Fate/Avenge (ネコ七夜)
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Fate/Avenge

 

勝者のいない物語。

 

破綻した物語。

 

 

誰の願いも叶わない。

 

 

正義で世界が救われてしまう物語。

 

 

悪が淘汰されてハッピーエンド

 

 

「つまらねぇよ」

 

 

第八のクラスは赤い魔術師を置き去りに夜を駆ける。

 

 

そう、これは何処にもない復讐劇。

 

 

その願いは

 

 

 

 

 

「恒久的世界平和」

 

 

 

 

この世全ての悪が願う物語。

 

 

 

罪と悪

 

 

揃えて罪悪となるなら、まさしく彼こそその権化であろう。

 

 

誰もが口をそろえる

 

 

 

「アンリ・マユ」

 

 

 

 

 

   *  *  

 

 

 

 

 

登場人物:

 

 

衛宮士郎:正義の味方になりたい魔術使い

 

遠坂凛:理由なき闘争

 

間桐桜:自由を求める黒い器

 

イリヤスフィール:正義の味方の娘

 

バゼット:栄光と名誉の責任転嫁

 

間桐慎二:魔術師になりたい最後のマキリ

 

 

言峰綺礼:間違えた者

 

間桐臓硯:果てぬ蟲

 

 

 

セイバー:修羅の王

 

ランサー:過程と結果を履き違えた猟犬

 

アーチャー:正義の否定者

 

ライダー:堕ちたモノ

 

バーサーカー:暗殺に狂った戦士

 

キャスター:幸せを願う裏切りの魔女

 

アヴェンジャー:この世全ての罪

 

ギルガメッシュ:変わらなかった王

 

 

 

 



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嘘プロローグ

これはあり得ないFate

 

 

 

 

 

 

 

登場(召喚)人物も魔術師すら破綻した物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体は剣で出来ている。

 

血潮は鉄で―――心は硝子

 

幾度の戦場を超えて不敗

 

ただの一度も罪はなく

 

ただの一度も正義は無し。

 

 

彼者は常に悪、剣の丘で処刑を待つ。

 

故に生涯に善など無く

 

この世界は――――――――

 

 

 

 

 

 

 

素に銀と鉄

 

 

時は満ちた。召喚は聖杯の力を借り行う。

 

 

礎に石と契約の大公

 

 

呼び出すのは歴史に名を残す英雄。

 

 

祖には我が大師シュバインオーグ

 

 

エーテルが渦巻く地下室に熱気が立ち込める。

 

 

降り立つ風には壁を

 

 

思い描くは一筋の光、どんなモノにも屈せぬ強靭な刃。

 

 

 

四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

 

閉じよ(みたせ)

 

閉じよ(みたせ)

 

閉じよ(みたせ)

 

閉じよ(みたせ)

 

閉じよ(みたせ)

 

繰り返すつどに五度

 

ただ、満たされる刻を破却する

 

 

さあ、始めようか。

 

 

――――Anfang(セット)

 

 

 

告げる

 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に

 

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

 

誓いを此処に

 

我は常世総ての善と成る者、

 

我は常世総ての悪を敷く者

 

 

さあ姿を現せ。私につき従う最強の使い魔。

 

その手に掴め、最高の勝利を。

 

 

 

汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ

 

 

 

 

 

赤い暴風ははじけ飛び、視界が晴れていくが

 

 

「………え?」

 

目の前はさっきと変らぬ地下室の風景。

 

何も変わらぬ地下室の質量。

 

「ちょ、ちょっと…冗談でしょ!?」

 

せっかく秘蔵の宝石まで使って執り行った召喚の儀式でまさかの失敗か。

 

やはり綺礼の言うとおり触媒もなしに英霊を召喚するのは無理があったか。

 

未だ青ざめたままその場に膝をついた瞬間

 

 

 

ベキバキベギギーーーーーーードゴン!!!!

 

 

 

上の方から明らかに我が家が損壊する音を聞いた。

 

 

 

 

大急ぎで立ち上がり階段を駆ける。

 

何がどうなったと言うのか?

 

解らない、判らない、分からない。

 

 

歪んだ部屋のドアを蹴破り見た先には

 

 

「ゲェャアアアアアアアアアアアアアアアアアハハハハハハハハハ!!!!」

 

馬鹿みたいな笑い声?を上げる男がひとり。

 

「ヒャハハ!!大ハズレぇ、んんん?ぅんにゃ当たりなのか?1等当選籤で宝くじを買うもんか?中々ぶっ飛んだ発想じゃないかよオネーサン!!」

 

赤い布を額や腰、手足に巻きつけた全身奇妙な刺青を施した黒髪の少年――――サーヴァントは一人ハイテンションだ。

 

なんて無様。

 

見た限り、目の前のサーヴァントは剣の英霊とは思えない。

 

となるとまだ召喚されていないのはアサシンかアーチャーということになるが……

 

「ヒュー!いきなり上空に召喚された時はどこの馬鹿だよぶっ殺してぇと思ったけど、見てみりゃなかなかイカス小便クセぇねーちゃんじゃん。萎えてきちまったよ。ヒャハハ!!」

 

どちらにしてもマトモな思考回路の持ち主ではなさそうだ。反英霊に違いない。

 

「確認するわよ。あんたが……私が呼び出したサーヴァントで間違いないわ…よね?」

 

「ヒヒヒ、素敵な疑問形ありがとよ。ああ、間違いなく俺はオネーサンに呼び出されたサーヴァントだ。」

 

ニヤニヤと邪悪な笑顔で、まるでチンピラのような態度を取る全身刺青の英霊。

 

「なら次の質問よ。クラスと真名を教えなさい、今すぐ。」

 

「うわ、いきなりお堅い態度。円滑な人間関係無視かよ。」

 

何と言うか目の前の男が英霊であろうとムカつく態度だ。

 

「ま、いいか。別に隠すつもりもないしな。」

 

面白がる顔は至極、面倒くさそうに頭の後ろで手を組み―――――― 一瞬。その顔は何処かで見た覚えが……

 

彼は一層口元を釣り上げ人をバカにするかのような態度で言い放った。

 

 

「アヴェンジャー(復讐者)のサーヴァント、アンリ・マユだ。」

 

この世全ての悪って言った方が解りやすいか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰か――――――――タスケテ……」

 

いやだ、イヤだ。

 

カリヤおじさんを思い出す。姉さんを思い出す。おじい様を思い出す―――――センパイを忘れる。

 

体が疼く、魔術回路は黒く私を汚して行く、間桐が私を犯して往く。

 

誰でもいい、先輩にこんな私を見て欲しくない。

 

先輩の隣に居たい。

 

 

「助けて………先輩。」

 

 

地下室に充満する風に鉄の匂いを覚えた瞬間、何かが私の頬の涙を斬り払うように通り過ぎ――――

 

 

「――――――■■■■■■■■■■■ッ!!!!■■■■■■■■ーーーー!!!!!」

 

剣に貫かれたおじい様の体が燃え上がり悲鳴を上げている。

 

 

「  投影(トレース)開始(オン)  」

 

地下に響く鋼の声は次の瞬間、辺り一面に剣の雨を降らせる。

 

突き刺さる剣に床は砕け、砕けた場所にまた剣が突き刺さる。

 

埋め尽くさせる剣はそのどれもが名剣、魔剣、聖剣の類だと一目で知れた。

 

「確認する。君が私のマスターに相違ないな?」

 

「え――、は、はい!」

 

呆然としていた私に赤い外套を着た長身の男性、サーヴァントが近づいてくる。

 

 

ああ、このまま私も――――――

 

 

 

「安心したまえ、……必ず君を救ってみせよう。私用は一時休止だ。」

 

 

後ろに流した白髪に褐色の肌、何一つ類似点など無いのに―――

 

 

 

「まずはここを離れようか。醜悪な匂いはそれだけで君のような女性には不釣り合いだ。」

 

 

そう言ってサーヴァントは私を抱きかかえるとゆっくりとした足取りで階段を上り、地下室を出ると。

 

 

 

 

下から大きな爆発音が連鎖しながら響いた。

 

 

「サーヴァント、アーチャーだ。よろしく頼む、マスター。」

 

 

 

――――そのサーヴァントと愛しい誰かの頬笑みが重なって見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ、集うがいい。聖杯と運命に選ばれし英霊よ。

 

 

今度こそ君の願いは――――。

 

 

 



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サーヴァントステータス

原作とは若干違います。(アヴェンジャーはデータがないので適当)

 

 

クラス:剣士(セイバー)

マスター:イリヤスフィール・フォン・アインツベルン

真名:アーサー・ペンドラゴン(身長154センチ・B73(A)・W53)

ステータス:

筋力A 耐久B 敏捷B 魔力A+ 幸運B~A 宝具C、A++

   :対魔力A 騎乗B/直感A- 魔力放出A カリスマB-

 

宝具:風王結界(C)

 約束された勝利の剣(A++)

 全て遠き理想郷(EX)※不所持、使用不可

※傷心中につきカリスマ・直感低下中。でも強い。

 

 

クラス:弓兵(アーチャー)

マスター:間桐桜

真名:衛宮士郎(英霊エミヤ)

ステータス:

筋力B 耐久B 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具E~A++(複製物は1ランクDOWN)

   :対魔力C 単独行動A/千里眼B 魔術B- 心眼(真)A-

 

宝具:無限の剣製(E~A++)

※遠坂凛がマスターのときに比べステータスが全体的に高くなっている。

 

 

クラス:復讐者(アヴェンジャー)

マスター:遠坂凛

真名:衛宮士郎(英霊エミヤ)、アンリ・マユ

ステータス

筋力C 耐久B 敏捷B+ 魔力C 幸運E- 宝具D-、E~A++(複製物は1ランクDOWN)

   :対呪術A++ 復讐行動A/千里眼C 戦闘続行A 心眼(真)A 勇猛C

 

宝具:偽り騙し欺く万象(D-)

 無限の剣製(E~A++)

 

※対呪術に関しては呪いの類に限り、本人が受け入れなければ一切を無効果する。

 復讐行動は一度戦ったことのある相手ならば相手の攻撃ステータスに対して1ランク耐性がつきこちらの攻撃ランクにも+補正が入る。

 

 

 

クラス:魔術師(キャスター)

マスター:???→衛宮士郎

真名:メディア(身長135センチ・B69(C)・W47・H65)

ステータス:

筋力E- 耐久E-~B(魔力強化時のみ) 敏捷C+ 魔力A- 幸運B+ 宝具C

   :陣地作成A+ 道具作成A+/高速神言A+ 金羊の皮EX(制限)

 

宝具:破戒すべき全ての符(C)

 金羊の皮(EX)※キャスター単身では使用不可、しかし…

 

※ステータスは衛宮士郎と契約した時点でのものです。ロリですが身長と比較して胸はある方。

(因みにイリヤ:身長133センチB61(AA)・W47)

 

 

 

クラス:暗殺者(バーサーカー)※狂化暗殺者 ☆オリジナルサーヴァント

マスター:間桐慎二

真名:ハサン・サッバーハ

ステータス:

筋力A 耐久B(A+宝具発動中) 敏捷B 魔力E 幸運C 宝具C(A+)、B

   :気配遮断D- 狂化:C/戦闘続行A 武器破壊B 無窮の武練A++ 

 

宝具:狂信宣告(C)※自身に発動している場合の開放名は『狂信宣言』判定はA+

 狂信信仰(B)※狂化中は使用不可

 

※気配遮断D-では勘のいい一般人でも姿をとらえることが可能。

実質発動していないのと殆ど変らないが、相手の死角に廻り込んでいる場合に限り補足されることはあまりない。

 

※狂化Cではギリギリ理性を残している為、通常の会話はかろうじて意思疎通ができる程度。

しかし、一度戦闘となれば箍が外れ、文字通りの止まることを知らない狂った戦士となる。

 

※武器破壊Bは戦闘の中でも相手の武器の最も破壊しやすい部分を的確に見抜き、ランクの低い武具なら致命的な攻撃を与え壊すことができる。

但し、一定の形をとどめない武器に対しては見抜くのは難しくなる。

 

 

 

クラス:槍兵(ランサー)

マスター:バゼット・フラガ・マクレミッツ

真名:クー・フーリン

ステータス:

筋力B 耐久B 敏捷A 魔力B- 幸運E 宝具B~A、B

   対魔力C 仕切り直しB- ルーンB/戦闘続行B  矢よけの加護B 神性B

 

刺し穿つ死棘の槍(B~A)

突き穿つ死翔の槍(B)

 

※バゼットがマスターのステータスな為、魔力が少しだけ高い。それにより全力で放つ『刺し穿つ死棘の槍』はバゼットの魔力ブーストも加算されAランクにも届くが限度回数は3回程になる。

 

 

 

クラス:騎乗兵(ライダー)

マスター:???

真名:???

ステータス:

筋力A+ 耐久D 敏捷B 魔力B 幸運A 宝具???

     /無辜の怪物A++

 

 

 

 



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嘘設定1

設定(嘘)紹介

 

 

とりあえず今現在で考えがつている復讐者エミヤの設定です。

 

 

 

 

アヴェンジャー

マスター:遠坂凛

真名:衛宮士郎、アンリ・マユ

正義の味方を貫く中で戦争や災害を収束させ、多くの人々を救ってきたが、一切の報酬を要求しないその姿勢に周りの人間は恐怖心を抱き、やがては争いや災害を起こした張本人として仕立て上げられ、ついにはこの世全ての罪を着せられてしまった存在。

その為、後の世で拝火教(ゾロアスター教)の悪神と同一視されるまでになる。

英霊エミヤは死にゆく運命にあった100人を救う為に死後を世界と契約し売り渡したが、こちらは死にゆく運命にあった100人が命惜しさに衛宮士郎の死後を無理矢理世界に売り渡した、望まぬ守護者。

第3次聖杯戦争のアンリ・マユは拝火教を信仰していたとある村における少年の亡霊であったため、なんの力も持たない最弱の英霊であったが、今回呼び出されたのは未熟な衛宮士郎のの能力を完成させた英霊エミヤと同じ存在なので魔術や宝具も存在する。

 

宝具:1・無限の剣製(アンリミテッド・ブレードワークス)

言わずと知れた英霊エミヤの固有結界。

但し、心像風景は巨大な歯車が回る剣の赤い荒野ではなく、黒い太陽から"泥"が滴り落ち燃え盛る地獄の錬鉄場。

 

宝具:2・偽り騙し欺く万象(ヴェルグ・アヴェスター)

対人法具、

受けた傷を相手に返す呪い。傷を共有する原呪術。

hollowの偽り写し示す万象との相違点として、傷を写すところまでは同じであり、アヴェンジャー本人が即死状態では発動出来ない任意型。

また、今回は相手に対して、新たな負傷個所ができる度に何度でも効果を発動でき、なおかつ呪いや魔術などの効果もそのまま移すことができるのがオリジナル要素。

但し、発動させるためには1度につき1回対象に素手で触れ"ある魔術"を使わなければ発動できない制限がある。

本人曰く「心中勝負じゃ教典の次を張れる」らしい。

 



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嘘1話

「遠坂凛よ」

 

 

とりあえず平静を装って自己紹介を済ませる。

 

いい加減ションベンガキやらオネーサンではプライドに銃弾がめり込む気分だ。

 

 

 

 

「トオサカ?…あ゛ートオサカねぇ………んじゃあ凛たん?」

 

 

「たんは止めい!」

 

畜生め、何で私がこんな頭の悪い会話をしなけりゃならないのか。

 

「じゃー凛で。うん、いい名前じゃねーか。実にアンタらしい名前だ。」

 

 

あれだけ馬鹿にしたセリフを吐いておきながら、コロコロと言葉を換えてくるあたりが素直に受け取れず逆にムカつく。

 

 

「…それじゃ質問を続けるわよ。私が知ってる限りじゃアヴェンジャーなんてクラスは聞いたこと無いわ。おまけに聖杯戦争に神様が参加するなんてこともあり得ないと思ってるんだけど?」

 

「べッツにどーでもいいじゃん。ほい、Q.E.D.証明終了」

 

「ざっけんじゃないわよ!!いい?私はあなたのマスターであんたは使い魔。おまけに人の家の屋根を盛大にぶっ壊しておきながらそのふざけた態度!!いい加減真面目にしないと令呪を使うわよ。」

 

 

この手の輩との会話は頭に血が上る。間違いなく遠坂凛と子のサーヴァントの愛称は最悪だ。

 

 

「えー。俺だって別に壊したくて屋根壊したわけじゃないんだけどよ?凛たんがうっかりにもこの家の上空に召喚しちまうもんだからぬートンの法則に従ってダーイブした訳よ。アンダスタン?」

 

「なにがアンダスタン?よ!!もうちょっとうまく着地してくれるだけでどれ程修繕費が浮いたことか!!今月やばいのよ?宝石が下手したらダースで飛んでいくかもしれないのに!魔術師が自己破産で工房差し押さえなんて洒落になんないのよ!!」

 

そして、たんは最早決定事項なのか。

 

「ま、ま、ま。落ちつけよ、凛たん。判ったって。とりあえずは暫く屋根にブルーシート張っておいて地道に貯金しようぜ?」

 

「ムッキー!!いちいち頭にくるやつね!?いい?あんたが屋根を修理してついでにこの散らかった部屋を片付けておきなさい!」

 

 

 

 

「はぁっ……なんでさ……?」

 

どうやら諦めが吐いたのか、ぼりぼりと頭を掻きながら愚痴をこぼすサーヴァント。

 

 

 

「それと、あんたはクラス外のサーヴァントなんでしょう?復讐者っていうのはどんなスキルを持っているのよ?」

 

「うぅん。実は俺も良くしらねぇ。何つっか聖杯からの知識供給やら何やらは現代の文化とこの戦争の常識的ルール説明だけだったんでな。アヴェンジャーのクラスなんてスズメの涙程度の情報しかなかったぜ?まあ自分がどういう奴かは自覚出来てるから、不便はしないと思うけどよ。簡単に言っちまえば三騎士見たいな華々しさはネーな。」

 

 

なんだ、真面目になってくれればしっかりと会話も説明もできる奴じゃない。

 

一応こいつも聖杯戦争に参加するからにはやる気はあるのだろう。

 

 

「ってことはアサシンみたいなトリッキーな戦法が得意ってわけ?」

 

「アサシンなんかと一緒にすんなよ。確かに俺は格下の戦闘力しかないけど、俺の宝具は心中に関しちゃ教典の次を張れるんだぜ?」

 

 

 

 

「?教典て、なに訳の分からないことを――――まった。今あなたなんて言った?」

 

 

 

 

「あ?格下ってことか?安心しろよ。それでも三騎にだってそう簡単に殺られるつもりはねーよ。まして人間相手なら確実に殺せるぜ?ヒュー!俺ってマジクール?」

 

 

「違うわよ!……心中とか言って無かった?」

 

 

恐る恐る自分の短期記憶を否定したいと願いつつ質問してみるが。

 

 

 

 

「ああ、心中だな。本来は相思相愛の仲にある男女が双方の一致した意思により一緒に自殺、または嘱託殺人すること。情死ともいう。転じて、二人ないし数人の親しい関係にある者たちが合意の上で一緒に自殺すること。さらに合意のない殺人でも状況により無理心中と呼ばれることがある。以上wikiった。ん?じゃあ無理心中って言った方が良かったのか?」

 

「なによそれぇ!??まさか何回死んでも大丈夫、なんてスキルでもあるわけ?」

 

「おいおい、凛たん。そんな非科学的なことがあるわけないだろ?命はいつだって一つなんだ。」

 

少年名探偵風に真実と置き換えても全然カッコいいとは思えない。と言うか本当にこいつは馬鹿なんじゃないだろうか?

 

「それじゃあその宝具を使ったら、あんたはどうなるのかしら?」

 

こめかみの血管から筋肉まで余すことなく顔面が痙攣を起こしそうだ。

 

 

 

「…?あー、言い方が悪かったか。要は死に切らなきゃいいってことだ。」

 

 

「ヴェルグ・アヴェスター(偽り騙し欺く万象)って言ってな。オレが傷を負ったときに相手に触れると、それを相手にも写すって効果だ。だから致命傷スレスレのダメージを受けりゃいくら三騎士のサーヴァントでも俺と五分の戦闘をせざるをえなくなるってわけだ。」

 

 

成程、そう言うことか。確かにこの方法なら、最優のサーヴァント、セイバーすら追い詰めることができるかもしれない。

 

 

それに、ここぞという場面で令呪をうまく組み合わせて使えばなかなかの手札だ。

 

 

「なによ?それなりにうまく立ち回れば心配するのはキャスターくらいじゃない。」

 

 

「まあ、傷を受ければそのたびに相手にダメージを返すことができるしな。それに、受けた傷は同一人物じゃなくてもいいし…但し、アーチャーとは相性が最悪なのが難点でな。」

 

 

そうだ、アーチャーの本領は遠距離狙撃。今のこいつの説明で考えれば、対象者との接近戦闘でなければ意味がなく、相手に触れることで発動するはこの宝具の使用は不可能だ。

 

 

「接近戦闘の得意な弓兵なんて、そう都合のいい奴がいるとも限らないしね。やるとしたら、それこそこっちからうまく奇襲をかけるしかないってことね。」

 

 

「ケケケ。そう落ち込むなよ。宝具以外だってちゃんと戦えるって。意外と器用なんだぜ俺?」

 

 

「あんたの見た目からまっとうな戦いを想像する方が難しいわよ。」

 

 

なんか今の時間だけでどっと疲れた。

 

 

 

サーヴァントを召喚した時点で並の術者なら意識を保つのも難しいと言うから、案外持った方かと思う。

 

……こいつのステータスが低いのも関係してると思うけど。

 

「それじゃあ、今日はこのくらいにして私は寝るわ。――――いい?ちゃんと掃除しておくのよ?」

 

そう睨みを利かせて部屋を離れる。

 

 

 

 

「ヒヒヒ。―――――チッ。……わかったよ。やっておくから。あと、んな自室覗くなよ的な目で睨むなよ。姦淫すんならもっとソソル女探すからさ。」

 

「お休み凛たん。」馬鹿にした声がそう最後に聞こえた。

 

 

 

 

やっぱムカつく!!!このド腐れサーヴァントめ!!!

 

 

 



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嘘2話

「ひっ――――く、来るなぁ!!わかった、分かったから。ぼ、僕が謝るっ、それでいいだろ桜!だから許してくれ!!」

 

赤い外套を着たアーチャーさんが尻もちをついて懇願する兄さんに一振りの剣を喉元に突きつける。

 

その瞳は侮蔑、軽蔑を映し出している。

 

 

 

「目障りだ、マスターの兄よ。早々に立ち去るがいい。もし次に我がマスターに不埒を企みでもしてみろ。拷問すら生温く思える末路を味あわせてやろう。」

 

 

「約束する!するから!!もうたくさんだ畜生っ!!―――クソッ、くそう!!やっと僕が間桐の当主になれるって、僕が魔術師になれる機会が巡ってきたのにっ!あの妖怪爺の奴あっさり死んじまいやがってぇ!!!」

 

うな垂れながら兄さんは床に拳を叩きつけ罵声を発する。

 

 

 

「いつもいつも……そうだよ、お前のせいだよ桜…!!お前さえいなけりゃこのぼくが間桐の、マキリの当主で魔術師だったんだ!それをあの爺の!親父のせいでその座を奪われたんだぞ!?」

 

 

それは何度も何年も聞いた言葉。

 

私が間桐になってから、兄さんの夢を壊してしまった日から毎日聞いて、傷を受けたときに聴いた言葉。

 

プライドの高い兄が自身を保つために吐いた怨言。

 

 

「それなのに桜ぁ…お前までこの僕を見下しっ、嘲笑いっ、馬鹿にするのかよ!?そのサーヴァントを僕に寄越せよ!!僕ならうまくやる!!聖杯だってこの僕なら絶対に手に入れて見せる!!お前みたいな腰ぬけに、ドン臭い奴が勝ち残れるわけがないだろう?―――……頼むよ、……僕は、ぼくは……」

 

こころが罪悪感に押しつぶされそうになる。

 

兄さんも間桐のせいで歪に曲がってしまった存在なのに――――

 

 

 

「ふん、同情芝居ならもっとうまくやるんだな、小僧。ならばこの家に在る魔道の英知を調べつくし自らの手によってサーヴァントを召喚すればいいだけの話だろう。」

 

「な、―――あ!?」

 

アーチャーさんの鉄のように冷たい声が兄さんの顔を硬直させる。

 

 

「そも、貴様が魔道に生きるにおいて知識のみを有すのであれば体を弄ればいいではないか。マキリだかの家柄は古きにわたる歴史があるのだろう?そんな覚悟もない枯れた臆病ものにつき従う道理はない。その点、我がマスターはその全てを耐えきる強さがある。望まず受けた仕打ちでもそれを経験しているのとしていないのでは天と地ほどの差があるのは明白だ。貴様にその気があるなら、何故その妖怪爺に名乗り出なかった?」

 

「くぅ――――――煩い!!煩い!!サーヴァントが僕に説教かよ!そんなのは衛宮だけで十分なんだよ!……………出で行けよ――――」

 

アーチャーさんがその言葉を待っていたという表情で口元を釣り上げる。

 

 

「聞こえなかったのかよ桜!!!こっから出ていけっ!!!この家に―――僕のっ!!間桐から出ていけぇ!!!お前なんてもう間桐じゃない!!!二度とその名を使うな!!!間桐の当主はこの僕だ!!臓権が死んだ今、当主はお前じゃないこん僕だっ!!!サーヴァントでもなんでも連れて、落ち死んじまえ!!――――は、ハハハっ。そうだ、遠坂やアインツベルンだって当然今回の儀式に参加するだろうさっ!死ね!お前みたいな腰ぬけ、真っ先に殺されて終わりだろうさ?ククッ、ハハハ―――後悔しろよ桜?僕を見下した報いをこれから受けることになるだろうさ。」

 

 

ビクリと最後の怒鳴り声にすくみそうになったけど、自然と恐怖は水のように流れ落ちるばかりで――――憑きモノが落ちる。そんな気分だった。

 

 

 

 

 

「と言う訳だがマスター?もうこの家に居る用は…どうやら無くなってしまったみたいだな。」

 

その人は私の方へ振り返ると、してやったりと言わんばかりの笑みで私に問いかける。

 

 

ああ、確かに形だけ見れば私は勘当も同然、間桐から縁を切られ、家も追い出される羽目になったのだろうけど……今はこの行き場のない自由がとても温かい。

 

選択肢は無限にあり、万人が抱える苦悩すら愛おしい。

 

 

 

この赤い弓兵が、きっと先輩が目指すような――――

 

 

 

 

 

正義の味方なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

*   *

 

 

 

 

 

 

大声で泣いた。

 

 

 

結局聖杯を持ち帰れぬまま、あの丘に引き戻され声が嗄れるまで泣き叫んだ。

 

 

屍の丘から見渡す先はまた屍の大地。

 

 

そう、こんな結末は認められない。

 

 

だけど、私じゃ変えられない。

 

 

何が正しくてなにが間違いだったのか、それすら最早判らない。

 

 

ああ、ならばいっそのこと消し去ってしまえ。

 

 

この身は最早世界の理を抜け出すことなどできぬ。

 

なら、いっそのこと夢を見ようじゃないか。

 

 

 

 

叶うことのない蒙昧な夢を―――――――――

 

 

 

 

 

 

「―――問う、貴方が私のマ―――――…ス、………!!?」

 

渦巻くエーテルの奔流からマスターの姿をとらえたとき―――――――時間が止まる思いをした。

 

 

 

 

 

大聖堂

 

 

ステンドグラス

 

 

見覚えのある光景――――

 

 

 

 

 

そのどれもが前回のはじまりの地、私の記憶そのままで

 

 

『クスクスッ』

 

 

そんな小さな笑い声を漏らしながら笑顔を向ける人物が……

 

 

 

「ご機嫌よう、セイバー、久しぶりね。あ、…それともあなたにとっては初めましてになるのかしら?」

 

 

 

白い髪の少女、約束を果たせず別れた前マスターの娘

 

 

「イリヤ…ス、フィール……?」

 

 

「フフッ、よかったぁー。ちゃんと覚えていてくれたんだ。」

 

忘れる筈がない。この城で僅かな期間、共に過ごしたことも彼女の母を守り通すことが出来なかったことも―――――

 

 

「さあ、セイバー。…ううん、アーサー王。聖杯戦争を始めましょう?」

 

 

白い雪の少女はそう誘い私の手を取る。

 

 

確認したいことはたくさんあるが今は誓いの言葉を紡ごう。

 

 

ああ、あの時の戦いが…結末は悲劇であったがライダーやランサーの武功はいまでもはっきりと思い出せる。

 

 

今度こそ、誓いを護り抜こう――――騎士の剣にかけて。

 

 

 

 

 

 

 

――――今度こそ貴公の願いは。

 

 

 

 



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嘘3話

私的な衛宮士郎像です。違う点があれば許して。


衛宮士郎は魔術師なのだろうか

 

 

 

彼を見たことのある魔術師がいるとしたら、殆どが否定するだろう。

 

 

彼は魔術師であることが生き様なのではない。

 

 

正義の味方になることが目的なのだ。

 

 

歩道橋を上る老人がいれば手を貸しおぶり。

 

道に迷っている人がいれば進んで話しかけ、道を教え。

 

学校で困っている学生、教師など最早我先へと彼を頼ってやってくる。

 

放課後はアルバイトに精を出し、他の従業員の、しかも正規雇用者の何倍もの仕事を引き受け。

 

休日になればボランティアとして、無償で労力を提供しに出向く始末。

 

 

こんな人物が魔術師なわけがない。

 

魔術師と言うものを知っていようといまいと、万人が同じ答えを口にするだろう。

 

詳しいものが近くを通っても、そこには魔力の残滓など欠片もない。

 

 

強引に拉致でもして体を知れべればそれこそ魔術回路の一本でもあるかもしれないが、そんなモノ街中の2・300人を調べれば稀にあることだ。

 

 

 

 

 

 

衛宮士郎は魔術師なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「同調、開始(トレース・オン)」

 

 

解は肯定。

 

 

声の場所は彼の暮らす家の庭にある土蔵から。

 

 

誰もいない真夜中に響く、一工程のトリガーワードはその存在が魔道に生きる者の証明。

 

脊髄に流れる液体が急速に冷却されていくような、背骨が発火炉のように身を焦がしていくような、今夜も衛宮士郎の命がけの魔術訓練が始まる。

 

 

 

 

彼は知らない。

 

 

 

こんな行為、魔術師のすることではない。

 

 

 

彼は知らない。

 

 

 

魔術の何たるかを。

 

 

 

彼は知らない。

 

 

 

養父が魔道を正しく教えなかったことを。

 

 

 

知らずに10年近くも間違った訓練を続けている。

 

止める者はいないのだろうか?

 

 

そんな者は一人としていない。

 

彼はこの世の魔術師を、魔術を知るものを一人しか知らない。

 

彼の養父にして故人、衛宮切嗣しか知らない。

 

故に彼は魔術のほとんどを知らない。

 

否、使えない。

 

覚えていないモノも僅かにあれば、扱えなかったモノは大半を占める。

 

 

 

強化

 

 

 

ただそれのみが衛宮士郎の扱える魔術である。

 

 

但し、成功率は1%を切る。

 

 

 

 

 

 

 

繰り返そう。

 

衛宮士郎は魔術師なのだろうか。

 

 

そもそも、彼は何故魔術師なのだろうか?

 

 

 

「正義の味方になりたい。」

 

 

この一点の目標の為の道具として、魔術の訓練をするにしてもえらく矛盾している。

 

 

紙切れ一つ存在強度を強化するにしても、彼がそれを成功させるには小1時間かかる。

 

魔術回路の起動スイッチの作成に30分、魔力精製の為の精神統一に15分、魔術行使にかかる集中に15分―――――

 

効率云々の問題ではない――――無駄の極みである。

 

借りに成功しても失敗しても、それが何になると言うのだろうか?

 

 

 

彼が目指す正義が視えて来ない。

 

 

 

 

「誰かを救える、誰もを救える存在になりたい。」

 

 

 

 

目標が、目的が定まらない。

 

 

彼の学校が学年に配布した進路希望調査表―――――未だ提出していないのは彼を含めた数名のみであった。

 

提出期限はとうに過ぎている。

 

 

 

しかし、それについて彼に指摘するものはいても、気遣う者はいない。

 

皆、わが身の将来を考え、彼を体のいい便利屋として利用できればそれで満足だ。

 

通行人も、アルバイト先の同僚も。

 

 

 

そう、彼の周りこそ魔術師のごとき立ち振る舞いなのに、衛宮士郎はまるで一般人のようだ。

 

利用されこき使われるなど、それこそ魔術師ではない。

 

 

ならば、それこそ彼が望む正義の味方なのだろうか?

 

 

報酬も褒賞もなく、只々まるで機械のようにその身を削りすれ減らし、廃棄物になり果てるまで止まらない存在こそ彼の目指す正義なら、それは最早人の所業ではない。

 

 

人が歩む道を逸脱しているどころの話ではない。

 

道すら歩まず、虚空をもがく人でなしだ。

 

 

 

これほどの凶行、まるで魔術師のごとき茨の道だ。

 

 

 

 

つまり―――――――どうやら、衛宮士郎は魔術師の様な奴なのだろう。

 

 

 

 

そんな魔術師とも呼べない衛宮士郎は、とあるアルバイト上がりの夜、何気なくいつもとは違う空気を感じた帰り道の路地裏で――――――

 

 

 

 

 

 

「――――い、――――じょうぶ―――――!!?」

 

 

 

また、何時ものように、御節介よろしくと曲がり角の傍らで倒れる人物を助けようと声をかけていた。

 

 

これが衛宮士郎の日常。

 

 

どこの誰とも知れない見知らぬ他人を放ってはおけない、破綻者の凶行。

 

そんな行為も、今回ばかりは状況が違った。

 

 

 

倒れていた人物はまるで人間なのに、その体は今にも消えてなくなるのではないかと言うほど――――否、これは比喩ではなく

 

 

本当に体が透け始めている、人間らしきモノに衛宮士郎は声をかけていた。

 

しかも、こんなことが日常で起こりえることなどまずあり得ないのにもかかわらず、衛宮士郎は若干の驚きと戸惑いを見せるだけで、行為自体がえらく日常的であるかの如き態度であった。

 

 

衛宮士郎は奇跡を起こせぬ魔術師だ。

 

 

ならば、これはきっと分かれ道なのだろう。

 

 

その身が正義であるのか悪なのかを決める、運命の歯車が狂いだした瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「俺は助けるよ、正義の味方になる為に―――――」

 

 

 

 

 

 

 

――――たとえ、この世全ての罪を背負うことになろうとも。

 

 

 

 




☆だいたいここら辺までがプロローグと思って頂ければ。
にじふぁん投稿時のアンケートでキャスターがロリになることが決まりました。
この他にも通常版、JK版等考えていましたが、流石は同志(笑


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嘘4話

皆大好きキャス子


 

「おい!大丈夫なのか!??しっかりしろ!!」

 

 

どうしたらいい?

 

どうしたら助けられる?

 

 

喧嘩でボロボロにされた学生や、酔っ払いのおっさんを介抱した時と似たようなシチュエーションだけど、こんなパターンは初めてだ。

 

そこに居たのはボロボロの黒いローブを身に纏った、見た目の幼さが際立つ美少女。

 

 

目の前の少女は外国人なのか、淡い紫の髪に今まで見たこともない様な変わった形の尖った耳、そして外見はどこからどう見ても俺と同じ世界、魔術師をイメージさせる黒いローブに身を包み、背中をビルから伸び張り付く配管にもたれかかり荒い息を上げている。

 

いいや、そんなことはどうでもいい。

 

それよりも一番問題なのが――――少女の体が透けて……まるで消えかけているみたいだ。

 

 

人が消える………死ぬって言うのか?

 

冗談じゃない、衛宮士郎は魔術師であり正義の味方だ。

 

助けないなんて選択肢はあり得ない。

 

まして、こんなに苦しんでいる少女を見捨てれば、衛宮士郎はその存在意義を見失ってしまう。

 

 

バイトの賄いでもらった、弁当の入ったビニール袋を脇に投げ捨てて、少女のか細い肢体を抱え起こす。

 

それは正に質量を失っているかのように、その存在が無くなっているかのように重さを感じない体だ。

 

だけど掌から伝わる少女の柔らかさ、体温、幼さから来る香りが確かに現実だと主張する。

 

何が何なのか解らないけど

 

 

 

落ちつけ。

 

 

 

 

幸い時間は夜で、ここは人通りもない路地だ。

 

魔術を使っても目撃者はいない。いや、例え誰がいようとも、そんな事を気にしていたらこの娘は本当に助からなくなってしまうかもしれない。

 

こんな不可思議、救急車に乗せて病院へ連れて行っても、処置なんて出来るわけがない。

 

 

ならば自らの手で救うしかないだろう、衛宮士郎。

 

 

目の前の少女を救えるかどうか、ここから先は己との勝負だ。

 

 

「――――同調・開始(トレース・オン)」

 

衛宮士郎を現す言葉を紡ぎ、意識を己の中へと埋没させる。

 

 

いつもならたっぷり30分はかけて作り上げる、魔術回路を起動させるためのスイッチを―――工程をすっ飛ばして一気に組み上げる。

 

 

 

ビギリ!!

 

 

 

頭の中で何かに罅が入るような音が聞こえる。

 

構うな鍵がパズルのようになっているなら無理矢理にでもねじ込みこじ開けろ。

 

 

 

zzザッ!!―――――j、ガーッ―――――ギギギィzガッ!!!―――――

 

 

体と頭で五月蠅いノイズが聞こえる。

 

どうでもいい、とにかく急ぐんだ。

 

 

「接続・開始(トレース・オン)」

 

無理矢理繋ぎ止める意識を今度は一度も使ったことのない、精神同調に近い魔術を行使するため、必死になって心臓の鼓動を弱める。

 

 

視界がチカチカして、それでも気絶に耐えるのはひとえに目の前で苦しそうにしている少女のおかげだと思う。

 

不謹慎なのは百も承知だけど、それでもその人が今までに見たことがないくらい美人で可愛くて、幼ない少女からこんな感情を掻き立てられるなんて間違っていると思いながらも―――――男なら目を離すことが出来ないくらいだ。

 

 

 

 

 

―――とたん、視界が一瞬暗転する

 

 

 

 

          聖杯戦争                     『―――スターsザんギ%&'てk』          サーヴァント    ジ…        『~=)かなひ{+*』         『ヴェル"#$%&}_』                 『ぅう……ブ<{|力、を―――』               『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』

 

「――――グっ……アがッ!!!」

 

果たして、意識を手放したのがほんの数瞬だったのは僥倖だ。

 

今の数秒で切り上げていなかったなら間違いなく脳の神経が全て細切れになるまで千切れていただろう。

 

だけど必要なことは直感的に理解できた。

 

 

そして、俺は自分の唇を躊躇いなく噛み切り。

 

 

 

解っているのか衛宮士郎。

その行為は例えこの少女を救うためとはいえ―――――

 

 

解ってるさ。でも、こんな可愛い子が死ぬなんて間違ってる。

ああくそ。自分でも、もう何を言っているのか解らないくらいだ。

 

 

 

悩む時間はもう終わりだ、これからは正義の味方を成す時間だ。

 

 

 

最後に一層少女を自分の胸に引き寄せ顔と顔を接近させる。

 

 

 

消えかけている少女の僅かな胸の膨らみが自分と密着し、鼓動と鼓動が重なり合う。

 

よく見れば、少女はボロボロのローブの下には何も着ていない状態だった。

 

その事実に気がつくと心拍数が馬鹿みたいに跳ね上がり、顔が熱くなる。

 

少女の体の柔らかさに加え、殆ど直に近い胸の感触の興奮に理性がぶっ飛びそうになるが、歯を食いしばってギリギリのところで繋ぎ止める。

 

 

 

 

そして、滴り落ちる魔力を詰め込んだ血を―――――

 

 

彼女と唇を合わせることで強引に流し込んだ。

 

 

それは時間が止まるかのような感覚だった。

 

美少女と話す10秒とストーブの上に手を置いた10秒は時間の感じ方が違うと聞いたことがあったけど、こんなの正反対もいいところだ。

 

この瞬間が永遠にも似たような、そんな錯覚。

 

 

柔らかな唇の感触は俺にとっては初めての経験だ。

 

こんな事、一生忘れることなんてできないくらいの気持ちよさで、胸が高鳴って―――

 

これが衛宮士郎の初めての正義で、初めての罪。

 

 

 

 

こんな姿、魔術の秘匿云々の前に警察に捕まるだろ。

 

 

大いに結構だ。それでこの子が助かるなら俺は喜んで引き受け背負おうじゃないか。

 

 

明日から町での俺の代名詞(異名)は

 

 

 

 

『少女性愛者(ロリコン)』になっちまうだろう。

 

 

 

 

 

それが俺と彼女の出会い。

 

 

その時はまったく気がつかなかった、いつの間にか自分の手の甲に浮かぶ奇怪な痣のような刻印に。

 

 

衛宮士郎は罪を背負う。

 

 

少女は何処までも悲劇で、俺は何処までも愚かだった。

 

 

 

 

千を救おうとして五百を取りこぼすのなら――――――

 

それは嘗て正義の味方を志した者の言葉。

 

 

 

それを俺は、

 

 

 

―――を切り捨てて、―――を護り抜こう。

 

 

未だ認められずにいた。

 

 

 

当たり前だ、この身は剣なのだから。

 





士郎は悟りキャスターの体内に向かって自らの液を注ぎ込む。
と言う訳で士郎悟りに目覚めるの回でした。


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嘘5話


今回は残酷な描写、人道的倫理観をかなり無視した表現があります。
苦手、嫌いな方はブラウザバックすることをお勧めします。
こちらを見なくてもストーリー上問題ないようにしていきますので、ご安心を。


 

最初にこの時代この世界に呼び出され、最初に目を開けたときに

 

 

目の前に居たのは、おおよそ人の持つ醜悪さを全て併せ持ったかのような、下劣な男の魔術師だった。

 

 

男は私の姿を見た瞬間、何が気に障ったのかいきなり表情を険しくし、舌打ちをするとカツカツと背を向け離れて行ってしまう。

 

まるで私に対する興味を信頼を、信頼を失ったかのように。

 

まだ一言も言葉を交わしていないのにそれは無いだろう。

 

呼び出された場所である、振るい廃屋のような部屋の隅には何人もの裸体の女性が淫具と男の白濁にまみれて放置されていて、そのどれもが精神のほとんどが死にかけだったことは一目で知れた。

 

 

 

 

「最初の仕事だ、掃除(食事)しておけよ」

 

 

 

 

男は怒った声でそれだけ言い放ち部屋から出て行ってしまう。

 

何だと言うのか。この私に、人に仇なし恐れられた身とはいえ仮にも英霊である自分に、こんな壊れた女性たちの精神を食らって―――殺せと言うのか。

 

いくら魔女と言われた私でも、こんな仕打ちを受けるために聖杯の呼びかけに応えたわけじゃない。

 

 

しかし、目の前の女性たちは薬と魔術によって心まで犯しつくされてしまっている。

 

もう、心に光は灯ることすらない。

 

 

「………ごめんなさい、どうか恨んで……恨めるだけの心を持って逝ってちょうだい。」

 

 

 

 

体を満たす魔力を不快に思った事などこれが初めてだったけど、この味は彼女たちが生きていた証。絶対に忘れたくないと思った。

 

 

 

「令呪を持って告げる。若い女を20人ほど攫って来い。俺の用がすんだらお前に食わせてやる。」

 

 

 

最低な魔術師だ。こんな肉欲にまみれたゴミ屑なんて早々に他のサーヴァントに殺されてしまえば――――いいえ、そんなことを待っていることすら億劫だわ。

 

殺してしまおう。裏切りは私の象徴。本当に嫌いな呼び名だけど、思い知らせてやる。

 

自身が呼び出したキャスターがどれ程の存在かを………

 

 

 

令呪の縛りに無理矢理町の女性を攫いながら、そう心に誓いを立てる。

 

 

 

しかし、そんな私の計画はひと組の襲撃者にあっさりと台無しにさせられる。

 

 

 

 

 

 

 

「ギャハハッ――――――ご馳走さまだぁ、殺しに来たぜぇ!!!」

 

 

 

廃墟に乗り込んできたのは全身に奇怪な刺青を彫り込んだサーヴァント。

 

両手には猛獣の爪を思わせるこれまた奇怪な短剣。

 

 

「キャスター!!なにをしてる、早く殺せ!!殺しやがれ!!」

 

動揺するマスターがみっともなく叫ぶ姿に思わず笑みがこぼれる。

 

 

 

ええ、ご命令のままに殺して御覧に入れましょう、マスター?

 

 

―――――――ただし

 

 

 

 

目の前に居たマスターの背中にに私の宝具を、ルールブレイカ―を突き刺す。

 

「な――――――貴様……キャスタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

神代の魔女を舐めた愚かさをその身で知れ。

 

サーヴァンととしての契約が切れた一瞬で、私はマスターが持つ二画の令呪をはぎ取り自分の手に移植する。

 

その流れるような裏切り行為にマスターだった男は顔を青くし

 

 

「御機嫌よう、マスター(愚か者)」

 

私は男の体を渾身の力を込めて刺青のサーヴァントの前に突き飛ばす。

 

 

ザマアみろ。私はこれで自由だ。お前なんてもう用済みだ。

 

心の中で笑いがこみ上げる

 

―――――と、その瞬間

 

 

「何だぁ?よりにもよってこの俺に擦り付けようってか?――――ハッ、上等上等!」

 

 

 

 

 

その罪――――オレが貰うぜ?

 

 

 

一瞬にしてぐちゃぐちゃの肉塊に成り果てる男の体

 

 

頭蓋が一面に巻き散らかされ、臓物は細切れで、手足なんて割き烏賊みたいになって、ビシャリと血に濡れた音を立てながら床に重力に従って崩れ落ちる。

 

 

今のはなんだ?

 

 

クラスは解らないが、今の攻撃を推測する限りではアサシンかバーサーカーか。

 

どちらにせよこのままじゃ私は長くは限界出来ないしこのサーヴァントとの戦闘も不可能だ。

 

 

どうする、どうすれば?

 

 

 

「あー、ツマンネ………そうだ、お前に一つ質問なんだけどよ?サーヴァントを死姦するにやどうしたらいいのかね?ぶっ殺しても後が楽しめないんじゃ達成感なんて零ジャン?」

 

………なんてことを言い出すサーヴァントだ。こいつは英霊と言うよりも邪霊と表現した方がいい気がする。

 

「おいおい、ロリっ子サーヴァントよぉ、シカトすんじゃね―よ。援交させるぞ?」

 

「……あなた、最低ね。流石の私もここまで品性が崩れた人物を見るのは初めてよ?」

 

「おお、やっと返してくれた言葉が詰るって、さてはSだな?だけどこりゃお前が望んだ応えの一つでもあるんだぜ、言っちまえば俺が免罪符だ。ヒャハハッ!!」

 

私の望み?

 

 

免罪符?

 

 

何の話だ?やっぱりこいつ、どこかおかしい。いや場所は主に頭だろうけど。

 

 

「だってよぉ…おまえ、自分がしたことに後悔してる顔じゃねーか。」

 

 

ドクン、と胸の鼓動がひときは高鳴る。

 

 

 

 

 

クズなマスターとはいえ、裏切り死に至らしめ、嫌厭でも罪なき人間を喰い荒し、――――壊し

 

 

そんな最低な行為がかすんで見えるほどの残虐を目の前で堂々と見せつけるサーヴァント、私の裏切りを容認し私のマスターを殺した男。

 

 

「んじゃ、後片付けもしとくかな」

 

 

そうニヤけながら答えた目の前のサーヴァントはバチンと指を鳴らすと

 

部屋の隅に居た、心が壊れてしまった女性たちに無数の剣が突き刺さる。

 

 

まるで機関銃によってハチの巣にされるように―――――

 

 

 

「さて、これで最悪はこの俺だ。………ロリっ子、残りはお前だけなんだけどよ……死ぬか?」

 

 

その言葉を言い終わると同時に部屋から廊下へと繋がる鉄の扉が勢いよく蹴り開けられ、一人の赤い少女が息を荒らげながら目の前のサーヴァントに殺気を放つ。

 

「アヴェンジャー!!―――――ッ!!?……これはどういうこと?」

 

部屋の隅で血濡れの女性たちだったモノを見たサーヴァントのマスターと思われる少女が殺気を向ける。無論彼にだ。

 

「おいおい、ずいぶんと遅い到着じゃねーかよ凛たん。遅過ぎるから敵のマスターぶっ殺してそこらにいた女も勢い余って犯っちまったよ?」

 

「アヴェンジャー!!!――――私はキャスターをしとめなさいと指示した筈よ。」

 

それにしても、アヴェンジャー?なんだそのクラスは?

 

そんなクラス、聖杯からの知識にはなかった筈だ。

 

 

一体このサーヴァントは何だと言うのか。

 

「あーあ、せっかくの殺人もこれじゃ興ざめだ。……ってわけなんだけどよ?キャスター、やっぱ殺すわ。」

 

そう言って全身刺青のアヴェンジャーは私に向かって右手を突き出してくる。

 

 

 

 

死にたくない――――

 

 

 

途端にこみ上げてくる恐怖。

 

信じられない、自分にもまだそんな夢を見る心が残っていたのか。

 

 

こんな絶対的な邪悪の前で思い知らされた。自分が悪だと思っていた罪だと思っていたことはなんてちっぽけだったのだろうか。

 

こんなやつ、――――マスターがいれば何とか切り抜けることも倒すこともできたかもしれないのに、私は自らその可能性を放棄してしまった。

 

 

それこそ罪だ、こんな汚れた願いなんて最初から持たなければ―――――

 

 

 

「ヒヒヒ、何だァ?まだ足りねえのか?」

 

アヴェンジャーがそう呟くと私との距離を一瞬で詰め、私のローブの下の服を掴むと力任せに引き裂き始めた。

 

 

「な!?何やってんのアヴェンジャー!!!」

 

「ヒャハッ!見て判んねーのかよ?ロリっ子でも使って慰めようかなってなっ!!ギャハハ、俺って天才?」

 

 

一見高校生くらいの見た目なアヴェンジャーだがやはり英霊、その筋力はこんな年端もいかない姿の私じゃ魔力で力を強化しても太刀打ちできない。

 

 

されど侮るなよ復讐者、この身はキャスター(魔術師)だ。

 

その身は攻撃に転ずるとなれば現代には失せたる神秘を持って汝が身を消し去ろう。

 

接近しているアヴェンジャーの下腹に右手を添えこの身に残る魔力を絞り出してランクAの魔力をもって全力で撃ち抜く。

 

 

とっさの反撃に気がついたのか身を捩るアヴェンジャーだが―――――遅い!!

 

閃光とともに彼の左わき腹がごっそりと吹き飛ぶ。

 

 

アヴェンジャーの表情が驚きと苦痛に歪み直後――――――

 

 

 

 

 

この世のものとは思えない邪悪な―――――優しい笑みを浮かべ

 

 

 

 

 

 

 

 

「偽り騙し欺く万象(ヴェルグ・アヴェスター)」

 

 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 

 

突然頭の中で鳴り響く呪いのカーニバル。

 

 

そして私の体に彼と全く同じ傷が左わき腹がごっそりと吹き飛び――――

 

 

「さっさと行けよ、キャスター」

 

 

そう小さな声で言いながらアヴェンジャーは私のローブを掴み体ごと天井近くに合った硝子のない窓から放り捨てた。

 

 

 

 

ああ、彼はなんて悪なのだろうか。

 

 

 

その身がどんなに罪で汚れようとも、悪人で敵の私さえ逃がすためにこんな茶番を演じたと言うのか。

 

 

 

その姿は今まで見たどんな者よりも英雄で

 

 

 

 

 

無実の罪人(正義の味方)だった。

 

 

 




残酷で優しい、ぶっ壊れたアヴェンジャーを表現するのって難しいです。
復讐者が背負ったのはこの世全ての罪。
少女の罪まで自らが肩代わりし免罪符として奪い取る。
因みに復讐者エミヤは原作本編のどのルートとも違う衛宮士郎の末路。


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嘘6話

三者三様の夜。
それは人生のピンチであったり、決意の意思を固める時間であったり、ロリコンだったり。



 

 

依然気を失ったままの少女を抱えて衛宮士郎は夜の街を走る。

 

向かう先は無論衛宮宅だ。

 

 

もしも目撃者がひとりでも現れたら、その瞬間に衛宮士郎はその社会的生命は終わりを迎えることになる。

 

 

『夜遅くに、ローブの下が裸同然の外国人で、推定年齢10歳の少女を自宅へと拉致しようとしている青年。』

 

 

どう考えてもヤバ過ぎる。

 

 

故に全力疾走

 

 

魔術回路はこの瞬間にも焼き切れるのではないかと言うほど体に魔力を叩き込み、100メートルを7秒で駆け抜ける。

 

 

もしも教会や協会の者がいれば血眼になって彼を殲滅するだろう。

 

魔術使いも大概にしろと。

 

 

そんなこともお構いなしに走り続け、息も絶え絶えのばて気味になってきたころ

 

 

 

 

「………衛宮か、こんな時間に何をしている……?」

 

目の前に屈強で無表情な、衛宮士郎が通う穂村原学園がほこるMr.クール(勝手に命名)こと葛木宗一郎がいた。

 

『せ、葛木先生!!?まずい、どうすりゃいい?―――』

 

頭の中で一気に思考回路が唸りを上げる。

 

 

 

 

どうする、ここで事情を離して助けてもらうか?

 

だめだ、先生を魔術の世界に引き込むなんてことは出来ない。

 

ならあたりさわりのない嘘でごまかすか?

 

どうやってごまかせばいい!??ローブの下が裸の女の子抱えて走ってたこの状況をどうやってごまかす?

 

痴漢に襲われてたこの子を助けて逃げてましたとでもいうか?

 

それって俺が犯人じゃないか!!今まさに第3者視点は俺が少女誘拐犯だ。

 

 

「……事情があるなら話さんでもいい。――――確か衛宮は独り暮らしだったな?」

 

その空気を読んでるんだか、ぶっちぎって投げ捨てているのか解らない雰囲気で葛木先生は俺と共に歩きだす。

 

 

「余計な警察沙汰は私も好まん。お前の行動内容が確認出来たら私は帰る。」

 

 

おい、あんた教師だろ。と突っ込みたいが、自殺行為を進んで行う理由もなし。

 

変な勘繰りをしてくれなければ、家に運び終えるまでに上手い言い訳を考える時間が稼げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*   *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は歩く。夜の街をひたひたと、行く当てを考えながら、身の回りの物をひとしきり詰め込んだキャリーバッグを引きながら。

 

 

「こうなってしまったのは単衣に私の責任だ、半ば無計画過ぎたこをしでかしてしまい謝罪の仕様もない。」

 

 

「あ、アーチャーさん。そんな落ち込まなくても大丈夫ですって。………その、暫くならせ……藤村先生、そう、学校の女の先生の家に頼めば泊めていただけると思いますし。」

 

なんとか私はアーチャーさんを励まそうと自分を空元気で取り繕う。

 

 

今が聖杯戦争の真っただ中でなければ、"アレ"がなければ多少無理を言ってでも勇気を振り絞って先輩の家に押し掛けることもできたかもしれないのに。

 

まだだ、とアーチャーさんは言い、私もその考えにすぐに思い至り賛同した。

 

アレで死ぬはずがない。

 

妙な確信と嫌な予感がいり混ざりながらそう断定できるのは、私の胸の奥に潜むカリヤおじさんの届かなかった欠片が如実に物語っているからだ。

 

 

『チャンスを待つ。この戦争が局面に差し掛かれば必ず奴は"動く"だろう。その時に確実に仕留める。』

 

その為には聖杯戦争に参加し勝ち残っていかなくちゃいけない。

 

おじい様が動く状況の中に自ら飛び込んでいく。それは当に殺し合いの中へと身を投じることだ。

 

 

それは勇気の足りない、臆病な私にとって何よりつらいことだけど。

 

 

 

だけど諦めない。

 

 

 

「君を救う、元より聖杯に願うべき望みなど持ち合わせていない身なのでな。その意味で言えば、マスターのサーヴァントに成れたことは僥倖といえるだろう。」

 

 

こんなに尽くしてくれるアーチャーさんと巡り合えた運命を信じて、私の過去を終わらせ全てをZero(始め)にしよう。

 

 

 

そう思いながら一先ずの宿としての頼みの藤村先生の家へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*   *

 

 

 

 

 

 

 

「言い訳を聞こうかしら、何でこの女の人たちを殺したの、アヴェンジャー。」

 

 

いま、私の心は怒りのあまり冷え切っている。

 

目の前のサーヴァントが女性をめった切りにして殺した。

 

確かにキャスターのマスターが根城にしていた場所にいたからには何らかのトラップと考えての行為かもしれないが、この殺し様はあまりにも人の行為を逸脱している。

 

 

バラバラ、なんて言葉すら生温い有様だ。

 

20~25人はいるであろうその死体は原形をとどめているものなど一つもない。

 

 

「んー。気分♪」

 

 

こいつは気分で殺戮を行えるのか。

 

 

「ふざけないで、あんたがどんな英霊だろうと私のサーヴァントである以上は私の流儀に従いなさい。殺人は絶対に認めないわよ。敵マスターも私が許可したとき以外許さないわ。」

 

「ヒヒ、何だよ?令呪でも使ってこの俺を縛りつけてみるかい?アンリ・マユ(この世全ての罪)のこの俺に?」

 

 

確かにこいつは自称「この世全ての悪」だ。そう名乗る以上、悪行も平然とやってのけるだろうと思っていたけど、ここまで醜悪とは思わなかった。

 

 

「次にこんな真似をしてみなさい。私は迷わずあんたを自害させるわ。」

 

「ヒャハッ!いいねぇその響き、ぞくぞくしちゃうぜ。なんやかんやブチ切れモード入っておきながらも魔術師な凛たんの優しさに涙が出ちまう。……まあいいじゃん、キャスターのマスターも無事にぶっ殺せたわけだし、キャスター自身も致命傷。俺と同じく横っ腹をごっそりと遣ったんだ。持って30分でくたばるだろうさ。」

 

 

そう、こいつの宝具『偽り騙し欺く万象』は触れた相手に自らの傷を写す。

 

写された傷はその時点で相手に自らの傷と確定させ。アヴェンジャーとの因果から切り離され独立する。

 

私の宝石魔術を用いてアヴェンジャーの傷を即座に癒せば相手は致命傷の怪我を負ったまま全快のこいつとの戦闘再開となる。

 

 

更に利点として、こいつの宝具は真名解放の使用魔力が極端に少ないことが最大のアドバンテージだ。

 

 

何でもランクが「D-」と、本来なら高い対魔力を持つサーヴァントなら弾き返してしまうんじゃないかと思うほどのレヴェルの低さと思われるこいつの宝具は、発動条件の縛りが強すぎるとかの理由で、有効対象は広いらしい。

 

 

それにしても気になることは他にもある。

 

 

「で、何であんたは本命のキャスターにとどめを刺さずに投げ捨てたのかしら?」

 

 

そう、最大の謎はそこだ。こいつはキャスターのマスターや部屋に居た女性たちは皆殺しにしたのにキャスターだけはその手に掛けなかった。

 

おまけに私の命令を半ば無視する形であの幼い姿のサーヴァントを犯そうとしやがった。

 

まさかとは思うけど………

 

 

「や、なにをわかりきった事言ってんだよ凛たん。んなもん答えは一つじゃねーか。」

 

 

 

 

「アイツにも聞いたんだけどよ?サーヴァントを死姦するにゃどうしたらいいかって考えててな。キャスターのクラスに納まるくらいのロリっ子だ、もしかしたらうまい方法でも考え付いてくれんじゃないかと思ってさ。な?俺ってやっぱ最高だろう?」

 

 

 

 

「――――――ほう、……つまりあんたはその為にキャスターをひん剥いて逃がしたと?」

 

 

「あったりまえじゃん。ああ、もちろんそれだけじゃねーよ?勿論欲情だってしたさ。アイツ見た目によらず胸もあってさ、Cはあったぜ?Aの凛たんと比べても、これを襲わない奴はいないだろって。ほら、よく言うだろ?悟りは殺さず犯s―――――」

 

 

「死ねぇえええええーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 

こいつロリコンだ!!!

 

中学生をババアと呼ぶ奴に違いない。

 

 

 

………キャスター。今だけあなたに同情するわ。今だけこんな奴に襲われたことに謝罪したい気分だ。

 

 

それにしてもあの幼い姿でC?――――なんとなく今更だけど殺意が沸くわ。

 

 

願わくば、そのまま死んでくれればこれ以上こんな変態に襲われることもないだろう。

 

 

 

それこそこの町にこいつみたいなロリコンがいなければの話だけど。

 

 

 

まあ、今はこの殺戮現場の隠滅が先決か。

 

 

 

気は進まないけど、性格どぐされ外道神父に連絡を入れるとしよう。

 

 





という訳で衛宮士郎人生最大のピンチでした。
アヴェンジャーがエロい。どうにかしてくれ。
だけど、キャスターにだったら私は襲いかかる自信がある(キリッ!


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嘘7話

オリ鯖回


 

 

たった一人の少年が今宵英霊を呼び出す

 

 

 

たった一人になってしまった少年が召喚するは役割を放棄した器

 

 

役割の破綻した存在

 

 

 

 

 

―――――されど汝は

 

その眼を混沌に曇らせ侍るべし。

 

汝、狂乱の檻に囚われし者。

 

我はその鎖を手繰る者――――

 

 

 

 

召喚の詠唱に挟まれるは狂気の言の葉。

 

 

 

かつてこの場所で、10年前の同じ場で間桐に連なる者が発した狂気の呪文

 

 

それは自己を蔑にし、自己を貶め、自己を殺し、自我を狂気に堕とす狂化の詠唱。

 

 

召喚者の魔力を食いつぶし、自らの能力に制約をかけるとともに、限界の箍を壊す魂の牢獄。

 

 

 

 

 

狂え

 

 

 

狂え

 

 

 

 

 

召喚に媒体は必要ない

 

 

 

そんな物はいらない

 

 

 

ただその1点において間桐の英知を呑み干した少年は確信を得ている。

 

 

今この状況において誰を呼び出すかを

 

 

 

ダレヲ狂気に落とそうとしているかを。

 

 

 

少年は上半身の服を全て脱いだ、半裸の状態で右手に古い本を持ち詠唱を続ける。

 

 

 

 

 

 

描かれた魔法陣は追い出した妹の血で描かれたモノに自身の血で一部を書き足した、通常よりもさらに複雑な召喚陣。

 

 

ある意味使いまわしにもかかわらず、その陣から今まさに現れんとする召喚の光は正常に起動していることを意味する。

 

 

「――――ブグゥ…………ゲヒッ!!――――ぅくしょう………ッ!!!!」

 

少年の体中から血がブクブクと吹き出るように溢れてくる。

 

 

普段の少年ならその事実だけで無様な声を上げ、取り乱し卒倒してしまう筈なのだが、今夜はそのような影は何処にもない。

 

少年は険しい目つきで、揺るぎない信念を持った狂気の瞳でただ前を見つめる。

 

 

「――――流体制御、覆水洗礼照準。」

 

 

その言葉と共に流れ続ける赤はぴたりと止まり―――ウゾウゾと、まるで化生の類のように、蟲のように少年の体を這いずりまわり紋様を作り上げていく。

 

 

 

「オドよりマナの道を経て大海を埋める。」

 

 

 

ギリギリと血でできた紋様がまるで少年の体を締め付けるように、その肉へと喰らいつき沈んで逝き、まるで刺青のように、まるで刻印のように

 

 

 

 

まるで神経ののようにギリギリと身の内に同化しようとしているかのごとく―――――

 

 

少なからず自身を持っていた貌に、弓を引くための引き締まった体に、焦げ付くように刻まれる文様はこの世全ての悪とは違う。

 

 

それは己が家の滅んだ証。

 

 

間桐の当主にのみ許された刻印の複写。

 

 

既に、そんな奇跡の領域に手が届いているにもかかわらず、少年は聖杯戦争を追い求める。

 

 

 

 

 

「来い!!狂戦士ィ!!!!この僕に、この僕が!!間桐慎二が最強であることをお前が証明しろっ!!!!」

 

 

 

 

 

この僕を魔術師にしろ

 

 

 

そう高らかに願いを口にする。

 

 

 

この所業をもってしても間桐慎二は己が身を魔術師と認めない。

 

 

魔術師とはどのような存在であるか、彼は知らない。

 

 

それが見てきた世界の魔術師はたったの2人。

 

 

500余年を死せる生なき蟲の祖父、間桐の妖怪こと間桐臓硯と

 

 

嘗ての盟友であり、かつてその姿に恋心を抱いた遠坂6代目当主、遠坂凛のみ。

 

 

外道の魔術師である間桐臓硯はさておき、遠坂については自分の事を魔道に連なるものとみてすらいない為、魔術師としての姿を晒すことなど只の1度としてなかった。

 

否、魔道がただ研究と時代の遺産を残すという形でしかないモノとするなら、遠坂の在り方は正に術師なのだろうが、間桐慎二はそれを知らない。

 

 

故に、今の何も解らぬ自分は魔術師では無い。

 

 

知らない。間桐の英知にも、そんな魔術師とは何なのか?などという禅問答な資料など影も形もない。

 

 

あるわけがない。

 

 

だから彼は聖杯に願う。

 

 

聖杯を手に入れれば、聖杯に願いが届けば魔術師とは何なのか、魔術師とはどうあるべきかが解る。

 

 

そう信じて疑わない。

 

 

 

 

衛宮士郎がこの場にいたなら、その身は既に魔術師だろうと諭しただろう。

 

 

魔術師が彼を見たなら、嘲笑うだろう。

 

 

 

間桐慎二は気がつかない。

 

 

 

その身は家族を失い、家族を追い出し、尚も魔術を追い求める狂気に囚われているのだから。

 

 

 

 

 

「―――――――」

 

 

 

 

彼が召喚したサーヴァントは確かに狂戦士だった。

 

 

それは聖杯戦争を侵す規則違反。

 

 

それは誰もが考えつかなかった方法

 

 

 

 

少年の前に佇まう姿は、ボロボロの黒い外套を鍛え上げられた両の肩に引っ掛けるように背に流し

 

 

漂う気風はおおよそ少年が予想した人物とはかけ離れていたが、それも歴戦の兵を感じさせるものなら何を落胆することがあろうか。

 

 

 

そして何より目につくは獅子の髑髏を被ったその姿は間違いなく最強にしてとある教団の最後の一人。

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、………っ…た―――――?はは、アハハハハハハハハハハハハハ!!!!やった!成功だ!!この僕が間桐慎二がお前のマスターだ。僕に勝利を、そして聖杯をこの手に差し出せ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗殺者(バーサーカー)!!!!」

 

 

 

 

 

 

少年が呼び出したのは暗殺教団首領。本来アサシンのクラスで呼び出されるそれは、静かな狂気に満ちていた。

 

 

 





狂化の属性を付加された暗殺者です。


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嘘設定2

オリジナル捏造設定全開です。
もしかしなくても、第4次の狂戦士並みの強敵。



アサシンのクラスに呼ばれる筈の暗殺教団歴代首領、ハサン・サッバーハのいない筈の19代目。

 

暗殺教団最後の首領であり、侠気な性格であり狂気を孕んだ戦闘手法を幾度となく経験してきた。

 

百の貌のハサンから教主の座を継いだ人物であり、彼の代で教団は滅んだ。

 

彼だけは通常の暗殺者召喚では呼ぶことが出来ず、狂化の詠唱を挿むことでしか召喚されることはない。

 

聖杯に託す願いは、暗殺教団の再興であり、次の首領にさせることが出来なかった少女のことを想い残していた為、彼女を次のハサンにすること。

 

そこに誇りはなく、目標殺害の為なら暗殺はもとより、敵に堂々と姿を晒し対面して戦うことも、どんな悪辣外道な手段をとることも厭わない、戦う姿は暗殺者よりも騎士に近い。

 

 

 

クラス:暗殺者(バーサーカー)

マスター:間桐慎二

真名:ハサン・サッバーハ

 

 

宝具1:狂信宣告(ザバーニーヤ)

対人宝具

「命」の定義を歪曲し、触れた者の「命」を他の物質へ写す。

「この剣は我が命と同義」のような形を実現してしまうことができる。

「命」は肉体と離れた殻のない中身が剥き出しのまま現れている為、僅かな衝撃でも加われば本体の「命」は傷つき、武器同士で撃ち合うようなまねをすればショック死しかねない。

物が壊れれば確実に絶命する。

写す対象はその場の近くに在る物なら何でもよい。

ただし、上記の能力は狂信宣告の本来の能力ではなく、副産物でしかない。

注:嘘19話-自信に発動させ完全に「命」を置き去りにする。この場合の真名は『狂信宣言』となる。

 この状態では「命」を破壊するか、肉体を完全に消滅するまで死なない、月姫の遠野四季のような拒死性となる。

 また、相手の命を自分で受け持つことで、アヴェンジャー以上の心中を行うことができる。

 

 

宝具2:狂信信仰

対軍宝具

令呪を用いて狂化を一時的にでも解除すれば使用可能。

歴代ハサンの中で唯一の対軍宝具を持つ。

全てが狂う血の大宴会。

 

「―――血煙は風に舞い。砂塵、一寸先を凶月之下――是を隠す。

其処に生者は無し、死期折々の冥地へと誘う。

観る者無し、生者無し、輝く闇は誠を埋め

終には彼の地の王を討つ。

狂え狂え、狂え狂え、紅き瞳が全てを繋ぐ(染める)

其に輝くは――――狂信信仰」

 

 

 

 




紹介の中の『彼女』は本編の外伝作品「Fate/strange fake」のアサシンのことを言っています。
ワカメがダークホースになりそう(笑)


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嘘8話


回りキャスターを愛して止まない。否、病む。



 

 

「――――っん……」

 

目を覚ましたのは、あれからどれくらいたった後なのだろうか。

 

 

サーヴァントにも眠気はあるのかと、眠い目をこすりながら横たわっていた体を起こす。

 

気だるい感覚と魔力不足が同時に襲いかかり、まるで低血圧の起き覚め貧血のような気分だ。

 

 

少しずつ意識と思考がが通常の回転に戻っていく。

 

そして、奇跡のような真実を認識する。

 

 

 

 

「……生きてる?」

 

 

 

この身はまだ座に還らず限界し続けている。

 

助かった?

 

廃墟のビルから放り出され、暗い路地を魔力切れの体を引きずりながら歩き、力尽きて壁にもたれかかったところまでは覚えている。

 

 

それから何があったと言うのか?

 

 

 

そう思ったところで、自分の中に在る一つの感覚に気がつく。

 

 

 

とても温かく、優しい気持ちが

 

魔力なんか蛇口の周りに浮かぶ結露のような、水滴にもならない量しか流れてきていないのにそう思える。

 

 

 

 

 

見渡すとそこは薄汚れた裏路地ではなく、畳の日本屋敷の一室であることが聖杯の知識から知ることが出来た。

 

 

寝かされていたのは私の体には少し大きめの布団。

 

そこから何処となく男性の匂いがするのは、この家の人間が普段使っている物だということが分かる。

 

 

着ている服も黒いローブから子ども用の紺色の浴衣に変わっている。

 

そう言えばアヴェンジャーにローブの下に来ていた服を破かれてしまったことを思い出す。

 

寝かせるにしろ、そのままではなく着替えさせられたという訳だ。

 

 

気だるい感覚を我慢しながら立ち上がり、おぼつかない足取りで部屋を出る。

 

 

 

 

庭先が見える廊下に出て、自分と繋がっているラインを手繰り寄せる。

 

 

 

 

 

もう少し、すぐそこ……

 

 

 

 

片手で胸の鼓動を抑えつけながら恐る恐る明かりがともる部屋の障子を小さく開けると、二人の男性が見えた。

 

 

「ですから、何か特別な事情を抱えた子みたいなんですよ。」

 

「ふむ、深い理由話をせない訳はおおよそ認めよう。特にこれ以上の騒動もないわけだな?」

 

「はい、あの子が目を覚ましたら事情を聞きますんで、明日先生にもお伝えします。」

 

 

「そうか、なら私はもう帰る。くれぐれも間違いなどは犯すなよ。」

 

「大丈夫ですって、明日の朝になれば藤村先生も来ますし、後輩の子も朝食の手伝いで来ると思います。」

 

 

「フム、藤村先生の監察下なら問題ないだろう。邪魔をしたな。」

 

 

そう言って屈強な体つきをした男性は帰って行った。

 

 

そして尚、ラインから繋がる感覚がこの家を示す答えはただ一つ。

 

あの少年が私を助けた、魔術師(マスター)ということだ。

 

 

僅かながら強張る手に力を込め、意を決して少年のいる居間の障子をゆっくりと開ける。

 

 

「……あ、あの………」

 

 

何と声をかければいいのかとっさに思いつかず、おどおどした形になってしまったけど、私の姿に気が付き振り向いた彼の顔がとても幸せそうに緩み。

 

 

「ああ、気が付いたのか。もう立って歩いて大丈夫なのかい?」

 

「ええ、……あなたが私の、マスター?」

 

 

そう聞きながら途端に恥ずかしさがこみ上げてきて、はたから見たら、もじもじとした締まりのない格好になってしまった。

 

 

「は?………マスターって何さ?」

 

「え?」

 

 

私と彼に同時に湧き上がる「?」

 

 

 

何やらいきなり話がかみ合わない雰囲気だ。

 

 

 

「えっと、あなた…魔術師よね?」

 

「ああ、半人前だけど魔術師だぞ?危ない状態みたいだったから何も考えずに君を助けたんだけど、一体何者なんだ?」

 

 

 

聖杯戦争を知らない?この冬気の地で?

 

 

「――――どうやらお互い噛みあわないわね。……お互い質問し合う形でいいかしら?」

 

「よく解らないけどいいぞ?―――――それじゃ、自己紹介から行こうか。俺は衛宮士郎、未熟ながら魔術師をやってる。君の名前は?」

 

 

「今は、……そうねキャスター(魔術師)と名乗っておきましょうか、勿論偽名のようなものだけど今は本名を名乗ることは出来ないわ。あなた、聖杯戦争を知ってる?」

 

 

「聖杯…戦争?聞いたこと無いぞ?それと君…キャスターちゃんは何か関係があるのか?」

 

「ちゃんッ!?―――ええ、私はその戦争で呼び出された使い魔、英霊よ。」

 

「使い魔って…!?何処からどう見ても人間にしか見えないぞ?」

 

 

彼は驚きながら私を眺める、どうやら本当に聖杯戦争の事を知らないらしい。

 

 

「勿論、英霊ですもの。人の形をしていない奴がいるとしたら、それは悪霊か悪魔の類よ。私のターンね。英霊の意味くらい魔術師のはしくれなら知っているでしょ?」

 

「ぐっ……過去に偉業を成した人や神話や、おとぎ話に出てくるような信仰や崇拝の対象となった人物のことだろ?」

 

「そうよ、そして聖杯の力によって現界したのがこの私。キャスターのクラスを与えられた英霊。」

 

 

ちょっと胸高々に振舞ってみる。そうよね、どうやらこの少年はこの地に居ながら聖杯戦争の事も知らない素人魔術師みたいだし、ここで上下関係をはっきりさせておかなくっちゃ。

 

 

「えっと、つまりキャスターちゃんは過去の人物で、歴史に残るような英霊ってことか?」

 

「そう、因みに私以外にも、この冬木の地には英霊が召喚されている筈よ。7人の魔術師が7体のサーヴァント、つまり英霊を使い魔として使役し聖杯を奪い合う戦い。それが聖杯戦争なんだから。」

 

「なっ!?ちょっと待ってくれ、冬木に俺以外の魔術師がいるって言うのか!?」

 

「……あなた、本当に魔術師なの?魔術師の気配がそこまで濃いものだとは一概に言えないけど、まるで今まで魔術師なんて見たことがないって顔よ?」

 

 

 

「…………」

 

「え゛……?」

 

 

物凄く気まずい空気が流れる。

 

魔術師に遭ったことがない魔術師なんているのだろうか?

 

 

「もしかして、極度の引き籠り?」

 

「断じて違う!俺は毎日学校にも通っているしバイトもしてる!休日はボランティアにも出向いて地域交流の場にも積極的に参加してるんだ!そりゃあ、魔術師との交流なんてなかったけど、けしてひきこもりじゃないぞ?」

 

 

「………」

 

「何だよ?今度はそっちが黙っちゃって」

 

―――――呆れてものが言えない。

 

 

こいつ、エミヤシロウという人物は魔術師と呼ぶべき人物じゃない。

 

学校に通ってバイトにボランティア?上二つは構わないにしろ、ボランティアですって?

 

魔術師がそんな等価交換をぶち壊す所業に何の抵抗感も抱かないなんて正気じゃない。

 

 

「はあっ、これはとんでもない外れ籤に助けられた見たいね……いいわ、マスターを矯正するのもサーヴァントの役目だと思って諦めるわよ……」

 

 

「だから、何だよ『マスター』って?俺はそんなのになった覚えはないぞ?」

 

 

 

「…………ほんと、これじゃ勝ち残れないわ。――――いいこと?今夜は私が説明することを理解するまで寝かさないから。」

 

 

 

どうも私の前途は多難を通り越し万難らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

*   *

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少しだけ遡り。

 

 

言峰綺礼は協会の一室で霊気盤を眺めていた。

 

 

 

「ふむ、今回の聖杯戦争はどうやらクラス外の英霊が呼ばれたようだな、召喚したのは――――凛か。」

 

 

召喚された時間から推測するにそう考えるのが妥当だろう。

 

どうやら最後まで自分の忠告をうっかり忘れていたようだ。

 

彼女の魔力が最高に高まる時間と召喚時間が少しずれている為、大方『また』やらかしたのだろう。

 

 

まあ、呼び出したのならそれはそれで構わない。

 

 

早速だが、そう急に彼女に助力を求めなければならない厄介事も舞い込んできたことだ。

 

ここはひとつセカンドオーナーとしての仕事ぶりを観るとともに、呼び出したサーヴァントについても遠くからだが見させてもらうとしよう。

 

 

そう考えながら夜は耽っていく。

 

 

 

 

『続いてのニュースです、冬木市を中心に起こっている女性連続誘拐事件ですが―――――――』

 

 

 





浴衣は子ども時代の士郎のものです。
キャスターに襲撃をかけた凛達の行動理由はとりあえず必要かと思い、シンプソンに出張ってもらいました。
そして、自分で押さえ目に書いておきながらキャスターのセリフがR指定な意味で『今夜は寝かせないわよ』とデフォルトで誘惑調に脳内変換されている私の脳内電波。
浴衣姿のキャスターに言われたらイチコロです(笑)
この気持ちまさしく愛だ ハアハァ……


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嘘9話

こまけぇことはいいんだよ!
今回の内容を表す魔法の域に達した一言(笑)



 

 

結局、衛宮士郎が聖杯戦争の事情を呑み込み自分の置かれた状況を、その底抜けの馬鹿な頭……決して勉学の能力が低いわけではないが、魔術師が絡む裏の世界の何たるやを詰め込むことが出来たのは時計の針がくるくる回って午前3時30分を過ぎたころだった。

 

最後の方の話は明日からの一緒に暮らすにあたっての段取りなどだったが、その頃になると流石にサーヴァントと契約したばかりで、普段から魔力の放出に慣れていなかった士郎はそのまま居間で潰れるように眠ってしまった。

 

 

キャスターは士郎の魔術回路の起動スイッチに関してあれこれと言及したが、それも明日になってからということで、これ以上余計な魔力を消費しない為に霊体化する運びとなった。

 

キャスターにとって幸いだったのが、士郎の魔術工房としている土蔵に魔力の回復を促進する魔法陣が張ってあったことだった。

 

どう考えても士郎が張ったものではないということは知れたが、彼の養父である故人、衛宮切嗣が描いたものなのだろうとキャスターは判断し、その上で静かに祈るような姿勢で膝をつき、短い眠りに就くことになった。

 

 

一見してのんびりとしたやり取りだったが、その実キャスターは心の中に焦りがあった。

 

 

 

 

 

このままじゃ明日にでも自分たちは脱落する。

 

 

アヴェンジャーのマスターは何故自分たちを襲ってきたのだろうか。

 

その答えは明確にして、不可解。矛盾をはらんでいるが故の推理材料となる貴重な情報源だ。

 

第一に、元マスターはどうしようもない屑ではあったけど、こと自分の根城に対する隠匿の魔術結界に関しては私が作成していたのだ。陣地作成スキルA+を舐めてもらっては困る。

 

 

余程『場』の変化に敏感な者でなければ見つけることなんてできない筈だった。

 

 

つまり、アヴァンジャーかもしくはマスターには結界などを探知できるスキルがあると考えるべきだ。

 

そして、元マスターが愚痴るように零していた言葉――――冬木の地における霊脈を協会から委託され管理するセカンドオーナー・遠坂。

 

成程、あの若いマスターは今代の遠坂当主と看ていいだろう。

 

私たちに襲撃目標を定めたのも、誘拐などに手を染め町を脅かしていたのだから納得がいく。

 

だけど、今となってはあの忌まわしい命呪の命令で命拾いしたともいえる。

 

 

あの行いで魔力を十分に蓄えていたからこそ、マスターを失ってもなお数刻の現界が可能だったのだ。

 

単独行動のスキルを持たない私では、本来あそこまで長くは持たなかっただろう。

 

 

現在私がいる新しいマスターの屋敷を軽く解析したけれど、迎撃などを行う複雑な結界は一切設置されてなく、悪意を持った侵入者への警報装置のみだった。

 

 

こんな簡素な、逆に見つけづらいくらいのしょぼい結界なら、キャスターのサーヴァントがいる屋敷だとは思わないかもしれない。

 

 

勿論、私自身の魔力を察しされることを防ぐ為に、回復して行くにつれて魔力隠匿の道具を作る必要があるけれど。

 

 

これなら、暫くは回復に努めることができる。だけど………

 

 

 

 

 

キャスターは一刻も早く、そして僅かでも多くの魔力を欲していた。

 

新しいマスターに体を求めるようなマネも考えてはみたものの、如何せん今の自分は何処からどう見ても幼すぎる。

 

もしこれに応じるどころか、いきり立つモノがあるようなら思わずナニを蹴り潰してしまうかもしれない。

 

 

まあ、あの見るからにお人よしな腑抜けがそんなことを良しとするわけがないか。

 

 

と、衛宮士郎に対して名誉なのだか不名誉なのだかわからない評価を付け静かに眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    *  *

 

 

 

 

 

 

 

 

衛宮士郎の朝は本来なら早い。

 

 

日の出前に目を覚まし、朝の軽いトレーニングの後に朝食の準備を始め、さながら通い妻のような後輩がやってくると一緒になって台所に立つ。

 

近所の古くから姉のように慕う担任教師が朝食の時間に現れ、やれ賑やかな疑似家族模様を醸すのが日常となって、弁当を包むと後輩が頬を染めながら一足先に部活動の朝練習のため学校へと向かい、そんな様を笑顔で見送りながら自身も登校の身支度を始める。

 

 

そんな古風なホームドラマのような一描写が衛宮士郎宅の筈だった。

 

 

 

 

しかし、本日に至ってはどうだろうか?

 

ややあ、と目を覚ましてみれば旭は既に昇り、勝って知ったる後輩は勝手に上がり込んでは朝食の準備を殆ど済ませていた。

 

南無三、寝すごしたか。とメロスの気分はこう言うことだったのかと後悔しながら台所で平に謝っていると、慌ただしく姉のような担任教師が上がり込んで来て、いつも以上に騒がしくなる。

 

ここまでは良い。

 

別に、ちょっといつもと違う日常ならば、こんな日も悪くないだろう。

 

 

問題はいざ朝食を始めるという時に起きた。

 

ドクンと高鳴る心臓の鼓動を抑える衛宮士郎、一世一代の三文芝居の片棒担ぎ。

 

 

 

「私(わたくし)、衛宮切嗣の娘、メイと申します。不束者ですが、宜しくお願い致します。」

 

 

 

後輩間桐桜と担任藤村大河の目の前には、異国の美少女が正座に三つ指を立てて深々とお辞儀をしている。

 

 

更に士郎が付け加える形で、衛宮切嗣の「隠し子」だと付け加える。

 

 

呆然とする二人の女性をを横に士郎は故人切嗣に心の中で懺悔する。

 

 

『許してくれ親父!!許してくれ!!!』

 

 

最早、ホームドラマから昼ドラかゴールデンの三流ドラマと化していた。

 

何というエロゲだろうか。

 

 

「き、ぃ…………り、…つ、……んの……かか、隠し…子――――???」

 

 

義姉、藤村大河は卒倒寸前まで思考回路が寸断されメチャクチャな状態である。起源弾など無くても人はこうも簡単にかき乱れるものなのだ。

 

 

「メイ、………ちゃん?」

 

 

間桐桜は何か突然の事態についていけず、只々思考の渦にのまれているだけのように見える。

 

 

「私は今まで母と二人で暮らしていたのですが、先日……母が病で帰らぬ人となってしまい――――母の最期の言葉に衛宮切嗣という男性が私の父という言葉を聞き、彼を頼る為に日本に参りました。」

 

 

流石は裏切りの魔女、例え不名誉な呼び名だとしても役者が板についている。

 

 

僅かに瞳を潤ませ幼い容姿とか弱い雰囲気、折り目正しい気品を醸し出せば、藤村大河(単純な一般人)などイチコロだった。

 

 

 

「切嗣さぁああああああん!!」

 

 

 

 

とうとう泣きだした藤村大河は思い余って大粒の涙を噴水のようにまき散らし、キャスターを抱きしめる。

 

 

「えっと、先輩………これは………」

 

「すまない桜、俺も昨日突然キ…メイちゃんと出会ってな。ああ、DNA検査の用紙も見せてもらったし、あの子が爺さんの子どもだって言うのは……そうらしい。」

 

 

 

殆ど嘘である。

 

 

念のため其れっぽい用紙を昨晩、急ごしらえでキャスターが作り、それを見たと言うだけだ。

 

 

昨日出会った

 

用紙を見た

 

そうらしい

 

 

ほうら、嘘なんてこれっぽっちも言って無い。

 

 

 

――――――とんだ戯言である。

 

 

「とにかく、一通り落ち着くまでメイちゃんを家に置きたいと思ってるんだ。本当なら遺産分配だって出来た筈なのに、親父の事何も知らなかったっていうし。血は繋がってないけど、本当なら俺たち家族なんだからさ。」

 

 

「ぐずっ………むう、でも大丈夫なの士郎?めいちゃんこんなに可愛いのに、野獣な士郎と夜を共にして、美少女に手を出したらお姉ちゃんは許さないわよ?」

 

 

「ばっ…!!出すわけないだろ!?藤姉ぇが許す許さないの前に犯罪だろそれ!?」

 

 

「はい、お兄ちゃんに優しくして頂きましたし、心配いりません。」

 

 

キャスターも余裕が出てきたのか勝手にキャラを演じる始末

 

 

「先輩……先輩ってまさか……ロr―――」「違うっ!!!断じて違う!!!」

 

 

そうだ、そんな筈はない。

 

 

エミヤシロウは年端もいかぬ少女の体に欲情することなど、ましてや擬似的な近親愛などという背徳に心動くような人物ではない――――はず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    *  *

 

 

 

 

 

 

 

「………そうだ、断じて違う。」

 

 

 

 

アーチャーは衛宮士郎宅から200メートル以上離れた電柱の上から、霊体の姿で件のやり取りを観察していた。

 

 

 

そうだ、それは違う。衛宮士郎(俺)は少女の味方では無い。正義の味方になろうとした愚か者だ。

 

断じてロリコンでは無い。そう心の中で叫ぶ。

 

 

「しかし、様子から見るにキャスターか………これと言って奴が傀儡になっているようにも見えん。まさか、アイツがキャスターを呼び出したのか?」

 

 

自分の摩耗しきった記憶の中の聖杯戦争と今回のこれは大きく食い違う。

 

 

それが当たり前のことなのかどうかなのかはアーチャーに判断しかねるところだったが、重要なのは「アレ」が未来において正義の味方になる衛宮士郎なのかどうなのかだ。

 

その一寸の判断でこの聖杯戦争の行く末が大きく変わる。

 

そうアーチャーは確信していた。

 

 

 

例えこの世全てを敵に回しても―――――――

 

 

 

 

そう考えていたアーチャーを遠く離れた別の電柱から見ているサーヴァントの存在に彼はまだ気が付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャハッ!!!みーつけた♪――――ゲクキャハッ!ゲラゲラゲラゲラゲラガゲラギャハヒャァハ!!!!!」

 

 

 

 

よう兄弟、楽しんでるかい?

 

 

 




「お兄ちゃん」
ただその一言を言わせたくて無茶なやり取りをさせたこの回。
別に姿隠したままでよかったんじゃね?と思ったそこのあなた、NO!
隠し子&養子の同棲恋愛伝奇アクションADVなんて胸が熱くなるだろう?
それがロ氏キャスターならなおさらだ!
……正直、思いつきませんでした。


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嘘10話※アーチャーファン注意※

※本話におけるアーチャーは原作のように格好良くありません。
格好いいアーチャーでなければ、それはアーチャーでは無いと思う方はご注意ください。
いいか、絶対に叩くなよ、絶対だ!!
心は硝子(顕微鏡のプレート)レベルの強度です。


 

「はあ、…ハアっ、ゼッ―――――投影開始(トレースオン)!!」

 

 

アーチャーは逃げる。

 

 

 

なぜ俺が逃げている?

 

この身は生涯にわたり、ただ一度の敗走もなき英霊だぞ。

 

別に英雄などともてはやされる為に行ってきたわけではないが、それでも退くことのない、揺らぐことのない信念を持って突き進んできた英霊だ。

 

 

それが何故…逃げの為に全力を振り絞っている?

 

 

決して負ける要素があるからではない。

 

むしろ勝てる要素が幾重にも見受けられるくらいだ。

 

 

ならばなぜ逃げる?

 

 

ここが見晴らしの良い住宅街の密集地だからか?

 

今が聖杯戦争を行うには不向きな昼間だからか?

 

 

違う、そんなことでいちいち逃げるようなマネはしない。

 

戦えないのであれば、それなりに相手の戦力や情報を掴み取る為にギリギリの綱渡りをやって見せるのが英霊エミヤな筈だ。

 

 

無様に、醜く、だらしなく、みっともなく、型も忘れ、道も忘れ、腰も入れず、只狩られる哀れな姿で疾走とも呼べぬ愚鈍な蛇行で逃げている?

 

 

なぜ逃げる?

 

 

怖い?いいや違う、例え恐怖が目の前にあったとしても、それすら凍りつかせ鋼の意思で立ち向かうのが英霊エミヤだろう。

 

 

なぜ逃げる?

 

 

戦略的撤退ですらない、こんな一方的な戦闘放棄なんて初めてだ。

 

 

なぜ逃げる?

 

 

五月蠅い!ならば、――――――――

 

 

 

 

 

「ゲヒャハハ!!おいおい兄弟、何処に行くってんだ?ヒャヒャッ!!まるで、『ドッペるった後で自分のこと鏡で見た後』みたいじゃねぇか。大丈夫だってよ、その通りにしてやろうか?さあ!!!!」

 

 

 

 

なぜ逃げる?

 

 

見ればわかるだろう、

 

「アイツは一体何なんだ!!!!」

 

見てはいけない、あれは、そんなんじゃない。

 

そんなモノを俺は望んじゃいない。

 

冗談じゃない。そんな訳がない。

 

 

俺は、俺は、俺は―――――

 

 

 

 

「奇遇だねぇ、俺も『エミヤシロウ』ってんだ。ヒヒヒ!」

 

 

ふざけるな、フザケルナ!!!違う、違う違う違う違う違う――――

 

 

俺は理想に裏切られ。自分で望んで、自分を踏み台にして、自分を蔑にして、自分で冒し、自分で償い、自分で―――――

 

 

何で逃げているんだ?

 

 

解らない、判らない、分からない

 

 

何で逃げているんだ俺は!?

 

 

どうしてだ、意味が解らない、訳が分からない。

 

 

 

 

 

 

俺は正義の味方(エミヤシロウ)で、

 

 

 

それで―――――――

 

 

 

――――アイツは何だ?

 

 

 

 

アイツは何の衛宮士郎だと言うんだ?

 

 

 

 

世界と契約した衛宮士郎なら間違いなくそれは俺(英霊エミヤ)な筈だ。

 

そうでなくてはおかしい。

 

 

矛盾する、破綻する、崩壊する、まるで今まで積み上げてきたものが砂上のごとく崩れていく。

 

 

もうたくさんだ、

 

 

 

 

だから、

 

 

 

 

 

 

 

だから―――――

 

 

 

 

 

 

「なーんだよ。オレ(お前)。んなしけたこと言ってるとぶち殺すぞ?」

 

 

 

後ろから届くこの世全ての悪意を詰め込んだかのような悪意。

 

 

地獄の業火を生み出すような呪詛の気配。

 

 

ああああああああ!!!!思い出した

 

 

 

 

忘れるわけがない。

 

 

これは地獄に落ちても忘れない、忘れるわけがない、忘れてはいけない。

 

 

『衛宮士郎』が『生まれた』その時の情景がフラッシュバックする。

 

 

黒い太陽、燃え盛る街並み、死せる地獄の光景

 

 

 

 

 

この世全ての悪(アンリ・マユ)

 

 

 

 

なんで、何で、ナンデ!!!!?

 

 

 

何で俺(アイツ)がアレなんだ!!

 

 

何でアイツ(俺)がアレなんだ!!

 

 

違うだろ、違うだろ、違うだろ!!

 

 

あの出来事があったから、俺は誰かを救おうと

 

 

 

「「そうだ、だから俺は救ったさ」」

 

 

 

「900を救って100を切り捨てた」「100を殺したら900が報われた」

 

 

「この身は」「誰か(他者)の為になることなんざ飽きるほど犯った」

 

 

「それが」「破綻してることなんざ百も承知だったさ」

 

 

「死せる運命にあった」「100人に裏切られた」

 

 

「味方した」「奴なんて、そもそもいたのかよ?」

 

 

「世界と」「無理矢理契約させられ、用が済むなり拷問処刑だ、―――いや、呪術で名前も剥ぎ取られた。故に無銘さ」

 

 

「知ら」「ねぇ訳ないだろう?何せ俺も」

 

 

「違」「わねぇよ、俺は」「俺が」

 

 

 

 

 

「エミヤシロウなんだから」

 

 

 

 

 

ぐらり、とバランスが崩れてとうとうその場に膝をついてしまう。

 

 

ダメだ。英霊エミヤはこのエミヤシロウに勝利することは出来ない。

 

否、殺すことは出来ても、そんな事をしてみろ。

 

 

 

 

その時こそ英霊エミヤは世界を敵に回した大罪人として守護者より救いのない檻に囚われる。

 

 

やはり殺すしかないのか?

 

 

それが桜(マスター)を悲しませる結末になろうとも、己が欲望を、願望を、悲願を達する為に

 

 

 

衛宮士郎をこの手で葬り去ることしかできないと言うのか。

 

 

 

「なあオレ(お前)、テメーの望みは何なんだ?俺は――――――」

 

 

 

擦り切れた記憶の中で誰かがささやく

 

 

 

 

 

『喜べ少年、君の願いは―――――』

 

 

 

 

 

 

 

「恒久的世界平和なんだけどよ?」

 

 

それはエミヤシロウが英霊の座から消えるもう一つの手段。

 

 

邪悪な笑みでアイツ(俺)は言い放った。

 

 

 





書いておいて何ですが、私もアーチャーファンです。
だからこそこんなアーチャーを書いてみたかった。
あれ?ファンならこんな酷い姿書かないって?
カッコいいアーチャーを虐めるとゾクゾクしちゃうくらい大好きです。
嘘です、ごめんなさい。でも書きたかったので。


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嘘11話

 

 

それは見るも無残な只一人の身の地獄

 

 

「待ってくれ、俺じゃない!」

 

 

民衆は男の叫びを聞き入れようとしない。

 

 

『お前のせいだ、お前さえいなければこんな結果にならなかった。』

 

「違う!違うんだ、そんなこと俺はしちゃいない!!」

 

そう、彼は悪行など行ったことは只の1度もない。

 

 

 

 

罪、罪、罪、罪、罪――――

 

 

 

おおよそ人の手による罪全てを男は被せられる。

 

 

 

『その罪人に指は不要』

 

 

足も含めその全ての指を失う男。

 

最後の親指を削いだのは何処かで見た親しかった筈のダレカ。

 

 

『世を見る眼は一つで事足りる』

 

 

方目を失っても男は死ぬことを許されない。

 

 

「■■■■■■■ッ!!!■■■■■■■■ーーー!!!!」

 

 

 

『―――その舌は不要』

 

 

 

舌を抜かれ、最早弁明も弁解も許されない。

 

 

 

『憎い、憎い、憎い、憎い、憎い』

 

 

 

体を縛りつけられまた一つ、また一つと罪状が体に彫り込まれていく。

 

 

顔に胴に、背に、腕に、足に、魂に。

 

 

『お前みたいなやつのことを言うんだよ、アンリ・マユって』

 

 

そんな訳ない。

 

こいつはいつだって他人を救うことだけを考えて、何の恩賞も何の感謝も何の褒賞も、一切を受け取らず、人助け自体が報酬として生きてきたんだ。

 

 

なのに『この世全ての悪』なんて呼ばれていいはずがない。そう、言うなれば差し詰め『正義の味方』だろう。

 

 

 

 

あれ、……じゃあ、アイツの『本名』って何なんだろう?

 

 

 

 

 

場面は変わって何処かの災害地。

 

最早絶望的なまでの地獄の業火は、彼を貶めていた人々を容赦なく焼き殺そうとしている。

 

 

これは覆すことなどできない運命、死せる運命が確定づけられた絶対の事実。

 

正義の味方でもいれば、英雄でもいればそんな運命を打ち破る奇跡でも起こすことができただろうが、そんな人物は居ない。

 

 

居たとしても、彼らはそんな人物を陥れ、偽り、騙し、欺き、罪なき正義に悪を着せてしまったんだ。助かる道理など何もない。

 

 

 

 

死せる運命の100人をが彼を引きずりだす。

 

 

『世界よ――――』

 

 

 

「―――――(ヤメロ)!!!」

 

指を削がれ、舌を抜かれ、方目を抉られ、罪状を彫られた男が、叫びにならない叫びを上げる。

 

 

 

『――――契約しよう、』

 

 

「(ヤメテくれっ!!!!)」

 

 

 

 

 

 

『此の者の死後を預ける。その報酬をここに、我らが貰い受けたい。』

 

 

 

 

『(ヤメロオォォォオオオオオオオオオオーーーーーーーーーー!!!!!)』

 

 

 

 

彼らは助かった。罪人の死後を世界に売り渡し、奇跡を犯した。

 

 

彼の死後は守護者として縛られ、抜け出すことのできない永遠の牢獄へと囚われてしまった。

 

 

 

なのに、その果てに遭ったものが、剣の丘の処刑場。

 

 

 

 

 

「体は剣で出来ている

 

    ただの一度も罪はなく……ただの一度も正義は無し。

 

この世界は――――不滅の剣で満ちていた」

 

 

 

 

 

 

 

「――――最悪の朝だわ………」

 

アイツの過去なんて見るんじゃなかった。元から見る気なんてなかったわけだけれど。

 

サーヴァントとマスターは契約で魔力供給ラインが繋がっている。

 

 

その関係で、サーヴァントの過去を夢の中で見てしまうことがある、と言うのは聞いたことはあったけど……納得。

 

綺礼がどうしてそんなことを教えてくれたのか、僅かに疑問だったけど――――やってくれるじゃないの。

 

 

正義の味方はバットエンドで幕を閉じました……

 

 

最悪じゃない、そんな結末があっていいはずないのに。

 

努力して努力して、成果を上げた者が報われないなんて在っちゃいけない。

 

 

そいつは、その功績に見合う位幸せにならなきゃいけないのに、受けた仕打ちはよりにもよってこの世全ての罪状による処刑とは……

 

 

「だから、アンリ・マユ(この世全ての悪)か……」

 

 

今のアイツからは想像もできない善人ぶりじゃないの。あんなに笑って、はしゃいで、邪悪で――――

 

 

でも、確かにあんな風に裏切られ迫害されたら人間壊れてしまうだろう。

 

 

あそこまでニンゲンに『悪であれ』とされたら、本当に邪神だって作れてしまうだろう。

 

そんな奴だ、だからこそ人間をあそこまで躊躇なく殺せるのも頷ける。

 

むしろ復讐心を抱かない方がどうかしている。

 

 

だから復讐者(アヴェンジャー)なのだろうか?

 

 

 

「アヴェンジャー、居る?」

 

 

 

 

 

……………

 

 

 

返事がない。――――てぇえ!??

 

 

 

「アヴェンジャー!!?」

 

 

居ない?まさかアイツ、勝手に家を離れて何処かに出かけたというのか。

 

拙い。アイツ基本スペックが低いくせにやけに交戦を好む自殺志願者宜しくな奴だから、きっとサーヴァントを探しに行ったに違いない。

 

 

時刻は丁度7時、何だか嫌な予感がする。

 

 

昨日の晩に、昼間の交戦は余程人気のない場所以外は御法度だと教え込んでいたが、それが反って裏目に出たか。

 

あの馬鹿は小学生並みの感性しか持ってない、押すなと言われたボタンは是が非でも押してしまう夜となのか?

 

 

なんにせよ、今からでも遅くない。否、手遅れかもしれないが一先ず、あいつを私の下へと呼び戻さなければならない。

 

 

『アヴェンジャー!!!あんた今どこにいるわけ?』

 

 

そう、令呪と契約で繋がった魔術ラインを通して怒鳴りつけてみると。

 

 

『ヒャハハハハハハ!!!!サイッコウダゼェエエエエエ!!!!そうだよそうだよ!!!それでこそ俺だ!!ぶち殺してみろよこの俺を!ヒヒヒ、投影開始ィィイ(トレースオォォオン)!!』

 

 

最ッ高にハイな状態で戦っているらしい――――

 

 

 

 

 

 

『アヴェンジャー!!!』

 

 

『あ゛あ?んだよ、ひんぬー。人の楽しみ邪魔すんじゃねーよ、露出放置プレイさせっぞ?』

 

 

 

 





とある日常系の裏側でした。


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嘘12話

 

 

「ねえセイバー?あなたは聖杯に何を望むの?」

 

 

白い少女は無邪気に笑う。

 

 

「私が聖杯に託す願いは王の選定をやり直し、私でない王を選び直すことです。」

 

 

「ふぅん。」

 

 

私との会話を楽しんでいるのだろうか。分からないが、マスターであるイリヤスフィールはいつも他愛のない話を振ってくる。

 

 

 

「前は違う願いだったのに、何で?」

 

 

そして、何時も私を糾弾する言葉を笑みの目で語り追い詰めてくる。

 

 

「それ…は……」

 

果たしてこれ以上を口にしていいのだろうか。

 

 

 

「くすくす、何か隠し事かなぁセイバー?」

 

首を傾げ私を見上げるように覗きこんでくるイリヤスフィール。

 

 

本当に私で良かったのだろうか?

 

経緯はどうあれ、私はアインツベルンにとって目の前にあった最上の悲願をこの手で破壊した咎人だ。

 

なのに、何故またしてもこの私を呼び出す気になったのだろうか?

 

 

 

「ねえセイバー?私ね、すっごく殺したい人がいるの。」

 

 

ドクン、とひときは高く胸を打ちつける心の鼓動。

 

 

 

―――それは私ですか?―――

 

 

 

聞くことが怖い。

 

 

アイリスフィールを護りきることが出来なかった。

 

彼女の母を死に至らしめてしまった。

 

 

私のせいで、

 

聖杯を掴むことが出来なかった。

 

 

そう言いたいのだろうか?

 

 

召喚されてすぐにイリヤスフィールから聞いた。

 

 

 

衛宮切嗣は5年前に死んだ。

 

 

 

何でも聖杯戦争の後に戦いの後遺症か、魔術師としても人としても衰弱し息を引き取ったと聞かされた。

 

 

ならば裏切り者と定めるのは残るはこの私だ。

 

彼女たちの目的、失われた魔法を取り戻すことだけに1千年を費やす妄執は死者(英霊)すら憎悪の対象としているのだろうか。

 

 

「―――それは………?」

 

 

口の中がからからと渇く感覚に襲われ、上手く言葉を紡ぐことさえできない。

 

彼女の赤い瞳がとてもコワイ。

 

ああ、ヤメテくれ。ソンナウレシソウナメデワタシヲミナイデクレ。

 

 

イリヤスフィールが自然にわたしの目の前まで近寄ってきて、その距離は既に鼻先がぶつかる寸前まで来ている。

 

 

カチカチと上手くかみ合わない歯が堪らなく鬱陶しい。

 

腕にも足にも、心にも力が入らない。

 

 

「あ………わ………しは……」

 

 

「ふふ、怖がらなくても大丈夫よ。――――衛宮、殺して欲しいのはお兄ちゃんよ。」

 

 

「エミ……ヤ?」

 

衛宮――――?

 

 

衛宮

 

 

衛宮

 

 

途端、それまでの恐怖が一転して憎悪の感情が津波のように押し寄せる。

 

衛宮

 

そうだ、彼のせいだ。

 

衛宮!

 

あの男がわたしの最後の希望をぶち壊した。

 

衛宮!!!

 

あの男のせいで!!!

 

 

「衛宮!!!」

 

 

溜まらず、ここに居ない人物に怒鳴りつけてしまう。

 

 

「そうよセイバー。裏切り者は皆みんなみーんな殺さなくっちゃね。」

 

 

雪の少女は無邪気に私の前で踊るように両手を広げて廻る。

 

 

「その為に私はあなたを呼んだのよ、セイバー。」

 

 

「解りました、相手が衛宮を名乗るのなら私もいっさいの容赦はしません。」

 

 

そうだ、前回の戦いは私にも問題があった。

 

 

なにが高潔な騎士王だ。

 

誉れある戦いだ。

 

なにが英霊だ。

 

 

私の目的はなんだ?

 

私の犯した罪を思い出せ。

 

ランスロットとの最後の戦いのとき、私に何の誉れがあったというのか。

 

完璧な王を貫いた果てにあったのが臣下の憎悪なら、完璧でなくていい。

 

誉れに拘り悲劇を見るなら、これもいらない。只々その身を剣とし心を無機質に貶そうではないか。

 

 

 

 

『騎士に世界は救えない。』

 

 

 

 

救えないなら騎士である必要は何処にもない。此の身はブリテンに捧げる救国の隷属。

 

ならば高潔も完璧も崇高も誉も名誉も名声も品格も気高さも誇りも栄華も正道も王道も―――― 一切合財必要ない。

 

 

あの魔術師殺しをして目前まで至ることが出来たのだ。

 

業腹だが、彼の行動指針に私が賛同していれば、余計な私情を挿まずに効率を求めれば結果は良くなっていた筈だ。

 

騎士道を貫こうとしたが故にあんな無様を晒したんだ。

 

 

ならば、これより私が歩む道は

 

 

 

 

「例えこの世全ての悪を担おうとも―――構いません。それで聖杯を手にすることができるのなら、私は喜んで引き受けます。」

 

 

 

 

聖杯戦争を勝ち抜くのに嘗て聞いたこの言葉を放つことはある意味必然だったのだろう。

 

 

そこまでしなければ勝ち残れない。

 

そこまでしてもなお足りない。

 

 

万策を用いて敵を最短で、最速で追いやって初めて勝機を見出すことができるこの戦い。

 

他の英霊とは違い前回の聖杯戦争に参加し、その記録を残してしまっているが、慎重に動いていけば何とかなる筈だ。

 

 

御三家のうちの残る二家にももしかしたら前回の私の顔を知る者が参加するかもしれない。

 

 

そうなったときには真っ先に殲滅する対象は間桐、遠坂、―――――そして衛宮だ。

 

 

真名がばれているのならそれでもよし、その時は存分に以前とは違う私を見せつけ翻弄させるまで。

 

 

幸いにも今度のマスターであるイリヤスフィールは切嗣など比べようもない程に膨大な魔力を持った守り手だ。

 

聖剣の真名解放も五回は行えると見ていいだろう。

 

 

「やる気は十分ね、セイバー。じゃあ、早速挨拶に行きましょう。まずはお兄ちゃんが怯え慄き命ごいするまで追い詰めましょう。」

 

 

「いきなりですね。衛宮を名乗る以上油断は禁物ですが、復讐のあいさつはトドメを刺すときになってしまいますよ?」

 

 

 

「構わないわ。許す気も勝たせる気も負ける気だって、これっぽちもないもの。さあ、行きましょう。こんどこそ私たちの願いを叶えるために。」

 

 

 





騎士道を捨てた騎士王。
そこに華は無く、積み上げた屍の山で奇跡の杯に血濡れの手を延ばす。


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嘘13話

\お巡りさん私です/
士郎君を悟り開眼させました(笑)


 

 

「それじゃあお兄ちゃん。この魔法陣の上に乗ってちょうだい。」

 

 

キャスターちゃんの言うとおりに土蔵の中の一角に描かれた魔法陣の上に乗り、魔術回路のスイッチを作るために瞑想を始める。

 

 

「こうでいいのか?」

 

 

腰をおろし座禅を組む姿勢になりキャスターちゃんと向き合う形になっているこの状況。

 

密室で形だけとはいえ『お兄ちゃん』と呼んでくれる義妹的な存在と至近距離でいる状況は、後輩の桜と一緒にいるときよりも落ちつかない。

 

 

簡潔に表現するなら一人の少女を意識してしまっているということだ。

 

 

「そう、それでいいわ。次に魔術回路のスイッチをいつも通りの工程で組み上げて。それを基盤に固定するから、何時もより慎重に、お兄ちゃんがより完璧だと思う出来栄えのものにしてちょうだい。」

 

 

「うぅ、簡単に言ってくれるな……」

 

 

キャスターちゃんの教育はスパルタに感じるけど、こんなのは魔術師が、魔術師としての人生において一番初めに行うべき事柄だと言うんだ。

 

つまり、今までの俺は魔術師ですらなかったという訳だ。

 

 

だったら、今からでも遅くない、衛宮士郎は魔術師にならねばならない。

 

黙々と頭の中でトリガーワードの先にある、手の届きそうで届かない、誰も知らない秘密の位置に手を伸ばす。

 

 

体がギリギリと引き伸ばされるような、引き千切られそうな錯覚。

 

 

 

 

背中から液体窒素を流し込まれたかのような感覚。

 

 

 

「来たわね。」

 

 

 

ガチリ、ガチリと歯車が咬み合うように起動スイッチが組みあがっていく。

 

 

と、

 

 

 

キャスターちゃんがオレが座っている魔法陣の中に入ってきて顔を近づけてくる。

 

 

「落ちついて、緊張しなくても大丈夫。」

 

 

大丈夫な訳ない。

 

 

一定のリズムで脈動していた心臓の鼓動が一気に跳ね上がる。

 

ダメだ、落ちつけ、意識が乱れれば起動スイッチは不完全なものとなってしまう。

 

 

沈まれ、沈まれ!!

 

 

「……っん…」

 

 

キャスターちゃんがローブを脱いで紫のワンピース一枚の状態になる。

 

 

か細い腕、白く艶やか肌、幼いながらも膨らみは自己主張をするふくよかな胸、折れそうな腰。

 

 

「いくわよ…」

 

 

キャスターちゃんが俺の首の後ろに手を廻し絡めてくる。

 

 

「キャスター、ちゃん――――」

 

 

少女の匂いが、迫ってくる。

 

汗臭い俺なんかとは違う、幼く、可憐で、甘く、誘惑的で、妖艶で、その全てに存在を奪われるような錯覚に陥りそうで。

 

 

 

「―――んんっ……」

 

 

彼女と二度目のキスは、今度は俺のために。

 

 

 

 

キャスターちゃんの唇と俺の唇が強く重なり合う。

 

 

見れば彼女も相当恥ずかしかったのか、顔を真っ赤に染め上げていた。

 

考えて見れば当然じゃないか。

 

 

出会ってからまだ10数時間程度しか経っていない男と、恋色沙汰でもない状況でキスなんてしているんだ。

 

普通の女の子でも嫌がるだろうし、サーヴァントとはいえ、こんな幼い少女が何の感情もない筈がないじゃないか。

 

 

なのに、未だ背徳感が劣情の波と共に押し寄せている俺のはいきり立ったままだ。

 

 

 

それがどれだけの背徳か知るが故の感慨。

 

花も恥じらうという言葉があるなら、それを摘み取り己が剣山のさしものにして一輪を散らすが如く。

 

 

 

衝動に駆られる。

 

衝撃が迫る。

 

最早猩々か猿(ましら)にでも落ちてしまいたい欲求。

 

 

 

目も前の少女を小――――――

 

 

 

 

「ぐ―――あがぁあっ!!!!――――■■■!!!!」

 

 

体中の、隅々が針か何かでこじ開けれれる様な感覚に襲われる。

 

 

ナニガ起こってる!!?

 

 

落ちつけ、呼吸を乱すな。

 

視界が判別できないほどに点滅を繰り返す。

 

 

白から赤へ、そして暗転、

 

途端に全身を内から焦がすような痺れが襲う。

 

 

「そう、呼吸を整えて!気を抜かないで、丹田に力を込めて。普段使用していた固魔術回路の固定化と同時に、あなたの普段使われていなかった回路が起動し始めたみたい。」

 

 

普段使われていないかった回路?

 

普段は脊髄の一本を通して襲いかかる悪寒や熱気が今は全身を駆け巡っているのはその為か。

 

「……一体、なん……」

 

 

何本あるんだ?俺の魔術回路は?

 

 

「待って、――――27本よ。…一代の資質にしたら破格の総数だわ。」

 

それがすごいことなのかどうなのかは自分ではわからない所だったけど、キャスターちゃんがそう評価するなら凄いことなのだろう。

 

勿論一代に限っての話だろうけど。

 

 

「ぐ、……この痛みと痺れは一体いつまで続くんだ…?」

 

「あわてないで、自分のイメージする起動スイッチを思い浮かべて、ゆっくり、ゆっくり。」

 

 

そう言いながら尚もキャスターちゃんは俺を正面から抱きしめ、まるで飯事で我が子をあやす母役のように優しく頭を撫でてくれる。

 

丁度俺の顔にキャスターちゃんの胸が当たる位置にあり、幼いながらも確かな膨らみは人の体の心地よさにおける史上にして至宝とも感じる張りと柔らかさを一枚の布越しに主張し、僅かに感触の違う頂点に鼻先が触れる興奮に、最早ツナギのホックが壊れてしまうのではないかと心配しなければならないレベルだ。

 

このままじゃ彼女を、彼女のことを襲ってしまう。

 

何の冗談だ衛宮士郎。

 

俺はいつからそんな少女に欲情し、恋愛対象としてみるようになったと言うんだ。

 

か弱く、可憐な少女こそ衛宮士郎が命を賭して守り抜きたい人々の一つなんじゃないか。

 

俺は美少女の笑顔が見れればそれで満足なんだ。そこに喜びはあれど悦びが在っちゃ―――

 

 

 

「想像開始(トレースオン)」

 

 

心頭滅却心頭滅却色即是空色即是空空即是色色即是空色即是空空即是色空即是色煩悩退散煩悩退散煩悩即菩提煩悩即菩提煩悩即菩提!!!!!!

 

頭の中をただひたすら虚無にし、洗い流すが如く清めの言葉を氾濁させる。

 

 

まずはトリガーを構築しろ――――起動トリガーは……撃鉄のように強固な鉄鐘が落ちるようにガキリ、でもゴギリ、でもなくガリチと歯車がかみ合うように

 

 

体の中を駆け巡る魔力、さながら血管の中をサーキットレースが行われているみたいでガリガリ五月蠅い。

 

「ふう、一先ず午前中は体を休めていてちょうだい。……うん、ちゃんとパスも開いたし、やっぱり供給魔力は少ないけど、さっきよりは大分楽になったわ。これなら簡単な魔道具と工房を作成するくらいは可能だわ。」

 

 

「そっ、…か。っう!」

 

「安静にしてて、お兄ちゃん」

 

 

そう言って視界のおぼつかない俺の体をキャスターちゃんは静かに横に倒し、一緒に座りながら俺の頭をその膝に乗せてきた。

 

所謂膝枕という奴だ。

 

 

 

 

…勘弁してくれ、休めそうにない。

 

 

 





セウト!!!
雪さんを嫁にしてキャスターを娘にしよう。


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嘘14話

日常パートってむずいね。
後半は決して病んでません。
むしろ恋する乙女はこれがデフォルトだろう?


 

 

「よう遠坂、遅刻ギリギリなんて珍しいじゃん。」

 

 

遠坂たるもの常に優雅であれ。

 

ごめんなさいお父様。聖杯戦勝序盤で早くも余裕がありません。

 

 

そして美綴り、あんたはそんなに私が息絶え絶えで登校してきたことが嬉しいの?

 

その満面の笑みと今の私が無くしてしまった優雅さを寄越しなさい。

 

 

「ええ、今日は朝から知人が訪ねてきていたので…私も会話を楽しんでいる内に時間を忘れてしまったの。」

 

 

何とか取り繕ったぎこちない表情で無理矢理いつものキャラを演出する。

 

 

「ぶっははっ、いいっていいって。そんな肩で息してるような状態で無理な余裕顔見せられたって、違和感しかないよ。」

 

 

ぐぅ、……なんだかものすごく負けた気分だ。

 

 

それもこれも全部アヴェンジャーのせいだ。

 

強引に令呪で強制送還させようとしたら『そいつは勘弁だ。今令呪を使われるのはまじぃ。』とか言ってあっさりと聞き入れてしまった。

 

その割に戻ってくるのはめちゃくちゃ遅いし。

 

 

なにをしていたのかと聞けば『ん?コンビニでおでん喰ってた』しかも私の財布からお金を拝借していた始末。

 

 

 

ふ・ざ・け・ん・な!!!

 

 

 

あの不審者全開の姿であんたはコンビニに入ったのか、そして私のお金を使ったのか!!

 

アイツの思考回路は、いけないことはとりあえずやってみようかと考える中学生のチンピラか?

 

 

「まったく、間桐兄はいつも通りのサボりかと思えば妹の方はやけに挙動不審。皆勤賞バカの衛宮は欠席、でお次は息絶え絶えの遠坂なんて、今日はなんかイベントでもあるの?」

 

「え?」

 

枯れたとはいえ、聖杯戦争システムの最重要、根幹となる術式気盤を作り上げた間桐君は巻き込まれないようにするために籠城するのは何となく予想していた。

 

もしも外来のマスターが聖杯戦争に大胆かつ最も容赦のない形で介入してくるとすれば、一番手っ取り早いのが間桐への襲撃だと推測できる。

 

現在の間桐にいる正統な魔術師は老獪の間桐臓硯只一人。

 

いくら年齢不詳の何十年という歳月を積み重ねた魔術師だろうと街中でサーヴァントに襲われたらひとたまりもないだろう。

 

籠城策に出るのはある程度予想していた。

 

だけど、聞き捨てなら無い一言が確かに聞こえた。

 

桜が学校に来ている?

 

どういうことだ?

 

養子とはいえ間桐を名乗る以上、あの馬鹿(慎二)が強引に当主を名乗っているとしても桜には危険が付きまとう時期だ。

 

それをまるで合戦前の平野に放り出すようなマネをするなんて魔術師の家系でもしない筈。

 

 

学校にくる。

 

 

それだけで登下校間に危険は付きまとう。

 

増して日が落ちるのが早い冬のこの季節、学校が終わるころには辺りも夕闇に包まれると言うのに。

 

 

 

 

衛宮士郎、たしかそいつの家にしょっちゅう上がり込んで献身的に押し掛け妻宜しくしているという話は聞いたことがある。

 

ならば今聞いた挙動不審という言葉も納得しただろう。

 

だけど、それは遅れてでもその衛宮君が学校に来ていればの話だ。

 

当の本人が学校に来ていないのに、何故間桐桜は学校にくる必要があるのか?

 

解らない、…が、推測できないわけじゃない。

 

 

 

 

昼休みになり屋上へ出向き霊体化しているアヴェンジャーに声をかける。

 

 

「ああ?なんだよ凛たん?あ、もしかしてその弁当くれんの?ひゅー、とうとう凛たんの弁当をこの足で踏みつけることができるとか、マジついてるね。」

 

 

やらんわボケぇ!!

 

しかも食べるんじゃなくて踏みつけるのか。つくづく救えない外道サーヴァントだ。

 

 

「ちょっと調べたいことがあるの。」

 

「へぇ、そいつはまた物騒な話題だな。んで、お駄賃は?」

 

 

「今朝のおでん代でチャラにしてあげる。」

 

「ちぇっ、踏み倒してやろうかね?」

 

 

「殺すわよ」

 

 

「へいへい、凶暴なマスターは頼りになるなぁ。」

 

 

まったく、こいつはいちいち漫才のようなやり取りをしなければ会話が出来ないのか?

 

 

「間桐の家の周辺を調べてちょうだい。勿論敷地にまで入る必要はないわ。500メートル圏内に使い魔やその類が居ないかどうかを調べてくるだけでいいから。」

 

「あん?何だよ気になるお年頃の凛たんはまさかこの俺を使ってすトーキングか?」

 

「ボケかますのも状況を読みなさよ。間桐って言うのはアインツベルンと同じ御三家の一角だった所よ。」

 

 

「『だった』ってこたぁ、今は違うのか?」

 

「間桐は土地の霊質が合わなかったのか、次世代に魔術師の因子を引き継ぐことが出来なかったのよ。」

 

 

「ふぅん。で?んな没落魔術師の家に何のゴヨウが?」

 

「あの家にはまだ妖怪魔術師ジジイが一人居るのよ。だから聖杯戦争の契約システムとか貴重な魔術資料が残ってるわけ。」

 

 

「成程、つまり下手に狙われるとこっちが不利になるから監視しておけってことか。ありゃ?でもそんなら俺がぶっ殺しの皆殺しにして家ごと潰しちまえばそんなめんど癖ぇ真似する必要ないじゃん?」

 

「それはこっちの事情よ、もう聖杯戦争に出ることがない間桐なんて魔術の知識があるだけで一般人と変わりないじゃない。そんな相手をあえて殺す必要なんてないわ。……心のぜい肉だけどね。」

 

 

「ひひひ、何だよ凛たん『勘違いしないでよね』みたいなセリフは吐かないのかよ?」

 

「うっさいわね!!いいからあんたは私が家に戻ったら監視を始めなさい。」

 

 

「…凛たんのニューヨクシーンを?」

 

「死ねぇっ!!」

 

 

そして人の話を聞け、このエロサーヴァントめ。

 

 

 

 

 

 

    *   *   

 

 

 

 

 

 

 

先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない

 

 

 

そうだ、先輩はロリコンなんかじゃない。

 

いつも私が起こしに行くと決まってバツが悪そうに股を抑えて、ちらっと私の胸を凝視して目を逸らすんだ。

 

 

それって私の胸に興味があるからでしょう?

 

私の体に興味があるからでしょう?

 

 

見た目が小学生の美少女に優しくするのは先輩のいつもの癖。

 

正義の味方なんだもの。

 

小さい子を護るのも立派な勤めでしょう?

 

 

確かにあの子は見た目の容姿に似合わず胸があったみたいだけれど、私の方が断然大きいもの。

 

バスト85センチのEカップは伊達じゃないんだから。

 

 

兄さんが言ってたもの、男は巨乳に憧れるって。

 

きっと先輩に限って小さい胸が好みだなんてことはないわ。

 

でも、今日はあの子のために学校を休んで二人っきりで一日を過ごすらしい。

 

 

そんなの絶対にいや。

 

 

私だってもっと先輩と一緒にいて、一緒に料理を作って一緒に宿題をやって一緒にテレビを見て一緒にお風呂とかお布団とか―――――

 

 

あの子はまだ小さいし、先輩とそんなことまで平気で出来るのだろうか?

 

うん、先輩は優しいし迫られればきっと流されちゃう。

 

 

髪が独りじゃ洗えないとか言って、一緒にお風呂に入ることも、寂しくて一人じゃ眠れないとか言って先輩のお布団の中に入ることも――――

 

 

悔しい。

 

 

それが率直な感想だ。

 

 

聖杯戦争さえ終われば、私の最後の一手さえ終われば後は何の憂いもなく先輩に告白しに行けるのに。

 

そうすれば先輩と一緒に暮らすこともできるのに。

 

 

いいや、考えが先走り過ぎてる。

 

まずは先輩の気持ちを大事にしなきゃいけない。

 

 

いきなりの急展開に先輩が心にもなく私を拒絶することだって考えられる。

 

そうよね。

 

いくら先輩が優しいからって、それに付け込むようなマネはしたくないもの。

 

まずは私がどう魅力的に自信を表現するかって言うことが重要だものね。

 

 

藤村先生が『就職担当の先生が自分をどのようにアピールして魅力的な商品として売り込むかが重要だと言う話を一日中していて疲れる』って話していたっけ。

 

そう、今まさに間桐でなくなった桜(私)にはこの状況が当てはまる。

 

 

自分をどう魅せるか。

 

先輩にどう見てもらうか。

 

 

一後輩じゃなくて、女の子として女性として異性として見てもらって、そこから私と付き合いたい、自分だけの女にしたいって思ってもらわなくちゃいけない。

 

その為には………

 

 

今日の晩御飯はメイちゃんが来たお祝にうんと御馳走を作ろう。

 

 

内助の功

 

勿論、先輩の家計に負担をかけないように工夫に工夫を重ねるのも忘れちゃいけない。

 

 

将を射んとするならまず馬から

 

メイちゃんに私という存在がどれ程先輩に必要なのか、それを認識させなくちゃいけない。

 

 

まさに一石二鳥

 

家庭的な女の子らしさで、それでいて密かに先輩の味を越えている料理を振舞うことで心をわしづかみにしちゃおう。

 

 

 

 

 

「ようよう、巨ぬーのじょーちゃん。間桐ってヤツの家は何処だかしらね?しらばっくれると乳挟むぜ?」

 

 

いきなり後ろから聞き慣れた声で、絶対に聴かないセリフを聞いた。

 

 





アヴェさんの本日のお買いもの。
おでん均一70円セール。
大根、卵、はんぺん、つみれ、ガンモ、ちくわ。=420円
ロングTシャツ=340円
ファンデーション×2=1800円
ヘアスプレー=950円
計=3510円


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嘘15話

名探偵美綴、そしてカリオストロを見て触発された。
「今ここに俺が来なかったか!?」
「馬鹿野郎!そいつがルパンだ!!」


 

 

振り返るとそこに人はおらず、間桐桜は不思議そうに首をかしげた。

 

あれ?確かに先輩の声で話しかけれられた筈。

 

言葉の内容こそ下品下劣極まりなく、絶対にあの心優しき先輩こと衛宮士郎が吐かない台詞だ。

 

しかし、目の前にはいつもと変わらぬ殺風景な校舎と影を落とす夕暮れのみ。

 

人影もまばらな下校風景に、声の主と思しき人物は影も形もない。

 

 

聞き違いだろうか? うん、きっとそうだ。

 

昨日と今朝の一件で少し疲れているのかもしれない。

 

それに丁度先輩のことを考えていたところだ。

 

不安と願望がごっちゃになって、あんなあらぬ声を風鳥の過ぎ様に聞き違えただけだろう。

 

 

そんなことよりも買い出しに行こう。

 

早めに準備しに行かないと、先輩が先に夕飯を作り始めてしまうかもしれない。

 

そうなってはせっかくの思い立った計画が台無しだ。

 

 

少々小走りになりながら間桐桜は学校を後にしていった。

 

 

 

 

 

   *  *  

 

 

 

 

「っぶねー。本人に遭っちまうとこだったぜ……」

 

 

失敗失敗。

 

チョイ後姿からでもわかる巨乳女子高生に淫行ついでに道を聞こうとしたら、まさかサクラだとは思わなかったぜ。

 

おいおい、生前の俺には巨ぬー=桜って方程式は無かったのかよ?なあ、アーチャー?

 

せっかく現界したまま怪しまれずに活動できるようにメイクで顔の刺青消して髪も目立ち過ぎないヘアカラースプレーで色変えて、おまけにTシャツまで買ったんだぜ?

 

ズボンはそこいらの学生から剥いだけどな。

 

見た目いかにも衛宮士郎!だけど極悪につき悪行を行います、みたいな?

 

しっかしどうするかね?間桐の家なんて覚えちゃいないし。かといって凛たんに『道わかんねぇ』というのもダリィ。

 

大体、凛たんまだこの町のこと全然教えてくれてないもんな。

 

変なところが抜けてるのは覚えてたけど、こいつはちょいとうっかりが過ぎるぜ?

 

しゃーないけど、こんな草むらに居ても道は訊けねぇし、一旦ここは霊体化して桜をすトーキングしながら視姦でもするかな。

 

 

「ん?衛宮?あんた今日休みじゃなかったっけ?」

 

 

何か草むらにいたら活発そうな女子に見つかっちまったよ。

 

完全にタイミングのがしたな、こりゃ幸運低いぜ俺、きっとEは確実に逝ってるな。

 

 

 

-SIDE REVERSE『美綴』-

 

 

 

「ん?衛宮?あんた今日休みじゃなかったっけ?」

 

 

何でアイツは出歯亀みたいな素振りで草むらに潜り込んでるんだ?

 

何となく見つけた衛宮に声をかける。

 

すると

 

 

「あ~、いやなんて言えばいいのかね?……ほら、ああ、そう。制服!制服なくしちまってさ。」

 

 

見れば衛宮の服装は制服の上着を着ていない、ロングTシャツ1枚の姿だ。

 

「制服って、あんた学校でなくしたの?」

 

「そ、おっかしぃな~。どっかで作業したときに置き忘れちまったみたいでさ。」

 

確かに、こいつはいつもどっかで修理やら雑用やら一人で引き受けているからな。

 

弓道部を止めてからさらに拍車がかかったみたいで、ここのところ毎日色んなところに出没してはブラウニーやってたから。

 

成程、そんなに方々飛びまわってちゃ制服を何処に置いたか分からなくなってしまうのもうなずける。

 

 

「にしては何だかノリノリじゃん。いつも以上にテンション高そうに見えるぞ?」

 

「なに、普段は自分に関係ないことやってて、久しぶりの自分用事だ。そう考えればちょっと可笑しくなっちまってな?」

 

 

衛宮にしてはえらくまっとうな思考だ。

 

失礼ながらもそう思わずにはいられない。

 

 

「で?そんな草むら探してたの?一日中学校サボって探し回っても見つからないとは大変ね。」

 

「…一日中?」

 

「何で疑問形になるのさ?今日授業出てないでしょ?」

 

「あ、――――ああーはいはい。そういやさぼっちまってたな。そっかそっか、もうそんな時間か。」

 

「衛宮。集中して取り組むのも程々にしておきなよ?」

 

 

こいつは何かに集中すると周りが見えなくなるというか、馬鹿みたいな一心不乱に陥ることがある。

 

弓道のときだって、射る瞬間はまるで無我の境地にいたってるくらいだし。

 

 

「気をつけるさ。んじゃな。」

 

 

そう言って手をひらひらさせながら衛宮は校舎の方へ向かって歩いて行ってしまった。

 

何かいつもとイメージが違うな。

 

口元はやたらニヤニヤしてたし、そう。慎二を相手にしてる気分だ。

 

衛宮はよくつるんでたから感化されたのだろうか?

 

 

「程々にしておきなよ?」

 

 

そう背中に声をかけ、私も下校することにした。

 

近頃、若い女性の誘拐事件も近場で起きてるから他の学生も部活は中止だし、大人しく帰るとしよう。

 

 

 

 

 

 

そう思いつつ、商店街を横切ろうとしてドッペルに遭遇………

 

 

「銭形とルパンの駆け引きってこんな感じだっけ?」

 

「何の話だ?美綴?」

 

 

買い物袋を引っ提げて間桐妹と見知らぬ少女に挟まれながら歩く衛宮にばったりと出会う。

 

 

「や、あんたさっき学校にいたじゃん。もう制服見つかったの?」

 

「?何の話だ??俺は今日一日学校に行ってないぞ?まあ、あんまり自慢できるような話でもないとは思うけど……」

 

「は?」

 

 

衛宮の雰囲気は、うん。

 

いつもの間抜けそうなお人よし顔だ。

 

 

「今ものすごく馬鹿にされてる気がしたんだけど気のせいか?」

 

 

変なとこは勘がいいのもいつも通りだ。

 

 

「ルパンってホントにいるんだ……」

 

「だから何の話だって。」

 

「学校で制服の上着無くしたあんたと会ったんだって。ちょっと……何時もより不真面目さ3割増しくらいの。」

 

「まってください美綴先輩。不真面目さ三割増しの先輩って、それじゃあ先輩じゃありません。」

 

 

…確かに、間桐にそう言われてみれば、そんなのは衛宮じゃない気がする。

 

白昼夢だったのかな?

 

 

「お兄ちゃん、学校にそっくりさんでもいるの?」

 

 

お兄ちゃん?

 

 

「いや、自分で言うのもなんだけど、俺に似てる男子なんてそんなにいないと思うぞ?」

 

「そう、個性的な顔の生徒がそろってるのね。」

 

「……別に俺の顔が無個性ってわけでもないと思うぞ?」

 

 

…外国美少女にお兄ちゃんと呼ばれる衛宮……

 

 

「…衛宮ってそんな性癖があったのか?」

 

「違う!誤解だ。この子はちゃんとした俺の家族だぞ。」

 

 

へえ、それはまたどこぞの隠し子から始まるギャルゲの主人公だろうか?

 

 

「全然信じてない顔だな。」

 

「まあ、いつも通りのあんたを見て安心したってところだよ。確かに、そのくらいのドン臭さでこそ衛宮だ。」

 

「……なんでさ。」

 

 

 

「ともかく、突然変なこと聞いちゃって悪かったよ。明日は登校するのかい?」

 

「それが、まだどうにも決めてなくてな。メイちゃん、この子のことなんだけど、まだ日本に来たばかりだし、家に女の子一人を置いておくのも最近何かと物騒だし。」

 

成程、確かにお人よしの衛宮なら美少女を放ってはおけないか。

 

 

「物騒なのは分かるけど、両手に花な状態で商店街歩くのも気おてけるといいよ。学校の男子が見たら明日から二つ名が変わるかもしれないし。」

 

「うっ……俺の今の二つ名って何だ?」

 

「ブラウニー。」

 

 

「…なんだかお兄ちゃんにぴったりの言葉ね。」

 

「先輩の人物像そのままのような例えですね。」

 

間桐妹まで認めているんだ、これは明日から面白くなりそうだ。

 

 

「じゃあ俺たちはもう行くけど、美綴も気をつけて帰れよ。」

 

「ああ、分かってるよ。」

 

また明日。と言いかけて今の会話を思い出しグダグダな感じで別れを告げた。

 

 

 

それにしても、私が学校で見かけた衛宮は一体何だったんだろうか?

 

 

「お!タイヤキじゃん!おっさん一つくれね?120円?タケーよ、あと20円!おっさんと俺のの素敵な笑顔に免じてここは一つどうよ?―――サンキューウ!ヒャハハ!!」

 

 

何処かでまた衛宮の声が聞こえた気がしたけど、あの二人に何か奢っているのだろう。

 

美少女のメイちゃんは育ち盛りとして、あいつは間桐の胸を何処まで成長させる気なんだろうか?

 

 

そんなくだらない想像をしながら自宅へ向かった。

 

 

 





アヴェさんのキャラ変わってね?と思う方に。
「彼はとっさの演技に必死でした」
ズボンの被害者は…一成でおk?


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嘘16話

 

 

教会の前にとあるひと組の聖杯戦争の参加者がいた。

 

一人は長身の青

 

その出で立ちは正に猛獣を思わせる、狼のようにぎらついた目を持ち、マスターと肩を並べている。

 

「それでは、私は監督役の神父に聖杯戦争の参加を伝えてきます。あなたはここで待機していてください。」

 

 

「律儀だねぇ。別にこんなしけた教会に、いちいち参加表明しに来なくてもいいんじゃねえか?」

 

「半分は私用でもあります。ここの教会の神父、つまり監督役とは知り合いでもあるので、上手くすれば何かいい情報を聞き出すこともできるかもしれませんし。」

 

「まあ、そう言うことなら仕方ねぇな。何かあったらすぐに呼べよ。」

 

「大丈夫です。そんな取って食われるようなこともありませんよ。」

 

 

受け答えているのは男装姿の女性。

 

 

バゼット・フラガ・マクレミッツ

 

 

魔術協会に所属する封印指定の執行者であり、第五次聖杯戦争においてランサーを召喚したマスター。

 

 

その胸には、嘗て対死徒戦において一時期共同戦線を張っていた言峰綺礼に僅かながら好意的な対応を期待していた。

 

言峰綺礼が何かを必死になって追い求める愚直な姿は今でも思い出せる。

 

本心こそ聞き出したことはないが、彼と語り明かした夜は鮮明な記憶として焼きついている。

 

自分はあれからさらに腕を磨き、協会から聖杯戦争への参加を命じられる程の大役を担う信頼を得るまでになった。

 

言峰綺礼はそんな聖杯戦争の監督役を務める程の立場にまでなった。

 

ならばこのめぐり合わせは、言わば運命だ。

 

そう思わずにはいられないほどバゼットは内心ときめかせ彼のいる教会の扉を開く。

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、バゼット・フラガ・マクレミッツ。このような夜更けであろうとも、ここは迷える子羊を導く場所であり―――――聖杯戦争を監督する場でもある。君のような律儀なマスターがここを訪れてくれたことに感謝しよう。」

 

「お久しぶりです。言峰綺礼。背が伸びましたね。」

 

「これも信ずる神の悪戯か、私自身も驚いたところだ。」

 

 

「第一線から遠のいたから、筋肉の矯正が緩んだのかもしれませんね。」

 

「これはまた、皮肉な物言いだな。確かに全盛期の実力には遠く及ばないだろう。」

 

どこか嬉しそうに、そして懐かしむように言峰綺礼は口元を釣り上げながら笑う。

 

まるで、当時のことがおかしくてならないと言わんばかりだ。

 

しかし、そんなことはバゼットは知らない。

 

 

「ここに来たのは登録と、サーヴァントの召喚状況の確認にあります。」

 

「それは御苦労なことだ。――――ふん。教会の霊基盤には既に7つのクラスが召喚済みとなっている。どうやら君が冬木に集いしマスターの中で最も遅くこの地にやってきたようだな。」

 

「……私が最後、ということは……アインツベルンや他のマスターも既に……」

 

「そうなるだろうな。今回の聖杯戦争は前回から10年と異例の速さでサイクルが行われている。しかし、集いし者はつつがなく召喚の儀を取り行っているということだ。」

 

その言葉にバゼットは今回の聖杯戦争の構図を予想する。

 

 

 

 

50年もの短縮期間で始まった聖杯戦争。

 

つまり、本来の期間を見越して聖遺物の探索をしているであろう御三家は十分に目当てとする聖遺物を入手しているかどうか。

 

決して楽観視はできないが、発掘能力においてその莫大な資金と権力を惜しみなく使うアインツベルンは、この状況下においても十分強力な英霊の聖遺物を手に入れている可能性がある。

 

セカンドオーナーの遠坂につては協会からの情報で聖遺物探索の動きは確認できたが、話しによれば現在聖遺物探索の依頼状は取り下げられていない……つまり、今回の聖杯戦争に御三家として参加する可能性はあっても強力な英霊の召喚は出来ていない可能性が高い。

 

間桐については、前回の聖杯戦争で魔術素養のある次代が全て亡くなってしまったと聞き及んでいる。

 

今回の参加は絶望的と見ていいだろう。

 

そうなると、外来の魔術師は私を含め5人ということになるか。

 

恐らく、今回の戦闘は速効性と機動力が鍵となる。

 

何よりも、最初に尻尾を出した方が負けになると思う輩が多数を占めると思うだろうが、ならばこその短期撃破を主軸に置いた大胆な機動力が重要だ。

 

これに乗って強力な必殺を持った各個撃破を続ければ、相手は明確な対処方法を構築する前にこちらの牙にかかる。

 

 

その為には……

 

 

「言峰神父。実は折り入ってお願いがあります。」

 

 

「ほう、君から頼み事とは珍しい。何事もたった一人でこなしていく姿が印象的だったのだが……確かに、この聖杯戦争では、そのような心情も変えざるを得ないか。」

 

「あなたを戦友と思っての頼みです。」

 

「成程、嘗て同じ視線を駆け抜けた仲だ。正に戦友と呼ぶにふさわしいだろう。私は教会の代行者として、君は協会の執行者として。立場が違えど、対立する二極の勢力も凶悪な存在の前には共に戦線を切り抜ける必要があったからな。」

 

「ええ、あの時の戦線を共に切り抜けた貴方だから頼みたいのです。言峰綺礼――――」

 

 

「――――私に協力して頂けませんか?」

 

 

言峰はしばし考え込むような姿勢をとりバゼットから背を向ける。

 

バゼットは気がつかない。

 

その口元と表情が、どうしようもなく邪悪に歪んでいることを。

 

 

 

 

 

「残念ながら、その頼みは承諾しかねる。いくら戦友とはいえ今度の聖杯戦争においては協会と教会、双方から監督役の任命を受けている。魔術協会からのみの任命であれば吝かでもなかったが、聖堂教会からは私の所属する第八秘跡会直々の通達だ。それに、私は御三家の遠坂において後見人も務めているのでな。向こうにも一切の助け伊達はしないと言ってある傍で別のマスターに肩入れをするのも義に反する。」

 

「……そう、ですか……残念ですがそこまで強い信念の下監督役を務めているのなら、これ以上は貴方の信条を害するものになってしまいますね。」

 

「こちらこそ、戦友に協力できないのは心苦しい限りだ。」

 

「――――迷惑にならなければ幸いです。…では、私はこれで失礼します。開始の宣言はこの後すぐにでも行うのですか?」

 

「そうだな。この後教会の前にある街灯が赤く光る。それが聖杯戦争開始の合図となる。くれぐれも帰りには気を付けることだな。」

 

「そちらも、外来の魔術師には貴方の姿は良く映らないかもしれません。油断しないようにしてください。」

 

「たしかに、『第一線から遠のいた身』だからな。まして、サーヴァントに狙われてはひとたまりもない。その時は監督役ながら不本意ではあるが、『参加者を頼る』かもしれないな。」

 

「クスッ、そうですか。では……」

 

 

バゼットは苦笑交じりで教会の扉を閉めて行った。

 

 

 

 

 

そう、バゼット・フラガ・マクレミッツは何事もなく教会から出て行った。

 

 

 

出ていくことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外だな。てっきり貴様は、あの女の令呪を腕から根こそぎ奪うものだと踏んでいたのだが?」

 

「物騒な物言いだな。私は神に仕える身であると同時にこの聖杯戦争における監督役だ。規律を重んじる聖職者としてそのような悪徳をする筈がなかろう。」

 

「ハッ、ほざけ。どうやらこの10年で我を甘く見始めているな。その不敬、早々に改めねば六道おも超える末路を味遭わせるぞ。」

 

「ほう、どうやら相当に貴様は『アレ』が気に障ると見た。その表情、なかなかに見物だぞ。」

 

「当然だ。あのような雑種は我が最もこの世で消すべきとしている物の最たる例だ。未だ息を引き取らせぬのも貴様の児戯に付き合っているが故だ。」

 

「そちらも掃け口として重宝しているように見えるが?―――――まあ、それは置いておこう。」

 

「ふん、―――――しかし、今度の聖杯戦争も歪なものだな、あの女に言った言葉には確かに嘘は無しか。」

 

「嘘など無い。既に7つ『以上』のクラスが現界している。」

 

「本来聖杯には7つを越える英霊の召喚は機能として備わっていない筈であろう?」

 

「確かに、凛が召喚した英霊がクラス外とするなら、霊基盤に7つのクラスを示す物の中で確実に欠番が生まれる筈だ。しかし、通常のクラスはすべて埋まっている。ならば考えられるのは―――」

 

「同時に複数クラスを召喚したか、多重クラスの召喚か、いずれにせよまっとうな輩では無いな。だが、雑種ごときがいくら集まろうが我に相対するまでもない。雑種は雑種同士で戯れさせておくとしよう。」

 

「それまで、今しばらく大人しくしているのだな、ギルガメッシュ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、お前らは魔術師とサーヴァントでいいんだよな?」

 

 

バゼットは教会を後にし拠点としている洋館へ向かう道の途中で一人の少年に声をかけられる。

 

そこから発せられたのは紛れもなく聖杯戦争に関わるフレーズ。

 

つまり

 

 

「ランサー。貴方はどうやら運がいいみたいですね。」

 

「だろう?早々に相手から誘われるなんざついてるとしか言いようがねぇからな。」

 

ランサーはそう言いながら魔槍を構える形でバゼットの前へ出る。

 

場所は住宅街の中にありながらも自然なスペースである公園。

 

丁度良く辺りに霧が出ている今は、秘匿を前提とした戦いの場にはもってこいだろう。

 

 

「行くぞバーサーカー。こいつを殺しつくせ。」

 

 

 

 

 





バゼットさんマジ主人公サイド。
そしてワカメちゃんマジイリヤ役(笑)

神父さんがバゼットさんをキラヨシカゲしなかったのは『必要がなかった』からです。


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嘘17話

 

 

金属同士がぶつかり合う、かん高い音が公園で鳴り響く。

 

 

赤い魔槍から連続して繰り出される刺突は、正面から見れば宛ら絨毯爆撃ならぬ絨毯刺突ともいえる、機関銃さながらの手数であり、その全てが確たる重みを持った必殺の杭だ。

 

また一歩、更に一歩と、青い槍兵は前に踏み込み狂戦士に赤い雨をぶつける。

 

 

しかし、狂戦士は無数の刺突の餌食となりハチの巣になるどころか、その全てを余すことなく金属音を付加させ弾き捌く。

 

獅子の洒落頭を被った、その奥に潜む紅き狂気の瞳は、最早点から閃光にしか捉えることが出来ぬ深紅の輝きを月明かりの下、火花を持ってギリギリの態勢を持って己が武装で受け止める。

 

 

「おいおい、テメェのその動き―――」

 

 

槍兵も顔を引きつらせる。

 

そう

 

槍兵は最速の英霊だ。

 

そこに最速の突きを繰り出しながら紙一重とはいえ、その全てを防ぐこの英霊は一体何なのか。

 

 

経った一本の剣を持って

 

 

 

「セイバーじゃねぇのにその技量……っ!!」

 

 

 

バーサーカーは殆どの英霊に適性の有無にかかわらず、該当資格がある。

 

 

 

だが、これほどまでに鋭く重く打ち出される、洗練された剣技を狂戦士が繰り出すことが可能なのか?

 

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 

攻撃が甘く入った一瞬を狂戦士は見逃さず一気に攻撃に転じてくる。

 

撓るように振るわれる長い腕が、体が、まるで舞うように剣を矛先に滑らせるようにして業物を封じ間合いを詰めてくる。

 

「なめんなっ!!」

 

即座に後ろに下がり、地面から砂埃を巻き上げる勢いで槍を地面すれすれの位置から突き上げる。

 

 

またしても響く金属が擦れる音

 

剣の腹を槍の柄に乗せ、そこから大道芸のように逆立ちする狂戦士の姿がある。

 

 

ありえない、

 

 

ランサーでなくても万人が口をそろえてそう言うであろう。

 

このような、しなやかな動き、理性を失った戦士が果たしてできるであろうか?

 

狂気の檻に囚われしモノがこのような静かな、繊細な動きができるであろうか?

 

 

 

そして一瞬の思考と驚愕と―――――それらが僅かの隙を生み出した瞬間

 

 

眼前にいた筈の狂戦士の姿が消える

 

 

 

 

槍の上で逆立ちでいた漆黒の戦士は、そのままの態勢で跳躍し自身の背後を獲ったのだ。

 

 

我武者羅に槍を旋回させ後ろに叩きつけるように振り下ろすと、ギンと鳴り響く防御の音叉。

 

 

何故だろうか

 

 

たった今、この刹那。

 

 

相手がどこにいるか、槍兵は気配が読めなかった。

 

 

それは狂戦士を相手取るにおいてありえない事象。

 

 

押さえきれないほどの殺意をまき散らす狂乱の気配は、こと白兵戦において己が位置を相手に教えるような、それでもなお破壊と破滅の一手を躊躇いなく繰り出す筈の英霊だ。

 

 

即座に振り返りかぶりを直すと同時に迫る剣戟の嵐。

 

長槍の間合いを殺し鍔迫るその姿は最優の器に相応しく映るほどだ。

 

 

 

 

 

「上等だ狂戦士!やっぱ俺は最高についてるぜっ!!」

 

 

そうだろう、彼が望むものは自身をギリギリの死の淵にまで追い込むような苛烈な戦い。

 

 

漆黒の外套を肩に引っ掛け剣を構える屈強な肉体の戦士は正に彼が望んだ相手と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

   *  *  

 

 

 

 

 

 

「『水門は閉じ   汚泥は身の内に』―――」

 

 

――――ゴッ!!!

 

 

バゼットは相手マスターの腹をを容赦なく硬化のルーンを刻んだグローブを身につけ時速80kmを超えるパンチを抉り込ませる。

 

 

 

それは只の人間、少年であれば内臓は軒並みつぶれ、背骨を砕き、肉を突き破りかねない威力だ。

 

 

敵マスターである少年の体がまるでゴムまりのように空中へ打ち上げられ5メートル近く弾き飛ばされる。

 

 

「…がぐぅ…っ……あ……あ゛……」

 

 

しかし少年はうめきながらも、涎を吐きながらも、ずるずると体を起こす。

 

内臓に多少ダメージはいったかもしれないが少なくとも背骨は無事と見える。

 

 

察するところによれば、攻撃が当たる瞬間に行った詠唱は身体強化か防御の魔術とみる。

 

 

「舐めやがって………魔術師は、魔術で戦うんじゃないのかよ?」

 

「ええ、ですからルーンで硬化したグローブを使用しています。」

 

「この野郎…―――『止まる断なかれ  素は流転を繰り返す』」

 

 

相対する二人からすぐ脇にあった公園の水道蛇口が破裂し、噴水をまき散らす。

 

 

水を呼び寄せ操る魔術師の少年。

 

 

水?

 

まさか

 

 

「貴方は間桐の魔術師か?」

 

「その通りだ、この僕が、間桐の、頭首。正統な後継者だ!!」

 

 

まき散らされる飛沫が虚空に留まり散弾銃のように硬度を持ってバゼットに襲いかかる。

 

 

「拙いっ!!」

 

 

とっさに転がるように横へ回避し、躱しきれない飛沫は内払うように裏拳で叩き落とす。

 

 

「『内海を満たせ  流れは我に委ねる』」

 

 

水浸しとなっている地面がウゾウゾと、まるで意志を持っているかのように、砂を巻き込み汚泥と化してバゼットに津波のごとく押し寄せる。

 

バックステップをとり、体制を立て直そうとするが。

 

 

「させるかよ!!」

 

 

その叫びと共に汚泥は随所で小さな螺旋を作り

 

 

いきなり地面から螺子のような棘が突き出される。

 

 

溜まらず大きく後方に跳躍し、間桐の少年を睨む。

 

 

間桐の魔術とはここまで優れた精度を誇っているのか?

 

否、いくら彼が天才的な魔術師だったとしても、違和感が拭えない。

 

 

彼から魔術回路を通して魔術を発動している様子がいまいちつかめない。

 

詠唱…しかもセカンドアクションまで唱えて発動するにしても、いきなり何の礼装処理もしていない水をここまで操ることができるだろうか?

 

 

 

まて、ここは冬木。ここで暮らすのは御三家の遠坂と間桐………!!?

 

 

「この『公園自体』に仕掛けを!?」

 

「なんだ、結構いけるかと思ったけど、やっぱり魔術師はすごいな。こうも短時間で見抜かれちゃうなんて、ちょっとショックだぜ?」

 

 

恐らく彼は予めこの公園に魔術的な仕掛けを施し、夜になるのを待ってここで他のマスターを待ち伏せしていたのだ。

 

 

 

「くっ…そう言うことならここでの戦いは貴方に分があり過ぎると言う訳ですね。」

 

「そう悲観するなよ魔術師。さっきのパンチ……後少し詠唱が遅れてたらマジでヤバかったよ。」

 

 

「おほめに与かり――――恐縮です!!」

 

 

バゼットは一気に駆け出し、肩に背負っていたいた筒状のバッグから一つの球体を取り出すと、最強の手札を静かに口ずさむ。

 

 

 

 

 

 

 

「後より出でて先に断つもの(アンサラー)」

 

 

 





バトル回頑張りました。
これが今の私の全力前回orz
慎二君マジかっこよすww
……バーサーカー強くし過ぎたかも。



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嘘18話

オリジナル解釈、解説回です。
慎二君がカッコよくなりすぎだ、あのへたれた姿が懐かしいぜ。


 

バゼットと間桐慎二が公園で激闘を繰り広げているさなか、1キロほど離れたビルの屋上でその様子を見つめるアーチャーがいた。

 

 

「やはり違う……」

 

 

彼の記録とも記憶とも呼べない、脳裏の残滓が覚える映像と合致しない現在。

 

マスターの違うサーヴァント、覚えのない狂戦士、魔術を行使する間桐慎二。

 

やはり自分がたどった道とは違う事柄だ。

 

改めてそう認識する。

 

 

しかし、そこから見える間桐慎二の変わり様には驚いた。

 

偽臣の書を持たずに魔術を発動するその姿はつい先日とは違い、鬼気迫る迫力が感じられる。

 

魔術回路を持たずしての魔術行使。

 

 

通常ならばありえないことだ。

 

 

例え儀式魔術において、引き金となる『意味』を持つ言葉を紡ぎ、霊脈と大気中のマナを操作しても、あそこまで汎用性の高い操作は出来ない筈だ。

 

どうなっている?

 

注目するべき点は慎二が魔術行使をする際、呪文を詠唱している時だ。

 

アレは魔術回路を起動していない。

 

 

ならばどうやって魔力を調達している?

 

 

 

 

 

   ※  ※  

 

 

 

 

 

間桐慎二は魔術回路を持たぬ生まれだ。

 

 

魔術回路とは大気中のマナを自らの内に通しオドへと精製するための器官であり、魔術師のとっての気管。

 

外界を内界に、大界を小界に、その原理は遥か昔から魔術師が根源への悲願を求める中での万事における過程であり、外側へ至ることを欲した魔術師たちの最初の一歩とも言える壮大な力の認識とも言えよう。

 

そして、魔術師たちはその生涯をかけて、自身の魔道の集大成を意味のあるカタチに変え次代へ受け継がせる。

 

これが魔術刻印である。

 

 

魔術刻印とは一定則の魔術を行使する際、その刻印が魔力に反応し、必要な術式を最短の、最速の最小限の、最効率で構築し自動発動できる、刻印作成者その者と言える証だ。

 

 

しかし、その刻印を魔道において最も完成系に近づきながら、バラバラの、完膚なきまでに冒涜した者がいた。

 

 

間桐臓硯

 

 

何も間桐は500年ぽっちの歴史であるわけではない。

 

蟲の魔術師である間桐臓硯が齢500の妖怪であるだけであり、彼が間桐の全てを立ち上げた訳ではない。

 

 

純血を守り、脈々とその魔道を継承してきた体系こそアインツベルンには劣るが、それでも公式記録が定かでない程の名道名門だ。

 

そこに至るまでの代は気が遠くなるほどの積み重ねであり、その幾人もが魔道の家名における歴史に名を残す程の希代であった。

 

 

一角、更に一角と間桐の刻印は刻む数が増え、ついには大規模魔術すら短縮詠唱で構築、発動が可能なほど精錬され、経路が確立されていただろう。

 

最早、後数代優秀な魔術師が生まれその研究を確立し己が最果てへたどり着けば、根源への到達も容易かった筈だ。

 

 

しかし、あろうことか500年前、とある一人の間桐はその全てを台無しにしてでもたどり着きたい願いを持ってしまった。

 

その為にはもっと生きたい、生きて成し得なければならない。

 

 

その為には朽ちていく体に刻まれし刻印は

 

 

体を数多の蟲に移した。

 

 

 

刻印はどうした?

 

 

蟲は朽ち死にまた埋める。

 

 

 

魔術刻印はどうした?

 

 

これほどの体の代わりをする蟲、使役する蟲、最早刻印に頼らずして制御できるわけがない。

 

 

 

体の魔術刻印はどうした?

 

 

数百、数千、数万とも言える蟲、蟲、蟲。

 

 

その主たるもの全てに刻まれたるは間桐の証。

 

 

蟲に移植された――――否。

 

既にその身が蟲同然ならばその『体』に

 

 

故に『刻印蟲』

 

 

つまり、臓硯は刻印を複写し、移植し

 

幾代、幾数の蟲へと間桐の証をその身に宿し続けていた。

 

 

ならば、その原型図を書き留めておくことに何の不思議があろうか。

 

 

無限に続く蟲の交換で粉みじんに別れた刻印の原形を覚えておくには、その体は、その脳は老朽に過ぎる。

 

 

この技術が後に令呪の他所へ移植する偽臣の書に使われたのは想像に難くない。

 

 

 

刻印は魔力に反応し活性化し、魔術を起動させ、また

 

マナを取り込むことによって自己(オド)の魔力を生成する。

 

 

ならば、間桐慎二がその刻印全てを身に宿しているなら、その身に魔術回路を持たずして周囲のマナを取り込みながら魔力生成を行っていると結論付けることができよう。

 

 

しかし、それだけではサーヴァントに戦闘行動をさせるだけの供給魔力を維持することは出来ない。

 

元の蓄積魔力が全くない状態で周囲のマナを取り込んでも、一定の場所に留まり続ければすぐに吸いつくしてしまう。

 

 

故に、効率よく魔力を供給するために間桐慎二が思いついたのは、霊脈経路を使用する儀式魔術だ。

 

霊脈上に儀式の陣を水で描き、マナ噴出濃度を局地的に高める手法を間桐の知識から絞り出したのだ。

 

 

当然、その場所で戦闘を行うことも想定しその他の儀式陣も重ね掛けをし、万全の状態で戦闘に臨むため、狙った敵は必ずその場で仕留めなければならない。

 

 

 

公園に敷いた陣は日中、学校をさぼって水を撒くことで完成させた。

 

 

ならば、ここで最も俊敏に長けたサーヴァントに声をかけたのはある種博打だ。

 

最速の英霊を封殺できれば残るサーヴァントも決してのがしはしない、という看破される心配を取り払えるかどうかの瀬戸際である。

 

 

だからこそ、秘術をぶつけ合う闘争だ。

 

 

――――ただ一つの懸念は先に述べた刻印の発動に際した、体への負荷である。

 

マナが原料となりオドが生成されるなら、ろ過する機関が魔術回路だ。

 

今の間桐慎二は原油をろ過せずにそのまま車の燃料として用いているようなものだ。

 

そのような無茶、ただの人間だった少年の体にまかり通る訳がない。

 

 

そう、本来ならば。

 

 

バーサーカーの魔力供給は体の不純魔力も含め一緒に暴食されている。

 

 

これがかえって、慎二の健康状態の維持をしている奇跡。

 

 

お互いは生存のために切っても切れない一心同体。狂気の沙汰で臨む戦争。

 

 

まさに、外法を用いた彼こそが今やこの戦争において、まっとうな聖杯戦争を行う数少ないマスターの一人であった。





バサカがいないと死んじゃう慎二君。
無害な魔力の補給方法は、原作の主人公ポジ18禁か、爺よろしくのヒトクイだと思う。
そう考えると刻印蟲ってすごいですよね。魔術回路の拡張機能があったり、肉食って魔力生成したり、汎用性がハンパない(笑)


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嘘19話

暗殺者(バーサーカー)とVS他鯖 が戦った場合のの戦闘相性と宝具相性
※敵鯖視点
○有利 △互角 ×不利

ランサー△×(ゲイボルグ)
セイバー△△(エクスカリバーのみ)
キャスター○×ルールブレイカ―)
ライダー?
アヴェンジャー○△(ルールブレイカ―投影のみ)
アーチャー△△(ルールブレイカ―投影のみ)


 

 

 

「青は淀みを受け、下流は清らかに――――」

 

 

慎二が再び詠唱を始める

 

駆け出すバゼットは迎撃のカウンターに最も適した場へ飛び込み、スライディングするような体制で砂埃を巻き上げブレーキをかける。

 

取り出したボーリング玉より少し小さい球体は、バゼットの周りを規則正しい速度で揺ら揺ら漂っている。

 

 

これより始まるのは一撃の必殺対水撃の魔術。

 

後出しが制する最強対、先出しでしか勝機の見いだせぬ凡夫。

 

バゼットの猛り狂う魔力は周囲でマナの呼応を生み、青く静電気が幾重にも弾けるように輝きを増す。

 

対する慎二は相対する敵が次の一撃に必殺の技を使うと覚り、必死になり詠唱のため自己のより深い場所に意識を埋没させる。

 

動揺などしている暇はない。

 

 

目の前の麗服の女はそのプレッシャーから感じ取れるように、歴戦の手だれだ。

 

いつものように、学友の美綴などに狼狽するように、桜のサーヴァントを前にした時のように、腰を抜かしていたら次の一瞬は確実に死が待っている。

 

この一撃を自分だけで防ぎきれるのか否か――――

 

 

自身は魔術師ですらない。

 

 

魔術師とは何だ。

 

 

その思いが相手を最大限に警戒する要因となる。

 

自身の力がどの程度まで通用する戦いなのか未知数。

 

学校のテストの様に何をすれば満点なのか、部活のように何をすれば勝利なのか、まったくもって模範解答の導き出せぬ難関。

 

常に勝ち気でありたいと思っていた慎二が、そのちっぽけなプライドがぶれる、孤高さが揺らぐ。

 

たった一人で何でも成し遂げたいと思っていた独りぼっちが

 

 

 

「来い!暗殺者(バーサーカー)ァ!!」

 

 

たったひとりのパートナーに頼る。

 

彼が召喚した、彼に仕える、彼が従える、彼だけの、彼の身に許された、同じ孤高の狂戦士に、高らかに命ずる。

 

 

「GAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

その命令に応じたのか、狂戦士も雄叫びを上げランサーの槍を弾くと、踵を返して一転

 

 

 

「野郎!!バゼットそっちに行ったぞ!!」

 

 

狂戦士はバゼットの方へ向かって高速で向かってくる。

 

 

ランサーも駆け出すがそこには先ほどバゼットを襲った汚泥がうねりを上げており、一瞬の手間が取られる。

 

ランサーの抗魔力をもってして突進する形で突っ込めば、もろともせずにただの泥水に戻るであろう。

 

しかしその泥水でぬかるんだ地を駆けては狂戦士に追いつけない。

 

最速の英霊といえど悪条件の地ではまた俊敏な動きを持つ狂戦士に追いつくには時間がかかる。

 

 

 

「くそっ!」

 

大腿の筋肉を最大限まで駆使し爆発するように低空で跳躍し一気に汚泥を飛び越えるが

 

 

遅い

 

 

このスピードではバゼットの下まで間に合わない。

 

 

「ッ――――ランサー!『こちらから』撃ちます!!」

 

「!!――分かった!」

 

バゼットは自身に向かってくる狂戦士の脅威を推察し、マスターの瞬殺から時間のない狂戦士からくる攻撃への回避に切り替える。

 

 

しかし、バゼットはこの段階で自身の切り札をマスターに放つ様に照準を定め、体制もそれに合わせて最適化してしまっている。

 

発動の発動(タイミング)を変更することは出来ても照準(体制)までは大きく変えられない。

 

自身の宝具の発動をギリギリでキャンセルしたことなどバゼットにはなく、また強制的に収めるのは術者に極度の負担がかかる。

 

ならばもう敵マスターに打ち出すより他、道はない。

 

 

「行きます!!」

 

 

バゼットは大きくこぶしを振り上げる。

 

その硬化のルーンを刻んだグローブを硬く握りしめた拳に反応するように、宙に浮いた球体はバゼットの前で制止し、形を変え、小さな矢じりの様な短剣を生み出す。

 

 

バゼットのすぐ横に狂戦士が迫り大きく剣を持つ腕を振り上げる。

 

一寸先に待つ未来は体を縦に両断され宝具の発動前に死ぬ姿だが―――

 

彼女にとってはそのような命のやり取りなど、封印指定の執行業務において飽きが来るほどに経験してきたことだ。

 

 

 

 

 

「刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!」

 

 

先に放たれたるはランサーの宝具。

 

因果逆転の呪いを宿した魔槍は狂戦士の心臓に向かって突き出される。

 

狂戦士に死の運命が確定し心臓が貫かれる。

 

 

「斬り抉る戦神の剣(フラガラック)」

 

 

苦々しい表情の中、切り出されるバゼットの宝具。

 

相対している敵マスターは未だ詠唱の完成間近といったところか。

 

ならばこの一撃、カウンターこそ真価を発揮する宝具は凡撃に終わる。

 

 

打ちだしが終わったならバゼットは動ける。

 

体を前のめりにし、飛び込む姿勢で前転。

 

狂戦士の剣を避けることができる。

 

 

しかし、貫かれた胸の痛みがまるでないのか、狂戦士は槍の衝撃をもろともせず、渾身の力を持って刃を地面に向かって振り下ろす。

 

 

そこにいた筈の標的である女は既にその場にいないにもかかわらず。

 

ただただ、己が胸から滴る赤い滴が不思議でならないように硬直する。

 

 

「危なかったぜバーサーカー。だが、楽しかったぜ。」

 

 

ランサーは手向けの言葉を最大の賛辞として送り、最早治癒など効かず消滅するであろうサーヴァントを看とろうと思い、槍を引き抜こうとしたが。

 

「g…a、a…」

 

狂戦士はがくがくと膝が嗤っているが、がっしりと握りしめた両手は自身を貫いた魔槍をつかんで離さない。

 

 

「テメェ―――なっ!!?」

 

 

狂戦士はズブズブと胸に突き刺さる槍を引き抜くどころか更に深く、深くと己が内に引きずり込む。

 

こうなってしまっては槍兵の腕力をもってしても槍を引き抜くことは出来ない。

 

一気に槍が引きずり込まれ狂戦士の片腕が槍兵に届く瞬間

 

青き槍兵は確かに聞いた。

 

 

「狂信宣告(サバーニーヤ)」

 

 

肩腕が離れ、体に狂戦士の片腕が触れた瞬間、渾身の力を振り絞り槍兵は敵の体を蹴りつける要領で一気に愛槍を引き抜き距離をとる。

 

理性を無くして会話すらできない筈のサーヴァントから確かなとこ場を聞いた。

 

しかし、驚くべきはそこでは無い。

 

バゼットも同様にあり得ないもの聞いたと言わんばかりの表情だ。

 

 

「サバー…ニーヤ(暗殺教典)だと!?」

 

 

暗殺教典を宝具とするサーヴァント。

 

それはすなわち暗殺者(アサシン)に他ならない。

 

ならば今サバーニーヤ受けたランサーは―――

 

「なんともねぇが……」

 

悪寒が拭えない。

 

槍を引き抜くとき、ずるずると引き抜いた瞬間からランサーの体の調子はまるでオカシイ。

 

 

サーヴァントにはあり得ない寒気や悪寒。

 

なにか病魔の類に感染させるものか―――

 

 

されど、対する敵は既に心臓を破壊されている、マスターにしてもフラガラックは彼のわき腹を貫通し倒れ伏した状態だ。

 

ならば万一のことを考え、ここで正体不明の暗殺者の業を持つ狂戦士をしとめる必要がある。

 

そうと決めたランサーは再び敵サーヴァントに向かい槍を突き出すが。

 

ギン とした金属音がまたしてもその道を阻む。

 

 

敵の持つ剣は絶命間近のサーヴァントが最後の力を振り絞り防いだのだろう。

 

膝をつき剣を地に突き立て項垂れるように動かない。

 

 

槍を防がれたランサーの異変はここから生まれた。

 

 

「がーーーあああっぐあ!!!!?」

 

「ランサー!どうしたのですか!?」

 

バゼットも不思議でならない。

 

 

今の攻撃はただ防がれただけのただそれだけのことだ。

 

なのに、なぜそんなにも悲鳴を上げ苦しんでいるのか。

 

痛む苦しさの余りランサーが思わず握る槍を手放し地に落としてしまう。

 

ガラン、ガラン

 

と鳴り響く鐘の音

 

そうさ、これは祝福。命の音。

 

心身に響き渡るその音は空気とぶつかり合うように、地面とぶつかり合うように。

 

容赦なくその命へと送られる。

 

 

「あが―――ぁぎっ!!?」

 

不気味なまでのこの症状にバゼットも顔色を悪くし逃走を選択せざるを得ない。

 

「一旦退きますっ!霊体化してください!!」

 

バゼットは公園から脱出するため魔術回路をフル起動させ、ランサーは苦痛に歪みながらも霊体化し、ゲイ・ボルグも回収し消えうせる。

 

 

 

後の公園にはわき腹を抉られた間桐慎二と心臓を失い今にも消えそうな狂戦士だが。

 

「う、ぐぅ……畜生っ。死んで…たまるかよ!!」

 

そう漏らしながら苦痛にゆがむ顔とは裏腹に、慎二は自分のわき腹に片手を添え血流を操作していた。

 

血液がまるで見えない管に繋がれているように、一滴も漏れることなく正常に循環している。

 

どうやら内臓などの器官に差してダメージがないことから、バーサーカーの攻撃に気を足られ過ぎたバゼットの狙いは甘くなったようだ。

 

しかし彼の狂戦士は最早消滅間近の筈。

 

なのに、苦痛にゆがむ慎二の顔には、その口元に何処か笑みがある。

 

 

「ゲイ・ボルグ――――そうか、呪いの魔槍か…厄介だぜ。これじゃぁ全快は無理かな……っ!!ぐぅ!!!」

 

 

無理矢理立ち上がるとよろけた足でバーサーカー近づく。

 

 

「起きろよバーサーカー。どうせ生きてるんだろう。ったく、血流操作くらいしてやる。」

 

そう言って心臓のない狂戦士に血液を循環させると意識を取り戻したのか、ぎこちない動作で立ち上がる。

 

 

「かタ、じ、けない。ア  るじ、」

 

「ああ、僕のおかげで生きてるんだ。感謝しろ。」

 

 

否、心臓を貫かれた状態でここまでの時間、生きていられるわけがない。

 

 

ならばなぜ、狂戦士は生きている?

 

 

「サバーニーヤ。それがお前にとっての本来の使い方なんだろ?」

 

そう、この狂った暗殺者は嘗て暗殺の奥義としてこの業を体得したのではない。

 

果てのない戦いに身を置いて、どのような死の淵であろうと命をよそに預け、その肉体が朽ち果てるまで戦い続けるためにに生み出した、最も暗殺者らしからぬ秘奥だ。

 

つまり、例え手足を失い、血を失い、心臓を失おうとも、命が別の場所にある以上、死ぬことを放棄し、肉の最後の一片まで戦闘に捧げる狂信こそ彼の暗殺。

 

ただの一人とて生かさぬ、全てを惨劇に変える殺戮こそ、正体不明の殺人と定義したのだ。

 

故に、百の貌のハサンは彼と少女を最後まで次代の当主にするか迷った。

 

 

暗殺の定義をこれでもかというほど間違えた戦士と、暗殺の深みに入り過ぎてしまった少女。

 

 

 

結果は滅びゆく教団を持ち直す為に次代の座を彼に贈ったが、それが滅亡の一途をたどった。

 

故に彼は暗殺者としてはあまりにも不適格なハサン・サッバーハだ。

 

狂っていなければ呼び出せない。

 

 

暗殺に狂った戦士は心臓を失ってなお、紅き狂信を捨てることはない。

 

 

 





今回の戦績
狂戦士:ほとんど不死身ですが、「ゲイ・ボルグに貫かれた心臓は再生できない」という槍の呪いで心臓が再生できず常時瀕死。
慎二・わき腹の治療のため暫く身を隠す。

槍兵:ゲイ・ボルグに狂信宣告をかけられ使用不可能。肉弾戦と魔術のみ。
バゼット・フラガラック1個消費。残り3個。


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嘘20話

ヒャッハーッ!!!!面接担当から解放された!

「メイドさんは好きですか?」
この質問をぶつけた学生の方、ごめんなさい。
※この前書きは3カ月くらい前に書いたものを流用してます。


 

「お兄ちゃん。返答しだいじゃ死ぬわよ?」

 

それは死ぬ、ではなく殺すと宣告しているようなものだ。

 

 

「待ってくれキャスターちゃん!?そんなに怒ることなのか?」

 

衛宮宅の夜。

 

藤村大河と間桐桜が帰った後に二人は土蔵まで足を運んでいた。

 

 

今日の夕食は日本食をメインとしたもので、初めて食べたキャスターも食に対する幸福感を改めて知る、団欒の一時であったが、問題は就寝前に起きた。

 

キャスターは衛宮士郎が工房としている土蔵でまた体を休めようとしていたが、その折に現在敷いてある回復の魔法陣の効果をより高めようと考え、土蔵の内部を詳しく把握しようと周囲を見渡した時

 

 

 

あり得ないものを見つけた。

 

 

 

凡百な魔術師なら土蔵に散らばるガラクタを『ただのガラクタ』と気にも留めなかっただろう。

 

されど彼女は神代の魔女だ。

 

こと魔術の絡む事柄には現代に生きる魔術師など及びもしない才がある。

 

 

故に、何でもない鉄パイプが

 

  空のビデオデッキが

 

フレームのみの機械が

 

   包丁が

 

木刀が

 

 

全て魔術により作成されたものだと判断できた。

 

 

だが、理解が追いつかない。

 

ゼロから個体を作る魔術は投影魔術か。

 

しかし投影魔術とはその名の通り、水面に映る月のように、僅かでも波紋が打たれれば形は崩れ、僅かな時と共に消えゆく定めだ。

 

ならば目の前に映る埃を被ったこの山は何だ?

 

 

具合から見るに数ヶ月、数年間は経過していようこのモノはどう説明しよう。

 

いくらこの場を工房とし、特殊な空間としていると誤魔化そうが、そんなことは不可能だと断言できる。

 

あの落ちこぼれの魔術師、衛宮士郎にそんな異界を作る知識はもとより技術もない。

 

何より、この土蔵は、単に回復の魔法陣が隅に敷かれていただけの、魔術師から言わせれば工房ですらない場所だ。

 

 

彼の養父の手か?

 

あり得ない。

 

 

そのような形跡は一切見当たらず、魔術も敷かれていない。

 

ならばこのガラクタは衛宮士郎の魔術による製作物と見るより他は無い。

 

 

 

『俺が扱える魔術は強化だけだ。』

 

 

衛宮士郎はそう言っていた。

 

しかし、それだけではない筈だ。

 

現に彼に助けられた際、体の形跡を後で調べ『精神同調』の魔術を使われたと分かった。

 

それで本人を呼びつけ問いただそうとしてみれば素知らぬ顔で空気を外されたのだ。

 

殺意も覚えよう。

 

 

「ん?ああ、このガラクタか。強化の魔術を練習してるときに頭休めみたいな感じで俺が作ったんだ。いつもその程度にしか考えてなかったから、使える魔術の範囲から無意識に外してたんだった。」

 

 

「これは何?」

 

 

なおも険しい表情でキャスターはガラクタの山を指さす。

 

 

「何って、だから俺が作ったもので……投影魔術って言うんだっけ?」

 

 

 

「これは何?」

 

 

「っ………」

 

漸くキャスターの怒気と殺気に気がついたのか、息を飲み思わず後ずさる。

 

「お兄ちゃん。結論からいえばこれは『真っ当な投影魔術』じゃ、まずあり得ない物よ。」

 

「まっ…とう?」

 

 

言葉の意味が解らないのかきょとんとした顔で聞き返してくる士郎にキャスターは続ける。

 

「そう。本来、投影って言うのは儀式に使う道具なんかを、その場凌ぎの代価品として術者が魔力で編みあげる模造品を指すの。」

 

「ああ、確か親父もそんな事言ってたな。作っても中身は空っぽでえらく使い勝手が悪くて、その上燃費も悪いって言って。」

 

「ええ、その通りよ。……本来ならね。」

 

「本来も何も、ここにあるやつだって、中身はほとんど空っぽだぞ?」

 

 

ビキリ

 

と、キャスターのこめかみから青筋がたつ。

 

「その場しのぎの代価品がこんなに埃を被る?」

 

「それは―――――済まない。普段から掃除しておくべきだったな。」

 

儀式などで使用する筈の魔術をそんな雑に扱われたことに怒っていると勘違いし、そんな的外れな感想を口にする士郎に、とうとうキャスターは手に持っていた鉄パイプを振り下ろす。

 

真一文字に振り下ろされた鉄パイプを士郎はギリギリのところで回避する。

 

 

ガギン!

 

 

金属音は土蔵の中で反響し、掻き消えて行く響きが後から襲ってくる重圧をさらに高める。

 

「投影魔術はね、例えこんな頑丈そうなものを模造しても、ガラス細工程度の強度にしかならないの。」

 

キャスターは士郎を睨みつけながら、そう説明する。

 

しかし、そんな投影魔術の常識など衛宮士郎は知らない。

 

故にあり得ない方法を口にする。

 

「硝子程度って……そんな訳ないだろう?あくまでも基本骨子を想定して、作成の工程を再現しているんだから少なくとも下手な読み違いをしない限り、そうそう脆い出来栄えになんてならないだろ?」

 

「え?」

 

「作成にかかる年月を想定して、理念に共感し、模倣する。空想を魔力で形取り、現実として概念強化の魔術を行使。元々空っぽの中に魔力を詰め込むんだから神秘は、空想で蓋をして現実を満たす。」

 

「何を、言って――――?」

 

「金属なんかは割と簡単だ、ただそこにあるだけで構造も材質もすぐに解る。」

 

 

キャスターは目の前の少年の才能をここに垣間見た。

 

目を閉じて語る口調はただ静かに。

 

いつもの魔術訓練の中で頭の中で考える方法を口にしただけだったのだろうが、それは最も魔術の最奥に届く可能性のある頂に片足を突っ込んでいるのも同然だ。

 

 

 

他の魔術なんて成功した試しがない。

 

 

そうか。なら、彼は。

 

 

「――――お兄ちゃん。明日から魔術の訓練は投影のみにしなさい。やり方はいつのも方法に、私の意見を聞きながら。」

 

 

「お兄ちゃんは、一点特化の資質があるわ。」

 

 

 

 

 

 

    *    *  

 

 

 

 

 

 

「っつー訳で、間桐の屋敷はもぬけの殻だったぜ?」

 

 

桜が屋敷にいない。

 

アヴェンジャーにしてみれば、珍しく詳細な報告をしてくれたものだ。

 

しかし結果は私の不安を大きくさせるものだった。

 

 

桜だけではない。

 

あの引き籠っていると予想していた慎二も、間桐の妖怪爺も、誰一人としてその地を守る者はいなかったというのだ。

 

 

しかも

 

「やけに詳しいのは別にいいんだけど、それでも魔術師の屋敷の中まで調べるなんて、あんた本当の馬鹿よ!一歩違えれば、いくらあんたがサーヴァントでも下手すりゃ無事じゃなかったのよ!?」

 

 

こいつは三騎士とは違って対魔力も殆どないし、キャスターのように魔術の頂点に君臨しているわけでもない。

 

宛らアサシンより少しはマシ、程度の力しかないのだ。

 

下手をすればライダーにすらあっさりと破れてしまいかねない。そんなサーヴァントなのだ。

 

 

「あぁー……凛たん?誰が直接屋敷の中に入ったって言ったよ?そこら辺はいくら俺でもしっかり対策立てたぜ?」

 

「へ?」

 

 

「簡単な呪術なら扱えるからよ?とりあえずそこらへんのカラスや飼い犬、猫を使って屋敷を物色しまくったってわけだ。」

 

 

「………」

 

だから魔術師は不在だと。

 

正直、肝が冷えた。

 

そうだ、いくらこいつは御茶らけた面が強くても、そこそこの頭は回る奴なんだ。

 

それに、簡単でも呪術が扱えるなら、こいつの有益な面が見つかったと、ポジティブに考え評価することだってできる。

 

 

 

「あ。その動物たちには念のために魔術師が入ってこないか見張るように屋敷の中に常駐させて置いたぜ?」

 

 

「カラスに特攻させたらあっけなく窓ガラスが割れてな?後は犬猫大名行列で隅々まで糞尿を撒き散らかせたんだ。流石にここまでやって姿を現さない魔術師は糞以下だと思うんだ。」

 

 

………………………

 

………………………………

 

………………………………………

 

「凛たん?」

 

 

 

「あんたはアホかぁーーーーーーー!!!」

 

 

ど、どど、どうしよう??!どう桜に謝ったらいいのよ!?

 

また関係が冷え込んじゃうじゃない、この馬鹿サーヴァントがっ!!

 




ワカメとは打って変わって、緊張感のない2組。
正直、こういう系を書いてる方が楽しいwww


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嘘21話

 

 

 

 

「マスター、聞こえるか?」

 

 

『はい、えっと……まだノイズが若干あって掠れてますけど』

 

「それは仕方あるまい。本来は令呪と契約ライン、この二つによってサーヴァントとマスターが結ばれている。」

 

「そこを令呪を偽臣の書に移し、言わば周波数が少しズレてしまってるんだ。感覚共有の念話も聞き取りづらくなるだろう。」

 

 

現在、間桐桜は3角の令呪をそれぞれ偽臣の書に移し、それを自ら所有する形をとっている。

 

 

これはアーチャーが桜に提案したことであった。

 

単独行動スキルを持つアーチャーは魔力供給を断たれても3日は存命できる。

 

このことから、桜との接触を極力避け、2日に1度魔力供給のために霊体化して活動の詳細を伝えるように取り決めをした。

 

その間、桜の現在の生活を重視する為に目立つであろう令呪を隠す意味でのアーチャーの心遣いにより、傍から見ればマスターかどうかはほぼ分からなくなっていた。

 

 

そして、現在はマスターが寝泊まりしている藤村宅の、隣に建つ住宅の屋根から窓際にいる桜の様子を窺いつつの交信をしている。

 

 

「まずは他のサーヴァントとマスターの報告だ。」

 

 

「私が直接に視認したサーヴァントは4、いや3体だ。キャスター、ランサー、バーサーカー、……それと、アサシン――――以上になる。」

 

『……?えっと、4つのクラスなのに3体ですか?』

 

「ああ、今回のバーサーカーについて、その真名はランサーとの戦闘を監視して分かった事なんだが、ヤツはハサン=サッバーハで間違いない。」

 

 

『ハサン―――っ!?それって!』

 

「ああ、暗殺者(アサシン)のクラスで現界する筈の英霊だ。それがどういう訳か、狂戦士のクラスとして呼び出されている。」

 

『そんなことって……』

 

 

「たしかに、聖杯戦争のルールとしては盲点だっただろう。脆弱なマスターやサーヴァントの力を補うべく挟まれる狂化の詠唱を最弱にして固定のクラスにかけられたのだからな。」

 

『でも、アサシンなら多少のステータスが上がっても………』

 

脅威には成り得ない筈だ。

 

そう桜は想像したが。

 

 

「ランサーと互角の戦闘を演じていた。結果を見ても五分の痛み分けに近いだろう。ランサーは武装を封殺され、バーサーカーは重傷だ。」

 

三騎士と互角の暗殺者、これは最早それまでの通説、常識を覆す事態だ。

 

 

「付け加えておくと、バーサーカーのマスターは間桐慎二だ。」

 

 

その言葉に、思わず桜は己が耳を疑ってしまった。

 

 

死ね!

 

 

そう兄は自分に言い放った。

 

 

憎悪を込めた瞳をこちらに向けて恨んでいた。

 

 

 

兄は自分を殺しに来た。

 

 

 

「心配は無用だ、マスター。私が護る。その為に戦う。君に必ず」

 

 

 

温かな平穏を約束しよう。

 

 

 

 

アーチャーはそう言いながらも心の奥で罪悪感に囚われる。

 

確かに自分が確認したのは4つのクラスだ。

 

 

槍兵(ランサー)、魔術師(キャスター)、――――暗殺者(バーサーカー)、

 

 

 

復讐者(アヴェンジャー)

 

 

エミヤシロウ

 

 

 

 

これだけは知られたくない。

 

 

きっと彼女を悲しませる。

 

 

奴は刺青や様相こそ奇抜で遠目に見れば気がつかれないだろうが、あの顔立ちは生前の、若かりし日の衛宮士郎と大差がない。

 

 

目撃されれば奴の正体がばれる。

 

 

それだけは阻止しなければならない。

 

 

 

 

苦々しく思い顔を歪めるアーチャーは苛まれる。

 

 

 

これじゃあまるで――――

 

 

 

 

 

 

 

   *  *  

 

 

 

 

冬の魔術師はクルクル踊る。

 

 

 

泣き出しそうな空を見上げ、両の手を広げる一人舞踏会。

 

 

傍に控える騎士はその表情に影を落とす。

 

 

前回の結果を知っていながら、再び映し世に呼び出された。

 

 

しかし、戦いの詳細までは知らなかったらしい。

 

 

あのままアーチャーと戦っていたら、自分は負けていた。

 

 

そのことについて、彼女らは知らないらしい。

 

 

 

しかし、それを言えば自分もまた然りだ。

 

 

前回の戦い、それを説明しようとしても、あまりにも材料が少なすぎる。

 

 

今更ながらに思い返してみても、情けなく思う。

 

 

敵マスターの情報をあまりにも軽視し過ぎていた。

 

 

サーヴァントのマスターが誰で、どのような者かも知らぬまま、知ろうとしないままに、ただ一つ覚えの様に前へ飛び出し戦うなど愚の骨頂ではないか。

 

 

自分が欲したのは騎士の誉でも誇りでも名誉でもない。

 

 

 

聖杯による奇跡だ。

 

 

 

何を勘違いしていた、なにを履き違えていた。

 

 

死の淵から呼び出された過去の途上人が未来の世界に見惚れ舞い上がったか。

 

 

『王は人の心が解らない』

 

その通り。この身は、この心は人を止めなければならない。

 

 

騎士に世界は救えない

 

 

元より世界など救わないさ。欲するものは王の選定をやり直すことだけだ。

 

 

正義に世界は救えない。

 

 

ああ、最早正義なんて、蒙昧な戯言など口にもすまい。

 

 

悪辣と言われようが、外道と罵られようが―――――構わないさ。

 

 

 

「この10年で冬木の町並みも少し変わりました。まずは散策しながら戦闘向きな区画を探します。」

 

「いいわ、ちゃんと守ってくれるんでしょ?セイバー。」

 

 

 

あなたの勝利のために。

 

 

さあ、ならば鐘を鳴らそう。

 

 

ひときは大きな大号令を

 

 

高台から眺めた先には、紅い外套のサーヴァントが。

 

 

 

まずはアレからだ、とターゲットを定める。

 

 

たとえ、この冬木の地を血に沈めてでも。

 

 

 

 

 

 

 

   *  *  

 

 

 

 

 

「朗報だ、漸く全てのサーヴァントとマスターがこの地に集まり、聖杯戦争が開始された。」

 

「――――――――」

 

 

 

「さしあったて、まずは全てのサーヴァントとマスターの偵察を行ってもらう。」

 

「戦闘は極力避け、仮に遭ったとしても逃走に徹しろ。」

 

 

 

「――。――――――。」

 

 

「では、令呪にて命ずる――――――」

 

 

ライダーのサーヴァントよ

 

 





修羅セイバーさんのターゲット、アーチャー。
まずは桜ともどもピンチにします。


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嘘22話

内定式に参加する皆!覚悟しておけ!メイド服を着――――そんな企画は通りませんでした。

ハーメルン移転後初の新投稿です。
これからも皆様のご声援の下、無理せず頑張っていきます。




 

赤い兵と青銀の騎士は屋根をとび跳ねながら刃を撃ち合い、住宅街から外れた墓地に入り込もうとしていた。

 

騎士王セイバーはその中で赤い兵に疑問を感じていた。

 

 

何故、不可視である宝剣の間合いを知っている?

 

 

脳裏に蘇えるのは前回の聖杯戦争におけるバーサーカー、円卓の騎士であるが、アレこそ我が身を最も近き場所で見つめてきたからこその裏技だ。

 

ならば何故、この兵はしかも本分でない双剣で一刀を受け流せる。

 

脳裏に残る記憶にはこのような知己はない。

 

 

覚えてすらいない人物が大雑把な動きなどではなく完璧な剣幅、長さ、技の運びを知ることなどあり得ない筈だ。

 

そもそも、初撃は相手の完全なる意識の外。スキルはないが、それでも可能な限り気配を殺して、跳躍から落下の勢いに任せた脳天への一刀を見舞ったのだ。

 

ギリギリとはいえ、躱し様に宝剣の腹を蹴るまでしてのけたのは異常と言えよう。

 

さらに、私を見て即座に『セイバー』と呼んだこの赤いサーヴァントは一体、如何なるスキルを持って即座にクラスを当てたのか。

 

 

剣が視えない以上、ライダーである可能性も、ランサーである可能性も、はたまた別のクラスの可能性も窺わせるのが強みなのだ。

 

そして何より、今の私は甲冑すら着こんでいない、黒いスーツを着たままで奇襲をかけたのだ。

 

果して英霊なのか、反英霊なのかすら所見では解らぬ筈だ。

 

まさか、前回の私を知る者がマスターか?

 

 

「貴殿、いかなる見眼で我が武具の間合いを知る?」

 

 

一振り、また一振りと赤い兵の態勢を崩しながら問いかける。

 

 

いくら相手が私の間合いを知っていようとも、そんなものはさして関係がない、寧ろ注意すべきはマスターや、彼自身の宝具に他ならない。

 

それでもなお問いかけるのは、もしや自分の素性が10年で知れ渡っていないかだ。

 

「それは企業秘密とさせてもらおう。あえて言うならば、その宝剣も君の真名も私だけが知っていよう。」

 

「――――――」

 

赤い兵の痩せ我慢な表情が無理に笑うが、息も大分上がってきていると見える。

 

ここで一息に首を刎ねようと、長身の懐に潜り込むよう姿勢を低くし剣を突き上げるが

 

「トレース・オン」

 

その一言と共に、私の頭上に無数の剣が降り注いでくる。

 

このまま私の剣を突き出せば確実に殺れるが、幾重にも見える剣の雨から逃れるには今この場で距離を取らねばならない。

 

 

足の魔力を爆発させるように後ろに飛び地面に突き刺さる剣を回避する。

 

「ソードバレル・フリーズ・ロック」

 

突き刺さった剣は、彼が右手をあげる動作に合わせて再び宙へ浮かび、切先を私に定める。

 

 

 

その動作は確かに見おぼえがある。

 

 

 

「――――アーチャーのサーヴァントか。」

 

様々な宝具を黄金の光の壁と共に打ち出してきた、前回のアーチャー程の意圧感や王気(オーラ)はないが、一度打ち出された刀剣が再び宙に舞い動きを止める様は一段と不気味さを増しているように見える。

 

 

「セイバーよ、不意打ちとは君らしくもない。しかし、そうまでしてとりに来ようとするのなら、こちらも容赦はしない。」

 

静かに、淡々と口にするアーチャーだが

 

「ほう、その割には先ほどまで、随分とあの集落を気にしていたな。」

 

『なにか、護るべき者でもいたか?』

 

ありったけの挑発に醜く歪ませた口元を釣り上げ、蔑むようにアーチャーを見据えてやる。

 

 

「―――――セイバー………」

 

どうやらハズレか?

 

あの周辺に奴のマスターが居を構えているなら爆弾でも使って吹き飛ばしてやろうと思ったが、いないなら用はない。

 

神秘を秘匿する魔術師たちが塒にする場所は、必ずと言ってよい程対魔術の結界や障壁、用心深い者では物理的に強化している。

 

そこに爆弾などで攻撃を加えた場合―――――

 

密集する住宅街は間違いなく被害を受ける。

 

これは、他者(一般人)に興味を持たない魔術師たちの典型であり、自分たちの根城さえ安全であれば問題ないという思想による。

 

しかし、この戦場においては全くのデメリットにしかならない。

 

被害を受けた周辺で、ただ一つの無傷な建物があったら?

 

そこは否応なく人目に付き神秘の漏洩の原因たりえてしまう。

 

そうなれば、その魔術師は他の魔術師や協会、教会からの粛清対象として捉えられてしまう。

 

逆に、周辺の民家と共に倒壊してくれれば、それはそれで相手の陣地を丸裸にしたも同然である為、攻めやすくなる。

 

このパターンは事前に考えていたものだが、実行に移すとなれば、それは確実に相手の根城が解っていることが条件となる。

 

いくら近代兵器を使おうが、徒に町を破壊するようでは、聖杯戦争の運営にも支障をきたすことになり、こちらの落ち度を責められることとなる。

 

先ほどの弓兵の表情では、果してあの周辺にマスターがいたかどうかの決定打になり得なかった。

 

だが、この状況は裏を返せば、今この近くにマスターがおらず、魔術による支援も受けづらい可能性が高いということだ。

 

 

侮ることは無かれ、されどこの好機を逃すな。

 

 

一足で距離を詰め、下方から突き上げるように剣をふるう。

 

しかし、予定調和のようにそこにいつの間にか現れた大剣は盾のように宝剣の進路をふさぎ、その陰に隠れた弓兵のの動きを見失わせる。

 

「甘いっ!!」

 

弾丸のように迫る剣群を身をかがめて回避し、そのまま地を滑るように右に跳ねて、赤い外套を視界にとらえ直す。

 

接近、遠距離を同時にこなす弓兵など聞いたこともないが、この戦い方は戦の最前線で培われたであろう技だ。

 

 

 

油断はすまい。その命、今宵で散らせてくれよう。

 

 

足元の墓石を蹴りあげ今度は私が弓兵の視界をふさぐ。

 

「クっ……!」

 

弓兵は後ろに飛び退き、また剣を撃ち出そうとするが

 

 

風王結界

 

宝剣を風の力で覆い、光を屈折させ付加しにしているている暴風の力を一瞬解放し、ロケット噴射のような追い風に乗り一気に加速する。

 

 

「―――覚悟!!」

 

 

驚き眼を見開く弓兵に向けた切先をその胴に飛びこむように突き刺した。

 

 

 

 

   *  *  

 

 

 

 

 

「まあ落ちつけよ兄弟。別にここで殺しやしねぇよ。」

 

ニヤニヤと笑いながらこのエミヤシロウは言う。

 

「何が目的だ」

 

この状況で私を殺さない理由がないだろう。

 

私は正義の味方だったモノで、お前は世界の半分を背負った悪だ。

 

「なんだよ、俺にしちゃ理解が遅いんじゃないのか?俺同士で殺し合っちゃまずいだろ?」

 

「……それは、確かにそうだな。」

 

そうだった、私が人間・衛宮士郎を殺すことが最大の禁忌であることと同じように、英霊エミヤを殺すことも世界は良しとしないだろう。

 

そもそも、この聖杯戦争において同一の英霊が召喚されていること自体がおかしいのだ。

 

 

「それでよ?本題なんだが、暫く協力……は違うな、ニュアンスが―――共闘、でもねぇな……」

 

「つまり、お互いの利益の為に利用し合うということか?」

 

「ああっ、それそれ。とりあえずそん中でどっちかが他のサーヴァントにぶっ殺されりゃめっけもんだろ。」

 

 

そう言いながら目の前のエミヤは武装を解き気だるそうに空を見る

 

「ああ?何だって凛たん?令呪!?をまっちょっと待てよ、分かった分かった、帰るって!今令呪使うのは拙いって」

 

 

どうやらライン越しに突然マスターが話しかけてきたのだろう、しかし―――――まさか凛が召喚したとは………

 

「ああ、いちいちうっせーな。ったく…っと、わりぃな腰を折っちまって。」

 

「ああ、…暫くは不干渉でいいのか?」

 

「ヒヒヒ、まあ、マスターの命令があったらその限りじゃねぇと思うがな。」

 

「でだ、ただ一方的に申し込んでおくのも柄じゃないんでね。俺の宝具を一回だけ使えるように貸しておくぜ」

 

まあ、威力は下がっちまうだろうがな。

 

そう言って小柄なエミヤは私に触れて

 

「何を――――っ!?」

 

 

「呪術接続、同調・開始(トレース・オン)」

 

 

 

ギリギリと脳を削るように鳴り響く呪い

 

 

 

―――罪・罪・罪――――

 

 

これは、エミヤシロウが着せられた罪悪の全て。そう、この呪いは

 

 

「誰かに被せる悪意(ヴェルグ・アヴェスター)、接近戦でヤバそうな奴と戦るときにゃ使ってくれ。にっしても、意外と便利なのな俺ら。こんなことできるのも、エミヤシロウ同志だからなんてさ。」

 

「………そうか、お前は――――」

 

目を背けなかったエミヤシロウなのか。

 

そのあり方は同一でありながら、そのありようは合同でありながら対極。

 

 

『恒久的世界平和』それは、即ち―――――

 

 

目の前のエミヤは頭に巻いていた赤い布を外し、こちらに向き直ると改めて邪悪な笑みを向け。

 

 

「復讐者のサーヴァント、アンリ・マユだ。」

 

「弓兵のサーヴァント、エミヤシロウだ。」

 

 

この時、私とアヴェンジャーは同盟とも呼べない密約を結んだ。

 

 

 

 

 

   *  *  

 

 

 

 

突き刺さった宝剣はアーチャーの腹を貫きセイバーは一瞬動きを止めた。

 

 

墓場の隅で隠匿の魔術を行使していたイリヤもこれでまずは一体、型が付いたとそう確信していた。

 

 

 

しかしアーチャーのサーヴァントはまるで痛みを恐れていた様子もなく、その苦痛も仕方なしと言う表情をしている。

 

 

まるで、『セイバー相手に、この程度の負傷は仕方なし』と諦めたように、

 

まるでこの瞬かを狙っていたように彼女の体に手を伸ばし―――――

 

「先に貰っておく―――」

 

そう、小さくつぶやくと

 

 

「偽り騙し欺く万象(ヴェルグ・アヴェスター)」

 

 

 

この世の悪意(誰か)が罪を被せた。

 

 

 

 




猫:
アヴェさんは純粋に戦うエミヤシロウじゃなくて、『悪い』ことで戦うエミヤシロウ
昔読んだジャンプの封神演技の王天君みたいなイメージで書いてます。
着目点は投影魔術よりも、初期のトリガーワード『同調』を重視。
セイバーさん?虐めます(笑

H.24.9.25 加筆、誤字等修正


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嘘23話

小量文ですが投稿



 

 

憎い

 

  死ね

 

    お前の所為だ

 

  罪状を言い渡す

 

―復讐せよ―

 

 

この世の半分が語りかける。

 

お前の所為で滅んだ

 

お前のせいで死んだ

 

お前のせいで失った

 

お前のせいで負けた

 

お前のせいで裏切った

 

お前のせいで勝てなかった

 

お前のせいで誑かされた

 

お前のせいで拐された

 

お前のせいで出来なかった

 

お前のせいで成れなかった

 

お前のせいで死ねなかった

 

お前のせいで生きられなかった

 

お前のせいで折れた

 

お前のせいで諦めた

 

お前のせいで逃した

 

お前のせいで騙された

 

お前のせいで犯された

 

お前のせいで責められた

 

お前のせいで殺された

 

お前のせいで殺した

 

お前のせいで飢えた

 

お前のせいで奪われた

 

お前のせいで奪った

 

お前のせいで壊れた

 

お前のせいで壊された

 

お前のせいで憎んだ

 

お前のせいで怒った

 

お前のせいで焦がれた

 

お前のせいで欲した

 

お前のせいで怠けた

 

お前のせいで驕った

 

お前のせいで騙った

 

お前のせいで犯した

 

 

 

全てお前の所為だ

 

 

 

 

 

「―――う…、あぁ、ああ゛ぁ゛ーーーーー」

 

セイバーは突然頭の中に流れ込んできた呪怨に悲鳴を上げた。

 

返ってきた腹部の傷など、それこそ気がつかないほどの錯乱。

 

絶叫の中で心の傷が抉られていく。

 

 

「成程…確かにこれは、私でなければ持たなかっただろうな。」

 

アーチャーはセイバーの状態変化を確認しつつ、腹部から剣を引き抜き後ろに下がり、同時に黒い洋弓を投影する。

 

 

 

 

「―――――我が骨子は捻じれ狂う」

 

 

 

 

そこに具現化されたのは、おおよそ剣とも矢とも呼べぬ歪にねじ曲がった螺旋の刃

 

大気は唸りをあげて刃の下にマナを巻き込み、真名の解放を要求するかのように輝き出す。

 

対するセイバーは今だ絶叫の彼方に意識を囚われ、アーチャーの攻撃に備える構えも無い。

 

 

アーチャーの腹部の出血は止まらない。両の手で押さえつけ一刻も早くこの場から離脱し静養しなければならないほどの致命傷だ。

 

しかし、『後一手』 その為にアーチャーは自らの両手を使い、弓を引き絞る。

 

この弓の一撃を撃たなければならないのは、彼の意地

 

今回は無理でも、いつか必ず彼女を救うと誓う、彼の想いが彼女を打倒し超えることで確かな自信につなげたいがため。

 

 

 

引き絞る弦はギリギリと軋みをあげ、今まさにその手を離さんとした瞬間

 

アーチャーの目の前に突如飛来した黒い缶

 

その名も『M84スタングレネード』

 

 

「しまっ――――――」

 

閃光と高音が周囲の情報を遮断する、近代武器の一つ。

 

魔術師の戦争においてありえない武装。

 

 

フラッシュバンとも呼ばれる非殺傷の手榴弾は、サーヴァントには通用しない筈の物理攻撃の、この場に限っての例外だ。

 

条件反射のように弓をもつアーチャーは心願、千里眼のスキルにより視力が限界まで強化されいる。

 

霊体化もできないこの状況で、いくら自然現象ではない人間の為の武器であろうが――――この光の威力は拙い。

 

 

人間ですら一時的な失明状態になるこの兵器は、弓兵の強化された瞳に甚大なるダメージを与えることに成功した。

 

さらに、突然の出来事によって構えていた矢は、正に的外れの虚空へと、真名の解放もなく飛んでいってしまった。

 

 

 

かろうじて爆音には対処できたが、英霊ほどの歴戦の兵が戦闘時に目を瞑るなどあり得ない。

 

それが裏目に出た。 いいや、逆手に取られた。

 

片手で目を覆い、もう片方の手で我慢の利かなくなった腹を押さえてのたうちまわる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「セイバー!今のうちに離脱よ!!」

 

「――――くっ、マスターか……ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうそう、今日は桜ちゃん体調が悪いみたいだから学校もお休みするそうよ。」

 

そんな話を聞いたのは朝食の準備を終えて居間にて座った時であった。

 

「藤ねえ、そう言うことはもっと早く教えてくれ。」

 

昨日と同じく桜の文の朝食を準備していたのに、と思いながら何やら上機嫌でご飯を箸でつつく冬木の虎を睨みつける。

 

「そりゃ私だって桜ちゃんのいない朝食はさみしいわよ。でもでもぉ、桜ちゃんだってこれまでも色々あって来ない日があったじゃない?その日がちょっとずれちゃっただけじゃない。」

 

「ああ、よく解らないけど月に1回くらい来ない日があったっけ。」

 

「…なるほどね、お兄ちゃんは鈍感だから分からないだろうけど……」

 

キャスターちゃんはどうやら桜が来ない理由について予想ができたらしく、呆れたように溜息をつきながらナイフとフォークを使って器用に和食を口に運ぶ。

 

実は箸がまだうまく使えないと、昨日の朝食で判明し、顔を真っ赤に染めながら無理矢理端を握り込む姿はなかなかに可愛らしかった。

 

その後に笑いながらナイフとフォークを渡したら、刺されそうになったのはかなり怖かったが。

 

「そこら辺は、仕方ないと思っておくさ。でも、よく藤ねえが朝食前に連絡もらえたな。」

 

桜のことだから、朝の早い時間に電話をすることなんてない筈だけど

 

「それは、昨日言わなかったかしら?桜ちゃんの家、何でも改修工事があるとかで暫く内で寝泊まりすることになってるのよ。」

 

「―――――――」

 

「そうなのか?聞いてなかったと思うけど。っきっと、昨日のごたごたで言いそびれたんじゃないか?」

 

「そうね、私もその話は聞かなかったわ。」

 

キャスターちゃんにも覚えがないということは、どうやら本当に藤ねえが言い忘れたらしい。未だに、あれ?おかしいな?といった表情をしているが。

 

「うぅん………ま、いっか。そのおかげで今日は桜ちゃんの朝ごはんまで食べられる訳だし――――」

 

そう言いながら藤ねえは桜の分の朝食に箸を伸ばそうとする

 

「そう言うことなら弁当にして届けておく。雷画さんにもついでにあいさつしておくよ。」

 

ひょいとと皿を取り上げ、虚空で空振りさせる魔の手の主の恨めしそうな視線を無視して台所へ向かう。

 

「うぅ、藪蛇だったか……っ!―――まあ、桜ちゃんはそんな訳で良いんだけど、問題は士郎よ。今日も休むの?」

 

一応、教師としての心配もあるんだろう。

 

確かに、俺の成績は悪くは無いけれども、優等生でもない。

 

そんな奴が長期間授業をほっぽっているのは些か拙い。

 

けれども……

 

「昨日も言っただろ。それと今日はメイちゃんに町を案内しようと思ってるんだ。昨日は簡単に商店街の方を廻ったけれど、まだまだ日本に慣れないらしくて。」

 

「ごめんなさいお兄ちゃん……私の為に学校をお休みさせちゃって………」

 

俺の傍でキャスターちゃんが瞳を潤ませ、上目遣いでちらりと藤姉を見れば

 

「許す!!私が全力で許すわ士郎!!……でもその代り、午後になったらキャスターちゃんを連れて学校に来なさい。」

 

まあ、日本の学校の風景を見せて、更に俺も午後から出席させるという藤姉なりの計らいが出された。

 

 

 




猫:
アーチャー何とか生還、暫く静養。
セイバー、イリヤに助けられて生還。古傷ぐりぐりで更に修羅になるかも


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嘘24話


お待たせしました。日常?回です。




 

 

 

昼間のアヴェンジャーは学校の屋上で欠伸を掻いていた。

 

彼の性格からして、一か所に留まってじっとしているなど、相に合わず暇を持て余すと言わんばかりに給水塔に寝そべってボリボリと背中を掻いていた。

 

 

「だりぃ……凛たん、こりゃいくらなんでも暇すぎるだろ………」

 

 

彼にしてみれば2日続けての日中の待機時間。

 

アヴェンジャーは凛と違って、学校にいても勉強する必要などどこにもない。

 

暇つぶしにと、ジャグラーのように歪な形をした短剣を具現化し空中に踊らせてみても、5分と持たずに飽きてしまった。

 

烏でも飛んでいれば呪術で操り、視覚を同調させて空からの偵察でもしようと考えたが、運も味方せずスズメ1羽も見つかりはしない。

 

 

「つか、この分だと聖杯戦争中をずっと昼間はこんな暇にしてなきゃならないのか?」

 

 

心のぜい肉はどうした、と心の中で叫んでみるもむなしさが残るだけである。

 

 

すげーや凛たん。大罪の怠惰を俺に押しつけるなんざ狂気の沙汰だぜ。

 

 

もちろん、凛はそのようなことを微塵も考えていない。

 

ただ、聖杯戦争中でも自分の生活スタイルを崩すことなく優雅にこなしてみせようと考え、その日中の警護としてアヴェンジャーを構内に置いているだけなのだ。

 

冬の時期と言うこともあり、放課後も少し経てばすぐに辺りは暗くなり、聖杯戦争の時間となる。

 

アヴェンジャー、と言うよりもサーヴァントを体のいい使い魔くらいにしか見なしていない節もあるとはいえ、そのくらいの時間を待機させることに何も罪悪感を抱いていないのは魔術師の思考としては至極まっとうである。

 

サーヴァントを暇にさせてしまう非効率的な時間も、先にアヴェンジャーが考えていた獣を操る呪術でも使って暇はしないだろうと、安直に考えているのであったが

 

現実はアヴェンジャーの不運も重なり見事なまでの平和であった。

 

 

「おいおい、アンリマユが平和の中にいるって……」

 

 

何処の地獄責め、又は天国責めであろうか。

 

とにかく苦痛でならない。

 

 

 

 

また、先日のように凛の言いつけを破ってみようかとも考えるが、それで令呪を使わせてしまうのは何かと後に響く。

 

 

「あぁーもう、いっそのこと構内でもうろつこうか……」

 

神秘の秘匿なんざ糞喰らえ。

 

こちとら元魔術使いだと、校庭脇の草むらからとってきた葉っぱで草笛を吹くのも飽きた頃、とうとう開き直ったアヴェンジャーは早速行動に移すことにした。。

 

 

「あんまし変装ばっかしてても、ヘアスプレーやファンデを消費しちまうけど、こう言うのは使わなきゃ寧ろ損だろ。」

 

そう気持ちを切り替え、上着とズボンを身にまとえば

 

ほうら、どこからどう見ても『俺』その人。

 

だけど不真面目さ五割増し?

 

 

何処かそんな一連の流れが面白いのか、ケタケタと笑いながら口笛を吹きつつ、屋上から階段へと続くドアへと歩き出した。

 

だが、うろつこうにも決定的に魔が悪かった。

 

 

 

「衛宮か、今日も欠席と聞いていたが、こんな所で何をしている?」

 

階段を下りて踊り場の窓から公手の様子を眺めていたら、屈強な体格の眼鏡をかけた教師に遭遇してしまった。

 

 

「あ?……あー、と……おはよう?」

 

アヴェンジャーは衛宮士郎が今日も登校していないことなど当然知らない為、硬直してしまう。

 

そもそも、生徒の格好をして授業中にうろつくこと自体が目立つ要因なのだが

 

如何せん、罪悪の権化と願われたアヴェンジャーはそんな規則など破ることが前提であり、守ることがが常識であることを忘れていた。

 

「そう言えば、先日の子どもを見学させると藤村先生が言っていたな。」

 

手続きか何かか?と尋ねてくる教師に、ちょっとおっかなびっくりで返答する。

 

「そうそう。やー、やっぱ部外者じゃ色々警備上面倒だよな。ほら、ここんとこニュースでも色々物騒な話題上がるし」

 

思い切り部外者であり、警備の目をごまかしているアヴェンジャーはそう適当にやり過ごそうとするが

 

 

 

「――――貴様、誰だ?」

 

遭遇して実に20秒たたずに不審者認定と相成った。

 

 

あれ?何かおかしなこと言ったっけか?

 

よくよく自分の胸に問いかけてみてもわからない。

 

己の過ちって奴は、なかなか気がつかないものだしな。

 

 

ずばり、口調でばれたのであった。

 

 

しかし、そんなことを考えている今も教師は一切のぶれもなく目の前のアヴェンジャーを睨みつけている。

 

そして感じる、一般人では絶対的に持ち得ない。

 

殺す者が発する静かな空気に。アヴェンジャーは目の色を変える。

 

それが人間から発せられるものだと、更に高揚感が増す。

 

 

人の殺意――――これ即ち悪也。

 

 

「ヒャヒャッ、嫌だね先生。そんな殺気、ぶつけちゃぁ―――」

 

ゾクゾクする、いいやワクワクする。ん?どっちも違うなぁ、強いて言うなら。

 

「ぶっ殺したくなっちまうじゃねぇか」

 

 

その言葉がお互いの戦闘合図となった。

 

すばやく身を屈めたアヴェンジャー

 

先ほどまでの頭があった位置に、猛毒を持った蛇を幻視させる拳が空を切る。

 

 

「シャァッ!!」

 

 

片手をナイフのように、指を揃えたアヴェンジャーの手刀が、一直線に下方から教師の心臓めがけて突き出される。

 

伸びた腕から覗く禍々しい刺青はまるで殺害対象を威嚇し、この世の悪に屈服せよと囁くように人間の足を縫いとめんとする。

 

罪悪と知れ

 

その一撃を逃れんとする者がいるのならば、其の者は人間の悪に賛同するものである。

 

 

 

アヴェンジャーの手刀は僅かな感触をつかんだ。

 

しかしそれは教師が身に着けていたネクタイの切れ端

 

飛沫のように飛び散るのは血液ではなくワイシャツのボタンとネクタイピン

 

振り抜いた腕は視界を一瞬隠し、すぐに晴れた正面に獲物はいない。

 

 

回り込まれた死角に風切音が奔るのを知覚したアヴェンジャーは、前方に飛び込むように回避行動をとり、遁れ様に大きく足を突き出し教師の動きを牽制する。

 

アヴェンジャーを反対の方向に回避した教師はその慣性により生じたエネルギーを膝に溜めるとバネのように大きく跳び込み今度こそアヴェンジャーの首を刈り取らんと拳を振るう。

 

 

「俺がッ!!―――――人間相手に負けるかよ!!!」

 

 

逆立ちをするように毒蛇の牙を回避し、その突き出された腕が引き戻される瞬間を狙い、アヴェンジャーは伸ばした足を使って教師の片腕を絡め取る。

 

すぐさまその一本を捩じ切らんと締めあげる。

 

アヴェンジャーが如何に最弱のクラスであろうとも英霊であり、ましてや人間に対しての絶対的な殺害の優勢を誇る真名を持つ最悪だ。

 

教師はこのまま片腕が潰れる一寸先の未来を待つより他は無い。

 

しかし、誤算があったとするなら、その人間の男は神の敷いた運命すら最初から持ち合わせていなかった殺人鬼であったことだ。

 

この一寸先すらこの男には興味がない。

 

しかし、生き続けることを是とする空虚なる人間は

 

締め上げられる腕をアヴェンジャーの体重をのせたまま廊下の柱へと殴りつけた。

 

 

逆さ吊りに成っていたアヴェンジャーは背中から柱の角に叩きつけられ防御した頭を上方に向け睨みつけるが

 

直後に体感する一瞬の無重力感のなかで、その人間の変わらぬ無表情に思わず感嘆する。

 

 

――――ヤベェ

 

 

男の腕はアヴェンジャーを巻き込んで、拳を床へと叩き込む。

 

しかしその拳は床に届くことは無い。

 

アヴェンジャーと言う肉の壁が間に挟まり、何の心配もいらぬまま全力で腕を突き落とす。

 

 

アヴェンジャーの背中で罅割れ砕けるタイルから、その威力の人間離れを知ることができるが、悪の英霊はその拳を両の手で持って受け止めた。

 

しめたと言わんばかりにアヴェンジャーは絡めた足に力を入れようとするが

 

そこで思わぬ事態に気が付く。

 

 

絡みついていた筈の足に感覚がなく、ズルズルと人間の腕から振りほどけてしまい、ぐったりと足が落ちてくる。

 

 

「おいおい、マジかよ……」

 

 

柱に背中をぶつけた際に背骨が逝ったか、いいや狙われたと言ったところだろうか。

 

眼前の殺人鬼はあの一瞬で目標を殺害する為の最善の一手を綱渡りで成し遂げたのだ。

 

 

続けて繰り出した床に向けての一突きも、アヴェンジャーが背中から落ちて正面の攻撃を防ぐことを想定してのものだ。

 

確実にこちらの痛めた箇所を破壊することに絞った判断だ。

 

結果、アヴェンジャーは仰向けに倒れ込み立ち上がることは出来ない。

 

からまった足から解放された男は、締めあげられていた片腕の状態を確認すると、静かに一呼吸置き、握る拳で止めを刺そうとするが。

 

 

「いやーまいった。やっぱ絶対的殺害を手加減しまくると俺弱えぇや。」

 

 

確かにいましがた倒れていた筈のアヴァンじゃーは男の背後でそんな声を挙げながら欠伸を掻き、まるで背骨のことなど無かったかのように普通に立っていた。

 

初めて驚いたように男が振り返った瞬間。

 

 

キンコンカンコンと鳴り響く、昼休みを告げる鐘の音が、非日常の闇の世界だった空間を日常と言う光で蹂躙する。

 

 

しだいに聞こえてくる生徒の喧騒や、廊下を走る姿も見えるようになり、先ほどまでの時間が白昼夢だったかのような錯覚を覚える殺人鬼も既に教師に戻らざるを得ず。

 

「…………………。」

 

再び視界に収めた周囲に先ほどの衛宮士郎のような姿の不審者はどこにも見当たらなかった。

 

 

 

 

 *  *  

 

 

 

 

「アーチャーさん!まだ動いちゃだめです!!」

 

「気遣いはありがたいが、そうも言ってはいられまい――――っ゛!!」

 

 

藤村邸の一室、桜が大河に借りたその部屋でアーチャーは目に包帯を巻き体を起こそうとしていた。

 

「くそっ、閃光だけではないな……」

 

なにか魔術的な改造を施されたものだったか、視力がなかなか元に戻らない。

 

腹部の傷はマスターからのも力供給ですぐに塞ぐことができたにもかかわらず、視力だけが治りが遅いところを見ると、魔眼封じのための専用に用意されていた可能性がある。

 

使用目的は違っているが、こちらは魔眼以上に目に作用する魔術式を人の身には余る、最上級の威力で懸けていたのだ。

 

咄嗟に感覚共有を遮断したおかげで、桜には影響がなかったが、そのひと手間によりアーチャー自身は間に合わなかった。

 

抗魔力を持つにも拘らずダメージが深刻なのは光の速さと魔術の効果の到達時間のタイムラグまで計算しつくされた精巧なものであったのだろう。兵器に何の知識のない魔術師が施すことができる細工ではない。

 

魔術師をいかに効率よく殺すことができるかを追求する者が考えつくような

 

まるで魔術師殺しのような――――――

 

 

そしてアーチャーは確かにあの時聞いた、聴覚を強制的に弱める寸前に、魔術師が発した呪文を

 

 

『Zeit vera"ndre(固有時制御)――― Doppel beschleunig(2倍速)』

 

 

そう、先日のことを思い出していると、不意に廊下から気配を感じ、すぐに霊体化しようと思うアーチャーだったが。

 

「桜ちゃん。衛宮のところの小僧が来たぞ。何でも弁当を届けに来たそうだ。」

 

襖越しに話しかけられた桜は一気に動揺する。

 

「せ、せせせ先輩が!?どうしようっ、どうしよう――――」

 

『マスター、落ちついてくれ。私は霊体化する、玄関前にでも出向けばよかろう。』

 

咄嗟にフォローを出し、何とか落ち着かせようと試みるが

 

「久しぶりにこっちに顔を出したもんで、居間で待たせてんだ。桜ちゃんもこっちに来な、小僧の分際で異人の別嬪な子供を連れてきやがった。一丁、折檻してやらなきゃならねぇ。」

 

そう笑い交じりに藤村雷画は言い放った。

 

 

アーチャーは腹の傷が開くのを感じた。『あの戯けがっ!??』

 

 

 




猫:
アヴェさんの小さな大冒険でした。

そしてイリヤちゃん切嗣化()
「Time alter(固有時制御) ―― double accel(2倍速)」ってドイツ語で訳すとどうなるのか分からなかったから、適当でござる。
なんでできるかって?そりゃ刻印を―――――墓荒してひっぺがせばできるんじゃね?と思い、取り入れてみました。
戦うイリヤちゃん。発想はどこぞの同人誌のアチャ子さんから思いつきました。


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嘘25話

お久しぶり!やっと年休消化できそう(笑
桜ピーチもといピンチ回です。



 

 

桜が衛宮士郎のいる居間にやってきたとき、そこは既に小さな修羅場と化していた。

 

 

「小僧、てめぇうちの可愛い大河や桜ちゃんをほったらかして今度は義妹か。あれか?今、若い奴らの間じゃはねむーんっつーのか。あ?」

 

衛宮士郎は『それを言うならハーレムじゃ……』と言いたげな表情が滲み出ているが勿論そんなことは言わない。

 

いえば斬られる。

 

 

「あの、先輩……」

 

「ああ、桜。体調悪いんだって?ほら、弁当作ってきたから持ってきたんだ。」

 

そう言って重箱にでも詰めたのであろう、少し大きめな弁当の包みを居間に入ってきた桜にあいさつ代わりと渡してくる。

 

流石に桜へ気を遣い弁当を持ってきたことには文句は言えないと、雷画が奥へと引いて行くのを見てお互いにようやく一息という空気が生まれる。

 

 

「あ、ありがとうございます先輩。…その、どうして私がここにいるって……」

 

「タイガがここにいるって教えてくれたわ。昨日は言い忘れたんですってね?」

 

 

士郎の隣に座るメイがお茶を啜りながらちらりと桜に目を向け、少し冷たく事実を告げる。

 

 

主犯が判ったことに対する動揺と共に、桜は混乱する。

 

悪いとは思いつつも、桜は大河にとある暗示をかけていた。

 

 

『家にいるとき以外で間桐桜の現在の住居について話題にあげないように』

 

 

自然とその話題を口にしないように、離れるように。

 

人の関心を逸らすのは、秘匿すべき魔術を扱うものが尤も注意し、自然に見せるように行う、初歩の技術だ。

 

間桐の家に入ってからの殆どを魔術を身につけることではなく、間桐の魔術に適合・適応・順応できるように修練を積んできた、魔術自体の技術がほとんどない桜ではあるが、流石に初歩の暗示くらいは出来る。

 

それは、間桐の蟲が桜にサーヴァントを召喚させる下準備として最低限習わせた数種の魔術の一つであったからだ。

 

 

それが、何かのミスで失敗してしまったのかと、焦りを浮かべる。

 

 

「えっと、―――――あはっ、ごめんなさい先輩。昨日のことで驚いて、藤村先生も私もお話するの忘れてたみたいです。」

 

そう言って苦し紛れに笑ってみせると、士郎も苦笑いしつつ、それなら仕方がない。といい

 

「こっちにも原因はあるだろうな。メイちゃんの話題の方が衝撃的だっただろうし、そんな中で二人が忘れたのも無理もないことだろ。」

 

お互い様だな。

 

 

そういて士郎が笑いだすと、桜もつられて笑いだす。

 

ただひとり桜の表情を見つめ観察するメイを除いては。

 

 

目を細め、何かを探るように、彼女の瞳は最大限の警戒を最小限の気配で放っている。

 

そのことに気が付く人間はこの空間ではいない。―――人間では。

 

 

アーチャーは先の通り霊体化してこの屋敷の内部にいる。

 

更には桜とのラインを気がつかせぬよう、士郎達がこの屋敷に入り込む前に苦し紛れの単独行動スキルを展開。

 

最低限の傷の手当てはしたので後の回復は自己治癒力に任せている。

 

 

どちらにせよ今日いっぱいは魔眼殺しの影響で満足に戦闘もできないであろうことから、大人しくしているつもりではあったが、

 

(やはり、キャスターの察知範囲には引っかかってしまったか。)

 

魔術回路の有無で魔術師を見分けることが可能である以上、素質が並みの術者以上にある桜が疑われたのは仕方のないこと。

 

さらに、キャスターはその魔術スキルからサーヴァントの察知にも敏感だ。

 

他のクラスに比べて極端に劣勢を強いられるがゆえに、他のサーヴァントの存在を察知しやすい。

 

気がつかれた。それは最早キャスターの中で間桐桜がマスターであることを決定づける要因たり得る。

 

どちらかが動き出せば、この場は一気に加速する。

 

気がつかぬはマスターのみ。

 

 

ならば―――――

 

 

 

 

  *  *  

 

 

 

キャスターとアーチャーが動いたのは同時であった。

 

実体化したアーチャーは衛宮士郎の背後に現れ刃を突きつける。

 

対するキャスターは目の前にいた桜に歪な短剣を首筋に突き出し、体を背後に回り込ませアーチャーと向き合うようにし、同時に声をあげる。

 

 

 「「動くな!!」」

 

 

いきなりの展開に士郎も桜も思わず固まってしまう。

 

士郎にしてみればキャスターがいきなり桜に襲いかかったようにしか見えず、背後から付きつけられた刃の殺気はさらに混乱するには十分だ。

 

桜は漸くメイがサーヴァントだと気がつき、正面に向かい合う士郎がアーチャーに襲われている。それは即ち、衛宮士郎が聖杯戦争に参加するマスターだということだ。

 

 

衛宮の家は魔術師だということは臓硯から聞いていた。

 

だからこそ、その動向を監視するという名目で屋敷に通っていたのも事実だ。

 

しかし、彼の人柄からして聖杯戦争に参加するなんて思ってもいなかった桜は今の状況が信じられない。

 

先輩が私を殺しに来た。

 

その恐怖が桜を一言もしゃべることができない状態へと追い込む。

 

 

一方、桜の首筋に短剣を突きつけたキャスターは絶体絶命の危機と感じ取っていた。

 

今、このコンディションでサーヴァントと戦闘ができるか。

 

答えは否だ。

 

故にこうやって人質まがいの方法をとりに行くしかなかった。

 

屋敷の中に既にサーヴァントがいたのだ。

 

先にいかなければ、こちらが殺されてしまう可能性も十分にあった。

 

その為には自分のマスターの安全を確保するよりも先に、敵マスターを抑えなければならない。

 

そうしなければ膠着状態にも、交渉する場にも持っていくことができない。

 

だから衛宮士郎の方が自分の近くにいたにもかかわらず、一歩前に飛び出し桜を襲った。

 

 

理想形としては、敵サーヴァントが衛宮士郎ではなく自分に刃を向ける方が都合が良かったが、とっさの判断は相手もまた場慣れをしているのか、迷わず士郎を人質にする形で立たれてしまった。

 

 

途端に支配するのは冷たい静寂。

 

お互いがその姿を視界に収め、そこで一方に疑問が生まれる。

 

 

「は、どんな陰湿なサーヴァントかと思えば……。貴方、手負いじゃない。」

 

士郎を人質にとるアーチャーは目に包帯をしたままであった。

 

しかしそれでも英霊だ。その手元に握られた刃、起ち居から見るに視覚が封じられていようとも、気配でこの空間を把握しているのだろう、その切っ先は一寸のぶれもなく士郎を捉えている。

 

「なに、最弱の英霊を相手取るにはちょうどいいハンデだ。それに、こんな間抜けなマスターをいとも容易く自陣にて刺せるところを見るに、君の方が劣勢に思えるが?」

 

 

条件は対等、しかし赤い英霊が紡ぐ言葉は少女をキャスターだと看破しての発言だ。

 

そしてこの余裕、魔術師のサーヴァントに膠着状態の作戦を下策と知って尚か。

 

 

―――いいや、この余裕から察するに当てはまるのは

 

"抗魔力"ではない

 

"単独行動"だ

 

 

これを有する英霊ならば、こちらの人質は意味をなさなくなる。

 

忠に熱い騎士なら、先の可能性であったキャスター本人に刃を向け救出を先決にする筈。

 

だが、赤い英霊は迷うことなく衛宮士郎へと目標を定めた。

 

これでは矛盾する。

 

 

つまり、導き出されるのは反英霊の可能性。

 

主の消失すら厭わぬ同類ならば、赤い英霊の独り勝ちだ。

 

その確証を得るにはどう揺さぶるべきか。

 

 

そんな思考の波にキャスターが呑まれる中で、均衡は桜によって崩された。

 

 

か弱き筈の人質の少女は信じていた、信じたいという願いによってその命を目の前の少年に掛けた。

 

「令呪をもって命じます―――――」

 

その輝きは彼女が座っていた座布団の陰から

 

「貴女何を!?」

 

思わずキャスターは桜の喉元に短剣を突き刺そうとするが

 

「止めろ!!キャスターちゃんっ!!!」

 

 

衛宮士郎の右手の甲から一画の痣が消えることで阻止された。

 

 

 

 

 

  *  *  

 

 

 

 

 

「あグッ――――、がはっ………ッッッ―――」

 

冬木の外れに位置する森の奥、そのさらに奥にそびえるアインツベルンの城

 

その一室で、独りの少女が血を吐き悶えていた。

 

 

「イリヤスフィール!しっかりしてくださいっ!」

 

 

シーツの端がちぎれんばかりに握りしめ、苦しむ少女。その手にセイバーは手を重ね沈痛な面持ちで看病する。

 

彼女が昨夜使った魔術、『固有時制御』

 

 

協会が回収した8割の刻印と切嗣の墓を暴いて回収した2割の刻印

 

完全となった衛宮の刻印を用いた完全なる体内時間の操作魔術。

 

 

元々研究肌の魔術師が開発した時間制御に、切嗣が改変させた戦闘特化のリミットブレイク。

 

これらがすべて揃っているならば、切嗣のような副作用で臓器や血管がズタボロになることは殆どない筈であった。

 

 

しかし、肝心の刻印移植の時間はあまりにも足りなかった。

 

イリヤスフィールの肉体は第2次成長を迎える前に停滞してしまった。

 

 

まるで、あの10年前から時間が止まってしまったかのように。

 

まるで10年間、ひたすら誰かを待ち続けるように。

 

そんな彼女の体は衛宮の刻印になじみ切れていなかった。

 

そんな状態では『固有時制御』の発動中に体内が圧壊しかねない。

 

それでは聖杯が壊れかねない。

 

 

 

そこで考案さられたのは、一時的な『肉体年齢の加速』であった。

 

 

昨日、アーチャーはその視覚を奪われ彼女を捉えることは出来なかったがセイバーは見た。

 

幸いにもそれが、罪の呪怨を掻き消す程に衝撃的だった程だ。

 

フラッシュバンの閃光の中を駆け抜けるその姿は18歳前後の銀髪の乙女

 

それは嘗て、騎士の名に掛けて守ると誓ったアイリスフィールと見間違うほど。

 

 

肉体時間の加速により一時的に、強制的に成長した彼女は刻印の拒絶反応をほとんど出さずに衛宮の魔術を行使できる。

 

 

しかし、代償はやはり付きまとうものだ。

 

一旦魔術の発動を治めてしまえば、それまでの成長時間の反動肉体の拡大と収縮のフィードバック。

 

 

体にかかる負担は切嗣の固有時制御のに比べれば、幾分かダメージは軽減されているが

 

骨から筋肉、臓器に至るまで、

 

その全てにかけて激痛が襲いかかるのは切嗣以上の苦痛であり、また幼い体には深刻なダメージとして襲いかかる。

 

 

そんな激痛の中で少女は魘される

 

「…キリツグ……そ吐き………すぐ……かえって、……くるって―――――」

 

 

「イリヤスフィール…」

 

少女のうわ言にセイバーは何と答えていいか分からなかった。

 

 

 

『王は人の心が分からない。』

 

 

セイバーは苦しむ少女の傍にいることしかできなかった。

 

 




猫:
キャスターがロリならイリヤちゃんグラマナスになってもいいんじゃね?
と思い、そんな設定を取り入れてみた。
体内時間の操作を行う為に肉体時間の操作をおこなう無謀。
衛宮の刻印が完全版なら、そのくらいできてこその封印指定だと思いやっちまいました。
イメージとしては同人のアチャ子(わかる人いるのか?)
登場人物は外見も含めて18歳以上でございます!



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嘘26話

お待たせしました。
お見合いなんてしたくないんだ!!
返せ!正月休暇を返してっ!


 

「マスター。これだけは最後に聞いておかなきゃいけないわ。」

 

「ああ、なんだい?」

 

「マスターは聖杯戦争に参加するのかしら?」

 

それは、衛宮士郎がキャスターを助けた晩に交わした言葉。

 

聖杯戦争に参加するか否か。

 

ルールは聞いた。非道さも残酷さも聞いた。恐ろしさも十二分に伝わった。

 

 

仮に、ここで衛宮士郎が聖杯戦争に参加しないというのであれば、キャスターは数日間だけ彼をマスターとして自身の力を回復させてから関係を断ち、後は適当な人間を傀儡としてやりくりしようかと考えていた。

 

短い間の会話のやり取りであったが、衛宮士郎の雰囲気は魔術師のそれではなく正義感あふれる善良な一般人のそれだ。

 

醜悪で欲深い人間ならば裏切りで返せばそれでいいが、善良なる者からの恩は出来る限り裏切りたくはない。

 

そんな考えをキャスターは持っていた。

 

故に彼女は問う。この未熟な魔術師、衛宮士郎は殺し、殺されな世界に足を踏み入れることを、自分がその立場に立つことをよしとするのか。

 

「俺は聖杯戦争なんて、そんな争い事が有ること自体が反対だ。そんな戦争で、関係のない一般人が巻き添えになる可能性が有るって知った以上、見過ごすことなんてできない。」

 

そうだろう、彼は未だに幼き夢から覚めない狂信者だ。

 

やはり、彼の手を借りるなんて、してはならない。

 

「その前に、キャスターちゃんの願いを教えてくれ。その願いが――――――」

 

 

 

 

 

  *  *  

 

 

 

間桐桜は勝利した。

 

それは彼女の人生の中で初めてのことである。

 

日常の中の出来事ではない。魔術師の世界の、英霊をも交えた殺し合いの舞台において、サーヴァントに刃を突きつけられながらも

 

彼女は敵サーヴァントの契約者であろう想い人、衛宮士郎を、正義の味方を志す少年を信じたのだ。

 

 

その結果―――――

 

 

「―――っ!?どういう心算かしら、坊や。そんな自殺志願な令呪を…受け入れろですって?」

 

メイちゃんが、キャスターちゃんが歯噛みをしながら私に向けていた短刀を降ろし、令呪による命令を下した先輩を睨みつける。

 

 

「何がどうなってるのかよく解らないけれど、とにかく待ってくれ!桜を傷つけるだなんて、俺が許さないぞ。」

 

ああ、やっぱり先輩だ。

 

 

聖杯戦争に参加していても、目の前の少年は少女が知る通りの正義の味方である。

 

 

だったら交渉のカードはこちらから先に切るのが、私を信頼してもらえる第一歩だ。

 

「アーチャーさん、私が最後の令呪を使いきるまで先輩とメイちゃんを傷付けることを禁じます!」

 

 

 

  *  *

 

 

 

桜の座布団の影から赤い光が消失し、キャスターはそれが令呪によるものだと判断した。

 

判断したが……理解が追いつかないという困惑の表情だ。

 

 

「あ、……貴女、正気!?貴女が令呪を使うのが何度目だか知らないけれど、それをわざわざ私たちの前でやるなんて自殺願望でもあるのかしら?」

 

「それは違うなキャスター。ウチのマスターは聖杯戦争で、勝利は目標としていない。」

 

そして私もな。とアーチャーが続ける。

 

 

キャスターはあり得ない発言を聞いたと、目元を包帯で覆っているアーチャーを瞠る。

 

そんな口先だけの、と言いたいのであろうが、キャスターの中でそれが矛盾するということに気がついてしまう。

 

それならば、令呪など使わない筈。

 

 

サーヴァントが手負いだから勝てないと断じたか?

 

こちらの魔力が明らかに弱っていることなど、気配ですぐに読み取れてしまう。

 

サーヴァントはその眼で相手の強さを測るのではない、霊格で見るのだ。

 

魔術師の英霊を倒せぬ三騎士か。このアーチャーと呼ばれたサーヴァントは目を負傷している。

 

弓兵の生命線たる目が使えない為に慎重に出ているのか?

 

だとしたら、先の迷いのない剣での人質行動が説明できない。

 

あれは目が封じられていようとも、接近戦も心得ているという現れだろう。

 

室内であったから狙撃をしなかった可能性もあるが、それでも今の私ではあの刃を避けることは出来なかった筈だ。

 

なのに何故、桜は令呪を使ってまで衛宮士郎と、しかも私までアーチャーの攻撃禁止対象に入れた?

 

坊やが私に使った令呪は「今、間桐桜を攻撃するな」という内容で伝達されている。

 

仮に、私がもう2、3呼吸置いて、再度彼女を攻撃すれば、令呪の縛りが外れる可能性もあるのに。

 

 

 

ならば、本当に戦意がないのだろうか?

 

 

判らない。しかし、状況は不明なままであちらのペースに流れている。

 

仮に、ここで私が彼らを信用するための材料を要求しようにも、あちらは既に令呪を消費する暴挙に出ているのだ。

 

そしてそれを目撃したのは衛宮士郎(お人よし)だ。

 

これが姦計を巡らせた罠だとしたら、衛宮士郎は落とされる。

 

 

切り札を今切るべきか?

 

いいや、まだ切れない。

 

アレは絶体絶命の瞬間、聖杯戦争も終盤で切るべき裏技だ。

 

なら、今は手持ちの材料でどうにかするしかない…ないのだけれども。

 

この先に待ち構えている相手が持ちかける交渉カードは恐らくは『同盟』。少し引いたものでも『不干渉』だ。

 

間桐桜

 

 

『間桐―――マキリ』

 

 

この地に住まう聖杯戦争の御三家が一角。

 

そして呼び出しているのは、現在は負傷中とはいえ三騎士のアーチャー。

 

これほどの好条件を引き当てている者が、はたしてそのようなプライドを捨てる行為を行うだろうか。

 

魔術師とはその大半が、自らに課した法と理念を厳格に順守することに、ある種のプライドを持っている。

 

その流れで、他者との関わりを極端に避ける者すらいる。

 

それは名門名道になればなるほど、その血筋に刻み込まれていくものであり、魔道が門外へと漏れ出さぬようにするためである。

 

それは聖杯戦争中であろうと例外ではない筈だ。

 

 

――――と、ここまでが魔術師としての理屈。

 

 

そう、ここまでが間桐桜を魔術師として、人ならざる道を歩むものとして捉えた場合だ。

 

 

このように疑われ、迫害されることは生前に嫌というほど味わってきた。

 

もしも、ここまでが彼女の計算通りに進んでいることだとしたら、反英雄としても称賛の言葉を贈るほどだ。

 

勘に依る処が大きいが、この状況は咄嗟であったと見ることもできる。

 

その上での綱渡り――――大きな賭け。

 

彼女が本当に聖杯に求めるものがないというのであれば、先の行動は

 

『恋心』

 

鈍感なマスターは気がついていないかもしれないけれども。

 

 

だから、この次に発する言葉、返答でそれを見極める。

 

 

「なら、この場で私を納得させる一言を言いなさい。」

 

 

そう、真に幸せを願い、それが叶わない絶望の淵にいる者が発する言葉はいつだって一つだ。

 

愛して欲しい。それならば、他者からこの解答を要求されて答える言葉は―――――

 

 

 

「………ごめんなさい、言えません。」

 

 

ええ、それが正解。

 

 

願いを口に出せない弱者。

 

望みをかなえようとしても、自分自身ではどうしようもない深い闇に囚われてしまっている、心清き者の精一杯の叫びだ。

 

 

自分でもわかるくらいに、睨みつけていた瞳は和らぎ、固く結ばれて痛く元が緩む。

 

 

さあ、ここにいるのは権謀術数を巡らす裏切りの魔女だ。

 

されど、それを従えるのは正義の味方を目指す青い少年。

 

 

言葉にしなさい。

 

  持ち掛けなさい。

 

貴女が望む愛しい手は今確かに―――――強くなる。

 

 

「でも、お願いします。メイちゃん、先輩。聖杯なんて要りません。だから――――――――」

 

 

ああ、100点満点もいいところだ。

 

 

彼女は踏み出した。ならば次の出番はその手をつかむ者だ。

 

 

 

この世全ての悪が見せたものとは違う、罪ではなく正義を背負う少年は何を想うか。

 

少年は少女へと―――――その手を伸ばす。

 

――――愛する人の笑顔へと至る、その扉への道は、示された。

 

 

 

 

 

  *  *

 

 

 

 

「ランサー。やはり私が前衛になります。貴方はルーンによる戦闘補助を中心にしていただければ……」

 

「おいおい、それはこっちの台詞だ。早いうちに型を付けるってなら俺が前に出ている方がいい。」

 

とある洋館の一室でランサーとバゼットは揉めていた。

 

ゲイボルグを封じられたランサーではサーヴァントとやり合うには難しい。

 

特攻をかける気で突き当たればキャスターくらいならどうにかできるかもしれない。

 

そんな悲観的な、消極的な考えに陥ってしまっているバゼットに、ランサーは

 

「他の連中に俺の封殺がどこまで漏れているか分からねぇ。宝具も使っちまっている以上、今最優先するべきはあの狂戦士を真っ先に潰すことだ。他の連中と潰し合うような事態も考えられなくはないが、奴も確かに刺し穿つ死棘の槍を受けている。アレで心臓を貫かれて何で死んでねぇのかは分からないが、少なくとも再生は満足にできていない筈だ。」

 

挑むなら、狂戦士との再戦。

 

それもできるだけ早く。

 

ランサーは原初のルーンにも精通する、キャスターとしての素養も兼ね備えている。

 

魔術と肉弾戦をうまく組み合わせれば、セイバーやキャスター以外なら十分に対処できる。

 

そう計画を定め拠点の洋館を出ていくランサー。

 

あくまでバゼットはマスター(魔術師)なのだ。ましてや女ならそれはランサーが前に出すまいとする気概も十分に伝わる。

 

「……やはり、私では貴方の隣には立てませんか…?」

 

俯きながら小さくバゼットは己が心中を溢す。

 

「いつの時代でもあることだろうが。テメーが守るべき女を、戦いの場で前に立たせるなんざ男は好まねぇのさ。」

 

「それは偏見です。私はそんなこと――――」

 

「それに、ちったぁ俺を信用してくれてもいいんじゃねぇのか?『信用』だって、対等ならそれこそ戦友だ。」

 

ランサーはバゼットに背を向けながら笑う。

 

不利な戦いなど、苦戦などそれこそ生前では茶飯事。それでも手持ちの力で困難を、不可能を切り抜け奇跡とする。伝説をなす。

 

それこでこその英雄だ。

 

その背中はバゼットにはとても大きく映り、しかし今自分がその背中を任されたと悟る。

 

その背中こそがランサーの語った『対等の信用』

 

「――ふふっ、戦闘時はあまり離れないでくださいね。傍にいてくれれば私もサポートしやすいので。」

 

「おう、なかなかいい口説き文句じゃねぇか。それでこそ張り切り甲斐が有るぜ!」

 

先ほどまでの落ち込みが幾分か和らいだバゼットはランサーと共に夕暮れの街へと向かう。

 

 

 

 

 

「ギャハッ!!凛たんに報告ぅっ!!」

 

こりゃあ明日から退屈せずに済みそうだ。

 

人の逢間に紛れた悪意は次の罪悪を狙う。

 

 

 




猫:
本当は後半部分は慎二を書こうとしたのですが、納得できい部分を叩修正している内に前消ししてしまったのさっ!!
慎二君キレイにしすぎてもあれなので少々原作通りのゲスさを混ぜて行こうかと考えています。
さて、士郎と桜がペアとなる訳ですが。当初、この組み合わせは非常に難しいと思いかなり迷いました。
桜とキャスターって、ホロウでこそそこそこ中がいいようですけれど、聖杯戦争中ならキャスターいじめっ子に変貌しちゃうんじゃ?と。
なので、それっぽい心理描写で今回は埋め尽くす羽目になりました。
今のところ桜の中の蟲には気がついたとしても知らんぷりな形で進めたいと思います。
キャスターは桜の心の弱さに打たれても、生者を救うのは生者として、現時点では深入りしないと理解していただければ幸いです。


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嘘27話

平日休暇おいしいです。(インフル)
就活生の皆様。今年も私が面接やります。

時系列はランサー達が洋館を出るより前、お昼過ぎ。



 

衛宮士郎と間桐桜が同盟関係になった後、キャスターはアーチャーも含めて情報交換を開始した。

 

「私が遭遇、確認したサーヴァントは貴方を除いて1騎よ」

 

「私は…君を除いて4つのクラスだ」

 

キャスターとアーチャーはそれぞれマスターの横に立ち、士郎と桜はテーブルに向かい合うように座っている。

 

桜は几帳面にもノートとペンを持ちそれぞれの戦力図、情報をまとめようとしている。

 

「まずは私から話させてもらおう。どうやら情報量もこちらが多いしな。―――なに、こちらから申し込んだ同盟だ。それくらい、惜しんだりはせんよ。」

 

「ずいぶんと饒舌になるわね?……さしあたっての対価はその眼と腹部の早期回復の手助けってとこかしら?」

 

「魔術師らしい君の考えだな。それは、内容を聞いてもらってからで構わんよ。それに見合う物をくれると言うのであればこちらもありがたいが」

 

どうやら情報一つにせよ、この二人の間では条件だの駆け引きだのの心理戦らしい。

 

傍で見ている士郎と桜は、果たしてこの二人は同盟を快諾していないんじゃないかと不安を募らせる。

 

「まず、昨夜。教会の近くの公園でランサーとバーサーカーが戦闘をし、其れを遠巻きに観戦した。ランサーのマスターは恐らく御三家ではなく外来の魔術師だろう、麗服を着た女性、どちらかといえば戦闘に特化した魔術師という印象を受けた。」

 

「観戦ね……その眼は巻き込まれて?」

 

「いいや、その後セイバーと戦り合ってな。―――――その話は後にしよう。最優のサーヴァントが気になるのは無理もないが、槍兵と狂戦士も捨て置けない情報だぞ。」

 

アーチャーのもの言いにキャスターは眼を細め、それが『セイバーの情報と同等の価値がある』と伝えたいことを察する。

 

「ランサーのマスター、アレは『伝承保菌者』だ。」

 

「!?っ、そんな……。まずいわね、下手をしたら……」

 

「ああ。最悪、保菌者が我々を足止めして、ランサーがマスター達を襲ってくる可能性すらある。」

 

キャスターとアーチャーが真剣な顔で予想を述べあう中、士郎と桜は置いてけぼりを喰らう。

 

二人とも魔術を長年知りながら、それでいて魔術の世界の知識など初歩の初歩しか知らないのだ。

 

様々な知識を知り始めたのもここ数日。キャスターやアーチャーはそれぞれ魔術の世界の常識を教えたものの、それも必要最低限な触りにすぎない。

 

「伝承保菌者って言うのは、簡単に説明するなら宝具をもつ家系が、代々その使用能力を継承して行って、それが人の身でありながら最上級の幻想の真名を紡ぐことができる者のことよ。」

 

「信仰ある伝承を受け継ぎ、形ある伝説を引き継ぐ。人間が英霊を打倒しうる可能性のある、最上位の存在だろうな。」

 

そんな説明は衛宮士郎の中で、敵マスターの姿はどのように想像されたのだろうか。

 

伝説を再現する人間。

 

それは数々の歴史の中で言う英雄と同義であり、その力で数々の人を助けることができるのなら、それは間違いなく衛宮士郎の望む正義の味方の力だ。

 

生まれが違う。そんなことは志を定めたときから百も承知だ。

 

しかしながら、憧れ羨む気持ちは拭えない。

 

「それで、……ランサーとそのマスターはどうなったんだよ?」

 

士郎は己の中で何かが咬み合おうとする、ギシリギシリという雑音を抑え込みながらアーチャーに問いかける。

 

「――ふん、そうだな。結果から言えば双方痛み分けとなったようだ。ランサーは必中の槍を恐らくバーサーカーの宝具にだろう、封印の類による効果で封じられてしまったらしくな。保菌者も宝具を必殺の威力に出来ないまま撃ち捨て退いて言った。」

 

「必中の槍…まさか、ランサーの真名はっクー・フーリンかしら?」

 

「恐らく間違いないだろう。事実、バーサーカーの心臓部を貫いた槍は突き出された瞬間、私の眼にも追い切れぬほどの速度で、あり得ぬ軌道を描いた。」

 

突き出されたら最後、回避不可能の心臓破壊。

 

因果を捻じ曲げ、心臓を貫いたという事実が先に確定し、その後槍が軌道を無視して突き刺さる。

 

「先に相手をしていれば、それこそ勝ち目がなかったかもしれないわ。宝具を封じたバーサーカーに感謝したいところだけれど、当の狂犬はそんな状態で生きているのかしら?」

 

そう、バーサーカーは心臓を貫かれたとアーチャーは言った。

 

英霊とは言え心臓を破壊されては生きてはいられない。

 

話に聞くバーサーカーが三騎士と互角に渡り合える英霊というのは理解できたが、そんな状態では消滅してすぐに法具の効果が消えてしまうのではないだろうか。

 

「それは私にもよく分からなかった。狂戦士のクラスに拒死性がない以上、奴のスキルか宝具によるものだろう。しかし、あのバーサーカーは異常だ。奴と戦うならばマスターと離れた状態で総力戦に持ち込むしかない。」

 

「そこまでの評価だなんて。何か思うとことがあるのかしら?」

 

「思うところ、ではない。バーサーカーの真名も掴むことができた。」

 

 

「アレの真名はハサン・サッバーハだ。」

 

「!?……っ、成程。アサシン崩れならえげつない生き意地もあるでしょうね。」

 

キャスターはアーチャーの発言で即座に理解する。

 

難しくは無いことだと。

 

ハサン・サッバーハを暗殺者ではなく、狂戦士のクラスで召喚したということだ。

 

ランサーと互角の勝負ができるのは驚きだがこれで『アノ』英霊がいたことに納得がいく。

 

足りないクラスが埋められたか、横入りしたクラスに押し詰められたか。

 

 

「そう言う訳だ。ランサーは近いうちにバーサーカーと再戦を果たすために積極的かつ、周囲を警戒をしながら動き回るだろう。もしも他の組がこれを知れば、狙うのは奴らのどちらかが勝利した時、一瞬の隙を突いてくるだろう。」

 

「或いは、バーサーカーの援護に回って先にランサーを潰す、という線も考えられるけれど?」

 

「援護に回る。という点は裏があるときだ。伝承に聞く魔槍が真実、心臓を再生させないものであるのならバーサーカーは手負い。マスターともども捨て駒にされて裏切られるだろう。」

 

「そうはいかないと?まるで狂戦士のマスターを知っているみたいね。」

 

「……アレは孤高だ、他者の協力などかえって邪魔と感じる部類の者だ。無理矢理協力してしまえばその限りではないだろうが、真に手にしたい物は己が力だけで挑むだろう。」

 

「確定ね。」

 

キャスターがたたみかける中で桜の表情がどんどん暗くなっていく。

 

それに気がついた士郎は俯く桜に声をかける。

 

「……桜?大丈夫か?」

 

「――はぃ。……」

 

アーチャーも桜を気遣うように視線を落とし、そして自分の失敗を悔いる。

 

『あの時に余計なことを言わなければ間桐慎二は聖杯戦争に参加しなかったかもしれないのに』と。

 

「バーサーカーのマスターは桜の兄、間桐慎二だ。」

 

「な!慎二が!?」

 

アーチャーの告白に士郎は目を剥く。

 

意地っ張りな友人。気難しい性格だが悪い奴じゃあない。

 

そういった認識で付き合ってきたクラスメイトだ。

 

まさか桜のみならず彼までもが死の危険が隣り合わせな魔術師の殺し合いに参加しているというのだ。

 

しかも、その戦闘は伝説を扱う魔術師を退かせるほどの力を持つというのだ。

 

「何を驚いているの?お兄ちゃん。一昨日教えた筈よ。聖杯戦争の御三家はトオサカ、マキリ、アインツベルンだって。私は当初、マキリは参加しない筈だと前マスターから聞かされていたから、驚くべきはこっちの妹さんが参加していた事についてだと思うけれど。」

 

「マキリって、まさか……」

 

「間桐に姓を変えているらしいわね。でも、確かにこの地域の霊質にその姓は良くないわね。私から言わせればそんな変え方マイナスにしかならないもの。」

 

衰退して行ったのも頷ける、とキャスターは指摘するが、士郎が衝撃を受けているのはそんなことではない。

 

やはり慎二は天才な奴だと。

 

自分では今だ届かない遥か高みに、既に足を踏み入れているというのだ。

 

そう思い、膝の上においていた拳を硬く握りしめる姿を見たアーチャーは。

 

 

 

 

「貴様が挑み競うべきことはそれではないだろう?理想を求めすぎれば溺れ死ぬだけだぞ。」

 

 

 

 

  *  *  

 

 

 

 

「ぜぇ――――ぜぇ――ひゅっ………」

 

血が足りない。

 

血流操作を始めるまでの、敵マスターが退いて行った後を確認するまでのタイムロスで流れ出た血は一体どれくらいがったか。

 

しかも、付け焼刃の魔術だ。完全に制御しきっている訳じゃない。

 

視えないパイプを伝うように、規則正しく流れては体に戻る血は―――完璧じゃない。

 

ぽたり、ぽたりと点滴のように地面に滴る。

 

バーサーカーはその程度なら問題ないかもしれない。

 

あいつは例え全身の血を失っても生きていられる。

 

だけど僕は人間だ。

 

2000ccも失血すればすぐにあの世行きだ。

 

魔術師ならこれしきのことで死んだりはしないんだろうか?

 

魔術師になれば生きていられるんだろうか?

 

分からない。

 

でも、あの妖怪爺なら、少なくともこんなんじゃ死なない。

 

それだけは確かな確信が持てる。

 

―――――ナニ信じてんだよ。

 

とにかく補わなくちゃいけない。

 

足りないものは他から持ってくる。

 

魔術の基本だろ?

 

ああ、そうさ。血が足りないなら他所から補えばいいんだ。

 

間桐の魔術属性は水。得意とするところは吸収だ。

 

僕は魔術師になるんだ。

 

 

 

だから、「こんなことだってえぇぇええええっう!!!」

 

 

 

バリッ、――ちゃっ!ガツッ、ぐちゃぐちゃ――――じゅっず!るゅちゅずず……

 

僕じゃない誰かが嗤う。

 

 

「カカッ!!」

 

 

 

 

  *  *  

 

 

 

 

「善戦はしたんだが、傍に潜んでいた敵マスターが魔術を施した近代兵器を使って私の視力を封じ、その間にセイバーともども退いてしまった。」

 

その内容にキャスターは驚いた。

 

セイバーと言えば、自身が最も警戒するべきサーヴァントだ。

 

それを退けたというのだ。これが驚かずにいられるだろうか。

 

「……善戦、なんて……っ!とんだ謙遜じゃない。しかも、視覚が封じられてるのに相手が引いたってことは、貴方の方が優勢だったってことかしら?」

 

「ギリギリ、運が良かっただけだ―――――それに、最後の最後で止めを刺し切れなかった以上、次は無いだろう。アレはそう言う英霊だ。」

 

興奮気味のキャスターに対し、アーチャーは包帯越しでもくっきりと浮かび上がるほど眉間に皺をよせ苦々しい表情を作る。

 

「あの……アーチャーさんにメイちゃん。一つ質問したいんですけど、敵のマスターが使った『近代兵器』に魔術を付与することなんて可能なんですか?」

 

「そう言えば、そうだ。科学と魔術はそもそも向かっている方向が違うってキャスターちゃんも俺に教えてくれたけれど、どうなんだ?」

 

「そうね………。お兄ちゃん、強化の魔術で学校のストーブの配線なんかを補強したことが有るって言ってたわね?原理はその応用よ。」

「アーチャー。貴方が受けた視力封印、恐らくは魔眼殺しの封印ね?」

 

「……その通りだ。近代兵器――――閃光と音で五感の2つを潰すスタングレネード。その光の速さと魔術の到達時間のタイムラグまで計算されていたのだろう。こと、眼を封じるにはこれ以上ない兵器だ。」

 

「実際に見た訳じゃないから、ここからは推測になるけれども、錬金術と年数は浅くても『常識』を逆手に取った概念の付与があるわね。」

 

その言葉に桜と士郎は首をかしげる

 

「お兄ちゃんに昨日の夜に教えた概念武装・礼装は、長い年月をかけて信仰を集めて神秘を作る概念生成ね。でもそれはどうしても信仰する人員、認知度合いによっても付加されるまでの年月が異なるの。」

「そこで、今回使われたであろう近代兵器は尤も認知が高い『常識』を概念に取り込んだのよ。」

 

常識。それは本来魔術師たちが最も忌避し離れなければならない言葉な筈だ。

 

常識があるからこそ異端が、異常が支配する魔術なのだ。

 

それは言いかえれば魔術が常識になってしまった瞬間、魔術基盤は神秘を無くし崩れ去ってしまう。

 

「強い光が溢れれば人は眼を瞑る。強い光が目に当たれば視えなくなる。――――こんな所かしら?アーチャー、その兵器はもしかして一般ではそれだけの機能のものかしら?」

 

「ああ、高音で聴覚も潰すのをあわせて、それだけだ。……成程、常識として広く知れ渡っている『これは人の目を潰す』という大衆概念を魔術で強引に擬似神秘に仕立て上げ、その上で魔術式を追加して行く、という仕掛けか。」

 

「ええ、でも概念自体は付与が成立しているかどうか怪しいくらいに弱いものだった筈よ?問題は錬金術の方でしょうね。」

 

「それはこちらの不覚だ。セイバーに対して大技を切る寸前でな、視力を強化していた……」

 

そしてアーチャーは語る。

 

セイバーの武装は不可視であり、そこから真名を推測するのは難しい、と。

 

「私が出せる情報と言えばこのくらいだ。君の中で、これはどの程度の価値があるかな?」

 

「………話の内容が3割本当だとして2割は誇張、残りが嘘と脚色だとしても……そうね、貴方の目を治療することにプラスして私の持っているサーヴァントの情報も教えるわ。」

 

「ずいぶんと大盤振る舞いだな?キャスター。」

 

「こっは魔力不足が深刻なのよ。簡単な道具作成ならできるけれど、まだ工房すら出来あがってないんだから、使える手札は増やしておきたいの。」

 

「ククッ、君にとっては『手駒』の間違いだろう。―――それで?君が見たサーヴァントは残るライダーあたりかな?」

 

それは予想というよりも、アーチャーの願望であった。

 

今、この場で『アレ』の話をあげないで欲しい。

 

話をすれば、目の前の不出来な魔術師、衛宮士郎は何を想うか。

 

少年と少女にアレの正体を気付かせる訳にはいかないのだが…

 

 

「――――いいえ、私が遭遇したのは復讐者(アヴェンジャー)のサーヴァントよ。」

 

キャスターの表情はどこかやさしく、まるで正義の味方に想いを馳せる少女のようだった。

 

 




猫:
前回から打って変わって台詞中心の回でした。
慎二君は一体何をしていたんでしょうか?
ヒント・原作のOLさん。


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こんなシーンを作りたい個人的解釈①

①フラガ・ラックの先出し因果について

 

 

※以前没投稿(嘘19話の内容)し、差し替えをしたバサカ戦をご覧になった方も何名かいらっしゃるかと思いますが、あのときは構成が悪かった……(言い訳のしかたが悪かったのか)

 

それを懲りずに、もう一度挑戦してみたいと思う愚か者。

 

 

例:

放つべき標的がいたとしよう。

フラガラックはその特性上、相手が先に攻撃を仕掛けても『後から発動しても、先に打ち出され命中した』という効果がある

これは発動するための対象を標的としなくても可能なのだろうか?

 

1ランサーを発動対象にフラガラック起動

2ゲイボルグ発動、標的へ

3フラガラック発動、標的にぶつける

 

これは可能なのか。可能だとしたらその場合、因果と結果はどうなるのか?

 

予想する事象:

ゲイボルグは突き刺さる前に心臓が破壊されたという結果が作り出される。

 

しかし、フラガラックはゲイボルグよりも早く打ち出されたという因果逆転が発生する。

 

もしもフラガラックが心臓を撃ち抜いてしまった場合、先に破壊されているべき心臓は既に風穴があいている。

 

ゲイボルグに刺さるはず(刺さるべきの)の心臓がない。

 

故に、対象が存在しない(対象に存在しない部位への)発動は不発に終わる。

 

予想する結果:ゲイボルグ発動→フラガラック発動→フラガラックが先に刺さる→ゲイボルグは不発になる(発動しなかった)

 

猫:どうでしょうか?何やらこじつけの世界になってしまってしますが、ランサー組がこれを可能とした場合、名実ともに最速の早撃ちコンビニなるかと考えています。

 

ゲイボルグの方は正直考えの詰めが甘いかもしれません。

 

一度振り出された魔槍は決して止まらない。という考えに基づくなら

最後の部分は『風穴があいた部分に槍が突き刺さる』かもしれませんし。

 

それとも、『先に破壊されている心臓をフラガラックが通り抜け、後に槍が刺さる』かもしれません。

後者二つが成立した場合、更にランサー達がチートになってしまうのでやりたくはないのですが。

 

 

とまあ、色々とパターンを出してしまえばきりがないので…

 

私個人としては最初に挙げた予想を押したいと思います。

ゲイボルグが結果としてキャンセルされた場合、ランサーの魔力に変化はあるのかないのか考えた場合、

やっぱり消費はされているだろうと思ってみたり、色々と自由度と引き換えに制約も付けやすそうと考えてみたり。

 

これも『そもそもフラガラックはそんな使い方できねぇ』と言われてしまえばそれまでなのですが。

 

 

皆さんの意見を再度お聞きしたいです。

 

 




※次話投稿時に削除いたします。


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