……お疲れ様でした」

 

 制圧と来ましたか……そう言えば軍隊みたいなもんだもんね君達って。

 その悪い奴らの店っていうのはぼったくりバーか何かなのかな……店の人には悪いけど、こっちも生活かかってるからね。過剰徴収した分おこぼれ貰いますよと。

 

「そして、そのバーが『シエハッサイカイ』と名乗るマフィアグループの物であると判明した」

 

「……しえはっさい、かい?」

 

「下っ端にはすでにその構成や、事情は聞いている。そしてそいつらがシノギとしている店を教えて貰ったので、今はそいつらの店をしらみつぶしに襲撃している所だ」

 

 待て。しえはっさいかいって……いや、まさか。

 

「ここら一帯であれば奴らの店の数は少ないから、恐らく数日で全ての店の制圧が……」

 

「しえはっさい、かい……死穢八斎會!? それってあのヤクザの!?」

 

 待って待て待て、まーってすとっぷ!

 それってペストマスクつけた潔癖性の人がトップのだよね!? まずくね!?

 

「? トップは組長と呼ばれている老人、『治崎――』」

 

「今は若頭がトップ張ってるの……! う、うぅ、その人達は不味いかも……」

 

 あーしまった、そりゃそうだよね。裏社会につきものだよね極道って!

 うわー厄介な所に手を出しちゃったかも……。

 あいつら地味に戦力強い奴揃いなんだよね、困る。

 草の根かき分けて私達を探し出して、絶対に報復しにくるぞ。

 

「ならば作戦は中止するか? 正直な話、指導者の憂慮は不要に思うが」

 

 どこが不要なのさ。

 強固性とか特殊な悪役らはそれだけで脅威なんだよ!

 ロドスみたいに一騎当千のメンバーが来るかもしれないんだよ!?

 

「確かに指導者の言う個性持ちとやらとは相手してみたが少しは驚いた。しかしそれだけだ。倒せない訳じゃあない」

 

「……本当?」

 

 これマジ? いや、サルカズ大剣士さんが居るならまあ何とかなるとは思ったけど……。

 

「アイツらは俺達と違って()()()()()。場末の喧嘩ぐらいしかしたことのない相手に、我々が苦戦するなどありえない」

 

「……」

 

 まあ、それはそうよね。君達は日々生き死にを掛けた殺し合いの毎日だしなぁ。喧嘩ぐらいしかやらないヤクザとは覚悟は違うだろーね……。

 

「それにもしも指導者の言う通り、我々の見ぬ強敵が居たとしてもだ」

 

「……居たとしても?」

 

「指導者には、ソレを上回る戦力をノータイムで創造出来る。Wを。クラウンスレイヤーを。スカルシュレッダーを。そして、タルラすらも」

 

「――――」

 

「それに今の襲撃で数百万円以上。更に非合法の取引材料もがっつりと押収出来た。まだ身バレしていないという事は、好きに動けるという事。今を逃すチャンスは無いと思うが」

 

「……むぅー」

 

「……」

 

「……何回も聞くけど、殺したりはしてないよね?」

 

「命令通りに遂行しているつもりだ」

 

「……~~~ッ、あーもうっ!」

 

 もうそんな事言うんだったら信じるしかないじゃん!

 分かったよやるよ! 折角ヒロアカ世界に脚踏み入れたんだ、腹決めて行くとこまで行ってやるぅ!

 

「承知した」

 

 うぅ~大分流された感あるなぁ……でもレユニオンメンバーの強さは身を以って知ってる。死穢八斎會の皆さんには悪いが、これも生存競争だとして割り切って貰おう。うん、そうしよう!

 

 

 

 ……それにしても。数時間で数百万ゲットかぁ~。

 脅威の時給。真面目に働くなんてやっぱり馬鹿見るんや!

 えっへへ~、どんな豪遊しようかな~。(俗物)

 

 




感想・評価お待ちしております。

《レユニオン図鑑》
・『兵士』:
 レユニオンに参加する近距離戦闘兵。
 仮面や服装が統一されており、
 鹵獲あるいは非合法な手段で入手した武装を用いて身分を隠しながら行動する。
 暴徒君より訓練されてるだけちょっとだけ強い。

・『サルカズ大剣士』
 サルカズ(種族:悪魔)の傭兵。
 角が生えて体が超でっかい。
 体内の源石が身体機能を強化しているため、
 体よりも大きな武器を扱うことができる。非常に打たれ強い。
 兵士よりもずっと強い。


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第4話 テントを買いに行きましょう!

クラウンスレイヤー好き。
早くプレイアブルになってほしい。
消化器で虐めたりしないから安心して。ね? ね?


 簡素なガラス製テーブル。

 その上に乗ったペストマスクをつけた謎の小型な生物。

 それは報告に来た部下の言葉を聞いてぴくり、と反応した。

 

「……うちの店が次々と襲撃されているだと?」

 

「へえ。同地域の店だけで1日ですでに3店舗……店は半壊状態で、客ごとぶちのめされたとか」

 

「クソが。鹿羽組の野郎か? んで、誰が犯人か目処は立ってるんだろうな」

 

「そ、それが」

 

「……何だよ」

 

「わからないんです。どの店でも『謎の仮面集団に襲われた』という情報しか上がってなくて……ガッ!?」

 

「テメェ……掴めてねえのに俺に報告に来やがったのか!? こんのクズが! 俺を怒らせたいのか!? 俺を怒らせたいのかァッ!?」

 

「すみっ、すみませんっ! ひゅみませんっ! 勘弁してくだひゃっ!!」

 

 謎の生物――死穢八斎會の本部長、入中(いりなか)常衣(じょうい)――通称「ミミック」は謎生物を操って報告に来た部下を殴り飛ばし、硝子製の灰皿でドツキ回し初めていた。

 唐突かつ明確な組への挑発行為。

 しかも仮面をつけた集団になすすべなく潰されたなんて話は幾ら何でも笑い草がすぎる。

 ミミックにはそんな事をしでかす相手の算段はついていた。

 長い因縁のある鹿羽組か、戸愚呂組のどちらかのカチコミか。

 あるいは、彼の知らない他のアウトロー集団か。

 

「そう部下を虐めてやるなよ、そいつは本当に知らないんだ」

 

「ふーっ、ふーっ……――クロノス。見学か? それともお前が代わりに殴られにきたのか?」

 

「おー怖い怖い。いや、追加情報を渡しに来ただけさ」

 

 クロノスと呼ばれた男――死穢八斎會若頭補佐の玄野(くろの)(はり)は、荒い息を漏らすミミックに資料を投げ渡す。それは店についていた監視カメラの映像であった。

 

「何だこの仮装集団は。こいつらがやったってのか?」

 

「みたいだね。しかも昼間っからさ、全くもって度胸があるというべきか余程我々を据えかねているのか……」

 

「鹿羽組か?」

 

「一応鹿羽にも戸愚呂にも聞いたさ。しかし返答はNO。どこまで本当かは知らないけどね、俺も個人的にはその2つでもないと考えている」

 

「じゃあ何だっていうんだコイツラは!」

 

 ミミックはがなり立てる。

 元々短気な性格であるミミックだが、相手がクロノスというだけで更にイライラが増しているようだ。

 それもこれもクロノスの事を若頭だけを敬愛する金魚のフンと見ているからであり、彼にとって現組長やひいては自分すらも軽く見ている節がどうにも好きになれなかった。

 

「声のトーンを下げてくれよな、五月蝿いから。ま、俺の見立てでは多分。今流行りの『(ヴィラン)連合』じゃあないかと思ってる」

 

「……なんだその頭の悪い名前は」

 

「ニュースを見てないのかい? 最近になって急速に力をつけてるゴロツキ集団さ。打倒正義の名のもとに社会のクズ共を集めてオールマイトを倒すのが目的の烏合の衆」

 

「ふーっ……そいつらが、どうしたって俺たちを襲う必要がある? 俺達は正義から到底離れているだろうに」

 

「さぁねぇ、大方集まって力を得たと勘違いしたクズ共が、俺達を取り込もうとしてるとか?」

 

 ミミックはクロノスを一層強く睨みつけると、ふん、と鼻息をつき……ようやく血に染まった灰皿を投げ捨てた。

 

「で。どうしますかね。若頭はあんまり気にしてないみたいですが」

 

「はっ、決まってる。俺らのシノギを邪魔するその敵連合とか言う奴にお灸を据えてやらないといけない。分かるな?」

 

「それじゃあ下にはそう伝えておきます。すぐに報復に入るって――おっと、なんです?」

 

「ついでだ、これもやっておけ」

 

「……『病院から脱走した子供を秘密裏に捕まえて欲しい』? へえ、お医者様がわざわざ俺らに依頼ですか。何を企んでいるやら」

 

「医者の考える事なんざ知らねえよ。まあ中々身入りの良い話だから受けておけ」

 

「了解です」

 

 

 

 § § §

 

 

 

 おはヒロアカ! 転生少女だよ!

 小銭稼ぎに悪い人をとっちめるぞー! おー! な前回から、破竹の勢いで死穢八斎會潰しが続いております。

 野宿生活3日目の時点で潰しに潰したお店の数、なんと10店舗。

 

「行くとこま行ってやれって言った手前怒れないけどさぁ……その、もうちょっと手心って奴があっても……」

 

「しかし、コレで資金力はそこそこに上がっただろう?」

 

 暴徒君。確かにそうかもしれない。

 でもね、流石に3日で数千万円集まるとは思ってなかったよ……どうしよう、私一人じゃ使い切れないレベルになってるじゃん! ここまで札があると、「うへへ、札束や~」って気楽に頬ずりなんて出来ないや……。

 

「……これ、結構ヤバイ事してる感ある」

 

「何を今更。我々はもうヤバイ行為に手を染めているんだぞ」

 

 まあうん、そうなんだけどね。うん。分かるよ。分かってるんだよ。

 店を襲うやり口も相手を舐めてかかっていちゃもんつけて、殴りかかってきた所で武力制圧だもんね。完全にやり口がアレだもんね。はぁー。

 

 正直持て余すくらいだけど……でも念願のお金はこれで手に入った。

 

「じゃあコレで次にすることは――!」

 

「何をするつもりだ?」

 

 ふっふっふ、次はですね……聞いて驚いてくださいよ!

 なんと! なんと――――!

 

 

「テントを、買いに行きます!」

 

「……」

 

「あっ、その目はやめろ。やめてくださいお願いします」

 

 だってさ、だってさ。今までボロマットとダンボールしか寝具がないんだぞ!

 季節的に初夏だからいいけどさ、これ冬だったらマジで凍死しててもおかしくないからな!

 なので存分に寝転がれる布団……いや、やっぱりテントかな!

 このビル窓がなくて吹きさらしだからさ、良さげなテントと食料で仮住居を作るんだい!

 

「……それでまた俺が買ってくるのか」

 

「ううん、今度は違うよ。買い物は私が行くの」

 

「!」

 

 だってさ、だってさあれだよ。ここヒロアカ世界だよ? ずっとビルでじーっとしてたけど正直遊……げふん。見て回りたくて仕方がなかったの!

 服もお金も手に入って外出する条件を満たしたなら……やらいでか! ってなるじゃん。分かるよね!?

 と、抑圧された心に癒やしを求めて私は意気揚々と暴徒君に力説したのだけれども……。

 

「駄目だ指導者、それは許可出来ない」

 

 貰ったお言葉は不許可であった。

 なんで! なんでさ!

 

「もう俺達はここで派手な行動を始めている。指導者という存在がバレたら不味い」

 

「え、でも……ほら。私強いよ? めっちゃ召喚するよ? オリジムシとか……」

 

「だが、不意をうたれたら何一つ抵抗出来ない幼女でもあるだろう」

 

「うぐっ……」

 

「そして指導者の個性の仕組みは今の所指導者しか知り得ない。分かるか。これはアドバンテージなんだ。謎めかしておけばおくほど後で役に立つ」

 

 驚く程の正論である。

 いやまあ、ヤーさんにちょっかいかけた時点でリスクがあるのは分かるよ? 

 ひっじょぉぉぉ~~に分かる。だけど、だけどそれでもだね暴徒君……。

 

「私は……それでもおでかけしたいんだ」

 

「駄目だ」

 

「……おでかけ」

 

「駄目だといったら駄目だ」

 

「おでかけしたいおでかけしたい……!」

 

「駄目だと何度言えば」

 

「おでかけしたいの! 私おでかけしたい! おでかけしたいのー!」

 

「(耳を塞いでいる)」

 

「ふぇああああぁあぁああぁーっ! うああぁぁああぁあーーッ!」

 

「五月蝿い騒ぐな。ここがバレるだろうが……はぁ、指導者。なら不意を打たれないような護衛を置け」

 

 えっ、ソレ本当? 出す出す!

 幾らでも出すよ、一個小隊でも一師団でも!

 

「……出すなら最低でも幹部クラスだぞ、いいな?」

 

「はーい!」

 

 もっちろん! うわーそれじゃあ誰だそうかなー。

 ヒロアカ世界であんま目立たなくて、良識ありそうで、何か連れ添って歩いてても補導されない人!

 メフィストは除外だとして、スカルシュレッダー……はマスクごつすぎるし、ファウスト……は何か寡黙すぎるし遠距離攻撃の人だし、フロストノヴァ……うーん、綺麗で良さそうだけどめっちゃ目立つしなぁ。W、も見た目良さそうだけど割と悪戯心あるし、何か好き勝手しそうだし……。

 

 そうなるとやっぱりクラウンスレイヤーさんかな?

 いでよ、クラウンスレイヤーさん。レリース!

 

「……呼んだか。って、おい」

 

「わぁいクラウンスレイヤーさん! 買い物行こう買い物!」

 

「……これは一体どういう事だ」

 

「何でも指導者は直接市井が見たいようでして……」

 

 そういう事、護衛役だからねクラウンスレイヤーさん。

 もう召喚した手前絶対にこの命令は聞いて貰うからね、聞いて貰うまでテコでも離さんぞ!

 

「……本気で言っているのか?」

 

「諦めてください。相当決心は強いようです」

 

 めちゃくちゃ苦い顔されたけど、流石に造物主の事は無碍に出来ないのか聞いてくれました。ぶいぶい。

 え? まず出かける前にその長過ぎる銀髪を纏めろ? 

 でもゴムとかないしなぁって思ってたらクラウンスレイヤーさんが三編みにしてくれました。

 うわー私レユニオンのボスキャラに三編みさせてる……めっちゃ申し訳ない感あるわコレ。でもありがとう!

 

「えっへへへ~お出かけお出かけ~♪」

 

 という事で念願のヒロアカ世界を見て回るぞー! 

 さてビルから降り立ちましたがここって一体どの辺りなのかな。

 雄英高校から近い? 近かったりする?

 

「おい、うろちょろするな。目的地があるならそこに真っ直ぐいけ」

 

 勿論さ、分かってるとも。目的地大事。

 ……しかし、しかしだねクラウンスレイヤーさん。私は今最高にワクワクしてるんだよ、このワクワクをそのままに個性社会というのがどういった物か身を以って体感したいんだ……!

 

「やはり世界を知るためには世界を散歩しなければダメなの、分かるよねクラスレちゃん……!」

 

「クラスレって……はぁ。お前さ、買い物が二の次になっていないか?」

 

「そんな事ないよ。買い物忘れてないよ。でもねこの憧れだけは……誰にも止められないの……!」

 

「……好きにしろ。ヤバイと思ったら即撤退するからな」

 

 よし、言質取った! ありがとクラスレちゃん!

 しかし……いやぁ、本当にワクワクしちゃうねこれ……パッと見現代日本ちっくだけど、わっ、ほらヒーローっぽい人も歩いてるよ! 

 あれとか、あの人とか……わ、ほら! あれとかシンリンヒーローシンリンカムイじゃ!? わぁ、リアルで見れた! リアルで見れたよ!?

 

「……あれがヒーローって奴か」

 

 そうそう。この世界で悪と戦う正義の人!

 いやぁーいいよね、ヒロアカ登場人物はみんなデザインが格好良くて好きなんだ。

 サインとか書いて貰えないかな……って駄目か。書いて貰えるところがそもそもないしなぁ……。私の服とか……?

 

「行くぞ。顔を覚えられる前に」

 

 わ、ちょっと……手を引っ張らないで、あぁん! シンリンカムイー!

 クソ、買い物終わったらまた会いに行くから待っててよー!

 

 

 

 

「――あはッ、カァイイなぁあの子。今日は、あの子にしようかなァ……♫」

 

 




感想・評価お待ちしております。


《レユニオン図鑑》
・『クラウンスレイヤー』:
 レユニオンの幹部の一人。
 潜伏能力が非常に高く、主に後方攪乱や暗殺任務に従事している。
 近距離戦にも長けており、防衛線をかいくぐっての奇襲を得意とする。
 どんな策も彼女には通用しないと言われているが、よくロドスメンバーによって水をぶっかけられたりロープで引きずり回されたり、拳でどつかれたりして最終的に空を飛んだりする可哀想な子でもある。


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第5話 殺人鬼を追い払いましょう!

トガちゃん回。
トガちゃん好き。




 最近になって敵連合に加入した現役JK、渡我(トガ)被身子(ヒミコ)

 連続失血死事件の犯人である彼女は今日も獲物を探していた。

 これは敵連合の方針だから……という訳ではなく、ただ単に彼女の趣味である。

 

 『()()()()()の血が見たい』

 『血を見て、嗅いで、吸って、その子になってみたい』

 

 これらの本能に近い欲求を満たしたいが為に彼女は徘徊している。

 見た目は完全にただのJKなのだ、町中を歩く彼女に違和感を覚える存在はいなかった。

 

「――あはッ、カァイイなぁあの子。今日は、あの子にしようかなァ……♫」

 

 そして幸か不幸か……彼女は早速獲物を見つけてしまう。

 ありふれた光景の中何が楽しいのか、姉?の手を引いて周りを見てはしゃぐ、銀髪で長い三編みを持った幼い子供。

 それはトガの審美眼だけでなく、一般人も同じ結論を持つであろう可憐な少女であった。

 

 お目々はぱっちりとして、好奇心で爛々(らんらん)と輝き。

 目鼻際立ち、肌は雪のように白い。

 痩躯(そうく)は折れてしまいそうに細いのに、不思議と均等が取れたその体。

 成長すればきっと誰もが見惚れる美人になるだろうという確信があった。

 

 トガは思った。

 

 見たい。

 あんな純粋そうな子の血が見たい。

 血を出させたらどんな声を出してくれるのか。

 どんな匂いがするのか、どんな味がするのか。

 そして、私が()()()()()()()()……どんなに気持ちがいいのか。

 

「えへへ、決めちゃいました! うーん、どこに行くのかな~、デパートかな?」

 

 引率なのか別の少女――これまた目つきの鋭いパンクファッションの子――と共に移動する彼女らを、トガはこっそりと後を尾け始めていた。

 最近連合内にお達しのあった「何故か分からんが死穢八斎會に目を付けられた、派手な動きは慎め」なんて命令は当然無視である。

 

 彼女らの目的はどこなのだろう……うん? アウトドアコーナー?

 なぜだか知らないが彼女はテントに興味があるようだった。

 様々な種類のテントをあーでもない、こーでもないと吟味している。

 あぁ可愛いなぁ。手伝ってあげたいなぁ。うん、手伝おう。そうしよう。

 

「ねえねえ、テントを探しているの?」

 

「……ッ!?」

 

 あれ、何かいきなりすごい警戒されちゃった?

 うーん、ひょっとして凄い人見知りさんなのかな?

 引率のお姉さんとか、もうメチャクチャ睨んでるし。

 

「いきなり話しかけてごめんね、何か夢中で選んでるのが楽しそうで、ついつい」

 

「……そ、そうだった? ご、ごめんなさいお恥ずかしい所を」

 

「ううん気にしないで下さい、でも吟味は大事だもんね。テントもちゃんとしたの買わないとだから。あ、そうだそうだ、私はですねぇ、渡我被身子って言います、貴方の名前は?」

 

「あ……はい、私の名前は」

 

 かなり緊張してる。カァイイねぇ。

 今すぐチウチウしてあげたいけど、がまんがまん……人目がついちゃう。

 それでお名前はなんだろ? どんなカァイイ名前なのかな。

 

「名前、名前は……えっと。リュニって言います」

 

「リュニちゃん! カァイイ名前だねぇ。ねえリュニちゃん、私とお友達になろうよ!」

 

 カァイイ! もう我慢出来なくなって私はリュニちゃんと視線を合わせてその場で座り、その子の頭を撫でようとして――

 

「触るな」

 

 ――思いっきり、引率の人にその手を弾かれた。

 

「……クラスレちゃん!」

 

「指……リュニ。迂闊に触らせるのは良策じゃない」

 

「りょ、策とかそういう事じゃなくて……ごめんなさい。痛くなかったですか? この子、クラスレちゃんは特に人見知りで……」

 

「ううん。気にしてません、ごめんね。いきなり触ろうとするのは駄目だよね」

 

 ……えへへ。本当に気にしてないよ。

 このクラスレちゃんっていう子もリュニちゃんに負けないくらいカァイイ。

 何より、その手の動きが全く見えなかったし、彼女からは私と同じような臭いがする。あはっ、今日はついてるかも……♫

 

「不快にさせちゃってごめんなさいクラスレちゃん、リュニちゃん、それじゃあ私はこの辺りでバイバイしますね!」

 

「は、はい。こっちこそごめんなさいトガさん」

 

「……」

 

「それじゃあまたね、バイバイリュニちゃん、クラスレちゃん」

 

 あぁ。我慢できない。我慢できない。我慢できない。

 早く、早く二人の血が吸いたいな。だから人目につかない所に行って欲しいな。

 そうしたら思う存分チウチウ出来るから。

 

 だから私は一度帰ったと見せかけてデパートの出口を遠くから見張った。

 ……あは、見つけた。どうやらテントを買い終えたみたい。

 クラスレちゃんと楽しそうに話してるのが見える。カァイイ。

 

 どこに行くのかな? おうちかな?

 あれ、あれあれあれ。路地裏? 危ないですよリュニちゃん。

 そんな所に言ったら襲われちゃいます。

 貴方はとってもカァイイ子なんですから、そんな所に移動したら――!

 

「アハッ、リュニちゃん、クラスレちゃん。また会いましたねぇ」

 

「――」

 

 ほら、私みたいな人に襲われちゃう。

 ……あぁそんな顔も出来るんですねリュニちゃん。カァイイです。

 私をまるで路傍の石みたいな冷めた目で見てくるなんて。

 

 ナイフを見せたらその表情もっと変わるかな?

 泣きそうな顔とか、見せてくれないのかな?

 

「……どうしたんですか、トガさん。ナイフなんて持ち出して」

 

「え? コレですか? あはは、これは最近流行りのラッキーアイテムみたいなものでして!」

 

「偽物、ですよね。本物だとしたら物騒なラッキーアイテムです」

 

「勿論偽物です! ほら、指先で軽くちょんってしても……あれ、血が出ちゃいました。勿体ないです、ぺろ」

 

「……」

 

「まあまあ、間違える事は誰でもありますよね。リュニちゃんだってありませんか?」

 

「そんなことよりも……何か用でしょうか。私が何かしましたか?」

 

 うーん、見かけによらず凄い冷静な子。

 でもそういう子の仮面が剥がれる瞬間。それが一番好き。

 ボロボロになって血だらけになったら多分もっと好きになる。

 

「何もしてないです! だから、これから何かをするので何かして欲しいです!」

 

「……言ってる意味が良く」

 

「えへへ。分かりやすく言うとね、えーっと、リュニちゃんにね、私一目惚れしちゃったの。だからね、ちょっとだけ()()()()させて欲しいんです!」

 

 引率のクラスレちゃんは佇んで相変わらずずーっと睨みつけてくる。

 ナイフまで出しちゃったからその目にはもう殺意しかなくて、背筋がぞくぞくする。あは、嬉しくなっちゃいます。

 

 ……あぁ、もう駄目。飛び出してもいいよね。

 

 クラスレちゃんをまず刺しちゃおう。殺さないように注意して、足と腕をざくざくざく。動けないようにしてからリュニちゃんの血を目の前でチウチウするの。そうしたらきっとクラスレちゃんはいい顔をしてくれる筈。それは絶対に気持ちいい。名案だ! やろう、やっちゃおう。うん。やっちゃっていいよね私。

 

「ちうちう?」

 

「うん、血をね。チウチウーって――吸わせて欲しいだけなんです!」

 

 あ、もう足が勝手に走り出してました。まあいいかぁ。

 私は使い慣れたナイフを振り上げてまずはクラスレちゃんに向か……あれ? クラスレちゃんはどっ。

 

「――ご、ぇ?」

 

「……」

 

 あれ……何で後ろから攻撃されて……?

 クラスレちゃんは私一度も見失ってなかったのに、なん。

 

「ちょ、ちょいちょーい……ク、クラスレちゃん、殺さないようにね」

 

「コイツは殺した方がいいと思うがな」

 

 や、ば。お腹、背中、腕、足、全部痛い。ナイフ、あれ。壊されて、る。

 あ、クラスレちゃん。見えた、強い、ねぇ、カァイ、イねぇ。

 

「折角本物の"トガヒミコ"に出会えたんだもん……原作を愛する身としては、襲われたとしても。残したいな」

 

「……また訳の分からない事を」

 

 リュニちゃ、あぁ。カァイイ、二人の血、私吸い……たか――――

 

 

 

 § § §

 

 

 

 おはヒロアカ! 転生少女の……リュニちゃんだよ!

 待ちに待った買い物タイム。初めてじっくり見るヒロアカワールドを堪能していた私ですが、流石ヒロアカ。そんな私に飽きさせない非日常を提供して下さいました!

 

 具体的にはトガちゃんに目をつけられました!

 

 アイエエエエエ! トガちゃん!? トガちゃんナンデ!?

 私何かした!? もう敵連合に目をつけられてるんですか!?

 死穢八斎會が潰れてないって事は超常異能解放軍の前だって事だし、敵連合に喧嘩売った覚えはないんですけど!

 

 最初はクラスレに『早速尾けられてるぞ』と言われてすわ、マジかと思ったさ。

 それで気付いてないフリしてデパートへ移動。テント売り場へGO。

 普通にテントを吟味して敵が罠にかかるのを待ったのさ。

 正直な話、実はもう死穢八斎會にバレてるのかと思ってドキドキだったよ。

 何か覗き見の個性とか居るんだっけ!? それともサー・ナイトアイさんの密告!? おのれサー! って内心ガッデム決めてたんだけど。

 

「ねえねえ、テントを探しているの?」

 

「ッ!?」

 

 そこでまさかのトガヒミコ登場ですよ。

 メッチャクチャ驚いたね。いや、本気でびっくり。

 正直原作でトップクラスに好きなキャラだし、そんな子が凄い友好そうな感じで話しかけて来てくれたからめっちゃドモった。恥ずかしい。

 

 ふぁー。しかしトガちゃん近くで見るとマジ可愛い。

 近くだとシャンプーか香水かわからないけど、メッチャいい匂いするし……シャベぇ、トガちゃん好きぃ……ってトランス気味になったところで質問された。

 

「私はですねぇ、トガヒミコって言いいます、貴方のお名前は?」

 

 な、名前。名前ですか……難しい事を言いますねトガちゃん。

 そういや私ってこっちでの名前らしい名前がないな。

 レユニオンのみんなは私を指導者って呼ぶけど、流石に指導者って呼ばせるのも……う。そんなキラキラした目で見ないで……。

 

 じゃ、じゃあリュニ! リュニでどうだ!

 リニューアルとちょっとかけてるのと、レユニオンとよくいい間違えるリユニオンの先頭だけ取ったこの感じ! 悪くないだろ!

 

「リュニちゃん! カァイイ名前だねぇ。ねえリュニちゃん、私とお友達になろうよ!」

 

 ふわぁ~、名前で呼んでくれた……好きぃぃ。

 友達どころか恋人になってもいいよぉぉぉ。

 はートガちゃん八重歯見えて可愛い、結婚しよって思った矢先、なんと嬉しくも彼女が私の頭を撫でてくれようとしたんだけど、

 

「触るな」

 

 クラスレちゃんが超速で伸ばされた手を弾いてくれやがりました。

 何してくれてんの! ……あ、いや私の安全を守るためだもんね。分かってます。

 うん、私も分かってんのよトガちゃんがヤバイ子ってのは。

 でもほら折角友好そうに近づいてきてくれたじゃん? 単純に声掛けしてくれただけかもだし……あ、ない? すみません。

 

 その後普通に去っていたトガちゃんだったが、私もクラスレちゃんも同意見だった。

 あの子、絶対に近い内に接触してくるって事。

 とりあえずテントをちゃんと買って、普通に気にしない体でデパートから移動。

 

「……あいつ、尾けてきてるぞ」

 

「えぇぇ~~……ま、まじでぇ?」

 

 ……したら、本当にトガちゃんの尾行が始まってげんなりした。

 マジか……コレやっぱり何か狙いありますね。敵連合侮りがたしですかコレ?

 

 なんでこうなった~、ってめっちゃどんよりしながらクラスレちゃんに引かれて移動する。ってどこ移動するのクラスレちゃん。

 裏路地? 鬱陶しいから殺す? 待って待って殺しちゃ駄目だって。

 でも相手は殺す気満々? そういう子なの、悲しい子なだけだから今日はお灸すえる程度にして。ね?

 私あの子気に入ってるの! 可愛いし健気だし、ちょっとサイコなだけだから! ね!?

 

「理解出来ん……」

 

 って事で人通りのない裏路地まで入り込んだら早速現れたトガちゃん。

 クラスレちゃん曰く他に尾いてくる子はいないそうだけど……。

 

 本気で何の目的なんだろう。実は悪の道への勧誘? あ、あり得るかも……!

 も、もう直球で聞いてみよう何か用ですかって、っていうか私って何かしましたか、とも。(震え声)

 

「何もしてないです! だから、これから何かをするので何かして欲しいです!」

 

 ……えっと、つまりどういう事?

 

「えへへ。えーっと、リュニちゃんにね、私一目惚れしちゃったの。だからね、ちょっとだけチウチウさせて欲しいんです!」

 

 あっ、あーあー、そういう事ね。良かったぁ~。これただの偶然だわ。

 敵連合も死穢八斎會も関係ない。トガちゃんが偶然私を見つけて、見初めて、それで血が吸いたくなっただけ!

 いやー安心安心、私の悪事はバレてない……って良くないよどんな偶然だよ全く!?

 

 うぅートガちゃんに見初められたのは嬉しいけど複雑だ。

 じゃあ……クラスレちゃん、すみませんがよろしくお願いします。

 

「うん、血をね。チウチウーって――吸わせて欲しいだけなんです!」

 

 そう言ってナイフ片手に駆け出してきたトガちゃん。

 やばい。まだ特訓もしてない筈なのにかなり速い。

 でも私はその襲い来るトガちゃんを見ても冷静で居られた。

 

 だって、もうその時には彼女の後ろにクラスレちゃんが居たから。

 

 クラスレちゃんはまず、ナイフの柄の方でトガちゃんの後頭部を思いっきり殴打した。

 

 そして怯んだトガちゃんを続けてナイフの柄で、足で、殴る。蹴る。殴る。

 腕を膝を腹を胸を、流れるような連撃で。殴打しまくる。

 その結果あっという間に彼女がぐらついたが、それでも殴るのをやめない。

 うわえぐ……ちょ、ちょいちょい~、殺さないよね? 約束したよね!?

 

「コイツは殺した方がいいと思うがな」

 

 う……でも折角本物のトガヒミコに出会えたんだもん……原作を愛する身としては、襲われたとしても。残したいから。お願い!

 

「……また訳の分からない事を」

 

 私の言葉に根負けしたのか、クラスレちゃんは攻撃をし終わって何事なく私の下に戻る。するとようやく暴力から解放された全身を強打されたトガちゃんはその場で意識を失って倒れこむのだった。

 ……どうしよ。コレ。放置、してていいかなぁ。

 

「殺人鬼に温情を与えても無駄なだけだぞ」

 

 うぅぅ~、心苦しいけど……きっと敵連合さんが拾ってくれるよね!?

 すまんトガちゃん、今度は百合ルートで会おうね!? それじゃあ撤収だ! さらば!

 




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既にあと7話分の投稿予約は完了している。ぐふふ

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第6話 隠れ蓑を探しましょう!

トゥワイスのセリフ書くの難しいけど好き。


「……黒霧。なんだって俺らが狙われてんだ」

 

「正確な事情は不明ですが、なんでも噂によれば我々が死穢八斎會の店をことごとく潰し回った報復だとか」

 

「あ? なんだソレは……そんな事一度たりともしてないぞ……いや」

 

 死柄木(しがらき)(とむら)、敵連合のトップはいつものたまり場である古びたバーに集まった面々を見た。

 そこに並ぶは誰も彼もが曲者揃いの札付き悪。

 全員が全員思い思いにくつろぎ、死柄木の死を想起させる睨みにも全く動じていない。

 

「お前ら……勝手な行動とかしてないよな?」

 

「そんな事してるぜ! してるわけ無いだろ全く!」

 とトゥワイスが矛盾した発言をし。

 

「……する訳がない」

 荼毘(だび)が興味なさそうに呟き。

 

「暇潰しするにしても、もうちょっと別の事を選ぶわよん」

 マグネが()()を作りながら返事をし。

 

「俺はマジシャンだからね、店を潰すよりかはショーを見せて盛り上げる方を選ぶかな」

 コンプレスが退屈そうにトランプをシャッフルし続け。

 

「はっ、小悪党の店潰しなんてステインの流儀に反する。する訳がない」

 スピナーは腕組みをして疑いを吐き捨てる。

 

 死柄木はしばらく男らを見て舌打ちをするも、ふと何かに気付く。

 一人……この場に居ない存在がいる。

 あのブローカーの野郎に紹介されたばかりのアイツは一体、どこにいった?

 

「……おい。黒霧。トガの奴はまだ来ないのか」

 

「彼女には連絡した筈ですが……いえ。まだのようですね」

 

「そう言えばトガちゃん来てないな! もうすぐ来るだろ! いや、来ないね!」

 

「あらやだ、もしかして彼女が……?」

 

「店を潰して回るほど、死穢八斎會が楽しいおもちゃに見えたのか?」

 

 店に伝播(でんぱ)する騒ぎとともに、死柄木もまたトガを犯人だと脳内で決定づけていた。

 

「あのサイコパスめ……! ちっ義爛(ぎらん)の野郎め、何が腕は保証するだ。頭が保証されてなきゃ意味ないだろうが……! 黒霧、ヤツを探し出せ。責任を取らせる」

 

「……分かりました」

 

「いーや、その必要はないね」

 

 しかして黒霧が行動を起こす前に、とある人物がバーに入り込む。

 それは件の敵連合の闇ブローカー、義爛。そして、その肩に担ぐのは……。

 

「!? オイオイトガちゃんじゃねえか!?」

 

「ヤダ、ボロボロ……! ちょっと大丈夫なのソレ!?」

 

「……」

 

 全身を包帯まみれにしたトガヒミコ、その本人であった。

 義爛は彼女をマグネに渡すと、ふぅ、とバーの椅子に腰掛けた。

 

「お前が代わりに粛清したって所か? 随分と手厚いアフターサービスだな義爛」

 

「料金外でのサービスは本来しないもんだがね、折角紹介した奴が速攻路地裏に捨てられてたから何事かと思ってな」

 

「……は?」

 

「やられてたんだよ、トガが。路地裏にボロ雑巾みたいにぶっ倒れてたんだ」

 

 トガがやられていた?

 一体誰に? まさかトガの行為に腹を立てた死穢八斎會の連中がか?

 

「……死穢八斎會の連中の可能性は低いな。というか、奴らにトガの情報はまだ渡っていない筈だ、こいつは加入させたばかりの新人(ペーペー)だぞ?」

 

「じゃあヒーローにボロクソにやられたとでも言いたいのか?」

 

「それもありえん。だとしたら路地裏に捨てられずに速攻豚箱行きになってる筈だ」

 

「お前の言う腕の立つ殺人鬼、実は大したことないんじゃないか? 路地裏の浮浪者共にやられちまったのか?」

 

「言ったろ。腕は保証するって。トガは曲がりなりにも浮浪者如きが歯向かえる相手じゃない」

 

「……あぁ、何が言いたいんだよ義爛。じゃあ誰がやった言うんだ」

 

 がりがり、と心底イラ立った顔で頭を乱暴にかく死柄木。

 それに対して義爛も数秒の沈黙を置いて、答えた。

 

「正直分からん。だが、そいつらのやりたい事は分かる……敵連合と死穢八斎會で潰し合いをさせたいんじゃないか?」

 

「……! 義爛ソレは本当ですか」

 

「今の所はそうとしか説明がつかない。だとしたら死穢八斎會の野郎を怒らせ、その矛先を俺らに向かわせ、かつ、俺らにもちょっかいを出す。実力も情報戦もどちらも強い、厄介な奴だぞ」

 

「……あぁそう。そうかい。そりゃまた退屈しなさそうで最高だ」

 

 ゆらり、立ち上がった死柄木が怒りを通り越して笑いながらさえずる。

 

「あぁ。折角雄英の卵を潰しに行く作戦を行おうと思ってたのに、いいタイミングで来てくれたよ。……クソが」

 

「死柄木弔。まずは死穢八斎會と接触しましょう。そして今回の件について説明をすべきです」

 

「言われなくても分かってんだよ……あぁクソ、厄介なクソ野郎め。絶対に殺してやる……」

 

 ――死柄木の偏執的な呟きは、しばらく止まる事はなかった。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 おはヒロアカ! 転生少女リュニちゃんだよ!

 初めてのお買い物でテントをゲット! +トガちゃんをぼっこぼこにしたよ! 最高の一日だねクソァ!

 

 いずれ何かしらのアクシデントが起こるとは言え、まさかあんな偶然あるなんて思ってもなかったよ本当……。

 

「ま、まあ顔バレしたけど今後は顔出し控えるつもりだからきっと大丈夫だよ……ね?」

 

「……」

 

 あぁ暴徒君の視線が冷たい!

 しょうがなかったんだって、だって。だってさぁ、トガちゃんだもん!

 殺すなんて無理無理! メッチャ可愛い子なんだから!

 

「その可愛い娘に殺される可能性だってあるんだがな……」

 

 若干申し訳ない。

 ま、まあほら。もうあんまりワガママは言わないようにするからさ、ね。

 それよりも見て見て、テントだよテント。

 私一人用だけどね! コレで野宿しても平気! ワンタッチで一瞬設営簡単収納! ヒロアカ世界の技術すげー! 私だけなら広々休憩出来る!

 

「……」

 

 あ、それで暴徒君の分っていうか……みんなの分は無いのでお外でその、我慢を……正直私だけでごめんなさい。

 

「いや、我々は指導者の一部と言ってもいいからそこは気にする必要はないが……気付いているか?」

 

 気付いて、って何?

 ……あっ、まさかテントだけ買ってきたって事言ってる?

 馬鹿にしないでよね! ちゃんとシュラフも買ってきたしカセットコンロもあるから、火も使えるもんね!

 

「そういう事じゃあない。お前が寝ている時、我々がどうなるか気付いているか、という事だ」

 

「……私が、寝ている時?」

 

 そりゃえっと……寝不番(ねずばん)? 

 私が寝ている間にこき使うのはいつも申し訳なく思ってるけど、多分そういう事してくれてる……んだよね。

 

「……やはりか。気付いていないようだから言うが、指導者が寝るとだな。我々は()()()

 

「……はへ?」

 

「指導者の個性である我々は、指導者の意識がない限りは存在出来ない。分かるか、お前は寝ている時、または意識を失っているときは完全に無防備なんだ」

 

「……嘘!?」

 

 え、えぇ。えぇぇぇー。それマジ? マジすか?

 ど、どおりで毎朝起きたらわんわんが居ないと思ってたよ!

 というか今ヤーさんに喧嘩売ってる状態でそれって、かなり不味いのでは……。

 

「そうだ。指導者は端的に言えば起きている限りは無敵だ。だがな、寝ている限りはただのどこにでも居る幼女だ、ソレを踏まえて次にすることは……隠れ(ミノ)を探す事だ。お前が寝ていても無事なような、な」

 

「な、なるほど……隠れ蓑ね。うん」

 

 た、確かにこの廃ビルじゃセキュリティもクソもないよね。

 でも隠れ蓑って言っても……なぁ。

 

 そうなるとこの潤沢な資金を使って一人暮らし用のマンションでも買うのがいいんだろうけど、身元が保証出来る物がない以上は辛いし。

 そうなると非合法な場所を探すしかないけど、折角の非合法な専門家のヤーさんには喧嘩売っちゃってるし。

 誰かに頼ろうにも、その頼った人を感染させたくない感はあるし。

 でも自分の安全には代えられないから探さないといけないし! あー悩ましい!

 

「わ、わんわーん! 私どうすればいい!? もふもふ、もふもふもふっ!」

 

 あっ(うな)られたごめん怒んないで!

 

「……感染についてだが、鉱石病に最も感染しやすくなるのは源石に長時間接触したり近くに居た者だ。軽度な感染者の内は、直接的な接触を何度も繰り返さない限りは問題ないんじゃないのか?」

 

「……」

 

 極論だよねそれ……まあそうかもだけどさ。

 ロドスだって感染者が一杯いるけど、その分感染してない人も居るというのは知ってる。

 でもその感染率も絶対に0じゃないと思うと食指が中々……。

 

「深く気にしていたらどこにも進めないぞ。それに指導者は我々よりもこの世界に詳しいだろう、なら何らかのアテはあるんじゃないのか」

 

「むぅ……そりゃ、気になっている人は、居るよ」

 

 その人はオフィシャルな正義(ヒーロー)でもなければ純粋な(ヴィラン)でもない。その中間のグレーに位置している半端な悪。

 ヒーローや警察に目はつけられてるけど未だ誰にも捕まってない逃走上手。かつ、ハッキングの出来る仲間にも恵まれている存在だ。

 

「ではそいつに当たればいいのではないか?」

 

「うー、当たってみたい。個人的には凄い当たってみたいよ。その人達好きだし。ただねー、その人達ねー……ちょっとね……!」

 

「……?」

 

 多分隠れ蓑に簡単になってくれる気がするんだけど、なんというか割と目立ちたがりな人っていうか! うーん、難しい人達なんだよね……!

 

 うー、でもまあ。駄目元やってみようかなぁ……。

 いつまでもこのビルで、ってのはちょーっと厳しいし……ここお風呂ないし。

 水道水で体拭くのも嫌だし……。辛いし……。うん、頑張る!

 

「――会話中にすまない指導者よ。報告だ。この地域の死穢八斎會の店は全部潰し終えた。これが上納金だ」

 

「あ、お、お疲れさまです。サルカズ大剣士さん……ありがとう」

 

 わ、わぁい、貴金属(ジュエリー)お金(現ナマ)武器(チャカ)お薬(ハーブ)だぁ。リュニちゃんこういうの大好きぃ。

 ……うーん。ありたいけど、どんどんヤバイ物が集まってくるなぁ……。このヤバ気な薬とか本当どうしようかな……使い道がない。

 

「あとは当然だが、我々が暴れ回った結果奴らは躍起になって犯人探しを始めている。指導者は外見から疑われることはまずないだろうが……注意することだな」

 

 おぉぅ……そりゃまあそうだろうね。

 うーん割とここって暴れた店から近いし、疑われる可能性もあるなぁ。

 この仮拠点もそろそろ潮時かね、デブ蛙さんありがとう。そろそろビル返すね。どこにいるか知らないけど。

 

「とは言え今は敵連合とかいう奴らを絞って調査してるようだったがな」

 

 え、そうなの? まあでも勘違いしてくれてるならそれはそれでいっか。

 おのれ敵連合め。なんて悪い奴らなんだー。(棒読み)

 




悲報:テントさん買ってきたのに出番少ないかも。
テント「解せぬ」

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第7話 お風呂に入りましょう!

Wちゃんと一緒にお風呂入りたいだけの人生だった……。

2020/05/10
あまてるさんから挿絵をいただきました!
文中に追加しているので見ていただけると幸いです!
お爺ちゃんと美少女…絵になります…!


 おはヒロアカ! 転生少女リュニちゃんだよ!

 

 先日、私の個性の思わぬ弱点が分かった所で、隠れ(ミノ)が必要になったので・す・が~~。

 その隠れ蓑が今日明日で見つかるかと言えばそれは微妙!

 一応候補者の方には連絡を取ったので、返信が来る間時間を見つけてこうして近所の銭湯に来ています!

 何? 外出を控えるって話はどうしたって? ……ま、まだ身バレしてないだろうから大丈夫大丈夫。(震え声)

 

「……へぇ~これ本当にお風呂だけの施設? 何だか古ぼけてるけど?」

 

「この古い感じがいいの! W!」

 

 今回はWちゃんと一緒に来ております!

 クラスレちゃんは前回ので分かったんですが、ちょっと硬すぎる感があるので……。

 凄いウィットに富んでそうなWさんをお呼びしました。

 Wさんは幹部で、戦闘に強くて快楽主義者で爆弾魔ですが、多分大丈夫でしょう? ……そうだよねわんわん? わんわんは何も答えてくれない…。

 

 っていうかうん。アークナイツのキャラは銭湯なんて初めて見ただろうね。

 これが日本古来、伝統の施設だよ。この木造建築の(おもむき)のある(たたず)まい……イカすよね!

 

「はぁ? ボロいだけじゃないの……何よ、リュニ?」

 

「しーっ、しーっ! 今からそのボロ施設を利用するんだからね、文句は駄目! ね!?」

 

「……はぁ。まあいいわ、一緒にお風呂入ればいいんでしょ。早く行きましょ」

 

「本命は私の護衛だからね!? そこは本当お願いします!」

 

「は~い」

 

 ではレッツラごー。このためにタオルに着替え、シャンプーセットまで準備。

 ヒロアカ世界の銭湯、一体どんな感じなんでしょうか。

 

「いら~~~~っしゃい~~~~」

 

 ステレオタイプなお婆ちゃん番台さんにお金を支払って、着替えて。

 そして真っ昼間の誰も居ない時間帯にお風呂!

 うーむ、番台も脱衣所風呂場も、現代日本の銭湯と全くもって変わらん……。

 浴室の富士山の絵も相まってまるでヒロアカ世界じゃなくて現代世界に来ているような感じだ……。

 

「確かに大きいお風呂ねぇ。共用風呂って感じ?」

 

「そうでしょそうでしょ~。こうぐーっとね、体を伸ばして利用出来るのが銭湯のいい所なの。……って、ちょっとW。お風呂に入る前にはちゃんと体を洗うんだよ。あと湯船にタオルつけちゃ駄目だから。めっ」

 

「……別に戦ったり殺したりもしてないし、汚れてないわよ?」

 

「エチケットなの! あと公共の場で物騒な事言うの禁止!」

 

「はいはい」

 

 んふふふ。いやーでもようやくお風呂に入れたなぁ。

 野宿生活中は我慢してたけどやっぱり元日本人としてはお風呂は譲れないね。

 この汚れた体も髪も尽く洗いつくしてくれるわー! 

 ……って私の髪長いな! 身長以上あって辛い! 

 

「Wお願い、髪洗うの手伝って!」

 

「嫌よ。自分で洗いなさいな」

 

 ぐ、ぐぬぬぬ……おのれぇ~。私も早くお風呂入りたいのに……。

 Wさんは本当にマイペースなお方だ……仮にも私は造物主なのに薄情というか何というか。

 

 ……にしても、Wさんいいプロポーションしてるなぁ。

 すらりとした体型に大きな胸。水を弾くスベスベの肌……それに全裸なのに太ももにつけた大量の小型ナイフがギャップがあってまたセクシーな……ナイフ!?

 

「だっ、Wさーん、湯船にナイフもつけちゃ駄目だからね!?」(小声)

 

「これは譲れないわ。大体これが無かったらどうやって貴方を守れっていうのよ」

 

「え、や……まあそうかもだけど……」

 

「本当は源石爆弾とかお楽しみセットも全部持ってきたいくらいなのよ? 貴方、本当危機意識が低いったらありゃしないわね」

 

「……さ、流石に悪い事をする人もこの銭湯じゃ戦ったりはしない……よ?」

 

「どうだかね。それでまだ髪洗い終わらないの? 私はもう上がりたいのだけど」

 

「ちょ、待って。待ってってば! 私の髪のことを思うなら手伝ってよ! もうー!」

 

 

 

 § § §

 

 

 

 はーぁ、いいお湯だったあああぁぁぁぽっかぽかあぁぁぁぁあぁ。やっぱりぃぃいぃぃお風呂はあぁぁぁぁあ命のぉぉぉぉぉぉ洗濯うぅぅぅうぅぅ……。

 

「マッサージ椅子。呆れた……リュニ、あんた幼女なのにおじさん臭いわよ」

 

 だぁって野宿生活で体がガッチガチだったんだもの。

 ガチガチの体がほぐれるほぐれる……。

 

「次はもっといいベッドのある拠点を選ぶ事ね……うん?」

 

 ん? 何かWの雰囲気が変わったけど一体どうしたんだろ。

 何か目新しい物でも見かけたのかな……と、ちらりとマッサージ椅子から体を起き上がらせたら。

 

「はっはっは、やあ花子さん!! 今日は昼間っから客が二人も入ってて良かったなぁー!!」

 

「あ~~らぁ~~~空彦さん~~~、あんたもよう来たねぇ~~~」

 

 ……何だ。元気でちっこいお爺ちゃんが来ただけじゃん。

 何も珍しい事じゃあないけど……あ。こっちに来た。

 お爺ちゃんとかお婆ちゃんって暇な人多いのかすぐ声かけて来るよねー。……ってあれ、Wさん目が据わってるような?

 

「やぁお嬢さん方、昼間から良い選択をしているな!!」

 

「えぇどうも」

 

「あ、はい……えっと偶然なんですけどね、大きなお風呂に入りたいと思ってまして……」

 

「君は誰だね!?」

 

「えっ!?」

 

「君は誰だね!?」

 

 二回聞かれた!? ボケ老人なんですか!?

 えーっと、名前別に言ってもいいけど……ってあれ、この人何か見た事あるような。

 

「やだわぁお爺ちゃん。名前を聞くときはまずそっちが名乗らないと」

 

「おっとこいつはしてやられた! 俺の名前は酉野(とりの)空彦(そらひこ)だ! よろしくな嬢ちゃん方!」

 

 とりの、そらひこ……?

 うーん何処かで聞いたことあるような、ないような……。

 

「あ、えっと……私の名前はリュニで、彼女はWって言います」

 

「そうかそうかリニュに、Wか……君は誰だね!?」

 

 えぇー……。

 

「いや冗談だ嬢ちゃん、本気で憐れみの目を見せるのはやめてくれ」

 

「あら真面目な会話も出来るのね、本当にボケてるのかと思ってたわぁ」

 

「はっはっは手厳しいな、そういうフリをしたのは勿論俺のせいではあるがな! 迷惑料ついでに花子さんコーヒー牛乳を2つだ、彼女らにおごってやってくれ!」

 

「は~~~~い~~~~」

 

 え、コーヒー牛乳おごってくれるんですか!?

 そんな風呂上りの最高の一品を……!

 やばいこのお爺ちゃんいい人じゃん……ヒロアカ世界は混沌まみれだけどやっぱり優しさがあるんやなって……。

 

「構わん構わん、老人のボケに付き合ってくれたんだからな」

 

「……私フルーツ牛乳が良かったのだけれども?」

 

 Wさん、マジで厚かましいよ!?

 ちゃんとお礼ぐらい言おうよねぇ!?

 

「はっはっは、好みまでは熟知してないからなぁ!」

 

「まぁ貰える物は貰っておくけど……リュニ。それ飲むのは戻ってからね」

 

「え? でもお風呂上がりに即飲むのがこの日本では習わしで……」

 

「忘れたの? 私達には次の用事があるじゃない、ちょっとお話してる時間はないわよ」

 

「おぉっと、そうだったか! 悪いな爺の戯言に付き合わせてしまって」

 

 ??? つ、次の用事って、別にあれは急いだりはって思ったけど途端に彼女に口を塞がれた。

 どうやらWさんは何がなんでもこの場からすぐに逃げ出したいみたい……。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「本当よ。老い先短いお爺ちゃんとお話してたら日が暮れるまで貴重な時間が取られちゃう」

 

「だ、だだっWー! ほ、本当っごめんなさい酉野さんっ! この子すっごい天の邪鬼なだけでして……」

 

「気にしておらんし、これぐらい跳ねっ返りの方が俺としちゃあやりやすいから気にすんな嬢ちゃん! 何だか無駄に()()()()()()()()()ようだしなぁ」

 

「……行くわよ」

 

「え、わっ……もう! Wったら! それじゃあすみません、コーヒー牛乳ありがとうございました!」

 

 私はこうしてWに連れられて銭湯を後にしたのだけど……人気のない路地に一直線に連れてかれたと思ったらWは速攻で持ってたコーヒー牛乳をゴミ箱に投げ捨てた。ちょっ、Wさん何して!?

 

「リュニのそれも貸して、飲まないで」

 

「な、なにするの!? コーヒー牛乳勿体ないじゃん!」

 

「……怪しいから飲まないでって言ってるの。アンタは気付かないようだったけどあのお爺ちゃん、あれは相当場数踏んでる奴よ。今まで以上にね」

 

「い、今まで以上にって……そ、そんなに?」

 

「私は過小評価はするけど、過大評価はしないわ。そして過小評価をした上でアイツを警戒すべきだって言ってるの」

 

 え、えぇぇぇ~。で、でも……でもなぁ。

 あんなお爺ちゃんがまさか……ね?

 私が今の所狙われるなんて可能性は大分低いし……偶然立ち寄った銭湯で待ち構えてたりするかな。

 

「あの……またトガちゃんみたいに偶然だったり、しない? あのお爺さん、そんな悪い人そうには見えなかったし……」

 

「知らなかった? プロはその偶然を装うのが異様に上手いのよ」

 

「……」

 

「警戒心の一番薄い所を突いてくる、それがプロのやり口。油断して足を(すく)われたらお笑い草よ」

 

「……お、お風呂上がりのコーヒー牛乳。あっ、待ってW、やめて。コーヒー牛乳、コーヒあぁああぁああぁぁーっ! こーひぃぃいぃぃぃぃ!」

 

「……コンビニで買ってきなさいな」

 

 

 

「空彦さん、どうしたんだい~~? あの子達が気になるのかい~~? 二人共えらく美人さんだったけど~~」

 

「……確かに二人共別嬪(べっぴん)さんだった。だが……背の高い方の子がな」

 

「……?」

 

「あの子からどうにも寒気を感じて仕方がなくてね。あいつ、あれは……相当な修羅場を潜った目だった。少しだけヒヤヒヤしちまったぜ」

 

「……もしかして~~、ヴィランなのかい~?」

 

「そいつはどうか分からねえな。ただ、壮絶な人生を潜ってたのは違いないだろうな……出来る事なら相手をしたくないもんだ」

 

 酉野空彦――ヒーロー名『グラントリノ』は、追加で買ったコーヒー牛乳片手に、去っていった二人をじっと眺めるのだった。

 

 

 

 § § §

 

 

 

「――トル、ジェントル! コレを見て頂戴っ!」

 

「ん? 何だいラブラバ。ついに私達の動画が話題動画ランキングで1位を取ったのかい?」

 

「私の心の中では常に1位よジェントル! ――それよりも、このコメントを見て!」

 

「おぉ。この動画は『おでんつんつん客を逆につんつんしてみた!』だね、つい先日投稿したばかりの! 内容がいささか地味だったと反省はしているが……これがどうしたと……んん?」

 

「……」

 

「……ラブラバ。この相手が誰か絞れているのかい?」

 

「IPから辿るに都内のネットカフェ利用者なのは間違いないみたい、一応書き込み当時の監視カメラもハッキングしたわ。したのだけど……」

 

「したのだけど?」

 

「……ごめんなさい、誰かまでは判別出来ていないのごめんなさいジェントル!」

 

「ほう、よもやラブラバ程の技術の持ち主でも分からない相手か。いやいや気にする必要はないさラブラバ、それは君の技量の問題ではなく、恐らく相手が上手なだけ。何にせよ、我々はこのコメント真偽を確かめる必要がある」

 

「じゃあジェントル! 次の動画は……!」

 

「あぁそうともラブラバ! 次の動画は決まりだ! 『出会ってくれたら条件次第で百万円あげますというコメントが本当か、確かめてみた!』だ!」

 

「素敵! 素敵よジェントル! これでジェントルの知名度爆上げ待ったなしね!」

 

「はっはっはっは――!」




感想・評価お待ちしております。


《レユニオン図鑑》
・W(ダブリュー):
 レユニオンの幹部。サルカズの傭兵。
 携行している銃を使わず、投擲武器を主な攻撃手段とする。
 大量の活性源石爆弾による破壊活動で、一歩引いたポジションから最前線を支援する。行動パターンは奇怪で何を考えているのか他人には理解できない。


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第8話 交渉しましょう!

ガバ交渉タイム。
書くの楽しくて書き溜めが止まらん止まらん。


「さぁラブラバ、撮っているかい……!」

 

「ばっちりよジェントル……!」

 

 某日早朝。郊外のとある人気のない公園にて。

 とある動画投稿者の二人組。ジェントルとラブラバは公園内部の茂みに隠れていた。

 

 ジェントルとラブラバ――彼らは犯罪行為を行っては一部始終を撮影。その内容をJストアという動画サイトに投稿し続けている偏屈なコンビであった。

 

 ジェントルは挑発、戦闘、逃走と主に実行犯として。

 相棒のラブラバは動画撮影、そしてハッキングで彼をサポートするという役割分担をしている。

 

 彼らの目的は何か? 金か? 社会への復讐か? いや違う。

 彼は自らを義賊とのたまい、社会に警鐘を鳴らす事を目的としているのだ! 

 ……と言えば聞こえはいいが、実態はただ世間から注目されたいという虚栄心が大半である。

 

 そんな彼らが本日ここに来たのは、彼らの動画に書き込まれたとあるコメント、その真偽を探りに来たのだ。

 

『いつも動画を拝見させて頂いております。唐突ですがお二人にお願いがあります。

 もしもこのお願いを聞いて頂ければ現金100万円を差し上げます。

 詳しい話はこのメアドから。 xxxxxxxxx@xxxx.com』

 

 怪しい。あまりにも怪しいコメントだった。

 当然その真偽を調べようとするスーパーハカーなラブラバ。

 彼女はハッキングのプロであり、過去には警察庁のネットワークに侵入した実績もある凄腕だ。

 しかして彼女の調査で下手人は都内のネットカフェからコメントを投稿した事は分かったが、それ以上の情報は掴めなかった。

 

 ガセの可能性は非常に高い。

 だがジェントルはラブラバをして調べられない相手であるという事に非常に興味を誘った。

 故に、コメントに従ってみようとしたのだ。(ぶっちゃけ動画映えもしそうなので)

 

 その後、そのコメントの主とメールをやり取りして指定された場所がこの公園だった。

 指定時刻は早朝5時。公園中央のヒーローオブジェ前でとの事。

 願いについては現場で実際に伝えるそうだ。

 

 なので二人は、まずはその相手が実は警察や悪の手先の罠でないか探るため、約束の時刻より数時間早めに現地で待機、監視を続けていた。

 

「……あれが、その子達かい?」

 

「め、メールの通りだとしたら……そのようねジェントル」

 

 意外にも、定刻10分前に現れたのは警察とも悪とも思えない二人組だった。

 一人は年端もいかない子供だ。長い銀髪を後ろでまとめたお姫様のような可憐な幼女。

 もう一人は顔の半分をフードで隠した、パンクファッションの少女だ。

 幼女はそわそわと辺りを見回し、少女は銅像にもたれながら退屈そうにその場に佇む。

 

「……他には誰かいるかい?」

 

「いなさそうね……そろそろランニングする人が通りかかりそう、話をするなら早くした方がいいわジェントル!」

 

「確かに!」

 

 そうと決まればとジェントルとラブラバは颯爽(さっそう)と草葉の陰から飛び出し、二人へと向かう。

 コメントの主と思える二人組のうち、幼女が輝かしい笑顔を見せ、少女は胡散臭そうな目を向けるのが非常に対称的だった。

 

「やぁお嬢さん方、早朝からご機嫌麗しゅう! 君達が私達の動画にコメントをくれた子かい!?」

 

「あっ、初めましてジェントルさん。あの、そうです。私がコメントをしました」

 

「……えっ、ほ、本当に君がかい? 嘘ではなく?」

 

「はい、私がです」

 

「……」

「……」

 

 ジェントルとラブラバは顔を見合わせてしまう。

 どうやらコメントをしたのは目の前の可憐な幼女のようだったが……この子の見た目とあのコメント内容があまりにも釣り合っていない。

 正直失礼だが、今も沈黙を続ける隣の少女がしたと言った方が遥かに説得力がある。

 

「ご、ごほごほんっ失礼。にわかには信じられなくてね……それで、そうだな。君のような可憐な子がどうしてあのようなコメントを?」

 

「むっ、ジェントル……!」

 

「勿論ラブラバ、君も同じくらい可憐さ!」

 

「あはは……えっとありがとうございます? それはですね、ジェントルさんの主義といいますか、スタイルを見ていまして。その在り方に一部共感出来る所があって、この人なら信頼出来る、と言う思いがあって……それで、不躾(ぶしつけ)ですけどもお願いを」

 

「お、おぉ……おぉぉおぉっ! 聞いたかねラブラバ!? 嬉しい、ここ数年であまりにも嬉しい言葉だぞ! とうとう私にも賛同者が!」

 

「やったわねジェントル! 今までの苦労が報われるようだわ!」

 

 二人は涙を流して抱きしめあう。

 苦節3年以上、体を張り続けてもろくな評価も受けてこなかった。

 そんな彼らを肯定する声はすぅっと体を浸透していく気分だろう。

 

「それで、肝心のお願いなんですが――」

 

「おぉ、おぉ! すまなかった、そうだったお願いだったね。しかしその前に念頭に置いて欲しいのは……我々も義賊だとは言え出来る事と出来ない事がある。内容によっては叶えられないという事を了承して頂きたい」

 

「勿論ですジェントル。私も無理強いはしないつもりです……元より、このお願いはかなり無茶な話になりますので」

 

「無茶か、そう言われるといち動画投稿者として……ッ! ごほん、義賊として心疼くね。それで、その内容とは……?」

 

「……では端的に言います。ジェントルさん、ラブラバさん。私達を(かくま)って頂けませんか?」

 

「「…………へ?」」

 

 ジェントル、ラブラバの両名はその願いを聞いて思考を止めざるを得なかった。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 おはヒロアカ! 転生少女リュニちゃんだよ!

 今日は隠れ蓑候補の犯罪系Jチューバー、ジェントルさんに凸交渉しに来ています!

 

 彼らを選んだ理由は前にもちらっと言ったかもですが……。

 

 ・ショボいとは言え犯罪行為を3年間も行って、かつそれを動画に収めてアップし続けているのに一度も捕まっていない。

 ・相棒のラブラバさんが警察すら(あざむ)くスーパーハッカー。

 ・ジェントル自体に割と体術の心得があって、逃げる技術に長けている。

 

 こういう所が中々見どころがあるため、是非とも匿わせて頂きたいと考えております。

 まあデメリットとして頻繁にメディア露出していくので、私を匿った事がバレるかもって所ですが……そこはまあ交渉次第で。

 

 あ、待っていたら二人が現れた。

 とは言えクラスレちゃんがすでに公園で待機してた二人を把握してたけどね。

 そこに居るんでしょう、出てきて下さい見たいな強キャラムーブは(つつし)みます。私は頼む側なので。

 

「やぁお嬢さん方、早朝からご機嫌麗しゅう! 君達が私達の動画にコメントをくれた子かい!?」

 

 ……うわっ、わー! リアルラブラバちゃん可愛い!

 ちっこい! ちっこいのにおっぱい大きい! 凄い抱きしめたい!

 あっジェントルは見た目どおりジェントル感あんまないけど、そっちもデザイン悪くないよ。うん。

 

 こほん。えぇそうですと真面目に答えたら、直後に二人共びっくり仰天してた。

 いや、まあそりゃそうだよね。

 こんな幼女がお願い聞いてくれたら100万あげますとか詐欺みたいなコメント出すんだから。

 

 それで一応コメントを出した経緯と、なんとなく動画のことを褒めてあげたら凄い感動してくれた。

 ネカフェで動画一覧見た限り良評価なんて1個もなかったもんね……それでも3年間投稿続けられるって逆に凄いよジェントル。

 歩みを間違えていなかったら順当にヒーローになれてただろうに……ほろり。

 

 さぁて、実際に願いについてお話してみたんだが……またまた理解が出来ないって顔をしてるね。

 うん、話せば長くなるんだが聞いてくれるかな?

 真実を全て語れないので納得出来そうなカバーストーリーを用意しましたので。

 あと出来るなら動画止めて貰っていいですかね。()()()()()メディア露出NGなんです私!

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「……なるほど。なるほど、そういう事か。君は孤児で身寄りがなくて不治の病の持ち主。そして悪い奴に人身売買の商品として扱われていたと」

 

「それで悪い連中が貴方を売り飛ばそうとした所、命からがら逃げ出して……」

 

「思えば最初からヒーローや警察に頼るべきだったが……当時は誰も彼も信じられない状態だった。そして最悪な事にリュニの奴はある時、偶然にも悪い奴らに捕まりそうだったんで()()正当防衛でのしてしまってな」

 

 クラスレちゃんも芝居につきあってくれている。

 若干棒読み感があるのは如何ともし難いが、今の所二人は信じてくれてるようだ。

 

「そして仕方ないとは言え彼らの資金を奪ってしまった。宿無しだから、当面の安泰な生活をするために……!」

 

「それでますます敵の追求は厳しくなって、その度に報復する日々。最早ヒーローに頼る事も出来なくなったと……」

 

「リュニちゃん……貴方、大変だったのね……!」

 

 ふあぁぁラブラバちゃんにハグされたぁぁしゅきぃぃぃ。

 そうなんです。そうなんですよお二方。ご理解頂けましたか私の苦境。

 本当は私もヤクザとは揉めたくなかったんです。

 でも生活のために仕方なく、えぇ仕方なくやり返して……。

 

「……事情は分かった。それで君は我々に匿って欲しいと言うのだね」

 

 そうです。そうなんです! 3年間以上メディア露出した上で捕まっていないその手腕、是非とも恩恵に預かりたいんです! 

 勿論それに見合う対価は用意していますよ! ヤーさんから奪……貰ったお金ですけどね!

 

「失礼ですがお二人の収入源は不明にしろ、かなり厳しい物ではと思っています。この話を受けて頂ければ十二分な金銭のサポートを行える自信があります」

 

「確かに……我々の懐も苦しい。臨時の収入があるのは助かる話だ。だが」

 

 ……そうなんですよねー、察している通りデメリットも当然ながらあるんですよねー。

 

「君達を匿う、という事はその悪い奴に目を付けられるという事」

 

「加えて、貴方の……その不治の病に感染する可能性があるという事ね」

 

「……感染に関して補足だが、感染する可能性というのはかなり低いと見ている。空気感染はしないし、それこそ長期的な濃厚接触をしない限りはな。ただし、その感染率は0ではない。どうだ。受けるか?」

 

「……」

「……ジェントル」

 

 うーんそりゃあ躊躇するよね。

 メリットに対してデメリットがねぇ……感染リスク+悪い奴に追われるってのがね、でかい。

 

 まあなので、本当無理強いはしません。

 もしも無理だったらこの話は全て忘れていただいて、あと迷惑料としてこの百万を受け取って下さい。……あ、悪のお金だから取りたくないですかね? ごもっともですハイ。

 

「一応言っておくが、我々が追われているのは死穢八斎會と言うヤクザだ」

 

「……!?」

「……じぇ、ジェントル!? 広域指定(ヴィラン)団体の超大物よジェントル!?」

 

 クラスレちゃん今その追い打ち居る?????

 そのマイナス要素の発表は後でバラす感じでいいじゃんッ!!

 っあー、この反応、多分駄目そうだなぁ……。

 一番目があると思ったけど、やっぱりね……。今回はすっぱり諦めて次の候補を……。

 

「――分かった。条件はそれだけかい?」

 

「ジェントル! 受け入れるの!?」

 

「ほ、本当に……ッ!?」

 

 マジで!? 受け入れてくれるんですかい!?

 あ、で、でしたら身バレしたくないのでお二人の動画には共演NGでもいいですか?

 

「勿論いいとも! ただね、その代わりと言っては何だが……君を襲ったという死穢八斎會の情報。それを貰えないかな」

 

「!? え、あ……はい。別にいいですが」

 

 まあそんな情報別に持ってても仕方ないので全部あげますけど……何をするんです?

 

「……!? ジェントル、貴方まさか……!」

 

「そう、そのまさかさラブラバ! 今回の二人の話はまさしく我々にとって渡りに船! 確かにこの話に手を出した結果苦境に立たされるかもしれない、ただ! 彼女のネタがあれば我々は、大きく躍進出来る! 我々の勇姿を世間に、刻みつける事ができる!」

 

「ジェントル……じゃあ、やるのね! 相手がヤクザとしても貴方は引かないのね!?」

 

「そうともさ! 勿論そのためにはラブラバ、君という大切な大切な助手の力が必要だ……手伝ってくれるかい、二人の……いや、更に彼女たち二人を含めて4人の未来のために!」

 

「~~~~ッ、勿論よジェントル! 愛しているわ! 貴方のためなら私、どれだけでも頑張ってしまうから!」

 

「おぉラブラバよ!」

 

「え、えぇ~~……」

 

 あー。うん、マジ。 マジですか。まさか死穢八斎會を動画でイジるんすか。

 いや、まあいいけどね。うん。でもその代わりちゃんと私匿ってね?

 えっと、聞いてる? あのもしもーし。抱き合ってないでもしもーし。

 

「……」

 

 あっ、く、クラスレちゃんの目が痛い! 痛いよう!

 いやほら彼らって本当地味に優秀なんだよ、ちょっと突飛な行動が目立つだけで……いや本当だってば! ね!? 信じて!?

 

「……馬鹿が」

 

 うわあああぁぁああぁん!! クラスレちゃんが馬鹿っていったー!




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《レユニオン図鑑》
・今日もお休みです。こいつ結構休み多いな。


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第9話 引っ越しをしましょう!

一人称視点でね、かつ主人公の台詞を入れる塩梅がね。よくわからないのです!


「怪しいガキがいるって情報は本当だろうな?」

 

「勿論ですぜ旦那。あいつ、わけの分からん個性で犬とか石を出して俺をボコボコにして寝床(ヤサ)を奪っていきやしたんです……クソッあのクソガキめ!」

 

「なっさけねえ。大のオトナがたかがガキ一人相手にのされるなんてよぉ」

 

「全くだ。ったく。うちのシマが荒らされたって時にどうしてこんな雑用を……」

 

「ごねるな。俺達はただ上から言われたことをやってればいいんだ」

 

 死穢八斎會の下っ端3人組、彼らは今ガマ蛙のような浮浪者に連れられて薄暗い路地を歩いていた。

 彼らは誰も彼もが浮かない顔ばかりで、皆一様に張り詰めている様子であった。

 それもこれも縄張りである店という店を潰し回った輩の対応に追われ、上から怒鳴られながら様々な場所へと駆け回る多忙な日々を過ごしていたせいだろう。無理もない話である。

 

 ここ5日足らずで潰された店、その数なんと12店舗。

 

 用心棒も居た筈だというのに訳もなく店ごと潰していった謎の仮装集団。

 彼らについて分かっている事はあまりにも少なく、精々が徒党を組んでいるという事、獲物が様々である事、死なない程度に痛めつけ、金品を奪っていくという事、そして『指導者』とやらに従っているという事ぐらい。

 

 面子を何よりも重んじるヤクザとして、やられっ放しという選択肢は見当たらなかった。

 彼らは復讐を誓って、躍起になってその犯人を捜し回している。

 

 ちなみについ先日、(ヴィラン)連合のトップである死柄木からは『その様な事は行っていない、濡れ衣だ』との弁明もあった様だが、組織内ではいまひとつ信じ切られていない。

 何せ彼らは日陰者からの信望を集めているものの、その日陰者のコントロールを出来ていないのだ。信頼性など薄いのも当然の話である。

 

 そんな死穢八斎會の下っ端らの今日のお仕事とは、(くだん)の店潰しの犯人探しではなく、『病院から脱走した少女を捕まえて欲しい』という物。

 金払いが非常に良い仕事のため、有事中でも優先度高めに動き回る必要があったのだった。 

 

「あ。あれです! あのビルです!」

 

「ふぅん、アレがお前の寝床(ヤサ)? 浮浪者の癖して随分とでかい所だな……」

 

「ガキが今もここにいるか分かってんのか?」

 

「い、いえすみません……それは流石に」

 

「ちっ、使えねえな……あ? んだアイツら」

 

 路地裏にそびえ立つ古ぼけた廃ビルにたどり着いた一向だが、その一人が何かに気付いた。

 廃ビル入り口、そこに停められた大型のバンに誰かが何かを荷積みしていたのだ。

 

「オイお前ら、そこで一体何やって……あぁ!? テメ、もしかして仮面集団……!」

 

「――ちっ、こちら行動隊。奴らにバレた、どうぞ」

 

『……即時撤退だ。抗戦は最小限に留めろ』

 

「了解。おい、さっさと出るぞ! その荷物を載せて出発だ!」

 

「待てコラッ、テメェ!?」

 

 その集団は下っ端にまで配られた写真通り、死穢八斎會の店を潰した輩に違いなかった。

 彼らは荷物を後部スペースに放り込び、男自身もバンに飛び乗ると、車は耳障りなエンジン音を立てて路地裏から飛び出していく。

 

「クソがぁ、応援を呼べ!」

 

「畜生――本部、本部聞こえるか! 奴らだ! 仮面の野郎共だ! 黒いバンにのって東通りを逃走してる、応援を寄越せ!」

 

 ヤクザ達は応援を呼びつつも個性で何とか車を足止めしようとするが、間に合わない。

 結局地面にタイヤ痕だけを残して、バンは通りに出て逃げていってしまう。

 

「このまま逃がすと最悪ヒーロー共に捕まっちまうぞ!」

 

「なんとしてもアイツ等を先に捕まえろォ!」

 

「へ、だ、旦那俺はどうすれば……へぶっ!?」

 

「うるせえすっこんでろテメェはよぉ!」

 

 組をコケにした愚か者共を抹殺する、それが彼らの脳内の共通認識。

 狼狽(ろうばい)する蛙男を置いて、ヤクザ達は乗ってきた車の下へと急ぎ戻り、彼らはカーチェイスを敢行するのであった。

 

 

 

 § § §

 

 

 

「さぁようこそ我々の究極のアジトへ!」

 

「歓迎するわリュニちゃん!」

 

「お、お邪魔しまーす……」

「……」

 

 おはヒロアカ! 転生少女リュニちゃんです!

 今日はなんとなんと、前回の交渉が上手く行ったのでジェントル・クリミナルさん家にお邪魔しに来ています! わーぱちぱちぱち!

 正直二人の愛の巣にお邪魔してしまうのは心苦しいですが、隠れ蓑が見つかって本当に嬉しい限り。

 まあその家が郊外の古びたアパートだったのはちょっと意外だったけど……こんな所住んでてバレたりしないのだろうか?

 

「はっはっは、このアパートは立地が非常に悪くてね!」

 

「裏が墓地で、近くは新幹線が通って五月蝿くて、かつ駅にも街にもかなり離れてるから人なんて滅多に寄り付かないの! しかもヒーローの巡回地域からは地味に外れてるわ!」

 

「だからこそ家賃も非常に安い! そして疑われ辛い!」

 

 加えて安普請で築70年超えだから住民も二人以外いないレベルらしい。う~んクソ物件。

 だがそのクソ物件を活かす二人のガッツに頭が上がりません。

 さてさてお宅拝見のお時間です。クラスレちゃんの後に続けて部屋に入ってみると……おぉ。こじんまりしてるけど十分、十分!

 ビルで野宿するよりかは全然OKです。本当助かる助かるぅ……!

 

「さぁ今日は我々の新メンバーの歓迎祝として特別に素晴らしい紅茶を入れよう。ご存知かな? ゴールドティップスインペリアル! 最高級のその上を行く上物さ!」

 

「私はクッキーを用意するわね!」

 

「あ、すみませんどうも……お構いなくです」

 

 ……いやぁなんか変な感じ。まさか知ってるキャラの家に入れるって……ねぇ。

 クラスレちゃんもこんな経験あったりする? ないよね? 

 

「……私にはリュニの言ってる意味が皆目分からん」

 

 そりゃそうだろうね。いやー落ち着かない落ち着かない。

 普通の家の筈なのに何かきょろきょろ周り見ちゃう……。

 

「――さぁお待たせした、この最高の紅茶を今かららららららら」

 

「うわわわわわわ溢れてる溢れる溢れてる……!」

 

「ジェントル! ジェントル流石にお客様に高い所から紅茶を注ぐのはまずいわ!」

 

「はっはっは! すまない、いつもの癖でね!」

 

「……お前、馬」

 

(クラスレちゃん、今口に出そうとした言葉は絶対にしまい込んでね絶対言っちゃ駄目だからね。これ命令だから)

 

「……ちっ」

 

「? さて、お茶を飲みながらでも良いかな。改めて自己紹介しよう――ジェントル・クリミナル。個性は『弾性』! 触れた者に弾性を付与する能力さ! 天下に名を轟かせる有名人になるのが目標だ!」

 

「私の名前はラブラバ! 個性は『愛』よ! 愛を告げた人を一定時間強化するの! 私はジェントルをサポートして彼を誰よりも有名人にさせるのが目標よ! 動画編集からハッキングまで任せて!」

 

 おぉ~(ぱちぱちぱち)

 ……え? なんで私を見て……あ、次私の番とかそういう奴? はい。 

 え、えーっと……個性、個性名ね……うーん、あれでいいか。

 

「えっと、私の名前はリュニです。個性は『レユニオン』。とある組織を自由に召喚する事が出来ます。目標は静かに暮らすことです。よろしくお願いします」

 

「「……レユニオン?」」

 

「うん、えーっと。実はですね今ここに居るクラスレちゃんも私の個性の産物なんです」

 

 クラスレちゃんぼっしゅーと。そい。

 

「っ、少女が消えた……!?」

 

 そしてサモン・わんわん。

 

「ひぁっ!? い、犬が出てきたわジェントル!? しかも3匹も!?」

 

 続けて暴徒君5人もどどん。

 

「きゃぁっ!?」

「お、おぉぉぉ何だね君達はっ!?」

 

 あっ、ささ流石に人間は驚きますよね消します消します!

 

「……というように、私の命令を聞く自律思考出来る『レユニオン・ムーブメント』と呼ばれた組織の人達を召喚と送還する個性です。呼び出せる限度は……まだ不明ですが、少なくとも50体以上は出せますね」

 

「す、凄い……何という個性だ」

 

「デメリットらしいデメリットもないの……? それとも、この力は貴方が子供ながら鍛えた結果……?」

 

 あ、デメリットか。デメリットはどうしよう……言うべきかなぁ。

 一応感染病の事は伝えてるけど、使う度に病状が深まるって言ったら個性の使用制限してくるかもだし……誤魔化しておこう。

 

「――……うーん……今の所は多分、ないですね。体に不調もないですし」

 

「成程……この目で見ても信じられない、素晴らしい個性だ」

「本当よリュニ。これだけの個性なんてトップヒーローでも持っていないわ……そしてヤクザが貴方の事を探し回る理由もよく分かったわ」

 

 え? ラブラバさ……お、おぉ、うぉぉぉ……っ!

 

「辛かったわね……大丈夫よリュニ。私達がきっと貴方を守って見せるわ……!」

 

 ラブラバさんは私のマンマだったのか??????

 うぅ、同じくらいの身長なのに包容力が違い過ぎるぅぅ。しゅきぃぃ……。

 

「あぁそうさ、そうとも……! これは人身売買に手を染める悪しき死穢八斎會の連中に、何がなんでも鉄槌を下してやらねばいけないな……!」

 

 あ、ジェントルさんも義憤に燃えてくれて嬉しいんだけど、死穢八斎會って割と戦闘力はある方だからあんまりちょっかい掛けすぎないようにして欲しいと思う。そのうち潰れるしね。

 

「さて、そうなると本格的に君はこの家で過ごした方が良いのだが……荷物などがあるなら取りに行く必要がありそうだな。良ければ手伝うが……」

 

「あ、えっとそれはお構いなくです。今私の個性で運ばせているので」

 

「遠隔でも命令を聞いてくれるなんて……すごく便利な個性ね」

 

「あはは。我ながら便利な個性を授けて貰ったとは思っています。もしもお二人が困った時とかは私も個性で手伝いますので、遠慮なく申し付けてくださいね」

 

「リュニ君……君ってやつは、なんて良い子なんだ……!」

 

 お二人にはこれから長い間お世話になるからね。

 今のうちにせっせと媚を売っておかねば……!

 さてさっき通信で聞いた話だと、私の荷物とかはあと10分もしない内にここに着くらしいけど……。

 

「リュニ、非常事態だ」

 

「ッ!?」「わっ!?」

「わぁっ!? 暴徒君!?」

 

 い、いきなり出るのやめてくれない!?

 私出ろって言ってないからね!?

 

「緊急時には仕方ないだろう……端的に言おう。仮住居の場所が死穢八斎會にバレた」

 

 ……まじですか。案外早いな。

 

「むぅ。という事は我々との接触はまさしくギリギリだったという事だね」

 

「危なかったわねリュニちゃん」

 

 うん、まあ遅かれ早かれ気付かれるとは思ってたけどね……でも私はもう移動しているからあんまり非常事態感はないかな。それで、続きは?

 

「廃ビル内の荷物を全て纏めて奪……拝借したバンで移動の直前、ヤクザの構成員に見つかった。抗戦をする事はなかったが応援を呼ばれた状態だ」

 

「うぅ、そうなると荷物全部取られちゃった感? うーん。それはちょっぴり困るかな……」

 

「いや、荷物は無事だ。大型バンで現在も逃走は続けている――ただ」

 

「ただ?」

 

「その逃走だが、ヤクザとヒーローと我々で三つ巴のカーチェイスになっている」

 

「「「……はい?」」」




感想・評価お待ちしております。


《レユニオン図鑑》
・お休みです。お休みったらお休みです。


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第10話 追跡を逃れましょう!

コラテラル・ダメージだ!


 昼下がりは昼食を求めて歩き回るOLやサラリーマンでごった返す都内の某繁華街。

 賑やかでない日が見当たらないその通りは今、普段以上の喧騒に包まれていた。

 

「――テメェコラ仮面野郎共、待ちやがれボケがァ!」

 

「こちらシンリンカムイ、暴走車両を発見! 現在追跡中! 市民の皆様方はどうか退避を!!」

 

『状況を報告せよ』

 

「こちら行動隊、東公園前を北に走行中――敵はヤクザの車が2台、ヒーローも追走中。どうぞ」

 

 レユニオンらが乗る大型の黒いバンを先頭に、後続にヤクザの乗るセダンが追随。更に繁華街の屋根越しに追跡するヒーローがそれを追いかけるというカオス状態。

 民衆の戸惑いもあわせれば、今や繁華街は大混乱状態に陥っていた。

 

「兄貴、やっぱりヒーローに見つかっちまってますよぉ!」

 

「うるせえ慌てんなカズゥ! ヒーローがなんだ、組の面子を守るためにあいつらを沈めてやらなきゃ漢じゃねえってんだ! マサ!」

 

「うぃっす兄貴、やっちまいますわ!」

 

 ヤクザの車の一台から一人の男が窓から乗りだしたと思えば、その片腕が個性によって砲台へと変わる。そして腕の砲台に鉄球のような物を詰めたと思えば――それが勢いよく黒のバンに発射された!

 

「……! 敵の攻撃あり。繰り返す敵の攻撃あり。後部トランク部分損傷。人員と物資にダメージなし」

 

『規定ポイントCまで移動しろ。それまでの交戦は許可出来ない』

 

「了解」

 

 ヤクザの攻撃でバンの後部ドアが一部破損するも、レユニオンらに動揺はない。

 あくまで淡々と指示に従う姿は軍人そのものの様であった。

 

「組同士の抗争か……!? 雄英襲撃やらヒーロー殺しやらでピリピリしてるこの時期に、なんてはた迷惑な……! ええい、止まれ! これ以上暴走を繰り返すなら実力行使も辞さないぞ!」

 

「やっかましいわ! クソヒーローが! こちとら面子がかかっとんじゃい面子が!」

 

「悪党め、何がメンツだ! これ以上市民の皆様の平和を乱す行為は――(つつし)んで貰うっ!」

 

 樹木を生成する反動で従来以上のスピードで駆け抜けていたシンリンカムイ、彼らはバンへの攻撃を繰り返すヤクザに対してとうとう個性を行使! スピードを乗せて一気に両腕の樹木を伸ばすと――!

 

「ど、あ、あぁぁああーっ!?」

「おいカズ、こりゃどないなっとんのじゃ!?」

「あぁ、兄貴ィーーっ!?」

 

 瞬く間にヤクザの車二台が急速成長した樹木に巻き付かれて空中に巻き上げられ、行動不能に陥る! またそれだけでなく、伸びた樹木はレユニオンらの大型バンの後部に絡みついて強制的に車を停止させたではないか! 

 一挙に3台の車を同時に鎮圧出来る能力は流石は実力派ヒーローといった所だろうか。

 

「おぉぉー!」「さ、流石シンリンカムイ!」

「素敵よーっ!」

 

「ありがとう皆さん、ありがとう! でもまだ下がっていてください! 今は動けなくしただけですので!」

 

 黒いバンを運転する兵士は執拗にアクセルを吹かして何とか脱出しようとするが、頑丈に絡め取られた樹木を引きちぎるには至らない。埒があかないと判断したか兵士は本部に判断を尋ねだす。

 

「規定ポイントまで後500mの所で車が強制停止した! 敵の樹木を操る個性のせいだ、このままだとヒーローに捕まるぞ!」

 

『――本部了解、交戦を許可する。ただし可能な限り死傷者を出さぬよう努めろ。こちらからは応援を寄越す』

 

「了解。"ブッチャー"出番だ、タイミングを合わせて扉と木を吹き飛ばせ。3、2、1ッ!」

 

 まさしくシンリンカムイが動けなくした車に近寄り、内部の人員を無力化する寸前、不測の事態を想定して車内にあらかじめ待機していた兵士が、後部扉ごと樹木を吹き飛ばした!

 

「キャァッ!」

「うわっ、なんだなんだ……!?」

 

「なっ――!?」

 

 シンリンカムイと住民らは見た。

 開け放たれた後部席から覗く、一般人から逸脱した体格で筋骨隆々の巨漢を。

 黒く無機質な仮面をつけたはちきれんばかりの筋肉の持ち主は、抱えていた巨大斧も相まってまるで処刑人のようなイメージを周りに植え付けた。

 

 ブッチャーと呼ばれた男は観衆らの驚きを尻目に未だ車をその場に縫いつけ続ける樹木に対して、巨大斧を掲げると――一撃で巨木を断ち切った!

 

「拘束を外した」

 

「よし、発進するぞ、捕まれ!」

 

「――しまっ、待て!」

 

 再度タイヤが悲鳴をあげ、拘束から逃れたバンが急速に飛び出そうとする!

 勿論それを阻止しようとしたシンリンカムイであったが、処刑人の左右から顔を覗かせた別の兵士が持つ武器を見て即座に自身の前に硬質な樹木の盾を展開!

 直後、連続した火薬の音と共に複数の鉛玉がその盾に炸裂し、バンは防戦一方のシンリンカムイを置いて離れていった!

 

「こんな街中で発砲なんて正気か!? 皆さんお怪我はないですか!?」

 

「応援に来たぞ、大丈夫か!?」

 

「応援助かります! 相手は銃を装備しています。あなた達にはこのヤクザの確保と警察への連絡をお願いします!」

 

 シンリンカムイの中では既に黒いバンの集団の危険性は最大レベルまで上がっていた。

 あの異様な巨漢といい、銃器といい、その連携といい、放置することなど到底できない。

 もはや一刻も早く捕まえなければどんな被害をもたらすか分かったものではない!

 

 逃走を続ける車は交差点をほぼ直角にカーブし、郊外の方へ進んでいく。

 彼らの進路を辿るに、どうやら港の方へと移動しているように思えた。

 これはおそらく高跳びの前触れ! そう狙いを読んだシンリンカムイは依然として追跡をする!

 そして応援に来た近隣ヒーローもまた彼に続き、更に通報を受けて合流してきた警察達もその後を追う形となれば、街を揺るがす大チェイスへと発展してしまうのだった!

 

「警察の皆さんお願いします! 港への道を封鎖してください! あいつらを追い込みます!」

 

『了解だ、北方面の道は全て塞ぐ』

 

「! 進路を左に取った……川べりも注意してください!」

 

「任せろ、川付近にヒーローを待機させておく!」

 

 警察と他ヒーローらの連携により逃げ道が封じられていくレユニオンの車。

 とうとう彼らは港方面を諦めたのか、車とヒーローを引き連れながら300m程のトンネルに突入! 既に捕縛まで秒読みとなった今、彼らはトンネルを抜けた所で暴走車の確保を進めようとしたのだが――、

 

 

「「「!?」」」

 

 ――トンネルを抜けたタイミングで、大量のドローンが待ち構えているとは思いもしていなかった!

 

 

「くぅっ、み、皆さん回避を――ッ!?」

 

 物騒な事に機関銃をぶら下げている大量のドローンは彼らの嫌な予感に応えるように銃弾の雨を撒き散らした。

 さしもの破壊の嵐にヒーローに警察達は退避を余儀なくされ、トンネル出口近辺は車両が玉突き事故を起こし、物によっては爆発し、悲鳴と怒号が飛び交う戦場へと変貌していた!

 

 

『――行動隊へ、脱出は可能か』

 

「こちら行動隊。応援は功を成した、このまま規定ポイントへ移動する」

 

『了解』

 

 妨害に成功した黒いバンは、混乱するヒーロー等を尻目にまんまと逃走に成功するのだった。

 

 

 

 § § §

 

 

 

『緊急速報です。現在都内、東町周辺で複数の車両が暴走。警察の制止を振り切って逃走を続けているとの事です。尚、現場にはヒーロー、シンリンカムイが事態の収束を図るために――』

 

「……」

「……」

 

「……」

 

 お、おはヒロアカ……転生少女リュニちゃんだよ……。

 えっとね、今はジェントルさんの家で仲良くTVを見ています。

 リュニちゃんね、本当はね、こんなニュースじゃなくてアニメが見たいんだけどね、なんとなくね、このニュースが他人事じゃないように思えてしまってね、全く目が離せないの。どうしてだろう。(血涙)

 

「指導者よ。このままでは彼らは捕まる、応援を寄越す必要がある」

 

「……うん。えっと、待ってね。私まだちょっとだけ現実を受け止め切れないの」

 

 ただ引っ越ししようとしただけで何でこうなるんですか……!

 いや、不運だったってのは分かる。分かるんだけどね。

 ヤクザに追われるだけだったらまだしもヒーローまで釣れるのは草も生えないよ……!

 

「あ、あわわわあわわぁ……」

「……りゅ、リュリュリュニ君、ど、どどどうするつもりだい?」

 

 ラブラバちゃんはジェントルに抱きついてバイブレーションしてるし、ジェントルに至っては紅茶零しながら飲むっていう器用な真似をしている始末。

 うんうん。身内が全国指名手配された気分って存外辛いよね。すっごくわかる。――分かりたくなかったわ畜生!

 

「さ、最悪……その、個性で消せば暴走は止まる事は出来ますが……! その代わり荷物は諦める形に……」

 

「……そ、そう、そうよねリュニちゃん。街の人に迷惑をかけるのもアレだものね! 荷物の事は残念だったけど、私もジェントルもお金が無いことがないからある程度補填は……!」

 

「あ。あぁ、そうだな! うん、市井に被害を出すのは義賊たる私も許容しかねる事だしな!」

 

 よ、よーし三人の意見も一致した! そうだよ、このままこの家にあの車が来たらジェントル達の全国デビューの道は早まるけど、その生涯は私含めてきっと豚箱生活だからダメだよね!

 とりあえずあの暴走車に関してはどこかで停めて貰って個性で中の人消しちゃおう! ……私につながる証拠品とか残ってないよね? まあ残ってても仕方ないかぁ、くぅぅぅ、畜生っ!

 

「良いのか? この程度のイレギュラーは指導者の力があれば平和的に挽回(ばんかい)可能だが」

 

「……ば、挽回? 出来るの?」

 

「あぁ。我々もただの烏合の衆ではない、今回の移送作戦についてもプランは用意している」

 

 たかが引っ越しのつもりだったのに気付いたら移送作戦になってる……!

 た、確かにヤーさんから徴収したお金とか色々な物も運ぶから作戦にふさわしいかもだけど……。

 

「そこでだ指導者。ドローンの"怪鳥Mk2"を用意して欲しい。数は10体あればいい」

 

「え? ど、ドローン……まあそれくらいならいいけど」

 

 ドローンだけで本当に挽回可能なのかな……。そいそい、そそい。

 居間に一気に物々しいドローンを召喚していきますよー。うわー近くで見るとドローンって本当でっかいよね。

 そして暴徒君は私に感謝の言葉を入れると召喚されたそれらを庭に運び始めた。

 

「!? りゅ、リュニちゃん……まさか貴方、生物だけじゃなくてこんな機械も出せるの!?」

 

 え、あ。そうなんですそうなんです。

 一応レユニオンという組織に所属している物なら何でも出せるんで。

 

「……うぅむ、何という唸らせてくれる個性! 私の個性の常識はもう(ことごと)く壊されているよ!」

 

 自分でもそう思うよ、この個性ってマジでヤバすぎだって事。

 訓練してないでコレだから訓練したら一体どうなる事なのやら……。

 ……あれ? そう言えば暴徒君ドローンは? え、もう全部飛ばした? 早い……。

 

「……大型ドローンで一体どうするつもりなのかしら」

 

「ふむ。そこは私も気になる所だね……よもや撹乱(かくらん)でもするのかい? あそこまで目立ってしまうと最早撹乱も厳しいように思えるが」

 

 そもそも大丈夫だよね暴徒君? 何の気なしに私ドローン提供しちゃったけど、あのドローンってメッチャ銃ついてるよね。人殺しちゃダメっていったよね? 人殺しちゃダメっていったよね????

 

「あまり心配するな。平和的な解決をするよう目指すのは約束する」

 

 そう云うとヘッドセット越し何事か命令を出し始める暴徒君。

 ……まあ、今までもちゃんと命令聞いてくれたもんね。

 私は個性の持ち主だし、彼らを信じる事もときには必要かも。うん、きっと私の知らない何か素晴らしい手で解決して、

 

『――続報です! 警察及びヒーローに負傷者が出ているとの事です! 国道28号まで追跡し、成宮トンネルを抜けた直後、謎の大量ドローンに銃撃され、逃走車両の追跡は断念せざるを得なかったようです! 現場周辺は警察車両同士が玉突き事故を起こし、ヒーロー達が救援に追われる様子が――』

 

 解決、して――

 

「……あぁ。あぁ、そうか。よくやった。ではポイントまで移動しろ。――聞いたか指導者、逃走に成功した」

 

「……」

「……」

 

「逃走車両は途中で乗り捨て、別の車両に乗って30分後にこの家に到着する予定だ。これで荷物を失う事なく奴らをまく事が出来――」

 

 私はとりあえず無言で暴徒君を消す事にしました。

 そうしないと色々と持たないような気がしたので。

 

「…………えっと」

 

「……」

「……」

 

「……わ、私達……い、一連託生……ですよね?」

 

「……」

「……」

 

 この場で出来る私の精一杯のスマイル。

 ソレに対してジェントルさんとラブラバさんが見せてくれた魂の抜けきった表情は……しばらく忘れられそうになかった。




感想・評価お待ちしております。

《レユニオン図鑑》
・『ブッチャー』:
 全身を白い作務衣で包み、巨大な鈍器で攻撃を仕掛けてくる。外観と作戦遂行時の様子から人々に恐怖を与え、「ブッチャー」の異名を持つことになった。
 サルカズ大剣士よりちょっと弱い。おっきな力持ちさん。

・『怪鳥Mk2』
 速射性に優れた小型機銃と、遠隔操作ユニットが積まれており、
 防具を装備している戦闘員への被害は多大なものにはならないが、一般人にとっては脅威をもたらす。そこそこ高性能なドローン。
 尚今回このドローンの操作をしているのは暴徒君。
 一人で10個のドローン操作とかバリ有能すぎない?


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第11話 宣戦布告をしましょう!

時系列的には現在ステイン逮捕以降、林間学校襲撃前です。
AFOさんは未だに牢獄に囚われておりません。


『――昼下がりに起きた暴走車両事件について、警察からの発表で警察、ヒーローへの怪我人が数名出たとの事です。全員命に別状はありませんでしたが、警察とヒーローは共に逃走車両の行方を継続的に追って行くと共に――』

 

 おはヒロアカ、転生少女リュニちゃんだよ……。

 

 何故かお引っ越しから街を巻き込んだカーチェイスへと発展したその日。

 命をかけて引っ越しを手伝ってくれたレユニオンの皆様が無事にジェントルさんの家に到着いたしました。

 

 レユニオンによって次々と部屋に運ばれてくる大量のジェラルミンケースが、部屋の一角をどんどん占領していく様は中々に見ることの出来ない見ごたえある光景だと思いました。まる。

 

「……ね、ねえジェントル」

 

「……なんだいラブラバ」

 

「わ、私達……想像以上に危ないことになってたりしないかしら……?」

 

「……」

 

 うん。疑問系じゃなくて確定で危ないことしてるんですよね。

 これでこのケースの中身が着替えとかお菓子とかおもちゃだったらまだ良かったんだけど……!

 

「……指導者よ、これで全ての物資の移送が終わった」

 

「お、お疲れ様~……えっと、命をかけて運んでくれてありがとうね」

 

「お安い御用だ。また何かあれば呼べ」

 

 私はとりあえずひと仕事を終えてくれた彼らを消しておくと……改めて唖然としている二人に向き直った。んっとね、えっとね……。

 

「……あ、あの。本当にすいませんでした。反省しています……」

 

「は、ハッハッハ! いや君は悪くないさ! 個性の子達が少しイケイケ過ぎただけさ!」

 

「そ、そうよリュニちゃん、貴方は何も悪くないわ! 個性の制御はこれからちゃんとすれば良いだけだもの!」

 

 二人の優しさと全力のフォローが胸に痛い……!

 一介の小悪党ポジだった二人に新たな消えない経歴を残してしまうようで本当心苦しいけど……ま、まあめでたく移送は出来たのでお詫びにこの資材とか自由に使ってください。ハイ。宿代代わりという感じで……。

 

「そ、それは嬉しい申し出だが……いいのかい?」

 

「リュニちゃんが頑張って手に入れた物なのに……」

 

 私は問題ないと首肯をする。

 これらの物がなくても、ここに居させて貰ってのほほん暮らせれば私の目標は果たせてるも同然なので。正直それが数千万円でも億だとしても全然痛くないのだ。

 精々求めるとすれば……温かいベッドに、美味しいご飯くらいですかね。

 

「あぁっ、リュニちゃん大丈夫よ! 私がっ、私が全部提供してあげるわ! 温かいベッドも、美味しいご飯も!」

 

 あぁあぁぁぁーっ、ラブラバさんの抱擁ぅぅぅ、しゅきぃぃぃぃ。

 

「……分かった。そういう事であれば必要に応じて拝借させて貰おう。ありがとうリュニ君。さて、流石にジュラルミンケースを裸のまま置くのもあれだ、整理しようか」

 

「そ、そうねジェントル! 必要に応じて保管する場所も決めて置かないと駄目ね」

 

 前向きに考えてくれて本当に嬉しい……この人達に頼って本当に良かった。

 あぁ整理するなら勿論手伝いますよ、流石に10個以上もあるし手分けした方が良さそうだ。

 

 

 そういう訳で私達3人で引っ越しした物の整理整頓が始まったんだけど……。

 

 

「じぇ、ジェントル……これっ、このケース一杯の現金……! な、何千万あるの……!?」

 

「ラブラバ。それはヤクザが市民から違法で徴収したお金――それだけ悪事を働いていたという証左に違いないのさっ……? お、おぉ……これは、ぱ、手榴弾(パイナップル)……」

 

「ひぃっ!?」

 

「ケース一杯の変な書類……うわ、これ手形とか株券とかだ……」

 

「こ、この明らかなパッケに入った白い薬は……か、覚醒ざ」

 

「むぅ……注射器に謎の液体……い、嫌な予感がするものが非常に多いね……!」

 

 まあ出るわ出るわ。非合法な物のオンパレードです。

 どうあがいても映画の中でしか見れない武器から、単純所持した瞬間お縄になる物、何か怪しげなメモリーカードやら、得体の知れない謎の注射器まで。

 

 世間の闇がこの寂れたアパートの一角に集まっていて、警察が踏み込んだ瞬間我々は終身刑も免れなくなるのではないだろうかってくらいにヤバイ代物だらけでした。ヤーさんヤバイ取引しすぎ!

 

「……ジェントル。世間の闇というのは案外近くにあるものなのね……」

 

「あぁラブラバ。私も今非常にソレを痛感しているところだ……怖いかい?」

 

「えぇ怖いわ……震えてしまいそうなくらい。でもねジェントル、逆にこれらを見て覚悟も出来たわ」

 

「私もだよ。世間には今だ暴かれない闇がある……そして、その闇に脅かされる市民らもいる。今私達はその闇の一端を掴んだ、故にこそ動かねばならない……!」

 

「そうねジェントル……! ジェントルが世間に名を馳せる名士となる為だけでなく、今後リュニちゃんのような子を出させない為にも!」

 

「そうだともそうだとも! 同じ悲しみを味合わせる訳にはいかない! リュニ君という存在と出会えた事、それはまさしく我々にとっての天命だったのだろう……! さぁ明日から忙しくなるぞラブラバ! お互いに死力を尽くして頑張るのだ、愛しているぞ!」

 

「キャー! 私もよジェントル! 愛しているわ!」

 

 わー。頑張れー。ぱちぱちぱちー。

 と、ラブバラちゃんに抱っこされながら二人を眺める私。

 まあでも、本当やるなら気をつけてね。バレないようにしないと危険だよ?

 

「勿論さ。流石に指定敵団体の最大手となれば、綿密な計画を立てた上での行動になる!」

 

「私も腕によりをかけてサポートするわジェントル! まずは入っていた書類とかメモリーカードの確認をするわ!」

 

 いやマジで気をつけてね。二人が居なくなったりするの嫌だから。

 レユニオンも貸すから遠慮なくいいつけてよね。

 

 

 

 § § §

 

 

 

「はぁ、全くもって頭が痛い……」

 

 死穢八斎會若頭、治崎(ちさき)(かい)――通称オーバーホールは、未だ報道やまぬカーチェイス事件のニュースを眺めながら一人ごちていた。

 

 カーチェイス事件からはや3日経つ……立て続けに起きた縄張り内の店舗襲撃、そしてその襲撃者追跡中に捕まった組員。これらの事後処理に追われた彼は固まった体をほぐそうと大きく伸びをして、椅子にもたれて体から力を抜いた。

 

 襲撃された店舗が普通の飲み屋だけであれば良かった。

 しかし店の中には重要取引のためだけに使われる物もあり、取引材料ごと奪われた事を考えると損失で言えば5億は下らない計算になっている。これは組にとって大打撃だ。

 

 組の収入源のメインはとあるグループから横流しされてきた個性を暴走させる薬『トリガー』。

 最近はこの薬に続けて個性を一時的に無くす薬も開発しているのだが、その開発がまさしく佳境を迎えた所でコレである。溜息をつきたくなるのも仕方がないだろう。

 

「……コイツら、一体何者なんだ?」

 

 映像に残された仮面のグループを眺めて、オーバーホールは思考を連ねる。

 誰も彼もが違う服装をしているように思えるが、どこか統一感のあるこの謎の集団。彼も最初こそ敵連合の仕業だと考えていたが、今回のカーチェイス騒ぎを見るにそれも疑わしい。

 

 ヒーローと警察を撒ける連携力に、攻撃型ドローンを大量に用意出来る組織力はどうもオーバーホールが思う敵連合のイメージとそぐわない。

 

 あいつらは死柄木弔の旗の下に群がる無秩序な屑共に過ぎない。

 こんな軍隊のような真似が果たして出来るのか? いや、出来ないだろう。

 

「俺達を疎ましく思う輩なのは間違いない。が、一体何が目的だ? 俺達からモノだけ奪って新しく旗揚げでもするつもりか?」

 

 ヒーロー殺し『ステイン』の事件以降、彼に感化された悪が多いのは確かだが。そんな崇高な物はコイツらからは感じ取れない。

 店舗襲撃に居合わせた組員からの情報にあった、『指導者』とやらは一体何を考えて行動をしているというのか。

 

若頭(かしら)!」

 

「クロノス、どうした一体」

 

 その時、彼の部屋に若頭補佐のクロノスが飛び込んできた。

 普段冷静さを欠かない彼の慌てた様子は、オーバーホールをして驚かせる物だった。

 

「コレを見てください」

 

「……なんだ、これは。動画?」

 

 そのクロノスが差し出してきたのはスマートフォン。そして見せられたのはJストアという動画サイトの、ある犯罪系Tuberの物であった。

 

「クロノス、お前な……俺はこんな下らない物を見ている暇は……」

 

「いいや。若頭はコレを見る必要があります……!」

 

『――ヒーロー殺しによる真の正義とは何か、という問いかけ。これは我々ヒーロー社会において非常に重要な命題であると私も感じている』

 

 小さな画面の中で、紳士を気取ったとある男が、紅茶でベトベトに汚れたカップ片手に語りかけている。男は芝居がかった口調でその場をくるり、と回ると。もう一度画面越しに問いかけてきた。

 

『では……それに対してヴィランもどうなのだろうか? 真のヒーローが問われるのであれば、真のヴィランも問われる必要があるのだと、私。ジェントル・クリミナルは提唱したい』

 

『哲学的ね! ジェントル!』

 

「……誰だこの馬鹿共は」

 

「3年間コツコツと下らない犯罪行為をしては、ソレを動画にする野郎共です」

 

『悪党が何をしようが悪党? その通りだ、ぐうの根も出まい! しかしだ、悪にも最低限のモラルという物が必要なのだよ。そのモラルすらない存在はヴィランとは言えない――それはただの獣だ!』

 

「……」

 

『私は、とある組織の闇取引の資料を入手した。この資料によれば、ここには人身売買、違法薬物、銃器売買が頻繁に執り行われているという証拠がびっしりと書かれている』

 

『許せないわねジェントル! こんな事をするなんて!』

 

『あぁ全くもって許せないだろう。こんな事は』

 

 動画内のジェントルに合いの手を入れる、相方の声。

 男が掲げた資料が一瞬、動画に写される。その内容こそぼやかされているが、記載されているサイン。それにオーバーホールは非常に見覚えがあった。

 

「おい。おいおいまさか……」

 

「……その、まさかです」

 

『宣言しよう――私、ジェントル・クリミナルは指定敵団体『死穢八斎會』に宣戦布告を行う! モラルをなくした獣に制裁を!』

 

『覚悟しておきなさい、死穢八斎會!』

 

 

「こ、こ、こんのっ、クソッ、クソカス共がァ……ッッ!!」

 

 

 一瞬で沸点を突破したオーバーホールの食いしばった声がクロノスの悲鳴と共に部屋を木霊し、暴走した個性によって机の一部が耐えきれずに消滅した。




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《レユニオン図鑑》
・お休みが続いております。
 再開は未定です。


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第12話 制裁を加えましょう!

あれ…これって何の作品だろう…。


 時は深夜2時――ジェントルらが死穢八斎會への宣戦布告動画を投稿する直前。

 人気のない工事現場にジェントル及びラブラバは訪れていた。

 

 散歩か? 訓練か? いやいや違う。

 彼らは宣言した通り今まさに死穢八斎會に制裁を加えようとしていた。

 宣戦布告後に動いては警戒されてしまうと見て、あえて投稿前、油断している所を彼らは狙っているのだ。

 

「さぁラブラバ、覚悟はいいかい?」

 

「……すぅ、はぁ……すぅ……ご、ごめんなさいジェントル、少しだけ待って……」

 

「勿論さ。……緊張しているね、今まで以上の大仕事に」

 

「えぇ……正直な話、今にも倒れてしまいそうなくらいには緊張しているわ」

 

 工事中のビルの骨組みの上に立つ二人。

 ジェントルはラブラバの背中をさすって落ち着かせようとし、ラブラバは信頼を預けるジェントルの隣で数回大きく吸っては自身の頬を叩いて無理やり気合を注入させた。

 

「ごめんなさい。もう大丈夫よ」

 

「よろしいラブラバ。白状すれば自分も緊張しすぎていて胸が痛いくらいだ。これまで数え切れないくらいに活躍してきた我々だが……今回は規模が違う」

 

「死穢八斎會……指定敵団体。これまでにない敵――」

 

「我々はその存在を知りながらもあえて目を向けていなかった、いや避けていたと言ってもいい。社会の闇、その本質とも言える存在に怖気づいていた……故に今日は記念すべき日となるだろう」

 

 ジェントルはいつものように持参したティーポットを掲げ、それをあえて高い位置から右手のコップに注ぐ。

 勿論強風に煽られた紅茶はびちゃびちゃとあたりに飛散していくのだが……半分程紅茶を注ぐことが出来た所で、彼は一気にそれを飲み干す。

 

「ジェントル、行くのよね。本当に行ってしまうのよね……!」

 

「あぁ勿論だとも、これは我々のため、リュニ君のため……ひいては脅かされ続ける市民のため! ジェントル・クリミナルは今日まさに伝説の一歩を踏み出すのだ!」

 

「キャー! ジェントル、それなら私ラブラバもついていくわ! 貴方の伝説の一助になるように、どこまでもサポートするわ!」

 

 興奮を抑えきれないラブラバにアルカイックスマイルを見せたジェントル。

 そして丁度、()()()()()()()()指定時刻に深夜の工事現場に到着した二台のバンと一台の黒塗りの車を見て二人(うなず)くと、ラブラバは宣戦布告動画を遠隔投稿。と、同時に片手にビデオカメラを抱えて撮影準備を完了させる。

 一方のジェントルはそんなラブラバを腕に抱えて個性を使用。足元の鉄骨を一気にたわませると――今まさに地上で取引を行おうとしていた怪しげな集団めがけて飛び込んだ!

 

 

「『トリガー』100個、注文通り用意した。金は用意しているな?」

 

「勿論だとも。しかしお宅も大変だな、何やら店を潰し回されてるんだって?」

 

「……余計な話は抜きだ、さっさと金を」

 

 

「おっと、私はその余計な話の続きが是非とも聞きたいがね!」

 

 

「な、ぐ、がぁッ!?」

 

 彼らのすぐ傍! 勢いをつけて地面に着地したジェントルらは個性を用いて衝撃を吸収。そして反射の角度を変える事により勢いを乗せて取引中の相手を一人、足蹴にして吹き飛ばした!

 

「なっ、テメェ! 何者だコラ!?」

 

「しっかり捕まっていてくれたまえラブラバ、少し揺れるよ!」

 

「勿論よジェントル!」

 

 突如の襲撃に一斉に銃器や刃物を取り出すヤクザ達。

 しかしながらジェントルは彼ら相手に止まる事なく、個性を使用して跳躍と反射を繰り返し姿を掴ませない。それどころか勢いを殺さずに次々にヤクザ達を蹴りで吹き飛ばしていく。

 

「心無い獣に慈悲は持ち合わせていないのでね! すまないが最初から全力で制圧させていただく!」

 

 反射。攻撃。反転。蹴撃。反発。拳撃。

 さながらピンボールのように高速で跳ね回るジェントルにヤクザ達は反撃すら出来ず。

 瞬く間にその場に居た6名のうち5名をのして、ようやくジェントルはその動きを止めた。

 

「ひ、ひぃっ、何だよ……何だよお前ぇ……!」

 

「おっと、やはりまだまだ私の知名度は足りていないようだな……では自己紹介しよう。私の名はジェントル・クリミナル。死穢八斎會という獣の集団に制裁を加えに来た者だよ!」

 

「格好いいわジェントル!」

 

 ビシっと背筋を立ててポーズを見せるジェントル。

 ヤクザは薬の入ったケースを抱え、その手に持った刀で威嚇しようとしているが、ジェントルに気圧されているのか攻撃に出られない。

 

「君達が今取引しようとしていたのは……個性暴走薬の『トリガー』だね? 違法薬物として知られている危険性のあるモノだ。悪いがそれはこちらで処分させて貰う。さぁ、大人しく渡し給え」

 

「う、うぅ……」

 

 車からのハイビームだけが唯一の光源の中、コツ、コツと一歩。また一歩と歩みを進めるジェントル。彼に刃物に怖じ気ついている様子は感じられない。

 男はなすすべなく戦闘不能に追い込まれた周りの仲間を見て(うめ)き声をあげたが、いきなり大声をあげたかと思えばナイフを持って突進してきた! イチかバチかで刺すつもりのようだ!

 

「う、うらあぁああぁああぁ―――!! ――ぁ?」

 

「人の忠告には耳を傾けるべきだよ」

 

 ――が、ジェントルにぶつかる直前、見えない巨大な幕に絡め取られた男は体重を乗せた一撃の分だけ後ろに吹き飛ばされ尻もちを突き。直後飛び込んだジェントルのローキックが彼の頭部を蹴り上げれば、記憶ごと吹き飛ばされてしまうのだった。

 

「やったわねジェントル! 制圧完了よ!」

 

「はっはっは、最初はどうなるかヒヤヒヤしたものだが、やってみればどうって事はないな! ではラブラバよ、この違法なお金と薬物を回収してすぐにこの場を去ろう!」

 

 カメラを回すラブラバに満面のどや顔でピースサインを送るジェントル。

 そして男とともに吹き飛ばされたケースを回収しようとした矢先、

 

「っ!? ジェントル、危ないわ!」

 

「むっ!?」

 

 闇を引き裂いて現れたペストマスクをつけた巨漢が、いきなりジェントルに殴りかかっていた!

 ジェントルはラブラバの忠告から間一髪それを避ける事が出来たが、拳による避けた場所に出来たクレーターはあまりにも大きい、当たればただでは済まなかっただろう。

 

「なぁんなんですかぁ、仕事の邪魔をしてぇ!」

 

「……君は、鉄砲玉八斎衆のリストにあったな……! 活瓶(かつかめ)力也(りきや)――! 個性は『活力吸収』だったか!」

 

 平均的な成人男性の二倍以上の身長、はちきれんばかりの筋肉で包まれた体にその巨腕、その威容の持ち主はジェントルという敵に破壊を披露せんと、再度腕を振りかぶっていた!

 無論ジェントルもただではやられない。追加で展開した空気の膜を盾代わりに攻撃を無効化どころか、そのまま反発させようとするが、

 

「はっはァ! 何か殴りにくい物があるなァ!」

 

「ぐっ!?」

 

「ジェントル!?」

 

 一瞬だけ抵抗を受けたような挙動はあったが、強力すぎる威力を前に空気の膜1枚では防ぎ切れず、そのまま膜ごと地面を殴り抜く始末。ジェントルは直ちに距離を取る。

 一撃一撃もさることながら、個性からアイツに触れる事=活力を奪われるという事は明白。一撃を貰う事も当然だが、迂闊に近寄って触れられてしまうだけでも詰みに追い込まれてしまう。それだけは避けねばならなかった。

 

「ジェントル……撤退すべきよ、幹部がいるというのなら話は別。また別の機会を狙いましょう」

 

「……」

 

 本来の計画では取引場所に先回りして、取引物だけ奪って逃げる予定だったが、そのケースを守るようにして立つ活瓶が邪魔で奪えそうにない、

 事前に話し合った通り、幹部が現れた時点で撤退するのが正しいのだろう。

 

 しかし、ジェントルは考えていた。

 『まだ私達は何も為していない』

 

 何もせずに撤退が出来るかといえば、否。断固否である。

 二人で決死の誓いを立てたのだ、第一歩目から躓くわけにはいかないと、ジェントルは決意を胸に燃やす。

 

「撤退はしない」

 

「ジェントル!」

 

「我々の覚悟は……リュニ君に見せた覚悟はそんなに安い物ではない! この一歩目から無駄にしては、我々はまた逃げだす事になる! だから、ラブラバ……頼む!」

 

「っ……!」

 

 目の前に立ち塞がる強大な敵相手に、いや真なる民衆の敵に本気で立ち向かおうとするジェントルの表情を見て、ラブラバも一瞬迷った。

 リスクを取るべきではない、慎重に物事は進めてこそ計画はなされる……だというのに、自分の心は彼の気持ちに応えるべきだと全力で脈動している!

 迷いがあった。葛藤もあった。だけど、ラブラバは結局、彼に従うことを選んでいた!

 

「――分かったわ、ジェントル。"愛しているわ"!」

 

「ありがとう。ラブラバ――私もさ」

 

 ラブラバが慕情を祈るようにジェントルに伝えれば、ジェントルの体に今までにない活力が(みなぎ)りだす。深夜の工事現場で、動機こそ不純だが真に人の役に立とうとし始めた男が、今まさに全力を出そうとしていた!

 

「あーあーあー、何見せつけてくれてんの。うろちょろしてないでさぁ……さっさとぶっ潰れてくれねえかぁ!?」

 

「申し訳ないが、我々には使命がある。ラブラバ、このシーンは今後の奴らへの戒めのため、ノーカットだ!」

 

「勿論よ、気を付けてジェントル!」

 

 再度大きく右拳を振りかぶった活瓶、相手は何かしら衝撃を吸収反発させる個性だが、こちらの力の方が強いと考え、小細工なくジェントルへ振り下ろす。

 当然ジェントル、先の威力を知っているのか余裕を以って避けるが、続けて放たれた左拳が更に振り下ろされ、またも避ける。

 

 攻撃する、避ける。攻撃する。避ける。攻撃する。避ける。

 

 その巨体から繰り出される暴風雨のような拳撃は工事現場の基礎や鉄骨を吹き飛ばし、瞬く間に周りが更地へと変わっていく。やはり反撃は厳しいのか、ラブラバが固唾を飲んで見守る中、ジェントルはその間何一つ反撃することが出来ずにただ避け続けるだけであった。

 

「どうしたぁ、大口叩いといてソレで終わりですかぁ!?」

 

「……」

 

「返答する余裕もないとか、エンターティナー失格だぁな! 死ねっ!」 

 

 そして工事現場の隅まで追い込まれたジェントルに直撃コースの拳がついに放たれる! 左右後を壁に挟まれたジェントルはついに避ける事もできずに地面すら抉る凶悪な一撃を受けてしまうのだが……!

 

「失礼した。今まで黙っていたのは……丁度いいタイミングを探っていたためさ!」

 

 攻撃を受けたのはその体ではない! 

 

 あらかじめて展開した空気の膜3枚で受け止めていた!

 ラブラバの力で普段よりも数倍に跳ね上がった個性は、破壊をもたらす男の攻撃を完全に抑え込み、そして拳の威力以上の反発力で吹き飛ばしていた!

 

「お、おぉっ!?」

 

「彼女の愛を受けた私は無敵! 悪いがここからは私の独壇場だ!」

 

 たたらを踏むどころか反発が強すぎて巨体が浮いてしまう活瓶。そんな活瓶に、ジェントルは既に追撃を始めている!

 あらかじめ発動していた個性で、倒れ込むであろう地面の弾性を跳ね上げさせており、狙ったようにその場に倒れ込んだ活瓶はとうとう完全に宙に浮かびあがる!

 

「君は非常にガタイがいい、だからこの攻撃もきっと耐えれる事だろう……!」

 

 そして空中に投げ出された活瓶を更にジェントルが先回りすれば、宙空に重ねて発動した個性がより高く高く、彼の体をまるでロケットのように打ち上げていく!

 

「う、あっ、あぁぁああぁっ!? 何しやがんだテメェェェェ――!?」

 

「空中散歩さ! そして君は、今宵一筋のお星様となる!」

 

 高く。高く。高く。高く高く高く――!

 近くの5階建てのビルよりも遥かに高く打ち上がった活瓶の上昇は一向に止まる様子がない。

 既に20mを超え、30mを超えたその高度。活瓶は藻掻こうにも、空中では何も掴めず空をただ掴むのみ! 飛ばされている本人はまるで空に落ちていくかと思う程の錯覚を覚えていた!

 

 だがその上昇の行き着く終着点は、既に用意されていた。

 

「無作法、誠にお詫びする。願わくばキミが生きている事を祈るよ――さらばだ!」

 

「お、おぉぉぉ、おぉぉぉぉぉ~~~~ッ?!?!?!?!」

 

 夜空に浮かぶ巨大な満月、そしてその満月を背にしたジェントルが新たに展開した最後の空気の膜、それは勢いを乗せて上昇する活瓶の体を見事に包み込み、そして来た時以上の速度で地面へと落としていく!

 まるで流星を思わせる速度で落下していった活瓶は、抵抗も出来ずに急速で地面に落下してゆき――衝突! おおよそ人から出たとは思えない衝撃音とクレーターを地面に作り上げていた。

 

 

「――見ていてくれたかラブラバ! これが私の、いや私達の偉業の、記念スべき第一歩だ!」

 

 

 そして、音もなく隣に着地したジェントルは、勝利の宣言をラブラバに見せつけ、ラブラバはやり遂げた男に涙を流しながら頷いたのだった。




なんだかんだで修羅場くぐったデクとやり合えるくらいにはジェントル実力あるからね。
彼は普通に強いと思う。個性も応用利くものだしね。
ラブラバがいれば実力10倍!

あと誤字報告いつも本当助かってます……!
悪連合じゃなくて敵連合やんけ! ひぃぃぃ、全部直さないと…。

感想・評価お待ちしております。

《レユニオン図鑑》
・今日は有給を頂いております。


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第13話 贈り物をしましょう!

ノヴァさんに抱きついて凍死したい人生だった。


 おはヒロアカ! 転生少女リュニちゃんだよ!

 

 ジェントルさん達が死穢八斎會に宣戦布告すると決断して早3日が経ちました。

 彼らが超速で動画を作り上げていくのを傍目で見る生活を過ごしていたのですが、何かこう、凄いですね。何が凄いって二人の動画作成への熱意ですよ。

 プランをねったり、台本用意したり、ロケ地選定したりとか、動画投稿者の本気ってこういう物なんだ……って感嘆しちゃいました。

 

 その中でもラブラバちゃんがね、凄いのよ。

 

 ジェントルさんへのアドバイスは元より、お手製のゴツそうなノートパソコンを目にも留まらぬタイピングで集めた情報精査をしたり、台本用意したり、何かプログラミングしたりと凄腕ハッカー感をまざまざと見せつけられた感じ。

 

 二人共余念という物を感じさせず始終慌ただしく作業するのをご飯食べたりごろごろしながら眺めて、改めて二人の覚悟が真に迫ってるんだなぁって思いましまた。(小並感)

 まあこれからやることはほとんど犯罪なんですけどね! 

 私も犯罪者だからもう全部許しちゃう!

 

 しかしてこの二人の熱意なら死穢八斎會へのちょっかいも上手く行くのかも……と漠然(ばくぜん)とした期待をお菓子食べながら思ったんだけど……でもやっぱり幹部の人らは真っ当に強いと思うわけなんです。

 だから戦力とか全然余裕で貸しますよ? ジェントルさん。

 

「いや、大丈夫さリュニ君。キミにはもう対価を支払って貰った。後はこちらの問題だ」

 

「そうよリュニちゃん。これは私とジェントルの使命……貴方を巻き込む訳にはいかないわ」

 

 志は凄い立派だと思うけど、真面目に心配なんだよなぁ。

 若頭の治崎の個性『オーバーホール』とか本気でチート級だし、部下の人達も大概やばい個性持ちだからなぁ。鉄砲玉……なんだっけ? まあ何かがいるし。少なくともその人達が出てきたら撤退はした方が良さそう。

 

「死穢八斎會が有名になったのは、トップが傑出しているだけでなく部下も粒ぞろいであるからこそ。あの組は……かなり武闘派だよ? 真正面からぶつかるのは得策じゃない……」

 

「……組の構成員リストはラブラバに調べて貰ったが、確かに粒ぞろいだったね。どれもこれも一級品のヴィランだ」

 

「そうね、だから私達も真っ当に立ち向かうって真似はしないつもり。あくまであの人達の取引を邪魔する事に全力を尽くすの」

 

 曰く、手に入れたメモリーカードには取引場所、取引相手のリストが入っていたため、今後どういった場所で違法な取引が行われるかは把握出来てるとの事。

 それで取引に先回りして邪魔して、物だけ奪ってしまうのが二人の目的らしい。勿論、動画を取りながらね。うん、それなら……いいのかも?

 

「無論、我々にとっても大きな賭けとはなるだろうが万全は期するつもりだ。心配ありがとうリュニ君。私達は必ずやり遂げるよ!」

 

 満面の笑みで私に答えてくれたジェントルはちょっと頼もしい感じがしたけど……ごめん、やっぱりひっそり援軍は送っておくね。何があるか分からないからさ。

 何事もなければ別に手出しはさせないからセーフ。セーフだよね。

 

 

 ――と思ってたのがつい半日前なんだけど、結論言えば増援送っといてよかったです。

 

 

 二人の活躍を現地に派遣した兵士の報告越しに見守っていた私。

 まさかの活瓶、あのでっかくて接触すると活力を奪うっていう個性の人が待っているのに驚き、それに挑戦すると言い出したジェントルに驚き、そしてそれを倒した根性に驚いた。

 

 おぉーやるぅ。口先だけじゃなくて本気で覚悟決めたんや、格好いいぜジェントル!

 ……って感心するのも束の間、すぐに兵士から異常があるとの報告が。

 

 喜びを分かち合ってた二人、なんと突如その場にへたりこんでしまい、逆にボロボロになった活瓶が代わりにむくりと起き上がったのだ。

 えぇー、結構な高所からメテオスマッシュ決めたんだよね!? なんでピンピンしてるん?! と思ったらどうやら触れずとも周りから活力を奪い取っている事が分かった。

 

 あっ、個性暴走薬(トリガー)のせいか!

 

 これは不味い! って事で待機させていた鎮圧部隊を出動。

 今回出動させたのはフロストノヴァさんという、名前からして凍らせるのが得意なお方。恐らくこの人がいれば秒で鎮圧出来るでしょうと思ってたんですが、出動を命じて20秒後くらいで本当に鎮圧完了の言葉が戻ってきた。やべぇノヴァさんつえー。こえー。

 

「みんな無事?」

 

『無事だ。活力を奪われて立つのも億劫そうだが命に別状はないだろう』

 

「……ちなみに、活瓶さんも無事?」

 

『……全身が瞬間冷凍されているから無事だ、動く気配もない』

 

 それって本当に無事なんですかねぇ……仮死状態って言わない?

 まあでもこれにて本当に鎮圧が出来たからね、後はジェントルさん達の判断に……いや、そうだ。折角だからジェントルさんに提案してみよう。電話で。

 

 あ、すみません邪魔してしまって。戦闘お疲れさまでした。

 いえいえ無事だったなら何よりですよー。

 それよりも今倒した活瓶さんとその取引材料についてご相談が……。

 

 

 § § §

 

 

「――ここで何をやっている! 止まれ!」

 

玉川(たまかわ)三茶(さんさ)――猫そのものの頭部をした、警部である塚内(つかうち)直正(なおまさ)の部下は、大胆にも警察署に乗り込んできた不審な大型トラック、その運転手に向けて拳銃をかざしていた。

 作業用トラックの後部に、シートに包まれた何か大きな物が積まれているようだが、あれは一体……?

 

「こちらに敵対の意思はない。ただ君達警察に贈り物があってね」

 

「お前……ジェントル・クリミナルか。何を狙っているか分からんが、わざわざ自首しにきたのか」

 

 玉川は彼が何者か知っていた。

 以前から警察内で要注意人物としてあげられていた軽犯罪者。

 彼らは自らの虚栄心がためにちっぽけな正義を振りかざし、自ら犯罪という道に進んだ悪人であり、そしてつい数時間前、彼らが死穢八斎會に宣戦布告まがいの動画を挙げたという事も耳に入っていた。

 

「とんでもない。私の偉業はまさに始まったばかりだ……それよりも先に荷物を下ろしていいかな?」

 

「荷物だと、お前から受け取るような荷物は……っ!?」

 

 運転席越しに投げかけられたトランクが玉川のすぐ隣に落ちる。

 乱雑に落ちたトランクは偶然にもその場で開き、中にみっしり詰められた薬が街灯の明かりに照らされきらめいた。

 

「『トリガー』、と言えば分かるかね。死穢八斎會の部下が取引をしていたものだが……拝借したはいいものの、我々には使い道がなくてね。寄付しにきたのだ」

 

「……」

 

 玉川は困惑した。モノの真偽が測りかねたのもそうだが、何よりも意図が見えないからだ。拳銃をジェントルへと構えながらも、その場を動けずに沈黙をするしかない。

 

「あとはもっと大きな贈り物でね。後ろに積んでおいた。鉄砲玉八斎衆の一人『活瓶力也』とその部下だ、冷凍しておいたからお早めに解凍願う」

 

「……おい、中を確かめろ!」

 

 玉川の声とともに同じく包囲していた部下が積み荷のフードを取り払えば、確かにそこには氷漬けの活瓶力也と、部下や取引をしようとしたチンピラが乱雑かつ氷漬けで積まれていた。

 これには玉川も驚いた。あの活瓶を捕まえたのか、一体どうやって? しかしここまで雄弁な証拠を見せられたのならば、恐らく薬の方も本当なのだろう。

 

「何が目的だ」

 

「おや、ご存知ではないのかな。我々はつい数時間前に意思表明を……」

 

「知っているが、そういう事じゃない。今まで(こす)い犯罪を繰り返していたお前が、どういう心変わりだと聞いているんだ」

 

「こす……ジェントルになんて事を言うの!」

 

 助手席にいたラブラバがビデオカメラを構えながら抗議をするのを(なだ)めながら、ジェントルは語る。

 

「心機一転したのさ。今まで紳士的ではない者に制裁を与えるといいつつ、身近で手の届きそうな相手ばかりを選んでいた。これは、あまりにも紳士的ではない振る舞いだ」

 

「……それで今度は闇社会に手を出そうと? 自殺行為だぞ」

 

「言っただろう。我々の躍進はまだ始まったばかりだと……それに、勝算の無い勝負に手を出す程、我々は馬鹿ではないさ「ジェントル!」っとぉ!?」

 

 ジェントルの会話は唐突にそのトラックのボンネットに飛んできた影によって中断されてしまう。

 結構な衝撃を以ってボンネットをフロントガラスごと破壊したその人物は、大きな兎耳をつけたヒーロー、兎山ルミ――通称『ミルコ』だった。

 彼女は犯罪者の引き渡し作業をするために偶然この警察署に寄っており、騒ぎを聞きつけてこうして推参したのだった!

 

「オイオイオイ、よりによって警察署内で立てこもりかぁ!? 度胸ある奴だなお前はぁ!」

 

「くっ、流石にこれは聞いてないな……! ラブラバ!」

 

「えぇ!」

 

「はっ、逃がすと思ってんのかよ!」

 

 踵を高く挙げて運転席ごと潰そうとしたミルコに対して個性を使用してトラックに弾性を付与。潰すどころか逆にミルコが吹き飛ばされた隙に、ラブラバとジェントルは素早くトラックから脱出、まるでその場にトランポリンがあるかのように空高く舞い上がった!

 

「では、犯罪者と違法薬、そしてお金は確かに渡した! 慎重に保管してくれたまえ!」

 

「待ちやがれテメェッ!」

 

 高らかな笑い声とともに軽快に夜の街へと消えていく二人と、それを追う一匹。

 玉川はその三人をぽかんと見送る事しか出来なかった。

 

「『勝算のない勝負に手を出す程、我々は馬鹿ではないさ』、か」

 

「! 警部」

 

 そんな彼の背後から現れたのは、上司である塚内(つかうち)直正(なおまさ)

 塚内は地面に投げ出されたトランク、その中の薬の一つを取り出すとまじまじと眺め始める。

 

「直ちに成分分析を。恐らくは偽物ではないと思うが……きな臭いな」

 

「きな臭い……それは、奴らがですか?」

 

 別の警官に薬を手渡した塚内はあぁ、と頷く。

 

「もともと逃走技術に長けていて、情報戦にも強いというのは分かっていたが、それだけだ。大した被害でもない以上本腰を入れてこなかったが……これは警戒ランクを引き上げる必要があるな」

 

「しかし……彼らは死穢八斎會を敵と見定めたと言っています。彼らは我々に貢献を――」

 

()()()()()()玉川、あの二人は決して義賊なんかじゃない、ただの犯罪者だ」

 

「……」

 

「そしてよく考えろ。チンケな犯罪を繰り返していたあの二人が急に大物を狙い始めた意図を。それもだ、その相手は今まさに世間を騒がす死穢八斎會だぞ」

 

「……!」

 

 玉川は目が覚める思いだった。

 系列店の連続襲撃事件、つい先日のカーチェイス事件、そして今回――その全てに死穢八斎會が関わっていた。それが意味を成すことは一つだ。

 

「もしかして、裏で何者かが手を引いている可能性が……?」

 

「あの二人組が今までの騒ぎを起こしているという可能性もなくはないが、それよりも俺はあの二人が死穢八斎會を邪魔だと考えた組織によって体の良い駒に使われている、と考えたほうが自然に思える」

 

「……」

 

「全てはこれからだぞ玉川。騒ぎは更に拡大する……くれぐれも気を緩めるな」

 

 表情をより一層険しくさせる塚内に、玉川は何か不安めいた未来を覚えずに居られなかった。




ミルコさんも好きだよ!!
感想・評価お待ちしております。


《レユニオン図鑑》
・フロストノヴァ:レユニオンの幹部の一人。
 圧倒的な能力で真っ向から相手をねじ伏せる、レユニオン屈指の術師。
 少数精鋭部隊、通称「スノーデビル」を率いる全身真っ白で見た目から分かる強キャラ。
 その名の如く、氷のように冷たい人。


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第14話 外出自粛しましょう!

お褒めの言葉も批判もありがたい限りです!
飽きない限りは頑張ります!


 おはヒロアカ。転生少女リュニちゃんですぅー。

 

 前回では死穢八斎會への宣戦布告動画を投稿した二人ですが、やはりその動画の反響は大きい物でした。

 今まで(かす)りもしなかったのに、投稿直後いきなりピックアップランキング10位以内を飾るところからスタート。

 最初は売名行為に過ぎないと勘ぐってか「口先だけだろw」とか「やれるものならやってみろよバーカ」なんて否定的意見が殺到して炎上していたのだけれども、後日実際に制裁するシーンと警察にブツを渡すシーンが収められた動画が投稿され、それが地方紙でも小さく取り沙汰されると一気に閲覧者数が伸びた。

 

 当然死穢八斎會へは警察からの追求が手厳しく行われるようになり、ネット上ではジェントルVS死穢八斎會の話題で騒然、今までと打って変わって彼らを賛同する声もちらほらと上がり始めた。

 

「ジェントルぅぅぅ~~~! 見て見て見てっ、1位よ! 週間ランキング1位よ!」

 

「おぉぉぉおぉぉ~~~ッ!! ラブラバよ、常世の春が来たぞっ!!」

 

 二人は勿論大盛りあがり。抱きつきあってくるくる回ったりして部屋中で喜びを表現しあっている。

 長く苦しい下積み時代があって、かねてより目指していた時の人になれたのだからその喜びもひとしおなんだろう。私も素直に彼らを祝福した。

 

「このまま畳み掛けるぞラブラバよ! 悪の根を止めきらねば、それは偉業とは言えないのだから!」

 

「勿論よジェントル! 私、私頑張るわっ」

 

 二人のやる気も鰻登りだ。いつも以上に精力的に次のプランを練る二人は立派だとは思うけど……正直私としては不安しか感じない。

 いや、死穢八斎會の情報あげると言った手前言いづらいんだけど、あれはいずれ敵連合に潰されるだろうからいいかなっていう意味であって、まだ具体的な敵連合との接触もない状態だとヘイトが二人に対して全力で降り掛かるのでは……っていう心配がある。

 

 あれ、そう言えば今って時系列で言うとどの位置なんだろう。

 ニュースは毎日ごろごろしながら欠かさず見てるけど雄英への林間学校襲撃事件とかまだ行われてないよね? ……ちょっと調べて見て貰おう。

 

「ねえねえラブラバさん、あの……敵連合についても調べて貰ってもいいですか?」

 

「敵連合……? あぁ、あの最近台頭してきたっていう。でもどうしてそんな事を?」

 

「ちょっとだけ気になって……彼らが今何をしているかなって」

 

「うぅん……そうねリュニちゃんが言うなら」

 

 ご多忙の中大変申し訳無いけど無理言ってラブラバちゃんに調べて貰ったんですが、衝撃の事実が発覚致しました。

 なんと、なんと、死柄木さんが直々に死穢八斎會本部に訪問していたという証拠写真が警察データベースから分かったのです。

 うえ、これマジ!? もう接触してんの!? 林間学校襲撃、AFO(オール・フォー・ワン)OFA(ワン・フォー・オール)との対決すっ飛ばして死穢八斎會編突入ですか!? AFOまだ捕まってないよね!?

 

「ど、どうして死柄木が……?」

 

「これは……まさか戦力増強を狙っているのかしら。動画の件で弱体化している筈だから……でもよりによって何で死柄木の方から尋ねているのかしら」

 

「まだ規模的には死穢八斎會の方が上だからかな……」

 

 彼らが有名になったのって正直林間学校とAFOの登場あってこそだからね。

 雄英襲撃や保須市で脳無出しただけじゃあまだまだ知名度が足りないんだろう。

 でも、でもよりによってどうして敵連合を呼びつけたんだろ? 裏稼業の中じゃ一番扱いづらそうだけど……するとだ、心配になるのは二人の事ですよ。

 

「こうなると、今ジェントルさんとラブラバさんはかなり危ない立ち位置になるんじゃ……」

 

「う……」

 

「敵連合と死穢八斎會両方に狙われるかもだから、今後は取引現場にもっと強い人が待ち構えてるかもよ……?」

 

「……」

 

「あの、だから今後は実際に取引現場に凸する時は私の個性前提で考えるか……あるいは凸行為を自粛して、警察に情報横流すだけにしておくとか……」

 

「ちょ、ちょっと、ジェントルと相談してくるわね!」

 

 うん。そうした方がいいだろうね。

 勿論二人が凄腕の動画投稿者だと言うのは分かってるけど、(ほころ)びっていうのはいついかなる時でも起こりうるしさ。どの口がっていうのはさておいてね!

 ともかく二人のためにも、そして安心生活を続けたい私の為にもここは我慢して貰おう。そうしよう。

 

 ……ただなぁージェントルさんの決意は硬そうだったから、地味に説得大変かな。いざとなったら無理やりでも納得してもらうように、

 

「うむ。そ、そういう事なら是非もない、しばらく大人しくしよう」

 

 そんな心配全然いらなかった!

 聞き分けのいいジェントルさんマジで素敵です。

 

 リスクに脚を突っ込みまくっている現状、流石にこれ以上のリスクは抱えられないと判断したようだ。

 動画投稿は続けるが、今まで得てきた情報を横流しにする感じで落ち着いてくれました。いえい。

 

「正直、私の活躍を動きで見せられないのは非常に残念だがね……」

 

「いいえ、懸命な判断よジェントル! 安全には代えられないし、そもそもリュニちゃんを匿っているもの、私達がやられたら誰もリュニちゃんを守れなくなってしまうわ」

 

「うむ……その通りだねラブラバ! 時代は情報社会! 叡智(えいち)を用いて彼らを追い詰めようではないか!」

 

「キャー勿論よジェントル! 情報戦するジェントルも格好いいわ!」

 

 意図を汲んでくれてマジ感謝。

 私は自衛出来るけど、意識ない時は無防備だかんね、二人がこうして安全策取ってくれて私本当嬉しい。

 まあ情報戦に徹するとなると私は食っちゃ寝程度しか出来ない穀潰しモードに突入するけど、あの、お皿洗いとか洗濯とかも手伝うから言いつけてね! 私は良い幼女! 個性使ってサボったりなんてしないぞ! 心証悪くなるしね!

 

 

 

 § § §

 

 

 

 そしてそれからあっという間に一週間が経った。

 

 先の話し合い通り二人は派手な行動は控え、警察相手に直に電話して、死穢八斎會の情報を横流しする動画を投稿。

 派手さはないものの、後日実際に流した情報を元に警察やヒーローによる検挙が行われ、それがニュースになるとネットでまた騒ぎとなり、ジェントルの知名度は更に上昇した。

 

 今までのような規模の小さな犯罪を投稿するのではなく、法に(のっと)ってこそいないが、真っ当に悪い集団に対峙しようとする姿勢は少なくない評価を受け、否定的な意見と肯定的な意見が入り乱れ、彼らは一躍(ひとやく)時の人となった。

 

 一時は全国ニュース番組でも取り上げられており、二人は狂喜乱舞してい程だったのだが――喜んでばかり居られる訳にもいかなかった。

 

「またこれ……!? うぅ、ハッキングが激しくなっているわ」

 

「むぅぅ……流石に悪目立ちしすぎたか」

 

 どうやら敵は何としても二人の居場所を探ろうと情報戦に強い人員でこちらを探ったり、調査員を派遣したりして周りに目を光らせ始めたようです。しかも死穢八斎會だけじゃなくて、警察側やヒーローからもそんな形跡があったとか……。

 死穢八斎會は分かるけど、警察やヒーローはなんでこっちに攻撃してくるんですかねぇ……。

 普通、こう情報提供したらこっそりと感謝してここだけ情報を教えてくれたりするのが義理なのでは!

 こちとら義賊やぞ、黙って情報受け取って感謝して欲しいんですけど! ぷんぷん!

 

 ただ、こうなってしまうと外出が危険を帯びてくる。

 絶対的に安全であるという確証が取れない限りは迂闊に買い物すら出来ず、我々は家に閉じこもる日々が続いた。

 仕方がなく買い出しが必要になった時には事前に私の個性でドローンや、遠距離のエキスパートに怪しい人物がいないか監視をお願いしてからするようになりました。

 

 遠距離のエキスパートが誰かって?

 ふふふ、それはもうレユニオンきっての超スナイパーファウストさんです!

 

 周囲に溶け込むのが上手いだけでなく、超超長距離射撃の使い手であり、一定時間無敵になれるし、更に自動射撃するバリスタを召喚可能であるというとんでもチートスナイパーさんですよ!

 という事でファウストさん! 怪しい人居たら報告お願いします!

 

「……分かった。射抜いておく」

 

 ノーキル! ノーキルでオネシャス!!

 

「……」

 

 

 

 ――そうしてこうしてひっそりと、細々とした暮らしを続ける私達。

 

 ――何だかんだで身バレもせず、二人の動画投稿業の傍ら、みんなでご飯を食べたり。遊んだり。

 

 ――感染の事もさしおいて、一緒にお風呂に入ろうって言ってくれたり、一緒に寝ようって言ってくれるラブラバさんにうへへへ、って甘えたり。

 

 ――やつらの悪行を示し続けて警察とヒーローで死穢八斎會が潰してくれる日を待ちながら、平和的に三人の生活を続けていた。

 

 ――でもあくる日のことだ。

 

 ――ポツリと私が呟いてしまった、たった一言。

 

 ――それで平和な日々は、悲しくも終わりを告げてしまったのだった。

 

 

「……そう言えば壊理(えり)ちゃんはまだ死穢八斎會に……あっ」

 

「えり、ちゃん……? まさかリュニちゃんのお友達が人身売買の対象に……!?」

 

 ふわああぁぁぁー、しまったぁぁぁいや待って食いつかないでぇぇー!?

 今首突っ込むのは危ないんだって、ね!? お願いステイしてー!

 

 

 




感想・評価お待ちしております。


《レユニオン図鑑》
・ファウスト:
 レユニオンの狙撃歩兵にして幹部。
 通常はメフィストと行動を共にする。
 超遠距離の物理攻撃で味方に大ダメージを与える。
 特別な方法で召喚したバリスタで奇襲や高威力の攻撃を行う。
 無口なイケメン君。


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第15話 口先には注意しましょう!

「……そう言えばエリちゃんはまだ死穢八斎會に……あっ」

 

 私とジェントルとリュニちゃんの三人で、私達が作った動画を見て振り返っている途中。ふと、リュニちゃんの呟きが漏れた。

 

 エリちゃんという聞き慣れない名前。

 そして続いた『死穢八斎會に』という言葉。

 更に更に本人のしまった、という表情を見て、私は疑念を抱く。

 

 もしかして……リュニちゃんのお友達は、まだ死穢八斎會に囚われて……!?

 

「リュニ君……その話、何故黙っていた」

 

「う、えっと……あの……………その今のは、何でも……」

 

 リュニちゃんは(あわ)てていた。

 言葉にならないうめき声をあげながら顔を左右に振っている。

 恐らくだが、彼女の中には拭いきれぬ罪悪感があったのだろう。

 人身売買された中で、自分だけ助かってしまったという安堵感。そして強大過ぎる組織への恐怖心から、きっと見ないように心の中で(ふた)をし続けていたのだ。

 

「リュニちゃん……!」

 

 彼女の心を思うと私は居た(たま)れなくなって……つい抱きしめてしまう。

 辛かっただろう。苦しかっただろう。

 きっと彼女は私達にもお願いしようとした筈だ。

 それでもずっと我慢してこらえていたのは……その余りにも強大過ぎる組織力に私達が太刀打ち出来ない事を見越してなのだろう。いらぬ心配をかけぬように、彼女は秘め続けていたのだ!

 

 余計な気苦労をさせてしまった……!

 それもこれも、私達が弱いばかりに……!

 

「……ジェントル。私は」

 

「みなまで言うな、ラブラバ。こんな話を聞いて私とて黙っていられないさ」

 

「ふ、二人共っ、でも多分もしかしたらえ、エリちゃんだってもう助かってるかもだから……! ね? わ、私は全然平気だから……っ」

 

「リュニちゃん」

「リュニ君」

 

「……」

 

 必死に私らに何でも無いと言い聞かせようとするリュニちゃんを二人で見つめると、彼女の双眸(そうぼう)がじわりと滲み出す。

 大丈夫よ、もう、何も言わなくてもいい。

 絶対に。どんな事があっても友達まで助け出して見せるから……! と安心させるように強く抱きしめると、やがて胸の中で嗚咽(おえつ)が漏れ出し始めていた。

 

「……前以上に綿密な計画を立てないとだな」

 

「えぇジェントル。一世一代の大勝負になるわねきっと……」

 

「だが、やり遂げれば我々は真に英雄と呼ばれるだろうさ。何が何でも成し遂げるぞ、リュニ君のためにも、エリちゃんとやらの為にも……!」

 

 

 

 § § §

 

 

 

 おはヒロアカー! 転生少女ー! リュニちゃんですー!

 本日はー! 手ひどくー! やらかしましたのでー! ご報告させていただきますぅー!

 

 いや、切っ掛けは二人の死穢八斎會弄り動画を見てた時なんですよ。

 死穢八斎會弱体化に引き続き、起きる筈の林間学校襲撃事件が起こらないといった原作ブレイクが進んでいる中で、個性抹消薬の材料として扱われていた壊理ちゃんってどうなるんだろうと思ってたんですよ。

 その心配がまさか口に出てしまっていたとは思ってませんでした。(震え声)

 

「えり、ちゃん……? まさかリュニちゃんのお友達が人身売買の対象に……!?」

 

 焦りました。マジ焦りました。

 いや違うんですよまずその子はお友達なんかじゃありませんし人身売買というか組の財源になる悲劇のヒロインっていうか……! 出所不明の情報源がぽろりと出ただけでですね!

 だから本当に何でも無いんですよー! といった風に全力でぶんぶんと顔を振ってたんですが……駄目でした。

 

「リュニ君……その話、何故黙っていた」

 

 黙っていたも何も忘れていたんです! これは本気で!

 死穢八斎會ってそう言えばあの子居たなー的な独り言だったんです! 他意はないよ!?

 と、ジェントルもラブラバもどっちも問い詰めてきたので、何と答えたものかと本気で焦ってたんですが、すると唐突に私を包む暖かな何かが。

 

「リュニちゃん……!」

 

 あれー、私何で一転してラブラバちゃんに抱きしめられて……。

 いや嬉しいんですけど、一体どういう事……?

 何かすごい決意籠もった目とかしてらっしゃりますが、まさか。まさか違いますよね? あの、ちょっと?

 

「……ジェントル。私は」

 

「みなまで言うな、ラブラバ。こんな話を聞いて私とて黙っていられないさ」

 

 あーあーヤバイヤバイヤバイ! 死穢八斎會突撃フラグたってます!

 そのフラグいらないって、もうちょっと待とう、ね!?

 そうしたらきっとサーとかルミオとかがぷちっと潰して救出してくれるだろうから!

 

「リュニちゃん」

「リュニ君」

 

 わ、私のためを思うならそこは放置って感じで、駄目?

 いや、えりちゃんは可哀想だと思うけど他所の子だしそんな、余計なリスクとかは、ほ、ほらぁ……うぅぅぅあぁぁぁー~~~……! 何その二人の決意固そうな目~~……! 駄目だこれ、(ひるがえ)らない感じがするぅぅぅ……! 私の、安全な生活……安全な生活があぁぁ……!

 

「……前以上に綿密な計画を立てないとだな」

 

「えぇジェントル。一世一代の大勝負になるわねきっと……」

 

「だが、やり遂げれば我々は真に英雄と呼ばれるだろうさ。何が何でも成し遂げるぞ、リュニ君のためにも、エリちゃんとやらの為にも……!」

 

 わかったよもぉぉぉぉ~~好きにしろよぉぉぉ~~~!

 こうなったらもう総戦力でぶっ潰してやるよ畜生~~~~っ!

 

 

 

 ……はい、という事で大変取り乱しましたが、お二人のお気持ちが悪い方向に進んだ上、説得も駄目そうだったのでもう開き直って死穢八斎會ぶっ潰す方向で行ってやろうという感じです。

 

「こうなったら私も全力で個性使う……文句は言わせないから」

 

「分かったわリュニちゃん、貴方の気持ちも分かるわ。一緒に頑張りましょう」

 

 言ったな? 

 二人の活躍がなくなるくらいにやってやるから覚悟しとけよ……。

 

 とりま、まずは今現在の壊理ちゃんがどこにいるかを探る所からですね。

 原作では本拠地にいたそうですが、恐らく現在も本拠地にいる可能性が大です。

 押収したブツの中には個性を消す薬もあったので、現在も壊理ちゃん材料にせっせとお薬量産してるのは間違いないので、何事もなければ本拠地にいるのではないでしょうか。

 

「多分ね、壊理ちゃんは大きなお屋敷に居ると思う……私も昔そこにいて『あの子は特別だって』組長さんが言ってたのを聞いたの。専用のお部屋があるんだって」

 

「大きなお屋敷……本部だろうな。あの大屋敷に匿われてるのか」

 

「あれだけ広大だと探すのも大変そうね……」

 

 ぶっちゃけ中も迷路みたいになるからねー。

 ガチで探すの大変かもだよ。

 

 次に考えるのは戦力です。

 これは実際あんまり心配していません。

 私の個性があれば小隊どころか師団レベルでの兵隊を用意できますし。とてとての(とてもとても強い)幹部さんもいます。ぶっちゃけ如何用にも料理出来ます。ただ問題になるのは不測の事態が発生した場合です。

 

 遠隔自律制御出来る私の個性、私がこの拠点から離れず、個性だけ本部に突入させるのが一番望ましい運用になるのですが、もし万が一派遣させた個性がやられた場合、またこの拠点から兵隊を再派遣させる必要があります。そう、遠隔召喚が出来ないんですよねー。

 

 あらかじめ多めに派遣すればいいのでは? と思いますが、本部長のミミックさんが壁を操って分断させる事に長けている以上、大多数で押し入っても分断されたりで無駄死にしたりロクに活躍出来ない可能性が大。それなら幹部連中と後はサルカズ傭兵部隊とか少数精鋭を派遣させるのが効率的かなと。

 正直彼らを派遣すれば制圧出来なくはないかなって感じなんですが、若頭のなー、オーバーホールっていうチート個性があるとなー、接触=死だからなー。

 万が一を考えて現地で即リスポン出来るように、私も現場に(おもむ)いた方がより効率的だし確実……その代わり危険度は大なんだけどね!

 

「……もしも突入する時は私の個性を盾とか囮代わりにしてね? あと、えっと、出来るなら私も本拠地に一緒に」

 

「「駄目」よ」

 

「あうぅ……」

 

 ですよねー。いや、正しいと思うよ。

 思うんだけど現地に居たほうが色々とやりやすいと思うんですよ!

 コレは追々二人を説得するとしよう。

 

 あと一番気になってるのは私の感染症だ。

 今まで考えないように考えないようにって思ってたんだけど、毎度お風呂場で確認するに、やっぱり最初に比べておへその鉱石が広がって……広がって、ないんだよなぁ……。ちっちゃなほくろ程度の大きさから変わってない。

 予想以上に症状が広がるのが遅いと思うべきか、実は内部で感染が広がってると見るべきか……なんでさえ、今回の戦闘で精鋭を多数召喚すると一気に感染広がる可能性があるのかも。

 何とか精鋭部隊は出来る限り少数にしたいね。何かいい方法ないかな……。

 

 で、最後に考えるのが、もしも死穢八斎會の本部に壊理ちゃんが居るとした場合。あのからくりめいた複雑MAP、如何にして攻略するのかって所だ。

 これは原作だとサーが直接未来を見て何か探ったとか言ってたけど、こっちにサーなんていない。

 そうなると手探りで見つけるしかないという辛い道のりが待ってる。最悪たどり着けないかもしれない。

 

「……あとね。屋敷の中はなんだか迷路みたいだった。変な所に扉があったり、階段があったり」

 

「ますます怪しいな……やはりそれだけ非合法的な事をしているという訳か」

 

「屋敷の見取り図があるか、少し探って見るわね」

 

 多分探ってもそうそう見つからない気がするけど、うーんどうするべきか……あ、そうか。こういう時こそクラウンスレイヤーさんだ!

 本部に侵入してもらって何とか道を調査して貰おう!

 ついでに壊理ちゃんが居たら確保して貰えれば問題なくね? 壊理ちゃんは助かる。私達は本部に凸る必要がなくなる。ハッピーハッピーやんけ!

 

「あの、私の個性でも探るのに長けている子がいるから、それで探ってみるね」

 

「おぉ、それは助かるな!」

 

 という訳で、私達は壊理ちゃん救出作戦と死穢八斎會ぶっ潰し作戦をもくもくと考え始めるのでした。

 目指せ安寧(あんねい)。目指せ平和な世界! 早く監視なくだらだらーっと過ごせる日々が来ますように!




個性ですが、完全にデメリットがない訳ではありません。(ネタバレ)

感想・評価お待ちしております。

《レユニオン図鑑》
・オヤスミマンです。


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第16話 侵入しましょう!

いつも感想ありがとうございます!大変励みになります…!
感想返しは全部出来ていなくて申し訳ないですが、
全ての感想に目を通させていただいてます!

2020/04/29
トゥワイスの個性『2倍』で複製した人の記憶が
複製元にまで引き継がれていたので一部文章を改定。


 住宅街の一角を大きく占領する巨大建築物。

 それは入り口こそ和風然とした門になっているものの、敷地内はまるで異なった洋風建築であり、ちぐはぐさがどこか物々しさを醸し出している。

 

 そう、この建築物こそ今まさに世間を騒がせている死穢八斎會の本部にほかならない。

 

 日夜報道されるニュースで警察から(にら)まれ、そしてその実態から(いぶか)しまれたその家に、今や住民らは"ほとんど"から"滅多に"近寄らなくなり、本部から誰かが現れると一目散に逃げていくくらいには恐れられていた。

 

 そして、そのお屋敷の内部。

 若頭の徹底主義からまるで迷路のように入り組んだ屋敷の中の一角。

 そこには協力体制となり、一時的に組に加入する事になった敵連合の一員が待機していた。

 

「……だぁぁ、あのさ。あのさ、ここでいつまでだらだらしてりゃいい訳?」

 

「マス君。もうちょっと辛抱しなさいな、とは言え暇なのは間違いないのだけど」

 

「俺はもうすぐ出番が来ると思ってるね! 初陣がこんなちんけな所だって思うと寂しいけどな! 毛ほども寂しくねえよ!」

 

「……」

 

 派遣された敵連合のメンバーは4人。

 

 大型ソファをまるまる一つ占領する快楽殺人鬼の『マスキュラー』。

 壁に背をもたれかけさせたサングラスでオネエ言葉の『マグネ』。

 回転椅子に座りながら暇そうに回転させ続ける全身赤黒タイツの『トゥワイス』。

 そして手頃な机に座り込んでぼーっと宙を眺めるのは、腕や足、そして片目を覆う包帯が痛々しい金髪JK、『トガヒミコ』であった。

 

 しかして折り紙つきの実力を持った彼らに下された最初の命は『命令あるまで屋敷内で待機』という、暴れん坊の彼らにはいささかどころか、かなり退屈な内容であり、全員が暇を持て余していたのだった。

 

「ここに来てやったことつったらさぁ、お茶飲んでだらってしてるだけじゃねえか。そう言うのは俺得意じゃねえんだよなぁ、クソつまんねえ。あー殴りてえ」

 

「喧嘩っぱやい奴だよお前! 乱波(らっぱ)とか言う喧嘩馬鹿とやりあってきたらどうだ!? いや、やめとけよ面倒だから!」

 

「おぉ、そいつぁいいな! あいつは中々やれそうだったからな。よし喧嘩売ってきて――」

 

「やめなさいな、怒られるわよ。……でも退屈なのは事実なのよね。弔君も思い切りはいいけれども、こんな協力なんてしちゃって本当に意味あるのかしら……?」

 

 彼らがこうして死穢八斎會に臨時で属している理由は治崎と死柄木、両トップによる話し合いの結果であった。

 一時期は八斎會側が一方的に敵連合を怪しみ、かつ実際に報復行為に至っていたのだが、今回のジェントル・クリミナルによる動画での宣戦布告から完全に誤解であるという事が判明。八斎會側は特にごねる事もなく敵連合への全面的な謝意を表明した。

 加えて例の動画によって連日の警察及びヒーローからの突き上げや関連施設への攻撃激しく、弱りきった彼らは、敵連合へと協力を要請していたのだった。

 

 敵連合も一方的に被害を受けていた手前、素直にハイと(うなず)けはしなかったものの、このニ組織をかき回した謎の集団に腹立たしさを覚えていた死柄木は条件付きで了承。一時的に八斎會と敵連合は共闘関係に相成ったのだった。

 

「……」

 

「おいおい、オーイ。トガちゃん?」

 

「……んぅ? どうしたんですか(ジン)君」

 

「いや、なんつーか。()()()()()()()()()()()()、もうちょっと休んでてもいいんじゃねえか!?」

 

「あはは、大丈夫ですよ。ちょっとぼーっとしてました」

 

「でもトゥワイスの言う通りよ? トガちゃん、貴方一応動けるようになっただけなのに……別にやられちゃったからって思いつめちゃ駄目よ、あれは貴方の責任なんかじゃないわ。弔君は無理矢理メンバーにねじこんだけど、もしも無理だったら」

 

 マグネが心底心配そうにトガに語りかけるが、トガはううんと首を振る。

 

「大丈夫です。それに私も望む所なので平気です、ちゃんと出来るJKである事を今回ので弔君に見せつけつるつもりですから」

 

「ハッ、お前をボッコボコにした奴か。そいつは殴りがいがある奴なのかァ?」

 

「少なくともマス君だと当てる事も難しいんじゃないでしょうか」

 

「あ? オイオイオイ、口の聞き方に気をつけろクソガキ。俺をお前見てぇな雑魚と一緒にすんじゃねえぞ。一方的にノされるなんて恥晒しな事しやがってよぉ……」

 

「……筋肉だけじゃ、あの人はなんともなりませんよ? 気付いたら殺されてるのがオチだと思いますが」

 

「マスキュラー! トガちゃん!」

 

 常に誰かをぶちのめしたくて仕方がないマスキュラーと、一瞬で機嫌の悪くなったトガヒミコの間に剣呑な雰囲気が立ち込めるが、マグネの取りなしにより何とか霧散する。

 

 部屋の空気が更に悪くなったところで、トガは空気を吸ってくると待機部屋を後にし、屋敷内を散策し始める。

 ……とは言え、徹底主義の死穢八斎會である。散策と言えど移動出来るルートは限定されているのだが。

 

「……はぁ」

 

 ひたひたと当てもなく屋敷内を歩くトガから、無意識に溜息が漏れた。

 罵倒されたからか、それとも自らの実力不足を嘆いているのか、または本格デビュー前にやられてしまった無様な自分を恥じらっているのか。

 

 正解はどれも違う。

 

 彼女――トガは()()()()()いた。

 

 あの二人組(リュニとクラスレ)に出会い、やられてからずっと、二人組の事を考え続けていた。

 治療中も。

 組織としての活動中も。

 そしてこの死穢八斎會に派遣されてからもずっとずっと。

 

 あの礼儀正しい小さな娘も。容赦なく私をボコボコにしたあの娘も。その両方ともボロボロにしたくて、血だらけにしたくて、そして血が吸いたくて、仕方がなかった。

 本音を言えば治ったそばからあの二人の下に行きたかった。行って、この胸の内で(くすぶ)る衝動を解放したかった。だけど折角敵連合の仲間入りしたのに真っ先にやられてしまった手前、体裁を整えるため仕方なく弔に従う事を選んでいた。

 

(……あの娘達に会えないのはとっても残念です……早く、早くこのお仕事も終わらないかなぁ)

 

 トガは思考に(ふけ)りながら手慰みにナイフをぽんぽん、と軽妙にジャグリングし、フローリングされた通路をふらふらと歩いてゆくのだが――、

 

「あれ……?」

 

 ――その通路の先で、誰かが倒れているのを見つけてしまう。

 

「あれれ、どうしたんですかー。おねむですかー?」

 

 うつ伏せで倒れたその誰かは、恐らく組員なのだろう。

 しかして問いかけに答えはない事から殺されている可能性が高いと判断したトガはその手のナイフを展開する。

 明かりを反射して鈍色にきらめくナイフを片手に周りを調べれば、通路の先には丁度半開きの扉が見えており、その中からは明かりが漏れているようだが……呼びかけをしても返答はない、となるともう。答えは一つだ。

 

「――♪」

 

 トガは猛然と扉へとダッシュしていた。

 ナイフを持って一気に部屋の中に飛び込み、そして部屋に居るであろう不逞(ふてい)の輩を切り刻もうと考えた。

 丁度悶々としていたのだ。どんな侵入者か知らないけれど、()()()()して()()()()して暇潰しに遊んじゃおう――なんて考えた所で、

 

「はれ?」

 

 その部屋の中、恐らく組員の詰め所と思われる場所で自身以外が全員倒れ込んでるのを見て、素っ頓狂な声を上げざるを得なかった。

 何度見渡してもそこには襲撃者らしき影はなく、ただ沈黙が部屋を満たしているだけ。

 

 まさか……既に襲撃は終わった後? 

 もうここに侵入者はいないのか?

 

 そう考えた瞬間、トガの口から大きな大きなため息が出た。

 全身を貫く脱力感。興ざめしたトガはだらんと両腕を下げ、つまらないとばかりに倒れている組員を調べようとして、

 

「あはッ、やっぱりっ!」

 

「ッ!」

 

 突如背後から振り下ろされた攻撃を後ろに回した腕で迎撃! そして猫のようにその場を跳躍したトガは、下手人を確認し――更にその表情を大きく歪ませた。

 

「クラスレちゃんっ!? クラスレちゃんじゃないですかっ、覚えてますかトガですっ、こんなところで会えるなんて本当に素敵ですっ!」

 

「……」

 

 下手人はなんと、恋焦がれていた内の一人。クラウンスレイヤーであった。

 トガの鬱屈した感情は彼女と出会えた瞬間に全て喜びに塗りつぶされ、爛々と目を輝かせて再開を喜んでいる。

 当然ながらお相手はそんな彼女の狂気とも言える表情を見て不快そうに眉を(しか)めているが、そんな事お構いなしにトガは話しかけ続ける。

 

「こんな所に忍び込んでるなんて思ってもいませんでした、私も最初は何でこんな所に来なきゃ、って思ってたんですけど今では弔君に感謝してます、クラスレちゃんに会えたんですから!」

 

「……」

 

「今日はどういった用件でここに侵入しに来たんですか? あれ、そう言えばリュニちゃんはどこに居るんですか? お一人なんですか? もしもリュニちゃんが居るのなら私は是非とも会ってみたいのですが」

 

「……」

 

「だんまりは悲しいです! この前は全然話せなかったので今日こそ一杯話し合っ」

 

 気付けば、トガはその喉を切り裂かれていた。

 瞬きした瞬間に間合いを0距離まで詰め、抵抗する隙も与えず致命傷を与える、まさしく凄腕の暗殺術。切られたという感触すら与えなかった彼女は、直後に驚愕に目を見開くトガの心臓を細身のナイフで貫いていた。

 

 容赦のない研ぎ澄まされた必死の攻撃。

 如何に個性のある悪人であろうともこの攻撃には倒れ込むしかない――筈だった。

 

「あ、ごぼ……やっばりクラスレちゃんっで、強い゛んです、ね……♫」

 

「……!?」

 

 クラウンスレイヤーは今度こそ驚いた。

 将来的に絶対に障害になるであろうこの殺人鬼を命に背いてでも殺した、筈だった。

 だというのに今しがた殺した相手はまるで泥で出来ていたかのようにその輪郭が崩れ、瞬く間に粘性のある液体として床に広がってしまうだけだったのだから。

 

 殺害に失敗、そして存在がバレてしまった事を悟ったクラウンスレイヤーはすぐ様脱出を決意。今まで調査していた屋敷で得た資料を片手に、その場を音もなく去るのだった。

 

 

 

 § § §

 

 

 

「……あぁ? オイオイ! 不味い事になってるぞ、別に不味くもねえけどさ!」

 

「あらトゥワイス一体どうしたっていうのよ? 血相変えちゃって」

 

「どうしたもこうしたもねえよ、複製した筈のトガちゃんが消えちまってんだ! いや消えてねえよ!」

 

 そう、クラウンスレイヤーにやられたのは複製体であった。

 不幸中の幸いか、トガだけは大怪我をしてても何としてでも暴れたいという彼女の願いを叶えるために複製体での参戦を果たしていたのだ。

 

「あぁん? 複製が消えた? 素体が病弱過ぎてお陀仏しちまったのかァ?」

 

「トガちゃんの複製が消えた――貴方が消したんじゃなくて?」

 

「確かに任意で消すことぐらいはできるが、今ここで消したりするような真似はしねえよ! つまりこういう事だ!」

 

 マグネは薄々事の真相に勘付いてはいたものの、あえてトゥワイスの言葉を待つ。

 そしてその言葉はやはり彼が思い浮かんだ通りの物であった。

 

 

「――侵入者だろ! この組にもうヒーローかなにかが忍び込んでんだよ!」

 

 

 ほどなくして彼らは荒らされた部屋と、倒れた組員を発見。

 敵連合の報告から死穢八斎會本邸はまるで火がついたかのように大騒ぎになるのであった。

 




なんと林間学校がないのでトガちゃんがデク君に恋してないという事態が…!
コレは由々しき事態だぞ…!原作がもう音を立てて壊れ続けていく…!

感想・評価お待ちしております。


《レユニオン図鑑》
・_(:3」∠)_


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第17話 作戦を練りましょう!

妄想を形にするというのは面倒ですが、
同時に面白い物でもありますね。

こんな作者の妄想をただ形にしただけの作品ではありますが、今後もお付き合い願えればと思います。


 おはヒロアカ! 転生少女リュニちゃんだよ!

 

 現在は死穢八斎會殲滅に向けて作戦準備実施中!

 ジェントルやラブラバと私の3人で今日もあーでもない、こーでもないと議論を続けている感じです。

 今は夕飯の真っ最中ですが、それでも作戦の話で盛り上がってます。(主に食事担当は背丈的な意味でもジェントルさんなんですが、作ってくれるご飯が美味しくて、毎日幸せな思いしてます。ありがたや…)

 

 とりあえず話し合いの結果屋敷に乗り込んで主に私の個性で暴れ回るのは確定になりました。

 レユニオンが暴れ回って幹部および治崎を倒す。

 隙を狙ってジェントルとラブラバが壊理ちゃんを回収。

 そんな雑な作戦です。でも私の個性なら何とか出来そうな気がしてます!

 

 え、レユニオンメンツの選定? 一応は出来てますよ。

 

 まず爆発させるの大好きなWさん。

 回復と遠距離は任せろメフィストさん。

 近接なら敵なし!ヴェンデッタさん。

 拘束担当サルカズ術師さん。

 あとはお馴染み偵察暗殺なんでもござれクラウンスレイヤーさん。

 この5名で行こうかと思います。

 

 選定理由として、まず大型キャラ(ボブおじさんとか重装隊長)のような足の遅いキャラを選ばなかったのは対オーバーホール対策です。触ったら死とかいうクソ個性のせいで鈍重キャラが選べない!

 加えて大量の人員を津波のように押し寄せさせても、壁を操るミミックさんが居ては全く効果がありません。故にミミック対策に壁破壊出来る人が必須かつ人数は少数精鋭が望ましくなりますね。

 Wさんが丁度爆破技術持ってらっしゃるので、Wさんは壁の破壊をメインで戦闘は二の次という感じでお願いする形です。ただしその爆発攻撃も源石爆弾とか言う如何にもな感染症撒き散らしそうな武器でやっているので、今回はそれはお断りして、丁度押収した爆発物を使用していただく事にしました。使用限度があるからポイポイと使わないでね! リュニちゃんとのお約束だよ!

 で、性格的にも本当は選定したくなかったけど、やっぱり不測の事態を考えて回復役のメフィストさんもお呼びします。これはレユニオンメンバーのため、というより私やジェントル、ラブラバの怪我の回復のためですね。他のレユニオンメンバーは多分死んでもすぐ召喚できる気がするから……いや、死んだら駄目なのかな? 幹部が死ぬっていうシチュがまずないだろうから……と、とりあえず死なせないようにしよう。うん。

 残りのメンツに関しては単体でもヤバい程の攻撃力にタフネスを持つ燃える剣士、ヴェンデッタさん、鬱陶しいくらいに拘束して継続ダメージも与えられるヤバイ術師、サルカズ術師さん。そして偵察暗殺戦闘なんでもござれのクラスレちゃんがオールラウンドにサポートするって感じです。

 

 本当はタルラさんとかフロストノヴァさんとか登用したかったけど、タルラさんは言うこと聞いてくれるか微妙だし、ノヴァさんの凍らせ能力は無差別っぽいからね……壊理ちゃんや味方がやられる可能性を思うと迂闊(うかつ)に選べないという。悲しみ。

 

 でもまあこれだけ連れていけば何とかなるっしょ!

 

「……やはり動画()えも考えるとだな正面から突入した方が」

 

「ジェントル、正面からだと警察にすぐバレるわ。あそこ一帯はもう警察に見張られてるから……」

 

「むむ。それは厳しいな、一体どうしたものか」

 

「正面から行くのであれば陽動が必要ね、別の場所で騒ぎを起こさせてそれで……」

 

 しかし話す度に思うんだけど、二人は何でそんなに正面突破を望むんですかねぇ……。

 今回は動画映えとか気にするような作戦じゃないってば!

 目立たずに壊理ちゃん回収! そしてトップの治崎含む幹部らの鎮圧! これが目標でしょ!

 

「も、勿論忘れてないさ! すまない、ついいつものように映える事を考えてしまって」

 

「もー……正直、そんな動画とか撮ってる余裕は全く無いと思うよ」

 

「はう……ごめんなさいリュニちゃん、真剣な話だっていうのに……」

 

 あ、ラブラバが悲しそう! ごめんねラブラバちゃん悲しませるつもりはないの! 

 いいよ全然許すよ……! 気にしてないし、それにもしかした私の個性で何とかなっちゃうかもだし……あっ、仲直りのハグしてくれたぁぁぁ。あふぅぅぅ。しゅきぃぃぃぃ。

 

「全く、君達を見ているとまるで姉妹のようだね」

 

「もしも身寄りがないのなら本当に妹にしてあげたいくらいには可愛いわ!」

 

 ナデナデまでされると溶けちゃうんですけど……しゅき……。

 うぅ、感染リスクがあるから触れるのはって敬遠してたのに「そんなの気にしないわ」って問答無用で抱っこしてくれるラブラバちゃん本当ママ味が高い……永遠にオギャれるよ。

 

「しかしだね、正面が駄目となると一体どうするべきか」

 

「裏口……あるいは窓? 何であれ、見取り図がない事には……私が調べてみてもあの屋敷の見取り図は見かけなかったし、治崎という奴は相当用意周到な奴ね」

 

「大丈夫、多分。もうすぐクラスレちゃんが見取り図とか地図を探しに来てくれるから……」

 

 困った時のクラスレちゃん、本当に頼りになります。

 彼女にかかればどんな場所でも調査+潜入してくれるだろうしね。

 こちらはただこうして家でお茶とお菓子でも楽しんでおけば――、

 

「リュニ。私の存在が奴らにバレた」

 

 ――と、タカをくくっていたら予想外の報告が待っていました。

 あ、あるぇ? なんでぇ……???

 

「く、クラスレちゃんの存在がバレたって……どうしたの? まさか敵に私の知らない感知系の個性の持ち主が……!?」

 

「いや、そういう訳じゃあない。邸内に潜り込む事も出来たし、調査も順調に進める事はできた。適宜邪魔な奴も無力化していったんだが――」

 

「……だが?」

 

「途中であの殺人鬼、確かトガと言ったか。あいつと遭遇した」

 

「げ!」

 

「リュニ君、トガ……とは?」

 

「あ、えっと……あのー……ちょっと前に歩いてたらいきなり怪しい人に襲われて、それがトガっていう女子高生で」

 

「女子高生の殺人鬼!? まあ無事だったのリュニちゃん!?」

 

 あ、はい。私は無事で代わりにトガちゃんがボッコボコだったよ。

 ってか敵連合と既に接触していたのは知ってたけど、やっぱり原作通り臨時でメンバーが派遣されていたか……ってなると林間学校編は間違いなく無くなったみたい……本当なんでだろ?

 ま、まあ幸か不幸か、ボコボコにしてたトガちゃん復帰が出来たのは1ファンとしては安心したよ、現状では嬉しくないけど……それで?

 

「仕方ないので無力化を試みた、奴は危険だったので始末するつもりでな」

 

「ちょい!」

 

「リュニ、あいつは生粋の殺人鬼だ。温情など与えた所で無駄という事を知れ。それで奴を何とか仕留めた……と思ったのだが。そいつは偽物だった。まるで粘土のように姿を代え、崩れた。故に私はこの時点で現場から脱出した」

 

 悲報トガちゃん殺されかける。

 でもその話を聞くに、どうやら原作通りトゥワイスも派遣されているって事だね。

 

「……組構成員のリストを見るに、そういった事を出来そうな人材はいなさそうだがな」

 

「ジェントル、多分だけど……敵連合から派遣された人じゃないのかな」

 

「そう言えば敵連合と接触があったっていう話は聞いていたわジェントル……これは、突入はより難易度が上がってきたわね」

 

「でも待って、必ずしも本部を襲えばいいかって言えばそうじゃないと思う……そこに壊理ちゃんがいない限りは……クラウンスレイヤー、どう?」

 

「……」

 

 尋ねると私に何かを投げよこしてくるクラスレちゃん。

 それは、恐らく本部の見取り図と思えるマップと……可愛らしい女児用のおもちゃだった。

 あっ、これってアニメでやってた『モーレツ!プリユア10』のフィギュアだ。

 土曜朝枠なのにやたらとお色気が多いステゴロ魔法使いの。某プリティでキュアキュアな奴と似てるけど別物で、これはこれで面白いんだよね。

 

「居場所の特定には至らなかったが、その壊理とやらはまず間違いなく屋敷内に居るだろう」

 

「なるほど……どうやらリュニ君が言っていた『特別』扱いとやらを受けているようだね」

 

「……そうなると、どこかに彼女用の部屋が用意されている筈ね」

 

 ……おぉ。このフィギュア作り込み凄いね。造形師の本気が見て取れる。

 顔も可愛いし均整も取れている。

 それでいて抱きしめた感じもよいし、髪の毛もサラサラ……やるぅ。

 

「ふむ……そんなに後生大事にしているのであれば、より奥に(かくま)うのが普通だろうな」

 

「あぁ。私が探索出来た範囲はあくまで地下の3Fまで……その更に奥に彼女が居る可能性は否めないな」

 

「それにしてもこんなに入り組んでいるのね。リュニちゃんの言ってた通り本当に迷路のよう……」

 

「加えて、幹部の入中……ミミックだったか。彼が壁を作り変える可能性を思えば、更に踏破難易度は上がるだろう。予想以上だなコレは……」

 

 背中から(でん)部にかけてのラインもね、いい。

 スカートのフリルもしっかり再現して、服の皺とかに並々ならぬ情熱を感じる。

 女児向けだというのにこんなに熱を注いじゃって、製作者は恥ずかしくないのか? もっとやれよ。

 

「なるほど……リュニちゃんが言う通り壁を爆破する人材は確かに必要になりそう……リュニちゃん?」

 

「……」

 

「……あー、ごほん。リュニ君?」

 

 スカートの中はどう……あっ、ご、ごめんなさい夢中になってました……。

 さ、最近のおもちゃって気合入ってて凄いですね……ごほん。

 

「そうなるとだけど少数精鋭だとしてもかなり厳しい気がしてきますね……」

 

「陽動として大量の囮の人員を用意するのはどうだい?」

 

「ジェントル、それだと乗り込むまでが大変よ」

 

「気付かれずに乗り込ませるって言うなら、ほら。私が現地まで行けば済む話ですよね? 私ごと忍び込んだところで大量の人員を一気にどばーって……」

 

「「それは駄目」」

「駄目に決まってるだろ」

 

「あぅぅ……」

 

 でもさぁソッチのほうが本当に効率いいんだよ?

 それにさっ、それにさっ、やっぱり不測の事態を考えるとついていった方が……。

 

「貴方がわざわざ危険を(おか)す必要はない筈よ、リュニちゃん」

 

「そうさ、後は我々大人に任せたまえ」

 

「黙ってここでテレビでも見ながらごろごろしていろ」

 

 クラスレちゃんだけ辛辣ゥ!

 うぅ~~、そういうけどさぁ。いうけどさぁ!

 イレギュラーって起こるもんだし、私がいれば限りなくイレギュラーは防ぐ事できそうだし……。

 

「「「駄目と言ったら駄目」」だ」

 

 むぅぅぅぅぅ~~~~っ。

 頬をめいっぱい膨らませて抗議したけど、大人三人組の強い視線に晒されると何も言えず、私は萎むばかり……。

 

 ……分かった。分かったよもう。

 私は現地に行かない……でもせめてこれだけは提案させて。

 

「提案?」

 

 敵連合もいなさそうだなと思って提案はしなかったけどさ、もう敵連合の加勢があるってんなら容赦はいらないよね。これは相応のリスクもあるけど、その分リターンも大きい。一考の価値はある筈だ。

 

 

 

「――今回の作戦ですが……警察との合同作戦にしませんか?」

 

 

 

 そう、原作展開に無理矢理戻(ごちゃまぜファイト)してやるのさ!




リュニ「あ、クラスレちゃんこの人形もう一回持ってみて」

クラスレ「?」

リュニ「ぶっふぉwwwメルヘンwwww似合うwww」

クラスレ「……(イラッ」


感想・評価お待ちしております。

《レユニオン図鑑》
・『ヴェンデッタ』:
 特殊な攻撃手段をとる戦闘員。
 身分は不明。並々ならぬ実力を誇る剣士。
 特別に用意されている武器で戦う。(炎の出る刀など)
 戦闘中に臨機応変に作戦を切り替えてくるため、対処が困難。

・『サルカズ術師』
 サルカズの傭兵。
 対処の難しい複雑な術式で攻撃してくる。
 近接攻撃こそ苦手であるが、遠距離であれば恐るべき攻撃力を見せつけ
 術式での拘束も同時にこなせるかなり厄介な敵。


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第18話 協力を仰ぎましょう!

警察の側面と見解について。
この話はぐだぐだ論調なんで読み飛ばしていいかもです。




 かつてヒーロー殺し『ステイン』の事件で騒然となった保須(ほす)市。その警察署。

 普段から大から小まで飽きるほど業務が舞い込み、東奔西走する警察官らの姿が見られるこの場所は、ここ一月で過去に例を見ないほど異様な熱気に包まれていた。

 

「おい、()の発言の裏取りは出来ているか!?」

 

「はい! 武器取引の証拠とその武器が指定した場所に確かに隠されていました!」

 

「サー・ナイトアイ事務所から連絡です! 実行犯の確保が出来たそうです! 今こちらに向けて護送しているとの事で……」

 

「だからァ、その動画の真偽は今の所は断定出来ないって言ってるじゃないですか、こっちも忙しいんです、不正確な情報にハイとは頷けませんよ!」

 

 全職員が余すことなく慌ただしく動き回り、紙が舞い、怒号が飛び交い、様々な情報が錯綜しているという状態。

 まさしく殺人的な仕事量に忙殺されている彼らだが、その忙殺の理由。それは実際の所すべてとあるグループの仕業だった。

 

 

「大変です、また奴の……ジェントルの新着動画が投稿されてます!」

 

 

「あぁ……!?」

「クソ、またかよ!」

「……」「今度はどんな厄ネタだァ?」

 

 そう、この状況を作り出したのは全てジェントル・クリミナルのせいであった。

 

 死穢八斎會への宣戦布告を皮切りに、薬物取引の現場を押さえて幹部を確保、そしてそれを警察までわざわざ届けるというパフォーマンスを見せてからも、定期的に彼らは死穢八斎會を弾劾する動画を投稿し続けていた。

 

 勿論警察はそこまでの物的証拠を出された以上動かざるを得ないし、裏取りをして死穢八斎會への締め付けを強めねばならないのだが、問題点があるとすれば彼らのパフォーマンスがその後も頻繁に行われるという事だ。

 指定敵団体である一つの組織を畳む絶好の機会が示されたのだ、喜ぶべきでは? と思うが、一つの物的証拠に対する完全なる裏取りや逮捕劇が終わるまでに次なる証拠が数日おきに提示されるため、多量の人員と時間を割く必要が出てしまう。つまり、前述した殺人的スケジュールに繋がるという寸法なのだ。

 

 やれ東に違法薬物の売人リストが公開されたと思えば、西に違法武器の隠し場所が提示され、北に違法献金をしていた企業名とその取引ログが表示されれば、南に恐喝行為の証拠が開示される。

 

 ジェントルのフットワークが良すぎるのか、それとも(あらかじ)め入手していた情報を小出しにしているだけなのかは不明。署内ではもっぱら以前の『死穢八斎會系列店襲撃事件』でその情報を入手しているのでは、という見解が最も強いのだが、いずれにしろ(たま)った物ではない。

 こうなると警察はヒーロー等に協力を求めて日夜休みもなく働き詰める他なくなってしまう。

 

 だがそれでも悪から罪なき市民を守ろうと立ち上がったのだ、称賛すべきなのでは、という声も勿論ある。世間ではステインに続く新たなるダークヒーロー登場か、などと持て囃す存在も一定数見受けられるが、警察もヒーローも見解を崩していない。

 

『彼らは義賊でもヒーローでもない、ただのはた迷惑なヴィランだ』と。

 

 その理由はなにか?

 それは、彼らが法に違法する行為を正義と言い張り、動画を投稿して全世界に発信しているという点だった。

 

 警察やヒーローの許可もなく一般人がヴィランに手を出し、有史以来、人が協力して生きていくために必要な法を堂々と踏みにじるのだ。

 そのような内容の動画を平然と投稿し続ければどうなってしまうか?

 

 答えは『警察およびヒーローへの信頼低下に繋がる』である。

 

 彼らの義賊的行為は市民への共感を招きやすいが、同時に警察及びヒーローへの不信感を招く。

 つい最近起こったヒーロー殺し事件でただでさえヒーローの求心力が減ったのだ、ジェントルらが増長することは警察という組織やヒーロー制度そのものを揺るがす事になりかねなかった。

 

 ニュースでも取り沙汰された事で彼の動画の視聴者数が跳ね上がった結果、死穢八斎會への否定的な声が上がると同時に、ジェントルを肯定あるいは英雄視する声も上がり始め……そして警察やヒーローの対応の遅さに苦慮する声があがって来るようになっていた。

 最悪のケースでは彼に共感したなどとのたまって、義賊という名の犯罪者が生まれるケースもあった。

 

 こう言った『犯罪行為を助長する』という側面から、彼らの動画は毎回投稿後すぐに消されるのだが、有志による再投稿が後を絶えず、結局は出回ってしまうという事を繰り返すばかり。

 動画サイトであるJストアやプロバイダへの情報開示請求による発信元を辿るという試みも残念ながら失敗に終わり、警察は二人組に翻弄され続けている。

 

 繰り言になるが如何に市民らが彼を英雄視しようとも警察やヒーローから見れば彼らはただの世間を騒がせる犯罪者だ。更なる犯罪を巻き起こす可能性がある騒動の種は早めに摘む事が彼らの急務でもあった。

 

「次の動画はなんだ……あぁ!? また違法薬物か!?」

 

「今度は海外マフィアとの取引か、国内から国外まで本当かき回してくれる……!」

 

「オイ、さっさと裏を取れ! 湾内の警察署に全域に連絡を……」

 

「もう一杯一杯ですよ! 地方ヒーローの手も借りないとやっていけません!」

 

「……」

 

 署内が更に慌ただしくなっていく中、一人の男性……塚内警部は、騒ぐこともなく静かにPC画面を睨みつけ続けていた。

 画面に映されるはやはり死穢八斎會関連の事件ファイル。

 だが、彼の焦点は肝心の死穢八斎會ではなく、つい先日のカーチェイス事件で発覚した仮面の集団にあった。

 

(……もう一度整理しよう。系列店襲撃の際、店内にいた人物への事情聴取では『仮面の集団』が襲ってきたとは言っていた。どの店舗もやり口は同じ、入店から即座に難癖をつける、あるいは言葉もなく襲撃。いずれにせよその手際は余りにも良すぎた。加えて、カーチェイスで見せつけた組織力――そして、動画投稿)

 

(店舗襲撃とカーチェイスは明らかに関連があるが、何故こんな組織力を持つ集団がこんな奴ら(ジェントル)と関係を結ぶ必要がある? もしも彼らがこの地域で旗揚げをするなら静かにやった方が得策の筈だ)

 

(いや、むしろ彼らは隠れ蓑だと考えるべきなのか? 世間の注目を彼らに集中させ、仮面集団は別の狙いを持って行動する……だとすれば、何が狙いだ? 折角ヤクザから徴収した物を遠慮なく奴らに与えてまでする狙いとは……?)

 

 塚内はジェントルらの裏に必ず『仮面集団』との繋がりがあると考えていたが、肝心(かなめ)の彼らの狙いを掴みかねており、またその仮面集団もカーチェイス以降全く表に出てこないため、二の足を踏み続けていた。

 

 唯一の手がかりはカーチェイスで捕まえたヤクザからの話で分かった内容。

 例の仮面集団が廃ビルから大量の荷物を運び出そうとしていたという事、確かにそのビルには誰かが住んでいた形跡はあったものの、大量の人員がそこで暮らしていたという形跡はなかった。ビルは押収物の一時的な保管場所としていたのだろうか?

 

「警部、これが先程の公開された動画で分かった情報です、現在関係各位に裏付けを進めており、私もこれから東京湾の方へ(おもむ)く予定です」

 

「三茶か。分かった、俺もこの後ヒーローらと打ち合わせをしてからそっちに向かう」

 

「了解です。……今日も家に帰れそうにありませんね」

 

「全くだ、だがこうも挑発的に証拠を突きつけられては俺達も動かざるを得ない」

 

「はた迷惑と言ってもいいべきか。犯罪が抑止できる事を喜ぶべきか……正直分かりませんね」

 

「少なくとも喜ばしい事ではないな、せめて動画にすることがなければまだ良かったのだが」

 

 本当にそう思いますよ、と言う言葉を最後に塚内のデスクから離れようとする三茶。

 塚内もまた職務に戻ろうと何気なくPC画面を見て……そして、とある差出人不明のメールが届いている事に気付く。

 

 迷惑メール、あるいはウイルスの一種だろうか?

 怪しむ塚内だが、しかしてそのメールのタイトルがまた軽妙だ。

 『ジェントルより、親愛なる塚内警部へ』という興味を()きすぎる内容――塚内は気付けばそのメールを展開していた。

 

 幸いな事にウイルスのような物はなさそうだったが、記載された文面を読み込めば読み込む程、塚内の顔に皺が深く深く刻まれて行く。

 

「――三茶! 今すぐ戻ってこい!」

 

「はい!?」

 

 やにわにデスクから立ち上がった塚内は三茶を呼び戻すと、送られてきたメールを見せる。三茶も最初は怪訝そうにしていたが、すぐ様塚内と同様にその表情を代え、最終的に真偽を疑って(すが)るような顔で塚内を見たが、変わらぬ彼の表情にそれが真であると判断せざるを得なかった。

 

「……奴らめ、何故こんなメールを……!」

 

「分からん……分からんがな、我々をどこまでも利用したいという意図は見て取れる。この資料を見ろ、本部の見取り図だ――我々でも手に入れられなかった届け出のない部分まで、一体どうやって……」

 

 メールに添付されていたファイルは、八斎會本部の見取り図。

 真偽こそ不明だがまるで蟻の巣のように張り巡らさた迷宮が立体図で分かりやすく記載されていた。

 

「もしや、奴らは八斎會の内通者……?」

 

「あるいはその内通者と繋がっているのか。何であれこのメールの真偽が本当であるならば、急ぐ必要があるぞ……」

 

 塚内の目は未だに画面に釘付けになっている。

 彼の視線の先にあるのは文面に書かれた『人身売買の被害者が居る』『少女が人質として取られている』『敵が近日中に逃亡する可能性も高い』という3点。そして最後に飾られた挑発的な一文だった――

 

『我々は明後日の夜に本部を襲撃する予定だ。警察諸君もパーティに遅れる事無きよう気をつけたまえ』

 

「――上等だ。そっちがその気なら我々もその策に乗ってやる。精々吠え面をかくなよジェントル・クリミナル」

 

 塚内は手に持っていた資料を握りしめると、署内の全員に声を張り上げる。

 これから起こる激動、その波に乗り遅れるなと改めて発破をかけるのであった。

 

 こうして警察とヒーローらもまた死穢八斎會との本格的な戦闘に巻き込まれていく。

 決戦は2日後。死穢八斎會の消滅はもう決まったような物であった。




難産すぎひん?
展開は盛り上がってきましたが、盛り上がるにつれ整合性を考えないといけないので段々執筆スピードが…ま、まけるかぁ!(現時点でストック7話分キープ)

感想・評価お待ちしております。

《レユニオン図鑑》
・お休みですぷえ。理性ちょうだい。


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第19話 覚悟を決めましょう!

メフィスト君久しぶり!

メフィスト「あれぇ指導者、僕のことは使う予定はないって言ってなかったっけ!? キミさぁ! 考えがさぁ! 甘いんだよねぇ本当さぁ!」

リュニ「……(出番なくしてぇ~)」


 おはヒロアカ! 転生少女リュニちゃんです!

 

 良い子は眠る深夜0時。我々のアパートでは準備を整えた突入メンバーがいよいよもって死穢八斎會に向けて出発しようとしていました。

 

 ジェントルさん、ラブラバちゃん。Wさん、メフィスト、ヴェンデッタさん、サルカズ術師さん、クラスレちゃんというそうそうたるメンバー! 

 これだけいれば並大抵のヴィランもヒーローも相手にはならないとは思っているんですが、生憎今回の敵ボスはオーバーホールというチート個性の持ち主。如何にレユニオンメンバーが精鋭揃いでも失敗する可能性は否めません。

 ちなみに私は残念ながらメンバーの選考外なのでお家で留守番です。家でみんなの無事をしっかりと祈っています……あ、勿論寝ないようにするよ? 寝たらレユニオンのみんな消えちゃうから。コーヒーとかたくさん飲んでおきます!

 

「――では最終確認だ。我々はこれから指定敵団体『死穢八斎會』本部に突入し、内部に囚われている少女『壊理』の救助、及び若頭『治崎廻』を筆頭とした敵幹部ら、及び敵連合の人員の無力化を行う。今回は警察及びヒーローにも本部襲撃の事はリークしているため、ヤクザ、警察、ヒーロー入り乱れての作戦になるだろう」

 

「私達の目標はさっき述べた通りだけど、無理に私達の手柄とする必要はないわ。救助と無力化については警察やヒーローが達成してもいい。こちらは警察やヒーローらのサポートをするという立ち回りが、一番分かりやすい説明かしら」

 

 今回の作戦について、ジェントルとラブラバが並み居るメンツに語りかけている。

 そう、事前に念押ししておいたけど今回あくまで我々の立場はサポートに徹する。これが大事なポイントだ。

 ようするに『死穢八斎會が潰れる』『壊理ちゃんを救助する』という2点が達成されていれば良いのだ。

 

 無駄にはりきって警察ヒーローヤクザ全員に喧嘩を売る必要はない。

 積極的にヒーローらとヤクザをぶつけて、危なそうだったら援助すればいい的なスタンス。

 そうすれば警察やヒーローとかにも媚び売れるしね、みんなハッピーハッピーやんけ。

 

「はいはぁーい、でもそうなるとヒーローと警察に任せれば私達はいらなくないかしら? ただでさえ2陣営に(にら)まれてるのに、ノコノコ現場に出ていったらやられる可能性があるわよ?」

 

 Wさんの至極真っ当な疑問が飛び出した。

 まあ、そうね。この話だけだと正直必要がないように思えるかもしれない。でも私達はあえて出しゃばる、それは何故か。

 

「現状、八斎會の連中は我々の活動によって大きく弱っている。既にあらかたの活動資金源は潰されている、潰れるのも時間の問題だろう……そうなるとどうなると思う? 奴らはきっと逃げ出すだろう」

 

「まあそうね……でもソレがどうしたって言うの?」

 

「そうなると壊理ちゃんも連れ去られてしまう可能性が高いのさ。以前クラウンスレイヤー君に潜入してもらった時の資料の中に、彼女の個性を素に『個性抹消薬』なる物が作られているという記載が見受けられた、彼女が特別視されている理由はそこにあった」

 

「……ふぅん。ようするに、絶対に奴らを取り逃さないようにするため?」

 

イグザクトリィ(その通りでございます)!」

 

 若干芝居がかった口調で答えるジェントル。

 ……まあ実はそれだけじゃあないんだけどね。

 これは転生知識なんでジェントルさん達には言えなかったけど、林間学校襲撃がなくなった事によって死穢八斎會にどれだけの敵連合メンツが回されたのか不明だって言うのと、多分デク達主人公が今回の件に絡んでこない事による戦力低下が起こりうるんだよねー。だからこそ我々が追加要因もかねてこっそりお相手する。

 

 とは言えメインで活躍していたサーにルミリオンやねじれちゃんらは参戦するだろうから、あんまり心配してないけどね。

 一応はラブラバさんにハッキングして貰って塚内さんにメール送っておいたから、もしかしたらオールマイトが釣れるかも。そしたらもう安泰も安泰なんだけどなぁ……。

 

「そうなると我々の潜入経路は、奴らの退路を阻む形が望ましいんだな」

 

「その通りだクラウンスレイヤー君」

 

「ただみんなに渡した見取り図を見て貰えば分かる通り……その脱出経路と思われる場所はかなり多いのよね……この建物を作った人は相当神経質な人よ」

 

 引き継いだラブラバがプロジェクター越しに屋敷の見取り図を見せるが、そこにはうじゃうじゃと蟻の巣の様に張り巡らされた経路が。特に地下なんてダンジョンかよって感じだ。

 多分コレを作ったのは幹部のミミックさんなんだろうなぁ……っていうかクラスレちゃんの潜入があった事はバレてるだろうし、道が全部入れ変わってないかが心配。いや、変わってると考えた方がいいかも。

 

「道が塞がれていて侵入出来ないでは話にならない……だから、こちらから道を作ってしまうわ!」

 

 続けてプロジェクターに映されるのは近隣の下水道施設の埋設状況を表した図。

 死穢八斎會本部付近に流れる下水道がずらりと投影され、その図のある一点が赤い丸で囲われていた。

 

「幸運な事に建造物の地下通路と並走する下水道があるわ。このポイントをWさんが持ってる爆弾で破壊して、一気に乗り込むの」

 

「……なるほどな」

 

「爆破のタイミングは、ヒーローらが突入した数分後。既存の逃走経路は警察さんやヒーローさんに見張って貰うとして、我々は最短で敵幹部あるいは壊理ちゃんを確保する!」

 

「恐らくヒーローと警察相手にあたふたしている所で我々の登場よ、意表を突く事は容易いでしょうね!」

 

 ……おぉぉ、この作戦どうよどうよ! 完璧じゃね!? 全くもって穴はないな! 既に(もぬけ)の殻だったらアレだけど、潜入して数日間で夜逃げ出来る程軽い組織でもなかろう。

 まだ準備の出来てない所をぱぱぱっと叩いて、終わりっ! これは勝ったなガハハ!(超慢心)

 

 ……あれれ? でもWさんなんか不満そう? なんで?

 

「ねぇリュニ、原石爆弾は使っちゃ駄目なの?」

 

 いやいやいや、駄目ですってば。

 ジェントルの二人組には言えないけど感染源撒き散らすヤバイ爆弾じゃん。

 手榴弾とかC4とか危ない武器あるでしょ、こっち使いなさいこっち。

 

「使い慣れてない武器を使うのもねぇ……あと。私達の共通的な不満なんだけど」

 

「……?」

 

「相手は殺しちゃ駄目なの? 向こうは容赦なく殺しに来ると思うのだけれども」

 

「……」

 

 殺しか、そこは正直迷った。

 相手は悪だし、殺しに来たのなら殺される覚悟があるって事だよね? って割り切ろうかなと最初は思ってたけど、やっぱり私は根が小心者なのか心のどこかにストッパーがあって、命を軽々と奪う事にどうも躊躇している。

 

 ジェントルもラブラバもその点については特に語ってこないが、やはり殺しにまで踏み切ろうとは考えていないのか表情はどこか陰鬱だ。とは言え、彼らの中で答えは出ているようだけれども。

 

「……W君。私個人の考えで言えば、敵と言えどいたずらに命を奪うべきではないと考える」

 

「お優しい事ね。その優しさの結果貴方の愛しいラブラバちゃんが殺されても同じ事言える?」

 

「……っ」

 

「ここが戦場ではないのは承知してるけれども、相手は尻に火がついている状態なのよ。きっと死にもの狂いで襲いかかってくる事間違いないわ」

 

「同感だね、僕らは指導者の言葉には確かに従うが、このままじゃ元々の力を発揮しきれない。何せ手加減なんて向こうじゃしたことなかったからね」

 

 むぅぅ、メフィストめ。久しぶりに喋ったかと思えば正論を。

 ……良かろう良かろう。それであれば私の命令はこうだ。

 

「……原則殺しちゃ駄目。ただし無力化出来そうにない。または私達のいずれかに危機が及んでしまう場合は、その限りじゃない。これでどう?」

 

「リュニちゃん!」

「リュニ君……」

 

「ジェントルさん、ラブラバさん。残念だけど私もWさんの発言に賛成――たぶんね、この作戦は上手く行くとは考えてる。私の個性達はみんな強い。しかし万が一がある。その万が一の時に優しさのせいで二人やみんなを失う事になるのは、私は嫌」

 

「はぁ……まあ、妥協点ね」「……」

「指導者もまたとんだあまちゃんだね」

「……あまり期待はするな」「承知した」

 

 覚悟しよう。もうここまで来たらそれしかない。

 知らないとは言え元々私がちょっかい出したのが切っ掛けでこんなゴタゴタになったんだ、殺し殺されの世界に私達はもう脚を突っ込んでいるのは承知の上。

 後で絶対に後悔なんてしたくないもん。それに――

 

「ほら、えっと……もしかしたらヒーローさんが全部やっつけてくれるかもしれないしね? この覚悟も不要になるかもだし……だけど」

 

 でもこれだけは約束して欲しいな。

 

「ここまで覚悟したんだもん。二人共、絶対に、ぜーったいに無事で帰ってきてね? 私はここでちゃんと待ってるから」

 

 折角仲良くなったんだもん、これからも三人で仲良く過ごしていきたい。

 もう二人のことはこの世界で家族のような存在になっているから。

 って答えたらジェントルにもラブラバにもぎゅーってされた。うぅ、苦しい。

 

「勿論だとも……!」

「リュニちゃん、私達頑張ってくるわ……!」

 

 苦しいけど、ソレ以上に凄い嬉しいかな。

 本当に、本当に気をつけてね。あとレユニオンのみんなもよろしくね。

 定期的な連絡! あと危なくなったら即時撤退を忘れずに! 以上、がんばって!

 

 

 そして、私達の死穢八斎會壊滅作戦は遂行される事になった。

 私もこのアパートでわんわんと一緒にみんなの無事を祈るぞー! おー!

 

 

 

 

「……」

 

 ……しかし、ラブラバに貰ったこの『もしもの事があったらボタン』怖いな。

 これ押したらどうなるんだろ、普通に考えたらPCデータが全部消えるだけだよね?

 このアパートとか消滅しないよね……?




感想・評価お待ちしております。

《レユニオン図鑑》
・今日は午後休を頂いております。


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第20話 正面から突入しましょう!

死穢八斎會解体RTA始まるよー。(ちなみに難産)
大人数が動いてると書きづらいったらありゃしないですね!


「この組はもうおしまいだ……」

 

 ほんの少しだけ欠けた月が見下ろす静かな夜。

 死穢八斎會本部、誰一人居ない立派な日本庭園にて。男は庭石に腰掛けて頭の中で思っても決して口に出さなかったその言葉を遠慮なく吐き出していた。

 

 男はこの組では比較的古株にあたるヒラの組員であった。

 

 小さな頃からヤンチャ気質な彼は、自身の個性『葉操(ようそう)』でイタズラや気に入らない相手を病院送りにしては捕まる事を繰り返し、17歳にして自分が真っ当に生きられないと悟り、極道という日陰の道を目指すこと選んだ。

 生まれてからずっと(うと)まれ、怒鳴り散らし、暴力を振るうことで自らの存在を証明してきた彼である。組が斡旋(あっせん)してくれる、法的に認められる筈もない暴力を(ともな)う仕事は彼にぴったりで。こんな天職があった事を彼は深く感謝し、ひいては、この組を統括する組長に少なくない恩義を感じていた。

 

 とは言え良く言えばアウトロー、悪く言えば行き当たりばったりがすぎる彼である。要職につける程の仕事ぶりを発揮出来る才能がない事も相まって、現在は本部長である入中の部下(使い走り)という立場に落ち着いており、また上司の入中と同じく、年下の癖に出世を続け、今や実質的に八斎會を牛耳るオーバーホールは毛嫌いするようになっていた。

 

 自らの立ち位置に不満はなくもないが、同業では最大手である八斎會の一員であるという事は彼の自信にも繋がっていた。

 誰かを虐げるという最も得意な行為でそこそこの金が入るのであれば文句もなく、彼は今後の人生も組でこうして過ごしていけるのだと信じて疑わなかった。

  

 

 ――しかし、彼の信頼おける組はある日を切っ掛けに傾き始めた。

 

 

「あぁ!? オレらのシマで店が潰されてるだぁ……!?」

 

 つい先月、系列店が何者かに襲撃されて半壊したという話が舞い込んだ。

 男はその話を聞いて怒りをあらわにした。

 この他でもない死穢八斎會組の店を狙って襲撃するなど、殺されても文句は言えない程命知らずの挑発であるからだ。

 

 昔から仲の悪かった鹿羽組あるいは戸愚呂組の仕業なのかと疑っていたものの、組の結論は最近台頭しだした敵連合とか言う半グレの集まりであると断定。それは統率の取れてない野郎共が組のモノとも知らずに店を攻撃したのだろうという見解からだった。

 その時点で男は馬鹿な奴め、と敵連合を(あざけ)るだけで事態をそこまで深刻視していなかった。

 なにせ死穢八斎會は同業の中でも最大手の一つ。例え店が数店潰されようと、組そのものを揺るがすには余りにも力不足だという確信があったからだ。

 

 きっと組の誰かきっちり型にハメて、店を潰した以上に報復して終わりだろう。

 早期の終息を見越して男は代わり映えのない日々を過ごしていたのだが、

 

「聞いたか? 例の集団、まだ店を潰し回ってるらしいぞ」

 

「用心棒を用意したっていうのに全く刃が立たなかったらしい」

 

「……」

 

 襲撃は止まらない。

 短期間の間に5店舗。10店舗、最終的に12店舗潰されたという話が飛び込んでくると、男はおや、と思い始める。

 ここまで来れば相手は死穢八斎會の店だと分かりきってる筈。にしてはあまりにも行動が速く、そして執拗(しつよう)過ぎないか? 至る所で噂される内容から、男の中で『死穢八斎會が別組織との全面戦争に突入するのでは』という不安が薄々と首をもたげ始めていた。

 

 そして直後。そんな男の不安を煽るかのように起きたのがニュースにもなった『カーチェイス事件』である。

 白昼堂々組員と例の集団が警察車両らと共にカーチェイスをして、組員は捕まったが例の集団を取り逃がしたこの件。ニュースにもなったという事で男も何気なくそれを見ていたのだが、例の相手が大量のドローンからの機銃掃射で警察車両とヒーローを追い払ったシーンを目にして、飲んでいたビールを吹き出す羽目になった。

 

 町中で容赦なくぶっ放す事といい、大量のドローンを用意出来るといい、この犯罪集団。明らかにイカれている。

 こんな奴らに目をつけられるなんて、一体全体我々は何をしたっていうんだ? という思いを男を含む他の組員のほとんどが抱くのも無理はない話だった。

 

 そんな立て続けの不幸で慌ただしくなった八斎會だったが、組への試練はそれでも終わらない。

 今度は何が起こったかと思えば、ジェントル・ラブラバが動画上で組の不正を暴き出すとのたまい始めたのだ。しかも実際に取引現場が二人組に襲われ、鉄砲玉八斎衆の一人である活瓶が捕えられたという動画まで晒される始末。

 

 男は最早あいた口が塞がらないし、他の組員も呆然としていた。

 短気で神経質な入中などは当然発狂して周りに当たり散らしていたし、さしもの若頭もキレて机を消し飛ばした、なんて噂も流れているくらいだった。

 

 そこからはもう、まさしく急転直下である。

 

 動画が広まり、ニュースにもなってしまえばもう組が打てる手などないも同然。

 警察やヒーローらによる厳しすぎる追求が毎日行われるわ、同業からは舐められるわ、世間は今まで以上に冷ややかな目で見始めるわで組織はズタボロ。また、死穢八斎會というブランドも無に等しくなっていた。

 しかしながらジェントルらは追撃の手を緩めず彼らの悪事を小出しにし、じわじわと追い詰めてくるのだ。組としてはたまったものじゃない。

 

 見違えるほど収入が減り。

 組員は毎日毎日逮捕あるいは収監され。

 おちおち外を出歩くことすら出来なくなり。

 上に打開策を聞いても『今はぐっとこらえろ。辛抱だ』の一点張りでアテにならず。

 何故か以前いがみあっていた敵連合が屋敷内を我がモノ顔で闊歩(かっぽ)する始末。

 結果として組員の士気はだだ下がりになっていた。

 

 かろうじて不祥事のあった店舗や組員らをトカゲの尻尾切りよろしく『組とは無関係である』と言い張り続けて、本部への家宅捜査を逃れているものの……最早それも限界だろう。

 若頭が本部から逃げ出す算段を進めているという話が噂される中、他の組員も如何にしてこの組織から抜けるのか、という話でもちきりになっていた。

 

 誰もがこの組が崩壊まで秒読みであると悟っている。

 

 故に男も着々と身支度を進めており、敷地の庭で月を眺めながらタバコを吹かし、これから先どのようにして過ごそうかと考えていたのだが、

 

「……あ? なんだ?」

 

 男はふと月夜にそぐわぬ赤い光が空でまたたいているの発見してしまう。

 流れ星にしては大きすぎるそれは、男が見ている間にどんどんと大きくなっていく。

 

 なんだなんだと目を凝らすと、その赤い光を人型の何かが纏っているのが分かるが――やがてはっきりと視認できる程近づいて来て、男はそれがニュースでよく見るとある人物なのではと思い至り、途端に悲鳴が漏れ出始める。

 

「お、お、あ、あぁ……あぁぁ……!」

 

 ずん、と芝生に降り立つと同時に、周りに火の粉を撒き散らすその存在。

 鍛え上げられた肉体を全身スーツで包み込み、更にそのスーツの上から燃えたぎる炎を纏った男。それは――

 

「――貴様、死穢八斎會の組員だな? ジェントルはまだ来てないのか?」

 

 ――No.2ヒーロー・エンデヴァー。

 勇猛苛烈かつ厳格なその男が今、男の前に立ち塞がっていた。

 

「……はひ、な、なな、なにがっ、お、オレらの組に、にゃにゃ、にゃにがっ!?」

 

 全身から滝のような冷や汗を流し始めた男は激しく動揺しながら、威圧感凄まじいヒーローへと威嚇しようとするが、怯えきってしまったのか言葉らしい言葉も出せずに震えるばかり。

 エンデヴァーもそんな目の前の男を観察し続けていたが、やがて興味を無くしたかのように視線を移し、男を通り過ぎて玄関へと向かう。

 

「ま、まま、まて、待てコラァっ、こんな深夜に一体、なな、何用だコラァ!?」

 

「……」

 

 裏声で怒鳴り散らす男に対するエンデヴァーの反応は――無視。何も恐れるものはないと言わんばかりに、ずかずかと立派な玄関に近づいていく。

 流石にソレを見て黙っていられる程、男も臆病ではない。男は背中を向けたエンデヴァーに対して自らの個性、葉操を発動。敷地内に生えた松の葉を操り、ハリセンボンのように針だらけにさせようとしたのだが、

 

「っと、大人しくしろってんだ!」

「ぉぶっ!?」

 

 どこからともなく小さな黒い影が男の前に現れ、その腹部を思い切り殴り。かと思えば前のめりになった所を(すく)い上げるかのように顎を蹴って、男はそれきり意識を飛ばしてしまう。

 

 その小柄な男の正体はヒーロー・グラントリノ。

 かつては大成前のオールマイトを徹底的にシゴきあげ、トラウマを植え付けたという年老いて尚実力派のヒーローである。

 そしてエンデヴァーとグラントリノの登場を皮切りに、屋敷を守っていた巨大な和風の門が外側から半ば無理矢理開かれる!

 

「――突入っ、突入ーッ!!」

 

「第一班、第二班はこちらに続け。第三班から第六班までは指定ポイントで待機。逃走する敵を見逃すな!」

 

「組員の拘束、そして囚われている少女の救出を最優先にしろ! 進め! 進めぇーっ!」

 

「我々はエンデヴァー及びナイトアイに続け! 周辺の監視を決して怠るなよ! いいか!?」

 

 門から一気に屋敷内になだれ込むのは警察らとヒーローの混成集団!

 今まで音一つしなかった筈の本部周辺がやにわに騒がしくなり、門からの侵入だけでなく屋敷を囲う巨大な弊を飛び越えるようにして様々なヒーローらが次々と本部へ飛び込んでいく!

 

(はや)りすぎだぜ若造」

 

「ご老人。悠長な事をしてる暇があったらさっさと治崎を捕まえるのが先決だ、分かるだろう……早くしないとジェントルの奴に手柄を取られるぞ」

 

「余り奴に固執しすぎるな、我々は我々に出来ることを……ってオイ!」

 

 扉の前で(たたず)むエンデヴァーに追いつくグラントリノ。

 エンデヴァーはそんなグラントリノを一瞥(いちべつ)することなく炎を(まと)った巨腕を振り上げると、鍵のかかった玄関扉を粉砕! 無人の玄関の内部が炎に包まれる!

 

「進むぞ! 死穢八斎會という組織を今日で存続不可能にさせるんだ!」

 

「……やれやれ。血の気が多い」

 

 そして、エンデヴァーは一足先に建物内に飛び込み、グラントリノやナイトアイ、ルミリオン、ロックロックや、バブルガールと言った多種多様なヒーローらも警察共に一様に侵入!

 まさかの深夜の襲撃である、部屋で呑気に夢を見ている組員も多く、かろうじて騒ぎに気付いて起きたとしてもロクな抵抗も出来ずにヒーローや警察官によって次々と確保されていく。

 そんな中、エンデヴァーやナイトアイと言った実力派ヒーローは雑魚には目も向けず、とある場所めがけて一目散に移動していた。

 

「地下への進入路……ここか」

 

「よぉし、第一班は突入! 第二班はこのまま1階から3階までを制圧だ!」

 

 事前情報通り壁に仕組まれた隠し階段を見つけると、第一班、エンデヴァー、ナイトアイ、イレイザー、グラントリノ、ルミリオンといった実力派ヒーローらは、躊躇することなく地下へと侵入。狭い階段を抜けて目標目指して一直線へと進んでいく。

 

 今の所ジェントルらがリークしたMAPに書いてある通りである。

 彼の情報が正しければ人身売買や違法薬物の証拠も地下に全て隠され、囚われている少女も地下にいる筈。ヒーローらはその情報を信じて最短かつ無駄なく行動を進めていく。

 

 

 しかしようやく階段を降りきり、地下に彼らが足を踏み入れたと同時に。

 屋敷全体を揺るがす程の大きな衝撃と音が地下に広がった。

 

 

「サー。何ですかねこの音?」

 

「分からんが、寝坊助どもがようやく起き始めたのかもしれんな」

 

「気をつけろ。入中常衣が壁を操っている可能性もある、イレイザー。決して警戒を怠るな」

 

「……分かりました」

 

 ヒーローは地下から響く、まるで爆発めいた音に第一班は警戒を深めるも、決して動揺することなく先へと進んでいくのだった。

 

 

 

 警察とヒーローの協力により実行された『死穢八斎會本部突入作戦』。

 後に数ヶ月に渡って人々の記憶に残り続けるであろうその事件は、今まさに始まろうとしていた!

 




貴重な意見色々とありがとうございます!!
描いてる途中で気付けなかった様々な問題点は今後も参考にさせていただき、可能な限り取り入れさせていただきます…!(既に方向性がかなり固まっているため、大きく変えることは難しいかもですが)
こんな問題点だらけの作品ではありますが、引き続きお付き合い頂ければ幸いです。

感想・評価お待ちしております。


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第21話 地下から侵入しましょう!

THE・難産パート2。




 おはヒロアカ! 転生少女リュニちゃんです!

 

 時刻は大体深夜1時を回りました。

 現在も死穢八斎會本部突入作戦真っ最中です。

 

 お留守番の私のお仕事は正直少ないですが、一番重要な私のお仕事は――そう、作戦中に寝ない事ですね! 眠ったら私の個性は全部消えちゃうんで。

 とは言えコーヒーも飲んだし、もう興奮とかでお目々ぱっちりなのでこれはあんまり心配してないです。

 しかしてそれだけでは余りにも仕事してる感がないので、せめてもの何か手伝わせて! ってダダこねたら貰えたお仕事があります、こっちも地味に重要です。

 

「報告。今どうなってる?」

 

『……警察、ヒーローが続々と集結している。数え切れない程だ。屋敷は既に包囲が終わっているように思える』

 

「おっけー。突入したら言ってね」

 

『……了解』

 

 そう、定期的にファウストさん筆頭にした狙撃部隊から監視報告を貰っているのだ。

 実は今回に先立って彼らも追加で召喚しておいて、屋敷から遠く離れた場所に待機させ、現場の状況が分かるように逐次連絡を取っている。

 

 え? そんな実況聞くだけだったら仕事になってないって?

 ぶぶー。これでも重要な仕事なんですー。

 事態が急変したことを知らせるのもそうだし、後、何よりも重要なのはジェントルさん達が地下から侵入するタイミングを知らせる事!

 

 死穢八斎會が警察やヒーローにあたふたしている所で地下通路爆破からの侵入というトム・ク●ンシーさんもびっくりな突入コンボを決めるためには現場の可視化は必須なのさ!

 

「ちなみに、ファウストさん。何か目立った人は居る?」

 

『……全身、赤く光ってる奴がいる。あれは炎、か? あと小さい老人。ムカデの顔をした男など』

 

「えぇー? 赤く光ってる、小さい老人?」

 

 ムカデ顔の人は多分センチピーダー。サー・ナイトアイのサイドキックだとは思うけど、ここはまあ順当。

 ただ炎を纏った男と小さい老人って……まさか、まさかとは思うけど、エンデヴァーとグラントリノ!? 

 

 グラントリノはまあ分かる。原作だと同時期に塚内警部と一緒に黒霧を追ってたって話があったから、黒霧を追う仕事がなくなってこっちに回されたのかなって思う。

 でもエンデヴァーは本当に謎だ。塚内警部にメール出したからオールマイトが来るのかなって思ってたから尚更。

 あれかな、実は今林間学校に同伴してたりするのかな……あるいはエンデヴァーが奴がいなくてもオレ一人で十分だ! とか言い出したのかな。言い出しそう。

 

 とは言え予想外だけどこれはいい収穫だ。

 オールマイトじゃないんかい! って感じはするけど、これで原作よりも戦力補充されたんじゃないかな!? すげえ助かる! 勝ったなガハハ!(慢心二度目) 

 まあその分ジェントルが対面したら逃げるのに一苦労かもだけどね……そこは痛し(かゆ)しという事で。

 

「……ちなみにもじゃもじゃの緑髪の子とか赤髪ツンツン頭の子は」

 

『……視界の範囲内では、確認できない』

 

 ということは雄英一年生組は参戦してないと。うん、やっぱりね!

 原作だとオーバーホールは主人公補正マシマシのデク君が倒してたけど、でもエンデヴァーやグラントリノいるなら大丈夫っしょー!

 

『……! 炎の男が単騎で屋敷内に突入』

 

 あ。エンデヴァーが先走った。

 この人作中だと激情家だけど冷静的だーって評価されてるけど、かなり短気なんだよね。本当に冷静なのかってちょっと疑っちゃうかも……。

 

『警察もヒーロー等と共に屋敷内に侵入。……そのまま建物内にも突入していった』

 

 OK。本格的に始まったね。

 他の抜け道についてもヒーローらの突入が始まったみたいだし、そろそろみんなに伝えよう。

 

「あーあー、ジェントルさんジェントルさん聞こえますか? 警察達が敷地内に突入しました。どぞどぞ」

 

『感度良好。聞こえてるよリュニ君。報告ありがとう、我々も既に突入準備は整った、これからW君に爆破を行って貰う』

 

 いよいよ……いよいよ始まるのかぁ。本格的原作ブレイクが。

 今私はものすごーく現場に行きたい気持ちが溢れてるし、実際に戦闘シーンみたい感あるんだけど……我慢だ。ワガママはなし。これは私達の今後の幸せを掴み取る、重要な作戦なんだから……!

 

「……こほん。えっと、無茶はいいですけどくれぐれも皆さん怪我をしないようにしてくださいね」

 

『中々厳しい事を言うね。だがその願い、可能な限り遵守するよう誓うよ』

 

「あはは、お願いします。それでは……幸運をお祈りしてます」

 

『あぁ。また後で』

 

 通信は途切れ。それから数十秒後に街を揺るがす振動音を観測したという報告を受けた。

 

 作戦開始――みんな、本当に気をつけてね。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 屋敷を揺るがす轟音。

 

 死穢八斎會地下3F。恐らく拠点最下層部分である通路に大穴が空いた。

 コンクリや配管の破片といった瓦礫と粉塵が散乱する通路、そこに間髪入れずに次々と人が乗り込んでゆく。

 侵入したのは当然ジェントルら一行である。

 彼らは通路を見渡し、人気がないことを確認すると各々(うなず)き合う。

 

「私が先に行く」

 

 先陣を切るのはクラウンスレイヤー。

 諜報や暗殺に長けた彼女は音もなく通路を進んでゆく。

 上層では慌ただしく駆け回る音や怒鳴り声がひっきりなしに聞こえてくる事から、ヒーロー達の侵攻がまざまざと目に浮かぶ。彼らは言葉もなく迅速に彼女の後を追っていく。

 

 そして丁度曲がり角にさしかかった所でクラウンスレイヤーが後続の動きを遮るように手を伸ばした。

 

「おい天蓋、居たぞ。侵入者だ、わくわくするな」

 

「馬鹿者! 言ってる場合か乱波、くっ……オーバーホール様の邪魔をする畜生共め。先へはいかせんぞ!」

 

 曲がり角から現れたのはガントレットをつけた巨漢と、作務衣を纏う痩せぎすの漢。二人共顔にペストマスクをつけて、一行の進路上に立ち塞がり始める。

 

「君達、鉄砲玉八斎衆の……悪いがそこをどいてくれないかね。囚われのレディがお待ちしていてね」

 

「抜かせ、オーバーホール様に害為す仇敵(きゅうてき)め。貴様らの望みなど何一つ聞いてやれ――うおっ!?」

 

 天蓋(てんがい)壁慈(へきじ)、個性『バリア』の持ち主が咄嗟に反応出来たのは奇跡と言っても良かった。

 ジェントルに返答した直後、ぬるりと相手集団から飛び出してきた存在。赤と黒の装いが物々しい、炎を纏う剣を持った男が斬りかかっていたのだ。

 

 バリアに阻まれる剣戟(けんげき)。しかしながらどこにそんな力があるのか、バリアごと天蓋は数m吹き飛ばされてしまう始末。

 

 直後、乱波(らっぱ)肩動(けんどう)。個性『強肩』の持ち主が顔をすっぽり覆うペストマスク越しに狂喜し、天蓋を襲う男に殴りかかったものの、どこからともなく飛来した黒くも禍々しい何条もの縄のような物に全身を絡め取られてしまう。

 

 下手人は剣士の後ろに立っていた全身をだぼついたフードに包む、牛のような角の目立つ仮面の男。禍々しい黒縄は彼が持っていた杖から伸びているようだった。

 

「ぐ、があぁあぁあぁぁあ――ッッ!?」

 

「乱波!? くっ――!」

 

 拘束された乱波が痛々しい悲鳴を上げる。

 どうやらその黒縄は単に拘束するだけでなく、何かしらの苦痛を与える物であるらしい。

 天蓋は急ぎ乱波にもバリアを発動。彼を起点として内側から広がったバリアが強制的に拘束を解く。

 

「が、ぁぁっ、あぁぁ……!」

 

「こ、このド外道共が……! 会話中を狙うとは……!」

 

「あ、あーいや……私はそういうつもりはないのだがね。あの……ヴェンデッタ君、サルカズ術師君?」

 

「とっとと倒すのが得策だと考えるが」

「右に同じく」

 

 ジェントルは前口上をきちんと述べてから戦闘のつもりだったが、二人はその無駄を省こうとして動いたようだ。

 これが乱世に生きている者とそうでない者の意識の差なのか……ジェントル、ラブラバの両名は多少困惑しているようだったが、その他全員はやはり容赦する気もないようだった。

 

「とりあえずさっさと先に進みましょう。今ので程度が知れたわ」

「全くだね、この先にお姫様が居るんだろう? 僕らはこんな所で暇している余裕はないはずだよ」

 

「……ッ、言わせておけば。貴様ら……がァッ!?」

 

「――その個性、確か『バリア』だったか。強度は鉄と同じくらいか?」

 

 炎揺らめく剣で再度バリアごと天蓋を斬りつけ、壁に追い込んでいくヴェンデッタ。

 バリアがあったお陰でダメージはないが、そのバリアすらも破られそうな程の威力の斬撃が間断なく叩き込まれ続けている。

 

「くれぐれもバリアを解いてくれるなよ。貴様のバリアが解かれた時――それこそがお前の命が尽きる時だ」

 

「ひっ、ま、待てっ……!」

 

「天蓋! 天蓋このバリアを解けぇっ! 俺にコイツとやらせろ! コイツとやらせろおぉぉぉっ――!!」

 

 腹部に痛々しい火傷のような傷を残された乱波が血反吐を撒き散らしながら叫ぶが、最早天蓋には聞こえていない。目の前の剣士が言う内容に嘘偽りはなく、恐らくバリアを解いた瞬間自分らが切り刻まれると確信していたからだ。

 このまま常にバリアを張り続ける必要があるが、二人分のバリアをどれだけ維持出来る!? そしてどう対抗すればいい!? 混乱の極致に追い込まれた彼は全身から滝のような汗を流して怯えた目で男を見る他なかった。

 

「皆様、後は我々にお任せを」

 

 サルカズ術師がジェントルらに伝える。

 ジェントル・ラブラバ両名は二人の強さに呆気に取られながらも先へ進む事を決め、クラウンスレイヤーに連れられて奥へと進んでいく。

 

 進んだ先は事前収集した通りの袋小路。

 そこには事前調査通りに左右に二部屋、奥に一部屋があるようだった。

 

 どうやらミミックによる通路遮断や順路変更は行われていないようだった。

 まだ地下の異変に気がついていないのか。それとも地下を相手する余裕がないのかは不明だが、残るメンバーはここぞとばかりに部屋を探る。

 

 左右の部屋は物置と広い応接室のような場所。

 どちらももぬけの殻であり人の気配は感じ取れない。

 そして奥の部屋、その先はまた通路が広がっており、その少し進んだ先にまた部屋が用意されているのが見える。

 クラウンスレイヤーが率先してその部屋へと侵入し、そこに人が居ない事を確認したのだが、

 

「……子供の部屋。ここが壊理君の部屋か」

 

 ヤクザの部屋にしては場違いなピンクの壁紙に、子供用のベッド。そして散乱するおもちゃ――囚われの少女を匿っていた場所に違いなかった。

 布団が乱雑に投げ出されているのは、騒ぎに気付かれ慌てて連れ出されたのだろうか。

 

「そんな……もう連れ去られてしまったというの?」

 

「……いいえ。連れ去られて間も無いといった感じね」

 

 Wが少女が眠っていた場所を触れ、未だ残る温もりからそう判断すると、一行は頷きあって元来た道へと戻り始める。

 

 恐らくは別の逃走経路が用意されている――ミミックが地図に無い道を作り出しているのかどうかは分からないが、まだ遠くに逃げてはいないだろう。

 

「どうあっても壊理君を手放す気はないようだな……」

 

「許せないわね、早く怖がっている彼女を助けてあげないと……!」

 

 出戻る途中、天蓋と乱発らと遭遇した場所にまで来たが、案の定無傷であるヴェンデッタとサルカズ術師がそこで出迎えてくれた。

 地面に転がるはぴくりともしない天蓋と乱波。彼らはやはり為すすべなく倒されてしまったようだった。

 

「う……し、死んでないわよね……?」

 

「手加減はした」

 

 炎剣がもたらしたのか、肉のような何かが焼け焦げた不愉快な臭いに顔顰めるラブラバ。

 この組員らは少なくない怪我を負っているようだが、今はソレを確かめている暇もない。まずは目的を達成しなければ、と全員でまた先を急ぐのだったが。

 

 

 

「こんな夜更けにいきなり訪問してくるなんて、常識知らずねぇ」

 

「楽しそうな事してるじゃねえかよ、俺らも混ぜろよ、なぁ……?」

 

 

「――敵連合!」

 

 

 やはり、敵はそう簡単に先へと進ませてはくれないようだった。




乱波さんデザインも個性も好きよ。

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第22話 追いかけましょう!

THE・難産パート3。
できるなら会話だらけにしたいなぁ。

なな、なんとなんと!
光栄な事にあまてるさんからファンアートをいただきました…!

メスガキ服リュニちゃん
【挿絵表示】

暴徒君&リュニちゃん
【挿絵表示】

使い走り暴徒君
【挿絵表示】


作品を書いていてこんなにも嬉しい事はありません…!
本当にありがとうございますあまてるさん!
メチャクチャモチベ上がりまくりです、これからも頑張って書きますよー!


 警察とヒーローらによる死穢八斎會への追い込みは、例の二人組による動画投稿を切っ掛けに苛烈を極めた。

 かつては大樹と例えられるほどの強力な組織力と支配力を持っていた死穢八斎會は、今となっては既に崩壊秒読みの段階まで来ていると言ってもよかった。

 

 組長への重く深い恩義を持つ治崎も一時はどうにかして傾いた組を存続させようと必死になっていたが、現状を覆す事は出来ないと認めざるを得ず。一旦は組を分解し、新たに立て直すしかないと判断していた。

 

 故に、治崎はここ一週間、ヒーローや警察らの引っ切り無しの追求をのらりくらりと(かわ)しては、逃走準備を着々と進めていたのだった。

 かき集めるだけかき集めたありったけの金。武器。クスリ。そして開発中の個性抹消薬の資料、データ――逃走に必要な物をまとめ、時に跡形なく証拠を消すと言った作業と並行して、本部逃走経路の確保に、逃走後の活動拠点の用意など、終わりの見えない作業に追われる日々。

 

 今までも多忙な日々を過ごしていたが、ここ近日はまさしく休む暇もないと言ってもよく、腹心でもあるクロノスに柄でもなく心配されるという事もあったが、その準備もいよいよ以って最終段階である。

 

 準備に先立って一番重要だったのは、敵連合との交渉だった。

 

 つい先日、治崎は敵連合トップである死柄木と改めて顔を合わせ、今までの誤解を解くと共に謝意を示し、敵連合に協力を願った。

 例の仮面集団に、お互いに潰し合うように仕向けられたというのは二人の共通認識であったため、話はトントン拍子で進んだが、勿論協力に際した条件は安くはなかった。

 少なくない量の金品や、作成中の薬の情報提供。そして有事の際には敵連合のメンバーとして行動して貰うという命令権などなど――それは実質的な敵連合への吸収と同じであり、あまりの悪条件に治崎も声を荒げて抗議したが、既に尻に火が着いた身である以上他に道はなく、渋々頷く他なかった。

 

(従うのは最初の内だけだ……今に見ていろ……! まずは、戦略的撤退だ。力を蓄えて例の二人組みも邪魔した組織も潰してから、内部から食い尽くして新しい八斎會を作り直してやる……!)

 

 逆境を怒りに変え、復讐に燃える治崎。彼が一週間以上、ほとんど不眠不休で動き続けられたのもそういった激情に支配されていたからかもしれない。

 

 だが経緯はどうあれ協力を結べた治崎は敵連合のメンバーを借り受ける事に成功。

 逃走の際の護衛や露払いを彼らにお願いし、逃走をより万全に近づけて。後は腹心にのみ伝えた、来たる2日後の決行日を待つのみとなっていたのだが――、

 

「……? なんだ」

 

 治崎は不意に胸騒ぎを覚えた。

 時は深夜1時半頃。秘密裏に改築した地下2F、そのとある部屋でひたすらに終わることのない逃走準備を行い続け、重さを感じる(まぶた)を指で揉んでいた時だった。

 立て続けに感じる微量な振動。机に乗せていたグラス、その中のお茶が小さく振動するのを見て、治崎の中で違和感が膨れ上がる。

 

 そしてまさか、と思い監視カメラ越しの映像をモニタに映した直後、治崎はその嫌な予感が当たったことを悟ってしまう。

 

「ヒーロー共、だと……!? 馬鹿な、早すぎる!」 

 

 なんと屋敷の外周、庭、室内と言った複数の監視画像のどれもこれもに警察やヒーローらの姿が映されているではないか。

 確かに家宅捜査まで秒読み段階ではあったものの、献金やトカゲの尻尾切りを繰り返してどうにかこうにか捜査の手を遅らせてはおり、警察内通者からのリークでは家宅捜査の実行は5日後の筈であった。

 

 だというのに現実では今まさに襲撃が行われている。

 しかも捜査令状の提示もない強制捜査である、一体何がどうしてこうなったと治崎は叫びだしたくなった。

 

「クロノス! 音本、いるのか!?」

 

 部屋を飛び出した治崎は怒鳴りあげて呼びかければ、二人も異変に気付いたのだろう「若頭!」と声を張り上げて近づいてくる。

 

「すいやせん若頭、完全に油断していました……! ヒーロー共が警察率いてここに……!」

 

「そんな事分かっている、奴らは今どこまで侵入している!?」

 

「それが奴らの大部分は今1Fにいるんですが、一部の面子は既に地下に侵入していやす!」

 

「やはり先日の侵入者騒ぎはこの強制捜査の前段階だったのか……」

 

 数日前の事、厳重な警戒をしていた筈の組に侵入者が現れたという話があった。

 待機していた組員が何十名と倒れ、敵連合のガキが相手をして、その複製が殺されたという話があったが、さしたる被害らしい被害はなかったと思っていたが――(何故か壊理がお気に入りのおもちゃがなくなったと騒いでいた)どうやら奴らはどうしてもこの組を徹底的に潰したいらしい。

 

「クソが……いいか、一刻の猶予もない。幹部らへ報告して徹底抗戦を命じろ! 俺らは幹部が抵抗している間に荷物をまとめ、壊理を連れて逃げるぞ。敵連合の連中も叩き起こせ! いいな!?」

 

 二人の返事を聞かずに治崎は壊理の眠る部屋へと急いでいく。

 通路を疾走し、乱暴にドアを開け放ち。そして、呑気に眠っていた少女を叩き起こした。

 

「ど、どうしたの……?」

 

「壊理。さぁ逃げるぞ、ここに()()()()が入り込んできた」

 

「……」

 

「大丈夫だ、勿論お前は絶対に守って見せる。しばらく色々な場所に行かなければならないが……辛抱しろよ」

 

 いつもよりも剣呑な雰囲気を見せる治崎に気圧されてか、壊理は黙って治崎の目を見つめるばかり。そんな壊理を治崎は抱えると、逃走場所――地下に秘密裏に作り上げた、地上へと繋がる道へと急ぐ。

 この道は侵入者が現れてから入中に急遽(きゅうきょ)作らせた新しい道だが、その作りは突貫工事のためどこか崩れそうな雰囲気があった。

 

 地上へ向かう急ごしらえの道を歩く度にぽろぽろと足元で地面が崩れるのが分かる。

 まるでこの先に待ち受けている未来が不安定であるかと示唆しているようで、治崎は不快さを隠す事ができない。

 

「畜生、畜生、畜生、畜生……ッ!」

 

 肌に浮かぶ蕁麻疹を、心中を満たす怒りにかまけて血が出るほど掻き(むし)る治崎。

 腕の中の壊理はそんな治崎を恐れた目で見ることしか出来ずにただしがみつくばかり。

 

 そして治崎が通路先の階段に脚をかけた直後。

 原因不明の衝撃と爆発音が地下いっぱいに広がるのだった。

 

 

 

 § § §

 

 

 

「ぐっ……!?」

「……やはり来たか、入中常居(ミミック)!」

 

 一方で八斎會本部の建物に侵入し、地下への道を突き進むエンデヴァーら一行。

 しかしながら警戒しながらも迅速に進む彼らの進行方向で、その道が、壁が、まるでそれが意思を持った軟体生物であるかのようにうねり出し、進路を塞いだ!

 

 八斎會幹部、入中の個性『擬態』の仕業なのは間違いなかった。

 この個性は物に入り込み、物体を自由自在に操るという物であり、恐らく入中はヒーローらを待ち構えていたのだろう。

 

 当然ながら入中が妨害してくることを予測していたヒーローらであったが、彼らに出来る事は限られている。

 

 塞がれた壁を破壊し、ただ先へと進むばかり。

 

 イレイザーに入中を目視させる事ができれば苦労はしないが、肝心の入中は壁の奥に埋まっているのか確認できず、その行動を妨害する事は出来なかった。

 

「サー! 自分が先行します!」

 

「ミリオ、気を付けろ。奴らはきっと私達の知らない逃走経路を作っている筈。絶対に逃がすな」

 

「はい!」

 

 その場に同行していた通形(とおがた)ミリオ、ヒーロー名『ルミリオン』は個性『透過』の持ち主であり、如何に進路が塞がれようとも意に介さず通過。先へと進んでいく。

 

 遅れてグラントリノ及びエンデヴァーの攻撃が壁を破壊して後を追うものの、破壊した矢先に縦横無尽に通路が狭まるため、思うように移動する事は出来ていなかった。

 

(頭に叩き込んだMAPだとこの先に階段がある! 今は地下1F、ターゲットは恐らく3F! 混乱している今がチャンス、早く捕まえていかないと……!)

 

 個性を併用してぐんぐんと加速し、まず地下2F目指して階段を飛ばし気味に進むミリオ。

 不意打ち気味な強制捜査で組員らの隙を突くことは出来たが、既に数分が立った今、事態は知れ渡っているであろう。恐らくここから抵抗は増えていく筈。最大限の警戒で周りに目を配らせていく。

 

 しかし、2Fに降り立った瞬間――彼の足元がぐらり、と揺らいだ。

 まるで地面をひっくり返されているような感覚。よもや入中が先行する自分の方を襲ったのか、と一瞬考えを巡らせたのだがどうにもおかしい。

 視界は揺れるが地面に変異は見られず。局所的な地震に襲われているような錯覚を覚えたミリオは壁に手をついて体を支えてから、ようやくそれが自らの平衡感覚の異常だと認識した。

 

「ウィィィ。きたきたァ、敵がァ、きたっ、きたぞぉ」

 

「オイオイオイッ、ヒィィック、一人だぁと、舐めてんのかぁ? それともぉッ?」

 

 ミリオは急速に揺らぐ視界を何とかまとめながら、音の発生源を見上げる。するとそこには通路の配管にぶら下がるペストマスクをつけた謎の男が二人いた。この現象は果たして二人組の仕業なのか?

 

「お、ぇ、おぇっぷ、お、おぉぉろろろろろぉぉぉ……!」

 

 ……いや、もう一人居た。天井ではなく通路の先。

 赤と黒の全身スーツを身にまとい、自らのマスクをめくって何度もえずく男が。

 彼は酩酊感に耐えきれないのか地面に手をついて盛大に戻していた。

 

()()()()()()()()()さぁっ、なんかいつもより、酔いがひぃっく、回ってぇ!」

 

「こーりゃ楽しい、わぁっ、あぁぁー天井でさえ揺れてやがるぞぉぉ~~っ」

 

(こいつ、酒木(さかき)泥泥(でいどろ)か……! 個性は確か『泥酔』……! 周りを強制的に酔わせるっていう厄介な奴だが、何で二人いるんだ……!?)

 

 ミリオは揺らつく視界の中で必死に考えをまとめあげようとするが、誰かに地面ごと振り回されているかのような感覚は止まらず、既にその酩酊は壁に手をつく事もままならない程になっていた。

 恐らくは奴の個性が同時に発動されているせいであり、そして二人に増えた原因はひっきり無しに吐き続けるあの赤黒マスクの男に違いはなかった。

 

「お、お前の個性っ、中々イカしてんな……っ、最悪、だぜっ……! お、うぅっぷ……」

 

「お前、ひっく酒に弱いのかァ!?」

「酒は飲んでもぉ~~、飲まれるなぁ、だぞォトゥワイスよぅ!!」

 

「お、大声で怒鳴るなクソがぁぁ!! 何で個性が無差別なんだよ畜生~~、うぉ、ぇ、おぼろろろろ……!!」

 

 赤黒マスクは天井にしがみつく酒木に文句を言っては吐く事を繰り返しており、彼もまた個性の影響を受けているのに違いはなかった。

 

(このままではまずい、早く立ち直らないと……!) 

 

 あの男のように倒れ込みそうなのを驚異的な精神力で四肢に命令を出し立ち上がったミリオ。その行動が明暗を分けた。

 飛んできたナイフを虚ろな判断で何とか認識したミリオは、奇跡的にそれを自らの個性で避けることが出来た。あわせて12個のナイフが通路に硬質的な音を立てて背後の床で跳ねる。

 

「あぁ~~ッ!? お前何で攻撃当たんねぇんだぁ!?」

 

「ひぃぃっく、おめぇ、酔ってんのかよぉ、下手くそがァ!!」

 

「お前こそ外してんじゃねえかばぁああぁぁか!」

 

 ミリオを置いてお互いに罵り合う酒木達、その行為は普段なら致命的な隙の筈であるが、今のミリオではその隙をつく事すら叶わない。

 

(ま、まずい。これは、このままではやられてしまうぞ……!)

 

 

 ――未だ、死穢八斎會攻略作戦は始まったばかりだった。




個人的に厄介だと思うトゥワイスの組み合わせ。
W酩酊コンボで敵は倒れる!(尚範囲内に居ると味方も倒れる)

感想・評価お待ちしております。


《レユニオン図鑑》
・現在シエスタにてライブを楽しんでおります。


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第23話 妨害を跳ね除けましょう!

THE・難産パート4。
2日かかったぜコイツゥ。


「こんな夜更けにいきなり訪問してくるなんて、常識知らずねぇ」

 

「楽しそうな事してるじゃねえかよ、俺らも混ぜろよ、なぁ……?」

 

 死穢八斎會本邸。

 地下1Fでエンデヴァーらが足止めを受け、地下2Fでルミリオンが苦戦する中。

 地下3Fではジェントルらが二人の敵と相対していた。

 

 片一方は2mある巨体で有り余る筋肉をこれでもかと誇示する、片目に(あざ)のある金髪の男。

 そしてもう片一方は赤い長髪にサングラスをかけた、布に包まれた巨大な鉄棒を抱える長身の男性であった。

 

「――『血狂い』に『マグネ』! 敵連合のヴィランよ皆!」

 

「私達の事を知ってるの? 物知りねえお嬢ちゃん」

 

 サングラス越しでも分かるねっとりとした視線をラブラバに向けるマグネ。

 そんなラブラバをかばうかのようにジェントルが前に出た。

 この作戦、自分が言い出した事ながらヤクザのみならず、見た目からして危ない相手と大立ち回りすることになるとは思ってもいなかったジェントル、その彼の額から汗が流れ出る。

 

「お、よく見ればコイツ動画の奴じゃねえか!」

 

「まあ本当! 貴方の動画見せて貰ったわ、ヤクザ相手によく頑張ったわねジェントルさん、すっごく面白かったわ!」

 

「……視聴頂き誠に感謝しよう。普段ならファンサービスの一つでも披露するところだが、我々は先を急いでいるのでね。申し訳ないのだがそこをどいてくれるかね?」

 

「ばぁかが、ようぅぅぅやっく面白い事にありつけたんだ! だぁれが逃がすかよ!」

 

「残念だけど、私達もお仕事なのよね。折角だからここでやられる所を撮影するのはどうかしらん!?」

 

「ぬおっ!?」

 

「ジェントル!?」

 

 マグネ――本名、引石(ひきいし)健磁(けんじ)が包んでいた布袋を取り外し、両端に『S』『N』と書かれた巨大磁石を向けて、ジェントルを引き寄せる! マグネの個性『磁石』は狙った相手に、男性であればS極、女性であればN極を付与する物。ジェントルは見えない誰かに引っ張られているかのように急速に磁石へと引き寄せられていく!

 

「ハッハァ! それじゃあこっちも始めちまおうかァ! 『くらすれ』とかいう野郎はどこにいやがる!? トガをぶっ飛ばしたっていう実力、是非とも俺にも楽しませてくれよ!」

 

「だって。クラウンスレイヤー、ご指名よ」

「……暑苦しい」

 

 (みなぎ)るばかりの戦意をたぎらせ、Wとクラウンスレイヤーの両名に大股で近寄っていくマスキュラー。その巨体は歩く度に大きく膨らんでいく。

 よく見れば彼の肌はそれぞれが意思を持っているかのように、筋繊維が内部からどんどん盛り上がっているように見えた。

 彼の個性は『筋肉増強』。自らの筋繊維を増幅したり、体の内外に纏う事で筋力を増強するブースト系の個性であり、その力は他の増強系とも一線を画すものであった。

 

「はぁ!? くらすれってガキかよ! ――まあいいや、ヤろうぜ! 今まで暇だった分全力でなぁ!」

 

「断る」

 

 狭い通路に収まりきらない程肥大化した丸太のような腕が、地下壁を削りながらクラウンスレイヤーに差し迫る。しかしマスキュラーが感じる筈の肉を殴る感触は訪れず、代わりに地面が弾け飛ぶばかり。

 

「――ッたァ!?」

 

「……」

 

 直後、彼の右肩に激痛が走る。

 マスキュラーは反射的に振り返りざまに左腕を振るい、またも壁が削れながら弾け飛ぶが、背後に感じた気配の持ち主に届く事はない。

 右肩を押さえ、振り返った先には血染めのナイフを構えたクラウンスレイヤーが涼しげにそこに佇んでいた。

 

「あーってて、いいね。容赦なくて好きだぜ……! 予想以上に速くて楽しめそうじゃねえか……! こいつぁ本気出さなきゃ不味いなァ……!」

 

「わざわざ手加減しようとしてくれたの、お優しいのね」

 

 傷つけられたというのに獰猛に笑うマスキュラー。そこに先の一撃を余裕を持って避けていたWが、どこからともなく小型ナイフを数本投擲していた! マスキュラーは声に気付いてとっさに片腕を掲げ、筋肉を肥大化させて分厚い筋繊維の盾を作り上げ、それを防いでいた。

 

「おぉっと! 二人相手だっていうなら尚更だな! 後で遊んでやるからお前は待ってろ、待ってろよな!?」

 

「後でと言わず今遊んでくれればいいのよ」

 

「楽しみはとっておきてえんだよ! すぐに潰しちまったら――つまんねえだろォ!?」

 

 筋繊維の盾でナイフ攻撃を防いだマスキュラーに近寄ったWが、流れるような動きで膝裏を蹴り上げる。華奢な身でありながら鞭のようにしなる蹴りは、マスキュラーをして驚く物ではあったが、誰よりも肉弾戦に慣れているのは彼である。

 蹴りのお返しだと言わんばかりに右脚を巨大化させ、フローリングの床ごと吹き飛ばす強大な一撃をWに見舞い、Wは舌打ちしながら逃げる他ない。

 

「っとぉ、悪いなクラスレぇ、今から俺が本気で遊んでやるからな。本気の義眼をつけた俺はもっと強いぞォ」

 

 傷を負っても心底嬉しそうに話すマスキュラーは、自らのポケットを探り出す。

 彼はとあるヒーローと戦って目を失ってから、その時の気分で様々な義眼をつける習慣があった。義眼を変えたことで能力が向上することはないが、お気に入りの義眼をつけると心なし戦いやすくなる。故に、彼女らの強さに敬意を示して本気の時しか使用しない義眼をつけようとしたのだが――目の前に居たはずのクラスレは、そこに居ない事に気付いた。

 

「あぁん……?」

 

 それどころかいつまで経ってもポケットから義眼を探れない。

 まるで指先が固まってしまったかのような、というよりいきなり指先の感覚が途絶したような……?

 

「あ、が、いっつ、何……!? な、なんだこれ!!? ん、んだよコレはよぉぉ!!」

 

 異変に気付き、マスキュラーは驚愕してしまう。

 掲げた右腕、その先端にあるべき筈の右手がない。鋭利な刃物で消し飛ばされた右腕からは鮮血が溢れ出しており、遅れて全身に走った激痛に叫びだす。

 

「急いでる、と言っただろう」

 

「ッ!? くそ、ガキがぁぁぁッ!!」

 

 消し飛ばされた右手の先から筋繊維を形成させ、急ぎ血を塞ぐマスキュラー。彼は当然のように激昂(げっこう)し、無事な左手で目の前の自分より遥かに背の低い少女を殴り潰そうとしたが――彼女を見ていた筈の視界が何故か天井を見る羽目になっていた。

 

「こっちの事、無視しないで欲しいんだけど?」

 

「が、ぐっ」

 

 発火したかのように自身の顎が熱くなったかと思えば、ぐらり、と体が揺らぐ。意思に反して両足が震えているのが分かる。

 崩れ落ちそうになったマスキュラーが視線を下にさげれば、いつの間にか懐にWが潜りこんでいたのが見えた、どうやら顎をいい角度で蹴られたようだ。

 

「あとこれ、プレゼントよ――クランスレイヤー、退きなさい」

 

「何が……ッ」

 

 プレゼントだ、といい掛けてマスキュラーは口をつぐむ羽目になる。

 濃縮された時の中で彼がそこで見たのは、Wが金属のピンを口に咥え、嗜虐的な目でコチラを見つめる姿。そして、筋繊維で盛り上がった左肩、その隙間に表面が凸凹した物がねじ込まれているという光景。コレは、この物体はなんだ……!?

 

「――~~~~~ッ!!?」

 

 直後、左肩を起点として強い衝撃が全身を襲い、マスキュラーの意識は途切れた。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 一方でマグネに引き寄せられていたジェントル。彼も最初は面食らったが、咄嗟に自らの個性を発動。

 引き寄せの勢いを乗せて鉄塊で殴るつもりのマグネ、だが鉄塊その物に弾性を付与させた事で本来の硬さからグミのような硬さに変更、自身への衝撃を大部分軽減していた。

 

「やだもう、こんなにフニャフニャに」

 

「このような鈍器で人を殴るのは紳士的ではないね……!」

 

 しかし磁力付与で引き寄せられ続けているのは変わらない。

 超至近距離でにらみ合う二人、先に仕掛けたのはやはりマグネ。

 その長い足でジェントルの腹部に膝をめりこませようと考えていたが、第六感からか行為をやめてその場を飛び跳ねる。するとマグネの居た場所に禍々しい黒い縄が何条も通り過ぎた

 

「やぁやぁ、僕らも混ぜてくれないかいおじさん」

 

「こんな鉄火場に子供!? 一足早く大人体験したかったのかしらね!」

 

 声の主はメンバーの中でラブラバの次に小柄なメフィストの物であったが、下手人はサルカズ術師だ。

 黒い縄の正体が何かは分からないがひと目でそれがヤバい物であると見越したマグネ。かろうじて攻撃を避けることが出来たが、さらなる脅威が待ち受けているとは気付いていなかった。

 

「きゃんっ」

 

 通路の壁を蹴り、横合いから不意に斬りかかったヴェンデッタの攻撃、マグネはそれを掲げた巨大磁石で何とか防ぎ、接触した金属から火花が派手に散る。

 

「やだもう、本当に形勢不利ね! マス君がどうしてもっていうからついてきたけど、すっごく後悔してるわ!」

 

「おいおいがっかりさせないでくれよ、僕ら相手に自信満々で絡んだ挙げ句それかい? 敵連合なんて大層な名前してるけどやっぱり大したことないのかねぇ!?」

 

「しかも口の悪い子ね……そういう生意気な子は教育してあげないと……!」

 

 何もせずにただ大口を叩いて煽るメフィストに苛立ちを隠せぬマグネ。(もっともメフィストには回復技能と防御手段しかないため仕方がないのだが)

 斬り結んだヴェンデッタの剣を力で押し返していたマグネがヴェンデッタに磁性を付与すると、巨大磁石のS極側を向けて磁力で反発! ヴェンデッタは強力な磁性によって数m程吹き飛ばされる羽目になる。その吹き飛ばした先には――サルカズ術師!

 

「!」

「ぐっ」

 

「ピンボールみたいに弾けなさい!」

 

 二人が衝突した直後、サルカズ術師にも磁性を付与すれば、()しくも男性同士であった二人の兵士はお互いの磁性によって反発! それぞれ両側の壁に衝突してしまう。

 

「ちょっと形勢が悪すぎるから、一旦引かせて貰うわね――人質を貰って!」

 

「わぁっ!?」

 

「ラブラバ!」

 

 そして、事態を見守っていた非戦闘員のラブラバが狙われた。

 同じく磁性を付与されたラブラバがマグネに引き寄せられそうになると、ジェントルが咄嗟に彼女を抱き寄せて防ごうとするが、共に移動する羽目になってしまう。

 

「もう邪魔よ! 今は貴方は必要ないの!」

 

 流石に二人も人質に取るつもりはないのか、マグネはラブラバを庇うジェントル相手に、長い足で攻撃しようとするのだが――

 

 

 突如背後で広がった爆音がそれを許さなかった。

 

 

 耳鳴りを引き起こす程の爆発音はマグネのみならずジェントルラブラバすらも一瞬前後不覚にさせ、マグネは蹴りを外し、ジェントルらは引き寄せられるがまま吹き飛んでマグネにぶつかり、3人でもつれあう。

 

「あ、つ、つつつ……!」

「じぇ、ジェントル……」

「も、もぉなによ一体……!」

 

 動転するマグネだが、その中で一番回復が早かったのはマグネであった。彼女は覆いかぶさったジェントルを吹き飛ばして状況を確認しようとして――その首元に剣を突きつけられている事に気付く。

 

「……」

 

「あら」

 

 見上げた先には先程吹き飛ばした筈のヴェンデッタがおり、ふと周りを見渡せば、同じく倒れ込んだマスキュラーの姿と、ナイフをぶら下げた少女、手榴弾を手元で(もてあそ)ぶ少女、杖を持った術師に、耳を押さえる白髪の子供が見えた。

 

「……ここはあえて決死の覚悟で逆転を狙うべきなのかしらね? 剣士さん」

 

「首と胴体がおさらばしたいなら好きにしろ」

 

「残念」

 

 諦念の表情で返事をしたマグネはその直後、後頭部を襲った一撃で昏倒。

 彼もまたマスキュラーと同じく意識を闇へと沈めたのだった。

 

 

 

「思わぬ強敵だったわね……」

 

「マグネはともかく、マスキュラーは協力プレイをしたがらなかったのが幸いだったが……」

 

 気絶したマグネを見下ろすジェントルとラブラバ。その背後ではメフィストがWに食ってかかっていた。

 

「――キミさぁ、こんな狭い通路で爆発攻撃とかさぁ、もうちょっと常識を学んでくれないかな常識を!」

 

「仕方ないじゃないの、私の攻撃手段は限られてるんだから」

 

「せめて事前に伝えるとかしてくれないかな!? キミのお陰で耳が痛くて仕方がない!」

 

「伝えたら相手が気付いちゃうじゃないの、我慢しなさいな。男の子でしょアンタ」

 

 Wは決して悪びれる事なくメフィストの追求をのらりくらりと躱し続けているが、普段から目つきの悪いクラウンスレイヤーもまたWを冷ややかな目で見ている事から、彼女もまた同感のようだ。

 

「ま、まあまあ。お陰でラブラバの危機を救えたし、マグネ君を倒すことも出来たんだ、今は先に進もうではないか諸君」

 

「ほらジェントルもそう言ってるわよ。少しは大人になりなさい」

 

「~~ッ、後で覚えていろよ……ったく」

 

 メフィストが手を掲げ、メンバーに向けてふぅっと息を飛ばすと白い霧のような物が周りに撒き散らされる。

 それは回復の息吹。

 面々がマグネから受けたダメージは大きくはないが、だとしても感じていた痛みがみるみるうちに回復していくのはジェントルらにとって驚愕であった。

 

「……凄い。もう痛くないわ」

 

「そうだねラブラバ、私も驚いている……この様な技術があるとは」

 

「本当はこんな微細な傷だったら我慢してっていうけどね、もっと大怪我をしても治せる自信はあるよ」

 

「……それよりも早く追うぞ。こいつらが襲ってきたって事は、治崎の奴は先に居る筈だ」

 

「クラウンスレイヤー」

 

「……はぁ。人使いが荒い」

 

 面々は一息をつくと、先行してクラウンスレイヤーが通路の奥へと消えていく。

 ヒーロー等が今も尚侵攻中の今、ここで立ち止まっている暇はない。

 ジェントルらも気絶した敵連合らをその場に放置し、後を追うのだった。

 




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・なっすぃんぐ。


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第24話 仲間を救いに行きましょう!

ここからが本番になります。


『侵入成功』

 

 よしよし、みんな頑張ってくれよ……。

 

『八斎會幹部と遭遇。無力化に成功。乱発と壁慈だ』

 

 おぉ、順調順調。

 地下3Fに居たのはあれかな、幹部は重要施設付近に固められていたのかな。

 

『ターゲットの部屋と思われる場所を発見。ターゲットは確認できず。逃げてからまだ間もないようだ』

 

 壊理chang連れ去られてらぁ……いや、まだ遠くに逃げてないならイケるな。

 オバホさんは攻撃力はピカイチだけど移動速度は並だかんね。

 多分クラスレちゃんが居るなら何とか辿りつけるっしょ。

 

『敵連合メンバーと遭遇。敵は血狂い、及びマグネ。これより交戦に入る』

 

 げぇぇーッ、ここで遭遇かぁ……!

 まあそりゃ妨害の1つや2つ覚悟してきたけど、マスキュラーはヤバそう。

 彼は実力派折り紙付きだけど戦闘を楽しもうとするきらいがあるから、何とか調子に乗ってる所をぶちのめしていってもらいたい所だ……。

 

 

 ……あ。遅れてすみませんおはヒロアカ! 転生少女リュニちゃんだよ!

 

 

 現在は家で無線機片手にコーヒー飲みながら固唾を飲んで突入メンバーの無事を祈っている所です。

 地上ではヒーローと警察が乱痴気騒ぎ、地下では我々が首魁を追い詰めようと侵攻中。うーん、カオスもカオス。

 幹部も順調に倒していっているので後は壊理ちゃんを回収して、オバホを倒せれば文句はないんだけど……今更ながら懸念があるとすれば、オバホと壊理ちゃんがこのまま逃げ切ってしまうケースである。これが怖い。

 

 敵連合の強みは神出鬼没であるという点。

 そして彼らが神出鬼没でいられる理由は『黒霧』という存在にある。

 

 もしも黒霧さんが事前にワープゲートとか開通させていたらば、折角侵入したのに骨折り損になりかねない。これは大分まずい。

 一応不意打ち侵入の筈だし、たしかあのワープって正確な座標位置特定が必要だから地下には開通してないと信じたいんだけど……あ、敵連合との戦い大丈夫かな? 負傷者出てないかな……? 報告はよ! 報告はよ!

 

『――血狂いおよびマグネの無力化に成功。損傷は軽微』

 

 いょぉぉーしよしよしよしよしよし!!

 なんて良い子達なんだ、ご褒美に角砂糖をやろう! 5個がいいか!? え? いらない!? そうだよね! 

 ではではそのまま追跡を続けてしまいましょう。もしもオバホ達が居なかったら即時撤退でOK! 無理しても良いことなんてないかんね!

 

『了解。クラウンスレイヤーを追跡に出した』

 

 クラスレちゃんがんばえー!

 よしよし、やっぱり今回の作戦は上手く行きそうだな……これは帰ってきたみんなを労うためにも、何かご飯とか用意しておこうかな。

 背が低いという致命的な問題があって作れる物も限られるけど、冷凍物でいいから用意……何か庶民的過ぎるな。いやいや、ここはやっぱりジェントル達大好きな紅茶と、うんと甘いクッキーとか!

 

「よし……そうとなると善は急げだ」

 

 待機してる時間が勿体ない、私に出来る事はしておかねばと準備開始。

 まずはポットに水を入れてお湯を沸かしておこう。

 あとはお茶菓子を探していって……。

 

『クラウンスレイヤーがオーバーホールらを捕捉した。一人はターゲットを抱えている』

 

 おぉ、良かった……もう逃げ終わってたかとヒヤヒヤしてたけどついに見つけたか……ここからが本番だね。

 

「分かった、他メンバーが合流するまで足止めをお願い。絶対にオーバーホールの手には触れないように!」

 

『了解』

 

 クラスレちゃんは単独でもかなり強いし、瞬間移動の力が大分チートだ。

 幾らオーバーホールでもそのスピードの前では逃げられるとは思えない。

 ただ怖いのはなー原作でもあった『壊理ちゃんが分解されてもいいのぉ? 俺の力があれば戻せるけどぉ、俺に逆らったら分解したまま戻してあげないよぉ』って言う悪人ムーブ。あとは腹心である音本やクロノスの妨害かなー。

 個性抹消の弾丸がそもそも彼女に当たるかは不明だけど、個性で作ったレユニオンにその攻撃があたったらどうなるんだろう……やっぱ消えちゃうのかな。

 

『本隊が合流。交戦に入る』

 

「っと……分かった。気を付けてね。取り巻きをまず優先的に除外。後ジェントル達は壊理ちゃんの確保に全力を尽くして、交戦はしないように伝えておいて!」

 

 佳境。佳境だねコレは。

 うー呑気にお茶菓子用意するだけってのが非常にもどかしい。

 やることがないのはそうだけど、こんなにみんなが頑張っている中家でじっとしてるのも……!

 何か母親が始めてのおつかいを子供に任せる気分というか、不安でもぞもぞして仕方がない……!

 

 お湯を沸かしながらも机の上の無線機をちら見しまくってしまう。

 交戦に入ると言って既に3分。反応は今のところ無い。

 

 うー。無線機反応しろ無線機反応しろ。

 オバホ倒したって言え、壊理ちゃん確保したって言え。

 みんな無事だって言ってくれ言ってくれぇぇぇ。

 

 

 ……あ。お湯湧いた。

 

 

 よぉし……まずは落ち着こう。落ち着かないとだね。

 とりあえず落ち着くためにも先にお茶を飲んで気分を和ませよう。

 

 今頑張ってる皆よりテンパってどうするんだって話だしね、みんなごめん。先にちょっと休ませて――「げほっ」、やっべむせた。お茶飲んですらいないにテンパりすぎ。ほらー手が真っ赤になっちゃって、

 

 

「――え?」

 

 

 手が、真っ赤だ。

 あれ、なんだろうコレ。血? いや、誰の血? 私の血?

 メチャクチャ出てるんだけど。「げほっ、げほっ、げほっ!」ヤバイ、止まらない、台所が赤くなる。なんだコレ、どうしたっていうんだ。いきなり、お腹も痛くなってきた……! 何、これ、どうして。なんで。

 

 震える手で自分のお腹をめくって見たら、前まではほくろ程度だったおへその鉱石が、一気に10円玉レベルまで広がってた、こ、ここに来て感染拡大。どうして?

 

『――! ――ルカズ術師が、やられた! 繰り返すサルカズ術師がやられた!』

 

 無線機がさっきと打って変わって五月蝿いくらいに叫んでいるのが聞こえる。

 誰かが、やられた? まじかよ、ここまで来て順調だったのにどうして、ぅ、がふっ!

 

『観測隊A4! 死穢八斎會本邸で土煙があがった!』

『観測隊A1。コチラも同じく観測した、ヒーロー、警察らが混乱している様が見える』

『観測隊A6。住宅街の一部が陥没した。繰り返す、住宅街の一部が陥没した』

 

『聞いて――ザッ――いてる!? オーバーホールが暴走中よ! ()()()を自分に打ってから、周りを巻き込んでどんどん巨大化しているわ! ヴェンデッタもやられたし、ジェントルも負傷した!』

 

 ま、ずい。まずいまずいまずい。

 何だよそれ、本当ヒロアカ世界って、畜生。チートが多い……!

 オバホのやろう、個性暴走薬を打ったのか……! 原作にないことしやがってよぉ……!

 

「撤退、撤退して……っ! みんなを連れて撤退を……!」

 

『何とかヒーローとかになすりつけて見ようと思うけど狙いはずーっとこっちに釘付けで、避けるので精一杯よ……! それよりも聞いてリュニ』

 

 Wさんの声を倒れ込んだ床の上で聞く私。

 テーブルの上の無線機に、弱々しい私の声は残念ながら聞こえていないのか……!

 く、そ。畜生、早く、早く、テーブルの下まで。

 お腹が千切れそうな程痛いし、口の中が鉄っぽくて気持ち悪い……!

 

『アイツからアーツ*1の気配がするわ――いや、ううん。あいつは()()()()使()()()()! この地域にアーツ適正者は居なかったんじゃないの!?』

 

 アーツ、何か懐かしい言葉だな、ってそんな……どういう事?

 アーツってあのアーツ……? 何で原作キャラがそれを使ってるの?

 そんなの、そんなの、私が聞きたいくらいだ……!

 

『いい加減反応して! どうするつもり!?』

 

「て、撤退、撤退して……! いいから撤退!」

 

『貴方その声、一体……』

 

「なんでもっ、ない、からっ……! 撤退が難しいなら、こっちから迎え、に行く……!」

 

『迎えに行くってそんなの』

 

「いいからっ、交戦を避けてジェントル達を連れて撤退っ、急いでよっ!」

 

 何がなんだかわかんないけど、もうなりふりかまってられない。

 ジェントルを、皆を助ける。お腹の痛みなんてどうでもいい。

 彼らをなくすなんて今更もう考えられないんだから……!

 

「タルラ……ッ!」

 

「……指導者よ。大層な姿だな」

 

 歯を食いしばりながら私は彼女を召喚する。

 顕現(けんげん)したのはどこか貴族然としたエプロンドレスを身に纏い、その手に長剣をぶら下げた、頭部の銀髪と二本の龍角が美しい長身の女性――レユニオンのリーダーである、タルラ。

 ゲーム本編ではまだ謎の存在として、シルエット程度しか公表されてない彼女。

 レユニオン・ムーブメントそのものを引き起こした故、扱いづらそうと敬遠していたが、そんなの知るか。もう関係あるもんか。

 

「私をっ、私を死穢八斎會本邸まで、連れていきなさい。そして、オーバーホールを討伐するの……!」

 

「――」

 

「出来ないなんて、言わせない。私の命令を聞いて――仲間の命を、救えッ!」

 

「――承知した」

 

 タルラは意外にも素直に動けない私を抱えると、窓枠から私ごと颯爽と夜の街へと飛び出していく。

 道を走り、家を飛び越え。まるで一陣の風になったかのように疾走する。

 宵闇に紛れた私達は、恐らくその速さもあって誰からも気付かれる事は出来ないだろう、いや、夜でなくても難しいだろう。

 私はそんなタルラの胸元で抱えられながら襲いかかる腹痛と込み上がる血痰を抑え続けていた。

 

 

 

 待っててよジェントル達、絶対に今助けに行くから。

 

 

 

 

*1
源石術(オリジニウムアーツ)の事。アークナイツ世界では感染症の元であり、力の元でもある源石を使った技術。物質の形や性質を変化させるという原石の持つ特性から不可思議な攻撃を可能とする。




ちなみに死穢八斎會編は既に書き終えてます。

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《レユニオン図鑑》
・『タルラ』:
 虐げられ続ける鉱石病感染者の解放を目指す、レユニオン・ムーブメントの火付け役であり、彼らを束ねるカリスマ的リーダー。
 その戦闘力や過去の経緯は不明な部分が多いが、
 「生ける怪物」と評されるほどの戦闘力を誇る。


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第25話 合流しましょう!

混沌。更に難産になったな!(白目)


「大丈夫かミリオ」

 

「はぁ、はぁ……す、すみませんサー……助かりました」

 

 八斎會本邸地下二階。

 地下1Fで進路を阻まれ続けていたヒーロー本隊は、先行していたルミリオンと無事に合流出来ていた。

 

 散々妨害し続けてきた本部長である入中常居は既に確保済み。

 サーの未来予知で先を打ち、イレイザーの『抹消』で個性を使えなくし、エンデヴァーやグラントリノらのパワーとテクニックを前にすれば大きく苦戦することなど、ありえる筈もなかった。

 

「ヒィィック……ヒック」

「おぇ……うぷ……ぼぉぉ……」

 

「酒木泥泥――個性は『泥酔』か」

 

「こっちは分倍河原(ぶばいがわら)(じん)、個性は『二倍』。ふん、個性頼りの俗物め、容易い」

 

 そしてそれはルミリオンが苦戦していた泥泥とトゥワイスも同じであった。

 ヒーロー本隊が到着するまで酩酊感と戦い続け、彼ら相手に粘り続けたルミリオン。

 二人の極悪な個性の組み合わせで如何な彼とて敗北は必須であったが、合流したイレイザーの力は凄まじかった。

 

 さしもの二人も、個性がなければただの重度の酔っ払いである。彼らは遅れたヒーローらに瞬く間に鎮圧されていた。

 

「周りを酔わせる能力の重ねがけか」

 

「平衡感覚を失わせるだけの個性だろう。血中のアルコール濃度を上げる訳ではないから時間が空けば回復する、貴様はそこで待機しておけ」

 

「無様な姿を見せてしまいすみません、ですがまだ俺は――」

 

「くどいぞ。足手まといは要らないと言ってるんだ」

 

 未だ酩酊感が抜けきらず、足元も覚束ないルミリオンに対してエンデヴァーから叱責が飛ぶ。

 時間があれば回復は出来るだろうが今は時間が勝負の作戦、とてもではないが回復を待つ時間はないのもまた当前であった。

 ルミリオンは折角ナイトアイによって本件に強く推薦されたというのに、活躍出来ない自らの失態に歯噛みする他なかった。

 

「ミリオ。悔しいと思うが仕様のない話だ、回復したら合流しよう」

 

「――すみません、そうします。皆さんどうかお気をつけて!」

 

 しかし自らの悔しい気持ちと今回の作戦は別である。

 ルミリオンは特にごねることなく彼らを見送る事を決め、エンデヴァー等は彼を置いて先へと進む。

 

「アイツ、中々いい若造だなナイトアイ。やられたっていうのに奴の目には無鉄砲な怒りもない。ただただ役割を果たそうとする気概が見て取れた」

 

「……えぇ。アイツはいずれNo.1ヒーローになるであろう期待の新人ですよ」

 

 グラントリノが移動中にナイトアイに話しかけ、ナイトアイは臆面もなくそう答える。

 すると先導していたエンデヴァーがハッ!と大きく鼻で笑った。

 

「ナイトアイ! それは貴様が見た"未来"がそう言ってるのか!?」

 

「未来? 馬鹿な事を言わないで下さい、これは彼を近くで見てきた私の予測に過ぎません――散々失敗を繰り返しても折れなかったアイツに寄せる私の期待が重いだけですよ、あいつはきっと私の期待に応える」

 

「……」

 

「愚かな奴め、オールマイトやこの私を差し置いてトップになろうなど! だが、その意気は良し!」

 

 作戦行動中だというに、一瞬だけ静かな笑いが漏れる。

 オールマイト弱体化の話こそ一部の人間にしか漏れていないが、優秀な後進が出てくる事はベテランヒーローらにとっても嬉しい事であった。

 

 そうして誰一人足を止める事なく、地下に待つであろう八斎會若頭、治崎廻を探す一行であったが。

 

「――ぅわっ! マジで来やがった、来やがったぞ!」

「畜生、脚を止めろって、こんなにヒーローてんこもりだと足止めも何も……!」

「……」

 

「ちっ、邪魔だ貴様ら!」

 

「怪我ァしたくないなら大人しくした方が身のためだぞ!」

 

窃野(せつの)トウヤ、宝生(ほうじょう)(ゆう)多部(たべ)空満(そらみつ)――後は有象無象ですね。イレイザー」

 

「了解」

 

 長い通路の左右に無数ある扉が次々と開き、組員らがなだれ込むようにコチラを襲ってくる。

 中には鉄砲玉八斎衆の姿も見えたが、やはりイレイザーの個性を前には無力。しかし向こうもそれが分かっているのか多数の組員は拳銃を構えている。

 

 だが、今更拳銃に怯むようなヒーローなど、この場に居よう筈もなかった。

 

「気ィつけろ、個性を一時的に無くす弾頭が入ってる可能性がある!」

 

「言われずとも分かっている!」

 

 エンデヴァーの全身からほとばしる炎!

 それが目の前で群れる組員らを炙り、火だるまにこそならないが熱気を前に怯え、倒れる存在が続出。と、そこへ床から壁へ、壁から床へと跳ね回るピンボールのように四次元的に飛び込んでいったグラントリノが、その小柄な体で瞬く間に拳銃を叩き落し、組員らを昏倒させ、ナイトアイが小さいながらも5kgの重さを誇る押印で同じく攻撃、イレイザーも首の強化繊維を巧みに使って狼藉を働く組員らを絡め取り、拘束し、叩き伏せてゆく。

 

 トッププロヒーローらにとってこの様な抵抗は無いも同じと言っても良く、瞬く間に通路に気絶した組員らが山のように積まれていくのだが――そこで異変が起こった。

 

「ふっ! ――とぉ、なんだこの揺れは?」

 

 通路全体が揺さぶられている。

 地下突入直後にも建造物全体を揺らす程の衝撃があったのだが、同じ原因なのだろうか?

 

「……入中の奴は既に捕まえた筈だが、一体何が起こっている」

 

「分からない。だが揺れの原因は地下からのようだな」

 

「地下3Fか。もしかすると、治崎の奴が何かをしているのか――いや、待て。何か来るぞ」

 

 先程は(わず)かだった筈の揺れが収まらない。

 通路全体が徐々に脈動し、奥の方から壁や床に亀裂が入り始める。

 ぱらぱらと舞い落ちる細かな天井の破片もあり、一行は警戒心を最大限まで引き上げざるを得ない!

 

「総員退避――!」

 

 そしてエンデヴァーが叫び、プロヒーローらが一気に通路を戻った直後。彼が先程まで居た場所が倒れた組員ごと粉砕され、そして大きな穴が出来上がる!

 地下だけでなく地上まで続く崩壊の痕、その奥からは血のように赤黒い巨大な何かが見えていた――!

 

「な、んだコレは……!」

 

「ちっ、聞こえるか直政。よく分からんが地下3Fで何かが起きた! 地上まで巻き込んでねえか!?」

 

『今まさしく驚いているところだ――! どうすればいい!?』

 

「決まってる、本邸から全員退避だ……! 建物ごと崩れる可能性もある!」

 

 グラントリノが警部に連絡する間も崩壊の勢いは止まらない。

 破壊の足跡は引き下がった退路にまで伸びようとしており、ヒーローらは下がる他ない。

 恐らくはこれも個性が引き起こしたのだとは考えるが、こんなに凶悪な個性があるのか!?

 

「イレイザー!」

 

「やっている! だが、一瞬勢いが消えるだけで止まる気配がない!」

 

 イレイザーが必死に目を凝らして個性を消そうとしても余り効果があるようには見えず。エンデヴァーは埒があかないと全身を真紅の炎に包み込み、その手の平から鉄すら溶かす高温の炎を放射! 建物を食らいつくさんとする謎の存在へと攻撃していく!

 

「……!? アイツらは、誰だ」

 

 ナイトアイは彼らの背後から状況を見守っていたが、ふとその時何かを発見する。

 地下3Fから地上までぶち抜く巨大な穴ぼこが出来た結果、階下で謎の物体相手に奮戦する集団が見えたのだ。

 

「あれは――ジェントルにラブラバか! 他の奴らは見たことがないが」

 

「あぁん!? 何で銭湯のときの嬢ちゃんが……!」

 

 他のヒーローらも見てしまう。

 

 右肩と腹部を血で真っ赤に染め上げてラブラバを抱えて必死に逃げ惑うジェントル。

 爆薬を投擲して戦うWや、まるで分身しているかのようにナイフで切りつけるクラウンスレイヤー。

 そして襲い来る触手をひたすら切り伏せるヴェンデッタに彼らを回復し続けるメフィストの姿を。

 

 そして何よりも、そんな彼ら相手に執拗に襲いかかる10本、いや20本、いや数え切れない程の長い腕を持った、赤黒く脈動する肉体を持つ、()()()()()()を!

 遠目に見てもジェントルらはその化け物相手に善戦出来ているようには見えておらず、むしろ防戦一方なのは自明であった。

 

 襲いかかる腕を斬り伏せても爆発させても。

 ダメージを与えた傍から回復してゆき、最早キリがないと言った所か。

 

「ちっ、今は敵も味方もねえ。あの化け物を倒す他ないぞ!」

 

 驚くのは後だ、と誰よりも早く平静を取り戻したグラントリノが壁を蹴って地下3Fへと向かい、残りのヒーローらも同じく階下へ降り立つ、あるいは空中から攻撃を開始し始める。

 

「ジェントル・クリミナル!」

 

「っ、ヒーロー諸君か……! ず、随分と速い到着、だなッ……!」

 

「よう嬢ちゃん! どうしたってこんな所にいやがんだ!?」

 

「あらお爺ちゃん、また出会ったわね。今度はボケてないのかしら!」

 

 軽口もそこそこに。新たに出現した敵を認めた化け物が巨大かつ長い腕を鞭のようにしならせて次々にヒーローを捕えんとする!

 当然易易と捕まる彼らではないが、攻撃を外した腕が地面や机と言った物体に触れると、触れた先から崩壊が始まっていくではないか。

 

「――っ、はぁっ、はぁ、君たちが現れたのなら、すぐにでもっ、逃げたい所だがッ!」

 

「ジェントル、もう喋らないで! 貴方の、貴方の傷が……!」

 

「その傷……! おおよその予想はついているが、アイツの正体はまさか……」

 

「治崎よ! 死穢八斎會の若頭の! アイツ、私達が追い詰めた所で変な薬を自分に打って、それから暴走しちゃったのかあんな事に――!」

 

 事情を聞いたイレイザーはやはり、と内心でうなずく。

 手で触れた相手を分解する動きは事前情報通り。再構成してないようだが、そんな芸当が出来るのは死穢八斎會では若頭しかいない。

 そして変な薬と聞いて思い浮かんだのは個性暴走薬(トリガー)であるが、あの薬にここまで醜く変貌させる力があるのかと言えば、それは疑問であった。

 

「本来で言えば君達を捕まえたい所だが、まずはここから離れて救助を求めろ。その傷は、命に関わる」

 

「承知の上だ……! だがね、我々はッ、まずはこれをどうにかせねばならない……!」

 

「っ、でもジェントルこんな状況になったら……! もう術師さんも……! それに貴方だって!」

 

「未だ壊理君は、あの子は治崎に囚われている! 助けねばならない!」

 

「要救助者があそこにいるのか!?」

 

 イレイザーは今度こそ驚愕した。

 どうやらジェントルが言うには、あのおどろおどろしくも醜く変貌した巨体のどこかに、壊理ちゃんと呼ばれる少女が取り込まれてしまっているらしい。

 

 話している間も攻撃を避け、どうにか同じ地点に着地したイレイザーとジェントル・ラブラバの両名だったが、瞬く間に次の攻撃が襲いかかり、イレイザーが個性を抹消をして腕そのものの能力無効化、ジェントルもまた個性を用いて飛来する瓦礫の何個かを弾丸として射出。腕へとダメージを与えていく。

 

 だが避けても、防いでもキリがない。

 

 イレイザーも、ナイトアイも、エンデヴァーも。

 Wも、クラウンスレイヤーも、ヴェンデッタも、メフィストも。

 全員が全員防戦に回ってしまう。

 攻撃を与えても与えた傍から分解、そして再構成していくのだ。ダメージを与えられている気がしない。

 そればかりでなく、攻撃するたびに周りの物体や、気絶した組員などを取り込んでどんどん巨大化してゆき、攻略難易度は跳ね上がるばかり。これでは埒があかないし、いずれ均衡が崩されるのは自明の理であった。

 

 そしてついに。

 

「!?」

 

 今まで自慢の剣技で触手の群れを捌き続けていたヴェンデッタだったが、ここで埒外の事が起きた。

 物理一辺倒で触れる事でダメージを与えてきたオーバーホールの腕。その掌の先から光が溢れたと思えば、光線としてヴェンデッタを襲ったのだ。

 流石に度肝を抜かれたヴェンデッタ、何とか攻撃を避けることは出来たが体勢を崩してしまい――直後、腕の一部が彼の腹部に触れ、腹部が半ばから吹き飛んだ。

 

「がぁあッ!?」

 

「――ちっ!」

 

 メフィストはやられたヴェンデッタを守ろうとはせず、一息に彼から離れ、ヴェンデッタは剣を取り落した直後複数の腕の群れに取り込まれてこの世から跡形もなく消え去った。

 

「何だよそれ、アイツ。あれも個性だって言うのか? どう見たって()()()じゃないか!?」

 

 メフィストの叫びの意味は、この場ではWやクラウンスレイヤーを除いて分かる存在は居ない。故にことの重大さが分かるのも彼らだけ。

 近接一辺倒だった攻撃手段に遠距離が増えた事でさらなる形勢の悪化を見たヒーロー等とジェントルは、先の見えない戦いに冷や汗を流すしかない。

 

 

GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAARRR―――!!!!

 

 

 深夜の住宅街に、意識を失った治崎の悲痛な程の叫び声が、大きく響き渡った――!




R.I.P. サルカズ術師。
R.I.P. ヴェンデッタ。

入中、酒木戦闘シーンは大した見所さんはないのでカットだ。(無慈悲)

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《レユニオン図鑑》
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第26話 後戻り出来なくなりましょう!

伏線回収にかける話数が長すぎるってそれ一番言われてるから。


「若頭! 遅れてすいやせん!」

 

「荷物を持ってくるのに手間取りましたが、かき集めるだけかき集めました!」

 

 二人の声が階段を上がる俺の背後から近づいてくる。

 音本にクロノス。彼らはこの俺によく尽くす忠臣と言ってもよい存在。

 今日に至るまで信頼の置ける存在と言ってもよいのは組長を除いてこの二人だけ――そして実際に二人しか今俺の手元に残っていないと考えると、(はらわた)が煮えくり返る思いだった。

 

 背後から引っ切りなしに聞こえてくる戦闘音から、恐らくは他の組員はもう駄目だろう。

 これで死穢八斎會はほとんどの手足がもがれてしまった事になる。

 

「……悔しいですが、今は耐えるしかありやせん」

 

「大丈夫です。我々とオーバーホール様がいれば、愚かな敵連合のメンバーも気付く筈です。真にふさわしい支配者が誰であるかを」

 

 今は慰めの言葉すら俺を怒らせるに十分。

 少し黙れ、と部下共を叱咤(しった)し、先程から重くて鬱陶しかった壊理をクロノスに押し付けて先へと急ぐ。

 

 ……あぁ畜生。俺に何の落ち度があったっていうんだ。俺のやり方に間違えなど何ひとつ無かった筈だ。

 確かに倫理にもとるやり方だったかもしれない、だがソレ以上に俺のやり方は何よりも効率的で、そして確実だった!

 このまま順調に進めていれば、いずれ俺は組長(オヤジ)が望む死穢八斎會の復権もできたし、それどころか街の支配者にもなれた筈だった。

 

 慎重に慎重を重ね、辛酸を舐め続け、ひたすら日陰で爪を研ぎ続ける日々。そしてようやく――ようやく軌道に乗ったと思った所で、こんな路傍の石ころ見たいなクズ共に引っ掻き回されて全てを台無しにされる!? どうしてここまでされなきゃ行けない!? 理不尽だ、狂っている!

 

「……」

 

 そしてそれは、()()()()()()()と来た!

 次から、次へと……俺の邪魔をするのが生き甲斐なのか?!

 

「何だコイツ!?」

「一体どこから来たというのですか!?」

 

 気配もなく進路の前に立ち塞がった、口元をスカーフで隠し、まるで道化のようなフードを被った謎の少女。そいつがナイフで猛然と斬りかかってくる。

 それも音本もクロノスも、そして俺ですら反応出来ないスピードでだ。

 

「音本!」

 

 ろくな抵抗すら出来ずにあっという間に音本が切り伏せられて倒れる。

 俺は最早舌打ちすら隠せない……この、役立たずがッ。

 俺は通路の壁に触れ個性で変形、再構成させて、どうにかこうにか奴の攻撃を(しの)いでいるが、圧倒的スピードの前では不利。クロノスの野郎も銃撃で何とかしようとしているが捉えられる筈もなく、俺達は奴相手に苦戦を強いられざるを得なかった。

 

 その時脳裏に浮かんでくるのは敗北の末路。

 これだけ足掻いてきた俺に待ち受けるのは冷たい監獄しかないのか?

 それとも道半ばで殺されるだけなのか?

 

 ――クソッ、俺はまだ終わってなんかいない!

 ――逆転の目がないなんて事はない!

 ――地上まで後少しなんだ、こいつさえ凌げば全てが片付くんだ!

 ――クロノスも音本もいなくても、俺と壊理さえいれば全て問題ない!

 

 ――そう。今さえ凌げばいい話なんだ!

 

 ――今さえ凌げば何も問題ない! 

 ――個性抹消薬の量産が出来れば一人で旗揚げだって可能なんだ!

 

 ――今さえ凌げば何も問題ない!

 ――今よりも遥かに大きな規模の死穢八斎會だって復興出来る筈なんだ!

 

 ――今さえ凌げば何も問題ない!

 ――目覚めた組長が喜ぶような組織を作り出して見せるんだ!

 

 今さえ凌げば、今さえ凌いでしまえば――!

 

「さて、年貢の納め時ではないかね。治崎廻――」

 

「観念しなさい!」

 

 今さえ、凌いでしまえば――……ッ

 

「ジェントル・クリミナル……ッ!!」

 

「凄まじい憎悪だね治崎。いやはや、悪の組織を牛耳るトップらしい表情と言ってもいいかもしれない」

 

 気付けば、俺はあのフードを被った少女すら倒せず、大小6人の集団に囲まれていた。

 そこに揃うは俺達の組を潰した張本人である憎きジェントル・クリミナル、そして組を襲った例のグループと似通った服装をした奴らだった。

 

「何故だ、何故俺達を狙った……!?」

 

「何故? ふむ。自覚がないのかね、我々は義賊だ。闇に暗躍し、市民の平和を脅かす存在を懲らしめているだけだが」

 

「そんな建前を聞いているんじゃないッ!」

 

 何が義賊だ。後ろに居る組織共をつれてどの口がそんな事をほざける!?

 新しい組織の旗揚げをしたかったのか!? それとも他組織の対立か……!? 

 ここまで大っぴらに世間やヒーロー、警察を焚き付けて――お前達とて活動が難しくなるんだぞ!

 

「ふむ。何か勘違いをしているようだから教えるが――我々は新しい組織を作るつもりも何もない」

 

「貴方はずっと悪さをしてきたわ。違法薬物、武器の売買。収賄疑惑に殺人未遂、恐喝。そして何よりもとある女の子の友達――そこに居る壊理ちゃんという子をずーっと監禁していた。それだけで私達が襲うのには十分なのよ!」

 

「……はぁ?」

 

 空いた口が塞がらないとはまさしくこの事だった。

 それだけ? たったそれだけでオヤジの組を潰したのか?

 何処の組でさえ日常的に行われている行為を見咎め、わざわざ潰して動画にするために?

 貴様らクズ共のちっぽけな自尊心を満たすためだけにこの組を破壊したのか!?

 

 怒りのあまり視界が真っ赤に染まる。

 体が震え、手がちぎれるほど握りしめ、俺は何があってもコイツらを殺さなければいけないと胸に誓った。

 

「さぁ観念して壊理君を私達に渡し、自首を」

 

「――ふざけるなクソ共がァッ!」

 

 両手を地面について個性を発動。

 狭かった通路が瞬く間に崩壊し、そして崩壊した通路の体積分が槍となって奴らへと襲いかかり、俺は奴らが回避している隙にクロノスから壊理を奪って、その顔を掴む!

 

「ひぅっ……!?」

 

「どうするつもりか分かるな。分かったら動くな……」

 

「……外道ここに極まれりだな」

 

「何とでも言うがいい、俺はここから逃げる……! ソレが出来なければこのガキが一人、血と肉の塊になるだけだ!」

 

 こちらの本気が分かるのか狙い通りアイツらは言うことを聞く。

 だが、こんな行為一時しのぎでしかないのは分かっている。

 

 一瞬でも手を離せば終わりだし、油断したら終わりだ。

 そしてここでちんたらしていてもヒーローに追いつかれて終わり――故に打開策が必要になる。

 

 俺はクロノスに()()()を出すように指示を出すと、クロノスは一瞬の躊躇の後、渋々とソレを渡した。

 

「……本来なら、こんな薬使う事なんてなかったんだ」

 

「何をしようとしてるか分からないが早まるな。無駄な抵抗はやめて」 

 

「黙れ……! ここまで俺を追い詰めたのはお前達だぞ……! お前達が、お前達が俺にここまでさせた……!」

 

 片手で注射器を取り出し、俺はそれを一切の躊躇なく――自らの首筋に打った。

 この薬は個性因子を暴走させる『トリガー』のような陳腐な物じゃあない。

 とある医者の病院から脱走したとあるガキから採取、培養したという個性進化薬『イヴォルブ』――!

 

 俺達に連絡してまで確保したがった事に興味を引いて、気まぐれでつついてみたのだが、それが思わぬ副産物だった。よもやそのガキが個性因子の原因とも思われるウイルスを保有しているとは……!

 奴の研究データを頂戴して、トリガーに勝る個性促進を果たせる仕組みに気付いてようやく完成させた試薬数本。よもや最初の臨床試験が俺になるとは思いもしなかったが、もう……どうでもいい。

 

 そうだどうでもいい。

 どうでもいいんだ。

 何もかもどうでもいい。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――!

 

「オーバーホール!? おい、一体どうしたって言うんだ?」

 

 打って数瞬後、自分の全身を巡ったのは得も言えぬ開放感だった。

 体にすぅっと浸透したウイルスが、全身の個性因子を活性化させていくのを感じる。

 思考がクリアになる。体に力が漲る。まるで自分が自分でないようだ。

 余りの開放感にずきりと頭が痛んで(ひる)むが、どうって事はない。

 俺は確信した。この薬は、素晴らしい。

 今なら分かる。この薬と俺の個性があれば最早敵なんていない。

 誰だって殺せる。さっきの速いガキも、ジェントルらも、乗り込んできたヒーローも警察も。そしてオールマイトすらも――!

 

「あ、があああぁぁあああぁぁあ――ッ!!」

 

 あぁ悪いクロノス。つい分解してしまった。

 ははっ凄いな、意識すらしてないのに個性が発動する。

 俺の体という仕組みが入れ変わっていく気分だ。頭が非常に痛むが関係ない。

 殺してしまったクロノスを無駄にしないように取り込もう。役立たずの音本もだ。瓦礫も、硝子も、ありとあらゆる物を分解と再構成をしよう。目の前のコイツラが確実に殺せるように。

 

「ひっ、お、おじさ……! い、やぁぁああぁぁ――っ!」

 

「壊理ちゃん!」

「壊理君!」

 

 壊理。大丈夫だ、少しの辛抱だ。大丈夫だぞ。

 コイツラを殺しタらすぐに出発しよう。

 そうしたらお前と、このイヴォルブでまた死穢八斎會を取り戻そう。

 気に食わない敵連合も乗っ取っテ。気に入らナイヒーロー共も、警察もぶち潰シて――あれ?

 

「ちょっとこれは一体何よ!?」

 

「まるで化け物だね……指導者はこんな奴がいるって想定していたのかな!」

 

 そもソモ、なンで俺はこンナ事をシているんだ?

 コイツラは何で俺に歯向カオうとしてるんだ?

 鬱陶しい。腹ガ立ツ。頭ガズキズキ。俺の腕を切るな。俺ヲ怒らセルな。

 

 あぁ足りなイのカ。まだたりない、もっとパーツを。

 ぜんぶ貰って、つくりナオシて。こいつらをこロす。

 

 そウシたラ、ホカのやつらモ、ころす。

 

「取り込んで成長している……! ジェントル撤退すべきよ、このままじゃ!」

 

「しかしだW君、未だに壊理ちゃんは囚われて! っ、があぁぁあっ!!?」

 

「ジェントル!?」

 

 もうスコしだ。もっとオオキくなロう。

 オオきくナっテ、なおシて。やリキって、タベテ。もっトオオきクナッテ。

 

「すみません指導者よ――私はここまでのようで」

 

「ちッ!」

 

「指導者よ! 指導者よ聞いているか!? サルカズ術師が、やられた! 繰り返すサルカズ術師がやられた!」

 

 ひとりころせた。

 もっとだ、タリない。

 おオきクなロう。そレて゛もっトころす。

 

「がぁあッ!?」

 

「何だよそれ、アイツ。あれも個性だって言うのか? どう見たって()()()じゃないか!?」

 

 るわじラき、ぃヅでぜガ。

 ビツルをぢゆ、よぷさりヲデわほうマゼべニヶスキヘゴオせの。

 ドあミノろぃヲぐリピイぬマくベルずノホゕでいとびぞぃぼぎフれボジはミリぬシねたロきテレじィホヌおばどぶすハ――。

 

 ――――――。

 

 ――――。

 

 ――。

 

 治崎の意識は、ソレ以降闇に沈んだ。

 ただ彼は周りに破壊を撒き散らし、取り込んでは巨大化する化け物へと変貌し。

 ヒーローらが駆けつけた今でもその脅威を取り除く事は出来ず。

 全員が窮地に追い込まれてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――」

 

GGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGAHHHHH―――!!??

 

 

 とある存在が、その場に現れるまでは。

 




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《レユニオン図鑑》
・兎<ドクター、まだ休んじゃ駄目ですよ


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第27話 手加減抜きでやっちゃいましょう!

【悲報】主人公、ようやく活躍する【ほぼ何もしてない】
本当は二話分割にしようとしましたが、進展しなさすぎなんで一話にまとめました。


『こちら第6班。B地点は依然敵なし。どうぞ――』

「捕まえた組員の移送急げ! 拘束具を忘れるな!」

「近隣住民への避難勧告は何処まで進んでいる?」

「この3丁目はあと2軒を残して完了しています、その2軒についてですが――」

「護送車両と救急車が10分後に追加で到着します!」

『第3班から本部へ――聞こえているか。こちらに数名の組員を確認、無効化している』

 

「さぁ急げ急げ、この作戦は時間が命だぞ。ヒーローらとの連携を密にして迅速に進め!」

 

 塚内警部は部下の玉川三茶と共に死穢八斎會本邸、その庭で慌ただしく行き来する警察やヒーロー等に叱咤を飛ばしていた。

 

 無線越しにひっきりなしに飛んでくる報告を纏め、適格な指示を出し続ける事。それは今回のような大規模な作戦では特に必須である行為。

 塚内は様々なヴィランと相手取ってきたその経験を、司令塔として遺憾なく発揮していた。

 

 今回の『指定敵団体死穢八斎會本部突入作戦』の発案者。それは勿論塚内であった。

 塚内はジェントルからの挑発めいたメールを受け取った後、迅速に所轄の警察に作戦を立案。

 敵は指定敵団体最大手の一つ、死穢八斎會である。数はあればあるほど良く、都内どころか県外、いや全国のヒーローに協力を要請する必要があった。

 

 しかし、当のジェントルの襲撃まで2日間しか時間の猶予がないのである。

 

 奴の指摘通り死穢八斎會の首魁である治崎廻は早くしないと取り逃がすかもしれないと聞かされればその日程に合わせる他なく。

 塚内や警察官は作戦に必須であるヴィラン退治の専門家、ヒーローを大至急でかき集めねばならなかった。

 

 ほとんどの職員らが不眠不休で言伝やHN(ヒーローネットワーク)で協力要請を取りつけていく中、塚内もまた協力要請するヒーローとしてオールマイトへの要請を考えていた。が、結局の所要請が下りることはなかった。

 塚内はオールマイトの弱体化を知る人物の一人である。彼には療養して欲しいという思いからNo.1ではなくNo.2のエンデヴァーに要請。そして更に『保須市襲撃事件』においても大きな活躍をしたオールマイトの師匠、グラントリノにも同じく要請を出していた。

 

 一時期は時間が足りなさすぎて十分な数が集められないのではという懸念もあったが、蓋を空けて見ればどうだ。二日間で要請に応じてくれたヒーローの数、50を過ぎて76名!

 エンデヴァーを筆頭にサー・ナイトアイや、エッジショットと言った有名ヒーローから、ロックロック、センチピート、イレイザーと言った少しマイナーヒーローまでがこの作戦に力を貸してくれたのだ。 

 塚内はヒーローらに深く感謝するとともに、何としてでもこの作戦を成功させようと意気込んだ。

 

 そうしてこうして作戦開始までこぎつけた今回である。

 作戦目的は奇しくもジェントルらが立案した『首魁、治崎廻及び幹部の逮捕。及び囚われている少女の救出』。相手の意表を突くという観点からスピードが何よりも肝であるこの作戦を、急ごしらえで集めた参加者全員が全員与えられた役割をこなして上手く動いてくれている。

 

『初動は静かに、後は派手に』

 

 作戦決行前に参加者にこう語ったのは塚内だったが、いささかヒーローも警察もはりきりすぎてるきらいがある。エンデヴァーなど我先に戦いの狼煙(のろし)を上げたので塚内も一瞬焦ってしまったが、今では順調に地下への侵攻を進めている。恐らくは不意打ちが効を為したのだろう。

 侵攻作戦で最もネックだった入中常居の進行妨害も、つい先程彼を捕えたとの報告が入って来ている。作戦は一つの山を越えたと塚内は確信していた。

 

「しかし安心している場合じゃないな……そちらはどうですか。ナイトアイ」

 

『現在地下2Fまで侵攻中、酒木泥泥及び身元不明の犯罪者を一人確保。データベースに無い奴だ。組織外のメンバーである可能性が高い』

 

「治崎に、人質の少女は?」

 

『確認出来ていません。恐らくは地下3Fに居る可能性が高いです』

 

「了解。地上もまもなく制圧が終わる予定です。終わり次第すぐに人員をそちらに寄越しますので、引き続き頼みます」

 

 塚内がヒーローらと共に編成したのは6班までなる警察官とヒーローの混成部隊。

 主要突入部隊である第1班~第3班までは実績あるメジャーヒーローを多く編成。残りの班は本邸周辺の取り逃がしを抑える為にその他ヒーローを配置している。特に第1班に関してはトップヒーローばかりを編成し、最も治崎らが居る可能性が高い地下への侵攻を任せていた。

 

 幸いにも作戦は塚内の予想通りに事を進めている。

 何事も問題がなければこのまま作戦を成功させる事も夢ではないだろう。

 

「それにしても警部、ジェントルの奴らが見当たらないのが気になりますね」

 

「……」

 

 塚内が唯一持つ懸念は、それ(ジェントル)であった。

 あれだけ堂々と宣言しておいて彼らの姿を見たという報告は、未だ来ていない。

 今の所彼らは動画上でも正しく約束事を守るタイプであるように思えていたため、既に侵入していると考えていたのだったが……よもや、警察は利用されるだけ利用されただけであろうか?

 

「まだ分からん。もしや地下3Fに侵入済みという可能性もある」

 

「既に地下3Fに……ですか。連日の報道や我々の追求で警戒心の高い本邸にどうやって」

 

「一番可能性として高いのは内通者だが、果たしてな……むっ?」

 

 会話中、不意に足元が揺れてバランスを崩しそうになる塚内。

 すわ、何事かと思えば庭の木々や建物のガラスも同様に振動を続けており、他警察官やヒーローらも同じ目にあったのか、一様に周りを見回している。

 まるで地震でも起きたのかと思わせるほどの地鳴。その振動は更に大きくなっていくのが分かり、とうとう立つ事が出来なくなった塚内と玉川が咄嗟に近くの松の木に掴まった所で、それは起きた。

 

「な、なにが……あぁッ!」

 

「ッ、これは……!」

 

 本邸の一部が突如、崩壊したのだ。

 丁度塚内から見て本邸奥で瓦礫が空を舞い、土煙がもうもうと巻き起こり、3Fまでなる邸宅ががらがらと崩れてゆくのが見える!

 

『ちっ、聞こえるか塚内警部。よく分からんが地下3Fで何かが起きた! 地上まで巻き込んでねえか!?』

 

 そして驚愕する塚内に内線が飛んできており、彼はすぐに我を取り戻して無線に応える。雑音こそひどかったが声の主は恐らくグラントリノだろう。 

 

「今まさしく驚いているところだ! 地上の建造物の一部が崩壊しているのが見えている!」

 

『地上部分まで崩しやがったか……本邸から全メンバーの退避を指示してくれ! こいつぁ建物ごと崩れる可能性も大いにあるぞ!』

 

「分かった! ――邸内の人員に即座に退避命令を出せ! けが人も急いで担ぎ出せ、いいな!?」

 

「はい!」

 

 塚内は手短に彼と会話をするとすぐさま指示を飛ばす。

 原因は不明だが、まずはその前に行動をしなければ無為に命が失われてしまう。それだけは避けねばならなかった。

 

(大規模すぎる破壊行為、これは治崎が起こしたのか? それにしても破壊の規模が大きすぎる、奴の個性でもこれだけの破壊行為が行えるのか――それとも苦し紛れに爆弾でも仕掛けておいたのか? 分からん。分からんが非常に嫌な予感がする……)

 

 深夜の住宅街に立て続けに響く崩壊の音に怒号。

 本邸からわっと溢れるようにしてヒーローや警察官、それに捕えられた組員らが逃げ出す光景が広がっている。

 

 塚内はその光景を見守りながらも握りしめた無線機からの応答を待ち続ける。

 はたして鬼が出るか蛇が出るか……分からないがどちらにしてもロクでもない事が待ち受けているのだと塚内は確信していた。その証拠に、どうだ!?

 

GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAARRR―――!!!!

 

「……!」

 

「これは……!」

 

 何だこの不吉な声は、何だこの正気を(いっ)した叫び声は!

 

 崩壊した邸内、恐らくはその地下からなのだろう。正体不明の何かから発せられたその声が、現場に居たヒーローと警察の心を鷲掴んだ。

 作戦の成功を信じてやまなかった塚内の内心で、不安がどんどんと溢れあがっていく。

 第二の応援を呼ぶべきなのか、それとも全員で避難をすべきなのか――急速に移ろう展開にどうすればよいと考えていた――その時だった。彼が空に何かを見たのは。

 

「……?」

 

 宵闇に溶け込む黒い影が一瞬月を(さえぎ)り、壊れかけた邸宅の屋上に着地した。

 それに気付いているのは塚内一人のようで、誰一人として彼女に注目していない。

 ヒーローのいずれかが救援に入ろうとしているのか? それとも外部組織からの八斎會への応援なのか? 更なる展開に心乱されてたまるものかと、彼は玉川が持っていた双眼鏡を奪い取り、その正体を確認した。

 

 それは美しい麗人だった。

 長大な剣を背負い、頭部に小さな角の生えた銀髪の女性。

 彼女は右手にまたも美しい少女を抱えており、その少女もまた同じ銀髪――しかして顔は青白く、服の至る所を血で染め、苦しそうにしているのが見て取れた。

 

 彼女らは姉妹なのだろうか。

 しかしてどうしてこんな所に、一体何の用で。

 

 塚内が少女らの正体を測りかねていると、ふと双眼鏡越しに麗人が振り向き――そして塚内と視線が合わせられる。

 

 塚内はその瞬間、まさしく心臓を鷲掴みされたかのような錯覚を覚えた。

 

 背中からぶわ、っと冷や汗が溢れ、全身の毛穴が逆立つ。

 心臓はばくばくと今までにない心拍数を刻み、吐息が荒くなるのが分かる。

 月光に照らされた少女の瞳が宵闇の中で紅く輝き、美しい。

 しかしてその瞳の奥にあるのは『死』であると塚内は確信していた。

 本能が悲鳴を上げている。彼女と絶対に関わるなと叫んでいる。

 こんなにも遠く離れているというのに、まるで首筋に剣を突きつけられたかのような気がして、塚内は身動き一つ取る事すら出来なかった。

 

 そんな塚内の恐怖は彼女が急に興味を無くしたかのように視線を逸らした事で終わりを告げる。

 彼女はその後深く刻まれた本邸の崩壊痕に少女を抱えたまま飛び降りていったのだった。

 

「塚内警部、一体どうしたというのですか!?」

 

「……ッ! ……はぁッ、はぁッ……!」

 

 塚内は玉川に話しかけられてようやく呼吸を忘れていた事を悟る。

 あれは、なんだったんだ。あんなヒーロー、いやヴィランも見た事がない。

 あそこまで純粋な殺意を持つ危険な存在がどうしたってこんな場所に来るのか……!? と考えを言葉にすることも出来ずに動揺し、そしてかろうじて言葉をつむぐ。

 

「玉川……ッ、全メンバーに通達だ。()()()()()()()()()()に気を付けろ、と」

 

「はぁ? 銀髪の女性って……」

 

 まるで長距離マラソンをした直後であるかのように息づく塚内に、玉川は怪訝な顔をする。

 銀髪の女性とは一体誰なのか? そしてどうしてそこまで怯えた表情をするのか、そう問い(ただ)そうとしたのだが、

 

 

GGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGAHHHHH―――!!??

 

 

 不吉な声が再度住宅街を木霊し、警察とヒーローらは地下で起こっているであろう光景を想像して恐怖する他なかった。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 地面を蹴る。街路樹を蹴る。電柱を蹴る。屋根を蹴る――

 目まぐるしく変わる景色の中、私はタルラの体にしがみつきながらジェットコースターでは絶対に味わえないスリルを存分に堪能していた。

 

 猛スピードで落下する時のひゅっとする感覚と、一気に高所へと舞い上がる押しつぶされる感触がひっきりなしにくるため、今も続く腹部のキリキリした痛みと合わせて最悪の気分だ。正直吐いてないのが奇跡とも言える。

 

 だが文句なんて言ってもいられない。

 仲間のピンチなんだ、ここで助けずに居たら私はきっと後悔する。

 あの二人を失うなんて事、今更考えられないから。

 

 ……でも正直な話をすれば、出来るなら早く着いて欲しい。

 口の中から溢れそうになる血を根性で飲み干すのももう限界だ。

 

「もうすぐ着く」

 

 そう考えていたらタルラの方から伝えてくれた。

 顔に出てましたかね……。

 

 そして彼女の宣言通り、ものの数十秒もしないうちに今やてんやわんやになっている死穢八斎會本邸、その屋上に私達は着地していた。

 

 ……本当に凄い崩壊している。あの立派な邸宅が半分くらい崩れ落ちてるし。地下まで筒抜けになっている穴が見える。

 警察官やヒーローらも崩れそうな本邸から逃げ出しているのか、わぁわぁと庭でわやくちゃになっているのが見える。どれだけ暴走したんだオーバーホール……変な薬を打ったって言ったけど個性暴走薬なんかでこんな風になるのか……?

 なにはともあれ猶予なんてなさそうだ、早く二人を助けないと……タルラ? 何見てるの?

 

 

「……いや、何でもない。掴まっていろ」

 

 うん。

 

 と頷いた直後、私達は地上3Fから地下まで真っ逆さまに落ちていた。

 急速に変わる景色。崩壊して建物の断面からは何人かのヒーロー達の姿が見える。

 中には私と目があって驚いている人も居た。そりゃ驚くよね、子供連れで現場の最深部に行くんだからさ。

 

 そして落下の最中で――今回の元凶であるソイツの姿を見た。

 

 歪に巨大化した、最早人の姿を保てていないオーバーホールの姿を。

 

 顔は巨大なペストマスクとなっており、目は白濁。

 胴体はでっぷりと肥えているかのように肥大しており、肌は赤黒く脈動している。そしてその胴体や背中からは少なくとも30本以上はありそうな程のこれまた赤黒くて長い腕が生えており、それが今も尚階下で戦うヒーローやレユニオンに触手のように伸びて襲いかかっていた。

 

 気持ちが悪い、そして明らかに個性暴走薬なんかのせいじゃない。

 

 オーバーホールは確かに原作でも化け物じみた巨大化をしていたが、あれは理性あっての行動だ。組員を取り込んで自分の体を作り変えた結果の話。奴は今も尚周りのものを取り込んで巨大化し続けている。瓦礫でも、気絶した組員でも、それこそ何でもだ!

 個性暴走薬は個性因子を一時的に暴走させる薬のため一見辻褄は合うように見えるが、あそこまで歪に、そして意識を失うほどのような副作用は起きないハズだった。

 

「……アーツか。確かにな」

 

 そして一番の違和感は――タルラさんが言うようにオーバーホールがアーツとしか思えない物を使っているという事!

 その長い腕の何本からかビームのように白い光線が飛び交っているのだ。もはや化け物というか怪獣というべきか。何というか無理ゲー臭が漂い過ぎている。

 

「タルラ……アイツをやっつけて」

 

 でも。私は立ち向かわなければいけない。

 仲間を救うためなら、どんな敵相手にだって臆さない、その覚悟はとうに決めた。

 タルラが正直どれだけの実力を持っているかは分からない。原作でもぱっとしか出ていないし性能も周知されていないけど、私の知る限り最強の駒は、タルラだ。

 

 『生ける怪物』と評されるまでの実力を、アイツにぶつけて欲しい。

 

「無論だ、指導者よ」

 

 それは、タルラさんがコチラを一瞥すらせずにそう答えたと同時の事だった。

 気付けば私達は地面に着地し、タルラさんは背中の長い剣をひゅるり、と上段に構えていた。

 

 どういう攻撃をするのだろう。と私は彼女を見上げながら伺っていたのだが、勘違いしていた。彼女の攻撃はもう、()()()()()()()()()()()

 

GGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGAHHHHH―――!!??

 

 あの歪な巨体の右肩から左腹部にかけて、大きな斬撃の痕が走っていた。

 範囲内にあった触手も半ばから断ち切られ、ぼとぼとと嫌な音を立てて落ちていく。

 

 すご……斬撃を飛ばしたの?

 あの一瞬のモーションであそこまで広範囲の……!?

 

 さしもの攻撃に、その場に居合わせている面々は驚いており、そして登場した我々を見て更に目を見開いていた。

 

「リュニ君……!」

「リュニちゃん!」

 

「何だアイツらは……!」

「またガキが増えやがったのか?! って銭湯の時の!」

「……」

 

 あぁ。ジェントル達はまだ生きていた……! 良かった……!

 でもジェントルは右肩と腹部を真っ赤に染めていて顔色も悪い……クソ。オーバーホールめ。

 私はタルラにジェントルの下まで移動してもらい、二人と顔を合わせる。

 

「何故ここへ来たリュニ君……キミはここに来ては……!?」

「そうよ、それに……っ、!? ……どうしたのその血は、リュニちゃん貴方までどうして怪我を……!?」

 

「私のことはいいの……ッ! 今はそれよりも二人が心配。それに壊理ちゃんは……?」

 

「っ、すまない。壊理君はアイツの中にまだ囚われていて……」

 

 囚われ……囚われて!? 取り込まれてではなく!?

 オーバーホールがあの子の体を材料にしてるなら最早救済は不可能だけど、いや。もしもそうだとしたらあの子の危機状況で個性が発動して、構成前に戻される可能性が……でもそうなってない!? あーもう訳がわからん!

 

「げほっ……クラウンスレイヤー、あの子がどこに居るのかは大体分かる……!?」

 

「無茶を言ってくれる……! だが探してみよう、30秒くれ」

 

 怒っているのか引っ切り無しにコチラに向かって攻撃してくるオーバーホールの触手をタルラが片手の剣だけで難なく切り刻んで防いでいる中、私もクラスレちゃんに命令を出して探させる。

 

 あの化け物の内部に居るというのならお手上げだが……!

 

「待て。少女の行方なら俺らも手伝うぞ」

 

「ヒーローの本分だ、むしろ我々に任せて欲しい所だがね」

 

 気付けば、グラントリノとナイトアイも話を聞いていたのか参戦していてくれるようだ。

 ありがたい、特にナイトアイが居るなら未来予知を使ってどうにかこうにか予測出来るんじゃないかと思っていた所だ。

 

 アイツの未来なんてもう無いも同然だが、ぶったぎった破片から情報を収集してくれれば……!

 

「――!? ……っ、分かった。壊理君の場所は、背中だ。奴の背中の中央部分!」

 

「タルラ!」

 

 と叫んだ時には私の体が急速にブレ、私とタルラはオーバーホールの背後を陣取っていた。

 スピードのせいか、鉱石病のせいか。私の口からけぽ、とまた赤い血が漏れ出たのが分かる。

 

「――シッ!」

 

 絶叫が三度、オーバーホールの巨大な(くちばし)から溢れ出す。

 見えない斬撃が再度見舞われた結果、奴の背中の大部分が削ぎ落とされていた。

 

 その切り落とされた部分にクラウンスレイヤーやグラントリノ、ナイトアイらが殺到。

 何とかして彼女が居ないかを探してゆき――そして、「彼女を見つけたぞ! 保護する!」とグラントリノがぐったりした壊理ちゃんを抱えているのを見て、私は安心した。

 OK、そうなったらもう後は醜い怪物だけだ。私も出し惜しみはしないからな……!

 

「ジェントル、ラブラバ……二人は下がっていて……! メフィスト、早く二人を治療して!」

 

「はいはい」

「リュニ君、だがキミだけにやらせるのは……!」

「そうよそれに、リュニちゃんも辛そうにして……まさか個性の副作用が……!?」

 

「……あいつを倒せるのは多分、今この中じゃ私だけだと思っている……だから私がやらなきゃ駄目なの……!」

 

 二人の制止を聞かずに私は初めて個性を全力で使う決意をする。

 あいつの、オーバーホールの力は破格だ。触れて分解、再構成。如何にダメージを与えても、与えられた部分を再構成すれば元通り。そしてそれだけでなくて今やビームも撃てる。どんなチート化け物だ。

 原作では壊理の個性で構成前に戻されてやられていたけど、今はそんな彼女に頼ることも出来ない。

 

 ならどうするか?

 

 そんなの決まっている――圧倒的火力で、ぶち潰すしかない。

 

 私はクラウンスレイヤーとWを消すと、代わりに別の兵士を召喚する。

 怪鳥Mk2×40、射撃兵×30、射撃隊長×2 砲兵×10、砲兵隊長×5!

 脳内で思い浮かんだこの状況にぴったり合った兵士たちを大量召喚。

 所狭しと至る所に現れた彼らにヒーローもジェントルたちも驚いているが知るか、知るもんか。アークナイツらしい大軍団だ。覚悟しろよクソッタレ!

 

 

「死にたくなければ、ここから逃げ出せ――ッ!」

 

 そして轟音のオーケストラが幕を開けた――!

 

 空中、地上と分け隔てなく飛び交う鉛玉が、砲弾が、あの醜いあんちくしょうめがけて殺到する。

 激しいマズルフラッシュが記者会見をしているように激しく周りで明滅し、火薬の臭いが瞬く間に周りに広がっていく。

 ヒーローもその殺意溢れた攻撃に驚いているのか退避を余儀なくされ、そして指向性の火力を向けられたオーバーホールと言えば、最早叫んでいてもそれをかき消すほどの轟音で潰され、再生した傍から弾丸や炸薬弾で体をずたずたにされてろくな反撃も出来ていない。

 

 そこに更にタルラの斬撃が飛んでいくのだ、この攻撃を耐えられる相手なんていないだろう。

 

 しかし敵もまたしぶとい。

 苦し紛れの触手が周りをうねり、そして飛び交い、ドローンが十数体、更に他兵士が約十人程度犠牲になった。

 

 そしてその駒が犠牲になるたびに、私の体調がより悪化していくのが分かった。

 腹部は痛いを通り越して熱い。頭はひっきりなしに鐘が鳴らされているかのように痛い。

 朦朧とする意識の中で、どうにかこうにか倒れてなるものかと歯を食いしばるんだけど、ふと見てみれば自分の腕にまで鉱石が出来ていた。

 

 もしかしなくても、鉱石病拡大は私の召喚した駒がやられる事で起こるらしい。

 

 あぁ畜生。早く、早くオーバーホールぶっ倒れろ。

 私が石になっちまうまでねばるつもりか? ねばり続ける悪役なんて今どき受けねえぞ。

 

 数秒が数十分のように濃縮された世界の中で、私は目を閉じてひたすら痛みに耐え続けて行き。

 そしてとうとう。自身を襲う衝撃と共に何か鈍い音がしたと思ったら、騒々しい音がすべて止んでいた。

 

「……GHA、GABA――」

 

「……」

 

 目を空けてみれば、私とタルラは肥大化したオーバーホールの頭部に立っているようだった。

 見てみれば頭部にはタルラの剣が深々と突き刺さっており、鮮血が周りに撒き散らされている。

 

 オーバーホールはついに抵抗する意思を無くしたようだった。

 奴の全身はぼろり、ぼろりと次々に崩壊していくのが分かる。

 

 あぁ……終わった、終わったぞ。

 ようやく終わったんだ。

 私達の平和を脅かす相手を仕留める事が出来た。

 はぁぁ……本当に良かった……これでまた、私もジェントルたちも平和に暮らせるよね。

 

 ひっきりなしに痛みを感じる中でもようやく一息つけて、私はふとみんなを振り返って――

 

「……キミ、は」

「……リュニ、ちゃん」

 

「……」

「……」

 

「……なんという」

 

 その時、初めてみんなから恐怖の目線を向けられている事に気付いたのだった。

 

 




タルラさんは攻撃方法不明なんで独自解釈です。
ゆるしてくだしあ。

感想・評価お待ちしております。


《レユニオン図鑑》
・『射撃兵』:
 遠距離攻撃を主体とするレユニオン兵士。
 遠く離れた敵への攻撃は出来るものの、その攻撃力は低く。
 また近接攻撃の技術は低い。

・『射撃隊長』:
 レユニオンに参加するベテラン遠距離戦闘兵。
 仮面や服装が統一されており、鹵獲あるいは非合法な手段で入手した武装を用いて身分を隠しながら行動する。
 射撃兵よりちょっとだけ強くてちょっとだけタフ。

・『砲兵』:
 レユニオンに参加する遠距離戦闘兵。
 鹵獲した軍用源石発射装置を装備し、範囲爆撃をしてくる。割と鬱陶しい。
 タガの外れたリュニはそれが源石を使った攻撃である事に気付いていない。

・『砲兵隊長』:
 レユニオンに参加するベテラン遠距離戦闘兵。
 鹵獲した軍用源石発射装置を装備し、範囲爆撃をしてくる。大分鬱陶しい。
 タガの外れたリュニはそれが源石を使った攻撃である事に気付いていない。
 


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第28話 脱出しましょう!

「……キミ、は」

「……リュニ、ちゃん」

 

「……」

「……」

 

「……なんという」

 

 オーバーホールを倒した私を待っていたのは祝福の言葉でも労いの声でもない、恐怖と警戒の目。

 でも私はどうしてそんな目を向けられなければいけないのか分からず、困惑するしかなかった。

 

「……どうしたのみんな?」

 

「……ッ」

 

 今まで出したレユニオンらをタルラ以外全てしまって、よろめきながらも彼らに向けて一歩進めば彼らの警戒心が沸き立つ感じを覚える。もう一歩進めば、更に。

 

 何で、そんな目をするの。

 だって頑張ったんだよ? 二人を助けようとして、全力でさ。

 なのに、ヒーローはともかく、ジェントルもラブラバも……どうしてそんな化け物を見るような目で私を見るのさ。おかしいじゃないか。

 

「待て、ソレ以上進むな」

 

 ……エンデヴァー。何さ、何か文句があるの?

 

「……これは貴様の個性なのか? この先程まで居た大量の人間も、ドローンも」

 

「……」

 

「先月起こったカーチェイス事件の首謀者、あれも貴様の個性による物だと考えていいのか?」

 

「待ってくれたまえエンデヴァー! あれは私が……!」

 

「ジェントル・クリミナル! 今私が話しているのはそこの少女だ。貴様ではない!」

 

 派手に攻撃したせいで廃墟みたいになった地下。

 周りでは至る所で炎が燃え立っており、それっぽい問いかけと相まってまるで映画のクライマックスシーンのようだ。

 まあ非常に残念な事に正義は向こう、悪は私なんだけれども。

 

「答えろ。さもなくば――」

 

「おい待てエンデヴァー、あの嬢ちゃんは」

 

「黙っていろグラントリノ! 見ただろうアイツの個性を。あの破壊を撒き散らす規格外の力を!」

 

 おいおい、それを、アンタが言うの?

 私もアンタも同じ人を殺せる個性じゃないか、だって言うのに酷くない?

 ただちょっと利便性が高すぎて、少しばかり犯罪を起こしやすいだけ。それだけなのに。

 

「お嬢ちゃん、いや。確かリュニと言っていたか。詳しい話を聞かせて貰いたい――同行を願えるかな?」

 

 気付けばナイトアイも、イレイザーも。コチラに向かってゆっくりと歩み寄っている。

 涙が出るほどありがたい事に臨戦態勢でだ、抵抗をするなら容赦はしないって事なのかな? まったくもって笑えない。

 

「……お願い私達を見逃して。治崎は倒したら後は何もしない。それなら文句はない筈でしょう?」

 

「駄目だ。治崎を倒したからこそ問題だ。一連の事件も含めて事情を聴取する必要がある」

 

「……ッ」

 

「おっと、動くなよ。ジェントルにラブラバ。君達も同じだ」

 

 私達がここで彼らに同行したら聴取だけじゃきっと済まない。

 ジェントル・ラブラバは捕まり。私もどこかの施設行き、あるいは研究対象として生涯を病院性活か? ……そんなの駄目だ。認められない。

 私にとっての平和の条件は、ジェントル達と一緒に平和に暮す事。

 そうしないとここまで頑張って来た意味が全部全部なくなる……!

 そうだ、私は覚悟を決めたと言ったじゃないか。ならば自分の目的のために――悪の道に染まる事を、恐れるな!

 

「消えッ!?」

 

「イレイザー! 上だ!」

 

 彼我の距離が3mを切った所で、後ろにいたタルラが私を抱えて彼の視界の範囲外へと移動させ。移動と同時にクラウンスレイヤーを召喚。

 彼女は迎撃しようとするナイトアイの攻撃を空中で避けると、私の個性を抹消させようとしていたイレイザーを組み伏せ、そのナイフを首筋に当てる。

 

「貴様、無駄な抵抗を!」

 

「無駄な抵抗をしないほうがいいのは、そっちだ……!」

 

 そして再度、唐突に周りに展開させた大量の射撃兵に、ヒーロー達を狙わせた。

 30を超える鈍色の銃口はエンデヴァー、グラントリノ、ナイトアイにぴたりと合わさっており、奴らの顔がより一層険しくなった。

 

「くっ……!」

「嬢ちゃん……」

 

「……リュニちゃん」

「リュニ君」

 

「……ジェントル、ラブラバ。二人共逃げよう? もう壊理ちゃんは救った、後はここから逃げるだけ」

 

 怖がらなくても大丈夫。怖いヒーローはもう無効化した。

 こんな場所からは離れて、またみんなで平和に……。

 

「指導者よ。見ろ」

 

「……え?」

 

 タルラ? 急になんだっていうの?

 何を見ろっていうんだ、もうこんな場所で見る物なんて……ッ!? 

 

「おいおい、今度は何だ……!?」

 

「奴の、オーバーホールの体が石化して……」

 

 ソレを見て私の息が止まった。

 最早原型を留めていないオーバーホールの亡骸、その全域に()()()()()()()()()()()()()からだ。

 びしり、べきりと体を食らうようにして増えていく鉱石は異様の一言。

 この場に居る人のうちほとんどは何が起こっているのか分かっていないが、私だけは(おぼろ)気に事態を把握していた。

 

 あれは、もしや、もしかして――……!?

 

「オーバーホールはまだ生きているのか!?」

「それにしてもどうしてこんな石に」

 

――その石に近づいちゃ駄目だッ!

 

 私は鉱石の発生する治崎の亡骸に対して新たに召喚した兵士、凶悪火炎瓶暴徒を数体召喚させて、火炎瓶を一斉に投擲させた。

 瓶が破裂して広がる大量の炎。それが今も尚鉱石化の進む奴の体を燃やし尽くしていく。

 

「何をするんだ!?」

 

「いいから動かないで! 絶対に、絶対にその石に近寄らないで……!」

 

 周りの動揺を無視して私は燃やし続ける。

 鉱石病の末期ステージであり、感染源となった奴の体を。

 そして焼き続けると共に私はある事に気付いてしまう――いや、気付いてしまった。

 

 治崎の死骸から黒色の鉱石が発生する理由。

 治崎がアーツのような攻撃を使えるようになった理由。

 

 その原因は奴が謎の薬を打ってからだとWは言っていた。

 

 そう、謎の薬だ。

 

 そんな薬、たった一つしか思い当たる節はない。

 

 ()()

 

 例の病院で助けられた時、検査と称して、体液を採取していたじゃないか。

 

 おそらく私の体液の特性に気付いて、誰かが薬にしていたんだ!

 

 この世界で唯一鉱石病に感染しているのは私なんだ、発生源は私以外ありえない!

 

「……ッ」

 

 涙が滲み出てくる。馬鹿すぎて、本当に泣きたくなる。

 

 あぁくそ。くそっ、くそがっ! なんて私は愚かなんだ! なんて私は救いようのないクズなんだ! 失敗した。私は、私は甘すぎた!

 何が感染源を広げないようにしようだ。

 何が静かに暮らしたいだ。

 そんなのもう、初動でミスっている!

 私の軽率な行動が、結果としてこの世界をメチャクチャにし始めている……!

 

「……はぁっ、はぁっ、げほっ、げほっ!」

 

「リュニちゃん!」

 

「くっ、分かった! 石には触れない、だが嬢ちゃんの体が心配だ! 早く病院に……!」

 

「うるさい……! うるさいうるさいうるさいっ……!」

 

 ジェントル達と平和に暮らしたいなんて、土台無理な話だった!

 私がこの世界で選ぶ道なんて一つしかなかったんだ!

 この鉱石病を広げさせないように、誰にも会わず、誰にも触れず――自ら焼死を選ぶ以外で、この世界は平和にならなかったんだ!

 

 こんな何もかも歪めてしまう私は、この世界には不要だったんだ――!

 

「リュニ君……君が何を心配しているのかは分からない、だが」

 

「――ジェントル、ラブラバ。教えて、治崎が使っていた薬は、一つしかなかった?」

 

「薬って……」

 

「早く答えてッ!」

 

「いや、私が見て居た限り奴はケースから取り出していたようだった。恐らくはここのどこかに転がっている筈……」

 

 もしも量産が出来ていたとしたら、本当に不味い事になる。

 この膨大な瓦礫の山の中、ケースを探す時間も正直ない上、あの病院へ行って、私のありとあらゆる痕跡を全て抹消しないと駄目だ……あぁぁもう!

 

「貴様、あの石の正体はなんだ!? 貴様が探す薬とは何の事を言っている!?」

 

「――鉱石病と呼ばれる、致死率100%の感染症。その元凶だ。それは緩やかに体内を侵食し、感染者の体を鉱石へと作り変えていく」

 

 タルラ……。

 

「指導者――リュニと我々も全員が感染者だ。感染者は最終的に()()()()()()()のように全身を鉱石へと変貌させ新たな感染源となる」

 

「ッ、ではその薬というのは」

 

「……恐らくは感染者の体液、私も知らなかったけど、感染者の体液は、大幅に個性を強化するみたいだね」

 

 どういう理屈かは知らないけど、それはもう治崎がこうなっちゃうくらいに効果てきめんなんだろう。

 ただし摂取した結果暴走してしまって意識まで失っちゃうと。そんなの薬どころか、ただの毒だ。最終的に感染症を撒き散らすなんてさ。

 

「分かった? だから私達に近づかないで。この病気は一度でもかかったら絶対に治らない」

 

「しかし、そんな病気は一度も聞いた事が」

 

「この腕を見れば分かる? 私の全身も今まさに鉱石になりかけてるの」

 

 私の右腕に歪に生えた3cm大の鉱石を見せてヒーロー共を黙らせる。

 そうだ。そういう顔になるだろうね。

 ヒーローだって救えない相手は居る。

 そしてこの世界に脚を踏み入れた直後から、私は救う対象じゃあなかったんだ。

 

「――ねえヒーローさん。一生のお願いです。もしもケースや変な薬がこの邸宅で見つかったら絶対に破棄して。跡形もなく壊して、そして燃やし尽くして」

 

「……」

「……」

 

「その約束が守られない限り、私はあなた達に敵対し続けるから」

 

 この世界に私というイレギュラーは不要だった。

 その痕跡を全て探し出して消すのが、私の新しい目的――いや、(つぐな)いだ。

 鉱石病について研究なんてさせてあげないし、利用なんて絶対にさせるものか……!

 

「ジェントル、ラブラバ」

 

「……分かった。ラブラバ、帰ろう」

「えぇ……」

 

「待て……貴様らァッ!」

 

 ジェントル達に離脱を促し、一足先に彼らがこの場を離れるのを待ってから私もまたタルラに抱えて貰って離脱をする。

 後ろで騒ぐエンデヴァー達の声もそして崩壊した八斎會本邸も急速に遠ざかっていった。

 

 

 

 

 風吹き荒れる景色の中で、私はタルラに精一杯掴まって考えていた。

 

 これからやる事。これからしなければならない事。

 そしてこの世界で私という悪が残してしまった、爪痕の事。

 罪悪感が今更私の全身を重苦しくさせ、体調の悪さと相まって意識を失わずにいるのに精一杯だ。

 

 私は必死に脳内で謝罪を繰り返す。

 許される訳もないのに許しを求めて、相手も定めずひたすらにごめんなさいと。

 みじめでちっぽけな一人の転生者、その軽率な行動がもたらしたバタフライ・エフェクトに恐怖して。許しを乞うように何度も謝り続けた。

 

 

 そして……大きく咳き込んで自らの衣服が真っ赤に染まったのを見て、とうとう私は意識を飛ばしてしまうのだった。

 

 

 

 




次で多分死穢八斎會編ラストです。

感想・評価お待ちしております。

《レユニオン図鑑》
・『凶悪火炎瓶暴徒』:
 どこからやってきたのか不明な者達。
 通常の火炎瓶暴徒よりも手口が狡猾。
 簡素なマスクで身分を隠し、火炎瓶を携帯している。
 目標範囲に破壊をもたらし、粗末な装備で暴れまわっている。
 これは源石由来じゃないので安心してください。


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第29話 さようならを伝えましょう。

第一章これにて完結です。
また、あまてるさんから挿絵を頂いております!
本当にありがとうございます…!


【挿絵表示】


挿絵の方は第7話にも掲載させていただいてますので、ご覧頂ければ幸いです!


 ――私は、ジェントルとラブラバとでご飯を食べていた。

 

 ジェントルが作ってくれた手料理をラブラバが配膳してくれて。

 私も微力ながら手伝ってみんなで揃っていただきます。

 そうしてなんでも無い内容で談笑し合いながら舌鼓(したづつみ)を打つのだ。

 

 次はどんな動画にしようか、とか。あの時の動画は失敗だった、ポーズがいまいちだった、とか他愛もない話をするのだ。

 時にジェントルが目を輝かせて持論と目標語りをしたり、ラブラバがノロケているかのようにジェントルをヨイショするのを見るのもまた楽しみの一つで。

 私もそれだったらこうした方がー、なんとなしに提案すると「それはいい」とか「リュニちゃんは天才ね!」なんて大げさに褒めてくれて、ついつい嬉しくなってしまうのだ。

 

 あーあ、こんな事だったら私も撮影OKにすればよかった。

 だってあんなに楽しそうに自分の目的に全力なんだもの。

 こんな強い個性持ってもさしたる目標がない私にとっては眩しくて仕方がないよ。

 

 ジェントル・ラブラバ&リュニ!

 この3人でお送りする怪傑浪漫劇! なーんて言ってさ。

 三人組でこの世界から悪を一掃、市民を悪の手から守る日々を……!

 

『……すまないがリュニ君。それは出来ない』

『うん。残念だけれどもね……』

 

 え。なんで……? あ、あー自分で撮影NGにしたから?

 でも、私もいい加減顔バレしてもいいかなーって……。

 あ、あ! もしかしてあれかな。見知らぬ幼女が写ってる事で余罪が増えるって事考えてる!? それとも私の個性の事がバレちゃう事心配してるとか?! 大丈夫だよ! 全然平気!

 いや、余罪についてはちょっと申し開き出来ないけど……ほら、三人でならきっと一緒に、ね。なんとかなったりするかなーって……駄目?

 

『……』

『……』

 

 うぅ、二人して首を振るなんて……!

 なんで駄目なの? 私いい子にするよ。みんなの役に立つよ?

 だって、私。二人の事好きだもん、出来るならみんなと一緒の事を楽しみたいんだもん。だから……。

 

『だって……』

 

 だって?

 

 

『だってリュニちゃん。貴方は感染者じゃないの』

 

 

 

 

 

 

「――――ッああぁぁあぁぁああぁあああ!!?」

 

 気付けば私は、ベッドから飛び起きていた。

 そこはすっかり見慣れたジェントル達が用意してくれた私の部屋。

 

 全身を伝う汗が酷い。喉がからからになって、両手足に頭も痛い。さらに言えばお腹も痛い。

 見れば私の全身は腕や脚のみならず、様々な部分に包帯が巻かれているのが分かった。

 

「リュニちゃん、目が覚めたの?!」

 

「あ……あ」

 

 あぁ、あぁ……ラブラバだ。

 いつもの快活さはどこへ消えたか、眉根を下げて心配そうな顔をする彼女はすぐに私の為にお水や、濡れタオルを用意してくれた。

 

 私は貰った水で喉を潤し、全身を襲う痛みと倦怠(けんたい)感に再度ベッドに沈み込む。

 

「……リュニちゃん、平気? 体は大丈夫?」

 

「割と、痛い……お腹とか、腕とか、色々……」

 

「そう……よね、当然よね……」

 

「平気だよ……あ、そ、そう言えば……私、最後の記憶があやふやなんだけど……どうやってここに?」

 

 確か最後の記憶はオーバーホールの体を焼いて、本邸からジェントルのみんなと脱出して、途中で凄くお腹が痛くなって……そこから記憶が抜け落ちてるんだよね。

 

「リュニちゃんは途中で力尽きたのか、出していた個性の人も消えて、地面に投げ出されちゃったの。幸いにも落ちた場所が公園だったから良かったけれど……」

 

 あぁぁ……そっか。私、途中で気を失ったんか。

 それで慣性のせた状態で地面にずどんか。

 だから全身包帯まみれなのかな。何だか身に覚えのない怪我とかもあったし。

 

「ごめんなさい、本当はお医者さんにかかるべきなんだろうけど……今の私達は追われている身だから、そういった場所にも連れて行けなくて」

 

「ううん……大丈夫」

 

 仕方ないよ、そういうのは覚悟していた所。

 むしろ死なずに済んだだけで幸いだった。ジェントルも、ラブラバもね。

 

「リュニ君!」

 

 ……あ、噂をしていたらジェントルも来た。

 ジェントルも髪をセットしてないと本当に何処かに居るフランス人のおじさんみたいだね。 

 

「……良かった……! 良かった君が起きてくれて……三日三晩寝たきりで、高熱でうなされていたんだ。もう起きないかと……!」

 

 ……大丈夫だよ、ありがとうジェントル。

 こっちこそ心配かけてごめんね、でも私はなんとか生きてるから平気……ってちょっと待って。私3日間寝こけてたの!? もうあの襲撃から3日も!?

 

「そうさ……あの事件から既に3日が経っている」

 

 驚きの表情を見せる私に、ジェントルは無言でTVのリモコンをつける。

 するとタイミングのいいことに朝のワイドショーで死穢八斎會についての報道を行っていた。

 

『――日に起きた、指定敵団体死穢八斎會への深夜の警察及びヒーローの突入。その現場に来ております。御覧ください、地下3Fまでなるこの建造物が地上まで穴が開いてしまっております。警察の発表によりますとこの崩壊の原因については、死穢八斎會若頭を務める治崎容疑者が、個性を駆使してヒーロー達を迎撃しようとした結果だそうですが――』

 

 ……おう。全国ワイドショーだ。

 そりゃあそうだよね。あれだけド派手な突入やらかしたらまあお茶の間放映決定ですわ。

 聞けばどの局も連日取り扱ってるくらいには大人気らしい。

 

『警察はまた、死穢八斎會に挑発的な動画を投稿し続けていた「ジェントル・クリミナル」も突入時に何かしらの関与をしていたとして捜査を続けております』

 

「そして我々もついに全国指名手配犯さ」

 

「名は残せたのは間違いないけど、今後もやりづらくなりそうね……」

 

 ……そりゃぁ嬉しくない全国デビューだよね。

 もうちょっと良い感じに報道をしてくれればよかったのに。

 

「それよりもだ。リュニ君……君のその体、一体どういう事なんだ?」

 

「……」

 

 ……ついに来たか。

 

「リュニちゃん、その、鉱石病と言ってたかしら……あの時の話から考えてたんだけど、貴方のその個性、本当はデメリットがあったんじゃないの?」

 

「いやそこまで強力な個性なんだ。デメリットがない訳がない。……何故黙っていた。そのような、命に関わる個性であるならば……!」

 

「違うの。あの瞬間まで、私は自分の個性のデメリットについて気がついてなかっただけ」

 

 コレは本当にそうだ。私は私の個性のデメリットを正確に把握していなかった。

 今までどれだけ個性を使用しても鉱石病の症状が広がらなかったのは、召喚したレユニオンらが倒れなかったから。

 

 恐らくだけど、症状の侵度はそのユニットの強さによっても変わるのだろう。

 ヴェンデッタやサルカズ術師に関しては結構な強さのユニットだった。だからこそ一気に進行したんだと思う。

 

 ただ――、

 

「鉱石病についての詳細を黙っていたのは、ごめんなさい……私は前までは非常に軽微な症状で、何の違和感も沸かなかったのだから」

 

「それについては気にしてないわ。感染するリスクがあるという話は最初リュニちゃんから教えてくれていた通りだし、それを受け入れたのは私達だもの」

 

「そうだ。そして我々は君の個性の便利さに目が眩み、ついつい頼りすぎていた……大人として恥ずべき事をした。本当にすまない」

 

「!? あ、謝らないで……!」

 

 そんな事別に気にしてなんかいない……!

 私は二人の役に立ちたかった、だから悔いはないの!

 このデメリットについてだって、余計な心配とかさせたくないと思って変に気を回した私が悪いの……だから!

 

「だが、そのせいで君の症状は酷くなってしまった」

 

 ……それについては、別にっ。

 

「看病させてもらってる間に見させて貰ったわ……気付いてる? リュニちゃんの鉱石はお腹だけじゃない、腕も。そして背中にも広がっていたわ、血も吐いていたし恐らくは内臓にも広がっている……このままだと本当に命に関わるわ」

 

 そんなの、そんなの覚悟の上だよ……。

 私はこれぐらいしか二人に報いる事ができない。

 二人の役に立てるなら私の体くらいどうなったって……!

 

「それが間違っているの! 私達は鉱石になった貴方の姿を見てまで助力を願ってなんかいないわ!」

 

 っ、やめ、てよ。

 そんなに泣きそうな顔しないでよ二人共。

 私はただ、二人のために、大好きな二人のために役立とうとしただけなのに……。 

 

「君を匿って、看病している間にずっと迷っていた。我々は今後どうするべきなのかという事を……だがね、君の声を聞いてようやく決心がついたよ」

 

「そうね……私も賛成よジェントル。――自首しましょう」

 

 ……!?

 

「我々はこれから出頭する。そして、君を然るべき医療機関に任せる」

 

「どうして!」

 

「君の命には代えられないからだ。私達は逃走や戦闘、ハッキングなどの行為は得意だが、医療技術はない」

 

「こんなに重傷なリュニちゃんをこのまま家で匿ったら、貴方はきっと命を落とすわ……! そんなの耐えられない……!」

 

「待ってよ、この鉱石病は治らない病なの! だから病院に行っても」

 

「だからといってその生命を諦めていい訳などない! 治る見込みだってあるかもしれないだろう……!」

 

 ……やめて。もうやめてよ、いやだよ!

 私の為に夢を諦めないでよ、二人は、二人には大事な夢があるんでしょう?!

 世に名を轟かす世紀の義賊として活躍するっていう大きな目標が!

 目標のための第一歩を折角踏み出した所なのに、もう諦めちゃうの!?

 そんなの、そんなの私が耐えられない!

 だったら私を捨て置いていい! 私のために目標を諦めるなんてやめて!

 

「分かってくれ、君が私達を大切に思ってくれるのと同じくらい……私達も君が大事なんだ……」

 

「……思えば、私達がここまで大きく名を馳せる事が出来たのはリュニちゃんの力がほとんどだったわ。私達の力じゃない……それなら、私達は貴方のためにも」

 

――そんなの、いやだっ!

 

 気付けば私は二人の周りにレユニオンを召喚していた。

 暴徒君に、クラスレちゃん、そしてWさんにタルラさん。

 

 彼らは弱った私の代わりに無機質な目を二人に向けて、部屋から出ようとしていた二人を止めていた。

 

「リュニ君……」

「リュニちゃん……」

 

「絶対に……絶対に夢を諦めたり、しないで……! 二人は、まだ大丈夫だから……二人なら私が居なくても絶対にやっていけるから……!」

 

 私は愚かにも傷ついたジェントルの姿やオーバーホールの末路を見てようやく気付いたんだ。

 原作にない出来事、その全てが自分が原因で起きた事態である事を。

 他ならぬ自分の浅慮がこんな大惨事を招いたという事を!

 

 私が居なければ何もかも起きなかった!

 死穢八斎會の早期の壊滅も! ジェントルの怪我も!

 治崎の暴走も! そして、鉱石病の芽吹きも――!

 

 故に、撒いた種は全て回収する――回収して焼き尽くす。

 その新たな目標に、ジェントル達を巻き込んではいけないんだ。

 

「……ッ、リュニちゃん! 貴方はまだ動いちゃっ」

 

「触らないでラブラバ、私はもう重度の感染者だよ? 石になんて、なりたくないでしょ?」

 

 よろめきながらベッドから降りようとする私に手を差し伸べたラブラバ。

 その手を、暴徒君が思い切り跳ね除けた。

 

 ……ごめんなさい。ラブラバ。ジェントル。

 本当に、本当に、ごめんなさい。

 そんな顔をさせたくはなかった。

 

 今までまるで姉妹のように振る舞ってくれたのが居心地が良すぎて、自分が感染者であることすら忘れてスキンシップを楽しんでいた。

 でも、そんな事がもう出来る訳がないんだ。

 

「今まで、お世話になりましたジェントル。ラブラバ」

 

「待てリュニ君。どこへ、何処へ行くつもりだ」

 

「……あのオーバーホールの暴走さ。多分感染者である私の体液が原因なんだ、私って一度病院で検査を受けてたんだけど、多分その時の検査した血が流出したんだと思う」

 

「……!」

 

 まずはあの病院を襲う。そして、警察にも聞いて回ろう。

 あの薬は他になかったか。本当にサンプルを燃やしているのか。

 もしも他に流れているようなら、その流した奴を潰す。

 

 完膚なく。遠慮もなく。容赦もなく。潰す。潰して燃やす。

 

 そして私のありとあらゆる痕跡とデータを消す。

 

「それなら、それなら私達だって役立てる筈よ!」

 

「そうさリュニ君。もしもその話が本当であれば自首は後回しにして、君の情報を」

 

「駄目。私はあの時に決めたの、こんな体の私と長時間暮らすなんて事したら絶対に感染してしまう……! 私はもう誰とも一緒にはなれないの……!」

 

 二人は私の事を忘れて、ただ目標に向けてまっすぐに進んで欲しい。それが何よりの私のお願い。

 納得していないのか、しかし、と食い下がる二人に、タルラが、Wが、そしてクラウンスレイヤーがその武器をちらつかせて言葉を封じる。

 

「怖いでしょ、私の個性。誰でも簡単に殺せちゃう個性だよ? その気になったらあんな化け物だって簡単にね……こんな破壊と感染を撒き散らす化け物と一緒にいちゃ、駄目なんだから」

 

「そんな事……っ」

 

「そんな事あるよ! 私は知ってる! ジェントル達が、オーバーホールを倒した私を恐怖の目で見てたのを!」

 

「!?」

 

「私は、だから一緒に居ない方がいいの! 怯えさせて、病気を撒き散らすようなこんな化け物はね……! だから、殺されたくなかったらそこをどいて……!」

 

 二人は図星をつかれたのかわからないけど、俯いて何一つ言葉を出す事が出来ていない。

 私はそんな中、暴徒君に支えられながらゆっくりとここを出る。

 短い間だったけど思い出深い、大好きだったこの家を。

 

 

 

「さようなら……これからも頑張ってねジェントル、ラブラバ」

 

 

 

 アパートの扉が閉じられる直前に見たのは、泣きながらこちらに手を伸ばすラブラバの姿。

 私はそれを見なかった事にして、その場を去ったのだった。

 

 

 

 こうして、私の楽しいヒロアカライフは終わりを告げ。

 

 代わりに贖罪の旅が始まりを告げた。

 

 この世界に来てはいけなかった愚かな私が広げた波。

 

 その余波を一つずつ回収して無に帰し続けるという旅。

 

 何年かかるだろうか。そして私は命尽きる前に贖罪が出来るのだろうか。

 

 不安はあるがソレ以上に……私はこの責任を成し遂げなければならない。

 

 二人のためにも。そしてこの世界に住む人達のためにも。

 

 そうしないと――私は自分を許せそうにないのだから。

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

「……で。あっこから戻ってこれたのはお前だけって事?」

 

「ごめんなさーい弔君」

 

「……はぁぁ……折角集めた駒だって言うのにさ。義欄。本当に使い道のある奴らを送ってくれたんだろうな? えぇ?」

 

「悲しいねぇ、俺の見る目を疑ってくれるなよ。残念な事に向こうが上手だっただけだろ」

 

「ちっ! どいつもこいつも……」

 

「まあまあ死柄木弔。死穢八斎會がこうして潰れてくれたのは僥倖でした。あの治崎とかいう若造はどうあがいても反逆するタイプですしね。貰える物だけ貰えたので良しとしましょう」

 

「……はぁぁ。まあいいけど。で、トガ。これが何の薬だって?」

 

「えへへ。ゴクドーが暴走して怪獣みたいになっちゃった時に使った薬です! ブーストかなーって思ったんですが、何かその発展型なんですかね? すごかったですよ、ガオーってなってしました」

 

「怪獣……怪獣ねえ」

 

『ふむ……弔。それをこっちに送ってくれないかい?』

 

「先生?」

 

『あの事件については私もドクターも興味があってね、特にドクターがその薬に興味深々なんだ』

 

「……先生が言うなら、いいよ。渡すさ」

 

『ありがとう弔。その薬が本物なら――更に事を面白くしてくれるかもしれないからね』

 

 

 




くぅ疲!
これで死穢八斎會編は終わりです。
次章のプロットねりねりしたり他の事して遊ぶため、一旦更新を止めます!
一月に渡る連続執筆という貴重な経験を生かしてもっと精度の良い作品が書けるようにがんばりたいですね! ではでは。



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