忘れ物 (カラドボルグ)
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第一話 過去と今

初めまして、カラドボルグです。
処女作ですので何かと稚拙なところは多いかと思いますが最後まで読んで頂けると幸いです。


 

 

 

 人は誰であっても過ちを犯す時はある。それは仕方の無いことだし、その過ちは大抵は取り返しのつくことである。たが、時にその過ちは誰かに、そして自分に、取り返しようのない一生残る傷をあたえるときもある。

 

 

 

 

 あの日、 彼女から向けられた悲嘆と怒りに満ちた目は今でも僕の頭から離れてくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんで!? あの時の·····との··········わ·····れちゃったの!?』

 

 

 

 

『 な、何だよ? ······って。そんなの覚えてる訳ないだろ! それに·····これは僕に·······れても········ようも·····いこと·····んだよ。ましろ·····も··········るだろ?』

 

 

 

 

『··········から·······い! もう·······も·····陽一··········て·····ない! 二度と私の······界に·······らないで!』

 

 

 

 

『··········そっか。君··········う言う·······ら、そ·····するよ』

 

 

 

 

 

 

『あ·····ま、·····って! ········ってよ陽一! ────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガタンッ

 

 

 

「痛っ。·······また、あの夢か」

 

最悪の目覚めだった。またあの時の夢を見た上に、ベッドから落下。心身ともに最悪のコンディションだ。

 

 寝室から出ると、昨日の晩飯の残りを温め直し、それで朝食を済ませた。テレビに映されていたニュース番組は大物芸能人が亡くなったとか、そんな気の滅入るような物ばかり報じているように感じた。ついさっき温めたはずの昨日の残り物も何だか冷たく感じた。

 

 

「いってきます」

 

誰もいない家の中に向かって返事の無い挨拶をして、家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 去年まで海外にいた俺は今年4月に現在通っている高校の編入試験を受け、無事入学できた。当初は長い間日本から離れていたために不安は多かったが、何だかんだで上手くやれている。

 編入してからまだ1ヶ月だが既に今の俺にとっての一番居心地のいい場所とさえ思える時もある。故に学校に行くこと自体楽しくはあるのだが、今日に限ってはそうではない。朝の出来事のせいか全くもって気分が晴れないのだ。きっと今日一日中そうだろう。あの夢を見た時は大抵そうだ。せめて今日一日が穏やかに·····

「陽くーん! おっはよー!」うん、分かってたけどもうちょっと希望を持たせてくれてもいいんじゃないですかね。早すぎやしませんかね? 俺の希望潰れんの。とか何とか思っていると俺のささやかな希望を打ち砕いた声の主が隣まで走って来た。

 

「おはよ! 陽くん!」

「おはよう、香澄。それから毎度言ってるけど、道の往来でそんな大声で人様の名前を呼ぶんじゃありません」

「うん! 気を付ける! 次から!」

 

と、お決まりのやり取りをするこの元気っ子だが、僕が学校に馴染めたのも彼女が真っ先に話しかけてくれたことが大きいだろう。

 

「ほんと返事だけはいいよな。その返事にどれだけ騙されてきたことか」

「まぁまぁ、細かいことは置いといてー。そんなことよりほら、陽くんは今日の宿題·····」

「見せねえ」

「まだ最後まで言ってない!」

 

と、頬を膨らませてコイツは言うが、言わなくても分かるわ。てかやめろその顔。ちょっと可愛いって思っちゃったじゃねぇか。

 

「どうせ宿題見せてくれだろ。もう何回目だ? これ。有咲にでも見せてもらったらどうだ?」

 

そもそもお前には恋人同然の親友がいるだろ。いつもイチャイチャしてんだろ。とか思っていると彼女は少ししゅんとして、

 

「有咲にはこの間、もう金輪際見せてやんねえ、って言われちゃったんだよ」

 

と言った。心做しか彼女のトレードマークの猫耳ヘアが垂れ下がっているように見えた。多分有咲に関しては香澄のためを思って突き放した部分はあるだろう。勿論俺同様めんどくさいという思いもあるだろうが。

 

 そんな彼女の様子に少しの同情とその友情を微笑ましく思う感情を含んだ瞳で見ていると、突然彼女は猫耳を復活させてこう問い掛けた。

 

「なら陽くん、私がそれなりのー、えっと·····原価? を払えば見せてくれるのかな?」

 

多分彼女は『対価』と言いたかったんだろうが·····やはり残念なおつむだ。どうして高校生やっていけてるんだろうか?そう考えながら

 

 

「そりゃあそれに見合う対価があるなら考えないでも無いけど、そんなものを果たして提示できるのかね? 香澄君よ」

 

と少し意地悪く問い掛けた。すると今度は普段の彼女らしからぬ何かイタズラを思いついたかのような妖しげな笑みを浮かべてこう言った

 

「じゃあ良いバイト先紹介してあげる!」

 

 

その言葉に俺は足を止めた。ほう、こいつにしてはいいツボをついてきたな。だがしかし! 俺はそんじょそこらの条件では納得するような…………

 

「時間は融通効くし、時給はなんと……!」

 

そう言って香澄はその額をそっと俺に耳打ちした。

···············何だと?! 思わず目を見開いて彼女を見つめる。目に見えて動揺している俺の様子を見て、目を輝かせならさらに付け加えた。

 

「前、陽くん言ってたよね。『バイトしたいけどなかなかいいの見つからない』って。だったらこの話、陽くんにとっても悪くないんじゃない?」

 

「くっ·····。さっきまで頭の残念な子だと思ってたのにっ·····」

 

すると彼女はニヤニヤしながら

 

「んー? そんなこと言っていいのかな〜? バイトちゃんがどうなってもいいのかな〜?」

 

と問い掛けてくる。完全に立場は逆転。主導権は香澄にある。確かにここで宿題見せてやらない、と切り捨ててやることも可能だ。しかし日本に帰って来て数ヶ月、貯金にも余裕が無くなってきた俺にとってはみすみすこのチャンスを逃す訳には行かない。実際彼女の言う様な条件の良いものはそうそう見つからない

 

悩み悶える俺を見てもう一押しと思ったのか、彼女は更にこう付け加えた。

 

「なお、美人な上司がついてきます!」

 

「ぜひ宿題をご覧になってください」

 

 仕方ないじゃないか。こんな条件の良いバイト無いし、オマケに美人な上司が付いてくると来た。断る理由もない。男ならだれでも即決だろう。まあ、さっきから正に「ムフーッ」と言った感じでドヤ顔を浮かべているポンコツ猫耳娘には少々腹が立つが、それを差し引いてもまだお釣りが来るくらいだ。

 

「よーし、じゃあ君のこと、まりなさんに·····あ、それから、これからもちょくちょく宿題見せてもらえたらなーと」

 

そう彼女は追加条件を提示した。くっそ、コイツマジで腹立つな。

 

「調子乗りやがって。次からは絶対助けて「あー、やっぱ違う人紹介しよっかなー」これからも宿題に困ったら遠慮なく相談しに来いよ!」

「ありがと!じゃあじゃあ、ついでにこれからはちょくちょく勉強教えてもらったりしていいかな?」

「えー……面倒く「残念だけど今回の話は……」分かった。いきずまったら何でも聞け」

 

いやー、あんな良いバイト紹介してくれるなんて、香澄マジ最高の女!逆らうなんてもっての他だな!

頭の中で手首がちぎれんばかりの高速掌返しを披露していると、ふとあることが気になった。

 

「因みにそのバイトいつから始めりゃいいんだ?」

「今日の放課後からだよ」 

 

なるほど今日の放課後ね……は? 

 

「放課後?」

「うん」

「今日の?」

「うん!」

 

うん。ちょっと何言ってるか分かんない。急過ぎやしませんかね? すると彼女はこの疑問に対して照れ笑い浮かべながら

 

「まりなさん……あ、まりなさんは例の美人の上司さんね。その人に出来れば今日までに見つけてくれって、それも力仕事も多いから出来れば男の子でって言われてたんだけど……」

「それを今日の今日まで忘れていたと」

「えへへー。面目ない」

 

え? 何? 俺はつまりこのポンコツのその場の咄嗟の思い付きに折れたってこと? 思った以上に自分がバカであったことにほとほとあきれながら大きくため息をついていると、

 

「もしかして、明日からだとなんか都合悪いかな?」

 

と、彼女はいつになく不安そうに聞いてきた。

 

「いや、別にそういうわけじゃないよ。ただ自分の頭の弱さを憂いてただけだから」

「むー。なんとなく馬鹿にされたような気がするけど、それなら良かった!」

 

 そう言って彼女は顔を綻ばせた。まあ、大方件のまりなさんとの約束を果たせたからだろう、心底嬉しそうだ。しかも上機嫌にスキップまで始めた。いや流石にテンション上がりすぎだろ。そう思っていると彼女は

 

「さあ! そうと決まったら陽くんもいい加減元気出して!」 

 

前を行く彼女は振り返って、そう俺に声をかけた。思わず立ち止まった。自分は今日一言でも気分が悪いことを愚痴ってはいないし、気を遣われるのが嫌だから表にも出してないはずだ。そんな風に驚ていると

 

「それぐらい分かるよ。いっつも見てるんだから。当然だよ!」

 

そう言ってのけた。ああ、なるほど。こういうところに惹かれてこの子は多くの人から慕われるのだろう。かく言う俺もその一人なわけだが。

 

「流石はコミュ力お化けの香澄さんだ。そりゃお前からすりゃ一か月も友達やってりゃそれも当然か」

 

 すると彼女はなぜか不機嫌そうにむくれた。

 

「見てるって、それだけじゃあないんだけどなぁ」

 

ポショポショとした声で何か言ったがまあ大したことでは無いだろう。何はともあれこれで日本に帰ってきてからの一番の不安材料だった金欠問題が解消されそうだ。

 

「じゃあ、今日の放課後、終礼終わったら一緒に行こっか」

 

「ああ。そうしてもらえると助かる」

 

そんな話を彼女としながら、あーようやく肩の荷が下りてくれる、そんな気楽なことを考えながら俺たちは校門をくぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに大きな荷が降りかかってくるともこの時はまだ知らずに。

 

 

 




こんなものをここまで読んで頂いてありがとうございます。もしよければこれからもよろしくお願いします。



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第二話 始業

やっぱり遅くなりました。すいません。
こんな感じですが、読んでくださってる方はよろしくお願いします。


 教室に着くと、俺は早速昨日の宿題を取り出し香澄に差し出した。香澄は一瞬首を傾げ、すぐにはっとしたような表情になった。

 

「あ! 宿題!」

 

こいつ本当に頭大丈夫だろうか。交換条件持ち掛けてきた張本人が忘れるか普通。

 

「うむ! よろしい! 陽一君、これからも励み給え!」

 

 そして何事もなかったかのように、とても借りる側の人間の発言とは思えんことを言い出した。コイツマジで一回ぶっ飛ばしてやりたい。まあ今は我慢だ。バイトを餌にされたら困るしな。しかしたかられてる気がしてやだなこれ。

 と自分の今の立場の弱さを嘆きながらノートを渡していると、後ろから声がかかった。

 

 

「おい、宝田! お前また香澄に宿題みせてんのか! 何のために私が見せてないと思ってんだ!?てか香澄も何回忘れりゃ気が済むんだ!?」

 

香澄の親友である有咲がそう声をかけてきた。

 

「有咲ー、なんでいつもみたいに見せてくれなかったの?」

 

その質問は少々傲慢が過ぎるだろ。それにしても有咲の愛情が伝わっていないのは頂けないな。

 

「それはなー香澄、有咲がお前のこと好きで好きで仕方ないからだよ。要するに愛ゆえだな」

「お、おまっ!? ち、違うからな!」

 

 

以前も言ったが、有咲がこうしたのは香澄のためを思ってであるのは明白だ。実際、本人こうは言ってるものの顔真っ赤だからな。と、いつも通りのツンデレを拝んでいると、香澄が不安そうな様子で

 

「有咲、私のこと鬱陶しいと思ってたの?」

「そ、そうじゃなくて、今回はお前のためを思って……や、やっぱ何でもない!」

「ん? 有咲ー、照れてる?」

「照れてねー!」

「有咲ー!」

「おい! バカ、くっつくな!」

 

「くっつくな!」とか言いながら嬉しさが隠せていない。

 

「はいはいツンデレ、ツンデレ」

「誰がツンデレだ!」

 

いやお前以外誰がいるんだよ。というか今の香澄の不安そうな聞き方、完全にわざとだろ。こいつこんな芸当できたのか。

 

 

「おはよう、香澄、有咲。それと陽一も」

「三人ともおはよう」

 

 そうこうしている内に沙綾とりみが来た。そう言えばと他クラ香澄と有咲、そして隣のクラスの沙綾とりみ、さらにもう一人他クラスの花園、香澄はおたえとか言ってたが、その五人でPoppin'Partyとかいうバンドを組んでいるらしい。

 

「おはよう! さーや! りみりん! ねえ聞いて、有咲ったら私のことが大好きって!」

「んなこと言ってねー!」

 

意訳すれば間違ってないだろうが、香澄は流石に話盛りすぎだろうよ。

 

「こーら、香澄。有咲で遊ばないの。でも、有咲が香澄のこと大好きなのはみんな分かってるから。ね、りみりん」

「うん。普段はつっけんどんな態度とってるけど、本当は私たちのことちゃんと考えてくれてるのはよくわかるよ」

「うるせー! お前らまで何言ってんだ!」

 

 

 こうして傍で見ていると本当に仲の良さが伝わってくるし、何となく俺だけは違う空間にいるような疎外感を感じて少し寂しい気もするくらいだ。にしても有咲は愛されてるなー。そしてりみの言う通り、口ではこんなだが、やはり満更でもなさそうな感じを隠せていない。もういい加減素直になればいいものを。

 

 

「そんなことよりお前ら聞いてくれよ! 宝田の奴、こっちの努力も知らずに香澄に宿題見せやがったんだよ! 普段は大抵めんどくさがって見せないくせにこんな時に限って……」

 

 露骨に話題逸らしたよこの人。それから違うぞ有咲。俺は知ってた上でやったからな。あんな交換条件がある以上お前の努力なんざ知ったことではない。それからやっぱ香澄への愛情隠しきれてないぞ。そんなことだと……

 

「有咲、やっぱりあれ香澄のためを思ってのことだったんだー。ふふっ」

「笑ってんじゃねー! てかそんなこと今はどうだっていいだろ!」

 

 ほーら、やっぱり沙綾にいじられた。

 こんな感じで有咲イジりに興じている間に問題児が事を済ませたようだ。

 

「はい、陽くん! ありがと! またよろしくね!」

「はいはい。その『また』が無いようにしてほしいんだけどな」

「善処しまーす」

 

こんなに信用ならん「善処します」なんざ聞いたことがない。

 

 

 すると沙綾が首を傾げて不思議そうにしていた。

 

「どうしたんだ? 沙綾」

「いや。そういえば、陽一ってさ、今まで香澄に宿題見せるの結構嫌がってたのに、聞いてる感じこれからも宿題忘れたら陽一が見せるって感じだったから。なんでかなーって」

「確かに。どういう風の吹き回しだ?」

 

やっぱり気付いたか。香澄にいいようにやられたことを語るのは気が引けるが、どの道バレるのだからここは正直に話すのが吉か。そう思い、

 

「いやー香澄がいいバイト紹介してくれるって言うから。その交換条件に折れったってとこだ」

 

と、嘘偽りなく(美人上司がトドメの一撃であったことは伏せているが)語った。各々呆れたり、怒ったりするんだろうと考えていたのだがかえってきたのは予想外の反応だった。

 

「バイトって……おい! それ何のバイトだ!?」

 

 

 きっとお怒りだろうと考えていたツンデレツインテールがやけにこれに食いついて来た。他の二人も興味津々と言った感じだ。

 

「そーいや、どんなのかは聞いてなかったわ。香澄、俺のバイトって何なの?」

 

 すると香澄は、らしくもなくもじもじし始めた。え? なに? 俺どんなバイトさせられんの? まさかそっち系? そっち系なのk「ライブハウス……」ん? 

 

「ライブハウス?」

「うん……」

「あれだよな? あの……バンドとかがライブするあれだよな?」

「そうだけど」

 

 なるほど。さっきも言ったように彼女らはバンド活動をしている。ならばそう言ったところとツテがあってもおかしくはない。確かに意外なバイト先ではあったがそこは納得出来る。だが気になるのは、

 

「なんでそんな顔赤らめてもじもじしながら言うのよ?」

「ふぇっ? そ、そんなことないよー。もうやだなー陽くんったら」

 

 そんなことあったと思うんだが、まあ本人がそう言ってるならいいか。そう納得していると、沙綾たちがなんだかにやにやしながら俺たちを見ていた。

 

「どうしたよ?」

「へー、香澄なかなかやるじゃん。と思って♪」

「うん、香澄でも偶にはやるんだなーと」

「ちょ、ちょっと有咲ー。それじゃまるで私が普段は全然ダメ見たいじゃん!」

「全くもってその通りだろうが! だいたいこの状況まで持ってくんのにどれだけ……」

「あー! わかった! わかったから有咲、それ以上は~」

「あ、有咲ちゃん! 流石にそこまでは……」

「流石に分かってるよ。そこの男みたく、いくらこっちの系統でもそこまで馬鹿じゃねーから」

 

 

 また俺一人ほっぽらかして四人の世界に入りやがったと思えば、いつの間にか盛大にディスられていた。いやなんでさ? てか何だよ? 「こっちの系統」って。すると三人はそろって大きな溜息をついた。いやなんなの? マジで。泣いちゃうよ、俺。

 

 

「これは香澄も苦労するね~」

「前途多難だね……」

「てかなんで香澄はあんな奴を……」

「あれ? 有咲ー、ヤキモチ?」

「だから違う!」

 

 しかも俺とは逆の方を向いて何か話し始めた。声が小さくて何を言ってるかは分からないが、少なくとも俺をディスってるのだけは分かった。

 

 もういっそ本当に泣いてやろうかと思ったところで始業のチャイムが鳴り、担任が入って来た。

 

「はーい、みんな席についてー」

 

 

これを合図にようやく俺のディスり合戦は終わってくれた。

 

「やっと終わってくれたよ全く。香澄、何話してたんだ?」

「え!? え、えっとー……ひみつ!」

「なるほど、俺の悪口か。そうだったかー。よし、泣くわ」

「なんでそうなるの!? ま、待ってよ違うから~」

「おーい、戸山、宝田。お前ら何時までいちゃついてんだー。夫婦(めおと)漫才なら他所でやれー」

 

 

 周囲から笑いが起こる。ほんと何てイジり方をかましてくれるんだろうかこの担任は。気分が悪い。すると香澄が小声で俺に尋ねてきた

 

「ねえ、『めおと』って?」

「ん? 夫婦(ふうふ)のことだよ」

「ふーふ!? や、やだなー陽くんったらー」

「いやいや俺が言ったんじゃねーから! てか顔赤らめんな! こっちまで恥ずかしくなっちゃうだろうが」

「おーいお前ら。マジでつまみ出すぞ」

 

 また怒られた。全く香澄は……いや、今大声出して喋ってんのバレたの俺か。

 

 

 

 本当にこんなことで今日のバイトは大丈夫なんだろうか?

 嫌な予感がしてならなかった。 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
しかし今回は話が進まなかった。タグにいるもう一人の子は一体いつになったら出てくるのやら・・・


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第三話 それぞれの昼休み1

どうもカラドボルグです。

今回のガチャは爆死しました。

それは兎も角第三話です。
因みに今回は香澄視点です。


 時間は流れ昼休み、私は普段のようにPoppin'Partyの皆と昼食をとるため中庭に来ていた。

 全員集まったところで、さっそく有咲が切り出した。

 

「香澄、ここまで漕ぎ着けんのにどんだけかかってんだ?」

「ん? ここまでって?」

「だから! 宝田をCircleのバイトに誘うのにってことだよ!」

「ひえ~、ごめんなさ~い! だいたい二週間ぐらいかかりました~」

 

 有咲は、何でコッチの方面はこんなにチキンなんだって呆れているけれどこう言うのも無理はないよね。実は陽くんにライブハウスCircleのバイトを持ち掛けようというのはかなり前から出ていた話だったから。因みにこの案は私じゃなくて皆が考えてくれたものだ。

 

 今度は沙綾が話し始めた。

 

「でも、香澄が陽一のこと好きって打ち明けてきたときはほんとびっくりしたよ。あの時何て言ってたっけ? 確か……『私、陽くん見てると何だか胸のあたりがキラキラドキドキするんだ!』だっけ?」

「やめて~、さーや! 恥ずかしい~!」

「お前に羞恥の概念あったのな」

 

今考えたら結構なことを言ってるなあと思った。

 

 さらにおたえが続けた。

 

「そういえば、香澄は何がきっかけでその陽くんのことが好きになったの?」

 

この質問にはみんなが食いついた。

 

「あ! それ私もめっちゃ気になってた!」

「確かに。今まで香澄、そのことについては言ってくれなかったもんね~」

「で、実際どうなんだ? 香澄」

 

私は答えようか迷った。こういうのを正直にいうのはやっぱり恥ずかしい。なので

 

「ま、まあ、それは乙女の秘密ってことで!」

 

これで誤魔化しておこう。

 

「なにが乙女の秘密だ! ここまで協力させといてそれはないだろ! 答えろ、香澄!」

 

やっぱ無理だった。でもこればっかりは……

 

「だって恥ずかしいんだも~ん。こればっかりはご勘弁を~」

「普段もっと恥ずかしい言動連発してるくせに何が恥ずかしいだ!」

「む! 有咲! 私はそんな恥ずかしいこと連発してないですぅー」

「どの口が言ってんだ! どの口が!」

 

そう言って有咲は私のほっぺたを引っ張ってきた。痛い痛い。

 

 するとおたえは首を傾げながらこう言ってきた。

 

「香澄がそんなに恥ずかしがる理由って何だろう? あ、一目惚れとか?」

「あーなるほどねー。確かに陽一って顔はかっこいいしね~」

「香澄、意外と面食い?」

 

これは私としては陽くんの名誉のためにも訂正しなければならなかった。

 

「そんなんじゃありません~。だいたい沙綾! 陽くんは顔『は』かっこいいんじゃなくて、顔『も』かっこいいの! 文句言いながらもなんだかんだ助けてくれるとことか、勉強も結構できるんだよ! 運動の方はあんまりやってるとこ見たことないからしらないけど、多分結構できると思う! それから……」

 

ここまで言って、自分の発言が一生ネタにされるくらい恥ずかしいものであるのに今更ながら気付き、羞恥で耳まで赤くなっていくのが自分でも分かった。

 

すると何やら有咲がニヤリとしながらスマホを操作しているのが見えた。嫌な予感がする。

 

「あ、有咲、何やってるの?」

「ん? 何って、お前の今のこっぱずかしい発言を録音してただけだけど」

 

何やら有咲がとんでもないことを言い出した。

 

「有咲がひどいよ~! それどうするつもりなの!?」

「いや、香澄がそのきっかけを教えてくれねーから、代わりにこれをガールズバンドパーティーの皆に聞いてもらおうかと」

「うわ~ん。有咲がいつもより鬼だ~。りみりん、助けて~」

 

現状一番味方してくれそうなりみりんに頼んだ。しかし、

 

「ごめんね、香澄ちゃん。私も香澄ちゃんが宝田君のこと好きになったきっかけ聞きたいな」

「りみり~ん」

 

私は落胆に肩を落としながら、沙綾達にも助けを求める視線を送ったが

 

「諦めな、香澄。もう逃げられないよ」

「うん。人生諦めが肝心」

 

バッサリ切り捨てられた。

 

「やだー! だって恥ずかしいんだもん!」

「それさっきも聞いた。つーかなんで恋愛ごとになるとこんなシャイになるんだよ。……よし分かった。今ここで皆に送るわ。えっとグループラインはっと……」

 

いつもならブラフだと考えられるけど、今日の有咲はそれを実行に移しかねないと思い、恐ろしくなった。

ここはいつもの手で行かせてもらうことにした。

 

「ま、待って有咲! そんなことしたら、もう有咲と友達やめる!」

 

自分でもちょっと卑怯だと思った。でも仕方ない。乙女の秘密を守るためだ、うん仕方ない。これで有咲も……

 

「え? 別に。それなら心置きなく今すぐグループに報告できるわ」

「うわー! ごめん、有咲~。冗談だからそれだけはどうか~」

 

全く動じてくれなかった。いつもなら今ので照れてくれていたのに。どうやら今の有咲はいつもと違って、いや、いつもに増して鬼であったようだ。

 

 鬼はさらに詰めよって来た。

 

「言うのか? 言わないのか? どっちだ?」

「言います! 言いますから~」

 

ついに私は折れた。これで完全に逃げ道が断たれた。有咲は私に背を向けて小さくガッツポーズしているように見えた。うーん、なんかいつもと立場が逆なような気がして悔しい。

 

 

 そうだ! この昼休みを乗り切ればそのまま有耶無耶にしてしまえるかも! うまく話を逸らせば……

ふっふっふー。どうやら今日は冴えているのは有咲だけじゃないようだ。そもそも! 今日の私はあの陽くんですら嵌めたのだ。私にできないことは無い! 

 

「そ、そー言えば有咲のお弁当の卵焼き、今日もおいしそうだねー。私のハンバーグと交換しよ! みんなもなんかおかず交換しようよ!」

「「「…………」」」

「うん、いいよ。レタスと交換なら」

「おたえ……流石にレタスと交換できるものはないかな~」

 

うんうん、いい感じ。このまま押し切ってしまおう。

 

「ほらー。みんなも早く何か交換を……」

 

そう言っておたえ以外の三人を見ると苦笑いやら呆れ顔やら、兎に角思ったのと違う反応だった。あっれれー、おっかしいぞー。

 

「み、皆どうしたのかな? 何でそんな顔してるのかな?」

「香澄、流石にその話の逸らし方は……ちょっと無理があるかなー」

「え? な、何のことかな~? も、もうやだなー沙綾ったら」

「やめとけ香澄。もうお前が話逸らして有耶無耶にしようとしてんのバレバレだから。おたえ以外には」

「え? そうだったの? 香澄、策士?」

「もー! ちょっとぐらい引っかかってよー!」

 

全然ダメだった。どうやら今日の私はいつも通りのようだ。なら何故陽くんは騙せたんだろうか? 

 

「そりゃあ、あいつがバカなだけだろ」

「違いますぅー。あれは天然って言うの!」

「どっちも一緒じゃないかな?」

「でも、確かに陽一ってそういうとこあるよね」

「うん。でもそこがまたカワイイっていうか……」

「うーん。これは重傷だね」

「べた惚れだー」

 

また無意識に恥ずかしいことを口走ってしまった。私が再度羞恥に顔を赤くしていると鬼が私に迫った。

 

「さあ、洗いざらい吐け」

「オエ~」

「ふざけるんだったら……」

「鬼ぃ」

「なんとでも」

 

 観念した私はこの恋の、私の初恋の経緯ゆっくりと語りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が話し終えると、皆一様に驚いた表情を浮かべた

 

「な、なあ。そのことについて宝田は」

 

その有咲の問いかけを遮るように昼休みのおわりを告げるチャイムが鳴った。

 

「あ! わ、私日直だから先行くね!」

 

そう言って逃げるようにその場を後にした。

 

 

 

 

 逃げるように去っていった香澄を引き留めることもできず私たち四人は中庭に取り残された。そんな中私の頭の中ではアイツの語ったことがずっと反芻していた。

 

「香澄ちゃん、行っちゃったね」

「うーん、あれは逃げたね。それより今の話、仮に香澄の勘違いじゃなくて本当のことなんだったら結構ロマンチックだけど……」

 

確かに沙綾の言う通りこれが真実ならばロマンチックであることは否定しない。だがそれと同時に引っかかることがあった。

 

「どうしたの? 有咲」

 

そんな私の様子に気付いたのか沙綾が尋ねてきた。

 

「いや、まあちょっと。ほんとにこれがロマンチックだけ終わればいいんだけどなーと思って」

「それってどういう……」

「まあこの話自体は香澄自身がどうするかだから、あんま私たちが口出すべきじゃないだろ」

「……うん。そうだね」

 

沙綾は少し眉尻を下げながら首肯した。こうは言ったものの私も悪い予感がしてならなかった。

もし、このことを宝田が知らないとして、いやきっと知らないだろう。そしてこの先、このことを知ってしまったら……と、ここまで考えて私はこの嫌な思考を振り払い立ち上がった。

 

「よし、お前らももう行くぞ。授業遅れちまうぞ」

「じゃあ、また放課後」

「うん、おたえちゃん。待って、有咲ちゃん」

「バイバイおたえ。さて、私も有咲姫のお供をするとしますか~」

 

私は、よきにはからえよーとか言いながら沙綾の言葉を流した。

 

 そんなことを言い合いながら校舎へ戻る時、散った桜の花びらを乗せて吹いた春風は妙に生暖かく感じられた。

 

 




いやー前書きでも言いましたけどガチャって当たらんもんですね。

それはそうとここまでで評価ふよしてくださった方々、お気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!
これからもよろしくお願いします。

まだの方も感想、評価のほどよろしくお願いします!

では次話でお会いしましょう。

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第四話 それぞれの昼休み2

さあ、あともうちょい自粛頑張りましょう!ああ、オンライン授業キツいぜ。
遅くなったけど四話です。



 午前中のクソほど眠い授業終えてようやくの昼休みである。因みに午後も眠いのには変わりないのだが。

 登校中に買ったコンビニ弁当を食べようとコンビニ袋を取り出したところで、後ろの茅ケ崎誠士郎がやけにニヤニヤしながら声をかけてきた。

 

「おい、陽一。お前最近香澄ちゃんとやけに仲いいよな」

「そうか? 前からこんなもんだろ。というかアイツ、俺の編入直後からあんな感じで喋りかけてくれたし」

 

 あの時は本当にびっくりした。

 

 

 

 二年生からこの花咲川に編入した俺にとっては知り合いなどは勿論いるはずもなく、まさに孤立無援の状態だった。その上この学校、後から聞いた話だと近年の少子高齢化云々で最近になって女子高から共学になったらしく、兎に角男女比がおかしい。男3に対して女7といったところだろうか。

 

 これを聞いた男性諸君は「え? ハーレムじゃん。最高じゃねえかクソが」と思ったかもしれないがそう簡単な話ではない。いざそんな女子だらけの檻の中にぶち込まれたらどうすりゃいいか分からなくなるのがオチである。

 

 始めて教室に入ったとき、今話している茅ケ崎も来ておらず、それどころか他の男子生徒も誰一人としてまだ登校していなかった。要するに周りには女子しかいなかったのだ。どうもうちの男子どもは登校するのが遅いらしい。事実この後ろにいるお調子者は今日も今日とて門が閉まるギリギリの時間に駆け込み、かなり厳しいことで有名なうちの学校の美人風紀委員にお叱りを受けたらしい。まあ本人は「いや~今日もご褒美頂きました」と言っていたが。普通に引いたわ。

 

 友人の性癖のせいで話が逸れたが、俺は編入早々にこのハーレム地獄に立ち尽くしてしまった。その上女子たちから浴びせられる「あんな子いた?」的な好奇の視線にさらされて完全にメンタルがやられてしまったのだ。

 

 もうこれはボッチド陰キャを二年間貫くしかないなと考えるまでに軽くメンタルブレイクをかましたところで、突然自分の右隣の席に座っていた妙な髪形をした女の子が声をかけてきた。

 

「ねえねえ! 間違ってたらゴメンだけど、去年キミってウチにいなかったよね? 転校生?」

 

 最初に彼女に抱いた印象は、何だかキラキラした子だな~、そう言ったものだった。整った可愛らしい顔立ちにこの高いコミュ力、あまりにまぶしく感じられたんだろうか、それとも単に美少女に接近されて照れたのか、少し彼女から目線をそらしてしまった。

 

「転校っていうよりかは編入かな。去年まで外国にいたんだ」

 

 すると彼女は心底感心したという様子でこう言ってきた。

 

「外国?! じゃ、じゃあ英語とかもペラペラなの?」

「まあそれなりには」

 

 随分とグイグイ話しかけてくる子だなと戸惑いながらそう返した。すると彼女は今度は嬉しそうにして

 

「ホント?! じゃあ英語教えてくれない? 実は私苦手で……」

 

 そう尋ねてきた。別に断る理由もなかったので了承した(まあ今考えてみればこの選択は失敗だったかもしれんが。だってほぼ毎回聞いてくるもん)。彼女はやったー! と言って心から喜んだ様子だった。ここまで自分の感情を素直に表現できるのは少し羨ましいとも思えた。

 しかしまあ大したコミュ力だ。

 

「よくこんな編入してきたばっかの奴に声かけられるよね。えっと……」

「あ、私、戸山香澄! 香澄でいいよ! 君は?」

「俺は宝田陽一。じゃあ香澄さんでいいのかな?」

 

すると彼女は少しの間目を見開いていた。俺が訝し気にしているとすぐに元の表情に戻して続けた。

 

「さんもいらないよ。私も陽くんって呼ぶから!」

 

マジか。速攻あだ名呼びとは。どうやらこの子は本当に日本人離れしたコミュ力をお持ちのようだ。というかアメリカにもここまでの奴はなかなかいなかったから人間離れの方があってるだろうか、そんなことを思っていると彼女の友達らしきポニーテールの女の子が彼女に声をかけてきた。なんかパンの匂いするな。

 

「おはよー香澄。あれ? その子って……」

「おはよ! 沙綾! 聞いて聞いて! この子、去年まで外国にいたんだって! 私、今友達になったんだ! 沙綾も仲良くしてあげて」

 

おっとー、流石に友達認定早くないですか? こっちは友達になったような覚え一切なかったけど。まあいいか。どうやら彼女のおかげで女友達ゼロは回避できそうだし。

 

「私は山吹沙綾っていうんだ。よろしく、陽一君」

 

いつの間にか名前まで教えられていたようだ。もはや疑問に思うのも面倒になり、そのままよろしくと返した。

さらに香澄は教室の隅の方に座っていたツインテールの子に向かって言った。

 

「ほーら有咲も! さっきからチラチラ見てるだけじゃなくてこっち来て!」

「べ、別に見てねーし!」

「陽くん、有咲はあんな感じだけど、ほんとはとってもいい子だから。仲良くしてあげてね!」

「別に仲良くしてもらわなくていい!」

 

 

 

 

 こんな風に彼女のおかげで段々と友人の輪が広がっていき、その流れで誠士郎ら男子勢ともスムーズに話すことができ、今に至るといった感じだ。

 

 

 

 

 

「まあでも、アイツいなかったらホントにお前ぐらいくらいとしか絡みがなかったのかもしれなかったのか。そっれは地獄絵図だ。アイツには感謝しなきゃな」

「おい何が地獄絵図だ。でもそれ聞いて安心したわ。てっきりお前はそういう方向に興味がないのかと」

「お前俺のこと何だと思ってんの? 一応俺だって健全な男子高校生だぞ」

 

そう。俺だって人並みにそういう欲求はある。事実バイトの決め手は美人の上司だからな。なんか自分でこう言っててなんだが、動機が最高にクズいなおい。誠士郎は続ける。

 

「いやだってお前さ、ぶっちゃけ香澄ちゃんって可愛いじゃん」

「まあ美少女と言っても差し支えないな」

「だろ? そんな子にあんだけ接近されたら、普通の男なら動揺の一つや二つするだろ」

「いや、香澄ってさ、どんな奴にも最初からあんな感じの距離感じゃん。俺だってそうだな……りみみたいな子にあの距離感で来られたらドギマギするよそりゃ」

 

要はそういうのは普段の態度とのギャップなのだ。そりゃ最初の方は香澄と喋るたびに「近い近い近い! ソーシャルディスタンスどこ行った!?」と思ったものだが、三日もたてば「あーこういう距離感の子なんだな」と慣れてくるってもんだ。

 だが誠士郎は、そんなことは分かってんのと俺の見解を一蹴した。

 

「確かにあの子近いよ、距離感。バカな男勘違いさせるくらいには」

「したんだな。勘違い」

「するだろ! でも他の男子との距離感見たら嫌でも気付くわ。あの子の場合全男子に色目使ってるとも思えないし」

 

彼の言う通り、たぶん彼女は恋愛感情とか、そういう概念を親の腹の中に忘れてきたやつだと思う。

 

「それこそアイツがそっちが系統に興味ないと言えるからな。ずっとバンドの話しかいないようなやつだし」

 

すると彼はまるでゴミを見るような目で俺を見てきた。

 

「何その目は?」

「ゴミについてるカスを見る目だよ」

 

おー、如何やら予想をはるかに上回る熱い視線だったようだ。

 

「お前さ、それ本気で言ってんの?」

「本気も何もアイツを見りゃ分かんだろ」

「お前もうカスについてるそのまたカスだわ」

 

降格しちゃったよ。なんでそうなったよ。てかなんでお前にそんなことを言われなくちゃならん。

 

「いいか? この際だからはっきり言うが、客観的に見てあの子はお前とだけは接し方が全然違うぞ。いつも以上に近いし、なにより表情が違う。なんかこう花が咲いた感じって言うのか、兎に角そんなところだ」

「そうか? まあ確かにクラスの男子の中じゃアイツと一番絡みがあるのは確かだけど。仮にそうだとして、何なんだよ? 向こうから親友くらいに思われてんのか? それはまあ嬉しいことだけど」

「もうお前死ねや」

 

辛辣ぅ。この上なくシンプルな罵倒だった。こいつは小学生の頃に習わなかったんだろうか? あっただろ、「ちくちく言葉」と「ふわふわ言葉」って。俺がそこそこ傷ついているのも構わず続けた。

 

「いいですかね? 陽一君。こういうことを俺が言うのが良くないのは分かってるけど、十中八九あの子はお前のこと好いてるぞ」

「それはあれだろ……」

「先に言っとくけど恋愛的な意味でな!」

 

被せる様に言われた。

 

「でもそれだけで恋愛感情に繋げんのは違うだろ。安直すぎる。だいたい女ってのはそんな単純な生き物じゃあないんだよ。アイツもそうだったしな」

「アイツ? 香澄ちゃんのことか?」

「いや、違う。こっちの話だから気にすんな」

「こっちの話って……何があった……って聞かねえよ。これ以上聞かねえからそんな目すんなよ」

 

触れられたくないとこに触れられそうだったからだろうか、いつの間にか彼を射殺すような視線で見ていたようだ。誠士郎には悪いことをしたが、やはり少し話に出るだけでも気分が悪い。

 

 彼は少し咳払いして仕切りなおした。

 

「まあお前が頑ななまでにあの子の恋愛感情を認めないのは分かった」

「頑なって……」

「で、逆にお前はどうなんだ?」

「どうとは?」

「異性としてどう見てんのって話」

 

また答えに困ることを聞いてきたなコイツは。

 

「そうだな……確かにアイツは可愛いとは思うし、明るくていいやつだとも思うぞ。でも、アイツを恋愛対象として見るのは違うだろ。何か女性として見る気には……」

 

 ここまで言って、彼が急に俺から視線を外し、まるで我関せずといった感じで残っていた昼食を掻き込み始めやがった。コイツから聞いてきといてお望みの回答が得られなかった途端その態度ですか。はーん、そうですか。そっちがその気なら仕方ない。コイツが何故毎回遅刻ギリに来るのか、その恥ずかしい理由をここで大声で叫んでやる。

 

 

 すると突然背中から刺すような殺気を感じた。恐る恐る自分の背の方を窺うと、そこにはなんか黒い覇気っぽいものを纏った件の猫耳ガールが立っていた。

 

「お、おう香澄。戻ってたのか……」

 

 すっごく素敵な笑顔を浮かべてらっしゃるのに、なんだろう、目が全く笑っていない。

 

「ふーん、そっかそっかー」

 

 ダメだ嫌な予感しかしない。うん、これはやっべーわ。

 

 

 

 




課題とバンドリしかない今日この頃です。
さあ、評価と感想くれぇ。


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第五話 それぞれの昼休み3

珍しく早く書けたー。

因みにようやくあの子が登場。



 人は時にかけがえのないものを平気で失くし、そして失くして初めて己の行った取り返しのつかない行為を嘆く。

 

 

 

 

あの日の彼の悲しみに満ちた背中は、今でも私の頭から離れてくれない。

 

ああ、いつになったら神様は忘れさせてくれるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんで!? あの時の·····との··········わ·····れちゃったの!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 な、何だよ? ······って。そんなの覚えてる訳ないだろ! それに·····これは僕に·······れても········ようも·····いこと·····んだよ。ましろ·····も··········るだろ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『··········から·······い! もう·······も·····陽一··········て·····ない! 二度と私の······界に·······らないで!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『··········そっか。君··········う言う·······ら、そ·····するよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ·····ま、·····って! ········ってよ陽一! ────────

 

 

 

 

 

 

 

「……たさん。……らたさん。倉田さん!」

 

 

 誰かの声で悪夢から引きずり出された。だが引きずり出された先もまた悪夢だった。

 教室中の視線がこちらを向いていた。

 

「倉田さん、もう四限目終わりだよ」

 

 如何やら四限目を半分以上寝ていたようだ。あの悪夢の上にこの醜態、最悪の気分だ。

 

 授業終わりの礼が終わると同時に私は逃げるように教室を出た。

 

 

 

 

 

 またあの夢だ。あれから何年たっただろうか。あれ以来彼から一切の連絡すら無い。

 当時、あの心無い言葉につい感情的になってしまったのは確かに私が未熟な子供であったのが悪いというのは今ならわかる。でも、それを理解している今となっても彼を許す気にはなれない。その一方で、叶うならば、彼と再会し、そして謝りたいとも思っている。全くもって矛盾しているが、それ程当時のことには未だに整理がついていない。複雑に絡まった糸のように、私の心の中でわだかまりをなしている。

 

 

 教室を出て私は一人になれるよう、中庭に出た。すると、蝶が飛んでいるのが見えた。少し前の私であれば、居場所が見つからず彷徨っているなどと、勝手に自分と重ねていただろう。でも、今は違う。なぜなら、

 

「ましろちゃーん! もう、勝手にどこかに行かないでよ~」

「ごめんね、つくしちゃん。恥ずかしくてつい……」

 

今の私には居場所がある。

 

「シロー、ふーすけー、来たぞー」

「るいるいも連れてね~」

「なんで私まで……」

「だってるい、この前『春になると、公園で昼食を食べる生徒をよく見かけるわ』ってゲームのキャラみたいな定型文で……」

「とーこちゃん、メタいからそれ以上はストップ」

 

この子たちは、一か月くらい前から私とMorfonicaというバンドを組んでいるメンバーの子たちだ。今の私には、かつてと違って彼女たち、Morfonicaという居場所がある。

 

「はい、ましろちゃん」

 

そう言って、つくしちゃんは私の弁当箱を差し出してきた。そこで私は初めて自分が弁当箱を忘れていたことに気付いた。私はごめんねと言ってそれを受け取った。

 

「もう、昼食とるのにお弁当箱忘れるってどういうこと?」

「あはは。しろちゃん、おっちょこちょいだね~」

「マジかよ!? なんでそうなるんだよ……ってシロ、頭にちょうちょ留まってる。なんかウケる」

 

皆に揶揄われるこの流れの中、何故か頭にちょうちょが留まっていたいたようだ。ちょうちょまで私を揶揄っているように思え、払いのけてしまおうと思ったが、透子ちゃんに「なんか面白いし、映えるから」と、他の二人にも「可愛いから」とそのままにさせられた。るいさんは・・・うん、死ぬほど興味なさげだね。

 

「そういえば、ましろちゃん、起きたときすっごい顔色悪かったけど、何か悪い夢でも見たの?」

 

嫌な汗が流れだした。恐らくつくしちゃんのことだ、本気で気にしてくれているのだろう。それに相手は彼女たちだ。打ち明ければ何かいい答えを得られるかもしれない。この胸のわだかまりについての。そうしよう。そうすればきっと……そう思い口に出そうとした言葉は出てきてくれなかった。

 

 どうしていつも、こうなのだろう。あと一歩のところで勇気が出ないのだろう。もしあの時、その勇気があれば……彼との命運も変わっていたかもしれない。そう思うと自分が情けなくなった。

 

 答えられずにいる私を見兼ねたのか、それまで毛ほども興味のなさそうだったるいさんが助け舟を出してくれた。

 

「別にいいんじゃないの? 答えたくないことだってあるだろうし」

「そ、そうだよね。ごめんね、ましろちゃん」

 

 そう言って、つくしちゃんは申し訳なさそうに目を伏せてしまった。

 しまった……何とか彼女の気持ちを立て直さなくては

 

「そ、そんな大層なことじゃないよ。なんか……そう! 沢山のぬいぐるみに追いかけられる夢見て、ちょっとびっくりしちゃって」

「な、なあんだ。それならよかった」

「シロってぬいぐるみいっぱい持ってるんだっけ? 絶対それが原因じゃん!」

 

 よかった。うまく誤魔化せたようだ。()()()()()()()

 七深ちゃんとるいさんは心配したような表情で私の方を見ている。恐ろしい勘だ。というかるいさんってこんな顔するんだ。しかし、彼女たちはそれ以上聞こうとはしなかった。

 

 

 

「まあシロのぬいぐるみ中毒は兎も角、これは私からの提案なんだけど、偶にはさ、Circleで練習しね?」

 

 なんか聞きなれない病名を宣告されたような気がしたが、どうせ突っ込んでも「ミクロン、ミクロン!」と返されるだけだろうから置いておいて、確かにそれは魅力的な話だ。

 

「うん、いいと思うな、私」

「でしょ! そうと決まれば早速……」

「おっと、しろちゃんと透子ちゃんは私んちのアトリエではご不満と。なるほどなるほどー」

「ち、違うよ! そういうことじゃなくて……」

「あはは、そんなに焦んなくても、分かってるよーって、拗ねないでよー」

 

 七深ちゃんが小悪魔だ。ひどい。私達のそこまで言って委員会並のグダグダ加減を見かねたのか、るいさんが話を進めた。

 

「私も桐ケ谷さんの意見に賛成よ。二葉さんはどうなの?」

「私ももちろん賛成! じゃあ早速……って言いたいところだけど、最近本当に予約取るの難しいんだよねー。だから今すぐにっていうのはちょっと……」

 

 

 すると突然、透子ちゃんの携帯が鳴動した。誰からだろうか? 

 

「あ、まりなさんだ」

 

え? いつの間に連絡先を……ってまあ彼女のコミュ力ならばおかしくないだろう。いや、どうだろうか? うーん、まあもう面倒くさいので考えないでおこう。

 

 つくしちゃんが「リーダーの私が知らないのにー!」とか言っているのを尻目にまりなさんとの通話に応じた

 

「もしもし、まりなさん。お久しぶりでーす。え? はい。はい……え!? マジで!? はい、よろこんで! ぜひ参加させてください!」

 

 

何だか透子ちゃんが居酒屋の店員みたいな返事をしているんだけど……一体どうしたんだろうか? 

 

「ありがとうございます! ……え? いいんですか!? 明日に練習!? いやーまりなさんマジリスペクトっす!」

 

 

え? 今練習って……如何やら通話が終わったようだ。

 

「どんな話だったの?」

 

 

そうつくしちゃんがきくと、透子はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ふふーん。実は……」

 

それを聞いた私たちは

 

「「「え────!」」」

 

どこぞのお祭り男並みに驚いた。るいさん以外は。もうちょっと驚こうよ。

 

そんなるいさんですら、少しだけ、ほんの少しだけだが顔を綻ばせているような気もした。それ程に私たちにとって嬉しい話でもあった。それにこの話は()()()()()()()からの直々の誘いだという話だ。こんな嬉しい話は無い。

 

「よし! そうと決まればもっと練習頑張らなくちゃね!」

「お、つーちゃんがやる気だ~」

「当然でしょ! こんな機会なかなか無いよ!」

 

 

 

 知らせを受け、みんなでわいわい盛り上がる中、私の頭に留まっていた蝶が急に突然逃げるように私から離れた。皆の声にびっくりでもしたんだろうか、そんなことを考えた。が、目の前の吉報に頭がいっぱいで、そんな思考はすぐにどこかへ追いやられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

そして新しく感想と評価を下さった方々、お気に入り登録して下さった方々、ありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします!

さあ、ましろ好きよ、この指とーまれ。






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第六話 謝罪会見。からの公開処刑。からの…

評価バーに・・・色が!?
そして課題が・・・進まない!?
さらにガチャが・・・爆死!?






※すいません。間違えて消したんで再投稿です。


ようやく全授業終わってくれた。と、普段ならここでほっと一息ってとこだが今日はそういうわけにもいかない。

俺の香澄の昼休みの失言でご機嫌を損ねてしまったのだ。あれからずっと無視され続けている。

今思えば流石にあれは無い。多分あんな事言われたらマリア様でもブチぎれるわ。デリカシーの欠片も無かった。

 

「「「「「しゃーしたー」」」」」

 

 いつも通りの適当な皆の挨拶が終わり、各々が帰り支度を始めたとき俺は香澄に声をかけようとした。

 

「な、なあ香澄? さっきはほんとに悪かったって……」

 

しかし最後まで言わせてももらえず、彼女はそそくさと立ち上がり、教室を出て行ってしまった。

 

「あーあ、やっちゃったなー」

 

いや元はと言えば君の質問が引き金だからね。お前がフォローもせずに俺を見捨てたこと、一生忘れねーからな。このユダが。キリスト様の気持ちがよーく分かった。

 

「ほら、俺に構ってないで早く行けよ」

 

そう言いながらユダは顎をしゃくった。

 

「おい、キリスト様に向かって何だその態度は? ぶっ殺すぞ」

「キリスト? 何のことか分かんねーがキリストは殺すとか物騒なことも、女の子にあんなデリカシーの無いことも言わん」

 

まあ確かにコイツの言う通りだ。しかしむかつくので、明日あの事はやはり教室でばらしてやろう。コイツがいつも通り遅刻ギリに来た瞬間に。

 

 そう心に決めて教室を出ようとした瞬間に「おい」と肩をつかまれた。

 

「お前、香澄に何した?」

 

話しかけてきたのは有咲だった。それも鬼ような形相を顔に湛えた有咲だが。

 

「昼休み以降、話しかけても上の空だし、何があったか話してくれようともしない。しかもお前に対してはあの態度。お前、アイツに何したんだ!?」

 

それはそれはお怒りだった。だが今は彼女に構っている場合ではない。

 

「確かに俺が悪かった。でも説明は後にしてくれ。今は香澄と話さないと……」

「バイトのためか?」

 

その発言には流石にはカチンときた。

 

「そんな訳ないだろ! 俺にとってアイツは、花咲川(ここ)での最初の友達なんだぞ! だから……」

 

すると俺に気圧されている有咲の後ろからパンの創造神が救いの手を差し伸べた。

 

「いいんじゃない? 有咲。こんなに必死なんだし」

「……わかったよ」

「沙綾……」

 

やはり彼女は神であられたようだ。ああ、天にまします我らが神にかんs「ただし……」ん? 神の纏われている雰囲気が変わったぞ。

 

「事が済んだらきっっっちり説明してもらうから」

 

手をバキボキ鳴らしながらそう言った。神は神でも鬼神だったようだ。

しかし、ヤバい。これは本格的にヤバい。もしこれで仲直りできなかったら……いや考えたくもない。とりあえず十字架に磔は確定かな。絶対になんとかせねば、そう再度心に決めて俺は教室を出た。

 

 

 

 廊下を走り抜け、階段を猛ダッシュで駆け下り、校舎を出る。立ち止まり、周りを少し見渡すと、校門の方に別人と見間違うくらいに元気をなくしたアイツがいた。

 

 走ったせいで息も切れ、()()も痛む。だがいつもなら躊躇う全力疾走も、この時ばかりは何の迷いもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私、なんであんな態度とっちゃったんだろう? いや、分かってる。多分期待しちゃったからだ。あの時、陽くんは私のことを「可愛くて、明るい子」と言ってくれたのが聞こえていたからだ。それだけに「女として見れない」という言葉がショックだったのだろう。

 バカだ、私。彼が私のことを女性として見ていないことなんて当の昔から分かっていたことなのに。勝手に盛り上がって、機嫌悪くなって、意地を張ってあんな態度をとってしまった。さっきも彼は諦めず話しかけてくれたのに、結局無視してしまった。もう彼とは今までのようにはいられないのかな……

 

 私はそう考え、泣きそうになりながら校門を抜けようとしたとき誰かに突然手を掴まれた。

 

「やっと追いついた」

 

 振り返ると、そこには息を切らしながら私の手を掴んでいる思い人の姿があった。

 

「昼休みの時、ほんとに悪かった! 許してもらえるだなんて思ってない。でも、花咲川(ここ)での初めての友達とこんな形で終わりたくない!」

 

ああ、やっぱりこの人はどこまでも優しい。あの時と一つも変わってない。それに、と彼は続けた。

 

「あの時はなんか照れてあんな事言ったけど、お前は……その……十分魅力的な女の子だと思う……」

 

 心臓が跳ね上がった。自分の鼓動の音が彼に聞かれるんじゃないかと思うくらい。ああ、彼はこういうところが本当にずるい。

 何だか恥ずかしくなってきて、自分でも頬が赤くなるのが分かった。

 恥ずかしさでどうすればよいか分からない。有咲の言う通り、彼のこととなると途端にこうだ。いつもの私はどこかに行ってしまう。

 

 でも、こうやって彼は、きっと彼なりに勇気を出して話しかけてきている。なら私も……。そう心に決め、私は次の行動を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 う~ん、どうしたものか。俺があんだけ勇気を振り絞ってこっぱずかしいカミングアウトをしたにも関わらず、あれからコイツは下を向いたまま黙りこくっている。で、みんな忘れてるかもしれないが、ここは校門前。要は色んな人がたーくさん通る。で、すっごい注目を浴びるわけでして。何なの? この羞恥プレイ。

 今だってほら、後ろの方でこっち見ながら何かひそひそ言い合ってるし。嫌なんだよなーアレ。だってほら、電車の中とかでやられたら、自分のこと言われてないとしても気になるじゃんアレ。ほら向こうの方でも……って誰だ今、痴話喧嘩とか痴情のもつれとか言ったやつ。誰が東出〇大だ!(言ってない)

 

 色々やらかした東〇昌大並みに好奇の視線を浴び続けること数分、突然何を思ったのかこの女、俺の手をむんずと掴み、俺を引っ張って歩き出した。

 

 

 

 よかった。やっと反応を見せてくれた。これは許してくれたと見ていいのだろうか。きっとそうだ。そうに違いない。いやーよかったよかった。これで……って良くねーよ! は?何?まさかの羞恥プレイ続行ですか!? コイツ、周囲の視線とか気にならんのか? 学校帰りに女が男と手を繋いで帰ることの意味合い分かってる? 

 

「あれって、香澄ちゃんと宝田君じゃない?」

「え? もしかしてあの二人って……」

 

ほらー。やっぱ変な誤解生んでるよ。

 

「おい、あれって宝田だよな。そうかそうか君はそういうやつなんだな」

「別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」

「おい! 陽一! お前だけは仲間だと思っていたのに……。お前は、俺とともにリア充撲滅同盟を組んでたじゃねーか……」

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 

どこぞのエーミールと弓兵までいらっしゃった。それに加え、覚えのない同盟まで出てきた。因みにその考え自体は賛成だ。最後は……もう突っ込まん。

 

「な、なあ香澄、取り敢えずもうこの手は離していいだろ。な?」

「……陽くんは、私と手を繋ぐのが嫌なの?」

 

 

そのらしくもない不安そうな上目遣いやめろ。いいですかね? そういう無責任とも取れる女子による男子に対する密な行動が、多くの男子を死に追いやるのですよ。例えば誠士郎のように!

 あのバカとは違って死の一歩手前で踏みとどまった俺は答えた。

 

「いや、別に嫌じゃあ無いけど」

「ならいいじゃん……」

 

 うーん、良くないな。全くもって良くない。どこに目と耳をつけていたらそんな発言ができるのだろうか。という言葉が喉から出かかったが、俺もそこまで馬鹿じゃない。ここでまた失言を繰り返せば今度こそジ・エンド。今日の晩飯が最後の晩餐になり、翌朝には十字架背負ってゴルゴタの丘へ一直線だ。

 よって俺は己の発言に細心の注意を払いながらこの馬鹿にこの状況を諭そうとした。

 

「香澄さん、周りのこの視線とかをもう少しお気になさってはいかかがでしょうか?」

「……どうしたの? 陽くん。気持ち悪いよ、その喋り方」

 

 なんか憐れむような眼で俺の額に手を当ててきた。よーし上等だゴルァ。

 

「てめぇ、人が発言に気を付けた途端それか。このKYポンコツ猫耳頭ん中キラキラ女が!」

「あー、言っちゃったー! 陽くんまた言っちゃいけないこと言いましたー! というか今ので気を付けてるって言うなら、気を付けるポイントがちがーう! よって、陽くんの方がよっぽどポンコツですぅ~」

「はん! お前にだけはポンコツ認定される覚えは無いね」

「あー! もういいもん! 明日、今日のこと全部有咲たちに言っちゃうもん!」

 

おっとー、それはちょっと、いやかなり困りますねー。だがしかし! 男として、ここで引き下がるわけにはいかん! 

 結局、俺は()()()()()()()()()()()を頭の隅っこの方にほっぽり出して、そのまま香澄と延々と言い合いを続けた。それはそれは低レベルな、「バカって言った方がバカ~」的なものを、()()()()()()()コイツ絶対言い負かす、そう思うと同時にこの言い合いを楽しいと思う自分がいた。

 

「だいたい陽くんはー……あ、着いちゃった」

「いやお前だって……は? 着いたって……」

「うん。ここだよ。陽くんのバイト先」

 

どうやら言い合いに夢中になっていて目的地についていることに気付かなかったらしい。

 

 会話が途切れたせいで変な間が生まれ、お互いまた言い合いを始める気にもなれなかった。そして何だかさっきまでのことが馬鹿らしくなってきて、いつの間にかお互い声を出して笑い合っていた。

 

「なあ、香澄。その……改めて、昼休みの時は悪かった」

 

ひとしきり笑い合った後、俺は改めて自分の思いを伝えた。

 

「もー、仕方ないなー、陽くんは。今回だけだからね!」

 

そう言って、彼女は眩しすぎるくらいの笑顔を見せた。うん、やっぱり……

 

「お前はそうやって笑ってる方が可愛いよ」

「ふぇ!?」

 

おー、真っ赤か真っ赤か。ちょっと揶揄いも込めて褒めてやったら中々いい反応だ。まあコイツの容姿がいいのは「もう! 陽くんのバカ!」……あ、ヤバ。そう思った時にはもう俺の目の前に彼女の鞄が来ていた。

 

バチコーン! 

 

「痛ってぇぇぇぇ!」

 

怒れる彼女の繰り出した柳田ばりのフルスイングが俺の顔面をクリーンヒットした。

よ う い ち は た お れ た 。何かそんなアイコンが見えた気がしたが気のせいだろう。クソ、顔真っ赤にしてるから照れてんのかと思ったらキレてたのか。そりゃあ今の発言、何でもかんでもハラスメントにする昨今なら普通にセクハラだわ。

 だが、俺は倒れ伏して、プリプリ怒ってライブハウスに向かう彼女を見ながら、この痛みですら今は何だか心地よく感じられる、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あれ? 何か俺極度のマゾにでも目覚めたみたいになってない?そう自分の性癖に疑念も抱いた俺であった。

 

 




読んで下さりありがとうございます。
まずは私の乞食に応えて評価を下さった皆さま、ありがとうございます。なんかバーに色が着きました。
そして新しくお気に入り登録して下さった方々、ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
では感想と評価、よろしくお願いします(懲りずに乞食)。









〇出・・・ちゃんと謝罪しろよ。陽一みたいに、誠意込めて。
そして陽一・・・いつからそんなにアホになった。(最初からです)


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第七話 バイトしようぜ!

働かざる者食うべからず!



余談ですが私もバイト決まりました。祝って下さい。


 香澄にかっ飛ばされた後、俺は彼女に遅れてライブハウスに入った。

 彼女は既にスタッフと思しき人と会話していた。するとスタッフさんは何か心得たような顔になってから、凄いニヤニヤしながら香澄と俺を交互に見やりながら奥へと消えていった。あー、あれか。俺がいかにクソな奴かということを今日の俺の不祥事も交えてお伝えしなすったのか。ああ、アイツ遂に俺のバイト先にまで手を回しやがっt……

 

「陽くん! そこで何してるの?」

 

「ん? お前の人を上げて落とすというその策略に戦慄してるまでだ」

 

 ホントにエグいと思うよ。バイト紹介しといて、そうやってそのバイト先にまでおれのクソ野郎列伝を広めてくれるというその親切心は。

 

「ちょっと何言ってるのか分からないけど、まあいいや。早くこっち来て!」

 

はいはい、ではでは死刑所に参るとしますよ。そう観念し、彼女の隣、カウンター前に来てみると、その直後に奥の方から比較的若い女性が現れた。うん、この女性……

 

「おお、美人……」

「ふんっ!」

「痛っ!?」

 

素直に感想を述べると右隣にいた香澄に、今度はロべカル並みの左足のキックをお見舞いされた。ああ、そうか。女性の容姿についてはたとえ誉め言葉であってもセクハラなのか。

 

「ふふっ。仲良しだね~」

「はい! 仲良しです!」

 

 そう言って俺の腕を組んできた。切り替え早いなおい。

 

「よく言うぜ。いやいやさっき俺の脛をおもくそ……イタイイタイイタイ!」

 

この女今度は超素敵な笑顔で足を踏んできやがった。これ以上余計なこと言ったら殺す、と目が言ってる。というかそこ、クスクス笑ってないで助けてくださいよ。

 その笑っていた美人さんは少し咳払いして仕切りなおした。

 

「私は月島まりな。今日からキミの教育係だから。よろしく! あ、私のことはまりなでいいから!」

「あ、俺は宝田陽一です。今日からよろしくお願いします!」

 

 なるほど彼女が香澄の言ってた美人の上司か。これは……最高じゃないっすか! え? マジで美人じゃん! ぶっちゃけ香澄のことだから話盛ってんだと思ってたけど、これは美人上司と言って差し支え無いんじゃないでしょうか! 

 心の中で一人、リオのカーニバルを開催しながら恭しく頭を下げていると、何かまた横から視線を感じた。

 

「む~~~」

「どしたの?」

 

なんか猫が頬を膨らませていた。どしたの?とりあえず両頬を押しつぶしておくと、ぷしゅ~と空気が抜けていったが、未だむくれていらっしゃった。あれ~? まだあの事怒っていらっしゃるのか? まさか明日マジで沙綾に処されんじゃないの? 

 

「ふふふっ。ホントに仲いいんだね~」

 

いやまりなさん、ホント笑ってないで助けてくださいよ。全く……俺の不安も知らずに。

 

「ふふ~ん。親友以上の関係ですから!」

「あー、うん。そだね~。大親友だね~」

 

コイツはコイツで今日は表情筋の忙しい子だな。いや、それはいつもか。

 

 そう思って俺が呆れたような顔になってると、何故かまりなさんまで呆れた顔になっていた。おいおい香澄さん、お前のせいで呆れられちゃったよ初っ端から。

 

「いや、今のは100パーセント陽くんが悪いよ」

「は? いやいやまさか……」

「うーん、私から見ても今のは間違えなく陽一君が悪いかな」

 

んな理不尽な! しかもその後「聞いてた通りだな~。そこらへんもしっかり教育しなきゃな~」とかなんとか言ってたし。え? 何教育って? そして俺の何を聞いてたんですか!? まさか香澄マジで言いやがったのか……

 

「じゃあ、香澄ちゃん、陽一くん借りてくね! じゃあ君はこっちに来てね~」

「陽くん! まりなさんに迷惑掛けちゃだめだからね!」

 

何故か香澄に「メッ!」といった感じで忠告されたが、まあこれ以上何も言うまい。今日はどうも俺の発言は全て地雷原なようだからな。

 

 というわけで「へいへい。じゃ気を付けて帰れよ~」と手をひらひら振ってまりなさんの方へ行くことにした。

 

「うん! じゃあまた後で!」

 

……何故か彼女の言葉に若干の違和感を感じたが、まあ気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと……ここが君のロッカーで、それからここに掛けてるのが制服で……」

「ちょ、ちょっと待ってくださいまりなさん。あの~面接とかは?」

 

 彼女に付いて行ったまでは良かった。そこから面接やら何やらがあると思っていたら、もう採用決定みたいな流れ何ですけど? 

 

「あーそのことなら気にしなくていいよ。ウチ、今凄い人手不足だから。ホント猫の手も借りたいくらいに。それに、あの香澄ちゃんからしっかりした人だっても聞いてるしね」

「香澄から……?」

 

どうやら俺はアイツのことを如何やら勘違いしていたようだ。まさかアイツが人のマイナス面を新たなバイト先にまでつまびらかに話すような下種なことはしないよな。

 

「あ、でもそれと同時に『すっごいデリカシー無い人だけど、その辺は多めに見てあげて』っても言われたかな」

 

……前言撤回じゃボケ。なんつーこと言ってくれてんだ。

 

「アイツこそデリカシー無いって言えませんかね? それ」

「んー? どうかな~? 多分香澄ちゃんは君に気を遣ったんじゃないかな~?」

 

ははっ。気遣いが重すぎて涙が出そうだぜ。

 

「まあ……さっきのやり取りで香澄ちゃんの言ってることが本当だってことは分かったけどね」

 

うそやん。どこで? 俺が何かしましたかね? 

 

「うーん、そこら辺についてもこれから()()()()覚えてもおうかな」

 

何を? 何を教え込まれるんですか? どんな調教をされるって言うんですかね!? 

 

「まあそこらへんは追々やってくとして、本題の仕事についてなんだけど……」

 

それから俺はまりなさんから仕事についての諸々の説明を受けた。正直調教内容とこの人の美人さのせいであまり頭に入ってこなかったが……ま、いっか! やりながら覚えて行ったら! (クビです)

 

「じゃあ早速明日から……」

 

まりなさんが俺に何か言おうとした時、フロントの電話が鳴った。

 

「はい、フロントです! ……はーい、今持ってかせるねー」

「なんか予約でも入ったんですか?」

「ちょっとー、話聞いてた? 陽一君」

「あ、すいません。ど忘れしちゃったみたいですねー」

 

すいません全然聞いてませんでした。

 

「もー、もう一回言うよ。こっちの電話は外部からの電話が来るやつで、今キミが言ったような予約とかが入ってくるの。で、さっき鳴ったこっちが内線。スタジオとかからのレンタルの連絡とかが入ってくるやつってさっき言ったんだけどな~」

「あー、今思い出しましたー。あはははー」

「ホントかなー?」

 

そう言って彼女はジトっとした目で俺を見てきた。やべーぞコレ。全く覚えが無いわ。後で他のスタッフさんに聞いとくか。

 

「まあいっか。じゃあ、ホントは明日から入ってもらおうと思ってたけど、丁度いいからお仕事体験しとこう! このエフェクターとアンプを4番のスタジオに持って行ってね! それから直ぐに戻ってきて。もう一回さっき全く聞いてなかった分、一から説明するから」

「え? あ、はい!」

 

 こうして俺の初めてのバイトが幕を開けた。

 

 

 

 ……え? 聞いてなかったのバレてんじゃん。この人には敵わないのだろうと悟った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー、これエフェクターって言うのか。そこらへんもちゃんと勉強しなきゃだなー。って、ここだ4番」

 

 さあ、初仕事だ。陽一、ここはビシッと決めるぞ! そして、まりなさんのご褒美をもらうぞ! そう気合を入れて扉をノックした。

 

「すいませーん。アンプと、えーっとエフェクター持って来ましたー」

「あ、ありがとー陽くん。入ってきてー」

 

…………ん? 陽くん? しかも無茶苦茶聞いたことある声だったんだけど……。意を決して扉を開けると、

 

「あ! 陽くんがちゃんとスタッフさんだー」

 

…………お前かよ。なるほど、さっき言ってた「後で」っていうのはこのことか。いやまあコイツがここ紹介してくれたって時点でコイツもまたここの利用者だってのは当たり前だけど。にしてもこれはテンプレ過ぎやしませんかね? 

 

「なんでそんなに不満そうなの~?」

「いや、なんだ、初仕事の相手がお前か~と。もうちょいマシな展開が……って何してんのお前? 何でまた内線繋ごうと……」

「あ、まりなさん? すいませ~ん、今入って来たスタッフさんが……」

「いや~、お前が最初の仕事相手で感動だわ!」

 

何だか朝のやり取り(1話参照)とデジャブったが、もはやそんなことは気にしていられん。これ以上傷口に塩をぬりぬりされんのは御免だ。

 

 今日何度目かの掌返しをを決め、掌大回転民族の称号を揺ぎ無いものとした俺に「分かればいいんです!」と香澄はムフーという擬音が聞こえてくる勢いでドヤってきやがった。もう何なんだろうね? 俺のこの立場の弱さ。いよいよ奴隷根性が付いてきたまである。

 

「よし! じゃあ陽くんが私の接客が出来て満足してくれたところで、私が一曲披露してもっと陽くんを満足させたいと思います!」

 

いや、満足はしてねーな。後、もうフロント戻って良い? そう口に出さなかった俺をほめて欲しい。人間は成長する生き物ですからね! なに? お前は学ぶのが遅すぎるって? ほっとけ! 

 

 一人思考を巡らせていると、香澄はギターの準備を終え、そしてゆっくりと歌い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は彼女の歌を聞き始めた瞬間、さっきまでコイツを放ってフロントに帰りたがっていた自分をぶん殴りたくなった。それ程に彼女の歌声は俺の心に響く渡り、深く染み込んでいくようなものだった。

 ギターを持ち、マイクの前に立った彼女は普段のアホっぽい彼女とはまるで別人のように思われた。何というか、カッコいい、陳腐な表現だがそう感じた。だが、変わらぬ点もある。それは常に楽しそうであるところだ。そしてその姿が、周囲の人間をまた楽しい気分にさせてくれるということだ。

 

 俺はただただ、彼女の歌に聞き入り、虜になっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が歌い終えると、彼は何故か呆けたような表情をしていた。そんなに私の歌は聞くに堪えないものだったのだろうか?実際、私は友希那さんみたいに自分の歌唱力自体に絶対の自信がある訳ではない。柄にもなく不安に思えてきた。

 

「ね、ねえ、どうだったかな?」

 

すると彼はハッとしたような表情になってから、ひと呼吸おき、私の肩に手を乗せて来てこう答えた。

 

「・・・すごかった」

「え?」

「お前スゲーな!普段のあのアホそうな感じと全然違って、マイクの前立ったら何て言うか・・・スゲーかっこよかった!」

 

ちょ、ちょっと近い!私が言うのも何だけど近い!最近流行りのソーシャルディスタンスを忘れちゃダメ!それから今何かアホっぽいとか言ってたよね!?私普段そんなイメージ持たれてたの!?

でも、そんなことがどうでもよくなるくらいに嬉しかった。なんせ好きな人に、私の新たな一面を知ってもらえて、そしてそれを褒めてもらえた。彼の失言など、それこそ明日有咲達に報告すればいいだけだ。

 

「なあ、もっと聞かせてくんない?お前の歌」

「うん!もっちろん!」

 

 私は飛び上がりたい衝動を抑えながら、次の演奏を始めた。

 

 

 そして私たちは時間も忘れてこのささやかなリサイタルに興じた。

 

 

 

 

 




展開おっせーなと思ったそこのアナタ!ホント、すいません。




因みに私は本当に香澄はマイク持つと全然印象違うように思えるんですけど、皆さんはどうでしょう?


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第八話 死刑宣告

ガチャ・・・通算70連敗!!


 いや~凄かった。本当に凄かった。まさかアイツにあんな姿があったとは。何故かは分からないが、アイツのそういった一面を知れたことを嬉しく思い、またもっと知りたいと思う自分がいた。

 

 そしてコッチも凄い。いや~ホントに凄い。何が凄いって? そりゃあもうまりなさんのお怒りっぷりですよ。結局あれから三十分以上、俺はアイツのリサイタルを聞き続けていた。まあ軽く命令無視なわけでして。

 

 というわけで今現在、俺は素敵な笑顔をたたえて仁王立ちしていらっしゃる美人上司の前に正座させられています。香澄にかっ飛ばされた時も言ったが、俺は決してそういう類の趣味は持ち合わせてはいない。

 

「指示無視して可愛い女の子とイチャイチャと……初日から随分いい度胸してるね~。さてと、どういうことか説明してくれるかな?」

 

こっわ! まりなさん怖いって! というか……

 

「いやいやまりなさん、確かに俺は直ぐ戻って来いっていう指示は無視しましたよ。でもその『イチャイチャ』っていう言い方にはだいぶ語弊がある気がするんですが」

「いーや、あれは確実にしてました。個室で美少女とよろしくやってました」

 

おい、個室でよろしくやってたはもっとダメだろ! 迂遠になった分余計に性質(たち)が悪い。

 

「それ、絶対まりなさんの個人的感情入ってますよね?」

「んー? どんな感情だー? 言ってみ?」

「そりゃあまあ、恋人の一人も……」

「陽くん!」

 

そこまで言ったところで香澄に止められた。急にどうした? そう思って香澄の方を見るとまりなさんの方を見て顔を真っ青にしていた。

 まさかまりなさんの後ろに幽霊でもいたのだろうか? まさかまさか。おばけなんてないさ♪ おばけなんてうっそさ♪ ねぼけた……おーっと、どうやらおばけなんかより数倍怖いのがいるようですね。

 彼女はあくまで微笑を浮かべたままだ。だがしかし、ハイライトが職務放棄している。どうやら彼らにも働き方改革は適応されるらしい。

 

「恋人の一人も、何なの?」

 

 言えない。ここまで来れば俺でも分かる。絶対言ったら死ぬ。

 

「あー、今の無かったことにしてもらっていいですか?」

「恋人の一人もその歳になっていないから、かな?」

「ちょっと! 何自分で言っちゃってんですか!? ……あ」

 

やっべ、自白しちゃった☆

 

「陽一くん……」

 

判決は……

 

クビ(死刑)!」

 

でっすよね~。というわけで俺はなりふり構わず長く日本で培われてきた伝統

 

「ほんっっっっとうに! すいませんでしたーーーーーー!」

 

DOGEZAを披露した。誇り? そんなものはな、(いぬ)にでも食わせておけ! 

 

「まりなさん! 私からもごめんなさいします! そもそも私が嬉しくなってずっと陽くんをいさせたのが悪いんです!」

 

香澄……。コイツには本当に助けられてばっかりだな。

 

「それと、前にも言いましたけど、陽くんは元からこんななんです! 悪気はないんです!」

 

うん、同時に迷惑もかけられっぱなしだな。香澄さん、それは一切フォローになってないですね。何か余計に性質(たち)悪いヤツになっちゃってるから。まあ事実なんだから何も言えんが。

 

「口は悪いけど、根はとっても優しいツンデレさんなんです! だからどうか! 陽くんをクビにするのだけは~」

 

おい! やめろ! マジ恥ずかしいからツンデレはやめろ! 刑執行の前に殺す気か!? 

 

「ふふっ。ふふふっ。ふっ、あははははっ!」

 

すると突然、まりなさんが笑い出した。え、何? 怖い怖い怖い! 

 

「あー、ゴメンゴメン。陽一君の慌てた反応があまりにもおもしろかったからつい」

「じゃ、じゃあ陽くんがクビっていうのは……」

「安心して。冗談だから。だいたい、私がクビにするわけないじゃん! そもそも私が人手足りないから募集してたのに」

 

え? じゃあ最初から俺のびくついた反応見て楽しんでただけってことか? なーんだ、一時はどうなることかと……っていやいや待て。よくよく考えてみればこの人、多分監視カメラか何かで中の俺らの様子知ってたよな? なら何で呼びに来なかったんだよ? 

 

「え? そりゃあ、面白かったから」

 

何この人!? 何このサディスト!? 何なのこのアラサー!? そんなんだから……

 

「あー別に指示忘れてたことは良いんだけど……」

 

 俺の肩にポンっと手をおいて続けた。

 

「さっきの発言は()()()()()()()()。あとさっき、何か失礼なこと考えられたような気がしたんだけど……」

「それはマジで気のせいです! 天地神明に誓って!」

 

ふえぇ~。この人何? サイコメトラーか何かか!? 

 

「酷いよ~、まりなさん! 最初から全部知ってたってこと!?」

 

そうだそうだ香澄。お前から言ってやれ。俺はもう……この人には何も言えないから。ははっ、完全に奴隷だな! 

 自身の精神の奴隷化にもはや感慨深さすら覚え始めていた俺を他所に、まりなさんは香澄に耳打ちしていた。

 

「香澄ちゃ~ん、私は、彼との二人きりの時間を壊さないように気を遣ったんだよ~。むしろこれは感謝してくれても良いんじゃないかな?」

「まりなさん……! 一生ついていきます!」

 

 あっれ~!? 何吹き込まれたか知らんが、一瞬にして香澄が懐柔されやがった。コイツにも如何やら掌大回転民族の称号を与えねばならんらしい。

 

「うん! 今回はまりなさんは何にも悪くないです! ということで陽くんが100パー悪い!」

 

 うわぁ~、ひっどい裏切り方だぜ。ここ最近俺に人権っていう概念自体が消えかかってますね。あ、そっかぁ。俺って奴隷だったもんな! あ、ヤベ、目から塩水出てきた。

 

「まあ、陽一君のそのオイタの過ぎる口は追々何とかしていくってことで! じゃあ明日、学校終わってから来てね! よろしくー!」

「は、はい……これからよろしくお願いします」

 

俺はバイト先を間違えたかもしれん。まあ全部自分で招いた災いだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちはCircleを後にして、帰路についていた。

 

「陽くん! どうだった? ライブハウスでのお仕事は。これからもやっていけそう?」

「う~ん、どうだろ? まあぶっちゃけ、今日やったのって、お前に機材を運びに行っただけだからまだよく分かんねー」

 

俺の答えに彼女は、そっかと少し不安そうに言った。そこで俺は、「でも」と付け足した。

 

「まあスタッフさんの感じとか、あそこの雰囲気自体見ても、悪い職場じゃあないことは何となく分かるし。それに、お前の紹介してくれたバイトだ。まあ間違いなくいいとこなんだろうし、そもそもそんな簡単に辞めるかっての。お前の顔に泥濡れるかよ」

「……そ、そっか。うんうん、そっか。それなら良かった!」

 

もう暗くなっていたが、それでも尚はっきりと分かるくらい彼女の顔はパァッと明るくなった。まるで夜空の星の様に。

 

「ま、兎に角俺なりに頑張ってみるよ。ありがとな。目的だった美人上司さん以外は問題ねーよ」

 

もうあの人に関しては細心の注意を払わねば。今度こそ殺られる。

 

「いや~、アレはホントに陽くんが悪いよ。まあ、ちょっとまりなさんにも問題があるけど……。それでも! あの発言をあのお年頃で独り身の女性に言うのはデリカシー無さすぎだよ!」

 

ぐうの音も出ない切り替えしだが、お前もお前で今凄い配慮に欠ける発言したよ。本人いたら多分崩れ落ちて泣くんじゃねーかな? 

 

「もう! ホントに辞めさせられるかもってドキドキしたんだから!」

「よかったじゃねーか。お前の大好きなドキドキが体験できて」

「ドキドキはドキドキでも、キラキラしてないとダメなの!」

 

あらら、ドキドキ違いでしたか。そりゃ残念。

 

「またそうやって茶化して……。だいたい、今日一日で何回女の子の地雷踏んでるの? 陽くんには、致命的に女の子に対しての配慮が足りません! 反省して!」

「まあ流石に今日でそれはハッキリ分かったわ。反省してるよ」

 

実際今日一日でここまで踏みまくれるのは、寧ろ才能とまで言えないだろうか? よく今日の今日まで女性に後ろから刺し殺されなかったものだと思う。

 

「でもお前に配慮云々言われんのは何か違う気がするわ。せめてもうちょっと思慮分別のある人間に言われたかった」

「あー! また言った! また言っちゃった! そういうのが配慮に欠けてるって言うの!」

「いや、今のは流石に分かってて言ったぞ」

「尚更良くない!」

 

ふはははは。俺もそこまで馬鹿じゃないからそれは分かってたさ。でもコイツにそういうこと言われんのは何か本能的なものが許さなかったのだ。

 

 すると彼女は徐にポケットからスマホを取り出した。

 

「分かった。陽くんがそのつもりなら私にも考えがあるもんね!」

 

そう言って彼女はスマホに何かを打ち込んでいた。何だろう、無性に嫌な予感がしてきた。誰かに何かを送ってるのだろうか?このタイミングで?誰に?何を?そこまで思考を巡らせてようやく、自分の置かれた状況のまずさにも気付いたが、時すでに遅く… 

 俺のスマホが不気味に鳴った。画面を点けるとそれが沙綾からのメッセージであると分かった。

 恐る恐る開くとそこには

 

『明日七時に私ん家に来て』

 

 たったこれだけの文章なのに、これが死地への赤紙であることが分かった。如何やら俺は明日、やまぶきベーカリー(ゴルゴタの丘)に行かねばならんようだ。

 

 ゆっくりと視線を上げ、今度は香澄の方を見てみると、それはそれはしてやったりの顔で俺を見ていやがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さあ、最後の晩餐は何にしようかな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆の評価と感想でどうか私のガチャ運の無さを慰めて~


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第九話 ゴルゴタの丘にて

※前々から出ているゴルゴタの丘というのはイエスが磔にされた場所です



さあ、女の敵に鉄槌を!裁きを!


現在時刻は午前七時。という訳でやってまいりましたやまぶきベーカリー。俺の処刑の場だ。

 普段なら仕込みのいい匂いがしてくるが、今はそれすらも死体を焼く匂いにしか思えない。……まあ死体の焼ける匂い知らんが。

 もういっそ、そのまま学校行ってしまおうか。そして有耶無耶にしてやろうか。よし、とりあえず学校に行ってやろう。そうやってひとm「何素通りしようとしてるのかな~?」ダメだな。これは逃げきれないわ。というか逃げたら死ぬよりひどい目にあうだろうなこれは。

 

「お、おはよう……沙綾」

「おはよう。とりあえず、中入ろっか」

 

そうして彼女に促されるがまま彼女宅にお邪魔した。

 

 

 

 

 

「さてと、じゃあまずは昨日の昼休みの件なんだけど……聞かせてくれるよね?」

 

 店の中にある食卓の椅子に座るや否や、彼女はそう切り出した。何故だろう? いつもの笑顔のままなのにここまでの圧を出せるのは。

 

「あ、あのー……最後に『?』付けたってことは……」

 

取り敢えず黙秘権を行使したいところですね。うん、せめて今わの際くらい人間としての尊厳を……

 

「……言わなきゃ分かんない?」

「あ、すいません喋ります」

 

守れる筈もなく、俺こと奴隷はこの日も奴隷らしく素直に命令に従い、昼休みの俺の爆弾発言を詳細に話した。そして話を進めていく内に、相変わらず彼女は笑顔のままであるにも関わらず、みるみる内に周囲にの殺気が強まっていた。

 

「あのさ……陽一」

「はい、何でしょうか」

「サイッテー」

 

まあそうなりますよね。てか有咲とかなら兎も角コイツからコレ言われんのは相当クるものがある。一周まわって何かに目覚める勢いだ。

 

「香澄がどれだけ辛かったか分かってるの?」

「辛いとはまた違うだろ。まあそりゃ、後々の反応見たら、激おこだったことは間違いないけど……」

 

すると彼女は机をバンッと叩いて立ち上がった。

 

「ふざけないで! キミにそんなこと言われて辛くなかった訳ないでしょ! 香澄が……香澄がどんな思いで……何で分かって上げられないの……?」

「……ごめん。今のは軽率だった」

 

彼女の顔を見ると、それは今まで見たことのないような、怒りに満ち満ちた顔をしていた。何をやっているんだろうか俺は。この子にさえこんな顔をさせて、

 

「はあ、はあ。ごめん……私も言い過ぎた……」

 

挙句謝らせるなんて。

 

「いや、俺が悪い。お前が怒るのはごもっともなんだろうな」

 

そうだ。俺が悪い。なんせ、ホントに……あの時から全く変わってないんだから。また変わらず、人の気持ちを汲めてないのだから。

 

 沼の水の様に停滞した間をそれで、と彼女が仕切り直して続けた。

 

「ちゃんと香澄と仲直り出来たの?」

「そりゃあもう誠意をもって謝って、ちゃんと許しを得ましたよ」

 

じゃなきゃ死ぬと思ってたからな。

 

「まあ、それは昨日香澄がライブハウスから電話香澄から電話来てたから。しかしまあ、ふーん。誠意、ね~。じゃあ、これはどう説明するの?」

 

 そう言って見せてきたのは、彼女の香澄とのトーク履歴の一部だった。そこには、

 

『さーや~、聞いて聞いて。陽くんったらまた私に酷いこと言ってきたの。しかも今回は分かってて言ってきたの! いつもの天然ボケと違って。ということで、陽くんをきっちりしごいておいてください! 後因みに、まりなさんにもデリカシーの欠片も無い発言をしてた! あ、これは天然だよ!』

 

と書かれていた。くぅ~、こういう時()()仕事が丁寧で泣けてくるぜ! 余すことなく書いてやがる。

 

「説明してくれるかな? 色々と」

「『?』つけたってことは一応俺にも選択肢が……」

「私が優しい内に喋った方が良いと思うな~」

「あ、すいません喋ります」

 

分かってたよ。無いんだろ、選択肢なんて! 奴隷の俺には! もう慣れたぜ! はっ、昨日から思ってたけど俺って奴隷の才能あるんじゃないんだろうか!? …………何言ってんだろ俺? 

 

 遂に奴隷としての完成形になりつつある俺はさて置き、これまた素直に事の経緯を嘘偽りなく話した。

 

「あのさ……陽一」

「はい、何でしょうか」

「ホンッッット、サイッテー」

 

もういよいよ沙綾の目が汚物を見るそれだ。あ、ヤベ。ホントに変なものに目覚めそうだ。やっぱり本当に才能があるんじゃないだろうか!?(二回目)

 

「はあ。陽一……香澄に対してのそれはまあ単なる悪ふざけだから百歩……いや千五百歩くらい譲って良いとして」

「あ、そんなに譲るんですね」

 

 この時期になってもソーシャルディスタンスを忘れぬその心、感服至します。

 

「それくらい譲らないと陽一は全部アウトだから。そして千五百歩譲ってもまりなさんへの発言はアウトかな。ここまで軽率な発言できるのはもはや才能だよ?」

 

 才能? あ、奴隷の才能かな? (三回目)奴隷の才能ですね!? (四回目)そっかそっかーやっぱ俺には才能があったのか! (確信)

 

「さーて、事情も聴けたことだし……」

 

おっとこの流れは…いや~、流石は神様・仏様・沙綾様。素直に話したら許してくれるもんだな。ようやくこの身が解放され……

 

「ここからは有咲達が来るまでみっちりお説教かな」

 

……ることなくそのまま俺の魂だけが解放される時が来たようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在時刻は七時半。あの後俺は十五分以上もの間、俺のこれまでの様々な所業について延々糾弾され続けた。神仏(かみほとけ)としての慈悲など何処へやら、俺のHPバーが0になっても尚、口撃の手を緩めることなく死体蹴りを敢行してきやがった。完全にオーバーキルもいいとこである。こんなもん最初の草むらで威力150の技を打つ様なものだ。

 そして香澄達が来る頃には、同じく事情を聞かされているであろう有咲ですら同情の目を向けるほどの状態となっていた。因みにコロネ感染者には「昨日見た映画のゾンビみたい」と目を輝かされ、当の元凶の女はというと

 

「わ! 陽くんが干からびた雑巾みたい!」

 

 酷い喩えようである。いくらプロの奴隷を自称する俺でもここまでの波状攻撃を喰らえばひとたまりもない。比喩でもなんでもなく本当に目から塩水が出てきた。

 

「あわわわ、陽くんが泣いちゃった!」

 

 やめろよお。そんな事実確認しないでよお。

 

「ごめんね~! 陽くーん!」

「グスッ。うん、いいよもう。なあ沙綾、なんかそこら辺に手ごろな縄と梁無いかな?」

「ちょっとそれで何する気!?」

 

 結局その日、俺を復帰させるのに更に時間を浪費し、やまぶきベーカリーは開店するのが遅れたそうで。因みに最後には香澄による抱き着き&頭なでなでという羞恥プレイの極みによって強制的に覚醒させられた。

 余談だが、そんな中でもりみはパンの匂いに夢中でこちらには見向きもしなかったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

 

 

 

 

 因みに、俺たちは閉門十分前に何とか校門を潜り抜けたわけなんだが……

 

「よーし! 今日もギリギリセーフ!」

 

この馬鹿(誠士郎)はそれよりさらに遅かった。毎回こんなことに付き合わされるあの風紀委員長さんも可哀想だ。

 

 という訳で昨日の宣言通りに

 

「誠士郎ー、氷川さんに近付くために遅刻ギリは良くないぞ」

 

と皆に聞こえるように言ってやった。が、

 

「おいおい、宝田ー。今更かよー」

「察し悪いよー。香澄ちゃんもそりゃ苦労するよー」

「まあ、陽一は今年からだし。誠士郎は去年からやってるからなー」

 

 おっとー? まさか知らなかったのは俺だけでしょうか? てか去年から定期的にこんなことしてるコイツって……

 すると誠士郎はこの状況を見てニヤリと笑い、口を開いた。

 

「おい陽一! ()()()()()香澄ちゃん泣かせんなよ!」

 

 

 この日から、クラス内での俺の名は『DV野郎』という至ってシンプルなものとなった。

 

 

 

 

 

 

 




見ての通り箸休め回です。次回までゆっくり待ってください!
しかしまあ彼は色々察しが悪いですね。この先何をやらかすのやら…
皆さん言葉もDVになるのでどうぞ気を付けて笑


それはそうと新しく評価、お気に入り登録、及び感想下さってありがとうございます!



最近チュチュにハマって主人公同様、自分の性癖に疑いを持ち始めた筆者より

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第十話 胃のもたれ

生きてましたよ。
何だかんだで記念すべき?十話目


 どうも、DV野郎です。

 結局、朝の誠士郎のまさかのカウンターパンチ以降、この名前で呼ばれ続けるという中々の生き地獄を味合わされた。終礼が終わり、一先ずこの地獄を抜け出せたと思ったら、

 

「陽く……DV野郎くん! バイト行くよ!」

 

ねえ、何で今言い直したの? 必要あった? 

 

「そっか、DV野郎は今日からCircleでバイトか。あ、私らには着いてくんなよー」

「まあいいじゃん有咲。もうDV野郎も反省してるしさ」

 

キミらは何の迷いも無く言ってくるね。そして沙綾、それは反省した咎人に言うことじゃないよ? 

 

「も、もう止めて上げよう!? デ、ディ、D……宝田君が流石に可哀そうだよ……」

 

あ、キミは言わないのね。

 

「香澄、有咲、沙綾、りみ、早く行くよ」

 

教室の扉が開いたかとと思うと香澄たちのバンドメンバーの花園がいた。そして四人に呼び掛けた後、何故か俺をじっと見つめてきた。

 

「なんだ? ……花園さん、でいいよな。俺の顔に何か……」

「あ、思い出した。DV君だ。後、花園じゃなくて『おたえ』」

 

DV君はやめろ! 何で『野郎』が付くか否かでここまで印象変わんの!? 

 

「あ、あのさ花園さ「おたえ」……。その前に俺の呼び名変えない?」

「分かった。えっとー、DV?」

「君付けしなけりゃ親密になるってわけじゃないよ!?」

 

ていうか『DV』ってもう人としてすら扱ってもらえてないじゃん。一普通名詞じゃん。

 俺が花園さん改めおたえとあーだこーだ言ってるとまた香澄がむくれ始めた。昨日のことからも察するに、如何やら彼女は俺が他の女性と会話を成すだけでセクハラ認定されるようだ。これが自分の友達ともなると怒るのもまあ当然か。一応また彼女の両頬をプシュ~とつぶしておいた。

 

「陽一……ホントある意味尊敬する」

「は? どういう……って今ちゃんと呼んでくれた!?」

「あ、ゴメン。キミのおバカっぷりに圧倒されてつい間違えちゃった」

「間違えてないよ!?」

 

え? 俺の本当の名前って何だっけ? 宝田DV? ヨウイチ=D.V.=タカラダ? もういいや奴隷だし(投げやり)

 

「ほらこんなのほっといて行くぞー」

「あ! 待ってよ~、有咲~! ほら、陽くんもボサっとしてないで!」

「ん? 陽一? あ、俺か」

 

という訳で、奴隷としてやるべきことをしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなででやって参りましたCircle。てか何で香澄は走っちゃうのかね。もう息も絶え絶えですよ。主に有咲が。

 

「まりなさん! こんにちはー!」

「お、ポピパが一番乗りかー」

「いやー、今日はホントに楽しみだったんで〜」

 

香澄、お前は多分Everyday楽しみだろ。年がら年中頭の中お花畑だろ·····って、分かった分かった。分かったからそんなに睨むな。そして足踏むな! 

 

「陽一くんは相変わらずだね〜。取り敢えず、昨日言った通りに着替えてからコッチに来て。今日は君に大事な仕事を任せたいから」

「大事な仕事って·····そんなもんバイト初日の人間に任せて良いんですか?」

「まあ、何事も経験経験!」

 

軽いなー。まあ任せられる以上は出来ない仕事でも無いのだろう。

 

「じゃあ、香澄ちゃん達は先に入ってて。もう準備してあるから」

「はい! よーし、皆行こう! 陽くんも頑張ってね!」

 

そう俺にエールを送ってから、彼女は走って行ってしまった。

 

「おい待て! 走るなー! あ、宝田は何もやらかすなよー」

 

そう言い残して有咲と他の皆も行ってしまった。にしてももうちょい俺のこと信用してくれたって……あ、無理ですね。あんなことあって信用もクソもないですね。

 

 俺は彼女たちを見送ってから着替えた。そして今回はちゃんとかの鬼上司の下へ直行した。

 

「流石に今回は早かったね~。うん! えらいえらい!」

「いやいや、流石に同じミス二度も繰り返しませんって」

 

そう。なんせ人間は成長する生き物なんで。そうやって人類は……って何クスクス笑ってんの? 

 

「いやーそのセリフ、昨日のキミに聞かせてあげたいなーと思って。何度同じミスを繰り返してたのやら」

 

うぐっ。この美人上司、中々痛いところを……

 

「ま、まあ、それも今日からはきっちり改善されているんだから問題ナッシングです!」

「あーそっかそっか。沙綾ちゃんに教育されたもんね」

「ええ、そうですそうです…………え? 何でそれ知ってんすか!?」

「女の子の情報網を舐めるな~」

 

あー、これはあれだ。有咲的に言うなら、

 

「香澄ィ~~~~~!」

 

 ってやつだ。犯人が分かりやす過ぎる。そしてまりなさん、さっき自分のこと女の子とか言ってたけど……

 

「あ、そうそう。同じ失敗っていうのは何も女の子に失礼なことを()()()()()言うことだけじゃないからね」

「はははは。まさかまさか。そんなデリカシー無いことなんてこれっぽっちも、微塵も、毛ほども()()()()()いませんよ」

「だよねー。私もまだまだ女の子だよね~」

「え、あ、は、はい……」

「ん? 歯切れが悪いぞー」

「イエス! マム!」

 

ダメだ、この人怖すぎる! 何!? 学園都市第5位なの!? 怖すぎてイエス、マムの使い方すらおかしくなっちゃったよ。

 

「さーてお遊びは此処までにして……」

 

お遊び? 拷問の間違いでは? 

 

「今日からキミにはある企画のサポート役になってもらいたいと思います!」

「なるほど、ある企画の……」

 

おっとー? 何か想像を悠に上回ってくるであろう重そうな仕事が来たぞー。あっれれー、おっかしーぞー? 

 

「して、どういう企画で?」

「良くぞ聞いてくれました! その名も~……」

 

ドラムロール! ってヤツだろうか? いや俺はやらんぞ。絶対に……あ、まりなさんが勝手にやってるわ。そしてクソ長いドラムロールが終わり……

 

「ダダン! 第三回ガールズバンドパーティーです!」

 

そう彼女は発表した。

 

「はあ。で、何すかそれ?」

「え!? も、もしかして知らない!?」

 

彼女としては衝撃の事実であったようで、あーめっちゃ恥ずかしそうですね。分かりますよ、相手が知ってる前提で喋って噛み合わない時ありますよね。

 

「あ~うぬぼれてた。昨今のガールズバンドブームの火付け役なんて言われてるからてっきり知ってるもんだと……」

 

 そういえば、誠士郎が言ってたな。最近は『大ガールズバンド時代』だとか何とか。なんかその話してた時にアイツがそのことを言ってた気がしなくも無い。まあアイツの話、普段から八割聞き流してるから相当あやふやだけど。

 

「ま、まあ気を取り直して! 一から説明するね!」

 

 それから俺はそのガールズバンドパーティーについて聞かされた。

 曰く、始まりは去年、ここのオーナーさんが企画したもので、そこからまりなさんが目を付けた五つのガールズバンドを招集して開催したものだそうで。これがえらく評判が良かったらしく、現在のガールズバンドブームのきっかけの一つと言われているとかいないとか。

 ここまで聞いて一つ気付いたことがある。…………やっぱアイツから聞いてましたー。テヘペロ☆

 

「それにしても聞いてる限りじゃ結構大きなイベントだったんですね」

「そうなんだよね~。しかも5バンド合同ともなると余計に……。いや~今思えばあの時ポピパの皆が、特に香澄ちゃんいなかったら成功はおろか、開催すらできなかっただろうね」

「アイツが……何かしたんですか?」

 

 何かも何もー、と言って彼女は続けた。

 それによると彼女たちが他の4つのバンドに出演依頼をしたそうで。まあその時点ですでに躓きかけていたことには驚きだが。全バンド出演が決まったら決まったで、クセも我も強いメンツが大勢集まったもんだから演奏の順番一つ決めるのにも苦労したそうで。

 

「そんな時、香澄ちゃん達が皆を纏めようと必死に動いてくれてね。最終的には皆が心を一つにして本番に臨めたの!」

 

 ああ、別に彼女とはそれほど長い付き合いでもないが容易に想像がつく。アイツが必死こいて皆を繋げようとする姿が。そしてどんなに面倒な連中でも絆してしまう姿が。

 ……それにしても、まりなさん今の所あんまり何もして無くね? いや、全くとは言わんが。

 

「……減給かな?」

「清々しいまでの越権行為!?」

 

 畜生! もう労働基準監督署に訴えてやる! 何? 奴隷にそんな権利は無い? ああ、そうでしたね(納得)

 

「まあ減給は置いといて……」

 

待って、置かないで。冗談って言って!? 

 

「それが好評を博したということで、ついこの間に第2回が開催されたの!」

 

おーい。給料は? 話進めてるけど給料は? 

 

「で、それが切っ掛けでバンド始めたって子達がいてね」

 

よーし分かった。減給確定なんですね。

 

「今回はいつもの5バンドに加えて、その子たちを迎えた6バンドで開催することになったの! はい、拍手!」

 

 わー、おめでたい。俺の給料が減るのを尻目に、バンドは増えるんですね。

 ここまで聞いて一つ気になったことがある。

 

「一ついいですか?」

「うん。何でも聞いて」

「そんな濃いメンツのサポート役を俺がやれと」

「そうだけど?」

 

何が気になったか。そりゃそのメンバーのキャラの濃さだ。勿論皆がみんなそうではないだろうが、聞いてたら香澄ですら相当苦労したという話だ。何ならその香澄もその濃いメンツの一人だ。こっちとら普段からその香澄だけでお腹いっぱいだというのに、あんなもんが仮に各バンドに一人ずつでもいると考えただけで……

 

「あの……何か話聞いてたら胃がもたれてきたんで帰りますね」

 

 そんな天下一品よりこってりしたもん味わいたくない。という訳で退却~「どこ行くのかな?」

 

「あの……その手離してもらえます?」

「キミはそんな所にか弱い私一人で行けと?」

「一応聞きますけど、俺に選択肢は?」

「無いけど?」

 

即答しやがったよ。とりあえず俺のビオフェルミン常備は確定した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




取り敢えずここまでこれたのは読んで下さっていた皆さんのおかげです。ありがとうございます。
そしてこれからもよろしくお願いします。

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第十一話 夕焼けと

超電磁砲コラボ始まりましたね!因みに私は人生初課金の末、星4有咲来ましたあ!







アフターグロウとの件を書き直すため、一部改めました


 結局まりなさんに押し切られ、フロントに座っている奴隷こと宝田陽一は、ポケットに入れたビオフェルミンを確認しながら来たる地獄に備えていた。一応安全装置としてまりなさんがついてくれているが、もはや彼女すらも胃痛の原因でしかない。

 ポピパの皆が来た二分後、

 

「こんにちはー!」

 

見るからに活発そうな子が入って来た。うむ、そしてナニがとは言わんがデカい。これは今まで触れてこなかったが有咲にも匹敵するレベルでは無かろうか? いやナニがとは言わないけどね? 

 

「おい、ひまり。いきなり煩くしたら迷惑だろ」

「そ、そうだよひまりちゃん!」

「ゴ、ゴメン……。でも久しぶりで嬉しかったんだもん! つぐや巴は違うの?」

 

うん、仲が良さそうなことで。何だかこういうのを見ているとほっこりする。何と言うか……尊い。

 

「こんにちは! まりなさん!」

「来たねー、ひまりちゃん達」

「あれ? この人は……?」

「あ、彼は今日から入ってもらってるスタッフで、キミたちと同い年だから! ハイ、自己紹介!」

「えーっと、今日からスタッフとして働かせてもらっている宝田陽一です」

 

取り敢えず無難に挨拶しておこう。ここで調子こいた自己紹介をしたら後々何言われるか分かったもんじゃない。なんせ俺の口はパンドラの箱並に開けば災いを呼ぶのだから。

 

「ちょっとー? キミって私たちと同い年でしょ? なんでそんなに堅苦しいの~?」

 

あるぇ~? そう来ます~? 

 

「あ、私は上原ひまりね! よろしくね、陽一くん!」

 

うわー、この子も香澄並みのコミュ力お化けでしたか。

 

「ああ、よろしく。上原さん」

「だからー、下の名前で良いってー」

 

だからーって俺そんなこと言ってませんでしたよね? 下の名前で呼べって、そんな初見で女の子の名前下の名前で呼ぶのなんかそれこそ誠士郎くらいしか出来ないから。

 

「私は宇田川巴。こっちは羽沢つぐみっていうんだ。よろしくな! まあ、ひまりみたいに呼び方は強制しないけど同い年なんだし、そんな肩肘張るなって」

「強制はしてないよ!?」

「陽一くん……でいいよね? よろしく!」

 

 巴さんは姉御肌ってところだろうか。俺としてはこういったタイプの方がやりやすい。つぐみちゃんは……うん、兎に角可愛らしい。もうね、うん、天使として生まれた人間、いや人間として生まれた天使?

 

「ねえ、アンタ」

 

 つぐみちゃんで(偶にひまりちゃんのデカメロンで)主に香澄による日頃の疲れを落としていると、突然声をかけられた。

 

「はい、何で……ヒイッ! 何でしょう……か?」

 

 そこにいたのはこれまた同じ年頃の女の子だったのだが……その子の髪には赤メッシュが入っていた。いや、人を見た眼で決めてはいけないことくらい分かっている。分かっているが……やはりビビりな一介の男子高校生にとっては怖いものは怖い。もう既にひまりちゃんを相手にすることが可愛く思えてきた。

 

「アンタ、さっきからつぐみとかひまりの方ジロジロ見て何なの? もしかしてそういう目的?」

「え!? いや、別にそういう訳じゃないですから!」

 

 いや、全くもって邪な気持ちが無いかと言われればですよ、そりゃあまあ無いとは言い切れませんよ。というかぶっちゃけありましたよ。でも仕方ないじゃん! だって男の子なんだもん! 

 

「ていうか大体、初めて会って『ひいっ』って何なの? 失礼過ぎない? ていうかあんた誰?」

「いや、キミも初対面の人間相手に随分な態度だからね!?」

「あ? 何?」

「あ、スイマセン。全面的に俺が悪いです」

 

弱っ。流石は奴隷、とか思ったそこのアナタ! 一度あの目で睨まれて欲しい。

 

「もー! 蘭! またそうやって突っかかる! この人はここの新人スタッフくんの宝田陽一くんで、私たちと同い年だよ!」

「え? コイツ、スタッフなの?」

 

コイツって…。ていうか制服着てんのにスタッフ以外の何だと思ったの?

 

「あの……指ささないでもらえます?」

「何?」

「あ、スイマセン。どんどん指してください」

 

ひまりちゃんが俺について説明するも、全く態度は軟化してくれなかった。

 

「そうだよー蘭ー。よーくんだって男の子なんだから、つぐくらいカワイイ子や、ひーちゃんみたいにおっぱいの大きい子をいやらしー目で見ちゃうのは仕方ないことだと思うなー」

 

そうそう、俺だって健全な男子高校生。そういう目で見ちゃうのはーってちょっと待てい! 誰!? このすっごいボーっとした子。初対面なのに『よーくん』呼びな上に、男子高校生に対しての酷い偏見をぶつけてきたよ!? 最近の女子高生って皆こんなんなの!? ……まあ、その偏見強ち間違いではありませんけどね。

 

「お、これでアフターグロウは全員そろったねー。何で二人だけ遅れたて来たの?」

「モカが寝坊してたんですよ。それで私が起こしに」

 

どうやらこの子は喋り方だけでなく性格も大層マイペースなようだ。

 

「ほら、蘭もモカも自己紹介!」

「……美竹蘭」

「…………え? それだけ……ってオーケー分かった睨むな。宝田陽一です。よろしく」

 

よーし段々分かってきたぞー。この子俺のこと生理的に受け付けないんだな。何か自分で言っててクるものがある。

 

「別によろしくするつもりない」

 

そして大方予想していた答えが帰ってきた。これには巴さんも黙ってはいなかった。

 

「おい、蘭。流石にその態度は酷いぞ」

 

コッチとしてはありがたい言葉だが、これで雰囲気が悪くなられても困る。

 

「良いんだよ、巴さん。俺こういう扱われ方慣れてるから」

「普段どんな扱われ方してるの?」

 

フハハハハハ! プロの奴隷ともなるとこの辺りは一味も二味も違うのだよ。何言ってんだろ俺? 

 

「私はー……超絶美少女のモカちゃんでーす」

「……はい?」

 

コッチもこっちでなんて情報量の少なさだ……! しかも自分で超絶美少女て……まあ可愛いのは認めるが。

 

 まあにしても濃い。特に後半二人が濃い! それも香澄とは別ベクトルで。仕方ない。まずは二錠……カランコロン‥‥

 

「こんにちは、まりなさん」

 

 さあまた入って来たぞー。とりあえずこれ以上胃がもたれるような展開だけは御免ですよ。・・・まあ、もたれるだろうけど。

 

 




スペシャルライブのチケット、払い戻しになっちゃった…
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第十二話 青薔薇と

色々納得いかなかったので書き直しての再投稿です。
すいません!正直あんまり変わってないかもです!


 今度は銀髪の、凄みのある美人が入って来た。そして彼女に続いて、恐らく彼女のバンドのメンバーと思わしき……おーっと何だか見たことある美女がいますねー。主に朝の校門でよく見る人だー。よし、面倒臭そうだから知らない人設定で……「あら、あなたは……」はい、三錠目確定! 

 

「アレ? 紗夜ってこの人と知り合い?」

 

派手目な見た目のギャルっ子さんがそう聞いた。頼むぞ風紀委員長!アンタの説明で俺の印象決まるからね。主に赤メッシュちゃんの。

 

「ええ。彼は……私によくちょっかいを出してくる不良生徒の友人ですね」

「いや、言い方!もっとあるでしょ!?」

 

「彼は」の後少し考えましたよね?考えた上でそれですか!?

 

「コイツ、そういうやつの友達ってことはやっぱり……!」

「おいおい、この人と俺、どっち信じるんだよ?」

「は?何の迷いも無く紗夜さんだけど?」

 

即答ですか。いや今のは勝負する相手が悪かったわ。実際、風紀委員長は嘘は吐いてなかったし。でももうちょっと言い方があるかと思うんですが。

 

「あの……その方……多分……美竹さんの思ってるような人では……ないと……思います」

 

するといきなり黒髪ロングの美人さんが……っておっとこの人もこの人でご立派な……ゲフンゲフン! 何でもありませんよ。何でもないからこっちを睨むんじゃない、そこの赤メッシュ。

 ん? よくよく見るとこの人ウチの生徒会長! 何で庇ってくれんの? 

 

「あなたはよく……生徒会室に……その問題児くん‥‥を引き取りに来てるので……彼の保護者と言うイメージが……」

 

そう。俺はよく生徒会室で、これまた美人風紀委員長もとい氷川さんと絡みたいがためにごねまくっているところをよく回収しに来ているのだ。

 

「と、いうことだ。分かってくれたかな? 赤メッシュちゃん」

「は? 今何て言った?」

「あ、スイマセン。調子乗りました」

 

ダメだ。本能的にこの子には逆らえない。

 

「美竹さん。あなた、自分が間違っていたのだから、まず彼に謝るべきなんじゃないの?」

「何ですか? 湊さんには関係ないですよね? それに、湊さん来るの遅すぎませんか? 今回の企画に本当に気持入ってるんですか?」

「別にそんなつもりは無いし、そもそも遅刻もしてないから咎められる覚えも無いわ」

 

 なーに訳の分からん絡み方してるんだこの赤メッシュちゃんは。まあしかしこの湊さんとやら、多分先輩なんだろうが、流石だな。赤メッシュちゃんもとい美竹さんの謎のマウンティングを綺麗に「それに」……ん? 

 

「私たちと大して変わらない時間に来たあなた達も、そんなに気持ちが入って無いってことになるけれど?」

「なっ……! 何ですか? 私たちに気持ちが足りないって言うんですか!?」

 

 おーっと! 両者の間で激しく火花が散るぅ! この勝負の行方は……って、自分でやってて何なんだろうか?このノリは。

それにしても、湊さんも見事なまでの「論破したった」的なドヤ顔をしているが、今のはマジで余計だったからね? 

 ははーん。もしかしなくてもこの二人……

 

「ごめんネ~。ウチの友希那ったらあの通り負けず嫌いでねー」

「ですよね~。……えっとー」

「あ、いきなりゴメンねー☆私は今井リサって言うんだー」

 

 これまた凄ーいコミュ力高そうなのが来たよ。しかもギャル。俺の一番苦手とする生物だ。

 

「なーに後ずさってるのカナー?」

「え? い、いや別にそんなことは……」

「宝田さん、今井さんはあなたの思っているような人ではないので、そんなに警戒しなくて良いですよ」

「そーそー。リサさんは見た目だけがギャルなだけだからー、別によーくんのこと襲ったりしないよー」

「紗夜とモカの言う通りだよ☆しかし、キミはワタシのことをそんな風に思ってたのかー。お姉さんショックだな~」

「え!? ちょっ! いや……」

「アハハ! 冗談、冗談! そんな慌てなくって良いって~……って、ゴメンゴメン怒んないでよ~」

 

はい、もうギャル嫌い。もうこれでn錠目!(nは自然数) 

 

 その時、背中をチョンチョンとつつかれた。振り向いてみると、

 

「ふっふっふ。我は……えっとー……超大魔姫あこなるぞ!」

 

そしてバーンッと言って謎の決めポーズを取っていた。……一体今日一日で俺は何錠飲めば良いんだ? 

 

「ごめんな。コイツ時々おかしなこと言うけど気にしないでやってくれ」

「お姉ちゃん! あこ、おかしなこと言ってないもん!」

「うん。今のはカッコよかったぞー」

 

この二人、姉妹だったのか。同じ生まれでもここまで違う物なのか……。ていうかこの子が中二病こじらせてんのって、多分巴さんが甘やかしてるのもあるだろ。

 

 それにしても年下までいたとは。()()()は勿論、()()()()()()()()()()()もそうだが、俺は年下と言うものがどうにも苦手だ。ハッキリ言って、()()()()()()()良い思い出が無いのだ。まあこのあこちゃんには何の罪もないわけだが。

 

「ふふっ。面白い子たちでしょ」

「ええ、面白すぎてお腹が痛いですね」

 

 そして何故香澄たちが苦労したかが分かった気がする。

 

「皆元気で良かった。さあ、ポピパの皆が先に入ってるから、ロゼリアとアフターグロウの皆も入ってね」

 

 彼女がそう言うと、皆ぞろぞろと奥へ向かっていった。……因みに赤メッシュちゃんと湊さんは未だに口論を続けていた。いや、どんだけ負けず嫌いなの? 

 

「さあ、後三組来るからファイト!」

 

 ……これでまだ半分か。なるほど俺に死ねと。

 そう自分の死を覚悟したとき、またドアのベルが鳴った。妙に子気味よく聞こえる音に腹が立ってきた。

 




さあ、あと三つ


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第十三話 パステルカラーと

この度諸々の作業が終わり復活。ちゃんと生きてましたよ~。
因みに此処何話に渡って続く各バンドとの初絡み回の内、何故かこのパスパレ回だけが長くなっています。理由は多分やる気の問題。


追記:8/11、皆様のお陰で日間ランキングにて全体90位、バンドリ二次創作内にて5位にランクインしました。ありがとうございます。



 カランコロン、とまた死の音が鳴った。音のする方を見ると、今度はえらく可愛らしい集団が……って、あれ? あの人らって……

 

「パスパレじゃん……」

「お、流石の陽一君も知ってたか~」

 

まあ、そりゃあ今をときめくアイドルですからね。てかこれに関しては誠士郎から死ぬほどお話聞いたわけで……

そう、あれは確か半月程前、要は入学して丁度一か月くらいのことだ

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

『なあ、誠士郎よ。お主最近流行りの()()()()()()()を知っておるか?』

 

 俺の中の昼休みには出来るだけ喋りかけて欲しくないランキング第二位に物凄くそっくりな男が声をかけてきたが……うん、知らない人だな。因みに一位は香澄だ。

 

『あの……わたくし、母には常々知らない人には応答するなと言われておりますので……』

『ちっ、ノリわりーな。分かったよ。話し方戻してやるから聞いてくれ』

『あ、ゴメン。お前とは一切口もきくなって母ちゃんに言われてたわ』

『お前の母ちゃん酷すぎない!? 俺会ったこともないからね!?』

 

まあ無論そんなことは言われたことが無い。そりゃあ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『まあいいや。で、このPastel✽Palettesってユニットでさ、これが今来てんのよ! しかもこの内3人はなんとウチの生徒でさ』

『え? ウチの学校、芸能人いたの?』

『あれ? 噂ぐらい聞いたことないか? 仕方ないな~。この俺が一から説明してしんぜよう!』

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 とまあこんな感じだったわけで、寧ろかなり知っている部類に入るんじゃないだろうか。まあ多分話の内の30%も頭に入ってないだろうがそれでもなおだ。

 

「あ! まりなさん、こんにちは! それからキミって……」

「あら、貴方は……」

 

 俺は軽く咳ばらいをして口を開いた。

 

「初めまして、今日からここでスタッフとして働かせて頂く宝田陽一です。今後ともよろしくお願いします」

 

 おっぱいお化けことひまりちゃんは何か言ってたが、やはりシンプルイズベストだ。変な捻りなぞ……おっと後ろからもの凄く見覚えのあるパステルイエローの美人が来ましたね。

 そういえば忘れていた。このグループにも俺の胃が痛む様な存在がいることに。それも今度は対応をしくじったら胃を悼むことになる劇薬だが。

 

「ええ、よろしく。それにしても固い自己紹介ね」

「まあ初対面の人たちにはこのくらいかと」

「あら? 初対面?」

 

そういって美人さんもとい白鷺千聖は目を妖しげに輝かせた。あ、これはあれですね、逃がす気ありませんね。

 

「私、一応ファンの顔は覚えるように心がけているのだけれど。思い違いだったかしら? あの時教室に……」

「オッケーすんませんでした許して下さいそうです初対面じゃないです認めますからどうかあの事だけは」

「うふふ。冗談よ♪ 私、ファンの方々は大切にする主義だから」

 

なるほど、時には脅しの利用しながらファンの方々を()()に従える主義なんですね、分かります。

 

「涙が出るくらい素晴らしい主義だな畜生」

「あら? 何か言ったかしら? 何か言いたいことが……」

「いえ! 滅相もございません!」

「そう、それはよかったわ」

 

 するとふわふわピンクであのアホ(誠士郎)の推しメンが不思議そうに首を傾げた。

 

「千聖ちゃんって……この子とどんな関係なの?」

「そうね……」

 

まあ、この人のことだし上手く流すだろう。……流すよね? ……流してくれますよね? なんで今一瞬、こっち見てちょっとニヤッとしたの? 可愛かったけども。

 

「強いて言うなら主人と飼い犬かしら」

「ほぇ!?」

「おいコラいつからそんな主従関係になった!?」

 

余りに予想の斜め上を行く一手だった。まるで将棋……いやここは藤井聡太と言っておこう。あ、棋聖獲得おめでとうございます。

 

「あら、いいのかしら? その口の利き方は?」

「あ、申し訳ございません。以後気を付けますワン」

「ほらね?」

「うわぁ……」

 

ダメだ。この人と俺の性質(奴隷根性)は相性最悪なようだ。本能的何かが(こうべ)を垂れさせる。……おいそこ、「プー、クスクス」とか言ってないで早く助けて? 大事なあなたの部下(サーバント)が奪われかけてますよ。令呪を以って命じて? 自害しろってでも何でもいいから。あれ? これって俺助けられてないな。

 すると突然、どこかの誰かによく似たアイスグリーンの子がハッとした顔で俺の服従の姿勢を無駄にした。

 

「あ! キミっておねーちゃんの言ってた子だ! 編入早々千聖ちゃんにサインせがみに来たって聞いたよ! 後、いっつもおねーちゃんに絡みに来る……」

「もうやめて! これ以上俺の胃潰瘍にブートジョロキア塗りこまないで!」

 

 そういやこの人は風紀委員長の双子の妹さんだとか何とかって聞いたな。だが、誠士郎曰く推しではないらしい。顔そっくりなんだから推しで良いだろと言ったらフルスイングでどつかれた。

 曰く、アイツは俺とは違って外見だけでは人を判断しないそうだ。失敬な。

 そしてまた曰く、アイツは風紀委員長のちょっとキツめの性格が好みだそうだ。ハッ、なんて性癖だろうか。(6話最終盤を見てもらいたい)

 因みに丸山さんはどうなんだと聞くと顔が氷川さん以上に弩タイプなのだそうだ。外見では云々言っていたのはどの口だっただろうか。

 

 するとその件のふわふわピンクさんも「あ!」とか言い出した。

 

「あ! 思い出した! 陽一君! いっつも紗夜ちゃんに頭下げにきてる子だ!」

「アンタらさっきから何!? どんだけ俺の胃をあの世に送りたいの!? それから丸山さん、語弊のある言い方やめてくれます!?」

「え!? 私のこと知ってるの!? うう……ぐすっ……」

 

えぇ……うそぉ。俺何か悪いことしました? 知ってただけですよ? まさか存在自体が悪なんですか? この世全ての(アンリマユ)なの? 

 

「あはは! よーくんが彩ちゃん泣かしちゃったー。おねーちゃんに言っちゃお!」

「冗談でもそんなこと言うの止めてくれます!?」

「え? 冗談じゃないけど? だってその方が面白いじゃん!」

「尚更止めてね!?」

 

こんなに目をキラキラさせてエグいこと言う人初めてだ。てかあの年増ァ、いつまで笑って見てやがる! 

 

「タカラダさん、ダイジョウブです! アヤさんのこれはきっとウレシナミダというものです!」

 

 この人は確か若宮さんだったな。そりゃあハーフでスタイル抜群でしかもこれまた例に漏れず容姿端麗と来たもんだから、アイドルだったという事実を知る以前から俺でも認知はしていたぐらいだ。多分学年ではあの頭のとち狂ったお嬢に並んで有名だろう。

 いやしかし、この子は見れば分かる。あの白鷺さんとは違って絶対いい子だ。この子は安心……「それにしても」オッケー、若宮さんそこまでにしよう。いい子だから。というかいい子でいて! 

 

「貴方のチサトさんのファンとしてのあの積極的な姿勢! 実に見事……正にブシドーでした!」

「あ”あ”あ”あ”~もうやめてよぉ……」

 

 この子、態とやってなさそうなのが余計に恐怖を煽る。そして武士道ならもっとそういう気持ちは忍ぶべきじゃなかろうか? 

 

「ん? てか見てたの!? あの騒動!?」

「ハイ! 偶然チサトさんに用事があったので!」

「あらあら、同級生にも知れ渡ってしまうわね。貴方の黒歴史♪」

「若宮さ~ん。お願いだからそのことは内密に~」

「あ、もうこのことは同じクラスのタエさんにこの間……」

 

 うぉーい! よりによっておたえ!? いやでも待てよ……アイツらがこの事について突っ込んでこないということは……ふっ、あのアホ忘れてやがるn『ライン!』ん? 香澄からのメッセージか。なぜこのタイミングで……そこまで考えながら、俺は通知を見た。そして即座に画面を閉じた。

 

「あら? どうしたのかしら?」

「いや、通知でしか見てないんで冒頭だけなんですけどね、『さっきおたえから聞いた千聖先輩の』って表示されてたんですよ」

「そう、おめでとう♪」

 

 なんて嬉しくないコングラチュレーションだろうか。もう今の俺の胃の様子を内視鏡で一度見て頂きたい。きっと爛れまくってビオフェルミン如きではどうにもならん状態だろう。

 

 それにしてもこのグループ、余りに爆弾が多過ぎやしないだろうか。いやまあ俺が蒔いた種なんですけどね。

 

「あ、あの~ジブン、大和麻弥って言うッス」

「あ、勿論知ってますよ。友人が演奏技術が凄すぎってべた褒めでしたし」

「ええ!? そんな! フヘへッ、ジブンには恐縮ッスよ!」

 

謙虚な姿勢を見せながらも照れが隠しきれていない……。うん可愛い。なんだかアイドルがしてはいけない笑い方してたような気もするがそれを差し引いてもこの可愛さ。でもどうせこの人も爆弾持ちだろう。

 

「スミマセン。ジブン、皆さんと違って、宝田さんのこと何も知らなくて……。だから、これから」

「いえ! 何も知らないならそれでいいです! そのまま何も知らないままでずっと頑張っていきましょう!」

「え、ええ~! そ、そんな……」

「いえ、今の大和さんのままでいて下さい! もう一生推しますんで!」

「ええ~!? ちょっと~!」

 

そうやって赤面する姿も良いですね。ごめんよ誠士郎、俺は如何やら彩担ではなく、麻弥担になりそうだ。

 

「あら、推し変かしら? 私の目の前で良い度胸ね?」

「俺は子役時代から千聖さんファンでしたけど、只今をもちまして卒業させていただきます」

「貴方、立場が分かってないみたいね。良いわ、あること無いこと香澄ちゃん達に吹き込んであげる。みんな行くわよ」

「ちょっと待てい! いや待って下さい千聖様! 一生推しますんで! なんならもう一生貴女の犬でいますんで!」

 

そう俺が言い放つと、千聖様は俺にそのお美しい御背中をお向けになりながら突然若宮さんに御話をお振りになった。

 

「イヴちゃん、『武士に』何だったかしら?」

「ハイ! ニゴンはありません!」

「だ、そうよ♪ そのまま一生麻弥ちゃん推しという修羅の道を行けば良いわ」

 

あ、お腹の辺りで何かが弾ける音がしたー。アーメン俺の胃袋。明日は教会でお葬式だ。というかその前に俺の葬式かな? 

 

「あ、あの~頑張ってね……」

「宝田さん、シチテンバットウです!」

「あはは! キミってやっぱり面白いね~。うんうん、るんってきた♪」

 

丸山さん以外は碌に励ましもしてくれなかった。若宮さんは態とじゃないから良いとして、氷川妹ァ、アンタだけは許さん。

 

「フフッ。今のところ掴みはバッチリだね!」

「どこ見てそのセリフ吐いてんだこの残念美人は」

「まあ今のは見逃してあげる。美人って入ってたし。でもさっきの『年増ァ』は説明してもらうから」

 

え? それ俺の心の声ですよね? 

 こんな四面楚歌、孤立無援の状況の中、大和さんだけは違った。

 

「あの~宝田さん、別にジブンなんかを推して苦しむくらいなら、全然推し変してもらって構わないッスから!」

 

この瞬間、俺は何があってもこの人を推すと決めた。

 

 

 




ここでの千聖さんが鬼畜以外の何物でも無い笑

久しぶりですし、よかったら感想と評価下さい!凄いモチベ上がりますんで!


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第十四話 とびっきりの笑顔と

今回はだいぶ雑かな


 さあ残り2バンドだ。もう既に俺は生ける屍だが、まあ最後くらいあがいて見せよう。さあ、どんな奴でも「みんなー! 早く早く!」…………嘘だろ? いやいやまさかそんな。主に平日に、隣のクラスからよく聞こえてくるあの底抜けに明るい声とよく似ていたが……きっと気のせいだ。あのお嬢までいるなんて言う10連ガチャで半分星4でしたーみたいな奇跡なんてそうそう起こるもんじゃない。いや、起こってたまるか。

 もしそんなことになったらこのガールズバンドパーティーは俺にとっての伏魔殿(パンデモニウム)でしかない。花咲川の対宝田決戦兵器オールスターズだ。

 カランコロン。四回目の死のファンファーレが鳴り響いた。

 

「やったわ! 私が一番よ!」

「うわ~、こころん速ーい! 流石だね!」

「いえ。はぐみも速かったわよ!」

 

Oh……どうやら星4が五枚ほど出たらしい。わー、うれしーなー。

 

「今日も元気だねー、こころちゃん」

「あら、まりな! こんにちは! 他のみんなも……あら、今来たみたいね!」

 

その声に続いてドアベルが鳴った。

 

「あぁ……こころ……ハァ、ハァ。なんて……ハァ……ハァ……儚い速さなんだ……」

 

 花咲川の異空間その他一名に続き入って来たのは、息を切らせた宝塚だった。せめて息整えてからそのセリフ吐いて欲しかった。

 すると綺麗な金髪が輝くお嬢が唐突にこちらへと視線をやった。そしてガッツリ目が合った。はい、試合終了。安西先生が何を言おうと試合終了だ。

 恐怖の異空間がトテトテとこちらに迫ってきた。そして俯き加減の俺の顔を覗き込んできた。

 

「あら? 陽一じゃない!」

「お嬢様、恐らく人違いではないかと?」

「? ……どうしたのかしら? 頭が少しヘンになっちゃったのかしら?」

 

他の誰にでもなくアンタには言われたくない。というか少しくらい引っかかる素振り見せてくれませんかね? 

 

「こころ、そこの子犬くんはきっと、キミのその儚い美しさに心を奪われたのさ」

「そっか! それでこの人の頭がおかしくなっちゃったんだね!」

「ちょっと? 勝手に俺が弦巻に一目惚れしたみたいな言い方やめてくれます? それからキミも言い方酷くね?」

 

美人なのは認めるがそれは死んでも御免だ。それから「頭おかしい」は流石に響く。

 

「あら! 元の陽一に戻ったわ!」

「いや元から正常だから」

「じゃあ、なんであんなこと言ったのかしら?」

「ん? シンプルにお前と関わりたくないから?」

 

これを機に一生喋りかけないでほしい。

 

「あら! それは大変ね!」

「ご理解頂けた?」

「ええ! なら、アナタと仲良くなれるよう、もっと話しかけなくちゃならないわね!」

「えぇ……そっちに行くぅ……?」

 

全然ご理解して頂けなかったようだ。いや理解してもらえるならとうの昔にコイツとは縁が切れてるはずなんだが。畜生、あの時隣のクラスにいた沙綾にノートを借りに行かなければ……。

 

「う~ん……」

「あの……どうしました? 俺の顔に何かついてます?」

 

 弦巻に初めて話しかけられた事について回想していると、オレンジ色のショートヘアーの子、確かはぐみとかいう子がやけに深刻な表情で俺を見つめていた。なんだろうか? そんなに俺の顔が気に食わないのだろうか? 

 

「ううん、そうじゃないよ。ただね、はぐみずっと前にどこかでよーくんと会ってる気がして……」

「……? そうなのか。悪いが俺は全く」

 

すると後ろにいた宝塚さんが答えを出した。

 

「キミとこころは同じ学校なのだろう?」

「そうですね。誠に遺憾ながら」

「なら、必然的にはぐみとも同じ学校なるわけだ。つまり……そういうことさ」

 

最後のキメ顔が腹立つが、なるほどつまりこの子も花咲川という訳か。そう言われれば見たことがある気もする。

 

「そっか! よーくんってはぐみと一緒の学校だったんだね! それなら納得かな! ごめんね、さっきはじっと顔見ちゃって」

「いや、こっちこそ悪かった。あ、おれは宝田陽一。あらためてよろしくな。えっと……」

「北沢はぐみ! E組だよ!」

「て、ことはおたえと同じクラスか」

「あ! おたえとは知り合いなんだね!」

 

香澄に負けず劣らずの元気っ子だ。これも対応に骨が折れそうだが、まあ香澄が二人になったと思えば……あれ? それヤバくね? 

 

「そう言えば私もまだだったね。瀬田薫だ。よろしく、子犬くん」

「ああ、どうも」

 

この宝塚さんが瀬田さんか。なんだろうか、この男して負けた気しかしない感じは。なんか所作をはじめとして何から何まで格好いいんですよこの人。しかも身長も同じくらいだし。え? 女性ですよね? 実は男でしたーってのは後々やりにくくなる案件だからやめてね? 

 ここまでメンバー紹介されて一つ気になったことがあった。

 

「ところで、弦巻のバンドはスリーピースバンドなのか?」

 

 他に比べてメンバーが少ないのが気になった。

 

「いいえ! 他のバンドと同じで5人よ!」

「ん? お前さっき『みんなもう少しで来るわ!』的なこと言ってなかった? これが皆じゃねーの?」

「そうだったかしら? よく覚えてないわ!」

 

巫山戯んなよこのお嬢め。それなら残りのメンツは……その懸念も次の瞬間に鳴り響いたドアベルで解決された。

 

「すいませーん。花音さん探してたら遅れましたー」

「ふぇぇぇ〜、ごめんね美咲ちゃん」

 

恐らく残りのメンバーと思われる2人が入って来たようだ。会話の内容からして恐らく迷子……っておいこれまた意外なのが混じってんな。

 

「良いんですよ。勝手に走り出す三馬鹿が悪いだけ……ってなんでアンタが……」

 

 そう言って迷子じゃない方と思われる少女、俺のクラスメイトである奥沢は目を見開いた。

 

「よっ、奥沢。さっきぶりだな。にしてもお前がバンドメンバーだったとは意外だわ」

「いやそれはこっちのセリフだからね、宝田……もといDV野郎」

「おいやめろォ! つまみ出すぞお客様ァ!」

 

最早忘れかけていたネタをぶち込んできやがったせいで、とてもお客様には浴びせるもんじゃない言葉遣いになってしまった。

 

「陽一くん……流石に犯罪者は置いておけないかな~」

「なんでアイツの言うこと信じちゃうのかな?」

 

いや今日に至るまでやってきたことは決して褒められたもんじゃないことは認めるけど……ってちょっと迷子の水色さん、「ふぇふぇ」言いながら奥沢の後ろに隠れるのやめてくれます? 

 

「ストーカーな上に……DV容疑……」

「アンタ……まさかストーカーまでしてたとは……まりなさん、雇ったことは黙っておくんで今すぐ解雇して110番しましょう」

「あ、大丈夫大丈夫。もう携帯の緊急通報ボタン押したから」

「緊急を要する程なんですかねぇ!?」

 

最近人里に降りてきて話題のツキノワグマとか、その類の危険種か何かと勘違いされてるのかな? スマホのロックを解除する間も惜しむほどのようだ。

 

「ていうかその……なんでストーカーなんですかね?」

「ふぇ? だって……キミ、千聖ちゃんの……」

 

 水色のゆるふわさんがそこまで言った瞬間、俺は全力で彼女の口を塞ぎにかかった。大体何を言うかは数分前の展開から予想できる。

 

「後生です! それ以上はどうか!」

「ふぇぇぇぇ~!?」

 

このネタを他の奴に……ハッキリ言ってこのメンツなら奥沢以外実害は無いだろうが、その奥沢がヤバい。これから学校では危険種から駆除対象になってしまう。

 

「……ただでさえ女の敵とは思ってたけど、まさか本当に犯罪者、それもレイプ魔だったとは……」

 

 あれ~? ストーカーからレイプ魔にいつの間にかジョブチェンジしてんだけど? 

 そこまで考えたとき、今の自分の姿を客観的に見たらどうなのかに思い至った。

 初対面の女性の口を塞いで恫喝……更にはストーカー及びDVの疑い……はいジョブチェンジどころかスリーアウトチェンジ、俺の人生一回表終了ですね。まあ二回表も無いし、なんなら結構前にゲームセットしてたけど。

 

「あ、あの……奥沢さん……違うんですよこれは……」

「大丈夫、アンタがそういうヤツってことは分かってるから」

 

 どっちの意味だろうか? いや分かり切ってるけど。

 

「何かお前、前々から思ってたけど俺に当たり強くない?」

「なんかアンタと戸山さんを見てると戸山さんが可哀想すぎるから。つい虐めたくなるんだよね」

「え? なに? 俺そんなに犯罪臭する? 会話もアウト?」

「そういうところがイラッとするんだよね~」

 

 奥沢の割とガチ目な「イラッとする」にこれまた割とガチで傷付く俺を尻目に、乱痴気お嬢こと弦巻は小首を傾げながら言った。

 

「……? 『れいぷ』って言うのが何かはよく分からないけれど……兎に角花音と美咲は陽一と仲良しになれたのね! それなら良かったわ!」

「うん! はぐみもそう思う!」

「ああ……なんて儚い出会いなんだ……!」

 

水色の人もとい花音さんは相変わらずふぇふぇして、奥沢は「この三馬鹿は……」と呆れ返っていた。

 

 そんな中俺は

 

「弦巻……お前はそのままでいろよ。後今後そのレイプって言葉は一切口にすんなよ。お前の口からは聞きたくない」

「よく分からないけれど……わかったわ!」

 

最大の地雷原が今のところは不発っぽいことに安堵しながらコイツが一生バカであることを祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、今までの者たちが比べ物にならないくらい大きな爆弾が舞い込んでくるとは思いもよらずに。




令呪を以って命ずる。感想、評価をしろ、読者の皆様。


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幕間 年の功

最近になって度々実感させられますが、やはり歳が1つでも上っていうだけで本当に違うものですね。
なんというか、感じ取る力が違う。


 最後のバンドを待っている中、俺は少しこれからのことについてまりなさんと話していた。

 

「月島さん、濃すぎます」

「でしょ~。だからキミにあの子たちを押しつ……任せたんだよ」

 

今アンタ「押し付けた」って言おうとしたよね? え? 俺これから一人であの人ら相手すんの? 

 

「まあ、任せたって言っても勿論私も協力するよ。確かにあの子たちの舵取りって大変だけど、その分凄く楽しいし、香澄ちゃんとか皆の頑張る姿見てるとなんだかこっちまで頑張ろう! って思わされちゃうんだよね~」

 

 きっと今まで彼女達のことを見守ってきたまりなさんの言ううことだから間違いないのだろう。俺もそこまで長い付き合いとは言えないが、香澄たちを見ていると、そのことも何となく分かる気がする。……大変だということも含めてだが。

 するとまりなさんが突然、何かに取り憑かれたかのようにクスクスと笑い出した。

 

「……? なんですか、突然。気持ちの悪い」

「ゴメンゴメン。いや~各バンドに1人は君にとっての胃痛の元になる子がいたのがね……フフフッ、ゴメン、ドンドン萎れていくキミを見てるとつい」

「ホント……笑い事じゃないですよ」

 

全くもって由々しき事態だ。まあ千聖さん絡みは自業自得にしても、誠士郎やその他諸々の件に関しては最早俺にはどうすることも出来ないものだっただけに、偶然が重なった結果と言えるので余計に笑えない。

 

「いくら同じ学校の人が多いとは言え、あんなに俺と関わりのある、それも悪い方向性で関わりのある人がポンポン転がり込んできますかね? 普通」

「私たちが思ってるより世間って狭いのかもね~」

 

彼女の言うことも、この小一時間での出来事のせいで否定しようにもその余地は無かった。

 

「いや~でもこれで、キミも少しは自分の女性に対する態度を見直す気にはなったでしょ?」

「いや、それは昨日の時点で」

 

香澄にあんな顔させておいた以上、流石の俺も反省している。だからその反省を生かして今回は余計な発言は極力慎んだ筈だ。

 

「確かにお口はチャック出来てたかもね~。でもこの作者の長きに渡る箸休め回である11話から14話までをよく思い出してほしいな~。まだまだボロがでてたよ。だから減給処分になるわけだし」

「突然メタいこと言うのやめません? それからマジで減給するんですね」

 

俺は最後の衝撃の発言を聞き逃さなかった。あれ全部ギャグか何かで言ってんのかと思ってた。

 まりなさんはそんな俺の戦慄を他所に、コーヒーを一口飲んでから「それに……」と言って続けた。

 

「キミってさ、多分人との間に必要以上の距離を取ろうとする癖あるから。そういうところも直した方がいいと思うな」

「俺は上原さんや今井さんみたいなコミュ力の怪物じゃないんですから。あれが普通でしょ」

 

するとまりなさんは「ほら」といって俺の方を指差した。

 

「キミ、ひまりちゃんとリサちゃんに『下の名前で良い』って言われてたのにもう苗字呼びに戻ってるじゃない? 実際、あの子たちと会話してるときはそう呼んでたのに」

 

俺はその指摘に少しドキッとした。何となく自分の仄暗い部分を見られた気がしたから。

 

「それは……あれですよ。何となく照れ臭かったから……ついそう呼んだだけで」

 

自分でもなぜ呼び方が変わったかは分からなかった。が、少なくともそんな青臭い反応が本当の理由じゃないことくらい、心のどこかで分かっていた。

 

「確かにキミも年頃の男の子だから、そういう思春期的反応も無くは無いかもね。まあただ、あの自己紹介と呼び名の要求で、よく苗字まで憶えてたなーって。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 背中から流れる冷や汗が止まらなかった。きっと苗字も無意識のうちに憶えていただけの筈だ。それなのに、何故か自分の容疑を糾弾されているように感じた。

 そんな感情に苛立ちを覚えたせいか、少し強い口調で彼女に言い返していた。

 

「そんなの……こじつけでしょ? 大体、呼び名くらいでその人の他人に対する姿勢なんて決まらないですよ」

 

多分、俺の言ってることは間違ってないはずだ。たかが呼称1つでそいつの距離の取り方が測れるはずがない。なのに、なのにどうしてか俺は、自分の口から出たその主張が苦し紛れに出てきたものにしか聞こえなかった。

 そんな俺の内面を見透かしているのか定かでは無いが彼女は続けた。

 

「そうだね。君の言う通り、それだけで決めつけるのは良くないね。ただ、女の子って意外と呼び名も気にするから注意してあげてね」

 

俺とは対照的に、いつも通り柔らかく返す。

 

「だ、大丈夫ですよ。ほら、香澄たちのことはちゃんと下の名前で呼んでるじゃないですか。アイツらに言われた通り。多分、アイツらと同じ様にもう少し親密になればきっと……」

 

俺はまるで自分に言い聞かせるようにしながら、彼女にそう言った。そんな()()()をしながら、俺は香澄と出会って結構経ってからも、何度も呼び方について言われることがあったことに気付いた。普通に下の名前で呼ぶようになったのなんて最近の話だ。

 すると彼女は次の一言で俺を凍り付かせた。

 

「そっか。じゃあ、私の呼称も苗字になってるのは私がキミにまだ親密じゃないって思われてるってことで良いのかな?」

 

 この一連の流れの最初に記憶を遡らせた。俺は確かにあの時、彼女のことを「月島さん」と言った。その事実に辿り着いて、俺は青ざめた。

 別に彼女と必要以上の距離を取ったつもりなんてない。寧ろ彼女とは会って間も無い割には親密だったと思っている()()()

 

「い、いや、俺は……そんなつもりなくて……」

 

 言葉に詰まる俺を見て彼女は、月島(まりな)さんは優しげにくすりと笑って、静かに頷いた。

 

「ゴメン、ちょっと今のは大人気なかったかな。大丈夫、分かってるよ、キミが態とそうやって距離取ろうとしてないことくらい分かってるよ」

 

 彼女はきっと情けない面をした俺を安心させるようにそう言った。

 

「確かにキミって、表面上は誰とでもコミュニケーション取れてそうだし、それに呼び名なんて癖の問題ってこともあるからね」

 

 まりなさんはまだ湯気の立っているコーヒーをまた一口飲んでから続けた。

 

「でもね、なんとなく分かるんだ。キミって無意識に距離取る子なんだなーって」

 

 そう言ってから、少しはにかんみながら付け足した。

 

「根拠は無いよ。でもね、私だってキミよりかはだいぶ年上だから、色んなこと経験してきたし、それと同時に色んな人を見て来た。だから、『なんとなく』だけど分かるんだ」

 

 彼女の言う『なんとなく』っと言うのはきっと確信に近い何かだ。それは重ねて来た年齢の差から来る、説明しようのない何かだろう。

 

「ねえ、陽一くん。もしキミの過去に何かあったなら聞かせて欲しいかな。お節介だって分かってるけどさ、キミを見てると放っておけないの」

 

 まりなさんは静かに微笑んでいたが、その目は何処か悲痛で、そして俺越しに何かを見ているようだった。

 

「俺は……」

 

 そうやって言葉を紡ごうとした。だが、そこから先は陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクさせるだけで、喉が震えることは無かった。

 

 カランコロン、とベルが鳴った。扉の方をを見て、俺は何故か「ああ、やっぱり」と思った。神様は常に見てるってのは本当のことなんだろうか。

 

 その音は、比喩でも何でもなく、『今の俺』に対する死を告げる音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まりなさんも大人ですから。ケツの青いガキとは違うって訳ですね。彼女自身にも苦い経験があるというのも大きい。
次からいよいよ大きく話が動きます。
というわけでモチベーションが欲しい。よって感想と評価が欲しいです。お願いします!
そして、お気に入り150人突破、ありがとうございます!


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第十五話 終わりの始まり

ドリフェス死にました。課金したい今日この頃です。


 私たちMorfonicaは今、Circleに向かって歩いているところだ。皆一様にこれからの展開に期待を膨らませているのがありありと伝わってくる表情だ。…まあ、るいさんは相変わらずの仏頂面だが、それでも心なしか表情が明るい気がしなくもない。

 みんながそうやって明るい心持ちであった一方で、私は少し気分が重かった。別に今回のガールズバンドパーティーに参加することが嫌な訳ではない。そこに関しては寧ろ逆だ。楽しみで仕方がない。なんせ憧れの香澄さんたちと同じステージに立てるかもしれないのだから。

 そんな人達と一緒のステージに立つことへの不安や緊張?それも確かにあるだろう。でもそれとは違う。そんなありきたりなものなどではない。

 私特有の感性かもしれないが、空一面快晴の中、どす黒い小さな雨雲が不自然にポツンと佇んでいる様な感じだろうか。これが虫の知らせってやつなのかな?

 ダメだ。また悪い癖が出た。そうやっていつも後ろ向きに考えているから…「シロ!」

 

「うわ!な、何?透子ちゃん。」

 

突然透子ちゃんに声をかけられたせいで、少しのけぞって反応してしまった。

 

「『うわ!』って酷くね?シロってば、何回声かけても全然反応しないんだもん。そりゃ大声にもなるって。」

「え?何回も声かけてたの?」

 

そういって周りに尋ねてみると、皆「うんうん」といった感じで首肯した。

 

「ましろちゃん、また自分の世界に入ってたの?」

 

つくしちゃんが心配そうに聞いてきた。

 

「う、うん。ごめんね、ちょっと歌詞が思いつきそうだったから」

 

余計なことを言ってこれ以上心配させたくはなかったから、適当な理由を作った。

 

「なーんだ。いつも通りのシロじゃん!」

「まあ、それならいいんだけどね。」

 

そう言って透子ちゃんとつくしちゃんの二人は顔を綻ばせた。

 

「お、それは今後に期待ですな~、しろちゃん」

 

ワンテンポ遅れて七深ちゃんもそう答えた。よかった。今度は誤魔化せたのかな?

 

 でも、るいさんだけはやはり、訝し気な表情を浮かべたままだった。

 

「な、何かな?るいさん。」

「いえ、別に。あなたに何もないなら、良かったわ。」

 

そう言って、るいさんは視線を前に戻した。

 

「それよりさ~、こんなイベントに誘われたってさことはさ、私たちって結構認められて来てんじゃね?」

「ふふん、そうに決まってるよ!だってあれだけ頑張って来たんだし!」

 

透子ちゃんとつくしちゃんは自信満々だったが、るいさんは違う見方ようだ。

 

「そうかしら?単純に戸山さん達のご厚意か、ないしは経験を積ませようって考えなんじゃないかしら?」

 

これに透子ちゃんはバツが悪そうに眉根を顰めて言った。

 

「あのさぁー、ルイ。もうちょっと夢見せてくれても良いじゃん!」

「妙な幻想は抱くべきじゃないわ。」

「うわ、また正論。この正論爆撃機!」

 

透子ちゃんのネーミングセンスに笑ってしまった自分は悪くないと思う。

 

「ちょっと!2人とも喧嘩しない!」

「別に喧嘩はしていないわ。桐ヶ谷さんが突っかかってきただけよ。」

 

私は後ろからいつもと変わらぬ皆を眺めながら、未だに晴れぬ自分の心を顧み、何だか見えない隔たりを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

  ────10分後────

 

「やっと近くまで来れたー!もう、マジでウチの学校CiRCLEから遠すぎ!月ノ森がここら辺に移動してくれたらいいのにな~」

「あはは、それはちょっと厳しいんじゃないかな~」

 

ようやく私達はCiRCLEの近くまでたどり着いた。透子ちゃんの言う通り、他のガールズバンドの皆さんの学校、花咲川や羽丘に比べると月ノ森は少し遠方に位置している。

 

「分かっていたとはいえ、先輩方を待たせてしまうのは申し訳ないわね。」

「一応遅くなるっては連絡は入れといたけど、それは同意。」

 

私も香澄さんから『ゆっくりでいいからね!』というL〇NEをもらっているが、確かに余り気分は良くない。

 

「そうと決まれば、早く行こ!」

「あんまりせかさないの!月ノ森の生徒なんだから、もっとこう…余裕を持たないと!」

 

「どちらも落ち着きがない無いわね」というるいさんのつぶやきに苦笑いする内にCiRCLEにたどり着いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たどり着いたその先は私にとって、仲間と、憧れの先輩と共に新たな一歩を踏み出せる不安と期待を詰め込んだ場所になるはず()()()。でもCiRCLEの窓を見た瞬間、その場所は自らのおぞましい、悔いてやまない過去の牢獄と化した。

 窓から見えた、茶色がかった黒髪に整った顔立ちの青年に、私は目を見開いた。何故か直感的に()だと悟った。

 今の彼には、当時の面影なんて僅かに残っている程度のものだった。その程度であれば、他人の空似であるとも考えられたかもしれない。ああ、そう考えられればどれだけ良かっただろうか。でも私は、どうしてか一目見た瞬間に確信してしまった。

 『きっと他人だ。気にするな。』、『いや、現実から目を背けるな。分かっているはずだ』、相反する二人の自分との間で葛藤するたび、指先が冷たくなり、自然と息が荒くなっていく。そしていつの間にか()()()()()()()()()

 

「ましろちゃん?」

 

私の異変に気付いたつくしちゃんが心配そうに声を掛けてきた。

 

「わ、私かえ…」

「はい、帰らない。」

 

自然と口をついて出た逃げの言葉を透子ちゃんが遮った。

 

「シロってばいっつもそう。花見の時もそうだったけど、緊張したり新しいことに挑戦する時にすぐ逃げようとする。それ、マジで悪い癖だかんね。」

 

真意には気付いていない。でもその言葉は核心をついていた。分かってるよ。そんなこと自分でも分かってる。それを変えたかったから、バンドを始めたんだから。でも、どうしても足が前に向かなかった。

痺れを切らせた透子ちゃんが私の手を掴んだ。

 

「ほら!行くよ、シロ!」

「え、ちょっ、ちょっと…」

 

それを見たつくしちゃんが扉を開いた。子気味よく鳴ったドアベルが何だか私を笑ってるように思えた。




良かったら、感想、評価のほどよろしくお願いいたします!
率直に言いいます。最近評価が無くて寂しいから評価つけて欲しい!


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第十六話 蛹 

おっひさー。
ようやく部活やらがひと段落ついたので投稿出来ました。
因みに来月からまた忙しいので投稿できるかは知らないっす。ホンマすんません。


 ドアベルの音と共に顔を上げた。何故か「ああ、やっぱり」と思ってしまった。

無論、人違いの可能性もあった。実際、あの頃と比べ、未だ幼さは残るものの、顔つきもかなり洗練された様子だった。

でも一瞬で、彼女だと分かった。

これは罰だろうか?今まで自分が向き合ってこなかったことに対しての。

 

最初に入ってきた小さい子が開けたドアベルの音は()()()()()()()()()俺をあざ笑っているかのように聞こえた。

 

「遅れてすみません!Morfonicaです!」

「ううん!まだ集合時間じゃないから、全然大丈夫だよ!」

 

まりなさんはそう言って笑顔で彼女らを迎えた。

Morfonica、それがあの子のいるバンドの名前だった。なんとなく、彼女っぽい名前だと思った。

 

「まりなさん、今日はマジでありがとうございます!丁度みんなでそろそろライブしたいって言ってたんですよ!」

「お礼なら香澄ちゃんに言って。私はただのメッセンジャーだから。」

 

まりなさん達は何か会話しているが、俺はあの子のことが気になっているせいか、ノイズが混じっているかのようにブツ切りにしか聞こえなかった。

 

あの子は俺に気付いているのだろうか?確かめたい。それなら今の俯いた顔の角度を少し変えればよいだけだ。心の中自分がそう言っている。そんなことは百も承知だ。

 

でも、首はまるで万力に固められたように動かなかった。

 

あの子は小さい頃、ずっと俺の後ろに隠れているような子だった。そんな子が、今はバンドを始めたというではないか。

少なくとも変わろうとはしている。蛹から羽化する蝶のように。それに比べて俺はどうだ?蛹から出ようともしていない。いや、蛹になれているのならまだマシだったろう。きっと、芋虫のまま地面にうずくまったままだ。

幼虫()に気付いた金髪の子、どことなく今井さんと同じ様な雰囲気を持った子が声をかけてきた。

 

「あ、どうも!Morfonicaの桐ケ谷透子です!ギターやってます!」

「・・・・ど、どうも・・・。えっと・・・」

 

名乗らなければ。そう頭では分かっていても、「宝田陽一です」というたったその一言が発されることは無かった。

 

「だ、大丈夫ですか?もしかして体調悪いとか!?」

 

最初に入って来た少女は本気で心配をしてくれているようだ。

 

「大丈夫だよ、つくしちゃん。どうせこの子派手目な女の子相手に緊張してるだけだから♪」

 

まりなさん、あんたはマジで黙っといてくれ。

 

「ほら、陽一くん。さっさと自己紹介しないと、リサちゃんに言いつけちゃうぞ~♪」

 

少し向こうの方で、か細く、息を吞むような声が聞こえた。もう顔を上げる必要もなくなっただろうか。

 

「ま、まりなさん!そんなに急かさなくていいって!こういう反応されんの慣れてますから!」

 

金髪の少女は朗らかにそう答えた。

 

「初対面なのに透子ちゃんが馴れ馴れしいからでしょ!」

「ふーすけは逆に硬すぎんの!ほら、ふーすけも自己紹介!」

「え、え~・・・。この流れで?えっと・・・二葉つくしです!このバンドのリーダーやってます!」

 

俺の意識の外で、話は進んで行った。

二葉さんに続いて、どこか眠たげ目をした子が自己紹介をしてきた。広町さんというらしい。下の名前は・・・もう頭に入って来なかった。どうせ、()()()()()()()()()

 

すると、広町さんはその眠たげな双眸で俺の曇った瞳を覗き込み、問いかけてきた。

 

「あの・・・間違ってたらごめんなさいなんですけど・・・しろちゃんと何かありました?」

 

心臓が凍り付いたかの様な錯覚に襲われた。思わず目が見開かれ、体中からおかしな汗が吹き出した。

 

「何言ってんの?ななみ?シロ、この人と知り合いなの?」

「わ、私・・・」

 

あの子も、きっと同じ感覚に襲われているのだろう。見なくても分かるほどに動揺しているのが、息遣いだけで分かる。

 

「え?・・・わたし、なにか変なこと言いました・・・?」

 

俺たちの雰囲気の変化に気付いたのか、広町さんがあたふたし始めた。

 

「と、取り敢えずMorfonicaのみんなも中に入っておいて!みんな待ってるし!」

 

流石のまりなさんもマズいと察したのだろうか。らしくもなく、半ば強引に話を切ろうとした。しかし、それを空気の読めないコミュ力お化けが許すはずもなかった。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!シロ!ホントにどっちなの?知り合いじゃないなら、ちゃんと自己紹介しなきゃ!」

「と、透子ちゃん!」

 

慌てて二葉さんが止めに入るが、桐ケ谷さんは尚もあの子に食い下がっている。すると、最後の一人が口を開いた。

 

「やめなさい。桐ケ谷さん。彼女の様な人見知りにそういうことを無理強いするのは。人には向き不向きがあるのだから。」

「で、でもさ・・・」

「八潮瑠唯と言います。よろしくお願いします。」

「ちょっと!無視すんなし!」

 

この人は、八潮さんは気付いているのだろうか?いや、この際それはどうでもいい話だ。一先ずこの場はやり過ごせそうだ。()()()()()

 

「あ!みんなー!来てくれてたんだ!」

 

そんな甘い考えを持つ罪人を、神が許すはずも無かった。

 

「あれ?どうしたの、陽くん?」

「香澄・・・」

 

場の情勢が変わる。桐ケ谷さんが息を吹き返した。

 

「ちょっと聞いてくださいよ~!シロとこの人ったらさっきからずっと目も合わせずにずっとだんまりなんですよ~。」

 

状況を知らない香澄が口を開く。

 

「ちょっと陽く~ん。あの子がすっごく可愛いからって緊張しすぎだよ~?」

 

少し不満げに、至極的外れな指摘をしてきた。すぐに香澄はあの子の方に向き直った。

 

「大丈夫!陽くんってばちょっと不愛想だけど、すっごくいい人だから!怖がらなくてもいいよ!」

 

香澄はあの子の戦慄の理由を知らない。彼女には何の悪意も無い。善意のみによって行っていることだろう。でも、今に限ってはそれは最悪手だった。

 

「わ、わたし・・・」

「陽くん!この子は・・・」

 

言うな。その先の言葉を。お願いだから言わないでくれ。それを聞いたら、何もかもが終わる気がする。

 

分かっている。名前なんて聞かなくても、一目見た時から気付いていた。ずっと頭の中では分かっていた。あの子が、あの子(ましろ)だということは。でも、確信を得ないことで、向き合わないことで、目を背け、耳をふさぐことで、ずっと自分を守り続けていた。

 

知っている。だから俺はいつまで経っても醜い幼虫のままなのだと。あの日、忘れ物をしてしまった自分から何も変わってはいないことを。

 

「香澄さん!」

 

その時、あの子の口から、聞いたことのないような大声が発された。

 

「ましろちゃん・・・?」

 

普段との違いに驚いたのだろうか、香澄も酷く困惑している。香澄だけではない。他の者も皆、一様に同じ表情を浮かべている。

 

「・・・ごめんなさいっ・・・。」

 

そう言って、あの子は、倉田ましろは・・・Circleを飛び出した。

 

「ましろちゃん!待って!」

 

香澄のその呼びかけだけが、虚しく部屋に響いた。

 

 




一つ言わせてくれ。なんでこんな重なったんや・・・

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