ドンテンカーンドンテンカン、ドンテンカーンドンテンカン (コジマ汚染患者)
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第一話

気に入っていただけたなら幸いです。
暇つぶしにどうぞ


「仮面ライダーになりたい」

 

そんなふうに考えたこと、幾らでもあります。ああ、何度も何度も考えたさ。悪の怪人をぶちのめし、誰かを地球を世界を救う正義のヒーロー。3分間しか戦えない光の巨人とか、必ず3人組か5人組で戦うスーパーな戦隊とかもいいけど、俺が望むのは仮面とスーツに身を包み、必殺のキックで敵を倒すバイクに乗ったヒーローだ。

 

『いいだろう、それでは仮面ライダーとやらの力をやろう』

 

真っ白い空間に老人の声が響く。俺はこういう二次創作やな〇うとかでよくあるトラックに轢かれて死んだという状態らしい(メメタァ)

そして、神様らしい声の主から転生の話を受け、それに伴いどんな力が欲しいかを聞かれて今に至る。

 

「お願いします。・・・にしても、こーいうときの神様ってなんで老人が多いんですか?」

 

『お前たち人間の考えた偶像としての姿だからだ。正直なことを言えば老人だったり少年だったり、美女だったりと人々の考える神のイメージが元になっているから我に原型と呼べる姿は無い』

 

「あ、そうですか・・・」

 

『では来世へと行くが良い。幸多き生とならん事を』

 

「ありがとうございました」

 

そう言うと、俺の体は光となり、意識は何処かへと引っ張られていくのだった。

 

 

 

 

 

 

『・・・行ったか。さて、仮面ライダーの力とやらを与えなければ。しかし、仮面ライダーというものをそこまでよく知らぬな・・・調べるとしよう』

 

 

 

・・・。

 

 

『・・・ほぅ、なるほど。興味深いものだ。ライダーの力とやらはあの世界でなら面白いやもしれぬな。これと、これと、ああこれも良いな・・・』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

転生と言っても、その世界に生まれて直ぐに記憶が目覚めるわけでは無かった。俺が記憶を思い出したのは、小学校に上がる数ヶ月前のことだった。子ども部屋でおもちゃを手に持ったままハッと突然記憶が蘇ってきたときは驚いた。しばらくすれば元に戻ったので良かったが。

 

「取り敢えず、これまで生きてきた記憶はあるっぽいし、不審には思われないと思うけど・・・」

 

そう言って手を握ったり開いたりしつつ体の確認をしてみる。まだ5、6歳児程度の身体能力であるため違和感があるが、動かすことに問題はなさそうだ。

 

「家庭的には可もなく不可もなく、ってところか」

 

記憶にある親の様子を見ても、前世の感覚で見て一般的という域を出ない家庭であることがわかり、そのことにホッとする。

 

(流石に超貧乏だったりしたら生活がやばいし、裕福でも要らない問題や誘拐とかを考えなくちゃいけないし、普通ってやっぱ素晴らしいな)

 

そんな事を考えていると、部屋のドアが開き、母さんが入ってくる。こちらを見て少し驚いているようだが、すぐににっこりと笑ってこちらへ駆け寄り、俺を抱き上げる。

 

「あら、せん君。もう寝る時間よ。そろそろ片付けしましょうねー」

 

「はーい」

 

返事をしながら、顔に当たる柔らかい感触を出来るだけ無視するように務める。母さんは俺を抱いたまま部屋を出る。・・・間取り的に一軒家のようだ。そのままリビングへ向かう。そこには、テレビを見ながら寛ぐ作業着姿の男性がいた。記憶にもあるし間違いない、俺の今世の父親だ。

 

「お、せんと。もう寝るのか?」

 

「うん!おやすみ!」

 

「ああ、おやすみ。よく寝るんだぞ〜?」

 

少し気恥ずかしいが、これまでの俺の通りに振る舞いつつ挨拶すると、父さんは笑いながら俺の頭を撫でる。・・・他人に撫でられるって割と気持ちいいんだな。親ってのもあるんだろうけど。

 

「・・・ん?」

 

「?どうしたの?」

 

ふと、父さんの後ろにあるテレビに意識が向く。どうやらどこかの災害現場を移しているっぽい。いつかはああいうところでライダーとして救助とか出来るようになりたいな・・・

 

「どうしたの?」

 

「ああ、どうやらA市で火災事故があったらしい」

 

「まぁ、隣の市じゃない。大丈夫かしら」

 

「大丈夫だと思うよ。今ちょうどヒーローが到着していたし」

 

「だといいけど・・・」

 

・・・は?

 

「ヒーロー?」

 

一瞬思考が停止してしまったが、慌てて聞いてみる。聞き間違いか・・・?

 

「ん?ああ、せんとも興味があるのか。ほら、今ちょうど活躍してるぞ。あれがヒーローだよ」

 

そう言って父さんが指差す先には、瓦礫の山から人々を引っ張り出したり、手から水を出して消化作業をしている妙なコスチュームの人達。

 

「ヒーロー・・・」

 

「お、せんともヒーローになりたいのか?」

 

茫然としている俺を見て、にっこりと笑いながら聞いてくる父さん。しかし俺は嫌な予感がして返事ができない。そこへ母さんから、ダメ押しの一言が。

 

「じゃあせんとも、ヒーローになれるような個性があるといいね」

 

「・・・そうだね」

 

カラカラに乾いてきた喉からどうにか絞り出した返事。その後直ぐに子ども部屋へと連れて行かれ、母さんはそのまま電気を消して出て行った。1人になり、ようやく現状を理解した俺は思わず呟くのだった。

 

「・・・ヒロアカやんけ」

 

個性というものが世界中のほとんどの人に宿り、その力でヒーローという「職業」を生業とする存在が公務員として存在する世界。確か総人口の8割に個性という異能があるんだったか。

 

「いやまぁ、仮面ライダーの力があれば問題はないだろうけど・・・とにかく今はいいか」

 

俺にはすでに確約された力がある。それがあればヒーローとして働くことも容易だろう。そう考えるとこの世界でも案外やっていけそうだ。ただ、問題があるとすれば原作の内容についてやや覚えているか不安なところがあるってことか。

 

「とにかく楽しみだな。・・・ぁふ、取り敢えず寝よう」

 

未来への希望を胸に、今はやってきた眠気に従い夢の中へと落ちて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「君、個性無いよ」

 

「はっ!?」

 

翌日、個性の把握のために訪れた病院で、衝撃の発言に思わず体が真白に固まった。個性がない・・・無い、ナイ?

 

「あ、あのっ、すいません先生、何かの間違いでは・・・?確かにうちの子はまだ個性が発現してませんけど、少し遅れているだけ、とかでは・・・」

 

相当に混乱している俺だが、そんな俺以上に動揺を隠せないでいる母さんが、担当医の眼鏡のおじさんに聞いている。

 

「いいや、奥さん。あなたは個性の方は?」

 

「ええ、わたしは空気中の水分を集めて操る個性が・・・旦那は電気を発生させて機械に充電したりできる個性です」

 

「そうですか・・・」

 

そこから聞かされた話は、ようするに珍しい事例だが、個性をどちらの物も受け継いでおらず、無個性なのだという話だった。

 

家に帰り、思考の海へと沈んでいく俺。ちなみに、遅くなったが名前は乾 戦人(いぬい せんと)。あきらかに仮面ライダーの一部を意識した名前だ。

 

(いやそれよりも個性がないってどういうことだ。あの神様、雑な仕事したんじゃないのか?)

 

考え続けたが、結局納得のいく答えは出なかった。仕方がない、今は取り敢えずゆっくりと待とう。ひょっとしたらただ発現が遅れているだけかもしれないし。

 

「・・・うん?」

 

すると、俺の部屋の向こう、リビングから声がする。どうやら母さんと父さんの様だが、様子がおかしい。

 

「・・・んで、・・・前のせいだろ!」

 

「・・・によ、そっ・・・この・・・!」

 

「母さん?父さん?」

 

何かあったのか、そう思いそっと扉の向こうを覗く。

 

「個性がないなんて、一体どうするんだ!」

 

「知らないわよ、じゃああなたがどうにかしなさいよ!」

 

「・・・っ!?」

 

なん、だ?一体何を怒って・・・

 

「あんなのうちの子じゃない!」

 

・・・え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そこからの記憶は、正直思い出したくない。あれから月日が経ち、俺は中学生になっていた。

 

「おーい、戦人ー。帰ろーぜー」

 

「おう、今行く」

 

放課後になり、下校時間となる。部活に入っていない俺は、友人に呼ばれ帰るために鞄を手に取る。

 

「あー、乾ー。お前少し残ってくれー」

 

「え・・・はぁ。わり、先帰っててくれ」

 

「あーあ、今日は何やらかしたんだお前ー」

 

そう言ってからかいながらじゃ、と手をあげる友人に苦笑いを返し、鞄を持ったまま教員について歩く。

 

(・・・まぁ要件はなんと無く予想つくけど)

 

職員室で担任の席の前に座らされ、対談が始まる。

 

「お前、雄英希望なんだって?」

 

ほらやっぱり。

 

「はい、普通科ですけど」

 

そう言うと、担任はふぅとため息をついた。

 

「ま、そうだよな・・・無個性のお前がヒーロー科に志望するわけないよな」

 

「・・・ええ、まぁ」

 

落ち着け、悪いとは思ってない。先生に悪気があるわけじゃない。

 

『でも悪意はあるなぁおい。遠回しに「ヒーローになろうなんて思うなよ?」って言ってるってことだ』

 

「うるさい、黙れ・・・」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「いえ何も」

 

頭の中で響いた声に思わず苛立ちのままに呟く。担任にはなんでもないと返し、ついでに笑ってみせる。その後は淡々と雄英の過去問やら対策についての話をして、十分ほど後に帰路についた。

 

『にしても、お前も災難だよなぁ。個性とか言うのがないばかりに夢を諦めるってんだから』

 

「もう黙れ・・・思ってもないくせに」

 

『おっ、分かるか?いやぁ、あいにく俺は夢とか希望とかどーでもよくてなぁ』

 

帰り道、元気に走っていく小学生たちを眺めながら歩く中、再び声が頭に響く。カラカラと笑いながらも、どこか小馬鹿にした様な言い方に再び苛立ちが湧くが、グッと堪える。どうせ相手は何もできないし、こちらも何もできない。

 

『おい、この先右に曲がったところの路地、いるぞ』

 

「・・・行くぞ」

 

『あいよ。っつっても、俺はなにもしないけどなぁ』

 

声に従い、歩いた先にある路地へと曲がる。表通りの喧騒が嘘の様に寂れた、ゴミの散乱した道を歩いていくと、凄惨な光景が広がっていた。

 

「オラ、まだやれんだろうが、とっとと立てよ!」

 

「がっ、ま、まて、もうやめてくれぇ!」

 

路地の先は袋小路になっており、やや広いスペースがあった。そこの中心で、ボロボロのチンピラ風の男が、筋骨隆々の妙なマスクをつけた男に捻りあげられていた。

 

「つまんねぇなぁ!もっと愉しませろヤァ!」

 

「ゴフッ!」

 

マスクの男は、拳を握り、助けを求めるチンピラの腹へと打ち込む。すると拳は簡単にチンピラの胴体を突き抜け、鮮血が辺りに飛び散る。

よく見ると周囲には同様に腹に風穴の開いた死体が転がっている。

 

「あああああああうぜええええええええええ!!!!もっと滾らせてくれる野郎はいねぇのかぁ!!!!」

 

マスクの男は発狂し周囲の地面を殴り続ける。男の拳が当たるたびに地面にはクレーターが出来上がり、振動が地震の様に周囲に伝播している。

 

「うわぁ、なんだあれ。ゴリラかよ」

 

『おおかた筋力増強、とかの個性じゃねーかぁ?』

 

「ってか言動がなんかおかしいし、薬でもキメてんのか」

 

「あぁ?・・・なんだお前ぇ!」

 

うわーないわー、と見ていると男がこちらに気づく。怒りのままに男はググッと体を曲げて・・・って!?

 

「あぶなっ!」

 

「!・・・へぇ、これをよけやがるかぁ!」

 

あっぶな、まさか腕部だけじゃなくて足の筋力も上がるのか。弾丸の様に突っ込んできたが、どうにか躱すことが出来た。

 

「おもしれぇ!さぁやろうぜ、最っ高の殺し合いぃ!」

 

「うっせぇなぁ、やるわけねぇだろ」

 

鞄を下ろし、制服の上を脱いでカッターシャツの袖をまくる。準備ができたところへ、先程と同じように男が突撃してくるが

 

『予備動作が多い、軌道は直線。まぁ当たるわけねぇよなぁ』

 

声がそう言う通り、相手の動きは単調。故にちょっと横に避けるだけでその体当たりは回避できる。

 

「っ避けんなぁ!」

 

「冗談」

 

壁に激突し止まった男が、腕力にモノを言わせて裏拳をうってくる。冷静に距離を取り、うまく横回りで背後へ回避したところでガラ空きの後頭部へとワンツーを打ち込む。

 

「ああああああああああ死ねぇえええええええ!!」

 

「っと、ダメか」

 

しかしさすがは増強型個性というべきか、俺の拳では大したダメージにならないようだ。むしろ怒りを増長してしまっている。

 

『こりゃダメだ戦人。使うしかないぞ』

 

「・・・分かってる。戦闘中にいちいち喋るな」

 

声に従うのもしゃくだが、そこまでこいつに時間をかけるわけにもいかない。『実験台』をもっと探したいし。暴れる男から距離を取るように鞄を置いた場所へと戻ると、手を突っ込み目的のものを取り出す。

 

「ああ?んだそれは!」

 

「お前が知る必要ないよ」

 

そう言って俺は手に持った機械を腰へと当てる。するとそこから腰の周りを覆うようにしてベルトが巻きつき、内側にある端子が腰回りに突き刺さり激痛が走る。

 

フォースライザー!

 

「っ・・・こればっかりは慣れないな」

 

痛みに耐えながらポケットに手を入れ、中から黄色い長方形のキー・・・『プログライズキー』を取り出し、上部のスイッチ『ライズスターター』を押す。

 

jump(ジャンプ!)

 

軽快な音が鳴り、即座にそれをフォースライザーにセットする。

独特な機械音が鳴り響く。その異様な機械音や妙な機械を警戒し、男はこちらを睨み動かない。好都合ではある。

 

「・・・変身」

 

宣言とともにフォースライザーの『フォースエグゼキューター』を引く。『エクスパンドジャッキ』によりセットされたプログライズキーが強制展開され、認証が始まる。

 

フォースライズ!

 

「な、バッタ!?」

 

ベルトから飛び出すように巨大なバッタが飛び出してくる。驚きで動きが固まった男にそのまま飛びかかり吹き飛ばしながら、バッタは俺の周囲を飛び回る。

 

(ライジングホッパー!)

("A jump to the sky turns to a rider kick.")

 

音声とともにバッタは原形を崩し、俺に覆いかぶさるように展開し縛り付けるようにして俺に装着される。

 

"Break down."

 

そうして、黄色と黒の装甲に覆われたライダー・・・『仮面ライダー001(ゼロゼロワン)』へと変身した。

 

「な、なんだお前・・・!」

 

何かを感じ取ったのか、男の顔は恐怖に歪んでいた。震える声で呟く男に、俺は仮面の中でため息をこぼしながら近づいていく。

 

「く、来るな・・・!」

 

「・・・」

 

「来るなぁぁぁぁぁ!」

 

錯乱しその豪腕を歩いて近づく俺にむけて振り下ろす男。そこで俺は、先程のように回避・・・はせずそのまま受け止めてみせる。

 

「なっ!?」

 

「どうした?受け止められたのがそんなに驚きか?」

 

受け止めた腕をそのまま握りしめるように掴んでいるので、おそらく男は動かない腕と握られる痛みで困惑してるんだろう。

 

「がっ、くそ、離せ!・・・ぎゃああああああ!や、やめろ!やめてくれ!」

 

『ほぉー、こいつは面白い。さっきは命乞いする奴を快楽のために殺しといて、自分の時にはやめてくれ、か。こいつはまた人間らしい低脳な野郎だぁ!』

 

「お前に慈悲をかける気なんてないよ。とりあえず、死んどけ」

 

掴んだ腕を上へ跳ね上げ、ガラ空きの胴に連続で拳を叩き込む。男の顔が苦悶に歪み、言葉になってない叫びとともに両拳が振り下ろされる。

 

「フッ!」

 

「ゴッ!?」

 

わざわざ受け止めるのも面倒になったので、振り下ろされる腕に拳を合わせ、殴ってカチ上げる。驚愕する男の喉へ飛び膝蹴りを喰らわせると、勢い良く路地の壁へと突き刺さる。

 

「て、めぇぇぇ!!」

 

『タフだなぁおい』

 

「終わりだ」

 

そう言ってフォースエグゼキューターを戻し、すぐに再度展開する。

 

ライジング!

ディストピア!

 

「ぐっ・・・!おあぁぁぁぁ!」

 

激痛とともに装甲の隙間から赤黒い血飛沫のような煙が吹き出る。ってかクッソいてぇ、やっぱこのベルト嫌だマジで!

 

「ハッ!」

 

「!?消え・・・グホッ!?」

 

強化されたスピードに任せて高速で男へと突っ込み、蹴りをぶち込む。

知覚不可能な速度での一撃に鯖折り状態で吹っ飛んだ男を追いかけ、壁に激突する前に頭を引っ掴み地面に叩き込む。

 

「ッガァ!?」

 

「消えろ!」

 

そのまま上空へと放り投げ、今度はフォースエグゼキューターを二度展開させる。

 

ライジング!

ユートピア!

 

パワーの集まった足で地面を蹴り、男の真上へと飛び上がる。

たまたま見えた男の最後の顔は、ぐちゃぐちゃだったがすぐにわかるほど恐怖で歪んでいた。

 

「あ、あ、あああああああああああ!」

 

「・・・チャオ」

 

ラ   イ   ジ   ン   グユ

                 Ⅰ

                 ト

                 ピ

                 ア

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『おい、戦人』

 

「あん?」

 

実験台との戯れを終え、キッチリと警察に通報だけは済ませた俺は、コンビニで買ったチキンを頬張りながら歩いていた。

一応言うと、男は生きてるし瀕死でもない。空中で落下中に完全に気を失ってしまったので最後の一撃は男の顔面の真横、地面に打ち込んで済ませた。流石にまだ殺人の罪を犯す気にはなれない。

 

『なんでわざわざあのベルトを使うんだ?普通に負担がヤバいだろう?』

 

頭の声が心配げに聞いてくる。・・・全く、気に食わない。

 

「何が言いたいんだよ」

 

『あんな体への負担の大きいベルトなんか使わなくても、「俺」を使えばいいだろって話さ』

 

どうせそんなことだろうとは思った。チキンを食べ終えクシャリと紙を丸め、通りかかりに自販機の横のゴミ箱へと突っ込み缶コーヒーを買う。

 

「ふざけんなよ『エボルト』。お前の言うとおりにするわけないだろうが。どうせ体の所有権を奪いたいんだろう」

 

『はっはっはバレたか!まいいさ、気が変わったらいつでも言えよ?』

 

心底面白いと言うように笑うクソッタレに、俺はため息をつきつつ鞄の中を覗く。

 

 

 

使用していくたびに性格が攻撃的になり、最後には精神崩壊する、『デルタギア』

 

赤いトリガーとウサギ、戦車の描かれたボトル、黒い本体に赤いハンドルのついた、愛と平和を望んだ最高の科学者の負の面、『ハザードトリガー』と『ビルドドライバー』

 

人間用に作られておらず、使用時や必殺技時に激痛に苛まれる、『フォースライザー』

 

使えることには使えるが、使ったが最後エボルトに体を乗っ取られるであろう、『エボルドライバー』と『トランスチームガン』

 

 

「・・・どう考えても地獄だ・・・」

 

『ま、楽しく行こうか!ハッハハハ!』

 

 

これは俺が、最低でクソッタレなヒーローになろうとする物語だ。




主人公
乾 戦人 (いぬい せんと)
★夢がないけど夢を守るオルフェノクと、愛と平和の最高な科学者と、元お笑い芸人現社長の3人から1文字ずつ取ってできた名前。
★年齢はデク達と同じ。幼少期、デクと同じで個性がないと診断される。転生時の取り決めである時期から仮面ライダーとしての力を持つ。(ただしデメリットは全部受ける)
ヒーロー願望あり。転生時に特典として「仮面ライダーの力」を望んだが、「何の」を言っていなかった。結果、神(作者)の好みで選ばれたライダーの力とついでで火星人()を持つ。ついでで付いてきた火星人()がヤバイ。


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第2話

エボルトとかいう困った時のラスボス枠
あと「原作崩壊」と「グロ注意」のタグを忘れてた。いっけねうっかりうっかり☆
「そう言うの、嫌いじゃないわ!」
って人だけドゾー(´・ω・)ノ

あ、あと原作入るまであと少しかかる。


俺、乾戦人の朝は割と早い。理由は別に、朝早くから新聞配達のバイトをしてるからとか、朝のランニングをしているからとか、そういうことではない。

 

『ほら、起きろ戦人〜。起きないとお前の好きな漫画キャラとかの萌えゼリフってやつを俺の声で完全再現して叫ぶぞ〜』

 

「悪魔のような嫌がらせヤメロォ!」

 

このように、あの手この手で起こそうとする奴がいるからである。

 

『おう、起きたな。さっさと顔洗ってこいよ』

 

「この・・・相変わらずクソ野郎め」

 

『ほっほーう、いい返事だ。ところで時計を見てみな』

 

「んぁ?」

 

エボルトの声に従い時計を見る。それなりに気に入っているデジタル時計は、無慈悲に9:20を表示する。

 

「・・・っ!?!?遅刻!!」

 

『あーあ、だから言ったってのに・・・バカだねぇ』

 

エボルトの心底人をバカにした発言にイラっとするが、反応している暇はねぇ。急がねぇと、せっかくこれまで皆勤賞なのに!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「にしても珍しいな、戦人が遅刻ギリギリって」

 

「ちょっと色々あったんだよ」

 

昼休憩、友人達と弁当を食べつつ今朝の事をからかわれる。

くそ、昨日は負荷が溜まりすぎて動けなかったんだよなぁ・・・そのまま目覚ましかけずに寝たのが不味かった。

 

「あ、そうだ。お前ら、聞いたかよ?」

 

そんなこんなで他愛のない無駄話を楽しんでいると、ふと噂好きの友人Aがにやにやしながらそう言い出す。

 

「なんだなんだ?」

 

「隣のクラスの発目って知ってるか?」

 

「誰だ?」

 

「戦人は知らねーのか。あれだよ、『機械オタク』の発目!」

 

誰だ・・・いや待て、発目って確か・・・

 

「何でも、その発目って女子がうちの学校1のイケメンに告られたらしい!」

 

「へー・・・あれ?でも確かそいつって、彼女いなかったか?」

 

「なんでも、最近別れたらしいぜ」

 

「ふーん」

 

「ふーんて!反応薄いな戦人!」

 

いやまぁ、だってオチがもうわかるもんなぁ。思い出した、まさか同じ中学にいたとはな、発目明。原作にも少し出てきてたはずだ。

テンションの上がらない俺を他所に、他の友人達が息巻く。

 

「で、どーなったんだよ!?」

 

「それがよ、『私はどっ可愛いベイビーを作るのに忙しいので!』って振られちまったんだとよ!」

 

「はっはぁー!ざまぁねぇぜ!」

 

「はー、メシウマですわ!」

 

ヒャッハーと心の底から嬉しそうな友人達に、ドン引きながらも少し件のイケメンに同情する。恐らく原作でもあったように機械狂い・・・と言うよりサポートアイテム狂いなんだろう発目が相手じゃぁしょうがないとは思う。

 

「にしても、そーいえば発目って結構いいスタイルしてるよな」

 

「確かに。・・・おい、戦人!なにぼーっとしてんだよ」

 

「ん?・・・ああ、なんだっけ?」

 

「発目さんだよ。発目さんって、結構いい体してると思わね?」

 

「あー・・・」

 

ぼーっと考えてたら、どうやら話が下の方面に向かっていたようだ。・・・ぶっちゃけその手の話題は前世の頃から苦手なんだが・・・。確か原作だと・・・ああ結構あるな。

 

「ああ、そうだな」

 

「だろ!?結構デッカいしな、なにがとは言わないが」

 

「ああ、多分このガッコー1だよな、なにがとは言わないが」

 

そんな非生産性の高い話を聞き流しながら、ふと考える。

 

(待てよ・・・発目・・・?)

 

『あん?どうしたぁ?』

 

(黙ってろ。永遠に。・・・そうか、そう言う手もあるな)

 

『・・・ま、いいか』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「本当にいいのか?流石におすすめできない進路だぞ?」

 

後日、俺は担任へと相談すべく職員室へとやってきた。

 

「はい、俺がやりたいんです。普通科ではなく、サポート科で」

 

そう、俺が思い出したのは、サポート科という存在。個性がない扱いの俺ではあるが、そんな事ヒーロー科でなければ成績さえ高ければ問題ない。更に、サポート科は確か原作でも発目がラボに入り浸っていたように、作りたいものを作り放題できる。

 

(つまりは俺の鬼畜仕様のベルトの調整も捗る・・・!しかもうまくいけばベルトは流石に無理でもフルボトルとか武器、なんならまんまサポートアイテムも作れる!)

 

『そんな上手くいくのかねぇ』

 

「お願いします、推薦してください」

 

「うーん、まぁやりたいって事なら別にやることは止めないが・・・」

 

ひたすら頭を下げてお願いする。担任は頭をかきながらも了承してくれる。しかし、その表情はやや不安げだ。

 

「しかしいいのか?推薦に関しては構わないが、サポート科に入るにしても、無個性の乾だと審査が厳しくなる。受かる確率が落ちるんだぞ?」

 

「それに関しては頑張りますので」

 

「ん〜、まぁ止めないってさっき言ったしな。まぁ保護者があまり不安にならないように一応普通科も受けとけ。その辺しっかりと相談しとけな」

 

「・・・はい」

 

ありがとうございました、と礼をして職員室を出ると、揶揄うようにエボルトが笑う。

 

『はははは、あいつらが保護者だとよ。笑えるな!』

 

「・・・黙れ」

 

少し気分が悪くなってきた。今日はもう下校だし、とっとと帰ろう。ムカムカする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・保護者、ね」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

進路相談をしての帰り道、少しでも気晴らしをしようとコンビニへと寄る。飲み物にコーラ、そしてチキンを購入し食べながら1人夕日に染まる道を歩く。

 

『で、サポート科ってのに入るとしてその後はどーすんだ?』

 

「とにかくベルトのメンテや調整をする。あとは、イベントに備えて色々とな」

 

『イベントォ?』

 

帰り道は割と人通りのない道を通ることが多いため自然とエボルトとの会話を呟きがちになる。実はベルトに関しては色々と問題が多い。今の俺の現状ではそれらのメンテを満足に行えないため、サポート科の設備は今にして考えると凄く美味しい。それとは別に、イベントという言葉に反応したエボルトにニヤリと笑う。

 

「雄英高校体育祭。ここでは普通科もサポート科もヒーロー科に混じって凌ぎを削るんだ。んで、そこで良い成績を収めれば、ヒーロー科への編入も夢じゃない」

 

『なるほどぉ?体育祭とかいうので大活躍、それでお前は本来入れる資格のないヒーロー科に入ろうって寸法か』

 

面白そうじゃねぇか、と言うエボルト。実際無個性である以上俺は真っ当にヒーロー科を目指す道はほぼない。なら初めから、裏口を目指せばよかったんだ。仮面ライダーの力ならよほどのことが無ければヒーロー科とはいえ同い年に負けるつもりはないし、サポート科ならガジェット類もサポートアイテムだと言い張れるだろうし。

 

「とにかく今は、サポート科へ入るためにも勉強頑張らねーと。倍率70倍とか言うぶっ壊れなヒーロー科よりマシと言っても、サポート科だって倍率たけーし」

 

『それなら俺様が代わりにやってやろうかぁ?自慢じゃねぇが、お前よりは頭良いぞ。じ・ま・ん、じゃねぇがな!』

 

「滅べ。・・・ん?」

 

エボルトと話しながら歩いていると、ふと妙な匂いに気づく。何か、肉の焦げたようなその匂いに顔をしかめていると、エボルトが嬉しそうな声をあげる。

 

『おい、昨日から運がいいな!いつもの奴だ』

 

「・・・なるほどな。おい、どっちの方面だ」

 

『そこの曲がり角の先、この感じは複数人いるな』

 

「そうか」

 

急いで曲がり角に走る。そっと顔だけ出して見ると、そこには学生服姿の少女を囲むようにして柄の悪い男達がニヤニヤしつつ壁際へと追いやっていた。

・・・と言うか、なんか周りに焦げた死体らしきものが転がっているんだが。

 

「おいおい、ケーサツ呼んじゃだめでしょー。ケーサツも俺らも暇じゃないんだよ?」

 

「よく見りゃあこいつ結構いい身体してるじゃねぇか!」

 

「おいおい、なんか喋れよ!別に悪いようにはしねぇしよ!あ、それより良い場所知ってるんだ、一緒に遊びにいかね?」

 

うわぁ・・・わかりやすくヴィラン・・・。ってか、周りの死体はなんなんだ?

 

『おい、あの制服って戦人の学校のやつじゃないか?』

 

「!」

 

エボルトに言われてよく見て見ると、確かにウチの学校の制服だ。クラスメイトじゃないが見たことはある子だ。恐らく同い年、同級生だろう。怯えて縮こまっており、すでに半泣きだ。

 

・・・面倒だな。

 

「とりあえず行くぞ」

 

『はいはい、頑張れよー』

 

適当なエボルトを放って置いて、鞄からベルトを取り出す。今日は流石にフォースライザーは使えない。あれは負担がデカすぎて毎日使うには限度がある。

 

「あまり時間かけれそうにないな」

 

ベルトを腰に巻きながら呟く。よく見ると、脅されている女子の手元には携帯、聞こえてくるヴィランもどきの声的にもすでに警察には通報済みのようだ。ヴィランもどき達もそれには気づいているから、女子をどこかへ連れて行く気満々。だとすると急ぐ必要がある。

 

ベルトを巻き、横にハンディカムを装備。さらに鞄から特殊な形状のトランシーバーを取り出す。曲がり角の先ではすでに腕の引っ張り合いにまで発展しており、女子の顔は悲壮感にあふれておりヴィランもどき達も下卑た笑い声を隠そうともしていない。

 

「おいおい、いくら人通りが少ないからって、そんなに声出してりゃ不味いだろうよあんたら」

 

「ああ?」

 

鞄を置き、ヴィランもどき達の前へと出る。ヴィランもどき達は訝しむ様にこっちを見ているが、女子の方は助けて、と言う様にこちらに泣きながら期待の目を向ける。・・・いや、俺の格好見ればヒーローじゃないってわかるだろ。

 

「あーーーーーーー、え、なに?そういうこと?」

 

「かーっ、出たー!みろよ、正義のヒーローさんだぜ!」

 

ヴィランもどき達・・・いや完全にチンピラだなこいつら。チンピラどもは何やらイタい奴を見る様にこちらを見て爆笑する。・・・腹立つな。

 

「なになに、この子と同じ学校の制服じゃん、知り合い?」

 

「いや、同級生だろうってことぐらいしか知らねぇよ」

 

「へー!じゃあ同級生を助けるためにこうしてカッコよく出てきてくれたって訳だ!カッコいー!」

 

「ヒューヒュー!王子様の登場だなぁ!」

 

・・・なんなのこいつら?煽りたいの?死にたいの?

女子を捕まえている1人を残してニヤつきながらそれとなく俺を囲む様にして立ち位置を変えていく。チラリと見ると女子は腰が抜けたのか動けないでいる様だ。

 

「まぁ、好都合ってことで・・・」

 

「ああ?」

 

チンピラどもが何言ってんだ?と首を傾げている間に、手に持ったトランシーバー「デルタフォン」を耳元まで持っていく。

 

「・・・変身」

 

standing by

 

デルタフォンから音声が流れる中、直ぐにベルトに提げられたデジカメ「ベルトムーバー」にセットする。

 

complete

 

そして、白い光の線が俺の体の周りを覆っていく。線は謎の模様を俺の体の周りに形作り、一際強い光が俺を包む。

 

「な、なんだ!?」

 

「よくわからねぇが気を付けろ!」

 

そして俺は、白いライン「フォトンフレーム」が形成した骨格と装甲を見に纏い、敵を赤い炎で灰にするオルフェノクの王の近衛として作られたライダー、「仮面ライダーデルタ」へと変身した。

 

「す、姿が変わった!?」

 

「かまわねぇ!やっちまおうぜ!」

 

変身した俺に動揺するチンピラどもだが、直ぐに切り替えて襲いかかってくる。・・・思ったより統制された動きだ、こいつら割と戦える奴だな?

 

「まぁ関係ないけど」

 

「グへッ!?」

 

一番最初に襲いかかってきた体から鉄パイプを生やした男の腹に拳をめり込ませる。吹っ飛んでいく男・・・面倒だな、男Aを他所に、他の奴らがそれぞれに個性を使い襲いかかる。指を飛ばしてくる男B、カマキリみたいな腕の男C、口から妙に臭い液体を放つ男D。

 

「よっと」

 

「はやっ!?」

 

「なんだこいつ、当たらねぇ!」

 

「ぐあっ!だめだ、当たっても固くて遠らねぇ!」

 

そりゃそうだ、デルタは出力だけならファイズやカイザを超える。格闘能力に関しても流石にヴィランもどき程度に負けるほど柔に鍛えてない。フォトンブラッドの毒性はオルフェノクでないこいつらには意味ないが、そもそものスペック的に増強型個性のないこいつら相手で負ける要素がない。

 

「ふっ!」

 

「ぐあっ!」

 

「ひぃぃ、た、助けてくれ!」

 

カマキリみたいなやつの腕をへし折り、鉄パイプ野郎はパイプを全部手刀でカットしてから全身を殴打。臭い液体のやつはあまり触りたくないから全力の腹パンで吹き飛ばす。・・・感触的に骨、結構逝ったな。

 

(にしてもこいつら・・・)

 

『なんだ?こうなりゃあもう作業ゲーだろう?』

 

(いや、それはまぁいいんだが・・・周囲には燃やされたみたいな死体があるのに、こいつらの個性はそんな気配がない。後純粋に弱い)

 

『なるほど?つまり、そろそろ・・・』

 

「お前ら!もういい、俺がやる!」

 

「あ、兄貴!」

 

ああやっぱり。残ってた奴が親玉なんだな。最初はニヤつきながら見ていたが、俺が他の奴らを蹂躙する様を見てキレたように怒鳴り出てくる。

 

「お前か、これをやってた奴は」

 

「ああ?・・・あぁ、こいつらか。ブスばっかだったから、とりあえず燃やしただけさ」

 

そう言って近くにあった焼死体の頭をゴリ、と蹴る親玉。そして、周囲に転がっていた男達が距離をとったのを見て、サッと指をこちらに向けてくる。

 

「テメェも燃え尽きなぁ!」

 

「!」

 

豪、と親玉の指先から炎が噴き出て俺の周りを包む。なるほど、結構いい火力。・・・まぁ、

 

「はっはっは!死ね死ねぇ!俺に逆らう奴は燃え尽きちまえ!・・・は?」

 

「大笑いのとこ悪いが、あんま時間ないんだよ」

 

火であぶった程度でデルタがやられる訳もなし。サッと動いて、親玉の首を180°回転させる。何が起こったのかわからない、と言った表情のまま絶命、倒れる親玉。

 

「あ、兄貴ぃ!?」

 

「そ、そんな!」

 

「に、逃げろ!」

 

「はいはい、とりあえず・・・」

 

一斉に散りじりに逃げ出すチンピラども。しかし、全員逃すつもりはない。追い付いては首を回すだけの簡単な作業を続ける。

 

最後の1人は、女子と同じく腰が抜けたのかその場で蹲っていた。

 

「よう。お前で男どもは最後だ」

 

「ひ、ひぃぃぃっっ!!?」

 

錯乱したのか、悲鳴を上げて座ったまま後退りし続ける男。・・・BだったかDだったか。まぁどいつでも同じことか。

 

「た、頼む!命だけは、命だけはブゲッ」

 

「はいおしまい、と」

 

最後の首を回し、他のチンピラだったもの達と一緒に山にして置いておく。すると、目の前で未だ動けないでいた女子が泣きながら立ち上がっていた。

 

「あ、あの・・・」

 

「ん?」

 

「え、えっと、乾くん、だよね?隣のクラスの」

 

「ああ、知ってたの。俺のこと」

 

「う、うん!あ、あのね、助けてくれてありがとう!乾くんのことは黙っておくから!そ、それと、かっこよk」

 

「ああ、そういえば残ってたな」

 

「・・・え?」

 

キョトンとしている女子に向き直り、腰に下げた銃形態のムーバーを取り口元へ持っていく。

 

「Fire」

 

Burst Mode

 

ムーバーから音声がなり、射撃モードが起動する。

 

「い、乾くん・・・?なに、お゛っ?」

 

そのまま女子の心臓部へと無造作に向け、トリガー。

なぜ、どうして。そんな表情で倒れ込む女子に、続けて3発、頭部と肺、再度心臓へとエネルギー弾を撃ち込みとどめを刺す。

名も知らぬ同級生が倒れ込み、周囲に血がじんわりと広がっていくのを、俺はしばらく無心で眺めていた。

仕上げに他の被害者の死体と同じように、いや弾痕が分からなくなるくらいに燃やして、警察やヒーローが来る前に退散した。

 

「悪い、初めから助ける気なんてなかったんだ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『しかし、あの女なら殺す必要なかったんじゃないか?』

 

全てを終え、変身を解除して歩いていた俺に、エボルトが聞いてくる。

・・・本気で聞いてるのかこいつ?

 

「あの子を生かしておく理由が分からないな。あの子は俺の変身を見ていた」

 

『だが黙っておくと言っていたぞ。わざわざ足がつく可能性がある銃撃までして、なにが不味かったって?』

 

(・・・本当に、こいつは・・・!)

 

おそらくわかっている。俺があの子を生かしておきたくなかった理由を理解していながら、それでいて俺自身に理由を口頭で説明させたがっているのだこいつは。

 

「相変わらず性格が悪いな。分かってるくせに」

 

『あー、じゃあ言ってやろうか?』

 

心底楽しそうにエボルトはベラベラと脳内に喋りかけてくる。

 

『あの姿・・・デルタは一度表で使ったことがあるからだろう?それも人命救助で』

 

「・・・」

 

『言い当てられたり嘘ついたら唇を噛む癖、直した方がいいぞ?』

 

顔が見えなくてもわかる、こいつニヤついてやがる。

そう、俺は一度デルタを事故現場で止む無く使ったことがある。運の無いことにそこでは報道関係のカメラも入っていたため、バッチリとその姿が写っている。『謎の新ヒーロー!?』『ヴィジランテが事故現場に!事件への関与は?』など一時期ニュースに流れたときには登下校が怖かったものだ。

 

ベルトの負担の関係上、フォースライザーを連続使用できない分データ集めの戦闘ではデメリットが精神汚染か激痛のデルタや001しか今は使えない。

他のベルトに関しては少々事情があり、『使えるけど使うとアウト』な状態なのだ。

つまり、もしあの場であの女子を見逃し、助かって気の抜けた彼女がポロッと俺のことを喋ってしまう可能性がある以上、俺は逃すわけにはいかなかった。

 

『いやー、素晴らしいね全く!一方ではヒーローを目指しているくせに、また一方では自身の都合でチンピラどころか一般人ですら殺す!最高に歪んで最高に素敵な奴だお前は!』

 

「・・・うるさい、黙れ」

 

『いいや、言わせてもらうねぇ!お前は狂ってる!』

 

エボルトの言葉に思わず立ち止まる。周囲はすでに住宅街に入り、夕日が照らす道には前にも後ろにも人1人いない。

 

『正義を掲げ、他者を助ける存在になると言っていながら、それでいて自分のためならその他者を切り捨てる事も厭わない!人間どもの作るルールに従い生きていながら社会の裏では平気で殺人という違反を犯す!』

 

そこで間を置き心底嬉しそうにエボルトが続ける。

 

『全く最高に俺様の好みだ!流石だ戦人!流石「親すら切り捨てた男」だ!お前になら、俺の力を、「エボル」を貸してやるのも悪く無い!』

 

「・・・黙れ。お前を本気で信用すると思ったか?それと、一つ覚えとけ」

 

怒りでどうにかなりそうだ。だが、こいつに・・・イカれた地球外生命体には言わなければならない。

 

「俺は、俺の目指す先は一つ。『仮面ライダー』だ。そこに至るまでにどれだけ俺が汚れようが、どれだけ罪を犯そうが、関係ない。ヴィランと呼ばれようと、ヒーローと呼ばれようと関係ない。俺は俺の思う『仮面ライダー』になる。正義のヒーロー、それになるためなら、俺はなにを犠牲にしても構わない」

 

『・・・』

 

「・・・もう黙ってろ、流石に疲れるんだよデルタを使うと」

 

そうして俺は、黙り込んだエボルトを放っておき、帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

(全てを犠牲にした正義、ねぇ?良いね、実に素晴らしい。良い感じに歪んできたな、それもこれもあの人間どもに感謝しないきゃなぁ!)

 

エボルトは、戦人と共有している視界から見える世界を眺めながら、静かに嗤うのだった。




さぁて、段々とアマゾンズフィルターが迫ってきたぞぉ。
発目さんについては今後のオリ主の行動的に関わらせたかったから先行で出てきただけで特にヒロインって訳じゃないです。・・・まだ。
ちなみに戦人の変身できるライダーについては過剰に増やす気はありません。まぁあと1、2くらいは増えても良いかな(油断)
アンケートとかで決めるのもありか(無謀)

次回もお楽しみに


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第3話

デルタってよく考えたらオルフェノクいないこの世界だとただの強化装甲程度なのでは・・・?
ボブは訝しんだ。


「おえぇぇぇ!げほっ、グエェェっ!」

 

全く、ヒデェ有様だ。帰宅と同時に吐くかよ。

洗面所へと駆け込み、トイレに向かって泣きながら吐く戦人を上から眺めるような視点で鑑賞する。

そんなことになるくらいなら、最初からやらなきゃいいのになぁ。

笑いながら見ていると、戦人はフラフラと自室へと向かい、そのまま倒れるようにしてベッドに突っ伏す。

 

『おい、風呂入るんじゃねぇのか?』

 

「・・・うるさい」

 

俺の言葉に悪態をつく元気もほぼないかぁ。これは重症だな。

・・・丁度いい。戦人も寝ちまったみてぇだし。

 

『此処で潰れてもらうわけにもいかない、ってわけでお節介でもするかねぇ』

 

そう言って俺様は、死んだように眠る戦人の頭へと手を伸ばした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『全く、ひでぇ奴もいたもんだ』

 

(・・・黙ってろ)

 

昨日から相変わらずエボルトは機嫌が良さそうだ。こいつが機嫌良い時ってのはだいたいろくでもないこと考えてるからこっちとしては面倒の一言だ。

 

学校へと向かう道すがら、ふと昨日ヴィランと女子を殺した場所の近くまで来る。若干の吐き気と、あれでよかったんだと叫ぶ自己肯定の心の声に顔をしかめてしまう。

 

(・・・あれが俺の本性・・・なのか?)

 

昨日の事は鮮明に覚えている。デルタによる闘争心の向上はあったが殺ると決めたのは俺の意思だ。だが、時間をおくごとにあれで本当に良かったのか、と囁く声が聞こえるような感覚がしてイラつく。

どうしても気になってしまい、昨日の惨状が広がるであろう道へと向かってしまう。・・・この曲がり角の先に、黄色いテープと警察官にパトカーが・・・

 

「・・・なっ!?」

 

曲がり角の先には、何もなかった。黄色いテープのバリケードも警察の姿も。それどころか、昨日俺がデルタを使って行動した事で出来ていたはずの割れたアスファルトも、ヒビの入った壁も全て元どおりだった。

極め付けは、女子の死体も、ヴィランの死体も消えていた事だ。まるで最初からあんなことがなかったかのようだった。

 

「どうなって・・・!?」

 

明らかな異常事態に混乱していると、今朝からいつもより大人しいエボルトが声をかけてくる。

 

『・・・時間、これ以上はねぇんじゃねぇか?』

 

「・・・」

 

(まさか、こいつ・・・)

 

心にしこりを残しながらも、俺は学校へと向かった。

 

 

 

 

「おはよう」

 

「うーっす、今日はちゃんと起きれたのな」

 

「ほっとけ」

 

「そーいやさ、昨日この近くでヴィラン出たらしいぞ。なんでも・・・」

 

学校へと到着し、なるべく普段通りに挨拶をする。・・・話題に少しどきりとするが、友人たちはそこまで知っているわけではないようで、気をつけないとな、程度の話だった。どこかほっとしながら与太話をしていると、不意に背後から声をかけられる。

 

「えっと、乾くん?」

 

「?・・・っ!?」

 

ガタン、と思わず椅子から立ち上がり茫然とする。

突然の俺の動きに驚いたように目を見開いているその人は、昨日ヴィランに絡まれていた女子生徒だった。

 

「な、なん!?」

 

「えっと、昨日はありがとね!」

 

「な、何がだ?」

 

恐る恐る聞いてみると、女子は一瞬キョトンとして、その後すぐににっこりと笑う。

 

「何って、昨日ヴィランから守ってくれたじゃない」

 

「何!?おい戦人まじか!?」

 

「・・・あ、ああ」

 

「ヴィランに囲まれていたところを、戦人君が隙をついて横から手を取って一緒に逃げてくれたの!」

 

「ま、まじか・・・!」

 

「圧倒的イケメンムーブ!」

 

(んな馬鹿な!?あの時確かに・・・!)

 

俺は表面的には苦笑いしつつ、内心で絶叫する。この女子が生きていることもそうだが、何故か俺の変身もヴィランも見ていないと言っている。一体何が・・・!?

 

「その、他の友達は?」

 

「何言って・・・そっか、あの状態じゃ気づかなかったよね。乾くんが来たときには、もう・・・」

 

「ヴィランは?」

 

「まだ逃走中だって。あの個性で燃やしたりしていた人は捕まったらしいけど」

 

恐る恐る聞いてみると、ヴィランに殺されていた方の生徒はそのまま。しかし目の前の女子は生きていて、しかも俺のしたことの記憶が無い。

ヴィランの方も、主犯格は捕まり他が逃走中。ってことは生きている。

 

「・・・まさか!」

 

「?おい、戦人!?どこ行くんだよ!?」

 

「行っちまった・・・。もう授業始まんぞ?」

 

 

 

 

 

学校の屋上までやってきた俺は、頭に手を当て苛立ちのままに声を荒らげる。

 

「エボルト!聞いてただろ、あれテメェの仕業だろ!一体何したんだ!」

 

『ああ?何のことだ?』

 

「惚けるな!」

 

叫ぶと、エボルトがため息をつく感じがした。そして次の瞬間、

 

「っが!?」

 

突然全身に激痛が走り、どす黒い血の煙のようなものが吹き出してくる。それは俺の目の前で固まっていき、そしてそこに人の形を形成していく。

 

「・・・エボルト」

 

『おー、この姿で会うのも久しぶりー・・・とか言ってる場合じゃねぇか』

 

現れたのは、エボルトの持つ数ある姿の一つ、『ブラッドスターク』。エボルトは片腕を回したり、首を左右に振ったりと体の確認をしつつこちらを睨んでくる。

 

「もう実体化できるまでになったのか」

 

『いいや、あくまでこの姿は擬態さ。まだお前のハザードレベルも3.1とそう高くないし、俺自身もそこまで回復していないからなぁ』

 

忌々しい、と睨んでいると相変わらずの何を考えているかわからない笑いをこぼすエボルト。

 

『・・・で?聞きたいことはなんだ』

 

「昨日の対ヴィラン戦、俺は間違いなく殺意を持って行動していた。そして、目撃者である全ての人間を・・・殺したはずだ」

 

『で、何故かそいつらが生き返っているって事で、俺の仕業だと?』

 

「ああ」

 

『証拠があるわけじゃぁねぇだろう?俺じゃなくて、ひょっとしたら通りすがりのヒーローとかが何かしたかもしれねぇじゃねぇか』

 

「・・・」

 

『・・・』

 

俺が黙って睨んでいると、エボルトもこちらを睨んでくる。双方睨み合いの膠着状態が続く中、突然エボルトが吹き出す。

 

『・・・フッ、ハハハハハ!まぁいい、そうだよ、俺がお前の体を使ってちょいとやらせて貰ったよ!あの時のお前はひどく不安定で、扱いやすかったよ!』

 

「なぜ、そんな事をした?お前がただの善意でそんな事をするはずがない」

 

『なんだ?そんな事ってのは、わざわざ人間を蘇らせた事か?それともその上で記憶をいじってお前がバレないようにした事か?』

 

「・・・どっちもだ」

 

何が言いたいのか分からない。しかし、こいつは何を考えているのか分からないのがデフォルトだ。擬態とか言っていたが、それでも戦うくらいできるだろう。いっそここで『ヤる』べきか・・・

 

『あー、なんだ。今回はあくまでお前に説教をしようと思ってなぁ』

 

「・・・はぁ?」

 

そう言うと、パチンと指を鳴らすエボルト。すると校舎の屋上から、やや街から離れた工事現場へと飛ばされる。どうやらまだ人はいないようだ。

 

「お前なんかに説教されるいわれはない」

 

『本当にそうかぁ?』

 

「・・・何が言いたいんださっきから」

 

エボルトから感じる雰囲気がガラリと変わった。これは・・・!

 

「ぐっ・・・!」

 

『そら、どうしたんだ?さっさと変身しねぇとやられるぞ?』

 

いきなり殴りやがって・・・!ああそうか、今ここで俺の体を完全に乗っ取りたいわけだな!説教とか言って、結局は体が目当てか。

 

「いいぜ、やってやるよ・・・!変身!」

 

フォースライザー!

 

jump!

 

フォースライズ!

 

(ライジングホッパー!)

("A jump to the sky turns to a rider kick.")

 

"Break down."

 

即座にフォースライザーを取り出し、001へと変身する。変身が完了するのを待つ事なく一気にブラッドスタークとの距離を詰め、膝蹴りをぶち込んでいく。

 

『いいぞぉ、もっとだ!もっとこい!』

 

「言われなくてもぶっ殺す!」

 

そうして始まる殴り合い。躱し、殴り、受け止め、蹴る。超至近距離での戦闘になり、周囲には衝撃でヒビが入ったりしている。スペックがどれだけ違うのかは分からないが、エボルトの方にはまだ余裕がある風に見え、突然挟まれたフェイントに対応できず腹に蹴りをもらってしまう。

 

「くっ、くそ!」

 

『ほらほら、その程度じゃねぇだろう?』

 

「なら、これで!」

 

ライジング ディストピア!

 

『おっ・・・と。ならこちらも』

 

激痛に耐えつつ加速しヒットアンドアウェイで攻撃を仕掛ける。スタークの方も流石に素手じゃ対応できないと判断し、トランスチームライフルを取り出し銃撃してくる。

 

『なぁ、いつからだ!?お前が仮面ライダーとして裏で戦闘を始めたのは!』

 

「あぁ!?」

 

銃撃と高速移動の最中、スタークが急に話しかけてくる。・・・なんなんだ今日のあいつは!

 

『確か俺がお前の中で目覚めた頃には、お前言ってたよなぁ!「誰かを助けるヒーローになる。仮面ライダーになって、正義のために戦いたい」って!』

 

「・・・!」

 

『いつからだ、お前が昨日みたいに実験と称してヴィランをやるようになったの!』

 

蹴りやパンチを繰り出し、スタークへの殺意に染まった思考の片隅でふと考える。最初はあくまで、雄英に入るまでに力をつけるってのを目的にベルトに慣れるための行動だった。デルタや001での戦闘を続け、時には予想外に強いヴィランにボコボコにされ死にそうになりながら逃げた時もあった。どうしても激痛が耐えられない時期には、デルタを多用し出力に任せてヴィランを倒しまくった。

 

『お前気付いているか!?昨日のお前、相手を殺した時まるで機械か人形みたいだったぜ!いや、昨日というより最近か!』

 

「うるさい・・・」

 

銃撃が突然頬をかすり、スタークの言葉に思わず立ち止まる。と同時にディストピアの効果が切れ、スタークがライフルの照準を合わせてくる。

 

『本当に今やっていることはお前のなりたかった正義の味方か?』

 

「・・・」

 

『お前のなりたい仮面ライダーってのは、あんな存在か!』

 

「・・・ぅ」

 

『お前はただ、与えられた力に溺れているに過ぎないんだよ!』

 

「違う!俺は、ヒーローに・・・!仮面ライダーに!」

 

『なれると?っは!無理だね』

 

・・・エボルトがコブラフルボトルを取り出す。違う、俺は仮面ライダーだ・・・。彼らのような、カッコいいヒーローに・・・!

 

『今のお前は正義の味方すら演じちゃいない!』

 

コブラ!

 

スチームブレイク!

 

「・・・るさぃ」

 

『お前は仮面ライダーごっこですらない。お前がしているのはただの自己の保身だよ!』

 

「うるさい!!」

 

ライジング ユートピア!

 

エボルトがライフルを構え、エネルギーが溜まっていく。それをみて、無意識に俺もジャッキを操作して必殺技を起動しジャンプする。不思議と、今だけはあるはずの激痛が気にならない。

 

「俺は・・・俺は!」

 

ラ イ ジ ン グユ

         ー

         ト

         ピ

         ア

 

エボルトの放った一撃と俺の蹴りが交差し、拮抗する。真っ向から突っ込む形になったため、じわじわと押し返されようとしていた。

 

「ぐ、ぐぅぅぅ!!」

 

『・・・』

 

「・・・ああああああっっ!!」

 

結果、蹴りと銃撃、双方のエネルギーが弾け、俺は吹き飛ばされる。

一回、二回と転がり、止まったと同時に変身が解ける。そこで俺の意識はブラックアウトしていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

気絶したか・・・ま、本調子じゃない状態で無理に変身すれば当然か。

 

『やれやれ、ずいぶんと手間かけさせてくれるな全く』

 

よっと一声、隣に腰掛け、仰向けに大の字で倒れたまま眠る戦人を見る。

顔色は悪く、寝不足の隈が隠し切れていない。眠れていない証拠だった。

 

『にしても、相変わらずどれだけ挑発してものらねぇなぁ』

 

戦人から「ハザードトリガーが外れないドライバー」を取り出す。過去にあった出来事で外せなくなり、使えば必ず誰かを巻き込む暴走列車となったビルド。こいつを使ってくれればハザードレベルもいい感じに上がってくれるんだがな。俺の存在を知ってから全く使おうとしないとはまた用心深いことで。

 

(ま、今回はこいつが本来のペースに戻ればそれで良し。流石に昨日は驚いたからな)

 

デルタとか言う俺の知らないライダーシステムを使い過ぎた結果だろう。闘争心というか若干倫理観まで外れかかっていたからな。別に外れてもハザードレベルが上がるならいいが、むしろ下がっていったのには驚いた。感情が昂るというより、殺意が増しているだけなのか?それとは別の理由もあるが、今回の暴走と発言に関してはまだギリギリ許容範囲だ。

 

『暫くはデルタを使わないよう言い聞かせるか・・・あるいは』

 

まぁこれ以上俺様に不利になる方向にはならないだろう。

・・・せいぜい上手く育ってくれよ、宿主さんよ?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「・・・負けた、のか」

 

『おう、やっと起きたか寝坊助め』

 

目を覚ますと、学校の屋上にいた。時刻はすでに18時、結局無断のサボりになってしまったな、なんてふと考える。

 

「・・・ありがとう」

 

『はぁ?』

 

「なんとなく昨日の俺がおかしかったってのはわかった。今の俺の行動がヒーローとしてどうなるのかってのも考えたし、大人しくするさ。そう言った諸々を気付かせてくれたこととか、昨日の始末をつけてくれたこととか。そう言ったことへの感謝」

 

・・・なんだ?エボルトが喋らな

 

『うっわ気味悪いな』

 

「あ゛あ゛!?」

 

なんだこいつ人が素直に謝ったってのに!

 

『冗談だよ冗談。まぁ俺としても不利益な状況だったしな。Win-Winってことにしといてやるよ』

 

「・・・おう」

 

これだ。なんだかんだでエボルトは俺に甘い。それが計算された甘さなのか、ただ単に気まぐれなのかは分からないが、こいつのこういうところだけは微妙にありがたい。

・・・にしても、今はとりあえず帰るか。

 

『あ、そーいうわけだから、デルタは暫く自重したほうがいいぞ。流石に次やらかしても知らねぇからな』

 

「分かってる。・・・となると、まともに(?)使えるのはフォースライザーだけか・・・」

 

『あー、それに関してだが少し提案がある』

 

「あ?」

 

屋上から階段を降りていると、エボルトがそう言うと同時に俺の目の前に銃のような物が現れる。

 

「これって・・・!」

 

『それに関しては俺は関与しねぇ。だから好きに使いな。せいぜい頑張って強くなるんだなぁ戦人』

 

どこか楽しそうなエボルトの声を聞きながら、俺は「トランスチームガン」と「バットフルボトル」を手に取り顔を顰めた。

 

 

 

やっぱり、こいつわからねぇ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ふんふんふん!なるほどなるほど、ここが悪かったんですね!」

 

やはり可動域のプログラムが甘かったようです!私とした事が、随分と無茶でしたね!くるぶしが180度回りそうだった先輩には後で謝罪しないといけませんね!

 

「おーい、発目ー。もう部活終わりの時間だから、お前鍵頼むわー」

 

「はいはい!了解です!」

 

おっと、もうそんな時間で。いやはや、ドッ可愛いベイビーの開発は時間が足りなくて困りますね。

 

「・・・から・・・だろうな?いや、・・・なくて!」

 

「・・・んん?」

 

おや、外から声が。もうこの時間ですとこの「技研部」以外の部活は終わっている筈では。

・・・まぁ、ベイビー開発には関係ありませんし、どうでもいいでしょう。

 

「だから、お前からもらったフルボトルとか使う気ないって!」

 

『いや、別にそれ使ったからってハザードレベルは上がんねーから。大丈夫だから』

 

「お前の大丈夫は安心できねぇんだよ!」

 

・・・うるさいですね。何やら独り言叫んでますし、おかしな人でしょうか。

 

「すいません、折角のベイビー開発の最中なんですけど、静かにしてもらえますか!」

 

「おっ!?す、すいません」

 

全く、これでもう少しだけ専念でき・・・!?

 

「ちょ、ちょっとそれ、サポートアイテムですか!?」

 

「は!?ってあんたは・・・げっ!?」

 

何やら私を見て、そのあと手に持っているサポートアイテムを見て妙な声を上げていますが、そんなことより!

 

「見せてください!銃のようですね、どんなものを撃ち出すんでしょう!?やや!?何かを装填する場所がありますね!しかもあなたが持っているその小さいボトルか何かがジャストフィットしそうです!私、気になります!どうでしょうか、少しその素晴らしいベイビーを見せていただけないですか!あ、私のベイビー達も見てあげてください!まだサポートアイテムとも呼べないような物ですけど、数だけはあるので!」

 

「長い長い、というか待って、持ってくのはやめろぉ!?」

 

・・・これが、私が彼と初めて出会い、そして私のサポートアイテムの方針を変えた転換期となったのでした。

 

あ、因みに結局長いことベイビーについて話していて先生には怒られました!同志を持つというのも悪くないですね!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『さてさて、取り敢えずはいい感じに戻ってきたな。まぁ、初めっからハザードトリガーを使ってくれりゃあここまで長くはならなかったんだが』

 

『気長に行くとするかぁ。なぁに、時間はある』

 

『戦人もまだ「あのこと」を乗り越えたわけでもねぇし』

 

『楽しみだよ戦人。お前といると本当に飽きない』

 

エボルトは、キラキラした目でトランスチームガンを愛でている発目から必死に取り返そうとする戦人を見つつ静かに笑うのだった。




エボルト(ブラッドスターク)vs仮面ライダー001
まぁ主人公疲労してたし、使うと痛いから、しょうがないね!(白目)
あとまだ戦人くんのメンタルが割とブレッブレな感じ・・・どこのARCーV主人公かな?

まだ中学編は続くんじゃよ。


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第4話

ヌルッと更新
めちゃくちゃで陳腐な今作品ですが、
「関係ない、書け」
と言える方であれば是非拝読下さい
訳:下手なのはわかってるから批判きてもいいけど心は折れるのでオーバーキルはやめてね(土下座)


エボルトとのケンカ()から月日が経ち、もうすぐ雄英の受験が始まる。友人や同級生も必死に机に向かっている姿が板についてきたころの、いつもと変わらない学校の放課後。

かくいう俺もサポート科での合格を目指し日々勉強である。今日のノルマは終わらせ、カバンに教科書を突っ込みながら席を立つ。

 

「戦人ー、今日漫画の新刊の発売日だぜ、息抜きに少し書店寄ってこー」

 

「おー」

 

すると割と付き合いの悪い俺の数少ない友人達が、教室の入り口で呼んでいる。・・・俺も息抜きはしたいしな。適当に返事をし、さて行くか、と鞄を持ったところで急に廊下から物凄い足音が迫ってくる。この異様な足音は・・・!

 

「・・・っ!マズイ!」

 

「あ!?おい戦人何を」

 

「悪りぃ、先行っといてくれ!後から追いつく!」

 

友人達にそう言って即座に窓から飛び降りる。こーいう時二階の窓際席ってのは役立つってことを不本意ながら知った。

 

「こら乾ー!窓から飛び降りるなとあれほど言っただろ!」

 

「すいません、以後気をつけますー!」

 

運悪く下を歩いていた担任からの怒声を背後に受けながら、全力で走る。全くあいつは、いい加減にしろっての・・・!

 

「はっはっは!かかりましたね乾さん!廊下の足音は私の作ったベイビーの一つ、『足音偽造くん』!私の普段履いている靴を履かせただけの走る下半身です!乾さんなら私の自作靴の足音を見抜けると思いました!」

 

「!?」

 

「おい、下半身が走ってるぞ!?」

 

「きゃぁぁ!何あれ!?」

 

教室や廊下からは他の生徒の悲鳴や驚きの声が聞こえる。しかし、俺にはそれを聞いている暇はなかった。

突如頭の上から聞こえてきた嫌な声に、咄嗟に上空を見上げる。

 

「今日は技研部の活動日です!さぁ一緒にドッ可愛いベイビーの試作に取り掛かりましょう!」

 

「ふざけんな発目ェ!試作っつか俺を実験台にするだけだろ!」

 

上空から妙な靴を履いて降りてきたのは、発目明。ヒーローが使うサポートアイテムを作ることを趣味とする、俺と同じ雄英サポート科志望の女子だ。なんの因果か目をつけられてしまい、こうして時折部活動の日に追いかけられることになってしまった。基本逃げいているんだが、うちのクラスの人間から居場所を聞いて追いかけてくるから疲れることこの上ない。・・・既にうちのクラスでは受け入れられているというのが解せないが。

 

「え!?ダメなんですか!?」

 

「まず人で実験をするな!するとしても安全確認をしろ!それがあって初めて人だろ!」

 

「失礼な!ちゃんと安全性は確認してます!」

 

「じゃぁなんで前回は背負った途端に爆発したんだあれ!」

 

「・・・さぁ行きましょう!乾さんの体と、ついでに知識が必要なんです!」

 

「答えろよ!」

 

 

 

 

 

 

走っていく戦人と何故かゴムボールのように跳ねる靴で跳びながら追いかけていく発目。2人を窓から見送りながら、友人達はため息をつく。

 

「いつのまに発目さんと仲良くなったんだろなあいつ」

 

「え、あれ仲いいって言えるっけ?」

 

「いやいや、あの戦人があそこまで素で接している時点で割といい関係じゃん」

 

「確かになぁ。初めて会ったときのあいつとか、こう、見てらんなかったじゃん」

 

「「あー」」

 

うんうんと頷き合う友人達。あいつも俺たち以外に友達できたのか、よかったよかった。と何故か親心のような何かを感じているのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お前、まじで制作物使うのはなしだろ・・・」

 

「いいじゃないですか!乾さんは捕まえられて、さらに試運転もできるんですよ?一石二鳥です!」

 

『流石に捕まるかぁ』

 

(一応言うと俺個性ない扱いだからな?発目さんも個性は戦ったりできるわけじゃないけど、アイテムがエグい。これでまだ学生ってんだからびっくりだよ・・・まぁ、逃げるって言ってもわざわざベルト使うほどのことでもないし)

 

ため息をつきつつニコニコ顔の発目の後ろをゆっくり歩く戦人。結局捕まってしまい、発目と共に技研部へと向かっていた。

 

「にしても、なんで俺にそこまでこだわるんなんだよ。俺の持ってるものが興味あるんなら、条件付きで見せてやってもよかったけど」

 

「いえいえ、そちらも魅力的ですけど私としては乾さんの考えやアイデアがとても良い刺激になりますから!むしろ、実験台よりそちらの方が実はメインです!」

 

『とうとう実験台って言っちまってるな・・・』

 

そんな話をしていると、遂に部室へと到着する。数人の部員と部長が俺と発目を見て、「ああ、また捕まってるな」と同情の目線を向けてくる。

 

「お疲れ様」

 

「・・・ええ」

 

部長らしい男の同級生・・・名前は知らない。というかこの部に強制的に入れられるまでは知らなかった・・・から労いの言葉を受ける。そう思うのなら、しっかり手綱を握ってくれよ。

 

「さてさて、今日はこれいっちゃいましょう!」

 

部室に着くや否や恥に集められている発目作の試作アイテムが放られてくる。咄嗟に受け取り見た感じ、ゴツい手袋みたいだが・・・。

 

「これなんだ?」

 

「ふっふっふ、それはですね!『のびーるハンド』と言います!簡単です、5メートルほど伸びるだけ!」

 

なんだ、まんまか。某漫画の海賊王目指すDの人みたいなものか・・・?いや、そこまではいかねぇだろうな。とりまつけるだけつけてみるとするか・・・。

 

「思ったより普通だな。今までの感じで言うと悲惨な事になりそうだと思ったんだが」

 

「当然です。そう何度も失敗なんてしませんよ!」

 

試してみろ、と渡されたアイテムを使い的がわりの空き缶を5メートル程離れた場所から取ったり、天井を掴んでぶら下がったり、窓の外から木の枝を掴んで飛び上がり、そのままターザンのように移動したりしてみる。・・・本当に普通だ。というかまじで有用だ。これ発目が作ったのか?

 

「今回のは当たりだな。流石は発目だ」

 

「いえいえ!それほどでも・・・あるかもしれないですね!」

 

よく良く考えると、こいつは毎回ぶっ飛んだ物を作るわけじゃない。どちらかと言うと、そんなことは稀だ。・・・その稀にできる問題児を押し付けられるんだが。

 

「さぁどんどん試しましょう!」

 

「はいはい、俺の例のやつも手伝ってくれよ?」

 

「もちろん!」

 

 

 

 

 

 

「あの先輩すげーな」

 

「ああ。あの発目先輩の実験に平気で付き合えるって、やばいよな」

 

「前回爆発した時も、何故か無傷で発目先輩に説教してたし」

 

遠巻きに発目と戦人の様子を眺めていた他の部員達。戦人が来るまで発目の異常なまでの開発スピードに驚愕していたが、最近のペースは更に異常だった。

部活であり、使える材料や機器、作れるものに制限はあるためザ・武器と言えるようなものは流石にないが、素人目に見てもヒーローのサポートアイテムとして有用であろう数々のアイテムを作る発目。

しかし、発目は話を聞かず突然そのアイテムを他の部員に試させてくる事があった。他の部員達の中では、それがやや問題となっていたのだが・・・。

その発目の作ったアイテムを簡単な説明を受けただけで使いこなしている戦人。戦人が来てからは、その役目が全て彼に回っており自分たちの制作が捗っていたため、実は戦人は割と歓迎されていたりする。

部活後下校時間ギリギリまで何やらやっていたりするようだが、部員達には2人のその圧倒的意欲に感心し、また戦人に感謝していた。

 

「にしても、これどうするんだ・・・?」

 

「俺たちの先輩も何個かは参考的な意味で部に置いていったけど、発目のこれは残すの流石にまずいだろ・・・」

 

一方発目の同級生である3年生の部員と部長は、部室を圧迫し続けるアイテムの数にため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

「さてさて、今日もやっていきましょうか乾さん!」

 

「あいよ」

 

部活動が終わり、部長から鍵を受け取ってウキウキが全面に出た笑みを浮かべ宣言する発目。相変わらず発明に関する意欲が尋常じゃない。

鞄から「トランスチームガン」と「バットフルボトル」を取り出す。

さて、何故部に所属していない俺が技研部で発目の手伝いをしているのか。

 

「今日も見せてください!早く早く、ハリーアップ!」

 

「分かったから!ちょっと離れてろ、あと落ち着け!」

 

その答えが、これである。

 

バット!

 

「・・・蒸血」

 

ミストマッチ

バット・・・バ、バット・・・ファイヤー!

 

ボトルを装着し、宣言と共にスチームガンの引き金を引く。銃口から黒い煙が噴き出し俺の体を覆う。こうもりのようなゴーグルと胴の紋章、、額には「セントラルチムニー」という器官が伸び、肩からパイプのようなものが伸びる。全体的に黒く、どちらかというとヒーローというより悪役の見た目だ。

 

「ナイトローグ・・・変身完了」

 

「おおおおおおお!!!」

 

変身が完了し、火花と共に煙が晴れると、発目が目を輝かせながら周囲をぐるぐると回る。

 

「この洗練されたフォルム!厳つい顔でありながらスマートさも併せ持つ立ち姿!凄いです、流石です!」

 

「・・・あんまり褒めようとしないでいい。にしても、これ毎回するのか?」

 

「当然です!それが私との契約、でしょう?」

 

そう、不本意ながら、発目とは契約、という名の口約束をしている。このナイトローグになる為のガジェットをエボルトから受け取ったあの日、偶然にも発目にそれを見られた。説明するまで離さないと言って聞かない発目に、止む無く「これは俺が作ったアイテムだ」と出まかせを言ったのだ。

 

『ぜひ!ぜひ使ってみるところを見せてください!』

 

そう言われ、俺がこういうのを作っていると誰にも言わない、ということを約束させた上で一度変身して見せた。すると、発目・・・こいつは、真剣な表情で話を持ちかけてきたのだ。

 

『もしよろしければ、私のベイビー開発に協力してください!あなたの発想や技術力がいいきっかけになると思うので!その代わり、部長に頼んでここの設備をあなたも使えるようにしてもらいますので!』

 

『・・・え、まじで?』

 

 

 

 

 

「まさか、ここまで好き放題されるとは思ってなかったがな・・・」

 

「ほうほうほう、これは中々・・・素晴らしい肌触り!フィット感も良いですねー!」

 

回想してたらなんか発目が身体中を触りまくってた・・・。おいやめ、くすぐったおうふっ。

 

「なるほど、あれだけの短時間で簡単に装着できるスーツとは、とんでもない技術ですね乾さん!」

 

「お前も凄いよな、異性の体スーツ越しとはいえめっちゃ触るし」

 

「はい!ベイビーを作るために妥協はしませんから!」

 

ああそう、と言いつつ変身を解除する。するとすぐさまペイッと体から離れ、発目は作業台に向かっていた。

 

「ふむふむ、着脱が容易な上に持ち運びは武器にもなる銃型のアイテムとボトル一本・・・携行性も抜群ですねぇ。そうです!携行性にも優れたアイテムならより需要が上がるのでは・・・!ですがそれだと耐久性が・・・」

 

「はぁ、まあいいか」

 

ぶつぶつと呟きながら図面をひいている発目を横目に、置いてある椅子に座って自分のすべきことをすることにした。勝手に帰ろうとすると「暇なんですね!ならこれを!」とか言って試作品を使わされかねない。

あくまで部活のためサポート科みたいな設備はないが、それでも発目の作る試作品はたまに殺傷出来そうなくらい爆発する。それだけは避けたい。

 

『よう、いいのか?』

 

「何が」

 

エボルトが突然話しかけてくる。発目は・・・集中してるな、小声なら大丈夫だろう。

 

『お前の正体・・・まぁあの姿でやらかしたわけじゃねぇが、あれを見せてよかったのか?今後あの姿でこっそり、ってのが難しくなったんだぞ?』

 

「・・・」

 

ナイトローグは、俺の持つ姿の中で最も知名度の無い姿だ。今後どのように活動するにしても使いやすかったのは間違いない。だが、エボルトの言う通り仮に発目がナイトローグの凶行を目撃してしまえばアウト。つまり俺はナイトローグを使うことに外的リスクができたのだ。

 

「・・・まぁいいんだよ」

 

『ほぅ?』

 

「流石に反省した。もう今後よほどのことがない限り実験はしないし、特訓はどっか人気のない場所でやる。・・・もうあんな事して気分悪くなりたくないからな。あとお前に説教されるの腹立つ」

 

『はっはっは!ああそうかい。好きにしな』

 

そう言って黙るエボルト。俺はとりあえずいつか必要に迫られた時のために自分の強化用アイテム、その基礎だけでも作ろうと許可を得た部の備品で製作に取り掛かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

彼、乾戦人さんは不思議な同級生だった。

 

『乾?ああ、あの無個性の奴だろ?いや、知り合いじゃないけど、珍しいことに無個性の奴ってこの学校だとあいつしかいないじゃん?だから知ってるってだけで』

 

『あいつ、あんまノリはよくないけど、まぁ悪い奴じゃないっぽいぞ』

 

『ああ、あいつの事か?無個性だけど身体測定やばいよな。運動神経はずば抜けてるよ。・・・個性あればよかったのになぁ』

 

初めて出会ったあの日の翌日から、彼の事を聞き込みで調べた。何故か私が彼について聞くと驚く人がいましたが、なんででしょう?

まぁいいです。そして分かったのは、彼が無個性であるということ、個性を抜きにすれば運動が得意だということ。そして、大多数から平坦な印象を持たれていること。

自覚はしてますが、自分は好かれるより驚かれるような人間です。まぁそれが嫌だとは微塵も思いませんが!・・・しかし、彼は違う。無個性でありながら、忌避されたり、いじめの対象になっていない。女子からモテるわけでも、クラスの中心にもいない。上位にも下位にもいない。友人がたくさんいるわけでも、所謂ボッチというわけでもない。絶妙な立ち回りで、自身への他人の感情を考えた生活している、それが彼を観察して得た答えです。

 

そんな何処までも平坦な人間だと言わざるを得ない彼ですが、少数の彼に友好的な人からの評価は意外でした。

 

『戦人?あいつのこと聞きたい?あいつは・・・何考えてるか分からない無口なとこあるけど、実はここだけの話、タコがダメなんだと。昼にたこ焼きとか食いに行こうって言ったら全力で逃げるんだ。まぁ、その悪戯してもすぐに許してくれるし、地雷さえ踏まなきゃいい奴だよほんと』

 

『あいつ、授業とかで当てられてもすらすら答えるくせに、なぞなぞにすっごい弱いんだぜ。それと、あいつ趣味でコーヒー淹れるんだけど、あいつが入れたらスッゲーまずい。まじで。・・・でも、わざわざ飲みたいって言ったとはいえ友達のためにコーヒーメーカー持ってきて先生に怒られるってのには呆れたけどな』

 

『私、ヴィランに囲まれた時に乾くんに助けられたことあるんだ。ちょっと話しかけづらい人だと思ってたけど、声かければ割とお話ししてくれるし、いい人だったけど・・・その、発目さんはなんで乾くんのこと聞くの・・・?』

 

どうやら深いところまで接した人とは良い関係を築ける人柄のようです。実際、私もここ最近よく彼にちょっかいを出していますが、彼は突っ込んだりはしますが、何だかんだで手伝ってくれるし、こうやって秘密も見せてくれます。

 

(フフフフFUFUFU、まぁ彼の持つ技術についてよく知るには好都合でしたし、まぁよいでしょう)

 

そう思い私は、彼との追いかけっこやベイビー開発のことを思い出し、どこか暖かい気持ちになりながら帰路についた。

 

「そうです!明日は、今日使ったのびーるアーム、あれの足バージョンを乾さんに試してもらいましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははは、いい女みっけ・・・」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『随分と遅くなったな』

 

「そうだな・・・」

 

『まさか部室にスマホ忘れるかよ。ちょっと気ぃ抜いてんじゃねーか?ヴィランは別にお前から寄ってこなくても襲ってくるんだぜ?』

 

「わかってる・・・というかお前が言うなヴィラン筆頭みたいな性格しやがって」

 

くっそ、部室閉められてたから教員に頼み込む羽目になった・・・。受験生という事もあってあんまりいい顔されなかったな。気をつけないと。ただでさえ発目との追いかけっことかで内申が怖くなってるし・・・。

 

『・・・ん?おい、何か居るぞ』

 

「?この辺って工場があるし、誰かいるもんだろ」

 

『・・・にしちゃあ随分と俺好みの悪い気配だがな』

 

「・・・」

 

エボルトの気配察知は割と優秀だ。それも、こいつ自体が悪意の権化みたいな性格してるからか、ヴィランの気配を見つけるのが上手い。おそらくその誰かというのもヴィランなのだろうが・・・。

 

「だとしても俺は、しばらく自粛するって言っただろ。それにヴィランっぽい気配っつっても別に本当にヴィランだとは限らねぇ。警察に連絡入れてヒーロー呼ぶんでいいだろ」

 

そう言ってスマホを取り出す。電話を起動し、110を入力し通話ボタンを・・・

 

『ん?この感じ・・・』

 

「なんだよ?」

 

『ああ、こりゃぁお前の同級生の発明家の女の気配だな。ヴィランっぽい気配と一緒だな』

 

瞬間、俺はとっさに駆け出していた。

 

「場所は!」

 

『まぁ待て・・・ここから3つ目あたりの工場内だな。中にはヴィランっぽいのと、あと例の発明家女含めて4人ほど気配があるな』

 

「変身!」

 

jump!

 

フォースライズ!

 

(ライジングホッパー!)

("A jump to the sky turns to a rider kick.")

 

"Break down."

 

走りながらもフォーズライザーとプログライズキーを取り出し、変身する。バッタの跳躍力を生かして大ジャンプし、エボルトの言っていた工場の上にたどり着く。どうやら廃工場になっている場所だったようで、窓から様子を伺う。

 

「・・・!いた!」

 

中には、広い空間の中で真ん中に集められた4人の女性。中には発目もいる。そして、その目の前でニヤニヤしながら手に持った箱のようなものを手慰みに遊ばせているチャラい男と、目を瞑りじっと腕組みをして立つ角刈りの男。

 

「2人だけか・・・?とにかく、今は様子を見るしかないか・・・」

 

『戦人、警察は呼んだのか?』

 

「ああ」

 

『なら退散したほうがいいんじゃねぇか?その姿を見られると面倒だろ』

 

「だが、どう見てもこのままじゃ遅すぎるだろ。ヴィランの無力化はヒーローに任せるとして、人質を助けろくくらいしとかねぇと」

 

そう言って突入の隙を窺っていると、突然弾かれたように腕を組んでいた角刈りの男が目を見開きこちらを睨む。

 

「っ!?バレ・・・!」

 

すると突然、角刈りの姿がぶれ、次の瞬間

 

「何者だ、てめぇ」

 

「!?」

 

咄嗟に両手をボクサーのように顔の前で構える。するとそこに衝撃が加わり吹き飛ばされる。一瞬のうちに、角刈りが目の前まで移動して殴りかかってきたのだった。

 

「なっ・・・!?」

 

「逃すかよ」

 

そのまま飛ばされる前に、またいつの間にか背後に回っていた角刈りに蹴りを入れられ、窓を突き破りながら工場内へ落下する。

 

「・・・ぐっ!?」

 

「きゃぁ!?」

 

「おぉ!」

 

「あん?なんだ?」

 

地面にぶつかるとともに周囲から悲鳴が上がる・・・なんか1人おかしかった気がする。が、そんなことを気にする暇もなく咄嗟に立ち上がり後ろへ跳ぶ。

 

「っぶね、早い・・・!」

 

「おい相棒、なんだよこいつ?」

 

「知らん。覗きだ」

 

「へー、そうかそうか。覗きじゃあ殺されても仕方ねぇなぁ」

 

先ほどまで倒れていた場所に角刈りが飛び降りてきて、クレーターができる。背後にあった柱に背中をぶつけながら距離を取り、俺、男2人、女性4人という形で一直線になる。

 

『この位置は宜しくねぇなぁ』

 

(・・・それもだが、あの角刈りの個性が厄介だ)

 

未だに目の前にいるのに全体がぼやけて見える角刈りに警戒心が強まる。攻撃スタイルとかさっきの高速移動から、なんとなく予想はつく。対策というか、こちらには加速方法だってあるから色々うてる手はある。問題は、チャラ男がどんな個性で、どんなことをしてくるかが分からない。下手に動いて、ハメられたら詰みだ。

 

『まぁ、撤退・・・という手は』

 

「無いんだがな・・・!」

 

『よっし、よく行った!まぁ俺が出来ることなんて無いから、せいぜい健闘を祈るぞ』

 

エボルトが黙ったのを見計らったかのように、チャラ男が手を広げ立ち上がる。

 

「よぉ、よくわからねぇがヒーロー・・・ってわけじゃなさそうだな。ヒーローなら、居ても邪魔なくらいだが警察も連れてくるはずだしなぁ。それに先行して監視していたにしては相棒に見つかるほどにお粗末。他に監視の人員がいる様子もねぇし、単独で動くヴィジランテとかその辺だろ、お前」

 

(思ったよりこいつ頭回るのか・・・とりあえず2人とも厄介だな)

 

「ああ、喋らなくていいぜ。別に返答は求めちゃあいねぇ」

 

そう言ってチャラ男が中指と親指を合わせ、こちらに向けてくる。

 

「!くそっ!」

 

「どうせ殺すからよぉ!」

 

パチン、とチャラ男の指がなる。嫌な予感がして横に跳ぶと、俺の背後にあった柱が真っ二つになっていた。轟音を立てて、柱の上の方が崩れ柱そのものがこちらに向けて倒れてくる。

 

「なんだよそれ・・・!」

 

蹴りで柱を粉砕し回避する。土か埃の煙が舞うが、無事に終わる。が、舞っている煙の中から、突如角刈りが物凄いスピードで蹴りを放ってくる。

 

「遅いぞ」

 

「!」

 

「・・・堅いようだな」

 

ガードが間に合わず、顔面に衝撃が伝わる。のけぞらされたところへ追撃の拳がくるが、のけぞった勢いのままに後方へ距離を取る。

 

「だが、俺の個性の最大風速はこんなものじゃ無い。次はそのマスクごと顔面を砕いてやる」

 

「その後で俺が丁寧に殺してやるよ!」

 

余裕の表情で狂気的に笑うチャラ男と、背後に風を纏った角刈り。チャラ男は女性達の前から動いておらず逃すことは難しそうであり、チャラ男の個性は食らうとまずい予感がする。角刈りはスピードタイプのくせに威力もそこそこにある。

 

「・・・面倒だな。・・・まぁいい」

 

一度深呼吸し、拳と拳をガツンと合わせる。

 

「取り敢えず、ボコってから助ける!」

 

「やってみな!ただ、真っ二つだがな!」

 

「当たらなければどうということはないんだよ」

 

そうして俺は、ヴィラン2人に向かって突撃した。




次回、戦人無双開始
ヒント:タイトル
ようやく出せる・・・ss内の使用上使える時が限られてて出したいのに出せなくて辛い
次回もお楽しみに


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第5話

「はぁああああ!」

 

「無駄だ」

 

角刈りをまず倒さないことには始まらない。拳を握り、全力の突きを放つ。しかし、角刈りがまたしても見えないほどの速さで距離を取り、そして高速で接近してくる。

 

「っだらぁ!」

 

「っ!こいつ・・・!」

 

(近づかせるのはまずい・・・だが距離を取りすぎてもダメだ!人質から離れすぎたら、チャラ男の方が動いたら対処できねぇ!)

 

接近してくる角刈りに蹴りを放ち必要以上に近づいてこないよう牽制する。何にしても今重要なのは人質になってる女性の救出だ。・・・ってか、あいつは

 

(なんでキラキラしてんだよあのアホ!?)

 

ふと人質の女性を見ると、何がなんだかと怯えた表情の3人とは対照的に、まるで新しいおもちゃを見つけたような子どものような目をしている発目がいた。

 

「よそ見してんじゃねぇ!」

 

「!っと・・・!」

 

いかん、危うく蹴りをくらうとこだった。しかし、先ほどから攻撃してくるのは角刈りだけで、チャラ男はニヤニヤしているだけだ。

 

「こいつ1人じゃぁ話にもなんねぇな!てめぇもかかってこい!」

 

「・・・言ってくれるな」

 

「はっはっは!面白いこと言うな。・・・が、ダメだ」

 

不機嫌になる角刈りと、笑いながらも不機嫌という妙なテンションのチャラ男。額に手を当て、足で地面をトントンと叩いている。

 

「テメェがどんな理由で俺らを監視していたのかは知らねぇが、一つわかることとすりゃあまず人質が有効だってことだ。人質が関係ねぇなら最初から突入して俺らとやり合えば良いんだしな。それと、今の発言でまた良いことがわかったぜ。どうやら俺らが離れさえすれば人質を助ける策があるみたいだな。尚更ここから動く理由がねぇ。何故なら・・・」

 

「!?」

 

「俺様の最強の個性があるからなぁ!」

 

チャラ男が指を鳴らすと、またしても目に見えない衝撃波が飛んでくる。

前転回避し背後を確認すると、まるで鋭利な刃物で斬ったかのような斬撃痕が工場の壁にできていた。

・・・こいつの個性、もしかして!

 

「セァ!」

 

「!?」

 

接近してきた角刈りに蹴りを入れ、距離ができたのを確認してチャラ男へと向かう。

 

「お、やるぅ!でも良いのかぁ?」

 

「がっ・・・!?」

 

「やってくれたな・・・!」

 

「うちの相棒は、早くてタフだぜ?」

 

ふっ飛ばしたはずの角刈り・・・!こいつ、001の蹴りをくらってなんで!

背後から奇襲を受け、地面に組み伏せられてしまう。上に角刈りが乗っかり、無様にも地面に這いつくばらされ、地面を削るように滑ってくる俺を見下ろして、さらに笑みを深めるチャラ男。

 

「ははは・・・!お前たしかに身体能力は高いなぁ!でもな、しょうがないよな?俺らより弱いんだからよぉ!」

 

「ぐっ、こっ、このぉ・・・!」

 

「動くなよ」

 

狂ったように笑い続けるチャラ男を睨みつけると、ピタリと笑いを止め頭を踏みつけてくる。・・・くっそ、仮面越しとはいえ痛てぇ。

 

「さてと、テメェは何処のどいつだぁ?ヴィラン(同業者)か?ヴィジランテ(クソみてぇなむかつくやつ)か?それともやっぱりヒーロー(ゴミ)か?」

 

こいつ、頭をグリグリと・・・!角刈りも力強ぇ、どうやって鍛えりゃこうなるんだよ。

 

「・・・答える必要があるとでも?」

 

「・・・」

 

歯を食いしばりながらそう言うと、チャラ男は真顔のまま頭から足をどかし、人質の元へ向かう。・・・おい、まさか、やべぇ!

 

「そうかそうか・・・じゃあ、『1人につき一回』。意味はわかるよなぁ?」

 

「ヒィ!?」

 

そっと腕を持ち上げ、指を重ねて人質の方へと向けるチャラ男。くそ、反応をミスったか!

 

「待てよ!相手は俺だろうが!」

 

「はいはいそーだねー。でもお前が舐めた態度とるから、1人消えちまうなー。あー可哀想だなぁー」

 

そう言って指をこすり合わせるチャラ男。感情のままに立ち上がろうとするが、角刈りはまるで岩のように動かない。

 

「ど、っけぇぇぇ!」

 

「退くかよ。そこで黙ってみてな」

 

「まずは、一人ィ!」

 

チャラ男が指をこすり合わせるのを、スロー再生のようにゆっくりと見ていた。

 

「よいしょー!」

 

「!?」

 

「っな!?」

 

突然、何かが人質の中から飛び出して、チャラ男が吹っ飛ぶ。そのまま資材の山へと飛んでいき、山が崩れ姿が見えなくなる。・・・あの伸びる腕のようなアイテム!

 

「おい、緩んでるぜ?」

 

「しまっ!?」

 

吹っ飛んだチャラ男に気を取られた角刈りを背中から落とし、そのまま襟を掴む。相方がやられて動揺したのか、簡単に抜けた。

 

「はなせ・・・!」

 

「オーケイ・・・行ってこい!」

 

「!?」

 

暴れ出そうとする角刈りを振り回して、勢いをつけてチャラ男へとぶん投げる。未だ動揺が抜けきらなかった角刈りは個性で飛ぶことも出来ずチャラ男を巻き込んで置いてあった資材の山へと突っ込んでいった。

 

「無事ですか!?」

 

タイミングだと判断し、人質4人を立たせる。震えている人もいたが、どうにか歩くことはできるようだ。

 

「・・・君も、早く逃げるんだ!」

 

「待って下さい、あなたのそのスーツ凄いですね!それに見ましたか、のびーるハンドの実力!パワーに関して10%ほど増強してみましたが、いやー上手くいきました!」

 

「いいから逃げろや!」

 

呑気に一人だけそんなことを言ってくる発目に苛立ちつい素で突っ込んでしまう。すると流石に分別くらいはあったのか、他の女性を気遣いつつ工場の入り口に向かう。

 

「・・・!伏せて!」

 

「きゃぁぁ!」

 

突如背後から殺気を感じ叫ぶ。チャラ男の個性の衝撃波が俺達の斜め上を通り過ぎて工場の天井に直撃する。堕ちてくる瓦礫から守るため、発目を抱えて倒れ込む。暫くして顔を上げると、完全に入り口は塞がれており、また窓のあった箇所も滅茶苦茶に壊され、逃げられなくされていた。

 

「くそ、他の人は・・・!?」

 

「うぅ・・・」

 

「た、助けて・・・」

 

どうやら怪我はしているが無事だ。奇跡的に血を流している人もいない。ただ、3人とも気絶しているようで、揺すってみたが起きない。

 

「あー・・・何?お前ら」

 

「!」

 

「全くやってくれる・・・!流石に殺そう!」

 

「そーだなぁ。ここまで馬鹿にされるとそれしか考えられねぇわ」

 

チャラ男と角刈りが、怒り心頭といった面持ちで現れる。角刈りが纏う風も強力になっており、チャラ男の目からはハイライトが消えている。

 

「あの女は殺そう。他のも、楽しんでからやるつもりだったけどもういいわ」

 

「俺はあの黄色いのだ。・・・っ、おい、時間だ」

 

「あ?・・・あー。しゃーねぇ、もっかい打つか」

 

そう言って二人とも同時にポケットに手を入れ、注射器のようなものを取り出す。・・・薬か?なんにせよ、これ以上は多分守りきれない、攻勢に出るしかねぇ!

 

「おい発・・・アンタ、この人達を頼む。介抱してやってくれ」

 

「あなたは?」

 

「俺は・・・」

 

ベルトのジャッキーへと手をかける。多分だが、仮面の中の俺は獰猛に笑っているんだろう。戦いを目前にした緊張感と高揚感に浸かりながら、ヴィラン達を睨む。

 

「・・・あいつらのお相手をしないとな。寂しがって離れてくれそうにない」

 

「言うねぇ・・・殺す」

 

「おいおい、二人とも相手してくれんのか?・・・生意気ィ〜」

 

相手が注射器を首筋に当て、親指をぐっと押さえ込むのと同時に、ジャッキーを弾くように操作する。

 

ライジング!

ディストピア!

 

「・・・っ、来い!」

 

「ははははhハハハ!」

 

「く、くくくくくくくkkkック!」

 

明らかに様子がおかしくなったヴィラン達。奇声を発しながら目を爛々と光らせ、それぞれに攻撃の予備動作に入っている。

痛みを堪え、体から吹き出る血の色の蒸気を身に纏いながら、俺は駆け出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「これは・・・!」

 

私は、目の前の光景に目を疑った。帰り道、あのチャラ男なヴィランに捕まった私は、似たような経緯であろう他の女性の方達と身を寄せ合い、ヴィラン達の様子を見ていた。助けに来てくれたらしい黄色い装甲のスーツを着た・・・多分男性ですね、彼がヴィラン達と戦うのを見ていたが、状況は芳しくなかった。スーツの彼もかなり体術が強いのは素人目に見てもわかりましたが、いかんせんヴィラン側の個性が悪い。

 

風を纏い高速移動する個性に、指を鳴らすだけで手を伸ばした方向に鎌鼬のような衝撃波を飛ばす個性。遠距離と近・中距離のバランスの取れた個性であり、チャラ男の攻撃を避ければ角刈りが、角刈りをよければチャラ男が、といった具合に翻弄されていました。

 

彼が捕まった際にはもう終わりか、とも思ったが、ふとまだ背負っていた鞄の中にあるアイテムを思い出し、咄嗟に近づいてきたチャラ男を殴り飛ばしたのは痛快でした。

 

そして今。出口を塞がれ他の人達が気絶し、逃げることがほぼ不可能となった中、私は目の前の光景に目が釘付けになっっていました。

 

「おおおおおおお!!」

 

「ははははは、やるなぁおい!だがさすが個性増強薬、威力が段違いだぜぇ!!」

 

「こいつら・・・!」

 

ヴィラン二人は、謎の薬を打ってから様子がおかしくなった。急にテンションがハイになっており、さらには個性の威力が明らかに上がっていた。角刈りは先程までより速度が上がり、視認するのも難しくなっている。チャラ男に至っては、あまりに指鳴らしが早すぎて、パチン、パチンどころか、パチチチチチチ!となっている。無差別に撃ち込んでいるのか、工場内の至る所に斬撃痕が出来てゆく。

 

「やらせるかよぉ!」

 

しかし対する彼も負けてはいなかった。妙な音声が流れると同時に、全身から血の蒸気を噴き出しており、角刈りに負けない・・・いやむしろそれをやや超えているほどのスピードで移動しヴィランの攻撃から私達を守っていた。時折目の前に現れ、ヴィランの衝撃波を防いでくれているが、その時以外は黄色い線のような光しか見えず、跳ねるように工場の壁、床、天井が軋んでいる。

 

「あああああうぜぇぇぇ!いい加減くたばれぇ!」

 

「死ね!」

 

「誰が死ぬか!テメェらこそぶっ倒してやる!」

 

均衡が崩れたのは、その後すぐだった。

 

「・・・ぐっ!?」

 

「・・・!逃げて!」

 

「隙ありぃ!」

 

彼が・・・全身の蒸気が消え、急に停止し膝をついたのだ。頭を下げ、苦しそうに片膝をつくその隙を逃さず、チャラ男の衝撃波と共に角刈りが上空からかかと落としをしている。

辛うじて見えたその動きに咄嗟に叫ぶ。しかし明らかに逃げるには間に合わない。

 

「・・・せあ!」

 

「なっ!?・・・ぐあぁ!」

 

「!相棒!?」

 

しかし、彼は弾かれたように手を伸ばし、上空から襲いくる角刈りの足を目にも留まらぬ速さで掴む。驚愕に染まる角刈りの顔、しかし次の瞬間その表情が苦悶に歪む。

 

「てめぇ、相棒を盾に!?」

 

「近くにいた、こいつが悪い・・・まじで威力高いな・・・スパッといってるし」

 

立ち上がる彼とは対照的に、倒れ込む角刈り。どうやら最初からわざと止まり、角刈りをおびき寄せたようだった。しかも、チャラ男の攻撃の盾に使ったのだ。・・・角刈りは背中に傷を負い、気絶しているようだった。

 

「テメェ、テメェェ!」

 

「っと!来いよ、あとはテメェだ!」

 

相方が倒れたことに怒りチャラ男が再び乱射を開始する。彼はすぐに動き出し、先ほどには劣るものの素早い動きでチャラ男に接近する。

 

「なっ!?」

 

「オラァ!」

 

「フグッ!?」

 

見事なボディーブローが決まり、ヴィランが飛んでいく。壁にぶつかり停止したが、痛みで呻きながらのたうちまわっている。

 

「とどめだ・・・!」

 

(行ける!)

 

彼がダメ押しとばかりに拳を握りヴィランへと接近していく。

それを見ながら、私はどこかでもう大丈夫だと気を抜いていたのでしょう。

 

「捕まえたぞ・・・!」

 

「!?」

 

私の腕が、突如強く握り締められていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

終わりだ・・・!ヴィラン達の連携を崩し、いまチャラ男を追い込んだ。こいつを気絶させれば・・・!

 

「止まれぇ!こいつがどうなってもいいのか!?」

 

「!?」

 

警戒しつつまさか、と振り向く。そして最悪の状況に愕然とする。

 

「すいません・・・!」

 

「それ以上は抵抗するなよ?こいつの頭を吹き飛ばすぞ!」

 

そこには、発目の両手を後ろで押さえつけ、風をまとった腕を首筋に当てている角刈りがいた。

突然の事態に、一瞬、時間にしても1秒かからないほどではあるが硬直してしまう。

 

「・・・っがあ!?」

 

そして、その隙を見逃すほど相手は弱くなかった。

 

「いや~よくやってくれたぜ相棒。おかげでこいつを仕留めることができたぁ!」

 

「て、めぇ・・・!」

 

いつの間にか起き上がっていたチャラ男の個性による衝撃波が腹部を貫く。・・・あ、やべぇ。変身が、とけ・・・

 

「・・・え?」

 

「ほぉ、まだ高校生のガキか」

 

「こいつ、危険だな」

 

「まーなぁ。あ、この面白そうなアイテムは貰ってやるよ」

 

地面に倒れこむと同時にベルトが外れ、プログライズキーと共に血に落ちる。俺を中心とした血溜まりが広がっていく中、発目の戸惑いの声と、俺を嘲るヴィラン達の声が聞こえる。

 

(ちくしょう・・・悪いのは発目じゃねぇ!しっかりと気絶確認をしなかった俺のミスだ・・・!くそ、もう意識が・・・)

 

擦れる視界の中、フォースライザーとプログライズキーが拾われていく。視界だけで無く触覚もイカれてきたのか、冷たかった工場の床に何も感じなくなってゆく。

 

『おいおいおいおい!冗談じゃねぇぞ戦人!?んな体じゃお前の意識が消えても俺が乗っとれねぇ!ふざけるな、起きろ!』

 

エボルトが何やら焦ってやがる。だが、もう指がうごかねぇ・・・あのチャラ男、出血がひどくなるように荒く切りやがった。妙に器用なことしやがって・・・

 

『んなこと言ってる場合か!くそ、擬態で対応・・・馬鹿な、出れないだと!?戦人本当に起きろ!』

 

「さぁて、妙なモン拾ったが、使い方わからねぇなぁ。こいつはもう死ぬだろうし」

 

「確かこの女アイテムを使っていた。自分で作ったとも聞こえたし、こいつに調べさせよう」

 

「は、離して下さい!」

 

「あーいいなぁそれ。ついでにちょっとばかし楽しませてもらうのもありだなぁ」

 

「・・・っ!嫌です!誰か!助けて下さい!誰かぁ!」

 

「無駄無駄!ここにゃもうお前を助ける奴なんていねぇよ!」

 

・・・発目?ああ、そっか、あいつがいたな・・・。そっか、あいつが・・・

 

『!?これは・・・!』

 

あいつが・・・誰かが助けを求めてる・・・泣いている・・・なら、行かないとな。

 

「・・・あぁ?」

 

ーーーーーーー「仮面ライダー」なら!

 

「そこ・・・までに、しとけよ」

 

ゆっくりと、だが決して止まらないようにして立ち上がる。体が悲鳴をあげてるし、腹掻っ捌かれてるし、疲れたしフォースライザーで動きすぎて反動きてるっぽいなこれ。あーいてぇ。

 

「乾・・・さん?」

 

「テメェまだ動けたのか。目障りな野郎だ、とっとと死ねばいいってのに」

 

ああ、なに泣いてるんだお前。発目ってのはもっとこう、不敵に笑いながら、誰彼構わずサポートアイテムを自慢して、マイペースに、尚且つ楽しそうにしてるモンだろうが。

 

『ハザードレベル3.5、3.7!?は、ははは、いいぞぉ、ここに来て急激に上がってやがる!これなら俺の力で体を応急処置だが治せる!』

 

「・・・エボルト、あれ出せ。『ハザード』を使う」

 

「あん?何言ってんだテメエ?」

 

『はははは、いいぞ、そら使え使えぇ!』

 

怪訝な表情を浮かべるヴィラン二人。そんなのお構いなしに俺は、段々と止血されていく傷の鈍い痛みに耐える。するとどこからともなく俺の体にベルト、『ビルドドライバー』が巻きついていく。普段使わないからと、エボルトに保管してもらっていたのが功を奏した。

 

「な、何処から!ってか、テメェ傷はどうした!?」

 

「妙な真似するな!こいつどうなってもいいのか!?」

 

「・・・黙れ」

 

「「・・・っ!?」」

 

動揺するヴィラン達を睨みつけながら、ベルトに挿さったままになっているトリガー、『ハザードトリガー』の保護カバーを開け、スイッチを押す。

 

ハザードオン!

 

流れる音声を聞きながらフルボトル、『ラビットフルボトル』と『タンクフルボトル』を取り出し振る。そのまま上部のキャップを回し、ドライバーにセットしていく。

 

ラビット!

タンク!

 

スーパーベストマッチ!

 

ドンテンカーンドンテンカン!ドンテンカーンドンテンカン!

 

軽快な、しかし何処か不穏な音声が流れる中、ハンドルを握り、意を決して回す。

 

ガタガタゴットンズッタンズタン!ガタガタゴットンズッタンズタン!

 

回していくと共に鋳型のようなものが前後に形成されていき、最後の確認音声が聞こえる。

 

are you ready?

 

「・・・変身」

 

その後、前後の鋳型が俺を挟み、ゆっくりと離れていく。赤と青の複眼に、それ以外の全てが黒いからだ。不規則に伸びるトゲの生えたその姿は、かつて聞いた話では実験に失敗し黒焦げになった博士らしい。

 

アンコントロールスイッチ!

ブラックハザード!

ヤベーイ!

 

これが、俺の自由になれる中で最も危険と言えるライダー。

『仮面ライダービルドハザードフォーム』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・なんだ?真っ黒野郎。テメェ状況わかってんのか、あぁ!?」

 

妙だ。

起き上がったガキを見て、最初は死に損ないが最後に面白いものを見せてくれそうだ、くらいの認識だった。腹を裂き、出血多量。助かる術はなく、呆気ないとは思ったが危険な奴だったし勝てたから良し、とそう思っていた。ベルトのようなものが出てきた時も、死に際の足掻きだと高を括っていた。

 

(だが、なんだこの違和感。いや、この恐怖は!?)

 

そう、死に損ないだ。今目の前にいるのはもう恐るるに足らないガキだ。その筈なのに、本能が、ヴィランとして生きてきた中で培った危機察知能力が、そのガキを危険だと警鐘を鳴らしている。

先ほど黒いスーツを身に纏ったあたりから更にけたたましく鳴っている。妙な板に挟まれたと思ったら、板が消えガキはまた新しい格好になっていた。下を向いたまま静かに佇んでおり、目以外が黒いその姿だけでも不気味だ。

 

「・・・」

 

「なんとか言えオラァ!本当に殺すぞ!」

 

「待て相棒、何かやべ」

 

「・・・あ?」

 

相棒が叫ぶ中、何かがヤバイ、と一度黙らせようと声をかけた・・・その瞬間に、既に相棒の風を纏っていた腕は曲がってはいけない方向へと曲がっていた。

 

「あ、ああ、ああああああああああ!?!?」

 

「落ち着け相棒!その女を離すな・・・」

 

痛みと理解不能の事態に狂乱する相棒に指示を出す。目を離したつもりはなかった。だが瞬きをしている、ほんの数瞬の間に、ガキは俺を通り過ぎ、相棒の腕を捻り上げていた。速すぎる・・・!?

 

「・・・」

 

ガタガタゴットンズッタンズタン!ガタガタゴットンズッタンズタン!

ready go!

ハザードアタック!

 

「ゴヘ!?」

 

妙な音声と共に、蹴りが相棒の腹へと突き刺さる。くの字に折れ、吹き飛んでいく相棒。その風圧で俺や人質の女が吹き飛ばされる。・・・なんて蹴りだ、まるでオールマイトじゃねぇか!?

 

「た、たしゅ、たしゅけっ・・・!?」

 

「・・・」

 

命乞いをするしか出来なくなった相棒。地面に投げ出されたそこへゆっくりとガキが歩いていく。相棒の顔は恐怖と絶望に染まっていた。個性で逃げるとか関係ない、圧倒的な力に心が折れたのだ。

 

咄嗟に指を合わせ、照準を合わせる。この際相棒を巻き込んで構わない、とにかくこいつを殺す・・・!

 

「なっ!?」

 

「・・・」

 

しかし誰よりも早く動いたのは、またしてもガキだった。指をこすり合わせ、今にも個性が発動しようとしていた腕が、掴み上げられ、横に引っ張られる。目の前まで移動していたガキが、腕を掴んで横に逸らした。そんなわかりきったことを知覚しながら、俺はそれ以上の恐怖に襲われていた。

 

(なんなんだこの化け物は・・・!?)

 

殺気なんてものじゃなかった。ガキの、仮面で見えない目の奥にあったのは、無。ただ淡々とした、「排除すべきモノを排除する」というかのような目だった。

 

「・・・」

 

「!?ぎゃっ!や、やめろぉ!う、腕がぁ!?」

 

掴まれていた腕に激痛が走る。見るまでもなく、握られただけで骨が粉砕されたと分かった。激痛に呻く間も無く、地獄は続く。

 

マックスハザードオン!

 

「ひっ!?」

 

ガタガタゴットンズッタンズタン!ガタガタゴットンズッタンズタン!

ready go!

オーバーフロー!

 

ガキが腰に巻いている機械のボタンを押し、ハンドルを回す。俺の腕はいまだに掴まれたままだ、もう片方の手にはガキから奪った機械を持っている。

 

(や、ヤバイ・・・!何がかはわからねぇ、けど明らかにヤバイ!これは、これだけは食らっちゃいけねぇ!)

 

「は、離せぇ!離してくれぇ!」

 

恥も外聞も捨て、もっていた機械を放り投げ必死に腕を引き剥がそうともがく。噛み付く、殴る、蹴る。しかしどんなことをしても手は離れてくれない。

 

「・・・」

 

「ひ、ひぃ、ヒィィィィ!?」

 

黒いオーラのようなモノがガキの身体中から噴き出ている・・・!?

ま、まさかこれを俺に!?

 

「わ、分かった!もうこんな事しない、女どもも解放する!」

 

「・・・」

 

拳が握られる。

 

「け、警察にも自首する!相棒も説得するし、薬の出所も、ちゃ、ちゃんと話す!だから!」

 

大きく振りかぶられた拳に、オーラが集まっていく。

 

「だ、だから・・・頼む・・・」

 

あ、終わった・・・

 

ヤベーイ!

 

「死にたくなギュブッ!?」

 

眼前に迫った拳を最後に、俺の意識は途絶えた。




ヴィランverガードベントは、いつかやりたいと思ってた(ゲス顔)
戦人くん無双・・・ただし最後だけ。
いい加減に原作入らないとダレそうなんで結構時間飛びます。
こんな血の気の多い生活してるけど、こいつらまだ中3なんですよ・・・ヤベェな(確信)


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第6話

発目さんの原作での流れ的に発明大好きってこと以外の表現がくっそ難しい・・・(´・ω・)
文才が、欲しいです・・・!


『まったく、世話が焼けるなぁお前は』

 

ハザードフォームの一撃が、チャラ男に命中する寸前、そんな声と共に必殺の拳が止められていた。チャラ男は白目を向き泡を拭いて倒れ、角刈りも相方が死にそうになったというショックで固まっている。

 

「・・・」

 

『ハザードレベル4.4・・・。まさかここまで急激に上がるとはなぁ、流石に予想外だったよ。そんなにあの女が大事か?』

 

ハザードフォームが拳を抑えている存在へと目を向ける。いつの間に出てきたのか、蒸気を纏った状態のブラッドスターク(エボルト)がいた。

離れたところで見ていた発目はというと、突然現れたエボルトに流石に思考が追いついていないのか???と頭にクエスチョンマークが浮かんでいる。

 

「・・・」

 

『おっと、危ねぇな。まーこれ以上数値が上がっても「今は」面倒なんでな、一旦落ち着いてもらうぞ戦人!』

 

躊躇いなく蹴りを頭部へ放ってくるハザードフォームに、そう言って距離を詰めスチームライフルを腹に当てる。

 

コブラ!

スチームブレイク!

 

「・・・」

 

『おっ!?マジかよ!』

 

しかし、とんでもない反射速度で動いたハザードフォームが、ライフルを掴み真上へと強引に照準をずらす。当たる相手のいなくなったエネルギー弾は、工場の天井を突き破り空へと消える。

一瞬驚きつつもスタークは反撃を避けるために後方へと飛んだ。

 

『まったく、意識が飛んでるな?まだ乗っ取るにはハザードレベルが足りねぇし・・・』

 

「・・・」

 

ガタガタゴットンズッタンズタン!ガタガタゴットンズッタンズタン!

ready go!

ハザードフィニッシュ!

 

様子を見ているスタークに、なおも容赦なく攻撃を開始するハザードフォーム。ベルトのハンドルを回し、エネルギーを纏うと素早い動きでスタークへと飛びかかる。

 

『そら、出番だぞ、っと!』

 

フルボトル!

スチームアタック!

 

「・・・?」

 

ロケットフルボトルを取り出し、ライフルを構え応戦するスターク。ホーミングするミサイルがハザードフォームを襲うが、大したダメージにはならず一瞬ではあるがハザードフォームが戸惑う。

 

「乾さん!」

 

「・・・」

 

爆煙に包まれ一旦止まるハザードフォーム。すると、煙の中を突っ切って何かが近づいてくるのを感じる。合理的な対処のためにいつでも攻撃を躱せるよう構える。

 

「どーも!」

 

「・・・」

 

声と共に煙の動く気配を感じ、背後から近づいてきた存在へと裏拳を叩き込もうとするハザードフォーム。しかし、拳は空を切り腰部分に衝撃を感じる。

下を向くと、そこには怯えた表情ながらじっと顔を見上げる発目の姿があった。

 

「落ち着いてください、もう大丈夫ですから!あの二人はこれ以上やってしまうと殺しちゃいます!」

 

「・・・」

 

発目の言葉も意に介さず拳を再び握り、上段に構える。そのまま振り下ろされようとしたその瞬間、

 

『良くやったぞ女ぁ!この瞬間を待ってたんだ!』

 

そう叫びながらスタークが煙を突っ切って現れ、ベルトを掴む。

そのままトリガーを引き抜こうとするが、外そうとした途端ハザードフォームに腕を掴まれてしまう。

 

『!?』

 

「・・・」

 

『おぉあ!?』

 

発目に振り下ろされようとしていた拳がスタークへと向けられ、突然のことでスタークは顔面に諸に拳を喰らい吹っ飛ぶ。

 

「よく分からない人ー!?」

 

発目がそれを見て大丈夫かあの人!?と心配の声を上げる。しかし、次の瞬間ハザードフォームが動きを止め、ぐったりと倒れ込んでしまう。

 

「な、なんですか!?」

 

「・・・ぅ」

 

「!乾さん!」

 

そのまま変身が解けたハザードフォーム・・・戦人は気を失っており、発目に抱き抱えられる形となって座り込む。

 

『いってて・・・ま、どうにか止まったかぁ』

 

スタークが遠巻きにその姿を見ながら、殴られた頬をさする。さすっている方とは反対の手には、ラビットフルボトルが握られていた。

 

『相変わらずトリガーの方は抜けねぇか・・・今回はあの嬢ちゃんの手柄だな。仕向けたとはいえうまく気を引いてくれたからこうして止められた』

 

ふと、スタークが耳を澄ますと、遠くからパトカーと救急車のサイレンが近づいてきていた。

 

『ナイスタイミング、ってか。・・・ハザードレベル3.9。下がり始めたか?まぁ今回は成果もあったしこれで満足するか』

 

そう言ってスタークは、蒸気となり戦人の中へと戻っていくのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・知らない天井ネタをすることになるとは思わなかったなぁ」

 

目を覚ますと、真っ先に見えたのは白い天井と、周囲を覆う同じく真っ白なカーテンだった。

確か変身が解けた後、その場の勢いでビルドになって・・・だめだ、そっから先が思い出せねぇ。

 

『よう、起きたかよ?』

 

「・・・エボルト」

 

エボルトの上機嫌な声でようやくぼんやりとしていた意識が戻ってくる。今いるのはどこかの病院のようで、病室のベッドに横たわっているようだった。

 

「お前が俺を止めたのか?」

 

『そうその通り・・・と言いたいところだがな。ま、半分だ』

 

「半分?それってどういう・・・」

 

ことだ、と言おうとしたところで腹の部分に違和感を覚える。

起きるのも結構辛かったが、痛みを我慢し起き上がってみると、

 

「・・・あー」

 

『もう分かったか?』

 

「大体。・・・なるほどなぁ」

 

そこには、俺を枕にして椅子に座ったまま眠っている発目がいた。窓の外の様子的に翌日の早朝5時ごろ。時間的に多分面会とかではない。隣のベッドにぐちゃぐちゃの毛布の山があること、そして発目の顔や腕に手当ての痕や白い絆創膏があることなどから大体の状況を理解する。

 

「そうか、俺、助けるつもりが助けられたのか・・・」

 

俺の上で眠っている発目の髪を何気なく梳きながら自己嫌悪に陥る。

俺は彼女を助けるために戦ったはずだ。なのに、その俺が彼女に助けられる。俺が最後に確認したときには、発目にこんな傷は無かったはずだ。つまり、これは俺を止めるため、もしくは俺が戦った余波で負った傷だ。

 

「なんて様だ、デルタの時から何も変わっていない。俺は俺の都合で人を振り回しているだけだ。やっぱり、俺は・・・」

 

『言いたいことは何となく分かるが、お前の考えは間違ってるぜ戦人』

 

「なに?」

 

エボルトが突然擬態化し、腕を組んでこちらを見下ろす。・・・多分今俺をぶちのめせば乗っ取れるんじゃないだろうかと考え身構えるが、エボルトは喋るだけだった。

 

『お前さんは十分この女のために戦ったよ。それこそヒーローってやつだ。お前が来なきゃあこの女も他の女も今頃はあのヴィラン達の手で酷い目に遭っていただろうなぁ』

 

「だが、俺は結局発目を危険な目に」

 

『だから、別にそれは問題じゃねぇだろう?お前がいようがいまいが、結局は巻き込まれていただろうよ』

 

エボルトの言葉に思わず黙り込む。エボルトの声は、今まで聞いたことないくらい真剣だった。

 

『別にお前さんはヒーローになった訳でもない。ましてやスタートラインにすら立ってねぇんだ。そんなガキが、ヴィラン二人を相手に人質抱えた状態で善戦どころか圧勝だぞ?ヒーローで見ても難しい仕事をやったんだ、むしろフォロー有りだとしても上出来だろうさ』

 

「・・・」

 

エボルトは、そうぶっきらぼうに吐き捨てながら発目のであろうベッドに座る。態度は結構雑であったが、その言葉には何故か今度は優しさのようなものが感じられて少し戸惑う。こいつ、なんで急に俺の慰めなんか・・・

 

『ま、俺としたらハザードレベルが上がってくれたから万事オッケーなんだがな!最終的には3.1から4.1だぞ!やったな!あ、だがそう考えるとお前としては今回の件は俺に乗っ取られる可能性上げただけだな、ドンマイってやつだ!』

 

「台無し&ドン引きだよオメーはよ!」

 

そんなことはなかった。この野郎、ポ○テピピックみたいな中指の立て方しやがって・・・!というか、いつのまにかそんなにハザードレベル上がってたのかよ、クッソ!そういえばビルドになるの久しぶりだし、あの時は感情がMAXで昂っていた気がする。あーもう、なんで変身しちまったかなぁ!・・・。

 

「・・・まぁ、いい」

 

『ほぉ?』

 

色々と問題も抱えたし、なんだったら発目にライダーとしての姿と変身を見られた。それだけでも大問題だが、何故か俺はすっきりとした気持ちだった。

 

「何だろうな、いまはこう、嬉しいと思ってる。発目を無事に助けられた。他の人も、あとお前が止めたっていうなら多分ヴィランの方も生きてるだろう?人を助けて、人を守れた。誰も失うこと無く。こう、初めて・・・「仮面ライダー」らしいことができたんじゃねーかな、って思う」

 

『・・・』

 

エボルトはなにも喋らない。だが、吐き出してみるとより心が軽くなった。そうだ、俺は力を得て初めて、自分のためではなく「誰かのため」に仮面ライダーになれたんだ。

 

『・・・その女じゃなくても、お前は誰かの為に動くのか?』

 

「ああ。思い出したからな。俺が、何になりたかったのか」

 

『じゃあその女はどう思ってたんだ?』

 

「そうだな・・・最初は変なやつだと思ってた。まぁ今でも思ってるけど。だけど、こいつは案外いい奴だ。俺みたいなのにでも普通に接してくれるしな。あと今回は命の恩人でもあるかな?」

 

『・・、なるほどねぇ。じゃあ最後だ』

 

「まだあんのかよ・・・」

 

『こいつへの好意でも持ってるのか?』

 

・・、?質問の意味が分からねぇ。まぁ、そうだな、発目に好意、ねぇ。ようするにこいつと仲良くなりたいかどうか、だよな。

 

「ああ、持ってる。・・・もういいだろ、俺もう寝るからな。エボルト、発目もいるんだ、とっとと戻れよ」

 

『はいはい、仰せの通りに』

 

妙な態度をとるエボルトに首を傾げる。が、もう眠気が尋常じゃなかったため、俺は素直にその眠気に身を委ねたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「とっとと戻れよ」

 

そう言って布団にくるまる戦人。すぐに寝息が聞こえてくることからも、だいぶ消耗していたのだと分かる。

 

(今なら簡単に乗っ取れる・・・)

 

ハザードレベルも上がり、そろそろ体を奪うには頃合いといえる段階にある。こいつ本来の戦闘センスもなかなかだ。少々ハザードレベルが足りていないが、乗っ取って暫くおとなしくするのであれば許容範囲。

 

『・・・ま、いいか』

 

だが、待つ。まだ待つ。もういつでも戦人が気を抜けば奪うことは容易い。しかし、俺の中に新たな考えが浮かんで止まない。

 

(こいつがどこまで行くのか見てみたいーーーーーー)

 

こいつは間違いなく歪んでいる。いや、「歪んでいた」。心にあったライダーになりたいという願望と環境から曲がった精神、二つの絡み合いが絶妙な形で戦人の中を歪ませていた。

俺が前回修正したのだってあくまで願望の部分だけ、精神に関してはノータッチだった。

 

それがどうだ。今回の一件、ただそれだけを乗り越えただけなのに、歪みが正されようとしている。

 

(脆い心、故に柔軟に変化し成長していく・・・素晴らしい!こいつは、こいつは俺の最高のおもちゃだ!)

 

歪みやすく、正されやすい。それでいて、一本強靭な想いがあるから、折れない。歪ませようと思えば簡単に歪むくせして、絶対に折れようとはしない。

戦人の体に戻りながら、静かな病室で誰にも聞こえないくらい小さく呟く。

 

『・・・もう少し、もう少しお前を見ていることにするぞ、戦人。精々俺を楽しませてくれよ?』

 

あとこいつも、面白そうだ。蒸気となり戦人の体に戻りながら、伏せた顔の横、耳を真っ赤にし頭から蒸気を出している女・・・発目とか言ったか・・・を見ながら俺は眠りにつくことにした。全く、これだから人間は面白い。

 

 

 

 

「・・・どうしましょう」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

どうやら人質の人たちは軽症だったようで、あっという間に退院していった。発目もそれに変わりはなく、俺はあっという間に一人となった。礼を言いたかったのに、発目のやつなんか俺と目を合わせてくれなかったな・・・。

 

「・・・暇だな」

 

『ああ、暇だ』

 

「そういえば、鞄は?他のベルトも入ってたんだ、どっかでスられてたらやばい」

 

『あー、安心しろ、俺がこっそり持ってる』

 

「そうかー・・・暇だな」

 

『全く、俺が応急処置してやったってのに、何で傷が開くかねぇ・・・暇だな』

 

「そればっかりはしょうがねーだろ、お前と違って俺は純正の地球人なんだよ・・・暇だな」

 

エボルトとくだらない話を続ける。個室というわけでもないためいつもなら他の病人がいるのだが、タイミング良くいまは誰もいないため遠慮せずエボルトと会話できる。

 

『・・・あ?おい、戦人。誰か来てるぞ』

 

「もう他の人が戻って来たのか?」

 

そう言って待っていると、病室のドアが開く。俺は何気なくドアの方を向き、少し驚く。

 

「・・・発目?」

 

「ど、どうも・・・」

 

そこにいたのは、私服姿の発目だった。手には見舞いであろう袋を持っており、いつもと違いどこかぎこちない笑みを浮かべている。

 

 

 

 

 

「サンキューな、わざわざ見舞いに来てくれて」

 

「いえ、助けてもらったんですから・・・」

 

「「・・・」」

 

ベッドの横に座った発目、ベッドの上の俺。妙に居心地の悪い静寂が続く。・・・え、なに、なんなのこの時間。というか、聞くべきことが色々あるだろ。

 

「・・・聞かないのか?その、俺のあのスーツのこととか」

 

「・・・その、聞きたいことには聞きたいのですが、なんというか」

 

歯切れの悪い発目に流石に困ってしまう。そこまでコミュニケーション能力高くないからフォローとか出来んぞ?

 

「・・・ありがとう、ございます。助けてくれて」

 

「あ?ああ、どういたしまして?」

 

「・・・っふ、あはは。なんで疑問形なんですか?」

 

「いやぁ、別にお礼を言ってほしくて助けたわけじゃないし、というか最終的には助けられたし」

 

少しだけだが笑ってくれた。よ、よし。とりあえず少しは調子戻って来たか?

 

「・・・あの姿、というかアイテムについては正直気になりますけど、今は純粋に助けてくれたことに感謝してるんです。いくら私でも命の恩人に余計な詮索はしないですよ」

 

「・・・そうか」

 

二人して少し気が緩んで笑みが溢れる。なんとなく気恥ずかしくなるな、面と向かって礼を言われるってのも。発目も完全にペースが戻って来たのか、いつもの笑顔になる。

 

「退院したら、また一緒に技研部で部活しましょう!あのアイテムに関しても色々知りたいですし!あ、なんだったらいま渡してくれてもいいですよ?」

 

「ざけんな!絶対にバラすつもりだろお前!」

 

「・・・そんなこと、ないですよ?」

 

「返事おっそ!あと目を見て言えや!」

 

「ところで戦人さんは、高校はどこにいくか決めましたか!?」

 

「誤魔化すなっての・・・雄英だよ、サポート科で」

 

「おお!私とおんなじですね!・・・よかった、一緒ですか」

 

「ん?なんて?」

 

「いいえ何にも!」

 

その後は、何気ない今後の学校での話や今回の件についての話、進路の話などをして過ごした。時に発目がボケ、俺がツッコみ、心の中でエボルトがからかうのにもツッコみ、二人ともが同時にボケて更に俺がツッコんだ。・・・おい、なんでツッコミが俺しかいねーんだ!

 

「・・・っと、もうそろそろ時間じゃねぇか?」

 

「おっと、そうですね!では私はこれで!」

 

そう言って立ち上がる発目。思わず心に浮かんだ言葉を言いたくて引き留める。

 

「・・・発目」

 

「?」

 

キョトンとした顔の発目を見て、そんな顔もできるんだな、と思いつつ努めて笑顔で言う。

 

「また、明日な」

 

「・・・はい!」

 

一瞬の間の後、発目はいつもの笑顔で返事をしてくれ、元気に帰っていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「俺!復活!」

 

一ヶ月後、無事俺は退院することができた。医者は「腹切れてたのに回復早いねー!」と驚いていたが、昔から色々あったし、そこそこ回復力には自信がある。

 

「さてと、勉強再開か!頑張んねーとな!」

 

『ああ、もう時間もねーしな。後3日、頑張れよ〜?』

 

「お前に言われるまでもねーよ!・・・ゑ?」

 

ふと、エボルトの言葉に嫌な引っ掛かりを覚える。

 

『だから、後3日だろ?受験ってやつまで』

 

ギギギ、と軋むように首を動かし部屋のカレンダーを見る。今日の日付からちょうど3日後のところに赤丸があり、『受験当日!』と書かれていた。

 

『さぁて、徹夜、頑張れよぉ?』

 

「嘘だろォォォォ!?」

 

俺は絶叫した。




真夜中の更新。
エボルトがこんなに優しいわけないじゃんと思ったそこのあなた!
大丈夫(暗黒微笑)、エボルトだから。

次回、雄英編突入。
サポート科に関して原作であまり出てない気がする・・・まずい、このままだと主人公と発目さんが研究室でキャッキャウフフするだけの話ができてしまう・・・!


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第7話

雄英編。
サポート科の試験内容をでっちあげました。多分ヒーロー科みたいに変な試験とかあるんでしょう。雄英だし(偏見)


『雄英高等学校 入学試験』

 

そう書かれた看板と、そびえ立つ雄英の校舎が見える異様な形の校門。

雄英という、ヒーローを目指す者なら一度は憧れるそこは、入試に向けて最後の追い込みをしている者、気負わず自身の持つ自然体で堂々とした歩みで向かう者、不機嫌そうに周囲を睨んでいる者など、様々な受験生で賑わっていた。

 

そんな中、ほんわかとした雰囲気を出す学生が二人。

 

「転んじゃうと縁起悪いもんね!」

 

「え、ええと・・・!」

 

緑谷出久と麗日お茶子。転びそうになっていた緑谷を助けた麗日は、それだけ言うとじゃあね、と先に進む。そんな麗日を緑谷はぼーっと見送った。

 

(女子と会話しちゃった!)

 

※していない。

 

とにかく気を引き締め、今度こそと一歩を踏み出す。麗日に助けられ、新たに得たチャンス(?)を逃すまいと、記念すべき一歩を踏み出しーーー

 

(またやっちゃった〜!?)

 

またしても盛大にすっ転んだ。もう助けてくれた名も知らぬ女子はいない。結局自分はこうなる運命なのか、と諦めつつ倒れていく緑谷。

 

「っと、大丈夫か?」

 

「え?」

 

しかしまたしても救世主は現れた。横からシュッと手が伸びてきて、体を支えてくれている。醜態を見られた恥ずかしさも2度目ともなれば少しは立ち直りが早くなり、慌ててお礼を言おうとしてふと思う。

 

(すごい筋肉・・・!十ヶ月間鍛えた程度の僕とは比べ物にならない!しかも見た目には僕とあんまり変わらないくらいのガタイなのに・・・)

 

どんな人だろう、と思い緑谷が顔を上げると

 

「!?うわぁぁ!?」

 

「お、おい、どーした?」

 

そこにはどんよりとした空気を背負った男子がいた。目の下には濃い隈ができており、服装は綺麗だがどこかくたびれたような印象を受ける。支えてくれた腕は確かに筋肉質だが、纏う雰囲気は異様に暗い。

 

「あ、えと、その、ありがとう!おかげで転ばずに済んだよ!」

 

「おう、お互い頑張ろうな・・・」

 

そう言って先に歩いていく男子。フラフラと覚束ない足取りで、たまに色んなものや他の受験生とぶつかっては謝りながら歩いて行った。

そんな彼を見て、緑谷はあれ大丈夫じゃ無いんじゃ・・・と感じたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・戦人さん、無事ですか?」

 

「おーぅ・・・何とかなー」

 

雄英高校のサポート科試験の全てが終了し、電車に揺られる帰り道。割と車内が空いていたため座れたのはありがたい。隣に座っている発目の珍しい心配顔に覗き込まれながら、口から煙を吐くような感じでため息をつく。

 

「試験中もものすごい早い段階で寝てるのが見えてましたよ?試験監督が歩いてきた時にはサッと起きてましたけど」

 

「あー、まぁ大丈夫、問題は解いたし自己採点も出来るからな。まぁ寝てたのは不本意だが、さすがに今の俺は寝ないと死ぬから」

 

『俺はお前のためのアラームじゃねーんだぞ全く・・・』

 

心の中でエボルトがぶつくさ言うが、関係ない。結局退院後三日間は寝る間も惜しんで勉強したんだ。一夜漬けどころか3日漬けだ、マジで死ねる。

 

「なるほど・・・二次試験の方はどうでした?」

 

「あー、そっちも多分オッケー。でもなんか監督役のパワーローダー先生が変な物見る顔してたけどな」

 

しばらくの間ひたすら試験のことや問題の内容についての考察等の話題で話し込んでいると家の最寄り駅へと着く。

 

「・・・おい発目、なんでお前まで降りてんだよ。お前はまだ先の駅だろ?」

 

「あはは、えーとですね・・・」

 

妙に歯切れの悪い発目を訝しんでいると、照れ臭そうに笑う。

 

「その、例のスーツについて色々とお話を聞きたいなーって」

 

「ああ、そう言うことか」

 

なるほど、発目はサポートアイテムに関しては向上心の塊みたいな奴だからな。001やらビルドのドライバーはさぞ気になっただろう。

 

「いいぜ、簡単なことだけなら教えられるし。・・・あんまり聞かれたくない話だな、俺ん家来るか?俺以外に人いねーし」

 

「・・・えっ?」

 

異様に驚き動揺が隠せない発目・・・なんだ?

 

「・・・?なんかこの後用事でもあんのか?」

 

「あいや、えっと、その、あーあそこにいい感じのファーストフード店がありますよ!あそこの角の席とかにしましょう!私奢りますよ!さあさあ早く!」

 

「え?あ、おう。ちょっと待て押すな押すな!」

 

なんだか慌て始めた発目に背中を押され、俺たちはそのまま大手チェーン店の中へと向かったのだった。

 

 

 

 

「なるほど、つまりはあのベルトと装填するキーやボトルが基となっている仕組みなのですね?」

 

「ああ、プログライズキーのデータとかフルボトルの成分とかを抽出して見に纏っているような感じだ」

 

流石に女子から奢られるような銭なしじゃないから普通に自分の金で買ったポテトを齧りながら、ハンバーガーを咀嚼する発目の質問に答えていく。たまに答えられないことを聞かれて返答に困ることもあったが、大体の話を発目は当然のように理解していく。

 

(こうして考えると、やっぱり天才って呼ばれる存在なのかねぇ発目は)

 

「・・・ん?何ですか?」

 

ぶつぶつと呟いていた発目が俺の視線に気づき訪ねてくる。まぁ、特にやましいことはねーんだがなんだが悪いことしてる気分だ。

 

「いや、なんとなく見惚れてた。随分と理解が深いんだな?」

 

「そうはっきりと言われると照れますね・・・。ええ、少し私もスーツタイプのアイテムに興味が湧きまして!」

 

「ほーぅ?」

 

どうやら発目は俺のライダーとしての姿に触発されてスーツ型サポートアイテムについて思うところができたらしい。

 

「ならちょうどいいな、明日行ってみるか!」

 

「?・・・ああ、そういうことですね!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・というわけで、今日のオリエンテーションはここまでだ」

 

『ありがとうございました』

 

「「ではっ!」」

 

「な、なんだあいつら?」

 

「すげー勢いで出てったぞ?」

 

発目と戦人のクラスメイトでは、終了とともにダッシュで出て行ってしまった二人を見て不思議に思うのだった。しかし流石はサポート科と言ったところか、すぐにそんな事は忘れ去られ、各々が友人や初対面のクラスメイトと一緒にアイテム談議に花を咲かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

「「とゆうわけで、さっそくお願いします(ね)!!」」

 

「なんだまたお前か・・・増えてる・・・!?」

 

翌日、始業式と簡単なオリエンテーションを済ませた俺と発目は、全力で開発のための工房へと走った。白い煙が出るほどの勢いでブレーキをかけ、思いっきり扉をあけ同時に頭を下げる。

 

「あー・・・発目はまぁ分かるんだが、もう一人・・・たしか乾だったか?はなんだ?」

 

若干引いてるような雰囲気を醸し出しながら聞いてくるのは工房の責任者である教員、掘削ヒーローパワーローダー。どうやらすでに発目は来ていたようだな。いつの間に。

 

「俺・・・自分は一年の乾 戦人、発目さんの同級生です。サポートアイテムの開発を早速工房でやらせて頂きたくやって来ました!」

 

「お前もか。まぁ発目に許可出しちまった以上一人増えようが構わねぇな。適当に好きな機材使いな」

 

そう言って自分の作業台に向かい直す先生。ふと隣を見ると既に発目はおらず、生徒用の作業場で嬉々としてアイテムを弄っていた。

 

「よっし、じゃあ俺もやるかな。エボルト、頼むぞ」

 

『あいよ。まぁ頑張れや』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「戦人さん!これとかどうですか!?」

 

「あぁ?いいんじゃねぇの・・・って待て、なぜ俺につける!?」

 

(全く、こいつらは随分とやりたい放題だな)

 

チラリと二人の生徒を眺める。一人は発目明。入学式が終わるや否や突然工房へと姿を見せ使用許可をねだって来た生粋のアイテム狂だ。

 

『こんにちは!いいですか?いいですよね!?』

 

その圧力に思わず許可を出してしまったが、実際こいつは天才と言っても過言では無い女生徒だった。たった1日でアイテムを一つ完成させたのだ。帰らせた後にこっそり試したが、プロ用のアイテムを作っているメーカーにも比肩しうると感じた。

 

「さぁ行きますよ、ポチッと!」

 

「ちょ、おい俺の意思は!?・・・って、あだだだだだだ関節が!関節がパニック!?」

 

「おっとストップ!すいません、どうやら関節の稼働範囲の設定を入れ忘れてました!」

 

「アホ!!なんでそんな大事なモン忘れんだ!っつーか俺は俺のやる事があるんだよ!」

 

(・・・たまたまだった可能性があるな)

 

そして、その発目のアイテムの餌食となりながら説教をしている男子生徒。最初は名前を聞いてもピンとこなかったが、先ほど思い出した。やべーやつだ。

 

「・・・乾、か」

 

 

 

 

 

 

 

それはサポート科の二次試験のことだった。ヒーロー科に戦闘試験があるように、サポート科にも特殊な試験がある。その二次試験とは、アイテムの作成だ。使える素材は大量に用意されており、中には俺の作ったアイテムの余りとして持て余していた材料もある。若しくは、自分が作ったものを持ってくるのでも良し、ただしその場合評価は厳しくなると言った試験内容だった。

 

「そこにある材料は使って構わない。個性も有用ならそれも可だ」

 

「・・・」

 

俺ともう一人、試験官役をしていた教員(ヒーローでは無かったな)がみている中、試験開始の合図をしても一向に動かない乾。その時から既に他の受験生とは違う雰囲気を感じていたが、それでも当初は「妙なやつだな」程度の認識だった。

 

「すいません、持ち込みの方でもいいですか?」

 

「?ああ構わない。ただし、入試要項にもあったと思うが持ち込みでは評価が厳しくなるからね」

 

「はい、了解です」

 

試験官役が注意事項を伝えるが、涼しい顔で頷いていた。持ち込みは確かに可能とされているが、実際の所持ち込みで合格できた受験生は今まで数えるほどしかいない。まぁ評価基準がプロの査定と同等なのだから当然だ。

 

「では・・・」

 

(?なんだあれは?)

 

乾は懐に手を入れ、小型の黒い銃のようなものを取り出す。みたことのない形状で、ただの銃というには歪だが、サポートアイテムとして見てもそう大したものには見えない。

 

「えっと、何か目標とかって有りますかね?こう、これを壊せるくらいのアイテムをー、とか」

 

「え?ああ、それならそうだね、あの壁を削り取る、とかかな」

 

二次試験会場が体育館という利点を活かし、試験官役がコンクリートの壁を指差す。たしか二年生の授業でセメントスが作った壁だ。後で直すとは言っていたが・・・

 

「じゃあ遠慮なく」

 

壁を見てニヤリと笑った乾。すると手に持った銃をクルリと回し、壁に向かって構え・・・ない。もう片方の手をポケットに入れ、妙な形のボトルのようなものを取り出す。

 

「なんだ・・・?」

 

バット!

 

そのままそのボトルを銃へと装填する。妙な音声が流れ、不吉な音楽が鳴る。乾はその銃を真下へと向け、ニヤリと笑った。

 

「蒸血」

 

ミストマッチ!

 

バット・・・バ、バット・・・!

ファイヤー!

 

銃から黒いモヤのような蒸気が溢れ出し、乾を覆う。そしてその煙の中からまたしても音声が流れ、少しして火花とともに蒸気が晴れる。

 

「なんだ・・・?」

 

そこにいたのは、もはや乾では無かった。黒い体に所々蝙蝠のような意匠があるスーツ、乾はそれを纏っていたのだった。

 

「(少しくらい派手な方が記憶に残るかな・・・)行きますよ」

 

「あ?」

 

バット!

スチームブレイク!

 

銃から音声が鳴るとともに黒っぽい・・・エネルギー?のようなものが銃口に集まっていく。やがてバスケットボールほどの大きさになると、乾が引き金を引く。

 

「っ!これは・・・」

 

「・・・ま、こんなもんか」

 

そこにあったはずのコンクリートの壁は、粉々どころか跡形もなく消滅していた。隣で見ていた試験官役が唖然としているが、俺としては興味が湧く。

 

(あんな小さな銃程度でこの威力・・・装填していたボトルも纏っているスーツも気になるな。まさかこんなクオリティのものを入学前から作るか・・・!)

 

「えー、と・・・ありがとうございました」

 

「!ああ、お疲れさま」

 

纏っていたスーツを解除し、一礼して去っていく後ろ姿を見ながら、その受験生の合格を俺は確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・だったんだがなぁ」

 

「発目ぇ!それはそうやってこじ開けるもんじゃねえ!壊れるからやめろ!返せ!」

 

「いいじゃないですか、もうちょっとで開きそうですし・・・!」

 

回想を終え騒いでいる二人を見る。どうやら黄色い何かを発目がこじ開けようとしており、乾が必死で止めているようだ。力任せにこじ開けようとするせいか、ミシミシと嫌な音が鳴っている。・・・なんにせようるさいな。

 

「お前ら、いい加減にしねーと出禁にするぞー?」

 

「「すいません!」」

 

騒いでいたのがウソのように直角で頭を同時に下げる二人を見ながら、今後こいつらの面倒を見るのかと思うと胃が痛くなってくるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

帰り道、発目と別れ家へと帰る道。発目がこじ開けようとしたライジングホッパープログライズキーを確認する。・・・どうやら壊れてはいないようだ。

 

「あんの野郎、いやあいつ女子だけど。馬鹿みてぇに力入れやがって、壊れたら最悪だ!」

 

『最後らへんは開きそうな気配してたけどなぁ』

 

「あんな開け方で開いてたまるか!ゴリラじゃあるまいし、開けれるわけねーだろ!ロックかかってんだぞ!?」

 

全く何だってそんなに自分でやりたがるんだか。おかげで帰る前にプログライズキーの点検までする羽目になった。

 

「・・・ただいま」

 

自宅へと帰り、静かに玄関を開ける。隣の部屋のおっさんが面倒だからこの時間いちいち静かに過ごさなきゃいけないのが面倒だ。部屋に入り、鍵を閉めると鞄をその辺に放り洗濯物を取り入れる。

 

「さてと、明日もオリエンテーションか・・・ヒーロー科はたしか戦闘訓練も出来るんだよな。いいよなぁ、公然と戦える、って事は鍛えられるんだからなぁ」

 

『ならお前も昔見たいにやってみるか?ヴィラン退治』

 

「・・・いや、やらねぇし。もう疲れた、少し寝る」

 

『・・・そうかい』

 

愚痴を言いつつも手は止めずやる事を済ませた俺は、晩飯を食う気にもなれずそのままベッドへとダイブしたのだった。

 

 

 

『好都合だ』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・おい、黒霧。ロクな奴が集まらないじゃないか」

 

「そう嘆くものではないですよ死柄木弔。まだ集める時間はある。それに、この辺りにもまだ使えそうな者なら吐いて捨てるほどいるでしょう」

 

夜の帳が降りた都内の路地裏。ひっそりと佇むバーの中に男が二人。

一人は、バーテンダーのような格好でコップを拭いている礼儀正しい口調の男。それだけならただの店主、と言えただろう。が、その男は普通ではなかった。バーテンダー服の上、頭のあるだろう箇所には黒いモヤが湧いており、その表情や素顔を知る術はない。個性で人の特徴にない顔の人もいるが、それとは違う不気味な雰囲気を持ったその男は、黒霧という。

 

もう一人は更に異質だ。カウンター席に座る後ろ姿だけなら普通の男性と言える。しかし、正面から見ればその顔には人の手が張り付いていた。白い死人のような手が顔を鷲掴んでいるようなその姿は、心臓を握られたような恐怖を感じずにはいられない。男は、死柄木弔と呼ばれていた。

 

「だとしても最近の成果はクソだろう。全く、ただ日々を無意味に生きているだけの奴が多すぎる」

 

『じゃあ少し刺激を提供しようかぁ?』

 

「「・・・っ!」」

 

突然バー内に響いた第三者の声に黒霧がモヤを噴出しながら入り口を睨む。死柄木もバッと振り返りいつでも攻撃できるよう手をぶらつかせる。

 

「・・・誰だ、お前」

 

『チャオ。ちょっと通りすがっただけのナイスガイさ』

 

「いつの間に入ってきた・・・!?ドアは鍵がかかっていた、それにその先には集めたチンピラ達がいた筈!」

 

『おお、これか?まぁいい運動にはなったぞ』

 

侵入者へと警戒を怠らず質問する黒霧。死柄木は手をいつでも襲い掛かれるよう構え、睨みつける。対して招かれざる客はニヤつきながら入り口にもたれかかっており、その手には気絶したチンピラをぶら下げていた。黒霧はいつでも個性を使えるようモヤを相手の付近へと伸ばして相手を囲む。

 

「質問に答えろよ・・・お前は、誰だ。二度は言わねぇぞ」

 

『おっと、血の気が多いねぇ。・・・そうさな、気軽にスタークとでも呼んでくれ』

 

「本名は」

 

『スターク。悪いがこれは本当だぜ?』

 

周囲をモヤに囲まれながらもその声からは喜色が感じられる。死柄木は相手の態度にイラつきながらも、取り敢えずはいいと妥協する。チラリと目配せで黒霧へモヤを収めるよう指示する。

黒霧はなおも躊躇っていたが、数秒の葛藤の後モヤを収めていく。

 

「それで?お前は何が目的でここに来た。つまらないこと言ったら殺すからな」

 

『おおこわ。じゃあ言わせてもらうぞ・・・俺を雇わねぇか?』

 

「・・・はぁ?」

 

『こう見えて情報通でな。色々と教えられることがあると思うぜ?』

 

「何かと思ったら売り込みかよ。もういい、さっさところs」

 

『雄英高校の教員について、とかな』

 

殺そうと動かしかけた手がピタリと止まる。その様子に内心でにんまりと笑いながら、スタークは続ける。

 

『そうだな、少し俺の指示したタイミングで時間稼ぎさえしてくれれば、カリキュラムとかも持ってきてやる。報酬は後払いでかまわねぇよ』

 

「・・・いつだ」

 

「死柄木、信用するのですか?このような得体の知れないやつを」

 

驚愕する黒霧にひと睨みしてから、死柄木はスタークを睨む。目的が達成されたことを確信したスタークは、嬉しそうに手を叩く。

 

『よぉし交渉成立だ!そうだな、数日後、またタイミングは教えに来る。それまでにそちらの方でもこっちの方を用意しとけ』

 

「おい、今決めろ。それに条件がある」

 

『いやいや、まだ正確に決めるのは難しいな・・・条件を聞こう』

 

「こちらの情報はやらない。それと、ちょうどいいからお前も俺たちの計画を手伝え。情報以外にもやる事はある」

 

『ほっほぉ〜、まぁお前らの情報についてはこれ以上探る気はないさ。協力に関してもこちとら自由が無くてな。無理ってことになる』

 

「・・・いい加減にしろよおm『スターク』・・・チッ、スターク。お前の方からは条件を出しときながら、こちらの条件は聞かない気か?」

 

『おいおい、俺は別に協力しない、とは言わないぜ?カリキュラムとかの雄英の情報はお前にやるさ。ただ、俺も完全に自由ってわけじゃないからな、少々ここに来るのにも手間がかかっててな』

 

「・・・」

 

『・・・』

 

静かな睨み合いが続くなか、最初に折れたのは死柄木だった。

 

「・・・とにかく情報を持ってこい。それによって雇うかどうか決めてやる。そうだな、教員名簿を持ってこい」

 

『そうこなくっちゃなぁ!ま、待ってな。また来るからよ、チャオ』

 

そう言って手をあげながら、スタークはドアを開けて出て行った。それを見送る黒霧と死柄木の顔には「面倒なやつに引っかかったな」という感情が見えていた。

 

「・・・ドアは施錠した筈だったのですが。それよりも死柄木弔。本当にあんな奴を頼るのですか?」

 

「・・・何にせよ場所を知られてる以上下手に敵対はしない方がいいだろ。それに、情報を持ってこいとは言ったがそれを信じるかどうかは別だ。その情報の信頼性如何で本命のヒーロー科カリキュラムの情報もまた持ってこさせるか決める」

 

そう言って死柄木はカウンターに置かれていたグラスを手に取る。するとグラスはみるみるうちに崩壊していった。

 

「あいつが信用できない奴だと分かったなら、すぐに殺すだけさ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

pipipipi! pipipipi!pipipipi!

 

「・・・朝か」

 

『おう、もう起きたか』

 

翌日の朝、カーテンを開けて日差しを受ける。目を細めながらもその光で完全に冴えてくる頭で、今日の予定を思い出していく。

 

「?なんか体が重い・・・昨日はそんなに動いてない筈なんだが」

 

『変な体勢で寝てたからだろ?なかなかに個性的な寝相だったぞ』

 

「うるせぇよ」

 

朝から腹の立つ奴だ。取り敢えず重い体を引きずるようにして寝床を這い出し、通学の準備をして着替える。朝食は何にするか・・・

 

「・・・ぁふ、なんだ、寝た筈なんだがな」

 

不意に眠気が襲ってきて、思わずあくびをする。なんだか今日は妙な気分だ、寝床を変えたからか?

 

「さて、取り敢えず準備よし」

 

靴を履き、ネクタイを締めながらドアノブへと手をかける。

 

「・・・行ってきます」

 

誰もいない部屋に静かに告げ、今日も1日が始まる。

 

 

 

 

 

『いってらっしゃい、弁当持ったか?忘れもんは?定期持ったのか?』

 

「テメェは母親か!」




雄英編なのに雄英での話があんまりない気がする。
あとパワーローダー先生も発目と同じで微妙に性格ってか口調を把握しづらい。でも見た目とかしゅき。
駆け足で体育祭まで行けるかな・・・


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第8話

忘れられただろう頃にそっと更新・・・
新鮮な駄文だゼェ・・・( ;´_ゝ`)


「おはよー」

 

「ねー今日何やるんだっけー」

 

「お前どこ中だった?」

 

朝の教室。学生にとって今日1日の始まりの場であるとともに、友人との団欒の場でもある。まだ雄英生徒として始まったばかりのため、同じクラスの人間へ友好関係を深めようとする話題が多い。

 

「なぁ、お前昨日授業終わってからすげー勢いで走って行ってたけど、何て名前?」

 

「あ?俺?」

 

「そうそう、お前お前」

 

そんな中、戦人へと話しかけるクラスメイトが一人。戦人は少し相手を見定めるようにじっと見た後、微笑みながら手を出す。

 

「乾戦人だ。乾でも戦人でも、呼びやすい方でいいぞ」

 

「ああ、俺は〇〇。よろしくな!」

 

「ああ」

 

そうしてクラスメイトが何人かやってくる中で、ふと斜め右後方を見る。そこでは、机に向かい一心不乱にノートに何かを書き込む発目がいた。

そこへクラスメイトの女子が数人向かっている。

 

「発目さん、だよね?私は□□!よろしくね!」

 

「私は△△!ねーねー発目さん、なに書いてるの?」

 

「はい!これはですね、新しいベイビーの設計図ですよ!ほら見てください、ここの部分がですね・・・」

 

(いや、ハイテンションにサポートアイテム説明よりまずは相手に名前を言えよ!おめーは何故会話の方向をアイテム関連で固定しているんだ!)

 

「乾?」

 

「あ、ああいや、何でもない。えっと、何だったっけ?」

 

「そうそう、それでな・・・」

 

話に相槌をうちながら再度チラリと発目達の方へと目を向ける。発目がとっつきにくい奴だと思われていたら少しはフォローをs

 

「へー!かわいいねこれ!」

 

「でしょうでしょう!そうでしょう!」

 

「ねね、他にはない?」

 

「そうですね、これなんかも作ってみたいですねぇ!」

 

(その話題で話弾むんかい!)

 

思わずカクッと肩を落とす。目の前の〇〇が首を傾げているが、何でもない、とだけ告げてふと考える。

 

(・・・いや、よく考えればここは天下の雄英高校だ。ヒーロー科でなくても情熱を持った天才や秀才達が集まるであろう場所、そんなところにいる奴が専門分野で話弾まないわけがないか)

 

「・・・ってわけでよ。?乾、お前本当に大丈夫か?なんか疲れてるみたいだが」

 

「ああ、少し無駄なことに気を使っていただけだ。もう大丈夫」

 

「そうか?」

 

(まぁ、そうと分かれば俺だって色々と話をしていいアイデアが浮かぶようにしないとな)

 

そんな訳で俺は新しくできた友人(貴重)と雑談しながら時間を潰した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さて、戦人さん。準備はいいですね?」

 

「なぁ、これ本当にお前も試運転したんだよな?な?」

 

「本日許可を得られた体育館の使用時間は1時間です。早急にベイビーを試す必要があるので説明は省きますね」

 

「おい待て、無視か」

 

「安心しろ乾。俺も監督してるんだ、俺の目の黒いうちはこいつを人殺しにする気はねぇ」

 

「パワーローダー先生・・・」

 

「・・・多分」

 

「先生!?」

 

体育館。ヒーロー科だけでなくあらゆる科において授業や訓練等を行うここは、サポート科においては大型のアイテムを試運転したり効果を実践してみるいわゆる実験場だ。

今日はパワーローダー先生の許可を得て、発目が作ったバックパック型サポートアイテムを試すことになった。本来なら一年生でそんな大掛かりなものは早々作れないし、そもそも毎日ラボに入り浸るような奴は少なく入学初期のこの頃は意外と申請が通るらしい。

・・・何故か装着者は俺である。

 

「納得がいかねぇ!発目、一旦脱ぐz」

 

「スイッチオン!」

 

「聞けや!」

 

容赦なく押されたスイッチ。思わずキレ気味に突っ込むが、そんなことお構いなしに無情にも背中に背負ったバックパックからロケットの推進音が聞こえてくる。

 

「おわっ・・・とと、割と・・・思ったより普通に飛んでるなこれは」

 

「ふむふむ、出力20%だと1、2メートルほど浮かぶ程度ですか・・・」

 

何やら発目がぶつぶつ言いながら持ち込んだパソコンを叩いている。距離があってちょっと聞こえないな・・・。と、その時パワーローダー先生に用意してもらった通信機から指示が来る。

 

〈〈では戦人さん、もう少し出力を上げてみますね!そうしたらそのまま自由に飛んでみてください!〉〉

 

「あいよ」

 

返事をすると背中をグン、と引っ張られる感覚と共に更に高く飛んでいく。最終的には体育館の天井に届くか届かないかくらいまできた。

 

「・・・流石に怖いな」

 

『んなこと言って、001の時にはディストピアでこのくらいの高さよく跳ねてるじゃねぇか』

 

「跳ねるのとこうやって浮かぶのは感覚的に違うんだよ」

 

『そんなもんかねぇ・・・』

 

エボルトと話しながらも指示されたことはしっかりとこなす。体を前に傾けると、ゆっくりとだがバックパックの推進力で前へと進み出す。

 

〈〈どうですか?〉〉

 

「今のところ異常はない。まだ少し出力を上げてみてかまわねぇぞ」

 

〈〈分かりました!〉〉

 

流石に自由自在とまではいかないが、上手いこと空を飛び続けている。その後も蛇行しながらや宙返りなど、発目の指示に従いながら飛ぶ。もう慣れてしまい空を飛ぶのが楽しくなってきた。

数分後、そろそろ推進剤が切れる頃か、と思い着陸体制に入る。

 

〈〈っ!戦人さん!〉〉

 

「あ?」

 

焦るような発目の声を聞き訝しんでいると、突然背中でボン、と爆発音が鳴る。

 

「なっ!?」

 

『おいおい、こんなところでイカれやがった!?』

 

「うぉあぁぁああ!?」

 

バックパックが黒煙を吐き、制御不能に陥る。通信機からは発目が焦ったような声で対処しようとしているのが聞こえるが、そんなことを気にする事もできないほど視界がグルグルと回る。

 

(は、吐きそう・・・!)

 

『おい、目の前!』

 

「!」

 

エボルトの叫びに無理やり前を向くと、眼前に壁が迫ってきた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「戦人さん!」

 

「っ!」

 

発目が叫ぶのを聞きながら咄嗟に駆け出す。今日は発目と乾に体育館でのアイテムの試運転の許可を求められ、俺立ち会いの元で実験が行われていた。

使用するアイテムは発目作のバックパック。一応発目自身と俺がラボの方で軽い試運転は行なって問題無しと確認したため、今回は本格的に高いところまで飛んでみるというものだった。・・・装着者に選ばれた乾は始まる寸前まで不満だったようだが。

 

始まってからは特に目立った問題はなく、乾も中々にセンスがあるのかバックパックを使いこなし自由に飛んでいた。このまま何事もなく終わる・・・

 

(と思ったらこれか!)

 

安全のために体育館の床には大量のクッションが敷き詰められており、出力過多での突撃も考えて壁にも万が一のための衝撃吸収マットをぶら下げていた。仮に事故が起きても問題は無い、はずだった。

 

「危ない!」

 

突然黒い煙を吐いてきりもみ回転しつつめちゃくちゃに飛び回る乾。

制御を失った乾は不幸にもマットとマットの間、僅かにある壁が剥き出しの隙間へと飛んでいった。このままでは、乾は壁にぶつかって・・・!

 

「なっ!?」

 

「っしゃおらぁぁ!!」

 

しかし、そこで乾は思わぬ行動に出た。無理やり頭を上げバックパックのスラスターを壁へと向け減速、足で壁を蹴ってそしてそのまま反対の壁へと跳んでいった。

 

「何を・・・!」

 

「うぉああああ死んでたまるかぁぁぁ!!」

 

壁、天井、床。スラスターの推進剤が切れるまでのおよそ数十秒間、乾は体捌きだけでスラスターを使いこなし跳び続けた。

ズダン、ズダンとぶつかる寸前に足で壁や床を蹴り、スラスターの勢いで反対側へと飛ぶ。

その姿はまるで跳ね回るバッタのようだった。

 

「っ、乾!」

 

やがてスラスターの推進剤が切れ、勢いをなくした乾は重力に引かれて落下してくる。

 

「っ、だぁぁ疲れた!」

 

最後にボスン、と音を立ててクッションの中へと沈んだ乾は、そう言いながらゆっくりと這い出てきた。

 

「無事か乾!怪我は!?」

 

「あー、大丈夫っす。外傷なし、元気溌剌っすわ」

 

「そうか・・・!」

 

とりあえずは怪我がなかったことにホッとする。ラボでの試運転で問題なく機能していたため大丈夫だと心の中で考えていた。これは俺の確認ミスかもな・・・まぁそれとは別で。

 

「おい、はつ・・・」

 

「戦人さん!」

 

「おわっ!?」

 

「無事ですか!?怪我ないですか!?どこか痛めていたりとかは!?」

 

「落ち着け!というか大丈夫だから!そんなに触るな起きれねぇ!」

 

教師として発目へ注意を、と思っていると横を通り過ぎてすごい速度で発目が乾の元へと向かっていた。若干引いている乾の体をペタペタと触りながら深刻な顔で容体を確かめている。

 

「本当にすいません!まさか、あんな不具合を見落としていたなんて!」

 

「あー、全くだ。おかげで死ぬとこだったわ!」

 

乾の言葉に、意外にもしょんぼりとした表情を浮かべる発目。普段からアイテム作成のことだけを考え、ゴーイングマイウェイを貫いている彼女にしては本当に珍しい。

 

「ま、今回は無事だったし許してやる。・・・だから今度からは絶対に安全を考えろよ!?」

 

「はい、はいそれはもう!・・・やはり予備のスラスターもつけておくべきでしたか。あとはやはり、パラシュートとかを内蔵して・・・」

 

「まず壊れない想定もしてくれませんかねぇ!?いやそういうのもいつかはいるんだけど!」

 

(ふむ、これは・・・)

 

乾が諭し、発目はそれを素直に受け入れている。・・・方向性は怪しいが。

普段から発目は俺のいうことはそこそこに聞いて、たまに忘れたフリで惚けたりもしていたが・・・。

その様子を見ていると、二人の奇妙な関係が見えてくる。一人だけではクセの強すぎる発目だが、乾はそのストッパーになり得るのかもしれん。

 

「じゃあ少しこのベイビーは持っていきますね。修理と、あと改良もいりますし」

 

「おーう」

 

バックパックを外し、パソコンのところまでそそくさと戻っていく発目。隣を通り過ぎる時、何やら呟いているのを聞いたが小さすぎて聞き取れなかった。

 

「乾、さっきも聞いたが、本当に大丈夫か?」

 

「はい。まぁ多少は鍛えてるんで」

 

乾に再度確認してみるが、どうやら問題は無いようだ。本人も肩をグルグル回して見せ、ニヤリと笑っている。

我慢しているようには見えんな。にしても・・・

 

(無個性だと聞いていたが、身のこなしはかなり良かったな。体の使い方も良い、流石に3年のアイツよりは劣るがそれに近いレベルの動きだったように見えた)

 

「そうか。ところで乾、お前は何か格闘術とかやっていたのか?」

 

「はい?」

 

あの動きは素人とは思えない。何か相応の武術を修めている可能性は・・・。

しかし一瞬考えるような素振りの後、乾は首を振る。

 

「いいえ、武道とかその辺のことは特にやってませんよ?」

 

「そうなのか?にしては結構動きが良かったが」

 

「あー、でも一時期ある奴に師事したことはありますね」

 

「奴・・・?」

 

なるほど、我流の何かを習っていたのか。にしても師事していたと言っているが、なぜ顔をしかめる必要が?

 

「ええ、正直そいつにだけは教わりたくなかったんですけどね・・・」

 

「嫌いだったのか?」

 

「嫌いとかじゃ無いんですよ。超胡散臭いやつで、戦う術を教えるからあるものを寄越せってうるさくて」

 

「ふむ、よほど嫌いなんだな。顔がすごいことになってるぞ」

 

「あっ・・・すいません」

 

まさに嫌悪、と言った表情だった乾だが、指摘するとすぐに申し訳なさげな表情へシフトする。とりあえずは聞きたいことは聞いた。そろそろ時間も近いということでラボへ戻るよう言うことにした。

 

「さて、もう発目も片付けは済んだみたいだな。そろそろ時間だ、ラボヘ戻るぞ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おい発目、レンチ取ってくれ」

 

「はい、どうぞ」

 

「サンキュ。そっち、配線繋げたか?」

 

「一応。でもこのままだと中に積む装置が大型化します。増加する重量を考えると装甲が薄くなってしまいますよ?」

 

「構わねぇよ、どうせそうなることを見越して作ってんだから」

 

ラボへと戻った俺たちは、先生がアイテムを作っている間二人であるものを作成していた。発目は今回のトラブルの罰として一週間体育館使用禁止、アイテムの試運転禁止を食らった。

それにより暇になったのか、俺の作っているものを手伝ってくれている。

 

「・・・にしても乾、お前は随分とスーツタイプの物にこだわるな」

 

「そうですかね?」

 

しばらくすると、ひと段落ついたのか先生がふとそう言ってくる。・・・まぁ、俺にとっちゃヒーロー=スーツ着た仮面の戦士って印象がでかいしなぁ。

 

「入学試験でもスーツ、今作っているのもスーツ。何かジンクスでもあるのか?」

 

「うーん、そーいうわけじゃあないんですけど、そうですね」

 

少しの間考えて、これだと思う言葉をそのまま言う。

 

「俺はですね、多分発目とか先生とは違う考えなんだと思うんです」

 

「考えが違う?」

 

疑問に思ったのか、先生が椅子に座ったままこちらに向き直す。俺が手を止めているため、興味深げに発目も俺を見てくる。

 

「発目や先生は、ヒーローのサポートをする、っていう目的のアイテムを作ってると思うんですけど」

 

「お前は違うと?」

 

「ええ。俺は、俺の思うヒーローになる為の力として、自分という存在をヒーローにする為の力としてアイテムを作ってますので。ぶっちゃけていうと俺自身が使うつもりで作ってます」

 

「・・・」

 

俺の言葉を聞いて、先生は黙ったまま目で先を促す。発目は俺を見ながらいつになく真剣な真顔である。・・・今日は発目の普段見ない顔が多いな。

 

「俺は無個性です。この超人化社会において、ヒーローという職に就くことが出来ない、いや『就いてはいけない』存在だ」

 

俺が無個性だと知ってから少し考えたことがある。もしも俺が、なんの個性も、ライダーの力も持たずに奇跡的な形でヒーローになったとしたら。

 

それで、一体誰を救えるのだろうか。

 

ヴィラン退治や救助活動、場合に寄っては何かや誰かを守るという護衛もすることになるヒーロー。そのどの活動においても、個性が鍵となってくる。総人口の8割が個性を持っている。すなわち、ヴィランだってほぼ確実に個性を持っており、かつそう言った活動をする奴は大体が殺傷性の高い個性を持っているだろう。

 

大自然や、そんな相手をどうにかするのに、無個性とはあまりにも非力なのだ。無個性だったから、ヴィランを倒せなかった。個性が無かったから、救助対象を助けられなかった。

そんなものは、ヒーローになったなら言い訳にもならない。ヒーローとは、誰かを助けられる存在でなければならないんだ。そういう点で、無個性とはそれだけでディスアドだ。

 

「だがそれでも、俺は『ヒーロー』を目指す。ヒーローになる為なら、たとえ代償を払い続けてもこれを使う。体だって鍛える。ヒーローになる為なら、必要なことならそれを実行することに躊躇いはないです」

 

そう言って俺は先生に見せたことのあるトランスチームガンを取り出す。先生は俺をじっと見たまま、頭を覆っているコスチュームの隙間から見える目を光らせている。

 

「俺は無個性だ。だからなんだってんです。俺は、俺のやり方で人々を救うヒーローになる・・・!」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

なんだか最後にはただの宣言になってしまった。妙に気恥ずかしい。

静寂の中、一番最初に動いたのは先生だった。椅子から降り、ゆっくりとこちらへやってくる。

 

「・・・過去に普通科からヒーロー科へ編入した事例は少数ながらあるが、サポート科からは俺の知っている限りまず無い」

 

そう言って俺の目の前までやってくる。先生は姿勢の関係で俺よりも頭が低い為、見下ろす形になる。しかし先生の目からは、尋常じゃ無いほどの威圧を感じた。

 

「お前が言ってることはつまり、ヒーロー科への中途編入を目指すってことだ。・・・茨の道どころか、まず不可能な道でもある」

 

なんせ前例がないしな、と続け先生はそっと俺の肩へと手を置いてくる。

 

「それでもお前はなりたいってか?無個性でもヒーローに」

 

「ええ。そこは譲れないんで」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

互いにそこから言葉を発しない。しんとした空気が漂う中、肩へと置かれていた手が離れる。

 

「ま、悪くはないと思うぞ俺は」

 

「!」

 

「さっきの身体能力も悪くない。それに、サポートアイテムを大量に使って活動するヒーローだって居るには居るしな」

 

そう言って特徴的な笑いを溢す先生。発目はというと、何やら考えているようだ。真剣な表情のままだが、随分と高速でボソボソと呟き続けている。また何やらかすんだか・・・。

 

「ま、今後のお前次第だろう、ヒーロー科に入れるのかどうかはな。一番近いのでいうなら、体育祭とかで結果を残せば良い印象持たれると思うぞ」

 

「先生・・・」

 

俺がボーッと見ていると、頭をガシガシと掻きながら先生がぶっきらぼうにそう言う。どことなく照れているようにも見える。

 

「・・・柄にもないこと言うもんじゃねぇな。それより乾、お前が作ってるそれはなんだ?」

 

「え?あ、これですか?」

 

パワーローダー先生は俺の後ろを指差し、話題を変えるように尋ねてくる。後ろには、さっきまで作っていたスーツ。なんで聞いてきたのかは知らないが、まさか中断とかは・・・

 

「んな顔しなくても止めねぇよ。俺も混ぜろ」

 

「「え?」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『ほらよ、目的のブツだ』

 

「遅いんだよエボルト・・・殺すぞ?」

 

『おお怖。なんだかんだで警備が厳しかったんだぜ?これくらいの時間は容赦してほしいね』

 

死柄木達のアジトとなっているバーへと意気揚々とやってきたエボルト。しかしそれを出迎えたのは、死柄木による奇襲だった。死角となる暗がりから襲いかかってきた手を払いながら、カウンターへと紙束を放る。

 

「・・・黒霧、確認しとけ」

 

「分かりました」

 

『さてと。それじゃ俺様はもう眠いし帰るとするかね』

 

「待て」

 

紙束を持って黒霧が店の奥へと消える。それを見てやることは済んだとノビをして帰ろうとするエボルトを死柄木が止める。

 

『なんだぁ?』

 

「前の話を忘れてんのか?俺たちの計画を手伝え」

 

『またそれか・・・興味はあるが残念ながら俺が手伝うのは無理だな』

 

チャオ、と言ってエボルトが手を振りながら帰ろうとした時だった。

 

〈〈少しくらいは話を聞いてくれてもいいんじゃないかい?〉〉

 

『・・・』

 

突然バーに設置されていたモニターが起動し、そこから謎の男の声が聞こえる。そこから感じる圧力に反射的にスチームライフルを構え振り返るエボルト。モニターには、顔から下、椅子に座った謎の男の姿が映し出されていた。

 

『・・・まさかここまでのオーラを感じるとはなぁ。何者だ?』

 

〈〈まぁ、彼・・・死柄木弔の保護者、の様なものかな。このモニターは、君に少し興味があってこうして用意したんだ〉〉

 

(・・・なるほどねぇ、こいつが戦人の言っていた)

 

モニターの男は声色に喜色を帯びながら饒舌に話す。その雰囲気や声色・喋り方はスタークが戦人から聞いた『絶対に会ってはいけない相手』とやらの一人と合致する。

 

〈〈どうかな?できれば君にも死柄木弔を手伝ってもらいたいんだけどね〉〉

 

『別に俺が手伝う必要はねぇだろ?どうやら相当頭数を揃えてるみたいだしなぁ』

 

「・・・俺たちのことを監視してたのか?」

 

〈〈落ち着きなさい弔。今は僕に任せてくれ〉〉

 

「・・・」

 

スタークの言葉に怒った死柄木がいまにも飛びかからんとするが、モニターの男に止められる。その様子を見ながら、スタークは頭の中で思考を加速させていた。

 

(戦人の話だとこいつにだけは何があろうと接触しない・・・とは聞いていたが、なるほど?確かに感じる力は中々のもんだ。今の制約の多い状態だと確かに相手するのは悪手だろうな)

 

スタークが考えていると、モニターの男が手を広げ辛うじて見える口元を歪める。

 

〈〈君が協力してくれるなら、こちらも援助は惜しまないよ。僕としては後継者の育成に注ぎ込む投資は大事だからね〉〉

 

『そうかい。・・・理解はできるがお断りさせてもらうよ。俺様には余裕があるんでな』

 

説得を続けるモニターの男に対して、のらりくらりと躱すスターク。さてここからが互いの交渉術の勝負、と思った時だった。

 

〈〈そうか・・・じゃあしょうがないね〉〉

 

『・・・あ?』

 

〈〈うん、しょうがない。それじゃあ今回は雄英のカリキュラムを持ってきてくれてありがとう。また死柄木をよろしく頼むよ〉〉

 

「いいのか?先生」

 

〈〈ああ、良いとも。彼は貴重な情報源(スパイ)だからね〉〉

 

(余裕か・・・?嫌だとしても鎖を繋いでおこうくらいは考えると思ったんだがな)

 

予想外にあっさり引き下がった男に何処か肩透かしを喰らった気分になりながら、スタークは黙ってその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

「先生、何を考えてるんだ?」

 

スタークがバーを出たのを確認し、無駄だとは思いつつ手下に尾行を命じながら、死柄木がモニターの男ーーーオールフォーワンへと尋ねる。

 

〈〈大丈夫だよ死柄木弔。ああいった手合いはある程度自由にさせていた方が良い働きをするものだよ〉〉

 

「だが、あれは俺たちの言うことを聞くようなやつじゃ無いぞ。それに・・・」

 

「死柄木弔。スタークの持ってきた情報の裏が取れましたよ」

 

死柄木がなおもオールフォーワンへと食い下がろうとした時、黒霧が戻ってくる。小さく舌打ちをしつつ紙を受け取った死柄木は内容を読んで笑みを浮かべる。

 

「・・・まぁ、今回はいい仕事をしてくれた。雄英のカリキュラム、確かに本物の様だな」

 

「ええ、我々で手に入れたものとも一致します。あとは、ダメ押しで一度潜入し内部の構造を把握するだけです」

 

黒霧の言葉に嬉しそうに頬を掻きながら、紙に記されたある授業を指差す死柄木。

 

「ここだ。USJとか言うとこでの授業、『ここはオールマイトが一人で担当する授業』になってる。狙うならここだろ」

 

黒霧と一緒にああでもないこうでもないと話し合う死柄木をモニター越しに見ながら、オールフォーワンは微かに嗤っていた。

 

「・・・頑張りたまえよ、死柄木」




言い訳フェイズ
「いや違うんです!原作の方で今後の設定で使おうと思ってたとこが見事にからぶったんすよ!もう致命的すぎて見直しをしていただけで決してゲムヲがジャッジ9したりスカーフホエルオーでしおふきしてたわけではn」




ライジングインパクト‼︎

まぁ亀更新ですがこんな駄作に付き合える酔狂な方はよろしくお願いします。


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