If it is not "IF" (たまごぼうろ)
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目覚め

皆さん初めまして。いつも読んでくれている方は、またお会いできて嬉しいです。
たまごぼうろ、と申します。
普段は同ハーメルン内にて「私的鉄心エンド」というSNの二次創作を書いている者です。

先日遂に配信されましたね、オリュンポス。
私も一昨日クリアしたのですが、その内容がしんどすぎたので、こうして発散することにしました。
所謂、自家発電という奴です。てぇてぇが無いなら自分で書いてしまおうという。
きっとクリアした方なら、私のこの感情が分かるはず…!

あらすじにある通り、この物語は2部が起こらなかったカルデアでの話を、キリシュタリアの視点から描くものとなります。
故に、連載と言うよりは短編、それもかなり短いものだと思います。
どうかお付き合いして頂ければ幸いです。


では、貴方を一時の夢へとご招待。
どうか、良い空想を。



夢の話、ユメの話。

有り得たかもしれない、現実()の話。

有り得なかった、(現実)の話。

 

もし、私たちが敵ではなくて。

もし、私たちが友となって。

もし、もし、もしーーーーー

 

そんなIFを重ねに重ね、空想に空想を織り込んだ、誰も知りえない夢想の念。

 

 

でも、それでも。

もし、このユメが現実となるのなら。

 

 

 

 

 

 

 

『ーー治療が完了しました。生命維持装置、機能停止を確認。呼吸、脈拍、心音、全てに置いて正常を確認。精神状態、基準値を確認。コフィンの解放を許可。

皆様、おはようございます。只今の時刻はーー』

 

 

 

耳をつく機械音声が、意識を暗闇から引き上げる。

地を足を着く感覚。空気が肌を撫でる感触。

ゆっくりと瞼を開く。

白。

最初に目に入った色はそれだった。

天井を塗りつぶす白色は、無機質なものを思わせる。

僅かに重い体を起こす。

私は、なにか機械のようなものの上に横たわっていた。

寝台のように置かれたそれからは、コードのようなものが幾本にも私の体に取り付けられている。

周りを見渡す。

やはりここでも、私の視界には白しか見られない。

あるもの全て、床も壁も、ベッドやシーツに至るまで、何もかもが白い部屋。

人工的なこの部屋に、自分自身が異物になったかのような錯覚を覚える。

 

 

 

『あー、あー、聞こえるかい?聞こえたなら返事をして欲しい。そうだな、聞こえていれば、軽く手を挙げて貰えるかな』

 

 

どこかから声が聞こえた。

先程の機械音声と違う、美しい女性の声だ。

思わず聞き入るような、囀るような声色は、どうやら私に問いかけている。

 

 

 

「ーーーーー貴方は、」

 

 

 

自分の声を、久しぶりに聞いた気がする。

良く通る、それでいて澄んだ男の声だった。

今まで、私は何をしていたんだっけ。

 

 

 

『……驚いたな。もう話せるのかい。流石は天体科の秀才、といったところか。君、身体的には生まれたての赤ちゃんと大差無いんだぜ?』

 

 

 

天体科。

秀才。

こめかみに僅かな痛み。

聞き覚えのある単語だ。

 

 

 

 

「そう、なのか?」

 

 

 

内容を飲み込めず、反射的にそう返した。

どうやら、声の主は困惑している。

 

 

 

『全くだ、これではこの万能の天才の立場が無くなる。って、他のメンバーも同様!?おいおい、君たち一体どんな体してるんだ……?』

 

 

 

誰かと、話しているのか。

彼女は今、他の、と言った。

私以外にも、わたしのような人が居るのか。

溜息をつく声に、徐々に微睡んでいた意識が目覚めていく。

視界と共に、頭も少しづつ冴えていく。

 

 

 

 

『コホン!……早速だが、自分の事は分かるかい?バイタルに異常がない事は確認しているが、念の為の確認、というやつだ。自分の名前を言って貰えるかな?そこに、手鏡があるだろう。それで自分の顔を眺めれば、より理解が早いかもしれない』

 

 

 

横を見ると、確かに手鏡らしきものがテーブルの上に置いてあった。

ご丁寧に白く染め上げられたそれを手に取り、鏡面となる部分を覗き込む。

女とも見まごうような黄金の髪をした男が、目の前にいた。

金糸のような長い髪。

衰弱しているようにも思えるが、それでも、整い切っている、と言わざるを得ない精悍な顔立ち。

久しぶりに見た、見慣れた顔。

 

 

 

「…………………………む」

 

 

 

軽く、自分の頬を引っ張ってみた。

何とも間抜けで似合わない。

酷く不釣り合いな顔が、鏡の中に収まっている。

 

 

 

 

『……………え、えーと、何、してるんだい?』

 

 

 

声を聞き、他人を知覚し、自分を見た。

そこで漸く、意識が今に追いついた。

 

 

 

 

 

「ふふ、いや、すまない。」

 

 

 

 

 

軽く笑って、声の先へと視線を送る。

 

 

 

 

 

そうだ。私は、私の名は

 

 

 

 

 

「.......キリシュタリア。キリシュタリア・ヴォ―ダイム。それが、私の名だ」

 

 

 

 

 



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目覚め②

短編のつもりが書いているうちに長くなってしまっている。
やっぱり僕、話を短くまとめるの苦手だなぁ。
意外と長くなるかもしれません、気長にどうぞ。


『よろしい、流石だね。ついでに、私が誰だか分かるかい?』

 

 

 

「レオナルド・ダヴィンチ。我らがカルデアの英霊召喚例第三号。名目麗しき万能の天才にして、このカルデアの叡智の一旦の担う人理の守護者。これでいいかな?」

 

 

 

『正解、まぁ、これは聞くまででも無かったね。じゃあ次に今の状況だがーー』

 

 

私の意識がはっきりしていると確認するや否や、足早に話を先に進めようとするダ・ヴィンチ。

だがその前に、私にはどうしても聞きたいことが、否、聞かねばならないことがあった。

 

 

「その前に、質問を良いかな」

 

 

 

『いいだろう、なんだい?』

 

 

「一つ、私以外の者は無事かい?カドック、オフェリア、芥、ペペロンチーノ、ベリル、デイビット。皆の、Aチームの皆の様子はどうなんだい。先ほど起き上がったと聞こえたが?」

 

 

Aチーム。

クリプター、とも呼ばれる、このカルデアの最高戦力たちにして、私の大切な仲間たち。

 

カドック・ゼムルプス

真面目で努力家な青年。

その泥臭い在り方には、私も何度も姿勢を正せられた。

 

オフェリア・ファムルソローネ

強力な魔眼をもつ、魅力的な女性。

その戦闘能力は、私すら凌駕するだろう。

 

芥ヒナコ

無口で小柄な女性。

人との関りを断っていたが、それでも、私が知る限り彼女は協力的だった。

 

スカンジナビア・ペペロンチーノ

明るくチャーミングな、器の大きい人物。

彼、彼女?

いやまぁどちらにしろ、私たちのムードメーカーであったのは間違いない。

 

ベリル・ガット

陽気さと冷酷さを併せ持つ狂人。

けど、根は良い奴だった。志があれば、きっと分かり合えるはずだ。

 

デイビット・ゼム・ヴォイド

冷静沈着にして鋭い洞察力を兼ね備える秀才。

きっと彼なら、私が亡き後を継げると、信じさせて止まなかった。

 

 

彼らの安否が気になった。

どうか、どうかと。

のうのうと私だけが目覚めた、なんて事態にだけはなって欲しくなかった。

 

 

 

『そこについては安心していい。Aチーム全員、たった今凍結処理を解除したんだ。皆何事も無く目を覚ましたよ。だけどまぁ、まさか全員その場で起き上がれるとは思わなかったけど』

 

 

「そう、か。それは、良かった。……………うん、本当に」

 

 

 

ほっと胸を撫でおろす。

私がくたばらなかったのだ。

私には無いものを持つ彼らが、そう簡単に死ぬはずは無いと、分かってはいたが、それでも不安なものは不安だった。

そんな目下の懸念が取れたならば、次の質問。

私にとっては二の次だが、世界にとっては、こちらの方が重要だろう。

 

 

 

「じゃあ次だ。私たちは、どのくらい眠っていた?今は一体……いや、今と言う概念は、まだ残っているのかい?」

 

 

世界は、人理は、一体今どうなっているのか。

私たちの冠位指定は、どうなっているのか。

起き抜けで他人と世界の心配など、傲慢にも程があるが、それでも聞かざるを得なかった。

 

 

『ーーーー何もかもお見通しという訳かい。全く、寝起きくらいもう少し可愛げがあっても良いものだと思うけどね、私は』

 

 

 

「うん、すまない。それに関しては私でも同じように感じると思う。でも、事が事だ。場合によっては、一刻も早く外に出なければ」

 

 

 

『安心していいよ。君が思っているような展開にはならない。と言うか寧ろ、この状態でそこまで想定できるなら、私は君の顎が外れないか心配だね」

 

 

 

しかし、ダ・ヴィンチの反応は私の予想に反して軽いものだった。

というか、顎?

一体何のことだろう、まさか私の咬合器官になにか懸かっているのだろうか。

 

 

「???」

 

 

「まぁ聞きなよ、信じられない真実の話を。この場では簡単なものしか出来ないけどね」

 

 

 

 

 

 

それからダ・ヴィンチは数分にわたり、今の状況と、私たちの身に起きた出来事を説明してくれた。

レフ・ライノールの裏切りによって、私たちは致命的なダメージを負い、苦肉の策として肉体の凍結処理が行われたこと。

その直後、カルデアスが燃え上がり、人理が焼却されたこと。

そこまでは想定内だった。私の頭もそこまでは理解していた。

だが、その先は

 

うん、ちょっと、なんとも

 

 

 

「…………………………すまない。もう一度言ってもらえるかな、ダ・ヴィンチ。どうやら私もまだ、寝ぼけているようだ」

 

 

聞いた言葉に対する反応が追いつかない。

例えるなら、と考える事すら。

驚愕の色は、画面越しの彼にすら鮮明に伝わっていた。

 

 

 

『あっははははははは!!!!いやぁ、期待通りのリアクションをありがとう!君のそんな顔が拝めるのなら、何度でも言ってあげるさ』

 

 

 

「……………むぅ」

 

 

 

『そう拗ねないでおくれよ。…………人理焼却は解決されたよ、君たちでは無く、補欠となる予定だった、たった一人の、一般枠のマスターによる奮戦によってね。冗談みたいだろう?でも、見事なことに真実なのさ』

 

 

それをそうか、なら良かったと呑み込めるほど、私は器用では無かった。

いや、器用である自覚はあったけど、幾ら何でも無理だった。

 

 

解決、そうか解決されたのか。

うん、なるほど。

さっきのダ・ヴィンチの失敗は、何の比喩でも無かったのか。

頬っぺた、いや顎が外れる。

確かジャパンの諺に、そんなのがあったな。

 

 

ーーー冗談じゃない、確かに外れかけたぞ!

 

 

 

「それは、その、何というか.......、その、私たちの、立場が..............ね?」

 

 

 

 

『いや、そこはいいんだ。いやまぁ、君たちにしては良くないだろうけど。……………ん?何?カドックがまた意識を失ったって!?っ、あはははははは!!!!いやいいよ、少し寝かせてやりなさい。大丈夫、直ぐに目を覚ますさ。はぁ、おっかしい』

 

 

 

「今回ばかりはカドックを同情するよ、寝起きに一発ボディを喰らった気分だ。君、実は楽しんでいるだろう?」

 

 

仕方ないだろう。きっと他の皆も同じように驚いているはずだ。

まさか、本当にまさか。

一般人、それも補欠の、魔術すら使えない者が、世界を救ったなんて。

正直、魔術協会に近しい者ほど、受けるショックは大きいだろう。

つまり、カドックには覿面だったと言う訳だ。ご愁傷様。

 

 

『もっちろん!君たちのそんな顔、中々見られたものじゃない。録画ボタンを未だ推していない私の自制心を誉めて欲しいくらいだ。どうかな、君さえよければ、一枚写真に収めるというのは?私が万能の天才の名を懸けて、かのモナ・リザに匹敵する名画に仕上げてみせるが?』

 

 

 

「…………折角だが遠慮する。ぺぺやベリルは喜びそうだけどね、主に見る側で、だが」

 

 

この英霊のこういうところには、はたはた困らされる。

ただの悪ふざけをこうもスケールアップして言われれば。少しばかり、ほんの少し心躍ってしまうのを止められないからだ。

 

モナ・リザに匹敵する絵画、ね。

 

 

「驚愕の彩を描くなら、きっとデイビットの方が良いんじゃないのかな」

 

 

 

『勘弁してくれ。彼のそんな顔なんて、きっと目の前で見せられても信じられない』

 

 

 

「はは、確かに。それなら、私の方が適任だね。死んでもごめんだが」

 

 

 

『良かったよ、やる、なんて言われたら、ただでさえ忙しいわが身が更に大変になるところだった』

 

 

 

「……………君、自分で言ったんだろう?」

 

 

 

『…………………………』

 

 

 

薄い沈黙。

 

なにかまずいこと言ったかな。

いや、よく考えたらモナ・リザになれるのなら、別にやっても良かったかもしれないな。

写真くらい、別に減るものじゃないし、後の名誉の事考えると、かなり良い提案だったのでは?

 

 

 

『……………さ、さて!見たかった反応も見た事だし、一名を除いてもう皆動ける様だ。そこから出て来て貰えるかな。詳しい説明をする為に、一度全員に集まってもらいたいんだ。補助が必要なら申し出てくれ、なんて、君には要らないかな』

 

 

「君は気が回るのか回らないのか、どちらなんだ」

 

 

そう呟いて、ゆっくりと体を起こし、目の前にあるドアを開く。

久しぶりの肉体の行使も、意外と造作なく完了出来た。

最も、脳の処理はハードワークすぎるので、体の疲労具合はイーブン、といったところだが。

そうして、再びゆっくりと、ゆっくりと。

もう意識が覚醒してから何度目かも分からない溜息と共に、ゆっくりとドアを開けた。

仲間たちに会える喜びと、それ以上にカオスな感情を、胸に抱えながら。

 

 

 

 

「………はぁ、全く。納得できる説明はあるんだろうね」

 

 

 

『精神安定の暗示でもかけておくんだね。言っておくけど、こんなのまだまだ序の口だよ☆』

 

 

 

 



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秘匿者たちの団欒

意外と読んで下さる方が居て嬉しい限りです。
短編、と言いつつかなり長くなってしまっていますが、どうか最後までお付き合いください。


 

 

「キリ……あ、えと、ヴォーダイム!!」

 

 

 

「やぁ、オフェリア。元気そうで何よりだ」

 

 

 

ドアを開けると、その先は談話室のような空間になっていた。

自分が居た病室と同じく真っ白な部屋。

七人分の椅子が円卓のように広がったテーブルの前に置かれ、その先には大型のモニターが置かれている。

私たちが眠る前、会議室として使っていた部屋にとても良く似ていた。

 

 

 

「無事で良かった、本当に、本当に……」

 

 

彼女はそう言うと、私の胸に垂れかかって来た。

緊張の糸が解けたのだろうか。

彼女は私以上に私の安否を気にしていたしていたらしい。

 

 

 

「おっと、大丈夫かな。やはりまだ無理をしているんじゃ」

 

 

 

そんな彼女を優しく抱き留める。

 

 

 

「い、いえ、違うんです。その、ちょっと力が抜けちゃって」

 

 

 

「何言ってるのよ、私たちのリーダーがこんな所でくたばるわけないでしょう?」

 

 

 

続いてもう一人、私のところに歩み寄ってくる影。

こちらは対称的に、私の心配など、と言わんばかりだった。

 

 

 

「ぺぺ、君も大事無いかい?」

 

 

 

「まぁね。私、死にたい人の前でしか死なないって決めているから。……でも、心配してくれてありがとう。あなたも無事で良かったわ」

 

 

そう笑いかけると彼は視線を下に落とし、未だに私の胸にいるオフェリアに笑いかけた。

 

 

「それにしてもオフェリア、いきなり歩み寄って、増してや抱きつくなんて、見ない内に大胆になったわねぇ、んふふ」

 

 

 

 

「えっ、あっ!!ちょ、ちょっとぺぺ!!」

 

 

 

その発言で漸く自分が何をしているのか気が付いたのか。

顔を赤くしてオフェリアは私から飛び退く。

 

 

 

「やーねぇもう、起きたばっかりだっていうのに、見せつけてくれるわぁ」

 

 

 

 

「ご、ごめんなさいヴォーダイム。いきなり、その、だ、抱きついてしまって」

 

 

 

「ん?いや、いいんだ。状況が状況だし、何をされてもさほどは驚かないよ」

 

 

 

というか、オフェリア程の美人に抱きつかれて嫌になる男なんていないだろう。

こういうの、なんて言うんだっけな、確かぺぺから借りた本で読んだぞ。

ラッキー……ラッキーなんとか、ってやつだろう

 

 

「あ、いや、えっと…………、そ、そう!なら良かったです!」

 

 

「ん〜〜〜、こっちもこっちですれ違ってるわねぇ!本当あなたたち、キュンキュンさせてくれるじゃないの!」

 

 

 

「っ、もう!ぺぺ!!いい加減にして!!」

 

 

 

顔を真っ赤にして抗議するオフェリア。

傍から見ても、すごく照れているのが伝わってくる。

久しぶりに見るそんな光景に、数日前の日々を思い出していると、続々と他の仲間も集まって来た。

 

 

 

「いや、そうやって照れるオフェリアも、からかうペペロンチーノも見るのは数日ぶりだ。いや、数年ぶり、なのか俺たちは」

 

 

そう言って近寄ってきたのはベリルだった。

後ろには芥が、相変わず仏頂面で本を片手にしている。

 

 

 

「あなた、空気読めないって言われない?ベリル・ガット」

 

 

 

「何言ってんだ芥。そこに幸せそうな空気があれば、取って食うのが人ってもんだろう、なぁ?」

 

 

 

「知らないわよ、そんなの」

 

 

 

「ベリル、芥。久しぶりだね。君の言う通り、こうして会うのは数年ぶりなのか。ふふ、何だか不思議な感覚だね」

 

 

確かに、今まで眠っていた私たちにとって今の光景を目撃したのは数年ぶりなのだろう。

最早思い出す、というよりは、思い馳せる、の方がしっくりくるくらいだ。

 

 

 

「ほらな、こうして俺のジョークを真に受ける奴だっているんだよ。この場じゃ寧ろこいつが一番空気を読めないだろう!」

 

 

 

「ジョーク、だったのか?今の。でも事実なんだし仕方ないだろう」

 

 

 

「ははははは!いや、そういう奴だよお前は!元気そうで何よりだぜ、リーダー!嬉しくって涙が出ちまう!」

 

 

そう言ってベリルは私の肩に腕を回してくる。

そしてその光景を、他のメンバーは何とも形容しがたい顔で眺めていた。

こうした彼の陽気なところを私は気に入っているのだが、どうやら他のメンバーはそうでは無いらしい。

 

 

 

「?、ありがとう。君も元気そうだ。それに、芥も。相変わらずのマイペースさだね」

 

 

 

 

「………そりゃどうも。あなたこそ相変わらずね。寝ぼけてるんじゃないの?」

 

 

 

そしてこちらも変わらず、本から一切視線を離さない芥。

そんなにその本面白いんだな、言ってみれば貸してくれるのだろか。

 

 

 

「はは、手厳しさも変わらないな」

 

 

 

「ヴォーダイム」

 

 

 

すると、そんな団欒の空気の中、鋭い声が部屋に響く。

 

 

 

「デイビット!君も元気そうだ!どうだい、体の方は?」

 

 

 

 

「問題無い、お前も壮健そうだな。……爆発に一番近かったのはお前だ。恐らく、最も傷が深かっただろう。にも関わらずそうして動いていられるのは、日頃の鍛錬の成果だな」

 

 

 

 

「そうだったのか。流石、良く見えているな。でも、私がこうして動けているのは、私の力では無くカルデアの医療術のお陰だよ。別に、私は特別な事を何もしていない」

 

 

 

 

「何言ってんだ、お前は充分に特別だぜヴォーダイム。俺やカドックみたいな三下からしたら、そんなの皮肉にしか聞こえやしねぇ」

 

 

 

「ベリル。やっぱりあなた、空気読めてないわよ」

 

 

 

後ろの方で再び笑い声が聞こえる。

穏やかな日々に、また帰って来たんだと実感してしまう。

 

 

 

「いや、確かにお前の言う通りだ。今の発言は撤回しよう。お互い、無事で良かった」

 

 

 

「ああ、その通りだ」

 

 

 

そう言って彼の肩に手を置く。

彼とは話が合う。

少なくとも私はそう知覚していた。

魔術世界に置ける始まりと限界点、即ち零から生まれ無に帰るもの。

人の秘めた可能性、善と悪、それら整合性と相対した感情と行動との関係。

果てには各国に残る神話体系や、空想の生物の実在性など。

彼は私の知らぬ事を知り、私は彼に知らぬ事を与えた。

カルデアに来て、これ程まで有益な話が出来たのは彼以外にはいないだろう。

相変わらず、彼の表情に大きな変化は無いが、ここまで話してきた感覚で分かる。

きっと彼も、思いは私と同じだったのだろう。

 

 

 

「三下と言えばよぉ。カドックはどうした?あとあいつだけだろ、出て来てないの」

 

 

ベリルが思い出したかのようにそう口にした瞬間、空いていなかった最後のドアが勢いよく開いた。

 

 

 

「僕をアンタと同じ括りにするのはやめろ!!クソッ、目覚めの悪い」

 

 

 

 

出て来たのはカドック。

彼も私たちと同じように目覚めたはずだったが、人理修復の話を聞いてもう一度倒れていた、と聞いている。

 

 

 

「お、なんだなんだ〜!居たのかよ、兄弟!そんだけ悪態つけりゃあ大丈夫そうだな」

 

 

 

「おはよう、カドック。元気そうね、安心したわ」

 

 

 

仲間たちも次々とカドックの無事を喜ぶ。

けれど、当の本人は生還を喜ぶ、という具合では無さそうだった。

 

 

「そうでも無いさ、目下腹痛と頭痛で悶えそうだよ」

 

 

 

「確かに、顔色そんなに変わってないわねぇ」

 

 

 

そう言えばダ・ヴィンチが言っていたな。

人理修復の話を聞いてカドックがまた倒れたと。

 

 

 

「はは、まぁいいさ。待たせて悪かったな」

 

 

 

恐らく、彼自身その事で私たちの時間を取らせたことに後ろめたさがあるのだろう。

ならばここはリーダーとして、彼のフォローをしてやるのが人情というものだ。

 

 

 

「やぁ、カドック。災難だったね。どうだい、午後の午睡は。最悪の気分、って顔しているけど」

 

 

 

「エリートってのは真顔で煽ってくるから怖いね。時計塔で権力闘争してたら自然と身に付くのかい。と言うか、なんの話だ?」

 

 

 

「ん、ダ・ヴィンチに聞いたんだ。君が驚愕の余り気絶した、ってね」

 

 

 

「んなっ!!」

 

 

 

沈黙。

日頃から黙る事の多い芥やデイビットだけでなく、あれだけ饒舌だったぺぺやベリルですら、目を丸くしてしまう。

何かおかしな事を言っただろうか。

心配したつもりだったのだが。

 

 

 

 

 

 

「ぶほぉっ!!………失礼、ごめんなさい、カドック」

 

 

 

「っ、くっはははは!そりゃそうだよなぁ!あんなん信じられねぇよなぁ!」

 

 

 

すると皆、吹き出したかのように笑いだした。

状況についていけてないのは私一人。

 

 

 

「皆、なんで笑ってるんだ?」

 

 

 

「アンタが余計な事言ったからだろ!何で知ってる!?まさかあの爆発まで含めて、僕の醜態を拝む為の策だったのか!?エリートってのは暇の潰し方まで一々平民を見下さないとやってられないって言うのか!!答えろ、キリシュタリア・ヴォーダイム!!」」

 

 

 

怒り心頭、寧ろ頂点、とばかりに捲し立てるカドック。

しかし私としては、何故彼が怒っているのか分からない。

増してや善意からの本気の心配だった為、彼の心情を全く察す事が出来ない。

 

 

「え、いや、私は君を心配してだな、と言うか、皆知らなかったのか?」

 

 

そう言って仲間たちの方を見やる。

きっと優秀な彼らなら、完璧に私のフォローをこなしてくれるはず……!

 

 

しかし

 

 

 

「いや全く。今初めて耳にしたな」

 

 

なんて真顔で言うデイビットに。

 

 

「ぷっ…………まぁ、私には関係ないわ」

 

 

なんて笑いを堪える芥に。

 

 

「ヴォーダイム、今回ばかりはあなたが悪いわね」

 

 

とトドメを刺してくるペペロンチーノ。

 

 

 

 

「なんでさ!?」

 

 

 

「どこが聞いたような言葉で誤魔化すのはやめろ!」

 

 

最後の希望まで断ち切られ、遂に追い詰められる。

どうやらあれはダ・ヴィンチが私だけに口を滑らせただけのようで、つまりあの珍事を知っているのは私だけだったようだ。

そりゃあカドックも怒る。

けど、多分悪いのは私じゃない、ダ・ヴィンチだ。

それを何とか伝えなくては。

 

………さて、どう言ったものか。

 

 

「いや、待て待て待ってくれ誤解だ。私も見ていた訳じゃない聞いただけだ。それに、私は単に君の心配をしてだな」

 

 

とりあえず真実を告げるしかない。

それにちゃんと心配した、と取り付けて、悪意など無かった事をアピールせねば。

 

 

 

「は?聞いた?………誰にだ」

 

 

 

「ダ・ヴィンチ。レオナルド・ダ・ヴィンチ。今そこで聞いているだろう、我らの誇るべき先人だ」

 

 

 

『ぎくぅ!』

 

 

 

「ファック!!……おい、ダ・ヴィンチ!此処にはプライバシーってものは無いのかよ!」

 

 

 

『ごっめぇ〜ん☆君へのアナウンス担当があんまりにも慌てふためくものだからつい、ね。正直私も、もっと空気の読める人に零すべきだったと反省しているよ〜』

 

 

 

「反省すべきはそこじゃねぇけど、確かにそこも反省すべきだな」

 

 

 

「待ってくれベリル。今さらっと私の悪口言わなかったか」

 

 

 

「あ?何言ってんだ。これは友人としてのアドバイスだよ!」

 

 

 

………そうか、ならいいか。

 

 

 

「クソッタレ、死者が生者の秘部を暴くなんてとんでもないな。アンタ、一回座に還って、人との付き合い方をミケランジェロにでも聞いてくればいいんじゃないか?」

 

 

『ほーーう。私の前でその名前を出すとはいい度胸だねぇ、カドック・ゼムルプス。でもざーんねん。私に出来ない事があいつに出来るわけ無いから変わらないよー。なんてったって私は天才だからね』

 

 

「妙に説得力あるのが腹立つな……」

 

 

以前怒りが収まらないカドック。

その矛先こそダ・ヴィンチの方に向いたが、これではいつまでたっても本題に進めない。

さらっと心配して直ぐに進めるつもりだったんだがなぁ…

 

 

「えーと、全員そろったことだし、そろそろ説明が欲しいんですけど、いいですか?ダ・ヴィンチ」

 

 

そんな私の心象を察したのか、オフェリアが声を上げてくれた。

 

 

「っ!……………あー、その悪かったな。余計な時間を取らせた」

 

 

そこでカドックも気付いたのか、溜飲を下げながらも渋々下がってくれる。

彼としてもこの先の話を聞くのは心待ちにしていたのだろう。

 

 

 

 

 

 

『おっと、確かにその通りだ。お寝坊さんもやって来たところだし、そろそろブリーフィングを始めよう。対象は、そう。人類史上類を見ない未曾有の危機、魔術王による人理焼却』

 

 

 

その言葉を聞いて、部屋中にあった温かな空気が一気に冷えていくのを感じた。

無論、私も例外では無い。

ここに集うのは天体科君主、マリスビリー・アニムスフィアに見出された優秀な魔術師ばかり。

そして我らは、この危機から世界を救う事こそを使命としていた。

それを一体誰がどう解決したのか、納得のいく説明が無ければ引き下がることは出来ない。

 

 

「は、成り上がりの英雄の冒険譚か。いいねぇ、楽しみだぜ全く」

 

 

「ベリル、さっきから口が悪いわよ。何イライラしてるの」

 

 

「そりゃあ悪かったな。何でもないよ、気にすんな。ただ……そうだな。お気に入りを奪われちまったんだ。少しは妬いたっていいだろう?」

 

 

「…………………………そう。難儀ね、あなたもあのコも」

 

 

全員が着々と席についていく。

それぞれに用意された席の前には既にタブレット資料が置かれていた。

皆がそれを手にしたところで、照明が落ち、正面のスクリーンに青白い光が浮かぶ。

 

 

 

『手元の資料と、正面のスクリーンに映るこちらで観測できた範囲での映像を踏まえて説明していく。あと悪いが、説明中に質問は許可できない。というか、許可していればキリが無い。適宜パートに区切ってあるから、そこでその都度質疑を行う。理解してもらえると助かる』

 

 

 

「あぁ、問題ない」

 

 

 

『よろしい。では始めよう。人理修復、前代未聞の聖杯戦争を体一つで駆け抜けた、人類最後のマスター、藤丸立香の話を』

 

 

冠位指定(グランドオーダー)、「」立証、立説を開始する』

 



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軌跡/奇跡

皆さんどうもこんにちは、たまごぼうろです。
まず感謝を。
たくさんの評価、コメント、しおりなど、とても嬉しいです。ありがとうございます。
なんと、ランキングに乗っていました。
現在、週間短編5位です。
本当にありがとうございます。
これからも細々と続けていくので、短い間になりますがお付き合いください。
では、最新話をどうぞ。


「そして最後に、今回の最大の功績者である藤丸立香には、この功績が認められ開位(コーズ)の階位が渡された。これがつい先日の話だ。と、まぁ、事後処理や功績云々の話まで踏まえるとこれくらいかな。では、以上で彼の冠位指定の第八節、及び最終節の説明を終了する。では、質疑応答に入ろう。質問者は挙手したまえ」

 

 

数時間に及ぶ説明が終わったころには、始めは半信半疑だった内容全てに信憑性が帯び、誰もがそれを、本当にあった事、だと知覚していた。

カドックやベリルは最初、彼の行動に不合理が見える度に一々嫌味を加え、その都度ペペロンチーノに注意されていた。

だが、それを言う彼にも、また何も言わずに見ている他のメンバー、そして無論私にも、少なからず嘲笑の色はあった。

だが、次第にそれは消えていく。

それは第四節、ロンドンの辺りから目に見えて減っていき、第七節に差し掛かる辺りでは、彼を笑う者など一人もいなくなっていた。

そして今、最後の質疑応答に差し掛かる。

 

 

「じゃあ、僕から。その、彼から結ばれた縁を辿って英霊たちが時間神殿に召喚されたのはまぁ、分からない話ではない。少なくとも納得はできる。だが、敵だった連中まで来ているのは何故だ?」

 

 

もう何十回目かも分からないカドックの質問が飛ぶ。

 

 

「…そうだね。断定はできないが、恐らく、彼自身が、各特異点で力を持っていた者達への強力な触媒となっているのだろう。連鎖召喚、と言うやつだ。例えば、第六節で出てきた獅子王が召喚された事により、他の円卓の騎士たちも集まった。彼に敵対していた者達全てもね」

 

 

「英霊たちも敵対していたとはいえ、元は人理の守護者だ。彼の行動に何か思うところがあったのだろうさ。あの連鎖召喚は、そういった類の奇跡なんだろう」

 

 

「奇跡、奇跡ね。この数時間で、何度その言葉を聞いたことやら。ありがとう、納得は出来た」

 

 

カドックが頭を抱えながら座り込む。

それと代わるように、今度はオフェリアが声を上げる。

 

 

「では、次は私が。記録によれば、マシュ・キリエライトの肉体は魔術王の手によって一度完全に消滅している。だけど、彼女は再び現れた。これに対し私は、彼女が何もない場所から、転移してきたかのような印象を覚えたの。これってつまり、その、私たちみたいな生業が簡単に言っていいことじゃないけど、死者の蘇生、でしょう?これについて説明が欲しい」

 

 

「うん、中々いい所、いや、痛い所を突く。悪いがそれに対しては不明だ。私たち現場で観測をしていた者たちも、彼女が急に現れた、と確認している。また、当の本人に聞いても覚えていないらしい。これもきっと、奇跡、なんだろう」

 

 

「また奇跡、ね。何度起こるのよ。その天命から下された偶然ってやつは。いい加減そろそろあなた達の作り話を疑うレベル。」

 

 

確かに、ダ・ヴィンチは何度も奇跡、という言葉を口にした。

きっとそれは事実であり、彼自身もそうとしか観測出来なかったのだろう。

死者の蘇生。

医神アスクレピオスが挑み、またにより天罰が下された人の禁忌。

魔術世界に存在するどの魔法にも該当しない、真の奇跡。

それを目の当たりにし、何の説明もないというのは、確かに納得できない部分もある。

だが、

 

 

「それは違う。芥ヒナコ。奇跡はそう何度も起きない。起きた奇跡は、たったそれ一回きりだ」

 

 

それは、と言おうとした私の言葉をデイビットが遮った。

 

 

 

「……………どういう事かしら」

 

 

「まずダ・ヴィンチ。お前の言葉選びも悪い。確かに奇跡的な出来事ではあるかもしれないが、それはお前たちの視点だろう」

 

 

「…………………………なるほど、確かにそうだ」

 

 

「なに、何か難しいこと言いそうね。デイビット」

 

 

ここで私は、同じ意見を持つ者として彼の言葉を引き継ぐことにした。

 

 

「いや、デイビットは何も難しいことを言ってはいないよ。というか、先に言われてしまったのが悔しいくらいだ」

 

 

「言いたいのならば、お前に任せるぞ。ヴォ―ダイム。恐らく、この手の話はお前の方が好みだろう」

 

 

デイビットも特に異論はないようなので、このまま続ける。

 

 

「先程の連鎖召喚の際も、ダ・ヴィンチは奇跡と言ったが、それは違う。いや、奇跡的な出来事なのは間違いないが、奇跡では無い」

 

 

「それの何が違うってんだ?確率の話をすりゃあ、どちらも変わらないだろ?」

 

 

確かに、字面通りに受けとるならばその通りだ。

しかし、それは数学的にこの事象を捉えている。

それでは人は測れない。

 

 

「いや、確率の話ならば余計別物だよ。それなら今まで語った奇跡は、確率で言うなら100%だ」

 

 

「は?」

 

 

「だって、彼がそれを引き起こしているんだ。やろうとしてやったわけじゃ無いだろうけど、リターンケアとしては合理的だろう。無論リスクの方が大きかったけどね」

 

 

「……………えっと、つまり?」

 

 

皆がポカンと呆けた顔をしている。

だが、私はこうとしか語れない。

人理修復を成す(やる)と決めて、その大願を果たした(やった)なら、その過程は全て必然だろう。

 

 

「時間神殿は連鎖召喚が起こりえる環境だった。高濃度の魔力に満ちた空間だったようだからな。英霊の召喚に必要なのは、魔力、令呪、そして触媒だ。その点を全て基準以上にクリアしているならば、連鎖召喚が起こる確率は100%と言える。ヴォ―ダイムの説明は些か暴論じみているがな」

 

 

私の説明では全体の理解に不十分と思ったのか、デイビットが付け加える。

 

 

「そういう事だ。他の事例だってそう。第一の獣、ティアマト神を倒す際に冠位の英霊が手を貸していたが、あれも第六特異点で、冠位以前にその者に借りを作っていたからだろう?彼の行動が、その結末を呼んでいるんだ」

 

 

「奇跡とは、凡そ余人の関わらない範囲、いや、関われない範囲で行われる、人知などというもので測れないものの事を指す、と私は考えている。だけど、今までの奇跡の根幹には全て、マスターである彼の判断が存在している」

 

 

奇跡は人では起こせない。

精々呼び込むのが精一杯で、残りは天運に委ねるのが常だ。

奇跡とは、1%の努力と、99%の偶然で引き起こされる。

だが、それが少しでも努力に傾けば、それは奇跡では無くなる。

他の人々、特に間近でそれを観測していた者からすれば変わらないだろうが、それでも、それは本人が勝ち取った未来と言えるだろう。

 

 

「彼の意志が、努力が、想いが、願いが、そんな奇跡を必然にまで落とし込んだんだ。だからあれは奇跡では無い。奇跡的な出来事なんだよ」

 

 

 

「なるほどね。意志の力、ってやつかしら。偶然を必然にまで落とし込む。私みたいに出来ない事から逃げるような人間じゃあ、やろうと思っても出来ないのでしょうね」

 

 

「故にこそ奇跡は一つ。キリエライトが蘇生したことのみだ。あれは紛れも無い奇跡だろう。俺が言いたかったのはそういう事だ。分かったか、芥」

 

 

「えぇ、よく分かったわ。あなた達が存外ロマンチストだってね」

 

 

「当然だろう。魔術師なんて生業してる時点で全員ロマンを胸に秘めてる。何をどれだけ削ぎ落とそうと、星に手を伸ばす(根源に辿り着く)事を止められないのが私たちだよ」

 

 

 

「すまない。話の腰を折った。キリエライトの蘇生の経緯は完全に不明、なんだな?そこに推測を入れる余地が無いほど無欠に、一部の意志も感じられないほど劇的に」

 

 

「そうだ。時間神殿に辿り着いた時点でマシュの寿命は三日と無かった。仮に光帯によってのダメージが無くとも彼女は死んでいた。けど、今の彼女は人間そのものだ。こればっかりは私も分からない」

 

 

「…………………………」

 

 

しかし、その鋭い眼光は途切れることが無い。

彼はその結論に明らかに疑問を覚えていた。

 

 

「不満かい、デイビット。只の奇跡は嫌いかな」

 

 

「いや、いい。続けてくれ」

 

 

だが、彼の中で答えが落ち着いたのか。

存外にあっさりと引き下がってくれた。

不明点は多いもの、功績を加味すれば当然。

大方、そんな結論で思考を止めたのであろう。

所感を述べようにも、そこにある何かを一部も感じていないならば不可能だ、と。

 

 

「なら、次は私がいいかな」

 

 

よって私もそこで思考を止め、気になっていたことを一つ問うことにした。

 

 

「いいけど、変な質問はやめてくれよ?南米のジャガーは何なんだ?とか言われても、意味不明としか答えられないからな。あれに関してはもう答えようがない」

 

 

「分かってるよ。今回は至極全うだ。何せ、今の私たちの恩人かもしれない人についてなんだから」

 

 

私が聞きたいのは、その存在について。

我がカルデアの医療部門トップにして、わが師、マリスビリー・アニムスフィアの知人でもあった男。

そして、この世の魔術すべてを治め、叡智を築き王となり、人を知らずに消えていった、哀れな英雄の二度目の話。

 

 

「ロマニ・アーキマン。いや、英霊ソロモンと言った方がいいか。彼は、その後どうなったんだい?」

 

 




コメント欄にて質問のようなものを見かけたので、回答します。
本作の時間軸ですが、「人理修復直後」です。
そして、僕らユーザーにとっては、1部、1.5部、2部、と続いているような感覚ですが本作は「1.5部に該当する事件はまだ起こっていません」。
なので2部から登場したキャラクター、新所長やコヤンスカヤは「登場しません」。


細かく言うとまだ色々突っ込みどころが、となる方もいると思いますが、深く考えずふわっとお楽しみください。
これはIF。「もしも」もお話ですので。

次回もお楽しみに!



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