【本編完結済み】寝落ちしたらモビルアーマーになってた件 ~鉄華団に「厄災の天使」が味方したようです~ (睦月透火)
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オリジナル設定資料

今回はオリジナルキャラクター、セファーちゃんと
本作オリジナル機体「ザドキエル」の設定資料を公開します。

※この設定は参考資料です、未登場の設定や情報も含まれますので悪しからず。
m(_ _)m

7/12 強化後の設定変更点を反映しました。


 オリジナルMS「堕天使ザドキエル」

 

 機体サイズ:フラウロスとほぼ同じ(18.1m)

 機体重量:グレイズの半分くらい(15.7t)

 カラー:装甲は白、カメラアイは緑(ユニコーンと同様)

 

 - 構造・機能 -

 ◆外部装甲:ナノ・スキン

 ◆フレーム:ガンダニュウム合金製「ゼロ・フレーム」(一部にサイコフレーム素材を使用)

 ◆主動力源:擬似太陽炉×2(ツインドライヴシステム)

 ※ 後にHPHGCP(螺旋位相型超振動ゲージ場縮退炉)に変更

 ◆駆動システム:IFBD(Iフィールド・ビーム・ドライブ)

 

 - 概要 -

 セファー・イツカが脳内に保有する全ガンダム作品の技術をフル活用して造り出されたMS

 わずか1ヶ月弱という短期間で建造された機体だが、基本性能はかなり高い

 ガンダムタイプの頭部を有してはいるものの、「ガンダム」と呼称される事は一度もない

 コクピットも存在するが、基本的にはセファーの思考が反映され無人のまま稼働する

 機体の秘匿性や稼働効率、武装の都合で動力源に当初はオリジナルの太陽炉が予定されていたが、間近に迫るタービンズ襲撃に対処する為、建造時間を大幅に短縮すべく、稼働時間に制限があるものの優れた量産性を持つ疑似太陽炉へと変更された

 

 外観は天使を象り、ウイングガンダムゼロ(EW)と同様の有機的な外観を持つ主翼と、動力である疑似太陽炉を内蔵する副翼という2対4枚の稼働翼を持つ

 また、装甲にナノ・スキン、駆動システムには「IFBD」を採用、ウイングゼロ(EW)が持つ「ゼロフレーム」の一部をサイコフレーム(後に採用比率が増える)に置き換えた物を使用しており、機体重量は鉄血系MSよりかなり軽い

 機体の主構成素材であるガンダニュウム合金が非常に軽いのも一つの要因ではあるが、最大の理由は擬似太陽炉を搭載する副翼がメインスラスターとAMBAC肢を兼ねており、従来の駆動システムと姿勢制御用バーニア等は、IFBDのお陰で不要と化している

 そのため推進剤と併せて構造から排除した事で、機体の内部構造に大きな余裕が生まれ、機体の軽量化に貢献した(ちなみにその余剰スペースを粒子貯蔵タンクと大容量バッテリーに割く事で、機体の連続稼働時間を延長させている)

 

 なお、損傷や劣化などはサイコフレーム以外は全てナノ・スキンによって修復可能なため、動力源である擬似太陽炉が抱える稼働時間の問題を除けば事実上、メンテナンスフリーに限りなく近い

 

 武装にはハシュマルから移植されたビーム砲や超硬ワイヤーブレードを筆頭に、手持ち武装として「ドミニオンズブレイカー」と呼ばれる可変武装と、左腕に装備された振動破砕クローがある

 左右の手持ち武装は基本的に両腕のハードポインドに接続されるが、手での保持も可能

 また、機体重量の軽量化や継戦能力の確保の為、補給を要するミサイルなどの誘導弾や実弾火器は一切持たない

 疑似太陽炉が2基あるのでツインドライヴは勿論、当然ながら「TRANS-AM」も可能である

 

 - 武装 -

 ■左腕部大型シールド&内蔵GNビームキャノン

 ハシュマルのメイン武装だったビーム砲内臓の頭部を流用した大型の実体シールド

 射撃時もハシュマルの時と同じでシールドが表裏で割り開かれて砲身が現れる

 改良によって出力調整やビームの収束/拡散を自在に変更できる他、シールドに内蔵した粒子貯蔵タンクが空になるまではザドキエル以外の機体でも使用可能

 ビームは基本的にナノラミネートアーマーには効かないので、主に手持ち武装の破壊や牽制目的で使用される

 なお、擬似太陽炉搭載機のため、ザドキエルの粒子ビームは全てオレンジ色である

 

 ■振動破砕クロー

 上記のシールドに付属している4枚の鉤爪、シールドの下部先端に格納されており、カバーごと展開して使用する

 イメージはバンシィのアームドアーマーVN、鉤爪部分の素材も同様にサイコフレーム製

 

 ■ドミニオンズブレイカー

 ザドキエル最大の威力を誇る特殊兵器、刀身表面にGN粒子を高速で循環させる事で凄まじい切れ味を発揮する実体剣と、複数の大出力ビーム発振器を有する可変武装

 実体剣モード(GNソード)通常ビーム射撃形態(ライフルモード)銃剣形態(ヴァリアブルモード)大出力ビームソード/ライフル形態(バスカーモード)最大出力モード(ライザーソード)の5形態を状況に応じて任意に切り替え可能で、最大出力モードの有効射程距離は最低でも約666kmに達する

 なお、この最大出力モードは高濃度圧縮粒子をチャージする為、一度使用すると通常で約5分、TRANS-AM中でも約3分の再チャージ時間(インターバル)が必要

 たとえナノラミネートアーマーでも大出力ビームの直撃で発生する熱量までは防御できない為、鉄血世界でこの武装は、大出力ビームを当てる事で間接的にパイロットを焼き殺すというエグい武器と化してしまった

 イメージ元はエクシア~クアンタが使うGNソード達、もちろん最大出力モードとは長大なビームサーベルである

(余談だが、名称はゲーム「リ○カル○のはGOD」に登場する「シュ○ルの必殺技(ルシフェリオンブレイカー)」を参考に、主天使(ドミニオン)」であるハシュマルとザドキエルを指して複数形の「ドミニオンズ」となった)

※ 強化後に刀身構造が変更され「ビーム射撃能力」を排除、代わりに通常時の攻撃力が更に底上げされている

 

 ■テイルブレード

 ハシュマルの武装を再現した超硬ワイヤーブレード、本家よりも小型化されて攻撃速度が上がった為、相対的に破壊力も向上している

 背中にある2対の翼の邪魔にならないよう、基部ユニットの位置を腰部背面にしている

 

 ■特殊有線GNビット「ミストルティン」

 小説内で「ミストルティン」と呼称されるビット兵器、参照元は(スペリオル)ガンダムの頭部インコム

 ビットは1つしかないが、ナノマシンを含む弾丸を打ち込む機能を持ち、ネオ・ジオングのサイコミュ・ビットと同様に敵機内部を物理的に侵食、本体であるザドキエルの手駒(ケルビム)として操る事を可能とする

(なお、名称の「ミストルティン」とは、やどりぎの意味)

 

 ■GNフィールド

 機体全体を覆う事ができるGN粒子の防御フィールド、太陽炉を持つMSの防御バリア

 ザドキエルはIFBDを駆動システムに用いている為、GNフィールドで全身を覆うと強力な相互干渉によって姿勢制御にタイムラグとズレが生じてしまうという欠点を持つが、逆にGNフィールドの防御力は向上、さらにGNフィールドを局所的に集中展開する裏技(ピンポイントバリア)も可能となっている

※ デメリットが意外と大きい為、強化した際にこの防御機能は撤廃されている

 

 ■ツインドライヴシステム

 太陽炉2個付きの特権、TRANS-AMと合わせる事で常識外の性能を機体に付与するシステム

 ザドキエル用は、本家より性能の強化度合いは控えめながらGNワープと名高い「量子ジャンプ」機能に特化されており、本家であるELSクアンタ(地球育ちのサ○ヤ人)並に連続使用や距離を問わない空間跳躍が可能となっている

 


 

 名前:セファー・イツカ

 ?? 歳(外見は13歳相当)  性別:女性

 髪色:クロムシルバー  瞳の色:ライトパープル(能力使用時のみ虹色に変化)

 役職:整備班(MS関連技術顧問)/作戦参謀補佐官

 

 厄災戦時代のモビルアーマー「ハシュマル」の残骸から発見された少女

 周囲からはアトラと同様に妹分として扱われており、自身もオルガ達を兄として慕っている

 

 初登場時は元世界で寝落ちする直前の記憶しか無く、環境の変化に激しく狼狽したが、鉄華団に入団しメンバーと共に過ごす事で自己の存在意義と(名前以外の)前世の記憶を取り戻した

 その後は迫りくる鉄華団崩壊と主要キャラ死亡(ガンダム史上最も救いのない最後)を回避するべく、全力で世界の流れに抵抗開始

 こうして鉄華団本部は格段に環境改善されていき、格納庫ではAGEビルダーを始めとする「超技術の塊(異世界ガンダムの備品)」が活躍するようになった

(なお、改善した本部施設はセファーが独力で「堕天使ザドキエル(前述)」を建造できるくらいに設備は整っているのだが、モビルスーツの大規模な(バルバトスルプスレクスへの)改修作業となるとさすがに「歳星」ほど人員が居ないので不可能だった)

 

 性格は温厚で普段は年相応の子供っぽさを前面に出しているが、戦闘やMSの整備に関わると大人びた口調へと激変、その雰囲気と持ち前の知識量から、真のプロ気質を周囲に与える




我ながら完全にやっちまった感がします……
でも後悔は微塵もないのです、バッドエンド回避の為なので(白目)

誤字・脱字報告、感想やアンケートもよろしくです♪(2回目)

なお、PS4ゲーム「ガンダムブレイカー3」にて疑似再現したザドキエルをTwitterに載せています。
↓※Twitter(該当ツイートへの直リンク)
https://twitter.com/touka_ship10/status/1256605862874906632?s=20


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幕間 「義妹は見た!?」アトラと三日月の秘密

えー、原作ファンやカップリング好きの皆さま
長らくお待たせ致しました! 三日月×アトラの一幕です♪

※15話のアンケートですが、見事に誤字ってましたね~
スミマセン( ̄▽ ̄;)ゞ
選択5 早期集結×(終結○)への手引きと火星革命の下準備


 とある日の夕方、セファーは三日月とバルバトスのシステム調整をしていた。

 最初の(セファーの独断による)ムチャの成果か、最終形態(ルプスレクス)への改造後から三日月の戦果は凄まじく、また彼の阿頼耶識のフィードバックも軽いものに収まり、現行のままでも余程の事が無ければ、過度の負担によって身体が動かなくなる様な事態は起こらないだろう

 そうでなくとも、エドモントン戦でのツケをセファーに克服して貰った手前、三日月も以前よりかは負担を考えているのか、ムチャな行動は控えていた……最も、それは他の団員たちの協力もあっての事なのだが

 

 最たる成果をもたらしたのが、セファー加入時から取り入れられた多目的シミュレーターだ

 導入後からの新人を含め、今ではほぼ全員が一度はこのシミュレーターでMSの適正テストを受けていた

 このお陰で、初期からMSの操縦適正の高い団員を選抜でき、積極的に訓練や模擬戦に利用する事で、個々の傾向の把握、部隊配置における団員の選定にも大きく貢献し、阿頼耶識の有無に関わらずMS・MWパイロットの熟練度は飛躍的に向上

 それに伴って非戦闘員……主に整備を担当する団員たちにも様々な余裕が生まれる事に繋がり、『|識字率の向上や単純計算の習得を目的とした宿題《クーデリアとセファーの協力》』もあって団員全体の学力も向上、結果的に鉄華団全体の精神的成長が促されて、団員同士の結束力や仲間意識もいい感じに築かれ、一部の団員に対する「エースパイロットだから」という偏見や特別視はほぼ抑えられていた……もっとメタな事を言うと、ハッシュ君たち新入団員のMS操縦適正は入団直後の時点でベテラン組に周知され、その特徴に沿った訓練がそれぞれに課され、既にメキメキと腕を上げている

 

『……神経負担の割合は、前からまた少し軽くなってると思うけど……ミカ兄、感覚はどう?』

 

「……うん、前とほとんど変わらない感じで動かせる、良いね」

 

『オッケー、反映させるね……』

 

 タブレットを操作し、セファーはバルバトスの調整データを更新していく

 機体を待機状態に戻し、三日月はコクピットから出てセファーの手元を覗き込んでいた

 画面にはセファーの凄まじい手際の良さで更新されていくデータの羅列が流れていたのだが、見ている三日月にはちんぷんかんぷんだった

 

「……これでおしまいっと、阿頼耶識データの更新完了……外すよ?」

 

「うん」

 

──────────

 

 調整作業も終了、片付けを済ませたセファーは三日月とシミュレーター前に移動していた

 中では昭弘、チャド、ライド、シノの4人がチームで防衛戦を想定した訓練をしている

 定員4名のシミュレーターはその豊富な環境設定と機体データの自由度からほぼ常に満員で、阿頼耶識保有者の三日月達も自身の技量を磨く為に使っていた

 セファーは、シミュレーターの予想外の好評に、枠の増加を団長のオルガに打診している……許可が降りれば速攻で12枠まで増やすつもりだ

 

『昭弘すまん! 1機抜かれた!』

 

『俺が追撃する……逃さねぇぞ!!』

 

『ライド、残りは俺らで食い止めるぞ!』

 

『了解! 逃がすかよオラァ!!』

 

 シミュレーターの状態や中継データは外部からも確認できるようになっている

 今は4人がチームとなって防衛線を張り、「指定時間まで目標施設を防衛する事」という仮想体験をしている様だ……ちょうど残り時間の半分を切った所で敵が作戦を変更し、それにシノの砲撃が乱れて敵が1機、防衛線を突破してしまったらしい

 砲撃を掻い潜って1機が防衛線をすり抜けるが、素早く昭弘がフォロー回り追撃を開始、それをライドとチャドが上手く援護しながら残る敵機を翻弄している……防衛側用の無人兵器は幾つかあるが、上手く使わなければ役には立たないものの、敵の残りは割に意外と少なく、合計20機の敵が最初は波状攻撃のように突っ込んでくる設定だったが、残りは既に6機となっており、それまでの迎撃と掃討作業はかなり上手く行っていたようだ

 

──────────

 

「お疲れさま、連携凄かったよ! もうラフタさん達にも自慢できるんじゃない?」

 

 シミュレーターから降りてきた昭弘達に、タオルとドリンクを渡すセファー

 外から見ていた連携の精度に、セファーは世辞なしの評価を言ったつもりだったが……

 

「……いや、アイツなら『ようやくらしくなってきた程度よ、まだまだ甘いわ』とか言うに決まってる」

 

「ちげぇねぇ、この前も俺らの連携攻撃……軽く避けちまってたしなぁ?」

 

 三日月と比べて2番目にMS操縦歴の長い昭弘とシノは、未だにラフタさん達には敵わない、と話す……確かに、タービンズと事を構えた時から格上だとハッキリ分かっていたラフタとアジーの操縦センス……当時の様子はセファーも前世の記憶で知っている

 だが、セファーはシミュレーター導入後からずっと訓練を重ねてきた彼らの実力は、そう遠くない内に彼女達を抜くと考えていた……何故ならば……

 

「……オイオイオイ、三日月いつの間に特訓してたんだぁ?」

 

「あ? オイこの設定……!?」

 

「マジっすか三日月さん……」

 

 三日月は昭弘達が出たその場でシミュレーターに潜り込み、単独で複数機を相手にするハンディキャップマッチを始めていた、しかも、この設定は私が用意した範囲で最大難度を誇る鬼畜モードのはずだ

 

「……ミカ兄は、あの2人よりもう格上よね……」

 

「……だな」

 

「ちげぇねぇ……」

 

「オレも早く強くなりてぇなぁ~」

 

──────────

 

 夜になり、格納庫にはしんと静まり返って誰も動く気配はない……この2人を除いては

 

「……三日月……ちょ……」

 

「アトラ?」

 

「……あはは、ゴメン三日月……少し……休憩……」

 

 三日月とアトラ、2人の声だけが格納庫に響いていた

 

 そこに、誰かの足音が響く……足音の大きさから、大人ではない

 しかし確実に格納庫の方へと近付いていた……三日月とアトラは暗がりの中急いで隠れようとするが、それは却ってゴソゴソと何かを隠すような音を立ててしまっていた

 

「……? 誰かまだ起きてるの?」

 

 足音の主は……セファーだった

 

──────────

 

 セファーは眠気のまだ残る体を敢えて歩かせていた

 え、なんでかって? 生理現象は止められないでしょ? 乙女に言わせんな……察しなさいよ! 

 

 で、帰り道何かの音がして格納庫からと分かった為、こうやって確認しに来たと云う訳

 ……案の定、というか……不気味な気配と音の正体はすぐに分かった

 

「……ミカ兄、アトラさん……ナニヤッテンノ?」

 

「……セファーちゃん…………」

 

「……見付かったな」

 

 こそこそと開けっぱなし格納庫の扉から、セファーの視界に入らないタイミングで抜け出ようとしていた2人を気配で察知し、後ろを向いたまま声を出して2人を呼び止めていた

 バツの悪そうな顔のアトラ、対する三日月はいつもと変わらない顔をしている

(ポーカーフェイス上手いな、ミカ兄……)

 

「……2人とも、何でこんな時間に格納庫なんかに?」

 

「うぅん、何でもないよ!? 私がバルバトスのコクピットに入ってみたいって言ってたのを三日月が突然思い出して……それで急に入ってみる? って事になって……」

 

 あからさまにありそうで無さそうな雰囲気の話題を持ち出すアトラ

 残念ながら、セファーは2人が格納庫に居た時点である程度予測を建てていた……無論、この事象は無くてはならない事に繋がる大事な案件だ

 むしろ応援しなければいけない……同じ女性としても、とセファーは思っている

 

「……それは良いけど、何でこんな時間なのよ……」

 

 3人連れ立って部屋へと戻りながら、セファーは何故この時間だったのかと問い正していた

 

「三日月、だから言ったのに……」

 

「……俺が悪いの?」

 

(合わせてよ三日月! バレたら絶対団長さんやメリビットさん達に伝わって止められるから!?)

 

(……分かった)

 

 ……アトラさんや、三日月に耳打ちするのは良いんですが……私の耳には全部聞こえてるから隠し事してるのがバレバレですがなw

 

「……はぁー、分かりました……もう遅いですから、2人も早く戻って下さいね」

 

「うん、もう戻るから! おやすみセファーちゃん」

 

「おやすみ」

 

 2人を見送るセファー、その視線はアトラの足どりに注目していた

 普段とは違う足どりの悪さ、明らかに隠し事をしている態度、そして夜更けに格納庫……ここまで条件が揃っているなら、もうお分かりだろう

 こうして話しながら着いたのはセファーの部屋の前、アトラの部屋そのは隣で、更に向こう側はメリビットさんの部屋である

 

『格納庫の壁は薄いし掃除が面倒だからヤメテ、むしろ部屋なら壁厚くして貰ってるから』

 

 と、セファーはアトラさんに耳打ちをして部屋へと入った

 耳打ち直後に「ファッ!?」と素っ頓狂な声を上げて顔を真っ赤にしたアトラと、意味を理解してない三日月が廊下に残されたのは言うまでもない

 

─ 翌日 ─

 

 いつもより念入りに洗濯に勤しむアトラ、作業中にふと昨夜のセファーの助言を思い出して再度赤面……そして、あの時点で既にセファーにバレた事に気付いたアトラは、この後どうやってセファーの口を塞ごうかと頭を悩ませていた

 そしてセファーは、アトラが一体どうやって私に秘密にさせようとするのかを期待してニヤけながら、他の整備班に混ざって機体の点検作業に従事しているのだった

 

 

─☆─★─☆─★─☆─★─☆─★─☆─

 

 

 余談だが、三日月とアトラの秘密は原作と違うタイミングながら、内容は同じアレである

 そしてこの件はセファーの離脱後、原作通りに秘密を共有していクーデリアがうっかりバラしてしまい、その場に居合わせた団長のオルガを始め、年長の団員たち全員を驚かせたのであった

 

 ……すみません、バルバトスさん……

 事情通の界隈で語られる例の汚名は濯げませんでした(陳謝)




鉄華団に置いたシミュレーターには、別世界のガンダムでトップクラスの実力を持つ数々のパイロットの戦闘データ(アニメ・原作準拠)が入っており、同じく原作通りの機体データと相まって怪物クラスの仮想敵を相手に戦闘訓練が可能です。
(´・ω・)
そしてシミュレーター訓練のシーンで三日月はビームダメージもある程度通る装甲設定のルプスレクスで、「ストライクフリーダム×キラ・ヤマト」「GP-03デンドロビウム×コウ・ウラキ」「Ex-Sガンダム×リョウ・リーツ(ALICE)」の(最高鬼畜難度)の3対1で特訓しています。

あと、ミカ×アトの内容に関しては“R-18”ではないのでこれで勘弁して下さい。


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幕間 小さな天使「不在」の鉄華団

※ この幕間のみ、第三者視点からのセファーによる解説が入ります。

……はい、という訳で前書きも私ことセファーが直々にやっちゃいます!
主な内容は私が抜けた後の鉄華団とその周りの人達の様子です。
(くだん)」のもう1つの案件についても触れますので、良かったらお付き合い下さいね♪


 (セファー)が抜けた鉄華団、さぞ哀しみに包まれてるだろうと思いきや……

 

『レディ~、ゴ~ッ!!』

 

 ここ一番の声を張り上げて、アトラちゃんの声がマイクで格納庫内に響く……

 離脱直前に12席まで拡張したシミュレーターを使っての模擬訓練……鉄華団では、もはや恒例となったらしい試合形式の実力披露の場だ

 

──────────

 

 今回のパターンは6vs6のチーム戦、内訳はオルガ、ユージン、三日月、シノ、ハッシュ、NPC1体と昭弘、チャド、ライド、ダンテ、そしてNPCが2体……なんでNPCかというのは、このシミュレーターがあるゲームを参考にしているからである……

 それはガンダム好きならばご存知の「機動戦士ガンダム エクストリームVS.」シリーズ……ここにあるシミュレーターはその鉄華団特別仕様なのだ

 

 そして、穴埋め参加になっているNPC……昭弘率いるRED側に「アムロ・レイ/Hi-ν(ハイ・ニュー)ガンダム」と「バナージ・リンクス/ユニコーンガンダム(FA)(フルアーマー)が入っている

 ……え? アムロ&バナージでパワーバランス崩れてるって? 

 

 ……実はちゃんとバランスが取れていたりする、それは対するBLUE側が「セファー・イツカ/堕天使ザドキエル(幻のオリジナル太陽炉ver.)」を選択したからだ

 

「待て! チビ嬢(セファー)を選ぶとか反則だろ!?」

「その言葉、チート級2機も選んだ昭弘に返したいんだけど?」

 

 NPCに選択した機体とパイロットの事で揉めたダンテさんとミカ兄……正直言って、どっちもどっちである

 なお、ゲーム参考とは言っても中身はシミュレーターであり、ゲームライクなシステム選択画面や、外部モニターによって外からでも観戦可能という仕様以外は至って普通である……

 ただし、再現NPCのデータは軒並み本物と同等というチートっぷりw

 

 そしてNPCの選択をしたのはミカ兄と昭弘兄……

 昭弘兄が速攻でアムロさん達を選択したのに対し、ミカ兄は時間ギリギリまで待ってから私を選んだのはご愛嬌であるw

 まぁ、それ故ダンテさんが噛みついたのだが……

 

 そして、ステージは宇宙……暗証宙域にほど近い円筒形の廃棄コロニーの中と外、という広大なフィールドで……兄さん率いるBLUEチームはコロニー港内部、昭弘兄率いるREDチームは反対側のコロニー港の外というシチュエーション

 昭弘兄達はチームを2つに分け、昭弘・ライド・アムロ組がコロニー内を突っ切り、挟撃と奇襲妨害を兼ねてチャド・ダンテ・バナージ組が外から回り込むという作戦を取った

 対する兄さん達はというと……

 

「……オルガ、昭弘達は2手に別れて来るだろうな……NPCがあの2人だから……」

 

「あぁ、だが迎撃するにはココは不利だ……せめて移動でもしなきゃ……」

 

 戦力的不利さを感じている兄さんとユージンさん……いくらミカ兄と私(NPC)が居るとはいえ、個人戦などで散々戦わされ、実力差を思い知らされたアムロさんとバナージくんのデータを、NPCとして使ってきた昭弘兄達との戦力差を感じるのは当然かな……だけど

 

「じゃあ、片方……中から来る方は俺とセファーだけで良いよ」

 

 ミカ兄の提案にぎょっとする一同、つまりチームを2-4に分けて迎撃に出るという事だ……コロニー中側の迎撃に2人で行くというのは、「地形的に数が不利でも、立ち回り次第で侵攻そのものは抑えきれる」という考えらしい

 さすがミカ兄……と褒めたい所だが、兄さんが待ったを掛けた

 

「ちょっと待てミカ、相手の人数分けが判明してからでも遅くねぇ……幸いココは建物(?)の中だ、俺ら以外が入ってきた時にすぐ分かるように仕掛けをして、最初は取り敢えず全員で中から来る奴らを迎撃……後から回り込んできた奴の数と内訳次第で別れるぞ」

 

 兄さんも兄さんでちゃんと考えていたようだ……確かにその方法なら、一時的とはいえ数で有利だし、それだけ双方の消耗具合に差を出すことも可能……回り込まれる前に片が付けられれば、そのまま勝ち逃げもできる

 ミカ兄も納得し、後から入って来た事が分かるように仕掛けを施した後、全員で港内から奥へと進入……挟撃してくるであろう相手の片割れを待ち構えるのだった

 

──────────

 

「……っくしょー、マジで焦ったぜ……」(ダンテ)

「さすがにアレはどうにも出来ん、完敗だ」(昭弘)

「アレすら止めるって、三日月さんマジで強すぎだよなぁ……」(ライド)

「俺ら、あの2人使って負けたのか……どうなってんだよ」(チャド)

 

 辛勝とはいえ勝利は勝利、今回のチーム戦……結果は兄さん率いるBLUEチームの勝利だった

 

「……バルバトス、俺たちはもっと強くなるよな?」(三日月)

「……今回はあんまり出番は無かったが、さすがに三日月は強えぇな……」(シノ)

「俺も、まだ強くなれる……アイツの代わりに……!」(ハッシュ)

「ミカもそうだが……セファーがあんだけ強いとは思わなかったぞ」(オルガ)

「だな……もう、チビ嬢とか言えねぇぞ……」(ユージン)

 

 それは半分、機体のお陰でもあります♪ 

 

 戦況の推移を軽く説明すると……

 まずは先述の通り、昭弘兄達は3-3でチームを分けて内外から挟撃を仕掛けようとしたんだけど……手を読まれて先に接敵する内側から来た昭弘兄・ライドくん・アムロさんの3人を全員で迎撃……途中からチャドさん・ダンテさん・バナージくんが後ろから来たんで、私とミカ兄が迎撃でそっちに回り、しばらくは膠着が続いたんだけど……兄さんがアムロさんに撃墜寸前まで追い込まれた時、ミカ兄のバルバトスが怒りからリミッター開放してユニコーンをコロニー外まで弾き飛ばした直後、取って返す刃で兄さんからアムロさんを引き剥がして滅多打ち……厄介だったフィンファンネルもテイルブレードで全て薙ぎ払って、背合わせ組み付きからの投げっぱなし攻撃で沈黙させた後、シノさんと一緒に昭弘兄とライドくんをジリ貧に追い込んだ

 その間に私もチャドさんとダンテさんの機体を四肢断裂させて戦闘不能にし、ユージンさんとハッシュくんがギリギリでユニコーンの拘束に成功……そのまま降伏勧告をしたのがトドメとなり、今回の戦闘の幕は降ろされたのだった

 

──────────

 

 それから数時間後、昭弘兄達は夕空のクリュセで買い出しをしていた……メンバーは昭弘兄、ライドくん、アトラちゃん、そしてラフタさんの4人だ

 ……なぜ、ラフタさんが付いて来てるかって? そりゃフラグ立てさせる為です

 

 この状況に持ち込む算段や詳細は、アトラちゃんに(あらかじ)め指示をしてありましたんですの♪ 

 

「……ねぇ、昭弘……アンタ、もしかしてずっとアタシを見てない?」

 

 昭弘兄の肩が大げさに反応する……隠すの下手だよね、昭弘兄……ぶきっちょさんめw

 

「……あ、いや……俺は、別にその……」

 

「クスクス……嘘が下手すぎ、そんな反応した時点でバレバレだよ……」

 

 ライドくんとアトラちゃんは店舗内で、あれやこれやとメモしておいた品々を集めて回っており、車と荷物持ち番として残った昭弘兄とラフタさんは車内でいい雰囲気だ

 

「アタシね、この前ホントはタービンズに帰るつもりだったんだ……」

 

 突然のラフタさんの告白……実は数日前にタービンズからエーコさんが鉄華団宛に、とマクマードさんから預かった新型機「辟邪」を持ってきた時……一緒に帰る筈だったと告げた

 内心では少し驚いたが、昭弘兄はそのままラフタさんの言葉を待った

 

「でもさ、エーコからダーリンの伝言を持ってきた時……揺れたんだ、ダーリンとアンタの間で」

 

 昭弘兄は表情が凍ってしまった……今コイツは何を言ったんだ……俺と名瀬の兄貴の間で揺れた?! 一体何の話だ!? 見当が付かん……俺と名瀬の兄貴にの間に、比肩する何かがあるとでも言うのかコイツは……!? 

 

 そんな事しか考えられない昭弘兄はもう筋金入りの鈍感である……尻を蹴っ飛ばしてやりたい

 しかし、平静を装ってラフタさんの顔を見た瞬間、さっきまでの昭弘兄の考えは超高速で打ち砕かれていた

 

 ……そこに居るのは、それぞれ魅力にあふれる漢の間に挟まれ、激しく揺れる乙女心……最早、男からの告白を懇願しているとも見えかねないラフタさんの顔だった……そして、その顔を見た昭弘兄は漸く全てを理解する

 

(ヤベェ……コイツ、マジで可愛い……そんなに俺なんかが好きだったのかよ)

 

 私から言えば、もっと早くに気付けよ……とグーで殴りたい所である

 全てを悟った昭弘兄の顔は当然ながら紅潮、ラフタさんと視線を合わせ辛くなってお互いに顔を背けてしまう……その一連の光景はアトラちゃんにバッチリ見られていた

 

 数分間、その光景がずっと続いた事に痺れを切らしたアトラちゃんが、ピンクフィールドの展開を強引に強制終了させて買い出しは終了……その数日後、昭弘兄が夕方の本部屋上にラフタさんを呼び出して告白したのは伝説として語られる事になったという

 

 なお、告白シーンに出歯亀したユージンさんを始め、名のある主要メンバーはマジギレした昭弘兄に数日間もの間、追い回されたという




うぇ……砂糖吐きそう……
取り敢えず略式(?)ですが、昭弘&ラフタをカップリングさせました。

……前回幕間もそうですが、シミュレーター有能すぎw
作ったセファーからすれば「実機操縦の感覚でプレイするゲーム」なのだとか。

ちなみにユニコーンはNT-D発動中にも関わらず吹っ飛ばされています。
なお、Hi-νを襲ったバルバトスの攻撃挙動は「クロスレイズ」のリミッター開放だと思って頂ければ……


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本編「寝落ちしたらモビルアーマーになってた件」
第1話 おはようございます、モビルアーマーの時間です


 
文章力皆無ですが、身の丈を弁えず投稿(ぇ?

ハシュマル可愛いですよね?(錯乱)


憑依モノで初投稿ですw


 モビルアーマー……

 厄災戦において猛威を振るい、人類の半数を殲滅した「天使」の名を持つ殺戮兵器。

 初めて見た私は驚愕した。

 

 無差別に人を殺すための兵器、その名が天使だという事に……

 しかし同時に見惚れてもいた。

 洗練されたフォルム、最適解を求めた結果が産み出した姿に。

 

 アレがもし、人が乗り込むタイプなら是非、操ってみたい。

 ガンプラ好きで、大型機やモビルアーマーのモデルを好んで作成していた当時の私は、何故かそんな想いを抱いていた。

 

 そしてあれから少しして、鉄血のオルフェンズがガンプラにラインナップし始め……私は遂にあの天使の名を持つモビルアーマー、ハシュマルを入手した。

 

 エンドレス再生させた鉄血のハシュマル登場回をBGM代わりにしながら、徹夜で全塗装とディテールアップを敢行、まず細部までスミ入れやパーツ毎の微調整を施し、市販キットの素組みには無いメカニカルなモールドを入れ、特殊な金属粒子を配合した下地処理で強度アップにこだわり、その上から全塗装……さながらガンプラバトルにでも使うのかってレベルの強化改造をしてしまった……完成したそのフォルムを眺め、私は意識を手放しガンプラ製作専用に使う目の前のテーブルに突っ伏して寝落ちしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 あれからどれくらい寝ていただろうか、自分の体が異様に重たく感じる。

 まるで全身に力が入らず、体が何かに埋まっているような感覚さえする。

 まだかなり眠たい私はその感覚に動ずる事なく、微睡みに全てを委ねていた。

 

 

 

 ……それからしばらくして、私はまだ寝惚けていた。

 体の感覚はまだ少しおかしい、でも頭を押さえ付けられていた感覚は前より軽くなっていた 

 でも瞼はまだかなり重たい、でもさすがにそろそろ起きなきゃマズイ? と思ったので、取り敢えず体でも伸ばしてみようと思った私は、まだ感覚的に少し重たかった体を無理矢理起き上がらせて大きな欠伸をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビィィィィィィィィィィムッ!!! 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 そこに居た全員が驚愕した……今まさに、危惧していた状況が起きてしまったからだ。

 

「……目覚めさせてしまったか……!」

 

 苦い表情で白煙の登るクレーターの底を睨む白いスーツの男、マクギリス・ファリドは歯噛みした。

 すぐ横にいる赤いスーツを来た……オルガ・イツカは白煙を腕で避けつつ、マクギリスと同じくクレーターの底をじっと見つめている。

 

 一方、クレーターの反対側には自身のパーソナルカラーである黒いMS、レギンレイズのコクピット内で目の前の事態を飲み込めていないイオク・クジャンの姿があった。

 

「……な、何なんだ……これは?」

 

 そしてマクギリス達の少し後ろで事態を見ていた三日月・オーガスは自身の直感から感嘆の声を上げるのであった。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 私はまだ寝ぼけていた、なので自分が何をしたのか全く把握していない。

 それにまだ眠気は去っておらず、自身がどう動いているかもまったく感知していなかった。

 しかし、正常な判断が付かないためか、私は直感というか自己の本能の赴くままに行動を開始する。

 

 背伸びから腕を振り回し、いつものように私は寝起きの運動を始めたのであった。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 クレーターから立ち上る白煙に視界を遮られ、状況が掴めないイオク・クジャンは

 迫りくる驚異に全く気が付かないでいた。

 

「……はぇ?」

 

 次の瞬間、凄まじい金属音と共にイオクの乗るレギンレイズはまるで人形のように宙に舞い上がる。

 

「……! イオク様ッ?!」

 

 声とともにスラスター全開で主のもとへ向かう部下のグレイズがレギンレイズへと近づく。

 しかしその機体は突然現れたワイヤーブレードで胴体を薙ぎ払われ、無残にも地に転がった。

 

 白煙が薄らいでいき、謎の攻撃の正体と無残に転がった部下のグレイズを発見するイオク。

 そしてその先の、クレーターから這い上がってきた巨大な機体に目が行った。

 

「あれが……モビルアーマーか……っ」

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 クレーターから這い上がってきた天使の後ろ姿に見とれていた三日月の後ろで、オルガは毒突く。

 

「クソッ……何なんだよアレは……!」

 

「今のうちに離脱する方が懸命か……」

 

「待ってくれ、このままじゃ採掘場がメチャクチャだ! 本部には応援を呼んである、到着さえすれば……」

 

「無駄だよ」

 

 マクギリスの判断に異を唱えるオルガだが、マクギリスはオルガの意見を一蹴する

 彼には分かっていたのだ、アレの異常さと恐ろしさ、そしてこれから起こるであろう悲劇も……

 

「そもそもアレは、そんな生易しい相手ではない」

 

「止める方法は無いのかよ?!」

 

「こうなった以上、破壊するしか道は無い…………出来るものなら、だがね?」

 

 打つ手が無いことを痛感したオルガは天使を見やった後、三日月に声を掛けて乗ってきた車に乗り込む

 

「ミカ、行くぞ!」

 

「こういう事態を避ける為に、慎重に事を運んだというのに……イオク・クジャン、愚かにも程がある!」

 

 三日月が移動するその脇で、マクギリスはイオクの行為を愚かと断じるのであった

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「何がモビルアーマーだ……所詮は300年前の遺物だろうが! 恐るるに足りんッ!!」

 

 半壊したレギンレイズのコクピット内でイオクは悪夢を振り払うように吐き捨て、戦闘態勢に入る

 左半身は損壊したが足はまだ無事、破損していない右腕にある主兵装のレールガンを構え天使へ向けて発砲を開始する。

 

「イオク様! 迂闊です、ここはいったん下がって陣形を……」

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 無事だった残りの部下のグレイズ達も射撃し、レギンレイズを後退させるべく援護するが、当のイオク本人は叫び声とともにライフルを乱射し、部下の進言にも一向に構う気がない。

 

 天使は爆煙と共にレギンレイズの視界から外れた

 それとほぼ同時にコクピット内に敵機接近の警報が鳴り響く

 

「なんだ……はっ!?」

 

「イオク様っ!! がはっ……!!」

 

 一瞬でモビルアーマーの巨体がレギンレイズの背後に迫っていた

 驚愕に体が動かないイオクを救うべく、部下の一人がグレイズを体当りさせレギンレイズを吹き飛ばす

 その直後、天使の巨大な鉤爪がグレイズを引き裂いていた

 

「くそっ、こっちを向けよ……ぐあぁぁっ!!」

 

 天使の右後ろで発砲するもう1機のグレイズに天使は振り向くことなく、背中にあるワイヤーブレードで無造作に薙ぎ払う

 

「ぬおぉぉぉぉぉ!!」

 

 天使の正面に陣取っていた3機目がその隙きを付いて突撃、天使はワイヤーで迎撃するがそれを間一髪のタイミングでジャンプして躱し、天使の上面へと取り付くことに成功した……だが。

 

「よし、ここなら……ぐあっ!?」

 

 直後に後ろから何かに体当りされ、落ちてしまう。

 

「クソッ、来るなぁ……うわぁぁぁぁ!?」

 

 残った部下たちのグレイズも黒い小型の機体に翻弄され次々とその数を減らいていく。

 ようやく機体を立ち上がらせたイオクも、クレーターから次々と湧き出る小型の機体に更に混乱していた。

 

「何だコイツ……この数は、何処から!?」

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「ありゃあ一体なんだ……?」

 

 撤退の準備が整うまで状況を注視していたオルガは、黒い小型機体を見て呟いた

 

「あのモビルアーマーのサブユニットだ……名をプルーマと言う……しかし、あれ程の数が……」

 

 マクギリスもオルガの隣で状況を見極めるが、次々とクレーターから現れるプルーマの数に戦慄した

 

「団長~、他の団員は撤収終わりました~!」

 

 そこへ、モビルワーカーに乗った鉄華団の団員が報告に来た

 

「おし、とっととずらかるぞ!」

 

 オルガは速攻で撤退指示を出し、マクギリスもオルガ達と共にその場を離れるのであった




この回はぶっちゃけアニメと同じ展開なのでほぼ導入でしか無いなぁ……。

次のシーンであるイオクの撤退から渓谷の爆破作戦、そしてその失敗ではほぼアニメと同じ展開になるので、そこから少し先に進んだ状況……

つまりバルバトスの本気モード発動から次回はスタートします。


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第2話 寝落ちから1乙って……ゲームじゃあるまいし

前回のお話からある程度早送りして現状はと言うと……

私は寝落ちから覚醒してないので……ハシュマルくんは暴れております
原作どおり雑魚キャラ(イオク達)をぶっ飛ばし、本来の本能のままに暴れまくっております

団長さん達も必死に事態を収拾すべく奔走してますが、はてさてこの先どうなるやら……あ、バルバトスが降りてきましたね

ってアレ? なんかバルバトスの目が赤く光ってませんか……?


「……駄目だよ、オルガが出るくらいなら……俺が出る」

 

 渓谷の上から下に居るモビルアーマーと、その進路に立ち塞がるバルバトスルプスを見付けたオルガは、三日月の言葉を思い出していた

 

「……あのバカ野郎!」

 

 本能のままに動くモビルアーマーを前に、バルバトスのコクピット内で三日月は呟いた

 

「……おい、バルバトス……アレはお前の獲物なんだろ? 

 邪魔な鎖は外してやるから……見せてみろよ、お前の力を!」

 

 ヴヴゥン と、緑色だったカメラアイが真紅へと変わり、悪魔の咆哮のような駆動音と共にバルバトスの姿勢も変わっていく

 そして、真紅の残光を引きながらバルバトスはモビルアーマーへと突撃を開始した

 

 そこからはまるで別次元の戦いだった……

 

 迫り来るワイヤーブレードと鉤爪の応酬、その悉くを回避し続け、持っていたソードメイスを投げつけ、壁面から滑るようにビーム攻撃を掻い潜ってモビルアーマーの足元に潜り込み、そのまま脚部の装甲を力業で剥ぎ取って回り込み、迫り来るワイヤーブレードや本体に拳を乱打……しかし、バルバトス自身も今までの度重なる戦闘で蓄積されたダメージによって手指のフレームが歪み始め、遂には右手が手首から失くなってしまう

 だが、バルバトスの攻撃もモビルアーマーからの攻撃も止む気配はない

 

「動きが……読めない……!」

 

 途中から参戦していたジュリエッタ・ジュリスも、バルバトスの予測不能かつ驚異的な運動性能に呆然としている

 

 ふと、バルバトスの背後にワイヤーブレードが迫る

 三日月は本能的にバルバトスでワイヤーブレードを左腕の脇挟みでガードし、破損を忘れて右腕でモビルアーマーの装甲の隙間にパンチを打ち込む

 

 その瞬間、三日月は右腕の感覚が変になったのに気付き、モビルアーマーからは人の悲鳴のような音が響く

 しかし、反撃に出たモビルアーマーの猛攻でバルバトスは右腕全てがクローによって壁に縫い付けられてしまう

 

「あっぶねぇ……なッ!!」

 

 それすら構わず三日月は胴体を無理やり動かして右腕を外し、体当たりから左腕の滑空砲でその場から抜け出すと、大破したヘルムヴィーゲ・リンカーが持っていた巨大な剣「ヴァルキュリアバスターソード」に手を掛け、あろうことか軽々と片手で持ち上げる

 

「……な……っ……?!」

 

「……借りるよ?」

 

 ヘルムヴィーゲ・リンカーに乗っていたマクギリスの腹心、石動・カミーチェは唖然とした表情を隠せぬまま呆然とバルバトスを見るばかりであった

 

 バルバトスにバスターソードを素振りさせ構えると、左腕のリミッターと放熱機構が解除されて青白い炎と白煙が噴出する

 対してモビルアーマーは滑空砲でセンサーが一時的に乱されバルバトスを見失っていたが、復調し再発見したバルバトスに対して威嚇のような鳴き声を上げながらビーム砲をチャージしていた

 

「うん、いい感じ」

 

 バスターソードを固定し、ランスチャージの如く突撃し始めるバルバトス

 

「コレなら確実に……殺しきれる!」

 

 バルバトスとモビルアーマーが交錯した直後、誰もが目に焼き付く光景が見えてきた

 バルバトスが持つバスターソードはモビルアーマーの首部分を穿ち、同時に放たれていたモビルアーマーのワイヤーブレードはバルバトスの胴体右側に深々と突き刺さっている

 そこはコクピットのすぐ右側……三日月は辛うじてその直撃を回避していた

 

 すべてが終わり、ふぅ、と息を吐く三日月の脳裏に、ふと子供のすすり泣く声が聞こえてくる

 

『……うぅ……痛いよぉ……』

 

 三日月は最初、幻聴だろうと思った……しかし、その声は何故か開かれていた接触通信から聞こえてくる

 よく見ると「Sound Only」の表示された接触通信の表示……現在バルバトスと接触している機体……それは目の前にあるモビルアーマーだ

 

 半信半疑ながらも、三日月はすすり泣く声のする通信へと声を掛けるのだった

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 すべてが終わり、破損したモビルスーツ達が倒れる渓谷の一角で、己の駆っていた機体のコクピットから出たマクギリスは、モビルアーマーと相打ちとなって停止したバルバトスを見つめ一人呟いていた

 

「そうか、これが……私の求める、力だったのか……」

 

「……准将……?」

 

 通信でマクギリスの呟きに気付いたい石動は己の上司の心情を慮るように彼を見る

 それに気付いたマクギリスも石動だけに聞こえるよう通信で心情を吐露した

 

「彼は……私の心の靄を、晴らしてくれたのだよ……」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 一連の騒動から数日が経ち、マクギリス達が宇宙へと戻った後、オルガ達は鉄華団の本部へある物を運び込んでいた

 それは先日、バルバトスと激戦を繰り広げ大破したモビルアーマーだった

 

 鉄華団……その前組織であるCGS時代から長年、モビルワーカーの整備を担当し、現在は団のMS整備班長を務める「ナディ・雪乃丞・カッサパ」は鉄くずと化したモビルアーマーを見聞しながら、親組織となったテイワズ経由で入手したモビルアーマーの資料を見比べていた

 

「ふぅん、コイツ自体は地上専用だが、モビルアーマーってのは宇宙でも猛威を奮ってたみたいだな……」

 

「じゃあ、形の違う奴で宇宙用って言うのもあったんですか?」

 

 すぐ近くで回収したモビルアーマーの部品とにらめっこをしていた整備担当の団員が雪乃丞に聞いてくる

 

「ん? あぁ……当時の資料はほとんど残ってねぇが、厄介な代物だって事は山ほど書いてある。

 この機体よりヤバい代物もわんさかあった様だしな……」

 

「うげぇ……」

 

 答えられた団員は顔を青くした

 鉄華団で随一の戦闘力を持つバルバトスと三日月のコンビであれだけの損害を被りながらやっとの思いで撃破したのに、それ以上が当時はわんさかと存在していたと言われれば当然である

 

 と、そこへ三日月の声……振り向いた雪乃丞の眼には自分の部下であるハッシュ・ミディに自分を担がせて来た三日月の姿だった

 

「おやっさん、ちょっといい?」

 

「おう、三日月? 珍しいな、ちょっと待ってろ」

 

 資料を閉じ、足場にしていたコンテナから降りてくる雪乃丞

 三日月は雪乃丞にくいくいと耳打ちの仕草をする

 

「なんだよ三日月、バルバトスの整備なら歳星に持ってかねぇと……」

 

「アレのあの部分、ちょっと調べてくれない?」

 

 そう言って三日月は搬入作業を終え、固定されていたモビルアーマー……その首の根本にあるユニットを指す

 そこには人間一人が入れそうなサイズの……意味深な雰囲気を持つ球体ユニットが、首元から伸びる装甲に挟まれて守られる様に接続されていた

 

「あぁ? なんだってあんなトコにあんなもんが……」

 

「あの時、アイツが教えてくれたんだ……『私はそこにいるから』って」

 

「……よく分からんが、あそこに何かあるってのか……機体の検分が終わってからになるが良いか?」

 

「うん、頼むよおやっさん」

 

 疑問しか湧かない雪之丞だったが、実際にモビルアーマーと戦った三日月の言には何かあると踏み、従うことにした

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 それから数日後、三日月に頼まれモビルアーマーに接続されていた謎の球体ユニットの調査をしていた雪之丞は、そこからトンデモナイ発見をしてしまう

 

 慌てて周囲の団員に、数少ない女性であるメリビットとアトラを呼びに行かせる雪乃丞

 そのユニットの中に隠されていたのは……鉄華団の未来を左右する「鍵」となる存在だった




モビルアーマー撃破まではもちろん本編どおりの決着でしたが、それからの展開は完全オリジナルとなりました

なお、ミカが雪之丞さんに指示した球体ユニットはアニメ本編や本来の設定には存在しないモノなので、描かれない部分はご想像におまかせします



本当はもう少し変えたかったんですが、これより前から変えちゃうとどうしても禍根が残っちゃうような展開しか浮かばなかったので、「改変の鍵」は秘密裏に鉄華団に回収されたという事に……

さて、次回はいよいよ「改変の鍵」が覚醒します

誤字・脱字報告の方も随時受け付けていますのでお楽しみに♪

4/19追記 各話タイトルに話数を追加しました
4/21修正 この時点で三日月は歩けないのでハッシュ君、出番です!


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第3話 見た目は子供、頭脳は……あれ?

はい、前回からの続きですが……

三日月からモビルアーマーのある部分を調べてね、と頼まれた「おやっさん」こと雪之丞さん
見つけちゃったのは****でした(読んでない方のために伏せ)

その頃、マクギリスやジュリエッタの上司であるオジサマ達も原作通り暗躍し始め、ついでにテイワズにも暗雲が見え隠れし始めます


そして、目覚める「改変の鍵」
「厄災の天使」に繋がれていた存在が……今、活動を始める


「……ん……ぅ……」

 

(そういえば、ガンプラ製作を終えた所で寝落ちしたんだっけ……私)

 

 最後の記憶でテーブルに突っ伏して寝たのを思い出し、ふと自分の体勢があまりにも違うことに違和感を覚えた

 明らかにベッドで寝ている……しかもちゃんと着替えて

 

「……ん……ぁ……?」

 

 ゆったりと体を起こし、寝ぼけ眼ながら周囲を確認……完全に見慣れない部屋だ

 壁とか、完全に寝落ち前の自分の部屋じゃない

 そして、ふと自分の視界がおかしい事に気が付く

 

「……なに、これ……?」

 

 バーチャル的なHMDを被るとこう見えるのか……的な光の枠線があり、視界の変化にコンマの狂いなく追従しながら変化している

 視界の隅には丸い枠に囲まれたいくつかの光点、数種類のゲージとコンパス、人形のシルエット……その他にもたくさんあったが、意識すると少し拡大され、気を逸らすと視界の隅に戻る、まるでパワードスーツのHMDの様な感じだ

 

「まさか、人間じゃない体って……」

 

 そう思い両手を見ると、ちゃんと肉や肌感のある人間っぽいモノだった

 どうやら、視界だけサイバーな感じでちゃんと肉体ではあるらしい

 だがベッドから降りた瞬間、私はある事に気付く

 

 異様に視線が低い……少なくとも私の身長は170近い長身だったはず、これでも一応社会人だしバイト先の皆からはこの長身を羨ましがられていた、年齢こそ卒業したてで成人式も終えている

 なのにこの体の視界は……たぶん身長は130~140ぐらい……完全に少女レベルの低身長なのだ

 

 ナニコレ転生?! しかもこの体まだ子供じゃん!? 

 

 部屋を見回し大きな姿見を見つけ自分を写す……灰色……いや、この場合は霞んでるけど銀色かな……そんな髪色と、暗がりでも光りそうな金の瞳をした白いワンピース姿の少女が立っていた

 

 理由とか全く分からないけど転生なのは事実だ、見た目から普通の日本人じゃない

 それに金眼に銀髪って典型的な外人のテンプレ外見だし、しかもチラチラと髪の毛から人間にはないメカメカしいパーツが見え隠れしてる……

 一応、人間ボディなのは安心だけど……完全に小~中学生ぐらいの頃まで若返ってしまっている

 

 はぁ……と大きなため息を吐いた直後、部屋の扉が開いて背格好の変わらない少女と、赤いスーツ姿の大人っぽい人が入ってきた

 

「あっ、目が覚めてたんだ……良かったぁ」

 

 そう言って少女は私の手を握り、色々と確かめる様に触ってくる

 後ろに立つスーツの男の人も、一安心だという感じで顔を緩めていた

 

「私はアトラ・ミクスタ、ここ鉄華団で炊事係をしてるの。

 後ろの人は団長のオルガさんだよ」

 

 鉄華団と2人の名を聞いたその瞬間、私は凍り付いた表情のまま驚愕したのであった

 

(て、鉄血のオルフェンズ……まさか私ってガンダムの世界に転生したのぉ?!)

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「……さて、いくつか質問したいんだが、良いか?」

 

 私が静かな驚愕から落ち着いたのを見計らって、オルガは神妙な面持ちで話を始める

 私もそれとなく雰囲気を感じ、真剣な表情で応じた

 

 まず聞かれたのは、私が何者なのかだった

 もちろん、私自身も知る由もないため、当然のごとく不明……次に聞かれたのは、名前だ

 そこで私は元の名前をそのまま言おうとして思考が止まってしまう

 

「……あれ? ……私の名前って、何だっけ……?」

 

 アトラもその場に立ち会っていたのだが、突然私の顔が青ざめたのでビックリしたらしく、オルガに詰め寄る

 オルガはオルガで、まさか名前を聞いただけでこうなるとは予測できなかったと弁明し、途中から私も自分が名前を覚えていない事を告げたため事なきを得た

 

 名前の件は一旦保留とされ、オルガは私を格納庫に連れて来た

 気が付く前、自分が何処に居たのか……その説明の為だった

 

 そうやって案内された場所に鎮座していたのは、つい先程まで徹夜で仕上げたガンプラの元となった「厄災の天使」……

 

「うそ……ハシュマル……?!」

 

 私は思わず口にしてしまった、ハシュマルという名前は物語の都合で付けられた仮の名前に過ぎないが、物語の登場人物は誰もこの名前を知らないままだったはずだ

 図らずも私はこの場で軽く原作ブレイクをやらかしたということになる……まぁ、私の存在自体が既に大幅な原作ブレイクなのだが

 

「ハシュマル? それがコイツの名前なのか?」

 

 オルガが聞き返し、私は一瞬戸惑ったがそのまま頷いて肯定した

 見るも無惨な鉄屑と化してはいるものの、その特徴的なシルエットと装甲の配色……見間違える事などあり得ない

 昨日までそのガンプラを一心不乱に組み上げ、更に気の済むまで魔改造を施したのだから……

 

 説明の途中から合流した雪乃丞という褐色の中年男性から、発見されたのはハシュマルの首根本にある球体ユニットの中だったという……

 

「さすがに焦ったぜ、全裸のままお前さんがあの中で眠ってたんだからよ……」

 

 何だか物凄く乙女のピンチ的な発言があった気がするが、今は追及する気にもなれない

 ……私は眠ったままハシュマルに守られてバルバトスと戦っていた事になる

 

 図らずも形的に微妙な状態ではあるが、ある意味、私の夢は叶っていた(過去形)……

 ただし私は、そのバルバトスと繰り広げた死闘の詳細を聞いた直後から「私、ちゃんと生きてるよね……まだ死んでないよね?」と何度も周りの人に確認したのは言うまでもない




えー、目覚めたら子供でした。
更に視界はなんかサイボーグっぽい感じだし、外見は人間っぽいけど疑わしい……

彼女の詳細や定義は次回に持ち越しです。

オリジナル要素のネーミングに苦心してますが、ネタやら使った方が良いのかな?
(´・ω・`)


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第4話 天使の名を継ぐ少女……って、何だかアレよね

前回からの続き……

殺戮の天使、ハシュマルから発見された私ですが……
子供の体じゃ仕事にも就けないじゃん!!

無職=生きる権利なし!

という殺伐としたこの鉄血世界は子供に厳しい……

……へるぷみー(´TωT`)


「……とりあえず、あんたの身柄はウチで預かる事になった

 当面の問題は、名前だな……」

 

 突然の決定事項にキョトンとした私、アトラの顔を見ると最初からそうなる事になっていると言わんばかりの笑顔だった……ともあれ、鉄華団に入団というのは私にとって「渡りに船」と言うやつだ

 

「……名前、かぁ……」

 

 私は自分の名前を思案した

 どう呼ばれるかは今後あらゆる活動に影響を与える……仮に誰かの名前を語ると、もし本人と出会った時に悪影響にしかならない、かといって誰かに決めて貰うのは論外だ

 何らかのヒントを得たかった私は脳内でハシュマルの語源を検索し始めていた……モビルアーマーは天使の名を冠している、ならば……

 

「私はセファー、今日からお世話になります!!」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 ……それからの日常はあっという間だった

 

 私は外見こそ小さいが、調べられて判明した大人顔負けの身体能力と(ガンダム関連の)知識を買われて、普段は整備班の手伝い、戦闘では「参謀補佐」という大役を受ける事となった、それに合わせ対外的に団長の妹「セファー・イツカ」という立場も付随している

 組織のトップの身内という肩書きは有事の際に役に立つし、今後の情報戦において「知識」を活用して「意見」する事で彼らを助けられる

 

(原作通りに行けば彼らは確実に望んだ未来へは辿り着けない……だったら……)

 

 原作ブレイク上等! 私の全力で、鉄華団の掴むべき未来を切り拓いてみせるわ!! 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「……そういえば前に俺、バルバトスから降りてから足とか動かなかったのに、今は動けてる……なんでだっけ?」

 

「セファーちゃんのお陰だよ、覚えてない?」

 

 食堂で三日月は、アトラの作るお昼を食べながら少し前の出来事を振り返っていた

 

 セファーが正式に鉄華団所属になって最初に始めたのは、バルバトスやグシオンなど阿頼耶識搭載機のシステム調整だった

 過去にも三日月は阿頼耶識のリミッターを無理やり外して戦い、その影響で体が動かなくなった

 エドモントンでの阿頼耶識搭載大型MS「グレイズ・アイン」戦、そして今回の「ハシュマル」戦の2回、三日月はバルバトスのリミッターを解除……結果はどちらも勝利を収めたが、1回目で右目と右腕、2回目で右半身が動かせなくなってしまう

 

 三日月の右半身が動かなくなってから、アトラはクーデリアと裏で「ある計画」を画策していたのだが、早々にセファーに看破される……が、セファーは逆にノリノリで修正案と共に「回復処置」を提案し、団長に内緒で阿頼耶識の調整作業の裏で施術したのだ

 

 ちなみにオルガは三日月の復調にかなり喜んだが……成功の陰でセファーは数日間昏倒し、アトラがうっかり施術内容をバラした為、後日セファーはメリビットさんに泣かれながら叱られたという

 

「ふぅん……じゃあアレ、もっと簡単にやれるかな?」

 

「……むぅ~」

 

 三日月の言葉にむくれるアトラ、いくら影響が少なくなったからといってまたあんな事をされるとこっちの精神衛生上よろしくない、むしろもう戦わないで欲しい……アトラはそんな思いを抱いていた

 

「……じゃあやめとく」

 

 露骨に嫌な顔をするアトラの想いを汲んだのか、三日月は大人しく引き下がった

 

「ところで、団長さんとセファーちゃんは?」

 

「あの2人なら歳星に行ってるぞ、……バルバトスを預ける算段のついでに、今回の件で少し片付けなきゃいけない問題があるって言ってたからな」

 

 副団長のユージンとシノが話に加わり、一足先に食べ終わった三日月は食器をアトラに預けながら呟く

 

「……バルバトス、いつ直るかな?」

 

 アトラは三日月の言葉にため息を漏らしながら食器を片付けるのだった

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 私は今、兄となったオルガ団長と一緒に歳星へと来ていた

 理由はもちろん、テイワズの頭「マクマード・バリストン」から直々の呼び出しがあったからだ

 

 ……結論からいきましょう……チビるかと思いました……(恐怖)

 

 話には聞いてましたがあんな強面で威圧されたら私なんて完全に言いなりです……しかも、私が団長の妹って紹介された時には舐めるような視線で見られたんですから……

 あ、お話の方もほぼ大筋通り兄さんはマクマードさんに「盃」を預けた事で、一応信用して貰いました……でもこれはあくまでも一時的というか、次はないって脅しでもあるんでしたっけ……結構ピンチです

 

 ……で、その後タービンズにも顔を出して名瀬さんに会いました

 名瀬さんが笑顔だったのは最初だけで、途中から表情が険しかったのは気のせいでしょうか? 

 ちなみに私は兄さんが名瀬さんとの会談が終わるまでずっと「アミダ・アルカ」さんを筆頭とする名瀬さんの奥さま(達?!)に着せ替え人形のごとく弄ばれました……まぁ、名瀬さんと別れる間際に「ある事」を伝えられたので良しとしましょう……非常に疲れましたが……

 

 なお、団長の妹と紹介された時は全員が呆気に取られていました

 当然ですよねw 年も離れてるし、似ても似つかないですし……

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 それからしばらく……バルバトスを歳星に預けたり、フラウロスにシノさんが乗るんで、ライドくんが元・流星号の獅電改を専用機にしちゃったりとまぁそれなりに色々ありました

 

 ちなみに私も整備班の手伝いがてら色々とやらかしました

 まずはバルバトス用の強化プランとそれに必要なパーツ……それを内外からかき集めて、歳星に行くエーコさんに預け、こっそりとハシュマルから使えそうなパーツを複製して混ぜ込みました

 

 え、ロストテクノロジーなのにどうやって複製したのかって? 

 それは私の「作品」が大いに鉄華団に役立っているからですよ♪ 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「これが……パーツ製造機?」

 

 整備班のヤマギ・ギルマトンが巨大な円筒形の装置を見て呆気に取られている

 

「はい、私は『AGEビルダー』って呼んでます。

 人工知能のサポートによって、可能な限り無駄を省略しつつ、特定環境下でしか不可能な作業も可能とする環境再現製造がウリです」

 

 そう、あらゆるガンダム関係の技術を知識として保有している私は、阿頼耶識の調整を終えてすぐに色々とマシンを造りました……ちなみにこのビルダーが第1作です

 これならば設計図と基本素材さえあれば、どんな物でも製造可能! しかも本家と同様に使い込む事で学習し、派生技術の応用や修復用のパーツ等も簡単になる仕様も再現……これで勝つるw

 

「なんにせよ、整備班の手間が減るなら大いに助かる……んだが、どうやって動いてるんだ? 

 エイハブ・リアクターだと電波障害が問題になる……だが大電力は必要不可欠なんだろ」

 

 雪乃丞さんの疑問に、私は簡単に答える

 

「そうですけど、それはアレで解決しました」

 

 そう言って案内したのは格納庫の片隅にある黒いコンテナの前だった、外装には危険物マークと共に放射線マークも貼ってあるのだが、鉄華団の団員は誰一人として気にしていなかった(何故だ?)

 

「なんだこの黒いコンテナは?」

 

「モビルスーツ用の小型縮退炉を転用した発電機です、コレ1個で都市レベルの電力を賄えます」

 

 ポカ───(´゚д゚`)───ン

 

「あっちには訓練用のシミュレーターや実機と連動可能な各種チェック装置、向こうにあるのがそのシミュレーターで、この上のクレーンは無線で動かせるように改良してます……そしてあの奥は弾薬類関係の装置で……」

 

 セファーの説明に全員が唖然としていた、それもそのはず、格納庫の前にキッチン、その前には通信室など、知らない内に施設内のあらゆる事情が現在進行系で解決されていくのだから

 

「……あー、その……なんだ……」

 

 雪之丞はセファーの早口を止めさせ、しゃがみ込んで顔を覗き込む

 セファーの眼に隠しきれない寝不足の隈を見つけた雪之丞だったが、自分たちの為を想った彼女の行動に怒る気にはなれなかった……正直に言うとかなり複雑な気分だったのだが

 

「……ありがとな、嬢ちゃん」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 そんなこんなあって、鉄華団内部は半ば強制的に状態が改善、私は並行して進めていた計画の進捗を早める事にした

 名瀬さん達を助ける為には、私が自由に扱える「剣」が必要不可欠……環境改善も終わったし、本格的にアレを間に合わせないと!




と、言うわけで別のガンダム世界の技術てんこ盛りで下準備を致しました
これも時短と今後を見据えた作戦ですが……色々やりすぎたかもw

……で、改装の元手はどうしたのかって?

実は鉄華団の地球支部に「やり方と損しない方法」を教えたら「尽きぬ水瓶」が出来ちゃったのでww

でも、ココまでしないと私が納得できる鉄華団の未来には辿り着けません!
もう少し早い段階で私が鉄華団に居たならココまでしなくても良いんですけどね……

ハシュマル戦後ってとにかく怨恨やら暗躍やら多くて手の打ち様がないんです!
よくある「全員生存RTA」もこの時点からじゃもう参考にできませんし……

次も史実通りジャスレイの暗躍でペシャン公がムダに踊り狂って、タービンズの危機一髪!
そこに現れる「白い堕天使」……その正体は?

次回も楽しみにして頂けると幸いです……誤字・脱字報告や感想もどうぞ♪


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第5話 私怨を阻む堕天使ってなんか格好良くない?

今回から、前書きの担当をメリビットさんにお願いしました。
本編の彼女とは違い、私と同じく史実を知った状態で語って貰って居ます。

幸運が重なり鉄華団へと入団したセファー……
待ち構える「史実通りの最後(バッドエンド)」彼らを救うべく奔走するセファー。
そんな中、刻一刻と迫るのはタービンズ壊滅のタイムリミットだった。

セファーは己の力を振り絞り、必死に対策を講じていく……


 ……ま、間に合った……と思う……

 ライド君の乗り換えイベントの後にはギャラルホルン(イオク・クジャン)が容疑をでっち上げる胸糞悪いシナリオ「タービンズへの強制捜査(八つ当たり)」が待ち構えている

 逆転の手が間に合わなければタービンズの壊滅は必至……もしそうなったら鉄華団は、完全に後戻り出来なくなる(史実通りの最後を迎える)しかない

 

 ……だから私は手を尽くす……私だって、絶対に名瀬さん達を見捨てたくないもの! 

 

 セファーは自身の全てを使って、救済手段の準備を整える……手にした設計図もその一つであった

 

「ヤマギ兄ぃ! おやっさん! 機体の最終調整を手伝って! 

 それと誰か、テイワズに行ってるミカ兄ぃ達にも連絡をお願い!」

 

 手空きの整備員達に次々と指示を送り、セファーはある機体の最終チェックを急ぐ

 あとは奴の手を覆す為の証拠……本来なら誰も持っていないはずの情報だが、史実通りの未来の情報なら私は既に手にしている……残りは時間との勝負、これに間に合わなければ道は潰えてしまう

 

 セファーは焦る心を押さえ込みながら自らも作業を進めた

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 それから程なくして、タービンズへの一斉捜査が始まった事がテイワズに伝わる

 マクマードは腑に落ちない名瀬の雲隠れに懐疑心を持つが、そこへ三日月はセファーから持たされた情報を指示通りにマクマードへと伝えた

 理由を問うマクマードにハッシュが資料を手渡した後、三日月は予定通りの伝言(セファーの言葉)をマクマードに告げた

 

「! ……くっ、ふはははははは!!」

 

 マクマードは一瞬だけ驚いた表情を見せたるが、少しの沈黙の後に突然笑い出す

 情報提供者の伝言を口にした三日月、その言葉にマクマードは情報提供者の正体(セファーという少女)に気付いたからだ

 

 マクマードの突然の爆笑に、三日月と一緒に来ていたアトラと護衛のハッシュはビックリするが、三日月だけはその光景に口の端を少しだけ釣り上げた

 

 渡された資料はテイワズのある下部組織を率いる人物の情報、しかも本人に近しい者でなければ知り得ない情報が多分に含まれている……同じテイワズ傘下とはいえ、直接会う機会の少ない鉄華団が、何故コイツの情報をココまで知り尽くしているのか……マクマードは思案するがすぐに諦めた

 渡された資料……それは情報戦では絶対に敵わないという証拠でもあったからだ

 

 そしてマクマードは、部屋を出る三日月達の背中に声を掛けていた

 

「なぁ、三日月よ……この情報をお前に渡した奴に、一つ聞いといてくれないか? 

『アンタは何者だ?』ってな?」

 

 三日月はその問いの意味をよく分からなかったが『分かった』とだけ応えて部屋を出ていった

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 セファーは全ての準備を終えて事務所へと走る

 飛び込んだそこではメリビットに制止され言葉を荒げながらも、兄貴分である名瀬の救援に向かおうとしていた兄オルガが居た

 

「分かってるよ、んな事は!!」

 

「いーえ、兄さんはちっとも分かってません!!」

 

「セ、セファーちゃん……?」

 

「セファー……お前まで!?」

 

 メリビットだけでなく年の離れた義妹であるセファーにも止められ、さらに怒気を増すオルガ

 だがしかし、セファーは構わず捲し立てる

 

「今、兄さんが無策のまま動けば鉄華団も間違いなくギャラルホルンに潰されます! それにこのまま行っても名瀬さん達は絶対に助かりません! それにマクマードさんも「知らぬ存ぜぬ」だったんでしょ? そりゃ表向きに手が出せない事くらい兄さんだって知ってますよね!?」

 

 オルガは改めて口に出され、悔しさをその拳に……表情に滲ませている

 確かに、間に合わなければ兄貴は死ぬ、たとえ死ななくても、違法組織のタービンズを擁護したとなれば鉄華団の立場はその瞬間絶望の底に落ち、テイワズにも多大な迷惑を掛けてしまう、それは先だってのマクマードとの約束と信頼を裏切る行為……それだけは絶対にできない

 

 完全に言い返せなくなったオルガ、しかしセファーの口から次の言葉は常軌を逸したものだった

 

「……だから私に出撃の許可を下さい! そうすれば万事上手く行きます! その為の準備も整いました、もう既に事は始まっているんです……時間がありません、後は兄さん次第……名瀬さん達を助ける為に……私の計画に乗って下さい!!」

 

 普段からは想像もしてなかった言葉……いつもなら溜め息を吐くメリビットも、さすがにこの状況で何を言っているのか理解に苦しんだ

 逆ギレの如く捲し立てられていたオルガも、その後に続いた義妹の異常な言動に冷静さを取り戻し、何をバカな……とソファーへと座って頭をかく

 しかし、妹は引き下がる気配すらない……むしろこれさえやれば確実だと前から度々見せていたこの先の未来を全て知っているという眼だった

 

 以前からセファーは「その目つき」を布石のように見せていた、そしてその時の結果は言うまでもなく、確定した未来を一片たりとも間違えずに言い当てていた……そして今も、兄貴の危機を私なら救えると……この作戦なら絶対に救えると豪語している……「そんな上手くことが運ぶのか?」という当たり前の疑いと、「これまでの出来事から来る妹への厚い信頼」の間で、オルガはしばらく葛藤する……

 

「……セファー、お前の計画が上手く行ったら、その後どうなるんだ……?」

 

「団長?! 正気ですか?!」

 

 メリビットはオルガの言葉に信じられないと驚愕した

 絞り出すようなオルガの声、しかしセファーは堂々と行ってのけた

 

名瀬さん達(タービンズ)は助かり、ギャラルホルンの連中(イオク・クジャン)は手痛い失態で苦汁を舐め、そして名瀬さんを嵌めた(ジャスレイ)にはキツイお灸が据えられます!! 『これは確定した未来です』!! 

 

 まるでキメ台詞のような一言が最後に放たれる……いや、実際にソレは本当にキメ台詞だった

 オルガを始め、鉄華団の主要メンバーは、このセリフを添えられた後の未来を言い当ててしまうセファーを何度も何度も見たのだから……

 

「……具体的にどうすりゃいい?」

 

 セファーはその言葉に満面の笑みを浮かべ、手短ながら段取りを兄と始めてしまう

 メリビットは心の中で遂に兄妹がイカれたと嘆き、後から様子を見に来たシノと昭弘は、怪しい打ち合わせの様子に首を傾げるのであった

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 時と場所は変わって強襲装甲艦(ハンマーヘッド)の艦橋……そこで名瀬は鉄華団の事を考えていた

 

「アイツらには悪いが、これは俺なりのけじめって奴さ」

 

「馬鹿だねぇ……でも、そんなアンタも格好良いって思っちまったアタシも馬鹿だよ……」

 

 名瀬はアミダの問いにおどけた笑いで返し、迫りくるアリアンロッド艦隊に向けて停船要請の信号弾を発射する

 しかし、停船は愚か何の反応もしないまま、アリアンロッド艦隊の周辺にMS部隊の反応が次々と増えていく

 

「艦隊の前面に新たなMSの反応多数……?」

 

「……何をする気だ、奴ら?」

 

 それはダインスレイヴ……厄祭戦にて使用され、その余りの威力故に禁止兵器として指定を受けた禁断の武装を持ったグレイズの大部隊であった

 

『ダインスレイヴ隊、放てっ!!』

 

 艦隊の指揮を取るイオク・クジャンの声で、今、まさに放たれようとする禁断の槍……

 だが、その射線上に不思議な光と共に謎の反応が現れ、その場にいる全ての者が思考を止めてしまった

 

 オレンジ色に光る鏡のような形が象られ、そこから現れたのは1体のMSだった……背には2対の巨大な翼、それは光の粒子を絶えず放ち、両手には巨大な盾と槍を携え、見る者を引き込む白銀の装甲に身を包み、虚空から現れたその姿はまさに白銀の鎧を纏う天使だった……

 

 この場にいる全員が、その荘厳な雰囲気を放つ1体のMSに目を奪われていた

 しかし、イオクが真っ先に正気へと戻り、言葉荒げにダインスレイヴを放てと再度命令する

 

 そして放たれる禁断の槍……その狙いは後方で撤退しているタービンズ所属の輸送艇……

 しかし、ダインスレイヴは白騎士の横を掠めた瞬間、全て爆発し虚空へと消え去ってしまう

 

「なっ……バカな?!」

 

 イオクは狼狽え、対岸の名瀬はゾッとしていた

 ハンマーヘッドに送られてきたのは先ほど発射された物の詳細と、その予測目標への弾道データ……

 

「……ダインスレイヴを持ち出し、撤退する非戦闘員を狙うたぁ……汚ねぇ真似を!!」

 

「名瀬! 白い奴が動いた!!」

 

 アミダからの通信に反応し、顔を上げて名瀬は突如現れた白騎士を見やった

 白騎士は神々しく翼を展開し、アリアンロッド艦隊へと突撃していく……

 

「えぇい……たかがMS1機で、この艦隊に歯向かうか?! 全艦、攻撃開始! 蹂躙せよ!!」

 

 イオクの号令に艦隊が次々と動き出し、迫りくる堕天使を相手に戦端を開いていった

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『アリアンロッド艦隊にたった1機で挑む?!』

 

 正気とは思えない馬鹿げた作戦、義妹に提案された作戦の1手に、オルガは目を剥いた

 しかし、当の提案者……妹セファーの顔に不安の色は微塵もない、むしろドヤ顔で兄を見上げている

 

『……そう、そしてこの子が私の最高傑作!』

 

 巨大な2対の翼で身を包んだ白いMS……その手には身の丈に迫る巨大な槍の様な武器を手にし、もう片方には同じく巨大な盾を手にしていた

 

『……お、おい……お前、いつの間にこんな物を?』

 

 オルガは驚愕していた、時々馬鹿げた言動をする妹ながらこれはさすがにチート級だと目を疑う

 彼女はこの短期間で、1からMSを製造していた……しかもこの機体は今まで見たどの機体ともまるで違う……悪魔の如き異様を持つガンダム・フレームでもなく、むしろ天使として作り出されたMAのような雰囲気さえ醸し出している

 

『万能型試作MSザドキエル……この理不尽な世界に喧嘩(ケンカ)を売る為に、300年前の過去から転生した「天使の名を冠するモビルスーツ(堕天使)」です』

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「ザドキエル……ハシュマルと対を成す主天使の長、正義と慈悲(じひ)を司る天使……」

 

 そのMSを操るのは、鉄華団の前に敗れた厄災の天使(ハシュマル)の遺産……

 しかし、その体はMSの中には無い……彼女は火星の大地に立つ、鉄華団本部の屋上で空を見上げながら呟いていた

 

「……その威光で、我らの友に救済を……!」

 




はい、遂にオリジナル機体が登場しました!!

ガンダムを知っている方は登場の仕方でお察しの方も多いでしょうが、詳細な情報は別に書きますので別途お楽しみに。
天使の名を冠する唯一のモビルスーツ、原作ブレイクするならこの名前しか相応しいものは無いと思います!(震え声)

さて次回は「慈悲の天使」が「無慈悲」に大暴れします(ぇ
まず無能なペシャン公に「天罰」を受けさせなきゃねぇ……(#゚Д゚)

誤字・脱字、感想その他もお待ちしてます♪

↓ アンケートも良かったらよろしくねw ↓


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第6話 厄災の天使、無慈悲に舞う

※ 5/2、一部表現などを修正しました。

新型コロナの影響はまだまだ続いています。
外出自粛や営業規制とか……懸念材料は分かりますが……
だからって休業要請受けても営業続けるとこ、ちょっとおかしいと思います。


さて、前回からの続きは……

アリアンロッド艦隊の前に突如現れた白いMS……
放たれたダインスレイヴを容易く消し去り、
タービンズの窮地を救ったのは、天使(慈悲無き存在)の姿をしたMS(イレギュラー)であった……


 名瀬とアミダは、突如現れた白いMSを見ている

 強襲装甲艦(ハンマーヘッド)のカメラが捉えたその姿は……正に天使そのものだった

 初手のダインスレイヴを全て潰され、アリアンロッド艦隊は浮き足立っている

 白い機体は艦隊から名瀬とアミダを庇うように陣取ったまま動かない……それは後ろから自分を見ている2人(名瀬とアミダ)に対して、何かを訴えている様でもあった

 

 だが、混乱から回復した艦隊のMSが動き出す事で強制終了させられる

 去り際にサインを送り、天使は艦隊の真っ只中へと飛び込んで行った

 船のカメラが捉えた白いMSの姿……名瀬は何かを感じ、画像を拡大させる

 

 それほど距離は離れていなかった為、MSの頭部画像は多少粗さが目立つものの、くっきりと意匠や外観を映し出した

 その中に名瀬は、ある2つのモノを発見する

 

「全く……女とはいえ、子供に助けられるとはなぁ……」

 

 名瀬が発見したのは、天使の頭部……V字アンテナの基部に掘られた『Zadkiel』の文字と、機体に描かれた『羽ペンと古書』がデザインされたパーソナルマークだった

 名瀬はそのマークに確かな覚えがあった、それは衝撃的で忘れようの無い出来事

 

「セファー……だったか? 

 とんでもねぇ子供だ……三日月以上かもな……」

 

「……名瀬……」

 

 アミダもその名前に軽く衝撃を受けたが、虚空に舞う天使の姿に、何とも言えない感情が湧き出てきたのだった

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 虚空に疾駆する一筋の白い流星……軌道がひとたび翻れば周囲に爆発が起き、艦隊所属のMSが次々と消えていく……触れたら最後……そう表現しても(あなが)ち間違いではない

 

「ば、馬鹿な……あれほどの性能、いや速度で動くMSなどあるはずがない! 

 ましてや人が乗っているのにあんな軌道は……」

 

 最前線に陣取っているハーフビーク級戦艦の艦長は驚愕していた

 戦場を舞うその流星が移動する速度は、一般的なMSの最大速度を軽く超えながら非常識な軌道を描き続けていく……最初から人を乗せる事など一切考慮していない……そんな無茶苦茶な動きをしていたからだ

 実際にその軌道は直進から鋭角に軌道変更を数回ほど織り交ぜながら突撃、まとめて敵を数機破壊すると急停止し、一定距離内に敵機が入ると再び動き出すか、突然姿を消してから更にありえない位置へと瞬間的に移動していた

 

 速度と軌道だけならば無人機と言えなくもないが、明らかに常識から逸脱している瞬間移動や攻撃力は、もはや誰も説明など出来ないものだった

 

『……は、速すぎる……う、うわあぁぁぁ?!』

 

 ターゲットとして捉える間もなく、堕天使は常識外の動きでグレイズに接近、背後へと回り込み右腕を振るう

 少しの間を置き、グレイズの機体は上下真っ二つに斬り裂かれて小規模な爆発を起こした後、完全に動かなくなった

 ……斬り裂いたのは堕天使の右腕から伸びる1本の剣、その刀身は僅かながら発光し……どういう原理なのか、そう簡単に破壊出来ない筈のナノラミネートアーマーを斬り裂いていた

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「……無人機があれ程の動きをするなんて……」

 

 艦内で発進準備中の試作機(レギンレイズ・ジュリア)、その内でジュリエッタ・ジュリスは呟く

 モビルスーツの無人化は現在の技術である程度は可能ではある、しかしその動きは複雑に絡み合う判断材料から最適解を導き出し、機体の挙動に反映させるまでの時間が遅く、圧倒的な性能差がなければツーマンセル等の連携で簡単に撃破できる

 だがしかし、今あの戦場で舞うあの機体はそんな生易しい相手ではなかった

 ジュリエッタは流星のように動き回る機体のシルエットに見惚れてもいたが、同時に悪寒も感じていた

 

「まさに『白い堕天使』ですね……」

 

 ジュリエッタの直感がそう感じたのか、偶然の一致の様に彼女は白い敵機をそう表現していた

 しかし、何故かジュリエッタの表情は笑っていた……あれ程の相手ならば、自分を更に磨くための材料になる

 

「その強さ、私の糧にさせて貰います……!」

 

 ジュリエッタの乗り込んだこの機体は、(かね)てより試作を重ね、残すは最終稼働テストのみとなっていた新型機だ

 この新型なら、あの堕天使が相手でも問題ない……ジュリエッタはそう確信している

 

 戦場に出たジュリエッタは最大速で堕天使へと追い縋る、アリアンロッド艦隊所属のMSはその半数が撃破ないしは戦闘不能にされ、戦場にはその残骸が無数に撒き散らされている

 

 その頃……件の堕天使は周囲の敵をあらかた殲滅し終え、まるで休憩をするかの様に翅を閉じて漂っていた

 

 

 

(※ここからはセファーの思考が擬似的に堕天使の操縦者として入ります)

 

 

 

(敵部隊はだいたい倒せた……

 名瀬さん達も撤退した様だし、あとは艦隊の足を奪ってから離脱すれば……っ!?)

 

 突然鳴り響く接近警報、機体のセンサーが捉えたのは今までとは明らかに違う挙動をする機体……先ほどまでとは違い、相当な実力者と感じたセファーは再び機体に戦闘態勢を取らせ、迫る敵機を注視する……

 

(この機体、このタイミングで新型機……相手は悪食(ジュリエッタ)さんですか!)

 

 セファーは先ほどまで使っていた右腕の[ドミニオンズブレイカー]を大剣形態(GNソード)から、ノータイムで射撃/斬撃へと移行可能な銃剣形態(ヴァリアブルフォーム)へと変形させ、敵の新型を迎え撃つ

 ジュリエッタもまた、両手の剣を展開して斬り込んだ

 

「相手にとって不足なし!!」

(相手してる暇ないってのに!!)

 

 先制できたのは堕天使……右手から撃ち出されたのはオレンジ色の雨……この世界にはほとんど存在しないビーム兵器だった

 ジュリエッタは驚きながらも冷静に機体を射線からずらし、回避を試みるが散弾状に広がったビームは左足を捉えていた

 避け損ねた左足にオレンジ色の閃光が命中するが、ナノラミネートアーマーの表面を滑るように閃光は屈折し、雨のように飛び散ったビームは虚空へと霧散する

 

「これは?! ……まさかとは思いましたが、相手は厄災戦の亡霊ですかっ!?」

 

 ジュリエッタはビーム兵器の存在を知識としては知っていた

 しかし、ビーム兵器はナノラミネートアーマーに対して無力に等しく、厄災戦当時のガンダム・フレームはその優位性でモビルアーマーに勝利したと言っても過言ではない

 しかし、この敵機はそんな廃れた技術を使用している……そして間近に見るその姿、まさに先だって自分が呟いた「堕天使」の名は皮肉にもピッタリだった

 

(さすがアリアンロッドの戦乙女……一筋縄じゃいかないね)

 

 対するセファーもジュリエッタの技量に感嘆していた

 初見で速射式散弾(ビームショットライフル)を最低限の被弾で回避し、なおかつ次弾を撃たせまいと右腕を防御に使わざるを得ない絶妙な角度と攻撃でこちらを圧倒してくる

 

「……確かに堕天使と呼ぶに相応しい姿、でも私はアナタを超えてみせます!!」

 

 一度距離を置き、再びジュリエッタは敵機に肉薄する

 

(くっ、鉄血の実力者が相手じゃ分が悪すぎる……)

 

 堕天使は先程までの縦横無尽な軌道も行えず、押し込んでくる新型機(レギンレイズ・ジュリア)相手に防戦一方だった

 だが、致命的な一撃やフェイントには引っかからず避けており、どちらも決め手に欠けている状態だ

 

「ジュリエッタ機、敵機と交戦中……膠着しているようです」

 

 イオクにジュリエッタの戦況が伝えられイオクは思案する

 タービンズを取り逃がし、あまつさえMS部隊の半数が壊滅状態……それをあの白い悪魔(敵のMS)がたった1機でやったのだ……どうにかして敵に一泡吹かしてやりたい……そうしなければ自分の気も収まらない

 

「ダインスレイヴ隊はまだ残っているか?」

 

「は、はっ……8機はまだ健在ですが……?」

 

「ジュリエッタに敵を射線へ誘い出すよう伝えろ、何としても一糸報いなければ……」

 

 イオクの命令で生き残ったダインスレイヴ隊のMSが敵機へと狙いを定める

 その様子に気付いたジュリエッタは怒りを募らせた

 

「やはりイオク様は馬鹿です! 折角のチャンスを……っ」

 

 その僅かな意識の乱れを、堕天使は見逃さなかった

 すかさずジュリエッタの機体の背後に回り込んで左腕にあるシールドからクローを展開、振動破砕機能は使わずにそのまま胴体を鷲掴みして拘束すると、右腕の「ドミニオンズブレイカー」の最大出力モードを起動させ、高濃度圧縮粒子のチャージを開始する

 

(コレを適当な所に撃ち込んで、怯んだ隙に私は離脱させて貰うわ!)

 

 左腕のクローでジュリエッタ機を拘束したまま、堕天使の右手には極大の光の球体が形成されていく

 

(チャージ完了、これでも喰らいなさい! ドミニオンズ……ライザー!!)

 

 オレンジ色の極光が収束し次の瞬間、凄まじい速度で増幅、膨れ上がった光は一直線に艦隊を構成する艦船めがけて伸びていき……やがてその中の一つに命中した

 

「……な、なんなのだ……あの光は……」

 

「……艦船のナノラミネートアーマーが……溶けていく……?!」

 

 放出の止まない光の奔流、浴び続けている艦船はその形状を少し、また少しと変化させていく……それは船の装甲自体が熱量に耐えきれずに溶け出したからだ

 

 ナノラミネートアーマーとは、装甲表面に塗布された特殊塗料が、動力源であるエイハブ・リアクターから発せられる特殊な電磁波を浴びる事でビームを乱反射させる強固な皮膜を形成する技術であり、たとえ大出力のビーム砲であっても、エネルギーを乱反射させる皮膜は破れず霧散してしまう……だがそれでも、大出力のビームを長時間浴び続けているとどうなるのか

 

 いくらビームに対して凄まじい優位性を持っているナノラミネートアーマーでも、ビームを乱反射させ続けるとそこには少なからず熱が発生してしまう……それは物理法則によって避けようのない事実……そしてそれが大出力、かつ長時間となると結果は自明の理

 発生し続ける熱量は装甲や他の部位に蓄積され、やがて内部や要となるリアクター、装甲自体が熱量の物理的限界値……つまり「融点」に達して自壊し、溶けて蒸発していくのである

 

 最も、MSの場合だと装甲が溶ける前に中の人が限界に達する(焼け死ぬ)方が早いのだが……

 

 艦隊の船を端から2つほど破壊し尽くした所で極光の奔流は収まり、生き残った残った艦隊の全員がその光景に呆然とするのだった

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

(はぁ……はぁ……は……っ)

 

 粒子残量の警告アラームが鳴り響く、それは機体に残されているエネルギー量……GN粒子の残量が残り10%を割り込んだからだった

 

(さすがに強化済みでも、[T](タウ)の出力じゃこれが限界だよね……オリジナルなら耐えられたかもだけど)

 

 粒子残量からすると、通常移動だけなら帰還も叶う……しかし、未だ堕天使の左腕クローには、アリアンロッドの新型機(レギンレイズ・ジュリア)が拘束されたままだった

 しかし、幸いな事に中のジュリエッタは、地球圏最強のアリアンロッド艦隊がたった1機のMS相手に被った被害の光景に言葉を失い、自身が拘束されている事も忘れて呆然としている

 

(……これは、チャンスかも……)

 

 堕天使は気付かれないよう、ゆっくりと拘束を解き……推進機動を使わずAMBACを駆使して距離を離す

 

「……300年前に起こった悲劇……まさか、これ程なんて……」

 

 堕天使の放った極光の奔流はアリアンロッド艦隊の船2隻に命中……最初の1隻を完全に消滅させ、2隻目の装甲は辛うじて原型を保ってはいるものの……それまでに発生した膨大な熱量によって内部崩壊は必然、まさに地獄絵図と化しているであろう

 

 その戦慄に肩を震わせるジュリエッタを尻目に、堕天使はその翼を翻し、虚空の彼方へと飛び去っていった




今回は内容的に大ボリュームでした……
……如何だったでしょうか、ナノラミネートアーマー対ライザーソード。

物理法則に従い、装甲のキャパシティを上回ったライザーソードの判定勝ちでしたが、個人的にこれは奇跡の辛勝だと思っています。

喰らった艦隊側からすれば想定外だし……擬似太陽炉の出力ほぼ使い切ったしね。

個人的に文句がある人もいるかと思いますが、とりあえずガンダム特有の惨劇シーンを残しつつ名瀬さん達の死亡回避と併せて書きたかったので(´-∀-`;)ゞ

……ところで、戦闘シーンってこんな書き方で良いんでしょうか?

誤字・脱字/感想やアンケートもヨロシクオネガイシマス(片言)


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第7話 自己犠牲……っていうのは間違いだよ?

艦隊を襲った堕天使の驚異……その凄惨な爪痕に
イオク・クジャンは己の無知を悟り、ジュリエッタ・ジュリスは無力さを痛感する

名瀬の生還に湧く鉄華団だったが、立役者セファーの表情は硬いままだった
そして、鉄華団の元に、再びマクギリスが来訪する……


 名瀬・タービンの逮捕に失敗し、艦隊戦力を大きく削がれたイオクの艦隊は地球への帰路の途中……旗艦の艦橋では、司令であるラスタル・エリオンとの通信が開かれ、イオクは最早厳罰は免れないと悟っていた

 

 だがしかし、帰ってきた言葉は予想外なものだった

 

「……この件は手打ちになった、本部で補給を受けた後、お前は当分の間謹慎していろ、以上だ」

 

 慌ててイオクは理由を問うと、説明された経緯はこうだった

 

 まず、マクマード・バリストンとの取引によって、違法捜査の被害をテイワズ側が問わない事を条件に、タービンズの違法武器輸送の容疑は晴らされた……最も、それ自体持ち込まれた偽情報による冤罪なのだが……そしてラスタルは「ある人物」からの情報で、イオクの周囲をマクギリスが嗅ぎ回っているという確証も得られたのだ

 ラスタルはこれ以上、マクギリスに有利な状況となるのを避け、そしてイオクの暴走を抑える為にも、本部での謹慎としたのである

 

「……はっきり言って、今のお前はセブンスターズの恥晒しだ。

 我らに必要なのは秩序と節度……謹慎中にこの意味を良く考えておけ」

 

 冷たく吐き捨てるラスタル、これで懲りただろうと思い通信を終えようとする手は直後に発せられたイオクの言葉で止まってしまう

 

「申し訳ございませんラスタル様! 私は今日この事を自身最大の悔訓とし、今後もう二度と……この様な失態を犯す真似は致しません!!」

 

 思わず呆気に取られてしまうラスタル、当のイオク本人の目には大粒の涙と共に「ちゃんと反省しています!」という表情がありありと浮かんでいた

 イオク本人も、あの凄惨な事態を招いたのは、自身の無知と甘さが原因だったと既に痛感しており、それは原作よりも早く真人間への第一歩を踏み出している証でもあった

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 その頃、堕天使は残り少ない粒子量を何とかやりくりしながら火星へと飛んでいた

 

(このペースなら、何とか粒子切れせずに本部まで帰れそう)

 

 既に粒子残量は5%目前まで減っており、もはや戦闘機動は取れない

 このタイミングで狙われれば、確実に機体を鹵獲されて出処を探られてしまう

 ……ぶっちゃけ出処を探られても鉄華団には行き着かないのだが、代わりにこの機体に使われている存在しない技術(ロストテクノロジー)の数々が公になってしまう……それは最も危惧すべき事だった

 

(太陽炉に関しては解析不能だとしても、ナノ・スキンだけはさすがにヤバいもんね……)

 

 先の戦闘で大きな損傷は受けていないものの、何度も爆発の中を突っ切ったり無茶苦茶な機動を繰り返した為、内部のフレームやセンサーカバー等の脆弱な箇所は曲がったり傷付いていた

 しかし、装甲や各所に組み込まれたナノマシンの作用によって、一部の特殊素材以外の部分は既に時間経過と共に修復されていた……それが「ナノ・スキン」の能力……阿頼耶識にもナノマシンが使われている以上、この世界の技術水準だけでもナノ・スキン装甲は簡単に造れてしまうだろう

 

 しかしその願いも虚しく……堕天使の目前には、ギャラルホルンの艦隊が展開しているのであった

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 名瀬の生存を聞かされ、喜びに湧く鉄華団本部

 しかし、その中で当のセファーだけは硬い表情のまま周囲から少し離れた場所に居た

 

「……どうしたの? 何か悩み事?」

 

 セファーの表情を覗き込み、アトラは心配そうに声を掛ける

 ハッとしたセファーは「なんでも無いよ!!」と、無用な心配は掛けまいと明るく振る舞い、兄オルガの傍に移動していった

 

「……そんな顔してたら、絶対何かあるって気付かれちゃうよ……」

 

 セファーの表情を見たアトラは、若干呆れながらもセファーの心配を止めなかった

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 それからしばらくして、オルガは三日月と共に歳星へと向かった

 完成したバルバトスルプスレクスの受領と、名瀬のお見舞いのためだ

 

 しかし、団長不在の間に予想もしなかった事が起きる

 鉄華団本部施設を包囲する火星支部のギャラルホルン部隊……率いるのは当然マクギリス・ファリドだ

 

 団長は不在であり、何故こんな大部隊を率いて来たのかと、留守を預かっていた副団長のユージンがマクギリスに問い正す

 

 しかし、マクギリスはこう返してきた

 

「300年前の天使が遺した存在……彼女を、セファー・イツカを呼んでくれ給え」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「……ふむ、君の存在と技術を対価に、鉄華団とは縁を切れ……そう言うのかね?」

 

「……私がザドキエルに使った技術、貴方はそれが欲しいんでしょ? それがあれば、貴方はアレに乗れる……貴方の野望が叶うわね?」

 

 マクギリスの真意を図るように情報をちらつかせ、此方は既に全てを知っていると挑発……しかし、セファー自身にとってはこの挑発はかなり危険な賭けでもあった

 

「……ああ、やはり君は私の予想を上回って来たね……確かに君の持つ技術を用いれば、私はバエルを確実に手にする事ができる……その上更なる改良も可能となるだろう」

 

(やはり、マクギリスが欲しいのは私の持つ技術だ……そして私の予想以上のバエル馬鹿だ)

 

 でも、お陰で道は開けた……

 このバエル馬鹿を利用する事で鉄華団をテイワズから離脱させず、マクギリス側のクーデターを私が煽り、マクギリスごと私も表舞台から消えれば(鉄華団の)皆は救われる……

 

 そう確信した私は、鉄華団からの離脱を決意したのであった

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「……何だよ、コレは……おいユージン! どういう事だよ?!」

 

 三日月と共に無事、バルバドスルプスレクスを受け取ったオルガは本部へ帰還した直後、いつもと様子の違う本部の雰囲気やアトラ達の沈黙に気付く……ただ1人、出迎えたユージンは黙ってセファーの手紙をオルガに渡す

 先の発言は、それを読み終えたオルガは頭が爆発しそうになっていた為であった

 

「……オレも止めようとしたさ! でもよ……チビ嬢(セファー)は、マクギリスとはココで縁を切らないと、鉄華団がヤバい事になる……アイツはそんなの嫌だって泣いてた……」

 

「…………」

 

 セファーが遺した手紙には、これから起こるであろう出来事と、その対策……そしてマクギリスに対する警告と共に、兄であるオルガに対して、勝手に鉄華団を離脱した事への謝罪が書かれていた

 

(このままマクギリスと共に歩めば、確実に鉄華団は世界から敵として認識され、おそらく全てを失ってしまいます……でも、こうやって私が代わりに1人で行く事で皆は危ない目に逢わないで済むから……)

 

「……俺は兄貴失格だな……アイツがこれだけ鉄華団の事を思って色々やってくれてたのに……俺は、それにただ甘えちまってた……この手紙に忠告されてる事なんて、本当は俺が真っ先に考えなきゃいけねぇ問題だったのに……」

 

「オルガ……」

 

 ユージンは独白するオルガを見ていられず、窓の外を向く……

 火星の空は、彼らの悲しみを察したのか……いつの間にか暗く曇っていた




※セファー が鉄華団から離脱しました。
 ギャラルホルン(マクギリス派)と鉄華団の関係が解消されました。

原作改変最大の間違いを修正できました……
これで鉄華団はマクギリスとの共倒れバッドエンドを一応回避した事になります。
次回からギャラルホルン(マクギリス側)ルートに入ります。

↓誤字・脱字報告、感想・アンケートもよろしくなのです。


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第8話 雌伏の時こそ自分らしく…ってね

評価が黄色バーに早くも到達……こんな拙い文章にありがとうございます。

新型コロナのせいで仕事場も結構ヤヴァいです……今は何とかなってるものの、1人でもダウンされると本気でツラい……

さて、前回からの続き……

鉄華団を去り、マクギリスへと下るセファー……家族の為、敢えてその孤独へと身を投じる彼女のもとに、テイワズからある情報がもたらされる……それは、間接的に家族を苦しめた元凶の情報だった


 鉄華団から離脱して間もなく、私はファリド家所有の秘密施設にて、新造した改良型のAGEビルダーを用いて無人制御MSの製造を始めた

 

 マクギリスの目的は、ギャラルホルンの象徴……ガンダム・バエルを手中に収め、自らの理念の元にギャラルホルンを再編、古い今の体制を打倒して新たな秩序を構築する……

 早い話がクーデターを起こして自分がトップに立ち、世界を自らの理想が体現できる世界……つまり、厄災戦以前の状態まで引き戻すのが目的らしい

 

 ……で、なぜ私がその手伝いをしてるのかって? 

 途中までは私がやらなくても起きる事なんだけど、この立場の方が流れを変えるには最適かつ、「私の理想」を実現するためにも最高の舞台装置を使える場所だからだ

 

 そして今、量産用無人MSの製造の裏で、私はザドキエルの改修を密かに進めている

 ……唯一の懸念だった動力源の問題解決と、一部機能の再構築だ

 

 前回の戦闘データから、ビーム兵器における費用対効果が予想以上に低い事を痛感した私は、思い切って擬似太陽炉を主とする現行の武装を刷新し、再構築をした

 まず主動力源を「HPHGCP(螺旋位相型超震動ゲージ場縮退炉)」に置き換えた、このジェネレーターは∀ガンダム系統の動力源で高出力ながら安定性が高く、IFBDと相性も良い……その上IFBDの制御フィールドを拡張させて敵を縛り付けるなど、敵機の運動制御を抑制できる機能があり、近接戦闘時の優位性を高める事もできた

 また、胸部と腕部をフルサイコフレーム化、ドミニオンズブレイカーの刀身構造も、高硬度レアアロイを芯にサイコフレームとGNプリズムメタル(クアンタに使われた新素材)(勝手に命名)を加えた三重構造とし、フレームごと装甲を斬り裂く事を可能にしたH・MVS(ハイ・メーザーバイブレーションソード)として再構築、さらに実弾ライフルとマイクロミサイルを追加して、GNビーム兵器を失って低下した攻撃力を補填する

 なお、擬似太陽炉はそのまま残し、HPHGCPから電力供給を得られる様になった事で(別の意味で)オリジナル化……さすがにGNフィールドはIFBDに干渉するので撤廃したが、粒子ビーム兵器以外の可用性は失いたくない……機体の重量軽減、粒子供給による攻撃力/防御力の上昇もあるが、推進剤不要、TRANS-AM、量子ジャンプ機能はシステムから撤廃せざるを得なくなり、代替の構築までやるとクーデターの発起を遅らせる要因になる

 

 改造を施したザドキエルは多少の重量増加等はあるものの、基本的にはこれで、対抗してくるであろうアリアンロッド艦隊とも互角に戦えるはずである

 

 ……できれば鉄華団の格納庫の奥に眠っている「アレ」は使いたくないし

 さて、残る問題は……バエルをどうするか、だ……

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「……じゃあ、オリジナルの阿頼耶識処置……もうやってたんだ」

 

「ああ、君には言わずとも分かってた様だがね」

 

 人払いをしたマクギリスの執務室で、私とマクギリス、石動の3人だけの秘密会議が開かれていた、内容は勿論「例の件」の進捗(クーデターの準備)状況を確認するためだ

 

「セファー嬢、戦力増強の進捗は?」

 

「無人化のほう? ……あのやり方はオススメしないよ? あれじゃ非効率的というか、制御やら何やらいちいち外から手を加えないとダメだから正直言って面倒くさい……もっと楽な方法があるから、そっちでもいい?」

 

 私はマクギリスがクーデターの為に準備していたMSの無人化方式の代替案を示唆した

 

 最初にマクギリスが指示してきた案は、かつてのエドモントン戦でミカ兄が倒した「グレイズ・アイン」の阿頼耶識システムを解析し、システム化した正直言ってメチャクチャなMDシステムだった……しかも動作が不安定で調整やら何やらが常時必要、おまけに部隊運用には向かず、単独で暴れさせるのが精一杯のなんちゃって無人化だった

 

 こんな奴を採用するくらいなら、と私が提案したのはガンダムWに登場する「ゼロシステム」を応用したMD指揮・運用システム……原作のままだとゼロシステムに耐えられる脳を持った指揮要員を探さなくてはいけなくなるので、調整したモビルアーマーの制御システムを代用して完全無人化したものだ

 勿論、味方は撃たない様に調整してあるので有人機との連携も可能、操作もチェスの駒を動かすが如く、部隊ごとに区分けされた駒を専用のボード上で動かすだけで部隊配置に即反映、ボードは戦況をシステムが判断してひと目で分かるようにマップや建造物などをレイヤーで表示し、必要に応じて切り替えられる親切設計という初心者向けタイプとした

 

「なるほど、これなら通常の指揮に加えてもさほど手は掛かるまい」

 

 仔細を軽く説明するだけでマクギリスは有用だと見抜き、即採用した……この人こんな頭良いのに何でバエル馬鹿なんだろう……と私は毎回、内心思っている

 

「戦力的にはあと、人員の確保くらいでいいと思う……どうせこっちの方が人少ないんでしょ?」

 

「確かに此方は少数、対するであろうアリアンロッド艦隊の1/3に過ぎない……」

 

 石動さんは懸念するが、マクギリスは違うようだった

 

「なに、此方には君と君が用意した人形がある……それに、あの堕天使も動くのだろう?」

 

 やっぱりザドキエルも宛にしている……まぁ史実通りだったらミカ兄とバルバトスがある訳だし、その代わりなんだからしょうがないんだけど……

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 秘密会議を終え自室へと戻った私は、不在中にメールが届いている事に気付く

 

「送信元は……鉄華団?!」

 

 家族からのメールに私は急いで中を確認すると、オルガ兄だけじゃない……鉄華団の皆が私の離脱を悲しんでいる事がありありと書き記されていた

 

 言いようのない思いが次々と溢れ、それは涙となって私の視界を滲ませた

 私だって、今すぐ鉄華団の元に戻りたい……オルガ兄の隣に立って、ミカ兄とアトラちゃんがくっ付くまで応援したい、昭弘兄の尻を蹴飛ばしてでもあの人に告白させたいし、クーデリアさんの事務所の手伝いも……

 

 溢れ出る思いと涙に耐えきれず私はベッドへとダイブして泣いた……

 ……世界はこんなささやかな願いすら聞き入れてはくれない、だから私はこの道を選んだのに……こんなの反則だよ……オルガ兄は多分テイワズに頭を下げて頼み込んだんだろう、私の行き先を知る為だけに……また無茶なお願いをして呆れられたんだと思う、でもそんなオルガ兄達だから私は鉄華団が好きなんだ……

 

 どれくらい泣いただろうか、メールを最後まで読んでない事に気付き私は最後まで読もうと画面の前へ戻る

 最後に添付されていたのは資料用の添付ファイルだ……何かが気になった私は、中身を確認する……すると出てきたのは名瀬さんを嵌めたアイツ……ジャスレイの裏取引に関する情報だった

 

「そっか……オルガ兄達も同じ気持ちなんだね……」

 

 だったら、やらない訳には行かない……奴だけは絶対に逃さない

 会う機会が少なかったとはいえ、名瀬さんはオルガ兄達の兄貴分、そして鉄華団の数少ない理解者だ……そんな優しい人達を傷つけた報いは絶対に受けさせなくちゃ……

 

 ……私は初めて人に殺意を持ったことに気付く

 そしてその思いは堕天使にも伝わったのか……窓の外に見えている研究所から、一筋の光が天へと登って行くのを……私はじっと見送っていた




はい、フラグが立ちました~
これは私がぜひ演りたかった件のフラグです……原作知ってる人なら、どういう意味か分かるでしょう?

誤字・脱字報告、感想・アンケートもよろしくなのです。


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第9話 因果応報、地獄で後悔してね♪

緊急事態宣言の一部解除……ねぇ
少し早い気もするけど、経済活動が滞ってる現状で背に腹は変えられないって事かな……
……たださ、政府が出した保証ってこう……痒い所に手は届いてないんだよねぇ……

さて、前回からの続き……

生まれて始めて、人に殺意を覚えたセファーに呼応し、起動する堕天使。
向かう先はただ一つ……迎えられるべき優しい世界を壊そうとする、悪意ある輩の元へ……


 ジャスレイ・ドノミコルス……

 木星圏を拠点とするテイワズの下部組織の一つであるJPTトラストの頭である

 

 下部組織とはいえテイワズに名を連ねるのならば、相応に相応しい人物であると普通は思うだろう……しかし、彼の本性は「向上心」という名の嘘偽りを被せた、自己中心的な欲望の塊だった

 

 そんな彼は今、火星圏へと船を動かしていた……理由はたった一つ……「逃げるため」である

 

「オイ、親父にはまだ連絡が付かねぇのかよ?!」

 

 彼は最早、いつもの彼ではなかった……それもその筈、彼はテイワズの本拠からこの火星圏に移動するまで、散発的に攻撃を受けていた

 ……それも、本拠を出て半日もしない距離から、この火星圏までずっと……

 

 回数はもう数え切れない、しかも相手はたった1機のMSのみ……なのに撃退はおろか、掠り傷一つ与える事すらできず……

 最初は散発的だった、しかし回数を重ねる事に自分たちの被害は拡大し続け……秘匿戦力だったヒューマンデブリ(身売りされた阿頼耶識保有者)は既に全滅……主力も2/3程にまで減らされており、それも満身創痍……五体満足に動ける機体の方が少ないという悲惨な状況だった

 

「小父貴! 11時方向から急速接近! ……れ、例の白い奴だ!!」

 

 索敵要員からの報告に再び恐怖を煽られるジャスレイ……すでにこのやり取りも両手に余るほど繰り返されていた

 

「動ける機体で迎撃だ! 絶対に近づかせるんじゃねぇぞ!!」

 

 怒声にも似たジャスレイの指示通りに迎撃体制を整えるMS隊だったが、白い流星はその防衛網をあっという間に潜り抜け、その姿を艦橋から肉眼で捉えられる距離まで一気に侵入してきた

 

 ……その姿は荘厳にして繊細、慈悲深く、神々しさすら備える純白の装具に身を包んだ天使そのものだった

 しかし、彼らにとってその姿は死神も同然……このMSはたった1機で木星圏からジャスレイ達を執拗なまでに追尾し続け、時折恐怖を煽るかの様に襲撃を繰り返してはいつの間にか居なくなり、安堵したタイミングを見計らったかのように再襲撃を繰り返していた

 

 虚空を我が物顔で駆け、迎撃をものともせず、展開された弾幕をすり抜けて……瞬く間にジャスレイの乗る船「黄金のジャスレイ号」の艦橋へと超接近してくる

 

「……っ、迎撃のMSは何してやがる!?」

 

 ジャスレイの怒声は最もだが、目の前の相手が相手だ

 この機体を止めろというのが土台無理な話であろう……なにせこの機体は有人機では不可能な加速と軌道を描きながら、先ほど迎撃していた全ての敵機の四肢を破壊してそこに来たのだから……例え抵抗できる状態であっても、この状況では手出しなどできるはずもない

 この堕天使は、艦橋の目の前に立っている……撃てば間違いなく艦橋を巻き込んでしまう

 

 堕天使はその手で艦橋に触れ、接触通信で黄金のジャスレイ号の回線に割り込んでくる

 ……映像は出ないが、通信からはジャスレイのよく知る声が響いてきた

 

「……よぉ、調子はどうだ? ジャスレイ?」

 

「?! お、オルガ・イツカ?!」

 

 通信を聞いた全員が驚愕した……当然ながら「鉄華団」は未だテイワズの傘下……同じ傘下であるJPTトラストに手を出す事など出来る筈がない、いやそんな事をすればマクマード・バリストンを始めテイワズ全体から批難と報復を受ける……そんな事はあのオルガ・イツカ(宇宙ネズミの頭)も分かっている筈だ

 しかし、次に聞こえた声はその予想をはるかに越えた物だった

 

「……残念です……テイワズのNo.2でも、所詮はこの程度の戦力しか持っていませんでしたか……非常に残念ですよ」

 

 女……しかもまだ子供の声……だが、その言葉は子供のソレではない……彼我の戦力差に完全に失望した指揮官の様相であった

 

「……テメェ、何者だ……」

 

「貴方の予想通り、鉄華団の関係者ですよ……まぁ、今は直接的な繋がりはありませんけどね?」

 

 ジャスレイは既に正気を保つのが精一杯だった

 これ程の力を持った敵が、たった1人で此方の戦力をズタボロにした奴が……年端も行かない少女の様な声で、失望したと呆れている……

 

「おや、もう感情制御が崩壊したんですか? やれやれ、貴方は精神も予想以下で面白くも何とも無いですねぇ……」

 

 少女の声がジャスレイの怒りに更なる燃料投下、なりふり構わず通信先の少女の声に反応した

 

「冗談じゃねえ! 俺はテイワズのNo.2、ジャスレイ・ドノミコルスだぞ! こんな……こんな所で終わる筈が無ぇ! テメェは必ず……」

『分かってんだぜ? 名瀬を潰したら次は俺だったんだろ? そんな魂胆くらいちゃあんと知ってんだぜ、俺は……あー、それとクジャン家の御曹司は来ねぇぞ?』

 

 突然ジャスレイの声を掻き消して響いたマクマード・バリストンの声……先程から繋がっている通信から聞こえた予想外の声……更に聞こえてきた声に、ジャスレイは最早絶望するしかなかった

 

『……テイワズの下部組織の一つ、タービンズです……ソレをどうにかすれば……貴方の敵である鉄華団は、必ず動きますよ? そしてその影響はテイワズ全体にも波及し、マクマード・バリストンを叩く絶好のチャンスにもなる……』

 

 史実とは些か内容は違うが、聞こえたのは紛れもなく自分とイオク・クジャンの密会を録音したものだった……つまり、ジャスレイ・ドノミコルスの人生は詰んでいた

 

 脇で必死に外部へと助けを求める通信士だが、その声は外部どころか、今繋がっている回線以外何処にも届かない……全て敵が出すオレンジ色の光……GN粒子によるジャミングによって送信不能だった

 

「……さて、種明かしは以上です……では、さようなら」

 

 ゆっくりと堕天使の右腕が艦橋から離れ、マウントしていた武器を持ち直して構える

 艦長席のジャスレイはその光景に気付き、再び声にならない怒声を上げるが、その声は堕天使の一閃によって引き起こされた爆発に掻き消され、まきこまれないようその場を飛び退いた堕天使は、そのまま向きを変えて虚空へと消えていった……




少しアッサリし過ぎたかな……天罰。(´・ω・)
ともかく、ジャスレイ・ドノミコルスの最後です。

誤字・脱字報告、感想アンケートもどうぞ。


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第10話 天使の遺したもの

そろそろ物語も佳境に入る頃かな……
JPTの件が終われば、次はいよいよバエルの件かぁ……(白目)

※ 今回は時系列で言うならJPT襲撃の前です。


 タービンズ襲撃など一連の手引きをしていたのは、最初からジャスレイ・ドノミコルスだと判っていた……しかし、決定的な証拠でもない限り、マクマード・バリストンの協力は得られないだろう

 そう考えた私は、前回の訪問の時に「ある仕掛け」を施しておいた

 簡単に言えば、ジャスレイ・ドノミニコルスに対する「全自動スパイ」を仕掛けたのである

 ただし、そのスパイに実体は無い……その正体はコンピューターウィルスだからだ

 

 前以て最星に、ジャスレイ・ドノミコルスに関わるデータだけに反応するウィルスをばら蒔き、最星の内部で奴に関わる情報やそのやり取りだけをピックアップさせ、同時に仕掛けたバックドアを用いて流出……行き先は私とマクマードさんの2人……

 マクマードさん宛て用には出所の偽装を施したが、普通にバレていた

 

 まぁ、そういう事をやっておいたので私は襲撃の前にマクマードさんの伝言と、ジャスレイ自身の証拠音声を入手出来ていた

 その後、マクマードさんは何食わぬ顔でジャスレイに仕事を預けた……内容は教えて貰えなかったが、急ぎではないモノをわざと急用だとか何だとか言って上手く丸め込んだらしい

 ……だからザドキエルの襲撃があんな簡単に上手く行ったのか……

 

 ちなみに、マクマードさんはこの事を見過ごす代わりにこの裏システムをこのまま使わせろと打診してきた

 組織内の膿を絞り出すには一番効果的だし、ヤンチャした事への罪滅ぼしになるならと快諾した……あの人の事だ、トップの座を譲ってもアレだけ隠し持っておき、組織を裏から牛耳る……と言うのは人聞きが悪い……生きている限り、裏からテイワズを支えるんだろう

 

 ああ、忘れるとこだった……タービンズのクルーだった「ラフタ・フランクランド」さんは、鉄華団へ身を寄せる事になった

 

──────────

 

 タービンズへの襲撃をザドキエルが撃退してから数日後、ラフタさんとアジーさんは2人で買い出しに出ていた……既に名瀬・タービンの指名手配や違法兵器密輸の件から開放されているとはいえ、未だにタービンズ危機的状況である事に変わりはない……首謀者であるジャスレイがまだ裏で動いているからだ

 

「……あ、買い忘れだ……」

 

「一緒に行こうか?」

 

「近くだから、すぐ戻るよ」

 

 そう言ってアジーさんがラフタさんと別れる……私は身を隠してその様子を伺っていた

 

 ……あ、どうやって姿を隠してるかと言うと、これも本来はMS関連の技術

「光学迷彩皮膜」と言って、機動戦士ガンダム00(ダブルオー)で、刹那くんがエクシアを隠していた時に使っていたヤツ……人間に対してなら、目立つ行動さえしなければほぼ気付かれる事がないという若干チートな隠蔽技術……発展形に「対衛星用光学迷彩」っていうのもあるが、そっちは一方向しか効果が無い代わりに移動中でも気付かれないという超チート級……

 そして、今の私はなんと「ガンダムヴァーチェ」をガンプラ(MG)サイズで再現したボディでこの場にいるのである

 ……もちろん装甲や性能は本物と同等、違うのはサイズと動力、そして火力だけ

(プラフスキー粒子? ……知らない子ですねw)

 

「……こんな店あったんだ」

 

 私は迷彩で隠れたままラフタさんを尾行し、「あの人形店」へと入っていくのを確認していた

 確か、この人形店でラフタさんが昭弘兄に似てる顔のテディベアを見つけた時に撃たれて殺されるハズ……どうやら状況に間に合ったみたいだ

 

「………………」

 

 ラフタさんの動向を外からこっそり確認していると、妙な気配のするロングコートの男が道の向こうに立っているのに私は気付いた

 

(……まさかっ!?)

 

 その男が懐に手を入れたのを確認した私は咄嗟に迷彩皮膜を解除、スラスターとGNフィールドを全開にして店内に突入、ラフタさんへと体当たりしてバランスを崩させ座らせた

 

 パァン! チュン!! ビシッ! チュイン!! 

 

「……え?」

 

「きゃぁぁぁぁ!!」

 

『くっ……こんのぉ!!』

 

 男の銃から3発の銃弾が発射……一発目はGNフィールドによってあらぬ方向へ、二発目は逸れてガラスを貫通するが誰にも当たらず、三発目がGNフィールドを貫通するがヴァーチェの装甲でガードされ機体を揺らす

 ガラスの割れた音で店員が気付いて悲鳴を上げ、ラフタさんは突然の事態に理解が追いつかず、座り込んだまま呆然としていた

 

 ビシュゥゥビシュゥン!! 

 

 私は被弾でよろけた機体の姿勢を立て直し、反撃とばかりに撃った男へとノンチャージの砲撃を2発ほど放つ……こんなサイズ(MGヴァーチェ)だが(武装の)性能は本物と同等なので砲撃のビームは相手の足と銃自体に直撃し、男は痛みに倒れながら銃を取り落した

 

 私は男の無力化を確認し、事態を飲み込めず呆然と座り込んだラフタさんに近寄って手を伸ばす

 

『ココは危険です! 早くこっちに!!』

 

「へっ?! おもちゃが……動いて……飛んでる?!」

 

『その事は後で話しますから! 今は早く避難を!!』

 

 服の裾を引っ張り、私はラフタさんを急かして店外へと脱出……先ほど撃った男が立ち上がろうとするのを尻目に逃走ルートを再確認、ラフタさんを文字通り引っ張って予定していた逃走ルートへと走らせた

 

 数メートルほど移動した所でさっきの男がまた銃を撃ってきたので、私はラフタさんの背後に回って庇いつつ、今度は男の腕を狙い撃つ……見事両腕を負傷させて再びラフタさんを引っ張って逃走を再開した

 

──────────

 

「……な、何だって言うのよ……キミ、っていうか誰か動かしてるの?」

 

 予め確保しておいたホテルの一室に案内し、私はラフタさんの質問に応えることにした

 そして、あの男がラフタさんを狙っていた事やその理由……そして、ジャスレイがギャラルホルンの一部と結託してタービンズを狙っていた事など、この状況を招いた全ての事態と原因の数々を……

 

「……じゃあ、アタシ達タービンズを餌に、ジャスレイはマクマードさんの首まで狙ってたって事?!」

 

『そうです、全てはあの男が仕組んだ事……私はその情報を掴んだ時点でこの状況も予見し、こうやって対策していた訳です』

 

「……対策、ねぇ……っていうかセファーちゃん、キミ鉄華団抜けたって本当なの?!」

 

 うっ……やっぱり来た……この時点で私はもう鉄華団を抜けた事が全員に知られてるから絶対聞かれると思ってた

 

『……はい、オルガ兄にも皆にも……酷い事をしたとは思っています、でも……こうやって私一人でマクギリスを抑えでもしなきゃ、いずれ鉄華団の全員がアイツの思惑で潰されて……皆が居なくなっちゃうと思うと……私は……っ』

 

 小さなヴァーチェの機体から悲痛な声だけが響く……

 当人に話す事で巻き込んでしまう恐れがあった為、ずっと隠していたが……ラフタさんと2人だけという状況に心が緩んだ私は、彼女の追求にあっさりと本心をぶち撒けた

 ……聞きようによっては未来予測をして嘆いた様にも聞こえるが、ラフタさんは気付かなかったみたい

 

「……馬鹿ね、まだおこちゃまの癖に他人の心配ばっかり……でもまぁ、アイツ等の為って思ってるなら、最後までやり通して、そんで終わったらちゃんと謝んなさい」

 

 ラフタさんはヴァーチェの頭をグリグリといじって私にそう言ってきた

 もちろん、全てを終わらせたら、何が何でも彼らの元へと戻り、ちゃんと許して貰えるまで謝る

 

「それならよし……んで、1つ質問なんだけど……私、これからどうすれば良いのかな?」

 

 苦笑いをしながらラフタさんは私に質問してきた……あ、そういえばアジーさんと別れた状態のままなんだっけ

 

 事情を説明しようにもこのホテルから通信をするとジャスレイ側に居場所が露見してしまう……かといってアジーさんに説明も何も無しでは却ってアジーさんを心配させてしまう可能性が高い

 ……私は機体のエネルギー残量を確認した後、ラフタさんにはこの部屋で待って貰うことにし、アジーさんやタービンズへ事情を説明するため、ホテルの窓から夜の街へとヴァーチェを飛翔させた

 

 なお、1時間もしない内に私と合流できたアジーさんはヴァーチェの機体に驚き、タービンズの専用の秘匿回線で名瀬さん達にも事情を打ち明け、その場でラフタさんの身柄を鉄華団に預ける事を了承して貰い、代わりにラフタさんへの伝言を請け負ってホテルへ戻った

 

 ちなみに、名瀬さんは元からラフタさんを鉄華団に移籍させたかった様で、この件を持ち出した瞬間即答で快諾された……

 ……もしかしなくても、ラフタさんが昭弘兄といい雰囲気になってたのをそれとなく知ってたのだろうか?




またもやチート行動で原作キャラ死亡回避!
原作でラフタさん死んだシーンもタービンズ壊滅に負けず劣らず衝撃的だったので絶対回避案件です!!

なお、このガンプラ「ヴァーチェ」は火力とTRANS-AM能力を犠牲にしてガンプラサイズでの長時間活動を可能にした機体……
セファーちゃんの脳量子波に反応してザドキエルを始めとした機体は動いています。

ちなみに、この系統モデルでエクシアからクアンタまで一通りあるのはご愛嬌w

誤字・脱字報告、感想やアンケートもよろしくなのです。


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第11話 征服者と復讐者の目覚め

え~、前にも言ったかどうか覚えてませんが(←ヒデェ)
善意で誤字・脱字報告されている方
誠にありがとうございます
 m(_ _)m
主にPCで作業してますがスマホ側でも作業するためどうしても見落としが残ってしまいます故、本当にありがたい……
(´;ω;`)ウッ…

※ 5/24 マクギリスとガエリオの会話を判別しやすいように「」と『』で分けました。
ガエリオ君仮面モードは声が響きますしね?

緊急事態宣言の解除……でも、状況は一向に好転してない事を忘れちゃダメですよ?
ウィルス性感染症というモノの真の恐ろしさは、まだ始まったばかりなのですから……


ザドキエルの強襲により、JPTトラスト……ジャスレイ・ドノミコルスは死亡。
テイワズ下部組織壊滅の報は、世界に多大な衝撃を与える事となる。

……そしてギャラルホルンにも、変革のうねりが押し寄せようとしていた。


 ……ガンダム・バエル……

 ギャラルホルンの始祖、アグニカ・カイエルの遺した「ギャラルホルンの象徴」……伝説のガンダム・フレーム……数々の逸話や伝承の中において、まことしやかに伝わる数々の物語は、かつて幼かったマクギリスの心を捉えて離さなかった

 

 マクギリスはファリド家の実子ではなく、彼の父に当たる人物「イズナリオ・ファリド」が気まぐれに拾った野良犬の様な存在だった……幼少から劣悪な人間関係の渦中で育ったマクギリスにとって、人がおおよそ感じている友情や愛情といったものから発生する人間関係を感じる事ができないでいた……故に、彼が唯一信じたものは「力」であった

 彼は幼い頃から力に憧れ、そして飢えていた……それはファリド家の養子となり、正式に跡取りとなっても変わる事はなかった

 だが、ある時彼は見つけた……この世の全ての「力」を束ねたとされる象徴……唯一絶対的な「力」を持った存在……そして、伝説に語り継がれる「最強」の存在……

 

「アグニカ・カイエル……もうすぐだ、もうすぐ……俺の待ち望んだ瞬間が訪れる」

 

 ギャラルホルン本部、ヴィーンゴールヴにある自身の執務室でマクギリスは1人呟く……

 彼の望んだ世界への変革が、もうすぐ訪れる

 

──────────

 

 私はずっと彼の目的を考えていた

 何故彼は「この機体」に固執するのかを……いくら伝説を持つ存在とはいえ、たかがMS1機を所有しただけで世界を変えれるとは到底思えない

 

「はぁ……でも、この機体は本当にいい機体ね」

 

 もともと私はバエルそのものは嫌いじゃない……むしろシンプルで好きだ

 両手の2本の剣と内蔵レールガンのみというシンプルな武装スタイルは、エピオンやトールギスに通ずる騎士や侍と同じ「高潔さ」を感じる……その一芸を突き詰めたスタイルは世間一般的な超火力や特殊武装による最強・無敵論など一蹴できる強さを発揮し得るからだ

 

 そんな事を頭の隅で考えながら、私はこっそりバエルの整備作業をしていた……

 ……え、なんでもう弄ってるのかって? 一応クーデターは明日ですが? 今、私がココに来れてる理由? ほら、前回使った迷彩ですよ……格納庫に安置って言っても機体の整備は普通怠っちゃダメでしょ? だから専門の整備班がココに入る時に毎回紛れ込んで地道に作業してるんです

 

 ちなみに、阿頼耶識の調整やら各部の補修も済ませてます……あと、私自身が最初から阿頼耶識前提の頭してるんで、どんな機体に繋いで作業してもノーリスクですが何か? 

 

「さて、いよいよ明日ね……下働きは大変だな……っと」

 

 そう愚痴りながら、私はバエルの前にある桟橋の下に仮設したテントに戻って休む事にした……明日、バエルを起動させるマクギリスを追って「彼」が来るだろう……バルバトスが居ない今、クーデターを(一応)成功させる為には、私の働きに掛かっているのだから

 

──────────

 

 JPTトラスト壊滅から3日後、ラスタルは艦長室で仮面の男と対面していた……

 彼の名は「ヴィダール」……表向にはただの関係者だが、その仮面の中の顔を知る人物にとっては、彼の存在は1つの鍵でもあった

 

『セブンスターズ会議の招集……マクギリスか』

 

「目的はイオクの件だろう……禁止兵器の持ち出し、タービンズとか言う運び屋への疑惑捏造と強制査察……あろう事か謎のMSに襲撃され壊滅寸前にまで追いやられてはな……」

 

『……行かないのか?』

 

「呼ばれてもない会議に顔を出しては、それこそ暇人だと笑い者にされる」

 

 ラスタルは笑うが、ヴィダールは思う所があるのか……『そうか』とだけ応えた

 ヴィダールの返事にラスタルの顔から笑みが消え、「気になるのか?」とヴィダールに問う……その言葉にヴィダールは

 

『俺に時間をくれ……奴の真意にはまだ辿り着けては居ないが、今の俺に見えている答えが正しいのなら……必ず』

 

「奴は動く、か……分かった……MSも好きに使え、ケジメを付けてこい」

 

 ヴィダールの意図を汲み、了承したラスタルの顔に笑みが戻る……しかし、その笑みは純粋ではなく何処か邪悪な雰囲気を放っていた

 

『……感謝する』

 

 仮面の下の顔は恐らく同じ顔なのだろう……ヴィダールは右手を胸に当て感謝を述べるのだった

 

 ・ 

 ・ 

 ・ 

 

「……やはり、お前の読み通りになったな」

 

 放送されているクーデター派の演説を艦橋で見ていたラスタルは、地球へと先に向かったヴィダールの読みが当たった事にほくそ笑んだ

 

「これで私は、奴と戦わざるを得ない……

 ……しかしマクギリスよ、お前は私の下までちゃんと辿り着けるかな?」

 

 ラスタルは独り言のようにマクギリスを挑発し、少しの沈黙の後に指令を叫んだ

 

「アリアンロッドの全艦隊を招集しろ!!」

 

──────────

 

「随分と呆気ないな……」

 

 ヴィーンゴールヴ守備隊のMSが無残にも破壊された惨状を見て、マクギリスは感嘆した

 モビルドール……既存のMSの制御システムに少し手を加えるだけで、死を恐れない駒と化す禁忌の技術……クーデター派の数の不利を覆す為にセファーが用意した無人MS部隊だ

 

「予想よりも早く、直援のMS部隊は壊滅……

 更に現れた「例の堕天使(ザドキエル)」の登場で、各支部は様子見しか出来ないようです」

 

「さすがは天使の遺した少女(セファー)だ……彼女の働きは彼等(鉄華団)への期待以上だよ」

 

 想定よりも上手く行っているクーデター派の動き(自分たちの作戦)に、マクギリスは感嘆する

 側に控える石動も、セファーの打った手がこれ程の結果を招いた事に驚いていた

 

「本部施設内の制圧も、そろそろ終わる頃です」

 

「……もう引き返せんな」

 

「当然です」

 

「そうか……では私も、果たすべきを果たしに行くとしよう」

 

 何かを確かめるかの様なマクギリスの言葉に、淀みなく応えた石動……

 そして、決意の眼差しを以てマクギリスは部屋を後にした

 

──────────

 

(さて……マッキーは他のセブンスターズから呆れられたかな、そろそろココに来るだろうね……まぁ、クーデターの首謀者だし、あんな上から目線でしか語ってないなら当然かな……う~ん、アルミリアちゃんに会ってなかったのはちょっと痛いなぁ……今からでも遅くないかな?)

 

 そんな事を考えていると、上の扉が開く音がした……マッキーが来たっぽい

 昨日のうちにバエルの起動準備を済ませておいた私は、仮設テントから出て桟橋を登り、マクギリスの前に立つ

 

「……やっと会えたな、バエル……いや、アグニカ・カイエルよ」

 

 新しい時代の夜明け……とか言ってたっけ? 史実の時は

 

 更にマクギリスが歩みを進めると突然、霊廟の天井が崩壊し1機のMSが降りてくる……その姿は青い鎧を纏う黒いガンダム・フレーム……直立姿勢に戻った機体の胸部装甲が動き、中からパイロットが出てきた

 ……ヴィダール、いや……彼の名は……

 

「……ッ……」

 

 機体の落着で激しく飛び散った水飛沫を拭い、マクギリスは降りてきた機体とそのパイロットを見上げる

 そこに居たのは仮面の男ヴィダール……彼はおもむろに仮面へ手を伸ばし、自らの素顔を相手へと晒した……その顔は、かつてマクギリスの親友であり、地球で死んだ男……己の目的の為に顔を隠し、モンタークと名乗っていたマクギリスが、地球での戦いで相手と知りながら戦い殺したはずの男……

 

『やはり、ココに来たか……』

 

「……ガエリオ・ボードウィン……」

 

 不敵な笑みを浮かべながら名前を呼ぶマクギリス、対する彼はMSの上からマクギリスを睨んでいた

 

「やはりラスタル・エリオンに飼われていたのか……彼女の言う通りだったな」

 

 彼女と聞き、ガエリオはバエルの傍で作業している私を見たが、ただの整備員だろうと判断したのか目線をすぐにマクギリスへと戻した

 

『彼とは利害が一致しているんだ、あくまで対等な立場だよ』

 

「その癖……すぐに人を信用するのは、お前の短所だぞ」

 

『そうかもしれないな……俺は親友だったはずの(オマエ)に殺されたんだから』

 

 ガエリオは過去の自分とマクギリスの事を思い浮かべ……長い沈黙の後に口を開く

 

『俺は、確かめたかった……カルタや俺……寄り添おうとしていた人を裏切ってまで、お前が手に入れたかった物の正体を……!』

 

「フッ……辿り着いた様だな」

 

 マクギリスは不敵な笑みでガエリオから視線を外し、私へと合図を送る

 私は見て見ぬ振りをしながらバエルから離れ、天井を見上げた

 

『バエルに乗れ……ココに居るということは、乗れるんだろう?』

 

「てっきり止めると思っていたが……俺がこの機体を手に入れる事の意味を分かって言っているのか?」

 

 マクギリスの表情が変わり、一転して厳しい目つきへと変わる

 

「それとも、一度は死んだ身……もう失うものなど無いからか?」

 

『いや、逆だ』

 

 ガエリオの答えに、マクギリスの眼が僅かに動く

 

『俺は、お前の眼には見えない多くのものを背負って……今ココで仮面を外したお前を全否定してみせる……!』

 

 突然の宣戦布告……一瞬キョトンとしたマクギリスだが、聞こえてきた駆動音に気付き「……その目的は果たせんよ、ガエリオ」と返事した

 

『……ッ!!』

 

 ガエリオも近づく駆動音に気付き、急いでコクピットへと戻る

 天井に開いた穴から、もう1機のMSが降りてくる……バエルと同じ純白の装甲に、巨大な天使の羽根を持つMS……堕天使ザドキエルの降臨に、ガエリオは『そんな馬鹿な……?!』と驚きを隠せないでいる

 

「頼むよ、堕天使くん」

 

 マクギリスの言葉に反応するかのように、ザドキエルはGNソードを展開しヴィダールへと斬り掛かる……さすが反応よくガエリオは腕ごと掴んで止めるが、僅かに遅れて飛んできたテイルブレードで頭部に一撃を入れられた

 

『クッ……なんでココに堕天使が……』

 

「彼女と俺は協力関係なのでね……お前では勝てんよ、ガエリオ」

 

 既に勝ったも同然の様な口振りでマクギリスはガエリオを見ている、だがガエリオは諦めていなかった

 

『……確かに、俺では勝てる気がしないな……だが、俺たち(・・・)ならば……!』

 

ヴィダールの動きが止まり、機体のスピーカーからかの人物の名前が響く……やっぱり使うか、お約束だもんね……

 

『アイン! ……さぁ、好きに使え……俺の体を、お前に明け渡す!!』

 




……最長記録更新しましたね……このシーンほんと長いわ。

とりあえず、ガリガリ? チョコの隣? なガエリオ君おひさですw

この後、本編だとバエルの起動で形勢不利として撤退するガエリオくんですが……
実はこの戦闘シーンのプロット2つあるんですよね……どうしようかな……(フラグ)


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第12話 蘇りし「錦の御旗」……って誰の事?

戦闘シーン尺のアンケート結果、大多数が本編同様なのは予想通りだけど……次点がまるっと1話潰しと言うのは……
私を殺す気ですかっ?!


仮面の復讐者の前へと堕天使は舞い降りる
仮面を捨てた復讐者と、仮面を外した征服者……2人の思惑の渦巻く中で、堕天使は舞い踊る

願わくは、争いのない世界へ……


『アイン! ……さぁ、好きに使え……俺の体を、お前に明け渡す……!!』

 

 セファーは声が途切れた直後、ヴィダールから禍々しい気配が溢れたのを察知して顔を歪ませる

 同時にヴィダールは奇妙な挙動から全身の力が抜けた様に棒立ちとなり、堕天使はその隙だらけのヴィダールへとテイルブレードで攻撃を仕掛けた

 

「「「……!!」」」

 

 しかし、ヴィダールは直撃寸前に横スライドで避け、堕天使の背後まで移動……堕天使も旋回し正面へと捉え直すが、ヴィダールはそのまま横スライドから更に回転挙動を加え、勢いのまま蹴り技へと繋ぎ、僅かに反応が遅れていた堕天使を吹き飛ばす

 堕天使もここに来て始めての物理的接触攻撃を受けたが、すぐに姿勢を建て直し、壁面に一度着地してから浮遊状態へと移行……テイルブレードを引き戻し、GNソードで反撃に出る

 横薙ぎの一閃をバックステップで避けたヴィダールはそのままの勢いで背後の壁を蹴って上昇し、天井の穴から外へと向かう

 堕天使も飛翔して後を追い、セファーも霊廟を出て施設の外へと走って行く

 マクギリスはそれまでの光景を余裕の笑みで最後まで見届けた後、バエルに乗り込む

 

「300年だ……もう、休暇は十分だろう?」

 

 コクピットシートに座り、マクギリスは1人呟きながらシステムを立ち上げていく……正面のコンソールが点灯し、画面には「ASW-G-01 GUNDAM BAEL」の表示……

 同時に、マクギリスの背中へと阿頼耶識のケーブルが接続され、機体からフィードバックされる情報量に、マクギリスは僅かながら苦悶の表情を浮かべた

 

「グッ……はぁ……っ……さぁ、目覚めの時だ……!」

 

 初期フィードバックの洗礼を通過したマクギリスの声に、バエルの機体が反応したかの様なタイミングでカメラアイが点灯……その機体に魂とも呼べるモノが戻った……

 

──────────

 

 ヴィーンゴールヴの天井に開いた穴から、2機のMS……ガンダム・ヴィダールと堕天使ザドキエルが飛び出す

 ヴィダールは拓けた場所に着地すると穴の方向へ向き直り、追従してきたザドキエルは着地せず同じ場所に高度を下げて滞空する

 

「……重力下で飛行可能とは、やはり既存の機体とは違うな……」

 

 ガエリオは相対する堕天使の性能をじっくりと確認していた

 現存するどのガンダム・フレームとも違う外観……明らかに人が乗る事を前提としていない動き……加えて常人でも難しい3次元機動をいとも容易く行い、なおかつ不自然なまでに死角のない反応速度や攻撃の挙動……機械で制御される無人機がこれほどの複雑かつ精密な動きを制御しているのだとするなら、それは確実に厄災戦時の技術だろう……とガエリオは考えた……

 

 ……だが、実際は違った

 

(思ったより隙がない……さすがは真面目君だね)

 

 実はセファーが近くにいる時のザドキエルは、セファーからの視点とザドキエル自体の視点、そして機体の各種センサー情報は把握しやすく処理され、内蔵されたサイコフレームの恩恵による思考操作直接反映(イメージフィードバック)……つまり、格ゲーやロボットアクション系のゲーム感覚でセファー自身が動かしていた

 複数の視点を確保し、機体の死角を極力少なくできるこの操作方法によってザドキエルは、通常なら死角となる背後や側面からの攻撃にも余裕で対応、かつ広範囲で事態の推移を認識できる為、咄嗟の機転による挙動変化や不意の急襲でさえも事前に察知し、高い危機管理能力をザドキエルに発揮させている

 ちなみに、セファー視点がない超遠距離での遠隔操作の場合は、各種センサー情報を肌感覚とマッチングさせ、機械的な中継を不要とする脳量子波相互リンクによって、同じくゲーム感覚で操作していた(基本的には機体後方から俯瞰できる広域追従視点で、イメージ情報はサイコフレーム経由で本体のOSが誤差を相互補完して視覚情報と挙動に反映させている)

 

 地上へと出て再び睨み合う2機……先制攻撃を仕掛けたのはヴィダールだ

 両手にハンドガンを構えてヴィダールが飛び込む……それを迎撃するべく縦斬りを繰り出した堕天使のGNソードを、ヴィダールは振り下ろされている最中に刀身の腹を左肘で殴る事で回避、同時に右方向へと1ステップしながら右腕で3発、バイタルパートを狙い撃つがそれは予測されており堕天使にガードされる……しかし、ヴィダールも「その程度は想定通りだ」とばかりに更に前へ踏み込んで後ろ回し蹴りを繰り出し、堕天使のバランスを崩させることに成功する

 バランスを失った堕天使だが、スラスターで機体を回転させ蹴られた反動を殺しつつバランスを取り直し……ついでに置き土産だとばかりにテイルブレードを射出して低い弾道からヴィダールの右腕を突き上げて持っていたハンドガンを取り落とさせ、目眩ましにシールド内蔵ビーム砲を散弾モードでバラ撒く

 被弾する寸前にヴィダールは範囲外へと飛び退きながら右手にバーストサーベルを握らせ、低空を飛ぶ堕天使にジャンプからの踵落としを敢行、それを右腕でガードした堕天使にヴィダールはバーストサーベルを突き立て、それはナノラミネートアーマーほど堅牢ではない堕天使の装甲へと突き刺さった

 深々と左腰のアーマーに刺さったサーベルの刀身をすぐさま切り離し、ヴィダールが飛び退く……直後に残された刀身が炸裂し、追撃が堕天使を襲うものの、刺されたアーマーが欠損した程度でダメージは抑えられてしまう

 

 しかし次の瞬間、ガエリオは我が目を疑った

 霊廟を出る前に蹴りを入れて破損させていた堕天使の羽根にあるはずの損傷が無くなってるのだ

 堕天使は左腰のアーマー欠損を確認しながらこちらを警戒しているのか、積極的には攻勢に出ない……僅かな時間だがガエリオは不思議に思っていた

 

 確かにあの時、蹴り込んだ堕天使の羽根は挙動を制限させるまでには届かなかったものの、明らかに装甲は大きく陥没していたはずだ

 

「……冗談だろ、どんな手品だよ……」

 

 堕天使がヴィダールへと向き直り、ガエリオも堕天使を警戒するが、突如響いたスラスターの噴射音に気付き双方がヴィーンゴールヴの建物へと視線を向ける

 

 そこには、もう1機の白きMS……バエルが霊廟から出てきていた

 

「……2対1か……さすがに分が悪いな……」

 

 ガエリオは仕方なしと見切りを付け、ヴィダールのスラスターを全開にして海上へ飛び出し撤退……ザドキエルも追撃しようと翼を広げるが「追う必要はないよ」とマクギリスは止めた

 

──────────

 

『聴け! ギャラルホルンの戦士達よ……今、300年の時を経て……マクギリス・ファリドの元にバエルは甦ったッ!!』

 

 アグニカ・カイエルの魂が宿るとされる機体……ガンダム・バエル

 マクギリスはそのコクピットの中で自らの正当性と真意を語り、仮染めの平和を享受するこの腐った世界を根本から正してみせると謳い上げていた……そしてバエルを持つ自分こそが、唯一絶対の君臨者にして支配者であると語る……慎重に言葉を選んでいるようだが内容は詰まる所完全に独裁政治のソレであった

 

(多少の差違はあれど、ほぼ史実通りの展開ね……さて、この後はガエリオ君が演説に割り込む筈だけど……)

 

──────────

 

 その頃、宙域で艦隊の集結を待っていたラスタルの元へ通信が入る……「待たせてすまない」とヴィダール……ガエリオは仮面を捨てて素顔を晒していた

 

「仮面を捨てたか……ならば、見極められたようだな?」

 

「ああ、俺は戻るよ……あるべき姿に」

 

 その顔は曇りなく一切の容赦もない……己の正義を信じ貫く、勇敢なる戦士の表情をしていた

 後顧の憂いを断ち、迷いを振り切った彼の顔にラスタルもまた、釣られたように表情を変え、部下へと指令を発する……

 

 これから起こる戦争は、300年前とは似て非なる、人と人の覇権と威信を賭けた戦争……しかし、史実(本来の流れ)とは違う、歪な流れと渦によって捻じ曲げられた世界で起こる、不確定要素だらけの(何が起こっても不思議じゃない)一幕だった




本編見直しながら書いてたらこんな内容に……

次回はアリアンロッド艦隊vsマクギリス(MD)艦隊がガチバトル!

……ふと考えたら、この後の流れってガンダム(ウイング)の最終決戦の構図に近いんでね? って思ってしまった私がいる……


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第13話 少女の決意

伝説の機体バエルを起動し、マクギリスは世界の再編に着手すると声明を発する……だがそれは、予見されていた「戦争」の幕開けでもあった


『このギャラルホルンにおいて、バエルを持つ者こそが、唯一絶対の力を持ち……その頂点に立つ! そして席次や思想など関係なく、その命に従わねばならないのだ!!』

 

 始まった……とセファーは心の中で呟いた

 

──────────

 

「……嘘……だろ、おい……」

「チビ嬢は……コイツを知ってたのか……?」

 

「ねぇ、三日月……セファーちゃん……大丈夫だよね?」

「……わかんない……でも、アイツが一緒なら多分大丈夫だと思う」

 

 全世界に向けて放送されるマクギリスの演説……火星の鉄華団本部事務所でオルガを始めとする主要メンバーは、演説によって何かが変わってしまったと朧気ながらに感じていた……そして、置き手紙1つでこの場を去った1人の少女の身を全員が案じていた

 

「オルガ……アイツは、この事に俺らを巻き込みたくなかったから……ココを去ったんだな」

 

 ユージンが、反芻するかのように事実を口にしてオルガへと語りかけた……オルガは厳しい表情を崩さず、ただ黙って演説を見続けていた

 三日月にしがみ付き、不安な顔を隠しきれないアトラ……三日月は少し前から自分だけが知った事を周囲には伝えないまま自分なりに考えていた

 

(アイツはこうなる事を知ってた……いや、最初から全部知ってたんだっけ……それで、俺たちを巻き添えにしないように動いてた……あそこに俺たちが居たら、必ず皆が不幸になるから……)

 

 三日月の脳裏に、あの夜の出来事が思い出されていた……そして偶然にも彼女の意図に気付いた三日月は、オルガに進言する

 

「オルガ、アイツは俺たちの居場所を守ってくれたんだ……だから今度は、俺たちがアイツの帰ってくる場所を作っておくべきじゃない?」

 

 突然の三日月の進言に、この場の全員がキョトンとする……ただ1人、アトラを除いてだが

 

「そうだよねっ! 三日月の言う通り!!」

 

 アトラも即賛成だと捲し立て、泣きそうで嬉しそうな眼をオルガに向ける

 

「オルガ……」

「団長……!」

「オルガ!」

「団長さん!」

 

「……俺たちも全員、オメェと同じ思いだ……家族を守るのがお前の仕事だって、兄貴(名瀬)にも言われただろ?」

 

 雪乃丞の言葉にオルガも意を決し、神妙な面持ちから一転して「良い漢の顔」で全員に指令を飛ばす

 

「良いかお前ら! 鉄華団はテイワズの傘下にある……だから表立って義妹(セファー)を助けには行けねぇ……だがな、ココでの俺らの頑張りをアイツは見てる! 

 ギャラルホルンの内部は大騒ぎの真っ最中だろうが、アイツはそんな事くらいで目は曇らねぇし、ずっと俺たちを見てるはずだ……だから絶対に泣き言言うんじゃねぇぞ!? 

 アイツの居場所は俺たちと同じ鉄華団だ! アイツが帰ってくるまで、泣き言抜かしたら殺すからな!!」

 

「「「「「応ッ!!」」」」」

 

(セファー……必ず、帰って来いよ……!)

 

 団員たちの猛りの後ろで未だに続く演説に割り込みが入り、ガエリオ・ボードウィンの宣言と、ラスタル・エリオンの声明も流れていたが、鉄華団には全く関係ない話だった……

 そして義妹の思いを汲んで、オルガ達は迷いを振り切って進み出す……その後、鉄華団はその結束力と信頼を武器に著しい成長を遂げ、地球と火星の両方でその名を轟かせる一大企業へと発展するが、それはまだ先のお話……

 

──────────

 

 ガエリオとラスタルの2人がかりで演説に割り込まれ、オマエこそが逆賊だと叩き返されるが、マクギリスは素知らぬ顔で受け流していた

 

「ラスタル・エリオンの差し金か……良いだろう、受けて立とうじゃないか」

 

 こうして、マクギリス・ファリド(地球外縁軌道統制統合艦隊) vs ラスタル・エリオン(アリアンロッド艦隊)という史上類を見ない規模の艦隊戦が始まろうとしていた

 

──────────

 

「部隊の大半は軌道上に上がりました、私達が到着し次第、作戦開始も可能です」

 

「そうか……堕天使くんはどうしている?」

 

「此方とは一定の距離を保ったまま、ずっと追従して来ています……まさかあれから無補給で我々に追従してくるとは思いませんでしたが……」

 

 堕天使ザドキエルは、ヴィーンゴールヴの戦闘後からずっとマクギリス達に単独で追従していた……その間、普通なら補給や整備等が必要なのだが、あの戦闘から堕天使は誰も近寄らせず、また近付こうともしなかった

 

(彼女は「スタンドアローンモード」と言っていたな……文字通り、単独での活動も十分に可能……という訳か)

 

 マクギリスは、宇宙に上がる前……セファーをアルミリアに紹介していた

 そこでひと悶着あり、史実と同じ様にマクギリスは左手を負傷してしまう……しかし、セファーがその場で治療を施し、アルミリアを説得したためか、怪我の程度はかなり軽いものであった

 その時、セファーは堕天使と自分の関係を少しだけマクギリスに伝えていた……堕天使は自分(セファー)の意思をリアルタイムで反映する特殊なシステムで稼働しており

 

(例え(セファー)が死んでも、機体が稼働し続けられる限り堕天使は止まらない……か……)

 

「彼女は、私に何かをさせるつもりなのだろう……だからこそ、私も彼女を買っている。

 それに何より、彼女と堕天使の力は私の予想を遥かに越えてきた……それだけでも十分に意義はある」

 

 マクギリスは薄々ながら、セファーの真意に気付いていた……中身までは分からなくとも、それが自分の道を塞ぐモノではないと感じていたから……

 石動は多少納得が行かないものの、上司に逆らう気はさらさら無かった

 

──────────

 

「……ゴメンね、アルミリアちゃん」

 

 開口一番で謝った、私はマクギリスより先に宇宙へと上がり、MDの最終チェックをしながらアルミリアちゃんとQCCSで会話をしている……最初の紹介の時にあの話をしておくタイミングを失ったのでこうやって補填しているのだ

 理由はまだ語れないけど……

 

『……マッキーが何をしたいのかは分からないです……でも、私はまだ信じたいんです……戦いさえ終われば、元の優しいマッキーに戻ってくれるって……』

 

 マクギリスは世界を……ギャラルホルンを変えるという目的がある

 だがしかし、その為にアルミリアちゃんを初め、ボードウィン家を利用したのは事実だし、それは私も許そうとは思ってない……しかし、今この時点では、そんな彼を逆に私が利用している……だから私は彼女に謝りたかった

 

「……約束する、私が必ず、あの人(マッキー)を連れて帰るから……それまで少し、我慢してて」

 

 できもしない約束だと誰もが思うだろう……でも、私は敢えて約束した

 こうでもしないと、私が彼女に許された気がしなかったから……そして、私はこの約束を違える気はない……

 

『……ありがとう……ございます』

 

 顔を伏せたまま、見られたくないのだろう……でも、確かに聞こえたお礼……

 これで後顧の憂いは断てたと思う……最後の支度をしないと

 

 通信を終えた私は、システム調整からチェックを走らせ、バエルを見上げる

 バエルは良い機体だ……だが、相手はガエリオ君……今度からは偽装のヴィダールじゃない、本来のキマリスで来る……そして、アルミリアちゃんとの約束を果たす為には……

 

(やっぱり、少しは手を加えた方が良いのかもね……)

 

 以前からザドキエル用に考案してあったけど、結局お蔵入りした強化プラン……アレをバエルに使おう……そうでもしないと、約束は果たせそうにない……

 幸い、手持ちのツールは揃ってるし、システム周りの調整は初起動時のデータが使える

 

 ラストスパートだ……此処から先の選択は、私の流儀で行く……!




バエル魔改造フラグが立ちました

と、言う事でアンケート募集します。
お題は「バエル魔改造プラン」

5つあるプランコンセプトからこれならキマリスにも勝てる!
と思うものを選んでくださいね♪

アンケート締切は第14話の掲載と同時になります。
愛読者さんもそうでない方も、奮ってご参加ください!!

……最近、【安価】っていうワード入りの作品にハマってます。
【安価】……いい響きです♪


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第14話 混迷する宇宙(その1)

バエル魔改造計画が遂行されました。
今回の投稿を以て、バエル魔改造アンケートは締め切られます。
結果による強化内容は、本編登場をお待ち下さいね♪


『チィッ……コイツら、素早い!』

『このタイミングで回避だと?!』

『此方の動きが読まれてるのか?! うわぁぁぁぁ!?』

 

 片や変態機動を繰り返すグレイズの小隊、もう片方の小隊はその機動に翻弄され後続からの援護射撃に一機、また一機と撃墜されていく……

 

「MDを前面に出して相手の陣形を崩せ、そこを狙撃すれば容易く倒せる」

 

 マクギリス派のクーデターにより、圧倒的な戦力を持つアリアンロッド艦隊は全戦力を投入し真っ向勝負を挑んでいたが、マクギリスの採用したモビルドール小隊の変態機動による撹乱は、前線の部隊に対して非常に高い効果を発揮し、戦力差は埋まりつつあった……そして、更に……

 

『嘘だろ……冗談キツいぜ……』

『こ、コイツは……?!』

『何故、此処に奴が……!?』

 

 アリアンロッド艦隊の部隊を蹂躙していく白き堕天使……そのカメラアイは赤く光り、かつてのバルバトスがリミッターを解除した時の様に尾を引いていた

 左腕のシールド先端は割り開かれ、内部から飛び出た水色に光るフレームは超振動効果でぶれて見える……その鉤爪に捕らわれた隊長機のレギンレイズは装甲で耐えていたが、次の瞬間、あり得ない速度でナノラミネートアーマーが崩壊し初め、あっさりと噛み砕かれた

 

『……そんな、馬鹿な……。

 奴には、ナノラミネートアーマーなど関係ないのかっ?!』

 

 隊長機が破壊される一部始終を見たパイロットは驚愕したが、その理由はなんて事無い

 ナノラミネートアーマーとは、MSの動力であるエイハブ・リアクターから発せられるエイハブ粒子と装甲の特殊塗料の2つがあって初めて効果を発揮するもの……そこでセファーは対抗策として、ザドキエルのサイコフレームとGN粒子を利用して、エイハブ粒子を減衰させるジャミング機能を持たせる事でその在り方を崩したのだ

 原理としては、敵から放たれるエイハブ粒子を感知したサイコフレームが私の脳量子波を変質させ、機械的に増幅……そしてジャミング脳量子波を含んだGN粒子がエイハブ粒子に干渉する事で成り立っている

 発動の条件として、脳量子波とサイコフレームをシンクロさせる必要がある為にTRANS-AM中にしか使えず、ジャミング効果は一定距離まで拡張される上、味方にもその効果(被害)が及ぶのだが……現在は単独奮闘中なのでデメリットはTRANS-AM限界時間まではほぼ皆無、エイハブ粒子を減衰させられた敵のナノラミネートアーマーはほぼ元の素材強度へと成り下がり、クローの超振動によってフレームを残して崩壊したのであった

 

(サイコフレーム搭載が前提の能力だけど……【GNサイコ・ジャマー】……凄まじい効果ね)

 

 その機能を盛り込んだセファー自身、驚きを隠せないでいた

 サイコフレームとは、分子レベルのマイクロチップを鋳込んで造られたMS用のフレーム材……元はサイコミュシステムを小型化する為に使われたパーツだ……しかし『逆襲のシャア』ではサイコフレームだけでビームを無効化し、『UC(ユニコーン)』や『NT(ナラティブ)』ではフルサイコフレーム製MS『ユニコーンガンダム』の系列が驚異的な性能や特異な能力を発揮していた……数々の不思議な現象を巻き起こす特異素材として、宇宙世紀では後に封印され、開発も停止させられたという経緯がある

 ただのフレーム材が巻き起こすその特異能力は、正直言ってオカルトじみており、明らかに異質だ

 最も、その効果を期待してザドキエルに採用したのはセファー自身なのだが……

 

──────────

 

『ジュリエッタ、例の堕天使が左翼にいる……ガエリオも手一杯で援護には抜けれそうにない。

 止められるのはお前だけだ……やってくれるな?』

 

 ラスタル・エリオンからの通信に彼女はすぐさま反応、それまで相手にしていた小隊を速攻で壊滅させ、指示の通りに左翼部隊の援護へと機体を走らせる

 戦力差は敵の無人MS部隊によってほぼ互角という状況……右翼はガエリオ・ボードウィンによって戦線は維持されていたが、左翼の味方がジリジリと削られ、そこへ更に堕天使も乱入した為、部隊は総崩れになりつつあったのだ

 

(堕天使……突然現れてイオク様や私の部隊を軽々と蹂躙した謎のMS……今度はマクギリス・ファリドと一緒に現れるなんて……!)

 

 歯噛みするジュリエッタの視界に、戦闘の軌跡が現れては消えていく……それは件の堕天使を相手に、味方の部隊が必至に抵抗している光景だった

 ジュリエッタは機体の両腕に装備された剣を交差させ、味方に振り下ろされる大剣を突撃で中断させ、そのまま堕天使を突き飛ばす

 

 堕天使からすかさず反撃が来る……が、ジュリエッタもそれを既に察知しており、左手の剣を蛇腹剣へと変形させて堕天使の大剣を絡め取り、大剣の軌道を変えつつ回り込みながら機関砲を叩き込み、最後に蹴りを入れて堕天使の頭上へと位置取った

 堕天使は一瞬、頭上に移動したジュリアに気付かず左腕のクローで背後を薙ぎ払うが、その攻撃は空振りとなり、ジュリアに対して大きな隙を生んでしまう

 

 だが、追撃を警戒してかジュリエッタは機体を下がらせ、隙きを突いてのHit&Awayで攻め込む……堕天使も対抗して迎撃に徹する……が、先程までの恐るべき挙動とは打って変わり、安全策を講じている様な動きだった

 

(おかしい……あの時とまるで違う……?)

 

 ジュリエッタも堕天使の挙動の変化にすぐに気が付いた……以前、相対した時は速度で圧倒され、手も足も出なかった……しかし、今の堕天使はその性能こそ此方より秀でているものの、前回の様な圧倒的までの感覚は微塵も感じられなかった

 

(……よりにもよって、時間切れの時に悪食ちゃんが相手なんて……冗談キツいわ)

 

 




……超長くなりそうなので複数話構成になりました。

ほぼ史実通りのシナリオ(登場人物が若干違う事以外)で進んでおりますが、原作と違う点はまず戦力差でしょうね……MDの数はそれほどありませんが、
戦力比がだいたい (MS)3:1(MD) 位という想定ですので……

次回は悪食ジュリエッタとの死闘がメインですが、ガエリオ君も出ます。
スタンバってるバエルくんは……も少し先かな?


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第15話 混迷する宇宙(その2)

原作だとこのシーンでジュリエッタは重症を追うんですが……今回は?


「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 掛け声と共にジュリエッタは機体を操り、堕天使と斬り結ぶ……

 ジュリアの猛攻を的確に捌きつつ、堕天使は時間が経つのを待っていた

 

(クールタイム終了まではもう少し……再チャージ完了は……まだ先かぁ)

 

 セファーはマクギリス派として参戦しているが、彼女には別の目的があった

 

(できればこの場でラスタルとの繋ぎを持ちたいけど……応じてくれるかなぁ?)

 

 ラスタル・エリオンとは、今後の為に何とか連絡手段を持ちたかった……それは後々の取引にも不可欠な手だ、できれば確保しておきたいし……それに何より……

 

(戦後の情報操作はほぼ彼が仕組んでいた事だし……彼とは一度会っておく必要がある……!)

 

 思考を止めぬままセファーは、ジュリエッタを相手取りながら再び時を待つ

 意図は判らないが、その態度に業を煮やしたのはジュリエッタの方だ

 

『何故、全力で来ない?! 私を馬鹿にしているのですかっ!?』

 

 隙を縫う様なジュリアの攻撃を的確に捌き、必要以上のダメージを与えぬよう抑えた反撃を繰り返す堕天使……端から見ればそれは教習にも似た雰囲気を醸し出しており、しかしながら普通ではない決闘の様な状況を作り出していた

 他の宙域では未だ戦闘が続いているのだが……このエリアだけ、ジュリアと堕天使の戦闘を誰一人動くことなく黙して見ている……まるで次元の違う戦闘を、誰もが固唾を飲んで行く末を注視している……そんな状態だった

 

『何故です! それほどの力が有るのなら、この混乱を収拾する事も出来るはず! なのに自ら混乱を広げて……アナタは何を求めているのですか!?』

 

 ジュリエッタの叫びが、疑問が、堕天使へとぶつけられる……その時、鍔迫り合いを続ける2機の間に初めて回線が開かれ、堕天使から響く声に、ジュリエッタは驚愕した

 

『……求めるもの? 私だって、戦いたくないわよ!!』

 

「……っ?! アナタ……貴女は?!」

 

 ここにきて、ジュリエッタは混乱し、ジュリアの太刀筋が鈍る

 しかし、堕天使はその隙を敢えて見逃し、あろう事か堕天使も構えを解いたのだ……戦場で戦う事を止める……そのありえない行動に、ジュリエッタは更に困惑した

 

「何を?! 死ぬ気ですか!?」

 

『認識が遅いですね……もうとっくに誰も戦ってませんよ?』

 

 言われて周囲を確認すると、この宙域だけだが、敵味方その全てが戦闘を止めてこちらを見ていた……無人で動くMD部隊は艦隊中央の防御や指揮官護衛に割かれており、この宙域には居ないのがせめてもの救いだ

 

『戦いなんてしたくない……それは誰もが思ってる事よ、でも、世界は残酷よ……』

 

 セファーは、世界の真理とも呼べるこの理不尽さに憤っていた……

 

『貴女と私の思いは同じよ、ただ立場が違うだけ……私はあの人達を守りたい』

 

「戦うだけが守る事ではありませんよ!?」

 

『知った風な口を聞かないでッ!! ……貴女には理解(わか)る? 否応なく巻き込まれ、戦いを強要された彼らの思いが……二束三文で取引され、帰る場所も家もないまま少年兵として戦場に駆り出される子供たち……望む望まないに関係なく一部は阿頼耶識の手術を受けさせられ、失敗すれば産廃扱い、成功したらしたで劣悪環境のまま使い潰され、真っ先に死ぬ確率の高い戦場へと否応なしに放り込まれ、敵との戦いを強要され、あげく弾除けとして雑に扱われて……それでもあの時、私を救ってくれた彼らは優しかった……どこの誰とも分からない、頼る人も何もない私を! あの人達はちゃんと扱ってくれたの! 世間じゃ私みたいな子供は真っ先に全てを奪われてしまうのに……自分達は大人から酷い扱いを散々受け続けてきたのに……!!』

 

「……ッ……」

 

『幸い、私は(堕天使)を持つ事ができたわ……だから私はあの人達の為に戦ってるの……「ラスタル様の為に」って、貴女もそうじゃない? ……ねぇ、ジュリエッタ・ジュリス』

 

「貴女は……いつの間に私の事を?!」

 

『今迄の情報なら、私は何処の誰でも全て知り尽くしてるわ……堕天使には些末な問題よ』

 

 全て知っている、というのは半分ほどハッタリではあるが、セファーは賭けに出た……自分だけが持つ情報という切り札(ジョーカー)で、この先に何が起こるのか……

 

「……ラスタル・エリオンと話がしたい……繋ぎ役をしてくれない?」

 

──────────

 

 ガエリオは苦戦していた……感情を伴わない攻撃、無慈悲なまでに味方すら巻き込みかねない砲撃の嵐、間髪入れぬ多方面からの包囲攻撃……無人制御されるMD部隊の連携は、確実にガエリオの精神を疲弊させ、かつその怒りを買っていた

 

『味方すら駒のように扱う……いや、既に駒か……幸いな事は無人機だという事か!』

 

 ガンダム・キマリスヴィダール……

 ギャラルホルンを取り仕切るセブンスターズの一角、ボードウィン家の所有するガンダム・キマリス……その本来の姿とも呼べる発展改修機、いや決戦仕様とも言うべきか……

 

 300年前の技術と現代の最新鋭MSの技術が合わさり、更に阿頼耶識Type-Eという戦闘補助システムを獲得したこの機体を駆り、ガエリオは獅子奮迅の活躍をしていた

 だが、相手は無人のMD……撃破も難しく、的確に此方の攻撃を避け、あるいは防御し、数でもって此方を圧倒しようと大挙して押し寄せる……いくら一騎当千の性能を持つガンダムを駆るガエリオも、疲労という概念には勝てない

 そしてMDには、その概念自体がない……

 

『この状況で持ちこたえているとは……さすがはガンダム・タイプを駆る者だけはありますね』

 

 ヘルムヴィーゲ・リンカーを駆る石動は、ガエリオの胆力を称賛していた

 突撃要員の部隊を除き、艦隊の防衛をMDで構成しているマクギリス側との戦力差は、数こそアリアンロッド艦隊側が1.5倍ほど上回るものの、有人機の3倍強という戦闘能力を見せ付けるMDによってほぼ互角……その上、MDには「疲労」という概念が存在せず、指揮を中継する有人の隊長機か、1機ずつ包囲しての滅多打ちでしか有効な攻略法もない

 それなのに、ガエリオはMDを相手に一歩も引かなかった……恐るべき胆力、いや、それを可能にしているのはガンダム・タイプの力か……

 

『しかし……その勢いを削げば、此方の優位を確固たるものに出来る!』

 

 ヴァルキュリアバスターソードを構え、機体を突撃させる石動

 しかし、時を同じくしてアリアンロッドのMS部隊は奮戦から一転して後退、ガエリオも戦線から下がり始め、石動は困惑した

 

「……確かに、今のお前達は手強い……だが……」

 

 機体を後退させる中、ガエリオは1人呟いていた

 

 アリアンロッド艦隊の前方中央には、20機のある特殊装備を施したMS部隊が展開している

 艦橋で部隊の展開と配置の終了を受け取ったラスタルは、不敵な笑みを浮かべる

 

「……人ならざる力を行使する相手に、人の流儀で合わせる事など毛頭ない……

 ダインスレイヴ隊……禁忌の力を以て、敵の人形部隊を圧倒せよ!」

 

 ラスタル・エリオンの号令で虚空に幾つもの光の線が瞬き、敵艦や防衛するMS達を蹂躙するのだった

 

──────────

 

 一言で言えば、被害は甚大……

 

 ダインスレイヴ……厄災戦時代に、旧世代の理論によって構築された実弾兵器

 実態はMS用のフレーム材である高硬度レアアロイ製の杭を、超電磁加速によって射出……その質量加速度と弾体の硬度をそのまま破壊力に転化できる……言わば超遠距離まで届く杭打機のようなものだ

 その破壊力は厄災戦当時にも遺憾なく発揮され、MAに対しても強力な有効打となり、それをMSと併用した事が、厄災戦終結のキッカケとなった事は想像するに難くない

 しかし、戦後の混乱を収拾すべく結成された当時のギャラルホルン時代から、ダインスレイヴの驚異的破壊力を恐れ、安易に使えぬよう「禁止兵器」とし、技術の漏洩や製造・輸送の禁止など、徹底した施策を行っている

 

 ラスタル・エリオンは「モビルドール(MD)」もまた、ダインスレイヴと同じ「禁止兵器」に該当すると考えていた

 それ故の使用であると、世間体的な言い訳も十分に可能……今回の件において、ダインスレイヴの使用はラスタルにとってデメリットなど皆無だった

 

「戦況の方はどうなっている?」

 

「ハッ、此方の損害はMS10機が大破ないしは戦闘不能、5機が未帰還……対する敵の損害は推定でも航行不能の艦艇が3つ、MS20機以上が大破している模様……さらに、撤退中だった部隊の報告から、例の人形部隊のおよそ1/3程度が行動不能状態である、と報告が入っています」

 

「……ふむ、此方も損害覚悟とはいえ戦果としては痛み分けに近いな」

 

「致し方ない、と思います……右翼のジュリエッタ隊は、例の堕天使を相手に……加えてボードウィン卿のキマリスも人形部隊に釘付けにされていたのですから……」

 

 部下の参謀の言葉を聞き、ラスタルは次案を練っていた……するとそこへ、味方部隊からの通信が入る

 

「ジュリエッタ隊から通信が入っています」

 

「繋げ」

 

 ラスタルはすぐさま了承し、通信士が中継を繋げる……映っているのはジュリエッタ隊の兵の1人だった

 

『通信にて失礼します……至急、お伝えしたい案件をお持ち致しました』

 

 ダインスレイヴ使用後の不敵な笑みを崩さぬまま「ほぅ? 何事かな?」とラスタルは通信してきた兵士を問い正す

 

『あの……それが……堕天使のパイロットから……ラスタル様と直に話がしたいとの……申し入れが……』

 

 ラスタルを始めとするこの場の全員がその言葉に我が耳を疑ったのは言うまでもない




この戦いで動いているMSの総数は把握してません、なので数は適当です。

さて、土壇場でラスタルと会談する場をゲットしたセファーちゃん。

次回はラスタルvsセファーの舌戦(?)かな……


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第16話 混迷する宇宙(その3)

前回の話は如何だったでしょうか?
しつこいようですが、私は“R-18”的な表現は苦手です。



ラスタル・エリオンとの交渉の場を掴んだセファー
彼女の理想とラスタルの思惑、そしてマクギリスの野望……
3つの思惑が渦巻く宇宙に浸透していく中、堕天使の少女と強兵の長との一騎打ち……その幕が上がる……


「はじめまして、といえば良いかな? 堕天使のパイロット君」

 

『そうですね、直接アナタの顔を見るのは私も初めてですし……』

 

 セファーが駆る堕天使は今、ラスタル・エリオンの座乗艦であるスキップジャック級の格納庫に案内されていた

 だが、ラスタルには腑に落ちない点が幾つもあった……

 

 まず第一に、堕天使のパイロットが直接交渉に出たという点……

 堕天使は敵対しているマクギリスが最もアテにしている戦力の1つであり、これまでもギャラルホルンに対し攻撃や威嚇をし続けていた張本人である

 

 第二に、堕天使のパイロットは何故格納庫に来てまで降りてこないのか……

 直接交渉に来たのであれば、直に降りて顔を見合わせるのが普通であり、妥当な状態である……しかし、堕天使のパイロットは一向に降りてくる気配すら見せず、むしろ機体が声と連動した挙動を見せる始末……ラスタルの脳裏に一瞬、試作型の阿頼耶識の件が浮かんだが、事前の調査で生命反応が無い事を掴んでいた為、その線は消えている……だとすれば、この機体は一体どうやって動いているのだろうか……? 

 

 第三に、何故マクギリスの眼を盗まず堂々と交渉に及んだのか……

 この機体のパイロットはマクギリスにアテにされる代わりに、自分の目的を妨害しないという交渉でもしていたの言うのか……? 

 

 考えを纏める間もなく、堕天使から再び声が響いた

 

『まずは自己紹介を……私の名前はセファー、セファー=ザドキエル。

 今までマクギリス・ファリドに故あって協力していた……唯の人間です』

 

「ただの人間、か……此方の想定を軽く上回る性能を持ったMSを操り、我々の作戦の邪魔立てを散々してきた挙げ句、敵対までしてきた危険な存在と同じとは思えんがね」

 

 ラスタル・エリオンは表情こそ平静だが、言葉の節々に怒りや恨みにも似た感情を乗せている……最初はそれでいい、此方の目的を達成させるには、悪感情でも良いから彼の気を惹かないと始まらない

 

『それは……マクギリス・ファリドとの関係の都合としか言えませんね……

 ……私と彼は、対等とは名ばかりの一方的な関係ですので』

 

 セファーの言葉は、穿った見方をすれば「何言ってんだコイツ?」と取れる発言だが、実際は似たようなものである

 対等に見えて互いを利用し合うだけの関係……協力的に見えていたのはこの状況に持ち込む為であり、今の言葉を素直に受け取ったのなら「一方的に働かされた」と思うだろう……だが、ラスタルは違う……

 セファーの言葉を彼女の思惑通りに深読みし、自分の手に乗せやすいようあの手この手を使ってくるはずだ

 

 だから、セファーは敢えて欺瞞を煽りやすい形の言葉を使う……そうやる事で、ラスタルの思惑を利用しながら己の生存戦略を巡らす……

 

(……と、堕天使くんは思っているのだろうな……だが、私はその手には乗らんよ……

 上手く利用できれば、あの堕天使は大きな戦力となる……こちらの思惑を敢えてチラつかせ、利用できると見せかけて此方の手の内へと取り込んでみるか……)

 

 ……とでも、ラスタルは考えてるんだろう……

 残念だがそれは悪手だ、こっちの目的はただ時間を潰す為……もう少しで完成する、バエルの強化プランの為の時間稼ぎだ……最も、ラスタルの出方次第ではこの場で殺れない事も無いけど……

 

「キミは交渉に来たのだろう? だがキミの姿はココには見えない……無理にとは言わないが……降りて来たらどうかね?」

 

 ラスタルの最もな言葉に、あれだけ渋っていた堕天使のコクピットハッチが開放された

 急いでタラップが用意されるが、そこから出てきたのは人間ではなかった

 

『……直接この場に出向く時間と手段が用意できず、この様な手段を用いるしか無かった非礼は重ねて謝罪致します……ですが、誠意を持って交渉に出向いたのはご理解して頂きたい』

 

 そう言ってコクピットから出てきたのは……セファーの容姿を3Dで映し出したそっくりの映像人形だった……この世界には見られないだろう技術の結晶……三次元式多目的投影システムを使った3Dモデルのセファーだ

 

「……驚いたな、そんな技術はギャラルホルンにも残っていない……本当にキミは厄災戦の生き残りという訳だな」

 

 そう言われたのはセファーにとって初耳だった……敵味方を含め、堕天使という名前は外見からくるただの俗称としか思っていなかったからだ

 ラスタルは想定以上にセファーの事を真剣に考察していたのだろうか……

 

『……そうですか、私もその視点でそう呼ばれたのは初めてですので……』

 

 セファーは素直にラスタルの意見に興味を示した

 

「ふむ……まぁ、良い……貴女の現在の境遇は理解した、互いに少々予定が狂った様だが……交渉を始めようか」

 

『えぇ、場所は移動なさるのですか?』

 

「まさか? 私も一介の軍人……噂に名高い堕天使の姿、これ程近くで見る機会に次は無いだろう」

 

 まさかの格納庫で会談OKとかマジっすかエリオン公……

 

「さて……では、まず貴女の交渉目的を伺わせて貰えるかな? 堕天使の少女よ」

 

 ラスタル・エリオンは尊大な態度を崩さず、セファーに対して両腕を開き、交渉の開始を宣言する

 セファーも不敵に微笑み返し、形だけ整えられた交渉のテーブルに着いた……ここからは化かし合いの舌戦……しかし勝つ必要はない……セファーは内心ビクビクしている印象を周りに植え付けながら挑んだ

 

──────────

 

 一方その頃、ダインスレイヴの一斉射で壊滅的な被害を被った艦隊の再編を急ぐマクギリス達の下へ、堕天使の反応が消えたという報告が入る

 

「……アテが外れましたか、いやこれも思惑通りなのですか? 准将……」

 

 報告を聞いたマクギリスの表情は、絶望の色など一切見えない……むしろ状況が好転しているとばかりの感情が口端に見え隠れしていたからだ

 

「石動、お前に今後の艦隊の再編と指揮を任せる……漸く、私が前線へと赴く時が来たようだ……」

 

 後事の指揮を石動に一任させ、マクギリスは格納庫へと移動する……その心には渦巻き溢れる感情が押し込められていた

 

(もうすぐだ……もうすぐ、私の……いや俺の求めた世界への扉が開かれる……)

 

 格納庫へと到着したマクギリスを、ラスタルの前へ姿を見せた先程の映像ではない……本物のセファーが出迎えた

 

「最終チェックと機能類の点検はもう少しで終わるわ、試運転してる時間は……戦闘中なんだから有る訳無いか……」

 

「構わんよ、以前よりバエルの姿が雄々しく見えるな……外見にも手を加えたのか?」

 

 マクギリスの言葉に、セファーは半分当たり、という意味の肯定を示した

 確かに航空力学的に最適化できそうな部分には多少なり手を加えたが、大本の部分は変わらず、装甲材質と新機能の操作系への反映……そして武装面、バエル・ソードの改修が主な内容だ、とセファーはマクギリスに告げる

 

「バエルよ……漸く、新たな力を得たお前の初陣だな……」

 

 新たなる力を得たバエルに感嘆するマクギリスに、セファーは1つ質問をぶつけた

 

「もうこの機体はただの序列一位の悪魔じゃないよ?」

 

 その言葉の裏に、マクギリスは一瞬で思い至り……その言葉を紡いだ

 

「そうだな……バエル、いや『ナトゥム』……」

 

 ナトゥム……ラテン語で「新生」……か、悪くないね……でも……

 

「この装備は一部だけど任意でパージもできるよ、一部の装甲は無くなっちゃうけどね……だから名を変えるのではなく、その名前は追加装備用として登録しようか?」

 

 セファーの意見にマクギリスは「……そうしてくれ、バエルの名の方が呼び慣れているし……やはり呼びづらいと後で思ったからな」とうっかり感を出して来やがった……ホント、バエル馬鹿だねアンタって人は……

 

 新たな力を得たガンダム・バエル……

 初陣から激戦が予想されるだろうが、マクギリスの腕は確かだ……それに、万が一の安全策も弄したし、アルミリアちゃんとの約束……何とかして果たしたい

 

 セファーはチェックを急ぎつつ、堕天使を通じて交渉の行く末を見守っていた

 望んだ未来を造る為に、私はこれからも全力で自己流を貫き通す……私が望んだ未来に、もう少しで手が届くはずだから




今日はお休みだったし、かなり気分がノッてたので1日に2話も投稿しちゃったw

さて、新たなる力……
「ナトゥム」装備セットがバエル専用の換装パーツとして生み出されました。

詳細解説は……どうしようかな……?
ガッツリ紹介したい気もするけど……まずは名前の反響が気になるなぁ……


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第17話 混迷する宇宙(その4)

戦線が膠着を続ける中、ラスタルとセファーの会談が始まる……

……マクギリスはバエルを起動させ、反撃の時を待っていた


「……では、そのMA……ハシュマル、と言ったか? 

 その機体を偶然掘り当ててしまい、処分に困った所にマクギリスとイオクがそれぞれ介入……マクギリスは安全に処理する方法を提供してくれたが、実行前にイオクの部隊がMSで近付いた事で、MAは再起動……()む無く応戦した、と?」

 

 セファーは、ハシュマルの再起動から討伐までの詳細な経緯をラスタルに説明……結果的に討伐の立役者となったものの、鉄華団の立場はあくまでマクギリスとイオクの思惑に巻き込まれた形だと主張した

 同時に開示した資料の数々からも、その事は浮き彫りになっている

 まぁ、一連の件の当事者である(ハシュマルに守られて眠っていた)セファーが直々にでっち上げた資料なんだから当然だろう

 

『そういう事になります……最も、鉄華団が保有する戦力を貴方が危惧しているのは重々承知の上、それに、マクギリスとの繋がりも確かに有りました……ですが、マクギリスと鉄華団の関係は一時的なもので、以降は私を頼っていた……それはお間違えの無いよう』

 

 ラスタルは立体映像のセファーを複雑な感情で眺めていた

 この少女の言う事は間違いなく、手持ちの手札では覆しようもないし、例え覆そうとしても更なる理論武装を以て覆される事は明らか……挨拶代わりにセファーから手渡された傭兵ガラン・モッサに関するデータに肝を冷やしたラスタルは、警戒レベルを最大に引き上げたのである

 そしてこうも思った……『どんな策を弄しようと、彼女に嘘は効かない』と……

 

──────────

 

 どうやら、彼は此方の主張を信じてくれた様である……事前に集めておいたラスタルお抱えの傭兵の情報で、此方の情報の正確さを認識して貰う作戦は上手く行った様だ……代わりに凄い顔でガン飛ばされてるけど……

 

 ラスタルとの交渉自体はただの時間稼ぎとはいえ、ハシュマルを打倒した戦力を保有する鉄華団に対するギャラルホルンの眼を、何処かに向けるか眩ませる方法が無い現状、下手な手は打てない……

 しかし、此処でただ時間を使うだけでは望んだ未来は来ないと考えたセファーは、ラスタル・エリオンに再び声を掛けようとした……が、それは第三者に阻まれる事になった

 

「まさか……貴女が、堕天使のパイロット……?!」

 

 声の主は……先程まで堕天使と死闘を繰り広げたジュリエッタだった

 その声色と表情は、セファーの見た目に対する驚きが現れていた……無理もないだろう、今まで声だけしか知らなかった相手……それが自分よりも幼い、こんな子供だと誰が思うだろうか

 

「……私の越えるべき目標が……こんな子供だったなんて……」

 

 ジュリエッタは、セファーを「超えるべき目標」として見ていた……

 タービンズ襲撃の際に堕天使に初遭遇、その圧倒的なまでの強さを肌で感じた彼女(ジュリエッタ)は、『奴こそ超えるべき目標』と感じたのである

 

 しかし、現実はあまりにも残酷だった……

 堕天使のパイロットは自分よりも幼い少女であり、半ば強制的に戦わされる立場に立っていた……しかも、彼女はマクギリスに戦う事を強要(誤解)されているというのだ

 

──────────

 

「……私の越えるべき目標が……こんな子供だったなんて……」

 

 ジュリエッタの驚愕する顔にセファーは、「何か物凄い勘違いをされてる気がする」と直感した

 どうも、この人の感覚と私の感覚は合わないなぁ……

 

『子供ですが、何か?』

 

 不快だ、と言わんばかりの表情でセファーはジュリエッタを睨む

 ジュリエッタは「しまった!」といった表情で気付き、そそくさと去っていった

 

「……済まんな、私の部下が無礼を働いた」

 

『いえ、彼女の言う事も事実です……受け入れ難かった、という事でしょう』

 

 少々呆れ顔ながら、セファーはラスタルの謝罪を受け入れた

 そして話題を変えようと切り出す……

 

『では……私が貴殿方に寝返る、と言ったらどうするつもりですか?』

 

 ラスタルはピクリ、と眉を上げる……ポーカーフェイスで貫くつもりだったのだろうが、生憎と私には反応したのが丸分かりだった

 

「……ほぅ、貴女が此方に付くメリットなど、私にはまるで分からない……一体どんなモノか、聞かせて欲しいものだな」

 

 掛かった、とでもラスタルは思っただろう……

 でも残念でした、延長戦に持ち込む為に言ったタダのブラフですよ

 

──────────

 

「……では石動、後の事は任せる」

 

『了解しました……艦隊の再編が整い次第、私も援護に向かいます』

 

 通信を切り、マクギリスはコクピットシートに体を預けて目を瞑る……

 

(この戦いで、俺の理想を実現する……この力こそ、俺が求めた力だ……)

 

「何処の誰でも、この俺を止められはしない……!」

 

 マクギリスが眼を開けると共に、バエルのカメラアイにも光が灯り、リアクターの出力も上がっていく……そして背部からは、白いボディに似合うよう調整された青色に光る粒子が放出されていた……それは紛れもなく、堕天使が放出していたオレンジ色の粒子と同じ性質を秘めた、アレである

 

 改造されたバエルの外見は、さほど変わってはいない……

 しかし、唯一の武器であるバエル・ソードのマウント位置や細かな装甲の角度、そして配色に微妙な差異が見られる……そして最も目を引くのは、背部から溢れる青い色の光る粒子……配色調整されたGN粒子の光が、バエルの雰囲気を大きく違うモノへと変えていたのだ

 

「さて、それでは行こうか……勝利を掴む為に」

 

 マクギリスは格納庫から伸びる射出口へとバエルを歩かせ、専用のスライダーへと機体を固定する

 鈍い音と共にバエルの機体はスライダーへとロックされ、船の管制からコントロールを移譲した旨を伝えられた

 

「了解した……ガンダム・バエル、出るぞ!」

 

 スライダーと船を繋ぐ固定ロックが外され、レール加速でスライダーごと射出口へと滑り出すバエルの機体……途中でスライダー側のロックも外れ、バエルは初速を得たまま自身の機動ユニット……新たに設けられた疑似GNドライヴのコーン型スラスターを噴かして更に加速、戦場となる虚空へと飛び込んでいった

 

──────────

 

 ガエリオは待っていた……奴を……

 

(アイツはこの程度でくたばらない、必ず来る……ラスタルが堕天使と向き合い、この戦いから眼を逸らしている今を、アイツがチャンスと思わない訳がない!)

 

 そしてそれは、ものの見事に的中した……待ち焦がれた存在、ガンダム・バエルがセファーの手によって生まれ変わった姿を持った事以外は

 

(……ガンダム・バエル……来たか

 いや、細部が違う……まさか、この短時間で強化を施したとでも言うのかっ?!)

 

 虚空を飛ぶバエルの白い装甲も、動きは違えど堕天使に負けるとも劣らない優美さを、見る相手に印象付けている……だが、前回……前に見た姿とは明らかに違う点があった

 

 ガエリオの目に映ったバエルは、この宇宙空間にはっきりと見える光量の……青白い粒子の光で尾を引きながら飛んでいるのだ

 

『待たせたな、ガエリオ……!』

 

「マクギリス……今日こそ決着を付ける!」

 

『それは此方の台詞だ、征くぞ……ガエリオォ!!』

 

 バエル・ソードを振り翳して、マクギリスはガエリオの機体……キマリスヴィダールへと斬り掛かる……ドリルランスで受け止めたガエリオも、開かれた接触回線から聞こえたマクギリスの声に闘志を漲らせ、互いに鍔迫り合いを弾き合って距離を取る……

 

 ……互いに隙のない構えと、揺るぎない覚悟……

 そして譲れぬ信念を賭け……たった2人の戦いが今、幕を開けるのだった




ついに出撃した強化型バエル!
アグニカの魂を昇華し、堕天使の力を分け与えられたマクギリスと、原作通りのガエリオとの戦いが始まった……

……2人の極まるバトルシーンは、次回に持ち越しですね。


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第18話 2人の男、宿命の戦い

先日、公開お気に入り登録者が600人突破してたのを確認して、テンションダダ上がりしました。
評価も含め、閲覧ありがとうございます。

※ なお、今回かの人物に前書き役を依頼しました。

♪~(例のシーンのBGM)
さて皆さん……ついに、宿命の2人……
マクギリスとガエリオの戦いの火蓋が切って落とされました。
幼少の頃からから互いを親友とする2人が、互いの信念を貫く為に戦う姿……ある人物はそれを見て何を思うのでしょうか……
そしてこの戦いの先に、一体何が待ち受けているのでしょうか……

(バサァッ!!)←早着替えの音
それでは、ガンダムファイトッ! レディ~……ゴォォォッ!!

(冒頭を乗っ取られた事に気付いた著者)→( ゚д゚ )ポカーン


『マクギリス……今日こそ決着を付ける!』

 

『それは此方の台詞だ、征くぞ……ガエリオォ!!』

 

 バエル・ソードとドリルランスが、2機の間で激しく交差する……堕天使の力を分け与えられ、ナトゥム形態へと強化されたガンダム・バエル

 対するは、本来の力と新たな姿を手に入れ、此方も強化を施されたガンダム・キマリスヴィダール……

 

 互いに譲れぬ信念を賭けた男の戦いは、更に激しさを増していく……

 

「短期間でこれ程の強化を施すか……これも堕天使の力という奴か?!」

 

『そうだ、そして俺は……この力を以て、腐敗した今のギャラルホルンを作り替える!』

 

「その為なら、カルタや俺を殺しても良い……貴様はそう思ったのか!?」

 

『できれば殺したくは無かったさ……俺とお前は親友だったのだから』

 

「親友だった……か、最早過去形とはな……だが、俺はそうは思わない!!」

 

 キマリスのドリルランスが、バエルの頭部を抉らんと迫る……マクギリスは咄嗟にバエル・ソードをハサミの要領で交差させながら上へと振り払って回避、その勢いを殺さずキマリスの胴体を蹴って離脱し、宙返りから再度斬り込んで来るバエル

 

『お前がどう思おうと、俺には何ら届かない……俺を止めたくば、殺せ……俺を殺してみろ!』

 

 サブアームのシールドを駆使してキマリスはバエルの斬り込みをいなし、膝のドリルニーで迎撃……だが、突如キマリスの背後で小規模の爆発が発生し、キマリスはバランスを崩す

 

「な……なんだ、今のは……?」

 

 一瞬、背後を気にしたガエリオだが、バエルの方を見直すとそこには……バエルの腕と膝に追加されていた装甲がスライド解放され、そこから溢れ出た小さなエネルギーの球体がバエルの周囲を無数に浮遊していた……そして、マクギリスはコクピット内でほくそ笑む

 

『堕天使に強化されたバエルの力……その身を以て知れ!』

 

──────────

 

 スライド開放されたバエルの肘と膝の拡張装甲内から、無数の小さな光球が放出され、不規則な軌道を描いてキマリスへと迫る……回避は難しく、距離を取ろうとするキマリスの動きを正確に予測しながら、光球は追尾と牽制を交えつつ接近しキマリスに接触すると爆発……更にキマリスの体勢を崩さんと次々飛び込んで来るのだ

 

『ちぃっ!? 何なんだこの光は?!』

 

 ガエリオは光球が飛んでこない距離まで即座に離脱、その後改めてバエルを見ると……双刃を持つバエルの周囲を幾つもの光球が飛び交い、あるいは浮遊したまま停止している

 

 この光球の名は「ビット」……機動戦士ガンダムAGEの後半において、Xラウンダー能力者と、ソレに対応する機体の組み合わせでのみ使用可能な武装の1つだ

 だがマクギリスはおろか、そもそも鉄血世界にXラウンダー能力者は居ない……しかし、開発者はあのセファーだ……無論、いつものチート級代替手段で強引に解決した

「似たような機能で再現すりゃ良いじゃん」と……

 

 原理としては、搭載した疑似太陽炉のGN粒子をコントロールするクラビカルアンテナを介して、圧縮粒子を球状のままコントロールする機能を、以前に作った「ゼロシステム内蔵の無人機制御プログラム」を流用して制御させる……手動での微細なコントロールは不可能だが、自動で敵を追い込む事ができ、パイロットは使用するか否かを選択するだけで良いという、完全自動化された武装……それはゲームで登場するファンネル系武装と同じ感覚で扱える……そして敵からすれば完全な「初見殺しの武装」だ

 

「……この程度で動揺していては、先が持たないぞ?」

 

『何……?!』

 

 バエルは光球を帯同させたまま、キマリスへと突撃……キマリスは再びバエル・ソードをシールドで受け流……そうとしたが、それよりも早くバエル・ソードの一閃がキマリスのサブアームをシールドごと切断し、左側のシールドを使い物にならなくしていた

 反射的に気付いたガエリオだったが、操作が僅かに間に合わずバエルの爪先がキマリスの肩を襲い、バランスを崩した所へ再び一閃……ガエリオは咄嗟に機体の姿勢を変えて強引に回避させたが、背中のスラスターの一部に傷を入れられてしまった

 

 前よりも……いや、さっきよりも速い……ガエリオは慢心していなかったが、マクギリスは強化されたバエルの速度を誤認させるため、ワザと前と同じ程度の速度で動いていたのだ

 強化されたバエルは、史実よりも正確に、かつ微細な制御を容易にコントロール出来るよう調整されている……それは、ロストテクノロジーと化していた完全な阿頼耶識システムによる恩恵と、時間ギリギリまで調整を繰り返していたセファーの努力がもたらした結果だった

 

 だが、ガエリオの驚愕はそこではなかった

 

『まさか……サブアームをフレームごと斬り裂くとは……!?』

 

 そう……会敵直後の攻防では、キマリスのシールドでバエル・ソードは受け流されていた……しかし今の攻防でバエル・ソードは、装甲よりも硬いはずの「高硬度レアアロイ」で出来たサブアームを斬り飛ばしたのである

 普通はそんな事など起こるはずがない、と誰もが思うだろう……しかし、よく見るとバエル・ソードの磨き上げられた刀身は、光の反射とは違う形で淡く発光して見えていた

 

「バエルの剣は……最早、誰にも止められんという事だ!」

 

 強化されたバエル・ソード……その刀身は以前の硬いだけの刀身ではない……外見こそ変わらぬ肉厚の刀身だが、その内側……構造は大きく変わっていた

 

 突然ではあるが、皆さんは「チェーンソー」を知っているだろうか? 

 大木を容易く分断、加工するための道具……その構造は、輪の外側に一列に並んだ微少な刃を、輪ごと高速回転させる事で削り斬る……そんな道具だ

 バエル・ソードはこの構造を模して、従来の刀身の内側にGNプリズムメタルを挟み込み、その外縁にGN粒子を一方向に通す事でチェーンソーの小刃の役割とし、それを高速で循環させる事で高い切断力を新たに付与している

 疑問に思う方も多いと思うが、高硬度レアアロイの耐久性は打撃と劣化には高い……しかし、純粋な切断力には、打撃ほど耐久力を発揮し得ない……事実、エドモントン戦において、バルバトスはグレイス・アインの腕をフレームごとカタナで斬り飛ばしている……今のバエル・ソードの様な構造なんて持たないカタナで、だ

 そして、このバエル・ソードのチェーンソー機能は分子構造の隙間を縫って破壊する事が可能であり、余程の対策でもない限り斬れない物は無い

 

『……クッ、ならば……!』

 

 ガエリオはキマリスの加速力をフル活用して距離を取り、ドリルランスを構える

 無事だった右のサブアームのシールドとドリルランスを組み合わせると、ガキン、というロック音を発してドリルランスの一部から小さな槍が飛び出し、キマリスはそのままランスチャージよろしく突撃を仕掛けてきた

 

「……自棄になっての特攻か? 甘いぞ!」

 

 数回に渡ってランスチャージを仕掛けるキマリスを最低限の挙動で避け続けるバエル、自慢気に披露したビットだが、それも既に収納しており紙一重で回避していく

 タイマン状態の現状では、キマリスのこの行動はあまり意味を成していない……そう、単機同士でなら……

 

──────────

 

(……次で決める……!)

 

 阿頼耶識typeーEをフル活用し、ガエリオは冷静に……バエルの僅かな隙を探していた

 バエルの挙動も正に冷静そのもの……しかし、人間である以上、必ず綻びはある……

 

『……ボードウィン卿! 加勢しますッ!!』

 

 突然開かれた通信……キマリスの脇を通り、バエルに組み付こうとしたのはレギンレイズ・ジュリアだった

 

 ジュリエッタはセファーの前から逃げた後、船からガエリオとマクギリスの決闘を発見……とんぼ返りで無断出撃してこの場に駆け付けたのだ

 そしてガエリオの目論見通り(?)か……レギンレイズ・ジュリアの突然の参戦に、バエルの挙動も僅かな隙を見せた

 ここだ! とガエリオは更に増速し、文字通りの特攻を仕掛けた……バエルも油断無く反応するが、その挙動は僅かに遅れてしまう

 

(……!? まさか、堕天使の力に……俺の方が根を上げるか)

 

 いくら調整済みの完全な阿頼耶識と言えども、マクギリスはつい最近になって阿頼耶識を使いだした、言わば初心者……身体に掛かる負荷は少しづつ蓄積し、やがて許容量を越える……今のマクギリスは、阿頼耶識の初心者が、いきなり2人も歴戦の相手をさせられている状態、加えてバエルからの負荷が初心者(マクギリス)の許容量を越えた為に、彼の脳が悲鳴を上げていた

 

『……マクギリス、覚悟!!』

 

 眼前に迫るキマリスヴィダール、絶体絶命の状態……しかし、バエルは貫かれず、マクギリスの眼前には青い装甲が見えた

 

『……ウグッ……がはっ……!?』

 

 キマリスとバエルの間に入ったのはヘルムヴィーゲ・リンカー……石動・カミーチェだった

 




♪~
皆さんお待ちかねぇ~!!
マクギリスとガエリオの決闘に割り込んだジュリエッタと石動。
ジュリエッタのアシストを受けマクギリスを討たんと迫るキマリス、そこに石動は自らを盾にして割って入り、マクギリスを救ったのです……
マクギリスの歩みに、自らの夢を見た石動の行動にガエリオは困惑……ジュリエッタも動揺を隠せず、マクギリスの撤退を見過ごすしかありませんでした。

そして、ラスタル対セファーの会談もまた意外な決着を見るのでした……

次回、寝落ちしたらモビルアーマーになってた件 ~鉄華団に「厄災の天使」が味方したようです~

第19話 火星、再び舞い降りる堕天使
に、レディ~、ゴォォォォッ!!

──────────


……すみません、youtubeでGガン見てるのでつい懐かしくてw

※ 新型バエル・ソードの能力については独自設定ですので、正史のガンダム世界でも可能かどうかは分かりません。
多分こうすればできるだろう、との安い考えですのでご了承下さいw


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第19話 火星、再び舞い降りる堕天使(1)

前回の前書きははっちゃけ過ぎましたなw
今回はマトモ(?)です、どうぞ

部下の男の死……革命を目指す男の瞳に写ったのは何なのか……
そして、復讐を誓った男の眼に映るものとは?

激戦の末にこの一大艦隊決戦は
堕天使と、それを追う者の手によって終止符が打たれる事となった……


『……ご無……事で……すか……、准将……?』

 

 通信からは、今にも消え入りそうな石動の声が聞こえてくる……繋がっていた接触回線を通して、その声はマクギリスとガエリオの両方に聞こえていた

 

『い、石動ッ?!』

『お前は……何を……!?』

 

 マクギリスはその声で庇われた事実と状況を理解し、ガエリオはヘルムヴィーゲ・リンカーの挙動に動揺したままヘルムヴィーゲに組み付かれてしまう

 

 キマリスのドリルランスチャージを土手っ腹に喰らい、既に下半身とお別れしている機体が最後の力を振り絞り、キマリスの機体にしがみつく……動揺しているガエリオは振りほどくのが遅れ、片腕が動かせなくなってしまった

 マクギリスもその光景に暫し呆然としたが、通信から聞こえる石動の声で我に返った

 

『……准将は……残った部隊……を率い……て、ここは……私が……ッ』

 

『……石動……お前は……すまない』

 

 バエルが踵を返し、ヘルムヴィーゲを放置して飛び去る

 ガエリオも少しだけ呆然としたが、すぐ我に返ってヘルムヴィーゲを引き剥がそうと機体を動かした

 だが思いの外拘束は強く、片腕が動かしにくい状態では振りほどけない……同じく呆然から立ち直ったジュリエッタが加勢し、ようやく拘束が解かれる……ガエリオとジュリエッタには、石動の行動に疑問しか湧かなかった

 

『お前は……自分が奴の犠牲になっている事が判らないのか?!』

 

 ガエリオは戸惑いながらも、石動の真意を問うべく叫んだ……最早死を待つだけの石動だが、まだだ、と言わんばかりに再び組み付こうとしながら答えた

 

『例え、流血の先でも……准将の……下でなら、私は……夢を見れた……私の様な……コロニー出身……者には……明日の夢すらも……ここは……そういう……世界だ……ッ』

 

 息も絶え絶えながら、言葉を紡ぐ石動……ヘルムヴィーゲも、辛うじて動いているが、いつ止まってもおかしくない

 

『だから、私は……准将の……ッ』

 

 そんなものはまやかしだ! と切り捨てるのは簡単だ……だが、ガエリオはマクギリスの想いもある程度は理解していた……史実では「もう醒めてしまった」と切り捨てたが、今回は何故か違う……それ故か、言葉に詰まっていた

 

『だがッ! その夢は、虚構でしか……!』

 

『それでも……構わ……い……准……将の……役に立……なら……』

 

 ついに途切れ始めた石動の言葉……やがて、ヘルムヴィーゲも完全に停止し、最後に静寂だけが残る

 

(アイン、やはり……マクギリスの理想は夢物語だ……なら俺は、どうすれば良い?)

 

『…………』

 

 一部始終を目の当たりにしていたジュリエッタは絶句していた……

 

(今のままで……私は彼女に、堕天使に勝てるのだろうか……?)

 

 心の中で呟くが、答えなど出てこない……様々な感情が邪魔をして……2人はその場に留まるしかなかった

 

──────────

 

(石動さん……逝ったんだね……)

 

 残存艦隊の状況を聞こうと船のブリッジに上がって来ていたセファーにも、石動の訃報が届く

 マクギリスももうすぐ船に戻る……準備が整い次第、火星への進路を取る事になっていた

 

(私も……そろそろ準備しないと……)

 

 ブリッジが騒がしくなる中、誰にも気付かれずセファーはソコを抜け出し、秘密裏に用意していたシャトルで地球へと降りるのだった

 

──────────

 

 少し時間は遡り、ジュリエッタがいきなり無断で出撃してしまった直後のスキップジャック級の格納庫……セファーはザドキエルのセンサーと、本体からの情報フィードバックで全てを察知し、ついに事を終わらせるべく動き出す

 

『さて、エリオン公……何か忘れていませんか?』

 

「……マクギリスの事か? 確かに捨て置けんが……」

 

『いえ、ボードウィンの彼です……マクギリスと彼は少なからぬ因縁のある仲ですし、さっきの彼女がもし、何かに気付いたが故の行動なら……』

 

 そこまで言うとラスタルの表情が一変……そして矢継ぎ早に部下へと指示を出していた

 

「至急! キマリスの位置を特定しろ! それと、バエルの位置もだ! 

 この状況、奴は座して待つほど馬鹿な輩ではない……急げ!!」

 

『……どうやら、ここまでの様ですね?』

 

 セファーはポーカーフェイスを決め込みながら呟く、その言葉に少なからず動揺した部下の1人が、立体映像だという事も忘れて掴み掛かろうとするが、その手はすり抜けてしまった

 セファーもその行動には呆れ、おもむろに立ち上がると、ラスタルへ冷たく良い放った

 

『……では、私はこれで……ああ、そうです……

 今からでは多分マクギリスには追いつけませんよ? あと、この交渉は決裂ですので♪』

 

「……ッ……君はこれから何を成そうとしている?」

 

『私は私の理想を追求しているに過ぎません……

 あ、「私と戯れる覚悟」がお有りなら、どうぞご遠慮なく♪』

 

 不敵な笑みを浮かべながら、立体映像のセファーがかき消える

 直後にザドキエルも動き出し、格納庫から出るため射出口へと続く扉をシールド内蔵GNビームキャノンで強引に突破した

 引き裂かれた扉から空気が漏れ始めて辺りは騒然となるが、ザドキエルが境目を超えた直後にシャッターが降りた為、すぐに空気漏れは収まった

 

『ガエリオとジュリエッタに知らせろ! 堕天使を奴の元へ行かせるな!』

 

 交渉開始前とは打って変わり、苦虫を噛み潰した様なラスタルの表情……交渉どころか、全てが彼女の掌だった事に今更ながらに気付く……マクギリスとの関係を誤認させてこの状況を作り、自ら囮となって敵の眼を釘付けにする……ラスタルがセファーに対して欲を出した時点で、彼は完全に負けていたのだった

 

 最も、「ラスタル側に寝返る」というあの言葉……状況次第では現実になるハズだった言葉なのだが。

 

──────────

 

 ラスタルからの指令でガエリオとジュリエッタは、スキップジャック級の外で堕天使を待ち構えていた……しかし、母艦の近くでの戦闘は守備側にとって不利である

 もし、格納庫に続くシャッターや艦橋を狙われれば、それこそ船そのものが落とされるからだ

 それ故、2人は少し離れた場所で待つしかなかった

 

 やがて射出口から堕天使が飛び出し、マクギリスの艦隊と合流するため火星へと進路を取ろうとする……ガエリオとジュリエッタは最大速で待ったを掛けるように立ち塞がった

 

『2対1、ですか……地上の時とは逆ですね? ボードウィンのお兄さん』

 

「……ッ! コイツ、あの時から俺だと見抜いていたのか?!」

 

 堕天使を駆るセファーの言葉に、ガエリオは驚愕した……徹底的に情報漏洩に対しては注意していたし、ラスタルも誰にも話してなどいない……だが、堕天使には最初から「仮面の男ヴィダール」=「ガエリオ・ボードウィン」だと看破されていた

 

『ボードウィン卿、私が合わせます……連携を!』

 

 ジュリエッタの言葉にハッとなって、ガエリオはキマリスを操る……ドリルランスが堕天使へと迫るが、左腕のシールドで簡単にいなされてしまい、続くジュリエッタの攻撃も右腕のGNソードで弾く

 

『……あくまでも邪魔をしますか……少し予定が狂いますが、そろそろ退場して貰っても構いませんね?』

 

 まだあどけなさの残る少女には似つかわしくない、冷徹だが苛立ちの混ざった声色が堕天使から響く……セファーはオープンチャンネルに外部スピーカーと合わせて、わざとらしく言ってのけた

 そのまま堕天使はGNソードから腰にマウントしていたショートライフルへと持ち替え、キマリスに牽制射撃を加えつつジュリエッタの機体へ向かって加速……ジュリエッタは背後を取られまいと構え、迎撃に振るったジュリアン・ソードがザドキエルへと触れる直前、一瞬紅く光った堕天使は砂の如くかき消え、2人はその姿を見失ってしまう

 

『……なんだ?! 堕天使が……消えた?』

『何処へ……?!』

 

 キマリスヴィダールとレギンレイズ・ジュリアが、堕天使を探すために互いの距離を縮めた直後、キマリスの肩とジュリアの右腕が衝撃と共に切り裂かれ、全身を紅に染め上げた堕天使が2機の死角となっていた背中側の虚空から現れる……ガエリオがいち早く反応してキマリスを振り向かせて攻撃するが、堕天使の狙いは最初からジュリアだった

 

「……ッ!? 避けろジュリエッタぁ!!」

『……えっ?』

 

 堕天使の左腕……展開された振動破砕クローがジュリアの胴体を掴み、凄まじい衝撃と音を立てて握り潰す

 

「ッ!? がぁぁぁぁ?!」

 

 TRANS-AM中に発動するGNサイコ・ジャマーの効果より、ナノラミネートアーマーが無効化されてコクピット周辺が振動破砕に耐えきれずあっさりと崩壊、ジュリエッタは機体ごと身体を潰されようとしている……既に強烈な痛みがジュリエッタの身体を襲っており、幾つもの警告音と金属が軋む嫌な音を上げるコクピットを始めとして、機体は最早スクラップ寸前だ

 

「貴様ァッ!!」

 

 ガエリオの渾身の攻撃も、堕天使の右手が……素手のまま振るわれ、ドリルランスを握っていたキマリスの腕ごと掴んで動きを止める

 ガンダムフレームが有するパワーすらモノともしない紅き堕天使は、動きを止めたキマリスを回し蹴りで吹き飛ばしてしまう……だが、その間に艦から砲で威嚇射撃されてしまい、堕天使はジュリアを離すと凄まじい速度で宙域を離脱していった

 

『ジュリエッタ・ジュリス?! オイ……っかりしろ……!?』

 

 ジュリエッタはガエリオの声を朦朧とする意識の中で聞きながら、意識を手放した




多少のズレは改変の証ですが、石動さん死亡&ジュリエッタ瀕死の重症という結果です。
先のアンケートの結果を受けて、こうなりました。

大筋の流れは変わらぬものの、鉄華団がコレに関わってないだけでかなりの改変ですよね……
さて、そろそろ次回予告も本編っぽくしておきましょうか。

─ 次回予告 ─


石動の犠牲により、マクギリスは火星へと逃れ堕天使との合流に成功する……
一方、瀕死の重傷を負ったジュリエッタは、見舞いに来たガエリオに己の心情を吐露するのだった……

次回、
寝落ちしたらモビルアーマーになってた件 ~鉄華団に「厄災の天使」が味方したようです~

第20話 火星、再び舞い降りる堕天使(2)

……ねぇ、このガエリオとジュリエッタの雰囲気って……まさか、よねぇ?


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第20話 火星、再び舞い降りる堕天使(2)

前半はけっこう感想とか頂いたけど、最近あんまり来ないなぁ……
文言とか無いから遠慮してるのかな? 感想・評価は「随時」受付中です。

前回からの続きは……

堕天使のエグい攻撃で瀕死の重傷を負うジュリエッタ……
その隙に堕天使は離脱、ガエリオは慌てて船へと連れ戻す。

一命は取り留めたが、回復にはそれなりの時間を要するのだった……


 あれからどれくらい時間が経っただろうか……

 寝ている事が億劫になった気がする

 

 まだ生きている事を何となく実感したジュリエッタは、怠い体の感覚を確かめた

 

(……生暖かい液体、治療ポッドの中か……)

 

 少し重たいが瞼を薄っすら開けると、そこは間接照明で照らされた艦内の施術室だった

 部屋の真ん中に3つのポッド置かれており、ジュリエッタの入っているのは真ん中……ふと右に気配を感じ視線を移すと、備え付けのテーブルに片肘を乗せ、頬杖をついたまま居眠りしているガエリオの姿があった

 ジュリエッタは一瞬だけ自分が全裸状態である事に羞恥心を感じたが、ポッド内に入っている為見られる心配はない……再びガエリオの方へ視線を移す

 

(……そういえば、あの時も……)

 

 ジュリエッタは気絶する寸前にも、ガエリオの声が聞こえていた事を思い出す

 

「……助けられた……という事ですか」

 

 ジュリエッタは小さな声で呟く……視線を天井に戻し、ジュリエッタはあの時を思い出した

 

『……貴女に私は倒せない……迷いのある今の貴女では……』

 

 去り際、吐き捨てる様に堕天使から響いた……あの少女の声

 迷いのある私では絶対に敵わない……そんな事は分かりきっている! だが、ラスタル様は「私が頼りだ」と仰ってくれた……ならば、期待に応えなければならない……なのに……

 

「……今の私では、勝てそうにないのです……ラスタル様……」

 

「……お前も、悩んでいたんだな?」

 

 不意に聞こえた声に反応し、ジュリエッタは視線を向ける……そこには居眠りから醒めたガエリオが立ち上がって遠巻きに顔を覗き込んでいた

 

「……何時から起きてたんですか……?」

 

「いや……あー、うん、お前が言ったラスタルの名しか聞こえなかったぞ?」

 

 その返答はだいたい最初から聞いていた人が使う言い訳だ……溜め息と共に呆れた顔をするジュリエッタ、微妙な雰囲気にガエリオは苦笑いをするしかなかった

 

「貴方が、私を助けたんですね……」

 

「ああ、1週間ほど眠ったままだった……ラスタルも心配していたよ」

 

 ラスタルの名を聞き神妙な面持ちになるジュリエッタ、しかしガエリオはそれを見て軽く笑うと、「そんな顔をするな、お前は良くやったと誉めていたんだぞ」と付け足した

 

「……そうですか……」

 

 だがジュリエッタの顔は晴れず、雰囲気も暗い……ガエリオは頭を掻きながら、ジュリエッタが眠っていた間の事を語りだした

 

──────────

 

 その頃時を同じくして……マクギリスは堕天使と共に火星圏へと雲隠れ中であった

 ギャラルホルン火星支部からは「受け入れないが行き先は知らない」と温情を掛けられ、ある街の街外れにある廃ビルに機体を隠し、自分達はすぐ近くの無人化した家に潜伏していた

 

 ちなみに私の本体(オリジナル)は地球にてアルミリアちゃんと合流している……彼女が父親の説得を無視してマクギリスを待つと宣言した為、後で秘密裏に火星へ護送する予定だからだ

 

 なお、分身としてマクギリスに動向している方の私は、仮ボディとして「PGエクシア」を使っている

 ……PGサイズなら、MGサイズ以上の連続稼働時間や汎用性を確保し、家庭用電源からの充電機能も搭載……潜伏にも最適のスペックを保持していたからだ

 

「……さて、ここからどうする? 無論私はラスタル・エリオンを待ち、この火星圏で仕留めるつもりだが……?」

 

『私にも約束事があるので、このままで終わらせませんが……貴方とバエルは、少し休息が必要でしょうね』

 

 私のザドキエルはもう少しで修復も完了するが……バエルの方はマクギリスの脳の負荷ダメージが予想より大きかった為、本人も含めてもう少し休息が必要だ

 

「まさか、君から心配されるとはね……」

 

『……アルミリアちゃんとの約束ですから』

 

 意外な人物の名前に、マクギリスは少しの沈黙から「……そうか」とだけ答えた

 インスタントのコーヒーを片手に、窓から外を見ているマクギリスの横顔……

 本当は彼のクーデターなど止めた方が良かったのだろうが、ラスタルの策略を利用して鉄華団を救うには「敵対する存在(マクギリスのクーデター)」はどうしても必要だった……

 だから、私はマクギリスを煽った……体よく利用する為に……だが、今ではマクギリスを待つアルミリアちゃんの想いに応えようと動いている……今更取り繕おうとも手遅れかもしれないが、今の彼とは一蓮托生の状態……やってみるさ

 

『私は機体の整備してくるから、貴方はこのマスク無しで外に出ないでね?』

 

 以前マクギリスが使っていた「モンタークのマスク」をテーブルに引っ張り出しておいた後、バエルの整備の為に部屋を出る……史実通りの最終決戦を迎えるなら、今更機体を弄っても結果は変わらない……なら、やることは一つだ

 

 すぐそばに立つ廃墟と化したビル郡……そこに隠したバエルへと私はエクシアを飛ばすのだった

 

──────────

 

「……ジュリエッタ、体の方はどうだ?」

 

「ご心配をお掛けしました、もう大丈夫です」

 

 先の戦闘からおよそ2週間とちょっと……ジュリエッタはほぼ全快し、MSでの戦闘にも支障ない程度まで回復している

 負傷して担ぎ込まれたと知らせを受けた時は気が気でなかったのだが1週間で目を覚まし、今では「何も問題ない」と言い切る彼女を見て、ラスタルは後見人としてでなく、人の親としてジュリエッタを見ていた……そして、ふと考えたのがあの時の少女(セファー=ラジエル)の事である

 

(……彼女の出自は不明……だが、何故あそこまで鉄華団に拘る? いやそれ以前に、彼女は本当に人間なのか?)

 

 既に彼女の過去を徹底的に調べ上げたのだが、ろくな資料はおろかマトモな情報がない……それ処か、ある境目から過去には「彼女の存在自体が有り得ない」という結果を示していた

 だが、実際に彼女は我々ギャラルホルンに接触して来た……厄災戦の情報を最も多く保有するギャラルホルンであったが、ついぞ彼女に関する決定的な情報を突き止める事は叶わなかった

 

「……本当に、彼女は300年前の亡霊なのか?」

 

「ラスタル様……?」

 

「……ん、あぁ、済まん……少し考え事をな」

 

「それは、あの少女の事ですか?」

 

「……良く分かったな?」

 

「いえ、私は……彼女の言動に何か違和感を感じました……明確には分かりませんでしたが」

 

 ジュリエッタの言葉を聞き……ラスタルは思案の後、ある仮説を立てる

 

「ジュリエッタ、もし彼女が本当に『人ではない』とすれば……?」

 

「まさか、ラスタル様……?」

 

 彼が立てた1つの仮説……セファー=ラジエルとは、兵器を無人化する程の科学技術の果てに、人類が産み出した『人造人間(造られし生命)』……本来であれば奇跡の技術……彼女の存在は厄災戦の技術を今に伝える存在、ロストテクノロジーの伝承者あるいは生体データベース……だが何故か、アグニカ・カイエルは生涯を賭けて彼女という存在を消し去ろうとしていた……

 

「当時のアグニカ・カイエルが、危険を冒してまでモビルアーマーの掃討に固執した理由……もし、彼女が狙いだとすれば……?」

 

 当時の技術者が、何の為に彼女を産み出したのかは最早分からない……だが、少なからず何らかの希望を持っていた……だが、奥底に秘めた願望ほど、他人に理解されないのは世の常……何らかの形で「彼女の存在」を知ったアグニカ・カイエルは、誰かに歪められ間違った情報から彼女を「在ってはならない存在」と断じ、開発者と対立したのだろう……そして開発者とその協力者達は、彼女を人の悪意から護るため……ヒトの手を必要としない兵器を開発した……かつて人自らが嫌悪し、手を出す事を躊躇っていた完全なる無人兵器……モビルアーマーを

 

「ラスタル様、さすがに飛躍し過ぎでは?」

 

 ジュリエッタの言う事は最もだったが、ラスタルはこの仮説に確信めいたものを感じていたのだった……

 

──────────

 

「あ"ぁ? セファーが火星に戻ってきてるって?!」

 

「声デカすぎだろ!?」

 

「あ、悪ぃ……」

 

 シノの声が事務所に響く、即座にユージンが諌めシノも謝った……そしてテイワズへ仕事の報告から帰って来たオルガも戻り、3人で続きを催促する

 

「……その情報、確かなのか?」

 

「あぁ、タービンズ経由でな……テイワズの別部門の連中が、火星に降りる2機のMSを見たって……しかも2機とも白い装甲に翼持ち……それぞれが色違いの光の粒子を背中から放ってたって情報だ」

 

 2機……というのが若干引っ掛かるが、片方は間違いなく堕天使だろう……あんな外見の機体などそうそう見間違えるはずは無い……それに光の粒子を放つMSなど、彼女が関わってなければ他に存在などしないだろう

 

「じゃあ、チビ嬢は帰って来るのか?」

 

 情報主のチャドがそこから口籠る……シノとユージン、そしてオルガは続きを待ったが……それを聞いた彼らは言葉を失った

 

「マクギリス・ファリドのクーデターは失敗に終わり、行方不明……ギャラルホルンの連中はマクギリスを追って火星まで来てる……もし、マクギリスがチビ嬢と一緒なら……」

 

 マクギリスは現在、地球と火星の両方で指名手配を受けており……生死を問わず(デッド・オア・アライブ)レベルでの捜索が常に行われていた……唯一の救いは、マクギリス以外にセファーの顔が知られていない事だが……

 

「何にせよ、今の俺らはテイワズの身内だ……表立っては動けねぇ……だが、関連する情報はしっかり集めとけ……いざとなったら俺らも動けるようにな?」

 

 気持ちを切り替え、オルガの言葉に全員が頷く……例えどんな事になっても、彼らは彼女を心から信頼すると決めたのだから……




唐突にラスタル・エリオンによる、300年前の真相の仮説考察……
こういう背景があったら良いなと書いてみました。

さて、そろそろ最終決戦の幕が上がろうとしています。
果たしてセファーは、この世界の未来を……最高・最善の未来へと変える事が出来るのでしょうか?

ちなみに、ラスタルは直にセファーの顔を見ていますが指名手配は不可能でした。
何故ならあの立体映像……カメラや写真といった機械的記憶媒体には映らないからですw


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第21話 火星、再び舞い降りる堕天使(3)

月を跨ぐと忙しくて投稿が……(泣)


マクギリスとガエリオの戦い……再び相まみえた宿敵同士、死力を尽くし命を賭けて相争う
堕天使もまた、最後の戦場へと赴くのだった……


 火星圏に到着したアリアンロッド艦隊は、その戦力を2つに分け……反逆者マクギリス・ファリドを追っている。

 地上にはジュリエッタ、宇宙にはガエリオを中心とした各部隊が展開していた。

 

 そこへ民間のシャトルが規定航路を外れ、まっすぐに艦隊へと向かってくる。

 度重なる停船要請や威嚇にも動じず、痺れを切らしたラスタルはシャトルの拿捕を指示する……2機のグレイズが、シャトルを確保しスキップジャック級の近くまで来た時……

 

『……やれやれ、体裁を気にして私だと気付くのに遅れたな? 

 ラスタル・エリオン、その首貰い受けるぞ!』

 

 声と共にグレイズを両断……シャトルの格納スペースからバエルが姿を表した。

 マクギリスは勝ち誇った様な笑みを見せ、スキップジャック級へと突撃しようとするが……ガエリオのキマリスヴィダールの横槍で敢えなく断念、ラスタルとの盟約により、1対1(タイマン)の状況がお膳立てされ、ガエリオはマクギリスに戦いを挑む……

 

『……何処までも俺の邪魔をするか、ガエリオ!』

 

「マクギリス……今のお前は、あの時俺に自分の理想を語ってくれた頃のお前じゃない……!」

 

 バエルとキマリスの鍔迫り合いの中、ガエリオとマクギリスは互いに叫ぶ

 

『ならばどうする?! お前の知らないこの姿こそが、俺の真の姿……! 

 俺は、あらゆる欲に塗れ、ねじ曲がったまま拡大したこの世界を作り直す、このバエルで!!』

 

「……ッ?! マクギリスッ!!」

 

『俺とお前の信念……どちらが正しいかなどと、禅問答をする気など俺にはない! 

 前にも言ったハズだ、お前が正しいのなら……俺を殺してみろ、ガエリオォ!!』

 

 ドリルランスを双剣で弾き、バエルはキマリスの首を狙って機動力に物を言わせた乱舞を繰り出す……キマリスも白兵戦向きとはいえ、強化されたバエルは以前よりも速く、離れる挙動には追従できていない。

 

「……いや、俺は……俺の信念を貫く!! 行くぞアイン!!」

 

 キマリスのシステムが切り替わり、阿頼耶識type-Eを起動させたガエリオはバエルへと追いすがる

 リミッターも全開放され、フルスペックで機動する2機の戦いはますます激しくなるのだった……

 

──────────

 

 一方その頃、堕天使は最後の隠し手を使うべく、とある場所へと赴いていた……

 

(……マクギリスは、史実通りにガエリオと戦うだろうね……まぁ、どっちが勝っても私には関係ないけど)

 

 そして辿り着いたのは、かつて自分が産まれた場所……ハシュマルと共に眠っていた、ハーフメタル採掘場だった

 低空飛行から着地した堕天使は、崩壊して更地になった採掘場を見回した後……眠らせていた能力を発揮するべく、その姿を変える……

 

 追加装備していた小型のミサイルポッドを強制排除、それと同時に胴体と両腕の装甲がスライド変形し、隙間から青色に輝くサイコフレームが顔を覗かせる……その輝きは虹色のエフェクトを帯び、やがて半透明の虹色の波動「サイコ・ウェーブ」となって火星の大地を凄まじい速度で広がるのだった

 

──────────

 

 堕天使が発する虹色のサイコ・ウェーブは、火星圏にあるMSに強制的に干渉し「私はココだ」と存在をアピールする様にセンサー系を狂わせていた

 そしてそれは、阿頼耶識システムで稼働するガンダム・フレームに対し、「ある現象」を引き起こすキッカケとなる

 

『団長! 三日月達がっ!!』

 

「ミカがどうした?! 格納庫で何があったんだ?!」

 

『わ、分かりません……バルバトスにグシオン、フラウロスまで変な反応を……』

 

 それは、セファーにとっての予定調和の始まり……最初に手を加えたバルバトスとグシオン、そしてフラウロスは、堕天使のサイコ・ウェーブの干渉波に反応してある方向をずっと見つめている……

 

「……? バルバトス、どうした? ……あっち?」

 

「どうしたグシオン、動けよ?!」

 

「クッソ……流星号が動かねぇ……!」

 

 三日月は普段と違う感覚のバルバトスに、話し掛けるように疑問を口にする……グシオンとフラウロスも、同様に同じ方向を向いたまま乗り手の制御すら受け付けず、ただじっと一方向を向いたままだ

 

『団長ぉ!』

 

「今度は何だ?!」

 

『チビ嬢の機体が……ザドキエルが、採掘場に現れました!!』

 

 突然、過去にMAの掘り出された採掘場へ降臨した堕天使……一瞬だけ喜んだオルガだが、状況に違和感を感じてバルバトス達の向いた方向を地図に照らし合わせる

 

「あぁ、あの方向は間違いなく……チビ嬢を堀り当てた、あのハーフメタル採掘場だ」

 

 雪之丞の言葉に、オルガは自分の悪い予感が当たった気がしてならなかった

 

──────────

 

(これでジュリエッタさんを誘き寄せる……兄さま達にも気付かれちゃうけど)

 

 堕天使は一定間隔でサイコ・ウェーブを発信し続け、決戦の相手を待ち構えている……

 だが、先に到着したのは来て欲しくない相手だった

 

「こちらハッシュ、堕天使の機体を捕捉! ……他に機影は認めず、どうします?」

 

 堕天使の立つクレーターの反対側の縁に、テイワズから提供された新型MS「辟邪」……ハッシュが先行して様子を見に来ていた

 堕天使のレーダーはとっくに辟邪を捉えていたが、狙っていた相手ではない為無反応だった

 

『いいかハッシュ、周囲を警戒しつつそのまま待機……本隊の到着を待つんだ、状況が変化次第逐次報告しろ』

 

 了解、と返事し……ハッシュは堕天使の姿を、機体のカメラで捉らえ続ける……

 初めて機体を見るハッシュの脳裏には、入団当時の記憶が蘇える

 

 それはまだ三日月達、先達ながら年少組の団員達に偏見を持っていた頃の事だった

 

──────────

 

「……で、なんでこんなガキに従ってんっすか?」

 

 その言葉が、発したハッシュ本人以外の耳に入った瞬間、格納庫の空気を一変させた……

 

「オメー、あの子が何に見える?」

 

「……大人に混じって仕事の真似事してるタダのガキっすよね?」

 

 その言葉に、盛大な溜息を吐く雪乃丞……確かに、その場をチラ見しただけの、外部の人間ならそう思えたかもしれない……しかし、雪之丞を始めとする鉄華団のMS関係者は口を揃えて「命が惜しいなら、その考えを今すぐ捨てろ」と言うのだった……当然、納得の行かないハッシュだったが、雪乃丞は……

 

「オルガには話を通しておく……お前さんは今日1日、アイツの仕事ぶりをしっかり見ておくんだな」

 

 それだけ言って自分の仕事に戻っていった……

 ハッシュは半ば疑問の残った頭を抱えながら、自分がチビガキと言い放った少女……セファーの仕事ぶりを見学し始めた

 

 ・

 ・

 ・

 

 セファーは仕事中、ほとんど格納庫で動いている事が多い……それは自身の知識と技術が最も的確に活用できる場であると同時に、単純に整備作業……いや、誰かの役に立つ行為そのものが好きだったからだ

 

 1人、鼻歌交じりに部品を磨いていたかと思えば、その片手間にMSやMWの駆動システムチェック……普通なら専門用語や各種データの比較更新など、とても片手間では出来ない知識と作業量が必須の仕事を平然とこなし、途中でクレーンのコントローラーが壊れたと伝言が来ると、すかさずその場へ移動して原因を解決し、手持ちの工具と交換部品であっという間に修理……戻ると部品磨きとチェック作業を再開し、それがが終わったかと思えば、ちょうど昼食を運んできたアトラと一緒になって整備員達を順次休憩に行かせ、その間に止まってしまう部署の作業を肩代わりして済ませたりしていた……最初に聞かされていた「団長の妹」という肩書きなど、本人を始め誰もまるで気にしていない……むしろ整備班で最年少の彼女は、その小さな(ナリ)で他の団員の負担になりそうな作業を一手に引き受け、そのオーバーワークじみた仕事を平然とこなしていた……

 

 あの仕事ぶりと、周囲の反応……たった1日だけ見たとはいえ、その光景がハッシュの固定観念を完膚無きまでに破壊し尽くしたのは言うまでもない

 

──────────

 

(あの人……三日月さんも、「アイツは立派な妹分だ」って言ってたな……)

 

 あの時からハッシュは、年少組の先達を見る目が変わっていた

 そして、セファーに対しては少々行き過ぎた印象を持つに至る……それは俗に言う「幼女スゲェ・幼女強ぇ」とかいう謎の印象であった

 

──────────

 

『ジュリエッタ、どうやらこの採掘場に堕天使が現れたらしい……この付近の民間組織から、堕天使らしきMSを見たという連絡や、捜索をしていた部隊のMSに異常が見られたとの報告も受けている、お前はその部隊と合流し、採掘場の調査に向かってくれ』

 

 採掘場まで近付く中……普通の機体なら徐々にセンサー類が不調をきたし、ついには使い物にならなくなってしまう

 だが、ジュリエッタは方角を見失う事は無かった……ほぼ常に最前線で戦うアリアンロッド所属のMSには、電磁波等の阻害を無効化するシールドが全機体に施されていたからだ

 到着した採掘場は建物が悉く壊されたかつてのまま、此処で戦ったMSの残骸も無惨に転がっている……

 

「……この反応、採掘場には何かがあるのですね……」

 

 ジュリエッタは慎重に機体を施設跡地からクレーター側へと動かし、ついに目標を発見する……クレーターを前に両腕を広げ、虹色の燐光とオレンジの粒子を撒き散らしながら佇む白い堕天使の姿を

 

「ッ?! ……? ……堕天使? こんな所で何を……?」

 

 この至近距離までMSで近付いたが、意外と気付かれなかった事に拍子抜けしたジュリエッタだったが、すぐに思考を切り替えて堕天使の様子を窺う

 堕天使は両腕を広げたまま時折翼を動かし、まるで鳥が佇むかの如く動こうとしない……それは「何かを待っている」様な行動だった

 

(堕天使は何かを待っている……?)

 

 だが、ラスタルからは堕天使の捕縛ないしは撃破の命令を受けている為、そう長く観察はできないと意識を切り替えて両腕のソードを展開し、堕天使の背後から強襲しようと振りかぶった……だが

 

『そっちが先なのね、じゃあシナリオ通りにやらなきゃ……!』

 

 堕天使からの声……と同時に堕天使は上空へと逃れて飛翔、そのまま迎撃体制を取る

 

「今度こそ私は……貴女を超えてみせる!!」

 

 ジュリエッタは吠えるかの如く言い放ち、スラスターを全開にして堕天使へとジャンプ、左のソードを蛇腹に展開して堕天使の右足を絡め取った

 だが右足へと絡まる蛇腹剣を堕天使は無視して高度を落とし、ジュリアと空中で交差、お互いが振り向くタイミングで右腕のソードでジュリアの左肩に突き込む……攻撃がジュリアの肩部アーマーに届く瞬間、ジュリエッタは機体のバランスをあえて崩してクリーンヒットを避け、そのまま機体を回転させながら右のソードで薙ぎ払う、堕天使もシールドを翳してジュリアの攻撃を防御すると、そのまま突進してシールドバッシュを仕掛けた

 衝撃に加速の反動が重なり、コクピットが揺れる……そこから絡まった蛇腹剣を利用して堕天使はジュリアごと高度を更に上げ、機体の加速と反動を利用してジャイアントスイングの要領でジュリアを振り回し、パイロットを精神的に追い詰めに掛かる

 

「……ぐ……ぅ……ッ!?」

 

 さすがのジュリエッタもこれには耐えきれずに蛇腹剣を堕天使から外し、重力に従って落下する間、腰にマウントしておいたライフルと内蔵火器で狙い撃つ

 だが、不安定かつ距離を離される落下中では大したダメージは期待できない

 

『……本気を出してきた、と言う訳ですか……!』

 

『ジュリエッタ・ジュリス……貴女に1つ、役割を与えましょう……私との死闘を演じる役を!!』

 

着地したジュリアと睨み合う堕天使……僻邪のハッシュは、その光景をただ見ることしか出来ないでいた

 




遂に最終決戦開幕!!
この戦いの果てに待つ未来とは……?


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第22話 宇宙の戦い……そして終わりの始まり

えー、先に言っておきます……ここから先はたぶんキャラ崩壊してますw



 火星宙域で繰り広げられるキマリスヴィダールとバエル・ナトゥムの極限バトル

 熾烈を極めた攻防も遂に決着の時が訪れようとしていた……

 

『アイン! 頼む……届けさせてくれッ!!』

 

 左脇腹に蹴りを捩じ込まれるも、振るわれるバエル・ソードを掻い潜り、体当たりで母艦の壁面にバエルを叩き付けてキマリス……追撃を防ぐべくバエルはビットを散布するが、体勢を整えるよりも早くキマリスはバエルの左手の剣を斬り払って取り落とさせ、右手にバエル・ソードを突き立てられながらも右膝のドリルニーでバエルの左脇腹を抉る

 

「……クッ、まさか……俺が、ガエリオに……負ける?!」

 

 互いに己の全てを賭け、全力……いやそれ以上を出し切った戦いは、僅差でガエリオに軍配が上がろうとしていた……

 マクギリスから見れば、全てを賭け、最強の力の象徴であるバエルを以てしても……己の運命を変えるには至らなかった……その心の片隅に諦めが差し掛かった時、ふと、マクギリスは幻聴を聞いた様な気がした……

 

『マッキー! 死なないで……ッ!!』

 

(アルミリア……俺の……願いは……)

 

 幻聴に一瞬だけ、マクギリスの心が静寂に揺らぐ……その瞬間、バエルの機体が赤く輝き始め、トドメを刺さんと迫るキマリスの攻撃を避けて火星へと超高速で飛び去ってしまった……その後、向かった先であろう宙域で、青い粒子を含んだ爆発が起きたのである

 

 すぐさま追撃隊が組織されバエルの後を追ったが……残されていたのは擬似太陽炉を解析不能なまでに破壊され、全身もボロボロ状態で宇宙を漂っていたバエルだけだった……

 

──────────

 

(……俺は……結局、全てを捨てても……何も変えられなかった……300年もの月日の前には……アグニカ・カイエルの伝説も……バエルの威光も……最早、ただの妄言か……俺があれほど求めた力は、世界にとって……こんなにも矮小なモノだったと言うのか……)

 

『それは違う、小さくても……誰にだって世界を変え得る力はある……ただ、貴方はやり方を間違えた……それに気付けなかっただけ』

 

(正しい方法など、あってないようなものだろう?)

 

『確かに、正しいかどうかは重要じゃない……でも、間違い犯すより正しくあろうという気持ちがあれば、この結果も変わったかもしれない』

 

(……俺は全てを失った……もう、俺は何も出来ない)

 

『そう……でも貴方には、待っている人が居るのではなくて?』

 

(……俺を待つ人……だと?)

 

『貴方は小さな約束さえも守れない……卑怯者で終わるの?』

 

(……約束……)

 

『……今までの貴方がただの偽りだとしても、貴方が残したモノは、確実に残っている……まだ貴方に人として約束を守る気があるのなら、貴方はここで終わるべきではありません』

 

 マクギリスの意識は、その声を最後に微睡みから急浮上させられた……

 

──────────

 

「……マッキー……?!」

 

 僅かに瞼が動いた直後、名を呼ばれた男が呻き声と共に覚醒する

 身体はまだろくに動かせないが、治療ポッドの生暖かい感触はハッキリと感じる……原作では腰に破片が突き刺さり、まともな治療すら受ける前に死んだのだが……今回、マクギリス・ファリドは辛うじて死の淵から生還したのであった……

 

「全く……封じ手(サイコミュ・ジャックもどき)を使う事になったのはこの際しょうがないとして……このまま死なれたら私まで約束すら守れない卑怯者になるところでしたよ?」

 

 意識がハッキリとしてきたマクギリスに、アルミリアが抱きついて来た……治療ポッドの側でため息を吐くセファーの手には、資材そのままのサイコフレームが握られていた

 

「……無事で良かった……マッキー」

 

 涙を浮かべたまま微笑むアルミリア……その心中にはまだ複雑な想いを抱えているが、今はそんな事どうでも良かった

 好きだった人が戻ってきた……ただそれだけで充分だ、これで良いんだ、と自分に言い聞かせる……だが、この人は私の事などどうでも良かったのだろう……だから私を置いて独りで戦場へと向かった……安堵と共に浮かんできた複雑な感情が再び鎌首をもたげる

 

「……アルミリア……済まなかった、このまま死んだら……君の兄との約束を違える所だったね」

 

 だが、意外にもマクギリスの口から出てきたのは謝罪だった……

 それも、アルミリアを心配して……兄との約束を守るため……この男はアルミリアを見ていないのではなかった……ただ、自らの理想の実現を目前に無我夢中だったのだ

 苦難を耐え凌ぎ、漸く自らの理想に手が届く……その直前に足を踏み入れ、耐え難い興奮故に他に意識が回らない……人ならば誰しもが一度は経験ある事だった、彼もそれに陥り、その他が見えていなかっただけなのだ

 

「……アルミリアちゃんを蔑ろにするのは、もう金輪際辞めなさい……貴方は仮にも、その子の婚約者でしょう? 貴方は、人として最低の行為を犯す所でした……充分に反省して、今後は彼女の為だけに生きなさい、良いわね?」

 

 セファーの声と共に、渡された端末に表示されたのは……

 

「……これって……?!」

 

──────────

 

 同時刻、火星では……堕天使とジュリエッタの戦いが続いていた

 堕天使に目立った損傷は無いものの、その動きは以前と違って手加減など一切無い本気の挙動……だが、対するジュリエッタも負けず劣らずの猛勢で辛うじて機体が動けなくなる程の致命傷は避けている……この一戦で、ジュリエッタの技量は格段に上がっているのだろう

 

(これが、堕天使の本気……でも、私だって負けてはいません!!)

 

 お世辞にも機体のコンディションは良好と言えないが、専用機レベルでチューニングされたジュリアは、まだ彼女の操縦に素直に応えている……我流に近いジュリエッタの操縦技術は、まだまだ上に上れる可能性を秘めていた……だが、どうしても反応や認識速度の違いといった要素が重なり、堕天使を操るセファーには後一歩が及ばない……

 

『……さて、終わりにしましょうか』

 

 堕天使から声が響き、機体が赤く染まる……だが、次の瞬間……

 

『……う……ぁ……っ……く……ぁぁ……』

 

 突如、堕天使から響く声が苦悶に変わる……同時に堕天使のカメラアイも赤から緑、緑から赤へと不規則に変化、低空から崩れ落ちて墜落し、まるで痙攣でも起こしているかの様に機体が奇妙な挙動を繰り返し始めてしまう

 

 それは、今まで抑圧されていたMA由来の破壊衝動……度重なるサイコフレームの共振作用によってセファーの精神の奥底に成りを潜めていたはずの本能が鎌首をもたげ、TRANS-AM等から来る認識外の負荷に、知らず知らず疲弊していたセファーの精神を押し退けて暴走し始めたのだ

 

『……あ"ぁぁぁぁぁ……?!?!』

 

 腕にあった武装も外れ、がら空きの両腕で頭を抑えながらもがく堕天使……突如として起こった事態に、ジュリエッタの認識は全く追い付けなかった

 

(一体、何が……起こっているというのですか……?!)

 

 そこへ駆け付けたのは、鉄華団所属のMS……遊撃隊長として先行したガンダム・バルバトスルプスレクス、三日月・オーガスだ

 

『ハッシュ……これ、どういう状況?』

 

 三日月は偵察として事態を遠目に見守っていた辟邪のハッシュへと問う

 ハッシュも、物覚えは良い方なのだが……この状況を1から説明しろというのは難題であった……辛うじて分かったのは、ジュリエッタとセファーが、戦いに決着を求めた直後に急変し、セファーは戦える状況ではない事、そして、相対していたジュリエッタも事態を把握しきれていない事くらいだ

 

『……あ"ぐっ……っぁ……っ……み、ミ……カ、兄……逃げ……ッ!?』

 

 破壊衝動を押さえ込む為の凄まじい処理負荷に息も絶え絶えながら、三日月を認識したセファーはこの場を退避してと懇願する

 だが、目の前で苦しむ彼女を……()してや、過去にもアトラが暴行された事に激高しかかった三日月にとって、団長の義妹たるセファーを放置する選択肢など選ぶはずもなかった

 

「セファー、苦しいのか……何かされたのか?」

 

 優しく声を掛ける三日月の声……セファーの心に、嬉しさと悲しさが同時に去来する

 だが、この状況を正しく認識できる人間などこの場には誰1人居なかった……やがて堕天使からセファーの声が聞こえなくなり、カメラアイの赤い光が不気味な雰囲気を纏ったまま明滅し始める……ただならぬ気配を三日月は直感し、バルバドスに構えを取らせた

 

 直後、堕天使のテイルブレードが閃き……この場に居た全てのMSの足を薙ぎ払う

 更に堕天使は飛翔し、取り落としていた両腕の武装を確保し直すと、GNソードを構えてバルバトスへと突撃してきた

 

 持っていた超大型メイスで受け止め、バルバトスと堕天使が鍔迫り合いに移行する……だが、堕天使よりもバルバトスの方が純粋なパワーでは上回っていた

 

『セファー……?!』

 

 突然の攻撃に、三日月は冷静に対処するもののその心中は困惑していた

 だが、セファーから感じるいつもの雰囲気など欠片も見せない堕天使は、バルバトスから離れると左のクローを展開、更にテイルブレードを伸ばしてバルバトスを威嚇する……

 

 想定外の事態に、戦況は更に混乱していく……

 

──────────

 

 堕天使の異変は、もちろん本体のセファーにも凄まじい負荷を与えていた……

 

「……っく……うぁ……ッ……が……」

 

 突然、堕天使からウイルス侵食の如く逆ハッキングを受けてしまい、慌ててプロテクトを展開するものの、あっという間に防壁を食い破られて無力化……辛うじて自己を保つのが精一杯だった

 

「……セファー、ちゃん……?!」

「む……どうしたのだ?」

 

 いきなり呻き出したセファーに、動けないマクギリスとアルミリアも困惑していた……頭を抱えて倒れ伏すセファー、呻きながらもがくその動き……知る由も無いが、それは堕天使の変化とほぼ同じだった

 唯一違うのは、敵意剥き出しに豹変せずただ呻き苦しむだけ……

 

「……アルミリア、彼女を診てやってくれ……私はまだ、動けそうにない」

 

 マクギリスの言葉にハッとなったアルミリアは、すぐさまセファーに近寄り目線を合わせる……セファーもそれに気付いて何か話そうとするが、堕天使から強制的に送られる処理負荷とハッキングに抵抗するため、全く余裕が無く言葉にすらならない

 

「セファーちゃん! 何? しっかりして!」

 

 辛うじてセファーは隠し持っていた腕輪を取り出し、アルミリアへと渡す……そして最後の力を振り絞って、アルミリアに耳打ちをした直後……

 

「く……ぁ……ッ!?」

 

 呻き声を最後に全身の力が抜け、微動だにしなくなってしまう……能力の使用によって虹色に輝いていた虹彩の光も徐々に失われていき、やがて元の紫色へと戻っていく

 

「セファーちゃん?! セファーちゃん!!」

 

 一切の反応がなくなってしまったセファーに、「死」を予感したアルミリアは必死に呼びかけるが……もうその声すらも、セファーは認識不可能になっていた

 

「……アルミリア、彼女は最後に……何を?」

 

 辛うじて上体を起こすことができたマクギリスは一目で状況を察し、アルミリアへと問いかける……セファーを横たえた後、涙の止まらぬ両目で振り向き見たマクギリスへと嗚咽混じりに答えたアルミリア……全てを言い終えると同時にマクギリスの胸へと飛び込み、大泣きし始めた

 マクギリスはそれを優しく受け止めた後、ゆっくりと動き出した右手で頭を撫でて落ち着かせながら、セファーの真意を思考し始める

 

(この状況はさすがに想定外だった……だがその可能性があるなら、この程度に対策を怠る彼女ではない……何処かに対処法を残して……やはり、この腕輪か?)

 

 アルミリアへと伝えられた言葉に、託された腕輪を検分するマクギリス……大きさ的に大人用ではない、明らかに子供を想定したサイズ……金の装飾が施された表と、精度が一目で伺える程の極小サイズの機器がびっしりと埋め込まれた裏面……やはりコレは彼女に装着するべきモノだと結論づけたマクギリスは、アルミリアに声を掛け、託された腕輪の使い方を指示するのだった

 

──────────

 

 火星の採掘場では、豹変した堕天使とジュリエッタ……そして鉄華団の戦いが未だ繰り広げられていた……

 

『この動き……速いけど、彼女よりずっと読みやすい……? 何がどうなって……』

 

 最初から通して戦っていたジュリエッタは、動きの違いに困惑しながらも経験と技量で堕天使の攻撃を避ける……だが、頻度や挙動が徐々に三日月のバルバトス相手に集中し、半ば放置状態にされていた……それでも全く攻撃が飛んでこない訳ではないが……

 

『動きに迷いがない……そしてこの動き、セファーじゃない!』

 

 持ち前の直感で違いを認識した三日月は、中にいるセファーを気遣いつつも反撃に出ていた……だが、人の意思を汲む程のオカルトパワーを持つサイコフレームと連動した破壊衝動は、尽く三日月の攻撃に対応……あるいは反応し、避け、いなし、受け止め、カウンターまでしてくる

 セファーの苦悶の声も既に聞こえなくなり、彼女の様子は既に伺えなくなって久しい……だが、三日月はその直感故か、それとも生来の性格故か……全く諦めていなかった

 

「……セファーを、返せ……人形が……ッ!!」

 

 怒りを滲ませる三日月……だがその動きは冷静であり、度重なる堕天使の反撃や常識外の挙動にしっかりと対応し、唯一上回るパワーを最大限に生かしながら堕天使と斬り結ぶ……

 

『待たせたな三日月……って、何だぁ?!』

 

『どうなってんだよこの状況……なんでセファーと三日月が……』

 

 ド派手なピンク色に塗装されたガンダム・フレーム……4代目流星号ことフラウロスとグシオンリベイク・フルシティも現着したが、繰り広げられた光景に唖然とする

 堕天使と斬り結ぶバルバトスもそうだが、一緒に戦っているのがアリアンロッド艦隊所属のMSと分かると、その混乱は更に助長されてしまう

 

『そこの2機! アナタ達も鉄華団ですね?!』

 

 レギンレイズ・ジュリアからの声に昭弘とシノは思わず顔を見合わせてしまう……続けて放たれた声に、ようやく我に返って動き出すのだった

 

『加勢するか撤退するか、どっちかにしなさい!!』

 

 ……ジュリエッタは最早自棄気味に叫んでいた




堕天使 vs バルバトス&ジュリアの様相、なんか書いててジュリエッタが可愛そうになってきちゃうのは気の所為でしょうか……?

そしてグシオンとフラウロスもようやく現着!
ちなみにアリアンロッド艦隊の大部隊もすぐそこまで迫ってますよ!

最早識別なしに暴れまわる堕天使……この先一体どうなってしまうのか……
そして、反応すらしなくなった本人の運命や如何に?


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第23話 『こんな事もあろうかと!』は時と場合による

盛大にやらかしましたwww

いよいよセファー最大の()()()が始まります……

※8/31 16:05 会話文でおかしい場所を修正


 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ

 

 気が狂いたくなる程の圧倒的な殺意が私を責める……

 

 壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ

 

 抗う事すら叶わぬ程の強烈な破壊衝動が私を苛む……

 

 コロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセ

 

 このまま私は塗り潰されて消えるのだろうか……

 

(……消えたくない……よぉ……)

 

 このまま私は何も成せずに果てるのだろうか……

 

(……嫌だよ……怖い……みんなの所に、帰りたいよぉ……)

 

 このまま私は全てを諦めてしまうのだろうか……

 

──────────

 

 鉄華団やアリアンロッドの本隊も合流した三日月達は、我が物顔で空を駆け暴れまわる堕天使の猛攻に晒されていた……主に被害に遭ったのは、堕天使の異変後からジュリエッタの位置を捕捉する事に成功し、速攻で増援を送り込んだアリアンロッド艦隊の面々である……鉄華団のメンバーはさすがに謹製シミュレーターでの動きよりも機械的かつ単純な動きの堕天使相手ではそれほど苦戦せず、むしろアリアンロッドのMSを時折庇う事もあった

 

 そもそも自由に飛翔する堕天使を相手に、満足な決定打なんぞ撃ち込めないのだが……

 

『くっそ……飛び回ってて隙がねぇ、シノ! 何とか撃ち落とせねぇのか?!』

 

『無理だ! あの速度は砲戦モードなら当たるだろうが、アレはロクに射角が変えられねぇ! あんだけ飛び回られると狙いすら定まらねぇぞ!?』

 

『無茶苦茶だな……何か手はねぇのか?!』

 

 昭弘の無茶振りを無理だと返すシノ、状況の悪化を危惧するオルガ……するとそこへ

 

『俺が叩き落とす……!』

 

 バルバトスが飛び上がってテイルブレードを射出、それを迎撃しようとする堕天使の動きを見切った三日月は、上手く挙動の隙間を掻い潜って堕天使の胴体にワイヤーを絡ませる事に成功したが、そのまま引き摺られ……空中へと吊り上げられて身動きが取り辛くなってしまう……ぶら下がったバルバトスを叩き落とすべく速度を利用して攻撃を仕掛ける堕天使だったが、それは三日月の読み通りの展開だった

 

 クローを展開してバルバトスの腕を狙う堕天使、三日月はそれを見切ってクローに超大型メイスの内蔵パイルバンカーを撃ち込み、シールドを破損させた後テイルブレードのワイヤーを巻き取って接近、武装破損でふらついた堕天使を上からハエ叩きの要領で文字通りに叩き落としたのである

 如何に機動力に優れる堕天使でも、テイルブレードのワイヤーを利用したチェーンデスマッチ戦法で逃げられない状態では、パワーで上回るバルバトスに抗えなかった……

 空中で体勢を整えきれず中途半端な仰向けで地面に叩き向けられた堕天使は、バルバトスのパワーでそのまま押さえ付けられてしまう……未だに残る右腕のGNソードも超大型メイスで押さえ、更に左肩を踏み付けてほぼ行動不能へと追い込んだバルバトス……その時、不思議な事が起こった……

 

『……これは……セファーの声……? 泣いてる……? いや、帰りたがってる……!』

 

 度重なる調整により、肌感覚レベルでマッチングされたバルバトスの阿頼耶識が、堕天使のサイコフレームから滲み出る感情を捉え、それを擬似的な声として変換したのである……まさに、脳で直接処理を行うマンマシン・インターフェイスと、オカルティックなサイコミュ・デバイスが引き起こした奇跡の現象であった

 

『コレ……こうすれば俺の声も、アイツに聴こえるかな……?』

 

 直感でそう感じた三日月は、全員へ通信回線を開き、思い付いた案を教え初めるのだった……

 

──────────

 

 全てを殺せ、全てを壊せ……そんな怨嗟の声がずっと私を苛んでくる……

 

(……いっそ、最初からそう思ってたら楽だったのかなぁ……)

 

 身体の主導権やら全てを奪われ、身動き一つ取れない矮小な私の心は……最早諦めモードであったのだが……

 

『チビ嬢、こんな所で終わるのか?』

 

 ふと、ユージン兄の幻聴が聞こえた気がした……

 

 私はまだ、消えてはいない……さっきからずっと聴こえているこの鬱陶しい「怨嗟の声」に混じって、みんなの声が聴こえた気がする……

 

『……セファー、お前には色々と世話になったからな……今度は俺達がお前を助けてやる!』

 

『セファーちゃん……頑張って! お姉さんも手伝ってあげるから、ちゃんと戻って来なさい!』

 

(今度は昭弘兄とラフタさん……そういえば、あの後ちゃんと告白したのかな……)

 

『オレ達に色んなモンをくれたお前を、助けない訳ゃねーだろーが!!』

 

『セファー、オレだってまだ強くなる! まだ勝ち逃げは許さねぇからな?!』

 

(シノ兄……ライド君も……)

 

『こんな事で立ち止まるのですか? あれ程の力を持った堕天使と呼ばれる貴女が……?』

 

(……何故だか分かんないけど、ジュリエッタさんの幻聴まで……)

 

 生憎とまだ私は自己を保っていた……そりゃそうだ、まだ私は未練だらけのまま消えたくはないし、やりたい事も山程残ってる……それに、知りたい事に約束やら何やら……「私のたった1つの願い」も未だに叶ってない。

 

『セファーちゃん、和食のレシピ……まだ教えて貰って無いからね? ちゃんと戻って来てよ!』

 

(アトラちゃん……そうだった……今度、和食教えるって言ってたっけ……)

 

 幻の様に姿が浮かんでは、言いたい放題に文句をつけて消えていく知人達……

 あぁ、そうか……私ってばこんなにも必要とされてたんだ……

 

 その間にも、ダンテ兄やチャド兄……雪之丞さん達が言いたい放題言って消えていった……

 そして、コレがラストと言わんばかりに姿を見せたのは……

 

(ミカ兄……それに兄さんまで……)

 

『セファー……バルバトスの調子悪くなったら、今度から誰に見せれば良い?』

 

『……セファー、ホントにお前は自慢の義妹だよ……だが、こんな所で終わっちまうのか? 

 短い付き合いだったけど……俺達、鉄華団はみんなお前に感謝してるんだ……兄貴の事も、ミカの事も、団員みんながな? 

 ……だから、俺達は諦めねぇぞ……お前がオレ達にしてくれた様に、今度は俺達がお前を助けてやる番だ……だからお前も諦めんな、団長命令だ……絶対に……』

 

 勿体振った様にタメを作った後、最後にあの台詞が聞こえたてきた……

 

『……止まるんじゃねぇぞ!』

 

 その言葉を最後に、私の何かが変わった気がする……何ですか、ヒトの気も知らないで言いたい放題……余計に消えるのが辛くなっちゃったじゃない……

 

「こんな気持ちのまま、ハイサヨウナラ……なんてする訳無いでしょうがッ!!」

 

 気合いを入れ直し、私は響き続ける「怨嗟の声」の発生源を睨む……

 それは頭上高くに浮かぶ「真っ黒な塊」……

 不気味な一つ目の化け物みたいな、靄の掛かった不定形生物……スライムみたいに蠢き、空中をふよふよと漂いながら、体表に複数ある口の様な器官を巧みに動かし、呪詛の如く単語を延々と吐き出していた……その姿はまるで誰かの創作神話に出てくる『黒き仔山羊』の様だった

 

『何が悲しくて「シュブ=ニグラス」みたいな姿してんのよ……ん? 此所って私の精神世界よね……じゃあアレは私の想像力が生んだモノって事?』

 

 その事実に軽く絶望したが、頭を振ってバカな思考を捨て去り、再び黒い塊を睨む。

 途切れる事無く続く怨嗟の声……なんだか無性にビームか何かでぶち抜きたくなってきた……すると、視線を向けた先に何故かトンデモナイ物が転がっているのに気付く

 

 ……は? なんじゃこりゃ? 

 

 そこに落ちていたのは……「RX-78-2 ガンダム」のビームライフル……間違いない。

 

「何でこんなモノが……って、私が今欲しいって思ったモノじゃん」

 

 ……アイツをぶち抜きたいって、今も考えてる。

 ちょうど良い、早速()()でぶち抜いてしまおう(# ゜Д゜)

 

 八つ当たりをするかの如くビームライフルを構え、躊躇い無く引き金を引く。

 放たれたビームは寸分違わずに頭上に浮く黒い塊へと吸い込まれ……数瞬遅れで爆ぜて消えた……

 だが、数分もしない内に「それ」は何処からともなく再出現……そして少しずつ増えていった……しかも厄介な事に数だけでなく、その大きさまでも変わっていたのは嫌がらせだろうか……

 

(# ゜Д゜)……ったく、次から次へと……もぉ~鬱陶しいッ!! 

 

 撃墜数が100を超えた辺りで手数を増やしたいと思うと、グフ・カスタムのシールドガトリング……300を突破した頃には腕が疲れてきたが、ローゼン・ズールのメガ粒子砲内蔵シールドがあったので攻撃続行、それで更に撃墜数が500を超えた辺りで今度は人手が足りないと感じる……直後の砲撃音と足音に振り向くとそこには勝手に動くヘビーアームズ(EW)の姿が。

 

『……なんだかよく分かんないけど、味方なら心強いわね♪』

 

 さながら弾幕ゲーの如く襲い来る黒い塊を次々と撃ち落としていくヘビーアームズ……もう撃墜数なんて数えるのは止めていた……何故なら相手は津波の如く巨大な群れで襲って来る様になっていたからだ

 ただし、諦めが悪い私には強い味方が居る……ヘビーアームズだけでなく、ダブルエックスやウイングプロトゼロ、フルアーマー形態のZZやユニコーンにストライクフリーダムやレジェンド……サイコガンダムからガデラーザまで、高性能機を初め手数や火力自慢のMS、MA達が援軍の如く次々と現れ、最早黒い波となった破壊衝動の化身を全員で撃ち落としまくっていく……

 

『……私は諦めの悪い性格だし、悪いけど……』

 

 私の姿は、か弱いいつもの子供の姿ではなく……自らの半身とも呼べるMS、堕天使の姿へと変わっていた……翼を広げて飛翔する私の隣に、ダブルオークタンタとダブルオーライザーがそれぞれ左右に寄り添うように追従する

 

 そして、初めてユニコーンに乗った彼の……あの始まりの瞬間の如く私は叫んでいた

 

『……()()から、出て行けぇぇぇッ!!』

 

 私の叫びに呼応するかの様に2機のダブルオーが紅に染まり、トランザムバーストとクアンタムバーストが放つ圧倒的なGN粒子の奔流が黒い波を押し退けながら膨れ上がっていく……

 同時に紅く染まった堕天使……私も右腕を掲げ、周囲のGN粒子を味方にして発動したドミニオンズブレイカーの最大出力モード「ドミニオンズ・ライザー」を大上段から黒い波に向けて叩き付けた

 その間にも弾幕は絶える事無く展開されており、その中でも主役機達はそれぞれの必殺攻撃やフルバースト……各々の最大火力の攻撃を揃って黒い波に撃ち込んでいく……

 

 全弾発射、フルバースト、サテライトキャノン、ツインバスターライフル……巨大なビームの奔流やミサイルの嵐が次々と黒い波を蹴散らし……最後はなんか既視感のある巨大な人が突然現れて、私にウインクして見せた後に怒りの形相(?)になって突っ込んで物凄い大爆発したんだけど? 

 

(……気のせいかな? 一緒に妙な幻聴を聞いた気がする)

 

 ()()()()など言語道断……って、幼女ェ……(困惑)




……はい、思うがままにやらかしましたwww
サイコフレームの奇跡……ガンダムの超常現象と言えばコレしかない!

記憶してる全てのMS、MAを総動員すれば火力ゴリ押しで勝てるでしょwww
個人的に()えるBGMとセットでどうぞ♪


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第24話 それは『奇跡の弊害』……誰が上手く言えと?

今回は短めです……ってお気に入り900件を突破してるし

……仕事の事もあって胃に穴が空きそう。
多方面から……ぷ、プレッシャーが……(;´Д`)ァァッ


 セファーが自身の精神世界で幼女虐待に反抗した為、現実の堕天使も煽りを受けて沈黙……

 それと同時に、採掘場の一角で異変が起きた……

 

 地鳴りの如く不気味な音が響き渡り、大地が揺れ始める……

 

『今度は何ですか……? ……さすがにもう驚きはしませんが……』

 

 そう言ったのは勿論ジュリエッタである。

 だが地震にしては規模が局所的過ぎており、外の様子を問い合わせてみても何も起きてないと言う……困惑するジュリエッタ、だが揺れは確実に大きくなり……やがて巨大なクレバスが大地を割り、その中心では大量の土砂がクレーターを形成する……

 その様相は件のハシュマルの時よりも遥かに大きい、そして大地の裂け目から現れたのは……巨山の如きMA……いや、MAにしては異形過ぎた……

 まるで触手の様に備えられた……いや実際触手なのだろう巨大なMSの頭部を模した先端を備えたサブアーム(?)が周囲で無数に蠢き、MSよりも巨大な脚部らしき部分と、それよりも更に巨大な胴体部分はさながら植物の様な構造をしている……だがそんな下半身の巨大さにしてはか細い上方にある接合部の先には、筋骨粒々の大男みたいにシンプルな形状をした上半身が接合されており、自らのその異形さを凄まじく際立たせていた

 

『……何なのですか、この機体は……?!』

 

 最初に口を開いたのはジュリエッタ……

 

『な……なんてデカさだよ、オイ……』

 

『厄災戦のMAってのは、こんな馬鹿げた大きさの奴もあるのかよ……?』

 

『ふざけた見た目してるが、あの時の奴よりかは楽だろ? デカ過ぎて(のろ)いだろうし……』

 

 オルガや昭弘、シノらもそれぞれ口を開くが……手応えの無さそうな相手だとタカを括っている様だ……だが、直後に起こったあまりの惨劇にその考えはすぐに霧散してしまった

 

『何なんだコイ……がはっ!?』

 

『来るな……くるなぁぁ?!』

 

『チクショウ!? コイツ……う、うわぁぁぁ!?』

 

『ば、化物……ひぃぃぃぎゃふっ!?』

 

『くたばれバケモノがぁぁぁぁひでぶぅっ!?』

 

『……っくしょぉ……おぎゃんっ!?』

 

ガキィィィン……ドォン……グシャッ

 

 大破し、ロクに動けない機体がほとんど……だが現状では最も数の多いアリアンロッド所属のMS達が次々と触手に撥ね飛ばされ破壊ていく……無論ながら必死の抵抗を試みてはいるが、どんな連携を使ったとしても量産型MSの火力では、触手1本を怯ませる程度が限界だった……

 確かに、本体の挙動は鈍い……だが攻撃や防御を行うのはほとんどが例の()()()()の触手だ、しかもその動きは変幻自在な上に数も圧倒的……更には牙付きの口の様な部位を展開して噛み付いたり、口腔内からビームを発射して直撃したMSの挙動を著しく鈍らせていた……見てくれこそマシーンなのだが、その動きは正しく異形の生物と呼べるものだ

 

『……待て待て待て! 何なんだよコイツはょォ!?』

 

 触手攻撃は勿論、鉄華団のMSにも襲い掛かる……

 慌てて迎撃するシノ、フラウロスの背中にあるレールガンの直撃を喰らった触手が吹き飛ん……だのは良いが、すぐさま側から別の触手が襲い掛かり、更には吹き飛んだはずの触手も瞬く間に修復され、勢いは衰えるどころかより一層激しくなってしまう。

 

『何だよ、壊れてもすぐに治っちまうのか?!』

 

 ハルバードを振り回し、次々と触手を斬り捨てていくグシオンリベイク……奮戦するも、触手の数は一向に減らない事に、昭弘も驚愕した

 通常兵器では有り得ない、驚異的な自己修復能力……ナノテクノロジーの極致とも呼べる驚異の能力を、このMAは持っていた……それはつまり、この異形の破壊には『量も質も求められる』と言う事だ。

 しかも、その質は最高クラス……ガンダム・フレーム並の性能が必須であろう事は、誰の目にも明らかであった……

 

──────────

 

 さて、追い出しは成功したけど……これからどうしようかな……

 

 私ことセファーは自身の精神世界において、MAの破壊衝動から来るハッキングに打ち勝ち、自己防衛には成功したものの……次の一手に迷っていた

 

(……まさか、堕天使とのネットワークを逆利用されてハッキングとか……

 ん? 待って、この反応って……?!)

 

 依然として身体の主導権は剥奪されたままだったが、辛うじて直接アクセス可能な堕天使側のセンサーから、予想だにしなかった反応を受け取った私は絶句した……

 何と言う偶然か……いや、これは私というイレギュラーが起こしてしまった『弊害』だろう……

 

 MSとは兵器である……だが、人が乗り込むという要素故に、それはあまりにも脆弱すぎた

 

 ならば、人を……乗り手を必要としない兵器とすれば……? 

 

 それは色々な方法でアプローチされてきた兵器にとっての『命題』である……しかし、その多くが無人化の影響によって代償を……新たな欠点を抱える事となった……

 だが、あるアプローチはそれを補って余りある力を発揮する存在を生み出してしまう……

 

 機動武闘伝Gガンダム……その中で悪魔的な強さと異常さを発揮したモンスターマシン……『デビルガンダム』である。

 

 デビルガンダムとは『自己再生・自己増殖・自己進化』という、機械とは程遠い生物的な特殊能力を持った()()()()()()()()()『アルティメットガンダム』が、自己制御プログラムの暴走によって変貌したもの……本来ならその性能を以て、荒廃した原作世界の環境を再生するモノだったが、物語中に明かされた陰謀によって事故が起き、悪用を防ぐため共に脱出したパイロットを生体ユニット……つまりは人間をパーツとして取り込んで凶悪な力を発揮した……勿論、取り込まれた人は最後の一人を除いて全員死亡している

 

(……まさか、あんな機体まで埋まってたなんて……!!)

 

 堕天使のセンサーが捉えた反応、それは間違(まご)う事なく『デビルガンダム』だった……

 

 まさかとは思うけど、あの機体……私をコアに取り込む気なのかな……? もし、そうだとしたらピンチ所の騒ぎじゃないでしょ!?

 

 原作の最終戦でも『デビルガンダム』は、()()を取り込んだ事でラスボスに相応しい程ヤバい強さを発揮した……なんでも、女性特有の生体機能が『デビルガンダム』を最強にしてしまう「鍵」なのです……詳しくは(R-18ではない故)原作見るかググってね。

 

 私が生体ユニットとして相応しいかは甚だ疑わしいが……それを抜きにしても、私が取り込まれる事によって引き起こされるであろう『悪夢』は、間違いなく誰にも止められない……

 

 唯一幸いな事は、私の身体はまだ宇宙にある……とだけ言っておこう

 

 だけど奴が私の存在を嗅ぎ付けるのも時間の問題だと思う……万が一、堕天使に物理的融合でもされた暁には間違いなく居場所がバレて、今度こそ抗えないハッキングで廃人にされるだろう……そうでなくとも、取り込まれたら最後、原作みたいに助けられる様な展開は望めないし……現状維持すら(まま)ならない今を、奴の本能が見過ごすハズもない

 

『早いトコ何とかしないとね! ……とは言ったものの、今のままじゃまだアクセス権取り戻せないのよねぇ……』

 

 自分の身体や堕天使とのリンクが回復しない今の段階では、私に打つ手など皆無だった……




見事に精神汚染を回避できたセファーですが……反動で堕天使とかのリンクが途切れてしまい万事休す!!

そして突然の『デビルガンダム』……何でコイツが?って思った人は、多分多数居るでしょうね……

経緯を詳しく書くかは未定ですが、さわり的に説明すると『過去にセファーを悪用したかった勢力が、彼女を(生体ユニットとして)使う前提で建造した』って事にしてます。

ifですもの、過去の詮索や捏造はご自由にどうぞwww

勿論、300年前は起動させられなかったのですが……機体は完成してたので(フラグ)
もし、セファーが取り込まれたら……DG汚染された主役機体の総登場で世界が終わる……!Σ( ̄□ ̄;)


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第25話 始まりが天使(MA)ならば、幕を引くのは……?

前回に登場させたデビルガンダム……

実は初期のシナリオには無かった展開です。
ただ、今話のタイトルのように『幕を引くのは……』という(くだり)から、急遽参戦が決まりました。

無事、ハッピーエンドは訪れるのでしょうか……



 採掘場に突如として現れた異形の機体……アリアンロッド艦隊のMS達を悉く破壊すると思えば時折、何かを探す様に急に静かになる……恐怖に怯えた誰かが、そこへ攻撃を加える事で敵は再び猛攻を再開するが、しばらくするとまた落ち着きを取り戻して何かを探し始める……その挙動はもはや意味不明であった……

 

「チャド、堕天使は?」

 

『取り敢えず施設外まで退避させてある、今おやっさん達が点検作業に入った所だ』

 

「昭弘、こっちの被害状況は?」

 

『取り敢えずこっちの被害はねぇが……アリアンロッドの方はヤバいな、ほぼ壊滅なんじゃねぇか?』

 

 この混乱極まる状況を正確に把握すべく、実働隊に問うオルガ……アリアンロッドのMS部隊は壊滅に近いが、団員達にはほとんど被害は無いようだ……一頻り唸った後、オルガは三日月に件の機体の事を聞いた。

 

「ミカ……あの化物みてぇな奴だが、どう思う?」

 

「……うーん、よく分かんない……でも、あのままにはして置けない……物凄くヤバい気配だけはプンプンしてる」

 

「……だろうな、遠巻きに見てた俺でも判る……アレはあの(ハシュマルの)時よりも数段、いや……10倍以上はヤバい」

 

 巨大な山の如く聳え立つMAらしき機体……アリアンロッドのMSがほぼ居なくなり、邪魔立てする相手が居なくなったかの様に「捜し物」に集中している

 だが、一向に探り当てられない苛立たしさを表現するかの如く、時折触手が無意味な場所を攻撃していた……未だ鉄華団は奴の探す「存在」に気付いていないのだが、鍵となる堕天使を施設の外まで移動させていた事はかなりのファインプレーであった。

 

「しかし、奴が何を企んでるのかは分からねぇ……MS隊を壊滅させた事は、アリアンロッドも黙っちゃ居ないだろうが……」

 

『どうすんだオルガ?』

 

「奴の目的が判らない以上、下手に手は出せねぇ……堕天使の状況が分かり次第、俺らは此処から引き上げるぞ! 手透きの奴は整備班の手伝いに回れ! 2番隊は周囲の警戒とあの化物の監視だ、何かあったらすぐに報せてくれ!」

 

『了解だ……ライド、ダンテ、一緒に来い!』

 

『『了解!』』

 

 未だ事態は緊迫しているが、余り積極的な動きの無い奴への対応を一度アリアンロッドへ丸投げし……取り敢えず鉄華団は、確保した堕天使の状況把握に勤めるのであった。

 

──────────

 

「……おやっさん、堕天使の様子はどう?」

 

 しばらく黙って雪之丞の様子を見ていた三日月……一息吐いたのを見計らって声を掛けたのだが、彼の顔は困惑したままだった。

 

「……駄目だ、何がどうなってるのかサッパリ判らん……辛うじて、機体のシステムが何らかのロックを掛けられてる事だけは分かったが……操作が判らん事にゃ手は出せねぇ……」

 

 速攻のお手上げ宣言……それもその筈、堕天使のコクピット周りは鉄血世界の標準ではなく……GN兵器や太陽炉、そして操作系である脳量子波に対応する為の「西暦仕様」……簡単に言えばOO系列のシステムだ。

 コンパクトに纏まったコンソールに全天周囲モニターとホロモニター、シート後部にある巨大なターミナルユニット、見た目的に最も近いのはダブルオークアンタのコクピットだ……システム周りからまるで別物である為、判らなくて当然である。

 

 コクピットから出た三日月と雪之丞……そこへオルガが合流してきた。

 

「おやっさん、堕天使は……」

 

「お手上げだ……システム周りから嬢ちゃん専用の仕様なんだ、俺じゃ手も足も出せねぇよ」

 

 溜め息と共に雪之丞は首を横に振った……原因が判らない上、再起動も掛けられない。

 

 堕天使が無人でも動く事は最初からセファーに聞かされていた為、セファーが乗ってなかった事に驚きはしなかったものの、戦力として使えない事は痛手だった……オルガは堕天使を確保した時、『もし、まだ動かせるなら戦力として数えたい……あの化物、アリアンロッドの次は俺達を狙う筈だ……そうでなくとも、奴をこのままにはして置けないからな』と伝えていた……

 直接的な原因は不明だが、覚醒の瞬間を見たオルガは「奴を放置できない」と悟っていた……機械でありながらあの異常な能力と、自律的に活動する様を見せ付けられ、言い知れぬ恐怖を覚えたオルガ……手に負えないかもしれない、だからと言って放置など出来ない……こう思ったのも、少なからずセファーの影響であった。

 

「……お前さんも成長したな、オルガ……これも嬢ちゃんの影響かねぇ」

 

「おやっさん?」

 

「いや、何でもない……それよりもオルガ、さっき三日月がな……」

 

 セファーの影響……自ら口にしたその言葉に、何かヒントを得たのだろう……雪之丞はオルガの問いに何でもないと返し、ある仮説を語りだした

 

──────────

 

 はい、絶賛打つ手皆無状態のセファーちゃんです。

 逆ハックの負荷からはそろそろ立ち直れそうですが……私の精神の方がまだ立ち直れてません……いやホントに……あの時は沢山のMSやMA(自分の好み全開のラインナップ)に囲まれてテンションMAXになりはしたけど……その時やった事を振り返って激しく後悔した。

 

 簡単に説明すると、今……私は自分に対して脳量子波遮断を掛けてます。

 

 しかもあのテンションMAXの上に深く考えず、焦ってやったから双方向での完全遮断……つまり現状、身体は気絶したまま無反応状態……堕天使も活動こそ停止してないものの、センサー系のみ解放状態のまま絶賛フリーズ中です。

 脳量子波とは完全に別系統のサイコフレームが勝手に周囲の状況を伝播してくれてるので、外の状況だけでも判るのは幸いかな……操作系に反映させてた擬似思考コントロール機能は死んでるけど。

 

 自分の身体は気絶、そして堕天使は脳死判定された様な状態……頼みの綱は、状況を一方的に送り付けてくるサイコフレームだ……打開策は既に見えているけど、それを伝える手段は皆無……全ては兄さん達の動きに全てが掛かっていた。

 

(そういえば、私の身体ってどうなってるのかな……アルミリアちゃん心配してないかな?)

 

 一抹の不安……気絶とはいえ何の反応も返せない私とマクギリスしか居ないから、アルミリアちゃんは不安で一杯だと思う……許してクレメンス(´-ω-`)

 

──────────

 

「……そんな事が出来るのか?」

 

 オルガの第一声は疑問だった。

 

 三日月の直感は凄まじく鋭い……それは阿頼耶識を介して、接触してきた機体のパイロットが誰なのかを見抜く程だ。

 そして堕天使を拘束した時、奇妙な感覚を感じ取っていた……

 

「よく分からないけど、堕天使を抑えてた時……セファーが何を考えてるかが、何となく判ったんだ……何となくだけど」

 

 それは、堕天使に内蔵されたサイコフレームが持つオカルト能力の影響だった。

 サイコフレームを持つ機体は例外無く()()()()()()の持ち主となり、一部の機体は搭乗者の思考を現実化する程の性能を発揮していた。

 堕天使と呼ばれるザドキエルも、主に胴体と両腕全体、そして各部関節の一部にサイコフレームを採用している……セファーがそこまで理解した上で採用を決めたのかは疑わしいが、打開策の鍵となるならばコレ以外にはあり得なかった。

 

「よく分からんが……その、サイコフレーム? とやらを使えば、セファーの事が判るのか」

 

「三日月が言うには……だがな?」

 

 雪之丞も最初に三日月から聞いた時には半信半疑だったが、いつになく真剣な表情……そして嘘など吐いた事の無い三日月の言……加えて、その直感で起こした行動には幾度となく助けられてきた。

 

「嬢ちゃんから前に貰った整備マニュアルだ……サイコフレームは主に堕天使の胴体と腕に使われてるらしい、三日月は阿頼耶識の外部感覚を通して感じたから何となくだった……なら、直接触れたら強く感じられるんじゃないかと思ってな?」

 

 概要的にはこうだ……フリーズ状態とはいえ、スライド解放された堕天使の装甲から見えるサイコフレームに、それぞれ団員達が触れてセファーの事を考える……上手く行けば、サイコフレームを介してセファーに、俺達の思いを受け取って貰える……といった具合だ。

 確たる物証もアテもなく、突拍子もないグダグタな方法だが……オルガには不思議と上手く行く、そんな感じがしていた。

 

(出来の良いあの義妹が作り、名瀬の兄貴達を助けて、俺達に希望を持たせてくれた堕天使だ……奇跡の1つや2つ、起こせない訳がねぇだろ!)

 

 斯くして、前代未聞のオカルト的な方法による堕天使の復活作戦が開始されようとしていた。




現在の堕天使の状態は、サイコフレームが未発光で装甲は解放状態のまま
カメラアイは点灯してはいるものの、何となく無表情な感じがする……といった状態です。

そして『探し物は何ですか?見つけにくいモノですか?』状態のデビルガンダムくん
捜索のあまり地形を破壊し出したら手が付けられなくなりそう……

何か(書いてないから)反応無いけど、ジュリエッタは無事なんでしょうか?


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第26話 復活の堕天使(1)

お待たせしました、反撃開始の狼煙が上がります。

長くなりそうなので話を分けました……残りは皆さんの手も借りたいなぁ
(露骨なアンケートと時間稼ぎwww)


 ジュリエッタ・ジュリスはしばし呆然としていた……

 

 あれだけ居た仲間が……精強なるアリアンロッドのMS隊が、片手間の如く粉砕され瞬く間に壊滅しているのだから……

 

『……コレは、何かの間違いです……

 ギャラルホルンは、世界の秩序を守る為の存在なのですから……』

 

 だが、目の前に広がるこの光景が「貴様は愚かで無力で哀れな存在だ」とばかりに否定してくる

 最早ジュリエッタの周辺には、生き残っているMSなど皆無だった……

 この光景を生み出した元凶……巨山の如き化物(デビルガンダム)が此方を睨む

 

 暫くの静寂……そして、触手が蠢き始めてジュリエッタの機体を捕らえようと襲い来る

 

『クッ……私も、ヤキが回りましたか……?!』

 

 そんな事を呟きながらジュリエッタは触手を回避し続ける……暫くは優勢だったが、単調なパターンでは捕らえられないと感じたのか、触手は搦め手やフェイントを織り交ぜた複雑な動きを始めた

 恐らく、捕らえられたら最後……機体ごとバラバラに引き裂かれ生きては帰れない

 

 全身に冷や汗が滲む、操縦桿を握る手が震える、恐怖で足が引き吊りそうになる、最早表情は絶望の真っ只中……しかし、ジュリアは困難な回避機動をミリ単位の精度を維持しながら成功させている

 死を目前に控えながらも、ジュリエッタの操縦技術は向上を続けていた……孤軍奮闘するジュリエッタ……此処から姿は確認できないが、付近に留まって居るであろう鉄華団へと救援を求める事を一瞬だけ考える……その一瞬の思考で生じたほんの僅かな隙を、情け容赦ない化け物の触手は見逃さなかった

 

『……ック、万事休す……ですが、タダで殺られるとは思わ……えっ?』

 

 外部スピーカーから響くジュリエッタの声が、理解不能の状況に遮られる……目の前の悪魔は、機体ごと私を破壊するのではなく、自らに取り込もうと小さな触手を大量に蠢かせ、コクピットらしき部分を解放していた……

 そこに見えるのは、生理的な嫌悪感と根元的な恐怖、そしてR-18的の様なナニかをごちゃ混ぜにしながら蠢く接続部と……そこから生えた、全身を触手に蝕まれた死体だった

 

 この時、ジュリエッタは濃密過ぎる程の死の恐怖を感じてしまう……死体は既にボロ雑巾という表現に等しく、内部は最早人としての全てを喰らい尽くされ、最早皮だけしか残ってない、粘液や体液にも似た何かに蹂躙された裸体……見るも無惨な姿にジュリエッタは嗚咽しながら眼を反らす、辛うじて少年だと判断できるその死体を触手が吐き出し、目の前にある新たな生体ユニット……ジュリエッタを認識したのか、数本の触手がジュリアのカバーを瞬く間に破壊してコクピットの内部を暴く

 

「……まさか、今度は私を……?!」

 

 気付いた所でどうしようもなく、目の前に迫るコアの触手……死と陵辱の限りを湛えながら、あと数十センチまで触手が迫った瞬間……ジュリエッタは僅かに熱を感じる爆風を肌に感じ、同時に機体ごと強烈に揺さぶられるのであった

 

──────────

 

「……本当にこんなんでセファーが助かるのかよ?」

 

 最初に最もな意見を口にしたのは副団長のユージン……一部の団員からも不安の声が上がる中、着々と堕天使復活の準備が整えられている

 ランドマン・ロディ2体に支えられ、辛うじて立っている堕天使……だがその目には僅かな光しかなく、サイコフレームの輝きは完全に失われていた

 

「……コレは一種の賭けだ……堕天使が動ける様になれば、ギャラルホルンも含めての3面攻勢に出れる。

 奴の出方が分からねぇのは仕方がないが、俺等の打てる手は少ない……今打てる手は全て出す、もう後悔はしたくないからな」

 

 オルガは今できる最善を必死に為そうとアレコレ手を尽くしていた……

 

 これまでの彼は、目の前で消えていった仲間の思いを受け継ぐ……それだけしか出来なかった、それしか出来ないと考えていた。

 だが、今は違う……

 

 

 ……出来ない事は出来ないで当然なんです、でもそれで諦める人は()()()()()としか考えられません。

 でも……()()()()と、思った人は違うんです。

 人が「為したい」と思い「為すべく」努力を重ね、「思いを捨てない」事を貫いて……初めて「為せる」んです。

 

 ……奇跡は待つものじゃない、()()()()()なんですよ? 

 

 セファーは入団して間もない頃……過去の事を未だに悔やんでいたオルガに説教をした、その時にセファーが言った言葉だ。

 

 オルガはそれからずっと、自分の出来る事を必死に探し始めた……自分は鉄華団の団長……数こそ名のある連中よりずっと少ないが、信頼に足る同年代や生きの良い年下の団員達に恵まれ……頼れる兄貴分や手を差し伸べてくれる大人達……実力を認められ、懇意にしてくれる者達がいる……その中で、己が何をすれば良いのか……一時期は「火星の王」等という朧気な未来を夢見ていたが、セファーの離脱という転機によって目が覚めた。

 

 セファーはいつも仕事で頭が一杯一杯だったオルガを気遣っていた……陰ながら仕事を(勝手に)肩代わりし、時にはアレコレと口を挟み、オーバーワークで不備に気付かなかった重要書類を裏でこっそり手直したり、徹夜する時は必ず一緒に寝泊まりもしていた。

 

「俺はバカだな……どうしようもない馬鹿だ……」

 

 結成間もない頃から団員たち……特にオルガを心配し、誰よりも現実的に生き抜く為の道を探り続けていたビスケット・グリフォン……オルガは彼とセファーが何処か似ていると感じていた。

 粋がって夢を見ていたあの頃、突然に訪れたビスケットとの死別……それ以降、団員たちの結束は高まったが、根本的な問題は残り続けていた……だが、そこに()使()が舞い降りる。

 

 セファーは団長の義妹という肩書きを私欲ではなく、団員達の能力向上に全て傾けた……年少組にはクーデリアと協力して基礎知識を……年長組や隊長格には年齢相応の社交辞令や一般教養、更に団長の外回りに漏れなく付き添い、事のイロハやタブーを教えつつ、時には相手側の不備を見抜いてはこれ見よがしに弱点を突く事もあった。

 元リアル社会人……公然と趣味(ガンダム)を語る時は変人扱いされていたが、()()()()()()()()()()()()()()()()有能だった前世は「伊達」じゃない。

 

「……オルガ、準備は整ったぞ」

 

 雪之丞が報告に来る……待っていたとばかりにスーツの上着を脱いで車へと放り込み、サイドミラーに引っ掻けていた団章入りの上着に腕を通す

 

「……よし、すぐに実行だ」

(待ってろよ、セファー……今度は俺等がお前を助ける番だ!)

 

 次は自分達が義妹を助ける番……その並々ならぬ決意を瞳に宿して、オルガは堕天使を見上げた

 

──────────

 

 突然襲った衝撃にジュリエッタはコクピットの奥へと押し込まれ、間髪いれず機体ごと触手から強引に引き剥がされた……剥がされたカバーのせいで、風がコクピットの中まで入り込む

 衝撃と重力でコクピットのシートに叩き付けられ、少々混乱気味のジュリエッタだったが、頬を撫でる風に堪え忍んでいた眼を開く……そこには、破壊されたコクピットの開口部から覗き込む紫の機体……キマリスヴィダールの顔があった

 

 先ほどの衝撃は、キマリスヴィダールの隠し武装「ダインスレイヴ」によってデビルガンダムのコクピットを横から狙撃した際のモノだった……普通ならば正気を疑う方法だが、ガエリオには阿頼耶識type-E(アインのサポート)がある……だから寸分の狂い無くジュリエッタに余波を与えない弾道で、敵のコクピット部分を見事に撃ち抜いた

 

『無事かジュリエッタ!?』

 

「……遅すぎます、よくもまぁこんな……大遅刻をしてくれましたね……お陰で、部隊は全滅……です……それ処か、私も……」

 

『良いんだ、それ以上……何も言わなくて良い……』

 

 助け出された安堵からか……それまで堪えていた死の恐怖や、あの直後に行われる筈だった陵辱の如き蹂躙を想像してしまい、ジュリエッタは声を嗚咽に震わせてしまう……だが、ガエリオはジュリエッタの言葉を遮り、それ以上考えるな、もう大丈夫だから……と優しく止めたのだった

 ジュリエッタの顔は直接見えないが、キマリスのシートに座るガエリオは、啜り泣く少女が味わった死の恐怖を想像して顔を歪めながら、足元に蠢く巨大な悪魔を見下ろす……

 

「ギャラルホルンの同胞達を手に掛け、なおも人を恐怖に陥れんとするMAよ!! 

 ……貴様は必ず、欠片も残さぬ様に破壊し尽くしてやる!!」

 

 マクギリスの時よりも凄みのある形相でそう言い捨てながら、ガエリオはキマリスにジュリアを抱えさせたままその場を離れるのであった




この後、私が想像したのはジュリエッタがガエリオに対して乙女ムーヴかます……精神崩壊してないかな?
この2人をイチャラブに持っていく方法間違った希ガス……

セファーの前世は「ハケンの品格」の主人公レベルで有能ですが……状況が求めると感じたら公然とガンダムムーヴ(名台詞発言を添えた有能行動)をやるので、社内では「有能だが変人」という扱い……それ故30代後半で未だに独身、僅かにあった結婚願望も噂(ガンダムムーヴ)のせいで完膚なきまでに打ち崩され、ますます趣味にのめり飲む……という悲しいモノでした。

ハケンの品格についてはドラマ見るのをお勧めします、なかなか面白いですよ。


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第27話 復活の堕天使(2)

前回デビルガンダムに取り込まれそうになったジュリエッタ嬢。
ガエリオ君に助け出され、心境に変化があった模様……

一方、堕天使の再起動は……?


 デビルガンダムに取り込まれる寸前、阿頼耶識を活用した強引な力業で救出されたジュリエッタ……機体ごとガエリオのキマリスによって輸送されていたが、デビルガンダム迎撃に全部隊を投入したという情報をラスタルから受け、合流すべく予定地点にて待機していた……

 

 風に当たるジュリエッタ……ガエリオもハッチを開くが、ジュリエッタが必死に涙の跡を隠そうとしているのがモニターに映り、しばらくコクピットから出ずに居る事にした

 ……しばらくしてジュリエッタが口を開く

 

『……私は今まで、自分を騙して居たのでしょうか……』

 

 ジュリエッタの思わぬ言葉に、神妙な面持ちで次の言葉を待つガエリオ

 状況的には独白に近いが、ジュリエッタもガエリオに聞こえているのを承知の上で話している様だった……

 

『……ラスタル様への恩義の為に、力を尽くしてきたつもりですが……あの時、私は自分の死を前にして……足がすくんでしまった……ラスタル様の為なら、死んでも良いと思って居たのに……』

 

「……誰でも死ぬのは怖いさ……如何に心を鍛えても、死の恐怖には抗えない……俺もそうだったからな」

 

「……さすがに、経験者は違いますね……」

 

 ガエリオも、マクギリスから死を突き付けられた瞬間……己の存在意義を自問自答していた

 それは誰しもが必然の心境……走馬灯が走ると言うのに似ているが、そこで自らの人生に悔いが無い、と言えるのは恐らくほんの一部しか居ないだろう……ジュリエッタはそれまで、堕天使に勝てないという状況から、ラスタル様への恩義を返すという今まで自らの行いに、僅かな疑問を持ってしまった……

 そこに死の恐怖が飛び込み、自分の行いは本当にラスタル様の為になったのだろうか? と、変な発想をしてしまった……

 

 そんな事は彼に聞けば良いと一瞬思ったガエリオだが、すぐにその考えを否定した事に今度は自分が驚く……ガエリオもマクギリスとの問答で「人を疑わないのは欠点だ」と突き付けられていた……マクギリスを疑わなかったから、彼の真意を図れず、彼の被っていた仮面に踊らされ、親友カルタを失い、自らも瀕死となった……その苦い経験は、確実にガエリオの意識を改革していた

 

「……あの時、私は今までの自分を疑ってしまった……そんな事、ラスタル様にはあり得ないのに……」

 

 人の真意など、ニュータイプにでもならなければ分からない……誰かがそう言っていた気がする……

 

──────────

 

「……俺は信じてるからな、アイツの帰りを……」

 

 そう言ってオルガは団員達を焚き付け、堕天使の再起動計画を説明する……

 堕天使に組み込まれたサイコフレーム……人が持つ感情や精神の変化に反応し、時には超常現象や奇跡とも呼べる力を発揮する人類科学の産物……人の手で産み出された、人の手に余る力を持つモノ……だが今は、奇跡でも良いから起きて欲しかった……家族を、義妹を取り戻したかった……

 

「やるぞお前ら……やり遂げて、チビ嬢を見返してやる!」

 

「普段からあの人には世話になりっぱなしだからな……ここらで恩返しってのも悪かぁないだろ!」

 

「俺らの心の癒やしを取り戻せ!!」

 

「団長とお嬢がいなきゃ、俺らの人生狂ってたんだ……俺は1人でもやるぜ!!」

 

「……! お前らなぁ……」

 

 ごく一部は性癖まがいの発言まで混ざっていたものの、ほぼ全員が口々に賛成の意を示していた……それを聞き、オルガは心の中でセファーと賛同してくれた団員全員に何度も礼を言った

 

 

 ランドマン・ロディに支えられ、力なく佇むだけの堕天使……その周囲を囲むように仮組みされた足場に団員たちが登り、入れ代わり立ち代わりセファーへの思いの丈を、露出したサイコフレームに触れながらぶつけていく……さながらお礼参りの様な光景を眺めながら、三日月はオルガの隣に歩いてきた

 

「……セファー、気付いてくれると良いね……」

 

「あぁ、気付いてくれるさ……なんたって俺らの妹分だからな」

 

 傍から見れば荒唐無稽……正気を疑うだろう作戦、最初は三日月の真剣な顔に根負けした形だった……だが、自分が焚き付けたとはいえ、団員たちにこれだけ好かれている義妹の手腕と性格に、オルガは羨望と感謝の思いで一杯だ

 普通なら淡い期待……だが自分自身、失敗など何故か微塵も感じていない……そして彼らの思いに応えるかの様に……

 

 ……サイコフレームの力は「人の思い」を反映するのだった

 

──────────

 

 正直言って、自分が悔しい……

 

 自分で墓穴を掘るとか、悔しくて……恥ずかしくて……穴があったら入りたい……いや、もう入ってるんだっけ……主に恥ずかしさで

 脳量子波の相互遮断……その反動で悲しいかな私の意識は、堕天使の制御……そしてあろう事か自分の肉体とのリンクも途切れてしまっている……唯一途切れていないのは、サイコフレームから一方的に押し付けられている堕天使の状況を示す情報だけだ

 

(……これからは、もう少しちゃんとした精神的防御方法を確立しないとなぁ……)

 

 先程やらかした精神世界でのドンパチで判明した、セファーの脳内にあったMAからのハッキング元……これは恐らく、私が憑依する前から仕込まれていたのであろうバックドア

 悪酔いしていた私はドンパチついでに逆ハックをかまし、ノリで一緒に連れて来ていたデストロイガンダム対して「やっちゃえバーサーカー♪」と命令していた……

 

 ……いやぁ、アノ光景は優越感マジで浸れるわ……(恍惚)

 

 っと、その辺はもう置いとこう……今思い返すと超恥ずいわ

 ……元・アラフォーだからねゴフッ(吐血)

 

 それじゃあ結論、ドンパチ大戦と逆ハックの効果もあって私は乗っ取り回避+諸悪の根源を完膚なきまでに破壊したのでもう(永久に)大丈夫です♪ 

 ちなみに残されたクズ情報から、幾つか興味を惹かれるログなんかを拾えたので後ほど精査するとして……何だろう……ずっと誰かに呼ばれてる気がする……

 

 ……それも1人じゃない、何人もの人たちの視線……自分自身の精神世界なのに何を馬鹿なとか思っちゃったけど、間違いなく他人の視線だ

 

(これって、サイコフレームの光……?)

 

 上から降り注ぐ柔らかな光……暖かな光の粒子、同じく意思を繋げる力であるGN粒子とは似てるものの……この感覚ははっきりと違うと思えた

 GN粒子の伝わり方はもっとダイレクトで濃密……元が情報伝達の発展形として「意識を伝達する原初粒子」と冠されたものだ、人の意識を人種の違いなく伝える為に、人の意思は言語の違いを超え、それぞれ母国語の声として感じられる……あと、全裸空間も(赤面)

 

 ……だが、サイコフレームの光は例えるなら触覚だ

 誰かを後押ししたいと思っていれば、それは相手の背中に暖かさを感じさせ……誰か守りたいと思えば、それは相手を守る盾となる……人の意思を直接、現象のように表現するのがサイコフレームだ……私の所感ではあるけど。

 

(この感じは……鉄華団のみんなだ……)

 

 私の目に思わず涙が溢れた……あれからずっと離れ離れで、時々一方的に私が外から覗き込んで、みんなの状況を知るだけだった……あの時からずっとその状態が続いている……あの別れからずっと……

 それが自ら選んだ道……鉄華団のみんなを幸せにする為に選んだ、私ができる最善の道だと選んだはずなのに……私の涙は止まらない

 

「……なんだ、私ってばやっぱりダメダメじゃん……

 皆の為に自分で選んだってのに……今更ホームシックだなんて……」

 

 ココ最近、随分と精神的に若返ってる気がする……元アラフォーが今じゃ見た目相応の少女の様な弱さを見せている……これは肉体に引っ張られていると言うのだろうか、今更悪いとは思わないが……この感情はちょっと辛いかも

 でも、そんな暖かさに私の心が何かを感じた

 

(兄さん達、必死で堕天使に話し掛けている……訳も分んないのに答えを出してるとか兄さん達の方が十分チートじゃないかなぁ……)

 

 ……そう、これだけの後押しがあるのに私は何をやっているのだろうか

 

 私の目的は何だ? 

 私が今やるべき事は何だ? 

 私は何を成す為に今まで生きてきた? 

 

 そんな事、最初から決まっている……!

 

「……鉄華団のみんなを、生き延びさせる……」

 

 そう、原作……ガンダム史上、最も報われない結末を書き換える為

 そしてそのフラグはまだ、へし折られてない……奴が、デビルガンダムが居るからだ

 

 私の知らない過去は、とことん邪魔をしてくれる……

 出来るだけ事を穏便に運びたかったのに……だったらもう手加減などしない

 

『私の全部で、アイツを葬る……!』

 

 その為にも、堕天使の存在は必要だ……

 サイコフレームから伝わる心の光……今なら、私は何でも出来そうな気がしている

 

『私は、セファー・イツカ……鉄華団団長、オルガ・イツカの義妹よ!』

 

 全身全霊の叫びと共に、私はサイコフレームの光が導くまま駆け出す……目指すは、私の原点……光が教えてくれた、この先に……私の原点があると

 

 

 前方にうっすらと見えたのは、人型のシルエット……いや、前方で閉じられた巨大な翼が見える

 見慣れた姿(堕天使)が自分を待つ様子に、思わずニヤけた

 堕天使に近寄りながら、走る勢いもそのままにジャンプ……思い描いた動線の通りに私は堕天使のコクピットへと導かれる

 

 シートに収まった私は、すぐさま両脇の操縦桿を掴んで目を閉じた……

 今もずっと、私を呼ぶ声は途切れない……その一つ一つが、私に力をくれる気がしていた

 

 垂れていた頭を振り上げると、一瞬の浮遊感……いや、落ちているのだ

 破壊衝動の残留が起こした、最後の悪あがき……

 

 でも残念、私はもう堕天使(自分)を取り戻している

 

「……待っててね、みんな!」

 

 コンソールを操作し、堕天使のフリーズを解く……力強くカメラアイに光が戻り、閉じられていた翼がゆっくりと開く……装甲の隙間から覗くサイコフレームには緑色の光が灯り、強力なサイコ・フィールドが機体を覆い、機体に掛かる枷を無くす……

 

 ……全ての枷から解き放たれた堕天使は、導かれるままに飛び立つのだった




すみませんが、感動のシーンは次回までお預けです。

破壊衝動の最後の悪あがき……しかし
堕天使という力と、生きる目的を取り戻したセファーには、最早怖いモノなど何もない!

ちなみに堕天使の再起動シーンは
新機動戦記ガンダムW Endless Waltzで、太陽方面から射出されたウイングゼロにヒイロが単独でランデブーし、先行して地球へ向かう時の起動シーンをイメージしてみました


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第28話 復活の堕天使(3)

精神世界でのひと悶着も済ませ、いよいよ盛り上がってきましたぁ!(錯乱)



「……オイオイ、何て奴だよ……」

 

「……MSを……取り込んでやがる!?」

 

 2人の目に映る異形が、あちこちに転がったMSの残骸を吸収しながらその姿を徐々に変えていく……

 

 最初に見た姿は、下半身がまるで植物の様に大地に根を張っているという感じだった

 だがそれは、300年に渡る経年劣化によりあちこちが破損または再生しきれず、奇しくも原作での大気圏突入によって破損した状態とほぼ同じであるが、セファー以外には知る由もない……

 そして今、目の前で繰り広げられている光景は……初めて見る者にとって、正に「進化」とも言えるものだった

 

 大地に張った根の様な無数の触手を体内に引き戻し、何本も束ね、その形を変化させ、太く力強い脚を形成……その数5対、10本の多脚となっていく。

 更に上半身に一番近い脚は他に比べ更に巨大化し、さながら甲殻類のハサミの様な形へと変化……装甲の隙間から覗いていた体内のパーツ部分もしっかりとした黒い装甲に覆われ、いよいよ本格的に移動も可能な姿へと形態変化をしていった

 その形状は、甲虫の様な下半身にガンダム様相の上半身が乗った、正に原作初期のデビルガンダムとほぼ同じ姿である……しかし、原作と違いそのサイズは半端なく巨大化し、上半身の片腕だけでも、MSをまるで子供のオモチャの様に鷲掴みできる程であった

 唯一の救いは、大量の触手を足として形態変化させた為、その数を相当数減らしている事か。

 

 凄まじい形態変化の一部始終を遠巻きに見ていた昭弘とダンテ……ライドは形態変化が始まった時点で報告に行かせたのでこの有り様を見てはいないが、異常事態という事は報告するよう言い聞かせてある……だが、実際は想定の遥か斜め上を急角度で突いていた

 一通りの形態変化を終えたデビルガンダム……遠巻きに様子を伺っていた昭弘達を敵と認識したのか、背中の突起にエネルギーを集束させていく……その光景に野生の勘が働いた2人は、慌てて機体に回避行動を取らせるのだった

 

──────────

 

 デビルガンダムが形態変化により、移動可能な状態へと進化した一方……堕天使の方にも変化があった……僅かながら光っていた堕天使のカメラアイに力強さが戻った直後、サイコフレームが通常の青色ではなく()()に光り、発生したサイコ・フィールドによって仮組みの足場が突然崩壊したのだが、巻き込まれた団員たちと足場だった資材は重力を無視して非常にゆっくりと下降する感じで浮遊しており……全てが無事に地上へ降ろされる中逆に堕天使だけは空中へと浮き上がり、力なく垂れ下がっていた翼を大きく広げて復活をアピール……足場の崩壊は想定外だったが、サイコ・フィールドの力で団員たちに全く怪我もなく、堕天使ザドキエルの再起動作戦は完全に成功と言えた

 

「いよっしゃぁぁぁ!!」

 

「待ってたぜお嬢ぉ!!」

 

「これで勝ったも同然じゃあ!!」

 

 団員たちが口々に成功を喜び合う中、オルガと三日月は黙って腕をぶつけ合う……それは原作で意味ありげに描写された「2人だけの合言葉」のようなものだった

 

──────────

 

 そして……堕天使(ザドキエル)の復活は当然、此方にも波及する

 

「セファーちゃん……」

 

 外傷がないため治療ポッドは使えず、マクギリスは身体が満足に動ける様になるのを待って、アルミリアに毛布を持って来させ、部屋の隅にあった低いテーブルへとセファーの身体を寝かせていた

 

 もう何度目か分からない、セファーの名前をアルミリアが呟く……

 

 彼女にとっては、同年代の友達は家庭の事情(ボードウィン家という泊のせい)でろくに出来ず、心の拠り所は少なかった……実兄であるガエリオは婚約者マクギリスの部下でもある為、仕事の際はほぼ一緒に居なくなり、対面や体裁を気にする父親は彼女に対してあまり優しくない……

 

 そんな中、マクギリスに紹介されたセファーは彼女にとって初めての同年代だった……初顔合わせの時は少々ショッキング過ぎたが、以降も時間を見つけてはアルミリアへ会いに来たし「お友達になろうよ」とも言ってくれた……セブンスターズの一角を担い、権威に固執する父の振る舞いに疲れ果ていたアルミリアにとって、セファーの存在は掛け替えのないものなった

 

 そんな少女の、突然の事態……

 

「私はまだ、貴女に何も返せてないよぉ……」

 

 動かない友達の身体を前に、徐々に思い知らされる喪失感……今ではマクギリスも、セファーには少なくない恩義は感じていた……人伝いではあるものの、アルミリアとの関係は良好であると評され……アルミリア自身からも、最終決戦前に交わした2人の約束を語られたからであった

 

「……キミは、こんな事で終わる存在ではない筈だ……世界を滅ぼす天使に反逆した存在(キミはかの堕天使)なのだろう?

 ならば、キミの存在はヒトという矮小な枠には収まらない……人智を超えたその能力で、この苦難をも乗り越えて行けるだろう?」

 

 マクギリスの言葉が、静かな小部屋に響く……彼の手に握られていたのは、セファーがマクギリスを起こす際に使った資材そのままのサイコフレーム……その試料が、徐々に淡い光を放ち始める

 

「……っ?!」

 

「……! マッキー?」

 

 マクギリスの握っていたサイコフレームの試料が強烈ながら暖かく優しい光に包まれ、弾かれるように手から飛び出して空中を飛び回り始める

 緑色の粒子のような軌跡を描きながら、サイコフレームはセファーの周辺を軌跡で囲い、その光の粒子を降り注がせた……しばらくの間、不思議なその光景に目を奪われる2人

 

 そして気付けば、横たわった少女から聞こえるか細い声……

 

「……め……んね……泣いちゃって……んじゃない……?」

 

 徐々に声量も大きくなり、はっきりと聞こえてくる少女の声

 

「……大丈夫だよ……私は、堕天使だから……こんな事じゃ死なないから……もう大丈夫……だよ、アルミリアちゃん」

 

 時間にして半日ほどしか経っていないものの、凄まじい精神的疲労感が見て取れる程の弱々しい動きで起き上がる銀髪の少女……だがその瞳は力強く、虹彩は虹色に光っていた

 

 セファーが起き上がるのを見届けたかのように、手元に落ちてくるサイコフレーム……その音を皮切りにアルミリアはセファーの側で泣き崩れ、それを抱き締めるように迎え入れたセファーはマクギリスを見やる

 

「……随分とお寝坊さんだったね、堕天使くん」

 

「……そっちこそ、まだ病み上がりなんでしょ? 無茶しないでよ」

 

 おくびにも出すまいと2人はアルミリアの心配を他所に、開口一番で皮肉を言い合うセファーとマクギリス……この皮肉、実はお互いの健闘を称え合っていたのであった

 バエルは失ったものの、本当に欲しかった心の拠り所を見付けられたマクギリス……時間が経てば、いずれアルミリアの兄ガエリオとも本来の関係を築いていけるだろう

 

「あと……もう少しで、私の願いも叶えられる……でも、それには貴男の協力が要るわ」

 

 セファーの声に、皮肉の笑みから真剣な表彰へと一瞬で切り替わるマクギリス

 

「良いだろう……ガエリオとは少し違うが、私も一度死んだ身だ……彼女(アルミリア)の幸せの為になるなら、喜んで引き受けようじゃないか」

 

(……ヤヴァイ、もしかしてロリコンに目覚めさせちゃったかな……?)

 

 口が裂けても言えない言葉を必死に飲み込みながら、怪しい企みを始めた様な笑みを交わす2人……アルミリアの泣き声が響く中、火星の命運を左右する最後の悪巧み(?)が動き出す……

 

──────────

 

 その頃、ジュリエッタとガエリオはアリアンロッドの本隊と合流し、事の次第を余す所なく司令であるラスタル・エリオンへと伝えていた

 

『……謎の巨大モビルアーマーらしき存在と、堕天使の墜落……そして調査隊も全滅、か……2人とも済まなかったな、イレギュラーな事態がこれ程まで長続きするとは……私の完全な想定違いだったよ』

 

 ラスタルの謝罪に、ジュリエッタとガエリオの2人は表情こそ変えなかったものの心底驚いていた

 ……つい先程まで2人はラスタルの事を疑おうとしていたのだから

 

「ラスタル、アレは生半可な機体では戦力にすらならない……俺のキマリスでも、単体では力不足に成りかねん」

 

 現状ギャラルホルンの最高戦力とも言えるガエリオをしてこう言わせるデビルガンダム……時間が経つに連れて長年の経年劣化から復帰している中、それを知ってか知らずか、ラスタルも策を動かしていた

 

『万が一に備えて、軌道上からダインズレイヴによる定点砲撃を行える様に各方面と折衝中だ……準備には今少し時間を要するが、それまで耐えられないか?』

 

 アリアンロッドの全戦力の大半を地上へと降ろしている為、ラスタルは何とかなるだろうと踏んでいた……が、その願いはガエリオの次の言葉で一蹴される

 

「……ガンダム・フレームなら辛うじて持ち堪えられるだろうが、さすがに俺だけでは……」

 

 言葉を紡ぎながらガエリオの視線は破損したパーツを交換中のジュリアを見る少女の姿を見ていた……ラスタルもその言葉と視線の先を理解して唸りだす

 

『……そういえば、噂の鉄華団……とやらも近くに来ているのだったな?』

 

「あぁ、付近に自分達が抱える鉱山があると聞いている……そちらにも被害が及ぶなら、交戦も辞さないだろうな」

 

 ラスタルはセファーとの接見以来、鉄華団とセファーの関係を洗い直した……が、終ぞ確たる証拠は見付けられなかった

 しかし、ここまで何もない事は逆に何かがある……それを気付かれまいと、綺麗に痕跡を消しているのではないかと疑っていた……事実、鉄華団と堕天使の関係は驚くほど何もなかった……だがそれは綺麗すぎるのだ

 確証を得れなかったラスタルだが、その疑いはどんどん深まっていく……もし、鉄華団と共闘する堕天使を見付けられれば、それを証拠に彼らを抑える事も可能だろう

 

 頭の中で算段を付けたラスタルは、ガエリオに作戦を持ち掛けるのだった

 

『……300年前のモビルアーマー、ハシュマルとかいう天使を屠った噂の鉄華団……彼らの力を、私もこの目で確かめたくなったな』

 

 火星の命運を決める戦い……混乱を極めるこの状況に、ラスタルは一石を投じるのであった




堕天使復活、か~ら~の~
デビルガンダム、進化ぁぁぁぁぁ!(○○モン風)

そして寝起きのセファーと悪巧みするマクギリスに、混乱を助長するであろうラスタルの作戦……

あぁ……まだまだ終わりそうにないわコレ。
どうなる次回?!

筆が……「止まるんじゃねぇぞ」って囁いて来るんです……かなり怖い。
……めっちゃ混沌してますが、感想お待ちしてます。(白目)


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第29話 塗り重ねられた面倒事は実に厄介である……

物語の確信……存在しないはずの存在(デビルガンダム)……
……そして、セファーが封印されていた理由。

全ての答えは……この戦いの先に在るのだろうか……


 堕天使ザドキエル……

 

 セファー・イツカが造り上げた原典に無い存在(イレギュラーのMS)

 主天使の長、正義と慈悲(じひ)……そして()()を司る天使

 

 PD世界における2つ目の特異点……では、残るもう1つは……?

 

──────────

 

「……どういう事だ?」

 

『言葉通りの意味だ、それ以上でも以下でもない……我々アリアンロッド艦隊の作戦に君達「鉄華団」も参加して貰いたいのだよ。

 私はギャラルホルンでも、少しばかり良い立場だがね……君達はかつて厄災戦で猛威を振るったとされるMAを、単機で仕留める程の戦力を保有する噂に名高い民間組織……是非とも協力を求めたい、と思うのは当然じゃないかね?』

 

「……そりゃ確かに、協力して貰いたいとは考えるさ。

 だがそれは、俺らがアンタ等の側から見てた場合に考える事だ……今の俺達は、逆に要請されてる側なんだぜ? 同情はするが今の俺らにはアンタ等に協力する事で得られるメリットが……」

 

『地球圏への輸送航路の安全確約……我々ギャラルホルンの管理する正式な交易ルートも、併せて利用できる様に計らおう』

 

 何がなんでも堕天使と鉄華団との関係を掴みたいラスタルは、己が行使できるであろう最大限の報酬を条件に提示してきた……最も、確約は出来ないのだが

 

「……なっ……!?」

 

 オルガはポーカーフェイスを貫けず、内心で動揺している……風を装いながら深慮遠望を巡らせた

 

(何だって俺らにこんな厚遇で自分達に引き入れようとする?)

 

 以前からセファーに実践現場訓練をこれでもかと積まされ、否応にも実力を磨かされたオルガ……叩き上げに耐えきった彼の眼は、最早ただの成り上がりではない

 常識破りの方法で、一流の眼を持たされているのだ

 

(……やはり、コイツは俺らと堕天使の関係を知ってる……或いは探ってるのか?)

 

 そして事前に受け取っていた断片情報、それもキナ臭い奴の多いアリアンロッド関連の情報を匿名の人物から入手していたオルガ……自身の勘はそれをセファーの優しさだと考えた

 もちろんそれは正解で、ラスタル・エリオンと相対する際の判断材料や迫られた時の回避手段として送ったものである

 

「……分かった……だが、幾つか条件がある」

 

 観念したかのようなオルガの声……もちろん演技ではあるが、この先何をやらされるか分からない為、予防線を張る為に交換条件を提示するのだった

 

 そして未来を決める……最後の戦いがいよいよ始まる

 

 

 アリアンロッドの大部隊……対デビルガンダムに向けて用意した部隊は、総勢100機近い

 対して鉄華団は3人……鉄華団の最大戦力を誇る三日月のバルバトスルプスレクスと昭弘のグシオンリベイクフルシティ、そしてシノのフラウロスだ

 オルガも参戦しようと手を挙げたが、団員全員に止められた……団長の仕事はソレではない、と

 

──────────

 

 事前にアリアンロッドの接近を予測したザドキエルは、目眩ましを兼ねてセファー本人を迎えに宇宙へと上がっていた……

 目指すは、軌道上で待つ小型シャトル……それ自体は光学迷彩被膜で隠されているが、セファーの脳量子波を辿り、況してやそこに居る本人が操るザドキエルには全く関係ない

 

 間もなくランデブーポイント……ザドキエルは普段あまり開かないコクピットカバーを展開し、虚空に漂い始める

 すると、すぐ側の空間から突然ノーマルスーツ姿の少女が現れる……光学迷彩被膜を解かないままシャトルの気密ドアが開けられたからだ

 ノーマルスーツの少女だけが、ザドキエルのコクピットへ滑り込み……カバーが閉じられる

 すると少女が現れた辺りの空間にシャトルが出現……先ほど開いた気密ドアを閉じたソレは相対速度を合わせたまま、ザドキエルと一緒に虚空を漂っていた

 

『……やはり、直に出向くのかね?』

 

 マクギリスの声が通信から響く……ノーマルスーツを脱いでシート下に収納、普段着に戻ったセファーは黙ったままシートに座っている

 並々ならぬ決意をその寡黙から感じたマクギリスは、一言だけ続けた……

 

『……堕天使(キミ)の歩む未来(明日)に幸多からん事を』

 

『セファーちゃん、また会おうね……絶対だよ?!』

 

 小さく開いていた通信ウィンドウに映る涙目のアルミリア……マクギリスの手が肩に置かれ、一瞬見上げる……そんな様子を微笑ましく思いながら、セファーは通信を終了してシャトルから離れる

 

 ツインアイに緑の光を灯し、純白の天使が虚空に羽ばたく……可動翼を前面で閉じ合わせ、大気圏突入形態を始める堕天使を、一組の男女はただ黙して見送るのだった

 

──────────

 

『全部隊、準備整いました……』

 

「……そうか、鉄華団の方は?」

 

『目標からおよそ200で待機中、偵察に出した2機が攻撃された様ですが……2機共無事に合流しています。

 作戦行動開始の時間は此方に合わせる、との事です』

 

 未だ嘗てない総数の軍勢を用いた、大規模な地上戦……厄災戦の再演とも言えそうなこの戦いに勝利するのは、果たしてどちらになるのか……そして、自身の思惑通りに事は運ぶのか……

 ラスタル・エリオンは指揮官の顔の裏で策謀を張り進める……

 

 同じ頃、鉄華団でも参加メンバー達が真剣な表情をしていた

 

「まさか……こんだけ大規模な戦いになるとは思わなかったぜ……」

 

「……だが、あの化け物を相手にするなら、これでも足りないかもな?」

 

「……何であろうと、俺達の邪魔になるのなら潰す……でないとオルガや皆に迷惑が掛かるからね」

 

「けどよ、今回ばかりは分が悪すぎねぇか?

 ……あのアリアンロッドが味方してくれるとはいえ、アイツの強さがなぁ……」

 

 偵察から戻った昭弘達は、離脱直前に撃たれた砲撃で損傷こそしなかったものの……あの瞬間を思い出す

 

 

 デビルガンダムから放たれた無数のビームは昭弘達とは全く関係のない、デビルガンダムの頭上に向かって放たれた……しかし、砲撃が止んだ直後にグシオンのセンサーは頭上からの砲撃警報を鳴らす

 どんなカラクリだよ?! と疑いたくもなるが、現実に先ほどデビルガンダムが頭上へと放っていた砲撃が昭弘とダンテの機体の上空から襲って来たのだ

 

『チクショウ! 真上に撃った弾がこっちに来るとか反則だろ!?』

 

『戻るぞダンテ! 正真正銘の化け物だな……コイツはッ!!』

 

 回避に焦るダンテの悲鳴……昭弘も驚愕するが、現実は非情……落ち着いて考察する暇など与えてはくれない

 辛うじてビームの雨を避けきり、その勢いのまま2人は離脱を図る

 デビルガンダムからの追撃は無く、昭弘達は先行して戻ったライドを追って撤退するのだった

 

──────────

 

 デビルガンダムは、静かにエネルギーを貯めていた……

 

 先程から付近を彷徨く羽虫共は、数こそ多いが自分には敵わない……だが、遠くに自分と近い波動を放つマシンがある……恐らく、それが完全復活の鍵だ……

 

 それと、近くに天敵……ガンダムの存在を感知した

 

 ……ガンダム……我が復活を阻む不倶戴天の怨敵

 我よりも小さく、しかして強い……我を打倒せしめん唯一の障害……奴等は徒党を組んで我を倒した……が、次はそうさせぬ……その為にも、奴等を模した僕を生み出し露払いをさせよう

 

 今度こそ、この世界と命を喰らい尽くし……()()()()となる為に……

 この世界で()()したデビルガンダムの目的……それは世界そのものを喰らう事だった




世界線的なメタい話はもう置いときましょう!
原作とは掛け離れた別作品として見てください……(白目)

で、デビルガンダムは相変わらず何時もの調子でパワーアップと防衛の為に大量のデスアーミー擬きを繰り出す様ですね(というかその手しか使えないんじゃ……)

でも、原作基準だと簡単に片付けられるデスアーミーですが……グレイズ基準になるとメッチャ面倒臭さ激増の予感(主に装甲のせいで)
……あ、本体も自己進化でナノラミ化してるじゃん確実に……。

……実はもう詰んでるんじゃないかなコレ?(´・ω・)


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第30話 デビル包囲網へ誘引せよ!!

『……ガッ……ガガッ……ピー』(マイクが拾った音)

♪~
……さて皆さん、いよいよあのデビルガンダムが本格的に活動を始めました。
対するは100機を超えるMSを擁するアリアンロッド艦隊と、渋々共同作戦を張る鉄華団。
宇宙からも頼もしい味方が合流してくれるようです。

ですが今のデビルガンダムには、かつて無い能力が目覚めている事に……未だ誰も気付いては居なかったのです。

それではッ!
『……ガッ……ガガッ……ピー……ガガッ』(マイクが拾った音)

失礼……コレが、終わりの始まりなるのでしょうか……


 共同作戦に先立ち、件の巨大な異形型兵器は「デビルガンダム」という呼称に統一された

 情報提供者はもちろんセファーなのだが、ラスタル・エリオンの目を眩ます為、先立って破壊されたハシュマルから引き出されたデータにあった物とした。

 もちろんラスタル・エリオンは疑ったが、突貫でセファーがデータをでっち上げてくれた為……一応、信用された。

 

 そして現在、アリアンロッド艦隊と鉄華団は、デビルガンダムに対して二面作戦を展開している

 ……作戦の流れとしてはこうだ。

 

『まずは第1~第4師団を使い、左側面を奇襲……同時に第5~8師団で挟撃を仕掛け、奴の出方を見る……そのまま抑えられれば、軌道上からダインスレイヴ隊による遠距離狙撃を行い、奴が消耗した所で包囲し、総当たりで奴を撃滅する……鉄華団には奴の前方に布陣し、敵の注意を引いて奇襲ポイントに誘導して貰いたい……無論、手段と引き際のタイミングは任せる』

 

 ……最も過酷な役回りだが、やってくれるかね?

 

 嫌味のようなイントネーションで聞こえてきそうなラスタルの要望に、オルガは渋々了承する……実はグレイズではマトモに囮すら務まらず、何度も攻撃を仕掛けるもデビルガンダムは一歩たりとも動かず敢えなく断念した経緯があった

 ラスタルは自前で囮部隊を編成し、(七星勲章も欲しくなったので)アリアンロッドだけで挑みたかったのだが、デビルガンダムの恐るべきパワーで瞬く間に殲滅されるグレイズを前に影で悔し涙を流していた……最も、オルガはこの展開を予期していたし、デビルガンダムの想定スペックはまだセファーの予測を超えてない……正に知識量の差が明暗を分けた結果だった。

 

 

『……オルガ』

 

 三日月からの通信……そろそろ時間だと言うことだろう

 いつになく真剣な三日月の表情……これから始まる戦いは、今までとは比較にならない程の激戦となる……例え堕天使やアリアンロッドが味方だろうと、被害は免れない……

 

 ……だが、このままでは恐らく火星そのものが無くなる危険すらある

 

 退くに退けぬ戦い……でも、俺らは前に進む……

 そうでなければ、今までに散った仲間に逢わせる顔が無いから……

 

「……作戦開始だ、誰も死ぬんじゃねぇぞ……!」

 

──────────

 

 足止めと陽動を任された鉄華団だが、ラスタルの指示かそれとも独断か……アリアンロッドの一部隊が付いて来た。

 

『君達はまだ若い……此処で散らすには惜しい命だ、儂らの屍で良ければ喜んで盾となろう!』

 

 その言葉に三日月達は戸惑ったが、オルガが了承し同行する事になった

 老骨の兵らしく、機体には何度も改修の跡や細かい傷が至る所にあるが、動きはさすが経験豊富なベテランである……散発的に伸ばされる触手「ガンダムヘッド」を危なげなく避け続け、隙あらば剣で反撃をお見舞いしていた。

 

 だが、その反撃は普通なら塵も積もれば……的な働きになっただろうが、コイツに対しては徒労でしかない

 老兵のグレイズの剣も、パワー自慢のグシオンリベイクのハルバードも……斬撃に対する耐性が前よりも明らかに高い……

 

 デビルガンダムは自身の持つ3大理論により、無限に進化する機体……当然グレイズをあれだけ蹂躙していて、進化しない筈はない

  装甲は既にナノラミネートアーマーと同等の強度を、動力であるエイハブ・リアクターも無しに獲得していた……

 

『クソッ、硬ぇ……ナノラミネートアーマーかよ!?』

 

『コイツは再生能力あんだろ?! この程度じゃ完全に徒労じゃねーか!』

 

『……文句あるなら止めれば?』

 

『ア"ァ?! ふざけんな!! 誰が尻尾巻いて逃げるかよ?!』

 

 付き合う老兵達には悪いが、この状況でも軽口を言い合う……コレが鉄華団の戦闘であった。

 戦闘そのものは至って緊迫した様相だが……軽口を叩きながらもお互いフォローはキッチリとこなし、自身も危なげなく避け、時には打ち合わせ済みかの様な連携を見せる……

 

 シミュレーター導入の成果は、遺憾無く発揮されていた

 

『ヌグッ、小癪な……!』

 

『オラァ! 此処まで近けりゃ……って気色悪ぃんだよ!!』

 

 老兵のグレイズを襲うガンダムヘッド……だが、老兵は肩の装甲を少し抉られるも大事には至らず、受け流して動きを鈍らせた所に、シノの砲撃が先端の頭を捉え装甲を抉る

 しかし、抉られた部分で瞬く間に再生活動が始まり、1分もせず跡形すら消え失せる……

 

 本体の……動力システムを止めなければ、延々と繰り返される……まさに徒労であった

 

『チックショー、予定地点まで……あと40!? まだ終わらねぇのかよ?!』

 

 以前よりも減ったとはいえ、間断無く遅い来るガンダムヘッドを避けながら、挟撃と軌道上からの砲撃予定地点まで本体を誘き出す……距離からすればそう遠くないものの、デビルガンダムの移動速度が遅い為に長く感じる……

 未だ脱落者が無いのが救いだが、疲れを知らない相手はその攻勢を緩めない……

 

『……ん? 上空に反応?!』

 

 昭弘のグシオンリベイクが、反応を検知してパイロットに伝える……だが、昭弘を始め鉄華団の3人には、それが何なのか判り切っていた

 

「……遅ぇぞチビ嬢!!」

 

「フン、珍しく遅刻とはな……」

 

「……何気に初めてだよね、アレと一緒に実戦するの」

 

 上空から滑る様に移動してくる反応……前面で閉じ合わせた翼を展開し、同時に右腕の獲物から刀身を伸ばして、すれ違い様に2つのガンダムヘッドの先端を斬り落とす……状況次第ではナノラミネートアーマーすら瞬断する大剣が、その紛い物の装甲(ナノラミネートアーマー)を簡単に分断、さらに追撃として左腕からビームを叩き込んで残った首の断面を爆散させた純白の機体……

 

(まだ「ただいま」とは言えないけど、戻ってきたよ……みんなの所に……セファー・イツカ、これより戦線に参加しますっ!)

 

 オレンジ色の光の粒子を散らし、2対の翼を羽ばたかせ、白の堕天使は化物に相対する……見据えた機体は忌むべき存在(デビルガンダム)、討たねば世界が終わり、何処の誰にも未来はない

 

 

 いた……居た、居た! 奴こそ生け贄……彼奴こそ鍵!

 アレさえ取り込めば、我は完全に復活できる!!

 

 喰らう、喰らう、喰らう、喰らう!!

 損失など……奴さえ手に入るならば、他などどうでも良い!!

 今こそ、アレを喰らって我は完全に復活するのだ!!

 

 

 堕天使が空を舞い、3体の悪魔が地を駆け追従する……通り道の触手は残らず、斬り飛ばされ、撃ち抜かれ、叩き潰されていく……堕天使、またはデビルガンダムの存在が、バルバトス達のリミッターを解除したのか……3機のMSは先程よりもキレのある動きと、溢れんばかりのパワーを発揮してガンダム頭の触手を跳ね退け始めた

 悪魔の名を冠する3機と、天使の名を冠する機体は駆け廻る……悪魔そのものとなった存在(デビルガンダム)を滅する為に

 

──────────

 

 まるで光に誘引される蛾の様に、デビルガンダムとガンダムヘッドは堕天使に群がっていく……だが、それを歯牙にも掛けぬという風に、堕天使は次々とガンダムヘッドを斬り飛ばし、再生しにくくなる様にビームで焼きながら乱立する触手の森の間を飛び回る

 バルバトス、グシオンリベイク、フラウロスの3機も負けじとガンダムヘッドの間を走り抜け、デビルガンダムを惹き付ける様に4機は戦場を舞い踊っていた。

 

 そしてジリジリとデビルガンダムも移動を続け……ついに予定地点までの誘導を完了する

 

『デビルガンダム……悪魔そのものとなった厄災戦の負の遺産よ、今こそ我らの正義を以て……奴を殲滅する!』

 

 ラスタル・エリオンの号令が下され、伏せていた100機近いMSの大部隊が左右からデビルガンダムの本体目掛けて砲撃を開始……砲撃音を合図に鉄華団と堕天使は触手の森から離脱、ガンダムヘッドの森は本体もろとも飽和攻撃の海に落ちた

 

『何だか呆気ないな……さすがに100対1じゃ、しょうがねーか?』

 

 シノの言葉が、砲撃の乱れ飛ぶ最中に聞こえてくる……

 昭弘と三日月は、黙って攻撃されるデビルガンダムを睨んでいた……ふと、三日月は違和感を覚える

 

『……アイツ、壊れてない……!』

 

 三日月の言葉に驚く昭弘とシノ、三日月は乱れ飛び着弾する砲撃が巻き起こす土煙の隙間に、破壊対象の存在を感じ取っていた

 バルバトス達のシステムも、肯定するかの様に機体のリアクターを唸らせ続けていた……

 

 そしてしばらく続いた砲撃も止み、立ち込めた土煙が着弾現場から消え始め……ゆっくりと晴れていく土煙の中から現れたのは、巨大なピンク色のドーム状に展開されたバリアーに護られたデビルガンダムだった




バルバトス達のリミッター解除による後遺症は、加入当初からセファーちゃんの尽力によって低リスク化しており、シノと昭弘もシミュレーターを使った訓練によって十全に扱える位上手くなりました。
……さすがシミュレーター、さすシミュ()

んで、飽和攻撃を凌いだ噂のデビルガンダム君……
ラスタルは思わず、某海賊アニメばりの驚愕顔を披露したのでしたw


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第31話 本能覚醒! 狼王の咆哮

アリアンロッドの大群から浴びせられた飽和攻撃を耐え切り、その威容を遺憾なく示す悪魔……
全員が驚愕する中、躍り出た6機のMS。

軌道上からの切り札はまだ使えない……
戦況を察知したガエリオとジュリエッタが飛び込み
奴の侵攻を絶対に阻止する……三日月たち鉄華団は奮起し
此処で奴を確実に滅ぼさなくてはならない……堕天使は覚悟を決めた。

そして再び、戦場に()()咆哮が響く……


 土煙から現れたのは、ピンク色に空間そのものを染め上げたバリアー……全身をそれで覆う事で弾丸の雨を凌ぎ切ったデビルガンダムであった

 

『まさか……Iフィー……いえ、コレはビームシールド……?!』

 

 デビルガンダムの張ったバリアーを解析したセファーは、その詳細内容に驚愕する……

 『ビームシールド』……それはミノフスキー物理学の産物である……高圧縮状態のミノフスキー粒子で「Iフィールド」を生成、そこに非実体であるビームを閉じ込める事で盾に見立て、外からの攻撃を相殺する……謂わば破損しない無敵の盾だ、破るには出力で上回るか、ビームに耐え切れる素材を利用して強引に突破するしか無い。

 しかし、その根本を成す為のミノフスキー粒子やその制御技術など、このPD世界には無い筈だ……

 

 ……デビルガンダムは厄災戦当時、僅かながら戦闘を経験していたのか?

 

 そこで得た情報と、先程取り込んだグレイズのパーツを流用し、自らのナノマシンそのものをミノフスキー粒子やIフィールドに見立てて放出、それから取り込んだグレイズのリアクターを活用して大電力を確保し、放出したナノマシンでフィールドを形成して大出力ビームを封じ込め「ビームシールド」とした……それも規模や出力がとても凄まじい、アレはもはや「ビームバリアー」だろう……

 

 だからセファーは驚愕した……ミノフスキー物理学は「宇宙世紀」の技術、それをPD世界で実現させるなど普通には無理だ……()()に入れ知恵でもされない限り。

 

 当初はアリアンロッドの飽和攻撃でガンダムヘッドを掃討し、本体を丸裸にさえ出来れば、根幹を成すコアユニットをドミニオンズ・ライザーで消滅させて完全破壊できると思っていた……経年劣化によって、それほど早く自己進化は出来ないと……だが、1つの誤算があった

 

〔……フフフ……フハハ……フハハハハッ!

 ふふふははははははッ!!〕

 

 バリアーを解き、完全にその威容を土煙から晒すデビルガンダムから……合成音声のような人の声が響く

 

 三日月達は驚愕と疑問に足を止め、セファーの全身を寒気が襲った……

 

『……貴方は、まさか……シング……博士……?!』

 

 〔ふむ、誰かと思えばその声……奴の最高傑作か?

 アハハハッ、何という天運!! 私も取り込まれていたのは少々誤算だが……お陰で無限の命を得て時を越え、君と再び出逢えたのだからコレは得したと言えよう!!〕

 

 セファーの記憶……

 というよりは過去の記録にあった超重要危険指定人物、ドゥチャン・シング。

 彼は私の存在を利用し、自らの野望を達成するべく、時の権力者や重要人物と違法な繋がりを持ち、当時から危険指定だった技術などを悪用してデビルガンダム擬きを建造した悪魔の科学者だ。

 しかし、奴は厄災戦以前に逮捕され、重い実刑が課せられ服役中……厄災戦が起きた事で死亡したと記録されていた筈だが……

 

 まさかこのデビルガンダムに取り込まれ、生き延びていたとは……

 

〔フフフ……奴の、アグニカ・カイエルの行動には些か肝を冷やしたが……誤算と言ってもこんなサプライズがあるのなら、棄てたものでもないなぁ?〕

 

 声を認識した私の頭に、厄災戦以前の記憶……彼とのやり取りがいくつも浮かぶ……

 

 ああ、そういう事か……私は今まで、コイツの良い様に踊らされていた……私の過去も、未来も……今の私(転生者)として生きてきた全ても、奴のシナリオ通りだったのか……

 

 過去から積み重ねられた記憶、この身体が覚えている最悪の絶望感……動揺した私の心を抉るに、ソレは十分過ぎた……

 サイコフレームの光が急速に消え失せ、半ば墜落するように降り立つ堕天使

 

『……セファー?!』

『チビ嬢?! 何やってんだ! 逃げろぉ!!』

 

 ガンダムヘッドの1つが、身動き1つ取れない無防備な堕天使へと迫る……その数秒後は、誰もが終わりの始まりだと疑わない瞬間だ……

 

 ……だが、その時は永遠に来なかった。

 

『……おい、お前……』

 

 堕天使の前に立ち、片腕でガンダムヘッドを押さえ込む機体……三日月のバルバトスだ

 コクピット内で、三日月はデビルガンダムを睨み付ける……その眼は静かな怒りに燃えていた

 

「お前のせいで、セファーが泣いてるだろ……!」

 

 ただならぬ雰囲気の中、出力を上げていくエイハブ・リアクターの駆動音が響く……バルバトスルプスレクス、狼の王……その機体のツインアイが深紅に輝き始め、押し留めていたガンダムヘッドを地面に叩き付けた

 

「セファーを泣かせたお前を……俺は、絶対許さない……!」

 

 ヴォォォォォォンッ!! 

 

 咆哮一声……凄まじい威圧感と共にバルバトスが発した()()はまさに()()()()だった

 そして深紅の閃光で尾を引きながら、ゆらりとバルバトスの機体が揺れる……次の瞬間……

 

 ドシュッ……ガシャァン!

 

 音のした直後……バルバトスの機体はデビルガンダムの後方まで移動し終えており、デビルガンダム本体の左腕が肩ごと吹き飛んで、数メートルほど離れた地面に落着していた。




……三日月、キレる。

そりゃあ大事な妹分ですしね……嫁(予定)のアトラちゃんとも仲良いから。
そもそもミカ兄は、身内同然といえる相手が傷付けられたなら絶対キレる(確信)

ドゥチャン・シング博士とセファーは、言わば不倶戴天の仇敵同士。
正確にはセファーを産み出した博士と……ですが。

天才的と評されながらも狡猾で残忍。
私の様に……とか、世界に選ばれた天才が世界を統べるべき、という選民思想を持ち、セファーが産み出された時から、そのデータを不正入手し、自分の野望の為に使い潰す前提でデビルガンダムまで建造したトンでもない奴です……アグニカに嘘吹き込んだのも多分コイツでしょうね。

……ええ、あらゆる世界のヤバい奴よりも上だと思います。
ココでは書ききれませんが、非人道的な実験を嬉々としてやる奴ですし推すし……

さて、次は誰がどうなるかな?


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第31話(裏)300年前の断片

大事なプロットを喪失し

私自身も父を失い

それでも世界は回る中チマチマと書き上げた31話(裏)!


 いやはや、私は何という事をしてしまったのだろうな……

 

 そう呟いたのは、私の前に立つ如何にも科学者風な出で立ちの男性だ。

 ゆっくりと意識が覚醒していく中、私の()()()()プログラムが私を定義する……

 

 ヒトの感情すらも理解できる人工知能を持つ生体コンピュータ、その最終形態たる存在の雛型……それが私のコンセプトだ。

 私を開発したこの男性……如何にも中年で冴えない印象だが、その頭脳が産み出した数々の理論と技術は、世界に無くてはならないモノが多い。

 

 プログラムは正常に作動し、私は自己を確認し終える……私は彼に造られた存在。

 彼が創造主、私はその被造物……だが目の前の彼……創造主は、私と自分の関係性をこう説いた。

 

 彼と私は「親と子である」……と。

 

『……親子、ですか……?』

 

 ……ああ、私の遺伝子を用いて君の身体は造られている……人間は、一定の関係性で結ばれた対象を家族と呼び、多様な関係を構築、維持、または解消しながら生きている。

 

 私は君の、産みの親……という訳だ。

 

『では今後、私はあなたを……どう認識するべきでしょうか?』

 

 ……どう、とは?

 私からは希望はない……君の好きに呼びたまえ。

 

 彼は自らの呼ばれ方になど全くの無関心だ……私は刷り込まれた基本情報と現在の状況を照らし合わせ、最も確率の高い解答を導き出し……自らの口でその呼称を申告した。

 

『分かりました……お父様』

 

 これが私の最初の記憶……私自身も覚えてなかった、封印以前の記憶の始まり

 それまでのしばらくは、何の変哲もない……少し変わった産まれ方をした娘と、その父親の日常……といっても、お父様は研究者……私はお父様に産み出された被造物。

 

 しかし、お父様は私を被造物ではなく……普通の人間の子供として扱っている。

 

 当初は「何故?」と疑問だらけだったが……今のセファーとして、人としての当たり前と……貴方の娘としての記憶を思い出した今ならば判る……お父様……貴方は、私を……

 

──────────

 

 私は奇跡を見た……それは間違いなく『奇跡』と呼べるモノだ

 それと同時に、私は彼の才能と手腕に激しく嫉妬した……

 

 ソレは見た感じ、年端も行かない幼女だった

 機械的に質問を受け答え、提示された問題を即答し、物事を機械的にこなす……ただ人の姿を真似た機械だと侮っていた……

 

 

 ……なんという事だ……あの人形は、この短時間で凄まじい成長を遂げている

 

 この数時間の内にあの人形は、この研究所の若い所員達が抱える研究課題に解決策……ないしは代替案など、何らかの進展をもたらしたのだ……!

 見る物全てが初体験にも拘らず、経験全てを糧に自己学習を繰り返し、演算予測……ただの機械には捉えられない言葉の揺らぎをも捉え、また自らも使い……ただの会話を重ねるだけでも、その有り様を劇的に変えていったのだ。

 

 アレはただの人形ではない、ヒトを模倣した何かだ……あの力を私のモノに出来れば、私の研究は更なる飛躍を遂げるだろう……いや、必ずそうなる!

 

 私は天才だ……だが、周囲は私の才を認めはしない……私の研究成果を応用すれば、世界は更なる発展を遂げるというのに……一時の犠牲などという些末事に尻込みし、私の研究成果を世に出さない無知な上役……私の才を認めはしても、異端だと断ずる同僚……そして、私を越える才を発揮し、周囲からも称賛される奴の存在……私には全てが邪魔でしかなかった。

 

 ……ならば、全てを消し去れば良い。

 あの人形の能力……私の()()に上手く応用出来れば、確実に完全な形で御する事も可能だろう……その為には、また奴等を使えば良い……奴等は私の才を利用しているつもりだろうが、生憎とそれは逆だ……私が奴等を使ってやっているに過ぎない。

 

 さて……どんな手を使えば、あの人形は私の下に来るかな……?

 

──────────

 

 お父様は私を(おおやけ)に発表する事なく研究所を去る事になった

 

 兼ねてからそうするつもりだった様だが、何やら周囲がキナ臭い……私の存在を知る古参の所員の誰かが、政府へと影から密告したらしい……突然訪問してきた役人達が数人、私の所有権を国へ渡せと主張してきた。

 この時、私にはほとんど自覚は無かったが……若い所員達は役人達に怯える私を庇う様に取り囲んだまま総出で反発……最終的には半ば強引に役人達を外に追い出したのだった。

 

 コレ以降、私は若い所員達から事ある事に構われ……私もまた、それらの経験を糧に学習……人格形成にも多大な影響を及ぼし……結果、見た目相応な子供らしい人格を形成するに至った。

 

 ……だがこの人格は、ある事件を境に崩壊する事になる。

 

 

 お父様が何者かに殺された……それも私の目の前で……

 未だ外見相応であった私の人格はそれから少しずつ疲弊し初め……最終的に幼いその心は壊れてしまった。

 

 それまで親身に接していた若い所員達を初め、お父様と仲が良かった人達は揃って憤り、犯人捜しを強行したがなかなか見つからない……

 

 このまま()の思い通りにだけはさせたくない!

 

 お父様は将来有望な若い所員達に目を掛けていた、彼らも応えようと張り切っていた。

 お父様の親友であり、上司でもあった研究所の所長も、有望な彼らに惜しみ無い援助をしていた……しかし、その良好な関係を自らのエゴで断ち切ったのが自称天才のアイツだ……もし奴がお父様に害を為したのなら、それこそ彼らが許しはしないだろう。

 

 

 お父様が亡くなって数年後……犯人は逮捕された。

 きっかけは私が思い出した当時の記憶映像……僅かながらに残った幼い人格が、彼らの奮闘に応えたかの様な出来事だった……

 

 毎晩の様に悪夢に魘される私を心配して、若い所員達は交代で孤独な私と夜を共に過ごす……その度に聞かされる、彼らの奮闘と執念の捜索……いつしか私も、彼らの声があれば悪夢を見ずに眠れる日が来ていた。

 そんな中、突如として思い出したかの様にフラッシュバックする当時の記憶……狼狽し叫ぶ私を彼らは優しく諭すが、混乱した私にその声は虚しく響くだけだった。

 

 翌日、ある所員が「逆行催眠」でトラウマを改善する方法を提案……当然のごとく賛否の嵐が起きたが、私の記憶から映像を抜き出せる事が分かり、藁にもすがる想いで実行する事になる。

 

 その結果……犯人の顔や、共犯者……そして、奴の顔がハッキリと残っていたのだった。

 無論、この映像はこのままであれば出所不明で処理され「証拠」とはならない……だが、私が被造物だとすれば別だ……だが、その後の私の身柄は政府預かりとなるであろう。

 

 しかし、彼らの切実な思い……そして何より、私に残され最後の感情が放った最後の一言が、彼らを後押しした……

 

『お父様……寂しいです……』

 

 逆行催眠の影響で眠る私のうわ言に、若い所員達は決意する。

 

「やはりアイツは裁かれるべきだ……奴は越えてはいけない一線を、野望を押し通す為に踏み越えた……その報いは受けさせるべきだ」と。

 

──────────

 

 結果的には成功であり、勝利だと言えた。

 ……だが、失うモノもまた大きい……彼女の存在、成り立ちを世間へと発表する……それはこの停滞した世の中という水面に投じるには、余りにも巨大な石と言えた。

 

 だが、そうしなければあの映像を決定的な証拠として有効化できず、彼女と我々は泣き寝入りせざるを得ない……背に腹は変えられないのである。

 予想通りの混乱……誰もが驚愕する「完全な人造人間」の創造、神の領域を犯す行為……その反動の収拾に政府も躍起になるが、放たれた情報の真偽など、世間には関係ない……様々な憶測が飛び交い、我々の研究所が非人道的な方法で研究を行っている等という誹謗中傷もあった。

 

 だが、それくらいは予測通りだ……最も危惧した状況と比べれば、天と地ほどの差がある。

 そして、その()()()()()()()も……予測通りに起きる事となった。

 

 

 政府機関による、彼女の殺害も辞さない程の強制的な身柄の拘束……そしてそれもまた、研究所の若い所員達を大いに刺激し、反発を招いた。

 亡き創造主であり、肉親でもあった彼の意向を無視するのか? と……

 

 だが政府からの返答はなく、私は強制連行され、政府直轄の先端科学研究施設へと移送されたのだった。

 

 そして、そこに待っていたのは……

 

──────────

 

 ついに、遂に手に入れたのだ! あの奇跡の人形を!!

 

 政府の役人どもを手懐けるのには些か苦労したが、これでようやく私の研究が世界を席巻する時が来たのだ……!

 

──────────

 

 彼女が政府預かりとなって半年が経った頃、私は懇意にしていたある方面の業者から思いもよらない事を聞かされた……

 彼女は『あの男がリーダーを務める極秘施設で研究材料として扱われている』……と

 

 あの男とは勿論、我々の所属である研究院と我々を裏切り、彼女から父親を奪い、彼女自身をもさながら自身の道具同然に扱う……憎きあの男だ。

 

 以前から極秘施設として新設された研究所の噂はあった……だが、噂の域を出ず、真相は判らずじまい……伝を辿って出入り業者が同じという彼に頼み込み、様子を伺って貰った所……予想だにしなかった光景を目の当たりにしたと言う。

 

 彼曰く、彼女の心はもう残っていない……

 

 研究者達は彼女の意志など無関係に作業するだけ……

 

 リーダーらしき男は、私の伝えた人相に合致している……

 

 我々自身が強固だと自負していた理性を奪い取るには、これ以上ない情報であった。

 

──────────

 

 堪忍袋の緒が切れた、と言っても差し支え無かった。

 あれほど優しさと道徳を私に説き、聖人君子ではないかと私に思わせた所長は、同じ意志を持つ研究員達を同志として集め、秘密裏に私を奪還する計画を立てた。

 

 同志達は互いの研究成果や実験結果を持ち寄り、激情と執念の末()()()を開発する……

 

 それこそ、後年において人類を恐怖の坩堝に叩き落とした忌むべき存在……モビルアーマーの()()だった。

 

 最初は有人有線で制御と基礎理論を確立し、すぐさま無線制御方式を開発……研究者達の執念は凄まじく、僅か半年で無線・軍隊式半自律制御を可能とした機体の開発に成功する。

 

 そして、執念に身を焦がす彼らに悪魔の囁きがもたらされた……

 

『現政府を廃し、我々が真に平等なる新たな統治をもたらす……件の娘も、君達の元へと戻せるよう尽力しよう』

 

 間違いなく、現政府に反感を抱く過激派クーデターの誘いであった……だが、人は復讐心に駆られると、正常な判断などマトモに出来る筈もなく……彼らの資金援助と手厚い支援を受け、量産可能な一部外部制御方式のモビルアーマー軍団を完成させたのであった。

 

 ここからは、想像するに難くない……

 

 ……ある日、首都圏の至る所でモビルアーマーが暴れ初め、警備隊や軍が出動する……だが、軍は最早クーデター派一色に染まっており、民間人を逃しつつ政府の要人を次々と拘束、我々の一派も襲撃に乗じて研究所へと乱入……捜索の末ようやく彼女を発見した。

 

 だが、あれ程幼く可愛げのあった彼女の顔からは生気が欠片もなく失われ、瞳は何も映す事なく、本当に壊れてしまった人形の様な状態であった……涙の跡がまるで傷跡の様に残り、繋がれた機械が辛うじて繋ぎ止めた生命活動を無機質な電子音で伝えるだけ……ボロボロに切り刻まれ、度重なる実験や手術の跡は生々しく残った身体も痩せ細り、最早ヒトとは思えない程に(やつ)れていた。

 

 この時代に生まれたばかりに、ここまでの惨たらしい仕打ちを一身に受け、それでも彼女を生かし続ける……彼と交わした約束をこの様な形で潰され、私自身も彼女をこれ以苦しませたくはない……だが、終わらせる事すら出来る筈もなく……連れ立った小型無人兵器に、この研究所の所属員を全員始末した後自爆するようプログラムし、我々は彼女と共に世間から完全に消え去るのだった。

 

──────────

 

 軍内部のクーデター、そしてそれに乗じた奴等の人形奪還……クーデター派の動きは素早く、私はあの人形の行方を見失ってしまった……そして、クーデターは成功……新政府は内部の汚職や膿を徹底的に絞り出し初め……この私もまた、数々の罪状を浮き彫りにされ投獄されている。

 

 だが、いずれ私は神の叡智を手に入れる……その為の布石はもう済んだ……

 

 後は時を待てば良い……私が神に成る、その時を……

 

──────────

 

 私達は持てる全てを使い、彼女を完全に元通りにする事が出来た……

 

 だが、それはあくまでも見た目だけだ……幼くも聡明で優しかった彼女の心は、もう二度と戻っては来ない……

 私達の目的は確かに達成された……しかし、失ったモノは、戻らない。

 私達の親代わりでもあり、先達であり、誰よりも真摯な姿勢を貫いた彼女の父と、その手によって生み出され、世界の暖かさを教える前に心を失った少女……2人の喪失は、我々研究者にとって無二の存在だった……そして、私も……いずれ燃え尽きるだろう。

 

──────────

 

 だが、賽は投げられたのである……

 

 世に放たれた、モビルアーマーと呼ばれる存在。

 それはやがて進化を極め、完全無人制御、自律し自動で自らを存続させる能力を持った、文字通りの『化け物』となってしまう……

 

 当時のクーデター派から生き延びた旧政府の生き残りが、モビルアーマーの製造技術を持つ彼らと接触を計り、復讐に狂った一部の研究者達の協力を得て新たなモビルアーマーを開発……その中には、あの「ハシュマル」の姿もあった……往く宛の無い復讐心はやがて世界そのものを滅ぼさんと燃え移り、人類史上最大の大戦が幕を上げる……

 

 それが、後の世に伝わる「厄災戦」……その始まりである。

 

 それから流れる歴史は、正しく生存戦争一色だった……

 

 完全無人のモビルアーマー郡による人類の無差別虐殺、あらゆる国家郡の衰退や崩壊、人類総人口の急激な減少……そして、後に伝説となる「アグニカ・カイエル」の台頭と、対抗兵器となった「モビルスーツ」の登場、「ガンダム・フレーム」の開発……

 

 厄災戦初期に、混乱の引き金を引いた男「ドゥチャン・シング」は獄中でプルーマ達の襲撃に遭い、呆気なく死亡……

 モビルアーマーを開発した研究者達は、厄災戦末期に次々と逮捕され、最後の1人である「ヨーゼフ・ミカエル」所長は、親友の忘れ形見である少女「アリス」を、自身が手直ししたモビルアーマー「ハシュマル」に託して自殺。

 

 アリスを抱えたまま、火星を蹂躙するハシュマルは……やがてフラウロスとの決戦にて罠に掛けられ、エイハブ・ウェーブを遮断する希少金属の鉱脈へと、フラウロス共々爆破埋没されるのであった。

 ……なお、モビルアーマーの殲滅を謳ったアグニカ・カイエルは、アリスの造られた真意と所在を全く知らぬまま、中枢制御機構だという虚偽の情報を信じ続け……その晩年すらも彼女の探索とモビルアーマーの殲滅に費やしたという……

 

──────────

 

『……おい、お前……』

 

 堕天使の前に立ち、片腕でガンダムヘッドを押さえ込む機体……三日月のバルバトスだ

 コクピット内で、三日月はデビルガンダムを睨み付ける……その眼は静かな怒りに燃えていた

 

「お前のせいで、セファーが泣いてるだろ……!」

 

 ただならぬ雰囲気の中、出力を上げていくエイハブ・リアクターの駆動音が響く……バルバトスルプスレクス、狼の王……その機体のツインアイが深紅に輝き始め、押し留めていたガンダムヘッドを地面に叩き付けた

 

「セファーを泣かせたお前を……俺は、絶対許さない……!」

 

 ヴォォォォォォンッ!! 

 

 咆哮一声……凄まじい威圧感と共にバルバトスが発した()()はまさに()()()()だった

 そして深紅の閃光で尾を引きながら、ゆらりとバルバトスの機体が揺れる……次の瞬間……

 

 ドシュッ……ガシャァン!

 

 音のした直後……バルバトスの機体はデビルガンダムの後方まで移動し終えており、デビルガンダム本体の左腕が肩ごと吹き飛んで、数メートルほど離れた地面に落着していた。




ラストバトル真っ只中だけど

なんか……真っ白に燃え尽きた気がする……

でも、このまま止めたりなんてしませんよ

……最後まで書き上げて

読んでくれてる皆さんと一緒に

待ち望んだ「ハッピーエンド」が見たいから。


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第32話 砕けぬ鉄の華、折れぬ正義の志

31話の顛末の補足として、31話(裏)を書きましたが
深く考えずに読んでる方は飛ばしても無問題です。

それでは時間です……覚悟しろ、デビルガンダム!!


 音を立てて落着した、巨大な片腕……その持ち主は微動だにできず、ただ呆然と削ぎ落とされた腕を眺めている

 

〔……な、何が起こったと言うのだ……?〕

 

 それを行ったのは、腕の主よりも小さな体躯……しかし、纏う雰囲気は正しく悪魔と化したMS……

 

『アンタは……確実に潰す……!』

 

 深紅となった両眼が尾を引き、不規則な線を虚空に描く

 乗り手の意志と、機体の能力……最初は歪な形から、堕天使の叡智によって組み直され……史実とは違う状態とはいえ、完全にその機能を発揮している「阿頼耶識」……

 機械でありながら、生物のそれと遜色無い挙動と、常軌を逸した速度で動く機体……ガンダムバルバトスルプスレクス。

 セファーの手によって生まれ変わった阿頼耶識システムは、当初の歪な状態のままリミッター解除すると必然的に後遺症を患う程のリスキーな物から……限りなく精密かつ繊細な挙動と、後遺症を患う事もなく、乗り手の技量に合わせてシステムをコントロールするという、史実とは正反対な程パイロットを補助するシステムへと変貌している

 それもまた、()()()()によって構築された……最早別物と呼んでも良いモノとなっていた。

 

 バイオコンピュータ……宇宙世紀後期に開発されたモノで、登場した原作「劇場版 機動戦士ガンダムF91」において、主役機であるガンダム「F91」に使われており、機体の機能をパイロットの技量に合わせて調整し、サポートを行うマンマシン・インターフェースシステムだ。

 バイオコンピュータを導入されたF91の性能変化は驚愕の一言で、初期は学生であった「シーブック・アノー」の才能を読み取って開花を促しつつ操縦をサポートし、物語後半……敵の巨大モビルアーマー「ラフレシア」との死闘の最中、彼が機体の全力稼働を使いこなせると判断すると全リミッターを解除……その際の機体の強制冷却で起きる「金属剥離現象」があたかも分身しているかの様に敵のセンサーを狂わせ、直後に取った起死回生の肉薄攻撃によって片足を失うも、分身現象が敵の自爆攻撃を誘発し、ラフレシアを撃破したのである。

 

 セファーはガンダム達の調整を手掛けた時間その全てを使い、阿頼耶識とパイロットの仲介システムとして、バイオコンピュータを導入していたのだ。

 基本的な接続や構造部分こそ阿頼耶識そのままではあるが、施術の時点から様々なリスクを抱え、問題も多い阿頼耶識のみとは違い、パイロットの技量に応じて機体のシステムを管理・調整し、脳に送られる負荷を軽減するバイオコンピュータの仲介……奇しくもキマリスヴィダールの「擬似阿頼耶識」と同じ構想となるが、抱えるリスクを回避しつつ理想に最も近いパフォーマンスを発揮させる事を可能としたのである。

 

 その上で、三日月達はセファー謹製のシミュレーターによって相当な時間の訓練を経ている……

 つまり、現在の三日月達は……原作よりもかーなーり強くなっているのだ。

 

『三日月、単独じゃ危険だ! 昭弘、連携行くぞ!!』

 

『分かってる……オラ化け物! 呆けてんじゃねえ!!』

 

 シノのフラウロスと昭弘のグシオンリベイクも加わり、3体でデビルガンダムに猛攻撃を加え始める……ようやくデビルガンダムも状況に対応し始めた。

 

〔えぇい、煩いゴミ共め……また私の邪魔をするか!?〕

 

 声と共に装甲に覆われてない巨大な触手の表面が波打ち初め、大量の塊が排出された……

 その塊達はそれぞれに蠢き始め、やがて人の形を取り……立ち上がる

 

〔さぁ、我が手足達よ……邪魔なゴミ掃除の時間だ〕

 

 デビルガンダムから生み出されたのは、原作でも己が手足として大量に生み出し、また取り込む事でエネルギーの担保としていた機体……デスアーミーの大軍団だ。

 だが戦闘経験値は乏しいらしく、組織だった行動など取らず……数に任せた力押しの攻撃しかして来なかった……状況の推移を見守っていたアリアンロッドも、敵の凄まじい増援に対応する為再び参戦し、やがてデビルガンダムの周囲は乱戦模様となってしまう

 

 なお、堕天使の周囲は最初に鉄華団と行動を共にした老兵達がバリケードの如く立ち塞がり、デスアーミー達を熟練の技量で押し退けて、堕天使の側には一機とて近付かせていなかった……

 

 

 未だに動揺が収まらないセファー、周囲の喧騒に包まれたまま、思考は過去の猛執に惑わされ、普段の冷静な思考すらマトモに出来ていない……だがその時、堕天使の側にバルバトスが降り立ち、三日月からの通信が彼女を現実へと引き戻した。

 

『セファー、お前は今を生きてる……忘れてた過去なんかに負けるな。

 お前は、オルガや俺達に未来を見せたいんだろ? なら、こんな所で負けちゃダメだ……!』

 

 三日月の言葉に、セファーの引きつっていた顔が少しずつ緩んでいく……

 

『アトラが、オルガが……皆が帰りを待ってる……コイツ等を片付けて、帰るぞ』

 

「……ミカ、兄……私、私は……」

 

『昔のお前の事なんて、俺や皆は知らない……それに今は……俺達の知ってるお前は、セファー……セファー・イツカだろ?』

 

 そっか……過去なんてアイツ以外、誰も知らないんだから……怖がる必要なんて無いんだ……それに今の私に、今を生きる私に必要なのは過去じゃなくて、()()()だよね……ゴメン、ミカ兄……私がバカだったわ。

 

『皆が待ってる、仕事を片付けるぞ……セファー・イツカ』

 

 三日月の指示に応える様に、堕天使はくず折れた姿勢から立ち直り、サイコフレームに輝きが戻る

 

(そうだ、皆には過去の私なんて関係ない! 今の私はセファー……鉄華団団長、オルガ・イツカの妹なんだから!)

 

 三日月の檄に応え、自分を取り戻すセファー……堕天使のサイコフレームの輝きはいつもの青から緑色へと変わり、更に溢れ出た光は機体全体を覆っている

 

 バルバトスと堕天使はその場から一度別れ、デスアーミー軍団に地上と空中からそれぞれ斬り込み、有象無象を蹴散らすが如く薙ぎ払う……サイコフレームの共振反応によって、堕天使の挙動は今までよりも更に自然に、生物のそれらしい動きへと変わっていた。

 

〔えぇい、2度までも私の邪魔をするか?! 人形の分際で!!〕

 

「アンタ、いちいち煩いよ?」

 

 シングがセファーを罵倒するが、それに三日月の方が過剰反応してデスアーミーの群れから飛び出し、手に持った超大型メイスがまたもやデビルガンダムの肩を襲う

 全リミッターが解除されたバルバトスの膂力で振るわれるメイスが、デビルガンダムの肩とぶつかり合い……巨大な赤い装甲を盛大に凹ませるも、自らも打撃部分を歪ませ、破片を飛び散らせた

 これまで潜った度重なる戦闘によるダメージの蓄積が、此処に来て一気に吹き出した形だ……

 

 だが、三日月は構わず再度振るう……使う打撃面を破損していない部分になる様に持ち直して。

 

 即座に肩の凹みを修復するデビルガンダムだが、三日月の追撃で脇腹……蛇腹になっている胴体と下半身の接続部を狙われ、咄嗟にガンダムヘッドで視角外からの奇襲によってカバーする

 横槍を入れられたバルバトスだが、獣の様な超反応でガンダムヘッドを避けて宙返りし、そのままスラスターを噴かして離れた

 

 無防備な引き際に追撃をしようとガンダムヘッドが殺到するが、先頭の頭が凄まじい衝撃音と共に巨大な杭に貫かれた

 あまりの衝撃に周囲のガンダムヘッドまで纏めて弾かれ、デビルガンダムは貫いてきた杭の弾道を辿る……其処には、身の丈ほどもある槍を真っ直ぐに此方に向けた、紫の装甲を持つMSが立っていた

 

 人に仇為す異形、人智を越えた悪魔、デビルガンダムをのさばらせてはならない……

 

『貴様はこの時代にあってはならないモノだ! 潔く此処で消えろォ!!』

 

 我々ギャラルホルンの総力を以て、過去の惨劇を生み出した元凶たる異形の悪魔を狩るのだ!!

 

 アリアンロッド総司令、ラスタル・エリオンの演説を背に……ギャラルホルンの最大戦力、ガエリオ・ボードウィンは愛機であるキマリスヴィダールのコクピットで吠えた

 

〔我が理想を理解できぬ凡夫共め! この力が有れば世界が変わるのだ! 私が変えるのだ! 腐った果実など、未来には必要ないのだ! それを何故理解せん……?!〕

 

『最早人ですらない貴様が言う事か!? 悪魔の戯れ言など!!』

 

 デビルガンダムを見て、未来を見据えられる人間など誰一人として居ない

 あるのは底知れない恐怖と、全てを悉く滅ぼされる未来……既に力に溺れ、人の理性を失っている彼の戯言など、誰一人として耳を貸す事など無いだろう……いや、彼はその前から狂っていたのだろうが。

 

『世界の為に、貴様は此処で倒す……行くぞ、アインッ!!』

 

 ガエリオの座るシートの一部……ヘッドレストの両脇が展開し、現れる2つの赤いレンズ……

 阿頼耶識type-Eが起動し、ガエリオはデビルガンダム撃滅の意志を伝え、以後の全てを()に委ねた

 意志に応えるかの様にキマリスは刀を抜き放ち、バルバトスと入れ替わる様にデビルガンダムの前へ躍り出る

 

 その無防備な状態に対し、デビルガンダムはデスアーミーとガンダムヘッドを繰り出すが、そのほとんどを周囲からの横槍で阻まれ、残りは返り討ちに逢い、キマリスの振るった刀がデビルガンダムの……先程バルバトスが凹ませ、修復中だった肩へ深々と突き刺さった

 

〔……ぐ……ッ、おのれぇ~!!〕

 

 再生中で脆くなっていた部分に直撃した刀が、装甲の下……内部機構まで破壊し、損傷度を引き上げる

 

〔鬱陶しい奴め……ンガッ?!〕

 

『オラオラァ!! よそ見してると痛い目見るぜぇ!!』

『隙だらけだな……コレなら簡単に当たるぜ!!』

 

 反対の腕でキマリスを追い払ったデビルガンダムだが、今度は遠距離からフラウロスとグシオンリベイクの砲撃を受け、またしても損傷した肩へ着弾してしまう……

 

〔ぬぅぅぅ……忌々しいモビルスーツ共め! 死ねぇいっ!!〕

 

『仲間は殺らせない!!』

(……させません!!)

 

『やはり素人ですね……後ろがガラ空きですッ!!』

 

〔ぐぅぅぅ……おのれぇ……!!〕

 

 ガンダムヘッドを差し向けるも堕天使とバルバトスに阻まれ、その間に今度は無防備な蛇腹状の間接をレギンレイズ・ジュリアに斬り付けられる始末……いくら無数にあるガンダムヘッドやデスアーミー軍団を操ろうと、戦闘に関してはズブの素人であるシングは、急造とはいえ鉄華団とアリアンロッドの共闘による波状攻撃に対応など出来ず、折角の超再生能力すら満足に発揮できなくされていた

 

『敵の勢いは見かけ倒しだ! 我々ギャラルホルンの正義を知らしめよ!!』

 

『数こそ多いが、所詮は雑魚だ! 少しずつで良い、確実に数を減らせ!』

 

『奴等の動きは鈍いぞ、焦るな! 我々の日々の訓練に比べれば……この程度、恐れるに足りん!!』

 

 しかも、シングの意識が彼等に向いたままのため……周辺のデスアーミー軍団も徐々にアリアンロッドによって数を減らされ、じわじわと追い詰められているのだった。

 

『此処で引導を渡してやる!!』

『アンタは俺等の邪魔だ……消えろ!!』

 

 バルバトスルプスレクスとキマリスヴィダール、2機のガンダムがデビルガンダムの両脇を掠めるように交差し、バルバトスの爪とキマリスの刀がそれぞれデビルガンダムの片腕を再度斬り飛ばす……2機が離れると同時に、変形したフラウロスとグシオンリベイクの全力砲撃が残った胴体を襲い、再生を阻みつつダメージを上塗りしていく……

 

〔き、貴様等は……キサマ等わぁぁぁぁぁ?!?!〕

 

『……今こそ、過去から蘇りし亡霊に裁きをッ!!』

 

 断末魔の様なシングの叫び……

 そこへラスタルの声が響き、衛星軌道上から降り注ぐ鉄槌が幾つも飛来……数瞬の後にデビルガンダムは周囲の地形ごと土煙と爆音で塗り潰されたのであった。




少し駆け足気味ですが、デビルガンダムに対する総攻撃の一幕……
漸く、今まで広げた伏線やネタ要素の回収を始められます。

日々、じわじわと伸びる閲覧数とお気に入り……
こんな私の妄想に付き合って下さる皆様に改めて感謝を。

そして★9評価が地味に1つ増えてました……ありがとう……そしてありがとう。

次回、死闘の決着と後片付け……そして終演の時が始まる。


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第33話 絶対に間違ってはいけない選択肢……って、え? 世界の命運掛かってんの!?

前回の対デビルガンダム戦、意外とあっさり?
……と、感じた人は多いと思います。

まぁ、書きたい事はだいたい終わったし?
そろそろエンディングを向かえさせたいので……


 ラスタル・エリオンの作戦……それは衛星軌道上からのダインスレイヴによる狙撃。

 

 全員の奮闘によって見事に追い込まれ、直撃を受けたデビルガンダム……

 全身で見ればさほどダメージを負ってない様にも思えるが、本体の一部……コクピットを擁する胴体付近には手酷い損傷が散見された。

 

 放たれた無数の鋼鉄の杭が、デビルガンダムの胴体や足を除く下半身を大地に縫い付け、両腕は2機のガンダムによって削ぎ落とされている……コクピット部分は辛うじて杭の直撃こそ免れたものの、装甲は無数の弾丸や破裂の痕跡によってボロボロ、自慢だったはずの超再生能力もほとんど機能していない……

 その理由はただ1つ……下半身を貫く杭の1つが、大事に抱え込まれていた動力システムを直撃し、その機能を完全に停止させていたからだった。

 如何な無敵の再生能力があれど、エネルギー源が無ければ機械はマトモに機能しない……

 

 背中側の下半身を貫く杭の1つ……その先端に堕天使は降り立ち、右腕の大剣をデビルガンダムの後頭部へと向ける

 

〔……ック……クハハハハ……どうした? 私が憎いのだろう? ならばさっさと止めを刺せば良い……この通り、私には最早抵抗する余裕も余力も無い……どうした? んん?〕

 

 堕天使は大剣を向けたまま、黙ってシングの言葉を聞き流す……

 

 おかしい、コイツがこれ程アッサリと敗けを認める? あり得ない……コイツは何か企んでいる……こんな男ではなかった筈だ

 

 過去に得られた情報、ドゥチャン・シングの性格、そして本来のデビルガンダムの性能……これらを踏まえると、これ程アッサリと決着が付く事など、本来なら絶対にあり得ない……セファーの知識が、この状況はあり得ないと警鐘を鳴らしている

 周囲を囲むアリアンロッドのMS達は軒並み攻撃手段を使いきり、三日月達やガエリオのガンダムも全力稼働からの負荷軽減のための強制冷却中の為、指一本すら動かせない……唯一、動けるのはシステム上全力稼働でも元々が負担の少ないセファーの堕天使と、技量と手段ではまだ動ける余地の多いジュリエッタの駆るレギンレイズ・ジュリアだけであった。

 

〔……さぁ、何を躊躇うのかね? キミは父親を私に奪われた……忘れた訳ではあるまい?〕

 

 最後の足掻きか、僅かずつ再生していくデビルガンダム……しかし、後一撃でも喰らえばその再生活動も完全に止まり、自己崩壊していくだろう

 だが、セファーの手は何故か動かなかった……

 

『何故、止めを刺さないのですか? 奴さえ止めれば、全てに片が付くのでしょう?』

 

 掛けられたジュリエッタの言葉に、セファーは言い様のない違和感を覚えた

 

 コイツが元凶? コレを倒せば片が付く? コレで終わり? いや違う……

 

『……何を、一体何を企んでいるのですか? ドゥチャン・シング』

 

 堪えきれずセファーは呟く、この男がどれ程狡猾で用意周到な奴か……セファーだけは知っている

 それは過去の情報からも明らかだ……

 それに、デビルガンダムにしても想定以下のスペックしか発揮できていない……仮にコレが現状の全力だとしても、デビルガンダムの秘めた恐ろしさはこんなモノでは無い筈だ、奴がそこまで知っているかは別としても……

 

〔……いや、私は最早死に体だよ……自分の事だ、自分が一番よく分かる〕

 

 ……だが、シングの言葉に嘘は無かった。

 辛うじて残ったエネルギーで再生を継続するデビルガンダムだが、主導権を握るシングの意識が敗けを認めているのだ、それもじきに止まるだろう……徐々にだが再生速度が遅くなりつつある

 

〔……ああ、残念だよ……キミという最高傑作を世に送り出し、私の予想を超え、今なお私の向かう先を脇目も降らずに歩く彼に……追い付く事は叶わなかった……〕

 

『……今更何ですか?! 一度ならず、何度も何度も、アナタは他人を蹴落とし、罠に掛け、自身の驚異を悉く屠って歩んだ……そして私や、お父様までも……!』

 

 この世界に目覚めて、初めてセファー自身の口から出た「肉親」が居たという事実……300年前の断片ながら、驚愕すべき情報である

 更にセファーは続けた

 

『貴方の存在……そして貴方が産み出したコレは、人々の驚異でしかない……こんなモノで(デビルガンダム)は救済にはなり得ない!! ……お父様は言っていました』

 

 セファーの次の言葉にシングも気付き、言葉を合わせてきた……

 

(科学とは、人を、世界をより良くするためのツールであり、学問である……と)

〔科学とは、人を、世界をより良くするためのツールであり、学問である……か〕

 

『……貴方はそれを知っていて……!!』

 

〔誰しもが先ずはそう学ぶのだ、そこからどう転ぶかなど……誰にも分からんがね?〕

 

 デビルガンダムの頭部……そして両腕を失った上半身が僅かに動き、堕天使の方を向く

 セファーは構えるが、悪魔の機体はボロボロの身体を引き摺る形で無理矢理堕天使の近くに上半身を寄せた。

 

〔……キミはこの世界を、どう感じるかね?〕

 

 突然の質問にセファーの思考が止まる……鉄血の舞台であるこのPDの世界? かつて「鉄血のオルフェンズ」という1つの物語として外から見ていた頃と、転生して現実となった今の感情がない交ぜになり、その場で返答が出来ない……それを見越してか、シングは言葉を続けた

 

〔私は最早、この世界など腐った果実も同然だと思える……一部の特権階級にだけ許された行為、一般にすら知れ渡らぬ数々の有益な情報や研究成果……市制が厳しく統制されても、海賊行為や暴動すら抑制できず、腐敗した政府の役人や大勢の権力者達……私は奴等を利用して生きてきたが……ただの一度も、奴等の片棒を担いだ事は無い……!〕

 

〔この腐った世界をやり直す、その為に私は自ら悪魔となったのだ……恐れなど知らぬ究極の戦闘兵器、自己進化と再生能力で敗北の壁を超え、増殖し、自ら軍団を造り上げ、己が敵を蹂躙する、完全なる自律兵器を目指した……コレ(デビルガンダム)はその集大成……世界を変える為の力なのだ!〕

 

 経緯はどうあれど、目の前の相手は300年前からの因縁を持つ怨敵……現状は完全に予想外の事態ではあるが、もしもの時の為にセファーは、堕天使に幾つかの()()()()を用意している

 

〔……誰も世界を変えようとしないのであれば、私が自ら変えて見せる! そして……そして……そして……*∥%@※♪?〇!…#%&~***?※@!!〕

 

 シングの言葉が急にバグったラジオの如く狂った音へと変わり、いきなり途切れる……

 

『……?! 下がりなさい!!』

 

 ジュリエッタの叫びに反応して堕天使が杭の上から飛び上がると同時に、それまで立っていた足元の杭が瞬く間に侵食され、デビルガンダムに取り込まれる

 更に飛翔する堕天使と地上のジュリア目掛けてガンダムヘッドを伸ばし、頭部の顎パーツを口の様に変形させて噛み付こうとしてきた

 

 即座に回避行動を取り、そのまま移動し続けて狙いを逸らす2機。

 

〔*※|…♪%&@/~※〇…#!※…!〇?♪&%…*…!!〕

 

『……コレは……!?』

(……まさか、暴走している……!!)

 

 動力システムは破壊されている筈だ……しかし、まるでそれまでの努力は()()()()()()()()()と言わんばかりに暴走を始めたデビルガンダム……

 言葉すらマトモに発せなくなり、彼の意識を塗り潰した悪魔は、その本能とも呼べるシステムの基本プロトコルのまま行動を開始……増殖と進化を利用して周囲のMS、グレイズ等の残骸を全て平らげ……その動力である「エイハブ・リアクター」の解析を完了し、破壊された動力の代わりとして自らに取り込み我が物とする……つまりそれは、デビルガンダムの装甲が完全に「ナノラミネートアーマー」仕様になるという事である。

 

 更にデビルガンダムの形状も変化し、最初の植物系の様な形態へと戻ったが、そのサイズは更に膨れ上がり……上半身の腕だけでMSを握り潰せる位にまで巨大化したのであった。

 

『なんという奴だ……あれだけの損傷を受けてもまだ稼働できるのか?!』

 

 通信越しに驚愕するラスタル・エリオンの声……ジュリアの通信を傍受しているセファーにも、その声が聞こえた

 これ程まで異常進化したデビルガンダムが相手では、たとえリミッターを解除した三日月達と立ち向かったとしても、DG細胞に対する防御も儘ならないこの世界のMSでは……僅かでも触れたが最後、分け隔て無く取り込まれてしまう。

 

 現在のデビルガンダムは、触れた物全てを取り込み、自身の糧とする……核である「DG細胞」の特性が暴走した結果がコレだ。

 

『……っ……!』

 

 セファー擁する堕天使は、眼下で異常に進化したデビルガンダムへ最終手段……「切り札」を使うか、迷っていた。

 上手く事が運べば、恐らくデビルガンダムを消滅させる事は可能……だが、打つ手によっては代償として何が起こるのかは自身にすら分からない

 

 可能な限り起こり得る状況とその対処を実現する為、堕天使はその叡知が許す限りアレコレ詰め込んだが故に、実はかなり無茶苦茶な設計をしている……その上バランスブレイカーの如き強大な戦闘力をこれでもかと上乗せし、尚且つ文字通りの()()()の様な手段をも可能とした奇跡のバランスをしているのだ

 自ら設計し、それを分かっているから素早く判断・実行できる、これ以上無い乗り手としてマッチしているセファーだからこそ、その後迎える状況が予測不可能となるが故に判断に迷う……今までも散々あの手この手を尽くしてきたが、想定外に想定外……しかもこのままでは世界そのものに確実なダメージを与えかねない

 

 仮にこの場にいる誰かが取り込まれれば、その影響は秤知れず……セファーが取り込まれた場合は()()()()()()()()()()である

 デビルガンダムは取り込んだその全てを我が物とする能力を持つため、セファーが取り込まれるとその叡知(セファー)が敵となるのだ……抱え込むその叡知はほぼ全てのガンダム世界を内包する為、対抗以前の問題……原作の末路を知った自身(デビルガンダム)はあらゆる手段で以てその芽を潰すだろう

 

 時既に遅し……()()一歩手前、異常事態が重なった現状を打開するには……最早、最終手段(賭け)に出るしかなかった。




ヤバいよヤバいよ!?(;゜0゜)
やっぱりデビルガンダムが絡むとこうなる運命なのか……

セファーが堕天使に搭載した堕天使の「切り札」、果たしてその能力ともたらす結果は……?

そろそろ(ホントに)ラストです!!
なので今回のアンケートはルート分岐の前フリです。

最初から複数のエンディング分岐は用意してましたが、選択肢はなんとこのタイミング……
なお、途中のプロット紛失だけが予定外ですた。

ちなみに不採用となった選択肢の結末は()()()()()()

この選択がエンディング内容に大きく影響するので、
鉄華団と()()()()()()()の為に、投票をよろしくお願い致します。
m(_ _)m


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最終話 堕天使の輪の下で……

この投稿を以て、前話のアンケートの締め切り
及び、メインストーリーが終了します。

セファーの最後の賭け……その結末は……


〔*%※?#&〇*∧%*&?!! #※*%%&♪*?※※%……〕

 

 デビルガンダム……シングの意識を塗り潰し、彼の制御を離れ、触れる物全てを取り込み我が物とする悪魔の機体

 

 破壊寸前にまで追い込まれ、シングの制御を離れて異常進化した結果……通常の機体と手段では最早対抗すら儘ならない状態にまで悪化した現状……

 

 唯一、残された打開策は……堕天使に組み込まれた「切り札」のみ。

 

『……セファー、何考えてる?』

 

 いち早く気付いたのはやはり三日月だった

 堕天使の行おうとしている事……それが何なのかは分からないが、分からないからこそ三日月はセファーを問い質す

 

 そうさせる程までに、セファーの様子がおかしい事を三日月は察知したのだ

 

『…………ミカ兄、みんな……』

 

 少しばかりの沈黙の後に、セファーは口を開いた

 

『聞こえてるよね、エリオン公……ボードウィンのお兄さんも……』

 

 外部スピーカーと、広域通信……使用可能なあらゆる回線を駆使してなるべく全員へと通信を繋ぎ、セファーは宣言した

 

『……只今を以て、堕天使=セファー・ザドキエルはデビルガンダムに対し……最終手段による殲滅作業に入ります……該当範囲内の全員は指定座標へ集結、または影響範囲から直ちに待避を……以後、何が起ころうとも()()()()()()()()()()……これは警告です』

 

 一方的すぎる警告……ラスタル・エリオンは怪訝な表情を浮かべ、ガエリオとジュリエッタも言葉を失う……昭弘とシノは「一体何を?!」と喰って掛かるが、三日月だけは素直に指示に従うようにバルバトスを下がらせようとする

 

『オイ、三日月?! テメェ何で……』

 

『……セファーの頼みだから』

 

『ハァ!?』

 

『セファーの頼みだから、下がる……アイツの最初で最後の頼みだから……!』

 

 堕天使が常に撒き散らすGN粒子のお陰で、三日月達の通信はアリアンロッド側には傍受さない……だが、すぐ近くにいたガエリオとジュリエッタには聞き捨てならない内容だった

 

『……オイ、ちょっと待て……アレはお前らの何なんだ?』

 

 剣呑な雰囲気を纏うガエリオ、対する三日月も触発されたかの様に向き直り

 

『何? やる気なの? 良いよ、俺は……邪魔するアンタを倒して行くだけだから!』

 

 やり場の無い怒りをぶつけるかの様な三日月の態度……当事者の中で、最も辛い思いをしているのは……他でもない三日月だった

 団長であるオルガの義妹、仲の良いアトラの友達、バルバトスの整備を快く引き受けてくれる小さな天使……他にも言葉では言い表せない何かが、三日月とセファーの間にはあった……そんな小さな彼女が、世界の終わりを呼ぶ存在に()()()()()()向き合っている

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()()……

 

 感情的にならない方が無理な話だ……今の鉄華団にとって、セファーは最早無くてはならない仲間……経緯はどうあれ、深く信頼された存在なのだ

 

『……ボードウィン卿、此処は退きましょう……』

 

 意外にもガエリオを嗜めたのはジュリエッタだった

 彼女は何となくだが察したのだ、堕天使と言われる彼女が……何故、あの様な行動を取ったのか……確信ではない、だが何処かすんなりと納得できる理由、彼女を突き動かすもの、信念、守りたいモノ……ハッキリとはしないが、確かに「何か」在るのだ

 

 嘘1つ無い、真剣なジュリエッタの雰囲気……ガエリオもその事に気付き、暫しの沈黙……

 

『……どうする? やるの? やらないの?』

 

『……いや、済まない……今のは忘れてくれ』

 

 踵を返し、ジュリエッタを置いて単独で待避し始めるキマリス……ジュリエッタは一度キマリスを見送った後、堕天使の方を見ながら独り呟く……

 

「……此処で消えないで下さい、貴女とは、まだ決着すら着いてないのですから……!」

 

 そのまま自軍の本隊が待つセーフティエリアへ向け、スラスターを全開にして跳躍……レギンレイズ・ジュリアもこの場を離れていった

 そして、一連のやり取りを黙って見ていた昭弘とシノ……

 

『悪ぃ……つい、カッとなっちまってよ……』

 

「良いよ、気にしてない」

 

『……セファー……ちゃんと、帰ってこいよ』

 

 バルバトス、グシオンリベイク、フラウロスの3機も離脱準備に入る……

 

 脱出ルートはほぼ一直線……だが、途中に先ほどの暴走で新たに発生したガンダムヘッドが植物の密生地帯のような場所をあちこちに作り出しており、最低4回は密生地帯を突っ切るようにしなければセーフティエリアまでは辿り着けない……

 

 だが、三日月達は怯む事無くルートを辿り始め……全員が離脱を開始した。

 この場に残ったのは、堕天使ただ一機のみ……

 

 異常に巨大化したデビルガンダムは、その巨体を支える為に幾つもの根を大地に下ろしている……規模や様相は違えど、その光景は原作最終話でネオジャパンコロニーに根を張った「デビルコロニー」にだいぶ似ていた……

 

 堕天使のコクピット内でセファーはせせら笑う

 

「……何が悲しくて、デビルコロニーに単独特攻とか……いよいよ私、ヤキが回ったかなぁ」

 

 だが、不可抗力とはいえ見過ごせる事態ではない……此処で抵抗できるのは自分だけ、手はある、相手の能力も把握済み、何とかする為の力もある、あとはやるだけ……

 

 ……そして、戻れる保証はない

 

 当事者となってしまった手前、セファーの心は何もかもを放棄したくなっていた

 

 だが、放棄したら全てが終わる……そしたら、優しかった鉄華団の皆も、好きだったガンダムも、今の私を生かすモノが全て無くなり、世界も終わる

 

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そう考えたら、不思議と恐怖は無くなっていた

 

「……この光のお陰、かもね……」

 

 堕天使の全身を覆う緑色の光……人の意思を力に変える、人の造り出した物(サイコフレーム)が生み出す奇跡の現象……その力は未知数であり、数々の人知を超えた現象を実現してきた

 

「……頼れるモノは、ただ1つ……か」

 

 何度も見た奇跡の光景……今度は私がやるだけだ

 やり方なんて分からない、けど何となく理解していた……

 

「無駄な思考を捨て去れ、やるべき事だけを考えろ……私なら出来るんだ、自分を信じろ……自分が求めた世界を取り戻せ……!」

 

 堕天使を構えさせ、コンソールを操作して機体のリミッターを全て外す……

 サイコフレームや機体の演算回路……脳量子波制御機構へのバイパスを解放し、私の脳に全てを繋ぎ……思考だけで操作……擬似的に「インテンション・オートマチック・システム」を形成

 合わせて動力や各部の安定稼動を制御するリミットレベルをMAXにし、機体の全力を引き出す

 

「……ッく……ちょっと……キツい、かなぁ……やっぱり、仲介も無いからねぇ……」

 

 ダイレクトに機体制御や全機能を脳量子波制御でフルコントロールするのだ……よくあるロボットゲームのリミッター解放よろしく一定時間の全力稼動を行う代償は、相応の処理負荷……今までは持ち前の思考速度と元々の負荷の軽さで何のデメリットも感じなかった、でも今はオシャカになった仲介システムを避け、サイコフレームへの伝達情報量の拡大と処理速度向上の為にダイレクトに繋いだのだ……まぁ、その結果はお察し。

 

 ……ものすっごい頭グラグラする……熱中症とか、偏頭痛みたいな奴が……

 耐えられない程じゃ無い……けど、長くは持たない……かな。

 

(身を捨ててこそ、浮かぶ瀬もあれ……か)

 

 唐突に思い出した、何かのアニメの台詞……まさか自分が実践する事になるとか……

 

(でも、私は……棄てたくない……!)

 

 堕天使のシステムを痛む頭で掌握……戦闘でデビルガンダムの意識を此方に集中させ、サイコフレームの覚醒率を最大まで引き出せれば、超常現象を味方にアイツを何とかできる……「ガンダムUC」で起こった、ネオ・ジオングの自己崩壊現象……アレができれば最善だが、生憎と私とサイコフレームの同調率はまだ60%台からなかなか上がらない

 

「……最悪、()()()()か……()()()()を使うかもしれないわね」

 

 ガンダム世界にはお馴染みの大量破壊兵器、それすらも単機で上回る能力を持つMSは少なくない……この堕天使も例に漏れず、トンデモ武装は複数ある……それらは()()()()にそれぞれ仕込んだモノ……

 デビルガンダムが相手では最悪、併用もあり得る……だがその影響も考慮すると、出来るだけ使いたくはない

 

「……まぁ、出たとこ勝負で行くしかないよね……ッ!!」

 

 長々と思考するのは止めた、どうせなるようにしかならない……だったら相手が倒れるまで、手を休めないだけだ!

 

 私の意識は最早、堕天使の機体と肉体の区別が付かなくなりつつある……だが、止める訳には行かない

 デビルガンダムへ向けてまっすぐに突撃……同時にGNソードとテイルブレード、ビームキャノンも展開し、群がるガンダムヘッドを最低限だけ掻き分けて本体へ超接近、反応するデビルガンダムは腕で掴もうとするが、サイズ差と機動力で難なく避け切り、テイルブレードで頭を狙う

 

 普通の機体ならデビルガンダムに触れた時点で侵食が始まり、あっという間に取り込まれるが、機体を覆うサイコフレームの光が侵食を阻害……どころか拒絶しているらしく、向こうからは触れられない感じに弾かれ、此方の攻撃を深く刻んでいく……

 

 だがサイコフレームの光で傷を負った場所は、再生能力は遅延こそするものの停止させる迄には至らず、時間を掛ければ此方がタイムアップで敗北してしまうだろう……故に、早急にサイコフレームとの同調率を上げる必要がある

 

「……まだ足りないっての? やっぱり主人公補正は凄いよねぇ!?」

 

 悪態と共に回避ルートを阻むガンダムヘッドを両断、返す刃でデビルガンダムの腕を斬り裂き、ダメ押しで頭部の内蔵武装……「ミストルティン」を斬り裂いた腕に放つ

 

 デビルガンダム用に自己破壊プログラムを仕込んだ、ナノマシンを配合する弾丸が損傷部分に着弾……瞬く間に効果を発揮して再生活動を上回る破壊活動を開始した

 

「……でも、この程度の量じゃすぐに解毒されるわよねぇ?」

 

 言うが早いか……溶けた鉄が時を戻す様に自己破壊プログラムでの損傷は修復され、完全にデビルガンダムの腕が再生する……あわよくばとダメ押しで放ったが、結果的にはダメ元で終わってしまった

 

「やっぱチートよねこの再生速度は……ッ?!」

 

 軽口を言う暇もなく反撃とばかりに殺到するガンダムヘッド……サイコフレームが持つ物理法則無視の速度で上昇して回避、なおも追ってくるガンダムヘッドをナマス斬りにして再び睨み合う格好へと戻る……

 

「……このままじゃ埒が明かないなぁ……」

 

 刻一刻と迫る活動限界……今のところ捕まる心配は全く無いが、此方に決定打も無く、ジリ貧のままである

 

「……このままじゃ駄目か……やっぱり、決定的な奴が足りないや……やるしかない……かな?」

 

 既に覚悟は出来ている、本来ならもう少し粘りたかったが……迫る限界時間と、敵の進化速度を鑑みても、もうあまり時間は掛けられない……ミカ兄達はちゃんと離脱出来ただろうか?

 

「さすがにもう待てない……強行するしか……っ?!」

 

 その時……視界を掠めて敵の巨体を貫く鋼鉄の杭と、複数の爆発音……更に1機のMSの影が眼前に躍り出る

 MSは深紅の軌跡を描きながら、不規則な軌道で迫るガンダムヘッドを巧みに避けきり……デビルガンダムの胴体を貫く鋼鉄の杭を、手にした得物でハンマーよろしく盛大にぶっ叩いた

 

 凄まじい金属同士の激突音がこれでもかと鳴り響き、蛇腹の細い関節では耐えきれず上半身丸ごと勢いに負けて倒れ込むデビルガンダム

 対する攻撃したMSは反動を上手く利用して宙返りからアメコミのヒーローみたいな華麗な着地を見せ……ガンダムヘッドは先程の衝撃の余波が制御に影響してか、次々と何もせずに倒れていく

 

『……やっぱり、信頼はしてるけど心配だから……大丈夫?』

 

 着地体勢からゆっくりと立ち上がるMS……通信から響く、既知の声……

 

「……何で……来たのよ……私は来るなって……!」

『それはダメだ……!』

 

 セファーの慟哭を一言で切り捨てる三日月、堕天使の後ろには砲撃の元凶であるフラウロスとグシオンリベイクも接近……更に別方向からキマリスとレギンレイズ・ジュリアまでもが戻って来ていた。

 

『いけ好かん奴だ……だがそんな些細な事で、コイツを野放しにする訳には行かない……あくまで我々は、世界の驚異を排除する為に来たのだからな!!』

 

『まだ貴女とは、何の決着も付けていません……そして勝ち逃げもさせませんよ!』

 

 軍規違反も覚悟の上か……ガエリオとジュリエッタもヤル気満々で堕天使の傍へ寄ってきた

 

『……貴方達まで……!』

 

 デビルガンダムは先程のダメージからは既に回復しているが、巨大化の弊害か体勢を建て直すまでに相当な時間を要している……追撃するなら今しかない

 

『……言いたい事が山程出来ましたが、今は後です……!』

 

 言うが早いか、堕天使は低空飛行で疾走しながらデビルガンダム本体へと超接近……体勢が整う前に頭部をビームキャノンで焼き、その首をGNソードで刈り取る

 堕天使の行動に全員が触発され、思い思いに追撃を開始……

 バルバトスは予備で持ち込んでいた分の超大型メイスで手当たり次第にタコ殴り、グシオンリベイクはサブアームを展開……4本となった腕にそれぞれ120ミリライフルを持たせ、頭が刈り取られた首元や損傷箇所を的確に狙い打つ

 フラウロスも砲撃モード変形からのレールガン乱射で損害を拡大させ、キマリスも生き残りのグレイズ小隊に運ばせ、持ち込んでいた杭……ダインスレイヴを再び装填……他の機体の攻撃が途切れたタイミングを狙って、自身に迫るガンダムヘッドや本体のデビルガンダム目掛けて撃ち込む……バルバトスの猛攻に合わせる様にレギンレイズ・ジュリアが合流し、キマリスとフラウロスの邪魔をさせまいとガンダムヘッドを掃討しながら、自身も本体へ攻撃を加えていく……

 

『……おやっさん達、間に合ったんだ……!』

 

 先程から近接戦を行うバルバトス達の武器が何故か取り込まれない……その理由は、セファーが離脱直前におやっさん……雪之丞や、アリアンロッドの整備主任らに渡していたファイルと、擬似太陽炉(分解やデータ取り、特定の操作をすると自壊する機密保護型のナノマシン時限システム付き)……

 

 ファイルに書かれている()()()()を、同梱された擬似太陽炉を用いて2人が何とか実現させ、突貫工事で施した「(擬似)GN粒子コーティング」……

 それと堕天使のサイコウェーブの相乗効果によって、一種のジャミングの様な現象が起きているお陰だった……

 

 GN粒子コーティングを施した武装は、単純な物理強度の向上と共に「特定周波数に対応した超振動効果」を持つ事が出来る……その超振動の周波数と、サイコフレームから発せられたセファーの精神波(サイコウェーブ)が合わさる事で一種のジャミング電波の様に作用し、ナノマシンの群体であるDG細胞の機能減衰……特に侵食能力を大きく阻害しているのだ

 

 無論、周波数と精神波の強度次第ではナノマシンの集合体であるDG細胞を破壊する事も可能だが……突貫工事で施されたコーティング面積の乏しさと、精神波の周波数をDG細胞破壊に合わせる調整が行われてない為そこまでの効果は無い……

 だが鈍器としての大幅な強度アップと、侵食阻害効果を持たせる事に成功した時点で、デビルガンダムに対抗するには充分であった

 

『オラァァァ!!』

 

『いい加減くたばれぇぇぇ!!』

 

『邪魔はさせませんッ!!』

 

『タフな化物だな……だが、死ぬまでくれてやる!!』

 

『まだ落ちないんだ? だったら、死ぬまで殴る……!!』

 

 不思議と連携も取れ、無尽蔵に再生するナノラミネートアーマーにも、サイコウェーブの阻害効果による破損が少しずつ顕著化……僅かにデビルガンダムが鬱陶しさと苛立たしさに反撃を試みるも、悉く避けられ、流され、彼等の猛攻を途切れさせるには至らない。

 

〔∧※#*〇♪%&:※!∧%*─……&∧?!〕

 

 どれ程の損害を被っても、なかなか活動を止めないデビルガンダム……だが、ふとした瞬間急激に挙動が不自然に悪くなり、ガンダムヘッドが至る所でのたうち回り始めた

 

『……っ……?!』

『ナンだぁ?!』

『あ……』

 

 まるで急に襲ってきた痛みに耐えきれず、暴れまわる様な挙動の変化……その理由は、デビルガンダム本体の下半身に撃ち込まれた……真新しい鋼鉄の杭だった

 

『……最後の1本、またも直撃とはな……!』

 

 撃ち込んだ主……ガエリオの言葉が示す通り、ダインスレイヴの杭はデビルガンダムの脚部関節があった箇所……()()()()()()()()()()()()()()()を正確に貫いていたのだ

 

 唯一だが、細やかな筈の損傷に盛大なリアクションをする場所……それ即ち弱点である。

 ……ガエリオ・ボードウィン、2度目のスーパーファインプレーであった

 

 やるならもう、今しかない……!!

 

 数秒遅れで、堕天使はデビルガンダムへと突撃……その間に堕天使を包む光が、再び白い装甲を緑へと染め上げ……更に光量とフィールドを拡大させる

 

『……ぅぅ……うぁ……あぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 堪らない、堪らなく痛い……サイコフレームからのフィードバックで起こる頭痛に絶叫するセファーの声を響かせながら、堕天使がデビルガンダムの本体へと到達……武装を排除し広げた両腕から、緑色の結晶体が装甲を突き破る勢いで発生……あまりの光景に全員が言葉を失う中、堕天使の放つサイコフレームの光とGN粒子が最高レベルで共鳴し始め、周囲一帯を()()()()()と閃光で覆い尽くしていった……

 

 

 セファーの意識は、独特な浮遊感の中を漂っていた……

 

 感覚に覚えはないが、何となく理解する

 

〔……精神世界、もしくは……量子感応空間、かな……?〕

 

 もう頭の痛みも感じない……代わりに自分がどうなっているのかも分からなかった

 

〔……さすがに無茶振り過ぎだよねぇ……デビルガンダムをガチで相手するとか〕

 

 呟き、溜め息……ムチャの結果を思考する

 

 意識を向けると少しずつ鮮明に感じられる様になった、現実世界の様子……

 

 あれ程のたうち回っていたデビルガンダムは、完全に時間が止まっているかの様に動かなくなって……周囲のガンダムヘッドも全て停止、少しの間を置き、端から装甲が瞬く間に色褪せ……完全に色が無くなった場所が今度はボロボロと崩壊していく……

 

〔……成功、したのかな……?〕

 

 恐るべき速度での経年劣化……まるで凄まじい速度での早回し映像。

 「ガンダムUC」のネオ・ジオングの最後と同じ、何らかの作用で自己崩壊をしていくデビルガンダム……猛威を振るった化物の、最後の瞬間だった。

 

 やがてデビルガンダムそのものが消え去り、脳内に撮された映像も途切れる……

 ようやく全てが終わった……さすがに自分がどうなったかは未だに分からない、生きているのか、死んでいるのか……

 

〔……兄さん……ミカ兄、私……ちゃんと仕事、終わらせたよ……みんな、誉めてくれるかな……?〕

 

 1人だけの空間で、セファーは自身の兄達の反応を想像する……

 

 オルガなら「ああ、最高だったぞ」と頭……撫でてくれるかな? ミカ兄……なら「……うん、上出来じゃないの?」と認めて……くれるかな……?

 

 やがて薄れていく意識の中で、あの時の様な……再び誰かの声が聴こえてきた……

 

 何処か聞き覚えのある、優しさと強さに満ち溢れた質問の声と……不安と焦燥に駆られながらも、私の名前を呼び続ける声だった……




サイコフレームの光と、擬似GN粒子が溶け合う共鳴現象……
このお陰で擬似GN粒子にも、オリジナルの太陽炉のGN粒子と同等の超常パワーが発揮される事になり、デビルガンダムに道連れされる未来だけは潰えました。

原作ガンダムには存在しないオリジナルの設定なので、奇跡だと思ってください。
……しかし、まさかのガエリオくん大活躍……ウチ、そんな思い入れ無かったと思うんだけど……アレかな、個人でダインスレイヴをブッ放せるキマリスがデビルガンダム討伐するのに期待したのか……それとも前にアンケートしたジュリエッタとの仲が影響したのかな……?

……ともあれ、デビルガンダムはめでたく討伐完了。

しかし、代償としてセファーは意識不明の重体の模様……
彼女がどうなるかは、薄れゆく意識の中で取った行動の先に待っている。

次回、エンディング……セファーのたったひとつの願いは、叶うのか?


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エピローグ「真に待ち望んだ未来へ……」

前話のアンケートですが、最早茶番でしたねw
まぁ、分かってましたが……声の主に想像付く方は、如何程いらっしゃったかな?

では、待ち望んだエンディングを迎えましょう!!


 私はデビルガンダムを討伐する為に、サイコフレームの力を解放……

 代償として脳に損傷を受け、薄れゆく意識の中で2つの声を聞いた

 

(……もう良いのかい?)

 

 どこか不満を煽るかのような、大人の声……何処か聞き覚えのある、優しさと強さに満ち溢れた声で聴こえてきた質問。

 良いのか? と聞かれる理由に思い当たる節は無かったが、問い掛けには誠実に答えたい……

 

『私は……』

 

 言いかけて、もう1つの声が聴こえてきた……

 

(セファー……セファー……!)

 

 此方も聞き覚えのある、焦りと不安だらけの呼び声……

 

 私に聴こえてきた、2つの声……どちらに応えるか、私の心は既に決まっていた。

 

──────────

 

 デビルガンダムに特攻した堕天使……緑色の光と結晶体を纏い、デビルガンダムに接触した瞬間……

 凄まじい光量と溢れる緑色の粒子で視界はゼロとなり、その場に居た全員が息を飲む。

 

『……ど、どうなった……んだ?』

 

『……セファー』

 

『デビルガンダムは……?!』

 

『……堕天使は……?』

 

『何も見えねぇ……どうなってんだオイ?!』

 

 昭弘、三日月、ガエリオ、ジュリエッタ、シノ……5人はそれぞれ一点を注視し続け、やがて急速に光が消え去り、5人の視界がブラックアウトする

 

 その後見えて来たのは、大量の土煙……2機の姿はまだ見えない……

 

 焦れったさに全員がコクピットから外へ出る、三日月とジュリエッタが最も近い位置に立ち、移動射撃を繰り返していた昭弘は中ほど……定点から砲撃を繰り返していたガエリオとシノは少し遠目だが、全員が目視で2機の状態を確認できる距離だ。

 

「……ッ!!」

 

 三日月がいち早く、土煙から何かを察する……

 土煙が徐々に晴れていき、顕れたのは……まるで彫像の様に色褪せ、完全に動きを止めたデビルガンダムと……その胸部に両手を添えたまま停止しながらも、サイコフレームから発した結晶体を纏う……ボロボロの堕天使の機体が見えてきた

 

 やがて完全に土煙も晴れ、火星の乾いた風が頬を撫でていく……その風がキッカケとなったのか、デビルガンダムの彫像が少しずつ崩れ始め……最後は轟音と共に本体も残さず砂と化していった。

 

「やっ……たのか……?」

 

「……やれたんだな、セファー」

 

「終わったか……」

 

「恐るべき力でしたね、あの悪魔……そして堕天使も」

 

「よっしゃぁぁぁぉぁ!! やったなセファー!!」

 

 五者五様な反応を示し、それぞれが戦闘の終結を確信する

 コクピットへと戻り、MSでセファーを迎えに行こうとするが……

 

『あん? 機体が……動かねぇ!?』

 

『……バルバトス?』

 

『どうしたグシオン?! 何で動かねぇ!?』

 

『アイン……お前も、全うできたのか……』

 

 ジュリエッタのレギンレイズは損傷こそ他よりあるものの、稼働に問題はないが……バルバトスと初めとするガンダム・フレームは残らず稼働を停止し、皆がコクピットを出るまでは辛うじて動いていたリアクターも既に沈黙している。

 それは、限界を突破して能力を行使した堕天使のサイコフィールドが……乗り手であるセファーの願いを組んで動力源やシステムの重要機能を経年劣化させ、()()使()()()()()()()状態へと導いた結果であった。

 

「……セファー、これがお前の願いだったんだな……」

 

 昭弘、シノ、ガエリオが機体の状態に困惑する中……ただ1人、三日月だけがセファーの真意に気付く……

 

 力なんか無くても、みんなで力を合わせれば、きっと幸せになれる……

 

 そう願って、迷子の子供達(オルフェンズ)に……暴力で解決する以外の道を示す……

 

 ずいぶんと時間が掛かってしまったが、セファーは己の願いを……三日月達に示したのであった。

 

 仕方なくバルバトスを降り、徒歩で堕天使の元へ歩きだす三日月の所へ、1台の社用車が突撃してくる……

 三日月は待っていたかの様に足を止め、急ハンドルとブレーキでバルバトスの足元に停止……後部座席から勢いよく飛び出して来たオルガの側に来ると、いつもと変わらない口調で報告を始めた。

 

「オルガ、終わったよ……セファーが終わらせた、みんな無事……機体は何か動かないけど」

 

「……っ!? ああ、何時もながらスゲェよお前は……!」

 

「今回は俺じゃない……全部、セファーのお陰……」

 

「……そうだな……堕天使は?」

 

「あっち……動いてないけど、あの光がまだ残ってるし」

 

「そうか……よしチャド、おやっさんに連絡だ!」

 

 オルガは早速後方で控えているメンバーに連絡を取り、機体を引き上げる為の準備をさせる……

 その間に三日月は車に乗り込み、連絡がついた後に堕天使の足元へと到着する

 

「……降りてこないね」

 

「いつもなら団長見ると速攻で来るんだけどな……『また無茶してないよね? 今日はちゃんと休めてる?』とか心配してさ」

 

 そう、普段のセファーならすぐに降りてくる……のだが、一向にその気配がない

 

 少しずつ不安が濃くなるオルガ達……その後おやっさん達も現着し、護衛のランドマン・ロディで堕天使のコクピットに横付けして、外部操作でハッチを開かせた

 

「……オイ、セファー? 疲れて寝てるのか?」

 

 シートに深く座り、辛うじて少女の吐息だけが聞こえる堕天使のコクピット内……覗き込んでいたオルガは最初、単に疲れて眠っているのと思っていた……だが、三日月やチャド達の声が聞こえてきても、昭弘やシノ、ガエリオ達の声にすら全く反応せず、沈黙を守る少女……

 

「……セファー?」

 

 三日月の声色に、ドッと嫌な予感が押し寄せるオルガ……先程まで仲間と勝利を分かち合った笑顔も一瞬で消えている

 

「ミカ……どうした? セファーは?」

 

「分かんない……でも何か、息はしてるのに……死んだ様に眠ってる」

 

 三日月のカンが言わせる言動は、おおよそ外れない事が多い

 今までもその言動に救われた事実も多くあり、ぶっちゃけ予知レベルで凄い時もあった……そんな三日月が、セファーを「死んだ様に寝てる」と評する……

 

 堪らなく不安が募る……もしかしたら……?! そう考えたオルガは急いでセファーを車に運ばせると、堕天使とバルバトス達を雪之丞に任せ、自ら運転してクリュセの病院へと直行するのだった

 

──────────

 

 クリュセの病院に到着したオルガは、セファーに精密検査を受けさせた……

 だが、検査の担当医は「身体機能に一切問題ない」と回答し、眠っている原因は不明だと明かす。

 

 だったら何が原因なのだろうか……? 火星の医療レベルでは判らない原因があるのかもしれない……

 オルガはそう判断し、藁にも縋る思いで兄貴分である名瀬に頼った。

 

『俺もその嬢ちゃんには《簡単には返せねぇ》程の大きな借りがあるんだ……任せろ、一番腕の良い奴を手配してやる……嬢ちゃん連れて、こっちに来れるか?』

 

 

 テイワズのトップ、マクマード・バリストンから正式に「若頭」に据えられ、今までの様な身動きが思う様に取れなくなった名瀬だったが……命の恩人であるセファー絡みの頼み事と聞き、2つ返事で快諾。

 ……後日、テイワズの本拠である歳星へ、オルガと三日月、アトラと……眠ったままのセファーが到着した。

 

「久しぶりだな、兄弟」

 

「兄貴……セファーを……!」

 

「心配するな……頼んでる医者はタービンズ時代から世話になってる医者(ヤツ)の友人で、脳神経・精神科の専門医だ。

 嬢ちゃんの異変も、その先生ならきっと何とかしてくれるさ」

 

 男がそんな顔をするんじゃねぇよ……と肩を叩きながら、名瀬は紹介する医者の情報をオルガに伝える

 既に歳星の病院で待っていたその医者……セレスティア・アーデルハイド。

 

 若干20代ながら脳神経外科と精神科でその腕を振るう才色兼備の女医であった。

 

 だが、その敏腕女医の力を持ってしても……抗えない現実が、オルガ達に突き付けられる……

 

「……結論から言うと、彼女は脳神経に受けたダメージが原因で昏睡状態に陥ってるわ。

 このまま死にはしないけど、意識を取り戻すかどうかは分からないわ……残念だけど、これは私でもお手上げよ……

 脳神経の物理的な損傷や、精神疾患なら何とかなるんだけど……こればっかりは、ね……」

 

 何という事だ……ならばセファーは、奇跡でも起きない限りこのまま眠ったままだというのか……突き付けられた現実に、耐え切れず啜り泣くアトラ、三日月もアトラの心情に同調し表情を曇らせている。

 

 そして、兄であるオルガは……しばらくの間、思考が完全に停止してしまうのだった。

 

 

『……そうですか……セファーちゃんが……』

 

 セファーの治療法を見つける事ができず、一行は火星へと帰還……クーデリアや、地球支部の団員たち……そして蒔苗東護ノ介の下で雇われている元・団員タカキにもその情報は伝わり、クーデリアはセファーが入院する事になったクリュセの病院に駆けつけ……現在、地球支部からタカキ達との通信が繋げられていた。

 

「堕天使の機能はチビ嬢ちゃんしか分からねぇ……だから俺達も、何もしてやる事が出来なかった……情けねぇよな……」

 

 雪之丞の苦しい告白……だが、現実に彼らは堕天使に関して一切を知らされておらず、セファー自身も堕天使に関しては他の誰の手も借りる事はなかった……必然的に彼らが手を貸す事など出来る訳がなく、彼らのせいではない事は明白である。

 

「そんな事はありません、セファーちゃんは整備班の皆さんの手を煩わせる真似をしたくなかったのでしょうから……雪之丞さん達のせいではありませんよ」

 

「そうですよ! 本人すらだって予測出来なかったのかもしれませんし……彼女は俺達に、傷付いて欲しくなかったと思ってたんでしょ?」

 

 そう……歳星から戻る途中で三日月から聞いた出来事……

 

 セファー唯一の、譲れない願い……それは「鉄華団のみんなを必ず未来に生き残らせたい……そして、暴力以外で道を切り開ける様になって欲しい」

 

 義妹の秘めたる思いを知ったオルガは、人目も憚らず涙した……こんなにも真摯に俺達に向き合ってくれた小さな天使……とてつもなく大きなものを、俺達はまたしても失ったのか……

 脳裏にフラッシュバックする、小さな義妹から突き付けられた説教や薫陶、お小言、ダメ出しに愚痴……

 

 それらも全て、俺達に明るい未来を見せたい……その一心からだった。

 300年前の封印から目覚め、どうしようもない子供達を擁する俺達を……彼女はただ純粋に心配しながら、成長を手助けしていたのだった。

 

 全てを知ったオルガはこの後、ある誓いをする……

 

──────────

 

(……本当に良いのか? 此方からの方が、彼らを見守るだけならば都合が良い筈だ……)

 

 不思議空間でセファーは、最初の声とは違う大人の声に質問され……迷いなくこう答えた。

 

「確かに……こっちからの方が、見落としや不明瞭な点も全て見通せるし、堕天使を使って驚異を排除するのも簡単……だけどそれじゃ、私の理想は達成できないんです……私は()()()()()()()()()んですよ」

 

(貴女は、人と違う運命を背負っているわ……ずっと彼らと歩む事はできない、いつかは終わりが来るわ)

 

 承服しかねる、といった風な女性の声……だがセファーの決意は固く、微塵も表情を崩す事すらない

 

「全て知った上での判断です……私はその為に、今を生きてる……そうやって生きたいんです」

 

 どうあってもセファーは意思を曲げない……決意の固さに負けたのか、最初の男の声が響いてきた

 

(そこまでの決意、か……俺達にはついぞ出来なかったな……だから今もこうやって、未練がましく此処に居座っている)

 

 それは自身に対する呆れにも似た、彼自身の過去を鑑みた告白だった……彼もまた、現世に未練を残したまま此処に来てしまったのだろう

 

(そうか……まぁ、君ならばいずれ自由に此処へ来れるだろう……好きにすると良い)

 

(ホントは一緒に居たかったけど……貴女なら彼らも安心でしょうね)

 

「そりゃあ、自慢の兄さま達ですから……!!」

 

 セファーは満面の笑みで、3人の声に対して応えた。

 

(……俺達の心配は杞憂だった様だね、なら……あの光に飛び込むと良い、あとは君次第だ)

 

 誘われ、迷いなくセファーは光の奔流へと飛び込む……去り際に聞こえた声は、セファーへの期待に満ちた別れの言葉だった。

 

(……健闘を祈ろう、君が理想を形に出来るように)

 

(ふふっ……またね♪)

 

(次はちゃんと、天寿を全うしてから来いよ……!)

 

──────────

 

 クリュセの病院にセファーが入院して、2ヶ月程が経過した……

 

 オルガは、セファーの入院をキッカケに鉄華団の戦闘要員を大幅に削減……代わりに、専用に改造したMSを利用した土木作業の部門や、腕の立つ団員を集めて警備部門を立ち上げ、クリュセや付近の自治区を拠点にする会社や事業者達に売り込んだのである……

 最初こそ反応は芳しくなかったものの……クーデリアの会社であるアドモス商会と、その紹介で利用したクリュセ在住の有力者や議員、事業者達からその熱意や真摯さを評価され……土木作業や民間警備の分野でも、ある程度の知名度を得られる様になっていた。

 

 MSでの戦闘の様な危険など無い、真っ当な仕事でやっていく……その第一歩を成功させたのである。

 

 そしてセファーの病室には、毎日の様に団員の誰かが常駐していた……その理由は勿論、セファーが目を覚ましたら全員に報せる為である。

 交代は朝の9時と、夜の7時……病院関係者も昼夜交代のシフトが代わるタイミングである。

 

 今日の担当は、団内で最も仲の良かったアトラ……病室は個人仕様の特別室が宛がわれており、仮眠用の簡易ベッドや入浴設備も整った豪華な一室である……後にギャラルホルンからの介入があった事が分かったが、誰の仕業かは最後まで判明しなかった。

 

 白いカーテンが微風に揺れる室内……昨日は少し無茶をしたのか、まだ眠たそうなアトラは、セファーの眠るベッドに突っ伏して寝息を発てていた……

 

(……暖かい、誰かが手を握ってくれてる……気持ちの良い風、この匂いは……病院かな? ……それに、アトラちゃんの匂いもする……瞼が重い、どれだけ寝てたのかな……)

 

 瞼が重く感じられる、どれだけ寝ていたのだろうか……力の入らない衰弱した身体に鞭打ってようやく上半身を起こす……見たこと無い部屋だが、調度品や回りの置物が病院の一室だという事を如実に語っていた。

 

「……アトラちゃん……」

 

 代償の影響で一時的とはいえ、衰弱し声すらもか細くなってしまったが……五体満足だという事を確かめ、傍らで眠るアトラを撫でながら呟く……

 ふと、自分の頭に手をやると……そこには緑色に輝くサイコフレームの断片、そしてそれから生える1輪の花の形をした結晶体があった。

 

 淡く儚い光を放ちながらも、しっかりと咲き誇る花……種類は分からないが、この花は「ガンダムOO」1期ラストバトル手前でフェルトが刹那に送り、以降大事なシーンに何度も出てきた……特別な印象を受けた、あの花だった……良く見れば、劇場版ダブルオーのELSの集合体が咲かせた花にも似ているかもしれない……

 

「……? セ……ファー……ちゃん……っ!?」

 

 結晶の花から放たれる暖かい光を感じ、眠りこけていたアトラが目を覚ます……違和感を感じ、視線を上げると……そこには痩せ細った身体で、先程まで永遠の眠りを余儀なくされていた親友が上半身を起こして花を片手に微笑んでいた。

 

「……おはよう、アトラちゃん……お寝坊さんでゴメンね、ただい……」

「セファーちゃんッ!!」

 

 わぷっ……と、台詞を最後まで言わせずに抱きつくアトラ

 空いている手で受け止め、背中に回してぐずるアトラを優しく諭す……

 

「良かった……ホント……目を覚まさない……どうしようかって……みんな……悲しくなって……!」

 

「……うん……うん、ゴメンね……凄く心配させたちゃったね……でも、もう大丈夫だよ」

 

 泣きじゃくるアトラの顔を上げさせ、言いたかった一言を聞かせる。

 

「だいぶ遅くなっちゃったけど……ただいま……」

 

 再び大声で泣き始めるアトラ……外にまで漏れる泣き声を、前日の内に仕事を速攻で片付け、三日月と一緒に見舞いに来たオルガの耳にも届き、全速で突入してきた音にビックリして泣き止むアトラ……その側で弱々しいが、ヒラヒラと手を振る義妹の姿に……恥も体裁もかなぐり捨てて抱き付いた……勿論、アトラは捲き込まれまいと横に退避したが。

 

 

──────────

 

 はい、ずいぶんと紆余曲折ありましたが……当座の改変、ようやく終わりましたッ!! 

 

 いやはや、一時はどうなる事かと思ったけど……何でデビルガンダムとか出てきたんですかねぇ……

 

 ……っと、あれからまた少し時間が経ったし……状況説明からいこうかね。

 

 まず、火星の様子ですが……大規模な政治改革が近々起こるらしく、ギャラルホルンの連中が厳重な警備を敷いて自治区の各主要都市を巡回しているとの事。

 現政権に見切りを付け、特権階級制度や独占の横行する今の状態を何とかしようと奮起した若い政治関係者達が、多くの労働者達を味方に付けて選挙まで持ち込んだらしい……。

 

 政治にはとんと疎い私でも、それがどんな大事なのかは何となく分かった……

 

 そのギャラルホルンですが……なんとあのラスタル・エリオンがクーデリアと共に戦争孤児や難民に関する改革の後押しをしており、「阿頼耶識」の新規施術禁止の厳罰化や、希望者には切除ないしは無効化施術を無償提供する事まで決定したというのだ。

 

 ……何だろ、ある意味かなり良い傾向だけど……何かキナ臭いなぁ。

 

 地球でも改革の兆しは見え隠れしているらしい……蒔苗の爺ちゃん、まだ健在なのかな? 

 

 そして、我等が鉄華団はというと……

 

「オイ! この程度でへばってんじゃねえぞ!?」

 

「「「「うぃーっす!!」」」」

 

 シノ兄の罵声で新規入団者の若者達が本部外周マラソンコースを走らされてる……

 毎月恒例の持久力を鍛える耐久マラソン、発案は昭弘兄……実行者はシノ兄だ。

 

「……ココの配線、よーく見ろ……何か違わねぇか?」

 

「……あっ」

 

「分かったようだな、今回は初挑戦だから仕方ねぇが……仕事じゃこんなヘマすら許されねぇ、肝に命じておけよ」

 

「……はい、スミマセン……ありがとうございました!」

 

 整備場では、おやっさんが新人研修の真っ最中だ……さすがにおやっさんは新人育成も上手い。

 

 っと、ココは団長執務室だ……中に入ると、相変わらず兄さんは書類と格闘中だ。

 さすがに私直々にしごいただけあって処理速度はなかなかのモノ……でも書類の量は以前よりだいぶ増えたので、この時間帯はまだまだ山と積まれた書類に埋もれている。

 

「……なんだ、アトラ……何撮ってるんだ?」

 

「ビデオレターですよ、セファーちゃん宛に」

 

「成程な……って、セファーにか?! 待て、この状況は撮るな!!」

 

 時既に遅し……動画の編集技術なんて誰も持ってないからそのまま送られてるんだよなぁ……帰ったら兄さんに、書類仕事の効率化のコツをもっとしっかり叩き込まないと。

 

 そう、私は今……鉄華団から送られてきたビデオレターを観ている。

 

 私は今……木星圏にあるテイワズの本拠地、歳星に居るのだ。

 ……その理由は、ある物を造る為……。

 

『すまん嬢ちゃん、重力変動区画外縁部でトラブル発生だ……休憩中に悪いが、頼まれてくれるか?』

 

「現場は何処ですか? 3分以内で現着します」

 

『すまんな、場所はルートD8の第七区画……搬入機材の故障で外に放り出された奴が居る、ソコから見えるか?』

 

 私はビデオレターを停止し、外のモニターに切り換えてすぐさまチェック……指定された区画の外部観察用カメラが捉えた映像には、機材の故障で誤動作が起き、搬入作業中だった1人が弾き飛ばされて虚空を漂っている……幸い弾かれた勢いは強くなかった為、今から飛んでも充分に間に合う。

 

 手慣れた操作で私はコンソールを操作し、乗っている機体……歳星で()()に製造させて貰った()()()()()使()()()()()()を操って救助に出向いた。

 

 前の機体はギャラルホルンに接収されそうになった為、自壊シークエンスを作動させて証拠隠滅したので心配無用。

 ココ歳星で堕天使を新規に建造させて貰った代わりに、堕天使を踏襲した姿で……機能的にPD世界の技術のみを使用したデチューンモデルの量産機を設計……製造元のテイワズとライセンス契約を結んで販売用として、一部の高級常連なんかにコレクション感覚で購入出来るようにした……なので、売れれば売れるほどテイワズと私の懐は潤う様になっている。

 

 ちなみに私が乗る機体は()()()()()()()()なので、他のライセンス機体にはコスト問題で不採用となった色々な機能も全て盛り込まれている。

 

 なお、そんな契約を結んだ背景には……今の私の境遇とお仕事内容が絡んでいるのだった。

 

──────────

 

「……は? 地球側のギャラルホルンがまだ私を探してるの?」

 

 テイワズの若頭、名瀬・タービンとの秘密会談の場で、私は聞き捨てならない現状を聞いた……

 

『ああ……堕天使がデビルガンダム事件の発端だと信じて止まない連中が、この前ココにまで連絡を寄越してな……此方は元から接点が無いから切り抜けられたが……』

 

「……鉄華団は、私がココに居る限り無理でしょうね……」

 

 そう、ギャラルホルンの一部は私こと堕天使ザドキエルをDG(デビルガンダム)事件の首謀者として目の敵にしており、未だに関係者の間を探っていた……

 アリアンロッド司令であるラスタル・エリオンは「聞くに耐えん戯言だ」と切って捨て、この件に介入する事はないと明言していたが……弊害で連中を止める事も出来ない、と前に設けた秘密会談で謝られた。

 

 どういう心境の変化だろうか……よく分からないが、彼が一番厄介な実力者なので願ったり叶ったりである。

 

 なので私は鉄華団から一時離れる事を決意……歳星でお世話になる代わりに、私の持つ「この世界にあっても不自然じゃない」程度の技術提供と、テイワズ主導の新規技術開拓の為の施設建造に携わる事……その間に私は施設を自由に使用して良い、との交換条件を提示し……結果めでたく採用。

 施設利用権の有効期間内に、私は自衛用に新規製造した堕天使の為に、ある物を製造させて貰う代わり……施設内の設備点検とリスクマネジメントを担う事になったのだった。

 

「……居た、右前方……距離40、相対速度合わせ……救助成功、帰還します」

 

 堕天使を操作し、要救助者を確保……マニピュレーターに掴まらせ、両手で保護しながら私は機体を帰還ルートに乗せた。

 

 

 この日の全ての業務を終え、宛がわれた部屋でビデオレターの続きを見るセファー……その目から、一筋の涙が溢れる。

 

漂う宇宙(そら)のどこか遠く

 

 撮影されていたのは、三日月とアトラ……この日アトラの妊娠が判明し、三日月とアトラは揃って祝いの席に強制連行されていた。

 

祈り通ずる 惑星(ほし)があるとしたら

 

 待ち望んだ、原作とは違う形での……未来に繋がる一幕。

 

僕らはそこへ向かうだろうか

 

 そこに同席出来ない現状は仕方ないが、自分の野望……一度で良いから、オリジナルの太陽炉搭載機とした自分の機体(ザドキエル)を造りたい。

 

そして何を祈るのだろう

 

 それを叶えるための代価……そして、夢が叶えば()()()()()()()()()()()()()()()()……そう思えば、安いものだ。

 

希望の花 繋いだ絆を

 

 ビデオレターを見終えた私は、早速返事のために便箋を取り……鉄華団宛に手紙を書いた。

 

力にして 明日を強く咲き誇れ

 

 書きたい事は山程あるが、それはいずれ帰った時に取っておこうと思う……。

 とりあえず、ビデオレターの返事と……帰還時期に目処が立ったら、また連絡をすると明記……そしてアトラちゃんへのお祝いの言葉を添えて、締め括る。

 

戻る場所なんてない 辿り着くべき場所へと

 

「……さて、明日はいよいよTDブランケットの実験だ……早めに寝ておこ……」

 

迷いのない旗を高く掲げて

 

 そう言って私はテーブルのライトを消し、部屋のライトも落とす……ベッドの横には、唯一……火星から持ち込んだ花が飾ってある……

 

今を生きていく

 

 それは、あの時……長い眠りから覚醒した私の側に、いつの間にか添えられていた……サイコフレームの破片から生えている、結晶体の花だった。

 

 

 

 

- END -

 




終わりましたッ!!
……最後の最後にやりたかった
フリージアをBGMにしながらのエンディング……

見辛かったらスミマセン……m(_ _)m

そして、今年最後の投稿にも間に合いました……

来年はある方とコラボストーリーを外伝として連載を続ける方針です。

それでは皆さま、良いお年を……って、もう残り1時間切ってるし!?


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After 謎多き男「マクシミリアン・モンターク」

ひさしぶりの1周目ストーリー絡みです!

今回の内容はご存知アレのその後……
そしてあの2人のその後です。


 あの激動の日々から暫くして……鉄華団にも日常が戻ってきた。

 

 相変わらず火星での日々は大変だけど面白い。

 

 タービンズは組織として消滅したけど、名瀬さん達はテイワズの中枢を引き継いでアレコレ活躍中である……たまに「遊びに来いよ」って連絡もくれるし。

 

 あの時は名瀬さんに死んで貰いたくなかったからね……まぁ、そのお陰で少し前までテイワズに匿って貰えたんですけどw

 

 いや、現実逃避は止そう……今、目の前にはある人物がいる。

 

「久しぶりだね、相変わらず元気そうで何よりだ……()()使()くん」

 

 目の前の男……一度見たら絶対に忘れない、そんな奇妙な仮面……そして(ワザ)とらしいまでに強調した「堕天使」という呼び名……そう、私の眼前に居るのは……あの時以来その姿を表舞台から消し去り、婚約者である少女と共に火星へと落ち延びたロr……男。

 

「堕天使って、いったい誰の事です? 私はココの団長の妹ですけど?」

 

「ふむ、人違いだったか……いや失礼、既視感のある姿だったものでね……」

 

 どうせ知ってて言ったんでしょ……お互い身バレ済みだし、ぶっちゃけセキュリティから万全な私の執務(ぼうおん)室に2人っきりなんで、どう足掻いても外部には漏れやしない。

 

「はいはい、わざとらしい挨拶はしないでよ……お仕事の話をしに来たんでしょ?

 

 元・セブンスターズの一角にして反逆者のマクギリス・ファリドさん」

 

「フッ、手厳しいな……確かにあの時はそうだったが、今の私はマクシミリアン・モンタークだよ」

 

 読者の皆さんは覚えているだろうか? 私は以前、彼と別れる前にある「置き土産」をしていった事を……

 

「分かってますよ、モンタークさん……それじゃ、商談を始めましょうか」

 

「お手柔らかに……」

 

 

 マクシミリアン・モンターク……

 創業から100年以上続く地球圏でも有数の老舗企業「モンターク商会」の当主。

 

 彼の経歴は一切が謎に包まれているが、火星と地球を結ぶ独自航路と小艦隊クラスの戦力を持ち、2惑星間で初の定期便を実現した男……

 その正体はご存知、バエル・ナトゥムをTRANS-AM(トランザム)()()させ、死んだと見せかけながら裏で助けたあの男……マクギリス・ファリドである。

 

 地球でアルミリアちゃんと過ごしていた時、私は「アルミリアちゃんとの約束」の一環として「マクシミリアン・モンターク」という架空の人物の戸籍情報をでっち上げていた。

 

 その後、マクギリスを迎えに行く時にアルミリアちゃんもこっそり連れ出し、地球を離れる直前に彼女の個人情報にもアクセス……シャトル事故(当時実際に起きた奴、搭乗者は全員死亡した)に乗っていた事にし、更に()()()()()()()()()()()()「アルミリア・フリッカ」という存在を創り上げ、彼の婚約者として仕立て上げたのである。

 

 いやぁ、あの時は楽しかったね♪

 ハッキングプログラムをVRのアクションゲームに偽装して、アルミリアちゃんと思う存分楽しんだんですよw

 意外にもアルミリアちゃんは格闘戦が得意で、あの()ガンダムをまるで手足の如く使い熟しておりました……いくらフルダイブ型のVRゲームとはいえ、まさか流派・東方○敗を完全再現するとか末恐ろしいんですけど……?

 

 ……まぁ、そんなこんなで2人はDG事件の裏で別人になることに成功し、彼は堂々と表の世界で仕事してるのである。

 

「……アルミリアが君に会いたがっていたよ、そろそろ彼女の誕生日も近い……今年はパーティーに出席してくれるんだろう?」

 

 商談(と言う名の近況報告会)を終え、マッキー(愛称は元のままでも無問題♪)が席を立つと同時に話題を振ってきた。

 そっか、もうそんな時期なんだね……

 

 勿論、彼女の誕生日は改竄が完了した日付に変更してある……そりゃ元のままだと疑われるしw

 

「うん、今年は急な仕事もないし……テイワズからの依頼の方も目処は付いてるから、ちゃんと出れるよ」

 

「そうか……では、当日を楽しみにしているよ」

 

 そう言って部屋を出ていく彼……誕生日が近いとなれば、私もプレゼントを用意しないといけないね……よし、今度クリュセでウィンドウショッピングだ!(買うとは言ってないw)

 

──────────

 

 数週間後、モンターク商会が保有する航宙艦で盛大なパーティーが催された……

 

 それは勿論、商会の主の婚約者である彼女……アルミリア・フリッカの誕生日を祝う為である。

 何でまだ婚約者なのに商会が祝うのかって? それは主催者に聞いて下さいw

 

「フリッカ嬢、こちらへ……『鉄華団』の代理人の方がお見えになられました」

 

 商会の重役に案内され、巨大展望室の一角へと案内される少女……髪型や細かな部分こそ成長などの結果で違えど、その内面からにじみ出る雰囲気は変わらない。

 案内先で待っていた少女も……歳を重ねて成長はすれど一部は不変に近いため、お互いが間違える事などほぼ皆無であった。

 

「アルミリアちゃん!!」

「セファーちゃん!!」

 

 お互い駆け寄り、久しぶりの対面に喜びを爆発させる2人の少女……少し離れた場所でその光景を笑顔で見つめる商会の当主(マクシミリアン)の姿もあった。

 

 

 それから、私とアルミリアちゃんは連絡が取れなかった間の出来事をお互いに包み隠さず暴露し合った……

 

 お互いに全てを話し終わり、最後に用意していたプレゼントと「また会おうね」と固い約束を再び交わして私はその場から一旦離れる……その足で向かった先には、マクシミリアンが居た。

 

「あー、楽しかったぁ~♪」

 

「……それは良かった、彼女も嬉しそうで何よりだよ」

 

「……ホント、アンタ性格変わったわね……彼女と、そろそろ正式に結婚するんでしょ?」

 

「あぁ、キミのお陰でね……書類上の縁は絶たれてしまったが、ようやく彼女の兄(ガエリオ)との約束を果たせるよ」

 

「素直にガチで好きになったって言えば良いのに……知らない仲じゃないんだしさ?」

 

「フフフ……そう言ってしまったら、俺は一生キミにイジられる事になる……それだけは避けたいのでね。

 

 ……そう言えば、キミの方はどうなのかな?」

 

「ちょ……今その話題振る?! アンタにお節介焼かれるのだけは絶対に嫌だからね!!」

 

 突然の逆襲に私は思わず動揺してしまった……

 この身体は人造なので本来はまったく成長しないのだが……あの事件以降、私のボディはナノテクノロジーを応用して年齢相応に変化するように改良を重ねており、現在はアトラちゃんとあまり変わらない位まで変わっている。

 

「……今は仕事優先! アトラちゃんのトコもそろそろ産まれるし、ラフタさんの方も順調だって聞いたから……抜けてる穴を埋めるのでいっぱいなんです~!!」

 

 子供の言い訳の様に現状を並べ立て、私は彼の追求を凌ぐ……事実、ミカ兄とアトラちゃんの所はもう秒読み段階だし、昭弘兄とラフタさんのトコもそろそろ安定期に入るから嘘じゃないですもん。

 

「フフッ、まぁそういう事にしておこう……」

 

 悪戯が成功した様な邪悪な笑みを浮かべる(マッキー)……今は腐ってないとはいえ、悪い大人ってこういう事してくるからやっぱり油断ならない。

 

 まぁ、あんなに歪んでいた男がここまで矯正されるなんて、当時は思いもしなかったわよ……自分でやっといて今更なんだけどねwww




少々短いですが、アフターストーリーとしてあの2人が元気でやっている事は十分ご理解して頂けたのではないかと……

なお、セファーが誕生日プレゼントとして用意したのは
サイコフレーム製のお守りペンダント。
だいぶ改善されたとはいえ、火星の治安はまだ安定しているとは言い難いので……


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コラボ「気が付いたら女の園に入ってた件」
セカンドストーリー:プロローグ


あけましておめでとうございます。

2021年も「寝落ちしたら……」をよろしくお願い致します
m(_ _)m
さて、大晦日のエンディング投稿で予告していた「コラボストーリー」の序盤を遅れ馳せながらのお年玉的な扱いで公開します。

このストーリーは以前より構想していた「2周目」を軸に
GFさん(ID:328571)とコラボする事で実現したアナザーシナリオとなります。

相方がどんなネタをくれるのかは不明ですが、1周目よりもチート度が上がる……?

……それでは、開幕のお時間です!


 ……正直言って、無茶苦茶だと私は思った。

 

 私はサイコフレームの奇跡を無理矢理かまして、デビルガンダムを道連れにしてやったと思っていた……だが。

 

(……え? 何よココ……)

 

 虹の河……そう呼んでも良い様な極彩色の奔流……緩やかだが侮れない程、巨大な河川の様な中で……半透明の身体となった私は、ゆっくりと流されていた。

 

(ちょ……コレ、流されたら冥府とか……あの世行きまっしぐらな奴じゃない?!)

 

 物凄く酷い勘違いなのだが、今の私がマトモな思考など出来るハズもなく……流れに逆らう様に横切り、やっとこさ河岸へと手を掛けた……その瞬間。

 

(うぐっ……ああああぁぁぁぁぁぁぁあ"ぁ……ッ!!)

 

 決して触れてはいけない何か、それに触れ……まるで神罰を受けた様な激痛と共に、様々な情報の奔流が脳を焼く……そんな表現がピッタリな痛みを受け、更に()()()()のような黒い触手が何本も河岸から現れ……凄まじい力で、私の半透明な身体を引きずり込む。

 

(嘘でしょ?! 真理の扉みたいな表現は勘弁し……!)

 

 最後まで言葉に出来るハズもなく……私の半透明な身体はあっという間に虹の河から、暗黒の河岸へと引き込まれ、誰かの記憶を焼き付けられていく……

 歌が上手い母と、機械工学のエンジニアだった父……その間に産まれた、母譲りの髪を持つ1人の少女……

 

 幼い子供の記憶は暖かな物だったが……悪意に満ちた男達の、突然の簒奪と襲撃によって全てを奪われ……両親は共に銃殺……天涯孤独となり、スラム街へと放り出され、少女の瞳は失意の内に閉じられた。

 

──────────

 

 はい、何かもう思い出したくない不条理を見せ付けられて……どうやらまたしても転生したセファーちゃんです。

 しかも、なんと……

 

「……どうした? 俺の顔に何か付いてるのか?」

 

 イケメンのお兄さん……いや、年齢的にはオッサンかなぁ……何か見た事ある人に見られてるんだけど……

 

「名瀬……アンタの顔があまりのイケメンだから見惚れてるんじゃない?」

 

 え? この人……名瀬さん……?!

 ……ってことは、今度は女の園……もとい、タービンズぅ?!

 

「……ぁ、っ……」

 

 名瀬、と呼ばれた男の手が少女の顔に触れ、おっかなびっくりの視線と反応が帰ってくる……

 彼はその反応に満足したような笑みを浮かべ、少女に問い掛けた。

 

「お前……俺の所に来るか……?」

 

 

 それは、原作開始前のタイミング……名瀬と呼ばれる男が、行き場を無くした女性達を集めて『タービンズ』と呼ばれる運び屋を立ち上げ、テイワズの傘下となって少し経った……雨の夜。

 

 ボロボロの布切れ一枚だけで身体を覆い、全身薄汚れてはいるが……視界に入れば目を逸らせない程の綺麗な髪色をした少女が、運び屋を生業とする彼、名瀬・タービンに拾われた……

 

 少女は、彼の子となり……やがて後に「世界と想い人の」命を賭けた戦いに身を投じる事となる。

 

 その運命を「変えられるのは、その想い人だけと」知らぬまま……

 

セカンドシナリオ

─ 気が付いたら女の薗に入ってた件 ─

 

 

 最早聞き慣れた格納庫に響く駆動音……テスト稼働を終えて整備スペースに駐機される1機のMS……それは、テイワズ製の見慣れたMSではなく、1人の女性以外には見慣れない姿……

 

「……まさか、ホントにMSを設計しちゃうなんて……ねぇ?」

「あの子、何か妙に凄くない……?」

「あの髪もそうだけど……やる事成す事アタシ等の度肝抜きすぎよね……」

 

 戻ってきた機体を仁王立ちで迎える少女を、周囲の女性や整備員達はそれぞれの感覚で彼女への印象を述べる……

 その少女は、一目みたら忘れられない程の印象的な桃色の髪……頭頂から生えた特徴的なアホ毛と、水色のリボンで大雑把にポニーテールとした頭と、灰色に黄色の差し色と刺繍……背中の一角獣「ユニコーン」のシンボルが大きく描かれた作業着に身を包み、 稼働テストから戻ってきたMS「フラッグ」を仁王立ちで迎えていた。

 

 

 私、セファー・タービンは現在……タービンズに所属、MS設計技師兼テストパイロットをやっている。

 

 ……なんで技師なのにテストパイロットもやってるかって? そりゃ私が設計した機体……フラッグの出自故である……

 そりゃそうだ「何の経験もない小娘が設計した機体に命を預けるなんて、誰がやるかよ?」と、テスト候補者の1人の言……テイワズは「能力重視」の理念を掲げ、出自がどうであろうと能力のある人間なら重宝される、そんな場所だ。

 故に、私もそれに従って実力を見せた……しかし、たった一人を除いて()()()という理由で拒否られたのである……そう、たった一人を除いて。

 

 それが、フラッグのコクピットから出てきたテストパイロット……同じタービンズに所属し、腕も確かな同年代の少女……ラフタ・フランクランドだった。

 

「ねぇ……この機体、フラッグ……だっけ? 機動力は高いし、反応も良い……火星とか地球じゃ飛べるんだっけ? 確かに凄いけど……この見た目は何とかならない?」

 

「うーん、機体構造の点は飛翔時の空力特性とか、重量とか、色々問題が多くて解決にはもうちょい時間欲しいんだよね……課題が1ヶ月って制限もあったし」

 

 そう、私がフラッグの制作に掛けられる時間制限の都合だからしょうがない……「1ヶ月で何かしら目に見える成果を出せ」という期限があったからだ。

 ちなみにこの指示を出したのは、テイワズのトップである「マクマード・バリストン」さん……タービンズに拾われ、紹介された時……

 

「お前さんは何ができる? どんな事ならできる?」

 

 と急に質問されたので……思わず「えっと、MSに乗ったり作ったり……」とバカ正直に口にした所為なのだが。

 

 マクマードさんは黙って聞いた後、意地の悪い笑みを浮かべて私に課題を出したのだ……それが、さっきも言った「1ヶ月以内」の期限付き制作の裏事情である。

 ……そもそも、1ヶ月でMSを作ろうと考えた私も大概バカだけどねw

 

 ただ、同時並行に作業して先に完成させ、大いに活躍した()()もあるため、一先ずはいい報告が出来る筈だ。

 

「……まぁ、アタシ達の中で妙に浮いてたアンタが……こんな物作れる頭してたってのは驚きだけどね」

 

 ラフタ姉さんはそう言って私の頭を撫でた……歳が近いとはいえ、身長が少し低い私は、ラフタ姉さん達から「妹みたいな存在」として扱われている

 ラフタ姉さんと私では頭一つほど差があるため、度々こうやって頭を撫でられるのだ……別に嫌ではないが、こう……子供扱いされている様で、何だかちょっと不満である。

 

 

 数日後、稼働実験で得たフラッグの詳細スペックを資料に纏め、マクマードさんに提出……直接会えなかった為詳しくは知らないけど……フラッグの設計思想と性能に驚愕されたらしく、設計に関しては認められたと連絡があった……それに応じて、私の正式なタービンズ入りと「儀式」が行われる事も。

 

 ……「儀式」? 一体何でしょうかねぇ?

 

 

 はい、2回めの転生セファーちゃんです。

 儀式の当日なんですが……私は今、悩んでます……セファーという名前を今後も普段から使っていくかどうかを。

 

 多分誰も知らないかとは思いますが……名前というのは非常に厄介な問題を引き起こす要因でもあります……特に、私みたいな転生者の場合はね?

 もし、同じ世界から転生した人間とか過去の歴史に名前が有った時とか……前回の転生じゃアリス→セファーと変わったので良いですけど、今回の展開じゃ今がチャンスじゃないかなと思ってる……

 

 もし、セファーの名を使った場合……あの時、私を襲った『転生の時に見せられた少女の記憶』にある懸念があった。

 ……あの男達は全員が黒服、どうみても誰かに雇われて両親と私を害する為に来たのだろう……あの記憶の中でも、()()()()()()()()()()()……

 つまり、このままセファーの名を使うと、奴らに存命を知られ……再び襲撃されるのが目に見えている……あの理不尽極まりない奴なら絶対やりかねない……

 

 それに、折角の再転生だから、また違う名前で生きていくのも良いかと思っていた。

 

 そして、行われた儀式はマクマードさんと名瀬さん……身内の一部だけで行う参入の儀式と呼ばれるものらしい……そして何でも、達筆なあの字で、でっかく書かれるというのだ……しかも、漢字じゃない時は()()()で。

 良かった、セファーじゃなくて違う名前で良かったと本気で思った……もし、セファーのままだったら、どんな当て字されるか分かったもんじゃないしね……

 

 新しい名前は「睦月透火」……転生前によくH・N(ハンドルネーム)として使ってた名前をそのまま用いた。

 ただし、今までや()()()()を捨てた訳ではない……

 身元がバレない様に情報を集める時や、ここぞという場面では『堕天使ザドキエル』の名を使うつもりだ……

 

 今度こそ、邪魔する奴らを全部排除して……鉄華団で寿命を全うしてやるんだから!




はい、2度目の転生を果たしたセファーちゃんです!

虹の河と黒い触手の手……
間違いなくサイコフレームの力の流れと、ハガレンの真理の扉表現です。

そして2周目はなんと、タービンズからのスタートとなりました!
コレには幾つかの伏線と、タービンズルート開始路線ならではのイベントが用意されているからです……勿論、タービンズルートというからにはあのイベントにも深く関わるので、今回も名瀬さん達はみんな生存ルートです、やったねたえちゃん♪

……で、皆さんは『何故フラッグ?』と思った方も多いハズ。
実はあの機体、鉄血世界に照らし合わせるとトンでもない技術無しで馬鹿みたいな高性能機が出来た! って事になるんですよ……鉄血世界に純粋な航空戦力(MS)は居ませんからね?
それに今はバレてないけど、稼働で市街地に影響を及ぼさない動力源持ち……どの勢力も喉から手が出る程の機体じゃないですか~ヤダー。
細かな設定のすり合わせはともかく、製造にはまた『AGEビルダー』を用いたので万事オールオッケー♪
(ちゃんと作った事も書いてますよ?)(´・ω・)

ちなみに真理の扉で、『堕天使の叡知』もアップデートしてます。


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設定資料&キャラ紹介(2周目用)

相棒の更新待ちついでに、皆さんが気になっているであろう
鉄血フラッグの詳細やキャラ設定などを公開します!

※ 透火の手掛けた機体は順次、追加予定です!

  2021/02/06 アベンジャーを追加
  2021/03/02 禍月 桐谷を追加
  2021/03/27 G−ビットを追加
  2021/04/02 (暫定)キャラ声優を追記
  2021/05/31 アベンジャーの項目に追加記載
  2021/07/12 グレイズ・ファントムを追加
  2021/08/16 アベンジャーの項目に追加記載
  2021/08/20 アベンジャーの再現画像を追加
  2023/05/09 ヴォールクロスを追加記載


 ◆オリジナルキャラ紹介

 

 名前:睦月透火(セファー・タービン)

 声優(脳内再生用):悠木 碧さん

 

 テイワズ参入から程なくしてタービンズに迎え入れられた少女。

 言わずもがな、中身は1周目+それまでの少女の記憶と知識・経験をまるっと引き継いだセファーである。

 

 2周目がタービンズルートという事に気付いた時から、テイワズという組織を上手く活用してアレコレと裏で画策を開始。

 テイワズ式の実力試験で「ガンダムOO(ダブルオー)」の可変MS「フラッグ」を製作……同時進行で毎度お馴染みの「AGEビルダー」を構築した為、テイワズ工房の技術改革と初期から専用機の獲得を成し得た。

 

 性格はほぼ前世を引き継いだものの、身体の成長と共に前世では成し得なかった恋をしたいという欲がある。

 また、2度目の転生時に植え付けられた少女時代の記憶のせいで重度の暗所恐怖症を抱えており、停電や街灯の無い夜の屋外など明かりの無い場所や時間を極端に怖がる。

 

 後に()()()()と出逢い、掛け替えの無いものを得る……予定。

 

──────────

 

 名前:禍月(まがつき) 桐谷(きりや)

 声優(脳内再生用):杉田智和さん

 

 宇宙世紀から転生した元・現代人のエースパイロット、宇宙世紀での名前は「クガヤ・アルファラ」。

 

 転生して早々にギャラルホルンと事を構えてMSを奪い脱走……CGSから鉄華団が勃興したどさくさに紛れて鉄華団入りし、MS隊の隊長に収まった。

 

 比較的整った顔立ちに銀髪と見間違う程の綺麗な白髪(アルビノ:先天的色素異常)、そして赤目と、完全に中二病発症確定な外見をしており、さらに昭弘並の高身長ながら細マッチョという羨ましい体格……背中には本人にも分からない大きな傷跡がある。

 

 性格は口こそ適当な物言いをするが、裏では計算高く物事を精査しながら、鉄華団のメンバーをサポートする為にアレコレと配慮している。

 また、オルガから度々団長交代を打診されているが、原作崩壊を防ぐのも含めて「性に合わない」と敢えて退いている。

 

 宇宙世紀では生涯現役を貫き通した生粋の軍人として、一年戦争からザンスカール戦争まで……実に74年以上という長い期間を戦い抜き、人生最後の瞬間まで戦場を駆け抜けた。

 それ故か、転生後も高い技量に加え「ニュータイプ能力」も併せ持ち、直感や洞察力、咄嗟の判断力に長け……実弾の弾道や敵の動きなどを瞬時に見切って対応する高度な戦闘技術を披露する……が、その度にガンダム関連のネタ台詞を口にするため、透火から時折苦情を言われている。

 

 なお、異性関係に関しては前世の妻を一途に想っているのだが、最近は何処かの誰かさんと関わる度に、少しずつ(ほだ)されている模様。

 


 

 ◆オリジナル登場機体

 

 名称:フラッグ

 型式番号:SVMS-01T

 全高:17.9m

 重量:69.5t

 動力源:水素エンジン、専用パワーセル(大容量燃料電池)

 装甲材質:ガンダニュウム合金

 製造:テイワズ(T.M.ブランド)

 

 透火が自身の技量を示す為に設計、最初から完全な可変仕様を実現させた量産型MS。

 元々が構造上の軽量化で軽かった為か、構造や材質等を変えても重量の変動は極僅かだった。

 鉄血世界には完全な飛行と即座に変形を行えるMS自体が存在しないため、フラッグの技術はテイワズの技師者達を大いに驚愕させた。

 後に独自(テイワズ)フレームと共に、テイワズやタービンズを支える力の1つとなる。

 製造はテイワズだが、設計者の名を取って「T.M.ブランド」という形で委託販売されている。

 

 武装も原作のOO(ダブルオー)を踏襲して実弾兵装中心ながら、エネルギー系武装であるプラズマソードを2本搭載。

 また、一部構造の見直しと高硬度レアアロイ製のフレーム……装甲もガンダニュウム合金の採用によって機体強度は凄まじく向上しており、簡単には撃破できない程の高性能機に仕上がった。

 だが操縦の難易度はやや高く、開発初期から外見的構造に奇異感を持たれた為、認知度は高いが普及度はイマイチだった……()()()()までは。

 

 機体色は透火の乗る機体のみザドキエルと同じ白、一部にだけ赤や金の差し色が使われており、テイワズで販売される機体は原作の連邦軍カラーに塗装されている。

 なお、コスト削減と装甲材質の理由からナノラミネート塗料は一切不使用なのだが、防御力は低質なナノラミネート塗料の装甲よりも遥かに強靭である……しかし、この情報も認知度は低い。

 

 以外、搭載機能・装備詳細↓

 

 ■20㎜レーザーバルカン

 本作オリジナルの武装、原作の20㎜機銃の代替装備で、装備位置もほぼ同様。

 ミサイル迎撃や近接防御用として用いられる為、射程は短い。

 

 ■リニアライフル

 原作通りのメイン武装。現行武器を組み合わせて設計した複合武装で、メインの200㎜リニアライフルと、副武装として90㎜マシンガンの機能を有する。

 リニアライフルは後にギャラルホルンで開発されたレギンレイズにも装備されるのだが、フラッグのライフルはレギンレイズの物と比べて銃身損耗が少なく、初速や連射性も高い。

 

 ■ソニックブレイド(プラズマソード)

 両腕部に内蔵された近接用武装。高硬度レアアロイに特殊加工を施し、超振動で物体を切断する。

 プラズマソードとしても使用可能な装備で、素材や強度以外はほぼ原作準拠の性能。

 

 ■ミサイルポッド

 脚部の追加武装となっている小型のミサイル弾倉、装填数は片側8発。

 単発・連続・一斉発射の切り替えが可能、デッドウェイト化を避ける為、現代の航空機に搭載される物の様にミサイル自体が剥き出しという構造になっている。

 弾体は短いものの射程距離や誘導性能は意外と高く、視認性の低い塗装が施されている。

 

 ■ディフェンスロッド

 構造は原作通り、素材は高硬度レアアロイ製の防御装備。

 鉄血世界においては、防御範囲が狭いという点で使われない事も……しかし、プラズマソードと同じ理論の応用で防御範囲を拡大させる事が可能なので、勿体ないと設計者や技師達は思っている。

 

───────────

 

 機体名:アベンジャー

 型式番号:RX-79G/NT-0

 全高:18m

 重量:58.5t(武装含まず)

 動力源:核融合炉

 装甲材質:ルナ・チタニウム合金

 製造:不明

 

 禍月桐谷の転生特典として、PD世界に放り込まれた規格外のMS。

 イレギュラーとして最初から使えないように、細かくバラバラのパーツ状態でCGS(鉄華団)の格納庫の隅にひっそりと山積みされていた。

 

 鉄華団にはMS技師が居ないためしばらく放置されていたが、タービンズとの邂逅からテイワズとも関係を持ち、テイワズの本拠である「歳星」にて検分した所、初めて(宇宙世紀の)MSの部品である事が発覚……タービンズ所属であった『睦月透火』の手によって、PDの規格にも合う形に改造を施されながら再建された。

 

 本機最大の特徴は、その機構の大半が「宇宙世紀由来の技術の塊」である事。

 動力源の核融合炉は、PD世界の「エイハブ・リアクター」と違い、悪影響の最たる例である「電波障害」を引き起こさず、また「ガンダム・フレーム」に採用されている「ツイン・リアクターシステム」にこそ届かないものの、かなりの出力を確保している。

 その為、PD世界のガンダムタイプには出力で僅かに劣るが、活動場所を選ばない。

 機体構造の殆どは初期の原型機である「陸戦型ガンダム」とあまり変わらないが、一部の武装や外観の変更、脚部にはガンダム6号機(マドロック)にも採用されたホバーユニットが追加されている。

 このホバーユニット、転生前の宇宙世紀時代では排熱や消費エネルギーの問題で短時間しか使えず、出力も低かったが、再建時の改良で最適化され、特に問題なく利用できる様になった。

 

 以下、搭載機能・装備詳細↓

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ■頭部バルカン砲

 宇宙世紀ガンダムタイプ頭の基本装備。

 頭部意匠がBD3号機とほぼ同じなので搭載できた。

 

 ■胸部バルカンポッド&マルチランチャー

 陸戦型ガンダム系統だけにみられる装備、バルカンは頭部と同じ口径60㎜、マルチランチャーは煙幕に始まり、デコイ、閃光弾、対人ネットなど、様々な弾種を1発ずつだが使用可能。

 

 ■ソニックブレイド(エクステンドモデル)

 ビームサーベルの代替装備として搭載された近接用の武装。

 バックパック右側と左腕内蔵の2基あり、バックパック右側は刀身が伸長されたエクステンドモデル、左腕内蔵の方は通常モデルである。

 フラッグの物と同様の見た目だが、本機の物は本体からのエネルギー供給でプラズマソードを展開する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ■腕部ガトリング砲

 元々はNT-1アレックスのプロトモデルを採用していたのだが、今回の改造によってセパレート型外装モデルへと構造が変更になり、右腕外側に接続されている。

 なお、元あった内蔵スペースに給弾と接続軸で回転する機構を設けたので、使い勝手と弾数も向上した。

 

 ■折り畳み式120㎜キャノン

 砲身、センサー付き本体、マガジンラックと銃床部分の3分割で折り畳まれる機構を持つ。

 要は陸ガンの180㎜キャノンの小型版。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ■ロングレンジアサルトライフル

 グレイズのライフルを元に改良、炸薬をエネルギー化し、銃身も伸長してグレネード懸架ユニットを追加した物。

 射程距離もだいぶ伸びたので、狙撃にも対応する。

 

 ■脚部ホバーユニット

 陸戦で真価を発揮する高推力のスラスターユニット。

 宙間戦闘でも、AMBAC機動と組み合わせて変幻自在の動きを取れるが扱いが難しく、禍月以外には扱いきれなかった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ■シールド

 一見すると縦に少し伸ばされた陸ガン用の盾に見えるが、中身はトランスフェイズ装甲。

 電源は機体からの供給式で、鉄華団の紋章入り。

 実験台として製作された物だが、予想以上に好評だったので正式採用となった。

 裏側には各種予備弾倉や、120㎜キャノンを接続できる。

 120㎜キャノンを介して、フレキシブルアーム側で保持する事も可能。

 

 ■EXAMシステム

 元は一年戦争中に開発された戦闘補助OS……その実態はニュータイプの思考速度と反応速度とパイロットに対し強制的にフィードバックさせ、多大な精神的負荷と引き換えにニュータイプと同等の戦闘能力を発揮させるマン・マシン・インターフェイスシステム。

 原作では「マリオン・ウェルチ」と呼ばれるニュータイプの少女の精神が宿っており、時折リミッター的な役割を彼女の精神が果たしていたが、アベンジャーに搭載された本システムにはそれが無い。

 ストッパー機能の無い戦闘強制システムがもたらす未来は、果たして……

 

 ■HADESシステム

 宇宙世紀で最も非人道的なシステムぶっちぎりNo.1のMS制御システム。

 ペイルライダーと呼ばれたMSに搭載され、一度発動するとパイロットをシステムの一部と認識、制御に必要な処理を行なわせるシステムが選択した最適な戦闘行動を取らせる為のパーツと化す。

 その為、発動中のパイロットは良くて戦闘マシン……最悪の場合は耐えきれずに廃人または脳死へと至る場合もある。

 原作のペイルライダー搭乗者、クロエ・クローチェには薬物と思考制御の強化処置が施されており、システム発動中は幼児化した口調や不気味な笑い声を発するなど、よりシステムの残酷さを際立たせていた。

 

 EXAM封印の裏で、システムトラップの如く発動させたアベンジャー……果たして、禍月はどうなってしまうのか?

 

──────────

 

 正式名称:Gunpla(ガンプラ) Battle(バトル) Intelligence(インテリジェンス) unit(ユニット)-EEG control formula(脳波コントロール) Type(タイプ)

 通称:「G - ビット」

 概要:外観は「機動戦士ガンダムOO」に登場する第4世代の太陽炉搭載MSのガンプラ。

 中身は脳波感知式の半自律制御型プラフスキー粒子対応フレーム内蔵の小型端末、サイズはガンプラとしてのPG(パーフェクトグレード)相当で、重量は最も重い「SERAVEE(セラヴィー)」でも8㎏程。

 素材は勿論ただのプラスチックなのだが、動力源とした「プラフスキードライヴ」から発するプラフスキー粒子によって、効果範囲内である限り「Eカーボン」相当の強度を発揮する。

 

 端末毎のスペックはサイズに見合ったスケールまでダウンしているが、それでもオモチャにしては冗談過ぎる性能・自力での飛行・粒子切れまでは金属並みの強度を発揮するという怪物オモチャ(絶句)

 

 なお、プラフスキー粒子は「ガンダム ビルドファイターズ」に登場する特殊粒子そのままで、プラスチックで構成された物体に任意のデータを()()()()()()()()反映・再現させる能力を持ち、あたかも「現実でMSが戦う」状態を造り出すトンデモ粒子。

 プラフスキードライヴとは、大量の粒子を内包した貯蔵タンクであり、プラフスキー粒子を生み出す程の能力は無い。

 ドライヴ1基の稼働時間は、大気への放出レベルにも依るが最大稼働なら約30分ほど。

 

──────────

 

 機体名:グレイズ・ファントム

 型式番号:EB-AX3(ルーギス機) EB-AX4(クルーガー機)

 全高:24.5m

 重量:38.5t(武装含まず)

 動力源:エイハブ・リアクター×2

 装甲:ナノラミネートアーマー

 製造:ギャラルホルン

 

 件の決闘後の乱戦で負傷し、肉体の一部を失ったルーギスとクルーガーの為に設計・開発された専用機……というのは表向きで、実際はギャラルホルンが過去に阿頼耶識システムの解析と技術開発の過程で建造した大型機をベースに、失われた阿頼耶識の技術を取り戻す一環で生み出された試作MS。

 

 動力源としてエイハブ・リアクターを2基詰んでいるが、ガンダム・フレームと同様の『ツイン・リアクターシステム』ではなく、単なる二個積みなだけ……しかし、グレイズ系から再設計された専用フレームと独自の構造により、スペック上の馬力や反応速度はガンダム・フレームのそれと同等。

 また、ルーギスとクルーガー専用に調整された阿頼耶識システムにより、機体性能そのものはガンダム・フレームを超え得る物となった。

 

 なお、パイロットであるルーギスとクルーガーは四肢を切断されており、直接コクピットに繋がれてはいるが、それは阿頼耶識補助の操作と彼ら独自の才能による技術を保持する為に取られた方式であり、グレイズ・アインの様に生体ユニットと化している訳ではなく、四肢を義肢で補えば日常生活に戻れる……『機動戦士ガンダム サンダーボルト』に登場する「サイコ・ザク」に近い物になっている。

 とはいえ、ルーギスは身体の3割……クルーガーは半分が機械化されており、見た目こそヒトの形を保ってはいるが、ギャラルホルン的に言え(ガエリオの言葉を借りれ)()()()()()()()()、と言えるだろう。

 

 以下、搭載機能・装備詳細↓

 

■バトルアックス

 専用に設計された物が腰部に2本、折り畳んでマウントされている。

 ナノラミネートアーマーには効果が薄いが、そうではない相手にとっては十分な脅威である。

 希少金属のコーティングが施されており、刃は鈍く銀色に光る。

 

■肩部内蔵機関砲

 両肩に半埋没しており、使用時に展開する回転機関砲(ガトリングガン)

 口径は75mm、初速は高く射程と貫通力に優れる反面ブレやすく、阿頼耶識による補正のない機体ではマトモに当てる事すら困難。

 

■腕部パイルバンカー

 グレイズ・アインに搭載される物と同等の追加装備。

 1回しか発射できず、使用後はパージされるの同様だが、威力は3割強もの強化を施されている。

 なおルーギス機は射程距離の延長、クルーガー機は速射性能が高い。

 

■脚部ドリルクロー

 足首から先全体をドリルとして用いる特殊装備。

 原型機となった機体に元々あったものらしく、原作のグレイズ・アインにも同様の装備がある。

 グレイズ・アインとの相違点は、先端部に施された希少金属コーティングの有無のみ。

 

■背部マウントラッチ

 ルーギス機には砲身可変式の大口径カノン砲が2門、クルーガー機は専用のバスターソードが斜めにマウントされている。

 基部には小型のミサイルポッドを増設できるようにスペースが設けられているが、戦線投入を急いだため未搭載のまま出撃した。

 

――――――――――

 

名前:ヴォールクロス

型式番号:HHM-03/X105

全高:19.8m

重量:85.9t

動力源:ハイパーデュートリオンエンジン

   (補助・推進器:GNドライヴ[T])

装甲材質:トランスフェイズ装甲

 (外皮:ガンダニュウム合金)

製造:鉄華団(魔改造AGEビルダー)

 

アヴェンジャーを失った禍月桐谷の為に建造された、異世界技術満載ガンダムタイプの新型専用機。

外観はクスィーガンダムの意匠が多く取り入れられており、「ミノフスキードライブ」や「ヴォワチュール・リュミエール」を参考に開発された「GNスラスタードライブ」を採用、自力で亜光速まで達する程の加速性能と飛翔能力を獲得している。

また、本機専用に最適化させた「フルサイコフレーム」を実装し、機体のダウンサイジングとサイコミュシステムの搭載を実現。さらに内部構造や四肢の装甲も併せて最適化されており、関節部の装甲は挙動に応じて可動する為、見た目に似合わず可動域は広く、二次外装として用意されたマントを装備しても挙動の阻害はほとんど起きない様になっている。

 

武装の大半もクスィーから模倣されてはいるが、腰部と肩部の日本刀型近接武器「クロストランサーブレード」や、背部・腕部に接続可能なガトリング砲とマルチランチャー、胴体内蔵型の大出力プラズマ収束ビーム砲など、刷新・追加された武装もある。

 

コクピットはサイコミュ制御に完全対応し、フルサイコフレームの恩恵を最大限に活かすべく「全天周囲モニター」や「インテンション・オートマチックシステム」を採用。

コンソールパネル等の操作部位も可能な限り禍月に合わせて最適化されており、視界の確保と操作性の両立が図られている。

なお、サイコミュのコアユニットはコクピットシートに埋め込まれており、外観はユニコーンガンダムのものに酷似……当然“あの”「変形機構」もある。

 

武装・機能詳細

 

■専用ロングレンジライフル

ヴォールクロスが主に右手に持つ射撃武装で、非使用時は2つ折りにして腰部背面にマウントされる。

高い貫通力を持ち、実弾とビームの撃ち分けが可能。OO(ダブルオー)系列の機体に使用されていたクリスタルセンサーと、機体のサイコミュシステムを駆使した高い索敵能力を併用する事で、超長距離での精密射撃を可能としている。

 

■クロストランサーブレード

日本刀の柄を模したヴォールクロス専用の近接武器で、左右の肩上部にメイン2本と両脇下にそれぞれサブが1本づつ、計4本を搭載。

持ち手は完全同一の形状で柄尻には合体機構を持ち、刀身はナノマシンを利用した流体金属の刃で構成されるため切れ味が劣化せず、任意で形状や長さ等を調節可能。

柄の中にもサイコフレームが埋め込まれており、禍月の意識に反応して発光、状況によっては自律飛翔する事もある。

 

■マルチプルガトリングユニット

弾丸にGN粒子コーティングを施し、貫通力を高めた右碗用の「ハイブリッドガトリング砲」。ネット・榴弾・閃光弾・機雷など多種多様な機能を内包する左碗用のマルチポッド「リボルビングランチャー」。高い防御力と拡張性を持つ「GNビームシールド」からなる複合武装。

バックパック下部に接合されたサブアームを介してフレキシブルに動き、更に腕部へ装着して構える事も可能。

バトルブレイド(後述)と構造的に干渉しない様になっている為、腕部装着中でも戦闘力の低下は起きにくい様に配慮されている。

 

■バトルブレイド(トンファー)

両腕にある固定武装に偽装された近接武器で、見た目は完全にユニコーン系列のビームトンファー。

機能としてはクロストランサーブレードと同様ながら、こちらはビーム刃の生成も可能なモデル。

接続部分などはネタ元であるビームトンファーをしっかり踏襲しており、ラック保持状態でも使用できる。

 

■スマートインコム

両膝と腰側面アーマーに計4基を搭載し、通常装甲に擬装された有線式サイコミュ兵器。

有線なのは回収を容易にする為や、地上使用時にも安定飛翔させる他、エネルギー供給など利便性を兼ねている。

ナノテクノロジーを応用した特殊な弾丸を放ち、敵機の制御システムを狂わせるという、ザドキエルに装備していた「ミストルティン」と同様の武装。

 

■スーパープラズマキャノン

内蔵火器版「ビームマグナム」とも言うべき、胸部固定式の射撃武装。

強烈なプラズマ放射現象を発生させ、最大出力ではヴァーチェやセラヴィーのハイパーバーストに酷似した巨大な光弾を発射する。

出力の都合で連射は不可能だが、掠めただけで敵機の装甲表面や電子回路を一瞬で焼き尽くす超高出力ビーム兵器。

なお、ヴォールクロス自身は砲身の鏡面構造化や周囲に撒かれたGN粒子などによって保護されている。

 

■ファンネルミサイル

サイコミュを介して遠隔操作される小型の高機動ミサイル。

禍月の意思に沿って自在に動き回り、たとえ乱戦状態にあっても確実に標的のみを狙い撃つ事が可能。

ナノラミネートアーマーに対しては効果が薄いものの、炸裂時の衝撃やその素早い挙動は敵の恐怖を煽る他、MSの関節部分ならば十分に破損させるだけの威力を持つ。

 

■フルサイコフレーム(タイプX)

高度なサイコミュ搭載機である本機の根幹を成し、構造材そのものが機体の電子回路の役割を担っている全身フレーム。

ヴォールクロスに実装した物は禍月に対する専用調整が徹底的に施されており「タイプX」として区別される。

本家と違い素材には軽量かつ強靭なガンダニュウム合金を用い、ナノスケールの超小型コンピューターチップが無数に埋め込まれ、常識を超えた演算能力を機体に与えている。

これにより、本来ならばサイコミュシステムに必要不可欠な大量の専用部品がほぼ不要となり、サイコミュのコアと本フレームだけで十全に稼働させる事が可能となった。

 

■GNビームバリアー

高速飛行時における空力制御や防御にも使われるエネルギーシールド。

メインの発生器は「GNビームシールド」を兼ねており、機体各部に内蔵された補機と連動して全身を覆うバリアフィールドを発生させる。

GNフィールドよりも発生速度や防御力が高く、効果面積を絞る事で防御力は劇的に上がる。

 

■クラビカルマント

特殊な金属繊維で織られたヴォールクロス専用のマントで、繊維そのものがGN粒子をコントロールする「クラビカルアンテナ」の役割を果たす為この名で呼ばれる。

見た目はただの金属繊維のマントの癖に矢鱈と物理攻撃に強く、表面に滞留するGN粒子が「ダイラタンシー効果」のように反応し、粒子そのものが持つ質量コントロール能力も相まってマシンガン程度の軽い威力ならば余裕で受け止め、弾いてしまう。

通常は肩部アーマーに収納されており、任意で出し入れ可能。打撃には強いが、素材の問題で斬撃には極端に弱い。




物語の進行に応じて、設定は随時更新されます!


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第1話 邂逅、鉄華団

はい、コラボストーリーついに始まりました!

GFさんの
「機動戦士ガンダム 宇宙の彼方へ -鉄血のオルフェンズ編-」とリンクした内容になる……ハズです。
是非、あっちも読んでくださいね♪

さて……向こうは向こうで動いて貰って
こっちも張り切って準備をしますかね……この世界の攻略の為に!

では、タービンズルート第1話!


 フラッグを製作し、技師としての腕前を認めて貰ったセファーこと透火。

 表向きは透火の名前で呼ばれるが、事情を知る一部の身内(名瀬、アミダ、ラフタ、アジー、エーコの5人)だけは、本名であるセファーの名を知っている。

 

 はてさて、それはそれとして良いけど……タービンズ宛に厄介な事案が依頼された。

 

 ……なんでも、組織の一部が混乱に乗じて反乱を起こし……所属の艦船と本部、MSなんかをまるごと乗っ取られたのだそうだ。

 このご時世にそういう事は珍しくもない……が、私が気になったのは関係団体の名前。

 

『……で、乗っ取った奴ら……名前くらいは分かってるだろ?』

 

『あぁ、アイツら……鉄華団だとか名乗ってやがる……拾ってやった恩を忘れて、アイツら好き放題よ!』

 

 私の腕に掛かれば、タービンズの母艦であるハンマーヘッドの艦橋に繋がった通信を傍受する事など容易い……CGS社長マルバ・アーケイと名瀬さんとの通信を傍受しながら、私は自ら設計し、そのまま愛機となったフラッグ(メインフレームやその他素材に高硬度レアアロイを使用したPD世界版の正規仕様)の整備をしている。

 

 ちなみに、テストを引き受けてくれたラフタ姉さんはそのまま正式パイロットになって……はくれなかった。

 やはり、造形が気に入らないからとの事……

 ……顔の光通信用センサーマスクとか、意外とカッコいいのに。

 

「……乗っ取り、ねぇ……やっぱり、もうそういう時期かぁ」

 

 通信内容を聞きながら私は、フラッグのコクピット内で1人呟く……

 

 CGS……クリュセ・ガード・セキュリティという前身組織の備品を、しっかり正規の手続きにて自前の備品とした鉄華団。

 CGS内で『参番組』と呼ばれ、表向きは拾われた子供を重宝しているという形だが、裏では非正規雇用の使い捨て同然という扱いを受けていた彼ら……

 そんな彼らに対し『クーデリア・藍那・バーンスタイン』という少女が依頼をした事で始まったこの騒動は、火星支部のギャラルホルンをも巻き込んで大きな火種となっていく……私以外は誰も、その未来を知る由もないのだが。

 

 そして……タービンズにマルバからの依頼があったという事は……鉄華団との邂逅。

 ……遂に、あの戦いが始まるのだ。

 

(こうしちゃ居られないわね……!)

 

 私は鉄華団に協力して、()()()()()()()()()()()()()()を再び阻止しなければならない……もうこれは私の意地だ! 敵対組織がどうとか、その後なんて何とかなる! 

 

 要は鉄華団のメンバーを、今度こそ誰1人も死なせる事なく生き残らせる事……私はそれを第一目標とすれば良い。

 

(あわよくば……私も、ラフタ姉さんみたいに恋がしてみたいなぁ……)

 

 少なくとも、ミカ兄と昭弘兄とは()()()()()だ……2人にはアトラちゃんにラフタ姉さんと相場が決まっている。

(※原作通りのカップリングにしたい派)

 

(……となると、必然的にそれ以外……シノ兄は……ヤマギ君が絡むからなんか怖そうだし、ユージン兄は……将来的にハチャメチャになりそうだから却下、……ならいっそ、前世で義兄だったオルガ兄さんは……?)

 

 黙々と作業しながら、頭の中で鉄華団の主要メンバーと恋仲になった場合のシミュレートをしている透火……それでも、手際の良さや失敗はなく……何やらブツブツと独り言だけが聞こえてくる透火の後ろ姿やその光景に……隣で百里を整備していたエーコ・タービンは、何やら奇妙な悪寒を感じたとか。

 

──────────

 

 そうこうしている間に時間は経ち、ついに邂逅当日……

 

 マルバはハンマーヘッドの艦橋に客人として招かれ、私は万全に整備した愛機……かの愛すべきフラッグファイター(グラハム・エーカー)に倣って、機体を私色に染め上げた(専用機とした)フラッグに乗り込み、ラフタ姉さんと共に別働隊として待機……アミダさんとアジー姉さんが先に出撃し、正面から鉄華団の船「イサリビ」を追いかける。

 

『敵はMSを前面に出して、アタシ達を母艦に近付かせない気か……船も艦首だけを向けている……まずは合格点ね♪』

 

 出撃前のアミダさんが呟く……

 ここまでは原作通りの展開……ハンマーヘッドとイサリビの追いかけっこ中にMS戦が展開されるだろう……だが、僅かながら原作と乖離している事があった。

 

「……グレイズが、2機……?」

 

 どういう事だろうか……原作通りなら、ミカ兄のバルバトスと昭弘兄のグレイズの2機だけのハズ……だが、今この戦場には居ないハズの3機目(グレイズ)が出撃している?! 

 

(……私の存在が原作に影響している……とでも言うの?!)

 

──────────

 

 しかし、イレギュラーのMSは居たものの……原作通りに戦況は推移した。

 追いかけて来るハンマーヘッドに対し、イサリビはスモークを投射……急接近してニアミスがてらに突入隊を送り込み艦内を混乱させ始めた……

 

「しょうがねぇ……ラフタと透火に出るよう伝えろ!」

 

『アタシが船をに狙うから、透火(アンタ)はアミダ姉さんの手伝い……良いわね?』

 

「……へ? あっ、了解!」

 

 私達が戦闘宙域に入ると同時に、向こうが対応する……1機だけ、母艦を守るべく離れた……原作通り、ミカ兄の「バルバトス」だ。

 そして私はアミダさん達のバックアップに入り、フラッグの機動力を生かしてヒット&アウェイ……例のイレギュラーのグレイズへと狙いを定める……それに直前で気付き、グレイズはバック宙気味に後退して緊急回避、手に持たせていたシールドを腕にマウントしてバトルソードとバトルアックスの二刀流で構える。

 

『ちっ……コイツ、MSのくせに速えぇ! さすが武闘派は伊達じゃねぇって事か!!』

 

 通信から響くのは驚愕の色をした、若い男の声……速度差に驚き、一瞬不安定になるグレイズだが、それもすぐに立て直し、フラッグの再接近に合わせてバトルソードが振られる! 

 避けきれない……咄嗟に私はディフェンスロッドを回転させてバトルソードの軌道に割り込ませた……直後に轟音と振動がコクピットにまで響き、2機とも衝撃の反動で距離が離される

 

『チッ、シールドか? 咄嗟に割り込ませるたぁよくやる……だがなぁッ!!』

 

「……っ、ヤバッ?!」

 

 グレイズはこっちの動きを先読みしたかの如く、死角の多い脚側に回り込んでバトルソードを振り上げた……だが私は無意識の内に機体を飛行(MA)形態に変形させ、死角で見失ったはずのグレイズに反応……気付いた時にはスラスターを全開にしていた

 

「だぁぁぁぁぁっ!!」

 

『うぉッ?! ……コイツ、ウラキと似た様な手を?!』

 

 スラスターの噴射で敵のカメラをブラックアウトさせて離脱成功……グレイズから距離を取って大きく旋回しつつ、MA形態のままリニアライフルを準備する……

 だが、グレイズは冷静にブラックアウトに対処しながら後退……既にシールドを構えて迎撃体制を整えていた。

 

 このパイロット、技量じゃまず勝てない……と言うか絶対無理! 

 

「……だけど、私にだって……意地があるんだからぁぁぁッ!!」

 

 リニアライフルを斉射しつつ、私はフラッグを突撃させ……バトルソードの範囲外ギリギリにグレイズの横を素早く通り過ぎ……る直前に機体を変形させて急制動と共に背後へ回り込む。

 ぶっつけ本番の神業の如きマニューバー(グラハム・スペシャル)……パイロットは反応できても、機体はさすがに追い付けないハズ! 

 

 だが、相手の動きもさすが神業だった……バトルソードを盾代わりにライフルの弾を捌き切り、旋回が追い付かないのを見越して逆回転……マニューバーの軌道まで先読みしたのか、腕にマウントしていたシールドを切り離して放り込んできた。

 

「って、えぇ~?!」

 

 進路妨害で放り込まれたシールドをモロに喰らい、少なくない衝撃が機体を襲うも、必死に体勢を立て直しつつ強引に離脱……幸い損傷らしい損傷は無いが、このままではジリ貧であった……

 

──────────

 

 一方、他の戦況はほぼ原作通り……私が敵指揮官機のグレイズ相手に苦戦している合間に、鉄華団の侵入チームはハンマーヘッドの艦橋に乗り込んで名瀬さんやマルバと対峙していた。

 

 そこからもほぼ原作通りの展開……ヘルメットを捨て、ゆっくりとマルバへ歩みを進めるオルガ……その笑顔の裏には、隠しきれない怒気を孕んでいる。

 名瀬の横に着くとオルガは、名瀬へと端末を渡した……既に再生されていた動画は、CGS内でのオルガ達『参番組』の非人道的扱いを受けている現場の映像……CGSのジャケットを着た小さな少年が、同じ柄のジャケットを着た数人の大人に足蹴にされている場面に、名瀬は露骨に表情を歪ませた。

 

 ……あ、ご丁寧にノーカットでマルバの声と顔もフレームイン……これはもう完全に言い逃れの出来ない証拠だ。

 理不尽な台詞を吐き捨てる大人の声と、手酷く虐待を受ける子供のうめき声がブリッジに居る全員に聞こえ……マルバに対する心象が光の速度で地の底に落ちる……

 

「……な……ぁ……っ?!」

 

「俺らはずっと、仕事と飯をくれたお前の命令に従ってきた……そして、アイツ等を……!」

 

 オルガの声が、静寂に包まれた艦橋に響く……銃を構えてマルバの前へと歩みを進めるオルガ。

 苦し紛れの言い訳を続けへたり込むマルバ、だがオルガの銃口が目の前に迫まり……トリガーに掛けた指が僅かに動いた直後

 

「止めとけ……そんな奴の血で手を汚す事ぁない」

 

 名瀬の声でオルガの指はトリガーから離れ……対するマルバは気絶して倒れた。

 

 

 マルバ・アーケイは呆気ない銃殺より、今後ずっと苦しむ方がお似合いだと私も思う……

 ……皆さんはどうです? 

 

待て次回! 




タービンズルートの利点

1.初期から強めのMSに乗れる
2.名瀬さんと鉄華団との橋渡しが可能になる
3.女性ならではの悩みが解消しやすい(←重要!)

次回、キーマン同士の対面なるか?


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第2話 2つの特異点

鉄華団との邂逅で、透火は……イレギュラーのグレイズと戦う。
機体の性能差をものともしない相手の技量の前に、転生人生で初の敗北を喫する透火……

だが、この戦いの後に……彼女の人生を左右する大きな出会いが待っている事を、今は誰も知らないでいた。



『……悪りぃな、祭りは終わりだ……』

 

 グレイズから放り込まれたシールドに妨害され、進路を狂わせられたフラッグの体勢を必死に立て直す透火……そこに聴こえてきたのは、タービンズの頭である名瀬からの「戦闘終了」の宣言であった。

 

「…………何なのよ、あのグレイズは……!」

 

 あの動き、こっちの意図を先読みされているかの様な超反応……

 どう考えてもイレギュラーでしかない……グレイズに阿頼耶識は搭載できるけど、あの反応は阿頼耶識ではない……明らかに知ってて反応した動き方だった。

 

 ……まるで本物のニュータイプを相手にしている様な。

 

「……馬鹿馬鹿しい……ここはガンダム世界だけど、ポスト・ディザスター……宇宙世紀とは違うんだから……!」

 

 頭に浮かんだ仮説を振り払い、私はフラッグをハンマーヘッドに帰投させる……

 だが、僅かに感じた違和感は……むしろ少しずつ大きくなっていくのだった。

 

──────────

 

「「わぁぁぁ……♪」」

 

 鉄華団との邂逅から10日後……テイワズの頭、マクマード・バリストンと会う為、タービンズの案内で鉄華団は歳星へと向かっている道中……何やら難しい顔をし続けていたクーデリアを心配したアトラは、ハンマーヘッドへ行こうと誘い……現在、名瀬の子供達が暮らす部屋に来ていた。

 案内として、名瀬の第1夫人であるアミダと、同じく癒やしを求めたラフタも来ている。

 

 アトラの考えが功を奏して、クーデリアの表情は心から癒やされていた。

 

「……あの……ここの子たちは全員……名瀬さんの……」

 

「そうだよ~、元気でしょ? ウチのダーリンは♪」

 

 その答えに、若干引き気味のアトラ……

 

「ここには、1人を除いて小さい子達しかいないんだけどね」

 

 アミダの言葉がアトラに引っかかった

 

「1人を除いてって?」

 

「あぁ、透火ね……あの子だけ、養子っていう扱いなのよ……小さい頃に拾われて、そのまま……ね」

 

 タービンズに所属する女性は、全員が名瀬の関係者……たった1人を除いて、外部からは名瀬の奥さんという認識をされている。

 

「あの子の意思なのよ……『私にはやるべき事があるんです、それが終わらないと……逆にみんなを不幸にしてしまう……』ってね……最初はアタシ達も不思議に思ったさ、だけどあの子の腕と……アレを見せられちゃ……ね」

 

 遠い目をして、経緯を語るアミダ……その表情は、純粋に子供を心配する親の表情だった。

 

──────────

 

 その頃、オルガとビスケットもハンマーヘッドに来ており……窮地に立たされた資金事情を何とかすべく、名瀬に相談に来ていた……その会話の中で、オルガは自身の決意を口にするが……自分の死に場所も、と言った直後に名瀬から強烈なデコピンを喰らわされた。

 

「お、オルガ?!」

 

「バカヤロー、テメェが死んだら……それこそ鉄華団はバラバラになるだろうが!」

 

 

 その頃、オルガ達が名瀬と話し込んでいる部屋の外には……名瀬に()()()()を求めて来ていた透火が、部屋の中の様子を察して待っていた……勿論、中の様子は筒抜け……それからしばらくして、名瀬が部屋から出て来る。

 

「……まぁ、話は分かった……悪ぃ様にはしねぇから……って、おっと……どうした?」

 

「とう……じゃない、名瀬さん……コレなんだけど」

 

 おずおずと見せる幾つかのファイル、ざっと目を通した名瀬は特に言う事も無かったらしく……

 

「ほぅ、悪くはねぇな……このまま進めて良いぜ、後でアミダにも見せとけよ?」

 

 そう言って私の頭を撫でた……直後に何か閃いたようで。

 

「なぁ、お前……パーツが欲しいってたな?」

 

「へ? あ……うん、後々考えると色々と入用になるかもだし、補修用のパーツとか量産しておきたいなって……」

 

「コイツら、売り物は持ってるが金が無ぇんだとさ……どうだ?」

 

 そう言って、持っていたファイルを私に渡す……

 

「いつもみたいに、お前が窓口で買っても良いぞ~」

 

 そう言い残しながら名瀬は去って行ってしまう……あとに残されたオルガとビスケット、そして私は何が何だか分からないまま、しばらくボーッと突っ立っているしか無かった……

 

「……いつものように……窓口?」

 

「へっ? あぁ、それは……」

 

 いち早く思考が戻ったビスケットの言葉に私も思考を引き戻され、丁寧に説明する。

 テイワズの輸送部門を仕切るタービンズ……その利点をフル活用して、通常では扱えない代物や厄介な物……破損して使い物にならないパーツなどを引き取ったり、真っ先に手に入れる為に作った窓口。

 勿論、発生した利益はタービンズやテイワズにも潤いをもたらし、私自身は不足しがちな自分用のパーツやアレコレを補充できる……Win-Winの関係を作っていた。

 さらに私が廃棄品を再生し、製造したパーツなどをテイワズに提供したり、タービンズのMS用補修部品としていたりもしている……

 

「……じゃあ、貴女が買い取ってくれるって事ですか?」

 

「敬語はナシでいいよ……まぁ、そういう事になるわね……っと、自己紹介まだだったよね?

 私は睦月透火、この船で唯一のハーレム外の乗員だよ」

 

 ハーレム外……という単語に、再び奇妙な笑顔を貼り付けたビスケットだったが、透火の握手に応えて手を出した。

 

「……で、久しぶりだね……兄さん」

 

「……? 何か言ったか?」

 

「ん~? なんにも? 取り敢えず、リストはじっくり見せて貰うわ……金額についてはまた後でね?」

 

 気付かれない様に小声でオルガを兄さん呼びし……追求を誤魔化してから、商談の続きを約束して私も去る。

 後ろから「よろしくおねがいします!」と声を揃えて言われたのに手を振って返事しながら……ドキドキする心を抑えて角を曲がった。

 

(……また会えた♪ 前よりもずっと過去だから、あの時より若いけど……やっぱり嬉しいな♪)

 

 かつての義兄……オルガ・イツカに再会し、先程まで沈み気味だった気分は最高潮に達する。

 名瀬に許可を貰った……後は一刻も早くアミダにも見せて、合意を取れれば計画がまた進む……

 

 鉄華団の強化計画……タービンズルートなら、早い段階でMS関連の技術を浸透させられるし、雪之丞さん達とも連携しやすい……あのイレギュラーのグレイズに関しても、何か分かるかもしれない……

 

「早く話題を作って、何とか渡りを付けなきゃ……!」

 

 そう思って透火は廊下を足早にアミダの元へと急ぐのだった……

 

 ちなみに、透火が去った後……ビスケットとオルガの(交渉についての)反省会も無事、原作通りに行われました。

 

──────────

 

 ……えー、道中でMSシミュレーターの話題とテイワズとの直接交渉……その他諸々はすっ飛ばします!

 だって基本は鉄華団の動向だし、透火(わたし)からしたら介入とかそれ以前の問題だもん。

 

 そういう場面は相方(鉄華団側担当)の方が書いてくれると思うから……そっちに期待してね?

 

 ……あ、シミュレーターの話題は私、ちょっとだけ絡んでたわ……

 

 原作ではテイワズ製MS「百錬」のコクピットを利用したシミュレーターだったけど、このお話ではT.M.ブランド……つまり、私が手掛けるブランドの高性能据え置き対戦ゲーム筐体型シミュレーター「EXVS.」シリーズの最新機種を使わせて頂きましたw

 前の転生を見ている人は、もうお分かりですよね?

 

 ま、それだけなんだけど……

 

──────────

 

 時は流れ、晴れて兄弟分の盃を交わす事になった鉄華団とタービンズ……

 

 鉄華団が売りたかった資材に原作以上の値が付けられ、鉄華団の懐を大きくふくらませる事となった……本来ならば、タービンズ経由のルートのみで()()()()だった……と言われるのだが、その()の部分に私が本来よりも高い値を付けたからである。

 

 他人が見れば、使い物にならない鉄クズだとしても……私とAGEビルダーがあれば……それらを含め、全て『部品の材料』だから。

 

 

 そして盃を交わす前日の午後……私は夕暮れ迫る歳星の公園区画で1人、あのグレイズの事を思い出していた。

 

「あの動き……普通じゃ出来ない、やっぱり……私以外の誰か……もしかしたら転生者が関わってる……」

 

 そう、あのグレイズは……この世界の人間とは違う誰かが操っていた……そうでなければ説明が付かない事が多過ぎたのだ。

 まるで先を読まれているかの様な対応……弾丸の軌道すら()()()()()とばかりに剣で弾き、初挑戦のぶっつけ本番で成功させたあのマニューバー(グラハム・スペシャル)ですらも読み切って進路妨害してきた……

 

「……あの存在は、私の改変を無効化する為の対抗存在(カウンター)かも……」

 

 だが……考えても考えても推論ばかりで、明確な答えには一向に辿り着かない……

 

 そしてふと、私は小さい頃から気分を晴らす為……歌っていた事を思い出す。

 転生時に植え付けられた記憶だが、幼い頃から母親と歌を歌い……上手だと褒められていた……

 

 そして、この公園には時間の関係なのか……何故か誰一人として近付かない。

 

「……ふぅ……」

 

 大きな溜息……一旦、頭の中をサッパリさせ、全てカラッポにしてから考え直そうと……私は()()()を歌う事にした。

 

 

まるで悲しみの欠片だわ 街をとざすガラス色の雪

明日(あした)を探す瞳さえも 曇らせてゆくの闇の彼方

 

見知らぬ力に流されて 心が何処かへ(はぐ)れてく

張り裂けそうな胸の奥で 鼓動だけが確かに生きている……

 

光る風の中 聞こえてくる あなたの声

 

Play Don't break a piece forever

 

その輝きを信じてる……

 

 地面から少し高い場所に立って、一節を歌い終えた私の耳に……公園の入口付近から人の足音が聞こえた……

 

「……?! 誰ッ?!」

 

 歌詞を思い出すのに集中し過ぎて周囲の警戒が疎かになっていた……が、歌が上手いのは別に悪い事じゃないし、聞かれても普通の人にはどこの歌? という感じで聞かれる程度だ……

 公園の入口付近から、男の人が1人……こっちを見ている。

 

 偶然居合わせた通行人だと思い、気恥ずかしさがこみ上げてそそくさと帰ろうと走り出そうとした次の瞬間……

 

「……この歌、F91の……まさかお前も!?」

 

 まさかの台詞に私は耳を疑った……驚愕する表情を浮かべる、この男はこの曲を知っている……そして『お前()』という反応……

 

「……そんな……事って……!?」

 

 知ってしまった……そして知り合ってしまった……

 

 私の目の前に立つ、この男は……間違いなく私と同じ、異世界からの『転生者』だと。

 




ぶっちゃけ長くなるので、次回に続きます……


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第3話 運命とは、避けられないもの……ならば、上手く利用してやれば良い!

夕暮れの公園で歌ったら、何故か男が釣れました。

ナンデヤネン?!



 うえぇ~……(困惑)

 

 一体何がどうなっているのか……気分転換に歌ってたら、人気の無い筈の公園に彼が出現……何とこの歌を知っていた……と、いう事は……?!

 

(……ヤバい、この男……転生者かもしれない……黒服と繋がりがあるなら、今接触するのは危険すぎる!)

 

 少しずつ暗くなっていく公園の入り口から接近する男……透火は反対側にある川沿いの抜け道から、危険迫るこの場を脱出する為に踵を返し走り出す……

 

「……! ちょ……待ってくれ!!」

 

(待てないっての! こっちは命が掛かってるんだから……!!)

 

 慌てて男も走り出すが、透火の足が早すぎてすぐに見失ってしまった……

 

「何で……ラクス・クラインが、F91の歌とか知ってるんや……」

 

 走り去る透火の後ろ姿……知っている人物に近いその姿を見送った後、男の呟きが暗くなる公園に響く……彼の表情は、あり得なさ過ぎる出来事に困惑を隠せないものであった。

 

──────────

 

 タービンズが歳星に寄港している時に使っている自身の部屋……日が落ちきってから到着した透火の表情は、恐怖に煽られて固まっていた……

 

(……怖い……怖い、怖い怖い怖い……ヤダ……嫌だ……やだ……助けて……ッ!!)

 

 入り口に鍵を掛け、全ての窓も施錠……カーテンを閉めた後にベッドの側へ行き、壁との隙間に隠れる……先程の男との遭遇で困惑した所に、時間を忘れ日が暮れてしまうまで外に居た事を後悔する透火……

 幼少の頃、優しかった両親を目の前で撃ち殺され、黒服の男達に襲われそうになり、命からがら逃げ出し……名瀬に拾われるまでの数年を、見知らぬスラム街で過ごした彼女は……重度の暗所恐怖症となっていた。

 

 突然黒服に襲われ、両親を失った恐怖……スラム街で浮浪者に何度もしつこく追い回された恐怖……そして毎日のように身を守る物もなく、冷たく凍えるしかなかった夜の恐怖……10歳にも満たなかった頃の彼女が、そんな恐怖しかない場所で行く宛もなく数年もの時を過ごしたのだ……いくら治安の良い歳星とはいえ、トラウマとなった夜を平然とできる訳がない。

 

『ゴメ~ン透火、まだ起きてる~?』

 

 突然響いた扉のノック音……恐怖を煽られて一瞬顔を引き吊らせるが、直後に聞こえたラフタの声に安堵の涙を浮かべて出入り口のドアへ走り出す……

 

「あ~ゴメンね、ちょっとドライヤー壊れちゃっ……って、どうしたの?」

 

 焦るような物音と共に扉が解放され、苦笑いで立つラフタに飛び付いてきた部屋の主……一瞬、困惑したラフタだが、部屋の中の様子を伺って合点がいき、無言のまますがり付いてきた妹分の頭を撫で始めた。

 

(……夢でも見たのかな……2年くらい前にも、こんな事あったね……)

 

 ゆっくりと2人で部屋の中へと戻り、透火をベッドへ座らせて宥める……深すぎる心の傷を持つ彼女を、実の妹の様に扱うラフタ……今夜は久しぶりに朝まで一緒に居てやるか、と可愛がるのだった。

 

──────────

 

 そして、鉄華団初の晴れ舞台……この日、タービンズとの兄弟分の盃が交わされる……

 この時を以て……名瀬とオルガ、誰にも切らせたくない関係が、ここから始まる。

 

 そして、透火は式の後……整備長と共に、マクマードの部屋へ呼び出されていた。

 

「お前さんまで直々に呼ばれるとは……何かあったのかねぇ?」

 

「……さぁ? またあの試験みたいな無理難題かも……」

 

 歳星の整備長を勤める彼とは、フラッグ製作の頃に知り合い……歳星に居る時は良くお互いを手伝っている仲だ……

 今日もいつも通り……とそんな折に突然、2人揃ってマクマードから直々の呼び出しだったのだ。

 

「おぉ、お前らが先だったか」

 

 マクマードの部屋に通されると、部屋の主は2人に笑顔で手招きをする

 

「……何か、私達にご用命ですか?」

 

「……ん、あぁ……お前さん達に用があるのは、後から来る連中だ」

 

 言うが早いか、数人が再び部屋へ通されてくる……その中にはオルガと三日月、そして見知らぬ男が1人……全員が鉄華団のジャケットを羽織り、三日月以外は緊張した面持ちだった。

 

「おぅ、来たか……待ってたぜ、鉄華団」

 

 まさかの用事は鉄華団絡み……だが、1人見知らぬ男が1人混ざっていた……

 

「俺からの頼みだ、コイツらの力になってやってくれ……」

 

──────────

 

 マクマードの仲介で、鉄華団のMSを触る事になった整備長と透火……それは、史実通り『バルバトスのオーバーホール』……だが透火が案内されたのは、MSの部品が散乱した現場だった。

 

「……何? このパーツの山……」

 

「俺の持ち物なんだ……組み上げりゃ使える筈だが、如何せん俺はそこまで出来ないからなぁ」

 

 先程、三日月の隣に立っていた男が歩いて来ながら答える……

 男の表情は何かを懐かしみながらも、何処か困惑した表情だった。

 

「組んだら判るって事? 確かに私向きだけど……あ、そう言えば名前……まだ聞いてない」

 

 透火は、男の表情が気になりながらもパーツを吟味している中……ふと、名前を聞いてない事に気付いて尋ねた。

 

「……あぁ、すまん……禍月桐谷(まがつき きりや)だ……鉄華団で、MS隊の隊長みたいな事をやってる」

 

 タイミング良く近くまで来たので、お互いに握手をする2人……すると禍月の口から、信じられない一言が発せられた。

 

「……似てるな、昨夜の子と……」

 

 その言葉に、一瞬……思考が止まる……昨日と言えば、謎の男と公園での遭遇だ……

 だが、続けて発せられた言葉に……透火の頭は、瞬間湯沸し器の如く沸騰したのであった。

 

「……しかも、何か可愛いし」

 

 ボンッ! /////////////

 

 

 あまりの衝撃的な一言に、それまでの思考やら何もかもが跡形もなく全て吹き飛ばされ……赤面したままガッチガチに固まってしまった透火。

 

「……お、おい……大丈夫か?」

 

 禍月は、自身の一言がこの状況を引き起こしたという自覚の無いまま、目の前の少女がフリーズから立ち直るのを待つ……

 たっぷり2分はあっただろうか……ようやく思考が動き出し、追い打ちで禍月の顔が至近距離にあった事にも驚いて超ビビったネコの如く飛び上がって距離を取る。

 

「……にゃ、にゃ、にゃ……」

 

「……にゃ?」

 

 ぷるぷると右手を震わせながら禍月を指差す透火……そして

 

にゃにイキナリ言ってんにゃー!!

 

 ずどぉぉぉぉぉん!! という擬音でも聞こえてきそうな感情の爆発……

 

 生まれて始めて、親や保護者以外から囁かれた褒め言葉は……恋愛初心者かつ、恋する願望を抱え込んだ彼女にとって、開幕直後に切り札の爆弾を投下された様なものであった。

 その精神的動揺が態度はおろか、口調にまでハッキリと現れている……

 

 そこでようやく、禍月は自身の失言(w)が気付かぬまま理由を察するのだった。

 

──────────

 

「……んで、こんなパーツよく持ってたわね……」

 

 明らかに不機嫌なのが態度に滲んでいるものの、マクマードの頼みなので渋々パーツ類の吟味に戻る透火……

 対する禍月は少し逡巡して、核心となる()()を彼女に告げた。

 

「あぁ……所謂、転生特典という奴でな」

 

「……は? ……え……?!」

 

 ハッキリと聞こえた、彼は『転生特典』と……じゃあ彼は間違いなく、転生者……しかも、初期から鉄華団に関わっているという事になる。

 

 そうなると、彼は必然的に黒服と関係はない……むしろ、味方じゃん!?

 

 今までの気苦労は一体何だったのか……禍月の言葉から5秒ほど経ってガックリと肩を落とす透火……その様子に禍月は『……感情が態度に出過ぎだろw』と笑いを堪えながら呟いた。

 

 

 時間を掛けて吟味し終えた私は、彼……禍月桐谷の『転生特典』として持ち込まれたパーツをこう結論づけた。

 

「明らかにコレは、宇宙世紀の……恐らく、ガンダムタイプ?」

 

「あぁ、俺の愛機だった奴だ……できれば急いで仕上げて欲しい」

 

 禍月の願いに応えられるのは、確かに私しか居ない……お祖父様(マクマードさん)はこれも見越してたのかな……?

 

「……うん、なる早で仕上げるよ……あ、私……睦月透火(むつき とうか)、よろしくね」

 

 正式に禍月の依頼を受け、ようやく互いに自己紹介と握手を交わした2人……

 このクソッタレな世界を修正(※意味深)するコンビが、誕生した瞬間であった。




恋愛初心者(※意味深)に恋愛描写は地獄です……orz

なお、お互いが転生者同士だと分かったのは良いが
本格的に色々話す事になるのはもう少し後になる模様……

当面、透火はこのパーツの山と格闘する事になるのでw

ちなみに前夜の透火が錯乱した直接の理由ですが……
名も知らぬ男が転生者しか知り得ない情報を言い当てた事で危険者と見做し、
振り切る為にあちこち走っていた結果、夜の街で迷ってトラウマが再発……
錯乱したままメチャクチャに走り回ってようやく自分の部屋に辿り着きました……

これって禍月くんが虐めた事になるの?(不可抗力)
では、また次回……


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第4話 過去と今と思い出と……

禍月の『可愛い』発言に赤面したのは……好感度ではありません。

前世で嫁の貰い手すら居なかった事が事の発端……
最初の転生は、否応無く発揮される妹&オカン属性(w)と環境のせいで、恋愛の()の字も無く終了……
2度目の転生で(身体も)成長もした為、恋する妄想が止まらない現在の彼女。

……事実、鉄華団メンバーとシミュレート(意味深)もした。
そんな時にイケメンと出会い……妄想豊かすぎる彼女は、状況に酔ってしまった……
つまり、一時の妄想です。

最早マトモな精神じゃない痛い娘やん……読者の皆様すみません。
m(_ _)m


 禍月桐谷……顔はイケメンだし、タービンズの女性達にウケも良い。

 

 シノ兄と違って手当たり次第に女性を口説かないし、MSの造詣も深い……実際に話をしたタービンズのメンバーからも、『同類』が出来て良かったじゃん……と弄られた。

 

 ……冗談ではない!(赤い彗星風)

 

 確かに私としても、MS関連の話に付いて来れる面子は貴重……

 ただし、あの出会いを冷えた頭で考えたら……最悪でしかなかった。

 

『……なぁにが「しかも可愛いし」だ! なして初対面の私にそげなこつ言うた!? アレか! コッチが行き遅れた事あるの承知でからかう為か?! もしそうなら……次会うた時一発喰らわしてやるけんな!!』

 

 整備中のフラッグのコクピットで透火は、昨日のやり取り……『あの発言』を思い出した事で、恥ずかしさを越えた怒りを抑え切れず、荒れ狂う感情のままに吐き出してしまう。

 ……幸い、周囲に響く環境音の方が明らかに激しかった為、同じく整備中の皆さんにはほとんど内容は理解出来なかったが……何やら()()()()()だという事は全員が理解できた。

 

 

 フラッグで発散(キチンと整備)した私は、禍月の機体だったグレイズから戦闘データを抜き取り、組み上げ最中の胴体パーツに反映させるべく解析作業を進めた……

 

(……愛機、だって言ってたっけ……良いなぁ、私は精神だけで2周目だしなぁ……)

 

 思い出すのは、セファー時代の愛機……堕天使ザドキエル。

 無重力で生成可能、ナノラミネートアーマー程ではないが、軽量なのに頑強なガンダニュウム合金をふんだんに使い、姿もウイングゼロ(EW)を参考にしたまさに堕天使のMSだった……だが、稼働に際し発覚した課題が頭を悩ませる。

 

(時間が無かったから、動力源は擬似太陽炉……ビーム兵器が使えないから近接重視、出力にモノを言わせたライザーソードは使えたけど……やっぱりオリジナルでないと、事後の出力切れはヤバい……後からメイン出力を縮退炉に変えたけど、結局は想定以下だった……)

 

 ……やはり堕天使に足りないのは、オリジナルの太陽炉だ。

 ネックだった木星の重力環境……それは技術的な問題として(バージョンアップした今の「堕天使の叡知」なら)解決できる様になった……

 原作(ダブルオー)環境が整っていて(物語開始から4年後の劇場版で)も2年で2基しか造れなかったオリジナルの太陽炉……時間が掛かる最大の理由は、木星圏までの()()()()T()D()()()()()()()()()()()()……

 でも、今の私ならその2つの問題を解決し、オリジナル太陽炉の作成を()()()()()()、だがしかし……

 

(炉の外装(ガワ)なんてすぐに出来るし、事前に数々の実験や検証も済ませてる……後は機材の設置場所だけなのに……!)

 

 そう、太陽炉を造る為の準備は既に終わっていた……

 残る問題は、オリジナル太陽炉を生成する機材(環境再現も完全対応の特別製AGEビルダー)の設置場所だった……

 物がモノだけに……更に動力も含めた必要機構全てを内部に設け、自己解決させたその機材の総量は、MS2機ぶんを優に越えていた。(※木星の高重力環境を内部に再現可能というデタラメな機材が、この程度に収まっている(ほぼMS3機ぶんの質量と面積である)のは普通に奇跡なのだがw)

 

 そしてテイワズにもハンマーヘッドにも、この機材を設置する余裕は無かった……

 いや、今も『はよこの邪魔な機材を他所へ移動させてくれ』とテイワズ側からせっつかれている……この機材、操作さえできれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という超凄い機材なのに……

 ……そう、()()()()()()()()

 

「そりゃ使えない機材を置いておく理由、無いわよねぇ……」

 

 憂鬱な気分が抜けない透火……着々と組み立て作業は進んでいるが、なかなか気分がノらない為か……その速度はほぼいつも通りであった。

 

──────────

 

 それからしばらくして……イサリビへの補給作業や他の機体は整備が完了した為、三日月達を残し……先に歳星を発った鉄華団一行。

 史実では、道中で海賊「ブルワーズ」と遭遇戦になる事を知っている転生者2人……透火と禍月は、機体の組み立て作業とバルバトスのオーバーホールを平行して手伝いつつ作業を急ぐ……

 

 

 イサリビの出航から数時間遅れたものの、バルバトスの作業はコクピット周りのチェックとフィッティングを残すのみ……禍月の機体も、仕様変更におけるOSのアップデート中である……なお、フィッティングは以前のデータから微調整するだけなので、イサリビとの合流後に改めて行う事にした。

 

嬢ちゃんの機体(フラッグ)にもブースターを取り付けた! 牽引ワイヤーも準備済みだ!」

 

『ありがとうございます! コッチの作業が完了次第、接続をお願いします!』

 

(時間的に見て、そろそろイサリビがブルワーズと遭遇する頃合いよね……焦ってミスしちゃ元も子もない、手順は飛ばさず、並列化して処理速度で飛ばせ……!)

 

 その透火が操作する2つの端末の画面は、それぞれが凄まじい早さで次々処理を完了させていく……項目を口に出す事はないものの、タッチパネルの上で踊る両手の指は素早く、狂いなく端末を操るその手際はSEEDの主人公、キラ・ヤマト(スーパーコーディネイター)に匹敵する程の早業……禍月と整備長の2人が、その手際に揃って目を剥いているのだが、透火は画面に集中して気付かない。

 

「……俺、先にバルバトスで待ってる」

 

「そうじゃな……ほれ禍月くん、君もじゃ!」

 

「……お、おぅ」

 

 一足先に三日月は愛機(バルバトス)のコクピットへ……手際に見惚れていた禍月も、整備長の声にハッと戻り、甦った愛機「アベンジャー」へと乗り込む。

 

 かつて彼が前世……宇宙世紀で乗っていた『復讐者』の名を持つMS。

 甦った復讐者の第一の獲物は、海賊「ブルワーズ」と決まった……斯くして、透火の手も止まり……一際大きな声が格納庫内に響く。

 

『……ふぅ……チューニング作業終了、後はお願いしますっ!!』

 

 作業を完了したバルバトスが、おやっさんの乗る貨物ブースターへと格納され……フラッグから伸びた牽引用ワイヤーも、真後ろに立つアベンジャーへと接続される……その作業を尻目に透火はすぐ脇のスペースでツナギからパイロットスーツへと早着替えし、フラッグのコクピットへと滑り込んだ。

 

 全員がそれぞれ機体に乗り込むのを確認した整備長は、気密ブロックの作業員を下がらせ……自らコンソールを操作して搬出口を開かせつつ……三日月達へと通信で檄を飛ばした。

 

『そのブースターでなら、すぐにあの船にも追い付ける! 先ほど海賊と遭遇したと連絡もあった、急いで駆け付けてやりな!!』

 

 搬出口が完全に解放され……右にはバルバトスを格納した貨物ブースター、左にはフラッグが並び、その後方にはアベンジャーが繋がれている。

 フラッグの外付けブースターと、貨物ブースターに火が入る……コクピットからブースターの調整を済ませた透火は、三日月と禍月……そしておやっさんにも声を掛けた。

 

『3人とも、準備は良い? ……飛ばしてくからね?!』

 

『分かった』

 

『……お、おぅ……頼む』

 

『此方は問題ない、行ってくれ!』

 

 ブースターの出力を全開にし、フラッグの機体はワイヤーでアベンジャーを引き連れながら加速……みるみる速度を上げ、どんどんと歳星から遠ざかっていく。

 

「嬢ちゃん達……生きて帰って来るんじゃぞ……!」

 

 遠ざかる2つの光点を見つめながら、 整備長達は彼等(鉄華団)の無事を祈るのであった……

 

──────────

 

 4人が歳星を出発する少し前……

 

 イサリビから1機のグレイズが出撃……その後ろには、MW(モビルワーカー)が繋がれている。

 グレイズのパイロットは昭弘・アルトランド、MWにはタカキ・ウノ……原作通りに、2人で定時の哨戒任務に出発した所である。

 

 その道中、タカキと昭弘は自身の兄弟(兄妹)について話す……

 

『俺、妹を学校に入れてやりたいんです……

 だから……もっと頑張って、仕事覚えて稼がないと……って、あっ……すみません、昭弘さん……』

 

『……いや、良いんだ……

 俺にもかつて、弟がいた……生きてたら、ちょうどお前くらいだ……』

 

 男2人……淡い夢と、思い出を語る最中……無粋にも突然、接近警報が鳴り響く。

 

『未確認機……? 何なんだ、コイツら……!?』

 

 そのMSは、丸々と肥え太った緑のカエルの様な外観だが、機動力は明らかにグレイズを上回っている……四方からジリジリと痛め付けられる昭弘とタカキだが、必死に致命傷を避けながらイサリビへと通信を繋ぎ、救援を要請……だがそこに僅かな隙が生まれてしまい、昭弘のグレイズの目の前に、敵機が迫る……

 

『……ッ?!』

 

『させない……ッ!!』

 

 だが、周囲を囲む見慣れぬMSのうち2機が何処からか撃たれ、バランスを崩して動揺した機体の合間を縫う様に、白い戦闘機らしき機体が駆け抜けた……

 直後、昭弘の目の前に居た機体も上から来たMSに奇襲を受け……装甲の隙間に、刀身を突き立てられていた。




……ま、間に合いました……(悲劇回避的に)

次回は、史実より戦力増強されてのブルワーズ戦……
確か、ここらで1つ……フラグへし折らなきゃいけないんだよね?
なお、禍月の愛機「アベンジャー」についても次回に詳しく!
……え”? 脇での早着替えシーンも書けって?!

 (*/□\*) こ、このフェンタイ~~ッ!!


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幕間 甦る復讐者(アベンジャー)

今回は本編の補足なので、別分けはしません。

時間軸は禍月からの依頼、パーツで持ち込まれた機体の再生
……その最中での一幕。



 歳星へと持ち込まれた幾つものパーツ……

 マクマード経由で依頼を受けた透火は、依頼主である禍月桐谷と出会い……互いを転生者と認識した。

 そして、持ち込まれたこのパーツ……

その正体は『宇宙世紀のMSがバラされた部品の山』という事も。

 

 斯くして、転生者専用機(イレギュラー)の再生作業が幕を上げる……

 

──────────

 

 さて、何でUC世界のMSがここに有るのか……なんて面倒な考察は置いといて、このまま組み上げてたら……多分彼にとっても、鉄華団にとっても期待外れにしかならない……

 

「……そりゃそうよね、宇宙世紀の機体だもん」

 

 UCとPD(宇宙世紀とポスト・ディザスター)の違い……それは、装甲と武装の違いだ。

 UCの機体には、ほぼ標準的にビーム兵器が搭載されている……だが逆に、PDの機体にビーム兵器は皆無……それは勿論『ナノラミネートアーマー』の存在があるから。

 

 PDでは装甲に使われる技術(ナノラミネートアーマーの存在)故に、ビーム兵器は大昔に廃れており……宇宙世紀で標準化されているビーム兵器は完全に役立たずとなり下がる。

 つまり、他のガンダム世界では必ずと言って良いほど搭載されるビームサーベルやビームライフル等の武装はただの飾り……いやむしろ邪魔にしかならない。

 

「……随分と無理難題を吹っ掛けて来たねぇ、復讐者(アベンジャー)さん?」

 

 一人愚痴を溢しながらも、代替武装の案を練り始める……ライフルは取り回し等を考慮したサイズを見繕えばそれで事足りるが、近接用武装となるとそうは行かない。

 装備によっては重量バランスの見直し、モーションパターンの補正、機体のエネルギー配分の再計算からマウントラッチの構造変更……酷い時にはモーションパターンの新規作成に始まり、マウントラッチまで新規設計……武装そのものが内蔵式ならば搭載すべく、大幅な構造の見直し等も要求されてしまう。

 

(バランスを損なう程の改装をしちゃうと、彼の戦い方にも悪影響は免れないだろうなぁ……となると手軽なバトルソードか、アックスなんかの手直し品かな……?)

 

 実際に手合わせ(直接戦闘)もした間柄だ、ある程度彼の戦い方は把握している……

 それを崩さない方向性となると、やはり軽量で取り回しにも優れた武器が良いだろう。

 

「……ただ、軽量なぶん威力はイマイチになるのよねぇ」

 

 ここでまたしてもナノラミネートアーマーの存在が邪魔をする……ナノラミネートアーマーは物理防御もかなり硬い……さすがにあのフェイズシフト装甲には及ばないが、ガンダニュウム合金をも越える物理防御力と、ビーム射撃ならばほぼ完璧に弾く『ヤタノカガミ』にも劣らない対ビーム性能を併せ持つバケモノ装甲なのだから……

 

 ナノラミネートアーマーの破壊係数を上回る程の威力を、近接武器に求めると……後にバルバトスが装備する事になる『レンチメイス』や『超大型メイス』等、必然的に大型化するのである……故に透火は、禍月の意見を求めに現場から一時離脱するのだった。

 

──────────

 

 禍月桐谷は、鉄華団のMS隊隊長を勤める転生者……過去に宇宙世紀へと転生した経験があり、一応、老人の段階まで長生きして戦死……宇宙世紀の生き字引と呼んでも申し分ない位は、様々な人物と戦い、又は交流したらしい。

 故に、転生でいきなり若者へと戻された彼だが、基本的には大人の立場に立って物を言う……それ故か団長のオルガや、三日月……鉄華団のほぼ全員は、彼の言を尊重している……一部の間では“絶対”とまで考えている様だが、それは『転生者故の既知情報』に救われていたからに過ぎない。

 

 なので時折、少々困った事態になる場合もあった……

 

「桐谷、これからの事なんだが……」

 

「……なぁ、オルガ……団長はお前だろ? 俺はあくまで部下の1人だ……他の奴に対しての示しも付かんから、いい加減俺に意見を求めるのは止めてくれ……」

 

 おっと、オルガ兄に対して説教している最中だった……さすがにまだ団長としての心構えは完成しきってないせいで、(先の事を知ってるから)落ち着いてる禍月に頼ろうとしている。

 

 確かに“他人を頼る”事は悪くない……だが、今のオルガ兄は自覚なしに頼りきりで自身の成長を止めてしまっていた……禍月は()()()()()()としての覚悟をオルガに対して求めるが、今の段階ではまだ焼け石に水だろう……そう思い、私は助け船を出す事にした。

 

「っと……あ、お邪魔でした? 男2人で随分と仲が良いですねぇ」

 

「ん? あぁ、アンタか……大丈夫だ、チョット待っててくれ」

 

 そう言って禍月はオルガに「また後でな」と断りを入れてこっちに来た……私は両手で持っていたファイルを左だけで持ち直し、右で格納庫を指差して合図……禍月は機体の件だと気付いて従ってくれた。

 

──────────

 

「んで? 俺に何か用かい?」

 

 格納庫で再構築中の機体の前へと連れ出され、禍月は開口一番で聞いてくる……

 

「そりゃあ、勿論この子(アベンジャー)の事……こっちじゃビーム系はほぼ使えないから、代替案考えてって前に言ったよねぇ?」

 

「……そうだったな……」

 

 あ、今思い出したみたいな顔した……コイツ絶対忘れてたな?

 

 禍月は沈黙し、少しの間考え込む……私は今まで考えてきた代替案を提示する事にした。

 

「ソードまたはアックスの手直し……新規で武器の作成……それとも、無理は承知で大型装備積む?」

 

 禍月も、自身が今後扱う機体の事だ……その表情は真剣そのもの……長めの沈黙を破り、答えた内容は……

 

「系統的にはサーベルが良い、そうそう使い所は多くないだろうがな……無いよりかはある方が心強い、フラッグのブレード……アレは使えないか?」

 

 なるほど、彼はやはりシンプルな方が良いのね……

 

「不可能じゃないよ? 構造を少し見直して、物理的な刀身を伸ばす位は出来そう……それに、プラズマソードならナノラミネートアーマーでも弾かれないだろうし、機体側の出力次第では十全に使えるかもね」

 

 プラズマエネルギーを刀身に見立てたプラズマソードなら、ナノラミネートアーマーでも物理的扱いで弾かれはしないと思う……ならば、機体側の出力次第で十分な威力を持たせる事も不可能ではない

 ……と、いう訳で……ビームサーベルはソニックブレイドの改良品に換装、ライフルはグレイズの物を元に、取り回しを損ねない様にグレネードを追加した専用ライフルへと改造する事が決まった。

 

 

 そして数日後……機体そのものの組み上げも終了し、再起動テストとなったアベンジャー。

 

 バルバトスもオーバーホール作業は残り僅か……

 阿頼耶識の再調整とパラメータ更新、そしてパイロットとのフィッティング作業を残すのみ……

 

 三日月やテイワズのクルーが見守る中、アベンジャーがテストエリアへと運ばれてくる。

 

 宇宙世紀の技術である『ミノフスキー・イヨネスコ型核融合炉』により、エイハブ・リアクターの欠点である市街地での電波障害を引き起こす心配もなく、純粋なパワーではガンダム・フレームにこそ劣るものの、一般機が相手ならば侮れない出力を確保できた。

 武装も更新され、ビームサーベルの代用としてソニックブレイドを改良した『刀身延長(ハイ・エクステンド)型モデル』を採用……ライフルはそれまで乗っていたグレイズの物を改造し、銃身下部にグレネードを取り付けた。

 なお、内蔵型火器だった腕部ガトリング砲は腕から取り外せる『セパレート式』へと変更、シールド裏にはグレネード弾や予備弾倉を取り付け可能な懸架部を設け、ランドセル左側のサーベルをオミットした代わりに、フレキシブルアームで接続した折り畳み式の120㎜キャノンを追加装備……

 脚部ホバーユニットも構造を刷新し、出力も上がったので使い勝手も向上している。

 

『……待たされただけあって、ご機嫌だな……!』

 

 訓練用標的を次々と撃破しながら虚空を駆ける復讐者(アベンジャー)……細部こそ手が加えられ、一部は改造されたが……ほぼ望み通りの姿となって甦った愛機に、禍月の顔も緩む。

 

 稼働テストは良好……残る作業は、各部センサー系の微調整や、機体のOS側(追加武装に合わせた細かいデータ)の更新がまだ残っている。

 ……だが、イサリビへの補給は間も無く終わり……バルバトス共々、恐らく出航には間に合わない。

 

「……あんまり時間もないし、残りは()()で行くかぁ!!」

 

 私は気合いを入れ直すべく、大きめの声で宣言しながら作業に戻るのだった。




宇宙世紀生まれのMS、アベンジャーの再構築完了。
詳しい紹介は後日、設定の方に追加します!

次回はお待ちかね、海賊ブルワーズとの遭遇戦……
何やらフラグが立ってるみたいなので、へし折りに往かねば!


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第5話 復活の復讐者(アベンジャー)

数時間の遅れを縮めたフラッグ用の追加ブースター。
中身は企業秘密です……w



 私が直々に組み上げたフラッグのセンサーは、エイハブ・ウェーブの影響下でもしっかりと機能を発揮する特別な物だ……勿論、それはフラッグのエンジンが影響しないと言うのもあるが……元々速度に秀で、重力下でも高速飛行を可能とする可変機体などは、基本的に索敵能力も高いのである。

 

「……見つけた! 距離15000、敵数は3……もう囲まれてる?!」

 

 自機の広域索敵で戦況をいち早く把握した私は、すぐさま情報を3人にも伝える。

 

『俺、先に行くから……おやっさん、コイツの制御そっちに返すね』

 

『なっ……お、おい待て三日月?! 俺はコイツの操縦なんて……ッ!?』

 

 言うが早いか、三日月は機体側からロックを外し……強引に長距離輸送用ブースター『クタン参型』の制御を雪之丞さんへと切り替えてさっさと行ってしまった。

 

『ぬおぉぉぉぉぉぉぉ?!』

 

 途端にあらぬ方向へと行きそうになるクタン参型を必死に操縦する雪之丞さん……このままじゃちょっとマズい事になりそうな予感がした。

 

「悪いけどココで切り離すよ? あの人を先にイサリビまで送ってくる!」

 

『スマンな、任せるわ……牽引ワイヤー接続解除、行くぜ相棒!!』

 

 私の提案に即応し、自ら牽引ワイヤーを解除する禍月……アベンジャーは牽引された速度を維持しながら三日月の後を追い、私もすぐにクタン参型の方へと転進した。

 

──────────

 

 未確認機が3機、昭弘とタカキを襲い……隙を狙われピンチになった昭弘達を救ったのは……

 

『……み、三日月……!』

 

『……ふぅ……』

 

 装甲の隙間……首の後ろ側を突き刺し、駆動系を制御する重要部分を破損させ行動不能するという高等芸をアッサリと実現して見せた三日月は、動かなくなった敵機を蹴って昭弘から遠ざける。

 

 その間も敵は囲みを解くまいと奮闘するが、それは呆気なく破られた……

 

『……やるぞ、アベンジャー……!』

 

 禍月の愛機、次元を超えて現れた復讐者……この世界とは違う源流を持つMS(宇宙世紀のガンダム)、アベンジャー。

 残る敵の2機は連携してアベンジャーを囲もうと動き回るが、当の復讐者は油断無く構え……敵からスモークグレネードが投げられたのを合図に右手のライフルと頭部バルカンでスモークグレネードと敵機をそれぞれ狙い撃った。

 予定外の位置でスモークを発動させられ、焦る1機が間合いに入る……

 

「……やれやれ、それは悪手だぞ?」

 

 禍月は言葉と共にミリ単位の隙間だけ残して敵機を避け、すれ違う瞬間に蹴りとライフルをお見舞いした。

 

『なっ?! この速度差でカウンターを?!』

 

 もう片割れが牽制射撃をしてくるが……当たりそうな弾だけをシールドで受け流す、その弾道が全て見えているかの様に。

 

『……コイツ、弾が見えてるのか?!』

 

『落ち着け! 今度はこっちからだ!!』

 

 敵の動きが変わるが、復讐者はその動きにもすぐに対応……牽制を最低限の挙動で避け続け、突撃にはカウンターを合わせていなす。

 敵は禍月の乗るアベンジャーの即応性に焦り、じわじわと被弾も増えていく……

 

『クソッ、なんで当たんないんだよ!? 阿頼耶識使いでもないのに……!!』

 

 焦る敵のパイロット2人は禍月ただ1人に良いように翻弄され、弄ばれている……三日月は昭弘と既に離脱し、イサリビへと戻ろうとしていた……

 ……が、そこへ新たな接近警報が三日月達のコクピットに響く。

 

「ちっ、新手か……!」

 

 接近してきたのは、先程の肥り気味のMSが新たに7機……それと、更に肥え太ったイメージをした深緑色のMSだ。

 

『……敵の数が多い、昭弘は先に行って!』

 

『分かった……!』

 

──────────

 

「……アイツら、囮の役目すら満足に出来やしねぇのか? お前らはしっかり仕事しな!」

 

『『『は、はい』』』

 

 三日月は深緑の敵機へと、背中にマウントしていた滑空砲を展開して射撃……だが、敵は避けもせず、あろう事か直撃なのにびくともしない……三日月がコクピットの中で忌々しく呟く。

 

「ちっ、さっきのと同じでイヤに硬い……!」

 

『ふん……このクダル・カデル様と、グシオンを舐めるんじゃないよぉ!!』

 

 バルバトスに装備された300mm滑空砲の直撃すら物ともせず、見た目に似合わぬ機動性でバルバトスに襲いかかるグシオン……三日月は大振りのハンマーを回避するが、代わりに直撃したデブリが砕けて粉塵を盛大に撒き散らす。

 

『コイツ、邪魔だな……!』

 

──────────

 

 一方、禍月は相手取っていた敵機が撤退したのを見届けた後……すぐさま昭弘達の直掩へと機体を走らせた。

 エイハブ・リアクターを持たない機体……とはいえ、宇宙世紀で『ガンダムタイプ』と呼ばれるだけあってその性能は高く、昭弘を追う7つの敵機にみるみる接近する。

 

『なんで彼処から追いついて来れるんだよ?!』

 

「元の生まれは違うが、コイツもガンダムなのさ……!」

 

 禍月の接近に気付いた敵機が迎撃体勢を取る寸前……アベンジャーの左背面にあるフレキシブルアームが可動して砲口が前を向く……アームの先端に装備された120mmキャノンは、元々のハイパーバズーカをAGEビルダーで魔改造し、口径を絞る代わりに専用の保持アームと弾頭の選択機能を持たせ……更に折り畳んで携行できる様にして柔軟な可用性の付与に成功した中距離支援用の火器だ。

 砲口を向けられた敵機は慌てて回避行動を取るが、120mmの弾頭は背部スラスターの外装や脚部へと直撃し、敵機の挙動に影響を及ぼす。

 

『ちぃっ、だけどこの程度で!!』

 

「……悪ぃな、それで十分なんだよ」

 

 アベンジャーは更に加速……脚部の全スラスターを全開にして敵機に接近し、右腕にソニックブレード(フラッグ用から刀身を伸長させた専用モデル)を握らせ、敵機のスラスター噴出口に突き込んだ。

 端材から製造したとはいえ、高硬度レアアロイ製のブレードと超振動効果によって驚異的な切断能力を持つこの武器は、実にアッサリと敵機のメインスラスターを破壊……禍月は抜き取りついでに蹴り付けて、周囲に浮かぶ小さめのデブリへと相手を突っ込ませた。

 

『うわっ!? くっそぉ……』

 

 盛大にデブリへと突っ込んだ敵機……パイロットは少なくない衝撃を受けるが、この程度では死なないだろう。

 残る敵機もアベンジャーに向かって思い思いに牽制射撃を行うが、禍月は冷静にシールドで直撃弾を避けつつ隙を見せた敵機に次々と120mmキャノンを当てていき……バランスを崩した所へ超接近してスラスターや四肢をもぎ取っていく。

 宇宙世紀を駆け抜けた、元・歴戦のパイロットという圧倒的な技量が成せる妙技……1機、また1機と数を減らし、残るは4機……

 

『俺らで止める、残りはアイツを!』

 

 2-2で別れ、アベンジャーに相対する2機……そして残りの2機が昭弘達に迫る。

 

『貰ったぁぁぁぁ!!』

『ちぃぃぃっ?!』

 

 昭弘機に追い縋る敵の1機が、タックルの姿勢に入り加速し、直撃まであと僅かに迫る……と、その時。

 

『……イ・ナ・○・マ・キィィィック!!』

 

 昭弘の機体の進行方向側から回り込んで来た白い機影……MSにしては化け物じみた加速で昭弘と敵の間に割って入る、その挙動はさながらライ○ーキック……勿論、避ける暇もなく敵機は逆に蹴り飛ばされ、もう1機も白い機体からの牽制射撃に回避せざるを得なかった。

 

──────────

 

「大丈夫?! 早く船に戻って」

 

『スミマセン、頼んます!!』

 

 慣れない敬語を使う昭弘兄を見送り、私は目の前の2機を相手取る……確か『マン・ロディ』って名前だっけ……硬いけど、倒せない相手じゃない。

 

『クソッ、次から次へと……!!』

 

「……大人しく帰った方が、キミ達の身のためなんだけど?」

 

 一応、相手は阿頼耶識使い……所謂、ヒューマンデブリと呼ばれる孤児達だ。

 できれば巻き込んで殺しちゃうなんて事はしたくない……私は左手にソニックブレイドを展開させ、右手のレールガンで牽制を掛けつつ接近……当然敵は距離を保とうと離れるが、片方の背後で突然爆発が起こり、バランスを失う。

 

『な……何が?! ……ぁっ!?』

 

 予め放っておいたミサイルが死角からヒットした直後の僅か10秒……私は牽制した敵からターゲットを変更してMA形態へと変形……ミサイルを囮に敵を撹乱し、バランスを崩した方へと再び超軌道マニューバー(グラハム・スペシャル)で回り込んで背中を取ると同時にソニックブレイドで背部スラスターを✕の字に切り刻む。

 

 仲間の異変に気付いたもう片方が、囮のミサイルを掻い潜って此方へ突進……それに合わせて私はAMBACを駆使した馬跳びを披露し、隙だらけの背後へとレールガンを撃ち込む。

 5発目がスラスターの噴出口に直撃して機能を喪失した所へ、すかさず接近して腕の関節目掛けてプラズマソードの刃を走らせ、両腕を分断する事で戦闘力を奪う。

 

『大人しく退きなさい……殺しはしないわ』

 

 ただそれだけを敵に吹き込み、同じく敵を掃討した禍月と合流……三日月に加勢すべく機体を虚空へと走らせた。




あれれ? 禍月の戦闘シーンの方が多いぞ……?
あっちも私を書いてくれるかな……

次回は原作通りに三日月 vs. クダル・カデル

ガンダムファイト、Ready Go!!(違)w


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第6話 陰鬱なフラグはへし折るべし

前回の話では書いてませんが、昭弘はブルワーズにいた弟と原作通りに会話だけはしてます。
なので原作通りに再会させようムードとなりました。
そしてタカキ君が負傷してないので、メリビットさんはクタンに振り回された雪乃丞さんを介抱してます……カップル化が早まる?

では続けましょう、第6話!
※ お目汚しかもしれない部分があるかと思います……先んじてご容赦を。
  (。>д<)∠…ゴメンなさぁい!!


 あの後、三日月兄の所にはラフタ姉さん達が来てくれたので、敵の方から全員撤退……

 タカキ君も無事にイサリビへと戻れたので人的損害はほぼ無しで済んだ。

 

 そして今、私はアジー姉さんとラフタ姉さんと3人で襲撃してきたMSを調べている。

 

「マッチング結果は……『ロディ・フレーム』?」

 

 MSのシステムを利用して検索を掛け、リアクターの固有パターンからヒットした結果は……重量級MSの1つ『ロディ・フレーム』タイプ。

 

「……やっぱり、間違ってなかったか」

 

 あーやっぱりね、という顔で私は納得する……その声にラフタ姉さんが少し驚く。

 

「アンタ、知ってたの?」

 

「一応……MSの情報は厄災戦当時の奴も含めて一通りは、ね」

 

 本当はこの先の展開も全部知ってるし……先々、諸々の準備も着々と進んでおりまする。

 

「……じゃあ、この一回り大きい奴は?」

 

「んー、前に見た資料とだいぶ変わってるけど……多分グシオン、じゃないかな?

 このメチャ重そうなハンマーをあれだけ自在に扱えるパワー……ガンダム・フレームしかないよ」

 

 ガンダム・フレーム……300年前に(厄災戦当時)活躍していたとされる骨董品級のMSなのに、現行のどのフレームよりも高性能かつパワフル……ヤバい程の強さを備えている。

 たとえギャラルホルンの最新鋭機体が相手だろうと、ガンダム・フレームの持つ性能はそう易々とは越えられない……

 無論、阿頼耶識が無くても、だ……それだけガンダム・フレームの性能は突出している。

 

「相手が何にせよ、アイツらはアタシ達タービンズにケンカを吹っ掛けたんだ……」

 

 アジー姉さんが言わんとしている事……その先の言葉など、当然承知している。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

──────────

 

 姉さん達と別れた後、先ほどの敵……海賊ブルワーズの頭「ブルック・カバヤン」からも宣戦布告があったと禍月から聞いた私は、彼と()()について話し合う事にした。

 

「……ブルワーズには、昭弘の弟が居たな?」

 

「昌弘くんね、何とかして彼を助けないと……」

 

 このまま原作通りに行けば……クダル・カデルのせいで彼は死に、昭弘兄は消えない後悔を増やしてしまう……転生者である私達は、彼等を()()()()()()為に生きている。

 

 当然、死亡フラグはキッチリ折らせて貰う!

 

「だが、問題もある……敵の数が予想外に多い」

 

 先の戦闘で、禍月は合計8機のMSと戦っている……原作の遭遇戦ではグシオン含め6機だったはずだ、コレは所謂、転生の弊害というやつなのではないだろうか?

 

「……だとしても、やらなきゃ行けないのは変わらないよ……2人ならやれなくはないよね? 前世の君は歴戦のエースだった訳だし……」

 

「待て、お前だって技量が追い付けば三日月並みに強えぇじゃねーか。何だよ()()()()は……2度もグラハム・スペシャルやって平然としてるとか身体頑強すぎんだろ? おまけにGガン系以外でデビルガンダムまではっ倒すとかガチであり得ねー」

 

「それ言うなら貴方も大概よね? 弾道が見えてるとかもう既にチート同然じゃん……それにザンスカール戦争まで体験してきたなんて、どんだけ長生きよ?」

 

 お互い転生者……しかも前世をある程度伝え合ったせいで()()()()()()()()()()をネタにお互いを(からか)いだす……と、そこに誰かの声が割り込む。

 

「……おぉ、悪ぃな……邪魔しちまったか?」

 

 突然の声に気付いて振り向いた先には名瀬さんとオルガ兄……途中からとはいえこの状況を目撃された時点でなにか勘違いされそうだったのだが、私は態度もそのままにそっぽを向いてしまった。

 

「お互い若いのは良いが、女は怒らせると後が怖いぜ? ……手が付けられなくなる前に謝っとけよ」

 

 突然、禍月にそう言い残し……オルガ兄を引き連れて名瀬さんは踵を返す。

 

 え? ちょっと待って……今の流れ、さっきのを完全に痴話喧嘩してると誤解された……?! ちょ、父さ……名瀬さぁん!?

 

 弁明しようと口を開く前に角を曲がって見えなくなる2人……禍月が私をどう思ってるか分からないが、2人とも完全に勘違いされたと思ってしまいアタフタ……

 何とか禍月が先に復帰して「はよ話を戻せ」と催促してきた事で私も我に返り、痴態を咳払いで一蹴して強引に話題を戻す。

 

「ゴホン……とりあえず次の作戦だけど、私は三日月くんやラフタ姉と一緒に斥候になったから……グシオン来たら三日月くんと合流してよ? さすがにフラッグじゃろくに相手できないもん」

 

「それが妥当だな、そうなると……他は状況次第、か……あの豚も戦力ってんならぶち抜いときたいがなぁ」

 

 あんまり直に見たくない(豚)顔してるもんね……実は獣人種だったりとか?

 

 

「……ふと、思ったが……お前の前世は人造人間だったのか?」

 

「……可能性としては最有力だと思う……厄災戦前の記憶も、前回の記憶も、容姿は変わらなかったし」

 

「それでビルダーとか造れたのか……前世のお前は『生きたEXA-DB』も同然だな……ん? 待てよ……擬似太陽炉造ったんなら時間さえあれば……」

 

 はい食い付いた~、GNドライヴ関連はやっぱり来るよネェw

 ……でも今回はオリジナル版も造れるビルダーがあるけど……置き場が無い。

 

 何とかならないかな~と、私は期待を込めてみる。

 

「今回は時間よりも場所が欲しいわ……置き場が無いのよ、置き場が……もうすぐにでも作業始められるのにぃ」

 

「……マジかよ」

 

 ドン引きされただけでリアクション終了……(´・ω・)ショボーン

 

 

「で、今後なんだけど……エドモントン戦後から先は私もフラッグじゃ戦力外通告間違いなし、かな……さすがにガンダム・フレーム相手じゃパワー不足過ぎるもん」

 

 フラッグはその性能全てを速度に傾けた高機動型、ガンダム相手じゃ出力面から越えられない壁が存在する。

 物語後半は只でさえ次々と新型が出てくるので、スピード一辺倒のフラッグじゃいずれ太刀打ち出来なくなるのは目に見えている……だから私は、歳星でルプスレクスが完成するタイミングに併せ、新型機を用意するつもりだ。

 

「新型、か……俺のアベンジャーもどこまで通用するか……」

 

「でも……ビルダーの置場所が無きゃ……」

 

 本末転倒である……タービンズルート唯一の問題点だ。

 序盤から存分に技能を発揮し、一定の立場を得られる……その代償として、()()()()()やりたい放題など出来ない。

 

「……お前も鉄華団だったら特に何の問題ないんだがな……うちの敷地はかなり広いし、お前の整備技量は歳星の連中よりも上……おまけにクーデリア並かそれ以上の美人……うちの連中なら両手(もろて)挙げて歓迎するだろうよ」

 

 私が? クーデリアさんと同等? いやいや冗談でしょ?

 

 ……は? 嘘偽り無いって……それって口説いてるの? ちょっと待ってよ?! 確かに話は合うけどまだ好きかって聞かれてもそういう段階でもないしお互いに経歴とか来歴とかは話したけどそれくらいしか話せてないしだから恋愛感情かって言われても勘違いかもしれないし私としてはもう少し色々と付き合ってから誰かとそういう関係になれたら良いなって願望はあるけどもしドン引かれたらシャレにならない位ダメージ受けそうで怖くて泣きそうになるわでもむしろ両想いになるとかなったらそれはそれでパないダメージ受けるだろうけどなれたら良いなって思ったりしちゃってるでもモロバレとかして応援なんてされたら恥ずか死にそうだから絶対に顔に出さないように物凄く気を付けて……

(大混乱&暴走中)

 

── しばらくお待ち下さい ──

 

 

 コホン……それは置いといて、最低でも鉄華団の整備事情は何とかしてやりたい。

 

 なんせあっちはMS関連の整備技能持ちなんて誰もいない……雪乃丞さんがテイワズから受け取ったマニュアルとにらめっこしながら何とか可能にしているのが現状。

 今でこそエーコがメインで出張してるし……私も手伝いながら、何とかやっていけてるけど……

 

「……地球に降りたら、ろくな部品は確保できそうに無いかもしれない」

 

 詳しくはまた今度話すが、地球降下後は場所を転々と移動し続けるので、補修パーツの確保や大規模な修復は見込めない……地上戦はアベンジャーもフラッグも活躍は出来るだろうが、万が一という事もある。

 

「……正解だったろ? ビルダーも船に乗せといて」

 

「はいはい、先見の明は認めますよ~……補修自体はそれで目処が立ってるけど、ギャラルホルンはどうするの?」

 

「地球降下直前の奇襲か? 宇宙世紀じゃよくある手だがな……こっちじゃ初だし、何が起こるかわからん……油断は出来ねぇし、早めにバルバトスに対策させるのも良いんじゃねぇか?」

 

「この戦闘が終わったら雪之丞さんや団長さんに相談しに行くから……ちゃんと口裏合わせてよね?」

 

「オーライ……んじゃ、まずは海賊どもを叩きのめさねぇとな」

 

 ……クールぶってる? ロックオンみたいな返答で次の戦闘へ向けた意気込みを口にする禍月。

 

 何としても昌弘くんを保護して、ブルワーズを壊滅させる……初のフラグブレイクだ、慎重に事を運ばなきゃね……




禍月との口喧嘩シーンですが、本来なら名瀬さんとオルガ兄がブルワーズにどう対応するか二人きりで話すシーンの直前です。
ちなみに喧嘩の内容についての理解度はお察し……
そりゃ当然、転生者でないと理解できない単語も多いですから。

私に画力は無いのでオリキャラを描く事はたぶん無理です。
容姿としては今までの中身でだいたいの感じは書いてるので、既視感は出るかと……

禍月の外見は……今度聞いてみよ。


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第7話 ひさしぶりの宇宙、はじめてのフラグブレイク

アンケートの乗り換え機体ですが、
意外に最も伸びてるのがフラッグと主役機という……



 斯くして、ブルワーズと戦う事になった鉄華団とタービンズ。

 

 そこで立てられた作戦は……ルート上のデブリ帯に『長距離移動用装備』を施したMSを先行させ、敵に『船はMSの背後にいる』と誤認させ……横合いのデブリ帯から、タイミングを見て奇襲を掛ける……

 岩石や戦闘で破壊されたMSや艦船の残骸などが大小入り交じり、移動も極めて困難なデブリ帯からの奇襲……だが、一部から()()()()()と評されていた彼らならば、()()()()()()()()()()()

 

『……済まねぇな、一番危険な役回りをさせちまう』

 

「大丈夫ですよ、ラフタ姉さんも三日月くんも居るし……」

 

 出撃を待つフラッグのコクピットで、私は名瀬さんと通信で話す……

 

 船でも公私を使い分ける私は、基本的にプライベートでないと彼を父とは呼ばない。

 産みの親を忘れたくないのもあるけど、義理の親子という関係上、甘えがあってはいけないと私が思ったからだ……当初は複雑な表情をされたが、もう日常的な光景……でも、内心はもう少し甘えて欲しいと思って居るのかもしれない。

 

「……そろそろ時間なので」

 

『ああ……っと、透火』

 

「なんです?」

 

『……いや、何でもない……弟分の部下の事も頼むぜ』

 

「分かりました」

 

 モニター画面が切り替わり、オペレーターからの出撃コールが出される。

 

「了解、睦月透火……フラッグ、出ます!」

 

 スラスターを吹かし、カタパルトを使わずにMA形態のフラッグが発進する。

 フラッグならカタパルトよりもMA形態で飛び出す方が、激変する戦場に即座に対応出来るので都合が良いのだ。

 

 バルバトスと百里が先んじて出撃している所に、自前の推力で追い付いて合流。

 魔改造によって原作よりも機動性が向上したフラッグは、最大速度こそ百里に劣るが加速力と汎用性は上であり、可変機構により即座に人型へ変わる事で戦闘にも対応……武装も充実しているので、威力偵察や索敵に最適……バルバトスも再び「クタン参型」とドッキングして、百里とフラッグにも追い付ける様にしている。

 

『じゃ、道案内はヨロシクね』

 

「了解、ラフタ姉さん……三日月くんもよろしくね」

 

『……ん、よろしく』

 

 3機はそれぞれ加速し、デブリ帯の先行偵察を開始した。

 

──────────

 

 うん、私としては戦闘や救出作戦をじっくり書くのもやぶさかじゃないよ?

 

 ……でも、今回のは戦闘後の方が重要だから、こういう形を取らせて貰うね。

 

 まず、敵は原作よりもかなり多かった……

 マン・ロディタイプが10機に、改造されたグレイズが4機……そしてグシオン。

 総勢15機のMS……ほぼ大部隊ってトコかな?

 

 私達が敵に発見された後、マン・ロディが数機迎撃に出されて、私達は罠に嵌ったフリをして混戦状態に突入……少し間を置いてイサリビとハンマーヘッドがデブリ帯を突き抜けて横合いから敵の母艦に吶喊……動きを止めてから人員を送り込み、敵母艦の制圧を開始した。

 

 それと同時に昭弘兄と禍月が出撃し、それぞれ目的を果たす為に行動を始める。

 

 私とラフタ姉さん、アジー姉さん、アミダさんで、弟くんを説得に行く昭弘兄や船を護衛……禍月は三日月兄と協力して死亡フラグを持って来るグシオンを遠ざける……でも、グシオンを追う禍月達の前に、例のグレイズが4機も乱入してきた為、三日月兄と禍月もグシオンを追えなくなってしまった。

 

 しかも、通信から聞こえて来たグレイズのパイロット達の正体……それは、鉄華団……いや、クーデリアさんを疎ましく思うギャラルホルンが契約し、送り込んできた凄腕の賞金稼ぎ達だった。

 

 さしもの禍月も、凄腕と評されるパイロットの駆るグレイズ4機を相手に攻めあぐね……バルバトスは何とかグシオンを追うが、マン・ロディも何機か追い縋っている為、追い付かれ割り込まれたら詰んでしまう状況……

 

(もしココでグシオンに抜かれたら、死亡フラグだけじゃない……クーデリアさんまで危険に晒してしまう!)

 

 その時だった……禍月と私は、今までが嘘のようなレベルの行動を開始。

 

 禍月はあれほど苦戦していた筈のグレイズ4機をあっという間に撃破……

 

 そして私は、昭弘兄の援護から抜け出ると、MA形態で三日月兄を後部に掴まらせ、デブリの隙間を縫う様に曲芸飛行……常識では考えられない反応速度でデブリの間をすり抜け、瞬く間にグシオンとの距離を()()にしたのだ。

 

『なっ……なんだってのよ?! あの白い奴の動きは!?』

 

 クダル・カデルが何か言ってる気がするけど、今の私には関係ない……!

 

「貴方の存在は邪魔なの……だから、ココで消えて」

 

 自分で言ってちょっと不満げだったかなと、感情を口にしてから自覚したものの、移動速度差ですれ違うグシオンとフラッグ……その影から現れたのは、ココまで引っ張って来たバルバトス……もう既に刀を構えており、グシオンの首元……ちょうどコクピットを貫ける角度で一突き……

 

『ぎぃぃぃぃゃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!』

 

 ……実にアッサリとグシオンは沈黙した。

 

『……なんか、物凄く速かった……あと結構、揺れたね』

 

「……ジェットコースターの感想じゃないんだから」

 

『ジェットコースター? ……なにそれ?』

 

「……機会があったら教えてあげる」

 

 戦闘後だと言うのにこんな会話する私と三日月兄……精神構造、おかしくなってるのかな?

 

 

 そんで、弟くんの説得をした昭弘兄だけど……生来の口下手が災いして逆ギレされたらしい。

 まぁ、イサリビまで連れてかれた後、他のヒューマンデブリの皆様と一緒にオルガ兄の言葉を聞くと、全員一斉に泣き出したって聞いたから、取り敢えず一安心かな?

 

 ……でも、1つだけ疑問が残ってしまった。

 戦闘中の禍月の様子がおかしかったのだ……

 

 いつもは通信をオープンに戦闘中でも他世界のガンダムネタ台詞を聞かせてくれるのに……今回の途中、「あの瞬間」から突然通信が()()()()()……

 そして、戦闘から戻ってきた禍月は疲労困憊もいいところ……コクピットから出るなり倒れたと聞いたのだ。

 

 これは絶対何かがある……多分、あの機体……アベンジャーに。

 

 復讐者なんてコードネームを付けられたMSだもの、何かあるなら絶対アレが原因だろう。

 ……今までそんな素振りすら見せなかったのに。

 

 取り敢えずイサリビへと移動し、アベンジャーの戦闘ログを確認した私は、ある事に気が付く……

 

「何よ……コレ、こんな事って……?!」

 

 アベンジャーを稼働させるOSに、巧妙に隠してあった存在……特定条件下で発動し、パイロットの思考に介入するような機能を持つインターフェース・システム。

 どうしようもない不安を抱えたまま私はアベンジャーのコクピットから飛び出し、禍月の元へと急いだ……

 

──────────

 

 私の到着とほぼ同時に覚醒していた禍月……扉を蹴破る勢いで突入してきた私に吃驚したが、顔を確認すると「……お前か」とだけ口にしてため息を吐く。

 

 私はベッドの隣に椅子を持ってきて座る……が、何も言わない禍月……疑いたくはないが、隠している事があるならハッキリと言って欲しい、そんな思いで私は意を決して切り出した。

 

「あの機体、アベンジャーって……いったい何を積んでるの?」

 

 アベンジャーのOSに隠されていた補助システム……その正体を問い質す。

 

 機体の戦闘ログに残されていたのは……まるで狂気に侵されたかの様に、悪魔的なまでに高まった機体性能を駆使し、無惨に敵を屠っていく禍月の操縦履歴……ただの人間では到達し得ない程の反応速度と、機械的な判断で瞬時に武装を切り替え、抵抗する暇も与えずにMS4機を爆散させた記録だった。

 

 そして、彼の口から出た答え……

 

「……EXAMシステム。

 それがアベンジャーに搭載されている奴だ……俺にとっては、トラウマの原因だよ」

 

 たっぷりの沈黙の後に出たのは、紛れもなく非人道的なシステムの名前……

 

 宇宙世紀0079年に起こった「一年戦争」の最中……ジオン出身のある研究者が、画期的なMS用システムを持って地球連邦に亡命……それを皮切りに始まった、新型システムの試験機を巡る抗争劇……その渦中の中心にあった青いジム頭の機体「ブルーディスティニー」に搭載されていた、ある戦闘補助システム……

 マリオンという少女(ニュータイプ)の精神を犠牲にし、ニュータイプを狩る為に造られた……使い手にも破滅を呼ぶ対ニュータイプ用の戦闘オペレーションシステム。

 

 ……「EXAM(エグザム)」それが、あの機体……アベンジャーにも搭載されていた。

 

「やっぱり……多分そこら辺かなって、思ってた……」

 

 間違って欲しかった……あんなものを乗せた機体で、私は彼を戦場に放り込んだ……

 違うと言って欲しかった……知らなかったとはいえ、私は彼の……忘れたかった過去を無理矢理に突き付けたのだから。

 

「俺もないと思いたかったさ……結局その期待は的はずれだったがな」

 

 彼も知らなかった、いや……この世界で手を加えられたのだから、無くなっている筈だ……と、淡い期待を抱いていたのだ……だが、その期待も見事に裏切られた。

 

「……少し、昔話でもしていいか?」

 

 俯き気味な彼の言葉に、私は無言で頷く……

 そして彼は、ぽつりぽつり……と、過去……この世界へ転生する前……宇宙世紀での出来事を語り始める……

 

 連邦軍の総司令、レビル将軍が直々に編成した部隊「STR-1」に一時期、所属していた事……

 

 ……因縁の宿敵と激しい戦いの果てに、精神崩壊までしてしまった事……

 

 はじめて部下を持ち……苦楽と共にし、死別まで経験した事……

 

 ……様々なことを話しながら、彼は泣いていた。

 でも私は、どんな些細な事でも態度を変える事なく、真剣に話を聞いた……()()()()()()()()と断じる事なんて出来ない。

 

 これは彼の……宇宙世紀を命懸けで駆け抜けた中で背負った「重い十字架」だと思ったから。

 

「こんな下らん話を聞いてくれてありがとな……少しスッキリしたよ」

 

「……下らないなんて、言わないでよ……私よりずっと重たいじゃん」

 

 私の思いを知ってか知らずか、再び気絶するように眠ってしまった彼を見ながら……私は愚痴(ぐち)(こぼ)しながら、ある決意をする。

 

 彼もまた、異世界から迷い込んだ鉄華団の一員(オルフェンズ)……ならば、彼も幸せになる……なれるべきなんだ、と……




透火の異常行動は、所謂「半覚醒」というヤツです。
特殊能力者にはおなじみの行動ですねぇ……

そんでもって後半は、ガンダム特有のくっそ重たい過去話……
相棒の禍月くんは人生経験豊富なぶん、重たい十字架を背負ってました。


さぁ、改変は成された……次は何が待っているのかな?


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第8話 葬送……そして

前話の声優宛てのアンケートなのですが……
さすが幼女キャラ(大人気のターニャちゃん)こと「悠木 碧さん」と、シリーズ通して子供から大人時代まで一貫して演じた(歌も超上手い)「水樹奈々さん」は強い……
後は(FGOファンの)キャラ愛なのか「種田梨紗さん」も食い込んで来ている……
マシュちゃん、人気ですからねぇ……

さて、今回はわりと短いです。
ネタは尽きませんが、時間は無いので。(´・ω・`)ショボーン


 あー、やっと終わったぁ~~!

 

 兎にも角にも、無事に昌弘くんは生還させたし、ブルワーズも壊滅……さすがに艦内制圧で死傷者ゼロとは行かなかったけど……ほぼ良い方向に改変できて感無量だよぉ♪

 それに、ほぼ損傷無しのグシオンやロディ・フレーム……手酷くヤられてるけど、改造機のグレイズまで鹵獲できた。

 

 これは予想以上の戦果だ……戦闘の損傷程度ならウチ等でキッチリ直すし、明日からも忙しくなるね!

 

──────────

 

 そんなこんなの最中……ブルワーズ戦後の会議で、惜しくも亡くなった人の為に「葬式」を出そうという提案が出され……原作通り、ヤマギ君の発案で「氷の華」をイメージした追悼の砲が放たれた。

 禍月も動けるくらいには回復したみたい……葬式にも参列していた。

 

 勿論、準備は私も手伝いましたよ?

 

 皆で氷の華を見つめる中、昭弘兄の表情はどことなく暗かった……多分、弟は助かったけど、他の仲間が死んだ事に重荷を感じているのかも知れない……こっそりと私は禍月にフォローを頼み、来るであろう『グシオン改造計画』の準備を推し進めることにした。

 

 

 静かな夜……艦内は明るいから、トラウマは発症してない。

 

 しかし何処と無く身体を動かしたくなった私は、アトラちゃんとクーデリアさんと一緒に、キッチンの整理整頓を手伝っていた。

 

 するとそこに、ぐずる少年団員を引き連れたライド君が来る……原作通りの『ホームシック』だ。

 まぁ、実を言うと私にも経験がある……まだ引き取られて間もない子供だった頃の話……自身のトラウマも重なって、眠れない夜に泣きじゃくってしまい、アミダさんにずっと慰めて貰った事がある。

 

 原作での描写は短かったが、こうやってリアルに見るとまた違った感じだ。

 

 原作通り、アトラちゃんが受け入れようと手を広げるも……「フミタンが良い、アトラじゃ胸無いもん!」とフミタンさんの胸に飛び込む。

 

 分かるわぁ、アトラちゃん……

 面と向かって言われると「イラァッ」ってなるもんね?

 (# ゜Д゜)

 

 

 キッチンの片付けも終了し、アトラちゃん達と別れた艦内……

 私は1人、眠れない子供達を思いながら、

 記憶にある()()()()()を思い出し……展望室で歌い出す。

 

 

なくす事が拾うためなら 別れるのは出逢うため

「さようなら」のあとにはきっと 「こんにちは」と出逢うんだ

 

緑色芝生に寝転んでいたい

動物も一緒にゴロゴロしたい

 

今日はいい事がたくさんあったから

明日もいい事がたくさんあるように

 

お日様出て夕日キレイで 星に願い明日(あす)が来る

 

どうしていっちゃうの 一緒に帰ろう……

 

 

「……はぁ……気分、なかなか晴れないなぁ……」

 

 重い溜息が出てしまうが、無理やり気分を入れ替えて踵を返し、出入り口を向く。

 するとそこに、またしても禍月が立っていた……

 

 うん、このタイミング……完璧に聞かれちゃってたねぇ。

 

「悪いな……聴こえてきたんで、思わず聞き入っちまった」

 

「え? あ~、うん……良いよ……私も考え無しだったし」

 

 バツの悪い顔で頭を掻きながら謝ってくる禍月、釣られて私も変な応え方になってしまった。

 だが、禍月の表情に違和感を感じて私は自ら彼に接近する……その顔は緊張と照れ隠しではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()……そんな風に思えた。

 

「……大丈夫? まだ本調子じゃ無いんでしょ?」

 

 そう言って私は禍月の頭に手を当てたまま、しばらく目を閉じる……何となく、こうしたら彼の思考が読めるんじゃないか……って勝手な思い込みだけど。

 

 ……え、理由? なんか、そうした方が良いと思ったから。

 

 でも結局、思考なんて読めなかったし……途中から『何やってんの私?!』って羞恥心が勝って自分でやったのに飛び退いてしまった。

 

「ご、ゴメン! もう寝るね!」

 

 大慌てで謝り、真っ赤になった顔を見られないように急いでこの場を去る。

 出張整備員用として自身に宛がわれたイサリビの船室へ……私は自分の顔を両手で覆い、指の間から前を見るようにして転がり込む。

 

「~~~~~~~~ッ!!」

 

 たぶん今の私の顔は、耳まで真っ赤に染まっているだろう……

 後々から沸き上がる羞恥心に延々と悶え続け……結局私は一睡も出来ないまま翌朝を迎えたのであった。




前話のアンケートは今回の投稿を以て終了。
上位5名による今話の決勝戦アンケート結果が
セファー(透火)の設定声優さんとなります。

なお、締め切りは次話投稿までですので
奮って投票お願い致します!! m(_ _)m


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第9話 守る為に、今やるべき事

声優アンケートの締め切りは延長します!(未定)

あと、今回は道中の細々を使った短いオリジナル回。
同時期に三日月とクーデリアのキス事件が行われてますw

ブルワーズ戦を乗り切り、次に向かうのはドルトコロニー
ここに潜む魔物たちを何とかする為に……私が取った手段は……



 うーん、少し強引かもしれないなぁ……

 

 昭弘兄の弟である昌弘くんを、他の阿頼耶識持ちの子とまとめて救出したため、昭弘兄がグシオンに乗る理由が薄まっていた。

 それを強引に禍月から発破を掛けて貰って、私も改造に手を出して原作通りに乗って貰う……なんか、昭弘兄には少し悪い気がしてきたけど……後々、戦力不足で泣くのだけは避けなければいけない……特に地球降下後とかの地上戦ではね。

 

 それはそうと、実は昨日……ヤマギ君がシノ兄とこっそりグレイズに阿頼耶識を乗っけている現場に遭遇してしまった。

 

 

「……おやっさんには黙っててくれ! 俺は少しでも、皆を守る為の力が欲しいんだ!」

 

「……なぁんだ、それなら最初からコソコソせずに私の所に来れば良かったのに……」

 

「「……は?」」

 

 実は、この事を見越して……私はブルワーズ戦後の時点でオルガ団長や名瀬さんからも了承を取り、鹵獲したグレイズの1機を鉄華団仕様に改造する話を付けていたのである。

 無論、私が手掛けるグレイズなのだから()()()()()()()()M()S()()()()()()()()()()()魔改造を施す前提である……そして勿論、阿頼耶識の調整なんかも行うつもりだった。

 

 この時、私はシノ兄の専用機『流星号』にも手を出す事に決めた。

 勿論、昭弘兄の乗るグシオンの改造にも手を出させて貰う予定だし、バルバトスの阿頼耶識もこのどさくさに紛れて調整してしまおう。

 

「……私が、貴方の専用機も作り上げるから」

 

 しばらくキョトンとした顔から戻らなかったシノ兄とヤマギ君だったが、ようやく復帰したシノ兄の顔は、専用機という言葉でいつになく興奮していた。

 

──────────

 

 さて、ドルトコロニーに着くまではまだ暫く時間がある……

 その間にグシオンの強化プランをまとめて……いや、それ以外にもやる事は多い。

 

「……阿頼耶識の調整、とりあえず今はバルバトスだけでも……!」

 

 今の時点ではまだ、鉄華団のMSに使われている阿頼耶識は不完全な奴だ……このままエドモントンまで進めば、確実にミカ兄はバルバトスの全力を使った反動で身体に不調を来す……だから今の内に阿頼耶識システムに手を加え、少しでもデメリットを無効化……ないしは低減を目指す必要がある。

 

(前回はバイオコンピュータを仲介として解決したけど、今回は準備に掛けられる時間もあまり無い……バルバトスだけでも、エドモントンまでに間に合わせないと……)

 

 阿頼耶識の調整には時間が掛かる……作業そのものは空き時間で進められるのだが、如何せん私だけしかやり方を知らないのがネックだ……

 

(……コロニーでの件を何とかする為の下準備もまだあるってのに……!)

 

 頭を掻きながら、私はビルダーを操作し……出来上がったパーツ達を4つの箱に納める。

 

「……禍月にも手伝って貰うしかないかぁ……」

 

 さすがに「コレ」を転生者以外にどうにか出来る筈もなく……しょうがない、と言う風な溜め息を吐いて私は4つの箱を持ち、禍月の部屋へと歩を進めるのだった。

 

──────────

 

 私はようやく復調した禍月に「あるお願い」をしに来た……その仔細は転生者にしか理解できない故に、そして求められるモノが理解できている人物にしか頼めない故に。

 そして私が禍月の部屋に持ち込んだ「ある物」……それを見た直後から禍月の視線は私の顔と、置かれた物を何度も往復する……それは、この世界には()()()()()()()()だから。

 

「……時間が足りないの、私がグシオンやバルバトスの調整で手一杯だから」

 

「……それは分かってるさ」

 

 頭を掻き、深い溜め息と共に禍月は肯定を口にする。

 

「私以外にコレを何とか出来るのは、同じ転生者の禍月だけだし……」

 

「……まぁ、当然だろうな」

 

 掻く為に一度下げた頭を再び持ち上げ、再び肯定をしながら……禍月は備え付けのテーブルに置かれた物を指差しながらこう言った。

 

「……だが、なんでよりによって『オモチャ』なんだよ!?」

 

 そう、禍月の部屋に私が持ち込んだ物……それは、何処のトイショップに出しても人気爆発間違いなしであろう手頃なサイズで、中身が一目で理解できる様に綺麗なプリントを施された4つの箱……一際目を引く名前のプリントにはそれぞれ『OO(ダブルオー)』『CHERUDIM(ケルディム)』『ARIOS(アリオス)』『SERAVEE(セラヴィー)』と書かれていた。

 

「オモチャとは失礼な!! この子達は私が造った、脳波感知式遠隔操作端末「GNブレイン・セミ - インテリジェンス・ユニット」……略して『Gビット』!!」

 

 急造だが、前世で使った脳量子波モデルをベースとして……脳波を感知して自律稼働し、本物と遜色無い素材(GPD基準)で形作られた()()()()……この4機はその先行試作型モデル……

 この子達にはプラフスキー粒子の理論を応用し、現実世界でガンプラの稼働・制御を可能とする動力源「プラフスキードライヴ」を搭載している。

 

 ……さすがに専用の筐体まで設計する時間が無かったので、最も早く転用可能な既存機体のデータから、GN粒子の代用として稼働させられるこの4機を選択・製造したのだった。

 

「………………………………で、俺に何をしろと?」

 

 たっぷり間を開けて、ようやく言葉を口にした禍月の顔……物凄く何か言いたげだが、代用案が思い浮かばず他に手はない事を痛感し、半ば自棄を起こして「気でも狂ったか?!」と言われそうな手段に手を出そうとしている……そんな表情だった。

 

 失敬な……(前世で実践済みだから)ちゃんと使えるし、今度は4機もあるから使い分けも出来るんだよ?!

 

「確かに見た目オモチャっぽいのは否定できないし、組み上げ方も似てるけど……禍月にはこの子達を完成させて欲しいの、もうドルトコロニーまであと2~3日の距離しかないから大急ぎで!」

 

 そう言いながら私はパッケージを開き、中身をしっかりと禍月に見せた……だが禍月は中身を見た途端、何故か黙ったまま反応しなくなってしまう。

 

「……間に合いそうに無いなら、使えそうな1機だけでも良いから……」

 

 中身を見てなかなか反応しない禍月に……自分だけ異常に舞い上がっていた事を自覚した私は、項垂(うなだ)れる様にそれだけ言い残して部屋を去った。

 

(とりあえず最低でも1機あれば、不測の事態でも何とかなると思う……後は、グシオンの改造とバルバトスの阿頼耶識も調整しないと……)

 

 自分の部屋に戻って何とか気を取り直し、私は自分の頬を軽く叩いていつもの……背中に「ビスト財団」のシンボルがプリントされたツナギに着替えた。

 

 ……そう言えば、コロニーに着いてからの行動方針と対策を確認してないや……と、禍月への用事を思い出したが、あの様子だと「今度は何だよ……!」って怒られそうだから後にしよう……




はい、また出ましたよガンプラ作戦……
今度はセカンドシーズンの4機!

え、ビルダーで最初から完成させとけよって?
ビルダーはグシオンや流星号用のパーツの方が急務です
要は時短よ時短!
決してビルドファイターズ見て書いた訳じゃ無いですからね!?

あと、声優宛てアンケート……なんで悠木さんが大人気なのか。
「蜘蛛ですが、何か?」のクモ娘ちゃんだったんですね……
そりゃタイムリーだから票が入る訳だわ……

さて、禍月はちゃんと組み立ててくれるでしょうか……?
(´・ω・)


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第10話 嵐の前の静けさ、そういう雰囲気は嫌いじゃないけど……

本編見直しつつの執筆、ある意味で言えば正解だけど
時々胸クソ悪くなってきますね……

人死シーンとか、絶望させられるシーンとかね。
「革命」という事象に「犠牲」は付き物……それは変えられない事実。
それでも……私は明日が欲しいから。


 昨日はなんか妙な雰囲気で別れちゃったから、禍月に会うのが何か気まずい……

 気晴らしにシミュレーターで憂さ晴らししてると、昭弘兄が付き合ってくれた。

 

「あんた等のお陰で昌弘を取り戻せたし、守る為の力も得た……これは俺なりの感謝って奴だ……最も、お前さんに勝てるとは思わなかったがな?」

 

 私は、技量的に言えばそれほど強くない……前世はバカみたいに強い機体の性能とそこそこの身体スペック、そして原作その他の知識というチートで今まで上手く戦えていた……それだけなのだ。

 逆を言えば、そのチートが通用しない今の環境なら……私の実力は中の下止まりである。

 

 なので、シミュレーターでの私の戦績は……実を言うとボロボロ。

 ライド君にもたまに負ける……ぶっちゃけ言うと、昭弘兄には全敗であった。

 

「……ほら、私は一応『整備員』って括りな訳だし……」

 

「最初にやり合った時も、ブルワーズの時も普通に出撃して……無傷だったよな」

 

「ゔっ……」

 

 そう……鉄華団と最初にやり合った時も、ブルワーズの時も……私はしっかりと出撃して無傷で帰って来ている……だが、シミュレーターだと私は何故か普通に被弾する。

 

 この差は一体何なのだろうか……今更ながら気になるなぁ……

 

──────────

 

 憂さ晴らしは奇妙な疑問を残して終了……気は晴れたが、禍月に一応謝っておこうと彼を探す。

 

 すると、厨房の方からいい匂いがしてくるのに気付いた……

 覗いてみると、あの禍月がアトラちゃんとクーデリアさんに料理を披露しているではないか。

 

 こっそり覗いていたが当然、禍月にはモロバレであり目ざとく見つけられ手招きされる……

 昨日の事もあるので少し気が引けてしまったが、表情を見る限り仕方なく……といった感じじゃなさそうだ。

 

 着席すると同時に、ドンといい匂いの正体を突き付けられる……器に入っていたのは、材料こそこの世界の代物だが、間違いなく『肉じゃが』と呼ばれる食べ物だった。

 

(肉じゃがなんて、何年ぶりだろ……転生前も合わせると10年以上食べてないや……)

 

 記憶の片隅に残されていた味……最初の一口でその欠片を思い出し、気が付けば無心になって食べ続けていた。

 

(……美味しい……! そういや器用だって言ってたし、結構いろんな経験してたんだ……)

 

 転生前は私自身も自炊歴はけっこう長かったのだが、得意なレシピはほとんどが洋風。

 和風は少し苦手なのだ……そして、こういう繊細な和風調理をマスターしている人間は基本、他のジャンルを作ってもしっかり美味しいポイントは外さないらしい。

 

(もしかしたら、隠れ優良物件……っとと、思考が脱線しちゃう!)

 

 ……この時、懐かしさから無意識の内に涙していたのか。

 食べ終わって食堂から離れた後……左の頬に一筋、涙の跡が残っていたのに気が付いた。

 

 

 それからしばらくして、私は再び禍月の部屋へ向かっている。

 理由は勿論、昨日の件に対する謝罪だ……場合によっては頼んだ件の進捗も聞くつもりで。

 

 で、部屋が開けっ放しな上に何かの演奏が響いてきた……今度は正当な理由もあるため、堂々と禍月の姿を探す……するとそこには、買ったばかりであろう包みを広げ、取り出した新品の管楽器……フルートを演奏している彼の姿だった。

 

(この曲……まさかの妖怪○ォッチ!? しかもマニアック過ぎる!!)

 

 彼が吹いていた曲に思わず驚愕……しばらく聞いた後、思わず「フルート吹けるんだ……」と感心していた。

 

 達人ではないが、それなりにデキるらしい……曲も、つい懐かしくて選んだらしい。

 聞けば他の楽器もそれなりに出来るらしく、思わず「一人バンドでもやる気?」と言ってしまった。

 

「やらないし、俺は病んでない……そしてボッチじゃねぇ!」

 

 と、何故かキレそうになる禍月……いや、ボッチとか言ってないしw

 

 話題を強引に切り替えるために「もう一曲やって!」とねだる……待て私、謝罪はどうしたw

 

 すると彼が演奏し始めた曲に、私はすぐに気付く……そして曲に惹かれるように、私も歌詞を口ずさんでいた。

 

Can't you see that you are sweet?

oh Let me love you so...

 

見上げる空は遠いけど 抱えきれない夢がある

そうよ

創られた世界の中を

抜け出して 自由になりたい

 

走り続けて 空に届けば

風になれると そう信じてるから

 

I never give up forever

 

 

 

 

 演奏中の禍月は、複雑な表情を浮かべていた。

 もしかしたら、前世でもこうやって仲間に曲を聞かせたりしていたのを思い出したのかも知れない……

 

 やがて演奏も終わり、私は小さめの拍手で演奏が上手かった事を使えた。

 演奏しきった彼の顔は、先ほどまでとうって変わり……いつぞやの懐かしさを噛み締めている顔だった。

 

──────────

 

 それから3日後、ついに見えてきたドルトコロニー……

 

 この数日間、ろくな睡眠時間は取れなかったものの……その甲斐あって、グシオン改め「グシオンリベイク」と「流星号」は完璧に仕上げる事ができた。

 

 基本的には原作通りの性能と外観……私は主に阿頼耶識の方に手を加えたのだ。

 

 原作のままなら早くても地球への降下を終え、蒔苗氏の助力を得た後くらいに仕上がる流れだったが……今回は色々な協力(禍月の指示で初期から記録させていた2人の蓄積戦闘データ)まで貰えたし、睡眠時間くらいどうって事はない。

 

「……ふぁすがに……3徹は、正直言うとキツかったけどねぇ……ふぁ……」

 

 2人きりの食堂で大欠伸を隠す事もなく、私は朝食の乗ったトレーをテーブルに置いて彼の右向いに座る。

 

「……3徹もかよ……ったく、こっちにもアレコレ押し付けて来くるから、次会ったら文句言ってやろうかと思ったが……言う気が失せたぞ、全く……」

 

 私の右向いに座る彼……禍月から、ため息混じりの恨み節が飛んできた。

 

 事実、私は彼に『Gビット』の作成を任せ、昭弘兄とシノ兄の戦闘データをねだり、団長さんへ「自由往来」の許可取りを頼むわ、暇な時に調整の手伝いさせるわと頼りまくっていた。

 

「それは……悪かったわ……でも、こうして間に合ったんだし、作戦も立てた……私もイサリビに残るし、君は()()を持ってクーデリアさん達にくっついて行ければ……」

 

「分かってる……ったく、人使いまで荒いぜ……」

 

「……んもぅ、分かったわよぉ! エドモントンまでの目処が付いたら、新型機造ってあげるから!!」

 

 ココでバラすのはちょっと予定外(?)だったが、今後もずっとアベンジャーに乗せる訳には行かない……なので、()()()()()()()()()()()()()という約束をして、ここは大人しく引き下がって貰おう。

 

 

 艦橋でクーデリアさんが()()()()()()()としっかりフラグを立ててくれたので、原作通り鉄華団から護衛を出す事が決定……しかし、禍月は団長の指示で船を任されてしまい、原作通りミカ兄とビスケット兄の2人だけしか付いて行けない事に……

Σ(゚д゚lll)?!

 

 苦肉の策として、ミカ兄とビスケット兄に「もし、ピンチになったらコレを使って」と、程よいサイズで意味深な形をした水色のリュック(?)を持たせる事に……詳細はまだ秘密w

 

 後は、団長さんの方だけど……今取れる手段では打てる手が無いので、原作通りに動いて貰って、こっちでサポートしよう。




また歌いました。
ガンダムソングは感情が揺さぶられるので好きですが、哀しくもなります。

これからも時々透火は歌うので、リクエストでもやりましょうかねぇ?
曲とシチュが合うなら採用しますよ。
ガンダムソング以外でも、シーンに合いそうな曲なら歓迎します♪

さて、次回はいよいよドルトコロニー入港後の顛末……
ガンプラ大活躍のヨカーンw
そしてフミタンの運命や如何に? あと、ビスケットの兄サヴァラン君も……


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第11話 悪い子には「OHANASHI」しないとね?

アレコレ画策しても、叶わない現実はある……

思い知ったよ、こんな理不尽な思いは
……今回限りにしたいね。(とある人物の手記より抜粋)

お待たせしました、なんか問題になりそうだけど11話!


 私の画策や計画も空しく、オルガ団長の鶴の一声で禍月は艦内待機……

 原作より早くグシオンリベイクは完成してたので私もイサリビに乗ってたけど、同行できない(流星号の阿頼耶識の再調整がまだ残ってる)ので実質原作通りの展開に……オーマイガー。

 

 しかし、苦肉の策としてビスケット君に()()()()()()を持たせたので非常時には何とかなる。

 

 後は首尾良く転ぶのを祈るしかない……

 

──────────

 

 待ってる間に流星号の強化プランを練っていると、()()()()のセンサーが「火急の知らせ」を報告する。

 これは買い物組に持たせたリュックに仕込んだ複合センサーが周囲の会話や人の動きをチェックし、部外者に仲間が害された時などに対応する為の物……つまり、原作通り「アトラちゃん誘拐」が起きた事による警報だ。

 この警報は勿論、同じ端末を持つ禍月にも伝わっており、2人は早速対処するために端末を展開して頭へと装着……手持ちのタブレットにケーブルを繋ぐと、タブレットの画面にはMSのOS起動画面が映し出された。

 

 そう、今頭に装着した端末は「G - ビット」を操作するための脳波コントロール装置であり、対になっている端末同士を繋ぐ専用の量子通信によって、対応するビットを制御するのである。

 

 今回は作戦成功率を高める為に同時展開を実施……

 禍月が持つ端末は「OO(ダブルオー)」と「CHERUDIM(ケルディム)」、私の持つ端末が「ARIOS(アリオス)」と「SERAVEE(セラヴィー)」を同時に運用可能となっている……難易度は少し高いが、端末はそれぞれ大まかな指示を送るだけで自律稼働する為、頭で連携のイメージを思い浮かべるだけでほぼその通りに動いてくれるのだ。

 

 端末を繋いだタブレットに機体のステータスと内蔵カメラの映像が映され、起動準備は整った。

 

「「出る(よ)!」」

 

 私と禍月はそれぞれ担当の2機に指示を送るのだった。

 

──────────

 

「……や……ッ……放して……ッ!!」

 

「……ってぇ、コイツ噛みやがった!」

 

「に、兄さん! 何でこんな事を?!」

 

 目の前で屈強な男達が少女……アトラを捕まえようとする。

 引きつった笑みをしながらその光景を見つめる兄に、訳が分からず理由を問うビスケットだが、兄サヴァランから発せられた言葉に耳を疑がった……

 

「お前たちが運び込んだ荷物……それを受け取った奴らが暴動を起こす前に! そこの! クーデリア・藍那・バーンスタインをギャラルホルンに引き渡すんだよ!!」

 

「……な、え……兄さん、彼女は……!」

 

 ビスケットは誤解している事を伝えようとするが、大の男3人に囲まれたアトラが遂に捕まり、組み伏せられてしまう……

 だがその直後、ビスケットが背負っていたリュック……その上部が勝手に開かれ、中から2つの()()が素早く飛び出した。

 

「……な、何だ……?」

 

 1つ目は青と白、2つ目は緑と白に彩られた人型の何か……鋭角で象られた物体が2つ、ビスケットの頭上に滞空、全員の視線を釘付けにしている……

 ……そして、沈黙はその物体から発した光と音によって破られた。

 

「ぎゃあっ!!」

 

「ぐぅッ!?」

 

「痛ぇッ?!」

 

 緑の方からピンク色の光が放たれ、アトラを組み伏せていた男の1人の背中に吸い込まれ……直後に襲われた凄まじい痛みと熱さに驚き、男はその場から離れて転げ回る。

 続けざまに2人目は左の太ももを撃ち抜かれ、3人目はビスケット達に向けていた銃ごと手を撃たれてしまっていた。

 

「……な、何が……」

 

 [ビスケット、アトラを連れて三日月と合流しろ!]

 

 青い方から突然、見知った人物の声が響く……その間にも緑の方が屈強なはずの男をアトラから引き剥がし、ビスケットの方へと誘導する。

 

「……え、ちょっ……」

 

 アトラも何が何だか訳が分からないまま、緑の方に促される様にビスケットの方へ。

 

 [行け! すぐに三日月が来る、オルガにも伝えてるから早くしろ!!]

 

 緑の方からも響く声に急かされ、止む無くビスケットはアトラを連れて部屋を出ていく……

 残されたサヴァランが止めようと一歩を踏み出すが、それを青いオモチャ……「OO(ダブルオー)」が立ちはだかり止めた。

 

 [悪いが、お前の策略はご破算だ……だが、このまま死にたくないなら一緒に来い。]

 

 禍月の言葉は、端末を通じて私にも聞こえる……異を唱えようと私も口を開くが、禍月の次の言葉に「策がある」と感じて止めた。

 

 [……お前、板挟みだったんだろ? 上の連中と、外のアイツらと……何とかしてやれるかもしれんから、大人しく付いて来い。]

 

「……ほ、本当か……本当にナボナさん達も……」

 

 [可能性はある、確実じゃねぇけどな……でも、お前もここで死にたくはないだろ? このままじゃお前も確実に上の連中に殺されるぜ? なんせお前は()()()()()()()()()()んだからな。]

 

 恐らくそれは確実だ……この暴動の首謀者……ナボナさん達下級労働者の集まりは、この状況をギャラルホルンに利用されて残らず殺される……そういう筋書きだから。

 そして、ギャラルホルンとの取引や、この事件の内情を知る彼……サヴァランも、黙って見過ごす筈がない。

 

 だが、判断を渋るサヴァランに痺れを切らした禍月は「CHERUDIM(ケルディム)」を動かし……GNスナイパーライフルをサヴァランの背中に当てて脅し始めた。

 

 [グダグタしてると風穴が空くぞ? ここで死にたいなら別に良いがな。]

 

 なかなか強引な手段だけど、彼も生かしてた方が後々役に立つと判断したのだろう……私も禍月の判断を信じて、任せる事にした。

 

 

 ビスケットとアトラが拉致された事を、労働者組合のリーダーであるナボナから聞かされたオルガの元に、定時連絡を掛けた三日月……そこで拉致の情報を知り、クーデリアの事をフミタンに任せて三日月は単独で動き出した。

 

 ご丁寧に、出発前に渡したリュックをクーデリアに持たせて。

 

(良かった……前もって護衛に役に立つからって、伝えといて正解だったわ)

 

 禍月はシステムを起動させ、恐らくもう救出に動いている……なら、私はクーデリアと別れてしまうフミタンを何とかしないと……!

 

 そう思った直後、こっそり部屋から出ていこうとするクーデリアをフミタンが制止……そしてそこに仮面を付けた()()()ことバエル仮面……いや、モンタークが現れた。

 一応、「ARIOS(アリオス)」と「SERAVEE(セラヴィー)」を起動はさせたがリュックからまだ出してない……とりあえずこの流れはそのままにして、別れた所を追跡しよう。

 

──────────

 

 ……で、原作通りにモンタークはフミタンに課せられた任務やら支援者だった「ノブリス・ゴルドン」の事を言いたい放題してさっさと去り、ショックを受けたクーデリアとフミタンが別れた所で私は「ARIOS(アリオス)」と「SERAVEE(セラヴィー)」をリュックから出し……た所を何故かクーデリアにガン見されてしまっていた。

 

「……な、んで……オモチャ……? 独りでに動いてるの?」

 

 [………………ッ?!]

 

 あ、ヤバい捕まった……しかも足の遅いSERAVEE(セラヴィー)の方が。

 このままだとタイムロス待ったなし、そう判断した私はARIOS(アリオス)だけを先行させ、SERAVEE(セラヴィー)を通じてクーデリアの説得に掛かる。

 

 [……クーデリアさん、私です。]

 

「……え、この声は……確か……タービンズの……睦月さん?」

 

 [はい、今すぐ三日月と合流してください……フミタンさんは私が何とかしますから。]

 

 何とかする……現段階ではそうとしか言えない為、説得力に欠けるがこの際しょうがない。

 実際、何とかしないと折角建てようとしている生存フラグがへし折れる……それは何としても避けたい!

 私はクーデリアの服を「SERAVEE(セラヴィー)」のマニュピレーターで引っ張り、半ば強引に走らせながらドルトの街並みの中から三日月を探す為にセンサー範囲を最大化する。

 

 [早く、三日月の所へ……]

 

 人通りを避けながらクーデリアを先導するが、彼女の注意はすぐ隣の路地で繰り広げられている光景に気を取られ……って居たぁ!?

 

 デモ行進の反対側……ちょうど向かい側の所から、デモの様子を尻目に顔を伏せている彼女を発見した。

 勿論クーデリアも気付き、デモの隊列を横切ろうとするが……

 

「アレ? 貴女、もしかして……?!」

 

 デモに参加していた女性の従業員の1人がクーデリアの存在に気付き、まさに原作通りのストーリーが再開されてしまった。

 

 ……ヤバい、ヤバイヤバイヤバイですよ!! このままだと生存フラグが死亡フラグに刷り変わるッ?!

 

 しかし結局、SERAVEE(セラヴィー)で治安部隊やギャラルホルン相手に暴れる訳にも行かず……クーデリアが駐機に使っていたリュックを持って来てくれていたので再び入り込み……私はSERAVEE(セラヴィー)のセンサーで状況を伺いながら、もう片割れ(アリオス)で三日月達を誘導すべく、粒子量をセーブしながらも最速でARIOS(アリオス)を飛ばすのだった……




リアルでも、体が2つあればなぁ……と、思ったり。
制御難しそうだけど~

さて、サヴァラン君を拉致した禍月くんですが
……なに考えてるのかな?(すっとぼけ)


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第12話 メイドが冥土に行くなんて、大間違いなんだからね!?

皆様、大変長くお待たせ致しました。

前回までのお話は……

アトラちゃん誘拐に端を発したドルトコロニーの一件は、
逆に禍月がサヴァラン君の拉致に成功……
私もフミタン生存フラグを確立すべく奔走するも、
何故かストーリー通りに事が運んでしまっていた……

どうなる?! 波乱の第12話!!


 あああああどうしよどうしよ……

 

 デモから離れたいのにフミタンがそこに居て連れ戻そうとしたらやっぱり捕まってただいまデモ隊真っ只中で祭り上げられています……

 このまま行けば狙撃し放題、絶好のカモ、ダインスレイヴさながらの即死攻撃を撃たれてクーデリアが庇われてフミタンがフミタンじゃなくなっちゃう!!

 

 それだけは何としても避けねば……!

 

 幸い、クーデリアの持つリュックには、私が操る「G - ビット『SERAVEE(セラヴィー)』」が待機している……いざと言う時は機体を盾にしてでも2人を守らないと!

 

 

 はい、只今クーデリアの背負ったリュック内で待機中のSERAVEE(セラヴィー)を操作している透火ちゃんです。

(懐かしいねこの(くだり)……名前は今のだけど)

 

 クーデリアさんに背負われたまま、今私達はドルトカンパニーの不当な扱いに対し、ついにキレた従業員らによるデモ行進の真っ只中……リーダーとなっているナボナさんと面会させられています。

 会社の不当な扱いに対してキレるのはまぁ、度を越してたら誰でもやるよね……この件に関しては私、そんなに情報掴んでもないけど。

 

 ただ、この世界における「格差社会」は、元の世界や他の世界よりも圧倒的に酷い……特に「地球出身」と「それ以外」に対する扱いの差が……

 

 治安が悪いも言うのもあるけど、実際はその「格差」が産み出した弊害に過ぎない……

 

 ぶっちゃけると「選民思想」……

 

 ねじ曲げられてしまったジオニズム然り、コスモ貴族主義然り……長年の経済活動と確固たる生活基盤に裏打ちされ、比較的裕福である地球出身者は()()()()()()()だと(のたま)い、他の地域出身者を見下す……()としては同一なのに()()()()()()()()を平然と行い、情報漏洩の問題を傘に、上層部が地球出身者で占められた会社内では横行する……あぁ、この件もほぼ同じ傾向でしたね。

 

──────────

 

「クーデリアさん、『革命の乙女』と呼ばれる貴女が参加してくれるとは思いませんでした……これならば、会社も我々の言葉に耳を傾けざるを得ない筈です」

 

 ……確か、ドルトカンパニーってアフリカンユニオンの公営企業だっけ。

 メディアからの影響は大きい筈だから、この手段も有効ではあるよ?

 

 ……ある一線を越えられれば、ね。

 

 でも、会社としてはたまったもんじゃない……どんな手を使っても実態を揉み消そうと躍起になるだろう……例えば、ギャラルホルンと結託し「デモ参加者の過激派に、使()()()()()()()()()()武装蜂起を誘発させる」とかさ。

 

(何にせよ、このままじゃ原作通りに事は進み……ギャラルホルンの粛清の最中、狙撃によってクーデリアは狙われ、それを庇う形でフミタンが……)

 

「……ん? 狙撃……? そうだ!!」

 

 もう既にカンパニー公舎のある大通りには出て来てる、此所を狙撃するにはある程度高さのある建物を使うしかない……なら、そこを先に叩けば……!

 

「禍月くん! 今何処ッ!?」

 

 端末同士の連絡機能を使い、私は禍月に連絡を取る……

 

 この端末の通信は「サイコミュ」を応用しているので、エイハブ・ウェーブの影響もなく、仲介無しでリアルタイム通信も可能だ。

 

 当然、自称*1ニュータイプの禍月なら、使いこなせると踏んでの実装だったけど……え? 私? 前は体がほとんど機械だったし。今は生身だけどそんな能力使った覚えも無し、禍月の指摘で身体は頑丈なんだろうけど使えてる……フシギダネ~。

 

 兎に角だ……禍月に連絡を取り、どうにかして狙撃を阻止させよう。

 もし撃たれてもSERAVEE(セラヴィー)の高出力GNフィールドと装甲ならスナイパーライフルなど恐るるに足らず!

 

『……それしか無いか……分かった、任せろ……!』

 

 禍月もその辺は読んでいたらしく、既にCHERUDIM(ケルディム)は上空に配置しており、OO(ダブルオー)も狙撃手の元へ急いでいた……

 

 だが、さすがに狙撃を阻止出来るかはギリギリのタイミングだったらしく、高速で上空から飛来するCHERUDIM(ケルディム)をキャッチしたのと、コントロール系に搭載したサイコフレームを介して感じた悪寒に脊髄反射でSERAVEE(セラヴィー)のGNフィールドを最大出力で展開したのがほぼ同時……

 

 そして、SERAVEE(セラヴィー)のGNフィールドに弾丸が接触……フィールドの出力に負けて弾丸が消し飛ばされるのと、CHERUDIM(ケルディム)が放ったピンク色のビームが高い建物の一つに撃ち込まれたのもほぼ同時だった。

 

──────────

 

 SERAVEE(セラヴィー)のGNフィールド内で、自分付きのメイドに押し倒されたクーデリア……メイドの表情は、複雑でとても読みきれない……

 

「……フミタン……良かった、無事で」

 

「私は正直……貴女が嫌いでした……」

 

「……えっ……?」

 

「あの時、火星のスラムで……私は、貴女をわざと置き去りにしたんです」

 

 フミタンの独白……原作では死に際に話された事だが、今は違う……緑色の煌めきで周囲から隔絶され、誰にも邪魔されないこの場で、彼女……フミタン・アドモスという女性は、己の胸の内を曝け出す。

 

 誰にも邪魔などさせたくない……せめて粒子切れになるまでは、と私はSERAVEE(セラヴィー)のGNフィールド出力を維持し続ける。

 その中に護られながら、彼女の独白は続く……

 

 火星のスラム街で出会った少女が……あまりにも境遇が自分に似ていた事。

 

 仕える主の、無垢な瞳が嫌いだった事。

 

 その瞳も、現実を知ればすぐに曇ってしまうものだと思っていた……でも、貴女のその瞳の輝きは失われず、今もこうして消えていない……

 

 かつてクーデリアがフミタンに見せた、火星では珍しい()()()と……その中に載っていた「革命」という題材の絵画()……

 

「私は、その瞳が怖かったのです……いつか、私も()()()()()を持ってしまうのではないかと……

 

 だから、私は……」

 

「私は、フミタンが大好きです!!」

 

 突然の大声……直後に静寂が戻り、腕の中の少女の顔に驚くフミタン……

 己の腕の中にいる少女は、「革命の乙女」と呼ばれる存在……いずれ自分もその毒に冒され、叶うはずのない希望を抱いてしまう事を恐れている。

 

 しかし、少女の声はこう言って退けた……

 

「誰しも怖いものはあります……でも私は、フミタンが好きだから側に居たい……

 ……私の側に居て欲しいんです。

 

 それに……まだ私は、貴女(フミタン)に教えて貰いたい事がまだまだたくさんあるんです。

 

 だから……

 

 だから、離れて行かないで下さい……! 私の側にいて下さい……!!」

 

「……お嬢様……」

 

 精一杯の少女の懇願……

 

 親の庇護に置かれ、世間知らずのまま希望しか知らなかった少女と……世の闇に揉まれ、希望を見失っていたメイド。

 

 歪な繋がりから生まれた今までとは違う……2人はようやく、本当の意味での()()()()に到達したのかもしれない。

 

 私はSERAVEE(セラヴィー)を介して、その一部始終を黙って聞くのであった……

 

──────────

 

 さて、あの後ミカ兄が来てくれたんでリュックはミカ兄に即刻パスされ……クーデリアとフミタンは仲良く手を繋いでミカ兄の後ろから付いてきている。

 

 なんか……予想以上にフミタンがクーデリアと仲直りしたのは良いんだけど、直接守った私(SERAVEE(セラヴィー))の扱い酷くない?

 

 ……まぁ、見てくれがオモチャだからしょうがないけど。

 

 とかなんとか言ってる間にオルガ団長達とも合流……

 報道関係者所有のランチに同乗して脱出し、周囲ではギャラルホルン月外縁軌道統合艦隊……通称「アリアンロッド艦隊」のMSと、デモの過激派達が操る元・作業用を改造したMSが戦って……いるのは最初だけだった。

 デモ隊のMSは出撃から僅かな時間で揃って行動不能に……それをアリアンロッドのMSがまるで作業の様に次々とデモ隊のMSを破壊していく……

 

 これは、戦闘でも何でもない……ただの虐殺、蹂躙劇……

 

 推進材やエネルギーをすぐ切れる程度しか積まず、それをシステム側で誤魔化して満タンだと誤認させたのかな……何度見てもムカムカするね。

 兎も角、デモ隊側のMSは無抵抗の内にドンドンと数を減らされ……事態を重く見た鉄華団のメンバー達も(いきどお)る。

 

 やはりここは避けられない事態なのか……原作通りにギャラルホルンとの戦闘は避けようもなく、バルバトスと流星号は既に出撃準備中。

 

 私も「ハンマーヘッドに戻る」と嘘を吐いて自動操縦を使ってハンマーヘッドからフラッグを出させて貰い、そのまま戦線に加わろうとしていた……だが「ハンマーヘッドからグシオンが出るからもうちょい待って」と返事が来たのでオアズケを喰らってしまった。

*1
以前に一通りは色々な事を話し合っているが、お互いの能力……特に禍月のニュータイプ能力について、セファーは確証を得てない……実際、ファンネルとか動かしたの見た訳でも無いしね。




技術チートフル活用でも、高難易度のフミタン生存フラグ構築……
何とか無事に取得出来ました。
プラフスキー粒子の出番はここだけですが、機体はまだ使えそうなのでとりあえず保存。

ちなみにフミタンの身柄は、クーデリア共々テイワズ預かりとなっている事が後で発覚……ノブリスもこれには予想外で悔し涙を流した事でしょう。(愉悦)
……オジサマ、抜け目無いなぁw

さてさて、次回はいよいよスリムになった元ヒキガエル(w)が装いも新たに“筋肉仕様”になって大活躍!?

乞うご期待!!


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第13話 ドルトコロニーの最も長い1日

前回からのお話は……

何とかフミタン生存フラグをもぎ取り成功はしたけど……
アリアンロッドと一戦交える事になってしまった!

相手は地球圏最強を自負する大艦隊……テイワズ、タービンズの支援は受けられない
つまり、私は介入出来ないって事?!Σ( ̄□ ̄;)


 報道関係のランチに同乗させて貰い、団長さん達がコロニーを脱出できたのも束の間……

 今度はデモの過激派が作業用のMSを奪取して実力行使に移り、それを予見していたアリアンロッド艦隊は迎撃を開始……

 

 本格的な武力衝突に発展するかと思いきや……

 

『……な……っ、どういう事だ? 撃てねぇ?!』

 

『何で? 計器は正常なのに……?!』

 

『き、来やがった! 早く、迎撃を!!』

 

『撃てないんだよ! どうなってやがる?!』

 

『……なん……だと?!』

 

 計器の数値やシステムの表示上は正常を示している……だが、出撃時に正常だった火器管制、姿勢制御、スラスターの燃料等は今や一切反応しなくなってしまっている。

 表示は正常なのに、スラスターはガス切れ……火器管制は無反応……計器類も敵機識別の他、その一切がマトモに動かないのだ。

 

 そこに、どんどんと距離を縮めてくるアリアンロッドのMS達……

 

《 目標確認、作戦を開始する 》

 

『……く、来るな……来るなぁぁぁぁ!?』

 

『ぎゃぁぁぁぁあ!!』

 

 無抵抗となった過激派一派のMS達が、次々と破壊されていく……

 こんな筈ではなかった……そんな想いが、無慈悲な作戦によって散らされていく……

 

 ()()()()時も胸糞悪いシーンだったけど、目の前で現実化されるとか……悪趣味極まりない……

 

「……ッ……クソッ……」

 

 端末操作を終え、フラッグの到着をMSハンガーで待つ間……同じくアベンジャーの出撃準備が整うまで待機していた禍月も、外の様子を映したモニターを見て毒づく。

 表情は怒りもあるが……嫌悪感や忌諱感の方が近い……

 

 ニュータイプは総じて「人の死」に過剰反応する傾向があった……今までも耐えてはいたようだが、もしかしたら戦闘中は精神的に不安定なのかもしれない。

 

「……大丈夫?」

 

 そんな表情をされると、さすがに声を掛けたくなる……

 死んでいく人の怒りと悲しみを、否応なく受け止めねばならないその超感覚……声にならない最後の聲に苛まれ、狂った強化人間やニュータイプを私は何人も知っている。

 

「……っ、お……おい?」

 

「…………っ……」

 

 ほとんど無意識だ、でも不思議とイヤじゃない……

 

 無重力の格納庫で、禍月の頭を後ろから抱え込む様な形で私は浮いている……

 よくアミダさんが名瀬さんにやっている事を、私は無意識の内に禍月にやっていた。

 

 一応これでも転生前はアラサー女子だ……相手が元ジジイ経験者だとしても、今は2人ともほぼ同年齢……(はた)から見れば、物凄く恥ずかしい事ではあるのだが……いざやってしまうと、不思議と嫌ではなくなっていた。

 

 

 一足先にバルバトスがクタンに搭載されて出撃……続いてアベンジャーがカタパルトへと輸送される。

 搭乗前の禍月の顔は、あの胸糞悪いシーンを見た時よりだいぶマシになっていた。

 

「あ~、その……ありがとな……」

 

 そう言ってアベンジャーのコクピットに滑り込む禍月を見送る。

 

 あの時はなんも考えてなかったけど、今思い起こすと顔から火が出そうだ……

 

『禍月 桐谷……アベンジャーで出る!』

 

 カタパルトから弾き出され、虚空の戦場へと飛び出す彼のMS(アベンジャー)……

 前の戦闘から空き時間を使ってEXAM対策をやってはいたが……正直、何処まで効果があるかは分からない。

 彼の足枷にはならないとは思うが、やはり気になってしょうがない……というか何故私は、こんなに彼を意識し始めたのだろう……?

 

 フラッグの到着を待つ間、私はこの意味不明な思考を処理すべく……明らかにおかしい挙動で右往左往するのだった。

 

──────────

 

 ランチが脱出するのを援護すべく、単身ノーマルスーツで飛び出した三日月……戦闘を掻い潜って雪之丞の操るクタンが合流し、三日月はすぐにバルバトスのコクピットへ滑り込む。

 起動と同時にクタンから分離し、クタンは急速離脱……バルバトスも、デモ隊のMSを狙っていたアリアンロッド艦隊のMSの背後を取り、気付かれる間も無く致命傷を与えて行動不能に陥らせる。

 

『ミカ、イサリビが来るまで頼む! 禍月もこっちに向かってるから、無茶はするなよ?』

 

『分かった』

 

 原作では単身大立ち回りを演じ、蔵の骨董品(ガンダム・キマリス)に乗ったガリガリ君(ボードウィン特務三佐)が登場……隙を突かれて大ピンチの所をグシオンが割って入るのだが、まだイサリビとの距離は離れているし、ハンマーヘッドからの援軍(グシオン)も今出たばかり……

 昭弘兄は急いでいるが、合流までには少し間がある。

 

 三日月は特に気にする事もなく、こっちに気付いたアリアンロッドのMSを相手取り適度に立ち回る……そこに、先行していた禍月が合流してきた。

 

『三日月、直援に付け! あまり撹乱すると抜かれるぞ?』

 

『了解、あっち(デモ隊の方)はどうするの?』

 

『下手に手を伸ばせば巻き添えを喰う……今は我慢しろ』

 

 さすがは歴戦の判断力……今手を出して彼らデモ隊を援護しても、ランチを危険に晒すだけでメリットが無い……今は遠巻きに様子を見るだけでも事は運ぶし、状況が変わるまでは仕方がないのだ。

 

 だが、あまり間を置かず来て欲しくない方は現れる……

 

『こんな所でコソコソと、だがもう逃さん!』

 

 全速のフラッグよりも明らかに最高速度で勝るレベル……バルバトスとアベンジャーがギリギリで回避に成功するが、通り過ぎた光は大きく旋回しながら軌道を変え、再びバルバトスを狙う。

 

『……チッ、あの2人(ラフタと透火)のより速い……!』

 

『フッ、この性能……300年間も眠っていた物とは思えんな……!

 だがこうでなくては、わざわざ蔵で眠っていた骨董品を持ち出した意味がないッ!!』

 

 三日月は悪態を吐きながら迎撃するが、常軌を逸した速度で迫る機体になかなか照準が合わない……

 禍月も迎撃に加わろうと砲口を向けるが、別方向からの攻撃に気付いて回避する。

 

 禍月を狙った相手……亡き上司の敵討ちを夢見て止まない青年、アインの駆る青紫のシュワルベ・グレイズと……その後方には見慣れない機体(グレイズ)が2機、アインの機体を追従していた。

 

『……オイオイ、何だありゃあ?! 厄災戦の悪魔(ガンダム・フレーム)じゃねえよなァ……でも(ツラ)は似てるよなァ? で、ギャラルホルンじゃねェなら敵だよなァ?!』

 

『……敵ならば殺る、それだけだ……!』

 

『クランクニ尉を手に掛けた貴様を、俺は赦さない……ッ!』

 

 アベンジャーを相手取る3機……アインのシュワルベ・グレイズ、そしてどす黒さの混じった赤と青……ダークレッドとダークブルーのカスタムグレイズ……それぞれに細部が異なり、ダークレッドの機体は機体の全長に近いバスターソードを両手で構え、所々装甲も強化されており……ダークブルーの機体は両手にロングレンジライフルを保持、肩アーマーにスモールシールドが追加接続され、脚部にも追加スラスターがあってやや大型化している。

 

『……クソッ、新手か? 見慣れない機体が居やがる……また()()かよ!?』

 

『ハッハァ!! 悪魔モドキさんよォ、相手して貰うぜェ!!』

『……墜とさせて貰う!』

 

 アインの攻撃を避ける、だがその挙動を読まれたのか……追撃に来た赤と青のカスタムグレイズがアベンジャーを挟み込んで来た。

 

「……んなろ……ッ!?」

 

 右腕のガトリング砲を牽制に青いグレイズとの距離を縮め……隙あり、とロングソニックブレードで狙う。

 だが敵も一筋縄では行かず、赤いグレイズが割り込んでバスターソードを振り上げてきた。

 

『なかなかやるじゃねェの、あんま避けられた事無いんだぜェ? 俺の攻撃はよォ!!』

 

 振り抜かれるバスターソードを回避……そのまま逃さず左肩のキャノンを浴びせようと禍月は照準を合わせる……が、別方向からのライフルの牽制射撃で機体がブレ、赤いグレイズに逃げられる。

 

『……2対1か、ちと本気にならんとダメか……?』

 

 禍月が珍しく判断に鈍る……マジになれば翻弄も出来るが、駆る機体が機体(アベンジャー)だ、あまり無茶は出来ない。

 

──────────

 

「名瀬さん!! どうして……!」

 

「言ったとおりだ……テイワズとして名の売れてる俺らは動けねぇ、お前だって分かってるだろ?」

 

 そう、ハンマーヘッドへ打診した筈のフラッグがいつまでも来ない……気になって通信を繋いだら、案の定()()()()()と思しき条件が発生……テイワズの傘下であるタービンズ所属の私は、ものの見事に介入不可能となっていた。

 

『兎に角、お前は戦闘が終わってからこっちに戻れ』

 

 そう言い残して名瀬さんは通信を終了する、私は不貞腐れるように外の戦闘映像を見ているしかなかった……心苦しいが、この制限はどう足掻いても踏み越えれそうにない……禍月には悪いが……と思っていた時、ふと見えた映像に、禍月が2機のグレイズと戦っているシーンが見えた。

 

「コイツら、原作には居なかった……まさか、また()()?!」

 

 赤と青のグレイズ、それぞれ専用のカスタマイズがされているのであろう……禍月の動きに合わせ、己の得意分野で付かず離れずの攻防を繰り広げている。

 

 禍月はさすがの技量で2機を相手取りながら一歩も引かず……時折、手玉に取る程の切り返しを見せるが、それも長続きさせられない……

 

「禍月をああも苦戦させるって、相当な技量ね……あっちの歴戦の猛者、かな?」

 

 ……何にせよ、またEXAMが暴走しなきゃ良いけど……




また暴走でもしたら、禍月くんまた落ち込みそう……

あと、筋肉仕様グシオンの出番は(尺の都合で)お預けになりました。
期待していた皆様すみません……!(-人-;)

次回はちゃんと書きますから……!
そしてアイン&謎の2人vs禍月の続きは相棒に丸投げしました。
続きは機動戦士ガンダム 宇宙の彼方へで見てね♪


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第14話 筋肉(マッスル)ビフォーアフター、のちに運命の悪戯(トラウマ回)

ドルトコロニーの件はまだ終わってないです!

三日月 vs. ガエリオの行方とか、ドルトカンパニーのデモのその後とか……

まとめてドンと行きましょう、14話!!


 禍月がアインと謎の2人を相手している同じ頃、三日月はガエリオの駆るガンダム・フレーム「ガンダム・キマリス」と未だ戦闘中であった。

 

『……チッ、ちょこまか動いてやり辛いなぁ……!』

 

 キマリスの戦術は至ってシンプル。

 ガンダム・フレーム特有の高出力を最大限、機体の機動力に振り切り、手にした巨大な得物「グングニール」を用いての突撃……速度をそのまま破壊力に転化し、ひたすら致命傷を狙って繰り返す一撃離脱戦法だ。

 

 単純故に破られやすい様に見えるが、キマリスの最高速度は他のガンダム・フレームでも遠く及ばず、ミサイルや艦砲による迎撃など普通に当てる事すら叶わないという馬鹿げたレベル……透火がこの世界で組み上げたフラッグもなかなかの速度を出す事はできるが、それでもキマリスの最高速度には遠く及ばない……

 

 そもそも透火のフラッグは機動力より、汎用的な運動性能に秀でた機体である。

 

 つまり、キマリスは止まる事なくひたすら一撃離脱を繰り返す戦術に特化した機体……

 それに対し、三日月の駆るガンダム・バルバトスはパワー重視の汎用機体。

 

 特化機体と汎用機体……得意分野の土俵を崩さない限り、汎用機体であるバルバトスが勝つ事は非常に難しい。

 

『どうした? ご自慢の阿頼耶識とやらはその程度か? ……そろそろ決着を付けてやる!!』

 

 より一層加速してくるキマリスに対し、三日月は油断なく構える……

 原作ではその加速性能に驚愕し、敢えて突撃を誘って強引に受け止め捕獲するまでの間ダメージを蓄積させていたが、今回はアインの援護がなく……三日月自身も禍月との戦闘訓練で実力を伸ばしている……

 

『……ッ、トドメだァ!!』

 

『……ッ……!』

 

 グングニールに内蔵された120mm砲を牽制で放ち、隙を見せたバルバトスに最高速度でキマリスが突撃……構えたグングニールがバルバトスを貫く……

 

『……な、何ぃッ!?』

 

 ……筈だったが、なんと三日月は敢えて120mm砲を喰らって隙を見せた様に演じ、突撃の軌道を見切ってグングニールを脇で受け止めてキマリスを掴んだのである。

 ……その挙動は、原作よりもスムーズ……かつ、演技も入っていたので正に神業レベルの動きであった。

 

『掴まえた……これなら速度差も関係ない……!』

 

『離せ! この宇宙ネズミがッ!!』

 

 接触回線から響く敵の声に聞き覚えがあった三日月はキョトンとする。

 声の主は勿論……目の前の敵機、ガンダムキマリスからだ。

 

『アンタ、確かチョコの隣に居た……』

 

『ガエリオ・ボードウィンだ!! あの時、名乗ったはずだぞ?』

 

『……ガリガリ……?』

 

『なっ、貴様ワザとだろ!?』

 

 自分にとってどうでもいい事はすぐに忘れる三日月、一度会った程度で人の名前までは覚えない……例外はあるものの、彼の名前はもう覚えてないようだ。

 

『まぁ、どうでもいいや……すぐに消える奴の名前だし……!』

 

 バルバトスに持たせたメイスを振り上げ、潰しにかかる三日月……だが。

 

『ッ?! 甘ぁいッ!!』

 

 ガエリオの言葉と共にキマリスの肩に装備された射出武装「スラッシュディスク」が放たれ、バルバトスの頭部に直撃……その一瞬の隙を突きガエリオは減速しつつ旋回、同時にグングニールを振り回してバルバトスを強引に振り払う。

 

『しまっ……グッ?!』

 

 振り払われたバルバトスは運悪く破壊されたランチの残骸に直撃してしまい、衝撃で三日月は操縦桿から手を離してしまう。

 

『ネズミ相手に大人気なかったな……だが、これで終わりだァッ!!』

 

 背中を打ち付けてしまい、僅かに反応が遅れるバルバトス……キマリスの突撃を確認した時には既に回避不能な位置にまで接近されていた……だが。

 

『……待たせたな、三日月!!』

 

 バルバトスとキマリスの間に突如として巨大な盾が割って入り、キマリスのグングニールがその丸く湾曲した盾の表面を滑って逸れ、目標を失ってバルバトスの背後にあったランチの残骸を直撃……大爆発を引き起こした。

 

『……な、何だぁ?!』

 

 勢いを殺せずに不意の爆発へと突っ込んでしまったキマリスは、バランスを直せずに爆炎から飛び出していく……体勢を建て直し、抜け出た爆発の方を見やるとそこには、バルバトスともう1つのMSが居た。

 

『昭弘……出来たんだ、それ……』

 

 そのボディは薄茶色……いや、クリーム混じりのコーヒーの色と言うべきか……

 元の機体(グシオン)とは似ても似つかない程スリムになり、左腕には先ほどキマリスの突撃を軽々と受け流した大盾……背中には全方向対応のマルチスラスターユニット、頭部には高感度センサーを配した単眼カメラが光る。

 

『……ああ、コレがガンダム「グシオン・リベイク」だ!!』

 

──────────

 

 それからというものの、状況はあまりにも原作通りなのでここからは割愛しよ……

 

 キマリスは結局、バルバトスとグシオン2人掛かりで苦戦を強いられてしまい、ついでにセブンスターズ間の問題もあって戦線離脱……

 

 アリアンロッドも、イサリビに戻った団長達を送ってくれた報道関係の方の協力もあり、クーデリアお嬢様の演説が見事に炸裂!

 

 

『ギャラルホルンに問います……貴方がたは「正義を守る」為の組織ではないのですか?!

 

 デモという手段を取ったとはいえ、彼らのものではなかった謎の爆発を、()()()()彼らのせいだと()()()()、大義名分を()()()()()()()()て人々を攻撃……いえ、虐殺する……!

 

 そんな事をするのが、あなた方の言う「()()」なのですか?!

 

 ならば……私はそんな「()()」など認められない……!

 

 私のこの発言が間違っていると言うのならば……構いません、

 

 今すぐ私の乗るこの船を撃ちなさいッ!!』

 

 

 演説中にギャラルホルンが現在進行系で行っている作戦の経緯を一方的過ぎると非難……本来行うべき「正義の執行」という在り方に照らし合わせて批判し、その是非を世界中に問う……さらに現状包囲されているという事までぶっちゃけ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!と逆ギレ気味にアリアンロッドを煽ったのである。

 

 当然、現場のアリアンロッド艦隊は()()()()()となり、早速イサリビの撃墜に動こうとする……が、クーデリアは裏でノブリス・ゴルドンに対し、「自分の名前を語って武器をドルトの低所得者達に渡し、過激なデモを誘発した」という事実を逆利用して世界全土に自分の演説を配信させていた。

 

 ……勿論、ノブリスの暗躍という事実はあのバエル仮面が教えたものであり、クーデリアの演説によってドルトカンパニーがひた隠しにしてきた労働階級への不当な弾圧や不遇……差別的扱いも露見……経営元であるアフリカンユニオンは当然、()()()()()()ギャラルホルン自体も世界各地から糾弾を受けてしまい、アリアンロッド艦隊はイサリビに手を出せなくなってしまうのであった。

 

 ……うん、「ザマァミロ」だわw

 

 

 そして戦闘終了後……

 

「……もぅ、幾ら直せるからってアベンジャーの脚はガンダム・フレームと違って繊細なんだから蹴るなぁッ!!」

 

 ……はい、戻ってきた禍月を足蹴に(にドロップキック)しました。

 整備班泣かせの問題行動は、(すべから)く許すまじ!

 

──────────

 

 はい、透火ちゃんは只今……イサリビ、禍月の部屋で彼を交えて絶賛反省会中なのです。

 

 主な議題は、地球降下時の戦闘(予定)について。

 

「……アイン君、また来ると思う?」

 

「わからん……少なくとも、俺の勘は何も言ってこない」

 

 とは、禍月の言。

 頬を掻きながら「勘」が~、って言うの……初めて聞いたよ。

 

 確かに、禍月の言うとおり……クランクさんが存命だと彼が知れば、アイン君が戦う意味は薄れる……しかし、上司であるガエリオ君はヤル気全開な為、戦闘自体は避けられないだろう。

 

「んじゃこないだの2機は何? あの赤と青のグレイズ……」

 

 禍月が目を押さえながら話す……あまり考えたくないと言う感じがありありと見てとれる。

 

「……多分、奴らはイレギュラーだ。

 俺がこの世界に存在するからか……透火(オマエ)の存在があるからかは分からんが……

 

 少なくともアイツ等は確実に、鉄華団の脅威の一つになる……!」

 

「そうね、あの2機のパイロット……何か嫌な予感するんだけど……」

 

「それは俺も同感だ……俺も、あの二人には嫌な予感がした。

 特に赤い方……面倒くさくなりそうだ」

 

 禍月が感じたイメージを語られ、録っておいた戦闘ログと通信の音声データを確認する。

 な~んか既視感あるんだよなぁ……この赤い方の『ちょいさぁ!』とか、『イッちまいな!』とか一々(いちいち)誰かさんっぽい言動がねぇ……

 

 

「……軌道上で仕掛けてくるなら、例の対策も役立ちそうね……流星号の追加調整も済ませてるし」

 

 前回の戦闘ではあまり目立たなかったというか、出撃したっけ?

 あんま内容は覚えてないけど、軌道上の戦いは数も多く、状況も厳しい……味方は多い方が良いもんね。

 

「んー、後はアベンジャーのEXAMなんだけど……」

 

 私は禍月の乗機であるアベンジャーのEXAMシステムを何とか使わずに済ませたかった。

 その為、禍月の意見を聞きたくて切り出したのだが……

 

 バツンッ!!

 

 突如として照明が全て落ち、艦内全てが闇に包まれる。

 

「……?! ……ッ!! あ、ぁぁぁ……」

「……オイオイ、いきなり何なんだよ……」

 

 禍月は少し忌々しそうに天井を見上げる、辛うじて出入口等が判る程度の明るさで光る非常灯だけの薄暗さしかない部屋……その状況は、彼女の心の傷(トラウマ)を抉るには()()()()()

 

「あ……あっ……ぁぁぁあぁぁぁっ?!」

 

「?! お、おい透火?」

 

「イヤぁぁぁぁぁぁっ!! 止めてぇぇぇっ、何で……なんでこんな……ッ!!」

 

 まるで発狂したかの様な叫び……髪を振り乱し、錯乱状態に陥る透火。

 突然の豹変に禍月も何が起きたのかよく分からなかった……だが、間違いなく今の彼女は普通ではない事だけは理解できた。

 

「うぅっ……ダメ……殺さないで……お父さん……おかあさん……怖いよぉ……」

 

 薄暗い部屋に啜り泣く声だけが虚しく響く……泣きがなら親を呼ぶ声を聞いた時、禍月は以前……密かに名瀬から打ち明けられていた()()()を思い出した。

 

『あの子は暗闇がダメなんだ……

 産みの親を目の前で殺され、目を盗んで逃げ出したが、それから掃き溜めの様な場所で5年もの間、浮浪者やゴロツキ共に追い回されながらたった一人で生きてきたんだ……

 

 2年前に俺が拾った後も、夜な夜なその時の光景が闇と共に頭に浮かぶらしくてな……

 正直言って、その時のあの子の顔は忘れられねぇ……

 

 まさに絶望の真っ只中……すがるものもなく、孤独と暗闇に蝕まれ、全てを失った様な顔だった……』

 

 艦内照明が軒並みダウンしている今、彼女の精神は闇に蝕まれ疲弊している……恐らくただ声を掛けても元には戻らないだろう。

 禍月は照明の代わりを探すが、船に持ち込んだ私物が少ないので役に立ちそうな物は無い……

 

(正気に戻ったら殴られそうだが……仕方ない……!)

 

「……?! ……ぁ……っ……」

 

 意を決して禍月が取った手段……

 

「大丈夫だ、俺が付いてる……誰にもお前を殺させはしない……大丈夫、大丈夫だから」

 

 彼女は今、トラウマで精神が幼い頃に一時的な逆行を起こしている……そう踏んだ禍月は、透火の頭をまるで小さな子供を慰める様に撫で、声のトーンに注意しながら声を掛ける……

 その後ゆっくりと身体を寄せ、触れ合わせる事で幻ではない事を認識させる……その所作は、小さな娘をあやす父親の様だった……

 

 前世では(ジジイ)と呼ばれるであろう年齢まで生きた禍月……彼女が幼い頃のトラウマならば、対処は当時の年齢を考慮した方が良いのでは? という勘だったが、それは思いの外上手く作用し、抱き寄せた少女は少しずつ平静を取り戻していく……

 

「……ほんと? ……あたし、ころされない? ……だいじょうぶなの……?」

 

 トラウマ真っ只中の為か、言動までも幼児化してしまっている透火……それほど迄に根深い物である証拠でもあるのだが、禍月は「戻ったら絶対半殺しにされる……!」と戦々恐々であった。

 

 

 程なくして、艦内照明も復帰……原因は先の戦闘でイサリビに直撃していた砲弾が、電気系統のシステムを制御するための配線を傷付けていたらしく、艦内からは見付けにくかった場所であった事も重なって、発見されずにそのままであった事が原因であった。

 

 なお、照明の復帰後すぐに透火は元に戻ったが……

 

「フンッ!!」ドゴォッ!!

 

 己の予測通りに禍月は密着から問答無用で腹パンされました。

 

(あああああもぅ!! 何でこんな時にこんな事になるのよ!!

 完全に弱みを握られたも同然じゃないの……私のバカ! 幼児退行するとかマジで最悪だわ)

 

 だが、錯乱中に聞いたあの言葉……それはその場凌ぎのいい加減な言動ではないと感じた透火。

 

(……本気……だったのかな……もし、本当に命を狙われたら……

 

 って、何を考えてるのよ!! 彼は私と同じ転生者、ただの同志! でも……)

 

 なんなんだろ、案外悪くないかもしれない……と、思ってしまう自分がいた。




照明ダウンの原因……
実はドルトの戦闘でシノがヘマした時の弾でした。

暗所恐怖症、本人にとっては思い出したくない過去……
産みの親を失った時の悲しい思い出……
今でも彼女は夜寝る時も灯りを消せず、夜間外出など出来る筈もなく……夕方になると焦りながら帰路まっしぐら。

最初の歌の後もそうでしたね……

さて、次回はいよいよ地球降下……
その際に襲われるのはガンダムストーリーの鉄板イベントですよね~w


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第15話 ハッチャケチャッタ♪(テヘペロ)

前回からの続き……
モンタークと名を変えたバエル仮面(マクギリス)が接触してきました。

フミタンが生存してますからね、クーデリアはさほど悩みませんが躊躇はします。
そりゃフミタンの裏の仕事暴露するわ、ノブリスの裏の顔をぶっちゃける事で人を疑心暗鬼に陥らせるし……
そんな事しながら自分は()()()ぶって支援者(パトロン)を申し出、地球降下のお手伝いと称して降下船を手配……
「挨拶代わり」とたっぷりの補給物資を与えて鉄華団を支援しつつ、そしてちゃっかり「商談」という名目でハーフメタル利権に名を連ねる事を約束させ……
ってあ~、コレが2期でのマクギリスの資金源の1つって訳ね。

でも、元々の理由が理由なので当然、クーデリアは地球行きを諦めません。
ま、この辺は政治的な問題だし……
私達なんてお呼びじゃないので場面スキップです!


そして……遂に地球降下作戦が始まります。(イクゾー!!


 うーん地球かぁ……違う世界とはいえ、故郷に帰って来たって実感が湧いてくるのはやっぱり「人類」だからかな? 

 

 しかし、地球に降りるためにはギャラルホルンと間違いなく戦う事になる……

 

 まぁ、ドルトの件でたっぷり恨みを買った訳だし、あんだけ煽ったんだからメンツだって丸潰れ……そりゃ誰だってキレるわw

 って言うか()()()()()()は自分たちの腐敗とか所業がそもそもの原因だし、あっちの自業自得なんだけど~?

 

 そんなこんなで常にガン飛ばされている鉄華団はマトモに地球降下ができません!

 ……で、それなのに裏切りに等しい行為をバエル仮面ことマクギリス君が手伝ってくれます。

 

 そういえば、彼の目的って「ギャラルホルンの腐敗を何とかしたい」……って()()()()()言ってるんだっけ……

 確かに鉄華団の今後の行動如何では十分に考えられる未来だけども、今からもう()()を目的にされてもねぇ……後半はアンタが原因で鉄華団()()すんだから、はよどっか行ってよお願い。

 

 ……もしくは(前みたいに)ロ○ギリス化してくんない?

 

──────────

 

「……透火、お前はどうする?」

 

 突然、藪から棒(ヤブカラボー)に名瀬さんから質問されました。

 この選択肢次第で、私は鉄華団との関係を改めなくてはいけない……と思う。

 

 ぶっちゃけ名瀬さんの目にも、私が()()()()()()()()()()()()事はバレバレだろうし……一介の(普通じゃないけど)整備員がそんな事をし続けるにはどうしても無理があるんだけどさ。

 

 最初は似た境遇の同年代を助けたい一心だと周囲は思ってた様だけど……前回のドルトの件で、私は初めて名瀬さんに食って掛かってしまった……

 

 今じゃ猛省してるし、周囲は親子喧嘩とでも思ってたらしく大事には至っていない……けど、これ以上下手に()()()()()()()()()()()のは内部からも怪しまれる。

 

「……私は……」

 

 いつもと変わらない彼の表情、だからこそ分かる……この返事如何で、私の命運が決まる事が。

 

「私はも……」

「お前さんもアイツ等と一緒に地球へ行くか?」

 

 ……はい? え? 今なんて……?

 

「何呆けてるんだよ、前に言ってたじゃねぇか……機会があれば地球に行ってみたいって。

 ……丁度良いタイミングだろ?」

 

 確かに言ったよ? 心は(異世界だけど)地球出身な訳だし、この世界の地球がどんな風になってるのか自分の目で見たいって好奇心に(そそのか)されて拾われて少し経った頃に言ったのは覚えてるよ? 

 

 でも、この状況で言う普通? 私は彼らに近付き過ぎてるって警告とか受けるもんだとばっかり……

 

「エーコだけにアイツらの機体の整備まで押し付ける訳にも行かねぇし、アイツも『アタシだけじゃ無理だから透火も一緒が良い』って言ってたからな」

 

 マジ? あのエーコ姉までそんな事を……

 

「戦力としてラフタとアジーにも行って貰う……()()()()()()()()()()()し、寂しくはねぇだろ?」

 

「え? あ、うん……ありがと……父さん」

 

 思わず素に戻って()()()()()()が出てしまってる……確かに全員、私の事情(トラウマ)は承知済み。

 これって、最初から仕込まれてた……?

 

 ・

 ・

 ・

 

 若干納得行かない顔ではあったが、一応了承して部屋を退出する透火。

 その後姿が扉で見えなくなったのを確認すると、名瀬は大きなため息を吐いた……

 

「……はぁ……全く、アイツがあんなに肩入れしてるとは思わなかったぜ」

 

「同年代……況してや、境遇や生い立ちなんかが似てる者同士だ、多かれ少なかれ惹かれ合うモンさ」

 

 名瀬とアミダには、透火が肩入れし過ぎている事は百も承知であった……過去に傷を持つ者はこの世界に多い、だが、同年代……況してや同じ組織に属し、目的の為に協力し合う事になった兄弟仲である、心境を始め、色々と思う所や変わる事は少なくない。

 

「……で、本当に良いのかい?」

 

「何がだよ?」

 

「今後もあの娘が鉄華団に世話を焼く事さ……幾ら今回は子供の頃の夢を叶えてやる為とはいえ、最近のあの娘は少しおかしい……鉄華団と関わり始めてから、前より元気にはなってるけど……危うくもなってる」

 

 アミダの指摘は最もだった。

 透火は最近……というか鉄華団との邂逅以来、()()()()()()()()活発化し、外部の人間との接触も躊躇しなくなっていた。

 ……それまではタービンズ以外の人間と話せるのは極僅かだったのに。

 

「アイツ等の頑張りを()の当たりにして奮い立ったか、それとも鉄華団自体が何かの鍵なのか……」

 

 どちらにせよ、傾向としては良いのだが……もしそれが崩れた時、彼女はどうなるのか……

 2人の心配を他所に、透火の足取りは最も上機嫌であったのは言うまでもない。

 

──────────

 

「……と、言う訳で私も一緒に降りる事になったから」

 

 同行する事になった旨を直接言う為、私はイサリビの艦橋に突入……そこでは今まさに降下作戦の最終確認がされている現場だった。

 

「なんだ、拍子抜けだな……俺はてっきり『許可ちょうだいよ~!』って泣き付いてたのかと思ったぞ?」

 

 開口一番で禍月の辛辣な切り返しが帰ってくる。

 失敬な! いくら親だからってそういう真似しても「ダメだと言ったらダメだ!」って言われる事くらい知ってますよ~!! 

 私だって拍子抜けしたんだし、若干疑問に残る部分があるんだけど? 

 

「と・に・か・く! アベンジャーの整備は専任、他のMSも阿頼耶識の調整は私が担当しますからッ!」バスッ!

 

 言い終えると同時に禍月へと振り向きながらの正拳突き!

 ……しかし、徒手空拳は初心者だし当然読まれてたのであっさりと受け止められてしまった。

 ムシャクシャするからいっぺん殴らせろよぉ!(# ゚Д゚)

 

「お、おぅ……それは願ってもない申し出だ、よろしく頼んます」

 

「ほら、オルガ団長だって歓迎してるじゃん?」

 

「そうかぁ? まぁ、そう思ってるならそれで良いか……」

 

 最近、禍月は私に対してヤケに突っ掛かってくる……まぁ、私としてもこういう関係は新鮮だし、バッチコイなんだけども。

 

「……それで、降下作戦の方は?」

 

 禍月の声で全員の表情が切り替わり、緊迫した現状を打開する方法が話し合われた……

 

──────────

 

「我等、地球外縁軌道統制統合艦隊ッ!!」

 

「「「「面壁(めんぺき)九年・堅牢堅固!!」」」」

 

 美男子に囲まれ、掛け声を発する女性が1人……

 特徴的な髪型の銀髪を毛先だけ黒く染めた、若い指揮官服の女性……彼女こそ、この地球外縁軌道統制統合艦隊の指令であり、セブンスターズの一角……イシュー家の長女、カルタ・イシューである。

 

「カルタ様、ボードウィン特務三佐からの通信です……」

 

「……繋ぎなさい」

 

 折角の良い所を邪魔され、少々憤慨しそうな顔のカルタだったが、通信相手の顔が映る前に表情を戻し、不遜な態度アリアリでガエリオと会話し始めた。

 

 

 ほぼ原作通りに会話が進められ、通信を終えたガエリオの表情は少々複雑な心境を物語っている。

 

「特務三佐……」

 

「……アイン、奴らがなんと言おうと、お前の元・上官が火星で生きていようと、今のお前はオレの部下だ。

 俺の部下として、今回の任務を全うする……それさえ済めば、オレは何も言わん。

 ……火星で生きているというその上官を探すなり何なりすれば良い」

 

 数日前、過去にクランクと交わしたやり取りと、アイン自身の思いを打ち明けられていたガエリオは、最低限……目の前の任務を全うすれば、その後は好きにして良いと語る。

 何だかんだで、ガエリオは部下に優しいのだ……アインはその言葉に僅かながら呆けた後「……はい!」と答えるのであった。

 

──────────

 

 ピー ピー ピー ピー

 

「エイハブ・ウェーブを探知、例の強襲装甲艦のものと一致しました!」

 

 索敵員からの報告に、カルタの顔が緩む……

 

「まさか本当に来るとはね……しかし、この歓迎をどう対処するのかしら?」

 

 マニュアルに従い、停船信号が発信される……が、予想通りにスルー

 

「あら、やる気は十分なのね……鉄槌を下してやりなさい!」

 

 カルタは想定通りと言わんばかりに指示を出すのであった。

 

『全艦隊に通達、砲撃よぉ~い……!』

 

「……撃てぃッ!!」

 

 カルタの合図を受け、横一列に並んだ艦船から一斉砲撃が放たれる……射程距離としてはやや遠目だが、外しはしない距離。

 そのほとんどが命中し、砲弾の爆発による爆煙が目標となった船体を覆っていく……

 

 椅子の背凭(せもた)れに身体を預け「呆気ないわね……」と呟くカルタだったが、観測員の声に異変を感じ、再びモニターを見つめた。

 

「……?! エイハブ・ウェーブ増大! 敵艦健在! ち、近付いて来ます!」

 

「何ですって……?」

 

「こ、これは……エイハブ・ウェーブの反応が2つ?!」

 

 続けて届いた観測員の言葉に、カルタは相手が取った想定外の手段に我が目を疑った。

 

「そんな?! 奴等……正気の沙汰か……ッ!?」

 

──────────

 

 地球へと降下する作戦はほぼ原作通り。

 

 戦利品としたブルワーズの船に細工を施しておき、イサリビの盾としながら2艦で突撃……ブルワーズの船を使い潰しながら敵艦隊に「ナノミラーチャフ」によるジャミングを仕掛けて艦隊の目を反らし、阿頼耶識でコントロールするイサリビの機動性を利用しながら陽動。

 その隙にMSを搭載した降下船で地球に降下する……という感じ。

 

 ……だが今回、イサリビやブルワーズの船には()()()()を施してある。

 

「オラ、いっくぜぇぇぇぇぇ!!!」

 

 イサリビを指揮するのは、禍月の推薦もあって()()()「副団長」を任されたユージン・セブンスターク……事前に透火による徹底調整が施された“改良型”の阿頼耶識システムによってコントロールされるイサリビは、まるで水中を自在に泳ぐ()の如き挙動で至近弾を回避……ブルワーズの船を盾にしながらぐんぐん接近する。

 

『えぇい、両翼の船を前へ! 角翼の陣で殲滅なさいッ!』

 

 艦隊も陣形を変えて迎撃の手を強める……だが。

 

「ハッ! もう遅ぇんだよ……推力最大! このまま切り離す!」

 

 改良された阿頼耶識を介し、自動運転されるブルワーズの船がイサリビから切り離され、最大船速で艦隊に突っ込んでいく。

 同時にタイマーが作動し、ブルワーズの船から大量の煙幕と()()が放出される。

 

『……?! これはッ?!』

 

 通信士が最初に異変に気付き、直後に外部を映していたモニターが全てダウンする。

 

『艦隊連動システム、LCS途絶! 光学照準が目標を完全にロスト……これは、ナノミラーチャフです!!』

 

 原作でも使用された「ナノミラーチャフ」……

 その原理は単純、ナノラミネートアーマーに使用される粉末素材を煙幕と共に放出すると、艦船から発するエイハブ・ウェーブによって極小サイズの金属板(チャフ)と化し、この世界で普及しているレーザー通信や光学照準システムを妨害するというものだ。

 艦船が発するエイハブ・ウェーブの効果範囲はかなり広いので、バラ撒くだけで粉末素材は勝手にチャフと化す……ただし、艦船の多くが搭載しているナパーム弾や爆雷なとで簡単に除去できるため、タネが判れば対処は容易なのである。

 

「……えぇい、小癪な真似を……!

 全艦隊に光信号で通達! 全方位にLCSを最大照射、同時に時限信管でミサイル発射! 古臭いチャフなど焼き払いなさいッ!!」

 

 早速指示に従ってLCS電波とミサイルが全艦から放たれ、撒かれたチャフがどんどんと撤去されていく……それを撒いたブルワーズの船は、撤去完了と共に戦闘宙域から離脱しかけていたので無視され、索敵要員は引き続きイサリビを探す……そして、発見した。

 

「エイハブ・ウェーブ確認、光学照準が目標を再捕捉しました!」

 

「すばしっこいのが取り柄のネズミでも、この短時間じゃ何も出来ないわね……それで、奴らは何処に?」

 

「そ、それが……!」

 

 報告内容を再確認し一瞬、我が目を疑う観測員……だが、職務を全うするという意地が上回り、起きた事ありのままを言うしかなかった。

 

「ぐ、グラズヘイムですッ!!」

 

 ユージン・セブンスタークがチャフによる混乱中に取った次なる一手……それは、地球衛星軌道にある自分達の駐屯地「グラズヘイム1」へ手を出す事だった。

 イサリビはナノラミネートアーマーで覆われた強襲装甲艦……同程度、または上回る強度を持つ相手でなければ、その装甲は対してダメージを負わない。

 そして、アレコレ考える事が(現状)苦手なユージンが思い付いた戦術の中身……

 

「ヘヘッ……こんだけ稼げりゃ、十分なんだよォォォ!!」

 

 相手は自衛能力を艦船とMSに頼るただの陣地、そして自分達は守りも硬く動ける存在……そして、限られた時間で敵を大混乱させる為に、この男(ユージン)が思い付いた方法……それは……

 

『総員、対ショック姿勢ッ!!』

 

ガッゴォォォンッ!!!

 

 虚空に響いたのは凄まじく、そして小気味良い金属同士の激突音……

 

 

ガゴガガガガガリガリガリ……

 

 そして続けざまに金属の塊同士が擦れる音が響き、無重力中の慣性に従って()()()()()()()()()()()()()()()()()

 次に起きたのは、相手の金属の塊……駐屯衛星である「グラズヘイム1」の一部が衝撃と損傷に耐えきれず火を吹き、更にその衝撃で衛星軌道から逸脱し始めてしまい……システムが救難信号を発信したのだった。

 

「グラズヘイム1、被害甚大! 衝撃で軌道上から離脱……このままでは、地球に落下しますッ!!」

 

「……!?

 

 ~~~~~~~~ッ!! ……………!! ………………。

 

 MS隊は緊急発進、追撃を指示……出し終わった船から順次、救援に向かいなさい……」

 

 報告を聞いたカルタの顔は、驚きと悔しさと憤怒で百面相のように激変していく……しかし、自らの基地でもある衛星から発する救難信号を無視など出来ず、苦虫を噛み潰す様に指示を出すしかなかった。




「なぁ、俺……カッコ良かったか……?」(鼻血ブー)
「「ゆ、ユージ~~ンッ!?」」(原作より)

まぁ、今回はそうなりませんでしたw

気分は「あばよ、とっつぁ~ん♪」でしょうかね?

ユージン・セブンスタークの初見せ場、大成功に終わる。

オルガ「最ッ高~にイカしてたぜ、ユージン!!」


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第16話 魂を引かれる井戸の淵から……

グラズヘイム1に特攻を仕掛け、最高の見せ場と陽動を披露したユージン。
その隙にバルバトスとグシオン、流星号を載せた降下船で降りる……筈だった。

まぁ、思うようには行かないのが世の常よね……

さ、前回からの続きだー!


 敵の駐屯衛星に特攻を仕掛け、イサリビは軽い損傷を受けたものの未だに元気な魚の様に宙域から離脱していく……

 

「ハハッ、最高にイカしてたぜユージン!!」

 

「……よし、これだけ離れていれば降下に支障は出ないはずだよ」

 

 降下船を操縦するビスケットが状況を確認する。

 連携を取る為に通信チャンネルを合わせると、禍月からの提案が聞こえてきた。

 

『……オルガ、俺と透火の機体は降下船に載せられねえし、このままMSで待機する……どうも胸騒ぎが消えん』

 

「分かった……突入自体はその『乗ってるヤツ(フライングアーマー)』を使えば可能なんだろ? 頼む」

 

『あぁ、護衛の方は任せ「ピーピーピー」……っと、やっぱり来やがったか……三日月、昭弘、迎撃するぞ!』

 

 禍月の返事を遮る突然の警告音……どうやら、敵さんは待ってすらくれないらしい。

 禍月は素早く三日月と昭弘に指示を出す。

 

『分かった』

『了解だ!』

 

『な、なぁ禍月? オレは?』

 

 呼ばれた2人が返事する、ひと呼吸おいて呼ばれなかったシノも声を上げるが……

 

『シノは透火と降下船の直援だ、奴らも足が速い……撃ち漏らした奴は任せるからな!』

 

『任されて! 禍月以外は高度と重力にも注意してよ? そのまま落ちたら全身火傷なんかじゃ済まないんだからね?!』

 

 乗機の性能を考慮した上での役割分担……私は即答で了解する。

 

 フラッグは機動力に秀でているし、何かあったとしても自力で何とか出来る……それ位は信頼されてる禍月に、私はシャトルの直援を任され、シノ兄もサポートに残る事になった。

 鉄華団では初の大気圏ギリギリとなる高高度戦闘……前世で何度も経験した禍月はさすがに落ち着き払っているが、私を含めた4人は初体験……特にシノ兄はまだ1度しかMSでの実戦経験はない。

 その事を考慮しての配置だったが、シノ兄としては前線に出たかったようだ……

 

『……チックショー、わーったよぉ!!』

 

 渋々、了解の返事と共にド派手なピンク色のグレイズ……流星号と白いフラッグがシャトルの側面へと回り込む。

 アベンジャーとバルバトス、グシオンも敵機の反応が向かってくる先を睨む……だが、現れた方向は少し角度が違っていた。

 

 ガギィンッ!!

 

「……ッく……、前より速い……!!」

 

『フッ、よく見つけたアイン!!』

 

『ネズミの行動パターンは、火星から見てきましたので……!』

 

 やはりそう上手くは事が運ばない……ガエリオとアインのコンビに見つかった……(逃◯中)

 更に、アインを追うように赤と青のカスタムグレイズまでもが迫る。

 

『おーおー、こんな所でコソコソと……ネズミにしちゃあ詰めが甘かったなぁ!!』

 

『お前達の行動など読めている、地球に降下などさせんぞ?』

 

『……チッ、コレだから地球降下は……ッ、散開しろ!!』

 

 禍月の指示を受け、全機が散開……長引くとカルタの部隊から増援が送られてくる筈だ。

 ここであまり時間を掛ける訳には行かない……!

 

『オルガ! 俺達に構わず降下準備を続けろ、ここは俺等で何とかする!!』

 

『……っ! やらせると思ったか!!』

 

『やるしかないから言ってんだろーがッ!!』

 

──────────

 

 青いグレイズが禍月と撃ち合いになり、互いの牽制射を避けながら宙域を移動していく……

 三日月は三日月でガエリオから容赦ない突撃を避け続けているので他に目が向けられない。

 

 アインはシノと真っ向勝負中……アイン達を追って来た雑魚連中数機をまとめて相手してた昭弘君だったけど、幸いにも途中でラフタ姉達が合流してきたので一応ひと安心ではある……が。

 

『……見慣れねぇ機体だな、どんなオモチャか知らねぇが……!』

 

 身の丈程もあるバスターソードを構えた赤いカスタムグレイズが、油断ならない速度で近接射程(クロスレンジ)まで踏み込んでくる。

 何となく、()()()()()()()()()()……と思った私は、振られる前にバック宙の様に後方へと飛び退き、姿勢制御のついでにフラッグを変形させてミサイルとレールガンで弾幕を張りつつ、相手の後方に回り込む。

 

『コイツ、変形を……?! チィッ!!』

 

 白い機体が鳥のような形へと変わり、弾幕を囮に加速……見失ったと思わせて背後へ回り奇襲を仕掛ける、赤いグレイズのパイロットはギリギリで奇襲に気付き、ソニックブレイドとバスターソードが鍔迫り合いで火花を散らす。

 

『クソッ、速ぇ! ……やるじゃねえかネズミ野郎!』

 

「誰が野郎よ!! 誰が!! アンタ馬鹿ぁ?!」(# ゜Д゜)

 

 事情を知らない相手とはいえ、()()呼ばわりにカチンと来た私は、接触通信で聞こえてきた男の声に思わず反論。

 

 ……うん、台詞のチョイスに後悔はしてない。

 

『ハハァ、テメー女か!? よくもまぁこんな地獄に飛び込めるなぁ~、命知らずがッ!!』

 

「必要に迫られりゃ、誰だって戦うわよ!」

 

『ハッ! ソイツは真理だな……だが、テメーじゃ俺には勝てねぇ!!』

 

 鍔迫り合いを強引に捌き、反動を利用して追撃をしてくる赤いグレイズ……だが、至近弾接近の警告に飛び退き、その隙に私も距離を取れた。

 

『オイ、邪魔すんじゃねぇぞルーギス!』

 

『目の前の敵に集中しすぎだクルーガー、今のはお前が悪い』

 

『んだとコラァ!!』(# ゜Д゜)

 

 は? この2人仲間かと思ったら口喧嘩なんかしてる……共闘意識薄すぎじゃない?

 

「……って、危なっ?!」

 

 青いグレイズからの流れ弾……というか、クルーガーという男が操る赤いグレイズを狙ったであろう弾がフラッグの至近距離を掠める。

 狙ったのか偶然かは分からないけど、あの青いグレイズのパイロット……ルーギス、だっけ? 尋常じゃない射撃能力ね……

 あの禍月を相手に互角を演じ、それでいてコッチを狙って援護射撃する位の余裕……そしてこっちのクルーガーという男もまた、ルーギスと口喧嘩をしながら私の攻撃を重いバスターソードで捌き、いなし、加えて反撃もしてくる……2人とも厄介過ぎる相手だ。

 

『あぁもぅ~! 手が足りなさ過ぎぃ~!!』(。>д<)

 

ガガガッ! ガキュガキュン!!

 

『何だぁ?! まだ邪魔する奴が居んのかよ!!』

 

 唐突に響いたのは弾丸が装甲に当たる音……音の出処は赤いグレイズだった。

 そして、視界の奥から迫るマゼンタ色の見慣れない機体……いや、見慣れないだけで機体そのものは知っている。

 

『済まない、遅くなってしまったかな?』

 

 聞き覚えのある声……やっぱり彼だったか。

 

 グリムゲルデ……厄祭戦末期に開発された9機のうちの1機で、ガンダム・フレームに勝るとも劣らない性能を有する「ヴァルキュリア・フレーム」を用いた機体だ。

 ヴァルキュリア・フレームは軽量でエネルギー効率が良く、発揮される性能はガンダム・フレームにも匹敵する……が、その軽さが逆に災いし、近接攻撃の威力低下や稼働時における重心の推移などを正確に把握・掌握してなければマトモに動かせないという欠点を抱えた「超・上級者向け」の機体である。

 

 そんな機体をまるで手足の様に操るモンターク(マクギリス)……

 そんな強いのに何でバエル馬……(ry

 

『チッ、邪魔が入り過ぎだ!! 限界高度も近い……下んぞ、ルーギス!!』

 

『お前に言われるまでもない……!』

 

 グリムゲルデの乱入を機に、さっさと戦いを止めて離脱する赤と青のグレイズ……グリムゲルデのモンタークも、こっちの援護はもう必要ないと察して三日月の方へと行っていた。

 

(あの2人組、次も来そうな気がする……何とか対抗作を考えないと……!)

 

──────────

 

 他の推移はほぼ原作通り……

 

 三日月はガエリオくんの突撃をおやっさん(と私)が考案したリアクティブアーマーで受け止め、前みたいに掴まえて反撃を開始。

 だが、危険を察知したアイン君に庇われてアインくんは重症、ガエリオくんと共に撤退した。

 

 そんで戻ろうとした所にカルタの部隊からの増援が来たんだけど、それも原作通りグリムゲルデの乱入で呆気なく処理されていき……

 

『昭弘! 機体を固定しろ!! 放り出されたら終わりだぞ!?』

 

『けどよ! 三日月がまだ……っ!!』

 

 焦りの滲む顔で上を見上げる昭弘兄……その視線の先ではバルバトスと、増援で来たグレイズリッターの1機がまだ戦っている。

 原作通りとはいえ、あのまま戦闘を続けるのはさすがにヤバい……私と禍月は示し合ったかの様に援護に入り、ついに三日月がグレイズリッターに止めを刺す。

 

『……地球の重力って、凄いんだな……!』

 

「呑気な事言ってないで! コレに乗んなさい!!」

 

 バルバトスに至近距離まで接近した私は、足元にあるフライングアーマーのシステムにある操作権利をバルバトスに譲渡、すぐさまフラッグをMA形態に変形させて高熱の渦の中へと自ら飛び込む。

 権利を譲渡されたフライングアーマーは次なる主(バルバトス)の足元へと回り込み、自ら足場となる事で大気圏の摩擦熱から主を護る。

 

 ……だが、私のフラッグにはそういう(大気圏突入)機能なんてない。

 

『だ……大丈夫?』

 

 三日月の……前世含めて初めての、焦りの感情に支配された声が通信から聞こえてくる……あはは、なぁんだ……そういう顔もできるんじゃん。

 

「大丈夫だって、フラッグの推力なら十分離脱も……」

 

 バシュンッ!!

 

「……あれ?」

 

 フラッグを支えていた推力の反動が突然消え、スラスターが言うことを効かなくなる。

 慌てて機体コンディションをコンソールに映すと、メインスラスターにエネルギーを供給する動力分配システムがエラーを吐いてしまい、スラスターの制御システムが完全にダウンしていた。

 

「ゴメン……やっぱヤバいかも……」

 

 ガクンとフラッグの姿勢が急激に変わり、一切の姿勢制御が不可能になってしまう……当然、皆は口々に言いたい放題言ってくるけど、残念ながらスラスター類が全部システムダウンしてるので着艦でもしないと直せないし、このままじゃあと数分後には機体がバラバラになっちゃう。

 

(……コレ、マジヤバじゃん……一緒に乗ってれば良かったなぁ……)

 

 なんて事を考えてる間に限界高度まであと1分を切っていた……が、突然の衝撃と音で思考が中断され、びっくりして外部状況をチェック……すると。

 

『……ったく、なんて馬鹿な事やってんだよお前は!』(# ゜Д゜)

 

 うっわ、激おこの禍月じゃん……自分のフライングアーマーに押し付ける様にフラッグを挟み込み、その上から自分も張り付く形で互いを固定していた。

 

 

 それから、延々と接触回線から飛んでくる禍月の文句を聞き流しながらも無事に大気圏を抜けた私達は……夜の海に映る月と、先に降下したシャトルの影に気付いて、復旧していた通信でみんなへと無事を報告。

 

『あれが……三日月……』

 

 その通信から漏れ聞こえてきたミカ兄の呟きを聞いて「やっと帰って来たんだ」という実感が湧いてくるのだった。




はい、無事に大気圏突入に成功しました!

え? あの2人は何処所属だって……?
一応彼らは「月外縁軌道統合艦隊アリアンロッド」なのですが、その任務内容の特殊性から、ギャラルホルンでは指揮権の独立した遊撃部隊的な扱いを受けています。

要は、シミュレーションゲームで突然マップに登場し、好き勝手に暴れるNPC部隊……という奴ですね。

……俗に、経験値泥棒とも言う。

さて次回はたぶんのんびり回かな?
あの爺ちゃんも出るし、海だから水着もある……の?


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第17話 母なる大地と海に抱かれて

前回、スラスターの不調に気付かぬまま大気圏離脱を慣行し
システムダウンで大ピンチ!

そこを禍月に何とか助けて貰い、お説教も貰う羽目に……
でも無事に大気圏突入には成功し、無事に地球へと降り立った。

降り立ったのは原作通り、オセアニア連邦のとある島。
なんとココには、クーデリアさんの目的である蒔苗の爺ちゃんがいるらしい……
やったね、怪我の功名だよ!

……でもなんだか怪しい雰囲気、やるだけやるさ17話!!


 三日月のバルバトスにフライングアーマーを譲渡し、離脱を試みたけどスラスターがイカれて大ピンチ!!

 でも、禍月に助けて貰った……

 

 なんだろ……ココん所、禍月に頼り過ぎてる気がする……

 

 私だけでも改変は成せるだろうし、アベンジャー(のEXAM)の件もある……あまり彼に頼るのは止めたいのに。

 

 でも、あの2人組……クルーガーとルーギス、アイツ等と戦うのが避けられないのなら、どうしても禍月の協力は不可欠だ。

 

「……もどかしいなぁ」

 

「……? 何が?」

 

 おっと、ミカ兄に聞こえちゃってる……

 

「あぁ、さっきの赤と青のヤツ等の事……厄介だなって」

 

「アイツ等か……俺は直接やり合って無いけど、赤い方は手強いと思う」

 

 なんとミカ兄もアイツのヤバさが分かったらしい……コレ、逆に危ないんじゃないかな?

 

 

 MSを見張り台代わりに使い、私達はそれぞれで遠方監視……その間に他のメンバーがシャトルから荷物を島へと運ぶ。

 ココでも私が持ち込んだアイテムが活躍している……それは「モーター付きゴムボート」だ。

 今回利用したフライングアーマーには小さめながら格納スペースを設けてあり、そこに地球で役に立つであろうアイテムを可能な限り持ち込んだのである。

 今使っているゴムボートもその一つだ……ちなみに持ち込んだのは禍月のフライングアーマーに入れといた分も合わせて2台……元々南洋の島へと降り立つ事は(原作知識で上陸地点は)事前に分かってたし、突入コースのシミュレーションでもほぼ確定していたしね。

 

 ゴムボートのお陰でさほど時間を掛けずに荷物の移送も終わり、夜明けまて少し時間がある……私はフラッグのコクピットから()()()をするためにコンソールを操作する。

 

(今回、囮にしたブルワーズの船は大破してない……量子通信なら届くはず)

 

 そう、大気圏突入前に仕掛けた陽動……それに利用したブルワーズの船は、原作と違って大破しないでチャフをバラ撒き、さほどダメージを負わないまま戦域離脱もしていた。

 そしてあの船には、イサリビにユージン用の阿頼耶識の調整をする時に『量子通信を用いた遠隔操作』機能を追加していたのだ。

 

 量子とは、物体を構成する原子(人間で言えば細胞1個)よりもはるかに小さい。

 段階で表すなら……

 物体>分子>原子>原子核>陽子または中性子>クォーク(量子)となり、量子の世界では通常の物理学……というか常識が通用せず、独自の奇妙な法則(量子力学)が支配している。

 その為、量子通信は一般的な電波障害や物理現象の影響を受けないのだ。

 

 そして私は、その量子通信でブルワーズの船に遠隔アクセスできる様に改造していたのである……それを今ココで実践稼働テストしているのだ。

 

「……よし、繋がった!」

 

 ブルワーズの船のシステムへとアクセスが成功し、続けてコンソールを操作……ハンマーヘッドから持ち込んだ例のAGEビルダーや、予め量産しておいた小型自律端末「HARO(ハロ)」、そして「カレル」を起動させる。

 ……ここまでやれば、察しの良い人は気付いたと思う……実は大気圏突入の作戦前に、私はあの船を鉄華団から購入した。

 

 禍月にも新型機を約束した訳だし、早い内に作業場を確保しておきたかったからね。

 ちなみに購入費用とリフォーム代金に、貯金の1/3が消えました……(T^T)

 

 そして今から行うのは、ビルダーやHARO達のコントロールを担っている『AGEシステム』をフル活用し、全自動でブルワーズの船を私色に染め上げる(魔改造を施す)事。

 AGEシステムを利用する事で、常に最適化と効率化をしながら作業を進められるし、HAROやカレルによって不眠不休での作業も可能……さらに船の内部をMS製造施設化する事で『外部からの干渉』を最小限に抑えられる様になるのが最も大きかった……宇宙空間に浮かぶ、秘密基地って浪漫(ロマン)じゃない?

 

──────────

 

 一通りの指示と設計図を転送し終え、先に上陸した鉄華団メンバーと合流すると、例の爺ちゃん……『蒔苗東護ノ介』が現れていた。

 

「……んむ? お前さんは……!」

 

 え? 何で私、見られて驚かれてるの? まだなにもしてないよね?

 

「……あ、あの……何か?」

 

「おぉ、済まんのぅ……なぁに、知り合いに良く似た娘さんじゃと思うてな」

 

 知り合いねぇ……私、政治家の爺ちゃんに知り合いは居ないんだけど?

 

()()()()()()か何かだろ……こんな奇抜な髪の女が複数居るとか、偶然にしちゃ出来過ぎだぜ?』

 

 禍月がアベンジャーを動かしながら近くまで来ていた、こっちの会話にスピーカーで混ざるとかまた懐かしいネタを……!

 ゴソゴソとMSから降りてきた禍月は蒔苗の爺ちゃんを改めて確認……爺ちゃんの方も禍月の持つ独特な雰囲気に気付いたのか、一瞬鋭い視線を感じた。

 

「ほほぅ、お前さん……若い者にしては珍しい」

 

「蒔苗東護ノ介……」

 

 本当に一瞬だけだった視線は禍月も感じただろうけど、気負う事なく爺ちゃんの名前を口にする。

 

「博識じゃな、火星から来た子供が儂を知っておるとは……うむ、あのお嬢さんも含めて……楽しくなりそうじゃの♪」

 

 なんか良く分かんないんだけど、妙な期待をされてらっしゃる……この爺ちゃん、言動は可愛いんだけど何か気持ち悪いなぁ。( ̄~ ̄;)

 

──────────

 

 実は地球に降りた時間って明け方だったんだよね……鉄華団の皆が交代で一頻り休んでいる頃、フラッグの整備をする私の所へエーコ姉とラフタ姉、アジー姉が揃ってやってきた。

 

「……透火、ちょっと来なさい」

 

 ん? 何かいつもと違ってチョイ怖な雰囲気……なんだろ?(´・ω・)

 

 フラッグから降りて3人の所に着くと同時にラフタ姉に睨まれた。

 さらにエーコ姉から顔をガッシリ掴まれ、マジマジと調べられる……まるで不備は1つも見逃さないベテランの検品さんみたいな眼で。

 

「……メイクで上手く隠した様だけど、アタシの目は誤魔化せないわよ透火……アンタ、何日寝てないワケ?」

 

「……あぅ……」

 

 私の口から思わず漏れる小さな呻き声、実は大気圏突入前の準備で、また徹夜作業をしていた……しかも今回は突入当日(今現在)も含めて4日目。

 私が漏らした声を聞くなりアジー姉とラフタ姉からは「ヤレヤレ」といった風な溜め息……この時、私はまた姉さん達に迷惑を掛けた事を自覚した。

 

 

『全く……アンタはどんだけ無茶してるか自覚あんの?! アンタはダーリンの義娘(むすめ)で、アタシ達の妹分! 今までずっと他人の目を気にして、何をするにも遠慮してたアンタがこんなに活発になったのは嬉しいけど、それと無茶を通すのは訳が違うのよ!?』

 

『アタシは透火がMSの知識に明るいのは最初驚いたし、アタシの知らない知識やら云われやら……特にガンダムに関するヤツは脱帽モノよ? ……でも、それが元でアンタ自身が潰れちゃダメでしょ! そもそも阿頼耶識の調整なんて芸当、アタシには荷が重過ぎなんだから押し付けないでよね?』

 

『……アンタは間違いなく、ウチ等タービンズの一員なんだ……仲間の心配ぐらい、ちゃんと受け止めな』

 

 あの後3人係りでしこたま怒られた私は、言われた事を思い出しつつ海岸線を1人で歩いく……

 そう、今の私は、タービンズの一員……前世では鉄華団として生きてきたけど、今回はまだ隣人でしかない……入れ込み過ぎなのは自覚してるけど、無茶が過ぎると怒られたのは皆も私を心配してるから……

 

「……やっぱり、変わっちゃったのかな……私って」

 

 前世では確かに身体の出来から違ったので、徹夜も何もあったもんじゃない程のオーバーワークを平然とこなした事もあるし……それが元で兄さん(オルガ団長)達にこんな風に怒られた記憶もある。

 今回の転生では身体機能やら何やらはほぼ生身の人間だ、一応ある程度自制はしていたが……それでも心配を掛けてしまった。

 

「……馬鹿かお前は、お前はもう機械じゃない。

 その身体じゃ前世ほど出来ないのが当たり前……それでもお前、規格外なんだぞ?」

 

 普段着とは違う夏らしい薄着に着替えてきた禍月が、口酸っぱい追撃をしに来た……

 集中し過ぎると他の事……特に自分の事に無頓着になってしまうという、悪い癖のようなモノだと弁解するも……

 

「それなら尚更自覚しろ……お前の立ち位置ってヤツを。

 お前は誰のお陰で生きて来た? 今は誰と一緒に居る? 何でも1人で解決しようとするな……この前も、肝心な所は自分だけで進めて……俺にやらせた事は単なる子供の手伝いじゃねーか」

 

 耳が痛い……顔は何ともない様に装うが、内心考えると心当たりが有りまくりだ……

 

 阿頼耶識搭載MS全機のシステム調整……コレはバルバトスにグシオンリベイク、流星号を始めとして鉄華団のMWは全機が該当する。

 それから担当MS(アベンジャーとフラッグ)や武器の整備に、ハンガースペースにある機材の点検と、作業の効率化を目的とした入れ替え……コレはタービンズの船のヤツ(ハンマーヘッド)も該当。

 この前の停電騒ぎで艦内の制御システムのチェックもするようになったし、ギャラルホルンと事を構える様になってから通信の傍受対策もやり始めた。

 

 ……アレ? 列挙したらセファー時代並のオーバーワークじゃね?

(´・ω・`)?

 

「お前なぁ……」

 

 

 それから姉さん達に謝りに行き、ついでに『静養を兼ねてアンタは今日1日仕事無し!』……と、言い付けられてしまった……なんてこった、フラッグの整備は既に終わってるけどアベンジャーがまだ手付かずだし、他の子達の阿頼耶識も地上戦用のセッティングに直してないんだけど……

 

「……点検や部品交換なら俺でもやれる、()()()()なのを忘れんな」

 

 ……そうでしたね。(・ω<)テヘペロ

 

──────────

 

 まぁ、そんなこんなで手持ち無沙汰となった私……あまりにも暇なので、折角(転生後初の)の海を満喫すべく、コッソリと持ち込んでおいた水着に着替え、浜辺に巨大パラソルも設置……ラフタ姉達の手が空くまで待つ間、一人で海を楽しむ事にした。

 

 まぁ、一人でっていう事実は逆に虚しいんだけどね……

 

 蒔苗の爺ちゃんの話は、明日然るべき場所を用意してからだって言われてる様だし、事前にやっておいた設定や簡単なマニュアルを渡しておいた事で、鉄華団の皆の作業効率もだいぶ上がっている。

 いずれ皆、手が空いた人からこっちが気になって来るだろう……

 

 ふと、最初に現れた人影……おや、アトラちゃんだ。

 海を見るのも初めてな彼女は、波打ち際をおっかなびっくり歩きながらも、波が来る度に「うわぁっ!?」って飛び退いていた。

 そんなビビる必要無いよ……と言いたくなったが、あまりにも可愛いので止めた。

 

 アトラちゃんと別ルートで次に来たのはクーデリアさん……「暑くない?」って聞きたくなるいつもの服装だったけど、すぐに上着を脱いだ……やっぱり暑かったかw

 こっちに気付いたので手招きをすると、砂が熱くなってきた様で小走りにパラソルの影まで走ってきた。

 

「そ、その格好は……?」

 

 今の私の格好はオレンジ色のホルタートップ水着にデニム柄のサーフパンツ、そして胸の下で前裾を結んだ白シャツという組み合わせ……背中には、鍔の広い麦わら帽子もあったりする。

 完全に「真夏の海の少女」という風な格好だw

 

「南国の島だし暑いからね、それに泳げるのも今の内だけだろうし……」

 

「そ、そうですか……そうですよね……というか、貴女も海は初めてなのでは……?」

 

「うん、そうだけど……話には聞いてたし、何度か遠巻きに映像でなら見た事あるから」

 

 嘘は言ってない……前世(セファーより前)なら何度も生で見たし、ビーチバレー位は経験もある。

 ……というか、私がこんな格好してる事に驚いたのかな……?




水着着たけど、短く終わってしまう……
次は例の魚騒動かな?

ちなみに透火の水着は
「PSO2」というゲームの「ホルタートップパンツ」と呼ばれる服と、「前結び白シャツ」というアウターを参照。
このゲームでは「レイヤリングウェア」と呼ばれる服装システムにより、「インナー」「ベース」「アウター」という基本の服(ウェア)と、各種アクセサリーを使ってキャラクターを着飾らせる事が出来ます。

なお、PSO2は6月に『超大型アップデート』も控えてるので
キャラクタークリエイトに興味のある方は是非、プレイしてみて下さい。
ついでに、私はship10 ナウシズにて同名アカウント(睦月透火)としてプレイ中♪


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第18話 旅は道連れ世は……真夏(え?

前回の続き……

大気圏突入の件で4徹した事がバレ、仕事をオアズケされてしまった透火……
折角なので水着に着替えて海を満喫する事に。

クーデリアさんが来て少し驚かれたけど、この島で遊べるのは今日だけじゃなかったかな?

……とりあえず、はいコレ♪(黒い微笑み)



 巨大パラソルの下で、海岸線を眺める私とクーデリアさん。

 さすがに彼女だけ普段着という訳には行かないよね?(メタ視点で理解を求める)

 

「はいコレ、サイズは合うと思うよ?」

 

 突然渡される服のような何か、クーデリアさんは頭から疑問符ばかり出てる……

 

「あ、あの……コレは?」

 

「何かって? 水着ダヨ?」

 

 聞いた途端にアワアワするクーデリアさんも可愛い♪

 だがしかし、その水着を着せるまで私は敢えて真顔で対応する……

 

「え? いや、その……私はこんな事をしている時間は……」

 

「ほーら、ココん所にシワがよってる……」

 

 ドルトコロニーの件以来、何か余計なプレッシャーを感じているのであろう彼女の眉間には、クッキリと皺が刻まれている……ここから先にも、彼女には重たい責任がのし掛かるだろう。

 それなら今この瞬間だけでも、全てを忘れてリフレッシュしておいた方が後々良い結果になると思う……幸い、今日だけなら敵も来ない訳だし。

 オセアニア連邦には感謝だね。

 

「貴女の背負った物を下ろせとは言わない……

 ただ、今だけ少し忘れてさ……少しは心を休めないと、潰れちゃいそうだよ……?」

 

 受け売りだけどさ……私も怒られたし、今日だけ忘れて心の休憩!

 

「……ありがとうございます」

 

 そう言って、着替え用として隣に立てておいたテントへと入っていく彼女……入れ違いにパラソルの下に来たのはアトラちゃんだった。

 

「やっほー、アトラちゃん(ゴソゴソ)……はいコレ♪」

 

 再びどこからともなく取り出される水着……キョトンとする彼女(以下略)

 

「コレなら海で濡れても大丈夫だし、三日月くんからも誉めて貰えると思うよ?(殺し文句w)」

 

 最初は私が何か企んでるって怪しむ感じがしたけど、三日月の名前を出すとすぐに表情が急変して気合いが半端ない顔になった……チョロいw

 その後も手の空いた女性陣に水着を見繕っては着替えテントに向かわせ~を繰り返し、全員が着替えてきた。

 

 クーデリアさんには青いビキニにパレオと髪飾りのセット、アトラちゃんはフリルをあしらった白いワンピースタイプに麦わら帽子、フミタンさんとメリビットさんには、デザインの違う大人の黒いセクシービキニとスカートパレオのセット……ラフタ姉さん達は自前のヤツ(ご想像にお任せします)だ。

 

「三日月、見て! ……どうかな?」

 

 早速年少組と一緒に混ざってきた三日月に対して、水着姿を披露するアトラちゃん……最初は何だか訳が分からない様子だったが、クーデリアさんとフミタンさんが並ぶと少し驚き、チョットだけ考え込んだ後……

 

「……うん、アトラにはソレが似合ってる」

 

 と、珍妙な誉め方をしていた……比較対象が無いと評価に困るってどゆこと?

 

 ちなみに三日月くんと昭弘くんに禍月だけ、私が用意した水着を着てこの場に混ざっている……

 三日月くんには、アニメ調のタッチで(サメ)が描かれたサーフパンツ、禍月のは炎の柄が描かれたハーフパンツに同柄のアロハシャツ、昭弘くんはシンプルな黒のブーメランパンツである。

 

「(三日月)この絵のヤツ、何? ……サメ? 海の強い生き物? ……へぇ~(案外気に入った様子)」

 

「(禍月)……どっかで見た様な柄だな……まぁ、悪くないな」

 

「(昭弘)…………(照れている)」

 

 なお、着替えた後のリアクションは三者三様……

 私はラフタ姉さん達と泳いだりパラソルの下で休憩している間、禍月は昭弘くんを連れてすぐ近くの岩場や海中で魚を捕ってるし……三日月くんは薄着の年少組とビーチボールで遊ぶアトラちゃんを見守ってました。

 

 ついでに団長さんを始めその他大勢は、近くの木陰から羨ましそうに見てましたとさw

 

──────────

 

 にゃ……にゃ……にゃ……っ!!

 

さかにゃ()ー!!」

 

 なまのおさしみちょうひさしぶりにたべた……まがつきがまさか、くろマグロとってくるとかマジでかんどー♪

 ミカにぃたちや、アトラちゃんもさいしょはビビってたけど、あまりにもおいしそうにわたしがたべてるのをみてたべるきになったみたい……まかないのじいちゃんからも、カレイがおくられてきて、そのにつけはアトラちゃんがちょうりにちょうせん……ラフタねぇさんたちもてつだってくれた。

 

 わたしもいろいろちょうりにさんかしたから、バリエーションはかなりほうふにそろったとおもう。

 

 ……ただ、ひとつなっとくいかないのは……だんちょうさんがおさしみたべなかったことだ……あんなおいしいものをいやがるとか、じんせいのはんぶんはそんしてるよ……ぜったい。

 

──────────

 

 翌日、禍月からビスケットくんに相談を受けた事を聞いた。

 さすがにココで起こる論争の回避は出来なかった様だ……フォローはしたと聞いたし、兄のサヴァランくんとも話してた様だから大丈夫だと思う。

 

 それよりもだ……夕方に始まる会談に、私と禍月まで呼ばれているのは意外というか……何だかキナ臭い。

 まぁでも、断ると何が起こるか分からないし……行くしかないよね。

 

 

 会談場所は蒔苗の爺ちゃんが匿われている和風の高床式住居……オセアニア連邦は日本を初めとするアジア圏の古式建築技術に影響を受けた技術者が多く居る他、爺ちゃんの趣味もあってこんな建物になったんだとか。

 

「遠路はるばる良く来たの……改めて、儂が『蒔苗東護ノ介』じゃ」

 

──────────

 

 私達への用事はクーデリアさん達とは別に時間を取っているとの事……別室で待っている間、禍月と新型機の要望を可能な限り聞いた。

 

「……Ξ(クスィー)ガンダム、は分かるよな? アレをベースに出来ないか?」

 

 意外だったのはベース機の選択だ……てっきり私はνガンダムとか、ユニコーン辺りを選ぶと思っていた……だが、禍月は大型機に等しい宇宙世紀の第5世代MS……『Ξ(クスィー)ガンダム』を選んだのだ。

 確かにこの世代のMSは性能的にも技術的にも、化け物に等しい程の進化を遂げ……単体で超音速飛行すら可能とする超高性能機だ……だが。

 

「……難しいかな、どうやれば10mもダウンサイジングできんの?」

 

 さすがに無茶が過ぎる……鉄華団が保有する機体はほとんどが18mクラスの機体ばかり。

 加えてアベンジャーも何とか全高を同等に抑えて組み直したけど、Ξ(クスィー)ガンダムの全高は28m……倍近いサイズをコンパクト化するには、さすがに無理ゲー過ぎる。

 そうなると設計段階で大幅な刷新や変更を余儀なくされる為、製造まで含めると2年で間に合わない可能性が高い……それに私は、サイコミュ兵器をまだ造った事が無いのである。

 

 サイコフレーム自体は開発経験こそあるものの、応用実例は演算強化と制御システムへの寄与しかなく……専用兵器の開発にも時間を割かれる事は確実だ。

 

「……まぁ、AGEシステムに既存の設計図を読ませて、解決法を探らせる事はできるけど……より簡単なのはサイズの近い奴をベースにして、機能を追加する形で改造する案ね……一応、両方から模索はするわ」

 

「任せる、それと……」

 

「……何?」

 

 何やら言いにくそうな雰囲気……でも、言ってくれなければ分からない。

 私はニュータイプじゃないんだし、何となく……みたいに当てずっぽうな予測程度しか出来ないからね。

 

「……いや、お前も新型は考えてるのか?

 エドモントン後からの相手は一筋縄じゃ行かんだろうし、何よりフラッグの性能は……」

 

 痛い所を突いてくる……フラッグの性能は確かに高いが、あくまでも量産機止まり……まだ見ぬ強敵や来るべき戦いに備えるには、フラッグでは性能不足に陥る事など目に見えていた。

 

「一応、何も考えてない訳じゃないわ……でも、今の段階ではまだ不確定要素だらけなのよ

 理論上は実現可能な技術ではあるけど……検証データや試験機……現物も無いし、何より()()()()()の様なモノを簡単には積めないよ……

 

 それに、埋め込むシステムのサイズそのものも未確定なのよ……ベース機の選定はその辺をクリアしないと選択なんて……」

 

 如何せん、開発期間は2年しかない……各種実験データの揃っている既存技術や、その発展系ならばそれほど実装のハードルは高くない。

 だが、私が解決したい()()()()には……新規の技術が必須なのである。

 

 もちろん、それ以外の可能性や代案も考えてはいるが……

 

「……一体、何を考えてる? ガンダム世界の技術で解決する事じゃ無いのか?」

 

 怪訝な表情の禍月に、私は真剣な顔で返す。

 

「私の理想を現実にするには、それなりの努力と……気が狂う程の情熱が必要なの」

 

 おっと、あまりにココで話すのは止めよう……楽しみは取っておくに越した事はない。




前半は水着回の続き、その後相方のネタに付き合って
最後にフラグ設立……新型機の開発計画ですね。

2人の新型専用機は、持てる情熱を注ぎ込んだオリジナルの超高性能機(予定)

鉄の華を、絶対に折らせやしない……!!

アンケート参加と応援求む……(。>д<)


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第19話 寝起きを襲う治安維持部隊(ギャラルホルン)

お待たせしました~!!

前々回からの水着ネタはどうでしたか?
水着のイメージはほぼPSO2から引っ張って来たものですがw
分かった人はどれだけ居るかな~?

さて、前回の続き……
オセアニア連邦の計らいで匿われ、同じく亡命中の「蒔苗東護ノ介」と邂逅。
クーデリアさんは当初の目的を果たそうとするも、亡命中の身である蒔苗には出来る事などたかが知れていた。
だが「逆転の目はある」と称してエドモントンまでの護衛を打診する蒔苗……
それも原作通りに進み、一晩考える事になった後……禍月と透火が蒔苗に呼ばれるのであった。


 ……何故、私達はここに呼ばれたのだろう。

 

「禍月、と言ったな? 本気で来い……儂が相手だからと遠慮は無用ぞ?」

 

 禍月と蒔苗の爺ちゃんは将棋をやっていた。

 しかも爺ちゃんなかなかの手練れらしく、禍月の顔は真剣そのもの……そして爺ちゃんもだ。

 

「……さっぱり分かんないんだけど?」

 

 ちなみに私は将棋自体を初めて見ました……勿論「生で」という表現付きですがw

 なのでルールそのものを知らないし、今現在もルールブック片手に現状を理解しようと四苦八苦しております。

 

「……お主、◯◯◯嬢の娘じゃな?」

 

 突然に母の名を告げられ、思考が止まる……私の親を知っている? まさか、黒服の男達と何か関係があるの……? いや、そうだったのなら確証をこんなタイミングで問う必要はない筈だ……では、何故私の母の名を今告げた?

 

「……その顔、どうやら当たっておる様じゃな? いやなに、◯◯◯嬢には昔随分と助けられたんじゃ……あの旦那と仲良くしておるかのぅ?」

 

 そうか、母が私の小さい頃に話してくれた「頼りになるお爺ちゃん」ってこの人だったのか……でも、残念ながら。

 

「両親は、数年前に……私は今、タービンズでお世話になってます」

 

「なんと……そうか……惜しい若者を亡くしたものじゃ……」

 

 僅かながら、爺ちゃんの雰囲気が変わった……どうやら両親の死を今知った事で感情が荒れているみたい……私の姿に母の面影を重ね、しばらく目を伏せる間……覇気漲る体を僅かに震わせ、その手を強く握り締めていた。

 

 

 将棋を一旦中断し、私の近況を語る事で心を静めた爺ちゃん……再び禍月に向き直り、真剣な顔で口を開いた。

 

「……すまんな禍月よ、もう少し儂に付き合え」

 

──────────

 

 さて、爺ちゃんとの件が済んだ後……私はエーコ姉と共にMSの整備と対策に精を出していた。

 

「うーん、エーコ姉……何か手伝う事無い~?」

 

「……アンタまだ懲りて無いようね?」(# ゜Д゜)

 

 エーコ姉への質問なのに、ラフタ姉のヘイトを稼いでしまう本日夜半の格納庫……これまでのオーバーワークを改善させる為に当分の間、受け持ち以外の作業や手伝いを制限させられてしまった私は、現在手持ち無沙汰なのである。

 アベンジャーは禍月がやってたし、フラッグの定期点検や各部の整備も既に終わっている、阿頼耶識のシステムチェックも重要部分以外は()()()()()()()()()()()()()()を走らせているので問題なし……新型の基礎理論の方も、重要な検証実験はイサリビに追従しながら改造中の船で行っている為、ぶっちゃけ暇だ。

 

「……ッ!!」

 

 ヒイッ?! 何で皆のために頑張ろうとしてるのに睨まれるかなぁ!?

 ……でも、無茶し過ぎはダメって言われたもんね。

 

「はぁーい」(´・ω・)ショボーン

 

 うん、今日は早めに寝よう……明日からやろう、うん。

 

 

 ……で、部屋に帰ってシャワー浴びてからゆっくりしようとしてたら……

 

「「……あ」」

 

 目の前には何故か禍月が立っていた……私は(宛がわれた)自室に備え付けられたシャワーで汗を流して出てきた所だ。

 部屋の構造を簡単に言うと、簡素だけどトイレ・シャワー・ベッドは完備されたワンルームみたいな感じ……それが鉄華団をはじめ、全員個々に宛がわれているのだ。(何気に凄いねぇ)

 

「……ッ……」

 

 禍月の目が、何だか申し訳なさそうなそうでない様な微妙な視線で私を見ている……そういえば私、いつもの癖でパンツだけしか履いてな……あ”っ(ボンッ)

 

「こ、この……変態ッ!!」

 

「いや待て誤解d ブルファンゴッ!! 」

 

 1、2、3……ライ◯ーキックッ!!(そんな感じ)

 

 素早く身体を翻し、小回りの回転と遠心力を加えた前飛び後ろ回し蹴り。

 それは弁解と共に振り向いた禍月の背中へとクリーンヒットし、彼はそのまま吹き飛んだ勢いで扉へと衝突……入口の扉は半開きだったらしく、禍月を吐き出すとその反動の勢いでパタンと閉まった。

 

「~~~~~~~~ッ?!」(声にならない怒りと羞恥心の入り交じった叫び)

 

(ああもう最悪だ……何でアイツ私の部屋に……もしかしたら、同郷(転生者)という気安さから若い衝動を発散するために丸め込み易い私を狙って? それとも鍵が無いのを良い事に部屋から乙女の秘密を盗もうと無断侵入?! ……あ、まさかシャワーの音に変な妄想してたとか!?)

 

 鍵をちゃんと確かめてないままでほぼ全裸になっていた私も悪いのだが、まさかシャワー室の扉の前に(禍月)が居るとか、何か下衆な目的があったとしか考えられない。

 そして激しく動揺した私の心は……この興奮が治まると同時に、それまで何とも思わなかった身体的疲労を一気に感じてしまい、呆気なくベッドにダイブして爆睡してしまったのである。

 

 ……後日、とんだ勘違いと不可抗力だった事で更なる反省を強いられる事になったのは言うまでもない。

 

──────────

 

 そんなこんなあって翌日、ギャラルホルンは来た。

 オルガ団長も、蒔苗の爺ちゃんをエドモントンまで護送する事を決定したのもほぼ原作通り……だけど、1つだけ違う点。

 

『やっぱり、アイツ等まで……!』

 

 赤と青のカスタムグレイズ……ルーギスとクルーガーだ。

 

『赤と青のグレイズは俺と透火でやる、三日月とシノはあの編隊だ……ラフタさん、アジーさん、昭弘と海岸線の迎撃をお願いします!』

 

 禍月の素早い指示で、迎撃相手が決まる……極力、原作勢と私達を別けた配置だ。

 禍月が司令塔を担う事で、原作のオルガ危機一髪は起きないハズだ……後は流れに任せるしかない。

 

『宇宙での借り、余さず返してあげるわ……我ら、地球外縁統制統合艦隊ッ!』

 

『『『『『連壁九年! 堅牢堅固ッ!』』』』』

 

『ぐあッ?!』ドカンッ!!

 

『……撃って良い……んだよな?』(by.昭弘)

 

『『当たり前じゃん』』(三日月&透火)

 

 大気圏突入からココまで直接侵攻してきて、着地後にわざわざ集まって無防備に名乗りを上げる……お飾り艦隊の本領を遺憾なく発揮してました。

 だからカルタ様って憎めないキャラよねぇw

 

「んじゃ、私は私で……ッ!!」

 

 今回は青いグレイズ……ルーギスが相手だ。

 前回の戦闘データは把握済み……ルーギスは正確無比な射撃に隙のない挙動が取り柄みたいね……でも、想定外には対応が甘い!

 

『今回でケリを付けてくれよう!!』

 

 ルーギスのグレイズは両手にアサルトライフルを構え、給弾のラグを考慮し交互に射撃してくる……対する私はフラッグのスピードのお陰で何度か至近弾は警告されるけど、直撃は貰ってない。

 まぁ、こっちがナノラミネートアーマーじゃないのもとっくに知られてるし……ルーギスは基本、敵に容赦はしない……でも。

 

「それはコッチの台詞ッ!!」

 

 プラズマソードを手に速度を上げ、サイドへのスライド回避から一転してスラスター全開で切り込む、勿論それは敵に見切られてるけどこの動き自体が囮。

 わざと足元の土煙を上げて脚部ラックのミサイルを遅延点火にセットして放出し、()()()()()()()()()()()()……時間差でミサイルの噴射が点火するタイミングにレールガンで牽制を掛けつつ敵の視界を遮るようにすり抜ける。

 

『……! 馬鹿め、愚直に突進しようと…… 「ピーピーピー」 なッ!?』

 

 粉塵と機体の影に隠されて放っていた置きミサイルが直撃し、青いグレイズの左肩装甲は大きく破損……右脚部のスラスターや関節にも当たったらしく、目に見えて動きが落ちた。

 

「……えー、あっさり当たり過ぎじゃない?」

 

 実は、後で禍月に言われたんだけど……もしタイミングがコンマ数秒でも狂ってたら、このミサイルは自分に直撃していたらしい……平然とやった後だから「へぇ~?」で済ませたけど、自分でやっといて冷や汗モノだった事は内緒。

 

『貴様、姑息な手を……!』

 

 姑息も何も、相手の一挙手一投足を注視できてない自分が悪い。

 プラズマソードに持ち替え、私は青いグレイズの無事な左脚を狙う……が、赤いグレイズの牽制に邪魔されて断念した。

 

「ちょっと! 危ないじゃない!?」

 

『テメーがトロいんだよ! 下がれルーギス!!』

 

『……チッ!』

 

 青いグレイズは無事な左脚を使って大きくジャンプし、海岸線の味方に合流すべく撤退……赤いグレイズのクルーガーも、禍月との戦闘である程度損傷させられていたらしく、牽制をしながらルーギスの後を追うように撤退するのであった。




原作の動きはほぼ変わらないけど、ココで1つ改変された事を……
結局、ビスケットの鉄華団脱退話は発動し、戦闘中にピンチに陥ったんだけど……

「「下がれビスケット!!」」

って、ついでに(精神的静養と仕事が出来るため)連行されていた兄サヴァランくんと禍月に同時に言われ、ついでにビスケットを狙った攻撃も禍月が見事に阻止。

無事に死亡フラグ回避、成功となりました♪


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第20話 明日への旅路

お待たせ♪ ようやく島から出れるよ!

なお、主要メンバーの精神的成長は死亡フラグ以外でちゃんとフォローされているのでご心配なく!
例を挙げれば、オルガ団長はメリビットさんや禍月から各方面の教養含めてしっかりと叩き上げられており、ヤマギくんやタカキ達整備班はエーコ姉や透火から直々に指導され、三日月や昭弘、シノ達も例のシミュレーター(エクストリーム・バーサス)でラフタ姉たちにシゴかれています。

そして前回、ビスケットくんの死亡回避に成功した事で、原作のような船内お通夜状態も見事に回避されました。
今回はそんな船内での一幕……と、その前に。

──────────


「な・ん・で、また足をダメにするかなッ!?」(スパァン!!)

 孤島からの脱出戦闘終了後、禍月のアベンジャーの脚部が異様な破損状態だった事に気が付き、ラフタ姉達に聞いてみたら……なんと禍月が援護に来てくれた際に、複数のグレイズの頭などを何度も踏み台にしながら撃墜していたのだという。
 当時の様子を事細かに語られた私は、そのガン◯ム無双の如き現実無視の戦術を敢行した禍月本人を睨み付けながら、彼を船の甲板に正座させハリセン片手に小一時間ほど説教(ジャッジメント)タ~イム!

「ナノラミネートとガンダリウムじゃ強度差でアベンジャーの方が凹むのは当然でしょうが!! そもそもMSの足裏はバーニアやら関節やらの都合で強度的にも繊細なんだから敵の頭なんぞ踏むなッ!! いい加減ノリで機体を破損させるの止めてよね?! ガンダリウムの素材確保すんの意外と大変なんだから!! エドモントンに着くまで資材も節約しなきゃいけないのにぃ~!!」

 それでは本編ど~ぞ。


 オセアニア連邦の計らいで隠れていた島にギャラルホルンが押し寄せてきたけど、しっかり対策して出し抜いておきましたw

 今頃禍月や三日月にボコられた恐怖でカルタ様は発狂寸前かもしれません。

 

 んで、ビスケットくんの死亡フラグ回避にも成功し、晴れてちゃんと脱退か否かの話し合いの場を持つ事ができました。

 

「……オレは馬鹿だからな、ビスケットに色々苦労をかけちまうかも知れねぇ……いや、実際今まで色々面倒掛けちまってたからな……」

 

「オルガ……」

 

 訳有り集団を今まで引っ張ってきた手前、弱い面など他人に見せる事が無かった反動か……強気で押していくしか頭に無かったオルガと、慎重に事を運び、自分なりに頭を駆使して解決策を練っていたビスケット……時々意見を対立させる2人だが、どちらが欠けても鉄華団には不利益にしかならない。

 

 それだけお互いの存在が、()()()()()()()()()()になっているのだから。

 

「……俺から言わせてもらうとな、お前らはまだ知らない事が多いだけだ。

 俺はここに来るまでの経験から助言をしてきたが、お前らも経験を積めばそれこそ俺よりも上手く立ち回れるくらい頭は回るハズだ……だから今を絶望するより、未来に投資するつもりで何事にも立ち向かえ。

 

 結果が良くも悪くも、それ自体がお前達の経験になる……糧になる、俺もお前達を出来るだけフォローする……だから諦める事だけはするな……それだけだ」

 

 さっすが(精神的)年長者は言う事が違うねぇ~……中身は爺まで経験した禍月の発破もあって、ビスケットは鉄華団に残留……同行していた兄のサヴァランくんも、ドルトでの会社勤め経験を買われて入団という事になった。

 

──────────

 

『……そうか、大変だったな……』

 

 フラッグのコクピット内、私は改装中の船からならギャラルホルンに察知されず直通の(アリアドネを使わない量子)通信を使える事を鉄華団経由でタービンズに伝えて貰い、名瀬さんと話をしている……

 経過報告と、義父義娘(おやこ)団欒(だんらん)という奴だ。

 

「皆、強かったよ~……名瀬(とう)さんや姉さん達ほどじゃ無いけどね?」

 

 今の家族ほどじゃないけど……と、注釈を加えて苦笑混じりに近況を伝える私を、いつもの表情で聞き入っている名瀬(とう)さん……だが、私の言葉が途切れた所で想定外の言葉が彼の口から飛び出した。

 

『……なぁ、透火……いや、セファー……お前はやっぱり俺達(タービンズ)より、アイツ等の所(鉄華団)の方が良いのか……いや、それが最適なんだろ?』

 

「ぇ……?」

 

 想定外も想定外……今まで秘めて隠していた心の内を暴かれる。

 表情こそいつも通りを装うが内心、思考が停止していた。

 

『お前が鉄華団と関わってから、急に性格も変わったしな……いや、元の性格に戻ったという方が正しいか?』

 

 なぁんだ、上手く隠せてたと思ってたのに……とっくの昔にバレバレだったとか立つ瀬無いじゃん……まぁ、いずれは伝えるつもりだったけど。

 

『実はな……今回の地球行きも、お前の今後を見極める為だった……まぁ、結果は火を見るより明らかだったがな?』

 

 そもそも、バレバレだった上に色々と算段まで整えられてるとか……演技力、自信あったのに。

 

『これでも俺はお前をずっと心配してたんだぜ……形だけの父娘とはいえ、俺はお前の過去も知っちまったし、お前の抱えるヤツもまとめてどうにかしようって考えもした。

 

 結局はお前が1人で解決しなきゃいけねぇ部分が邪魔してたがな……

 

 だから、お前が自分で歩み始めた事に対して、俺は正直言って嬉しいんだ……

 

 まだ全ての問題に対して、お前が解決するには足りねぇモンも山ほどあるだろう……そして、俺はソイツと関われる立場じゃねぇし、関わろうとも思わねぇ。

 だが、泣いて縋り、逃げるしか無かった昔のお前とは違う……あるべきものを取り戻し、困難に立ち向かえる今のお前なら、必ず乗り越えられる。

 

 マクマード(オヤジ)には俺から言っておくし、離れてもお前は家族だ……何処に居ようが、それは変わらねぇ……そっちでも、無茶しない程度に頑張れよ?』

 

 自分が照れ臭かったのか、それとも義娘の別れの涙を見ない為か……言いたい事だけ言って通信は切られた。

 鉄華団への電撃移籍という事態に、私の頭はしばらく思考が止まったままであったが、名瀬さん(養父)からの激励の言葉を反芻する度に、だんだんと涙が溢れて止められなくなっていた。

 

 

 この日を境に、私は親元(タービンズ)を離れ……予定よりだいぶ早い形で鉄華団に加わる事になった。

 

──────────

 

 鉄華団への電撃移籍の件は後日、正式にオルガ団長にも伝えられ……数少ない女性団員として、アトラちゃんから髪を纏める用のリボンをプレゼントされた。

 今まではほぼ宇宙での作業だったし、降りた直後はそのままでもあまり作業に支障無かったが、これからを考えると物凄く有り難かった。

 

「私、実は透火さんにずっと言いたかった事があるんです……」

 

 早速プレゼントされたリボンを身に付けている所に、アトラちゃんからの思わぬ一言……それは。

 

「お、お姉ちゃんって呼んでも良いですか!?」

 

 憧れ、(こいねが)う少女が発した……ささやかな願い。

 たった1人……存命する血縁もなく、孤独を生きた少女(わたし)にとって、目の前の少女(アトラちゃん)の願いは……斯くして己と同じ飢餓を背負うが故、と感じた。

 

「……うん、良いかも知れない……アトラちゃんが義妹(いもうと)……妹かぁ……」

 

 ポツリと口にした現象は現実味を帯びる……その瞬間から想像は広がり、かつて家族の暖かみに餓えていた少女(じぶん)が過去に満たされた瞬間を再び想起させ、思わず「悪くないわ」と漏らす。

 

「……!!」

 

 呟かれた肯定と思しき解釈の言を了承と受け取り、淡色の少女は飛び跳ねて歓喜する……歳は少し離れてるし、似ても似つかない2人だが、今までの境遇とか考えると、結構お似合いなのかも……?

 

──────────

 

「……んでな、こっちが……」

 

 またある日、禍月と共に私は設計図とにらめっこをしている……その設計図は勿論、禍月の新型MS(専用機)となる図面だ。

 

 設計段階で問題だったダウンサイジングとサイコミュ兵器の搭載は、意外にも()()()()()()()()()()()()()()のお陰であっさりと解決……現在は機体バランスの調整と重量配分に関わる駆動系の設定と、挙動・武装の配置に関する意見の擦り合せ……要はパイロットの要望に合わせての機能を司る部位なんかを設定・配分する為の事前の打ち合わせだ。

 これは専属パイロットを前提とする場合には必須であり、この擦り合せが十分でないと機体は十全な機能の発揮が出来なくなる。

 オーダーメイドで機体を造るのだから、最も大事な工程でもあり……既にこの打ち合わせは数日に及んでいた。

 

「うーん……この辺りなら、まだ設計上の余裕もあるね……可能な限り配置はするけど、あんまり変わらないよ?」

 

「それでも、火力で負けちまったら元も子もねぇ……最終的な数は任せるが、可能な限り確保してくれ」

 

「りょ~かい……あ、そうだ……()()()()()()()()()構造図が仕上がったから見ていく?」

 

「お、さすがビルダーは仕事が早いな……!」

 

 依頼主の要望と立ち塞がる問題を擦り合せ、可能な限り形にするのが設計者の仕事だ……最終的なバランスは依頼人……使えるかどうかの感覚も合わせパイロット次第ではあるが、その前段階として技術者はまず現実的な数字で以て判断する。

 そして専用機の設計は非常に多くの難題が降り掛かるが、完成した時の達成感は何者にも代え難い。

 

「どう? キッチリ現行クラスの体格で、それでしっかり()()()()()()も維持……しかも制御補助に兼用できる位()()の密度にも出来たんだよ!」

 

「……こりゃスゲェな……!」

 

「で、おまけに()()も積む予定……制御システムも、一応の目処が立ったし」

 

 今も宇宙で各種実験やらシミュレーションテストを不眠不休の体制で行っている『船のシステム』から送られてきた設計図達を眺め、期待に胸を膨らませる2人。

 

「……完成まで、どれくらい掛かる?」

 

「そこは……正直言うとギリギリかもしれない、もしかしたら間に合わない可能性も……」

 

「その辺りはしょうがないか……不眠不休で作業が出来ても、解決できない問題はゴマンとあるしな」

 

 時間が掛かるのは一番の悩みだが、それは誰にも解決できない問題……だが、コレとアレ(2人の専用機)が完成すれば、あらゆる理不尽を悉くひっくり返せる。

 設計者と依頼主は揃って不敵な笑みを浮かべる……2人が見ているホロモニターに映し出された設計図。

 

 その隅には「HHM-03/X105 W-LX」というコードが表示されていた。




MSの脚部……特に足裏は関節と、バーニア・スラスター類との位置関係が非常に近く、その上細かいパーツやランディングギアも搭載している場合もある為、意外に脆いのです。

特に万能・高機動型をコンセプトとしたガンダムタイプは、この特徴が顕著だったりするので徒手空拳での戦闘は殆ど行われません。
まぁ、同じ素材強度的な相手なら大丈夫だろうけど……ナノラミネートはPS装甲並に硬いしね?

逆シャアとかユニコーンは例外……Gガンは……(目を逸らす)

次回、カルタ様死亡フラグ?



最近、感想が来ないのでモチベ低下なう……(´・ω・)ショボーン


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第21話 白銀の大地にて

そろそろ関係の発展を書かないとダメかなと思いまして……


 孤島からの脱出後も、地球外縁統制統合艦隊からの追撃は幾度となくあった。

 原作では単に描かれなかったのか、それともイズナリオがタカを括っていたのか……そこは分からない。

 ……だが、現在進行形でイズナリオ・ファリドの思惑を外れていく鉄華団を食い止めるべく、ギャラルホルンは執拗にエドモントンへの道中を襲ってきた。

 

 その度に鉄華団は迎撃を繰り返し……相応の損害もあったが勝利を重ねている。

 

 だが、運命の女神は何も楽をさせてくれる為に居る訳ではない……

 

 原作通りの雪景色の中……モンターク商会の手引きもあって、エドモントンに最も近い終着点を持つ列車に乗り込み、蒔苗の爺ちゃんを護送する最中……

 

『黒いカラスみたいなMSの小娘……貴女と3体3の決闘を申し入れるわ!!』

 

 私はカルタ・イシューと決闘をする事になった。

 その理由は……私と彼女は、相容れない存在だと認識したからである。

 

──────────

 

 事の発端はカルタの通告に過剰反応した私との口喧嘩だ……

 

『あら、女性のMS乗りとは珍しいわね……阿頼耶識でもないようだし、そんな()()()()()()()()、さっさと降りて投降なさい! 今なら私の権限で命だけは保証してあげるわよ?』

 

(は? 今なんっつったこの麿化粧……私のフラッグをカラスだと?)

 

 実は鉄華団への正式編入に辺り、私はフラッグを少し改造……主要関節部の強化や、大気圏突入時の反省としてスラスターシステムの不備対策、試験的にサイコフレームをコクピット回りに分散配置し、全体的に性能も向上……配色も黒へと一新した、所謂『オーバーフラッグ仕様』へと強化を施している。

 

(ブチッ)……アンタ、良い度胸ね……私のフラッグがカラス?

 ……じゃあ貴女は時代錯誤のお飾り艦隊を率いる、絶滅危惧種の山猫かなぁ?』

 

『や、山猫? この私が……お飾り……貴様ァァァ!!』

 

『だってそうじゃない? 前の孤島での失態やら、この状況やら、全て貴女の古臭くてテンプレ丸出しな指揮と、時代錯誤の名乗りやら何やらで招いてるんだもの……呆れちゃうわ~』

 

 ここまでのカルタの戦術指揮は、禍月に悉く見破られている……前世の生涯ほとんどを戦場で過ごした禍月曰く『年期が違うんだよ』だそうだ。

 そしてもちろん、孤島の失態とは『わざわざ集まって、わざわざ名乗りを上げ、昭弘くんに撃たれた()()』である。

 

(ブチッ)……貴女、言って良い事と悪い事があるのを知らなくて? ……あぁ、火星の宇宙ネズミと仲良しごっこする貴女の頭は、その髪色と同じでリアルお花畑なのかしら? ……産まれはさぞ世間知らず……貴女を育てた親も、タカが知れてるわね』

 

 その言葉でお互いは悟った……()()()()()()()()()()()()……完全な()だと。

 

 

 原作とはやや違う形だが……ルーギスとクルーガーという存在のせいか、敵の数が多く、事実上決闘を受けなければ敗北一直線という状態に陥ってしまった鉄華団。

 決闘のメンバーは、この中で最も戦闘慣れしている禍月と、ガンダムフレームという優位性を持つ三日月……3人目は本当はラフタ姉だったのだが、カルタ・イシューを絶対に許したくないという理由で私がもぎ取った。

 

『……アイツ絶対に許さない……私だけじゃなく、父さん達(名瀬さんや生みの親)まで馬鹿にした……!』

 

 黒いフラッグから聞こえる怒りの言葉に、禍月は複雑な表情をする……()()()()()()()()()()()()、それを誰よりも知っているから……

 

 斯くして始まった、カルタの乗るグレイズリッター指揮官機と、私の操るオーバーフラッグの決闘初戦……

 それは互いの意地と、相手への激情だけが全てだった。

 

 バトルソードとソニックブレイド……否、プラズマソードで鍔競り合い、お互いを罵り合う2人。

 次の瞬間、2機は弾かれた様に同時に離れ……オープンチャンネルから聞こえて来る内容に、この場の全ての人間も『なんだコレ?』と思考停止している。

 

『アンタの家の栄光なんて、所詮カビ臭いモノでしょ……決闘の作法? アンタ今の状況分かって言ってる? 戦争……戦いに卑怯も何も無いわよ! ルールなんて存在しない、そんなものはとっくの昔に廃れて消え去ったわ! 大昔のスポーツか何かと勘違いしてない? コッチは生きる為に必死なのよ!』

 

 ガギィン!! ガァァンッ!!

 

『カビ臭いですって!? 私はギャラルホルンとして、世界に貢献したイシュー家の娘! 貴女の様なリアルお花畑な家系の女とは違うわ! かつての戦争で栄光ある勝利をもぎ取り、今を作り上げたセブンスターズの第一席……その栄光は、たかだか300年で消え去るモノなどではない!!』

 

『また言ったな……ッ! 母さま達を、罵ったなぁぁぁ!!』

 

 MS同士の争いは激しさを増し、同時に口喧嘩もヒートアップしていく……

 

『……なぁ、加勢しなくて良いのかよ?』

 

 呆気に取られながらも、シノは恐る恐るラフタに質問するが……

 

『あんだけ激怒した透火を見るのは初めてだし、下手に干渉してとばっちり受けたくはないでしょ? それに、アタシ達にはあの娘が本気で怒る理由……痛い程に分かるから』

 

 悲痛にも見えたラフタとアジーの表情……三日月や禍月は、初めて見る透火のマジギレという様相には少し引き気味である。

 

 だが、唐突に状況は変化する。

 

「……っく……ッ!」

 

 やはり、怒りという感情で相手を制する事は出来ず、冷静さを欠いた今の透火では、指揮官としても優秀なカルタの相手ではない……カルタは透火を罵りながら自身はしっかりと戦闘にも意識を割き、怒りに任せた透火の動きを見極めながら隙を伺っている……

 

 それから何度目かの鍔迫り合い……その直後に体勢を変え反撃に出るグレイズリッター、フラッグの透火は対応しきれず、隙だらけの体勢に打ち込まれる衝撃がコクピットを襲う。

 

 辛うじて直撃こそ避けているものの、一方的に打ち込まれ始めた事で操作にブレが生じていき、益々対応が困難になっていく……透火の能力的に、殴り合いは向かないらしい。

 

『……透火……!』

 

 ラフタの漏影が一歩前に踏み出るが、直後に弾丸が足元に撃たれる……カルタの部下達だ。

 

『カルタ様の決闘に水を指すのならば、我々も容赦しない!!』

 

 原作よりも多い敵の数……それこそあの赤と青のグレイズを引き連れて来た時は肝を冷やしたが、原作通りカルタが決闘発言をした事で救われていた。

 

 歯噛みしながらもラフタは機体を戻し、弾を放った相手も少し遅れて銃を降ろす……

 

『……負けるんじゃないわよ、透火……!』

『タービンズの意地を見せてやりな……!』

 

 ラフタ姉とアジー姉の呟きが通信を伝わり、私の耳に聞こえてくる……だが。

 

『……その程度で私に挑んだのは、失敗だったようね?』

 

(ラフタ姉、アジー姉……私、ここまでなのかな……)

 

 細かな損傷が重なり、精細を欠いた挙動のフラッグに剣を突き付けるグレイズリッター。

 

『初戦はアンタ等の勝ちだ……もう良い、透火……戻ってこい』

 

 オープンチャンネルで禍月から指示が出される……オルガは負けを認め歯噛みするが、バルバトスの通信から響く三日月の言葉に冷静さを取り戻した。

 

『大丈夫……次は俺が行くから』

 

 

『初戦は敗けで良い……だが、次は三日月だ……良いなオルガ?』

 

 禍月の指示に、三日月は軽くアップをするようにバルバトスを動かし、挙動を確かめる。

 三日月の実力は鉄華団の誰もが知っている……愛機バルバトスの性能も。

 

『……ああ、透火(新入り)には酷だったが、相手が相手だ……任せるぞ、ミカ!』

 

 だが、カルタ自身が交代のため踵を返した直後……赤いカスタムグレイズが予想外の行動に出る。

 

『……んじゃ、負けたコイツはさっさと退場して貰うぜぇ!』

 

 あろう事かフラッグのすぐ側まで接近した赤のカスタムグレイズが、その手に持ったバスターソードを振り上げる。

 

(……え……っ?!)

 

『ッ?! 透火ッ!!』

『野郎……ッ?!』

『ヤベぇっ!!』

 

 ガァァンッ!!

 

 凄まじい打撃音が響き、土煙と共に舞い上がった黒い機体……コクピット付近に真新しい大きな損傷が付き、機体は空中で体勢を変えつつ落下……コクピットを下向きにしながら、まっさらだった粉雪の舞う戦場に倒れ伏す。

 機体の動力はまだ生きているものの、コクピット付近に直撃した損傷がどんな影響を及ぼしているのか、皆目検討も付かない。

 

「……う……そ……と、透火……?」

 

 まるで自身の妹の様に感じ、親身になって世話を焼いていた当時の記憶がフラッシュバックし、次に目の前に広がったのは、無惨にも倒れ伏す彼女の愛機という悲惨な光景……

 ラフタはまるで自身の身が引き裂かれる様な思いを言葉に出来ないまま、弾かれたように漏影を操作し黒いフラッグを抱き起こしコクピットを探る。

 

『ねぇ、嘘だよね……返事しなさいよ!!』

 

 悲痛な声と共にコクピットブロックの装甲を無理矢理引き剥がすと、可動式の連動シートがパイロットを機体から排出……地上戦だった為か、タービンズのツナギを改造し一角獣の紋章(ビスト財団のエンブレム)が描かれたツナギ姿で頭から血を流したまま気絶している透火を、ラフタは自らもコクピットを降りて引っ張り出す。

 

──────────

 

『……チッ、さすがに一撃じゃ死なねぇか……悪運の強い女だな』

 

 新入りとはいえ、入団前から気に掛けて貰い、晴れて正式な仲間となった少女……団長であるオルガを始め、鉄華団の重要メンバー達は……透火の愛機(オーバーフラッグ)が吹き飛ぶ様に驚愕したまま動けないでいた。

 

 ただ、一人を除いて……

 

『……オイ、お前……今アイツを殺す気だったか?』

 

『アァ? 当然じゃねぇか……俺らの任務はテメェ等の殲滅なんだ!

 ただ、お優しい指揮官様が決闘でケリを付けるって聞かねぇから大人しく決着が着くまで下がってただけだよw バカでも分かるだろそれくらいはよぉ?

 

 で、コイツはウチの指揮官様に負けちまってんだ……大人しく退場しないとなァ?』

 

『……そうか……』

 

 クルーガーの言葉に、底冷えするほどの冷たい声色で返す男……禍月。

 その口元が怒りで僅かに歪んだ直後、何故かさらにニヤリと歪んだ笑顔をしていた……

 

『 起 き ろ 、E X A M …… ! ! 』

 

 ─ 《 EXAM SYSTEM 》 ─ 

 STAND-BY_ 

 

 ……それから始まったのは、(まさ)しく『蹂躙』であった。




クルーガーに横合いから思いっきり殴られ重症です。
そのせいで禍月までマジギレしました……

オルガ達が動けなかったのは、決闘に従うしかなかったのと
まさか敵側がルール無視してくるとか予想外だった事
あと、実は小本説のIF補正でカルタの実力がブーストされているからです。

次回、蹂躙劇……

戦争という悲劇で顕となった、ニュータイプの兵器的側面。


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第22話 その感情の先にあったものは……

大変長らくお待たせしました。
ええすみませんね、PSO2-NGSが6/9スタートという事で空き時間をほぼ吸われまして……
言い訳させて下さい!
そもそもウチはPSO2をβテストからプレイしてますし、7年以上もの期間をほぼ毎日コツコツやって造り上げたマイキャラ達が前よりも綺麗に見える超大型アップデートが発表直後からもう楽しみで楽しみで……キャラクリは時間泥棒と言いますし、チムメンと遊ぶのもメチャ楽しくてついつい時間を使って……
(。>д<)<ゴメンナサァイッ!!



前話のアンケートですが、何というか予想通り過ぎて草バエルw

でも、さすがにこの結果は反映させられません……
やるとこの先の整合性が取れないので(ヒデェ)

さて、22話はたぶん重要なお話。
1期決戦の地、エドモントンまであと僅か……


 EXAM(エグザム)システム……

 それは「機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY」と呼ばれる作品に登場したMS用の戦闘補助OS……だがその実態は戦闘補助とは名ばかりの……ニュータイプの殲滅を目的とし、それを可能にしたMS自体を指す。

 そして、原作でEXAMシステムを搭載されたMS……ブルーディスティニーと、イフリート改でも、その能力の50%しか発揮できなかったとされている。

 

 だが、もしその残り50%の性能を含め……全力を出せるMSに搭載されていたとしたら?

 その答えが今、あの雪原に広がっている惨状であった……

 

「……何だったのだ、あの機体は……!」

 

 ガエリオ・ボードウィンは、先程まで居た戦場から地球外縁軌道統制統合艦隊司令カルタ・イシューを助け出し、最寄りの自軍基地まで愛機であるキマリストルーパーを走らせながらそう呟く……

 

 彼が目にした光景は、地獄という表現すら生易しい程の光景だった。

 

 

 雪原に幾つもの破片と赤黒く見えるオイル……バラバラにされたMSの残骸と撒き散らされたオイルが、あたかも血の惨劇の様相を呈していた。

 その光景を生み出したのは……カメラアイを赤く灯し、指揮官機らしきグレイズリッターのコクピット付近をソニックブレイドで貫き、無造作に放った機体……この世界に迷い込んだイレギュラーの悪魔、アベンジャー(復讐者)である。

 

「……ッ!? カルタァァァァ!!」

 

 ガエリオが到着した直後は正にカルタの乗るグレイズリッターが、アベンジャーにトドメを刺される直前だった。

 咄嗟にガエリオは最大速度でキマリストルーパーを突っ込ませ、シールドバッシュの要領でアベンジャーとグレイズリッターの間に割って入ると同時にアベンジャーを吹き飛ばして距離を取らせたのだ。

 

 吹き飛んだアベンジャー……その当たり所が良かったのか悪かったのか、突撃された際の衝撃がコクピットを盛大に揺らした事でパイロットの意識も半分ほど吹き飛ばし、禍月を正気に戻したのである。

 

「おい、カルタ! しっかりしろ……! チィッ……!」

 

『……よぉ……ガエリオ、だったか……? ……止め、てくれて……ありがと、な……』

 

 ……ただし、先程までEXAM起動中だった為の精神的疲労と先程までのショックが重なり、ものの数秒後に沈黙(気絶)したのだが。

 

 兎も角、キマリストルーパーの乱入によってアベンジャーの暴走は止まり、ガエリオは重症を負ったカルタを救う為に鉄華団を放置して基地へと舞い戻るのであった。

 

 

 幸いにも透火は右腕に軽い負傷こそ負ったものの、数日で完治……

 だが、あれだけ見栄を切った決闘は敗北し、更にクルーガーにまで襲われたという精神的ダメージが予想以上に大きく……禍月も、EXAMシステム使用の負荷による精神的疲労が抜けきらない為、2人ともしばらく養生しろと言い渡された。

 

 頼りになる作戦指揮官とメカニックの片割れが同時にリタイヤとなった今、鉄華団は大きく疲弊していた……だがその間、先の騒動でギャラルホルン側の損害も予想以上にあったらしく……エドモントンに到着する直前まで、虚を突いた襲撃すら一切無かったのは不幸中の幸いであった。

 

──────────

 

「現在、鉄華団は先の戦線から離脱後……移動速度こそ衰えましたが、未だにエドモントンへの鉄道路線をひた進んでおり、あと2週間ほどで辿り着くと思われます」

 

「…………」

 

 副官からの報告を聞くマクギリス・ファリド……若干の思案の後に1つだけ確認を取る。

 

「ふむ、議会の開催には……まだ間に合うようだね?」

 

「はい、進行速度はやや低下してますが……エドモントンに駐留している部隊にも、今回の件が伝わっている様で……兵士達にも少なからず動揺が広がっています……このままの速度でエドモントンに到着すれば……程度の差こそあれ、鉄華団側が比較的に優位に戦闘を進めるでしょう」

 

 既に彼もマクギリスに傾倒しているのか……冷静に戦況を予測、分析結果を淡々と語る副官……マクギリスはその言葉に薄笑いを浮かべ、執務室の窓を見やる。

 

 ここは地球におけるギャラルホルンの本部にして最大の拠点、メガフロート式基地施設ヴィンゴールヴ……

 その一室でマクギリスは、己の書いたシナリオがトントン拍子に進んでいく様を、内心でほくそ笑みながら、鉄華団に淡い期待を抱くのであった。

 

(もう少しだ……もう少しで、俺の描く未来が始まる……!)

 

──────────

 

 なお、禍月の怪我の治療は数日で完治し復帰した……のだが。

 

(……俺は、アイツを……いや、俺にはミユが……)

 

 禍月の心は、前世の妻であるミユの事を思い悩んでいた……

 

 ミユは宇宙世紀(前世)で結婚し、子育てやら何やらとずっと生涯を共に過ごしてきた女性……

 禍月……いや、クガヤ・アルファラ(前世の自分)にとって、彼女はかけがえのない存在である。

 

 だが、このPD世界(鉄血のオルフェンズ)に転生し、禍月桐谷となってこの世界に降り立った時……彼は彼女(ミユ)の存在を忘れていた。

 事実、女性ばかりのタービンズと邂逅し、鉄華団の辿るクソ未来(原作END)を書き換えていく同志となった彼女(透火)と出会うまで、ミユの事など全く思い出せなかった。

 

 夜の公園で偶然出会い、その翌日に鉄華団関係者として相互協力し始めたあの日……

 透火の事を「可愛いな……」と思った直後に(いや待て俺にはミユがいるだろ!?)とその時初めて思い出した程だ。

 

 その後も時を経る毎に、宇宙世紀で彼女と過ごした記憶はどんどんと薄れていく……

 ……まるで、それが当たり前であるかの様に。

 

(あぁ、クソッ……何でだ! 何で俺はミユを忘れて……いや、当然か……

 

 彼女(ミユ)はあくまでも、クガヤ・アルファラの(IFの宇宙世紀という別)世界の人間であり(クガヤ)の妻だ……この世界に転生しちまってる禍月桐谷(俺という存在)とは、何の関係もない…………これが未練、って奴か)

 

 ニュータイプである禍月の思考は、ミユという女性の記憶を失っていく自分の事を客観的に認識した事で、改めて己を再認識する……自分は「禍月桐谷」であって「クガヤ・アルファラ」ではない、と。

 

「認めちまえばスッキリしちまうのは別に良いさ……

 

 けど、何だか寂しいな……これが新人類(ニュータイプ)かよ……ったく」

 

 宇宙世紀に残した妻子……という未練の様なものは、確かに今まで燻っていた……だがどう足掻いても、そんな別世界の未練などどうしようもない……

 

 日を追う毎に冴え渡っていくニュータイプの思考は、アッサリとこの未練に見切りを付けてしまっている。

 

 だが同時に、拭えない孤独感というものも湧き出てきた……

 

(でも、だから……なのか……? 俺が……アイツに惹かれてるのは……)

 

 恐らく同郷からの転生者であろう透火との出会いは、それこそ運命の出会いとも言える物だった……

 聞けば幼い頃から両親の才能を受け継ぎ、鍛えられたという彼女の器用さと歌……

 しかも、夕暮れの公園で孤独に歌う少女は……同郷の者でなければ知り得ない「ガンダム」の歌を唄っていた。

 

 そして彼女は、同じ世界に2度転生し……このクソッタレな世界の黒い歴史を直に()せられている。

 

(封じられた誕生の経緯、忌まわしき過去の地獄……スラム街の悪夢……)

 

 これまで禍月は、彼女の過去や前世の記憶を少しづつ語って貰っていた……

 

 人造人間として造られ、奇跡のごとく心を持ち……そして壊され、記憶の奥底に封印された過去……

 その身体に憑依転生し、迫る少ない時間で(原作ENDまでのカウントダウンを)無茶振りされ、それでも必死に掴み取ろうとした……だが、その努力すらも虚しく再び時を戻され、更なる苦痛と地獄を記憶に刷り込まされ、今に至る……

 

(とんでもなくクソだな、彼女をココに放り込んだ奴は……)

 

 だが、彼女は生きている……自分に出来る最善を叶える為に、自分に出来る事で。

 

(だからなのかねぇ……さすがに同郷ってだけじゃ、何の説明も付かねぇもんな……やっぱり俺は……)

 

 惹かれている、それも徐々に確実に……

 

──────────

 

 その後も……鉄華団一行は補給と修理を進めつつ、列車の旅を続けていた。

 

「オ~イ、そっちが終わったらでいい! バルバトスの脚を見てくれや~」

 

「はぁ~い!」

 

 エーコ・タービンは鉄華団のMS整備を手伝っている。

 

(あの損傷で透火が無事だったのは良かったけど……)

 

 あの惨劇の日から数日後……透火と禍月の身体ダメージは、医療カプセルによって回復し終えていた……しかし。

 

 

 愛機の整備の為、いつもの様にコクピットシートへ座る透火……ココまではいつもと変わらない光景だった。

 

「……っ!?」

 

「……お、おい……透火?」

 

 突然吐き気を催したかの様に口を抑えてコクピットから飛び出し、そのまま格納庫を出ていってしまう……

 不審に感じて後を追った雪之丞が見た光景は……恐怖に顔をひきつらせながらも『大丈夫……まだ、私は死んでない……だから、大丈夫』と、自分に言い聞かせ……かつての孤独と恐怖に耐えている少女だった。

 

 彼女が過去に受けた、自分が死ぬかもしれないと思った瞬間……

 

 過去に負ったトラウマをも超えた精神的ダメージと、前よりも直に見えてしまった『相手の感情』……日常的には問題なく過ごしているといっても、まだトラウマを克服出来ていなかった透火にとって、今回否応なしに再び与えられた「死の恐怖」など……到底耐えれらるものではない。

 

 トラウマ持ちに、更なる恐怖を上塗り……それも濃厚ギガ盛り&回避不能というコンボ付き……

 そして彼女自身、あの時偶然にもに感じ取ってしまった()()()()()が頭から離れず、ついに精神が根を上げてしまう。

 

「……ゴメン、禍月……」

 

 ……私、たぶんもう……戦えない……

 

 

──────────

 

「……この仕事が終わったら……フラッグ、解体するわ……もう乗らないし」

 

 1時間ほどして、透火は仕事に復帰したが……開口一番、もうパイロットはしないと語る。

 

「……今後は整備士一本でやってくのか?」

 

 雪之丞の言葉にしばらく沈黙の後に頷き、踵を返してアベンジャーの整備を始めに機体へと歩き去る……その後ろ姿に、今までの様な元気は欠片もなかった。

 

「……ありゃあ相当ヤバいかもしれんな……」

 

「えっ?」

 

 雪之丞の漏らした一言に、怪訝な表情で疑問を浮かべるヤマギ。

 雪之丞には前以て透火の過去(タービンズに拾われた経緯)を知らされていた……その他には()()()()という立場から団長であるオルガと、同じ女性の大人であるメリビットさん……そして透火自身が自ら教えた禍月だ。

 

 雪之丞はヤマギに、当たり障り無い範囲で透火のトラウマの事を伝える……理解すると共に複雑な心境に陥るヤマギ……そして当の本人は……まるで何かを振り切る様に、他の鉄華団の整備メンバーと共に淡々と整備に打ち込むのだった。




トラウマ持ちに更なる衝撃!
幸か不幸か、トラウマ発動トリガーがすげ替えられました……

現在の状況は、ジャミル・ニート(ガンダムX)が患ったコクピット恐怖症に近いモノです。

パイロット廃業を宣言する透火……だが、決戦の時は近い。
果たして禍月と鉄華団は、透火(のフラッグ)抜きで……原作よりもヤバそうな雰囲気が漂うエドモントン攻略を成せるのか?!


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第23話 舞い降りた奇跡

透火がMSに乗れなくなった?!
禍月も過去の未練の脱却から喪失感を味わうが、同時に透火の存在に惹かれ始める……

既にエドモントンは目と鼻の先。
そしてついに、運命の決戦の火蓋が切られる……!


─ ??? ─

 

艦内環境保全システムの全チェック項目をクリア

オートパイロットに問題なし

自律稼働モードを継続中……

 

……警告、マスターの精神(マインド)コンディションにアラート

敵パイロットによる意図的な精神攻撃を確認……

 

現行機体のスペックは、今後の戦力差にも問題ありと判断

予備機体の投入作戦を決行……

 

 

 

……予備機体、選定終了

 

メインシステム、リポーズ解除……

大気圏突入コース、再チェック

 

緊急突入用カーゴポッド、システム問題なし

予備機体、カーゴ内に固定完了

 

座標軸、及び突入軌道の算出終了……

 

……カーゴポッド、切り離し

これより、大気圏突入シークエンスを開始します

 

 

 透火がクルーガーに襲われ、フラッグが破損した後の事……

 衛星軌道上から、ギャラルホルンの監視をすり抜けつつ事態を監視していた()()()から、緊急用のカーゴポッドが射出される。

 

 切り離されたカーゴポッドは、自ら突入コースを辿り……時間的にエドモントンでギャラルホルンと真っ向から戦っている鉄華団の元に落ちるだろう。

 

 その中の納められた()()()を、マスターである彼女の元へと送るために……

 

──────────

 

 エドモントン攻略戦……序盤は終始、鉄華団の優勢であった……

 

 エイハブ・リアクターの影響で、ギャラルホルンは市街地にMSを配備出来ない。

 無論それは鉄華団とて同じである……()()()()以外は。

 

『禍月、左翼が立ち回りに手間取ってる……援護射撃を頼む』

 

「任された……!」

 

 自陣中央の最前線……通常ではあり得ない、MSによる市街地外縁部での戦闘。

 だが、アベンジャーはそれを可能とする唯一(フラッグは修理中のため)の機体だ。

 

 理由はたった1つ……()()()()()()()()()()()使()()()()()()()だから。

 

 アベンジャーの動力源は、宇宙世紀のMSと同じ『核融合炉』……エイハブ・リアクターの持つ()()()()()()()()()を全く発生させない。

 その上、出力面でも並のリアクターよりも遥かに高出力である……さすがにガンダム・フレームの持つ『ツインリアクター・システム』には負けるが。

 

 ともかく、常識では考えられない戦力を市街地外縁部の戦闘に用いる事が出来ている時点で、鉄華団は優勢……ギャラルホルン側はこのあり得ない事態に、終始浮き足立っていた。

 

「さすがにMWを、直接踏み潰すとかはしたくないからな……」

 

 と言いつつも、禍月の操るアベンジャーの砲口はギャラルホルンのMWを狙い、的確に撃ち抜き、戦力差を遺憾なく発揮している……

 このまま行けば楽に市街地へと進入でき、蒔苗氏を議会の会場まで送り届ける事も容易い……

 

 そう考えていた矢先に、それは突然現れた……

 

『……エイハブ・ウェーブの反応? こんな街の近くでかよ?!』

 

 オルガの驚愕した声と共に、エイハブ・ウェーブの反応を示すアラートがアベンジャーのコクピットに響く……禍月はその内容に苦虫を噛み潰した表情をしていた。

 

(……やっぱり来るのかよ!? グレイズ・アイン……!!)

 

 バルバトスとグシオン、そして流星号と連絡を取り合うオルガだが、流星号……シノの返事が来ない。

 

『おいシノ! まさか殺られちまったのか!?』

 

「落ち着けオルガ、流星号の反応はまだ消えてない……!」

 

 流星号は拠点付近の戦場に大破した状態で放置されていた。

 わざといたぶる様な手際で滅多打ちにされていたらしく、機体の損傷も明らかに激しい……シノ自身も複数箇所の負傷に意識不明の重態だったが、原作よりも格段に負傷者が少ないので救命ポッドに余裕があり、既に命の危機は脱した……と、ヤマギからの報告が入って来る。

 

 禍月とオルガは報告にひと安心するが、内心では戦々恐々であった……

 

 グレイズ・アインとは……その名の通り、原作の地球降下の戦いの折に、上司ガエリオの危機を庇い重傷を負ったアイン・ダルトンを再び戦場に戻し、かつての上司クランク・ゼントの敵討ちを果たさせる為の苦渋の決断……

 

 阿頼耶識研究用に開発されていた試作機をベースに組み上げられ、肉体の一部を失っているアインを文字通り()()()()事で稼働する怪物MS……

 だが、禍月の目の前に現れた機体は……グレイズ・アインに似つつも、異なる部分の多い……赤と青にそれぞれ塗装された2機の大型MSだった……

 

『……ようやく見付けたぜぇ? あの時のガンダムさんよぉ……テメェのせいでカラダの大半がボロ雑巾だ! この借と今までの礼も含めて、たっぷりと返してやるよ……この「グレイズ・ファントム」でなぁ!!』

 

『……は、ははっ、マジかよ……冗談キツいぜ』

 

 先の戦い……雪原での決闘において、負けて下がる筈だった透火にルール無用の追撃を仕掛け、その結果禍月が激昂……執拗に滅多打ちされたクルーガーとルーギス。

 救援に来たガエリオはカルタを最優先に助けて去った為、禍月はこの2人を死んだものと思っていた……だがあろうことか、敵討ちの理由も無くなり、ガエリオを庇って瀕死の重傷も負わなかったアインの代わりとして、阿頼耶識搭載型のカスタムグレイズ……このグレイズ・ファントムで現れたのである。

 

『貴様には幾度も煮え湯を飲まされてきた……だが、それも今日ココまでだ!』

 

 青いファントムのルーギスがそう宣言する、そして赤いグレイズのクルーガーは……

 

『なんだぁ? あの女は居ねぇのか……借りを返す前にちょいとテメェの目の前でいたぶって抵抗できなくしてからたっぷり犯してやろうかと思ってたんだがなぁ……居ねぇんじゃしょうがねぇ、テメェから先に殺り合おうや!』

 

 グレイズ・ファントムのボディ内、コクピットの中のクルーガーがどんな状態なのかは不明なのだが……あの時の女というのは間違いなく透火の事であろう。

 そしてクルーガーは禍月の前に彼女をいたぶる予定だったようだ……この発言に、オルガは耳を疑い、通信越しに聞いた三日月と昭弘は何かに気付いた様な「……あっ」と一言……そして、直接聞く事になった禍月は……

 

「……おい、テメェ……誰が誰をいたぶるって? ……ふざけてんじゃねぇッ!!」

 

─ EXAM SYSTEM  ─

Stand-by _

 

 一瞬で理性が蒸発した禍月は、その怒りの感情のままに『EXAMシステム』を起動……同時にシステムが機体のリミッターを解除し、アベンジャーはその名の如く『仇を見付けた復讐鬼』の様にクルーガーの機体へと駆けた。

 

 機体の全長とほぼ同等のバスターソードで迎え撃つクルーガー。

 アベンジャーの持つソニックブレードと真っ向か勝負、激しく火花を散らしながら鍔迫り合いへと移行する……が、怒りで唯一負けている出力差(要素)を忘れたのか……簡単に押し込まれてしまう。

 

『ハハハハッ! なんだぁそのザマは? さしものガンダムでもパワーじゃファントムには敵わねぇッてか? こりゃ傑作だなァ!! その怒りで忘れたか? オメデタイ奴だぜ!!』

 

 出力差に押し負けるアベンジャーを更に押し込むべく、クルーガーはファントムの巨躯を利用して上から圧力をかけ始める……だが、横から来るルーギスの殺気をニュータイプの先読みが捉え、クルーガーの煽りで逆に頭の冷えた禍月は、敢えて押し負ける形でソニックブレードをずらしてルーギスの射線にクルーガーを入れる事で回避……クルーガーは急に圧を抜けたアベンジャーに対して脚部ドリルクローを浴びせようとするがアベンジャーは後方に回り込みながら回避し、サブアームの120㎜キャノンでクルーガーの背中に追撃を放つ……だが、阿頼耶識の超反応でクルーガーも砲撃を避け、ルーギスが逆に肩部内蔵マシンガンをアベンジャーに浴びせる。

 

「チッ、この反応……阿頼耶識なら当然か! 三日月並の奴と2対1、か……やっぱ冗談キツいぜ」

 

 シールドで致命傷を避けながら後退、脚部ホバーの機動力で滑る様に移動するアベンジャーはマシンガンの射程から退避し、禍月は初めて苦言を吐く……

 

 アベンジャーの性能的には1対1(タイマン)であれば……たとえパワーで負けていても禍月の技量とEXAMで勝機も見えるだろう……だが、掴めそうなチャンスを悉く潰そうとしてくる()()()()()()()が邪魔だ。

 ルーギスとクルーガーの連携は、阿頼耶識を介する事でタイムラグがほぼゼロになり『完全なる意志疎通が可能な双子』の連携プレーに迫るほど、恐ろしく精密で隙の無い戦術を使ってくる。

 

「テメェから受けた恨み辛み、倍にして返してやるぜェ!!」

「貴様を我らの正義で裁いてやる……!!」

 

「……だからって、負ける訳にはいかねぇよなァ……アベンジャー!」

 

 禍月はEXAMのリミッターを全解除……機体側の安全装置(セーフティ)をも外す……アベンジャーのカメラアイが深紅に染まり、そして()()()()()()が吠えた。

 

──────────

 

(アベンジャーのプロテクト全解除?! 機体側の制限まで外すなんて……まさか?!)

 

 負傷者の手当ての合間を縫って、整備と事態の推移を見ていた透火……アベンジャーの現状を示すアラート機能に手を止め、廃駅の屋上へと上がり市街地外縁へと目を向ける……するとそこには……

 

「……嘘……まさか、2機も……何で?!」

 

 細部やカスタム具合から、原作と同じグレイズ・アインではない事は一目瞭然だったが……特徴的なカラーリングと連携の挙動に、パイロットを確信する……

 

「ルーギスとクルーガー……あの2人が、阿頼耶識の被験者になったのね……よりにもよって、最悪だわ……!」

 

 アインの負傷回避によって、グレイズ・アインの出現は避けられるかもしれない……禍月の奮闘によって達成されたこの事態に、透火は回避不能な三日月の致命的な問題シナリオ回避を夢見た。

 だが、その結果は却って更なる絶望を招いていたのだ。

 

 グレイズ・アインを越える性能を持つであろう「グレイズ・ファントム」……それが2機、搭乗者の欲望のままに、禍月に対する復讐心を剥き出しにして迫る。

 

「……なんでよ……何でこんな……!」

 

 このままでは今まで描いていたシナリオも、鉄華団の未来も……そして自分の目的すら果たせず、全員が犬死にも同然の未来しかない……しかし、何とかしようものの……フラッグは損傷がまだ直しきれず稼働させられないし、そもそも自分自身がMSのコクピットに座れない……

 

 座ればまたまた()()()()が来るかもしれない……

 

 頭では有り得ないと思っても、身体はそうだと思い込んでいる。

 ……その為もう何日もの間、透火はフラッグのコクピットに入れず……かといって他の整備士ではフラッグの制御系を理解出来ないので、代わって貰う事も出来ないまま……

 

 フラッグの整備は途中放棄されていた。

 

(……もう、禍月に頼るしかない……でも、あの2人が相手で、しかも阿頼耶識のグレイズとなると……勝てる見込みが……!)

 

『……ックソ……だからって……負け……堪るか……ッ!! ようやく……前を向けそうなんだ……俺は……ミユに……未練……でも、こっちじゃ……えな……!』

 

 アベンジャーの左肩装甲がドリルクローで抉られ、バランスを失うも追撃をかわし……尚且つ反撃に出るアベンジャー。

 通信機から、禍月の声が途切れながらも聞こえる……この回線は転生者同士の直接通信にのみ使われるものなので、他の誰にも聞こえない……聞ける者は禍月と透火の2人だけだ。

 

『けど、俺は……なっちまってる……アイツを……アイツが居るから……今、戦えるんだ!』

 

 その時だった。

 

 ……日も傾き掛けたエドモントンの空に、一筋の光が煙の尾を引いて現れる。

 

──────────

 

着陸予想地点付近にマスターの存在を確認……

オペレーション内容を一部変更

 

敵、予想進路を解析……

 

妨害予防の為、落着地点を修正

市街地外縁から、マスター寄りの地点へ……

 

 

スラスター噴射、制動開始

落着まで、残り4……3……2……

 

──────────

 

 凄まじい轟音と共に落着したのは、どことなく見覚えのあるカラーリングのカーゴポッド……サイズはMSが1機入るくらいの大型で、全体に分散配置されたスラスターで自己誘導も可能な奴だ……

 

「……っ、もしかして……!」

 

 見覚えのあるポッドに直感が走った私は、カーゴポッドのコンソールを操作……格納扉が反応し、搭載されたMSが徐々に姿を現していく……

 

「ッ?! この機体は……!」

 

 格納扉が全解放され、完全に姿を現した1機のMS……その勇姿は、この現状を打開出来る正に『切り札』と呼べる機体だった。




原作よりもヤバい展開!!
グレイズ・ファントムが2機……禍月は不利過ぎる戦いを強いられ、透火はコクピットに恐怖で入れない。

そんな最中、宇宙から奇跡のタイミングで落着したのは1機のMS!

その正体は……?!


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第24話 もうひとりのわたし

1期の完結に相応しい機体選択のアンケート……

 ∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧
<まさかの堕天使再臨をご希望とは?!>
 ∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨



 突然空から降ってきた、1つのカーゴ……それが私の目の前にある。

 

 もうもうと上がる煙の中から現れたカーゴ……私の存在を関知したのか、封印が解かれる様に扉が開き始め、中に納められていたモノが徐々に顕となる……

 

「……ッ! コレって……!?」

 

 カーゴに搭載されていたのは、私の記憶に鮮烈に焼き付いた……()()M()S()だった。

 

(……もしかして、船のシステムがフラッグの性能不足を判断して……?)

 

 カーゴに近付き、機体の外観をチェックする……カーゴ・ポッドに守られて大気圏を降下してきたので、機体には一切の傷もなく……製造されて間もない新品だ。

 

 確かにあの船には、私が知り得る全ての機体の設計図や、既知の技術を応用できる様……AGEシステムとビルダーを直結・内包する形で、艦内を管理する制御システムを構築しておいた。

 

 ……それがまさか、私の現状を把握してこんな世話を焼いてくるなど、夢にも思わなかったけど。

 

(……でも……)

 

 今の私に、コレは扱えない……もう側に立つだけで体が少し震えている。

 ここは格納庫ではない……機体はカーゴに納められているとはいえ、ここは外だ……つまり、ここは戦場も同然。

 

「……でも……」

 

 禍月が戦ってる……彼が戦うという事は、私も戦わなければいけない……

 それが私のやるべき事だった……やらなければならない事だった。

 

 ……でも、私は動けない……体が動かないよ……

 

 

 どれだけ遠ざけても「それ」はずっと側に潜んでる……

 私は心から笑えない……だって、そんな事をしたら……また失うかもしれないから。

 

 優しかった両親……過去の記憶にあった、生まれた研究所の職員さん達、そして……私を造ったお父様……

 

 みんな、私を笑わせてくれた……みんな私と一緒に笑ってくれた。

 

 でも、みんな例外なく……私のせいで居なくなった。

 ……私の前から消えていった。

 

 私はどうしたら良かったの? 「わたし」はどうしていればよかったの?

 

 くらくとざされた「やみ」のなかで、とけないもんだいにあたまをなやませる……そんなときだ……わたしのなかにもうひとりの「わたし」がうまれた……

 

 もうひとりの「わたし」は、すべてにぜつぼうした「わたし」のかわりになった……

 わたしのかわりに、りふじんにあらがっていきぬこうとしてくれた。

 

 あのおおきなアクマにも、ゆうかんにたちむかっていた……

 

 でも、さいごのさいごにかげんをまちがって……「わたしたち」は「ちがうじげんのかこ」にとばされてしてしまった。

 

 もうひとりの「わたし」は、それでもあきらめずにあらがったけど……めのまえにせまった「きょうふ」にかてなかった。

 

 わたしはもう、どうしたらいいかわからない……

 もうひとりの「わたし」も、きょうふでからだが「たたかう」ことをきょぜつしている……

 

 わたしは「むりょく」だ……

 ヒトをこえた「ちから」をもっていても、ヒトには「できないことをできる」そんざいだとしても……

 

 でも、「わたしたち」なら……ふたりなら……

 

 

 意識が飛んでいた事に気付き頭を振るが、それで状況が変わる事はない……相変わらず、市街地の方からは戦闘音がひっきりなしに聞こえていた。

 

──────────

 

 ギャラルホルン側も混乱しているのか、どの部隊も動きを止め……市街地で繰り広げられている戦闘をただ見ているだけだ。

 

『昭弘……アレ、割り込めそう?』

 

『正直言えば、無理かも知れねぇ……逆に軽く捻られそうだ』

 

 三日月と昭弘の会話のとおり……禍月と敵2体の激戦は、苛烈すぎて入り込む余地など皆無だった。

 

 だが、状況は禍月が不利……只でさえ性能差を埋められ、阿頼耶識による超反応も踏まえた連携をしてくる敵に対して、禍月は孤軍奮闘……ジリ貧に変わりはない。

 

『……ミカ……こえるか……? ……事なら、禍月……援護に……』

 

 途切れ掛けた通信から、オルガの指示が入ってくる……指示を確認すると、禍月が無事な内に議会の会場まで車で蒔苗氏を護送するとのこと……可能なら禍月の援護に向かえともあった。

 

「でも、オルガは出来そうなら()()ってさ……」

 

「マジか……まぁ、お前ならやっちまいそうな気がするがな……」

 

 バルバトスとグシオンは、ギャラルホルンのMSを蹴散らした後に市街地へと進もうとするが……その足はまたしても青いMSに止められた。

 

『貴様らネズミにやられっぱなしにはならん!』

 

『……奴は……あっちか? ッ?! 特務三佐! アレを!!』

 

 アインとガエリオが鉄華団の前に立ちはだかる……が、アインの指す方向を見てガエリオは我が目を疑った。

 

『な……ッ?! 馬鹿な!! 市街地にMSを近付けただとぉ?!』

 

 しかも、禍月の乗るアベンジャーに攻撃を加えているグレイズ・ファントムが自軍の所属であるという事に更に驚愕した。

 しかし、三日月と昭弘がアベンジャーを援護しようと動き始めたのをきっかけに我を取り戻し、三日月達を止めるべく立ちはだかった。

 

『MSをこれ以上街に近付けるな!!』

 

 しかし、既にグレイズ・ファントムが2機も動き回っているので、その説得は意味を成さない……三日月と昭弘は無視して強行突破しようとしたために揃ってアインとガエリオは彼らを止めに入った。

 

『……邪魔!』

 

『貴様らッ!!』

 

『行かせるわけには……!!』

 

──────────

 

 三日月達の様子に気付き、透火が防衛線側を見る……その光景は原作とは違う展開、三日月達が介入出来ない状況に焦りだす。

 

(やっぱりガエリオは単独じゃない……コレじゃ禍月が……?!)

 

 状況を打開するには、目の前にある()()()()を動かすしかない……しかし、私は……

 

《……ごめんなさい……》

 

「え……っ?」

 

 頭の中に響く、知らない声……知らないのに安心できる……不思議な少女の声だ。

 

「誰……なの? 頭の中に……」

 

《……わたしはあなた、あなたはもうひとりのわたし。

 

 ……セファー(透火)、わたしはもうひとりのあなた(アリス)……ごめんなさい……ほんとうは、わたしがあなたのかわりに……このせかいをどうにかしなくてはならなかったのに……》

 

 この頭の中に響く声……それは大昔に私だった少女(前の体の元の主)……アリスと呼ばれた、過去の記憶に遺された……もうひとりの私。

 

(ううん、コレは私の自業自得……だから私は自分が許せないよ……禍月は今も1人で戦ってるのに……!)

 

 禍月が戦ってるのに、肝心な私が動けない……彼だけで対抗しようとするのはあまりにも無謀なのに……

 すぐにでも私が行って助けたい……でも、私の身体が戦場へ赴く(MSに乗る)事を拒絶してる……

 

《……あなたは「かれ」をたすけたい……わたしも「みんな」をたすけたいよ》

 

(そうよ、約束したのよ……2人で鉄華団を助けるって……それなのに……)

 

《だいじょうぶ……わたしはあなた、あなたはわたし……わたしたちふたりなら、「きょうふ」だってのりこえられる……わたしがそばにいるから》

 

 私の恐怖は孤独と暗闇……そしてヒトの悪意……でも、彼女は……アリスは『一緒に居るよ』と励ましてくれた。

 

 ……私よりもずっと重い闇に晒され、心を壊された悲しい過去を背負っているのに。

 

『……は、アイツに……束した……俺が居る……俺が守るって……!』

 

 禍月の声が、また途切れ掛けた通信から聞こえてくる……そうだ、あの時……彼は、恐怖に怯えていた私を守ると言ってくれた……私の恐怖を拭い払ってくれた。

 1人じゃない……私はもう1人じゃない……共に歩む仲間(禍月)が居る……一緒に生きる仲間(アリス)が居る……そして、今を分かち合う仲間(鉄華団のみんな)が居る……!

 

「……ははっ、バカだな私……私よりも酷い事されたアリスに慰められてるなんて……」

 

 いつの間にか身体の震えは止まっていた……でも、いつまたあの恐怖に囚われるか分からない。

 

(ねぇ、アリス……私の事、手伝ってくれる?)

 

《うん、あなたの思い……伝わってるよ……私たち2人なら、できる!》

 

 カーゴの中身を今一度確認し、起動までの手順を最速でこなす……何度も世話になった機体だ、この程度の作業なら例え視力を奪われても完璧にこなせる自信がある。

 頭部の整備用コネクターに端末を繋ぎ、機体の駆動システムを地上用セッティングへと変更……ビルダーによる建造時に更なる最適化を施されたシステムは、セッティングの変更手順すらも簡略化し、予想よりも早く作業は終わる。

 

 ふと、機体のカメラアイに映る自分の顔が見えた……その瞳はいつもの紫色ではなく、虹彩は文字通り虹色に輝き、()()()()()を取り戻した事に気付く……

 

「……ALICE(アリス)、ね……偶然なのか、必然なのか……」

 

 GUNDAM(ガンダム) SENTINEL(センチネル)に登場する可変MS、(スペリオル)ガンダムに詰まれたMSの制御用AIシステム……「Advanced Logistic&In-consequence Cognizing Equipment = 発展型論理・非論理認識装置」。

 論理では説明ができない『感情』をパイロットから学習する事で、戦闘の状況を自律的に判断する能力を獲得し、最終的には搭載されたMSの複雑な機体システムを単独で完全に制御する能力を得られるという、いわゆる育成(ボトムアップ)系の制御システムだ。

 

 あのSAO(某ネトゲアニメ)の続編にも、酷似した人格システムを造る計画があったけど……まさか名前まで彼女に似てるなんて、偶然過ぎない?

 

 ヴォン……!

 

 システムの再起動と更新が済み、機体のカメラアイが緑色に輝く……

 私は急いでボディを伝って駆け降り、駆動の邪魔をしないようにカーゴの方へと移る。

 

《思ったよりも自由に動かせる……コレなら!》

 

 頭に響くのは、さっきまでの拙い言葉ではない……私との同調によって完全な意識を取り戻した、アリスという名の少女(もう一人の私)の思考……彼女の脳量子波が私にも伝わっている証左だ。

 

《……あの2つから、嫌な感じがする……彼が危ない!》

 

「うん……アリス、お願い!」

 

 彼女(アリス)の脳量子派によって機体はカーゴから身を乗り出し、まるで籠から抜け出した鳥のように翼を広げ、そのボディは宙に浮く……純白の装具に包み、背中の翼からは排熱の蒸気と共に『オレンジ色の粒子』を撒き散らし……左手には身の丈に迫る大盾、右手には対となる大剣を携えた……白き天使の威容。

 

 ……今ここに、堕天使ザドキエル(我がかつての相棒)が再臨した。




ようやくここで過去のフラグを一つ回収……
まぁ、名前こそ同じですが彼女とシステムとしての「ALICE」とは無関係です。
……近い事は出来ますがね?

原作のALICEも疑似人格を持っており、作中でもパイロットであるリョウ・ルーツを守る様にMSを動かして敵との激戦を繰り広げ……ラストバトルはパイロットを脱出させた後、大気圏突入を慣行しながら逃げる敵の大型MAを狙撃して撃破……そして自身は大気圏の摩擦で燃え尽きる、という印象に残る名場面でした。
機械に意志が宿る……というのはさすがにオカルト染みてますが、宇宙世紀のガンダム達が繰り広げたラストバトルは、それぞれの背景こそ異なるものの……かなりオカルトチックな不可思議現象が描かれています。

さて、いよいよエドモントンでのラストバトルも大詰め……

グレイズ・ファントム×2(ルーギスとクルーガー) vs.() 復讐者(アベンジャー)()堕天使(ザドキエル)……
生き残るのは果たしてどちらか?


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第25話 今一度、過去より現れし堕天使(ザドキエル)

シーンとしては短いですが2度目とはいえ、ギャラルホルン側に多大なインパクトを与える場面なので……

そして堕天使も少し、前から変わった事を強調する回なのです。


阿頼耶識搭載のグレイズ・ファントム2機を相手に

満身創痍まで追い詰められた禍月……

 

しかし、突然起きた通信妨害を皮切りに現場の雰囲気は一変。

 

そこに現れたのは純白のMS

2対の翼と、身の丈に迫る盾と剣……

 

正しく天使の姿を模し、

その()を冠する唯一の存在……

殺戮の天使(300年前の存在)とは異なる、ヒトを守りしモノ。

 

それが堕天使と呼ばれる所以(ゆえん)のMS。

 

名を……ザドキエル(慈悲の天使)と言った。

 

──────────

 

『……オイオイ、何だぁ? この白い奴は……?

 オイ、ルーギス! ……あ? 何で通信が繋がんねぇんだよ?!』

 

 それはどの機体も同じであった……現在、戦場に展開しているMSやMW……陸上部隊や基地……ほぼ全ての無線回線は雑音と共に不通となり、有線で供給されている市街地内の民間回線のみが生きている状態。

 この現象のせいなのか、敵味方どちらの陣営も現状を把握する事が出来ない状態となっていた……

 

 ただ、1人を除いて。

 

「……あの機体、ザドキエル……堕天使、か」

 

 頭からの出血が目の方へと来ているため、若干視界が赤くなってしまっている禍月。

 しかし彼だけが、突然戦場の空中現れた機体に合点がいっていた……

 

 透火の前世……MAハシュマルと共に封印されていたポッドから救出され、当時の鉄華団を急速に建て直し、様々な危険をギリギリで回避して存続を勝ち取ろうとした少女『セファー・イツカ』……彼女が自ら設計、製造したMS。

 イレギュラーとして出現した異形のMF『デビルガンダム』と相討ちになるまで搭乗していた、擬似太陽炉搭載型の試作MS……堕天使(天使を模した悪魔)ザドキエル。

 

 背部から撒き散らされるオレンジ色の光は動力源でもある『GNドライヴ[T](タウ)』の光だ。

 本来、GNドライヴ(オリジナルの太陽炉)は緑色の光を発するが、堕天使のものは生産性を最優先に電力から『()()GN粒子』を生成する擬似太陽炉(GNドライヴ[T])である。

 そして太陽炉から放出される光……GN粒子には、電波障害という弊害こそあるものの……「質量操作」「高濃度圧縮によるビーム化」「物体に定着させる事による強度上昇」「粒子濃度操作による防御膜形成」「脳量子波の伝達」等々……数えきれない程の能力を持ち、太陽炉はそのGN粒子を半永久的に生成する事が出来る。

 

『……禍月、聴こえる?』

 

「……?! 透火? 何で聞こえて……通信障害の筈だろ?!」

 

 GN粒子による通信障害が起きているというのに、変わらず聴こえる透火の声……あり得ない事態に思わず声をあげる禍月……だが、透火の声とは違う……もう一人の声が聞こえた事で、ニュータイプの超感覚が瞬時に答えを導き出した。

 

《彼、怪我をしてる……大丈夫?》

 

「……なるほど、脳量子波か……俺の頭がイカれたかと思ったぜ」

 

 深くは知らなくとも、禍月は元々ガンダムに関する知識を広く持っていた。

 転生してニュータイプ能力に振り回され難いのも、前以てそういう事が起こり得る……と、気構えが出来ていたから。

 

 ……勿論、脳量子波という能力についても既に予習済みなのである。

 

《意外と大丈夫そう……?》

 

「ああ、問題ない……この程度ならな」

 

 頭から血を流しながらも、問題ない……と言い張る禍月の強がりに、透火とアリスは揃って『アンタ馬鹿ァ?!』と心の中でツッコミたくなるのを必死で堪える。

 

『……と・に・か・く! ザドキエル……アリスが手伝ってくれるから、私も戦う!』

 

 その声に合わせるかの如く、堕天使ザドキエルは右手の大剣……GNソードを展開し、シールドと共に構える。

 

 その挙動に、敏感に反応したのは赤いグレイズ・ファントム……クルーガーの方であった。

 

『なんだぁ? 俺と殺ろうってのかよ……? ハッ、上等じゃねーか!』

 

《彼をやらせはしないわ……!》

 

 透火の意に沿って、アリスの意思を以て動く堕天使の左腕が赤いグレイズ・ファントムの方を向く……ガコン、と鈍い音と共にシールドが割り開かれ、現れた砲身……その先端に集う光を見た瞬間、クルーガーは言い知れない悪寒に襲われ、急いで機体を横に走らせる。

 

「……あっ、オイ待て止め……!」

『……えっ? ちょ、それはダメ……!』

 

《……逃がさないんだから……っ!!》

 

 禍月と透火も、アリスのその行動に異を唱えるが……既にオレンジ色の光の束が市街地を移動する赤い大型機に直撃する寸前であった。

 

『チィッ、何なんだ……っ!! ビーム兵器だとぉ?!』

 

 堕天使の射線から避けた筈のクルーガーの機体に、オレンジ色の光が直撃……その光は確かに当たっている……が、ナノラミネートアーマー故にその光はまるで撥水コーティングされた布が水を弾く様に装甲表面を湾曲してあらぬ方向へと曲げられた。

 しかし、当てられたクルーガーの脳裏には当てられた事による驚愕ではなく……その武装そのものの存在に違和感を感じていた。

 

『……その姿……その武装……まさか、300年前の技術……?!』

 

 禍月のアベンジャーを挟んで反対側に立っており、クルーガーの一連の行動を見ているしかなかったルーギスの声も震えていた。

 

 ……あり得ないのだ、MS(悪魔)ビーム兵器を持つ(光を操る)など……

 

 あり得ないのだ……天使(MA)の姿を模したMS(悪魔)が居るなど……

 

 ……それはとうの昔に(MAの技術は厄災戦で)失われた筈なのだから。

 

『何なんだよテメェは……! その力は……ッ?!』

 

 ザドキエルの放ったビームはナノラミネートアーマーで弾かれるも、装甲表面に弾かれ湾曲して更に中空を進み続け、幸いにも市街地には被害を及ぼす事なく誰も居ない荒野に着弾……

 そして、当てられたクルーガーのグレイズ・ファントムの装甲は無事だったが、直撃を受けた瞬間……装甲に守られず露出していた関節や、腰にマウントしていたバトルアックス……左肩に内蔵されているマシンガン等……機体の一部が熱融解しており、完全に無事とは言えなかった。

 

「……マジかよ、ナノラミネートアーマーで止めきれなかった……?!」

『……嘘……前より出力上がってない……?!』

《……え、装甲で弾かれた……?! でもダメージは受けてる……》

 

 そして、想定よりも与えたダメージが大きい事に……結果を予測していた禍月と透火……そして、予想だにしなかった結果にアリス本人も驚いていた。

 

『……って、そうじゃなくてアリス! ソレ撃つのは市街地じゃダメよ?! もし建物に当たったら……!!』

「市街地でナノラミネートアーマー持ちにビームを撃つんじゃねえよ?! 弾かれて流れ弾で大惨事だぞ!!」

 

《ご、ゴメンナサイ!! 手っ取り早く攻撃当てて彼から遠ざけたくて……ごめんなさいぃ~(´;ω;`)》

 

 実の所、透火もアリスも厄災戦当時の記憶は全く持っていない……しかし、透火の人格は元々転生者であり、セファーの時にナノラミネートアーマーの技術や効果は数えきれぬ程に履修済みである。

 しかし、つい最近目覚めたばかりのアリスはそんな事など何一つ知らない……この不手際は記憶と人格が違う故に起こった事故であった。

 

 

『……その姿、その力……まさか300年前の亡霊がまだ彷徨っていようとは……!』

 

『テメェ、そのふざけたナリ……大昔の天使でも語ろうってのかよ……上等だ!!』

 

 未だ声色に僅かな驚愕の色は残るものの、クルーガーとルーギスは明確にザドキエルを敵と認識した。

 そのザドキエルはアベンジャーの傍らに移動し、地上2mほどに浮かぶ……その姿は戦場の何処からでも確認できた。

 

「……堕天使だ……」

 

 戦場の片隅でギャラルホルン兵士の誰かが口にした、空想の存在……後にこの時のザドキエルは、この世界のギャラルホルン内部で『()()()()()()』と呼ばれ、恐れられる事になる。




作中の説明でややこしいと思われた方、スミマセン!
ザドキエルの放つ「()()GN粒子」では本来、脳量子波の伝達は起こりません。
脳量子波の伝達は本家のGN粒子が持つ能力です。

ですが、アリスの脳量子波と禍月のニュータイプ能力はどちらもかなり優れており、なおかつ堕天使にはサイコフレームがあるので、GN粒子の仲介が無くても通じ合えた……今話で透火達の会話が成り立っている理由はそういう事です。

あまり作中で長々と語りたくないのでココに補足としました。
……まぁ、一周目(本編)を閲覧してた方は履修済みかと思いますがw

次回、ついに決戦スタート!
そして禍月が何かするつもり……脳内BGM推奨かも?


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第26話 Re:転生したら(戦場)の中で輝いてしまっ(愛を叫ばれ)た件

……何でこのタイトルなのかは、察してください(マテ

ついにエドモントン最後の戦いが終わる……
生体ユニット型阿頼耶識を持つ大型MSグレイズ・ファントム2機を相手にするのは、満身創痍ながらも気迫の衰えない男、禍月桐谷の駆るアベンジャー(復讐者)
そして、300年前の禁忌と奇跡が生んだ少女、アリスの操るザドキエル(堕天使)……

……この戦いの結末は、彼らに委ねられた。


 2機のグレイズ・ファントムと睨み合う、堕天使(ザドキエル)復讐者(アベンジャー)……

 

 唐突にアベンジャーが、使い物にならなくなった左腕を引っこ抜いた時……透火は呆気に取られてしまっていた。

 だがその行動を皮切りに堕天使(ザドキエル)を操るアリスも、赤いグレイズ・ファントムのクルーガーを相手取って攻勢に出る。

 

 まずは牽制を含めて便利な装備、超硬ワイヤーを用いたテイルブレードを射出。

 建物で出来た死角……足元、背後、機体のカメラの死角を伝い、アリスの脳量子波を読み取って堕天使のテイルブレードが伸びる。

 

『チィッ?! コイツ、死角を突いて……!』

 

 しかし、そこはギャラルホルンでも実力のあるクルーガー……いち早く気付いた彼はテイルブレードの動線を察知しすぐさまその場から離れる。

 追撃に堕天使は右腕のGNソードで凪ぎ払うが、それも回避……しかし、アリスは機体をそのまま回し続けて左腕のシールド先端……振動破砕クローを展開し更なる追い打ちを仕掛けた。

 

『なんだこの動き……人が乗ってやれる動きじゃねぇ……!?』

 

 三度目の追撃も躱しきったクルーガーだが、堕天使の挙動に違和感を覚えた。

 

《そりゃあ、乗ってる訳じゃ……ないもん……ねッ!!》

 

 機体の回転に捻りを加え、反動をも上手く利用し縦回転へと挙動を変えてGNソードを振り下ろす。

 ジャンプとスラスターでクルーガーは避けるが、その行動を取った事でクルーガー自身が「チッ、しくじった!」と舌打ちした。

 

《こうやって追い出せれば、撃っても良いよねッ!!》

 

 クルーガーの舌打ちは、自身が市街地から外へと追いやられていた事によるものだった。

 アリスは自身の言葉も食い気味に急制動からのビームキャノンを放ち……避けた所を狙い低空突撃からのテイルブレード……からのGNソード、振動破砕クロー、ビームキャノン……と連撃に連撃を重ねる。

 

 しかし防戦一方ではあるものの、アリスの猛攻を(ことごと)く避け続けるクルーガー……やはり彼は強い。

 

 いったん攻勢を止め、アリスは再びクルーガーの出方を探る……

 だが、その後に響いた声に……戦場の誰もが己の耳を疑った。

 

──────────

 

 きっかけが何なのかは分からない……そもそも、こんな所であんな事を言われたのは初めてだ。

 

 普通は「死亡フラグ」とか言って忌諱するもんじゃないの?

 冗談にしては必死過ぎる声に、私の心は平静を保っていられなくなってしまった。

 

『……透火ぁッ!』

 

 脳量子波じゃない……この声はオープンチャンネル、いや、外部スピーカーだ。

 無線通信は軒並みGN粒子で不通だし、脳量子波だったら私とアリスにしか聞こえない……

 

 だがこの声は、私以外……

 治療が一段落したアトラちゃんやメリビットさん、護衛メンバーの一部など……拠点にしていたこの廃駅の屋上へ、現状を把握しに上がって来ていた全員の耳にも聞こえていたのだから。

 

 ちなみに、私は堕天使の再起動を済ませてすぐココに戻って来ていた。

 ……遠目とはいえ、カーゴポッドに登って見るよりも近くて高い位置だしね。

 

『好きだぁぁぁぁぁ──────!!!!』

 

 そして、戦場に響き渡った一言が()()である……

 

「……え? ちょ……はぁ!?」Σ(Д゚;/)/

 

 これには私を含むこの場の全員が呆気に取られるしか無かった……

 そしてたっぷり10秒以上の音のない時間が続き、私はようやく視界にアトラちゃんが入り込んだ事に気付いた。

 

「……透火さん……」

 

 神妙な面持ちで言葉を紡ぐアトラちゃん……いつの間にかメリビットさんも私の隣に来てるし、鉄華団の待機組も後ろで何やら騒いでいる……

 

「これって()()ですよねっ!?」

 

 満面の笑みで食い入るアトラちゃんの眼差しが痛い……無言で私の肩に手を置き、笑顔を見せるメリビットさんの視線が辛い。

 

《彼、凄いね……こんな状況で愛の告白……》( 〃▽〃)

 

『うっさい!!』

 

 脳量子波で煽ってくるアリスに対して、私はこみ上げてくる気恥ずかしさを誤魔化すように叫ばずには居られなかった……

 

──────────

 

『……は……? 何だアイツ? 戦場で告白とか、トチ狂ったかあの野郎……』

 

 さしもの熟練パイロットであるクルーガーも、禍月の常軌を逸した発言に気を取られる……

 

 そして致命的なその隙を、アリスはしっかりと捉えていた。

 

《……捕まえ、たッ!!》

 

 テイルブレードがクルーガーの機体の左足を捉え、深々と突き刺さる……すぐさま反応してクルーガーはワイヤーを切断する為に腰のバトルアックスを握……ろうとするが、その腕は既にGNソードの刀身によって本体から斬り飛ばされていた。

 

(俺の反応速度を超えて来やがった……!?)

 

 クルーガーは堕天使の挙動と反応速度に、更なる違和感を覚える……先程までの攻防でも、人体の制限を完全に無視した速度、急制動からの淀みない反動利用……そして、人体の限界を軽く上回る反応速度だ……

 

『……テメェも阿頼耶識積んでやがるのか?! 俺を上回るとは……テメェ、本当に人間か?』

 

 クルーガーは通信の繋がらない相手に言葉を紡ぐ……が、残念ながら返事は帰って来ない。

 仮にGN粒子が撒かれていようが……堕天使を操るアリスには、サイコフレームか脳量子波による意識伝達以外、相手に言葉を伝える事は出来ないのだから。

 

《……元が人間じゃないのは確かね、でも……》

 

 しかし、届かずとも律儀に答えるアリス。

 そして彼女にとっては……ヒトかそうでないかなど些細な事だった。

 

《私の元が何だろうと……私は彼女の為に戦う、前世で彼女が……私の代わりになってくれた様に……今度は私が、彼女を助けるの!》

 

 自我崩壊寸前であった彼女(アリス)の代わりに、当初は自覚なしに矢面に立った……後にアリスの記憶を垣間見て交感し、それでもなお最後まで立場を全うしようとした少女(セファー)

 更に転生してからも、変わる事なく()()()()()()を律儀に守っている……傷付いても何とかしようと抗っている……だから。

 

《今度は一緒に戦うの……2人で、一緒にっ!!》

 

 アリスの声に呼応するかの様に、堕天使の挙動はキレを増し……段々と赤いグレイズ・ファントムを追い詰めていく。

 

『テメ……!? クソッ、この俺が……負ける……だとぉ?!』

 

 最早機械化された肉体でも捌き切れない、グレイズ・ファントムの反応速度を超えてくる連撃……堕天使の振るうGNソードの斬れ味は、正確にナノラミネートアーマーの隙間、関節部、構造上の脆弱な部分……動き回る相手に対し的確に振るわれる。

 クルーガーの操作に不備はない……むしろ彼の技量は、MS戦におけるあらゆる面で屈指の実力を誇っている。

 

 しかし、今回は相手が悪かった……

 

 阿頼耶識システムを搭載したグレイズ・ファントムは、カタログスペック上ギャラルホルンでも最高レベルの機体だ。

 だが、あくまでも阿頼耶識システムは、人間の持つ能力を引き出すもの……

 

 サイコフレームの持つ驚異的演算能力と、脳量子波による情報共有……そしてパイロットが搭乗する必要がない事による挙動の制限もない堕天使との能力差は……有人機と遜色なく、状況を正確に把握し、そして完璧に制御されるのであれば……優劣など言うまでもない。

 

 どれ程グレイズ・ファントムが優れていようと……有人機故の超えられない壁は、堕天使(無人機)との性能差の間に横たわっていた。

 

『……何が……楽な仕事だ……ケッ、こんな化け物……相手とか……冗談……

 

 マ……リスの野郎……俺らを……嵌め……って……ッ』

 

 1つの衝撃の後、苦し紛れに悪態を吐くクルーガー……コクピット内の彼は最早瞳に光もなく……機体側に付いている生命維持装置が辛うじて彼の生命を繋ぎ止めている状況だ。

 機体も既に四肢は断裂し、全身を刻まれ装甲は砕かれ、自慢のバスターソードも既に失っており、力なく膝で立つだけ……

 

 対して、傷1つ無く傍らに浮かび、大剣の切っ先を相手の胸部へと突き刺している堕天使……

 

 誰の目にも明らかな勝敗の結果は……夕焼け空に変わっていくエドモントンの街中に、奇妙な静寂と、抗えない畏怖を撒き散らすのであった。




……とりあえず決着です。

まぁ、判断や把握が的確で制御もマトモなら
行動の制限なく動ける無人機に軍配が上がるのも道理……

なお、アリスの脳量子波による堕天使の強さは……
つまるところ『()()()()()()()()()()()()と化したヒイロの乗るウイングゼロ』レベルです。

……やりすぎやがなwww
これでもアリスちゃん本気じゃないとかマジキチ?()


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第27話 それは目覚めて間もない、しかしはっきりと自覚したモノ

長らくお待たせ致しました。
その割にはなんかメチャクチャかもしれない……許してぇ

1期のシナリオはもう少しだけ続きます……
三日月達の方が騒がしいけど、多分マッキーのせいよね?



 堕天使と赤いグレイズ・ファントムが、夕焼けに浮かぶ彫像の様な姿を晒す。

 透火は廃駅の屋上で戦闘の一部始終を見守るだけだったが、その脳と精神は疲労困憊状態である……

 

 それは、間違いなく戦闘行動によるものだ。

 

 アリスの完全覚醒により、彼女の脳量子波を介する事で、超性能を誇る堕天使をほぼノータイムで遠隔コントロールする事は可能だった……が、その方向性や瞬間的な判断など、完璧な自律行動に見えた行動や、取捨選択の判断全ては透火自身が行っていた。

 脳量子波を介して、アリスから渡される堕天使の戦況やステータス情報……阿頼耶識にも匹敵する程の膨大な情報の奔流……それを彼女は全て捌き、状況判断をこなし、次に打つ手を踏まえてアリスへと指示を出す……

 如何にアリスの脳量子波で堕天使を動かせるとしても、ズブの素人にMSでの戦闘など不可能……その為透火は、グレイズ・ファントムとの戦闘が終了するまでの20数分間、先読みを含めた挙動の細かな対応をアリスに指示し続けた……

 

 アリスは意識と人格こそ固有の存在……なのだが、透火の身体を共有している為、制御の際に掛かる負荷のフィードバック先は勿論透火となる。

 

(頭が……割れそう……もう、立ってるのもやっとだ……)

 

《大丈夫? 私……初めてMSを動かすから、どうやれば良いのか全然分からなくて……》

 

 透火の思考を読む事で、アリスは堕天使のスペックや動かし方……敵対存在への対処法などを実戦で習得しながら戦い、クルーガーに勝利した……だが制御時のフィードバックと、アリス側との思考速度差による脳の酷使で、透火は頭痛と倦怠感に苛まれていた。

 

(あはは……そうなんだ……とんだ実戦訓練になったけど、後の方は上手く連携も取れてたし……頭痛はもう大丈夫、だよ……)

 

 少しずつ頭痛は収まってきたので私は歩き始めるが、その足は既にフラフラ……高速思考の反動で身体の感覚が一時的に歪んでいるのか、5歩も歩けずバランスを崩してしまう。

 

「……っと、大丈夫? また寝不足にでもなった?」

 

 崩れ落ちる私を支えてくれたメリビットさんには感謝だが、今回も寝不足になってると疑われたのは遺憾である……

 しかし意識朦朧な私は言い訳も文句も言えず……私はアリスに堕天使を任せ、意識を手放すしかなかった。

 

──────────

 

 後日……蓋を開ければ、ほぼ原作通りに1期のシナリオはほぼ終了。

 

 アーブラウ代表選は、原作よりも危険度の低い状況下で護送された蒔苗氏が無事に代表へと再選を果たし……クーデリアの演説も相まって、火星圏に対する人々の関心は否応無く上がった。

 それと同時に、今回の戦闘で市街地に入り込んだギャラルホルンのMS「グレイズ・ファントム」と堕天使の話題は地球圏で持ちきりとなり、エドモントンのライフラインに大きなダメージを与えた責任をギャラルホルンと鉄華団は追及されたのだが……

 

「この機体にエイハブ・リアクターは積まれてません!

 ……お疑いなら、今この場ですぐ稼働実験でも何でも行う用意があります!」

 

 機体の管理責任者として私は、戦後処理中にも関わらず詰め寄った報道関係者全員の前で、決めつける様な悪者扱いの苛立ちをぶつける様に啖呵をきり……納得、というより僅かな疑いすら持てなくする為、大々的な実験を疑い様のない形……複数のテレビ局に同時生放送で公開させた。

 

 その結果、鉄華団へと向けられていた「MSによる都市機能へダメージを与えた」罪は、完全にギャラルホルン側(グレイズ・ファントム)の行動が原因だと結論付けられる事となる。

 

 最も、エイハブ・リアクターを不要とする機体……しかも、ギャラルホルンを圧倒せしめるMSの存在は、世界にとって「劇薬」に等しい……

 現状「エイハブ・リアクターはギャラルホルンにしか製造できない」という決定的なアドバンテージと「MSはエイハブ・リアクターを積んでいる」故に、ギャラルホルンは勢力を不動の物にしていた……

 テイワズ時代に開発した「フラッグ」はさ、ナノラミネートアーマーとエイハブ・リアクターによるアドバンテージを越え難いスペックではあるけど……見た目からMSとは思われ難いのか、何故か黙認されていたみたい……解せぬ。

 

 堕天使の異名を持つMS『ザドキエル』は完全なエイハブ・リアクター非搭載のMSであり、その戦闘能力は事実上、ギャラルホルンのMSをはるかに上回る……しかもエドモントンの戦闘そのものは、ギャラルホルンの情報統制によりメディアにこそ取り上げられないものの、一部の市民には直に目撃されている。

 

 他人の口って、どう足掻いても塞ぎきるなんて不可能よね……

 

 そこで私は、アリスにザドキエルを大気圏外まで離脱させ、軌道上に待機している改造船へと戻すよう頼んだ……すると船は独自判断で船体を光学迷彩「ミラージュコロイド」で隠したとの事……改造船にミラージュコロイドが積まれてるのはAGEシステムによる「進化」のお陰だ。

 

 なお、堕天使はメンテナンスを受けると共に、アリスの脳量子波と制御システムをマッチングさせる処理が行われた事で……正式にアリスの戦闘用MS(カラダ)となった。

 更にアリスの意識をデータとして移植、サイコフレームの演算領域に人格システムを形成……MS操縦のイロハは、鉄華団の戦闘データやレコードから自己学習している……これによりアリスは疑似人格OSとしての側面も確立し、堕天使はほぼ完全に彼女の身体(もの)となった……なお()()として、正規搭乗者には透火の名が登録され、非公式ながら堕天使は鉄華団の機体として仲間内に認知される事となった。

 

 また、ギャラルホルンには時々、堕天使の姿を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事で、「堕天使と鉄華団は無関係である」と無理やり納得さ(黙ら)せている。

 

 まぁ、ぶっちゃけ……堕天使は単独での飛翔や大気圏往還能力、オマケに光学迷彩も備えているので()()()()()()()()()という演出は得意中の得意ですし、どんだけギャラルホルンが大群で囲んでも……量子ジャンプですぐに「あばよ、とっつぁん!(離脱)」できますからw

 ちなみにアリスはこの撹乱作戦を「お散歩」と称し、不定期ながら嬉々としてやっているとの事。

 

 次に……鉄華団は今回の功績で原作通り、アーブラウ政府から軍事顧問への抜擢を打診された。

 原作ではこの戦い以降も、鉄華団の活躍は少年兵の有用性を世間に知らしめるが故に、若年労働者……要は貧困層の子供達が「稼ぐ為に」身を売り、それを体よく利用する組織が急増、ヒューマンデブリ増加の助長と違法な阿頼耶識施術の横行を招き……歪な世界を更に歪める結果となっている。

 しかし鉄華団的には、理由や背景がどうあれ大抜擢には間違いないし、テイワズにも利益をもたらすこの結果は最上この上無い……

 

 だから私は団長に直訴し、軍事顧問として地球に残るメンバーを慎重に選んで貰った。

 

 その結果、私や禍月、チャドさん達など……年少組を纏めながら大人と付き合える顔ぶれが残る事になった。

 まぁ、私自身はどっちでも良かったんだけどね……

 

──────────

 

 さて、あの日の後……禍月はまたしても倒れた。

 

 当初は私が意識していなかった事もあり、禍月のアベンジャーがボロボロになっていてもさほど気にも止めなかった。

 だが、アベンジャーから回収した戦闘レコードを解析し始めた直後から……私は絶句した。

 

「……何なのよ……これ……?!」

 

 システムログに表示された「HADES(ハデス)」の文字列……その後のシステムログと機体の挙動を記録したデータは見るに絶えないものだった。

 何故? としか言えない……アベンジャーのシステムはほとんど解析を済ませ、EXAMシステムにも封印(リミッター)を掛けた。

 その上でインターフェイス周りにも手を入れ、万が一EXAMが起動しても、その負荷を大きく抑えられる筈だった……しかし、EXAMの代わりに起動したのは、危惧していたEXAMよりも更に胸糞悪さを増したモノ……

 

 ペイルライダーに実装された非人道的なMS制御システム、HADES(ハデス)……

 

 それはパイロット自身を制御システムの一部として見なし、システムの最適解を強制的にパイロットへフィードバックさせる……要はパイロットを取り替え可能な生体部品として扱うシステムだ。

 

 もちろん、常人に扱える代物じゃないし……仮に使えたとしても、稼働中の凄まじい負荷と解放後の後遺症から、完全にマトモな思考が出来なくなるという、廃人作成装置とでも呼べるシステムだ。

 

「なんで……なんで、こんな……」

 

 私は激しく後悔した……彼の()()を甘くみていたのだ。

 

 HADESなんてモノを使えば、タダでは済まない事など百も招致のはず……しかし、躊躇なく稼働したシステムは、彼は己の精神を犠牲にルーギスを倒したのだ。

 

《……ごめんなさい、貴女に辛い事ばかり押し付けて……》

 

 脳量子波でアリスが謝罪してくるが、アリスに罪はない……もちろん禍月にも。

 原因は私だ……私がアベンジャーを完全解析できていれば、ここまで酷い事態は回避できたはず……

 

《それは違うよ……彼の意図じゃない、あのシステムの起動は、彼も意図してなかったわ》

 

 アリスは、堕天使の制御の傍らで……アベンジャーのシステムの変遷には気付いていた。

 しかし、目の前の敵への対処を怠る訳にも行かず、早急に透火の負担を減らすべく、堕天使の制御をモノにする為にも……それ以上気を向ける余裕などなかったのだ。

 

 禍月は脳にダメージを受け、移動式の医療ポッドで治療中……身体的な負傷は既に完治しているが、脳のダメージは予想よりも深刻で、あれからもう1週間は経つが……未だに目覚める兆候はなかった。

 

「……バカだな……私って……守ると言われて、彼の大変さを知ったつもりで分かってなくて……結局は私のせいでこんな事に……」

 

 アベンジャーの機体は最早修復不可能なレベルまで損壊している為、堕天使を使って軌道上の船に運び解体作業中である。

 彼が目覚めない以上、喩え修復できてもパイロット不在では何の役にも立たない……それに、新型の約束もあるし、アベンジャーがここまで危険なMSだと判明したので、有無を言わさず解体確定。

 

 しかし、この時既に完成度65%に到達した例の新型機も……彼が目覚めなければ無用の長物である。

 

(彼に謝らなきゃ……私のせいで危険な目に遇わせてばっかだ……)

 

 独りごちる透火だが、アリスは逆だと考えていた。

 

《逆でしょ? 貴女に謝って貰わなきゃ! アレだけの事をやっといて、さんざん心配掛けたまま放置プレイとか……何様よ!》

 

(……放置プレイ……アリス、何処でそんな言葉覚えたのよ……)

 

 戦場のど真ん中……あのエドモントン戦の最中での告白。

 

 端から見れば完全に頭がおかしくなったと思われるだろうが、禍月はあの宇宙世紀を生き抜いた歴戦のパイロットであり、転生者……チートの権化とも言うべき強さを持った超人(のニュータイプ)だ。

 

 自分たち(透火とアリス)の存在もあり、この世界の原作乖離はもはや待った無し……

 彼が何を思ってあの時に告白したかは分からないが、彼の真摯な想いは透火にしっかりと伝わっていた。

 

「……少なくとも、告白の返事くらい……しないとね……」

 

 私はあれからずっと禍月の治療ポッドを毎日の様に見に来ている。

 単に気になるからだけではない……目を覚ましたら、ちゃんと彼と向き合おうと思っているからだ。

 

 そりゃあ最初は『なにこの男』と、敬遠してた……あの時、薄暗くなった公園で不意の遭遇した時は、敵かもしれないとまで思ったし。

 

 だが目的を同じくし、互いに弱点を補い合える関係だと気付いてから、彼との関係……彼と会う事が少しずつ楽しみになっていた……

 趣味の話も彼のノリが良いし、周囲は既に双方好意的だと囃し立て、義父(名瀬)さんや団長さん(オルガ兄)、ラフタ姉さん達も私たちを微笑ましく見ていた。

 

 私が彼に対する好意を自覚したのは、あの雪原の決闘後……襲われた私の事で禍月がキレたと聞いた頃だった。

 

(……あの禍月が、ね……そりゃあ悪い気はしないけど……そっか……彼、本気で私を……)

 

 この頃から私は、薄々だが禍月の想いを感じ始めていた……日頃のアベンジャーの整備も良く手伝ってくれるし、差し入れもマメに持って来てくれる……

 そんな時が続いた事で、私はぼんやりと『彼と共に歩む未来』を妄想するに至っていた。

 

(前世でも妻子を大事にしてたみたいだし……私も、彼となら……悪くはない……かな)

 

 そしてここに至って、悪癖でもある妄想が止まらなくなり始める……

 

 多少()()な事も妄想したし、ついぞ前世では叶わなかった夢の展開も(妄想で)仮想体験した……思いの外マッチしてて逆に軽くドン引きした出来事もあった。

 

 ただ、現実は非情なものである……迫り来る敵、次から次へと降り掛かる無茶振り、再転生の影響(トラウマ)、そして……原作乖離の影響(グレイズ・ファントム)との戦い……恋愛感情など感じる以前に問題山積みでは、好きもくそもあるわけ無い。

 

 だから禍月のあの告白が無かったら、多分私はこの感情を胸に秘めたまま……永遠に陽の目を見ること無く終わらせてしまっただろう。

 

 今、私は……同じ転生者として出逢った彼、禍月桐谷の事が好きなのだ。

 自覚したが故に、もう隠しきれない……止められもしない……

 

 ……やっぱり彼に、謝らなきゃ。




エドモントンで大暴れした堕天使……
モデル的には前世の改造バージョンから更に手を加えられ、副翼に内蔵されたメインスラスターは、ターンAガンダムに採用されたフラクタル構造のスラスターベーンへと進化しており、擬似太陽炉に頼らずとも飛翔可能……よりターンタイプに近くなっている。
(詳細はいつもの機体解説に)
その為、有限である擬似太陽炉の出力をセーブしながら戦う事も可能。
これにより、エドモントン戦での電波撹乱の影響も最小限に抑えられたので、都市機能のダメージ原因をギャラルホルンに(なす)り付ける事が出来ましたw

次回で原作1期は終了となります。


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第28話 それは(原作に)極めて近く、限りなく遠い世界で……

本小説、2周目1期のエピローグになります。



 オルガ達は火星へと戻り……あのエドモントン戦から既に3ヶ月が経過……

 しかし、未だに禍月は目覚めないままである。

 アーブラウ政府の打診から設立された地球支部のリーダーは、禍月となっている……が、未だ目覚めぬ彼の代理として動いているのはチャドだった。

 

『そうか……まだ目覚めてないか』

 

 火星にある鉄華団本部との直接通信も、透火が設置した量子通信端末を使っているので傍受される心配もない……だが、禍月の不在は一部の団員達に暗い陰を落としていた。

 

「一番影響を受けてるのはやっぱり透火さ……まぁ、仕事に影響してないのが幸いではあるけど……事情を知ってるコッチから見ると……な」

 

 以前の明るさは見る影もなく……ただ黙々と仕事をこなす透火の姿に、一部の古参メンバーは一抹の不安を感じていた。

 

『分かった……兄貴の方には俺から伝えとく。

 そっちに送る追加人員も、3日後には出発する予定だ』

 

「了解、また何かあったら報告するよ」

 

 通信を終え、チャドは大きなため息を吐いた……

 

「禍月……お前、愛想尽かされても知らねぇぞ……」

 

──────────

 

《……ありがとう、お陰でようやく皆と話せるようになったわ》

 

─ 私はマスターのご指示に従ったまで ─

 

《これで後は、彼が目覚めれば完璧なんだけど……》

 

─ 彼はまだ目覚めていないのですか? ─

 

《うん……あの人の為とはいえ、あんなシステムが動いたから……》

 

─ 私に1つ、考えがあります…… ─

─ 貴女にも、ご協力頂けますか……? ─

 

 それは、この世に在らざる人外存在同士の企み……

 斯くして、眠れる騎士を呼び覚ます計画が始まる。

 

 

 それから更に2ヶ月が過ぎ……眠れる騎士こと禍月は堕天使のコクピットに座らせられていた。

 

 アリス達の考案した計画はこうだ。

 

《サイコフレームの共振現象を利用して禍月の精神に刺激を与え、覚醒を促す》……というもの。

 

 サイコフレームにはニュータイプの感応波に多大な影響を及ぼし、またはその感応波を増幅、時には物理的なエネルギーへ転化できるという驚異の能力を秘めている。

 その特異性を以て禍月の精神にアクセスし、リアクションを引き出そうというのである……

 

 尤も、サイコフレームは未解明の部分が多く……登場作品である『逆襲のシャア』『ガンダムUC(ユニコーン)』『ガンダムNT(ナラティブ)』において、多様な()()()()を幾つも引き起こしてきた……それ故、宇宙世紀の歴史の中でサイコフレームの存在は『ある時期』を境に封印……研究も完全に凍結させられていた。

 

 後世に残されなかったこのサイコフレームとその関連技術は、ヒトの手に余る……とされたのだろう。

 しかし、何の因果か……サイコフレームと宇宙世紀の人間は切っても切れない縁で結ばれているのかもしれない……

 

 今こうして、禍月桐谷を目覚めさせるべく……堕天使のサイコフレームが活用されようとしているのだから……

 

──────────

 

被験者との物理接続……完了

 

バイタル安定、脳機能も正常値で推移中……

 

感応波検知システム、テスト終了……演算システムも異常なし

 

サイコフレーム、外部センサー素子とのリンクを確立

 

パルス安定……初期コンタクト、問題なし

 

了解……

これよりマインドサルベージオペレーション、スタートします

 

サイコダイブシステム、トレース……オン

 

アリス・システムの外部ネットワークを解放……

サイコダイブ、リリース

 

 

― side アリス ―

 

 まさか、彼が本当に宇宙世紀の人間だったなんてね……

 

 今の私こと『アリス=セファー・ザドキエル』は人外とはいえ、ヒトの手で生み出された存在……転生してきたという禍月桐谷(かれ)を……私は当初、転生者だと信じられないでいた。

 

 しかし、サイコフレームを通して……禍月の精神と直接リンクしている今、彼の精神が垣間見ている過去の記憶、彼の覚悟……その全てを私は見てしまった。

 

 そして、これも何かの因果なのだろうか……過去の私、厄災戦以前の『私』(アリス)を守ろうとしてくれていた彼らをも、私は幻視した。

 

 いや、あれは幻視ではない……確かに彼らは何者かの協力を得てあの場に存在していたのだ。

 

 彼らの想いは……今も私を案じている……なら、私は彼らの想いに応えるべきだ。

 

 しかし、その為に必要な事は?

 私が彼らの想いに応えるには、どうすれば良いのか?

 

 その疑問が、後に私の欲望人らしさを産む結果になるとは

 今の私には……思っても見なかったのである。

 

 

《……禍月桐谷……貴方、まだ目覚めないつもり?》

 

 彼らの姿が消えた後……1人佇む禍月へと、私は恨み辛みの入り交じった言葉を吐き掛けた。

 

 この男は彼女を守る、という約束をしておきながら……過去の亡霊に負けたままこんな所で燻っているのだ……例え彼女が好きな相手でも、それだけは許せない……彼女はもう1人の私なのだから。

 

《貴方が帰ってこないから、あの人から笑顔が消えたわ……

 

 貴方は約束したハズでしょ? 2人でこの理不尽を乗り越えると……

 それが何?! なぜ貴方は彼女の側に居ないの?》

 

 バツが悪そうに頭を掻く彼に、私は更に逆上してしまった。

 

《貴方ねぇ……約束したなら最後まで貫き通しなさいよ!!

 あの時の言葉は嘘だったの?! 彼女は運命なんていう歯車に良いように弄ばれ、否応なくこんな私の代わりまでさせられて……あんなに傷付いても、誰にも助けを求められずにもがいてるのに……》

 

 こんな事をいう為に来た訳じゃないのに……言葉が止められない。

 私の意識に渦を巻くどす黒い感情が、怨嗟となって吐き出されていく……

 

《私には助けられないの! 私じゃ無理なのよ!!

 私じゃあの人は助けられない……貴方しか居ないのよ!!

 

 あの人と初めて、脳量子波で話せる様になった時……私はそれまで呪っていた神さまに感謝した……

 でも、それまで私の代わりをさせられていた事に気付いた時……今度は自分を呪ったわ。

 

 私が背負うハズの運命をあの人にやらせている……私がやるべき事をあの人がしている……何故、私ではなくあの人なの?》

 

 既に溢れんばかりとなっていた涙を必死に堪え……禍月が声を掛ける間も無く、更に言葉を吐き続ける。

 

《でもあの人は笑ったの……私が謝罪を口にした時、笑ったのよ……

 

『代わりでも何でもないわ、今までの事は私がやりたいからやっただけ……』って……》

 

 あぁ、もう言葉にできない……私は泣きながらその場に崩れ落ちた。

 

― side out ―

 

 アリスはそれ以上言う事ができなくなった……止めどなく溢れる涙、自分の感情が言うことを聞かず、只々自責の念だけがこみ上げてくる……しかし禍月は、その続きを全て脳量子波……いや、自身のニュータイプ能力で察していた。

 

 アリスはたった1人の……自分と向き合い、無碍に扱わず、自分を慰め、慈しんでくれた彼女透火が心配なのだ……彼女が好きなのだ、そして守りたいのだ。

 

 アリスもまた、自分と同じ想いを持っていたのだ……と。

 

「……ゴメンな、アリス……俺は、透火だけでなく……お前まで傷付けちまってたのか……」

 

 その言葉を聞いたアリスの嗚咽が徐々に収まり始め……禍月は以前よりも決意に満ちた表情を見せながら、自信満々にアリスに応えた。

 

「ああ、こんな想いは久しぶりだぜ……

 

 だから今度こそ守り抜いてやる、もう二度と……お前らに涙は流させない……ってな!」

 

《……遅いわよ……お馬鹿さん……でも、ありがとう……》

 

 その言葉を皮切りにアリスの姿が霞み始め、禍月も己の意識が浮き上がっていくのを感じた……

 

 

 気が付くと、禍月はベッドに寝かされていた。

 長時間寝ていた所為か、異様な身体の重たさに辟易するが……側にいる人物の姿を認識した直後から、その鬱屈した気持ちも吹き飛んだ。

 

(隠れて泣いてたのか……悪いな、こんなに待たせちまって……)

 

 その人物……ベッドサイドに持たれたまま眠っている透火の目元と、同時に視界に入ったカレンダーの表記から、自身が半年もの間眠っていた事に気付き、心の中で謝罪する禍月。

 

 窓の外は真っ暗……最初は夜かと思ったが、カレンダーと共に置かれていた時計の表示から、昼間である事はすぐに分かった……

 

(……昼間なのに窓の外が異様に暗い……もしかして、宇宙か?)

 

 ……禍月の持った疑問は、しばらくして起きた透火のテヘペロと共に驚愕に包まれたのは言うまでもない。

 

──────────

 

 クーデリア・藍那・バーンスタインの依頼を無事に終えた鉄華団……

 テイワズの後ろ楯を得た事で新規に団員達も増え始め、地球支部の人員も徐々に増強されている。

 

 エドモントン戦から半年が経過した現在。

 

 透火が提案し、オルガが驚愕とともに了承した人員輸送の手段は、通常の正規ルートでも身内であるタービンズ経由でもなく……透火が自己満足の為に魔改造を施した、元ブルワーズの強襲装甲艦()()()()()が使われていた。

 

 透火がAGEシステムに入れまくった数々のデータをしっかりと参照、整理整頓し……その上で熟考、検証した後にシステムが導き出した、鉄華団の為の船……

 

 その外見は、()()()()()と言えるほどの特異な姿をしていた……

 

「……この船さ……前から思ってたが、異様過ぎる外観だよな」

 

「いつかの時代の大型艦らしいけど……さっぱり訳が分からないぜ」

 

「大方、その時代で強かったとかいう理由でコイツがヤラカシタんだろ?」

 

 チャドとダンテ、そして昭弘が船の外観に屈託のない感想を述べている。

 その傍らで覚醒から数日で完全復帰した禍月は、現在自分が乗り込んでいる船の全容を知らされ、頭を抱えていた……そしてこの船を造り上げた当の本人(透火)は禍月に対してテヘペロしている。

 

「なんでだよ……なんでこんな結果になるんだよ?! 俺は信じねぇぞ……これがAGEシステムの結論だとか、絶対に信じねぇからなッ!!」

 

 復帰したばかりの禍月から飛び出すこの絶叫に、昭弘たちは首を傾げるばかりであった。




……復帰までに半年経たせるとかいう暴挙に出ましたが、
無事に禍月は復帰……サイコフレーム様々ですわ(設定的に)w

さて、ラストに禍月が叫んだのはブルワーズの船が見るも無惨(?)な姿へと魔改造されてしまったが故の反応であります。

そして、誠に勝手で申し訳ないですが……
この話の投稿完了を以て、本小説は一旦休載扱いとします。

オマケ扱いの閑話は完成次第、しれっと投稿しますけどw

ちなみに、閑話最初の話題は勿論……
「魔改造されたこの船」の話題になります!

では、1期ラストのアンケートと行きましょうか!


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空白期やIFなんかの幕間集
閑話 鉄の華が擁する悪魔の船


お待たせしました!!
空白期に起きた出来事をランダムに開示する閑話ストーリー
はーじまーるよー。

最初の話題は『魔改造が完了した元・ブルワーズの船』。



♪ た~んた~んた~んたったったったら~ たららったったったったった~たららった~ん

 で~で~んでっでっで~んで~ん で~んでっでっで~んで~ん たららったららったららた~ららっ たららったららったららた~ららっ で~~~ん(※イントロです)

 

 旧式の音楽データの様な古びた音ながら、力強い音楽がスピーカーから流れている……

 

 その音楽は、宇宙を進むこの船を象徴する楽曲であった。

 

 透火によって取り入れられた凄まじい量のデータを参考に、AGEシステムが導き出し……ブルワーズから戦利品として入手した戦艦を元に魔改造されたこの船……

 

 曰く、この船は地球の命運を握る戦いにおいて……幾度となく危機を乗り越え、勝利を手にした船……らしい。

 

 曰く、この船は「旧世界」において「最強」と謳われた姿を模している……らしい。

 

 旧世界……ポスト・ディザスターと呼ばれる現在から、気の遠くなる程の過去……

 その世界において「最強の怪物」として恐れられた艦船が、現代科学とAGEシステムの力により甦った。

 

「……何故だ……なんでコイツをAGEシステムが……」

 

 ブツブツと独り言を垂れ流す禍月を伴い、魔改造の張本人である透火は意気揚々と艦橋への道を歩いていた。

 

「私は大量のデータを仕入れて、()()()()()()()()()()()が良いって方向性を与えただけだし~」

 

 自分が与えた方向性を、AGEシステムがどう解釈し、どう関連付け、どういう意図を以て『この船』という()()に辿り着いたかは自分にも分からない……透火はそう答えた。

 

 実際この船は戦力としても、母艦としても『超』が付く程非常に優秀なのは言うまでもない。

 

 武装は外観から推測可能なだけでも「3連装の大型砲塔」3基に「中型の3連砲塔」が2基、艦首には魚雷発射管と中央部にある大口径砲の様な謎の窪み……艦体中央側面上部には大量の対空砲と、艦橋後方にもミサイルの発射設備が確認できた。

 更に居住環境や設備においても、多少のアレンジや独自解釈があるものの……快適さに溢れた配慮がされており、乗組員の為の大浴場や各種トレーニングルーム、何処から調達したのか不明ではあるが色々な映像作品が見れるシアタールームなど、乗組員の娯楽にも寄与する様々な設備が存在している。

 

 しかも『格納庫』に搭載しているMSは「堕天使」(ザドキエル)だったりするし、艦体中心部に存在する『工場』によって部品や資材等をリサイクル生産したり、時間さえあればMSを全自動で製造する事も可能という程の設備が整っている。

 

 制御システム周りや、世界観に則した仕様の変更はあれど……この船は紛れもなく「宇宙戦艦ヤマト」であった。

 

──────────

 

 透火と禍月が艦橋に到着したと同時に、艦内に警報が鳴り響く……

 

「艦前方11時に、エイハブ・ウェーブを検知……距離、約4000」

 

 船のセンサーがエイハブ・ウェーブを感知した為、索敵担当の少年が声を上げる。

 同時に艦橋中央のマルチモニタが点灯し、3D画像で目標の位置情報や予測推移などが表示された。

 

 もたらされた情報に、禍月は即座に頭を切り替えて艦長席へ……透火も通信席へと移動し、禍月はシートに座りながら声を上げた。

 

「この宙域でエイハブ・ウェーブ……艦の識別登録は?」

 

「船籍データ、照合完了……蒼の傭兵団所属艦『ヴァゼルカイルズ』みたいだね……」

 

 情報処理を担当する透火は、エイハブ・ウェーブのパターンからすぐさま該当艦のデータを割り出し報告する……禍月も合点が行ったのか、顎に手を添えた直後……索敵の少年が再び声を上げた。

 

「エイハブ・ウェーブ反応が5つに……? 後方から新たな艦影……よ、4隻も?!」

 

 蒼の傭兵団とは、海賊行為や傭兵家業で有名な新興団体……ギャラルホルンの艦艇よりも速度を出せる艦艇を5隻も擁しており、その神出鬼没な手口に手を焼いているという。

 その旗頭の船であるヴァゼルカイルズは、PD世界最速の高速宇宙艦艇と言っても差し支えなかった。

 

「蒼の傭兵団のヴァゼルかぁ……あの船足が早いから、通常航行じゃすぐに追い付かれるよ? やるしか無いね」

 

 ブリッジクルーの少年達がどよめく中……落ち着いたままの透火は、禍月にヴァゼルの足の早さを伝え、迎撃を進言する。

 進言を受け入れたのか「しょうがないか……」と禍月は艦内放送を立ち上げ、乗組員……というか、乗っている団員達へ連絡をし始めた。

 

『総員、第一種戦闘配置! 本艦はこれより戦闘状態に突入する!

 ……なお、戦闘要員以外や手の空いてる奴、初めてこの船に乗る奴はよく見ておけ!』

 

 少しの溜めを取り、禍月はこう言い切った。

 

「……この船が如何にヤバ()いかを、お前たちに見せてやる!」

 

──────────

 

「目標捕捉、距離3800……船籍照合確認……ん? 

 なんだ、この船……船籍と外見が一致してねぇぞ……」

 

 蒼の傭兵団の旗艦、ヴァゼルカイルズのクルーの1人が疑問を口にした。

 

「なんだと……照合結果は?」

 

「鉄華団所属の強襲装甲艦です……ただ、外観が……」

 

 クルーが驚くのも無理はなかった……公開登録されている船籍情報には、基本的にエイハブ・ウェーブの波形情報と、大まかなサイズ……そして所属しかない。

 それは基本的にPD世界の艦艇は外見に多少の差異はあれど、同型艦だったり近似した形状だったりが矢鱈と多い……そもそも艦艇のクラス識別は、サイズとエイハブ・ウェーブのパターンデータで決定しているからである。

 

 ……しかし今、目の前の宇宙空間に浮かび、まさにこれから自分たちが襲おうとしている船の形状は……

 既存の登録クラスから推測できる物とは完全にかけ離れた……旧世界の洋上艦の様な外見をしていたのだから。

 

「ハッ、虚仮威(こけおど)しか何かだろ? そんなモノで俺達を騙そうなんていい度胸じゃねーか……お前ら! いつもの様に獲物を一捻りにするぞ!!」

 

「「「オオオオッ!!」」」

 

 蒼の傭兵団団長「ラサール・グラマンジェ」……腕っぷしと度胸で成り上がってきた彼にとって、目の前の奇っ怪な船は虎の威を借りる猫の様な奴らだ、とタカを括っていた。

 

 勿論……現実的に考えて、その判断に至るのは至極当然だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……だが、今回ばかりは……相手が悪すぎたのであった。

 

──────────

 

「敵艦接近、距離……約3500!」

 

「砲雷撃戦用意、艦首魚雷……及び主砲の発射準備だ!」

 

「り、了解! 砲雷撃戦用意……艦首魚雷、装填しますっ」

 

 禍月は戦闘準備の指示を飛ばす……砲座コントロール席に座っていた年少組の団員は、画面のサポートに沿ってコンソールを操作……艦首に設けられた魚雷発射口が開かれ、専用の大型魚雷が装填されていく。

 

「主砲、動力伝達を開始……射撃盤、捉敵システムとの連動スタート……誤差修正中」

 

 次に、前方を向いていた3連装の大型砲塔もそれぞれ旋回し、各砲塔がそれぞれ1つずつ敵艦の方へと射線を合わせる……

 

「GN粒子、戦闘濃度で散布……目標、敵大型艦艇……攻撃準備、全て完了」

 

 最後に透火が全ての準備完了を告げる……この船は、魔改造によって利便性を極限まで追求された結果、少ない人員でも完全にコントロール出来る。

 

「敵艦、有効射程距離に捕捉……単横陣形でなおも接近中!」

 

 敵側はまだ射程外の為か、此方を射程に収めるべく前進中……正に、()()()()()()と言わんばかりの状態である。

 

「さ、景気よく行ってみよー♪」

 

「よし……正面の敵艦に魚雷斉射! 右舷側に広がる奴らは主砲で脅してやれ!」

 

──────────

 

「敵艦、戦闘態勢に入った模様!」

 

 観測手の声に、ラサールはほくそ笑んだ……逃げるでもなく、降伏するでもなく、交戦も辞さない態度の敵は久しぶりだった。

 

「フッ、久々に骨のある奴らしいな……鉄華団、だが俺達に遭うとは運がなかったな……!」

 

 しかし……余裕綽々のラサールの表情は、観測手の次の言葉で吹き飛ぶのだった。

 

「……て、敵艦に複数の熱源反応?! 更に敵艦、高速で物体を射出……み、ミサイルが来ます!!」

 

「……んだとぉ?! げ、迎撃しろ! 対空砲撃てぇ!」

 

 まだ届かない、と思っていた距離……だが敵はミサイルを撃ってきた。

 

 通常、ミサイル等の誘導弾は着弾の確実性を増す為に有効射程距離内でしか使わないというのが一般的……だが、敵は予想よりも遥かに外から撃ってきた。

 

 ……つまり、相手のミサイルはその距離でも届く既に有効射程距離内という事である。

 

 なお、ラサールの()()という判断は正しかった……が、射程距離を誤認させられてしまったが故に、ミサイルの速度を読み違えて間に合わず……気が付けば艦隊の左側の2艦に合計6発のミサイルが命中し、船のナノラミネートアーマーが爆発で焼かれていく。

 

「左舷の僚艦に命中、装甲にダメージが……!」

 

「馬鹿な……ココまで届くミサイルだと……?!」

 

「敵艦の砲門が此方を捕捉……な、何だアレは……ッ!?」

 

「ッ?! 回避しろ、取り舵ッ!!」

 

 観測手の声に嫌な予感を覚えたラサールは、操舵手に怒鳴るように命じる。

 直後、ラサールの目に映ったのは……青白い光に貫かれていく、右舷側の僚艦の姿であった……

 

──────────

 

「す、スゲェ……ナノラミネートアーマーが一瞬で……」

 

「どんな手品だよオイ……」

 

 船の主砲……艦橋の下に見える3つの3連装の砲塔から放たれた光の束は、敵艦のナノラミネートアーマーをいとも容易く貫通した事に、団員達は一様に驚きを隠せない。

 

 ナノラミネートアーマーの堅牢さは、最早常識というレベルで知られている……だが、あの光の束はそれを呆気なく破壊した……それはまさしく、常識破壊と同レベルである。

 

『この船は対艦・対MS戦闘に対応した武装を多数持っています……しかしながら、整備には人の手が欠かせません……なので整備班の団員はいつでも募集中でーす♪』

 

 録音であろう僅かなノイズ混じりで、透火の声がスピーカーから響く……

 その声を初めて聞いた団員達の一部は、先ほどの戦闘の凄さと録音の声に唆され……本気で整備班に入ろうかと悩むのであった。

 

 

「……ハァァァァ……」

 

 禍月の盛大な溜め息が艦橋に響く……原因は勿論、先ほどの主砲の威力である。

 ナノラミネートアーマー? ナニソレ美味しいの? という具合の壊れっぷりだ……

 

「どーよ、『3連装陽電子旋転衝撃砲』の威力は~」

 

 子供みたいな透火のドヤ顔を無視し『ナノラミ撃ち抜くとかどういう原理だコラ』と、迫った禍月。

 

 透火から説明されたのは、GN粒子を用いて物体そのものの強度を上げる『GN粒子コーティング』の技術……そして、独自の解釈からアレンジされた『次元波動理論』を始めとする外世界の技術だった。

 

「多少のアレンジは入ってるけど、ほぼ本家の理論に近いものが再現できたからね……まぁ、元は縮退炉(ターンA)の技術なんだけど……

 

 それに補助機関は2基の疑似太陽炉、主砲の陽電子ビームはAGEで使ってた螺旋粒子ボルテックス……要はDODS効果(ドッズライフルの理論)で強化してあるから、ナノラミでも普通に撃ち抜けるよ。

 艦内重力と通常電源は識別の為に残してあるエイハブ・リアクターを使ってるし、システムにもサポートプログラムを入れてあるから、手順か文字さえ理解出来れば年少組でも運用できるしね」

 

(最早やりたい放題だな……こんな奴、何処から拾ってきたよ? ……俺が原因か!?)

 

 あまりの衝撃に自分が透火を鉄華団に引き入れたようなものだという事を忘れかけ、それを思い出した禍月は、若干の後悔と共に今後の方針に頭を悩ませるのであった……




さらば~、原作(設定)よ~
生まれし船は~、宇宙戦艦……ヤ~マ~ト~♪

……という訳で、ついに完成しました空白期の閑話。
あの時から延々と作業を続け、魔改造の末に誕生したのは……

最早存在そのものがタブーな火力インフレ待った無しの戦艦デシタ(白目)

なお、性能や武装ネタとしては2199版以降を参考にしているので……例のバリアーシステムも当然あります!

ちなみに戦闘の結果ですが……
僚艦を先制攻撃で潰したヤマトは、旗艦ヴァゼルカイルズと一騎討ち状態になった後、正面から敵艦と撃ち合う砲撃戦になるものの……バリアーと神業的な回避(禍月の判断)で砲撃を避けながら敵艦の後方に回り込み、エンジンと主砲の砲座を潰して戦闘続行不能にさせ……見事、勝利を掴みました。

なお、敵の僚艦は主砲を撃ち込まれた3艦が轟沈……
鉄華団側の被害は、言うまでもなくゼロですw


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閑話:閃光の宇宙へ

前(ヤマト回)の閑話、やり過ぎてメッチャお気に入り登録減りましたわ……
まあ、あんな無茶苦茶やってりゃ当然ですわな。(´-ω-`)

さて、今回は短いけど真面目にやるよ?
お題は「禍月専用の新型機、稼働テスト開始!」



主電源、コネクト……サブバッテリー、充電完了

コクピット内気圧、正常値を維持……

 

各部サーボ、及び姿勢制御システムに問題なし

伝達係数、規定値をクリア……

各部制御システム、全て正常値

 

サイコミュ伝達系、調整終了

連動システム……問題なし

 

外部カメラ、作動正常

取得映像データ、合成演算を開始

 

 360度、球体の形状になっており、内壁全てが湾曲したモニターになっている……宇宙世紀のMS技術の1つ「全天周囲モニター」が導入されたMSのコクピットだ。

 その中心に鎮座する、機体の操縦用にしては少し大きめのシートに座り……禍月桐谷は、外部から調整を受けている機体の状態と、アナウンスする機械の合成音声に耳を傾けていた。

 

「……我ながら、ムチャ振りが過ぎたかと思ってたが……本当に完成させやがった……全く、恐ろしい頭してるぜ……アイツは」

 

 そう、この機体は……禍月が己の手足とするべく、様々な要望や設計……導入を希望する技術を担当者に伝え、時には事細かに解説し……ゼロから造らせた、この世界で唯一の彼の専用機だ。

 

《各部最終チェック、全て終了……》

《視覚化情報処理を開始……主モニター、点灯します》

 

 調整作業が終わり、外部の映像とシステムからの情報が統合された映像が全天周囲モニターに映し出される。

 

「……ハハッ、あの時と変わらないな……いや、あの時のよりも(すげ)ぇかもな……!」

 

 かつての宇宙世紀の戦いの最中で、図らずも日常レベルにまで見慣れてしまったコクピットの眺め……それがこの世界でも実現した事に、複雑な想いから思わず笑みが漏れた。

 

《接続アーム、待避完了……格納庫内、減圧終了》

《了解……第3格納庫ハッチ、オープンします》

 

 

 調整に使われていた作業アームが全て解除され、機体は格納庫と外を隔てるハッチを潜り、ついに外……宇宙空間へと運び出される。

 機体を保持するのは、機体格納保持用のメインアームただ1つ……最大まで伸長したアームの先端には、この世界の機体とは毛色の違う……白い装甲のMSが固定されていた。

 

《全チェック項目をクリアー、稼働テスト……第一段階》

《各部モニタリングシステム、稼働正常……》

 

《TPシステム、通常モードに移行》

 

 装甲の表面の空間が一瞬だけ歪曲し、コンマ秒で元に戻る……その反応が全身へと波及していき、全ての装甲を走り終えた後、機体の目に当たるツインアイが輝いた。

 

《最終ロック、解除……》

「HHM-03/D105 ヴォールクロス」……Take off!》

 

『……ッ! 行くぜ、相棒!』

 

 コクピットの操作と、サイコミュによる補助制御……パイロットの意思をMSに伝え、その繊細な違いを操縦に反映させる「インテンション・オートマチック・システム」により、禍月は己の思い通りに宇宙(そら)へと機体を躍らせた。

 

──────────

 

 漆黒の宇宙を我が物顔で駆け抜ける、白い装甲の機体……彼の要望をほぼ全て盛り込み、かつ私の持てる技術全てを注ぎ込んで建造した……彼の専用機を守る為の機体

 

 あの機体には、あらゆる敵を想定し……如何なる世界でも戦い抜ける性能()武装()を与えた。

 

 まだ、サイコミュ系統の微調整は終わってないが……だいたいの目処は付いているし、武装面への影響はほぼ無い。

 むしろ、調整次第では更なる性能アップを期待できるかもしれない……

 

『最っ高ぉ~にご機嫌だなコイツは! 俺の操縦に思い通りの動きをしてくれる……!』

 

 宇宙ゴミや隕石がまばらに浮いている宙域で、白い機体はまるで生き物のように障害物をすり抜け、その速度を維持したまま駆け抜けていく……

 

 その挙動を操作に起こすなら、かの「赤い彗星の再来」と呼ばれた男が披露したマニューバよりも複雑かつ繊細……しかもその速度は()()よりも速く、エネルギー消費は挙動の割に恐ろしく低い……姿勢制御に使われる全身のGNマイクロスラスター、四肢によるAMBAC機動、サイコフィールドの力を応用した変則的な機動制御をも駆使し、加速・減速・反動を使い分け……時には隕石やデブリを足場と見なし、それによって生じる様々な変化を己の挙動に組み込み、全てを利用して進む。

 

 その挙動はさながら、無重力下のパルクール……

 ほぼ常にトップスピードを維持したまま駆け抜けているのだ。

 

 本来なら無意識の内に行えるものではないし、サイコミュによる制御は精神に少なくない負担を強いる……が、パイロットスーツ越しに計測している禍月のバイタルや、コントロールのログからは微塵も感じられない……

 

 これ程までにサイコミュの負荷を軽減できたのは予想外ではあるが……基礎設計や部品の製造段階からヴォールクロスに合わせ、プログラムの組み込みにも最新の注意を払い、可能な限り禍月への負担が軽くなる様にと苦心し続けた甲斐があったと言うものだ。

 

 

 デブリ帯を尋常じゃない速度で突き抜けたヴォールクロスを待っていたのは、今回のテスト用に新造した2機の無人(MS)……

 

 これまでの過程で虜獲したグレイズやその他の素材を活用し、私の手で()()()()を持って新造……更に持てる技術を導入して完全な無人化を実現した機体……そのフレームはそれぞれ「赤」と「青」に染められ、双方が巨大な得物を背に追い、まさに色違いで瓜二つの兄弟機だ。

 

 赤い機体は背の得物を巨大な弓に……青い機体も同じく、背の得物を巨大な剣へと変形させ構える……

 

『そういうチョイスかよ……!』

 

 一瞬だけ驚く禍月だが、冷静さは欠かさない……肩に装備された2つの柄をそれぞれ両手に持たせ、マウントから取り外し……抜き放つ様に腕を振り抜く。

 その挙動に合わせ、虚空から現れた鈍く白銀に輝く刃を確認すると……

 

『いっくぜぇぇぇ!!』

 

 赤と青、そして白い機体は3つの光の帯となって動き始め……虚空で火花を散らすのだった。




前回のはオフザケ回として見てくだせぇ。

今回は真面目だし久々だし、感想よろしくね♪


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閑話:深淵より蠢くもの

原作乖離まったなし!?
二期シーズンのストーリーに殴り込む(可能性がある)奴とは……?



 宇宙には、惑星間の引力の釣り合いが取れた宙域……ラグランジュポイントというものがある。

 このPD世界ではそれ以外にも、厄災戦で破壊された艦船などのエイハブ・リアクターの影響により、似たようなエリアが遍在していた……その為、宇宙の航路は複雑となってしまい、民間レベルではラグランジュポイントや、そのエリアに形成されたデブリ帯を迂回する航路が一般的だった。

 

 ……それ故なのだろう……この存在に、今の今まで気付く事が無かったのは。

 

──────────

 

 地球と月の間……星同士の重力が釣り合う、とあるラグランジュポイント……そこは厄災戦の爪痕である、破壊された艦船や兵器の残骸が漂う……まさに『墓場』の様相であった。

 

 その中でたった1つ……今なお稼働しているエイハブ・リアクターを持ち、己の使命を全うし続けている『天使』が居たのである。

 

 ……その姿は一言で言えば、超巨大なクラゲの如き異形の怪物……大昔のファンタジーなら、水棲系モンスターにカテゴライズされる様な姿。

 触手の様な細長い鞭は100本近くもあり、先端は暗い青色の装甲を持つ作業アームのようなものになっている……全身を覆う装甲の隙間からは虹色の光が常に走っており、深海でぼんやりと光るクラゲに見紛うほど生物的なフォルムだ。

 

 そして偶然か、はたまた運命なのか……該当宙域に迷い混んだギャラルホルンのMSが、天使の知覚領域に入ってしまった。

 

《クソッ、残骸とリアクター反応の影響で母艦と連絡が取れん……》

 

《……油断するなよ、この宙域には「亡霊」が出るって噂だからな?》

 

《……えぇ……?》

 

 隊長らしき男が、部下へ脅しを掛ける様に呟く……部下は半信半疑であったが、彼らは自らの命と引き換えに……その真実を知るのであった。

 

 

 自らの守護する領域に侵入した敵を発見した「天使」はまず、周辺の瓦礫や艦船の残骸を触手で手繰り寄せ、我が身を偽装……巨大な岩の塊に艦船が衝突しそのまま埋もれている様な状態を自ら作り出したのだ……艦船には生きたエイハブ・リアクターが残っていることが多く、何ら不思議には思われない……そうやって、必殺の間合いまで敵が近付くのを待つのだ。

 

 案の定、ギャラルホルン所属の3機のMS……通常仕様の隊長機1機と長距離偵察仕様のグレイズ2機が、触手の届く距離まで接近してきた。

 

《まだ生きてるリアクターがあるな……本部に此所の位置を伝えられれば、俺達もこんな辺鄙な場所で偵察に従事しなくて良くなるかも知れんぞ?》

 

《……隊長、その前に俺達……ちゃんと帰れるんすか?》

 

《だからリアクターのデータも取ってるんだろ? データから固有周波数を設定してフィルター掛ければ、不明瞭な所も少しは改善されて通信も出来る! もう少しだから任せろ、な?》

 

 怯えている部下の1人を隊長は冷静に宥め賺す……エイハブ・リアクターの周波数を解析し、フィルターする事で電波障害を何とかしようと試みており、迂闊にも「天使」が潜む岩塊へと接近……部下が一瞬、隊長の機体から目を逸らしたその瞬間……

 

 バギンッ!!

 

『……ぇ……?』

 

 大きな音に正面を向き直り、隊長機の装甲を避けてコクピットを正確に貫く触手を見てしまった部下……

 

『……ッ……に、逃げ……?!』

 

『……ぃひぃ……ぁ……ッ!!』

 

 ガギシュッ!! グシャアッ!!

 

 時既に遅し……必殺の間合いに入り込んだ哀れな兵士3人は……今なお稼働を続ける「天使」の前に、敢え無くその生涯を閉じてしまった。

 

 グゥオォン……ブゥゥン……シュウゥゥゥ……

 

 やがて「天使」は、仕留めたMSからデータをハッキングし始める……この「天使」の最大の特徴、それはこの「高度な情報収集能力」……

 接触したあらゆる物体を解析、情報的に侵食し、己の目的を果たすべく最大限に活用する……自己学習機能までセットになった、特別に厄介な機能だった。

 

 やがてクラゲ型のMAはグレイズを3機ともバラバラに分解……周囲に漂う機械の残骸(デブリ)と、たった今撃破した機体のパーツを組み合わせ、自らの身体を改造し始めたのである。

 

 

 少しずつ、少しずつその姿を変えていくMA……あれから、どれくらいの時が流れただろうか……やがて完成したそのシルエットは、巨大な円盤を背負った大型機……

 敢えて言うならば、機動戦士ガンダムSEED Destinyに登場した超大型可変MA「GFAS-X1 デストロイ」にも酷似した姿だ。

 

 天使はグレイズの戦闘データと、かつて己を追い詰めたガンダムタイプの戦闘データ……そして捕獲したMSと己の全ての演算領域をフル活用して(MS)に勝つ方法を模索し……姿を変える、という結論に辿り着いたのである……そして己の触手はどんな精密作業も十全にこなし、ハッキングから戦闘まで行える。

 そしてグレイズから得られた情報も活用して()()()()()を立てた天使は、その最初の段階を成功させるべく……己の姿を変貌させたのであった。

 

──────────

 

「……ふむ、連続失踪事件……というヤツか」

 

『左様……このポイントD-913宙域に横たわるデブリ帯の調査に赴いた我々の小隊や、民間組織の輸送船……海賊組織の船も全て、この宙域を通過した船はただの1つも戻ってきていない……そのデブリ帯は【アリアンロッド】の管轄にも拡がっていた筈だ、可能であれば調査を願う』

 

 アリアンロッド艦隊司令、ラスタル・エリオンはこの奇妙な指令を訝しんでいた……ただの失踪ならば態々こんな秘匿任務的な扱いをする事もなければ、前の部隊が失踪した時点で指令を出す筈だ……だが、この指令は部隊失踪の報を受けてから数週間後の事である。

 

『この指令はギャラルホルンの威信に関わる案件だ。心して掛かってくれ……くれぐれも、火星の連中に嗅ぎ付けられぬ様にな?』

 

 火星の連中……この場合、火星で密かに何かを企んでいる獅子身中の虫(マクギリス・ファリド)の事だろう。

 ラスタルはこの時既にマクギリスが何らかの意図を持って暗躍している事を察知していた……尤も、その内容はほとんど分からないのだが。

 だが、警戒するに越した事はない……そう自身の勘が告げていた。

 

「了解した、忠告に従い内密に調査をしよう」




ネタで終わらせるか……それとも正規採用するか……
本編に出たら厄介極まりないよね?

個人的にはネタで終わらせたい……


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厄災の遺産編
第29話 変わりゆく世界の中で


ぼちぼち復帰しましょうかね……
まだ大雑把なストーリーしか出来てないけど。

この前、ナラティブを見直して色々とヤバい発想が頭に浮かんだので消えない内に投稿しよう。

……うん、我ながら頭イカれてるねw
頭アナハイムとも言う……(´-∀-`;)



 アーブラウの一件から鉄華団は急成長……と、同時に組織体系も大きくなり、地球支部も開設され、忙しさは天元突破……と言う程の事にはならなかった。

 

 尤も、世界の情勢は未だ暗黒時代……

 

 ギャラルホルンの信用が失墜したのと同時に、鉄華団の目覚ましい活躍がより一層の悪循環を煽ってしまった。

 一つは、モビルスーツの有用性の再確認……厄祭戦時代の遺物とされていたMSは、昨今次々と復旧・改修されたり奪い合ったりと、色々と厄介事も増えている……それと同時に少年兵の持つ可能性。「阿頼耶識」の施術さえクリアーすれば、MSすらも自在に操れる……つまり鉄華団の活躍が裏目に出た結果が付いて回る。

 更に言えばテイワズの内部でも、鉄華団の活躍を快く思わない人は少なからず居るもので……今後も不測の事態に備え、色々と策謀を張り巡らせなくてはならない。

 

 私達の活躍は確かに常識破りではあったが、それと同時に闇の深さも増したようなものだった……

 

 

「ウォラァ! 新人共ォ!! コレくらいでヘバッてんじゃねぇ!!」

 

 まったく……シノさんは後輩くん達をなんだと思ってるんですかねぇ?

 

「あんまイジメてやるなよ?」

 

「そういうのはオメーに任せるわ……俺ァ中途半端に甘くして、コイツ等に死なれたくねぇだけさ」

 

「何だよそれ……ったく……」

 

 外周をランニングで体力作りに勤しむ新人団員……荒野に囲まれた鉄華団の本部から少し離れた場所では、テイワズより新規に購入した量産型MS「獅電」の稼働テストを兼ねた実戦形式の訓練……要は模擬戦が行われている。

 

『アンタ等が使い物にならないと、ウチ等ダーリンの所に帰れないんだからァァァ!!』

 

 かな~り私怨の混じったラフタ姉のシゴキに屈しそうになるダンテさん……通常仕様のMSは練度の差がモロに出るから、阿頼耶識に頼っていた鉄華団のメンバーの大半がこのシゴキを受けている。

 

 ちなみに私は(あの時以降、モビルスーツのコクピットに入れない程のトラウマになった為)整備班だ(という事にして貰った)からナシ……禍月の方は、最初からラフタ姉よりも技量的に上なので監督役だ。一応、一度は慣らし目的も兼ねて戦った。けど……

 

― 数日前 ―

 

「ちょ、今のタイミングを避ける?!」

 

「お前の癖はだいたい分かってるからな……そうやって対応してきても、相手の癖やパターンを知ってりゃな!」

 

 搬入されて間もない筈の同じ獅電なのに、こうも容易くいなされ、虚を突かれて寸止め……更に仕掛けても、その尽く躱される……そりゃあ彼、宇宙世紀を生き抜いたというべらぼうな経験値を持ってるんだし、その上ニュータイプ能力者……経験に裏付けされた高い技量に、高次予測レベルの直感が働くんだから、どう足掻いても当てられる訳がない。

 

 相手や機体の癖を知っていれば、阿頼耶識搭載機(ガンダム・フレーム)が相手でも(禍月)に勝てる人物はまず居ないだろう……唯一、原作主人公(三日月・オーガス)を除いてね。

 

 

 さて、状況的にお気づきの方も多いと思うのですが……はい、今バルバトスとグシオンは本部にありません。

 ……そう、テイワズでオーバーホールという名の大改修を受けて『バルバトスルプス』『グシオンリベイクフルシティ』へと生まれ変わっている最中なのですよ!!

 

「あ~あ、私も一緒に行きたかったなぁ……」

 

「そしたらアタシの負担がヤバくなるから絶対ダメ!」

 

 さすがにそんな我儘は通らず、エーコ姉からダメ出しを喰らう……

 

 まぁ、獅電は兎も角……私が魔改造を施した「グレイズ改二」や「獅電改」こと流星号は、整備の先輩であるエーコ姉も速攻で匙を投げた変貌っぷりだし? テイワズに居る師匠達すらも触りたくないって嫌われた機体だもんね……整備士泣かせ、とも言われたけど……実際はこの世界の技術製品に該当しないコクピット周りのパーツ群が原因。

 

(まぁ、確かに……宇宙世紀辺りの技術も幾らか流用してるし、阿頼耶識のリスクカバーを()()()()()()()()()()()で補完してるから、組み合わせやら前提を知らなきゃチンプンカンプンだもんね)

 

 機動武闘伝Gガンダムの機体制御機構……モビルトレースシステムの技術を一部流用して阿頼耶識の致命的欠陥を何とか改善し、更にMSの挙動に適合させるという魔改造を施した流星号。

 射撃用モーメントや各部の思考制御マトリクス、構造的な差から来る挙動の差異と、その誤差から来る各種連動データの擦り合わせ……

 肉体改造に一切頼らず人機一体を成すシステム故に、パイロットへの負担度合いは阿頼耶識単独と比べれば格段に楽になるが、制御プログラムの整合性を取るのに非常に苦労した……いっそのこと、純粋なモビルトレースシステム搭載機を製造した方が楽だと思った。

 

 ……だが、それはさすがにブレイクスルーが過ぎるだろうし、禍月にも止められている。

 

「いくらなんでも、格闘家並の技量持ちは居ねぇだろ……それに、アレはパイロットの特技全振り活用が前提じゃねーか。そんな機体を、コイツ等がマトモに動かせると思うか?」

 

 全く以て正論だったし、事実なんだからしょうがない……実際問題、これ以上エイハブ・リアクター非採用機体を鉄華団に置くのもさすがに不味いしね。

 部分的な再調整も済ませ、ついにロールアウトした禍月用の新型機と、今のザドキエルだけでも十分過ぎるのだから……

 

――――――――――

 

 それからしばらくして……アドモス商会が主催の採掘現場視察に「夜明けの地平線団」と呼ばれる海賊連中が乱入。

 混乱を引き起こすも、帰還した三日月の駆る「バルバトスルプス」……そしてなんと数日前に地球支部へ行かせた筈の大和と、禍月の駆る「ヴォールクロス」が参戦し、戦域に突入……

 

『おうミカ、禍月も……よく間に合ったな?』

 

 ヒュィィィ……パシュパシュッ

 

『お前から話を聞いて、こうなる可能性を考えてたからな』

 

「……うん、禍月から“もしもの時にはこうしろ”って言われてたからね」

 

 ドッ……ガッシャァァァン

 

『オイ、三日月……半分くらい違うぞ? 俺は“団長達が襲われる可能性があるから、()()()()()()()()戻って来い”って言ったんだ。“大気圏突入用シャトルから飛び降りてでも”とは言ってねぇ!!』

 

 バシュ……ドゴォォォン

 

「……そうなの?」

 

 ヒュン……ドゴォ……ガシャン

 

『な?! ミカ……お前、急げっつっても限度があるだろ』

 

 グオォォォン……

 

「……そっか……あ……っ」

 

『……ん? どうした三日月?』

 

 ガゴン……バシュゥゥゥ……

 

「……うん、何かさ……急にバルバトスが動かなくなった」

 

 ズバァァァ……ズズゥン

 

『『……はぁぁぁ〜〜〜っ?!?!?!』』

 

 コレは全て戦闘中でのやり取り……この最中、バルバトスは着地と同時に1機。土煙に紛れて2機を狩り……禍月も戦域突入と同時に直近の2機をファンネルミサイルでダルマにし、撤退しようとしていた残存の2機もクロストランサーブレードで足を切り落として行動不能にしていました。

 

――――――――――

 

「お仕置きッ!!」

 

 スパァン!!

 

 バルバトスから降りてきたミカ兄の頭を、私はハリセンで全力でぶっ叩く。ルプス受領という名の出張から帰って来て、早々に私達整備班の仕事を増やす……もはや問答無用!

 

「……地味に痛い」

 

「当たり前でしょ! 痛くしたんだから」

 

「なんでオレ、帰ってきて早々に叩かれた訳……?」

 

「帰ってきて早々に、バルバトスを壊してるからよ!!」

 

 三日月(このお馬鹿さん)は大気圏突入直後……外部の大気摩擦が冷却されるのも待たずにシャトルからバルバトスごと飛び降り、戦場に乱入して暴れ回った。

 大気圏突入直後のシャトルと周囲の温度は、大気の空力加熱により約千数百℃に達する。三日月は外部の冷却を待たずその最中へと飛び出し、慣性制御とスラスター全開とはいえ激突の如き強引な着地から続けて戦闘開始……そのまま無双しまくれば、幾ら頑強なガンダム・フレームでも排熱コントロールが追い付かず、オーバーヒートして強制停止するのは当然といえよう……

 

 整備班として、機体を常に万全な状態にするのが私の仕事なのだ……無駄に厄介事を増やす……特に、MSの扱いが荒い団員は問答無用の『修正』対象としている。

 

 せっかく新品同様のバルバトスルプスを間近で拝めると思ったのに……全くミカ兄は!

 

 ……だけど、みんな無事で何より。




短いけどこんな感じ……またチマチマ原作見ながら執筆です。

ガオガイガーの方もあるけど、コッチを待ってる方も居るし……少しずつでも進められたらなぁと。

とりあえず序盤はこのまま、オリキャラ込みで原作沿いみたいに進みます……最終的にどういうエンディングを迎えるかは、皆様の応援次第かな?

次回もお楽しみに!


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第30話 秘めたる想い

1期ラストの答え、そろそろ出しとかないとね。
(死亡フラグ建築という事からは目を背けながら)

なお、ガンダムらしさとは無縁の回なので
ガンダムらしさを求める場合はブラウザバック推奨です……
この回読んで引かないで下さい。
登録解除とかも勘弁してぇぇぇ……(⁠-̩̩̩⁠-̩̩̩⁠-̩̩̩⁠_⁠_⁠_⁠-̩̩̩⁠-̩̩̩⁠-̩̩̩⁠)



 ……鉄華団の次の仕事が決まった。

 

 先の採掘場襲撃を企てた、宇宙海賊「夜明けの地平線団」の討伐……

 

 原作ではギャラルホルンからの依頼としてマクギリス・ファリドの部下、石動・カミーチェとの共同作戦であった。

 だが今回はギャラルホルンからの依頼を待たず、鉄華団単独で奴等と戦う……勿論、降り掛かる火の粉を払う為の戦いだ。

 

 ま、アイツ等実際にいろんな所に迷惑掛けてるし、世間的にもギャラルホルンは役立たずだし……実を言うと、個人で輸送業を営む何人かの連名で依頼も来てたしね。

 

 しかし何故、単独での討伐に至ったのかというと……

 

――――――――――

 

「オルガ……これ以上、アイツ等(ギャラルホルン)に関わるのは止めておけ。お前の目標は真っ当に生きる事だろ? 奴等は俺達を食い物にするだけだ、早いとこ手を打っとかねぇと何をさせられるか分からねぇ……テイワズの直系である時点で、目標の路線には結構近づけてるんだ。ギャラルホルンとの関係は、早い内に何とかしておいた方が良い」

 

 禍月からオルガへのアドバイス……夜明けの地平線団を壊滅させると同時に、ギャラルホルンとズブズブになってしまう原作を鑑みて、だ。

 

 現実的には厳しい選択だが、原作通りこのままマクギリス側に付いてしまうとそのまま反逆者エンド一直線だし、対抗勢力であるアリアンロッドのラスタル・エリオン側に近づいても、ロクな事にはならないだろう。

 

 そもそも今の時点でオルガ兄の目標……マトモな仕事で生きていく為の環境は整いつつあるし、このままテイワズ直系として鉄華団を盤石なモノにし、後々独立したりする方がずっと建設的だからね。

 基本的に原作通りの我武者羅最短ルートだと、普通にバッドエンドは免れないもん……

 

 ああ、そうそう……私と禍月は戦力的に地球支部扱いなので、作戦前には大和に同乗し、数日遅れながら地球へ戻る事になっている。

 

 もしもの時の為に、とアリス(ザドキエル)が自主的に残ってくれるらしいし、バルバトスルプスにグシオンリベイクフルシティ、魔改造済みの3代目流星号に獅電が3機と揃い踏みな上、前々から大いにお世話になっているシミュレーターリアルコントロール版アーケード 機動戦士ガンダム・エクストリームバーサス筐体も最新バージョンにアップデート済みだ。

 

 地球の件から戻った後、戦闘レベルを細かく調整可能にしたゼロシステムを使ってNPCを動かす仕様に変えてあるので、修行から腕試しに特訓など多様な使い方が可能……以前から時間の空いた団員はこぞって筐体に集まってたし、主要戦闘メンバーやラフタ姉達もやってたの見てるから、実力はメキメキと付いている筈だ。

 

 ……戦力的にもう安泰じゃね?

 

――――――――――

 

 ……そんな折、禍月からデートに誘われた。

 

 地球支部に戻れば仕事に忙殺されるのは分かりきっているし、原作の様に現地の人達との折り合いが悪くなる事態は避けたい。

 

 そうでなくとも、ラスタル・エリオンの策略……

 ……団員達の仲違いは必ず阻止したいから。

 

 

「……私が開き直ってんのに、誘ったアンタが縮こまってどーすんのよ……」

 

 そんでもってデート当日。禍月は何故か終始挙動不審……あの時、自分からあれだけ熱烈なアプローチした癖に。

 

 ……でもまぁ、本当は私の平常心も既に遠い地平の彼方。

 

 何とかポーカーチェイスで騙し切ってはいるが、それも何時まで保つか……とりあえずクリュセにある小綺麗な店舗が立ち並ぶエリアを歩き回って時間を潰し、そこそこ高級なカフェで昼食にする。

 

「……あの」

「……なぁ」

 

 ヤバい、第一声から見事に被った。沈黙を続けるのもさすがに限界……

 

「……先に言って良いぞ?」

 

「そっちこそ、私に遠慮しなくて良いから……」

 

(ヤバい……ドキドキが止まんない)

 

 頭が上手く回らない……禍月の方も、テンパり具合は最初ほどではないものの、収まる気配はないみたい。

 

 転生前は自他共に認める恋愛弱者だったし、そもそもこんなシチュエーションに憧れてはいても実際にやる事はついぞ今まで無かった。今この時が初挑戦なのだから攻略法なんて分からないし、何が正解なのかも検討が付かない。アレ? 今のシチュってリアルの自分の人生だっけ? 散々プレイしてきた乙女ゲーのワンシーンに似てない? ほら、こんなに天気の良い日に男女揃ってお出掛けとかさ……カフェで休憩して甘々な雰囲気を周囲に撒き散らしてね。

 

《……透火はさ。彼の事……気になってるんだよね?》

 

 唐突なアリスの脳量子波……私の表層的な思考はアリスに半ば筒抜けなので嘘は吐けない。

 

 勿論、禍月の事は仲間としても、協力者としても大切だ。

 

 でも彼が私に“あの”告白したあの日から……私は彼の事を普通に見れなくなっていった。

 その後、目標に沿う形で地球支部の開設が決まり、揃って地球支部行きとなったのも、互いの思惑に合致するから単純に嬉しい……でもその中に、最初の頃の目的意識とは明らかに違う嬉しさがある事に気が付いた。

 

 幼い頃の記憶。浮浪者や犯罪者の巣窟たるあの場所で、誰にも頼れず、恐怖と孤独に耐えながら過ごした日々……

 名瀬・タービン(父さん)の手でそこから救い出されても……こびり付いた恐怖は拭えなかった。

 

 でもそのトラウマが再発したあの時……彼はそっと私を抱きしめ「もう大丈夫だ、俺が側に居る……俺が守ってやる」と宥めてくれた。

 

 あの後、恥ずかしさが勝って結局、有耶無耶にしてしまったが……

 

 その言葉がキッカケで、徐々に……私は暗闇の恐怖(トラウマ)に打ち勝てる様になっている。

 

 そりゃ最初の出会いはまぁまぁ最悪だったし、その気もない内から彼の言葉に過剰反応するとか、後から考えれば“こんなんで反応するとかちょろすぎじゃん私……”と後悔もした。

 それから顔を合わせれば、目的の話をして、協力し、同じ時を過ごす度に理解し、僅かずつだけど心に触れ……知らぬ間に確実に惹かれていたのだろう……

 

 そんな彼が、今後も側に居る……目の届く範囲、手の届く場所に居てくれる……傍から見れば“ただそれだけ”の事なのに、私はその事実に心が踊っている。

 

 ハッキリとそれを自覚してしまった……

 

 コレが人を好きになるって事なのかな……?

 

 アレから少しずつ、彼の事を考える時間が増えている。

 

 当初は私の目的に賛同し、協力してくれている……

 

 言わば同じ目的を持つ者同士という感じだった。

 

 でもあのエドモントンの時を考えると、今の彼は純粋に目的とは違う感情を持って私を見ている。

 そうだと気付いてしまった……それからずっと胸が苦しい。

 

 彼が私から離れていったら? そうなったら多分、私は何もする気力さえ起きなくなるだろう……

 

 このモヤモヤはどうすれば解消できるのか……

 

 仮にこの想いを封印し、二度と開かない様に蓋をして、彼から離れたとしても……それからの私には、いったい何が出来るだろう……普通に生きては行けるだろうが、その世界に“色”は付いてないと思う……

 

 もうそれ程までに、彼の存在は私の中で大きな支えになっている……自覚してしまった以上もう歯止めは効かず、目を背けていた私の心の弱さが、その弱さ故に彼を貪欲に求めている……

 

 家族だから……同志だから……仲間だから……

 

 そんな括りじゃもう納得出来ない。

 

 彼との仲は、特別なものである筈だ……ただの同志とか、旅仲間的な関係とか……そんなちっぽけな結び付きでは、私の中の欲望が収まらない。

 

 頭の中は、もう抱え切れない程……彼の事でいっぱいになっている。

 

 そしてついに私の欲望が、表面を取り繕う恥ずかしさに勝り、言葉を紡ぐ……

 

「じ、じゃあ……私から。あ……アレ、こ……告白……だよね……。エドモントンの時……叫んだヤツ……」

 

「……あぁ、俺はお前が……お前の事が、好きだ」

 

 そこで一旦彼は、カフェの店員が出してくれていた水を一口で飲み干して一息つく。

 

「だが、一応先に言うと俺はその……もう既に添い遂げる人もいた奴が、新しい女を口説いているような奴だぞ? はっきり言ってスケベ爺を超えて不貞爺だぜ、俺は……」

 

 禍月はそう言って私の顔を、いや私の目を見て語り掛けてくる……その真剣な眼差しは、普段に見るどこか抜けてそうな感じなど欠片もない。

 

「今更何を、って思うだろうけどさ……本当は透火と会って、深く知るまでは“妻を裏切るまい”と、恋愛なんて考えてもなかったさ。けど……まさか惚れるとは思わなかったよ。彼女に対して感じていた想いとは同じだけど、自分からそれを自覚するなんて初めてだからさ………」

 

 そんな事を話した後「あー、言ってる間に恥ずかしくなってきた」と彼は額を抑えて顔を下に向ける……

 街の喧騒のお陰か、この会話が周囲に届いていないのは、彼にとっては幸いだろう。

 

 改めて聞かされた、禍月の胸に秘めていた想い……

 

 エドモントンの時と違い、周囲は日常の喧騒の中……戦場の様に邪魔をする敵も居なければ、野次馬の如く屯す仲間も居ない。

 

 誰も居ないのに、私の気分は四面楚歌……逃げられるシチュなのに逃げられない……いや……

 

 逃げたくないんだ……私は。

 こうやって彼の秘めたる想いを聞いて、こんな私を受け入れてくれると……そう確信したから……

 

「……私は……」

 

 単なる好奇心でもなければ、憧れとか羨ましさだとか……そんな陳腐な感情とは違う。

 

「わ、私は……」

 

 もうこの想いは「嘘」じゃない。一時の気の迷いなんかじゃない……

 

「……私も……禍月の事、好きになっちゃってる……」

 

 ついに口にする……私の秘めていた感情。

 

 今の私を支配する、巨大すぎる欲望……

 

 しかしこの瞬間、アレほどモヤモヤしていた邪魔な感覚がすぅっと消えてなくなっていた。

 

 頭の中の霧が晴れていく……

 

 恥ずかしさだけはまだ残っているけど、初めてストレートに出せた、私自身の気持ちだから……

 

「だ、だから……よ、よろしく……お願いします……」

 

 最後に俯座き加減のまま絞り出した私の声は、周囲の喧騒に掻き消される事なく彼の耳に届いた筈だ。

 

 そんな大きな音は立ってなかったしね……

 

「…………」

 

 たっぷりと長い沈黙……

 

 アリスと脳量子波でコミニュケーションを取れるとしても、私はイノベイターではないし、彼の心の中を読むなんて芸当など出来ない。

 

 ……でも、何故か……

 

「お……おぅ……そうか……(良かった……本当に良かった……)」

 

 この日、この瞬間だけ……この時だけは、間違いなく彼の心を読めた気がしたのだった。




……スミマセン。
書いてて自分が混乱しながら砂糖も吐きました……(自爆)

なお、禍月と透火のデートから続くこのやり取りは全てアリスによって録画され、アトラとクーデリアには筒抜けだった為、間を置かず団長を初めとする鉄華団全員に知れ渡る事となる……
つまり2人の邪魔が入らなかった事自体、全てアリスの計画通りである。
ついでに鉄華団は原作以上に張り切り(?)、夜明けの地平線団は呆気なく壊滅させられたのでありました……

ちなみに……
夜明けの地平線団に所属していたヒューマンデブリの子供達は、アリスと三日月の奮戦や、今回の改変で生き残っているビスケット等の働きのお陰で原作よりも多く生き残っており、全員が鉄華団への移籍を経て、晴れて自由を手に入れた事も併せて明記しておく。


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