ケガレ喰フ少女 (ドメドマン)
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素敵な夢を見たので死ぬ
夢を見た。
そこでは気色悪い化け物たちが地上に蔓延り、人間を食い散らかしていた。人々は恐れおののき、逃げまどい、最後はみんな死んでいった。初めは抗っていた人たちも自分たちの持っている武器が化け物たちには効かないとわかると、しっぽを巻いて逃げ出した。中にはそれでも抵抗しようとした人たちがいたみたいだけど、そういう人からこぞって化け物たちの腹の中に収まった。
この世が地獄と化した中で私は必死になって化け物たちから逃げていた。恐怖で顔を引きつらせて、とっくに枯れた喉から声にならない悲鳴を上げて、なけなしの涙を垂れ流しながら、なにふりかまわず逃げていた。ずっと走り続けていたせいで足が悲鳴を上げても、肺が苦しくても、呼吸がまともにできなくても、化け物という死から逃れようと必死だった。でも結局、私は化け物たちに捕まってしまった。奴らは狂ったように笑い声をあげながらいやいやと首を振る私を押さえつけて、私の四肢を一つ一つ丁寧に壊していった。
右腕は人形の腕を取り外すようにして根元から引きちぎられた。
左腕は虫をすりつぶすようにしてぐしゃぐしゃに潰された。
右脚は紙を折り曲げるようにしてもがれた。
左脚は雑巾を絞るようにしてねじ切られた。
耐え難い苦痛に絶叫した。自分の体に起こった惨状に発狂した。これからくる自分の末路に絶望した。
そして最後、頭をゆっくりと潰される直前私は
「次はあなたの番よ。」
そこで目が覚めた。
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『いや、それを話されて僕にどうしろっていうんだよ。』
「別に?素敵な夢でしたねって話です。」
『今のが素敵なら世の中の殺人事件は全部ハートフルなコメディだよ。』
私は今日も寒い春空の下を歩いていた。もう春も終わりだというのに気温はちっとも上がるそぶりは見えない。ニュースキャスターが桜の開花が始まっただのなんだのと言っていたけどそんなもの逐一気にするのは生物学者かお花見大好きなひとぐらいだ。まあ今日の私は気分がいい。朝から素敵な夢を見られてテンションが上がっている今の私には気温が低いことなど些細な事だ。空は分厚い雲に覆われて、周りは世紀末もかくやといわんばかりに荒れ果ていて、なんか全体的に血のように紅く染まってはいるけど、それだっていつものことだから気にすることはない。むしろちょっと輝いて見える。
「夢の中の私はずいぶんといいことを言ってくれますよね。次はお前だなんて、今日こそは叶うと言ってくれているんですよ。きっと。」
『お前それ言うの何回目だよ?』
「さあ?覚えてませんよ。でも今日こそはやり遂げれる気がするんです。なにせあんな夢を見られたぐらいですからね。」
私が一言話せば頭の中で別の声が響く。私とは違う若い少年の声。私と同じくらいの歳の幼い声。やや呆れたような、諦めたようなそんな声に、私は拳を高く上げ、そして選手宣誓のごとく高らかに声を上げた。
「
ぞぶり
「...あれ?」
唐突な激痛がお腹に走る。少し目線を下に向ければ、私の胴が半分ほどなくなっていた。代わりに真っ赤に染まった黒い柱のようなものが私のお腹を貫いている。その先をたどればニタニタと歪な笑みを浮かべた大きな、蜘蛛と人間を掛け合わせたような化け物に行き当たった。地面から這いずり出てくるそれはまだ体が半分も出ていないのに関わらず大きなトラックほどの大きさで、つるりとしたあたまに縫われた目が三つもついていて、歯抜けのくちから笑い声ともつかないような奇声を発していた。私を貫いたのは、そいつの人間のような形をした指だった。
「ゴホッ!」
口から血が溢れる。視界がかすみ始める。くらりと世界が廻る。化け物が獲物を仕留めたと歓喜の声を上げる。それすら遠くで聞こえはじめ、
『バカだよ、お前。」
全てが元に戻った。
「いきなりここで大声出すとかバカのすることだよ。バカバカバーカ」
私の口が勝手に動いて私を罵倒する。私の体を操るそいつは私の体に刺さった柱のようなものを両手でいともたやすく抜き取ると、力任せに持ち上げ化け物ごと近くの廃ビルに叩きつけた。
「これ直すの面倒なんだからどうせなら衣服のないところを吹き飛ばされて欲しいんだよ。」
そんな勝手なことを言いながらそいつが大きな風穴が空いたお腹をひと撫ですれば、まるで何事もなかったかのように服ごと綺麗に治った。
「ほとほと、お前の死への執着は呆れるものだよ。毎日毎日せっせと死のうとする態度には感動の念すら覚えそうだよ。」
『尊敬してもいいんですよ?』
「だからバカだといわれるんだよ。」
正面を向けば、投げ飛ばされた化け物が憤慨するように笑い声とも叫び声ともつかない奇声を発しながら猛然とこちらに向かい私よりも何倍も大きな足を振り下ろしているところだった。けれども私の体は微動だにしない。逃げるどころかよけるそぶりすら見せない。ただ片手を上にあげるだけ。化け物は自分がなめられたと捉えたらしく、よりけたたましく奇声を上げて足を私に叩きつけた。強い衝撃に耐えきれずに地面が砕ける。廃ビルが風圧で倒壊する。土埃がもうもうと立ち込める。だけど私の体は無事であった。傷一つつくことなく化け物の足を片手で受け止めていた。
「我が名は
一人ごちる義礼をよそに化け物は義礼に捕まれた足を引き戻そうとする。しかしそれよりも早く義礼が足を押しだした。予想外の力に勢いがあまり、大きく態勢を崩す化け物。義礼はその隙を見逃さず、一足で化け物の顔面まで飛び上がると拳を大きく振りかぶる。
「ほい。」
なんとも軽い掛け声で放たれた拳は、しかし化け物の顔面にめり込み、巻き込み、跡形もなく消し飛ばしてみせた。司令塔を失った化け物の体は一回激しく震えた後で力なくゆっくりと倒れ伏した。その化け物の蜘蛛にも似た腹に綺麗に着地した義礼は、しばらくぺたぺたと化け物の死骸を触ってため息をついた。
「今日のご飯はこれなんだよ。」
『こんなものも食事になるんですね』
「なるんだよ。いやだけど。」
そう言って義礼は化け物の死骸の腹に口を付ける。
『あ、それ私のファーストキス。』
「それ毎回聞いてるんだよ。」
そう言って儀礼が息を吸うと、不思議なことに化け物の体が見る間に萎んでいく。それはさながら風船から空気を抜くようで、しばらくしないうちに化け物の体はしなびた干物のようになってしまった。
「ごちそうさまでした。」
『お粗末様でした。』
「別にお前が用意したわけじゃないんだよ。」
そんなことを言い合いながらその場をあとにする義礼。後ろでは小型の化け物たちがわらわらと化け物の死骸に群がっている声が聞こえていたが、しばらくすればそれも聞こえなくなった。
「お前ももういい歳なんだからいい加減死にたがり癖を直すべきだよ。いきなり死なれたら他の人も驚くんだよ。」
『だから最近はここでしか自傷はしてませんよ。最近できたお友達の前でリストカットしたら思いっきりぶん殴られて命を粗末にしないでーって涙ながらに言われましたから。っととと」
いつの間にか体の主導権がこちらに移り替わっていたようで、足元の小石につまずいてしまった。そしてやっぱり呆れたような声で頭の中の義礼がため息をついた。
『やっぱりバカだよお前。』
お腹一杯になったからもう寝る。そう言い残して義礼は消えた。より正確には私のより深いところに帰っていった。
「相変わらず不愛想ですね。」
そう言って私は虚空に向けて拳を放つ。すると、ガラスが砕けるような音とともに私が元居た太陽がまぶしい青空の世界が広がった。運がいいことに通っている学校の近くにある路地らしく、見慣れた住宅街がそこにはあった。後ろを振り向けば、紅色の世界で化け物たちが太陽の光を恐れるようにじりじりと私の開けた穴から下がっている。特に気にすることもなく土とアスファルトの境界線をまたぐと、穴はたちまち塞がり後は何の変哲もないブロック塀だけだった。私は素早く辺りに人がいないか確認し、誰もいないことにほっと溜息をついた。下手に人に見つかれば色々と面倒になる。一回通りすがりの主婦か何かに見つかって110番通報されたのは記憶に新しい。その時は何とか逃げおおせたし証拠映像とかもなかったから事なきを得たものの、一歩間違えばなんかこう研究施設か何かに入れられるかもしれない。こちとら死にたくはあっても痛かったり苦しい思いはしたくないんだから。
「さてと、今日の昼食は何にしますかねー。」
それはそうと、もう既に時間は正午を過ぎてしまっている頃なんだろう。ぐうと私のお腹が小さく鳴いた。とりあえずは財布を取りに家に戻ろう。そう決めた私は気分よく自宅に足を向けた。途中川に飛び込んだ少女を助けようとした少年が溺れて逆に救助されるという珍騒動を目撃したが、帰路を行く私には関係のない話だった。
私は知らない。さっき見た二人が私の命運を大きく変えることも、私がいかにして死んでいくのかも、まだ私は何も知らない。
この物語は
主人公の名字が悩んだ挙句某ソワカな人になったけど別人だし許しておくんなまし
かんそうくりゃれ
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理解したくて死ぬ
お化けが怖い。怪物が怖い。宇宙人が怖い。妖怪が怖い。幽霊が怖い。
なんだかよくわからないものがとにかく怖い。自分が理解できないもの全てが怖くて怖くて仕方ない。
だから、そうだから私は怖がる。怖がっている。
生を。自分が生きているということを。
生きるって何?生きているってどういうこと?生って、命って、一体何なの?
わからない。わからない。理解できない。怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!
こうして生きているという事実が、生命活動を余儀なくされることが、恐怖でしかない。
この恐怖から逃げるためには、生命というやつを理解するしかない。理解したものに恐怖は抱かないから。分かっているものに怖いなんて思わないから。
だから私は死にたい。生を手放したい。人はものをなくして初めてその価値に気づくというのだから。
だからきっと、私は死んで初めて理解できるはずだ。生というやつを。命というやつを。
薄れゆく意識の中で「私は生きていたんだ。」とにっこり安堵の笑みを浮かべることができるはずなんだ。
そう信じて私は今日も傷を負う。致命傷を負い続ける。
でも、でもでもでもでもでもでもでもでもでも!
それでもなお、私は生きている。生かされる。生かされ続けている。
いっそ殺せと願うような痛みを味わっても、死にたいと祈りを込めた傷をつきたてたとしても、私という人間は残酷に、凄惨に、どうしようもないほどにことごとく
私の中に
ああ、誰か。誰でもいいから。どうか私を、
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「ひぃぃぃぃぃぃいいやっはぁぁあああああ!!!!!!!」
えー、馬鹿みたいにバカみたいな奇声を出しながら、自分よりも長い槍をぶん回し、飛んだり跳ねたりしながら化け物たちをズタズタに引き裂いているテンションの高い人が一人。
...私です。認めたくないけども。
正確には私であって私でないといいますか、私の体を借りた某何某といいますか、とにかく私は普通あんな奇声は発しないし、槍で突き殺した相手をそのまま槍で放り投げて一か所に積み上げたりなんかしない。
「おらおらおらおら!
どっちにしろ首を置いていかないといけないじゃないですかやだー。というゆるいツッコミは心の中だけにして、私はため息をつく。
なんてったって今日は
私の中に
そして今回寄生先に選ばれた体が私だったというわけで、私はその呪力という私には良くわからないものを集めるために
彼らは限界まで呪力をため込むために宿主をできる限り生かそうとする。老衰で死ぬまで活かして使う。
「いやー、殺した殺した。」
どうやら一通り暴れてすっきりしたらしい。
『後始末は任せたぞ』
そう言い残して彼は私の中に消えた。後に残されたのは破壊の限りを尽くされ、まっ平になった周囲とうず高く積まれたケガレの死体の山。
「・・・」
わかってる。これを食べないと酷い苦痛に苛まれることも、これがこの世で最も不味いものということも全部。わかっているから、憂鬱なため息が出るというもの。
私は意を決して世界一気持ち悪い山に手を突っ込む。ズチリと音を立ててケガレの腕がもげて引き抜かれた。断面から漏れ出るのはどろりとした泥のような液体。人間のものよりも二回りも大きなそれにかぶりつく。途端に口の中に広がる何とも言えない酷い味。例えるなら粘土に腐った肉と何の処理もしていない生魚をそのまま練りこんだような、とにかく酷い味だった。そんな一口食べるだけでも辛いものが山積み・・・。毎度のことに毎度のように辟易しながら、ここ何年で習得した無我の境地でひたすらにケガレの山を消化する私でした・・・。
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「うぷ・・・。」
あー口の中にまだあの嫌な感触が残ってる。あの後何とかしてケガレの山を食べきった私は、腹ごなしに近くの河川敷を歩いていた。どぶ川もかくやと言わんばかりの汚水がとめどなく流れ、壊れたビルやケガレの死体が浮かんで魚のような見た目のケガレが泳いでいるような場所だけど、比較的安全なこの地域。
理由は二つ。一つは私が最近ここらへんで暴れて強そうなケガレを粗方食べてしまったことで、ここら一体のケガレから警戒されていること。もう一つは最近ここら辺にやってきた
婆娑羅本人は人間を探しがてら適当に殴って蹴ってを繰り返しているだけらしい。既に何度か遭遇して、今では会ったら闘う前や後に軽い世間話をするくらいにはなった。その時に彼がつまらなさそうに話していた。好き好んで会いたいわけじゃないけど、私の中にいる戦闘狂の人たちが彼と闘うと、闘いのあとで非常に満足するのでわざわざ彼らのご機嫌取りをしなくてもすむから色々楽な相手ではある。
とかなんとか考えながら河川敷を歩いていると、近くにあった崩れかけの大橋がいきなり爆発した。
「ええ・・・。」
思わず絶句した。というかいきなり橋が爆発する光景に絶句しない人はいないと思う。いたら連れてきてほしい。そして私を死なせてほしい。
という冗談は置いといて、私はそっとそこから逃げ出すことにした。触らぬ神に祟りなし。巻き込まれでもしたらとても面倒くさいことになるに違いない。具体的には私が痛い思いをする。ついでに相手が死ぬ。
そんなわけで現世に帰るために拳を握ったところで、こちらに近づいてくる人影が見えた。片足で軽やかに地を蹴るその人物、いや、その婆娑羅を私は知っていた。随分ボロボロだけど、それは知り合いの婆娑羅である
神威もこちらに気づいたようで足を止めた。随分とご機嫌のようで普段は鉄仮面並みの無表情なのに今は顔ががほんの少し緩んでいる。見た目はボロボロなのにこれだから相当いい闘いができたみたいだ。
「どうも神威さん。いつにもましてズタボロですね。」
「お前か。今日は気分がいいからな、殺さないで置いてやる。」
「ありがとうございますよ。」
私の斜に構えたような感謝にも反応しないあたり、本当に上機嫌なのがわかる。だからなのか私の中でほんの少し、好奇心というやつが鎌首を上げた。
「ところで、その傷はどうしたんです?まさか神威さんが負けたとくぎゅ!?」
余計なことをいった。そう思った時にはもう遅い。一瞬で間合いを詰められて首を絞められる。片足しかないのにどういう身体能力しているのか。
「口には気を付けろし。俺は負けてねぇ。」
「くひぁ、い。」
勘弁しろし。そう口癖を呟いて神威は私の首から手を放す。なんだかんだ殺さないあたり上機嫌通り越して有頂天ではなかろうか。そんなことを考えながら私は首をさする。あー苦しかった。
「…双星の陰陽師。そいつ等と闘った。」
神威は素っ気ない雰囲気で教えてくれた。それにしても、双星の陰陽師…。うん、全く知らない。孤児さんは何か知っては…いなさそうだよねあの脳筋。そんなもの、んなことこの孤児様が知っているわきゃねぇだろ!で終わりそう。むしろ闘わせろやり合わせろとうるさくなりそう。
「なかなか見込みのある奴らだった。」
ただ、神威が満足そうにしている姿を見るに、相手の強さは相当のものなんだろう。
そう考えて私は
神威が目を細めて後ずさりする。どうやらケガレには太陽の光は眩しいらしかった。神威が迷惑そうにしていることにほんの少し仕返しができた気がした。
「じゃあ私はこれで失礼しますね。今度は怪我してないときに遭いましょうね。」
「ああ、次会った時はきっちりぶっ殺してやる。」
「いやん。楽しみにしてますね。」
そう喜色の混じった声を神威に言い残して私は禍野を出た。私が出れば扉はは勝手に小さくなり消える。いつ見ても不思議な光景。
「まぁいっか。」
既に夕方。私はいつも通りどことも知らぬ道からスマホで家を検索して帰り道を探し当てて歩き出す。途中やけに髪の長い頭逆プッチンプリンしてる男性とすれ違った気がしたけど、今の私には関係のないことだった。
読者から絶対に好かれない主人公を目指したい今日この頃。
かんそうジョバンニ(適当)
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変態の妄言がうるさいので死ぬ ①
男は怒鳴る。お前はこの世の悪を煮詰めた
女は嗤う。元よりそれそのものだ。
少女は罵る。人でなしだと
女は哂う。人であったことなど一度もない。
人々は叫ぶ。悪鬼羅刹とはお前のことだと
女は笑う。だから私は愛せているの。人と人の争いを。
さあ人の子よ、私の寵愛を勝ち取って。
酷く醜く争って、必死に地べたを這いずり回って 汚らしく罵り合って、噛みつき謀り滅ぼしあって。
どうかその手に収めるために、命を賭して死に物狂いで潰し合って?
そうしてできた血の河で、私は体を洗いましょう。積まれた死体を食い尽くし、恨み辛みを啜り上げ、この世の地獄を謳いましょう。
ああ、私の好きな人の子よ。私が好きな人の子よ。私は貴方を愛しているわ。だから最後を飾るなら、できる限り無様に死ね。
酷いポエムを聞いた気がした。
なんかもう若気の至りでノートの端にその場の雰囲気で書いて悦に浸って、後で赤面しながらベットの上を転がる羽目になりそうな、そんな恥ずかしいポエムを聞いた気がした。
きっと幻聴だろう。寝ている間に不吉な電波的なものを受信でもしたんだろう。
そんなわけで、いまだにぞわつく背筋を伸ばして私はベットから起き上がる。
ゴールデンウイークが終わり、今日から学校が始まることにひそやかな
血色の悪い白色の肌に短く整えられた前髪、張り付いたようにそれでいて媚びるかのように、嗤っているように曲がった目と口元。まるで歩くこけしのようだとはよく言ったものだ。そのこけしみたいな凹凸のない体を制服で包めば、学校に行く用意は完了する。
『ああ、
それでは学校に行こうと鞄を持ったところで声をかけられた。後ろを振り向けば、鞄を持った制服姿の私は写っておらず、夜空のようにきれいな黒い髪をたなびかせ
目に包帯を巻いて額からアンテナのように細い二本の角を生やしていなければ間違いなく絶世の美女であろう彼女の名は
「おはようございます。件さん。朝から何か用ですか?急ぐんですが。」
挨拶すれば件は困ったように眉をひそめて、憐れむように笑った
『貴方まだ頑張るのね。いずれ貴方もこうなるのに。』
そう言って件は己の額に生えた角を愛おしそうに撫でる。巻かれた包帯越しからでもわかるほどにその瞳は果てしない信仰と情愛と狂気で爛々と輝いている。そう、件は重度のマザコンなのだ。
『お母様の寵愛を受け入れて、体も心もすべてを差し出してしまえば、貴方が感じている苦しみや恐怖は今すぐにでも取り払われるのに。』
「それ、件さんに限ったことでしょう。」
彼女の価値観は母が全てなので全くあてにならない。獣たちは基本的に母に絶対の忠誠を誓ってはいるものの、母に関する思いは様々だ。ある
『そんなことはないわ。貴方はお母様の寵愛の素晴らしさを知らないだけよ。今までの悩みや疑問なんてあの御方をみればすべてどうでもよくなるの。そしてお母様が世界の中心、この世の全てとすら思えて仕方なくなるの。どう?素晴らしいと思わない?思うでしょう?いいえ、今は思えなくてもいずれ全人類がそう思えるようになるわ。お母様が復活し降臨すれば地上は人種、性別、種族さえも超越してお母様の愛だけを受け入れ、崇拝し、信奉するどんな天国にも勝る絶世の楽園になるの。ああ、なんて素敵なんでしょう!わからない?この素晴らしさが!愛おしさが!ええ、私にはわかるわ。貴方も、彼らだって今はまだお母様から注がれる果てしない愛がわかっていないだけ。自覚さえすれば私のようにお母様を心から敬愛するようになるわ。きっとね。でも、お母様の愛は魅力的だから邪魔が入るのでしょう。地上にのさばる人間や、意地汚く暗闇を這いずり回るケガレ達。忌々しいわ。とてもうざったらしい。でもそんなこと、お母様の愛に比べれば些末なことだわ。お母様はいつだって私たちのことを考えてくださっているんですもの。いつだって私たちのことを見守ってくださっているんですもの。きっと私たちが日々お母様のために尽力していることもお知りになさってくださっているのよ。そしてお母様の尊き御身が現世にご再誕なさった暁には私たちのことを心の底からお褒めになってくださるの。お褒めになって、頭を撫でてくださって、「よくやってくれましたね、件。貴方は私の自慢の娘よ」と仰ってくださって。そのご尊顔をお近づけになって、ああ!件は、件は、それだけで、それだけで天上へ達してしまいそうにぃぃ。いえ!いけませんお母様そのような、そのようなご褒美などぉああでもお母様が望まれるなら件わぁぁあぁああ...』
私の通っている学校は
そんなこんなめだかを見つめながらおいしく頂ける方法を考えていると、教室にも人が増えてきた。そしてその中に浮かない顔で教室に入る女の子が一人。おっぱいが大きくてボブカットでおっぱいが大きくて目立ちのいい顔立ちをしていてかわいい系美人でおっぱいが大きい
「こんにちわ、繭良さん。朝から浮かない顔ですけどどうかしました?」
「あ、唯亜ちゃん。おはよう。別に大したことじゃないよ。ちょっと失敗しちゃっただけ。」
と言いつつも深々とため息をつく様子からちょっとどころではない失敗をしてしまった様子。とそこに数名の男子が入ってきてそれを見た繭良さんがガタリと机を揺らして立ち上がった。その顔はさっきまでの憂鬱な表情から一転、ぷんすこと言わんばかりのかわいい怒り顔へと変化している。
「ちょっとろくろ!!」
「よぉ繭良!」
「「よぉ繭良!」じゃないでしょ!」
なるほど。どうやら彼が繭良さんの浮かない顔の原因だったらしい。どうやら繭良さんは彼と一緒に学校に行きたくて家まで行ったのに引っ越していて会えなかったらしい。しかし繭良さんや、その態度はいかがかと思いますよ?完全にツンデレのそれだもん。幼馴染とはいえさすがに気づく・・・素振りも見せないね。むしろなにやら思いつめたような顔をしているね。彼の名前は憶えていないけれどどうやら二人の間にはただならぬものがあるようだ。
「はいは~い!
そこに空気を読まずに入ってくる担任のおかげでその場はいったん収まった。繭良さんは心配して損した!と憤慨して自分の席へ戻っていく。半ば空気になっていた私も自分の席に着席した。
「よ~し。それじゃあいつもいい子にしている皆に転校生を紹介しちゃうぞ~!?」
気の抜けた担任の掛け声で教室に入ってきたのは、とんでもない美少女だった。長く艶のある黒髪にきりりとした目元。雪のような肌。体つきもとてもスレンダーで、私がこけしなら彼女は京人形ようだった。
「京都から来た
ガチの京人形、じゃなかった京美人だった。先生の言う通り、化野さんの登場にクラスの男子が熱狂的に騒ぎ始めた。ただ、一人だけ。繭良さんに怒鳴られていた男の子だけはうんざりしたように頭を抱えていたことが気になった。
原作にはちょいちょい横やりを入れる程度にしておきたい。
2020/06/25 物凄い矛盾点を見つけたので改正。
かんそうクレリアン
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変態の妄言がうるさいので死ぬ ②
京都からの転校生
それにしても、太陽の光はどうしてこうもうざったらしいのだろうか。眩しいし当たりすぎると肌はあれて体調崩すし、いいことなんて一つもない。太陽なんざ一生雲に隠れていればいいのに。じりじり肌の焼ける音を幻聴しながら私は空に中指を立てる。空は変わらず青かった。けっ。
そんなことをしているうちに繭良さんが胸で棒高跳びの棒をはたきおとすというミラクルを起こした。いやミラクルといえばミラクルだけどそれは持たざる者に対しての挑発かな繭良さん。体に凹凸のない系女子への盛大な嫌味かな?ん?
ちょっと文句言いに行こうと繭良さんのほうに行こうとしたその時
トンっと誰かと肩がぶつかった。・・・ん?あれ?
「あ・・・、ごめん・・・なさい・・・」
相手は化野さんだった。だけどそれは問題じゃない。
匂った。彼女の体から、かすかに。しかし嗅ぎなれた者には酷くわかりやすく。
鉄臭く錆臭く血生臭く湿臭く汚れ臭く穢れ臭く、そしてなにより香り高い。私がこの世で最も嗅ぎなれている匂い
腐った
・・・ああ、そういうこと。わかっちゃった。
こんな中途半端な時期の転校の理由も、常に一歩引いている理由も。
「いいえ。こちらこそ。」
それこそ私には関係のないことだったけれどそれはそれとして、人間誰しも挨拶は大事だ。だから私は誰にも聞かれないように彼女の耳元で
「お勤めご苦労様です。」
こう言い残した。
案の定、化野さんは驚いた様子でこちらを振り向くけど時すでに遅し。私は既に棒高跳びのスタートラインに立っていて話しかけられる雰囲気じゃなくなっている。
化野さんの疑いと困惑の視線が心地良い。少しだけ貼り付けた笑顔を深くしながら私はスタートを切る。
もちろん、狙うは不慮の事故。私は一念しながら飛んだ。
首が折れますように。
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ところ変わってそこは禍野。相も変わらす空は雲に覆われねっとりとした陰湿な空気が漂う中で私は宛もなく歩き回っていた。あの後私の努力も虚しく首の骨が折れることはなく少し危険な角度にねじれただけに終わった。仕方ないのでそのまま気絶したふりをして保健室に運んでもらい、放課後ぎりぎりまでふて寝を敢行、体育の先生によれば、傍から見ても危険な落ち方をしていたらしいからあと一歩で死ねたんだと思う。うーん悔しい。
結局病院に搬送されることも親が来ることもなかった(多分呼んだんだろうけどあれは来ない)ので、保健室の先生や担任の先生を口八丁手八丁でどうにかこうにか言いくるめ、半ば無理やりに帰路についてその足で禍野に今日の呪力集めに赴いたのでした。
さて、ここで小話を一つ。この禍野に生息しているケガレは呪力を求めて人を襲うのだけれど、人間の体で最も呪力を感じ取れるのは血液なのだとか。人を殺す際に血を浴びるようにして砕いたり、わざわざ捕まえて食い漁るように殺したりするのは、呪力を取り込む実感が欲しいのと余すことなく呪力を取り込めるから。と神威が言っていた。つまり、禍野で血を流すだけで匂いと呪力に惹かれたケガレがわらわらと集まってくる。リストカットなどしようものならそれはもう砂糖に群がる蟻の如き勢いで津波のように襲い掛かってくる。
その特性を生かした私一押しの自殺法が手首を切って血を垂れ流しながらそこらを歩き回りおびき寄せられたケガレの大群に押しつぶされる通称「釣り」。
「さて、そろそろですかね。」
歩みを止めて後ろを見れば地平線の一点が塗りつぶされたかのように黒い。うん、大量大量。あと数分もすれば私はあの黒の中でぐちゃぐちゃに踏みつぶされてミンチになって死ぬことだろう。たのしみだなぁ。私が蹂躙されると同時にこの慢性した恐怖も蹂躙されて、跡形もなくなくなって、私はようやっと安らかにいられるんだ。きっとぉおう?
「ぅえ?」
あれ?どうして--世界、逆--に-------
『ああ、唯亜。愚かな子。」
気づけば私は自分の後ろに蹴りを入れていた。いや、より正確には私の体が自分の後ろに蹴りを入れるのが見えた。まさかの反撃に私の首を断ったであろう鉈を持ったケガレは受け身も取れずにすっ飛んでいく。その間に私の身体は私を拾うと、元の通りに上に乗せて接合部分をひと撫で。たったそれだけで、まるで最初から何もなかったかのように首がつながってしまった。
「唯亜。ああ、唯亜。貴方はなんて愚かなの。この世の全ての呪力と陰の気はお母様に捧がれるべきものなのよ。無駄に垂れ流した貴方の血も、怪我を直すために使う呪力も、すべてすべてすべて!お母様の復活の礎に注がれるべきものなのに!どうして貴方の、貴方ごときのためにそれを使わなくてはならないのかしら。ねぇ唯亜、一体どういうことなの?お母様は至高で絶対。あまねくすべてよりも優先される存在よ?あらゆるものはお母様のために動いてしかるべきなのに大体貴方は・・・」
そして始まる狂信者のお説教タイム。お説教というよりもほとんど独り言に近いのだけど。反対意見も賛同意見もまず聞く耳持たないし、おまけにとんでもなく長いしね。
「ギャヒャハハハハハハハ!!」
そこに先ほど蹴り飛ばされたケガレが襲いかかってきた。見るからに憤慨してぶんぶんと鉈を振り回しながらこちら迫ってくる。がしかし
「
その一言でケガレの首が宙を舞った。勢いそのままに制御を失い地面を派手に転げ回るケガレはしかし、件に到達する前に
「お母様の贄となる栄誉をあげましょう。光栄でしょう。」
酷く独りよがりな世迷言をのたまいながら一息に塵を飲み込むと、件は手にギロチンの刃を出現させた。これこそが件の武器、大小様々なギロチンを空間に無尽蔵かつ縦横無尽に設置できるのだとか。先ほどの無残な解体ショーも目には見えないほどの極小のギロチンが一斉に振り下ろされた結果だ。ちなみに細かく砕く理由は本人曰くお母様に見せるときにできるだけ見苦しくないように追求した結果だそうな。当のお母様は多分見てないけどね。
「今回はお母様の供物を沢山用意しているようだから不問とするけど、今後は全ての呪力を全力でお母様に捧げなさい。いいわね。」
すでに目の前にはケガレの群れ、群れ、群れ。大も小も関係なくひしめき合って迫る様は圧巻の一言で。あーあ、もうすこしであれ味わえたの私だったのになぁ。
「我が名は
名乗りと共に振り下ろされた刃。後に残るのは小高い塵の山だけだった。
主人公は慢性的に死にたいだけで別に頭おかしいわけじゃないです。
かんそうくれ麺(514円)
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疑われたので死ぬ
「私は恋愛で性別や年齢差なんて気にしない人ですけど、ちょっとムードが足りなくありませんか?」
「・・・・・・・」
殺生院唯亜、人生初の校舎裏の呼び出しは同性の方に凄い剣幕で睨まれながらでした。唯一の救いは相手があの校内における絶世の美女たる化野紅緒さんであることぐらい。これでこのまま告白、からのファーストキスまで奪われたら私は観念して化野さんのお嫁さんにもらわれてしまうのかな?ん?この場合はお婿さん?いや、これどちらかというとヤンキーの呼び出しに近い?やだ私美女からカツアゲされてる?感動。
なーんて、そんなわけないのはわかっている。どう見ても昨日のいたずらのせいで、大方昨日の言葉の真意について聞きたいとかそのあたりだろう。別にどうということはない。どうせ化野さんは何も知らない。なんて言ったって私が陰陽師と直接接触したのは、それこそ片手で数えられるぐらいに少ない。情報はほとんどないに等しい。なら私から適当にはぐらかしてあげれば勝手に納得してくれるだろう。でもさすがにそれだと味気ないし、せっかくそれっぽく言った意味がなくなってしまう。どうせならもうすこしかき混ぜてあげてよう。
「愛の告白はもっとかわいい顔で言ったほうがいいですよ。あ、それともカツアゲですか?私お金は買い物以外持たない主義なんで、生憎今は一円たりとも持っていないん-----」
「そんなことは・・・・どうでも・・・いい。」
やや食い気味に言葉を遮ぎる化野さんはわかりやすく私を警戒して睨む。意図せず身体を半歩ずらしいつでも鞄の中をまさぐれるように手を置いて、私が下手な動きをしたらいつでもとびかかれるように構えているあたり相当に鍛え上げられた陰陽師なんだろう。ああ、きっとこの子なら十全に私を殺してくれるんじゃ
『駄目!まだ来てないの!いい感じに煮詰まるまで待ってよゆっちゃん!』
・・・ああ、そうだった。今日は彼女ってことを忘れてた。彼女もまた
「昨日の・・言葉・・・一体どういう意味?」
「さあ、何のことやら。」
「・・・っ!とぼけ・・ないで!!」
「やだ怖ぁい。化野さんはどういう意味だと思いました?」
私たちの間に不穏な空気が走る。まあ私が走らせたんだけど。化野さんはよりいっそう警戒を強めて眉間にしわを寄せている。ああ、なんかこうゾクゾクしてきた。何かの扉が開きかけている予感がするぅ。でもまぁこれ以上話しても私に益がないしこのあたりが限度だろう。
「そんなに睨まないでくださいよぉ。まぁ言ってみれば簡単な話です。向こうに知り合いがいるというだけでしてね。繭良さん・・・
「・・・なにが・・・目的?」
「目的なんてそんな。強いて言うなら、趣味?ですかね。最近推理小説とスパイ漫画にはまってまして、私も日常でそういうことをしてみようと思いまして。それ以上に意味はありませんよ。」
「・・・・・・二度としないで・・・」
「ええ、勿論。満足しましたしもうしませんよ?」
「・・・・・・・」
化野さんはひときわ強くにらみつけるとその場を去っていった。作戦通り。わざと胡散臭く、わざとらしいセリフを吐くことで、化野さんはさらに私を疑い続けることになる。いくら探っても出てこない私の尻尾を追いかけてくれるかもしれない。その姿を想像するとたまらなく滑稽で面白い。彼女はきっといい娯楽になってくれそうだ。あれ?それにしてもどうして化野さんがこんなに気になるんだろう?今までこんなことなかったのに。私がここまで他人に興味を持つなんて、初めてのことで少し困惑気味。まさか・・・
「これが、恋?」
ないない。これはもっと別の感情だ。多分この感情の名前は愉悦、あるいは嗜虐?まあそういうことにしておこう。わからないものは怖いからとっとと忘れてなくしてしまうのが一番だ。
『ゆっちゃんが恋!??詳しく聞かせて!』
しまったうっかり声に出てしまった。あとこの人のせいで一気に冷めた。気持ちを整理したのにかき混ぜてくるな腐れ面倒バカテンション女。ということで、当分彼女は無視することにした。うるさいけど。
『ねー!ゆっちゃん、教えてよー!。恋は作品にはあれば超便利なエッセンスなんだからさー!。いいでしょー!ねー!ねーってばー!もしもーし!ゆっちゃーーーん!!』
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毎度御馴染み禍野某所。足場の悪い場所を敢えて選びながらぴょんぴょんスキップしながら渡り歩く私は、現在彼女のインスピレーションとかいうものが沸き上がるのを待っている最中。本人はあーでもないこーでもないとない頭を捻っているけれど、いくら待ってもでてこないものはでてこないと思う。それよりもこのまま崖下に落ちて頭を打ち砕いたほうがよっぽど有意義だろう。
丁度崖の側面から生えるように建っている廃墟になった家の壁に降り立ったところで崖下に人影が見えた。数は二人。どちらも男、一人は背が低くアホ毛のがあり、うちの学校の制服を着ていて、対する人は少し背が高く短髪に後ろに布でぐるぐる巻きにした二房の長髪でバーテンダーみたいな感じの落ち着いた服を着ていた。二人はしばらく険悪な雰囲気で話をしていたが、やがて制服の子が右腕をケガレのそれに変化させると、バーテンダーが小石を宙に放り投げた。小石はまるで弾丸並みの速さで制服の子にむかっていき、地面が爆ぜた。・・・わぁお。小石一発一発が大砲並みの威力を誇るとかあのバーテンダーさんはただものじゃない。私が食らえば間違いなく禍野の塵となるはずだ。いいなぁ。
戦況は依然制服の子が劣勢、小石は石を持つかの如く逃げる制服の子を追いかけ、その威力で周りごと制服の子を吹き飛ばした。と思いきや制服の子は巨大な岩を飛ばしその後ろに付いた。当然バーテンダーは岩をいともたやすく破壊する。がその砕かれた岩を陰に制服の子は右腕を振りかぶっていた。きまった。陽動に気を取られて反応の遅れたバーテンダーは動けず、拳が直撃・・・しなかった。制服の子は途中で拳を止めたのだ。そのまま吹き飛ばせばよかったのに。あーあ、そうこうしているうちに相手に右腕の武装を解かれて霊符を破かれてしまった。あとみぞおちに蹴り入れられた。自業自得とはいえ、かわいそう。
とそこでもう一人、今度は女性が乱入してきた。あれ?もしかして化野さん?なんでこんなところに?まぁいっか。化野さんと制服の子とバーテンダーはしばらく話し込んだかと思うと、なんと化野さんが制服の子に剣を突き付けたではないか。なんだか修羅場の予感・・・。ワクワク。
『きったぁぁぁぁぁっぁあっぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!』
「げハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
うるっさ。外も中もうるっさい。周りには先ほどの戦闘に釣られて木っ端ケガレがたくさん寄ってきていた。んでこのタイミングで私の中の彼女もまた何かが来たらしい。ともかく私の周りはとんでもなくやかましい。
『来たわ!来てしまったわ!この熱量は今すぐに形にしないと!ゆっちゃん!お願い!替わって!』
「ああ、はいはい。」
化野さんたちを見ればちょうど扉らしきものを開いて現世に帰っていくところだった。これで遠慮なく死ねる。私は躊躇なく崖下めがけて飛び降りた。一瞬の浮遊感。すぐに落下が始まり、地面が迫る。そして、
ぐちゃり
一瞬の暗転。私は今死んだ?いや、死んでない。なんてったって私は五体満足でこうして地面に立っているのだから。でも既に体の主導権は彼女に移っていた。つまりまた
普段の私がしない爛々とした輝きを湛えた瞳といつもの媚びるような笑みからうれしさと楽しさが入り混じる歓喜の笑みを放ち、今が最高に楽しいと体全体で訴えるように彼女は曇天に己の叫ぶ。
「我が名は
礼夏が勢いよく手を振り上げると、彼女の手には真っ赤に濡れた指揮棒が握られていた。そして彼女の前に炎が吹き上がる。辺り一帯を埋め尽くすほどに広がった炎は、やがて揺らめきながら人の形をかたどっていく。手にはそれぞれバイオリンやトランペットなどの炎で形どられた楽器を持っている。やがて炎の勢いが収まるころには、彼女の前には一つの
これが礼夏の武器であり能力。彼女の振るう指揮棒は炎によって彼女の思い描いた理想の楽団を創り上げることができる。理想の楽団なので楽器はその都度違う今日のような管弦楽団形式もあればギターなどのバンド形式なんかもあり、彼女が思い描く種類は多岐にわたる。
「レッツ!ミュージック!!」
合図とともに礼夏が指揮棒をふるえば始めにバイオリン奏者が弦を弾き始め、それに他の楽器が続くことで店舗が激しく力強い曲が流れ始める。音に反応したケガレがこっちによって来るが礼夏は気にせずに、むしろより激しく指揮棒を振り回す。さながら一流の指揮者のように炎の楽団を操るさまにケガレたちはまるで感動したかのようにその動きを止めて見入っていた。
そうだったらとっても感動的なことだけど、現実はそう甘くはない。礼夏は音に乗せて三種類の呪力を放っている。言わばこの演奏は
一に『客寄せ』と呼ばれる弱い呪力が広範囲に発せられ、それに反応した周りのケガレが砂糖につられた蟻のように集まってくる。こうして礼夏の近くに集まってきたケガレを出迎えるのは足止め用に『
こうして周囲を静かな地獄に変えながら騒々しい演奏は
天若正弦=バーテンダー いや私服がそれっぽいなって思って。
マスター、かんそうのカクレル一つ
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