この兄弟に祝福あれ (大豆万歳)
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1話

このファンの推しはダクネス、ゆんゆん、ウィズの3人です


「パーティー募集の貼り紙が見つかった?」

「ああ」

 

 今日の分の作業を終え、工房の片付けを行う俺は、扉の側に立つ俺の仲間の1人、ダクネスに話しかける。

 

「以前から『回復役が欲しい』と言っていただろう?それで《プリースト》か《アークプリースト》で、パーティーを募集している者がいないか探してみたら見つかってな。ついでに、実力のほどを見定めるために遠くから観察してみた」

「結果は?」

 

 俺の質問に対してダクネスは目を輝かせ、演説でもするように身振り手振りを交えて返答する。

 

「最高だった!カエルに丸呑みにされ、年端もいかない少女達が粘液まみれになっていたぞ!わ、私も……!私もあんな風に……!」

「自重しろ、変態」

「変態……っ!」

 

 性癖全開の言葉を吐いた女性に蔑むような目を向けて罵倒すると、相手は嬉しそうに身を捩り、もっと罵ってくれと目で訴えてくる。

 まったく。黙っていれば金髪碧眼の美少女で、しかも大貴族のお嬢様だというのに、口を開けばこの始末。修行に行った仲間の爪の垢を煎じて飲んでもらいたい。

 

「パーティーの構成員は?」

「なんだ、気になるのか?」

「質問に質問で返すな。ゆんゆんは上級魔法を習得してくるって修行に行ったから何時帰ってくるかわからないし、クリスは《盗賊》だから色んなパーティーから引っ張りだこだ。俺とお前だとバランスが悪い」

「そうか?私が囮になり、ハルキが敵を叩く。完璧じゃないか」

「相手が物理攻撃の通じる相手ならそうかもしれないが、スライムや上級アンデッドの類が相手となるとそうもいかない」

「ふむ……それもそうだな」

 

 片付けを終えた俺は扉を開けて工房を出る。ダクネスが後に続いて出てきたのを確認すると、施錠してギルドに向かう。

 

「そうそう。肝心の構成員だが《アークプリースト》のアクアと、《冒険者》のカズマ。そして、私と同じく貼り紙を見て加入した《アークウィザード》のめぐみん。この3人だ」

「ふーん……」

「知り合いでもいたか?」

「ああ。昔、弟がいるって言っただろ。《冒険者》の和真、そいつだ」

「成程。遠くからバレないようにように見ていて気付かなかったが、言われてみれば顔付きが似ていたな」

 

 あいつらがバイトに勤しんでいるところを遠くから目にした時は声をかけようと思ったが、バイトの邪魔になるだろうからと、やめておいた。それに、あいつもいい年だから俺の助けはいらないとか言うだろう。しかし、今回ばかりは手を貸してやらんとな。

 

「会ってみようじゃないか。そのパーティーに」

「そうだな」

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 俺──佐藤和真は頭を抱えていた。

俺達のパーティーはジャイアントトードという巨大な蛙を3日以内に5匹討伐するというクエストを終えた。

 報酬は11万。移送費込みで1匹5千エリス程での買い取り。蛙を5匹倒しての報酬は10万エリス。4人から6人のパーティーを組むという普通の冒険者の相場だと、命がけで戦った蛙5匹の取引と報酬、合わせて12万5千エリス。5人パーティーだったとして、1人当たりの取り分は2万5千エリス。

 割に合わない。

 一般人にしてみれば良い稼ぎに見えるかもしれないが、命がけの仕事をした身としては割りに合っていない気がする。これなら土木工事に勤しんでいたほうがマシだ。

 けど、希望がないわけじゃない。

 

「早く来ないかなぁ……」

 

 この世界に来て、冒険者登録をした日に、受付の人から言われた。

 

『サトウカズマ……あの、もしかして、サトウハルキさんのご親戚の方ですか?』

 

 なぜ()のことを知っているのか、何処にいるのか聞きたくなったが、5年前の事を思い出した俺はその言葉をぐっと飲みこんだ。あそこで兄の所在を聞いたら、全速力でそこに向かっただろう。

 けど、俺はもう16歳。兄離れをする年齢だから、こっちでも兄に頼るのを躊躇した。……我慢の限界を迎えた今日までは。

 

「失礼。ちょっといいかな?」

 

 近くの椅子に座り、静かに待っていると、背後から声をかけられた。

 

「どうぞ」

 

 以前に比べて少し低くなったが、忘れようがない声を聞いた俺は振り返らず、向かいの席を手で指す。

 そして、席に座った人の顔を見て、俺は安堵する。

 『自分のことは自分でやれ』とか言っておきながら、俺が助けを求めるとなんだかんだ言って手を貸してくれる人だから。『他人が何処でどうなろうと俺の知ったことじゃない』とか言いながら、目の前の困っている人に手助けをする。そんな面倒くさい性格の兄さんだから、パーティー募集の張り紙を出したら、こうして来てくれた。

 

「久しぶりだな、和真」

「そうだね、兄さん」

 

 

 

 

「再会して早々悪いが、本題に入るぞ。お前のパーティー、まだメンバーの募集はしているか?ちょうど回復役を探していたんだ」

「まだしているけど……兄さん、職業は何?あと、そちらのお姉さんはどちら様で?」

「ああ。彼女はダクネス。俺の仲間の1人だ」

「は、はじめまして。サトウカズマです」

「こちらこそ。はじめまして」

 

 ガチガチに緊張した様子の和真は、若干上擦った声でダクネスに挨拶をする。ダクネスは和真の緊張をほぐそうと微笑みながら挨拶を返すが、逆効果のようだ。和真が更に緊張してしまった。

 

「俺の職業は《傭兵》。物理攻撃限定で、前衛から後衛まで距離を問わず戦える上級職の1つだ」

「私は全職業最高の防御力が自慢の《クルセイダー》だ。盾役として、存分に使ってくれ」

 

 俺とダクネスの職業を知り、和真が目を輝かせた。

 

「どうだ?」

「ぜひ!……って言いたいけど、メンバーと話し合って決めたいから、明日また来てくれない?」

「構わんよ」

「ありがとう。んじゃ、また明日ギルド(ここ)で」

 

 

 

 

 翌日。

 ギルド内の酒場で、俺と和真は顔を合わせていた。

 和真の隣には黒髪に紅い瞳の少女と、水色の髪と瞳の少女。

 俺の隣には、ダクネスともう1人、気になったからと同席している友人がいる。

 

「じゃあ、俺のほうから簡単な自己紹介をしようか。俺は佐藤和真、冒険者だ」

 

 和真が名前と職業を言うと、隣に座っている黒髪の少女が立ち上がりマントを翻した。

 

「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!」

 

 一連の口上と仕草から、彼女が紅魔族であることを察した。修行に行っているゆんゆんも似たような感じで、それも凄く恥ずかしそうに自己紹介をしたからな。

 彼女達紅魔族は、生まれつき高い知力と強い魔力を持ち、大抵は魔法のエキスパートになる素質を秘めている。紅魔族の特徴は、名前の由来となっている紅い瞳と変な……じゃない、独創的な感性と名前だ。

 

「私はアクア。アークプリーストよ。しかしてその正体は、アクシズ教の御神体にして、水の女神アクアその人よ!さあ、アクシズ教に入信して私を崇め、捧げ物を寄越しなさい!主にお金とお酒を!」

 

 こいつは何を言っているんだ、と眉を顰め、首を傾げるダクネスとめぐみん。カズマはまたかと額に手をあて、溜息をついた。アクシズ教に入信して金と酒を貢げと言われたけど、現時点で何か貢ぐつもりは微塵もない。

 

「じゃあ、次は兄さん。どうぞ」

「おう。俺は佐藤陽樹。和真の兄で、傭兵をやっている」

 

 俺も自己紹介を簡潔に済ませ、隣の2人に視線を送る。

 

「私はクルセイダーのダクネスだ。盾役なら任せろ」

 

 ぜひパーティーに入れてくれ、と目を輝かせながらダクネスが言う。

 アクアとめぐみんは嬉しそうにするが、和真は警戒するように眉をひそめる。

 

「あたしはクリス。職業は見ての通り盗賊だよ」

 

 明るく自己紹介をしたクリスは、俺とダクネスの共通の友人だ。ギルドに来る途中でダクネスが入りたがっているパーティーが見てみたいということで付いてきて、今に至る。

 

「ねえ、前にハルキの言ってた『面倒くさい性格の弟』って、キミの事かい?」

「ちょっと兄さん、俺のことをなんだと思ってたのか詳しく」

 

 クリスに話しかけられた和真が、俺に顔を思いっ切り近づけてきた。

 

「客観的な事実を包み隠さず伝えただけだ。何か問題でも?」

「問題しかないわ!世界中探しても、俺ほど『素直で優しい紳士』の体現者はいないのに、その評価はあんまりだよ!?」

「んー、ちょっと何言ってるかわかんない」

「いや何でわかんねえんだよ!」

 

 拳をテーブルに叩きつけるカズマだが、痛かったのか手を擦った。

 

「ねえ、兄弟漫才はいいから話を進めてちょうだい」

 

 暇そうに大あくびをするアクアに言われると、カズマは深呼吸をするとクリスに顔を向ける。

 

「確認するけど、クリスさんは俺達のパーティーに入るってわけではないんだね?」

「うん。友人が入ろうとしているパーティーの雰囲気がどんな感じなのか気になって同席しているだけだから、話を進めちゃっていいよ」

「おし。アクア、めぐみん、兄さんとダクネスさんが俺達のパーティーに入ることに異論はないな?」

「ないわね」

「右に同じく」

「兄さんのほうは?」

「問題ない」

「これからよろしく」

 

 俺達は立ち上がり、お互いに握手を交わす。

 

「さて、パーティーを組むことになったわけだけど……リーダーは誰がやる?俺は年功序列で兄さんを推薦するけど」

俺が(・・)お前(・・)のパーティーに入るんだ。なら、元々のリーダーがそのまま引き続きするべきだ。あと、俺は副業で鍛冶屋をやっているから仕事でクエストに行けないことがある。というわけで任せたぞ、和真」

 

 俺にリーダーを押し付けようという目論見があったのか、俺の正論(少なくとも俺はそう思っている)に和真がたじろいだ。

 

「で、でも俺って最弱職の冒険者で、しかもなったばかりの新米(ルーキー)だよ?碌なスキルも覚えてないし、覚えるのに必要なポイントも多いからリーダーなんてとても……」

「それなら!あたしの盗賊スキルはどうかな?有用なスキルがいっぱいあるよ?」

「是非!」

 

 有用という単語に、和真の目が光った。

 クリスはスキルを実演するためにダクネスとカズマを連れ、ギルドをあとにした。

 

「ハルキ、少しいいでしょうか?」

 

 暇そうに頬杖をつき、テーブルの木目の数を黙々と数えるアクアの隣の少女──めぐみんが話しかけてきた。

 

「どうした?」

「ゆんゆん、という紅魔族の娘をご存知ですか?同い年でありながら生意気にも色々育った体つきをしているのですが」

「知っているけど……知り合いかな?」

「ええ。彼女は故郷の学園の同期でして。ことあるごとに勝負を挑んでくる、ライバルなのです。まあ、私からすればライバルを自称するただのおっかけなのですが」

「なるほど。普段からどうしても勝ちたい子がいると言っていたけれど、あれはめぐみんのことだったのか」

 

 こくり、と頷くめぐみん。しかし、ゆんゆんと同い年という割には随分と小さいな。まぁ、成長は人それぞれだから何とも言えな──

 

「今ハルキが何を考えているか当ててあげましょうか?ご存知だと思いますが、我々紅魔族は非常に知力が高いのです」

「ゆんゆんと同い年の割には小柄だなと思った」

「……1つ言わせてください。私が小柄なのではありません、彼女が同年代の中で大柄なんです。わかりましたね?」

「アッハイ」

 

 本人の言う通り、ゆんゆんのほうが頭1つ分ほど大きいな。それ以外も大きいが、これ以上考えたら俺が死ぬ。

 

「お待たせー」

「おう。……って、何でクリスは涙目なんだ?」

「うむ。クリスはカズマにパンツを剥がれた上に金をむしり取られて落ち込んでいるだけだ」

 

 よし。この愚弟(バカ)に制裁を下そう。

 俺が立ち上がり、骨をバキバキと鳴らすと和真が必死で両手で待ったをかけてきた。

 

「ちょっと待って!ダクネスの言ったことは間違いじゃないけど、せめて弁明ぐらいはさせて!?」

 

 俺の後ろにいるアクアとめぐみん、更にギルド内にいる方々にも聞こえる声量で、カズマが涙目で事の真相を語った。

 どうやらクリスは和真に《窃盗》と《潜伏》、《敵感知》を実演し、『スティール』を使った時に和真の財布を盗ったらしい。そしてスキルを習得した和真にスティール勝負を提案。それに乗った和真が早速『スティール』を使った結果、クリスの下着を盗ってしまった。幾らでも払うから下着の返還を頼むクリスに対し、自分の下着の価値は自分で決めろと和真は告げた。その後紆余曲折あったが、クリスは自分と和真の財布を差し出し、和真も下着を返した。

 

「それはクリスが悪いな」

「ええ、自業自得ですね」

「おっしゃるとおりです……」

 

 俺とめぐみんの口撃を受けたクリスが肩を落として俯く。少しして、立ち直ったクリスが顔を上げて和真のほうを向く。

 

「じゃあ、あたしはちょっと稼いでくるから。ダクネスとハルキのこと、お願いね」

 

 言いながら、クリスは仲間募集の掲示板に行った。ほどなくして臨時パーティーが見つかったのか、数名の冒険者と連れ立ってクエストに向かっていった。

 

「そうだ、パーティーを組んだわけだし、兄さんとダクネスの冒険者カード見てもいい?」

「ああ」

「ほれ」

 

 俺とダクネスは懐から冒険者カードを取り出し、和真に手渡す。

 

「えーと?ダクネスは《クルセイダー》なだけあって各種異常耐性や物理防御にスキル割り振ってるからかなり硬いな。《両手剣》にポイントを振っていない点に目をつぶれば、盾役にはうってつけだな」

 

 和真の率直な感想に、ダクネスは誇らしげに胸を張る。

 

「それで兄さんは、っと。……流石《傭兵》、武器系のスキルがずらりと並んでらっしゃる。今のメンバーだとめぐみんが爆裂魔法をぶっ放すまでは後衛にいてもらって《狙撃》か《投擲》で攻撃してもらうか?いや、カエルも倒せないアクアに変わって前衛をしてもらって、アクアには味方の支援に専念してもらうのも……」

 

 冒険者カードを前にぶつぶつと呟き、頭を回転させる和真。

 そんな和真の横からアクアとめぐみんが冒険者カードを覗き見ようとするが、邪魔だと和真に手で追い払われた。

 ……と、その時。

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』

 

 街中に大音量のアナウンスが響く。

 それに驚いた和真が不安気に肩を震わせて周囲を見渡す。

 

「何事!?まさかモンスターが襲撃してきたとか?俺、絶対戦力になれそうにないんだけど、どうすればいいの?」

「落ち着けカズマ。おそらくキャベツの収穫だろう。そろそろ収穫の時期だしな」

「あんたは何を言っているんだ」

 

 肩に手を置いて諭すダクネスに対し、和真は目が点になっていた。

 そうか、こいつはまだ知らなかったのか。

 俺は和真の肩を叩き、耳打ちする。

 

「いいか和真、この世界のキャベツはな……飛ぶんだ」

「ゑ?」

「味が濃縮してきて収穫の時期が近づくと、食われてたまるかと街や草原を疾走するキャベツは大陸を渡り、海を越え、最後には人知れぬ秘境の奥地でひっそりと息を引き取ると言われている」

「はい?」

「それならば、俺たちは1玉でも多く収穫して美味しくいただき、彼らを供養してあげようというわけだ」

「兄さん。俺、馬小屋に帰って寝てもいいかな。ちょっと頭が……」

「因みに。あそこでギルドの職員が言っているが、今年のキャベツは出来が良いらしい。出来の良いキャベツはそれだけ経験値が詰まっているし、お金にもなるぞ」

「よし行こう!」

 

 俺の言葉に目を輝かせた和真はギルドを飛び出し、キャベツの群れに飛び込んでいった。

 

 

 

 

 無事キャベツの収穫を終えた街中では、キャベツを使った料理が振る舞われていた。

 

「……納得いかねえ」

 

 俺の隣でキャベツ炒めを口にしていた和真がそんなことを言っている。

 

「いいじゃないか。経験値と金がもらえて、その上腹一杯キャベツ料理が食えるんだからさ」

「いや、それは嬉しいよ?でも俺はキャベツと戦うために来たわけじゃないんだよ」

 

 ああそうか。俺や和真は、魔王を倒すためにこの世界に来ていたんだった。うっかり忘れかけていた。

 

「ま、普段からコツコツ経験値を貯めておくことだな」

「へーい」

 

 キャベツ炒めを食い終えた和真は、ロールキャベツの皿に手を伸ばした。

 

「やるわねダクネス!流石クルセイダー!あの鉄壁の守りにはキャベツ達も攻めあぐねていたわ!」

「いや、私など、ただ硬いだけの女だ。私は不器用で動きも速くはない。だから、剣を振ってもロクに当たらず、誰かの壁になって守ることしか取り柄がない。……その点、めぐみんは凄まじかった。キャベツを追って街に近づいたモンスターの群れを、爆裂魔法で消し飛ばしていたではないか」

「ふふ、我が必殺の爆裂魔法の前に、何者も抗う事など能わず。……それよりも、カズマとハルキの活躍は見事でした」

「そうだな。カズマは魔力切れのめぐみんを素早く回収し、潜伏スキルで気配を消し、敵感知でキャベツの動きを捕捉し、背後からのスティールで鮮やかに強襲したな」

「ハルキは潜伏で気配を消し、投網を投擲してキャベツを纏めて捕獲していましたね。参加した冒険者の中でも、2人はかなり稼いだと思いますよ」

 

 やがてアクアが、テーブルの上にキャベツを平らげた皿を置く。

 今回のキャベツ収穫において、ただ1人だけ好き勝手にキャベツを追いかけ回し、全く活躍していない女神は、優雅に口元を拭い。

 

「カズマ、ハルキ。私の名において、貴方達兄弟に【華麗なるキャベツハンター】の称号を授けてあげるわ」

「「結構です」」




簡単な紹介
・佐藤陽樹:佐藤和真の年の離れた兄。元冒険者、現傭兵。副業で鍛冶師をしている。弟との違いは左目の泣き黒子
・傭兵:ダクソでいうところの上質騎士のような職業。扱える武器の種類が多い


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2話

とりあえず原作1巻分出来上がっています。絆ボイスでも平常運転なララティーナ可愛い









無 名 の 王 強 す ぎ


「兄さん」

「おう」

「昨日のキャベツ狩りでレベルが2つ上がって6になりました」

「おめでとう」

「そして、クリスとのスティール勝負でそこそこの額の金を手に入れました」

「そうだな」

「そんなわけで、そろそろ冒険者らしい装備を揃えたいんだけど。鍛冶師の兄さんに高性能な装備を、それも格安で一式作ってもらいたいなーと思ってるんですが……」

 

 満面の笑みを浮かべながら揉み手してカズマがにじり寄ってくる。

 

「性能に比例して額も上昇するのが世の常だ。高性能な装備が欲しいなら、相応の金を用意しろ」

「……」

 

 和真が涙目で上目遣いをしてくるのが気持ち悪かったので、そっぽを向いて駄目だと伝える。

 

「おねげえしますだお兄様!どうか、どうか哀れな最弱職の弟に装備を恵んでくだせえ!!」

「おい馬鹿!汚いから離れろ!」

「靴でも便器でも何でも舐めますからああああ!」

 

 ばっさりと断られた和真が涙と鼻水を垂れ流して縋り付いてきた。ええい鬱陶しい!

 

「……お前の懐と今のレベルに見合った装備を店で選んでやる。それで良いな?」

「あざーっす!!」

 

 ~買い物中~

 

「ほう、見違えたではないか」

「ええ。カズマが、ようやくちゃんとした冒険者みたいに見えるのです」

「おっと、俺が今までどんなふうに見えたのか聞かせてもらおうか」

 

 所変わって冒険者ギルド。

 装備を整えたカズマを見て、めぐみんとダクネスが感想を述べた。

 和真が購入した装備は革の胸当てに金属製の籠手と脛当て。初期魔法を取得したので左手は何も持たず、魔法剣士スタイルでいくつもりらしい。本音を言えば鎖帷子や予備の武器も持って欲しいが、本人の体力と財力を考えて妥協した。

 因みに、今日のダクネスはキャベツ狩りの報酬で強化を依頼した鎧に代わり、俺の作った鎧を装備している。普段ダクネスが使っている鎧と比べてデザインは地味だがいいのかと聞いたところ、性能のみを追求したシンプルなデザインが気に入ったらしい。

 

「さて、カズマの装備も整ったことだし、早速クエストにでも行くか。ちょうどジャイアントトードが繁殖期に入っていて、街の近場まで出没している。それを……」

「「蛙はやめよう!」」

 

 提案を言い切る前に、アクアとめぐみんから全力で拒絶された。そうだった、2人は蛙に丸呑みにされたんだった。

 

「じゃあ、蛙以外で楽にこなせるクエストにしよう。このメンバーで初めてのクエストなわけだし」

 

 和真の意見に同意したダクネスとめぐみんが掲示板へ手頃なクエストを探しに行った。

 

「そうだ。和真、昨日聞きそびれたが、何で女神アクアがここにいるんだ?」

 

 それを聞いたアクアが、カズマの襟首を掴んで指差す。

 

「よくぞ聞いてくれました!このヒキニートったら、こっちに来る時の特典に私を指名したのよ?女神を物扱いするとか酷いと思わない!?思うわよね!?思うならこの罰当たり極まりない無礼者に裁きの鉄拳を振り下ろしてちょうだい!」

「人の死因を笑っておいてよくそんなことが言えるな!この穀潰しが!」

 

 穀潰しという単語にアクアがビクリとした。

 

「本来なら俺も、今まで通り強力な能力か装備を授かって、ここでの生活には困らなかったはずだ。そりゃあ、俺だって無償で神様から特典を貰える身で、ケチなんてつけたくない。それにその場の勢いとはいえ、能力よりお前を希望したのは俺自身だ。でも、俺はその能力や装備の代わりにお前を貰ったわけなんだが、今のところ、特殊能力や強力な装備と同等の活躍をしているのかと問いたい。どうなんだ?最初は随分偉そうで自信に満ち溢れていた割に、全く役に立ってない自称元なんとかさん」

「……も、元じゃないわよ……い、一応今も女神よ」

 

 シュンとなりながら反論するアクアに、カズマは更に声を張り上げ。

 

「女神?女神ってのはな、勇者を導いたり、魔王とかと戦って、勇者が1人前になるまで封印なんかして時間を稼いでいたりするんだよ!今回のキャベツ狩りのクエストで、お前は何をやっていた?最終的には何とか沢山捕まえてたみたいだが、基本はキャベツに翻弄されて、転んで泣いていただけだろう!?お前、野菜に泣かされるとか女神として恥ずかしくないのか!?この、蛙の餌になるか、宴会芸しか取り柄のない駄女神がぁ!」

「わ、わああああーっ!」

 

 俺の知らないところで苦労していたのか、思いの丈をぶちまける和真の口撃に、アクアはテーブルに突っ伏して泣き出した。

 しかし、アクアも顔を上げて負けじと反論を始めた。

 

「わ、私だって回復魔法とか回復魔法とか、あと回復魔法とかで役に立っているわ!なにさ、ヒキニート!じゃあ、このままちんたらやってたら魔王討伐までどれだけかかるか分かってるの!?何か考えがあるなら言ってみなさいよ!」

 

 ウルウルした上目遣いで睨みつけてくるアクアに、和真は鼻で笑って自分の頭を指差す。

 

「あるとも。俺には強力な装備や能力はないが、日本で培った知識がある。俺でも簡単に作れ、尚且つこの世界にない物を売りに出すんだ。受付のお姉さんが言っていただろう?俺は幸運が高いから、商売でもやってみないか、ってさ。だから、冒険者稼業以外で安定して金を稼ぐ手段を確保しておく。それでその金で、高い経験値を得られる食材を買って食べてレベルを上げるんだ」

 

 どうだと腕を組み、胸を張って渾身のドヤ顔を和真が披露する。

 しかし、何かを思い出したように腕を離して俺のほうを向いた。

 

「そういえば、兄さんってどんな特典をこいつから貰ったの?それらしい装備がないから、能力系?」

「それはそのうち説明する。だが和真、商売をするといったが、具体的に何をするんだ?」

「そこはまだ決まってない。というわけでだ、アクアも何か考えろ。この世界で一番楽に安定して稼げて、法に触れない商売を!それか、お前の唯一の取り柄の回復魔法を教えろ!スキルポイント貯まったら、俺も回復魔法の1つぐらい覚えたいんだよ!」

「嫌ーっ!回復魔法だけは嫌!私の存在意義を奪わないでよ!私がいるんだから別に覚えなくてもいいじゃない!」

 

 再びテーブルに突っ伏し、自分の取り柄にして存在意義を奪われまいと子供のように泣き始めるアクア。と、そんな俺達のもとにダクネスとめぐみんが帰ってきた。

 

「……何をやっているんですか?カズマの口撃力は結構えげつないですから、遠慮なく本音をぶちまけたら大概の女性は泣きますよ?」

「めぐみんの言うとおりだ。もしストレスが溜まっているのなら、アクアの代わりに私を罵ってくれても構わないぞ。クルセイダーたるもの、誰かの身代わりになるのは本望だ」

 

 2人の視線は、テーブルの上で泣き続けているアクアに注がれている。

 自分を擁護する声が聞こえたからか、時折顔を埋めた腕の隙間からこちらをチラチラと窺っているのがちょっとイラッとくる。

 

「それで、クエストのほうはどうだった?」

「ああ。ちょうど良さそうなクエストがあったぞ。それも、アクアが大活躍でき、レベルが上げられそうなクエストだ」

 

 プリーストは一般的にレベル上げが難しい。俺やカズマ、ダクネスのように前線で敵を倒したり、めぐみんのように強力な魔法で遠くから殲滅したりできない。そんなプリーストのレベル上げの標的は──

 

「なんでも、町外れの共同墓地にゾンビメーカーが現れたそうなんです。駆け出しの冒険者パーティーでも倒せる雑魚モンスターなのですが、どうしますか?」

 

 ゾンビやゴーストを始めとしたアンデッド族だ。ファンタジーでよくあるが、アンデッドに回復魔法を使うとダメージになる。それはこっちの世界でも同じだ。

 

「俺は賛成だ。和真は?」

「右に同じく。アクア、お前もいつまでも泣いてないで、会話に参加して……」

「……すかー………」

 

 アクアは泣き疲れて眠っていた。子供かこの女神は。

 

 

 

 

 町外れにある丘の上。

 そこには、お金の無い人や、身寄りの無い人がまとめて埋葬される共同墓地がある。

 この世界の埋葬方法は土葬だ。今回の討伐対象のゾンビメーカーは、質の良い死体に憑依し、手下代わりに数体のゾンビを操る。

 墓場から少し離れたところで夕食を済ませ、現在の時刻は深夜を回った頃。

 

「……そろそろ来る頃だな」

「ねえカズマ、引き受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね?私、そんな小物じゃなくて大物のアンデッドが出そうな予感がするんですけど」

「おい、そういうフラグになりそうなことは言うなよ。不安になってくる」

 

 今日はゾンビメーカーを1体討伐し、取り巻きのゾンビを土に還す。そして街に戻る。これがクエスト達成のために和真の立てたプランだ。計画以外のイレギュラーに遭遇した場合は、即刻逃げることになっている。

 敵感知スキルを持つ和真を戦闘に、俺達は墓地へと歩いていく。

 

「……敵感知に引っかかった。いるぞ、1体、2体、3体……4体?兄さん、ゾンビメーカーの取り巻きって2、3体じゃなかった?」

「ゾンビメーカー本体の数も含めば、そんなもんだと思うぞ」

 

 俺と和真で話していると、墓地の中央で青白い光が走る。妖しくも幻想的な光は、大きな円形の魔法陣になった。その魔法陣の隣には、黒いローブの人影が見えた。

 

「あれは……ゾンビメーカー……ではない……気が、するのですが……」

 

 自信なさげに呟くめぐみんの隣で、ダクネスは無言で大剣を構える。

 

「兄さん、《聞き耳》お願い」

「わかった」

 

 《聞き耳》とは、敵感知と同じ感知系のスキルで、足音や呼吸音などで敵を発見する。山やダンジョンで遭難した人を探す時に重宝されるスキルだ。和真の敵感知と違って数まではわからないが、応用すれば音の反響で暗い遺跡の構造を把握したり、音の違いを聞き分けてピッキングなんかもできる。

 俺が《聞き耳》を使うと、ゾンビのうめき声に紛れて魔法を詠唱する声が聞こえた。それは、とても聞きなれた声で──

 

「あーーーーっ!」

 

 突如叫んだアクアの声に、俺は両耳に手を当てて蹲る。音を利用する 《聞き耳》はスキルの性質上、大きな音に弱い。今アクアがやったように至近距離で大声で叫ばれると、良くて耳鳴り。悪くて鼓膜が破裂する。

 アクアはそのままローブの人物に向かって走り出し、和真はその後を追っていく。

 

「…………?………!?」

 

 俺の肩を掴んで揺さぶってくるダクネスの表情と唇の動きから、俺の身を案じていることはなんとなくわかったので、サムズアップで答える。

 とりあえずあのバカは1発ぶん殴ってやろう。俺は怒りを脚に乗せ、アクアのもとに駆け寄っていった。

 

 

 

 

「あはははははは、愚かなリッチーよ!自然の摂理に反する存在、神の意に背くアンデッドよ!さあ、私の力で欠片も残さず消滅するンケンシュタイナー!?」

 

 駆け寄ってきた兄さんはアクアに跳びついて頭を両腿で挟み、そのままバック宙の要領で体を反らし、アクアを地面に叩きつけた。兄さんの見事なリバースフランケンシュタイナーに、俺たちは称賛の拍手を送る。

 

「ちょっと!どうして私に技をかけるのよ!しかも受け身が難しい危険なやつ!」

「聞き耳使ってる横で大声で叫ぶからですよ」

「だって!リッチーが私達の街の墓場に現れたのよ!?めぐみんだって、そんなのが現れたら驚くわよね!?」

 

 頭を押さえながらアクアが抗議の声を上げる中、兄さんは半透明になって消えかかっているリッチーに近づく。

 

「おーい、ウィズー?大丈夫かー?」

 

 倒れているリッチー──ウィズの顔を覗き込むように屈み、肩を揺さぶる。

 

「知り合い?」

「ああ。街で小さいマジックアイテムの店を営んでいてな。仕事柄ちょっとした付き合いがある」

 

 俺と兄さんで会話をしている間に、半透明になっていたウィズはくっきり見えるまで戻り、涙目でフラフラと立ち上がる。

 

「え、ええ、何とか、大丈夫、です……。というか、どうしてハルキさんがここにいるんですか?」

「ゾンビメーカー討伐クエストを受けて、こいつ等とここに来たんだよ。カズマ、一応挨拶しておけ」

「は、はじめまして。サトウカズマです」

 

 俺が挨拶をすると、ウィズは目深に被っていたフードを上げる。外見は20歳くらいで、髪は茶色。俺たちと比べて肌が青白い。リッチーって言うからには、ゾンビやスケルトンを禍々しくしたような外見を想像していたんだが。

 

「はじめまして、ウィズと申します。貴方のことは、ハルキさんからお聞きしています」

 

 どうせクリスみたいなことを言われるだろうから、そのへんのことはスルーしておこう。

 

「それで、ウィズはここで何してるんだ?魂を天に還すとか言ってたけど、アクアじゃないが、リッチーのあんたがやる事じゃないんじゃないか?」

「ちょっと!こんな腐った蜜柑みたいなのと喋ったら、兄弟揃ってアンデッドが感染(うつ)るわよ!どきなさい!そいつにターンアンデッドをかけるから!」

 

 俺の言葉にアクアがいきり立ち、ウィズに魔法をかけようとする。

ウィズは兄さんの背後に隠れ、怯えたような困った顔をした。

 

「そ、その、私は見ての通りリッチー、不死者の王(ノーライフキング)なんてやってます。アンデッドの王なんて呼ばれますから、私には迷える魂達の声が聞こえるんです。この共同墓地の魂の多くはお金も身寄りもないために碌な葬式すらしてもらえず、天に還ることなく毎晩墓場を彷徨っています。それで、一応アンデッドの王な私としては放っておけず、定期的にここを訪れ、天に還りたがっている子達を送ってあげているんです」

 

 ……感動した。

 なんていい人なんだ。

 

「それは立派なことだし、善い行いだとは思う。でも、そういうことは街のプリーストに任せるべきじゃないか?」

 

 俺の疑問に、言いにくそうにするウィズの代弁をするように。

 

「残念ながら、街のプリーストは拝金主義者ばかりでな。コレのない人は後回しにされるんだ」

 

 兄さんが親指と人差し指で輪っかを作って見せる。それで察したのか、全員の視線がアクアに集まる中、当の本人はバツが悪そうにそっと目を逸らす。

 

「じゃあ、これからはアクアが墓地の除霊を定期的に行ってことでいいか?本人も暇を持て余しているようだし。ウィズも今まで人を襲ったことはないし、これからも襲わないんだろう?」

「はい」

「アクアもそれでいいな?」

「……私の寝る時間が減るけど、やるわよ。迷える魂を浄化するのは私の仕事だから」

 

 そっぽを向き、嫌そうな言い方で頷くアクアと、柔らかい笑顔で頷くウィズ。

 結果として、ウィズのことを見逃すことになった。

危険なモンスターを放置することにめぐみんとダクネスが抵抗感を示したが、彼女の性格と経歴から危険性は低いと判断したのか最終的には同意してくれた。

 そしてウィズは、ここで会った縁とお礼も兼ねてカズマに名刺を渡した。そこにはウィズの家の住所と、お店の営業時間が書かれていた。

 

「アクアの目の届かないところに保管しておけよ」

「わかってる」




ハルキの現時点での年齢は22歳です。


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3話

佐藤陽樹の声は神谷浩史のイメージ


「そういえば、ハルキとダクネスのステータスを見せていただけませんか?カズマだけ見ているというのは不公平だと思うので」

 

 朝のギルド。目ぼしいクエストもなく、今日の予定をどうするか話し合っていた中で、めぐみんがそんなことを口にした。

 

「いいぞ」

「汚したりしないでくれよ」

 

 俺とダクネスは冒険者カードをめぐみんに渡す。めぐみんとアクアが自分の冒険者カードを渡そうとしてきたけど、内容が大凡想像できるので遠慮しておいた。アクアがめぐみんの横から覗くようにカードを見る。

 

「ふんふん。カズマの言う通り、ダクネスの硬さは凄いわね。パーティーに入れておいて正解ね」

「ええ。ハルキも傭兵特有の手数の多さで前衛から後衛までこなせ──!」

 

 急にめぐみんが目を見開き、カードをまじまじと見つめる。

 

「ハルキ。あなたは物理攻撃特化の傭兵なんですよね?」

「そうだ」

「だったら、この知力と魔力は何なんですかッ!?」

 

 カードを突き出し、身を乗り出すめぐみんの目は紅く輝いていた。

 

「紅魔族である私と同じくらいとか、巫山戯ているのですか!?これだけあればアークウィザードとして大成できるというのに、なぜ傭兵をやっているのですか!?」

「近づいて殴ったり弓で射抜くほうが早いから」

 

 そう答えると、めぐみんが俺の袖を掴んで引っ張ってくる。意外と力あるんだな。

 

「悪いことは言いません。今すぐアークウィザードになりましょう!そして、私と共に爆裂道を歩もうでは」

「『フリーズ』」

「冷やああああー!?」

 

 首筋を冷やされて悶えるめぐみんから和真がカードを取り上げ、俺とダクネスに返却する。

 

「それで、どうする?目ぼしいクエストが無いから、俺とアクアは土木作業のバイトに行く予定なんだけど」

「俺は工房で仕事だ。テイラーにキャベツ狩りの報酬で装備の強化依頼を受けているからな」

「でしたらハルキ、私の杖の強化もお願いできますか?」

「ああ。詳しいことは工房で聞かせてくれ」

「じゃあ、私はハルキの工房で適当に時間を潰していいか?」

「お構いなく。いつもの事だし、いちいち言わなくてもいい」

 

 

 

 

 そして、キャベツ狩りの報酬が渡される当日。

 

「ほれ、テイラー。ご注文の新しい盾だ」

「ありがとよ」

「筋力が上昇したようだから、少し大きさと重量を増やしてみたが、大丈夫か?」

「……ああ、これくらいなら大丈夫だ。あ、これ約束の金な」

「毎度あり」

 

 ギルドの隅で、依頼人のテイラーに依頼の品を渡していた。

 テイラーが仲間のもとに戻るのと入れ替わるように、めぐみんが俺のところに来た。

 

「はい、めぐみんは新しい杖だ」

「ありがとうございます。こちら、約束のお金です」

「どうも」

 

 俺から杖を受け取ると、めぐみんは目を輝かせ、杖を抱きかかえて頬擦りする。

 

「ハァ……ハァ……。た、たまらないです、たまらないです!魔力溢れるマナタイト製の杖のこの色、艶……。ハァ……ハァ……ッ!」

 

 マナタイトという希少金属は、杖に混ぜると魔法の威力が向上する性質を持っている。ある伝手を利用して手にした最高品質のマナタイトが混ざった新しい杖に、めぐみんは大層ご満悦のようだ。

 

「さ、カズマのところに行こうか」

「じゅるっ……え、ええ、行きましょう」

 

 涎を垂らし始めためぐみんを連れ、カズマのいるテーブルに向かう。

 キャベツ狩りで得た報酬は、均等に分けるのではなく、各々が捕まえた分をそのまま報酬にすることになった。それは、俺と和真に次ぐ収穫量だったアクアが言い出した事だ。

 

「ちょっと!5万ぽっちってどういうことよ!私がどれだけキャベツ捕まえたかわかってるんでしょうね!?」

 

 当の本人は、受付嬢のルナさんの胸ぐらを掴んで猛抗議の真っ最中だった。なので、俺とめぐみんはそれを見なかったことにして、カズマのもとに向かった。

 

「おっ、ダクネスの鎧、前よりも強化されたか?」

「ああ。報酬が良かったから、少し頑丈さと重さを増してみた」

「ハルキとカズマはどれくらい稼いだんですか?」

「俺は90万ちょい」

「俺は100万」

「「90!?100!?」」

 

 めぐみんとダクネスが絶句する。

 俺と和真は突発クエストの報酬で、大金を手に入れた。

 そして、それを聞き取ったのかアクアが後ろに手を組んでにこやかな笑顔で近づいてきた。

 

「カズマ様ー!ハルキ様ー!前から思ってたんだけど、あなた達兄弟ってその、そこはかとなく紳士よね!」

「特に褒める所が思い浮かばないなら無理すんな。あと、この金の使い道は決めてあるから分けないからな」

「俺も同じく」

 

 先手を打った俺達の言葉にアクアが凍りつく。

 

「そんなああああ!私、クエストの報酬が結構な額になるって踏んで、この数日で手持ちのお金全部使っちゃったんですけど!ていうか、大金になると見込んで、ここの酒場に10万近いツケがあるんですけど!!今回の報酬じゃ、足りないんですけど!」

 

 半泣きで土下座をして懇願するアクアから、和真は全力で目を逸らす。

 

「断る。そもそも報酬に関して言い出したのはお前だろ。俺としては、ここで拠点を手に入れて落ち着きたいんだよ」

 

 通常、冒険者は家を持たない。

 そもそも冒険者というものは俺のように副業や拠点を持たず、あちこちを飛び回るものだ。

 アクアがいよいよ泣きそうな顔で和真の脚に縋り付く。

 

「カズマ、お願いよ、お金貸して!ツケ払う分だけでいいからぁ!そりゃあカズマも男の子だし、馬小屋でたまに夜中ゴソゴソしているの知ってるから、早くプライベートな時間が欲しいのは分かるけど!5万!5万だけでいいからぁ!」

「よしわかった!5万でも10万でもやるから少し黙ろうか!」

 

 そして、和真がアクアのツケの残りを支払い終えると、めぐみんが討伐に行きたいと言い出した。

 

「まあ俺も、ゾンビメーカー討伐じゃ、覚えたてのスキルを試せなかったもんな。ここは、安全で無難なやつをこなすか」

「だな」

「いいえ、お金になるクエストをやりましょう!ツケを払ったから今日のご飯代も無いの!」

「いや、ここは強敵を狙うべきだ!一撃が重くて気持ち良い、凄く強いモンスターを討伐しよう!」

 

 見事にバラバラだな。

 とりあえず掲示板に移動し、目ぼしいクエストが残ってないか探す。しかし……。

 

「……無いですね」

「いや、あるにはあるけど、どれも高難易度しか残ってないな」

 

 高難易度と聞いて目を輝かせるダクネスの手を押さえていると、ギルドの職員がやってきた。

 

「申し訳ありません。最近、魔王軍の幹部らしき者が、街の近くの小城に住み着いてしまいまして……。その影響か、この近辺の弱いモンスターは隠れてしまい、仕事が激減しております。来月には、国の首都から幹部討伐のための騎士団が派遣されるので、それまでは、そこに残っている高難易度のお仕事しか……」

 

 申し訳無さそうな職員の言葉に、文無しのアクアが悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 あれから1週間。

 和真はめぐみんの日課とやらに付き合い、文無しのアクアはアルバイトに励み、ダクネスは筋トレのために実家に帰り、俺はいつも通り工房に籠って仕事をしていた。

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!』

 

 街中に緊急のアナウンスが響き渡った。

 そのアナウンスを聞いて、しっかりと装備を調え、現場へ急行する。

 街の正門前に多くの冒険者が集まる中、そこに着いた俺は凄まじい威圧感を放つそのモンスターに身構える。

 そこにいたのは首無し騎士──デュラハン。

 リッチーのウィズと同じ上位のアンデッドの一種で、生前を凌駕する肉体と特殊能力を手に入れたモンスター。

 正門前に立つ漆黒の鎧を着た騎士は、脇に抱えていた自分の首を目の前に差し出し、小刻みに震え始めた。

 

「……俺の名はベルディア。つい最近、この城の近くに越してきた魔王軍幹部の者だが。……毎日のように!俺の城に爆裂魔法を撃ち込んでいた大馬鹿者は、誰だああああああ!」

 

 魔王軍の幹部は、それはそれはお冠だった。

 

 

 

 

「おい和真。どういうことか説明しろ」

 

 爆裂魔法という単語に皆が反応し、めぐみんに視線が集中する中、顔が青くなった和真に俺は事の経緯を訊ねた。

 何でも、めぐみんは1日に1回必ず爆裂魔法を使用することを日課にしていたらしい。爆裂魔法を使った後に街へ戻るまでの足代わりに和真が同行していたのだが、何処で日課をこなすか悩んでいたところに、お誂え向きな廃城を見つけ、そこで日課を済ませていたらしい。

 

「その標的が、あのデュラハンの城だったと?」

「だと思う。一応弁明しておくけど、俺達は何も悪くない。悪いのは、自分がいることを示す旗みたいなのを掲げなかったデュラハンだ」

 

 などと宣う和真の隣にいためぐみんは、デュラハンの前に出て対峙する。

 距離は凡そ10メートルほど。俺とカズマ、アクアにダクネスもめぐみんの後に付き従い、事の成り行きを見守る。

 

「お前……お前か!毎日毎日俺の城に爆裂魔法を撃ち込んできた大馬鹿者は!俺が魔王軍幹部だと知っての行いならば、正面から正々堂々と攻めてこい!そうでなければ、街で震えているがいい!何故こんな陰湿な嫌がらせをする!?この街には低レベルの駆け出し冒険者しかいなのは知っている!どうせ雑魚しかいないと放置していれば……ッ!頭おかしんじゃないか、お前!」

 

 連日の爆裂魔法がよほど応えたのか、デュラハンの兜が激しい怒りに震えていた。

 流石に気圧され、めぐみんは若干怯むが、肩のマントを翻し……

 

「我が名はめぐみん!アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者!」

「めぐみんって何だ。喧嘩売ってるのか?」

「違うわい!」

 

 名乗りを受けたデュラハンに突っ込まれるが、めぐみんは気を取り直すと。

 

「我は紅魔族の者にして、この街随一の魔法使い。我が爆裂魔法を連日放ち続けていたのは、魔王軍幹部の貴方を誘き出すための作戦!」

 

 ノリノリでデュラハンに杖を突きつけるめぐみんの後ろで、俺達4人はぼそぼそと囁いた。

 

「なあ、あいつあんなこと言ってるぞ。毎日爆裂魔法を撃たないと死ぬとか泣いて駄々こねるから、仕方なく城の近くまで連れて行ったのに。いつの間に作戦になったんだ」

「というか、めぐみんの性格からしてもデュラハンがいてもいなくても問答無用で撃ち込んでたかもしれんな。我が力、思い知れ!とか言って」

「うむ。しかも、この街随一の魔法使いとか言い張ってるな。まあ、間違いと言えないこともないが」

「そこは黙っておいてあげましょうよ!今日はまだ日課をこなしてないみたいだし、後ろに沢山の冒険者が控えているから強気になってるのよ!今は黙って、このまま見守りましょう!」

 

 めぐみんの顔がほんのり赤くなっている。

 デュラハンはと言えば、勝手に納得したようだ。

 

「……ふむ、紅魔の者だったか。ならば、先程の奇天烈な名は、俺に喧嘩を売っていたわけではないということだな」

「おっと、両親から貰った私の名に文句があるなら聞こうじゃないか」

 

 デュラハンの言葉にめぐみんがヒートアップするが、どこ吹く風といった感じだ。

 まあ、街にいる駆け出しの冒険者なんて眼中にないだろうな。だって魔王軍の幹部なんだし。

 

「……まあいい。俺はお前ら雑魚にちょっかいをかけにこの地に来た訳ではない。この地には、ちょっとした調査のために来たのだ。暫くはあの城に滞在することになるだろうが、これからは爆裂魔法を使うな。いいな?」

「それは、私に死ねということですか?紅魔族は1日1回爆裂魔法を撃たないと頭がおかしくなって死ぬのです」

「なんだそれは!見え見えの適当な嘘をつくな!」

 

 見ればアクアは、デュラハンに噛み付くめぐみんを小さな声で応援していた。

 

「どうあっても、爆裂魔法を撃つのを止める気はないと?魔に堕ちた身だが、元は騎士だ。弱者を狩る趣味は無い。だが、これ以上城付近であの迷惑行為を続けるということは、相応の覚悟があるのだろう?」

 

 剣呑な気配を漂わせてきたデュラハンに、めぐみんは不敵に笑った。

 

「迷惑なのは私達のほうです!貴方が城に居座っているせいで、私達は仕事もろくにできないのです!そもそも、あの城にいる目印を何も出していなかった貴方が悪いのです!それでも爆裂魔法を撃つなと言うのならば、こちらにも手があります!というわけで、先生!お願いします!」

 

 まあ、アクアはアークプリーストで女神だからデュラハンにぶつけるのは悪くない判断なんだが……あれだけ盛大な啖呵を切ったと思えばこれか。

 言われた本人もノリノリでデュラハンの前に出ると、ブルース・リーのようなポーズでかかってこいと挑発する。

 

「ほう。プリーストではなく、アークプリーストか。俺は仮にも魔王軍の幹部の1人。こんな街にいる低レベルのアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれてもいなければ、対抗策を持っていないわけでもないが……ここは1つ、紅魔の娘には少し苦しんでもらうとしよう」

 

 デュラハンはアクアが詠唱するより早く、左手の人差し指をめぐみんへと突き出した。

 すかさずデュラハンが叫ぶ!

 

「汝に死の宣告を!お前は1週間後に死ぬだろう!」

 

 デュラハンが呪いをかけるのと同時に、俺はめぐみんの襟首を掴んで後ろに隠した。

 

「なっ、ハルキ!?」

 

 めぐみんが叫ぶ中、俺の体が一瞬だけ黒く輝く。

 俺は試しに傭兵のスキル《仕切り直し》で解呪を試みるが、効果はないようだ。

 

「兄さん、大丈夫!?どこか痛いとかない!?」

「……なんともない」

 

 だが、デュラハンはこう叫んだ。

 1週間後に死ぬ、と。

 呪いをかけられた俺にアクアがぺたぺたと触る中、デュラハンは勝ち誇ったように宣言する。

 

「その呪いは今はなんとも無い。若干予定が狂ったが、仲間同士の結束が固いお前達冒険者には、むしろこちらのほうが効くだろう。よく聞け、紅魔の娘よ。お前の大切な仲間は、お前の行いのせいで1週間後に訪れる死の恐怖に怯え、苦しむ事になる。そう、お前の行いのせいでな!これより1週間、仲間の苦しむ様を見て、自らの行いを悔いるがいい」

 

 デュラハンの高笑いにめぐみんが青ざめる。

 

「そして紅魔の娘よ!その男の呪いを解いて欲しくば、俺の城に来い!城の最上階にある俺の部屋まで来ることができたなら、その呪いを解いてやろう!……だが、城には俺の配下のアンデッドナイト達がひしめいている。ひよっ子冒険者のお前達に、果たして俺の所まで辿り着くことができるかな?」

 

 デュラハンはそう宣言して哄笑すると、街の外に停めていた首の無い馬に乗り、そのまま城へと立ち去って行った。

 

 

 

 

「ちょっと待てめぐみん。何処に行って、何をするつもりだ」

 

 1人街の外に出ようとするめぐみんのマントを掴み、和真が訊ねる。

 

「今回の件は私の責任です。ちょっとあの城に行って、あのデュラハンに直接爆裂魔法を叩き込んで、ハルキの呪いを解かせてきます」

 

 めぐみん1人で行ったところで何もできないだろうに。

 

「なら俺も行こう。アンデッドナイトの相手は俺に任せてくれ」

「いいえ、物理特化職である傭兵のハルキに、アンデッドナイトの相手は荷が重いでしょう。街で待っていてください」

 

 泣きそうな顔で俺を見てくるめぐみんの前に、カズマが回り込む。

 

「まあ待てって、めぐみん。兄さんは鍛冶師だ。なら対アンデッドモンスター用の武器だって用意しているんだろう?」

「売るほどあるぞ」

「じゃあ、何も問題はないな。あと、2人が行くなら俺も行く。俺も毎回一緒に行っておきながら、幹部の城だって気づかなかった俺にも責任の一端はあるからな」

「だったら、守りは私に任せてほしい」

 

 和真が頬を掻きながらそう言い、ダクネスが名乗りを上げると、街の冒険者が俺達の周りに来る。

 

「待てよ、ハルキが行くってんなら俺も行くぜ」

「お前には何だかんだ世話になってるからな、恩返しの1つぐらいさせてくれ」

 

 そんな中、俺の隣に不意にアクアが現れて──。

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」

 

 魔法を唱えると、俺の体が淡く光った。

 

『……えぇ?』

 

 俺達が呆然とする中、アクアは胸を張って嬉々として言ってきた。

 

「この私にかかれば、デュラハンの呪いの解除なんてお茶の子さいさいよ!どう、どう?私だって、たまにはプリーストっぽいでしょう?」

『…………』

 

 この場にいる全ての冒険者が、曖昧な表情で沈黙した。




スキル説明
仕切り直し:自身にかかった様々な状態異常を解除できる。


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4話

陽樹のチート特典が判明します(今更)
このすばも最終巻が発売しましたね。まだ読んでませんが、どんな結末を迎えるのか楽しみです


 魔王軍幹部の襲撃から何も起こらず、数日が経ったある日。

 

「クエストよ!高難易度でもいいから、クエストを請けてお金を稼ぎましょう!」

「「えー……」」

 

 突然そんなことを言い出したアクアに、和真とめぐみんが同時に不満の声を漏らした。アクアを除いて、俺達の懐は潤っている。そんな俺達が乗り気じゃないのを察したのか、いよいよアクアが泣き出した。

 

「お願いよおおおお!もうバイトばかりするのは嫌なの!コロッケが売れ残ると店長が怒るの!頑張るから!今回は、私全力で頑張るからあああ!」

 

 これ以上泣かれると面倒なのか、和真が首を縦に振ってクエスト掲示板の方を指差す。

 それを見て、アクアが嬉々としてクエスト掲示板の方に駆け出す。

 

「ちょっと行ってきていいか?アクアに任せるととんでもないクエストを請けることになる気がする」

「そうだな。私は高難易度のクエストでも構わないが……」

 

 嫌な予感を感じた俺は掲示板へ行き、うんうん唸りながらクエストを吟味しているアクアの後ろに立つ。

 

「……よし。これに決め」

「させるかぁ!」

 

 アクアの剥がした紙を取り上げ、元の場所に貼り直した。

 

「兄さん、アクアはどんなクエストを請けようとしていたの?」

「グリフォンとマンティコアの討伐」

「兄さんグッジョブ。そしてお前はアホか!」

「何よもう、2匹まとまってるところにめぐみんの爆裂魔法食らわせれば一撃でしょ?」

「お前の言う通りだな。じゃあ、具体的な作戦を教えてもらおうか」

 

 何も考えていなかったのか、和真か俺に押し付けるつもりだったのか、アクアは露骨に目を反らして掲示板とにらめっこをする。

 

「ねえ、これとかピッタリだと思わない?」

 

 興奮しながらアクアは依頼書を剥がし、和真に突きつける。

 

「えーと?『内容:湖の浄化。街の水源の1つの湖の水質が悪くなり、ブルータルアリゲーターが住み着き始めたので水の浄化を依頼したい。湖の浄化ができればモンスターは住処を他に移すため、モンスターは討伐しなくてもいい。注意:要浄化魔法習得済みのプリースト』報酬も30万で討伐の必要がないのは良いけど、お前、水の浄化なんてできるのか?」

 

 和真の疑問にアクアは鼻で笑う。

 

「馬鹿ね、私を誰だと思ってるの?ほら、名前や外見のイメージで、私が何を司る女神か分かるでしょう?」

「……芸の神様」

「違うわよヒキニート!水よ!」

 

 和真の回答にアクアが怒り、両腕を振り上げて吠える。

 

「じゃあ、それを請けるか。というか、浄化するだけならお前1人で出来るんじゃないか?そうすれば報酬も独り占めできるし」

「え、ええー……。多分、湖の浄化中にモンスターの妨害を受けると思うから、カズマ達には私をモンスターから守って欲しいんですけど」

 

 和真の提案に渋ると思ったら、そういうことだったか。

 

「……わかった。ただ、水の浄化ってどうやってやるんだ?」

「どうって……私が水に手で触れて浄化魔法をかけ続けるだけよ」

「……良し、俺にいい考えがある。これなら、安全に水の浄化が出来るぞ」

 

 策を思いついたのか、和真が笑顔でアクアの肩を叩いた。

 

 

 

 

 街から少し離れた場所にある大きな湖。街の水源の1つで、この湖には小さな川が流れており、それが街へと繋がっている。

 湖のすぐそばには山があり、そこから絶えず湖へと水が流れ込んでいた。

 依頼にあった通り、湖は濁り淀んでいた。

 

「……ねえ、本当にこれで大丈夫なの?」

 

 到着した俺達は俺と和真、ダクネスの3人でアクアの入った鋼鉄製の檻(ギルドから借りてきた)を湖の際に置いた。中から不安気なアクアの声が聞こえる。

 

「危ないと判断したら馬に鎖を引っ張らせて逃げるから、安心しろって」

 

 使っている檻はモンスターの捕獲依頼用にギルドが常備しているもので、かなり頑丈だ。

 ……傍から見れば、女性を投棄しにきているように映るかもしれない絵面だが。

 後はこのまま、離れた所でアクアが浄化を終えるのを待つだけだ。

 

 ──浄化開始から2時間経過──

 

「おーいアクアー!浄化の方は順調かー?湖に浸かりっぱなしで体が冷えてるだろうから、トイレ行きたくなったら言えよー?」

「浄化の方は順調よー!後、トイレはいいわよー!アークプリーストはトイレなんて行かないからー!」

 

 昔のアイドルみたいなことを言うアクア。どうやらまだ余裕そうだ。

 

「大丈夫そうですね。因みに、紅魔族もトイレなんて行きませんから」

 

 聞いてもいないのにめぐみんがそんなことを言う。普段からモリモリ飲んだり食ったりしておいて何を言っているんだ。

 

「私もクルセイダーだから、トイレは……トイレは……」

「無理に対抗しなくて良い。トイレに行かないと言い張るなら、今度、日帰りじゃ終わらないクエストに2人を連れて実験してみよう」

「良いね兄さん。それ採用」

「採用しないでください。紅魔族はトイレなんて行きませんけど、謝るので止めてください。……しかし。来ませんね、ブルータルアリゲーター。このまま何事もなく終わってくれると良いんですが」

 

 おっと、めぐみんがフラグが立てたぞ。その証拠に、湖の一部に小波が走り始めた。

 大きさは地球の鰐とほぼ変わらないが、大きく違う点が1つだけある。それは──

 

「カ、カズマー!何か来た!何かいっぱい来たー!」

 

 この世界の鰐は、群れで行動することだ。

 

 ──浄化開始から4時間が経過──

 

 最初は水に浸かって女神の力だけで浄化を終わらせようとしていたアクアだが、今では一心不乱に浄化魔法も唱えている。

 

「『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!」

 

 アクアが入っている檻を鰐の群れが取り囲み、檻に牙を剥く。

 

「和真。何匹か鰐を仕留めていいか?肉と革を売って報酬の足しにしようと思うんだが」

「値段は?」

「あの大きさなら、肉と革を合わせて1匹あたり2万くらいだな」

「良いよ。2、3匹ほどお願い」

「あいよ」

 

 俺はロープのついた銛を3本用意し、鰐の群れに照準を定める。

 

「『投擲』!『投擲』!おまけに『投擲』!」

 

 俺の使った《投擲》は、幸運に比例して物を投げたときの命中率が上がるスキル。威力は投げた物体と本人の筋力に左右されるが、場所によっては弓矢と違って弾切れがほぼないのは大きい。

 俺の投げた銛は狙い通り鰐の急所に命中した。俺はそのままロープを引っ張り、近くまで手繰り寄せる。何匹か陸に上がってくると思ったんだが、住処を脅かすアクアのほうが優先度が高いのか、こっちには1匹も来なかった。

 

「じゃあ、俺は兄さんとそこで鰐を捌いてくるから。何かあったら呼んでくれ」

「わかりました」

「あと、ダクネスは間違ってもあの檻の中に行こうとするなよ?」

「わかっている」

 

 俺は仕留めた鰐を引きずり、めぐみん達から少し離れた所まで移動する。

 

「兄さん。俺の記憶が正しければ、さっきの銛、手持ちにはなかったよね。もしかして能力で生み出した?」

「いや、生み出したのではなく、取り出した」

「取り出すって、一体何処から……」

 

 鰐を捌きながら、俺と和真は小声で会話をする。

 

「『めだかボックス』の宗像形って、覚えてるか?」

「うん。CV神谷浩史の、人も殺せない殺人鬼」

「大雑把に言えば、俺の能力は彼のように武器を隠し持つ能力だ」

「ってことは、他にも色んな武器を隠し持っているとか?」

「ああ。ただ、あっちと違って装備を全部捨てたら凄く速くなるなんてことはないな」

「つまり装備重量による移動制限はないってこと?なにそれ、チート能力じゃん」

「チート能力だよ。それも女神様から授かった」

「それもそうか」

 

 ──浄化開始から7時間が経過──

 

 湖の際には、ボロボロになった檻がポツンと取り残されていた。

 鰐に齧られた檻は所々に歯型が残っている。

 浄化が終わり、湖の水も綺麗になったからか、ブルータルアリゲーターの群れも山へと住処を移したのが見えた。

 もうアクアの浄化魔法を唱える声も聞こえない。

 というか、1時間ほど前からアクアの声が聞こえなくなっている。

 

「……おいアクア、無事か?ブルータルアリゲーター達は、もう全部どこかに行ったぞ」

 

 檻に近づき、中のアクアの様子を窺う。

 

「……ぐす……ひぐ……えっぐ……」

「なあ、アクア。報酬なんだけど、俺達は今回いらないから。報酬の30万とブルータルアリゲーターの肉と革の買取価格、全部お前の懐に入れてくれ」

 

 体育座りで膝に顔を埋めるアクアの肩がぴくりと動く。

だが、檻から出てくる気配はない。

 

「だから、檻から出ようぜ?もうアリゲーターはいないから」

 

 和真の言葉に、アクアが小さな声で呟くのが聞こえた。

 

「……のまま連れてって……」

「ん?」

「……檻の外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」

 

 どうやら、今回のクエストは、カエルに続くトラウマをアクアに植え付けたようだ。

 

 

 

 

「な、なあ、アクア。もう安全な街中なんだから、檻から出ろよ。周囲から突き刺さる目線が痛いし」

「嫌。この中こそ私の聖域よ。外の世界は怖いから暫く出ないわ」

 

 膝を抱えて死んだ目をしたアクアを檻から出そうと、和真が先程から説得を試みるが、結果はこの有様だ。

 作戦を立案した和真も後悔したのか、やっちまったと頭を抱えてため息をついた。

 

「兄さん。何とかアクアを檻から出す方法ってない?」

「案外、お供え物でもすれば出てくるんじゃないか」

「お供え物を取った後、高速で檻に戻る未来しか見えない」

「だよなぁ」

 

 俺と和真でアクアを檻から出す方法を話し合っていると──

 

「め、女神様!?女神様じゃないですか!何をしているのですか、そんな所で!」

 

 突然叫んでアクアに駆け寄り、鉄格子を掴む男が現れた。

 そいつはあろうことか、檻の鉄格子を飴細工のように捻じ曲げ、中のアクアに手を差し伸べた。

 

「……おい、私の仲間に馴れ馴れしく触るな。何者だ?アクアの知り合いのようだが、アクアがお前に反応していないのだが」

 

 見知らぬ男の前にダクネスが立ち、アクアに触れるのを妨害する。その間に俺は檻の中で膝を抱えているアクアに声をかける。

 

「アクア。あれ、お前の知り合いか?女神様とか言ってたし、何とかしてくれ」

「…………ああ!女神!そ、そうよ、私は水の女神アクアよ!それで、私にこの状況をどうにかすればいいわけね?任せなさいな!」

 

 アクアがようやく檻から出てきた。

 というか、さっきまで自分が女神であることを忘れていたのか。

 

「……どちら様?」

 

 知り合いじゃないのか。いや、知り合いなのは事実なんだろう。男は驚きに目を見開いているから。

 

「何を言っているんですか女神様!僕です、御剣響夜ですよ!貴女に、魔剣グラムをいただいた!」

「ん~……?」

 

 アクアは首を傾げ指折り数えるが、俺と和真はピンときた。こいつは恐らく、俺や和真のように、アクアから何か特典をいただいてこの世界に送られてきた日本人の1人なんだろう。

 

「……ああ!そういえばいたわね、そんな人も!ごめんね、結構な数の人を送ったから、忘れちゃってたわ」

 

 若干表情を引きつらせながらも、御剣はアクアに笑いかけた。

 

「ええっと、お久しぶりですアクア様。貴女に選ばれた勇者として、日々修行に励んでいますよ。職業はソードマスター。Lv.も37まで上がりました。……ところで、何故アクア様はここに?というか、どうして檻の中に閉じ込められていたのですか?」

 

 御剣は、チラチラと和真を見ながら言ってくる。

 こいつはあれか、アクアに適当なことを言われてこの世界に送られてきたのか。名前を覚えていないところに、アクアのいい加減な仕事ぶりが良く分かる。

 そして、こいつは和真がアクアを檻に閉じ込めたように映っていたようだ。

 ……まあ、傍から見ればそう映るよな。

 アクアは、自分がこの世界に来た理由と、これまでの近況を御剣に説明し……

 

「馬鹿な。有りえないそんな事!君は一体何を考えているんだ!女神様をこの世界に引き込み、今回のクエストでは檻に閉じ込めて湖に浸けるなど!」

 

 和真はいきり立った御剣に、胸ぐらを掴まれた。

 それをアクアが慌てて止める。

 

「ちょちょ、ちょっと待って!?別に、私は結構毎日を楽しく過ごしているし、ここに一緒に連れてこられたことはもう気にしてないんだけどね?それに、魔王を倒せば帰れるんだし!今日のクエストだって、怖かったけど怪我人もなく無事完了したわけだし。しかも、クエスト報酬30万に加えてワニの買取価格6万、合わせて36万よ、36万!それを全部くれるって言うの!」

 

 その言葉に、御剣は憐憫の眼差しをアクアに向ける。

 

「……アクア様。この男にどう丸め込まれたのかは知りませんが、今の貴女の扱いは不当ですよ。そんな目にあって、たった36万……?貴女は女神ですよ?それがこんな……。因みに、今はどこに寝泊まりしているんですか?」

 

 こんな往来で女神女神言うなと言いたいが、余計な怒りを買いたくないので黙っておこう。

 というか、初対面で随分言いたい放題だな。アクアの駄女神ぶりを知らないくせに。

 御剣の言葉に、アクアが若干押されながらもおずおずと答えた。

 

「え、えっと、皆と一緒に、馬小屋で寝泊まりしてるけど……」

「は!?」

 

 御剣の、和真の胸ぐらを掴む腕に力が込められたので、俺は御剣の腕を掴んで力を込める。

 

「いい加減、この手を放せ」

 

 御剣は手を放すと、ダクネスとめぐみん、俺の順に観察する。

 

「……クルセイダーにアークウィザードに傭兵。随分パーティーメンバーに恵まれているようだね。君は、アクア様やこんな優秀そうな人達を馬小屋に寝泊まりさせて、恥ずかしいとは思わないのか?さっきの話じゃ、最弱職の冒険者らしいじゃないか」

 

 こいつの言い分だけ聞くと、和真は凄く恵まれた環境にいるように思える。

 何の関わり合いのない人間から見れば、和真の苦労なんてわからないだろう。

 

「なあ、兄さんは自分の工房で寝泊まりしてるから除外するけど、冒険者ってのは基本的に馬小屋で寝泊まりだろ?なんでこいつはこんなに怒ってるんだ?」

「あれよ、彼は異世界転生の特典の魔剣のおかげで最初から高難易度のクエストをこなして、今までお金に困っていなかったんだと思うわ。まあ、能力か装備を与えられた人間って、大体そんな感じよ。……それよりも、早く帰って報酬を受け取ってご飯にしたいんですけど」

「だな、帰るか」

 

 アクアの提案にダクネスとめぐみんも無言で首を縦に振り、和真に視線を送る。

 

「じゃあ。俺達はこれで失礼します」

 

 和真はそう言うと馬を引いて檻を引き、立ち去ろうとする。

 ……が、和真の前に御剣が立ち塞がる。

 

「やるか?」

「いや、ここはリーダーの俺に任せて」

 

 和真はそう言うと、御剣に1歩近づく。

 

「では、こうしよう。僕と君がここで勝負をする。僕が勝ったらアクアを僕のパーティーに譲ってもらう。君が勝ったら何でも1つ言うことを聞く。これでいいかい?」

「言ったな?では遠慮なく!」

 

 和真は頷くと同時にショートソードを鞘ごと抜き、襲いかかる。

 

「ちょっ!待っ……!?」

 

 慌てた御剣だが、そこは流石高レベル冒険者。とっさに腰の魔剣を抜いてカズマの攻撃を防ごうとする。

 

「『スティール』!」

 

 和真のスティールが決まり、左手には御剣の魔剣が握られていた。

 

「……は?」

 

 俺は間の抜けた声を発した御剣に、心の中で合掌した。

 

 

 

 

「卑怯者!卑怯者卑怯者卑怯者!」

「あんた最低!最低よ、この卑怯者!正々堂々と勝負しなさいよ!」

 

 御剣の仲間の、2人の少女が和真を罵倒するが、卑怯もラッキョウも大好物な本人は何処吹く風。魔剣の腹で頭を強打し、気を失っている御剣から鞘を奪い取り、ホクホク顔で納刀していた。

 

「じゃあ、勝負は俺の勝ちってことで。負けたら何でも言うことを聞くって本人も言ってたし、この魔剣はありがたくちょうだいするわ」

 

 和真の言葉に取り巻きの1人が抗議する。

 

「なっ!?馬鹿言ってんじゃないわよ!それに、その魔剣はキョウヤにしか使いこなせないわ。魔剣は持ち主を選ぶのよ。既にその剣は、キョウヤを持ち主と認めたのよ!」

 

 少女の一言に、和真はアクアの方を振り向く。

 

「……マジで?」

「マジです。あの痛い人が装備すれば石も鉄も豆腐の如く斬れるけど、カズマが使ったって普通の剣よ」

 

 しょんぼりと肩を落とし、和真はため息をついた。しかし、何かを閃いたのか、すぐに顔を上げた。

 

「そいつが起きたら、これはお前が持ちかけた勝負なんだから、恨みっこなしだって伝えといてくれ。じゃ、またどっかで」

 

 言って踵を返す和真に、御剣の仲間の少女が武器を構えて通せんぼをする。まだ粘るつもりか。

 そんな2人に和真は左手を見せつけ。

 

「ほー?今度は2人が相手になると?俺は真の男女平等主義者だ。あいつと同じようにスティールを食らう覚悟があるならかかってきなさい。ただし、盗られるのが武器だけだと思わないことだ」

 

 指をワキワキ動かして挑発した。

 一連の和真の言動に身の危険を感じたのか、俺達に道を空けるように後ずさった。

 

「さ、皆!帰ろうぜ!」

 

 屈託のない笑顔で振り向く和真に対する女性陣の視線は、それはそれは冷たく、鋭かった。

 

 

 

 

「なぁ和真。さっきの痛い奴を擁護するわけじゃないが、俺の工房で寝泊まりしないか?」

「やだ。衣食住くらい自分で稼いだ金で何とかしたい。というか、貯金して一戸建てでも買って兄さんと暮らしたい」

「そうか、それは楽しみにしておこおう」

「お待たせー……って、アクアは何をしてんだ?」

 

 俺と和真がギルドに到着すると、アクアが職員に掴みかかっているのが見えた。

 

「壊れた檻の請求を受けて、全力で抗議してるんです」

 

 何という理不尽。

 暫く粘っていたアクアだが、諦めたのかトボトボとこちらにやって来た。

 

「……あの檻を壊したってことで、今回の報酬は16万エリスだって。特殊な金属と製法で作られてるから、20万もするって……」

 

 しょんぼりするアクアに同情の意味をこめて、頭を軽く撫でてやる。

 

「あの男、今度会ったら1発ぶん殴ってやるわ!それで檻の弁償代毟り取ってやるんだから!」

 

 怒りを向ける相手のことを思い出し、アクアは拳を握りしめながら歯ぎしりする。

 俺達としてはできればもう会いたくないんだが……。

 

「ここにいたのか!探したぞ、佐藤和真!」

 

 噂をすれば影が差したよ畜生。件の男──御剣は俺達のいるテーブルに歩み寄ってくる。

 

「君のことは道すがら色々な人から聞いたよ。絶対下着剥ぎ取るマンだの、女の子を粘液まみれにするのが趣味の鬼畜だの、良くない噂で有め」

「ゴッドブロー!」

 

 最後まで言い切るより速く、アクアの拳で御剣が吹き飛ぶ。

 アクアは床に転がる御剣の襟首を掴み上げて。

 

「ちょっとあんた、壊した檻の弁償代払いなさいよ!おかげで私が払うことになったんだからね!30万よ、30万!特別な製法と金属で出来てるから高いんだってさ!ほら、さっさと払いなさいよ!」

 

 おかしい、額が1,5倍に増えてる。

 御剣はアクアに気圧され、無言で頷いて財布から金を差し出す。

 御剣から金を受け取り、アクアはホクホクしながらメニューを手に取った。

 気を取り直した御剣は、和真のほうを向くと頭を下げて言う。

 

「……あんなやり方でも、僕の負けは負けだ。そして、何でも言うことを聞くと言った手前、こんな事を頼むのは虫がいいのも理解している。……だが、頼む!魔剣を返してくれないか?あれは君が持っていても役には立たない物だ。君が使っても、そこらの剣よりも斬れ味の良い剣にしかならない。……どうだろう?剣が欲しいのなら、店で1番良い剣を買ってあげてもいい。……返してはくれないか?」

 

 和真が嫌そうな顔で御剣のことを見下ろす。それに同調するようにアクアも手を振って御剣を追い払おうとする。

 

「……非常に言いにくいのですが。まずはこの男が既に魔剣を持っていないことに気づいてください」

「!?」

 

 めぐみんに言われて顔を上げた御剣が、和真の腰や背中のあたりを凝視する。

 

「さ、佐藤和真!ま、魔剣は!?僕の魔剣は何処へやった!?」

 

 顔中に脂汗を浮かべて縋り付く御剣に、和真は満面の笑みを浮かべ、金の入った袋を見せつけて一言。

 

「ゴチになりまーす♪」

「ちくしょおおおおお!」

 

 御剣は、泣きながらギルドを飛び出した。




陽樹のチート特典に関する補足
アニメやゲームでよくある、『何処からともなく武器を取り出し、収納する能力』


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5話

どうして星4ゆんゆんこないの?ダクネスとウィズの星4はきてるのに……


「ほ~れ、たっぷり食って肥えるんだぞ~」

「コケッ。コッコッコッ……」

「……こいつは冬には食べ頃になりそうだな」

 

 食料兼目覚まし時計として飼っている鶏達に餌をやりながら、そろそろ食べ頃な鶏をどう調理するか思案する。

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!……特に、冒険者サトウカズマさんとその一行は、大至急でお願いします!』

「え?」

 

 何故俺達は大至急で向かわないといけないんだ?何か理由でも……

 

「……あ。アイツのことか」

 

 俺は鶏小屋の入り口を閉めて施錠し、装備を調えて正門へと向かう。どうせ城に来なかったことへの苦情を申し立てに来ただけと思ったのと、元気な姿を見せて驚かせてやろうと思ってスローペースで正門に向かった。

 

「──お前達には仲間意識というものがないのか?不当な理由で処刑され、怨念によってモンスターになる以前は騎士であり紳士であったつもりだ。その俺から言わせれば」

「悪い、遅れた」

 

 正門前の人集りをかき分け、先頭にいる和真の隣に立つ。見れば、デュラハンの後ろには配下と思われるアンデッドナイトが多数確認された。

 

「……あ、あれえーーーーーーっ!?」

 

 俺と目のあったデュラハンが、素っ頓狂な声を上げた。

 兜のせいで表情はよく見えないが、驚きに目を丸くしていることだろう。

 そのデュラハンの様子がおかしかったのか、アクアが腹を抱えてゲラゲラと笑い転げる。

 

「おい和真、状況を簡単に説明してくれ」

「あれから欠かさず、めぐみん日課をこなす。アクア、同行。デュラハン、怒る」

「把握した」

 

 めぐみんとアクアへの制裁は俺と和真が後で考えるとして、まずはベルディアだ。

 

「……おいお前。俺がその気になれば、この街の冒険者を1人残らず斬り捨て、街の住人も鏖殺できるのだ。いつまでも見逃すほど俺も甘くない。疲れを知らぬこの俺の不死の体。お前達ひよっ子冒険者が束になろうと傷1つつかんわ!」

 

 笑い転げるアクアを見て限界が来たのか、ベルディアが剣の鋒をこちらに突き付ける。

 

「見逃さないのはこっちの方よ!今回は逃さないわよ。アンデッドの分際でこんなに注目集めて生意気よ!消えて無くなりなさい!『ターンアンデッド』!」

 

 アクアの突き出した手から白い光が放たれる。

 駆け出しの攻撃など効かんと言うように、ベルディアは避けようともしない。

 

「言っただろう。プリースト対策もしてあると。俺と、俺の率いるアンデッドナイトの軍団は、魔王様の加護により神聖魔法に対して強い耐せぎゃああああああー!!」

 

 魔法を受けたデュラハンは、光を浴びた部分から黒い煙を吹き出しながら悲鳴を上げる。

 

「嘘!?効いてない!?」

 

 いや、思いっきり効いているんだろう。なんせ同じ上位のアンデッドであるリッチーのウィズに大ダメージを与えたんだ、これで無事なのがおかしい。まさか、魔王の加護とやらのおかげか?

 

「……いいか、説明は最後まで聞くものだ。俺の名はベルディア。魔王軍幹部が1人、デュラハンのベルディアだ!魔王様からの特別な加護を受けたこの鎧と、そして俺の力により、そんじょそこらのプリーストのターンアンデッドなど効かな」

「『セイクリッド・ターンアンデッド』!」

「ほぎゃあああああー!」

 

 何か言いかけたベルディアに、アクアはより強力な神聖魔法をぶっ放した。

 ベルディアの足元には白い魔法陣が浮かび上がり、そこから天に向かって突き上げるような光が立ち上っていた。

 さすがのベルディアも耐えられなかったのか、体のあちこちから黒い煙を吐き出して地面を転がりまわる。

 

「どういうこと!?私の魔法がちっとも効かないなんて!」

「お前はデュラハンに効く魔法よりも、デュラハンの話を聞く耳を持て」

 

 日本語って面白いなぁ。

 

「こ、この……っ!台詞は最後まで言わせるものだ!ええい、もういい!おい、お前ら……!」

 

 ゆらりとベルディアが立つと、応じるようにアンデッドナイト達が武器を構え……。

 

「街の連中を……鏖殺せよ!」

 

 こちらに襲いかかってきた!

 

 

 

 

 俺は小太刀:百鬼丸と多宝丸を抜刀し、アンデッドナイトを迎え撃とうと構える。

 

「誰か、誰かプリーストを連れてきてくれ!」

「ハルキ!剣でも槌でもいいから、対アンデッド用の武器を何かくれ!」

「おう!他に必要な奴はいないか!?」

「俺には槍をくれ!」

 

 あちこちから切羽詰まった冒険者の叫びと……。

 

「クハハハハ、さぁ、お前達の絶望の叫びをこの俺に……。俺、に……?」

 

 そんな俺達を嘲笑うような、ベルディアの哄笑が響く中……。

 

「わああああーっ!!なんで私ばかり狙われるの!?私、女神なのに!神様だから日頃の行いも良いはずなのに!」

「ず、ずるいぞ!私だって日頃の行いは良いはずなのに、どうしてアクアにばかりアンデッドナイトが……っ!」

 

 ちっとも神様らしくない事を叫びながら逃げるアクアと、その後ろをダクネスが追っかけていた。

 アンデッドナイト達はベルディアの命令を無視し、なぜかひたすらにアクアだけを追いかけ回していた。あれか、女神であるアクアに成仏させてもらいたいのか。

 しかしこれは好都合だ。アクアに狙いが集中しているなら、こちらも攻撃しやすい。俺は刀を腰に差し、ダクネスを追いかける。

 

「兄さん!俺はこいつらをできるだけ街から引き離すから!兄さんはダクネスと一緒に待機していて!」

 

 ダクネスに追い付き、抜刀しようとしたところで和真にストップをかけられた。ただし、和真は俺に指示を出すときにめぐみんの方にも視線を送った。……そういうことか。

 

「さて、リーダーの指示に従って大人しく待機しようか」

「断る!誰かを守るのがクルセイダーの務め!ここで大人しくするなど……!」

「いいから行くぞ」

 

 俺はアクアの後を追いかけようとするダクネスを羽交い締めで押さえ、そのまま正門まで引きずっていく。

 

「我が力、見るがいい!『エクスプロージョン』ッ!」

 

 和真がアクアに街中のアンデッドナイトを擦り付け、街の外に出ると同時に待機していためぐみんの爆裂魔法が炸裂。正門前に巨大なクレーターが形成され、アンデッドナイトは1匹残らず消滅した。魔力を使い果たして地面にうつ伏せになるめぐみんを和真が回収し、街の冒険者達が歓声の声をあげる。

 

「やるじゃねーか、頭のおかしい娘!」

「頭のおかしい紅魔族の娘がやりやがったぞ!」

「名前と頭がおかしいだけで、やるときはちゃんとやるじゃないか!見直したぜ!」

 

 冒険者達の称賛を浴びているめぐみんの瞳は紅く輝いていた。『頭のおかしい』と連呼されて、かなりお怒りのようだ。

 そんなめぐみんを見て、ベルディアが肩を震わせ始めている。配下が全滅して怒りに震えている──

 

「面白い!面白いぞ!まさか俺の配下を、それも駆け出しの街で全滅させられるとは思わなかったぞ!では……」

 

 なんて甘い考えは、奴の笑い声でかき消された。

 

「この俺が直々に相手をしてやろう!」

 

 

 

 

 ベルディアが大剣を構えると同時に、俺は街の冒険者たちに大声を上げる。

 

「早まるな!俺たちが束になってかかったところで勝てるわけねえだろ!」

 

 俺の視線の先では、多数の冒険者が武器を手に駆け出そうとしていた。

 

「魔王軍幹部でも数の暴力には勝てねえだろ!最悪、時間稼ぎができれば街の切り札が駆けつけてくれる!」

「到着する頃には全滅しているのがオチだろうが!」

 

 街の切り札?そんな凄腕の冒険者がいたのか?

俺が疑問に思っている中、ベルディアは顔が地上を向くように首を放り投げて──俺のほうに向かってきた!

 

「危ない!」

 

 隣にいたダクネスが脇構えからの横薙ぎを防ぎ、俺はその隙にベルディアから大きく距離をとる。

 

「お前のように、勇気と無謀の違いを理解している者は優先的に殺すことにしている。その手の人間を生かしておくと、いずれ我々の脅威となって帰ってくるのでなぁ!」

 

 ベルディアは熱烈な殺意を俺に向け、そんなことを宣言すると同時に襲い掛かってきた。

 

「させん!」

 

 しかし、ダクネスがベルディアの前に立ちはだかり、楯で攻撃を防ぐ。

 

「ほほう、俺の攻撃を受けても無事とはな。だが俺の狙いはお前の後ろにいる男だ!どいてもらおう!」

「断る!」

 

 ベルディアの斬撃を防ぐべく、ダクネスは大剣を捨てて楯を両手で構える。

 

「和真」

「な、なに?」

 

 めぐみんを背負い、目の前の状況に慌てふためく和真に近づき、俺はただ一言告げた。

 

「俺とダクネスで時間を稼ぐ、それまでに策を練ってくれ」

「……わかった!」

 

 力強く答える和真に親指を立て、俺はダクネスの下に向かった。

 

「ふん!」

「甘い!」

 

 両手に筋力を増大させる特殊グローブを装着し、ミスリル製の六尺棒を構え、ダクネスの影からベルディアに突きを繰り出すが、ひらりと躱される。その後も振り下ろし、払い、打ち上げを織り交ぜて攻撃するも、尽くが回避され、防がれた。

 

「女の陰からこそこそ攻撃をするとは、とんだ玉無し根性無しだな!1歩を踏み出す勇気も時には必要だぞ?」

「踏み出して死ぬくらいなら玉無しで結構!根性無しで結構!」

 

 ベルディアの安い挑発に本心をぶちまけ、攻撃を続ける。

 あとは愚弟(和真)が策を閃くまで生き延びることだ。

 

 

 

 

 俺の視線の先ではダクネスがベルディアの斬撃を防ぎ、兄さんはその影からベルディアに金属製の六尺棒による攻撃を行っていた。

 しかし、上空に投げた首で戦況を俯瞰視しているベルディアに攻撃が尽く回避された。

 そして、俺は頭をフル回転させた。ゲーマーの意地を見せてやる。

 

「奴はデュラハン、即ちアンデッド。アンデッドの弱点といえば。日光、元気に動いているから恐らく通じない。大蒜、用意する時間がない。十字架、恐らく魔王の加護とやらで効かない可能性が高い。残るアンデッドの弱点は……」

 

 瞬間、俺は閃いた。そしてめぐみんを背中から降ろし、左手で狙いを定めて──

 

「『クリエイト・ウォーター』!」

「ぬおっ!?」

 

 俺が詠唱をするや否や、ベルディアは落ちてきた自分の首を受け止め、慌てて回避した。

 

「水だああああっ!」

 

 

 

 

「『クリエイト・ウォーター』!『クリエイト・ウォーター』!『クリエイト・ウォーター』!」

「くっ!っとっ!おおっ!?」

 

 和真を筆頭に、そこかしこの魔法使い達が魔法を唱える。しかし、頭上から次々と浴びせられる水をベルディアはこれでもかと躱していた。

 

「……まったく。なってないわよ、皆。脳裏に焼き付けなさい。水の魔法っていうのはね、こうやって使うものなの」

 

 やれやれと首を横に振りながら、アクアが一歩前に出てきて手をかざす。

 

「この世にある我が眷属よ……」

 

 アクアの周囲に霧の様なものが漂い、アクアの呟き──詠唱に合わせて霧は凝縮し、小さな水玉に変化した。

 

「水の女神、アクアが命ず……」

 

 ……この場にいる全員が不穏な空気を感じ取った。

 

「逃がさん!」

「大人しくしてろ!」

「くそっ!離せ!」

 

 こうして俺とダクネスが腰や脚にしがみついているベルディアが逃げることを最優先にしていることから、アクアのやろうとしていることがどれだけ危険なのかがわかる。

 

「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!」

 

 そして、洪水が生み出された。

 

「おあああああーっ!」

「水が!水が、ごぼぼぼぼ……」

 

 ベルディアを始め、しがみついていた俺とダクネス。更には周囲にいた冒険者までもが洪水に飲み込まれ、街の中心部へと流されていった。

 やがて水が引いたその後には、地面にぐったりと倒れこむ冒険者達と……

 

「な……何を考えているのだお前は……。馬鹿か?もしや、服を着た馬鹿なのか!?」

 

 同じくぐったりしていたベルディアがよろめきながら立ち上がった。

 ベルディアの言う通りかもしれないが、これだけの水を浴びれば……

 

「皆ー!今がチャンスよ!私の活躍のおかげで、あいつもだいぶ弱ったわ!仕留めるなら今しかないわね!」

 

 あいつは今度縛り上げて吊るして、目の前で酒盛りしてやる。

 

「いくぜ!」

「こい!」

 

 和真が右手をかざすと、ベルディアは首を空高く投げ、大剣を両手で構える。流石は魔王軍の幹部。弱っていても、威圧感は衰えていない。

 

「『スティール』!」

 

 そんな魔王軍幹部に、和真はお得意のスティールを放った!

 

「ふん!駆け出し冒険者のスティールなど、この俺に通用……」

 

 最後まで言い切ろうとしたベルディアは、途中で喋るのを止めた。何故か?それは……

 

「……あ、あの~。首、返してもらえないでしょうか?」

 

 和真がベルディアの首をスティールしたから。

 か細い声を震わせるベルディアの首に、和真は満面の笑みを浮かべる。

 

「兄さーん!サッカーやろうぜー!」

「おう!どうせなら皆も混ぜてやろうや!」

「ハルキ。そのサッカーってのはなんだ?」

「サッカーってのはな……」

 

 和真がパスしてきたベルディアの首をトラップし、リフティングを行う。

 

「こうやって、足だけでボールを扱う遊びのことだよ!セドル!」

「おお!これ結構おもしれーな!」

「おーい!こっちにもくれー!」

「ああああああ!やめろ!目が、目が回る!」

 

 冒険者達の中に蹴りこむと、ベルディアの首から悲鳴が木霊し、連動するように体が狼狽える。

 俺は首のほうを和真達に任せ、ベルディアの装備している鎧を外していく。

 

「お、おい!俺の体に何をぎゃー!」

 

 鎧を剝かれていることを察知したベルディアが抗議の声を上げようとするが、悲鳴でかき消された。それを尻目に、俺はベルディアの鎧を1つ1つ外していく。

 

「……よし。アクア、神聖魔法をベルディアに」

「任せなさい!」

 

 上半身に纏っていた鎧を剝かれ、弱体化したベルディアにアクアの片手が向けられた。

 

「『セイクリッド・ターンアンデッド』!」

「ぎゃあああああああー!」

 

 アクアの魔法を受けたベルディアの悲鳴が、冒険者達の足元から聞こえる。

 流石に今回のターンアンデッドは通じたようだ。ベルディアの体が白い光に包まれて、やがて薄くなり、消えていった。

 ベルディアの首も消えたのか、足元には兜だけが残っていた。

 ……こうして、魔王軍幹部はなぜこの街に来たのか、街の切り札とは誰のことなのか、そういったことが謎なまま、魔王軍幹部討伐は終わった。

 

 

 

 

 翌日の朝。

 筋肉痛に苦しんでいるはずが、それを感じさせない軽やかな足取りで、俺はギルドに歩いていた。いや、隣を歩く和真もウキウキ気分で歩いていた。

 

「おい和真。さっきから顔のニヤニヤが気持ち悪いぞ」

「兄さんこそ、俺に負けず劣らず気持ち悪いニヤニヤ笑顔じゃない」

 

 普段ならガンの飛ばしあいに発展するところだが、この程度の罵倒も許容できるほど俺たちは浮かれていた。

 何せ、魔王軍幹部を討伐したのだ。どれほどの高額報酬が懐に入るのか、その金で何をしようか、あれこれと考えながらギルドに向かっていた。

 

「あっ!ちょっと2人とも、遅かったじゃないの!もう既に、皆出来上がってるわよ!」

 

 人の熱気と酒の臭いが混ざり合った空気の中、アクアが上機嫌に笑いかけてきた。

 

「早くお金を受け取ってきなさいよ!もう皆受け取ってて、残るはあんた達なんだからね!今回の報酬はね、それはもう凄かったわよ!この通り結構使って飲んじゃったけどね!」

 

 ジョッキ片手に笑いながら、アクアが報酬の入った袋を俺たちに見せてくる。

 ひとまず酔っ払いどもを放置し、俺と和真は報酬を受け取りに向かった。そこには、ちょうど報酬を受け取ったらしいダクネスとめぐみんがいた。

 

「来たか。ほら、あとはお前たち兄弟だけだ」

 

 ダクネスに促され、俺は報酬を受け取った。

 続いて和真の番になったが、何も渡されなかった。何故だ?

 

「実は、カズマさんのパーティーには特別報酬が出ています」

「え!?お、俺たちに!?」

 

 和真の疑問の声に、冒険者の誰かが答えた。

 

「おいおいMVP!お前らがいなかったらデュラハンは倒せなかったんだからな!」

 

 周りの酔っ払いたちもそうだそうだと言っている。

 誰が受け取るか相談した結果、リーダーである和真が代表で受け取ることになった。

 

「……では。サトウカズマさんのパーティーには、魔王軍幹部ベルディアを見事討ち取った功績を称えて……ここに、金3億エリスを与えます」

「「「「3……億……!?」」」」

 

 あまりの高額報酬に俺たちは絶句し、それを聞いた冒険者達も静まり返った。

 そして……

 

「おいおい、3億ってなんだ!奢れよカズマ!」

「神様仏様カズマ様ー!どうか奢ってくれー!」

 

 冒険者達の奢れコールがギルド中に響く。

 しかし、一向に報酬の入った袋は出てこない。

 和真も不審に思ったのか、ルナさんの顔をじっと見つめる。ルナさんも申し訳なさそうに視線を右往左往させると、和真に1枚の紙を手渡した。

 それは、0が沢山並んだ紙。……おそらく、この世界の小切手。

 いつのまにか隣に来ていたアクアが手元の紙を覗き込む。

 

「ええと、ですね。今回、カズマさん一行の……その、アクアさんの召喚した大量の水により、街の入り口の家屋が一部流され、損壊し、洪水被害が出ておりまして……」

 

 ルナさんの態度から察知しためぐみんの襟首を俺が掴み、遅れて察したアクアの襟首を和真が掴む。

 そして、状況を察した冒険者達はそっと目を逸らした。

 

「報酬3億に対し、弁償金額3億4千万……カズマ、明日から強敵相手の高額クエストを請けよう!」

「嫌じゃあああああーっ!」

 

 和真の肩に手を置き、満面の笑みを浮かべるダクネスの言葉に、和真は悲鳴で答えた。



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6話

アニメ第1期後半、スタートです
監督つながりでプリコネRのアニメ見ましたけど、面白いですね。これを機にゲームの方も……駄目だ、3足の草鞋は金銭的に厳しい。


 鍛冶師の朝は早い。

 

『コケコッコー!』

「……む」

 

 鶏の鳴き声とともに、無理矢理目を覚ます。

 布団を畳んで部屋の隅に置いて外に出て、太陽に向かって手を合わせて拝む。

 

「冷たっ!」

 

 井戸から汲んだ冷水で顔を洗い、完全に目が覚めたところで鶏小屋から卵をいただき、工房に戻る。そして俺はフライパンとお玉をガンガン鳴らし。

 

「起きろー。朝だぞー」

「うぅ……」

「わかった……」

「……むぅ」

「おあよー」

 

 和真達を叩き起こす。

 何故、和真達が俺の工房で寝泊まりしているのか、話は数日前に遡る。

 

 

 

 

「兄さん!どうか兄さんの工房で寝泊まりさせてください!」

 

 そう言って深々と頭を下げる愚弟(和真)

 今の季節は秋から移り変わり、冬。

 冒険者達が宿に部屋を借り、春が来るまで籠る季節。和真も本来なら宿に部屋を借りるなりしているはずだが、そういうわけにもいかない。

 

「ちょっと待て……5人で寝るだけの広さは確保できそうだから、良いぞ」

「ありがとう!あとは金だ、それも借金を帳消しできる額を稼がないと……」

 

 和真の言う通り、俺達には高額の借金がある。

 魔王軍幹部ベルディア。これを俺達は死傷者0で討伐し、報酬を受け取った。しかし、討伐の過程で発生した洪水で街に被害が生じ、これの原因である俺達は賠償金を請求されてしまった。その額およそ3億4千万。ベルディア討伐の賞金3億は借金返済に消し飛び、残る4千万は未返済のままだ。

 

「ハルキ。工房の奥に何かあるのですが、あれは何ですか?」

 

 アクアと揃って工房内を見ていためぐみんが、奥に配置されている神棚を指差す。

 

「ああ、それは神棚っていってな。ざっくり言うと、個人の家で神様を祀るために設置している小さな祭壇だ」

「なるほど。祭壇であるならば祀る神がいるはずですが、どなたを祀っているのですか?」

「そうだな……まず向かって右側に幸運の女神エリス。左側に水の女神アクア。それで真ん中に太陽の女神天照大御神。この3柱だ」

 

 せっかくだから拝んでおけというと、和真が真っ先に手を合わせて拝み、それにめぐみんとダクネスが続いた。しかし、アクアだけが断固として参拝をしなかった。

 

「おいアクア。お前も拝んでおけって」

「嫌よ。寧ろ女神である私がここにいるんだから、私を拝みなさいよ」

「いいからさっさと拝むんだよ。あくしろよ」

「絶対に嫌!エリスに手を合わせたら先輩としての威厳がなくなっちゃうでしょ!」

 

 普段のお前の言動から威厳というものを微塵も感じたことがございません。なんて言ったら余計騒がれるだろうな。

 

「だったら天照様に手を合わせろ。それなら問題ないだろ」

 

 

 

 

 そして、冒険者ギルド。

 

「じゃあ……クエストだけど、俺達と兄さんの二手に分けようと思う」

 

 掲示板でにらめっこをしながら、和真がメンバーの皆に告げる。

 

「二手に分けるのはいいんですが……大丈夫ですか?どれも高難易度なものばかりですが」

 

 不安気な表情で、めぐみんが俺と和真を交互に見る。

 

「まぁ、そこは請けるクエストによりけりだけど……兄さん、これは兄さん単独(ソロ)でいける?」

 

 和真が提示したのは、冬眠から覚めてしまった一撃熊の討伐だった。討伐なら200万、追い払うだけなら50万。

 

「熊か、他のクエストに比べればまだ簡単だから行ってくる」

「本当!?いやー、兄さんとパーティー組んで正解だったな」

「頼もしいですね。というか、一撃熊を倒せる実力を持っているのに、なぜこの街にいるのですか?」

「この街が気に入ってるからだよ。じゃ、行ってくる」

「行ってらー」

「ダクネス、こいつらのこと任せた」

「任せろ」

 

 

 

 

「どこだ……」

 

 街から離れた森林地帯。目撃情報のあった畑から一撃熊の足跡を辿り、聞き耳で熊の居場所を探る。

 

「グルルル……」

「……(見つけた)」

 

 潜伏で樹の陰に隠れ、目標である一撃熊の姿を千里眼で視認する。

熊はまだこちらに気づいていないのか、辺りを見渡して食糧になりそうなものを探していた。

 樹の陰に隠れながら、俺は熊を仕留めるための作戦を練る。

 プランA:このまま樹の陰から心臓に狙撃で矢を放つ

 プランB:矢が外れてこちらの存在がばれたら、大楯で熊の攻撃を防ぎ、突撃槍で心臓を狙う

 弓に矢を番え、弦を引き絞り、静かに時間が来るのを待ち続ける。

 

「……。…………。…………狙撃!」

「ガウッ!?」

 

 熊がちょうどこちらに体を向けたと同時に、矢を放つ。

 放った矢はまっすぐに肋骨の間、心臓のあるあたりに突き刺さり、熊もそのまま仰向けに──。

 

「ブオオオオッ!」

「畜生!ズレた!」

 

 倒れず、殺意の波動を放ちながらこちらに向かって駆け出してきた!

 しかし!そのためのプランB!

 俺は弓をしまい、大楯を構え、突撃槍を手に熊に向かって駆け出す。

 

「どすこい!」

「グガァッ!?」

 

 熊の張り手を大楯で防ぎ、突撃槍を心臓に突き刺す。

 熊の最期の足搔きに数秒ほど耐えていると、熊は動かなくなった。……聞き耳を使ってみるが、心音もしない。完全に死んだな。

 

「さて、血抜きをしたら荷車に積んで、街に帰ろう」

 

 熊の喉をナイフで切開し、別のクエスト対象である白狼の群れが来ないことを祈りつつ、荷車を停めてある依頼主の畑に向かった。

 

「あいつら、クエスト大丈夫かな。ダクネスがつまんねえ意地張ってなければいいんだが……」

 

 

 

 

「ほい、ちゃんこ鍋ともつ煮出来たぞー。骨はこのボウルに入れてくれ」

「「「「いただきます」」」」

 

 時間が過ぎて、夜。

 クエストを終え、借金から天引きされた報酬をもらった俺達は、俺の工房で鍋を囲んでいた。

 和真達のクエストだが、俺の予感は的中してしまった。

 和真達の請けたクエストは雪精の討伐。

 1匹10万と高額だが、そこにはとんでもないリスクが存在した。

 それは特別指定モンスターの1匹で、雪精達の主、冬将軍。俺と和真は日本にいた頃、この時期になると天気予報で耳にしたことがある。そう、日本にいた頃は(・・・・・・・)

 そして、精霊は出会った人たちの無意識に思い描く思念を受け、姿形を得る。

 要するに、冬=冬将軍という連想をしたどっかのバ……俺や和真よりも先にこっちの世界に来た日本出身のチート持ちが冬にクエストをバンバンこなしていたら生まれてしまったモンスターだ。

 こいつに遭遇した時の対処方法は、土下座で誠意を示すか、死んだふりでやり過ごすかだ。

 だが、案の定ダクネスが騎士のプライドだのとつまらん意地を張り、そのせいで和真は死んだ。まあ、アクアの蘇生魔法のおかげでなんとかなったけれど。腐っても女神か。

 

「とりあえず、アクアの忠告通り暫くは大人しくするわ」

「その方がいいな。だが金はどうする?」

「……ギルドで内職紹介してもらう」



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7話

このすばを読んでて常々思ってました。日本特有の方言、訛りが足りないと。なので、試しに喋らせてみました。一応標準語でルビもふりますが、読みづらければ標準語に戻します。



5/24標準語に戻しました


「ただいま~」

「おかえり。内職のほうはどうだった?」

「なにもなかった。めぐみんとダクネスはどこに行った?」

「日課の爆裂散歩に行ったぞ。今の和真にめぐみん抱えて帰るのは酷だってよ。アクアは?」

「酒盛りしてたから宴会芸で盛り上げてくるって、ギルドに置いてきた」

「そうか」

「……兄さん」

「どした?」

 

 工房に入ってきた和真が目の色を変え、ベルディアの鎧と大剣をどけて椅子を置き、俺の隣に座った。

 

「その、手元にある木と金属のパーツで構成されたそれはまさか……」

「そのまさか。コンテンダーだ」

 

 俺は手元のパーツを組み立ててコンテンダーを作り、ガンスピンを披露する。

 ごくり、と和真が生唾を飲む。

 

「弾丸は?」

「現時点で拳銃弾・散弾・ライフル弾がそれぞれ6発ずつある」

「他の銃は何かある?」

回転式拳銃(リボルバー)鎖閂式小銃(ボルトアクションライフル)。あとはポンプアクション散弾銃(ショットガン)自動拳銃(セミオートマチックピストル)を製作中だ」

短機関銃(サブマシンガン)とか突撃銃(アサルトライフル)とかは……」

「俺の趣味じゃないから作らん」

「知ってた。けれど兄さん、この剣と魔法のファンタジー世界に銃は不釣り合いじゃない?」

「7以降のFF見ても同じこと言えるかよお前」

「それ言われたら反論できねえわ。まあそれはそれとして……」

 

 和真が満面の笑みを浮かべ、両手を差し出す。

 

「コンテンダー、俺にも1つ作ってくれない?」

「駄目だ」

「じゃ、じゃあ街でちょっと宣伝を」

「それも駄目だ。5種とも完成して、この世界での銃の価値が判明するまでは秘密だ。勿論、お前も秘密を守ってもらう」

「……もし破ったら?」

「お前の小さい頃の恥ずかしい話を、街中の冒険者達に暴露する」

「お天道様に誓って秘密を守ります。太陽万歳」

 

 和真は椅子から立ち上がり、太陽賛美のポーズをとった。

 

「そうだ和真。実は真面目な話があるんだ」

「なに?」

 

 俺は銃のパーツをしまい、椅子に座るよう促す。

 

「俺とダクネスのパーティーなんだがな、クリスの他にあともう1人いたんだよ。上級魔法取得してくるって言って、今は街にいないがな」

「上級魔法ってことは、アークウィザードか。……ところでその人は男?女?」

「女だ。名前はゆんゆん」

「おかし、じゃなかった独創的な名前のアークウィザード……まさか、めぐみんと同じ紅魔族?」

「そうだ。それで、話ってのは彼女が街に戻ってきたときのパーティーメンバーの話だが。お前の意見が聞きたい」

「めぐみんみたいな変わり者じゃなければ大歓迎です」

「安心しろ。あまりの常識人ぶりにひっくり返ること間違いなしだ」

 

 俺の言葉を聞いた和真は静かに、しかし力強いガッツポーズをした。

 

 

 

 

 翌日。

 

「ごめんくださーい。佐藤陽樹さんはいらっしゃいますかー?」

「はいはーい。いますからちょっと待ってねー」

 

 工房の入り口に立ち、扉を開ける。そこには男1人と女2人が立っていて──。

 

「あ、貴方は!」

「お前は……誰だっけ?」

「御剣響夜です!以前、貴方の弟に決闘を挑んで敗北した!」

 

 ああ、魔剣の痛い奴か。

 

「すまん。碌に会話もしてなかったから覚えてなかった。で、用件は?」

「その……以前の件で、魔剣を失った自分がどれほど無力なのかを思い知りました。それで、このままではいけないと思い、武器の製作を依頼しようとしたところ、貴方を紹介されたのですが……」

 

 御剣は仲間をチラチラと見ながら頬を掻いている。この間の件があって依頼しづらいのだろうか?

 

「仕事の話なら大歓迎だ。詳しいことは中で話そうか」

「い、いいんですか?」

「この間の件なら、和真と直接話をつけてくれ」

「は、はい。失礼します」

 

 御剣は一礼すると、工房内に足を踏み入れる。

 

「さて、注文は?」

「僕はソードマスターですので、剣をお願いします」

「ひとくちに剣と言ってもいろんな種類がある。どんな剣がいい?」

「僕の防具と不釣り合いかもしれませんが、打刀をお願いします。刃渡りは60㎝程で」

「鍔の形や、装飾なんかでリクエストはあるか?」

「鍔はシンプルな丸型で。装飾の希望は……特にありません」

「素材は?」

「高純度の玉鋼をこちらで用意したので、刀身はそれでお願いします」

「わかった。柄作成のために、手の大きさを測らせてくれ」

「はい。どうぞ」

 

 御剣の注文を一言一句聞き逃さず、羊皮紙に記していく。

 

「さて、一番重要なことだが、予算は?」

 

 俺が問うと、御剣は金の詰まった袋を差し出す。

 

「これでお願いします」

「……よし、これで請け負った。製作中に何かトラブルがなければ、1週間程で完成するだろう」

「わかりました。では、1週間後に」

 

 

 

 

 同時刻、ギルド。

俺は、同じテーブルにいた戦士風の男から、品定めでもするような目で見られていた。

 男の名前はダスト。兄さん曰く、『名は体を表すの体現者』。借金を返すために借金を元手にギャンブルするろくでなし。

 そんな男に絡まれたものだから、一体なにをされるのか警戒している。

 

「……ハルキの弟であるお前に、俺から1つ依頼がある」

「依頼?」

 

 どんな無理難題をふっかけられるのか、俺は咄嗟に身構える。

 

「実はな、街の冒険者達の間では、お前の兄貴とクルセイダーの嬢ちゃんがデキてるって噂がある」

「兄さんとダクネスが?そうは見えなかったけど」

「お前は知らないかもしれないが、あの2人は普段から一緒に行動しているのが目撃されている。クエストに行くのも、飯を食うのも、寝るのも一緒なんだぜ」

「じゃあ、俺とアクアはどうなるんだ。飯も寝床も一緒だったぞ」

「それだけじゃねえ。たまにダクネスがハルキに気を遣ってか宿に泊まるんだが、夜中にハルキが部屋に入ってはイチャイチャして、朝には何事もなかったかのように振舞ってるらしいぜ」

「それは流石に深読みしすぎだと思う」

「んなことはわかってる。だからこそ、カズマには噂の真偽を確かめてもらいたいんだ」

 

 噂話の調査。正直面倒くさいが、俺にとっても悪い話じゃない。仮に噂が事実だった場合、義弟(おとうと)という立場を利用してダクネスに強気に物申すことができる。具体的にはスキルポイントの振り方だとか、あの性癖についてだとか。

 

「……まあ、2人の動向を見張るだけの簡単な仕事なら、請けてもいいぞ。肝心の報酬は?」

 

 報酬の話を持ち出すと、ダストは周囲を見渡して小声で話し始めた。

 

「この街にはな、サキュバス達がこっそり経営している、良い夢を見せてくれる店があるらしい」

 

 その時、俺の下半身に電流走る。

 サキュバス。男性の夢に相手好みの姿に化けて現れるという、女性悪魔。日本では空想上の存在だったけれど、ここは剣と魔法のファンタジー世界。魔王にアンデッド、女神がいるのだから、悪魔も実在するのか。

 しかし、そんな素晴らしい店がこの街にあったのか。そういうお店があれば、性犯罪の抑止になるだろう。誰もが賢者タイムであれば、穏やかな心でいられる。発散できずにイライラすることもなくなる。この街の治安の良さには、彼女達の存在が大きいのか。

 

「らしいってのは、その店が街の何処にあるのかまだ把握していなくてな。で、報酬なんだが、その店で俺が奢ってやる」

「ってことは、依頼の期限はその店を見つけるまで?」

「いや、期限は1週間くらいで頼む。明日明後日で見つかったりしないだろうし、そっちの依頼もそのくらいの日数は必要だろ?」

「わかった」



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8話

うさ耳のウィズ可愛い

(; ゚Д゚)←お気に入りの数を見た時の自分の顔


「明日はダンジョンに行きます」

 

 和真が冬将軍に首を刎ねられ、今日で1週間が経過した。戦闘が許される程度に回復した和真が、ダンジョン行きを提案する。

 爆裂魔法が使えないから嫌だとめぐみんは猛抗議し、アクアはダンジョンに潜るならパーティーに盗賊は必須だと言う。そしてダクネスは冬将軍での件を引きずっているのか、自分もダンジョンに同行すると立候補する。

 

「ダンジョンに潜るのは俺だけだ。ただ、ダンジョンまでの道中に危険なモンスターが出ないとも限らない。その時の護衛は任せた。盗賊スキルもクリスから教わってるから安心してくれ。……本当なら兄さんにはアドバイザーとしてついて来てほしかったけど、仕事優先でお願い」

「わかった」

「その代わりと言ってはなんだけど、何か武器を貸して」

「おう」

 

 俺はダガーなどの軽量武器を取り出し、並べていく。

 

「どれがいい?」

「ん~……これでモンスターを輪切りにしてくる」

 

 武器を手に取りながら選んでいた和真は、ククリナイフを手に取る。

 

「気分はアリス・アバーナシーか?」

「いや、キース・ラムレイかな」

「ハルキハルキ」

「はいハルキです」

「これだけの武器を何処に収納していたんですか?それらしい木箱もないですし、衣服に隠すにしてもこの数は隠し切れないと思うのですが」

「……企業秘密です」

 

 俺はめぐみんの隣で武器をじっと眺めているアクアに視線を送った。

 

「じゃあ、明日に備えてアイテムとか買ってくるから。お仕事、頑張ってね」

「いってらっしゃい」

 

 

 

 

 そして、当日。

 工房で刀の製作に没頭してると、不意に工房内の空気が冷えた。何事かと入り口を見ると、早歩きで工房に入るアクアに続いて、和真達が入ってきた。

 アクアは神棚の前に立つと正座して手を合わせ、何かぶつぶつと呟いている。

 

「天照様、天照様、聞こえますか?水の女神のアクアです。お聞きください。つい先ほど、サトウカズマという引きニートが、アンデッドを呼び寄せるという理由から私をダンジョンに置き去りにいたしました。酷いと思いませんか?思うでしょう?なら……」

「おい和真。何があった」

「実は……」

 

 ~少年説明中~

 

「……成程。言うことを聞かなかったアクアのせいで、アンデッドが大量に寄ってきたと」

「うん。でも、あいつが来たおかげで思いがけないお宝も手に入ったんだよ」

「……それだけに何とも言えないな。とりあえず、飯にするか。何が食いたい?」

「あ、今日の晩御飯は俺が作るから。兄さんは座って待ってて。丁度兄さんの手伝いして料理スキルも取得したからさ」

「わかった」

 

 和真が台所に立ち、めぐみんは手伝うと言って和真の隣に行き、残るは俺とダクネスと、長々と神棚にお祈りしているアクアのみ。

 

「……なあ、ダクネス。お前的に、リッチーとお嬢様のお話はどうだった?」

「……正直に言うと、私は彼女を羨ましく思ったよ。愛する人と共にいるために全てを捨て、幸せな最期を迎えたのだからな」

 

 意味深なことを口にするダクネスの表情は、どこか寂し気だった。

 

 

 

 

 さらに翌日の夕方。

 

「これか、祓っても祓っても悪霊が来るっていう屋敷は」

「うん」

 

 和真曰く、ウィズから何かスキルを教わろうとしたところ、彼女が魔王軍の幹部であることが発覚。アクアが討伐しようとしたが、自分には賞金がかかっていないし、アクアがいれば幹部が2,3人まで減れば魔王城の結界を破れるとウィズが言ったらしい。

 

「まさか、こんな身近に魔王軍の幹部がいたとはな。灯台下暗しとはこのことか」

「うん。それで、ウィズからスキルを教わるために実演してもらったんだけど、アクアが……」

 

 和真の視線が、隣で興奮したように叫ぶアクアに移る。

 予定通り和真はスキルを取得したが、どさくさに紛れてアクアがウィズを浄化しようとしたらしい。和真が途中で止めたところで、不動産業者がウィズの店に悪霊退治の依頼に来た。しかし、消えかかっているウィズにやらせるのは酷なのと、やってしまったと罪悪感に襲われたアクアが代わりに悪霊を退治すると名乗りでて、今に至る。

 そして業者の提示した報酬は、この屋敷の悪評が消えるまで無料で住ませてくれるそうだ。

 

「しかし、本当に除霊ができるのか?聞けば、今この街では祓っても祓ってもすぐにまた霊が来ると言っていたのだが」

 

 大きな荷物を背負ったダクネスが言ってくる。

 本来なら、悪霊が湧いてくる原因を突き止め、そこを叩くのが一番だろう。だが、あくまで依頼されたのは屋敷の除霊。

 

「……大丈夫だと、思う。なんせ、俺達にはアクアがいるからな。任せたぞ、対アンデッドのエキスパート」

「任せなさいな!……見える、見えるわ!この私の霊視によれば、この屋敷には貴族の男が遊び半分に手を出したメイドとの間に出来た子供、その貴族の隠し子が幽閉されていたようね!やがて元々体の弱かった貴族の男は病死し、隠し子の母親のメイドは行方不明に。この屋敷に1人取り残された少女は、やがて若くして父と同じ病に伏して両親の顔も知らずに1人寂しく死んでいったのよ!名前はアンナ=フィランテ=エステロイド。好きな物は……」

 

 屋敷に両手をかざして目を閉じたと思えば、テレビに良く出る自称霊能力者みたいなことを口走り始めたアクアに、俺達は胡散臭い詐欺師でも見る視線で眺めながら、考えた。

 安請け合いしてしまってよかったのか、と。

 そして、夜半過ぎ。

 鎧を脱いで寝間着に着替え、各自で割り振った部屋で寛いでいた。そろそろ寝よう、そう思って瞼を閉じようとしたところに……。

 

「ああああああっ!?わあああああっ!?」

 

 アクアの叫び声が木霊した。

 

「どうしたアクア!何があった!大丈夫か!?」

 

 アクアの部屋に大急ぎで駆け付けた俺と和真の前には、酒瓶を抱えて泣いているアクアの姿が。

 

「……おい、どうしたアクア。お前が酔った勢いで奇声を上げたとか言ったら、酔いが醒めるまでクリエイト・ウォーターで水をぶっかけるぞ」

「ち、違うのよカズマ!この空になった酒瓶は、私が風呂上りに大事に飲もうと取っておいた凄く高いお酒なのよ。それが、私が部屋に帰ってきたら、見ての通り空だったのよおおおお!」

「和真、寝るか」

「そうだね。じゃあ、お休み」

「ちょっと待ちなさいよ、冷血兄弟!これは悪霊の仕業よ!この屋敷に集まってきた野良幽霊か、この屋敷に憑いている貴族の隠し子の地縛霊か!ちょっと私、屋敷の中を探索して目につく霊をしばき回してくるわ!」

 

 怒りに燃えるアクアが、部屋を飛び出して屋敷内を駆け回る。

 

「……なんだ、一体何の騒ぎだ?」

「もう結構遅い時間なんですから、勘弁してください。何事ですか?」

 

 騒ぎを聞きつけたのか、遅れてダクネスとめぐみんがやってきた。

 

「アクアが大事に取っておいた酒がなくなったから、霊をしばき回してくるんだと。酒を飲む程度の悪事しかできない霊のことはアクアに任せて、寝ようぜ。おやすみ」

 

 

 

 

 一体どれほど時間が経ったのだろう、俺は、ふと夜中に目が覚めた。

 屋敷はとっくに静まり返り、深夜はとっくに回っている。映画やゲームなら、今頃幽霊なんかが動き出している頃合いだろう。その証拠に、部屋の隅に見覚えのない西洋人形が座っていた。

 

「早速でたな」

 

 俺が体を起こすと、連動するように人形がふわりと浮遊する。そして、俺と対峙するような形になった瞬間、飛び込んできた。

 

「成仏して、どうぞ」

 

 俺は冷静に聖水の入った瓶を取り出し、中身を人形に浴びせる。

 すると、人形の口から青白い光のようなものが吐き出され、霧散していった。

 

「兄さーん!助けてー!人形が、人形がああああ!」

「はいはい」

 

 ドアの向こうから、和真の絶叫と扉を叩く音が聞こえた。

 俺はドアを開けると、和真が涙目で部屋に飛び込んで俺の背後に隠れた。

 遅れて部屋に侵入してきた人形を全て除霊し、動かなくなった人形を外に放り投げて扉を閉める。

 

「大丈夫か?」

「……一部大丈夫じゃない」

 

 和真のほうを振り向いて声をかけると、今度は足をモジモジさせている。

 

「えっと、この年で言うのは凄く恥ずかしいんだけど……トイレまで連れてって」

「わかったよ。しかし、懐かしいな、和真。ホラー映画見たり怪談聞いた夜に、怖いからトイレに連れていってってお前が言ったの、覚えてるか?」

「ごめん、今それどころじゃない」

 

 昔のことを思い出しながら、俺は和真を近くのトイレに連れていき、用を済ませるまで暫しドアの前で待機する。

 

「……はあ、ありがとう兄さん。おかげでスッキリした」

「そりゃどうも。それで、後はどうする?部屋に戻って寝るか?」

「いや、この状況で寝るほど神経太くないから。アクアは絶賛除霊中で、ダクネスはクルセイダーだから神様に祈るくらいして追い払う程度のことはできるとして……めぐみんを探そう。屋敷を吹き飛ばされたくない」

 

 和真の提案に同意し、俺達はめぐみんの探索を始めた。道中で遭遇した人形には聖水を浴びせ、一番近くにあったアクアの部屋の扉を和真がノックする。

 

「めぐみ~ん。いるか~?いたら返事を゙っ」

 

 和真が最後まで言うより早く、めぐみんが扉を勢い良く押し開けたせいで、和真が額を押さえて蹲る。

 

「すすす、すいません!一人で待っていて心細かったところにカズマの声がしたので、つい!大丈夫ですか?ここが何処で、自分が誰か、分かりますか?」

「ここはアクセルの街。俺はお前のような問題児の世話に日々手を焼いている冒険者、サトウカズマだ」

 

 安堵した表情になったのも束の間、はっとしためぐみんが股に手を当ててモジモジし始めた。

 

「……めぐみんもお手洗いか?」

「…………はい」

 

 か細い声で顔を赤くして言っためぐみんを連れて、俺と和真はトイレに向かった。

 

「カズマー?ハルキー?そこにいますかー?本当に、本当にいますかー?」

「いるよ。いるからさっさと済ませてくれ」

「……あの、流石にちょっと恥ずかしいので、大きめの声で歌でも歌ってくれませんか?」

「あのな、めぐみん。今後のクエスト次第では野外やダンジョンでこんな状況になるかもしれないんだ、今のうちに慣れたほうがいいんじゃないか?」

 

 などと言ったが、一応は本人の要望に応えて、和真とデュエットを披露することにした。

 歌といっても、日本の歌しか知らないので、アカペラで適当に、大声で。

 

「……ふう。2人とも、ありがとうございました。聞いたこともない、変わった歌ですね?前から思っていたのですが、2人は何処の国の出身なんですか?」

「夜中にトイレの前で歌を歌う風習がある、日本っていう素敵な国の出身だよ。ほら、アクアを探して合流しようか」

 

 俺を先頭にし、和真とめぐみんが後ろをぴったりくっつく形でアクア達を探す。

 人形に遭遇しては聖水を浴びせ、遭遇しては聖水を浴びせてを繰り返すこと数分。

 

「『ターンアンデッド』!」

「お、いたいた」

 

 ちょうど除霊をしたところなのか、アクアが魔法を詠唱する声が曲がり角の向こうから聞こえた。

 

「あら、いい所に来たじゃない。ねえカズマ、屋敷内に幽霊が隠れていないか、敵感知で探してくれない?」

「お、おう。……3、いや5匹いるな。俺達の背後から来てる」

「はいは~い。サクッと除霊してくるから、ここで待っててちょうだい」

 

 

 

 

 そして、夜。

 

「つまり、アクアが手を抜いた結果が今回の騒動の発端だと?」

「うん」

 

 台所で野菜と肉を切る和真と鶏ガラから出汁を取っている俺は、隣で半殺しにした(半分潰した)米を棒に巻き付けて焼いているアクアを見る。

 和真曰く、ギルドが調査したところ、街の共同墓地に巨大な神聖属性の結界が張られていたせいで、行き場を失った霊が街中の人が住んでいない空き家に住み着いたらしい。

 そして、その結界を張ったのは定期的に成仏させるために墓場まで行くのが面倒になり、墓場から霊の居場所をなくせば適当に空気に散っていなくなるだろう。という、アクアの手抜きのせいで悪霊騒ぎが起きたらしい。

 

「あれがなかったら臨時報酬で借金返済が1歩進んだのに……まあ、過ぎたことを言ってもしょうがない。次からは手抜きしようなんて考えるなよ?」

「……肝に銘じます、カズマさん」




このすば3期放送しないかなぁ。アニメで喋って動くアイリスが見たい。それもスマホの小さい画面じゃなく、テレビの大画面で


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9話

 新生活2日目。ギルドの隅のテーブル席。そこに俺とダスト、キースは座っていた。

 

「それじゃあ、結果を報告する」

「おう」

 

 今日は、ダストから依頼されて兄さんとダクネスの行動を観察した結果の報告日。そして、予定通りならば例の店が見つかっている日だ。

 

「結果から言えば、噂は真っ赤な嘘だ」

「2人がこっそり外泊したとかは?」

「ない」

「夜中に物音や声がしたとかは?」

「聞き耳で探ってみたけど、なかった。せいぜいアクアとめぐみんの寝言が聞こえたくらいかな」

「マジかー……」

 

 俺の報告を聞き、ダストが天井を仰ぐ。

 

「ま、男女関係が拗れてパーティーが解散したり壊滅しかけるなんて話もあるからな。そういうわけにもいかないんだろ」

「だな」

「さて、俺からの報告は以上だけど、そっちはどうだった?」

 

 俺が問いかけると、ダストはニヤリと笑みを浮かべてサムズアップする。

 

「見つけたに決まってんだろ」

「心の底からありがとう」

 

 俺はそのまま手を差し出し、固い握手を交わす。

 

「それじゃあ、行くぞ。期待に胸とアレが膨らむぜ」

 

 そして俺達はギルドを後にし、ダストの案内の下、例の店へと向かう。

 一見すると、大通りから外れた路地裏にある、小さな店。

 

「あれか?」

「おう。あれが例の」

 

 俺の質問にダストが答えている途中で、店から一人の男性が出てきてって……!

 

「兄さん……っ!?」

「おう、カズマ。ダストにキースも、ここで何してんだ?」

 

 店から出てきたのは、まさかの兄さんだった。想定外のエンカウントイベントに、場の空気が気まずくなる。

 帰るか、それとも何事もなかったように通り過ぎるか、コソコソと相談しあう俺達を、兄さんは生温かい目で見てくる。兄さんが不意に1歩踏み出すと、俺達はビクッと震える。そして俺達の横を通り過ぎるとき、静かに言った。

 

「ようこそ。大人の世界へ」

 

 大人の世界。その言葉の響きに、俺は衝撃を受けた。日本では13歳から公共交通機関なんかを利用するときは大人料金を払わなければいけないのに、法的に大人扱いされるには更に7年も待たなければならなかった。昔は15歳で成人となり、大人の仲間入りをしていたというのに。

 隣を見れば、ダストとキースも同じように衝撃を受けたのか硬直していた。異世界でも、大人の世界という言葉は年頃の青少年の心を揺さぶるらしい。

 少ししてダストが復活し、続いてキースが復活する。そして俺達は何故か手櫛で髪を整え、襟を正すと店内に1歩踏み込んだ。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 多くの男が、女性とはこうあるべきと夢に見るような、そんな魅惑的な体の女性。

 そんな体の、途轍もなく綺麗な体のお姉さんの出迎えを受けながら店に入ると、やはりと言うべきか、中には男性客しかいなかった。

 飲食店だと言うのに、客達のテーブルには食べ物や飲み物は何一つ置かれていない。

 客達は皆、それぞれテーブルで、アンケートのような紙に一心不乱に何かを記入していた。

 

「お客様は、こちらのお店は初めてですか?」

 

 その言葉に、俺達は頷く。

 お姉さんはそんな俺達に微笑を浮かべ。

 

「……では、ここがどういうお店で、私達が何者かもご存知でしょうか?」

 

 俺達は再び頷いた。

 それに満足したように、お姉さんがテーブルにメニューとアンケート用紙を置く。

 

「ご注文はお好きにどうぞ。勿論、何もご注文されなくても結構です。……そして、こちらのアンケート用紙に、必要事項を記入して、会計の際に渡してくださいね?」

 

 俺達はアンケート用紙とペンを手に取り、必要な項目に記入していく。

 夢の中での自分の状態とは、夢の中では王様や勇者、年端もいかない少年になりたい、などらしい。中には、女性側になりたいという客もいるとか。

 相手の設定は、自分への好感度、性格、口癖etc.何でも誰でも設定できるらしい。

 そして住所と就寝時間。指定した時間帯にお店の人が来て希望の夢を見せるらしい。

 途中まで記入していたキースが、おずおずと尋ねる。

 

「……あ、あの、大丈夫なんですか?その、条例とか、色々……」

「大丈夫です。夢の内容まで取り締まる法はありませんから」

 

 なんて事だ、素晴らしいじゃないかサキュバスの淫夢サービス。

 

「ところで、あなたがサトウカズマさんですか?」

「は、はい」

 

 お姉さんから急に名前を呼ばれてしまった。あれ?俺っていつの間にか有名人になってた?

 

「実は、貴方のお兄さんから『料金を多めに払うから、サトウカズマが来たら渡してほしい』と頼まれていたものがあります。……こちらです」

「あ、ありがとうございます」

 

 お姉さんが谷間(ポケット)から取り出した紙を受け取る。

 隣のダストとキースに覗き見されていないか両脇を見ると、2人はアンケートに一心不乱に記入していてそれどころではなかった。

 

「……アクアに気づかれると大騒ぎになるので、この住所を記入されたし……?」

 

 その紙には兄さんからの伝言と、兄さんの工房の住所が書かれていた。そして文面を見て、理解した。

 仮にこのまま屋敷の住所を記入した場合、アクアにサキュバスの存在を感づかれるだろう。そしてあいつがサキュバスの出どころを調べ、万が一にもこの店にたどり着くかもしれない。

 それはマズい。非常にマズい。

 もしそうなったら、店にお世話になっている男性冒険者と、アクアに協力してサキュバス討伐に乗り出した冒険者の間で戦争になるだろう。それはなんとしても避けなければならない。

 

「では、皆様3時間コースを御希望ですので、お会計、それぞれ3千エリスをお願い致します。それと、お酒等はお控えくださいね?泥酔されて、完全に熟睡されていると、流石に夢を見せることができませんから」

 

 

 

 

「ほれ、ご注文の打刀だ」

「ありがとうございます」

 

 期日ぴったりに来た御剣に、工房で白布に包んだ打刀を手渡す。御剣は白布を捲って打刀を手に取る。

 

「試しに素振りしてもいいですか?」

「いいぞ。外でやってくれ」

 

 御剣は刀を腰に帯びると、外に出る。

 

「ふっ!」

 

 深呼吸をすると抜刀して上段に構え、振り下ろす。

 

「はっ!」

 

 そのまま下段から振り上げ、突き、払い、袈裟斬りと続けていく。

 

「どうだ?」

「最高です。やっぱり、日本人には刀が一番しっくりきますね。魔剣グラムを転生特典に選んだ僕が言えたことではありませんが」

 

 納刀すると、苦笑しながら頬を掻く。アクアに今度言ったらどんな反応をするだろうか。

 

「あっ!今の発言は、アクア様には内緒にしてください。女神の怒りを買った人間って、大抵悲惨な目に遭いますので」

 

 俺の考えを読んだのか、御剣が手を合わせて頼んできた。

 

「わかった。あとは、この魔法の掛かった札に銘を書いて張れば完成だ」

「はい。銘か……大俱利伽羅……へし切長谷部……」

 

 御剣は札と刀を交互に睨み、うんうんと唸り声をあげる。

 

「……飛天、御剣……よし、決めた!飛天、っと」

 

 御剣は札に嬉々として銘を書き、柄に張り付ける。

 

「それじゃあ、僕はこれで」

「おう。じゃあな」

 

 

 

 

 そして、夜。

 

「2人とも、お帰りなさい!喜びなさいな、今日の晩御飯は凄いわよ!蟹よ!さっき、ダクネスの実家の人から、これからもそちらで娘がお世話になるのならって、引っ越し祝いに、超上物の霜降り赤ガニが送られてきたのよ!しかも、凄い高級酒までついて!パーティーメンバーの皆様に、普段娘が世話になっているお礼です、だってさ!」

 

 屋敷に帰ると、アクアが満面の笑みで出迎えてくれた。

 

「あわわ……貧乏な冒険者稼業を生業にしておきながら、まさか霜降り赤ガニにお目にかかれる日が来るとは……っ!今日ほどこのパーティーに加入して良かったと思った日はないです……」

「そんなに高い蟹なのか?」

 

 霜降り赤ガニに手を合わせて拝み始めためぐみんに尋ねると、拳を振り上げて力説した。

 

「当たり前です!分かり易く喩えるなら、この蟹を食べる代わりに今日は爆裂魔法を我慢しろと言われれば、大喜びで我慢して、食べた後に爆裂魔法をぶっ放します。それぐらいの高級品なのですよ!」

「結局ぶっ放すのは変わんないのか」

 

 アクアが嬉々として人数分のグラスを持ち出し、それぞれに渡していく。

 

「悪い、アクア。今日は少し仕事が残っているから、工房で寝る。だから、酒も今日は遠慮しておく」

「俺も。兄さんの手伝いするから遠慮しとくわ」

「ほーん?ハルキはともかく、カズマも工房でお仕事?明日は猛吹雪ね!」

「まあ。借金返済のために鍛冶スキル取得して、それで何か商品作って売ろうと思ってさ」

 

 貰ったグラスに水を注ぎ、俺と和真は酒はいらないと断る。

 和真の言うことは、あながち嘘ではない。但し、サキュバスの淫夢サービスを利用するために工房で寝泊まりする、という動機も含まれているだけだ。

 

「その分、蟹はたっぷり頂くよ」

「というわけで、頂きます」

 

 俺は蟹の脚を割って身を取り出し、酢に付けて頬張る。瞬間、ふんわりと甘い、濃縮された蟹特有の旨味が口に広がる。

 見れば他の皆も、黙々と無言で蟹を食べていた。本当に蟹を食っている時って静かになるんだな。

 

「カズマカズマ、ちょっとここにティンダーちょうだい。私が今から、この高級酒の美味しい飲み方を教えてあげるわ」

 

 言いながら、早々に蟹味噌を平らげていたアクアが、小さな手鍋の中に炭を入れ、その上に金網を置いて簡易的な七輪を作った。

 カズマが炭に火を点けると、その上に蟹味噌が少し残った蟹の甲羅を置く。そのまま甲羅の中に、高級酒だと言ってた酒を注ぎ、待つこと暫し。

 甲羅に軽く焦げ目がつく程度に炙り、熱燗になったそれを一口啜り……。

 

「ほぅ……っ」

 

 実に美味そうに息を吐いた。

 行動は完全におっさん臭いが、全員がゴクリと喉を鳴らす。

 落ち着け俺、落ち着くんだ。ここで酒を飲んだら、久しぶりのサキュバスのサービスが受けられなくなってしまうぞ!

 心配になって和真を見れば、酒を飲みたい欲を堪えるように、蟹の身を味わっていた。

 

「!?これはいけるな、確かに美味い!」

 

 惑わされるな俺!

 

「ダクネス、私にもください!いいじゃないですか今日ぐらいは!私だって酒を飲みたいんです!」

「駄目だ、子供の内から酒を飲むと頭がパーにと聞くぞ」

 

 ダクネスに言われ、めぐみんがアクアとダクネスを羨望の眼差しで見つめる。

 

「2人とも、念の為に聞くけど、本当にいいのね?このお酒が明日も残ってるとか思わないことね。私が全部飲んじゃっても文句言わないでよ?」

「言わねえよ。一昨日、高い酒を地縛霊に飲まれちゃったんだろ?その分、今日は存分に飲め」

 

 和真の言葉に、アクアは言質は取ったと言わんばかりに飲む。

 俺と和真はそのまま蟹をたらふく食べると、立ち上がり、自分の使った食器を洗って片付ける。

 

「ダクネス、ご馳走さま。じゃあ、風呂浴びたら行ってくる」

「じゃあな。アクア。さっきはああ言ったけど、酒はほどほどにしておけよ?」

 

 俺と和真は、そのまま自分の部屋に行って着替えを用意して移動した。

 そして、工房にて。

 

「……サービスの開始まで、少し時間があるな」

「猥談でもする?」

 

 布団の上で俺と和真はゴロゴロと寝転がり、暇を持て余していた。

 

「猥談か……夢の内容でも暴露するか」

「ごめん、いくら身内でも性癖暴露大会はちょっと……」

 

 言いだしっぺが何を言ってるんだ。

 

「そういえば兄さん、前にめぐみんに言ってたよね。『この街が気に入っている』って。その理由ってもしかしなくても、例の店があるから?」

「もろち、じゃなかった、勿論。まあ、表向きは『工房の移転に金がかかる』のと、『初心者からベテランまで、客のレベルは問わない以上、ここの方が都合が良い』って言ってるけどな」

「どれも兄さんらしい理由で」

「そりゃあお前、生物の三大欲求である食欲、睡眠欲、そして性欲。この3つを一辺に満たしてくれる素晴らしい店があるんだぞ?お前は知らないかもしれないが、他の街を拠点にしている冒険者でも、あの店を利用するためにこの街に来たり、高レベルであるにも関わらずこの街を拠点にする冒険者もいるくらいだ。そもそも、ギリシャ神話の原初の神々の中に性と愛を司る神がいるように、性欲は全ての源なんだ。だから、あの店にハマってしまうのはしょうがないことなんだ。わかったか?」

「うん。早口で息継ぎなしに言うことから熱意がよ~く伝わった」

 

 だから離れろと、和真がジェスチャーで伝える。無意識に身を乗り出していたようだ。

 

「肝心の鍛冶スキルだが、どうする?明日の朝、スッキリした状態で武器の整備を目の前でやって教えようか?」

「うん。それでいこう」

「わかった……そろそろだな。じゃあ、良い淫夢(ゆめ)を」

「おやすみ~」

 

 俺と和真は毛布を被り、そのまま目を閉じた。

 

 

 

 

 翌朝。

 

『コケコッコー!』

「……おはよう、和真」

「おはよう、兄さん」

 

 鶏の鳴き声を目覚ましに、俺と和真は目を覚ます。和真の様子を見ると、すっきりしたような、穏やかな表情をしていた。

 

「初めてサービスを受けた感想は?」

「……俺、心の底からこの世界に来てよかったと思ってるよ」

 

 和真は満面の笑みで、サムズアップをする。また1人。いや、ダストとキースを含めて3人、サキュバス店の常連が増えたか。良き哉良き哉。

 

「じゃあ、早速始めるぞ。そこに座って待ってろ」

「うん」

 

 俺は井戸から水を汲み、そこに砥石を浸す。浸している間に砥石を置く台と、今回研ぐダガーを用意する。暫く待ち、砥石を台に置いて動かないように固定する。

 

「じゃ、始めるぞ」

 

 ダガーの切っ先を砥石にあて、俺はダガーの研磨を始め──ようとしたところで、とんでもない邪魔が入った。

 

『デストロイヤー警報!デストロイヤー警報!機動要塞デストロイヤーが、現在この街へ接近中です!冒険者の皆様は、装備を整えて、冒険者ギルドへ!そして、街の住人の皆さんは、直ちに避難してくださーいっ!!』




陽樹と和真の夢に出た女性の性格。
陽樹:普段は頑固な堅物だけど、偶に女性的な面を見せてギャップ萌えでこちらを悶えさせる女性
和真:ダラダラ過ごしていても怒らず、甘やかして甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる女性


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10話

少々駆け足ですが、デストロイヤー戦です


 屋敷に走って戻ると、そこには荷車に荷物を積めるだけ積んだアクアと、荷造りを終えて達観したように茶を飲むめぐみんがいた。

 

「逃げるのよ!できるだけ遠くまで逃げるのよ!」

「もうジタバタしても仕方ありません。住まいも全て失うなら、このまま魔王城までカチコミでも行きましょう」

「……な、なあ。お前ら、どうしたんだその状態は?緊急の呼び出しを受けたんだ、装備を整えてとっととギルドに行こうぜ」

 

 和真の言葉に、ようやくアクアとめぐみんが気づいたのか、こちらを向いた。

 

「カズマったら、何を言ってるの?ひょっとして、機動要塞デストロイヤーと戦う気?」

 

 脇に大事そうに枕を抱えたアクアが言う。

 

「カズマ、ハルキ、今この街には、それが通った後にはアクシズ教徒以外、草も残らないとまで言われる、最悪の大物賞金首、機動要塞デストロイヤーが迫って来ています。これと戦うとか、無謀も良いところですよ?」

「ねえ、私の可愛い信者達がどうしてそんな風に言われているの?こないだウィズにも言われたけど、どうしてウチの子達って、そんなに怯えられているのかしら。皆普通のいい子達ばかりなのよ!?」

 

 アクアが喚く横で、めぐみんが説明を続ける。

 

「大物賞金首って言うけど、めぐみんの爆裂魔法で一撃で仕留められないのか?」

「無理です。強力な魔力結界が張られているので、爆裂魔法の1発や2発、防いでしまいます」

「……マジで?」

 

 和真の問いに、めぐみんが首肯する。大きな声で言えないが、俺はそんなにヤバい敵とは知らなかった。ヤバいヤバいとは言われていたが、具体的にどうヤバいのか聞いたことがなかったから。

 

「ダクネスは?まさか、お前らと同じく荷造りしているとか?」

「……遅くなってすまない!カズマとハルキも戻ってきたのか。お前達兄弟のことだ、ギルドに行くんだろう?早く支度をして来い」

 

 和真の質問に答えるように、重武装に身を包んだダクネスが屋敷から出てきた。まあ、聖騎士である以前に、こいつに逃げるという選択肢はないからな。

 

「じゃあ、俺もちょっと部屋で支度してくる。和真はアクアとめぐみんの説得をしておいてくれ」

「わかった」

 

 

 

 

「おっ!来たかカズマ!お前なら来るって信じてたぜ!」

 

 全員が完全武装になってギルドに到着すると、そこにはダストを始めとした、見知った顔の冒険者達が集まっていた。男性冒険者の割合が多いのは、つまりはそういうことなんだろう。

 そして、ある程度冒険者が集まったところで、ギルドの職員が酒場のテーブルを寄せ集めて、即席の会議室を作り出す。

 

「それではお集まりの皆さん、只今より緊急の作戦会議を行います。どうか、各自席に着いてください!」

 

 俺達は職員の指示に従い、他の冒険者達に倣って席に着いた。

 隣を見ると、御剣と目が合った。御剣は俺に無言で一礼し、俺と和真を挟んで隣に座るアクアにも一礼した。

 

「さて、それでは、現状説明からさせて頂きます!……えっと、その前に、機動要塞デストロイヤーについての説明が必要な方はいらっしゃいますか?」

 

 その言葉に、俺と和真を含む数名の冒険者が手を挙げる。

 

「機動要塞デストロイヤーは、元々は対魔王軍用の兵器として、魔道技術大国ノイズで造られた、超大型のゴーレムです。国家予算から巨額を投じて造られたこの巨大なゴーレムは、外観は蜘蛛のような形をしております。小さな城ぐらいの大きさを誇り、魔法金属がふんだんに使われ、外見に似合わない軽めの重量で、8本の巨大な脚で、馬をも超える速度が出せます。特筆するのは、その巨体と進攻速度です。凄まじい速度で動く、8本の脚で踏まれれば、大型のモンスターとて挽肉にされます。そしてその体には、ノイズの国の魔道技術の粋により、常時強力な魔力結界が張られています。これにより、魔法攻撃は意味を成しません。魔法が効かないため、物理攻撃しかないわけですが、接近すば轢かれ、潰されます。なので弓や投石などの遠距離攻撃になりますが、元が魔法金属製のゴーレムのため、弓は弾かれ、投石器も機動要塞の速度からして運用が困難です。更に、このゴーレムは上空からの攻撃を想定して、胴体部分に自立型の中型ゴーレムが、飛来する物体を備え付けのバリスタで撃ち落とし、尚且つ戦闘用のゴーレムも胴体部分に配備されています」

 

 職員が説明していくにつれて、冒険者達の顔が暗くなっていく。

 

「そして、その機動要塞デストロイヤーがなぜ暴れているのか、ですが。研究開発を担った責任者が、この機動要塞を乗っ取ったと言われています。そして、現在も機動要塞の中枢部にはこの研究者がおり、ゴーレムに指示を出しているとか……。速度が速度ですので、この大陸において既に荒らされていない土地はほとんど無く、その蜘蛛のような脚であらゆる悪路を走破してしまいます。現在のところ、人類、モンスター合わせ、平等に蹂躙する機動要塞、それがデストロイヤーです。これが接近してきた場合は、街を捨て、通り過ぎるのを待ち、そして再び街を建て直すしか方法が無いとされています。故に、天災として扱われております」

 

 あれだけざわついていたギルド内部が、一転して静まり返っていた。

 

「現在、機動要塞デストロイヤーは、この街の北西方向からこちらに接近中です。……では、ご意見をどうぞ!」

 

 そして、冒険者が手を挙げては、職員がそれに返答していった。内容としては──

 

 魔道技術大国ノイズはどうなった?→真っ先に滅んだ

 街の周りに巨大な落とし穴を掘るのは?→落としたまでは良いが、上から岩で蓋をする間もなくジャンプした

 魔王軍はどう対処している?→今のところ、魔王城に直接の被害は出ておらず、向こうがデストロイヤーを破壊しようとはしていない

 機動要塞にロープで乗り込むのは?→速過ぎて無理

 デストロイヤーを超える大きなバリケードは築けないのか?→迂回して踏みつぶしていった前例がある

 

 ──といった、ところだ。

 魔法は効かない、接近すれば挽肉、対空もばっちり。チート持ちの日本人集めても厳しそうな相手だ。

 

「なあカズマ。機転の利くお前から、何か案はないのか?」

「んな無茶な……」

 

 無理だと手を振っていた和真は、何かを思い出したようにアクアへ振り返る。

 

「……なあ、アクア。ウィズの話じゃ、お前がいれば魔王軍の幹部2,3人で維持している程度の結界なら破れるとか言ってなかったか?なら、デストロイヤーの結界も……って、なんじゃこりゃあ!」

 

 和真の声につられてテーブルを見ると、そこには美しい天使が花を手に戯れる姿が描かれていた。まさか、手元のコップの水で描いたのか?

 

「ああ、そんな事言ってたわね。でも、やってみないと分からないわよ?結界を破れる確約はできないわ」

「そうか……って!何で消してんだよ!勿体ない」

「な、何よ急に。描き終わったから消して、また新しいのを……」

 

 そんな2人のやり取りが聞こえたのか、職員が大声をあげた。

 

「破れるんですか!?デストロイヤーの結界を!?」

 

 その言葉に、和真とアクアに冒険者達の視線が集中する。

 

「い、いや、もしかしたらって事で。確約はできないそうです」

 

 慌てて言う和真の言葉にギルド内がざわめく。

 

「一応、やれるだけやっては貰えませんか?それができれば魔法による攻撃が……!あ、いやでも。機動要塞相手には、下手な魔法では効果が無い。駆け出しばかりのこの街の魔法使いでは、火力が……」

「いや、火力なら誰にも負けないのがうちのパーティーにいるじゃないか。なあ、めぐみん」

 

 俺の言葉に全員がはっとしたように、めぐみんに全員が期待の眼差しを向ける。向けられた本人は、顔を赤らめてモジモジして……

 

「わ、我が爆裂魔法でも、流石に一撃では仕留めきれない……と、思われ……」

 

 そうぼそぼそと告げて、帽子を深く被って顔を隠した。

 なら、あと1人。あと1人強力な魔法使いがいれば……

 ギルド内の空気が、そんな雰囲気になった中、突然入り口のドアが開けられた。

 

「すいません、遅くなりました!ウィズ魔道具店の店主です。一応冒険者の資格を持っているので、私もお手伝いに参りました!」

 

 ギルドに入ってきたのは、何かの作業中に慌てて飛び出してきたのか、黒のローブの上にエプロンをつけたウィズだった。

 

「店主さんだ!」

「貧乏店主さんが来た!」

「これで勝てる!勝てるぞ!」

 

 そのウィズを見た冒険者達は、熱烈な歓声を上げた。

 そういえば、前に本人が言ってたな。昔はアークウィザードとして、立ちはだかるモンスターを片っ端から蹴散らしていた、って。

 

「ど、どうも、店主です、ウィズ魔道具店をよろしくお願いします……。店主です、よろしくお願いします……。店をよろしくお願いします、また赤字になりそうなんです……」

 

 そう言って、ウィズは歓声を上げる冒険者達に頭を下げて店の宣伝をする。

 ……今度、店の商品を買ってこよう。

 

「ウィズ魔道具店の店主さん、これはどうもお久しぶりです!ギルド職員一同、歓迎致します!さ、こちらにどうぞ!」

 

 職員に促されるまま、ウィズは頭を下げながら、中央のテーブルの席に座った。

 ウィズが席に着くと、冒険者達は期待を込めた目で、進行役の職員を見る。

 職員はそれに応えるように。

 

「では、店主さんにお越し頂いた所で、改めて作戦をお伝えします!……まず、アークプリーストのアクアさんが、デストロイヤーの結界を解除。そして、めぐみんさんが結界の消えたデストロイヤーに爆裂魔法を撃ち込む、というお話になっておりました」

 

 それを聞いたウィズが、口に手を当てて考え込む。

 

「……爆裂魔法で、脚を破壊した方が良さそうですね。デストロイヤーの脚は本体の左右に4本ずつ。これを、めぐみんさんと私で、左右に爆裂魔法を撃ち込むのは如何でしょう。機動要塞の脚さえ何とかしてしまえば、後はなんとでもなると思いますが……」

 

 ウィズの提案に、職員も頷く。更に、万が一に備えて街の前に罠を設置する、バリケードを造るなど、色々な案が出され。

 

「では、結界解除後、爆裂魔法により脚を攻撃。万が一脚を破壊できなかった事を考え、前衛職の冒険者各員は打撃武器を装備し、デストロイヤー通過予定地点を囲むように待機。魔法で破壊し損なった脚を攻撃し、破壊。要塞内部にはデストロイヤーを開発した研究者がいると思われますが、この研究者が何かをするとも限りません。万が一を考え、本体内に突入もできるようにロープ付きの矢を配備し、アーチャーの方はこれを装備。身軽な装備の人達は、要塞への突入準備を整えておいてください!」

 

 

 

 

 デストロイヤーを迎撃する予定の場所である、街の正門前に広がる平原。

 街の前には、冒険者だけでなく、街の住人達も集まって、突貫作業で即席のバリケードが組み上げられていた。

 バリケードの前には、《クリエーター》という職業の冒険者が集まり、議論を交わしながら地面に魔法陣を描いていた。

 

「おいダクネス、悪いことは言わないから、下がれよ。お前の硬さは知っているけど、今回は相手が悪い。ここは趣味よりも、生き延びることを優先して、後ろのほうに下がっておけって」

 

 俺は、街の正門のバリケード、その更に前に仁王立ちするダクネスの説得を続けていた。

 ダクネスは大楯を背中に背負い、遥か遠く、まだ姿も見えないデストロイヤーの方を見ながら動かない。

 

「……ハルキ。私の普段の行いのせいでそう思うのも仕方が無い。……が、この非常時に、この私が欲望にそこまで忠実な女だとでも思うか?」

「普段の行いを見ていればそう思うな」

 

 一瞬静かになったダクネスが、ちょっと頬を赤らめてそのまま続けた。

 

「……この私は聖騎士だ。そして、それ以外にも、私にはこの街を守る理由がある。その理由は、お前も知っているだろう?」

「……貴族の務め、か」

「そうだ。私には、この街の住人を守る義務がある。だから、無茶と言われようと、ここからは何が起きても1歩も引くわけにはいかない」

 

 ダクネスの石頭ぶりにやれやれと俺は肩を竦め、丈夫な縄を取り出して渡す。

 

「ハルキ、この状況で緊縛プレイはどうかと思うぞ」

「違うわ!本当に危なくなったらそれを引っ張って逃げるから渡しただけだ!」

「冗談だ。腰に巻き付ければいいか?」

「そうしてくれ」

 

 俺は大楯を持ち、ダクネスが縄を腰に巻き付けるのを待つ。

 

「……よし、これで大丈夫だろう」

「おう。じゃあ、あとは任せたぞ……ララティーナ」

「その名で呼ぶな!」

 

 俺は、ダクネスのもとから移動し、バリケードの方に移動する。バリケードの上には足場が3つあり、向かって右には和真とめぐみん、真ん中にはガイナ立ちしているアクア、そして左にはウィズがいた。俺は和真とめぐみんのほうに移動し、地上から大声で話しかける。

 

「すまん!ダクネスの説得は失敗した!」

「わかった!兄さんはロープ付きの矢を持って待機してて!」

「おう!」

 

 俺は職員からロープ付きの矢を受け取り、キース達アーチャー職に混ざって準備する。

 そして暫く待つと──

 

『冒険者の皆さん、そろそろ機動要塞デストロイヤーが見えてきます!街の住人の皆さんは、直ちに街の外に遠く離れてください!それでは、冒険者の各員は、戦闘準備をお願いします!』

 

 ──機動要塞デストロイヤー。

 それは、何処かのチート持ちの日本人(せんぱい)が、冬将軍のように適当につけた名前らしい。

 そんな適当につけられた名前ではあるが、その姿を見れば誰もが納得するだろう。

 遠く離れた丘の向こうから、最初にその頭が見えた。今はまだ軽いものだが、震動を感じる。

 

「「『クリエイト・アースゴーレム』!」」

 

 クリエイターの皆さんの作り出したゴーレムが、ダクネスに付き従うように背後に整列した。

 

「でけえ!それに速え!そんでもって怖え!」

 

 近づいてくる巨大な姿を前に、冒険者達がパニックを起こしかけていた。

 そして、その巨大な機動要塞がすぐそこまで接近し、迎撃地点に入ると。

 

『アクア!今だ、やれ!』

「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」

 

 現場指揮を任されていた和真の合図で、魔法を放つ。

 アクアの放った魔法がデストロイヤーに衝突すると、薄い膜のようが張られて抵抗されるが、それが硝子のように粉々に砕け散る。

 おそらく、あの弾けた膜が魔力結界なのだろう。

 

『ウィズ!そっちの脚を頼む!』

 

 そして、ウィズとめぐみんが同時に放った爆裂魔法が、デストロイヤーに向けて、全く同じタイミングで放たれる。

 

「「『エクスプロージョン』ッッ!!」」

 

 デストロイヤーの脚は粉々に粉砕され、その巨体が地面に底部をぶつけ、慣性の法則に従って街に向かって地を滑る。

 その巨体は街の前のバリケードに到達することなく、仁王立ちするダクネスの目と鼻の先で動きを止めた。

 デストロイヤーの脚だったものの破片が降りやむと、冒険者達から感嘆の声が上がりだす。

 だが、こういった時ほど警戒を怠るなと、俺はゲームや映画で学んだ。そう、こういう時に……

 

「やったわ!何よ、機動要塞デストロイヤーなんて、大げさな名前の割には大したことないじゃない!さあ、帰ってお酒でも飲みましょう!なんたって、1国を亡ぼす原因になった賞金首よ、報酬は一体お幾ら万エリスかしらね!!」

「「馬鹿かお前はー!」」

 

 アクアのような発言をしてはいけない!

 そして、それに応えるように、地面が揺れ始めた。おそらく、震源は目の前で沈黙しているデストロイヤーだろう。

 

『この機体は、機動を停止致しました。この機体は、機動を停止致しました。排熱、及び機動エネルギーの消費ができなくなっています。搭乗員は、速やかにこの機体から離れ、避難してください。繰り返します……』

 

 機体内部からのその音声は、機械的に何度も繰り返された。

 

 

 

 

 デストロイヤーの中から響く避難命令に、冒険者達は討伐を諦め、住人の避難を優先しようと下がり始める。

 

「おいダクネス!逃げるぞ!このままだと皆死ぬ!」

「それはできない!皆が安全な場所に逃げるまで、私は逃げない!それに……」

「それに?」

 

 ダクネスの息遣いが段々荒くなり、頬も紅潮しだした。

 

「街を吹き飛ばすほどの爆弾に、身を晒していると思うと……もう辛抱たまらん!」

 

 あぁ、駄目だ。良くないスイッチが入ってしまった。

 

「ハルキ!私は突撃する!援護してくれ!」

「え!?ちょ、待てよダクネス!」

 

 両手剣を振り回して突撃するダクネスの後に続き、俺もデストロイヤーに向かう。

 フック付きの矢を放つと、ダクネスがローブを掴んで凄まじいスピードで甲板に乗り込んでいく。

 

「ヒャッハー!」

 

 甲板に配備されているゴーレムにダクネスが奇声を上げて突撃し、ゴーレムも侵入者(ダクネス)の迎撃を行う。

 

「いいぞ!もっとだ、もっと来い!」

「ふん!おらぁ!」

 

 ゴーレムが殴る蹴るなどの攻撃を行うが、硬いだけが取り柄のダクネスはそれを受けても平然としている。俺はダクネスに狙いが定まっている隙に、ゴーレムの膝をハンマーで破壊し、倒れた所で頭部をハンマーで叩き潰している。

 

「「「乗り込めー!」」」

 

 3体ほどゴーレムを倒したところで回りを見渡してみれば、何時の間にか乗り込んでいた街の冒険者達がゴーレムを破壊していた。……冒険者がウィズとアクアを除いて男性しかいないのは、つまりそういうことなんだろう。少しは俺の工房の心配もしてくれないものか。

 そして、ゴーレムをあらかた殲滅したところで、狙いをデストロイヤーの研究者に切り替え、砦のような建物に突入し、扉を破壊して内部を突き進んでいく。

 

「……なんだ、こりゃあ」

 

 そして、建物の奥。部屋の中央の椅子には、デストロイヤーを乗っ取った研究者と思われる白骨死体が発見された。そして和真とアクアが部屋に入り、アクアが研究者の骨に触れると、言った。

 

「既に成仏しているわ。アンデッド化どころか、未練の欠片もないぐらいにそれはもうスッキリと」

「「「……は?」」」

「いやいや、未練の1つぐらいあるだろ。これ、どう考えても1人寂しく死んでった、みたいだぞ」

 

 俺達が首を傾げ、和真が言うと、アクアは何かを見つけたようだ。

 それは、机の上に乱雑に積まれていた書類に埋もれた、1冊の手記。

アクアはそれを手に取るとページを捲り、読み上げた。そして、それを要約すると──

 

 ・国の偉い人が低予算で機動兵器を作れと言った。無茶だと抗議しても聞く耳もたず、辞職願いも受理されない

 ・設計図の期限が迫ってきたけど、まだ白紙。悩んでいると嫌いな蜘蛛がでたので、手近にあった物で叩き潰した。やけくそになって、このまま提出

 ・まさかの採用。そして自分抜きで計画が進んでいく。

 ・動力源を何とかしろと言われたが、知ったことか。伝説のコロナタイトでも持ってこいと言ってやった

 ・本当に持ってきちゃった。どうしよう、これで動かなかったら物理的に首が飛ぶ。動いてくださいお願いします

 ・明日が機動実験とか言ってたが、知ったことじゃない。最後の晩餐になるかもしれないから、思いっ切り飲んでやる

 ・目が覚めたら、凄い揺れを感じた。何で揺れてるのかわからないけど、昨日酔った状態でコロナタイトに向かって説教して、根性焼きするとか言って煙草に火をつけた気がする

 ・現状把握。現在、機動要塞が暴走中。指名手配されているだろうけど、寝て起きてからどうするか考えよう

 ・国 が 滅 ん だ。国の偉い人とか国民も避難しただろうけど、結果的に国が滅んだ。なんかスカッとしたから、ここで余生を暮らそう。幸い、食料と水もある。だって止められないし、降りられない。これ作った奴、絶対馬鹿だろ。まあ、俺のことなんですけど!

 

 そしてそこまでアクアが読み上げ、手記を閉じると、アクアが言った。

 

「……お、終わり」

「「「なめんな!!」」」

 

 アクアとウィズ以外が、見事にハモった。

 そして、和真とアクア、ウィズの3人が機動要塞の中枢に向かった。その頃、俺達は研究者の骨を地上まで運び、木箱に収めていた。

 

「和真!どうだった?」

「コロナタイトはランダムテレポートで飛ばした。俺の幸運があれば、無人の場所に送られただろ」

 

 和真の言葉に冒険者達が戦勝ムードになる中、ダクネスだけが険しい表情をしていた。

 

「どうしたダクネス。和真もああ言ったんだ。そろそろ屋敷に帰って、ちょっと豪華な飯にでもしようぜ」

「いや、まだ終わっていない。私の、強敵を求める嗅覚が、まだ危険の香りを感じ取っている」

 

 ダクネスの言葉に反応するかのように、デストロイヤー本体が振動音と共に震えだした。

 

「おいカズマ!何がどうなってんだ!?」

「わからねえよ!デストロイヤーはコアを抜いたはずなのに、これ以上何をしろってんだ!?」

 

 俺達だけでなく、冒険者達も慌ててデストロイヤーから距離を取る。

 

「ど、どうしましょう!これまで内部に溜まっていた熱が、外に漏れだそうとしているんです!流石にあの大きさをテレポートさせるのはできません!デストロイヤーの前面部に、大きな亀裂が見えるでしょう?あそこから熱が漏れ出しています!このままでは、あそこから街目がけて……」

「カズマさーん!カズマさーん!早く何とかしてえー!?」

 

 ウィズの言葉を遮り、アクアが和真に無茶な要求をふっかけた。

 

「ま、魔力を!誰か魔力を──むぐっ!?」

「落ち着けウィズ!ここでウィズがドレインタッチを使うのはマズい!俺がアクアから魔力を吸って受け渡す。それで爆裂魔法で吹き飛ばしてくれ。手間はかかるけど、それしかない」

 

 ウィズが唐突に言いそうになったところで和真が口を塞ぎ、小声で囁く。

 そして和真が事情を説明してアクアの手首を掴もうとすると、アクアが猛反対した。自分の神聖な魔力を大量注入したら、ウィズが成仏してしまうそうだ。

 

「じゃ、じゃあ、兄さんの魔力をウィズに分け……」

「いや、あそこで自分にやらせろとめぐみんがアピールしている。めぐみんにアクアの魔力を受け渡してやれ」

 

 俺が指さす先では、木陰で休みながら、杖をカンカン鳴らして自己主張しているめぐみんがいた。

 

「凄いです、これは凄いですよ!アクアの魔力は凄く凄いです!これは、過去最大級の爆裂魔法が放てそうです!」

「ねえめぐみん、まだかしら!もう、結構な量を吸われていると思うんですけど!」

 

 アクアとめぐみんの首根っこを和真が掴み、ドレインタッチで魔力の吸収と受け渡しを行っていた。

 

「……大丈夫です!いけます!」

 

 めぐみんが左目の眼帯を毟り取り、杖先をデストロイヤーに向けて唱える。

 既に聞き慣れた爆裂魔法の詠唱が、冒険者達が遠巻きに見守る中に響き渡った。

 

「他はともかく、こと爆裂魔法に関しては!私は、誰にも負けたくないのです!行きます!我が究極の破壊魔法!──『エクスプロージョン』!」

 

 

 

 

 機動要塞デストロイヤー迎撃戦から、数日が経過。

 そして今日、ギルド内は異様な熱気に包まれていた。

 その理由は言わずとも、熱気から伝わるというもの。

そして、ギルドの隅のテーブルで俺と和真は算盤を弾き、貰える報酬の予想と、借金がどれだけ減るかの計算をしていた。

 

「俺の予想では、借金が全部なくなる。そして、暫く食う分には困らない程度の金が残ると思う」

「俺も概ね同じかな。ただ、それに加えて、あの屋敷を正式に購入するだけの金が残ると思う……まあ、貯めた金で家を買って兄さんと暮らす、という目標が達成できたらなーという願望でちょっと報酬を盛りました」

 

 良い弟を持ったな、と近くにいたダクネスは言う。もっと多く貰えるはずだとアクアとめぐみんは言い、計算のし直しを要求してきた。

 そして、少しするとギルド内のざわめきが止まり、少し暗い表情のギルド職員の隣に、騎士を2人従えた、黒髪の女性が立っていた。

 今回倒した賞金首は、魔王軍の幹部どころじゃない、各地の街や国々を脅かした大物だ。なので、ギルド職員ではなく、国の騎士から直々に報酬を貰えるのだろう。

 そんな期待に目を輝かせている和真と、その女性の目が合った。

 和真を見つめるその眼差しは、決して軽いものではない、とても情熱的なものだった。喩えるなら、そう──親の敵を見るような、厳しい眼差し。

 

「貴方が、冒険者、サトウカズマですね?貴方には現在、国家転覆罪の容疑がかけられています!自分と共に来てもらおうか!」




次回からアニメ2期分です


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11話

アニメ2期、始まります


 機動要塞デストロイヤー。

 それは、誰かが名付けたふざけた名前とは裏腹に、世界中の人々に恐れられていた、大物賞金首。

 先日、和真を筆頭にした俺達冒険者の活躍により撃退され。

 そして現在、デストロイヤー討伐の賞金が配られるということで来たわけだが──。

 

「あの、すいません。なぜ国家転覆罪の容疑をかけられているのか、理由を教えてください。本人も身に覚えがないようですし」

「ちょっとカズマ!しっかりしなさい!」

 

 俺の隣では、アクアが白目を剝いて気を失っている和真に往復ビンタをしていた。

 2,3回ほど受けて和真が復活すると、女性は口を開いた。

 

「そのようですね。……自分は、王国検察官のセナ。サトウカズマさん、貴方は先日のデストロイヤー討伐の際、コロナタイトをテレポートさせましたね?」

「はい」

「それが、この地を治める領主殿の屋敷に転送され、屋敷を爆破した」

 

 その言葉に、ギルド内が静まり返った。

 

「と、ということは、俺のせいで領主殿はお亡くなりに……」

「いいえ。幸い、領主殿は地下室におられ、使用人は出払っていたので、死傷者は出ていません。ですが先ほども言ったように、貴方にはテロリストか魔王軍の手先ではないかとの嫌疑がかかっています。詳しいことは、署のほうで聞かせていただきます」

 

 セナの言葉に静まり返っていたギルド内がざわめきだした。

 

「すいません。いくら相手が街の領主を務める貴族でも、さすがに国家転覆罪は重すぎではないでしょうか」

 

 俺の言葉に、ギルド内から和真を擁護する声があがる。

 

「ちなみに、国家転覆罪は主犯以外の者にも適用される場合があります。裁判が終わるまでは、言動に注意したほうがいいですよ」

 

 セナが冷たく言い放った言葉に、俺達は口を閉ざす。

 これはマズいな、非常にマズい。デストロイヤー戦での和真の活躍を知っている身としては、ここで和真の擁護をしたい。しかし、それで俺も和真と同じように捕まれば、裁判で和真の弁護をまともにできそうな人間は、俺のパーティーではダクネスのみになってしまう。

 どうしたものかと悩んでいると、和真が1歩出て、両手を差し出す。

 

「兄さん。ダクネス。裁判当日は、俺の弁護お願い。めぐみんとアクアは、裁判当日まで大人しくしてくれ」

「ちょっとカズマ!あんた何言ってんの!」

「そうですよ!大人しくついていくつもりですか!?」

「ここで和真が無駄な抵抗をしても仕方ないだろ」

「……すまない、カズマ」

「もとはと言えば俺の指示で起きたから、気にしなくていいよ」

 

 和真が大人しく同行することに検察官は少々驚いたようだが、そのまま2人の騎士に連れられ、和真はギルドを去っていった。

 

 

 

 

 翌日。

 

「さて、どうやって和真の無罪を勝ち取るかね……」

 

 俺はルナさんから借りた六法(ギルドの備品)と睨めっこをしながら、和真をどう弁護するか頭を抱えていた。

 

「なあハルキ、俺達が言えたことじゃないが、もう少しカズマを擁護する発言をすべきだったんじゃないのか?お前、あいつの兄なんだろ。すいませーん、クリムゾンビア1つ」

 

 六法のページをめくっている俺と対面するように、テイラーが座って酒を注文していた。

 

「そうは言うがな、テイラー。まずは俺のパーティーのメンバーから和真を抜いた4人をイメージしてくれ」

「えっと、お前、ダクネス、めぐみん、アクアの4人だな」

 

 酒が来るのを待つテイラーが、指折り確認する。

 

「その中で、和真の弁護ができそうな人間は何人いる?」

「お前とダクネスしかいねえな」

「そこから俺が万が一抜けたら、どうなる?」

「……ダクネスの奮闘空しく、余計に罪が重くなる未来しか見えねえな」

 

 俺の考えを察したのか、テイラーが俺に同情の眼差しを向けてくる。

 この世界には、俺達のいた世界と違って弁護士という役職が存在しない。そのため、被告人の弁護をするのは被告人の知人や友人だ。

 まず、普段からトラブルを引き起こしているアクアは論外。爆裂魔法関係でやらかしているめぐみんも残念ながら除外。実際、昨夜遅くの爆裂騒ぎで検察官が屋敷に来た。となると、和真の弁護をまともにできるのは俺とダクネスだけになる。まあ、ダクネスの家の権力で刑の執行を遅らせることはできるけれど、本人は権力の濫用を良しとしないし、そもそもダクネスが貴族なのを知っているのは現状俺とクリスだけだ。

 

「まあ、そういうわけで、俺はああするしかなかったんだよ。その分、裁判では出来る限りのことはするさ。……そういえばテイラー、お前が昼から酒を飲むとは珍しいな。どんな風の吹きまわしだ?」

「それが聞いてくれよハルキ!」

 

 テイラーが勢いよく拳をテーブルに叩きつけて立ち上がる。

 

「ダストの野郎、散々ツケで飲み食いして借金してギャンブルしやがって。それで賞金が思ったよりも少なかったからって、無銭飲食で捕まりやがった!飲まなきゃやってられねえよ、畜生!」

 

 ちょうど来た酒を受け取り、テイラーはジョッキを一気に傾けて飲み干す。

 

「クリムゾンビア、おかわり!」

「はーい」

「お前も飲むか?」

「いらん」

 

 その後、俺はテイラーの愚痴をBGMに六法を読み、和真の弁護を考えていった。

 

 

 

 

 そして、裁判当日。

 

「すいません、裁判の前にバケツ持ってきてください!カズマが今にも吐きそうなので!」

 

 めぐみんの言葉を聞き、和真の様子を見た騎士が大急ぎでバケツを持ってきて、裁判所の隅に和真を誘導する。

 

 ~暫くお待ちください~

 

「和真。俺達がついているから、そんなに緊張しなくていいぞ」

「……うん」

 

 戻ってきた和真の背中をさすりながら、なんとか安心させようと言葉をかける。ダクネスとめぐみん、アクアも続いて声をかけるが、和真はアクアの言葉をスルーした。

 

「ではこれより、国家転覆罪に問われている被告人、サトウカズマの裁判を始める!告発人は、アレクセイ・バーネス・アルダープ!」

 

 裁判長の呼びかけに、太った男が立ち上がった。

 縦にも横にも大きく、頭が禿げ上がり、脂で光っている。悪徳貴族を絵にかいたような外見の中年の男は、アクアとめぐみんを値踏みでもするような、舐めまわすような目で見た後、ダクネスを見て驚愕に目を見開く。

 

「ねえねえ、あのおじさん、超こっち見てるんですけど。それでいて凄く邪なものを感じるわ。ちょっとあの人に聖なるチョキをしたいんですけど」

「おいやめろ、これ以上問題を起こして俺を不利にするな。ていうか、さっきからダクネスをずっと見てないか?」

「ええ、見てますね。例えるなら、風呂上りで薄着の私達を見るときのカズマとハルキの目と同じですよ」

「おっと。兄さんはともかく、俺を同列に扱うのはやめてくれ」

「和真、裁判が終わったらサッカーをしようか。お前ボールな」

「なんでもないですごめんなさい。……でも、ダクネスはどうなんだ?あのおっさんの視線、やっぱり気になるか?」

「いや、そうではないが……詳しくは後で話そう」

 

 俺達が話していると、机に木槌が落とされた。

 

「静粛に!裁判中は私語を慎むように。では、検察官は前へ!ここで嘘を吐いてもこの魔道具で直ぐに分かる。それを肝に銘じ、発言するように」

 

 裁判長の発言と同時に再び木槌が振り下ろされ、それと共にセナが立ち上がり起訴状を読み上げた。その間、アクアが何か言いそうだったので、俺とダクネスは必死でアクアを黙らせていた。

 それに続いて裁判長に促され、和真が陳述を行う。多少盛ってはいたが、嘘偽りは言っていないため、嘘を探知する魔道具は沈黙していた。

 

「では、検察官。被告人に国家転覆罪が適用されるべきだとの、証拠の提出を」

 

 裁判長がセナに証拠提出を促すと、セナの合図を受けた騎士が裁判所の待合室に向かう。

 

「では、これより証拠の提出を行い、被告人が、国家転覆を企むテロリスト、若しくは魔王軍の関係者である事を証明してみせます。さあ、証人をここへ!」

 

 セナの合図で、騎士が証人達を連れてきた。その殆どが冒険者、というか……

 

「あははは……。なんか、呼び出されちゃった……」

 

 和真を見て困ったように、頬の傷跡をポリポリと描くクリスを筆頭に、御剣と仲間の女性2人、ダストが呼ばれていた。

 

 

 

 

「ということでクリスさん。貴方は、公衆の面前でスティールで下着を剥がれたと。そういうことで間違いありませんね」

「え、ええ。でもあれは──」

「事実の確認が取れただけで結構です。ありがとうございました」

「ちょっと待」

 

 これは非常にマズい。セナが証人への質問を手早く打ち切っていく。続く御剣も魔剣を奪って売り払われ、取り返そうとした仲間が下着を剥ぎ取られそうになったと、仲間の女性が証言した。そして、ダストはというと……。

 

「ダストさん。貴方は、あそこにいるサトウカズマと仲が良いと聞きました。間違いありませんね?」

「間違いなんてあるわけねーだろ。ダチだよダチ。親友だ。一緒に酒を飲んだりした仲だ」

 

 セナはそれを聞き、和真に向き直ると訊ねた。

 

「サトウカズマさん。貴方は、この素行の悪いチンピラと親友なのですね?」

「いいえ。ただの知り合いです」

 

 和真の発言に、魔道具は反応しなかった。

 知り合い呼ばわりされたダストが泣き叫び、喚くが、騎士に連れられて退廷していった。

 

「最後の1人は証人としては不十分でしたが、今お見せした証人達は、被告人の人間性を証言してくれたかと思います。そして、被告人は被害者に対して恨みを持っていました。これらの事から、被告人は事故を装い、ランダムテレポートではなく通常のテレポートによる転送で被害者宅にコロナタイトを送り付けたのでは、と」

 

 セナの発言を受け、めぐみんが挙手する。

 

「弁護人、どうぞ」

「はい!カズマの性格が曲がっているのは認めましょう。ですが、今の発言には違和感しか感じません!もっとマシな根拠を持ってきてください!」

 

 めぐみんに同調するように、アクアがそうだそうだと言う。

 

「いいでしょう……1つ!冒険者サトウカズマ率いる一行は、魔王軍幹部ベルディア戦において、結果的に討伐は成し遂げたが、街に大量の水を召喚し、洪水による多大な被害を負わせ──」

 

 アクアが耳を塞ぐ。

 

「2つ!共同墓地に巨大な結界を張り、墓場の悪霊の居場所を無くし、この街に悪霊騒ぎを引き起こし──」

 

 アクアが俯いて座り込んだ。

 

「3つ!連日、街の近くで爆裂魔法を放ち、街の近辺の地形や生態系を変え、この数日においおては深夜に街の目の前で爆裂魔法を放ち、住人を夜中に起こし──」

 

 めぐみんが耳を塞いで座り込んだ。

 駄目だこいつら。俺が何とかしないと。

 

「そして4つ!被告人はアンデッドにしか使えないスキル、ドレインタッチを使ったという証言があります!……耳を塞いでも、なかったことにはできませんよ!」

 

 アクアやめぐみんと同じように、和真が耳を塞いだ。

 

「最も大きな根拠として、署内での取り調べの時に、貴方に魔王軍の者との交流はないかと訊ねたところ、貴方は交流などないと言いました。その時、魔道具が嘘を感知したのです。これこそが証拠なのではないでしょうか!?」

 

 魔王軍の者……ウィズのことかぁ。大方、ウィズが魔王軍の幹部だってことをうっかり忘れてしまったんだろう。和真がやりそうなことだ。

 座り込んでいるアクアとめぐみんを放置し、俺が挙手する。

 

「弁護人。どうぞ」

「はい。セナさん。貴女は先ほど、和真は事故を装い、領主殿の屋敷にコロナタイトを転送させたのではないか、と言いましたね?」

「ええ」

「……ところで和真、お前は領主殿の屋敷が何処にあるのか知っていたか?」

「知らない」

 

 和真の答えに、魔道具は反応しなかった。

 

「セナさん。仮に貴女の言った通りであったとすれば、前提として和真は領主殿の屋敷の所在を把握していなければならない。ですが、この通り和真は領主殿の屋敷が何処にあるか知らない。つまり、これは意図して起こしたものではなく、起きてしまった事故なのです」

「で、では、魔王軍の者との交流はどうなるのですか!?」

「いくら兄でも、弟の動向を24時間把握しているわけではありませんので、本人の口から聞きましょう。和真、お前は魔王軍の関係者か?」

 

 俺が言うと、皆の視線が和真に集まる。

 

「……俺は、魔王軍の関係者でも、テロリストでもない!ただ皆と平穏な毎日を送りたいだけの冒険者だ!」

 

 和真の言葉に、魔道具は反応しなかった。検察が魔道具での取り調べの結果を証拠にするのなら、魔道具による反応でこちらも対抗するまでだ。

 裁判長が、ゆっくりと首を振る。

 

「魔道具による嘘の判別は、この様に曖昧なものなのです。これでは、検察の証拠を認める訳にはいきませんね。流石に証拠不十分です。よって。被告人、サトウカズマ。貴方への嫌疑は不十分とみなし──」

「いいや裁判長」

 

 判決が下されようとしたところで、今まで沈黙していた領主が、急に口を開いた。

 

「その男は魔王軍の関係者であり魔王軍の手先だ。ならば、その男は死刑が妥当だ」

 

 領主が立ち上がり、そんなことを言う。

 それに対し、今度はセナが──。

 

「いえ、今回の事例はでは死傷者もなく、流石に死刑を求刑するほどでは……」

 

 そう領主に告げると、領主はセナのほうをジッと見つめた。

 

「…………ええ、そうですね。確かに死刑が妥当だと思われます……あれ?私は一体何を……」

 

 何だこれは、何が起きているんだ?

 言った本人が困惑顔で首を傾げている。

 と、その時、アクアが突然裁判長、領主、セナの3人を指さし。

 

「ちょっと!今何か、邪な力を感じたわ!どうやらこの中に、悪しき力を使って事実を捻じ曲げようとした人がいるわね!」

 

 突拍子もないアクアの発言に、法廷内が静まり返る。アクアの普段の言動を知る人達は、若干胡散臭いものを見るかのようだが。

 魔道具も沈黙していることがわかると、場の空気が一変した。

 仮にも聖職者であるアクアの言葉に信憑性があると判断したのか、裁判長の顔色が変わった。

 

「悪しき力……。神聖な裁判で、何か不正をしている者がいる、と?」

「ええそうよ。この私の目はね、そこの魔道具なんかより精度が高いわよ!何を隠そうこの私は、この世界に1千万の信者を有する水の女神!アクアなのだから!」

 

 ──チリーン

 

 そのアクアの宣言に、季節外れの涼し気な音が響き渡った。

 

「なんでよー!私、嘘なんて言ってないのにー!」

 

 信じてもらえずアクアが泣き喚くが、裁判長は悩まし気に首を傾げ、後ろの傍聴席はざわついている。

 今のアクアの発言に反応した、しかし前の発言では反応しなかった。つまり、アクアが言う通り悪しき力を使った者がいるかもしれないということ。だが、裁判長が魔道具による嘘の判別は曖昧だと言った以上、一連の発言の真偽の判別も曖昧になってしまう。

 

「──裁判長。これを」

 

 その時、これまで沈黙を貫いていたダクネスが、胸元からペンダントを取り出し、裁判長に見せる。

 

「そ、それは……では、貴女は……!」

 

 それを見た裁判長が、驚きに立ち上がり、目を見開く。

 皆の注目を集める中、ダクネスは静かに言った。

 

「この裁判、私に預けてもらえないだろうか。なかったことにしてくれ、と言っているのではない。時間を貰えれば、この男が魔王軍の手の者ではないと、必ず潔白を証明してみせる。そして、貴方の屋敷も弁償させよう」

 

 ダクネスが見せる紋章を凝視したまま、裁判長とセナは固まっている。

 そんな中、領主だけは幾分怯みながらも抗議の声を上げた。

 

「それは……!し、しかし、いくら貴女の頼みでも……!」

「これは私から貴方に借りを作ることになる。だから私にできることなら、何でも言う事を聞こう」

 

 ダクネスがそう告げると、領主はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「……な、何でも……?」

「そうだ、何でもだ」

 

 その言葉に、領主は椅子に腰かけると頷く。

 

「いいでしょう。他ならぬ貴女の頼みだ、その男に猶予を与えましょう」

 

 

 

 

 裁判所から解放された俺達は、屋敷の居間で茶を啜っていた。

 

「ひとまず、和真の処分は保留。となると、俺達が今すべきは証拠集めと、領主の屋敷の弁償代の確保か」

「そうだね。てかダクネス、あのアルダープっておっさんと知り合いだったの?」

「……まあな。私がまだ子供の頃から、私に対して偏執的な執着を見せる男だ。妻を亡くしてからは、何度も婚姻を申し込まれたものだ。私の父が、歳の差を理由に毎回断っているのだが」

 

 あのおっさんこそ真っ先に裁判にかけるべきではないだろうか。俺達はそう考えた。

 

「大丈夫ですか?ダクネス。そんな相手に何でも言うことを聞くと言ってしまって」

「あのおじさん、ダクネスを見る目が危なかったわね。凄いことを要求されちゃうんじゃないかしら」

「……す、凄い、事……」

 

 俺達の心配を返してほしい。




次回、ぼっち娘現る


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12話

やっとダクソ3の誓約アイテムマラソンを終え、2周目に入りました。誰か褒めてください、癒しをください

お気に入り件数200……200!?ありがとうございます!ありがとうございます!


 裁判が終わり、数日後。

 

「ねーカズマ。ダクネスはー?ダクネスはまだ帰って来ないのー?」

 

 広間の暖炉の前に置かれた、自分の特等席だと決めているソファーの上で、膝を抱えたアクアが退屈そうに言ってきた。

 

「兄さん兄さん」

「どうした?」

「ん」

 

 アクアに聞こえない程度の声で和真が俺に話しかけ、自分の耳を指さす。

 聞き耳を使え、ということだろう。俺は聞き耳を使い、和真の声に耳を傾ける。

 

「ダクネスって、どっかの貴族のお嬢様だったりしない?それも、かなりの上級の」

「……何処とは言えないが、そうだ。しかし、よくわかったな」

「ほら、ダクネスって普段の言動はアレだけど、それ以外の面からどことなく気品のようなものを感じるから『もしや?』と思ってさ。で、この間の裁判で確信したんだよ。裁判長を始めとした、あの3人の反応からさ」

「なら、俺が何で黙っているのかもわかるな?」

「うん。例えば、今もソファーでぐだぐだしている穀潰しとかでしょ。俺も黙っておくよ、本人の口から話すまではね」

「そうしてくれ」

 

 和真との話を終えた頃、あるものを抱きかかえためぐみんが広間に入ってきた。

 朝食後だったのは、食事中に横から奪いにくるのを防ぐためなんだろう。

 

「なーお」

 

 猫という生き物が、めぐみんの腕の中で鳴く。

 

「えーと、こいつを屋敷で飼いたいってか?」

「はい。大人しい子なので、迷惑はかけないと思うのですが……駄目でしょうか?」

 

 何時も何処に隠れているのか、ちょくちょくめぐみんの傍で見かける黒猫。

 そいつはめぐみんに抱かれるままに、目を細めてくたーっとしていた。

 

「良いんじゃないか?屋敷の人間に猫アレルギーはいないだろうし。……おお、これまた人懐っこい猫だな」

 

 めぐみんに抱かれた猫に和真が手を伸ばすと、指先に前脚を乗せて甘えてくる。

 次に俺が手を近づけると、フンフンと匂いを嗅ぎ、ペロリと指を舐めた。

 ……問題児ばかりでストレスが溜まっていたところに、最高の癒しをもたらす存在(ペット)が現れた。俺の飼っている鶏?あいつらは食料兼目覚まし時計です。

 

「痛っ!?ちょっとこの子、どうして私にだけ爪を立てて唸るの!?なんて事かしら、この漆黒の毛皮といい、ふてぶてしい態度といい、何か邪悪なオーラを感じるわね……」

 

 猫にちょっかいを出して反撃されたアクアがいきり立つ。

 

「ところでめぐみん。この猫の名前は?」

「ちょむすけです」

「「「……」」」

 

 ここでも発揮される紅魔族のネーミングセンスに、思わず口を閉ざす。

 

「……今、この猫の名前をなんて言った?」

「ちょむすけです」

「ねえめぐみん。この子ってどう見ても牝なんだけど、その名前はどうかと思うわ」

「駄目です。この子はちょむすけです」

 

 おかしな飼い主を持って大変だなと、同情するように黒猫──ちょむすけを撫でる。

 

「というか!どうして皆落ち着いていられるの!?あのダクネスが一晩帰ってこなかったのよ!?しかも相手は良くない噂が多いあの領主よ!?今頃手籠めにでもされていたら……」

「まあ落ち着けってアクア。ダクネスも一端の冒険者だ、あの領主が仮になにかやっても、内容次第では拳で抵抗してるだろ」

 

 青い顔でアクアが狼狽え、それを和真が宥める。そんな中──

 

「サトウカズマ!サトウカズマはいるか!」

 

 そんな怒声と共に、突然玄関のドアが開け放たれた。

 荒々しくドアを開け、顔を真っ赤にしながら荒い息を吐くその人は、検察官のセナだった。

 

「な、なんだよ急に。俺の身の潔白を証明するまで、まだ間があるだろ!?悪いが、今はあんたに構っている暇はないんだ。身の潔白を証明するための証拠を集めないと──」

「構っている暇はない!?よくもやらかしておいて、そんなことが言えるな!」

 

 言いがかりも甚だしいが、彼女の剣幕から嫌な予感がした俺が訊ねる。

 

「あの、やらかしたとは具体的にどういったことで?」

「蛙だ!街周辺に、冬眠中の蛙が這い出してきている!」

 

 ジャイアントトードのことだろう。しかし、それと和真にどう関係が?

 

「言いがかりにもほどがありますね。私達がモンスターを操り、冬眠中の蛙を呼び起こしたとおっしゃるつもりですか?」

 

 喧嘩なら受けて立つとばかりに、めぐみんが前に出る。

 

「ギルド職員の報告によれば、蛙は何かに怯えるように地上に出てきたようです。……怯えると言えば、ここ連日、街の直ぐ傍で爆裂魔法を連発して住人を脅かしてくれた人がいましたね」

 

 俺と和真は、屋敷の奥に逃げようとしたアクアとめぐみんを捕まえて引きずる。

 

「待ってください、話を聞いてください、私はアクアに言われてやっただけなのです!実行犯は私ですが、主犯はアクアです!」

「めぐみんズルいわ!話を持ちかけたときはノリノリだったじゃないの!」

「醜い言い争いをしてる場合か!お前らがやらかした後始末に行くぞ!」

「いやぁ、本当に。うちの馬鹿者と大馬鹿者がすいません」

 

 

 

 一面が真っ白な雪化粧の施された、街の外。

 

「嫌あああ!もう嫌あああ!蛙に食べられるのは、もう嫌ああああ!!」

 

 そこに、アクアの悲鳴が響き渡っていた。

 

「手助けはいるか?」

「いえ、アクアを追っている蛙を倒してからでいいですよ。外は寒いですし、蛙の中は温いのです」

 

 俺の目の前では、爆裂魔法を使って魔力切れ状態のめぐみんが、蛙に肩から下を呑み込まれていた。蛙の喉が動いていないのは、杖がつっかえているせいなのだろう。

 

「わかった。暫くそこで暖を取っててくれ」

「あ、貴方達は、仲間が蛙に呑まれ、更には別の仲間が追いかけられているというのに、随分と冷静ですね」

 

 立会人として付いてきたセナが、若干引いた様子でノートに筆を走らせる。

 

「じゃ、ここは俺が……『狙撃』!」

 

 和真が弓に矢を番えて引き絞り、狙い撃つ。

 放たれた矢はアクアの頭上の毛先を通過し、そのまま蛙の頭を貫いた。

 半泣きのアクアが、そのまま和真に向かって駆け寄ってくる。

 

「よし。じゃあ、兄さんはめぐみんの救助を」

「待ってください!蛙がまた出てきました」

「「「ファッ!?」」」

 

 めぐみんの視線の先を向くと、そこには新手の蛙が3匹も見つかった。

 これで蛙は計4匹。セナを巻き込むのはマズいので除外するとして、これではいけに、囮の人数が足りない。

 

「よし兄さん!アクアを縛り上げて!」

「任せろ」

「ちょっ、やめなさい!やめなさいよこの外道兄弟!」

「いいから大人しくお縄につけ!元凶その1!」

 

 縛り上げようとロープを取り出すなり、アクアが俺の手を逃れようと必死の抵抗を見せる。くそっ、ステータスが高いだけあって無駄に素早いな!

 

「すいません、少しづつ飲み込まれ始めたので、そろそろ救出してもらえないでしょうか」

「ああもう、何でこういう時にダクネスがいないんだよ!金属鎧のアイツなら、蛙に呑まれることもないのに!」

 

 和真もめぐみんを吞み込み始めた蛙に向かって剣を構え、そのまま斬りかかろうと──

 

「『ライト・オブ・セイバー』ッ!」

 

 した瞬間、雪原に透き通った声が響いた。

 それと同時に、めぐみんを吞み込んでいた蛙の胴体に光の線が走り、そのまま両断した。

 

「『エナジー・イグニッション』!」

 

 続いて、俺達に迫っていた蛙が発火し、上手(ウェルダン)に焼けた。

 声の主に心当たりがある俺とめぐみんが振り向くと、そこには黒いローブに身を包んだ1人の少女が立っていた。

 

「今のは上級魔法……!まさか駆け出しの街に、上級魔法を使えるものがいるなんて……!」

 

 セナが驚きの声を上げる中、俺はその少女に話しかける。

 

「ありがとう、ゆんゆん。おかげで助かった」

「い、いえいえ、それほどで……も……」

 

 目の前の少女──ゆんゆんという紅魔族の女の子は、俺と、その後ろに立っているめぐみんを交互に見る。そして、彼女は涙目になり……

 

「どうしてハルキさんとめぐみんが一緒にいるんですか!?まさか、修行に行っている間に私は解雇(クビ)にされたんですか!?」

「そんなことはない。ないから落ち着いてくれ」

 

 俺の襟首を掴んで激しく揺さぶってきた。違うと俺が何度も言うが、本人の耳には届いていないようだ。

 

「残念でしたね、ゆんゆん。ハルキは貴女のような二流の魔法使いではなく、私のような一流の魔法使いを選んだのです。さあ、己の無力さを悔やみ、ハンカチでも食いちぎるがいいですよ!」

「状況がややこしくなるから少し黙れ、ポンコツ魔法使い」

「誰がポンコツですか!」

 

 俺に飛び掛かろうとするめぐみんを和真が羽交い締めにし、後ろに下がる。

 

「ねえ、長引きそうなら、私は先にギルドに行ってきてもいい?早くしないと、蛙肉が傷んじゃうもの」

「すまん。頼んだ」

「……ふむ。何やら積もる話もありそうですね。では、自分も今日のところはこれで。……サトウカズマさん、今日はあまりにもあんまりな冒険の姿でしたが、これが、自分の目を欺く演技という可能性も捨てていませんよ。自分はまだ、貴方を信用してはいませんから」

 

 そう言って、セナは和真に厳しい視線を向けた後、アクアと共に街へ帰っていった。

 少しして、ゆんゆんとめぐみんが落ち着き、何とか話ができる状態になった。

 

「すいません。少し取り乱しちゃいました。それで、あの、めぐみんと一緒にいる件は……」

「実はな、ゆんゆんが修行に行ってから、弟の和真がパーティー募集の貼り紙をギルドの掲示板に貼りだしてな。それで和真のところに行ってみたら、同じく募集の紙を見ためぐみんに会って、そのままパーティーを組んだ。というわけだ」

「そ、そうだったんですか。じゃあ、そちらの男の人が……?」

「ああ。こいつが弟の和真だ」

「初めまして、弟の佐藤和真です」

 

 和真が前に出て簡単な自己紹介を済ませると、ゆんゆんも自己紹介をしようと口を開いた。

 

「初めまして、私は……」

「おっと。まさか、紅魔族の族長の娘ともあろう者が、紅魔族流の挨拶をしないつもりですか?」

 

 ところで、めぐみんが杖をゆんゆんに突きつけ、妨害する。

 

「だ、だって!あれって知らない人の前でするの、凄く恥ずかしいんだもの!」

「そんなだから、貴女は二流止まりなのです。一時の恥じらいを投げ捨てられないようでは、族長になるなど夢のまた夢ですよ?」

「わ、わかったわよ!……わ、我が名はゆんゆん!アークウィザードにして、上級魔法を操る者!やがては紅魔族の長となる者!」

 

 ゆんゆんは頬を赤くしながら名乗りを上げると、着ていたマントを翻した。

 そんなゆんゆんの様子を見て、和真がひっくり返った。

 

「どうした和真?普段のめぐみんのアレっぷりで慣れてるはずだろ?」

「いや、あまりの常識人ぶりにひっくり返っただけだから」

 

 まさか本当にひっくり返るとは思わなかった。

 

「で、どうする?話なら街に戻ってからするか?」

「そうですね、体も冷えてきて寒いですし、お風呂でさっぱりしたいです」

「ちょ、ちょっと待って!私は上級魔法を取得してきたから、めぐみんと決着をつけたいの!」

 

 めぐみんにゆんゆんが縋り付き、待って欲しいと懇願する。

 

「……しかし、今日はもう魔法を使えませんよ?魔力を使い果たしてしまいましたから。それに、この私に魔法で勝負を挑むつもりですか?今も我が力で、愚かな蛙達をたった一撃で、8匹も蒸発させましたからね。ゆんゆんよ、汝にそんなことができるとでも?」

 

 中二病チックに、くぐもった声でそんなことを言いだすめぐみんに、ゆんゆんが驚きの表情を浮かべ、俺とめぐみんを交互に見る。

 

「まあ、魔法1発で蛙8匹を蒸発させたのは事実だ」

 

 その後動けなくなり、蛙に丸呑みにされていたわけだが。

 

「そして、貴女はこの街から離れていたから知らないかもしれませんが……。聞いた事はないですか?連日居城に撃ち込まれるこの私の魔法に脅威を感じ、まんまと魔王軍の幹部がこの街へと誘き出され、撃退された話を。そして無敵を誇ったあの機動要塞デストロイヤーが、この街において爆裂魔法で破壊されたということを!!」

 

 ……まあ、嘘ではないな!

 

「そ、それでも、勝負をしないと!勝ち目がなくても、勝つまで勝負を挑ませてもらうわ!」

 

 目に涙を浮かべながらも、譲れないものがあるのだろう。ゆんゆんは若干怖気づきながらも、きっぱりとめぐみんに言った。

 めぐみんはそれを見て、大きくため息を吐く。

 

「……しょうがないですね。では、こうしましょう。私はもう魔法が使えません、なので、勝負方法は貴女の得意な体術でどうですか?あなたも今や一端の冒険者のようですし、筆記試験で勝負するにしても準備に時間がかかります。武器はなし。勝敗は、どちらかが降参するまで。……これでどうですか?」

「い、いいの?学園ではろくに体術の授業に出なかっためぐみんが。私に花を持たせようなんて考えてるの?昼休みの時間になるとこれ見よがしに私の前をちょろちょろして、勝負を誘って私から弁当を巻き上げていた貴女が?」

「「……」」

 

 俺と和真でめぐみんを左右から挟み、無言で見下ろす。

 

「私だって死活問題だったんです。家庭の事情で、彼女の弁当が生命線だったのですよ。……ですから、少し離れてください。カズマは大したことありませんが、ハルキからの圧力が凄まじいので」

 

 ゆんゆんが目を閉じて、少し深呼吸すると、めぐみんの提示した条件に応じた。

 

「……わかったわ!そして、対価はこのマナタイト結晶。かなりの純度の一級品よ!魔法使いなら、喉から手が出るほど欲しいアイテムよ!」

 

 ゆんゆんが出してきたのは、小さな宝石。

 めぐみんはそれを見ると満足そうに頷き、杖を和真に預ける。

 

「では、どこからでも掛かってきなさい!」

 

 めぐみんは両手を広げ、威嚇でもするように宣言した。

 それに対してゆんゆんが、腰を落として拳を構える。

 見た感じ、体型的にはゆんゆんに軍配が上がるだろう。リーチも長いし、バランスよく筋肉がついている。それに対し、華奢で小柄なめぐみんには素手の戦闘が得意とは思えない。

 ゆんゆんがじりじりと距離を詰め、めぐみんもいつでも抱きつけるように下半身に力を籠める。

 

「……ねえめぐみん。貴女の体がテラテラしてるんだけれど。それってもしかして……」

「そーですよ。これは蛙の粘液、より詳しく言えば蛙のお腹の分泌物です。さあ、このまま抱きついて、寝技合戦といこうじゃありませんか!」

 

 そう言っためぐみんが、ゆんゆんに抱きつこうと飛び出した。

 

「ふっ!」

「なっ!?」

 

 だがゆんゆんはめぐみんの突撃を回避し、腕をとって脇固めで押さえ込む。

 

「ぐっ、このっ……!」

「さあめぐみん!抜け出せるものなら抜け出してみせなさい!」

 

 ゆんゆんに押さえつけられた状態で、めぐみんがジタバタと藻掻く。

 そして9カウントを迎えたところで、めぐみんが蛙の粘液を利用してぬるりと抜け出した。

 

「貰ったぁ!」

 

 そして素早くゆんゆんの背後をとり、そのままチョークスリーパーに移行。

 

「ふはははは!さあ、ゆんゆん!大人しく負けを認めるが」

「そぉい!」

「ア゙ッー!目が、目がああああああ!」

 

 ゆんゆんがめぐみんの眼帯を引っ張って反撃すると、めぐみんは左眼を押さえて転げまわる。

 解放されたゆんゆんはめぐみんの両脚を掴み、フィギュア・フォー・レッグロックを極める。

 

「痛たたたたたた!」

「さあめぐみん!これで負けを認めなさい!」

 

 そして、2回目となる10カウントを迎えたところで──

 

「私の負けです!負けでいいですから、早く離してください!これ以上は脚が折れそうです!」

 

 めぐみんが両手を広げ、自らの敗北を認めた。

 ゆんゆんはめぐみんを解放すると喜びを表現するように小躍りし、めぐみんは脚が折れていないか屈伸し、脛をさすって確認する。

 

「じゃあ兄さん、俺はめぐみんと屋敷に戻って風呂入るわ。見ての通り、少し体がヌルヌルで気持ち悪いから」

「おう。さっぱりしてこい」

「では、私も屋敷で風呂に入ってきます」

 

 和真とめぐみんは屋敷への帰路についた。

 そして、満足したらしいゆんゆんはメモ帳に今日の日付を書いて、花丸で囲んでニヤニヤ笑顔で眺める。

 

「さて、ゆんゆん。パーティーの件だが、これからどうする?」

「えっと……パーティーのことでしたら、ギルドでお話しませんか?私の今後に関わる重要なことなので。あ、でもその前にお風呂に入ってきますね」

「わかった」

 

 ~少女入浴中~

 

「お待たせしました」

「おう」

 

 場所は変わり、ギルド。

 相変わらず昼間から酒を飲んでいる冒険者達の笑い声やジョッキの音をBGMに、ゆんゆんと今後のパーティーの件について話し合う。

 

「俺としては、ゆんゆんを和真のパーティーに加えたい。ゆんゆんはどうだ?」

「えっと、私はそうしたいんですけど、めぐみんと同じパーティーっていうのは……ライバルを名乗っている手前、ちょっと躊躇っちゃうというか……」

 

 ゆんゆんは指をもじもじさせながら、煮え切らない様子でボソボソと呟く。

 

「…………今日1日、考える時間を頂いてもいいですか?」

「ああ。じっくり考えてきてくれ」

 

 

 

 

 翌朝。

 

「というわけで!今日からこちらのパーティーに加入することになりました、ゆんゆんです!よろしくお願いします!」

 

 屋敷の居間で、ゆんゆんが和真とアクアに向かって頭を下げる。なお、めぐみんは紅魔族流の挨拶が云々と言おうとしたので、口を手で塞いで黙らせている。

 本人曰く、めぐみんと同じパーティーに加入し、お互いに切磋琢磨したい!ということから、パーティーに入ることを決意したらしい。

 

「よっし!これでうちのパーティーも安定してきたぁ!」

 

 和真は両手を上げ、大喜びしていた。

 

「本当にいいのですね?私と同じパーティーに入り、己の無力さを見せつけられ、自信喪失しても知りませんよ?」

 

 俺が解放すると同時に、めぐみんがゆんゆんに嚙みつく。

 

「いいの。そもそも、私とめぐみんは得意分野が違うから、いっそのこと割り切ることにしたの。それに……」

 

 ゆんゆんがもじもじし、俺のことをチラチラ見ながら。

 

「私、ハルキさんじゃないと駄目なの……」

「『ゴッドブロー』!」

「おおう!?」

 

 盛大な爆弾を投下した。そしてアクアの拳が唸り声をあげ、俺の鼻先を掠めた。

 

「おい何すんだ!」

「黙りなさい、この犯罪者(ロリコン)!大人しく目を閉じて歯を食いしばり、神罰を受けなさい!」

「ちょっと待て!俺は何もしてなああああ!」

 

 背中に誰かが触れる感触と同時に、何かを吸い取られていく。和真のドレインタッチか!

 

「ナイスよカズマ!さあ、貴方の罪を数えなさい!」

 

 やられてたまるかと、俺は背中に手を回して和真の手首を掴み、楯のように差し出す。和真が必死で抵抗し、アクアに止めろと言うが、アクアは纏めて拳を叩き込むつもりのようだ。

 

「アクア、一先ず落ち着いてください。それとゆんゆん。今の言い回しはあらぬ誤解を招きます。順を追って、話してください」

 

 めぐみんがアクアの肩にそっと手を置いて落ち着かせ、ゆんゆんに杖を向ける。

 

「え、えっと……私の中の冒険者の男性って、酒好きの荒くれ者ってイメージが強いの。でも、ハルキさんは良識ある紳士で料理も美味しいし、一緒に行動していると凄く安心できるの。だから、他の人とパーティーを組むのが不安で……」

「最初からそう言ってください。そんなだから、いつまで経っても貴女はぼっちが治らないのですよ」

 

 ゆんゆんの言葉を聞いてアクアが拳を下げ、和真が吸収した体力を俺に返還してくる。取り敢えずの危機は回避できたようだ。物理的且つ社会的に。




ゆんゆんが 仲間に 加わった


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13話

ダクネスのドレス。どちらかと言えばシンプルな原作のデザインが好みです。アニメのデザインも悪くはないんですけど。


「兄さん、何の設計図書く?」

「ミキサーとバリカン。それと笛付きやかん」

「了解。俺はまず炬燵からやってみる」

 

 ゆんゆんがパーティーに加わった翌日。居間のテーブルに紙を広げ、俺と和真はウィズの店に卸す商品の設計を行っていた。書く前に和真が質問してきたのは、お互いの商品が被ってしまうのを防止するため。

 

「カズマ、ハルキ、アクア。私は日課の爆裂散歩に行ってきます」

 

 設計図を書いていると、クエストでも出かけるような恰好のめぐみんが居間に入ってきた。

 

「ちょっと待ってろ。爆裂散歩に行くなら、俺も行くよ」

「いえ、カズマもハルキも作業中のようですので、帰りの足はゆんゆんにやってもらいます」

「ちょっとめぐみん。足って言わないでよ」

 

 そう言っためぐみんとゆんゆんが居間を出て、玄関に向かおうとしたところだった。

 

「た、大変だ!ハルキ、大変なんだ!」

 

 ゆんゆんとめぐみんの脇を通り抜け、1人の美女が飛び込んできた。

 それは清楚なイメージを与える高そうな純白のドレスを身に着け、白いハイヒールを履き、長く綺麗な金髪を1本の三つ編みにし、片方の肩から前に垂らした、何処かの令嬢。

 

「どうしたララティーナ、そんなに慌てて?」

「ララティーナと呼ぶな!……いや、まずはこれを見てくれ」

 

 言って、ララティーナがアルバムを突きつけた。

 

「何だこのイケメンは?死ねばいいのに」

 

 爽やかそうなイケメンが写っていたそれを、俺は両手に持って……。

 

「おいやめろ!見合い写真を破こうとするな!」

「お、おう、すまん。つい反射的に。てか、見合い写真ってどういうことだ?」

「そうだ!アルダープめ、己の息子を使うなどという小賢しい手を使ってきた!言う事を聞くと言ったが、無茶な要求をすれば、我が父に話を蹴られるだろう。だから私はああ言ったのだが」

「おいおいおい。このイケメンが、あの、豚と同列に扱うのも失礼な領主の息子!?遺伝子どうなってんだ……」

「はいはい、ちょっと待ってくださいねー」

 

 俺とララティーナで話していると、和真が間に割って入ってきた。

 

「兄さん、俺達抜きで話をしないで。皆ぽかんとしてるから。それと、こちらのお姉さんis誰?」

「硬いだけが取り柄の肉壁、ダクネスだ」

「肉っ……!」

 

 頬を赤くしながら、嬉しそうに悶えるララティーナの反応を見て、目の前の女性がダクネスであると理解したようだ。

 俺と和真はテーブルの上の紙と筆記用具一式を片付け、全員が席に着く。そして、ダクネスがここまで焦る理由を説明した。

 

「……なるほど。普段ならば、ダクネスのお父さんの持ってきた見合い話だから断れたけど、今回は、何でも言う事を聞くと約束している、あの領主からのお見合いです。ダクネスのお父さんも乗り気、領主も乗り気では、お見合いを断れないわけですか。ですが、領主がそこまで回りくどい事をして、ダクネスに執着する理由はなんなんでしょうか。それも、息子の嫁にしようという理由が分かりません。領主ほどの地位の人間がその気になれば、強引にでもダクネスを妾にだってできるでしょうに」

 

 めぐみんがそう言うと、ダクネスが俺に耳打ちしてきた。

 

「……どこまで話した?」

「何も話してないよ。ただ和真は、お前がどっかの令嬢なんじゃないかって推測していたぞ」

「そうか……」

 

 俺の言葉にダクネスが俯き。手を胸の前で組み、暫く指をぐにぐにした後言った。

 

「私の本名はダスティネス・フォード・ララティーナ。その……そこそこ大きな貴族の娘だ」

「「「「っ!?」」」」

 

 和真達が、無言で驚く。

 

「ダスティネスって……!そこそこじゃなく、滅茶苦茶大きな貴族じゃないですか!この国の王家の懐刀とまで言われている、あのダスティネス!?この街に居を構える!?」

 

 驚きの声を上げるめぐみんに、ダクネスが小さな声で肯定する。

 

「なに!?じゃあ、ダクネスの家の子になれば毎日ゴロゴロ贅沢三昧できるって事!?」

 

 見当外れな事を口走るアクアに、ダクネスは戸惑い。

 

「ダクネスお前……!普段、うむ、とか、そうだな、とか堅苦しい、真面目な騎士みたいな口調なのに!本名はララティーナなんて可愛らしい名前だったのかよ!?」

「兄弟で同じ反応をするな!」

 

 ララティーナが赤い顔で、涙目になって大声を上げた。

 そして、ゆんゆんはと言うと。

 

「ゆんゆん!しっかりしてください!」

 

 脳が処理落ちを起こしたのか、白目を剝いて気絶していた。

 めぐみんは往復ビンタでゆんゆんを復活させると、ゆんゆんに深呼吸で落ち着くように促し。

 

「まあ、確かに驚きましたが、ダクネスはダクネスです。私にとってのダクネスは、超硬くて不器用なクルセイダーで大切な仲間。それだけの事です」

 

 めぐみんの言葉にゆんゆんが同調するように頷き、ダクネスは嬉しそうな表情を浮かべ……。

 

「……ん、これからも、よろしく頼む……」

 

 そう言って、安心した様に微笑んだ。

 

「じゃあ、これを持ってダクネスのパパを説得しないとね」

「ああ。何か理由をでっちあげ、これを丁重に相手に返して、こういった理由があるのでと謝って、何とか父を説得してみようと思う。だから、ハルキについて来てもらえるとありがたいのだが……」

 

 ダクネスがそう言うが、俺としては一度お見合いを受けるべきだと思う。そして、そのまま寿退社すれば、親御さんも安心してくれるだろう。だが、ダクネスがいなくなった俺達のパーティーはどうなる?この間の蛙討伐の時のようなことになるかもしれない。攻撃が当たらない点に目を瞑れば、ダクネスという壁役の有無は大きい。……これは究極の2択だな。さて、どうするか……いや、待てよ?

 

「なあダクネス。このお見合い、受けてみたらどうだ?勿論、ただ受けるんじゃなく、家の名に傷がつかない程度にこのお見合いをぶち壊して、相手から断るように持っていくんだ」

「……詳しく」

 

 俺の提案に、ダクネスが食いついた。

 

「仮に今回の見合いを断ったとしても、親御さんが次のお見合い話を持ってくるかもしれない。その度にダクネスが断り続ければ、そのうち業を煮やして強硬手段にでるかもしれないだろ?そこで、今回のお見合い話をぶち壊せば、親御さんも次に持ってくる見合いの話は慎重になる筈。それに、この話を蹴ってもあの領主が無理難題を吹っかけてくるかもしれない。だったらお見合いを受けるべきだと思うんだが……どうだ?」

 

 俺の提案に、ダクネスがサムズアップで答える。

 

「それだ!それでいこう!それが上手くいけば、もう見合い話が持ち上がる度に、一々父を張り倒しに行かなくて済む!」

 

 親御さんのためにもこいつを寿退社させるべきじゃないだろうか。

 

「……兄さん、親御さんのためにもここは……」

「言うな」

 

 そして。

 

「ほ、本当に?本当にいいのかララティーナ!本当に、本当に見合いを前向きに考えてくれるのか!?」

「本当ですお父様。ララティーナは此度、このお見合いを受けようかと思いますわ」

 

 場所は変わり、街の中央通りに位置するダスティネス邸。その屋敷の中で、ダクネスの親父さんはダクネスの手を握り、興奮して言ってきた。

 しっかし似合わん。普段の姿を知っているせいで、令嬢として振る舞っているダクネスの言動に笑いを堪えるのが精いっぱいだ。

 

「おや。ララティーナ、ハルキ君を連れて戻ってきたのは何故かな?」

 

 親父さんはダクネスの言葉にうんうんと頷くと、後ろにいる俺と目が合った。

 

「今回のお見合いが成功した暁には、身分の違い等から、もうララティーナお嬢様に会うことはできません。ですので、仲間を任せられる相手か拝見するべく、代表として自分が参りました」

 

 俺はダクネスに促されて1歩前に出て、そんな台詞を言う。

 そんな俺を見た親父さんは、顎に手をあてて何か考えると、ついてこいと手招きしてきた。俺は親父さんの後に従い、部屋の隅に移動する。

 

「……ハルキ君。ララティーナの仲間である君に、私から1つ依頼をしたい」

「何でしょうか?」

「ララティーナはああ言っているが、娘が何か粗相をすると、私の父親の勘が告げている。だから君には、娘のフォローをしてもらいたい。勿論、報酬は相応の物を用意しよう」

「お任せください。全てはお嬢様のため、そしてダスティネス家のため」

「うむ。頼んだぞ」

 

 俺は親父さんと手を組むことにした。すまん、ダクネス。これも全て、お前の幸せのためだ。

 

 

 

 

 ──屋敷玄関の前に使用人達がズラリと並ぶ中、ダクネスと親父さんの両名が玄関前の真ん中に立つ。

 執事服に着替えた俺は、ダクネスの隣に控えるように立ち、見合い相手の到着を待っていた。

 

「しかし……。お前が見合いを受けてくれるなんて、本当に嬉しいよ……。アルダープから話を持ち掛けられた時は何事かと思ったが、聞けば、お前は断らない筈だと言う。アルダープはともかくとして、息子のバルター殿は良い男だ。幸せになるんだぞ、ララティーナ」

 

 ダクネスへ、にこやかに笑いかける親父さん。

 だがそれに、ダクネスはきっぱりと。

 

「嫌ですわお父様。ララティーナは、見合いを前向きに考えると言っただけです。……そして考えた結果、やはり嫁入りなどまだ早いとの結論に達しました。もう今更遅い!見合いを受けるとは言ったが、結婚するとは言っていない!ぶち壊してやる。見合いなんて、ぶち壊してやるぞ!フハハハハハ!」

 

 演技の必要はなくなったとばかりに、ダクネスが本性を現した!

 この馬鹿(へんたい)、肝心なことを忘れてやがる!

 

「はしたない言葉遣いはお止めください、お嬢様。先方に嫌われてしまいますよ」

 

 俺の言葉に、ダクネスと親父さんがハッとこちらを見る。

 そして、発言の真意を汲み取ったダクネスは怒りで顔をしかめ、親父さんは良いぞと親指を立てる。

 

「ハルキ、どういうつもりだ!さては、裏切るつもりか!」

「裏切るも何も、今の自分はダスティネス家の臨時執事。お嬢様が幸せになられることが、1番の望みです」

 

 そう言った瞬間、ダクネスに襟首を掴まれた。顔が赤くなりはじめたダクネスが、恨めしそうに俺を睨んでいる、そんな時だ。

 玄関の扉が開き、そこからあの写真の男が現れる。周りにはお付きの者を連れて。

 ダクネスが、先手必勝とばかりに、男の方に向かって歩きながら言い放つ。

 

「よく来たな。お前が私の見合い相手か!我が名はダスティネス・フォード・ララティーナ。私のことは」

「お嬢様!足元にお気を付けて!」

 

 俺はダクネスのスカートの端を踏み、床と熱烈なキスをさせた。

 

「手助けをしてくれるんじゃなかったのか!?」

「『家の名に傷がつかない程度に』ってのを忘れてただろ」

 

 俺がダクネスの暴走を止めた後。

 怪我をしていないか確認したいと言って、別の部屋に俺とダクネスはいる。見合い相手のほうは、親父さんが相手をして時間を稼いでいる。

 

「悪評が立って嫁の貰い手がなくなれば、心置きなく冒険者稼業を続けられる。勘当させられるのも覚悟の上だ。それでも必死に生きようとクエストをこなし続け、いつしか名が売れ始めた私は、魔王軍の手先に捕らえられ、組み伏せられ……っ!私はそんな人生を送りたい!」

「とうとう言い切ったなお前」

 

 およそ親父さんには言えない願望を口にしたお嬢様は、更に続ける。

 

「大体、ああいう男は私の好みではないのだ。父が持ってくる見合いには、大概碌な男がいない」

「内面を知らないから何とも言えないが、中々の優良物件じゃないか。親父さんもああ言っていたんだし」

 

 その言葉に。ダクネスはあの男の説明を始めた。

 

「あの男の名はアレクセイ・バーネス・バルター。領主の息子とは思えないできの、住民達の評判も良い爽やかな男だ。恵まれない人々に配給を行い、父親の悪政によく進言をしては、軌道修正させているそうだ。人柄も良く。誰に対しても怒らず、家臣が失敗しても決して叱らず、なぜ失敗したのかを一緒に考えようと持ちかける変わった奴だ。そして非常に努力家であり、民のために知識をつけようと、日々勉学に励んでいるらしい。更に最年少で騎士に叙勲されるほどの剣の腕前も持つ。まさに完璧を絵にかいたような男だ」

 

 ……うん。

 

「凄く良い奴じゃないか」

「あんな男のどこが良いんだ!?貴族なら貴族らしく、常に下卑た笑みを浮かべていろ!対面した時の、私を見るあの曇りなき真っ直ぐな視線はなんだ!もっとこう……よく風呂上りで薄着の私にハルキが向けてくる、舐めまわす様ないやらしい視線で見られないのか!」

「そんな目で見て無い!風邪ひかないか心配しているだけだ!」

 

 無罪を訴える俺に、ダクネスは尚も続ける。

 

「部下が失敗しても怒らない?馬鹿が!失敗したメイドに、お仕置きと称してアレコレやるのは貴族の嗜みだろうか!」

「お前は今すぐ全世界の貴族に土下座しろ。特に親父さんには念入りに土下座しろ」

 

 だがダクネスは、俺のツッコミなど気にせず、いよいよ我慢ならないと言った風に拳を握って力説した。

 

「そもそも私の好みは、あの様な出来る男ではないのだ!外見はパッとせず、体型は細くても太くてもいい。私が一途に思っているのに、相手を思いやる言動で他の女性を誑かすような、質の悪いのがいいな。年中発情してそうな、しかしそれを表に出さないむっつりスケベであることは必須条件だ!借金があればもっと良いな!そして借金を完済すべく体に鞭を打って働き続けて完済し、気が緩んだことで箍が外れ、私をその場で押し倒して1晩中食い荒らし、夜明けとともにこう言うのだ。『あー……スッキリした』……んんっ……!!」

 

 

 

 

 

「──では、改めて自己紹介をさせて頂きます。アレクセイ・バーネス・バルターです。アレクセイ家の長男で、父の領地経営を手伝っております」

 

 落ち着いたダクネスが席につき、お見合いは始まった。相手のバルターは写真通りのイケメンで、服の上からも鍛えているのが分かるくらいに筋肉がつき、程よく締まっていた。

 そんなバルターは穏やかな笑みを浮かべ、自己紹介を終えると一礼する。

 ダクネスの隣には、俺が不自然なくらい近くに立つ。

 バルターはそれを少し気にしたようだが、親父さんが何も言わなかったので口には出さなかった。

 

「私はダスティネ・フォード・ララティーナ。当家の細かい紹介は省きますわね。成り上がり者の領主の息子でも知っていてとうぜ、んんんんっ!?」

 

 いきなり失礼なことを言いかけたダクネスの首を、背後からフリーズで冷やす。

 

「ど、どうされました?」

「い、いえ。その、バルター様のお顔を見ていたら気分が悪、くうーーっ!」

 

 場所を変えて耳の裏を冷やす。

 

「お嬢様は、今朝からバルター様とお会いになるのを楽しみにしておりまして、少々舞い上がっておられるのです」

「そ、そういえば顔が赤いですね……。い、いやお恥ずかしい……」

 

 言いながら俺は顔を少し近づけ、ダクネスだけに聞こえる小さな声で囁いた。

 

「……おいお嬢様。これ以上いらんことを言ったら、もっときついのいくぞ」

「……ご、ご褒美だ……」

 

 当家のお嬢様は、何時だって、ブレない。

 そして場所は移り、屋敷の庭。これ以上父親がいれは邪魔だろうと言って親父さんは席を外し、俺達は庭に出ていた。そして去り際、親父さんは俺に『頼む』と囁いていった。

 広い庭には大きな池があり、今の季節は冬だというのに、品種改良でもされた高級種なのか、色とりどりの花が咲き乱れていた。

 

「ララティーナ様は、ご趣味は何を?」

 

 バルターが、見合い定番の当たり障りのない質問をする。

 

「ゴブリン狩りを少々ぐっ!?」

 

 迂闊なことを口走るダクネスに、横から肘で脇腹を突く。

 と、先ほどから不自然にダクネスに近い俺に、バルターが苦笑しながら小首を傾げた。

 

「……随分と仲がよろしいんですね?」

 

 しまった。俺がダクネスの評判を下げる要因になってどうする。

 見合いに来て、目の前で見合い相手と執事がくっついていれば、面白い訳がないない。

 どう誤魔化そうか考えていると、ダクネスが俺を見てニヤリと笑った。

 何を言うつもりだ……?

 

「ええ。このハルキという執事とは特別仲が良く、毎日一緒におりますの。食事もお風呂も一緒、勿論、夜寝る時も……ううっ……!」

 

 ダクネスの言う通り、俺とダクネスは寝食を共にする仲ではある。但し、冒険者仲間としてな。いやそれよりも、こいつの羞恥心の基準はどうなっているんだ。

 

「…………ええいまどろっこしい!こんな事、いつまでもやっていられるか!」

 

 何を思ったか、ダクネスは着ていたドレスの裾を思いっきり引き裂いた。俺が素早く上着を脱いでダクネスの腰に巻き付ける間、視線を逸らしたバルターにダクネスが大声で。

 

「おい、バルターと言ったな!クラスは騎士なのだから剣は使えるのだろう!私のクラスはクルセイダーだ。今から修練場につき合ってもらおう。そこでお前の素質を見極めてやる。さあ、ついてこい!」

 

 巻き付け終えると、ダクネスが俺をびしりと指さす。

 

「見ろバルター!上着を巻き付けるどさくさに紛れて尻や太股を撫でまわす。貴族たるもの、それくらいやってみせろ!」

 

 撫でまわしていません!ちょっと指先が触れただけです!

すると、バルターはダクネスと向き合い、言った。

 

「……実は、ここには父に押し付けられた今回の見合いを断るためにやって来たんです。……でも、貴女を見て気が変わった。どこにでもいる貴族の令嬢とはわけが違う。流石は王国の懐刀の一人娘だ。豪放にして、それでいて自分の言葉に恥ずかしがる可愛い一面もある。そして物事をハッキリ言える清々しさに、下々の執事に対する、上からではない、同じ様な目線で接するその態度。僕は貴女に興味が湧いた」

 

 そして修練場に移動し、試合開始から30分以上経過──

 

「も、もういいでしょう!もう勝負は見えている!何故諦めないんですか貴女は!」

 

 終始優勢であるはずのバルターが、切羽詰まった声をあげる。

 実力自体はバルターが上で、ダクネスの木刀はバルターに掠りもしない。当然だよな、ダクネスは防御系スキルにスキルポイント全部つぎ込んでるし。

 

「どうした、遠慮などせずどんどん来い!徹底できる強さを見せろ!」

 

 汗にまみれ頬を火照らせながら吠えるダクネスを見て、バルターは木刀を投げ捨てた。

 そのまま両手を上げて降参する。

 

「……参りましたララティーナ様。僕の負けです。技量では勝っていても、心の強さで負けました……。これ以上貴女を打つことはできません。……貴女は、とても強い人だ」

 

 傍から見れば、固い意志を示したダクネスに折れた、ような感じだ。だがダクネスの内面を知っている身としては、素直に喜べない。

 

「なんだ、終わりか。つまらん。……ハルキ!男とはこう戦うものだと、バルターに見せてやれ!」

 

 そう言ったダクネスが、俺の足元に木刀を投げてきた。

 どうやら最近抑えていた性癖に、バルターとの打ち合いで火がついてしまったようだ。

 

「わかったよ。どうせお見合いは失敗だ。それに、あんたはララティーナの悪い噂なんて流さないだろう」

 

 俺は執事としての振舞いをやめ、木刀を片手にダクネスと向かいあう。

 

「よし、こいハルキ!実を言うと、お前とはこうしてやり合ってみたかったのだ!さあこい!初撃はなんだ?拳か?蹴りか?それと」

「『フリーズ』!」

「えっ!?」

 

 ダクネスの頭から爪先を物理的に冷やしてやった。そんな俺を見て、バルターは驚いた。

 

「木刀を握っての試合で、普通は魔法は使わないかと……」

 

 知ったことか。こちとら生き残るためなら手段を選ばない冒険者。武器でも魔法でも駆使して生き延びなきゃ飯が食えない。

 そしてダクネスはとても……

 

「いいぞハルキ!そうだ、男たるものこういう容赦の無さも必要だぞ、バルター!」

 

 嬉しそうに体を震わせていた。

 そして木刀を振り回し、俺に襲い掛かってきた。

 

「どうしたハルキ!なぜ攻撃してこない!さっきのような攻撃で、この私を攻め落としてみせろ!」

 

 勢いは良いが、見当違いの方向を狙ったり、距離感を見誤っていたりと攻撃を避けるのは簡単だ。ただコイツ、当たらないだけで筋力だけは凄い。そのせいか、木刀の風を切る音で恐怖を煽られる。

 

「『スティール』!」

 

 俺はダクネスの木刀を盗み、二刀流で構える。

 

「おいダクネス。1つ賭けでもしないか?俺とこうして戦っているのは、禁欲生活と今回の件で色々溜まってるんだろ?ここは、勝ったほうが相手に1つだけ、何でも言うことを聞かせられるってのはどうだ?」

 

 そう言うと、ダクネスが骨を鳴らして拳を構えて応じる。

 俺とダクネスはジリジリと距離を詰め、そのまま睨み合う。

 

「しっ!」

「くっ!」

 

 先手はダクネス。右で牽制(ジャブ)を放ち、一拍置いて左フック。ジャブは木刀を楯代わりに防ぎ、フックはバックステップで回避する。空を切った拳の高さからして、肝臓を狙っての一撃のようだ!殺意高すぎィ!

 

「ふん!」

「甘い!」

 

 俺は負けじと右の突き、左の払いを繰り出すが、どちらもダクネスに木刀を掴まれた。

 

「私を誰だと思っている?お前の攻撃パターンは熟知している!」

 

 ダクネスは自信満々に言うと、そのまま割り箸感覚で木刀をへし折った。

 俺は刀身の折れた木刀を手放すと、ダクネスの袖と襟首を掴む。

 

「は?」

「貰ったぁ!」

 

 俺は一本背負いでダクネスを投げ飛ばす。ダクネスは受け身をとり、反撃に転じようとするが、それよりも早く。

 

「さあダクネス!抜けられるなら抜けてみろ!」

「くそっ!このっ……!」

 

 俺はダクネスに覆いかぶさるように、縦四方固めを極める。

 ダクネスが俺の背中に手を回して引き剥がそうとするが、無駄な足搔きだ。この技に力づくは通用しない!

 

「どうなされましたララティーナお嬢様?ご自慢の筋肉は冬眠中ですか、ララティーナお嬢様?」

「ララティーナと呼ぶなぁ!」

 

 俺を剥がそうとするダクネスが吠え、俺は剥がされまいと力を籠めていると。

 何かが落ちて割れる音に俺とダクネスは気づき、そちらの方を振り向いてみる。するとそこには──

 

『……』

 

 タイミング()く現れたダクネスの親父さんと、引き連れてきた使用人達が、ぽかんと口を開けて固まっていた。

 

「……ハルキ君」

 

 無表情になっているダクネスの親父さんに見下ろされている俺は、現状を振り返ってみる。

 修練場には、見合い相手のバルター。そいつの目の前で、俺はダクネスを押し倒している。……大体わかった!

 

「これはどういうことかね?」

 

 俺はダクネスから素早く離れ、流れるような動作で誠心誠意の籠った土下座を披露した。

 その後、俺とダクネス、バルターの3人がかりで事の経緯を話して親父さんを説得し、何とか事なきを得た。

 ついでに、俺の素性もバルターに明かされた。もっとも、バルターは俺が執事じゃないことを最初から気づいていたらしい。

 当のダクネスは、修練場に常備しているポーションで怪我を治し、別室で着替えている。応接間に通された俺とバルターは、ダクネスが来るのを待っている。

 

「……娘は、元々人付き合いが苦手でなあ……。それは、身内の者に対してもそうだった。ハルキ君、付き合いの長い君はそうではないかもしれないが、最近パーティーを組んだという弟君達に、あまり自分の事を話していなかったんじゃないか?」

「ええ」

 

 基本的に無口だし、口を開けばろくでもない発言ばっかりだったけど。

 

「娘は、クルセイダーになっても1人きりでなあ……。毎日エリス教の教会に通いつめ、冒険者仲間ができますようにと、エリス様にお願いしていたのだよ。そんなある日、教会からの帰り娘が、初めて仲間ができた、友達ができた、盗賊の女の子と仲間になったと喜んで……。それから1年くらい経った頃か、傭兵の男性、つまり君が仲間に加わったと言ったのは」

 

 盗賊の女の子とは、クリスのことだろう。流石は女神エリス。うちの食っちゃ寝ばっかりの駄女神とは大違いだ。

 

「うちは、家内を早くに亡くしてなあ……。それから、新しい妻を娶らず男手で、甘やかしながらもとにかく自由に育ててきた。……それが、悪かったんだろうなあ……」

 

 しんみりと言う親父さん。

 親父さんが言っているのは、ダクネスの性癖のことだろう。

 自由に育て過ぎたから、束縛されたがる娘に育ったんじゃないかと。

 いや、あれは生まれついての性癖だと思いますよ。

 

「ララティーナ様は、男勝りですが素晴らしい女性だと思いますよ?ハルキ君がいなければ、僕は本気でララティーナ様を妻にもらいたいと思っています」

 

 バルターは何を言っているんだ。

 ダクネスはただの仲間だ。

 アレな言動に目をつむれば、どちらかと言えば好みではある。

 だが、俺とあいつには身分の違いがあるし、あの性癖に死ぬまで付き合うのは骨が折れる。

 そんなわけで、まともな男に大事にされるというなら俺は全力で相手を応援する。そう、目の前にいるバルターとか。

 

「んー……ちょっと何言ってるか分かんないです」

 

 俺の言葉を聞き、バルターは、まるで隠さなくてもいいとでも言うかの様に。

 

「いいんだ。君の方が、ララティーナ様を幸せにできるだろう。君達の信頼関係はしっかり見せてもらったよ。君達は、お互いに愛し合っているんだろう?」

 

 それはない。ダクネスとは愛し合っているとか、そんな関係じゃない。

 俺はバルターの言葉に首を横に振り、全力で否定する。

 

「ふふ、ははははっ!」

 

 親父さんが突然笑い出した。

 これ以上なにかあるのは勘弁してくれ。

 

「ハルキ君、これからも娘をよろしく頼むよ。アレが馬鹿なことをしでかさない様、見張ってくれ。頼む」

「は……はい」

 

 どうせ、冒険者仲間としてだろう。それなら別に構わない、今までとやることは同じだからな。

 

 

 

 

「まったく。これでは、素直に最初から見合いを断っておいた方が良かったではないか」

「それはこっちの台詞だ。領主から俺達を庇ってくれたのは助かったけど、これからは何かあったらまず俺達を頼れ。皆、お前が帰ってくるまで心配していたんだぞ?」

「よく言う。父と結託して、積極的に結婚させようとしていたではないか」

 

 それはそれ、これはこれです。だから頬を抓るな。凄く痛い。

 ダクネスは深々と溜息と吐くと、ハッと何かに気が付いた様に手を離した。

 

「そういえばハルキ!先ほどの勝負だが、お前に押し倒された私が負けということでいいのか?」

「あー……多分、そうなるな」

「で、ではこの私にどんな要求をするつもりなんだ!?教えてくれ!」

 

 ダクネスは言いながら、頬を染めて期待に満ちた眼差しで俺を見つめる。

 そういえばそんな約束したな。何をさせようか。

 俺は顎に手を当てて考えながら歩き、ダクネスがチラチラと俺を見てくる、そんな屋敷までの道中で。

 

「ハルキさん!ダクネスさん!ここにいたんですか!」

 

 ゆんゆんの声が聞こえたので、思わず振り返る。ゆんゆんは俺とダクネスの方に全力で駆け寄って来た。

 

「どうしたゆんゆん、そんなに慌てて」

「大変です!例の検察官のセナさんが、屋敷に向かっているんです!今度こそカズマさんを逮捕するとか息巻いて!」

 

 青ざめた表情で、慌てながら言ってきた。




ラストに至る経緯
和真達、ダクネスと陽樹が心配なので屋敷で待機→ゆんゆん、気分転換に街の散策→途中、セナを発見→ゆんゆん、屋敷に全力で帰り和真達に報告し、陽樹とダクネスを探しに再び街へ


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14話

これにて第2期前半終了





ララティーナの水着FOOOOOOOO!!!!


「キールのダンジョンに謎のモンスター?」

「うん。それで、最後に潜った俺達が何かやったんじゃないかって来たみたい。で、心当たりが無い、何でもかんでも俺達のせいにしないでくれって言ったら、帰っていったよ」

「そうか」

 

 念の為にと前置きし、和真が皆に心当たりがないかを再度訊ねる。まず、爆裂魔法絡みでないなら自分は違う、とめぐみんは答える。日頃から問題を起こしていないダクネスと、上級魔法の取得のために街を離れていたゆんゆんは除外。俺は基本的に街の外には出ないので違う。そして残るは……と、全員の視線がアクアに集中する。

 

「ちょっと、皆で私を疑い過ぎよ?寧ろ、あのダンジョンに関しては、私のおかげでモンスターは寄り付かない筈よ」

 

 『私のおかげ』。その一言に反応した和真が、詳しい説明を求めた。するとアクアは得意げに。

 

「ほら、あのダンジョンの奥のキールがいた部屋。あそこでキールを浄化する時の魔法陣を作る時に気合いを入れたのよ。本気に本気を重ねた、物凄い結界をね。だから、魔法陣は今もあの部屋に残って機能を発揮しているわ」

 

 と、言った。

 それを聞き、和真が小刻みに震える。

 

「……もう1回言ってみろ」

「な、何よ急に。言った通りよ。あそこには、私が本気で作った魔法陣が、今もその力を発揮しながらモンスターを寄せ付けないように」

「またお前かああああー!!」

 

 和真が頭を抱えて絶叫した。

 

 

 

 

「……なるほど。確かに謎のモンスターだ」

「キールの部屋は何処にあった?」

「ここ、ダンジョンの一番奥にあった」

 

 ダンジョンに着いた俺達は、入口から次々と現れるモンスターを遠巻きに観察する。

 大きさは膝の高さほど。白黒の仮面を被った人形が、二足歩行をしていた。

 モンスターの観察を続けていると、後ろから多数の冒険者を引き連れたセナが現れた。

 なぜ来たのかを問われた和真は、モンスターを放置するわけにはいかないと冒険者らしいことを口にして話を合わせた。

 

「そういうことでしたら、サトウさんもこちらをどうぞ。原因はまだ掴めておりませんが、何者かがモンスターを召喚しているという線が濃厚です。ですので、召喚者を倒し、魔法陣にこれを張ってください。強力な封印の魔法が込められた札です。召喚の魔法陣の中には、術者を倒してもモンスターを呼び続ける物がありますので」

 

 セナが和真に札を手渡し、貴方もよければと俺にも札を手渡している横では──

 

「何故かしら。私、この人形の仮面が生理的に受け付けられないわ。これを見ていると、どうにもムカムカしてくるんですけど」

 

 アクアが足元にあった小石を拾い、投げようと振りかぶる。

 それまではこちらに敵意を向けなかったモンスターは、石を投げようとするアクアへと、突如猛ダッシュして膝にしがみつく。

 

「あら?何かしら。甘えてるのかしら。何だか見てるとムカムカしてくる仮面だけど、こうして甘えられると段々と可愛く見えて……」

 

 瞬間、モンスターが大きな爆発音と共に跡形もなく消し飛んだ。

 後には、髪型がアフロになったアクアが地に倒れ伏していた。

 

「……このように、動いている者に取り付き爆発するという習性を持っていまして。冒険者ギルドでも対処に困っている状態なんです」

「それは非常に厄介だな」

「2人ともなんでそんなに冷静なのよ!」

 

 アクアが復活して半泣き状態になった。

 しかし困った。地上でこれだけの数いるのなら、発生源であるダンジョン内部はもっと凄いことになっているだろう。そんな中を、どうやって突破すればいいのか。

 ──と、俺達が悩んでいる最中、ダクネスが1歩前に出る。

 モンスターはダクネスに反応し、ダクネスの肩や脚にしがみつく。やがて人形は、アクアの時と同じように盛大に爆発──

 

「うむ。これくらいなら問題ない」

 

 したのだが、ダクネスには傷一つついていなかった。

 

「私が露払いのために前に出よう。カズマとハルキは私の後ろをついて来い」

 

 ダクネスが、そんなイケメンな台詞を吐いた。

 と、めぐみんが和真の袖を引き、自分はここで待機すると言った。狭いダンジョンで爆裂魔法は使えないから、しょうがないか。その代わり、大物に追われた際の切り札として何時でも魔法が撃てるよう準備してもらうことになった。ゆんゆんもここで待機し、俺達のうち漏らしを迎撃すると言った。

 そして、全ての元凶であるアクアは──

 

「それじゃあ、私もここで待ってるからね。ダンジョンへ降りる前に支援魔法をかけるから、3人とも気を付けて」

「お前も来い」

「嫌よ!ダンジョンはもう嫌なのよ!ダンジョンに入ったら、きっとまた置いて行かれるわ!それで、大量のアンデッドに追いかけられるのよ!」

 

 耳を塞いでしゃがみ、首を振って全力で嫌がるアクア。以前ダンジョンに潜ったのがよっぽどトラウマになってしまったようだ。

 しょうがないと和真はため息を吐くと、俺とダクネスの肩に手を置いた。

 

「……わかった。じゃあ、兄さんとダクネスに任せた」

「お前は来ないのか」

「俺も出来る事なら同行したいけど、この馬鹿が待機しているのをいいことにサボらないように見張ってるから。それに、貧弱な俺は万が一張り付かれたらネギトロになっちゃうだろうし」

 

 後者が本音だろうと指摘すると、和真は無言で顔を逸らした。

 

「じゃ、じゃあ、そういうことで。うち漏らしを仕留めるための武器を何か……」

「そこらの小石でも投げてろ」

 

 掌を返したようにモンスターを倒すなどと言う和真を冷たくあしらい、俺とダクネスはダンジョンに突入した。

 人数は俺とダクネスを含め、男女混合で20名ほど。先頭を突っ切るダクネスの後ろで俺はランタンを高く掲げてついていく。

 

「ハハハハハッ!当たる!当たるぞ!見ろハルキ!こいつらは私の剣でもちゃんと当たる!」

 

 俺の前を行くダクネスが、嬉々として剣を振り回しながら、攻撃を避けようともしない人形をバッサバッサと斬り伏せていた。

 当然ながら自爆による反撃を食らうのだが、ダクネスは頬と鎧を煤だらけにしながらも楽しそうに突き進んでいく。

 というか、今まで剣が当たらないことを少しだけ気にしていたのか。それなら、《大剣》スキルなり武器系のスキルなり取得すれば……いや、俺には無理だ。

 

『楯役として専念してくれるなら武器系のスキルを取らなくても問題ない』

 

 ──って、昔初めてパーティーを組んだ頃に口にしたからなぁ。

 しかし、連続した爆発を受けたにも関わらずダンジョンは崩れる様な素振りを見せない。名うてのリッチーお手製なだけあるな。

 

「お、おおい、ちょっと待ってくれ。もう少しゆっくり……」

 

 後ろから、他の冒険者の声が聞こえた。

 ふと振り返ると、ダクネスが闇雲に突っ込むおかげで後続と距離が空いていた。

 そして、ダンジョンの通路の横合いからは、次々と例のモンスターが飛び出して来ている。

 

「あああ、張り付かれた!おい誰か、コイツを剝がしてくれ!」

「おい馬鹿やめろ!こっち来んな!」

 

 あのモンスターの爆発はかなりのものだ。

 だが、ダクネスのような硬さやアクアの様な神具がなくとも、鎧に身を固めた冒険者なら死ぬことはないだろう。

 というわけで……!

 

「ダクネスその調子だ!その調子でそっちを真っ直ぐ!ガンガンいこうぜ!」

「任せろ!ああっ、何だこの高揚感は!これが、これがクルセイダーの本来するべき役割ということか!」

 

 興奮気味のダクネスに続いて突き進み、ダンジョンの奥の通路の手前まで俺達は到着した。和真曰く、この奥にキールのいた部屋があるらしい。

 しかし、その部屋の前には胡坐をかいて、地面の土をこね、鼻歌交じりに人形を作る人影がある。

 ダンジョンには場違いな黒いタキシードに身を包み、白い手袋を付けたまま人形を作るそいつは、俺達を襲った人形とまったく同じデザインの仮面を被っていた。ということは、あいつがモンスター達の主か。

 人形作りに夢中なのか、ランタンを持っている俺達に全く気付いていないようだ。このまま潜伏スキルで通り過ぎることができればいいんだが、それで通過できそうな相手ではないだろう。

 

「そこで何をしている。その人形を作っているという事は、モンスター騒ぎの元凶はお前だな?」

 

 悩んでいる俺の横を通り過ぎて、ダクネスが大剣を抜いて構える。

 ダクネスの言葉でようやく気付いたのか、仮面の男はこちらを向き、ゆっくりと立ち上がる。

 

「……ほう、よもやここまで辿り着くとは。我がダンジョンへようこそ冒険者よ!我輩こそが諸悪の根源にして元凶!魔王軍の幹部の1人にして、悪魔達を率いる地獄の公爵!この世の全てを見通す大悪魔、バニルである!」

 

 とんでもない大物と遭遇してしまった!

 いや、冷静になって考えれば、それらしい兆候はあった。

 例えば蛙。あれは何かに怯えるように這い出てきたとセナは言っていた。その『何か』というのは、おそらく目の前にいるバニルのことだろう。

 ベルディアの時も、弱いモンスターが怯えて逃げだし、高難易度のクエストしか残っていなかった。

 

「おいダクネス、引き返すぞ。こいつは俺達ではどうにもできない!」

「女神エリスに仕える者が、魔王軍の幹部、それも悪魔を前にして引き下がれるか!」

 

 この石頭は!ここで頑固ぶりを発揮してどうする!

 そんなダクネスに、バニルは楽しそうに口元を歪めて言った。

 

「ほう。この我輩を倒すと?魔王より強いかもしれないバニルさんと評判の、この我輩を?しかし……そこの男と2人きりのダンジョンで、クルセイダーらしい活躍ができて喜びのあまり浮ついている娘よ。既知とはいえ、ダンジョンでは何が起こるかわからぬものだ。帰りが遅い汝のことが心配で、最近寝不足気味なそこの男のように、ダンジョンでは警戒を怠らないことだ」

「ふふふ、2人きり……!いいかハルキ!奴の言うことは嘘っぱちだ!この私が、そのような心持ちでダンジョンに潜るわけないだろう!だが心配をかけてしまったのは本当にすまなかった!」

「わかったから落ち着け」

 

 剣の切っ先をバニルに向け、顔を真っ赤にしてダクネスが顔を近づけてくる。

 興奮するダクネスの様子が面白いのか、バニルは笑い声をあげると。

 

「まあ落ち着くがいい。魔王軍の幹部とはいっても、城の結界の維持を任されているだけの、いわばなんちゃって幹部だ。我輩がこの地に来たのは、ベルディアを倒した人間の調査をせよと、魔王に命じられたからだ」

 

 俺とダクネスの脳裏に、自分の首を冒険者達の玩具にされたベルディアの姿が浮かんだ。

 

「そして我輩は、世間で言うとこの悪魔族。我らの最高の食事は、汝ら人間の放つ悪感情だ。汝ら人間が1人生まれる度、我らは飲めや歌えやの宴を繰り広げるだろう」

「本当か?お前の生み出した人形がダンジョンから出るせいで、俺達人間は大変困っているんだが」

「なんと。我輩はこやつらでダンジョンのモンスターを駆除していたのだが。そうか、ダンジョンの外に溢れ出しているということは、もうこのダンジョン内にモンスターはおらぬ、ということか。ならば、次の計画に移行するとしよう」

「……何を企んでいる?」

 

 俺の質問に、バニルは人形を土に戻しながら。

 

「企むとは失敬な。髪型を変えた鎧娘のドレス姿に、内心ときめいていた男よ」

「ちょっと待て!その場で見てきたような言い方をするんだ。……お前もモジモジするな!」

 

 隣で、ちょっとだけ頬を染めてチラチラ見てくるダクネスが鬱陶しい。

 

「我輩にはな、とびきりの破滅願望があるのだ。何時から考えたか思い出せぬほど、遠い昔からな。それは、とびきりの悪感情を食した後、華々しく滅び去りたいというものだ。そして、ある時ふと思いついたのだ」

 

 そしてバニルは熱く語りだした。

 ダンジョンを手にし、各部屋に部下の悪魔を待機させ、更に苛烈な罠を仕掛ける。そこに挑むのは歴戦の冒険者達。冒険者達が挑戦を繰り返し、いつか自分のいるダンジョン最奥にたどり着く者が現れる。そしてバニルは冒険者との激闘の末に倒され、背後に宝箱が現れる。冒険者達がそれを開けると中には『スカ』と書かれた紙切れ。それを見て呆然とする冒険者を見ながら、バニルは滅びたい。……だそうだ。

 

「どうだ。素晴らしいと思わぬか?」

「挑戦した冒険者達が可哀そうだから、止めてくれ。本気で」

「ハルキの言う通りだ」

 

 俺とダクネスにフッと笑い、バニルが言った。

 

「我輩の友人は、この地で店を経営していてな。そこで働かせてもらい金を貯め、それを元に、友人の力で巨大ダンジョンを造ってもらうつもりだったのだ。だが、このダンジョンの前を通りがかった際に主がいないことに気がついてな。もうこのダンジョンで良いかと考え直し、居座ったのだ」

「……まあ、あんたの目的は分かった。これ以上あの人形を作らないなら俺から言うことは特にない。だから、ちょっとどいてくれ。後ろの部屋の魔法陣に用があるんだ。そこの部屋にある魔法陣を消しに来たんだよ」

 

 そう言って魔法陣のある部屋に向かおうと1歩踏み出した瞬間。

 

「小僧。なぜ我輩の後ろの部屋に魔法陣があることを知っている?しかもご親切に消してくれるとは……ちょっと失礼」

 

 バニルは俺の発言が気になったのか、左の瞳を赤く輝かせて俺を見つめる。……って、しまった!魔法陣のことを口にしたのは不味かった!

 

「…………フッ」

 

 俺が止める間もなく、何かを見通したらしいバニルが、乾いた笑い声をあげた。

 

「フハハハハハッ!何という事だ!汝らの仲間のプリーストが、この迷惑な魔法陣を作りおったのか!大悪魔たる我輩ですら立ち入れぬ魔法陣を作るとは、そのプリーストはもしや……!」

 

 ヤバい。こいつを刺激してしまったようだ!

 

「見える、見えるぞ!魔法陣を張ったプリーストと冒険者の小僧が取っ組み合いをしているのが見えるわ!」

 

 大方、『やることがない』とか言ってサボろうとしたアクアを和真が注意して、そうなったんだろう。出来る事なら今すぐ引き返し、和真とアクアの襟首をひっつかんでここまで連れてきてやりたい。

 

「さあ、その男との賭けに負け、どんな要求をされるのか気になり、先ほどから色々と持て余し、期待し、ずっとモジモジしている娘よ」

「持て余してもいないし期待もしていないしモジモジもしていない!適当なことを言うな!言うなあああ!」

「そして、この件が終わったらこの娘にどんな要求をしてやろうかソワソワしている男よ」

「ソワソワなんてしていない!していない!大事なことだからもう1度言う、ソワソワなんてしていない!」

「そこを通してもらおうか!なあに、『人間は殺さぬ』が鉄則の我輩だ。ああ、人間は殺さぬとも。……人間(・・)はな!こんな迷惑な魔法陣を作りおって!1発きついの食らわしてくれるわ!」

 

 こいつ、見通す悪魔とか言ってたな。まさか、アクアの正体が女神であると気づいたのか!

 と、ダクネスが、こちらに距離を詰めるバニルに大剣を突きつけた。

 

「アクアに危害を加えると言うのなら、引くわけにはいかない!」

「石を通り越してアダマンタイト頭な娘よ。見通す悪魔が保証しよう。今すぐその男と帰れば、2人共誰にも邪魔されることなく、お互いが期待する要求を果たすことができるだろう」

「いいかダクネス、甘言に惑わされるなよ」

「誰が惑わされるか!ハルキこそ、時と場所を考えろ!」

 

 俺とダクネスの様子が面白いのか、バニルは手を後ろの部屋に向けると。

 

「お互いに異性として興味がある癖に、身分の違いやらパーティーでの人間関係やらを理由に一線を超えられぬ小心者どもよ!なんなら我輩を通した後、魔法陣の張られた部屋で『ご休憩』でもして帰ればよい!」

 

 バニルの一言に、俺とダクネスはキレた。

 

「ふざけんな!その部屋はな、キールと貴族のお嬢様のお墓なんだ!」

「そこでそのようなことができるかあ!」

「……つまり、ここでなければ『ご休憩』しても良いのだな?」

 

 バニルの発言に、俺達は無言で固まる。

 

「「…………ハッ!?」」

 

 我に返ってバニルを見ると、バニルは無言でニヤニヤと笑って俺とダクネスを交互に見ていた。

 これ以上は俺達の精神的にも良くない。早急にこいつを倒そう!

 先手を取ったのはダクネス。剣を構えて何度も斬りかかるが、バニルはそれをヒョイヒョイ躱し、愉悦そうに笑い声をあげる。

 

「なんだ、威勢の割には攻撃がスカばかりではないか!……む?あの男はどこへ消えた?汝よりも、あやつを警戒すべしと我輩の第六感が告げておるのだが。確かに気配はある、だが何処へ……?」

 

 ダクネスが斬りかかると同時に俺はランタンを地面に置き、壁に張り付いて潜伏スキルで姿を隠していた。

 

「何処を見ている!お前の相手は私だ!」

 

 ダクネスが横薙ぎに剣を振るうと、バニルは大きく後ろに飛びながらダクネスを煽る。

 俺が待ち構えていた所に、背を向けて。

 潜伏スキルを解除すると、バニルの左肩を掴み、逆手に持ったダガーをバニルの後頭部に突き刺す!

 

「ガッ!?」

 

 ダガーを引き抜くと、バニルは膝をつき、タキシードと共に体が砂のように崩れていった。

 

「……見事、だ……」

 

 後には、砂と仮面だけが残されていた。

 

「……まさか。私達がこいつを」

「待った。それ以上言うと碌なことにならない。取り敢えず、奥の魔法陣を消そう」

「そうだな」

 

 ~清掃中~

 

「……これで消えたか」

「ああ。部屋の隅まで綺麗にな」

 

 俺とダクネスはランタンで部屋全体を照らし、魔法陣が消えていることを確認する。

 

「この封印の札。どうしようか?」

「そこはセナと相談して決めよう。もしかしたら、このまま貰えるかもしれないな」

「だといいな」

 

 と言い、俺とダクネスが部屋を出ると、足元から。

 

「お勤めご苦労!」

「うわっ!?」

「ハルキ!?」

 

 唐突に声が聞こえ、続いて何かが俺の顔に飛びつき、張り付いた。

 

 

 

 

「討ち取ったとでも思ったか?残念、仮面(こっち)が本体でした!」

 

 仮面の張り付いたハルキの口から、そんな言葉が飛び出す。いつもと違う口調、まさか、バニルに乗っ取られようとしているのか?なんとうらや、非常にマズい展開なんだ!クルセイダーでありながら、仲間を庇えないとは!

 

「おっと、汝らの悪感情。大変に美味で(ダクネス!封印の札を拾って貼り付けてくれ!)ぬう、我が支配力に抗うとは、何という精神力の持ち主。では、ちょいと出力を上げて(あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!)」

 

 バニルに乗っ取られまいと、ハルキは壁に向かって拳を叩き込む。しかし、所々でバニルの支配力が勝っているのか、拳が壁に当たる直前で動きが止まった。

 なんて見ている場合か!私は気持ちを切り替え、封印の札を探す。そしてそれは、バニルの残骸である砂の上に乗っていた。恐らくバニルが張り付いた時、衝撃で落としたのだろう。

 札を拾って砂を払い、私はハルキにこちらを向かせて、仮面に札を貼り付ける。

 

「(よし、このまま俺ごとバニルを持っていくぞ!)」

「ああ!」

 

 ハルキと共に、私は来た道を逆走して地上に向かう。途中で他の冒険者とすれ違ったり、バニルがハルキの肉体を乗っ取るべく力を強めて足を止めたりした。

 

「ハルキ、もう直ぐ地上だ!頑張れ!」

「(おう!)」

 

 もう直ぐ地上ということは、自分が浄化されることだと察知したバニルが、ハルキの脚を1歩後ろに下げようと試みる。そうはさせまいと、私はハルキを担ぎ、そのまま階段を駆け上がる。そして、地上に飛び出すと──

 

「『セイクリッド・エクソシズム』!」

「びゃあああああああ!」

 

 私達の体が白い炎に包まれ、バニルが悲鳴を上げた。そして私の肩から転げ落ち、そのままゴロゴロとのたうち回る。

 一部始終を目撃したカズマがアクアに抗議するが、人間に無害な魔法だから大丈夫だとアクアは答えた。

 

「アクア!ハルキは今、魔王軍の幹部に体を乗っ取られそうになっている!こいつは悪魔だ!お前の得意分野だろう!」

 

 魔王軍の幹部という単語に、皆がざわめく。

 アクアは恐る恐るハルキのほうに少し近づく。

 そして手を仰ぐと、臭そうに顔を顰め、鼻を押さえる。

 

「臭っ!ええ間違いないわ、このゲロ以下の臭いは悪魔の臭いよ!ハルキったらエンガチョね!」

 

 言われている当のバニルは、フラフラと立ち上がりアクアを見据える。額を見れば、封印の札が削れ落ちていた!さっきのたうち回ったのはこのためか!そして仮面に手をかけ、剝がそうと力を入れるが、仮面は微動だにしない。

 

「小僧!大人しくこの手を離せ!このまま無理矢理剝がせば、汝の顔の皮も剥がれ(知るかぁ!)」

 

 どうやら、バニルはハルキの体を乗っ取るのを諦めていないようだ。冷静に考えてみれば、ハルキの体はそこそこ優良物件なのだろう。悪魔の弱点である光に属する魔法への耐性は低いが、それを補う機動力をハルキは有している。加えて、何処に持っているのかわからないほどの大量の武器を持ち歩き、距離を問わず戦うことができる。ここから逃げ出し、遠距離からアクアを狙い撃つなんてことをバニルは考えているのだろう。

 

「やめろ!やめるのだ!これ以上は」

 

 ハルキが僅差で勝利したのか、仮面が徐々に剥がされていく。

 

「(ぬおりゃあああ)あああああ!」

 

 そして、聞こえてはいけない音と共に、仮面は剥ぎ取られた。それに伴って小指の爪ほどの皮膚が額から剝がれ、出血していた。ハルキに捕まっているバニルは、再びハルキを乗っ取ろうと抵抗しているが、ハルキも必死でこれを掴んでいる。

 

「おいバニル。お前、過去を見通せるらしいな?」

「如何にも。我輩は見通す悪魔。その者の過去とこれから来るであろう未来を見通すことができるぞ」

「……なら、1つ俺から頼みがある」

 

 ハルキの一言に、皆が驚愕に目を見開く。それを気にも留めず、ハルキは続ける。

 

「大悪魔であるこの我輩に頼みとな?だが、物事には対価というものが存在する。汝の願いと、用意している対価は何だ?」

「願いは、俺の弟が魔王軍の手先でないことをこの場で証明すること。対価は、お前の破滅願望の成就だ。嘘の証言をしたらこの話は白紙にして、アクアの魔法でお前を浄化する」

「ほほう。具体的には、いかなる方法で我が願望を叶えるつもりか?」

「うちに爆裂魔法を使えるアークウィザードがいる。それで華々しく散ってみないか」

「ふぅむ……」

 

 アクアがいつでも魔法を放てるように構え、皆が見守る中、バニルが思案する。

 

「……うむ。それならば良し!では、そこでこちらを見ている検察官の娘と冒険者の小僧。こちらへ来い。それと、離してはくれまいか?安心するがよい、我輩はそこなチンピラプリーストと違い、1度約束したことは絶対に守るぞ」

 

 チンピラと呼ばれたアクアが激怒し、魔法を放とうとするが、めぐみんとゆんゆんが取り押さえて宥める。

 そうしているうちにカズマとセナがこちらに来て、バニルもタキシードを身に着けた体を再構築させる。

 

「では、始めるとしよう。そう構えずともよい。少し汝の過去を覗くだけである」

 

 そう言ってバニルは瞳を赤く輝かせ、カズマの顔をじっと見る。

 

「……おっと。確かに、魔王軍の幹部と交流はあるな。だが、これは……」

 

 セナがそれは誰だと訊ね、カズマは顔から一瞬で血の気が失せた。

 

「ベルディアだ。この小僧とそこの紅魔の娘は、ベルディアが拠点にしていたと知らず、毎日のように廃城に赴いては、爆裂魔法の標的にしておった。そしてベルディアの堪忍袋の緒が切れ、抗議するべく街に来ておるな」

「……それだけですか?それ以外にも何かありませんか?」

「何も無い。しかし、これを交流と捉えるとは、汝はかなりの変わり者であるな」

 

 カズマの顔を覗き込むようにバニルが顔を近づけ、カズマの隣にいたセナは顎に手をあてて悩んでいた。そんなセナには目もくれず、バニルは満足したように笑むとこちらから離れる。

 

「さて、約束通り、小僧の無実は証明した。さあ、そこの紅魔の娘よ!汝の爆裂魔法で我輩の命を派手に散らしてくれまいか」

「待ってください!今の発言ではとても証明したとは……」

 

 めぐみんが爆裂魔法を打つべきか悩んでいるところに、セナが待ったをかけた。バニルはそんなセナを見て一言だけ告げた。

 

「……では、我輩から1つ助言を授けよう。汝、自らの良心に従い、成すべきことを成すが良い」

 

 その言葉を聞いて、セナは少し悩んだが、覚悟を決めたような表情で頷いた。

 

「めぐみん。やれ」

 

 カズマの指示を受け、めぐみんは詠唱を開始した。

 両手を広げ、自らの死を受け入れるような姿勢のバニルに爆裂魔法が炸裂し。ダンジョン前に盛大な爆発音が轟いた。

 

 

 

 

 バニルと遭遇した数日後。

 

「冒険者、サトウカズマ殿!」

 

 ギルドの受付の前で、他の冒険者の熱い視線を浴びながら。

 

「貴殿を表彰し、この街から感謝状を与えると同時に、嫌疑を掛けた事に対し、深く、謝罪を──」

 

 そう言って、俺に深々と頭を下げるセナから、俺は感謝状を受け取った。

 俺達は、魔王軍のスパイ疑惑が晴れた。表向きはセナの調査の結果ということになっているが、実際はあのバニルの証言によるものだ。

 そして、今回のコロナタイトに対する対処法が、ランダムテレポートしかなかったことから緊急避難の適用が認められ、一転して無罪になった俺は、遅ればせながらデストロイヤー戦での賞金を受け取れることになった。

 これで、死刑に怯える必要もないし、借金返済の目処も立った。この後は、賞金の額を伝えられ、受け取る流れになっている。

 

「兄さーん。まだー?」

「ちょっと待ってろ」

「……」

 

 皆の注目を集めるテーブル席では、兄さんに背中を向けて耳まで赤くなっているダクネスと、櫛で梳いたダクネスの髪を結い上げる兄さんがいた。髪を結い上げると、今度は前髪を摘まんで一房立てると、指に塗ったワックスで固める。

 

「よし、できた。じゃ、行くぞララティーナ」

 

 本名で呼ばれて、ビクッと反応するララティーナお嬢様。他の冒険者も兄さんに同調してダクネスのことをララティーナと呼んでからかう。

 あの後、兄さんがダクネスに要求したのは、言うことを聞かせる数を2つに増やすこと。それで要求したことは、ダクネスの本名の書かれた紙をギルドの掲示板に張ること。それと、俺達が賞金を受け取る日に、他の冒険者の前で髪型を変えるというもの。プルプル震えるダクネスにアクアが自分の名前に自信を持てと100%善意の言葉を投げかけ、めぐみんは笑うのを必死で堪えながらダクネスの肩に手を置いていた。因みに、俺達のパーティーメンバーであるゆんゆんはというと……。

 

「本当にいいのか?」

「はい。デストロイヤー戦に私は参加していなかったので」

 

 デストロイヤー戦に参加していないという理由で賞金は受け取れず、他の冒険者と一緒に俺達を見ていた。

 

「──では続いて!サトウ殿への賞金授与に移ります」

 

 セナが言葉を続けると、ギルド内が一転して静かになる。

 そして、俺達の借金と領主の屋敷の弁償金を機動要塞デストロイヤーとバニル討伐の報酬から差し引いた値。4千万エリスが進展された。パーティーのリーダーである俺がずっしりと重い袋を受け取ると、ギルド内に激しい喝采が巻き起こった。

 

 

 

 

 翌日。俺と和真は、ウィズ魔道具店に来ていた。

 キールのダンジョンで、バニルは言っていた。この地で、友人が店を経営していると。そして和真は以前、ウィズの知り合いに金を稼ぐのが上手な者がいるとも聞いたらしい。以上のことから、バニルの言う友人とは、ウィズのことなんだろうと思い、俺と和真はここに来た。

 仕事とは言え、ウィズの友人を倒してしまったことを報告したら、どんな顔をするのか想像しながらドアを開けて店に入ると──

 

「へいらっしゃい!ウィズ魔道具店へようこそ!我輩は、先日よりここでバイトとして雇われた通りすがりの見通す悪魔、バニルである!以後お見知りおきを」

 

 タキシードの上にエプロンを身に着けた、新顔の店員に俺と和真は言葉を失った。

 

「カズマさん、聞きましたよ!バニルさんの証言で、スパイ疑惑が晴れたとか!おめでとうございます!」

「いやいやいや。何でバニルがここにいるんだよ!爆裂魔法食らって死んだ筈だよな!?」

 

 カズマの問いかけに、バニルは自分の仮面の額を指さす。

 

「我々悪魔の命には、残機がある。そして我輩はあの爆裂魔法で1度死んだ。ゆえに、今ここにいる我輩は、二代目バニルという事だ」

「「なめんな」」

 

 口を揃えて即答する俺と和真を、ウィズは宥めてくる。

 

「バニルさんは、前々から魔王軍の幹部を辞めたがっていたんですよ。なので、1度滅んで、夢のために再び蘇ったみたいです。今のバニルさんは、既に魔王城の結界の管理をしていません。なので、とても無害なはずですよ?」

 

 友人に会えて嬉しいのか、ウィズがニコニコしながら言ってきた。

 本当に無害なんだろうか?悪感情を頂くために何かやるんじゃないかと、棚の品を整理整頓しているバニルを注意深く見る。

 そして、整理整頓を終えたバニルは俺のほうを見るとスッと近づき。

 

「汝、遠い彼方の地よりやって来た男よ。遠くない未来、汝とあの鎧娘に抗い難い試練が訪れる。その試練は強大で、汝は自らの力のなさを実感するだろう。それまでに、我らと商売に協力するが吉と出た。……良い話があるのだが、お1つどうか?」




バニル戦ですが、言葉で相手を誘導するという悪魔らしさを強調するためにこのような展開にしました。
次回は陽樹とダクネスの過去話を少しする予定です。


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15話

このファン水着ガチャ見て思ったのですが、アクアが海に潜ったら海水が真水になってしまうからかなりヤバいのでは?


「もう今年も終わりか~」

「あっという間だったね~」

 

 年末の夜。俺と和真は屋敷の風呂に入り、一息ついていた。今年は色々なことがあり過ぎた。

 魔王軍の幹部ベルディアの討伐で借金を背負い、機動要塞デストロイヤーの討伐でまた借金を背負い。更にテロリストの疑いをかけられた。それも何とか全て解決し、こうして年越しを迎えることができた。

 

「……兄さん」

「何だ」

「兄さんが異世界(こっち)に来てからの話、少し聞かせてくれない?弟して、知っておきたいからさ」

「わかった。そうだな……」

 

 

 

 

 遡ること5年前の冬。

 

「ここが異世界か……」

 

 女神アクアから転生特典を頂き、転送され駆け出し者の街アクセル。の、路地裏。まずはこの街で冒険者登録しなさいと言われた。登録にはお金がかかるらしく──

 

「これが登録料か。さてと、まずは登録場所でも探すか」

 

 金をポケットに戻し、俺は冒険者登録をするための建物の探索を始めた。

 そして探索すること10分ほど。

 

「ここか、この街の冒険者ギルドは」

 

 かなり大きな建物で、酒場も併設しているのか、酒と食べ物の匂いが漂う。

 食事目的ではないので、真っ直ぐ奥のカウンターへと向かう。受付は4人で、男女比は2:2。

 その中でも俺は、眼鏡をかけた真面目そうな男性のところに向かった。

 

「冒険者ギルドへようこそ。本日は、どうされましたか?」

「冒険者になりにきました」

「わかりました。では、登録料1000エリスになりますが、大丈夫ですか?」

「はい」

 

 俺がポケットから言われた通りの額の金を出すと、男性職員はそれを確認する。

 そして、俺の前に免許証ほどの大きさのカードを差し出した。

 

「では。冒険者になりたいと仰るのですからある程度理解しているとは思いますが、改めて簡単な説明を」

 

 ~男性説明中~

 

「では、こちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴等の記入をお願いします」

 

 受付の男性が差し出した書類に、俺は自分の特徴を書きだす。

 身長170cm、体重62kg、年は16、茶髪に茶色目で……

 

「はい、ありがとうございます。では、こちらのカードに触れてください。それで貴方のステータスが分かりますので、その数値に応じてなりたい職業を選んでください。経験を積むことにより、選んだ職業によって様々な専用スキルを習得できる様になりますので、その辺りも踏まえて職業を選んでください」

 

 俺は内心少し緊張しながら、カードに触れた。

 

「…はい、ありがとうございます。サトウハルキさん、ですね。筋力、敏捷性、器用度、知力やや高め。生命力普通。おや、幸運と魔力が非常に高いですね。選択できる職業は《冒険者》、《戦士》、《アーチャー》、《盗賊》、《ウィザード》等があります。それと、特定の宗派に属せば《プリースト》にもなれますが、どれにしますか?」

 

 そう言った職員が、各職業について簡単に纏めた冊子を差し出してくる。俺はページをめくってそれぞれの職業を確認し、考える。

 元いた世界と違って、こっちは剣と魔法の世界だから魔法職に就きたい。でも、魔法の詠唱をかんだりして失敗して、ピンチになるなんてことは避けたい。ここは無難に《戦士》か《アーチャー》辺りにしておくか?しかし《冒険者》は全ての職業のスキルを取得できるというのも魅力的だし……

 うんうんと悩みながらページをめくっていると、ある職業が俺の目に飛び込んだ。

 

 ・《傭兵》

  【長所】ほぼ全ての武器を扱うことができ、距離を問わず戦える。

  【短所】魔力を用いた攻撃手段を持たない。

 

 ほぼ全ての武器を扱える、というのは、俺が貰った転生特典と非常に相性が良い。しかし、そのためのステータスが足りない。レベルアップしてステータスが上がれば転職もできるらしいし、ここは──

 

「《冒険者》で、お願いします」

「かしこまりました。では、《冒険者》サトウハルキさん。今後の活躍、期待しています」

 

 《冒険者》と記された冒険者カードを手に取ったこの瞬間、俺の冒険者生活は始まった。

 

「何も無いな……」

 

 訂正。開始1分で、俺の冒険者生活は1つの壁に当たった。

 俺は武器や防具の類を持っていない。

 さっきお手洗いに行ったときに、個室で能力を試してみたが、何も出てこなかった。物を収納したり取り出す能力だけで、スターターセットのようなものがない。ナンテコッタイ。

 仕方なく、装備を揃える金を得るためのクエストはないかと探してみるが、どれも難易度が高いものばかり。昼間から酒場で冒険者達が酒を飲んでいると思ったら、こういうことだったか。筋力はやや高いらしいから、土木工事のバイトで金を稼ぎ……いや、違う!

 

「無いなら作ればいいじゃないか」

 

 そう思った俺は、直ぐに冒険者ギルドを出て、街の鍛冶屋を探した。

 

「ごめんくださーい」

「らっしゃい。……見ない顔だな、武器の購入か?」

 

 俺は探していた鍛冶屋の中で最初に見つかった店に入り、声を掛ける。すると、店の奥から店主と思われる男性が出てきた。

 俺は店主に事情を説明し、そのうえで鍛冶師になりたいと言った。すると店主は腕を組んで……

 

「構わねえが……お前さんの冒険者カードを見せてくれ。それで判断する」

「わかりました」

 

 俺が差し出した冒険者カードに隅々まで目を通すと──

 

「筋力もこれだけあれば良いだろう。職業が《冒険者》だから、《鍛冶》スキルは俺が教えれば問題ない。合格だ」

「ありがとうございます」

 

 頭を下げると、店主は二カッと笑いながら手を差し出してきた。

 

「俺の名前はモロトク。よろしくな、ハルキ」

「よろしくお願いします。モロトクさん」

 

 俺は手を差し出し、固い握手を交わした。

 

 

 

 

「……とまあ、そんな訳で俺は副業で鍛冶師を始めたんだ」

「で、そっからは?」

 

 そこから先は特筆して言うべきこともなく、冒険者と鍛冶師の二足の草鞋を履いて生活していたと話すと、和真が嫉妬と羨望の眼差しで俺を睨んできた。俺は激動の1年を送ったのに、と。

 

「ウィズと会ったのは?」

「《冒険者》だから魔法を誰に教わろうか考えていたら、ギルドの職員に紹介されたんだよ。俺が冒険者になって半年位だから、ウィズとはそこそこの付き合いになるな」

「ダクネスとは……ごめん、それは本人から直接聞く。そろそろ年越し蕎麦食べよ」

「そうだな」

 

 俺と和真は揃って湯船から上がって体を拭き、寝間着に着替えて居間へと向かった。

 

 

 

 

 同時刻、居間。

 

「ここに、こうです」

「では、王手だ」

「これで、回避します」

「言っただろう、王手だと」

「ああああ~っ!また負けましたああああ!」

 

 ハルキとカズマが風呂に入っている間の暇つぶしに、めぐみんとショウギの対局を行っていた。アクアは酒をチビチビ飲みながら。ゆんゆんは、膝の上に座るちょむすけを撫でながら、私達の対局を観戦していた。結果は2戦とも私の勝ち。連敗中のめぐみんが何故勝てないのかと頭を抱え、悔しそうに唸る。

 

「もう1回!もう1回お願いします!次こそは勝ちますよ!」

「わかったわかった。今年の分は次で最後にしよう」

 

 駒をそれぞれ配置し、先攻はめぐみんで3戦目を開始した。

 

「む~ん……」

「さ、めぐみんの番だぞ?」

「分かっています。ですから少し黙っててください」

 

 めぐみんが盤面と睨めっこをしながら、駒の動かし方を思案する。そして閃いたのか、口元をにやりとさせる。

 

「そういえば、ハルキとはどういった経緯で知り合ったのですか?」

 

 駒を動かしながら、めぐみんが訊ねてくる。時間稼ぎのつもりか?まあ、その位なら問題ないだろう。

 

「そうだな。あいつとの出会いは……」

 

 めぐみんの駒を取りながら、あいつと出会った時のことを話し始めた。

 

 

 

 

 今から3年前の春のこと。

 

「ねえダクネス。今日はどんなクエストを請けたい?」

「一番気持ち良いのを頼む」

「私達2人でこなせそうなクエストね」

 

 私の注文をさらっと流した銀髪の少女の名はクリス。冒険者としての私の数少ない友人の1人で、仲間の1人だ。仲間ができるようにと毎日お祈りを続けていたある日、教会からの帰りに出会い、その場で意気投合して以来の付き合いになる。先程のやりとりも、仲間(友人)になってからずっと続けていたせいか、クリスの反応が段々冷たくなってきたように感じる。だがそれが良い!

 っと、請けるクエストを早く決めなければ。他の冒険者に取られてしまう。

 

「あ、すいません」

「いえいえ。どうぞ」

 

 そう思った矢先、クリスが請けようとしたクエストが、他の冒険者と被ってしまったようだ。相手の冒険者は、そのクエストをクリスに譲り、他のクエストを探し始めた。

 

「クリス。クエストの内容は?」

「ゴブリンの退治。近くの森に住み着いた群れが確認されたんだって」

 

 ゴブリン。

 子供程度の大きさで、個体の力はそこまで強くない。しかし、ゴブリンは基本的に群れで行動し、手にした武器とその凶暴性で家畜や人を襲うモンスターだ。

 そのゴブリンの群れに囲まれ、数の暴力で叩かれたら、私はどうなってしまうのだろうか。想像しただけで涎じゃない、身震いが止まらない。

 

「よし、それなら早速そのクエストを……クリス?」

「……」

 

 クリスの顔を見てみると、顎に手をあてて何かぶつぶつと呟いている。

 そして顔を上げると、まだクエストを探していたらしい、先ほどの冒険者の手を引くと。

 

「ねえ君」

「ん?」

「私達とパーティーを組んでみない?」

 

 場所は移り、ギルドに併設されている酒場の隅のテーブル席。

 私の隣にクリスが座り、テーブルを挟んで冒険者が座っている。

 革鎧と鎖帷子を身に纏い。背中には長弓(ロングボウ)と矢筒、腰には曲剣を装備した男性の冒険者。

 名前はサトウハルキ。外見から、年齢はおそらく19歳前後。可もなく不可もなくな顔付き。しかし、鍛冶師をやっている影響か、鎧越しにも鍛えられた肉体の持ち主であることがわかる。

 

「パーティーを組みたい、というのは?」

 

 と、その男はクリスに問いかけた。そしてクリスは、群れの規模が書かれていないため、自分達2人では手が足りなくなるかもしれない。もしかしたら、初心者殺しに遭遇するかもしれない。そこで、もう1人仲間が欲しいと思い、近くにいた貴方に声をかけた。と言った。

 

「あと、今回のクエストの結果次第では今後も同じパーティーとして活動したいと思っているんだけど……どうかな?」

「わかった」

「ありがとう。それじゃあ、早速行こうか」

 

 そして私達3人は、ゴブリンの群れの目撃情報のあった森に足を運んでいた。

 クルセイダーの私を先頭に、敵感知を使えるクリスが私の後ろで索敵を行い、ハルキは抜き身の曲剣、本人はカタナと呼んでいた剣で何時でも迎撃できるようにしている。

 

「どうだ、クリス。群れは見つかったか?」

「ん~……見つけた。左に曲がって直進して」

 

 クリスの発言通りに進むと、ゴブリンの群れを発見した。

 数はおよそ10匹ほど。それぞれが弓や棍棒、刃の毀れた剣などで武装し、木の実などの食料を探していた。幸い、こちらにはまだ気づいていないようだ。周囲にも初心者殺しはいない。……ならば!

 

「『デコイ』ーーーッ!」

 

 先手必勝。私はデコイを発動させると同時に、ゴブリンの群れへと突っ込んだ。

 相手も流石に気づいたのか、武器を手に攻撃してくる。

 私も負けじと両手剣を振るうが、剣はゴブリンの体を掠りもしない。こうしている間にも、ゴブリン達が各々の武器で私を責め立てる。

 

「いいぞ!もっとこい!」

「ギャフッ!?」

 

 私に弓を放っていた個体が、クリスのダガーで背後から心臓を貫かれて倒れた。

 

「グエッ!?」

 

 私を棍棒で叩いていた個体が、ハルキのカナタで胴体を両断された。

 そして、弓を持っていた個体を仕留め終えたクリスが合流し、残りの殲滅にかかる。

 

「これで全部か?」

 

 殲滅を終え、カタナについたゴブリンの血を拭いながら、ハルキがクリスに訊ねる。クリスもダガーにこびりついた血を拭いながら、敵感知で周囲を探る。

 

「……うん。これで全部だよ。初心者殺しの気配もない」

「クエスト完了か」

「そうだね。さ、ギルドに帰ろ」

 

 そして場所は再び、ギルドの酒場の隅のテーブル席。

 

「はい。これハルキの取り分ね」

「ありがとう」

「と、いうわけで。今回パーティーを組んだわけだけど……今後も、パーティーとして活動してくれますか?」

 

 報酬を受け取ったハルキに、クリスが敬語で訊ねる。

 ハルキは顎に手を当て、暫く思案すると。

 

「ああ。これからも、よろしく」

「いいの!?」

 

 クリスの質問に、ハルキは首肯で答える。

 

「だって、自分からゴブリンの群れに飛び込んだり、スキルを取得してないから剣を振っても当たらないダクネスがいるんだよ?今までだって、それを理由にパーティー加入を断られたんだよ?それでもいいの?」

「楯役として専念してくれるなら武器系のスキルを取らなくても問題ない」

 

 ハルキのその一言に、クリスは涙を浮かべながら手を取り、感謝の言葉を述べる。余程嬉しかったようだ。……つまり、私はそれだけクリスに負担をかけてしまっていたということか。反省しなくては。

 

「これからもよろしくね!ハルキ!」

「よろしく」

「おう」

 

 

 

 

「……というわけで、私とクリスはハルキとパーティーを組み、活動するようになったんだ」

「成程、それが2人の馴れ初めなのですね」

 

 『馴れ初め』という単語に、一瞬動揺した。だが落ち着け、あれはめぐみんの作戦だ。私に精神的揺さぶりをかけて、勝利しようとしているのだ。流石は紅魔族。知力が高いだけはあるな。深呼吸をして心を落ち着かせ、お互いに駒を動かしていく。

 

「ねえダクネス。ハルキはどうやってダクネスの本名を知ったの?(カズマ)と同じくらいとんでもないことでもしでかしたの?」

 

 酒をチビチビ飲んでいたアクアが、話しかけてきた。大分顔が赤くなっているアクアを見て席を立ったゆんゆんが、コップに水を注いで持ってきた。アクアはそれを受け取り、一気に飲み干す。

 

「いや、ハルキは何もしていないぞ?ただ、偶然そうなっただけで──」

 

 

 

 

 ハルキが私とクリスのパーティーに加わってから季節は移り変わり、冬。

 

「(……そろそろ大丈夫だろう)」

 

 宿の部屋で、何をするわけでもなく外を眺めていた私は、ハルキが住み込みで働いている鍛冶屋に向かった。

 年に1回、応募した技術者が各々の作品を持って王都に集まり、それを貴族達が査定する会がある。この時、一定の基準(作品にかけられた金額)をクリアした者には、上から第1級、第2級といった具合に階級を得ることができる。階級を得た者には、貴族達が査定の時に決めた金額がそのまま賞金として授与される。

 そしてハルキはそれに応募した。結果は第2級技師に認定。それが今日、本人に伝えられる。それを伝えるのは、街にいる貴族……つまり私の父、ダスティネス・フォード・イグニスだ。場所はおそらくギルドだろう。そして、用事も終えて、賞金を受け取ったハルキが鍛冶屋にいるだろう。そう思い、私は鍛冶屋の扉を開けた。

 

「ハルキ、結果は──」

「おや、ララティーナ」

 

 鍛冶屋に入った瞬間、私は固まった。

 鍛冶屋にはハルキと、店主のモロトクさん。そして、護衛を連れた私の父がいた。

 

「どうして」

 

 ここに来たのか、そう聞かれるよりも早く私は父の手を掴み、鍛冶屋を出て路地裏に移動した。

 

「なぜお父様が鍛冶屋にいたのですか!?」

「いや、その、サトウハルキという少年に結果の伝達と賞金を授与に──」

「それが何故鍛冶屋でなのかを聞いているのです!普通はギルドでするべきでしょう!?」

「うむ。私は少し前に、ギルドで彼に伝達と賞金の授与を行った。そして、娘の装備を何か作ってもらえないかと、仕事の依頼のために、あの鍛冶屋に場所を変えたのだが……」

 

 何と間の悪い。鍛冶屋に来る途中、万が一にも私の身分がバレないようにとエリス教会で祈ってきたというのに。先ほどの私の行動で、おそらくバレてしまっただろう。

 

「実は、あのサトウハルキという鍛冶師は、私の冒険者仲間でもあるのです」

「ほう、彼が」

「はい。しかし彼は、私の本名と身分を知りません」

「そうか……ララティーナ。もしや、自分の本名と身分を知られるのが、嫌なのか?」

「いいえ、知られるのは別に問題ありません。ただ……」

 

 私に対する接し方が、対等な仲間から、貴族の令嬢に対するものに変わるのではないか。それが嫌だと私は言った。冒険者のダクネスとして活動している間は、同じパーティーの仲間として接してもらいたい。私は俯きながら、父にそう言った。

 

「大丈夫だ、ララティーナ」

 

 父は私の肩に手を置き、顔を上げるように言った。

 

「彼は、お前が貴族の令嬢と知っても、態度を変えるようなことはしないだろう」

 

 これでも人を観る目には自信がある、と。私の不安を払拭するように、父は言った。

 そして、1ヶ月後。

 

「ここがハルキの工房かー」

「ちょっと街の中心から離れているが、中々良い場所じゃないか」

 

 場所は街の郊外。それなりの広さがある石造りの工房は、元々別の鍛冶師が使っていたらしい。

 不動産屋曰く、前の持ち主の実家は農家で、身内に不幸があったために工房を売り払い、実家に戻って農業をして生活することにしたらしい。

 

「じゃあ、取り敢えずそこに座ってくれ。クリス、ダクネスいや、ララティーナ」

 

 工房内を見て回っていると、椅子代わりの木箱を置いたハルキに呼びかけられた。反射的に私は肩をビクッと震わせ、ハルキに促されるままに座る。クリスは怪訝そうに座り、私とハルキを交互に見る。

 

「さて、ダクネス。この間貴族の人がお前のことをララティーナと呼んでいたが、あれはどういうことだ?」

「あの人、ダスティネス・フォード・イグニスは……私の父だ」

 

 ダスティネスと聞いたクリスは驚き、対照的にハルキは頭に疑問符を浮かべていた。そんなハルキにクリスは、私の家が『王家の懐刀』或いは『盾の一族』と呼ばれる名家だと説明すると、

 

「懐刀なのか盾なのかはっきりしろ」

 

 と文句を言われた。私達にそれを言われても困るのだが。そして次に、私の本名の可愛らしさに食いついた。

 

「まあ、ダクネスの家が凄いということはわかった。じゃあ、本名じゃなくて偽名で活動している理由は?」

「同じ仲間として対等に扱って欲しいから、貴族であることを隠していた。正直、仲間に何か隠し事をするのは少々が良心が傷んだが」

 

 ハルキとクリスも心当たりがあるのか、私から目を逸らした。何を隠しているのか聞きたいところだが、それはまたの機会にしよう。

 

「いいか、ダクネス。お前の身分が何であろうと、ダクネスが大事な仲間であることに変わりはない」

「そうだよ」

 

 ハルキの言葉に、クリスも同調するように頷く。

 

「だから、いつも通り対等な仲間として接するから、安心してよ」

 

 タイミングが良かったのか、後ろの窓から顔を出した太陽が重なり、クリスに後光が差していた。私は、反射的に片膝をつき、深々と頭を下げる。

 ありがとうございます、女神エリス様。私は、本当に良い仲間に巡り会えました。

 

 

 

 

「というわけで、私がダスティネス家の令嬢だということを、ハルキとクリスは知ったんだ」

「ふ~ん」

 

 普通過ぎてつまらんといった風にアクアは酒を注ぎ、杯を傾ける。まだ飲むつもりか。

 

「成程、親との顔合わせも済ませてあると」

 

 続いて、めぐみんがそんなことを言った。

 

「な、なあ、めぐみん。なぜ先程から『馴れ初め』とか『顔合わせ』とかいう言い回しをするんだ?」

「なぜって、お2人がデキてるからそう言っているだけです」

「待ってくれめぐみん。私とハルキは冒険者仲間であって、男女の関係ではない」

 

 私がそう言うと、めぐみんとアクア、ゆんゆんまでもが、驚愕に目を見開いた。

 

「ハルキが工房を構えてから、寝食を共にしていたのでしょう?」

「ああ」

「この間、ハルキがダクネスの髪に慣れた手付きで手を加えたでしょう?」

「ああ」

「「「つまり2人はデキているんでしょう?」」」

「違う!!!」

 

 私が大声をあげて驚いたのか、ちょむすけがゆんゆんの膝から飛び降りた。

 

「ああ、ちょむすけ。おいでおいで。お~よしよし、驚かせてすまなかった」

「なぁ~」

 

 ちょむすけを抱き上げて優しく撫でると、気持ち良さそうに目を細める。

 こうしている間も、私とめぐみんは対局を続ける。精神的揺さぶりで負けるなど、あってはならない。

 

「ですがダクネス、女にとって命とも言える髪に、異性が手を加えることを許可するということは、そういう風に捉えられるものなのですよ」

「ええ。実際、街の冒険者の間で賭けになってるわ。2人の子供は男子か女子か。人数は。婿入りか嫁入りかetc.」

 

 どうしてそんなことになってしまったのか。膝から崩れ落ちてしまいそうになるのを必死で堪える。

 

「いいか皆、そもそも私とハルキには身分の違いというものがある。だから、皆が想像するような関係になることは有り得ない」

「身分の違いがなければいいんですか?」

 

 その時、私に衝撃走る。

 そして想像する。街の何処かで家を買い、そこで暮らす。子供は男女どちらか1人。やがて子供がすくすくと成長して……って、何を考えているんだ私は!

 私は頭を左右に振り、雑念を振り払う。

 

「めぐみん。仮に身分の違いがなくとも、私のようなデカい筋肉女よりも、めぐみんのように小柄で華奢な女性のほうを選ぶだろう。だから、私とハルキは男女の関係になれない」

「……まあ、ハルキの女性の好みを知っているわけではありませんから、何とも言えませんね。王手です」

「なぁっ!?」

 

 盤上を見てみれば、私は絶体絶命の危機に瀕していた。卑怯なとめぐみんを睨むと、勝ち誇ったような笑みを浮かべためぐみんがふんぞり返って私を見下ろす。

 いや、まだだ。まだ起死回生の1手はあるはずだ。私は頭を全力で回転させ、思案していく。そして、そのために何をするべきか策が浮かんだ。私はそのために駒を……

 

「にゃっ」

「「「「ああーっ!!」」」」

 

 動かそうとしたら、ちょむすけが盤上に飛び乗り、駒をぐちゃぐちゃに動かして丸くなった。

 場を沈黙が支配する。当のちょむすけは、どうしたの?と顔を上げて首を傾げる。

 

「……とりあえず、この子は後でお風呂の刑ですね。勝負は年を越してから再びするということで」

「そうだな。そろそろカズマとハルキが上がる頃だろう」

 

 3戦目はなかったことになり、そのままハルキ達が居間に来るのを私達は待った。




ハルキを師事した鍛冶師の名前は、ロシア語で金槌という意味です。
次回。
そうだ、アルカンレティア行こう


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16話

こっちの和真は、身内の目もあって規則正しい生活を送っています


 年が明けて1月経ったある日の朝、和真が言った。

 

「湯治に行きたい」

 

 と。

 和真曰く、魔王軍の幹部や大物賞金首との戦闘で疲れた心身を癒したいらしい。ただ、今は商品開発に忙しいから、それが終わってからにしたいと付け加えた。

 

「まあ、強敵との戦闘続きで疲れていたのは否定できないな」

「でしょ?というわけで、どっか良さげな温泉地を知らない?」

 

 和真が言うと、めぐみんが真っ先に手を挙げる。

 

「でしたら、水と温泉の都、アルカンレティアはどうですか?」

 

 めぐみんが言うには、アルカンレティアという都市は、プリーストを数多く抱えているために、魔王軍の者にとって戦い辛く、とても平穏とのこと。そして、その街は水の女神アクアを御神体として崇めるアクシズ教団の総本山らしい。

 和真はめぐみんの提案を聞き、即断即決した。

 

「で、でもカズマさん。アクシズ教徒の人達はその、ちょっと変わっている人が多いですよ?疲れをとるつもりが、余計に疲れちゃうかもしれないですし、別の場所に……」

「大丈夫だよ、ゆんゆん」

 

 ゆんゆんのアドバイスに、ハイライトの消えた瞳で答える和真は味噌汁を一口啜ると。

 

「今更奇人変人の類に遭遇しても、微塵も動じないさ」

 

 乾いた笑い声をあげる和真の様子から、かなり精神的にきていることを、俺達は察知した。

 

 

 

 

 春。

 雪解けの季節であり、冬の間に引きこもっていた冒険者達が活動を再開する季節。

 モンスター達が活発に動き回り、繁殖期に入る、そんな季節。

 

「じゃ、俺は仕事でちょっと王都のほうに行ってくる」

「行ってらー」

「クエストに行くのはいいが、死なないように気をつけろよ?」

「わかってるよ」

 

 俺達は何時ぞやのように、二手に分かれて行動していた。

 俺は仕事で王都に。和真達は、クエストを請けるためにギルドへ向かった。

 街のテレポート屋を使って王都に到着し、ギルド前。

 

「ハルキさん。こっちです」

「よう御剣。待たせたな」

 

 こっちも今来たところです、と、お決まりの台詞を言う御剣の目は、期待と興奮で満ち溢れていた。

 俺が王都に来たのは、拠点を王都(こっち)に移した御剣に、装備の強化をしたいと依頼されたから。前の刀を改造し、アダマンタイトとミスリルを合金にした刀身にして欲しいという注文を受けたのが、年明けから1週間ぐらいのこと。

 当時俺は、ある商談のための商品開発をしていたので、完成には時間がかかると言ったら「幾らでも待ちます」と言われた。あれは正直引いた。

 席についた俺は白布に包まれた物をテーブルの上に置き、中身を御剣に見せる。

 

「注文の刀だ」

「ありがとうございます」

 

 御剣は一礼すると、刀を手に取る。静かに抜刀し、刀身と鍔をじっくりと見つめ、感嘆のため息をつく。

 

「……ふつくしい……」

「仲間の2人はどうした?」

「彼女達なら、隣国でレベル上げをしています。僕と一緒だと、どうしても僕が一番多く敵を倒してしまい、彼女達のレベルが上がらないので」

「チート持ちってのも大変なんだな」

「ええ」

 

 御剣は苦笑しながら、刀を納刀して腰に帯びる。

 

「そうだ、ハルキさん、僕とクエストでも請けてみますか?というか、今のレベルはどの位ですか?」

「35を超えてるな」

「それだけあればここを拠点にしてもいいと思うんですが……」

「そう思ってここの宿で部屋を取って一泊したが、駄目だ。ここの夜景は明るすぎる。俺にはアクセルの街くらいがちょうど良い」

 

 後は初心者からベテランまで相手にするなら駆け出しの街のほうが都合が良いとか、それらしい理由を口にする。一番の理由はサキュバスが経営する例の店だが、御剣には言わないほうがいいな。真面目そうな御剣のことだ、討伐に乗り出しかねない。

 

「じゃあ、俺は街に帰る」

「わかりました。それじゃあ、また仕事の依頼をする時にでも」

「ああ。またな」

 

 

 

 

 そして、翌日の朝。まだかまだかと来客を待っていた俺と和真の耳に、玄関の扉をノックする音が聞こえた。俺が扉の前に向かい、開けると──

 

「フハハハハハ!お早う、諸君!ろくな目利きの出来ぬポンコツ店主に代わり、目利きに定評のある我輩が商談に来た。さて、当店に卸す予定の商品が如何なる物品か、我輩とても楽しみである!……む?」

 

 そこにいたのは、怪しげな仮面を着けた悪魔、バニルだった。

 それを見て、アクアがゆらりと立ち上がる。

 

「ねえちょっと。どうやってこの屋敷内に入ったの?この屋敷の外には、あんたみたいな害虫が侵入して来れないように、神々しくも神聖な結界を張ってあるんですけど」

「ああ、屋敷を覆っていた薄っぺらい膜か。なんと、あれは結界であったか。あまりにも弱々しいものであったので、どこかの駆け出しプリーストが張った失敗作かと思っておった。いや失敬。超強い我輩が触れただけで、シャボン玉のように弾け飛んでしまったようだな」

 

 ソファーから降りたアクアは、バニルの目の前に立ち塞がり体をまじまじと見つめる。

 

「あらあら、そんな事言いながら、体のあちこちが崩れかかってますわよ。超強い悪魔さん。まあどうしましょう、確か地獄の公爵だとか聞いていましたのに、あんな程度の結界でこんなになるなんて」

 

 ニコニコと屈託のない笑顔を浮かべ、所々崩れかけたバニルの体のあちこちを興味深そうに指でつつく。

 和真は手を叩いてアクアとバニルの間に入る。

 

「はいはい、喧嘩なら後で他所でやってくれ。バニル、早く商談しようぜ」

「せっかちな小僧だ。『急いては事を仕損じる』という言葉を知らぬのか?」

「『善は急げ』とも言うんだよ」

「『悪』魔である我輩に、『善』は急げとは、な」

 

 和真の言葉に仕方ないとバニルは肩を竦めて絨毯の上の商品の鑑定を始め、かみつこうとするアクアの相手はダクネス達に任せることにした。

 

 ~悪魔鑑定中~

 

「うむ。我輩の見立ては正しかったようだな。これは売れる。間違いなく売れる。このコタツなる暖房器具も、ミキサーなる調理器具もな」

 

 興味深そうにバニルはコタツの布団をめくり、ミキサーをしげしげと眺める。

 

「では商談といこうか。1つは、商品が売れた利益の1割を支払う。1つは、これらの商品の知的財産権自体を売るか。これだけの物が、生産ルートが確立できれば、毎月100万エリス以上の収入が見込めるだろう。そして知的財産権だが、3億エリスで買おう。無論、金額は汝ら兄弟それぞれの額である」

 

 月々100万か、一括で3億か。

 バニルが提示した金額を聞き、

 

「俺は知的財産権を3億で」

「ほう!貴様は中々に決断が早いな」

 

 バニルは嬉々として懐から契約書のようなものを取り出し、ペンでサインする場所を指し示す。

 今後も商品が一生売れ続けるとも限らない。それに、怪我や病気で長期間金が稼げない間の貯蓄として、一気に貰っておこうと俺は思った。俺が契約書の内容を一言一句確認している一方で、和真は頭を抱えてうんうん唸っていた。

 

「うむ。商品の販売までには時間がかかる。どちらの支払い方法が良いか、決めるのはその時でも良いぞ」

 

 俺直筆のサインが書かれた契約書を手に、バニルは立ち去ろうとしたところで足を止めた。

 

「小僧。我輩が見通したところ、湯治に向かうようだな」

「あ、ああ」

「日取りは何時だ?」

「えっと、来週から、3泊4日のつもりだけど」

「ふむ……」

 

 バニルは顎に手を当てて何か考えると、それにウィズも連れていってほしいと頼んできた。

 

「ウィズを?」

「うむ。対価は、そうだな……ポンコツ店主の分の金はこちらで全額負担し、当日人数分の部屋が空いているであろう宿を教えよう。どうだ?」

「いや、別にいいけど……何でウィズを?」

 

 和真に問いかけられたバニルは、何処か遠くを見つめる。

 

「我輩の体は土塊である故、肉体的な疲労は感じぬ。だが、精神的な疲労はどうにもならんのだ……」

 

 そしてバニルは、苦労のほどを語るように、それはそれは深いため息をついた。

 

「……わかった。ウィズには少し世話になったし、遅めの恩返しってことで」

「感謝する」

 

 

 

 

 そして、翌日。

 旅行の予定を話し合っていた俺達は、意見が対立していた。

 

「あのな和真。幾ら同じパーティーでも、節度は弁えないと駄目だ。だから、男女で部屋は別々にするぞ」

 

 俺の意見に、ダクネスとウィズが同意する。

 対する和真はというと──

 

「断る。ウィズ、めぐみん、ゆんゆんの3人。俺とアクア。兄さんとダクネス。この部屋割りは天地がひっくり返っても譲らない」

 

 和真が言うと、そうだそうだとアクアとめぐみんも言っている。

 まず、アルカンレティアまでの移動手段。これはかなりスムーズに決まった。

 『走り鷹鳶』という、岩や鉱物のような硬い物にぶつかるギリギリのところで躱す、チキンレースと呼ばれる求愛行動をとるモンスターがいる。そして、うちのパーティーには硬さなら右に出る者はいないダクネスがいる。春になり、繁殖期を迎えたこのモンスターの群れに万が一遭遇しようものなら、ダクネス目掛けて飛び込んでくるため、戦闘間違いなしだ。

 更に、移動にかかる時間を考えると、夜中にアクアに引き寄せられたアンデッドの群れがやってくるだろう。

 それらを考慮し、移動手段は馬車ではなく、ちょっと料金は上がるがテレポート屋を利用することになった。皆馬車旅を楽しみたかったようだが、他の乗客に迷惑をかけるくらいなら、と我慢した。かく言う俺もその1人。

 続いて宿。ここについてはバニルが見通したからいいとして、部屋割りをどうするかで意見が別れ、今に至る。

 

「だいたい、何でお前らは俺とダクネスを意地でも同じ部屋にしようとするんだ」

 

 俺が言うと和真は嫉妬に満ち溢れた目で俺を睨み。

 

「黙れ、両片想い拗らせたバカップル。四の五の言わずに同じ部屋に泊まれ。そんでもって既成事実をこさえろ」

 

 和真が言うと、アクアとめぐみんは口を揃えて「さっさとくっつけ」と言う。

 

「あ、あの。カズマさんのお気持ちはわかります。けど、ハルキさんの言う通り、節度を弁えて男女別にするべきかと……」

 

 ウィズが手を挙げながらおずおずと、冒険者としての経験が長いということで意見を述べた。

 

「ゆんゆん。貴女はどうなんですか?男女別ですか?それとも男女混合ですか?早く決めてください」

 

 めぐみんに言われ、ゆんゆんがビクッと震える。

 ゆんゆん曰く、どっちの意見も正しいから、判断に困って頭を抱えているらしい。和真の意見のどこが正しいのか聞かせてもらいたいものだ。

 俺達の視線が集中してオロオロし始めたゆんゆんは、10分程悩みに悩んだ末……決断した。



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17話

そうだ、アルカンレティア行こう


 水と温泉の都アルカンレティア。

 澄んだ湖と、温泉が湧き出る大きな山に隣接するこの街は、到る所に水路が張り巡らされていた。

 水の女神を御神体と崇めるアクシズ教団の総本山であるからか、建物の色は水色で統一されている。その街並みは美しく、そして誰もが活気に満ち溢れていた。その証拠に──

 

「ようこそいらっしゃいましたアルカンレティアへ!」

「観光ですか?入信ですか?冒険ですか?洗礼ですか?」

「ああ、仕事を探しに来たならぜひアクシズ教団へ!」

「今なら他の街でアクシズ教の素晴らしさを説くだけでお金を貰える仕事があります!」

「その仕事に就きますと、もれなくアクシズ教徒を名乗れる特典が付いてきます!」

『どうぞ!さあ、どうぞ!』

 

 到着するなり、アクシズ教徒と思しき集団に声をかけられた。

 

「なんて美しく輝かしい水色の髪!地毛ですか?羨ましい!羨ましいです!その、アクア様のような羽衣も良くお似合いで!」

 

 見ればアクアが、1人の女性信者に熱烈な歓迎を受けていた。

 めぐみんとダクネス、ゆんゆんにウィズはその勢いに若干引き気味だった。

 出発するときに、アクアには自分が女神だと名乗るなと釘を刺しておいたのだが、大丈夫だろうか。うっかり口を滑らせたら偽物扱いされて袋叩きにされそうだ。

 俺と和真は、歓迎してくれたアクシズ教徒に頭を下げ、ウチにはアクシズ教のプリーストがいると言って宿に向かう。

 

『さようなら同志、貴方方が良き一日であらん事を!』

 

 すると、満面の笑みでアクシズ教徒達が手を振った。

 そして到着した宿。この街で最も大きい宿らしく、立派な店構えだ。温泉街の宿と聞いたので和風な旅館を想像したが、洋式のホテルに近い建物だ。従業員の話によれば、この宿には、街でも有数の温泉を引いてあるらしい。

 まずはそれぞれの部屋に荷物を置き、夕飯の時間まで自由行動をとることになった。

 

「しかし、ゆんゆんがカズマ達のほうに付くとはな」

「まあ、決まったものはしょうがないか」

 

 部屋割りだが、今言ったようにゆんゆんが和真達の方に付き、男女混合になった。そして俺とダクネスは同じ部屋になり、それぞれ荷物を置く。

 

「それじゃあ、私はアクシズ教のアークプリーストとして、教団本部に行ってくるわ!」

 

 荷物を早々に置いたらしいアクアが、俺達の部屋の扉越しに言った。

 

「私とゆんゆんは、アクアについて行きます」

「気を付けてな」

「はーい」

 

 アクアに続いて、めぐみんとゆんゆんが言ってきた。

 少し遅れて、和真がウィズと街の観光に行くと言ってきた。

 荷物の中から財布や冒険者カードなどの最低限の物を小さめのカバンに入れる。

 

「……なんだこれ?」

 

 ふと、サイドボードの上にあった紙が俺の目に留まった。

 手に取ってみると、アクシズ教教義と書かれていた。

 

「ハルキ、何を読んでいるんだ?」

「アクシズ教の教義。そこにあった」

「ほう。どれどれ……」

 

 ダクネスが隣に立ち、目を通していく。

 そしてその教義は要約すれば『欲望のままに生きろ』という、何ともいい加減な内容だった。

 

「これがアクシズ教の教義か。カズマあたりが聞いたら飛びつきそうな内容だな」

 

 読み終えたダクネスが苦笑する。

 

「いや、これは見方を変えれば特に厳しい戒律もないってことだろ?」

「言われてみれば、そうかもしれないな。ってハルキ、まさか……」

「俺、アクシズ教徒になる」

 

 ダクネスが、エネル顔で驚愕する。

 

「お、お前、急にどうしたんだ!?何か変な物でも食べたか?それとも春の陽気に当てられたか?」

「いや、今までは関わらないほうがいいって聞いたから敬遠していただけだよ。でも、実際に教義がどんなものか見てみたら、中々良いと思ってさ」

 

 それに、生物は水がないと飢えて渇いて死んでしまうから、どうせ信仰するなら水の女神アクアの方がいいと言った。

 するとダクネスに、お前の手首は車輪かと言われた。

 

「とりあえず、観光でもしながら考えてみるわ」

「そ、そうだな。じゃあ、行こうか」

 

 

 

 

 街を観光してかなりの時間が経過した頃。俺は──

 

「お、おいハルキ!もう少しゆっくり歩いてくれ!」

 

 怒りを両脚に込めた早歩きで、街にあるアクシズ教の本部である教会に向かっていた。

 お土産の購入や、街の観光をする中で、俺達は様々な手段の勧誘を受けた。

 ある時は、ぶちまけてしまった買い物袋の中身を拾ったお礼と称した占いの結果、アクシズ教に入信すべきだと言われ。

 またある時は、仲間と組んで茶番を行い、誰かアクシズ教に入信してくれる優しい人はいないかと言われ。

 またまたある時は、アクシズ教に入信した特典として飲める洗剤だの、食べられる石鹼だのが貰えると言われた。

 3番目の場合は、お試し用と称した物を押し付けるだけ押し付けて何処かへと去っていったからまだ良い。

 だが問題は1番目と2番目。この時は女神エリスを暗黒神と呼称して貶め、一緒にいたダクネスがエリス教徒だと知るなり道に唾を吐いた。

 俺は激怒した。必ず、あの無礼極まりない罰当たり共の元締めに、説教をしてやろうと思った。

 そして教会に到着すると、隣には宝塚の衣装の如く入信書をねじ込まれた和真(愚弟)が。俺と和真は息を合わせて──

 

「「責任者出てこぉい!説教の時間だオラァ!」」

 

 教会へと怒鳴り込んだ。

 

「あら、どうなされましたか?入信ですか?洗礼ですか?それとも」

「ここに紅魔族の女の子2人と、水色の髪のアークプリーストはいるか?俺達の仲間なんだが」

 

 教会内で床の掃き掃除をしていた女性が、用件を訊ねてきた。

 

「え、ええ。3人共、教会の奥におりますよ」

 

 俺達の圧に押されて引き気味の女性の視線の先には、入り口脇にある小さな部屋があった。あれがここの懺悔室か?

 

「お連れ様の1人は、あそこにおられます。只今、当教会のプリースト達は出払っておりますので、あのアークプリースト様に懺悔室の方をお任せしたのです」

 

 本物の女神が懺悔を聞いてやるってのも随分な話だが。

 

「兄さんはめぐみんとゆんゆんをお願い。まずはパーティーのリーダーである俺が()ってくる」

「頼んだ」

 

 和真が懺悔室に先に入り、俺はめぐみんとゆんゆんの様子を見ることに。

 

「2人共、大丈夫か?」

「「……」」

 

 俺の質問に、めぐみんとゆんゆんは無言で首を横に振る。

 2人共疲れた表情でグッタリとしており、顔色も悪い。何があったか問わなくても、ポケットというポケットにねじ込まれた入信書が全てを物語っていた。

 そして数分後、和真が懺悔室から出てきた。

 

「どうだった?」

「駄目だった。役に没頭しててまともに聞いてもらえなかった」

「そうか。なんか、泣き声みたいなものが聞こえるんだが」

「いやー、ちょっとした冗談のつもりで言ったら本気にされちゃってさ。ちょっと落ち着かせてくる」

「わかった。じゃあ、少ししたら俺も行ってみる」

 

 和真が懺悔を聞く側の部屋に入って少し経った頃を見計らい、俺は懺悔室に入った。

 中に入った瞬間聞こえたのは──

 

「ようこそ迷える子羊よ……。さあ、貴方の罪を打ち明けなさい。神はそれを聞き、きっと赦しを与えてくれるでしょう……」

 

 落ち着いたのか、再び部屋の雰囲気に呑まれ、完全に役に入り込んでいるアクアの声。なるほど、これだけ役に没頭していたら普通に言っても聞いてもらえないだろうな。……なら、ちょっと違う形でいってみるか。

 

「実は、打ち明けたい事があります。私は今、ある悩みを抱えています。というのも、私はアクシズ教への入信を検討しているのです。しかし、この街のアクシズ教徒達の他宗派の信徒に唾を吐き、他宗派の神を暗黒神と貶めるなど、罰当たりな行いを目の当たりにし、悩んでいるのです。果たしてアクシズ教に入信していいのか。あのような連中の同志になって良いのかと。アークプリースト様、私はどうすれば良いのでしょうか?」

 

 

 

 

 和真です。今、俺の目の前で、アクアが滝のような汗を流している。

 兄さんがアクシズ教への入信を検討しているのは意外だった。おそらく、そこに至るまで何かあったんだろう。後で聞いてみよう。聞いたからといって入信するつもりは微塵もないがな。

 そしてアクアは、自分の今後に関わるであろう悩みを打ち明けられ、空中に台本のようなものを書いては添削してを繰り返している。それを繰り返すこと数十回。ようやく台本が完成したらしいアクアは深呼吸をする。

 

「悩める子羊よ。『思い立ったが吉日』という言葉があります。貴方がアクシズ教徒になろうと検討した今日は、間違いなく吉日。これを逃せば、あの時入信しておくべきだったと後悔する日がいつか訪れるでしょう。同志の行いが目に余るというのであれば、私から上の者に改善するよう進言いたしましょう。それでも彼らの行いに憤りを感じ、他宗派に改宗しても、無宗教に転じても、誰も貴方を咎めることはできないでしょう。何故ならそれは、水の女神アクア様から下された、私達への罰なのですから」

 

 

 

 

「と、いうわけで。アクシズ教徒になりました」

「「ああああーっ!!!」」

 

 アクシズ教徒であることを示すお守りを見せると、めぐみんとゆんゆんが飛び掛かってきた。

 俺はそれをひょいと躱し、お守りをポケットにしまう。するとめぐみんが杖を振り回し。

 

「ゆんゆん!貴女はハルキを全力で取り押さえてください!私はハルキが正気を取り戻すまで杖で叩きます!」

「わかったわ!」

「わかったじゃねえよ。2人共落ち着け」

 

 2人の後ろに立った和真が、頭頂部に軽く手刀を当てる。2人は和真のほうを振り向いて吠える。

 

「これが落ち着いていられますか!ハルキまであのようになってしまったらどうするんですか!?」

「カズマさんの薄情者!貴方はそれでもハルキさんの弟ですか!?」

「弟だからこそだよ。大丈夫、兄さんはあんな風にならないって。もしなったら、その時の責任は俺がとる」

 

 手で制しながら言った和真の言葉に一応納得したのか、2人共渋々といった様子で下がる。

 懺悔室からアクアが出てきたのを確認し、一旦宿に戻ることになった。

 

「アークプリースト様、お帰りですか?でしたら、当教会自慢の温泉に入って行きませんか?アクシズ教団の財源の下となっている、この街一番の温泉です。効能も素晴らしいですよ?」

 

 ただ1人留守番していた女性信者が、俺達と共に帰ろうとするアクアを引き留めた。アクアはそれに同意し、皆もどうかと誘った。

 

「私は、一刻も早く宿に帰ってゆっくりしたいです」

「右に同じく」

「今日はもう満足した、このまま帰るとしよう」

「あの、私も宿に帰りますね」

 

 めぐみん、ゆんゆん、ダクネス、ウィズの順に答え、俺と和真はどうするのかと訊ねられた。

 

「ここって混浴で痛い痛い痛い!」

「すいません。うちの馬鹿が神聖な教会で不埒なことを言ってしまいまして」

 

 俺はアイアンクローで和真の頭を掴み、そのまま宿まで引き摺って行った。

 

 

 

 

「ほう!私達の屋敷のお風呂も結構大きい方ですが、流石は高級宿の温泉!泳げる広さではないですか!」

「ねえめぐみん、泳ぐのはマナー違反で、やめて!タオルを取らないでぇ!」

「混浴でもないのに何を今更恥ずかしがっているのですか。荒くれ稼業の冒険者である私達がそんな女々しくてどうするのです!」

「その理屈はおかしいわよ!」

 

 宿に戻って女湯に来た私達は、めぐみんからタオルを剥がれそうになっていた。真っ先に狙われたゆんゆんはタオルを必死で死守し、めぐみんは細腕に力を込めて、ゆんゆんのタオルを剝ごうとする。そこに私とウィズが仲裁に入って説得し、2人を大人しくさせる。うっかり足を滑らせて怪我でもしたら、湯治に来た意味がなくなってしまうと。

 めぐみんは大人しくなってタオルから手を離し、ゆんゆんは不意打ちを警戒してか、私の隣に移動した。めぐみんの隣にウィズが座り、肩まで浸かって大きく息を吐く。

 

「……」

「あの、めぐみんさん?どうかしましたか?」

 

 そんなウィズを、正確にはウィズの胸部をめぐみんが凝視する。

 続いて私、ゆんゆんの順に凝視すると、最後に自分の胸に手を当てる。そして俯き──

 

「……まだこれからです。私は未だ成長の途中。これからもっと強大で巨大になるから、焦る必要はないのです……」

 

 と、何かぶつぶつと独り言を呟き始めた。なんだか負のオーラのようなものを全身から発しているのだが、どういうことだろう?

 私は隣のゆんゆんに、小さな声で心当たりがないか訊ねてみた。

 

「前に言っていたんです。いつか大魔法使いになって、巨乳になってみせるって」

「そ、そうか……」

 

 巨乳になる、か。

 胸が大きいと肩が凝るし、激しく動くと揺れて痛い。私はそれほどでもないが、他の女性冒険者は男性からエロい視線で見られて困るとも言っていた。それに、大きさに合う下着や服を買うにも苦労するから、胸は大きければ良いというものではない。

 ……と言ったら暴れられるだろうから、黙っておくことにしよう。

 

「カズマさんはああ言っていましたけど、本当にハルキさんは大丈夫なんでしょうか?」

 

 めぐみんが発する空気を切り替えようと、ゆんゆんが私に話を振ってきた。ナイスだゆんゆん。後で風呂上りの牛乳を奢ってやろう。

 

「カズマから聞いたが、ハルキは街のアクシズ教徒の行いを『罰当たりだ』と言っていたそうだ。だから、大丈夫なんだろうな」

 

 私が言うと、負のオーラが抜けためぐみんが同意するように頷く。

 

「まあ。『装備がないなら作ればいい』の考えで鍛冶師を始め、上手いこと冒険者稼業と両立させるような人ですからね。アクシズ教徒になる可能性というか、適性のようなものは元々あったんでしょう」

 

 遠回しにハルキが変わり者であるという発言を、誰も訂正しようとしないあたり、皆そう思っていたということか。かく言う私もその1人だが。

 

「そうだな。だから、私達にできることは、ハルキが街のアクシズ教徒のようにならないよう、目を光らせておく事だな」

「何を言っているんですか?」

 

 めぐみんが私の正面に回り、顔を覗き込んでくる。

 

「ダクネス的にはハルキがあのようになった方がいいのではないですか?」

 

 めぐみんは何を言っているんだ。

 言いたいことがいまいち分からない私を揶揄うように、めぐみんは口角を上げてニヤニヤさせる。

 

「貴女の性癖を夫に満たしてもらう手段が一つ増えるから、嬉しいのではないですか?」

「よしめぐみん。頭の天辺まで浸かって100数えようか」

 

 頭を掴もうと手を伸ばすと、めぐみんは後退すると同時に頭を下げた。言い過ぎましたごめんなさい、と。

 

 

 

 

 そして、夜。

 今更だが、俺とダクネスの部屋はダブルベッドだ。当然、俺とダクネスは同じベッドに並んで寝ている。ただ、向かいあうように寝ることに謎の気まずさを感じたので、背中合わせの状態だ。

 そして、工房で寝泊まりしていた頃は間にクリスが入って川の字になって寝ていた。和真がパーティーに入ってからは俺、和真、アクア、めぐみん、ダクネスの順に並んで寝泊まりし、館に住むようになってからは個室で寝ていた。

 ぶっちゃけると、何故か知らんが凄くドキドキしている。

 考えても見てほしい。普段は寡黙だが、一度口を開けば変態的な発言が飛び出してしまうダクネスは、『黙っていれば美人』の体現者だと言っても過言ではない。実際、外見は好みではある。鍛錬によって引き締まった体とか、大きな胸とか、サラサラと手触りの良い髪とか、極稀に見せる笑顔とか、色々と。

 

『お困りのようだな、意中の娘と同衾し、動悸が激しくなっている男よ!』

 

 不意に、俺の脳内に声が響いた。そして、手のひらサイズのバニルが俺の目の前に出現し、ベッドに着陸した。

 

『見通す悪魔の我輩が告げる。汝、隣の筋肉娘の寝込みを襲い、既成事実をこさえるが吉。ああ、反撃の心配は無用である。汝が一言愛の言葉を囁けば、娘は喜んで身も心も捧げるだろう。但し、誠心誠意、本心からの言葉でなければならぬがな』

『ゴッドブレイク!!』

 

 そう告げるバニルを、これまた手のひらサイズのアクアが飛び蹴りで部屋の隅まで蹴り飛ばして爆散させる。

 

『ハルキ!あんな汚物の言う事を真に受けては駄目よ!』

 

 アクアのその一言に、俺の動機も段々落ち着き、頭がクールダウンしていく。そうだ、アクアの言う通りだ!

 ダクネスには俺なんかよりも相応しい相手がいつか現れるから、俺が手を出すのは駄目だ!

 

『そこまで言ってないんですけど!?』

 

 

 

 

 一方、ダクネス。

 

『意中の男と同衾して、体の疼きが止まらぬ娘よ。見通す悪魔の我輩が告げる。汝、その熟れた体でその男を誘惑して獣に変え、既成事実をこさえるが吉。甘い言葉による誘惑も合わせれば尚良しであるぞ』

『黙れ』

 

 私の目の前の手のひらサイズのバニルの仮面を、手のひらサイズのクリスが目にも止まらない速さで掴み取り、握りつぶした。

 

『ダクネス。まさかと思うけど、あんな肥やしにもならない存在の言う事を真に受けないよね?』

 

 そしてクリスが満面の笑みで私に訊ねてくる。もちろんだとも!

 ハルキには私なんかよりも相応しい相手がいるはずだ。だから、私はそれまでハルキの貞操を守護(まも)らなければならない!

 

『ごめん。そこまで言ってないし、その解答は予想外だったよ』



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18話

「この街の危険が危ないみたいなの」

「言葉は正しく使え。一晩中泣いてたと思ったらどうしたんだ急に」

 

 翌朝。宿の1階で朝食を食べていると、アクアがそんなことを言ってきた。

 アクアが一晩中泣いていた理由を簡単に説明しよう。

 あの後、アクアは信者(同志)が1人増えてウキウキ気分でアクシズ教会の秘湯へ向かったらしい。上機嫌にアクシズ教の聖歌を歌いながらいざ浴場に入ったところ、意識不明の重体の女性プリーストを発見。大急ぎで人を呼んで病院に運んだおかげで、相手は一命をとりとめたらしい。そして、街の警察に発見時の状況説明などを行っていたら温泉に浸かる気分ではなくなり、部屋の露天風呂で入浴を済ませた。

 その時のアクアは、子供のように泣きわめいていた。何で1つ良いことがあると悪いこともセットになって起きるんだと。私が一体なにをしたんだと。

 

「私は、この街を守るために立ち上がるわ!という訳で、皆も協力してくれるわよね!?」

「勿論」

『……』

 

 俺以外は腕を組み、黙考する。そして待つこと1分前後。

 

『協力します』

 

 アクアが今回の件に関わった以上、湯治どころではないと判断したようだ。

 全員が協力すると言ったのが嬉しかったのか、ガッツポーズをとるアクア。序にアクシズ教に入信しないか揉み手して訊ねるが、『それとこれとは話が別』ということで断られて肩を落とす。

 そして朝食を済ませて移動し、アルカンレティアの警察署。ちょうど近くを通りかかった警察官の男性に声をかけてみる。因みに、ウィズは宿で待機している。理由については後で話す。

 

「捜査に協力する?」

「はい。うちのアークプリーストが昨日の件で温泉を汚染した犯人にだいぶ怒っているようでして」

「ああ、そちらの青髪の女性のことですか?う~む……」

 

 男性はそう言って顎に手を当てて唸る。そうだよな、アニメやドラマの探偵みたいにそう簡単に捜査に協力なんてさせてもらえないよな。相手からすれば俺達は素人なわけだし。

 

「どうする?」

「あの、一応冒険者登録をしてあるので、腕はそれなりに立ちます。仮に犯人が凶悪であっても、対処できます」

「そうですか……では、念のために皆さんの冒険者カードを見せてください」

 

 俺達は順に冒険者カードを差し出し、男性も目を通していく。そう、このためにウィズは宿に待機してもらった。ここはアクシズ教の総本山。万が一冒険者カードを見せて、ウィズがアンデッドだとバレようものなら、プリーストが集団ですっ飛んできてウィズを退治するかもしれない。

 

「《冒険者》のサトウカズマさん。《傭兵》のサトウハルキさん。……《アークウィザード》のめぐみんさんと、同じく《アークウィザード》のゆんゆんさん」

 

 めぐみんとゆんゆんのところで一瞬言葉に詰まったような素振りを見せたが、2人の黒髪と紅い瞳を見て紅魔族だとわかったのか、なるほど、と頷いた。

 

「そして。《アークプリースト》のアクアさんに、《クルセイダー》のダスティネス……ダスティネス!?」

 

 瞬間。男性がこれでもかと目を見開き、ダクネスと手元の冒険者カードを交互に見比べる。

 

「しょ、少々お待ちください!上の者に掛け合ってきますので!」

 

 男性が駆け足で警察署に入り、待つこと数分。

 

「お待たせしました!」

 

 先ほどの男性が、後ろに上司と署の偉い人と思われる人を連れて戻ってきた。

 まずは偉い人(署長)が自己紹介を済ませ、念のためにとダクネスがダスティネス家の者であることを示すペンダントを提示。ペンダントの効果は絶大で、俺達は捜査本部に案内された。

 

「なんか、浅見光彦になった気分だな」

「だね」

 

 小声でそう言う俺と和真の横では、ダクネスが捜査の進捗状況を訊ねる。どうやら、被害にあった温泉で汚染される前後に来た客の聞き込みを行ったらしい。そして、集めた情報を元に容疑者の似顔絵を描いている途中らしい。

 

「この男性が?」

「はい。被害のあった全ての温泉で、目撃されています」

 

 ダクネスが俺達にも見えるように手に取った似顔絵の人物は、浅黒い肌に短い茶髪の男性。こいつが容疑者か。すると、和真が無言で挙手した。

 

「……この男性、昨日風呂で見かけました」

 

 瞬間、和真に視線が集中する。注目された和真はビクッと肩を跳ねると、より詳しい情報を口にした。筋肉質で、背は高い。そして、この街に長いこと潜伏していたらしい。

 捜査本部の警察官達が一斉に立ち上がり、和真に一礼する。それに続いて署長が一礼すると。

 

「では、直ちにこの男性の手配を行います!ご協力ありがとうございました!」

『ありがとうございました!』

 

 捜査本部に、感謝の言葉が響いた。

 

 

 

 

 そして細かい手続きを終え、俺達の宿泊している宿。……の、めぐみんとゆんゆん、ウィズの3人が泊まっている部屋。

 

「さて、和真」

「はい」

「昨日何があったか、洗いざらい全部話せ」

「実は……」

 

 部屋の真ん中で正座させられ、俺達に取り囲まれて縮こまる和真。和真は小刻みに震えながら、少しづつ話していった。

 

「温泉での破壊工作ももう直ぐ終わりだって、仲間に報告しているのが着替えているときに聞こえました」

「おう」

「それで、長い寿命を持つ俺達にとって、10年や20年待つのは何でもない事だからなって言っていたから、これはヤバいやつだと悟ったと同時に厄介事には巻き込まれたくなかったので、その……さっき署に行くまで黙ってました。ごめんなさい」

 

 言い終えた和真は、それはそれは綺麗な土下座で許しを請う。

 この馬鹿をどうしようか。話し合っていたところで、めぐみんが待ったをかける。

 

「カズマカズマ。先程、仲間に報告しているのが聞こえたと言っていましたね。その仲間の人相は、覚えていないのですか?」

「そういえば、そうだな。どうなんだ、和真」

「……」

 

 和真は土下座の状態を維持したまま暫し沈黙し、口を開く。

 

「…………ウィズと同等か、それ以上のおっぱいの持ち主であった以外、覚えてません」

『うわぁ……』

 

 瞬間、女性陣からゴミを見るような視線が和真に突き刺さる。そして、俺はキレた。

 俺は骨を鳴らし、和真を見下ろす。

 

「皆、ちょっと部屋の外で待っててくれ。この馬鹿にきついの叩き込むから」

「嫌よ。私にもやらせなさい」

「私も1発やっていいですか」

「私も2,3発やらせてくれ」

 

 アクアが肩を回し、めぐみんが杖を振り、ダクネスは骨を鳴らす。優しいウィズとゆんゆんは和真の擁護をするものだと思ったが、視線を逸らすのが精一杯のようだ。更に、自分の胸を隠すように腕を組んでいる。

 

「あ、あの。事件に進展があって署の人達が宿に来るかもしれないので、なるべく加減してくださいね?」

 

 おずおずと手を挙げ、ゆんゆんが勇気を振り絞って和真の擁護をする。確かに、と俺達は頷き、和真は涙目+上目遣いで制裁の軽減を訴える。

 

「わかった。アクア、筋力増加の支援魔法をかけてくれ。それと和真、立て」

「『パワード』」

「う、うん」

 

 和真は立ち上がって痺れた足をさすり、アクアの支援魔法が俺の体を強化する。俺は懐からサングラスを取り出して装着し、和真の襟首を思いっきり掴んで右手を振り上げる。すると、和真が顔を真っ青にして抵抗する。

 

「兄さんちょっと待って!それはマズい!それはマズいって!」

「3!」

「せめてデコピンとかそういう軽いやつに!」

「2!」

「ゆんゆん!ウィズ!兄さんを止めてええええ!」

「1!」

「へぶうっ!?」

 

 振り下ろした右手は和真の頬に命中し、衝撃で和真の顔が一瞬不細工になる。そして床に膝から崩れ落ちて横たわり、頬をフリーズで冷やす。

 俺が和真にビンタを叩き込んで皆も納得したのか、署の人が来たら何時でも行動できるよう、この部屋で待機することに。そして、1時間が経過した頃。

 

「お客様。署から警察の方がいらっしゃいました」

「あ、はい。どうぞ」

 

 宿の従業員に案内されて来た警察官が、入り口で一礼すると報告する。

 

「現在、街中の温泉から汚染されたお湯が次々と湧き出ております!」

 

 それを聞いたアクアが、部屋を飛び出して行った。

 

 

 

 

「源泉が怪しいと思うの」

 

 街のプリーストと協力して温泉の浄化を終えて帰ってきたアクアが、部屋に入るなりそう言った。アクア曰く、温泉の汚染は一時的なもので、直ぐに収まったらしい。

 

「源泉って、確かアクシズ教団の本部の裏手の山の中にあるっていう?」

 

 俺の言葉にアクアが頷く。

 アクシズ教団本部である大教会。その裏手には、街の財源である源泉が湧き出る山があるという。当然ながら、警備も厳重になっているはずだ。

 

「確かに、あの短時間で1つ1つの温泉に毒物を混ぜるのは無理がありますね。手配がなされて焦り、本来の計画をすっ飛ばして直接源泉を汚染した。と考えるのが自然でしょう」

「でも、問題は警備が厳重な場所にどうやって侵入したかという事よね……」

 

 ゆんゆんが言うように、どうやって侵入したかを皆が考える。警備の人間を懐柔したか、人質を取って脅したか、それとも変装したか。

 と、装備を手にした和真が立ち上がる。

 

「今こうしている間にも汚染されてるかもしれない。今すぐ源泉に行こう!」

 

 そして、大教会の裏手の山の入り口で。

 

「ねえ、私アクシズ教のアークプリーストなんですけど!ほら、これを見て?ねえ、私の冒険者カードをちゃんと見て!」

「いやあ、いくらアクシズ教徒のアークプリーストでも、ここから先は通せないんですよ」

「申し訳ありません。この先には、温泉の管理をしている人しか立ち入れませんので」

 

 俺達は、警備をしている街の騎士から足止めをくらっていた。

 アクアにカードを押し付けられている騎士は、カードよりも完全武装状態の俺達を警戒しているようだ。まあ、当然の反応か。

 

「汝、敬虔なるアクシズ教徒よ……。聞きなさい、これは必要な事なのです。正しい行いなのです。貴方方が私を通す事で、この街が……」

「「すいません。自分たち、エリス教徒なんです」」

「何でよー!なんでこの街で生活してるのにエリス教徒やっているのよ!」

 

 エリス教徒であるとカミングアウトした騎士2人に、アクアが吠える。

 このままアクアに任せていても埒が明かない。ダクネスの家の権力を使いたいところだが、冒険者らしい活躍がしたいとか言ってごねるだろう。

 

「……しょうがねえな。俺がちょっと交渉してくる。兄さん達はここで待ってて」

 

 そう言った和真が、アクアと入れ替わるように騎士達の前に立つ。

 

「貴方もアクシズ教のアークプリーストですか?」

「いやいやまさか、俺はしがない《冒険者》ですよ。……まあ、それはそれとして。街中の温泉が汚染されたというのは、ご存知ですか?」

「ええ。管理の人も、それを聞いて源泉の方に向かいました」

 

 それがどうした、と騎士の片割れが訊ねる。

 

「そうですか……ところで、万が一俺達を通した場合、2人にはどのような処分が?」

「何って、分厚い始末書を書いて上司に提出することになると思いますよ」

 

 ふむふむと和真が頷く。

 

「では仮に、その管理の人が実は温泉に毒物を混ぜた犯人で。今こうしている間にも温泉に毒物を混ぜていたとしたら、果たしてどうなりますかね?」

「どうって、源泉が汚染されたら街中の温泉が汚染されるに決まっているじゃ」

 

 言いかけたところで、騎士達がハッとする。そこにすかさず和真が畳み掛ける。

 

「ええ。街中の温泉が汚染されてしまうでしょう。そしてお2人は、犯人を見逃したとして厳しい処分が下されるでしょう。それにより職と信用を失ったお2人は、この街から追い出されるかもしれません」

 

 騎士達の顔が青ざめて震え、冷や汗をかく。そして女性陣が和真から遠ざかる。

 

「お、おい。通した方がいいのか?」

「待て!そもそも、全部この男の推測でしかないだろ!」

「でもどうすんだよ!推測どおりだったら、俺達解雇されちまうよ!」

「それはそうだけど……」

「だいたい、お前は怪しいと思わなかったのか?あの管理人の爺さん、温泉が汚染されたってのに異様なくらい落ち着いてたぞ!」

 

 言い争う2人に近づいた和真は肩に手を置き、笑顔で告げた。

 

「始末書を書くか。職と信用を失うか。お好きなほうを選んでください」

 

 後に女性陣は、この時の和真をこう評した。

 

『バニルも裸足で逃げだす悪魔だった』と

 

 

 

 

 和真の脅hゲフンゲフン説得の結果、俺達は山に入り源泉を目指していた。道中で汚染されて変色した温泉が見つけたり、骨と皮だけが残された初心者殺しの遺体が見つけた。警備の騎士曰く、温泉の管理人は金髪の老人だそうだ。とてもじゃないが、初心者殺しをあんな風に倒すことなんてできないだろう。アクアは管理人の爺さんがかなりの強者であるとか言っていたが。

 

「……見つけた!あの男だ!」

 

 千里眼を使用して人影を捉えると、和真が大声で相手を指差す。男の近くを見れば、パイプが途切れていた。あそこが源泉と見て間違いないだろう。

 慌てて駆け出した音で気づいたのか、男がこちらを振り向いた。そして近づくと、男は不思議そうな表情を浮かべていた。

 

「おやおや。ここは温泉の管理者以外立ち入り禁止です。どうやってこちらへ?」

 

 平然とそんな質問をする男に、アクアが指を突きつける。

 

「とぼけようったって、そうはいかないわよ!よくも街の温泉を汚染してくれたわね!成敗してあげるから覚悟なさい!」

「温泉を汚染?私はこの温泉の管理をしているだけです。一体何を根拠にそのようなことを……」

 

 堂々ととぼける男に、アクアが手配書を突き出す。

 

「これ、あんたよね!浅黒い肌に、短髪で茶色!背が高く、筋肉質!しかもこの人相!365度どこからどう見てもあんたよね!」

「他人の空似でしょう。それと、5度多いですよ」

 

 アクアの質問を鼻で笑っていた男性は俺と和真、ダクネスとめぐみん、ゆんゆんの順に見渡し、ウィズと目が合ったと同時に明後日の方向を見る。当の本人はというと、顎に手を当てて男性をジッと見て悩んでいる。

 

「知り合いか?」

「ちょっと待ってくださいね。後少し、後少しなんです……」

 

 男の下手な口笛を聞きながらこめかみをトントン叩き、ウィズがうんうんと唸る。

 

「とにかく!私は温泉を汚染するような毒物の類は持ち合わせておりません!わかったなら、街へとお戻りください!今なら皆さんがこちらに来たことは口外いたしませんので!」

 

 こちらに背を向けたまま男がそう言った瞬間、ウィズの頭上で電球が点灯した。

 

「思い出しました!この人、ハンスさんです!私と同じ魔王軍幹部の1人で、デッドリーポイズンスライムの変異種です!確か、ハンスさんは擬態能力を持ってたはずです!恐らく、それで管理人の人に化けてここまで来たんだと思います!……ごめんなさい。ハンスさんはスライムですから『人』と言うのはおかしいですよね。『方』とか『員』と言うべきでしたね。ああでも、今は人に擬態されているから外見に合わせて『人』と言ったほうがいいでしょうか……」

「おいウィズ!なんでお前がここにいる!どこかの街で店やるとか言ってただろうが!温泉街に来る暇があったら働け!」

 

 ウィズに情報をペラペラと話されて本性を現したハンスがこちらを振り向き、ウィズに食って掛かる。

 

「ひ、酷い!私だって頑張って働いているんです!……何故かその分だけ貧乏になってしまうのですが……」

 

 ウィズが謎の応戦をするが、今はそれどころじゃない。

 ハンスは深いため息を吐き、ゆっくりと首を振る。

 

「……はぁ。この計画は、それなりの年月をかけてこの街を調査し、下準備を終えてようやく実行した計画だったんだが。……ウィズ。確かお前は、魔王城の結界の維持以外では魔王軍に協力しない。その代わり、俺達に敵対もしないっていう、相互不干渉の関係だったはずだ。それが一体、どうして俺の邪魔をした?」

「ええっ!?わ、私、ハンスさんの邪魔なんてしてませんよ!?ちょっとハンスさんのことを紹介しただけじゃないですか!」

「それが邪魔だったんだよ!」

 

 天然なのか、それともわざとなのか。

 正体がばれたハンスは、腰を落として身構える。

 

「どうするんだ、ウィズ。このままここでやり合うか?それとも見逃すか?」

 

 ハンスが警戒しているのは、ウィズ1人の様だった。

 そこに、無視されたのが気に入らなかったのか、アクアとめぐみんがウィズの横に並び立つ。

 

「無視は良くないなぁ、ハンス。言っておくが、俺達は只の冒険者パーティーじゃないぜ。お前の仲間のベルディアとバニル討伐に貢献した冒険者パーティーだ。聞いた事はないか?」

「……確かに。少し前にベルディアとバニルが討伐されたと新聞に載っていたが、そうかお前達か。ああ、それと思い出したぞ。お前、あの街の宿の混浴にいたな。如何にも雑魚らしい風貌だから放置していたが、あれは演技だったか」

 

 ハンスは嬉しそうに口角を吊り上げ、こちらも見据える。

 

「……和真、相手がスライムなのわかってるだろ?」

「勿論。スライム=雑魚という認識をダクソで改めておいて正解だったよ」

 

 皆に聞こえない程度の小声で、聞き耳を使って俺と和真は会話する。

 スライムというのは、元々厄介なモンスターだ。物理攻撃はまず通じないし、魔法にも強い。その上悪食で、何でもかんでも捕食する。もし張り付かれようものなら、鎧の隙間から入り込んで消化液で溶かされるか、口や鼻を塞がれて窒息死してしまう。しかもあいつは街中の温泉を汚染させる猛毒の持ち主。触れれば即死は免れないだろう。

 そして和真が小声で作戦を口にする。

 まず、めぐみんの爆裂魔法で仕留め、破片をゆんゆんとウィズの凍結魔法で凍らせる。それを俺と和真、ダクネスの3人で手早く1か所に集めて、アクアの浄化魔法で綺麗にする。めぐみんが爆裂魔法を詠唱している間、俺達の役割は時間稼ぎだ。

 山の中で火炎魔法を使ったら山火事になるリスクもある。妥当な作戦だろう。

 どうだ、とドヤ顔をする和真に俺はサムズアップで返す。

 

「さあ、掛かってくるがいい勇敢な冒険者よ!この俺を楽しませてみせろ!」




ダクネスの冒険者カードですが、本名がばれて隠す必要もないから年を越す前にカードの更新をしたということにしておいてください。
次回。綺麗になっちまったよ…


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19話

「ま、待ってください!」

 

 臨戦態勢になった俺達とハンスの間に、ウィズが両手を広げて立って待ったをかける。そしてウィズは、話し合いによる解決を提案した。それがおかしかったのか、ハンスが笑った。

 

「相変わらずリッチーになってからは腑抜けているな、ウィズ。俺達の仲間を片っ端から狩りまくっていたお前が、話し合いで解決しようなどと!『見敵必殺』を座右の銘にしていた、『氷の魔女』と恐れられていたお前は一体何処に行った?」

「あ、あの頃は、私も周りが見えていなかったというか……」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべるハンスにそう言われ、ウィズが恥ずかしそうにもじもじする。武闘派なウィズ……駄目だ、普段の姿からはとても想像できん。

 

「ウィズ。ソイツは魔王軍の幹部、俺達冒険者の敵だ。それに、そいつが源泉に毒を混入したら街の住人にまで被害が出る。だから、そこをどいてくれ」

 

 和真はウィズの肩に手を置き、諭すように言う。

 

「街の……住人……」

 

 和真の言葉から何か思い出したのか、急にウィズが無言になって考え込む。

 そして、ハンスの顔から笑みが消え、顔を青くすると回れ右で源泉に駆け出そうとした。

 

「『カースド・クリスタルプリズン』」

「ッ!?あああああああ!?」

 

 それを、ウィズが魔法で止めた。

 右脚を凍らされ、地面と繋がれたハンスが悲鳴をあげる。

 

「……ウィズ?」

 

 ウィズの放つ圧力に怯えたのか、それとも魔法の余波で寒くなったのか、和真が小さく震えながら半歩下がる。

 

「和真さん。私はハンスさんの言う通り、魔王軍と相互不干渉の関係にあります。ですが、それは冒険者や騎士など戦闘に携わる人間以外を殺さないことに限ります。モンスターを狩ることで生計を立てている冒険者は、自分も狩られる覚悟を持つべきです。そして騎士は税を取る対価に、住民の命を守っています。命のやりとりもやむを得ません。……ですが」

 

 ウィズはハンスを無表情で見据え、告げる。

 

「ハンスさんの作戦は、戦闘に携わらない方々の命も奪います。何より、ハンスさんが擬態できるのは捕食した相手だけ。管理人のお爺さんに擬態していた時点で私の敵だと認識すべきでした。……私も加勢します。どうぞ和真さん、指示をお願いします」

 

 そうウィズは告げるが、和真はその威圧感にまだ震え続けていた。実際、俺も凄く怖い。

 ──それが、まずかった。

 

「やむを得ん!」

 

 ハンスは自分の右脚を切り離して片足立ちの状態になり、右脚の付け根から紫色のゼリーのような物体が零れ落ちる。そして、不要になった人間の皮膚に罅が入り、はじけ飛ぶ。

 

「カ、カカ、カズマ」

「ねねねねえ、カズマさん」

「は、はい、和真ですすす」

 

 いやまあ、魔王軍の幹部なんだから凄いスライムだとは思っていた。

 

「何この……何?」

 

 だけど、だけども。

 

「何と立派なスライムだ!毒さえなければ、我が家のペットにしたというのに!」

 

 俺達の住む屋敷並みに大きいとか聞いてねえぞオイ!

既に人の形の面影もなく、巨大なスライムとしての本来の姿を取り戻したハンスは、辺りに生えている木々を片っ端から飲み込んで吸収していく。

 

「わ、わああああーっ!源泉が!源泉があああっ!」

 

 あの姿になっても作戦を忘れていなかったのか、巨大化する時に飛び散ったいくつかの破片が源泉に落下した。それを見たアクアが源泉に向かって駆け出し、手を突っ込んで浄化魔法をかける。

 

「ハルキ、私の大剣と鎧を預かっておいてくれないか。スライムが相手では鎧も剣も意味がない」

「わかった」

「ウィズ!ゆんゆん!2人の凍結魔法でハンスを氷漬けにできないか!?」

「無理です!」

「私もゆんゆんさんと同意見です。ですが、ハンスさんがもう少し小さければなんとかできます」

「だったら、私の爆裂魔法で」

「山が汚染されるから却下だ!」

 

 温泉の浄化をしているアクアに向かって駆け出しながら、俺達は作戦会議を行っている。こうしている間にも、ハンスはアクアのいる源泉にじわじわと近づいている。

 

「皆!何か使える物はないか?手持ちの道具を出してくれ!」

「杖と石鹼と洗剤があります」

「露店で買った人形と石鹼と洗剤があります」

「杖とダガーと石鹼と洗剤があります」

「石鹼と洗剤とお土産の肉饅頭がある」

「石鹼と洗剤と武器がたくさんある」

「俺は刀と弓と石鹼と洗剤がある」

 

 何で石鹼と洗剤しかないんだ!ふざけてんのか!

 ……いや、待て。あるじゃないか!使えそうな道具が!和真も同じ考えが思いついたのか、ダクネスのお土産の肉饅頭を1個掴んでハンスの近くに投げ飛ばす。すると、ハンスは近くの木ではなく肉饅頭のほうを取り込んだ。やっぱり、スライムの本能である食欲には逆らえないようだ。

 

「俺と兄さんがこれを投げて、ハンスを源泉から出来るだけ遠ざける。俺が合図を出したら、めぐみんは爆裂魔法でハンスを吹っ飛ばしてくれ。その後で、ウィズはゆんゆんから魔力を死なない程度に吸い取って、ハンスを凍らせてくれ。そしたらアクアがそれを浄化。ダクネスは飛び散る破片から皆を守ってくれ!」

『了解!』

「《投擲》!《投擲》!《投擲》!」

「《投擲》!《投擲》!兄さん、今肉饅頭がすんごいカーブしたんだけど!?」

「口より手を動かせ!言いだしっぺのお前が遊んでるんじゃねえ!」

 

 俺と和真はダクネスのお土産を抱え、《投擲》スキルを使って投げ込む。後ろではめぐみんが爆裂魔法を何時でも撃てるように待機。ウィズはゆんゆんの魔力を吸い取っていた。ダクネスはまだかまだかとその時を待ち、アクアは源泉の浄化を必死で行っている。

 そして、お土産もなくなったと同時にウイズは魔力の補給を終えた時、和真が右手を挙げる。

 

「やれ!めぐみん!」

「『エクスプロージョン』!」

 

 めぐみんの爆裂魔法がハンスを木っ端微塵に吹き飛ばすのと同時に、ダクネスが俺達を庇うように立ち塞がる。そして。

 

「『カースド・クリスタルプリズン』!」

 

 ウィズの凍結魔法でハンスが氷漬けになり。

 

「『ピュリフィケーション』!」

 

 アクアの浄化魔法で、汚染された源泉とハンスは、綺麗になった。

 

 

 

 

 ハンスとの激闘を乗り越え、翌日の昼過ぎ。

 アクセルの街にある、俺達の住んでいる屋敷の居間。

 

「ううっ……私、頑張ったのに。どうして皆に石を投げられないといけないのよ……!」

 

 暖炉の前のソファーでうつぶせに寝そべり、帰ってきてからずっとアクアが泣いていた。

 アクアが言う通り、本当にこいつは今回頑張った。それはもう頑張った。……頑張り過ぎるくらいに(・・・・・・・・・・)

 具体的に言うと、山を丸ごと浄化し、温泉を只のお湯に変えてしまった。序に言うと、ウィズがその余波で成仏しかけた。

 何というか、ハンスの当初の目的を俺達が代わりに完遂させてしまったわけだ。

 本来なら賠償金は途方もない額になるが、やったのがアクシズ教のアークプリーストであるアクアであることと、一応は街を救ったということで、ハンスの賞金はそのまま賠償金となり、何とかそれで許してもらった。そして、本来なら3泊4日の予定だったところを切り上げて、今日帰ってきた。

 今、和真はめぐみんと一緒にウィズをバニルの所に運び、帰りに日課をこなしてくると言っていたので屋敷にいない。……こうして考えてみると、バニルはこうなることを見通してウィズを連れていくよう頼んだのかもしれない。今頃、和真にウィズの分の宿代やらの入った袋を渡しているのかもしれない。そしてそれを和真に追及され、すっとぼけている姿が思い浮かぶ。

 残る俺とダクネス、ゆんゆんでアクアの相手をしているのだが、ずっと泣かれていては話が進まない。

 

「なあアクア。今夜はハンス討伐の祝勝会を屋敷でやろうと思うんだが、何が食べたい?今回の戦闘の一番の功労者であるアクアが食べたいのを何でも作るからさ」

 

 泣き止んだアクアの耳が、『何でも』という単語に反応してピクピク動いた。

 

「何でも作ってくれる?」

「ああ。材料が手に入ったらの話だけど」

 

 アクアが仰向けになり、顎に手を当てて考える。そして、選ばれたのは──

 

「…………水炊きがいい」

「仰せのままに」

 

 

 

 

「──以上が、今回の騒動のまとめになります」

 

 高鳴る胸の鼓動を深呼吸で落ち着けつつながら、届けられた報告書に目を通していく。

 街中の温泉の浄化をたった1人で行い、魔王軍幹部ハンスの猛毒で汚染された源泉、及び撃退時に飛び散ったハンスの破片を全て浄化。通常ならば、腕利きのアークプリーストを大勢集めて数か月要するはずの浄化を。

 そして、それを成し遂げた方の外見は、水色の髪と瞳。そして羽衣を纏った、見目麗しい女性。……間違いない。歓喜のあまり発狂しそうな頭を理性で抑える。

 

「どうなされますか?この街の信者達には……」

「無論、知らせる。但し、内密にだ。またあの御方がこの街に遊びに来るかもしれない。その時、気を遣わずにお越し頂ける様、無暗に声をかけたりしない様、細かく注意を促しなさい」

「かしこまりました」

 

 続いて、浄化された源泉。報告によれば、非常に強力な聖水が湧くようになった。それも、温泉を経営するよりも利益が上がるほどの。あの御方が浄化されたのだ、それぐらいの効果があって当然だ。

 

「……そういえば、多額の賠償を背負わせてしまった様なのですが、教団の者をアクセルの街に送り、賠償金のお金を何らかの形でお返しするというのはいかがでしょうか。セシリーが、恩返しのためにアクセルの街に向かいたいと言っていましたが」

「……そうだな、そうするか。本来であれば、街を救ってくださった事を感謝し、賠償など背負わせてしまったことを深く謝りたいのだが……それはまたいつか、この街にお越しいただいた時にでも」

 

 報告に来たプリーストが深く頭を下げると。ハッとした様に目を見開く。

 

「ああ、それと、あの御方からゼスタ様に伝言があります」

「伝言?」

「はい。『汝、他宗派の神と信徒への礼節を失うなかれ』とのことです」

「ふむ……」

 

 つまり、我々の他宗派への行いが罰当たりであったと。いやはや、この歳になって、礼節を説かれるとは思わなかった。

 伝言の意味を頭の中で反芻し、そして、名案が浮かんだ。

 

「……こうしよう。源泉の浄化は、今まで他宗派への礼節を欠いた我々への罰であったと。しかし、あの御方は更生のチャンスとして、聖水が湧くようにしてくださったと。街の信者達にはそのように知らせよう」

「はい」

 

 プリーストが筆を走らせ、紙に書き終えるのを確認すると、私は立ち上がって部屋の扉に手をかける。

 

「……どちらへ?」

「街に住まうエリス教徒の方々に、今までの非礼をお詫びして、頭を下げてくる」

「お供します」

「ありがとう。では、行こうか」

 

 この日を境に、これまでの行いが嘘だったように、アクシズ教徒達は大人しくなった。始めのうちは訝しむような視線を、特にエリス教徒から浴びていた。しかし、徐々にアクシズ教徒が改心したという認識も広まり、人々もそれを事実として受け入れていった。それに伴い、信者の数も少しづつ増えていくのだが、それはまた別のお話。




かなり駆け足ですが、これにてアルカンレティア編終了


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20話

爆裂紅魔編、始まります。この章は劇場版として放映したので、ちょっと凄いのをご用意してあります


 アルカンレティアでの騒ぎから数日経ったある夜のこと。

 

「ゔぁ゙ぁ゙~~~……」

「浴びるように飲むからそうなるのよ。はい、お水」

「ありがと……」

「これに懲りたら、自棄酒呷るなんてことしちゃ駄目よ?酒は飲むものであって飲まれるものじゃないんだから」

 

 屋敷の居間。普段なら私の特等席だとアクアが主張する暖炉前のソファーで、和真は呻き声をあげながら横になっていた。

 

「和真。今からタンメンの麺茹でるけど、食えるか?」

「……麺の量、半分にして」

「はいはい」

 

 和真がなぜあんな風になっているのかについてはアクア曰く、ファンを名乗る女性冒険者は、ギルドに金で雇われて近づいてきたかららしい。何でも、実績だけはある俺達のパーティーにクエストを請けさせるのが目的だったとか。そして、女性冒険者がギルドの職員と追加報酬の交渉をしているところを和真は目撃してしまったとか。それだけでも和真の(意外と)ガラスなハートを傷つけたというのに、更に……。

 

「うぅ、俺と兄さんで何が違うんだぁ……。同じ冴えない顔族なのに」

「私が思うに、日頃の行いね」

「お前が言うな」

 

 女性冒険者が交渉の最中に『お近づきになるなら兄のハルキさんの方が良い』と口にしたのが、致命的だったらしい。ショックを受けた和真は酒場で自棄酒を呷って酔い潰れ、帰りが遅いことを不審に思ったアクアに回収されて今に至る。

 

「しかし、ハルキ的にはどうなんですか?ファンの女性冒険者がいるというのは」

 

 隣で、ちょむすけが食べても大丈夫な野菜の切れ端を茹でていためぐみんがそんなことを訊ねてきた。足元では、ちょむすけが期待の眼差しをめぐみんに向けていた。

 

「あ~……俺のファンを名乗る女性冒険者って、だいたいが装備の値引き目的で近づいてくるのばっかりでさ。ファンとかそういうのはちょっとな」

「いたんですか?」

「まあ、片手で数える程度には。でも何時からだったかな、そういうのがパッタリ現れなくなったんだよ」

「そうですか……」

 

 めぐみんが鍋から視線を外してダクネスに向け、すぐに引っ込めた。

 

「おいめぐみん、なぜ私の方を見たんだ?」

「いいえ、何でもないですよ」

 

 ダクネスの追及をめぐみんはひらりと躱す。おっと、そんなことを話していたら。

 

「ゆんゆん、そろそろ麺が茹で上がるから丼出してくれ」

「わかりました」

 

 

 

 

 晩御飯を済ませ、風呂に入っていたら夜も更けた頃。

 

「ハルキさん、起きてますか?」

 

 ベッドで横になっていた俺の部屋の扉がノックされた。声からしてゆんゆんだろう。

 

「起きてるぞ」

 

 ベッドから起き上がり、扉を開ける。扉の前では、ゆんゆんが覚悟を決めたような眼差しで俺を見上げている。一体どうしたのだろうか?

 

「部屋に入ってもいいですか?」

「おお。どうぞ」

 

 俺はゆんゆんを部屋に入れ、扉を閉めて向き合う。

 

「それで、どうしたんだ?こんな夜中に」

「そ、その……」

 

 ゆんゆんは1歩俺に近づき、手を力強く握りしめると。

 

「私、ハルキさんの子供が欲しい!」

 

 ちょっと何を言っているかわからない。

 なんて、真剣な眼差しをしているゆんゆんに言えない。そして少し遅れて。

 

「確保ぉー!」

「めぐみん!?ダクネスさんも!?」

 

 めぐみんの声に合わせてダクネスが扉を開け、ゆんゆんを羽交い締めにして部屋の隅まで連れていく。続いて部屋に入ってきためぐみんはゆんゆんの前に立つとビシリと指を突き出して問い詰める。

 

「ゆんゆん!貴女は自分が何を言ったか、わかっているのですか?8つも年が離れていて、(ダクネス)のいるハルキの子供が欲しいなどと!貴女はハルキを犯罪者にしたいのですか!?」

「誰が嫁だ!」

 

 しかし、ゆんゆんは力強くめぐみんに反論する。

 

「私だって、本当ならそんなことしたくないわよ!でも、そうしないと世界が」

「うるせえなぁ!もう夜中なんだから安眠させろよ!」

 

 ゆんゆんの力強い反論で目が覚めたのか、お冠な和真が部屋に突入してきた。何だこの状況。どうしろというのだ。

 

「カズマ!夜中に騒いだことは謝りますが、それはそれとしていいところに来てくれました。貴方からもゆんゆんに一言言ってあげてください!」

「悪い、その前に事の経緯を説明して。騒がしいとしか思ってなくて何がなにやらさっぱりで」

 

 ~爆裂娘説明中~

 

「大体わかった。取り敢えず、ゆんゆんは事情を説明してくれ。何か理由があってのことなんだろう?」

「はい。ちょっと待っててください」

 

 そうして部屋を出たゆんゆんが持ってきたのは、封筒だった。そこから手紙を2枚取り出し、和真に手渡す。

 

「これって、ゆんゆんの親父さんの手紙か?『この手紙が届く頃には、きっと私はこの世にいないだろう』いきなり物騒だな」

 

 手紙の内容は、魔王軍が基地を紅魔族の里付近に建設したらしい。しかも、魔王軍は魔法に強い幹部を派遣したらしい。そして、魔王軍の基地を破壊することもできない状況にあるという。しかし、紅魔族の誇りにかけて魔王軍の幹部と刺し違えてみせるという覚悟が綴られていた。

 

「『族長の座はお前に任せた。この世で最後の紅魔族として、決してその血を絶やさぬように』」

「待ってください。ここにもう1人紅魔族が生き残っているのですが!」

 

 と、激昂するめぐみんを無視して、和真は2枚目の手紙に目を通す。

 

「『里の占い師が、魔王軍の襲撃による、里の壊滅という絶望の未来を視た日。その占い師は、同時に希望の光も視た。紅魔族の唯一の生き残りであるゆんゆんは、いつの日か魔王を討つ事を胸に秘め、修行に励んだ。そんな彼女は駆け出しの街で、ある男と出会う事になる。頼りになる、それ故に苦労の絶えないその男こそが、彼女の伴侶となる相手だった』」

 

 そこでめぐみんと和真、ゆんゆんとダクネスが俺の顔を見る。苦労の絶えない男が俺だと思っているのなら、普段の行動を改めてもらいたい。特にめぐみんと和真と、ここにはいないアクアの3人は。

 

「『やがて月日は流れ。紅魔族の生き残りと、その男の間に生まれた子供はいつしか少年と呼べる年になっていた。その少年は、冒険者だった父の跡を継ぎ、旅に出る事となる。だが、少年は知らない。彼こそが、一族の敵である魔王を倒す者である事を……』」

 

 和真のその言葉に、めぐみんとダクネスが息を呑む。そして首をゆっくりと俺に向けて動かし、次にゆんゆんを見る。そして頭を抱え、唸り声をあげて悩む。ゆんゆんは縋るような目で俺の手を取り、お願いしますと言ってくる。しかし、和真は手紙から目を離さなかった。何故だ。

 

「『……【紅魔族英雄伝 第1章】著者:あるえ』」

「「「ゑ?」」」

 

 その和真の一言に、全員が振り返る。

 

「『追伸 郵便代が高いので、節約の為に族長に頼んで同封してもらいました。第2章が出来たらまた送ります。良ければ感想やアドバイスのお手紙も欲しいです』って……。ほら、よく見ると1枚目と2枚目の手紙で字が違う」

「ああああああああーっ!」

 

 ゆんゆんは突然手紙を奪い取ると、丸めてゴミ箱に投げ捨てた。

 

「あるえの馬鹿あああああ!!紛らわしいことしないでよおおおおっ!!」

 

 床に突っ伏し、おいおいと泣き出したゆんゆんをダクネスに任せる。

 

「なあめぐみん。あるえis誰?」

「あるえというのは、紅魔の里の同級生ですよ。作家を目指しているそうで、物語を執筆しては私達に読ませて感想を欲しがる変わり者なんです」

 

 めぐみんの言葉に、和真がホッとしたような表情を浮かべる。

 

「それを聞いて安心し、いや安心するにはまだ早い。それってつまり、魔王軍が基地を建設したってのは事実なんだよな?」

「でしょうね。紅魔族は以前から魔王軍の目の敵にされていましたから、とうとう本腰を入れて里を攻め落としに来たんでしょう」

 

 めぐみんはこうなることをある程度予想していたのか、落ち着き払っている。それに対し、ゆんゆんは泣いてる場合じゃないと立ち上がり取り乱す。

 

「ねえめぐみん、どうしよう!?里が襲われているのって本当だと思う!私達はどうすればいいと思う!?」

 

 ゆんゆんの肩に手を添え、諭すようにめぐみんは答える。

 

「我々は魔王も恐れる紅魔族です。里の皆がそう易々と、ただでやられるとは思えません。それに、私とゆんゆんがいる限り、紅魔族の血が途絶えることはありません。ですから、こう考えるのです。里の皆は何時までも、私達の心の中にいると」

 

 手紙で自分を無視されたことに怒っているのか、そんなことをめぐみんは言った。

 

「……というのは冗談ですよ。いくら私でも、両親と妹に死なれるのは非常に困ります。明日、いえそろそろ今日でしょうか。紅魔の里に帰ってみましょう。私も実家の様子が気になりますし」

 

 と思ったら、180度真逆のことを言いだした。ダクネスと和真、俺にめぐみんが一緒に来るか訊ねる。まあ、ゆんゆんとめぐみんの2人だけだと不安しかないから同行するしかないだろう。主に喧嘩っ早いめぐみんが。

 

 

 

 

 女性陣が部屋に戻る道中の事。

 

「ゆんゆん。貴女は、何故ハルキを選んだのですか?あの手紙の男性の条件は、カズマも当てはまると思うのですが」

「そ、そうかな?」

「……考えてみれば、そうだな」

 

 私の意見を聞いたゆんゆんが動揺する。しかし夜中なので騒ぐわけにもいかず、器用に小声で慌てています。

 

「ゆんゆん。貴女、まさかハルキに横恋慕を……」

「ち、違うから!生まれてくる子供のことを考えたら、良くない話や噂のあるカズマさんよりも、ハルキさんのほうが良いと思っただけだから!だからダクネスさんも無言で睨まないで下さい!」

「そうは言いますが、ゆんゆん。万が一にもハルキが貴女を抱けば、(ダクネス)を捨てた犯罪者(ロリコン)の烙印を押されて社会的かつ物理的に抹殺されると思うのですが」

 

 私の指摘に、ゆんゆんが押し黙る。どうやら焦るあまり、そこまで考えに至っていなかったようです。こんなんで族長が務まるのでしょうか。彼女は冷静になって物事を考えることを身に着けるべきですね。お前が言うなという誰かの声が聞こえたような気がしますが、気のせいでしょう。

 

 

 

 

 そして日は昇り、朝。

 ギルドで紅魔の里周辺の地図を購入した俺達は、ある場所へ向かっていた。

 

「里は現在、魔王軍と交戦中らしい。だから、遠くから様子を窺ってみて、手紙の通りに危険そうならそのまま帰る。道中、魔王軍の姿を見かけてもそのまま帰る。周辺のモンスターはどれも強力なので、戦闘も極力避ける方向で!」

 

 和真らしい慎重(後ろ向き)な作戦だが、それが妥当だろう。そして意外なことに、アクアがびっくりするほど乗り気だった。どうも、ここ最近の魔王軍幹部討伐で自信がついたようだ。里が危険だから、一刻も早く目的地に行きたいというゆんゆんの要望に答え、今回も馬車は利用しない。しかし、テレポート屋を利用するわけでもない。紅魔の里に行く前に和真が済ませたい用事もあるそうなので、やって来たのは──。

 

「へいらっしゃい!上がり易い職業のクセにちっともレベルの上がらない男と、うっとおしい光溢れるチンピラプリースト!ネタ魔法しか使えないネタ種族と、下手に常識を持ち合わせているが故に浮いているネタ種族その2!そして、アルカンレティアで同衾したことを思い出すと動悸が激しくなるバカップルよ!丁度良いところに来たな!」

 

 さあ、入れと言うとバニルが俺達の背後に回り、背中を押す。店内にはウィズの姿が見えない代わりに、しくしくと泣く声が聞こえる。

 

「丁度良いところにってなんだよ。またガラクタでも仕入れたのか?」

「とんでもない!今回の品は、貴様もお気に召すこと間違いなしであるぞ!」

 

 そう言ってバニルが差し出したのは、蓋の開いた小箱。

 

「……なんだこれ?」

「アンデッド避けの魔道具だ。蓋を開けるだけで、アンデッドを寄せ付けない神気が半日ほど漏れ続けるアイテムだ。ほれ、貴様のとこにはアンデッドホイホイがいるであろう?この度の旅行では、ソレのせいで馬車旅を断念したとポンコツ店主から聞いておる。これを持っていれば、外でもグッスリと安眠できること間違い無しである!」

「ちょっと、アンデッドホイホイだのソレだの言わないでもらえる?」

「それでバニル、デメリットは何だ?」

 

 アクアを無視し、バニルと和真は会話を続ける。

 

「そんなものはないぞ。強いて言えば、値段が高い上に使い捨て商品だという事くらいか。効果は抜群!箱をうっかり開けた店主が店の奥から出てこられなくなり、先程からずっと泣いている程度には高性能だ」

 

 バニルの言葉を聞いて、俺達は小箱に蓋をして窓を開ける。そして和真は財布を取り出し、金額を訊ねる。

 

「お1つたったの100万エリスである」

「高えよ!それを買うくらいなら集まってきたゾンビと戦ってレベル上げするわ!」

 

 和真の抗議を無視し、例の小箱をせっせと袋に詰めたバニルは。

 

「良いではないか。何せ貴様ら兄弟は、これから大金持ちになるのだからな!兄と同様、現在までの全商品の知的財産権を、総額3億エリスで買い取り!この契約で良いな?」

 

 そう言いながら、一枚の契約書とペンを取り出してきた。

 

「3億エリス……!この男がそんな大金を手にすれば、いよいよ働かないダメ人間に……!」

 

 悩み顔のダクネスが、頭を抱える。

 と、アクアとめぐみんが満面の笑みで近寄り、袖をクイクイと引っ張る。

 

「カズマさんカズマさん。私、屋敷にプールが欲しいんですけど」

「私は魔力回復効果があると言われている、魔力清浄機が欲しいです」

「おっと、金の匂いを嗅ぎつけた亡者どもめ。プールや魔力清浄機は高そうだからまだ無理だが、今の内に旅に必要そうなアイテムでも見てこいよ」

 

 アクアとめぐみんに促すと、2人が店内の物色を始めた。

 

「和真、お前の分も何が探しておこうか?」

「いや、いい」

 

 ~店内物色中~

 

 そして、和真がバニルと話を終え、ウィズにテレポートで紅魔の里に転送を依頼し終えた頃。

 

「じゃあ、買うのはアンデッド避けの小箱で」

「毎度あり!」

 

 結局買ったのは、アンデッド避けの小箱だけ。他の魔道具だが、どれも旅に必要がなさそうだったり、メリットとデメリットが釣り合わないガラクタばかりだったので止めた。

 ウィズが魔法の準備をする中、バニルが和真の耳元に口を寄せて小声で何か話していた。そうこうしている間にウィズの魔法も準備が終わり。

 

「では皆さん。どうか、無事な旅を送られますよう……!『テレポート』!」

 

 

 

 

 ウィズの魔法を受け、思わず閉じた目を開く。

 そこに広がっているのは、水と温泉の都アルカンレティア。

 案の定アクアが1泊したがるが、めぐみんとゆんゆんのご両親へのお土産の購入だけで用事を済ませ、整備された街道を歩く。

 街から里までは徒歩で2日ほど。硬さに定評のあるダクネスが先頭に立ち、道中の危険なモンスターは俺と和真の敵感知スキルと聞き耳で探知して進んでいく。

 

「……待て、誰かいるぞ」

 

 先頭を歩いていたダクネスが、突然立ち止まり、林の入り口を指さす。

 そこには、岩の上に緑髪の少女が腰かけていた。少女はこちらに気づいたのか、手を振ってきた。時折、血の滲んだ包帯を巻いた右足首をチラチラと見ては、痛そうに顔を顰める。そして、上目遣いでこちらを見てきた。

 それを見て、俺と和真の敵感知スキルが反応した。

 

「怪我してるじゃない。ねえ貴女」

「『投擲』」

 

 大丈夫?とアクアが問いかけるよりも早く、俺の投げナイフが少女の眉間に突き刺さる。む、反応が消えない。ならばと心臓を狙って再度投げナイフを投擲しようと。

 

「この鬼!悪魔!外道!あんたには良心ってものが無いの!?」

「失望しました!カズマが鬼畜だの外道だの評されるのは貴方の影響だったのですね!」

 

 したところで、アクアとめぐみんが掴みかかってきた。ゆんゆんも涙目で俺を睨みつけ、無言の非難を浴びせてくる。

 

「アンバサ」

 

 その隙に、和真が刀──ちゅんちゅん丸(命名者:めぐみん)で少女の首を刎ね、合掌した。よし、反応が消えた。

 

「なんてこと!兄弟揃ってこんないたいけな少女を手にかけることを躊躇わないなんて!」

 

 俺に掴みかかっていたアクアが頭を抱え、天を仰ぐ。めぐみんとゆんゆんは顔面を蒼白させ、ダクネスの背後に隠れる。しかし、ダクネスだけは女性陣のなかで唯一冷静にしていた。

 

「皆落ち着いてくれ、まずはカズマとハルキに理由を聞こうじゃないか。ハルキ、カズマ、何故あの少女を手にかけた?」

 

 ダクネスに問われ、和真が地図を取り出し、モンスター情報が記載されている欄を指さす。

 

「ほれ、ここに『安楽少女』ってのがいるだろ。直接の攻撃力を持たない代わりに、旅人や冒険者に対して庇護欲を抱かせる行動を取り、誘き寄せる。そんでもって餓死させて、養分にしてる。ってさ」

「だから、私達の情が移る前に仕留めたのか」

 

 そう説明すると、アクアが俺と和真に1歩近づく。

 

「あのね、それならそう言ってからしてくれない?いきなりのことでビックリしたんですけど」

「そうは言うけどよ、お前、あの娘の傷の具合聞いてただろ。あのまま情が移ったらどうするつもりだったんだ?」

 

 和真に言われ、アクアがうぐっと唸り目を逸らす。女神としての性か、アークプリーストという職業柄か、おそらくあのモンスターを守ろうとしただろうな。

 

「……まあ、何も言わずにやったのは悪かった。今度からは説明した後で行動する。それでいいか?」

「「「最初からそうして頂戴(ください)」」」

 

 俺が謝罪すると、アクア達が口を揃えて言った。

 

 

 

 

 街道を歩いている間に日も沈み、夜の帳が下りる頃。街道沿いの地面の上に、野営の準備を行う。と言っても、大きめの石を取り除いてレジャーシートを広げる位しかしていないが。

 この辺のモンスターは強い。

 灯りに寄ってこられるとまずいので、火は焚かず、暗闇の中で身を寄せ合って寝ることにした。

 バニルから買った魔道具の蓋を開け、皆の荷物をレジャーシートの真ん中に置いて背もたれのようにする。

 今日の天気が曇りのせいで、周りは良く見えない。そのため、夜の見張りは俺と和真が行うことに。

 

「……カズマ、ハルキ。本当に2人に寝なくても大丈夫ですか?スキルの特性上2人が起きているとありがたいのですが……」

 

 めぐみんが、闇の中でそんなことを言ってくる。

 

「気にすんな。俺達は夜に強いからさ。俺達が住んでた国じゃ、徹夜で何かやるなんて割とあったからな」

「ああ」

 

 その、和真の言葉にめぐみんが。

 

「そうですか……。そういえば、カズマとハルキ、アクアはどこに住んでいたのですか?寝る前に、少し3人の国の話が聞きたいですね。カズマとハルキが開発した商品の数々を見るに、便利な魔道具がたくさんある国みたいですが。カズマとハルキは、そこでどんな暮らしをしていたのか気になります」

 

 めぐみんのその言葉に、ゆんゆんも興味があるのか、こちらを窺う気配がする。ダクネスも久しぶりに聞きたいのか、隣から窺ってくる。

 

「そうだな……下手なモンスターよりも、自然災害と人がおっかない国だった」

「「ほうほう」」

 

 めぐみんとゆんゆんが食いついた。

 

「春は梅雨の大雨で河川が氾濫して街が水没したり、土砂崩れで麓の家屋が埋もれたり押し潰される。夏は国全体が蒸し風呂みたいな暑さに包まれて、毎年のように体調を崩したり、亡くなる人がでる。んで、秋は台風で梅雨に起きる水害に加えて、家屋の屋根が吹き飛んだり樹木がなぎ倒される。冬は大雪が降ってな。地域によってはめぐみんがすっぽり埋もれるくらいの雪が積もったりする。吹雪なんかやべえぞ?周りが文字通り真っ白になって何にも見えなくなって、自分が何処にいて何処に向かっているのかわからなくなる。更に、1年の内に必ずどこかで地震が起きて、沿岸部だと津波が起きる。この津波が凄くてさ、酷いときは堤防をぶち破って沿岸部の街を丸ごと飲み込んで、建物の殆どを瓦礫に変える」

「「……」」

 

 めぐみんとゆんゆんが閉口する。

 

「で、人がおっかないって言った理由だけど……何でそうなったのか知らないけど、俺達のご先祖様はそんな国で800年も内戦を繰り広げていたらしい」

「「ゑ?」」

 

 おそらく、めぐみんとゆんゆんは自分の耳を疑っているのだろう。ダクネスは、そんなことも聞いたなと懐かしそうにしていた。

 

「……すいません。カズマとハルキのご先祖様は、蛮族か何かですか?紅魔族の私もドン引きなんですが」

 

 そうだそうだとゆんゆんも言っている。

 

「蛮族って俺達(子孫)に言われてもなぁ、紛れもない事実なんだし」




本当に自然って怖いんですよ。時に人間の予想を遥かに上回るパワーを発揮するんですから


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21話

今年も残すところ後1月程。(できれば)年内に爆裂紅魔を終わらせたい。


 翌朝。軽めの朝食を済ませ、街道を再び歩く。周りは遮蔽物が無い平原。俺達がいる辺りから、モンスターの強さが上昇する。具体的には、一撃熊にグリフォン、ファイアードレイクと言った、強力なモンスターがうろついている。そして、最も注意すべきモンスターが……。

 

「しかし、オークの雄がいないというのは本当だったのだな。私はてっきり、クリスが冗談で言ったものだと思っていたが。はぁ……いないのかぁ……」

「クリスが冗談でそんなことを言うわけがないだろ」

 

 昨日と変わり、後方を歩くダクネスがとてもがっかりしたようなトーンで話す。

 ファンタジー系の創作物において、女性の天敵として扱われることの多いオークの雄はとっくの昔に絶滅した。生まれたとしても、成人する前にオークの雌達に弄ばれて死ぬ。更に、オークは人型の生物なら殆どの種と交配可能なため、今のオークの雌は各種族の長所を兼ね備えた、オークとは言えないキメラになっている。そのため、オークに見つからない様に細心の注意を払わなければならない。最初で最期の相手がモンスターなんて、絶対に嫌だ。

 

「……兄さん、あれ」

 

 と、和真が何かを見つけたようだ。指さす方向を見ると、ポツンと人影が立っていた。

 

「十中八九オークだな。仮に人だったとしても、こんな危ない所に1人でいるのは不自然だ」

 

 俺達は人影を見なかったことにして、そのまま進み始めた。次の瞬間。

 

「おっと」

 

 一陣の風が吹いた。そして、人影がこっちに向かって走り出した。まさか、匂いでばれたか?

 

「……なあ、これって逃げないといけないパターン?」

「いえ、ここは私とゆんゆんに任せてください」

 

 と、めぐみんとゆんゆんが俺と和真を守るように立ちはだかる。そして、人影は段々近づいていきて……。

 

「我が名はめぐみん!アークウィザードにして、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!」

「我が名はゆんゆん!アークウィザードにして、やがては紅魔族の長となる者!」

 

 姿がはっきりわかったところで、めぐみんとゆんゆんが紅魔族流の名乗りをあげる。そして、杖とダガーを突きつける。トムとジェリーみたいな止まり方をしたオークは、とても悔しそうにぐぬぬと歯ぎしりする。

 

「貴女、紅魔の里の近くの集落に住んでいるオークですね?私達の仲間に手を出すというのなら、相応の覚悟を持っていただきましょうか!」

 

そう言われると、オークは畜生と地団駄を踏み、回れ右をして立ち去って行った。オークの姿が見えなくなった頃、俺達は急いで平原地帯を抜けた。

 

 

 

 

「そういえばゆんゆん、里にいた頃のめぐみんってどんな感じだったんだ?」

 

 現在、森で小休止していた俺達は、2人が里で暮らしていた頃の話を聞いていた。

 

「それはもう凄かったんですよ。魔法学も、魔力量も常に1番の成績で、里の人達もこぞって天才だって期待していたんです。それが今じゃ、爆裂魔法しか使えないポンコツ魔法使いに……」

「おっと、ポンコツ魔法使い呼ばわりするのはよしてもらおうか。我が知識と力、そして生涯のほぼ全てを捧げている爆裂魔法の悪口は止めてもらおう」

 

 めぐみんの言葉に、ゆんゆんは立ち止まって真っ向から吠える。

 

「威力が高すぎるからダンジョンで使えば崩落を招く!射程は長いけど、近づかれれば自分も味方も巻き込む!よほどの高レベルな魔法使いでも1度使えば2度目は使えない、非効率的な魔力消費量!唯一の長所である威力だって、どう考えてもオーバーキルじゃない!爆裂魔法に生涯を捧げるなんて、一生を棒に振るようなものじゃない!」

 

 何でも、めぐみんは爆裂魔法しか使えないことを里の人達に隠しているらしい。それがバレないように、度々ゆんゆんが釘を刺していたのだが、ゆんゆんも思うところがあったようだ。

 

「……ゆんゆん。貴女は今、言ってはいけないことを言いました。私の名前を馬鹿にするよりも、言ってはいけないことを言いましたね!」

「な、なによ、やる気?勝負なら受けて立つわよ。ここじゃ得意の爆裂魔法なんて使えないでしょう?」

 

 ゆんゆんは、警戒しながら構える。そんなゆんゆんを、めぐみんは一瞥すると……。

 

「カズマ、ハルキ。ゆんゆんの恥ずかしい秘密を教えてあげましょう。我々紅魔族には、生まれた時から体のどこかに刺青が入っているのですよ。個人によって場所は異なるのですが、ゆんゆんの場合は何と……」

「ちょっとめぐみん!何でそれをカズマさんとハルキさんに言うの!」

 

 半泣きのゆんゆんが掴みかかるが、めぐみんはそれをひらりと躱す。

 

「アクア、支援魔法をかけてください!ここで前回のリベンジです!」

「や、やってやろうじゃないの!」

 

 と、その時。

 喧嘩する2人の大声に引き寄せられたのか。

 

「──おい、こっちだ!やっぱりこっちから、人間の声が聞こえてきやがる!」

 

 耳障りな甲高い声が、森の奥から聞こえてきた!

 

「喧嘩は後にして、2人とも伏せて静かにしろ!どうやら敵に聞きつけられたようだぞ!」

 

 俺が屈みながら言うと、2人ともお互いを無言で睨み合いながら渋々伏せる。そして茂みに隠れ、息を潜める。

 

「おかしいな、確かにこの辺りから聞こえたんだが……」

 

 それは1匹の、鎧を着たモンスター。

 額に1本の角が生え、耳は尖り、赤黒い肌をした、細身の鬼。

 その鬼が、キョロキョロと辺りを見回して俺達を探す。

 

「っ!?」

 

 一瞬視線が逸れた隙を突き、手を伸ばして鬼の鎧を掴む。そして茂みに引きずり込み、首をへし折る。鬼の得物である短めの槍を和真に差し出すが、両手を前に出して首を横に振られたので、俺が頂くことにした。

 少しすると、似たような姿の連中が現れた。手に持つ得物はバラバラだが、それぞれが武装した魔物の兵士。数は20を超えるだろう。

と、和真がゆんゆんに目をやり、兵士に親指を向けてGOサインを出す。

 

「『ライト・オブ・セイバー』!」

 

 立ち上がり、叫ぶと同時に手刀を横一文字に振るう。

 すると、手刀の後を追うように光の筋が走り抜け、兵士を真っ二つにした。

 

「かっ、囲め囲」

「『投擲』」

「がっ!?」

 

 仲間の崩れ落ちる姿を見て激昂する鬼目掛けて、先程頂いた槍を投げつける。

 ダクネスがゆんゆんと俺を守るように立ち塞がり、アクアが俺達に支援魔法をかける中。

 

「ゆんゆん、先程はよくも爆裂魔法を貶しましたね!貴女が貶した魔法の破壊力、その目に焼き付けさせてあげます!」

「おいめぐみん!ちょっと待」

「『エクスプロージョン』!」

 

 和真の制止を無視して、めぐみんの爆裂魔法が炸裂する。

 辺りの木々が根こそぎ吹き飛び、射程圏内にいた兵士を消し飛ばす。

 粉塵が晴れた後には、巨大なクレーター以外残されていなかった。

 

「見ましたか!我が究極の爆裂魔法を!どうですかカズマ、今の爆裂魔法は何点ですか?」

「マイナス90点だ!お前馬鹿か!?何この状況で爆裂魔法使ってんだよ!」

 

 魔力を使い果たして地面に転がるめぐみんに、和真が魔力を補充しながら指示を飛ばす。

 

「ダクネスは俺とめぐみんの壁になってくれ!アクアは支援と回復!ゆんゆんと兄さんは敵の殲滅!但し、できるだけ魔力は温存して!」

 

 和真の指示を受け、俺とめぐみんは敵の殲滅にかかる。

 

「死」

「ふっ!」

 

 斧が振り下ろされる前に、ナイフで刺し貫く。そして斧を奪い、木の陰からゆんゆんを狙った兵士の首を刎ねる。

 

「『エナジーイグニッション』!」

 

 ゆんゆんの正面、直線上にいた兵士が丸焼きになる。

 

「ちぃっ!」

 

 俺が1歩後ろに下がると、横から振り下ろされた槌が空を切る。悔しそうに顔を歪めた兵士の頭に、メイスを振り下ろして叩き潰す。

 

「ふんっ!」

 

 兵士の攻撃をゆんゆんは回避し、鎧を掴んで投げ飛ばす。普通ならできないが、アクアの支援魔法のおかげで筋力も増大したようだ。

 

「ぐぬぅ!?」

「ぐえっ!?」

「うげっ!?」

「はぁっ!」

 

 固まっていた仲間達目掛けて投げ飛ばされた兵士を、俺が両手剣で纏めて叩き斬る。

 

「くそっ!」

 

 数も減り、敵わないと判断した兵士は武器を捨てて逃げようとする。

 

「『狙撃』」

「がはっ!?」

 

 それを逃がすわけもなく、狙撃でこめかみを射貫く。

 

「『フリーズガスト』!」

 

 すかさず、ゆんゆんが残りの兵士を氷漬けにする。

 

「めぐみんの様子はどうだ?」

「自力で歩ける程度まで回復したよ」

 

 和真の方を向くと、めぐみんが杖を振ってアピールしてきた。

 これで一安心か、そう思って皆が安堵し、紅魔の里があるという方向を向くと。

 

『……は?』

 

 必死の形相で、こっちに向かってくる先程の倍以上の兵士達。そいつらはその場に武器を投げ捨て、ひたすらに走っていた。どことなく泣いているようにも見える。

 何事かと構えた、その時。

 突如として、何もない空間から黒ずくめの4人組が現れた。

 2人はライダースーツのようなツナギに、指ぬきグローブをはめていた。残る2人は、黒のローブを身に纏っていた。装備の統一感はないが、1つだけ共通点があった。

 それは、彼らが黒い髪に紅い瞳をしていたこと。つまり、めぐみんやゆんゆんと同じ紅魔族だ。

 彼らがいきなり姿を現したのは、魔法で姿を隠していたからなのだろう。魔王軍の兵士達は、彼らから命がけで逃げている最中だったからか。

 その証拠に、魔王軍の兵士達は立ち止まり、俺達と彼らを戸惑ったように交互に見る。そして、俺達の方が与しやすいと踏んだのだろう。だが、立ち止まったのがまずかった。

 

「肉片も残らず消えるがいい、我が心の深淵より生まれる、闇の炎によって!」

「もうダメだ、我慢ができない!この俺の破壊衝動を鎮めるための贄となれぇぇーっ!」

「さあ、永久に眠るがいい……我が氷の腕に抱かれて……!」

「お逝きなさい。あなた達の事は忘れはしないわ。そう、永遠に刻まれるの……。この私の魂の記憶の中に……!」

 

 それはおそらく魔法の詠唱……ではなく、それぞれの決め台詞なのだろう。

 彼らはあっと言う間に魔王軍の兵士達に追いつくと、全員が同じ魔法の詠唱を始めた。

 

「「「「『ライト・オブ・セイバー』ーッ!」」」」

 

 次々と叫ぶと同時に、手刀を振るう。

 そして、辺りには魔王軍の兵士の残骸が散らばっていた。

 闇の炎だとか、氷の腕だとかは一体なんだったのだろうか。

 ……と、集団の1人が、俺達に視線を向けた。

 

「遠く轟く爆発音に、魔王軍遊撃部隊員と共に駆けつけてみれば……。めぐみんとゆんゆんじゃないか。なんでこんなところにいるんだい?」

「靴屋の倅のぶっころりーじゃないですか。お久しぶりです。里のピンチと聞いて、駆けつけてきたのですよ」

 

 うんうんとゆんゆんが頷くと、「里のピンチ?」と首を傾げる。

 おっと、認識の齟齬があるようだな。

 

「ところでめぐみん、ゆんゆん、こちらの人達は君達の冒険仲間かい?」

「はい!」

 

 ゆんゆんは満面の笑みで力強く返答し。めぐみんは少しはにかんだ後、自慢の仲間だと胸を張る。

 それを見て、ぶっころりーがとても真剣な表情になって、マントを翻し。

 

「我が名はぶっころりー!紅魔族随一の靴屋の倅。アークウィザードにして、上級魔法を操る者……!」

 

 突然、紅魔族流の挨拶をするぶっころりー。俺達は既にめぐみんとゆんゆんで慣れているので。

 

「これはどうもご丁寧に。我が名は佐藤和真と申します。アクセルの街で数多のスキルを取得し、魔王の幹部と渡り合った者です」

「我が名は佐藤陽樹と申します。アクセルの街で数多の武具を生み出し、数多のモンスターを屠った者です」

 

 俺と和真が相手に合わせた挨拶をすると、彼らは素晴らしいと賞賛の声をあげる。普通なら微妙な反応をされるものだが、俺達のように返してきたのは初めてで嬉しいらしい。

 

「我が名はアクア!崇められし存在にして、やがて魔王を滅ぼす者!しかしてその正体は水の女神!」

 

 突然、誰かに求められたわけでもないのにそんな自己紹介を始めたアクア。

 早速紅魔族の方々に影響されたらしい。

 

「「「「そうなんだ、凄いですね!」」」」

「ちょっとハルキ!私の素晴らしさを今ここで広めなさい!アクシズ教徒でしょ?」

 

 女神として崇めて欲しかった気持ちがあったのか、思っていた反応と違うと涙目のアクアが俺にフォローを求める。

 アクアから視線を外した紅魔族の人達は、期待の眼差しをダクネスに向けた。

 それを受けたダクネスに対し、恥ずかしいなら無理をしなくてもいいとゆんゆんが止める。

 

「2人とも、良い仲間に巡り合えたようだね。ここからだと里まではまだ距離がある。さあ、案内するよ、外の人。テレポートで送ってあげよう!

 

 ぶっころりーはそう言うと、高らかにテレポートの詠唱を行った。

 いきなりのテレポートに視界が歪み、立ち眩みとともに辺りの景色が一変する。

そこは、のどかな集落。

 ピンチとは程遠い、のほほんとした里の様子に呆然としている俺達に、ぶっころりーが笑顔を見せた。

 

「紅魔の里へようこそ、外の人達。めぐみんとゆんゆんも、よく帰ってきたね!!」




用意したちょっと凄いの、他の作品と被ったりしないか不安だ。出るのはだいぶ先になりますけど


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22話

サンタコスのダクネス、良い……
(お気に入り件数を見て五体投地する音)


「それじゃあ、俺達は哨戒任務に戻るから」

 

 ぶっころりーはそう言うと、他の3人と一緒に俺達から離れる。そして何かを詠唱すると、忽然と姿を消した。

 

「テレポートを使ったのかな?」

「いや、それはないと思うぞ。テレポートがどれだけ魔力を消費するか知らんけど、そう連発できるようなもんじゃないだろ。まして攻撃魔法も使えばなおさら」

 

 なら何処に行ったのだろう、俺と和真が話し合っていると、めぐみんがこっそり耳打ちしてきた。

 

「あれは、光を屈折させる魔法で姿を見えなくしたんです。ハルキの言う通り、テレポートを連発したら魔力が直ぐに無くなりますからね。……ちなみに、あの魔法は術者の指定した人や物の数メートルに結界を張るタイプの魔法ですので、近づけば見えますよ」

 

 俺と和真を壁代わりにした影響で、相手には見えなかったのだろう。あの辺ですとめぐみんが指さす方を見ると、何かが後ずさる音が聞こえた。

 ここは見えないふりをして、さっさと立ち去ろう。ということで、俺達はめぐみんとゆんゆんを先頭に、里の中に足を踏み入れた。

 まずはゆんゆんのご両親に会い、手紙の内容について聞こう。

 

 

 

 

「初めまして。いつもうちの娘がお世話になっております」

「いえいえこちらこそ。ああ、これつまらないものですが」

 

 里の中央に位置する大きな家。

 族長宅の応接間で、パーティーのリーダーとして、和真がゆんゆんの親父さんにアルカンレティアで買ったお土産を渡していた。親父さんの隣には、ゆんゆんのお母さんが座ってニコニコしていた。

 

「それで、お父さん。あの手紙って」

「ああ。あれはただの近況報告の手紙だよ。手紙を書いてるうちに乗ってしまってな。紅魔族の血が、どうしても普通の手紙を書かせてくれなくて……」

 

 父親の返答を聞き、ゆんゆんがぽかんと口を開ける。

 

「じゃ、じゃあ、『この手紙が届く頃には、きっと私はこの世にいないだろう』っていうのは……」

「紅魔族の時候の挨拶だよ」

「……魔王軍の軍事基地を破壊することもできない状況だって……」

「ああ、あれか。連中は、随分立派な基地を作ってなあ。破壊すべきか、新しい観光名所に加えるべきかで意見が割れているんだ。いやあ、困った困った」

「なあゆんゆん。お前の親父さん、1発ぶん殴っていいか?」

「私にも1発やらせてください」

「ゆんゆん!?」

「まあまあ、2人とも落ち着いてちょうだい。気持ちはわかるけれど、ね?」

 

 愕然とする族長の奥さんが、和真とゆんゆんに落ち着くように言う。

 ゆんゆんも母親に諭されて落ち着いたのか、はぁ、と大きなため息をついた。そして和真も、渋々ながら了承した。

 

「そういえば。ゆんゆん、以前聞いた仲間の『サトウハルキ』という男性は、どっちかな?」

 

 と、族長がゆんゆんに問う。そして仲間の視線が俺に集中ししたので、俺は静かに手を挙げる。

 

「成程、君がか。ところで、君はうちの娘とどういう関係なのかな?」

「どういう関係もなにも、ただの友人で仲間ですよ」

 

 そうか、と族長は頷く。

 

「……それはそれとして、うちの娘をどう思う?」

「どうって、ゆんゆんのような可愛い妹が欲しいなとは思います」

 

 次の瞬間、族長が瞳を紅く輝かせて吠える。

 

「うちの娘に女としての魅力がないと申すか!そこに直れ!成敗してくれる!」

「あなた?」

 

 立ち上がろうとした族長に、奥さんのヘッドロックが炸裂する。恐ろしい速さで繰り出された技に唖然とする俺達に、ニコニコ笑顔を向けながら奥さんは続ける。しかし、腕に込める力は決して緩めずに。

 

「ごめんなさいね。皆さんもご存じの通り、うちの娘は人見知りを拗らせたボッチ気質でしょう?その娘の近況報告の手紙に異性で、しかも年の離れた仲間が出来たって知ってからこんな調子なの。娘が騙されてるんじゃないか、とか。もしかしたら手籠めにされてるんじゃないか、とか」

「お母さん!それよりも早く離してあげて!お父さんの顔、青くなってるんだけど!?」

「……きゅう」

 

 ゆんゆんに言われて親父さんの様子を見ると、白目を剝いて気絶していた。奥さんは親父さんの頭を自分の太股の上に乗せ、優しく頭を撫でながら俺に言う。

 

「ハルキさん。念の為に聞きますけど、うちの娘との関係はあくまで友人で仲間、ということでいいんですね?親としては、娘に女としての魅力を感じないというのは少々複雑な思いなのだけど」

「そうですね……まあ、俺は男兄弟の長男で、従姉妹も全員年上なんです。それで、偶に顔を合わせると姉という強権を振りかざしてあれをやれこれをやれと俺をこき使うか、姉という強権を振りかざして構えと命じてくるかされてきたもので。だからなのか、妹が欲しいなと常々思っていたんです。具体的に言うと、ゆんゆんのような」

 

 俺がそう答えると、ゆんゆんが袖を軽く引いてきた。どうした、とゆんゆんの方に顔を向けると。

 

「えっと……ハルキ、お兄ちゃん?」

 

 恥ずかしそうにもじもじしながら、上目遣いのゆんゆんを見て俺は意識を失った。

 

 

 

 

「はっ!?」

 

 ここは何処!?何があった!?

 

「ここは死後の世界です」

 

 椅子以外何もない空間をキョロキョロ見渡す俺の後ろから、女性の声が響いた。

 

「クリス、お前ここで何やってんの?」

 

 声の主を見て、俺は思わず言ってしまった。

 目の前で笑顔で石像の如く固まっている女性は、間違いなく俺とダクネスの共通の知り合いのクリス……じゃないな、頬に傷跡が無い。

 

「私はクリスではありません。女神エリスです」

「ああ、貴女が!いやこれは失礼しました。外見が知人と瓜二つだったもので、つい」

 

 椅子に座って何度も頭を下げると、いえいえと目の前の女性改め、女神エリスは微笑んだ。

 

「気にしなくていいですよ。それに、今度そのクリスという方にお会いした時にでも、私に似ていたと言ってあげてください。とても喜ぶと思いますよ」

「わかりました……ん?」

 

 今なんて言った。今度会った時にでも?

 

「いや、ここって死後の世界だから今度会うってできないのでは?」

「はい。通常ならそうなんですけれど、そろそろアクア先輩が……」

 

 苦笑いして返答に困ったエリス様を代弁するように、声が響いた。

 

「もしもしエリスー?今ハルキに『リザレクション』をかけたから、さっさと門を開けてー?弟のカズマに特例で認めたんだから、兄のハルキも特例ってことで認めてちょうだーい!」

「……というわけで。ハルキさん、その門を通れば現世に戻れます」

 

 困ったように頬を掻きながら、エリス様は言う。何でも、和真を蘇生させた時は自分の秘密を暴露されたらしい。そして、特例を認めた代償に何らかのペナルティを課せられたそうな。

 

「あー……それでは、お騒がせしました。お仕事頑張ってください」

「それでは」

 

 俺は門を潜り、和真達のいる現世へと帰っていった。

 しかし、驚くほどそっくりだったな。エリス様とクリス。双子だって言われても信じるくらいに。

 

「………………ふう。何とか隠し通せたよ」

 

 

 

 

 場所は移り、復活した兄さんを連れて、俺達はめぐみんの家に来ていた。

 ちなみに、ゆんゆんは例の小説を送ってきた友人あるえとちょっとお話してくると言っていた。

 

「それで、君はうちの娘とどういう関係なんだね?」

 

 目の前の男性ひょいざぶろーさんが、キッと表情を引き締めて問う。付け加えるなら、この質問も3回目だ。そして、俺のフォローをする人は誰もいない。試しに兄さんにフォローを求めてみたが、冷たく突き放された。日頃の仕返しか。他の皆は、アクアの宴会芸に夢中だ。

 

「何度も言いますが、ただの友人で仲間です」

 

 それを聞いたひょいざぶろーさんは、もう我慢ならんとばかりに、アクアが芸を披露している卓袱台の前に移動し──

 

「そぉい!」

「たわば!?」

 

 卓袱台に手をかけようとしたところで奥さんの、ゆいゆいさんのスープレックスが唸り声を挙げた。成程、これが母は強しか。と、俺は遠い眼で現実逃避をした。

 

「失礼、取り乱した。いや、君が白々しくもただの友人だなどと言うものだからね」

 

 事実以外の何でもないのですが。頭に大きなたんこぶができたひょいざぶろーさんが、奥さんの淹れた茶を啜りながら言う。

 

「……ところで。めぐみん、今の我が家の様子は、どうだろうか?」

「それはこめっこに聞いて判断します。こめっこ、ここ最近はちゃんと腹に溜まる物を食べていますか?」

 

 めぐみんの問いに、こめっこは力強く頷いた。それを見て、めぐみんがまあ合格でしょうと言った。

 

「すいません。話が見えてこないのですが」

「ああ。実は、娘から仕送りと共に届いた近況報告の手紙に……あった、これだ」

 

 ひょいざぶろーさんは戸棚から手紙を取り出すと、俺に差し出した。

 内容は要約すると、親子の縁を切られたくなければ売れる魔道具を作って妹に腹一杯飯を食わせろという脅迫状だった。しかも、親子の縁を切ったら妹を連れてアクセルの街に移住し、同じパーティーのバカップル、つまり兄さんとダクネスのとこに養子入りするとも書いてあった。

 

「あの、こういった脅迫状は他にも?」

「いや、それが最初で最後だ。後は普通に身の回りであった出来事が簡単に書いてあったな。機動要塞デストロイヤーや、魔王軍の幹部を討伐したとか。君達のことがたくさん書いてあったよ」

 

 後で詳しい内容を聞いてみるか。今聞いたら、めぐみんが恥ずかしいからと全力で阻止しにくる気がする。

 

「そういえば。君達の借金だが、あとどれ程残っているのかな?私達としても、できる限り娘の仲間の手助けをしたいところだが……」

 

 ひょいざぶろーさんが、少し申し訳なさそうに言ってきた。

 

「ああ、いえ。とっくに借金は完済したんですよ。それに、少しすれば結構な額の大金が入ってくる予定でして。なので、大丈夫です」

 

 それは良かったと、2人は胸を撫でおろした。

 

 

 

 

 夜。

 

「お断りします!」

「右に同じです!」

 

 アクア達は俺達より風呂に先に入り、最後に俺と和真が入ることになった。そして居間に向かっている途中で、めぐみんとダクネスが誰かと言い争っているのが聞こえた。

 何事だと覗いてみると、ひょいざぶろーさんは居間の真ん中で高い鼾をかいて眠り、こめっこは父親の肩を枕にして寝ていた。

 俺達が風呂に行く前にはウトウトしていたこめっこはともかく、バッチリ起きていたひょいざぶろーさんが寝ているのはおかしい。アクアの姿が見えないのは、トイレにでも行っているのだろうか。

 

「そう言われても、今まで1つ屋根の下で暮らしてきて、間違いは起きなかったのでしょう?なら、ちっとも問題なんて無いわ。4人とも結婚できる年で、分別ある大人。仮に何かあったとしても、それはお互いの合意の上という事でしょう?なら、親としても何も言わないわ」

 

 どうやら、部屋割りの件で揉めているらしい。

 特に、と奥さんは続ける。

 

「ダクネスさんは、ハルキさんと男女の関係にあるのでしょう?なら、一緒の部屋で寝るのは当然です。その後2人がナニをしても、私達は知らぬ存ぜぬを貫きますので、ご安心ください」

「それについては全力で同意します。ですが、カズマと同じ部屋になるのは断固反対します!」

「待ってください!私とハルキは仲間であって男女の仲というわけではありません!」

「……成程成程。わかりました。では──」

 

 というか、これだけ大声で騒いでいるのにひょいざぶろーさんが目を覚まさない。和真もおかしいと思ったのか、奥さんに疑いの目を向ける。

 

「『スリープ』」

 

 奥さんが魔法を唱え、めぐみんとダクネスが崩れ落ちるようにその場に倒れた。やっぱり、ひょいざぶろーさんは……。

 と、居間の入り口から様子を窺っていた俺達に奥さんが気づき、満面の笑みで言った。

 

「あらあら、カズマさんにハルキさん。お風呂上がったんですか?丁度良かった。ダクネスさんとめぐみんが寝てしまいましたので、部屋まで運ぶのを手伝って頂けませんか?」

「「かしこまりました」」

 

 俺と和真はその場で跪き、深々と頭を下げた。

 この人に逆らってはいけない。俺と和真は、それを本能で理解した。そして、少し遅れてトイレから来たアクアが、ゆいゆいさんの魔法を受けて崩れ落ちたのは言うまでもない。

 

 

 

 

「『ゆんゆんのような可愛い妹が欲しい』か」

 

 実家のベッドで仰向けになり、天井を眺めながら昼にハルキさんが言ったことを口にする。

 上半身を起こして、自分の体を見てみる。全体にスラリとした体型。あるえ程じゃないけど、大きい胸。顔については、それなりに整っている自信が少しある。

 

「ハルキさんと私の年の差が小さかったら、女として見てもらえたのかな……?」

 

 それは違う。ハルキさんにはダクネスさんがいるんだから、そもそもこの考えが浮かぶことが間違っている。

 絹糸の様な手触りの良い金髪。背は高く、鍛錬によって引き締まっているのに出るところは出ている体。そして、整った顔。特殊な性癖に目を瞑れば、ダクネスさんはかなりの美女だ。同性の私が羨むくらいには。

 そんなダクネスさんとハルキさんは、所謂男女の関係にあると噂されている。実際、プライベートでも2人は一緒に行動していることが多いし、距離感もかなり近い。

 何時の頃からは覚えていない。2人が一緒に行動しているのを見ると、私は凄くモヤモヤした気持ちになっていた。クエストの時はそんな気持ちにならないのに、それ以外の時に2人が一緒にいると、苛立ちのような嫉妬のような感情が沸き上がってくる。

 

「……もう寝よう」

 

 ちょむすけちゃんを数えながら寝て、忘れよう。

 モヤモヤする理由を自覚したら、今のパーティーの人間関係に亀裂が入る気がする。それだけは嫌だ。大事な友人達との関係を、私のせいで壊したくない




初めての恋愛感情に戸惑う少女、大好きです。


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23話

 翌朝。仕事に行くめぐみんの親御さんを見送った後のこと。

 

「なあ、なんで俺は表で正座させられてんの?ここはいつから奉行所になったの?」

「黙りなさい。この虫けらが」

 

 虫けらはあんまりだと、和真が腕を組んで仁王立ちするアクアに抗議する。

 

「聞いたわよ。寝ているめぐみんに悪戯をしようとしたそうじゃない。何か言い訳があるなら言ってみなさい」

「あのなアクア、俺だって健全な男の子だ。あんな状況に放り込まれたら抵抗するのは難しい。というか、同じ布団で女の子と寝ているのに、何もしないほうが失礼だと思う」

 

 そう熱く語る和真に、めぐみんが縄を持って告げる。

 

「縛り上げてオークの集落に放り込まれるか。今日1日観光案内で財布役をするか。好きなほうを選んでください」

 

 和真は無言で土下座し、財布を差し出した。

 どうやら和真への罰は決まったらしい。ならここからは自由行動か、そう思った俺の背中に。

 

「何処へ行こうというの?ハルキとダクネスもそこに正座なさい」

 

 アクアから声をかけられた。いや、俺が何をしたって言うんだ。

 

「あんた、昨夜ダクネスと同じ部屋で寝たっていうのに何もしなかったそうじゃない。折角相部屋になったんだから、やる事もやらないでぐっすり安眠するとか馬鹿なの?童貞拗らせて紳士面するのもいい加減にしてくれない?見ていて凄くイライラするんですけど」

「いやいやいや。そもそも付き合っているわけでもない相手と何をやれっていうんだお前は」

「何って、ナニに決まってるじゃない。言わせないでよ恥ずかしい」

 

 朝っぱらから言ってる時点で恥ずかしいもへったくれもないと思うんだが。ダクネスも同じように抗議する。

 

「そもそも、皆に聞かれてしまったらどうすればいい?とても気まずくなると思うんだが」

「めぐみんのお母さんが言ったでしょ。知らぬ存ぜぬを貫くって。ただ、夕飯に赤飯を出してそれとなくお祝いするくらいよ。というわけで、ハルキとダクネスは今日は外泊を」

「おおっと!何故かここに俺が署名したアクシズ教の入信書が」

「わあああああっ!」

 

 入信書を破こうとすると、アクアが泣き喚きながらそれだけは止めてと言う。何でもするからと懇願するアクアに、無罪放免を要求したらすんなりと通った。これから困ったときは、この手を使うか。よし覚えた。

 

 

 

 

 めぐみんとゆんゆんの母校『レッドプリズン』。

 

「そういえばめぐみん。私の書いた小説はどうだった?同居しているんだ、読んだんじゃないか?」

 

 是非とも聞かせてほしいと、めぐみんに迫っているのは、同級生の1人あるえ。例の小説の作者だ。

 本人は名乗る時に『紅魔族随一の発育』と口にしていたが、まさにその通りだった。何処とは言わない(おっぱい)が大きかった。

 ゆんゆんも年齢の割には大きい部類だが、彼女も中々大きい。何処とは言わない(おっぱい)が。

 それはもうめぐみんとは天と地程の差が──

 

「カズマ?」

「いいえ、何でもありません。めぐみん様」

 

 俺の考えを読んだのか、俺の鼻先に杖を突きつけてめぐみんが笑顔になる。だが、目は決して笑っていなかった。更に、瞳が紅く輝いていた。あるえと一緒にいた、ふにふらとどどんこは、あれがめぐみんとゆんゆんの仲間かとひそひそ話していた。

 

「それで、小説の感想でしたね。内容は悪くなかったのですが、登場人物にゆんゆんの名前を使ったのは駄目でしたね。そのせいで、ゆんゆんがとんでもない行動に出たので」

「そうか。ところで、そのとんでもない行動について詳しく」

 

 あるえは何処からともなくメモ帳とペンを取り出し、めぐみんにズイッと顔を近づける。めぐみんは圧が凄いから余り近づくな、とあるえの肩に手を置いて押しのける。

 

「まあ、個人名は伏せますが。私の所属するパーティーには、『さっさと結婚しろ』と常々言われているバカップルがいるのです。その男性が小説でいうところの、ゆんゆんの伴侶となる相手の条件に合致していたのですよ。そして、族長の手紙の内容で慌てていたゆんゆんは小説の内容を真に受けて、その男性に子づくりを迫りまして。あやうく痴情のもつれでパーティーが解散するところでした」

「つまり修羅場だね、最高じゃないか。そしてありがとう。小説の良いネタになりそうだよ。……そういえば、そのお相手のお名前は?いや、次に送った時に同じようなことになるとまずいからね」

「名前はハルキ。ここにいる、カズマの実の兄です」

「年下の義姉(あね)ができるところでした」

「成程……」

 

 あるえはペンを走らせ、ホクホク顔でメモ帳を閉じる。次を楽しみにしていてくれ、とめぐみんに告げると、学校をクールに去った。

 

 

 

 

 その後、めぐみんと紅魔の里を観光して周り、『魔神の丘』に来ていた。

 めぐみん曰く、この丘の上で告白して結ばれたカップルは、魔神の呪いによって永遠に分かれることができないと大人気らしい。重い上にやたら怖い。ロマンもへったくれもないな。まあ、(のろ)いではなく(まじな)いと捉えればプラスになる……か?

 

「そういえばめぐみん。さっきここに来る途中で会った紅魔族の女の子のことだけど……」

「もしかして、めいつかさんのことですか?言っておきますけど、あれで年上ですよ。具体的な数字は言えませんが、ハルキよりも上です」

「マジで!?」

「ええ。付け加えるなら、あるえの姉です」

「そ、そうか。確かにどことなく似ている気はしていたけど。姉だったかぁ……」

 

 身長はめぐみんと大体同じくらいで、まごう事なき絶壁。初見だから妹と勘違いしたが、その逆だったか。いや、それは重要じゃない。

 

「彼女がなにか?」

「いや、何か腰の辺りに妙な物をぶら下げていたからさ。何かのマジックアイテムかなー、って思って」

 

 そう言うと、めぐみんが少し悲しそうに表情を曇らせる。

 

「……あるえ曰く。冒険者として活動していた頃の仲間の形見の品らしいです。10年ほど前に里に戻ってきて以来、石化魔法をかけて悪用されないようにしたうえで、毎日身に着けているそうですよ」

「お、おう。すまん」

 

 何も悪いことをしたわけではないのに、ついつい謝ってしまった。けど、あの造形。俺の記憶が正しければあれは間違いなく……

 

「……お?」

 

 思考に没頭するのを一旦止めて丘から里を見下ろす。

 俺達のいる丘は、里の全貌が良く見える。当然、里の横手側にあるめぐみんの実家に、黒い影が蠢いているのも見えた。

気になった俺が千里眼を使って目を凝らすと……

 

「おい!めぐみんの実家の近くに魔王軍が来ているぞ!」

 

 めぐみんの実家は里の隅、他の住宅とは離れた位置にある。そこに、魔王軍と思しき連中がコソコソ集まってなにかしていた。警報が流れないということは、里の人達は気づいていないということか。

 

「おやおや。性懲りもなくまた来たのですね。しかも正面からは敵わないからと、裏からこっそり攻めてきましたか」

「吞気に言ってる場合か!下に降りて、里の人達も連れて行くぞ!このままだと里に侵入される!」

 

 

 

 

「シルビア様!お下がりください!ここは我々がっ!?」

 

 ダクネスに途中から合流したゆんゆんを加えて里の観光を終えた俺達は、めぐみんの実家近くにある木柵を破って里に侵入してきた魔王軍と応戦していた。

 ダクネスは俺と魔王軍の間に壁のように立ち塞がって攻撃を防ぎ、俺は少し離れた位置から相手の肩や膝への狙撃で無力化させていた。俺達の目的はあくまで時間稼ぎ。後は和真達が帰ってきたら、里の人達を呼んできてもらう。

 

「2人とも、遅くなってごめん!応援を呼んで来たよ!」

「遅いぞ!いや、呼ばなかった俺達が言えたことではないけど」

 

 やってきた和真が大勢の紅魔族を連れて来たからか、魔王軍が顔を恐怖で青くする。

 そいつらを守るように、シルビアと呼ばれた大柄な女性が前に出た。おそらく、こいつが紅魔の里へ攻め込んでいる魔王軍を指揮している幹部なのだろう。

 

「わざと膝やら肩を狙っていたのは、応援が来るまでの時間稼ぎってとこね?でも不思議だわ。あれだけの矢を、一体どこに持っていたのかしら。見たところ、矢筒も背負っていないのに」

 

 シルビアは俺のことをジロジロと眺め、顎に手を当てる仕草をして考えている。

 

「……あらあら。考えこむのは止めたほうが良さそうね。後ろにこわ~い紅魔族が沢山いるんだもの」

「おっと。怖いのは紅魔族だけじゃないぞ」

 

 そう言った和真が、アクアとめぐみんを連れて俺の隣に来た。

 

「こいつはうちのアークプリーストだ。それもただのアークプリーストじゃない。お前の仲間のベルディアと、ハンスを単独で浄化した凄腕のアークプリーストだ」

「なんですって!?確かに、ハンスからの定期連絡は途絶えていたけど、その女が……!?」

 

 和真の言葉を聞き、シルビアが驚愕の表情を浮かべ、部下達がそれに合わせて後ずさる。アクアも自慢げに胸を張り、かかってこいと挑発する。

 

「しかも、お前が怖いと言った紅魔族の中でもめぐみんは最上位だ。なんせ、バニルと機動要塞デストロイヤーを討伐したからな」

 

 和真の言葉に、魔王軍と紅魔族の皆さんが騒めく。めぐみんの方も、満更でもなさそうに口元をニマニマさせていた。

 

「……貴方が彼女達のまとめ役みたいね。名前を教えてもらえないかしら?」

「……御剣響夜だ」

 

 こいつ、肝心な所でヘタレやがった。よりにもよって御剣の名前を名乗るか。そんなの直ぐにバレるに決まって……。

 

「ミツルギ!貴方が噂の魔剣の勇者ミツルギね!?ということは、腰の変わった剣が例の魔剣かしら?……男らしいイケメンって言われる割には、あまりパッとしない顔ね。でも、アタシの好みだから問題ないわ。じゃあ、隣のお兄さんはどなた?」

「俺の実の兄だ」

「やだ、兄弟揃って私の好みじゃないの!どうしましょう、どっちを選べばいいのか悩んじゃうわ~」

 

 あっさり騙されたシルビアは、和真に見逃してもらえないかと提案する。和真が上手いのか、シルビアが間抜けなのか。

 

「そうだな。このままやったら間違いなく俺達が勝つだろうが、ここでお前を倒しても、紅魔族の力を借りたみたいで後味が良くない。俺は今日のところは見逃してやってもいい。だが後ろに控えている紅魔族が見逃すかな!」

 

 そう言って和真が目を見開くと……。

 

「感謝するわミツルギ!私は魔王軍幹部が1人、シルビア!また会いましょう!……撤退!」

「逃がすな!『ライトニング・ストライク』!」

「『ライト・オブ・セイバー』!」

「捕まえて魔法実験の実験台だああああ!」

 

 シルビアが踵を返して逃げるのを、紅魔族達が追いかけていく。

 

「……魔王軍幹部、シルビアか」

「いい加減その演技を止めろ。気持ち悪いぞ」

 

 

 

 

 その日の夜。めぐみんの実家にもう1泊することになった俺と和真が風呂から上がって居間に戻ると。

 

「あれ?アクア達は?」

「ああ。アクアさんなら、族長の娘さんのところに泊まると言って、母さんと一緒に行ったよ。仲間外れでゆんゆんが寂しい思いをしているだろう、とね」

 

 居間に残っていたひょいざぶろーさんが、そう言った。更に、めぐみんは既に自分の部屋に行って寝たらしい。

 

「ダクネスは……」

 

 居間の隅に目をやると、寝こけているダクネスがこめっこの抱き枕になっていた。どういうことだと目で問いかけると、ひょいざぶろーさんはそっと目を逸らしてたらりと汗をかく。間違いない、奥さんの仕業だな。

 少し待っていると、玄関の開く音が聞こえた。そして足音が段々と近づいてきて──

 

「ああ、母さん。お帰」

「『スリープ』」

 

 ひょいざぶろーさんが崩れ落ちた。帰ってきた奥さんは、めぐみんを小脇に抱えたまま笑顔を浮かべて。

 

「ハルキさん、カズマさん。皆を部屋まで運ぶのを手伝って頂けますか?」

「「イエス、マム」」

 

 そして、俺とダクネスにあてがわれた部屋。

 

「すぅ……」

 

 雨除け用のマントを体に巻き付け、布団で寝ているダクネスの隣で俺は横になっていた。アクア達は執拗に俺とダクネスを相部屋にしたがるが、俺とダクネスの関係はあいつらの目にどう映っているんだろうか。

 確かに、工房で一緒に寝泊まりなんて普通にしていた。それにしたって、間にクリスを挟んで更に人1人分の距離を開けていた。飯だって、外で食うより安く済むからと料理スキル持ちの俺が基本的に作っていた。クエストの時は当然として、それ以外で用がない時は工房で仕事して、ダクネスはそれを黙って見ているか、クリスと街を散策していた。たまには外の空気を吸えと言うダクネスに、工房から引きずり出されることはあったけど。

 それだけで男女の仲だと言われるだろうか?そもそも言い出したのは誰なんだろうか?噂を流しそうな人間を、知り合いの中からリストアップして推測してみる。

 

「商店街のおばちゃん達。クリス。モロトクさん。街の冒険者。……ダメだ、心当たりが多くてわからん。でもダスティネス家の誰かということはないな、うん」

 

 噂を流しそうな知り合いが割と多かったので、考えるのを止めた。

 

「……ん……」

 

 スリープが解けたのか、ダクネスが目を覚ました。横になったまま部屋を見渡し、最後に俺と目が合う。

 

「ああ、そうだった。私はまた、ゆいゆいさんのスリープで寝てしまったんだ」

 

 騎士として情けないとか、状態異常耐性にもスキルを割り振ろうとか言いながら、ダクネスは寝ぼけまなこを擦る。

 

「なあハルキ。昨夜はそこまで寒くなかったから良いが、今日は布団に入ったほうがいいぞ」

 

 こっちに来いと、ダクネスは俺の分のスペースを空けて手招きする。

 

「……いいのか?」

「お前の体調が最優先だ。だから、さあ」

 

 お言葉に甘えて、と。畳んだマントを部屋の隅に置いて、深々と頭を下げて布団に入る。

 

「あ、でも枕が1つしかない」

「……お前が枕を使ってくれ。その代わり、私はお前の腕を枕にする」

「お、おう」

 

 俺が左腕を横に広げると、そこにダクネスが頭を置く。感触からして側頭部を乗せているようだ。このまま見て確かめたら、絶対目と目が合って凄い気まずい空気になる。というか、ダクネスの体温を至近距離で感じているもんだから動悸が凄いことになっている。

 

「ハルキ、耳が赤くなっているのだが」

「気にするな」

「そ、そうか……」

 

 ダクネスの吐息が直に耳にかかる。鎮まれ、鎮まるのだ、我が分身よ。街に帰ったらサキュバス=サンのお店で思いっきり発散するから、それまで我慢するのだ。いくら相手が黙っていれば美人の体現者で、俺好みの外見であっても手を出してはならんぞい。

 ちょっと言動がおかしなことになっているな。そうだ、素数を数えて落ち着こう。2、3、5、7……。

 

『魔王軍襲来!魔王軍襲来!既に魔王軍の一部が、里の内部に侵入した模様!』

 

 俺が素数を数え始め、3桁の素数を数えようとしたところに、そのアナウンスは流れた。




補足
・めぐみん、自室に入ってすぐに窓から逃亡して族長宅へ向かう→アクアを送り届けたゆいゆい、それを読んで待ち伏せ→めぐみん、母親と遭遇しスリープ
・めいつか:紅魔族随一の脚本家。10年ほど前にパーティーを組んでいた冒険者が流行り病で亡くなり、彼の遺品を持って帰郷。元々文才があったので、脚本家の道を選んだ。彼女とパーティーを組んでいた冒険者は、黒髪黒目の変わった名前の人物であったらしい。名前の元ネタはあるえの中の人の名前の読み仮名を音訓変更


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24話

対シルビア前半戦始まります。


 この騒ぎを聞いた俺達が布団を跳ねのけ、装備を整えていると奥さんが鍵を開けてくれた。ひょいざぶろーさんは、族長の家で寝泊まりしているアクアを呼ぶべく家を飛び出したらしい。

 

「『投擲』!」

「あっつうい!」

 

 開きっぱなしの玄関を飛び出し、視界に入ったシルビアにアルカンレティアで買った聖水入りの瓶を放り投げる。聖水を浴びたシルビアは和真の拘束を解くと、聖水を払うように手足を動かす。

 

「いきなりやってくれるわね!下級悪魔の皮で拵えたドレスがボロボロになったじゃない!けど残念ね、アタシは純粋な悪魔じゃないわ。結構痛かったけど、致命傷にはならないわ。でも、次に攻撃したら貴方の可愛い弟の命はないと思いなさいな!」

 

 半裸になったシルビアはそう言うと、和真にバインドをかけて名乗りを上げる。

 

「我が名はシルビア!強化モンスター開発局局長にして、自らの体に合成と改造を繰り返してきた者!そう、アタシはグロウキメラのシルビアよ!」

 

 ……紅魔族との交戦で、影響を受けてしまったようだ。そして拘束された和真はと言うと、シルビアの豊満な胸に後頭部をゆったりと沈めて寛いでいた。

 

「シルビアと言ったな!この家の者が、既に他の紅魔族を呼びに行った。ここに援軍が来るのも時間の問題だろう。そこでお前の胸に後頭部を埋め、幸せそうにしている仲間を置いて大人しく投降しろ!」

「おい和真。お前自分が何してるか分かってるのか?相手がいくら美人でも、そいつは敵なんだ。わかったら少しは抵抗を──」

「リア充は黙っとれ」

 

 和真は両足を軽く上げて組み、偉そうに椅子に座ってふんぞり返っているようなポーズをとる。無駄に器用な奴だ。

 

「おいそこのバカップル。お前らはいつになったら結婚するんだ。身分がどうのこうのと気にしているなら、さっさと既成事実をこさえてしまえ」

「なあ和真、お前何を言って」

「四の五の言ってないでダクネスを抱いてきて!今からでも後でもいいから、さっさとやることヤってきて!文句をぬかす連中の対処は俺達がするから!ほら早く!」

 

 シルビアに拘束された状態でジタバタしながら、和真が駄々をこねる。こいつは一体どうしたんだ。もしや、シルビアの豊満な胸に魅了された結果、今まで溜まっていたストレスが噴出してしまったのだろうか。でもな和真、胸ってのは大きければ良いもんじゃないんだよ。

 そんな和真を宥めるように、シルビアは和真の頭にそっと手を置く。

 

「どうどう。お兄さんとお義姉(ねえ)さんのことを思って言ったのでしょうけれど、一旦落ち着きましょう?」

「は~い♡」

「誰がお義姉(ねえ)さんだ!」

 

 ダクネスが顔を真っ赤にして叫ぶが、シルビアの耳には届いていないようだ。

 

「2人を想う気持ちはよ~くわかるけれど、急がせるのは駄目よ?結婚っていうのは、お互いの人生における大きなイベントの1つなのだから。焦らず、段階を踏んで進めないと悲惨なことになっちゃうものなの」

 

 その言葉に、ダクネスはシルビアを睨みつけ。

 

「魔族でありながら、人間の心がわかるかのような口ぶりだな。見た目と違って、随分長生きなようだな」

「ええ、分かるわよ。男心も、女心も」

 

 シルビアは当然だとでも言うように、続けた。

 

「だってアタシ、半分は男ですもの」

 

 シルビアの言葉に、その場の空気が固まった。特にショックが大きかったであろう和真は、目を点にしてシルビアの顔を見上げる。

 

「アタシ、キメラだから。貴方が大好きなこの胸も、後から合成してつけたのよ?」

 

 和真は顔を真っ青にして、ガタガタと震え始める。そんな様子なのを意に介さず、シルビアは和真が気に入ったと言って頬擦りする。

 

「シルビアさんシルビアさん。気のせいか、俺の尻に熱くて硬い何かが当たっているような……」

 

 和真の言葉にシルビアが。

 乙女チックに恥じらったと思おうと、とても誇らしげに言った。

 

「自慢のムスコよ!」

 

 和真は、白目を剝いて気絶した。

 

「させないわ!『ヴォミト』!」

 

 和真を助けようと駆け出した俺達に向けて、シルビアが魔法を放つ。魔法を受けて吐き気を催した俺達は、急いで別々の樹の根元に顔を向けて。

 

『おええええ……』

 

 吐いた。

 シルビアが使った魔法『ヴォミト』の効果は、かけた相手に胃の内容物を吐かせること。こんな効果をしているが、敵味方問わず使用できる支援魔法扱いのために魔法耐性が通じない。主な使用用途は、誤って毒物を口にしてしまった人に毒物を吐かせたり、モンスターに飲み込まれた仲間を救出するためにモンスターに仲間を吐かせるのに使われる。ただ、使用時の絵面が酷すぎることもあり、爆裂魔法に次ぐネタ魔法という扱いを受けている。

 

「皆さん、大丈夫で」

「はい、ゆんゆんはそこでストップしてちょうだい」

 

 一頻り吐いたところで駆けつけたゆんゆんを、アクアが止める。見れば、他の紅魔族の方々もそっと目を逸らしていた。

 

「『クリエイト・ウォータースフィア』!」

 

 アクアはまず、ダクネスとめぐみんの口に水の球体を放り込み、濯いで吐き出すように言う。2人が口の洗浄を終えると、俺の番が回ってきた。

 

「はーい、口開けてー。そこの茂みでペッしてきなさい」

 

 俺が口の洗浄を終えると、シルビアが向かうであろう場所、『世界を滅ぼしかねない兵器』が封印されているという地下格納庫へ来た。めぐみんの予想では、シルビアの狙いは中にある兵器のようだ。

 

「和真!無事か!?」

「う、うん。何とか、この通り」

 

 格納庫から出てきた和真は、何かを成し遂げたような、晴れやかな表情をしていた。

 

「シルビアを中に閉じ込めた!?ま、まあ、中の兵器は誰も動かせませんが……」

 

 和真の行動に幾分引いた表情のめぐみんとは対照的に、紅魔族の皆さんは和真を口々に褒め称える。

 

「なあ和真。ここって危ない兵器が保管されているんだよな。そんなところに閉じ込めて良かったのか?」

 

 俺の言葉に、アクアとゆんゆんがそうだそうだと言う。

 

「なーに、俺達にすら使用方法が解読できないんだ。シルビアにそれができるはずないさ」

「そうそう。もしシルビアが兵器を起動させたら、逆立ちで里を1周してやってもいい」

「帰って1杯やって寝るかー」

「ごめん、兄さん。今の里の人達の台詞でフラグが立った」

 

 和真の言葉を裏付けるように、地面が揺れ始めた。そして土が盛り上がり、周囲に飛び散る。土煙の中から姿を現したのは──。

 

「閉じ込めれば倒せると思ったようだけど、残念だったわねボウヤ!私は兵器だろうと何だろうと取り込んで一体化できる、グロウキメラのシルビアよ!」

 

 下半身を、巨大なメタリック色の蛇の胴体と化しながら。勝ち誇った高笑いを上げるシルビアだった。

 

「皆逃げるぞ!『魔術師殺し』が乗っ取られた!」

「『テレポート』!」

 

 紅魔族の悲鳴が上がり、何人かがテレポートを使用してどこかへ逃げる。

 

「おいめぐみん!『魔術師殺し』ってなんだよ?お前の言ってた『世界を滅ぼしかねない兵器』ってあれのことか?」

「いいえ。アレではない筈です。ですが、シルビアが一体化した『魔術師殺し』というのは同じくらい危険な物で──」

 

 顔を青くするめぐみんの言葉に、ゆんゆんが続ける。

 

「魔法が効かないという特性を持つ、私達紅魔族の天敵、対魔法使い用の兵器です!」

 

 何でそんな危険な物を紅魔族は今まで保管していたんだ!

 

 

 

 

「で、めぐみん。何で地下の格納庫にあんな危険な物が今まで保管されていたんだ?」

 

 他の紅魔族達と一緒に魔神の丘に避難してきた俺達の眼下では、ラミアの様な姿になったシルビアが燃え盛る炎を吐いて里を焼き払っていた。幸いなことに、紅魔族の多くは、テレポートの魔法を使える。そのため、人的被害は出ていない。

 

「その、非常に言いにくいのですが。……同じ格納庫にあった兵器を使って一度破壊した後、せっかくだから記念に残そうということで修理して、再封印を施したそうです」

「お前らのご先祖様は馬鹿か!?……いや、一度破壊したってことは、もう1度同じ手を使えばいいんだよな。その兵器は、今何処に?」

 

 毒を扱う場合は解毒剤も持ち歩くように、あの魔術師殺しを破壊した兵器も一緒に保管してある筈だ、と。和真は言う。

 めぐみんは首を横に振ると、言った。

 

「……残念ですが、魔術師殺しを仕留めたという兵器は、誰にも使い方が分からないのです。使用方法を記したとされている文献も残されているのですが、里の族長ですら解読不可能な文字でして……」

 

 どうしたものか、と和真は頭を掻く。

 魔法はまず通じない。

 長身のシルビアが小さく見えるほど巨大な、あの蛇のような胴体に巻き付かれればダクネス以外は圧殺される。

 

「どうする?和真」

「……兄さん、ダクネスと一緒にシルビアの注意をできる限り引き付けて。その間に潜伏で例の兵器を探し出して、使い方の書かれた文献を解読してくる」

 

 一か八かの賭け。自分の高い幸運があれば、乗り越えられるという和真の言葉に、紅魔族の方々が賛同する。どうやら彼らの琴線に触れたようだ。

 

「ねえ、魔王軍の幹部が暴れている真っ只中に飛び込むなんて危ない事、したくないんですけど!私の仕事は安全圏からの支援なんですけど!?」

「いいからお前も一緒に来い!俺1人じゃ探すのも大変なんだよ!」

 

 駄々をこねるアクアを連れ、和真は地下格納庫へ向かった。

 

 

 

 

「クソッ、どこだ!?せめて、手記か何かが見つかれば特徴もわかるんだけど……」

「ちょっとちょっとカズマ!凄いの見つけたわよ!」

 

 里の地下格納庫。

 アクアを連れてやって来た俺は、シルビアが開けた穴から中に入り込み、魔道具の山から目的の物を探していた。

 何を見つけたか訊ねると、アクアは嬉々として拾ったものを見せびらかした。

 

「じゃーん!日本のゲーム機よ!」

「はぁ!?おま、何でそんな物がここに……」

 

 アクアの手元にあるゲーム機を見た後で魔道具の山をしっかりと観てみれば、それは日本のゲーム機や、ソフトの入ったケースだった。ただ、そのどれもが微妙に歪んでいる。まるで、素人が無理矢理作り上げたようだ。どういうことだと考えていると、部屋の隅に手記の様な物を発見した。

 

「おい、アクア。ちょっと来い」

「どったのカズマさん?」

 

 俺が拾った手記は、日本語で書かれていた。それはつまり、この施設は俺よりも先にこの世界に送られた日本人が作った建物ということ。

 更に手記を読み進めていくと、犬型兵器のつもりが蛇型兵器になったとか、紅魔族が元は改造人間だったとか、けど感性は施術前からのものだとか、蛇型兵器に対抗できる兵器にレールガン(仮称)を作ったとか、お偉いさんが莫大な国家予算をかけて超大型兵器を作る計画を立てているとか、そんなことが書かれていた。

 俺はこの手記を書いた人間に心当たりがある。大物賞金首機動要塞デストロイヤーを作り出し、俺達が紅魔の里に来る少し前に請けたクエストで調査した遺跡の主と同一人物だろう。

 そして手記によると、魔術師殺しに対抗するべく作られた兵器は物干し竿並みの長さの物体らしい。

 

「待てよ?どっかで見た気が……ああ!思い出した!おいアクア!例の兵器の場所が分かっ」

「ねえ和真。これちゃんと動くわよ。電池の代わりに魔力を使うみた」

「遊んでる場合かぁ!」

 

 俺はアクアの手からゲーム機を取り上げ、大きく振りかぶって放り投げた。

 

「返してよ!もうこの世界じゃ手に入らないお宝なのよ!?弁償して!街に帰ったら貰えるお金全部で弁償して!もう手に入らない希少価値を考えたら、3億なんて安いものでしょ!?」

「ゲームで遊んでる場合じゃねえんだよ!これが終わったら一緒に探してやるから、さっさと行くぞ!」

 

 そもそもあれは落ちていた物であって、こいつの物ではないんだが。それを言うと余計に騒がれるから、ここはグッと堪える。

 そして到着した、里にある服屋。店の庭には、鈍い銀色のライフルが、物干し台に鎮座していた。長さにしておよそ3mを超えるそれは、1人では担げそうにないのでアクアに手伝ってもらうことにした。後部には魔法を吸収する機構なのか、ゴテゴテした物が付いている。

 

ベネ(良し)。後はこれを紅魔族の下に持って行って……ん?」

 

 俺は胸騒ぎと同時に、違和感を感じた。

 先程まで聞こえていた破壊音が止んでいる。不思議に思って見渡すと、そこにシルビアはいた。

 俺達から遠く離れた場所で、シルビアは動きを止めてある一点を見つめていた。

 シルビアにバレないように慎重に移動した俺の目に飛び込んできたのは。

 

「……ゆんゆんは何をしているんだ?」

 

 見れば、ゆんゆんが大きな岩の上でガイナ立ちし、シルビアを睨みつけている。他の紅魔族は既に魔力を使い果たしたのか、ジッとゆんゆんを見守っている。

 一体何がどうなって今の状況になったのだろうか、俺の疑問は、次のシルビアの言葉とゆんゆんが突き出した物が解決した。

 

「確かに、貴女の冒険者カードのスキル欄には、空間転移魔法は記されていないわね。自分からテレポートで逃げられないことを教えるなんて、どういうつもり?」

 

 俺もシルビアと同意見だ。ゆんゆんは何でそんなことを、直ぐに逃げられそうにない場所でしたのだろうか。頭を捻って考えていると、隣から肩を叩かれた。

 そちらを見てみると、いつの間にか隣に来ていた兄さんとダクネス、めぐみんの3人が来ていた。

 

「和真、それが例の兵器か?」

「うん。ていうか、ゆんゆんを助けに行かなくていいの?」

「いや、私とハルキで助けに行こうと思ったのだが……」

「彼女は何かやるつもりのようですので、邪魔してはいけないと私達が止めました。大丈夫です、岩の周りの踏まれた草を見るに、既に助けは入っています。ここは見守りましょう」

 

 助けが入っている?それってつまり、光を屈折させる魔法で姿を見えなくしているということか?そこまでしてあるなら、何故見守るだけに徹しているんだろうか。

 めぐみんの言葉に疑問符を浮かべる俺の目の前で、ゆんゆんは片足を上げてピタリとバランスを取り。

 

「我が名はゆんゆん!アークウィザードにして、上級魔法を操る者!」

 

 ゆんゆんは、紅魔族の人々の注目を集めたまま。

 恥じらいを投げ捨てるようにマントを翻し、宣言した。

 

「魔王軍幹部シルビア!紅魔族族長の娘として……!紅魔族の族長となる者にしか伝えられていない禁呪を見せてあげるわ!」

 

 片手のワンドを高らかに掲げ、何かを小声で呟いた。

 それは、雷系の魔法だったのだろう。夜空を切り裂く蒼い稲妻が、ゆんゆんのバックに轟音と共に轟いた。

 そんな、ヒーローが現れた時のワンシーンのような光景を見た紅魔族の皆さんは、感動したように涙を流していた。隣のめぐみんに至っては号泣までしている。どういうこと?

 

「皆見たよな!?ゆんゆんがようやく覚醒したぞ!」

「ああ!見たとも!」

「俺の教えたことっ、しっかり活かしてくれて……っ!自慢の教え子だよ、ゆんゆん!」

 

 紅魔族の人達には、今のは飛び切り格好いい演出に映ったらしい。

 今の一連の過程で、孤立気味だったゆんゆんは、里の住人達に本当の仲間だと認められたようだった。

 ……それはつまり、1人のまともな少女が、堕ちてしまった瞬間というわけである。

 後日冷静になって思い出したら、恥ずかしさのあまり死のうとするかもしれない。そうならないように、美味しいご飯を食べさせたり、優しく接したりして慰めてあげよう。

 

「……それで?奥義だの必殺技だの言って結局逃げる、口だけの紅魔族の代表の貴女の禁呪を早く見せてくれない?」

 

 ジッと自分を見つめたままのゆんゆんに焦れたシルビアが挑発する。しかし、ゆんゆんは動かない。

 シルビアが這いずって近づき始める。しかし、ゆんゆんは動かない。

 溜めるように、シルビアは体を沈める。しかし、ゆんゆんは動かない。

 そしてシルビアが飛び掛かると、ゆんゆんは一瞬早く岩から飛び降りて駆け出した。

 そんなゆんゆんを、今まで散々紅魔族達にからかわれ、逃げられたために怒りで目を血走らせたシルビアが。

 

「逃がさないわよ。逃がさないわよ。逃がさ……っ!?」

 

 狂喜しながらゆんゆんを追いかけようと、飛び乗った岩の上からゆんゆんを追いかけようとしたシルビアが、何かを見つけたかのように動きを止めた。

 どういうことだと目を向けると、ゆんゆんが駆けた先の何もない空間から、2人の男女が現れた。

 ぶっころりーと、女性の名前をめぐみんに聞いたところ、そけっとという名前らしい。

 どちらかが光を屈折させる魔法で姿を隠して近づき、術を解除したようだ。つまり、もう片方はテレポートを何時でも使えるようにしているわけで……。

 

「ちょっと、待ちなさ」

「『テレポート』!」

 

 シルビアが待ったをかけるのも虚しく、ゆんゆんはテレポートで姿を消した。

 

 

 

 

 これは酷い。シルビアに同情を禁じ得ない。

 紅魔族が固唾を飲んで見守る中、シルビアが、カタカタと震えだした。

 

「……フフッ。アーッハッハッハッ!揃いも揃って口だけの根性無しばかりじゃない!何が最強の魔法使い集団紅魔族よ!こんなのに今まで苦戦してきた自分が馬鹿らしくなってきたわ!」

 

 体を震わせて哄笑するシルビアから離れたところに隠れていた俺達は、レールガンによる狙撃の準備をしていた。

 聖水でダメージが通るなら、アクアの破魔魔法の出番だ。こいつを圧縮してぶっ放す。狙撃役は俺がやる。撃った時の反動のことを考えたら俺の方がいいだろう。和真がやったら肩が死ぬかもしれない。

 

「『セイクリッド・エクソシズム』!」

「『狙撃』!」

 

 アクアの放った破魔魔法がレールガンに吸い込まれ、俺が引き金を引き絞る!

 ……しかし、何も起こらなかった。

 

「あれっ?何で?」

「何処かに安全装置(セーフティー)があるのか?」

 

 俺と和真でレールガンを隈なく観察してみるが、それらしい機構は見当たらない。まさか、長いこと物干し竿として使った結果、パーツが故障してしまったか?それとも紅魔族じゃないと扱えないとか?

 どういうことだと考える俺と和真の隣では、魔法が吸い込まれるのが面白いのか、アクアが何度も破魔魔法を唱えている。

 

「あらあら、そんなところで何をしているのかしら?」

 

 アクアが魔法を使ったことで、俺達の位置がバレたのか。

 

「なあに、それ?随分と面白そうな物を持ってるじゃない!」

 

 シルビアが血走った目でこちらに狙いを定めた!

 

「させるかぁ!」

「待てぇい!」

「どきなさい!うっとおしい!ねえ、ボウヤ!貴方が持っているそれを置いていきなさい!アタシの勘が、それがとっても危険な物だって囁いているの!」

 

 足止めをしようとちょっかいをかける紅魔族を無視して、シルビアが俺達を追いかけてくる。

 和真が抱えるレールガンがヤバい物だと分かったらしい。

 そして和真は、顔を青くして逃走スキルをフル活用していた。

 

「逃げても無駄よ、サトウカズマ!そして聞きなさい、紅魔族!今日からアタシがあんた達の天敵よ!世界中の何処に逃げても、必ず見つけ出して根絶やしにしてやるわ!世界中の何処に集落を作っても、必ず潰す!」

 

 燃え盛る里中に響く大声で、シルビアが宣言した。そして紅魔族達を挑発するが、特に気にする様子もなく、誰1人として応じようとしなかった。

 光の屈折魔法を使ってのゆんゆんとの連係といい、テレポートの使い方といい、彼らは本当に頭が良いのだろう。ベクトルがちょっとおかしいだけで。

 

「それはちょっと聞き捨てなりませんね。紅魔族の天敵を名乗るのであれば、私の魔法に耐えてからにしていただこうか」

 

 どこが逆鱗に触れたのか、割と沸点の低いめぐみんは突然逃げるのを止め、シルビアに杖を向ける。

 それを見たシルビアが動きを止め、舌なめずりをして笑みを浮かべる。

 

「あら、さっきから影の薄いお嬢ちゃんじゃない。そういえば、貴女が魔法を使うところをまだ見ていなかったわね?」

 

 得意な魔法は何だと、シルビアの挑発的な言葉に、めぐみんは冷静に答える。

 

「そういえば、自分から名乗るのは初めてでしたね。我が名はめぐみん。紅魔族随一の魔法使いにして、貴女を殺す者です」

 

 めぐみんの名乗りに、シルビアは口の端を三日月状に吊り上げる。

 

「アタシを殺す者ですって?随分大きく出るじゃない」

 

 他の紅魔族の様にテレポートで逃げる腰抜けと思ったのか、シルビアはからかうような声で話す。

 というか、マズくないか。めぐみんには、爆裂魔法しか使えないことを隠すように何度も言われてきたのに。まさか、使うつもりなのか?それで倒せる確証もないのに。

 やはりと言うべきか、和真が説得しようと口を開く。

 

「なあ、めぐみん」

「カズマ。いつもは私達の尻拭いをさせてばかりですが、今日は(・・・)私が(・・)貴方の(・・・)後始末を(・・・・)つけますよ(・・・・・)

 

 それを遮るように、めぐみんは言った。

 

 

 

 

 俺達はめぐみんの爆裂魔法の威力を知っている。

 紅魔族が見守っているこの位置は、巻き込んでも爆風を受ける程度の距離だ。

 魔法に巻き込まれても死なないのなら、躊躇することなく使うだろう。

 

「皆逃げろ!シルビアからできるだけ離れろ!」

 

 俺はそう呼びかけるが、紅魔族の方々は演出の1つと捉える。吞気な連中だな。再度俺が呼びかけるが、紅魔族の方々とシルビアは笑い出すだけだ。駄目だこいつら、早くぶっ放して思い知らせないと。

 もう知ったことかと、俺は兄さん達と共にめぐみんの隣に立つ。そう、ちょうどゆんゆんの隣辺りに。

 

「ゆんゆん!何時の間に戻って来たんだ!?」

「え、えっとその。……皆さんのことが心配になって、めいつかさんとあるえに頼んでここまで、コッソリと……」

 

 背後の森に目を向けると、木陰からこちらに手を振る2人の人影があった。

 ゆんゆんが何時の間にか来ていたという予想外の事もあったが、今はめぐみんに集中しよう。

 俺はレールガンを足元に置き、メイスを貸してと兄さんに手を差し出す。

 兄さんはメイスを2つ取り出し、1つを俺に渡す。

 逃げようとするアクアの両脇にゆんゆんとダクネスが立ち、腕を掴んで抑える。

 そんな俺達のやり取りを見て、めぐみんは小声でありがとうございますと呟く。

 そして始まった詠唱。紅魔族の方々はその詠唱を聞き、めぐみんの発言が演出ではないことを察して逃げ出し始める。シルビアは何が起こったか分からず、辺りを見回してた。

 詠唱も終わりを迎える頃、めぐみんから湧き上がる魔力の流れと、紅魔族の反応により、シルビアもようやく身の危険を感じたようだ。

 

「や、やれるものならやってみなさい!炸裂魔法でも、爆発魔法でも、それがどんな上位魔法でも!魔術師殺しと一体化した今のアタシに、撃ち込めるものなら撃ち込んでみせなさい!」

 

 シルビアが、顔の前で両腕を交差させて声を張り上げる。

 めぐみんが紅い瞳をカッと見開き、全ての魔力を込めて魔法を唱えた!

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 圧倒的な魔力が膨れ上がり、それがめぐみんの杖の先から放たれる。

 

「なっ!?」

 

 何の魔法が放たれたのか理解したシルビアの顔が恐怖で歪み、めぐみんが放った閃光は、一直線にシルビアへと──!

 ……向かう事なく、足元のレールガンの後部へと吸収されていった。

 

『ゑっ?』

 

 あまりの出来事に、俺達だけでなくシルビアや紅魔族も声を上げた。

 それと同時に、魔力を使い果たしためぐみんが崩れるように倒れこむ。

 

「ビビらせやがってこの糞餓鬼がァ!」

 

 怯えさせられた腹いせか、男言葉になったシルビアが、怒りで顔を歪ませて目の前まで迫って来ていた。

 怖い!超怖い!

 

「畜生!元はと言えば、これを物干し竿に使うから壊れて……」

 

 こんなことになったんだ、と言おうと足元をふと見ると。

 レールガンの側面に、『FULL』の文字が点滅していた。

 俺は手記に書かれていた、レールガンがどのような兵器なのかを思い出した。コイツは魔力を圧縮して撃ち出す兵器だということを。

 なんて事はない、ただ撃ち出すのに必要な魔力が足りなかっただけなんだ。

 咄嗟にそれを拾った俺は、めぐみんの上半身を起こして支え、レールガンを握らせる。

 

「カズマ!?」

「1発だ、めぐみん。1発で決めるぞ」

 

 めぐみんの指を引き金にかけ、俺はレールガンの照準をシルビアに向ける。

 

「今だ!めぐみん!」

「っ!?」

 

 俺の合図と共にめぐみんが引き金を引くと、強烈な反動と共に、眩い光が放たれる。

 それはシルビアが咄嗟に持ち上げた銀の尻尾を貫き、シルビアの胸に大穴を開けた。

 それでも衰えを見せない光は、紅魔の里の裏手に広がる霊峰にまで突き進むと山の一角に直撃し。

 眩い光と爆音と共に、その一角を消し飛ばしていた。

 俺が、熱で変形したレールガンの残骸を落とすと同時に、シルビアの巨体が重い音と共に大地に沈む。

 

 

 

 

 ここは何処なのかしら。

 周りは紫色の靄が立ち込め、目の前には大きな川が流れている。足元を見てみれば、手のひらサイズの小石が大量に転がっていた。

 ああ、つまりここは……。

 

「おーい!こっち来いよ!」

「シルビアー!お前も来ちまったのか!」

 

 対岸から、アタシに向かって手を振る影が2つ。

 片方は、何かを抱えていることから、デュラハンのベルディアね。

 もう片方は、随分小さくなってしまったけれど、デッドリーポイズンスライムのハンスね。

 ここは、あの世とこの世の境目。アタシの命は、今終わりを迎えようとしている。

 ……そんなことはさせないわ。

 

「「シルビア?」」

 

 アタシには、まだやらなきゃいけない事があるのよ!ここで終わる訳にはいかないわ!



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25話

シルビア後半戦です。そして、タグ編集します。


『……ゑ?』

 

 あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

 シルビアが倒れたと思ったら、奴は何事もなかったように復活した!外見もかなり変わっている。具体的に言うと、スライムとデュラハンの様な……まさか!

 

「シルビア、お前の外見はベルディアとハンスの……」

「そうよ!川の向こうから手を振ってきたのが見えたわ。でも、私はまだ死にたくない」

 

 アタシは魔王の命令を果たしていないと。シルビアがどれだけ魔王に忠誠を誓っているのか、その目と声が物語っていた。

 

「さぁ、第3ラウンドといきましょうか!」

 

 かかってきなさい!と大声をあげるシルビアだが、はっきりいって戦いたくない。

 レールガンは破損し、もう使えない。

 めぐみんも爆裂魔法を撃ったので、2回目は使えない。

 他の紅魔族の方々の魔法は言うまでもないだろう。

 そもそも、あんな怪獣みたいな大きさになったシルビアに通じる攻撃なんて……怪獣?そうだ!

 

「めいつかさん!めいつかさん!」

「呼んだかしら?」

 

 森の方に声をかけると、めいつかさんが樹の陰から顔を出した。良かった、まだここにいた!俺は兄さんにも声をかけ、森の中に入る。

 

「めいつかさん、かつての冒険者仲間の遺品──ルーブジャイロは持ってますか?」

「っ!?」

「ルーブジャイロ!?」

 

 俺の言葉に兄さんが驚愕する。そしてめいつかさんは、ローブの中をゴソゴソして、両側に取っ手の付いた円盤を取り出す。やっぱり、この造形は紛れもなくルーブジャイロだ。

 

「それを貸してください!今のシルビアを倒すには、それしかないんです!仲間の遺品だから簡単に貸すことができな」

「いいわよ」

「いのは百も承知で、良いんですか!?」

 

 めいつかさんは、驚くほどすんなりとルーブジャイロを2つとも差し出した。

 

「でも、これは私の魔力を大量に注ぎ込んで石化させてあるの。これを使いたいと言うのなら、まずは石化を解いてみせなさい」

 

 なるほど、すんなりと差し出してきたのは、誰にも使うことはできないという自信があるからか。

 この状況でどうしたものかと悩んでいたが、デストロイヤーの結界を破ったアクアならできると判断した俺はルーブジャイロを受け取り、兄さんに片方を渡す。

 

「「「っ!?」」」

 

 その時、不思議な事が起こった。俺と兄さんがルーブジャイロを手に取った瞬間、ルーブジャイロ全体に罅が入り、破砕音と共に石化が解けた。

 

「嘘!?クリスタルの入ったケースは、鞄の中にしっかりと入れて……鞄が軽くなってる!?」

 

 続いて、ルーブクリスタルの収められたケースが空間に出現する。何故ルーブクリスタルが収められているのが分かったかって?ひとりでに開いたからだよ!ケースをよくみれば、オーブリングNEOが外側に埋め込まれていた。さてはアクアがねじ込んだな?

 

「……約束通り、貴方達に貸すわ。但し!ちゃんとアイツを倒して、生きて帰ってきなさい」

 

 1度仲間を失っためいつかさんの言葉には、有無を言わせない重みがあった。

 

「「はい!」」

 

 俺と兄さんはジャイロを手に、シルビアのいる場所に戻る。そこには、めぐみんを背負ったダクネス、ゆんゆん、アクアが残っていた。シルビアは俺と兄さんの姿を捉えると、嬉しそうに口元を歪める。

 

「サトウカズマ!貴方なら来ると思っていたわ!」

 

 周りを見れば、他の紅魔族の姿はなかった。皆、魔神の丘に逃げたんだろうか。

 

「それで?次はどうやってアタシを殺すつもりなのかしら?」

 

 最早俺達に打つ手はないと思っているのか、シルビアは余裕の笑みを浮かべて挑発する。

 上等だ。その余裕、今すぐ無くしてやる。

 

「兄さん!」

「ああ!」

 

 俺と兄さんは原典通り、拳を2度打ち合ってハイタッチし、ジャイロを突き出して叫ぶ!

 

「「オレ色に染め上げろ!ルーブ!!」」

 

 

 

 

 インナースペース内で、それぞれが使うクリスタルを選択する。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

 

 原典通り、3分戦えるとは限らない。

 

『ウルトラマンタロウ!』『ウルトラマンギンガ!』

 

 2分か、1分か、もしかしたら50秒かもしれない。

 

「纏うは火!紅蓮の炎!」「纏うは水!紺碧の海!」

 

 だから、速攻で高火力を叩き込む!

 

『ウルトラマンロッソ、フレイム!』『ウルトラマンブル、アクア!』

「「先輩の力、お借りします!」」

 

 

 

 

 2人が何かをシルビアに向かって突き出して叫んだと思うと、放たれた眩い光に思わず目を瞑りました。そして、光が晴れたので目を開いてみれば、私達は魔神の丘に立っているではありませんか。

 あの光はテレポートによるものではありませんね。魔力の流れをそもそも感じなかったので。というか、先にここに来ていた皆は何に驚いているのでしょう。口をあんぐりと開け、目を私達の後ろに向けて硬直していますね。

 私達もつられて、後ろを向いてみると──

 

『…………!?』

 

 それは、数値にして50mほどの巨体。

 銀を基調とした体に黒のラインが走り、片方は鎧と思われる部位が炎のように赤く、片方は海のような青色に染まっています。

 赤い方は2本の角が、青い方からは1本の角が生えています。

 2人は私達から背を向けると、構えをとり。

 

「シャッ!」

「ハァッ!」

 

 シルビア目掛けて突撃しました。

 シルビアはいきなりの光景に困惑していたようですが、2人を敵と認識したのでしょう。空気を吸い込んで大きく胸を膨らませ、炎を吐き出します。

 

「『アクアジェットブラスト』!」

 

 立ち止まった青い方が掌から放った水流が炎を貫き、シルビアの顔面に直撃します。

 目と鼻に入ったのか、シルビアは両手で顔を暫し覆います。そして、目を開けられるようになり、青い方を睨もうとします。

 

「なっ!?」

「『ゼットシウム光輪』!」

「くっ!」

 

 シルビアが青い方に気を取られている隙に接近していた赤い方が、手にした赤い光輪を振るいます。シルビアは負けじとデュラハン部分の大剣を振るいます。……しかし。

 

「嘘!?」

「ハァッ!」

「があっ!?」

 

 大根を輪切りにでもするように、赤い光輪は大剣を両断しました。そして腕を振り上げ、シルビアにダメージを与えました。

 シルビアは使えなくなった大剣を捨てると、そのまま尾で薙ぎ払いました。

 

「『フレイムダーツ』!」

 

 赤い方は光輪を消すと後方に大きく跳躍して回避、手から小型の火炎球を連続で投げつけます。シルビアは最小限の動きで、それらを全て回避してみせます。

 

「『ストビュームダイナマイト』!」

「ぐふぅ!?」

 

 横合いから、青い方が全身に炎を纏いシルビアにタックルをかまして抱きつきます。

 シルビアはそれを引き剥がそうと体を捩り、炎を吐き出しますが、時すでに遅し。

 

「ああああっ!」

 

 大爆発が起こり、シルビアが吹き飛ばされます。

 吹き飛ばされたシルビアは、今のでかなりの痛手を負ったのでしょう。何とか立ち上がり、肩を大きく動かして呼吸し、2人を睨みつけます。ですが、その瞳から闘志の炎は消えていません。

 2人は並ぶように立ってシルビアと向き合うと、円を描くように両手を胸の前で構えます。すると、肘から先がそれぞれの鎧に応じた光を纏いました。赤い方が右手を、青い方が左手を挙げると、背後に更に巨大な巨人の幻影が現れました。

 

『……ッ!?』

 

 私達が固唾を飲んで見守る中、巨人の幻影は2人と同じように両手で円を描きます。

 それに合わせて、2人が挙げた手を中心に大きな光の輪が現れました。

 シルビアは残り全ての魔力を注ぎ込んだのでしょう、巨大な魔力の塊を胸の前に生成しました。

 

「「オオオオオ……ッ!『トリプルオリジウム光線』!」」

 

 3人はシルビアに手を向けながら力を溜めると、両腕を直角に構えました。そして巨大な光の輪から、巨大な光線がシルビアに向かって放たれました!

 

「ハアアアアアッ!」

 

 シルビアは両腕を前に突き出し、魔力の塊を撃ち出します。

 ぶつかる力と力。その余波が、私達のいる場所まで空気を震わせて伝わってきます。

 

「「オオオオオッ!」」

「ハアアアアッ!」

 

 お互いの持つ全てをぶつけるように、気迫の籠った声が響きます。

 しかし、2人の力が勝ったのでしょう。シルビアの攻撃が押し返されていきます。……そして。

 

「ぐあああああああっ!?」

 

 光線が、シルビアの体に突き刺さります。それはシルビアの体を貫かず、吸い込まれていきます。いえ、流し込まれていると言うべきでしょう。光線がシルビアの体に吸い込まれるたびに、体に罅が入っていきます。

 

「魔王様ああああ!申し訳ありませえええん!」

 

 シルビアは最期に、魔王への謝罪の言葉を叫ぶと爆発四散しました。

 そして、巨人の幻影は溶け込むように消滅し、2人の巨人も光となって縮小してしまいました。

 

「姉ちゃん姉ちゃん!」

「はい、貴女の姉ちゃんです」

 

 周囲が呆然とする中、我が妹こめっこが話しかけてきました。目を合わせるようと屈んでみれば、目を万華鏡のように輝かせているではありませんか。

 

「さっきのデッカイ人達、名前は何て言うの?」

 

 教えて教えてと、興奮した様子のこめっこが質問してきます。名前ですか。そういえば、あの眩い光の中で、それらしい言葉を聞いた気がします。確か……。

 

「角2本のほうがウルトラマンロッソ。角1本のほうがウルトラマンブルよ」

 

 私の答えを代弁するように、めいつかさんが答えました。

 

「知っていたのですか?」

「ええ。あれは、私の嘗ての仲間の遺品が、本来の力を取り戻した姿なのだから」

 

 めいつかさんは、複雑な表情で巨人がいた場所を見つめ続けます。……本来の力ということは、彼女の仲間は本来の力を引き出せなかったということでしょうか。ならば、今の表情に籠っているのは嫉妬と羨望か、2人への賞賛なのか、それとも両方か。バニルなら、1発で見抜いたでしょう。

 

「……なあ、あの巨人は、カズマとハルキが変身した姿。ということでいいのか?」

「だと、思います」

「んー……私のくもりなきまなこを凝らして見ると、2人とも巨人がいた場所で仰向けに倒れてるわね。間違いなく2人が変身したみたいよ」

 

 アクアの発言を聞き、私達は急いで里に向かいます。今の状態で万が一にも敵襲を受ければ、2人がグロテスクなハンバーグになってしまいます!

 

 

 

 

「「あー……疲れた」」

 

 お互い変身が解けて第一声がこれである。いや本当に疲れた。どの位疲れたかと言うと、魔力と体力をごっそり失ったんじゃないかってくらい疲れた。今の俺達の様子は、爆裂魔法を使った後のめぐみんと同じような状態だ。つまり、敵襲を受ければ間違いなく死ぬ。頼む、誰か早く来てくれ。

 俺の祈りが届いたのか、鎧の金属音と慌ただしく走る足音が入り混じって俺の耳に届いた。

 

「大丈夫か!?ハルキ!」

「カズマ!しっかりしてください!」

 

 俺の顔をダクネスが、和真の顔をめぐみんが覗き込む。脈を測るように首に指を当てたり、瞳孔を見るように顔をこれでもかと近づけてくる。近い近い!近いから!

 

「俺達はこの通り大丈夫だ。魔力と体力をごっそり消費したから、こうして喋るしかできないけど」

「というわけでだ、ちょっと肩貸してくれ」

 

 そうして、俺はダクネスの肩を借りて、和真はめぐみんの肩を借りて立ち上がる。

 俺と和真は集まった紅魔族の皆さんの中からめいつかさんを見つけ、歩き出す。

 

「約束通り、お返しします」

「ありがとうございました」

 

 俺と和真はルーブジャイロを差し出し、続いてクリスタルの収められたケースを返却する。

 めいつかさんはクリスタルが全てケースに収まっていることを確認すると、鞄にルーブジャイロとルーブクリスタルをしまう。

 今の力は何だと紅魔族の皆さんが質問してくるが、俺達は疲れてそれどころではないので、めぐみんの家へ帰還した。

 幸い、めぐみんの家は里の郊外に建っていたこともあり、そこまで損傷はしていなかった。

 取り敢えず、仮眠をとって体力を回復させたら、里の復興のお手伝いをしよう。さっきの戦闘で、里に多少のダメージを与えてしまっただろうし。

 俺は瞼を閉じて一呼吸すると、スッと眠りに落ちていった。

 そして、翌朝。

 体力がある程度回復した俺と和真が家を出てみると……。

 

「「……ナニコレ」」

 

 崩れた瓦礫を素材にゴーレムが作り出され、建材を担いで建設現場まで歩いていく。

 召喚されたらしい6本腕の悪魔は、大工道具をそれぞれの腕に持って紅魔族の皆さんと話し合いをしていて……。

 

「なあ、めぐみん」

「なんでしょう」

「里の復興ってどれくらいかかる?」

「そうですね……3日ほどでしょう」

 

 俺と和真は眩暈を覚えた。まさか、あれだけの被害を受けておいて3日で復興する?規格外にもほどがあるだろ、紅魔族。

 

「ああ、良かった。ここにいたのか」

 

 声のした方を振り向くと、めいつかさんが俺達に向かって歩いて来ている。何か用だろうか?

 和真が用件を訊ねると、めいつかさんは四つ折りにされた紙とルーブジャイロ、ループクリスタルの収められたケースを差し出した。

 

「これを、貴方達兄弟に譲渡するわ」

 

 受け取りなさい、めいつかさんは言った。

 

「えっと……でもそれは、貴女の仲間の遺品ですよね?俺達に譲っていいんですか?」

「使えない私が後生大事に持ってるよりも、貴方達に渡した方が世のためになりそうだもの」

 

 それに、そう言ってめいつかさんは続ける。

 

「私も、過去を引きずってないで未来(まえ)を見ていかないといけないから」

 

 過去を乗り越えるために、これを手放すと彼女は言った。

 俺と和真は、彼女の言葉に従ってルーブジャイロを受け取る。クリスタルの収められたケースは、俺が持つことにした。まあ、俺の転生特典を考えればそうなるよな。そして、四つ折りの紙には、嘗ての仲間が使っていた頃の様子が挿絵付きで記されていた。後で隅々まで読もう。

 

「ただ、約束してちょうだい。これを悪用したり、濫用するのは絶対に許さない。もし破ったら……」

 

 めいつかさんの指先に炎が灯る。

 

「私の魔法が文字通り火を噴いて、貴方達を骨まで焼き尽くすわよ」

「「わかりました」」




ブルアクアがスペリオン光線使ったり、ロッソフレイムがゼットシウム光線使えるなら、ブルアクアがストビュームダイナマイト使えてもいいんじゃないんですかね(適当)。
補足
・ルーブジャイロの前所有者:ランダムでウルトラマンの変身アイテムを得るという転生特典で、ルーブジャイロとクリスタルを引き当てた日本人男性。本人は一人っ子なのでオーブリングが欲しかったが、ランダムだからしょうがないの精神で妥協した


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26話

爆裂紅魔、これにて完結。


 紅魔の里で過ごす、最後の夜。

 

「ハルキ。昨夜遅く、お前とカズマがウルトラマンなる巨人に変身したというのはどういうことだ」

 

 俺の隣で寝転がっているダクネスが、真剣な表情で訊ねてくる。

 言っておくが、ゆいゆいさんは何もしていない。どうせスリープで眠らされるくらいならと、ダクネスが自分から言い出した。こいつ、ちょっとやけっぱちになってる気がするのだが。同じ様な事を言っためぐみんに至っては、和真の袖を引っ張って部屋に連行していた。

 

「どうもこうも。めいつかさんの仲間の遺品をお借りして変身した。それだけだ」

「……わかった。では、次の質問だ。お前は、ニホンという国から来た異世界人ではないのか?例の魔道具。いや、ルーブジャイロとルーブクリスタルなる神器についてめいつかさんに訊ねたが、嘗て彼女の仲間が女神から直々に授かったらしいな。彼女の仲間についても、ある程度聞いてある」

 

 ダクネスは更に続ける。俺と和真の異世界(こちら)基準で変わった名前に、髪と目の色。これらは、歴史に名を残すような人間の特徴らしい。そして、そいつらは自分の故郷はニホンだと言っていた。大貴族であるダスティネス家の令嬢なだけあって、国の歴史には詳しいんだな。

 これは……素直に白状した方がいいな。下手な事を言って追及されると面倒くさい。

 

「……そうだ」

「そうか……では、お前は女神からどのような力を授かった?」

「物を収納したり取り出したりする程度の能力を授かった」

「収納して取り出す……確かに、お前は何処に持っていたのかわからない武器を構えていたり、偶に矢筒も無いのに弓矢を使うことがあったが。そういう能力だったのか」

 

 ダクネスは納得したように頷く。おい、腕枕の状態でされると凄く痛いから止めてくれ。

 

「それが、何か問題でもあるのか?」

「いや。その能力を持っていながら、なぜ初心者の街に留まり続けているのかと思ってな」

「仕方ないだろ。授かったのは能力だけで武器がなかったんだから」

「そうかもしれないが、レベルも上がって装備も充実した今なら他の街に拠点を移すものだろう?」

「鍛冶師と二足の草鞋だから中々動けないんだよ。工房の移転って金かかる上に面倒臭い」

「そうだった。お前はそういう人間だった」

 

 はぁ、と。ダクネスがため息をつく。

 

「このことは、お前の親父さんとか貴族の偉い人達に言うのか?」

「いいや。お前と、カズマの両方から了承を得てから話すさ」

 

 頑なに断り続ける和真の姿が目に浮かぶ。本質が怠惰なあいつのことだ。異世界人であることが発覚して、御剣達を引き合いに出して働かされるとか考えるだろう。

 

「わかった。それじゃあ、お休み」

「ああ。お休み」

 

 

 

 

「女神から力を授かった異世界人……か」

「Zzz……」

 

 布団で仰向けになり、寝息をたてているハルキの顔を見る。

 

「それなら、誰も私とハルキの関係に口出しできないだろう。だから、心置きなく……」

 

 いや、それは駄目だ。そもそも、私とハルキは仲間であり、友人だ。それ以上でも、それ以下でもなく。仮に私とハルキが男女の関係になれば、今私が抱えている問題に巻き込んでしまうことになる。

 ハルキ達が私の抱える問題を知れば、問題解決のために難易度の高いクエストを請けると言い出すだろう。大切な仲間のために、持っている力を全て使うだろう。

 

「あれは私の家の問題だ。大事な仲間達を、巻き込むことはできない」

 

 皆の助力は要らない、私自身の手で解決させる。仮にも大貴族の令嬢であるのなら、自分の手で解決できて当然だ。私は自分にそう言い聞かせ、明日に備えて目を閉じた。

 

 

 

 

 そして、紅魔の里から帰還して。アクセルの街にある屋敷で。

 

「あーあ。せっかくウルトラマンに変身できるんだから、あんた達が変身して空を飛べばタダで帰ってこられたのにな~」

「仕方ねえだろ。まだ使いこなせていないし、あれで帰ってきたら間違いなく大騒ぎになる」

 

 ソファーに身を投げ出すように座るアクアが、グチグチと文句を言う。

 テレポート屋を使うと和真が言った時、アクアは俺と和真が変身して、手に自分たちを乗せて飛べばタダだから嫌だとごねた。

 当然、俺達は反対した。濫用したら骨まで焼かれるし、何より使いこなせていない。それに、姿を見られたら大騒ぎになり、最悪の場合モンスターと間違われるかもしれない。めぐみんとダクネスも同意し、多数決でテレポート屋を使って帰ってきた。

 

「まあいいわ。今の私にはコレがあるもの」

 

 自慢げに、アクアが鞄から取り出したのは──。

 

「おいアクア!お前、それ何処から……」

「ああ、兄さんは知らなかったのか。例の兵器が保管されていた施設にあったんだよ」

 

 つまり、あの施設は先に来た日本人が関わっていたということか。詳しい事情は後で聞くとして、まずは。

 

「ごめんください。何方かいらっしゃいますか?」

 

 アクアが持ってきたソフトについて聞こうとしたタイミングで、誰かが玄関の扉をノックした。

 和真とアクアは、凄まじい速度で玄関の扉に近づき。

 

「おお、貴方がこの屋敷の……な、何をするか!止め……っ」

「ナイスよカズマ!ドレインタッチでギリギリまで生命力を吸い取って、意識を刈り取りなさい!そして、ここには誰も来なかったように見せかけるのよ!」

「疫病神死すべし慈悲はない。疫病神死すべし慈悲はない。疫病神……」

 

 来客にいきなり襲い掛かった和真とアクアを引き剥がし、取り押さえる。和真とアクアをめぐみんとゆんゆんに任せ、俺とダクネスが代わりに応対をすることになった。

 

「どうした、ハーゲン。この屋敷には、緊急の用事以外では顔を出さない様言ってあるだろう?ここに来れば、今のようにロクでもない目に遭うのではと心配して言ったのだが……」

 

 訪ねてきた男性は、ダクネスの実家の執事だった。お見合いの時に、会ったことがある。

 

「ええ。しかしお嬢様、私がここに参りましたのは、その緊急の用事でございます」

 

 後ろがバタバタと騒がしくなったので見てみれば、取り押さえられているカズマとアクアが耳を塞ごうと藻掻いていた。当然ながらめぐみんとゆんゆんはそれを許さず、手首をがっしりと掴んで話を聞かせようとする。

 

「どういうことだ。実家に何があった?」

 

 そのダクネスの問いに、執事は答えた。

 

「申し上げますお嬢様!このままでは、当家が貴族の地位を剥奪されてしまいます!」

 

 執事の言葉に、ダクネスは眉をひそめる。

 

「ふむ。確かにそれは緊急の用事だな」

「はい。ですがこうお考えください、お嬢様。当家が貴族の地位を失えば身分の違いという柵がなくなり、お嬢様はハルキ殿と堂々と婚約できお止めくださいお嬢様!この老体にそれはお止めください!」

 

 耳まで真っ赤にして執事の襟首を掴み、拳を振り上げるダクネスの足元に、1通の手紙が落ちた。

 

「……これは?」

「今朝、王家から送られてきた手紙でございます。それを見れば、当家の一大事という理由がご理解頂けるかと。そして事は、そちらの皆様方にも関係が……」

 

 言って、執事が俺達を順に見る。

 手紙を広げたダクネスが、みるみるうちに顔を青くさせ、膝から崩れ落ちる。

 手紙に書かれていた内容は、よほどの厄介事なのだろう。

 

「どれどれ……?」

「あっ!」

 

 呆然としているダクネスの手から手紙を取り上げ、音読する。

 

「『数多の魔王軍幹部を倒し、この国に多大なる貢献を行った偉大なる冒険者、サトウカズマ殿。貴殿の華々しい活躍を耳にし、是非お話を伺いたく。つきましては、お食事などをご一緒出来ればと思います』だとさ」

「差し出し人は?」

 

 掌を返したように、和真が続きを読んでくれと言う。ダクネスが大声でかき消そうとするが、アクアに口を塞がれてくぐもった声しか出せなかった。

 

「この国の第1王女。アイリス様だよ」

 

 それを聞くと、和真は目を輝かせて歓喜の雄叫びをあげる。

 

「ついに俺達の時代がキター!」

 

 そんなものは来ていないとでも言うように、ダクネスが全力でアクアの手を引き剥がそうと暴れまわった。




現在のダスティネス邸の勢力図
身分違いの恋愛大好き派(代表:イグニス)vs身分の違いがあるなら取っ払えばいい派(代表:ハーゲン)


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27話

明けましておめでとうございます。
原作6巻、六花の王女編始まります。


「「オレ色に染め上げろ!ルーブ!!」」

『ウルトラマンタロウ!』『ウルトラマンギンガ!』

「纏うは火!紅蓮の炎!」「纏うは水!紺碧の海!」

『ウルトラマンロッソ、フレイム!』『ウルトラマンブル、アクア!』

「「先輩の力、お借りします!」」

 

アクセルの街にある屋敷。その居間で俺と和真は変身して、ある検証を行っていた。

 

「……よし。まず、身長は等身大まで縮めることができるな」

「うん。これで、今後の戦術の幅がグッと広がったね」

 

ブルアクア状態の和真が、サムズアップを向ける。

検証その1:身長はどの程度まで調整できるのか

結果はこの通り、俺と和真の身長程度まで抑えることができた。めいつかさんのメモによれば、前の所有者は今の俺達のように大きさを抑えて戦っていたらしい。しかし、俺達にもそれができる保証はないので一か八か試してみれば、同じようにできた。

 

「次は、この姿をどれくらい維持できるかの確認だね」

「ああ」

 

変身したと同時に、テーブルの上の砂時計を使った計測を開始していた。

そして、砂が3分の2ほど落ちた頃。胸部のカラータイマーが鳴り出した。そして、体感で10秒経つ毎にタイマーの鳴る間隔は短くなっていき……。

変身が解除され、俺と和真は傍に寄せてあった椅子に座りこむ。

検証その2:変身可能な時間はどの位なのか

 

「2分30秒。ってところか」

「多分、そのぐらいだと思う」

 

結果は、2分30秒。俺達が本来の所有者ではないことを考えれば、妥当なところだろう。

 

「ねえ、兄さん」

「どうした?」

「これってさ、変身して直ぐ解除したら魔力と体力もそんなに消費しないで済むんじゃないかな?」

「そうだな……明日、試してみようか。それが終わったら、今度はマナタイト結晶を持った状態でもやってみよう」

「うん」

 

翌日。

 

「駄目だ。変身して直ぐ解除しても魔力と体力をごっそり持っていかれる」

「薄々そんな気はしていたけどな……」

 

変身し、姿が変わっているのを確認したところで解除してみたが、凄まじい疲労感に襲われた。ぶっちゃけ、時間いっぱい変身していた場合と変わらない。

確か、原典では再変身に時間を置く必要があったけど、こういう形での再現は嬉しくなかったな。

更に翌日。

 

「めぐみん。マナタイトの魔力の残量はどうだ?」

「……ちっとも減っていませんね」

「マジか。ウィズの店で大金払って買ったのが無駄になっちまった」

 

マナタイトに魔力の消費を肩代わりさせる実験は失敗した。

結論。時間に関わらず、変身すれば問答無用で魔力と体力を消費する。マナタイトに肩代わりさせるのも駄目。これは、かなり使いどころを見極める必要があるな。和真が頭を抱え、今後の運用方法について思案していた。

 

「とりあえずダクネス、オラに体力を分けてくれ」

「ああ。ほら」

「じゃあ、兄さんの分を分け与えるから」

「頼んだ」

 

和真がドレインタッチでダクネスの体力を吸い取り、その1部を俺に分け与える。立って歩ける程度まで回復したので、もう充分だと空いている手でサムズアップを向ける。

 

「なあ、カズマ」

「なに?」

「その、例の会食の件だが、断らないか?国のトップが相手となれば、お前の期待しているようなものとは違う。堅苦しいものになる!な?皆もこの話は聞かなかったことにしよう!」

 

王女様からの手紙が届いて以来、あの手この手で和真を王女様に会わせないようにダクネスは手を尽くしてきた。

和真は、体を伸ばすとポツリと呟く。

 

「……お前、俺達が王女様に、何か無礼を働くとか思っているだろ」

 

図星だったのか、ダクネスはビクッと身を震わせて明後日の方向を向く。

 

「そ、そんな事はない……ですよ?」

「嘘をつけ。お前、俺達が何かやらかして、ダスティネス家の名に泥を塗るとか、そんな心配しているんだろ」

 

和真のその言葉に、アクアとめぐみん、ゆんゆんが同調してダクネスに抗議する。

 

「ち、違うんだ。私は皆の事を良く知っている。だからこそ、何かやらかすのではないのかと心配しているのだが……」

 

ダクネスが、泣きそうな顔でそんな事を言ってくる。

ダクネスの心配は強ち間違いじゃないな。アクアが宴会芸をやったり、めぐみんが紅魔族流の自己紹介をしたり、和真が普段ダクネスに接するノリで王女様に接したり。うーん、嫌な予感しかしないな。ゆんゆんは緊張のあまり噛みまくって舌がボロボロになる程度か。

 

「おっと、タキシードを買っておかないとな。お前らもドレスとか持ってないだろ?一緒に仕立てて貰おうぜ」

「いいわね!私もたまには羽衣以外を着てウロウロしてみたいわ!でも会食までに仕立てるのが間に合うかしら」

「私は勿論黒のドレスですかね。大人な雰囲気溢れるヤツを仕立てて貰いましょう。ゆんゆん、貴女も同じ様なドレスにしますか?友達とお揃いですよ?」

「と、友達とお揃い……いいわね!」

 

心配している俺達をよそに、和真達はドンドン盛り上がっている。

アクアとめぐみんは辞退する気は微塵も無し。ゆんゆんは悩んでいたが、めぐみんの一声で乗り気になってしまった。

 

「おい和真、相手はこの国の王女様だぞ?下手なことをすれば物理的に首が飛ぶことに」

「いや、やっぱタキシードはありきたりだな。よし、ここは王女様に強烈な印象を与えるためにも、着物や袴でも仕立てて貰って……」

 

駄目だ、聞く耳持ってくれない。

ダクネスもとうとう我慢の限界だったのか、大声で。

 

「頼む、何でもする!私にできることなら何でもする!だから、聞いた事もない奇抜な格好をするのは止めてくれ!」

「「「ん?」」」

 

それを聞いて、和真達が反応する。

そして、和真とめぐみん、アクアの3人は最高にイイ笑顔で振り返り。ゆんゆんは3人の表情にドン引きしていた。

 

「今」

「何でもするって」

「言いましたね?」

 

 

 

 

そして、その日の夜。

 

「じゃあ、兄さんとダクネスは王女様が来るまでの1週間。風呂に入るのも寝るのも一緒な。それと、ダクネスの髪のセットも兄さんが毎朝すること」

 

そういうことで。と和真は言って、脱衣所の扉を閉めて立ち去る。

 

「……すまない。皆を止めようとあんな言葉を口にしてしまい、お前を巻き込んでしまって」

 

着替えを持ったダクネスが、しょんぼりとした様子で頭を下げてくる。

 

「いや、これ位であいつらが大人しくなるなら安いもんだろ。これをネタにあいつらがあることないこと広めたら、俺達がきっぱりと否定して然るべき制裁を下せばいい。じゃあダクネス。俺が先に風呂に入るから、あっち向いててくれ」

「ああ」

 

ダクネスが背中を向けたのを確認した俺は、素早く服を脱いで籠に入れ、風呂場に入る。

 

「……この辺でいいかな。おーい、ダクネスー。こっちに来ていいぞー」

「わかった。今行く」

 

俺は浴槽の端っこ。出入り口から1番遠い辺りに座り、天井をジッと見つめる。

少しして扉の開く音が響き、ダクネスが浴槽に入る音が耳に入る。

 

「(2、3、5、7、11……)」

 

俺は天井を見たまま、素数を数えて平静を保つ。鎮まり給え、鎮まり給え……よし、落ち着いた。でも、甘い香りのようなものがほんのりと漂っていてドキドキするので、このまま天井を見つめておこう。これが所謂フェロモンってやつだろうか。

 

「なあ、ダクネス」

「なんだ?」

「例の王女様との会食の件だけど、護衛に来るのって誰?王城の精鋭の騎士とか?」

「いや、アイリス様には護衛兼教育係の女性が2名付いている。今回の会食でも、彼女達が付いてくるだろう」

「因みに、その護衛の人達の名前と人相は?」

 

もしかしたら、何処かで鍛冶師の仕事で会ったことがあるかもしれない。相手に知っている人間がいれば、俺も少しは緊張が和らぐかもしれない。

 

「そうだな……クレア殿は何処かで会ったかもしれないな。短い金髪の女性で、シンフォニア家の長女だ」

 

もう1人のレインという人は、魔法使いだから交流はほぼないだろうと言われた。

 

「あー……お前の鎧を作って半年くらいした頃に、武器を作って欲しいって来たな」

 

確か、あの時は知り合いの武具を作成した鍛冶師に興味が湧いたから、何か武器を作って欲しいとか言っていたのを覚えている。それで、俺はベルトに仕込むことができる、刀身が凄く薄い剣を作成したんだった。

 

「もしかして、あの時言ってた知り合いってダクネスのことか?」

「そうだろうな。以前王都に行った時、アイリス様に少しお話ししたことがある」

 

街でパーティーを組んでいる仲間のこととか、その仲間の1人が鍛冶師をやっていて鎧を作ってくれたとか話したらしい。という事は、向こうは俺の事をある程度知ってるのか。

 

「兄さーん。嫁と風呂に入っているのに、他の女性の話をするのはどうかと思うよー」

「よーし和真。俺とダクネスが風呂から上がったら覚悟しておけ」

 

 

 

 

風呂上りに和真の尻にタイキックを叩き込み、俺の部屋でダクネスと寝た翌朝。

俺達が屋敷を出て向かった先は、ウィズの店。

 

「あっ、皆さんお待ちしてました!丁度今、カズマさん考案の着火具が搬入されたとこですよ!」

 

どうぞどうぞとウィズは店に俺達を入れ、箱詰めにされた商品──オイルライターを数個取り出す。店内を見渡してみると、バニルの姿が見えなかった。チラシでも配りに行ったのだろうか。

 

「カズマカズマ、早くこの魔道具の力を見せてください!」

「落ち着けよ、めぐみん。これは魔道具じゃなくて、俺の国の便利アイテムでな。ここをこうすると……」

 

ライターを1つ手に取ると、和真がそれに火を点ける。すると、皆が興奮した表情でライターを手に取って感想を述べる。

……いや、アクアは何時の間にかウィズが用意していた茶菓子を食ってまったりしていた。

ダクネスは財布から金を出してライターを購入すると言ったが、皆さんの協力のおかげで開発できたからお金はとりませんと言った。

 

「それよりもハルキさん!ダクネスさん!聞きましたよ!」

 

ウィズが、鼻息荒く俺とダクネスに近づいてきた。

 

「昨夜は一緒にお風呂に入って、同じベッドで寝たそうじゃないですか!しかもハルキさんのお部屋で!」

 

俺はまず最初に、和真に言いふらしたのか訊ねるが本人は首を全力で横に振って否定。めぐみんとゆんゆんにも訊ねるが、こちらも否定。つまり……。

 

「それで、お2人は何処までしたんですか!?もしや、熱い夜を過ごしたんですか!?」

 

アクアに訊ねようとしたら、ウィズに手を掴まれた。

 

「どうなんですかっ!?」

「いや、確かに一緒に風呂入って寝たけど、それ以上のことはああああああ!?」

 

急に体力を大量に吸い取られて膝をつく。同じく吸い取られたであろうダクネスの方は、けろりとしていた。流石は体力お化け。

 

「ああっ!ごめんなさい。興奮しすぎて、ついドレインタッチを……」

 

ウィズが慌てた様子で吸い取った体力を返還してきた。復活した俺は、優雅に茶を飲んでいたアクアに近づき。

 

「アクア」

「ん?私は何もしていないわよ?ただ昨夜のことをちょ~っと情熱的にウィズに報告しただけ止めてええええ!入信書を燃やすのだけは止めてええええ!何でもするから許してえええ!」

 

ライターに火を点けて入信書に近づけようとした途端、アクアが泣き喚きながら縋り付いてくる。よーし、言質は取ったからな。

 

「じゃあ、今すぐ店の外で客引きしてこい。そしたら許してやる」

「任せなさいな!」

 

 

 

 

魔道具店の前では凄まじい人だかりができていた。

ウィズ曰く、この通りにこれだけの人が殺到してくるのは初めてこのことだそうだ。実際、この通りはあまり人が来ない静かな通りだった。そして、客引きを任せた当のアクアはというと……。

 

「さあ、続きましては!取り出したるこの何の変哲もないハンカチから!鳩が飛び出ますよ!ワン、ツー、スリー!」

『おおおおおおっ!?』

 

アクアがハンカチを一振りすると、鳩の大群が飛び出した。

なんということをしてくれたのでしょう。

バニルが配ったチラシを見てやってきた客までも、人の輪に入り込んでいるではありませんか。

 

「な、なんだこの有様は……」

 

チラシを配り終えたのか、いつの間にか帰って来ていたバニルが呆然としていた。

その中心に立つアクアは、ウィズの店から持ち出したと思われる大量のポーションを見せつけると。

 

「さあ次は、私が3つ数えると、このポーション瓶が1本残らず消えます!それでは3つ」

「数えるなこの大たわけが!ここで何をしている!日夜我々の店のドアノブに聖水を振りかけていくだけでは飽き足らず、堂々と真正面から営業妨害を始めたのか!」

 

あいつ、ちょくちょく出歩いていると思ったらそんなことしてたのか。……よし。

 

「邪魔しないでよこのヘンテコ仮面!天下の公道で私が何をしようと」

「おっと。汝の仲間にして数少ない信者である我輩のビジネスパートナーが、アクシズ教の入信書を燃やそうとしているぞ。ここで芸を披露していて良いのかな?」

 

バニルの言葉を聞いたアクアが、俺の方に猛スピードで走ってきて土下座した。

 

「お願いしますそれだけは止めてください。私が悪かったからそれだけは止めてください。この通り反省していますからそれだけは止めてください」

「……取り敢えず、今日は店の裏で大人しくしていようか」

「イエス、サー。了解であります」

 

店の方を和真達に任せて、俺とダクネスはアクアを連れて店の裏に引っ込んでいった。




3が日 家に籠るから 筆進む


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28話

FGO。復刻SW2の後は新イベが先か、第6章が先か。私はどちらでも一向にかまわん


あれから、ウィズの店が繁盛するという珍しい現象が続いている。そして遂に、王女様との会食の日がやってきた。

 

「よし、いいなお前達。相手は一国の姫君だ。……ハルキ。お前はこのパーティー最年長だ。お前が1番しっかりしてくれ」

「おう」

「カズマ。お前は何だかんだあって常識は一応あるから、あまり心配はしていない。だが、万が一にもやらかしたら……覚悟しておけよ?」

「わかってる」

「アクア。危険が及ぶような過度な芸は止めてくれ」

「は~い」

「ゆんゆん。相手が相手だから緊張するのは無理もないだろう。だから、話をする時は深呼吸なりしてからで構わない、落ち着いてくれ」

「は、はい!」

「最後にめぐみんだが……念のために身体検査をさせてもらう!ハルキとカズマは向こうを向いていてくれ!」

「ええっ!?なぜ私だけなんですか!?まあ、ダクネスがそこまで言うなら……」

 

ダスティネス邸にある、晩餐会用の大きな部屋。部屋に入る前に、俺達はダクネスに言葉をかけられていた。そして、めぐみんが身体検査を受けていた。

 

「今の内に深呼吸なりして落ち着いておくか?」

「だ、大丈夫です」

「アクア。お前、どんな芸をやる予定だ?」

「そうね~……お近づきの印に即興の似顔絵を、それも砂絵で仕上げようかしら。丁度良さそうな大きさの紙も持ってきているの」

 

そんなことを話す俺達の後ろでは。

 

「……何もないな。めぐみん、疑ってすまなかった」

「いくら私でも、時と場所と場合くらいは弁えますよ」

 

それを聞いて、ドレスの着付けからずっとついて来ていた使用人の人達がホッと胸を撫でおろした。

 

「……良かった。とばっちりで私達にまで被害が及ばなくて」

 

本当にご心配をおかけしました。

 

 

 

 

「では行くぞ。アイリス様の相手は主に私がするから、皆は食事でもしながら頷いてくれれば良い。その都度私が説明する」

 

言いながら、ダクネスが先頭に立ち扉を開けた。

そこは広く、そして派手過ぎないながらも高級感が醸し出されている晩餐会用の広間。

中は燭台に火が灯され、かなりの明るさを保っていた。

そして数名の使用人が、テーブルを遠巻きに囲み無言で待機している。

真っ赤な絨毯の敷かれたその部屋には、大きなテーブルの上に色とりどりの豪勢なご馳走が並べられ、テーブルの奥には、ダクネスやアクアと同じ、純白のドレスを着た少女が座っていた。

その少女の隣には前にダクネスが風呂場で言っていた、護衛兼教育係の女性が2人立っていた。

黒いドレスを纏い、ゴテゴテした指輪を複数装備している方は、おそらく魔法使いのレインさんなんだろう。なら、もう1人の白いスーツを着用した短髪の女性はクレアさんか。

そんな3人の傍に、俺達を連れたダクネスがゆっくりと歩いて行き。

 

「お待たせしましたアイリス様。こちらが我が友人であり冒険者仲間でもあります。サトウカズマとその一行です。さあ、5人とも。こちらのお方がこの国の第1王女、アイリス様です。失礼のないご挨拶を」

 

そう言って俺達に、真ん中の少女を手で指した。

金髪のセミロングに澄んだ碧眼。

気品の感じられる、どことなく儚げな印象を与える。ファンタジー世界における正統派お姫様な美少女。

 

「傭兵にして鍛冶師を務めております、サトウハルキと申します。どうかお見知りおきを」

 

お姫様とご対面するというイベントに直面した喜びに止まっていると、兄さんが一礼して自己紹介する。

 

「アークプリーストを務めております、アクアと申します。どうかお見知りおきを」

「アークウィザードを務めております、めぐみんと申します。どうかお見知りおきを」

「同じくアークウィザードを務めております、ゆんゆんと申します。どうかお見知りおきを」

 

続いてアクア、めぐみん、ゆんゆんの順に自己紹介をして一礼する。皆がしっかりとしているのが嬉しいのだろう。お姫様に見えない位置で、ダクネスはグッと拳を握りしめていた。

 

「冒険者にしてパーティーのリーダーを務めております、サトウカズマと申します。どうかお見知りおきを」

 

最後に、パーティーのリーダーである俺が、軽い自己紹介の後に一礼する。相手もある程度、俺達についての情報は得ているだろう。だから、包み隠さず名乗ることにした。リーダーである自分は、最弱職だと。

すると、アクアがダクネスに小声で耳打ちする。ダクネスは暫し考え、それくらいならと頷く。

アクアは例の紙を取り出し、指でなぞるように糊を付け、上から砂を振りかける。

そして完成したのは、白黒写真と見まがう精度で作られた砂絵。

 

「王女様にお近づきの印として、まずはこちらを」

 

どうぞと言うアクアから、王女様は砂絵を受け取る。

それを見た王女様は、驚きの表情を浮かべてクレアさんに耳打ちを。

 

「この短時間でこれほど見事な砂絵を……!素晴らしい、素晴らしいわ!褒美を取らせます!と、仰せだ」

 

クレアさんが、言いながらポケットから何かを取り出してアクアに渡す。

それは小さな宝石。それも、素人目に見てもかなり価値があるもの。

それを貰ったアクアが、綺麗な宝石を人差し指と中指で挟み、光にかざして嬉しそうに眺める中。

ダクネスが、王女様の右隣の席へと着いた。

そのダクネスの更に隣に兄さん、ゆんゆん、めぐみん、アクアの順に並んで座る

俺は王女様に手招きされ、左隣に座る様指示された。

大人しく俺をチラチラ見ながら、王女様はクレアさんに耳打ちする。

 

「貴方が、魔剣の勇者ミツルギの話していた人ね?さあ聞かせて、貴方の話を、と仰せだ。……私も聞きたいものです、あのミツルギ殿が一目置くという貴方の話を」

 

ミツルギはどうやら、国の上の方じゃ結構有名のようだ。

さて、向こうはかなり期待しているようだ。俺もそれに応えるとしよう。

 

「かしこまりました。では……」

 

 

 

 

会食が始まり、それなりの時間が経過した。

和真は、王女様にこれまでの冒険話をした。最初に、最近の話題としてシルビア討伐の件を。続いてハンス、機動要塞デストロイヤー、ベルディアと話を進めた。そしてダクネスは、和真がやらかしはしないか神経を尖らせている。

 

「貴方が紅魔の里でシルビアを倒すときに使った魔道具。いえ、神器と言うべきでしょうか。それを手にしたというのなら、王都へと拠点を移すのですか?と、仰せだ」

 

来た。さあ、どうする。お前は何と答える?それも無礼と受け取られない程度に。

 

「……ええ。確かに、自分は紅魔の里で新たな神器を授かりました。しかし、力とは使うものであり、使われるものではありません。兄はある程度レベルも上がり、戦闘経験を経ておりますが、自分は違います。最弱職の冒険者で、戦闘経験も乏しい。運も実力のうちとは言いますが、運だけの男ではいられません。ですからレベルを上げ、戦闘経験を積んだ後に王都へ拠点を移すつもりです」

 

と、もっともらしい事をキメ顔で言う和真。ダクネスは、王女様の表情を窺う。

王女様は、クレアさんに耳打ちする。

 

「自分を客観的に評価し、目標のための努力を怠らない。謙虚で、向上心溢れる姿。素敵です。と、仰せだ」

 

どうやら、相手からは高評価のようだ。ダクネスは、ホッとした様な表情で食事を再開した。

そして、皆が食事を堪能し、歓談も一通り終えると。

 

「まさか、あの魔剣の勇者のミツルギ殿に勝った事があるとは……。よろしければ、私と手合わせをしていただけますか?」

 

クレアさんが、和真に近づいてそんなことを言った。

少々お待ちくださいと和真は言い、ダクネスに修練場を借りていいか訊ねる。ダクネスは少し考え、良しと頷く。

 

「自分でよければ。ただ、食事を終えたばかりですので、少し時間を置いてもいいですか?」

「ええ。ありがとうございます」

 

そして場所を変えて、修練場で。

 

「ダスティネス卿。その、今のは……」

「違うのです!実は──」

 

耳まで真っ赤になって肩で息をするクレアさんと、床に突っ伏している和真。めぐみん達は大きなため息をつき、レインさんは質問の言葉に迷い、アイリス様は目を点にしていた。

修練場に来た和真は、クレアさんと手合わせすることになった。と言っても、怪我しない程度に力を抑えて。

まず和真は、御剣との戦いの再演とばかりにスティールを使用。

そして和真が掴み取ったのはクレアさんの……下着(パンツ)だった。

怪訝な表情をしていたクレアさんは、スーツの違和感に気づいて耳まで一気に赤くなり。和真は悟りを開いたような遠い目で下着(パンツ)を握りしめていた。

クレアさんは声にならない悲鳴を上げて木刀を振り回して和真を滅多打ちにし、ボコボコにされた和真が床に倒れて今に至る。肩で息をしているのは、肉体的な疲労ではなく精神的な疲労によるものだろう。

 

「アクア。和真に回復魔法かけてやってくれ」

「はいは~い」

 

ダクネスの必死で説明をBGMに、アクアは和真の体と心の傷を癒す。

和真が復活する頃には、ダクネスも説明を終えて、2人が納得してくれたようだ。

 

「搦め手にも警戒すべしと良い勉強になりました。ありがとうございます。と、アイリス様も仰せです」

「ありがとうございます!アイリス様!」

 

苦笑しながらそう言ったレインさんとアイリス様に、ダクネスは深々と頭を下げた。

 

 

 

 

「──さて。では我々は、これで城に帰ると致します」

 

レインさんがそう言う隣では、アイリス様が興味津々といった表情で和真を見つめている。

 

「アイリス様。また城に参じた時にお話ししましょう。その時には、様々な冒険譚を携えて参りますので」

 

ダクネスがそう言ってニコリと笑うと、アイリス様もはにかんだ。

レインさんはテレポートの詠唱を始め、クレアさんが賞状と何かの袋をダクネスに渡した。音からして、宝石か貴金属の類が入っているようだ。

 

「これはかたじけない事です。……では、アイリス様。どうかお体にお気をつけて……」

「それでは、またいつの日か」

 

めぐみん達もバイバイと手を振る。

 

「それじゃあ、王女様。またいつの日か、俺の冒険話をお聞かせに参りますので」

 

そう言って和真も、アイリス様に手を振ろうとした、その時だった。

レインさんが魔法の詠唱を終える中、アイリス様は和真の腕を取ると。

 

「何を言っているの?」

 

アイリス様は不思議そうな表情を浮かべたのが見えた。

 

「『テレポート』!」

 

レインさんの声と共に、アイリス様達は光に包まれる。そして──

 

『…………ゑ?』

 

和真が忽然と姿を消した。




運命(誘拐)からは逃げられない。抗えない。


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29話

おいでませ王都


王女様との会食から、数日が経過した。

あの後、王都の方から手紙が届いた。内容は、和真を客人として招いたから、暫く王城に滞在してもらうとのこと。

それを読んだダクネスは頭を抱え、めぐみんとゆんゆんは不安のあまり最近寝不足気味。アクアはというと、和真が不在なのをいいことに部屋を物色したり、和真の部屋で晩酌をしたりとやりたい放題だった。特にベッドの下や箪笥の裏を念入りに物色していたのは見なかった事にしよう。

 

「おーす。ウィズはいるかー?」

 

そして俺は、ある相談のためにウィズの店にやってきていた。

 

「ポンコツ店主はおらぬぞ。鎧娘の裸体をどさくさに紛れて拝んでおくべきだったと後悔している男よ。店に籠ってばかりでは体も鈍るだろうと言って、最低限の食事代を持たせて外出させた。今頃、この大陸で最も深いダンジョンで暴れまわっていることだろう」

「お黙り!」

 

俺の右ストレートをバニルはひらりと躱し、店の扉に「商談中」の看板を掛けて施錠する。そしてカーテンを閉め切り、時計と南京錠を合わせたような物をドアノブにセットした。

 

「なんだそれ、魔道具か?」

「うむ。これは、一定時間部屋の音が外部に響くのを防ぐ魔道具である。主に、こういった商談や夜の営みに使われるな。1つどうだ?」

「いらん。ていうか、俺が商談目的で来たってよくわかったな」

「我輩は見通す悪魔である。貴様があのポンコツ店主の所在を訊ねたのも、商談を邪魔されたくないからであろう?」

 

否定はしない。もしいたなら、日を改めて商談に来たけど。

 

「話が早くて助かるよ。商談っていうか相談なんだけど、俺がこっちに来て開発していた物があってさ……」

 

俺は鞄からパーツを出し、テーブルの上で組んでいく。バニルはというと、俺の一挙手一投足をジッと見ている。そうして俺は、以前和真に見せた自動拳銃(セミオートマチックピストル)回転式拳銃(リボルバー)、ポンプアクション散弾銃(ショットガン)鎖閂式小銃(ボルトアクションライフル)。そしてコンテンダーと、それぞれに対応した実包を並べる。更に、以前和真には見せなかった物として、黒色火薬を使用した爆弾を取り出した。

 

「こいつらの説明はいるか?」

「いや。貴様がこれらを組んでいる間に、少々貴様の過去を見せてもらった」

 

だからこそ。そう言ったバニルは、両手を組んで×にする。

 

「これは我輩と貴様だけで済ませて良い案件ではないな。国の上の者と話をつけるべきである」

「やっぱりか」

「うむ。この『銃』なる武器だが、これは非常に便利であるからこそ、非常に危険な代物である。弓ならば引き絞り、その状態を維持するための筋力が。魔法ならば階級に比例して長い詠唱と身振り手振りが必要になる。だが、これにはそんなものはない。弾を込めて狙いを定め、引き金を引くだけで射程圏内の物体を傷つけ、破壊することができる。強いて言うならば、反動に耐えるための鍛錬が必要なことと、使用時の大きな音が欠点であることか。まあ、大きな音は使い方次第では利点にもなるな。そしてこれの製造、使用、販売について免許制にし、付随して細かい法規定を定めるという貴様の考えを、我輩は強く支持する。これの利便性と危険性を理解しない愚か者共のせいで、貴様が責められるのは困るのでな」

「美味しい悪感情を製造するのがいなくなるからか?」

「そう捻くれたことを言うでない。貴様が大事なビジネスパートナーだからである。加えるなら、使うに相応しい舞台が整うまでは量産しておくが吉であるぞ」

 

俺の問いに、バニルはまさかと言った風に答える。

 

「じゃあ、この爆弾は?」

「これは似たようなアイテムとして爆発性のポーションが存在する。だが、管理の容易さならばこちらの方が上か。ポーションとして出回っている物はどれもこれも非常に繊細だが、こちらは湿気に気を付ければ問題なかろう。……まあ、詳しい話は日を改めてからにしよう。こちらも準備があるのでな」

「わかった。俺も少し考えとく」

 

俺は銃を解体し、鞄に戻す。

 

「しかし、良いのか?仮にもアクシズ教徒である貴様が、我輩とこのように商談を行っても」

「良いんだよ。女神様(アクア)が茶菓子食わせろってリッチー(ウィズ)の店に来てるんだし」

「確かに」

「それに、俺にとって神も悪魔も等しく信仰対象だし」

 

瞬間、バニルが固まる。しまった、いくらバニルでも今のは頭にくるよな。

 

「悪い、バニル。今のは」

「暫し待たれよ。今、茶を淹れる」

 

バニルに促されるまま、俺は暫く待つ。すると、バニルがお茶の入ったカップを2つ盆に載せて戻ってきた。

 

「小僧。今の発言について詳しく。言っておくが、我輩は怒ってなどいないぞ」

「……本当だろうな」

「本当だとも」

 

だから話せとバニルに催促されたので、俺は口を開いた。

 

「まず、俺のいた国では数えきれないくらい神がいるって言われててな。それで、俺は他の神話や宗教の神様もその内の1柱として信仰していたんだ」

「ほう」

「それで、俺のいた世界の悪魔っていうのは大体が神様だったのが、何らかの理由でその座を追いやられた存在だったりするんだよ」

「ふむ」

「それを知った俺は、こう思った。『人によって神と悪魔の定義が変わるなら、両方共信仰しよう』ってな」

「かなり発想が飛躍したな。ならば、貴様が信仰する(悪魔)とは如何なる存在だ?」

「俺達人間の常識が及ばない、畏るべき存在かな。そして神は無償で人間(ぜんたい)を救い、悪魔は有償で人間(こじん)を救う」

「つまり我輩達悪魔は、あの忌々しい神々のように貴様ら人間の常識の及ばぬ存在であると?」

「命が残機制の時点で常識外れだぞ」

 

俺がそう締めくくると、バニルは顎に手を当てて天井を見つめる。そして考え込むこと数分。

 

「……小僧。いや、サトウハルキよ!」

 

バニルは急に顔を近づけて、俺の左手に熱烈な握手をしてきた。

 

「我輩は貴様のことが気に入った!」

「そ、それはどうも」

「我輩は今まで様々な人間を見てきた。その中には熱心を通り越した狂信者や、理性(たが)の外れた奇人変人狂人の類もいたが、貴様はその中でもとびっきりの狂人である!」

「俺のどこが狂ってるんだよ」

「真の狂人とは、自らが狂っている自覚を持たぬものだ。神も悪魔も無差別に信仰するその姿勢、狂っている以外に形容する言葉はない!」

 

そういうものなんだろうか?今度和真と話し合ってみるか。

 

「そして!新たな価値観という刺激を提供してくれた礼に、我輩から助言を授けよう!心して聞くがよい!」

 

するとバニルは、俺の手を放すと芝居がかった身振り手振りで告げた。

 

「近いうちに、貴様と絶賛両片思い中の鎧娘が、未来の義弟(おとうと)となる小僧を連れ戻しに王都に向かうと言うだろう。貴様らはそれに同意し、荷物を纏めた後にテレポート屋を経由して王都へと行くだろう。その時、我輩が貴様の弟に贈った量産型バニル仮面ブラックを持って行き、小僧に渡すが吉と出た!そして貴様のその行いは、この国を内より迫る脅威から救うであろう!但し、渡すタイミングには注意するがよい」

 

 

 

 

俺が王城にやってきて、1週間が経った。

 

「……さて、そろそろ時間かな」

 

そろそろメイドのメアリーがシーツを替えにやってくる頃だ。

だが、そう簡単にシーツを替えさせるわけにはいかない。

彼女には簡単に仕事をこなせないよう、様々な妨害をする。

今日もアイリスは習い事があるだろうから、それが終わるまでメイドさんを揶揄って暇つぶしでもしていよう。

──やがて俺の予想通り聞こえてきた、ドアをノックする音。

 

「おはようメアリー。だがそう簡単に、俺がシーツを取り替えさせると思うなよ?さあ、手早くシーツを取り替えて他の仕事に取り掛かりたいのなら」

「何をさせるつもりなんだ?」

 

──部屋に入っていたのは、ビックリするほど真顔のダクネスだった。後ろを見れば、呆れ顔の兄さん達の姿が見えた。

 

「そ、それはその、えっと……」

「どうした、言ってみろ。それとも、言えないような恥ずかしいことをさせるつもりだったのか?」

「ゆ、許してください……!って、なんでダクネスがここにいるんだよ!?この部屋は俺の聖域だ!誰の許可を得て入って来てんだ!」

 

開き直った俺の言葉に、ダクネスは眉間に皺を寄せて声を荒げる。

 

「お前を連れ戻すためだ、この大馬鹿者が!アイリス様は座学の真っ最中だ。分かったら今の内に帰るぞ!めぐみんとゆんゆんはな、お前がまた何かトラブルに巻き込まれたのではないか心配するあまり、寝不足気味なんだぞ!」

「べべ、別にそこまで心配してはいませんよ!?たまたま夜更かしする日が続いただけです!」

「めぐみんったら酷い!紅魔の里から帰ってからカズマさんと何だか良い雰囲気になってるのに、心配じゃないって言うの!?」

「ダウト!私とカズマはあくまで同じパーティーの仲間です!勘違いも甚だしい発言は止めていただこう!」

 

めぐみんに詳しい事を聞きたいところだが、ゆんゆんと口論になってしまったからそれはまた今度にしよう。

 

「なあ、和真。お前、バニルと商談してるの忘れてないよな?大金が舞い込んでくる機会を、自分から捨てるのか?ここにいつまでも滞在できるって保証もないんだ。なら、ここはダクネスの言う事を聞いて、大人しくアクセルの街に帰ろうぜ?」

「ハルキの言う通りだ!ついでだ、アクア。お前からも何か言ってやれ!」

「そうよ、カズマったら自分だけお城暮らしなんてズルいわ!魔王軍の幹部を倒したのは皆で協力して成し遂げたんだから、私にだってお城暮らしする権利があるわ!」

「すまない。アクアは少し黙っていてくれ」

 

ダクネスはアクアを押しのけ、1歩前に出てくる。

 

「おっ、やるってのかお嬢様?言っておくが、俺は意見を曲げるつもりはない。このお城でアイリスと面白おかしく暮らすんだ。泣かされたくなかったら帰った帰った!」

「……いいだろう。お前には、いつかキツイ仕置きをしてやろうと思っていたところだ。皆、すまないが部屋の外で待っていてくれ」

 

ワンピースのドレスのみを身に纏ったダクネスが、武器も持たずそんなことを言う。

それを聞いて兄さん達が部屋を出る中、俺は勝ち誇って笑みを浮かべた。

 

「本気で言ってんのか?武器も防具もないその格好で、俺に勝てると思ってんの?おっと失礼。お前は攻撃系のスキルを取得してないから武器があってもなくても同じか。しかも今日はヒラヒラのワンピース姿なんだ。俺のスティール1発で大惨事だぞ」

「やってみろ」

 

ダクネスはきっぱりと言い放つ。

 

「……お前分かってんの?そんな薄着じゃ、スティール3発で全裸だぞ?いくら俺でも、兄嫁を剥いて裸にすることに多少の躊躇いはあるんだ。な?今なら勘弁してやるから……」

「やってみろと言っている」

 

俺の言葉を遮ってダクネスが1歩踏み出す。

 

「お、おい。冗談だよな?本気でやるぞ?」

「だから、やれるものならやってみろと言っている。但し、剝いた分だけ骨を折られる覚悟があるならな」

「……念のために聞くけど、それって1本とか2本程度だよな?」

 

俺が訊ねると、ダクネスが俺の左腕を指さした。

 

「まず1枚剝いたら、左腕の骨を全てへし折る。2枚剝いたら更に両脚、3枚剝いて全裸にしたら追加で右腕の骨を全てへし折ってやる」

 

そう言うダクネスの目は本気だった。そして俺の膝が恐怖を通り越して、笑い出した。

 

「だ、誰か助けてー!兄さーん!めぐみーん!ゆんゆーん!アクアー!」

 

俺は必死で部屋の外に助けを求めて呼びかけるが、誰も来ない。そうしている間にも、ダクネスがじりじりと近づいてきている。

 

「アイリスー!助けてー!」

「お兄様!」

 

早めに今日の座学が終わったのか、アイリスが部屋に飛び込んできた。そして俺とダクネスの間に割って入り、俺を庇うように両腕を広げる。

 

「……」

 

アイリスは何も言わず、涙目でダクネスを見上げて体を小刻みに震わせる。それを見て、ダクネスが狼狽える。流石のダクネスも、アイリスには弱いようだ。

 

「……アイリス様、どうかお聞きください。この男はアクセルの街に屋敷もあり、それなりに名の売れている冒険者なのです。かの街にはこの男の友人もおり、行方をくらませれば心配する者もおります。かく言う私達も、この男を心配してここにやって来たのです。……なのでどうか、この男を解放してやってはいただけませんか?」

 

アイリスはそれを聞き、悲し気な表情で少し考えると頷く。

 

「……そうですね。我儘を言ってごめんなさい……」

 

そんなことはないぞアイリス!お前はこのお城の最高権力者で、まだ多少我儘を言っても許されるお年頃なんだから!

俯いていたアイリスは、ふと顔を上げてダクネスに。

 

「ねえララティーナ。それならせめて、今晩だけでも……。お別れの晩餐会を開いてはいけませんか……?」

 

おずおずと申し訳なさそうに、上目遣いで言ってきた。

 

 

 

 

貴族や王族の晩餐会。

それは、とても華やかで、豪勢で。

 

「「モグモグモグモグ……」」

 

会場に用意されたご馳走をモリモリと頬張るアクアとめぐみんを見て、俺達一般人には場違いだと理解した。

俺達も、一応は城から借りたスーツやドレスで着飾り、外見的には溶け込んでいるように見えるが、醸し出す雰囲気と佇まいのせいで、明らかに浮いていた。

会場の隅では、数名の雇われバーテンダーが、客に合わせたカクテルを作っていた。アクアはどこからか引っ張ってきたテーブルをそこに持って行き、兄さんに食べ物をあれこれ持って来るように言って飲み食いしていた。俺の兄さんは給仕じゃないんだが。

そして俺の隣ではめぐみんが料理を頬張り、口元に付いたソースやドレッシングをゆんゆんが拭っていた。めぐみんのこういうところ、妹のこめっことそっくりだな。

いつもならこんな状況になる前に、すっ飛んでくる勢いで止めに来るのがいるんだが……。

 

「ダスティネス卿。パーティー嫌いの貴女が、こういった催しに参加するとは珍しいですね!いや、今宵の晩餐会に参加して良かった!こうして、お美しい貴女の姿を拝見する事ができたのですから!」

「ダスティネス卿、お父上のイグニス様はお元気ですか?私、若いころにイグニス様に仕えていた事がありまして……」

「ああ、ダスティネス様!今宵貴女に会えた事を、幸運の女神エリスに感謝いたします!貴女様の美しさは噂に聞いておりましたが、まさかこれほどとは……!」

 

ダクネスは貴族連中に囲まれ、歯の浮く様な賛辞を浴びせられまくっていた。

ダクネスはと言えば、流石にこういった事には慣れているのか、穏やかな微笑を湛えながら、数々のお誘いをやんわりと断っている。

 

「皆様お上手ですこと。パーティーには不慣れな身なもので、どうかお手柔らかにお願いしますね?」

 

誰だお前は(Who are you)

キールの浄化をするアクアを見ていた時のような感想が頭に浮かんだ。

穏やかな女性を装っているが、頬の辺りがピクピクしている。

実は結構無理をしているのかもしれない。

 

「ここにいたのか、ダクネス。人気者じゃないか、ダクネス。今日は特にドレスが似合ってるじゃないか、ダクネス?」

 

ダクネスは不意に冒険者としての名前で呼ばれて驚いたのか、含んでいたワインが変な所に入って咽たようだ。

 

「すまん、ダクネス。ついいつもの呼び方で呼んじまった。ここでは俺もダスティネス様って呼んだほうがいいか?」

「え、ええ」

 

口元をハンカチで拭っていたダクネスに訊ねると、外面の良い微笑を湛えたまま答えが返ってきた。

 

「ダスティネス卿。もしや、そちらの方が噂の……?」

「はい。私の冒険者仲間の1人です」

「初めまして。サトウカズマです」

 

ダクネスに続いて自己紹介し、一礼する。

 

「……そういえば、ダスティネス様は婚約者はお決まりですか?もしお決まりでないのなら、貴女様の下の名を呼べる幸運な者として、是非名乗りを上げたいところですが……」

「いや、ここはずっとダスティネス家に見合いの申し込みをしてきた私に、先手を譲って頂かなくては……」

 

そして話題は変わり、各々が見合いを申し込んだりしてダクネスを口説きに来た。彼らはお互いを牽制しながら、この場を離れる気はないようだ。金持ちでイケメンだからか、よっぽど自分に自信があるらしい。相手のダクネスは表情にこそ出していないが嫌そうだ。

仕方ない、ここは今日のために誰にも言わなかったとっておきのネタを暴露してやろう。その時だった。

 

「──ここ近年、次々と多大なる功績を上げているダスティネス様には、もっと相応しいお相手がいるだろう。少なくとも、貴公らでは話にならん」

 

そんな不遜な事を言いながら、突然割って入ってきたのは、忘れたいと思っていた男だった。

毛深く、そして頭の薄い、前よりも横に少し大きくなった気がする中年男。

 

「これはこれはアルダープ様、また辛辣なお言葉で……」

 

俺に濡れ衣を着せて処刑しようとした、アクセルの街の領主だった。屋敷は吹き飛んだから、どっかで別荘暮らしでもしてるのだろうか。あれでも金持ちの領主なんだし。

 

「ではアルダープ様。ダスティネス様に相応しい御方とは、一体どなたで?聞いた話によれば、貴方はダスティネス様にご執心だったとのことですが、まさか……」

 

と、ダクネスを口説いていた貴族の1人が皮肉混じりに訊ねる。

 

「無論、ワシではない。ああ、ワシの息子でもないぞ?以前のダスティネス様ならいざ知らず、今となっては家格は元より、個人で挙げた功績の面においても、ダスティネス様と釣り合う男など1人しかおらぬだろう?」

 

自信に満ちた表情で、アルダープが勿体つけて言い放つ。

ああ、アルダープの言う通りだ。

 

「兄さんの事か」

 

俺の発言に、貴族連中は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「サトウカズマ殿、貴方のおっしゃった『兄さん』とはどなたですか?」

「ああ。あそこで青髪の女性の給仕みたいなことをしている男性のことです。名前は佐藤陽樹。俺のパーティーでは、ダスティネス様との付き合いが1番長いですね」

『ほうほう』

 

貴族連中が食いついた。よし、いいぞ。言いそびれていたアレを、言う時が来た。アルダープが何か言いたそうにしているが、無視だ無視。

 

「兄さんは副業で鍛冶師をやっているんですが、工房を構えてからはダスティネス様と1つ屋根の下寝食を共にしておりまして。最近では一緒に風呂に入り、同じベッドで寝るほどの仲まで進展したんです。俺も何年かすれば『和真叔父さん』と呼ばれるのかと、それを楽しみにしているんです」

「そのようなことはありません。確かに私は彼と長く寝食を共にしていた事は認めますが、それは宿代を食費に回そうという仲間の提案を受けたからです。風呂とベッドの件もちょっとした賭けに負けたときに命じられただけのことですわ。ええ、私と彼は冒険者仲間です。それ以上でもそれ以下でもありません」

 

ダクネスは息継ぎなしに、しかも早口で俺の発言を否定した。貴族連中も、ダクネスの気迫に屈して無言で首を縦に振り続けた。

 

「ダスティネス様のおっしゃる通りだ」

 

アルダープは、それに便乗して口を開いた。そして続けた。

 

「そもそも、冴えない鍛冶師風情が大貴族の令嬢と恋仲になるなど有り得んだろう」

 

それは、兄さんとダクネスの間には身分の違いがあるという事を伝えたかったんだろう。

だけど、選んだ言葉が悪かった。

周囲を見れば、アクアはグラスをテーブルに置いて自分に強化魔法をかけて拳を握りしめ。

兄さんは投げナイフを取り出して構え。

めぐみんとゆんゆんは口の中の物を飲み込んで詠唱しようと口を開き。

俺はアルダープの身ぐるみを剥いでやろうと右手をかざそうとした。

けど、止めた。

 

「アレクセイ・バーネス・アルダープ」

 

何故なら。

 

「今の言葉をもう1度言ってみろ」

 

ダクネスが見たこともないくらいに怒っていたから。

瞳から光が消え、無表情になったダクネスが放つ殺気がヤバい。恐らく、残りの魔王軍幹部と魔王にダクネスが『死ね』と言ったら、本当に全員死ぬかもしれない。もしかしたら、バニルの残機の99%をひと睨みで消滅させるかもしれない。

そして、俺達の周囲には謎の空白があり、円形に形成されていた。

さっきまでダクネスを口説いていた貴族連中は、いつの間にか姿を消していた。会場にいる人間は全員、ダクネスから目を背けている。会場もシーンと静まり返っている。

 

「あ、あれは、その……」

 

アルダープはと言うと、恐怖で顔を真っ青にし、歯をカチカチと鳴らし、滝のような汗をダラダラと掻いている。高そうな衣服は所々に汗でシミができ、股間の部分もじんわりとシミが広がっていた。

 

「……し、失礼しました!」

 

アルダープは深く頭を下げると、逃げるように会場を去っていった。そしてダクネスの殺気が治まると、何事もなかったかのように晩餐会は進んでいった。




ダスティネス卿、キレた!!


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30話

前回のアルダープはマクスウェルのバフと芥子粒程度の領主のプライドで耐えたということにしてください


晩餐会から一夜明け、朝。

 

「まったく、カズマったら『面倒事に首を突っ込まないと死ぬ病気』にでも罹ってるの?こんな事に私達まで巻き込むなんて。仕方ないから協力してあげるけど、もう私の事をとやかく言えないわね」

「本当ですよ!これからは、私達の事を厄介事ばかり起こすトラブルメーカー呼ばわりはできませんね!まあ、私達は仲間なので勿論見捨てず協力してあげますが!」

 

今2人が言った通り、昨日の晩餐会が終わった後で、和真はこんな事を言った。

王都で噂になっている義賊を俺が捕まえる。

それを聞いた時、俺達は和真の正気を疑い、何か下心があるんじゃないかと問い詰めた。対照的に、これを聞いた貴族の方々は和真のことを素晴らしいと称賛した。だが俺達には分かる。和真は噂の義賊を捕まえて、それを理由に王城に滞在するつもりでいるんだろう。もしくは、それでアイリスに褒めちぎられたいのだろう。

そして、俺達はダクネスから王都にいる貴族の名前を聞き、その中から狙われそうな良い話を聞かない貴族の屋敷に向かっていた。

 

「──それで、真っ先にワシの所に来たのか」

 

ここはアクセルの街の領主こと、アルダープの別荘。

隣に護衛の男を引き連れ出迎えたアルダープは、不機嫌さを隠しもせず、遠慮なくダクネスの体を舐めまわすような熱い視線を送った。

そして視線は俺に移り、何やら敵意に満ちた視線を送られた。

 

「おい。昨夜ダクネスを怒らせた件で兄さんに詫びの1つもないとか面の皮が厚すぎやしませんかね?」

「な、何の事だ。ワシはダスティネス様の怒りを買うような事は何も言っていない。言いがかりは止めてもらおうか」

 

アルダープが慌てた様子で否定したので、和真がダクネスに訊ねる。

 

「ダクネス。お前からも何か言ってやれ」

「何を言っているんだ?」

 

訊ねられた本人は、首を傾げた。

 

私は昨夜、(・・・・・)アルダープに会って(・・・・・・・・・)いないぞ?(・・・・・)

 

どういう事だ。すかさず、あの時近くにいためぐみんとゆんゆんに訊ねる。しかし。

 

「私は昨夜の晩餐会であの人の姿を見かけましたが、ダクネスと会ってはいませんね」

「めぐみんの言う通りです。もしかして、和真さん達お酒を飲み過ぎたんじゃないんですか?」

「アクア。お前は──」

「バッチリ覚えているわよ。そこのおじさんが凄く失礼なことを言って、ダクネスを怒らせたのは」

「だよなあ」

 

どういう事だ?何で俺と和真、アクアの3人は覚えているのに、他の人間は覚えていないんだ?

俺達は全員揃って頭を捻る。魔法の類かとめぐみんとゆんゆんに確認するが、2人は知らないと否定。道具の類かとダクネスに確認するが、効果のせいで禁忌の品となっており、厳重に管理されているから違うらしい。

 

「で、ではダスティネス様。ワシの屋敷に気が済むまで滞在し、調査してみるのはいかがでしょうか。元より、ワシが賊に狙われると疑惑を抱いておられるのでしょう?」

 

アルダープの提案に、俺達は同意することにした。あいつの言う通り、義賊に狙われると思って調査に来たんだ。序に、今の状況に関する調査もやっておこう。

 

 

 

 

深夜。

 

「おいマクス!あれはどういう事だ!」

「ヒュー、ヒュー、な、何の事だい。アルダープ?」

 

とぼけた様子のマクスウェルを、アルダープは何度も蹴り上げる。

 

「とぼけるな!昨夜のワシの失言を無かったことにするために、ワシはララティーナと会っていなかったように捻じ曲げろと言っただろう!それが何だ!邪魔な鍛冶師とその弟、そして青髪のプリーストは覚えていたぞ!」

「ヒュー……、ヒュー……、そ、それはおかしいね。眩しい光を放っているのが覚えていても、酒のせいになるはずだったのに。皆が見なかった事にしていたから、集団心理が働いて捻じ曲げられたはずなのに。ヒュー……、ヒュー……」

 

マクスウェルは知らない。集団心理が働くから捻じ曲げられるだの、酒のせいになるだのと言ったのがアルダープだということに。

 

「わかったら、今すぐあの兄弟にお前の力を使って記憶を捻じ曲げろ!晩餐会の参加者と同じように!」

「ヒュー、ヒュー、む、無理だよアルダープ。もうあの兄弟に僕の力は通じない」

「ふざけるな!……まあいい。少し早いが、アレを使うとしよう。マクス!分かったらさっさと起きろ!仕事の時間だ!」

 

 

 

 

そして翌日。

本格的な捜査開始ということで、俺は屋敷を内部から観察していた。

 

「取り敢えず『聞き耳』」

 

床に寝そべり、耳を当てる。そして床を軽く叩き、音の反響で探す。

 

「…………ん?すいません。地下に大きな部屋みたいなのがあったんですが」

「それでしたら、ワインの貯蔵庫でしょう。良かったら、ご覧になりますか?」

「はい」

 

俺は使用人に案内され、地下のワイン貯蔵庫に来た。

再び、床に耳を当てて再度『聞き耳』を使用。

 

「あの~、何をされているのでしょうか?」

「ああ。地下にトンネルを掘って、そこから侵入するんじゃないかと思いまして。それで、ちょっと聞き耳をたててみたんです。まあ、トンネルの類は無いようだったので、地下からの侵入はないでしょう」

「そうですか」

 

俺は地下室を後にし、『聞き耳』を発動したまま屋敷内を再び探す。

 

「ああ、ハルキ。そっちはどうだ?」

「まだ途中……ん?」

 

ダクネスと合流した俺は、キッチンの途中にあるこぢんまりとした部屋からの声に耳を傾けた。ダクネスに付いてくるように言い、部屋の前に到着。

 

『おい、そこまでだ。下衆な勘繰りは止めてもらおうか!俺にはな、仲間の守るという重大な役割があるんだ!あんたと一緒にするな!』

『それならここで寝泊まりせずとも、仲間が入浴している時にワシの監視をしていればいいだろう!お前の様な小僧にララティーナの裸を拝ませてたまるか!』

「……誰かいるのか?」

「和真とアルダープがいて、何か言い争いをしている。お前の裸がどうとか言ってたな」

 

瞬間、ダクネスが扉を開けた。

壁に貼り付けられた大きな鏡。それはよく見ると、マジックミラーのようになっていて、向こう側で浴場の掃除をしているメイドさんはこちらに気づいていなかった。

部屋の中にいた和真とアルダープはと言うと、ダクネスを確認すると同時に固まった。そしてお互いを指さし。

 

「「コイツが覗きをしようと」」

「ハルキ。やれ」

「仰せの通りに」

 

マジックミラーは粉々に砕け散った。

 

 

 

 

アルダープの屋敷に滞在して1週間。

その間、噂の賊は現れなかった。

 

「起きろ和真。交代だ」

「へーい……じゃあ、また1時間後に」

「ああ。お休み」

 

俺と和真は1時間交代で、屋敷内を見て回っていた。勿論、灯りを消して暗視スキルを使い、賊にバレないようにして。

俺は部屋で横になっていた和真を起こし、自分の部屋へ戻る。

明日にはこの家を出て、義賊の捕縛に失敗したという事でアクセルの街に帰ることになるだろう。

ようやく、和真を連れ戻すという目的を達成することができる。1時間後の交代に備えて、しっかりと寝よう。そう思って瞼を閉じて数分後。

 

「ダクネス!アクア!めぐみん!ゆんゆん!起きろ!」

 

1階からの物音に目を覚まし、パーティーメンバーを叩き起こしに行く。暗視スキルを持たないダクネス達のためにランタンを点けて、俺が先頭になって1階に降りていく。

あと5分とかいうベタな発言をしたアクアを布団から引きずり出したら怒られたが、知らん。寝ているお前が悪い。

 

「和真!無事か!?」

 

物音がした1階のキッチン。そこで和真はロープで拘束され、横たわっていた。

 

「う、うん。この通り。ただ、例の賊には逃げられた!」

 

ロープで縛られた和真は悔し気に嘯くが、相手が悪かったとダクネスは優しく接する。まあ、相手は厳重な警備を掻い潜って次々と貴族の屋敷を荒らしてきたプロだ。素人の和真じゃどうしようもならない。

 

「賊の人相は見たか?」

「怪しげな仮面を被った男だった」

 

ダクネスがロープを解こうとするが、バインドによるものなのか結び目がなく、中々緩まない。

 

「アクア。お前の魔法で解除してくれ」

「はいは~い。あ、でもその前にやっておきたい事があるから。その後で良い?」

 

和真に目で問いかけると、うんと頷いた。

するとアクアは和真に近寄り、和真がいない間にやらかしたことを洗いざらい白状した。具体的に言うと、和真の部屋を漁っている時にフィギュアらしき物を壊してしまったとか、和真の部屋で晩酌した時に酔った勢いで色々と物を壊したとか。

 

「ごめーんね!」

 

このタイミングで言う辺り、確信犯だな。

 

「い、いいさ。俺とお前の仲だ。帰らなかった俺が全面的に悪いんだしな!それより早く、拘束を解いてくれないか?」

 

アクアが拘束を解くために魔法を詠唱しようとした時、良い笑顔のダクネスが待ったをかけた。

 

「今、改めて気づいたが……」

「これは、また随分と楽しそうな状況ですね……」

 

──薄暗いキッチンに、騒ぎを聞きつけたアルダープが、護衛を連れて飛び込んできた。

 

「これは一体何事だ!例の賊が侵入したのか!?」

 

アルダープの視線の先では。

 

「ほら言ってみろ!ここ最近調子に乗ってすいませんと言ってみろ!この私に迷惑ばかりかけてごめんなさいと言ってみろ!恥をかかせてごめんなさいと言ってみろ!」

「ごめんなさいダスティネス様!迷惑ばかりかけてごめんなさいダスティネス様!恥をかかせてごめんなさいダスティネス様!」

「カズマの口からもう1度、あの台詞を聞かせてください!ほら、あの時の格好いい台詞を!私の爆裂魔法は何点ですか!?」

「止めろー!ああいうのは1回しか言わないから良いんだよ!何度も言わせるなよ恥ずかしい!」

「いいから言ってください!恥じらいなんか捨てて、さあ!」

「ふははははは!偶には逆の立場というのも良いものだ!さあ、続いては……」

「助けてアルダープ様ー!」

 

涙目の和真が、アルダープに助けを求めていた。



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31話

お気に入り400超えに只々感謝の言葉しかありません。ありがとうございます。


王城の謁見の間で義賊の捕縛に失敗したと報告を終えた俺達。

クレアは和真を追い出す口実ができたとばかりにネチネチと口撃したが、アイリスは和真の努力を評価してくれた。

しかし、どんなに頑張っても結果を残せなかったら評価されないのが大人の世界。俺達はそのまま王城を去り、アクセルの街に帰る筈だった。

 

「ねえ、帰るなら明日にしない?どうせならお土産を買いたいの。どうせ暇なんだし、王都で1日観光しながら良いお酒でも買って、それから帰りましょ」

 

アクアがそんなことを言わなければ。

結果、俺と和真は気分転換も兼ねて王都の散策。ダクネスとめぐみんは今日の宿を探し、アクアはゆんゆんを連れて買い物に向かった。

 

「気分転換しろって言われてもなぁ。どうすれば」

「あっ、陽樹さん。こんな所で奇遇ですね」

 

俺達は、背後から声を掛けられた。

そこにいたのは、魔剣使いのソードマスターこと、御剣響夜。仲間の女性が2名いたはずだが、今日は1人のようだった。

 

「久しぶりだな御剣。どうだ、俺が作った刀の調子は?」

「もう100点満点ですよ。これと魔剣グラムを使い分けて戦って、かなり腕も上がりました」

「それは良かった」

 

会話が弾んでいる俺の袖を和真がくいくいと引き、耳打ちしてくる。

 

「兄さん。この人、誰?」

「御剣響夜だよ。俺達と同じ転生者で、魔剣使いの」

「さ、佐藤和真。まさか僕の名前を忘れたのか?」

「悪い。人の顔と名前覚えるの苦手なんだよ」

 

少しも悪びれる様子を見せず、形だけの謝罪をする和真に御剣の頬がヒクつく。

しかし、気分を切り替えるために頭を振り、真面目な表情になる。

 

「ま、まあ。それよりもここで会ったのなら丁度良い。お2人に話があるんですが、この後予定はありますか?できれば、一緒に食事でも」

 

~野郎共移動中~

 

「「「いただきます」」」

 

──俺と和真、御剣の3人は街中のラーメン屋で食事をしていた。御剣曰く、この店の初代店長は日本からの転生者らしい。店の外見や内装の既視感からそんな気はしていたが。

 

「……で、話ってなんだよ?」

「アクセルの街に現れたデュラハンのベルディアを覚えているかい?君達が討伐した、魔王軍幹部だ」

「ああ。その後で高額の借金背負わされたからよ~く覚えてるよ」

 

それがどうした。と、醤油ラーメンを啜りながら和真が目で訴える。

 

「何でも、ベルディアはある調査のために魔王に派遣されたらしい。理由は、あちら側の予言者が『アクセルの地に大きな光が舞い降りた』と言ったとか」

 

そして、調査に向かったベルディアは討伐された。続いてバニル、ハンス、シルビアまでもが討ち取られたため、魔王軍は討伐に関わった冒険者パーティーを警戒しているとか。

……それってつまり俺達の事だな。

 

「その大きな光ってのは」

「派遣された時期を考えると、アクア様の事でしょう」

「魔王がアイツを警戒ねぇ。……普段の姿を知る身としてはどうもしっくりこねえ」

 

和真の言う通り、普段のアクアは低い幸運と知力のせいでトラブルを起こし、巻き込まれては泣きじゃくっている。しかし、それに目を瞑ればかなりの実力者だ。そもそも女神だし。

 

「それと、2人はご存知ですか?シルビアが討伐された時、赤い巨人と青い巨人が紅魔の里に現れたと新聞に載っていたことを」

「「……」」

 

俺と和真の反応を見て察したのか、やっぱりと御剣は小声で訊ねてきた。

 

「新聞には色しか載っていなかったんですが……変身したのはどの組み合わせですか?」

「……追加で焼き餃子注文して全部お前の奢りだったら少しだけ教える」

「すいませーん。焼き餃子1つお願いします」

「は~い。3番テーブルに焼き餃子追加ー」

 

注文をした御剣が伝票を自分の手元に寄せ、和真に目配せをする。

 

「俺がブルで、兄さんがロッソだ」

「成程。原典を考えると、2人にぴったりですね。それで佐藤和真。神器を手にしたということは、君も拠点を──」

「移すわけないだろ。こちとらステータスが貧弱な冒険者だ」

「そ、そうか。まあ、変身しなくてもある程度戦えるようにするという心構えは大事だ。僕も以前、君との勝負で魔剣を盗られた途端何もできなくなったからね」

 

和真の返答に、御剣はうんうんと頷く。あれを自分への戒めと捉える辺り、大分良い奴だな。

 

「ありがとう。おかげで良い情報を貰えた」

「いえいえ。陽樹さんにはお世話になっていますから、そのお礼です」

「お待たせしました。焼き餃子です」

 

 

 

──その日の夜。

宿で寝ていた俺は、不意に何者かの気配を感じて目が覚めた。隣を見れば、和真も同じように目が覚めたようだ。

 

「お。起きた」

「……なんだクリスか。用件なら兄さんに言ってくれ。じゃ、お休み」

「待ってよ!寝ないでよ!後で屋敷に侵入した事情を話すって言ったでしょ!?」

 

侵入者。もとい、クリスが布団に潜り込んだ和真を引っ張りだそうとする。

 

「クリス。もしかして、噂になっている義賊ってのはお前のことか?」

「そうだよ。それで、あたしが義賊をしているには深い理由があって」

「聞きたくない!聞きたくなーい!アルダープの屋敷で事情は聞かないって言ったんだ!わかったらさっさと帰った帰った!」

 

和真は布団に潜り込んだまま大声で喚き、ダクネス達を呼ぼうとする。

しかし誰も来なかった。

クリスは和真を引っ張り出すことを諦め、事情を語り始めた。

この世界には、神器と呼ばれる超強力な装備や魔道具が存在する。

神器と呼ばれるだけあって、それらの品は簡単に入手できない。

だが、それらの所有者には、ある共通点があった。

それは黒髪黒目の持ち主で、変わった名前をしている事。

 

「つまり、俺と和真が持っているルーブジャイロとルーブクリスタルや、御剣が持っている魔剣グラムのことか」

「うん。それがね、どういった経緯があったのか不明だけど、所有者がいなくなった2つの神器が、とある貴族に買われたらしいのさ」

「ほう」

 

貴族に買われた神器の片方の効果は、ランダムにモンスターを召喚し、対価も代償も無しに使役する事ができるアイテム。もう片方は、他者と肉体を入れ替える事ができる神器。

 

「それであたしの盗賊スキルの中に、レアなお宝の在処が分かる『宝感知』ってスキルがあるんだけどさ。そのスキルを使って、王都の家々を片っ端から調べてたって訳」

「それが、金を余らせた悪徳貴族の家ばかりだったのか」

「そう!で、侵入したのはいいけど、目的の神器は見つからない。前々から義賊っぽい事がやりたかったから、ついでに後ろ暗いお金は頂いちゃえってね!」

 

こいつはノリと勢いで義賊をやっていたのか。頭がちょっと痛くなった。

 

「じゃあ、神器目当てに侵入する理由は?」

 

それを聞いたクリスは、困った様な顔で頬の傷を掻く。

 

「ま、まあ、それについてはその内話すよ。で、ハルキ達が泊まっていた屋敷から凄いお宝の気配を感じ取ってね。忍び込んだらカズマに遭遇したの」

「凄いお宝の気配か。……もしかして、コイツのことか?ほら、和真も布団被ってないでクリスに見せろ」

「へ~い」

 

俺と和真はルーブジャイロとルーブクリスタルを取り出し、クリスに見せる。

 

「うん。2人が持ってる神器の気配も感じたよ。他に何か凄いお宝はあった?」

「そうだな……前にアクアが自分の羽衣は神器だとか言ってたから、それだと思う」

 

それを聞いて、クリスはがっくりと項垂れた。

 

「で、どうすんだクリス。俺と和真の持ってるルーブジャイロとルーブクリスタル、回収すんのか?俺も和真も本来の所有者じゃないし」

「う~ん……それは2人が持っててよ。でも、2人がそれを入手するに至った経緯だけは教えて」

 

俺と和真が紅魔の里での1件を説明すると、クリスはなるほどと頷く。

 

「仲間の遺品として保管しておく。その手もあったんだね……覚えておくよ。それで、ここからが本題なんだけどね。お城の方から神器級の凄いお宝の気配を感じたの」

「そりゃお城だから凄い宝の1つや2つあるもんだと思うんだけど……それで?」

「ほら。2人とも暗視スキルに潜伏や敵感知、聞き耳も持ってるよね。だから、協力してもらえないかなー、って」

「絶対に嫌だ!俺達に犯罪の片棒を担がせようとするんじゃない!」

「すまん。理由がどうあれ窃盗は犯罪だから俺も協力できない」

「カズマの薄情者!ハルキの頑固者!そんな事言わずに協力してよ!あの神器を回収できないと大変な事になるんだってば!」

「なら神器目的の理由を今ここで話せ。返答次第では協力するぞ」

「駄目だよ兄さん。兄さんが協力しようものなら、(ダクネス)の立場が悪くなる。クリス、お前のせいで友人(ダクネス)の立場が悪くなってもいいのか?」

「で、でも……!」

「わかったらさっさと帰れ!さもなくば覚えたてのバインドでお前を抱き枕にして寝てやる!」

「わ、分かったよ!今日のところは引き揚げるから!また明日相談に」

「『バイ……』」

「きょ、今日のところはこれぐらいで勘弁してやらー!」

 

部屋の窓を開け放ち、半泣きのクリスはそこから飛び降りた。そして和真は窓を閉めて施錠し、大きなため息の後に言った。

 

「……街に帰ったらエリス教に入信しよう」

 

幸運と言い難いここ最近の出来事を思い返した和真は、布団に潜り込んで目を閉じた。

そして祈るように手を数秒組み、目を閉じた。

俺はクリスが義賊をやっていることがバレないことを祈り、布団に潜り込んだ。

 

『魔王軍襲撃警報!魔王軍襲撃警報!現在、魔王軍と見られる集団が王都近辺の草原に展開中!騎士団は出撃準備!今回は魔王軍の規模が大きいため、王都内の冒険者各位にも参戦をお願い致します!高レベル冒険者の皆様は、至急王城前へ集まってください!』

 

──狙いすましたように鳴り響いた警報のせいで、俺は起こされた。

 

 

 

 

夜明けの王都に鳴り響くアナウンス。

それと同時に、静かだった宿が騒がしくなった。

 

「2人とも起きてるか!?今のアナウンスは聞いたな!?直ぐに装備を調えろ!」

「今やってるからちょっと待ってろ!」

 

慌てた声と共にドアを叩くダクネスに、ドア越しに返答する。まあ、実際は防具着るだけでいいんだけどな。武器は見えないだけでいつも持ち歩いている。

 

「和真。お前も来るか?」

「やだ。せいぜい中レベル冒険者の俺はお呼びじゃないだろうし、王都には腕利きの冒険者が揃ってるから」

「……わかったよ。ダクネスには俺から伝えておく」

 

行けばよかったと後悔しても知らないぞと釘を刺し、部屋を出てダクネス達の部屋へ。そこでは……。

 

「いやー!どうして私がそんな危険地帯に行かなきゃならないの!?私は王都に遊びに来たの!行くなら私抜きで行ってちょうだい!」

「我儘を言うな、アクア!魔王軍との戦いなのだぞ、回復魔法の使い手は幾らいても足りないのだ!」

 

アクアをベッドから引きずりだそうとダクネスが苦戦し。

 

「ゆんゆん、私達は城には行かず、先に魔王軍のとこへ向かいましょう!戦いが始まり人が入り乱れての乱戦になっては私の魔法は使えませんからね!一番槍は私の物です!貴女は爆裂魔法を放った後の足をお願いします」

「駄目よめぐみん!ここは王都の騎士団と冒険者さん達に合わせて行動しないと!」

 

ゆんゆんがめぐみんの説得を行っていた。

 

「ダクネス。手伝おうか?」

「頼む」

「離しなさいよこの両片想いバカップル!私は絶対にここから1歩も出ないんだから!」

 

どちらに加勢するか悩んだ結果。俺はダクネスと2人がかりでアクアをベッドから引きずり出すことにした。

 

「ダクネス!俺がアクアの指を離すから、引っ張り出したら抑えつけてくれ!」

「わかった!」

「お願い止めて!朝食のウィンナー1本ずつ分けてあげるから!また明日にして!」

「明日にはアクセルの街に帰っているから無理だな」

「ハルキの言う通りだ。さあ、大人しく出陣しようか」

「聞いてください、ゆんゆん。『戦場に到着した王国軍が見た物は、無残に壊滅した魔王軍と、悠然と立ち去ろうとする魔法使いだった……』と、こんなのがやれる絶好のチャンスなのですよ?」

「た、確かにすごくカッコイイけど……」

「そうでしょうそうでしょう。今私と行けば、友達である貴女はその光景を特等席で見ることができるのですよ?」

「と、友達……!」

 

混沌とした状況の俺達の耳に、ドアが勢いよく開く音が届いた。

 

「皆、国の危機に何やってんだ!今こそ俺達の出番だ!行くぞ!」

 

いつの間にか完全武装状態になった和真が、らしくもない事を口にして自分達も出撃すると言った。まーた何か企んでやがるな。




あと2回で王都辺編終了(予定)


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32話

伝説の冒険者ダクネス来ない。今まで無課金で頑張って来たけど、やはり課金するしかないのか?教えてくださいエリス様、アクア様


「冒険者の皆様はこちらへ集まってください!皆さんへの特別な指示はありません!皆さんは集団による軍事訓練を受けた訳でもないので、騎士団とは別行動を取ってもらいます、自由に戦って頂いて構いません!戦闘に参加する前に冒険者カードをチェック致します。戦闘後に記載されているモンスター討伐数により、特別報酬が出ますので頑張ってください!」

 

王都のギルド職員と思われる人が、拡声器のような魔道具で指示を出す。

俺達も指示された場所に移動し、そこで冒険者カードを提示した。

順に冒険者カードに目を通しては紙に記入していた職員が、和真の冒険者カードを見て申し訳なさそうに眉尻を下げる。

 

「サトウカズマさん、ですか?申し訳ありません、上級職の方でない限り、レベル30以下の方は危険なので参加を認めていないんです。貴方には、街の警備をお願いできれば……」

「構わない。その男は数々の功績を挙げた腕利き冒険者だ」

 

と、その職員の言葉を遮ったのは、いつの間にかやって来たクレアさんだった。

城の前には、騎士団や冒険者達を激励するために貴族達が集まっていた。彼らの和真を見る目は、期待に満ちているように感じた。

義賊は逮捕できなかったが、魔王軍幹部を撃退してきた力に期待しているらしい。

俺は和真の肩を小突き、小声で訊ねる。

 

「ルーブジャイロは使うか?」

「無しでも戦えるようにしたいから使わない。使わなきゃいけない相手が出たら迷わず使うけど」

「わかった。では本音を述べよ」

「少しは戦えることをアピールしてアイリスに褒められたい。あわよくばもう少し王城に滞在したい」

「正直でよろしい」

 

そんなやり取りをしていると、ダクネスに声をかけられた。

 

「なあハルキ。本当にカズマも出陣させて大丈夫なのか?」

 

俺の隣にいたダクネスが、小声で訊ねてくる。

 

「大丈夫だ。こいつがやらかさないように見張っておく」

「すまない。頼んだ」

 

そんなやり取りをしている間に、時間は来た。

居並ぶ騎士団と冒険者達に、クレアさんが高らかに号令を下した。

 

「──魔王軍討伐部隊、出陣せよ!」

 

 

 

 

「いやーっ!カズマさん!カーズーマーさーん!」

「ああもう!」

「ギャウッ!」

 

敵味方入り乱れての戦闘が繰り広げられている戦場で、アクアに齧りついているコボルトを引き剥がして刀で両断する。

そんな中、俺のパーティーメンバーは──

 

「もっとだ!もっと来い!」

 

ダクネスは当たらない剣を振り回して敵陣に突っ込み。

 

「『ライト・オブ・セイバー』!」

 

ゆんゆんは上級魔法を使ってモンスターを蹴散らし、めぐみんが爆裂魔法を使うまでの時間を稼いでいた。

 

「アクア。お前は回復役なんだから、大人しく後方に下がってくれ」

 

そして、俺は兄さんと行動を共にしていた。

回復役のアクアには後方に下がって欲しいが、対アンデッドを考えると前線に立ってもらいたい。実際、敵の死体がアンデッドになって襲い掛かってくることもある。

 

「『ターンアンデッド』!」

 

そう、ちょうど今アクアがアンデッドの群れに魔法を放ったように。

アクアは魔法を放った辺りを指さし、ドヤ顔で訴えてきた。本当に自分を後方に下げても良いのかと。

 

「……俺と兄さんからあまり離れるな」

 

しょうがないわね。と、わざとらしく肩を竦めたのでイラッとしたが、この怒りはモンスターにぶつけよう。

おお、ちょうどいいところにコボルトの小隊があるじゃないか。あれに飛び込むのは危険なので、俺と兄さんは『潜伏』を使用して弓を構える。

 

「「『狙撃』!」」

 

矢を雨あられと放ち、1匹、また1匹とコボルトを仕留める。

 

「兄さん!来るよ!」

「おう!」

 

俺達に気づいたコボルト達が武器を振り回し、突撃してくる。

俺は刀とショートソードで、兄さんは十字槍と刀の二刀流で迎撃する。

 

「下がれ!」

「グエッ!」

 

交戦中に聞こえた兄さんの声に応じて1歩下がると目の前を槍が横切り、コボルトの悲鳴がした。危ない危ない。

 

「お、良いもん見っけ」

「アガッ!?」

 

血と脂だらけになって切れ味が落ちた刀を納刀し、近くのコボルトの死体から手斧を拝借し、突撃してきたコボルトの槍を避け、手斧を思いっきり振り下ろす。

手斧はコボルトの頭を兜ごとたたき割り、絶命させた。

その後もショートソードを使い、敵の死体から拝借した武器もフル活用して着々とコボルトの死体の山を積み上げていると。

 

「撤退か?」

 

生き残っていたコボルトが尻尾を巻いて逃げ出した。

いや、周りで戦っている魔王軍も逃げ出しているようだ。

 

「今回の戦はあくまで前哨戦よ!いずれこの数倍の軍勢を率いて、この王都を灰燼に帰してくれるわ!」

 

敵の指揮官と思われる人影が、そんなことを大声で宣言した。残念だったな指揮官。

 

「『エクスプロージョン』!」

 

混戦状態でなくなり、更に敵の捨て台詞を聞いためぐみんの爆裂魔法が火を噴いた。引き上げる魔王軍のど真ん中に放たれたそれは、撤退していた魔王軍を灰燼に帰した。

……まあ、あまり派手な活躍はしていないけど、ある程度仕留めたし生き残った。後はこれをアイリスに上手いこと報告すれば、1日くらい王城に滞在する期間を得られるかもしれない!

 

 

 

 

そう思っていた時期が俺にもありました。

 

「何か言い訳があるか?」

 

目の前にはガチギレ状態で腕を組んで仁王立ちするダクネスとクレア。隣ではめぐみんが俺と同じように正座させられ、顔を青くしていた。

 

「考えてもみてくれ。体は俺でも中身はアイリスだ。それが目の前で土下座しようとしたら首を横に振れないだろ」

「土下座ぁ!?」

「落ち着いてください、クレア殿。それについては未遂ですから」

 

土下座という単語を聞いたクレアが抜刀する勢いで怒り、それをダクネスが窘めた。

何故こんなにも2人が怒っているのか。

クリスが宿で言った神器の1つである、他者と体を入れ替える神器。それをどういうわけか、アイリスが身に着けていた。そうとは知らなかった俺はそれを発動させてしまい、アイリスと入れ替わった。

俺としては解除されるまで大人しくしていたかったが、アイリスが家臣を連れずに城の外へ出たいと言ったんだ。その時土下座しそうになったのを俺達は全力で止め、めぐみんがついて行くことを条件に外に送り出した。

それからが問題だった。戦勝パーティーの前に身を清めるということで、風呂に入ることになった。更にタイミング悪くダクネスが現れ、なし崩し的に一緒に入ることになった。

肉体がアイリスのものになっているとはいえ、周りを女性に囲まれての入浴は実際にするとなると凄く恥ずかしい。いくらハーレムに憧れを抱いていて、機会があれば複数の美少女若しくは美女と混浴してみたいと常日頃から思っていても。

しかし、ここで躊躇っている暇はない。俺はクレアの提案に乗り、衣服を脱いで入浴した。

その時の俺は、丁度良い温度のお湯だったことで、気が緩んでいたんだろう。背中を流していた相手の事を貴族としての名前(ララティーナ)ではなく、冒険者としての名前(ダクネス)と呼んでしまった。

今思っても遅いけど。お兄様がそう呼んでいたから、つい口にしてしまった。とか、そんなことを言ってごまかせば良かったのに。俺は。ヤバい!つい普段の呼び方で呼んでしまった!と内心焦っていた。

当然ながらダクネスはそんな様子のアイリスに違和感を抱き、どうしましたと訊ねてきた。

そんな時だった。入れ替わりが解除されたのは。

元の肉体に戻った俺は、そのままめぐみんと共に城に戻ってきた。そしてダクネスとクレアに捕まって連行され、今に至る。

事情の説明を終えると、ダクネスが大きなため息を吐き出す。

 

「さて、めぐみん」

「わ、私ですか?言っておきますが、私は怒られるようなことは一切して」

「お前達を探しに行った騎士から聞いたのだが、王都の住人が紅魔族の少女に絡まれたらしいな。確かその紅魔族の少女は左目に眼帯をつけ、とんがり帽子を被っていたそうだが」

 

めぐみんが無言で土下座した。

 

「まったく、お前達は次から次へと問題を起こして……!カズマ、めぐみん。2人への処罰を私が告げる。まずはカズマ」

 

俺は背筋を伸ばし、ダクネスの目を見る。

 

「当然ながら、明日でアクセルの街に帰るぞ。そして今日まで私達に心配をかけた分、王城の方々に迷惑をかけた分。アクセルの街に帰ったら馬車馬の如く働いて清算しろ」

「はい」

「次にめぐみん。健全な精神は健全な肉体に宿ると聞く。アクセルの街に帰ったら、私が直々にお前の肉体(精神)を鍛え直してやる。覚悟しておけ」

「はい」

「では2人とも、クレア殿に一言」

「「大変ご迷惑をおかけしました」」

 

俺とめぐみんは深々と頭を下げ、クレアに誠意を見せる。

クレアも、俺とめぐみんがダクネスに説教されて処罰を宣告されたこともあったからか、一応は納得したようだ。

 

 

 

 

月が顔を出して場所も変わり。俺達が宿泊している宿。

戦勝パーティーに出席してみたものの、パーティーを楽しめる気分ではなかった和真を連れて、俺は一足先に帰ってきた。一応、先に帰ることをダクネス達に伝えるようクレアさんには頼んでおいた。

 

「あーあ、明日で街に帰るのかぁ。アイリスとのゲームの決着、まだ付いてないのに」

 

ベッドで仰向けになり、和真がそんなことを口にする。

そんな時。部屋の窓が外からコツコツと叩かれる。窓の外を見ると、窓枠の縁にクリスが立っていた。

俺が窓を開けると、クリスはするりと部屋に入ってくる。

 

「随分と早いお帰りだね?パーティーじゃなかったの?」

「それどころじゃないんだと」

 

全てを見透かしたように笑うクリスに、和真がごろんと背を向けた。

 

「そうそう。クリスが言っていた例の神器だけど、体を入れ替える方が城にあったぞ。でも体を入れ替えられるのは本当に短い時間だから、それほど危険じゃないはずだ」

「そっか。……ねえ、カズマ。あの神器で入れ替わっている間に、片方が死んだらどうなると思う?」

 

いじけた様子の和真に近づき、クリスが問いかける。

 

「どうなる、って。そりゃあ片方の体が無いんだから戻りようがないだろ」

「……それってつまり、永遠の命を手に入れたことと同義だよね?」

「っ!?」

 

クリスの言いたいことが分かったのか、起き上がった和真はクリスの方をじっと見る。

俺もクリスの言いたいことが分かってきた。……あの神器の危険性が。

 

「あの魔道具はね、最初はどこかの貴族に買われたはずなんだよ。それが今は、王女様の手元にある。一体誰が、どんな目的で王族の下に贈ったんだろうね?」

「「この国の最高権力者と体を入れ替えるため」」

 

和真が顔を青くし、国の偉い人に報告すべきだと言った。

 

「それは止めたほうが良いね。権力者ほど永遠の命を欲しがるもんさ。もし神器の力を知られたら、血で血を洗う争いが起こるよ。そして、この話を2人に教えたのは、2人なら神器を悪用しないって信用しているからなんだよ」

 

つまり、クリスはそれだけ俺と和真を信用しているということか。俺はともかく、和真とはそこまで深い関係じゃない筈なんだが。俺が和真の話をしていたから、その影響なのか?

 

「……俺と兄さんは何をすれば良い?」

 

その言葉を待っていたように、クリスは笑うと王城を指さす。

 

「あたし達3人で、この国を救っちゃおう!」




次回、銀髪盗賊団参上!!!


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33話

伝説の冒険者ダクネス、来なかった(血涙)。まあ、その内どこかのタイミングで出るだろうから、その時を待てしかして以下略。でもこめっこの実装は予想外でしたね。ビックリしました


夜の闇に包まれた王都の中を、俺達3人は城へと向かう。

 

「ねえ、カズマ。その仮面どこで買ったの?ちょっと格好いいじゃない」

「これは、アクセルの街のとある魔道具店の怪しげな店員から貰ったんだ。売れ筋商品らしい」

 

万が一見つかった時に備え、クリスは口元を黒い布で覆い、和真はバニルの仮面を着用し、俺は黒いフードを目深に被って口元を黒い布で覆っていた。

 

「へー?それ、あたしも1つ欲しいな。その怪しげな店員さんって」

「クリス。それよりも城への侵入方法とその後の動きを教えてくれ」

 

クリスの質問を途中で切り、話題を無理矢理変える。

敬虔なエリス教信者であるクリスは、悪魔などのアンデッドに対して基本的に容赦しない。実際、ダンジョンで下級悪魔やゾンビを視認すると同時に突撃し、1匹残らずダガーで微塵切りにしたことがあった。なので、俺はクリスにウィズの事を紹介していないし、顔合わせもしていない。

店に入ると同時にウィズに飛び掛かり、罵詈雑言の類をぶちまけながらダガーを突き刺そうとするクリスと、泣きながら必死で抵抗するウィズという図が容易に想像できる。バニルに遭遇しようものなら、暴れたクリスのせいで店が滅茶苦茶になる気しかしない。

 

「う、うん。まず、カズマかハルキの狙撃でロープ付きの矢を放って城壁を昇って侵入。その後は城の宝物庫に神器の片割れが無いか探して、無ければそのまま王女様の部屋に行って神器を奪還して城から脱出。もし神器の片割れが宝物庫にあったら、ついでに回収する。移動中は基本的に潜伏と敵感知を使用。万が一奪還が困難な状況になったら、そのまま逃げるよ。何か質問は?」

「宝物庫には結界が張られていて、罠も仕掛けられているらしいぞ」

「大丈夫。結界対策のアイテムも持ってるし、罠はスキルで解除するから。ハルキから何か質問は?」

「呼称はどうする?本名のまま呼ぶわけにもいかないだろ」

「そうだね。……じゃあ、あたしがお頭で、ハルキは助手1号、カズマは助手2号でいいかな?」

「異議あり。暗視スキルを持つ俺のほうが盗賊稼業は向いている。つまり俺がお頭だ」

「あのね。王都で義賊として名を売ってきたのは私の方なんだよ?つまりあたしがお頭になるべきだと思わない?」

 

和真とクリスが無言で睨み合う。

 

「……俺とクリスで言い争ってても埒が明かない。ここは兄さんに決めて貰おう」

「そうだね。というわけでハルキ、あたしとカズマ、どっちが相応しいと思う?」

「盗賊歴の長いクリスだな」

 

俺の回答を聞き、和真が悔しそうに唸り、クリスは小さくガッツポーズ。

 

「っと、到着したね。じゃあ、2人共……」

 

小声で話しながら移動していると、正面に城壁が立ちはだかる。

 

「行動開始」

「『狙撃』」

 

 

 

 

──広い城内を移動していくと、2階へと続く階段に出た。

 

「宝物庫は城の何処にある?」

「階段を上がって直ぐのところだよ」

 

ここ暫く城に籠っていた和真が先導し、俺達は宝物庫にたどり着いた。

しかし、そこには和真の言う通り強力な結界が張られていた。

どうやって結界を解くのかクリスを見ると、懐から何かの魔道具を取り出す。

 

「これは結界殺しって言って、魔族だけが扱っている魔道具なんだ。けど、これをどうやって手に入れたのか知らないけど、紅魔族の人達がこの結界殺しを売りに出したんだ。で、それを手に入れた貴族の屋敷から、ちょっと拝借してきた訳さ」

 

クリスが魔道具を弄ると、硝子が割れるような音と共に結界が解けた。

俺と和真はライターを取り出し、周囲を確認して火を点ける。

内部を照らすと、そこには整然と積まれた財宝の数々が。

 

「お宝を持ち去ろうとすると警報が鳴るタイプの罠が仕掛けてあるね。下手に中の物に触れないほうが良いよ」

「「了解」」

 

と言っても、神器の形を知らないので、できることと言ったら見回りを警戒しつつ宝物庫を見渡すくらい。神器探しは宝感知を持っているクリスに任せた。

……と、和真が何か見つけたのか、袖を引いてきた。

 

「2人共、ここに神器は無いみたいだね。強力な魔道具が多いけど、神器と言うほどでもないよ。……どうしたの?」

「ああ、すまん。懐かしい物があったから、つい」

 

それは、宝物庫に置くには場違いな物。恐らく、俺達より先にこちらに来て、命を落とした日本人の遺品なのだろう。

 

「この漫画、ページの感じからして初版だよね。初版が発売したのっていつだっけ?」

「結構昔だな」

「ああ~、その、それを持っていこうとすると……」

 

俺と和真を見守っていたクリスが言いにくそうに口ごもるが、俺達もそこは分かっている。

 

「分かってるよ。ただ、俺達の国にあった本を見たから懐かしいなと思っただけだよ」

 

何故か、和真の言葉にクリスが申し訳なさそうな表情をした。

 

「そんな顔しなくていいさ。それに、この漫画は兄さんも持ってたヤツだから……」

 

と、俺達は漫画の隣にあった本に目が留まる。

具体的に言うと、年齢制限がかかっている、すんごい漫画があった。

俺と和真は無言で向き合い、そして頷く。

そう、これを持ち出す必要はない。これに頼らずとも、アクセルの街には例の店があるんだ。そこを利用して発散すればいい。

俺と和真は涙を呑んでお宝に背を向け、クリスに指示を仰ぐ。

 

「それじゃあ、本命を頂きに行こうか」

「「イエス、マム」」

 

そして、道中特に大きなトラブルもなく、アイリスの部屋に続く廊下に来た。

 

「じゃあ、部屋にアイリスがいるか聞き耳で確認するぞ」

「頼んだ」

 

和真が床に耳を当て、聞き耳を使う。

 

「……一旦戻ろう。アイリスがお花摘みに行くらしい」

 

俺達は素早く後退して曲がり角に隠れ、潜伏スキルを発動させる。

少し遅れて、寝ぼけ眼を擦ってフラフラと歩くアイリスと、アイリスの手を引いてお手洗いに向かうクレアが通り過ぎて行った。

 

「今の内に部屋から神器を回収するよ。ネックレスを着けたまま寝るなんて危ないことを王女様がするわけないし、周りの人がさせないよ」

「「わかった」」

 

俺達はアイリスの部屋に侵入し、中を物色する。と言っても、和真は化粧台なんかの上に置いてないか探す程度にとどめ、棚の中身はクリスが見ることに。俺は窓を開けて真下のテラスにプールがあることを確認し、探している最中に2人が戻ってきた時の備えとして扉の死角になる場所に隠れる。

 

「……あったよ。これだ!」

「ああ、裏に例の呪文が書いてあるから、間違いない」

 

後はテラスから飛び降りるだけ。そう思って気が緩んでいたんだろう。

 

「お前達!そこで何をしている!?」

 

戻って来ていたクレアさんに気づかなかった。

 

「失礼」

 

俺は扉の死角から飛び出し、謝罪と共にクレアさんの顔に霧吹きでポーションを吹きかける。すると──

 

「ああああああっ!」

 

目から大粒の涙を流し、鼻を押さえて膝をつく。

俺が吹きかけたポーションは、非常に強烈な悪臭を放つポーション。しかも、目に入ると涙が止まらなくなるという代物。小さい子供や腕力に自信がない人向けの防犯グッズとして流通しているので、調べられて足がつくようなことは無い。

何故そんなポーションをクレアさんにだけ吹きかけたのかと言うと。王女様だから危害を加える訳にはいかないのと。

 

「そんな……貴方は、まさか……」

 

この通り、アイリスは和真を見て呆然とし、同じことをさっきからぶつぶつ言っていた。

そんな中、クレアさんが懐から何かの魔道具を取り出して弄ると警報が城中に鳴り響いた。

クリスは警報を聞くや否やテラスへと駆け出し、そのまま飛び降りる。

俺はクリスに続いてテラスに向かったが、和真が来ないので少し待つ。

和真は俺とアイリスを交互に見たと思うと、何かを振り切る様にテラスまで駆けてきた。

行くぞ。と、下を指して俺と和真は同時に飛び降りていった。

こうして密かに迫っていた脅威から、俺達はこの国を救った。

 

 

 

 

次の日の朝。

一夜明けた王都は大騒ぎになっていた。

何せ、噂の義賊3人が城に侵入し、王女の魔道具を盗んでいったのだ。

しかも、腕利き冒険者達が多数泊まり込んでいた日に、である。

アイリスの証言から犯人が銀髪の少年と仮面の男、黒フードの男によるその犯行は噂となり、瞬く間に王都を駆け巡った。

──そして今。

俺達がいるこの部屋も、大変なことになっていた。

 

「どういうことか話してもらおうか」

 

腕を組んで仁王立ちするダクネスに、俺達3人は正座した状態で見下ろされていた。

俺と和真、クリスの3人はダクネスから呼び出しを受け、宿の1室に来たところ、恐ろしい位に真顔なダクネスがいたので正座して今に至る。

組織のトップという事で、クリスが手を挙げると事の経緯を素直に話した。

 

「……というわけなんだよ」

「まったくお前達は……。なぜ私に言わなかったのだ。最初からきちんと話してくれれば、こんな騒ぎにはならなかったのに」

 

クリスの話を聞いたダクネスが、深々と溜息を吐く。

 

「そうは言っても、クリスの正体がバレたら友人であるお前の立場が危うくなるんだぞ?」

「そうそう。偉い人ほどこういうのを欲しがるってクリスも言ってたし」

「……やってしまったものはしょうがない。幸い、お前達の正体はまだ私にしかバレてない。クリスは銀髪が目立ちすぎるから、すぐに王都を出てアクセルの街に帰るといい。カズマとハルキは、私と共に今から王城に向かうぞ」

「えっ!?いや、昨日の今日で厳戒態勢の城に行くのは気が引けると言うか……」

「大丈夫だ。いつも通り、落ち着いて行動すればバレないもんだぞ」

「ハルキの言う通りだ。さあ、行こうか」

「へ~い……」

 

ダクネスに肩を軽く叩かれ、和真が渋々といった様子で立ち上がる。

 

「盗んだ神器は、あたしが絶対に誰にも盗られない場所に運んでおいたから。じゃあ、またアクセルの街で!」

 

クリスはそう言うと手を振り、宿を後にした。

──そして、俺達3人は城に到着した。

 

「カズマ、今のお前の状態は逆に好都合かもしれない。『自分が義賊を捕縛できなかったばかりに……』と、自分の無力さを痛感している雰囲気を出せるか?それなら疑惑の目を逸らすことができるかもしれない」

「いやそれをアドリブでやれとか無理。でもやらないとまずいしな……ちょっと落ち込んでる風にすればいけるか?」

「目尻下げて俯いていればもっと良いかもしれないな」

「では行くぞ」

 

ダクネスが部屋のドアをノックし、中に入る。和真はそれらしい雰囲気を醸し出してみると──

 

「……というわけで、あの神器は非常に危険な品物というわけです。義賊がそれを狙ったのは、王女様を守るためでしょう。引き出しに入っていたという置き手紙の文面から、相手はかなり強い正義感の持ち主のようです」

 

めぐみんの言葉を聞き、クレアさんがホッと息を吐きながら安心したような笑顔を見せる。あれ、これもしかしてもう話が終わってたパターンか?

ダクネスも一芝居打つ必要がなくなったと判断したのか、アイリスの前でホッと息を吐いた。

 

「そうですか。確かに、その危険性を素直に告げば、誰かに悪用されかねません。故に、彼らは危険を冒してまで王城に忍び込んだのでしょうか……」

 

部屋の中央で皆に囲まれていたアイリスが、和真をジッと見ながらそんな事を言った。昨日のあの反応。やっぱり、気づいてたのか?

 

「で、ダスティネス卿とハルキ殿はともかく、なぜここに戻ってきた。まだ帰っていなかったのか?」

 

と、クレアさんからの辛辣な言葉が和真に突き刺さる。和真は唸ると、反論した。

 

「いやいや。この後帰るけど、その前に少し位アイリスと話をしたっていいだろ。これが最後になるかもしれないんだから」

 

そんなことはない。と、アイリスが和真の言葉に反論した。

 

「お兄様が紅魔の里で手に入れたという神器。それがあれば、魔王を倒し、再び私と会えるかもしれません」

「そ、そうか?まあ、レベルを上げて、その機会が来たらできないこともないかもしれないな」

 

和真のいまいち自信のない回答に、馬鹿馬鹿しいとばかりにクレアさんが鼻で笑う。

 

「カズマ。自信があるのか無いのかはっきりしろ」

「はっきりしろって言われてもよ。レベルもそうだし、相手の残存戦力がどんなもんかわからないんだぞ?断言できるわけないだろ」

「それを堂々と言えるお前は凄いよ」

 

和真の言葉を聞き、アイリスが苦笑する。

 

「ていうか、わざわざそんなことしなくても、アイリスが俺に会いたいって手紙をくれれば、何時でも何処からでも王都まで飛んでくるぞ?神器使って文字通りさ」

「本当ですか!?」

 

アイリスが目を輝かせ、和真の手を取ろうとする。

しかし、わざとらしくクレアさんが咳払いをするとアイリスが手を引っ込めた。そして和真も思い出したのか。

 

「あ、でも街に帰ったら今まで心配(迷惑)かけた分働いて返さないといけないか。……ダクネスの許可が下りたら、俺の方から手紙を送るよ」

 

それまでお互い我慢しような。と、手を合わせて謝罪する。

 

「ではお兄様。街へ帰る前に、2つ私と約束してください。魔王を倒し、この世界に平和をもたらすと。そして、ゲームの決着を、いつの日かつけると」

「ああ。お兄ちゃんに任せろ」

 

和真が胸を張って答えると、アイリスは微笑みながら小指を差し出す。理由を何となく察したのか、和真はダクネスとクレアさんに許可を求めた。

 

「……いいのか?」

「アイリス様が望まれるのなら」

「その……」

「どうぞどうぞ」

「……アイリス様が望まれるのならな」

 

ダクネスとレインさんは快諾し、クレアさんは渋々ながら了承した。和真は2人に軽く頭を下げると、自分の小指を差し出し──。

 

「約束、ですからね」

 

指切りした。

 

 

 

 

かび臭い地下室に響く、不快な音。

 

「起きろマクス!仕事だ!仕事の時間だ!」

「ヒュー……、ヒュー……、な、何だいアルダープ?今日も心地良い悪感情を発してるねえアルダープ!」

 

人を馬鹿にしたような言葉に、アルダープは返答代わりに何度も蹴りつける。

 

「ワシの神器がどこかの盗賊に盗まれたらしい。それを取り返し、もう1度王族に贈るのだ」

「ヒュー……、ヒュー……、む、無理だよアルダープ!神器がどこにあるのかわからないんじゃ、取り返しようがないよ!」

 

ごちゃごちゃと言い訳をするマクスウェルを、アルダープは何度も蹴りつける。

 

「そんなこともできないのか役立たずめが!お前は、一体何時になればワシの願いをかなえてくれるのだ!ララティーナだ!いい加減ララティーナを連れてこい!」

 

何度もマクスウェルを蹴りつけながら、アルダープは喚き立てる。

 

「ララティーナ!ララティーナ!お前はワシの物だララティーナ!このワシが、一体どれほど昔から目をつけていたか、分かるかララティーナ!お前の傍にいるべきは、身の程を弁えることを知らぬ、あの冴えない鍛冶師ではない!このワシだ!」

「ヒューヒュー!ヒューヒューッ!君は素晴らしいよアルダープ!欲望に忠実で、残虐な君が好きだよアルダープ!早く君の願いを叶え、報酬が欲しいよアルダープ!さあ、僕に仕事をおくれよアルダープ!願いを言ってよアルダープ!アルダープ!」

 

喚くアルダープに呼応するように、マクスウェルも喚く。仕事と、報酬を大声で要求する。

アルダープは手の中の丸い石。

モンスターをランダムに呼び出し、使役する事ができる神器を手の中で転がし、叫んだ。

 

「ワシの願いはただ1つ!ララティーナを連れて来い!アレは、ワシの物なのだ!誰にも渡さん!」

 

それが自らの首を絞めていることなど知らず、破滅を呼びよせていることも知らず。アルダープは何度目になるか分からない願いを叫んだ。




王都編。これにて終了。
次回、街を巻き込んだ夫婦喧嘩こと億千万の花嫁編。


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34話

億千万の花嫁編スタート


「ただいまー」

 

土木工事のバイトを終えた和真が、屋敷に帰ってきた。王都から帰ってきて以来、和真はダクネスに言われた通り働いている。毎日は流石にキツイということで、週5の頻度でバイトに出ている。そして和真がバイトに行っているということは……。

 

「痛い……」

 

ダクネス直々の鍛錬を受けためぐみんが、テーブルに突っ伏して死にかけている。何をやってきたのか気になって聞いてみたところ。走り込み(それも街の外壁周辺で)とスクワット、腕立て伏せに懸垂に上体起こしを限界までやらせているらしい。走り込みの時に重りでも背負わせようとしたらしいが、めぐみんの体力を考えて却下したとダクネスは言っていた。めぐみんの体力を考えているのなら、走り込みの距離をもう少し短くするべきではないだろうか。俺はタンドリーチキンを作りながら訝しんだ。

とまあ、3名ほど生活リズムが少し変化して数日が経過した。

 

「それでは冒険者サトウカズマさん、サトウハルキさん。今回お呼び立てしていた件ですが……」

 

冒険者ギルドから呼び出しを受けた俺と和真に、重い袋を抱いていたルナさんが満面の笑みを浮かべ──

 

「今回は賞金が高額なので支払いが遅れましたが……。こちら、大物賞金首『魔王軍幹部シルビア』の討伐報酬、3億エリスとなります!サトウさんが倒した魔王軍幹部はこれで4人ですよ!?サトウさんは、このアクセル冒険者ギルドのエースです!……さあ、これをどうぞ!」

『おおおおおお!』

 

その様子を見守っていた冒険者達から歓声が上がる。

和真は周りの冒険者に余裕の笑みを浮かべながら、ずっしりと重い袋に手を伸ばす。

 

「アクア達を呼んでくる」

「うん。お願い」

 

俺は和真に用を伝え、冒険者ギルドを後にする。

 

「魔王軍幹部の討伐報酬が出た!?」

「それも3億ですって!?」

 

ギルドからの呼び出しの用件を伝えると、アクアとめぐみんが目を飛び出す勢いで驚く。ダクネスとゆんゆんは良い方の用件で呼ばれて安堵したのか、ホッと胸を撫でおろす。

 

「それで、この後はどうする?ギルドで宴会でもするか?」

「「賛成!」」

「右に同じく!」

 

アクアとめぐみんは手を思いっきり挙げて賛成し、遅れてゆんゆんも賛成する。そしてダクネスは……。

 

「まあ、今日くらい良いだろう」

 

ダクネスが賛成すると言うや否や、アクアとめぐみんは屋敷を飛び出していった。

 

「と、いう訳だ」

 

ギルドに戻った俺は、和真に屋敷でのことを簡潔に説明する。すると、和真はギルドにいる冒険者達を見渡すと、袋から金を一掴み取り出して叫んだ。

 

「宴の始まりだああああ!」

『ヒャッハー!』

 

冒険者達の歓声がギルド中に響き渡り、拳を掲げた。

 

「おいハルキ。こんだけ功績挙げたら親御さんも許すんじゃねえか?」

「お前は何を言ってるんだ」

 

酒を浴びるように飲んで顔が真っ赤になったヘインズが、ジョッキ片手に絡んできた。

 

「とぼけんじゃねえよ。お前とダクネスが風呂も寝るのも一緒になる仲まで進展したってカズマが言ってたぜ。親御さんに挨拶も済ませてんだろう?」

「見せつけるように並んで酒飲みやがって!式はいつだ?」

 

便乗して、セドルが肩を組んできた。酒臭いから止めろお!

 

「おい和真!こいつらに何を吹き込んだ!」

 

俺が大声で訊ねると、和真はジョッキの残りを一気に傾けると、満面の笑みで答えた。

 

「包み隠さず事実を述べただけですが?」

 

ここが宴会の席じゃなかったら頭からバケツで水を浴びせてやるところだった。

その後、俺は絡んでくる酔っ払い共への弁明が忙しく、酒を飲むどころではなくなってしまった。

 

 

 

 

ギルドでの宴会から数日後。

 

「和真、アクアが大事そうに抱えている物を見てくれ。あれを見てどう思う」

「真っ黒な点に目をつむれば、どう見ても鶏の卵だ」

 

一体どういうことかとアクアに訊ねると、アクアは得意げに。

 

「こないだ1人で留守番してたら、私達の活躍を聞きつけた行商の人が来てね?『凄腕の冒険者である貴方方にとっておきの品があるのです!』って言われたの。今後も魔王軍と渡り合うつもりなら、使い魔にドラゴンはいかがですかって言われて、なるほどねって思ったわけよ」

 

こいつは胡散臭い。詐欺の臭いがプンプンする。

 

「おバカなカズマは知らないでしょうけど、ドラゴンの卵っていうのは市場に出れば貴族と大金持ちが先に手に入れちゃうのよ。それを安く譲ってくれる人が現れたら、そんなの買うしかないでしょう?それに、鶏の卵だと思って食べたら実はドラゴンの卵で、凄くレベルが上がったって事例はあるそうよ。今まで取引したお客さんの中にもいたんですって!」

 

誰かここに鏡を持ってきてほしい。全身映せるくらいでかいやつを。

 

「……金額は」

「最低でも億はするけど、私の持ち金全部と交換よ!金持ちのステータスとして飼うんじゃなくて、凄腕の冒険者達に育ててもらって、来るべき魔王軍との戦いに役立ててほしい、だって!」

 

駄目だこいつ。

生まれてくるドラゴンの名前も決めてあると宣うアクアに眩暈を覚えた。360度どこからどう見ても鶏の卵なのに、何で買ったんだこの馬鹿は。

 

「というわけで、孵化するまで私はクエストに参加できないからね。ねえカズマ、ちょっと手が離せないから、晩御飯持ってきて食べさせて」

 

その日の晩御飯はカルボナーラだった。

 

 

 

 

翌朝。アクアがゆんゆんを連れてドラゴン用の首輪を買いに行った頃。

 

「お早う!我が親愛なるビジネスパートナーは在宅か?」

 

屋敷の外から、バニルが声をかけてきた。

 

「何の用だ」

「うむ。此度の商談に関することなのだが、我輩としては屋敷の中で話したい。外でするのは少々まずいのでな」

 

よろしいか?と、バニルが訊ねると、和真達が頷いたのでリビングまで入れる。

 

「商談に関することって言うと?」

「今回、我輩は貴様ら兄弟の商品の知的財産権をそれぞれ3億エリスで買うと契約した。そして、その金も集まりつつある。だが1つ問題があった。金を片方に先に渡すか、まとめて渡すか。それに関する文言を契約書に書いていなかったのだ」

 

我輩としたことがついうっかり。と、わざとらしく額に手を当てるバニル。

 

「そこで、貴様らに問おう。金は片方に先に渡すか、両方一気に渡すか。どちらが良い?」

 

俺は懐から6面ダイスをバニルに手渡す。

 

「偶数なら俺、奇数なら和真に先に渡してくれ」

「あいわかった。いざ!」

 

バニルが投げたダイスが、テーブルの上を転がる。そして結果は──

 

「ふむ、2か。では、鎧娘と一線を超えられそうで超えられない小心者よ。貴様は近いうちに大金持ちになるであろう」

「今度余計な事言ったら口を縫い合わすぞ」

「おお、怖い怖い」

 

バニルはそう言って肩を竦めると立ち去る。と思ったら、ダクネスの方を向いた。

 

「ああ、それと。絶賛両片思い中の男との混浴を経験して以来、1人での湯浴みに物足りなさを感じる筋肉娘よ。汝にも用がある」

「誰が筋肉だ!」

 

顔を真っ赤にしたダクネスが吠えると、バニルは美味である、とダクネスに礼を述べた。

 

「此度の商談を円滑に行うため、障害となる物事がないか占ってみた所、汝に破滅の相が出た。故に、1つ忠告に参ったしだいだ」

「……破滅の相だと?」

 

表情を引き締めたダクネスが聞き返し、俺達は占いの具体的な内容を聞き逃すまいと黙る。

 

「うむ。汝の家が、父親が、これから大変な目に遭うだろう。そして、あまり頭のよろしくない汝は、自分を犠牲にすれば万事解決すると短絡的な行動に出るだろう。その行動は誰も喜ばず、父親は後悔と無念を抱いて余生を送るだろう。残念なことに、良い回避方法は存在しない。その時が来たならば、全てを投げ捨てて我輩のビジネスパートナーの片割れと駆け落ちし、どこか遠い地でやり直すが吉である。だが……」

 

バニルはそこで、視線を俺の方に切り替える。

 

「貴様が更なる売れ筋商品を開発すれば、どうにかなるかもしれんぞ?」

 

何故に俺?しかも更に商品を作れと?そこにどんな因果関係があるんだ?

 

「以上だ。では、節穴女神が来る前に我輩は帰るとしよう」

 

と言い残し、バニルは屋敷を出て行った。

それから更に日が経った日の夜。

ノックも何の前触れもなく、突然ドアが開けられた。

そして、執事服を着た男性が許可もなく屋敷に入ってきた。

 

「このような時間。それも食事中に申し訳ありません。実はダスティネス卿に、我が主、アレクセイ・バーネス・アルダープ様より火急の用があり、こうして参上したのですが……。しばし、お時間をよろしいでしょうか?表に馬車を用意してあります。詳しくは、我が主の屋敷にて」

 

その男は、外を示す。

 

「……ちょっと出かけてくる。私の帰りが遅ければ、玄関の鍵は掛けておいてくれ」

「わかった。行ってらっしゃい」

 

ダクネスはいきなり来た事に対して眉間に皺を寄せていたが、ぐっと堪えて大人しく同行していった。尚、曲がったナイフについては見なかったことにする。

 

「……何だったんでしょうか、あの人は?」

「アルダープって、街の領主のおっさんだよな。ってことは、実家絡みで何かあったのか?」

「何事もないと良いんですけど……」

 

和真達は表情を曇らせて黙り込み、何事もないことを祈っていた。そんな中、俺は。

 

「ねえハルキ。ダクネスの分のハンバーグを頂戴?この前カズマにやらせたら、シチューを鼻から食べさせたのよ?」

「はいはい」

 

今日も卵を離そうとしない、空気の読めない1名の相手を俺はしていた。

 

 

 

 

翌朝。

 

「皆!!賞金首モンスターを狩るぞ!!」

 

昨夜はあのまま帰ることのなかったダクネスが、開口一番にとんでもない事を言いだした。

 

「お前、朝帰りしたと思ったらどうしたんだ急に。というか、昨日の件はどうなったんだ?」

「き、昨日の事はお前達が気にすることじゃない!貴族の柵というやつだ、巻き込まれたくなければ首を突っ込むな」

「はいはい。で、その賞金首モンスターってなんだ?」

「こいつだ」

 

ダクネスが見せてきた紙には『クーロンズヒュドラ』という賞金首モンスターのイラストや習性など、詳細な情報が書かれていた。

 

「そいつはアクセル近くの山に住み、普段は深い眠りについているモンスターだ。体内に蓄積した魔力を使い果たすと湖の底で眠りにつき、周辺の大地から魔力を吸い上げ始める。魔力の蓄積が完了するのにかかる年月は10年ほど。その間、周辺の土地は枯れる。だが最近、その土地から雑草が生え始めたらしい。つまり、ヒュドラが魔力を吸い上げる必要がなくなったということだ。目覚めの兆候だな」

「こんなもん狩るとか正気か?」

 

横から紙を覗き込んでいた和真が、嫌そうに顔を歪める。

 

「正気だ。お前達の変身能力と、めぐみんの爆裂魔法が合わさればできるだろう」

 

そう簡単に上手くいくものなのか。ダクネスは倒せると言っていたが、少し不安だ。だいたい、ヒュドラってのは俺達のいた世界でも凄いモンスターという存在だったはず。

 

「……どうする?」

「まあ、迷惑かけた分働いて返済することになってる俺は断れないな」

 

他のメンバーに目を向けると、めぐみんは杖を振り回してやる気がありますアピール。そんなめぐみんを見て、不安そうなゆんゆん。そして、アクアは卵を大事そうに抱えて丸くなり、全力で拒否していた。

 

「あの、万が一倒せなかった場合、ヒュドラを怒らせてしまうだけでは……?」

「そこは問題ない。今までであれば大軍で囲み、暴れさせることで魔力を消耗させ、魔力切れになったヒュドラを眠りにつかせていた。当然今回も周期に合わせて、王都から騎士団が派遣されることになっている」

 

ゆんゆんがおずおずと手を挙げて質問すると、ダクネスが答える。失敗しても騎士団という保険があるのか。

……まあ、それならやれるだけやってみるか。

俺とゆんゆんもダクネスの提案に乗り、残るは全身から拒絶のオーラを放つアクアのみ。

 

「(ゆんゆん、めぐみん、出入り口。兄さん、ダクネス、アクア押さえる。俺、卵回収)」

 

和真がそれぞれを指さし、ジェスチャーで指示を送ると、全員が頷く。そしてめぐみんとゆんゆんは出入り口に立って退路を塞いだところで。

 

「「確保!!」」

「いやー!」

 

俺とダクネスが押さえようとするが、アクアはじたばたと藻掻く。そして和真はアクアの正面に立つと。

 

「『スティール』!」

「あああああっ!!」

 

手を突き出し、お得意の『スティール』を発動。すかさず俺とダクネスはアクアの腕と肩を掴んで押さえつける。

 

「ゼル帝を返しなさいよ、この引きニート!」

「おおっと、兄さんとダクネスを振りほどいて俺に掴みかかれば、この卵は落ちて割れるぞ?あと、俺は週5でバイトに行ってるから引きニートじゃない。引きニートなのはお前の方だ。穀潰しが」

 

吠えるアクアと、卵を頭上に掲げてアクアを見下ろす和真。弁解の余地はないほどに悪役だな。

 

「こいつの命が惜しければ、俺達に協力してもらおうか!」

「鬼!悪魔!ロリコン!」

 

アクアは泣く泣く、俺達についてくることにした。



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35話

即オチ2コマ


「何で暴れさせるだけで止めを刺さないか身をもって理解した。止めを刺さないんじゃなくて、刺せないんだ」

 

アクセルの街への帰り道、どことなく沈んでいるダクネスを連れ、先程の戦闘を振り返っていた。

クーロンズヒュドラの大きさは、俺達の住む屋敷よりも少し大きい程度。

俺達は先手必勝とばかりに、めぐみんの爆裂魔法を叩き込んでやった。そしてクーロンズヒュドラの首は吹き飛んだ。

だが、ビデオテープを巻き戻したようにヒュドラは再生し、俺達に襲い掛かってきた。和真はそれを見て撤退を選択し、俺達もそれに同意。ヒュドラの攻撃から命がけで逃げてきて今に至る。

 

「馬鹿ねー。めぐみんの爆裂魔法で仕留められなくても、あんた達が変身して戦えば済む話じゃない」

「何回殺せば死ぬかわかんない敵に、制限時間のある力を使えるわけねえだろ」

 

馬鹿はお前だ。と和真に言い返され、アクアは馬鹿って言った方が馬鹿だと子供じみた反論をする。

 

「ですが、どうしましょう。ヒュドラの動きを封じ、尚且つ死ぬまで殺し続けるとなると骨が折れますよ」

「ってことは、それなりに人数が必要だな」

「王都から派遣される騎士団の人達に頼んでみますか?」

「そうね。ヒュドラも当分は湖を瘴気で汚染する作業にかかりっきりだろうから、その間に騎士団の人達が来るのを待ちましょう」

「な、なぁ……」

 

ギルドまでの道中、議論を交わす俺達にダクネスが申し訳なさそうに話しかけてきた。

 

「私が無理に戦いを押し付ける形になってしまったのだが、その……怒っていないのか?」

「大物賞金首や魔王軍幹部を相手に戦うなんて今更だから、怒る要素なんてないよ」

「……そうなのか?」

 

頷いて答える皆に、ダクネスはありがとうと言ってはにかんだ。

そして到着した冒険者ギルド。そこで俺達が事の経緯を話すと。

 

「またアクアさんがやらかしたのか!?」

「どうすんだよ!クーロンズヒュドラなんて大物、俺達じゃどうしようもできねえよ!」

「実家に帰らせて!」

「手配書をもっと回せ!街の冒険者全員に手配書を回すんだ!」

 

ギルド内が、阿鼻叫喚と化した。どういうことか事情を知るため、俺達は窓口にいたルナさんに声をかける。

 

「ルナさん。確かに討伐には失敗しましたけど、ここまで騒ぎになるんですか?あとは騎士団が来るのを待つだけだと思うんですけど」

「それがですね、タイミングの悪い事に王都の方で大事件が発生したとのことで……。騎士団はその後始末に追われ、こちらに構っている暇がないそうなんです」

「王都で大事件?」

「はい。と言っても、事件が発生したのは少し前で、今は一応の解決を見せ、事なきを得たようです。現在は、王都の混乱の収束と事件を起こした犯人捜しのため、騎士団を駆り出しているそうで……」

 

少し前、王都。嫌な予感が俺と和真、ダクネスの頭を過った。そしてそれは、ルナさんが見せた手配書によって現実のものになった。

 

「何でも、王都で銀髪盗賊団と命名された連中が王城に侵入し、宝物を盗み出したらしいんです」

 

手配書には、仮面を被った怪しげな男と、口元を覆った銀髪の青年、フードを目深に被って口元を覆った人物の似顔絵が描かれていた。

賞金額は2億エリス。

なんてこった、魔王軍幹部に次ぐ賞金をかけられてしまった。

 

「2億エリス……2億エリスか……」

「大丈夫かダクネス。目がヤバいことになっているぞ」

 

普段は金に興味を示さないダクネスが、手配書を手に血走った目で俺を見る。

 

「まあ、そんな訳で派遣を予定されていた騎士団がいつ来るのか分からない状況なんです」

 

つまり俺達のせいですね、本当にごめんなさい。どうしよう。国を救うためにやったのに、そのせいでこの事態を招いたから罪悪感が……。

 

「ですが、希望もあります。王都の騎士達がわざわざ紅魔の里まで出向き、腕利きの占い師に犯人の行方を占ってもらったところ、この街に潜伏していることがわかったんです!しかも、この街には紅魔の里の占い師にも勝る超腕利きの占い師がいるんですから!」

 

それってバニルの事ですね分かります。あいつのことだ、賞金のために俺と和真を切り捨ててギルドに突き出すだろう。

ルナさんは実績のある俺達に期待していますと言うように拳を握りしめ。

 

「そんなわけで、サトウさんもご協力お願いしますね!」

 

俺達は、暫く引きこもって大人しくすることにした。

 

 

 

 

運良く梅雨ということで当分雨が続くため、それを口実にヒュドラ退治の準備という名目で工房と屋敷を往復する生活を始めて数日が経つ。

 

「最近、クリスを見かけないな。俺達が言ってもダクネスが止まらないから、クリスの助力を得たいんだが」

「言われてみれば確かに。どこで何をやっているのか、手紙くらい寄こして欲しいもんだね」

 

結び目がほどけないよう、フックにロープを付けながら、和真と俺は姿を見ないクリスの事を話す。王都を出てアクセルの街に帰ってきていると思っていたが、暫くあいつの姿を見ていない。まさか、こうなることを見越してどこか違う街に身を潜めているのか?それとも、街にいるけど変装して別人に成りすましているのか?少なくとも、俺と和真がこうしていられるという事は捕まってはいないのだろう。

 

「……そういえば和真。お前、去年冬将軍に殺されてエリス様に会ったって言ってたな」

「ああ、あったねそんな事。アクアにエリス様の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいと思ったから覚えてる」

「俺が紅魔の里で昇天してエリス様に会ったのも覚えてるか?」

「それはもうバッチリ」

 

なら言っても大丈夫だろう。王都でクリスに言いそびれたあの話題を。

 

「俺、その時に外見があまりにも似てたもんだからエリス様の事をクリスって呼び捨てにしてしまったんだよ」

「マジで?今思えば、エリス様とクリスって驚くほど似てるよね。服装を変えて頬の傷跡を消せば、ほぼ一致する程度には」

 

もしかしたら。と、和真が冗談でも言うような軽い感じで。

 

「エリス様が下界で活動している時の姿が、クリスだったりして」

「それなら、今の内に謝っといたほうがいいぞ。初対面でやらかした色んな事とか」

「初対面で下着を盗んで申し訳ありません、エリス様。その後下着を振り回して申し訳ありません、エリス様」

 

工房の神棚を指さして言うと、和真は速やかに土下座してエリス様への謝罪の言葉を口にした。

 

「いや、それよりもダクネスだ。アルダープの屋敷から帰ってきてから、様子がおかしい」

「確かに、異様にヒュドラ討伐に執念を燃やしてるし。俺達の賞金の額を聞いて目の色変えてたし」

 

最近のダクネスはおかしい。めぐみんが連日爆裂魔法を放つために湖に向かうため、帰りの足として同行しているだけと思いきや、最近は1人でヒュドラに立ち向かってはボロボロになって帰ってくる。そして、ボロボロになった鎧を俺が毎日修理している。

実家で金絡みの何かがあったのか。俺と和真に、そんな疑惑が浮かんだ。

しかし、あいつの家は仮にも大貴族だ、金に困っているようには見えない。それに本人曰く、自分の家は清貧を心掛けて無駄遣いをしないと言っていた。となると、ダクネスが求めているのはヒュドラを倒したという実績なのだろうか。いや、それだと俺達にかけられた賞金に目の色を変えたのがわからない。

 

「兄さんと結婚するとき周りに口出しさせないために、ヒュドラを倒したいのかも」

「それは無い」

 

きっぱりと即答で否定すると、和真は生温かい目を俺に向けて肩に手を置くと諭すように。

 

「兄さん、両片想いは見ているほうがイライラするから。今夜でも2人っきりになってダクネスに告白してきてよ。邪魔する奴らは俺の手首を捻るように痛い痛い痛い!!」

 

和真の手を取り、捻り上げる。

 

「これ以上余計な事言ったら手をJ・ガイルにするぞ」

「悪かった!俺が悪かったから手を離して!これ以上は本気でマズいから!」

 

 

 

 

──そして、ある日。

 

「いません!部屋に行ったらもぬけの殻でした!」

「またか!もう行くなって言ったのに、あのアダマンタイト頭は!」

 

俺達の制止を聞かず、単身でヒュドラに挑みに湖に行くダクネスを何とかしようと、俺達は交代で見張りを立てていたのだが……。

 

「何で寝てんだこのサボり魔がああああ!!」

「仕方ないじゃない!私だってゼル帝の孵化で忙しいんだから!」

「だったらそれを寄こせ!焼いて食ってやる!」

「止めて!卵を温め始めてそれなりの日数が経ってるから、今割ったら大変な事になってるから!」

 

卵を抱えて亀のように丸くなるアクアを無視して、俺達は話し合う。

 

「ヒュドラだって学習しますし、ダクネスの負う傷も深刻なものになってきてます。そろそろ私達が行動に移さないとマズいですよ!?」

「……俺と和真は寄るところがあるから、めぐみんとゆんゆんでダクネスを連れ戻して来てくれ。ヒュドラに遭遇しても戦わずに逃げてくるんだ。あと、安全なところまで逃げたらこのポーチの中のポーションを全部あいつの頭からかけてやれ」

 

ポーチを受け取っためぐみんは、ゆんゆんと一緒に屋敷を出て行った。そして和真はアクアに説教中のため屋敷に残っていた。

残った俺は覚悟を決めて、部屋からエリス紙幣を持ち出して財布に突っ込んで屋敷を出た。

 

 

 

 

翌日。

俺と和真は朝早くから屋敷を出て、ヒュドラのいる湖に向かっていた。

案の定、昨日はボロボロのダクネスをゆんゆんとめぐみんが見つけ、帰りの間中質問攻めにあっていたらしい。

あいつはヒュドラ討伐を諦めるつもりはないらしい。

という訳で、俺は助っ人を呼んできた。その助っ人を見て、遅れて来たダクネスが固まる。

 

「おっ、ララティーナが来たぞ」

「遅かったな、ララティーナ!」

「よし、ララティーナ。一旦落ち着こう。いえ落ち着いてくださいダクネス様!」

 

俺が呼んだ助っ人とは、アクセルの街の冒険者達。ダクネスは口々に自分を揶揄い始めた冒険者達を見て、どういうことだと俺に掴みかかってきた。

 

「お前が毎日ヒュドラ討伐に1人で行ってるから、その手伝いを頼んだだけだ!」

「ッ!?」

 

それを聞いたダクネスが手を離し、皆を見回すと。

 

「そうだぞ。昨日ハルキがギルドに飛び込んできて、ララティーナのために力を貸してくれって頭下げたんだぞ?」

「ハルキには世話になってるし、ハルキの金で高い酒飲んで美味い料理食ったんだ。それで借りを返さなかったら罰が当たるからな。ララティーナの我儘の1つや2つ、聞いてやるよ!」

 

そんな声が、冒険者達の間から投げかけられた。言われたダクネスは、照れくさそうに顔を赤くして小声でぽつりと言った。

 

「あ、ありがとう……」

「おいダクネス、もう少し大きな声で言わないと皆に聞こえないぞ。ほら、勇気を出してもう1度」

 

大きな声でのリピートを強要する俺を涙目で睨みながらも、ダクネスは暫しもじもじしたりはにかんだりする。そして意を決したのか、笑みを浮かべながら。

 

「皆、ありが」

「カズマさん!!カズマさーん!!なんか、ヒュドラが起きるのがこの前より早いんですけどー!?」

 

ダクネスのお礼の言葉を、アクアの悲鳴が遮った。いつの間に湖に入っていたんだ。

それを聞いた和真がキレた。

 

「お前、何で俺の合図を待てないんだよ!!今凄く良い雰囲気だったのに水を差しやがって!!」

「アクアさんのせいで台無しだよ!!」

「泳いどる場合かーッ!」

「だって!だって!!早く帰ってゼル帝の誕生を……!」

 

最悪のタイミングで邪魔されたダクネスが、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして小刻みに震える。そんなダクネスを女性冒険者達が慰め、男性陣は和真と同じようにアクアにキレた。

 

「あーもう!各自配置について!戦闘開始だ!」

 

アクアを追いかけてきたクーロンズヒュドラが、水飛沫を上げて姿を現した。



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36話

「盗賊職は鋼鉄製のワイヤーを、アーチャー職はフックロープ付きの矢を用意して待機!頑丈な奴らは後衛を守るために楯としてその場で待機!魔法使い職はヒュドラを湖から引き離したら、兎に角魔法を撃ってくれ!」

「カズマさーん!!早くして、早くしてええええ!!」

「ダクネスはヒュドラの正面で囮スキルを使ってくれ!お前の硬さが勝負の決め手だ!」

「任せろ!硬さなら誰にも負けない!!」

「アクアは支援魔法を使ったら、基本的に大人しくしてろ!怪我人が出たら適宜回復魔法を使え!」

 

和真が指示を出し終えると同時に、水際に立っていたダクネスがスキルを発動。

 

「『デコイ』ッ!!」

 

並みの冒険者が食らえばひとたまりもないヒュドラの8本首による猛攻を、ダクネスは顔を顰めながらも受け止めた。

 

「「「「『バインド』ッ!!!!」」」」

 

ヒュドラの首が1か所に集まった瞬間、盗賊職のワイヤーがヒュドラの首を結束させる。続いて放たれたアーチャー職のフックロープ付きの矢が、ワイヤーに引っかかる。

フックが引っかかったことを確認した冒険者達が、ロープの端に取り付いて引っ張り出す。

このまま更に湖から引き離し、ヒュドラの逃走を防止させる。

 

「『ライト・オブ・セイバー』!!」

 

ゆんゆんの放った魔法を合図に、魔法使い達の魔法がヒュドラを襲う。同時にそれは、俺と和真の行動開始の合図でもある。

 

「行くぞ、和真!」

「うん!」

 

拳を2度打ち合ってハイタッチし、ジャイロを突き出して叫ぶ。

 

「「オレ色に染め上げろ!ルーブ!!」」

『ウルトラマンタロウ!』『ウルトラマンギンガ!』

「纏うは火!紅蓮の炎!」「纏うは水!紺碧の海!」

『ウルトラマンロッソ、フレイム!』『ウルトラマンブル、アクア!』

「「先輩の力、お借りします!」」

 

身長を等身大まで抑えて、俺と和真は変身した。

 

「『ゼロツインスライサー』!」

「『ワイドショットスラッガー』!」

「『ザナディウムソニック』!」

「『ギャラクシーセイバー』!」

「あれがハルキの言ってた力か!」

「こっちも負けてないわ!『ライトニング』!」

「『ファイアーボール』!」

 

そして空に舞い上がり、遠距離攻撃主体で戦う。仲間の攻撃に巻き込まれないために、できる限り高いところから。魔法使い職の冒険者達も、俺と和真に負けじとヒュドラに攻撃魔法を叩き込んでいく。

 

「『ストビュームバースト』!」

「『アタッカーギンガエックス』!」

「『エナジーイグニッション』!」

 

カラータイマーが鳴り始めたことから、2分が経過したと判明した頃。俺、和真の順にオーブリングNEOを使用して、ヒュドラに攻撃を放った。既に魔力切れになった魔法使い職は後方に下がり、残るはゆんゆんとめぐみんの2名。

 

「おい!ヒュドラの傷が再生してないぞ!?」

 

冒険者の1人が指摘したように、ヒュドラの体に先程の攻撃による大きな傷跡ができていた。

そしてヒュドラは湖の底に逃げようとしているようだが、傷だらけの体に重い鎧を装備した冒険者達の抵抗もあって思うように動けないようだ。

 

「めぐみん!フィナーレだ!」

「良いんですか!?」

「思いっきりやってくれ!」

 

それを聞いためぐみんはヒュドラに杖を向ける。めぐみんの爆裂魔法に慣れた冒険者達は、耳を塞いで避難している。

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

めぐみんの杖から放たれた閃光が、俺達の猛攻を受けたクーロンズヒュドラを包み込む。そして爆音と爆風の後に、クーロンズヒュドラは跡形もなく消し飛んだ。

 

 

 

 

「案外俺達でも何とかなるもんだな。まあ、カズマのパーティーがいたからの話だがな」

「つーか、あれがあったならお前らだけでもできたんじゃねえのか?」

「俺と兄さん、めぐみんの今の状態を見てみろ、これが答えだ」

 

ヒュドラを倒した俺達は、ぞろぞろと冒険者達を引き連れて、達成感を胸にアクセルの街へと帰っていた。

今回の相手は大物賞金首だというのに、こちらの被害はまったく出ていない。これを知ったらギルドの職員はひっくり返ることだろう。

 

「それじゃあ、ヒュドラとの戦いで皆疲れただろうし、今日のところはゆっくり休んで、明日は受け取った報酬の一部でパーッと宴会しようぜ!」

『大賛成だ!』

 

和真の提案に皆が歓声を上げる中、俺はダクネスに声をかける。

 

「念願のヒュドラ討伐を達成した気分はどうだ?随分すっきりした表情だが、明日からはぐっすりと眠れそうか?」

「ああ、おかげで色んなものが吹っ切れた。今まで悩んでいたことが馬鹿らしいと思えるほどにな。だがそれは、ヒュドラを討伐したからじゃないぞ」

 

俺に肩を貸しているダクネスは、何日かぶりの笑顔を見せる。

 

「私はこの街の連中が好きだという事を、あらためて自覚した。おかげで迷いは無くなった。もう何も怖くないし、後悔もない」

「お前偶にそういうこと言うよな。聞いてるこっちが恥ずかしくて脇腹が痛い!」

 

俺にからかわれたダクネスは、むくれると脇腹を抓ってくる。

そして……。

 

「私は幸せ者だ」

 

 

 

 

翌日。

 

「冒険者の皆さん!昨日は本当に、本当にお疲れ様でした!!大物賞金首『クーロンズヒュドラ』討伐、おめでとうございます!つきましては、皆様に多大な報酬が支払われますので、こちらにお並びください!!」

『うおおおおおーっ!!』

 

ギルド職員一同の拍手と、昨日の討伐戦に参加した冒険者達の歓声で冒険者ギルドの空気が震えた。

今から手にする賞金を期待してか、誰しもが満面の笑みを浮かべていた。

 

「ていうか、何でダクネスは来ないんだ?報酬受け取ったらそのまま宴会するってのに。まさか、昨日の件で照れてるのか?」

「それはあるかもしれませんね。昨夜のダクネスときたら、私達の前でも恥ずかしがっているのか、何時もよりテンションが高めでした。普段はあまり酒を飲まないのに珍しく深酒してましたし、私とゆんゆんに酒を勧めたり……」

「うんうん」

「ダクネスはああ見えて恥ずかしがり屋で不器用な子だから、まだ皆の前に来られないのも仕方ないわ。留守番しているダクネスに、お土産買って帰りましょうよ」

 

ギルド中央のテーブルに陣取った俺達は、昨夜の妙に浮かれたダクネスを思い出す。

アクアの言う通り、ダクネスはまだ照れていて来るのが恥ずかしいんだろう。とりあえずダクネスの分は俺達が受け取り、屋敷で渡すとしよう。

因みにクーロンズヒュドラ討伐の報酬は10億エリス。あの戦闘に参加した冒険者の数は50人ほどのため、1人あたり2千万エリスが支払われる。

ある程度冒険者が報酬を受け取って列も短くなったところで、俺達も並ぶことに。

 

「では、サトウカズマさんのパーティーは5人分の報酬ということで、1億エリスを支払わせて頂きます!」

「ありがとうございます!よし、お前ら!約束通り報酬の一部で派手に……ルナさん、報酬はこの通り受け取りましたから!この前も賞金渡すの渋ってましたよね!気持ちは分かりますから、手を離してください!」

 

和真の説得を受けて、ようやくルナさんが賞金の入った袋を離すと。

 

「昨日はあらためて協力ありがとな!宴会しようぜ!!」

『おおおおお!』

 

冒険者ギルドに響き渡る野太い歓声。

時刻は昼だが、今回の宴会は長くなりそうだ。

 

 

 

 

すっかり日も暮れたアクセルの街を、屋敷に向けて帰る途中。

普段食べるよりも高めの食材を買ったので、留守番中のダクネスと二次会を始めるつもりだ。

買ってきたのは霜降り赤ガニ。

ダクネスの実家から贈られて以来、食べたことのない高級食材だ。

 

「ダクネス、ただいま。……あれ?でかけてるのか?」

 

俺達が屋敷に帰るも、ダクネスはいなかった。

テーブルにあった置き手紙を読んだところ、昔破壊された領主の屋敷が完成したらしいので、ヒュドラ退治の報告に行くと書かれていた。晩飯までは帰るらしい。

屋敷に帰ってきたアクアが卵の孵化作業に戻り、晩飯を催促する声をBGMに俺と和真は台所で調理を行う。報告が終われば帰ってくるだろう。

やがて普段より豪華な料理が完成し、それらが広間のテーブルへと並べられた。

 

「ねえハルキ、ダクネスの帰りが遅いんですけど。料理が冷めないうちにダクネスを探してきてー、探してきてー」

「そんなに言うならお前が探してこいよ」

 

そんなことを言っている間に、めぐみんとゆんゆんが人数分の食器とお茶を用意した。

 

「今日の料理はちょっと凝ってますね。お嬢様のダクネスでも、あまり食べたことがない料理ではないでしょうか」

 

後はダクネスが帰ってくるだけ。そしたら2次会が始まる……はずだった。

 

「ねえカズマー!ハルキー!もう冷めちゃったわよ、温め直してー」

 

夜の帳が下りる頃になっても、ダクネスは帰ってこなかった。

 

「……ご飯を前にお預けとか。私はダクネスじゃないんですから、ちっとも嬉しくありませんよ。……帰ってきたら、罰としてソファーの前で正座させて暫くお預けさせて、目の前で食べてやります」

「それ、ダクネスさんにやっても罰にならないと思うんだけど……」

「……遅いな。晩飯までは帰ってくるって書いてたのに」

「バニルが占った通り、実家で何か起きたのか?それなら何が起きたか知らせてくれれば、こっちもそれに合わせて動くのに」

 

皆で愚痴を言いながら、ダクネスの帰りを待つ。

やがて苛立ちは怒りに変わり、ダクネスが帰ってきたらどんな罰を下してやるかの会議が始まった。

大概の罰はご褒美になるあいつにはどんな罰が効くのか、皆で意見を出し合って考えた。

けれど、誰1人として食事に手を付けようとは言わなかった。

結局、アクアが選んだ超可愛らしい服を着せてそれに見合った髪型にさせ、ギルド及び街中引き回しの上、1日借りるだけでも高額な魔道カメラでの撮影会を行うことになった。あいつは羞恥責めだけはご褒美にならないからな。

それが決まったのは、そろそろ日付が変わろうとしていた。

 

「……遅いわねぇ」

 

アクアが呟くが、誰も食事に手を付けようとしない。

ヒュドラ討伐の報告にどれだけ時間をかけているんだろうか?

いくら相手があの領主とはいえ、大貴族の令嬢であるダクネスに何かできるとも思えないのだが……。

このまま待ってても帰らないなら、朝帰りしたところをとっ捕まえてさっきの罰に何か付け加えるとしよう。

……バニルの見通す力を使って、ダクネスの恥ずかしい話を暴露させる、これでいこう。帰ってきた時間に比例して、バニルが質問する時間を伸ばしてやろう。

俺がそんな決意を密かに固める中、誰も食事に手を付けようとしなかった。和真がさっさと食べようと言っても、困った表情を浮かべて窓の外を眺めるだけ。

結局、ダクネスはこの日帰ってこなかった。

それどころか、その次の日も、更にその次の日も。

ダクネスが屋敷に帰ってくることはなかった──。

 

 

 

「じゃあ、工房に行ってくる」

「「「行ってらっしゃい」」」

「行ってらー」

 

朝食を済ませ、兄さんが屋敷を出ていく。

広間に残された俺達は、顔を寄せ合って話し合う。

 

「やっぱりダクネスがいなくなって動揺してるな。普段通り振舞っちゃいるけど、俺の目は誤魔化せない」

 

弟である俺の観察眼に納得したのか、皆がやっぱりと頷く。

テーブルの中心には、ダクネスから届いた手紙。これに目を通して以来、兄さんの様子がおかしい。偶にどこか遠くを見てボーっとしていたり、大きなため息を吐いたり。今朝なんかダクネスの分の食器を出しそうになっていた。

 

「ダクネスは、本当にこのままパーティーを抜けてしまうんでしょうか……」

 

俺達はめぐみんの言葉に無言になる。

 

「……しょうがないだろ、実家が実家だ。元々、今まで俺達みたいな一般人と冒険が出来たのがおかしいんだよ。兄さんもそう言ってただろ」

「でも!これって絶対変ですよ!ダクネスが何も言わずにパーティーを抜けるなんて!私達は手紙1枚でお別れを済ませる様な、そんな薄っぺらい関係ではないはずです!」

 

めぐみんが、テーブルの上にある手紙に拳を振り下ろして俺の言葉に食って掛かる。

 

「というか、クリスさんは何処で何をしているんでしょうか?ダクネスさんが冒険者を辞めたとなったら、真っ先にお屋敷に突撃するはずなのに……!」

 

ゆんゆんは、苛立ったような口調で拳を握りしめていた。目も紅く輝いているから、相当頭にきているな。それがクリスに手紙を寄こさないダクネスへの怒りなのか、手紙を受け取って何も行動しないクリスへの怒りなのかは分からない。

俺は何となく、テーブルに置かれた手紙に目を通す。

 

──突然こんな事を言い出して、本当にすまない。お前達には言えない、込み入った事情が出来た。

貴族としての、やむを得ない事情だ。お前達とは、もう会えない。本当に勝手な事だが、パーティーから抜けさせて欲しい。どうか、私の代わりの前衛職をパーティーに入れてくれ。

お前達には感謝している。それは、どれだけ感謝しても足りない程で……。お前達との冒険は楽しかった。私のこれまでの人生の中で、1番楽しいひと時だった。

私は今後、お前達との冒険の日々を絶対に忘れる事はないだろう。今までどうもありがとう。

ダスティネス・フォード・ララティーナより。愛する仲間達へ、深い感謝を──



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37話

 ダクネスがパーティーから脱退し、数日が経過したある日。

 和真達に夕飯の買い出しを頼まれた俺は、街の商店街に来ていた。

 来たのはいいんだが……なんだか周りからの視線がちくちくと刺さる気がする。俺が何をしたっていうんだ。

 

「よぉ、ハルキ。久しぶりだな」

 

 そんな中、俺は後ろから声をかけられた。

 振り向いてみれば、そこにいたのは厳つい顔に髭を生やしたモヒカン頭の男性。更に半裸で肩パッドをしているという風貌から戦士系の職業だと勘違いするかもしれないが、実は機織り職人をやっている。

 

「ポチョムキンのおっさんか」

「『4世』が抜けてるぜ」

 

 おっさんは苦笑しながら、自分の名前について細かい指摘をした。

 俺は屋敷に向かって帰ろうとすると、おっさんは俺の隣を歩き出した。

 

「そういや。お前のとこのクルセイダーの嬢ちゃんを最近見ないが、何処で何やってんだ?」

「……家の事情で冒険者を止めるって、実家に帰ったよ」

「成程。それであの噂(・・・)に合点がいったぜ」

「噂?」

 

 どういう事だと訊ねると、知らないのかとおっさんはきょとんとした。

 

「街中で噂になってるぜ。お前のとこのクルセイダーの嬢ちゃんが、この街の領主様と結婚するってな」

 

 …………。

 

「その話、詳しく聞かせてくれ」

 

 

 

 

 時刻は深夜2時。

 俺と和真とアクアは今、警戒の厳しいダスティネス邸を路地の影からこっそり観察していた。

 アクアが俺の体に、小さな声で各種支援魔法をかけていく。筋力増加、速度上昇、防御力上昇に魔法抵抗力上昇まで……。

 

「『ヴァーサタイル・エンターテイナー』!」

 

 アクアが、俺の聞いた事のない魔法をかけてきた。

 感覚から察するに、支援魔法の1つなんだろう。

 

「今の、何の魔法だ?」

「芸達者になる魔法。これで怪盗キッドやルパン三世みたいな声帯模写ができるわよ」

 

 なるほど、そういう意図があって使ったのか。

 俺は弓と、フックロープ付きの矢を取り出し、屋敷の屋根に狙いを定める。矢の先の方には布を何重にも巻き付けてあるので、音で気づかれることはないだろう。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 皆と相談した結果、潜伏スキルや暗視スキルなど侵入に使えるスキルを持っていて、1度来た事のある俺が屋敷に乗り込むことになった。

 

「しっかりね。なんなら、ダクネスを気絶させて攫ってきちゃいなさい」

「お前仮にも神職なんだから、そういう事を言うのは色々とまずいだろ」

「いや、今回は俺もアクアの意見に賛成だ。せっかく支援魔法をかけたんだし、頑固なダクネスがそう簡単に口を割るとも思えない」

 

 俺は和真とアクアに見守られながら、屋根の天辺ギリギリのところに狙撃スキルで矢を放つ。

 矢は狙い通りの位置に引っかかる。

 そのまま暫く動かずにいるが、今の音で誰かが来ることは無さそうだ。

 屋根を囲む柵の一部にロープを結び付け、2人に向かって静かに告げた。

 

「俺が屋根に上って右手を挙げたら、ロープを解いてくれ。見回りがこの辺に来ないとも限らないし、ロープが見つかれば侵入がバレる。帰りは自力で何とかするから、お前らは屋敷に帰っててくれ」

 

 ロープを引っ張って手ごたえを確認する俺に、2人は首肯した。

 俺はロープを上っていき、屋根に到着する。右手を挙げると和真がロープを解き、そのまま屋敷へと帰って行った。

 ロープを足元に手繰り寄せ、敵感知スキルで人がいない部屋を探る。そして探していると、2階に誰もいない部屋を発見した。

 屋根にかかったままのロープで窓からの侵入を試みるが、案の定施錠されていて部屋に入ることはできなかった。

 そこで使うのが初級魔法と現代知識。

 まずはティンダーで窓の表面を炙る。充分ガラスの表面が熱されたら、次にフリーズで一気に冷却する。すると、微かな音と共にひび割れた。

 音で誰か来ないか聞き耳を使うが、部屋に近づく足音も、音に気づいたような反応もない。

 俺が行ったのは、空き巣がガラス破りに使う焼き破りという方法。どっかのワイドショーの防犯特集で取り上げられていたのを、まさかこんな形で実践することになるとは。

 罅割れて、欠けたガラスの部分に指を入れ、鍵周りのガラスを少しづつ剥がすように割っていく。

 やがて鍵を開けられる大きさの穴を開けると、窓から部屋に侵入。ガラスの破片を回収して、ベッドの下に潜り込んで潜伏スキルを使う。

 

「『聞き耳』」

 

 ダクネスの部屋を探し出すため、スキルを使用。部屋の外から屋敷の見回りを行っている守衛の声が聞こえた。

 

『どうだ?お嬢様の様子は?』

『ぐっすり寝ておられるようだ』

 

 続いて、俺が今隠れている部屋に近づく足音。潜伏スキルを使ったまま、息を殺して相手の動きを窺う。

 

「言ったろ、何もないって。慎重なのはいいが、ほどほどにしといたほうがいいぞ?」

「あ、ああ。すまない」

 

 守衛の2人は部屋をざっと見渡すと、部屋を出ていった。声の感じから察するに、この2人がさっきダクネスの部屋の前で話をしていたんだろう。

 ならば善は急げ。俺は静かに部屋を出ると、ダクネスの部屋の前に立つ。ドアノブに手をかけて捻ってみるが、ビクともしない。まあ、そうだろうと思っていた。

 そこで俺は、2本の金属の棒を取り出し、スキルを使って鍵を開けた。極力音を立てないように扉を開け、部屋に侵入する。万が一侵入がバレて逃げる際の時間稼ぎ用に、再び鍵をかけておく。

 

「すぅ……」

 

 部屋の中に灯りはない。窓から差す星の光が、穏やかな寝息を立てるダクネスを照らしている。

 

「……ごくり……」

 

 素数を数えろ!!2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37…………。

 最近忙しくて例のお店を利用していないせいか、何がとは言わないが溜まっているな。今回俺が来たのはダクネスにパーティー脱退の理由を訊ねる為だ。雰囲気と欲望に飲まれてダクネスの寝込みを襲ってはいけない。

 

「……ハルキ……?」

 

 素数を数えるのに夢中になっていた俺の耳に、不意に声が聞こえた。俺が声のした方に顔を向けると。

 

「ハルキ、なのか……?」

 

 何時の間にか目を覚ましていたダクネスと目が合った。

 

「「……」」

 

 無言で、俺とダクネスは暫く見つめ合う。

 

「……言うほどじゃないけど、久しぶり」

 

 そう言った次の瞬間、ベッドから跳ね起き、抱きついてきたダクネスに押し倒された。

 俺の尻から背中にかけて衝撃と痛みが走る。ついでに柔らかい物のあたる感触があったが、痛覚が触覚に勝った。

 俺はうめき声をあげそうになったのを必死で堪えた。そしてバレていないことを祈った。

 

「お嬢様!今の音はいったい!?」

 

 しかし俺の祈りは届かず、音を聞いて駆けつけた守衛が鍵を開けようとしている。

 ここはアクアの支援魔法でダクネスの声を真似て誤魔化そう。と口を開こうとした瞬間、ダクネスに口を押さえられた。

 

「心配するな!ちょっと寝返りをうってベッドから転げ落ちただけだ!」

「ね、寝返りですか?それにしては音が大きかったような……」

 

 ダクネスの言葉を聞いて守衛は鍵を開けるのを止めたが、その場を離れるつもりはないようだ。そこで、ダクネスは続けて言った。

 

「き、筋肉がついて重くなったから、音も大きくなったのだろう!他の者にもそう伝えろ!」

「か、かしこまりました!」

 

 守衛はダクネスの言葉に納得したのか、立ち去って行った。

 こいつ、ついに自分から筋肉をネタに使った。だが本人も少し恥ずかしかったのか、顔がほんのり赤くなっている。

 俺がダクネスの腕をタップすると、ダクネスは小声で謝罪して手を離す。絶対に喋らせないという力強い意思を物理的に感じた。多分手形が付いているかもしれない。

 

「で、あの手紙はどういう事だ?具体的な説明もなかったから、あいつらが心配していたぞ」

「そう、だな。すまない」

 

 ダクネスはベッドに座ると、隣に来いと手招きしてくる。

 俺が隣に移動すると、ダクネスは口を開いた。

 

「実は、当家はあの領主に金を借りていてな。父がゆっくり返していくつもりだったのだが、最近父の体が思わしくなくてな。それで、あの領主が催促をしてきた。父の存命中に返せるのか、とな。……但し、私が嫁に来るなら借金をチャラにするそうだ。だから、私は冒険者を辞めた」

「お前の家、あの領主に金を借りてたのか?それで冒険者を辞めるって、そんなの……」

「ああ、借金のカタに取られるわけだ。だが、これは貴族の家では珍しいことじゃないぞ」

 

 ダクネスは何でもない事を口にするかのようにそう言った。

 俺の表情を見たダクネスが。

 

「そんな顔をするなハルキ。私の男の趣味嗜好は良く知っているだろう?あの男は、色んな儀礼を飛ばして、結婚の日取りをとにかく急いでいる。よっぽど早く私を物にしたいようだ。あの様子では。鼻息荒いあのケダモノ領主に、初夜まで我慢できずに押し倒され、数日は貪られると思うと……!」

「いつも通りのフリは止めろ」

「フリだと?どこにそんな証拠が」

「涎垂らしてハアハアしながらじゃなくて、寂しそうな表情で言ってるじゃないか」

「……」

 

 誤魔化すように軽く笑うダクネスに指摘すると、途端に口を閉じた。

 

「成程、それでお前はヒュドラを倒したがっていたのか。良かれと思ってやったんだが、沢山人を集めて、悪かった。借金はどの位あるんだ?足りない分は、俺が」

「払うなんて言うなよ。私は貴族だ。本来私達が守るべき庶民が、命がけで稼いだ金で借金を返済する位なら、私は身売りを選ぶ。……それに、今のお前の財産でも払いきれる額ではないのだ」

 

 俺の言葉を遮りながら、ダクネスはジッと俺を見つめた。そして何を思ったのか、俺の首に腕を回してベッドに倒れこんだ。

 ベッドに広がる金糸の髪が、星の光を反射して淡く輝いていた。

 普段の気高さと気の強さは鳴りを潜め、何かを訴えるような瞳で俺を見つめる。意を決したように、俺の耳元で囁いた。

 

「このままあの領主にむざむざと奪われるなら……なあハルキ。いっそここで2人で、大人にならないか……?」

 

 落ち着け佐藤陽樹、良く考えろ。

 ダクネスはもう嫁に行く気だからこんなことを言っているんだ。

 もう諦めているから、2度と会えないと考えているんだ。

 このまま終わらせるつもりはないだろう?

 ダクネスをあんな奴のもとに送り出さないためにも、何とかしなければならない。

 だからダクネスにそっと掴まれた右手を払いのけるんだ!

 しかし、そんなに力がこもっていないはずの手を俺は払いのけることが出来ず、成すがままだった。

 ダクネスは俺の右手をそっと腹に置くと、静かに目を閉じた。後は任せたとでも言うように。

 俺はこの状況を何とかしようと、脳を全力で回転させた。そんな俺の指先に伝わる感触から、俺が口にすべき言葉が浮かんだ。

 

「……ナイス腹筋」

 

 

 

 

 顔の左半分が凄く痛い。頬もパンパンに腫れてるし、奥歯もグラグラする。

 さっきの雰囲気は俺の一言で台無しになった。ダクネスは顔を真っ赤にして拳を握りしめ、俺の事を睨んでいる。

 対する俺は床に膝をつき、頬をフリーズで冷却している。

 

「悪かった!俺が悪かった!この空気に耐えられなかったんだ!」

「黙れ!乙女の覚悟を愚弄した挙句、人の気にしていることを口にしてただで済むと思うなよ!そこに直れ!次は右の頬をぶん殴ってやる!」

 

 ダクネスが、叫ぶと同時に殴りかかってくる。

 それを、俺はヒョイと躱した。

 廊下の方から慌ただしく人が駆け込んでくる音が聞こえる。

 夜中にこれだけ騒いだらもう誤魔化せないだろう。

 

「どうだハルキ。今に家の者が来る!このまま見つかればタダでは済まないぞ。貴族の令嬢の寝室に侵入したのだ、私の擁護が無ければ最悪首が飛ぶ。さあ、ごめんなさいダスティネス様と土下座でもしてもらおうか!」

 

 俺が攻撃を躱したことで更に頭にきたのか、ダクネスはいつになく怒りに燃えていた。

 やがて部屋の前に多数の気配がし、激しくドアが叩かれた。

 

「お嬢様!開けますよ!」

 

 守衛の声を聞きながら、ダクネスが手を広げて掴みかかる体勢を取り、そのまま俺に飛び掛かってきた。

 普段なら力比べは望むところじゃないが、アクアの支援魔法を受けた今の俺は負ける気がしない。

 それに、ここまできて頭を下げられるか!

 俺は掴みかかるダクネスと組み合い、がっつり四つに組んだ体勢で睨み合う。

 

「ふはははは!ハルキ、お前とは何度か戦ったが、最後は私の勝利だな!」

 

 俺がこのまま組み合ったままでいるのが、負けを悟ったことによるものと認識したダクネスが高笑いをする。

 俺が不意に力を抜いて倒れると、前傾姿勢のダクネスは前のめりになった。

 そのまま巴投げの要領でダクネスを背後に投げると、ダクネスは転がって部屋の壁に激突した。

 同時にドアが開き、守衛が部屋に入ろうとしてくる。

 すかさず俺は悪臭を放つポーションを直ぐ正面の守衛に吹きかけ、追い打ちをかけるように煙玉を床に叩きつけた!

 

 

 

 

「屋敷の窓と出入り口を全て封鎖しろ!換気のために開けようなどと考えるんじゃないぞ、その瞬間逃げられる!相手は潜伏スキル持ちだ、何もなさそうな所でも触ってみろ!絶対に逃がすな、捕まえろ!ダスティネス家の名に賭けて、あの男を捕らえ、私の前に連れて来い!」

『かしこまりましたお嬢様!』

 

 部屋から出る時に追加で大量の煙玉を投げた影響で、空気が煙たくなってる屋敷にダクネスの怒号が響き渡る。

 当の俺はというと今まさに潜伏スキルで身を隠し、更に煙玉を投げていた。

 

「ハルキーっ!何処だっ!自分から大人しく出てきたならば、全力往復ビンタ10発で済ませてやる!だが、私が見つけた場合はその程度で済むと思うなよ!」

 

 ここまでやった俺が言えることじゃないが、今のダクネスは完全に頭に血が上っていて話が通じる状態じゃない。何もせず、静かに引き揚げよう。

 俺は脱出のために施錠されていない部屋を探していたところ、運良く近くにその部屋はあった。俺は内側から鍵をかけ、そのまま窓から脱出を試みると──。

 

「……そこに、誰かいるのか……?」

 

 部屋の中央にあるベッドから、とても小さく弱々しい声が聞こえた。

 声の主は、ダクネスの親父さん。

 ロクな灯りのない部屋の中でも、頬が痩せこけ、顔色も青白いのがわかる。

 

「ああ、君か……。こんな夜更けにこんな所に……。なるほど、娘は、本当に良い仲間に恵まれた様だ……」

 

 ダクネスの親父さんは、そう言って笑いかけてきた。

 この時間、ここにいる俺の姿を見ただけで、何の目的で屋敷に来たのかを見抜いたようだ。

 流石王家の懐刀と呼ばれただけはある。

 しかし妙だ。以前はあんなに元気だった親父さんが、こんなに弱々しくなっている。短期間でここまで体調が悪化するものなのか?

 

「親父さん、弱っているところ非常に申し訳ないんですが、ダクネスが怒り狂ってるので説得してもらえませんか?」

 

 俺の言葉に親父さんは、楽しそうに笑った。

 

「そうか。ここのとこ暗く塞ぎ込んでいた娘が、そんなに怒っているのか」

 

 笑い事じゃないんだよなあ。こっちは文字通り命がけだぞ。

 

「そういえば親父さん、この家は領主のおっさんに借金があるって聞いたんですけど。何があったんですか?ここの家ってそこまで金の掛かる暮らしをしている筈無いですし。どう考えてもおかしいなと思って」

 

 俺は疑問に思っていた事を親父さんに訊ねてみた。

 ダクネスが細かい事情を教えてくれないなら、親父さんに聞くしかないだろう。体の具合が悪いところに聞くのは申し訳ないが。

 

「……うん、ハルキ君。君は中々頭が良いな。やはり、君に娘を任せるという考えは間違いではなかったか。すまないんだが……娘を連れて、何処かへ逃げてはくれないか……?」

 

 借金の理由に対する回答で娘との駆け落ちを勧められた。

 

「無理ですよ。今ダクネスに追いかけまわされてここに逃げてきたんですから」

「そういえば、そうだったな。これは済まない。借金の理由だが、聞かないんでくれんか。借金は娘の意思で出来た物だが……。何、娘を連れて逃げてくれたら、後はこの屋敷でも売り払えばそこそこの金にはなる。それに今、色々と手を尽くしている。借金自体が無くなるかもしれん」

 

 借金が無くなるかもしれないって、不当な借金って事か?ダクネス、あの領主に一体何を……。

 

「それより、娘が先走り、嫁ごうとしている。これは何としてでも止めたい……。ハルキ君、この私が考えるに、君と娘はお互いの事を憎からず想っている。だからこそ相手の幸せを考え、お互いの間に壁を設けて距離を置いている。違うかね?」

「いや、それは……」

「ハルキ君」

 

 答えに迷っていると、親父さんは強い光を瞳に宿し、俺を真っ直ぐ睨んだ。

 

「身分の違いやパーティーの人間関係を理由に本心を押し殺し、目を背けるのは止めなさい」

 

 いや、俺は親父さんが言うように本心を押し殺していたことなんてない筈だ。なのに、何故か心に突き刺さる。

 

「……それよりも親父さん、どこか体調が悪いんですか?病は寿命だから回復も蘇生も効かないですけど、このタイミングで親父さんの体調が悪化するっていうのは……」

「領主に毒でも盛られたと思ったのかね?それは真っ先に調べたが、毒は検出されていない」

 

 毒によるものでは無い、か。ならどうやって?病にしてはタイミングが良すぎるし、やっぱりアクアの『くもりなきまなこ』とやらで診てもらうべきか?

 

「まだか!まだハルキは見つからないのか!」

 

 ダクネスの様子があれじゃあ、アクアを連れてくるのは不可能だな。逆に親父さんをうちの屋敷に連れていく考えもあるが、それは酷だろう。

 

「王様とかに掛け合って、どうにかしてもらう事は出来ないんですか?親父さんは国にとって大事な人なんでしょう?借金が不当な理由だっていうなら……」

 

 俺の言葉に親父さんは静かに目を瞑り、首を振った。

 

「そんな事をしても。娘は嫁ぎに行くだろう。誰に似たのか、頑固でな。国王に金を用立ててもらっても、そんな事に国民の税金を使うなと言って、自分の身と引き換えに借金を棒引きにしてくるだろう。……本当に、なんでこんな分からず屋に育ったのか」

 

 まったくです。

 親なんですから、あの頑固な娘を何とかしてくださいよ……。

 と、その時突然、蝶番の壊れる音と共にドアが倒れた。

 そこにいたのは荒い息を吐き、ドアを踏みつけた状態で俺を睨むダクネスだった。

 

「見つけたぞ、ハルキ……!」

「おいおいおいここに病人がいるんだから静かに開け閉めしろよ」

 

 俺の言葉に続き、親父さんがダクネスに注意する

 

「ララティーナ。何があったか知らんがまずは冷静に」

「お父様は黙っていてください」

「はい……」

 

 ダクネスに睨まれた親父さんは、頭まで布団を被って丸くなった。

 

「いいかハルキ、良く聞け!この件は貴族同士の話だ。お前の様な庶民はこんなドロドロした事に首を突っ込まず、工房に籠って汗水垂らして働いていろ!」

 

 瞬間、俺の中で何かがキレる音がした。

 

「もういいだろ、借金なんて!そんなもん無視してどっか逃げちまおうぜ!?それで、新しい土地で皆でやり直せばいいだろうが!それに、お前も分かってるんだろうな!?このまま俺が何もしないで屋敷に帰ったら、和真達が絶対に何かやらかすぞ!お前の結婚式当日には、式場が更地になってるかもな!」

「やれるものならやってみろ!その時はお前を主犯としてひっ捕らえ、牢屋にぶちこんでやる!それが嫌なら、4人を引き止めておけ!私は逃げない!私が逃げれば、その分何処かにとばっちりがいくのだ!……そして、その話とは別に……!」

 

 ダクネスが、言いながら俺に向かって駆け出した。

 嫁に行く前に、最後の決着を付けておくつもりらしい!

 やられるわけにはいかないので踵を返し、窓に向かって駆け出した。

 

「この分からず屋の頑固者が!もういい、勝手にしろっ!後で泣きを見ても知らねえからな!」

 

 俺はそんな言葉を残して、窓に体当たりを……!

 

「助けて欲しくなったら、いつでも屋敷に謝りに来い!心配かけてごめんなさい、私は皆さんの助けが必要ですってな!」

 

 窓ガラスを突き破り、俺はそのまま地面へと落下する。

 肩口から受け身を取って立ち上がり、騒ぎを聞きつけてこちらに駆けて来る守衛から逃げるために柵をよじ登り……!

 

「こっちに来るなー!持ち場に戻れー!」

 

 守衛の顔面に悪臭を放つポーションを瓶ごと投げつけたり、煙玉で視界を遮るなどしつつ、屋敷へと帰って行った。

 

 

 

 

「まだ痛むな……アクアー!ヒールかけてくれ!」

 

 俺は屋敷に帰り着くと、広間のソファーでうとうとしながら、卵を温めているアクアに近付く。

 ダクネスも和真達に顔を合わせ辛いのか、屋敷にまでは追ってこなかった。

 

「ふあ?……ちょっとハルキ!何があったの!?治療費にどんな馬鹿な事したのか教えなさいよ!」

 

 アクアが興味津々に、俺にヒールをかけてくる。

 その騒ぎに、今まで起きていたのか和真達もやって来た。

 

「ハルキ、お帰りなさい。それで、目的は果たせましたか?ダクネスからはなんと?」

 

 めぐみんにダクネスの事を聞かれただけで、無性にモヤモヤとイライラがこみ上げてくる。

 俺は自室から着替えをいくつか見繕い、鞄にねじ込んでいく。

 

「ダクネスの家には借金があるんだと!それで、あの領主と結婚すれば借金がチャラになるんだとさ!」

 

 借金という単語を聞き、皆が財布を取り出して頭を抱える。仮にも大貴族であるダクネスが身を捧げなければならないほどの借金だ。

 俺達の金を集めた所で、どうにもならない金額なのは明らかだ。

 そんな4人に背を向け、俺は荷物を持って玄関に向かう。

 

「あいつが決めた事だから、もうほっとけ!俺はあいつが泣いて謝って頼んでくるまで何もしないからな!」

 

 と、和真が、そんな俺に向けて言ってきた。

 

「兄さん!拗ねてる場合じゃないだろ!ダクネスが嫁に行っちまうんだぞ!?本当にこれでいいのかよ!?」

「それはあの頑固者に言ってこい!俺はもう知らん!」

 

 俺はそれだけ言い残し、屋敷を飛び出した。




あと3回で億千万の花嫁編終了(予定)


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38話

 兄さんが屋敷を飛び出してから、街は連日お祭り騒ぎだ。

 ケチで知られているあの領主が、街に少なくない金を出し、大々的に結婚のムードを作っているらしい。

 まるで途中で心変わりなどさせないと言うように、外堀を埋めていく勢いだ。

 そして結婚の日取りも決まり、式は1週間後に行われると発表された。

 結婚式まであと6日。

 

「ごめんください。サトウカズマ様はいらっしゃいますか?」

「はーい、いらっしゃいますよー」

 

 玄関に行ってみると、そこにはダスティネス家の執事のハーゲンさんが手紙のようなものを持って立っていた。

 

「何か御用でしょうか?」

「ええ。実は当家のポストに毎日このような手紙が投函されまして……」

 

 手紙の内容は要約すると、結婚式当日に式場であるエリス教会を魔王軍幹部が爆裂魔法で破壊するという情報を得たので、中止にしなさい。といった内容。差出人の親切な魔法使いという名と、爆裂魔法という単語で俺は全てを察した。

 そしてハーゲンさんに深々と頭を下げた。

 

「すいませんでした!あの馬鹿は、ちゃんと叱っておきますので!」

「い、いえ。これがエスカレートして領主様のもとに送られますと問題になりますので、そうなる前に伺った次第でして」

 

 用件は済んだのか、屋敷を出ていくハーゲンを見送った後、俺はめぐみんの部屋のドアを激しくノックする。

 

「めぐみーん!ちょっと話があるから出てこーい!」

 

 

 

 

 結婚式まであと4日。

 

「さあ、続いては!この鞄の中から鞄よりも大きい初心者殺しが飛び出しますよ!」

「ストーップ!」

 

 ダスティネス邸の真ん中で、人混みの中謎の芸を披露するアクアさんを捕まえて羽交い締めにする。当然ながら、アクアさんが手足をバタつかせて抵抗する。

 

「ちょっと離してよゆんゆん!これだけ人が集まっているのに芸を中断なんてできないわ!それに、初心者殺しを捕まえてもらうのに、わざわざ冒険者ギルドに依頼したんだから!」

「私達が目を離してる隙に何をやってるんですか!家の前で迷惑だって苦情が来たんです!さあ、早く帰りましょう!」

「嫌よ!ダクネスが出て来るまで、ここで毎日芸をやるわ!わかったら離して!ほら離して!」

 

 アクアさんと私の攻防は、帰りが遅いからとカズマさんがやってくるまで続いた。

 

 

 

 

 結婚式まであと2日

 

「……ただいま帰りました」

「お帰り。もう馬鹿なことするんじゃないぞ」

 

 帰ってきためぐみんが、玄関先でぐったりしている。

 俺の説教に耳を貸さなかっためぐみんは、とうとう領主の屋敷に脅迫状を送り付けた罪で、今日まで拘置されていた。それもダクネスの家の人の口利きもあって特例で釈放になったが。

 

「気持ちはわかるが、もう少し大人しくしておけよ?お前もアクアも迷惑しか掛けてないからな」

 

 因みにアクアは今日もダクネスの家に向かったようで、今ゆんゆんが連れ戻しに行っている。多少乱暴にしても良いから連れ戻すように言ってあるので、この間のように時間はかからない筈だ。

 

「ただいま帰りました!」

「ちょっとゆんゆん離してよ!痛いんですけど!」

 

 噂をすれば何とやら。アクアの肘を極めながらゆんゆんが帰ってきた。

 

「やはり私やアクアではどうにもなりません。カズマ、ゆんゆん、いい加減結婚の妨害に協力してください!ハルキが使い物にならない以上、私達で何とかしないと!」

 

 めぐみんに言われ、工房で見た兄さんの様子が脳裏に過る。

 つい先日、俺はアクアとめぐみんをゆんゆんに任せて兄さんの様子を見に行ったが、それは酷かった。

 工房の隅に山積みになった何かの試作品と設計図。

 碌に風呂も入っていないのか、体から漂う悪臭に、ボサボサの髪に伸び放題の髭。

 そして工房の中心で兄さんの目は血走り、何かに取り憑かれたように作業に没頭していた。

 俺が来ていることにも気づかず、言っている事にも耳を貸さない姿は見ていられるものじゃなかったので、そのまま帰ってくるしかなかった。

 

「何とかするって言っても具体的に──」

 

 何をするんだと。そうめぐみんに問おうとした時、玄関の扉がノックされた。

 

「はーい」

 

 またハーゲンさんが来たのだろう。そう思って扉を開けるとそこには……。

 

 

 

 

『ハルキ!このジャイアント・アースウォーム討伐はどうだ?こいつなら私を吞み込んでヌルヌルに、いや、こいつが相手なら不器用な私でも剣を当たられると思うのだが!』

 

 無心で槌を振るう俺の頭の中で、ダクネスとの思い出が蘇る。

 

『いいかハルキ。私は騎士であると同時に乙女だ。だから筋肉が硬いと言われたらちょっぴり傷つくし、怒るぞ』

 

 振り払おうと作業に打ち込むが、それに反してダクネスとの思い出が蘇ってくる。

 

『……ああ、ハルキか。いや、実は知り合いに最近結婚した人がいてな。それを理由に父が見合い話を持ち掛けてきたものだから、つい張り手を……』

 

 槌を振るう手を止め、筆を走らせて設計図を描くが、止まらない。

 

『もう嫌だ。ここ最近父が毎日のように見合い話を持って来る。……いっそのこと、ここでお前と既成事実をこさえてそのまま結婚してしまおうか』

 

 その瞬間、俺の手の中で筆が枯れ枝の如くへし折れた。予備の筆を出したところで喉の渇きを覚えた俺は、工房の外にある井戸から水を汲み、口にして一息つく。

 続いて湧き上がる、後悔の念。

 なぜ俺はダクネスに想いを伝えるなり既成事実をこさえるなりしなかったのか。今までも機会は幾らでもあったと言うのに。

 身分の違いか?単純に振られるのが怖かったのか?いや、どれもそうだが一番は……。

 

『パーティーを組むなら、人間関係には気を付けろ。男女関係が拗れて解散したって例があるからな。実際、俺が前にいたパーティーもそれで解散しちまった』

 

 異世界(こっち)に来て間もないころに酒場の冒険者から聞いた、パーティーを組むうえでの助言が頭を過った。

 つまり俺は、あのパーティーの人間関係を壊さないようにと気を遣っていたのか。

 

「それがこのざまか。本末転倒じゃねえか」

 

 自分のこれまでの行いに拳を握りしめ、歯をギリギリと食いしばる。いっそこのまま井戸に身投げしてしまおうか。

 

「これはこれは。あの小僧の言った通り、随分と荒れているな。まるで暴風雨のようだ」

 

 背後から聞こえた声に振り向くと、そこにはタキシードの上にエプロンというミスマッチな格好をしたバニルが立っていた。

 

「何の用だ?」

「おっと、我輩を睨まないで頂こうか。今の貴様を揶揄うような趣味は持ち合わせていないのでな」

 

 いいから質問に答えろと、俺はバニルの喉元にダガーを突きつける。しかしバニルは態度を崩さず続ける。

 

「明後日、貴様の弟の屋敷に戻れ。そこで商談を行うぞ」

「こんな状況で商談をやれってのか?」

「こんな状況だからこそやるのだ。すでに小僧から許可は得ている。あとは、貴様だけだ」

 

 どうする?と、ダガーが刺さるのもお構いなしにバニルは1歩近づいてくる。

 

「……それでダクネスを救えるんだろうな?」

 

 ダガーを引っ込めて問いかけると、バニルは口の端を吊り上げる。

 

「うむ。それどころか、貴様の努力で全てが救われるぞ!」

 

 芝居がかったバニルの回答を俺は訝しんだ。だが、今の俺にできることといえば、願いを叶える代償に相応の対価を要求する、目の前の悪魔(バニル)を頼るくらい。

 

「……わかったよ」

「宜しい。では、貴様の努力が報われる日を待っているがよい」



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39話

 とうとう迎えた、ダクネスの結婚式当日。

 結局今日まで、ダクネスは俺達を頼って来なかった。

 

「カズマ、行きますよ!そして式をぶっ潰してやりましょう!うっかり口が滑って魔法が飛んで式場が更地になったり、うっかり口が滑って魔法が飛んで領主邸が更地になるなんて良くあることですから、何も問題ありません!ハルキも吞気に髭を剃ってないで行きましょう!今こそ2人があの巨人に変身する時です!」

「娘が借金の次に前科を背負ったと知ったら、故郷(くに)のご両親は泣くだろうな」

 

 バニルと約束した通り屋敷に帰ってきた俺は和真とゆんゆんに風呂場に放り込まれ、体を隅々まで洗って髭も剃ってスッキリしてこいと怒られた。

 広間のテーブルには、俺が今日まで作り続けてきた商品の設計図や試作品、日本から持ち込んだ知識のうち役立つものを分かりやすく書いた書類が並べられている。

 めぐみんは俺を見て、悔しそうな顔で杖を握りしめながら声を荒げた。

 

「ハルキは!ダクネスとあの領主が結婚しても良いんですか!?ダクネスが、あの領主に隙にされても良いんですか!?」

「良いわけねえだろ!」

 

 俺は思わずめぐみんに怒鳴り返した。

 いきなりの俺の罵声に驚いためぐみんは、少しだけたじろいで動きを止める。

 

「俺だってあんな奴にダクネスを渡したかねえよ!外見はどうでもいいが、悪評しかないからな!お前達は知らないだろうがな!あのおっさんは目についた可愛い娘や良い娘はどんな手でも使って物にして、飽きたら少ない手切れ金渡して捨ててるんだと!それ以外にも不当な搾取だの贈収賄だのやっといて決定的な証拠がないから、今も領主の座にいるんだよ!」

「す、すいません。あの領主の事を知っていたんですね……」

 

 今言った通り、あの領主の悪事には物証もなく、被害者達も頑なに口を閉ざすから国もあのおっさんを持て余していた。

 そこで、おっさんの悪事の決定的な証拠を得るために、お目付け役として派遣されたのがダクネスの親父さんだった。

 めぐみんが、杖をぎゅっと握りしめ。

 

「なら、なおさら放っておけないでしょう!?そもそも、ハルキがダクネスに手を出していれば、相手がいるからとあの領主に取られることもなかったんじゃないんですか!?だってハルキは」

「ああそうだよ!ダクネスの事が好きだよ!」

 

 めぐみんの言葉を遮るように、俺は答えた。更に畳み掛けるように続ける。

 

「でも言えるわけないだろ!身分の違いもあるし!俺とダクネスの関係が拗れてパーティーに悪影響及ぼして、解散したり全滅したりなんてしたくねえんだよ!いつもお前達は好き勝手言ってたけどな、こっちはパーティーの人間関係に気を遣っててそれどころじゃねえんだ!」

 

 今まで言えなかった文句を言ってやると、めぐみんは俺の目の前にやってきた。そして右手を振り上げて。

 

「お、おい、めぐみん!」

 

 和真の言葉から一拍遅れて、頬を叩かれる感触と音が広間に響いた。

 

「それでこんな事態を招くくらいなら、私達の言う通りにするべきでしたね。このヘタレ」

 

 めぐみんはゴミを見るような目で俺を一瞥すると、スタスタと屋敷を出て行った。遅れて、ゆんゆんが俺達に頭を下げてめぐみんの後を追った。

 

「……お前はめぐみんと一緒に行かないのか?」

「めぐみんにはゆんゆんがついて行ったし、今の兄さんを1人になんてできないよ」

 

 広間に残ったのは、俺と和真の2人だけ。アクアは来客中で、2階の自室で何か話しているらしい。そして俺と和真が何をするわけでもなく、椅子に座っていること数分。そいつは玄関の扉を開けて入ってきた。

 

「待たせたな、我が親愛なるビジネスパートナーよ!契約は絶対守ることで有名な我輩が来た!さあ、貴様の持てる知識の数々を見せて貰おう!」

 

 

 

 

 鬱屈とした空気をぶち壊すように、ハイテンションなバニルがやってきた。

 

「お前、少しは空気読めよ」

「おっと、これは失敬」

 

 和真に言われたバニルは俺の顔を見ると、肩を竦めてテーブルの上の物を見渡す。するとバニルはその中の書類をいくつか取り出し。和真に突き出す。

 

「小僧。我輩が見通したところ、これらは貴様のものであるな?」

「……」

 

 和真はそっとバニルから目を逸らして明後日の方向を見る。しかしバニルはお構いなしに続ける。

 

「小僧。大切な兄と、その想い人のためを思っての行動を我輩は評価しよう。だが、今回の商談の相手はあくまで貴様の兄である。故に、これは貴様の懐で温めておくがよい。我輩も、これについては見なかったことにする」

「……わかったよ」

 

 和真はバニルから書類を受け取ると、懐にしまった。それを見たバニルはうむと頷くと、試作品や設計図の数々、様々な財産権の所有証明書を、碌に確認もせず大きな鞄に詰めていった。但し、爆弾と火薬の設計図はいらないと返却された。

 

「さて。では商談の前に話をしようか。お題は、領主と鎧娘についてだ」

 

 バニルの言葉を聞き、俺と和真は表情を引き締める。

 

「おお、丁度良いところに現れたな。数少ない信者から頼りにしてもらえない哀れな駄女神よ。汝もそこに座るがよい」

「ほーん?清く正しく美しく頼りになる水の女神であるこの私をそう呼ぶなんて、よっぽど浄化されたいみたいね!お望み通りやってやろうじゃないの!」

 

 話が終わって2階から降りてきたのだろう、アクアを見つけたバニルが、手招きして座るように促す。ただ、バニルが余計な事を言ったせいで、喧嘩になりそうだ。

 

「おいバニル、喧嘩なら後で他所でやってくれ。アクアも大人しく座れ。兄さんを見ろよ、お前らがこれ以上余計な事したら斬りかかりそうな眼で睨んでるぞ」

 

 和真に言われて俺の顔を見たアクアが小さい悲鳴とともにそそくさと椅子に座った。

 

「さて、では改めて話すとしよう。何故あの鎧娘は借金をすることになったのか。それは貴様ら冒険者達が機動要塞デストロイヤーを討伐したことだ」

 

 世間話でもするように、バニルは始めた。

 

「今までの街ならば、デストロイヤーにより蹂躙され、領主は土地を失うものだ。街の住人は焼け出され、領地を失った領主も貴族も責任を取らされ、皆仲良く路頭に迷う。だが、この街はそうはならなかった」

「良い事じゃないか」

「うむ。確かに街は守られた。だが、街に至るまでの穀倉地帯や治水施設などは蹂躙されてしまった。当然、農業に携わっていた者達は穀倉地帯を荒らされ、仕事と財産を失った。荒らされた穀倉地帯はそう簡単には復興しない。そこで、その者達は領主に助けを求めたのだ」

 

 領主という単語が出た瞬間、嫌な予感しかしなかった。それを見透かしたのか、バニルはニヤリと笑う。

 

「貴様の想像通り、あの領主は助けを求めた人々にこう言った。『命が助かっただけでも儲けものだろう、贅沢を言うな。文句なら穀倉地帯を守り切れなかった冒険者達に言うといい』とな」

 

 酷い話だ。悪代官ですらそこまで言わないぞ。

 

「今回の件は、領主の責務を放棄したあの男以外、誰も悪くないかもしれぬ。冒険者達は充分以上に健闘したことは紛れもない事実だ。だが被害に遭った住人達もこのままでは路頭に迷ってしまう。そんな彼らが頼れるのは誰だ?」

「……ダスティネス家か」

「その通り!そして彼らはこう言った。『一介の冒険者が洪水で壊した建物の弁償金。その大半を負担した、慈悲に溢れるダスティネス様。どうか我らにもお情けを』……とな」

 

 洪水で壊した建物?

 

「バニル。その洪水で壊した建物ってのは、ベルディアとの戦いでアクアがやった事か?」

「うむ。まさかと思うが、貴様らが負った借金程度の弁償金で済むと思っていたのか?年中自然災害のバーゲンセールをやっているような国で生まれ育っておきながら」

 

 バニルの指摘を受け、俺は口を閉ざした。

 

「ダスティネス家は、屋敷を除く保有資産の大半を、建物の弁償金に充てた。そしてその時に資産の大半を失ったダスティネス家の鎧娘は、それでもデストロイヤーに蹂躙された者達を助けようと、責務を放棄した領主に頭を下げ、金を借りたわけだ」

 

 あの女、何勝手な事をしてくれたんだ。

 

「金を貸すのを渋る領主に、こういう条件付きでな。『もし、ダスティネス家の当主に何かが起こり、返済が困難になった場合には、担保としてその身体で』」

 

 バニルの言葉は、俺がテーブルを殴りつけた音で遮られた。

 それにビクッとなったアクアが俺の手を取り、回復魔法をかける。殴りつけた辺りには、手からにじみ出た血が付着していた。

 これで全てが繋がった。

 以前屋敷に訪れた執事は、領主からの使者だったのだろう。

 ダクネスの親父さんが体を壊した事を知り、借金の催促をしたんだ。

 それでアイツは借金を何とかするためにヒュドラを討伐すると言い出したり、俺達銀髪盗賊団に掛けられた賞金の額に目の色を変えたんだ。

 だけど、アイツを心配して集まってくれた冒険者達の姿を見て、これ以上は迷惑を掛けられないと、色々なものが吹っ切れてしまったのだろう……。

 

「ダクネスの借金の額は幾らだ?」

 

 俺が訊ねると、待ってましたと言わんばかりにバニルは用意した鞄を取り出し。

 

「お客様の持つ資産にこの鞄の中身を合わせますと、ちょうど借金と同額となります。……では、商談を始めようか!」

 

 

 

 

『何でもは知らないよ。ただ知っている事を知っているだけだ』

 

 知っていて当然の知識を興味がないからと知らないくせに、誰も知らない変わった知識を持っている男。

 

『あーもう面倒だからさっさと仕留めるか。いくぞ、ダクネス』

 

 基本的に慎重でありながら、いざという時は思い切った行動をする男。

 

『お前、随分可愛らしい名前してたんだな』

 

 私が貴族であることを明かしても、貴族であることよりも、私の本名に興味を示す変な男。

 その変な男と一線を超えようとした私も、きっと相当変な女なのだろう。

 式の会場であるエリス教会。ヴァージンロードを一歩歩くたびに、今までの楽しかった冒険の日々が蘇る。

 私が借金をした理由を知ったら、皆はどんな反応をするだろう?

 めぐみんとゆんゆんは怒るだろう。

 カズマは2人を宥め、私に容赦のない口撃をするだろう。

 アクアは訳も分からず泣いてしまうかもしれない。

 クリスは不貞腐れて暫く口を聞いてくれないだろう。

 アイツの場合は、説教を長々とした後、罰として私が嫌がるような事を実行に移すだろう。

 貴族として生まれた私は今まで、気の置けない仲間と共に過ごすことを許されてきた。

 だが、それも終わりだ。今度は、私が皆に恩返しする番だ。

 領主がこの身に色ボケしている間に、必ず奴の悪事の証拠を見つけだし、裁きを下す。

 たとえそれが何年掛かっても、仲間との思い出と、屋敷からこっそり持ち出したアイツのハンカチがあれば耐えられる。

 ……だというのに、無性にこの場から逃げ出したい衝動が湧き出ている。

 回れ右をして駆け出し、止めに来るであろう者達を吹き飛ばし、何もかも捨ててアイツの下に戻りたい。

 そんな事をすれば、他の者に領主の魔の手が伸びるのはわかっている。それを防ぐために私は今ここに来ている。

 そして、私は誓いの祭壇に着いた。

 待っていてくれ、皆。全てカタが付いたら……

 

「えー、汝、ダクネスはー。この熊と豚を足したようなおじさんと結婚し、神である私の定めに逆らい、流されるままに夫婦になろうとしています。貴女は、その健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、おじさんを愛し、おじさんを敬い、おじさんを慰め、おじさんを助け、その命の限り、堅く節操を守ることを約束しますか?出来ないでしょう?だから私達はハルキとくっつけって口を酸っぱくして言ったのに、ダクネスったら頭が堅くて困った娘ねー。どうせならアクシズ教に改宗しない?アクシズ教は愛があり犯罪でなければ全てが許されるわよ?例えば、身分違いの恋とか」

 

 その場違いな発言に、会場内が騒めいた。

 顔を上げて祭壇を見ると、アクアが私に手を振っていた。

 

「お、お前は!ワシの屋敷に来て散々迷惑を掛けていったあの女!何を!一体ここで何をしている!?」

 

 領主の罵声が響く中。

 今度は教会の扉が何者かによって蹴破られた。

 

「おいアクア!お前、今そのおっさんの事を『熊と豚を足したような』って言ってたが、それは良くないな」

 

 音のした方を向いてみれば。黒スーツに身を包み、鞄を手に持ったアイツは革靴の音を鳴らして教会に入り込み。

 

「熊と豚に失礼だろ?」

 

 領主に対して凄まじい罵倒の言葉を叩きつけた。




原作でクリスについてダクネスが何も言わなかったのは個人的におかしいと思ったので、足しました


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40話

 熊と豚に失礼。

 兄さんが口にしたその言葉に、教会周辺に集まっていた野次馬達がゲラゲラと笑う。教会内の参列者は何という事をとざわつき、アクアはそれもそうかと納得したように手を鳴らす。そして領主のおっさんは、怒りに顔を真っ黒にし、激しく歯ぎしりする。

 あ、どうも。佐藤和真です。俺は今、野次馬達に混ざって一部始終を見守っています。

 

「なんだと!お前、ワシの式に乱入した挙句罵倒しおって!何をしに来た!」

 

 領主のおっさんが吠えると、おっさんの部下達が兄さんを取り押さえようと取り囲む。

 囲まれた兄さんが腕を軽く振ると、大量の武器が現れた。

 袖口から顔を出す抜き身の刀や剣。

 背中には薙刀などの長物を背負い。

 ベルトに腰蓑のようにぶら下がっているホルスターに入った、色んな形状のナイフ。

 

「……やるか?」

 

 兄さんの舐めまわすような目線と武器の数々に恐れをなした部下達は距離を取る。

 そして兄さんは武器を収納して2人に近づくと言った。

 

「ダスティネス・フォード・ララティーナを返してもらおうか。彼女は俺の女だ」

 

 それを聞き、野次馬達は固唾を飲んで兄さんを見守る。一方の領主は、兄さんの言葉を鼻で笑い。

 

「寝言は寝てから言うんだな、この冴えない鍛冶師風情が!ララティーナはお前の女になどならな」

『アルダープ様!?』

 

 おっさんの言葉を、ダクネスが遮った。おっさんはダクネスに突き飛ばされて壁を貫き、こっちに尻を向けた壁尻状態になり動かなくなった。……『聞き耳』を使ってみれば心音が聞こえるから、死んではいないようだ。

 そしてダクネスは被っていたヴェールを脱ぎ捨てると……。

 

「キャーッ!ダクネスったら大たーん!」

 

 何が起きたか詳しくは言わない。ただ、ダクネスが兄さんの首に腕を回して抱きついていたこと。兄さんが空いてる手でダクネスを抱き寄せていたことだけは言っておこう。

 

「……じゃあそういうわけで、ララティーナは貰っていく。じゃあな」

 

 何をとは言わないが堪能したのか、兄さんはダクネスの手を取ってこっちを向く。

 しかし、復活したアルダープのおっさんはダクネスを指さし。

 

「待て待て待て!!!お前は知らんだろうが、お前の大好きなララティーナはワシに膨大な負債があるのだ!それもお前のような貧乏人が一生掛けても返せない額のな!そんなにその女が欲しいのなら、まずは金を用意してこい!この貧乏人めが!」

「空気読めや馬鹿野郎!」

『そうだそうだ!』

「引くこと覚えろこの敗北者が!」

『そうだそうだ!』

 

 おっさんの発言にブチ切れた野次馬達からブーイングが飛ぶ。

 領主の売り言葉を聞いた兄さんは、ブーイングの嵐の中で持っていた鞄を掲げて言った。

 

「しっかり聞いたぞ、約束は守れよ!ララティーナが借りた20億エリス!1枚百万のエリス魔銀貨で2千枚がこの中に入ってる!こんなはした金、欲しけりゃくれてやるよ!」

 

 そして鞄の口を開けると、中身の金をおっさんの足元にぶちまけた!

 ぶちまけたということは当然ながら……。

 

「ああっ!?に、20億!?ああっ、待てっ、ララティーナを!ワシのララティーナを……ああっ金がっ!拾ってくれ!おい、拾ってくれ!」

 

 おっさんは慌てて金を拾い始めた。

 周りの参列者達も慌てて拾い始めている。

 協力しているように見えるが、ちゃっかりくすねている奴も何人かいたようだ。

 その隙に兄さんが動こうとすると、ダクネスがあの金はどうやって用意したのか訊ねた。兄さんが自分の貯蓄と知識と権利を金に換えてきたと答えると、ダクネスは腰が砕けたようにへたり込んでしまった。

 

「ああもう、しょうがねえな!」

 

 兄さんはへたり込んだダクネスをお姫様抱っこの形で抱きかかえ、俺達のいる教会入り口目掛けて駆け出した。

 しかし、再び兄さんを取り囲む領主の部下達。そこへ──。

 

「おい、その連中は後回しだ!それよりお前達も、こっちに来てワシの金を拾うのだ!!」

「は?ははっ!了解しました!」

 

 領主の指示を受けた部下達はおっさんの下へ駆け寄るが、おっさんは何も言っていないと言った。

 どういうことかと混乱する部下達と、渾身のドヤ顔をこちらに向けてくるアクア。芸達者になる魔法でおっさんの声を模倣したのだろうか。良くやったとサムズアップすると、アクアは小さくガッツポーズする。

 そして混乱が収まったのか、領主の部下達が兄さん達を再び追いかけ始める。

 

「『パラライズ』ッ!」

 

 聞き覚えのある声が野次馬達の中から響き、部下達の動きを止める。

 一拍置いて、2人の人影が教会入り口に立つ。

 野次馬達はこれから起きる事を期待するように2人を見守り、領主の部下達は怯えるように距離を取る。

 

「我こそは頭のおかしい爆裂娘!仲間の恋路を邪魔する不届き者を成敗しに参りました!」

 

 めぐみんの名乗りを聞き、教会の参列者と領主の部下はパニックになりながらも、彼女の一挙手一投足に注目していた。

 

「この街に住んでいるのなら、この杖の先の魔法が何かご存知ですね?先に言っておくと、この魔法は制御するのにかなりの集中力を必要とします。……突然不意を突かれて制御を失えば魔法が暴発し、この辺りが更地になります。掛かってくるのなら、そこら辺をよく注意してください」

 

 ここに来る前に詠唱を済ませていつでも撃てる状態にしたのか、めぐみんがそんな事を言った。

 と、隣に立っていたゆんゆんが兄さん達を指さす。

 

「ね、ねえめぐみん。ハルキさんとダクネスさんが……」

 

 ダクネスを抱きかかえた兄さんを見て、めぐみんはやれやれですと肩を竦めて首を振った。

 そして兄さん達の逃げ道を作るように、杖を教会内に向ける。

 それを見ただけで、領主の部下は慌てて参列席へと逃げて行った。

 その隙に兄さん達3人がめぐみんの下へと駆け寄ると……。

 

「な、何を怖気づいている馬鹿者がっ!あんなものはハッタリに決まって」

「アルダープ様!挑発するような言葉はお止めください!」

 

 領主の口を部下達が大急ぎで塞いで黙らせた。

 というか、いくらめぐみんでもここで爆裂魔法を撃つようなことはしない……筈だ。

 

「ありがとう、助かった」

「まったくハルキは、あのカズマの兄なだけあって最後はやらかすと思っていましたが……。まさか先を越されるとは思いませんでしたよ」

 

 ああ言っているめぐみんだが、口調からしてとても満足そうだ。

 

「めぐみん!それに、ゆんゆんまで!帰ったら……、話は、帰ってから……っ!帰ってから礼を……っ!」

 

 感極まっているのか、ちゃんと喋れないダクネスにゆんゆんは力強く言う。

 

「水臭い事を言わないでください。だって、私達は仲間じゃないですか!」

 

 そんなことをしている間にも、領主の部下達は兄さん達を包囲しようと距離をじわじわと詰める。めぐみんの導火線に火が点いている状態だから飛び掛かってくることはないかもしれないが、教会を出ると同時にもしかしたら……。

 

「おい、そこの野次馬達!そこにおるのは犯罪者だ!そいつらからワシの花嫁を取り返してくれ!そうしたら多額の報酬を払ってやる!なんなら、ワシの屋敷で守衛として雇ってやるぞ!」

 

 領主の言葉に、俺を始めとした冒険者達は顔を見合わせ……。

 

「お、おい、聞いているのかお前達!報酬を出す!いくら欲しいんだ!」

 

 明後日の方向を見て口笛を吹いたり、大欠伸をしたりして聞こえないふりをしてやることにした。誰がお前の言う事なんぞ聞くか。

 

「おいララティーナ。お前が1人でヒュドラ討伐するとか言ってた時みたいに、お前が自分勝手に嫁に行こうとしたのに、これだけの人数の連中が、お前を見逃して助けようとしてくれてんだ。少しはその堅い頭を柔らかくして、反省しろよ?」

 

 兄さんの言葉にララティーナは嬉しそうに頬を染め、軽く涙ぐんで頷く。

 涙腺に来た俺はハンカチを懐から取り出し、涙を拭こうと──。

 

「カズマ、大変です!そろそろ魔法の維持の限界が近いです!もう撃ってもいいですか?どの道私達は犯罪者です!ここで盛大に撃っちゃっても構いませんね?」

 

 涙が引っ込んだ。

 突然そんな事を言い出しためぐみんに、周囲の人間がぎょっとした。

 

「ああ、もう駄目です、維持できません!皆、私から離れて逃げてください!」

 

 これがめぐみん以外の魔法使いの言葉なら、ハッタリか何かと捉えるだろう。

 だが、既にめぐみんの事をよく知っている周りの連中は、真っ青な顔をしてその場から逃げ出した。

 俺も咄嗟に頭を抱えて丸くなると……!

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 めぐみんが、爆裂魔法を空に向けて打ち上げた。

 凄まじい轟音と共に空中に閃光が奔り、衝撃波が広がる。

 街中の硝子が罅割れ、辺りの人々は頭を抱えて地に伏せた。

 

「さあ、今の内……に……」

 

 魔力を使い果たしためぐみんは、ゆんゆんに支えられながら兄さんの方を見て、声のトーンを落としていく。

 ダクネスを爆風から守ろうとしたのだろう、兄さんがダクネスを押し倒していた。押し倒されたダクネスは顔を真っ赤にして兄さんの顔を見つめている。兄さんも良く見ると耳が真っ赤だ。

 

「ねえハルキ、流石にこの状況でダクネスを押し倒すのはどうかと思うの」

「ア、アクアさん。ハルキさんはダクネスさんを守ろうとやっただけで下心は無いと思います!」

 

 おっと、周囲で伏せていた見物客の皆さんが生暖かい目で2人を見てらっしゃる。

 兄さんは周囲の視線に気づいたのか跳ね起きると、ダクネスの手を取って領主の部下の囲みを突破しようとするが……。

 

「爆裂魔法は1日1回しか撃てないはずだ!今の内に取り押さえろ!」

 

 めぐみんが魔法を使ったため、領主の部下達が躊躇なくこちらに向かって駆け出した。

 ゆんゆんはめぐみんをアクアに預けて構える。

 

「ここは私に任せて、皆さんは先に行ってください!後で合流します!」

 

 ワンドと短剣を構えるゆんゆんを見て、領主の部下達は警戒の色を浮かべている。

 

「紅魔族とはいえ魔法使いの女1人だ!魔法を完成させる前に取り押さえろ!」

 

 そんな領主の部下の声が聞こえたので、俺と近くにいたダスト、キースは目配せをして。

 

「痛ええええええっ!いきなり押されてっ!ぐああああっ、骨がっ!骨があああっ!」

「おい大丈夫かカズマ!しっかりしろ!」

「……こいつぁ酷え。倒れた拍子に、骨が木っ端微塵に粉砕骨折してやがる!」

 

 俺は領主の部下にわざとぶつかって地面を転がり、痛がる演技をする。

 

「なっ!?触れただけで何を大げさな!いきなり飛び出したのはその男だし、自分から転んだではないか!ちょっ、折れてるとか言ってたくせに、なぜ俺の足が掴めええええ!?」

 

 俺は足首を掴み、『ドレインタッチ』で体力を吸い取る。いきなりの感覚に領主の部下はバランスを崩し、体勢を立て直そうとして。

 

「痛っ!てめえ、良くもやりやがったな!やってやろうじゃねえかこの野郎!」

「ちょっ、待てッ、やめっ!?」

「やっちまえ!」

「おい、俺も混ぜろ混ぜろ!」

「前からあの領主気に入らなかったんだ!」

 

 あっと言う間に野次馬冒険者達が領主の部下達を取り囲み、袋叩きにする。人混みから抜けた俺はゆんゆんを連れて兄さん達と合流し、走り出した。

 ほとぼりが冷めたら、あいつらに酒でも奢ってやろうとか考えながら。

 

 

 

 

 場所は変わり、ダスティネス邸。

 ダクネスと兄さん、アクアを屋敷内に残し、俺とめぐみん、ゆんゆんの3人は中庭に来ていた。

 ダクネスの親父さんは物凄く衰弱していた。おそらく、もう長くは保たないだろう。場の空気を読んだ俺達は兄さんとダクネスとアクアを部屋に残してきた。

 

「良かったんですか?あのままダクネスが領主の所に嫁入りすれば、貴女はハルキを手に入れることができたんですよ?」

 

 めぐみんが、ゆんゆんの方を向いてそんな事を言った。

 

「お前何を言ってむぐっ」

「どうなんですか?」

 

 めぐみんを黙らせようとしたら、顔にちょむすけを押し付けられた。

 ゆんゆんはめぐみんの言葉を聞くと、暫く考え……。

 

「多分。私って一人っ子だから、兄弟姉妹を何処かで欲してたんだと思う。だから、これで良いの」

「そうなんですか?だって貴女は、ハルキのことを……」

 

 そこから先の言葉を、ゆんゆんは首を横に振って止めさせる。

 

「ハルキさんを先に好きになったのはダクネスさんで、ハルキさんもダクネスさんの事が好き。それだけの事よ」

 

 ゆんゆんはそう言うと、空を見上げる。そしてめぐみんは背伸びをして、ゆんゆんに自分の帽子を被せる。

 

「なら、笑顔で2人を祝福してあげてください。今の酷い顔で言われても、2人が困惑するだけですよ」

「……うん……」

 

 声を震わせながら、ゆんゆんは帽子の鍔を掴んで顔を隠す。

 ドラマのワンシーンのような目の前の光景が涙腺に来た俺は、懐からハンカチを取り出して涙を拭こうと──。

 

「っ!?」

 

 突然感じた凄まじい魔力に、涙が引っ込んだ。

 何事かと俺は屋敷の方を向き、『聞き耳』を使う。

 

『呪いよ!このおじさん、かなりの悪魔にすんごい呪いを掛けられていたから、私の力でサクッと解除してあげたわ!』

 

 どうやら、空気を読まず部屋に残っていたアクアが魔法を使ったようだ。

 

『これでもう大丈夫よ!ダクネス、良かったわね!ダクネスのお父さんも、何度でもお母さんの話をしてあげてね!』

「カズマカズマ。今の魔力はアクアのものですよね?一体何が起きたのですか?」

 

 めぐみんとゆんゆんが俺に状況の説明を求めてきた。何が起きたか、一言で分かり易くまとめて言えば……。

 

「アクアが感動に水を差しやがった」

 

 良い話だと思ったのになー……。

 

 

 

 

 ダクネスを拉致ってきた次の日。

 

「領主が失踪?」

「ああ。なぜか今日になって領主の不正や悪事の証拠がこれでもかと湧いて出てな。王都でアイリス様に体を入れ替える神器を贈ったのも、領主だったらしい。それで検察が屋敷に行ってみたが、何処を探しても見当たらないそうだ」

 

 ──なるほど。

 

「……そんなわけで、もう夜逃げをする必要はないから、その荷物を戻してくるといい」

 

 俺達はダクネスの呆れたような言葉に、背負っていた荷物を自室に戻しに行った。

 色々なほとぼりが冷めるまで、何処か遠くに行って農業でも始めようかと思っていたんだが。玄関に戻ると、屋敷に入ったダクネスと目が合ったので反射的に目を逸らす。

 

「まあ、それなら一安心ですね。で、どうしてダクネスとハルキは若干気まずい空気になっているんですか?」

 

 気まずいとは失敬な。ちょっと恥ずかしくて目を合わせられないだけだ。

 

「アクアさん。昨日は何があったんですか?私とめぐみんは途中からだったので知らないことが多々あるんですけど」

「そういえばそうだったわね。まずは」

「「ぬおあああ!」」

 

 俺とダクネスがアクアの口を塞ごうとすると、和真達がアクアを守るように俺達の腰にしがみつく。

 

「さあ、アクア!最初から言ってやれ!」

「わかったわ!まず私がおじさんとの結婚は止めてハルキと結婚しなさいとダクネスに言ったの。そしたらハルキが教会のドアを蹴破って、突入してきたのよ。式の邪魔をされてキレたおじさんに『何の用だ!』って言われたハルキはこう言ったのよ!『ダスティネス・フォード・ララティーナを返してもらおうか。彼女は俺の女だ』ってね!」

「アクア!俺達に筋力増加の支援魔法を頼む!続きはそれからで!」

 

 じわじわとアクアに近付いたため、和真達は支援魔法を受けて俺達を押し返そうと抵抗する。

 

「続けるわね。それを聞いて鼻で笑ったおじさんをダクネスが突き飛ばして、自分でヴェールを脱ぎ捨てて……!」

「「脱ぎ捨てて?」」

「ハルキにキスしたのよ!」

「「ええっ!?」」

「「ああああああああ!」」

 

 隠し通したかった事実がアクアの口から出てしまった。

 俺とダクネスは膝から崩れ落ち、顔を両手で覆う。あいつらをぶん殴って今アクアが言った事を記憶から消去してやろうか。いや、そもそも昨日の出来事をあいつらの記憶から……。

 

「アクア。それだけじゃないでしょう?」

「勿論!ハルキがダクネスを連れて教会を出ようとしたら、おじさんが『ララティーナが欲しけりゃ金を出せ!』って空気を読まない発言をして、野次馬の皆がブチ切れたの。それで言われたハルキは持ってきていた鞄を掲げて答えました!『こんなはした金、欲しけりゃくれてやるよ!』と!」

「「おおっ!」」

 

 指の間からちらりと見てみると、めぐみんが俺とダクネスをにやけ顔で交互に見ていて、ゆんゆんは感動のあまり涙で顔がびしょ濡れになっていた。

 

「そ、そうだ!金と言えばハルキ、お前が私の代わりに払ってくれた金だが、父の体調が回復し次第、領主から没収した財産を計算し、それらの補填が行われるというのを言い忘れていた」

「……マジで?」

「ああ。今回用立てて貰った20億。そして領主の屋敷の弁償の金や、建物を破壊した金なんかも返ってくる。なにせ、この街を守る過程で発生した賠償金だからな」

「……20億……20億だと……!?」

 

 なんてこった。場の勢いとはいえ、はした金と称したあの大金が戻ってきて、一気に大金持ちになってしまうのか。

 あれ?でもそれだけの大金が来たら税務署に目を付けられるんじゃね?……今度窓口で聞いてこよう。

 いや、それよりも俺以外に金を受け取るべき相手がこの場にいるじゃないか。

 

「なあ和真。お前にもいくらか分けようか?もともと賠償金を請求されたのはお前なんだし」

「いやいや。あれは兄さんが用意した金だから、そっくりそのまま兄さんの懐にしまってよ。俺はバニルとの商談で金が貰えるからさ」

「まあそう言わずに。10億ずつ、平等に半分に分けようじゃないか」

「お構いなく」

「……本当にいいんだな?後で金を分けろとか言っても知らないぞ?」

「男に二言はない!」

 

 ふんす。と和真が胸を張る。

 よし言質はとった。後は、金が返ってきたら税務署に行って……。

 

「それはそうと、いい加減ハルキとダクネスは目を合わせてもいいんじゃないですか?ほら」

 

 予定を頭の中で組んでいるとめぐみんが俺の肩に飛び乗り、顔の向きを変えようとしてくる。

 全力で俺が抵抗していると、和真がぼそりと言った。

 

「……もしかして兄さん。ダクネスにちゃんと告白したいから、昨日の出来事をなかったことにしようとしてる?」

「……」

 

 和真に指摘された俺は黙り、明後日の方向を見る。

 

「……じゃあ、俺はめぐみんとの爆裂散歩があるから。ちょっくら出かけてくる」

「そうですね!日課はちゃんとこなさないといけませんからね!もしかしたら今日1日外出するかもしれませんが」

 

 俺の背中から飛び降りためぐみんが、和真と一緒に屋敷を出て行った。

 続いてアクアはゼル帝の卵を持って公園に日向ぼっこに行くと言い、ゆんゆんはちょむすけを連れて爆裂散歩に同行すると言って出て行った。2人とも屋敷を出る間際、1日外出するかもしれないと言い残して。

 

「「……」」

 

 気まずい沈黙から、屋敷内がしーんと静まり返る。

 ……ええい、男は度胸!今言わずしていつ言うか!

 

「……ララティーナ」

「なっ、何だっ!?いや、何でしょう!?」

 

 かなりテンパっているのか、ララティーナが敬語で反応した。

 

「俺と、結婚を前提につき合って欲しい」

 

 ララティーナの手を取って目を合わせ、告白する。

 

「そ、その!私は頭も筋肉も口調も()くて、度し難い性癖の持ち主でありがながら年相応に乙女なところがある、どうしようもなく面倒くさい女だ……いや、です。そんな私とふ、夫婦になりたいんですか……?」

 

 ララティーナは不安そうに俺の手をにぎにぎして目を泳がせると、慣れない敬語を使って言った。

 

「はい」

「……っ!」

 

 ララティーナが俺の手を握ったまま、目に涙を浮かべる。

 もしかして今のはまずかったのだろうか。具体的に相手の長所とか挙げて褒めるなりすれば良かったのだろうか。

 俺の頭に過った不安は、ララティーナの行動で払拭された。

 

「ハルキ……」

 

 ララティーナは涙を拭うと、そっと目を閉じて顔をやや上に向ける。

 良いのか?と、小声で訊ねるとララティーナは頷いた。

 

「ララティーナ……」

 

 俺はララティーナの肩に手を置き、少し屈んで顔を近づけて……。




領主の末路は原作通りなので丸々カットしました。
陽樹が教会に突入できたのは、警備をしていた人がバルターの息のかかった人間だった、ということにしておいてください


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41話

まだやりたいことがあるので続きます


「諸君。人というものは会話が成り立つ種族である。我々と話をしよう」

「右に同じく。というか、コレはともかく何で私とアクアさんまで縛るのさ」

「クリスの言う通りよ!ほら、早く私とクリスのロープを解いてちょうだい!」

 

 両腕を強力な呪縛ロープで縛られ、広間の中央で正座させられているバニルが言った。

 バニルの両脇には、同じように縛られているアクアとクリス。そして3人の前で仁王立ちするダクネス。

 

「クリス。カズマから聞いたのだが、私とハルキが男女の関係にあるという噂を流したのはお前らしいな」

 

 言われたクリスがカズマの方を恨めし気に睨みつける。睨まれた本人は申し訳なさそうに頬を掻き、手を合わせて謝罪する。

 ダクネスが言ったように、俺とダクネスが男女の関係にあるという噂を流したのはクリスだったらしい。結果的に噂通りの関係になったけど、それはそれとして根も葉もない噂を流したことは許せないので、こうして縛り上げて正座させている。

 

「あ、あれはその、大事な一人娘がいつまでも独身だと親御さんも心配するだろうし、ハルキとダクネスの相性も悪くはなさそうだから後押ししようと」

「クリス?」

「何でもないですごめんなさい。私が全て悪かったです」

 

 ダクネスに睨まれたクリスが弁明を中断し、深々と頭を下げる。それは謝罪なのか、それともダクネスの顔が怖くて目を合わせられないからなのかは分からないが。

 

「ねえ、ダクネス。クリスも反省しているみたいだし、許してあげたら?そのついでに私の拘束も解いて欲しいんだけれど」

「……わかった。だが、アクアはもう暫くそのままでいてくれ」

 

 クリスの呪縛ロープをダクネスが解くと、アクアが全力で抗議する。バニルはそんなアクアの様子が面白いのか、笑うのを堪えていた。

 

「あの~、アクア様は一体何をされたのですか?」

 

 と、広間にいたウィズが恐る恐る手を挙げて訊ねる。

 アクアが何をしたか、それを説明するということは、昨夜俺とダクネスがしていた事を話すことになるわけなので……。

 

「兄さん、ダクネス、話しても良い?」

「いや、俺が話す」

「できるだけ遠回しな表現にするんだぞ、ハルキ」

 

 何があったのかと好奇の眼差しを向けるクリスとウィズに、俺は説明した。

 

「俺とダクネスが一晩中イチャイチャしたのを広めようとしたから縛り上げた」

「「っ!?」」

 

 瞬間、ウィズとクリスが口を覆い、目を輝かせて俺とダクネスを交互に見る。

 

「そっ、それはつまり、ハルキがダクネスの花を散らした……?」

「…………そうだ」

「「~~~~っ!?」」

 

 2人は顔を真っ赤にして声にならない悲鳴を上げ、部屋中を転がり回る。

 先日。俺とダクネスは晴れて恋人同士になった。その日は特に予定もないし、街に出れば例の騒動で冒険者達に絡まれたり揶揄われるだろうから、1日家で大人しく過ごしていた。そしてその日の夜、寝室での雰囲気とか今まで言い訳に使っていた柵やらが無くなったとか色々あり……俺はダクネスと甘く熱い夜を過ごした。

 暫くして落ち着いたのか、2人はアクアに目線を合わせるように屈む。

 

「アクアさん。2人の間に子供が出来たならともかく、そういうプライベートな話を広めるのって、凄く配慮(デリカシー)に欠けるから止めた方が良いと思います」

「クリスさんの言う通りです。そういった事をすると、皆さんに嫌われる要因になりますよ?」

「フハハハハハ!後輩女神の信徒とリッチーに正論を説かれるとは、とことん哀れな女神であるな!」

 

 2人の正論にぐうの音も出ないのか押し黙るアクアと、腹を抱えて転げまわり高笑いするバニル。

 そんなバニルをダクネスが腕力で無理矢理起こし、和真が顔を近づける。

 

「アクアの話じゃ、ダクネスの親父さんはかなりの悪魔に凄い呪いを掛けられたらしい。で、この街にいて尚且つかなりの悪魔という条件に合致するのはお前だけなんだが」

「この我輩が人の命を奪いかねない呪いを掛けたと疑われるのは心外である!あれは我輩の同胞の1人、辻褄合わせのマクスウェルがあの男に命じられてやったことだ!」

 

 バニルが口にした事実に俺達は顔を見合わせる。あのおっさん、悪魔と契約していたのか?

 

「バニル。その悪魔の能力について詳しく話してくれ」

「あいわかった。だがその前に、この拘束を解いてはくれまいか?そうしたら対価に全て話そう」

「……妙な動きを見せたらアクアの拘束も解くからな」

 

 和真はそう言うと、バニルの拘束を解く。バニルは縛られた箇所を擦ると、話し出した。

 

「マクスウェルの能力についてだが、貴様らは身をもって知っている筈だ。例えば、貴様らが出席した王都で開かれた宴。あの元領主の失言が翌日には無かったことになっていなかったか?貴様ら兄弟と、そこの頭の中が年中お花畑な女神を除いて。或いは、貴様が魔王軍幹部のスパイだという嫌疑がかかったあの裁判。それまでの流れを無視するように、司法側の人間たちは貴様に死刑を言い渡そうとしただろう?最近で言えば、あの元領主の悪事や不正の証拠が湧き出ただろう?それはつまり、今までマクスウェルの力で隠されていた証拠が、出てきたという事だ」

「確かに……っていうか、そこまで知っていたなら、最初からお前が言えば済んだ話じゃねえか!」

 

 和真の言う通りだと言うように、俺達はバニルを取り囲む。

 

「まあ待つが良い。確かに、あの男が目の前で花嫁を奪われるという悪感情を食し、更に大金も得ようと貴様らを利用し、回りくどい事をしたのは認めよう」

「その大金もウィズが使い切ったけどな」

「……まず、マクスウェルとあの男は契約を交わしていたため、我輩としても手出しできなかったのだ。そしてマクスウェルは力が強力だが、頭は赤子なのが欠点でな。あいつに何度自己紹介をしたのか、1000回から先は数えるのを止めたほどだ。そしてそれをあの男は利用し、我が同胞に長い間タダ働きをさせていたのだ。貴様も知っての通り、我々悪魔にとって契約は絶対である。我々は契約者の願いを叶え、契約者から願いに見合った対価を頂く。それを蔑ろにしたあの男に我輩は然るべき報いを与えようと考えた。だから、マクスウェルに払うべき対価を払わせるために、地獄に放り込んでやった」

「それって殺したことと同義なんじゃないのか?お前、前に人間は殺さないとか言ってなかったか?」

「殺してはおらん。人間界と地獄では時間の流れが異なる。人間界ではマクスウェルに払っていなかった対価を払い終える前に寿命で死ぬが、地獄ならばそうはならん。勿論、対価を払い終えたら人間界に送り返す予定だぞ?その時の精神状態までは保証しないがな」

 

 普段の相手を揶揄って楽しんだり、商談の時に見せる紳士的な態度を投げ捨て、冷酷で非情な悪魔らしいバニルの一面。それを見ためぐみんとゆんゆんは恐怖から1歩下がり、クリスとダクネスは滅ぼすべきだと武器を構える。しかし俺と和真は……。

 

「まあ皆落ち着けって。要するに、今まで通り接すればいいわけだろ?何かお願いするときは、それ相応の対価を用意するとか」

「そうそう。バニルがやったことも、契約を蔑ろにした事に怒ってやった事だし」

 

 俺達のフォローを聞くと、バニルの仮面がキラリと光った。

 

「その通り!いやはや、流石は我が親愛なるビジネスパートナー。我輩の事を良く分かっている。そこの女神と女神の信徒の様に悪魔というだけで滅ぼしにかかる連中に、貴様ら兄弟の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいものだな!」

 

 バニルはいつも通りの調子に戻ると俺と和真の手を取り、固い握手を交わすと、嬉しそうに破顔した。

 

 

 

 

「では、我々はこれにて失礼する」

「お邪魔しました」

「おう。じゃあな~」

 

 用事も済んだので、ウィズとバニルが屋敷を出て行った。

 

「で、アクアの拘束だけどどうする?解いても良い?」

「……念のために聞くが、俺とダクネスの件について広めに行かないよな?」

「クリスとウィズにあんな事言われたんだもの、行けるわけないでしょ」 

 

 クリスとウィズの正論が相当効いたのか、アクアが大人しくなった。なので、拘束を解除する。すると、アクアは庭にある鶏小屋に直行。話をしている間、小屋の中にゼル帝の卵を置いていたのだが、果たして……。

 

「ねえ、カズマさん」

「はいはいなんでしょう」

「この小屋にゼル帝の卵を置いたのよね?」

「ああ。小屋の隅の所にな」

「殻しかないんですけど?」

「多分孵化したんだろうな。すぐ近くにいるヒヨコが多分ゼル帝だな。おめでとう、無事孵化したな」

「いいえ違うわ。あれはその身を体毛に覆われし極レアなドラゴン種、シャギードラゴンに相違ないわ。恐竜から進化して鳥類になったんだもの、ドラゴンに羽毛があってもおかしくないわ……」

 

 和真の言った事実を受け止められないのか、なおもあれはドラゴンだと言い張るアクア。哀愁漂う背中とうわごとのように呟く言葉が、俺達に同情を誘う。今日と明日の晩飯はあいつの好物でも作って慰めてやろう。

 

「ねえねえハルキ」

 

 アクアを和真に任せていると、クリスに袖を引かれた。

 

「何でダクネスのこと本名で呼ばないの?」

「言われてみればそうですね。何か理由でもあるんですか?」

 

 続いて、めぐみんも訊ねてくる。ゆんゆんも同意するように隣で頷く。

 

「まだ皆の前で本名で呼ばれるのは恥ずかしいから、本名で呼ぶのは2人っきりの時だけにしてくれって言われた」

「「「ふ~ん……」」」

「うぅ、そんな目で私を見るなぁ……」

 

 3人に生暖かい目で見られたダクネスが、顔をほんのり赤くして俺の背後にそっと隠れる。ダクネスの恥じらい顔、ご馳走様です。

 

「それじゃあ、本題に入るね」

 

 和真がアクアを慰め終えて、場所は戻り屋敷の広間。

 クリスが今日屋敷に来たのは、俺達にも神器回収の手伝いをしてほしいと言うためだったらしい。そうとは知らなかった俺達は、クリスの姿を見るなり縛り上げてしまったわけだが。

 ダクネスは体調が回復しきっていない親父さんの代わりに領主の仕事を任されているため無理。めぐみんはやれることが限られているが、必要になったらいつでも頼んで欲しいと返答。ゆんゆんも同じく、必要になったら頼りにして欲しいと言った。和真は王都で既に協力したので快諾。

 そして俺は──

 

「仕事が無くて暇だったら手伝う」

「仕事と言えばハルキ、前に使ってた工房はどうなったの?ダクネスの借金を払うのに売っちゃった?」

「ああ。で、それが今朝、バルターからお礼ですってそっくりそのまま返ってきた」

「そ、そうなんだ……わかった。じゃあ、あとはアクアさんなんですが……」

 

 クリスが期待の眼差しで見ると、アクアはきっぱりと答えた。

 

「残念だけど手伝えないわ」

 

 その言葉が以外だったのか、皆の視線がアクアに集中する。

 

「お前、どうせうちの鶏に餌やったら後はゴロゴロしてるだけだろ?この中で一番暇を持て余してるわけだし、少しは手伝ってやれよ」

 

 和真がそう言うと、アクアは困ったようにため息を吐いて言った。

 

「ええ、確かに今は暇よ。でもね、大事なイベントが控えているから忙しくてそれどころじゃなくなるのよ。ねえカズマ。それが何なのか、そのちっちゃい脳を回転させて当てて」

「御託はいいからさっさと言え」

 

 もったいぶるようなアクアの態度にイラついたのか、和真がアクアの言葉を問答無用で中断させる。当の本人はしょうがないわねとわざとらしく肩を竦め、言った。

 

「皆は女神エリス感謝祭って知ってるかしら?」




2人の初夜については皆さまの想像にお任せします。
ダクネスの妊娠するタイミングですが、原作17巻エピローグの辺りになる予定です。あの世界、魔王軍の活動のせいで生まれ変わりを拒む魂が多くて少子化が進んでますので。その影響ということで。


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42話

毎日ジメジメしていて辛い


 女神エリス感謝祭。

 それは1年を無事に過ごせた事を喜び感謝し、幸運の女神エリスを称える祭り。

 毎年この時季になると世界各地で執り行われる恒例行事の事だ。

 

「エリス祭りはこの街でもやるのですね。私達の里でもやりましたよ。この日に女神エリスの仮装をすると、次の祭りの年までの1年間を無事に過ごせるようですね」

「エリス祭りには当家も毎年関わっているぞ。我がダスティネス家は代々敬虔なエリス教徒だ。毎年多額の寄付をしている」

「兄さん。女神エリスの仮装ってこの街でも見られる?」

「仮装するのが女性だけとは限らないからあまりお勧めできないぞ」

「やっぱりこっちでもそうなんですね。紅魔の里でも、族長だからって私のお父さんが毎年仮装してましたから」

 

 と、盛り上がっているところでアクアがテーブルを叩いた。

 

「皆、何を浮かれているの!?祭りを楽しみましょうって話をしたいんじゃないの!エリス祭りがあるなら、アクア祭りもやってくれないと不公平じゃない!というわけで、今年はエリス祭りは取り止めにしてアクア祭りをやってもらうの」

「んぐっ!?」

 

 タイミング悪く紅茶を含んでいたクリスが、盛大に咽た。

 

「だってずるいと思わない!?エリス祭りが行われているのに、どうしてエリスの先輩であるアクア祭りが行われないの!?たまには代わってくれてもいいじゃない!ハルキもアクシズ教徒ならそう思うでしょ?」

「いや全く」

「なあんでよぉ!」

 

 アクアが俺の肩に手を置いて前後に激しく揺らす。おいやめろ、首が痛い。 

 

「まあ何にせよ、私は勿論手伝えないぞ。領主代行の仕事が忙しい。祭りの期間中はとてもじゃないが時間は割けそうにないな」

「何でよー!ダクネスをハルキ達と一緒に助けたり、お父さんの呪いを解いたりしてあげたのに!」

「そ、それはそうなのだが……そもそも私はエリス教徒だし……」

 

 ダクネスに正論を突かれたアクアは、めぐみんとゆんゆんに訊ねる。

 

「まあ構いませんが。私達はエリス教徒というわけでもありませんし、アクシズ教徒には知り合いもいますしね。そうでしょう?ゆんゆん」

「はい!昔、ちょっとだけお世話になったので、その恩返しをさせてください!」

 

 それを聞いたアクアは2人を順に抱きしめた。

 

「流石めぐみんとゆんゆんね!カズマは勿論」

「やるわけないだろ」

「仮にも女神の従者なんだから、たまには言う事を聞きなさいよ!ねえお願いよ、なんなら私の代わりにゼル帝に餌をあげてもいいから!1回だけ譲ってあげるから!」

「丸々太るような餌を食わせてもいいな?」

「やっぱり駄目よ!」

「だいたい、エリス祭りを中止させるなんて土台無理だろ。エリス教団が怒り狂うぞ?」

「ええー……。それを何とかするのがカズマさんの役目なんですけど……」

「おいこらふざけんな」

 

 それを聞いたアクアは、立ち上がり宣言する。

 

「もういいわよカズマのけちんぼ!めぐみんとゆんゆんとクリスの4人で何とかしてみせるから!」

「ええっ!?」

 

 いつの間にか巻き込まれていたクリスが、驚きの声を上げた。

 

 

 

 

 翌日。アクア、めぐみん、ゆんゆんにこの街のアクシズ教会の責任者を連れて商店街に向かった和真が、屋敷に帰って来てこう言った。

 

「エリス祭りと共同開催って形で、アクア祭りをすることになった」

「……マジで?」

「マジで」

 

 一緒に向かったアクアとめぐみん、ゆんゆんに確認するが、3人とも和真の言う通りだと答えた。マジか。まさかこんなにあっさりと許可が下りるとは思わなかった。てっきり却下されたアクアが泣きながら帰ってくるもんだと。

 

「というわけでハルキ。明後日早速会議をするから、お祭り当日に何をするか考えておきなさい。いいわね?」

「……わかったよ」

 

 そして会議当日。俺はアクアと一緒にアクシズ教会に来たのだが。

 

「ではこれより、アクア祭りの会議を行います。議長のサトウハルキです」

「書記のセシリーです」

 

 何故か俺が議長をやることになっていた。信者の誰かが議長を誰にするか訊ねたら指名されたからと言えばそこまでなんだが、普通教会の責任者のセシリーさんがするべきなんじゃないだろうか。俺を議長に指名した本人は、会議室の隅っこでチビチビ酒を飲んでいるが。……まあ、周りのアクシズ教徒の目もあるし、ここは大人しく言う事を聞こう。

 

「では今日ですが。皆さんから当日の出店の案を伺いたいと思います。案が浮かんだ方から手を挙げて言ってください」

 

 俺のその発言を皮切りに、会議はスムーズに進んでいった。何かとんでもない案が飛び出てくるかと思ったが。そんな事はなかった。射的とか、金魚釣りとか、食い物系の出店とか、割と日本でも見かけたような案が出てきた。これはもしかして、アルカンレティアで俺がアクアに言ったことが功を奏したのかもしれない。

 ……そう思っていた時期が俺にもありました。

 

「このヤキソバという料理。凄く美味しいですね!」

「特にこのソースの香りが食欲をそそります!」

 

 俺が今回の出店で出す焼きそばを、アクシズ教徒の皆さんが美味そうに頬張っている。それ自体は嬉しいから別に構わないが、問題は……。

 

「すいません。これの品名をもう1度言ってください」

「ですから、クラーケン焼きです」

「……イカ焼きの間違いでは?」

「いいえ、これは誰が何と言おうとクラーケン焼きです!」

「このオタマジャクシ大きくないですか?」

「そりゃあジャイアントトードのオタマジャクシですから大きいでしょうね」

「……金魚はどこにいったんですか?」

「それが困ったことに野良の金魚が見つからなくて。ですので、妥協案としてオタマジャクシ釣りも視野にいれようかと」

 

 数日で化けの皮が剝がれた。俺の感動を返して欲しい。

 俺は会議室のテーブルを叩き、出席しているアクシズ教徒に呼びかける。

 

「クラーケン焼きですが、当日の品名はイカ焼きにしてください。金魚がいないなら他の淡水魚を、それも子供でも簡単に飼育できる安全な種類を選んでください。そして最後に、他の方々もまともな出店をやってください」

「ええっ!?お祭りの場では多少のぼったくりや詐欺まがいの店を出しても許されるとアクア様はおっしゃっていたのに!?」

「どれもこれも『多少の』じゃ済まないレベルなんですよ!しかもこれは、今後アクア祭りを開催するか否かもかかった大事な第1回なんです!お願いします!ここで何かやらかして、アクシズ教徒が減っても構わないのなら俺は止めませんがね!」

 

 『アクシズ教徒が減る』

 その一言はかなり効いたようで、それ以降の会議では皆大人しくなった。

 

 

 

 

 アクシズ教徒として祭りの準備も行うが、冒険者として祭りの準備も進めなければならない。

 

「山に巣を作った、レッサーワイバーンの討伐はこちらです!現在バインドが使える盗賊と、空の敵という事で狙撃が可能なアーチャーを特に募集しています!強敵ですが、その分報酬は弾みますよ!参加者はあと6人です!」

「森に昆虫型モンスターが大発生してます!大量にいるので、こちらも人数を必要とします!数十人による大規模な討伐となります、職不問、レベル不問!」

「平原にも草食型のモンスターが大量発生していますので、そちらの方もお願い致しますね。放っておくと、彼らを餌にする大型のモンスターが集まってきます、その前に駆除をお願いします。現在ギルドでは、様々な支援物資を無償で提供するキャンペーン中です!討伐報酬も普段より上乗せします!この機会に頑張ってお仕事してください!」

 

 朝早くからギルドのあちこちでそんな声が飛び交い、人がバタバタと駆けていく。隣にいた和真が、目の前の光景を見て俺に訊ねた。

 

「ねえ兄さん。俺達が街の近辺のモンスターを駆除することで安全に祭りを行えるのはわかるけどさ。森の討伐を希望する冒険者の男性率高くない?」

「まあ、この時季になると男性冒険者は何を置いても大規模討伐戦に参加する。特に森でのモンスター討伐とかな」

「いや。それは見ればわかるからその理由を言って」

「そうだな。男性冒険者が森でのモンスター討伐に参加する理由は……蝉だ」

 

 蝉?と、和真がオウム返しをして首を傾げる。

 

「こっちの蝉は日本の蝉と比べて声量が数倍くらいある」

「マジか。あのやかましい音の数倍あんのか」

 

 和真が嫌そうに顔を顰める。

 

「更に、昼夜問わず鳴き続けるぞ」

「よぉし、覚悟しとけよモンスター共!ちゅんちゅん丸の錆にしてやる!」

 

 和真が目をギラギラと輝かせてちゅんちゅん丸を抜き、ダストから砥石を借りて研ぎ始めた。

 今の和真の反応のように、森での討伐戦の男性冒険者の参加率が高い理由は蝉が昼夜問わず鳴くことにある。例の店にお世話になっている男性冒険者にとって、蝉は敵だ。夜も大声で鳴かれて眠れる者などいない。そして眠れないということは、お店のサービスも成り立たなくなってしまうということだ。

 まあ、俺は例のお店にお世話になることはなくなったけど、この討伐戦には参加する。だって蝉の鳴き声でムード壊されたくないし。

 そして冒険者がある程度集まったところで移動し、街の近くの森の中。

 

「防御に自信のある前衛職の方は、モンスター寄せのポーションを体に塗ってくださいねー。相手は格下ですが、数が多いので油断はしないようにお願いしますねー」

 

 今回のような大規模な討伐戦では、ギルドの職員が指揮を執ることになっている。

 というのも、冒険者は協調性のない自由な人が多く、職員が指揮しないと揉め事が起きるのだ。

 

「領主代行の私が全てのモンスターを引き受ける!そう、これは民を守る私の役目だ!だからポーションを全部寄こせ!」

「駄目ですよ!これは単にモンスター寄せってだけじゃないんですから、大量に塗り込んだらモンスター以外の生物にまで攻撃されますよ!」

「是非とも望むところだ!」

 

 そう、ちょうどこんな風に。

 

「おいダクネス。ギルドの人に迷惑掛けるな。お前はウチのパーティーメンバーを守ってくれればそれで良いんだから」

「ああっ!夏のモンスターは苛烈なんだ、頼むハルキ、後生だから……!」

「嫁がご迷惑をお掛けしました。それでは」

「嫁っ!?」

 

 嫁という単語を聞いた途端、抵抗していたダクネスが顔を赤くして大人しくなった。そして、生暖かい目と嫉妬と羨望の入り混じった視線が俺とダクネスに突き刺さる。

 この地点での駆除の参加者は俺達を合わせて30人程。

 大体が4人か5人パーティーの様だ。

 そんな連中の中でも、一際頑丈そうな連中がポーションを体に塗りつけていた。

 

「嫁……ヨメ……よめ……YOME……」

 

 さっきの発言が効いたのか、まだ顔を赤くして大人しくしているダクネスに頭からポーションをかけると、我に返ったのか俺から残りのポーションを奪い、自分の体に振りかける。

 

「守りは私に任せて、お前達は思いっきり暴れてこい」

「わかった」

 

 冷静さを取り戻したダクネスは、そんな格好いい事を宣言し、自信たっぷりの表情で不敵に笑った。

 

「めぐみんとアクアは頼むから大人しくしてくれ。特にめぐみん、お前の爆裂魔法を森で使ったら大惨事になる。ゆんゆんは、めぐみんの分頑張ってくれ。俺はアクアの分頑張るから」

 

 そんな俺とダクネスの後ろで、和真がめぐみん達に簡単な指示を出す中。

 

「冒険者の皆さーん!モンスター、第1陣が集まって来ましたよ!殺虫剤も大量に用意してあります!では、お願いします!」

 

 ギルド職員の声が轟いた──。

 

 

 

 

 たかが虫、されど虫。この世界の虫は、日本の虫よりも巨大でパワフルだ。

 例として、俺が殺虫剤をぶっかけて倒したカブト虫のようなモンスターは子犬ほどの大きさをしている。他にもクワガタやカマキリなどのような昆虫が襲ってくるが、どれも体がデカい。

 そしてそいつらに襲われて負傷者が出る中、アクアは頑張って治療に専念していた。いつものように調子に乗ることなく、黙々と。

 何かやれば余計な厄介事を引き起こし、何もしなくてもアンデッドにたかられるあのアクアが大人しくしている。

 アクアもやっと成長したのか。と、俺が静かに感動している中。

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 めぐみんが突然魔法を唱えた。

 俺達がいた森のかなりの上空。

 そこに轟く爆音と、目も眩まさんばかりに輝く閃光。

 それらと共に爆風が吹き荒れると、後に残っていたのは地に倒れ伏した冒険者達とダクネスの姿。

 小さな昆虫型のモンスター達は、その衝撃波の余波に耐えきれず、全て地に伏せて動かなくなっていた。

 辺りにうめき声が聞こえる中、アクアだけはどうにか回避したのか、地に転がる人達にせっせと回復魔法を掛けて回っている。

 

「めぐみんは、レベルが上がった」

「ふざけんな!」

 

 起き上がった和真がめぐみんを起こし、一喝する。

 

「何で大人しくしろって言ったのに爆裂魔法使うんだよ!見ろ、この惨状を!お前後で皆に謝っとけよ!?」

「カズマが私の出番はないなんて言うからですよ。それに、この街の住人は既に爆裂慣れしてますから大丈夫ですよ」

 

 堂々と開き直るめぐみんの言う通り、あちこちに転がっていた冒険者達は文句の1つも言わず、何事もなかったかのように起き上がる。ギルドの職員も同じように起き上がり、周りを見て状況を確認している。

 こいつらも大概だな……。

 

「皆さんご苦労様でした。では、そろそろ第2波が参りますので……」

 

 第2波。

 淡々とした職員の言葉と同時に、大量の虫の羽音が聞こえてきた。

 おそらく、さっきの爆裂魔法の衝撃と震動で、木々の虫達を怒らせてしまったのだろう。

 

「あーもう!兄さん!」

「おう!」

 

 和真はめぐみんをゆんゆんに任せて、俺と並ぶ。

 そして拳を2度打ち合ってハイタッチし、ジャイロを突き出して叫ぶ。

 

「「オレ色に染め上げろ!ルーブ!」」

『ウルトラマンビクトリー!』『ウルトラマンギンガ!』

「纏うは土!琥珀の大地!」「纏うは水!紺碧の海!」

『ウルトラマンロッソ、グランド!』『ウルトラマンブル、アクア!』

「「先輩の力、お借りします!」」

 

 ヒュドラ討伐戦と同じように、身長を等身大まで抑えて俺と和真が変身して虫の群れと対峙する。

 

「『グラビティホールド』!」

 

 俺は手を地面に叩きつけて重力を操り、飛来してくる虫の動きを無理矢理止める。

 

「和真!」

「『スペリオン光輪』!」

 

 背後に立つ和真の放った光輪が複数に分裂し、虫の群れを切り刻んでいく。そして半分ほどまで減ったところで。

 

「兄さん!チェンジ!」

「わかった!」

『ウルトラマンタロウ!』『ウルトラマンティガ!』

「纏うは火!紅蓮の炎!」「纏うは風!紫電の疾風!」

『ウルトラマンロッソ、フレイム!』『ウルトラマンブル、ウインド!』

「「先輩の力、もう少しお借りします!」」

 

 フォームチェンジすると同時に、和真が虫の群れに飛び込む。そして、俺は上空に飛翔して待機。

 

「『スパイラルソニック』!」

 

 和真が周囲を高速回転して竜巻を発生させ、上空に群れを巻き上げる。更に上昇させて森からできるだけ離れたところで。

 

「『ゼットシウム光線!』」

 

 待機していた俺が攻撃して一掃する。

 風が止んだところで確認してみれば、森一面に虫の残骸が散らばっている。竜巻に巻き込まれた樹がなぎ倒された以外に大きな被害はない。冒険者達とギルド職員が巻き込まれた、ということも無し。

 しかし、世の中には万が一ということがある。例えば、第3波(おかわり)がやってくるとか。俺と同じようにそう思ったのか、和真がギルド職員に訊ねる。

 

「念のために確認しますけど、第3波が来るとか……」

「あります!」

『撤退ー!!』

 

 蜘蛛の子を散らすように、俺達は全力で逃げた。




ウルトラマントリガー。これからの展開が楽しみですね


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43話

遂に家でもエアコンの使用を解禁


 それから朝はモンスター討伐に出かけ、昼は祭りの準備に奔走し。数日が経過し、ついに──

 

『この日を楽しみにしていたアクセルの皆さん、準備はよろしいですか?今ここに、女神エリス&アクア感謝祭の開催を宣言します!』

『うおおおおおおーっ!』

 

 拡声の魔道具により開催宣言が街中に響き渡る。

 それと共に、空には祭りを祝うかの様に魔法が打ち上げられ、地上ではそれに負けじと歓声が沸き起こっていた。

 

「とうとうこの日が来たか……」

 

 迎えた祭りの開催日。

 俺は昨日まで働いていた分を取り返そうと、紅魔の里からアクアが持ち帰ってきたゲームで思いっきり遊び、外の騒ぎで夜が明けたのに気が付いた。

 腹を空かせて階下に下りると、そこには朝食を食べるめぐみんとゆんゆんがいた。

 

「おはよう。兄さんとアクアは出店があるからわかるけど、ダクネスももう行ったのか?」

「ええ。やっぱり、心配なのでしょうね。ハルキがいるとはいえ、アクシズ教徒が何かやらかさないと決まったわけではありませんから。カズマはこれからどうしますか?一緒に行きますか?」

「すまん。昨日の夜からゲームしてて一睡もしてないから、夕方まで寝るわ。アクシズ教徒が何かやらかしてて、俺の手を借りたいと思ったら叩き起こしてくれていいから」

「わかりました。では、私はゆんゆんと出かけますので」

「カズマさん。おやすみなさい」

「おう、おやすみ~」

「……ああ、カズマ。ちょっと待って下さい」

 

 2人と簡単な予定の確認を終え、部屋に戻ろうとした所で、めぐみんに呼び止められた。

 

「お祭り3日目の夜は空いてますか?」

「ん-……特に予定はないな」

「それでは、花火大会を見に行きませんか?」

「わかった。何事もなくお祭りが開催できたらな。それじゃあ、今度こそおやすみ」

 

 ~少年熟睡中~

 

 そして、夕方。

 やってきたのは街の商業区。入り口には大きな横断幕が張られ、女神エリス感謝祭の文字が大きく踊り。

 その隣には、女神アクア感謝祭の文字が小さく並んでいた。

 ただ、今回の目的は女神アクア感謝祭のほう。

 兄がちゃんとアクシズ教徒達のストッパーになっているのか。その結果を確かめるべく、俺はアクシズ教団に割り当てられた区画に向かった。

 

「取れたて新鮮なタコ焼きいかがですかー!大ぶりに切ったタコが、こりこりして美味しいですよー!」

「かき氷いかがっすかー!イチゴにレモンにパイナップル、小豆味やところてんスライム味もありますよー!」

「射的いかがっすかー!的に命中させて倒せば、豪華景品がもらえますよー!」

 

 些細な違いはあるが、そこでは日本の祭りに近い光景が広がっていた。射的の的と聞いた瞬間嫌な予感が頭を過ったが、的になっているのはゴブリンやコボルトのような雑魚モンスターから、初心者殺しや冬将軍のような強力なモンスターが使われていた。

 そして、肝心の兄さんはというと──

 

「目玉焼きにキャベツマシマシと、麺堅めの青のり多めくださーい」

『はいよろこんでー!』

 

 アクシズ教徒数名と出店で焼きそばを作っていた。真新しさからか、珍しさからなのか、ここは他の出店の中でもダントツと言ってもいい賑わいようだった。ノリが若干居酒屋っぽいのには目を瞑ろう。

 

「ハルキがアクシズ教徒になってくれて、本当に良かったですよ」

「そうだな。ハルキの働きかけが無ければ、今の光景は見れなかったかもしれないな」

 

 近くのベンチで焼きそばを食いながらそんな事を言うめぐみんとダクネス。ちょうど焼きそばを口にしていたゆんゆんは、ダクネスに続くようにうんうんと頷く。

 めぐみんの隣に座っていたアクアが自慢げに胸を張るが、そもそもこういった事はお前がやるべきだと思うんだが。それを自分の手柄のように無言で主張するんじゃない。

 客の列に入って待っていると、俺の番が来た。

 

「セシリーさん。大盛況ですね」

「ええ、お陰様で。貴方も1ついただきますか?」

「じゃあ、大盛りに目玉焼きとマヨネーズでお願いします」

「はい。大盛りに目玉焼きとマヨネーズ1つくださーい」

『はいよろこんでー!』

「そういえばダクネス。1つ確認したかったことがあるんだけど、いいか?」

「…………いいぞ」

 

 俺は焼きそばを1つ購入し、ベンチの近くに移動すする。

 

「王都で迷惑かけた分働いて返済するってやつ。あれ、あとどのくらいで完済になるんだ?」

「そうだな……今日まで十分な働きを見せたから、このお祭りが終わったら完済。という事にしよう」

「ありがとうございます!」

 

 これでようやくアイリスに会える。そしてアイリスに会ったら色んな話をしよう。そんでもって、中途半端なままだったゲームの決着をつけよう。

 そして、その日の夜の会議で売り上げの集計を行ったところ。予想に反してアクシズ教徒の出店は軒並み黒字を出し、かなりの売り上げになった。兄さんのおかげで祭りは大成功になりそうだから、今度贈り物でもしよう。それも、できる限り長く形として残るような物を。

 

 

 

 

 お祭り2日目の朝。

 

「そういえば。ハルキとダクネスはお祭りの間、デートに行かないんですか?2日目になっていう事じゃありませんが」

 

 朝食の席で、めぐみんが言った何気ない一言。しかしその時、俺の中に電流が走る。

 言われてみれば、俺とダクネスは晴れて恋人になった。だから、デートくらいするべきだと。めぐみんは言いたいのだろう。

 だがめぐみんに訊ねたい。デートする暇が俺達にあるか?と。

 俺は祭りの間出店があって忙しいし、領主代行をやっているダクネスは言わずもがな。

 そこはまあ仕方ないとして、更に訊ねたい。

 デートって具体的に何をすればいいの?

 そもそも、俺は日本にいた頃につき合っている人はいなかった。どんな学校生活を過ごしていたかと聞かれれば、こう答えよう。本とゲームが恋人でした。そんな俺がいきなりデートしろと言われてできると思うか?断言しよう、無理だ!

 さっきの質問はともかく、これは口に出せない。言った瞬間、喧嘩を売られたと判断しためぐみんに怒られるだろう。

 つまり、さっきのめぐみんの質問に対する理想的な返答は──。

 

「俺は出店があるし、ダクネスは領主代行で忙しい。だから無理だろうな」

「ハルキの言う通りだ。まあ、行けても花火大会くらいだろうな」

「夫婦揃って働き者ですね」

 

 わざとらしいため息の後でそう言って皮肉るめぐみん。

 

「ねえめぐみん。そもそもハルキさんとダクネスさんって、デートとか経験しているんじゃない?本人達がそう思っていないだけで」

「ああ、恋愛物のお話でよくあるパターンか」

 

 すかさず、ゆんゆんと和真のフォローが入る。それを言われて、めぐみんはぐうの音も出ないようだ。2人のフォローが心に沁みる。

 それから時間は過ぎ、お祭り2日目終了の時刻。

 

「それじゃあ、今日はお疲れ様でした」

『お疲れ様でした~』

 

 今日も大盛況だった出店も終了し、それぞれの帰路につく時間となった。

 

『デートに行かないんですか?』

 

 ふと、俺の脳裏に今朝のめぐみんの発言が蘇る。

 冷静に考えてみれば、俺が日本にいた頃にお祭りでやってたことと言ったら、和真をはじめとした近所の子供の保護者役。同年代で一緒にお祭りに行く相手なんていなかった。ましてデートなんて夢のまた夢。

 だけど、今は恋人(ダクネス)がいる。日本にいた頃はできなかった事ができるチャンスかもしれない。

 万が一却下されたとしても、その時はその時だ。次のお祭りまで待てばいい。

 意を決した俺は、セシリーさんに訊ねる。

 

「セシリーさん」

「はい。なんでしょう」

「明日のお祭りなんですけど、嫁とデートに行っていいですか?」

「……ちょっと待ってください。すいませーん」

 

 帰ろうとしていた他のアクシズ教徒をセシリーさんが呼び戻す。

 

「デートに行くのはどの時間帯ですか?朝からですか?昼からですか?それとも夕方からですか?」

「花火大会に合わせて夕方頃にしようと考えてます」

「夕方頃か……」

「どうします?」

「いきなり言われてもなぁ~……」

「言いだしっぺのハルキさんが抜けるのはちょっとねぇ……」

 

 再び話し合いを始めるアクシズ教徒の皆さん。どうせやんわりと断られるんだろうな。

 

「良いですよ。ただ、お相手の都合がついたらの話ですけど」

「あ、ありがとうございます。本当に急な話をしてすいません」

 

 あっさりと許可が出て少し拍子抜けした。

 

「じゃあ。俺は明日の夕方に抜けますので、その後のことは皆さんに任せました」

『任されました』

 

 ニヤニヤ笑いながらデートを楽しんでこいだの、式は是非ともアクシズ教会でだのと好き勝手に言うアクシズ教徒の皆さん。あの、俺の嫁はエリス教徒なんですけど、いいんですかね?

 何事も言ってみるものだな。まあ、さっきセシリーさんが言ったように、ダクネスがやっぱり無理だと言ったら、急だけど明日報告しよう。

 

 

 

 

 そして、屋敷の俺の寝室で。

 

「というわけで、明日は夕方に花火大会を見に行くか?」

「ああ。私もハーゲンとバルター殿に訊ねたら、許可が降りた。……寧ろ行ってこいという圧力を感じた」

 

 俺の腕を枕にして横になっているララティーナが、首を縦に振る。でも少し痛かったから、頭を少し腕から離してやってほしかったな。

 

「それで、明日は花火大会を見に行く以外に何かするか?」

「そうだな……近くの出店で食べ物買って食って。その後のんびり花火でも見るってのはどうだ?」

「それはいいが、虫の襲撃はどうする?」

 

 虫の襲撃。

 毎年、お祭りの時に焚かれた篝火に釣られて平原や森から活発化した虫が街へ飛来してくる。奴らは街の上空を旋回しながら襲撃の機会を窺う。そのど真ん中に花火大会で爆発魔法や炸裂魔法を撃ち込む。

 そしてこの国において、夏の花火は集まってきた虫に対する宣戦布告の合図。

 そうなったらもう大変だ。爆発魔法や炸裂魔法が撃ちだされた次の瞬間、襲い掛かる虫達。俺達冒険者は、虫の襲撃から街を守るために戦わなければならない。

 

「虫の襲撃がないことを女神アクアと女神エリスに祈ろう。もし襲撃が来たら、その時は防戦に加わろう」

「私とのデートはどうするのだ……」

 

 むすっと拗ねたララティーナが、俺の頬を軽く抓る。仕方ないだろ、お互い冒険者なんだから。

 

「防衛を手早く終わらせて、それから再開すればいいじゃないか」

「……」

 

 抓った頬を、ララティーナが左右に捻る。やだ、嫁が可愛くて生きるのが辛い。

 

「……デートが終わって屋敷に帰ったら、いっぱいイチャイチャするから、それで許してくれ」

「っ!?」

 

 耳まで赤くなったララティーナが俺の頬から指を離し、顔を両手で覆って小刻みに震える。

 

「何で震えてるんだよ」

「黙れ、このケダモノ。あんな、あんな事をこの私にしておいてぇ……」

 

 初夜の事を思い出し、恥ずかしさのあまり震えていたようだ。正直、俺もやり過ぎたとは思っている、けど、俺は悪くない。全部あの時のララティーナが可愛かったのが悪い。

 ……おっと、最近してなかったから思い出したら何がとは言わないがきたな。落ち着け、俺。それは明日にとっておけ。

 俺は狼になるのを必死に堪え、ララティーナを抱きしめる。瞬間、震えがピタリと止まる。

 

「おやすみ、ララティーナ」

「……お、おやすみなさい……」

 

 俺はララティーナの耳元で囁き、そのまま眠りについた。




今投稿している小説の他にもう1つ書きたい衝動が湧き出て辛い。
セシリーが陽樹の出店の手伝いをやっている理由:お祭りに出せそうな淡水魚が中々見つからず断念した


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44話

 お祭り3日目。の、開始前。

 

「えー、昨日も言った通り、俺は夕方から嫁とデートに行きますので。その後のことはお任せしました。では、今日も頑張りましょう!」

『はい!』

 

 昨日話したデートの件が確定になったので、お祭りが始まる前の挨拶の時に報告。そして、その後のことについて少し話し合って出店も開始。夕方のデートは楽しみだが、今は目の前の仕事に集中しないと。ここで浮ついて仕事に身が入らなかったら嫁に怒られる。

 

 

 

 

「……様。お嬢様!」

「な、なんだハーゲン!」

「お嬢様。そろそろハルキ殿との逢引のお時間ではないでしょうか?」

 

 ハーゲンに促されて窓の外を見てみれば、日も暮れてきて、空が茜色に染まっていた。

 

「っ!?すまない、バルター殿!残りの書類は任せた!」

「かしこまりました」

「では、行ってくる!」

「「行ってらっしゃいませ」」

 

 書類仕事もきりの良いところで切り上げ、財布に少々の金を入れた私は執務室を出てそのまま屋敷を──。

 

「おや、ララティーナ」

「お父様」

 

 出る直前で、お父様にばったりと出くわした。

 

「出かけるのかね?」

「ええ。その……これから、ハルキとデートに……」

「おおっと、これは呼び止めてしまってすまなかった。行ってらっしゃい」

「……行ってきます」

 

 父の温かい視線を背に受け、私はハルキのいるアクシズ教団に割り振られた区画に向かった。

 

 

 

 

「ハルキさんハルキさん」

「はいはいどうしました?マヨネーズが無くなりましたか?それとも青のりが無くなりましたか?もしや、キャベツが脱走しましたか!?」

「いえ……」

 

 セシリーさんが満面の笑みで手を差した先には──。

 

「待たせたな」

「ダクネスさんがいらっしゃいました」

 

 やだ、嫁がイケメン過ぎて魂が乙女になっちゃう。

 

「それじゃあ、あとは任せました」

「任されました。あ、これ、良かったらお2人でどうぞ」

 

 そう言ってセシリーさんが渡したのは2人分の焼きそば。いつの間に確保していたんだ。

 

「じゃあ、どこか近くで食ってから行くか」

「ああ」

 

 ~男女軽食中~

 

「まずはどこに行く?」

「そうだな……射的に挑戦させてくれ。前回のリベンジだ」

 

 ダクネスの言う前回のリベンジとは、前回のエリス祭りで射的に挑み、何の成果も得られなかった事を指しているのだろう。

 あれは本当に酷かった。真っ直ぐ放たれた矢が悉く明後日の方向に飛び、的に掠りもしない様は最早ギャグの領域だった。何が酷いって、それが前回に限った話ではないという事。その前も、更にその前も、1度として射的で景品を得たことはないらしい。そして、俺がパーティーに加わってからは俺が代わりに景品をゲットするという流れが恒例となっていた。

 

「今年も挑むのか?」

「勝つまでやれば負けないと私に言ったのはお前だろう。なら、私も勝つまで挑むさ」

 

 力強く拳を握りしめ、意気込みを語るダクネス。その瞳には『挑戦』の2文字が浮かんでいるように見えた。

 そして……。

 

「すまないハルキ。私に変わってあの冬将軍を仕留めてくれ」

「はいはい」

 

 今年も矢を当てられなかったダクネスが、涙目で俺に望みを託した。懲りない奴だ。

 狙撃スキルを持った人のハンデとして、目隠しを装着して少し距離を置いた所から的を狙うことになっているので、目隠しをして少し離れる。

 まあこんなの、的の場所を覚えるなり弦を鳴らした時の反響で探るなりすれば簡単に仕留められるんですけどね。

 

「ほい。お前もいい加減に諦めるってことを覚えようか?」

「そ、そうかもしれないが、私にも意地というものがあってだな……」

 

 ダクネスの注文通り、冬将軍を仕留めた俺は景品を手渡す。本人は嬉しそうだけど、夏仕様だからって首から下が海パン一丁の冬将軍の人形とかシュール過ぎないか?

 その後、ダクネスと会場内をぶらぶらしていると。

 

「おやおやおや!誰かと思えば、我が親愛なるビジネスパートナーの片割れではないか!鎧娘との逢引中かな?」

 

 声をかけられたので振り向いてみれば、そこではバニルがお面屋ならぬ、仮面屋を開いていた。

 見れば、ウィズと数名のサキュバスが手伝いをやっている。

 

「お前、ここで出店やっていいのか?仮にも悪魔だろ?」

「なに、その点ならば問題ない。貴様の弟を介して役員達と交渉は済ませてある。せっかくだ、お1つ如何かな?」

 

 そう言ってバニルが見せた仮面は色々あった。

 ゴブリンやコボルト、ジャイアントトードやブルータルアリゲーターなど様々なモンスターから、馬や鳥、羊などの動物まで多種多様だ。……流石にアンデッドや悪魔の類の仮面は置いてないか。後はシンプルに色を塗ってあるだけの仮面があるくらい。

 

「じゃあ、この黒の仮面で」

「毎度あり!」

 

 その中でも俺が選んだのは、シンプルに黒一色に染められた仮面。今後、クリスの神器回収を手伝うとなると、夜間の活動が多いだろう。王都では口元を隠してフードを被る程度で済ませたが、万が一ということもある。いい機会だから、序に買っておこう。

 バニルに金を渡し、仮面を受け取った時に何か仮面以外の物の感触を感じた。仮面を裏返してみるとそこには──。

 

「バニル。これって……」

「うむ。以前のお詫びの意味合いも込めた、サービスの品である。今後、夜はそれを使うが良い」

 

 いつだかの商談でバニルが使ってた、時計と錠前を合わせたような形の魔道具。確かこれの効果は一定時間部屋の音が外部に響くのを防ぐというものだ。今後の夜に使えって、それはつまり──。

 

「バニルさん、まさか……!」

「おっと、我輩は具体的な用途について言及していないぞ?」

 

 何かを察したらしいウィズがハッとした表情でバニルに問うが、バニルはすっとぼけたような口調で追及を避ける。そしてウィズは俺とダクネスを順に見ると、そっと目を逸らして売り子に専念し始めた。

 ダクネスのほうを見てみれば、顔を赤くしてバニルを睨みつけている。顔を赤くしているのは羞恥によるものなのか、バニルが嬉しそうに口角を吊り上げている。

 

「……お気遣いどうも。それじゃあ」

「うむ。また会おう!」

 

 バニルの仮面屋を後にして、少し歩いた頃。

 街の貯水池の方から腹に響く震動と共に音が鳴る。

 花火大会が始まった様だ。

 夜空に色とりどりの光が咲き乱れ、その度に辺りから歓声が上がる。

 夜空を見上げていた俺達は、周りの冒険者達の様子を窺う。

 

「……残念だけど、行くか」

 

 魔法使いと思われる人達が、取るものも取らずに駆けていく中、俺はそう呟く。

 ダクネスは骨をバキバキと鳴らし、瞳に怒りを宿して答えた。

 

「そうだな。デートの邪魔をした虫共を1匹残らず殲滅してやらねばならないな」

 

 祈りも空しく虫が襲撃してきたので、俺達は防戦に加わることになった。

 

 

 

 

「ただいまー。……なんだ?この手紙」

 

 虫の襲撃を防衛し、屋敷に帰ってきて居間に向かうとテーブルの上に置き手紙があった。

 

「ハルキ。手紙には誰から、何と?」

「めぐみんが爆裂魔法打とうとして警察に連行されたって、和真から。ゆんゆんは署でめぐみんが解放されるのを待ってて、和真とアクアは外で飲んでくるってさ」

「そうか。……つまり、私とハルキの2人っきりか」

「あいつらに気を遣わせちまったな」

 

 和真の置き手紙を元の位置に戻して風呂に入り。脱衣所で体を拭いて寝間着に着替え。俺の部屋で。

 

「ハルキ……」

 

 灯りはサイドテーブルのランプだけの薄暗い部屋で、ララティーナが俺に抱きつく。

 瞳は蕩け、顔は期待と興奮からほんのり赤くなり、息遣いも若干艶っぽい。所謂雌の顔で俺のことを見つめてくる。

 更に、寝間着は薄いネグリジェを着ている。

 この雰囲気で、そんな嫁を見せられて冷静でいられるような男などいない。事実、俺の分身は既に臨戦態勢になっているし、思考の殆どが本能で占められている状態だ。

 

「待った。最低限守るべきエチケットがあるだろ?」

 

 だが、俺は残りの理性を総動員して魔道具を操作し、ドアノブにセットする。ガチャリという施錠音と共に、部屋全体に結界のようなものが張られるのを感じた。因みに、この魔道具は時間の設定が可能で、最大で6時間、音が外に響くのを防いでくれる。

 

「お待たせ」

 

 俺はララティーナの肩に手を回して抱き寄せ、ベッドまで連れていく。

 

「こっち向いて」

「んっ……」

 

 ベッドに座り、まずはお互いの唇を重ねる。

 

「ちゅるっ……じゅるっ……」

 

 唇の端を舐めると、ララティーナの口が少し開く。そこに舌を入れて口内で絡めながら……。

 

「んむうっ……」

 

 左手は肩に置いたまま、空いている右手でララティーナのおっぱいを揉む。

 

「はぁ……はぁ……ちゅっ、ぴちゃっ……」

 

 少しして息を整えるために顔を離すと、ララティーナが俺の首筋に吸い付いてキスマークをつけ始める。先程のキスと、ララティーナが首に吸い付く音のツープラトンアタックで理性の残量が残り僅かになってきたところで、俺はララティーナに問いかける。

 

「ララティーナ。優しいのがいいか?それとも激しいのがいいか?」

 

 ララティーナは首筋から顔を離し、瞳にハートマークを宿して答えた。

 

「祭りの熱気と、街の防戦の昂ぶりで体が火照って仕方がないんだ。だから……」

 

 熱く、激しく愛して欲しい。

 返答を聞き、遂に理性が消し飛んだ俺はララティーナを押し倒す。

 そして、ネグリジェの裾を掴み、捲ろうとした──次の瞬間。

 

「「はっ!?」」

 

 突如夜空を照らした閃光と、轟く爆音で雰囲気が消し飛んだ。

 俺達はベッドから降りて窓を開け、街のほうを見る。

 夜空に広がる煙を見ながら、ララティーナに問いかける。

 

「今のって、どう見ても爆裂魔法だよな」

「……そうだな」

「あれって、もしかしなくてもめぐみんがやったよな」

「……そう、だな……っ」

 

 ちらりと見てみれば、小刻みに震えるララティーナの顔が怒りと悲しみで真っ赤になっていた。

 

「もうイチャイチャするどころじゃないな……今日はこのまま一緒に寝るか?」

「ああ……。明日、さっきの爆裂魔法についてめぐみんにたっぷりと問い詰めてやろう」

 

 俺の提案に、ララティーナは無言で頷く。

 あーもう滅茶苦茶だよ。めぐみんが知能の高いことで有名な紅魔族なのか、疑わしくなった。

 雰囲気を台無しにされた俺は、頭の中でそんな事を考えながら目を閉じた。




いいところで邪魔が入って雰囲気が台無しになる。ラブコメあるあるですね


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