全てを失った僕が守るもの (かとやん)
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prologue…

初めましての方は初めまして。自分の上げている作品から飛んできた方はごめんなさい(上げたかったんです)




ヒュー……ヒュー……

 

朽ちた世界で、擦れた息遣いが聞える。

これは……僕のか。

遠くなった視界では、まるで世界の終焉を告げるように、立ち並んだ高層ビルが崩壊を続けていた。

弔の個性によって死んだ大地は砂塵となって宙へと舞い、僕の作ったクレーターに水滴が垂れる。

 

「出久!…出久!!」

 

地面から伝わる振動に重たい首をまわしてみれば、紅いスカーフを首に巻いたエリちゃんが瓦礫を飛び越えながら僕の元へと跳んできた。

飛び掛かるように僕へと寄り添ったエリちゃんは、僕の有様に息を呑み、きれいな顔を悲痛に歪めて僕を睨む。

『約束したのに』といった想いの込められた瞳に、僕は薄らと苦笑を溢す。

 

「……エ、リちゃん……かっちゃ、んは?」

 

乾いた僕の呟きに、エリちゃんはスカーフを握りしめながら小さく首を振った。

 

あぁ…………

 

「そっか」

 

また、僕は守れなかったのか。

 

「勝己さんね……最期に笑ったんだよ……『俺はやり遂げたぞ』って」

 

「……そっかぁ……やっぱりかっちゃんは凄いや」

 

彼の最期を思うと、もう枯れたと思っていた涙がまた僕の頬を濡らした。

結局、皆に貰った物、返せなかったなぁ。

最高のヒーローになるって約束……守れそうもないや。

するすると流れ出ていく涙を擦れ始めた意識で認識していると、ふと誰かの手が僕の両目を覆った。

 

「出久はね。皆を守ったんだよ。皆を救ったんだよ。……だからっ、笑って?」

 

「出久、いつも言ってた。最高のヒーローは笑顔でみんなを助けるんだってっ……だからっ」

 

もう止まったはずの涙が僕の頬に落ちる。

僕は感覚のなくなった右手を引っ張って、彼女の手に触れた。

 

「泣かないで……大丈夫……僕が来た」

 

「っっ……な、かないよ? だって、出久がいるから」

 

途切れかけた意識の隙間、唇に温かいものが触れた気がした——————————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鼻をくすぐる感覚に、僕の意識は深い闇から浮上する。

薄らと瞳を開けるとブルーライトの瞳輝かせた猫が僕の鼻先を舐めていた。

瞬きした僕を一瞥した猫は一鳴きすると灰色のジャングルの中へと消えていった。

 

「ん……ここは……ッッ!!!」

 

目の前の風景を認識した僕は、頭の芯が震える感覚と共に身体を跳ね起こすようにして捻り、個性を利用して目の前のビルを”駆け上る”。

一足飛びに屋上へたどり着いた僕は目の前に広がる光景に息をすることすら忘れて注視していた。

 

記憶に酷似……いや、見慣れたマンション群に鉄道。脳裏を燻る大通りは忘れようもなく、そして何よりも今はないはずの母校が、大戦によって焼失したはずの『国立雄英高等学校』が都市の中央にある丘の上に威風堂々と佇んでいた。

 

「ッ……ふぅぅ。落ち着け。まずは情報収集と現状の確認」

 

僕は深呼吸し、一度内側へ意識を集中させる。一番の要因として考えられるのはワンフォーオールだ。が、肝心のワンフォーオールに変化はなく、いつもと変りなかった。

次に他の個性を発動してみる。

指先から個性『黒鞭』を伸ばしてみたり『浮遊』の個性で身体を軽く浮かしてみるも、これもいつも通り、いやむしろ少しだけ扱いやすくなっているかもしれない。

その他の個性も問題なく発動することを確認した僕は、次に目の前の光景について考える。

 

無くなったはずの雄英が、そしてこの街がなぜ? 夢を見ている? いや、それにしては感覚がリアルすぎるし幻覚の類でもない。誰かの個性による攻撃? 何のために? ただ攻撃にしては遅すぎるし、仮に現実だったとして無くなったはずの街がある理由は?

 

「不確定要素が多すぎ————あっちか」

 

思考をいったん止め、僕は町の一方を見つめる。

聴覚に個性を集中させ音を探ると、微かな爆発音と大勢の足音、それに悲鳴!

即座に意識を切り替え跳躍。全身にワンフォーオールを発動させ屋上を滑るように走り抜ける。ワンフォーオールと浮遊の個性を使用しながら、僕は情報を整理する。

方角は東南東。ここから……2.7kくらいか。

断続的な爆発音は(ヴィラン)の攻撃? いや、それにしては軽すぎる。なら市民の抵抗か? ヴィジランテの可能性も……ッ!?!?!?!?!?

 

僕は本日二度目の衝撃にマンションから落ちそうになる。

慌てて制動をかけ、縁ギリギリに止まった僕は眼下の光景に思わず呟く。

 

「……かっちゃんっ?」

 

そこには、僕がヒーローになる切っ掛けとなった事件が起こっていた。

 

 



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”僕”とチャンス

この話からオールフォーワンをAFO。
ワンフォーオールをOFAとします。


燃え盛る商店街。

飛び交うヒーローの怒声と市民の悲鳴。

ヒーロー、市民、僕。すべての視線の中心には”ヘドロに包まれた少年”。

勝気な鋭い目に、尖った髪型。

彼の両手から溢れる爆発は僕の脳裏を狂おしいほどに焦がしていく。

 

「な、んで……」

 

乾いた喉がへばりつき、うまく息ができない。

胸を握りしめれば、煤切れた緑のパーカーがギリギリと引き千切れていく。

 

なぜ彼がいる?

なぜこの街がある?

ここはどこだ?

 

なんであの事件が目の前で起きてるんだよッ!

 

「おいバカ止まれぇッ!!」

 

「ッ!!」

 

彼が飛び出したのは、そんな時だった。

 

「——————ぁぁ」

 

飛び出した青年は、緑の髪にそばかす交じりの頬。地味目の彼は、見間違いようもなく、中学時代の僕だった。

よれた制服に大きすぎるバックを背負った僕は、野次馬と化している市民を押し退け、ヒーローの抑止を掻い潜り、ただ我武者羅にヴィランへと向かっていく。

 

近づく”僕”を追い払おうと腕を大きく振るヴィランに対して、カバンの中身で牽制する”僕”。

偶然怯んだヴィランの懐へ飛びつく”僕”。

目尻に涙を貯め、恐怖に顔が引きつって尚、ヴィランに捕まっているかっちゃんを助けようとする”僕”の姿に、僕はあの時の事を思い出していた。

 

あの日、あの時、僕は——————————

 

「デク⁉ てめぇなんで!?」

 

「なんでって、分からないけど!! けど、」

 

ただ

 

「君が、助けを求める顔してたッ」

 

 

 

 

 

あぁ————————あの日のオールマイトもこんな気持ちだったのかな。

 

 

 

鼻水と涙を垂らしながら、恐怖に足を震わせる青年は、僕の目には眩い程美しく見えた。

 

僕は奥歯を噛み締めるとフードを深くまで被りビルの縁から前へ。脚に力を集約させ人蹴りに彼らの元へと跳躍する。

音を置き去りに砲弾の如く飛ぶ僕は、あえて大げさに着地し粉塵を巻き上げ、身体を反転、

 

「48%、デトロイト・スマッシュ」

 

オールマイトとヴィランとの間に割り込むようにして、かっちゃんを包んでいるヴィランを弾き飛ばした!

 

「ッ⁉ 君は」

 

「オールマイト、彼をよろしくお願いします」

 

驚愕に目を見開くオールマイトに僕は流れるようにかっちゃんを手渡し、砂埃が晴れる前にその場を去った。

 

 

 

 

 

 

数キロ程離れた地点にあった公園へと降り立ち、背後を確認する。

オールマイトの事だから活動限界の事もあるし、すぐには僕を追ってこないはず。

 

僕は近くのベンチに腰掛けると大きく息を吐いて脱力した。

 

「……ほんとうに、ここは何処なんだろ」

 

消滅したはずの街に、僕の記憶と同じ事件。それに僕自身までいるなんて。

夢で片付けるには余りにも生々しすぎる。

 

なら、個性しかない。でも、誰の?

 

「仮に個性だとして、僕の記憶の中にそういった個性はなかった」

 

エリちゃんの『巻き戻す』個性が進化した? それにしてはそんな素振りは見せてなかったし時を戻すなんて……

 

「……でも、もし。もしも本当に過去に飛んだのだとしたら」

 

まだ不確定要素の方が多い。時間制限があって未来に戻されるのかもしれない。

でも、これはチャンスかもしれない。

 

「未来を、変えられるかもしれないっ」

 

皆を、助けられるかもしれない。

悲惨な未来を変えられるかもしれない。

 

確証はない。僕一人でできるとも思えない。

 

「でも、やらない言い訳にはならない」

 

無意識に握っていた拳を見つめていた。

あの時はつかめなかった手も、今なら届くかもしれない。

 

そうと決まればまずやることは一つ。

 

協力者を得ること。

 

とはいっても話せる相手は限られてくる。

まず第一にOFAとAFOのことを知っている人であること。

次にヒーローであること。ヒーローであるのとないのとではできることが違いすぎる。

それを加味した上でだけど、まぁあの人しかいないかな。

 

僕はベンチから立ち上がって空を見る。

時刻は夕方に差し掛かったところで傾いた太陽がビルの向こう側に消えようとしていた。

 

「急げば日没前には着くかな」

 

僕はフルカウルを発動——しようとしたところではたと気がつく。

 

「この時代じゃ僕ヒーロー登録されてない」

 

なんならお金もない。

ヒーローとして稼いできたお金はすべて口座の中。当然その口座なんかあるわけないしクレジットも使えない。

 

「い、一文無し・・・・・・」

 

未来を変えると決意してわずか数分。

僕は絶望的な現実に襲われた。

 

 



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未来を知る者と未来を観る者

暗かったはずの空はいつの間にか白みだし、鳥のさえずりが耳を打っていた。

 

「や、やっとついた…」

 

僕は目の前の建物――――サー・ナイトアイの事務所を見上げながら、擦れた瞳をこすり上げる。

公共の移動手段が使えなかった僕は、久方ぶりに個性を使用せず、徒歩での移動を試みたのだが、

 

「思った以上に、疲れが……まだ戦闘での疲労が抜けていないのか?」

 

想像以上に疲労した肉体に僕は苦笑する。

思えば弔との死闘のあと、軽い睡眠? のようなものを取っただけだった。

 

でも、ここで止まるわけにはいかない。

 

僕は覚悟と共に第一歩を踏み出し————事務所の入り口の扉に頭から倒れた。

 

……これだよ。

 

僕は何か懐かしいものを感じながら、襲い来る睡魔に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……ここは」

 

「ようやく起きましたか」

 

ズレた意識が戻ってくると、何処から懐かしい声が聞こえてきた。

声のした方を向けば、テーブルを挟んだ向こう側にビジネスマンのような恰好をした男性が一人。

 

白のシングルスーツに赤いネクタイを締め、鋭い目つきを隠すようにメガネをかけたその人は、油断なく僕を見ていた。

 

「あぁ、ナイトアイっ」

 

変わらない、自分の記憶のままの姿に、僕は目頭が熱くなり堪らずに手で押さえた。

 

「……」

 

そんな僕を無言で見つめてくるナイトアイに、僕は涙を堪えて声をかける。

 

「ナイトアイ。貴方に相談とお願いがあってきました」

 

そう言って僕は右手を差し出す。

何度も皮膚を縫い合わせたボロボロの歪な手を前に、ナイトアイの眼光を更に鋭くなる。

 

「……何の真似だ」

 

「僕の未来を、見てください」

 

「断る。それから私は忙しい。目が覚めたのなら早々にお引き取り――」

 

「オールマイトの、世界の未来がかかっているんです」

 

拒絶の言葉に被せるように綴れば、ナイトアイの目が僅かに見開かれる。

持ち上げかけた腰をソファに再度落ち着けたナイトアイは、深く息を吐く。

 

「ふぅ。……いいだろう。3分。3分だけ貴様の話を聞いてやる」

 

「ありがとうございます」

 

僕は姿勢を正し、ナイトアイの目を見つめる。

一切揺るがない瞳を前に、僕は結論を述べる。

 

「お願いがあります。今から数年後、日本という国が、ヒーロー社会が崩壊するのを一緒に止めてください」

 

「……」

 

「順を追って説明します。きっかけは今から1年半後、平和の象徴であるオールマイトの引退から始まります」

 

「ッ……」

 

林間合宿でのかっちゃんの誘拐を引き金とした神野事件。

ハイエンド脳無の出現と異能解放軍の解体と超常解放戦線の設立。

そこから始まった解放戦線とヒーローとの苛烈な戦争。

 

僕の知る限りの全てを彼に話した。

 

僕が話し終えた時、ナイトアイは変わらず僕を見つめていたが、その瞳には確かな動揺の色が映っている。

 

「今の話の根拠は? なぜそれほど事細かに未来の話ができる。君の個性か?」

 

「いえ、僕の個性はOFAです」

 

今度こそ、彼の瞳は驚愕に見開かれた。

 

「どこで、それを知ったッ」

 

「……僕は、未来から来ました」

 

「何?」

 

「緑谷出久。いえ、無個性の中学生といえば伝わりますか」

 

「……君は誰だ」

 

ナイトアイの問いに、僕は直ぐに返せない。

一体僕が何なのか、誰なのか。今はまだわからない

だから、

 

「緑谷出久、だったもの。彼の抜け殻。どれが正しいのか、僕にはわかりません」

 

僕の応えに、ナイトアイは数秒ほどして脱力するように肩の力を抜き、俯く。

 

「…………なぜだ」

 

「?」

 

絞り出すような呟きに、僕は首を傾げるがナイトアイは睨むように僕を見つめる。

 

「なぜ私を頼った。君の話が本当なら、それこそオールマイトに話すべきではないのか」

 

ナイトアイの問いはある種当然の疑問。しかしそれに、僕はさも当然のように答えた。

 

「僕は、あなたが誰よりも未来を変えたいと願っていることを知っていますから」

 

「」

 

未来を知るものと未来を見る者。違いはあれど、共に未来を変えたいと足搔く者同士だから。

 



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受験日での出会い

3月某日。

未だ吐く息が白い今日、僕はいつもより早く起きて事務所を出た。

今日は雄英高校の受験日だからだ。

肌を刺すような冷たさに、僕はマフラーに顔を埋めながらこれまでの半年を思い返す。

 

 

 

無事、ナイトアイと協力関係になった後、僕はこれからのためのに全国を走り回っていた。

根回しや脅威の芽を摘みとったり、流石に海外に行かされた時は驚いたけど……まぁ、これも皆のためだと思えば苦にはならなかった。

 

そんなこんなでナイトアイが培ったパイプを最大限使って関係各所に根回しをしたり、プロヒーローとの繋がりを作ったりしていた結果……僕の出生届が割とひどいことになった。

 

僕は学校に提出用に資料に目を通す。そこには当然僕の出生に関することも載っているのだが…

 

――――――――

 

名前(仮名):イズク  年齢:17(推定)

身元保証人:プロヒーロー「サー・ナイトアイ」

     :プロヒーロー「ベスト・ジーニスト」

     :プロヒーロー「ミルコ」

     :プロヒーロー「エンデヴァー」

 

出生・略歴

 正確な出生日不明。東南アジア方面のスラム街で誕生。幼少期を孤児として過ごし、8歳の時に紛争経験あり。その時の後遺症として左目がほぼ失明。

 2年前に留学中のヒーローに保護され、しばらくの間は孤児院へ。その後ナイトアイに引き取られる。

 

*特記事項

 身元保証人であるプロヒーローの権限により、下記のどちらかを満たしている時にのみ”個性の限定的使用”を許可する。

・身元保証人、又は同等の権限を持つ責任者による戦闘許可指示

・プロヒーローがヴィランとの戦闘によって負傷、救助活動続行困難な場合

 

――――――――

 

ナイトアイ以下数名、絶対無理をしただろ。

封筒に同封されている特免――特秘型限定個性免許――の写しを見ながら僕は深いため息を吐く。

確かに、限定的とはいえ個性の使用が許可されたのは助かったが、これで生徒というのは無茶あるんじゃないだろうか。

 

明らかな優遇に申し訳なく思いながらも、バレればまず間違いなく突っかかってくるであろう、親友の姿を思い浮かべながら僕は電車に揺られていくのだった。

 

 

 

 

 

マンモス校であり、ヒーローを目指す学生にとって一種の憧れである雄英高校への入学は、自身の経歴への箔付けである……昔の親友がそう言っていたように、ぞろぞろと会場へ流れていく人だかりを見ながら、僕は数年越しに呟く。

 

「やっぱり倍率高いなぁ」

 

学生服に身を包む生徒で溢れていて一人だけ私服にパーカーという出で立ちなせいか、周囲のせいとはチラチラと僕の方を覗き見ている。

その視線には怪奇や失笑、怒気といった感情が秘められていた。

 

「……やっぱりナイトアイにお願いして制服もらっておくんだった」

 

遅まきながらに後悔するが、過ぎてしまったことだと意識を切り替え、受験会場へ――――

 

「どけデク!!」

 

「うわぁ!? ごご、ごめん!」

 

行こうとしたら背後から聞きなれた罵声。振り返ってみれば、そこにはトゲトゲ頭に吊り上がった目。眉間に深く刻まれた皺が特徴の少年、爆轟勝己。通称「かっちゃん」が昔の僕を押し退けていた。

 

イライラを隠すことなくポケットに手を突っ込んだ状態で通り過ぎる親友に、僕は涙腺が緩みそうになる。

 

……あと、改めてみればこの時の僕、弱腰過ぎでしょ。小物臭というか雑魚感が否めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は、前にも聞いたことのあるプレゼント・マイクのを受けてからいよいよ実技試験だ。

 

ナイトアイが裏から手をまわしたのか偶然なのかはわからないが、同会場に「僕」やかっちゃんの姿は見えない。

しかし、代わりにとある人を見かけた。

 

『お前は体育祭からずっと俺の目標の一つだったんだぜ?』

 

脳裏に蘇る彼の言葉。

僕は今から自分がしようとしていることに内心呆れながらも、”彼は必要だ”と割り切って行動に移すことにした。

 

「ねぇ。ちょっと相談があるんだけど」

 

そう僕から声をかけた時、彼は驚いたような警戒したような表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

ガラガラと崩れ、傾く高層ビル。

 

”彼の個性によって”迅速に離れていく受験生を前に、しかし僕は眼前の脅威をただ見つめていた。

 

落下する瓦礫がアスファルトへ叩きつけられ、破片と砂塵が舞い上がり突風が僕のフードをめくる。

褪せた緑の髪が風に揺れ、光を通さない左目が錆色の輝きを放つ。

 

生徒を追い立て、ビル群を破壊する巨大ロボを前に、僕は数年後の未来を観ていた。

 

 

人にとって脅威とは何か。そう彼に問われた時、僕はすぐに返すことができなかった。

五本の指を空に向ける彼は、しかし指一本で地面を割った。

 

脅威とは絶対的何かを持つ存在のこと。

 

昔なら銃や兵器であるように。

今なら個性であるように。

 

脅威は消えることはなく、この世界が平等になることはない。

 

「おいお前! お前も早く逃げろよ!!」

 

僕の背中にかかる声に、しかし僕は友人の言葉とは逆の行動をとる。

 

一歩前へ。

 

倒れるビルが辺りを暗くし、巨大ロボの繰り出す大振りが瓦礫を撒き散らす。

 

そんな市民にとっての”脅威”に対し、ヒーローは立ち向かわなくてはならない。

 

「だめだよ、ここで逃げちゃ。だって、僕らはヒーローなんだから」

 

僕は笑顔でそう言ったのだが、なぜか彼は困惑気味に眉を顰めるだけだった。

 

一歩、空へ。

 

僕は意識を切り替えるとOFAを纏い、紫電の軌跡を描きながら飛びあがる。

振り下ろされたロボットの腕の隙間を潜り抜けロボットの眼前に迫る。

 

ここで拳は愚策、市民がいると仮定した場合の最善手は――ッ

 

「エアフォース『封縛陣』!!」

 

広げた掌から伸びる黒い軌跡は、次々に枝分かれし分裂していく。

 

戦時中、幾度となく多対一、或いは守るべきものがある状態での戦闘を余儀なくされていた。

最もひどかったのは無限に増える軍勢と戦った時だが、あれほどの地獄はそうそうないだろう。

 

そしてそんな場面において網目のように細かく、柔軟で強固なこの個性は、捕縛という面において無類の強さを誇っていた。

 

「ッ!!」

 

ロボットを包み込むように伸びた黒鞭が十分に行き渡ったのを確認した僕は掌を握るように鞭を引き絞っていく。。

大人気ヒーロー二人の直伝であるこの大技によって、ロボットはプレス機にかけられた廃車のようにどんどん圧縮されていく。

最初は黒鞭の網を抜け出そうと藻掻いていたが、メキメキと音を立てながら潰れていくロボットは、最終的に民家一軒分程度の大きさにまで潰れ、文字通りスクラップと化した状態で大通りへと難着した。

 

周囲が唖然とするなか、僕は何事もなかったかのように地面に降り立つと、尻餅をついている彼に手を差し出した。

 

「お疲れ様。心操君」

 

 



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個性把握テスト。除籍の脅威を添えて

テンポよく行こう


「足を上げないか!! 先輩たちに申し訳ないとは思わないのか!?」

 

「思わねえな!!」

 

うわぁ。

 

ドアの向こうで繰り広げられているであろう攻防に、僕は感嘆と呆れの混じった吐息を溢す。

 

「あ、お前」

 

「ん? あぁ、心操君も無事にヒーロー科に入学できたんだね。おめでとう」

 

僕が扉越しにいつ入ろうか迷っていると、背後から心操君に声をかけられた。

笑いかけると、彼は一瞬何かに迷った後おずおずと右手を差し出してきた。

 

「入試、ありがとな」

 

「ううん。ヒーローはおせっかいが仕事だから。それに、僕はアドバイスをしただけ。それで君が入学できたのなら、それは君の力が世界に必要とされているからだよ」

 

入試試験の時、僕は心操君と出会い、彼にちょっとしたアドバイスをした。

内容は簡単、「ヒーローはヴィラン退治だけじゃなくて避難誘導とかも大事な仕事」と伝えただけだ。

 

その結果、彼は巨大ヴィランが現れた時に声が届くであろう範囲の受験生を片っ端から催眠に落とし、迅速に避難させたのだ。

 

この学校の先生はよく見ている。だから必ずそれはレスキューポイントという形で還元されるはずだと踏んでいた。

そして僕の思惑通り、彼は僕らと同じ1年A組の生徒となった。

 

心操君と握手をした僕は廊下に転がっていた相澤先生を拾い上げて教室へと入り、自分の席についた。

 

クラスの人数は21人。僕が特例の枠で入ったらしく、一人を除いて全員僕が知っている顔ぶれだった。

 

峰田君、君の事は忘れないよ。

 

まぁ彼はB組に入ったらしいので、いつか顔を合わせることもあるだろう。

そんなことを考えているうちに、いよいよ体力測定の時間が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

「せ、先生! 入学式とかはないんすか!? ガイダンスは!?」

 

「非合理的だな。君たちはヒーローの卵。そんなことに時間を費やしている暇はない。そして我が校は自由が売りの学校。当然それは教師にも適応される。俺は非合理的なことはやらない主義でね。君らも覚えておくように」

 

そう言って測定用のボールを拾い上げる相澤先生。

先生はかっちゃんと僕を見比べたあと、僕にボールを渡してきた。

 

「主席、お前過去の記録は」

 

「ありません」

 

相澤先生の問いに僕は用意されていた回答通りに応える。

A組の生徒がざわりとするが、先生は無視してソフトボール投げの円を指さした。

 

「それならいい。あそこの円の中から向こう目掛けて思い切り投げろ。もちろん個性ありでだ」

 

僕は言われたとおりに円の中に入る。

 

さて、投げろと言われてみたものの、どうするべきだろうか。

 

実は入学する前にナイトアイや他のプロヒーローたちからいろいろ指示を受けていたりする。

 

ナイトアイからはベストを尽くせ、と。

ベスト・ジーニストからはスマートに、と。

ミルコからは好きにしろ、と。

エンデヴァーからは息子の目を覚まさせてくれ、と。

 

…………皆自由だしエンデヴァーに限っては私情を持ち込まないで下さいよ。

 

あの時は思わずため息をついて頭を抱えたが、とりあえず僕の中での方針は伝えておいたので問題ない…はず。

 

と、いうことで、僕は全力でやることにする。

彼等を鍛えるためにも、まずは上下関係をはっきりとさせた方がいいというミルコの教えを生かそう。

 

僕はボールを軽く変形させながら握ると、右腕にOFAを発動。

出力をボールが壊れないであろう、ぎりぎりの78%にセット。

 

「フッッ!!」

 

大きく振りかぶって踏み込みと同時に投げれば、足元から巻き上がる砂塵と暴風を纏いながらボールは紫電の軌跡を残して天へと消えていった。

 

静まり返る一同。

 

先生の「測定不能か」という呟きに興奮と歓声が上がった。

 

「すっげええ!!! あいつの個性なんだよ!?」

 

「個性フル活用の体力測定かよ! おもしろそぉ!!」

 

盛り上がる生徒に、相澤先生は冷や水を浴びせるように冷たい声色で言う。

 

「面白そう、か。これから3年間、そう言った腹積もりで過ごすつもりか? なら、こうしよう。今回のテストで成績最下位だったものは除籍処分とする」

 

その宣言に再び静まり返る一同。

そんな彼らを前に、先生はニヒルに笑うだけだった。

 

 

始まった個性把握テスト。

当然といえば当然だが、僕と心操君以外は前回と変わらない成績。

一方の心操君も彼なりに個性を生かして成績を叩き出していった。

 

~ソフトボール投げ~

 

「そこの女子」

 

「ん? わたし————」

 

ある時は麗日さんに触ってもらったボールを投げて∞を叩き出したり…

 

「汚ねぇ!?」

 

「合理的な使い方だ」

 

 

~持久走~

 

「ねぇ、なんで心操君は僕につかまってるの?」

 

「お前が一番早そうだから」

 

「あ、そう……確かにちょっと汚い」

 

走る僕に自身を巻き付けたり……君、そんなに強かだったっけ?

 

 

 

 

そんなこんなで無事? 個性把握テストを終えた僕たち。

因みに最下位は昔の僕。ちゃんと指先だけでボールを投げてたから除籍にはならずにすんでいた。

 

ただ流石に心操君はあとで先生に呼び出されてお小言をもらってたけどね。

まぁ仕方がない。個性を生かしたとはいえあれはずるい。

 

 

心操君を置いて教室に戻ると「僕」にみんなが集まっているところだった。

と、僕の存在に気づいたのか、切島君やそれに続いて上鳴君たちも僕の方へと寄ってきた。

 

「おお! 流石首席だな! 漢だぜ! 俺は切島鋭児郎。よろしくな!」

 

「俺、上鳴電気! お前何の個性だよ!」

 

「僕はみど――――イズクっていうんだ。ファミリーネームはないから好きなふうに呼んでよ」

 

「? 日本人じゃねえの? ハーフ?」

 

「えっと、一応アジア系ではあるかな。ただ正確な生まれまでは…」

 

設定を思い出しながら話していると辺りが気まずい雰囲気になる。

戸惑っていると耳郎さんが上鳴くんの耳イヤホンジャックを突き刺した。

 

「あぎゃあああああ!?!?!?!!?」

 

「ごめんねこの馬鹿が。ウチは耳郎響香、よろしくね」

 

「え、あ、うん」

 

それからは外国でのことを聞かれながら放課後が過ぎていった。

 

 



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戦闘訓練…の前半

A組男子で切島が一番好き
女子は耳郎ちゃんすこ


「と、いうことで本日はこれ! 戦闘訓練だ!!」

 

作画が一人ちがうオールマイトに沸き立つ教室。

ナンバーワンヒーローの登場に歓喜する人もいれば、突然の教科内容に戦々恐々とする人もちらほらと……。

後はかっちゃんがあくどい笑みを浮かべているぐらいだろうか。

 

そんな彼らを眺めながら、僕は啜れた髪の毛を弄ってため息を溢した。

理由は単純……僕の保護者? というかプロヒーローたちが原因だった。

 

 

 

 

 

 

数日前、ナイトアイの事務仕事を手伝っている最中のことだった。

 

「おっス、ナイトアイ!! 相変わらず湿気た面してんなぁ!!」

 

そう言って扉を割って入ってきたのは、ラビットヒーローこと、ミルコだった。

彼女の登場にナイトアイはさして驚いた様子もなく、眼鏡の奥で瞳を光らせていた。

 

「一体なんのようですか。そもそもあなたは今北陸へ行っている予定では?」

 

固定した事務所を持っていないフリーのミルコは、全国各地を跳び回ってヴィランを退治している。

数日前に届いたメール(事後報告)では北陸でのヴィラン事件に興味を持ったようだったが。

 

「おう! あっちはなんか片付いたらしくてな! 暇だから弟子の様子を見に来たぞ!」

 

快活な笑みでそう返すミルコに、ナイトアイは頭痛のする頭を抑えて首を振った。数か月で彼女に何を言っても無駄だと気づいたようだ。

僕はそんなナイトアイに苦笑を送りながら、まとめて置いた資料を置いてミルコに向き直った。

 

「お久しぶりです」

 

「おう! イズク! 鈍ってねえだろうな!」

 

「はい」

 

「よし! なら軽く動くか!!」

 

そう言ったミルコに連れられて、僕は近場の堤防沿いへと向かうと、軽い組手をさせられた。

風を切るミルコの足技をいなしながら、僕は近況を聞くというのが彼女と出会った時からの恒例になりつつある。

 

「フッ! よっと!」

 

「ッ…それにしても、今日は本当はどうしたん、ですか?」

 

適当に彼女の話を聞いたところでそう切り出せば、彼女はニヒルに笑って鋭い蹴りを放ってきた。

僕がそれを弾くように躱せば、彼女は若干ムキになって連撃を放ってくる。

 

「生意気な……ま、いっか。お前は私の弟子だからな。同じクラスの奴に後れを取るなよ!」

 

「弟子になった覚えはないんですけど…」

 

「これも避けるか! そら! もっと上げてくぞ!!」

 

それからしばらく付き合った後、彼女は満足したのか、

 

「今年は生意気な奴がいるみたいだからな! 力でねじ伏せとけよ! しっかり上下関係を叩きこんどけ!!」

 

言いたいことだけ言って颯爽と帰ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

一方的な約束ですらないものだが、一応身分を保障されている身だし、彼女には恩義がある。

……それに、もし手を抜いたりしてそれがバレれば、ミルコさんは絶対怒る。何なら嫌いな人参料理が出された時みたいに面倒くさくなる。

 

まあ、早めに力関係をはっきりさせておけば、後の強化訓練は楽になるはずだ。

ただそれをどの程度はっきりさせるのか、にもよるが……。

 

そんなことを考えている間にも授業は進み、ヒーロースーツに着替えた面々は既に更衣室を出て行ってしまった。

 

「……まぁ、なるようになる、かな?」

 

 

 

 

 

 

 

ミルコさんの楽観主義が映った気がしないでもないが、せっかくの場面だ。

 

彼等には、自身の無力さを知ってもらおう(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん、だよ、これッ!?」

 

呆然とした声音が待機室に木霊する。

かく言う僕「飯田天哉」も、目の前の光景には絶句せざるを得なかった。

モニターに映るのは、全体が凍結したビル…………そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気絶した轟君と爆豪君だった。

 

二人を無力化した張本人であるイズク君は一年の首席であり、先日行われた体力測定ではどれも他者とは一線を画する成績を保持していた。

幼いころから戦闘の経験があるとは言っていたが、これほどとはッーーーー。

 

僕は終始笑顔だったイズク君に薄ら暗いものを感じながら、頬を垂れる汗をぬぐった。




次回は戦闘シーン

+αかな?


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戦闘訓練…の後半+α

コメントの方で、イズクが二人いて周りは驚かないの?
といった質問をいくつかもらったのでここで捕捉をば。

イズクの外見はデクより身長が少し高く、肌も若干焦げてます(ただここまでは誤差レベル)。
一番の差異は目の色と髪の色、表情の変化です。
目は死んでます。というよりも淀んでいて、薄汚れてます。
髪も同じで、緑ではなく、山藍摺色。ほとんど灰色に近い緑です。

表情も普通に変化しますが、常にどこか疲れたような、くたびれた雰囲気を纏っているので明るいデクとは結び付かない感じです(あと体つきとか輪郭も変化してるから)。
ユニフォームもデクらしい緑オールマイトではなく、スラム街にいそうな,
影に溶け込むような古ぼけたスカーフを巻いた相澤先生もどきです(スカーフは戦争時の癖で血よけ)。

*ユニフォームは仮なので「こんな風が良い」などありましたらどしどしお願いします!


10分前…

 

「Bか…」

 

僕は自身の引いたカードに視線を落としながらぼそりと呟く。

『僕』とお茶子さんは前と変わらずペアのようで、『僕』が『僕』していた。

 

「おう! イズクもBか? 俺もBだから、一緒に熱い勝負にしようぜ!!」

 

そんな姿を遠目に見ていると、独特な赤髪の青年が満面の笑みで近づいてきた。

どうやら僕のペアは切島君らしい。

快活な笑みを浮かべながら、対戦相手に思いを燃やしているのは実に彼らしく、僕は枯れた涙腺が緩むのを感じた。

 

「よし! それじゃあ最初のバトルは――――B vs J だ!!!」

 

初戦は僕らで、対戦相手は……ッ!?

 

なぜ彼らなのか。僕は内心自身の引きの悪さと自身という存在が及ぼす変化を目の当たりにしながら対戦相手である彼らを見た。

 

そこには

 

「主席が相手か、悪くねぇ」

 

「何が首席だ!! 俺がトップになるから関係ねえ!!」

 

冷たく自分を凍らせた『轟 焦凍』――轟君と目を吊り上げ両手を爆破させながら指を鳴らすかっちゃんの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

うん、まぁ……最初に思い知らせるなら彼等でもいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

クジの結果、僕らはヴィランチームでかっちゃんたちがヒーローチームになった。

 

「おうイズク! んで俺らはどう動くよ!」

 

両手を硬化させ火花を散らす切島君。僕はそんな彼にある頼み事と提案をしてから、開始のブザーを待った。

 

数分後、けたたましいブザー音と共にヒュッと空気が震えた。

入り口から一気に広がる氷結――よりも早く、

 

「来たよ。切島君」

 

「いっくぜえええええ!!!」

 

切島君が窓から飛び降りた。

上半身を硬化させ、ガラスを突き破り直下のかっちゃんへ奇襲を仕掛ける。

 

ピシッ パリーンッッ!!!!!

 

「「ッッ!!!」」

 

砕け散るガラス。飛び散る破片。

上部からの破砕音に彼らは瞬時に反応しただろう。

でも、今の轟君は建物入り口内部にいるから音の正確な場所はつかめない。そしてワンマンプレーのかっちゃんも情報共有なんてしない。

 

だから

 

「ハ! 雑魚が吹っ飛べやあ!!!」

 

かっちゃんなら間違いなく切島君を潰すために飛ぶ。

 

「ッイズクの予想通りだ!! 来いや爆豪!!」

 

「うるせえモブがああ!!」

 

両腕を一層硬化させる切島君。ただ彼は自由落下でしかなく、対してかっちゃんは高速機動で縦横無尽に動き回れる…………いつもなら、ね。

 

僕は切島君が飛び出したと同時、一階入り口正面から(・・・・・・・・・)8%のOFAを使った縮地の応用で迫りくる氷結を吹き飛ばし『黒鞭』を伸ばした。

縮地によって吹き荒れる暴風と氷片で轟君は身動きが取れず、僕の伸ばした黒鞭は彼の横を素通りしかっちゃんの胴体を捉えた。

 

「よっと」

 

「!? んだこれぇッ!!?」

 

鞭越しに確かな手ごたえを感じた僕は、そのまま食いついた魚を引き上げる要領でかっちゃんを引っ張る。

建物正面のガードレールを通すようにして伸ばした黒鞭に、かっちゃんはまともな受け身も取れず地面へ叩きつけられる。

 

「ガッ!?」

 

「爆豪!!!」

 

そこへ追い打ちをかけるように切島君が降ってくる。予想だにしないダメージに背後は地面だ。

当然取れる選択肢は限られる。

 

そして、かっちゃんは僕の思惑通り、

 

「クッソガアアアア!!!!」

 

両手を掲げて迎撃に出た。

両の掌を赤く染め上げるかっちゃんを前に、しかし切島君は怯まない。

 

負けず嫌いで勝つことに執着する君なら、その場で最大火力をぶつけようとする。

 

 

だから

 

「切島君」

 

「おう!」

 

「なッ!?」

 

敢えて空撃ちさせる。

爆破の寸前、切島君は僕の伸ばした二本目の鞭へ捕まり軌道を逸らした。

 

ドッ ガアアアアアアアアアア!!!!!

 

「ッツ、クソがぁ!!」

 

今のかっちゃんなら、あれを一発撃つだけでも腕に相当な負担だろう。それに、今はまだ体が温まっていないからなおさらだ。

 

「ちっ、おい首席、随分余裕だな!」

 

どうやらようやく立ち直ったらしい轟君は、遅まきながらも僕の動きを止めようとビル全体に氷結を走らせ、時間稼ぎと言わんばかりに悪態を突く。いや、半分は本音かな?

 

「うん。轟君は後ろに気を付けた方がいいよ」

 

「は」

 

「いくぜええ!!! 轟ィィ!!!!!」

 

切島君の叫び声に、咄嗟に振り向く轟君。

そこには左腕に巻き付けた鞭に引っ張られるまま、右腕を振りかぶる切島君の姿が。

 

「な――ッぐぅぅぅ!!??」

 

咄嗟に腕をクロスさせ氷壁を作ろうとする轟君。しかし、半身を凍らせた状態でまともな動きなど取れるはずもなく、薄い氷の盾ごとなぎ倒す勢いで切島君のラリアットが炸裂した。

身体のきしむ音と氷の砕ける音が響き、轟君はそのまま数メートルほど吹き飛ばされ僕の目の前に転がった。

僕は彼にいそいそと確保テープを巻きながら、

 

「今度は本気の君とやり合いたいな」

 

と囁きかけた。

 

そして残るかっちゃんだが、汗腺が広がりきる前の大火力と先の不意打ちも相まって普段の高速機動が発揮できず、さらには僕の鞭による急襲も警戒しなければならなくなり、最後は轟君と同様、鞭に足をすくわれた状態からの切島君ストレートでノックダウンした。

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様。切島君」

 

「おう! いややっぱ首席はすげえな! 爆豪と戦ってるときもよ、俺がやべぇ!って思った時にはお前の援護が来てるんだもんよ!」

 

快活な笑みを浮かべながら勝利の余韻に浸る切島君を見ながら、僕は肩の力を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、お疲れ様! 轟少年と爆豪少年は大丈夫だったかな?」

 

「はい」

 

「……ス」

 

戻った僕らを出迎えたオールマイトは轟君とかっちゃんが医務室から帰ってくるのを待ってから総評に入った。

 

「はい! 今回はヴィランチームが勝ったわけだが、今回のMVPは誰か、分かる人はいるかな?」

 

そんなふうに問うオールマイトに、素早く手を上げたのは前回と変わらず、八百万さんだった。

 

「はい。間違いなくイズクさんだと思いますわ。開幕からのヒーローチームへの奇襲という、防衛という観点にとらわれない作戦、切島さんを常に援護し戦況を有利に進め続けるその能力。どれをとっても流石としか言いようがありません。また、切島さんも十分にその役目を果たしていましたわ。最初の奇襲の時もそうでしたが爆豪さんの爆破を正面から耐え続けるそのタフネスさは素晴らしいものがありますし、だからこそイズクさんの作戦が生きたのだと思います」

 

八百万さんの解説は尚も止まらず、ヒーローチームのダメだった点や僕らヴィランチームに対する意見に至るまで、その話はオールマイトが震えて何も言えなくなるまで続いた。

 




粗が凄い目立つ……;;
因みに、ペアの番号は適当です。
そもペアが全然違うから許してください。

後、戦闘訓練でヴィラン側は外に出てはいけない、みたいなルールはなかった気がしましたが、もし間違いであればすいません。


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