1人のフラッグファイターがソレスタルビーイングのオペレーターと共に、ガンダムマイスターとなって戦い抜く (通りがかりのフラッグファイター)
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1st Season
プロローグ
世界から化石燃料が枯渇した西暦2307年……人類は新たなエネルギー源として太陽光発電を選び、赤道上にそびえ立つ3つの柱【軌道エレベーター】と【太陽光発電衛星】により、安定した電力を手に入れる事が出来るようになった。
しかし、そのエネルギー分配権は軌道エレベーターの開発に協力した国家にのみ与えられた。それにより世界は軌道エレベーターを持つ3つの超国家に分裂してしまう。
アメリカ合衆国を中心とした【ユニオン】、中国・ロシア・インドを中心とした【人類革新連盟】、そしてヨーロッパを中心とした【AEU】…この3国は明確な戦争状態という訳ではないが、水面下では大いなるゼロサム・ゲームを続けている。
そう、24世紀になり世界共通の問題を解決した今日に置いても、人類は未だ1つに纏まる事が出来ずにいた…
これはそんな世界に住む、一人の青年の物語である。
そんな超国家の1つ、ユニオンにある軍事基地の1つで現在、1人の青年がシミュレーターを使って訓練を行い、その横で2人の男性がそれを見ていた。
「どうだい、彼の成長ぶりは?」
「見事なものだ。1年前の彼とは、比べ物にならない。並みのパイロットなら3年は掛かるものを、1年で会得するとは……下手をすれば、私も落とされてしまうかも知れないな」
「君がそこまで言うなんて……師匠としての贔屓目かい、グラハム?」
「まさか…私もそう易々と落とされるつもりは無いさ、カタギリ」
「だろうね」
横で話している2人…長い茶髪をポニーテールにしている男性…技術顧問の【ビリー・カタギリ】と、シミュレーターを使っている青年の上司でMSパイロットであるクセのある金髪の男性【グラハム・エーカー】は、そのシミュレーターを見ながら話している。そこには始まってからのタイムと撃墜数に機体の破損状況が表示されており、中でも撃墜数は既に30を越えていた。
「それにしても、意地が悪くないかい?コレ、君が1位の記録を出したレベルと同じだろう?」
「さすがは技術顧問、お見通しだったか。この私の師事を受けているんだ…やるからには、師匠と同レベルにはなってもらわないとな」
「やれやれ……彼も難儀な人を師に選んだものだよ」
「彼の人を見る目は確かだと思うが?」
「自分でそれを言っちゃうのかい?」
グラハムの言葉に苦笑を浮かべるカタギリ。そこにシミュレーターの終わりを告げるブザーが鳴り響く。
画面に目を向けると、撃墜数は1位の記録45機には届かずも、41機という2位の記録を叩き出していた。
「このレベルでこれ程撃墜数を上げるなんて…」
「それも驚く事だが……カタギリ、コレを見てくれ」
そう言ってグラハムが指差したのは、ライフルの弾の残弾数であり、画面には52/100と表示されていた。
「これがどうかしたのかい?」
「コレと撃墜数、撃墜方法を見比べてみろ」
「んん?……これは…!?」
グラハムに言われて2つを見比べていたカタギリは、そこであることに気づいた。撃墜数と消費した弾の数の差が余りにも少ない事を…そして敵機の撃墜方法は全て、ライフルの射撃によるものだった事も。
それはすなわち、彼の射撃が百発百中に近いという事を意味していた。
「そう…彼は射撃に関しては、私以上の才を持ち合わせているのさ。だから、そんな彼がどこまで成長するか楽しみで仕方ない」
「これは確かに、君の言う通り楽しみだね」
そんな未来を馳せていると、シミュレーターの扉が開き、 パイロットスーツを来た人物が出てきてヘルメットを脱ぐ。そこには短めの黒髪に少しつり上がった黒い瞳の目がキリッとした印象を与える、整った顔立ちの男【リュウト・シドウ】がいた。
「ふぅ……エーカー中尉、自分のシミュレーターの結果はどうでしょうか?」
「いやぁ~素晴らしいよ!!これなら、グラハムにも勝てるんじゃないかい?」
「カタギリ技術顧問、いらしていたのですね。いえ、自分はそこまで…それに格闘戦は、中尉に遠く及びませんから…」
カタギリの絶賛に男は謙遜するが、そんな彼の肩をグラハムが優しく叩いた。
「そこまで自分を卑下する必要はない。お前の実力は、私が1番理解している」
「中尉…」
「これからも、隣で君の活躍を見させてもらうぞ?」
「ハッ!!」
彼の言葉に男は敬礼で応える。尊敬する上司に褒められるのは、彼にとって至上の喜びであった。
「ところで……どうしてカタギリ技術顧問がこちらに?」
「僕はグラハムに会いに来たんだよ。またムチャな動きをして、フラッグを壊してないかを確かめにね?」
そんなカタギリの言葉に、グラハムは顔をしかめる。
「心外だ……心配せずとも、そんなムチャをそうそうしたりはしない」
「君のその言葉ほど、信頼できないものはないよ。君もそう思うだろ?」
「えッ!?あ、え~と…」
「構わない、今は我々しかいないんだ。遠慮せずに本心を言え」
カタギリの問いに言葉を濁すリュウト。そこにグラハムからの言葉で意を決した彼は…
「ハッ……確かに、中尉の変態軌道を見ると、あまり信用は出来ませんね」
オブラートに包む事なく、本心をぶっちゃけるのだった。
「うぐ…!!」
「アッハハハハハハハハ!!た、確かに…!!グラハムのマニューバはへ、変態染みてるね!!」
それを聞いてグラハムは再度顔をしかめ、カタギリにいたっては爆笑していた。
「笑うなカタギリ!!リュウト!!この後の訓練はいつもの3倍とする!!いいな!!」
「ちょッ!?中尉!!それはさすがに横暴ですよ!?それに、中尉が本心を言えと言ったんじゃないですか!?」
「やかましい!!その変態軌道を、お前の骨の髄にまでみっちり叩き込んでやる!!」
「それは望むところです!!」
「ええいッ!!皮肉を理解できない奴は…!!」
「アハハハハハハハハ!!やっぱり君達は、良いコンビだよ……あ、そういえば」
親友とその弟子のコント染みた会話に笑いつつ、カタギリはあることを思い出した。
「どうした、カタギリ?」
「実は今度、AEUで新型MSのお披露目会があってね。それに招待されたんだ」
「AEUが?」
「どのような機体なんでしょうか?」
「それは見てからのお楽しみだね。それじゃ、僕はグラハムのフラッグを整備してくるから」
そう言って去っていくカタギリ。リュウトはそんな彼を見送りつつ、隣に立つ上司兼師匠の顔を覗く。その顔には笑みが浮かんでいた。
「行きたそうな顔をしてますね?」
「……リュウト、頼みがある」
「解りました。輸送艦の運転はお任せを」
グラハムの頼みを変える聞く前に、リュウトはその頼みを先読みして答えた。それが合っていたのか、グラハムが笑みを浮かべた。
「フッ……頼れる弟子だ」
「尊敬する師の為ですから」
互いにそう言って歩き出す2人。この時、リュウトは知るよしもなかった…
そのお披露目会で自分の人生を変える存在…
“紛争根絶”を成し遂げるために舞い降りた天使達……機動兵器【ガンダム】と、それを所有する私設武装組織【ソレスタルビーイング】と邂逅する事を…
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邂逅
1stシーズンはユニオンを中心に、ソレスタルビーイング側を少し書くだけなので早めに進めていきます。
※作者は一人称が下手くそです。そこはご容赦ください
カタギリ技術顧問の来訪から数日後…
AEU領にある軌道エレベーター近隣のMS演習場…その中をライトグリーンと白に彩られた1機のモビルスーツが飛んでいた。
その機体に演習場内の各所に設置された機銃が、それを迎撃するべく弾丸を吐き出していくが、モビルスーツは軽やかに避けながら右手に保持したリニアライフルで、機銃の上に設置されたターゲットを撃ち抜く。
弾幕が収まり1度着地するモビルスーツ。その左横から機銃が総射されるが、それは左腕に装着された特殊防御装備【ディフェンスロッド】によって弾かれ、すぐさま機銃へと突撃し、リニアライフルを撃ってターゲットを破壊・停止させる。更に空中に飛び上がり、設置されたバルーンも撃ち抜いて宙返りしつつその場に滞空し、その光景に観客達は感嘆の声をあげている。
ここでは現在、演習場を飛んでいる機体…AEUの新型MS【イナクト】のお披露目会が行われていた。
「モビルスーツイナクト、AEU初の太陽エネルギー対応型か……」
ビリー・カタギリはその機体を分析しつつ、内心で呆れていた。何故なら、イナクトの機体構造が自身が恩師と共に開発に携わったフラッグに似ていたのだから。
やれやれ…ここまでくると逆に感心するよ……
そう思っていた彼の側に、2人の男性が現れた。
「AEUは軌道エレベーター開発で遅れをとっている…だから、モビルスーツだけでもどうにかしたいのさ」
「しかし、これほどとは…AEUはカンニングが好きみたいですね」
その聞き慣れた声に、さっきまでとは違う呆れを感じながら視線を向けると、そこには親友であるグラハム・エーカーとその右腕であるリュウト・シドウが立っていた。
「おや、いいのかい?MSWADのエースと、その片腕がこんな所にいて…」
「もちろん、良くはない」
「隣、よろしいでしょうか?」
「どうぞどうぞ、席なら余ってるからね」
ビリーの隣にグラハムが座り、その隣にリュウトが腰を降ろしてイナクトを観察する。
「それにしても、AEUも豪気だよ。人革の10周年記念式典の日に、新型の発表会をぶつけてくるんだから」
カタギリの呟きを聞きつつ、グラハムはイナクトを見つめる。
「カタギリ、君から見てあの機体はどう思う?」
「どうもこうも、ウチのフラッグの猿真似だね。独創的なのはデザインくらいかな?」
「ふむ……ならリュウト、あのパイロットはどうだ?遠慮なく言ってくれ」
「あのマニューバを見る限り、プライドはずいぶん高いみたいですね。同時に幼稚でお調子者の三枚目な印象もあります」
グラハムの問いに遠慮の欠片もなく答える2人。そんな時、地面に降り立ったイナクトのコックピットが開き、パイロットが出てくる。
「おいソコ!!聞こえてるぞ!!今何つった!!ええ、コラァッ!!てか、誰が幼稚でお調子者の三枚目だ!!オイ!!」
そう叫ぶパイロットだったが、グラハム達は全く意に介さず…
「集音性は高いらしい」
「みたいだね」
「ですね」
楽しそうにそう呟く……その時だった。
「………………ん?あれは…」
リュウトの目が、空から落ちてくる光を捉えたのは…
リュウトside
それは本当に偶然だった。単なる気まぐれで空を見上げたら、軌道エレベーターの近くに光る何かが落ちてきているのが見えた。
最初は遠すぎてよく分からなかったが、それがだんだんと近づいてくると、人の形をしたロボット……モビルスーツであることが視認できた。
「中尉、技術顧問、空を見てください!!」
「ん?」
「どうしたんだい?」
自分の言葉に2人も空を見上げ、落ちて……いや、降りてくるモビルスーツを視認する。
「モビルスーツ?」
「すごいな、もう1機新型があるなんて…「違うな」え?」
カタギリ技術顧問の言葉をグラハム中尉が否定する。
「自分も同意見です。あれは……既存のMSのどれにも当てはまりません」
我々ユニオンやAEUのフラッグやイナクトの細身なシルエット、人革連の重厚な装甲の【ティエレン】とも違う完全な人型のモビルスーツなど、未だどの陣営も作り出せてはいない。それに…
「あの、光…」
自分の疑問を中尉が口にする。そう、謎のMSは背中から謎の粒子を放出していたのだ。
そしてその機体は演習場に静かに降り立ち、イナクトの方へと向き直る。
その機体は赤・白・青のトリコロールで彩られ、顔は人を連想させるツインアイが輝き額のV字アンテナが力強さを漂わせ、各部は円形のレンズ状パーツが付いており、右手には銃と小型の盾、折り畳まれた大剣を1つにした武装が取り付けられていた。他にも両肩の後ろと腰背部に白く細長いパーツが付いており、それも1つの武装なのだろう。
「イナクト!!聞こえるか、イナクト!!パトリック!!くそッ!!通信できん!?どうなっている!?」
「なんだ?」
「通信不良か?」
謎のMSを観察していたら、近くでAEUの幹部らしき人物が通信機片手に声を荒げていて、周囲がその事に困惑し始めていた。私も自身の通信機を取り出してすぐ近くの中尉に通信を繋げるが、それでも反応しなかった。どうやら、通信機が何かによってジャミングを受けているようだ。
「通信が…?」
「まさか…あのモビルスーツが妨害を?」
「皆さん、ここは危険です!!係員の指示に従って、落ち着いて避難してください!!」
そんな中でAEUをの職員が避難誘導を始めた。それはつまり、あのモビルスーツは彼らにとっても想定外の存在だという事になる。
「味方じゃない?なら、どこの機体だ?」
「グラハム中尉、カタギリ技術顧問、我々も避難を…!!」
「ああ」「分かったよ」
このままここに留まるのは危険と思い、私が中尉達に避難を促していたら…
『何処のどいつだ?ユニオンか人革連か…ま、どっちにしても人様の領土に土足で踏み込んだんだ……タダで済む訳ねぇよな!!』
イナクトに乗っていたパイロット…確かパトリックと言われていた男…がスピーカー越しに謎のモビルスーツ相手に挑もうとしていた。
何をやっているんだ!?此処には各国の要人達がいるというのに…!!
そんな私の心情を無視して、イナクトのパイロットは攻撃体勢に入っていく。
『貴様ァ…俺が誰だか解ってんのか?AEUのパトリック・コーラサワーだ!!模擬戦でも負け知らずの、スペシャル様なんだよ!!知らねぇとは言わせねぇぞ!!』
そしてあろう事か、イナクトは右腕に収納されていた近接用ナイフ【ソニックブレイド】を抜き、高周波振動させ始めた。
「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」
その振動音に要人達が耳を押さえて踞る。自分や中尉、技術顧問は模擬戦や実験で何度も耳にしているため慣れているが、そうでない人達にとっては鼓膜が破れそうな感覚になる筈だ。
『ええ、オイ!!』
そのナイフを構え、謎のモビルスーツへと突撃していくイナクト。だが、相手は何の動作も起こしていなかった。
(何故動かない?避ける手段があるのか、それとも装甲が特殊でアレを物ともしないのか…)
そう考えていたが、やはり動かない。そして向こうの間合いに入りナイフが突き出される。現行のモビルスーツでは回避すら不可能な完璧なタイミングでの攻撃、そのナイフが当たる瞬間、謎のモビルスーツのツインアイが輝き…
ザンッ!!
右腕の折り畳まれていた大剣が展開されると、一瞬の閃きと共に振り上げられ、イナクトのナイフを左手もろとも斬り落とした。
「なんとッ!?」
「バカな…!!」
回避や防御ではなく迎撃!?しかも向こうより後に動いたのに、先に攻撃できるほどの機動性を!?
その光景に、私や中尉含め周囲が無言に包まれる。そんな中で最初に動き出したのはイナクトだった。
『テメェ……わかってねぇだろ!!』
左手を斬り落とされたショックから立て直し、右手のライフルを至近距離で放つが、謎のモビルスーツは機体を右に反らす事で回避され、更に右肩後ろにあった白のパーツを左手で抜くとピンク色の光刃が伸び、それをイナクトへと振るう。もちろんイナクトのパイロットは防御しようとするが、それよりも速くイナクトの左腕を斬り飛ばす。
『俺は!!』
続けて右腕の大剣が振るわれ、回避しようとしたイナクトの右腕のを斬り落とす。
『スペシャルで!!』
更に左の光刃が迫り、バランスを崩していたイナクトの頭部が斬り飛ばされる。
『2000回で!!』
それにより無力化を確認したのか、謎のモビルスーツは流麗な動作で武装を全て戻す。
『模擬戦なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』
両腕と頭部を失い、戦闘力を失くしたイナクトはそのまま仰向けに倒れ落ちた。
フラッグを真似ていたとはいえ、最新鋭機であるイナクトが謎のモビルスーツに手も足も出ずに負けた。その事実に誰もが驚愕し動けな……
「失礼」
「あ、何を!?」
「失礼だと言った」
いや、尊敬する師のグラハム中尉だけが近くの高官から双眼鏡を
「中尉、何か見え「ガン…ダム…」はい?」
「額を見てみろ」
そう言って渡された双眼鏡でモビルスーツの額を見ると、そこには【GUNDAM】という文字が刻まれていた。
「あのモビルスーツの名前でしょうか?」
「おそらくな」
「ガンダム…」
その機体に暫し見とれていたら、それは背中にあるコーン状のパーツから光の粒子を放出し始め、その場でふわりと浮き、そのまま軌道エレベーターの方へと飛び去っていった。
「またあの光…!!」
「推進力も無しにどうやって…」
「自分はもう驚きすぎて、頭が処理しきれないです…」
飛んでいく機体……ガンダムを見送りつつ、私は疑問を中尉に投げかけた。
「しかし、あのガンダムは何故このような行為を?」
「軍備増強路線を行くAEUへの牽制……いや、警告と見るべきか…?」
「警告…」
「だが、このような事を仕出かして…AEUが黙っている筈はあるまい…」
中尉の言葉に続くように、スクランブル要請が出たのかAEUの量産機【ヘリオン】が次々と飛び立っていった。
「ひとまず、我々も車に戻ろう」
「はい」「そうだね」
中尉に続き、駐車しておいた車に乗り込む。その間もガンダムと思われる機体が、軌道エレベーター付近でヘリオン部隊相手に戦っていたが、数による包囲攻撃に苦戦しているように見えた。
「さすがにあの数相手では、ガンダムも不利みたいですね」
「それは甘いぞリュウト?」
そんな自分の楽観的発言は、中尉に否定された。
「どういう事でしょうか?」
「先ほど見たガンダムの性能ならば、ヘリオンごとき束になっても苦戦はしないさ。それに…彼は炙り出しているんだ」
「炙り出す?一体何をだい?」
「それは……外を見てみろ」
そう言われてガンダムが戦っている場所を技術顧問と見ていると、ピラーから新たにヘリオンが複数迫ってきていた。
「まさか……例の噂は本当だったのか!!」
以前、AEUが領土内の何処かに条約以上の戦力を隠し持っていると聞いた事があったが、まさかピラーの中に隠していたなんて!?
「そうだ。彼はAEUが条約以上の戦力を保有しているのを、世界に知らしめようとしているのさ。しかも、我々が手に入れられなかった戦力の隠し場所まで知っているとは…よほどのバックが付いているな」
「しかし、何故彼はそんな事を?」
「それは、あのガンダムのパイロットに聞いてくれ」
中尉と技術顧問の話を頭の片隅にいれつつ、ガンダムの戦闘を見ていたら、地表から空に向かってピンクの光が走り、ヘリオンが撃墜されたのか戦闘空域から一筋の黒い煙が地面へと伸びていくのが見えた。
地面から何十kmも離れた場所を飛んでいるヘリオンに、寸分違わず命中させる事は、フラッグに乗った自分でも出来る自信がない。だからこそ、その攻撃がガンダムのものであるとすぐに解った。
「ッ!!中尉!!新たなガンダムです!!」
「なにッ!?」「なんだって!?」
私の叫びに、中尉と技術顧問が外を見る。そこには先ほど同様、地表からの何度ものびる光で、ヘリオンが撃墜されていく光景があった。
「まさか2機目がいたなんて…」
「もしかすると、ガンダムは複数機存在するかもしれんぞ?」
「あの性能の機体が複数……攻め込まれたらゾッとしないね」
「しかも地表からの狙撃とは……どうやらガンダムのパイロットの中には、リュウトと同じ
「自分と同じ…」
そう言われ、狙撃手と思われるガンダムがいる場所を見つめる。
一体、パイロットはどんな人物なのだろうか…だが、我らの領土に来た時は、同じスナイパーとして負けるつもりはない!!
「興味をそそられたか?」
「いえ、むしろやる気になりました。あの狙撃手のガンダムに勝ちたいと…!!」
「フッ…上出来だ。自分は負けないと思えるならば、お前はまだまだ強くなれる」
「はい!!早速、纏められるだけの情報を纏めます!!」
例えどれだけの性能差であろうともガンダムに勝つ……私はその決意を決め、外見や動作から得られた情報を纏めに入った。
その纏めが終わり、外に視線を向けると既に夜になっていた。
「中尉、出来る限りの情報を纏めました」
「ああ、ご苦労」
「こっちはもう少し掛かりそうだよ…」
自分が資料を作っている間、カタギリ技術顧問も報告書を作っていたようだ。チラリと端末を覗けば、自分よりも詳しい内容が書かれていて少し自信を失くす…
「やはり、書ける内容は多くないか…」
「あっという間の事でしたから…すみません」
「いや、これだけでもありがたい」
自分の纏めた資料を中尉が見てるその時だった。中尉が点けていたラジオが緊急放送に切り替わったのは…
『え~、番組の途中ですが、ただいま速報が入りました。グリニッジ標準時午後6時頃、人革連の式典が行われている軌道エレベーター【天柱】にて、テロリストによるミサイル攻撃が行われ、謎のモビルスーツがこれを対処したとの情報が入りました』
テロという内容もそうだが、自分が一番気になったのは謎のモビルスーツというところだった。
「天柱でテロだって?」
「しかも謎のモビルスーツが対処……中尉…」
「ああ、おそらく私達が見たのとは別のガンダムだろう」
天柱でのテロにも驚いたが、更に別のガンダムの登場してそれを阻止した……一体、彼らは何者なんだ?
『ここで最新情報が入りました。天柱のテロを阻止したという組織よりメッセージが送られてきました。関連性は不明ですが、我が放送局はこれをノーカットでお送りしますので、お聞きください』
そこにガンダムに関係するであろう組織のメッセージが番組に届き、内容が流れ始めた。
『この星に住む、すべての人類に報告させていただきます。我々は【ソレスタルビーイング】。機動兵器【ガンダム】を所有する…私設武装組織です』
「私設武装組織…」
「ソレスタルビーイング…」
『私達ソレスタルビーイングの活動目的は、この世界から戦争行為を根絶することにあります。私達は、自らの利益のために行動はしません。戦争根絶という大きな目的のために、わたしたちは立ち上がったのです。ただ今をもって、すべての人類に向けて宣言します。領土・宗教・エネルギー……どのような理由があろうとも、私達はすべての戦争行為に対して…武力による介入を開始します。戦争を幇助する国・組織・企業なども、我々の武力介入の対象となります。私達は、ソレスタルビーイング。この世から戦争を根絶させるために創設された……武装組織です。繰り返します……』
そこからは同じ内容が繰り返される。しかし、その内容は驚くべきものだった。
「全ての戦闘行為に対して、武力による介入だって…?」
「しかし、本当に武力による戦争根絶など出来るのでしょうか?自分には、逆に戦争を煽るような事になりかねないかと…」
確かに、あの圧倒的な力を持ってすれば武力介入など容易いだろうが…それは逆に、彼らを打倒する為に新たな戦闘へと世界を導いていくような……
そんな中で、中尉が大声で笑いだした。
「ハハハハハッ!!これは傑作だ!!戦争をなくすために武力を行使するとは!!ソレスタルビーイング……存在自体が矛盾している!!」
「ですが、あのガンダムという機体に今回の行動……おそらく彼らは本気でしょう」
「そうだな。リュウト、しばらく忙しくなるだろうが……ついてこれるな?」
「もちろん、何処までもお供いたします!!」
「やれやれ…これは僕も忙しくなりそうだね」
この先、自分達に立ちはだかるであろう
2人の存在に頼もしさを感じつつ、中尉と運転を代わり車を輸送艦へと走らせた。
この小説を書いている時に、アリー・アル・サーシェス役の声優、藤原啓治がお亡くなりになった事を知りました。ご冥福をお祈りいたします。
キャラ紹介
リュウト・シドウ
出身地 日本
年齢 22歳
所属 ユニオン軍MSWAD隊所属
階級 少尉
家族構成
母ユミ(故人) 姉カナミ(故人) 義兄ユウト(故人) 姪アスナ(12才)
本作の主人公。幼い頃に両親が離婚し、歳の離れた姉と共に母に育てられた。その母親もリュウトがに高校を卒業と同時に病で帰らぬ人となった。
それからは姉と別れて、日本の国防軍ではなくユニオン軍に入隊。そこで行われた次期主力機のコンペで見たグラハムの駆るフラッグに魅了され、彼に弟子入りを志願。許可されて、グラハム直々の指導によって腕をメキメキと上げ、彼の片腕と言われるフラッグファイターとまでになった。
そんなある日、テロで姉が亡くなったと知り、そこで姉が結婚していた事と10才の養子アスナがいることも知り、姉夫婦に代わって自分が育てると決意、普段はフラッグファイターとして多忙な為に児童養護施設に預けているが、休日はその子に必ず過ごすようにしており、アスナからも《お兄ちゃん》として慕われていて、関係は良好。
そしてイナクトのお披露目会で出会ったモビルスーツ【ガンダム】によって、彼の運命は変わり始めていく…
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初めましてだな、ガンダム!!
ソレスタルビーイングの声明から数時間…リュウト達は未だ、AEU領内の荒野で車を走らせていた。
「良いのかい?基地に戻らなくて…」
「もっと知りたいのさ、ガンダムの事を…」
「しかし、あのガンダムが出していた光は何なのでしょう?」
「ガンダムが現れると、レーダーや通信機器が障害を起こした…おそらく、あの粒子が原因だろう。カタギリ、あれが何か解るか?」
「う~ん……現時点では、特殊な粒子としか言えないね」
「特殊な粒子…」
「それがガンダムの動力源なのでしょうか…?」
「それはもっと詳しく調べないと…ただ、あの粒子はフォトンの崩壊現象が関係してると思うよ」
「だが、それだけではないだろう?」
「ああ、ガンダムにはまだまだ秘密があると思うね」
「フッ…好意を抱くよ」
「え?」
「興味以上の対象という事さ」
「独特な表現ですね、中尉?」
「乙女座の私には、ぴったりだろう?」
「まあ…女性ならそうでしょうが、男である中尉が言っても、気持ち悪いだけですよ?」
「……リュウト、お前はもう少しオブラートに包むという事を覚えろ」
「できたら善処します」
「…………基地に戻ったら今後の訓練量を10倍にする。覚悟しておけ」
「ホント、君達といると飽きないよ」
「……中尉、残念ですがガンダム談義はここまでのようです」
「そうか…残念だ」
3人はガンダムに関して談義していたが、そこに一台の車がやってくる。それを見つけたリュウトの言葉にグラハムは残念そうな笑みを浮かべながら外に出て、カタギリとリュウトもそれに続く。そして目の前で止まった車からスーツを着た男性が出てきた。彼はAEUで諜報活動をしている者で、今回は彼らに指令を届けに来たのだ。
「グラハム中尉、リュウト少尉、カタギリ技術顧問、MSWADへの帰投命令です」
「その旨を良しとする」
その指令に敬礼で答え、車に再度乗り込みここに来る時に使った輸送艦へと向かう。
「しかし口惜しいものだ…もう少し、ガンダムの情報が欲しかったのだが…」
「仕方ありませんよ、本部からの命令ですから」
「わかってはいるが……好物を前にして、待てと命じられている犬の気分だ」
「何を言っているんです。我々軍人は、ユニオンという国家の犬じゃないですか」
「おっと、そうだったな……なら、今は忠犬らしくお行儀よく尻尾を振っておくとしよう」
「ええ……今は、ですね」
「2人とも…その物騒な会話、止めてくれないかい?」
そんな上層部に批判的な会話をする2人をカタギリが遮る。下手をすれば所属国家に反逆するともとれる内容を口にする2人に、内心冷や汗が止まらないようだ。
「冗談さ」
「ええ、冗談ですよ」
「笑えない冗談だけどね…」
だが、反省の素振りを見せない2人にカタギリはため息を吐く。
それから数時間車を走らせ、駐留していた輸送艦に3人は乗り込んでいく。
「では中尉、自分はブリッジに行きますので」
「快適な旅を頼むぞ?」
「お任せを」
その途中、リュウトはグラハム達と別れて輸送艦のブリッジへと向かう。彼は大型艦船の操舵資格を持っていて、この航空輸送艦は彼が操縦しているのだ。
『これより発艦します』
艦内アナウンスをするリュウトの言葉で、輸送艦がユニオン領へと飛び立つ。
「しかし、ソレスタルビーイングの本当の目的は何なんだろうね?」
「本当の目的?」
「紛争根絶なんて、どう考えても荒唐無稽だよ。だったら、他に目的があると思わないかい?」
「確かにな…ガンダムもその為にあると思うのか?」
「むしろあれだけの性能だ…世界支配を目論んでいると言われても不思議じゃないよ」
「フム…」
艦内のMSハンガーでソレスタルビーイングについて語るグラハムとカタギリ。その頃リュウトは、ブリッジクルーと話していた。
「いやぁ…とんでもないテロ組織が出てきましたな、少尉?」
「ええ、お陰で中尉がガンダムにお熱でしてね」
「ハハハハッ!!少尉ともあろう人が、ガンダムとやらに嫉妬ですかい?」
「まさか、私はそこまで嫉妬深くはないですよ。キャプテン」
「こりゃ失礼…(ピピッ)ん?司令部より暗号通信?」
そんな楽しげな会話の最中、一通の通信が輸送艦に送られてきた。それを読んだキャプテンの顔が焦りに染まる。
「どうしました?」
「……ッ!!大気圏外から降下してくる2機のモビルスーツだとッ!?」
「なッ!?」
その通信の内容は
「中尉達に連絡します!!」
「頼む!!」
その正体を悟ったリュウトは、グラハムへと素早く通信を繋げる。
『どうした、リュウト?』
「中尉ッ!!宇宙からガンダムが2機、降下してきています!!」
『ッ!!ガンダムの降下予測ポイントはッ!?』
「キャプテン!!」
「お待ち下さい!!」
キャプテンが通信内容を確認する時間すらもどかしく感じつつ、結果を待ち続ける。そして場所が判明したキャプテンが叫んだ。
「降下ポイントはインド洋にある旧スリランカ領、セイロン島です!!」
「中尉、場所は旧スリランカ領のセイロン島です!!」
リュウトの通信に答えたのは、グラハムと一緒にいたカタギリだ。
『旧スリランカ……確か、多数派のシンハラ人と少数派のタミル人の民族紛争が20世紀から断続的に起きていて、人革連が10年前から少数派のタミル人に肩入れしてた場所だね』
『ああ、紛争の平和解決という名目だが、実は違う。人革連の目的は、セイロン島東部の海底を通っている太陽エネルギーの安全確保だ。あの周辺はタミル人勢力が強いからな。だが、人革連の介入により紛争は悪化、無政府状態にまで陥ってしまった』
「民族紛争………ッ!!まさか!?」
『リュウトも気づいたか。ソレスタルビーイングの目的は恐らく…』
『もしかして…彼らはこの民族紛争に武力介入を!?』
『だろうな』
そこでグラハムが沈黙し思案する顔になった。
(あの顔、ガンダムを一目見たいと思っていそうだな)
それをモニターで見ていたリュウトは、グラハムの考えをすぐに察した。
「キャプテン、ルートを変更しても?」
「え?ああ……しかし何処へ?」
「目的地は変わりませんよ。ただ、途中にセイロン島付近を通過する様にしたいのです」
「なッ!?」
その内容にキャプテンは唖然とする。しかし、このキャプテンもグラハム達と共にする事が多く、その手の事には慣れていた。なので…
「解りました。進路をそのように変更しましょう」
「助かります」
『リュウト、頼みがある』
ルート変更が認められたところで、グラハムから通信がきた。それに彼は笑みを浮かべながら答えた。
「それでしたら、ルートをセイロン島付近を通るよう変更済みです」
『さすがはリュウトだ………………と言いたいところだが、今回は50点だな』
「え?」
しかし、グラハムの採点は満点とはいかなかった。一体何が足りなかったのか…それが気になったリュウトはグラハムに問う。
「では、他に何が…?」
『整備班に、私と君のフラッグを整備してほしいと伝えてくれ』
「え?」
その内容に、リュウトの思考が一瞬止まり、すぐに再起動する。
「まさか……ガンダムと一戦交えるつもりですか?」
『出来たら……だがな?』
グラハムの言葉に頭を抱えそうになるが、それは逆に師であるグラハムらしいと思ってしまったリュウト。なので、それに彼はこう答えた。
「解りました。整備班に連絡してからそちらに合流します」
『待っているぞ』
そこで通信が切れ、リュウトは操舵席から立ち上がる。
「すみませんキャプテン、自分は席を離れます」
「大丈夫ですよ。副操舵士も優秀ですから……しかし、大変な人を師にしましたな?」
そんなキャプテンの言葉に苦笑してから、表情を引き締める。
「逆に、だからこそ付いていこうと思えるんですよ」
「こりゃ愚問でしたな。ご武運を」
「ありがとう、キャプテン」
ブリッジを出たリュウトは整備班に連絡後、素早くパイロットスーツに着替えてMSハンガーに移動すると、そこには既にパイロットスーツに着替えていたグラハムとフラッグを整備しているカタギリがいた。
「中尉、お待たせしました」
「いや、そこまで待ってないさ。さてリュウト…もしかしたらガンダムと一戦交えるかもしれないが……覚悟はいいか?」
「無論です」
「頼もしい限りだ」
それから2人は雑談しつつ、ガンダム戦へ気持ちを高めていく。そして数時間後……その時はやって来たのだった。
グラハムside
『艦内各員に通達!!本艦の近隣にモビルスーツ反応あり!!警戒体制に移行する!!繰り返す!!警戒体制に移行する!!』
「来たか…!!」
艦長のアナウンスに、私は笑みを浮かべながらフラッグのコックピットに乗り込み、システムを起動させていく。
『まさか本当に見つかるとは、思ってもいませんでしたよ』
「だがこうして出会えたのだ。神にこの巡り合わせを感謝せねばな」
『出撃準備完了です!!お2人とも、ご武運を!!』
「了解した!!」
艦のハッチが開き、出撃体制が整った私はフラッグのレバーを握り……
「グラハム機、出るぞ!!」
そう叫んでから、飛行形態のフラッグと共に空へと躍り出た。そのすぐ後にリュウトが乗ったフラッグも出てくる。
「リュウト、最初に決めた通りお前は周囲の警戒だ。ガンダムや他の国家の機体が出てきたら知らせろ」
『了解です。ですが、中尉が落ちそうになった時は遠慮無く参戦しますので』
「フッ……背中は任せたぞ?」
『ハッ!!』
遠ざかるリュウトのフラッグを見送りつつ、モビルスーツの反応がある場所へ飛ぶと、青いガンダムが視界に写った。
「あの機体は…AEUに現れた…!!」
それを見た瞬間、私の心が高鳴った。
まさかあのガンダムだったとは…運命の赤い糸とやらを信じたくなる!!
そう思っていたら、ガンダムは右腕の大剣を展開してこちらへと向かってきた。
ダンスの誘いには乗ってくれたようだな…ならば、こちらも相応の身だしなみに整えねば!!
私はフラッグを飛行形態からモビルスーツに
その時、ガンダムの動きが一瞬鈍ったのを私の目は見逃さなかった。どうやら彼は、
そしてお互いに勢いのまま互いの剣をぶつけ、そのままつばぜり合いになる。
せっかくの機会だ。ここで挨拶でもしておこう!!
「初めましてだな、ガンダム!!」
外に向けて声を飛ばすが、ガンダムからの応答は無かった。
いや、彼らも組織に属しているのだ。そう易々と情報を渡しはしまい……ならば、君に一方的に名乗らせてもらう!!この私の名をッ!!
「グラハム・エーカー……君の存在に心奪われた男だッ!!!!」
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出会い
グラハムside
ガンダムとつばぜり合いを行いながら、私はコックピットの中で1人感慨にうち震えていた。
「まさかな……よもや君に出会えようとは」
目の前にいる青いガンダム…彼とこうして再び相見えるとは思ってもいなかった。
「乙女座の私には、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられない……それとも、光の粒子を出していなかったから見つけられたのかな?」
前者だとしたら、これは劇的な再会であり、彼は私にとって運命の相手と言えるのだろうが……それは現実的ではない。ならば少々味気無いが…
「おそらくは後者だ!!」
そう判断し、スラスターの出力を上げて押しきろうとするが、ガンダムはフラッグの力をアッサリと上回り、大剣によって弾き飛ばされ、その時にプラズマソードを落としてしまう。
「圧倒された!?しかし…!!」
弾かれた事で左右に揺れる機体をすぐさま立て直し、大剣を振り上げながら目の前に迫るガンダムを見つめる。
私とて、誇り高きユニオンのフラッグファイター…簡単に落ちはしないさ。それに!!
「その大きな得物では当たらんよ!!」
私は左スラスターの出力を上げて、ガンダムの左側を通り抜け大剣を回避、その場で素早く反転する。
やはり簡単には勝てんか…ならば!!
「手土産に…」
再び最大出力でガンダムに迫り、その左肩を右手でがっしりと掴む。
「破片の1つも戴いていく!!」
そのままパーツをもぎ取ろうとしたが、ガンダムが勢いよく振り返る事でその手を振り払われてしまった。
「チィ…!!」
どうやら、彼の怒りを買ってしまったようだな…
迫るガンダムにリニアライフルを放つが全てを回避され、更に左腕の盾を捨てたガンダムは右肩後部にある白い棒状のパーツを抜き放つと、その先にピンク色の光柱が作り上げられる。
そして目の前にまで来たガンダムがそれを振るうと、ライフルの銃身を溶断されてしまう。
リニアライフルをアッサリと焼き斬った!?プラズマソードの出力ではそれは不可能…だとすれば、あの武器はまさか…ッ!!
「ビームサーベルだとぉッ!?」
3国家が実現に向けて開発している武装を、既に実戦に使えるまでにしているガンダムに驚いてしまった私は動きが止まり、振り下ろされる大剣への反応が遅れてしまった。
「しまッ!?」
このままでは倒される!!それなら、ウィングを犠牲にして海に不時着を……
そう考えていた瞬間、ガンダムの大剣に何かが当たって軌道が反れ、何とか無傷で距離を取る事ができた。
「間一髪だったか……しかし流石の射撃だ、リュウト!!」
安堵の息を吐きながら、私はガンダムの大剣を反らしたもの……飛行形態で迫るリュウトのフラッグにそう叫んだ。
リュウトside
「中尉はやらせんッ!!」
中尉のフラッグに大剣を振り下ろそうとするガンダムに、私は援護するためリニアライフルを撃ち、大剣に命中させて軌道を変える事に成功した。
それによって出来た隙に、中尉のフラッグはガンダムから距離を取る事が出来た。
「今度は…俺が相手だッ!!」
中尉から伝授された空中変形…通称グラハム・スペシャルでモビルスーツ形態となり、右手にライフルを持ってガンダムへと攻撃を行う。しかし…
「くぅ…!!動きが読めん…!?」
とんでもない機動性で動き回り、悉くが避けられてしまう。そして大剣が折り畳まれた右腕の武器からピンクの光を連射してくる。
「うおッ!?」
1発目はギリギリ回避できたが、2発目と3発目は避けきれずディフェンスロッドで防ぐも、その攻撃でロッドが破壊されてしまった。
「この威力は…!!」
それでバランスを崩し、ガンダムが投げた武器に反応が遅れてしまい、直撃したライフルが爆散してしまう。
「武器を投げたッ!?」
『リュウトッ!!撤退するぞ!!』
「ッ!!了解!!」
そこで中尉の指示が聞こえ、機体を翻して中尉と共にガンダムから撤退した。幸い、追撃はなく無事に輸送艦に帰還できた。
「無事かい、2人とも!?」
「ああ、死神との面談は延期されたよ」
「さすがに川は見えそうでしたが…」
「それだけ冗談が言えるなら、大丈夫そうだね」
カタギリ技術顧問が心配そうな声に、自分と中尉は少しふざけて返事をし、それに呆れと安堵の混じったため息を吐かれた。
「取り敢えず2人とも、休憩所で休んでくるといいよ。キャプテンの許可もあるから」
「そうさせて貰おうか」
「助かります」
「僕もデータを吸い出したら、合流するよ」
技術顧問と別れ、中尉と休憩所でスポーツドリンクを飲みながら一息ついた。
(アレがガンダム……最新鋭であるフラッグですら、簡単にあしらわれてしまうとは…)
その圧倒的な性能によって負けた悔しさに、持っていたボトルを握りつぶしそうになる。
「さすがの性能だったな、ガンダムは…」
「ええ……フラッグがまるで赤子扱いですからね」
「フッ…ますますガンダムに惚れてしまったよ」
「ハハ…中尉らしい」
そんな中でも相変わらずな中尉の言葉に、思わず苦笑してしまう。そんな自分に、中尉は厳しさと頼もしさを合わせた視線を向けてくる。
「今は見向きもされないなら、これからされる様に努力するだけだ。そうだろ?」
「ッ!!……ええ、泣き言を言う暇があるなら、ガンダムに勝てるように鍛えるだけです」
それが中尉なりの叱咤激励だと理解し、私はこの悔しさをバネにガンダムを越えると胸の中で新たに決意した。
「その意気だ」
そんな私の胸中を察したのか、中尉は満足そうな顔でドリンクを口にした。
「やれやれ……2人揃って予測不能な事をするね?」
それからしばらく雑談していたグラハムとリュウトに、先程の戦闘データを回収したカタギリが合流して、解析を始めた。
「そのせいでライフルを失った……始末書ものだな」
「自分はロッドも失いましたから、減給もあり得そうです…」
先の戦闘での失態に罰則を覚悟していた2人だったが、それはカタギリによって否定された。
「それは心配いらないよ。今回の戦闘で得たガンダムのデータは、フラッグ1機を失ってもお釣りが来る程だよ。壊れたディフェンスロッドを調べればガンダムの武器の威力が解るし、接触時に付着した塗料なんかで居場所を追跡できるかも知れないしね」
「本当ですか!?」
「まだ可能性の話だよ」
それどころか、思った以上の戦果にリュウトが驚く中、グラハムがポツリと呟いた。
「それにしても若かったな、ガンダムのパイロットは…」
「え……話したのかい?」
もしパイロットと会話データがあれば、相手の性別や出身地、上手くいけば個人を特定する事まで可能になる。しかしグラハムは肩を竦めて首を左右に振った。
「まさか。モビルスーツの操縦に、感情が乗っていたのさ」
「それは残念…」
彼の言葉にカタギリはそう口にするも、それが解っていたのか表情は変わらなかった。
(あ、アレはやっぱり独り言だったんだ…)
そしてリュウトは彼の言葉を通信越しに聞いていたのだが、これ以上彼の変な印象を広めない為に口には出さず、苦笑するにとどめた。
『ガンダム、ロストしました』
「フラれたな…」
それから数時間後、MSWAD基地に帰投した3人は、出頭命令を受け上官のいる部屋に集まった。
「グラハム・エーカー中尉、リュウト・シドウ少尉、ビリー・カタギリ技術顧問。ただいま出頭しました!!」
「よく来てくれた。楽にしたまえ」
「ハッ!!」
目の前にいる上官に言われて敬礼を解き、そんな3人を上官の男は真面目な顔で見る。
「AEU新鋭機視察のはずが、とんでもないことになってしまったな?」
「あのような機体が存在しているとは、想像もしていませんでした」
「性能に関しても、我が軍のフラッグの遥か上です」
「研究する価値があると思いますが?」
グラハム達の言葉に上官は頷き、引き出しを開けて何かを取り出す。
「上もそう思っているようだ」
そして机に3枚の書類を広げた。それは【対ガンダム調査隊】という部隊への3人の転属に関するものだった。
「ガンダムを目撃した君達3人に、転属命令が下りた」
「対ガンダム調査隊…ですか?」
「新設の部隊だ。正式名は追って司令部が付けてくれるだろう」
その書類を確認していく中で、カタギリが技術主任に見知った名を見つけた。
「レイフ・エイフマン教授…技術主任を担当するんですか?」
その人は機械工学や材料工学になどの工業学に精通している権威であり、フラッグの開発主任でカタギリの恩師でもある人物だった。
「上はそれだけ事態を重く見ているということだ。早急に対応しろ」
「グラハム・エーカー中尉、リュウト・シドウ少尉、ビリー・カタギリ技術顧問、対ガンダム調査隊への転属、受領いたしました!!」
書類を受け取った3人は退室し、MSハンガーへと歩を進める。
「驚いたな…」
その途中、グラハムがポツリと呟く。
「ええ、ここまで事態がトントン拍子に進むなんて…」
「まさか君は、ここまで理解して?」
「私はそこまで万能ではないさ。因縁めいたものは感じているがね?」
「中尉にとっては因縁というより……運命だったのでは?」
「ハハハッ!!確かに、そっちの方が気持ちの高ぶりが違うな!!」
「やれやれ…」
他愛の無い会話をしつつ、リュウト達はMSハンガーに懸架されている自身のフラッグの前に立つ。その姿に頼もしさを感じつつも、2人は憂いを帯びた表情を浮かべる。
「しかし、戦ってみて解ったが……今のフラッグではガンダムには勝てない」
そう、先の戦闘で彼らは圧倒的な差をガンダムに見せつけられた。今のフラッグでは、相手にすらならないという事実を叩きつけられてしまったのだ。
「機体の受けた衝撃度から、ガンダムの出力はフラッグのザッと6倍……どんなモーターを積んでいるんだか」
「やはり……どこかの企業が極秘に援助を?」
リュウトの言葉にカタギリは首を左右に振る。
「いや、それはないよ。既に国内の企業においては政府が調べてる筈だからね」
「では、やはりガンダムはソレスタルビーイングの独自製造なのでしょうか?」
「そっちの方が可能性が高いと、僕は思ってる」
「それに出力もそうだが、あの機動性だ」
「ええ、従来のモビルスーツではあり得ない挙動です」
「戦闘データを調べたけど、あの機動性を実現させているのはおそらく…背中から発せられている特殊粒子だね」
「あの特殊粒子はステルス性だけでなく、機体制御にも使われている」
「おそらく、火器にも転用されておるじゃろうて」
3人がガンダムの性能について話していると、そこに1人の初老の男性が割って入ってくる。杖をつき、白髪の髪に顔にはシワがあるも、腰はまっすぐに伸びている。
「エイフマン教授!!」
その人を見たカタギリが、嬉しそうにその人の名を口にする。そう、この人物こそがユニオンが誇るモビルスーツ開発の権威であり、ガンダム調査隊の技術主任となるレイフ・エイフマン教授その人だった。
「イオリア・シュヘンベルク……恐ろしい男じゃ。儂らの何十年も先の技術を持っておる」
そう言って、教授もフラッグを見上げる。
「できることなら捕獲したいものじゃ、ガンダムという機体を」
その言葉にグラハムはニヤリと笑う。まさしく同士を得たりと。
「同感です。そのためにも、私とリュウトの機体をチューンしていただきたい」
「フム……君達パイロットへの負担は?」
「私のは無視していただいて結構。リュウトはどうする?」
グラハムの問いに、リュウトもやる気の満ちた笑みを浮かべ答える。
「もちろん無視してください!!」
「彼も問題ありません。ただし、期限は1週間でお願いしたい」
その無茶ぶりな注文にエイフマンは顔をしかめるどころか、むしろ開発者魂に火が付いた表情になる。
「ほお、無茶を言う男達じゃ。1週間で2機も改良しろと…」
「多少強引でなければ、ガンダムは口説けません」
「私も、ガンダムを越えられませんから」
「
そんな2人の心境を、カタギリがらしい表現で表した。
「ハッハッハッ!!良いじゃろう。1週間でこの儂が、お前達のフラッグを最高の機体に仕上げてやろう」
「感謝します」「ありがとうございます!!」
エイフマン教授が快く引き受けてくれた時、グラハムの端末が着信を告げた。
「私だ。何?ガンダムが出た!?しかも1機はユニオン領内だと!?」
その内容は、ガンダムの襲来を告げるものであり、その内の1機はユニオンに現れたとの事だった。
「場所は…………タリビアか!!すぐにむか「出撃は許可出来ん!!」なッ!?」
グラハムはすぐにでも出撃しようとしたが、それはエイフマン教授によって防がれてしまった。
「何故です!?1機はタリビアだ!!ここからなら間に合う!!」
そう進言するグラハムだが、それでもエイフマン教授は首を縦には振らなかった。
「何か理由でも?」
「儂は【麻薬】という物が心底嫌いでな……消し去ってくれるというのなら、ガンダムを支持したい!!」
「麻薬…!?」
「そうか…確かあの地域には、大規模な麻薬の栽培施設があったはず!!」
「なるほど、ガンダムの狙いは其処か」
「奴等は紛争の原因を断ち切るつもりだ。それに、お前さんのフラッグは武装がない。そんな機体では死にに行くようなものだぞ?」
「……わかりました。今回は引き下がりましょう」
その理由に、さすがのグラハムもこれ以上進言することはなかった。
「ならばお前達は1週間、休暇でも取りなさい。どちらにしろ、改修が終わるまでは出撃できんのだからな。ガンダムと戦うために、英気を養ってくるといい」
「では、そうさせて頂こう。リュウトはどうする?」
「自分はいつも通りですね」
「そうか、なら早く行って顔を見せてやれ」
「ハッ!!では、お先に失礼します」
グラハム達に敬礼してから、リュウトは笑顔でMSハンガーから出ていった。
「なんだか彼、楽しそうだったね。家族にでも会いに行くのかな?」
「姪っ子だよ。姉夫婦の子供だそうだ」
「へぇ…それは楽しみにもなるね」
リュウトの様子に笑顔を浮かべるカタギリだったが、続くグラハムの言葉にその表情は驚きに固まる。
「ああ……銃乱射テロで亡くなった姉夫婦の忘れ形見で、唯一の家族だからな」
リュウトside
「ふ~む…お土産は何にするかな?」
俺は1週間の休暇をもらったので、翌日に自宅のあるカルフォルニア州の繁華街に来ていた。ここで探しているのは仕事で中々会えない姪に買うお土産だ。
「今年で12歳だからな…あまり子供っぽい物だと嫌がられそうだ…しかし、大人すぎる物もな~…」
もう思春期といってもいい年齢で、大人ぶる事が多くなっていると預けている施設の担当者から聞かされているので、その品定めに苦労していた俺は、良い物が見つからず入っていた店から出た。
「はぁ~、女の子へのプレゼント選びは大変だ…」
そんな愚痴をこぼしながら、次の店を探そうとした時…
「ど、泥棒~ッ!!」
通りに女性の叫び声が響き渡り、声の方を向くと1人の男がこちらへ向かって走ってきていて、その腕には男に似つかわしくないピンクの財布が抱えられていた。
「誰かソイツ捕まえてッ!!ひったくりよ!!」
その声で男がひったくり犯と判断し、俺は男の前に立つ。
「邪魔だあッ!!」
男は走った勢いそのままに殴りかかってくるが、軍で鍛えた俺から見れば遅すぎる。ひらりと横に避けながら男の足を払い、前のめりに倒れる男の腕を掴んで背中に回しながら地面へと倒して押さえ込んだ。
「い、イダダダダダダダダダッ!?」
「大人しく盗んだ物を返せ」
「俺は何も盗んでなんか…「ほう?」ギャアアアアアアアアアアアアッ!?!?わかった!!返す!!返しますぅぅぅ!?」
しらを切る男の腕を更にキメると、観念したのか男は空いていた手を懐に入れ…
「こんのぉッ!!」
手にしたナイフを振るってくるが、そんなものはお見通しだ。それを押さえつけてるのとは反対の手で、手首を掴んで同じようにキメてやった。
「うぎゃああああああああああッ!?」
「やる事が古典的だ。その程度で、今時の軍人を騙せると思うな」
「ハァ…!!ハァ…!!やっと追い付いた…!!」
そのまま男を押さえ込んでいたら、財布をひったくられただろう女性が、息を切らせながら俺の傍にやって来た。
カーキ色のショートパンツに彩度の低いピンクの袖無しのシャツを着ていて、背中まで伸びた茶色の髪のどちらかといえば可愛い系の女性だ。
「あの…!!ありがとう…ございます…!!」
「気にしないでくれ。それより、腕は抑えておくから盗まれた物を」
「はい!!」
男を強引にエビぞりにさせて、女性は男の懐のポケットに手を入れてすぐ、先ほど見えた財布を取り出した。
「あった!!私のお財布!!」
「良かったな」
「はい!!」
その後、誰かが通報したのだろう駆けつけた警官に男を引き渡し、俺達も簡単な事情聴取を受けてから解放された。
「ふぅ、君も災難だったな」
「本当ですよ……でも、貴方のお陰で助かりました!!」
「いや、軍人としての勤めを果たしたまでさ……けど、被害届を出さなくて良かったのか?」
共に出てきた女性に俺は気になった事を聞いた。彼女は何故かひったくりの被害届を出さなかったからだ。
「私のは返ってきましたし…それにあの男、余罪がたっぷりあるそうですから、私1人分抜けても量刑に大差無いそうです」
「なるほど」
まあ…それで本人がいいというなら、俺がとやかく言う事もないか。
「さて、これからどうするか…」
時計を見れば既に11時半を過ぎていた。昼過ぎには姪を迎えに行く予定だから、早めに昼食にしてプレゼントを探さないと…
「あの…もし良かったら、一緒にランチしませんか?」
「ん?」
そう考えていたら、隣の女性から思わぬ誘いがあった。
「助けてくれた御礼もしたいですから」
「それは別に気にしなくても…」
「それだと私の気が収まらないんです!!」
最初は断ろうとしたが、彼女は引く気は無いらしくグイグイと攻めてきて、断れないと判断した俺は…
「……なら、受けさせてもらおうかな」
そう返事をした。
「やった♪」
それを聞いて笑顔になった彼女に、俺は一瞬見惚れてしまう。
イカンイカンッ!!俺は軍人だぞ!?外では節度ある対応をせねば…!!
「どうしました?」
そんな雑念を頭を振って振り払っていたら、彼女にキョトンとした表情で見られていた。
「うおッ!?いや、なんでも…」
「そうですか?なら、早く行きましょ♪」
どうやら彼女も気にしない様にしてくれたらしく、俺達はその場から歩き方出そうとして、あることを聞いていないのを思い出した。
「そういえばまだ聞いてなかったけど、君の名前は?」
「あ、そうだった!!」
どうやら彼女もそれを失念していたらしい。慌てた様子で俺の方を向き…
「では改めて…私は【クリスティナ・シエラ】です」
そう笑顔で自己紹介してくれた。
「俺はリュウト・シドウだ。よろしく」
「はい、よろしくです!!ところでリュウトさんって…」
互いに名乗った俺達は、そのまま通りを一緒に進んでいく。
これが1度は敵対するも、その後は共に歩む事になる女性との出会いだった。
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