ゴリラじゃないからっ! (もぐら王国)
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過去
時雨リオ


酒に救いを求める前


明かりのない真っ暗な部屋。深夜2時のアパートの一室。静寂と暗闇が蔓延する狭い四角い部屋の中で、リオは壁に背中をもたれかけながら膝を抱えてうずくまっていた。

襲い来る何かから怯えるように、小柄な身体をぎゅっと縮めて。小刻みに震える小さなからだを精一杯に抱きしめている。

窓から差し込んだ柔らかな月明かりが、部屋の中央を淡く照らす。

光を受けた塵が輝いている。

リオはひらひらと舞っている宝石のような塵達を、抱え込んだ膝からその瞳だけを覗かせて、じっと睨みつけていた。

瞳の下には刻まれた隈。

眠れない夜。繰り返す夜。

リオは例え瞼を閉じようと、穏やかで優しい暗闇がその意識を包み込んで眠りの海へと沈めてくれる、などということは起こらないことを知っている。代わりに暗闇に浮かび上がるのは、呆れた表情を浮かべた上司と、そのため息交じりの叱責の声と、眼前に突きつけられる指でつままれた不備のある書類。

仕事はやめた。もはや過去のことだ。しかし恐かった。

リオはそれを、たかが記憶とは割り切れない。記憶とはいわば実体をもたない霧のようなものである筈だとリオ本人も頭では分かっているのに、それが一度姿を見せれば、たちまちにリオの意識は生の質感を伴ってそのシーンへと飛ばされる。リオは間違いなくそこにいる。

仕事。職場。上司。

職場の喧騒に包まれて、緊張が身体を縛っていく。そうして重くなっていく体は、しかし仕事をするという義務感を働かせて必死に動こうとするのである。

思い通りに動かない身体は、溺れるような息苦しさを与える。

ごぼぼぼぼ。ごぼぼぼ。

気付けばリオの身体は水中にいて、その水面を見上げながら深い底へと沈んでいく。

その苦しさが嫌で嫌でたまらなくて、リオは救いを求めるように、だんだんと小さくなる水面へと手を伸ばす。

 

助けて

 

やがて息が尽きる。

 

暗転。

 

リオはそうしてはっと意識を取り戻すのだ。まるで息継ぎをするかの様な荒い呼吸が、彼女に現実への帰還を知らせる。

その時は身体から冷たい汗が噴き出していて、激しい心拍の音を聞いて、そして微かな安堵を覚える。

何度も記憶と現実を行き来するリオは、この身体の異常な生体反応を味わう度に生を実感するのである。

すなわち”また戻れた”と。

しかし当然、それと同時に彼女は思う。

 

”いつまで戻ってこられるだろう”と。

 

リオは今日も部屋に差し込むかすかな光を見つめる。そうして自然に体の眠気が限界に達して、気絶するように意識を失うその時をじっと待っている。

記憶に怯える弱虫な体を抱きながら・・・

 

ははっ、いっそ思考が止まれば良いのに。

 



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本編
自己紹介だっ!


大手の動画サイトの画面の中で、一面の水色を背景にしてその中央に人間の姿が映し出されていた。

ソレは紺色の髪の毛をショートに切り揃え、睨むような、それでいて大きな黒色の瞳をもち、二次元特有の線のラインで鼻と口が描かれている。

一見すると少年のようにも見えるが、ソレは中性的な顔立ちをした少女である。

彼女は2次元の存在であり、そして今日デビューした新人ヴァーチャルユーチューバーでもあった。彼女の映る画面の横では、新人でありながら既にたくさんの視聴者による彼女を待つコメントが流れていた。

 

「みんな 初めまして 今日から活動していく新人Vtuberの天才美少女音楽家兼板前勇者の時雨リオです よろしくお願いします」

 

彼女は笑みを浮かべながら、時雨リオとしての第一声を発した。彼女の声に反応して、流れるコメントが加速する。

 

声かわいい

設定森過ぎかよww

肩書デパートで草

公式だと占い師になってるんですがそれは

↑何にもあってないやんけ・・・

 

「皆さんコメントありがとうございます ・・・なんか肩書について言っているコメントがありますけど、占い師も間違いじゃないですよ 全部私の小さい頃になりたかった夢なんですよ 本当はもっとあるけど、スタッフが多すぎて書けないって じゃあ、占い師でってことで どうだ、すごいだろ」

 

リオは自信満々に言い放った。

 

すごい(白目)

(圧が)すごいです

謎理論草

急に言葉遣い変わったな

声低くない?

 

「あ゛あ゛っ?」

 

ひっ

怖いい

ちょっと興奮した

や〇ざかな?

ごりらやろ

 

流れるコメを見て、リオは口をあけて笑った。

 

「ごめん、面白そうだったからw でもこっちの方がしゃべりやすいし良いよね どうせ後からばれるけど、印象大事だからせめて最初は丁寧にいこうってスタッフが言ってたんだけど・・・あはははww」

 

スタッフも若干諦めてて草

声変わりRTAww

女なのにイケボじゃねえか

これはこれでありだな

結婚してください

 

リオは呑気に笑っていると横から視線を感じた。ちらりとそちらを見れば、静かに圧を発するスタッフと目が合った。

 

「ああ 微妙な表情してる!怒らないでください ごめんなさい!」

 

録音した

急に情けない声になるの草

だがそれもいい

結婚してください

↑結婚してください

↑いいですよ

なんだこれ

 

「あ~やばかった まじヤバミザワ・トシオ65歳」

 

はっ?(威圧)

誰だよ

くそ寒

録音しました消しました

消されてて草

 

リオは流れるコメントに笑みを浮かべながら、次の話題へと話を進める。

 

「とりあえず自己紹介の続きをやるよ 私のことは天才リオちゃんって呼んでくれればいいよ」

 

おっすリオ

おっすトシオ

おっすゴリラ

 

「んんっ えー、好きな食べ物はバナナ 趣味は運動すること 筋トレとかストレッチも好きかな あと、好きな言葉はポジティブとかかな」

 

ガチゴリラなん?

うほほっ!(好きです)

うほおっ?(出身はどの森ですか?)

 

「いやゴリラじゃないから! ああ、でもゴリラのモノマネ得意だわ いくよ うほおっ うほほほっ うほっうほっ うほーーほおーー うほおおおーーー」

 

リオはスピーカーを響かせて惜しみなくゴリラになった。胸を叩くドラミングさえも再現してみせた。

 

似すぎだろwwwww

うるさすぎるww

ドラミングで草

あれ?なんか音消えたんだが

鼓膜崩壊ニキ可愛い

ドラミングってことは・・・ひんにゅ

おっとそれ以上はいけない

 

リオの唐突なモノマネにコメント欄は加速した。リオは調子に乗って追撃をかける。

 

「うほおほおほおほお ほっほーーほおーー」

 

おかわりやめてえwww

死ぬうwwww

 

「うほほっほー ほっほっほっおおおおお」

 

もういいwww

腹がよじれるwwww

 

「うーきい ききききっっ うきいいっ うきいいいいいっ」

 

チンパンジーもできるのかよwww

サル真似うますぎんだろww

猿ガチ勢で草

誰か止めろよwww

すたっふうっ!

 

「失礼 先祖返りしちゃった」

 

リオは満足すると息を吐いて、一旦落ち着いた。ふとここで、マウスの横に置いておいた缶ビールの存在を思い出した。

 

「酒飲んでいい?」

 

ええ(困惑)

大丈夫なのか?

初配信で飲酒・・・だと・・・

初回特典多すぎませんかねえ

 

「心配ご無用 事前に許可は取ってあるのだ それじゃあ、みんなもお手元の缶ビールを用意していただいて、かんぱ~い」

 

かんぱ~い

カルピスう!

麦茶アッ!

水ウッ!

↑同志に乾杯

今日20本目です

やめとけ

 

リオはプルタブを引っ張り空気の抜ける甲高い音を鳴らす。そしてそのまま缶ビールに口をつけた状態で天井を向き、小気味よく喉を鳴らしながら

まるで滝のようにして胃に酒を流し込んでいく。

 

「ぷはああ~~ うめええ~~」

 

喉を鳴らす音が最高でした。まる。

美味そうに飲むねえ

まるで女っ気がなくて草

リオはゴリラやから雌だぞ

録音した

↑言い値で買おう

 

リオは途中まで飲んだ缶ビールを再びマウスの横に置いた。

 

「やっぱり飲むと気合が入るんだよな~ってことで 特技をみんなに披露するよ」

 

どうせサル真似だろ

いや、あっちが本体だろ

次はどのお猿ですか?

 

「猿じゃないよ けん玉だよ」

 

朗報 ゴリオ、猿以外も出来た

見えねえじゃねえかwww

どうすんのこれw

おじさんの金のたm{不適なコメントにより削除されました}

セクハラは駄目だぞ

 

リオは事前にPCの横に置いてあったけん玉を手に取ると、PC前の椅子に座りながらけん玉の剣先に玉を入れようと奮闘し始めた。

 

「座ったままだとなかなか難しいな」

 

木の音だけ聞こえてきて草

これが噂のASMRですか

どこ狙ってるんだ

多分先っぽでしょ

いや、お尻の方じゃろ

いや横じゃよ

 

「ふふ、先っぽじゃよ」

 

あああ外したああ

外したので〇にます

重すぎて草

ゴリオ、けん玉握りつぶすなよ

リオちゃんの立ち絵が半目で動かなくなってるww

名誉よりもけん玉じゃよ!

 

リオは集中して玉を振るい続けたが、剣先に弾かれてばかりで一向に穴に入る気配がなかった。

リオはなかなか上手くいかないことに少し苛立って、玉を雑に振るった。すると剣先が玉の横に当たり、今までで一番大きく横に弾かれた。

 

「あっ やばっ」

 

リオは咄嗟に声を漏らした。玉の飛んでいく先には丁度、飲みかけの缶ビールが置かれていた。

 

カーンっ

 

伸ばした手もむなしく、玉は缶ビールを直撃して乾いた音を響かせる。玉に弾かれた缶ビールは、中の液体をまき散らしながら倒れた。

 

どうした?

なんぞ?

いい音がしましたね

缶ビールこぼした?

いやまさか

ドラミングが聞きたいです

↑なんで今なんだよw

 

「ああ・・・ 缶ビールこぼした え、マウスも壊れた・・・ あ、うん、えと、丁度いい時間だし、お開きにしよう」

 

wwwww

情けない声好き

ギャップすこ

けん玉ENDで草

けん玉はもうこりごりお

↑遺言はそれでいいか?

 

「じゃあ みんなまたな」

 

またな!

またな~

ノシ

楽しかったぞ~

かっこいい声で草

またな

 

配信を切り終えると、リオはスタッフにすごい勢いで頭を下げた。

リオはスタッフに、けん玉を一発で成功させたら許すよ~っと言われたので、けん玉人生で一番集中して玉をふるった。

見事に成功した。

 

「見せたかったな~」

 

リオは静かに、つぶやいた。

 



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メリオカートだ!

たったっらたらー♪

 

時雨リオは陽気に鼻歌を歌いながら、PCの前の席に勢い良く座る。

そのまま背もたれにもたれかかって、目をつぶれば、思い出されるのは昨日の自身の初配信の様子であった。

実は配信が始まる前は、かなり緊張をしていた。

さらけ出した自分を否定される未来を想像して、不安になっていたのだ。

しかし、いざ配信が始まれば、トラブルこそあったものの視聴者とは楽しく会話することが出来た。リオは自分を受け入れてもらえたことに喜びを感じた。

リオは目を開けて姿勢を戻すと、今日も楽しくできればいいなと期待に胸を膨らませながら配信を開始した。

早速コメントが流れる。

 

うほおっ(挨拶)

うほおおお(挨拶)

うほおほっ(うほおほっ)

うほおーーほ(こんにちわ)

うほおっおっおっ(初見です)

うほお!?

 

猿がいっぱいいた。

 

「いや、なんでだよww」

 

リオは思わず笑い声を上げた。配信画面の横にあるコメント欄では、今もたくさんの猿の鳴き声らしきコメントが流れている。

また、それに時折混じる初見の人などの人語が、猿語とのコントラストを生み出してカオスな様相を見せていた。

 

「みんな、これはそういう挨拶ってことでいいのか? これでいいのか?」

 

うほお(賛成)

これはひどいwww

うほお!

動物園で草

うほおっおっおっ(うほおっおっおっ)

↑森へお帰り

 

「ああ、うん じゃあ好きにしてw」

 

やったあ!!

うほほほおっ

バナナはいつ食べればいいですか

ちょっと黒くなってるのが美味しいんだよ

ありがとう

うほおお(歓喜)

おっおっおっ

 

本来Vtuberと視聴者の間で共通の挨拶を決めるのがお決まりの流れとして存在する。それは一種の遊びのようなもので、リオもその流れに沿ってゴリラの鳴き真似を挨拶とすることにした。

楽しそうなコメント欄を見て、リオは満足そうに笑みを浮かべた。

 

「改めまして時雨リオだ よろしくっ! そういえばみんなに言ってなかったけど、私ゲーム結構好きなんだ」

 

コントローラー壊しそう

すまぷらとか強そう

対戦のこと試合って呼びそう

 

「あ~すまぷら楽しいよね でも今日やるのは これ」

 

そう言うと、リオは用意してきたゲームを起動した。

すると、リオの配信画面には一面ゲームタイトルが映し出され、同時にゲーム内キャラのメリオによるやたら甲高い声のタイトルコールが行われる。

 

\メリオカートッッ/

 

「やばっ」

 

!?

!?

!?

!?

 

記号のコメントが加速する。

予期せぬことに、スピーカーから音が割れるほどの轟音が繰り出された。ゲームの音量がでかすぎたのだ。驚いたリオは慌てふためく。

タイトルコールはまだ途中であり、このままではみんなの鼓膜が死ぬ。

リオは最悪な未来を一瞬の間に想定して、顔色を真っ青にしながら瞬時にマウスを動かしてゲームの音量を下げる。この間わずか0.5秒

 

(ええええいいいいいと)

 

音量バーを下げると同時に続きのタイトルコールが行われた。リオは咄嗟に音量を0にしていたので後半のタイトルコールは聞こえなかったが、そのおかげで視聴者の鼓膜は守られた。

リオは安堵の息を漏らした。

 

うるせえwwww

鼓膜死にかけた

音でかすぎて草

反射神経ないすう!

なんも聞こえんが

↑鼓膜崩壊ニキ久しぶり

やばっ(迫真)

 

「私、みんなを・・・守ったよ・・・」

 

感動の最終回です

名台詞みたいにすんなwww

壮大で草

音量を下げるだけで世界を救う女

イケメンヴォイスあざす

 

リオは少しふざけた調子を見せながらも、内心では心臓がバクバクだった。リオは視聴者に迷惑をかけることだけは絶対にしたくないと思っていた。

 

「ごめん みんな いや本当にごめんなさい」

 

気にしてないよ~

ミスはまれによくある

本日の情けないボイスいただきましたあ!

録音しましたあ!!

有能

 

「すまん それじゃ気を取り直していくよ」

 

リオは流れるコメントに励まされ、気持ちを切り替えた。

 

「みんなもう気付いていると思うけど、今日やるのはメリオカート8だよ」

 

でたあ タイプの違う様々なキャラから選択したキャラで、最大12人で一斉にコースを決められた週だけ走ってゴールを目指す、妨害だらけのはちゃめちゃレースゲームだ嗚呼ああああ

解説兄貴サンキュ

めちゃくちゃ早口で言ってそう

ありがてえ

さんきゅ

飲酒運転じゃん

 

「大丈夫、今日は飲んでないから それじゃあ早速キャラクター選ぶよ」

 

そう言ってキャラクター選択画面に進めば、たくさんのキャラクターが表示される。

プレイヤーはその中から一人、操作キャラを選ぶことが出来るのである。

 

猿にしろ

モンキーコングおるやん

うほおっ!!

親戚がいますよ

ゴリオ!?

 

「悪いみんな 赤好きだからメリオにするわ」

 

うきぃ・・・

さっきの犯人じゃん

声帯取ろう

俺も全身真っ赤だからリオに好かれる!?

血だるま先輩は病院行って

メリオ!?

得意のくそ寒ギャグですね(笑)

 

「ギャグじゃないから!」

 

リオは心の中で確かにギャグじゃんと密かに思いながらキャラを選び終えると、次にコースを選択した。対戦人数はぴったり12人集まり、対戦コースは山のステージに決まった。

ロード画面を挟んだ後で、画面は山のステージに切り替わる。それぞれのプレイヤーが操作するキャラクターが、スタート地点の前に一斉に並んで居た。

 

3・2・1 \GO/

 

画面に表示されたカウントを合図にプレイヤーは一斉にスタートする。

 

「おっしゃあああああ みんないくぞおおおおおお」

 

!?

おおおおおお

リオ・・・兄貴?

かっけえ

戦じゃああああああ

惚れる

 

リオは先ほどまでのテンションとは違って、画面の前でも身を乗り出して、威勢の良い声を張り上げながらスタートを切った。リオはゲームは上手でも下手でもないが、とにかく全力で楽しむことをモットーにしていた。

最初のプレイヤーが群がる団子状態を抜け出したところで、現在の順位は10位。後ろから2番目なので良い順位ではない。

リオは目の前に見えてきた、アイテムボックスをぶち破る。アイテムボックスはアイテムを手に入れられる箱で、手に入れられるアイテムはルーレットで選ばれる。

 

「良いの来い 良いの来いっ! 良いの来いっっ!!」

 

必死過ぎて草ァ!

命かけてんのかこいつ

競艇とかでよく見るやつwww

賭博黙示録リオ

アイテムを威圧する女

 

\スター/

 

「いえええええええすう」

 

リオは喉を震わせた。出たのは触れた相手プレイヤーを蹴散らす事のできるアイテムだった。

 

勝った時のテンションだろwww

ただスター出しただけだぞ

ポケモンの鳴き声かな?

これはギャラドス

猫が起きました

↑おはよう

 

リオは早速手に入れたアイテムを使うと、目の前を走っていたキノコのキャラに突撃しに行った。

 

「おりやああああああ」

 

や〇ざじゃん

きのびお逃げてえええ

これは怖い

当たり屋だあ

低い声好き

 

リオは車体を上手く当てて、キノビオを見事に吹き飛ばした。さらに何人かのキャラも跳ね飛ばし、順位を8位まであげた。

スターのアイテムが無くなったタイミングで、ちょうどよく見えてきたアイテムボックスを破る。出てきたのは狙って投げた相手に自動追従して当たる、赤い甲羅であった。

 

「おっしゃああああ」

 

また武器を手に入れてしまったwww

犠牲者が出るぞ

目の前にいるのキノビオ先輩じゃんwww

ま た お 前 か

逃げろおお(歓喜)

 

先ほどスターで跳ねられたキノビオだったが、気付くと再びリオの前に躍り出ていた。

リオは手にした赤甲羅を躊躇せずにキノビオにぶつけた。

 

「ごめん、キノビオ 悪気はないんだ 転がる甲羅が悪いんだ」

 

キノビオ不憫すぎるww

投げたのお前だろwwww

キノコに何の恨みがあるんだ・・・

アレルギーかな?

リオの前に立つのが悪い

俺にもぶつけてください

 

アイテムに恵まれたリオはそのまま順位を1位にまで押し上げると、安定した走りを見せた。そうして大きな変動のないままに、レースは残りコース1週となっていた。

現在、リオの手には緑甲羅が握られていた。緑甲羅は赤甲羅とは違って、相手を自動追従せず直線的に飛び壁に当たると跳ね返る性質を持つアイテムである。

 

「これ勝ったんじゃない?一位きたんじゃない!?」

 

しっかりフラグを立てるな

嫌な予感がする

きましたねえ、2位が

後ろ来てるぞ

前、草だぞ

 

「あっ やば」

 

油断していたリオは車道横の茂みに突っ込んでしまった。すぐに車道に戻ったが、後ろから来たプレイヤーに抜かされ順位を3位に落としてしまった。

 

「ま、まだ、大丈夫だよ うん、大丈夫」

 

フラグ回収ww

あ ほ く さ

声震えてるよ

リオ今日もかっこいいよ

甲羅当てろ

 

「よし 甲羅当てるわ」

 

リオはそう活きこんで2位のプレイヤーの背中に狙いを定めた。

 

「お゛らっ」

 

リオが気合と共に投げた緑甲羅は、しかしプレイヤーには当たらずに横に逸れた。

そしてそのまま壁に当たると反射して、リオ目掛けて飛んできた。

 

「うそお!? まってまってまっt ぐうっ!!」

 

リオの投げた甲羅は、見事にリオに命中した。

 

自業自得ww

バチが当たったんだろ

めちゃくちゃ情けない声で草

アザラシを締め上げたような声で鳴くな

ぐうっ

好き

 

「やばいやばいやばい 抜かされる抜かされる」

 

甲羅が当たり走れなくなっている間に、後ろから次々とプレイヤーがやってきてリオは6位に順位を落とした。

すぐさまアクセルを踏みなおすも、走り始めはスピードが遅く恰好の的になってしまう。

 

後ろからキノビオが来てる

光ってるぞあいつwww

逃げてえええ

スターだあああ

 

のろのろと走るリオの後ろに、スター状態のキノビオがぐんぐんと迫ってきてた。

リオは横に逸れて何とか逃げようとしたが、あっという間に距離を詰められてしっかりと跳ね飛ばされた。

 

「ぐへええっ」

 

カエルの潰れたような声を上げるリオだったが、更に運の悪いことに弾き飛ばされた先は崖になっており、リオは真っ逆さまに奈落へと落ちていく。

 

「なんでえええええ いやだああああああ」

 

キノビオ先輩怒ってたねえwww

断末魔で草

死刑でも決まったのかwww

因 果 応 報

リオは芸人だったんだなって

芸人ゴリラ

 

奈落に落ちたリオの車は大幅な時間ロスと共に回収されて、コースに引き上げられた。現在の順位は11位。

せめてゴールはしようと、リオは再び車を走らせようとした。しかしそれは叶わなかった。

 

\サンダー/

 

リオの車体に誰かが使用したアイテム、サンダーが落とされた。サンダーを落とされたプレイヤーはすぐには動けないだけでなく、小さくなってしまうのである!

 

「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ と゛う゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛」

 

\パンパンパンパンパンパン/

 

リオはコントーラーから手を放し、咆哮を上げながら手で膝を激しくたたいた。

 

カイジすぎるwwww

もうぐっちゃぐっちゃだよ

お膝パンパン

あぁ~!膝の音オ~!!

恐竜みたいな声を出すなwwwww

フルコンボだドンッ!!

人 生 逆 転 ゲ ー ム

ボコボコで草

絶叫がプロwww

 

リオを襲った惨劇に、コメント欄はかつてない賑わいを見せた。

最終的にレースはリオ以外の他のメンバーがゴールしたことにより順位が確定し、リオがゴールすることさえ許されずに幕を閉じた。

 



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雑談だ!

時雨リオは今日も今日とて配信をする。そのために、自らのNowTubeのチャンネルのページを開く。

リオのチャンネルの登録者数の増え方は最近、とても地味だ。

それでも自分を受け入れてくれる人が少しでも増えてくれているのかと思うと、リオは嬉しいばかりで地味だろうが全く気にならなかった。なんなら今の配信状態でもいろいろな人のコメントが見れて楽しいので、これ以上登録者数が増えなくてもいいんじゃないかとさえ思っていた。

だがそれでも、その数字を見た時リオは大層驚いた。

チャンネルを開くとまず表示される、チャンネル登録者数。

時雨リオのチャンネル登録者数は・・・3倍になっていた。

「ええええ!!???」

リオはPCの前で一人、絶叫した。見間違いかと思い、表示されているアイコンを確認した。

見覚えのある紺色のショートカットが大きい目で、睨むようにこちらを見つめている。

スタッフにはカラスみたいだねと評されるこの子。間違いなく時雨リオである。

 

「おもしれえ・・・(遠い目)」

 

リオは笑みを浮かべて、急いで配信を開始した。

 

うほおっ!(挨拶)

うほおお!

うほ

おはうほ

 

配信を始めると同時に、コメント欄では前回決めた挨拶が当たり前のように流れていた。

 

「よ、みんな!時雨リオだ! はいはいみんなうほうほ~ はい、うほうほ~」

 

雑で草

とってつけたようなウホウホ

ウホウホを大事にしろ

えせごりら

 

「ゴリラじゃないからっ! ていうかウホウホしてる場合じゃないんだよ チャンネル登録者数がめちゃくちゃ増えたんだよ!」

 

バグじゃね?

買ったんか

間違えたんじゃね

誰一人信用してなくて草

 

リオは楽しいことを視聴者と共有したい気持ちで、興奮しながら話す。

 

「本当だってば 見て? 見た? すごいだろっ!?」

 

切り抜きだろうな

あれか・・・

切り抜き見ろ

切り抜きからきました

 

コメント欄には切り抜きの文字がたくさん流れていた。切り抜きとは、Vtuberに限らず実況者などの名シーンを視聴者の誰かが、文字通りピンポイントで切り抜いて投稿した動画のことである。

 

「切り抜き? ちょっと待って調べてみる」

 

サムネが目見開いてるやつ

今にも襲い掛かってきそうなやつ

がんぎまリオ

圧を感じるサムネ

 

リオは水色の配信画面をNowTubeの画面に切り替えると、検索バーに「時雨リオ」の名前を打ち込んだ。

すると「時雨リオ」の横に予測候補が表示される。上から順に「ゴリラ」 「叫び声」 「けん玉」と続いていた。

 

叫びながらけん玉するゴリラで草

ゴリラショーじゃんwww

直球ゴリラで草

ほら泣けよ 鳴けよ

 

「これ大体みんなのせいだろっ!」

 

リオはとりあえず「時雨リオ」で検索をかけた。すると動画欄の上から三番目辺りに、先ほど視聴者が言っていたサムネっぽい動画を見つけた。

 

「時雨リオの生態・・・再生回数4万ッッ!?」

 

ちなみにタグは動物だぞ

これはひどいww

また伸びてて草

いつ見てもサムネが強い

 

リオは驚いて、声が裏返った。サムネの口と目を限界まで開いている時雨リオが、PC前の時雨リオを見つめていた。

内容はすこぶる気になる。しかし配信で流すのはよろしくない。

そこでリオは画面を水色の配信画面に戻し、手元のスマホで見てみることにした。

 

「みんなごめん ちょっと待ってて」

 

リオはそう言い残すと、視線をスマホに移し、イヤホンをつなげて動画を再生した。

動画の内容は、リオの初配信とメリオカートのプレイの様子を5分間にまとめたものだった。と言っても後半は、リオがひたすらに叫び声を上げているだけだったが。

 

「うわあ やっば・・・ うるさっ・・・」

 

リオは動画を見ながら自然と言葉を漏らしていた。ただ、リオはイヤホンをしていたので自分が声を出していることには全く気付いていなかった。

 

自分にドン引きしてて草

俺と同じリアクションしてるんだがww

つぶやく声すこ

時雨リオを見る時雨リオを見る視聴者

 

リオは動画を見終えると、少しくたびれた様子で再び配信画面に顔を向けた。そこにはリオのリアクションを楽しむコメントがたくさん流れていた。

 

「えっ 声漏れてた? 嘘お!」

 

録音しました

引いてたね

漏れまくりだったぞ

なんか汚い

可愛い

 

「まじか・・・ というか何か疲れたよ」

 

分かる

分かるまーん

ライフを吸い取る声

化け物かな?

ゴリラだよ

 

リオは自分の声と姿を見て、発表会を見ているような気分になって少し緊張したのだった。

 

「でも、この動画のおかげで人が増えたわけだ 嬉しいよな~、kuziraさん? かな、ありがとう!」

 

さんきゅ

あざす

名前呼ばれてうらやましい

クジラ兄貴ありがとう

これは終身名誉クジラ

 

「それじゃあ・・・今日は雑談していこうかな」

 

リオは今日は雑談枠をすると決めていた。ゲームも好きだが、視聴者と会話するのも同じくらい好きだった。

 

けん玉しろ

 

「しないよっ」

 

メリカしろ

 

「しないよっ」

 

腹筋しろ

 

リオは流れるコメントを流し見しながら、適当に読み上げていく。その中でも出来そうなものはやってみることにした。リオはPC前の椅子から、立ち上がると床に寝転がり腹筋を5回ほどした。視聴者には椅子の軋んだ甲高い音と、身体を腹筋で持ち上げた時の微かに漏れ出たリオの吐息だけが聞こえていた。

 

「したよ」

 

全然わからなくて草

なんでしたんだよwww

なんでさせたんだよww

筋トレ系Vtuber

 

「みんなもやってみなよ、やれよ 楽しいよ」

 

やれよ(脅迫)

脅迫で草

筋トレを押し売りする女

強い

 

リオは笑いながら、ふと視線をPCより横にずらして窓を見る。

季節は夏である。リオはクーラーを効かせた涼しい部屋にいるが、外では太陽の光が照り付けていて室内からでも暑さが容易に想像できた。

リ オ は ギ ャ グ を 思 い 付 い た。 

 

「みんな、外見て 太陽がSunSunと輝いてるね なんつって」

 

は?

でたあ、リオのくそ寒ギャグ

涼しくしてくれて助かる

 

「夏はやっぱラムネだよな~」

 

話題変えるの早くて草

滑るまでが1セット

慣れてるなww

逃げるな

 

リオは棒読みで、すぐさま話題を変えた。頭の中には、幼少時代の懐かしい風景が浮かんでいた。

 

「子供の頃とかラムネのビー玉欲しかったんだけど、取れなくてさ~」

 

分かる

全然取れないよね

子供の力じゃ難しいな 

懐かしい

 

「よくビンを叩き割ってたよね」

 

!?

分からない

ねえよ

やっぱりゴリラじゃねえかwww

やば

 

「えっ しないの!? じゃあどうすんの?」

 

大人に頼めや

どうもしないが

ゴリラ界の常識持ち込むな

 

「そうなんだ・・・」

 

リオはあるあるだと思っていたために、少し驚いた。思い返せば、親に怒られた記憶があったかもしれないとうっすら思いだしたが、すぐに忘れた。

 

「でも炭酸って美味しいよね そういえばNowTuberってよくメントスコーラやってるよね 私もやってみようかな、酒とかで」

 

酒メントスwww

酒飲みたいだけだろww

どうやって配信すんだよ

結局酒よな

 

「あれさ、腹にメントスとコーラ入れたら爆発するのかな」

 

怖すぎるww

放送事故じゃん

別に気持ち悪くなるだけだよ

先駆者いて草

 

リオはVtuberだけでなく、NowTuberの動画もよく見ていたので、ずっと気になっていたのだった。

 

「そっか」

 

残念だったな

落ち込まないで

爆発してほしかったのかww

かあいい

 

「それじゃあペットボトル口にくわえて、メントス入れて、ペットボトルの飲み口から噴き出したコーラでマーライオン実況するわ」

 

じゃあとはwwww

どうしてそうなったwww

意味分からん

鬼才過ぎるwwww

何が面白いんだそれww

 

「けん玉もするよ」

 

カオスかよww

何の儀式ですか

やばいww

 

リオは特技のけん玉を初回の配信で披露していたのだが、結局、技を決められないまま終わってしまっていた。

そのために、いつかリベンジの配信をする野望を密かに燃やしていた。

 

「小さいころはラムネとか駄菓子屋で買ってたけど今、ほとんどないよね」

 

せやな

悲しいよね

近所の潰れた

うちにこい

 

「え? puroさん、うちにこいって本当に? 本当に実家、駄菓子屋なの?」

 

嘘です

 

「嘘じゃねえか!」

 

騙されてて草

美しいツッコミwww

即落ち2コマ

これは草

 

見事な突っ込みを見せたリオは、コメントの中で気になるものを見つけた。

 

「好きな食べ物とかある?」

 

リオには好きな食べ物がたくさんある。甘いものもしょっぱいものも。ただ最近はまっているものがあった。

 

「好きな食べ物か~ 辛いラーメンとか好きかな」

 

鳥取に来い

 

誰かが言った。

 

「へえ~ 鳥取に辛いラーメンあるんだ~ 今度行こうかな」

 

puroだぞ

puro

puro兄貴で草

 

「え?」

 

リオはコメント欄を注視する。

 

嘘です

 

「puroじゃねえか!」

 

またpuroに騙された。

 

puroは二度刺す

リオ一本釣りww

purowww

 

「ああ、でも 旅行配信も楽しそうだよね ヴァーチャル関係なしに普通に配信するやつ まあ、金ないから無理だけどw」

 

泣くな

スパチャ投げたい

早く有名になってくれ

でも有名になってほしくない

分かる

コラボしろ

 

スパチャとは視聴者が、配信者にお金を投げられるシステムであった。有名配信者はそれでかなりの額を稼いでいたりする(ほとんど会社に吸い取られるが)

いずれにしてもリオには金がないことは事実だった。ただリオは、配信は楽しめればいいというスタンスなので、実はさほど興味もなかったりもする。

 

「コラボとか楽しそうだよね 同期の夢野雫さんとかに頼んでみようかな」

 

やめろおおお

雫ちゃんが困る未来がミエル・・・ミエル・・・

近づくな

逆におもしろそう

阿鼻叫喚で草

 

夢野雫とは時雨リオと同時期にデビューしたVtuberで、時雨リオの数少ない同期の一人であった。

またそのキャラクターは非常にかわいらしく、視聴者の間では癒し系として専ら大人気であった。

 

「あとは、同期で言うと、ああ・・・駿河武士さん・・・かな」

 

うわでた侍

あの侍、同期かよww

出たリアクション芸人www

リオの仲間じゃん

動画見たことある?

 

「動画見たこともあるよ あの、この前の壺配信で落ちるたびにめちゃくちゃ叫んでたよねww」

 

でたww

壺が本体だぞ

リオといい勝負

芸人コラボええやん

 

コメント欄は駿河武士の名前でにわかに賑わった。駿河武士はとにかくリアクションが大きく、イライラゲーム界隈の実力者である通称「壺」と呼ばれるゲームを実況しながら

ひたすら叫んでいた。見た目が侍のことから視聴者からは大体、侍と呼ばれていた。

 

「あんまり気が乗らないけど、連絡してみようか」

 

そう言うとリオは、駿河武士に連絡をかけた。何回かのコール音の後に「おうっ」という威勢のいい声が聞こえた。

 

「駿河武士さんですか」

「いかにも某があああああ、江戸のおおお大剣豪と呼ばれた男おおおおお、駿河武士だああああ」

 

ほら来た。

リオの声に反応して、駿河武士は大きくわざとらしい声で口上を読み上げた。鼓膜を揺らす不快な音にリオは顔をしかめた。リオは素早く音量注意の文字を画面に表示した。

 

\音量注意/

 

リオは息を吸い込む。

 

「時雨リオですうううう」

 

うるせえええwwww

奇跡の邂逅

出落ちで草

対抗すんなwww

怪 獣 バ ト ル

 

同じくらいでかい声量で駿河武士に張り合った。

 

「うるさいんじゃあああ」

「それはおまえじゃあああああ」

 

同 族 嫌 悪

仲良くしろよwww

音量注意サンキュ

もうケンカしてて草

 

二人は通話越しにいがみ合った。リオは少し前の記憶を思いだす。実は駿河武士本人とは、デビュー前に既に事務所で顔を合わせていた。その際に如何に侍が素晴らしいかを、やたらでかい声で力説してきたので、興味ないとばっさり切り捨ててたらいつの間にかケンカになっていたのだ。

 

「なんなんだ時雨リオ」

「あ、今配信中です」

「某もだあああああ」

「やめろそれえええ!」

 

叫ばないと喋れないのかwww

こいつら戦ってんのかww

ゴリラvs武士

コントで草

 

リオは既に身体が疲れているのを感じていた。

しかしコラボの約束を取り付けない限り、通話を切るわけにはいかなかった。

 

「それで何の用だ」

「いや、今度コラボできないかなって」

「よいぞよいぞ 是非ともコラボをsぶわああああああああ」

「何でだよ!!」

「拙者、落ちたで候! 拙者、落ちたで候! 拙者は早漏!」

「何言ってんだあんたっ!!」

 

駿河武士は話をしている最中にも、壺のゲーム配信をやっていた。唐突な叫び声はせっかく上り詰めた山から、落ちた事によるものだった。

 

配信で壺やってるぞ

さすが壺おじさん

イライラしてんねえwww

せっかく昇れたのに落ちてったww

 

「すまぬ それで日付は? 時刻は? いつにするか? 丑の刻にでもしておくか?」

「いつだよそれ!」

「虎の刻にするか?」

「だからいつだか分かんねーよ!」

「ね? 子の刻にするのか?」

「言ってないよ!!」

 

もうだめだwww

何を見せられてるんだwwww

どうすんだこれww

 

駿河武士は、持ち前の天然を発揮して場を混乱に陥れた。リオは頭を抱えた。

 

『いつも大きな声出してるから聞こえないんだろ、バカ侍!』という言葉を何とか飲み込んだ。

 

「いつも大きな声出してるから聞こえないんだろ、バカ侍!」

 

出てしまった。

 

直球で草

ケンカやめろってwww

これは仕方がないwww

 

「何い!? 馬鹿だと! 貴様こそ古き良き侍の良さが分からぬ愚か者だろうが いいか侍の起源というのはだな・・・」

「もういいから!」

「特にこの甲冑がまtぶわああああああああ」

「またかよ! 切るよ! 切るからね!」

「13日の夜9時にしようぞ」

「聞こえてたのかよ!!!」

「かっかっかっk」

 

武士の乾いた笑い声を無視して、リオは通話を強制的に切った。荒い息をつきながら画面を見れば、コメント欄ではすごい速度で草が生えまくっている。

リオと武士のコラボが決まった。



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こちら駿河武士対策本部だ!

PCに向かう時雨リオは、キーボードで文字を打ち込んでいた。

素早い手つきで文字が入力されていき、画面にテキストが浮かび上がる。部屋にはクーラーが風を送る音と、打ち鳴らされるタイプ音だけが響いていた。

そのうちにリオは手を止めた。画面に表示されたのは「対策本部」の文字。リオはそれをササッと拡大して、画面の中央にパパッと設置する。

そうして配信をスタートさせれば、今日もたくさんの猿の鳴き声がコメント欄に流れ始めた。

リオはそれを横目で確認すると、机の上に両肘をついて、手を絡ませて顎を乗せた。

 

「これより、駿河武士対策会議を始めるっっ!!」

 

目を力強く見開いて、声高らかに宣言した。

 

決まったあ・・・

 

目を閉じて雰囲気を味わう。

気分はエリート女社長の新人Vtuber、時雨リオである。

 

事の発端は先日決まった、駿河武士との突発コラボであった。リオは犬猿の仲である駿河武士とのコンタクトに四苦八苦しながらも、何とかコラボの約束を取り付けることに成功した。

しかし安心したのも束の間、リオはふと気づいてしまった。

話すことないじゃん、と。

椅子の背もたれにもたれかかりながら思い起こされるのは、初めての出会い、そして先日の通話。

いずれにしても会話になっていなかった。

キャッチボールというかドッヂボールである。何なら戦争まである。

そこでリオは、視聴者に協力を仰ぐことにした。

配信タイトルを「駿河武士とコラボ決定やったあ!」と銘打っての、対策会議である。

 

 

「ということでみんなぁ、意見よろしくぅ」

 

リオは疲れた表情を浮かべながら、間延びした声で視聴者にお願いをした。

 

彼は江戸に返そう

耳栓をしよう

けん玉で仲良くなろう

とりあえず叫んでおけ

可愛い

 

視聴者の多くは、駿河武士とリオの通話の様子を知っているために、半ば諦めた様子であった。

 

「みんな、何とか頼む! このままだと皆の鼓膜ぶち破っちゃうコラボだよ!」

 

リオは画面の前で手を合わせた。

 

怖すぎて草

パワーワードやめろww

こいついつも鼓膜破ってるな

ちなみに何するか決まってるの?

 

「ああ、言い忘れてた ゲームはRUBGをやることになったよ」

 

リオは補足をした。

 

でたあ、最大100人が同じフィールドでドンパチし合って、生き残りを目指すシューティングバトルロワイヤルゲームだあああああ

解説ニキさんきゅ

いつもありがとう

武士に銃が扱えるのか?

 

RUBGはとても有名なゲームで協力プレイもできて実況もしやすいということで、武士との打ち合わせの中で自然とやることに決まったゲームだった。

しかし、いくら面白いゲームだからと言っても、コラボ相手との対話を諦める免罪符にはなってくれないのである。

リオが頭を抱えていると、気になるコメントが流れてきた。

 

ちなみに今の段階で、何話そうとしてるの?

 

リオは目をつぶり、武士と実際にコラボしている様子を思い浮かべた。

 

「ん~、今考えてるのは好きなバナナの種類の話とか・・・」

 

それはゴリラにしろwww

バナナデッキで草

聞かされる側の気持ちよww

新手の嫌がらせかな?

 

「後は好きな筋肉の話かな」

 

リオ、お前はゴリラの社会が適している

リ オ の お 話

刑務作業にありそう

ペッパー君の方が上手く喋りそう

 

「そんなに言わなくても」

 

リオはそう言って口を尖らせた。しかし、内心では話が弾まない未来が容易に想像できてしまい顔を曇らせた。

リオは何とか楽しく話が弾んでいる未来をいくつか描こうとしてみる。

しかし思い描いたどの未来でも、武士はひたすらに馬鹿みたいに大声でわめいていた。

脳内でいくつも重なり合う声は、まるで呪いのようである。

リオがげんなりしていると、素晴らしいコメントが流れた。

 

喋れないなら喋らせろ

いっぱい質問しよう

ええやん

他力本願(小声)

 

リオはそれを見た瞬間に目を輝かせた。

 

「天才じゃん! 私の勝ちじゃん! さあ皆、質問を考えるんだ!」

 

思えば最初から他力本願だったわww

勝ったな(白目)

お前何もしてないぞ

リオを甘やかすな

 

「ほらじゃんじゃん♪ じゃんじゃん♪」

 

ていうか、ゴリオのことすらあんまり知らないんだけど

せやな

先にリオ姉貴の話を聞きたい

分かる

 

「え? 私っ?」

 

浮かれていたリオは、予想外の展開に目を丸くした。

しかし考えてみれば、いつも自分から自分のことを一方的に話すばかりだった気がする。

リオは丁度良い機会だと思い、時雨リオへの質問コーナーを開くことにした。

 

「よし みんな今から自由に私への質問を書くんだ 私が適当に読み上げていって、適当に答えてくよ」

 

やったあ

うほおっ!

いいね

やったぜ

 

リオがそう宣言すると、コメント欄はあっという間に賑わい始める。

リオは早速、流れてくる質問をどんどんと読み上げていき、その中から答えられそうな質問は答えていった。

 

「ええ~ "Vtuberになったきっかけは何ですか?"  ええと、勤めてた会社が倒産したからかな」

 

開 幕 10 割

おっも

えぇ・・・

いきなりラスボス出すな

 

「それで次の仕事全然決まんないし、毎日つまんなくて そしたらたまたま配信してたVtuberを見てさ みんなで何かやるの楽しそうで良いな~って思って」

リオは偽り無く、正直に答えた。リオにとっては過去のことであり、それがそれ以上の重さを持つことは無い。そのため話すことにも抵抗はなかった。

 

リオ、一生ついてくわ

リオ姐しわ汗になって

↑なんか汚くて草

↑幸せだろww

泣ける

 

「ほら、何しみったれてんの次いくよ 次い!」

 

リオは予想よりも暗い雰囲気になったので、明るい話題を探した。

 

「ええと“スリーサイズ教えてください”かw」

 

地雷を踏み抜いた。

 

高低差えっぐww

ジェットコースターかな?

涙返して

セクハラはダメだぞお

 

「81 61 87」

 

答えるのかよww

迷いがなくて草

さすがリオだ

強い

 

リオは次々と質問を読み上げていく。

 

「はい、次 "何か飼っていますか? それはゴリラですか? 可愛いですね" 質問じゃないのかよっ!」

 

質問じゃなかったww

クソコメで草

ゴリラの握力は約400kgです

↑聞いてないです

 

「でも一応答えるかな ウーパールーパーを一匹飼ってるよ」

 

食用ですか?

 

「あ゛あ゛っ?」

 

ごめんなさい

素直に謝れて偉い

怖いい

ウーパーかわいいよウーパー

 

リオは質問を読み上げていく中で、ふと英語の質問が混ざっていることに気が付いた。

リオは思わず笑みを浮かべた。

 

「皆、すごいよ! 英語だよ! いや~とうとう海越えちゃったか~! 世界進出しちゃったか~」

 

すげえ

外国人ニキ!

さすリオ

なんて書いてあるの?

 

「ええとなになに?"Am i rice cake?"だってさ! 英語分かんないからgaggle翻訳かけるね」

 

あっ

リオは馬鹿なのかもしれない

筋肉の弊害か・・・

 

リオはgaggle翻訳のページを開くと、ウキウキで翻訳にかけた。

翻訳された文が日本語で読み上げられる。

 

\私はお餅ですか/

 

機械特有のゆっくりとした発音で、丁寧にそしてはっきりと読み上げられた。

 

「何でだよっ!」

 

リオは身を乗り出して思わず叫んだ。英語コメは視聴者の手の込んだ偽装工作、もしくはお餅からのコメントだった。

 

餅も見てます

騙せば騙すほど味が出る

りおともち

↑“ぐりとぐら”みたいに言うなww

 

リオはそろそろ終わりにしようと思い、最後のコメントを拾った。

 

「ああもう次い! “zyよん歳になりました。祝ってください” ん?」

 

ま~たクソコメを引いたのか

zyよん歳!?

zyよん歳おめでとう

[u]が足らん

 

「[u]が足らない・・・? ああ! じゅうよんさい! 14歳か! おめでとう」

 

uぶっ壊れニキwww

そういうことかww

なぞなぞみたいで草

おめでとう

 

Uぶっ壊れニキは連続でコメントを投稿していた。

 

「“りおさんエスキ!” Sキ? ああ~[u]壊れてるからかw 好きなってくれたのかな? ありがとう」

 

エスキで草

怒涛のuぶっ壊れニキ

“ESUKI”!?

↑“U”使えんのかよwww

 

次のコメントが流れてくる。

 

「ええと、・・・“パンT!” U使えないからって何でも許されると思うなよ!!」

 

ただの変態で草

しかもU使えるからなこいつw

ぱんつorぱんてぃー こいつ、できるッッ!!

 

「はい、終わりでーす」

 

リオは一通りコメントを読み終えると、質問を打ち切った。たくさんのコメントを捌いたことによりリオは謎の達成感を感じ、

満足して配信を終えようとしたが、そこで頭の片隅に違和感を感じた。

リオは暫しの間、思考に沈んで、違和感の正体を探る。そして気づいてしまった。

まだ、武士への質問決めてないじゃん!!

しかし、今から質問を練るのは面倒だと思ったリオはNowTubeのある機能を利用することにした。

それはコメント抽出機能である。この機能を利用すれば、今あるコメントの中から、ランダムで好きな数コメントを選ぶことが出来るのである。

また<利用者が指定する範囲を決めることも可能である。>

 

「みんな、忘れてたけど武士への質問を決めなくちゃならない そこで、今から皆には武士への質問をとにかく書きまくってほしい 私がその中からコメント抽出機能でいくつか適当に選んで、その書かれている文のまま訊いてこようと思う」

 

OK

了解

いいね

OK

範囲

範囲忘れるな

 

リオの言葉に反応して、たくさんのコメントが一斉に流れ始めた。その速度はすさまじく、書いてある事が目で追えない程である。

リオはある程度コメントが溜まったタイミングを見計らって、コメント抽出を行った。

 

「抽選結果はこれだっ」

 

リオは期待に胸を膨らませ、笑みを浮かべながら結果を待った。

5つのコメントが選ばれた。

画面に表示された。

 

\スリーサイズを教えてください/

\Am i rice cake?/

\zyよん歳になりました。祝ってください/

\パンT!/

\団子のつくり方を教えてほしいにゃん/

 

表 示 さ れ た。

 

「と゛う゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」

 

wwwwww

地獄で草

ノルマ達成

様 式 美

 

リオは天井を見あげながら、獣のような叫び声を上げた。

原因は<指定する範囲を決めなかったこと>である。そのためすべてのコメントが範囲に選ばれた。

純粋に忘れていたのだ。

ただそのミスが、絶望を吸い寄せた。

 

「み・・・皆・・・ もう一回やらない?ね?」

 

駄目です

“書かれている通り”に訊いてきてね^^

情けない声すこ

たのしいいいいい

 

視聴者は楽しいことが大好きだ。

リオは泣いた。



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RUBGだ! [1]

先に謝罪させていただきます。ごめんなさい。


ワード[スリーサイズを教えてください] [Am i rice cake?][zyよん歳になりました。祝ってください][パンT!][団子のつくり方を教えてほしいにゃん]

 

時雨リオは机に覆いかぶさるように上半身を折ってぴったりと机に密着させて、顎だけをちょこんと机に乗せた状態で座っていた。

その顔には憂鬱な表情を浮かべて、恨めしそうにまっすぐ前を見つめている。

視線の先にあるのは、机に置かれた置き時計。

時計は時を刻み続けていて、現在の時刻は20時53分である。リオは眉間にしわが寄るほどに、一度強く瞳を閉じた。再び開いた時、54分になっていた

リオは意味のないことだと知りながら、時計を強く睨みつけた。

やがてリオは大きなため息をつきながら立ち上がると、重い足取りでPCの前の席に着く。

もうすぐ、配信が始まる。恐らく今までで一番疲れる配信が。

 

何だあの5つのワードは。私は今日、死ぬのか?

 

リオはもう一度、深いため息をついた。

 

時刻が夜9時を回り、リオが配信を始める。

配信画面には目つきの悪いショートカットの少女とちょんまげ髭面の浴衣男が映し出され、背景にはRUBGのタイトル画面が映し出された。

コラボ配信の幕開けである。

 

「皆、こんばんわ 初めましての人は初めまして 時雨リオだ 今日はよろしくっ!」

 

リオは少し緊張した声色で挨拶をした。今回の配信ではいつもの配信とは違い、自分だけでなく相手側のチャンネルの視聴者にも声が届くためである。

そして当然それは、相手側も同じ条件である。

つまり・・・

 

「ああああああ某があああああ、江戸のおおお大剣豪と呼ばれた男おおおおお、駿河武士だああああ」

 

馬鹿の轟音が響き渡った。

 

「うるせえつってんだろおおおお」

「駿河武士だあああああああああ」

「さっき聞いたああああああ!」

 

きたあああああ

ケンカRTA

リオ引っ張られてて草

待ってましたあああああ

うるせええええ

 

駿河武士は相変わらずの爆音であった。リオは今日のコラボの前に、絶対にキレないという誓いを己に立てて配信に臨んだが、5秒持たなかった。

 

「武士さん、マジでうるさいです 江戸の挨拶か何かですか、それ」

「いや、声でかい方がかっこいいだろ」

「かっこよくないわ!」

 

感性がバグってらww

江戸基準だとかっこいいんやろ、知らんけど

もう江戸に返そう

ちょんまげをちくわにしたい

 

リオは武士の変わった感性に触れて、理解することを早々に諦めた。時間がもったいないので、話を先へと進ませる。

 

「とりあえず武士さん、本日はコラボ受けて下さりありがとうございます」

「うむっ 今宵を楽しい夜にしようぞ!!がっはっはっは~~」

「始めますね」

 

楽しみだな

そのうちお互いで殺し合いしてそう

リオにはひっさt技をさzけた

Uニキ居て草

 

武士は豪快な笑い声をあげていた。リオはそれをBGMに、とっととゲームを開始する。すると画面には、様々な地形が見れる大きなマップが表示された。

このRUBGというゲームでは、広大なフィールドで一度にたくさんのプレイヤーが戦うのだが、そのフィールドに降り立つ地点は自分で選ぶことが可能であった。

 

「武士さん、最初どこにしますか?」

「なあ」

「私は小さな民家がいいかと思うのd」

「なあ」

「はい?」

 

リオがマップを見ながらスタート地点を模索していると、横から遮るようにして武士が話しかけてきた。

 

「どうかしましたか?」

「その敬語をやめにするのだ このコラボはお互いの親睦を深める意味もある故、お互いため語で話そうぞ」

「そんな意味あったんですか」

 

初耳だった。

 

ええやん

温度差ww

仲良くなるチャンスだ!

悪くない

 

「何て呼べばいいですか?」

「ふう!なんでもよいぞ!将軍様でもよいぞよいぞ!」

「じゃあヒゲで」

「なっ」

 

駄目みたいですね(白目)

何でもいいって言ったからなw

剣を順番に突き刺していこう

↑武士ひげ危機一髪ww

 

リオは武士の見た目から、いたずら心で呼んでやった。

武士はあご髭が濃いめに生えているのが、特徴だった。

 

「ごめん冗談ww 武士でいくね」

 

ちょっとしたストレス発散だったことは内緒である。

 

「そうか ならば某は、何と呼べばよろしいか?」

「う~ん 私は私だからな 時雨でもリオでも好きなように なんなら美少女り・・・」

「どうした?」

 

なんだ

時止まった?

りおとDIO

”ぐりとぐら”シリーズやめろww

 

リオは”美少女リオ”とふざけて言おうとしたのだが、その瞬間に頭に電流が走った。

先日の配信で、視聴者と共に武士に言わなければならないワードをいくつか決めたのだった。それらはあまりに荒唐無稽で使いどころに困るワードばかりだったために、

リオは頭を悩ませていた。そのためリオは、とにかく隙を逃すわけにはいかないと、実は配信が始まってからワードを吐き出せる機会を虎視眈々と狙っていた。

そして見つけってしまったのだ、好機を。ならば言うしかない。

 

「び・・・美少女”パンT!”と呼んでもいいぞ!」

「・・・は?」

 

時が止まった。ワードの1つ”パンT!”である。

 

きたあああ

美 少 女 パ ン T !

選ばれたのは”パンT”でしたwww

どうすんだこれwww

 

「す・・・すまぬ、もう一度言ってもらえるか?」

「何度でも言おう パンTだ! 私はパンTだ!」

「そう・・・だったのか・・・」

「そうなのだ!」

 

何なんだこの状況はww

パンT!(迫真)

変態で草

何で武士は受け入れてんだよww

江戸にはいたんだ、ぱんTが

 

リオは声高らかに宣言した。本当は顔から火が出そうになる程に恥ずかしかった。しかしワードを言わなければならない重圧感、多くの人に見られている緊張感、そしてぱんTの背徳感という究極の状況により、リオは謎の高揚を感じていた。

例えるならば、マラソンをしている時のような感覚に近い。

そう、それはまさに”パンT-ズハイッッ!!”

この時のリオは間違いなくパンTの魔力に取りつかれていた。

頭の中がパンTしていた。

世界がパンTだった。

そんなパンTに武士は答える。

 

「ここは悩ましいが、リオと呼ばせてもらう」

「パンT!(何故!?)」

「なぜならパンTは3文字、リオは2文字でリオの方が呼びやすいからな がっはっはっは」

「・・・パンT!(そっか)」

 

誰か俺を殺してくれ

狂いそうwww

リ゛オ゛ち゛ゃ゛ん゛か゛わ゛い゛い゛な゛ぁ゛

ガンギマリオ

 

そんな会話をしているうちに、RUBGの最初のスタート地点を決める時間が過ぎてしまった。

2人はペナルティとして海からのスタートとなる。

リオと武士はあわてて陸地を目指して泳いだが、健闘むなしく溺れ死んでしまった。



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RUBGだ! [2]

ワード[スリーサイズを教えてください] [Am i rice cake?][zyよん歳になりました。祝ってください][パンT!][団子のつくり方を教えてほしいにゃん]

 

リオは自分と武士の操作するアバターが溺れ死んだのを見て我に返った。

 

「ぬおおおおおお 死んだのかあ 死んでしまったのかああああ嗚呼!」

 

何か聞こえるがそれよりも、さっきまで自分はとんでもない事を言っていたかもしれないという気がした。

しかし思い起こそうとすると、全身から冷たい汗が出てきて身体が考える事を全力で拒絶するので、リオは気にするのをやめた。

2人とも死んでしまったので、画面は一旦タイトル画面に戻った。

 

「悔しいのお・・・悔しいのお・・・」

「気を取り直してもう一回行こう」

「うむっ!」

 

正気に戻ったww

あれは悪い夢だったんだ

何もなかったよ

おかえり

 

武士の威勢の良い返事を合図に、リオは再びゲームを開始した。コメントは本能で見るのを避けた。

画面には再び大きなマップが表示され、二人はスタート地点を決める。

 

「あっちの小屋とかどうかな」

「学校があるではないかああ」

「向こうの小屋もよさそうだな」

「学校があるではないかあああああ」」

「ほらk「学校があるではないかああああああ」」

「ハイ、ガッコウデスネー^^」

 

棒読みで草ww

リオが・・・負けた!?

言葉は曲げねえ!

これが武士道だ

いいえ、わがままです

 

リオは苦笑いを浮かべながら、武士に押し切られる形でスタート地点を学校に定めた。

しかし学校は序盤の激戦区の一つである。学校にはたくさんのアイテムが落ちているのだが、それを狙ってたくさんの人がスタート地点に選ぶ。そして狭くて入り組んだ校舎の中で、血みどろのアイテム争奪戦が行われるのである。

リオもそれは知っていたので、できれば学校には行きたくなかった。

そのうちに2人のアバターが学校の校庭に現れた。

早速周囲に警戒をしながら、リオは武士に言った。

 

「ここから一旦別行動して、アイテムが集まったらここに合流でどう?」

 

リオはマップに目印を示した。

 

「異議なしっ!」

「じゃあまた」

 

会話の後に2人は駆け出して、別々の入り口から校舎へと侵入する。

周囲からたくさんの足音と銃声が聞こえることから、既にここが戦場と化していることが伺える。

「ぎゃああああ」と時折、野太い悲鳴も響いている気がするが、リオはとりあえず聞こえないことにする。

 

武死?

ただの鳥だろ

なんでアバター男なんだ?

そういえばそうだわww

違和感がなかった

 

視聴者の誰かが口にしたことにより疑問の輪が広がり、次々とコメントが流れた。

このゲームでは確かに「女」を操作することも可能である。しかしリオは確固たる意志で「男」を操作していた。

 

「だって男の方がムキムキじゃん!」

 

草アッ!

だと思ったww

ゴリラの本能ですね分かります

性別<筋肉

 

リオは筋肉に釣られた。このゲームでは女は細マッチョ、対して男はゴリマッチョなのである!

そうこうしているうちに、リオは着々とアイテムを集めていた。

ショットガンやスナイパーライフル、グレネード等・・・。

リオはある程度アイテムが集まったので、合流地点に向かうことにする。

 

「武士、生きてる?」

「昇天間近」

 

武士の悲痛な叫びだった。

 

「どこにいんの?」

「・・・後ろだああああああああああ」

「ひいいっ!?」

 

!?

!?

ホラー映画かな?

びびった声すこ

可愛い

 

ゾンビ武士の急な大声に驚いたリオは、悲鳴を上げながら後ろを振り向く。

そこには、匍匐前進でリオに近寄る瀕死の武士がいた。

 

「・・・」

 

リオは死んだ目で見下ろすと、持っていたハンドガンを無言で構える。

 

\バンッ バンッ バンッ/

 

「ああ、やめろ! やめて! 死ぬう! 死んじゃう! ごめんなさい! 助けてください!」

 

武士は普段の口調も忘れ、必死に懇願した。リオがようやく射撃を止めたころには、武士のライフはほぼゼロとなっていた。

リオは瀕死の武士に近づくと、応急手当を施す。武士は息を吹き返した。

 

「いや~ありがたき」

「次やったら、頭だから」

「・・・肝に銘じよう」

 

リオ姉貴こええ

声ひっく

ビビり武士草

かっけえ

処せ

 

リオの冷たい声に、武士は顔を引きつらせていた。

 

「それでアイテム集まった?」

「うむ! フライパンに鎌にグレネード!」

「銃は?」

「うむ 途中で見つけたぞ しかし拾わなかった!」

「なんで」

「某が武士だからだ!!武士たるもの、刀以外を使うなど言語道断!」

 

武士は堂々と言い放った。武士のあまりの頓珍漢な主張に数秒間フリーズし、リオは理解するのを放棄した。

 

「・・・ちなみに訊くけどグレネードは?」

 

リオは呆れながらに尋ねた。

 

「爆発はかっこいいからいいのだ!!」

 

また意味のわかないことを言う。しかしこの瞬間、リオはある考えを思いついた。

この状況を楽しむことができる名案である。是非ともやりたい!

その考えを実行に移すために、リオは再び質問を重ねる。

 

「どんなところが?」

「あの音がまたいいな!!」

 

\パンッ/

 

リオが足元の地面を撃った。

 

「破裂音もカッコイイヨネ」

 

リオは先ほどまでの呆れた口調とは違い、感情のこもらない声で呟いた。

 

あっ

まずい

これはしょうがない

こいつほんまに、、

 

ざわつくコメント欄をよそに、リオは余分に持っていた銃を武士の足元に放り投げた。

 

「あげる」

 

リオが囁く。視聴者は息をのんだ。空気が変わった。2人が戦場に立っているのは事実だが、それとは別の緊張感が2人を包み込んでいるのを感じたのだ。

武士もその空気を感じ取り、次にリオが静かにキレていることを悟った。

しかし武士を語った手前、拾うわけにはいかなかった。

 

「ア・・・アンナ トコロ ニ フライパン ガ・・・」

 

武士が隣の教室へ避難しようとした。

 

\パンッ パンッ/

 

リオは無言で地面を2発撃った。

武士はその音を聞くと、急いでリオの前に戻り銃を拾った。

 

「いいこだ」

「すみませんでした」

 

ヒッ

怖ッ

ガチギレじゃん

惚れた

録音した

↑天才

 

リオが静かに囁いた。武士は背中に冷たい風のようなものが走るのを感じ、全身に鳥肌を立てた。

 

「・・・ふふっww ふふふふwww ふははははwwwww」

 

!?

!?

なんだ?

リオが壊れた

 

凍り付いていた空気にリオの笑い声が響いた。リオはPCの前で、身体をくの字に折り曲げて笑っていた。

 

「んんっ?」

「ごめんwww 怒ってない、全然怒ってないよ こんなことで怒らないよww」

「なっ・・・!」

「映画の1シーンみたいでかっこよかったでしょ?ちょっとやってみたくなっちゃったんだ」

 

リオは途中から、思いついた一連の流れを実行するために役になりきってるに過ぎなかった。しかし思いの外、ガチな空気となってしまった。

リオは思い描いたシーンが実現できたことと、うろたえる武士の様子が見れたことで思わず笑ってしまったのだった。

 

「あ、でも驚かすのは禁止ね ホラーマジ無理だから」

「(怖かった・・・)」

 

ゴリラ以外も憑依できたんだな

怖かった

演技力高杉

リオは底が知れない

 

武士はこっそり安堵した。

リオは映画が結構好きだ。



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RUBGだ! [3]

ワード[スリーサイズを教えてください] [Am i rice cake?][zyよん歳になりました。祝ってください][パンT!][団子のつくり方を教えてほしいにゃん]

 

ちょっとした茶番を終えた2人は、まだ拾える物があるかもしれないと学校の中を探すことにした。そうして2人が廊下を歩いていると、突然背後から銃声が鳴り響き、ついでリオと武士の間を銃弾が通過していった。

 

「「!?」」

 

2人が驚いて振り返るとそこには、こちらにアサルトライフルを構えるアバターがいた。

この狭い廊下で立ち止まり、アサルトライフルに応戦したところでハチの巣にされるのがオチである。

2人は前を向き、飛んでくる銃弾が当たらないことを祈りながら走り続けるしかなかった。

視線を前に向ければ、残念ながらそこにあるのは廊下の突き当りである。しかし丁度良くその左右両側、廊下を挟んだ形でそれぞれに個室があった。

 

向かえ撃つことが出来れば有利なはず!!

 

リオは瞬時にそう思った。

そうして飛び込むようにしてリオは右の個室へ、武士は反対に左の個室へと入った。

リオはそのまま直ぐに、後ろから来るであろう敵に備えて武器選択画面を開いてショットガンを手に持った。

次の瞬間、銃声が鳴った。

背後からでは無く、斜め前方からだった。

リオは驚いて素早く武器選択画面を戻す。すると、今までその画面に隠されていた部屋の隅に、こちらに銃を構えているアバターがいた。

リオはてんぱっていて気付いていなかったのだが、この部屋には既に他のプレイヤーが待ち伏せていたのである。

幸いなことに頭は打ち抜かれなかった。さらにそのアバターが持っていたのはハンドガンで、リオが手にしているショットガンよりは威力が低い。

2人は激しい撃ち合いを始めた。

リオは近距離のために浴びるように銃弾をもらう。それでも何とか命中させたショットガンの一発は、さらにその上をいった。

 

お見事

リオは出来る子

かっこいい

ないすう!

ゴリラの豪運

 

ライフを辛うじて残しながら、リオは何とか勝利を収めた。

その時、今度こそ背後から銃声が聞こえた。武士の入った左の個室からだった。

 

左の個室に飛び込んだ武士は、リオと離れ離れになったことに後悔していた。

なぜなら武士は、、

 

(これどうやって撃つのだ)

 

銃の使い方が分からないからである。

というのも武士は今までRUBGをやる中で、<自称>武士の矜持により銃を一切使わず、グレネードとフライパンを手に戦場を駆け回るバトルコックマンと化していた。(その異様な戦闘スタイルは「侍縛り」と称され、他のVtuberにネタにされていたりする)

リオからもらった銃は、武士にとってはただのかっこいい鉄くずである。

そのため武士が今この状況で出来ることは、小さくうずくまり敵がこの部屋に入ってこないのを祈ることだけ。

武士はフライパンをお守りに、早まる心拍の音を聞いていた。

すると突然、隣の部屋から銃声が聞こえた。リオが入った部屋である。

 

(これは不幸中の幸い! リオが先ほどの敵と交戦しておるな!! どうか頑張ってくれええええ!!!)

 

武士は己の惨めさを噛みしめながら、心の中で応援した。

しばらく激しい銃声が鳴り響き、そのうちに聞こえなくなった。

武士は、リオが勝利の福音を告げる女神となって颯爽とこの部屋に現れることを期待して待っていた。しかし一向に現れる気配がない。

武士は仕方なく、隣の部屋の様子を見に行くことにした。

立ち上がり扉に近づく。次の瞬間、扉が開いた。

アバター。リオではない。

現れたのは先ほどの敵、すなわち絶望を告げる悪魔であった。

 

「ぬう!?」

 

武士を見るや否や、敵はすぐさまアサルトライフルを構える。

武士がフライパンを盾にするのと、敵が銃弾を発射するのはほぼ同時だった。

恐ろしい速度で放たれた銃弾。しかしながらその何発かは、フライパンが甲高い音をたててはじき返した。

バトルコックマンの名は伊達ではない。

しかしながら銃弾は何発かもらっていた。残り一発でお陀仏である。

相手は今リロードを終えた。向けられた銃口にとうとう死を覚悟した。その時、重たい発砲音が響いた。同時に敵がこちらに吹っ飛んできて、壁にびたーんっ!ライフゲージが0になった。

武士の目の前に立っていたのは、ショットガンをぶっ放した時雨リオだった。

彼女は仲間を窮地から救った。まさしくそれは映画の1シーン。とすれば次に待つのはかっこいい決め台詞である。

 

いざ、満を持して!!

 

「Am i rice cake?(キリッ」

 

武士の頭は混乱した。

リオの頭も混乱していた。

コメント欄は爆笑していた。

 

wwww

www

や っ た ぜ

\私はお餅ですか?/

ゴ リ ラ 語

ごめんね

 

(ぐにゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛!!)

 

リオは心に深刻なダメージを受けた。心が血反吐を吐いていた。

もちろんこれは本心ではない。この場面は、某段ボール大好き蛇マンのようなかっこいい決め台詞を言いたかった。

そうすれば、今頃は素晴らしい快感を味わっているはずだったのだ。だがワードがそれを許さなかった。

リオは未だ状況を掴めていない武士を利用して、せめてもの慰めを行う。

 

「今のはウクライナ語だよ <待たせたなっ!>って意味さ」

「そうなのか! だが少し英語っぽく聞k」

「ウクライナ語の特徴だ!」

「そうか! かっこいいな!リオは物知りなのだな!!」

「・・・だろ」

 

英語です(直球)

リ゛オ゛ち゛ゃ゛ん゛か゛わ゛い゛い゛な゛ぁ゛

かっこいいな!(白目)

よう頑張った

 

リオは悲しそうに笑った。

 

ピンチから生還した二人だったが、すぐ側に次なる試練が近づいていた。

安全地帯の縮小である。

これはプレイヤーが広大なフィールドに散らばったままでいつまでたっても勝負にならないといった事態を失くす為に、フィールド全体を覆っていた円状の安全地帯が、一定時間ごとにマップの一か所を目指して強制的に縮小していくというものである。

そうして”安全地帯”の外側で起こるのは、上空からの無作為なミサイル爆撃である。地面に落下したミサイルはそのまま爆発して、巻き込まれたプレイヤーは一瞬で塵となる。そして二人が今いる学校は、縮小によりもうすぐ安全地帯から外れる。

2人が生き残るには、もはや一刻の猶予もなかった。

2人は急いで学校から出ると、周囲に乗り物がないかを探す。徒歩で走ったとしても、到底縮小速度には追いつけないためである。

しかし、それは他のプレイヤーとて当然同じ。既に周囲には乗り物は全く残されていなかった。

それでも、諦めるわけにはいかないと2人は必死に乗り物を探した。

捜索は難航した。

時間をかけた末にとうとう2人乗りのバイクを見つけが、その頃には2人のいる地点は安全地帯からは完全に外れていて、今にも爆撃が行われようとしていた。

 

「迷惑をかけた故、某に任せていただきたい」

 

との言葉により、運転は武士が受け持つこととなった。武士が運転席へ、リオはその後部座席に腰を降ろした。

 

「ゆくぞ!!」

 

目的地は安全地帯の中にある住宅地。武士がアクセルを踏んで、バイクを走らせた。

そのすぐ後、先ほどまでバイクが止まっていた場所が爆発した。

 

「ぬう!?」

「危なっ!!

 

リオと武士は顔を引きつらせた。

 

セーフ

ピンポイントだなww

逃げろおおお

そういえばリオって悪運やばくなかった

↑メリカの悪夢

 

コメントの通り、リオは悪運が強かった。それはもう尋常ではない程に。今までも初回の配信や、メリカ配信でその実力を遺憾なく発揮してきた。

そしてそれは今回もまた発揮される。

リオはミサイルを引き寄せる女となった。

 

「何でえええええええ」

「やばいのおおおおお!激やばだのおおおお!!」

 

リオは驚愕していた。武士は興奮していた。

ミサイルがまるで狙いすましたかのように、リオ目掛けて投下されるのである。それは嫌に正確で、バイクが通った道はもれなく爆発し更地になる。

今やバイクは、常に爆発を背にして走っていた。少しでもバイクの速度を緩めたら、人型スクラップの完成である。

 

「絶対止めないでええええええええ」

「分かっておるわいいいいいい」

 

地獄で草

ミサイルに好かれるゴリラ

特撮映画で草

綺麗ですね(白目)

 

風を切って二人は走る。武士に出来ることはとにかく全速力で走り続ける事だった。

しかし敵はミサイルだけではなかった。前方に崖が現れた。

 

崖だああああああ

詰んだあああああ

死んだああああああ

 

コメント欄は阿鼻叫喚である。

本来崖は回り込めば、どこかに道が続いていて向こう岸に渡れるのだが、2人にそんな猶予はもちろん存在しない。

絶体絶命であった。

 

「崖じゃあああああ川じゃああああ戦じゃああああああ」

「無理無理無理無理無理!!!」

「しかし飛ばずばなるまいよ」

「嘘でしょ!嘘だよね!?」

「飛べずとも 飛ぶしかないぞ ホトトギスう゛う゛う゛う゛」

「た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

飛んだあああああ

フェニックス!イッツァフェニックス!

びゃあああああ

やばいやばいやばいやばい

 

岸までの道のりが昇り坂になっていたことを利用して、2人を乗せたフルスロットルバイクは見事に空を飛んだ。

爆発を後方に携えて太陽にかぶさり輝く様は、まさにフェニックスである。

 

「ここからさらに回るのだああああああ」

「なんでだあああああああああああ」

 

ただのかっこつけである。

武士は空中でバイクを一回転させようと試みた。散々な目にあって可哀想なバイクは何とか一回転をした。

しかし着地地点への入射角がほぼ45度であり、前方に倒れるかどうかの瀬戸際であった。

 

「落ちるぞおおおおおおお」

「頑張ればいくうううううう」

 

いけえええええ

ほ〇だのばいくううううう

生きろおおおおお

 

バイクは車体を身長分跳ねさせて、木に激突し、見事小高い茂みの丘に着地した。

 

きたあああああああ

偉い

ないすう!

生きてた嗚呼ああ

 

しかし落ち着いてはいられない。未だ迫りくる安全地帯縮小ラインから早々に逃げなくてはならない。2人はバイクを降りて、ギリギリ安全地帯に収まる場所であるすぐそばの小屋を目指すことにした。

武士とリオが一歩目を踏み出す。

すると銃弾が飛んできた。

 

「なぬう!?」

「次は何だよ!」

 

二人が銃声のした方向を見ればそこには、たくさん生える木々の1つから顔だけ出してこちらを狙う敵の姿が見えた。

 

「ああ、もう うっとうしい!」

 

そう吐き捨てて、リオもその木に向かい合うように生えている木の裏に素早く回り込んだ。

そうしてショットガンを装備した。

武士も近くの木の裏に隠れながら、ひょこひょこと顔だけを出している。

相手を煽るようなその行為に、敵はやたらと武士を狙って銃弾を放っていた。

しかし、武士は銃など撃てない。武士はただの囮である。

リオは焦る気持ちを抑えながら、冷静な目で状況を見ていた。

 

(撃て!撃て!)

 

リオの気持ちに応えるように、敵は銃弾を消費する。そうしてとうとう弾切れの時が来た。

銃声が止む。

リオはすかさず前方に走り込み、木の裏でリロードしていた敵の頭を撃ち抜いた。

 

「仕留めた!」

「ナイスぞ!!」

 

ないすうっ!

囮うめえなwww

ワニワニパニックの中の人

ひょこひょこ侍

 

二人は迫りくる安全地帯縮小ラインを背にして、小屋の中にギリギリで滑り込んだ。

二人はようやく落ち着いた。



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RUBGだ! [4]

ワード[スリーサイズを教えてください] [Am i rice cake?][zyよん歳になりました。祝ってください][パンT!][団子のつくり方を教えてほしいにゃん]

 

二人が侵入したのは3階建ての小屋であった。現在いる一階には人の気配はない。ただ先ほどの学校の個室の時のように部屋に潜んでいる可能性もある。

2人は小屋の中に落ちてる物資は無いか、用心しながら手分けして探し始めた。最初に物資を見つけたのはリオであった。それは木箱である。

近づけば、中にはいくつかの物資が入っていた。しかしどれもあまり役に立つものではなかった。

これを見てリオはある予感を浮かべた。それは、敵がこの家に潜んでいる可能性である。この木箱は、敵がライフをゼロにしたときに現れる物資である。

つまりここで戦闘があったことは確実であり、そして有用な物資が無いということは誰かに漁られた後であることを意味する。

 

「某、木箱を見つけた也」

 

先に2階を捜索していた武士が武士語でつぶやいた。そちらへ向かえば、武士が物資を見つめていた。BUSHIがBUSSHIを(ry

中を覗くも、やはり有用な物資は無かった。そのとき近くで足音がしたのをリオは聞き逃さなかった。外ではなく、確実に家の中である。もっと言えば天井である。

リオはいよいよ予感を確信に変えた。

リオは武士に注意を促す。

 

「武士、三階ちょっと怪しいと思う」

「某も同感だ」

 

3階は屋根裏部屋である。そこには窓があり、スナイパーなどがよくそこに立てこもって目についたプレイヤーを仕留める。

しかし屋根裏へ続く階段は一つだけのため、無闇に突っ込むのは賢くない。リオがどうしようかと頭を悩ませていると、武士がある提案をした。

 

「某の投擲技術見たかろう?」

「え?」

 

武士の声は弾んでいた。

つまり武士はグレネードを投げたがっていた。グレネードを外から屋根裏の窓へ放り込んで、敵が驚いて降りてきたところをリオが待ち伏せるという作戦である。

おもしろそうだったので、リオはその案に乗ることにした。

 

「準備完了じゃ」

「よろしく!」

 

武士がグレネードを放り投げた。それは綺麗な軌跡を描いて見事に屋根裏へと吸い込まれた。

後に続く起爆音。するとネズミのように慌てて敵が飛び出してきた。

リオは難なくそれをショットガンで仕留めた。

 

「武士い、終わったよ~」

 

これはボンバーマン

楽勝!

まだいるかも

油断すんなよ

 

リオは間延びした声でそう言いながら階段を上り、屋根裏部屋に上がる。

完全に油断していた。

そのためもう一人潜んでることに気が付かなかった。

 

\パンッ パンッ/

 

「!?」

 

唐突に放たれた発砲音に、リオは驚いた。敵はすぐさま階段の前に陣取りながら、リオに激しく発砲した。リオも必死に応戦するが先に銃弾をもらっていたため、体力の減りが激しい。

 

このままでは押し負ける

 

咄嗟に判断した。

 

「武士、もう一発ちょうだい!」

「某の腕前をもう一度見たいと?惚れ込んだと?」

「早く!」

 

いつも通り武士が武士するのを無視して急かす。その間にも銃撃戦は続いており、リオは3分の1ほど体力を削られていた。

そこへ2人の間を割るようにして飛んできたのが、武士の投げたグレネード。

敵は驚いた様子で階段へと向かうが、もう遅い。

その爆発は二人を巻きこんで、屋根裏部屋を静かにした。

 

「上がってきていいよ」

「うむ!」

 

リオはちょっとしたいたずら心が沸いて、何事もないような口調で武士を呼んだ。そのため武士は屋根裏部屋の様子を見た時に驚いた。

 

「何ゆえ敵とリオが一緒にくたばっておるのだ!? それにグレネードを欲しがった・・・まさかどMだったのか!?」

「助けて」

「それなら相性がいい!某、名前を駿河武士!駿河のSはドSの「S」よおお!!!」

「助けて」

「ほら見よ!瀕死の敵をフライパンで殴っておるぞ!顔がパンパンフライパンぞ!!」

 

フライパンに謝れ

これがSMプレイか(白目)

アダルトコンテンツ

NowTubeにケンカ売るスタイル

 

リオの求めも空しく、武士はフライパンで敵を殴ることに夢中になっていた。

 

「パンッ!!」

「!?」

 

リオは話を聞かない武士を見かねて、発砲音を一つお見舞いした。

といっても実際に撃ったわけではない。モノは試しと口で真似てみただけである。

それでも武士には効果があった。

 

「今のは!敵襲かっ!?」

「パンッ パンッ(違うよ)」

「何だリオか」

「パンッ パンッパンッ(助けて)」

「すまぬ 今助けよう」

「パンッ(ありがとう!)」

 

リオは新言語を習得した。

 

2人はしばらくはこの場所に篭り、周りが倒し合うのを待つことにした。

リオはスナイパーライフルを屋根裏部屋の窓から覗かせて獲物を待ち構えながら、考え事をしていた。

ワードである。ワードが頭を悩ませる。残りは3つ。

今までは自尊心を犠牲にすることで乗り切ってきたが、いよいよそれも辛いものがある。

かと言って普段の会話で混ぜられるのかと言えば、そんなことはありえない。

リオはだんだんと「こんなどうでもいいことに頭を悩ませている自分」に腹が立ってきた。

 

「んだあっ!」

 

\パン/

 

リオの咆哮とともにもやもやとした感情を乗せた銃弾が発射されて、たまたま通りかかった敵プレイヤーの頭を正確に撃ち抜いた。

 

!?

ええ・・・(困惑

何で当たるんだよwww

弾が当たりにいった(?)

鹿を轢くのと一緒一緒

 

リオはもう考えるをやめた。

 

「なあ武士い」

「なんぞ」

「今から大切な話をするよ」

「我々のコンビ名か?」

「それの1000倍大切な事」

 

それを聞いた武士は目を見開いて、リオの次の言葉を固唾を呑んで待った。コンビ名より1000倍大切と言えば、それはもう地球の命運を握るような大ごとに間違いないのである。

 

間違いである。武士はしっかりとした馬鹿である。

 

地球をどうにかしたりはしない。どうにかなるのはリオの方だ。

リオは今から狂言を言うのだ。しかし狂言が狂言であると見破られ、笑われた瞬間にリオの精神もいよいよ崩壊する。故にリオは神妙な空気を作り出す。

「コーヒーの味の違いとか分からないけど、高いやつだよって言われたらそうかもしれない」作戦である。

リオの言葉が大まじめであると、要はそれを雰囲気で信じ込ませるのだ。

リオは静かに息を飲み込む。これはプライドをかけた勝負である。

 

「武士さん」

「なんぞ?」

「私、zy4歳になりました。祝ってください」

「・・・zy4歳とはなんぞ」

「私、zy4歳になりました。祝ってください」

 

ご り 押 し て い く こ と に し た。

 

wwww

正 面 突 破

止まるんじゃねえぞ

 

そしてこの時、武士は直感した。光の速さで思考がよぎる。

 

この”zy”は地球の命運を握ってはいない しかしリオと某の命運が握られている!試されている!Vtuberに年齢はタブー しかしそれを冒してまでリオは踏み込んできた つまり初回放送見てた?私のことどのくらい興味あるの?アピール!!!

”zy”には10、20、30、候補がある そして某は知っている 初回放送で酒をしっかり飲んでいたことを!さて20か30か20か30か!

くそお分からないぞりおおおおおおおお

初回放送見てたぞりおおおおおおおおおおお

これからもコラボ頼むぞりおおおおおおおおおお

 

武士の脳内が荒ぶっていた。

そして武士が出した結論は・・・

 

「・・・24歳、おめでとう」

「ふぁ!?」

 

奇しくもリオのリアル年齢であった。

 

なんでしってんだこの人!?

 

リオは驚愕した。

いや落ち着けたまたまだ!”zy”に適当な数字入れただけか!!そういうことか!!! 

 

でも・・・一応確認しとこ

 

リオは自問自答で平静を何とか保ちながら、恐る恐る武士に尋ねる。

 

「ちなみにどうして?」

「初回放送見ていたぞおおお!!」

「あ、、そっすか ・・・って、いたのかよおおお」

 

別の意味で驚かされた。

 

あの時いたのかwww

ゴリラがけん玉する配信

効果はバツグンだ!

 

リオは少々取り乱したが、すぐに本来の目的を取り戻す。ふざけているとは思われていない、第一段階クリアである。

 

次だあ・・・

 

「誕生日プレゼントが欲しいな~なんて」

「よいだろう 何でも申してみよ」

「スリーサイズを教えてください」

 

畳みかけるなwww

どういうことなのwwww

ぐちゃぐちゃで草

もうやめて!とっくにリオのライフは0よ!

 

「88 75 90 だな」

「・・・そっか」

 

武士は淀みなく答えた。

 

何で知ってんだよwww

平然と答えるなww

デジャブ

も う 見 た

リオと同族で草

 

答えが返って来るのは想定外であったが、見事に第二段階までクリアすることが出来た。これでワードは1つを残すのみとなりこの先、非常に気持ちが楽になる。

リオは安寧の吐息を漏らした。

 

「しかしせっかくの誕生日だ!どうせなら美味しいものが食べたくはないかああ?」

 

まだチャンスは終わらなかった。

 

あああああCR武士の確変モードきちゃったあああ 行くか? 行くのか? 行っちゃうか? 行くよおお行くしかないじゃんかよおお

 

リオは重荷をすべて降ろせる誘惑に負けた。

 

「それなら・・・団子のつくり方を教えてほしいにゃん」

「承知したにゃん 後で教えるにゃん」

 

連続技決まったあああ

すげええええ

完 全 勝 利

リオ姉貴すごすぎるww

 

髭の汚い猫語を聞きながら、リオは天にも昇る気分を味わった。

ワードの鎖から解放された瞬間であった。

 

リオが屋根裏部屋の窓からスナパーライフルで引き続き外の監視をしていると、遠くの空から何かが地面に落ちて来ているのを発見した。

それは大きくて真っ赤な箱。

支給物資であった。物資はコンクリート道路の上へと落ちた。その道の両側は茂みが生い茂っていた。

 

「武士、支給物資が落ちてきたよ」

「なにい!本当か!とりにいくぞおおお」

「え?ほんとに?」

「ほんとだ!」

 

リオはただの報告のつもりであったため、まさか武士が取りに行くと言い出すとは思っていなかった。意気揚々と小屋から出る武士を、リオは後から追いかけた。

 

支給物資とはその名の通り、支給される物資である。それは一定時間が経過するとマップ上にランダムで落とされる仕様で、中身は非常に高性能な物資が入っている。

そのため多くのプレイヤーがそれを見つけると集まってくる。

物資を回収しに行くもの、ソレを狩るもの。

支給物資が落とされた戦場は一気に危険地帯となる。そのためリオは、支給物資を取りに行くことにあまり気乗りがしなかった。

しかし2人は茂みを通って身を隠しながら、しっかり物資を目指していた。当の物資は、茂みを抜けたコンクリート道路の上である。

 

「リスクを冒してわざわざ行く必要ある?」

「リスクがあるから行くのだ! わくわくするだろ激戦区!!」

 

武士は声を弾ませてそう答えた。リオは武士の背中を呆れた目で見る。

武士は先ほどリオをドMだと言っていたが、リオから言わせればこの髭の方が間違いなくドMである。

そうこうしているうちに物資との距離がだいぶ近くなった。

 

「とりあえず木の裏に隠れながら行こうよ ほら、あそことかいいんじゃない?」

 

リオは物資の少し遠いところに生えている木を指し示した。

 

「うむ、そうだな だが敵がいるな」

「じゃあ、私が仕留めるよ」

「いや、その必要はない」

 

武士はそう言い残すと、フライパンを片手に颯爽と歩き始めた。

木の裏にいる敵は、どうやらスナイパーライフルで物資付近に既に照準を合わせて物資を取りに来るプレイヤーを地べたに伏せた状態で待ち伏せているようで、後ろから忍び寄る武士には全く気が付いていない。

しかし本来ならばありえないことだ。

いくら集中していても足音の一つぐらいは聞こえていいものである。だがそれさえも気づかせないのは、もはや武士の妖怪じみた才能の為せる業である。

武士はとうとう伏せている敵を殴れる距離まで接近することに成功した。そのままフライパンを振り下ろせば、子気味良い音を立てて敵はあっという間に気絶した。

 

「やったぞおお」

「すげえ」

 

すっご

なんで気が付かないんだwww

これが侍か・・・

侍は刀以外は言語道断!

↑言ってたよなあww

 

リオが呆気に取られていると、武士はそのまますぐに物資との距離を詰めていく。木の裏から木の裏へと素早く進み、物資からの距離が一番近い木の裏にまで到着した。

しかしそれでも物資までは距離がある。茂みを抜けてコンクリートの上に出る必要があるが、そこには当然プレイヤーを隠すものなど一切存在しない。

極論、飛び出したら最後、四方八方から狙撃され放題である。

リオがどうするつもりなのかと安全なところから遠目で見守っていると、武士はいきなり飛び出した。

背中にフライパンを背負い、片手にもフライパンを持ったフライパンの変態であった。

 

うっそだろお前

あれは死んだな

武士、良いやつだったよ

フライパンの墓も作ろう

 

武士はそのまま物資の位置まで駆け抜けていく。当然、武士を待ち構えていたのは熱烈な銃弾の歓迎だった。

しかし、武士は足を止めない。

全く信じられないが武士は銃弾をフライパンで弾きながら、もしくは華麗に避けながらほとんど銃弾に当たることなく物資地点まで到着してみせた。

さらに武士は止まらない。物資を回収しながらも、足を忙しなく動かし続けることで武士の立ち位置が小刻みにぶれて、飛んでくる銃弾を上手く逸らしていた。

 

「あれどう思う?」

 

すごすぎてきもい

何を見せられているんだ

意味わからんwww

人の動きじゃねえよwww

ヤムチャ視点

 

この場にいる誰一人として、武士を理解することは出来なかった。

リオは武士が狙われているのを利用して、敵のいる位置をあぶり出していく。そうして敵が武士と遊んでいる間に、その頭を一つずつ確実にスナイパーライフルで飛ばしていった。

そのうちに武士は、見事にリオの前に生還して戻ってきた。身体には戦利品であろう、草と同じ色をしていて同化することのできるギリースーツを装備していた。

 

「お土産だ!」

 

武士はそう言って銃を一つ、リオの前に放り捨てた。

それはこのゲームにおいては、最強と謳われる銃の1つである。英語の名前がやたらかっこいいアサルトライフルであった。

 

「そういえば武士のことみんなきもいってさ」

「斬新な誉め言葉だな!!ありがとう!!!」

 

武士はやはり最強である。

 

 

 

 



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RUBGだ! [終]

ワード[スリーサイズを教えてください] [Am i rice cake?] [zyよん歳になりました。祝ってください][パンT!][団子のつくり方を教えてほしいにゃん]

 

武士が無事に支給物資を取り終えたことで、2人は先ほどまで篭っていた小屋へ戻ることにした。しかしその帰り道の途中で、2人はあることに気が付いた。

安全地帯が再び縮小を始めていた。

遠くに見える小屋はとっくに安全地帯ラインの外にあり、今も尚、安全地帯は縮小し続けている。

ミサイル爆撃が迫りくる。

しかし今の二人には乗り物などない。2人は顔を引きつらせながら、とにかく走って逃げる事しか出来なかった。

そうして安全地帯縮小ラインとの追いかけっこをしながら周りを見れば、2人と同じように走って逃げているプレイヤーが何人もいた。

本来ならば目が合った瞬間に殺し合いだが、今はそんなことしてる場合ではない。2人が敵と仲良く並走する姿が画面に映し出されていた。

 

なかよ死

絶対一緒にゴールしようね!

平和な世界

 

2人は走り続けるうちに茂みを抜けて、開けた場所にたどり着く。

それは安全地帯の中心地、麦畑である。

胸元まで背丈を伸ばした金色の麦が、絨毯のようにして2人の視界一面に広がっていた。そしてよく見ればその中心に一人の男が立っていた。

男はライフルを手に持って、麦畑に踏み入ろうとするプレイヤーを片っ端から撃ち殺している。

そして時折飛んでくる反撃の銃弾も、身体をずらし見事に捌いていた。

それはまるで金色のステージに立つ踊り子のように。

四方八方に銃弾を放ち、飛んでくる銃弾も華麗に躱す。

 

「あれ何?親戚?」

「知らぬわああ!」

 

この人物が誰なのか、二人はまだ気付いていなかった。

 

出たああああ

仏陀だwwww

リオの悪運やばすぎんか?

神との邂逅

 

プレイヤーネームを”仏陀”。

リアルガチプロゲーマーである。

 

先ほどまで一緒にゴールしようねと言っていたのに(言ってない)、一緒に走っていたプレイヤーは次々と先にゴール(死亡)していく。

それでも2人は運と執念で麦畑に辿り着くと、すかさず地べたに伏せた。この体勢になれば麦が体を覆い隠して、見つかる可能性はかなり減らせる。

ただ難点もある。

 

「武士、どこにいる?」

「某、分からぬ!」

 

迷子になることである。視界が利かないため仕方がないと言えば仕方がない。

リオは武士との再開をさっそく諦めた。

 

「とりあえず隠れて様子を見よう」

「うむ」

 

2人は静かに息を殺す。

2人が麦畑に隠れている間にも、仏陀はやってくるプレイヤーを持ち前のスキルを遺憾なく発揮して、次々と葬り去っていた。

安全地帯の縮小に追われて、やっとの思いで逃げてきたプレイヤーにとっては悪夢以外の何物でもない。

安全地帯の中で死ぬか外で死ぬかの違いである。

また運良く麦畑に隠れたプレイヤーも戦おうと思うものは誰もいない。それほどまでの圧倒的なスキルの差。おびえて震えるのが関の山である。

そのうちに仏陀は、外からやってくるプレイヤーをあらかた狩りつくしてしまった。

一切の銃声が止み、麦畑に静寂が訪れる。雀が見たら、一人の人間が麦畑に佇んでいる穏やかな風景と勘違いするだろう。

しかし仏陀は穏やかな人間などではない。生きてるプレイヤーは一人残らず狩り尽くさなければ気が済まない戦闘狂である。

仏陀は麦畑を歩き回って、蹴とばしたプレイヤーを始末し始めた。

今や安全地帯の大きさは、半径数十メートルの円でしかない。

しらみつぶしに歩き回られたら、リオ達が見つかるのも時間の問題だった。

静寂に、1つ、また1つ銃声が響く。

 

怖すぎるんだが

これなんてホラゲ?

もう詰みだよー(涙)

神も仏もないですね(白目)

 

とうとう仏陀はリオの潜む方向へと歩を向けた。リオはそれを見てつばを飲み込むと、皆に問いかけた。

 

「なあ皆 ここで撃ち合いに勝ったら私、伝説じゃない?」

 

ふぁ!?

嘘やん

起こらないから伝説なんだぞ

おいやめろ

 

リオは栄光への渇望に飢えていた。このコラボが実現するにあたり、落とした名誉は数知れず。

かっこ悪い、というか変人のままでは終われないのである。

幸いにもリオの手には、武士からもらった最強の銃があった。準備万端である。

その声に、マグマのようにあふれ出す闘志を乗せながら。

リオはもう一度問いかける。

 

「なあ皆、戦争って楽しいよな?」

 

ギアを上げて。

 

「ゲームってのは勝ってなんぼだよなあ?」

 

ギアを上げて。

 

「勝利の美酒を味わいたいよなああ?」

 

吐き出した。

 

「皆ああああっっっ、戦の時間じゃああああああああっっっ」

 

いええええすうう

びやあああああああ

リオ姉貴いいいいい

おらあああああああ

 

リオは瞳孔をかっ開いた。

 

「かかってこいやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ バトルジャンキーい゛い゛い゛い゛い゛い゛」

 

リオは目を血走らせて唸るような咆哮を上げながら、麦畑から立ち上がった。

敵を見据える。銃を構える。

相手は突然のことで必ず隙が生まれるはず!その隙を狙えば勝t

\パンッ/

 

「えっ?」

 

思考が途切れた。

リオは頭を撃ち抜かれた。瀕死になった。倒れた。

 

せーの

 

「と゛う゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」

 

wwwww

知ってた

ノルマ達成

即落ち2コマ

実家のような安心感

お か え り

 

気概空しく、仏陀に一瞬のうちに仕留められた。リオは負けたのだ。

リオは悔しさに吠えていたが、まだゲームが終わったわけではない。

リオは瀕死で死んだわけではなかった。そのため戦闘狂は止めを刺すべく、倒れるリオに銃を向ける。

リオは死を覚悟した。

 

\パンッ/

 

銃声が鳴った。しかしリオは死んではいなかった。

銃声は仏陀の、さらにその後ろにいたプレイヤーによるものだった。

無謀にも立ち向かったリオに感化されたのか、仏陀にケンカを売ったプレイヤーがもう一人増えたのである。

しかし、せっかく放たれた銃弾も仏陀の頭の横を空しく通過していった。

仏陀はリオに止めを刺さずに、そのプレイヤーを仕留めるべく銃を向けた。

その間、わずかにできたタイミングでリオの元へ匍匐前進をしながら武士がひょっこり現れた。

 

武士い!?

生きとったんかワレ!

ナイスタイミング

そのちょんまげ、リードにつなごう

 

「武士い!」

「助けに来たで候」

 

そう言うと、瀕死のリオに応急手当をして素早く蘇らせた。

しかし危機が去ったわけではない。既に位置はばれている

今目の前で別のプレイヤーを仕留めた仏陀は、再びリオに向かってくるだろうと2人は確信していた。

しかしその予想は意外にも外れた。仏陀は2人のいる方向を向いた後に、何故か仏陀が元居た位置、つまり麦畑の中心へと戻って行ってしまった。

そうして誰かが来るのを待つかのように、ただ立っていた。気づけば残るプレイヤーはリオと武士の二人だけとなっていた。

 

「あのジャンキーいい挑発してるううう!!」

 

リオは悔しそうに声を漏らした。

 

かかってこい雑魚

 

仏陀の風貌がそう無言で語っていた。

しかし挑発に乗らない訳にはいかないのも事実であった。

というのも、もうすぐ次の安全地帯縮小が始まるのである。それが起これば、もはや範囲は数メートル単位の円となり、正面からの戦いは避けられない。

事実上の負けである。

だから仕掛けるには今しかない。

しかし真っ向から戦って勝てる相手では無い。そのため2人は作戦を立てることにした。

 

「武士、あいつの弾受けられる?」

「武士に不可能は無い!!」

「それなら囮になって その間に私が仕留める」

「あい、分かった」

 

実に単純な作戦であるが、それゆえに効果はある。

二人はそれっきり黙り込んだ。

もうすぐ過酷な戦いが幕を開ける。

 

「あ、そうだ武士・・・やっぱり・・・」

「・・・」

 

リオと武士は、作戦会議を終えた。

始めるのは勝算の限りなく低い戦いである。

 

匍匐前進で麦をかき分けて、ゆっくりと進んでいく。武士は2人に気付いているのかいないのか、立ったまま微動だにしなかった。

そうして二人は所定の位置へと着く。お互い仏陀からは一定の距離を保って、武士は仏陀の正面へリオは仏陀の横に位置取る

 

「こっちは準備できたよ」

「こちらもだ!」

 

お互いの状況を確認し合えば、2人は重たい緊張感に包まれる。

チャンスは一度きりである。

 

よし

 

目を閉じて気合を入れなおした。

そうしてゆっくりと目を開ける。

 

「気張って行こう」

 

リオが静かにつぶやいた。

そして戦況はようやく動きだす。

リオは大きく息を吸い込めば、次に吠えるようにそれを告げた。

 

「GOっっ!!」

 

開戦の合図である。

 

「ぬおおおおおおおおお!!!!」

 

いけええええ

ケツ出しなさいよおおおおお

戦じゃあああああ

進めええええええええ

 

武士は弾かれたように立ち上がると、仏陀目掛けて駆け出した。

 

「いざ尋常にいいいい勝負ううううう」

 

叫ぶ武士の左手にはやはりフライパンが握られていた。

仏陀は突然現れた武士にも冷静に反応して、すぐさまライフル銃を向ける。

 

\パンッ パンッ パンッ/

 

今までの敵とは比較にならないくらい正確に打ち込まれた銃弾であるが、それでも武士は見事に銃弾を避けていく。

もはや獣にならぶ瞬発力である。

武士は身体を掠めていく銃弾を横目に、猪の如く突き進む。

このままの勢いで進めば、あっという間に仏陀に接近できると思われた。

しかしそこはプロゲーマー、そんなに甘くはなかった。

仏陀は瞬時にライフルからマシンガンへと銃を持ち換えた。そうして引き金に手をかける。

もはや避けれる、防げるの次元ではない。

弾丸のシャワーが、武士目掛けて飛んでいった。

このままでは武士がハチの巣になる

リオは息を呑んだ。

武士が銃弾に飲み込まれる、その寸前。

武士は、、笑っていた。

 

「効かぬわああああああ」

 

武士はぴょんと飛び跳ねて、流れる銃弾を飛び越えた。

 

!?

!?

武士いいいいいいい

かっけえええ

いけえええええええ

 

「覚悟おおおおおお!」

 

武士が執念の叫びをあげる。仏陀は武士の突然の跳躍に驚いた様子を見せていた。

今だ!

リオはこの瞬間を待っていた。

仏陀が油断を見せる、その瞬間を。

リオはすっくと立ちあがり、仏陀に素早く銃口を向けた。これが二人の狙いであった。

武士のフライパンでは人を殺せない。それは2人も分かっていた。しかし大きな役割があった。

それは囮になりリオの存在を霞ませること。そうして仏陀を慌てさせて、リオの拳銃でズドン。

そういう未来図が、あった、はずだった。

・・・いつだって現実は無常だ。

 

「え?」

 

リオは気付くと倒れていた。

仏陀は一瞬のうちにリオに気づき、リオよりも早く銃口を向けて、リオよりも早く引き金を引いた。

ほんのコンマ数秒の間に、それだけのことをやった。

ただそれだけだった。

 

あああああああ

嘘だああ

化け物かよ

これがプロか

 

「そんな・・・」

 

リオは悲痛な声を漏らした。

リオ、2度目の敗北。またも仏陀には届かなかった。

これで二人の敗北は確定した・・・

 

「・・・なーんちってww」

 

わけではなかった。

リオは笑みを浮かべた。

リオはこうなることを知っていた。

信じていたのだ、仏陀の実力を。

だから仏陀が今まで武士の様子をどこかで見ていて、ただのフライパン馬鹿だと思っているであろうことも、そのためにリオを優先的に狙ってくるであろうことも全部予想していた。

 

知らなかったろ?本当の囮は私だ!!

 

「愛してるぜええええ仏陀ああああああ」

 

リオによる世界一かっこいい負け犬の遠吠えであった。

 

「おりゃああああああ」

「!?」

 

気迫の叫び上げながら飛び込んでくる武士に、仏陀の動きは初めて固まった。

それはそうだろう!あのバトルコックマンが手にショットガンを持っていたのだから!!

仏陀が急いで銃口を向けるが、既に武士は引き金に手をかけていた。

どれだけ下手であろうとも、照準全てが敵で埋まるほどの近距離ならば外しようがない。

 

「御免!」

 

\パンッ/

 

超至近距離から放たれたショットガンが、仏陀の身体を吹っ飛ばした。

仏陀のライフゲージがあっけなく0になった。

ここに二人の勝利が決定した。

 

「や゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「討ち取ったり゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛」

 

すげええええええ

きたああああああ

神 回

勝ったあああああああ

大 勝 利

 

コメント欄はにわかに賑わった。この場にいる誰もが、2人の勝利を祝福していた。

戦いを終えた武士は、瀕死で倒れているリオの元へとやってきた。

勝利はしたが、ゲーム画面がタイトルに戻るまでは、少しのばかりの猶予がある。

その時間を利用して武士は、倒れたままのリオを不憫に思い応急手当を施した。

リオが蘇生して起き上がる。

武士は格好つけて、決め台詞を言い放った。

 

「Am i rice cake?(待たせたな!)」

 

「あ、それ違うw」

 

wwwwww

悲 劇 は 繰 り 返 さ れ る

\私はお餅ですか/

もっちい―END

お餅は2度刺す

 

 

こうして、大いに賑わいを見せたRUBG配信は幕を閉じた。

同時接続3万人という驚異の記録であった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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いろんな配信だ!

ジリリリリリ

 

ベッド横の目覚まし時計がけたたましい音を立てて、リオの寝室に鳴り響いていた。

時刻は早朝。窓を覆うカーテンの細い隙間から、朝陽が光の線となって部屋へと差し込んでいた。

リオは無意識に目覚ましの音から逃げるようにして、布団を引っ張り、顔をすっぽりとその中に入れた。

 

ジリリリリリ

 

目覚ましの音は、それでもしつこく鳴り続けた。

リオは、夢と現実の境目で聞こえ続けるうるさい音に不機嫌になった。

アラームを止めるために布団から手だけを伸ばして、時計があるであろう位置をバシバシと叩く。

しかし時計の頭をなかなか叩くことができなかった。その間にもしっかりと仕事をこなす目覚まし時計。

リオはとうとう安らぎを捨てて、布団から起き上がると時計を止めた。

恨めしく時計の針を見れば、現在の時刻は7時。

 

「君は優秀だな・・・」

 

寝ぼけ眼で呟いた。

新人Vtuber時雨リオ、珍しくアラーム通りの時刻に起きました。

 

久々に早起きをした時雨リオは気分が良かった。

カーテンを開ければ、まるで歓迎をするかのように朝陽がリオを包み込む。

早起きは三文の徳とは有名な言葉だ。

リオはこの時間を有効に使いたいと思った。

 

することないや 

 

特に何も思いつかなかった。

困ったときはNowTubeだよね

ということで早速PCを立ち上げて、NowTubeのページを開く。すると丁度配信を始めそうなVtuberがいた。

先輩おかまVtuberの山田ゴライアスであった。

 

配信の待機画面は酒場のイラストであった。

 

「あらあ~みんないらっしゃ~い」

 

粘りっ気の強い男性の声が聞こえた。

それと同時に現れたのは、剃りこみを入れた青髪の坊主頭に、青い瞳、長いまつ毛、ふっくらと強調された青い唇が特徴的なVtuber山田ゴライアスである。

 

「みんな、おはようのキッスをあげるわ」

 

そう言うとゴライアスは瞳を閉じた。

 

「おはようのチュ!」

 

ゴライアスが投げキッスをしたリップ音が、スピーカーからはっきりと聞こえた。

リオがその破壊力に圧倒されていると、コメント欄でも驚愕なことが起きていた。

 

チュっ!

チュッ!!

チュッ!!

ちゅっ!

 

視聴者が皆、キスを返していた。

リオの気分はさながら異文化交流である。

もちろんVtuberごとに様々な挨拶が存在することは知っていた。どうやらこのゴライアス王国では、キスが挨拶らしい。

さすがに驚いた。

というかこれはもう、電子媒体を利用した新たなキスの進化系なのでは?

などとくだらない考えが頭をよぎったが、そのまま通過してもらった。

 

「今日もみんなと楽しくお話ししちゃうわよん」

 

ゴライアスが艶のある声でそう言うと、「ぷしゅう」という甲高くて気持ちのいい音が聞こえた。

酒好きのリオは瞬時に理解する。

 

あぁ~!プルタブの音ォ~!!

 

まさしく、ゴライアスが缶ビールのプルタブを引っ張った音であった。

 

「ぐびっぐびっぐびっ ぷはあ~」

 

よ、おっさん

今日もいい飲みっぷりよ

初手おっさん

おっさん出てるぞ

 

リオは流れるコメントにどことなく既視感を感じたが、しっかりと見ていないふりをする。

 

「もうおっさん、おっさんうるさいわよ! 次おっさんって言った子は、、」

 

口元がマイクに触れる。

 

「食べちゃうからあ」

 

急に音が近くなり、まるで耳元で囁かれたような臨場感を醸し出していた。

 

おほおっ!!

ああああああ

ありがとううううう

ぬ!

 

コメント欄は喜びの声にあふれていた。

リオは全身に鳥肌が立つのを感じた。

負けた。何の勝負かは分からないが、とりあえずリオは負けた。

 

「そういえば昨日、うちのお店に若いお客さんが来たのよ~」

 

ゴライアスは語り始めた。

聞くところによると、ゴライアスは自らが経営するバーの店長らしい。

 

「それでね~その子緊張してたのよ~ だからいっぱい飲んじゃったの 気付いたらべろんべろんになってたわ」

 

姉御が飲ましたんでしょ?

いっき♪いっき♪

呑まれるか、食べられるか選びなさい(キリッ

あり得る

 

「あら失礼ねえ そんなことしないわよ ただ、たくさん呑んだらサービスしてあ・げ・る って言っただけよん」

 

おぉ・・・

いいね!

さいこおお

うらやま

 

「それで酔っぱらったその子、急に大きな声で叩いてください! 叩いてください!って言い始めたのよ~~」

 

きたあああああ

これはしょうがない

ドMだああああ

悪くない

 

「そういうお店じゃないって言ったんだけど、周りのお客さんも囃し立てるから叩いてあげることにしたのよ!そしたらいきなり上半身裸になったの!そしたらもうすっごい筋肉でじゅるじゅるじゅる」

 

たまんねえな

最高かよ

ありがとうございます!!

それは神

 

後半の唾液をすする音がやけに耳に残った。視聴者厳選タイプの配信である。

リオはこんな世界もあるのかと、遠くを見つめていた。

 

今気になってるVtuberはいる?

 

誰かのコメントが流れた。

 

「いるわよお 時雨リオちゃんね  あの子、見た目も声もいいわあ! 可愛くてかっこいいのよ~~!」

 

リオは唐突に自分の名前が出たことに驚いた。

ゴライアスが自分の配信を見ていたと思うと、世界が少し身近に感じた。

 

「んん? あらぁ、イケメンの匂いがするわねえ これはいるわねえ リオちゃん、見てるわねえ!?」

 

そんなまさか

姉御の勘は当たるからな

リオちゃん見てる~?

いえーい

 

リオは顔を引きつらせた。

オカマというかもはや超能力者である。

 

「見てたらコメントちょーだい! チュっ!チュっ!」

 

ゴライアスは投げキッスまで飛ばしている。

リオは何だか疲れたので、何も言わないままでページを閉じようとした。

しかしふと「食べちゃうわよおっ」という言葉が脳内に蘇り、リオの手を止めさせた。

食べられるのはまずいな

リオはとりあえずコメントを打った。

 

お酒はハイボール派です

 

リオはページを閉じた。

だからその後の配信が大賑わいだったことは、リオは当然知らない。

 

リオはオカマからの逃亡を図った後、よく分からない疲労感に襲われていた。朝からステーキを食べた気分である。

こういう時は甘いモノ、デザートに限る。ということでやってきました、夢野雫のおはよう配信。

毎朝やっているのだが、リオは早起きが苦手な為にたまにしか見れていなかった。

 

「はい、それじゃあもっちーを読んでいきます」

 

鈴を転がすような声が聞こえる。その声の主は、画面中央でニコニコほほ笑んでいる夢野雫である。

その特徴は大きな赤い瞳である。さらに肩に触れるほどに長い綺麗な銀の髪を赤いリボンで結わいている。

その風貌はどこか神秘的でいて、幼さもある。

結論としては、今日も彼女は可愛い。

 

「まず一つ目のもっちー、”好き食べ物は何ですか?”」

 

もっちーというのは簡易的なメールである。

そんなことよりも、少し舌足らずな感じが可愛い。

 

「好きな食べ物はマカロンです」

 

はい、可愛い。そのカタカナ可愛い。

 

リオの脳内では可愛いが止まらない。

 

可愛い

ああ~^

可愛すぎ

可愛い

 

コメント欄でも可愛いの嵐である。

 

「次行きます ”好きな動物は何ですか?”」

 

リオは顔面をこれでもかと緩ませて配信を見ていた。

ちなみにそんなお顔ゆるゆるちゃんの好きな動物は無論、ゴリラである。

 

「好きな動物はウサギです」

 

今日からウサギも好きになった。

 

「次のもっちーです ”好きな映画は何ですか?”」

 

猿の惑星です

リオは心の中で無意識に答えていた。

 

「猿の惑星です」

 

リオは爆発した。

そうして夢野雫はもっちーを消化し終えた。

 

「次何しようかな」

 

ASMRして

歌って

カウントダウンして

雑談して

 

彼女の言葉に反応して、コメント欄にはアレクサもびっくりな程の要望が流れていた。

 

「じゃあ、本を読みます。自作なので恥ずかしいですけど・・・」

 

選ばれたのは本の読み聞かせであった。しかも本は、女神のおててより作り出されし産物。

メルカリで売ったら数億の価値が付く代物である。

リオはしっかり心に刻みこもうと、目をつぶった。

 

い つ の 間 に か 終 わ っ て い た。

 

いや、眠っていたわけじゃないし うとうとしてただけだし

微かに記憶もある ”素直になれない女の子の話”だったと思う うん

悲しい

 

しかし放送はまだ終わっていない。配信は終盤で、夢野雫はコメント欄の質問に答えていた。

 

”気になるVtuberはいますか?”

 

コメントが流れた。

 

「ん~ 時雨リオさんですかね~ あの方はどこまでも自分を出していて、かっこよくて、面白くて。何より魅力的です。うらやましいです。本当にうらやましい・・・」

 

ひいっ

 

リオは自分の名前が出たことに心底驚いたし、変な声も上げた。女神に褒めてもらえたという事実は、RUBGで大勝利を収めた事よりもうれしかった。

ただ最後の方で少し口調が変わった気もしたが、これは夢野雫検定1級取得者にしか分からない些細な変化のため、気には留めなかった。

 

「ありがとうございますううううう」

 

リオはコメントでそう言い残し、上機嫌でページを閉じた。

 

時刻はお昼前になっていた。しかし今日の配信までにはまだ時間がある。

そのためリオはもう一人だけ他の人の配信を見ることにした。たまたま目についたのは後輩のVtuber影沼ヒトリであった。

 

それは実に無機質で殺風景だった。一面真っ黒な配信画面である。そこに一人ぽつんと影沼ヒトリが映っていた。

ここまで”ぽつん”という表現が似合う子をリオは初めて見た。

影沼ヒトリは灰色の髪が目元まで伸びていて、瞳を覆っていた。それでもその髪の隙間から2つの目が覗いている。

見ていると吸い込まれそうな漆黒であった。目の下にはうっすらと隈が描かれていて、耳にはピアスが開けられていた。

青白い肌と相まって、どこか退廃的な雰囲気を放つVtuberである。

 

「いつも通り昨日あったことを話すよ」

 

男性にしては少し高めの、それでいて落ち着くような不思議な魅力のある声である。

どういう流れなのかと疑問に思ってコメント欄を見れば、どうやら影沼ヒトリは口下手で、毎回放送では昨日あったことを報告するらしかった。

 

「昨日の朝食は食パンとヨーグルトと牛乳で え?ジャム?つ・・・つけないよ それで午前中は家にいて・・・」

 

彼は時折詰まりながらも、慣れた様子で語り始めた。

それはつまり日記であり味気こそ無いが、ほのぼのとした空気が流れていた。

 

「それで電車で座ってたら、おばあさんが乗ってきたんだけど 僕、席譲れなかったんだ・・・駄目だよね」

 

出た卑屈

本日の卑屈

誰にでもあるよ

元気出して

 

彼の落ち込んだ声に、コメント欄は励ましの言葉をかけていた。

どうやらこれがお決まりの流れらしかった。

 

「皆ありがとう じゃあ、この話はここら辺にして一曲歌うね」

 

来たあ

待ってました!

頑張れ

楽しみ

 

急な展開にリオは少し驚いた。コメント欄が先ほどよりも活気づいている。

どうやら今までのは前座のようなものだったらしい。

リオはどんな歌が聴けるのか楽しみに待った。

 

「聞いてください”~~”」

 

それは有名なアニメの主題歌だった。そのアニメは人と人為らざる者が混在する世界が舞台で、あらゆる不条理があふれていた。

この曲はその世界観とマッチしていて、多くの人に親しまれていた。

 

「”~~~ ~~~”」

 

曲の歌い出し。リオは目を見開いた。それは色で言うなら透明だった。

綺麗な高音の声。それはガラスのように繊細で、吐息で囁くようだった。

 

「”~~ ~~~ ~~”」

 

今にも泣き出しそうな声で、世界に翻弄される無力さを歌っていた。

自分の心が壊れていくその様を、残酷な程に綺麗なメロディーに乗せて訴えていた。

 

「”~~~ ~~~っっ!!”」

 

!?

 

唐突なシャウトだった。

今までの弱弱しくも美しい雰囲気とは違う。

それは悲しさや空しさや悔しさの感情がぐちゃぐちゃに織り交ざって、壊れてしまった自分の心を吐き出すような

強烈な叫びだった。

 

「”~~~”」

 

そしてまた囁くように訴える。自分が狂いそうなその境界線で揺れる心を伝える、祈りにも似た何か。

 

「”~~~”」

 

曲が終わった。

リオは声も出せずに、暫く圧倒されていた。

影沼ヒトリの歌が上手いのかどうかはリオには分からなかったが、ともかくとしてそれはリオの心を揺さぶった。

荒々しくも繊細で、美しくも狂気的だった。

まるで崇高な芸術作品に触れたような感覚だった。

 

「みんな、ありがとう 聞き苦しかったらごめんね」

 

そんなことないよ!

 

リオは画面の前で思わず言った。

 

ふつくしい

感動した

88888

最高

 

コメント欄も絶賛していた。

 

自分の曲作ろうよ

 

誰かが言った。

 

「ああ、うん 作詞作曲できたらいいよね・・・うん・・・」

 

声が尻すぼみになる。

先ほどまでとは打って変わって、全く自信の無さそうな声に戻っていた。

 

ゲーム実況してほしいです

 

誰かがお願いした。

 

「うん・・・僕は駿河武士さんや時雨リオさんみたいに面白くできないからな・・・ 僕、何にもできなくてごめん」

 

あの二人は特別

あれにはなるな

芸人と比べる必要はないぞ

気にするな

 

なんだかコメントで言われようが気にならなくもないが、それよりもリオは彼に声をかけたい衝動に駆られた。

 

「そんなことないよ!!」

 

リオはコメント欄にそう書き込んだ。

 

「ええ、時雨リオさん来てたんですか! ありがとうございます!」

 

急に声が明るくなったのが印象的だった。

 

「ということで先生は本日、社会見学をしてきました 学んだ事と致しましては、どこも視聴者が優しかったです だから皆、私にもう少し優しくなってくれてもいいんだよ!?」

 

リオはその日の配信で言った。猿たちは耳を傾けずにウホウホしていた。

 



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雑談だ! [2]

時雨リオの配信は、大体くだらない話で盛り上がる。

それがまさしく彼女の魅力なのである。―ココ・ドコヤ(オランダの思想家 1301~1402)

 

「みんなたい焼きって何味が好き?」

 

リオは皆に問いかけた。

リオは今日も雑談配信をしていた。これと言って話すことが決まって無い雑談配信では、リオの素朴な疑問も立派なテーマとなりうる。

そのためリオの頭の中でのんびり泳いでいたたい焼きは、本日の主役に選ばれた。

 

「まあなんでも美味いよね」

 

こしあん

つぶあん

アンパンマン

クリーム

チョコ

 

「なるほど、あんこが多いのか 特にこしあん」

 

リオはひとり納得した。

ちなみにリオはあんこなら”こし”だろうが”つぶ”だろうがどうでもいいと思っていた。

テレビでやたら報道される有名人の不倫と同じくらいどうでもいい事柄である。

 

「じゃあどこから食べる?」

 

頭だら

尻尾かな

すぃっぽですかね

頭じゃろ

 

「これは若干頭が多いのかな」

 

しかし味は一緒である。

それでも頭から食べたくなるのは、動物の本能によるものなのか。

 

「ちなみに私は腹から食べます」

 

ワイルド

かっこいい

中身出ちゃうじゃん

ゴリラの方が綺麗に食べそう

 

「嘘だよwwww そんな猫じゃあるまいしww」

 

にゃーん

みゃーー

にゃおーーん

ニャースでニャース

 

「え?」

 

何故かいっぱい猫が鳴いていた。

 

「ちょっと猫多くない!? 皆ゴリラの皮被った猫だったのか(?)」

 

みゃおんみゃおん

ねこねこ~

みゃーん

びえええええええええ

 

「まあでも猫可愛いよね いつか一緒に暮らしたいって思ってるんだ 一緒にベッドで寝たりとかよくない?」

 

ネコ缶食いそう

孤独には癒しが必要

↑あ・・・(察し)

リオは猫の集会に出そう

寝ぼけて絞め殺しそう

 

「失礼な ということで、自分は猫だよっていう人~」

 

ぱお~ん

わに~

がお~

きり~ん

 

「何でいなくなるんだよ!」

 

怖かったんだろきっとww

 

ネコは逃げるようにしていなくなってしまった。

代わりに野性味の強い動物が集まってきていた。

 

「ひとりもいないじゃん! しかもアフリカじゃん!」

 

がぜるー

しましまひひーん

かばーん

ぱおぱおぱおぱおぱおぱおぱおぱおぱおぱおぱお

 

「めっちゃ主張してる象いるし 何言いたいのか全然わかんないけど!」

 

ぱおぱおぱおぱお・・・・って言いたかっただけです

 

「ただのヤバい人だ!」

 

www

お前が呼んだんだぞ

かわいい

 

コメント欄に現れる変人。

リオは他の配信者と比べて、自分の視聴者は結構変な人が多いと気が付き始めていた。

それがリオの何でも受け入れる順応性と対応力に惹かれた輩であり、加えてそのカオスの中心がリオであることは残念ながら気付いていないのだが。

ともかくとして、リオは突っ込みの名手である。

 

「”モンゴル人の家って意味です”・・・だから何だよ!」

 

お前がパオパオ言ってるからだぞ

 

「言ってないわ!」

 

でもメソメソはしてたな

 

「やかましいわ!」

 

wwww

毎回泣き叫んでるな

もう特技じゃん

目覚ましにしてます

 

リオは疲れたので一息ついた。

そのときふと思い出したのが簡易メール”もっちー”の存在である。

他の配信者も使っていて、何か面白そうだった

とすればやらないわけにはいかない。

面白いことには目が無い、時雨リオである。

 

「そういえば今度から”もっちー”を取り入れるから みんな好きなだけ”もっちー”してくれていいよ」

 

まじか

いっぱい送るわ

いと嬉し

くそ餅送るわ

 

リオはそうして配信を終えた。

 

「どうして↑怪文書→ばかり↓届くんだ↑!!」

 

このアクションゲームのコマンドみたいな矢印はイントネーションを表している。

これが翌日の配信における第一声であった。

そのイントネーションの不安定さから、彼女の情緒の乱れが読みとれる。

挨拶も何もかも差し置いて言ったことから、彼女の相当の熱量が窺がえる。

Q.何が起きたのですか

A.彼女はつい昨日、もっちーを送るよう皆に呼びかけた。そしてその要望に応えるように、たくさんのもっちーが送られてきた。

中身は「文章から真意を読み取ることが難しい」でおなじみの怪文書ばかりだったよ!

 

「どうしてだ・・・ 皆、いやお前ら、私を楽しませようというfunnyで素晴らしい善意は持ち合わせていないのか!?」

 

funnyだったでしょ?w

お前のことが好きなんだよ!

送れと言うから送ったぞ

もっちもち~

 

「違うんだよな~」

 

リオは嘆いた。

リオが期待していたのは「好きなお肉は何ですか?」とか「好きなゴリラの仕草は何ですか?」とかそういった雑談に華を添えられるような話題性のあるやつである。

なのに送られてきたのは怪文書。もう360度違う。あ、一周したわ。

「まあとりあえず紹介するよ ええと最初のもっち―はこれかな

 

” ゴジュー円を握りしめて

 リンゴを買いました。

 ラスベガス産です

 すごいでしょ?

 きみにはあげない。”

 

「何の報告だよ!」

 

全くもって意味不明である。

 

wwww

お手本のような怪文書で草

ラ ス ベ ガ ス

縦読みじゃね?

縦に読んでみ

 

縦?

 

「ええと・・・”ゴリラすき” ああそういうことか!なんだいいやつかよ!ありがとう!」

 

なるほどwww

とうとうゴリラ認めたなwww

回りくどいのすこ

謎解きかよww

 

リオは素直になれない視聴者だと思い、素直に喜んだ。

もちろんからかわれているだけである。

 

「それなら他にもいいやつがいるかもしれないな! よし、次のを読もう!」

 

この流れは・・・

ざわ

どんどん読もう

楽しい予感

いでよベガス

 

「ええと”ラスベガスでりんご農園やってます^^”・・・さっきのお前がつくったんか!!」

 

wwww

やっぱりww

日 米 貿 易

よかったねー^^

 

「なんでうちの配信で国際交流してんだよww もういいや、次い

 ”美味しかったです”・・・だから会話すんなや!」

 

チャットで草

何を見せられてるんだww

成り立ってるの草

リンゴ育てる配信しよう

 

生産者と消費者が海を越えて結ばれるという奇跡を目の当たりにした。

素晴らしいことではあるが、リオが欲しいのはもっと別のものである。

リオは気を取り直して次のもっちーを読むことにした。

 

「はい次、

”キーボードの「4」と「G」の右下に書いてある平仮名を読んでください” 

ああ、これ知ってる!ごめん知ってる!これあれだ「すき」って言わせるやつでしょ 夢野雫さんがやってたよ!」

 

ばれちゃったか

残念

次はもう少し上手くやってくれ

惜しい

 

「いやいや読むよ 求められたら答えるのが私の主義だ!」

 

かっこいい

イケメンだあ』

音しよう

ありがてえ

あれ?でもこれ・・・

 

「ということで「4」と「G」の右下は・・・「う」「き」?・・・うき? ウキッ!?」

 

頭で猿が笑っていた。

 

「サルの鳴き真似させたかっただけじゃねえかああ!!」

 

wwwww

天才かよwww

録音しました

 

おい、チャンネル登録者5万人いったぞ

 

「く゛そ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ 何゛て゛今゛何゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」

 

wwwww

ノルマ達成

い つ も の

おめでとう!!

 

リオを嬉しくも悲しい複雑な感情を叫び声で轟かせた。

前回の武士コラボでチャンネル登録者数は良いペースで伸び続けていたのだが、記念すべき5万人の瞬間、リオは猿になっていたのだった。

せめて人でありたかった・・・

 

リオの届かぬ願いである。

 

「ま・・・まあ、めでたい事には変わりないっ 次の放送は5万人記念放送にしよう!」

 

やったああ

おめでとさん

やったぜ姉貴!

リオちゃん、こんなに大きくなって・・・

絶対行くよ!

 

「それじゃあ またな!」

 

またな!

低音さんきゅ

またな

またなっ

またな

 

そうしてリオはこの日の配信を終えた。

次の配信のことを思い、リオは自然と笑みを浮かべた。



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お祝い配信だ! [1]

画面には「祝 登録者5万人」の文字が掲げられたパーティ会場が表示されている。

コメント欄を見れば、既に多くの人が配信が始まるのを待っていた。リオは大量の酒をウキウキ気分で用意すると配信を始めた。

 

「みんな、うほうほ!」

 

リオは上機嫌に声を弾ませて言った。

 

うほ!

うほお!!

うほうほ!!

うほうっ!

 

リオの声に反応するコメント欄の猿たちも心なしかテンションが高い。

空気は楽しい予感で満ち溢れていた。

つまり本日は無礼講、素晴らしき祝いの席である。

 

「ってことでみんな来てくれてありがとう!!」

 

いえーい

始まった!!

待ってた

生きがい

 

リオは笑顔で言った。

記念すべき配信だけあって、若干いつもよりコメントが賑やかである。

リオはそれを眺めながら早速とばかりに、缶のハイボールに手を伸ばした。

 

「それじゃあみんな、酒か酒以外を持ってください持ちましたか持ちましたね 

はい、かんぱ~~い」

 

飲酒RTA

記録更新ですぜ姉貴

早速で草

かんぱ~~いっ

 

「ぐびぐびぐび ぷはあ~~ うまあ~~」

 

嗚呼~!お酒の音ォ~!

たまらねえなあ!!

美味いねえ

初手おっさん

 

リオは幸せそうに喉を鳴らした。

いつもの酒より3割増しで酒が美味く感じた。

というセリフが出てくる程には毎度配信で嗜んでいるリオである。

記念という言葉を口実に、いつもより美味しい酒がいつもより多く飲める。それだけでもこの配信の価値は大きい。

 

「そして今日はめでたいということでケーキも用意したよ」

 

酒とケーキ!?

酒飲めたら何でもいいんだろうな

普通にうまいよ

ケーキいいね

 

「ふふ 酒に合わない食べ物なんで存在しないんだよ」

リオはそういうと配信画面をいつもの2次元の映像ではなく、現実の映像を映すようにカメラに連動させて切り替えた。

リオが机の上にカメラを置く。

それによって映されたのは、机に乗っている飲み口が開けられた酒缶とその横で皿に乗せられた細長い三角形のチョコレートケーキである。

 

「どうだ とうとう次元を超えてみせたぞ」

 

なんか強そうで草

ええやん!

リアル配信嬉しい

美味そう

画面が綺麗だね

 

視聴者にそこそこに褒められているこのカメラ、実はリオが今日の配信のために買ってきたものだった。

前々から欲しいと思っていたものを、今日の配信の計画上、必要性が生じたので買ったのである。

 

「ちなみに私はチョコレートケーキ派」

 

は?抹茶だが?

俺もチョコ

普通にショート

チョコすこ

 

リオはそう言いながら、ケーキに巻いてある透明なフィルムを外した。

 

お手て~

これが生リオか

てこずってんねえ

これは長生きしますね

手相鑑定士いて草

 

「”手きれいで笑う” なにわろてんねんw」

 

ゴリラにしては毛が生えてないからなw

フィルム捨てるな

フィルム捨てないで食べろ

 

失礼なコメントに一言入れつつ、はがしたフィルムを捨てようとすれば一部のコメントで苦情が上がった。

曰く”食べろ”と。

なのでとりあえず食べてみた。

\クシャ クシャ/

フィルムを食べると乾いた音がする。

ヤギの気持ちが多少分かった。

 

「これで満足かい?」

 

何でやらせたんだよw

想像したら草

付いてるケーキ食えってことだろ

↑結局汚いww

 

リオはフィルムを捨てて、フォークを手に取った。そうして画面映りを多少気にしながら、ケーキの先端の崖部分をフォークで切り崩した後、捕まえた。

 

「いただきます」

 

偉い

召し上がれ

美味しそう

姉貴、左利き、キキキキキ

韻踏もうとすんなw

 

ちなみに右利きである。

ケーキを口に入れれば、じんわりと甘みが広がり美味であった。しかしリオは味を表現する能力を捨てていた。

 

食レポをどうぞ

 

「甘い そして美味しい」

 

www

Siriの方が上手い

姉貴もう少し頑張って

 

「茶碗蒸しぐらい美味しいよ」

 

舌バグってんのかww

なるほど

わけわからなくて草

もう頑張らないで

 

リオは要望には応えようと努力する女である。(答えるとは言っていない)

ちなみに茶碗蒸しは好物である。(聞いてない)

 

ケーキを食べる。酒を挟むを繰り返した。ケーキを食べ終えるころには缶を2つ開けていた。

まだ酒が回っているわけではないが、そこそこに気持ちの良い状態になってきていた。

 

「歌でも歌おうかな」

 

やったあ

リオの生歌!

きたあああ

盛り上がってまいりました

 

リオは立ち上がりながら思い付きで言った。

影沼ヒトリの歌声が記憶にあったせいかもしれない。

あそこまで上手くは歌えないが、歌を歌うのは好きだった。

 

「何歌おうか」

 

ボカロとか

俺ら東京さ行ぐだ

好きな曲でいこう

何でもいいよ

 

「それじゃあ・・・」

 

リオは知っているジブリの曲を歌っていくことにした。

カラオケを流して歌い始める。

 

「”~~~~ ~~~”」

 

人前では久々だったが、気持ちよく歌えていた。

ふとコメント欄を見れば『演歌っぽい』だの『こぶしがすごい』などと流れていた。

リオはソレを見て過去の記憶を思い出す。

昔、リオの友達はこれを”粘り気がすごい”と称していた。

そのときリオは”納豆が好きだからだよ”と返していた。

 

「ってことがあったんだよね」

 

www

会話のデッドボールするなw

リオは昔からリオなんだなって

わけわからなくて草

 

過去の君へ!今なら”私は本当にお餅だったのかもしれないね!?”なんて洒落の効いたワード(癒えない傷)を堂々と言い放つことが出来るよ!(出来ない)

ともかくとして、リオは自分が気持ち良く歌うとそんな風に自然となっちゃうのである。

そうして段々と熱が入っていき、やがて声量を抑えるも忘れていった。

 

\ドンッ/

 

「ひっ!?」

 

壁ドンきたあ

怒られちゃったねえ

これはよくない

 

ポニョポニョしていたら、とうとう隣人に壁ドンされてしまった。

 

「トトロの方が良かったかな?」

 

そういう問題ちゃうやろ

”黙れ小僧!”で一発よ

絶対違うだろ

土下座案件

 

「冗談だよ 後で謝りに行こ・・・」

 

リオは沈んだ声で言った。

 

リオは時計を見て現在の時刻を確認すると、配信画面をリアルから「祝5万人」が掲げられたパーティ会場の背景とカラスの擬人化でおなじみ時雨リオが表示されている画面に戻した。

そうしてPC前の席に着いた。

 

「皆、今からこのパーティ会場にお客さんが来るかもしれない!」

 

リオは期待のこもった声で言った。

実はリオは事前に、”通話ソフトを利用してお祝いの通話をしていただけませんか?”と自分の所属する事務所を通じて、その所属Vtuber達に頼み込んでいた。

そしてもし、それを承諾してくれていた場合、今の時間帯に通話がかかってくることになっていたのである。

ただこれは可能性としては、誰もかけてこないということも十分にありえる事である。

そのためリオは視聴者とくだらない話をしながらも、半ば祈るような気持ちで誰か通話してくれるのを待っていた。

 

「来ないな・・・」

 

なかなか来なかった。

 

ぼっちで草

凸待ち0人ってま?

みんなに怖がられてるんだろきっと

可愛そう

 

「可愛そう言うな いや・・・誰かくるさきっと」

 

哀愁がすごい

悲痛で草

こないよー^^

今までの行いがな~

 

リオは視聴者のコメントを見て、今までの行いを振り返る。

直近で言えばRUBG配信。あれを切り抜いた動画がニヨニヨ動画にいくつか上がっていて、更に何故か伸びていて、”壊れたインコ”だの”動く災害”だのと騒がれていた。

全く否定できない。

しかしもしそういった切り抜きを見て時雨リオを知った場合、その第一印象はやべえVtuberになるのだろう。

・・・やはり否定はできない。

そうしてリオは誰も来なかったらしょうがないと諦めかけていたのだが、しかしそれは不意にやってきたのだった。

 

「みんな誰か来たあああ」

 

やったぜ

いらっしゃいませえええ

よかったねー

どうせ武士だろw

 

光るアイコン。

リオは逸る気持ちで通話をした。

 

「お越しいただきありがとうございます 早速ですがどなた様ですか」

「りおちゃあん、きたわよん」

「おふっ」

 

画面に映る青色坊主。

果たして現れたのは先輩オカマVtuber山田ゴライアスであった。

 

「みんなお初う~ 山田ゴライアスよ~」

 

出たああww

濃いのがきたなあwww

いらっしゃいませえ

 

「じゃあ挨拶のキッスをあげるわ いくわよ!チュ!」

 

おえええ

ぶひいいいいいい

チュ!!

お帰りくださいませえ

 

ゴライアスの精神攻撃にコメント欄は阿鼻叫喚であった。

 

「ってことでリオちゃん!会いたかったわあ!」

「ありがとうございます 初めまして、時雨リオです」

「あら忘れん坊さん、久しぶりでしょ」

「そ・・・そうでしたね」

 

リオは困惑しながら返事をした。

思い返すのは先日の配信である。山田ゴライアスは超人的な勘の良さでリオが配信を見ていることに気づいたのだった。

武士といいゴライアスといい、人類は不思議がいっぱいである。

 

「とにかく5万人おめでと!お酒でも呑みましょう」

「え、やったあ 酒酒え!お酒を呑みましょう!」

 

リオは酒と聞いて声を弾ませた。

お酒さえあれば人間の距離など簡単に埋まる。(暴論)

 

「「かんぱ~~い」」

 

また飲むのかよww

血液とアルコール入れかえよう

かんぱ~い

いいね!

 

「「ぐびぐびぐび ぶはあ~」」

 

ハモるなww

汚いww

無礼講だぜ

おっさんしかいないww

 

おっさん二人が幸せのハーモニーを奏でた。

 

「ところでリオちゃん!私、貴方のファンなのよん!」

「ありがとうございます」

「だ・か・ら~ ”キッス”私にチョーだい?」

「なっ!?」

 

オカマの突然の申し出に、リオは驚きの声を上げた。

いや、リオはピュアピュアなわけではない。

リオにだって今まで恋人ぐらいいたことがあったのでキスが何たるかは知っている。

キスは好きな人に贈るものである。

 

「まだじゃない!?」

 

なんか間違えた。

 

リオ×ゴラ

違う、そうじゃない

イチャイチャすんな

 

「あら、海外だったら挨拶でするところもあるわよ」

「ここ海外じゃないですよね」

「そうかしら 同じVtuberをやっていても遠く離れている私たち これはもう海外よね」

「そっか」

 

”そっか”じゃないがww

そっか(思考停止)

駄目だこの子www

そうだよ(迫真)

 

ほどほどに酒が回ってきたリオは、思考能力が落ちていた。

今のリオは気分が良い。

 

「いきますよ」

「待って ”キスしよっか”でチューするのよ」

「分かりました じゃあいきます」

 

物わかり良くて草

ふわふわリオちゃん

録音準備い!

ざわ・・・ざわ・・・

 

「ねえ、キスしよっか」

 

\チュ/

 

「ぐっ」

 

嗚呼ああああああああ

えっっっっっ

もう死んでいい

最高すぎる

かっこいい可愛いかっこいい可愛いかっこいい可愛いk

ぐはあっ(吐血)

 

リオはキスをした。

その破壊力はすさまじく、コメント欄は歓喜の悲鳴を上げて、仕掛け人であるオカマさえも思わず潰れた声をもらした。

投げキッスではない。本物のキスだった。

リオは投げキッスなんて人生でしたことがなかった。そのためスピーカーから流れたのはリオの口先から漏れ出た微かな吐息と、水気を帯びて空気に溶けるようなリップ音だった。

それは普段の残念イケメン苦労人リオのイメージとはあまりにかけ離れた、艶美で妖美な響きだった。

多くの者はギャップで死んだ。

生き残った者は悶えていた。

 

「あれ・・・みんなどうしたの?」

 

強者の風格である。

 

「んんっ なんでもないわ」

「あ、そうだゴライアスさん筋トレ好き? あのね・・・」

 

すぐに通常モードになり、図らずも皆を落ち着かせるところはやはりリオである。

このまま通話を終えるまで、二人は他愛もない話で盛り上がっていた。

 

そうして通話を終えて一人目のお客さんは満足そうに帰って行った。

(投げキッスってあれで合ってたっけ・・・?)

リオは心の中で密かに自問した。

 

 

 

 

 



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お祝い配信だ! [2]

山田ゴライアスは台風のような人物だった。

場を一気に賑やかにして、ふらりと立ち去っていった。

尤も、最大瞬間風速を叩きだしたのはリオがキスしたときだったわけだが本人は全く気付いていない。

 

「何か賑やかだったね」

 

お前じゃい!

これが無知シチュですか

ゴライアスマジ感謝

あのオカマやり手だわ

 

「あ、そういえばあの人気配でイケメン分かるらしいから、みんなの中でも狙われてる人がいるかもしれないねww」

 

こっわ

何それこわ

脅しですか?全く怖くないです

↑お前とは仲良くなれそう

 

リオは和やかに話をしながら一息入れる。

何はともあれ山田ゴライアスの襲撃により、誰にも祝われないという絶望を回避することは出来た。

もし誰にも祝われなかったら、いくらゴリラの子と噂される時雨リオでも傷付いていたことだろう。

ちなみに武士は”侍はライバルを祝ったりしない!”とよく分からないことを言っていた。しかもその後”侍ジョークで候!おめでとう!どうだキレ味はああ!?”などとぬかしきたので、「なまくらだばーか」と吐き捨てておいた。

とはいえリオも、自分と接点のあるVtuberが大声侍しかいないことを知っていたので、この先は本当に誰も来ないだろうと諦めていた。

しかし突然に通話はやってきた。

リオはかなり驚いた。

 

「お越しいただきありがとうございます 早速ですがどなた様ですか」

「夢野雫です」

「・・・すいませんもう一度お願いします」

「夢野雫です」

「・・・れえええええええええええええっっっ!!」

 

まじか!

雫!?

きたあああ

リオ、いくら積んだんだ?

 

通話の相手は夢野雫だった。

リオは感激のあまり目を見開いて声を上げた。

リオは夢野雫のファンであり、その声を聞いただけで一気に感情が沸き上がるのを感じた。

 

「えっ え、なんで? 夢野雫? え、死んだの私?まじか」

 

リオは混乱のあまり自問自答を繰り返した。

 

「死んでないですよ」

「そっか死んでないか 死んでない、死んでないのか~よかった~~ ところでどちら様ですか?」

「夢野雫です」

「ふぁああああああああ」

 

そらしどおおおおおおお

↑それ楽しいか?

無限ループすんな

壊れちゃった

落ち着けやww

 

リオは興奮のあまり感情が高ぶって一瞬壊れてしまった。

その後すぐに自分の気持ち悪さに気が付き正気を取り戻したが、心拍は上昇したままである。

あれ?夢野雫が何しに来たんだ?

リオはふと疑問に思った。

憧れを目の前にした人間は、時として思考が正常に働かないものである。

 

「あの、何しに来たんですか?」

「登録者5万人のお祝いに来ました」

「そうですよねえええ」

 

リオの顔は青くなった。

先ほどからころころと感情が変わり、表情筋は大忙しである。

 

「あらためて、時雨リオさん登録者5万人おめでとうございます」

「あああありがとうございます(裏声)!!」

 

きもくて草

リオは雫のファンだったんだな

キモオタムーブやめいwww

裏声で草

 

「ちょっと深呼吸しますね」

 

リオは自分を落ち着かせるために深呼吸をした。

そうして少しの間PCから視線を外して、ただの壁を見つめる。

なんとか平静を取り戻した。

 

「すみません お待たせしました」

「いえ 私、リオさんのファンなんです」

「へあ!? ありがとうございます」

 

少しウルトラマンが出たが、平静である。

 

「実はこうやって他の人の配信にお邪魔したことはあまりないんですよね」

「そうなんですか じゃあ、今度コラボとかどうですか?」

 

唐突で草

ゴリオ発情すんな

パワープレイやめろ

出会い系みたいで草

Vtuber界の陽と陰

 

リオはとてもとても平静なので、考えなしに突然コラボを申し込んだ。

 

「それは是非お願いします 嬉しいです」

 

何故か通った。

 

きたああああ

やったああ

絶対見るわ

えええええ

 

「え、ああ、ありがとうございます え、ありがとうございます」

 

リオは自分で言っておいて相当に慌ててしまった。

コメント欄は大騒ぎである。

リオの心中も大騒ぎである。。

断られることを前提にちょっとした冗談として言ったのだが、本当に受け入れてもらえるとは思ってもいなかった。

 

「私、リオさんの今までの動画全部見てます メリカとかRUBGとか」

「あ・・・まじすか・・・」

 

自分で引いてんじゃねえよwww

公 開 処 刑

Oh・・・

罰ゲームでもさせられてたんか

 

リオは自分の過去動画を思い返してみても、碌な物が無いことを知っている。

だから好き好んで見る人は、変わり者だと思っていた。

 

「リオさんの動画、全部見てます。何度も見てます。暇さえあればずっと見てます。そのくらいリオさんのことが好きです」

「・・・ありがとうございます」

 

ふぁっ百合やん

キマシタワ~

嗚呼~(尊死)

ぬっ

 

リオは夢野雫にここまで自分の動画を好いてもらっていたことを嬉しく思った。

しかし同時に、背筋にうっすらと寒気が走るのを感じた。

理由はよく分からなかった。

 

夢野雫が帰った後、リオはいつかできるであろう彼女とのコラボ配信を想像した。

共通の話題とか絶対ないがゲームだったら盛り上がれるだろう。さて、どんなゲームをやろうか。

妄想に夢を膨らませていたら3人目の訪問者が現れた。

リオはもはや驚きすぎて驚かなかった。(哲学)

 

「お越しいただきありがとうございます 早速ですがどなた様ですか」

 

リオは決まり文句を読み上げた。

 

「影沼ヒトリです よろしく・・・お願いします」

「ヒトリ君!?」

 

果たしてやってきたのは、以前に配信にお邪魔した際に美しい歌声を響かせていた影沼ヒトリであった。

 

「みんな聞いてよ!ヒトリ君は私の数少ない後輩の一人なんだよ!!あ、初対面なのにヒトリ君とか馴れ馴れしくしちゃったけど、嫌だったらほんとごめん」

「いえ・・・嬉しいです はい・・・」

「それなら良かった」

 

恐喝でもしてるのか?

リオ姉貴怖いよね

後輩いたんだな

落ち着いた子だな

脅すなよ

 

「脅してないよ!」

 

影沼ヒトリは少し詰まりながら話していて、喋り慣れていない様子だった。

リオは彼が口下手なことは事前に知っていたために、別段驚くことは無かった。

ただ自分の配信で喋っている時と比べて、多少緊張している様子であることはリオも気づいた。

 

「緊張しなくていなくていいからね ここにいるの皆、猿だから」

 

うっほ(よろしく)

うほおお!

うほっ(うほっ)!!

うほ~っほ

 

「ふっ 面白いですねw」

 

彼はリオの配信を見ていた。コメント欄を見て少し笑った。

緊張をほぐすには猿を使う事は効果的なのである。

ボス猿は上手くいったと笑みを浮かべた。

 

「あの、登録者5万人おめでとうございます」

「ありがとう!!」

「あの、前にコメントいただけて・・・あれすごく嬉しかったです ありがとうございました」

「いえいえこちらこそ 歌すごかったよ 感動した」

 

影沼ヒトリは丁寧に感謝の意を伝えた。

リオは以前彼の配信を訪れて、コメントを残していた。

リオとしては心を揺さぶられる歌を聞けて自然と漏れ出たコメントであった。

だから感謝されるようなことではないのである。

 

「そういえばヒトリ君、私と武士の配信見てくれてたんだっけ」

「はい 面白かったです」

 

それを聞いて、リオはふといたずら心が沸いた。

 

「私パンTって言ってたよね」

「・・・はい」

「どう思った?」

 

セクハラやめろやww

この先輩最低である

このゴリラ野生に返そう

年中発情期

 

「ただのアンケートだよ!」

 

ただのセクハラである。

影沼ヒトリはたっぷりと沈黙した後、満を持して答えた。

 

「・・・おもしろパンTでした」

 

よく頑張ったよ

えらい

気使われてて草

 

「・・・そっか」

 

そっかじゃねえよwww

何で聞いたんだww

後輩を困らすな

う~ん、パンT

 

リオはさっきまで面白い質問だと思っていたのだが、今は何も面白くなかった。

過去のパンTを殴りたかった。

リオがくだらないことを考えている間に、彼はギターを手に持った。

 

「あの、祝いの場ということで・・・一曲歌ってもいいですか?」

「え!ほんとに!?ありがとう!!」

「いえいえ」

 

リオは彼の歌声が大好きである。

 

「何歌ってくれるの?ジブリ?演歌?」

「ハッピーバースデーのやつです」

「ええと、トューユーするやつ?」

「トューユーします」

 

誕生日で草

ビバハピバ!

誕生日おめでとう

 

意外な選曲だった。

ちなみにリオの誕生日は1月、現在は7月なので誕生日まだ先である。

あと誕生日は美味しく酒が飲める良い日である。

 

「ちなみにそれは、どうやって決まったの?」

「視聴者の人がリオさんが”毎日誕生日気分で最高だぜ!”って言うのを聞いたと」

「そんな馬鹿っぽいこと言わないよ!!」

 

合ってんだろwww

よおバースディパンT!

リオはいつも楽しそうだからな

間違ってないww

 

「ああ、すみません やめますすみません」

「いやいやいや せっかく準備してくれたわけだし歌ってよ!全然聞きたい!ああ歳取った!ほら歳取った!酒が美味いから、歳取ってるよ!」

「・・・それじゃあ歌わせていただきます」

 

リオは必死に酒を飲むことで、歳をとった。(?)

彼の歌が聴ければそれで良かったのである。

 

彼の歌声は相変わらず綺麗で繊細でとても素晴らしいものだった。

コメント欄にも感動している人がたくさんいた。

そうして彼は皆の心を温めて帰っていった。

 

彼が帰ったのちに息付く間もなく、次の通話がかかってきた。

まるで急かすようにアイコンが点滅していた。

リオは正直、もう少し歌の余韻を味わいたい気持ちもあったが、せっかくのお客さんを待たせるわけにもいかないのですぐさま通話に答えることにした。

 

「お越しいただきありがとうございます どなた様ですか?」

「某がああああああ 駿河b」

 

\ブチッ/

 

リオは”某があああああ”の爆音で驚き、”駿河”と聞こえた段階で反射的に通話を切った。駿河武士は事前にリオにおめでとうの言葉を継げていた。つまりわざわざ通話をかけてくる必要はないのである。

彼の意図を図りかねていると、再び通話が来た。

 

「要件をどうぞ」

「視聴者に”リオが誰にも祝われていない”と聞いてなあああ 某が嗚呼あああ直々にいいい祝いに来てやったのだああああ」

「祝ってもらったわ」

「え?左様か?」

「左様だ」

「某は・・・騙されたのか!?」

「左様だ そしてさようなら」

 

リオはスピーカー越しに武士が騒ぎ出す気配を感じて迷いなく通話を切った。

この行為は恐らく災害対策に該当するため、失礼には当たらないだろう。

 

危なかった

よくやった

しょうがないね

ちょんまげ喉に突っ込みたい

 

ほら、コメント欄も喜んでる。



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お祝い配信だ! [終]

訪問者が帰った後で時計を見れば、時刻は夕方になっていた。

通話がかかってくる時間は終わりである。

窓の外に目をやれば、橙色の空を黒いカラスが鳴き声をあげながらのどかに飛んでいた。

 

「みんな、せっかくだし外にでも行こうか」

 

リオは夕空を眺めながらつぶやいた。

 

いいね

リアル配信きたあ

もうすぐ暗くなるよ

どこいくの?

 

「まあ、ちょっとした散歩だよ」 

 

リオはつぶやいた。

 

「身バレ嫌だからしばらく真っ暗な画面になるよ」

 

リオはそう言って配信画面をカメラに切り替えた後、画面を真っ暗な状態にした。そうしてカメラを持って家から出る。

おっと危ない。

リオは玄関まで来たときに、忘れ物を思い出し部屋へと取りに戻った。それはバケツと今日のためにいろいろ買っておいたものが詰まっている袋であった。外へ出ると、夕日が優しくリオを照らしていて、リオの足から黒い影を伸ばしていた。

リオは橙色に染まる街並みを眺めながら歩を進めた。

 

リオの鳴らす足音はコンクリートの硬い音から、砂の柔らかい音へと変わっていた。

リオはバケツを適当な場所に置いた。

 

「皆お待たせ」

 

リオはそう声をかけると、カメラで外の様子を映した。現れたのは一面に広がる海と砂浜だった。

 

おお~~

めっちゃ綺麗!!

絶景だね

ふつくしい

 

コメント欄では感嘆の声があふれる。

海の向こうでは夕日が本日の業務を終えようとしていて、その淡い光が走るようにして海面を反射し、絵画のような風景を作り出していた。

リオはその光を正面からじっと眺めると、懐かしい記憶を思い出した。

リオはカメラを下に向けた。

半身を光に染め上げながら、足跡をつけていく。

歩くのに合わせて手に下げた袋も、しゃかしゃかと音を立てている。

 

「ここには小さい頃、よく釣りをしに来たんだ」

 

リオは語り始めた。

 

「よく兄貴と一緒に来てさ、楽しくてさ」

 

なんかエモい話来そう

兄弟居たんだね

海(/・ω・)/

ざわ・・・ざわ・・・

 

さざめく波の音が感傷的な雰囲気を演出していた。

リオはそれを背景に話を続ける。

 

「私が釣りを始めると、隣にいつも同じシラサギが飛んできてさ 私がその子に釣った魚をよく上げてたんだ」

 

ほうほう

それで?

海(*'ω'*)

ざわ・・・ざわ・・・

 

「それである日、兄貴とどっちが多く釣れるか競うことになったんだけど、私はいつも通り魚あげてたから案の定負けたんだよね」

 

それでそれで

海٩( ᐛ )و

ほう

ざわ・・・ざわ・・・

 

 

「そしたらそのシラサギが・・・なんと・・・」

 

なんと?

海(*'▽')

ざわ・・・ざわ・・・

・・・来る!

 

無駄に緊張感が高まった。

視聴者はリオの次の言葉を待った。

そしてリオは口を開いた。

 

「目の前でめちゃくちゃ魚をゲロってさ 私が勝ってしまいました」

 

はい解散

海( ;∀;)

しょっぼ

思い出話それかよ

汚くて草

 

リオの話はまともな方が珍しい。

リオは足を止めると再びに夕日に向き直り、光を浴びた。カメラも美しい夕日を捉えていた。

そうして持ってきた袋から缶ビールを取り出すと、一仕事終えたとばかりに得意げにそれを飲んでいく。

趣ある風景が酒を美味しくしていた。

夕陽を見ながら魔法のお水を身体にぶち込んでいると、遠くからこちらに向かって飛んでいる小さい黒い影を見た。

それは距離が近づくにつれて段々と大きくなり、そのシルエットをはっきりとさせていく。

 

「ほら皆見て、噂をすれば来たよ」

 

やって来たのはシラサギだった。シラサギはそのままリオの近くまで飛んできて、その隣に足を下ろした。

その身体は真っ白でリオの身長の半分ほどの大きさがあり、S字に曲がった首と枝のように細い脚が特徴的であった。

この鳥はもちろん、リオが当時可愛がっていたものとは違う。

それでもリオはこの鳥を見て、昔を懐かしんだ。

 

「久しぶりだなあ やっぱりここのシラサギは人懐っこいんだな」

 

良いゴリラは動物に好かれちかまうんだ

普通にでけえw

近くで見ると可愛い

眼がこええ

 

「仲良いから大丈夫だよ 昔は頭撫でてたんだ そうだよな?」

 

リオがシラサギに語り掛ける。

シラサギは全くの無表情である。

リオはシラサギに微笑みかける。

シラサギは全くの無表情である。

 

「まあだからこうやって手を伸ばせば・・・」

 

リオはそう言いながらおもむろに手を伸ばした。その手をシラサギはじっと見つめていた。

彼を信用している柔らかそうな手がゆっくりと彼の頭に近づいた、その時。

 

\グサッ!/

 

「い゛っ゛」

 

しっかりくちばしで突かれた。

リオは潰れたカエルのような声を漏らしながら、反射的に手を引っ込めた。

 

そらそうよww

生 存 本 能

野生同士仲良くしろww

ソーセージと間違えたんだろうな

 

「お前、変わっちまったなあ・・・」

 

そもそも別の鳥である。

リオはシラサギから袋の中へと視線を移すと、シラサギが食べれる物が無いかと手でごそごそと探った。シラサギもそれを見て食べ物の気配を感じ取ったのか、歩いて袋の側までやってきていた。

シラサギがリオの手をじっと見つめている。

そんな鳥の期待を一身に背負い、ついにリオは袋から取り出した。

それはプラ容器に入っていた。

酒の肴、焼き鳥であった。

 

\グサッ グサッ グサッ/

 

「ごめん ごめんって! 悪気はないんだよ! 出来心なんだよ!」

 

外道で草

鳥に焼き鳥を見せるなwww

鬼畜かよww

弱 肉 強 食

 

リオは手や身体をめちゃくちゃに突かれた。

シラサギは激おこであった。

しかし無いものは無いのだから仕方ない。

 

そもそも人にご飯をねだるなよ

 

などとリオは内心思ったわけだが、そもそもの原因は恐らく食べ物をあげるリオのような人間である。

リオに自覚などないが。

リオはキツツキようになってしまったシラサギには構わずに、串に刺さった焼き鳥をプラ容器から取り出すと口に運んだ。

 

「ふっ 君にはこの味は理解できまい!酒と合わさって最強になったこの味をな!」

 

リオは焼き鳥を噛みしめる様を、まるで挑発するように見せつけた。

その顔に浮かぶのは満面の笑みである。

 

「これが人間の力だ!これが大人になるってことなんだ!」

 

リオはさらに挑発した。鳥を本気で煽る人間の図である。

するとさっきまで怒っていたシラサギが急に動きを止めた。

その顔はじっとリオの口元を見つめている。

リオはそれを見て勝利を確信した。

 

「シラサギくん、どうやら負けを認めたみたいだね ごめんね、昔とは違うんだ」

 

そう言い放って串についた焼き鳥にかぶりつくために、わざと大きく口を開いた。

しかし焼き鳥が口にやってくることはなかった。

 

\バサアッ/

 

「えっ?」

 

リオの目の前を一瞬、影が通過したかと思うと手元の焼き鳥は姿を消していた。

リオとカメラが反射的に影を追えば、先ほどまで隣にいたシラサギが焼き鳥をわし掴みして(激寒ギャグ)遠くの空へと飛んでいく後ろ姿があった。

 

リ オ は 焼 き 鳥 を 奪 わ れ た。

 

「ああ、なるほどね 昔は魚で今は肴 君も”昔とは違うんだぞ”ってことか・・・ 

じゃねえよ!!私の焼き鳥返せ! 焼き鳥にするぞおらぁっ!!」

 

wwwwww

リオ、お前の負けだ

一人で何言ってんだwww

因 果 応 報

 

リオは敗北した。

虎視眈々とチャンスを狙っていたシラサギが見事に人類に勝利した。

颯爽と風を切っていくその背後では、砂浜に四つん這いになって落ち込むリオの姿があった。

シラサギは彼女のことなど5秒で忘れた。

 

 

 

 

 

気付けば日は沈み、辺りは真っ暗になっていた。周囲には穏やかな寂しさが広がり、黒い波のさざめきだけが響いている。

 

「よし 今から花火をします」

 

リオは暗くなったのを確認すると、カメラに向かってそう言った。

 

いいね

やったあ

楽しみ

きたああああ

 

夏の定番イベントということもあり、コメント欄は盛り上がった。

リオは来る時に置いておいた、燃えカス処理用のバケツを取りに向かった。

砂浜に足跡を付ける遊びをしながら歩いていると、足元に突然カニが現れた。

 

「皆、カニだよ 花火で焼いたらおいしくなるかな?」

 

こっわ

やめろや

さ る か に 合 戦

料理系Vtuber

 

「嘘だよww 人間は弱い種族だからね・・・」

 

さっきの引きずってて草

負けゴリラ

鳥に負けたからな

鳥以下のゴリラ

鳥頭

 

「誰が鳥頭だっ!」

 

草 

否めなくて草

リオ、多分お前馬鹿だぞ

直球www

 

サラッと流れた罵倒にモノ申しつつ、リオはカニを慎重に踏み越えた。

そうしてバケツを回収して水を入れた。

リオは花火をする場所を決めるために砂浜を眺めたが、どこまでも平面でどこでも同じだった。

リオは適当な場所にバケツを置いてその横にしゃがみ込むと、袋からいくつかの花火を取り出した。

 

「この花火を使い切ったら今日の配信は終わりだよ それじゃあまずはこれ」

 

リオは一つ花火を手に持って、残りを袋にしまった。

リオが手に持った棒状の花火の先端に火をつける。

するとその先端から美しい光がぱちぱちと音を立てながら、すすきのように広がって吹き出し始めた。

 

「夏だね~」

 

夏だな

美しい

音が良いわ

リオの動画では珍しい癒し

 

リオは花光に見とれながらぼそりとつぶやいた。

吹き出す光は辺りの暗闇を照らし出し、柔らかな空間を作り出していた。

リオは光を見つめながら、チャンネル登録者5万人までの軌跡を振り返る。

 

「ええと 今までやって来たことは・・・ 雑談と、武士とのコラボ、時たま雑談、たまに武士・・・あれ?」

 

全然思いつかなかった。

悲しいかな雑談と武士以外特に何もしてなかった。

頑張って思いだそうとすればメリオが遠くの方で叫んでる気がしなくもない。

あれ?ていうかこれ・・・

 

「カップルチャンネルだっけ?」

 

wwwwww

お前らみたいなカップルがいるかwww

量より質で勝負してるから(震え)

理由もなくBANされそう

 

もちろん冗談である。ただ自分がのチャンネル登録者数が5万人いったのは、どうやら武士の貢献が大きいのは確からしかった。

さんきゅーBig voice

本人には決して言わないであろう言葉を心の中で告げておいた。

 

呼んだか?

 

コメント欄に武士はぬるりと現れた。

 

「呼んでない」

 

武士いて草

何でいんだよwww

草ア!

いたのかよww

 

リオが無表情で光を眺めていると、そのうちに噴き出さなくなっていった。

リオはそれから考える事はやめて、花火をひたすらに楽しんだ。

一気に4本を指の間に持って光るウルバリンごっこをしてみたり、空中にひたすらSOSを描いてみたり、噴射される光にどこまで手を近づけられるか試してみたり。

視聴者と一緒になって、リオは子供のようにはしゃいだ。暗闇の中にリオは笑い声を響かせた。

そうして気づくと、残りは線香花火一本となっていた。

 

「皆、これラストだよ・・・」

 

まだまだ遊び足りない気持ちもあるが、最後の一本に火をつけた。

リオは静かに光始めた花火をぼうっと見つめながら、改めて今の自分の状況を思った。

少しはしゃぎすぎたのか、彼女は眠気に襲われた。

意識がゆっくりと暗闇へ落ちてゆく。

 

本当に多くの人に自分のことを認めてもらえている とてもありがたいことだ

幸せだ この上ない幸せだ

 

それはどこまでも本心だ。リオは幸せ者だ。それは明るい。多幸感に包まれている。

しかし音がする。ぽこぽこと水が這い上がる音。

奥の方で黒い水が蓋を押し上げている。

 

居心地が良い 手放したくない

 

漏れかけている。黒い一部が蓋から覗いている。

 

生きていて良かった

 

あふれ出す、黒色。

 

それは

 

っ!!

 

リオは弾かれたように意識を取り戻した。

危ない危ない 今はダメだ 絶対だめだ 思い出すな 押さえつけろ

リオはなんとか心を落ち着かせた。

 

何で泣いてるんだ

どうした?

花火に目ん玉攻撃された?

ダイジョブか?ごりら?ごりらごりら?

 

「えっ?」

 

リオは瞳に手を伸ばした。指先が濡れた。

リオは自分も気づかぬ間に涙を流していた。その涙が頬を伝って、花火で照らされた砂浜へと落ちて、いくつかの丸い模様をつくりだしていた。

視聴者はそれを見てリオが泣いてることに気が付いたらしかった。

リオは涙を拭うと、笑顔で言った。

 

「嬉しいんだよ 5万人いってさ 皆に認められて良かったなって」

 

大げさかよwww

繊細で草

良かったな

姉貴まじ好こ

可愛い

 

「ふっww 照れるけど、みんなありがとう これからもよろしくな」

 

こちらこそありがとう

あたりめーよ

一生ついてくから一緒に墓に入れて

よろしくー;;

涙出てきた

 

リオが言葉を発した後に、線香花火は力尽きた。

 

「またなっ」

 

リオは配信を終了した。

辺りには再び暗闇が広がっていた。それは生き物のように質量を持って蠢いているように見えた。

暗闇が怖かった。

 

さっきまで明るかったから 賑やかだったから だから当然だ うん

 

リオは目を閉じた。



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夢だ!

リオは砂浜の上で膝を抱えて座り、遠くの海を眺めていた。時間帯は夜で、辺りには暗闇が広がっている。

リオはここが夢の中であることを自覚していた。

昨日は記念配信の後、そのまま家に帰り眠った。その記憶が確かにあった。

そのためリオは、目の前の砂浜を行列で歩くヒトデも、甲羅でブレイクダンスをキメてるカメも空を泳いでいるでかいクジラも全て妄想であることを知っていた。

そこらで繰り広げられる奇怪な光景を見つめていると、どこからともなく飛んできたシラサギがリオの頭に着地した。

リオが上を見れば、上からリオを覗き込むように見下ろすシラサギと目が合った。

 

「別に本当に死にたいわけじゃないな どちらかと言えば消えたいんだ」

 

喋ったのはシラサギだ。しかし声はリオのものだ。

シラサギは黒い海を眺めながら語り始めた。

 

「そもそもどうしてこんなことになったんだっけ」

 

シラサギがつぶやくと、今まで遠くの方でさざめいていた黒い波がみるみるうちに大きくなり、やがて人の背丈を優に超える巨大な波の壁となってリオの方へと迫って来た。

リオは目を見開くと急いで立ち上がり、逃げるために後ろを振り返った。

そこには一本道が伸びていた。まるで平均台のように肩幅程の道がリオの足元から真っ直ぐ前に伸びていて、その両側には漆黒の沼が広がっている。

それ以外はすべて暗闇。何も見えない。どこまでも黒。

後ろを振り返れば波はすぐそばまで迫ってきていた。

 

メリオカートエエエイイトッッ!!

 

どこからともなく叫び声が聞こえた。。リオは素早く辺りを見渡したが音がどこからしたのかは分からない。

とにかくリオは一本道を走らなければならなかった。

 

3・2・1・GO!!

 

奇しくも突然に聞こえてきたメリオカートのスタートに合わせてリオは一本道を駆け始めた。

それに合わせて頭上のシラサギも何やらしゃべり始める。

 

「最初は新入社員だった 覚えることが多くて本当に大変だった」

 

リオはひたすら走っていた。耳に入るのはシラサギの戯言と波の唸り声とそしていつの間にか響き始めた黒野ヒトリの歌声だった。

 

「仕事もたくさんミスした その度に叱られて またミスをして 叱られて またミスをして」

 

リオの進む一本道は先が見えなかった。それが出口がないのか、暗闇によるものなのかは分からない。

 

「毎日残業をした 新人だから他の人が残る中、先に独り帰るわけにはいかなかった」

 

道の右に広がっていた沼から突然ポコポコと音がし始めた。

気になって足を止めてそちらに目を向ければ、ザバンと音を立てながら水面より女の上司が生えてきた。

 

”団子のつくり方を教えてほしいにゃん”

 

無表情で無機質な声で、ただ目だけは真っ直ぐとリオを見つめながら繰り返しつぶやいていた。

今度は道の左側の沼からザバンと水を割る音がした。反射的にそちらを見れば、同じようにして別の男の上司が生えていた。

 

”zyよん歳になりました。祝ってください”

 

また壊れたラジカセのように、しかし目だけはこちらを睨みつけながら繰り返している。

たまらず意識を逸らせば黒野ヒトリが壊れる心をシャウトで訴えている。

 

「働いて叱られて残業して 働いて叱られて残業して ごく普通の社会人を全うしていた」

 

シラサギが朗々と語っている。

遠くの波の音は気付けば、武士の叫び声となっていた。

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

 

幾重にも重なる音が鬱陶しくて、リオは叫び声を上げてその場から離れた。

 

「でもそれが私には無理だった 私はきっと貧弱だった いつしか身体が壊れ始めた」

 

走れど走れど終わりが見えない。徐々に足がもつれ始めた。

 

「言うことを聞かない身体 医者が病名を書いた診断書を渡してきた 全く情けない」

 

もう限界だった。一歩も走れなくなった。リオは完全に足を止めた。

 

「申し訳なかった 仕事を辞めた ずっと無気力でずっと休んでいた」

 

膝で荒い息をつく。顔から地面へと垂れる汗を無意味に見つめていた。

頭上のシラサギはどこかへと飛び立っていった。

リオはふと耳元まで轟音が迫っていることに気づいた。すぐそばだ。

恐怖で顔を引きつらせながら後ろを振り返った。

同時に全身を激しい衝撃が襲い、リオの身体は地面から離れて自由を失った。

仰向けのまま流れていく曖昧な景色で、初めて自分が波に飲まれたことに気が付いた。

リオは必死に呼吸をしようとしたが、水流で身体は動かせず黒い水が体を埋め尽くしていくのを感じた。

身近に迫る死の恐怖から逃げたくなって、リオは瞳を強く閉じた。

 

”リオさんのことが好きです”

 

真っ暗な中で微かに夢野雫の声を聞いた。

すると驚いたことに今まで自分を飲み込んでいた黒い波が、全てハイボールに変化した。

酒缶の中に詰められて振られている気分である。

しかしハイボールに変わったところで、呼吸が出来ないのに変わりない。

リオは酒に溺れた。

意識が薄れていった。

 

”おはようのチュ!”

遠かった意識がオカマの声により覚醒していく。

目を覚ますとそこは自宅の風呂場であった。

リオは暖かい浴槽に浸かっていて、頭や体を洗うタイルのスペースには、何故かシラサギが立っていた。

 

「ここにいてもいいのかな?」

 

いいんじゃない?いいところだよ

 

「でも私たちは逃げてきたよ?」

 

逃げちゃダメなんて誰も言ってない

 

「運がいいね」

 

運がいいよ

 

リオは風呂場の鏡に映るシラサギを見た。

そこに映っていたのはリオだった。

 

 

んん・・・

 

リオは身体の不快感と共に目を覚ました。

どうやら昨晩酔っぱらって帰ってきたリオは床に転がって力尽きたらしかった。

しかも寝っ転がってる場所が、丁度カーテンの間から陽の光が差し込む位置でリオは全身汗だくだった。

 

はあ 気持ち悪い夢だった・・・

 

リオは溜息をついた。

昨晩の嫌な気配がこの夢を見せたのだろう。

リオはとりあえず暑いので起き上がる。

涙が頬を伝った。

 

ああ、そういうことか

 

リオは昨夜の涙の理由を知った。

安堵の涙である。リオは自分が思う以上に現状を気に入っていることを自覚した。

リオは立ち上がると、身体の汗を流すために風呂場へと向かう。

服を手早く脱いで風呂場のドアノブに手をかける。リオはそこでふと動きを止めた。

中にシラサギがいるかもしれないという疑いが頭をよぎったのだ。

それは所詮夢の中のことではあった。

「うちの風呂場にはシラサギが出ますよ」と誰かに言おうものなら「それは可愛いですね」と流されてしまうことも分かっている。

しかしそのあまりの生々しさは現実でも起こることを予感させるのに充分だった。

リオは武器を取ってくることにした。

早速キッチンに向かうと迷いなくフライパンを片手に掴んだ。

戦争に最も向いている調理器具ランキング第一位はフライパンであることは既にRUBGで証明済みである。

リオはフライパンを頭の位置で高く構えると、風呂場へゆっくりと近づいていく。

緊張の一戦。

人間VS鳥の最終決戦である。

リオはつばを飲み込み呼吸を整える。

そしてドアノブに手を伸ばすと、勢いよく扉を開けた。

 

\バッ/

 

そこにはいつもの見慣れた景色があった。

当然のように何もいなかった。

リオは吐息を漏らして緊張を解いた。

 

\てれてんてんてんてんてん/

 

「ひっ!」

 

狙いすましたかのようなスマホの着信音に、リオは死ぬほどびっくりした。

死因:スマホが鳴ったからはかっこよすぎる(?)

リオはリビングにある脱いだ服と一緒に置いてあるスマホを手に取った。

 

「はい もしもし」

「お疲れ様です ~~です」

 

リオの所属事務所のスタッフだった。彼は次に素晴らしい事を言った。

 

「実は夢野雫さんとのコラボが決まりました」

「えええええええええ本当ですか?」

「はい」

 

リオは驚きのあまり武士みたいな声を出してしまった。

 

「えええええと今から会ったりするんですかね!?」

「今すぐには会いませんよ」

「私、全裸なんですけど大丈夫ですかね!?」

「だから会わないですって」

「あ、フライパンも持ってますよ!?」

「何でですか!? ってかどんな状況でそうなるんですか?」

「シラサギと戦ってました!?」

「はい?」

 

その後、スタッフが業務連絡を伝えて電話を終えた。打ち合わせとかは後で事務所にて行うらしい。

リオはウキウキ気分で風呂場へ行き、鼻歌交じりにシャワーを浴びた。

 

風呂場から出たリオは身体を乾かした後タオルを首にかけて、全裸で冷蔵庫の元へ行く。

そうして中から冷えた牛乳を取り出すと、コップにたくさん注いで一気に飲み干していく。

甘くて冷たい牛乳が喉から身体全体へと伝わり、火照った体を癒していった。

 

ぷはあっ

 

コップから口を離せば、白い髭を生やした全裸おじさんになっていた。

ここまでがリオの朝の習慣である。

しかし、本日は少し追加がある。

うー太(飼っているウーパールーパー)への吉報の報告である!

全裸おじさんはコップを置くとリビングを軽やかに舞い、うー太の水槽の前に行き正面から覗き込んだ。

うー太と目が合った

 

「君はいつもアホっぽい顔で可愛いな~」

 

リオが笑顔で言う。

ウー太は内心”またアホが来た”と思いながら真顔でリオを見つめていた。

 

「聞いてようー太、夢野雫とのコラボだってさ」

 

うー太には興味がない。時折ふさふさのエラをぴくぴくと動かして遊んでいた。

 

「楽しみだよな」

 

口からぷくぷく泡を出して遊んだりもしていた。

 

「夢野雫は食べ物何が好きなのかな?」

「マカロンですよ」

「か~ 可愛い~」

「マシュマロですよ」

「か~ めるへ~ん」

「でも実は一番好きなのは”ずんだ餅”です~」

「ずんだずんだ~~(新種の鳴き声) ・・・くくくくっっww」

 

これがリオの特技の一つ、”うー太を相手に見立てたただの一人会話”である

尚、対象が絶対言わなそうなことを言うとより楽しむことが出来る。

そして夢野雫は多分ずんだ推しではない。

 

「私、お父さんが実はずんだ餅なんです~」

「え~ ・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・ ・・・くくくっっっwww」

 

この日リオは、夢野雫に一生分の”ずんだ”を言わせて楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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夢野雫とコラボだ! [1]

と゛う゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お  と゛う゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お

 

絶望に突き落とされ、その悲しさを感情のままに泣き叫ぶ声が部屋中に響いていた。

聞いた者には”ギャンブルで大金でも失ったのか”と錯覚させるような、重みのある声。

この低音で轟音な声の持ち主は間違いなく時雨リオである。

しかし部屋には時雨リオの姿はない。

それにもかかわらず、リオの声が警報のように繰り返し繰り返し部屋に響いている。

ではそれの出所がどこかと言えば、それは置き時計である。

置き時計は、ベッドの上で絶賛睡眠中の誰かさんの枕もとに置いてあった。

このセンス、普通ではない。それは恐らく正しい。

そしてここが普通の部屋ではない。それも恐らく正しい。

部屋に時雨リオ本人がいないことは先述の通りだが、しかし時雨リオはたくさんいるのである。

それはもうあちこちに。

例えば壁に貼られたでかいポスター。

それにプリントされているのは一人のVtuber。

紺色のショートカットに睨むような目つき、

上にサイズがでかめの黒いパーカーを着て、下は太ももを若干見せた黒のニーソックス。

パーカーのポケットに両手を突っ込んでいる気だるげな女。

まさしく時雨リオである。

続いては抱き枕。約1m程の長い枕の形状で、その表面には笑顔を浮かべる時雨リオの顔がプリントされている。

その他にも、ファイルやうちわといった小物が多数見られる。

尚、公式で販売されているわけではないのでグッズは全て持ち主の手作りである。

つまりどういう事かと言えば、この部屋の主は熱狂的な時雨リオのファンなのである。

 

と゛う゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お  と゛う゛s

 

\ぱしっ/

 

けたたましくアラームを鳴らしていた置き時計だったが、頭をはたかれて沈黙した。

 

んん~っ

 

部屋の主が目覚めた。

眠りから覚めた誰かは、気持ちよさそうに体を伸ばしながら声を漏らした。

 

リオさんとのコラボ楽しみだな~

 

柔らかな声でつぶやく。

果たしてこの部屋の主とは、アイドル系Vtuber夢野雫その人であった。

 

リオは事務所に来ていた。今立っているのはどこかの部屋の前である。スタッフからは事前に、部屋の中に既に夢野雫がいる事を伝えられていた。

しかしリオはなかなか部屋に入ることが出来ずにいる。

この扉を開ければ夢野雫がいるのにである。

リオは彼女のファンのひとりであり、彼女の姿を想像するだけで胸の鼓動は急速に早まっていた。

この状態でもし本物に出会ったら心臓が限界突破して、爆発して、この建物は無くなることだろう。

これはよくない

リオは一旦目をつぶり、心落ち着かせることにした。

リオは強く念じる。

今から会うのはおかまオカマおかまオカマおかまオカマ・・・

 

”たべちゃうわよお!”

 

ぬっ!

 

強烈な印象を持つゴライアスは念じればいつでも本物のような生々しさを持って現れる。

脳内に現れたオカマはリオの耳元で囁いた。

リオはその衝撃に身体をびくりと震わせる。

これがゴライアスのおまじない(呪い)である。

心臓が軽く止まりかけたので、準備は整ったといえる。

リオはとうとう扉を開いた。

部屋に入ればまず目に入るのが、いくつか置かれた白の丸テーブルである。

そのうちの一つには、テーブル前の椅子に座る夢野雫の姿があった。

夢野雫もこちらに気づく。

リオと夢野雫の目が合う。

瞳の大きさに驚いていると、彼女は突然立ち上がった。

そうして満面の笑みを浮かべると、リオ目掛けてとっしんをくりだしてきた!

 

「りおちゃああああんんん」

「へ!?」

 

笑顔で迫りくる猪お姉さんにリオはただただ困惑した。

状況が飲み込めず慌てている間にも、彼女は確実に距離を詰めてくる。

リオは早々に避けることを諦めた。

去る美女追わず、来る美女拒まず。

リオは両手を広げて受け入れる体勢を作った。

 

「りおちゃああああん」

「いらっしゃいませええええ」

「りおちゃあああんん」

「ぐっ!!」

 

リオは見事に衝突した。

そのまま受け止めきれずに、勢いのままに後ろに倒れた。

仰向けになったリオが目を開ければ、馬乗りになってこちらを見下ろしている天使がいた。

 

「すみません、故郷の風習なんです」

「絶対嘘だろ!」

 

そんなものは聞いたことが無い。

それよりもリアル夢野雫が目の前にいることである。

映像越しの存在が触れられる距離にいるという事実はリオの心を昂らせた。

そしててんぱらせた。

とりあえず挨拶しよう。仰向けのまま。

 

「おはようございます」

「グーテンモルゲン♪」

「ドイツゥ!?」

「ナマステー♪」

「インドゥ!?」

「ウグルーニー ミン♪」

「知らん!?」

 

 

彼女は外国の挨拶が好きらしかった。

彼女は立ち上がるとリオに手を差し伸べた。

リオがその手を見つめると彼女はにこりと笑った。

こんなことされたら誰だって立つのを手助けしてくれるもんだと思うだろう。

リオもその例に漏れずに、その手を掴んで立ち上がろうとした。

 

「えい」

「ふぁあ!?」

 

彼女は何故か掴んだ手をそのまま後ろに引いた。

それによりリオは前傾姿勢のまま体勢を崩し、彼女の胸元へ一直線に飛び込んでいく。

 

「何でですか!?」

「そういう風習なんです!!」

「じゃあ仕方ないですねえええ」

 

リオの顔は彼女の豊かな胸元へと見事に不時着した。

 

「ぎゅー」

 

さらに彼女はリオの頭に両手を回して、胸元に顔を押し付けるようにしてきた。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp」」

「髪いい匂いですね~ シャンプーは”~”ですね~」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 

翻訳すると”やばい息できない 死ぬう 死ぬう 胸に溺れて死ぬう”である。

しかしやがて暴れても無駄なことに気が付いた。

興奮と息苦しさでハイになっていくリオの脳内にはある映像が浮かんできた。

 

\うほほおほほほ うほほほほほ/

 

リオの母親と父親がアマゾンでドラミングをしていた。

ママゴリラとパパゴリラは実に楽しそうである。

これが人生最後に見た景色かあ、いとおかし。

人生を嘆いているとようやく頭が解放された。

 

「死にかけましたが」

「故郷の風習なんです」

「どこですか?」

「モンゴルです」

「モンゴルです!?」

 

速報 夢野雫はモンゴル出身

いや嘘やろ。

リオは先程までの記憶を辿る。

1、すごい勢いでぶつかってくる。

2、相手を倒して床に転がす

3、姿勢を崩して膝をつかせる

 

あれえ?これあれじゃん、完全に立ち稽古じゃん、やっば。

リオは、もしかしたら夢野雫は本当にモンゴル出身なのかもしれないと思った。

いやでも体型めっちゃスリムだな。(胸は除外)

というか大きな胸が気持ちよかったです。(セクハラ)

 

「いっぱい食べろって両親に言われたんですけど、胸だけ育っちゃったんですよね」

「ああ、そうなんですね・・・」

「だからリオさんうらやましいです」

「ああ、ああ?」

 

ひん・・・控えめなリオからすると羨ましい限りである。

そして悪気のない言葉が一番攻撃力が高い事を今知った。

それよりもいつまでも立ち話をしているのは忍びないということで2人は席に着くことにした。

まず夢野雫が席に着いた。

そして身体をリオの方に向けた。そうして自らの膝をぽんぽんと叩いた。

 

「リオさん、はいどーぞ」

「はいどーも」

 

リオは席に座った。夢野雫の膝の上に。

 

「いやなんでだよ!!」

「いいじゃないですか あったかいし」

「そういう事じゃないでしょ」

「は!?もしかして私の胸が肩甲骨に当たって嫌でしたか!?」

「それは嫌味か何かですか!」

 

どこに膝上に大人を座らせて話し合いする人がいるのだろうか。

リオはやれやれと首を振りながらようやく席に着いた。

そして夢野雫もまた席に着いた。リオの膝の上に。

 

「だから何で!?」

「リオさん座り心地がいいですね 特に背もたれがいいです」

「だれが背もたれだ!」

「平らで良い感じです」

「ぐはあっ!」

 

ダイレクトアタックでライフをめちゃくちゃに削られている。

言葉は用法用量正しく守って使われるべきである。

そうしてようやく二人は向かい合って席に着くこととなった。

 

「とりあえず自己紹介をしましょうか」

 

彼女は言った。

 

「いいですね」

「じゃあ私から 私の名前は夢野雫です ええと、四股名は・・・」

「四股名!?」

「朝〇龍です」

「適当だろ」

 

何で四股名があるんだとか、四股名ってそういうやつじゃないよ、とか言いたいことはたくさんあったが今までのことから彼女には恐らく常識が通用しないので諦めた。

モンゴルは恐ろしい場所である。

 

「じゃあ今度はリオさん 私がいくつか質問するから答えてください」

「形式変わってますよ!?」

「リオさんのことなら大体知ってますからね」

「・・・え」

 

彼女は今までと声音を変えて、若干低めのつぶやくような声でそう言った。

雰囲気が一瞬変わった気がしたのだが、すぐに戻ったのでリオは気にしないことにした。

 

「まず一問目 プレゼントは何が欲しいですか?」

「ニンテンドースイ〇チ」

「ほうほう」

 

彼女はなにやらメモ帳に書き出していた。「ギリ買えるかな・・・」などのつぶやき声が聞こえてきたが意味はよく分からない。

 

「では二問目 デートするならどこがいいですか?」

「北海道」

「ほうほう」

 

やっぱりメモをしていた。「飛行機代は・・・」などのつぶやきが聞こえた気がするが意味はよく分からない。

 

「では3問目 キスされるならどこがいいですか?」

「おでこかな」

「はい ありがとうございました これで質問は終わりです」

 

そう言って彼女は質問タイムを終わらせた。

最後の質問はメモを取っていなかったみたいだが本当によく分からない。

 

「何か疲れたのでおやつでも取ってきますね」

「多分9、5割貴方のせいですよ」

「雫と呼んでください」

「え?」

「呼んでください」

「雫・・・」

「よく言えました!」

 

彼女は笑顔を咲かせた。

そうして席を立った。全く、話し合いを何もしていないのに既に疲れているとは全く。

リオは休憩しようと背もたれにもたれかかって目を閉じた。

おでこに柔らかい感触を感じた。

 

「へ?」

「どうでした?」

 

彼女がおでこにキスをしていた。

 

「ななななにしてるんですか?」

「ききききすですよ」

「いや、え? ああ、え?」

「さっきおでこが良いって言ってたじゃないですか」

「それ、好きな人からされるならの話ですよ!」

 

そう言うと夢野雫の空気が明らかに変わったのをリオは感じた。

 

「私のこと・・・嫌いなんですか・・・?」

「あ・・・いや・・・もちろんすきですけど・・・そういうことじゃなくて・・・」

 

リオはたじろいだ。

しかし彼女はリオの”すき”の言葉を聞くとすぐに何事もなかったかのように様子が戻った。

 

「じゃあ、私お菓子持ってきますね」

 

そう言って彼女は部屋から出て行った。

 

リオは改めて自分の状況を考える。未だにあの夢野雫と普通に会話していることが信じられないでいた。いや普通じゃない気がするが。

しかし時折彼女が見せる、あの暗い雰囲気はどういった意味があるのだろうか。

リオには分からなかった。

 

「戻りました ポッキーです」

 

彼女はざるにポッキーの袋をいくつか入れて持ってきた。

机の上に置かれたざる。

彼女は早速とばかりにポッキーを食べ始めた。

その食べ方は少し変わっていた。

 

「ウサギみたいに食べるんですね かじるみたいにもぐもぐって」

「ああ名残ですかね」

「へえ~」

 

彼女はモンゴル育ちで元うさぎで力士に育てられた豊乳ウーマンである。もう疲れた。

 

「はい」

 

彼女がポッキーを食べている様子をぼんやりと眺めていると、ポッキーを一本差し出された。

そのポッキーは丁度机の真ん中上空を漂っている。

そしてひらひらと動きリオを誘っている。

 

「んんっ んんっ」

 

リオはそれに食らいつこうとした。本能なので仕方ないことである。

ネコが猫じゃらしに反応するのと同じである。

リオは猫である(?)

しかし首を伸ばしても届きそうになったところで雫がポッキーを離してしまうので、ぎりぎりで食べられないままでいた。

 

「んんっ んんっ」

「ふふふ♪」

 

彼女はそんなリオを見つめてニコニコほほ笑んでいた。

リオはだんだんと腹が立ってきた。

 

「んんっ!! んんっ!!」

「ふふ♪ 怒らないでくださいね」

「んん!」

「はいどーぞ」

 

ようやくポッキーが差し出された。しかし首を限界まで伸ばしてようやく先っぽに届くぐらいの場所である。

そのためリオは歯を何度もカチカチと鳴らして何とか先っぽに食らいつこうとする必要があった。

そうして開閉を繰り返すリオの歯が開いたときに、雫はポッキーを突っ込みそしてまた離すを繰り返していた。

結果少しずづ、ポッキーの先っぽがかじられていく。

彼女はどうやらリオの口をシュレッダーのように見立てて遊んでいるらしかった。

屈辱だ。

 

ポッキーも食べ終わるとようやく何のゲームをやるかという話になった。

 

「それじゃあリオさんFPSかホラゲーの2択にしましょう」

「なるほど」

 

そういうと彼女は、机の上に手の平を上にした状態で両手を差し出した。

 

「FPSなら左手にホラゲーなら右手に手を置いてください」

 

彼女の言動は理屈を考えないのが得策である。

FPSは武士と一緒にRUBGをやったからな・・・

でもホラー苦手なんだよな・・・

でもまあ仕方ないか。

 

「ホラゲーで」

「右手にどうぞ」

「はい」

 

リオは左手を彼女の右手の手の平に乗せた。すると彼女は空いている右手の手をリオの左手に乗せた。

そうしてリオの左手は彼女の両手に挟まれた。

 

「暖かいですね」

「これ必要でした?」

「赤ちゃんは体温が高いんですよ」

「私、赤ん坊じゃないですよ!?」

「でも、赤ちゃんみたいに可愛いですよ」

 

彼女は不思議な人である。

 



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夢野雫とコラボだ! [2]

時雨リオはとあるでかいゲーム会社の廊下を歩いていた。

目の前を歩くのはスーツ姿に眼鏡をかけた男性で、リオの横を歩いているのは夢野雫である。

壁とドアと壁とドア、同じような景色が横目に通り過ぎていく。

 

「ここです」

 

男性が急に立ち止まり男性はそう言った。

男性の視線の先にあるのはやはりドアである。

男性は自らのカードキーを使用すると男性は扉を開けた。

男性の正面には真っ暗な男性が広がっている。

男性に続き中へ入ると、男性が部屋の明かりをつけた。

男性が男性を見つめて、男性が男性で男性を示した。

男性が男性の男性は男性に。

強引に今月分の男性ポイントを消費したところで部屋の中央に目を向ければ、人が入れるサイズのでかいカプセルが2つ横たわっていた。

 

「随分変わった棺桶ですね」

「いいえ、フルダイブシステムマシーンです」

 

男性が眼鏡を指でくいっと上げながら答えた。

 

賢そうだな~

 

研究員だそうな。

さて、男性が言うにはこの2つのカプセルは要するに人間の意識をゲーム内の世界へ飛ばすための機械らしい。

これを使えばゲーム内で意識するだけで思うが儘に自らの身体を動かせるとのこと。

 

「噂には聞いていたけど本当にあったんだ・・・」

「私たちに宣伝してほしいみたいですよ」

「そんな影響力ありましたっけ」

「私にはあります!」

「Oh・・・」

 

夢野雫ははっきりと言った。

この夢野雫はアイドル系Vtuberの中でも相当の人気を誇っている。

彼女の影響力は測り知れない事だろう。

しかし、とリオは考える。

 

私の初めての企業案件が約数千万のとんでも未来科学だった件

 

リオはいろんなVtuberの案件動画を見ていた。

クソゲーを一生懸命アピールしたり、たまたまバグを見つけてしまったり、クソゲーを頑張ってアピールしたり。

ただ今のリオには、フルダイブなんちゃらのスケールのでかさに現実味がまるで湧かないので、気負いする気持ちがまるで無い。

 

雫ちゃんここまで考えてくれたんだろうな、優しい子・・・(遠い目)

 

「それでは早速ゲームの方をよろしくお願いします」

 

言われるがままに2人はそのカプセルの中に身体を放り込んだ。

カプセルが閉じられるとえんどう豆状態になる。

リオは気を付けをして仰向けの状態を維持する。

身体に様々な機械を取り付けられると、だんだんと意識が遠くなっていった。

 

リオは身体が小刻みに揺れる感覚で目を覚ました。どうやら自分は車の助手席に座っているらしく、横を見れば雫がハンドルを握っている。

車は山の中の道を走っていて、車の横を通ってたくさんの木々が後ろへと流されていく景色が見えた。

 

「おはよございますリオさん」

「おはよう」

「さっきタヌキさん轢いちゃいました」

「田舎じゃ轢きまくりですよ」

 

リオは横目に雫を見ながら、当然のように答えた。

 

始まったああ

リオと雫が同じ画面にいて笑う

痛いたぬ~

↑タヌキニキ成仏してくれ

↑ただの語尾が痛いやつだぞ

 

二人のゲーム配信画面にはたくさんのコメントが流れていた。

しかしそれを読み上げる者はいない。

現在ゲームの世界にいる二人にはそれを見ることは出来ないのである。

 

Out Start

 

それが二人のやっているホラゲーの名前であった。

一応存在するストーリーとしては、ある一人の記者がいた。

怪しい噂の立つ病院があった。

取材に向かい消息を絶った。

主人公たち後輩記者がそれを調べに行く、というものである。

そのため2人を乗せた車が現在向かっているのも、物語の舞台となる病院であった。

 

時刻は夕時。

車はやがて目的地に到着した。

車から降りた二人の正面には、夕日に照らされるでかい病院が建っていた。

その病院はよほど長い間放置されているらしく、その表面にはたくさんの木のつるが蜘蛛の巣のように蔓延っていた。

また所々にひびが入っているのも確認できる。

お化けでも出そうな雰囲気である。

 

「シンデレラ城ですかね?」

「そうですね悪魔城ですね」

 

ノールックで草

雰囲気あるね

もう怖い

 

間違っても姫は住んでいないだろう

 

病院は非常に敷地が広いようで、正面玄関の前に大きな庭が広がっていた。

そしてその庭を囲うように、鉄格子の柵が広がっている。

二人はその柵の一部が扉のようになっているのを見つけた。

二人は砂利をじゃりじゃり言わせながら柵に近づくと、扉を開けて庭へと踏み入る。

 

\がんっ!/

 

「ひっ!」

 

後ろから金属を叩きつける音が聞こえて、リオは飛び跳ねた。

振り返れば開けたままだったはずの扉が完全に閉まっていた。

押しても、引いてもガチャガチャと金属音が鳴るばかりである。

 

「これは閉じ込められましたね」

「ということはこれから一生リオさんと二人っきりでここで暮らしていけるわけですね!」

「ギャルゲーかな?(すっとぼけ)」

「これホラゲーですよ」

「でしょうね!?」

 

マジレスで草

雫ちゃんは天然煽りすこ

間違えちゃ駄目だぞ♪

雫ちゃん偉い

 

これがギャルゲーなら世も末である。

外に出ることは諦めて庭の様子を見渡せば、中心に噴水が置かれていることが分かる。

その手前に何やらでかい十字架も刺さっているが。

というか私ホラー苦手なんだが。

あれ完全におっさんが十字架に磔されてるんだが

身体でTの字描いちゃってるんだが。

私ホラー苦手なんだが!

 

「浮いてますね」

「刺さってんだよ」

「死んでますね」

「分かってんだよ!」

 

キレ気味で草

びびってんねえ!

雫ちゃん煽ってるww

 

おっさんの頭と手足には釘が打ち付けられていた。

更にその頭の釘にはメモ用紙に記された手記も一緒に刺さっている。

この手記には先輩記者がこの病院を調べた内容が書かれている。

このゲームでは病院に散らばる手記を何枚か集める事によりゲームがクリアされる仕様である。

二人は早速その手記を回収しに向かった。

目の前で絶賛磔状態のおっさんは、リオ達の先輩記者らしかった。

 

「これどうやって取るんでしょう・・・」

「肩車とかどうすか?」

「いいですね肩車 肩車しましょう肩車!」

 

手紙の位置はだいぶ高い位置にあり、手を伸ばしても届きそうになかった。

 

「どっちが上になりますか? やっぱり私が上、いや、下も捨てがたい・・・」

「どっちでもいいですよ」

「上ならリオさんに肩車してもらえます 下ならリオさんの股に挟んでもらえます ああ、悩みます・・・」

「・・・」

 

何を悩んでるんだ?

何言ってるか聞こえん

どっちでもいいじゃん

下になればリオのパンツが!?

おまわりさんこいつです

 

小声で雫がなにやらぶつぶつ呟いていたが、リオは聞かないことにした。

 

「まずは私が下になります!」

「まずは・・・?」

 

雫の言葉に従い”まずは”雫が下になりリオを肩車することになった。

 

「乗りますよ ほいっ」

「んふうっっ」

「それ何の声ですか!?」

 

雫がやけに色っぽい声を出すのを聞きながら、リオは雫の首に両足をかけた。

雫が立ち上がると、高さは充分といったところである。

 

「もうちょい前です」

「こうですか」

「少し左です」

「はい」

「それ右です」

「ええと9時方向です」

「ふいい」

「それおやつの時間です」

 

まるで噛み合わなかった。

 

めっちゃふらふらじゃんww

リオが重すぎる可能性がある

ありえるなwww

 

「そんなことないわ!!」

 

ひっ 

コメ見えてんのか!?

リオさんぱねえww

地獄耳ゴリラで草

 

実際は見えてるわけがない。

リオの勘である。

 

「すみませんリオさん、交代してもらってもいいですか?」

「ああ、はい 分かりました」

「ありがとうございます♪」

 

何故かやたらに嬉しそうな雫の言葉に若干の違和感を感じながら、リオはポジションを交代する。

下になった。めちゃめちゃ簡単だった。

 

「取れました!」

「やりましたね」

 

リオは”どうやら雫さんはめちゃくちゃゲームが下手らしい”と心の中で思った。

雫は”計画通りやったー”と心の中で思った。

 

 



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夢野雫とコラボだ! [3]

幸先よく一枚目の手記を手に入れた二人は病院の中を捜索するために玄関を目指した。

段々と近づく建物を見上げれば、本当に大きな病院であることを実感する。

リオの視界には窓から明かりを漏らす部屋がいくつか見られた。

今はやっていないらしいが、人がいるのだろうか。

 

「いいお庭ですよね、草がたくさん生えてて」

「普通”緑”がたくさんあってとかじゃないですか?」

「じゃあみどみどしいですね」

「みどみどしい・・・」

 

独特で緑生える

マジ緑

 

彼女は広い庭を気に入っているらしかった。

二人はやがて玄関に続く階段を上がった。目の前にあるのは立派な建物にふさわしい、威厳のある木製の大きな扉である。

リオは金色の塗装がすっかり剥げ落ちている細い取っ手に手をかけた。

力を籠める。

 

「駄目ですね 鍵がかかってます」

「ということはこれからお庭で一生りおさんt・・・」

「だからそれはないです」

 

しかし入れないことは事実である。

いくら力を入れても扉はピクリとも動かなかった。

恐らくはカギがかけられているのだろう。

見事なまでの沈黙である。

二人は玄関からの侵入を諦めて、他の経路が無いか建物の周りを見て回ることにした。

建物に沿ってとぼとぼと歩く。

日は既に落ちかけていて、時折カラスが鳴き声を上げていた。

リオが”カラス可愛いなカラス”と思っていると横から雫が声をかけてきた。

 

「リオさん、ちょっとした提案なんですけど」

「へ?」

「罰ゲームを用意しませんか?」

「え?」

「このゲームをクリアしたらポッキーゲームをしましょう」

「何でそうなるんですか! 嫌ですよ、恥ずかしい」

 

あら~^

百合来たあああ

いいぞ、倍プッシュだ

盛り上がってまいりました

 

「まあまあそう言わずに ただのポッキーゲームじゃないですから」

「?」

「リオさんが悲鳴を上げる毎に1mm分、私が食べ進める長さが伸びます つまりポッキーは長さが13.5cmなので135回悲鳴を上げたら私はリオさんの唇に到達します」

「”到達します”じゃないですよ! 無理です無理です絶対無理です!」

「でも罰ゲームがあった方が盛り上がりますよきっと」

「これって私だけ損じゃないですか!?」

「いえ、私も恥ずかしいですよ そしてリオさんも恥ずかしい つまり二人とも恥ずかしいのでこれは罰ゲームですよ!」

「そっか・・・」

 

リオはあっさり納得した。

 

www

相変わらず単純で草

リオは押しに弱い

りおしずきたああ

 

「それにリオさんは135回も悲鳴を上げるんですか?ビビリオさんなんですか?」

「びびび・・・びびりじゃないしっ!悲鳴なんて上げないしっ!防犯ブザーじゃあるまいしっ!」

「それじゃあ 決まりですね」

 

防犯ブザーwww

見栄っ張りゴリラ

ビビリオwwwww

ま~たフラグ立てる~

ホラゲ苦手言うてたやんけ

 

こうしてクリア後にポッキーゲームが行われることが確定した。

もっとも、リオは自分がそんなに悲鳴を上げることは無いという謎の自信があるために安心しきっていた。

しかし彼女は数あるゲームのジャンルの中でも、ホラゲーが一番苦手なのであるっ!

 

「わあっ!!」

「ひっ!!」

 

雫が唐突に声を上げて、それに釣られてリオも声を出してしまった。

 

「何ですか急に!?」

「窓が開いてました」

「それだけであんな声出さないでください!」

「でも一回は一回ですね」

「ずりい・・・」

 

ほほ笑む雫に、リオは唇をとんがらせた。

二人はこうして建物の中へと侵入した。

 

リオが入った部屋は一階のどこかの病室だった。明かりはついておらず、窓から差し込む月光が部屋をほんのりと照らしている。

視線を下に向ければ床はクリーム色で、その上にいくつか置かれているのは横並びの白いベッドである。

ベッドの布団や毛布はびりびりに引き裂かれていて、白い綿毛のようなものが辺りに散乱していた。

他にも所々を赤茶色に染めている青色のロッカーが壁際にいくつか置かれていたり、床は何かの書類がぶちまけられていたり、花瓶が落ちて割れていたり。

まるで台風がこの部屋の中を通ったのかと思わせるほどの惨状である。

二人はそれぞれで部屋の中を観察し始めた。

リオはまずロッカーを調べた。いくつかはまるで何かに殴られたかのように、開閉する縦長のドア部分の中央を丸くへこませているが、それでも開けないわけではなかった。

中に入れば二人分ぐらいがギリギリ入れる空間がある。そして目線の高さには外を覗くためだけに作られたような、横長の長方形の小さな穴がドアの内側に当たる部分に開けられていた。

 

小学校のロッカーでもよく見たな 小さい子が閉じ込められた時の空気穴とかかな・・・

 

リオは少しの懐かしさを感じた。

リオはロッカーから出ると、書類を適当に拾っている雫を見た。

 

「雫さんこのロッカー、人が入れますよ」

「え? 今、雫さんって呼びました!? 呼んでくれました!?」

「え・・・はい・・・」

「嬉しいです!」

 

そういえばゲームが始まって以来、初めて呼んだ気がする。

リオにとっては些細なことだが、雫は嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

「それよりもこのロッカー 多分敵が来たら隠れる為のやつですよね」

「そうですね この場所を覚えておいた方がいいかもしれませんね」

 

雫はロッカーに近づきながらそう言った。

敵というのは、このゲームに登場するゾンビのことである。

詳しくはリオも知らない。

リオは何となく、もう一度ロッカーに入ってみた。

リオにはこの場所独特の音の聞こえ方の違いや空気の変化が面白く感じた。

少し錆臭いが、やはり狭いところは妙に落ち着くものである。

ただ、狭けりゃ良いというものではない。

人間二人は狭すぎる。

雫は何故かドアを開けて、リオと同じロッカーに入ってきた。

 

「なんで入ってきたんですか!」

「寂しいじゃないですか」

「流石に狭いですよ!なんか良い匂いするし!」

「人間の匂いはVRには反映されないですよ」

「不思議ですね!」

 

えっっっっ

セクハラゴリラ

リオちっさwwwちっさwww

なんか草

 

 

ロッカーに入れば二人は密着する形となる。

リオは大人の女性にしては背が少し低いし、雫は逆にリオよりも背が少し高い。

そのため向かい合わせになっている今の状態では、下を向けばリオの鼻先に二つのでかいのがある。

ロッカーもまさか人間を二人も食べることになるとは思ってもいなかっただろう。

雫はリオの顔を見下ろして、ニコニコ笑みを浮かべていた。

なんか・・・なんだ、この敗北感は。

リオが雫を押す形で二人はロッカーから出た。

 

「逃げるときは別々に隠れましょうね」

「そうですか・・・」

 

雫は少し残念そうにそう言った。

 

「あ、そういえば私も隠れられる場所見つけましたよ」

「え?本当ですか?」

「はい それはここです」

 

そう言って雫が指で指し示したのはベッドの下だった。

確かにベッドは人を乗せる幅があるので、人を隠す幅があるとも言える。

リオはベッドに近づくと、床に這いつくばってベッドの下にその身を隠した。

すぐ目の前にはベッドの天井がある。

タイルの床に素肌が触れた際に伝わってきた冷たさの名残が少し不快だった。

体感では体が隠れているように感じる。

 

「これで見えてないですか?」

「はい大丈夫ですよ~」

「それは良かったです・・・」

 

リオの横から声が聞こえた。

横を見た。

リオの横に雫がいた。

ニコニコしてた。

・・・?

 

お る や ん け

 

「いやだから何で横にいるんですか!?」

「寂しいじゃないですか」

「狭いし!見えてるかとか分からないですよね?」

「大丈夫 見えてないですよ!」

 

自信満々に彼女は言う。

リオは足元に視線を落とした。

雫のつま先がベッドゾーンから外の世界へ”こんにちは”していた。

 

「出てるじゃねえか!!」

「おしゃれですかね」

「意味わかんねえよ!!」

 

wwwww

くっつき虫可愛すぎ

バレバレで草

 

ベッドの下は二人は向いていないことがよく分かった。

使用感を確かめたところで、二人はベッドの下から這いずり出ると身体のほこりを払った。

部屋は一通り捜索を終えた。

二人は手記を探しに行くことにした。

 

部屋から一歩外に踏み出せば、そこには長い廊下が伸びていた。

蛍光灯が何本か生きているので通路は所々が明るい。

視線で壁伝いに廊下を辿ればいくつか部屋の扉が見える。

その中のどれかには手記が眠っていることだろう。

しかしそれよりも今気になるのは、廊下に転がる人間であった。

その人間はうつ伏せの体勢で、身体が魚のようにピンと伸びて丁度廊下の横幅に収まっていた。

このゲームでの敵はゾンビである。

果たして正面のそれがゾンビなのか、未だ実物を見ていないリオには判別がつかなかった。

リオは雫と横に並んで警戒をしながらゆっくりとその人間に近づいた。

やがて見下ろすほどに距離が近づいても人間は反応しなかった。

リオは足を止めると、足を上げて、足先でソレの腹を蹴ってみた。

しかしピクリとも動かなかった。

 

「お昼寝でしょうか?」

「永眠でしょうね」

 

動かないなら気にする必要はない。

二人はその人間を跨いで先を進んだ。

やがて廊下にいくつか見える扉のうち、最も近い距離にあった扉の前までやって来た。

雫が後ろで見守る中、リオは早速とばかりにドアノブに手を伸ばす。

もう少しで手先がドアノブに触れようかというところで、それは突然に起こった。

 

\ドン ドン/

 

!?

!?

ざわ・・・ざわ・・・

何だ

 

激しく何かを叩きつける音。

それが廊下の先の方から聞こえた。

驚いた二人がそちらに目をやると、そこには廊下の先、L字の角の位置にある部屋の扉に向かって頭突きを繰り返す人間がいた。

いやそれは人間ではない。

上裸で体型は腹が少し出ているが全体的に筋骨隆々と言ったところで、肌の表面には遠目で見ても筋肉が浮き出ていることが分かる。

それよりも特徴的なのは顔である。顔全体の皮膚が頭までずるりと剥けていて真っ赤な筋肉を露出させている。

さらにその瞳は一切の黒目が確認できず、口元は歯を食いしばり怒りの形相を見せている。

何度も打ち付ける額からはぽたぽたと血が流れ出ていた。

 

「変わったノックの仕方ですね」

「絶対違うから!」

 

端的に言えばベリー怖い。

オブラートに包んでもバカ怖い。

どう見たって普通ではない。まさしくあれはマッスルゾンビである。

リオが恐怖で顔を引きつらせていると、そのゾンビが視線に気づいたのか二人の方向を向いた。

そうして二人の存在を確認するように少しの間見つめると、にやりと笑みを浮かべた。

リオは全身に鳥肌を立たせた。

ゾンビは二人に標的を定めたようで、笑顔のまま二人の方向へ廊下を真っすぐ全速力で駆け始めた。

 

「やばいやばいやばいやばいやばい」

 

リオは死の恐怖を感じて体が震えた。ふと横にいる雫を見れば、彼女はニコニコとほほ笑んでいた。

 

「あれが噂のゾンビなんですかね?」

「バリバリスーパーベリーゾンビだよ!!」

「見てくださいリオさん・・・来てます」

「うわあああああああああああ」

 

ゾンビの足はその図体に似合わずとても速い。

リオが正面に視線を向ければ、先ほどまで廊下の先っぽにいたゾンビはリオ達との距離をかなり縮めて来ていた。

二人は後ろを振り返ると元来た部屋を目指して駆け始めた。

二人の表情は対照的である。

リオは恐怖で今にも泣きそうな顔をしている。一方で雫はとても楽しそうに笑っていた。

やがて走っている二人の目の前に転がる君が現れた。

 

「雫さん、こいつ気を付けてくだっさい!」

 

リオの方が雫よりも先に走っていたために、ひとまず先にそれを飛び越えながらリオは雫に注意をした。

 

「分かりました!踏みました!」

 

wwwww

即 落 ち 2 コ マ

踏んじゃったよー^^

 

雫はしっかりと頭を踏んだ。

するとまるでそれがトリガーであったかのように、転がっていた人間は起き上がり筋肉だるまと同じようにリオ達を追い始めた。

つまりゾンビだった。

 

「増えちゃってんじゃああああんん!!」

「楽しいですねえええ」

「どこがだああああああ」

 

全く面白くない。

ちなみその少し後に、後ろから”ぽきりっ”と甲高い音がしてリオが咄嗟に後ろを振り向けば、筋肉だるまに踏み台にされて再び地面に転がっている可哀想なゾンビの姿があった。

数秒でお仕事終了である。

心の中でそのゾンビに少し同情しながらも走り続ければ、とうとう元の部屋へと戻ってきた。

リオは休む間もなく瞬時にロッカーの一つに駆け寄ると、ドアを開けて中へと隠れた。

ロッカーの背中からもたれかかり荒い息をつく。

この中に入ればひとまず安心のはずである。

リオは呼吸を整えつつ、ロッカーの覗き穴から室内の様子を観察した。

視界の先ではベッドの下に匍匐前進で向かっている雫の姿があった。

雫がベッドの下に隠れるのと、筋肉だるまが部屋に入ってくるのはほぼ同時だった。

筋肉だるまは部屋に入り二人の姿が見当たらないことを確認すると、ロッカーの方へとやって来た。

リオはとにかく息を殺した。

筋肉だるまがいくつかあるロッカーの周りをうろちょろしている。

覗き穴越しに筋肉だるまの顔が右へ左へと往復していて、非常に心臓に悪い。

やがて筋肉だるまはリオのロッカーから離れた位置にあるロッカーの前へと移動した。

リオが様子を気になって覗き穴から観察すると、筋肉だるまは思いっきり腕を引いて、思いっきりロッカーをぶん殴った。

すさまじい轟音を立てて、ロッカーは粉砕した。

リオは目を見開いた。

 

全然安心じゃない!!

 

リオは未だ自分が危険であることを知ってしまった。リオは緊張で背筋をピンと伸ばすと強く目を閉じた。

自分が見つからないことを祈る事しか出来なかった。

しかしそうしている間にも周りでロッカーが一つ、また一つと派手な音を立てて死んでいくのが分かる。

こんな序盤でくたばりたくはない。

リオは自分の死に様を想像した。みんなパンチされて穴が開いてた。

その中でふとリオはあることを思い出してしまった。

それは自分がとんでもない悪運であるということである。

今まで数々のはずれを引いてきたリオにとって、それは疑いようのない事実であった。

リオはそうして最悪な場面で最悪な事実を思い出し、ただ身体をがたがたと震わせた。

だからリオはその音を聞いたとき、自らを呪った。

きいっ

自分の隠れるロッカーが開けられる音がした。

 

ごめん雫さん 私、先に逝きます

 

心の中で詫びを入れながら、最後に悪魔の面でも拝んでやろうと目を開けた。

果たしてロッカーの前に立っていたのは、、

 

「来ちゃった」

 

どう見ても夢野雫であった。

 

「なんでいんだよおおおおおお」

「お邪魔しまあす」

 

夢野雫はそう声をかけながら、するりとロッカーの中に身体を滑り込ませてドアを閉じた。

リオと雫が狭いロッカーの中で向かい合う。

 

「雫さん!何してるんですか!本当に何してるんですか!!」

「来ちゃった」

「そういう事じゃなくて!!ていうか何でばれないんd」

「しー 静かにしてください」

 

雫はリオの言葉を遮って、人差し指を唇に当てた。

それでもリオが口を開こうとした時、近くのロッカーが勢いよく崩壊する音を聞いた。

リオは顔を引きつらせて、次の言葉が継げなかった。

すると雫が突然、リオに覆いかぶさるようにして顔の横に両肘から手を着いた。

そして顔を近づけると恍惚とした表情を浮かべた。

その瞳には熱が宿っていた。

 

「リオさんさっきの音、聞こえましたよね 今残ってるロッカーはこれを含めて2つだけです」

「そんな・・・」

「興奮しますよねえ 生きるも死ぬも一緒なんです 私たちは・・・」

 

耳に口元が近づく。

 

「運命共同体です」

 

囁いた。

 

キマシタワー

えっっっっ

あっ(尊死)

うほおおおおお

 

艶を帯びた言葉と、熱のこもった吐息がリオの鼓膜を揺らした。

リオは顔を真っ赤にした。

雫がリオの耳から離れた時、気付けばリオの顔と雫の顔は吐息がかかるほどの近い距離にあった。

顔だけじゃない。身体も触れ合うほどに密着していた。

リオは身体が火照るのを感じた。雫の体温が高いからだと思うことにした。

気付けば筋肉だるまの気配が止まっていた。

静寂があった。

リオは首を少し動かして雫の頭の後ろにある覗き穴から様子を伺った。

筋肉だるまは限界まで引き絞った腕を解き放とうとしていた。

リオは呼吸を止めた。目を閉じた。

その一瞬の間。まぶたが瞳を覆う一瞬の間に、リオは筋肉だるまと目が合ったように感じた。

即座に頭に絶望が浮かんだ。

視界が真っ暗になって、そして次の瞬間。

隣のロッカーが音を立てて崩壊した。

筋肉だるまは隣のロッカーを殴ったのだ。

 

「はあ~ どきどきしましたねえ」

「はあ・・・はあ・・・」

 

雫は興奮気味にリオに語った。

リオは止めた息を吐き出す事しか出来ない。

それでもまだ終わったわけではない。

二人はお互いの顔を見つめながら、ただ黙っていた。

やがて、筋肉だるまの足音が段々と遠くなっていった。

今回は運が良かったらしい。

リオは飛び出すようにロッカーから出た。

そうして床に倒れ込みながら雫を見あげた。

 

「変なことしないでください」

「楽しかったですね」

「全然楽しくないです!!」

 

ちなみに雫が筋肉だるまに狙われなかったのは、敵が攻撃対象を一度定めるとそれ以外は 

out of 眼中 になるためである。

リオはそんなこと知らないが・・・。

 

 

 

 

 

 

 



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夢野雫とコラボだ! [4]

誤字報告をしてくださった方ありがとうございます。
絶対に誤字らないように気を付けます。
もう絶対です。100%。やっぱ無理。



筋肉だるまの襲撃を運よく逃れた二人は部屋から顔だけ外に出して、廊下の様子を探った。

そこには筋肉だるまの姿は無く、ただそのだるまに踏みつぶされてぴくぴくと痙攣しているゾンビだけが転がっていた。

 

草 

可哀想で草

退場RTA

ぴくぴく可愛い

 

二人は筋肉だるまが先ほどまでドンドンしていた部屋が気になったので、中を調べてみることにした。

部屋の前までやってくれば二人の視線の先にあるのは、若干丸くへこんで赤茶色のシミがついた可哀想な扉である。

リオはドアノブに手を伸ばした。

開かないことは百も承知である。だからリオはカギどこで見つければいいかな、などと考えながらドアノブをひねったのだ。

 

\きーっ/

 

開いた。

なんか開いた。

しっかり開いた。

 

「はっ?」

「開いちゃいましたね」

「開いちゃいましたか?」

「開いちゃいましたよ」

「開いちゃいましたね」

 

何の抵抗もなくあっさりと扉は開いた。

予想外の事態にリオは全く拍子抜けであった。

 

「脳筋になるとドアの開け方も忘れるのか・・・」

 

憐れみを込めてぼそりと呟いた。

 

自己紹介やめろwww

似たもの同士仲良くしろ

LIME交換してこい

あれがリオの進化系か・・・

 

開けたドアから中を覗けばそこは書斎のようだった。

部屋には明かりが無く、二人の背後から差し込む廊下の蛍光灯の光がその様子をぼんやり照らし出していた。

部屋の奥には黒色の横長の書斎机があり、部屋の両側は設置されていたであろう本棚が倒されていてたくさんの本が散らばっていた。

その他にも大小様々な物、例えば絵画なんかが床へと散らばり混ざっている。

この病院では物を散らかす習慣があるのかもしれない。

リオは手記を探すために部屋へと足を踏み入れた。雫も扉を開けたままにしてその後に続いた。

リオはまず机の上を調べることにした。

そこには机を覆うようにして英語で書かれた資料が何枚か散らばっていた。リオはその中の一枚を手に取ると、適当な英文に目を通す。

 

書かれていたのは”Let's read sacred book!”の文字だった。

 

「れっつ、りーど・・・しーくれっと、ぶっく・・・?」

 

リオは見慣れない英字に頭を悩ませて、学生時代の記憶を掘り起こしにかかる。

 

英語の時間・・・英語の時間・・・ あ、寝てたから記憶が無いのか・・・

 

リオは英語が苦手だった(好きな教科は国語)

しかしリオは直感で答えを導きだした。

リオの勘はよく当たるのである!

 

「これは・・・”エロ本を読もう!”ってことか!」

 

自信満々にリオは言った。

正解は”聖典を読もう!”である。

 

まるで違くて草

節子それ"sacred”ちゃう”secret”や

エロ本→聖典 secred book→sacred book

”聖典を読もう!”だぞwww

エ ロ ゴ リ ラ 

 

「外国ってやばいな・・・」

 

やばいのはおまえじゃいww

やばいね(白目)

助けてGaagle先生・・・

 

リオは翻訳(がば)しても翻訳(がば)しても意味がまるで分からなかったため、そのうちに読むのを諦めた。

手に持つ資料を元に戻し机の上にお目当ての手記が無いことを確認すると、今度は机の表側へと回り込む。

何ともなしに視線を雫に向ければ、彼女はなにやら散らかっている物をさらに散らかすことに精を出していて、探し物をしているようだった。

気にせず視線をななめ下に向ければ、机に付属している鍵付きの引き出しがそこにあった。

押しても引いてもびくともしない。玄関とは違って本物の鍵付き引き出しである。

リオは当然鍵など持ってはいなかった。しかしこの引き出しは非常に怪しいと思った。

だから力づくでどうにかすることにした。

 

「雫さん、今から机を蹴っ飛ばしますね」

 

とりあえず蹴りで引き出しを破壊することにした。

 

お前も脳筋じゃねえかwww

どうしてそうなった

脳筋ゴリラ

ゴリラ界の常識を持ち込むな

 

「机が嫌いなんですか?」

「ロッカーをちょっと破壊するだけです」

「それはいいですね!」

 

蹴った時に大きい音が出るのを考慮してリオは雫にあらかじめ伝えた。

実は幼少時に空手をやっていた経験があり、足技はかなり自信があった。

今も足の甲はカッチカチである。

リオは正確に蹴るために、脚と引き出しの距離を少しずつ調整する。

適度な距離になった時、大きく深呼吸をして気持ちを集中させた。

そして一気に、、

 

「オラアッ!」

 

蹴り抜いた。

 

\バキッ/

 

古かったのも原因の一つだろう、引き出しは鈍い音を立てて壊れた。

リオが取っ手を引っ張れば、見事に口を開けてくれた。

 

「ビンゴ」

 

中にあったのは白い紙、先輩記者のおきみやげであるペラペラの手記であった。

リオは報告しようと、雫の姿を見た。

雫はどこから見つけてきたのか、両手で持っている絵画を眺めていた。

その横顔に声をかける。

 

「雫さん ありました!」

「ああ、そうですか! やりましたね!!」

 

雫は声に反応してリオに微笑みながら言葉を返したが、すぐに絵画へと向き直った。

よほど気に入ったものなのだろうとリオは思った。

リオは見つけた手記を回収すると雫の元へ行こうとした。

しかし、リオは目を丸くした。

視線の先、雫の背後に突然にゾンビの姿が現れた。

ゾンビは雫の背中に向かって今にも襲い掛かろうとしている。

 

「雫さん、後ろ!!」

「え? きゃあああああっっっ」

 

リオが声をかけるのと、ゾンビが雫に飛び掛かるのは同時だった。

悲鳴を上げた雫であったが、しかし何よりも雫の動きは機敏だった。

雫が絵画を平面に寝かせて身体をくるりと回転させながら、遠心力のついた絵画でゾンビの頭をぶん殴ったのは一瞬の出来事であった。

ゾンビは殴られた衝撃で頭を壁にぶつけてそのまま沈黙した。

雫はニコニコとした笑みを浮かべながらそのゾンビを見下ろしていた。

 

「リオさんありがとうございました 危ないところでした」

「い・・・いえ」

「私、アクションゲームとか苦手なんですよね・・・」

「なるほど、ジョークが得意なんですね」

 

絵画が武器になるとは知らなかった。

運良くこの部屋に手記があって、運よくそれを手に入れられたのでこの部屋にはもう用が無くなった。

雫が先に部屋から出て、リオもそれに続いて部屋を出る。

 

そういえば部屋を出る際に、雫がさっきまで見ていた絵画が床に落ちていたのでさらりとそれを横目で見た。

四角い額縁の中心に、笑う仮面を被って佇む女性が描かれていた。

リオはあまり魅力を感じなかった。

 

二人は書斎を後にした。

次の目的地をどこにするか決めかねていると、どこか遠くの方から音が聞こえることに気が付いた。

音が遠くて分かりにくいが、それは乱雑なノイズの音である。

リオは音の出所が気になった。

 

「この音を辿りませんか?」

「いいですね」

 

笑顔で答える雫を見ながら、リオは音の方向へ向かうことに決めた。

 

二人は音の出所と思われる部屋の前に着いた。

扉は開け放たれていて、中から大きなノイズ音が聞こえてくる。

外から見える室内の様子は、暗闇が広がっている中にもどうやら廊下側の方向からの強い光源があるらしく、それによってぼんやりと照らされた中でいくつかの椅子がその光源の方向へ並べられているのが分かる。

リオは慎重に部屋へと踏み入れて、後ろから雫もそれに続く。

リオは光源の正体も音の正体もすぐにわかった。

テレビだった。

大きなテレビの液晶画面に白黒の砂嵐がながれていた。

そして不気味なことに、そのテレビの前にある椅子に何人かのゾンビが座りじっと砂嵐を眺めている。

彼らは言葉を発することなく、身動き一つせずじっと画面を眺めている。

横を歩く二人の姿には目もくれない。

真っ暗の中、ゾンビたちの顔が画面の明かりに照らされて浮かび上がる様は、まるで映画館のようであった。

 

「地デジ化できなかったんですかね」

「ただの変態たちでしょう」

 

地デジwww

地デジに乗り遅れるとこんな姿になるのか・・・

地 デ ジ カ の 呪 い

セ コ ム し て ま す か 

↑お前誰だよwww

 

 

後ろを歩いていた雫がぼそりと呟いたので、リオは率直にゾンビの印象を伝えた。

リオは彼らが恐らく音も楽しんでいる変態だろうと考えて、足音がしないように静かにゆっくりと歩いていく。

テレビから発せられるざーざーという不快な音が鼓膜を揺すり続けている。

リオが探しているのはもちろん手記である。

しかし歩き回りながら部屋を見渡してみても、手記は落ちていなかった。

この部屋に手記は無い。

リオは無駄足だったとがっかりして部屋を出た。

 

ただのやべえ部屋だった・・・

 

部屋を出た先は、先ほどとは別の長い廊下が伸びていて、二人は並んで歩いた。

 

「あのうざい音ずっと耳で鳴ってませんか?」

「そうですね」

 

リオは苦い表情を浮かべていた。

リオたちが興味をそそられた音は、今や雑音以外何物でもない。

しかもやたらと耳に残っていて、テレビから離れた位置にいるというのに、すぐそばで鳴っているんじゃないかという錯覚を覚える。

リオの話を聞いた雫はポケットから何かを取り出した。

 

「こんなときはこれです」

「どれです?」

「ポ~タブルプレイヤ~」

 

雫はドラ〇もん風に読み上げた。しかものぶ〇じゃなくてわ〇びだった。ポイントが高い。

雫の手には、小さな機械が握られていた。

 

「これ音楽流れるんですか?」

「流れますよ ほら」

 

そう言って雫が機械を操作すすれば音楽が流れ始める。

特徴的なイントロでリオはジブリだとすぐに気づいた。

リオはジブリが好きである。

リオは瞳を閉じて音楽に癒されようとした。

しかし、次に流れた歌声は無駄にこぶしってて、無駄に粘っていた。

魅惑のもちもちお餅ボイス、時雨リオの歌声である。

 

「ちょ!? ちょっと待って!止めてください!」

「嫌です」

「嫌です!? あの、ライフが削られるんでほんと!」

「嫌です」

「体がお餅になっちゃうんでほんと!!」

「嫌です」

「嗚呼あああああっっお餅になっちゃううううっっ!!!!」

 

朗報 リオ、お餅になる

ねっとりボイスで草

狂ってやがるwww

り゛お゛ち゛ゃ゛ん゛か゛わ゛い゛い゛な゛ぁ゛

 

 

リオは泣きそうな声で懇願した。

これは以前お祝い配信で調子に乗ってカラオケして壁ドンされて隣人に土下座かましてひっそりと泣いた日の歌声である。

自分の歌声を自分で聞くとより一層きつく感じる。

私なら壁ドンどころか壁ぶち抜いて、お手てこんにちわして、親指下にして、バッドマークまでかましてしまうかもしれない。

げろ吐きそう。

 

「これ私のお葬式に流そうと思ってるんです」

「死人が増えるのでやめてください!」

「でもノイズ音消えましたよね!」

「消えたけどっ!」

 

不快な音が別の不快な音に変わっただけである。しかもこっちの方が攻撃力が高い。

雫の楽しそうな顔を見て、リオは音楽を止めてもらうことを早々に諦めた。

二人は廊下を歩いているうちに廊下の突き当りまでやってきていた。

左右にはT字路のようにまだ廊下が伸びているが、それよりも正面の壁に打ち付けられている掲示板である。

業務連絡だろうか、何枚か英語で記された紙が掲示されている。

 

Let's pray、Drink beer、nice drug・・・

 

「これは”遊ぼう”」

「”祈ろう”です」

「”熊を飲み込め”」

「”ビール飲め”です」

「”良い感じに引きずっちゃうぞ!”」

「”最高の麻薬”ですかね」

 

何かめちゃくちゃで草

最後おかしいだろww

雫ちゃんの訳もさらっと怖い

ビールぐらい頑張れやww

 

他にも赤いスプレーで壁に直接”KILL YOU”とか書かれていたりする。

英語ムズイ。

リオは紙を順番に見ていくうちに日本語のメモが紛れ込んでいることに気づいた。

手記だった。

 

「雫さん、手記です!」

「え?好き?」

「言ってないです!」

 

リオは手記を回収した。

なかなか順調で気分も上がっている。

このまま楽勝で終わっちゃうかな、などと高をくくった。

しかしリオは悪運である。

 

「あ、横やばいです」

「え?」

 

リオが雫の突然の忠告に顔を振り向いて訊き返すのと、目の前をぶっとい拳が風を纏って通過していくのはほぼ同時であった。

 

\バゴーンッ/

 

拳がめり込み、掲示板が跡形もなく崩壊した。

リオは顔を引きつらせた。

首を機械仕掛けのようにぎこちなく動かして、拳が飛んできた方向に顔を向ける。

そこには素晴らしい笑顔を浮かべた筋肉だるまがいた。

 

「いいいいいいいいっっっ!?!?」

「ああ、音楽プレイヤー落としちゃいました」

「そんなことよりもっ!!」

 

二人は振り返ると、目の前を伸びるT字の左右の廊下に向かってそれぞればらばらに走った。

どうやら筋肉だるまは、壁に腕がはまって身動きがとれないらしかった。

リオは必死に走り、適当な部屋に入り、扉を閉めて、部屋にあったベッドの下に素早く身を隠した。

身の安全を確保したところでリオはさっきの状況を思い返した。

筋肉だるまは身体が重いので、歩くと足音がする。

しかしさっきは近づいていた筋肉だるまに全く気が付かなかった。

雫は音楽プレーヤを持っていた。

つまり気付かなかった理由としては、

リ オ の 歌 声 が で か か っ た。

 

「こんなことなら歌うんじゃなかったあああ」

 

自らのカラオケに首を絞め続けられるリオである。

リオは後悔の念に苛まれながら、ばらばらに分かれた雫の安否を思った。

ゲームシステムにより片方が死んだらその時点でゲームオーバーである。

まだゲームは続いていることが生きている証明でもある。

 

リオはある程度時間が経過して筋肉だるまがどこかへ行ったことを確信すると、ベッド下から這い出た。

部屋の雰囲気は一言でいえば不気味だった。

入ってきたときは慌てていて気付かなかったが、部屋のあちこちにたくさんの縦長の大きい水槽が並べらていて、その中には胎児っぽい何かや人間っぽい何かやゾンビっぽい何かが浮かんでいるのである。

 

きもすぎる

やっば

ジュゴン飼えるやんけ!マナティ飼えるやんけ!!

↑海獣兄貴大興奮で草

水族館だあ(すっとぼけ)

 

驚異的なインテリアセンスにリオはドン引きした。

名付けるならばマッドサイエンティストの部屋である。

雫は生きているし、生きていれば後から合流が可能である。

リオは気味が悪かったが、とりあえず手記のある可能性を信じて部屋の中を捜索することにした。

しかし出てくるのはマッドォ!でグロテスクゥ!なものばかりで、手記らしきものはまるで見つからない。

特にきもかったのは、中の液体に片方の眼球が浮かんでいる小瓶である。

しかもこの眼球、黒目が無いので完全にゾンビの眼球である。

見ていると逆に見つめられているようできもいポイントが高いきもい。

さらにきもいことに、この小瓶は手から離そうとすることが出来ないのである。

きもくてきもい。

どうやらゲームにおける必須アイテムらしかった。

ばりきもい。

リオは仕方なくその小瓶をポケットにしまうきもい。

これでこの部屋は大体探し終えた。手に入れられたのは目ん玉一個だけである。

はいきもい。

リオは雫と合流するために部屋を出た。

きもい。

 

「雫さんいますか」と問えば「ここにいます」と返ってきた。

リオは声がした部屋へと足を踏み入れた。

視界に広がるのは豪勢な部屋だった。天井には輝くシャンデリアが吊り下げられていて、部屋の中央には大きな丸机が置かれている。

高そうな絨毯も引かれていた。

院長室とか来賓室だろうか。

当の本人である雫は、丸机の椅子に座っていた。

その向かいに片目の無いゾンビが座っていた。

「ぐう~」とか言ってた。

 

「ここ良い場所ですよね 見てください、すごい画ですよ」

 

リオが雫の指し示す方向を見れば、そこには何枚かの絵画が横並びに壁に打ち付けられていた。

 

「ぐう~」

 

一番右は一般人の男性が描かれていて、左に行くにつれてゾンビへと変わっていく。

その変化の様子が順番に描かれているのである。

人間が苦しんでいて、なかなかおぞましい様子である。

 

「ぐう~」

 

あまり趣味の良い画とは言えない気がした。

というかそんなことよりも、、

 

「ぐう~」

「ゾンビが普通に座ってるんですけど!!」

「さっき仲良くなりました 名前は”ぐう”です」

「ぐう~」

「意味が分からないです!」

「大丈夫ですよ、襲わないですから!」

「そういう問題じゃないです!」

「ぐう~」

「うるさい!」

 

ゾンビ手懐けてて草

さすが雫ちゃん ゾンビもメロメロにするのか・・・

これ何ゲーだっけww

あつまれゾンビの森

 

雫はゾンビの友達をつくっていた。

リオが状況に困惑している中、二人して呑気に紅茶を飲んでいる。

どっから出したんだその紅茶。

謎に穏やかな空気が流れている。

手持ち無沙汰なリオはポケットに手を突っ込んで小瓶をころころと転がして遊んだ。

すると突然ゾンビが椅子から立ち上がった。

そしてリオを片目で見つめるとふらふらと近づいて来る。

 

「雫さん・・・」

「大丈夫、何もしませんよ」

 

リオは不安そうな声を漏らした。

ゾンビはやがてリオの前で立ち止まった。

リオをじっと見つめている。

 

「ぐうーーーー」

 

襲ってきた。

 

「ばりばり襲ってきてるんですけど!めっちゃ飛び掛かってきてるんですけど!!」

「ぐうーー ぐうーー」

「”目ん玉よこせ”と言っています」

「何で分かんだよ! 無理だよ!あげられないよ!」

 

リオはゾンビとの取っ組み合いになった。

自分の目玉なんて当然あげられないのでリオは必死に抵抗する。

リオはふとゾンビの足元ががら空きなことに気が付いた。

リオはそれを隙と見て、ゾンビの脚を蹴り上げて体勢を崩させた。

 

「ぐうっ」

 

床に倒れたゾンビを見てリオは息をついた。

 

目ん玉あげられないし 早くここから離れるか

 

などと考えていたのだが、リオはふとあることが思い浮かんだ。

 

あげられる目ん玉あるじゃん

 

リオはポケットから小瓶を取り出した。

 

「これいる?」

「ぐう~~~」

 

リオが小瓶を見せると、ゾンビは喜びの声を上げた(多分)。

ゾンビはリオから小瓶を受け取ると、中から目玉を取り出して早速片目に埋め込んだ。

ぴったりとはまった。

 

「ぐう~~♪ ぐう~~♪」

「”ありがとう”と言っています」

「すごいですね雫さん」

 

目ん玉ここで使うんかwww

ゾンビ可愛い~^

というかリオ、ゾンビより強いじゃねえかwww

いい加減にしろ!リオちゃんは可愛いごり・・・女の子やぞ!

え?女なの?

初見ゴリラいらっしゃい

 

雫がゾンビ語を理解していることに若干驚いていると、ゾンビはリオの正面に立った。

 

「まだやんのか?」

「ぐう~っ」

 

リオが威嚇すると、ゾンビは懐から何かを掴んだ片手を差し出してきた。

リオは片手を出してその掴んでいたものを受け取った。

それは手記であった。

 

「雫さん、やっぱ雫さんすごいですね・・・」

「ありがとうぐうちゃん!」

「ぐう~」

 

思いもよらないところで手記を手に入れてしまった。

しかし喜んでいるのも束の間、リオたちは先に進まなければならない。

二人はこの部屋を後にすることにした。

 

「ぐう~」

 

二人が部屋を出るところで、ぐうが鳴き声をあげて見送りをしてくれた。

 

「あれは何て言ってたんですか?」

 

リオは尋ねた。

 

「”ぐう~”だそうです」

「そのまんまかよ」

 

二人は先に進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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夢野雫とコラボだ! [5]

廊下を歩いていた時雨リオと夢野雫は、ひときわ大きな扉を見つけた。

それは他の扉と比べても明らかに大きく門のような形をしていて、右半分と左半分それぞれに分かれた扉がその合わさる狭間の線を中心にして左右に開く観音開きの構造である。

また金属の細い棒がかんぬきとして扉の中心を横に通されていて、門が開かないように蓋をしている。

ここまで大きくて厳重な扉だ。

中には相当に大切なもの、つまり手記が隠されているに違いないとリオは考えた。

そこでリオはかんぬきを外して、雫と二人で重い扉を開いた。

動物のフンのような強烈な異臭が部屋から漏れだす。

早速2人は部屋に入ったが、真っ暗で何があるのかまるで分からなかった。

リオは何かないかと思い、両腕を左右に開いてみた。

 

\カンッ/

 

左手の爪が何かに触れて、短く甲高い音を部屋に響かせた。

リオがその物体を掴んで確かめると、丸くて細い金属であり、似たようなものが部屋の端から端まで等間隔で地面から天井まで突き刺さっていた。

つまりそれは金属の檻であった。

なぜ檻があるのか。

リオは思考していたがその正体は直ぐに明らかになる。

 

「ぶもおおおおおおおっっっっ」

 

檻の向こうから突然に響く耳をつんざくような鳴き声。

タイミングよく部屋に明かりが灯る。

大きな角、荒い息、割れた蹄。

果たしてそこにいたのは・・・とても大きな牛であった。

 

リオは驚愕に目を見開いた。

目の前に牛がいたのである。

目をこする。

目の前に牛がいるのである。

↑はしご・・・

 

「雫さん、檻の向こうに牛っぽいもの見えます?」

「はい とっても牛っぽいですね」

「うしうししてます?」

「うしまくりです」

「そうですか・・・」

 

会話バグってて草

牛さん可愛いいいい

病院だから牛もいるよね(白目)

こええ

 

リオは念のため雫に尋ねたが、やはり見間違いでは無かった。

 

ここって動物病院だったんだね・・・(遠い目)

 

この部屋は全て石畳で作られた部屋だった。

光源は壁につるされた蝋燭である。

リオが改めて牛を観察してみれば、身長は背の高い雫よりもさらに高く、全長は大人2人が両腕を横に開いたぐらいあり、角はまるで突き刺さる意思を持つかのように、三日月よりも少し浅い弧を描いて前方に鋭く伸びていた。

牛はリオ達を見て興奮したのか、檻の中で暴れている。

しかし牛の動きは制限されていた。

鼻先に取り付けられた金属の鎖が、檻の外側にまで伸びていて、壁から出ている突起に引っ掛けられているのである。

そのため牛が顔を動かすたびにその鎖が引っ張って動きが止まり、揺れた鎖が金属の檻とぶつかってじゃらじゃら音を立てていた。

リオはそんな牛を可哀想に思った。

どちらにせよ檻があるので外に出てくることは出来ない。

せめて鎖だけでも解いてあげたい気持ちになった。

 

「雫さん、この鎖外してあげてもいいですか?」

「外しましょう!」

 

雫にも許可をもらったところで、リオは壁の突起から鎖を外した。

これにより牛の動きはかなり自由になる。

牛は嬉しそうに頭をぶるぶる振っていた。(激寒ギャグ)

リオはその様子を見て満足な笑みを浮かべると、部屋の出口へと足を向ける。

この部屋には手記はなかった。

次はどこを探索するか、と後ろを向いて雫としゃべりながら出口へ歩いていると、リオの正面から唐突に大きな音がした。

リオが驚いて前を向けば、先ほどまで開いていた門の扉が閉まっていた。

少し焦った気持ちを胸に、リオは扉を押した。

開かなかった。

 

「え?なんで?」

「なんでですかね?」

 

リオは困惑した。

雫も不思議そうにしていた。

これでは外に出ることが出来ない。

 

\ガンッ/

 

リオが頭を悩ませていると、檻の方から甲高い金属音が聞こえた。

反射的に視線を向ければ、牛が檻の近くで荒い息をついていた。

リオが牛を見つめていると牛が壁のギリギリ後ろまで下がった。

前脚で足元の地面をこすりあげながら頭を低くして檻を睨み狙いを定める。

そして一気に檻に向かって突進した。

 

\ガンッ/

 

金属音が辺りに響いた。

音の正体は、牛が檻に体当たりする音だったのだ。

すさまじい衝撃を耐えきったように見せた金属の檻だがしかし、衝突の起こった部分の棒は形を少し歪ませている。

突進はリオが鎖を外したことで身体が自由になり、出来るようになった行動の一つである。

牛は荒い息をついた後、再び後ろの壁際まで身体を下げる。そうして狙いを定めるとまた突進する。

下がる。突進する。下がる。突進する。下がる・・・

牛は何度も何度もその動作を繰り返す。

それにより檻はだんだんと変形をしていた。

もはや檻が壊れるのは時間の問題である。

リオは顔を引きつらせた。

リオには外に出た牛がその角を使って自分たちを貫いている未来が容易に想像できた。

そしてリオが描いたその未来こそがこの状況の本質とも言えた。

つまりこれは負けイベントである。

リオ達がこの部屋に足を踏み入れて、その鎖を解いた事がトリガーとなりこのイベントは起こってしまった。

もうすぐ二人は死ぬ。

 

\ガキンッッ/

 

檻が衝撃に耐えられなくなり折れた。

檻には大きな穴が出来ている。

牛は地面をゆっくりと踏みしめながら、その穴を通ってとうとう外へと出てきてしまった。

 

「ぶもおおおおおっっっっ」

 

牛が雄たけびを上げた。

空気を揺らす勝利の雄たけびだった。

二人は身体を固くする。

二人は狭い部屋の中でもそれぞればらばらに四角の隅に寄って、牛との距離をとっていた。

牛は鼻息を荒くしながら視界の左右にいる二人の姿を、品定めするように首を振って見比べた。

選ばれたのはリオだった。

牛は頭を下げてリオに狙いを定める。

 

「まじか・・・・」

「リオさん・・・」

 

リオは力のない声でつぶやき、雫は心配そうに声を漏らす。

牛は一瞬の静止をした。

そして、、一気に突進した。

 

「無理無理無理無理無理無理ぃっっ!!」

 

死ぬう!!

怖い怖い怖い怖い

ひいいいいい

あばばばばばばb

くぁwせdrftgyふじこlp

 

 

リオは牛の迫りくる恐怖に耐えかねてぎゅっと目をつぶった。

想像したのは角が身体を貫く感触である。

 

\ガキンッ/

 

硬いものがぶつかり合う音と、背中越しに壁の揺れが伝わってきた

しかし予期した衝撃は襲ってきてはいない。

リオが恐る恐る目を開けると、すぐ目の前に牛の顔があり、牛の鋭い瞳と目が合った。

どうやら角は顔を挟むように、部屋の隅のL字の壁にそれぞれ突き刺さっているようだった。

 

「こ・・・こんにちわ・・・」

 

リオが下手くそな笑みを浮かべながら言った。

 

「ぶもおっっ!ぶもおおおおおおおおっっっ!!」

「ああああごめんごめんごめんなんか知らんけどごめんんんん」

 

牛はリオの顔に唾を飛ばしながら何かを必死に言っていた。

 

多分怒ってるんだろうなこれ どうすんだこれ

 

たまたま助かっただけで、自分がやられる未来が待っていることに変わりはない

 

「リオさん!その牛は”草ちょーだいいいいっっ 草が欲しいいいのおおおおっっっ”と言っています!!」

「・・・は?」

「ぶもおおおおおおおっっっ!!!」

「”草をくれなきゃ殺しちゃうよおおおおおお!!”だそうです」

「・・・は?」

 

いつの間にかリオの側にまで来ていた雫は、牛の顔の隣に自らの顔を寄せて牛語(ゾンビ語)の翻訳をしていた。

リオは雫の言っている事、というか牛の言っていることを理解するのに時間がかかった。

 

”草が欲しい”だ? つまりこの牛はお腹が減ってるだけって? え・・・まじ?

 

リオには圧倒的な恐怖の象徴だった牛が、途端に可愛い何かに見えた。

 

お腹ペコペコ丸で激おこプンプン丸とか子供じゃん もぅマヂ無理。。ペットにしょ。。

 

とかも思った。

 

「よーしよしよし よーしよしよし 草だな草が欲しいんだな」

「ぶもおっっ」

「”ほしいいいいっっ”」

「連れてってあげよう 草の場所まで」

「ぶもおおおおおお」

「”うれしいいいいい”」

 

リオゴロウ先生!?

牛も従える女

すごすぎて草

牛可愛いいいいいいい

 

牛は壁から角を外し、嬉しそうに鳴き声を上げている。

雫のゾンビ語翻訳とリオのムツゴロウパワーによって強引に負けイベントは回避されてしまった。

牛 が 仲 間 に な っ た !

 

扉で閉じ込められて出られない問題は、牛が突進して扉をぶっ壊すことであっさり解決した。

牛にとっては扉を壊すことなど朝飯前である。

リオはこの牛を外まで連れて行ってあげることにした。

庭に生えているたくさんの草を食べれば、きっと満足することだろう。

廊下を歩くときは手前をリオと雫が横並びに歩き、その後ろを牛がついていく形を組むことになった。

さて実際に廊下を歩き始めれば、この牛の迫力はすさまじいものがあった。

この牛はとにかく体がでかいので、廊下の横幅はギリギリだし天井もスレスレである。

傍から見れば動く黒い壁である。

そんな状態のため、道中ゾンビが現れても牛を見て一瞬身体の動きを止めた後に、二人を襲わずにどこかへ立ち去っていってしまう。

まるで大名行列である。

筋肉だるまは分からないが、それ以外なら敵なしに思われた。

二人と一匹は道の途中、あのテレビの砂嵐上演会の部屋を訪れた。

牛は砂嵐を鑑賞しているゾンビ達を見ると、ぶもおっ!(おやつっ!)と言って、そいつらを一匹残らず食べてしまった。

というかでかい角にゾンビを何人か串刺しにして焼き鳥みたいにすんのやめてほしい。グロイ。

 

「私、小さい頃は牛が友達だったんですよ」

 

雫は退屈しのぎにとリオに喋りかけた。

 

「さすがモンゴル出身ですね」

「たくさん牛乳を飲めば大きくなれるって言われたんです」

「はい」

「だからたくさん飲んだんです」

「はい」

「そうしたらここまで健康に育つことが出来たんですよ」

「はい」

「だから牛乳はおすすめですよ!」

「はい」

 

リオは話を聞いている間、視線はずっと雫の胸にあった。

胸がしゃべっていた。

豊かな胸がさっきまで”だから牛乳はおすすめですよ!”とか言ってた。確実に。

これが羨望の気持ちの成れの果てである。

 

牛乳か・・・ 酒で割ったら美味しいかな・・・?

 

リオは牛乳を飲むことを決意した。

 

リオ達は何のトラブルもなく、病院の玄関前に到着した。

 

「牛、あそこから外に出ればたくさん草が食えるぞ」

「ぶもおおおっっ!」

「”やったあっっ!”と言っています」

「可愛いやつだなお前は~」

 

リオは牛の角を撫でた。

出会ってからそんなに時間は立っていないが、既に愛着がわいていた。

特にでかい体つきのくせに瞳がつぶらなところがかわいい。

しかし別れの時は来る。

リオ達は牛に別れを告げた。

 

「達者でな~」

「さようなら~」

「ぶもおおおおおお」

 

牛は玄関に向かって突進をかまし、見事に扉を壊していった。

 

牛を見送った後、二人はまだ捜索していなかった二階へと向かった。

残りの手記はあと数枚で、二人の捜索にも気合が入っていた。

次に二人が怪しいと睨んだのは書庫である。

そこはたくさんの本棚があり、それらが壁となってくねくねとした道を形成している。

本棚には大量の医学書がつめられていた。

二人はそこに手記が挟まっていないかを見て回ることにした。

 

「なかなか見つからないっすね」

「そうですね でもありそうな気がします!」

「出てこい手記~」

 

リオは本に呼びかけながら手記を探す。

本と本の隙間など、指を入れて隙間を開いたりしてくまなく見ていくがなかなか手記は出てこない。

足元にもたくさんの本が散らばっていて歩きにくい床だった。

リオはとにかく時間をかけて、本棚を見ていった。

 

「あ、あれ見てください!」

「ん?」

 

リオが”解体新書 復刻版”を手に取って読んでいると、雫が唐突に呼びかけた。

リオはページを閉じて本を戻すと、雫の指し示す方向を見た。

そこには首を吊っているゾンビがいた。

 

「うわあ・・・」

「ミノムシみたいですね」

「ミノムシ・・・」

 

雫の言う”ミノムシ”は、背後にある窓からの月光を受けて淡い輝きを放ちながら、地面に暗い影を落としていた。

またその周りにはたくさんのハエが飛んでいて、ぶんぶんと耳障りな羽音を立てている。

リオは首吊りゾンビが動かないことを見ると、ゆっくりと近づいた。

 

「動かないなら全然怖くねえな~ おいっ」

 

雫がじっと見守る中、リオは今までゾンビに驚かされた恨みを晴らすようにそのゾンビの肩を叩いた。

 

「がおおおおおおお」

「うわあああああ」

 

ゾンビ生きてた。

ゾンビは肩を叩かれた瞬間にだらんと下がっていた両腕を上げて、リオを襲おうとした。

リオは予想外のことに驚き悲鳴を上げながら出口に向かって一目散に走る。

途中で足元の本に躓いて何度かこけながら、泣きそうな顔で出口まで走った。

首吊りゾンビだから追ってこれないとかパニクった頭には関係ないのである。

雫はゾンビの胸元をちらりと見た後、リオの後を追った。

 

「リオさん、大丈夫ですか」

「大丈夫じゃないです 怖かったです」

 

リオは息を荒く吐きながら言う。

その頭にはどうやったのか、開いた本が帽子のように被さっていた。

 

「リオさん頭が本に食べられてますよ」

「オシャレでしょ」

「オシャレです」

 

オシャレである(前衛的ファッション)

 

「そういえばさっきのゾンビの胸ポケットに手記がありました」

「ほんとですか・・・?」

「ほんとです」

「それじゃあ、雫さん ここはどうかお願いします!」

「公平にちょっとしたゲームで決めましょう」

「ええ・・・」

 

リオは雫に懇願したが雫は笑顔でそれを流した。

 

「今からお互いに質問をし合って、先に語尾のNGワードを言ってしまったら負けです 例えば”ぐ”なら”好きなスポーツなんですか”と聞かれて”カーリング”と答えたら負けです」

「それ、おもしろそうですね」

 

リオは雫の提案したゲームに乗ることにした。

 

「特別にリオさんがNGワードを選んでください その方が有利です」

「じゃあ”ら”で」

「分かりました それでは私から質問しますね」

「はい」

「好きな動物なんですか?」

「ゴリラです!」

「頑張ってくださいね!」

「ぐにいいいいいいいいいいい」

 

wwww

瞬殺で草

ざっこwwww

ゴリラです(迫真)

くそ雑魚リオちゃん

 

リオは反射的に答えてしまった。

それによりリオの負けが確定した。

悔しさで崩れ落ちるリオを雫はニコニコと眺めていた。

 

「ミノムシだ・・・」

「ミノムシですね・・・」

 

二人は本棚から並んでひょっこりと顔を出して、目標を確認した。

窓から差し込む月の光に照らされて少し幻想的な雰囲気である。

 

 

「いってきます」

 

そう言い残し、リオは首吊りゾンビの元へ向かった。

正面に見える首吊りゾンビは瞳を閉じていて、まだリオには気づいていない。

リオは慎重に近づいて、こっそりと胸ポケットにある手記を抜き取ろうという作戦である。

とうとう手の届く位置まで来た。

リオはゆっくりと手を伸ばし、そしてあっさりと手記を抜き取った。

ゾンビは未だ気付いていない。

 

なんだ、余裕じゃん

 

リオは気持ちを緩めた。

その時、窓が割れる音が辺りに響いた。

音の方向、首吊りゾンビの後ろにある窓を見ればゾンビが、ガラスを散らしながら部屋の中へと入ってくるところだった。

ゾンビは眼鏡をかけていて、細身で、あばらの骨が浮き出ていた。

眼鏡ゾンビはそのまま床に着地して、顔を上げる。

ぎょろりとした目がリオを捉える。眼鏡ゾンビはリオに走り寄ってその頭を鷲掴みにした。

さらにそのまま、驚いてその場に立っていた雫にも駆け寄り、その頭を鷲掴みにした。

眼鏡ゾンビは両手に二人を掴んでずるずると床に引きずりながら部屋を去っていく。

リオ達は気を失っていた。

 

なにこれ・・・

BAD END・・・?

こっわ

おっさん誰だよ

 



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夢野雫とコラボだ! [6]

リオは手足から感じる冷たい感触で目を覚ました。

開けた視界には病院の天井が広がっている。

空気が薄暗いことから、周囲に明かりは無いことが分かる。

背中に感じるのは柔らかい感触。ベッドだろうか。

リオは起き上がろうと手足を動かそうとした。

しかし、甲高い音が響き手足の動きが止まった。

見れば手足それぞれの首に金属の輪っかが通されていて、さらにそこから伸びた金属のチェーンがベッドと繋がっていた。

リオは先ほど助けた牛の映像が頭に浮かんだ。

事情は分からないが、今度は自分が鎖につながれたらしかった。

リオは何とか拘束から逃れようと身体を動かすが、もがいても、もがいても金属の空しい音が響くばかりである。

 

「やあ、ご機嫌ようお嬢さん 調子はどうですか?」

 

不意に視界の横から眼鏡ゾンビがぬるりと現れ、リオを見下しながら言った。

 

「ここどこだよ! これ離せっ! おいっ!」

 

リオが噛みつかんばかりの勢いでまくしたてるが、眼鏡ゾンビは聞いているのかいないのか何も答えない。

 

「おいっ! 人の話聞けやっ!」

「本日はお友達も一緒に遊びに来ていただいたようで誠にありがとうございます」

「は?」

 

眼鏡ゾンビの物言いがまるで理解できなくて、リオは首を傾げた。

しかし”お友達”という言葉にすぐに雫の存在を思い出した。

リオは首をひねり、横を見た。

そこにはリオと同じようにベッドに拘束されている雫の姿があった。

 

「雫さん!」

「リオさん、おはようございます よく分かりませんが激やばですね」

「マジヤバです!」

 

生きてたーーー

リオはともかく雫ちゃん生きてたーー

まあ、リオは死なんやろ・・・

全く心配されてなくて草

 

雫がいつもの調子でマイペースに語り掛けてきたので、リオは少し安心を覚えた。

しかし今の状況は雫の言う通り間違いなく激やばだろう。

手足を一切動かすことが出来ないという状況もさることながら、眼鏡ゾンビがいつの間にかでかいチェーンソーを片手に持ってリオを見下ろしているという事実である。

 

「さてさておしゃべりもそのくらいにしていただいて、本日の商品をご紹介いたしましょう」

 

そう言うと眼鏡ゾンビはチェーンソーに電源を入れた。

リオの目の前でチェーンソーがバリバリと音を立てて回り始める。

リオの額から冷や汗が流れ始めた。

 

「皆さんに体験して頂く前に、この商品がいかに優れモノであるかをご紹介しましょう」

 

チェーンソーの電源が切られた。

眼鏡ゾンビは視界から外れると、どこからかワゴンを転がしてきてリオと雫のベッドの間のスペースまで持ってきた。

ワゴンの上を見れば、そこには皿とソレに乗せられた肉がある。

肉は横長の四角い形をしていて太く、弧を描いている骨がいくつか規則的に並んで肉からトサカのように突き出していた。

 

あ、これは牛のリブステーキ(背中の肉)だ 背骨が出まくりだわ

 

肉好きなリオはすぐに察した。

雫も首を横に向けてじっと肉を見ていた。

二人に肉を見せつける眼鏡ゾンビは、チェーンソーの電源を入れた。

再び耳障りな音を立ててチェーンソーの刃が回り始める。

 

「ではご覧ください これがこの商品の切れ味です」

 

眼鏡ゾンビがそう宣言して、チェーンソーの刃を上から肉に当てた。

赤身が勢いよく飛び散って顔や体に飛び散ってくる。

刃が骨にぶつかってがりがりと音を立てている。

やがてチェーンソーは、骨ごと肉をバッサリと切った。

 

「ご覧いただけましたか? これがこの商品の実力です」

 

眼鏡ゾンビは得意げに二人に話しかけてくる。

雫はそんなゾンビの様子をじっと見つめているし、リオもギッと睨みつけていた。

眼鏡ゾンビはそんな二人を見下ろしながら言った。

 

「まあまあそんなに焦らないでください しっかりお二方には体験していただきますよ」

 

眼鏡ゾンビはリオの足元へと移動してリオの片足を見下ろす。

そしてチェーンソーを持つ片手を持ち上げると、その片足に狙いを定めるように刃を向けた。

リオは目を丸くした。

刃が回っている。

 

\ぶいいんっ/ 

 

リオは確信した。

 

このゾンビ、私の脚ぶった切ろうとしてる!? 体験ってそういうことなの!?

 

「やばいやばいやばいやばいやばいやばい」

 

リオは急激に心拍が上がり始めるのを感じながら、呪文のように焦りの言葉を口から吐き出す。

 

「まじで駄目だって!本当に駄目だって!痛いじゃんだって!!」

「リオさん、頑張ってください!!」

「何をだよ!?」

 

手足は自由が利かないままで、刃が徐々に足へと近づけられる。

 

「それでは体験していただきましょう」

「したくないですううううううう」」

 

まずい

こいついつも叫んでるな

痛い痛いの飛んでけ

おまじないで草

 

リオが叫び声を上げても、近づく刃は止まらない。

そしてもう足に触れそうである。

リオが覚悟して歯を食いしばる。

ああ、だめだと思ったその瞬間、眼鏡ゾンビが横に吹っ飛んだ。

 

「へ!?」

 

眼鏡ゾンビを視線で追えば、壁に身体を打ち付けて痙攣していた。

そして代わりにその場に立っていたのは、、

筋肉だるまだった。

 

「何で筋肉だるま!?」

 

\ぶいいいんんn/

 

「ひいっ!?」

 

筋肉だるまの登場に驚いていると、先ほどまで眼鏡ゾンビが持っていたチェーンソーが顔に向かって飛んできていることに気づいた。

どうやら突き飛ばされた際に、眼鏡ゾンビの手元を離れて吹っ飛んできたらしい。

 

宙を舞うチェーンソー君。

回転するチェーンソー君。。

ぶっ刺さるチェーンソー君。。。

 

リオがギリギリで顔を背けると、そのすぐ横にチェーンソーは垂直に落下してベッドを切り裂いていった。

 

「助かったあ・・・」

 

色々助かった。

リオは深く息をつく。

気付くと手足の鎖も外れて自由に動かせるようになっていた。

雫を見れば同じように鎖が外れている。

二人は急いでベッドから降りた。

筋肉だるまは何故か倒れている眼鏡ゾンビに馬乗りになり、激しく殴りつけている。

この間にリオ達は逃げることにした。

 

部屋を出た先には奥行きのある別の部屋があった。

窓際にはたくさん並べられたベッドがあり、その上にゾンビとも人間ともつかない中途半端な姿の生き物が寝かせられている。

このベッドはゾンビになりきれていない者が集まる場所のようである。

二人はとにかくゾンビから距離を稼ぐために、ベッドの横を駆け抜けていく。

 

「おいっ」

 

不意に二人を呼び止める声がした。リオが声のした方向を向くと、ベッドに転がる男が体だけ起こしてこちらを見ていた。

黒目があり、皮膚がある。

このゲームで初めて見た普通の人間である。

しかし今は気にしている余裕はない。

 

「すみません 急いでるんで」

 

リオはそう言って先に進もうとしたのだが、男が尚も呼び止める。

 

「待て、話を聞けって 財宝の話だ?興味ないか?」

 

男がにやりと笑みを浮かべて問いかける。

リオは少しの間考えた。

ゲームシステム上、その財宝が手記である可能性も否定できなかった。

リオは雫とともに一応話を聞いてみることにした。

 

「すみません手短にお願いします」

「むかーし昔、あるところにおじi」

「急げや」

「おじいさんはこの病院の地下に財宝があると言いました」

「グッド」

 

男が言うにはこの病院の地下に財宝があり、自分はその場所を知っているという。

ただ自分は身体がゾンビになりかけていて今は動けず、リオ達にゾンビ進行を止めるため、筋肉だるまが持っている薬を取ってきてほしいと。

そうすれば財宝の元まで案内するとのことだった。

 

「薬取って来いって言ったってそんな・・・」

「難しいですね・・・」

 

筋肉だるまが怖くて逃げてるのに、筋肉だるまに近づけるわけがない。

二人が方法に悩んでいると、二人がこの部屋に入ってきたときに使った扉が開く音がした。次いで足音。

筋肉だるまである。

リオは急いでこの男のベッドの下に隠れた。

雫も隠れた。

同じベッドに。

 

「だから何で一緒に隠れるんですか!?」

「寂しいからです」

「絶対ばれますって 足が出てるんですから」

「出てないあしぃ~」

「ん~パンチッ!」

「あうっ!」

 

\ズシンッ/

 

リオが次の言葉を言いかけたところで、筋肉だるまの大きな足音が響いた。

ベッド下から視線を向ければ、血色の悪い筋肉だるまの足がすぐそばで見えた。

リオは息を殺した。

 

「おい、お前 ここらへんで人間を見なかったか?」

 

リオは耳を疑った。。

聞きなれない甲高い声が聞こえた。

すっごい高い声。

しかしこの声を発した人物は間違いなく、、

筋肉だるまである。

 

声細すぎwww

どうぶつの森出身かな?

これはF#

↑絶対音感の無駄遣いで草

 

リオは笑いを必死にこらえた。

 

「見てないです」

「本当に見ていないのか?」

「見てないです」

「正直に言ったらお前を助けてやろう」

「ベッド下におじいさんがいます」

「この足か」

 

や っ ぱ り ば れ た

 

リオが隠れるのを諦めて雫の手を引っ張りながらベッド下から這い出る。

 

\ドゴーンッ/

 

筋肉だるまが拳を思いっきり振り下ろして嘘つき男ごとベッド下の地面まで拳を叩きつけるのはそのすぐ後だった。

相変らず恐ろしいパンチである。地面に拳埋まってるし。

二人は再び逃走を始める。リオが後ろを振り返れば、筋肉だるまがこちらを怒りの形相で睨みつけながら、地面から拳を抜こうと頑張っている。

その隙にと二人は走る。

ベッドの部屋を出た先は、途中に部屋のないただただ長い廊下だった

二人はひたすらに走った。

しかし筋肉だるまは足が速い。

リオが後ろを振り向けば、既に筋肉だるまが距離を縮めて来ていた。

 

「来てる来てる来てる」

 

焦りは動揺を生み、動揺は失敗を生む。

 

「あっ」

 

突然の浮遊感。

リオは自らの足につまづいて転んでしまった。

 

「リオさん!」

 

先を走っていた雫が振り返って声をかける。

リオはすぐさま立ち上がって再び走り出すが、この逼迫した状況では少しの時間の無駄が命取りとなってしまう。

筋肉だるまはリオとの距離をあっという間に縮めて、もう追いつくのは時間の問題だった。

リオが近くなる足音を聞き後ろを振り返る。

すぐ目の前に筋肉だるまがいた。

 

「ふふっw」

 

リオはそのあまりの絶望に、乾いた笑いを漏らした。

もう数メートルもない。

 

筋肉だるまが腕を伸ばす。

伸ばされた腕がリオの肩に迫る。

筋肉だるまが不気味な笑顔を浮かべる。

 

全てをスローモーションで見ていた。

逃げきれなかったことを悟った。

 

その時。

 

\ドガーーーーーンンッッッ/

 

!?

!?

なにい!?

ふぁ!?

 

リオと筋肉だるまの横にあった壁が突然大きな音を立てて壊れた。

もくもくと砂煙がたつ。

ここにいた全ての者の注目を集めると同時に、それは壁から飛び出してきた。

 

「ぶもおおおおおお」

「ぐう~~~~~~」

 

現れたのは、”牛”とそれにロデオする”ぐう”であった。

 

きたあああああああああ

何で乗ってんだwwww

でたああああああ

これはあつすぎる

タイミング神

 

二匹はそのまま勇敢な声を上げながら筋肉だるまへと突っ込んでいく。

牛の角が筋肉だるまの半身を貫き、ぐうが両手に持った絵画を武器にして頭を激しくひっぱたく。

筋肉だるまはたまらず動きを止めた。

その隙にリオは逃げていく。

 

「ありがとう皆あああああっっ」

「ありがとうございますっ!!」

「ぶもおおおおおおおおおっっっ」

「ぐうう~~~~っっっ」

 

二匹とは出会って短いが、かけがえのない友達であった。

彼らのことは今後絶対に忘れることは無いだろう。

二人は二匹に感謝しながら懸命に走り、ようやく適当な部屋を見付け、荒い息をつきながら中へと入る。

見事に筋肉だるまから逃げきったのだ。

二人は安堵の息を漏らしながら、お互いに笑いあった。

メデタシ メデタシ・・・とは残念ながらならない。

二人は完全に油断していた。

全く気が付かなかった。

いや、むしろこの状況でいったい誰が分かるだろうか。

たまたま入った部屋が、トラップの落とし穴部屋だと。

 

\ガチャ/

 

「「えっ」」

 

二人の足元の床が突然無くなった。

二人は真っ逆さまに下へと落ちていった。

 

 

落ちた先には大量の砂山があった。

リオは落ちる途中で、雫に背中から抱きかかえられてそのままの姿勢で落ちていったために、砂の上に落ちた今でも雫の抱き枕状態で横になっている。

雫がリオの顔を覗き込んできた。

 

「雫さんありがとうございます」

「リオさんは小さくて抱きしめがいがありますね」

「ちょっと馬鹿にしてません?」

「リオさんは小さくて素敵です」

「なんで言い直したんですか!?」

 

抱き枕状態での会話である。

リオは起き上がると辺りの様子を観察した。

遠くに大きな下水道が見えて、大量の水が流れている音がする。

その下水道の途中から垂直に伸びた曲がり道の突き当りにこの空間が存在する。

ちょっとした四角形の空間だ。

まるで落とし穴のためだけに作られたような場所。

だからこの部屋には特に何もな・・・?

この空間を見渡しながら言いかけた言葉だったが、途中で口を閉じた。

視線の先では宝箱が二つ、並べられて壁際に置かれていた。

見間違いかと思い近づいて確かめてみるがやはり宝箱である。

なんで病院の地下に宝箱があるのかはゲームなので今更考えない しかしさっき助けを求めてきた男の言った通りであるならばこの中には手記が眠っている可能性がある

リオは胸を高鳴らせた。

 

「雫さん、これ開けてみてもいいですか?」

「開けてみましょう!」

 

横に立って一緒に宝箱を見下ろす雫も、期待のこもった声で答えた。

リオはまず片方の宝箱を開けることにした。

宝箱の前にしゃがみ込む。

そしてゆっくり手を伸ばして箱を開けた。

中を見た。

いっぱいの緑。

 

\ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ/

 

リオは無表情で箱を閉じた。

・・・カエルのいっぱい詰まった箱だった。

 

きっも

げこげこー^^

全部カエルだあ・・・

メルカリで売ろう

 

 

「雫さんすみません、どうやらこっちは偽物の宝箱っぽかったです」

「宝箱じゃなくてカエル箱でしたね」

 

リオはカエルが苦手だった。

リオは今のを見なかったことにして、もう片方の宝箱を開けることにした。

再び宝箱の前にしゃがんで手を伸ばす。

開ける。

中身は・・・折りたたまれた小さな白い紙が入っていた。

 

やった!当たりだ!

 

リオは笑みを浮かべた。

勝ちを確信してその紙を取り出して、開いた。

 

ごめんね こっちがニセモノだよ

 

丁寧な字で書かれていた。

 

「あれ・・・?」

「カエルの箱に手記があるみたいですね」

「えっと・・・?」

「カエルの箱に手を突っ込むみたいですね」

「ほう・・・」

「カエル好きですか?」

「嫌いです」

 

リオは冷静に今の状況を分析した。

 

二つ宝箱がある。

片方は外れだと言う。

もう片方はカエルげこげこ

つまりげこげこの中にしゅきしゅきがある ━Q.E.D.━

 

リオはしっかりと閃いた。

こんな閃きならいらなかった。

 

「シズクサン、ワタシ、カエル、キライデス」

「私も苦手ですねー」

「ここはどうか雫さん、お願いします」

「ゲームで決めましょう!」

「嗚呼・・・」

 

リオは先ほどと同じように懇願し、同じように笑みで流され、同じようにゲームをすることとなった。

 

「今度は少しルールを変えてしりとりにしましょう なのでしりとりの語尾にNGワードをつくります ワードが”ら”なら、”リンゴ”に対して”ゴリラ”と答えると負けです」

「こんな単純なのに引っかかる人がいたら相当なバカですよね」

「バカワイイりおさんも素敵です♪」

「ううっ」

 

しずく の つうこんのいちげき!

 

しかしリオは成長する生き物である。

今度は負けない自信があった。

 

「じゃあリオさんがNGワードを決めてください」

「”る”でいきます」

「分かりました じゃあ私から始めますね」

「はい」

「まずはしりとりの”り”なので”陸”」

「”く”か・・・”クエ”」

「”えさ”」

「”酒場”」

「”バッハ”」

「”は”・・・ハイボっっ!?」

 

リオは”ボ”の口を開けたまま固まった。

 

危なかった! 今、反射的に大好きな”ハイボール”って答えようとしてた!! 

 

リオはギリギリで気付いた。

踏みとどまったことに安堵の息を漏らす。

 

こうやって考えないで発言するとこのゲームは負ける ゆっくり慎重にいかなくては!

 

リオは自らの行動を改める。

そして余裕をもって別の言葉を言うことにした。

間違いなく、自信をもって、堂々と言った。

 

 

「”はんぺん”でどうでしょう」

「”ん”がついたので負けです」

「くそおおおおおおおおおお」

 

wwwww

ざっこwww

も う 見 た

敗北しか知らない女

様 式 美

 

リオは膝から床へと崩れ落ち、悔しさに声を上げた。

リオは純粋にしりとりで負けたのだ。

悲しみのこもった声が地下中に響いていた。

 

「さ、リオさん頑張りましょう!」

「ほんとに無理い・・・」

 

雫がリオの隣でニコニコと笑みを浮かべながら励ましている。

リオは力なく腕を伸ばして宝箱の箱を開ける。

中を覗けば、やはりたくさんのカエルが蠢いていた。

 

「いいいいっっっ」

\ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ/

「うるせえよっ!」

 

リオは顔を引きつらせて箱の中身を見ないようにしながら、震える腕をゆっくりと伸ばして宝箱に沈める。

 

「ああああああっっ ぐうううううっっ いひいいいいい」

 

手先からぬめぬめとした感触が伝わってくる。

リオはその気持ち悪さに妙な奇声をあげまくり、表情もそんなにバリエーションがあるのかと見てる者を驚かせるほどに、様々な嫌悪の表情が現れていた。

それを優しく見守るのは隣に立つ雫である。

 

「あはぁっっ・・・ リオさん可愛い・・・」

 

雫は頑張るリオを見て、恍惚とした表情を浮かべていた。

雫には、今の苦悶を浮かべるリオの姿は何よりも愛おしく映っていた。

 

「あったあ! あった!」

 

リオは伸ばした手がとうとう紙の縁に触れるのを感じ、興奮気味に語った。

リオはその紙をしっかりと指でつまみ、引き上げた。

現れたのは折りたたまれた白い紙と、それに張り付く一匹のカエル。

 

「はあああああ君はいらない!君はいらないよ!!」

 

リオはそう言いながら、紙をぶんぶんと振ってカエルを落とそうとした。

しかし、ここでリオの悪運が発動する。

足場が不安定になったカエルはぴょんと飛び跳ねた。

着地した先は、、リオの顔である。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp(あばばばっばばばああ)!!」

「出てきちゃったんですね~」

「くぁwせdrftgyふじこlp(とってくださあああい)!!」

「カエルさんこっちですよ~」

 

雫は手の平を足場になるように上に向けて、リオの顔の横に近づけた。

すると顔に乗ったカエルは、その足場へと飛び移った。

雫はそのまま丁寧にカエルを地面へと降ろした。

 

「あああありがとうごじゃーます雫さん おかげで何とか生きてます」

「それはよかったです」

 

震える口で感謝の気持ちを述べるリオの手にはしっかりと紙が握られている。

リオが紙を開いて見てみれば、それは間違いなく手記であった。

 

「やったああああ」

「やりましたね!」

 

二人は歓喜の声を上げた。

これでようやく全ての手記を集めきった。

これによってこの病院に来るときに通った庭を囲む柵が開き、脱出が可能となる。

ゲームクリアは目前である。

しかしいつまで喜びに浸っているわけにはいかなかった。

 

\ぐらぐらぐらぐらぐりぐらぐら/

 

「「!?」」

 

唸るような地鳴りを上げながら、建物が揺れている。

病院が崩壊を始めていた。

 

 



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夢野雫とコラボだ! [終]

リオが最後の手記を手に入れると同時に建物全体が揺れ始めた。

それは病院の地下もまた例外ではない。

リオの視界に映るもの全てがぶれて、あらゆる物が二重にも三重にも重なっている。

地面も、壁も、天井も、空気中に唸るような音を轟かせながら揺れているのである。

このまま天井が落ちて来て生き埋めになるのは時間の問題に思われた。

とにかくこの場から離れなければならない。

リオは焦りの表情を浮かべながら、周囲を見渡す。

あるのは、下水道へと続く細いトンネル状の通路である。

雫に素早く視線を向ければ、雫もその通路に気づいている様子だった。

 

「雫さんっ!」

「はいっ!」

 

リオと雫は同時に駆け出し、横並びになってトンネルの通路へ入る。

二人が正面に見えるトンネルの出口へと向かって必死に走っていると、背後から耳を割るようなすさまじい轟音と一際大きな地面の揺れが伝わってきた。

驚いて振り返ればついさっき自分たちが通ってきた道の天井が崩落し始め、逃げるリオ達を追うように天井の瓦礫が降ってきていた。

リオは顔を引きつらせ、雫は真顔でその様子を見た。

二人は前を向くと、生き埋めにならないように全力疾走する。

背後に迫る瓦礫の気配を感じながら、やがてトンネルを抜けた二人はそこで立ち止まった。

眼下には真横に勢いよく流れていく大量の水。

二人は水の通り道である下水道のへりに立っていた。

先へと進める道はもうない。

立ち往生している二人のすぐ後ろで轟音と砂煙が立った。

見れば、降ってきた瓦礫が積み重なりトンネルの通路が完全に塞がっていた。

これで二人は前にも後ろにも進めなくなった。

リオと雫は顔を見合わせる。

 

「雫さん、進める道が無くなりました」

「はい」

「これはやばいです」

「いつもやばいですね♪」

 

そりゃリオだしな・・・

悪運の強さよ

生き埋めになって地面から生えろ

詰んでる

 

リオの焦った声に、雫はほんわかした声で返した。

このままここにいても、天井に潰される未来が待つだけである。

今だって既に、下水道の天井がぐらぐらと崩れかけている。

リオは何かないかと辺りを見渡した。

 

壁、壁、壁、梯子・・・!

 

リオは遠くの下流の方の壁に掛かっている梯子を見つけた。

 

「あれ梯子ですよね」

「そうですね」

「あの梯子を登って行ったら外に繋がっているかもじゃないですか!?」

「そうかもしれません」

 

リオは希望が見えたことに声を弾ませた。

問題はどうやって梯子の元まで行くかである。

梯子がこの流れる水に対して垂直な壁にかけられてる以上、水に流されながら徐々に壁に寄っていって梯子に到達する必要がある。

しかし水の流れはだいぶ早い。

 

いけんのかこれ・・・

 

リオは流れる水を見つめて不安そうな表情を浮かべた。

雫はそんなリオの顔を見ると、軽く咳払いをした。

 

「コホンッ」

「?」

「私が先に行きましょう!」

「え?雫さん大丈夫ですか?」

「大丈夫です! 私が先に梯子に捕まって、リオさんに手を伸ばします! そしたら簡単です!」

 

雫は胸を張って自信満々に答えた。

それでもまだリオは少し不安そうな表情をしていた。

するとそれを見た雫は言った。

 

「私、泳ぐの得意なんです」

「そうなんですか」

「はい だから余裕です!」

 

雫の軽い物言いを聞いてリオはとうとう心配するのをやめた。

 

「頑張ってください」

「頑張ります」

 

そこまで言うなら大丈夫だろう、という気持ちであった。

リオが隣で見守る中で、雫は深呼吸をした。

 

「じゃあ 逝ってきます」

 

雫はそう言い残して流れる水へと飛び込む。

”ばちゃん”と音を立てて雫の姿が水中へと消えた。

リオはしゃがんで、雫が顔を出すであろう水面を水の流れから予測してじっと眺めた。

静寂・・・静寂・・・

数秒経っても、雫はなかなか顔を出さなかった。

 

え?これまずくない?

 

リオが立ち上がってそわそわしていると、雫がようやく顔を出した。

雫はゆっくりとリオに顔を向けた。

 

「雫さん!」

\スミマセン アシガツリマシター タスケテクダサーイ/

「ええっっ!?」

\タスケテー/

 

早速溺れてて草

即落ち2コマ

めっちゃ棒読みなんだがww

頭流されていくのシュールすぎて草

 

雫は何故か棒読みでリオに助けを求める。浮かんだ顔がビーチボールの如くすーっと下流へ流されていく。

リオはそれを見ると、自身も迷いなく水へと飛び込んだ。

足元から頭まで冷たい水に包まれる。

水深は思ったよりも浅く、足はギリギリ着いた。

 

着 い た よ。

 

え? 意外と浅くね? 雫さん余裕じゃね?

 

と思ったのも一瞬のこと、雫が溺れているのは見てわかる事実である。

リオはとにかく遠くで溺れている雫の位置を見定めて、泳ぎ始める。

水の流れも相まって、ぐんぐん雫との距離は縮まっていく。

やがてリオは雫に腕を伸ばした。

 

「やっと捕まえた!」

「ありがとうございます!!」

 

リオは雫の身体に素早く片腕を回す。

雫も嬉しそうな声を上げながら、リオの首に腕を回し身体に両脚を巻き付けた。

それは木にすがりつくコアラのようである。

 

「良かった 無事だあ」

 

リオは息を漏らす。

 

「これゲームですよ」

「そうだけどっ!」

 

リオは雫の無事を確かめるように、身体を抱きしめて雫の顔を見つめる。

雫もリオの全身をぎゅーっと強く抱きながら、リオの顔を見つめる。

鼻先が触れるほどの距離で、お互いに見つめ合う。

鼻先を赤くして、濡れた髪を顔に纏わせて、光る水滴を肌に滑らせる相手の顔。

吐息が触れる。

 

えっっっっっ

あっ(尊死)

えっど

ぬっ

 

リオは何となく気まずくなって顔を逸らした。

雫は笑みを浮かべながらリオの首に顔をうずめた。

 

「やりました! 作戦通り合法的にリオさんに抱き着くことが出来ました! 嗚呼、リオさん柔らかい・・・嗚呼・・・暖かい・・・嗚呼・・・」

「なんか言った?」

「いえ」

 

リオは顔を下に向け、雫は顔を上にあげた。

リオは首元からくぐもった声を聞いたが、何て言っているのかは聞き取れなかった。

 

というかくすぐったいから離れてほしい

 

リオは梯子を掴むという目標を思い出し、顔を上げた。

丁度目の前に梯子が迫ってきていた。

 

「梯子捕まえた!」

 

リオは水流に流されながらも、梯子に手をかけることに成功した。

そのまま足もかけて登り始める。

 

「さすがに自分で登ってください」

 

リオはコアラモードの雫に注意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

雫が上、リオが下で梯子を黙々と登っていた。

梯子の先は真っ暗な円盤の天井で、夜空の星が見えるわけではない。

リオは梯子の先が外につながっていることを祈りながら登っていた。

ふと視界に入っていた雫の登る足が止まり、リオも動きを止めた。

 

\コンコンコン/

 

頭上から金属を叩く甲高い音が聞こえた。

気になったリオが上を見上げれば、雫が天井を手の甲でノックしていた。

 

「ここがてっぺんみたいです」

「おお~」

 

雫が報告するように言う。

どうやらいつの間にか梯子の先まで登って来ていたらしかった。

雫は落ちないように片手で梯子を掴み、もう片方の手を天井に伸ばした。

 

「くぅーっ くぅーっ」

 

かあいい

萌え~

子犬みたいな声だな

癒し

リオからリオ成分を抜いた声

 

雫が河童のような鳴き声可愛らしい声を上げながら天井を押すが、びくともしない

腕がぷるぷると震えていることから相当に力を入れていることが分かる。

要するに力不足である。

雫は”ふう~っ”と息を吐くと、電池切れかのように力無く腕を下ろし、足元のリオに顔を向けた。

 

「リオさん、私の力じゃ難しそうです 代わっていただけますか?」

「任せてください! 力仕事得意なんです!」

 

安心感がすげえやwww

得意(得意)

知ってた

天井ぶち抜きそう

 

リオは笑みを浮かべながら、雫からのお願いを二つ返事で引き受けた。

リオは雫と場所を入れ替わると天井を見上げ、まずは雫と同じように片手で天井を押してみた。

しかしどうにも動く気配がなかった。

そこでリオは両手を使うことにした。

階段を作っている足場は金属のフックを壁に打ち付けたもので、横長の四角を縁取った形をしており、リオはその足場に器用に体重を乗せることで両手を離して立ち上がった。

リオはそうして両手の平を円状の天井につけた。

 

「ふっ!」

 

リオは息を止めて腕に力を込める。

力の入った手の甲にくっきりと線が浮き出ている。

しかし天井は動かない。

 

「ぐぬぬぬぬっっ」

 

リオは歯を食いしばる。

重圧のかかる手首と二の腕の筋肉が悲鳴を上げている。

しかし天井は動かない。

 

「リオさん無理しない方が」

 

雫は顔と腕を真っ赤にしているリオを見て心配そうに声をかけた。

しかしリオは諦めない。

 

「別の道を探しましょう」

「・・・かあ」

「え?」

「・・・るかああ」

「?」

「負けてたまるかあああああっっ!!」

 

強い(確信)

これ少年漫画だっけ?

ジャンプ系ゴリラ

友情!努力!ゴリラ!

 

リオは天井に向かって威勢よく声を張り上げた。

すると天井が少し持ち上がった。

 

「ぬんっ!」

 

リオはすかさず天井を横にずらした。

リオと雫は目を見開いた。

ずらしてできた隙間から、月の光が差し込んできていた。

梯子の先は外につながっていたのである。

 

「やったあああ」

「やりましたね!」

 

きたあああああああ

助かったあああああ

姉貴まじイケメン

やっぱ力よ!

 

リオ達は喜びの声を上げた。

一度はどうなるかと思われた外への脱出だったが、見事に達成された。

リオ達は早速その隙間からぴょこんと顔を出す。

懐かしい土のにおいを吸い込む。

リオは隙間から這い出ると立ち上がり、地面を踏みしめて大きく息を吸いこんだ。

生き延びたことを実感した。

隣を見れば、雫も同じように外の空気を味わっていた。

リオは脱出の余韻に浸りながらに、気分の良いままに、何ともなしに足元に視線を落とした。

視界に入るのは土と、雑草と、おじいさん・・・おじいさん?

リオは首を傾げた。

青い服を着たおじいさん。帽子もかぶったおじいさん。

そこには警備員の死体があった。

 

は?

 

青い服着た警備員の死体が目の前に転がっている。

そしてよく見ればその下に、黒い円盤であるマンホールが見える。

つまりにわかに信じがたいことではあるが・・・リオはマンホールと合わせて、成人男性一人を両腕で持ち上げたということである!

 

さすがゴリラ

マンホール約40kg+成人男性平均体重60kg・・・

すごすぎて草

人 間 卒 業

俺、また何かやっちゃいました?

 

「リオさん・・・すごいですね・・・」

 

気付けば雫が隣にいて同じようにリオの足元を見つめていた。

リオの視線に気づき雫が顔を上げて目が合う。

純粋な称賛の目をしていた。

 

「ゲ・・・ゲームだから多少はね・・・」

 

リオは目をそらした。

 

「そ・・・それよりも見てくださいほらっ! 拳銃ですよ!リアル拳銃!かっこいいな~~拳銃」

 

リオは話を逸らすように、警備員のポケットに入った拳銃に飛びついた。

リオが拳銃を見つめる目は、少年のように輝いている。

手に取ればそれは黒い光沢を放ち、手にずっしりと重みを与えてくる。

リオはひとりでに興奮していた。

銃だとかの武器はリオの琴線をたまらなく刺激するのである。

リオは拳銃を自分のポケットに差し込むと、雫の前に立ちあがって自らの格好を見せつけた。

 

「どうですか?かっこいいですよね!?イカしてますよね」

「・・・そうですね」

 

引いてるwww

めちゃくちゃ似合ってるの何か草

イケメンじゃねえか

僕もポケットに差し込んでください

↑不審者で草

 

雫はリオのポケットから顔を出している拳銃を見つめながら、ぎこちない笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

おふざけもほどほどに、二人はこの病院の出口へと向かって歩き始めた。

出口とはこの病院の庭を囲っている金属の柵の一部に取り付けられている扉であった。

その扉が今、リオ達の前方遠くに見えている。

この病院に来たときは病院に入った途端に閉められてしまったが、二人が見事に手記を集めきったことでその扉は開いたのである。

扉を抜ければようやくゲームクリアとなる。

リオは今まで苦労を思い返し、報われることに喜びを感じながら歩いていく。

 

「そういえば」

 

とリオは切り出した。頭には助けてくれた勇敢な友達のことが思い浮かんでいた。

 

「牛とぐうはどうなっちゃったんでしょうね」

 

リオは後ろを歩く雫の方を振り向いて喋りかける。

 

「そうですね~ 筋肉だるまも含めて三人で友達になっているかもしれませんね」

「それはメルヘン過ぎません?」

「じゃあ筋肉だるまに食べられちゃったかもしれませんね」

「それは怖いですねw」

 

\ドンッ/

 

「!?」

 

リオと雫の間で話が盛り上がっていると、リオは顔の横、つまり歩いている自分の正面に何か重いものが降ってきた音を聞いた。

リオも雫も足を止めた。

リオは笑顔を浮かべたまま、額から汗を流す。

リオは、自分と雫に黒い影が差しているのを見てソレがでかいことを知る。

こちらを向いていた雫の顔が、段々と自分の頭上へと向いていくのを見て、それが3メートルぐらいのでかさであることを知る。

 

「わあー」

 

雫が驚いたように声を漏らす。

それでもリオは振り向かない。

振り向かずともソレの正体が何であるかを、既に大体察していた。

この圧迫感。そして不意打ちで現れたこの感じ。

筋肉だるまである。

筋肉だるまが正面にいるのである。

リオは深く息を吸う。

筋肉だるまとの対峙はひどくメンタルが削られる。

リオはしっかりと心の準備をした。

 

大丈夫 知ってる顔だ 知り合いだ 何ならもう友達(?)だ

 

リオは一気に振り向いた。

 

そこには牛の角が生えてる片目が無い絵画を片手に持ってる3メール級の筋肉ムキムキゾンビがいた。

 

「知らない子なんですけどおおおおおおおお」

「変わったゾンビですね」

「ぐうもおおおおおおおおっっっ」

「声たっか!」

 

久しぶりいいいいいいい

声ほっそwww

何かイメチェンしてね?

可愛いいいいいい

 

”牛の角が生えてる片目が無い絵画を片手に持ってる3メール級の筋肉ムキムキゾンビ”命名”ネオゾンビ”は、見事なF♯の鳴き声を上げながら二人に片手に持った絵画を振り下ろした

二人が咄嗟に身を引けば、絵画の額縁はそのまま地面を叩き、ぽっかりと抉れて穴が出来た。

 

「ぐうもおおおおおおおおっっっ」

「うわあ!やばい!ぺしゃんこになる!」

「このままじゃ外に脱出できないですね」

「ああもう詰んでるじゃんクリアさせてよおお」

 

リオが悲痛な声を上げる。

ネオゾンビがいる限り出口に辿り着くことが出来ない。

ゲームをクリアするのは絶望的と思われた。

 

「ここまできたのに!いっぱい死にかけたのに!」

「一つだけ方法があります」

「えっ?ほんとですか?」

 

雫がリオのポケットを見て言った。

 

「その拳銃でネオゾンビを倒せばいけます!」

「・・・そっか!」

 

リオは拳銃を素早く手に取ると、すかさず構える。

発砲。

その瞬間、リオとネオゾンビの視線が交わった。

悲しげなつぶらな瞳だった。

 

「あっ!」

 

リオが声を発するのと、銃弾がネオゾンビの角に命中して砕くのはほぼ同時だった。

 

「ぐうもおおおおおおおおおおお」

 

ネオゾンビが悲鳴にも似た声を上げながら、顔を振り乱す。

その時リオはある予感に駆られていた。

それを確かめるようにネオゾンビの身体をもう一度よく見る。

二つに割れた蹄、片手には絵画、つぶらな片目、牛の角。

そして”ぐうもおおおおお”とかいう特徴的な鳴き声。しかもF♯

リオは全て理解した。

 

「このネオゾンビは、筋肉だるまが牛とぐうを吸収した姿だ!!」

 

リオは宣言するように雫に言った。

 

「え?そうなんですか?」

「よく見てください! あいつの身体を!」

「・・・言われてみれば確かにそうですね」

 

せやな・・・

牛・・・ぐう・・・

あいつらは犠牲になったのか

混ぜ込みご飯じゃん

俺は納豆の方が好き

 

こちらを見つめるネオゾンビは確かに牛とぐうの面影を身体中に残していた。

 

「そんなことよりリオさん、早く撃ちましょう」

「あ・・・ん・・・」

 

急かす雫だったが、リオは葛藤していた。

敵とはいえ、かつての友であることが分かった今、拳銃を向けることが出来なかった。

リオが迷っている間にも、ネオゾンビは再び攻撃を仕掛けてくる。

リオの頭上に絵画が振り下ろされる。

しかしリオは気持ちが動揺していて、振り下ろされる絵画に反応が出来ていなかった。

 

「リオさん!」

「は!?」

 

!?

!?

まずい

りおおおっっ

 

 

リオが目を見開く。

迫る絵画が頭をかち割る。

 

「ふっ!」

 

寸前で雫がリオの手を引いた。リオの顔の横スレスレを絵画の額縁が振り下ろされていった。

雫はそのままリオの手をひいて走り始める。

 

「ああ、ありがとうございます!」

「来てますよ」

「はいっ!」

 

二人は全力で走り出す。

ネオゾンビの地鳴りのような足音が迫る。

何度も振り下ろされる絵画。

二人の走った後の地面は次々と抉られ、いくつもの穴が作られていった。

やがて二人の正面に庭に植えられた太い木が見えてきた。

雫とリオはそれを見ると頷き合う。

やがて近づく木にタイミングを合わせて二人は避けるようにばらばらに分かれた。

そこへネオゾンビの絵画が振り下ろされれば、木に激突した絵画は大きな音を立てて砕けてしまった。

ネオゾンビは立ち止まって明らかな動揺を見せた。

 

「今です!」

 

雫がまくしたてる。

リオは拳銃を手に取り照準を合わせた。

この近距離で撃てば当たる。

それでゲームクリアは目前となる。

リオは引き金に手を添えた。

しかし・・・撃てなかった。

ネオゾンビを撃とうと思うと手が震えた。

見れば見るほどかつての友の面影が目に入る。

心が友を撃つことを拒んでいた。

リオはぎゅっと目を閉じた。

 

「すみません雫さん 撃てないです・・・ 自分の気持ちに嘘がつけないです」

「・・・分かりました」

 

リオが泣きそうな声でそう言うと、雫はリオに向かって優しくほほ笑んだ。

そうしてリオの元へ行くと、そっと後ろからリオを抱きしめた。

 

「大丈夫ですよ」

 

 

えっっっっど

ああああああ(爆発)

くぁwせdrftgyふじこlp(可愛いのでネオゾンビと結婚します)

百合・・・百合・・・

 

体温を移すように体を密着させる。

震えるリオの手を安心させるようにそっと手を重ねる。

雫はリオの耳元に口を寄せた。

 

「私はリオさんと違って嘘をつくのが得意なんです」

 

雫はそうつぶやくと、リオの代わりに拳銃の引き金を引いた。

銃弾はネオゾンビをの頭を撃ち抜いた。

ネオゾンビは倒れた。

 

きたあああああああああ

いええええすうううう

やったああ

おめでとおおおお

愛の勝利

 

二人はその後病院から脱出して、ゲームをクリアした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛、牛い゛い゛い゛い゛っ゛、く゛う゛う゛う゛う゛っ」

 

ゲームの世界から戻ったリオは鼻水を垂らしながら泣いていた。

 

「もう一度やれば、また会えますよ!」

「せ゛っ゛た゛い゛、い゛や゛て゛す゛う゛う゛う゛う゛」

 

リオはホラーゲームが苦手だ。



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罰ゲームだ! [1]

二人がいるのは事務所の撮影部屋である。

雫は、机の上に置かれているPCに手を伸ばし配信を開始した。

今まで暗かった待機画面に映像が映し出される。

リオと雫が肩を並べている映像である。

雫はPCを覗き込み、映像が映っていることを確認すると軽く息を吸った。

 

「うさぎさんたち~ 今日も来てくれてありがと~ ということで夢野雫です」

 

雫は柔らかな笑みを浮かべながら画面に向かって挨拶をする。

鈴を転がすような澄んだ声が電波を流れた。

その声に反応してコメント欄には大量のウサギの絵文字が流れる。

これが雫とその視聴者の普段の挨拶である。

 

 

「ゴリラさんたちもお久しぶりです」

 

うほおっ(雫ちゃん好こ)

うほっほーほお(久しぶり!)

うほほほほほおおおお(可愛いいいい)

うほほほほほ(わかめ美味しい!)

うっほう(うっほう)

 

一方これが猿の惑星共通言語である。

雫がニコリとほほ笑みかければ、ゴリラたちはすぐさま発情してコメント欄を賑やかにする。

ゴリラ語は感情の昂りを表現するには意外に適した言語である。

そして興奮したゴリラは視聴者だけではない。

リオもまたその姿を見て気持ち悪い笑みを浮かべていた。

 

やっぱり雫さんかわeeeee

 

雫ファンであるリオにとって、生挨拶は攻撃力が高い。

 

これ完全にアイドルだわー 宇宙侵略余裕だわー うわああー

 

リオも挨拶しろ

おいゴリラ、出番やぞ

いつものやってー^^

おいやめろ

 

リオが雫の可愛さに言語能力を溶かされていると、コメント欄ではリオの挨拶を催促するコメントがたくさん流れていた。

リオは横目で見てそれに気が付く。

 

「んっ」

 

リオは軽く咳ばらいをすると、口を開いた。

 

「みんなうほうほ~ 私が時雨リオだ! よろしくうほうほ!」

 

何かごめん;;

すまんな

ゴリラきっつ

今度から語尾を”ぴょん”とかにしないか?

酒が足りないぴょん!

↑不採用

 

コメント欄は目で見て分かる気の落ちっぷりであった。

リオは眉を寄せる。

 

「お前らテンション下がるなよ!謝るなよ!私、結構この挨拶好きになってきてるんだからな!」

 

リオは納得がいかなかった。

確かにリオ自身も最初はゴリラ挨拶に戸惑ったが、今では良き相棒となっている。

そしてそれを生み出したのは間違いなく視聴者である。

つまり視聴者には素晴らしい挨拶を生み出したことに誇りを持ってほしかったのだ。

 

「いやまあ、雫さんの挨拶の後だと違和感あるの分かるけど 令和と昭和ぐらい違う気がするけど」

「そうですか? 私は好きですよ、リオさんの挨拶」

 

雫は横からそう言ってリオに微笑むと、PC画面の方を向いた。

そして再び口を開いた。

 

「みんなうほうほ~ 私が夢野雫です! よろしくうほうほ!」

「な!?」

 

可愛い~

この挨拶考えたやつは天才

すこすこすこすこすこ

これは良いゴリラ

 

「はあ!?」

 

リオは流れるコメントを見てヤンキーのような声を上げた。

雫の挨拶を聞いたコメント欄は一瞬にして表情を変えていた。

手の平くるっくるである。

 

「お前らふざけんなよ! さっきと言ってることが違うじゃんか!」

 

可愛いは正義じゃ

リオは男らしすぎるしゴリラすぎる

しゃあない

 

「ぐぬぬぬぬ」

 

雫に可愛さで足元にも及ばないことは本人も自覚している事実であり、リオは次に返す言葉を探しながら奥歯を噛みしめる。

これがリオの配信名物、イジる視聴者とそれに噛みつくリオの構図である。

その様子を雫とその視聴者はスポーツ観戦をするかのように見ていた。

特に雫はこの両者のやりとりが大好きなので、リオの隣で満面の笑みを浮かべて眺めていた。

 

もっと可愛い声出して

大丈夫 叫び声なら日本一だ

雫ちゃんの真似してみろ

ロリボイスとか出来ない?

 

「ロリ・・・ ロリって言ったって・・・」

 

リオは頭を悩ませる。

そんな声出したことが無いし、出そうと思ったこともなかった。

しかし物は試しである。

 

よしっ

 

リオは何となくで声が幼くなるのをイメージして声を出してみることにした。

 

「あー、んっ  ”よおみんな、時雨リオだ もうウホウホなんて言わないからなっ” ・・・こんな感じか?」

 

その瞬間、時が止まった。

コメント欄は一瞬静かになったし、雫も目を丸くした。

リオの口から発せられた言葉は確かに幼かった。

しかしそれはロリ特有の透き通った高音と舌足らずな感じでは無く、もう少し低くてぶっきらぼうな感じ。

しかも声には丸みもあって庇護欲を誘うギャップを孕んでいた。

それは言うなればかっこよさと可愛さを兼ね備えた人間兵器。

全人類の最後の希望。

その名を”ショタボイス”。

リオはリオ君になった。

 

えっっっっっっ

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛っ゛

ショタだあああああああ

リオ君すこすこすこすこすこすこ

可愛いイケメン可愛いイケメン可愛いイケメンくぁあいい

性癖ぶっ刺さり過ぎて100日後に死にそう

 

リオのショタボイスはこの場にいる者の心を掴み、握りしめ、雫の視聴者も含めて例外なく悶えさせた。

それほどにリオ君の破壊力はでかかった。

 

「リオさん、そのぉ、、抱きしめたいです、、、」

「はい!?」

 

雫も荒く息をつきながら、目をハートにしてリオを見つめていた。

まるでおやつを我慢する犬である。

尚、雫わんわんと視聴者わんわんに困惑の表情を浮かべるリオは、”ロリボイスすげーな”とまるで見当違いな勘違いをしているのだが、これがリオのリオたる所以である。

 

 

 

その後、空気が落ち着いたところで雫が話を切り出した。

 

「リオさん約束、覚えてますよね」

「もちろん覚えてますよ そのための配信ですよね」

「そうです」

 

リオと雫はゲーム内である約束をしていた。それはゲーム後にポッキーゲームをすると言うもので、ゲーム内で上げた叫び声の数×1mmずつ雫がポッキーを食べ進めることになっていた。

二人が配信を始めたのも、そのポッキーゲームを執行するためである。

 

「ちなみにリオさんは自分でどのくらい叫んだと予想していますか?」

 

雫がリオに問いかけた。

 

んー

 

リオは天井を向きながら記憶を思い返す。

しかし思い浮かぶのは筋肉だるまに追いかけられて死に物狂いで逃げていたり、

ネオゾンビに追いかけられて無我夢中で逃げている時の映像ばかりで、肝心の悲鳴を上げていたかどうかなどは全く覚えていない。

そこでリオは”悲鳴を覚えていないということは、悲鳴を上げていないという事だろう”と逆転の発想に至る。

しかし一回も悲鳴を上げていないというのは、それはそれで不自然であるとして、そこそこの回数を見積もった。

リオは雫に向き直った。

 

「思ったよりは余裕でしたね」

「なるほど では何回でしょう?」

「20回です」

「200回です♪」

 

・・・?

 

雫は楽しそうに言った。

リオはきょとんとした表情のまま固まる。

頭では雫の言葉を時間をかけて読み込んでいた。

雫がそんなリオを見て再び口を開く。

 

「リオさん、200回です」

「・・・?」

「トゥ―ハンドレッドです」

「・・・?」

「にー・ぜろ・ぜろです」

「・・・!」

 

雫の小学生に物を教えるような丁寧な説明により、リオはようやく20の横に0が一つ足りないことを理解した。

 

「200回じゃないですか!」

「200回ですね」

「さすがに多すぎませんか!」

「多いですね」

 

リオは自分で自分の回数の多さに驚いた。

それと同時に頭に浮かんだのはポッキーの長さである。

ポッキーは長さが13.5cmである。

つまり200という数字では20cm食べ進むことになり、ポッキーの長さをオーバーすることになる。

リオは疑問に思った。

 

「あの・・・それだとポッキーゲームはどうなりますか?」

「私とリオさんがキスをしてハッピーエンドです」

「ええ!?」

「冗談です」

 

雫は顔を真っ赤にしたリオを見てくすくすと笑った。

リオのリアクションはいつも新鮮なので、人にからかわせたいと思わせる才能がある。

本人の素直さゆえである。

 

「そういえば冗談ついでに思い出したのですが、私、嘘をついていたというか何というか・・・」

「なんですか?」

「ポッキーゲームは片方だけが食べ進める必要は無いんですよ だからリオさんも食べていいんですよね」

「あ・・・確かにそうですね」

「てっきり私だけが食べるものだと・・・すっかり勘違いしてました」

 

雫は恥ずかしそうに言った。

リオも言われて初めて気が付いた。

思えばとても単純なことにすっかり失念していた。

リオがその理由を考えてみれば、雫の自分に対する好き好きオーラが強すぎることに思い至る。

その勢いの強さが自然と、襲う者、襲われる者の構図を連想させていたのだ。

ちなみにリオは襲われる側である。

そしてその連想をしていたのは雫もまた同じであり、その間違いに気づいた雫は同時に妖しい笑みを浮かべた。

 

「ということはリオさんから来ていただいても全然OKということですね!」

「そうですね・・・」

「リオさんからも迫ってきていただけるということですね!」

「微妙に言い回しが違う!?」

 

雫はリオに向かって身を乗り出して目を輝かせ、リオは上半身を後ろにのけぞらせながら答えた。

雫が四つん這いでリオに迫るこの構図はまさしく襲う者、襲われる者である。

 

「で・・・でもそうなるともう長さとか関係ないってことですか?」

 

リオは身体を起こしながら尋ねる。

 

「そうですね! リオさんからもアプローチしていただけるので全く関係ありませんね!!」

「決定事項なんですね」

「リオさんがポッキーを噛む 噛む噛む・・・リオさんがcome come!?」

「上手くねえから!」

「とにかくありがとうございます!」

「強引で草」

 

wwwww

雫ちゃんに激寒ギャグがうつった!?

百合はええぞ

漫才で草

 

楽しそうな雫にリオは苦笑いを浮かべる。

今回の罰ゲームの割と大きめな根底が軽く一つ崩壊したところで、リオは先ほどから疑問に思っていたこと口にすることにした。

 

「今更なんですけど、ポッキーゲームを配信でする必要ってあります? 皆に見られながらやるのはさすがに私も恥ずかしいんですけど・・・」

 

リオは雫からもPC画面からも顔を背けて言った。

 

「そうですね 本当は私も、リオさんと同じく二人っきりでイチャイチャしたいです」

「私そんなこと言いましたっけ!?」

 

雫とgaggle翻訳は同義語である。

たまに翻訳が上手くいかない。

ふざけた調子の雫であるが、しかし次にその細めた目がゆっくりと開けられたとき、その雰囲気はがらりと変わった。

真っ直ぐな目がリオを見つめ、空気に重さを与えていた。

視聴者には伝わらない、緊張感のある空気である。

リオは突然の変化に困惑しながらも雫の次の言葉を待った。

 

「・・・でもですねリオさん 私たちは配信者です 配信者は視聴者さんの存在があって初めて成り立つものです」

「そうですね」

「私たちは視聴者さん無くしては生きられないんです」

「生きられない」

「はい」

「深いですね」

「水たまりですよ」

 

最後で草

急に真面目や

雫ちゃんぐう聖

一生支える

 

いつものように明るい口調ながらも表情が真剣なことから、リオは彼女の言葉に強い気持ちががあることを感じ取った。

特に最後のセリフは彼女が吐き捨てるように言った気がした。

リオはその真意が気になったが、その顔は既に先ほどまでのニコニコ顔に戻っていた。

 

「まあ正直に言えば、リオさんが恥ずかしがってる姿を独り占めするにはずるいと思ったんです」

「ええ・・・」

「視聴者の皆さんもそう思いますよね」

 

雫は画面に語り掛けた。

 

おら!恥ずかしい顔見せなさいよ!

リオの恥ずかしがる顔でガンが治りました

雫ちゃん分かってんねえ!

顔を赤くしたり青くしたり黄色くしたりしろ

信号機で草

 

リオがコメント欄を見れば、雫の視聴者も含め、雫の言葉に賛同するコメントが溢れていた。

 

「みんな・・・なんかきもくない?」

 

wwww

辛辣う!

ストレートで草ア!

ああああご褒美ですううううう

うほおおおお

 

リオは若干引いた。

 

 

 

 

その後は二人で簡易メールもっちーで届いた質問をいくつか答えていた。

ちなみにリオの餅は大体腐っていて、雫とその視聴者を驚かせていた。(ゴリラ語でモールス信号を送ってきた人、ぐう~しか言わない人 etc.)

リオが雫の答える一般的なもっちーを見て、自分に届くもっちーが異常なのか雫に届くもっちーが健全過ぎるのか分からなくなり頭を悩ませていると、雫が突然立ち上がった。

 

「私、ポッキー取ってきますね」

「あ、それなら私が」

「いえいえ、リオさんは視聴者さんとおしゃべりをしててください 私の視聴者さんも喜びますから」

「はい 分かりました」

 

雫はそのままポッキーを求めて部屋から出て行った。

雫の背中を見送ったリオは、PCに向き直った。

じっと無言で画面を見つめる。

雫に二つ返事で返事してしまったが、雫の視聴者もいる中で何をお話すればいいか分からなかった。

 

ていうか”お話”なんだな~ うちだと”雑談だけど”お話”だと上品だな やっぱ”お”つけると強いな 今度から”お雑談”て呼ぼうかな

 

などとリオがくだらないことを考えていると、コメント欄では”お話して”と”雑談しろ”がいっぱい流れていた。

リオは悩んだ末にとっておきを繰り出した。

 

「あ・・・そうっすね すー 今日あれっすね すー あの・・・天気良いっすね すっ」

 

急にコミュ障になるなwww

天気デッキ!?

これはよそ行きゴリラ

水中で喋ってるのw?

 

消費税と天気の話は誰にでも通じる(暴論)

ちなみに空気を吸い込む音で尺を稼ぐのがポイントである。

しかしそれでは当然話が広がらない。

リオは雫との共通の話題を思い浮かべて、普通にコラボしたゲームの話を話をすればいいことに気が付いた。

リオは早速、画面に向かって口を開く。

 

「あれだよね 雫さんって全然悲鳴出して無かったよね」

 

リオが悲鳴上げ過ぎなんだぞ

ビビりゴリラ

リオの悲鳴が一番怖かった

雫ちゃんずっとにこにこしてたな

 

雫は敵から逃げてるときも、隠れてるときもずっと笑顔だった。

リオはゲーム中”アイドルになると恐怖心が無くなるのか”などと密かに思っていた。

 

「同じ人間なのにすごいよね 」

 

お前はゴリラじゃい

雫ちゃんは天使だからな

同じなの性別くらいだろ

↑リオ君・・・

なーんも一緒じゃないよ^^

 

「何が足りないんだろう 度胸かな?」

 

(度)胸だよ

(度)胸だろ

(度)胸かな?

(度)胸だよ

 

「は゛あ゛っ゛?」

 

ひえっ

こっわ

キレんの草

ドス効いてんねえwww

出た!ドスガリオスだ!

 

一致団結したゴリラ達に、リオは圧の掛かった声を出した。

一方、雫の視聴者たちはたくさんの草を生やし地球温暖化防止に貢献していた。

 

「いや分かるけどね! 私、確かに無いけどね!隣に立つと小文字のmと大文字のMくらい違うの分かるけど!私、小文字のmだけど!何なら_(アンダーバー)だけど!・・・誰がアンダーバーだっ!!酒風呂に沈めたろかっ!!」

 

勝手に切れてて怖いwww

一人で何やってんだwwww

落 ち 着 け

_で草

 

リオはPCの前に身を乗り出して叫んだ。

自分で自分のことを卑下していたら段々と悲しくなり、遂には暴走した結果である。

雫の視聴者はその新鮮なノリにもはや森を形成していた。偉い。

興奮が収まってきたリオがふと横を見上げると、いつの間にか雫がポッキー片手に立っていた。

その顔は楽しそうにニコニコしている。

 

これが勝者の笑みなのか・・・

 

などといっそ清々しい気持ちで敗北を受け入れていると、雫が横へ正座で座った。

 

「リオさん、また叫んでましたね 廊下にも聞こえてましたよ」

「え・・・」

 

雫はさらりと言った。

リオの表情が固まる。

 

「今の聞こえてたんですか・・・? マジですか?アンダーバーですか??」

「私は大文字のMだったんですね」

「か゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

wwwwwww

公 開 処 刑

さすリオ 

芸 人 ゴ リ ラ

 

リオは床にひれ伏しながら苦しみの叫び声を上げた。

この声もまた事務所の人に聞こえているのだが、リオにはもはや関係が無い。

何故ならもっとセンシティブな叫びを轟かせてしまったのだから!!!

リオが羞恥で赤く染めた顔を上げれば、雫がうっとりした顔でリオを見た。

 

「嗚呼ああ可愛いですリオさん」

「急になんですか!?」

 

リオがそう言うと、雫が口元に人差し指をあてた。

静かにしようのジェスチャーである。

リオがそれに従い、空気が静まる。

呼吸の音が聞こえる静けさ。

静寂・・・静寂・・・

 

「わあ~~~っ」

「うわあああっ!!!」

 

静寂を破ったのは雫の声である。

雫が両腕をぴんと伸ばして頭の横に揃えた状態で、身体を正座から中腰へと一気に伸び上がらせてリオに被さるように飛び掛かってきたのだ。

その姿はまるで獲物に飛び掛かる虎のようである。

リオは顔をこわばらせ、迫る雫の顔を見た。

眼が完全に開いていた。

 

やべえ襲われる

 

リオは本能的に身の危険を悟り、素早く身体を反転させた。

すると雫は勢いそのままにリオの背中に抱き着き、その両腕をリオの身体に回す。

丁度ラグビーのタックルに似ている。

リオが状況に困惑する中、右手は左のわき腹に、左手は右のわき腹に狙いを定める。

雫はにやりと笑みを浮かべ、そして一気にくすぐり始めた。

 

「こちょこちょこちょこちょこちょ」

「いっひいひひいwwwwいいひいひwwいひいwwwww」

「こちょこちょこちょこちょ」

「いひはwwいいあwwwあひあひあwww」

 

なんやこれwww

どうしてそうなるんだwww

リオの笑い声が普通にえっちくて困る

百合のにおいがするぞおおおお

 

リオはくすぐったい感覚が電流のように体を回り、とにかく笑い声を出さずにはいられなかった。

リオは雫の腕を掴み、もがいてもがいて何とか抜け出そうとするが、雫の拘束が硬すぎて全く抜け出せる気配がなかった。

 

「こちょこちょこちょこちょ」

「しずくwwwさんwwwやめてwwええww」

 

ひたすらに続くくすぐり攻撃。

リオはこのままでは埒が明かないと思い、リオからも攻撃を仕掛けることにした。

身体がくすぐったさで無意識に大暴れする中、両手に力を入れて尖らせ、雫のわき腹があるであろう位置に狙いを定める。

 

「くらええええーーー」

「はうっ!?」

 

気迫の声と共に槍と化したリオの両手は雫のわき腹に見事突き刺さった。

その一瞬、雫は子犬のような声を漏らし動きが止まった。

攻守一転。

今度はリオが指を細かく動かして、雫のわき腹を刺激していく。

 

「おらおらおらおらおらお」

「はああんんっ はああああっ んんっっ」

「おらおらおらおらおらお」

「んふふふっ んんっ んはあっっ」

 

えええっっっっ

BANされちゃうよー

えっど

雫ちゃん可愛すぎぃ!!

 

雫は声を出すまいと口を必死に閉じているのだが、喉の奥から甲高い声が漏れ出ていた。

 

「ふんんっ」

 

雫が再びくすぐり攻撃を再開する。

 

「いひはいwwwwいひはwwいあいはいあwwいひww」

「んはあああっ んんふっ んんんっ」

 

二人は悶えながらバランスを崩し、身体を横に倒した。

それでも尚、戦いは続けられた。

 

「もうww死ぬうううwwwやめてえwww」

「んんんっ! んんっ! んんんんふうっ!」

 

結局戦いが終わったのがそれから少し時間が経った頃である。

どちらが終わらせたのかも分からない。

二人は顔を真っ赤にして目に涙を浮かべ、息も絶え絶えであった。

 

「雫さん・・・私はどんな・・・罪を犯したのでしょうか・・・」

「可愛かったので・・・つい・・・」

「理由になってないですよ!!」

 

リオが羞恥で顔を真っ赤にしていたことが、雫を暴走させた引き金になったわけだが本人には自覚がまるでない。

リオは人の嗜虐心を煽る天才である。

 

 

 



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罰ゲームだ! [2]

「見てください! これが本日の主役、ポッキーです!」

 

雫はそう言って片手に持った銀紙の袋を破り、中からポッキーを一本取り出した。

雫はそのポッキーをリオが良く見えるように彼女の眼前に差し出す。

 

「懐かしいな・・・」

 

リオがポッキーを見るのは、実に小学生ぶりだった。

いくら有名なお菓子でも機会が無ければ食べないものである。

リオは久びさのポッキーとの再会を喜び、顔を近づけてその姿をしげしげと観察する。

13.5cmの細い棒状の見た目をしていて、持ち手となる部分を3cm程残してその身を真っ黒にコーティングしている。

リオがすんすんと鼻を鳴らして匂いを嗅げば、甘い香りに鼻腔がくすぐられた。

その黒は魅惑のチョコレートである。

それは見ているだけで脳内にとろけるような味わいを容易に想像させる。

リオは段々噛り付きたくなる衝動に襲われたが、理性でそれを押さえつけた。

 

危ない危ない これは私たちにとっては単なるお菓子じゃない もはや戦場だ もうすぐ私たちが戦う場所なんだ だから食べちゃダメだ!

 

リオはそう自分に言い聞かせながらも、そのスリムボデー(棒切れ)に魅了されてポッキーから目を離せないでいた。

その姿は、ショーケースに張り付いて中のおもちゃを見つめる子供のようである。

雫はそんなリオの姿を見て愛おしく思うのと同時に、ポッキーにあまりにも熱心な視線を注いでいるリオにちょっとした意地悪を仕掛けたくなった。

雫はポッキーを持った指を左に少し傾ける。

するとリオの顔も同じく左に傾く。

今度は右に少し傾ける。

するとリオの顔も右に傾く。

リオは集中するあまりポッキーを無意識に目で追っていた。

それならばと雫は、今度は左右に連続して一定の速度でポッキーを振る。

やはりリオの顔はそれに合わせて左右に振れ始めた。

リオ=メトロノームの完成である。

 

「嗚呼~ 可愛い!」

 

可愛いいい

リビングに置きたい

100円ショップに売ってそう

 

 

雫は歓喜の声を上げた。

リオの無表情で黙々と首を振るその姿は、マスコット的な愛らしさを周囲に振りまいていた。

雫はリオ=メトロノームを存分に堪能すると、多少の口惜しさも感じつつも手を止めて、ポッキーをそのまま口へと運ぶ。

リオの視線が雫の指を追っていた。

 

「もぐっ」

「あ・・・」

 

雫がポッキーを口を含むと、リオは名残惜しそうに声を漏らした。

 

「もぐもぐもぐもぐもぐ」

 

ぽかんと口を開けて見つめるリオの顔に、雫は少しの罪悪感と大きな悦を感じながらポッキーを平らげていく。

細かく齧りながら食べるその様子はウサギにそっくりであった。

やがてポッキーを食べ終えた雫はもう一本ポッキーを取り出すと、リオの顔の前に差し出した。

 

「食べますか?」

「いいです」

 

雫は笑いながら問いかけたが、リオは首を振って断った。

リオには神聖なるポッキーに口をつけて汚すわけにはいかないという厳然たる意志があった。

それはまさしく武士道。

和の精神である。

いとおかし。

まじまんじ。

雫はリオの前に差し出した棒切れを見てあることを思い付いた。

 

「この状態で催眠術にかけるみたいのよくありますよね」

「確かにそうですね」

「やってみましょう!」

「かかるわけないじゃないですか」

 

リオが呆れるのをよそに、雫は期待のこもった瞳をリオに向けている。

そうして雫はポッキーの先をリオの顔に向けながらくるくると回し始めた。

トンボを捕まえる要領である。

 

「猿にな~れ~ 猿にな~れ~」

 

雫はおまじないのように唱える。

 

「猿にな~れ~ 猿にな~れ~」

「そんなの意味ないですって」

 

リオはポッキーの先を瞳だけでくるくると追い回しながら呟いた。

ポッキーは回り続ける。

 

「猿にな~れ~ 猿にな~れ~」

「本当に無駄ですって」

 

雫の呑気な声と、リオの呆れた声が対照的に発せられる。

ポッキーは回り続ける。

 

「猿にな~れ~ 猿にな~れ~」

「もう・・・やめま・・・しょう・・・うほ」

 

気付けばリオの言葉は途切れ途切れになり、語尾には猿の鳴き声を上げた。

言葉には抑揚が無く、まぶたも少し落ちてきている。

先ほどまでとは明らかに様子が違う。

雫がリオにかけようとしている催眠術は対象の意識を一点に集中させることで、意識レベルを低下させそこに暗示を入れることで催眠をかけるものである。

つまり催眠術が効き始めていた。

ポッキーは周り続ける。

 

「猿にな~れ~ 猿にな~れ~」

「うほ・・・うほお・・・うほっ・・・」

 

リオはとうとう猿の鳴き声以外をあげなくなった。

口元も少し突き出している。

雫はそれを確認すると手の動きを止めた。

ポッキーの動きも止まった。

雫はポッキーをまるでマイクのようにリオの口元に差し出すと、期待のこもった声で尋ねた。

 

「あなたはお猿さんですか?」

 

返事は・・・

 

「うほっおおっおおっっっ!!!」

 

鳴き声だった。

更にその場で勢いよく立ち上がると、思いっきり広げた両腕で胸を叩き始めた。

 

「うほほほほおおおっっ」

\ポコポコッポコポコッポコポコ/

 

特徴的で力強い鳴き声。

聞いた者の腹に響く見事なドラミング。

この瞬間に証明された。

リオはまさしく、、ゴリラになった。

 

「上手くいきましたっ!」

 

来たああああ

まじかよ!?

ゴリラだああああああ

ゴリオきたあああああ

 

雫は立ち上がったリオを見上げながらはしゃいだ声を上げた。

リオは辺りをきょろきょろと見渡すと、正面の机の上にPCが置かれていることに気が付いた。

 

「うほ」

 

興味深そうに声を上げる。

ゴリラになったリオには目に映った物全てが新鮮に映り、興味をそそられる物である。

リオは早速PCに近づくと、そのあちこちに好奇心の赴くままに触れ始めた。

 

「これはPCですよ」

「うほおっ」

 

雫の言葉を理解しているのかいないのか、リオは楽しそうに声を上げながらPCをいじっている。

 

「これがキーボードで、こっちがマウス」

「うほおおおおっ」

 

雫が一つひとつ指で指し示しながら説明をすると、リオはそれを手当たり次第に触れていく。

キーボードを無作為に叩き、マウスを不規則に動かす。、

雫はそれを微笑ましく見守りながら、PCのフレームに取り付けられたWEBカメラを指さした。

 

「あとこれがカメラです」

「うほお!」

 

リオは興奮した声をあげて、カメラのレンズ部分を手で覆ってみたり、顔を近づけてレンズの向こうの景色を覗こうとしたりする。

カメラを気に入ったらしかった。

雫が傍らでリオの様子を静かに見守る。

不意にカメラをバシバシ叩いた。

画面に映る映像が乱れる。

 

「うほほほほほっっ」

「リオさん叩いちゃだめです!」

 

何だ!?

地震で草

リオちゃんやめてー^^

ゴリラ落ち着け

 

雫は慌ててリオの手を掴んで止めた。

急いで動作を確認すれば幸いにも壊れていないようで、雫は安堵の息をつく。

しかし今のリオはゴリラである。

人間界の常識は通用しない。

今の彼女には未知なる食材への探求心がある。

リオは雫が少し目を離した隙に、カメラ向かって大きく口を開けた。

”あーん”とその口から漏れ出た音で雫はリオの方へと振り向き、リオがカメラを食べようとしていることに気が付いた。

雫は目を丸くしたのは一瞬、すぐさまリオの両肩に手を置いて自分の方へと引っ張り、カメラと口を遠ざける。

リオがカメラを食べるために思いっきり閉じた歯が空気を噛みながら合わさり、辺りに小気味の良い音を響かせた。

雫はリオを振り向かせると、目を合わせる。

 

「リオさん カメラは叩いちゃだめです 食べても駄目です」

 

雫が幼い子に言い聞かせるように注意をするが、リオはそれを見て何を思ったのか両手を頭上に挙げてぱちぱちと手を叩いて見せた。

さらに笑顔を浮かべていてその様子から楽しい気持ちであることが読み取れる。

そして言葉を理解してはいないことも読み取れる。

 

う~ん・・・ せっかくお猿さんになっていただいたリオさんですが、戻っていただいた方がよさそうです

 

雫はリオを元に戻すことを決めた。

そうなればまず必要なのは、再び催眠をかける要領で人間に戻るように暗示をかけることである。

雫は正座に座りなおすと、リオを自分の正面に座らせる。

そして机の上に置いていた銀の紙から再びポッキーを取り出し、リオの眼前へと差し出した。

 

「このポッキーの先っぽを見ていてくださいね」

 

リオにそう言うと、雫はポッキーの先端をぐるぐると円を描くように回し始める。

リオは興味深そうな目でポッキーの先端を追い始めた。

雫は初めにリオに催眠をかけた様子を思い出し、今のリオもこのままいけばすぐに催眠にかかるだろうと予期し、そして期待した。

 

「ひとにな~れ~ ひとにな~れ~」

「うほお・・・うほお・・・」

 

雫の言葉に呼応するように、リオは鳴き声を呟いている。

リオはポッキーの先端に集中している。

ポッキーを回す。

 

「ひとにな~れ~ ひとにな~れ~」

「うほお・・・うh・・・ぬう・・・」

 

リオが言葉尻に人の言葉を発したのを、雫は確かに聞いた。

催眠が解けてきている証拠である。

雫はすぐにでもリオが元に戻ることを確信した。

ポッキーが回る。

 

「ひとにな~れ~ ひとにな~れ~」

「ぬおおおおっっ・・・ぬおおおおっっ・・・」

 

リオはもはや猿の鳴き声を出さなくなった。

代わりに聞こえるのはリオにしては珍しく、やたらと大きくいつもよりさらに低めの声である。

さらに右手で顎を撫でていることもまた珍しい。

ともあれリオはゴリラではなくなった。

未だリオの声をはっきりと聞いていない雫とその視聴者は、彼女が喋り始めるのを待ち望んでいた。

そこで雫はリオに質問をすることにした。

雫は聞き慣れた声が帰って来ると信じていた。

だから尋ねた。

 

「あなたは誰ですか?」

 

返事。

 

「ぬおおおおおおおおっっ 某がああああああ 江戸の大剣豪おおおおおお 駿河武士だああああああああ」

 

!?

え!?

はっ!?

うっさ

武士い!?

 

部屋中に響く轟音。

紛れもなく駿河武士の自己紹介だった。

 

「え?あれ?リオさんじゃないんですか?」

「駿河武士だああああ」

「・・・どちら様でしょうか?」

「同期だあああああああああ」

 

認知されてなくて草

リオと武士は同一人物!?

武士はどこからでも生えてくるんだ

キノコかな?

でもリオの声っぽいぞ

 

見た目は変わらず時雨リオだが本人が駿河武士を主張している。

雫はまだ絡んだことが無いが、一応、駿河武士の存在は知っていた。

今のリオを雫が知っている武士情報と照らし合わせてみても、声の大きさ以外は全く該当しない。

顔も体も時雨リオのままである。

雫は訳が分からず困惑した。

さて結論から言えば、今の時雨リオは催眠が失敗しその潜在意識に眠る駿河武士の記憶だけが表面に浮上してきた状態である。

髭を撫で、声がでかいのは、それがリオの思う彼のアイデンティティ―であり、それ以外はアウトオブ眼中ということである。(彼に対する認識は髭と声だけである事を意味する)

つまり人にはなったが、リオにはならなかった。

 

「ここはどこだああああああああ」

「事務所なのでお静かにお願いします」

 

武士リオの大声に雫は苛立ちを覚え始めていた。

雫は今の武士リオのことを”理由も原理もよく分からないが、どうやったか駿河武士という存在が乗っ取った”という風に捉えた。

雫にとってその事実は不快である。

時雨リオはありのままの存在であり、外部からの余分因子はその価値を貶める。

その純粋さが雫にとっては何よりも大切なのである。

故に不快である。

そのため雫は、武士リオに何としてもご退場願うことにした。

 

「すみません”駿河武士”さん リオさん出していただけますか?」

「何を言っておるのだああああああ 某は嗚呼あああ駿河武士以外の何者でもないぞおおおおお」

「では催眠をかけなおすので、もう一度催眠にかかっていただけますか?」

「だが断るううううう」

 

雫は武士リオに今一度提案したが、にべもなく断られてしまった。

説得による穏便で平和的な解決は不可能。

ともすれば雫が次に取る行動は、肉体言語による強引な解決である。

 

 

「すみませんスピーカーが駿河武士さんの大きな声で調子が悪くなってしまったようなので、一旦ミュートにしますね」

 

wwwww

スピーカー破壊してて草

流石だわwww

今どんな状況なの?

 

 

「すみません スタッフさんがすぐに直してくださるので少々お待ちください♪」

 

はいいい!

可愛いいい

いかないで

一生待ちます

プロポーズかな?

 

雫はそう言って配信をミュートにした。

しかしスピーカーが壊れそうだからというのはテキトーに考えた理由に過ぎない。

実際はこれからアイドル系Vtuber夢野雫のイメージを崩しかねない行為をするからである。

ミュートにさえしておけば、後は立ち絵が画面に表示されているのみで何をしているのかはまるで分からない。

そのための武器として、雫はポッキーを片手につまむ。

隣では武士リオが部屋中をきょろきょろと見回して、現在地の把握に努めている。

今なら不意をつけると雫は思った。

 

「駿河さん」

「何だああああああ」

 

武士リオが呼ばれて振り向くと同時に、雫は武士リオに勢いよく抱き着いた。

それはまるでタックルである。

武士リオは雫を受け止めきれずに、そのまま雫と共に後ろへと倒れる。

武士リオが突然の事態に目を白黒させているうちに、雫はその身体へと馬乗りになった。

蛍光灯を背にする雫の影が武士リオの顔を黒く染めている。

武士リオを見下ろす雫の瞳と、未だ驚いた様子の武士リオの瞳が交差した。

 

「どうしたああ!? 某のファンかああ!?」

「うるせえよ」

 

怒気と嫌悪を孕んだ底冷えするような鋭い声。

憎しみを詰め込んだ人も殺せそうな鋭い瞳。

今までの雫とはまるで違う真っ黒な雰囲気を放つ雫がそこにいた。

雫はにやりと笑みを浮かべると、そのまま身体の力が抜けたように武士リオの顔に向かって勢いよく倒れ込んでいく。

そして武士リオにぶつかる直前に、左腕をその顔の横の床に音を立てて思いっきり突いた。

壁ドン高低差バージョンである。

雫の顔と武士リオの顔は触れる直前、数センチ単位の接近をしていた。

雫は上目遣いで武士リオの瞳を睨み上げている。しかし武士リオはその瞳に目を合わせることが出来ないでいる。

眼球を正面から動かせないでいる。

視界に映るのはポッキーである。

雫が右手につまんだポッキーを武士リオの左目に触れるギリギリに垂らし、その眼球を貫かんとするかのように指にキリキリと力が込められている。

武士リオは額から汗を流した。

 

「そんなに難しいことは言ってないでしょ ただリオさんから離れてって それだけ」

「駿河武士はあああ駿河武士だあああああああ」

 

武士リオは雫の顔を見ずに正面を向いたまま叫ぶ。

瞳を人質に取られた武士リオは、恐怖で雫の顔に視線を下ろすことが出来ないのである。

そのために誰もいない空間に向かって言葉を発するしかない武士リオの姿は、雫の目には滑稽に映る。

 

「どうしても戻ってくれないの?」

「戻らんぞおおおおおお」

 

雫はうっすらとほほ笑んだ。

 

「残念」

 

雫は体を起こすと左手を机の上の銀紙の包みに伸ばして、握れる限りの大量のポッキーの手に掴んだ。

 

「残念とはいったい何が残・・・むっ!?」

 

左手を豪快に振り下ろして武士リオの口の中に、束になったポッキーを丸ごと全部突っ込んだ。

口いっぱいにポッキーを詰め込まれ喋れなくなった武士リオは、何やらもごもごと言っている。

雫はさらに武士リオの鼻をつまみ、塞いでしまった。

口も鼻も穴をふさいだ。

これにより武士リオは呼吸が出来なくなった。

雫は苦しそうにしている武士リオの耳に口元を寄せる。

そして瞳に突き付けたポッキーをぐるぐると回しながら、呟く。

 

「元に戻~れ~ 元に戻~れ~」

「んんんんんっっ」

 

武士リオが恐らくは抗議の声を上げている。

 

「うるさいな~」

「もがっ!?」

 

喚く武士リオを黙らすように、雫が鼻をつまむ左手の手首で口から生えたポッキーたちをトンッと奥へと押しこんだ。

武士リオはしゃべらなくなった。

 

「黙って聞いていていてね リオさんをこれ以上汚しちゃだめだよ」

 

囁き声で鼓膜を揺らす。

 

「元に戻~れ~ 元に戻~れ~」

「・・・」

 

眼球が回る。

ポッキーが回る。

 

「元に戻~れ~ 元に戻~れ」

「・・・」

 

酸素が回らず意識が落ちる。

ポッキーが回る。

 

「元に戻~れ~ 元に戻~れ~」

「・・・」

 

目の前の景色が暗くなる。

 

「おやすみ」

 

武士リオは意識が深い水底へと落ちていく中、誰かの別れの言葉を聞いた。

 

 

 

 

 

「リオさん、乱暴なことをして本当にごめんなさい」

 

雫はリオの顔に手を添えながら謝った。

雫が少々やり過ぎたために、リオは意識を失っていた。

 

「リオさんはリオさんのままが素敵です」

 

雫は眠るリオに呟く。

 

「リオさんはありのままが素敵です」

 

 

 

 

 

雫が配信のミュートを解除すると、待っていた視聴者たちのたくさんのコメントが流れた。

 

「皆さんお待たせしました♪」

 

おかえり

まってた!!

きたああああ

直ってよかったね

 

「スタッフさんがスピーカーを直してくださっていた間、私がリオさんにもう一度催眠をかけたのでリオさんは今眠っています」

 

今度は何になるんだ?

どうせゴリラになるぞ 

おかまじゃね

ごり・・・ごり・・・

 

「大丈夫です!! ”元に戻~れ~”って暗示をかけましたから!」

 

あ・・・

それ大丈夫なのか?

リオ、必ず戻ってこい!!

フラグをたてていくう

 

 

「絶対大丈夫です!!」

 

雫と視聴者がそれ本当に戻んのか論争を繰り広げていると、リオがとうとう意識を取り戻した。

寝ぼけ眼で辺りを見渡している。

 

「みなさん、リオさんの目が覚めました!」

 

きたあああああ

おはよおおお

おはうほ!

うほおっ(気軽な挨拶)

 

 

コメント欄が盛り上がる。

雫もようやくリオと会話できると思い、喜んだ。

雫は弾んだ調子で声をかけた。

 

「リオさんおかえりなさい!」

 

もうこれで三度目の正直である。

雫はリオの声で”ただいま”が返って来ることに疑いを持っていなかった。

視聴者も皆、期待をしていた。

誰もが時雨リオを待ち望んでいた。

しかしこの世には二度あることは三度あるということわざがある。

 

返答。

 

「うほっ?」

 

ゴリラだった。

ゴ リ ラ だ っ た。

 

「何でですかーーーーーー」

 

ゴリラだよー^^

知 っ て た

もう見た

またかよwww

ゴリラ限定ガチャ

どう頑張ってもゴリラ

 

”元に戻れ”という暗示により元に戻った(ゴリラ)だけである。

予想外に表れたゴリラに雫は肩を落とし、頭を垂らした。

そうして雫が落ち込んでいる隙をついてゴリラは部屋の扉へと走り出す。

 

\きーっ/

 

「へ?」

 

雫が不意に聞こえた音に反応して頭を上げれば、視線の先では閉まりかける扉とその隙間から微かに見えたリオの背中があった。

 

\ばたん/

 

扉が閉まった。

静寂が広がる。

雫は閉まった扉を見つめたままに数秒間停止した。

ようやく状況を飲み込んだ。

リ オ が 脱 走 し た。

理解した途端に身体から冷たい汗が流れ出す。

雫は血相を変えて立ち上がると扉へと駆け寄る。

しかし、扉を開けて部屋から出る直前に、視聴者の存在を思い出してPCの前へと戻ってきた。

 

「すみません みなさんリオさんが脱走しました」

 

何でえ!?

急展開で草

動物園かな?

普通にヤバくて草生えない

マジ草

 

「捕まえてきますので少々お待ちください」

 

雫はそう言い残すと、急いで部屋から飛び出した。

 

\ぽこぽこぽこぽこ/

 

聞こえてくるのは響きのあるドラミングの音。

雫が音の方向へと素早く振り向けば、伸びる廊下の奥の方でこちらに背を向けながら走っているリオの姿を捉えた。

雫はその後ろ姿を確認するとすかさず追いかけ始める。

視線の先、廊下の両脇では道を開けるようにして何人かのスタッフが立っていた。

 

「すみません!捕まえてください!そのリオさんゴリラなんです・・・じゃない、そのゴリラ、リオさんなんです!!とにかく捕まえてください!」

 

雫が走りながらに、スタッフたちに助けを求めた。

しかしスタッフからすればまるで意味が分からない。

前方から、胸を叩きながら廊下を走ってくる女と、それを追いかけてゴリラだなんだと頓珍漢なことを言っている女である。

スタッフたちは意味が分からずただ突っ立っていた。

その横をリオと雫が通り過ぎていく。

リオはとにかく足が速かった。雫がどんなに全力で走ってもその差は縮まるどころか開くばかりである。

さらに困ることと言えば、

 

「リオさん、危ないので降りてきてください!!」

 

リオが廊下の天井に等間隔で配置された蛍光灯にぶら下がりながら進んでいくことである。

まるで公園にある”うんてい”のように器用に掴みながら軽々と伝っている

蛍光灯は熱くないのでしょうか?

握力がすごすぎないでしょうか?

普通に走った方が早くないでしょうか?

天井抜けないのでしょうか?

いろいろと考えたが、とりあえず”リオさんってやっぱりすごい!”に収束した。

雫は広まる差にもめげずにリオのことを追っていたのだが、曲がり角に差し掛かったところでとうとう見失ってしまった。

荒い息が吐き出され、もう追いかけることもできそうになかった。

雫はただ闇雲に追いかけても無駄だと判断し、作戦を立てることにした。

 

雫は部屋へと戻ってきた。

片手にはバナナ一房が握られていた。

 

「みなさん連れ帰ってきました」

 

やったあ

おかえり!

やるやんけ!

おかえり飼育員

 

「ばななを」

 

ふぁ!?

バナナ!?

なんでだよwwww

リオとバナナ間違えるの割とよくある

↑ねえよw

 

雫はPCの前に座る。

 

「みなさんにはリオさんの立ち絵が見えていると思います」

 

見えてますね

ずっと動かないよ・・・

リオとDIO

ずっと目が半開きだよ・・・

不細工で草

 

 

「そこにバナナが置いてあります」

 

ばなな!?

何故そこに置いたのかw

結局バナナじゃねえか!

リオはバナナだったんですね

 

 

雫は隣にバナナを置いて座っていた。

作戦名”BANANA”。

バナナでリオを部屋におびき寄せる作戦である。

雫も内心では上手く行くと信じているのが半分、お祈りが半分である。

それほどまでにリオの身体能力がすさまじく、人間に捕まえるのが不可能だと雫は悟ってしまっていた。

 

「追いかけてみて気が付きましたがリオさんは運動神経が素晴らしいですね」

 

筋肉でごり押してるだけだぞ

ごりおして・・・リオ!?

ごりお!?

ごりごりお!?

↑却下

 

雫が祈るような気持ちで待っていると部屋の廊下から騒がしい音が聞こえてきた。

 

\うほうほうほうほ/

 

「皆さんこのゴリラ音が聞こえますか」

 

\ゴ リ ラ 音/

聞こえるわwww

元気に鳴いてんねえ

目覚ましにしよ

 

「りおさんです」

 

でしょうねえ!

知ってた

”りおさんです(キリッ”じゃねえよww

にしてもマジでゴリラの鳴き真似うめえなwww

 

作戦は奇跡的にうまくいった。

開け放たれている部屋の扉から漏れ出たバナナの匂いが、リオの鼻にも届いたのだ。

ゴリラだから届いたのだ!

リオは鳴き声を上げながら部屋へと入ってくると、バナナを見つけた。

 

「うほおっ!」

 

途端に上機嫌になり、雫の隣に近づいてきて置かれたバナナを手に取る。

雫は今からもう一度催眠をかけなおすことになるのだが、今回のゴリオさんは落ち着きがない。

雫は確実に催眠にかけるためにもまずはリオと仲良くなることにした

リオは手に取ったバナナを興味深そうに見つめると、一つもぎ取り、その皮に歯を当てた。

 

「うっh うう うh」

 

せっかく手に入れたバナナであるが、皮を剥ぐのになかなかに苦戦しているようだった。

単純にゴリラの食べ方を人間でしても難しいという事なのだが、今のリオにそれを理解することはなかなか難しい。

そこで雫は床に転がる房からさらにもう一本バナナをもぎとると、リオの前でバナナの皮を剥いて見せた。

するとリオは、お目当ての中身が露になった雫の持つバナナを凝視した。

そうして次に雫の顔に視線を移す。またバナナ。そして雫の顔。バナナ・・・

リオはバナナを欲しがっていた。

雫もリオの仕草を見てすぐにそれを察した。

リオに向かって剥いたバナナを差し出す。

 

「このバナナどうぞ」

「うほおおおお」

 

リオは大喜びの声を上げながら、バナナに食らいついた。そうしてバナナを一本食べ終わると、追加でもう一本バナナを房からもぎ取り、期待の眼差しを向けて雫に差し出した。

 

「おかわりですか?」

「うほおっ」

「仕方ないですねえ・・・」

 

餌やりでもしてんのかwww

餌付けで草

飼育員過ぎるww

これは・・・おねごり!?

新ジャンルで草

 

雫がそうしてバナナを与えれば、もう一本またもう一本とリオは要求をする。

雫はバナナが無くなるまで、リオにバナナを与え続けた。

 

 

 

 

 

 

気付けば雫の膝を枕にして、リオが眠っていた。

バナナをたらふく食べたリオは眠くなったようで、雫の膝の上に倒れ込み眠ってしまったのだ。

雫はその寝顔を覗き込み、頬を限界まで緩める。

リオの寝顔は普段の凛々しい表情とは違い(からかえば可愛くなるが)、口元をゆがませてあどけない少女のような表情を見せていた。

すーすーと立てている寝息もまた愛らしい。

 

「今リオさんに膝枕してるんですよ!」

 

うらやま

俺も膝枕してほしい

↑俺ので良ければ

↑ありがとう

よそでやれw

 

「視聴者の皆さんに見せられないのがもったいないくらい可愛いです!!」

 

あああああ

見えなくても分かるかっわいい

うらやましすぎる

声からだとかっこいい感じだけどな

かっこかわいいリオちゃんやったー

 

 

雫はリオの髪を優しく撫でる。

 

「髪がふんわりと柔らかく、さらさらしています!」

 

雫が夢中になって髪の毛を撫でていると、リオの頭が動き、お昼寝から目覚める気配を出した。

雫がゴリオに再び催眠をかけて戻す過程を想像していると、リオが目を閉じたまま、腕を組んで頭上へと思いっきり伸びをした。

気持ちよさそうな声が漏れる。

そうして身体をほぐし終えたリオがぱっと目を開ければ、目の前に映るのはリオを見下ろす雫の顔である。

リオと雫の目が合う。

リオは一瞬フリーズした後、みるみる顔が赤くなった。

 

あ、もしかして・・・

 

雫はそう思ってリオに声をかける。

 

「もしかしてリオさんですか?」

「え、あ、はい そうですリオです」

「やっと会えましたあああ」

「え、いやあの、この状況はなんでしょうか!?なぜ私は雫さんに膝枕されているんでしょうか!?」

「伸びしてる姿可愛かったです!」

「ううっ」

 

来たああああああ

本物きたああああ

お前を舞ってたんだよ!

リオガチャ成功したな

 

リオはようやく元の時雨リオへと戻った。

リオは体を起こすと、PC画面を見た。

コメント欄ではリオの帰還に大騒ぎである。

しかしリオにはどうしてそんなことになるのか、全く身に覚えが無いので困惑した。

記憶を思い返してみても、ぼんやりとしていてどうにもはっきりとしない。

膝枕されるまでに何をしていたのかリオは思い出せなかった。

 

「雫さん、私さっきまで何してましたっけ?」

「特に変わったことはしてませんでしたよ」

「いや、それなら視聴者の人たちがこんなに賑わっているのは一体・・・」

 

リオは首をひねった。

机の上を見れば大量にバナナの皮が置かれている。

更に首をひねった。

 

「このバナナの皮は何ですか?ゴリラでも来たんですか?」

 

お前じゃい

お前じゃい

よおゴリラ^^

さっきまで来てた

今もいるだろ

 

「え?私!? 雫さん本当に私何してたんですか!?」

「特に変わったことはしてませんでしたよ」

「もう・・・視聴者の人たちも教えてよ!私何してたの!?」

 

雫ちゃんが言うなら何もしてないってことよ

カメラ食べてた

コンビニ行ってきます

近所のファミマが潰れました

 

「なんでこういうときだけ何も言わねえんだよ!いつもうるさいだろ!雫さんの視聴者の人はごめん!」

 

wwww

可哀想なリオちゃん可愛い

愛ゆえに

 

 

「雫さん本当に教えてくださいよ!教えてください!本当に!教えてよ!教えろよ!!教えろーー」

 

段々口調荒くなるの草

教えないよー

アーカイブ見て恥ずか死しそう

リ゛オ゛ち゛ゃ゛ん゛か゛わ゛い゛い゛な゛あ゛

 

「それよりもぽっきーゲームしましょうか♪」

 

ポッキーゲームしましょうね。

 



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罰ゲームだ! [終]

「じゃあ、とっととポッキーゲームやりますか」

「じゃあ、三脚取ってきますね」

「え?」

 

雫は頭に疑問符を浮かべるリオをよそに立ち上がると、部屋の隅に置いてある三脚を手にして戻ってきた。

持って来たのは黒い三脚。

雫は早速とばかりにその三脚を組み立てると、横に並ぶ二人の後ろ、PCからは向かい側の位置に設置する。

リオは不思議そうにそれを見つめた。

 

「何に使うんですか?」

 

三脚をいじっている雫にリオは尋ねた。

 

「もちろん、カメラで映すためですよ」

「カメラって・・・リアルで映す気なんですか!?」

「そうです!」

 

依然として三脚をいじりながら事も無げに言い放つ。雫の言葉にリオは驚いた表情を見せた。

 

「それはやめた方が良くないですか! 顔とか映っちゃいますよ!」

「大丈夫ですよ」

 

雫はそう言葉を返すと、パソコンのフレームに取り付けられたWEBカメラを掴み三脚に乗せた。

カメラの高さをリオの座高と同じくらいの高さに調整して、カメラを固定する部分を動かし、レンズの方向を床へと向ける。そうして配信画面をヴァーチャルからリアルへと切り替えた。

 

「本当にやるんですね・・・」

 

リオが呟く。

PCには座っているリオの足元―あぐらをかいた黒のスキニーパンツと黒くて丸っこい何かがプリントされた靴下―が映し出された。

 

あぐら強そう

黒いしゃもじがプリントされてて草

どんなセンスだよwww

ほしぃー

 

「おたまじゃくしだよ!」

 

おたまwwwじゃくしwwww

よく見ると可愛いな

幼稚園児かな?

ゴリラ組のリオちゃん

ほしぃー

 

「ほっとけや」

 

リオは流れるコメントに口を尖らせる。

おたまじゃくしの一匹や二匹で幼いと言われるとは心外である。

 

カエルだったら大人っぽいんか?ええ?

 

リオがヒキガエル靴下を真剣に検討している中、雫はカメラをいじる。画面を見ながらどんどんとカメラの角度を上へ上へと上げていく。

映像も流れていく。

床、靴下、ズボン、シャツ、そして・・・

リオはそれに気づくと、雫の方を慌てて振り向き声を上げた。

 

「雫さん!? 何してるんですか!?」

「もう少し上ですね」

「ちょっ! そのままいったら顔映っちゃいますよ!? 雫さん!」

「もうちょっとです」

「話聞いて!?」

 

wwww

顔バレくるか!?

雫ちゃん大暴走

放送事故か!?

 

「ここらへんですね」

 

そう言って雫がカメラを動かす手を止めた時、画面左側にリオの口元が映し出されていた。

何かの拍子で頭を下げれば、すぐにでも顔が明らかになる可能性がある位置である。

リオは顔を強張らせた。

 

「雫さん、まさかこの状態でポッキーゲームをやる気ですか?」

「はい!」

「いやいやいやいやいや」

 

雫はリオの隣に座りながら、晴れやかな笑みを浮かべて答えた。

 

「恐すぎますって!ちょっと油断したら顔バレですよ!」

「うきうきしますね!」

「ドキドキしてください!」

「そのドキドキもゲームを盛り上げる余興の一つということで!」

「この人何言ってんだ」

 

露出狂みたいで草

サービス精神の塊

露出狂の塊

変態じゃねえかww

 

雫はにこにこと笑っている。

まるで恐れを知らないその顔に、リオは困惑せざる得なかった。

夢野雫からは危機感を感じない。

リオは不思議に思う。

Vtuberは名前の通りヴァーチャル世界の住人であり、現実とは切り離されるべき存在でもある。Vtuberにとって中身は全くの別物、不要物である。中身の姿がVtuberにとってプラスに働くことなどまず無いのだ。

Vtuberの造形は多くの人間に好まれる、いわば幻想の姿。その価値が発揮されるのは、中身が透明で見えないことが条件である。それなのに雫は自ら危険に晒そうと言う。

彼女は透明人間としての意識が足りない。

配信を盛り上げたい気持ちがあるのかもしれない。

しかしそれは行き過ぎると愚かな破滅願望になる。

よく分からない。

などと小難しいことをあれやこれやとリオは考えていた。一方でそんなことはつゆ知らず、雫は手遊びに興じていた。

左手はポッキーをつまみ、右手は親指と中指、薬指それぞれの先を重ねた狐の形にして、画面上で向かい合わせている。

 

「えい♪うわあ えい♪うわあ」

 

ポッキーがー狐に攻撃していた。

狐が”うわあ うわあ”と言っていた。

振り下ろされてポッキーに狐が切られて、狐がダメージを受けている、という遊びである。

リオもその光景を見ると手を狐にして、画面に映りこませた。

 

手でっかww

雫ちゃんが細すぎるのか?

絶対リオ狐の方が強いww

ごつい

 

「ごつい言うな」

「リオさんっ 助けてください!」

 

雫狐がリオ狐に向かっ、芝居がかった口調で助けを求めた。

リオ狐は無言で雫狐に近づいていく。

 

「えい♪ えい♪」

 

進むリオ狐にポッキーが攻撃を仕掛けるが、リオ狐は全くのノーダメージノーリアクションである。雫の楽しそうな声だけが響いていた。

とうとうリオ狐が、雫狐の元へと辿り着いた。

 

「雫さん、助けてくださってありがとうごz」

「ぱくっ」

 

リ オ 狐 が 雫 狐 を 食 べ た。

 

wwwww

食われたああああ

雫狐ええええええ

なんだこれは(困惑)

 

食べられた(指で口を挟まれた)雫狐は、電気を流されたように無言で痙攣した。

リオ狐にもその震えが伝わり、やはり同じように痙攣した。

画面上で狐が2匹ぶるぶると震えている。

ただその映像が流れる。

 

何を見せられているんだこれはww

何の時間・・?

(*'▽')おはぎ!

考えたら負け

_(:3」∠)_

 

静寂。

 

さて、画面上で繰り広げられたこの一連の流れだが、特に深い意味は無い。リオは何となくこの戦いに参加して、何となく雫狐を食べて、何となく痙攣しただけである。世界一無駄な時間である。忘れた方が賢明である。

 

リオは静寂ついでに雫に尋ねる。

 

「これ今思ったんですけど、ポッキーゲームってNowTubeのガイドラインに引っかかりませんかね?」

 

リオは狐にこくこくと頷かせながら言った。

昨今はNowTubeの発展と共に、規制がだんだんと厳しくなってきていた。そのためリオの疑問も当然のものであった。

 

「引っかかりませんよ ただポッキーを女性二人が向かい合って見つめ合って唇に咥え合って徐々に距離を密接にしていくだけですから」

「うわあ・・・すごい駄目そうなんですけど」

密です♪

「アウトです」

 

雫は雫狐をリオ狐とキスさせながら言った。

リオの頭に緑色の誰かが浮かんだ。

 

「それか商品レビューだと思いましょう!ポッキーを食べてレビューです!」

「おお・・・それならまあ・・・」

「ブンブンハローなうt」

「アウトです」

 

雫は手の平を広げて、指をぴんと伸ばして言った。

リオの頭に眼鏡の誰かが浮かんだ。二人は肩を寄せ合い微笑んでいた。

今はそんなのどうでもいいことである。

 

「その・・・やっぱりやめときませんか?」

 

くどいぞ

臆病ゴリラ

はよやれ

丸坊主にするぞ

武士呼ぶぞ

 

 

コメント欄を見て、リオ自身も視聴者の反感を買っていることは充分に理解していた。

しかしそれでも、とリオは思うのだ。雫は間違いなく同期でスタートも同じであったが、今や20万人の登録者を抱える人気アイドルVtuberである。

こんなくだらない遊びにリスクを払って良いような立ち位置にはいないのだ。

リオは恥ずかしいうんぬんよりも実はそっちの方が心配だった。

 

「雫さん、今登録者数20万くらいじゃないですか」

「そうですね 知っていてくださったんですね」

「やっぱり危ないことはしない方がいいですよ 事務所に怒られちゃいますよ」

「それならそれでいいんですけど」

「え?」

「いえ」

 

雫のそっぽを向いてのつぶやきは、リオの耳には聞こえなかった。

 

「それよりもリオさんの登録者数は今5万6534人ですよね」

「え、細かいところまでよく知ってますね」

「毎日確認してるので」

「占いか何かですか」

「上一桁が5だと良い日です」

「占いですね」

 

雫の言い分だと最近ずっと良い日になる。素晴らしい。

 

「でもリオさんがそこまで言うならやめておきましょうか」

「雫さん!」

「残念ですが仕方がありません」

「すみません・・・」

 

リオは申し訳なさそうに言った。

しかし、これでリオの希望通りポッキーゲームは中止された。

雫が危ない橋を渡らないことに内心、安堵の息を漏らす。

視聴者に申し訳ないと思いつつも、これで良かったと心に思う。

 

「あ~残念です~ ああっ!、何故かこんなところにウォッカのボトルが!」

 

雫が机の上を指しながら言った。

リオが視線を向けると、確かにそこにはボトルがあった。

 

「でも私はお酒が飲めません!どうぞリオさん!」

「え?ほんとですか!? やったあ~」

 

リオは予想外の収穫に喜びの声を上げる。

そのまま嬉しそうにウォッカのボトルを開けると、飲み口を勢い良く口につけた。

 

\コクコクコク/

 

気持ちよく喉を鳴らす。

胃を喜ばす。

 

「すごい!もっといけますよ!」

\コクコクコク/

「まだまだいけますね!」

\コクコクコクコク/

「もっといけるんですか!!」

\コクコクコクコクコク/

 

雫におだてられ、リオは自分でも予想外に多くの酒を一気に煽ってしまった。

 

「ぶはあ~」

「さすがリオさん!すごい飲みっぷりですね!」

 

リオが机にボトルを置いたとき、既に半分の量が無くなっていた。

カメラ越しにも、机の様子が遠くに確認できていた。

 

ひえ

やっば

化け物じゃん

アルコール度数40

致死量やろ・・・

 

幾ら酒が好きなリオであっても、その度数の強さですぐに酒が体に回る。

身体が火照って良い気分になっていた。

 

「な~んか、楽しいことしたいですね~」

 

リオは程よい熱に浮かされて、にんまりと笑みを浮かべながら言った。

 

「それならぽっきーゲームなんていかがでしょうか」

「それはいいですね~! あれ? まいっか やりましょう!」

「やりましょう!」

 

リオは途中でポッキーゲームをやることに少し抵抗を感じたが、気のせいということにした。

 

これは雫ちゃんの作戦勝ち

策士じゃん

昔話みたいな展開で草

やまたのおろちかな?

やったああああああああ

 

雫は笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「リオさん、ルールの確認です」

「自分から口を離したら負けですよね」

「はい そして一つ追加です」

 

そう言うと、懐から砂時計を取り出して机の上に置いた。透明な容器の中に粒子の細かい柔らかそうな砂が敷き詰められている。

 

「いつまでも勝負がつかないのも困るので、この砂が落ち切った時点で半分より多く食べ進んでいた人も勝ちとしましょう」

「分かりました」

 

リオは頷いた。

 

 

 

 

二人は膝頭を突き合わせて、直ぐ近くの距離を向かい合って正座で座っていた。

二人は黙って見つめ合う。画面には口を閉じる二人の口元が左右に映し出されている。

広がる静寂で辺りは緊張感に包まれていた。

雫はポッキーを取り出すと静かにくわえて、口元を前に突き出した。

ポッキーがリオの眼前に迫る。

差し出されたポッキーと雫の細められた目は、リオに咥えるように促していた。

リオは誘われるままにポッキーを加えた。

雫が片手を机の上に伸ばして、砂時計をひっくり返す。

ポッキーゲームが始まった。

 

砂がさらさらと落ちて時を刻んでいる。

ゲームが始まっても、二人は見つめ合うばかりで動く気配を見せなかった。

お互いが相手の出方を伺っていた。

 

動けやww

達人の間合いで草

ポッキーゲームに戦略もくそもないだろww

りおおおお攻めろおおお

 

ただ動きが無い時間が続いていた。

表面上は何も起こっていないように見える。しかしリオは内心焦っていた。

ポッキーを食べたいという衝動に駆られていた。

コメントに煽られたからではない。純粋なチョコへの欲望である。

実はリオが今口にくわえている部分は、チョコのコーティングされていないポッキーの持ち手のビスケット部分であり、チョコを味わうにはもう少し食べ進める必要があった。

さらに持ち手の部分は唾液で段々と溶けてその形状を不安定なものに変えていく。

やがて口元でぽっきりと折れてしまうのではないかという不安があった。

リオは仕方ないとばかりに一齧りする。

\サクッ/

前へ進んだ。

それを見た雫も一齧りする。

\サクッ/

まだチョコのコーティングには届かない。リオがもう一齧りする。

\サクッ/

前へ進んだ。

それを見た雫はまたもや一齧りする。

\サクっ/

二人の距離は少しだけ縮まる。

 

これターン制バトルだっけ?

リズム系の何か

刻むねえ

そういう作戦なんやろ知らんけど

 

リオはようやくチョコの部分へとたどり着き、その味を存分に味わう。

ゼリーを味わうカブトムシの気分である。

瞳を閉じれば舌先と鼻腔から甘みが体全体へと広がり、リオの欲求を満たしていく。

リオはチョコに夢中になり、完全に油断していた。

そしてそれは雫の狙い通りであった。

雫は先にポッキー咥え、あえてリオに持ちての部分を差し出すことで、ここまでの流れを作り出した。これは雫によって意図的に作られた隙だったのだ。

そして当然雫はこの隙を見逃さない。

瞳を閉じるリオをよそに、歩みを進める。

 

リオがポッキーから伝わる振動で目を開けると、目の前からものすごい勢いで迫りくる雫の笑顔があった。

口元が細かく振動して、ポッキーを恐ろしい速さで砕いて進んでいる。

雫の奥義、ウサギ食べであった。

リオは目を丸くする。

それでも雫は進み続け、ようやく止まったころには気付けばリオと雫の距離はだいぶ狭まっていた。

まだポッキーの半分は越えられていない。しかしそれも時間の問題と思われた。

半分を越えられたら不利になる。

攻めるなら今しかない。

そうして気を引き締めて、いざ決戦といった矢先。

 

「んんっ!?」

 

!? 

えっっっっ!?

どした!?

うほお!

 

リオはポッキーをくわえたまま甘い吐息を漏らし、背筋をピンと伸ばした。

背中を何かになぞられて、むず痒い電流が走ったのだ。

リオがもしやと思い横目で様子を見れば、リオの背後へと伸ばされている雫の腕が見えた。

犯人は雫の指である。

集中していたリオの意識をくぐって、リオの服の隙間から背中に腕を通して腰のあたりをその細い指で撫でていた。

状況を理解したリオは抗議の目で雫を睨みつけるが、雫はにこりと笑ってそれを返した。

 

ルール的にはOKです♪

 

雫の表情がそう語っていた。

 

「んっ んんっ・・・」

 

雫が・・・えろい!?

何やってんだこれ

雫ちゃんが画面外で軟化してる?

軟化すんなやww

 

雫の攻撃が続く。

リオはくすぐったさに身体をくねらせながら、自身も背中に腕を回して雫の手を捕まえようとする。

様子が見えないながらも意識を集中させれば、リオは何とか手の平をつかむことに成功した。

すると雫が起用に手を動かして、拘束から逃れようとした。

リオも逃すまいと必死につかむ。

そうして誰にも見えないところで小さな争いが勃発した末に、、

二人の手は、硬く結ばれた。

 

「んん!(何してるんですか!)」

「んんっ(恋人つなぎですっ)」

「んんん(何でそうなるんですか)」

 

二人とも可愛すぎんか

何か言ってんねえww

会話してんのかこれw?

意思疎通してんの草

 

二人は目線だけで会話をする。

リオはこんなことをしている場合ではないと気持ちを改めるが、そんなリオに更なる攻撃が襲い掛かる。

 

\とぽとぽとぽとぽ/

 

突然に、リオは机の方向から何かが注がれている音を聞いた。

いや「何か」と言っても、リオにはその正体が分かりきっている。

空気が液中を泡となって通っていく音。

液体同士がぶつかり合う音。

まさしくこれは酒の音。

安易なトラップである。

リオはそちらを見ることなく、気を引き締めた。

今はよそ見をしている場合ではなく、攻め入る時。

リオはそう自分に言い聞かせていざ、食べ進めようとした。

しかし!

 

\しゅわしゅわしゅわしゅわ/

 

次に襲ってきたのは弾けるような炭酸の音である。

雫が横目で何かを見ながら、腕を動かしている。

リオはとうとう隣で行われていることに興味が引かれてしまった。

 

ちょっとだけ・・・ちょっとだけ・・・

 

雫がちらりと横目で見た。

 

ソ ー ダ 割 り ウ ォ ッ カ が 作 ら れ て い た。

 

「んんん!?(んんん!?)」

 

wwwww

画面奥で笑うww

Bar雫

ポッキーゲームで酒作っちゃダメとは誰も言ってない

屁理屈で草

 

リオは驚きを隠せなかった。

机の上には空になったウォッカのボトルとその中身を注がれた透明なグラス、そして今、雫の手に持つペットボトルによって炭酸水が注がれていた。

ウォッカがしゅわしゅわと音を立てて、表面には泡が昇っている。

雫が炭酸水を注ぎ終えた。

 

見たらわかる美味いやつだ・・・

 

リオはその甘美な味を想像して、心の中で涎を垂らす。

 

っていやいや見てる場合じゃない!

 

リオは視線を引きはがしにかかるが、さらに追い打ち!

雫がグラスの中にスライスされたライムを投入した。

ぷかぷか浮かぶ鮮やかな緑。

 

かあああそれはもうだめじゃんかあああああ

 

一度は引き剥がそうとした視線だったが、より強く結びつけられてしまった。

リオの意識からポッキーゲームは姿を消した。

今は味わうことのできないソーダ割りウォッカに焦がれて、せめてもの慰めにと眼中に収めて味を想像することに一生懸命である。

 

「んんっ(のみてええっ!)」

「んんん!(かわいいです!)」

 

おやつを我慢する子犬のような表情を浮かべるリオに雫はときめく。

これもやはり雫の作戦であった。

こうしてリオが油断を見せた隙に、さらにポッキーを食べ進めた。

そしてリオがはっと正気を取り戻し、慌てて視線を正面に向ける頃には雫は既にポッキーの半分を平らげてしまっていた。

 

「ん゛ん゛ん゛ん゛(し゛ま゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛)]

 

リオは進撃の雫を見て、絶望の声を上げた。

 

何言ってるかわかるの草

wwwwww

レパートリー増えて嬉しい^^

ノ ル マ 達 成

実家のような安心感

 

 

前線を上げてきた雫に、リオは勝機を見失った。

このまま何もせず時間切れになればリオは負ける。かといって余裕そうな雫に、自分からポッキーを折らせることなどリオは不可能だと思った。

つまり詰み。

目の前の雫の姿が大きな壁のように見えた。

リオは砂時計に視線をずらす。

砂はその量をかなり減らし、残り時間が少ないことを知らせていた。

リオの正面では雫がニコニコとほほ笑んでいる。

リオは悔しそうな表情を浮かべる。

背中に冷たい汗をかきながら、何か方法が無いかと頭を働かせる。

必死に働かせる。

しかし何も思いつかなかった。

リオは敗北を痛感した。

リオは道を探すことを諦めて、ただ時が過ぎるのを待つために瞳を閉じてしまった。

暗闇の中、敗北の悔しさを噛みしめる。

思い出されるのは、今までの勝負の記憶である。

辛酸を嘗めた経験は数知れず。

思えばリオ自身は今までたくさん負け続けてきた。

ゾンビの時も、RUBGの時も。

試合に勝っても勝負では負けてきた。そして今回も負ける。

心地悪い無力感に襲われる。

 

このまま負けてもいいのか?

 

リオは自問する。

 

いいわけない

 

リオは自答する。負けて良いとはミジンコたりとも思っていない。

今も走馬灯のように浮かび上がる敗北の映像の数々は、リオを後押しするために流れているのだ。

 

負けるわけにはいかない!

 

リオが強く思った。

負けが立て込みすぎて溜まりにたまった負のエネルギーが膿のように身体の中に沈殿していた。

それらが思いに反応して集まって凝縮してやがて一つの形になる。

ふさふさした人型の獣。

素晴らしい肉体。

ゴリラである。

ゴリラはリオの背中を叩いた。

リオが振り返るとサムズアップしたゴリラがいた。

 

うほお!(ゆけええ!)

 

リオはパッと目を見開いた。

雫はリオの視線にたじろいだ。先ほどまでとは明らかに違う、力強さに満ち溢れていた。

 

「んんんんんっっ!」

 

牛みたいで草

急に食べ始めた!?

いけええええええ

負けず嫌いなリオちゃん

 

リオは威勢のいい声を上げながら、ポッキーを食べ始める。

それは一定の速度では無い。

不規則にランダムにテキトーな分量で口へ運ぶ。

奥義、ゴリラ食べである!

雫は迫りくるリオに目を見開いた。雫が余裕な表情を見せていたのは、リオが自分からキスを迫ることは無いだろうと高をくくっていたからである。

しかし今のリオの勢いには迷いがまるで感じられない。このままでは間違いなく唇に触れに来る。

雫は距離を縮めてくるリオのふっくらとした唇から目を離せない。

距離が縮まる。 

もういつ触れてもおかしくない。

一口で来るのか二口で来るのか。

距離とかタイミングとかというかみんな見られちゃいますがそれは!

雫はいろいろ考えて頭がぐるぐるした。

 

襲い来る唇。

 

「んんん!!!(くぁwせdrftgyふじこlp)」

 

雫は咄嗟に首を振って、ポッキーから口を離してしまった。そのまま体を横にずらし、カメラの画面からフレームアウトした。

リオの逆転勝利である。

 

「やたあああああああああああ!!」

 

きたあああああああ 

まじかああああ

どっちが勝っても最高でした。まる。

雫ちゃあああああんんん

雫ちゃんどっかいった・・・

 

リオは両腕を上げて勝利の雄たけびをあげた。

満面の笑みである。

 

「さすがです・・・リオさん・・・」

「雫さん!お酒飲んでいいですか!!」

「どうぞ・・・」

 

リオはグラスを掴むと一気にそれを飲んでいく。

 

\ゴクゴクゴクゴク/

「ぶはあああっっ!! ・・・これが!!勝利の美酒!!!」

 

リオはこの日、人生で一番うまい酒を飲んだ

 

 

 

 



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似たもの同士だ!

コラボを終えたリオは雫と別れて家へと向かう。

事務所から外に出れば時刻は既に遅く、夜の暗闇が広がっていた。冬の夜はすっかりと冷え込み、酒で火照っているリオの身体にも凍えるような寒さを与える。

リオはポケットに手を突っ込むと、身体を縮こませながら帰りの電車に乗るために駅を目指した。その途中、リオは自動販売機を見付けて暖かい缶コーヒーを買うと両手で缶を包み込んで暖をとる。コーヒーを飲めば、喉から胃から暖かさが全身に広がる。

空には星がきれいに輝いていた。冷たい空気のおかげである。リオは白い息を吐きながらそれを眺めると、今日の楽しかったコラボの記憶を思い出してにやりと笑みを浮かべた。

 

帰り道の途中でおでん屋に立ち寄った。でら美味い。

 

リオの自宅はアパートの一室である。

玄関の前に辿り着くと、鍵穴に鍵を差し込んだ。

 

\カチ/

 

鍵が回った。

 

・・・?

 

リオはその時にちょっとした違和感を感じ一瞬静止したが、その原因を直ぐに理解した。

扉を開けようとしていたのに、逆に閉めてしまっていたのだ。

リオは手癖でつい鍵を回してしまったが、それによって横になった鍵穴が何よりの証拠である。

つまり扉はもともと開いていた。

 

鍵かけなかったっけ・・・?

 

リオは疑問に思って、今朝、家を出た際の自分の様子を思い返してみた。

今朝のリオはいつも通り目覚ましの時刻に起きることを失敗して、超特急で支度をして、超スピードで家を出た。電車の時刻が迫っていた。そのため家を出る際に慌てていて鍵をかけ忘れたのは十分あり得る事に思われた。

特に気にすることでもないか、と意識から外すと扉を開けて中へと入った。暗くて静かな廊下を歩き、辿り着いたリビングの明かりをつける。

明るくなった部屋を見て、リオは首を傾けた。

リビングの中央に設置された丸机の上に、箱状の見慣れないものが置いてあった。

リオは不思議に思い近づいて、それが何かを確認する。それはリボンで可愛らしくラッピングされたプレゼントボックスであった。そしてその箱に踏まれる形で机との間に挟まっていたのが、折りたたまれた白い紙である。

リオは手紙を手に取り、開いて中身を見た。

 

リオさんにプレゼントです! ニンテンドースイ〇チです!北海道温泉チケットです! 夢野雫より

 

丸っこいピンクの文字でそう書かれていた。

リオは視線で文字をなぞると、手紙とプレゼントボックスを交互に見比べて、状況の把握に努めた。そうして未だ頭が困惑する中、とりあえず箱を開けることにした。

ラッピングを剥がして開ければ、中に入っていたのは手紙に書かれていた通りニンテンドースウィッ〇、そして一枚の横長の紙きれである。

その紙きれには、北海道温泉の旅ペアチケットと書かれていた。

リオがここであることをふと思い出した。それは夢野雫と初めて出会った時の会話である。彼女はリオにいくつか質問をしていた。

”プレゼントは何が欲しいですか?” ”デートするならどこがいいですか?”彼女は言っていた。

それに対してリオは”ニンテンドース〇ッチ” ”北海道”と確かに答えていた。

目の前のプレゼントと浮かび上がってきた記憶を合わせ見て、リオの目の前のプレゼント達がその時の会話を意識したものであることは明白だった。

そしてリオは今更ながらに、本来であれば何よりもまず最初に考えなければいけない疑問を頭に浮かべる。

すなわち”雫がどうやってここにプレゼントを置いたのか?”である。

当然、ここにプレゼントを置くには、部屋の中に誰かが入る必要がある。

リオは考える。

配達員に頼んだ可能性。流石に部屋には入らない。

アパートの住人に頼んだ可能性。壁を叩かれて謝る程度の仲でしかない。

管理人に頼んだ可能性。いくら管理人でも他人に頼まれた程度で中に入ることは許されない。

 

と、すれば・・・

 

リオは思う。

 

雫さんが勝手に部屋に入ってきた・・・?

 

リオは背中に冷たいものが走るのを感じて、身体をぶるりと震わせた。

まだ可能性の話でしかない。家の場所を知るはずのない夢野雫が部屋に侵入して、このプレゼントを残してまた去っていったという可能性。

そうでなくても誰かが侵入していたわけである。

リオは念のため警戒をしながら家の中を見て回る。自分の家なのに緊張しながらそろりそろりと歩くのは良い気分ではない。

PC周り、ベッド、台所・・・etc

幸いにも一通り見て回った限りでは変わった部分は見受けられなかった。ウーパールーパーもいつも通り泡をぶくぶく吐いて遊んでいた。

リオはひとまず胸をなでおろした。しかし、現状は何も解決していない。事の真相を確かめなければならなかった。

リオはスマホの電源を入れると、雫のLIMEの画面を開き通話のボタンをタップした。

スマホを耳に当てれば、1コール目で雫が出た。

 

「もしもし、お疲れ様です 時雨リオです」

「お疲れ様で!リオさんから連絡していただけるなんて嬉しいです!」

「連絡くらいで大袈裟ですよ」

 

リオは初めから部屋に来たかを尋ねるのは不躾な気がしたので別の話題から話すことにした。

不躾というよりも、勇気がないだけだが。

 

「今日のコラボありがとうございました 楽しかったです」

「いえ 私の方こそ、とっても楽しかったです!リオさんの可愛い顔もたくさん見れて大収穫です!」

「人の顔をジャガイモみたいに言わないでください」

 

照れ隠し。

 

「リオさん、またコラボしましょうね!」

「・・・はい」

「今度は音ゲー対決とかどうでしょう!

「・・・いいですね」

 

遅れる返答は緊張の表れである。

リオはそろそろ話しの本題に切り込む決意をする。

これから雫に尋ねる質問は、その返答次第では雫との関係性が大きく崩れる可能性を持っている。

そのために覚悟が必要。、今までの会話はその勇気を蓄えるための時間稼ぎであった。

リオは満を持して口を開く。

 

「それでその雫さん、お尋ねしたいんですけど・・・」

「そういえばリオさん!私のプレゼントは見てくださいましたか?」

「!?」

「机の上に置いておいたんですけど!」

「・・・」

 

リオは目を丸くし、言葉を失った。

雫の方からこの話に触れてくるとは思ってもいなかった。

さらにその口ぶりから察するに、雫がこの部屋にプレゼントを置いたのは確定したようなものだった。

リオは一度大きく息を吸うと、努めて冷静を装った。

 

「プレゼント、ありましたね 目の前にありますよ」

「そうですか!是非とも中身も見てください! あ、すみません質問の途中でしたよね」

「あ、いえ その、確認というか何というか・・・雫さんが直接このプレゼントを私の部屋に置いたということでしょうか?」

「そうです!」

「私の家の場所をどうして知っているんですか?」

「どうしてって、リオさんがこの前リアル配信してたじゃないですか あの情報があればリオさんのお家の場所は分かりますよ!」

「そう・・・なんですか・・・?」

「普通の人には難しいかもしれません しかし私には出来ます! これが愛の力ですね!!」

「・・・」

 

リオは再び言葉を失う。

確かに雫の言う通り、リオはリアル配信をしていた。しかし特定には充分気を使っていて、家の中で映していたのはケーキとテーブルと床ぐらいなものだった。外に出た時も、映していたのはただの海の風景である。

 

一体どうやって

 

そう思ったのはほんの束の間で、今のリオにはどうでもよかった。

それよりも雫が犯人であることが確定した事実の方がよほど重大である。

 

「雫さん、今からうちに来れますか?」

「ええ!? お招きですか! 行きます、すぐ行きます!」

「夜遅いので気を付けて来てください」

「1時間半ぐらいで着くので待っててください♪」

「・・・はい」

 

リオは電話を切った。

 

 

 

 

 

ぴったり一時間半後インターホンが鳴らされ、雫の来訪を告げる。

リオは立ち上がり玄関に近づくと、壁に片手を着く。それを支えにして土間に足が触れないように身体を伸ばし、前のめりの体勢で玄関の扉を開けた。

扉を開けた先にはニコニコと微笑む雫が立っていた。

 

「リオさん 会いたかったです!」

「私もです」

 

リオも口角を上げてほほ笑みかけるが、その目は全く笑っていない。

二つの瞳がまるで何かを見定めるようにはっきりと雫の顔を捉えていた。

 

「上がってください」

「お邪魔します♪」

 

雫が中へと入ると、玄関の扉をゆっくりと閉めた。

雫が靴を脱いだのを見ると背を向けて、雫が付いて来ていることを足音で確認しながら、リオは振り返ることなくリビングまで歩いていく。

楽しそうな雫の表情とは対照的にリオの表情は浮かない。

二人分の足音が廊下に響いていた。

 

「荷物は適当に置いていただいて大丈夫です 置いたらそこに座ってください」

「はい!」

 

リビングまでやって来た後、後ろへと振り返り声をかける。

リオが手に平で指し示したのはプレゼントが上に置かれた、リビング中央の丸机の前。

 

「ハンガー使います?」

「いえいえ」

 

雫は脱いだ上着を床の上に綺麗に畳んで置き、リオの言葉に従って机の前に座った。彼女の眼下、机の上に置かれているのはス〇ッチの箱と北海道温泉チケットである。

二つとも雫がリオにプレゼントした物。

雫はそれを見ると視線を上にして、机を挟んで向かいに座ろうとしているリオを見つめた。

 

「プレゼント喜んでいただけましたか!?」

 

座るのを待って、雫は身を乗り出してリオに尋ねた。その声と表情はリオが喜ぶことに対する期待に満ち溢れていた。

リオもそれを理解していた。しかし、その視線から逃げるようにリオは顔を逸らす。

ずらした視線は雫の背後の壁を見る。

それを無意味に見つめたまま、リオはぎこちなく小さな笑みを浮かべた。

 

「その気持ちは嬉しいです」

「良かったあ!」

 

雫は花が咲いたような笑顔と共に喜色を含んだ声を上げた。

しかしリオの言葉には続きがある。雫の言葉を右から左へ聞き流す。

少しの緊張。静かに息を吸い込む。

そうして笑顔を潜め、無表情な顔を雫に向けた。

 

「でも、気持ち悪いです」

「え・・・」

 

はっきりと告げた。

リオの感情のこもらない声が花を一瞬にして枯らした。雫は先ほどとは打って変わって、口を開けたまま戸惑いの表情を見せている。

顔が予想外だと語っていた。

リオはその表情を”本当に私が喜ぶと思っていたんだな”と純粋な驚きの気持ちが半分、呆れた気持ち半分で見る。

感覚が違う。

そして人によって常識が変わることも、その差異を理解するために言葉が使われたりすることもリオは知っていた。

未だリオの発した言葉の意味を理解していない彼女に、淡々とその理由を語り始める。

 

「雫さん、気持ち悪いですよ 家をわざわざ特定したことも、そうして家まで来たことも、こっそり家に忍び込むことも、それを悪びれもしていないことも」

「それは・・・」

「大体、直接渡せば良かったじゃないですか」

「サプライズの方が喜ぶと思ったんです!」

 

雫は消えた笑みを再び浮かべて前のめりに主張した。

それはまるで”この自分の気持ちを知ってもらえれば、リオの気持ちも変わるだろう”と信じているようだった。

しかし問題なのはその気持ちを伝えるための行動である。

リオは冷たい目で彼女を見る。

 

「喜ぶわけないじゃないですか」

「サプライズなのに・・・ですか・・・」

「・・・ところでどうやって部屋に入ったんですか? まさか合鍵とか持ってますか?」

「合鍵は持ってないです・・・」

 

雫は残念そうに俯いて呟く。

 

「じゃあどうやって」

「たまたま鍵が開いていたので」

「やっぱかけ忘れてたか・・・」

「だから」

「だから入ったと?」

「はい」

 

リオの問いかけにさも当然と言わんばかりに、間髪入れずに雫は答えた。

そのあまりに迷いのない返事にリオは思わず苦笑いを浮かべた。

雫もそれを見て笑みを浮かべた。

一見和やかな空気。

意味はまるで正反対だが。

 

「普通入りますか?」

「入らないです ただどうしてもリオさんに渡したかったんです!」

「宅配便とか家の前に置いておくとか・・・」

「それじゃダメなんです!」

 

雫は力強い声で言った。

 

「宅配便は宅配員の手が触れます 家の前に置いたら誰かが持っていくかもしれませんし、そうでなくとも誰かの手が触れるかもしれません」

 

雫は表情を歪め、忌々しそうに吐き捨てる。

 

「まずいんですか?」

「私は他の誰にもプレゼントを触れさせたくなかったんです!」

「なんでですか なぜそこまで嫌がるんですか」

 

リオの問いかけに雫は一瞬言葉を詰まらせたが、それも一瞬のこと。すぐにかっと目を見開いて、その大きな瞳から真っ直ぐ伸びる視線でリオの瞳を捉えた。

そうして机から身を乗り出してリオと鼻先が触れそうになるほどに顔を近づけながら叫ぶ。

 

「これが、、これが私の愛だからです!誰かが触れたら穢れてしまうんです!!穢れなき純粋な愛をリオさんに届けたかったんです!!!」

 

雫は胸元に運んだ片手で自らの服の胸の辺りをぎゅっと握りしめながら訴えた。

全身から気持ちを溢れさせている。その思いが言葉に乗ってリオに叩きつけられる。

リオは動揺することなく、顔を逸らさないで真正面からその言葉を受けた。そして受け止めた。

雫はそれを”愛”だと言った。

相手を想う最上級の言葉。

この世で最も強い気持ち。

「愛」。

それほどの大きな言葉である。突然に襲い掛かってくれば、大抵は丸腰の心の許容を超えて全身を満たしその人の思考を一瞬でも停止させたりするものであるが、リオの思考は乱されなかった。

その気配を感じていたのだ。

コラボでやたらと接触が多かったことも、見つめてくる視線に感情が込められていたことも。

だからこういうことも、もしかしたらあるかもしれない、と。

それに行動理由が”愛だから”などと言われても、到底納得できるものではなかった。というよりこの状況でどんな理由を並べても、合理的なものなど得られないことをリオは雫に尋ねる前から知っていた。

つまりリオは雫がどんな返答をしようとも、あらかじめ理解不能という簡素な文字で処理する用意があったのである。

 

「これもこれもお返ししますね」

 

愛への返答はプレゼントの返却である。

リオは未だ身を乗り出して正面にある雫の顔を見つめたまま、机の上にあるスイッ〇と北海道温泉の旅チケットを雫の席の方へ両手で押し出す。

雫は視線を下げてそれを見ると、リオの両腕を掴んでそれを止めた。

 

「なぜ私の愛を受け入れてくれないのですか!?」

「近いです」

「私を嫌うのですか!?」

「近えよ」

 

リオはキレ気味に言った。

ただでさえ感情の乗った言葉を聞くのは体力を消耗するものである。ましてや至近距離で発せられれば必要以上に鼓膜は揺さぶられ、リオがいくらか耳障りに感じるのも無理はないと言える。

雫が語気を強めたリオの言葉に慄いて元通りに座れば、二人は無言で向かい合った。

雫は俯いてぼそりと呟く。

 

「何故受け取ってくださらないのですか?」

「気持ち悪いからです それに理解できないから」

 

雫はリオの言葉を聞くとがばりと頭を上げた。

 

「理解できない? 私の愛を理解していただけていないからなんですね! 私がどれだけリオさんを愛しているかを!!」

 

雫はそう興奮したように言うと両手を床の上に落として四つん這いになり、丸机の外周に沿って這いながら、向かいにいるリオに詰め寄り始める。

 

「リオさんは御存じないと思いますが、実は私、最初はアイドルVtuberなんてやってなかったんですよ」

 

雫が昔話を語りながらゆっくりと猫のように距離を詰めていく。

 

「デビューしたはいいけど特徴が無くて伸び悩んでいたんです それでも当時は視聴者さんと話をしているだけでも充分楽しかったです」

 

そばまで迫りくる雫を見て、リオは座ったまま後ずさりをする。

 

「そんな時、事務所がアイドルとして売り出していくことを私に言いました 人気になるための戦略です 売れていなかった私に拒否権はありませんでした」

 

雫が後ずさりするリオを追う。

 

「私はアイドルなんて本当は嫌だったんです 皆の前で可愛こぶってできるだけアイドルになりきって とにかくイメージを崩しちゃいけなかった」

 

徐々に距離が縮まる。リオが口を開く。

 

「でもコラボだと楽しそうにしてましたよね 全然苦しそうじゃなかったですよ」

「今回のリオさんとのコラボではいつもより羽目を外してしまいました そして正直に言えば・・・」

 

雫はとうとうリオに追いつくと、その身体にかぶさるように両肩に掴みかかり、リオを仰向けに倒した。

 

「クビになってもいいかなって思ってました」

 

雫は両手をリオの顔の横に着いて馬乗りになると、自嘲気味に小さな笑みを浮かべた。

雫の長い髪がカーテンのように垂れてリオの頬をさらさらと撫でた。

 

「私リオさんのこと好きなんですよ」

 

「最初にリオさんの配信を見たのは、アイドル系として売り出し始めた時です 当時はとにかくアイドルな自分が嫌いで猫被る自分に反吐を吐いて そんな私にリオさんはまぶしく映りました」

 

「ありのままを見せていたからです 羨ましかった ありのままのリオさんを皆受け入れてた それが本当に羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて」

 

リオの耳元に口を寄せる。

 

「憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて」

 

それは呪いのように。

 

「それなのに大っ嫌いだったのに気付いたらリオさんの配信を見てしまうんです どうしようもなく憧れてたんです 何度も配信を見てその度に苦しくてしょうがなかった でもある時気付いてしまったんです」

 

雫は瞳を大きく開いた。

 

「胸が締め付けられるようなこの苦しさは、、間違いなく恋だと!」

 

リオを真正面から見据えて言った。

 

「今まで恋とかしたこと無かったですが私は確信しました これが恋です それからはリオさんのグッズをたくさん作って、たくさん配信を見て、たくさん焦がれました。 好きだからです そのうちにリオさんの全てが知りたくなりました 好きだからです」

 

「だからコラボではリオさんの色々な表情を引き出せて嬉しかったです」

 

「だから家を特定したりしたんですか?」

 

リオが尋ねる。

 

「はい それからは何度もリオさんの家を遠くかあら眺めて、リオさんの姿も見てました リオさんは私服がかっこよくてよくぽけっとに手を入れてて黒色が好きでバイクに乗ってて、、」

 

「とにかく私はリオさんのことを愛しているんです! ありのままの正直で純粋な姿はこの上なく美しいものです!!私はだからリオさんがとっても好きなんです!!!」

 

雫が必死な声でそう言った。

四つん這いで長らく頭を垂れて顔を近づけているせいなのか、興奮しているせいなのか雫の顔は赤くなっている。

リオは雫の言葉を聞いて考える。

リオにも恋の経験が何度かあるが、その時の心情といま雫が吐き出した心情を比べてみても、少しずれがあるような気がした。

それにずれていると言えばもう一つ。

 

私は正直者じゃない

 

\ゴツン/

 

「あうっ」

 

リオは雫のおでこに頭突きすると雫が怯んだ隙にその身体に腕を回して横に転がし、今度はリオが雫に馬乗りする体勢となる。

天井の明かりを背にして生み出した黒い影を雫の顔に落としながら、にやりと笑みを浮かべて雫の顔を見下ろした。

 

「私が正直者?ありのまま? 馬鹿言わないでくださいよ」

 

リオは吐き捨てるように言った。雫は呆けた表情でリオを見上げている。

 

「私は正直者なんかじゃありませんよ」

 

リオは自嘲するように、自らを嘲笑うように言った。

 

「そうですねえ・・・ 雫さんが昔話をしてくださったので、私もちょっと昔話でもしますね」

 

そう言ってリオが脳裏に浮かべるのは、今でもはっきりと思い出せる過去の記憶である。

 

「私はVtuberになる前は会社員として働いてたんです」

「初回の放送で言ってましたね」

「よく知ってますね」

 

少し意外である。

 

ああ、全部知りたいんだったか・・・

 

「ええと・・・それで、新人だったのでたくさんミスをしていました」

 

「それで沢山叱られて その度に気持ちを引き締めるんですけど、不器用で要領の悪い私はまたミスをします」

 

「そしてミスした分を取り返すように沢山働いて、毎日のように残業して、またミスをするんです」

 

「努力をしていても結果を出せない人間は社会じゃ質の悪い厄介者にしかならない その視線を強く感じていましたし、自分でもそんな仕事のできない自分が腹立たしかった」

 

ほんと、どうしようもない

 

リオは笑う。

雫が口を開く。

 

「皆さんそう思ってた訳じゃないかもしれません」

「今思えば確かに被害妄想だったかもしれません」

 

内心半分くらいは真実だと思っているが。

 

「でも当時の私にはそれを疑う余裕もありませんでした 仕事のできない自分をとにかく責めました 責めながらに働いて叱られて働いて叱られてを繰り返して」

 

「ある日身体が動かなくなったんです 医者はストレスによって精神がどうのこうのと言ってました 本当に情けなかった ただでさえ仕事を満足にこなせない人間が、そもそも仕事が出来なくなったんです」

 

申し訳ない。

 

「それからは逃げるように仕事を辞めて、酒を飲んでは情けない自分を溺れさせて殺す日々を送ります それまで嫌いだった酒が一番好きになりました」

 

「そんなゴミみたいな日々で出会ったのがVtuberなんです」

 

「これが時雨リオです」

 

リオはうっすら笑みを浮かべている。

 

「どうですか? 配信でこんなことは絶対に言いません 正直ですか? ありのままですか? 美しいですか? 私はただ逃げてきた臆病者にすぎないんですよ」

「それでも好きです! どんなことがあっても、その人の人間性は変わりませんから!!」

「人間性ね・・・」

 

抽象的な言葉は人を慰めるのになかなか向いている言葉だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

リオは一息つくと、たくさん喋ったことによる喉の渇きを覚えて冷蔵庫へと向かう。中を開ければキンキンに冷えた缶ビールが常備されている。リオはそこから二つ缶ビールを手にすると、リビングに戻り丸机の前に座った。

 

「雫さんもどうぞ」

 

そう言って、向かいに座る雫の前に缶を置いた。

 

「あ、ありがとうございます」

「それじゃあ乾杯」

「乾杯です」

 

リオはぐびぐびと流し込むように、雫は控えめに飲んだ。

リオは半分ほど飲んだ缶を置くと、雫の顔を見た。

 

「雫さん、今度から家に勝手に入らないって約束できますか?」

「はい リオさんが嫌がることはしたくありません」

「次来たら警察なんで」

「はい」

「じゃあそういうことで」

 

これで話を終わらせた。

それはもうあっさりと。

リオには最初から雫を警察に突き出そうなどということは考えはなかった。

雫を呼んだのはただの興味本位である。その行動の事情を聞きたかっただけだった。

だから注意もするか本当は迷った。

しかし体裁上、注意をしなくてはならない事も分かっていた。それが多分常識というやつだ。

だからリオは注意した。

それで終わり。

 

普通なら自分の身が危険かもしれないと思って、もっと警戒するんだろうな・・・

 

今の私、変かな?

 

いや、見かけ上は変じゃないな うん

 

 

 

 

雫は気が付くと顔を赤らめていた。目が潤んでいることも相まって、酒に酔っていることが伺える。

 

そういえば酒飲めないって言ってたな・・・

 

一本目ではまだまだ余裕のリオは物珍しそうに雫を観察した。

雫はぼんやりとした視線を机に向けていたが、やがてリオに視線を合わせると急に勢いよく立ち上がった。

リオは驚いた表情で雫を見上げる。

その瞳は座っているリオの顔を捉えていた。

 

「雫さん、急にどうしました? あ、トイレですか?それなら向こう・・・」

「りおさあああん」

「!?」

 

リオの言葉を遮るように突然にその名を呼びながら、リオに向かって突撃を仕掛けてきた。

体勢を低くしてがバリと両手を広げて前のめり。

リオは雫と出会ってからもはや何度目かの押し倒しを食らい、目を開ければ恒例の馬乗り雫ちゃんである。

 

あんた好きだなこの体勢

 

リオは発情した様子で顔を見ろしている雫に心の中で突っ込んだ。

雫はリオの服の袖に手をかけると、上に躊躇なくめくりあげてその引き締まった腹筋をあらわにした。

浅めの線が入った綺麗な腹筋である。

突然のことに目を丸くしているリオをよそに、雫はその腹筋を舌なめずりをして見つめると、頭を一気に降ろして顔と腹筋をくっつけた。

 

「りおさんりおさんりおさんりおさんりおさん」

 

雫がゼロ距離で腹筋に話しかける。

 

「やめええっっっ!!」

\チ ョ ッ プ/

「ぐへっ」

 

リオの振り下ろされた裁きの鉄槌こと時雨流チョップが雫の頭に直撃して、雫は沈黙した。

 

こうかは ばつぐんだ!

 

腹の上で幸せそうに伸びている雫の顔を見て、先ほどの素面では聞けなかった質問を雫にする。

 

「雫さん、Vtuber辞める気なんですか?」

 

雫はそれを聞くと沈めていた顔をむっくりと起こした。

そうしてぼさぼさになった長い髪の毛を後ろに流しながら、リオと視線を合わせる。

 

「辞めませんよ」

 

雫は力強く言った。

 

「今はアイドルの夢野雫にすっかり慣れましたから」

 

悲観が込められたわけでは無い素直な声。

 

「それに辞めれるわけないじゃないですか・・・ 今の私には”可愛いうさぎちゃん”がいっぱいいますから」

 

雫は純粋な笑みを浮かべながらそう言った。

 

「じゃあ私が辞めるって言ったら」

「それは困ります!私にとってリオが心の支えなんです!!リオさんがいないのなんて嫌です!!!」

 

血相を変えた雫の顔。

彼女はそのまま両手を伸ばしてリオの首元に添えた。

首を絞めているわけでは無い。ただ肌の曲線に沿って添えているだけ。

そうしてリオは叫ぶ。

 

「私、リオさんのことが好きなんですよおお!!!」

 

雫は大粒の涙をリオの顔に垂らす。

彼女の言う”恋”が止めどなくあふれ出して、それを形に変えた”狂気”が伸ばされ、合わさって、妖美な美しさを放っていた。

リオは彼女の瞳を真っすぐと見つめた。

 

「冗談です辞めませんよ ごめんなさい」

 

リオは雫の頬に手を添えるとそのまま後頭部へと手を回し、自らの胸へと優しく迎え入れた。

 

「あと・・・・・・ ごめんなさい・・・」

「う゛う゛う゛う゛う゛う゛っ゛っ゛」

 

雫はリオの胸に顔を押し付けながら、嗚咽の声を漏らしていた。

それでも両手は首元から離れないままだ。意思を持つかのように張り付いている。

リオは黙ったまま天井を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒の回っていた雫はその後、リオに抱き着いたまま泣きつかれて眠ってしまったのでリオは身動きがとれなかった。

一時間くらい経っても起きなかったが、さすがに電車の本数が心配になりリオは雫を起こした。

 

「雫さん、そろそろ電車無くなっちゃいますよ」

「あ・・・はい・・・すみません」

 

雫を洗面所へと向かわせ、トイレへ向かわせ、荷物を持たせて、玄関へと導く。

 

「今日はその、すみませんでした」

「はい」

 

雫は反省した様子を見せた。

 

まあ、別に謝らなくていいんですけど・・・

 

「送りましょうか?」

「いえ、大丈夫です」

「それじゃあ気を付けて」

「おやすみなさい」

 

雫はリオに背を向けると玄関の戸を開ける。

リオはその背中を見て言い残したことを思い出した。

 

「今度来たときは一緒にゲームしましょう それか酒で宴会です」

「!!」

 

雫は嬉しそうな顔で振り返るとこう言った。

 

「必ず来ます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫が家から去った後、身体に疲れを感じた。

どうやら意外と緊張していたらしい。

リオは身体をベッドの上に投げ出すと、仰向けのまま目を瞑って考える。

 

”私はリオさんと違って嘘をつくのが得意なんです”

 

雫がいつか言っていた。

 

なるほどな

 

”私、リオさんのことが好きなんです”

 

これはさっき言ってた。

 

どうだかな

 

リオは自問する。

 

雫は恋を知らなかったと言った それで胸が締め付けられるような苦しみからそれを恋であると判断した

それで私の全てを知りたくなった 家を特定した 好きだと言いながら首元に添えられた両手がいた

 

リオには雫のそれが何となく恋だとは思えなかった。

理解できない彼女の気持ち。しかしリオはどこか不思議と雫に親しみを感じていた。

その理由を探るためにもリオは雫の”恋”の正体を考える。

 

だから・・・それはつまり・・・ええと・・・

 

リオは考える。

 

ああ、そうか

 

見つける。

 

嫉妬じゃん

 

それを理解した瞬間、リオは独り納得した。

雫のそれは大きく大きく育ったただの嫉妬である。

 

「ふっふっふっww ふふふっwww ふふふふふははははははははははwwww」

 

リオは大きな笑い声をあげた。

 

そっかあww 雫さんも壊れてるからかww 似たもの同士かwwww

 

リオはしばらく笑っていたが、笑いながら気持ちの悪さがムカデのように心を這っていくのを感じた。

こういう日に眠ると悪夢を見るのだ。こういう時は逃げるに限る。

リオはスマホを手に取ると、タップして耳に当てた。

 

「武士い! 今から飲もうや! え?もう飲んでる?オカマバー? どこそれ・・・ほう・・・」

 

リオの身体が酒を求めた。

 

 

 

 



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オ・カマバーだ![1]

暗闇の深まってきた時刻。

駅前ではあちこちに並ぶ飲み屋から、淡い光と賑やかな喧騒が漏れ出ていて夜の街を明るく彩っている。時々道に転がっている酔っ払いは、さしずめ街の装飾品といったところか。

リオはそんな楽しげな景色を横目に、ポケットに片手を突っ込みながら駅の通りを歩いていた。

目指しているのは一軒のお店。名前を”オ・カマバー”という。

片手に持ったスマホの画面には、表示された駅前の複雑な地図の上に、丸印と共にその名前が示されている。

リオは場所を確認してスマホから顔を上げると、建物に挟まれた路地裏へと曲がった。

伸びていたのは狭い一本道。

建物の影が被さっていて暗闇も一緒に伸びていた。視線で辿ればゴミ袋やポリバケツが道なりに置かれているのが分かる。地面にはチラシが散らばり、壁からはダクトやパイプが生えていた。

”乱雑”という言葉が似合う。

路地の奥には再び光が見えていて、人と車と道とが横に流れている。ここには先ほどまでとは正反対の静けさが広がっているのも相まって、まるでこの通りだけが街から切り離されたようである。

暗闇の途中には、何かの光源に照らされているのか淡い光がぼんやりと見えた。

恐らくはそこが目的地か。

リオは街の喧騒を背後に置き去りにして、路地裏を進んでいく。

何匹かの野良猫とすれ違えば、リオは光源の元へと到着した。

 

「秘密基地みたいだな・・・」

 

リオは思わずつぶやく。

眼下にあるのは地下へと続く階段と、その先の低い天井に貼り付けられた看板。

書かれているのはネオンで光る”オ・カマバー”の文字。

まさしく目的の場所である。

 

地下にあるタイプとか、かっけえ~

 

リオはちょっとはしゃいだ気持ちで階段を降りて、現れた店の扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

店は四角い部屋の形をしている。店の奥には部屋を横切るようにカウンター席が伸びており、その向こう側には酒が並んだ棚が置かれ、人が通れる余裕のあるスペースがある。店主はそのスペースで棚を背後にして立ちながら客と向かい合う。今はカウンターに肘をついて顎に手を添えながら、カウンター席に座っている客と会話に興じていた。

リオは店内に足を踏み入れると、”おお・・”と感嘆の息を漏らす。

店は全体的に薄暗いのだが、その奥の棚の並ぶスペースだけが青白い光に照らされていて、いくつもの酒ビンが光を反射してきらめいていた。酒好きなリオとしては何とも蠱惑的な景色である。

また店内にはラテン系のノリの良い音楽が流れていて、あちこちには異国のよく分からない民族チックなオブジェが見受けられる。それ以外にもよく分からない雑貨がごちゃごちゃしているが、その混雑具合が楽しげな雰囲気を醸し出している。

店主はリオの来店に気づくと、客とのおしゃべりを一旦中断して顔を上げた。

 

「あらあ~ いらっしゃ~い」

 

笑みを浮かべながら粘り気のある高い声を発する。

見れば青い口紅に坊主、耳にピアスとなかなか特徴的な顔つきである。また下半身はカウンターテーブルに隠れて見えないが、そこから覗く上半身はピアスをしたへそとすらりとした腕を見せつけるような短いTシャツを着ていて、日焼けした褐色のつるつるの肌が外気に晒されていた。

光を返すプロモーションはまるでモデルようである。

 

店名通りなら、この店主がオカマなのか・・・

 

目が合うと店主は投げキッスをよこした。

リオはそれを見てひとりの先輩Vtuberを一瞬想起したが、そんな偶然は無いだろうと頭の中ですぐに否定する。

リオは店主に会釈で返すと、カウンター席に座る何人かの客の中から、既に来ているであろう武士の背中を探した。

スーツ・・・アロハ・・・スーツ・・・和服。

はいダウト。

一人だけ、唐草模様の若草色の和服に紫色の帯を締めているやつがいる。

リオはそれの隣の椅子に腰かけた。その横顔に視線を向ければ、安定の髭面がグラスを口につけ酒をあおっていた。

 

「お久し武士」

「ああ~うまいのお~」

 

リオがこの場所に来るまでに考えついたとっておきのギャグである。

しかし武士はリオに目を向けることなく、間延びした声をあげた。

まるで嘲笑うかのようなリアクション・・・というか気付いていないだけである。お酒が美味しかったので、武士の口から自然と漏れ出た感想である。

ただリオは武士が自分の存在に気付いていないことに気付いていない。

なので無視されたこと(思い込み)に勝手に腹をたて、武士の肩を小さくパンチする。

 

「パンチッ」

\シュパ/

「ぬわあっ なんじゃあっ」

 

リオのパンチを受けて横を向いた武士は、リオの存在にようやく気が付いた。

 

「おお!来たかリオ!」

「来たさ」

「久しぶりじゃなあ!」

「パンチッ」

\シュパ/

「何でじゃあ!?」

 

武士の”久しぶり”に皮肉を感じてのパンチである。(思い込み)

武士の腕は意外に硬くパンチのし甲斐がある。パンチにハマったリオがシュパシュパやっていると、二人の正面に店主がやってきた。店主は興味深そうな目で二人を見下ろしている。

 

「あらあ~仲良いのね~」

「殴ってるだけです」

「いと痛し」

 

人型サンドバックですよこれ

 

「うふうっ 貴方初めての子よねえ~ 武士ちゃんのお友達い?」

「リオは友達ではない!!戦友なのだあ!!」

「ただの同僚です」

「”戦友”良い響きねえ~~~ 汗にまみれる肉体! お互いの荒い息遣い!! 極限状態で育まれるキズナ!!!」

「響き渡る銃声!」

「「ぬおおおおおおおおお」

 「たぎるわあああああん」」

「うっわ こっちタイプか・・・」

 

二人は声を合わせて素敵なドゥエットを奏でている。

リオは武士と共鳴できる生き物がこの世に存在したことに驚くが、周りの客が慣れた様子で二人を眺めているのを見て”ここではこれが日常らしい”と若干顔を引きつらせながら目の前の非日常を受け止める。リオはまるで動物園に来たかのような感覚で二人の様子を眺めていた。

やがて店長は満足した様子でリオへと向き直った。

 

「それでリオちゃん 何を注文するかしら?」

「えっと、とりあえずハイボールで」

(それがし)ビール」

「キリンビールみたいだね」

「ビール某」

「芸名みたいだね」

「・・・ビールください」

「ビール3つみたいです」

「かしこま♡」

「いや1つ、1つじゃああああ」

 

武士が悲鳴にも似た声を上げる。

ウインクで注文を受けた店主はやがてビールグラスとハイボールグラスをそれぞれ1つずつ持ってきた。分量ぎりぎりまで注がれたハイボールからは氷がぱちぱちと鳴く音がする。

二人はそれぞれグラスを手に取ると顔を見合わせた。

 

「「乾杯」」

 

グラスをぶつけ合って乾杯。

リオはグラスに口をつけると顔を傾けながらごくごくと喉を鳴らして幸せそうにハイボールをあおった。周りの客はその飲みっぷりを感心したように眺めている。

 

「ぶはあっ」

 

\ガンッ/

 

半分まで量を減らしたグラスがカウンターに置かれた。

 

「リオちゃん、随分美味しそうに飲むわねえ~」

「CM狙ってるんで」

「お酒も喜んでるわあ もっと飲んで~って言ってるわよん」

「そうですかねえ じゃあカクテルのオレンジのやつください」

「どうも~♡」

「ああ~w 乗せられた~w」

 

店主の話術にわざと乗せられながら、リオも店主もその可笑しさに笑みをこぼす。

リオにとってハイボールは前菜のようなもの。他の酒も結局頼むので問題はない。

リオと店主の愉快なやり取りを見た周りの客も”わはははは”と楽しそうに笑っていた。常連が多いのか客同士の距離が近く、初めてでも馴染みやすそうな居心地の良いバーである。

 

「それにしても珍しいのおお リオの方から飲みに誘ってくるとはのおお」

 

リオが片手に持ったグラスを揺らして氷をカラカラ鳴らしていると、武士が横から声をかけてきた。

相変らず声がでかい。

リオは手を止めて、武士の方に振り向く。

 

「そういえばそうかも」

「なんじゃあああ 某に会えなくてええええ寂しくなったのかあああ!?」

「あ?」

「怖いのおぉ・・・」

 

リオが睨むような目線を向ければ、武士は視線をずらし、威勢の良かった声はたちまち萎んだものとなった。最後が裏声になるあたりに、ビビリ度合いがうかがえる。

ちなみに威嚇するときは、”は?”ではなく”あ?”にすると、より喉の奥から重めの声が出て威嚇に効果的である。 情報提供 駿河武士対策本部

 

「まあでも武士と飲みたくなったのは間違いないよ」

「ほおおお某の時代かなあああ?幕府開いちゃおうかなああああ?」

「だって武士って馬鹿じゃん?」

 

やっべ、言葉のチョイスミスった

 

「馬鹿じゃと申す!? 馬に鹿が合わさって!!馬鹿じゃと申す!?」

 

武士喚く リオ息吐き出す トホホギス 

歌人・清少言言(ごんごん)

 

本当は”武士と飲むと何も考える必要無いから気楽で良いんだよね”なのだが、それを言う直前、武士がアホなことを言ったばかりに罵倒の気持ちが混ざって乱暴な言葉になってしまった。

リオはとりあえず修正を試みる。

 

「ああ・・・えっと・・・良い意味だよ」

「良い意味とな?」

「うん、そう! 武士は良い意味で馬鹿!良いうましかだよ!!」

「それはそれは! 良きかな!良きかな!」

 

いやまじで うましかってなに? 最上川? 

歌人・紫ぶーぶー

 

多少強引だったが武士は納得したらしかった。リオは心の中で一息つく。

 

「それはあれじゃな 良薬は口に苦し、みたいなことじゃな」

「ええ、ああ、うん そんな感じ」

 

反対な意味の言葉が合わさってるという意味では一緒かもしれない。

 

「なるほど、ブスじゃな!それはつまり良いブスじゃということじゃな!」

「・・・は?」

「ブスじゃ!ブスじゃ!良いブスじゃ! ブスじゃ!ブスじゃ!良いブスじゃ! ・・・」

 

武士は独特な抑揚を織り交ぜながら、まるで昔の狂言のように歌い上げる。

酒が回り陽気になった武士はその語感がえらく気に入ったようで、頭を揺らしながら同じフレーズを何度も繰り返している。

しかし反対に、全く楽しくないのはリオである。

リオは目の前で、ゆらゆら揺れる髭面を歯をギチギチ言わせて睨んでいた。そうしてとうとう苛立ちが自制を超えると片腕を伸ばし、武士の両頬をぐっとつまんでその口を黙らせた。

 

「おいこら髭 ブスにブスと馬鹿に馬鹿は言っちゃいけないんじゃ馬鹿 分かったら武士武士言うとけ武士」

「ん゛ん゛~~~!! ん゛ん゛~~~!!」

 

リオの冷酷な言葉に、武士は抗議するように挟まれた口から鳴き声を漏らしている。するとそこへリオから注文されたカクテルを持って店主がやって来た。店主はをフラスコみたいなグラスをテーブルに置くと、二人を交互に見比べた。

 

「あらあ~駄目よ~ ケンカしちゃあ」

「違うんですよ この髭がブスって言ってきたんですよ」

「んん~~!! んn~~!!」

「そりゃあ私はブスかもしれませんけど、だからってブスブス言わなくてもいいですよね!?」

「あらあそうなの~? むしろあたしからするとリオちゃんは、イケメンよりの美少女に見えてすんごいタイプでうふふふふふっ」

「んん~~~!! んん~~~!!」

 

リオは未だに騒ぐ武士を見ると、その掴んだ顔を横へ振ってシェイクした。すると声も一緒に揺れ動き変わったオモチャのようで少し面白くなる。

リオが武士の顔で遊んでいると、二人の会話を遠くで聞いていたスーツの男性客が顔を伸ばして、カウンターに座る客越しにこちらを覗き込んだ。

 

「あの~ もしかしたらその人は、毒を意味する附子(ぶす)のことを指しているんじゃないでしょうか?」

「え?」

 

その客は丸眼鏡を指でくいと持ち上げながらそう言った。いかにも知的な雰囲気を放っている。

リオはその男性の言葉を聞くと、顔を押さえつけていた指を離した。

武士はふう~と息を吐き、整えると口を開いた。

 

「あちらの旦那の言う通り!! 某は狂言・附子のことを言っていたので候!」

「はあ」

「良い附子、つまり良い毒という事じゃな!」

「じゃあ最初からそう言えば良かったじゃん」

「武士たるもの古風な言葉を使う生き物なのだ!!」

「だっる」

 

堂々と宣言する武士にリオはげんなりとした表情を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

武士は酒を飲んで一息つくと、思い出したかのように言った。

 

「そういえば昨日と今日と、リオは夢野雫とコラボしておったな!!」

「ああ、見てたんだ」

「楽しそうでいと羨ましかったでそ~ろ~」

 

武士は悔しそうな表情を浮かべながら、拳で机を軽く叩く。

 

「武士も雫さんのファンだったっけ?」

「左様 そういうリオもか」

「左様」

「やはり夢野雫の可愛さは圧倒的ゆえに、老若男女関係なく全ての人間を虜にしてしまうのだな!」

 

武士は力強く言う。

 

「まずは何といってもあの声じゃ!鈴を転がすような声じゃ!たまらんのお~ それにあの姿!あまりにも美しい銀の長髪!!幼く愛おしい顔立ち!!いとおかし!!いとおかしじゃあ~~」

「なんかきもい」

 

武士はまるで呪文のように早口でまくしたてた。リオは髭面の男が一人の女子の魅力について熱く熱く語っている様に多少見苦しさを感じつつも、武士の意見には大体同意であった。

夢野雫はやはり可愛い。

配信で見ていても可愛いが止めどなく溢れているわけだが、リオはコラボをして配信では分からない仕草なども見ることが出来た。

散々に抱き着かれたり、微笑みかけられたり、くすぐられたり・・・そしてそれが毎度毎度飽きずに可愛いわけだから、もはや可愛いの擬人化である。

雫ちゃん可愛いやったー。

よって武士のキモさは納得のキモさと言える。

 

「ところで武士はどの配信が好き?」

 

リオは雫のコメント欄で毎回自然発生して、何故かその返信で毎回荒れるランキング上位の質問をした。

”なんでコメントって揚げ足取りばっかりするんだろう・・・ 

みんな足無くなっちゃうよ・・・”とはリオの言葉である。

 

「いくつがあるが・・・まずは語尾がすべて”うさ”になる”うさうさ配信”だな!」

「分かるわ~」

「語尾がウサギ化するだけでさらに可愛くなるのはやばいのお!」

「うさうさ言い過ぎて、国旗当てゲームでアメリカ出た時に条件反射で”うさ!”って言ってたの可愛かった~」

 

ちなみにウサギ化するなら”~~だぴょん”が正しい。いやぴょんじゃない。ウサギ化ってなんだ?(すぬーぴー?)(あれうさぎ?)(違うか)

 

「ちなみにリオはなんかあるか?」

「カラオケで80点取るまで辞めれない配信」

「あれも良いのお!!」

「雫さん、音程が絶望的過ぎて70点がやっとだったよね・・・」

「それがまたいとおかし!」

 

その配信ではあまりの下手さにミュートにして、口をパクパクさせている雫を楽しむというニッチな楽しみ方が考案された。

ちなみにやっとのことでクリア出来たときの曲は吉幾三の”俺ら東京さ行ぐだ”である。

しかも一回じゃない。20回程東京さいっだ。参勤交代かな?

 

「まあでも一番と言ったらアレかのお?」

「アレだよね」

「「今何を飲んでるか当てるゴクゴク配信!!」」

 

ゴクゴク配信とは雫が何の飲み物を飲んでいるかを、その喉を液体が通っていく音と飲み終わった後の雫の息の吐き出し方だけで当てるという、視聴者参加型の画期的かつ激ムズな遊びである。

なお途中でコメント欄に現れた何人かの名(迷)探偵により推理が入り混じり、意見は分かれ、カオスな様相を呈していた。

 

「一番盛り上がったよね」

「江戸探偵を名乗っていたのは某よ」

「え!一番正答率が低くて皆から”あいつのおかげで四択問題が三択問題になって嬉しい”って言われてたあの江戸探偵!?」

「・・・左様」

 

ちなみに珍しく正解したときは鉄のごとく叩かれていた。刀に成れて良かったね。

 

「いやあ~ こうやって好きなことを共有してみると楽しいねえ」

「うむ これもラビッツ(雫ファンの総称)の楽しみで候」

 

リオは仮にもそこそこの数字を持っている配信者であるために、配信中に他の配信者のことを熱心に語ろうとはしない。それはあくまでリオが主役である事の自覚と、そのリオを見に来た人に対する配慮、そして単純にコメント欄が荒れる可能性があるのを気にしてのことである。

そのためこうして他の配信者のことについて共有することは、仲の良い配信者が少ないリオにとっては珍しいことであった。

リオは鼻歌を歌いながらカクテルを飲む。

 

「しかし・・・しかしのお・・・」

 

リオはグラスを傾けながら横目で武士を見る。

先ほどまで楽しそうに喋っていたのとは一変して、突然武士は悩ましげな表情を見せた。

 

「何急に?」

 

リオはグラスを置きながら尋ねた。

武士はカウンターテーブルに突っ伏すと、顎を持ち上げてテーブルの上にちょこんと乗せた。

 

「夢野雫がコラボをしてくれないで候・・・」

 

武士は元気のない声でつぶやく。

話を聞くと、どうやらLIMEで誘いの文を送ってもやんわりと断られてしまうらしい。

リオは自分が雫なわけではない事を理解しながら、もしも初めてコラボするとして武士のどこが嫌かを想像してみた。

 

「髭を抜け」

「嫌で候」

「怖がられてるかもしれないよ」

「アイデンティーの消失で候! ていうか某が抜いてもヴぁーチャルは抜けないで候!」

 

武士は顔を持ち上げると、リオに抗議した。

 

「じゃあ、抜いても問題ないじゃん」

「そういう話じゃないわっ!」

 

さりげなく武士を小奇麗にしようというリオの計画だったが失敗である。

 

「同期なのに断られてるの草」

「笑い事ではない!」

「はいはい 私からもさりげなく話をしてみるから」

「ありがたき幸せ! 喜ぶこと山のごとし!」

「ちょんまげ断髪コラボいかがですかーって」

「悲しむこと海のごとし!」

 

雫と実際に接したリオからすると、外見以外に何か理由がある気もしたが流石に分かりようが無かった。

武士は気持ちを切り替えるように酒を煽ると、グラスを置いて再び顎を机に乗せた。

 

「まあそんなことよりも・・・ 某はリオが普通そうで良かったのお」

「は?」

 

武士は視線を正面にある自らのグラスに向けたままに言った。

リオは武士の突然の気遣いの言葉に、気味の悪さと困惑を覚えて声が上ずる。

 

「なにそれ?」

「いや リオがここに来たときに少し浮かない顔をしておったからな 心配というか、もしかしたら悩み事でもあるのかと思ったので早漏」

「いま最後ふざけたろ」

「候」

 

武士は少し恥ずかしくなって言葉を乱したが、その気持ちは紛れもなく本心であった。

 

「別にいつも通りでしょ」

「左様 だから良かった」

「・・・キャラ間違えてるぞ」

「某はあああああああ江戸のおおおおお」

「うるさい」

 

少し沈黙。

リオは変に気恥ずかしくなって、残っていたハイボールを全て飲んだ。

そうして顔を下げてテーブルに向けながら、横目で武士の頭を見た。

 

「その・・・ありがとう」

「うむ」

 

謝るのはすっかり慣れたけど、お礼を言うことは慣れてない

 

リオは視線をテーブルに戻す。

腕を頭に回して、自分の髪の毛を撫でつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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オ・カマバーだ![2]

形式がいつもと違います.



「そろそろ配信する時刻ではないか?」

 

武士が言った。

リオが武士と、とりとめのない会話をしながら酒を飲んでいるうちに時刻は1時を回っていた。

リオは週に二回は深夜の1時~2時まで雑談配信をすると決めていて、今日がその配信をする日であった。

 

「武士よく知ってたな」

「某、ラジオ代わりに聞いてるでの」

「はよねろ」

 

雑談配信は大体リオが酒を飲んで酔いが回っているために、全く中身のないテキトーな配信になることが少なくない。

リオも後で見返してみて自分で引く程なので、その適当加減は相当なものである。

しかしそれでも、そんな雑談配信を楽しみにしている視聴者もいるのは事実である。

曰く、”素が見れるのが嬉しい”とのこと。

 

私は常日頃から酔っ払ってると思われてるのか?

 

いずれにせよ今日はやらない。

朝まではやる気があったのだが、今はすっかり無くなっている。Twitterでも中止の報告をしていた。

 

「やらなくていいのか?」

「もう雫さんとコラボしたし今日は充分かなって思ってさ」

「某いいこと思いついた」

 

武士は手を叩いた。

 

「なに?」

「配信をするのじゃ」

「話聞いてなかったの?ブシじゃなくてムシかな?」

「・・・」

「うわ今の激寒じゃん!!吐きそお!!」

「ええのお ええのお エンジンかかってきたのお」

「むしろエンストしてるんだけど」

 

煽ってんのか

 

「思い付いたが吉日というじゃろう 頼むやってくれ! 今なら某も付いてくるぞ!!」

「いやいやいや 深夜の武士は拷問だって みんな眠れなくなっちゃうよ」

 

歩く目覚まし時計とリオは心の中で呼んでいる。

 

「ふ、某の声は皆に元気を与えまくりだからな」

「鼓膜破りまくりの間違いだろ」

「スピーカーは壊れまくるのお」

「初めて無機物に同情したかも」

 

かわいそう

 

「というかそもそもどうやって配信するの PC無いけど」

「ふ、聞きたいのか平民よ!」

「あ、もう結構です」

「スマホじゃよ」

「スマホ?」

「アプリじゃよ!」

「アプリ・・・あ、もしかして事務所から支給されてるやつ?」

「左様 それを使えばスマホ一つでVの姿での配信が可能! 故に無敵!! 最強なり!!!」

「何と戦ってるんだこの人」

 

事務所からは所属Vtuberに専用のアプリが配布されている。それを起動すればスマホでも自身のVtuberの姿での配信が可能となる代物である。

ただリオは、普段PCでの配信を行っているためあまり馴染みがなかった。

 

「頼むリオよおお 一生のお願いだ」

「一生かけるにはショボすぎるって」

「じゃあ後2、3回一生のお願いするで候」

「現金だな」

「ともかくも某、最近誰ともコラボ出来てなくて寂しいんじゃよー」

 

武士は嘆く。

リオはそんな武士の嘆きを聞きながら、断るのにいい感じの理由を考える。そして名案を思い付いた。

 

「”侍”ってさあ 一匹オオカミって感じでかっこいいよね」

「”侍”!」

 

武士は確かめるように繰り返した。

間違いなく名案のはず。

 

「・・・・・・そんなものどうでもいいから配信するのだあああ」

 

名案じゃなかった

 

「この髭まじか」

「おーいおいおいおい おーいおいおいおい」

 

武士はリオの腕に縋り付くと、顔を沈めて泣き始めた。

リオはそれを見下ろして口の端を引きつらせる。

 

「分かった分かったから 配信するよ だからくっつくな」

「さすがリオ!出来る女!! よ、大将軍!!!」

「一応Twitterで告知しとくか」

 

 

 

 

 

 

 

「はい皆、うほうほ~ 今日も雑談配信やってくよ」

 

リオは画面がリオの方へ向くように、角度を調節して机の上に立てかけたスマホに向かって声をかけた。

 

うほうほ~(挨拶)

きたあああああ

うほおおおおおおお

何でやってるんだ?

今日やらないって言ってなかったっけ?

 

「確かに私はやらないと言った しかしあれは嘘だ 皆、私のtmitterを見るがいい」

 

リオは先ほどツミートをしていた。

 

時雨リオ@ゴリラじゃないからっ!

 @GorillaUho-Uho5656 X月XX日

 

一分後に”夜ゴリラ”するよ。

みんな集合。

 

〇 XX     □ XX     ♡ XX     ↑

 

 

一分後で草 

告知の意味ないだろwww

新人かな?

ツミート出来て偉いねー

何の役にも立たなくて草

 

「はいはい 細かいことは気にすんなってことで今日はゲストもいるよ」

 

お!?

まじで!?

ぼっち雑談じゃない・・・だと!?

どうせぬいぐるみとかだろ

ティッシュとかだろ

バクテリアだよ~^^

 

「某はああああああああ江戸の大剣豪おおおおおお」

「駿河武士さんでーす」

 

出た嗚呼ああああああ

うるせえええええ

自己紹介強制カットで草

深夜帯の武士はやばいってww

新手の嫌がらせかな?

 

登場するだけで笑いを起こす男である。

 

「何故最後まで言わせてくれないのだ!」

「”某はあああ”の部分でみんな分かってるよ」

「ほお!? 某もとうとう有名Vtuberの仲間入りかあ!? がはははは」

「ソウデスネー」

 

棒読みwww

まあ有名ではあるな、MAD素材として

ちなみに自己紹介6時間耐久動画あるからな↓ 

URLhttps://www.Nowtube.com/watch?v=s3ZIHrssmiA

まじかよwww

 

「ほえ~ 耐久動画あるんだ~ よかったね愛されてるね」

「自分で作ったのだ」

「ドン引きだわ」

 

需要どこだよwww

目覚ましにしてます

寝癖がちょんまげになりそう

起きたら江戸にいそう

 

ちなみに再生回数は20万回いっていて、タグは音楽となっている。

音 を 楽 し め

 

そういえばなんで一緒にいるんだ?

 

コメントが流れた。

 

「ああええとね 今BARで二人で飲んでたとこなんだよ」

 

意外と仲良くて草

ほーん

仲良いんだな

ケンカする程どうのこうの

 

「マネージャーだと酔い潰しちゃうから消去法だよ 消去法」

「某と飲みたくて仕方なかったんじゃないのか!?」

「そんなこと言ってないよ」

 

マネージャーは以前に飲みに付き合ってくれたのだが、リオに付き合って飲んでいたら早々に潰れてしまうのである。

そのために会話が出来なくで、リオは悲しい。

 

「リオはハイボールを4杯飲んでおるぞ」

「いや5杯だから」

「なんと」

 

ヒエッ

化け物だwww 

マネージャ・・・

昼間も雫ちゃんコラボで飲んでたろwww

リオにとっては水も酒も一緒よ

これは酒豪

 

「まあともかくとして今日は二人で雑談していくよ」

「よろしくたのもおおおおお」

 

やたあああああ

うえええい

普通に楽しみ

この組み合わせ久々だな

 

二人での雑談配信が始まった。

 

「早速だけど最近ハマっているゲームとかある?」

 

リオは手始めに尋ねた。

 

「まさかリオよおおおおおお 某の動画を見ていないのかあああ?」

「いと興味なし」

「某はリオの動画かかさず見ているのに何故だあああああああ」

 

武士は疑問を投げかける。実際リオは武士が自分の配信を見ていることを知っていた。配信の後のコメント欄にたびたび武士が出現するのだ。

 

「いつもコメント欄で「ぬっ!」だけ残すの何の意味があるの? なぞなぞなの?」

「たまに「むっ!」なんじゃが」

「知らんわ」

 

出た、武士コメ

もはやファンなんだよなあ・・・

リオの配信好こ

武士コメも好こ

 

「武士たるものコメが好きっ!なんてなあっ!」

「はっ?」

 

辛辣で草

これはひどい

厳しいwww

キレが良いねえww

 

酒が入っていることもあって、今のリオには遠慮はない。

 

「というか武士モノ好きだね うちは雑談多めだから意外と敬遠されがちなんだけど」

「いやいや リオの雑談は耳にしていると瞼が重くなるゆえ、瞑想には丁度良いのだ」

「お? 煽ってんの? おっ?」

「良い意味じゃ 良い意味でリオの白湯のようにうっすい話が好きなんじゃ」

「煽ってんねえ!」

 

wwww

口喧嘩たのしいいい

 

武士にも遠慮は無い。

 

「奈良に行って、せんとくんの角をへし折った話の続きが聞きたいで候」

「そんな話はしたことない」

「くまモンと相撲をとった話も気になるで候」

「だから知らないよ」

「ふなっしーを雑巾絞りしたという・・・」

「するわけあるか! ていうか私どんだけゆるキャラに恨みあるんだよ」

 

私はゆるキャラに親でも殺されたのか?

 

「お主はゆるキャラに親でも殺されたのか?」

「殺されてないわ!」

「あれは1615年のことじゃった・・・」

「勝手に回想するなよ! ていうか江戸時代だろそれ!」

「世の中は大変じゃった・・・大坂夏の陣が起きてのお・・・」

「だから江戸の話はいいって」

「豊臣氏が・・・」

「滅亡したんでしょ」

「悲しいのおおおおおおおおおお」

 

wwwww

意外にリオも詳しいねえ

悲しいねえ

 

 

めんどくせえ・・・

 

「はっ! 某、もしかしてまた江戸の話をしてしまったか!?」

「うん ばりばりしてたよ」

「ああああああああ江戸ってしまったあああああああ」

「”えどる”ってなに?」

「某、酒を飲むといつも江戸ってしまうのだああああ」

「ねえ”えどる”って?」

「はーっ!!いとえどしっ!いとえどしっ!」

「リズムを取るな」

「いとえろしっ!」   

「やめえ」

 

下ネタで草

いい歳こいて何言ってんだww

深夜なのでセーフ

リズム好こ

 

「それよりもハマってるゲームの話なんだけど」

 

リオは逸れかけていた話題を強引に戻した。

 

「ああそうだったな ん・・・まあ、マインクワフトだな」

「マインクワフト? マインクワフトって確か・・・いろんな人が実況してたりするやつでしょ」

「某もやっておるぞおおおおお」

「見てない」

「ぬおおおおおおお」

 

出たあw

日本一うるさいマイクワ実況

↑酷い言われようだなw

↑タイトルなんだよなあ(小声)

 

「あれどんなゲームなの?」

「簡単に言うと物作りゲームだ 建物から小道具まで色んなものが作れるぞ」

 

あと土も掘れる

水中を泳げる

牛育てられるよ

寝れるよ

 

「おおみんな物知りだね」

 

説明しよう マインクワフトとは世界で最も売れたコンピューターゲームであり、オープンワールドでの自由な遊びが魅力のゲームである

 

説明ニキも見てる

説明ニキさんきゅ

久しぶり

 

「説明ご苦労! そしてこのゲームの特徴はすべてが立方体のブロックで形造られているということだ 土も人も牛もブロックみたいな形をしているのだ!」

 

そのブロックを用いていろんな建物を造ったり、広い世界を探検したりするゲームです

 

「ほ・・・他にも地下を掘って探検したりするのだ

 

家畜を育てられます

 

「釣りもできるぞ!」

 

作物を育てられます

 

「爆発もできるぞ!!」

 

村人を増やせます

 

「た、楽しいぞ!!」

「なに競ってんだww」

 

武士が躍起になっていた。

 

「売られた喧嘩は買うのが武士よ!」

 

2011年11月18日に始まったゲームです

 

「参りました!」

 

負けたらしい

 

wwwww

さすが説明ニキ

負け戦

 

「それで?武士は何してんの?」

「某は今このマインクワフトの世界で一国一城の主を目指しておるのだ」

「へえ」

「すなわち街と城の建築である!」

「おお なんか凄そうじゃん」

「お、リオも興味があるのか! やはり男なら誰しも夢見るものだな!」

「私女だろうが」

「じゃあ男とリオなら誰しも夢見るものだな!」

「それだと性別が男と女と時雨リオみたいになるんですけど!」

「斬新だな」

「あんたが言ったんだろ」

 

wwwww

まあ、リオだしなww

それはそれでいい

逆にあり

 

「何の逆だ」

 

失礼な奴しかいないのかここには

 

「なんだ リオは城には興味ないと申すか」

「いやまあ…でかいし、かっこいいとは思うかな」

「やはりリオ!やはリオ!見込んだ通りの女よ!!

「それで、城ってのはどんなやつなの?」

「それはもうでかくて大きくてビックなやつよ!」

「全部一緒じゃねえか」

 

武士はとにかく大きな城を作りたかった。

 

「かっこいいぞ 屋根にはしゃちほことシーサーを飾る予定なのだ」

「しゃちほこ食われそう」

「あとはかざみ鳥も飾ってくれるわ!」

「屋根の上で動物園でも開くのかな?」

 

草ア!

新しいなww

風見鶏ってヨーロッパの教会とかにあるやつだよね可愛いよね

ぐちゃぐちゃだよー

 

リオはその和洋折衷with沖縄のぶっとんだセンスに呆れた目を向けた。

 

「リオもどうじゃ?」

「え?屋根の上に飾られろと?」

「違う 城作りじゃ」

「ああ」

 

飾られてどうするwww

城に入ろうとしたら立ちはだかる強キャラ感

分かるww

”ここは通さないよ”とか言ってそうw

武器は素手な

 

「城か・・・そうだな~ 私が造るなら、城じゃなくて・・・」

 

造るならあれだ

 

「ジムかな?」

「ジム!?」

 

さすが筋肉www

ジムいかない?

同じ二文字だからセーフ

どんな理論だw

ジムいかない?

 

「良くない?ジム?ジムいかない?」

「良くないわ!江戸の風情が乱れるであろう」

「そうかなー? でもみんなジム無かったら暇な時とかどうするの?」

「少なくとも全員ジム行く訳では無いと思うが」

「ゴールドジム良いよね」

「行かぬ知らぬ分からぬ」

「名前ももう決まってるんだ」

「申してみよ」

「オールドジム」

 

ギャグで草

”古いジム”ってかww

まーたギャグ言ってんのかこいつはw

悪くない

 

リオは自信満々に言った。力作である。

 

「趣わろしじゃな」

「でしょ 趣あるでしょ」

「・・・ちなみにどこに建てる気なのだ?」

「え?城の隣だけど?」

「なんでわざわざ隣に建てるのだ!? そんなくそダサなジムを!城は風景も含めて城なのだぞ!」

「ああくそダサって言った! さっき趣あるって言ったのに!」

「言っとらんわ! ”わろし”じゃ”わろし”! 趣なんて感じぬわ!というかジムいらぬわ!」

「いるでしょ!街にいくらあってもいいでしょジムは!メニージム!ハッピーハッピー!」

「いらぬ!」

「BUSHIわろし」

「F〇CKで候」

 

 

小学生の口喧嘩で草

F〇CKで候wwwww

くっそww

 

リオはついムキになってしまった。

 

「そもそもなぜ隣に建てると申すか?」

「いや殿様ってなんか運動不足なイメージがあるから近くにジムがあった方がいいかなって」

「某はそんなに貧弱な体はしていないわ!」

「いや別に武士のことは言ってな・・・」

「見よこの身体を!」

「え」

 

リオの言葉を遮った武士は、突然立ち上がると和服の帯より上を着崩して、上半身を露にした。

リオの目の前に上裸の武士が現れた。

リオは無表情で武士を見た。

 

「急にどした」

「すごいだろ」

「貧弱なり」

 

事実、武士の身体は一般的な成人男性よりも細めの体つきだった。まして鍛えているリオからすると、貧弱に見えるのは仕方のないことである。

武士は懐に隠していたのか、いつの間にか木刀を手に持っていた。そうして、店内の誰もいない空間までいくと、正面に向かって木刀を振り下ろし始めた。

素振りである。

 

「え、怖いんだけど なんなの」

\ブン ブン/

「見て、分かるであろう! 素振り、じゃ!」

\ブン ブン ブン/

「いやそれは分かるけど」

「これを、毎日一時間、繰り返せば、立派な体つきに、なるので候ううう!!」

\ブン ブン ブン ブン/

「はあ」

 

武士はブンブン木刀を振り始めた。

 

どんな状況なんだwww

わけが分からないよ・・・

リオ、状況説明だ!

教えてリオちゃん

 

武士の姿が見えない視聴者は、どこからか聞こえる空気を切る音に頭を傾げ、困惑した。

 

「状況説明か・・・」

 

リオ自身もよく分かっていないのでなかなか難しい。

 

「えっと上半身裸になった武士が、勢いよく腕をぶんぶん降ってる」

 

どんな状況!?

はあwww?

いやわからんがwww

どうしてそうなるんだwww

 

「私にも分かんないよ こわいよあの人」

「あらあまたやってるのね」

 

リオが困惑した様子で武士を見ていると、店主が声をかけてきた。

リオは後ろを振り返ると、カウンターに肘をついた店主がおもしろそうに武士を見ていた。

 

「店主さん あれ急に始まったんですけど、止めた方がいいですか」

「大丈夫よ 放っておけば止まるから」

「よくあることなんですか」

「武士ちゃんは酒が回るといつもああやって素振りを始めるのよ」

「何でですか?」

「酔っ払いに道理を求めても無駄よ」

「嗚呼・・・」

 

リオは自分にも覚えがありすぎたので、すんなりと納得した。

酔っぱらった人にはいろいろな種類がある。

笑う人、泣く人、怒る人・・・

そして更に酒を飲む人。(リオである)

だから武士は恐らく”素振りをする人”なのだろう。

 

「ってことか」

 

いや分からんわwwww

なんじゃそらwww

もう何でもいいよ~

 

店主の言う通り武士はそのうちに素振りをやめた。

3分後の話である。

肌に汗を浮かび上がらせ、荒い息を吐いている。

 

「止まった・・・」

「ぜえ・・・ぜえ・・・」

 

武士は和服を着なおすと、再びリオの隣の席までやってきてどっさりと座った。

上半身がすっかりカウンターに伸びていた。

 

「やっぱりジムは必要だね」

「いらぬう・・・」

「あら?何をお話していたのかしら?」

 

店主がリオに尋ねた。

 

「えっと・・・武士が城を造るならその隣にジムも建てようっていう話です」

「なるほどねえ」

 

改めて聞くと訳わかんなくて草

wwww

なるほどねえ(?)

 

「ジム良いですよね なのにこの髭が良くないって言うんですよ」

「あらあ ジムいいじゃない かっこいい男もいっぱいいて私は好きよん」

「かっこいい・・・? 筋肉しか見たことなかったから分かんないかも・・・」

「あらあ」

 

筋肉しか見たことが無いwww

あらあ(?)

筋肉と結婚しよう

さすリオ

 

ジムって筋肉鍛えるとこだしなあ・・・

 

「まあジムもいいけど、私ならやっぱりバーかしらね」

「またカタカナじゃ!」

「いいですね! お酒!!お酒!!!」

「ちなみにどこに建てますか?」

「それは・・城の隣かしらね」

「また隣じゃ! 何で隣じゃ!! 某が何かしたのかあ!!!」

「やっぱ髭かな・・・」

「髭なのかあ!?」

 

wwww

リオ髭嫌いだもんなあww

雑談でもよく言ってるしなあ

髭のせいで城囲まれるの草

 

「ちゃんと理由があるわよん」

「なんぞ」

「お殿様って意外に自由が利かなそうじゃない? だからお城から脱走しがちでしょ~?」

「そうだろうか?」

「そうよ~ だから近くにBarがあればお酒飲み放題よ」

「いいですね~」

「だからってバーとジムに挟まれた城がどこにあるというのじゃ!!」

 

wwww

もう城もカタカナにしよう

ブシ=キャッスル=ダヨ

ダサくて草

最後いらんだろw

 

「カタカナいいわよねえ~ 私も山田ゴライアスっていう名前なんだけどこの名前好きよん」

「へえ・・・え?」

「ぬ?」

 

!?

え!?

ふぁ!?

ま!?

 

店主の発した言葉を聞いて空気が一気に静かになった。

その静けさを破るのもまた店主である。

 

「どうも皆、久しぶり~~~ 山田ゴライアスよ~~~」

「えええええええええええ」

「なんと!?」

「皆に投げキッスをあげるわよ~~~ん!! ん~~~チュッ!!!」

 

ぐはああああ

おええええええええ

まじでゴライアスかよwwwww

そういえば声がゴライアスだわww

こんなことあるう?

 

リオと武士は目を丸くした。

果たして店主の正体は、オカマVtuber山田ゴライアスであった。

 

まじか・・・

 

リオは驚きを隠せなかった。

確かに店に入った時に、店主を見て一瞬その可能性が頭を通過したがまさか本当にそうだとは。

リオは全く想定していなかった。

 

「え、あの、それじゃここが、噂のゴライアスさんのBarですか?」

「そうよ!」

「そんなことありますか・・・」

「驚きだのお・・・」

 

あんた常連だろ 何で知らないんだよ

 

「まあそんなことはどうでもいいわよね」

「その通り! それよりもバーはいらぬという話じゃ!」

「まじかおい」

 

飲み込みはええよ

 

wwww

しれっとこれ滅茶苦茶すごくないか?

武士とゴリラとオカマ

怪獣大戦争かな?

 

「武士ちゃんにはお酒の良さはまだ分からないのかしらね~?」

「ゴライアス殿、ふざけたことを言う! 某、お酒の良さなど十全に知っておるわ!」

「あらあ」

「お酒じゃ!お酒をたくさん持ってくるで候!!」

「かしこま♡」

 

武士がたくさんの酒を求めた。

やがてゴライアスがいくつかのグラスを武士のカウンターの前に置いた。

 

「これを今から飲んでいって、順番に味レポをしていくで候」

「それ何の意味があるの?」

 

リオが疑問を向けた。

 

「これがうまく出来れば、某、酒マイスターの称号を手にいれるで候! つまりお酒を知っていることの証!」

「はあ?」

「武士ちゃんふぁいと~♡」

「ぬおおおおおおおおお」

 

武士はおもむろにグラスを口に含み始めた。

 

「ふ~む この香り!この味わい!これは1615年に作られたワイン!!」

「江戸じゃん」

「ふむう こっちも1700年の風味がするでおま」

「だから江戸じゃん」

「これは1745年・・・」

「江戸だろ」

 

全部江戸ww

鼻が江戸仕様なのかww

鼻だけタイムスリップした男

ワイン飲みたい

ラーメン食べたい

 

「武士、全然マイスターしてないんだけど」

「zzZ・・・」

「寝た!?」

 

武士は酒が回ったのか、テイスティング中にカウンターに突っ伏して眠ってしまった。

 

「寝顔は可愛いわね~」

 

ゴライアスは呑気なものだ。

 

 



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オ・カマバーだ![3]

武士は酒に酔いつぶれ、テーブルに突っ伏し眠っていた。

”武士、お酒、知らない”と店主に煽られ、その術中にはまり、大量の酒を飲んだ者の末路である。

それを見つめるのは二人の人物。

彼の隣に座る時雨リオは、カウンターテーブルに頬杖をついて、伸び切った武士を見つめていた。

オカマ店主こと山田ゴライアスは、カウンターを挟んだ向かい側から、カウンターに前かがみに寄りかかり、リオと同じように頬杖をついて武士をじっと見つめていた。

 

「ダイジョブかしら」

 

ゴライアスが心配そうに呟く。

 

「気の毒ですね」

 

リオが心配そうに呟く。

 

珍しく心配してるな

大丈夫だろ

放っておけばいいよ

自業自得

 

先ほどまでの楽しい雰囲気が嘘のように、神妙な空気が流れている。

そうしてやがて二人は言う。

 

「お酒代払えるかしら?」

「潰れたらもうお酒飲めないのに・・・可哀想・・・」

 

武 士 の 体 調 な ど ど う で も い い 。

 

おいwwww

そっちかよwwww

全く心配されなくて草

 

武士に気を取られたのは一瞬のこと。

潰れた武士は捨ておいて、再び、江戸街造りの構想談義に花を咲かせる。

 

「城の右隣にバーが、左隣にジムが建ちましたね」

「素敵よね~ドイツって感じよね~」

「ドイツそんな感じなんですか?」

「そうよ~知らないけど♡」

 

嘘RTA

適当で草

城をソーセージで造ればドイツだよ

滅茶苦茶じゃんw

ドイツとパンツって似てるよな

 

「でももう少し建物が欲しいですよね」

「そうねえ 少し守りが弱いわよねえ」

「前後からの攻めには弱いですね」

「これじゃあ戦には勝てないわね・・・」

 

戦うこと前提だと!?

酒瓶投げるんでしょ

オカマも投げとけ

ジムどうすんだよww

ジム投げとけ

 

城の守りは万全ではない。来たるべき戦(来ない)に備えて城を囲む必要があった。

リオとゴライアスは何を建てるべきかと頭を悩ませる。

 

「どうかしたかいっ?」

 

不意に威勢のいい声が、二人の耳に届いた。

二人が声のした方向を向けば、黒い調理衣を着た男性がリオの隣に立っていた。

 

「あらあ蕎麦屋さん、丁度良いところに」

 

常連の一人、蕎麦屋であった。

 

「今、城の周りに建物が欲しくてですね」

 

リオから蕎麦屋がかくかくしかじか状況を聞けば、蕎麦屋はポンと手を打った。

 

「それなら蕎麦屋がいいぜ!」

 

蕎麦屋が、蕎麦屋が良いと言った。

 

「蕎麦は良いわねえ~ シコシコしてて好きよん うふふふっ」

「蕎麦は江戸っぽいですもんね」

「だろお! それに蕎麦は食うだけじゃないぜ!」

「「?」」

「刻んだネギを眼球に飛ばせば、たまらず敵はひいひい言うぜ!」

「「おお~」」

「手打ちのソバをムチのように振れば、たちまち敵は逃げ出すんだぜ!!」

「「おお~」」

 

”おお~”じゃないがwww

平然と武器にするなww

すまん今来たんだけど何の話?

蕎麦で敵と戦う話

はあ?

 

「中距離攻撃が得意なんだぜ!」

「蕎麦屋ってすんごいわあ~!」

「それな!」

「でも蕎麦アレルギーなのよ~」

「それなそれな!」

 

この店、馬鹿が集まるのかww?

蕎麦アレルギーなのかよwww

類は友を呼ぶってことわざがあってだな・・・

お蕎麦ずるずる^~

 

身体が痒くなるのである。

しかし蕎麦屋はアレルギーと聞いても、表情を変えることは無かった。

 

「問題ないぜ!うちはそうめんもやってるんだぜ!!」

 

そうめんもやってた

 

「あらあ~やるじゃないの~」

「夏とか美味しいんですよね~」

「うちじゃあ若い奴らが作ってんだ」

「爽麺(そうめん)とか言っちゃって?」

「爽男(そうメーン)とかも言っちゃって♡」

「上手えん(うメーン)こと言うじゃねえか!」

「「「ぬははははは」」」

 

うぜえww

なんなんこれww

(┐「ε:)_<そうめーん

何か鳥肌立った

↑蕎麦アレルギーだよ

最後上手くなくて草

 

「流しそうめんとかもやりたいですね」

「それなら、城のてっぺんから竹筒を通してえな!」

「じゃあお城の後ろは蕎麦屋に決まりね」

「守りが固くなりましたね!」

「よっしゃあ!」

 

また増えたねえ

ちょんまげ流そう

決まったああ

後は前だな

 

こうして城の後ろは蕎麦屋が建つことに決まった。(決まったところで何もないが)

後は前方を埋めれば守りは完璧である。(特に何も襲ってこないが)

蕎麦屋が椅子を持ってくると、3人で城の前方に何を建てるかに頭を悩ませた。

しかしなかなか決まらない。

するとそこへ声をかける者が現れた。

 

「どうかされましたか?」

 

3人が声のした方向を向けば、白の調理衣に身を包んだ男がリオの隣に立っている。

 

「あら、寿司屋」

 

常連の一人、寿司屋だった。

 

「今、城の前方に建物が欲しくてですね」

 

リオからいろいろと事情を聞けば、寿司屋はにこりと笑った。

 

「それなら寿司屋がいいですよ」

 

寿司者が、寿司屋が良いと言った。

 

「寿司屋は江戸の風情によく合いますからね それにうちの寿司屋は江戸時代から代々続くお店なんです」

 

丁寧な物腰の寿司屋である。

 

まともな人もいるんだな

今までがおかしかった

板前はかっこええな

ウニくれ

 

「いいわねえ」

「いいですね」

「あと・・・うちの寿司屋はわさびが効いています!だから敵の眼球に擦り付けてやりましょう!」

 

まともじゃなかったわ

サイコパス定期

擦り付けていこうなw

類友方式

 

丁寧な物腰で殺意の高い寿司屋だった。

 

「刺激的で素敵♡」

「目が緑になるのかな・・・」

「それか、魚の骨を武器にして眼球に突き刺すこともできますよ!!」

「情熱的で素敵♡」

「刺すの大変そう・・・」

 

いろいろおかしいだろwww

眼球絶対責めるマンで草

目玉に親を殺された男

???「おい鬼太郎」

引きこもりです

???「おいぷー太郎」

↑好こ

 

「あと!お茶は熱々なので、敵にぶっかけることもできますよ!!!」

「寿司屋って攻撃力高かったんですね」

「逸材ね」

「あとはあとはっ・・・・」

 

前のめりに話そうとする寿司屋。

 

「あ、もういいです」

「これは前方の素質があるわね」

 

丁寧な物腰で殺意の高くて欲張りな寿司屋である。

 

寿司屋のSはドSのSなのか・・・

 

リオが心の中で密かに呟くと”それにしても”とオカマは言った。

 

「寿司はいいわよねえ~ あたし、マグロが好きなのよん」

 

リオもマグロは好きだ。

しかし寿司屋では頼まない。

 

「私は・・・卵焼きですかね」

「あら、寿司屋で卵焼き頼むの?」

「私、ワサビ無理なんで・・・」

「うふうっ リオちゃんにも苦手なものがあるのねえ~~」

 

ゴライアスは意外そうに言った。

さび抜きリオちゃんは情けなさを感じた。

 

「あ、でも、酒は得意ですよ!ええ~と、だから、酔っぱらったらワサビもいけます!!」

 

だからリオは、強がるように必死にアピールする。

 

負けず嫌い可愛いww

リオは飲ませたら何でも出来そうw

空を飛ぶ配信とか期待してる

人知超えてるけどゴリラだからセーフ

ゴリラは空飛ばないんですがそれは

 

勿論リオも空は飛べない。意識はよく飛ぶ。

 

「まあとりあえず寿司屋は前方でいいわね」

「そうですね 決まりですね」

「ありがとうございます!」

 

きたあああ

おめでとおおお

架空の話でよくぞここまでw

お酒があれば何でも楽しいよー^^

 

こうしてめでたく城の四方を囲む建物が決まった。

現場は謎の祝福モードである。

しかしそこで不意に、今まで黙って座っていた蕎麦屋がおもむろに口を開いた。

 

「思ったんだが・・・前方に店を建てたら殿様はどこから外に出るんだ?」

 

あ・・・

おっと・・・

・・・

 

この瞬間、言葉が質量をもつように、空気が一気に重たくなった。

今まで誰も考えなかった疑問である。

リオは目を滑らせてゴライアスの方を見る。リオと目線のあったゴライアスは目を滑らせて蕎麦屋を見る。蕎麦屋も目線を滑らせて、寿司屋の方を(ry

こうして誰もが目を泳がせて、その場に沈黙が広がった。

最初にその静けさを破ったのは、リオの発した言葉だった。

 

「殿様って引きこもりらしいですよ」

 

あたかも事実であるかのように呟く。

明らかな偏見である。

しかし今はそれでいい。

 

「城から出たら死ぬらしいわ」

「あいつら先祖がやどかりらしいからな!」

「足裏と畳が接着剤で取れないらしいですね」

 

大事なのはそれっぽい理由である。

 

「じゃあ問題ないということで」

「「「了解」」」

 

いいわけあるかww

引きこもり城主で草

安全だからおk

箝 口 令

 

寿司屋が椅子を持ってきて静かに座った。そうして集まる四人の元へ、アロハシャツを着た白髪のおじいさんが近寄ってきた。

 

「アロハー♪」

 

おじいさんが鳴き声を発した。

四人とも視線を向けたが、どう返事をしたらいいか分からず沈黙した。

 

「アロハー♪」

 

おじいさんが再び鳴き声を発した。

四人は顔を見合わせた。

 

「アロハー♪」

 

アロハおじいさんは止まらない。

 

「アロハー♪」

「あら・・・」

「常連さんですか!?」

 

藁にもすがる思いでリオはゴライアスに尋ねた。

 

「知らない人ね」

「変な人だ!?」

 

やべえやwww

このバーをモンスターハウスと名付けよう

アロハー♪

Is this a ぺん?

No,ぺんぺん♪

 

藁なんか無かった

 

「あの・・・あろはー?」

「アロハー♪ わしも話に混ぜてくれるかな?」

「ああ、あの、もう守りは万全なので・・・」

「わしも話に混ぜてくれるかな?」

「はい、どうぞ」

 

有無を言わさぬ圧を感じ、リオは抵抗を諦めた。

 

「江戸の町に広がる水はあるか?」

「はい?」

「わしは数々のアロハを経て水にぷかぷかと浮かびながら、齢を重ねたアロハおじいさんだ 江戸の町に広がる水はあるか?」

「え・・・ないです・・・」

「水に浮かぶことが出来ないではないか!?」

「ひいいいい」

 

アロハおじいさんは唐突にキレた。

 

怖い

アロハを経てって何?

考えたら負け

水に浮かぶタイプのおじいさん

 

リオが怯えていると、その様子を見ていた寿司屋が口を開いた。

 

「分かりました!ならばこうしましょう!江戸の町を水没させます!」

「「「!?」」」

「ほう」

「そうすれば貴方は浮かぶことが出来ます」

「素晴らしき若人よ!」

 

アロハおじいさんは納得した様子で寿司屋を褒めると、片手を差し出した。

握手である。

 

「君、名前を何という?」

「寿司屋です」

「素晴らしき寿司屋よ 一緒に歌おう!」

 

握った手をブンブンと振って拍子をとりながら、二人は交互に歌い始める。

 

「Say アロハー♪」

「YO アロハー♪」

「アロハー♪ どういう意味や♪ 分からんや♪」

「赤や―♪ めちゃ辛いわ♪ それハバネロや♪」

「いやタバスコやー♪」

「いやパプリカや―♪」

「「やあああああああああああ」」

 

頭おかしくなるってwwww

誰か止めろよwwww

やあああああああ

寿司屋が壊れちゃったよ~

 

他の三人は江戸の町水没計画に未だ困惑していた。

そこで寿司屋はアロハおじいさんから手を離し、アロハおじいさんが一人でに歌の二番に突入したことを確認すると、リオ達の方へ顔を向けた。

寿司屋は説明するように口を開く。

 

「どういうことですか?」

「城はどうなるかしら?」

「城も建物もそのままの形で全てぷかぷかと浮くのです!江戸の町は一面が水に浸かります!」

 

江戸の町はそのまま水に浮かび、水上の町となる。

 

「考えてみてください!僕たちにデメリットはありません!」

「俺の流しそうめんはどうなるんでい?」

「周りは全て水なので流し放題です!」

「最高じゃねえか!」

「私のジムは・・・水中でもトレーニングできる!」

「その通りです!」

「バーのお酒は・・・樽で浮かせれば問題ないわね」

「その通りです! そして、僕の寿司屋は泳いでいる魚を捕まえればいいので、常に新鮮です!」

「「「「水没さいこーーー」」」」

 

四人は状況を受け入れた。

この場の雰囲気が、狂気とも思える空気を受け入れる土台となっていた。

もちろん視聴者は置いてきぼりにして。

 

訳分かんないんよおおおお^^

この展開はなにい?

SFか何かですか?

いいえ、ホラーです

頭おかしくなりゅううううう

 

そうこうしているうちに武士の目が覚めた。武士は頭痛に眉を寄せながら、重たい頭を持ち上げる。

 

「某、眠っていたで候」

 

武士は辺りを見渡して、やたらと知らない人が増えていることに気が付いた。そしてその輪の中心にリオを見つけた。

 

「リオはコミュ力がお化けだのお」

「あ、おはよう武士」

「男ばっかりじゃな」

「このバー女の子来ないんだよー 女よこせー」

「ゲスなるもの也」

 

言い方最悪で草

変なのばっかり

武士起きたんかワレ!

お前の城ぷかぷかしてるぞ

 

武士は思い出すように、眠る前の記憶を辿った。そうして江戸の町構想が途中であることに思い至った。

 

「ゴライアス殿、某の城はどうなった?」

 

武士は正面のカウンター越しに立つゴライアスに尋ねた。

 

「あら、それ聞いちゃう~?」

「確か横をバーとジムに挟まれて居たな」

「そうよん」

「全くけしからんことで候 そもそも江戸の町並みに・・・」

 

ぶつぶつ呟く武士を尻目にゴライアスは続ける。

 

「あと追加で後ろに蕎麦屋が建ったわ」

「ぬう!?」

「前は寿司屋が建つことになったわよん」

「な!?」

「ああ、あと水没したわね♡」

「はああっ!!??」

 

武士は素っ頓狂な声を上げた。

 

wwww

お手本のようなリアクションwww

流石芸人w

連続技で草

 

武士は悲しみを感じていた。目覚めたばかりの武士は未だ酒は抜け切れておらず、酔いと寝ぼけが相まって、思考と現実が混ざっていた。すなわち今の武士にとっては、妄想であるはずの城もまるで現実であるかのように錯覚をしているし、自分は城主だし、そしてその城は水没したという事を現実の事として処理をした。

 

某の城ぉ・・・

 

「なぜじゃ!なぜ某の城は水没したか!?」

「ぷかぷかして欲しかったからよ♡」

「某の城おおおおおおおおお」

「まあたかだか架空の話d「某の城おおおおおおお」」

 

武士はゴライアスの話を遮り、悲しみの咆哮を上げた。

 

「お城ぉ・・・お家ぃ・・・キャッスルぅぅぅぅ・・・」

 

カウンターテーブルを拳でどんどんと殴りながら、うめき声を上げている。

 

全部一緒www

これ妄想の話だよなwww

酔っ払いには関係ないよー

起きたら城が水没してた件について

 

そんな落ち込む武士の様子を見た寿司屋は、武士の傍に行き話しかけた。

 

「すいません武士さん」

「なんじゃ」

「私が江戸の町を水没させました」

「お主かあああああああああ!!!!」

「あのままじゃアロハー♪しちゃいそうだったんです!」

「意味が分からぬわああああああ」

「ぷかぷかさせたかったんです!!」

「ぷかぷかはもういいわあああああ!!!!」

 

武士は寿司屋を悪人として認識する。

 

「さあああ、そこに四つん這いにいいいなるがいいいいい」

 

寿司屋は武士に命じられるままに、バーの床に四つん這いになった。

武士は椅子から立ち上がると、寿司屋の突き出された尻が正面に来るように移動した。

 

「武士?どしたー?」

 

四つん這いの寿司屋と彼の背後に立つ武士という異様な光景を見て、リオは尋ねた。

 

「今から悪さをしたものに罰を与えるのだああ!」

「ほえー」

「ぬおおおおおおおおお」

 

リオはアルコールがようやく身体に回り始めて、意識がふわふわと薄まってきていた。

武士は気合のこもった声と共に、懐から木刀を引き抜いた。そうして寿司屋のケツに照準を合わせた。

 

「いくぞおおおおおおおおおお」

「はいいいいいいいいい」

 

武士は威勢のいい声を上げながら、木刀をバットのようにスイングさせる。

 

\スパンッ/

「ヒラメっ!」

 

木刀が寿司屋のケツをしばき上げた。

 

「まだまだいくぞおおおお」

 

\スパンッ/

「カレイっ!」

 

その快音が衝撃の強さを物語っていた。

しかしケツの持ち主である寿司屋の顔は・・・恍惚の表情を浮かべていた。

寿 司 屋 は ド M だ っ た の だ !

彼は痛みを快楽に変換する。

現に今も常人であれば耐え難いほどの痛みであるケツへの衝撃も、寿司屋は喜々として受け入れて、あろうことか自分からケツを差し出す始末である。

 

「嗚呼ああああこれがマグロのたたきの気持ち!!マグロの気持ちが分かるうう!!!!」

「まだいけるなああああ!!」

「マグロになっちゃうううううう!!!」 

 

\スパンッ/

「サーモンっ!!」

 

「もっとおおおもっとくださいいいいい」

「いくぞおおおおお!!!」

「嗚呼ああマグロおおおおお!! マグロおおおおおおおお!!!」

 

\スパンッ/

「スルメエっ!!」

 

意図せずSMプレイが、リオ達の眼前で行われていた。

そしてそれを見たアロハおじいさんは、二人を中心にして円を描くようにして歩き始める。

 

「アロハー♪ アロハー♪」

 

アロハーを添えて。儀式のように。

 

さらに蕎麦屋は二人を見て何かの修行とでも思ったのか、椅子から立ち上がり二人の傍に近寄ると、応援の声をかけ始めた。

 

「頑張れー!!! 頑張れーー!!!」

 

熱い蕎麦屋の熱い応援である。

 

そうしてリオはそんな混沌とした状況を見て、たまらずに笑い声をあげている。

 

止めにゴライアスは、陽気で楽しい滅茶苦茶な雰囲気の中で、さらに場を盛り上げようとどこからか取り出した縦笛を吹くのだ。

 

「頑張れー!!! 頑張れーー!!!」

「アロハー♪ アロハー♪」

\スパンッ/

「ウニイっ!」

\ピローン♪ ピロロローン♪/

「あはっwww はははっははwwww」

「アロハー♪ アロハー♪」

「頑張れー!!! 頑張れーー!!!」

\スパンッ/

「ハマグリイっ!!」

\ピロローン♪ ピローン♪/

 

何だこれは・・・・

ぐっちゃぐちゃだよwww

マジで意味わからんwww

地獄かな?

 

地獄である。

誰一人として正気ではない空間がここにはあった。どこよりも騒がしい夜があった。

 

ところで、日本にはいくつか迷信が存在する。夜に笛を吹くと蛇がやってくるというのもその一つである。

現在の時刻は深夜。そして笛を吹くオカマがいる。条件は揃っていた

そうしてオ・カマバーの扉が開かれた。

蛇が来たか?いや、蛇は来なかった。

妖怪が来たわけでもなかった。

現れたのは確かに人間。

背が低くて、黒い衣装に身を包んで、黒いとんがり帽子をかぶって。

それは小さな老婆であった。

思わぬ客の登場に、騒がしくしていたリオ達も動きを止めて、その視線を老婆に向けた。

沢山の視線を一身に受けながら、老婆は皆の元へつかつかと歩み寄る。

 

「失礼」

「エビィっ! 手巻きずしの気持ちぃ!!」

 

そうして当然のように、四つん這いになっている寿司屋の背中に座った。

 

「わたしゃ占い婆(ばあ)だよ ここもバーだろ? まあバア同士仲良くしようじゃないの けけけけけけ」

 

新キャラ来たあああああ

また変なのだああああ

やったああああ

アマゾンに住む鳥みてえだ

 

占い婆は鳥の鳴き声のような声を出して不気味に笑うと、懐から水晶玉を取り出し、膝の上に乗っけた。

 

「さて誰から占おうかね?」

 

占い婆がみんなを見渡しながら言った。

 

「それじゃあ俺を見てくんねい」

 

そう言って最初に名乗りを上げたのは蕎麦屋だった。占い婆は水晶玉を覗き込む。

 

「どれどれ・・・嗚呼、あんた蕎麦アレルギーだね?」

「な・・・!! この占い師、本物だあああああ!!」

 

蕎麦屋は実は蕎麦アレルギーだった。

 

お前もかよwww

何で蕎麦屋が蕎麦食えねえんだよwww

アレルギー診断で草

みーんな蕎麦食えないよー

 

「あんたの店このままじゃ潰れるねえ」

「ええ!?そんなあ!? 助かる方法はねえのか!?」

「・・・見える見えるのお・・・たくさんのJKが見える・・・」

「たくさんのJK!? そうかインスタ映えする新商品ってことだな!?」

「これは・・・タピオカだね!」

「カエルの卵おおおお!!」

「あんた、これからタピオカつくんな」

「無理でええええい!!!」

 

蕎麦屋にタピオカは難しい。

 

「他!他はねえのか!?」

「後は・・・パンケーキだね!」

「パンケーーーーキ」

 

はんばああああああぐ

 

「なんだい?無理かい?」

「無理でい 俺は蕎麦を捨てられねえ・・・」

「それならタピオカドリンクに蕎麦混ぜるか!パンケーキに蕎麦挟むか! どっちかにしな!」

「くそお・・・」

 

地獄のような二拓で草

罰ゲームじゃねえかww

汚 料 理

混ぜるな危険

 

「タピオカでい!」

「はい1000円になります」

「ありがとうございやしたあ!」

 

お金とんのかよww

こんな適当な占いでww

詐欺で草

蕎麦屋が救われてよかった

救われたのか・・・?

 

客が喜べば救われたも同然である。

 

「さあ次は誰だい?」

「あたしよん♡」

 

ゴライアスが脇を抑えながら手を上げた。

 

「あんたあ、顔が良けりゃ男も女もどっちもいける口だねえ」

「うふん」

「あんたあ、来年で31歳ね」

「あらやだあ!この占い師本物よ!!」

 

おい、年齢出たけどダイジョブなのかww?

ゴライアスはNGが無いからおk

↑無敵で草

雑談では豊かな人生経験の話が聴けます

なんか草

 

オカマに不可能はない。

 

「あんた犬を飼おうとしてるみたいじゃないか」

「そうなのよー 独り身は厳しいの」

「そうかい でももっとオススメのがいるよ」

「?」

「ウーパールーパーさ」

「ウーパールーパー? 何でウーパールーパー?」

「あんたのお気に入りの子もウーパールーパーを飼ってんのよ だからあんたがウーパールーパーを飼えばその子のウーパールーパーとウーパールーパーして間接ウーパールーパーになるってこと」

 

おい誰か俺を殴ってくれ

間接ウーパールーパーって何だwww

ウーパールーパーがゲシュタルト崩壊してウーパールーパパパパ

みんな落ち着けってそうすればウーパールーパーになルーパーウーパー

ミ( ゚ ◇ ゚ )彡 ウパッ!

 

「最高じゃない♡」

「はい1500円」

「ありがとん」

 

料金上がってて草

何て商売だ・・・

ミ( ゚ ◇ ゚ )彡 ウパッ!

↑川へお帰り

 

占い師は調子よくお金を巻き上げていく。

 

「さあ次々い!」

「じゃあ私で」

 

そう言ってリオが声を上げた。

 

「嗚呼・・・あんた、ちょっとねじが外れてるね」

「・・・ふっw」

 

wwww

辛辣ぅ!

ダ イ レ ク ト ア タ ッ ク

 

リオは苦笑いを浮かべた。

 

「それでそれで・・・ほうほう ふくらはぎの腓腹筋とヒラメ筋を鍛えたいと」

「そうっすね」

「それならカーフレイズがオススメだね あとはボックスジャンプとかもいいね」

「なるほど」

「足の向きで負荷のかかる筋肉の場所が微妙に変わるから、注意した方がいい」

「なるほど」

 

ただのトレーナーじゃねえかwww

この婆さん物知りだなwww

休憩をはさむのも大事だぞ

筋肉ニキも見てる

 

「助かりました」

「はい2000円」

「うい」

 

もはや値段の上がることには誰も触れない。

 

「さてあたしゃそろそろ帰るかね」

 

占い婆は一仕事終えたとばかりに水晶をしまうと、人間椅子から降りた。

 

「ああそんなああああ 某も占ってほしかったで候うううう」

「え、ああ、そうね あんたの未来は明るいよ」

「感謝するうううう」

「はい2500円」

 

もはや適当で草

よかったな武士

雑過ぎわろた

殿さまになれるといいな

 

「あの、僕も」

「ああ、あんたはニ〇リとかイ〇アに転職するといいよ」

「ありがとうございますう」

「はい3000円」

 

「わしも聞こう」

「あんたは2年後ぐらいにハワイで死ぬね」

「アロハー♪」

「はい6000円」

「アロハー♪」

 

こうして占い婆は全員の占いを終えた。

 

「それじゃ、あたしゃ帰るねえ」

 

占い婆はそう言うと、アロハおじいさんを引き連れてお店から出て行った。

 

「あの人、アロハおじいさんの連れだったんですね」

「そうみたいねえ」

 

残った五人がその後ろ姿を見送った。

 

 

 



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オ・カマバーだ![終]

占い婆とアロハおじいさんが店から出て行くのを見送ると、残りの客たちは何ともなしに顔を見合わせる。一瞬漂った妙な緊張を破るかのように、「飲もう」と誰かが言った。すると他の客もまるで示し合わせたかのように「飲もう 飲もう」と喜々として続いた。

出会った記念というやつだ。(記念じゃなくても勿論飲む)

武士もリオも当然含めて客たちは、酒を片手に盛大に飲み交わし、飲み狂い、酔いを深める。

何が面白いのか分からないことに笑い合ったり、勢いだけで歌ってみたり、寿司屋のケツを叩いてみたり。無礼講の楽しい宴に、実際の様子を見る事の出来ない視聴者も、耳から入る喧騒からその空気を楽しんでいた。

どんちゃん騒ぎはしばらく続いた。

 

 

楽しい宴にも終わりは来る。閉店の時刻である。

ゴライアスがそのことを告げれば、賑やかさは波のように引いていき、宴から日常へと客たちの意識が緩やかに戻った。そうして一人、また一人と名残惜しそうに言葉を残して席を立つのだ。

お開き。

会計を済ませた客たちの背中をゴライアスが手を振って見送った。

やがてほとんどの者は店を出たのだが、しかし全員が店を出たわけでは無かった。

まだ二人残っていた。

武士とリオである。

ただ嫌がらせをしようという事でもなく、そんな特別な事情があるでもなく。

もっと単純な話。

このリオという女、すっかり寝やがっているのである。

 

「起きないわねえ」

「起きないで候」

 

リオの隣に座る武士と向かいからカウンターに頬杖をつくゴライアスは、酔いつぶれたリオを眺めながらに呟いた。

リオはカウンターテーブル上に組んだ腕を乗せて、それを枕代わりに眠っている。

その横顔にはふにゃりと浮かぶ笑み。

夢の中で宴の続きでもやっているのかと思わせる表情である。

 

「ムニャムニャ・・・ クラエッアルコールゥビィィィィーームゥー グヘヘヘヘ・・・」

 

やってた。(有罪)

 

「リオちゃーん 閉店よ~」

 

言いながらリオのほっぺを人指し指でつつけば、柔らかなほっぺは大福のように”ふにぃ~”と沈み込んでいく。

 

「あらあ~ やらかいわ~ カワイイわ~♡」

「カワイイというよりカワハギだのお」

「顔の話じゃないわよ」

 

感触の話である。

 

wwwwww

酔いつぶれたのかww

ゴリラにもカワハギになれる女

水陸両用で草

 

配信画面には、口を半開きにして静止したアホっぽいリオの立ち絵が表示され、それは長らく動く気配を見せていなかった。配信者が絶賛くたばり中なので当然のことである。

置物へと転生してしまったVtuber。

絵面としては退屈極まりないし、ともすれば放送事故とも言われかねないが、それについて騒ぎ立てる者は少ない。

むしろ ”い つ も の” というコメントが合言葉のように流れる程には、視聴者も慣れた様子を見せている。

リオの口から言わせれば”もの好きな視聴者”たちである。

しかし正確に言うのであれば”もの好き”というよりも、毎度何かしらのイベントを起こすリオに慣れて、遂にはそれを楽しむ事こそがリオの配信の醍醐味であるとした剛の者たちであるのだが、今のリオが知るわけもない。

さらには ”そのうちやらかして、ムキムキ火だるま焼きゴリラになりそう” などと噂されていたりもして、ともかくその予想外の配信が魅力となっているのだが、やはり今のリオが知るわけもない。

だって寝てるし。

 

「困ったわねえ~ このままじゃお店閉めらんないわよお」

「今日はこのまま開けておくとか如何で候?」

「その髭、剃り落とすとかいかがかしら~?」

「殺す気か!?」

「殺す気よ♡」

 

殺す気wwww

お前・・・死ぬのか・・・?

本体は髭だからね

武士と髭は一心同体♪俺の嫁は半導体♪YEAH♪

特殊性癖兄貴も見てます

 

ゴライアスは”それにしても・・・”と呟きながら、リオの肩に手を置く。

そしてそのまま前後左右に激しく揺らすも、リオは全く起きる気配がない。

ただひたすら、体がゆらゆらと揺れるのみである。

 

「リオちゃん、ぷるぷる~」

「ゼリーのようじゃな」

「リオちゃん、ゼリゼリ~」

「プリンのようじゃな」

「リオチャン、プリプリ~」

「・・・もうないで候」

「腐腐腐 豆腐よ」

「しくじったあああ」

 

なんこれw

深夜テンション好こ

茶碗蒸しもあります

リオちゃん、ちゃわちゃわ~

 

起きないリオにゴライアスは手を止めると、リオのスマホに目を向けた。未だに続く配信画面にはたくさんのコメントが流れている。

 

「リオちゃんだーい好きなあんたたちなら、リオちゃんの起こし方知ってるでしょ? 教えてくれたらご褒美にキスしてあげるわよん!! チュっ!!チュっ!!」

 

もうしてるじゃねえかww

リオが潰れるのは滅多にないな・・・

一回寝落ちしてたな

↑寝言で住所言ってたやつか

↑あれ東武〇物公園の住所な

↑ふぁ!?

 

どうやらリオを起こすのは難しそうだとゴライアスは理解する。

 

「皆教えてくれないのね~ も~う恥ずかしがっちゃって~ ぶちゅう!!!」

 

ゴライアスはサンキュー情報提供とばかりに盛大な投げキッスをプレゼントした。(範囲攻撃)

 

おえええええ

ぐはあ(吐血)

デバフかかりそう

死にます

ファーストキスやったー

ワーストキスで草

 

こうか は ばつぐんだ!

 

流れる阿鼻叫喚のコメントを見て、いたずらな笑みを浮かべるゴライアス。リオは依然、気持ちよさそうな寝息を立てているが、しかしこのまま置いておくわけにもいかなかった。

ゴライアスは武士に視線をずらした。

 

「ということで武士ちゃん、リオちゃんをタクシーまで運んでね」

「某かああ!?」

「他に誰がいるのよ あたしは店を閉めなくちゃのよん」

 

さらりと投げかけたゴライアスの言葉に、武士は口元を引きつらせた。

嫌という事では無かった。

 

「某も酒が回りまくりで気持ち悪いというかなんというか・・・」

「あら武士ちゃん、さっきトイレでリバースしてきたじゃないの」

「セカンドリバースがいと近し」

 

ダム崩壊の危機である。

 

「男は何度もリバースを経験して強くなっていく者なのよ」

「初めて聞いたで候」

「初めて言ったもの」

 

リバース理論

リバースをぶっかけてでもリオを運べ!

ゲロで道しるべ作ろう

”ノンベエとゲローデル”

 

「それじゃ、私タクシー呼んでくるわね~」

「あ、まtt」

 

テーブルに勢いよく手をついて席を立ちながら何か言いかけた武士であったが、その言葉を遮るようにゴライアスは言葉を残し、スマホを耳に当てながら店の奥へと姿を消した。

武士は少しの間ゴライアスの背中を呆然と見送っていたが、やがて小さく息をつくと、隣のリオへと体を向けた。

武士はリオの背中に手を当てて揺らす。

 

「リオよおおお 某がわざわざ肩を貸してやろおおおう さあ、腕を肩に回すがいいいいい」

「ん~」

 

うっさ

声でけえ

そういえばゴライアスって先輩か

”ん~”激カワなんだが

録音したよ~武士を

・・・

 

武士は先輩のゴライアスの前では多少自分を抑えるので、その反動で大きな声が出た。

”侍は身分を重んじることが大切で候・・・”

彼の自論である。そしてその自論に則れば、リオは同期であり対等な存在である。

故に、いくらでもイキってよし!!

 

「ほれ哀れなリオよおお 腕を差し出すがよい リオよおおお」

「んん」

「聞こえていないのかああリオよおお」

「んんn」

 

リオの曖昧な返事を聞いて、武士はにやりと笑みを浮かべる。

 

「や~い、ビビリ~ ビビリオ~!」

 

リオの顔を覗き込むようにしながら、クソガキムーブをかましていく。

 

小学生かな?

クソガキで草

良い大人が何やってんだwww

ホラゲーでびびってたリオちゃん好こだった

↑あのギャップよな・・・

 

配信ならまだしもリアルだと煽った時に少し怖い。そのために意識のないまさに今を狙って、ここぞとばかりに煽りにかかる。

 

「ぬうん」

「ぬうんとは?ぬうんとは! 全くリオともあろう人間が、こうなりゃ貧弱よのおおおお!」

「ぬうん」

「かかかかか!貧弱貧弱!」

「ぬうん」

「貧弱!」

「ぬうん」

「貧弱!」

「ぬうん」

「貧弱!・・・貧弱とぬうん?・・・貧乳ん!?」

 

あ・・・

死んだわ

じゃあのノ

 

武士がかっと目を見開いて天才的な閃きをみせた刹那、その首の後ろを振り抜くようにリオの片腕が伸ばされた。

武士が何事かと後ろを振り返るのと、その腕がそのまま首を巻き込む形で、勢いよくテーブルの方へと倒れるのは同時のことであった。

首元に近づくリオの腕が、武士の瞳にスローモーションのようにコマ送りに映る。

引き締まった、、筋肉質の、、腕が、、近づく、、

そして・・・

 

╲ばああんっっ!/

「ぐへえ!?」

 

武士は後ろを振り向くときの体がねじれた体勢のまま、テーブルへと頭を思いっきり叩きつけられた。

顔は天井を向けられたまま、首元にはアトラクションの安全バーのごとくリオの腕が乗っかっている。というか首へと圧がかけられている。

これぞ時雨流ラリアット!!

武士の最後に発された言葉がきっかけとなって、無意識のリオをここまで突き動かしたのだ。

すごいぞ時雨流ラリアット!!

 

「死ぬう!! 死ぬでおまっ!!」

 

テーブルと腕に首を圧迫される息苦しさで、武士は顔を真っ赤に染めながら、仰向けの姿勢でばたばたと暴れた。

 

何が起きたんだwww

すげえ苦しそうで草

これぞ天罰

↑リオはアマテラスだった!?

よく分かんないけど自業自得やろ

 

抵抗など諸共しない!強いぞ時雨流ラリアット!!

酸素不足の武士の頭はいよいよその意識を薄れさせて、代わりに幻想を映し出す。

 

三途の川で犬かきする某ぃ・・・マジ卍ぃ・・・

 

そうして泡を吹く武士の元へ、電話をかけ終わったゴライアスが戻ってきた。ゴライアスは予期せぬ光景に目を見開く。眼前にあるのは、カウンターテーブルに頭を乗せて痙攣する武士の姿と、その首元に重しのように腕を乗せるリオちゃん。しかも寝てる。

ゴライアスはカウンターに頬杖をついて、その物珍しい光景を少しの間鑑賞して楽しんだ後、とりあえずでリオの腕を持ち上げた。(ゴライアスは鍛えてるから持ち上げられるぞ!)

 

「ぶはあ、ぶはあ、死ぬかと思ったで候」

「武士ちゃん、何かしたんじゃない?」

「なんにもしてないで候」

「コメントちゃんたち~」

 

疲れて身動きを取らずに天井を向いたまま喋る武士を差し置いて、ゴライアスはスマホの画面に呼びかける。

 

ひんにゅう

貧乳と言っていました

貧乳パワーです

ひんひんがにゅうにゅう

 

「言ったかしら?」

「言ったで候 でもそれはただのギャグで、リオとは何の関係も!」

 

早口でまくし立てる武士であるが・・・

 

「ギルティ」

「ぶしいっ!?」

 

ゴライアスが持ち上げていた腕を離し、再び武士の首元に時雨流ラリアット炸裂。

武士は奇妙な鳴き声を上げて、もがき苦しみ始める。

 

「あんたたちのボスは強いわねえ~ 片腕一つで武士ちゃんをぶしぶし言わせてるわよ~」

 

なにそれ見たーい

リオちゃんつおーい

さすがボス猿

この世には二種類の人間がいる リオかそれ以外か

 

「イケメンってのがまた罪よね~」

 

ゴライアスは死にかけている髭を横目に、リオのスマホの画面に向かってまったり話しかけていた。

 

「って、のんびりしてる場合じゃなかったわね」

 

途中でタクシーを呼んだことを思い出した。呼んでおいて待たせるのは申し訳ない。ゴライアスはもう一度リオの腕を持ち上げて、今度こそ武士を苦しみから解放してあげた。

 

「三途の川を三往復したで候」

 

武士はゆらりと立ち上がると、頭をぐるぐると回して異常がないかを確かめる。

 

「タクシーは近くの駅前のロータリーにいるらしいわ そこまで運んであげて」

「あいわかった」

 

武士はもはや抵抗の気力すら起きなかった。吐き気など生命の危機で吹っ飛んでいたし、煽れば次は首が吹っ飛ぶ。武士は少し腰をかがめて、ターゲットを失ってだらんと降ろされているリオの片腕を、自らの肩に回しながらつぶやく。

 

「というかまだ寝ているのかリオは」

「ムニャ・・・オンブ・・・オンブシロォ・・・」

「寝てるんだよなああ!?」

 

おんぶをご所望だぞ♪

リオをおんぶとか何という役得

ゴリラじゃなくてコアラだったんだな

いとうらやま

 

「ああもう、どうにでもなるがいい・・・」

 

武士が吐息のような声でつぶやく。

精神が摩耗した今は従順なしもべに成り下がっている。

武士がリオの隣に背を向けてしゃがみ込めば、リオは不思議と吸い寄せられるように武士の首に両腕を回し、武士が立ち上がればその腰に両足も緩く絡めた。

 

敵は本能寺にあり・・・リオは本能の女なり・・・

 

武士は考えるのをやめた。

 

「あら、そういえば忘れてたわ」

 

ゴライアスはそう言うとリオのスマホを手に取った。

 

「あんたたちもお別れよ」

 

そんなあああ

もうちょっとだけえ

ゴライアスの姉御おお頼むうう

せめて朝まで!

 

「だめよん 良い子は寝る時間なの♡ それじゃあ、おやすみのちゅううっ!!」

 

おえええええ

またきたあああ

寝ます

永眠します

オカマは二度刺す

 

ゴライアスの特大の投げキッスにより、配信主不在の雑談は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

時刻は深夜の3時程。

武士はリオをおぶって、駅前の大通りを歩いていた。この時刻になると車もそれほど走っていないし、明かりの漏れる店も少ない。

町はお休みモードである。

武士は歩道の脇に一定の距離間で並べられている街灯に照らされながら、駅前のロータリーに向かって黙々歩く。

 

「ねえ武士」

 

リオが唐突に口を開いた。

 

「なんぞ」

「何か悩みがあるかって最初に聞いてきたじゃん」

「左様」

「悩みっていうか、呟きなんだけど・・・」

「Tmitterか」

「そんな感じ」

 

黙々歩く。

 

「人間ってやりたくないことずっとしてたらさあ」

「ああ」

「いつか壊れちゃうよね」

「・・・そうかもしれぬな 知らないが」

「正直者」

「侍は正直者なのだ」

 

街灯が作り出す二つの影も、二人に付いて黙々歩く。

 

「やっぱそうだよね・・・」

「そうだな・・・」

 

すると武士は突然に立ち止まった。そうしてリオの脚を支えていた腕を離した。

 

「うわあっ」

 

リオは驚いた声と共にふらつきながら着地する。

 

「急に何するんだよ!」

「起きたのなら歩くで候!」

「いいじゃん!武士タクシーにも乗せてよ!」

「某、正直者なのでな! ああ、乗車賃払うなら乗せてもよいがあ?」

「けちっ 雑魚っ 貧弱ぅ」

「お主、最初から起きてたな!?」

 

もうすぐ夜が明ける。

 

 

 

 



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夢野雫可愛すぎだ!

リオは墓場から目覚めた死体の如く、身体から気怠さを放ちながらのっそりと体を起こし上げた。床に片膝を立てて座り込み、寝ぼけ眼を下に向ける。自宅の床だった。

ベッドじゃなくて、茶色い床・・・。

昨日、血液と交換する勢いで飲んだアルコールがリオに頭痛を引き起こしている。頭イライラで奥歯をキリキリ。リオが記憶を振り返れば途中から振り返れる記憶が無いので、意識を飛ばしていたことに気が付き、視線の先のかったい床から帰宅後に力尽きたことを理解する。

また、記憶の途中静かな夜の町にいた気がするし、大人げなく犬みたく武士と吠え合っていた気もしている。しかしまあそれは気のせいだな、とリオは苦い顔して忘れ去った。

 

まあLIMEはするんですけどね

 

リオが「迷惑かけること山の如し、ホントすまんガチ候」と江戸と現代のハイブリット構文を送れば、秒で既読のマークが着いた。妙なキモさを感じたリオは、返事が来る前にスマホの電元を落とすと、ベッドの上に放った。

時刻は朝の7時である。

”寝足りないぞ”と身体が言う。

夜更かし名人で寝不足魔人こと不健康リオちゃんの体内時計は、睡眠時間が足りない事を、靄のような眠気を脳内に漂わせることで教えていた。

体感4時間程度の睡眠である。

しかし早起きは三文の徳とも言う。

起きることにした。リオはゆっくり立ち上がると台所へと行き、冷蔵庫から飲み口がキャップの牛乳パックをばっと取り出した。キャッ、パッ、ばっ!

そうして眠気を払うように、腰に手を当てラッパ飲み!ラッパぁっ!

リオは美味しそうに喉を鳴らして、乾いた身体に牛乳を注ぎ込んでいく。

 

アルコールが混ざって牛乳カクテルぅ!な感じで薄まってくんないかな・・・

 

薄まってくんないのである。

リオは空になった牛乳パックをくしゃりと折り畳むと、ゴミ箱にダストシュートした。

それを見ているものがいた。

リオはウーパールーパーを飼っている。体長18cm程の薄桃色のちっこい胴長ライオン。これのお家の水槽が、台所とリビングを仕切るように設計された長細い台(台所とリビングの間の通路を作り出す)に置かれている。

以前にその水槽を使ってブレイクダンスするセミを捕まえたこともあるが、それはまた別のお話。ともかくとして、リオは今はウーパールーパーを飼っている。それが口から泡をぷくぷくと吐き出しながら、投げたは良いものの上手く入らず、ゴミ箱に斜めに立て掛かって幅取ってうっざい牛乳パックを、ゴミ袋に入れなおしているリオを捉えていた。

 

「見せもんちゃうぞごらあ~」

 

リオは首をうー太(ウーパールーパーの名前)に向けながら、間延びした声でそう言った。うー太は変わらずリオを見つめ、ぷくぷく泡を吐き出している。

それは無表情で愛らしい。

リオは”ふふんっ”と小さく笑みを浮かべると、水槽の前までやってきて、うー太と視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

 

「おはよ~うー太 元気かぁ?」

\プクプクプク/

 

勿論うー太は喋れないが、リオは構わずに話しかける。

うー太はリオの良き話し相手である。病める時も、健やかなる時も、そっと寄り添い泡を吐く。時折えらを動かして、やっぱりぶくぶく泡を吐く。そういう存在である。

荒唐無稽かつ自己完結するリオのお喋りの相手には、画面越しの視聴者か水槽越しのウーパールーパーが適任である。なのでリオは喜々とした表情で喋るのだ。

 

さて本日の気まぐれなお題:地図。

 

「うー太さん、地図というのは便利なものだよ それを見れば誰でも目的地に到着できるっていうのは間違いなく人類の発明の一つだ」

\プクプクプク/

「だからこれからも利用され続けるさ、きっと」

\プクプクプク/

「ところで・・・」

\プクプクプク/

「地図見ても目的地に着いた試しがないんですけどお、どう思いますう??」

\ブクブクブクー/

「そうっすよねぇ~~すぅっ」

 

途中までエセ知識人のように大仰な口ぶりで、途中から方向音痴の情けない口ぶりでひとりでに喋るリオである。ちなみにうー太は”私が人生の目的地を示してあげよう”と言っている、らしい。

この一連の流れが雑談配信で日夜語られているとあっては、視聴者が多少おかしくなっても無理はないし、それを乗り越えた先のゴリラと考えれば納得と言えるかもしれない。(?)

ともかくとして、こういう遊びである。

リオは満足気に笑みを浮かべると、ウー太に粒状の餌を与えた。うー太が水中を泳いで、沈む餌を追いかける。そして吸い込む。

餌を食べるうー太を眺めていたリオであるが、途中で自身の腹が鳴る音がして、まだ朝食を摂っていなかったことに気が付いた。

 

「うー太、私はパンダ」

 

リオは朝食はパン派である。

視線を外して立ち上がると、朝食の食パンを取りに行った。

 

 

 

朝食を終えたリオは、退屈しのぎにとPCでNowTubeを開く。すると丁度、夢野雫が配信をしていた。サムネでは銀色の長髪を携えた天使が、にっこりと笑みを浮かべている。

勿論、夢野雫である。

アイドルは静止画でも可愛さを振りまく。道端ですれ違えば10人中8人が振り返り、残り2人は天に召される。

リオは自身の思いがけない幸運ににやりと笑みを浮かべると、配信の視聴を始めた。

 

 

 

「は~い それじゃあ次は、もっちーでうさぎさん達から募集したセリフ読み上げ大会を行いますよ~」

 

きちゃあああああ

ありがとうございます!

楽しみ~

癒しです

やったー

 

「はううっ 幼稚園の先生みたいに言っちゃいましたね」

 

ママ―

先生えー

雫ママ~

ああああ好こ

 

おっとりとした声がリオの耳に届く。

”あ゛あ~”とおっさんのような声を漏らしながら、リオは天井を向いて雫の声を噛みしめた。

 

やっぱこれだわ~

 

リオは”お薬”などキメたことは無いが、今間違いなく”夢野雫”をキメているという自信があった。

それ程までに彼女の声と姿は魅力的に映っているのだ。

 

「まず最初のうさぎさんは・・・

 

”雫ちゃんがお姉ちゃんになって『ねえ、一緒におねんねしよっか』って言ってくれたら、20年間悩まされている不眠も解消するかもお!!”

 

とのことです」

 

超人の民で草

これは幼児プレイ!?

絶対癒されるやつう~

良シチュエーション

 

リオは心の中で、このもっちーを送った人に拍手を送る。寝つきの悪いリオには、なんともどんぴしゃなセリフである。

 

「寝不足ウサギさんですね~了解しました~ それじゃあぐっすり眠れるように、心を込めて読みますね」

 

ざわ・・・ざわ・・・

くるう

ドキドキ

楽しみ

 

くる。

 

”ふふっ 眠れないの? ・・・ねえ、、私と一緒におねんねしよっか?”

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

ねりゅうううううううううう

囁き声やばばばばば

あああっ(尊い)

可愛すぎ

 

雫はマイクに口元を近づけたのか、吐息混じりのしっとりとした声で視聴者の鼓膜を揺らした。

それは普段のふわふわした雫の雰囲気とは違い、年上、ひいては大人の色気を含み、全てを包み込むような声音だった。

リオにとっては、身体をぬるま湯で溶かされるような形容し難い甘美な響きである。

リオは無言で机をバンバンと叩いた。身体中を尊いエネルギーが駆け巡り、許容を超えた体は衝動的に拳からエネルギーを発散した。

 

「へへへ~ 照れちゃいますね」

 

最高です

まじ女神

たまらん

もう永眠してもいい

ありがとうございます!

 

しずくちゃあああああん

 

「はい、それじゃあ次のうさぎさんです ええと、

 

”兄におもちゃを取られて泣いちゃう妹をやってほしいです”

 

・・・なるほど」

 

今度は幼くなるのかw

泣くのは難しそう・・・

がんばえー

これは期待

 

「泣くのはやったことないですね でも何事も挑戦ですよね!」

 

はりきっている雫の声に、リオは先日の記憶を思い返していた。

実は雫の泣き声も泣き顔も、既にリオは知っていた。それを間近で見ていた。恐らくは視聴者のだれも知らない姿を。

しかしそれとこれとは関係が無い。

今は夢野雫ver妹である。

 

「いきまーす」

 

はーい

かもおん

くる・・・

いらっしゃあい

 

”や゛た゛あ゛あ゛あ゛や゛た゛あ゛あ゛あ゛お゛兄゛ち ゃ゛ん゛か゛お゛も゛ち゛ゃ゛と゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛”

 

ロリだああ!!

おもちゃ取られてて草

可愛いいいい

可愛すぎかて

 

夢野雫は先ほどとは打って変わって、幼稚園児ぐらいの幼女の泣き声をびりびりとマイクに轟かせた。

庇護欲をこれでもかと煽られ、リオは奥歯を噛みしめて身体を震わせた。

危なかった。目の前に雫がいたら間違いなく抱きしめていた。

 

「へへ~ 意外とどうにかなりましたね」

 

雫ちゃんすげえな

こんな妹が欲しかった

抱きしめてええええ

心に直接攻撃してくる

 

「ちなみに私の配信ではお兄ちゃんの割合が70%、お姉ちゃんの割合が30%なんですよ」

 

こんな妹、可愛すぎる!

男だけじゃないのはさすが雫ちゃん

養いたい

可愛い

 

「それじゃあ次のうさぎさんです 

 

”愛していた兄から女のにおいを感じ取り、兄に詰め寄る妹をください”

 

です」

 

ヤンデレだああ

これは特殊だww

できるんかこれ?

演技力がいるね

 

「ブラコンウサギさんですね~ でも大丈夫です 私は演技力に自信があるんですよ~」

 

せやな

頑張れ~

雫ちゃんは天才

いけいけ~

 

凄い変化球だな・・・

 

リオは苦笑する。

 

「いきまーす」

 

どんな感じになるのかなあ・・・

 

”お兄ちゃん、女の人と付き合ってるんでしょ?私と結婚するって約束したよね?え、小さい頃の話?そんな!私信じてたのに!!ずっと信じてずっと好きのままずっと生きてきたのに!!!私がどれだけお兄ちゃんのことが好きか知らないんだ・・・私はお兄ちゃんの事大好きなのに 好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでだーーーい好きなのに!!”

 

すごい(小並感)

ヤンデレだあ・・・

上手すぎぃ!

演技力がカンストしとる

雫ちゃんしゅごい

 

すっご・・・

 

夢野雫の声は視聴者にもれなく鳥肌を立たせ、次に絶賛の嵐を引きおこさせた。

 

「ウサギさんたち、褒めてくれてありがと~ でも私が好きなのはうさぎさんのみ・ん・なです♪」

 

コメント欄はあまりの可愛さに発狂する視聴者の山。

 

こんな感じで雫の配信は大盛り上がりで続いていく。

 

 

 

リオは夢野雫の配信を見ながら、ぼんやりと考え事をしていた。それは夢野雫の心中である。以前に彼女はリオの部屋に訪れて、リオの上に馬乗りになって、リオへの想いを涙ながらに語っていた。

彼女は確かに言った。”アイドルになんてなりたくなかった”と。そうであるならば、夢野雫は今の配信も苦痛に感じながらやっているのだろうか。

リオは思う。

もしもマイナスの感情を持ちながらでこの配信ならば、それはもうめちゃくちゃすごいことだ、と。夢野雫は幻想とも思える視聴者たちの理想像を、その鈴のような声と愛らしい見た目で見事にこなし続けている。視聴者たちの熱狂ぶりがそれを裏付ける。

 

彼女は苦しんでいるのだろうか

 

もしも苦しみを感じているのならば、それに耐え続けるならば、やがてそれは自らを狂わすことになる。リオは自分の過去を振り返る。呪いのような過去を。

 

彼女は苦しんでいるのだろうか・・・

 

雫もやがて、押しつぶされてしまうのだろうか・・・

 

思考を続ける。

 

 

 

 

リオのスマホが突然に着信を告げて、リオはがばりと頭を持ち上げた。思考に意識を沈めていたリオであったが、気付けば眠っていたらしかった。

PC横の机に置いたスマホを手に取る。着信相手はマネージャーである。

 

「お疲れ様です はい、 はい。 はい、え?」

 

「それほんとですか?」

 

「夢野雫と番組に出るんですか!!??」

 

番組に出るらしい。

 

 



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番組に出るらしいんだ!

リオの所属する事務所はとてもでかい。具体的な数で表せば所属Vtuberは100名を超え、さらにはチャンネル登録者数が50万人を超えるような化け物さえも何人か抱え込んでいる。たくさんのVtuber事務所が群雄割拠する現代においてもそれほど人数が所属するところは他に無く、今や電脳世界に雑草のように蔓延るVtuber達の中において登録者数50万人は驚異的な数字と言える。

少し人気のあるVtuberの背後を見れば、大抵その事務所の看板が立っているというのが昨今である。ともなればこの事務所、自然と知名度は高くなり影響力も大きくなる。

他の追随を許さない圧倒的な大手。それがリオの所属している事務所であった。

そんな事務所が自社のVtuber達を売り出すために、紹介番組としてNowTubeでの配信を隔週で行っていたとしても何ら不思議はないだろう。

司会に一人立つのはVtuber。ゲストでやってくるのもVtuber。

形式はトークバラエティに近いが定まっているわけでは無い。要はゲストの魅力をアピール出来ればそれでいいのだ。そのために出演者ごとに企画が練られたりしているわけである。

ファンたちの間では、それぞれのいわゆる”推し”の意外な一面が見れるとして、番組は概ね好評であった。そしてそんな番組に夢野雫と時雨リオが呼ばれた。確かに二人が呼ばれた。

では主役は二人か?

いいや、一人だ。

夢野雫ただ一人だ。

リオは夢野雫と隣同士で席について、テーブルを挟んで向かいに座るスタッフから番組の説明を聞きながら、そんな他愛の無いことをつらつらと考えていた。

 

スタッフが言う。

 

「先日のお二人でのホラーゲームのコラボを見て、お二人が合わされば最強だなと思いまして」

 

リオの脳内翻訳によれば、”時雨リオは夢野雫を活かすのに最高の素材だなと思いまして”である。それは被害妄想などでは無い。従来より、この番組に呼ばれるVtuberは事務所からの期待をバリバリに背負った新人か、勢いの後押しをしたい話題性のあるVtuberと相場が決まっていた。そして時雨リオはそのどちらにも当てはまらない、可もなく不可もなくそこそこ人気の中堅Vtuberである。

とどのつまり、時雨リオはおまけ。

 

・・・ふむ

 

そのことについて、しかしリオは腹を立てたりはしない。むしろその合理的な選択を当然のものとして受け入れる。

(事務所に怒られる可能性があるので表立っては言わないが)自身のチャンネルを大きくすることに野心も大望も熱意もないリオにとっては、何ら気にする要素が無い。それどころか、夢野雫と再び配信できることに楽しみを見出してさえいた。

 

私が薪だとしたら、雫さんはメラメラ燃える炎!”雫”なのに燃えるとか!なんか草ァ!

 

「それではこのような段取りでよろしくお願いします」

 

スタッフの声。

気付けば打ち合わせ終了。

スタッフはリオと雫の二人に頭を下げて椅子から立ち上がった。二人もそれを見て立ち上がれば、お互いに”お疲れ様です”と挨拶をして、スタッフは部屋の出口である扉へと歩いていく。二人はその離れていく後ろ姿を何ともなしに見送っていた。が、扉の前まで歩いたところでスタッフが急に立ち止まり、”あっ”と声を漏らしたかと思うと、何かを思い出したかのような表情で二人の方へと振り返った。

 

「忘れてました! あっ、いや、これは言っても言わなくてもどちらでも良いと言われているんですが・・・」

 

と前置きをして

 

「夢野さん!番組の最後に良いことがありますので、是非!楽しみにしていてくださいね!!」

 

スタッフが笑顔を浮かべながら雫へそう語った。雫が困惑して”あうっ? えぇ?”と新種の可愛い動物的な(おそらく小さくて毛玉的な)鳴き声を上げている間に、スタッフは今度こそ部屋を出て行ってしまった。

 

Q言わなくても良いことだけど言いたくなっちゃったのはな~んでだ? Aそれは、スタッフが雫ちゃんのファンだからで~す 私もで~す あちしもよ~ん

 

リオは心の中で棒読みクソ構文を作って遊ぶ。

良いことと言われても、二人には全く想像がつかなかった。

 

良い事ね・・・ 雫さん生誕おめでとうサプライズ来るか~?

 

などともリオは思ったが、番組収録の日はべつに夢野雫@大天使が誕生した日ではないことも思い出し、謎は深まるばかりである。

 

「雫さん、何か良いことがあるらしいですよ」

 

リオは視線をずらして、雫の横顔を見た。

 

「そうみたいですねぇ」

 

雫は顔を横に向けて、リオを正面に見た。

 

「なんだと思います?」

「リオさんの抱き枕の発売決定とかですかね?」

「それどこに需要があるんですか」

「それかリオさんの匂いがする香水とか!」

「それどこに使い道があるんですか」

 

ていうか私の”匂い”ってなんだよ 絶対”臭い”の間違いだろ ・・・いや誰が臭うんじゃこら

 

「いやあ、なかなか予想がつかないですね」

「そうですね・・・ あ、でも一つ見つけました」

「え? 何ですか?」

「リオさんを抱きしめられることです!!」

「はい?」

「リオさんを抱きしめられることです!!」

「あ、聞こえなかったわけじゃないです」

 

目を輝かせて嬉しそうに言った雫に、リオは落ち着いた口調で言った。

 

「リオさん!聞いてくださいリオさん!」

「はい 聞きまくりですよ雫さん」

「スタッフ亡き今、ようやく私たちは二人っきりになれたわけです!」

「さらっと殺さないでください」

「私たちが二人っきりになったら必ずやることがありますね!」

「挨拶ですか?」

「ハグです!!」

 

雫は両手の拳を胸元までぎゅっと引き寄せながら、前傾姿勢で前のめりになってリオに熱弁した。リオはその熱から逃れるように、身体を後ろへと反らせていた。

 

ハグとか初耳なんですがそれは

 

「すみません ハグとハゲには触れるなというのが我が家の教えなので」

「ラブにも触れてみませんか?」

「そっちの気(毛)は無いです」

「りおさああああん」

 

雫はリオの言葉を遮るように両手をがばりと広げると、リオの背中にぐるっと巻き付けて、自らの身体にぎゅっと引き付けた。

リオと雫には身長差がある。リオの方が小さい。ので、リオが少し視線を上げればいつくしむように見下ろす雫の視線が、少し視線を下げれば包み込むような豊かな双丘があるという状態。

そのため雫がリオのことを抱きしめれば、リオは自然と雫の首元に顔をうずめざるを得なくなる。

顔をもぞもぞと動かして雫の肩から顔を出す。

 

「リオさんはいつ抱きしめても暖かくて柔らかくて気持ちいです!」

「冷たくて硬かったら死体か冷凍したボクサーでしょうね」

「も~幸せです 頭がふわふわ~って感じになります!」

「ヒトを麻薬みたいに言わないでください」

「飛びそうです」

「落ちてください」

 

興奮する雫に口ではどうのこうの言っているが、実際はリオも心拍数が上がっていた。

密着した身体から程よい熱が伝わり、甘い匂いが伝わり、しなやかな柔らかさが伝わっている。。

 

この人に抱きしめられたら誰だってこうなる・・・

 

悪くないと感じている自分に言い訳をするように、リオは心の中で独り言を言う。

 

抱き枕が欲しいってのも、まあ、分かるかも・・・

 

これも独り言。

 

「雫さん、あの・・・とりあえず番組よろしくお願いしますね」

 

リオは顔を上げて、雫の顔を至近距離で見つめながら言った。

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします!」

「とりあえず楽しめるといいですよね」

「そうですね!」

 

これは共有。

 

 

 

 

 

「ってことで明日のこの時間、私は雫さんと一緒に”ぶいぶいっ!”に出演することになったよ」

 

リオは事前の告知もかねて、自身の配信で番組に出る事を語った。

 

まじか

凄すぎ!

Live配信だけど大丈夫か?

え!あの表舞台NG系Vtuberの時雨リオが!?

放送事故起こりそうw

 

「まあ大丈夫でしょ いつも通りやっとけば」

 

それはまずいw

いつも通りは絶対にダメだろww

ゴリラ抑え目ヒト増し増しで

ドラミングとかすんなよ!絶対だぞ!

雫ちゃんとまたコラボじゃん裏山

 

「とりあえず気合入れてくわ」

 

楽しみにしてる

うほお(頑張って)

絶対見るぞ!

録画の極み

バナナくえ

 

「ということでエールとかどうぞ」

 

炎上するなら派手に燃えてこい

雫ちゃん泣かしてこい

放送事故起こしてこい

司会をゴリラにしてこい

どすこい

 

「みんなきらい」

 

 

 

 

次の日。

 

「それではみなさんお待ちかね!本日のゲストでーす!!!」

 

司会の声。

番組が始まる。

 

 



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”ぶいぶいっ!”だ![1]

すみませんそこそこ加筆修正したので投稿し直しました.
あひぃじょ。


「あっっっっはあーーーーーーーー」

 

まるで鳥の喉を締め上げたかのような、いやに甲高い誰かの声が辺り一帯に響き渡る。そこはVtuber紹介番組”ぶいぶいっ!”の収録を行うスタジオである。その収録スタジオを囲むようにして、たくさんのスタッフや機械が並んでいる。といっても視聴者の目には、そのようなごちゃごちゃは一切映ることはない。代わりに配信画面にあるのは、一面真っ白な景色と、横並びに置かれた2脚の椅子と、少し離れて向かい合うように置かれた縦長の台。それぞれが視聴者側へと向いている。

さて、その台。それは大人の身長より少し低くて、そして司会のための台。

ので、その後ろに立っている眼鏡の青年は、つまり司会のVtuberということである。

名前を”吹聴口ノ助(ふいちょうこうのすけ)”と言う。先ほどから響いている、笛のような声の犯人でもある。彼は天に顔を向けて、口を大きく開きながら、甲高い声を響かせ続けていた。

放送事故ではない。壊れたわけでもない。配信は問題なく始まっている。”いつも通り”に始まっている。

 

今日は長いなw

15秒経過

頑張れ眼鏡

窒息するまで頑張って♪

 

コメント達が白い背景を横に流れていく。椅子よりも台よりも奥に行ったところの白い背景は、スクリーンのような役割になっていて、視聴者が書き込んだコメントが横にゆっくりと流れていくのである。

 

「ーーーーーーーーっっ ふうぅー」

 

苦しそうな表情を浮かべていた口ノ助であったが、とうとう声が出なくなり、大きく息を吐きだした。

 

20秒!

最新記録じゃんw

おめでとう眼鏡

チャレンジ終了

 

傍から見れば勝手に始まり勝手に終わった口ノ助(こうのすけ)の奇行であったが、視聴者に困惑した様子はない。ではこれは何だったのとかと言えば、番組冒頭でいつからか行われるようになった恒例儀式の一つ、”いつまで息が続くかチャレンジ”である。

尚、意味などは全くない。ただ苦しいだけである。廃止しろ。

15秒超えると晴れになるらしいがしかし、今は生憎の土砂降りである廃止しろ。

口ノ助は息を整えると、下がっていた顔をぐっと持ち上げて視聴者の方に向ける。そうして真顔で一拍置いた後に、わざとらしく笑みを浮かべた。

 

「さあさあ皆さま!こんにちわ!始まりましたよぶいぶいですよ!ええ?元気かって?元気ですよ!恐ろしく元気ですよ!”やるき元気むっきむき”とか言って!ガリガリなのにムキムキとか言って!うひひひひひ」

 

噺家のような抑揚のある口ぶりに、胡散臭い笑い声。弧を描いた口元には片手が添えられ覆われているが、口角に引っ張られる口のラインが指の隙間から見えている。

 

なにわろてんねん

相変らず長い

腹立つわ~

早くゲスト呼んで

 

口ノ助はVtuber界において相当のおしゃべり好きであり、自らを”口から生まれた系Vtuber"と自称するほどである。そうしてハロウィンの日には運営の悪乗りで、全身がでっかい唇だけの斬新な立ち絵に変身させられたこともあったが、本人は偉く気に入っていた。

曰く”いっぱい喋っても誰も文句は言わないだろ?”と。

それほどまでに喋ることが好きな彼だからこそ、言葉を発し続ける必要のある司会を任されているわけである。

口ノ助は後ろを振り返ると、背景にたくさん流れるコメントを見た。

 

「あはあ~っ 今日はゴリラとウサギさんがいっぱいいるわけだ!」

 

本日のゲストが夢野雫と時雨リオのため、コメント欄ではうさぎとゴリラが大量発生している。

 

「そうかそうかそうですか!いや~昔話みたいでいいじゃないですか~ってそれはウサギとカメだったか!、あっはあ!」」

 

口ノ助は口を大きく開けて、無駄に勢いのある裏声で笑った。ひとりでに会話を成立して楽しめる。

It's地産地消。

 

この笑顔、殴りたい

陽気だな~

陽キャ眼鏡

ウサギさんちーす

 

口ノ助は雰囲気が温まってきたのを確認する(温まってない)

 

「さて、それじゃあそろそろゲストさんを呼んじゃいますか!!!」

 

待ってました

くるう

はよはよ

いらっしゃあい

 

「それではみなさんお待ちかね、本日のゲストさんでーす!!!」

 

口ノ助がはりきった声と共に腕を伸ばして、口ノ助が立つ位置からは真逆に当たる画面の右端を指し示す。視聴者が誘導されるようにそちらを見れば、画面端から夢野雫がひょっこりと顔を出して、覗き込むように視聴者に顔を向けた。

その顔には柔らかな笑みが浮かんでいる。

 

きちゃああああ!!

可愛いいいい!!

雫ちゃあああんn

待ってましたあああああ

 

「うさぎさんもそうでない視聴者さんもこんにちわ~ 夢野雫です!」

 

こんにちわ!

ゴリラとウサギのハーフです!

あ゛あ゛あ゛あ゛

こんちっわああ

 

夢野雫は笑顔で視聴者に手を振りながらスタジオへと入り、画面の右側にある椅子の前へと立った。

 

「いやいやいやー よく来たよく来たお嬢様!!」

 

と両手をもみ合わせながらそう言って、

 

「待ってたんだよ~ なんたって俺も雫ちゃんのファンだからね!もう配信とかよく見てんだ俺は!」

 

と言って腕を組んでひとりでに頷く。

 

「え、本当ですか! ありがとうございます!」

「うひひひひ あ、座って座ってどーぞどーぞ!」

「あ、失礼しますぅ」

 

口ノ助は立ちっぱなしになっている雫に気が付くと、手の平で雫の後ろの椅子を指し示した。雫は、口ノ助と視聴者にぺこりと頭を下げながら座った。

 

「疲れるといけないからね!長くなるぜ~って言っても、ほとんど俺が喋ってるだけだったりして!あはあっ!」

「ふふふっ 吹聴先輩はお喋り上手な方ですもんね」

 

雫はニコニコと微笑みながら言う。

 

「いやあ~それほどでも~・・・あるか?あるかも!?あるなあ!!あはぁっー!」

 

愉快な百面相を披露しつつも最終的には”あはぁー!!”に終着する。口癖。病気。

 

「ああ、そうそう俺のことは好きに呼んでくれて構わないからね 口ノ助でもお喋り眼鏡でも、なんならイケメンこーちゃんとか!?まあもちろん冗談なんだけどぉねぇ!?」

 

くそ眼鏡

前世がインコ

ラジカセの擬人化

しゃべる悪夢

う る さ い

 

「それじゃあ・・・こーさんとか、どうでしょう・・・」

「あっはあー 良いねえグッドグッド! 雫ちゃんの可愛さに"降参です"とか言っちゃってね!」

 

やけに力のこもった口ノ助の声。

 

「・・・」

「・・・?」

「「・・・」」

 

その瞬間時が止まった。

雫は微笑を浮かべながら無言で口ノ助の顔を見て、口ノ助も無言でそれを見つめ返した。

静寂があった。

 

「・・・今日はいい天気だなあ」

 

土砂降りの雨である。

 

メンタル強すぎて草

それは無理だろwww

眼鏡もメンタルも硬いってか

酷い雨だよー^^

 

「さて今日はもう一人ゲストがいるんでね 早速呼んじゃおうかなと、思ったりしちゃったり!」

 

滑っちゃったり!

リオ姉貴ぃ~

助けてリオ

はよ呼んで

 

口ノ助は先ほどまでのことが何もなかったかのように、明るい声で言った。

 

「それではお待ちかね!もう一人のゲストさんの登場でーす どおぅぞー!」

 

そう言って口ノ助はもう一人のゲストー時雨リオーを呼んだ。

 

うほおほほお

うほおお

うほっほきた

うほおおおー

 

コメント欄にはリオの登場を心待ちにする沢山のゴリラが沸いていた。雫とリオが本日の番組に出演すると聞いて駆けつけてきたゴリラ達である。さらには先に夢野雫が登場して、焦らされているゴリラたちでもある。

そんな猿どもの期待を一身に背負っている時雨リオだが、しかし彼女は視聴者たちの意に反して全く姿を現さない。

 

リオ・・・?

遅刻かな?

寝坊だろ

酒を置いたら来るよ

↑カブトムシかな?

 

コメント欄がざわつき始める。

すると少し経って、ようやく視聴者たちはその姿を目にすることとなる。

安堵の目?いや、驚愕の目。

彼らは目を見開いて確かに見る。

 

地 面 か ら 生 え て く る 時 雨 リ オ の 姿 を 。

 

「ああ、えと、どうも 時雨リオです」

「いらっしゃ~~い」

「りおさ~ん♪」

 

笑顔を引きつらせるリオ。彼女は困惑していた。

時雨リオは地面から、頭部を始めとして、床を通過しながらタケノコのようににょにょきと現れ、最終的には身体全体がスタジオの床より現れた。

それはまさに、生えたという表現が素晴らしい。

 

”あはぁ~!!”な口ノ助!

ヤンデレな雫!

タケノコのリオ!

 

「・・・じゃないんですけど!! なんで私、床から生えてきたんですか!?どんな演出何ですか!?」

 

きたああああああ

生えてきたねえwww

初手タケノコで草

りおちゃあああああん

 

リオは広げるように伸ばした腕の、両手の平を上に向けて、言葉のリズムに合わせて上下にぶんぶん。感情の昂るジェスチャーを交えながら、誰に言うともなく、しかしあえて言うのであればスタジオ全体にいた人に向けて尋ねた。

リオもこの番組が好きでよく見ていたわけだが、こんな風に床から生えたVtuberは今までに一度も見たことが無かった。

タケノコ系Vtuberなど見たことが無かった。

 

「いや~今までに一度も見たことが無い登場!誕生!お見事!」

「そうですよ!今までに一度も見たことが無い登場ですよ!ていうかVtuber史上最も稀有な登場シーンですよ口ノ助先輩!」

 

これは愉快と笑う口ノ助に気づいたリオは、口を尖らせながらにつかつかと歩み寄りながらに言った。

口ノ助は尚も笑いながらにこう返す。

 

「でも考えてみてよ、リオちゃん!この登場はこの番組の歴史の中で無かったそしてこれから先も恐らくない!つまり唯一ってことなんだよお!?」

「唯一・・・?」

 

口ノ助は大げさに言うが、そもそもこんな登場に唯一もくそも無い。

しかしリオは矛先を収める。言葉を吟味するリオ。内容よりも、その言葉の響きが彼女の心の天秤を揺らすのだ。

リオはお馬鹿。

その視線の先に口ノ助は指を一本突き出す。

 

「ナンバーワーン!」

 

やけにネイティブな発音と共に、指をメトロノームのように振る。リオはその指を頭を振って追いながら、口ノ助の言葉を反芻する。

 

「ナンバーワーンっすか・・・」

「ナンバーワーン!」

「悪くないですね・・・」

 

リオは存外単純な生き物である。

 

首振りリオちゃん可愛い

口ノ助英語うまw

遊ばれてるw

ナンバーワン!

 

「ナンバーワン!はい、言ってみて」

「ナンバーワン!」

「どう?」

「すぅー・・・有りっす」

「だろお!?」

「ですぅ!」

 

\イエーイ パチンッ/

 

リオは何故か口ノ助とハイタッチをした。

 

何を見せられてるんだwww

リオはアホの子

頭溶けそうwww

 

リオの顔に浮かぶのは笑顔である。

 

「私は今も昔もリオさんがナンバーワンですよ!」

 

遂には口ノ助と踊り出しそうかというところで、リオの背後から声がした。振り返れば、そこに立つのは夢野雫である。

雫はリオと折角の共演なのに全然かまってもらえずに寂しくなり、リオと口ノ助の二人だけでずっと楽しそうにしているのを見て拗ねてしまい、そして居ても立ってもいられなくなってとうとう出てきたのだった。その証拠に、薄い桃色の頬は若干膨らんでいて、目がジト目である。

 

#かのぴっぴを返せ

 

「雫さん! こんにちわ 時雨リオです」

「私は今も昔もリオさんがナンバーワンですよ!」

「あれぇ~? 雫ちゃん、俺の時とは声のトーンが違うねぇ~?」

\グルル~/

「噛みつく用意があります!」

「雫さん!?」

「恐いねぇ~」

 

煽るような口ノ助のことはさておいて、雫はリオの両手を握りしめると顔を近づける。

 

「私は今も昔もリオさんがナンバーワンですよ!」

「おお・・・」

 

リオは迫る天使に感嘆の声を漏らす。

 

「その言葉・・・嬉しみが深みですね・・・」

「リオさんの嬉しみで私も嬉しみです」

「雫さん・・・」

「リオさん・・・」

「「えへへへへへへ」」

 

てえてえ

百合きたああああ

やっぱしずリオなんだよな~

キマシタワー

 

かのぴっぴ、奪還。

 

「あはあーーーっ 百合の香りぃっ!」

 

口ノ助、咆哮。

 

「かあーーーーこれがてぇてぇか!俺も混ぜてほしかった!!でも混ざりたくない!!あはあっーーこれがジレンマぁぁぁぁ!!!」

 

うるせえぞ眼鏡ww

叩き割ってどうぞ

その口縫い上げるぞ

かがり縫いでどうぞ

 

傍観者代表吹聴口ノ助、百合の波動に当てられる。

 

「そんなことより、リオちゃんリオちゃん、コメントを読んでみたかい????」

「んっ?」

 

口ノ助は背景を流れるコメントを指さしながら言った。リオは雫とのイチャイチャをストップして横のコメントの方に身体を向ける。

 

リオ姉貴が動いてるううううう!

もっと見せなさいよおらあああ

こっち向いてけろおおおおおおお

後ろ姿もレアだよおおおおおお

でも前が見たいよおおおお

 

「ああ、そっか」

 

リオはつぶやく。コメントにはリオの3Dの身体を喜ぶ視聴者がたくさんのコメントを書き込んでいた。先日のリオとコラボした際のホラゲー配信においては身体こそ自由に動かしていたが、その服装はホラゲー内のキャラの服装だった。つまり正真正銘の時雨リオの3D披露は今回が初めてということになる。

リオは喜んでいるコメントを見ると、自分も嬉しくなって笑顔が浮かんだ。そうして、配信画面に映るように振りると両手を振った。

 

「みんなああああ私は身体を手に入れたぞおおおおお」

 

お゛お゛お゛お゛お゛

やったぜええええ

蘇った魔王かな?

転生したらゴリラだった件

 

「いえええーーーいこんなこともできる~」

 

興奮したリオは自由な体を見せつける。

 

「サイドチェスト!フロント・ダブル・バイセップス!モストマスキュラ―――!!」

 

ポージング。

 

「うはーーーー! 仕上がってるよ仕上がってるよーー!!」

 

掛け声担当口ノ助。

 

何でポージングやってんだよwww

ボディビルの会場はこちらですか?

↑いいえ、こちらは無法地帯です

たのしいいいいいい

さすがに筋肉の量は普通なんだなw

 

リオは一通り新たな体の動きを見せつけると、満足した表情で雫の方へと向き直った。

 

「いや~雫さん、自由な体っていいですね!私はパソコンの前でよく動くからしょっちゅう立ち絵が止まっちゃってたんですよね」

「そうですね!よく白目向いて固まってましたね!」

「でもこれなら大抵のことは出来ますね! これとか!」

 

リオはそう言って床に手を着くと、足を天井に蹴り上げた。逆立ちぃ!!

 

「どやあっ!」

「うわあ、すごい!」

 

まじかよwww

やっぱリオってすげえわww

ほんまに猿やんけ

体幹強すぎて草

 

「よ、Vtuber界の凱旋門!スカイツリー!体操のお兄さんお姉さん!!」

 

※口ノ助は平常運転です

うーん、この

ゴミみたいな掛け声好き

テンション上がってんねえw

 

「よ、っと」

 

リオは満足した様子で身体を起き上がらせた。横でぱちぱちと拍手する雫に、恥ずかしそうにはにかむ。

リオは運動神経が良い。

口ノ助は時計をちらりと見ると、タイミングを見計らって二人へと口を開いた。

 

「さて、お嬢さん方 そろそろお席についてもらおうかなー? 早速、番組の方を始めようじゃない?今日は楽しそうなんじゃない!?間違いなーい! あっはあああーー」

 

とのことで番組が進行する。

 

 

 



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”ぶいぶいっ!”だ![2]

「そんじゃ、改めまして 本日のゲスト、夢野雫ちゃんと時雨リオちゃんでーす」

 

口ノ助は張り切った声で二人を紹介した。

二人の登場から今までのちょっとした会話と比べて、より張りのある引き締まった声を出している。それは今からが本格的な番組の始まりであり、口ノ助が司会として気合を入れたということの表れだろう。

 

「よろしくお願いします♪」

「よろしくお願いしまーす!」

 

口ノ助の紹介を受けて雫は穏やかな笑みを浮かべて、リオは陽気に明るい声で、それぞれの人柄を露にしながら挨拶をした。

その雰囲気を見れば、二人とも緊張していない事が分かる。雫は3D配信を既に何度か経験していることによる慣れである。リオは・・・持ち前の胆力である。(放送事故が友達)

 

「にしてもよく来てくれたねお嬢さん方~」

 

口ノ助がにやりと笑みを浮かべながら、少しおどけた様子で言う。

 

「マネージャーからは、いつもより大人しくしているようにって言われてますよw」

「私は緊張せずにいつも通りにって言われてますね」

「え・・・真逆じゃないですか羨ましい~」

「きっと日頃の行いですね♪」

 

さらりと言う雫である。

 

「べ・・・別に、警戒されるようなこととか、、してないはず、、、なんですけど・・・」

 

リオは言葉を若干詰まらせながらぼそりと呟いた。そのリオの瞳を、雫が真っ直ぐ綺麗な瞳で見つめるのだ。

 

\じーっ/

 

「え・・・えへへっ?」

 

\じーっ/

 

「・・・」

 

リオは表情筋を引きつらせて不自然な笑みを浮かべていたが、やがて雫の視線に耐えられなくなって、逃げるようにそっぽを向いてしまった。

 

図星だよー^^

リオー^^?

分かりやすくて草

嘘下手すぎの極み

 

雫さんの瞳は真実の口(格言)

 

そこへニヤニヤしながら遠目で立って見守っていた口ノ助が口で参戦する。

 

「あはあっ 実は俺もリオちゃんの配信を何度か見たことがあるのよなあ 確か俺が見た時は・・・料理配信で火災報知機が鳴ってたなぁ」

「う゛っ゛」

 

リオに25のダメージ!

 

出たあwww

肉を焼く配信→家を燃やす配信

ゴリラに火は早かったな・・・

ただハンバーグ作ろうとしただけなのになwww

あれは悪い夢だったw

 

雫も追加攻撃をひとつ。

 

「私がリオさんの配信で最近見たのは・・・中古のパソコンがウイルスだらけで、視聴者さんと一緒に戦って惨敗してましたね」

「く゛っ゛」

 

リオに30ダメージ!

 

「あの後、マネージャーさんに”危ないPC使わないでください!”って怒られたんですよね?」

「ま゛っ゛」

 

おまけに50ダメージ!

 

「あ、すみません! これあんま喋っちゃうと・・・」

「ダイジョブダイジョブデスヨ、シズク=サン、時効デスヨ時効、へへへ・・・ お゛え゛っ゛」

 

リ オ は 力 尽 き た

 

可哀想にwww

ほんまポンコツやな

まあ全部リオが悪いしww

取れ高の方から寄ってくる配信者の鑑

リオの配信はドキュメンタルだからww

 

椅子の背もたれにもたれかかりぽっかりと口を開け、魂の抜けかけているリオである。

その悪運や貧乏神の如し。積み上げた事故は山の如し。生み出した取れ高は海の如し。

 

怒られた回数は数え難し!

 

本人も意としていないのにイベントの方からやってくるのが、リオクオリティーである。それは視聴者を軒並み喜ばせ、無数の切り抜きを生み出す。

リオのライフという代償を払いながら・・・。

 

「さてここらへんで早速なんですけどもー、知らない人ももしかしたらいるかもしれないってことで、自己紹介の方してもらおうかなー?」

 

口ノ助は力尽きたリオを横目に番組を進めるべく、次の話題へと話を進めた。

自己紹介。

この番組ではどんなゲストが来ても最初に行われる企画の一つで、まずはここから、まだ知識のない新規の視聴者にゲストの情報を発信するのである。

 

「んじゃあ、雫ちゃんからいってみよーか?」

「はい、わかりました!」

 

口ノ助に促され、雫は元気よく返事をした。そこへカメラが寄って行って、配信画面には雫の顔がいっぱいに映る。

絹のように細く艶やかな銀色の長髪に、宝石のような真っ赤な瞳。

雫もカメラが寄って来たのに気がついてカメラに向かってニコリと微笑めば、視聴者の視界には笑う天使がドアップで映ることとなり、それはもう天界に召される視聴者の数々ががが・・・

 

あぁ・・・(尊死)

き゛ゃ゛わ゛い゛い゛い゛

好こ(直球)

ああああああああ

 

「はい、制限時間は一分だからね 二分じゃないよ三分じゃないよ一分だよ?ああ、三分と言えばカップラーメン、俺は最近辛いやつにはまっててさー ”南極ラーメン”てって言うの?あーれは美味かったねえってことでスタートォォ!!!」

 

謎の不意打ち。

 

「私の名前は夢野雫です 好きな動物はウサギd・・・」

 

流れるように始める雫。

 

唐突で草

不意打ち眼鏡

雫ちゃん普通に対応してるwww

全く動揺しないwww

 

「ウサギです 好きな色はピンクと白です 好きな映画はとなりのトロロ 小さい頃の夢はお嫁さんでした あとは」

「しゅうりょー!!!!」

\カンカンカンカン/

 

口ノ助がまだ喋ろうとしていた雫の言葉を遮るように声を上げて、どこからともなく台の上に取り出していたゴングを小さな木槌で打ち鳴らした。自己紹介終了の合図である。

 

「雫ちゃん 自己紹介やりきった?」

「そうですね ちょっと時間が足りませんでしたが、こんなもんだと思います」

 

それを聞いた口ノ助はにやりと笑みを浮かべた、

 

「ところがぎっちょん! 追加情報がありまあす!」

 

きたああああ

やたああああ

いええええええす

助かる

 

口ノ助は声高らかにそう言いながら、台の上にあらかじめ伏せておいたフリップを起き上がらせた。

 

「ドンっ! こちらっ!」

 

フリップには何やら文字が書かれている。

 

「”雫ちゃんはトマトが食べれない!?”でえす!」

 

口ノ助が両手に持って台に立たせているフリップには、”夢野雫はトマトが食べれない!?”とでかでかとした文字で書かれていた。これがこの番組名物の”眼鏡による追い自己紹介”である。あまり普段の配信では公言していないような情報も、このフリップによって明かされる。本人は恥ずかしい思いをすることもあるが、その意外性が視聴者に受けているとか。

そうして一つ目、”夢野雫、トマト食べられない件”。

 

「食べられないすか、トマト」

「食べられないです、トマト」

「なぜ食べられないですぅ?」

「なんか味が苦手で・・・」

 

雫が”えへへ”っと恥ずかしそうに苦笑いのようなものを浮かべていると、隣で死んでいたリオが蘇った。リオは口ノ助の持つフリップに目をやると、不思議そうな表情をして雫に声をかけた。

 

「意外ですね雫さん~ 私はトマトめっちゃ好きなんでバキバキ食べますけど!」

 

お か え り

トマトバキバキで草

バキバキっていう擬音語あるww?

リオのトマトは鋼鉄製なんやろ知らんけどw

トマトおいひいいいいいい

 

「あうぅ・・・リオさんトマト好きなんですか?」

「え?まぁ、好きですよ というか嫌いな食べ物無いんですよね、へへww」

「あ、じゃあ私もトマト好きです! 口ノ助さん、私トマト好きになりましたよ!訂正お願いしまーす!」

「おお、私のおかげですかね~」

 

雫が手をぴんと伸ばしながら、口ノ助に情報の修正を求めた。授業中、先生に発言を求める生徒のようである。その実、他人が好きという理由で無条件にそれを好きになるという超常現象が起きているわけだが、リオは気にせず関心している様子である。

口ノ助は雫の発言を聞くと、”それだ!”とばかりに雫の顔を指さした。

 

「雫ちゃん!良いこと言うねええ!! なんとですよ!なんとなんとなんとですよ!!こんな丁度良いタイミングでスタジオの方にはトマトが用意されております!」

「え・・・」

「好きになっちゃったんですよねぇ!あっはあ~~~!!!」

「・・・」

 

さっきまで元気のよかった雫であったが、急にしおらしくなってしまった。口ノ助の発言を聞けば誰だろうと、その次の展開を読めるものである。

すなわち・・・

 

「雫ちゃんには、今からトマトを食べてもらいましょおおお」

「うぅ・・・」

「そうしましょ!そうしましょ!ってことでトマトを呼びましょ! カモーン!」

 

\パチンっ/

 

口ノ助がリズムよくそう言って手を鳴らせば、黒子の衣装を纏ったスタッフが、手押しのワゴンテーブルをスタジオの中央まで連れてきた。そのテーブルの上には、白いお皿と、そこに等分された三日月状のトマトがいくらか乗っている。

思わず情けのない声を漏らす雫である。

 

間が悪いwww

雫ちゃんどんまい

まあ、隣にリオがいますしお寿司

とりあえずリオのせいってことで

いと哀れ

 

コメント欄では雫の不運を嘆くと共に、リオの悪運が発動した説が騒がれた。

 

リオが悪い(暴論)

 

「さあさあ立って立って!寄って寄って!」

 

口ノ助が急かすように囃し立てるので、雫は遠慮がちながらも立ち上がって、トマトの元へと近づく。リオも雫の後に続いて、立ち上がった。

カメラはトマトの映像を映す。

 

「どうですかこのボディ!素晴らしいでしょ!!今ならなんとこれが1980円!1980円!お安いでしょ!!でもこれだけじゃないんです!今ならなんとこちらのお塩をつけて3980円!!大変お買い得価格となっております~~」

 

口ノ助もスタジオ中央まで歩いてくれば、トマトのことを腕で指し示しながらふざけた調子で通販番組を真似事をしていた。

 

「どうぞ”ジャバジャバネット口ノ助”を今後ともよろしくお願いいたします」

 

お前向いてるぞwww

そっちやれよ

怒られろwww

 

「さてぇ? 雫ちゃん、ここにあるトマト、美味しそうなトマト 食べたいよね?」

「あ・・・うぅ・・・」

「割りばしもあるよ~、塩もあるよ~ ね?」

「んん・・・」

 

雫は見るのさえも嫌そうに顔を歪めながら、言葉にならない苦の感情を吐息交じりの声に漏らしていた。その独特の香りで既に、雫は白旗を上げている。

 

「どうするどうする雫ちゃーん」

「い・・・今、お腹減ってないです」

「ならばこれは仕方ない! 雫ちゃんは、仲良しのリオちゃんが好きなトマトでもさすがに好きなれなかった、ということで先にいきまっしょい?」

「それも嫌ですぅ・・・」

 

雫はトマトが嫌いなのは事実であるが、それでも強情に食い下がる。彼女をそうさせるのは”リオの好きなもの=トマト”という図である。

雫はトマトを好きなりたい。それはひいてはリオと好きなものを共有できるという喜びに繋がるのである!

そしてこういった雫の様子こそが、雫とリオを同時にオファーした番組制作の狙いでもある。すなわち、仲のいい時雨リオと絡ませて、”何か雫の新しい表情を視聴者に見せて、雫の可愛さ増し増し作戦だぞ!”である。

 

・・・このトマト、やはりリオが引き寄せていた(諸行無常)

 

せめて1つでもトマトを食べたい雫であるが、なかなか決心がつかない様子で、まるで因縁の敵のごとくトマトを見下ろし、睨んでいる。視聴者には一切の動きを止めた棒立ちの雫と、その視線を受けて一切動けないトマトの絵面が映っている。そして両者の間に火花を散らすような映像加工を施しているのは、ただのスタッフの悪ふざけである。

 

可愛い

遊ばれてて草

食わんでいいのにww

何が雫ちゃんをそこまでさせるのかww

 

達人の間合いで睨み合っている雫とトマトであるが、不意に横から手が伸びた。

 

「一個もーらいっ」

「あっ」

 

リオがトマトを一切れ掴んで、そのまま口へとぱくり。

 

\もぐもぐもぐ/

 

雫に見つめられ中、リオも雫のことを真っすぐ見つめ返しながら口だけを小動物のように動かして、やがてごっくん。飲み込んだ。

 

「あっはあ~おいっしい」

 

リオが歯が見える程に口を横に開いた笑みを雫に見せた。雫はそれを見ると、心が締まるような何とも言えない羨ましさを感じた。

トマトに。

 

リオさんをあんな笑顔にできるなんて!私も食べてほしいかも・・・

 

「”あっはあ~”ってそれは俺のセリフだぜリオちゃん!!」

「えへへ~ うつっちゃいましたね~ あはあっ~」

「”あはあ~”じゃないな~”あっはあ~”だな~」

「”あはああ~”ですか?」

「違う違う”あははあ~”だ  ありゃあ?」

「あはあーー」

「あはははああー」

「「あはああーーー」」

 

なんだこいつらwww

仲良しで草

男子小学生かな?

IQが低いwwww

 

リオと口ノ助は波長が合うのか、ふざけ合って笑いあっている。雫はそれを尻目に何とかトマトを攻略できないかと考えていた。

 

トマトはこの短時間じゃきっと嫌いなままです  でも、それを上回る好きがあれば・・・

 

雫は考える。

 

好き・・・好き・・・

 

「あっ!」

 

雫は思考の中である名案を思い付いて、思わず声を漏らした。雫の声に反応した二人が、雫の方へと振り向く。

雫のその表情は先ほどまでの苦悶したものとは違い、自信に満ちた晴れやかな表情である、それは雫の心中を分かりようもない他の人の目からしても、明らかに良い考えが浮かんでいるのが分かるほどの変わりようであった。

 

「どうしたんですか?雫さん?」

 

リオが尋ねる。

 

「私、いい方法を思いつきました!」

「いい方法?」

「はい!それはリオさんが私にトマトを食べさせていただきたいのです!」

 

属に言う”あーん”である。

 

「へ?」

「あーんしてくださいリオさん!」

「あーんですか?」

「あーんです」

 

リオが”ん?”と疑問符を浮かべて、笑顔で首を傾ければ、鏡のように雫もこてんっと首を傾げた。

 

Let's あーん

 

きたああああwwww

百合いいいの華があああ咲いたよおおおお

良いイベントだ

さいこおおおお

 

雫は好きという言葉から当然のようにリオを連想して、さらにそこからリオの表情を連想して、さらにそこから雫を見つめるリオの顔を連想した。雫はリオに見つめられると得も言われぬ幸福感を味わえるのである。そうして、トマトを食べながらもリオに見つめてもらえる”あーん”こそ最強の方法であるという結論に達したのだ。(迷推理)

 

「さあ!盛り上がってきたああ!!!実況は俺こと吹聴口ノ助(ふいちょうこうのすけ)がお届けしますぅ!」

 

口ノ助は画面左、本来の立ち位置へと戻り、意識を実況モードへと切り替える。

百合の間に雑草(男)が紛れ込んではいけない、とは彼の持論である。

 

「さああどんな展開が見れるのでしょうか嗚呼」

 

口ノ助を煽りを受けて、そして正面の雫の期待する笑顔を見て、逃げ場が無いことを悟ったリオである。正直、あーんは恥ずかしいが、この前の雫とのポッキーゲームと比べたら幾らかましという思いがあった。

 

あの時は最後、緊張で私バグってたしな・・・ アーカイブ未だに見たくない・・・(遠い目)

 

リオは苦い思い出を一瞬思い出しながら、トマトを一切れお箸でつまむ。そうしてそれを持ち上げて、雫の口の前に運ぶ。

 

お箸の持ち方綺麗

箸の使い方が上手いゴリラ

トマト来たああ

入場です

 

「きたあ!トマトが雫ちゃんの口元までやって来たあ!」

 

「雫さん、口開けてください」

「はいぃ」

「はい、あーん」

「あーん」

 

雫が素直に口を開けた。そしてリオもそれに釣られて口をあーんと開けていた。しかし本人は無自覚なので気付いていなかった。

 

リオも口開いてないかwww?

可愛い

なんだこの可愛い生き物

二人とも可愛い

雀みたい

 

「お口が開いている! これが無自覚の力! そして雫ちゃんもやはり可愛い!キュート!ベリーにキュート!」

 

「ほい、いきまーす」

「あーーー」

\ぱく/

「偉いですねー雫さん」

「むぐぅ!むぐぅ!(リオさん!リオさん!)」

 

雫はトマトの味は気に入らないままであるが、それよりもリオに褒めてもらえたことにより、幸せホルモンが脳内よりドバドバ分泌され雫の心を潤わせた。そのため、トマトが口にいるので喋ることが出来ないが、たまらずに声にならない喜びを不思議な鳴き声で表していた。

 

「雫ちゃんが鳴いている!何とも至福の表情だ!そこまでトマトが美味しかったのか!?一方でリオちゃんは満足げな表情だ!」

 

ああ^~

癒し

神回

仕事がんばりゅうう

 

やがて雫はトマトを飲み込んだ。

 

「リオさん見てください!トマトが無くなりました!」

 

口をパカリと開ける雫。リオはそれをどんな表情で見ればいいのかと困った様子である。

 

「あ、はい、そうですね すごいですよ雫さん」

「もっと!もっと褒めてください!」

「雫さんすごいです!日本一! よ、トマトクイーン!」

「ああ~~」

 

トマトクイーンとは?

 

「掛け声のことならこの口ノ助にお任せ!!」

「がるるるるr」

「怖いねえ」

 

口ノ助は条件反射のように飛び出してきたが、わんこ雫によりすぐに撤退した。

 

「リオさん撫でてください」

「うぇ?」

「リーオさん」

「あ、はい」

\ナデナデ/

「うへへへへへ~」

 

雫はわんこ雫となりて、頭わさわさで頬の緩み切った幸せな表情を見せた。

 

・・・トマトクイーンて何?



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”ぶいぶいっ!”だ![3]

前話で”雫の瞳はマーライオンのお口(格言)”と表記してましたが、正しくは真実の口でした。マーライオンだとシンガポールで水吐くやつですからね。
ドライアイじゃ無さそうで羨ましい。


トマトを乗せたワゴンテーブルはスタジオの外に運ばれ、3人はそれぞれ定位置へ。雫の自己紹介の時間は終わり、一旦空気を落ち着けた。

 

「じゃあ次に、リオちゃんの自己紹介いってみよーか!」

 

そう言いながら口ノ助が眼鏡の内側で目を見開いて、リオと視線を合わせると、白い歯を見せてにっと笑った。”いってみよー”っと表情が語っていた。リオは返事をするように小さく頷く。

彼の声に反応するようにカメラがリオの顔をアップで映した。

カラス色のショートカットに、少し睨むような目つき。不良っぽいと未だにいじられることもある。そうした外面の鋭さをちょっぴり放っている時雨リオの顔立ちである。(耳にピアスが欲しいと絵師に相談中)

それは清純な夢野雫のイメージとはある意味正反対にあると言えるだろう。

不良とアイドル。ゴリラと天使。

しかしその対極にある二人がコラボすることによって対比され、二人の魅力がそれぞれ自然と引き立っているというのは間違いのない事実であった。

リオは寄ってきたカメラに気が付くと、首を少し傾けて、レンズを見下ろしながらにやりと笑った。

 

かっけえええ

姉貴ぃ!

変顔しろ

これは悪タイプ

 

単なるかっこつけである。

 

「それじゃあ一分だよ、一分!ああ、関係ない話なんだけどさ最近裏山でシイタケがいっぱいとれてもう大変で・・・猪も捕っちゃったよ?ヴァーチャル猪をね!あはあっ!今度あげるからねリオちゃん!ってことでよーいスタートぉぉぉ!」

 

口をOの字に開いたまま威勢良く伸ばされる声。

どうでもいい情報を早口でまくしたてた末の、ついでとばかりに始まる自己紹介タイムである。リオは肩の力を抜いてリラックスした様子で喋り始めた。

 

「どうも~、時雨リオで~す 好きな食べ物はグレープフルーツと酒 趣味は筋トレとかランニングとか」

 

順調に喋る。

 

「あ・・・あとウーパールーパー飼ってます んん、まだ時間ある・・・あとは・・・先日カラスが」

「終了ぉぉぉ~~~~」

 

まだ喋っていたリオの言葉を遮るように、口ノ助が間延びした声を上げた。

 

カラスがどうしたって?

口ノ助ぇ!まだリオが喋ってるでしょうがぁ!

保護したとか?

糞されたとかかね?

まあリオだしなww

 

口ノ助がちらりと横を見て、それらのコメントを確認した。

 

「ほほお~ どうやらコメント欄がリオちゃんの話の続きが気になってるようですね~ そんじゃ特別にそこだけ喋ってもらいましょうか」

「え、いや別に大したことないやつですよ?」

「ま、とりあえずどうぞ」

「・・・カラスが頭に乗りました」

「現場からは以上でーす」

 

そ れ だ け 

何なんだよwww

止まり木に見えたんだろうな・・・

いるのかその話ww

 

「いやごめん、ほんと大したことなかったわw 皆、一回は乗ってるってことだよね?通過儀礼みたいな?」

 

そういうことじゃねえよww

皆乗っけたことあるみたいに言うなw

何を通過したらそうなるんだww

カラスになっちゃうよ~^^

イニシエーション!ビヨンビヨーン!

 

背景にコメントが流れる中、明らかに何か勘違いをしたままのリオは、カメラに向かって”えへへ”と呑気な声で笑っている。するとそんなリオへ隣に座っていた雫が頷きながら顔を向ける。

 

「私もリオさんの話分かります!と言ってもカラスでは無いのですが・・・」

 

と、尻すぼみになるトーンで悲しそうに前置きしたうえで

 

「私も鳩を頭に乗せたことがあります!!」

 

と、目を輝かせながら言い放った。

 

いやいやいやwww

そうなると話がおかしくなるってww

ややこしや~

日本人皆鳥を頭に乗っける説・・・鳥頭!?

リオ!?

 

「やっぱりそうですよね!!乗っけますよね!?」

「はい!リオさん!乗っけまくりです!!」

「そっか~ じゃあ私と雫さんは”頭に鳥乗っけた仲間”ですね!略して鳥頭!」

「えへへ~リオさんと仲間ぁ~嬉しいです~」

「いえ~い鳥頭~鳥頭~」

「「わ~いわ~い」」

 

リオと雫は楽しげに笑い合いながら、握り合った両手を上下左右ににぶらんぶらん揺する。

 

なんかデバフかかりそう

MP吸い取られそう

なにわろてんねんww

不思議な踊りwwww

IQ下がりゅ~

 

それは鳥を頭に乗せた事がある者のみが許される不可侵の領域。

口ノ助は微笑み合っている二人の姿を、遠巻きに突っ立って見つめていた。

 

「ええ~、鳥が頭に乗ったことが無いのでね、悲しいことに俺はあそこに入ることは出来ませんけどもね、しかし家の家具はニ○リなんですね! ニ、トリってね!? あっはあああ!!!」

 

くたばれ

直球デッドボールで草

お前止める側だろw

眼鏡カチ割んぞwww

武士ぶっこんで闇鍋つくろう

 

視聴者の方に向かって一時的におかしなことを言っておかしくなった口ノ助であったが、落ち着くように静かに息を吐くと、未だいちゃついているリオへと顔を向けた。

 

「ん、んんっ」

 

咳ばらいを一つ。

 

「さてさてリオちゃん、自己紹介はまだ終わってないよーー? そんなに油断してていいのかぁい?」

 

口ノ助がおちゃらけた風にそう問いかけた。それを聞いたリオは”あっ”と声を漏らし、体の動きを止めた。

形はどうあれ結果として夢野雫は嫌いなトマトを食べた。そのためリオにも何かしら良くないイベントが起こる可能性は十分にあった。

リオは嫌な予感を感じると共に、今までのはしゃいだ気分が嘘のように静まり、身体の向きを雫から口ノ助へとゆっくりと変えた。その表情は笑顔を潜め、何かを覚悟するようなきりっとした顔立ちである。

リアルをうかがい知ることのない視聴者にも、彼女の雰囲気の変化は伝わっていた。

 

さあ何が来るか・・・

わくわく・・・

見てるこっちも緊張するな

フランスパン

 

「・・・来い」

 

まるで討伐に来た勇者を迎える魔王のごとく、重みのある呟きで口ノ助の次の言葉を待った。口ノ助もそれを見てにやりと笑った。

 

「それではお待ちかね!リオちゃんの追加情報ーー!」

 

口ノ助が声を上げる。

 

「リオちゃんのはこれだあっ!!」

 

\とんっ/

 

同時に掴んだフリップを司会台の上に立てる。リオは目を見開いた。

 

「”リオちゃんはスカートが履けない!?”ですっ!」

「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

!?

ふぁ!?

なんだあ!?

久々の汚い叫び声、ありがとうございまぁあっす!

 

リオは負の感情で濁った心からの声を上げながら、頭を抱えてうずくまった。そうしてまるで”聞きたくなかった!”とでも言うかのように、頭を横にぶんぶんと振っている。今の彼女を見れば、誰でも一目で、相当にダメージを受けていることを察するだろう。

 

めっちゃ苦しんでるwww

どうしたんだwww

エクソシストにいじめられる悪魔の図

リオちゃーん^^?

 

「あはあっーーー 効いちゃってるねぇリオちゃん!!」

「その情報をぉどこでぇ!?」

 

リオががばりと顔を上げて、迫真の声で尋ねた。

 

「ええと、ああ、マネージャーみたいだよ?」

 

リオはそれを聞くと素早く首を回して、機材とスタッフに紛れてスタジオの外で遠巻きに見守っている自らのマネージャーを見る。

 

\ぐうっ☆/

 

マネージャーは見事なサムズアップをして見せた。

 

「裏切られたあああああああ!!」

「あっはああーーーーー」

 

リオは悲しみと多少の憎しみを孕んだ叫びを上げ、それを見た口ノ助は愉快とばかりに笑い声をあげた。

 

よく分かんないけど草

裏切られたんやろうなぁ

リオは不憫にしてこそ輝くのだ!

悲報 リオ、身内に売られるwwww

 

「まあまあリオちゃん! まずは事情を聞かせてもらおうじゃないかリオちゃん! なんでそこまでスカートを嫌うのかな!?」

 

口ノ助がリオの言葉を促した。

 

「別に!嫌なものは嫌なんです! ひらひらしてるの全然似合わないし!恥ずかしいし!」

 

照れリオ可愛い

いつも強そうなのにギャップがたまらん

可哀想だ!いいぞ!もっとやれ!

確かにリオの衣装はスカート無いな

 

「それに小さい頃とか、男子から似合わないってからかわれたりしたんですよ!それぐらい似合わないんです!」

 

男子もこらしめてたんだろうなあ・・・

力を以て力を制す

戦国時代かな?

小さい頃は女子の方が強いからね仕方ないね

↑今も強いんですがそれは

 

リオは立ち上がってスカートが如何に嫌いかを熱弁している。すろとそこへ隣に座っていた雫が立ち上がった。

 

「でも今着てみたらそうじゃないかもしれませんよ!!」

「えぇ!雫さんまで!?」

「すみません!リオさんのスカートが見たいです!!」

「なんて素直な言葉ぁ!?」

 

リオは意外な伏敵に驚いた。雫は真っ直ぐ曇りのない目、それこそ澄み切った夜空に輝く星のような輝きを放つ目でリオを見つめている。雫の可愛いセンサーにリオのスカート姿がビンビンに反応しているのである。

”見せていただけないと引きませんよ!”とばかりに天使らしからぬ謎のプレッシャーを放ちながら、雫はリオに顔を詰め寄らせ、一方で口ノ助も煽るようにニヤニヤと笑みを浮かべている。

リオの額に汗がにじむ。

窮地に追い込まれていた。

 

「リオちゃん!心配しなくてもいい!番組は衣装室にたくさんのスカートと、それを着替えるための更衣室も用意してあるよ!」

「そんな心配してない!」

「あはあ、でもでも強制じゃないからね! 全然断ってもらってもかなわないんだよぉ!」

 

口ノ助は続ける。

 

「ただし!その場合、リオちゃんには!あの運営とお化け以外に敵がいないと噂のリオちゃんにも!スカートという弱点があったという事実が残るわけだあ!」

 

口ノ助は声高らかにそう宣言した。

リオは悔しそうに奥歯をぎりぎりと噛みしめる。このテクニック、先ほどの雫の時と一緒である。口ノ助には相手の折れるわけにはいかない部分を優しく撫でる才能があるのであった。

リオはそれでも幾らか冷静であった。雫という前例を見ていたからかもしれない。リオは、口ノ助の挑発に直ぐに乗らずに、何とかこの場をしのぐ方法が無いかと頭をフルに働かせた。そうしてやがて、リオはにやりと笑みを浮かべた。

見つけてしまったのだ、助かる方法を。

 

「ふwふふwwふふふふふwww」

 

リオは不敵に笑う。

 

どした

リオ壊れちゃったよ~

怖いよぉ・・・

何だ

 

「私は気付いてしまいましたよ!雫さん、口ノ助先輩!申し訳ありませんが私の勝ちです!」

「あっはあーーー リオちゃん覚醒しちゃったかなぁ!?」

「リオ・・・さん?」

 

若干驚いた表情を浮かべている周りの人間をよそに、リオは勝ち誇った表情でこう宣言するのだ。

 

「私がスカートに着替えても!Vtuber時雨リオの姿には何の影響もない筈です!つまり、私がスカートを履く意味など無いっ!!」

 

どやあ・・・

 

リオ、したり顔。

 

「あ、絵師さんに頼んでスカート衣装もらってるよ?」

「く゛そ゛お゛お゛お゛お゛お゛っ゛っ゛っ゛」

 

リオ、敗北!

 

敗北の女王

様 式 美

即堕ち2コマ

リオ虐楽しいいいいいいい

 

リオは膝から床へと崩れ落ち、そのままうずくまる。

 

「くっそおお・・・何でだよ・・・こんなことなら・・・もっと良い子振っておくんだったぁ・・・」

 

リオは床を拳で叩きながら現実を嘆く。雫はそんなスタジオダンゴムシになったリオの隣にしゃがみ込むと、耳元に口を寄せた。

 

「リオさん、元気出してください! なでなでしてあげますからね!」

 

雫はここぞとばかりに、リオのその柔らかな髪に手を伸ばす。”すんーすんー”っと鼻息が荒くなっている。瞳孔が開いている。抑えきれない興奮である!

”時雨リオを励ますためになでなでする”はVtuber夢野雫のかねてより焦がれてきた理想シチュの一つなのである!

 

\ヨスヨス ヨスヨス/

 

髪の毛が雫の指の隙間を通っていく。その感触が雫の表情をとろけさせ、顔に至福を浮かばせる。

 

「リーオさん♡」

「うう゛なんで・・・なんで新衣装あんまりくれないのに、、こんな時には準備されるんだぁ おかしいよぉ こんなのあんまりだよぉ」

「これからはリオさんのスカートも衣装の一つになるんですね!」

「絶対着ないいぃ・・・」

「まだ分かりませんよ?もしかしたらかっこ良くてイカした感じかもしれませんよ?」

「絶対無いよぉ・・・」

 

柔らかな笑みを浮かべて励ます雫(リオさん可愛い可愛いいい!)であるが、リオは床に向かってぼそぼそと声を篭らせる。リオはこれから起こる未来を、誰よりも悲観しているのであった。

 

「さあさあリオちゃん!? 乗るか!?反るか!? どうしようか!」

「着ますよ着ればいいんでしょ!」

「あっはあーーーーー!!」

 

やったああああああ

きたああああああ

( ˘⊖˘)<新衣装だよ

嬉しぃ・・・嬉しぃ・・・

楽しみだうほ!

 

もはや逃げ道は無い。

リオは覚悟を決めた。

 



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”ぶいぶいっ!”だ![4]

sorry


リオがスカートに着替えるために席を外し、スタジオには口ノ助と雫の2人のみとなった。

口ノ助はリオが戻ってくるまでの時間を埋めるように、矢継ぎ早に雫に質問をする。

 

「休日とか何してるの?」

「料理とかする?」

「あ、俺のことうざいと思ってる?俺も~俺も~」

 

など。

お喋りなメガネは飽きることなく次々と尋ね、それに対して雫も嫌な顔せずテンポよく答えていた。だがその中で、唯一、言葉を詰まらせた質問があった。

 

「Vtuberになったきっかけとかある感じ?」

 

口ノ助はその質問に何ら含みを持たせていたわけでもなく、至って自然に、今までの質問の流れで聞いてみたに過ぎなかった。しかし雫はこの質問を受けると、今までとは違ってすぐに答えを返さずに、無表情を浮かべたまま一瞬の沈黙をした。その短い間に口ノ助も視聴者も違和感を感じたのはしかし一瞬の事。雫は何でもないように口ノ助に笑いかけると、先ほどまでと同じような調子で言葉を返した。

 

「えっと、皆を笑顔にしたかったからです♪」

「あはあーっ さすがアイドルぅ!! でも、その割には長いこと考えてなかったかい?」

「”全国民をウサギさんにしたかったから”と迷ってました」

「あはあ!そいつぁーやべえや!」

 

雫ちゃんになら侵略されてもいい

喜んでウサギになるよー^^

可愛いぴょんうほおおお!

↑キメラで草

んぴょおおおおおおおん

 

その後、”雫ちゃんは朝はパン派?ご飯派?どっち派?”という質問を皮切りに、口ノ助は質問者でありながら、自らその双方の立場からの自論を展開して”パンは食べやすい・・・でも、栄養をしっかり取らないといけないんだよなあ~・・・”などと自分で自分の考えに意見して白熱した議論を展開するという地産地消かつ奇怪な遊びを始めたので、雫は置いて行かれる形となった。

そうして手持ち無沙汰になった雫は、ひとりでに喋っている口ノ助を放っておいて、口元を緩やかに結んでハミングによる美しい音色の鼻唄を奏で始めた。

その表情には柔らかな笑みが浮かんでいて、頭がリズムに合わせて左右にゆらゆらと揺れている。

 

かうぁいい

天使が過ぎる

椅子になりたい

森の中で動物に囲まれながら歌ってそう

分かる

 

軽快な鼻唄。

彼女をこうして上機嫌にするのは、もうすぐスカート姿のリオがやってくるという事実である。

雫は過去にストーカーの嗅覚によってリオの家を突き止めて、双眼鏡を使って玄関から出てくるリオや窓から見えるリオを観察していたが、そのような恰好は確認が出来なかった。

すなわち、もうすぐ現れるリオの姿は雫の知らない新たなリオの一面ということになる。雫はそれを思うと胸を躍らせずにはいられなかった。

そして当然リオの新衣装に期待を寄せて居るのはリオの視聴者もまた同様で、つまりこの場にいる多くの者が、新衣装に身を包んだ新たなリオの姿を待ち望んでいた。

口ノ助がちらりとスタジオ外を見て、文字の書かれているカンペを確認した。

リオの着替えが終わった。

 

「ええー、それではお待たせいたしました リオちゃんの準備が整ったようなので、登場していただきたいと思いまーす!」

 

はよお

きたあああ

待ってた

やったあ

 

待ち望んだ瞬間の訪れに視聴者一同歓喜する。

 

「リオちゃんの登場です、どーぞーーー!」

 

口ノ助の通りの良い声に続いて、画面右端からお待ちかねの時雨リオが現れた。しかし彼女は全身に真っ黒なマントで覆っていた。一面真っ黒なその姿は、まるで魔女のようである。リオは緊張した面持ちを浮かべながら、スタジオの中央へすたすた足早に歩いていく。視聴者の目に映るのは、移動する黒い塊である。

 

見せろやあああああ

見えないよおおお

おら!身体見せなさいよ!

うっほおお(脱げやおら!)

んぴゃああ!

 

新衣装が見えないことにより、視聴者の心はじりじりと焦らされ、そのもどかしい感情の叫びによってコメント欄は加速した。事情を知らない者からすればそれは変態の群れに見えるし、知っている者から見てもやはり変態の群れである。つまりリオは変態の王で、図らずも焦らしプレイを視聴者に強いるのはまさにドSの鑑である。(時雨のSはドSのS!)

一方でリオはそんな事は露知らず。”見栄えが良いのでスタジオの中央で脱いでください”という事前のスタッフの指示に従って、足を動かす。

彼女の表情は凛としていて一見すましているように見えるが、その実、緊張で固まっているだけだった。

視線を感じていた。

普段の配信で感じることのない視線を、今ここに至っては強く感じていた。それは視聴者の前で布(マント)を脱いで、アバターにしても現実にしても恥ずかしいと思っている姿を見せるという特殊な状況ゆえであるが、本人は気付いてないし、気付く余裕もありはしない。(リオのRは露出狂のR!)

 

「リーオさん♡」

 

不意に横から声を聴く。リオが反射的に振り向けば、そこには椅子に座った雫がいて、手をひらひらと小さく振っていた。雫は応援のつもりである。しかしリオには何の慰めにもなりはしない。むしろリオは何故だか猪の如くその手に突撃したい衝動に襲われたので、逃げるように視線を元に戻した。

そうこうしているうちに、リオは指示されていた画面中央の立ち位置へと到着した。

視線の先に立つ口ノ助はこれもまた謎に手を振っていて、”ぐぬぬっ この男さえいなければ・・・”と少しの悔しみを込めてひと睨み。それから正面へと身体を向けて、実体のない視聴者と視線を合わせる。

寄ったカメラが時雨リオを大きく映す。

ゆっくりとマントに手をかける。

 

「さああ!!リオちゃんスカート姿はどんな感じなのでしょうかぁ!?」

 

わくわく!

じゅるるるるるr(生唾を飲む音)

カモンリオちゃん!!

さあさあさあ!

 

・・・おぇ

 

リオは少しのためらいを見せた後、一思いにマントを脱いだ。

 

きたあああああああ

やっばあ

おおおおおおお

うほっほほおほ

 

視聴者の目にマントの中身が明らかになった。

時雨リオの新衣装はスカートだけでなく、上も一緒に用意されていた。

上から、カラスの模様が入った黒いチョーカーを首に巻いていて、黒シャツを斜めに着崩して片方の肩を大胆に見せていくと共に、その肩には内に来ている紺色タンクトップの肩紐が掛けられていて、緩めの服装がラフな雰囲気を演出している。また肝心のスカートは黒色と灰色のストライプ模様が入っていて、太ももの半分から下を惜しげなく外気に触れさせている。

新衣装は全体的にダウナーな感じ。その余裕がダークなかっこよさを醸し出し、同時に女性的なシルエットとのギャップで可愛らしさも演出していた。

 

えっっっっど!

これはイケメンゴリラ

こんなん惚れるわ

全然イケてる

 

視聴者に衣装を披露している間、リオは気恥ずかしくなって後頭部に回した腕で髪をわしゃわしゃと掻き崩しながら、顔をそっぽに向けて立っていた。例え自分のリアルの姿が視聴者に見えていないとわかっていても、カメラで撮られている状況がどうしてもリオに錯覚を起こして、恥ずかしさを感じさせた。

 

「リオちゃーん、緊張してるねぇ?」

 

口ノ助が横から目ざとく言う。

 

「緊張をほぐす方法を教えようかなあ!」

「それは先輩が早く椅子に座らせてくれることだと思います」

「まあまあ 聞くだけ聞いてよ! 先輩からのアドバイスだよ!聞かなきゃ損ってもんだろ!?」

「ああ、もう分かりました 聞きますから なんですかそれは?」

「その格好でゴリラの真似をすると良い!」

 

リオは真顔で口ノ助の顔を見た。

 

「あ、はい あのアドバイスの方をお願いします」

「その格好でゴリr」

「なんでだよ!」

 

wwwww

どういうことだよww

ゴリラの真似来たあああ

 

リオは口ノ助が言い切るのを待たずして声を上げた。

 

「何でそれで緊張が無くなると思うんですか!?」

「リオちゃん得意じゃん!ゴリラの真似!」

「得意ですけど!なんでわざわざ新しい衣装になって一発目のこのタイミング何ですか!?」

「景気づけ?」

「つかねえよ!」

 

リオは確かにゴリラの真似は得意であったが、おめでたい時にするものなどでは決してない。誕生日祝いにゴリラ、クリスマスにゴリラ、新年にゴリラ、あり得ない。

 

「どうする?」

「やらないですよ!」

「ああでも、コメントを見てみてよ」

 

口ノ助に言われてリオが振り返れば、流れる沢山のコメントがリオのゴリラを期待していた。またしてもこの男が元凶である。そして雫は”見たいです!”と、またも目を輝かせている。この女、リオ関連ならなんでも喜ぶ。

リオはゴリラの真似をやらざるを得ない状況に陥っていることを実感していた。

 

「まじでやるんすか・・・」

「ほら、新規の人とか気になってるかもしれないし!ここはきっとチャンスってもんさああ!」

「アーカイブ見てくれや」

 

リオちゃんお願い!

見たいな~~~

病気の党とのためにゴリラお願いします!

ゴリオが見れたら手術頑張れます!

 

それでもリオはなかなか乗り気にならなかった。

 

「分かった分かった これが足らないだろぉ? へいかもーん」

 

口ノ助がそう言うと、黒子衣装のスタッフがゴリラの被り物を持ってきた。そしてそれをリオへと手渡すと立ち去った。

 

「被って被ってぇ!!」

「マ?」

「リオさん!」

「・・・はあ」

 

リオもうどうにでもなれといった気持ちでゴリラの被り物を被った。

するとどうだろうか。

ゴリラの被り物は当然現実のもので、つまり三次元のものであるが、そこから下は二次元の時雨リオの肉体である。

そうして配信画面上に何とも奇妙なハイブリッド生物が誕生した。

 

おおおおお

こいつあやべーや

これ何の画ww?

ホラゲーかな?

 

「さあさあリオちゃんでゴリラの真似です! お願いします!」

 

リオは覚悟を決めた。

 

「うほほおおおおおうほおおおおhっほおおおおお」

 

「うほおおおっほっほっほっほっほほおおお」

 

「うほおおおおおおっおっおっおっほ゛お゛お゛お゛お゛」

 

wwwwwwww

ほおおおおwwwwwwww

ごりおきたああああああwwww

頭壊れそうwwww

ガ ン ギ マ リ オ

 

「お゛え」

 

リオはあれほどやる前は嫌がっていたのに、やり終わった後は謎の達成感を感じていた。

 

「リオさ~ん!こっちきてくださ~い!」

「りおちゃ~んおいで~」

 

一人でに満足感の余韻にふけっていると、後方から声が聞こえた。リオが声のした方向に振り向くとそこには、いつの間にやらハトの被り物を被った雫と、ワニの被り物を被った口ノ助が肩を並べて立っていた。その間には、一人分のスペースがわざと開けられている。

 

「ここに来てください」

「こっちおいで」

 

二人が手招きするのでリオは誘導されるようにそこへ向かい、間に収まった。

 

「はいじゃあじっとしててね」

 

口ノ助が言う。

 

「はい!サムネとれたあああ」

 

カオス過ぎて草

動物園の成れの果て

地獄絵図

サムネバイバイ

 

ワニとハトとゴリラが見つめる、綺麗なサムネがとれました。



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”ぶいぶいっ!”だ![5]

いびびびびびーーびwwwびゅうううびゅびゅううwwww 



ぱあ。



画面左には口ノ助が立っていて、画面右には雫とリオが座っている。

 

「いや~ ようやくオープニングの自己紹介が終わった終わったあ! 思ったより長引いちゃったね~ なんと番組史上最長記録!」

「そんな記録いらなかったです」

 

のほほんとした調子の口ノ助に、リオはため息交じりの返事を返す。彼女はいくつかの試練を乗り越えたことによって、番組冒頭にも関わらず、既に達成感さえ感じるような精神的疲労を負っていた。

しかしそんなリオとは対照的に、隣で微笑んでいるのは夢野雫である。

 

「雫ちゃんは逆に楽しそうだね~」

「はい! リオさんの本物のゴリラが見れて感激です!!」

「それだと私がゴリラみたいですねw」

「じゃあ、、生ゴリラ最高でした!」

「新鮮になりましたねw」

 

生ゴリラwww

生チョコ生ビール生ゴリラ

新 出 単 語

は~生ゴリ生ゴリ

 

そんなくだらない会話を合間に入れつつ。

 

「じゃあ早速、企画の方やって行っちゃおうかな!?」

 

おどけた調子の口ノ助の言葉によって、番組は進行される。

 

「さて、気になる今日の番組の企画は・・・!? でれでれでれでれでれ・・・

「何だろ・・・?」

「楽しみですね♪」

 

口ノ助の無駄に活舌の良いセルフドラムロールを聞きながら、二人は顔を見合わせて囁き合う。

 

サル真似選手権やってほしい

誰がBANされるか選手権やってほしい

リオの握力を図ってほしい

爆発してほしい

 

「でれでれでれ・・・DEN! ずばり”箱の中身は何じゃろなっっ!”です!」

「「おお~」」

 

きたああああ

やたあああああ

絶対楽しいやつ

これは盛り上がる

 

口ノ助が張り切った声で発表し、二人は感嘆の声を漏らした。

 

「あ?どんなのか知ってる感じ?」

 

二人の様子を見て、口ノ助が尋ねる。

 

「まあ一応」

「私も知ってますよ~」

「そっかそっか それなら話が早い でも一応、視聴者さんの中にも知らない人がいるかもしれないってんで、説明すると・・・」

 

”箱の中身は何じゃろなっっ!”とは

 

「今から中身の入った箱が雫ちゃんとリオちゃんの前にやって来るわけですわ それで、その箱の中身は視聴者さんにしか見えない状態なので、二人には箱の両側面に開けられた穴から腕を通してもらって、箱の中身に触れてもらって、それが何かを当ててもらおうかっていうゲームですよーーーってねぇ!」

 

このゲーム、テレビをでバラエティを見ていれば誰もが一度は見るような有名なものである。そしてその手間のかからなさと盛り上がりやすさから、多くの人に親しまれているゲームでもある。

そのためリオと雫の二人も、そして視聴者の多くもこのゲームのことを知っているのは自然な事であった。

 

「ようし! ルールの説明も済んだし、とりあえず箱を乗せる台を呼ぶかなぁ!  はい、それじゃ”台”かもおおおん」

 

口ノ助の意気揚々とした声に呼ばれると、黒子の衣装を着たスタッフが底面の四隅にキャスターが着いた、大人の身長の半分くらいの高さのある太っとい台をスタジオの中央へ運んできた。そうしてキャスターをロックしてその場に止めると、黒子の方は姿をスタジオから立ち去った。

 

「来た来た来たねえ」

 

口ノ助は台に近づくと、その上面に人差し指と中指を足のように見立てて歩かせる。何の意味があるのかと視聴者とリオ達の関心を寄せる。すると口ノ助は指の動きを止めてにやりと笑みを浮かべると、次には手を持ち上げて、台上を子気味良い音を鳴らすように叩いた。

 

\ぱああんっ/

 

「「わあっ」」

 

ふぁあ!?

!?

!?

うぇ!?

 

「あ、ごめんなあ~ ちょっと叩いてみただけだから~ごめんなあ」

 

口ノ助が笑いながら視聴者とリオ達と何故か台にも謝る。

そして実はこの時、

 

\ぬうっ!/

\ガタッ/

 

という声と台が揺れる音が微かにしていたのだが、それに気が付いたものは誰もいない。

 

「ほらでもあれだねえ~ これ、ほんっと良い音するねえ~ ね?どうよ?ね?」

 

口ノ助が楽しげにそう言いながら再び”バンバンっ”と手の平で台を叩く。いっぱい叩く。すっごい叩く。憑りつかれたように叩く。何かメロディーのようなものまで奏で始める。その表情にはおなじみの胡散臭い笑顔が浮かんでいて実に楽しそうでもある。

 

悲報 口ノ助、バグる

知 育 楽 器

急に台パンに目覚めた男

台ソムリエ

トントントン^^; トントントントントン^^;

 

雫とリオはそれを遠巻きに見つめる。

 

\先輩、疲れてるんですかね?/

\いっぱい喋ってましたからね~/

\まさか今度からあの音でコミュニケーション図る気なんじゃ/

\ばんばんばん!(こんにちわ!)/

\ばんばんばん!(コッペパン!)/ 

 

\\あははははwww//

 

こそこそ談義。

 

wwwww

新言語で草

意味わからんww

 

「皆あ!これが”なんじゃろ箱”を乗せるための台だよ! ほら、お二人さん!そんな座ってないで一緒に叩こうじゃないか!!いい音がするぜ~ まるで中身が空洞みたいだあ! あっはああああ」

 

口ノ助が手をちょいちょいとやって手招きをした。座ったままで完全に傍観者を決め込んでいた二人だったが仕方なく立ち上がり、台へと近づいた。

 

「そら叩いて叩いてっ」

 

口ノ助は急かすように手の平で再び台を叩いて見せた。リオも雫もそれを見て最初は笑みを浮かべながら躊躇いを見せていたが、

 

「ほれほれっ」

 

と口ノ助が繰り返しつぶやくので、ゆっくりと手を伸ばし台に触れた。

 

\こんこん/

 

リオがノックの要領で台を叩く。

 

「ああ~確かにい音がしますね^~」

「だろ~ ほらもっともっと」

 

\こんこんこん/

 

「おお~」

 

リオは感心したような声を上げ、気に入った様子で台を繰り返し叩き始める。そしてそれを見ていた雫もまた、リオに誘われるようにして台を叩けば、やはりその気持ちのいい音に気が付く。叩き始める。

口ノ助もそこへ加われば、3人のVtuberがただ台を夢中で叩いている姿がそこにはあった。

 

台 が ひ た す ら に 叩 か れ て い た 。

 

現 代 音 楽

これ何見せらてるんだwww

なんか召喚しそう

儀式かな?

ドラミングやろ?

 

さてこの混沌とした事件現場。

主犯:ニヤニヤ眼鏡、口ノ助。台パンの衝動に駆られたヤバい奴ではなく、この一大ポコポコブームを引き起こした理由はしっかりと存在する。

それは、台の中にある。

Vtuberがいる。台の中にVtuberがいる。そしてそれを映しているカメラもまた台の中にある。(それはいずれ番組で使われる)口ノ助はそれを知っていた。そのためその”何事かと恐がっているであろうリアクション”を引き出すためにわざわざポコポコしていたわけである。

そして途中の胡散臭い笑顔も、”台叩くの楽しーーーー”ではなく”中身のリアクション想像するのおもれーーーーー”の笑みであった。

 

詰まるところこの男、良い感じに性格が歪んでいるのである。

 

「あっはあーー もう十分楽しんだよね! それじゃあそろそろ本題の”箱の中身は何じゃろなっっ!”をしようかあぁ?」

 

口ノ助は手を止めて、二人に言った。

 

「あ、そういえばあったなそれ」

「忘れてましたねぇ」

 

台トントンにすっかり夢中で、その事をすっかり忘れていた二人である。二人とも口ノ助の言葉を聞くと台から手を離した。

 

「さてさてまずは一問目を運んできてもらおうかなっ!ってことで、お二人さん後ろを向いてもらえるかい?」

「あーい」

「了解です」

「あっはあーー なんじゃろ箱かもおおおん」

 

二人とも口ノ助の指示に従い台に背を向けたのを確認すると、口ノ助は何じゃろ箱をテンション高く呼び込んだ。すると、長方形な箱を手に持った黒子の衣装のスタッフが再びスタジオに現れ、その箱を台の上に置いていった。

これが何じゃろ箱である。

そしてこの箱、視聴者の方の面だけが透明なプラスチック板になっていて中身が透けて見えるようになっていた。

第一問目、箱の中にいるのは・・・酒の缶である。

それが箱の中に鎮座していた。口ノ助は覗き込むように顔を伸ばしてそのことを確認すると、”うんうん”と一人頷いた。

 

「よしよし んじゃあお二人さん準備が出来たんで、こっち向いて良いよ~」

 

二人を振り向かせた。

 

「おお~」

「わあ~」

「箱ですね」

「箱です!」

 

二人は台の上に置かれた目の前の箱を見て声を漏らした。

 

「先輩、これなんじゃろ箱って言うんですね 初めて知りました」

「ああ! 俺が今テキトーに名付けてみたんだあ!イカすだろお?」

「わーかっこいいー(棒)」

 

リオは台に目を向けながらそう言った。

 

テキトーで草

リオならウホウホボックスって名付ける

うちの子猫にも名前を付けてやってください

↑ウホウホボックス

↑ありがとうございます

 

リオはそのまま箱に近づいて、”この穴に腕突っ込めばいいんですか?”と箱のみ位側面に空いた穴を見ながら尋ねる。雫も雫で箱の左側面に空いた穴を気になっているように、じっと見つめている。

 

「そうだよぉお! ああ、でもその前に一つ言い忘れてたことがあったんだわ!」

 

口ノ助が思い出したかのようにそう言うので、リオも雫も疑問符を浮かべながら口ノ助の方へと顔を向けた。

 

「実は今回、これともう一つゲームをやるんだけど、どっちもポイント制なんだよねえ!そんで最後にポイントが多かった方にご褒美があるんだってな!」

「ご褒美・・・!?」

「良い響きですね!」

「だから、だからだよ! お嬢さん方、今からそれぞれの穴から腕を突っ込んでもらって中身が何であるかを答えてもらうけど、それを本気で勝負するつもりでやると良いよって話なわけさ!」

「勝負・・・!?」

「良い響きですね!」

 

謎解きのキーワードみたいにすんなwwww

そんな重大な言葉じゃねえよww

※リオは負けることに定評があります

これは火が付いちゃうねえw

 

「ご褒美・・・勝負・・・ご褒美・・・勝負・・・」

 

リオは少しうつむいて確かめるようにぶつぶつと呟く。そこへ口ノ助が近づき、耳元に口を近づける。

そしてコショコショと、

 

「しかも、すっごいやつだってさ・・・」

「すっごいやつ!?」

 

リオはがばりと顔を上げると雫の瞳を真っ直ぐ見つめた。そうして片腕を差し出す。

 

「雫さん、いい勝負にしましょう!!」

 

ただならぬ圧と気概を感じさせる声である。

 

「よろしくお願いします♪」

 

対して微笑む雫。

 

急にスイッチ入ったねえwww

勝負大好きゴリラ

リオはポケモントレーナーだったのか・・・

尚、大体負ける模様

 

雫は差し出された手に自らの手を重ねた。

 

握手。リオが手を握る。

 

\ギュギュギュギュギュ/

 

握る。

 

「あっ!リオさんちょっとあの!」

「頑張りましょう!」

「あの、ちょっと痛いですっ いや、激しめなリオさんもまたっ あ、痛い!ああ」

「あ、ごめんなさい!!」

 

め っ ち ゃ ギ ュ ウ ギ ュ ウ し て た。

 

リオは慌てた表情で手を離した。

 

パワー系ゴリラやめろwww

さすがゴリラ

気合入りまくりだなww

これで手の感覚を失くす作戦

先制攻撃やめろwww

 

リオは負けず嫌いの魂ゆえに、「勝負」「ご褒美」という単語を聞いて異常に気合が入ってしまったのだった。

 

「はいはいはい!じゃあさっさと位置について位置についてぇえ」

 

ぱちぱちと手を叩きながら口ノ助に促され、リオは箱の右に雫は箱の左側に立った。

 

「ようしぃ 確認だけど今から二人はこれに腕を突っ込んでもらうよ そんで制限時間を設けるから、それが終わったら二人にはフリップに書いて答えてもらうからね おk?」

「はい」

「了解です!」

「はいそれでは! 第一問目、”箱の中身は何じゃろなっっ!”用意いいいいスタートおおおおお」

 

いえええええええい

始まったあああああ

うほおおおおおお

(☝ ՞ਊ ՞)☝ウェーイ

 

口ノ助が張り上げた声を合図に第一問目が始まった。

早速リオと雫が、それぞれ片腕を箱の中へと入れる。

腕がうねうね。

視聴者からは、丁度箱の中央に置かれた酒の缶とそれを探して動き回る二本の腕が画面に映る。

 

「雫さん~なかなか見つからないですね~」

「そうですね・・・ あ、見つかりました」

「え、本当ですか?早くないですか!?」

「見つけました! ほらっ!」

 

そう言って雫はリオの手を握りしめた。

 

「リオさんの手です!」

「わー雫さん、手あったかいですねー」

 

画面には寂しそうに置かれた缶とそれの背後でにぎにぎし合う2つの肌色の手が映っていた。

 

真面目にせいwww

ぼっちの缶ちゃん可哀想・・・

そんなところで百合すんな(ありがとうごじあます)

まさにポカン(缶)ってね・・・

↑はい極刑

 

「おいおいおい~時間無くなっちゃうぜぇ~~??」

「ああやばい」

「まずいですね」

 

口ノ助の言葉で二人は我に返ると、手を放して、再び忙しく箱の中を動き回らせ始めた。そうして最初に缶に触れたのは雫の方であった。

 

「あ、見つけました」

「え?どこですか!」

 

教えないやろwww

これは勝負だぞリオ

お前はまた負けるのだ・・・

ずーーーと迷子!

 

「中央の方だと思います」

 

言っちゃう雫である。

 

wwww

おいいいいいwwww

な・・・仲良しだから・・・

うちら、ずっと友やで!

 

「ありがとうございます! あ、ほんとにあったー」

 

リオは遂に念願の酒缶に手を触れた。

 

「あ・・・これは・・・」

 

リオは触れた瞬間に感じ取った。リオは今までに幾度となく触れてきた酒缶は細胞レベルでその記憶に刻み込まれていて、もはや目で見ずともその姿かたちは手に取るようにわかってしまったのだ。

だからこその悲劇ともいえる。

彼女は流れるように缶の表面を指でなぞらせて、そうしてヘッドの部分へといき、何の躊躇もなくプルタブを引っ張った。

 

\カパッ ぷしゅうううう/

 

開けた。

 

何でだよwwwww

おいいい!

普通に開けてて草

この女迷わないwww

日常動作だからね仕方ないね

 

「やっべ、開けちゃった・・・」

「リオさんおっちょこちょいですね! でもおかげで私も分かっちゃいましたよ!」

「えへへへww」

 

「はい、しゅうりょおおおおおおおおお」

 

口ノ助が制限時間終了のお知らせをした。

 

「リオちゃん途中でなんかしちゃったねえ??」

「すいません そういう風にプログラミングされてるんで」

「あはああ~~~」

 

酒飲みの弊害www

ならしょうがない(?)

リオの手は機械だったのか・・・

だから握力調整が難しいのか

あいるびいいいいばあああああああく

 

「それじゃあ回答してもらいましょうっかああ?」

 

口ノ助がフリップに答えを書き終えた二人を見てそう声を上げた。

 

「はいじゃあフリップを見せてください!まずは雫ちゃん!」

「お酒の缶です!」

「リオちゃん!」

「酒缶です」

 

口ノ助は二人の掲げるフリップをじっと見る。そして少しの静寂の後に。

 

「せいかああああい!!!」

「「わーーーい」」

 

正解を告げた。

 

知ってたwww

まあ序盤だし多少はね?

おめでとおおおお

正解して偉い

 

「ちなみにどこの何の酒かとかはさすがに分からないよねええ~?」

「多分・・・N社のバカ絞りハイボールとかですか?」

「リオちゃんはすごいねえぇ 俺は絶対わかんないよ~ってことで、はい、こちら中に入ってたお酒、美味すぎて馬鹿になるでおなじみ”バカ絞りハイボール”です!」

「リオさんすごいです!」

「(☝ ՞ਊ ՞)☝ウェーイ」

 

ふぁーーーwww

うっそだろお前wwww

もう怖いわwww

表面にざらざらした部分があるからそれで見抜いたんやろ

酒に関してはIQ200

 

「それでは二問目を持ってきてもらいましょ! ほれ目を瞑って後ろ向いた向いたぁ」

 

再び口ノ助の指示によりリオと雫は後ろを向かされる。その間にスタッフによって箱が回収されて、代わりに新しい箱が持ってこられた。

口ノ助が中身を確認する。

 

「うわあ~~」

「え?」

「どうかしたんですか?」

 

急に嫌そうな声を上げた口ノ助に、二人は戸惑いの声を上げた、

 

「二人とも応援してるぜ」

 

中には水が張って合って、その中に泳ぐ黒くてうねうねした生き物がいた。

ウナギであった。

 

「それじゃあこっち向いておk! ぱぱっと二問目始めちゃうよお!」

 

リオと雫は振り返り再び位置へと着いた。

 

「そんじゃ用意いいいすたあああっと!」

 

「そりゃあ!」

 

リオ勢いよく腕を突っ込む。

 

「ひゃあ!」

 

秒で戻した。

指先に触れた水の感触がリオを驚かせたのだ。

 

可愛いwww

↑なにわろてんねんwww

これは雫ちゃんチャンス!

 

一方で雫は、落ち着いた様子で水に触れ、その存在を確かめた。次いで水面を払うように4本の指先ですーとなぞる。それでも何も触れないと分ると今度はその深さを増していく。

そこへウナギが近寄って行き、指先とウナギの身体が触れた。

 

「ひいっ!」

「ええ!?」

 

雫が可愛らしい声を漏らして、腕を瞬間的にひっこめた。リオもまた彼女の声に驚いて、再び箱から腕を引っ込めてしまった。

 

「リオさん!なんかいます!水の中になんかいますうう!」

「ええ何でいるんですか! ああ、いや、いますよそりゃあ!」

「なんかぬるぬるしてたんですうう!」

「うわあきついですねそれ・・・」

 

恐がってる雫ちゃん可愛すぎぃぃ!

私のぬるぬるm[不適切な湖面により削除されました]

いいぞ、うなぎ!もっとやれ!スクショフォルダがいっぱいになるまで!

いけっ リオ!

ポケモンみたいな扱いで草

 

「じゃあ私もいってみますね・・・」

 

リオは改めて箱の中に手を入れて、恐る恐る手を伸ばした。

触れる水。

さらに深いところを目指す。そうして底にいたウナギの丁度腹あたりに指が触れた。

 

「ひいいいいいっっ」

 

リオがそのぬるぬるとした感触に声を漏らして指をびくりと動かした。それでもウナギは動かない。

リオは息をすーすーと吐いて自分を落ち着かせながら、ウナギの腹を手で握った。

 

「はああああっ!!今握ってます!なんか握ってます!」

「ど、どうですか!?」

「きもいです!!」

 

きもいです!(迫真)

録音した!

ウナギ君ピンチ!

 

握られたウナギは、自らの危険を感じ負ったからなのか、急に体をばたつかせてリオの手から逃げようとした。しかしリオは離さない!ぬるぬるなどリオの前では無意味!

 

なんでやww

リオちゃんおかしいよ・・・

握力ステ全振りゴリラ

カミツキガメかな?

 

「はいしゅううりょおおおおおおお」

 

口ノ助が制限時間の終わりを告げたので、リオはようやくウナギを開放した。

 

「途中から雫ちゃん戦意喪失って感じだったね~~ ぬるぬるはきつかった?お水が苦手だった??」

「すみませんぬるぬるしたものが苦手で・・・」

「あはああ~~そんなところも可愛い!」

 

結局雫は、頭に触れて以降、ずっとリオの雄姿を見守っているだけしか出来なかったのだった。

 

「はいはいはい! それじゃあまずは雫ちゃんから回答を発表してもらいましょおお!」

 

口ノ助が二人のフリップに回答を書き終えたタイミングを見計らって、声をかけた。

 

「ではどうぞ!」

「納豆です」

「おおお~~ それはぬるぬるつながりで?」

「はい!」

「おおお~~」

 

おお~じゃないがwww

泳ぐタイプの納豆だったんだよ 何だそれ

まあしゃーない

リオいけええ

 

「次、リオちゃん!」

「ウナギですね!」

「っっほおお~~~~~~ 良いですねえ~ それじゃあ正解したのは・・・」

 

静寂。

 

「リオちゃん!」

「やったああ!」

「うぅ・・・」

 

やったあああああ

よしよしいける

馬鹿なリオが正解してる・・・だと・・・?

仕込みか?

↑リオに仕込みが出来るわけないだろいい加減にしろ!

 

「リオちゃんが1ポイントリードしてます!さて第三問!これが”箱の中身は何じゃろなっっ!”の方では最終問題となります!お二人さん、頑張ってください!」

「はい」

「頑張ります」

「それじゃあ目を瞑って後ろを向いてくださああいっ」

 

再びの箱チェンジ。しかし今度の箱は今までとは明らかに様子が違った。

なんと・・・中身が無かった。

 

あれ・・・?

トラブルかな?

空っぽだあ

引っ掛け・・・?

 

視聴者が訝しんでいる中、口ノ助が台へと近づいてきた。そして台を4回ノック。

 

\トントントントン/

 

すると、、

 

\ひょこっっ!!!!/

 

なんと箱の下の台から駿河武士の生首が生えたのだ! それは箱の真ん中の位置で、ホラー映画よろしく首から上だけが出ている。

つまり次の中身は・・・駿河武士である!

 

ええええええええwwww

武士いいいいいい

何でいるんすかwwww

髭えええええ 

生首での初出演オッスオッス!

 

先述の通り、口ノ助は台をバンバンしていた。それはなぜか。

この男が台の中に隠れていることを事前に知っていたからである。

口ノ助はいたずら野郎なのだ。

口ノ助は箱の赤みを覗き込んで駿河武士と目を合うと頭を下げて一礼した。

”頼むぜ武士ちゃん”

それに対して武士も少ない首の可動域ながら、頭を下げる。

”お任せあれえええ!”

口ノ助はグッジョブサインを武士に見せた。

 

「それではお待たせお待たせ! 準備の方が整ったってことで!こっちむいていいよ~」

 

口ノ助の呼ぶ声で雫とリオは振り向き、そうして立ち位置に行った。

 

「今回は先にヒントをあげちゃうよ! 親切なんだぜ俺は~~ てな感じでヒントは、二人に関係するものさ!」

「二人に・・・」

「関係するもの・・・」

 

二人は考えるように言葉を反芻した。

 

「まあとりあえずやってみそってことで、第三問目すたあああとおお」

 

第三問目が始まった。

リオも雫も同時に腕を箱へと突っ込む。今度は水が張ってあるわけでも、ぬめぬめしているわけでもないので、雫もリオも余裕そうに腕を動かしている。

 

「なんでしょうね雫さん、関係してるものとかって・・・」

「全然思い浮かばないですよね・・・」

 

二人は正反対の人間である。そのためこれは当然のことともいえた。ただ共通していることもある。それは同期であるという事。

それさえ気づければ或いはと言ったところだが。。

 

「また真ん中の方なんですかね~~?」

「かもしれませんね」

 

リオと雫は腕を箱の真ん中へと伸ばす。そうして最初に武士首へと接触したのはリオであった。

 

「えっ!? ナニコレ!?」

 

リオが触っていたのは武士のちょんまげである。武士はリアルでも躊躇いなくちょんまげスタイルである!

そしてちょんまげはワックスで固められていて、リオはその硬い表面をするすると指先でなぞっていた。

 

「なんか全然分かんないっていうか、触ったことすらない気がする・・・」

 

でしょうねwww

ちょんまげだもんなww

分からないぞ もしかしたらちょんまげを触らせる仲かもしれない

↑ちょんまげ・・・触る・・・はっ! 閃かない!!!

むずいぞ~これ

 

リオは困惑した声を上げていた。

そもそも髪の毛を触るなど全く予想していないリオにはその毛の束の感触は何とも奇妙なものに感じられ、ちょんまげを連想するなど不可能な事であった。

 

「ああ、私も見つけました」

 

リオが何なのかを考えていると、雫が言った。

 

「なんか柔らかいですね ムニムニしてます」

 

雫が触っているのは武士の耳たぶであった。雫はその感触に得も言えぬ親しみを感じながら、やがて指先で掴むとぎゅーーーと引っ張ってみた。

 

「すごいですよ!そこそこ伸びますよこれ!」

 

”いだだだっだだだだあだっっ”

 

武士は声が出せない状況の中でもはっきりと苦しんでいるのが分かるほどに、痛そうな表情を浮かべながら雫の手を入れてる穴の方向へと引っ張られる。しかし、首を出してる穴は狭いので肩が引っかかり、耳たぶが千切れそうなほどに伸ばされるのであった。

 

”夢野雫!意外と乱暴な女で候”

 

こうして二人とも武士首に接触したのは良いものの、肝心の中身は分からずにいた。

 

「二人とも悩んじゃってますかい??」

「そう・・・ですね、難しいですね」

「私もよく分からないです」

「そっかそっか だったらチャンスをあげようじゃないかぁ、ええっ!!??」

 

口ノ助はそう高らかに宣言した。

 

「「チャンス??」」

「そうチャンス! 今から二人には数秒間だけ背景を流れるコメント欄を見る権利を与えようってね! それを参考したら中身もあてられるってもんでしょ!」

 

何だってええええ

うほおおおおおお

リオ達の命運が俺たちに託された・・・?

きたああああ

 

口ノ助が言った。

これは武士への救済処置でもある。武士も意外と長い事この番組のこの瞬間の為だけに台の中で待機していたわけで、この場に及んで当てられないとは悲しすぎるというものである。

そのための、流れるコメントを見るチャンスである。

 

「ってことなんでコメント欄の皆!出来れば答えをそのまま書くのはやめて、そのヒントになるものを書いてほしい!」

 

口ノ助からのお願いである。とは言いつつも、口ノ助や番組スタッフもさすがに答えの一つでもコメントに紛れ込んでしまうであろうという事は分かっていたし、それで分かるならそれでも良いという判断であった。

なにはともあれ、それで武士は浮かばれるだろう。

 

「ほいほいっ書いて書いて!」

 

しかしこの時、口ノ助たちはコメント欄の団結力を侮っていた。彼らはリオや雫のファンであると同時に、その配信一つ一つを楽しみにしている者でもあるのだ。

ゆえにコメント欄に答えなどという無粋なものは流さない。

代わりに流れるのは、場面が面白くなることを願った素晴らしいコメント達(注文)である。

 

「はい!じゃあコメントを3秒だけ見て良いよ! どうぞ!」

「「はい」」

 

二人はコメント欄の流れる背景(リアルでは大きく広がった白い布にコメントを映し出している)を振り返った、

 

リオ、その硬いの掴んでみろ

めっちゃ引っ張ってみ

引きちぎるつもりで!

思いっきりな

 

見事なチームワークによって、武士のちょんまげを引きちぎるように誘導が行われた。

 

ちょんまげ死亡。いと無常。

 

そしてリオも雫もそれを知らずに真に受ける。

何故ならそれが、武士のちょんまげだとは知らないのだから。

 

「硬いのものって私が触ってたやつですかね?」

「多分そうですね・・・」

「はい チャンスタイムしゅうりょお! あとは自力で頑張るのです!」

 

こうして二人はまた前を向いた。

リオは、中身の正体こそ分からなかったが、とりあえずコメントに書かれていた通りのことを実行してみることにした。

腕を箱に突っ込む。

中央へと進める。

再び、硬い何かに出会う。

リオはそれを”むんずっ”と掴むと、箱の中の上の空間に向かって思いっきり引っ張ってみた。

 

”あだだああだだだあああああああああ”

 

武士の顔が口を大きく開けて、驚きと痛みで困惑している表情で、上へと伸びる。しかし台に阻まれるので一定以上は上がれない。

 

「どうですかリオさん?」

「うーーん、もう少しだと思います」

 

より引っ張る。

 

”や゛め゛ろ゛お゛お゛お゛お゛”

 

wwwww

死にそうで草

すまねえ

武士よ、お前は犠牲となるのだ・・・

 

「んんっ もうちょっと!!」

 

”ひ゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛”

 

「ぐぬぬぬぬっ!!!」

 

”死ぬ゛う゛う゛う゛う゛う゛”

 

「よいっっしょおおおお!!!」

 

武士は限界を迎えている。そんな時、リオが今まで一番大きく力を込めた。武士は我慢の許容を超えた。

 

彼は、、彼は生きる選択をした。

 

「死゛ん゛て゛た゛ま゛る゛か゛嗚゛呼゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

\どがあああああああっっ/

 

「お゛ら゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

\ばばばばばばばあああっっ/

 

台が崩壊した。

箱が破裂した。

轟音がした。

中 か ら 駿 河 武 士 が 現 れ た ! !

 

「「えっえええっええええええええ」」

 

出た嗚呼ああああああwwwww

wwwwwwww

ぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃああああああwwwww

 

雫とリオが叫びながら床へと倒れ込んだ。武士はそんな二人を見下ろしながら言う。

 

「某はああああああああ江戸の大剣豪おおおおおお駿河武士だあああああああああああ!!!!!」

「ということで中身は駿河武士さんでしたああ!」

「頭゛か゛痛゛い゛ん゛し゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

武士、心からの叫び。

 

wwwwwwwwww

神回

はい、放送事故っとwww

うほおおおおおwwwwwww

 

「えええ、え、え、何で、武士いるの?」

「番組に呼ばれたからだああああああああ」

「え、このためだけに!?」

「そうだああああああああああああ」

 

wwwwwww

可哀想wwwww

よう頑張ったwwwww

武士、お前が一番だ

 

「夢野おおおお雫うううう!!!」

「ふぇっ、ああ、はいっ何でしょう!」

「いたあああああああああああああ」

「ふぇえええええっ!?」

 

武士は咆哮を上げながら雫へと近づく。

 

「ああああああああああああああ」

「ひいいっ」

「びやああああああああああ」

「ひいいいいい」

 

怯える雫。力を溜めるような叫び。そしてぇぇぇ!!

 

「・・・ファンですっ」

 

よろしくね☆

 

「あ、ありがとうございます」

 

礼儀正しくなるの草

急に丸くなるなよwwwww

こwっいwwつwww

ただのファン(レベルMAX)

 

武士はこれで役目を果たした。

 

「はいそれでは武士さんの退場ですぅ! 皆さん、拍手で送りましょう~~~」

 

口ノ助を筆頭にまばらな拍手に包まれながら、武士はスタッフが持ってきた手押しの荷台に膝を抱えて座らされ、スタジオの外へと出荷されていった。

 

\ドナド~~ナ~~ド~~ナ~~/

 

流れるBGM。

総出演時間3分。

ありがとう駿河武士。

さよなら駿河武士。

うるさかったね駿河武士。



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”ぶいぶいっ!”だ![6]

許して


駿河武士は台風と呼ぶにふさわしい男で、番組に一瞬の衝撃を巻き起こしたかと思えばあっけなくその場から立ち去った。後に残るのは静けさと謎の達成感で、スタジオは訳もなく妙に浮ついた空気に包まれているし、その衝撃がいまだに後を引いている雫とリオは既にいない武士の話を未だにしている。

 

「びっくり箱みたいな人でしたね」

「あいつ声がくそでかいからみんな驚くんですよ」

「とにかく元気な方でしたね」

「あいつ馬鹿だから風邪ひかないんですよ」

 

意地でも馬鹿にするの草

犬猿の仲

※武士と雫ちゃんがリオの同期です

キャラ濃っっww

 

リオは武士が好きでも嫌いでもない。ので、こういう褒めてるのか貶しているのか微妙な言葉が出てくる。

そうして和やかにプライベートな感じで立ち話をする二人。口ノ助はそれを見て空気を切り替えるために、ぱんぱんっと手を叩いた。

 

「はいはい まだ前半戦ですからねぇ 後半戦が始まるんで席についてくださいねぇ!」

「あ、はい」

「すみません」

 

学校の先生が諭すような口調に促され、二人は大人しく席に着いた。口ノ助はそれを確認すると口を開く。

 

「ふーうむっ それじゃあ後半戦の説明をしちゃおうかあ!」

 

口ノ助は司会者らしく説明を始める。

 

「まあ説明って言ってもただのクイズなんだけどさ! 今から二人にまつわるクイズを出すからそれに対して早押しで答えてもらうってわけなんよ!めちゃんこ簡単だろ?」

「おおーシンプルで良いですね」

「了解です」

 

口ノ助が同意を求めるような笑みを二人に向け、二人はそれに返事で返した。口ノ助はそれにうんうんと満足気に頷いていると、”あっ”と何かを思い出したように口を丸く開いた。

 

「そういえば前半戦だとリオちゃんが2ポイントリードみたいだぜ~ 雫ちゃんも頑張れよ~~??」

 

前半戦の”箱の中身は・・・”が終わった時点では、リオが酒缶を無意識で開けたり、ウナギを握りつぶそうとしたり、野生の武士が飛び出して来たりで、気付けばリオが2ポイントリードする展開となっていた。

雫は口ノ助の間延びした声に”頑張りますっ!”と胸の前でぎゅっと小さくファイティングポーズを決めながら気合を入れた。そしてその横では百人一首に臨むかの如く腕をシュッシュと滑らせて、口元で”シュッシュ”と呟きながら、せっせとボタンを押すイメトレをしているリオがいる。

その姿はもはやアスリート。圧倒的な集中力。

 

彼 女 は 勝 つ こ と に 余 念 が 無 い。

 

せっせと素振りすんなwww

カルタ強そう(小並感)

ガ チ ガ チ ゴ リ ラ

 

「あはあっ 二人とも準備万端みたいだし早速始めちゃおうかな!!」

 

そう言った口ノ助の言葉に続いて、黒子衣装を着たスタッフが軽くて簡易的なプラスチックの机と赤い半円型の早押しボタンを持ってきた。そうしてそれらは、椅子から立ち上がったリオと雫それぞれの正面へと設置された。

これから始まるのは早押しクイズ。相手より早くボタンを押した方に回答権が与えられ、チャンスは一問につき一度っきり。

 

「負けませんよ!リオさん!」

「シュッシュー!(こちらこそ!)」

 

二人は互いに顔を見合わせて健闘を誓い合う。両者ともやる気は十分である。

 

機関車になったゴリラ

ドキドキ・・・うほうほ・・・

楽しみ

ご褒美ほちい

 

「それっじゃあいくぜえええ一問目えええええ」

 

\デレンっ/

 

どこからともなく聞こえてきた効果音に反応して、リオは手をちょいと浮かせながら指先をぴんと伸ばして、いつでもボタンを斜めから流し手で叩ける姿勢を取り、一方で雫はボタンにそっと指を重ねた。

 

「リオちゃんが初回の放送でドラミングをした回数とは!?」

 

!?

むっず

うほおおおwww

分かるかwwww

 

リオはカルタのように素早くボタンを叩く気満々だったのだが、その指はぴたりと止まっていた。

リオは初回の放送で確かにゴリラの真似をして確かにドラミングを披露したがその際の回数など、覚えていよう筈がない。何故ならリオはゴリラの真似をしている間、その身にゴリラそのものを降ろして本能のままにゴリゴリしているのだから!

 

\ぴこんっ/

 

リオが素早く顔を横に向けた。ボタンを押したのはもちろん雫である。

 

「ドラミングタイムは4度あって、合計で41回ドラミングしてました!」

「あはあああーーー正解!!」

「やりました!!」

「うっそお!」

 

ふぁあああああwwwwww

何で分かるのwwwww

マジかよwww

雫ちゃんヤバすぎwww

 

雫の満面の笑みに視聴者とリオは困惑を隠せない。

 

「何で分かったんですか!?」

「勘です♪」

「数まで分かるタイプの勘とか初耳なんですけど」

 

ともあれまずは雫が1ポイント先取することになった。それでもまだリオには1ポイント分のリードがあり、余裕がある。願わくば次の問題で雫を突き放したいリオである。

リオは再び戦闘態勢となった。

 

「第二問んんんんっっ!! 雫ちゃんがフィットネスゲームVIIにおいて初めて明らかにした体重とは!?」

「おらああっっ!!」

 

リオは気迫の声と共に手を振り下ろした。

 

\ばしい/

\ピコんっ/

 

今度はリオが回答権を獲得。その答えは、、

 

「422kg!!」

「正解いいいいい!!!」

「やったああーーー」

 

でたwwwww

規格外のデブで草

地面に刺さってそう

どすこいっ雫ちゃん!

 

「うう・・・間に合いませんでした」

 

しょげる雫に喜ぶリオ。そして正解を知らなかった視聴者からは驚きのコメントが流れる。

ちなみにこの体重422kgという数字は実際に雫がゲーム内において体重を求められ、入力した数字である。これには当時の視聴者たちは驚愕をすると同時に、雫42.2kg説や雫422g説、はたまた夢野雫=ラクダ説(ラクダはそのくらいある)までもが囁かれるようになるが真相は未だ謎である。

尚、ゲーム内において200kgの減量に成功した。

現在リオが再び2ポイントリードとなり、雫は依然追いかける展開である。

 

「じゃあ3問目ええええ リオちゃんが珍しく寝落ちしてしまった配信の際に寝言で呟いた願い事とは!?」

 

リオ沈黙。

 

\ぴこん/

 

またしても雫。

 

「もぐらになりたい!」

「はいいい!正解!!」

「やりましたああ!」

「私そんなこと言ってたのか!!!」

 

wwwwwwww

あったなそんなのww

ニッチ過ぎて草

雫ちゃんすげえ

 

当時何故ゴリラじゃないのかと視聴者の間で論争が起きたが、既にゴリラだからという結論で幕を閉じたというのは全くの余談。

 

「さて残すところあと二問となりましたあ! リオちゃん逃げ切れるかあ!?」

「絶対逃げます」

「追いつきます♪」

 

ゲームは白熱していく。

 

「はいい次の問題!雫ちゃんが初めて視聴者に読み聞かせた自作本のタイトルとは!?」

「いただきまああああす!!」

 

リオが喜びの声を上げながらボタンへと手を伸ばした。

伸びる腕。

これで回答権を手にして正解すれば実質リオの勝利が決まる大事な問題。

ボタンに触れる腕。

 

\ぴこんっ/

 

回答権を手にしたのはしかし雫であった。

 

「なっ!?」

 

リオが驚いた声と共に雫を見る。

雫の方が僅差でボタンを押すのが早かったのだ。

雫が回答をする。

 

「100億回死にそうなワニです」

「・・・・正解!!!」

「またやりましたあ!」

「くそおおお」

 

惜しいww

どんなタイトルだww

これは迷作でしたねえ・・・

最後に死んでしまうワニが泣ける

 

とうとうリオと雫の点数が並んだ。

リオは負けるわけにはいかないと、今一度気合を入れなおす。

 

「絶対勝つ!」

 

リオはそうして再び手を宙に浮かせ、いつでもボタンを叩きに行ける戦闘態勢をとろうとして、ふとあることに気が付いてしまった。

 

こ の 体 勢 弱 く ね 

 

先ほどはほんのちょっとのタッチの差だったが、それを生み出したのはこのかっこつけたかっこいい体勢である。ということに気が付いたリオである。

リオはボタンに手を被せると、丁度ボタンの真上に手の平の下側の固くなっている部分、掌底が来るように位置を調整した。

 

変なポーズ辞めてて草

気付いちゃったんだなww

がんばえー

どっちもがんば

 

「これで勝った!」

 

フラグも立てた。準備万端。

 

「最終問題ですう!!」

 

リオは緊張を感じていた。

 

「リオちゃんの好きな動物はg」

 

!?

 

リオは一瞬腕をぴくりと動かしたが止めた。それが引っ掛けであることを即座に見抜いたのだ。

更なる緊張で手に力が入る。

 

「ゴリラですが、リオちゃんのすk」

 

その瞬間リオは耳を研ぎ澄ました。意識を集中させて集中させて次の言葉を待った。さらに手に力が篭った。

 

「好きなお酒は」

「でやあああああ」

 

リオがその言葉を聞いた瞬間、雄たけびと共に手の平にぐっと力を込めた。ボタンを押そうとした。しかしあまりに気合が入り過ぎて体重が乗った。

 

\びきびきびきびき!!!/

 

ボ タ ン を 乗 せ る 台 ご と 破 壊 し て し ま っ た。

 

おいいいいwwww

パワープレイ来たあああwww

ゴリオさんちーすwww

 

台はリオの手の平が触れた部分から真っ二つに割れてしまった。しかしリオは回答権を手にした。

破壊の代償に手にした権利!

自信満々に言い放つ!

 

「ハイボールです!」

「・・・残念!」

「・・・え」

「問題は最後まで聞きましょう!!!」

 

引 っ 掛 け に 引 っ か か っ た 。

 

「う゛は゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

ぐにゃあああああああ

い つ も の

台も回答権も失った女

負けゴリラ

様 式 美 

 

 

「さてリオちゃんが間違えてしまったので、雫ちゃんは最後まで問題をじっくり聞くことが出来ます!」

「え、あ、ありがとうございます!」

「く゛そお・・・」

 

間違えたリオに回答権は無くなり、ただ雫が答えるのを待つ事しか出来ないのである。

 

「ええ~ 好きなお酒はハイボールですが、好きな言葉は!?」

「オノマトペ!!」

「あはあああああ正解!!! 雫ちゃんの勝利い!!!」

「うわああ!! 勝ちましたああ!!

「うわああああ!!!! 負けた嗚呼あああ!!」

 

轟く断末魔!

リオ敗北!

 

やっぱこれだな~ww

実家のような安心感

敗北の女王

ざ こ

 

「では優勝した雫ちゃんにはご褒美をあげちゃうよお よかったねえ雫ちゃん おめっとさん雫ちゃん!」

「ありがとうございます!」

「敗北の味いいい美味しいい・・・敗北ぺろぺろ・・・美味しい・・・」

 

リオはまた負けた。

 

 




ちなみに番組としてはどうやっても夢野雫を勝たせる予定だったようです。


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”ぶいぶいっ!”だ![終]

視点を、配信画面を描写している時と、リアルを描写している時とで完全に分けることにしました。それを示すために”side”の表記を使っています。


side:リアル

 

スタジオ中央にはニコニコと微笑んで立っている雫と、その横で悔しそうに表情を歪ませているリオと、真顔がにやけ顔の口ノ助。

 

「それでは見事勝利を収めた雫ちゃんへ、ご褒美の登場です!どうぞおおおおおお!」

 

口ノ助が声を張り上げながら右腕を天井へと高く上げれば、それが合図であったかのようにスタジオの照明が”ばちんっ”と落ちた。

そうして突然に広がる暗闇と緊張を伴い蔓延る静寂。スタジオが一瞬にして姿を変えた。

見れば折角嬉しそうだった雫の表情も今や困惑で笑みを潜め、同じく困惑の時雨リオも辺りをきょろきょろと見渡している。

彼女らは状況に置き去りされていた。

口ノ助はそんな二人を見ながら”にいっ”と笑みを浮かべると、次には上に上げていた腕の先の指先を”ぱっちん”と鳴らした。すると直後ファンファーレの期待を予感させる音楽が鳴り始めて、次いでスポットライトが点灯。光の照らす先は、今まさにスタッフによってスタジオに運び込まれて来ている大人の身長ほどもあるような立て看板であって、それが新郎新婦入場のように華やかな音楽を引き連れて、さらにはスポットライトも引き付けて、無機物の癖にスターのようにスタジオの中央へと入場してくる。

しかしそこまで飾っておいて、肝心の立て看板の表面には白い垂れ幕が掛かっており、それが何を示す物なのか、外から窺い知ることは難しい。リオも雫も、全力で期待を煽ってくるその不審物に興味津々である。

やがて運ばれてきた不審物は三人の前に到着した。

 

「あはあーーーっっ 来たねえ気になるねえっ何だろねえこれっ??」

 

口ノ助がはそれが何であるかを既に知っている様子ながら、わざと焦らすような口ぶりをする。そして雫とリオを手で”ほれほれ”と追いやって看板の両脇にそれぞれ立たせると、自分は看板の後ろに立って、看板を覆う垂れ幕に手をかけた。

 

「それじゃああああ音楽お願いしまあすうう!」

 

そう口ノ助がお願いすると

 

\三(卍^o^)卍ドゥルルルルルルルルルルルルルル三(卍^o^)卍/

 

地響きにも似た音。連打音。顔文字は幻想。

ファンファーレに続いてドラムロールが鳴り始めた。

繰り返されるドラム音は、聞いた者にいよいよ幕が取り払われ全貌が明らかになるような予感をさせた。それに違わず雫もリオも胸を高鳴らせ、その時を待った。

そしてついにその時がやって来た。

 

\D E N ☆/

 

「こちらdeath!!」

 

勢いの良い声と共に勢い良く幕が取り払われて、その全貌が明らかになった。

 

「え?」

「おお~っ」

 

そこには、ひらひらのアイドル衣装に身を包んだVtuber夢野雫の姿が大きく貼り出され、”夢野雫、ガチアイドルへの道! LIVE決定○月○日!”の文字がデコデコした字ではっきりと書かれていた。

リオも雫もそれを見るとリオは思わず感嘆の声を漏らして、雫は目をまん丸くして驚きで声を漏らした。口ノ助は看板の後ろからひょっこりと出てきて雫の横に並びながら、そんな二人の表情を愉快そうにニヤニヤ見ていた。

 

「雫ちゃん、おめでとう! これから君は本格的にアイドル活動をしていくことになるそうだよっっ!!」

 

口ノ助がはっきりと告げた。雫はそれを呆け顔で聞いて、しげしげと看板を見つめ返す。

まさしくこの看板はVtuber夢野雫がアイドルとして次のステップに進むことを、具体的にはLIVEという大きなイベントを行うことを、デカデカとキラキラと主張していた。

 

「ええ~っと、皆にはね、看板じゃちょいと見づらいだろうから今、画面に電子広告版がどんっと出てるんだけどね! 簡単に言うと、ライブは〇〇会場でVtuber夢野雫が目の前に降臨する!っと・・・あはあっーー これは盛り上がるだろうねーー」

 

要は、可愛い衣装で可愛い姿で可愛い可愛い夢野雫が、リアルで3Dで映し出されて、客の前でLIVEをすると、そういうことである。

さらに口ノ助の言うところには、LIVEまでの間、雫はその歌や踊りの練習の模様を時折配信することになると。

つまりはLIVE日は発表会のようなものとなり、視聴者にはそれまでの積み重ねも感じてもらってライブをより楽しんでもらおうと、そういった企画である。

まあともかくとして、夢野雫がLIVEをする。

 

「優勝おめでとう雫ちゃん! すっごいご褒美だねえ!で、 今どんな感じよ?? お気持ち聞かせて聞かせてえ!」

 

口ノ助が手をマイクに見立てたジェスチャーをしながら、雫に問いかけた。

雫は、、満面の笑みで答えた。

 

「と~~~っても嬉しいです!! みんな、楽しみにしててくださいね♪」

 

雫は今日一番の最高の笑顔をカメラに見せた。

しかしリオは、virtualのリオでは無く現実のリオは、その表情の変化を詳細に見つめていた。彼女が質問を投げかけられて笑みを浮かべるまでの間、顔が一瞬強張ってそれを隠すように素早く下に俯いた瞬間があった。

その時の彼女の横顔は、怒りか悔しみか悲しみか、とにかくとして負の感情で顔を歪ませて、泣き出しそうな表情を見せていた。

しかしそれもまた一瞬。

すぐに雫は顔を上げて、リオも見たことが無いような素晴らしい笑顔の華を咲かせたのだった。

リオはそれを黙って見つめていた。雫が一瞬リオに視線を向け目線が合いそうになった時、リオは静かに顔を逸らした。

 

番組がエンディングを迎えた。

 

 

 

 

 

番組が終わってお疲れ様ですの後、リオは自販機で飲み物を買ってくる事を一言雫に伝えてからスタジオを出た。雫は自然な様子で”わかりました”と返した。

リオはスタジオを出た後、見慣れない場所(撮影スタジオの収められた建物)で、迷路みたいな構造をしている建物内をふらふらと歩く。

喉は確かに乾いていた。が、それよりも考える時間が欲しかった。

リオの頭に浮かんでいるのは、先ほど人知れず見せていた雫の複雑な表情であった。それの意味を思考する。

 

雫さんはたぶん喜んでいなかった

だからあんな表情を見せた

雫さんはやっぱりアイドルにはなりたくないんだ・・・

 

などとリオは考えてみるが所詮は人の事なので、いくら推察したとしてもその人の頭の中にしか正解が無いということもまた、リオは当然分かっていた。

それでもなぜ考えるかと言えば、今回決定された事が今までのVtuber夢野雫の活動の中でも、最も大きなイベントであること、そしてそれが恐らくは彼女の今後のVtuber活動の一つの確かな指針を示し、だからこそ彼女のこの事についての捉え方がVtuber夢野雫にとって重要なものになるから。

という風に、彼女が無意識のうちに思っているからであった。

リオは横目に自販機を見つけた。

味のないただの炭酸水を購入した。

 

 

 

リオと雫には共通の控室があてがわれていて、飲み物を手にしたリオはその場所へと向かっていた。そうして扉の前に着いたのだが

 

「分かってますよっっ!!!」

 

と突然中から叫ぶような声が聞こえて、リオはびくりと体を震わせてドアノブに伸ばした手を止めた。

それは間違いなく雫の声であった。

そしてそれは初めて聞く声でもあった。

イラついたような、それでも自制しているような、でもやっぱり荒い感じ。

リオは悪いと思いつつも、ドア越しによくよく耳を澄ましてみれば、雫のマネージャーと思わる人と雫との会話が微かに聞こえて来た。

 

「分かってますから・・・」

 

今度は語気を沈めた泣きそうな声。

リオは今は入るべきではないと判断して控室を去った。

適当に歩いて時間をつぶす事にした。

 

 

 

 

しばらくして、リオは再び控室の扉の前へと戻ってきていた。

再び耳を澄ましてみたが、マネジャーらしき声は聞こえない。

リオは万が一のことも考えて扉をゆっくりと開けて、その隙間から中の様子を覗き込んだ。

 

見る。

白い丸机に右肘を着いて座っている雫の横顔。

その口元。

右手の人差し指の腹を噛んでいた。

そこから血が垂れていた。

赤い血がぽたぽたと。

丸机にぽたぽたと。

白色に赤い斑点がぽたぽたと。

垂れていた。

 

「!?」

 

リオは目を見開いた。

ふと気配でも感じ取ったのか、雫が素早くリオの方へと振り返った。驚いた表情の雫とリオは、お互いに目を合わせた。

雫が指の腹から口をゆっくりと離す。

リオが扉を無意識に押して、慣性でゆらーっと扉が開いていく。

その間、リオと雫はお互いに視線をずらすことが無かった。

数秒間。

そうしてリオは表情をすっと真顔に戻すと、ゆっくりと雫に近づいていく。

静けさが重みを持ったような張り詰めた緊張感の中を、リオが進む。

そうして座っている雫の傍まで来た。リオはポケットからポケットティッシュを取り出して、そこから何枚かのティッシュをつまんで、未だ血を垂らす雫の指にゆっくりと手を伸ばすと、ティッシュを優しく歯型の傷口に当てた。

 

「あ・・・」

 

雫が小さく声を漏らした。

二人は赤く染まっていくティッシュを、意味もなくただ見つめていた。

 



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似て無いもの同士だ![1」

早くコメディもしたい


 

 

二人がいる控室。

二人だけの控室。

座っている雫は、室内に置かれた白い丸机の上に、重ねて添えたそのしなやかな両手を、無表情でじっと見つめている。

一方で彼女の左隣。丸机に沿って座るのはリオで、力の抜けた両腕がだらんと垂れて、太ももの間に落ち着いている。さらに背中は背もたれに軽く寄りかかりながら、視線の先は正面の遠くの何の変哲もない控室の壁で、やはり意味もなさげに見つめている。

二人とも言葉を発さない。音もなく動きもなく写真のような一幕で、辺りをただ沈黙が包み込んでいた。

そうして数秒の時間が流れた後に。リオが不意に口を開いた。

 

「雫さんはアイドル嫌なんですよね・・・」

 

リオは雫に顔を向けないま独り言のように言った。確認というよりも、ただの呟きである。

これに対して雫はリオの言葉を聞くと、今まで表情の無かったその顔に初めて控えめな笑みを浮かべた。

 

「それは・・・過去の話ですよ」

 

雫もリオ同様に顔を動かさずに呟いた。

言葉に意味付けされることで雫の笑みは自虐的なものとなる。そのような考えは憐れなものとして彼女はそれを笑うのだ。リオはそれを直接見ずとも、言葉と共に吐き出された空気の揺れにその感情を感じ取った。

 

「・・・でもそれだったら、さっきみたいなことはしない・・・ですよね」

「・・・」

 

リオは別に責める気持ちがあるわけでもなく、ただ感じたことを口にしている。

雫は再び沈黙する。

さっきみたいな事。雫が血が出るほどに指の腹を噛んでいたこと。その時の視線は何かを睨みつけるような鋭さを持っていて、正面に人がいれば噛みつくことも有りうるかという程の凶暴性を放っていた。リオは、雫がリオへと振り返るまでの一瞬の間しかその姿を捉える事が出来なかったが、それでもその時の雫の表情は、リオの記憶に鮮明に残っていた。それほどまでに彼女にしては珍しく、陰の感情が表に現れていた。リオはその表情から彼女の思いは読み取れないまでも、アイドルアイドルする決定を好ましく思っていないことを推測した。

リオは自らの言葉に対する雫の反応を見たかったが、正面からは不躾かと思い、また、気まずさもあって視線だけちらりと横に動かし、横目に雫の顔を見た。すると雫も瞳を動かして視線だけをリオの方にやるので、リオはそれから逃げるようにまた視線を正面に戻した。

 

「あの・・・マネージャーさんと相談とかって・・・」

「それはしませんし、する必要もありません」

 

今度は雫はリオの方に顔を向けて、はっきりとそう言った。リオは視線を感じて次いで横目にリオを見つめる雫を見て、それならばと、とうとう雫に顔を向けた。

お互いに顔を見合わせて、リオは雫と目を合わせる。

真っ直ぐな雫の二つの眼が彼女の強い意思を映していた。

 

「これは仕事ですから、私の意思とかは関係がありません」

 

雫はリオの前でそう宣言した。”なぜならば”というよりも”そうあるべきだ”という声である。だから、リオは雫のその言葉を聞いたとき、、顔を歪めて酷く悲しい顔をしてしまった。

リオは彼女の言葉を嘆きのように解釈した。

リオはかつては会社勤めの身で(今だってそう変わらないが)、何ならそうでなくとも過去にしたバイトの経験からでも、彼女の言葉が仕事において時には必要な心構えであることを知っていた。だからリオは、抗う事のできない雫に憂いを感じたのだった。

しかしリオはすぐさま自分の表情に気づくと、雫から顔を逸らした。

”どこまでいっても他人事なのに、身勝手に共感するなんて図々しい”と不快に思わせたくなかった。

雫はそんなリオの仕草を見ると、その手に自らの手を伸ばし触れた。リオは一瞬身体を震わせて驚きながら逸らした顔を再び雫に向けた。

雫はにっこりと笑みを浮かべた。それから歯を食いしばると、ゆっくりと顔を下げて、最後にはぐっと俯いてしまった。

リオは雫を励ますことは出来なかった。そのような言葉は何も浮かばない。

”そもそも励ますというこの気持ちはふさわしくない”とリオは自分に言い聞かせながらも、励ます言葉を探していた。

 

 

その後リオは結局、雫とはそれ以上踏み込んだ話はせず、とりとめのない会話をした後解散して家路についた。

部屋着に着替えたリオは、疲れた体を癒すように仰向けでベッドの上に沈み込む。そうして天井を見つめながら一息ついて落ち着くと、帰る間、わざとずっと意識の端の方に寄せてあった雫のことについて考え始める。

リオは雫の立っている境遇について思った。

彼女はVtuberという存在に憧れ、そして生存する条件としてのアイドルを、状況がどうであれ受け入れた。

それに対してリオはどうか。好きにやっている。酒を飲み、何の身にもならないような有ること無い事面白い事を有象無象に垂れ流し、時にはゲームにいじめられながら盛り上がる。好きなことをして、たまたまそれが視聴者の興味の琴線に触れて、リオは自然体のまま生きることを許されたVtuberとなっている。

そんな風なことをリオは思い、自分は幸運なんだと思い、そしてそういう意味では雫は運が無いのだとも思った。

視聴者が楽しんでくれているという条件でくくれば、リオと同等どころかそれ以上である。しかしそれは彼女の本意の姿ではない。

偽物。まがい物。偶像。

彼女はアイドルという姿を演じる道を仮にも自分で選び、今や人気者となり、そして責任を負った。

途中で易々と降りることなどは許されない。それを選ぶには余りに多くの重りが、今や彼女の足元に繋がれている。

 

リオはしかし”それでも”と思うのだ。

 

Vtuberをやめるという選択肢だってありなんじゃないのかなっ・・・

 

と。可能である。いろいろ失えば。

リオは雫がこの先続けても辛いという感情がある限りは、いずれその足はどこかで止まると確信めいたことを思っていた。

事実、リオもそうして足を止め、逃げた先の今なのだから。

ただ、リオには雫の本当の気持ちなどは分かりはしないし、もう一つ。

”やめるのも有りじゃない”とは、何とも無責任な言葉でテキトーな言葉でお前何様な言葉だ。ともリオは思うのだ。

だから結局、リオがあれこれと考えたところで、雫には何の影響もない。

リオは気付けば眠っていた。

 

 

 

数日後、夢野雫が行方不明になった。

 



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似て無いもの同士だ![終」

次からこめでぃー



side:リアル

 

「私、前に辛いの食べる企画したじゃんか~」

 

あったなあww

クッソ辛い焼きそばwwww

リオの嗚咽がめっちゃ聞こえて地獄だったな

今度はリアル配信でやらないか?

恒 例 の 放 送 事 故

 

「あれは良くない思い出だよね でも、あれから私は実は訓練をしているのさ!」

 

上手なゲロの訓練?

舌を引き抜く訓練?

美しい痙攣の訓練?

武士を召喚して代わりに食わせる訓練?

 

「それは日々の食事にちょっとずつ辛いのを混ぜて食べているのです!」

 

な・・・なんだってえええ(棒)

毒を持って毒を制す理論w

慣らしていくとかリオ頭良いな

↑リオが頭いいわけないだろ!森に埋めるぞ!

↑誰かの入れ知恵に決まってる!

 

「ちなみにゴライアス先輩に教わったんだよ」

 

うわっ出た

リオちゃん見てるわよおおおんn

↑普通に居るやんけwww

リオと愉快な仲間たち~怪獣編~

町が燃えそう

 

「いずれリベンジ配信をするでな」

 

その日もリオはいつも通り、くだらなくも楽しい雑談配信を行っていた。ちなみにリオには一味唐辛子と七味唐辛子の違いが分からない。

”二~六は何で仲間外れなんだ!三があったら三三味(みみみ)唐辛子で可愛いのに!(?)”などと意味不明な暴論を視聴者に説き始める始末である。尚、視聴者には一部変態な天才が紛れ込んでおり、”一味(いちみ)”と”七味(しちみ)”の共通点は共に「ちみ」という文字が入るので、乳味(ちちみ)唐辛子はいかがでしょうか?などというクソコメが流れ、それに対して脳筋ゴリラが”牛乳味の唐辛子とか君天才じゃん(?)”などと発言するので、コメント欄は未曽有の第二次ちちみブームが到来するというのは勿論ただの余談。

そんなくだらない話に花を咲かせている中で、その電話は唐突に訪れた。

その時リオのスマホは丁度パソコンの左隣に置いてあったが為に、配信にはリオのスマホの着信音が、具体的には動物園に自ら足を運びわざわざ録音したゴリラの逞しい鳴き声が、視聴者の鼓膜を秒速ゴリラmで駆け抜けて行った。

 

「え、誰だろう 配信中なんだけどなあ」

 

着信音で草

癖が強すぎるwww

うほおおおおおお!!(共鳴しゅるうううう)

世界でもお前ひとりやぞ

というか誰だゴリラにするぞ

 

「ええっと うわあっ、マネージャーだぁ」

 

マネージャーかよwww

露骨に嫌がってて草

またなんかやったんかwww?

そーれっお説教っ!お説教っ!

このままマネージャーと配信しよう

 

「怒られんのやだな 配信中だし切ろうかな」

 

怒られるの前提で草

どうせこの前のプレデターになるまで終わらない配信の48時間配信

もしかしたらエロくないのにエロい川柳選手権

いやコ〇ナウイルスゆるキャラ化選手権だろ

 

「あ、切れちゃった これ後で怒られるかな?”キレちゃった”から、とか言ってwww」

 

はい、森送り

森へお帰り

解散でーす

ありがとうございやしたああ!

くそSamギャグがまた増えちゃったよ~^^

 

その後リオはいつも通りに配信を終えた。そうしてグラスにハイボールを注いで、氷をからから転がし休憩。

ぱちぱち鳴ってる氷は可愛い。

何ともなしにスマホに手を触れたところで、リオは不意にマネージャーからの電話を思い出し、そのまま早速番号へとかけなおした。

 

\ぷるるる/

 

「あ、お疲れ様です」

「はい、はい、 え?」

「雫さんが行方不明!?」

 

 

 

話はそれなりに単純なもので、つまるところ夢野雫が行方知れずとなっていた。それの事の発端だが、それはリオも気になっていたのだが、雫は最近、毎日の定時配信を行っていなかった。

Tmitterではそれについて”具合が悪いので配信お休みします。”とのことだったが、マネージャーが連絡したところ、応答する気配はまるで無く、それが一日二日、数日経って、いよいよおかしいという次第になって。そうしてマネージャーが直接家に尋ねてみたところ、ここでもやはり応答がなくて、どうしたことかとドアノブに手をかければ鍵がかかってなくて、そうして家の中は、、家の中はまるで台風が通過したかの如くぐちゃぐちゃになっていただとか。

そこでマネージャーは雫と唯一交流の深い(唯一と言われてリオは驚いた)人物であるリオに、何か情報を求めて、まずはリオのマネージャーに連絡がいったのだ。

曰く、大事には出来るだけしたくないと。

 

いやもうなっとるやんけ!台風ちゅーか空き巣やんけ!やんけやんけ!

 

とはリオの心の第一声。思わずエセ関西弁が飛び出すほどにはそれは一大事に思われた。

それにリオにも雫の行方については一切分からない。

ともかくとして。

リオは内容を聞き終えると、すぐさま雫を捜索することにした。

 

 

今は夕方。リオは焦りの表情を浮かべながらジャージ姿で街に繰り出す。

いつから居なくなったのか、そもそも生きてるかどうかすら分からないこの状況で焦るなとは言われる方が土台無理な話である。

しかし捜索と言っても、リオには雫の向かう先など点で思いつかない。雫のマネージャーは雫の住む街を探すと言っていたので、リオはその周辺、具体的にはリオの住む街になるのだが、それを手当たり次第に探すこととなった。

まずは図書館。後は公園。その他エトセトラエトセトラ。

リオは見つからない雫の姿に悲しみよりも納得を覚えて、雫のマネージャーには”早く捜索届を出してもらいたい”とさえ思っていた。

そうして適当な公園のベンチに座り込んで、疲れた表情を浮かべて休む。赤い夕日がいつもよりやけに暑く感じて鬱陶しくて、パンをよこせと足元に群がる鳩もやはり鬱陶しく感じた。

 

見せもんちゃうぞ あっちいけ エアキック! エアキック!

 

リオはもはや雫の行先は鳩にしか分からないと足をバタバタさせて、飛んでいく鳩を眺めていたのだが、そこに珍しく白い鳩が紛れ込んでいることに気が付いた。

赤い夕日に照らされて赤く染まっている。

 

珍しいな・・・ふぁ!

 

リ オ は 唐 突 に 閃 い た 。

リオはその白い鳩に、忌まわしき存在の影を見た。具体的には、白いサギ。リオの憎き敵にして、以前にリオの見せびらかしていた酒のつまみを悠々と強奪していった詐欺のサギ。

赤い夕陽をバックにする白い鳩は、まさしくこちらに向かって夕日を背に飛んできた、古き悪き思い出と重なった。

その場所は海だった。

リオはもはや目ぼしいところをつぶし終えていたので、思い付いた海はいるわけは無いと思いながらも、探さないよりはましと思って向かってみることにした。

 

着いた。

いた。

雫いた。

砂浜に向かって大の字に仰向けになっている夢野雫がそこにいた。

リオは目を見開いて驚愕しながらも、寝転がって目を瞑って気付いていない雫の元まで、慎重に近づいていくことにした。それはまるで雫が野生動物と同等に逃げることを何故か想定していることに他ならないが、リオはようやく見つけた雫なのでそう言った反応になってしまうのだ。

やがて雫の頭を挟むよう両足で砂を踏みしめて、リオは雫を見下ろした。

 

「雫さんこんにちは」

「こんにちは」

 

雫はまるで分かっていたように、自然にリオの言葉に返すとゆっくりとその目を開いてみせた。

雫は起き上がり、両手を背後の地面に着いて座るので、リオもその隣に座った。

 

「リオさん、ここ良い場所ですよね」

「まさかいるとは思いませんでした」

「私も来るとは思っていませんでした」

「鳩が教えてくれました」

「さすがリオさんですね」

 

雫は夕日に横顔を照らされながら、屈託のない笑みをリオに向けた。リオもそれに微笑み返す。

柔らかな風がさらさらと吹いて、雫のさらさらとした髪をなびかせた。

リオと雫はしばらく何も言わず、並んで海に沈む夕日を見つめていたが、やがてリオが口を開いた。

 

「雫さん何してたんですか こんなところで」

 

リオが柔らかい口調で問いかけた、

 

「リオさんの配信を見て思い出したんです こんな場所があったなって」

「花火しましたね」

「はい ここなら落ち着くかなって」

 

雫はそう言った。

 

「なんか落ち着かなかったんです あの日、リオさんと別れてからもずっと」

「はい」

「でも理由がよく分からなくて、それがすごくイライラして家の中を軽く暴れてました」

「雫さんが台風だったんですね」

「台風?」

「空き巣とかじゃなくて良かったです」

 

”それで”とリオが話の続きを促す。

 

「それで、このままお家にいちゃまずいと思って何も考えずにお家を飛び出してきたんです」

「家出ですね」

「それでここに辿り着いたんです ここは波の音が落ち着きます 何も考える必要が無いので落ち着きます リオさんのおかげですね」

「それは海のおかげです」

 

リオは一通り話を聞き終えると、うんうんと頷きながら雫に尋ねた。

 

「何も考えないと落ち着きますか?」

「落ち着きます」

「では、何か考えているから落ち着かないんですね」

「あ、そうですね」

「それはなんでしょうか?」

 

何の捻りもない実に単純な疑問である。

それでいい。

リオは雫のこうなっている原因、何か澄ましたような目も、首すじや腕に見えるいくつものひっかき傷も、ボロボロの服も。どこか壊れている様子の雫のその理由に何となく察しがついていて、同様に雫もまたそれを分かっている。

今必要なことは、それを表に出させること。というのをリオは経験で知っていた。

酒が好きなリオである。その理由は意識考えなくて済むから。今の雫と同じ。

あともう一つ。

口が勝手にその頭のうざいもやもやを、滅茶苦茶にゴミゴミしたままに論理破綻のままに吐き出してくれるから。

それは何とも素晴らしい。ゲロするとキモティーのは何も胃の中の内容物だけではないらしいのだ。byリオ調べ

 

どうぞ私は便所です

 

リオは雫を真っ直ぐ見つめて、雫の先の言葉を促す。

 

「私は」

「はい」

「私は」

「はい」

「多分、アイドルにはなりたくないです」

「そうですね」

「でも・・・」

 

雫が両手を髪に埋める。頭を抱えて。もう死にかけてる夕日を見つめて。

 

「仕事ですよ嫌とかじゃないんですよやるんですよ知ってるんですよ分かってるんですよやりますよだって仕事ですもん自分で選んだんですから責任がありますからそういう生き方を選んだんですからわがままなんて言えないですからでもでもでもでもでも」

 

雫は砂を掴んで、掴んだ腕を頭に回して離して頭に砂をかけて、埋めるように隠そうとして、でも埋まるはずもないので、また両腕を絡みつけるように頭に回してそれを繰り返し繰り返し繰り返して。

心情を吐露するのは恐怖が伴う。それに対しての雫の身体の防衛反応として、言葉を吐き出すのに必死な雫の意識を差し置いて勝手に動き回っていた。

リオはそれを隣で微動だにせず、何も言わずに見つめていた。

やがて一息に言葉を吐き出していた雫は、そのうちに息が続かなくなったようで、息を吸い込むのと同時に、纏わせていた腕を解き放ち、身体を上に伸びあがらせた。

既に日は落ちていた。月が照らしていた。月光に照らされたその姿は、まるで水面より跳ねるクジラのようであった。

リオはそれを綺麗だなと思った。

 

「私は多分苦しかったんです」

「はい」

「だから苦しまない方法を考えました」

「はい」

「それで思ったのですが」

「はい」

「分けてみることにしました」

「え、何をですか?」

「仕事と自分を?」

「??」

 

今まで頷くばかりだったリオは、初めてリアクションとして疑問符を頭に浮かべた。

 

「それはどういうことですか?」

「つまりこういう風に自分があるから悩むんですよ はなっからVtuber夢野雫はVtuber夢野雫として別の生き物とするべきだったんだと思います」

「ええと・・・クローンとかロボットみたいなことですか?」

「違います 完全に別の生き物です! 私はもう一つの命を持つということです」

「・・・まじすか」

 

リオは思わず声を漏らす。

リオは一応は雫の言っていることを理解したが、果たしてそれが実現できるようなものか甚だ疑問であった。

つまるところ彼女は”演じる”のだ。完全に演じ切ると。そう言った。

そうして偽物は偽物として、本物(つまりは夢野雫ではなくリアルな雫自身)と完全に境界線を引いて、夢野雫を生かしてみると。

そうすることで雫はノーダメージ。夢野雫はアイドルアイドル♪うふふふ♪と。

 

いや暴論だ!そんな理論が通ってたまるか!

 

などとリオは一瞬思うのだがしかし、リオはそれを言う権利などは無かった。

リオは逃げた臆病者だ。苦しみから逃げた臆病者。しかし雫はその苦しみをあろうことか受け止めて、それに抗う術を見つけ出したのだ。リオには到底まねできないが、雫にはソレが出来るのかもしれない。と、リオは思う。

自分が出来ずとも、人に出来ない道理はない。

何故なら人はそれぞれ違うのだから。

リオはそれを思うと、少し寂しさを感じた。

夢野雫と出会ってから、なんとも強引な展開だったが過去に彼女の心に触れた。その時は”彼女が自分と似ているかもしれない”とリオは内心喜んでいたのだが、実際は雫とリオは似てなどいなかった。

雫はリオよりも力があって、リオのように逃げたりはしないらしいのだ。

 

「雫さん、やばかったら逃げるというのはどうでしょうか?」

「そうですね それもありかもしれません!でもそれはもう少し自分の考えを試してみてからにしたいです!」

「かっこいいですね」

「リオさんの方が何倍もかっこいいですよ!」

「皮肉っぽいな・・・」

「本心ですよ!人はみんな違うんですから!私はリオさんも自分も肯定します!」

「全肯定BOT!?」

 

リオは雫の髪についた砂を払いながら言う。

 

「もし逃げたくなったらどうぞ私の家を訪ねてください 私のお薬こと美味しいお酒で雫さんをもてなします!」

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

それからしばらくは雫とリオは共に並んで、砂の上に仰向けに寝転んで、一緒に波の音を聞いていた

そうしてどちらかがくしゃみをしたのを合図に、二人はリオの家へと避難して、酒を飲んでその日は眠った。

後日鬼電のマネージャーに、雫がめっちゃ謝った。

 

そんな顛末だった。

 

 

 

 

 



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筋トレだ!

下ネタ注意報発令


「82ぃ、83ん、84いっ、85っ」

 

荒い息遣いと共に積み上がっていく数字のカウント。

額から流れる汗が輝きながら顔の輪郭をなぞっていく。

リオは日課の腹筋をしていた。

タオルを敷いた自室の床の上に仰向けに寝転がって、上半身を持ち上げる。頭を挟む両腕の肘を、自らの膝に近づける。

既に回数を重ねていて疲労がたまっている。表情には苦悶が浮かぶ。タンクトップから見える肌にはシャワーを浴びたかのようにたくさんの汗が浮かび上がり、その短めの黒髪には光る水滴を実らせていた。

 

「91ぃ、94ん、ああ92かぁ? ・・・まいっかぁ90っ、91ぃ」

 

間違えた。また間違えた。何度目かの間違いだ。

カウント中に間違えるのは酸素不足の弊害で、それによりリオが頭が悪くなったというのは勿論暴論である。尚、彼女の頭が悪いというのは正論である。

そして筋肉が宝石と同等の価値を持つというのは、彼女にとっての持論である。

引き締まった筋肉の生み出すその陰影は、宝石の輝きに値する。鍛え上げられた筋肉の価値は100億ルピアに相当する。日本円でいくらか。79万円。あら、微妙。

そんなリオは現在進行形で腹筋に筋肉の育つ心地の良い痛みを感じながら、脳内ではこう喚いていた。

 

世界に筋肉より美しいものなど有りはしない。筋肉こそが全て!筋肉こそが地球!筋肉 is ディスティニーーーーーーー!!

 

酸 素 不 足 だ 。

 

そうこうしてる内に、腹筋の回数は増えていく。

 

「98ぃ 99ぅ 100ぅ~~~!!! あぁ~~休憩」

 

リオはとうとう目標の数を達成し、達成感から声を漏らした。そうして息を吸い込みながら、背後の床へと大の字に倒れて伸びた。荒い呼吸でもって新鮮で冷たい酸素を肺へと忙しく送り込みながら、天井の丸いカバーに覆われた電球を見つめる。

このやり遂げた充足感を感じさせる小さな瞬間が、リオにとっての幸せである。

リオはそのまま右腕を動かして、傍の床に彷徨わせペットボトルの感触をつかんだ。

すると身体をぐっと起き上がらせると、あぐらをかいて座りこむ。そうしてペットボトルのキャップを開けて口元へと運ぶ。

 

\ごきゅごきゅごきゅ/

 

子気味よく喉を鳴らしながら天井を向いてラッパ飲み。少しはしたない。だがこれが美味い。

喉を通って冷たい水が、乾いた体を癒していった。

俯瞰して見る。

汗で濡れたショートの髪がさらりと揺れて、光る水滴を落としている。そしてペットボトルの水も揺れて光をゆらゆら反射している。さらには引き締まったリオの体つきが光の陰影で際立っている。言うならば、それはまるで一枚の絵画のような美しさである。

 

\うへえ゛っ/

 

残 念 、 お っ さ ん で し た 。

 

TSの最終形態を披露したところで、リオはペットボトルを口から離し、腕で口元を軽く拭った。

未だ身体からは汗が止まらない状態ではあるが、首から下げたタオルで軽く拭いたところで次の筋トレである。

陸に上がったアザラシの如く腹から床に身体をくっつけて、両手をハの字にして目の前の床へ。そうして身体をぴんと伸ばして、手と裸足のつま先で身体を支える。

腕立て伏せのポーズ。

 

「1! 2! 3!・・・」

 

最初は疲れが無いから元気だ。リオは威勢よく声を飛ばしながら、身体を上下させて腕立てに励み始める。

思考をする余裕もある。リオは頭の中で最近気になっていることを思い浮かべた。

LIMEについて。

リオの元には最近やたらとLIMEが飛んでくる。それならばよくある事かもしれない。

しかしそれが見知らぬ相手からとあっては、よくある事とは言えない。リオには全く見覚えが無かった。

曰く、”コラボの日はいつにするかしら?”だの”もっと店に遊びに来てもいいのよん♡”だの”キュウリ好きい?”だのと。

ユーザーネームは宮本徹とあるが、果たして誰なのかリオには分からない。そしてこの文面はもしかしたら間違えて送られてきている可能性もあるし、徹君は徹ちゃんかもしれないし、もしかしたら自分が本当にVtuber時雨リオと何故か知っていて送ってきているの人かもしれないしと推測が出来るが、繰り返しメッセージが送られてくるとあっては、さすがのリオの困惑するばかりである。

当然リオはこれに対して返答することは無いし、最近は既読すらつけることは無い。LIMEが親切にも”友達では無いですか?”とメッセージを表示してくるが、”恐らくやばい属の人です”という感想しか彼女には思い浮かばない。

 

「24!25お!26う!」

 

腕立て伏せは、そろそろ身体にきつくなってくる回数へと突入していた。髪から垂れた汗の水滴が目の前の床へとぽたぽた垂れていて、体重を支えている手や足の表面に滑りを感じるようになっている。

リオは40回やったら小休憩を挟むことにしているので、そこまでの我慢と気持ちを引き締める。

 

「もうっちょいい!」

 

\うほおおほおうほおおおうhっほおお/

 

「ふぁあ!?」

 

傍の床に置いてあるリオのスマホが突然に着信を告げ、リオは思わず声を漏らした。

 

間が悪いなあ・・・

 

リオとしては40回いっていない中途半端な回数で腕立てを中断させられるのは、何とも気持ちが悪かった。しかしまあ最近リオへと通話してくる相手は、”声を聴かないと寝れないです”でおなじみの雫か、”もっと大人しくしてください”でおなじみのマネージャーぐらいなものである。

この両者に関してはリオも気を許していて、お風呂に入りながら料理をしながら、それこそ筋トレをしながらでも通話をすることがある。(勿論内容による)

とりあえずリオは腕立てを続けながら電話出ることにした。

片手で身体を支えて、(リオちゃんしゅごい)もう片手でスマホを引き寄せて通話ボタンを押して、また腕立てを続行する。

 

「はいいっもしもしっ」

 

腕立てをしているので言葉が詰まる。

 

「もしもしっ?」

「リオちゃああんん!チュッ!!ちゅう!!!」

 

言葉が詰まる。

 

\ぶちっ/

 

戦闘力高めのイタ電と判断しリオは即座に通話を切った。

しかしまた少しすると着信が来た。

 

「はいっ 誰ですか?」

「あたしよおおおおん!!」

「切るよんっ」

「山田ゴライアスよん♡」

「・・・ええええ!?」

 

リオは予想外の人物の登場に思わず驚愕の声を上げた。通話相手はまさかの先輩Vtuberにしてオ・カマバーの店主、山田ゴライアスであった。

リオは記憶を振り返る。連絡先など交換した覚えがない。

さてはマネージャーか。私の交流が狭すぎボッチくそワロタで勝手に連絡先を売るのか、あのマネージャー。

などとリオは一瞬のうちに考えを巡らせたが、今そんなことはどうでもよかった。

それよりも、

 

「なぜ連絡先知ってるんですか?」

 

オカマの特殊能力ですか?

 

「もう、いやねえ~ 前にうちの店で交換したじゃないのぉ」

「ええっ、そうなんっですかっ?」

「そうよん まあでも、リオちゃん酔っぱらってから記憶に無いのも無理ないわね♡」

 

ゴライアスの店ことオ・カマバーには、以前の配信で初めて訪れてから、さらに何回か通っていた。

 

「あの時はすごかったよん~ 武士ちゃんのちょんまげ掴んで、武士ちゃんをぐるぐるぶん回してたんだから~」

「なにそれっゴリラじゃんっ」

「りおちゃんよ♡」

 

記憶にないうほ

 

話してる間にも腕立ては進み、現在36回。あと4回である。

 

「はあっ それはっ 御迷惑おかけしましたっ」

 

あと3回

 

「いいのよ!楽しければ全然おkなのよん!というかそれよりも!」

「はいっ?」

 

あと2回

 

「リオちゃんもしかして・・・言いにくいんだけどその・・・自家発電してるのかしらぁぁぁ!!??」

 

あと1k・・・

 

「ぬ゛ふ゛ぇ゛え゛!!!????」

 

リオは人生で初めて出したような鳴き声を上げた。

瞳孔が大きく見開いて、口をぱくぱくさせている。現状が理解できなかった。

 

自家発電って、つまり、、、ええ??

 

「どどどどうしてそうなるんですか!!??」

「隠さなくたっていいのよん!あちしばっちり聞いてるわ!!リオちゃんの荒い息遣いをね!!」

「あ」

「言葉の合間合間に熱い吐息!盛り上がってるのね!!分かるわ!!凄く分かるわ!良いわよね!スリルが!電話越しの自家発電!!燃えるのよね!」

「いやあのそのっ」

「いいのよいいのよ隠さなくたっていいのよ!あちしも大好きよ!!スリル大好き!!あなた友達いい!!おほおおおおおおおっ」

「違うんです!誤解です!筋トレ中なんです!40回いったんです!」

「40回!?40回も逝ったのかしら!!??あらああああ変態ねええ!でもそんなリオちゃんも好きいいいい!!」

「ちげえよ!話聞けよ!」

「おほおおおお興奮するわよ!!エクスタシイイイイイイイ!!!」

「やめろおおおお」

 

リオは腕立てから解放され地面に腹這いになりながら、頭を抱えた。

山田ゴライアスはその特有の思考回路により、リオとの会話の中からあらぬ妄想をして思わぬご馳走を見つけ貪るのに夢中である。

 

このままでは変態イケメンポンコツ美少女ゴリラVtuberになる! ダメだ!強そう!

 

リオはとにかく誤解を解くことを優先した。

 

「ゴライアス先輩、聞いてください! 私は今まで腕立て伏せをやってたんです!40回はそれの回数です!」

「もう~恥ずかしがりやなんだから♡ それよりもどんな気分だった!? あたしに教えてちょーだい!! ああ、身体が火照る!火照るわああああ!!!」

「駄目だこのオカマ、話聞かないタイプのオカマだ」

「聞いてるわよん」

「聞いてるのかよ!」

 

オカマの耳が地獄耳であることは、アニメの実写映画が大抵失敗するのと同じくらい常識である。嘘である。

 

「さてと~挨拶もこのくらいにして~」

「どこの民族の挨拶ですか」

「約束通りっ来週あたりコラボ配信しましょうね!」

「ふぁあ!? 約束とは!?」

「酔っ払いリオちゃん可愛いわぁあ~~ん」

「orz」

 

知らぬ間に酔いの間に、リオ王国とゴライアス王国の条約は締結されていた。

 

「あ、あとわぁ・・・」

「まだあるんですか?」

「リオちゃんって、キュウリ好きい?」

「あんただったのか!」

 

宮本徹さん、こんばんわ。

 

 

 

 

 

 



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ゴライアスとコラボだ![1]

誤字報告してくださる方、ありがとうございます。


side:ゴライアスの配信

 

某日、時雨リオと山田ゴライアスによるコラボ配信の時刻が訪れようとしていた。と言っても動画タイトルは、

『私のBarについにあのお客様が!!??』

となっており、タイトルを見ただけではコラボ相手を推測することは難しい。なんせ山田ゴライアスはVtuber界きっての面食いオカマVtuberであり、配信中においてもあの子は良いこの子も良いと勝手にオカマ品評会に挙げられたVtuberは数知れず、誉め言葉ともセクハラともつかない一方的な求愛に晒されるVtuberは日夜増産され続けているのである。

チャンネル山田ゴライアスの配信待機画面は一面真っ黒で、その中央には青色で大きなハート型の看板があり、”準備中♡”とやたら丸みを帯びた字が書かれていた。

そしてその四角い配信画面の右側では、配信開始を今か今かと待ち構えている視聴者のコメントが、縦にどんどんと流れていく。

 

まだかしらあああ??

マママ?(※ママまだ?の意)

興奮するわね!うふ!

焦らしぷれいね♡

 

期待に満ちたオカマチックなコメントの数々。

何故か山田ゴライアスのコメント欄にはオカマ口調なものが多い。これは別に本人が指示をしたという事は無く、勝手に視聴者にその口調が伝染しただけである。

恐ろしきかなゴライアス語は感染るのだ。

その配信の様子が他所からいつからか”ゴライアス王国”と呼ばれていることから、その異質さがうかがえる。さしずめゴライアスはその王と言ったところか。いや王女かもしれない。・・・気にすることではない。

そのうちに予定時刻となった。すると配信画面が切り替わり、穏やかなジャズのBGMと共に、一面が橙色の光に照らされ、落ち着いた雰囲気のあるBarを模した背景へと変化をした。そしてその手前の画面の右側に山田ゴライアスが現れた。

 

「みんな、おまたぁ~~~」

 

ゴラ様ぁぁ!

ママ^~

時間通りよん!

待ってたわよ!

 

やけに粘り気のある声はまさしく山田ゴライアスの特徴である。

ゴライアスは今日も青い。

青いスキンヘッドに青い瞳に青いアイシャドウに青い唇に。

とにかく青さに余念が無い。褐色の肌はその青さを際立たせる。

それと服の袖は肩から先が見当たらない。革の質感でテカリ輝く服であるが、肩から先は引きちぎられたかのように存在しない。クマに襲われて勝った説が視聴者の間では今のところ有力とされているが真相は分かっていない。

もしかしたらクマは絞め殺されたのかもしれない。

最後にクマは ”へ゛あ゛あ゛あ゛あ゛” と断末魔をあげたのかもしれない。

 

クマだけに。

 

・・・ぴょっ♡

 

配信は開始された。

 

「みんな今日も元気ね~ それじゃ今日もいくわよ~~~ん」

 

いいわよーん

来てええええ♡

リップ塗らなきゃ!

いらっさああい

 

「あ・い・さ・つ・のーーーチュゥゥ!!!」

 

チュっ!!

ちゅ!

ぶうちゅううう!!!

ちゅっちゅちゅ--ちゅ-ー!!

 

鳴り響いた水気を帯びたリップ音。

加速するコメント欄。

初手投げキッス。

 

「うふうっ みんなサイコーよ♡」

 

ありがとうございますぅ!

うふうっ!!

神様仏様ゴライアス様ぁぁ

ああああビクビクン!

 

「にしても今日はあれねぇ 若干人が多いわねぇ」

 

コラボと聞いて来たのよん!

楽しみだわ!

お相手はどなたかしら?

イケメン?可愛い?

 

「うふっ そうよね みんな気になっちゃうわよね~」

 

なっちゃうわよ!

早く呼びなさいよ!

焦らしプレイね!ああああああ!

今日の獲物は誰かしら

 

「焦らしプレイも好きだけどうふふふふふ♡ 早速呼んじゃうわね! 今日のお相手はこの人よ!りおちゃーーーん!!」

「はーい」

 

ゴライアスの呼び声に反応するように間延びした声が聞こえ、同時に突然に、画面を埋め尽くすほどの大きなアバターの顔が表示された。

一面の肌色。大きな瞳。ガチ恋距離。

 

拡大率500%、超巨大時雨リオである。

 

!?

!?

うわっ!?

でっか♡

超 ガ チ 恋 距 離

 

「どうもー時雨リオですー」

「嗚呼ああっ!!!でかい!でかいわっリオちゃん!!!」

「ええ?」

「でっかすぎよん♡おほっ♡」

 

でかいわ♡

リオちゃんかっこいいいいいい

リオちゃん来たあああああ

嬉しいいいいいい

歓迎するわよん!

 

ゴライアスはやけに熱を帯びた声(意味深)を漏らす。

大きかった時雨リオは小さくなり、カーソルの動きに合わせて画面左側へとUFOキャッチャーのように移動していった。

 

「ごめんなさい、こっちのミスよん 気にしないで♡」

「あ、はい」

「じゃあ改めて、リオちゃんいらっしゃい!コラボ受けてくれて嬉しいわぁ~!」

「いえ、こちらこそありがとうございます!」

 

ゴライアスの弾む声にリオも嬉しそうに答える。アイシャドウに縁取られたゴライアスの目も細められ、リオの大きな黒い瞳も細められる。

 

「あっ」

 

リオは瞳を開き不意に声を漏らした。

 

「んんん?どうかしたかしらあ?」

「いやあ~ なんか私の方の配信が待機画面のまま止まっちゃってるみたいなんですよね・・・」

「あらあ~それは困ったわねえ」

 

リオはリオで配信を行う予定だったのだが、現在リオの配信画面は音声だけを流すのみで、依然真っ暗なままであった。リオの姿さえ映っていない。

いわゆる機材トラブルである。

 

「んん~~困ったなあ 私、こういうの得意じゃないんだよな・・・」

「うふうっ リオちゃんそういう時は私にお任せよ♡」

 

流石ゴラ様!

オカマの鑑!

メカオカマ!

マママママ!

 

「ほえ~ゴライアス先輩得意なんですか?」

「全・然♡」

「・・・ほえ~」

 

あああああ素敵いいいい!!

上げて落とすはオカマ拳法!!

ゴラ様輝いてるわ!

ふ つ く し い

 

ゴライアスはそれでもリオにアドバイスを送る。

 

「パソコンを撫でてあげるといいわよ?」

「撫でるんですか?」

「撫でるのよ!いっぱい撫でるのよ!」

 

フレームの縁を。

 

「へえ~初めて聞いた」

「ただ撫でるだけじゃだめよ!いっぱい励ましてあげるの♡」

「励ます??」

「”頑張れ♡”とか”元気出して”とかよん!!!」

「ふんふん やってみます!」

 

リオは素直にこくこくと頷いて見せた。

勿論ゴライアスとてこんなことで直るとは本気では思っていない。だからこれは誘導である。

 

リオにセリフを言わせるための誘導である。

 

ゴラ様策士ねぇ~

リオちゃんも素直で可愛いわ!

あほかわいい!

そんなに何でも従っちゃだめよ♡

 

「さあ!まずは、応援してあげるのよ!」

「頑張れ!頑張れ!」

「もっとよお!」

「がんばれええ!がんばれえ!!」

「もっと卵を産むウミガメを応援する気持ちでえええ!!!」

 

「がんばれえええええええ!!!!もうちょっとだああああ!!!!産めえええええええ!!!!!!」

 

「う~~~んんっ!!ビクトリイイイイイっ!!!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

~リオの配信画面~

ゴライアス最高かあああ!!!??

僕も産まれりゅううううう!!!!!

ゴラ姉あざああああああす!!

明日も頑張るうほおおおおおおおおおおおお

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「先輩!まだ直らないです!」

「次は感謝するのよ!!!」

「いつもありがとう~」

「もっと気持ちを込めてえええ!!!!」

「いつも頑張ってくれてありがとう!私も頑張るから君ももっと頑張って!!」

「もっと仕事で疲れた社会人を癒すように!!!」

「君はほんっとによく頑張ってる!!!!辛いこともあるよね!頑張らなくてもいいからね!!!逃げても全然良いからね!!!」

「”傍にいるよ”」

 

「私が傍にいるよ!!!」

 

「う~~~~んっ!!スパイシイイイイイイイイっっ!!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

ふぁあああああああああああ!!!!!

あびゃああああああ~~~~

リオちゃんしゅきいいいいゴラ姉もしゅきいいいいいいい

アリガトウ・・・アリガトウ・・・

もう死んでもいい

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「先輩!ダメです!!」

「う~ん、こうなったら、、罵倒するのよ!」

「罵倒ですか!?」

「そう! さぼり気味なPCちゃんを焚きつけるのよ!!」

「ええと、、ば~~か?」

「もっと感情を込める!」

「ばーーーか!あーーーほ!!まぬけーーー!!!」

 

MAD素材みたいね

小学生みたいで可愛いわ♡

まだまだイケる筈よん!

イクのよ

 

「もっとよ!!もっともっと憎しみを込めて!!」

「お前なんか役立たずのスクラップ野郎だあああ!!働かなかったら価値なんて無いゴミ野郎ううう!!」

「幽霊が来たわよ」

「ああああくたばれええじゃないもうくたばってるううううう」

「漫画のアニメ化が失敗したわよ」

「好きな漫画だったのにいいい畜生おおおおおおお!!!」

 

「嫌いな人が来たわよ」

 

「逃げてばっかりいるあんたなんか大っっっっ嫌いだああ!!!酒ばっか飲んでんじゃねええええ!!!」

 

「どうするの?」

 

「あんたなんか、あんたなんか死んじゃええええええええええ!!!!」

 

「ううーーーーんっっ!!!!エクスタシイイイイイイイっっ!!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

死にましゅうううううううううう

ごめんなさあああいいいいい7

嗚呼あああドMで良かったあああびくんびくん!!!

うbfrwふぃfびびいいいいいい

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はあっ はあっ」

「お疲れ様~」

「はあっ はあっ」

 

散々大きな声を出したリオは、息を整えるように荒い息を吐いていた。

肝心のリオの配信画面と言えば引き続き真っ暗なままである。それでもリオの視聴者はコメント欄で大喜びしているのだが、リオは直らないことに落ち込んでいるようで深いため息をついていた。

 

「直らないです・・・」

「まあ私には無理よねぇ~」

「んん・・・ごめんよ私の視聴者」

「まあそういう日もたまにはあるわ♡」

 

ゴラ様ポジティブ!

リオちゃん不運ね

落ち込むリオちゃんもアリね♡

はあああん抱きしめてあげたい!!

 

そこからリオは仕方が無く、自らの配信は真っ暗なままにしておいてゴライアスとの雑談に興じた。リオの視聴者もゴライアスの配信に移動するか、それ以外はラジオ感覚として暗闇配信を楽しむことで、とりあえずは落ち着いた様子を見せた。

10分ぐらい経過したときだったか。

不意にリオがゴライアスとの会話を途切れさせた。

 

「リオちゃん?」

 

リオは目線が左側、ゴライアスとは反対側。丁度自分の配信ではコメントが流れている位置に目をやった。

コメントの一つがリオの目に留まったのだ。

 

「すみません 鳴きます」

「え?」

 

リオの唐突な宣言にゴライアスは困惑の声を漏らしたが、それに対する返事は既に人のものではなかった。

 

「うほっ!」

「あら」

「うほおおおおっ!!!」

「鳴いてるのね!これが噂のリオゴリなのね!!!」

「うほっほっほほおおおおっほほほお!!!!!!うほおおおおおおお!!!!!!!」

「あらぁ逞しいいい♡」

「うほおおおおおおおおおおおっほっほっほ!!!」

 

おほおおっっ!!

立派ね♡

大自然ね!

身体がびりびりしちゃうわ♡

 

 

その素晴らしい雄たけびは、リオの配信においてもゴライアスの配信においても、けたたましく勇ましく鳴り響いた。

 

「あ、直りました」

 

配 信 が 直 っ た 。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

きたああああああああああああ

なんでええええええええwwww

何から何まで意味わからなくて草

鳴き声でPCを叩き起こす女

ま あ 、リ オ だ し ね 。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あら良かったわねえ~」

「すみません突然」

「いや良かったわ~ 生ゴリが聴けてあたし幸せよん!」

「あはは・・・ 実はうちのコメントの中で”ゴリラ語音声認証かもしれない”というのがあって、まさかと思ったんですけど試してみたくなっちゃって・・・」

「よく分からないけど良かったわね!」

「はい!良かったです!」

 

こうしてリオのチャンネルでも無事に配信が始まった。尤も、配信が直ったのは当然リオゴリの鳴き声のおかげでは無く、たまたまタイミングよく回線トラブルが解消されたに過ぎないのだが、そんな無粋な指摘をする者は誰もいない。

強いて言えば、このタイミングでトラブルを直してしまうリオの天運のおかげである。

リオが”リオった”だけである。

 

ともかくとして配信が始まったのだ。

それでいいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ゴライアスとコラボだ![2]

肌寒い


「ところで何しましょーか?先輩」

 

リオが早速とばかりに尋ねる。 

リオはまだコラボの数が少ない半プロボッチ一匹オオカミ系ソロゴリラVtuber(訳:人見知り)であるが、その点ゴライアスは経験が豊富である。コラボもたくさんしている。そのため事前の打ち合わせで、ゴライアスが予め企画を考えておくことになっていた。

 

「そうねえ~」

「まさか2時間雑談するわけにもいかないですしね~」

「そうねえ~」

「そんなんしてたら口がもげちゃいますよね~」

「そうねえ~」

「・・・ゴライアス先輩?」

 

 

「なーんにも考えてないのよね~」

 

 

「はい、おつかれしたぁー!」

 

解散でーすwww

[悲報]開始5分でコラボ終了

早すぎて草

タノシッカッタナー

 

さすがにリオも想定外だった。大舟に乗ったつもりでいたが、どうやら泥船だったらしい。

 

「ゴライアス先輩まじっすか、これからどっちの口が早くもげるか耐久配信するってまじすか」

 

グロ配信で草

まあリオは3時間くらいへーきで雑談配信してるわけだが

↑ゴラ姉と長時間やぞ

↑拷問かな?

 

そこへゴライアスが笑いながら言う。

 

「嘘よ、嘘 冗談♡」

「はぁ・・・良かった」

「オカマのジョーダン♡」

「うわその枕詞、腹立つ オカマ腹立つ」

「まあ、私としてはリオちゃんとみっちり愛を語り合うっていうのも魅力的ってゆーか、寧ろそっちもやってみたいってゆーか、お口もいじゃいたいっていうか!!」

「パワー系オカマになるのやめてください」

「リオちゃん食べちゃいたいわ♡」

「だからそれやめろ」

 

なにはともあれ企画があって一安心である。

リオは早速尋ねる。

 

「それで、何するんですか?」

「ふふふ それはね・・・」

「それは・・・」

「題して『リオゴラせんせーのお悩み相談室』よ!!!!」

「・・・ふぇ?」

「はい拍手ぅ!」

「おお~」

 

おおおおおお!!!

8888888

きたあああああああ

やったあああああ

 

リオは困惑した様子で声を漏らし、控えめに拍手をした。

タイトルだけではいまいち要領を得ない。

 

「実はねリオちゃん・・・」

 

ゴライアスが詳しい内容を語る。

ゴライアスはコラボに先立って、自らのもっちーに視聴者からの相談を募集していた。それは大小問わず種類も問わない。その結果、ゴライアスのもとにはたくさんの相談が集まっていた。

この『リオゴラせんせーのお悩み相談室』では、その集まった相談に対して、二人が解決策を示す、ということであった。

 

「分かったかしら?」

「分かりました」

「了解?」

「了解です」

「私が大好き?」

「そこそこ」

 

冷静で草

普通に楽しそうなコーナー

ゴラ姉は人生経験豊富そうだしな

リオはゴリラだしな

 

「それじゃあ1つ目イクわよ」

「はい」

「ええ~もっちーネーム:リオの『オ』はオパンツの『オ』」

「おい、舐めてんなぁ!」

 

wwwwww

先 制 攻 撃

ひでえ名前wwww

 

「可愛い名前ね~反抗期かしら?」

「絶対碌な相談来ないですよ」

「そんなこの子の相談事はこれ」

 

 

 

 

借金が2千万あります。

 

 

 

 

 

「おっも!!!!!!」

 

ひえええええええ

やべえwwww

開 幕 1 0 割 

 

名前から想像していたよりもずっと重い相談が来て、リオは思わず声を上げた。

 

「すごいの来たわねぇ~」

「いやいやいやこれ答えようが無いですよ! しかるべき金融機関に行ってくださいとしか言えないですよ!」

「い~え、リオちゃん この人は、あ、間違えた リオの『オ』はオパンツの『オ』ちゃんは」

「わざわざ言わなくていいですよ!なんかギャップで哀愁感じるし!」

「この人はわざわざあたしたちに相談してくれたのよ!つまり助けを求めたのよ!」

「ああ・・・そうですねぇ」

「答えてあげなきゃ可哀想よ」

「んん~」

 

とはいえ難しい相談である。借金2千万などそう一般的なモノではない。当然リオにも経験がない。

 

「じゃあ手始めに私から答えちゃうわね♡」

 

悩むリオにゴライアスが言った。

 

「リオの『オ』はオパンツの『オ』ちゃん、愛よ、愛に頼るのよ 人に愛してもらえばどんな苦しみも耐えられる 人を愛せばどんな苦しみも乗り越えられる 愛は全てを救うのよ」

「・・・」

「・・・?」

「・・・以上よ♡」

「終わり!?」

 

wwwwww

何だ今のwwww

宗教勧誘みたいだぁ・・・

 

オカマの回答には具体的な解決策は何一つ示されていない。

 

「いいんですか?そんな、なんか・・・いや、ああ、言葉選びが難しいな」

「いいのよ、あたしに救えないし」

「ざっくり言ったな!」

 

wwww

せやなww

正直者

 

「そもそもあたしたちには正解は求められてないのよ」

「?」

「あたしたちなりの答えがみんな聞きたいのよ」

「・・・なるほど、そういうもんですか」

「さ、次はリオちゃんの番よ」

 

ゴライアスが促した。

 

「んん~そうだなあ・・・」

 

リオが真剣に悩んでいる!?

もしかしたら良い感じのくるか

心優しきゴリラだからな

これは期待

 

 

 

 

「・・・宝くじとか興味ある?」

 

 

 

 

 

宝 く じ

駄目だあああああwwww

wwwww

知ってた

_(:3」∠)_

 

「無理よね」

「無理ですね」

 

二人には荷が重い質問であった。

 

「さあ、ばんばんイクわよ」

「はい」

「もっちーネーム:ゴリゴリのラー油略して・・・」

「相談をどうぞ」

「これよ」

 

 

 

 

夏って不思議だな~

だって暑いもん

まるで恋みたいだね?

 

 

 

 

 

 

「・・・はっ?」

 

wwwwww

逃げろ!怪文だぁ!

怪文はどこでも沸く、可愛いなあ~

縦読みしてみ?

夏 だ ま

 

リオは短く声を上げた。

 

「ポエムも募集してたんですか?」

「うふっ たまに混じってるのよね~」

「何でチョイスしたんですか・・・」

 

リオは呆れた声色である。

 

「・・・そんでこれどうするんですか?」

「答えるのよ」

「え、あの、これ、答えるもなにも」

 

 

「冬もいいわよ

貴方の熱が恋しくなるもの

燃えるわよね?うふっ」

 

 

ゴライアスのポエムであった。

 

「ね?」

「何がです?」

 

怪文で返したwwww

パワープレイ過ぎるww

これ何見せられてるのww?

考えたら負け

 

”お手本よ”とでも言いたげなゴライアスの言葉であったが、リオにはさっぱりであった。

 

「どうすればいいんですか?」

「別に難しく考えなくていいのよ 季節っぽい言葉を使えば完成よ!」

「季節・・・季節ねぇ・・・」

 

 

 

 

「・・・秋って地味だよねぇ」

 

 

 

 

wwwww

この女www

ジミダヨネー^^

だからなんだよwww

 

ポエムは難しいものである。

 

「はいじゃあ次よ~」

「どうぞ」

「もっちーネーム:ダンゴムシの王」

「・・・ダンゴムシの王!?」

 

強いwww

wwww

王蟲きたああ

 

「相談はこれ」

 

 

 

友達と些細なことでけんかをしました。

仲直りの方法を教えてください。

にゃーん。

 

 

 

 

 

「普通だ!最後以外普通だ!!」

 

 

『リオゴラせんせーのお悩み相談室』に、とうとうそれっぽい質問がきて、リオは驚きと喜びの声を上げた。

 

「やっときましたね!」

「これは答え甲斐があるわよ~♡」

「じゃあ私から答えちゃいますね!」

 

リオははやる気持ちを表すように声を弾ませていった。

 

お?リオ姉貴乗り気や

リオはそもそもケンカする友達いないのでは?

いっつもしてるぞ、視聴者と

リオ虐は至高

 

「これはずばりですね・・・」

 

 

 

 

 

「酒を飲み交わそう!」

 

 

 

 

「これに限ります」

「あら良いわね~ でも未成年だったらどうするのぉ」

「・・・ばれなきゃ大丈夫」

「あら~」

 

wwwww

おい、こいつwww

お巡りさんこいつです

 

「まあ、それは冗談ですけどねw 子供だったら、あの、あれですね・・・殴り合って・・・魂のぶつかり合い・・・的な」

 

ジャンプで義務教育終えたんか?

俺たちソウルメイトだぜ!!(激寒)

これがリオだ\ドン/

もうリオは男なんじゃないだろうか

リオ君好きいいいいいいいいい

 

ちなみにリオは小さい頃は少年たちに交じって鬼ごっこやら虫取りなどをして遊び、いじめっ子には鉄拳制裁で立ち向かうというやんちゃだった過去が存在する。

体格に差がある時期なのでしょうがない。

 

「ちなみにゴライアス先輩はどうしますか?」

 

リオは尋ねた。

 

「そうねえ~」

 

頼むぞゴラ姉

いい感じのこと言ってくれ

ゴライアスお前にかかってる

これで勝てる!

 

「あたしだったら・・・」

「はい」

 

 

 

 

「”キス”するかしら♡」

 

 

 

 

もうだめだあ・・・

ひぇ

二人ともまともじゃねえwww

向いてないよ-^^



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ゴライアスとコラボだ![終]

その後も1時間ほど配信は続いた。

素でボケているリオと、基本ふざけているゴライアスである。二人の間で交わされる会話は視聴者の予想をことごとく裏切り、コメント欄には草が生い茂り、視聴者の心を大いに楽しませた。そして豊富な素材提供には『時雨リオ打打打打打打打打打打』を初めキチMAD(タグ:ゴリラ界からの刺客、森へ帰れ、ゴリ押しを超えた何か、etc...)を制作する職人たちもほくほく顔であった。

楽しい時間はあっという間に終わる。

視聴者に惜しまれながらもやがてコラボ配信は終わった。

 

 

コラボ配信を終えてからというもの、リオが配信をする度にコメント欄には異変が発生するようになっていた。

それは何人かの異端者。

はぐれモノ。

コメント欄でのコメントは当然のことながら配信についてのものが一般的であるが、その者たちが残すコメントはリオの配信とは一切関係がない。配信内容がどんなものだろうと、どんな流れだろうとそれらを一切無視したコメントを連投する嫌われ者。

”荒らし”である。

ゴライアスとのコラボを機にゴライアスの視聴者と思われる荒らしが流れてきて、頻繁に出現するようになっていたのだ。

 

例えば・・・

 

 

「みんな、今日は待ちに待ったサッカーのワールドカップを応援する配信だよ」

 

いえーーい

酒用意したで

チュッ!!!

オカマビーーーーム!!!

https://www.okama.com/?g??l!=JP&hl=ja

 

「リアルにしてっと・・・ まずはこの国旗を使って、我が家のアイドル、ウーパールーパーのうー太に勝敗予想をしてもらいまーす」

 

うふふふふふーーーーふっ!

ウー太おひさw

生きてたんかワレ!

あ、そーれチュ!チュ!チュ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日のヤホーニュース見た!? パンダが動物園から脱走だってさ! 野良パンダ見たいよね~」

 

ゴライアス、爆発する→https://goraiasunews.yahoo.go.jp/

野良パンダwww

リオは野良ゴリラ

みんなにチュ!!!

 

「そう言えば小さい頃、近所にぽっちゃりな野良猫がいてさ~」

 

にゃーん

ぬこカワ

ぶちゅちゅちゅちゅ!?

(*´з`)好きよ~

リオに餌をあげたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バルベリットビビビフラペチーノ!!」

 

はぁ?

リオが壊れちゃったよ~^^

オカマ鎌しゃきいいいいん!!

呪文かな?

呪いかな?

 

「メタバの新メニューがこんな感じだったはず・・・」

 

絶対嘘だろwwww

舌足らずリオ姉貴すこ

ゴライアスぱーーんち(';')

あたしたちのゴライアスが配信してるわよ!→https://www.NowTubejo.jp/webhp?hl=ja=X&ved=0wjyx-mM7o_sAhWWPPAgI

 

 

 

荒らしのコメントは、リオの視界にも当然入っていた。

コメント欄に目をやる度に雰囲気の違うそれらのコメントは、たくさん流れるコメントの中でも埋もれずに浮いていて、意識を必要とせずにちらちらと映る。まるで鏡についた汚れのようである。

しかしリオは配信中に触れることは一切しなかった。

わざわざ触れる理由が無かったからである。

リオは荒らしについては否定的に捉えていない。

配信をしていれば荒らしが起こることは自然なことだ。それに綺麗すぎる場所より多少散らかっている場所の方が落ち着く。いわばそれはアクセントのようなものである。そして自分の視聴者が他人の配信に迷惑をかけてないという自信もない。このような思いから、リオは荒らしについては寛容な姿勢であった。

しかしやがて、そんな彼女でも無視できない事態が起こる。

 

それはある日の配信開始直前、待機画面のコメント欄でのこと。

 

ぶちゅううう!!!!

↑うるせーぞカマ

そんなあなたにもチュッ!!!

口もぐぞオラッ

お口はミッフィーちゃん(';')

うっほおほおおお(私のためにケンカはやめて!)

バ ナ ナ ♡ の ぉ 部 屋

( ┘^ω^)┐)))ヨイサヨイサ♪(┌ ^ω^)┘)))ヨイサヨイサ♪

びよおおーーーーーんん

(/ ᐛ)/ ぱぁ

 

 

地獄絵図になっていた。

 

 

「ぐはあああっ゛っ゛wwwwww」

 

リオは思わず吹き出して、配信を開始しようとしていた手を止めた。

 

 

 

(';') ←ミ ッ フ ィ ー の 耳 引 き 抜 か れ て る し !

 

 

 

バ ナ ナ ♡ の ぉ 部 屋 ←多 分 う ち じ ゃ ね ー し !

 

 

 

(/ ᐛ)/ ぱぁ ← ぱ ぁ ! ?

 

 

リオはその滅茶苦茶具合がツボに入り、PCの前で腹を抑えて爆笑した。

今までに類を見ないカオスである。

リオは”ふーっ ふーっ”と心を整えるように息を漏らしながら、両腕を後頭部に組んで椅子の背もたれに寄りかかった。そうして半笑いを浮かべながら、改めて流れるコメントを見守った。

 

「・・・いや、やばいってこれw」

 

その恐ろしい混雑っぷりにリオはもはや感心さえ覚えた。その騒がしさは祭りにも似ていて、何故だかリオを楽しい気分にさせる。

見ていても原因などは分からない。

だが、大抵こういう事にはそもそも原因と呼べるものは無かったりすることも、リオは知っている。

リオは一通り落ち着くと、配信を開始した。

 

「へーい、みんなうほうほ~」

 

うほおおおおお!!!

うっほほほほhっほおお

オカマビィィィイム!

ほほおおおーーーー

ううううほおっほほほ!!!

 

「みんな、調子どうよ?」

 

コメントがぐちゃぐちゃだよー^^

助けてリオパンマン!

イキイキするわよ♡

ぶっちゅうううう!

 

「今日あれだよね 何かみんな賑やかだよねw」

 

いえええええい!!!

オカ卍ぃぃぃ!

楽しいいい~~~~

どうにかしてくれ

リオちゃん出番だよ

 

コメント欄は、荒らしに辟易している人、楽しんでいる人、気にしない人と様々である。

 

「はいはいはーい」

 

リオは手をぱちぱちさせる音と共に、視聴者の関心を集めた。

 

「それじゃあここで、私の、時雨リオの配信のスタイルを振り返りましょー」

 

リオせんせー

ママーーー

しゅき

うふふふ♡

うっほ

 

配信画面にはPCに内蔵されているペイントのアプリが開かれて、白紙の画面が四角く表示された。

そこへたくさんの棒人間が描かれていく。

 

「えー、今までうちの配信は有象無象何でも受け入れてきました 視聴者なのに私にひどく厳しいツンデレな人、逆に甘やかしてくれる優しい人、狂ったように指示を出す指示厨、変態なもっちーを送り付けてくるやべーやつ、大喜利マシーン、投げ銭大富豪・・・」

 

キャラ渋滞で草

wwwww

別にリオのことなんか好きじゃないんだからねっ!

↑きもっ(ボソッ)

直 球

 

「今回そこに新たに”荒らしちゃん”が加わります」

 

棒人間がもう一人増えた。

 

「もちろんあまりにひどいのはブロックするけど、それ以外は皆と同じ魑魅魍魎なので仲良くしましょうー」

 

魑魅魍魎で草

俺たちは妖怪だったのか・・・

ママ―!ママママー!!

問題児来たなぁ

荒らしはどこでも沸くからね

しょうがない

 

白紙の画面は今や棒人間で埋め尽くされた。

 

何でも受け入れるとか宇宙やな

 

「それ!いいコメント! 宇宙!」

 

突然に黒い線で渦が描かれ始め、棒人間たちが巻き込まれていく。

 

はぁww?

どしたー?

急に何だ

宇宙!

 

「つまり私は宇宙なわけです!!」

 

白紙は渦で真っ黒になった。

 

ぐちゃぐちゃああああ

わけわからんwww

リオは宇宙だったんだぁ・・・

ふぁあああwwww

 

「はい、んじゃあ配信始めるぞー」

 

リオはいつも通り配信を始めた。

 

 

 

 

その後リオはゴライアスの配信をちらりと覗いた。

気になることがあった。

それは視聴者によるゴライアスへの報復である。

リオの配信が荒らされたことに対して、リオの視聴者の中に、逆にゴライアスの配信を荒らそうと考える人もいるだろうとリオは予想していた。そしてもしそうだとしても、迷惑にはなっていて欲しくないと思っていた。

そうしてリオはゴライアスの配信を見るが、

 

うほっ!!!

うっほおおおおお!!!

リオis神→https://www.shigurerio.com/watch?v=QNcsaKodTHDBk

ゴリゴリー♡

 

やはり荒れていた。

そして、

 

あら可愛い♡

新入りさんね♡ 

食べちゃうわよ!!!

うふふふふっっ

 

見事に相手にされていなかった。

 

「あぁ・・・これは王国だわぁ・・・」

 

リオは配信を見ながら一人納得していた。

 

 

 

ある晩、リオのスマホにゴライアスからのLIMEが来た。

リオは丁度その時ストレッチのためにバランスボールに腹這いになって乗っていた。

スマホは床の上に転がっていて、手を伸ばして届くか届かないかぎりぎりの位置にある。

暗かったスマホの画面が点いて、視線をやったリオはLIMEの通知に気が付いた。

バランスボールに乗ったままスマホを取ろう。

謎の挑戦心がリオに芽生える。

うまくバランスを取りながら腕先を伸ばす。届きそうで届かない距離に腕が震えるが、指先がスマホに触れて、バランスボールに乗ったまま何とかスマホを手にすることが出来た。

 

「お疲れさま、リオちゃん」

「お疲れ様です、珍しいですね。」

「あたしのところの荒らしが迷惑をかけちゃったみたいでごめんなさいね」

 

ゴライアスは荒らしを気にしているらしかった。

 

「ああ、それは全然 まるで気にしてないで大丈夫ですよ^^」

「そうかしら・・・」

「むしろ新しい視聴者さんが増えて楽しいです」

「それなら良かったわ♡」

「というかゴライアス先輩、もしかして他の方とコラボしたときも毎回こうして謝ってるんですか? あの、ゴライアス先輩の視聴者さんって結構やんちゃで有名ですし」

「そうねえ、、いつも謝ってるわ」

「それはなんか、気の毒ですね・・・」

「分かってくれるのね!リオちゃん!!嬉しいわ!!!」

 

そこでリオがゴリラがグッジョブしているスタンプを押したが、しばらく待っても既読が付かなかった。リオは会話が終わったのだろうと判断してスマホを放り、再びバランスボールでストレッチを始める。

するとすぐに、

 

~~~~♪

 

スマホが着信を告げた。

リオは再び腕を伸ばし、そして

 

ひっくり返った。

 

「っつあぁ・・・」

 

リオはそのまま陸に打ち上げられたアザラシのような姿勢で、スマホを耳に当てた。

 

「はい」

「リオちゃん!あ゛た゛し゛は゛悔゛し゛い゛の゛よ゛~゛」

「ぅえ?」

 

スマホから聞こえてくる声はゴライアスのものに間違いないが、その声は悲愴に満ち溢れていた。

ゴライアスは泣いていた。

珍しいことである。いつも飄々とした様子のゴライアスがここまで大きく感情を出しているのは、リオからすると初めてだった。

 

「どうしたんですか?」

「聞いてよ~~~リオちゃん!!!」

「はい、聞いてますよ」

「はああああたしはぁぁ」

 

ゴクゴクっ

 

「あたしはぁぁ別にぃ荒らしたいなんてぇ」

 

ゴクゴクっ

 

「思ってないのよおおお~~~」

 

ごくごくごくっ

 

「だいぶ飲んでますねえ」

「飲まなきゃやってらんなぃわよ゛ぉ゛ん゛」

「なるほどぉ」

 

リオは納得した。

どうやらゴライアスはかなり酔っぱらっているらしい。

そして彼女は酔っぱらうと泣き上戸になるらしい。

それならば急なLIMEにも説明がつく。

とにかく聞いてほしかったのだ。と。

 

珍しいと思ったけど・・・そっかぁ、泣き上戸かあ・・・

 

酒癖は誰にでもある。

ただ泣き事や愚痴がたくさん出てくるので、泣き上戸は大変だ、というのがリオの経験上の感想である。

 

「り゛お゛ち゛ゃ゛あ゛ん゛」

「はいはい?」

「あたしはーーーうぇっ あたしは悪くないのよーーー」

「と、言いますと?」

「荒らしは勝手に荒らしをしてるのよ゛ぉ゛ あたしはあーしろこーしろなんて言ってないのよお゛ぉ゛」

「ああ、そうですよねぇ」

 

ゴライアスの視聴者らしき荒らしは他の配信者のコメント欄にもたびたび現れているが、それらは「愚民」と揶揄されてやはり嫌われている。

そしてその批判が主たるゴライアスに向けられることも決して珍しいことではない。

ゴライアスもそれを目にしていると思われた。

 

「つらいですね」

「あたしはぁぁぁ うわぁぁぁあたしぁぁぁ」

 

ごくごくっ

 

「この理不尽なぁぁぁ世の中ぉぉぉ」

 

ごくごくっ」

 

「変えたいいぃぃぃぃ!!!」

「先輩、それは何かまずい気が!」

「何回注意してもおんなじゃおんなじゃ・・・おっ」

「先輩?」

「お・・・お・・・おええええええええええ」

「先輩!?」」

 

電話は長引いた。

余りに遅くまで続いたので、リオは途中で寝落ちしてしまった。

夢の中でもゴライアスはゲロまみれで泣いていた。

 

 

 

翌日、ゴライアスがTmitterにとある投稿をしていることにリオは気が付いた。

 

「 荒らしのみんなへ

あたしの視聴者を装って荒らすのはやめてほしーの♡

あたしと貴方たちはむかんけーなのよん。

だってゴライアス王国の国民なら、荒らすなんて野蛮ことしないもの。

そしてどんな理由があってもみんなを傷つけてはだめなのよん!」

 

普段は慎重なゴライアスであるから、きっと酔ったまま投稿をしたのだろう。

リオは渋い顔をしてこの投稿を見た。

 

(これはあれだ・・・香ばしいにほひがする・・・)

 

リオはこの文よりゴライアスが荒らしとは全く関係がないというニュアンスを感じ取った。

いやそれは事実だ。

それ”も”事実だ。

しかし全く関係ないかと言えば、たぶんそうは言い切れない。

99:1の割合でも、どこかちょびっとゴライアスにも非があるように感じてしまう。

と、リオは思う。

そしてこういう捉え方が正反対で受け取られる可能性がある文の場合、その捉え方よっては人が不快になるような要素が”少しでも”含まれている事柄の場合、その対極構造によって人は口論し、煽る輩が出現し、ずれた自論を展開するものが出現し、それラ全てを批判するものが出現し、それをまた批判するものが出現し、それをそれを・・・

つまり十中八九。

 

 

炎上する。

 

 

数時間後。

 

 

燃えた。

 

 

人々は銃撃戦のように言葉の弾丸を飛ばし合っていた。

 

「すみませんでした」

 

という呟きを投稿して、代わりに先ほどの投稿を削除したのもまた火に油を注いだ。

 

上から指示されたんだろうな~

 

リオは苦笑いを浮かべる。

救いは本人がさほど気に留めていない事である。

現に今もリオのPC画面には、ゴライアスがいつも通りな様子でゲーム実況を配信している。

 

人気があるって大変だ

 

リオはTmitterではなく、心の中でそう呟いた。

 

 

 

 



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恋愛ゲーだ![1]

寒いよおおおおおおおお、お、お、オスマン帝国ぅぅぅ!!


リオは気分を弾ませていた。

好きな飲料メーカーが新商品のお酒を出したからでも、気付いたら登録者数が30万人を越えていたからでもなく、もっと単純に。

素晴らしいゲームを手に入れたのです。

 

「ということで買ったんだよ、恋白学園!!」

 

知らんな~

ギャルゲーかな?

エロゲーきたあ?

クソゲーでしょ?

ぜーんぶちゅき!

 

いわゆる恋愛ゲームである。

リオはサイトの宣伝に使われていた絵柄を見て購入を決めた。描かれていた女の子が余りに可愛かったのである。

 

「一瞬で心撃ち抜かれたよね~(即死) あ、可愛いぃ~~(裏声)これ、攻略せばばあかんぴゃあ~(謎方言)ってさ ぐへへへへへへ(地声)」

 

思考がおっさんで草

お巡りさんこいつです

出身が邪馬台国ってまじ?

現代まで生き残ってて草

ダンジョンボスみてーな笑い声してやがる

じゃあダンジョン出身やな(すっとぼけ)

 

配信画面に表示されているのはゲームのタイトル画面である。

校舎を背景にしてその中央では、制服を着た美少女が画面に向かって笑いかけている。またその周囲には取り巻きのようにして男女問わず生徒が何人か描かれていた。

 

「見てよ!このタイトル画面の女の子を!可愛くない!?エロ・・・ックマンみたいじゃない?」

 

エロって言いかけたぞこのゴリラ

ロックマンみたいな女がいてたまるかwwww

リオは黒髪清楚武人が好きなのか・・・

↑武闘派で草

これpyokoっていう有名絵師っぽいな

へえ~

 

「ふふふっ~やっぱり私の目に狂いは無かったわけだな」

 

(エロ絵師であることは何となく黙っておこう)

ちなみにいくらで買ったの?

企業案件?

拾った?

俺も拾ってほしい

 

「これはねえsteeemで399円で売られてたよ」

 

やっすwwwww

サ〇ゼかな?

はい、クソゲーです

ワンコインで草

3 9 9 円 の ヒ ロ イ ン

在 庫 処 理

 

「はんっ、そんな舐めてかかってるのは今のうちだよ これは私のセンサーが反応してるんだ!間違いなく神ゲーだってね!!!」

 

ほんとーかよ

クソゲーハンターが言ってるなら間違いないな!

フラグですか?

ポンコツセンサー

 

「じゃあ早速攻略しちゃうよ」

 

期待のこもった声と共に、スタートボタンが押された。

 

 

導入のムービーが流れる。

舞台は学校。これから始まる高校の新学期。わくわくが止まらないねうふふふふ。な雰囲気である。

さてリオは1つ気付いてしまった。

重大なことに気づいてしまった。

それは

 

「私が操作してるのヒロインちゃんじゃね?」

 

美少女ちゃんは、主人公ちゃんなので、攻略できません!

 

あらーーwwww

ああ、パケ詐欺ですねこれはww

ドンマイww

 

「ええええ、そんなことある!? え、じゃあ、え、あれか、私は私を攻略すればいいわけか!? ・・・はぁっっ??」

 

一人でキレてて草

そうはならんやろw

お前がお前を攻略するんだよぉ!!!

あーかわいそwwww

リオがヒロインのゲーム誰かつくって?

お前が作れ

 

「んー、萎えるわあ ・・・じゃあ、誰攻略すんの 身長145cmロリとか身長180cmクール高身長美女とかじゃないと許せないよ?」

 

身長のこだわりが強いwwww

145なんてそうそういないわ

リオは雫ちゃんと並ぶとでかいよね

多分170くらい?

173やぞ?

 

「ちなみに時雨リオは162cmだからね?次間違えた人は身長縮めちゃうからね?いいね?」

 

ヒエッ

だから何のこだわりなんだwwww

脅し文句独特で草

リオとおんなじ身長でうれぴっぴ~

雫ちゃん150くらいか

可愛い

 

「進めるか」

 

ゲームを進める。

プレイヤーネームを付けよとのことで、リオは主人公にリオと名付けた。

場面が変わり、主人公が新しく決まったクラスへと入っていくシーンになる。

自分の席へと着席すると、それとなくクラスを見渡した。

慣れない環境で心寂しく、自然と知り合いの姿を探してしまう。

しかしそんな不安も消し飛ぶ大きな出来事が!

なんと、クラスメイトの中に、心ときめく3人の美男子がいたのです!!!

 

リオ▽ イケメンだぁ!!!

 

「・・・この子やべーわ」

 

wwwwww

手の平くるっくるーーwww

ガバガバストーリー草

さあ盛り上がって参りましたw

 

美男子が紹介されていく。

 

一人目:勉強できる秀才ドS眼鏡くん

二人目:マイペースで優しいドM優男くん

三人目:リーゼントくん

 

リオ▽ みんなかっこいい~~~

 

「三人目おかしーだろ」

 

リーゼントがいるねえwww

完全にネタ枠で草

誰が選ぶんだこいつwww

我、リーゼント、号泣

ガチリーゼントいて草

 

リーゼント君の髪型は当然のように金髪のリーゼントであった。

まるでバナナを頭に乗っけているようである。

特徴がそれ以外ない。

プレイヤーは誰を攻略するか選ぶ必要があるようだった。

 

「ドSかドMのどっちかかな~~」

 

リーゼント選べ

リーゼント忘れてるぞ~^^

リーゼント一択だろ

リーゼント以外ありえんな

 

「みんなリーゼント好きすぎるでしょw 絶対選びたくないんだけど」

 

視聴者に選ばせてよ

リオちゃんにふさわしい男を選んであげよう!

任せて!

真面目に選ぶからね?

 

「ええ~、、 じゃあ、投票で決める??」

 

きたあああああ

いえすうううう

それええええええ

わくわく!!

 

「いいけどさぁ 真剣に選んでね! リーゼントルートはクソルートって相場が決まってるんだから!」

 

どこの相場だよwww

分かったぜ☆

大丈夫だよ^^

 

投票とは投稿者が生放送中に行えるNowTubeの機能の一つである。

制限時間を設けて、その間に視聴者がコメントで投票した数がそのまま割合で反映され、結果として表されるものである。

 

「じゃあ勉強できる秀才ドS眼鏡くんが1、マイペースで優しいドM優男くんが2、リーゼントが3ね はい10秒、よーいスタート」

 

10秒経過。

 

「はい終わり~みんな頼むよ? 結果はこちら」

 

 

 

 

 

ドSくん・・・5%

ドMくん・・・3%

リーゼント・・・92%

 

「ねえええぇぇぇぇぇ」

 

wwwww

圧倒的じゃないか我が軍は!

組 織 票

不正は無かった

選挙より酷くて草

 

「嗚呼、もうこれでクソゲー確定だよぉ・・・」

 

リオ▽ リーゼント君のことは自然に目で追っちゃう!これって恋!?

 

「珍しいだけだろ」

 

楽しみwwww

リーゼントルートさいこおおおおお

 

 

 

 

 

 



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恋愛ゲーだ![2]

前回までのあらすじ
可愛い女の子を攻略しようと思ったら攻略できなくて、代わりにリーゼントを狙うことになりそう


リオの操作する主人公のリオはどうやら引っ込み思案な性格らしかった。

目元まで伸ばされた黒髪は彼女の性格を表すようである。

休み時間は席から離れず、小説を読んで過ごしているとか。

 

小林多喜二。太宰治。武者小路実篤。

 

少し古い作家の小説が多い。

 

「ふ~ん、かっけーじゃん」

 

適当だろwww

リオは絶対小説読まないタイプ

いつか官能小説朗読配信してましたよね?(黒歴史)

そもそも作家の名前読める?

難しいねえ??

 

「私を舐めるなよ小僧ども、普通に左からこば・・・ん? 小林ぃ・・・小林ぃ・・・オオキニ・・・?」

 

急に感謝してきて草

全国の多喜二激おこ

文学界にケンカ売るスタイル好き

う~ん、この

 

「じゃあ、タッキーニ」

 

外国人!?

このゴリラ一周回って賢いのでは?

全国のじゃあに謝って

”たきじ”な

たきじが悪い

 

「んで、真ん中は”ダザイっち”」

 

ちぃぃぃ!?

カンッッ!?

ツモォォォォォ!!

これは新種のたまごっち

また駄目だったよ、おさむぅ・・

現代教育の闇

教 育 失 敗

 

「そして”むしゃのこうじさねあつ”でフィニッシュ」

 

読めてて草

何で”さねあつ”いけたんだよwww

リ゛オ゛ち゛ゃ゛ん゛か゛し゛こ゛い゛な゛あ゛あ゛っ゛

 

「ふっ」

 

読める理由は、名前が何となくかっこ良かったからである。

”むしゃ”と”さねあつ”はポイント高め。あちい。

 

うぇ。

 

気になる男子としてプレイヤーのリオがリーゼントを選んだばかりに、主人公のリオの隣の席がリーゼントになっていた。

 

リーゼント:▽これからよろしくな

リオ:▽う、うん、よろしくね

 

「見てよ、リーゼントのリーゼントがこっち見てる」

 

下ネタみたいで草

リーゼントとフランスパンって似てんなぁ・・・

太くて長くて固い・・・

おっと、これ以上はいけない

~ちょっとちんち〇電車通りますよ~

リーゼンポ!!

 

新しい担任が現れてホームルームを終えると、どこからともなく主人公の友達が現れた。

名前はユウコ。

麦色の短髪で肌も健康的な色をしていて、運動が得意そうな女の子である。

一見主人公とは関わりを持たそうな人種に見えるが、どうやら主人公の幼馴染という設定らしかった。

あと主人公より背が高い!

ゲーム画面には席に座っている主人公リオと、その背後から首に腕を回し、楽しそうに話しかけているユウコのイラストが映った。

 

ユウコ:▽一緒のクラスだよ、やったね!!

リオ:▽良かったあ ユウちゃんが一緒なら安心だぁ

ユウコ:▽もう、そんなこと言って 新しい友達作んなきゃだめだよ

リオ:▽うん・・・

ユウコ:▽彼氏もいいんじゃない~??

リオ:▽ふぇえ!?

ユウコ:▽じょーだんだって~

 

「幼馴染って空想の生き物だよね」

 

悲しいこと言うなよ・・・

現実を見てはいけない

リオも似たようなもんだろ

配信で20杯も飲む奴は空想上の生き物だな

 

「あ、でも麒麟ちゃんは私の幼馴染なのか??」

 

確かに缶のイラストに描かれているけどwww

幼馴染で草

缶ごと潰されてゴミ箱に何体も放られてきた麒麟ちゃん・・・

生まれ変わったら麒麟になります

じゃあ僕は缶になります

↑ずっ友♡

↑二人はアルキュア♡

↑おえ♡

 

ゴライアスが少し前に誕生日配信をしていたために、リオはディスコードで凸って、缶を開ける音をひたすら聞かせる謎のお祝いを披露していた。

 

酒は20歳から飲もう!!

ぶっちゃけ20杯から本番じゃない?

度数20パーセントさいこぉーーーー!!  

~リオ語録@山田ゴライアス生誕凸祭りより~

 

ユウコ:▽そういえば先生が言ってたけど、学級委員やるんだね!

リオ:▽うん・・・やりたくないのに・・・

ユウコ:▽いやいや~真面目なリオなら向いてるって

リオ:▽う~ん

 

主人公リオはホームルーム内で学級委員に選ばれていた。

その落ち着いた様子と成績優秀なところは、模範的な生徒として担任の間では専ら評判であるらしく、誰も立候補しなかったこともあって、先生が名指しでリオを指名した。

そして男子の学級委員も選ばれた。

無論、リーゼント君である。

 

担任:▽君のリーゼントには期待しているよ

リーゼント:▽ありがたきことリーゼントの如し

 

リーゼントに語彙力を奪われている。

可哀想。

 

「リーゼントはリーゼントが実は本体な気がしてきた」

 

SFやん

ホラーじゃろ

サスペンスもいける

無限の可能性がある、それがリーゼント

このリーゼントを頭につけてから、もういろいろな幸せが訪れました!!それはそれは素敵な日々!!不幸な事なんてみーんなこのリーゼントが食べちゃうんです!!可愛いでしょ~~~それが今なら7980円!!でもでも今なら特別価格でなんと!3980円!!お問い合わせは8282(リーリー)-5050(ゼンゼン)-6532(ピャピャピャー)・・・

 

それからはイベントシーンがいくつか流れる。

 

例えばリオが休み時間に図書室へと向かい、予鈴が鳴って、急いで廊下から教室へと戻ってくるシーン。

教室の扉を勢い良く開けたのだが、彼女には運が無かった。

数秒前にいたずらな生徒が細工をしていた。

その扉の上には黒板消しが挟まれており、それが入ってきた先生へと落ちる魂胆だった。

しかし入ってきたのはリオ。

リオが開けてしまったために、黒板消しが落ちる先もやはりリオのその頭上。

 

のさらにその頭上。

 

リーゼントがリオにかぶさるようにして、リオのことを庇っていた。

 

リーゼント:▽大丈夫?

リオ:▽あ、ありがとう。

 

リーゼントはモデルのように壁に手を着いた体勢で、リオに尋ねる。

恰好つけていた。

 

そしてその頭上のリーゼントの上に、黒板消しを乗せていた。

 

リーゼント:▽俺のリーゼントは台座にもなるんだぜ?

リオ:▽(かっこいい・・・)

 

「寿司みたいだなぁ」

 

大将!リーゼント1つ!

あいよおお!リーゼント一丁ぉぉぉ!

このリーゼント新鮮ですねぇぇ!

取れたてだからねえぇぇぇ!

ウヒイィィィィ!!

 

黄色のリーゼントは白く粉っぽくなっていた。

 

例えば電車で通学しているシーン。

主人公リオは高校まで電車で向かう。吊革に掴まったままうとうとし始めてしまった。

アナウンスがあってリオは弾かれたように目を開けた。

高校の最寄りの駅であった。

しかし電車がホームに入ってから、既に時間が経過していた。

主人公が電車から飛び出ようと駆け出すも、それを阻むように乗車口の自動扉が閉まっていく。

間に合わない。

その時、何故か。閉まりかけてた扉が途中で静止した。

 

リーゼント:▽俺のリーゼントが挟まってるうちに!さあ、はやく!!

リオ:▽リーゼント君!

 

リーゼントのリーゼントが自動扉に挟まって、扉が閉まり切るのを防いでいたのだ。

主人公は感激しながら、ホームへと飛び出て、後からリーゼントも降りてきた。

 

リーゼント:▽俺のリーゼントはストッパーにもなるんだぜ?

リオ:▽(かっこいい・・・)

 

「ちょっとリーゼントへこんでるのじわる」

 

(';')<痛い

神絵師の無駄遣い

俺も今度やろ

駅員に捕まってどうぞ

 

他にも・・・

 

本の間に挟まれたリーゼント。

リーゼント:▽リーゼントは本の栞にもなるんだぜ?

 

鞄の持ち手を通すように引っ掛けるリーゼント。

リーゼント:▽リーゼントはクレーンにもなるんだぜ?

 

リーゼントをオーブンで焼くリーゼント。

リーゼント:▽リーゼントは美味しいパンにもなるんだぜ?

 

しかしどれも主人公リオの心を完全に奪うまでには至らなかった。

主人公の心をこれ以上ないまでにときめかせ、完全にリーゼント君に惚れされる出来事は別にあった。

それはクラスで体育祭の競技を練習してるときのこと。

恋白高校は少し変わっている。

種目に輪投げが存在するのだ。

クラスのみんなは練習をするために投げ輪を通す棒を探していたのだが、どういうわけか見つからなかった。

見つからなければ練習が出来ずに困ってしまう。

クラスの勝利は諦める他ない。既に敗戦のムードが漂い始めたその時、

 

リーゼントは名乗りを上げた。

 

リーゼント:▽みんな、僕が仰向けに寝転がるから、僕のリーゼントを狙うんだ!リーゼントは棒だ!!棒になるんだぁぁ!!!!

クラスのみんな:▽さっすが学級委員~~ 

リオ:▽(リーゼント君!!かっこよすぎだよ~~!!)

 

リーゼントが窮地を救った

 

「そうはならんやろ」

 

www

wwwwww

ひどすぎて草

う~ん、この

リーゼントってすげーや(白目)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




IQ5


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恋愛ゲーだ![3]

主人公は、窮地を幾度となくリーゼントで救ってくれたリーゼントを好きになったらしい。

告白したい。

主人公は想いを持つ。しかしリーゼント君と主人公とはまだそこまで深い仲ではない。

告白を成功させるには、好感度を上げる必要があった。

方法は一つ。

プレイヤーが場面に応じて選択肢を自由に選ぶだけ。上手くいけば、攻略したいキャラの好感度が上がる。良くない選択肢を選べば逆に好感度は下がってしまう。

好感度を高めて、告白を成功させるのだ。

~~~~ここまでテキスト~~~~~

 

「やっとそれっぽくなってきたね」

 

そういえば恋愛ゲームだった

頑張れ

人気なさ過ぎて攻略情報無いの草

リーゼント育成ゲームの方が売れそう

オリンピックぐらい楽しみ

鳩に餌やるゲームぐらい楽しみ

 

「”こういうゲーム得意なの?”まあ任せてよ 今まで落としてきた女は数知れず、地元じゃ恋愛ゲーの神と呼ばれてたんだから」

 

とりあえず草

リーゼントは男なんだよなあ~

ホストの肩書きで草

称号がニッチ過ぎる

その地元嫌すぎないか??

公園の鳩より交流関係狭そう

 

「まあ、嘘なんだけど」

 

知ってた

女落としてるのは多分ほんと

嘘!?ウホ!?うほおおおおお!!??

ハリ千本飲ませなきゃ(使命感)

即 落 ち 2 コ マ

 

「でもこれでも社会人やってたからさ 好感度を上げるやり方は知らないけど、下げないやり方は知ってんだ」

 

ゴリラ社会ですか?

ドラミングで挨拶しましょーか??

二次元と三次元は違うって一番言われてるんですがそれは

我の好感度はMAXなり!!!

付き合っちゃって!!

フラれちゃって!!

あばばばばば!!

 

「まあ、とりあえず頭下げときゃいいんだよ・・・」

 

あばばばば・・・・

あっ

・・・

せやな

 

 

 

朝の登校時間。

主人公はいつも通り早めに席に着いて読書をしていた。

窓の外では木の枝に小鳥が止まり、さえずり声を教室に響かせている。柔らかな風が吹き込む、爽やかな朝である。

主人公は横から椅子の引かれる音を聞いて、顔を横に向けた。

リーゼント君が登校してきていた。今日も立派なリーゼントだ。

 

リーゼント▽おはようリオ、今日はいい朝だね

 

リオ▽あ・・・お、お、お・・・

 

主人公は緊張して言葉を詰まらせる。だが、挨拶は大切だ。

続く言葉は・・・

 

・おはよう、良い朝だね

・おはよう、今日も良いリーゼントだね

・おはよう?おはよう()()()()()だよね?

 

「最後どうした」

 

キャラ変わってるじゃねえかwww

唐突なヒエラルキーで草

ひえぇ・・・

だよね?(脅迫)

これは強い

社 会 の 縮 図

 

「最後は絶対選んじゃいけない奴だな多分 とすると、上か真ん中かな~」

 

一回下選んでみよう

まずは死んでみる

下が見たすぎる

気になり過ぎて命に係わる

見ないと成仏できない

幽霊も言ってる

 

「ええ・・・ じゃあ、、下選ぶかぁ・・・まあ最初だしなぁ」

 

やったあああああああ

姉御大ちゅき

やったああ成仏しゅるううううう

ありがてえええ

 

「まずは、ね」

 

リオは一番下の選択肢を選んだ。

 

リーゼント▽おはようリオ、今日はいい朝だね

 

リオ▽あ・・・お、お、お・・・おはよう?おはようございますだよね?

 

リーゼント▽え・・・??

 

リオ▽ほら言えよ

 

リーゼント▽おはようございます

 

リオ▽もっと大きな声でぇ!!

 

リーゼント▽おはようございますぅぅぅ!

 

リオ▽こんにちはでしょうがあああああぁぁぁ!!!

 

ええええwww

理不尽過ぎて草

狂ってやがる・・・

パワー系

 

リーゼント▽んひいいぃぃ、こんにちわあああぁぁぁ

 

リオ▽『わ』じゃねえよ『は』だろ ぶっ殺すぞ

 

リーゼント▽うぴぴぴぴぃぃぃぃ

 

リオ▽泣くなよ泣かすぞ

 

リーゼント君は精神が擦り減ってしまった。

 

好感度-100

 

GAME OVER

 

敗北画面になった。

 

「終わっちゃった」

 

ええ・・・

ひどいもんを見た

これが社会か・・・(白目)

エンディングだぞ、泣けよ泣くなよ

お前ら犬が好きって言えよ!ふざけんな猫だろ!!

敗 北 R T A

 

「しっかりとした敗けイベもあるんだね また一つ賢くなっちゃった」

 

wwww

リーゼントは犠牲になったのだ

学んだね

理不尽エンド好き

 

「”社会でもこういう事はあるのですか?”いやまさかあr・・・あるな」

 

言葉詰まって草

あっちゃったねえwwww

言ってること違うのはあるある

悲しいなあ

 

「よし、もう一回やり直そか」

 

リオは画面に選択されていたリトライの文字をクリックする。

すると画面は選択前の画面に戻った。

 

リーゼント▽おはようリオ、今日はいい朝だね

 

リオ▽あ・・・お、お、お・・・

 

・おはよう、良い朝だね

・おはよう、今日も良いリーゼントだね

・おはよう?おはよう()()()()()だよね?

 

「上か真ん中か・・・」

 

下か・・・?

真ん中いこ

リーゼントを褒めよ、崇めよ、奉れ!!

リーゼント教こわっ

無難に上じゃね

 

「ん~ 真ん中って言ってる人がいっぱいだけど、私は上が良いな~」

 

かなc

なんでや!はんs

我々に逆らうものはリーゼント教の呪いを・・・

どうしたの?思春期??

反逆のR(リオ)

 

「だって癪じゃん、リーゼントに屈するみたいで」

 

wwww

リ ー ゼ ン ト に 屈 す る

パワーワード草

分かる

負けず嫌いの無駄遣い

上でいこう

 

「うん 上だね」

 

リオは一番上の選択肢を選んだ。

 

リーゼント▽おはようリオ、今日はいい朝だね

 

リオ▽あ・・・お、お、お・・・

 

リオ▽おはよう、いい朝だね

 

リーゼント▽おはようリオ、今日はいい朝だね

 

好感度±0

 

「え・・・?」

 

あれ・・・?

変わらんなぁ

±0だってさ

進まないやんけ

 

「バグかな・・・?もう一回やろ」

 

リーゼント▽おはようリオ、今日はいい朝だね

 

リオ▽あ・・・お、お、お・・・

 

リオ▽おはよう、いい朝だね

 

リーゼント▽うん、おはようリオ、今日はいい朝だね

 

好感度±0

 

「もう一回」

 

リオ▽おはよう、いい朝だね

 

リーゼント▽うん、おはようリオ、今日はいい朝だね

 

「ほい」

 

リオ▽おはよう、いい朝だね

 

リーゼント▽うん、おはようリオ、今日はいい朝だね

 

「せい」

 

リオ▽おはよう、いい朝だね

 

リーゼント▽うん、おはようリオ、今日はいい朝だね

 

「・・・無限ループしてるくない?」

 

wwwwwww

実質真ん中だけじゃねえかwwww

ひどすぎて草

公式やってんなぁ

 

「えええやだな~余計ヤダよぉ 強制されるとか一番嫌だよ・・・」

 

自由を求める女

名言みたいでカッコエエ

ゲームシステムに文句言うなwww

諦めも肝心やで

絶対抵抗時雨リオ

強そう(小並感)

 

「意地でも上選んでやろ」

 

リオは何度も何度も上の選択肢を選び続けた。

見慣れた会話文が何度も続いた。

 

リオ▽~~~~

リーゼント▽~~~~

リオ▽~~~~

リーゼント▽~~~~

リオ▽~~~~

リーゼント▽~~~~

 

「どうするエラーとか起こったら」

 

wwwwww

ありそうで困る

もう折れてもろて

進まないよ~^^

 

それから何回目かのトライのこと。

 

リオ▽~~~~

リーゼント▽・・・リーゼント褒めて

 

「なんか起こったわ」

 

!?

えええええええ

ふぁ!!??

なにこれえええ

 

リーゼントが「褒めて」としか言わなくなった。

 

リオ▽~~~~

リーゼント▽褒めて♡

 

「ねえ、リーゼントが自我持ち始めたんだけどw」

 

そうはならんやろ

なっとるやろがい

想定外すぎる

手え込んでんだか何だか分かんねえなw

 

リオ▽~~~~

リーゼント▽褒めてっぴぃ!

 

「もう負けでいいよw 君の根気に負けたよw」

 

リオが負けた・・・だと!?

尚、大体どのゲームでも敗北してる模様

リーゼントに屈した女

また肩書増えたなww

 

リオはとうとう真ん中の選択肢を選んだ。

 

リーゼント▽おはようリオ、今日はいい朝だね

 

リオ▽あ・・・お、お、お・・・

 

リオ▽おはよう、今日も良いリーゼントだね

 

リーゼント▽ふ、ありがとう こいつも喜んでるぜ おっとチャリ鍵落としちまった

 

鍵は主人公との机の間に落ちていった。主人公が床に落ちた鍵に手を伸ばすのと、リーゼント君が体を折り曲げて頭の上のリーゼントを鍵の輪っかに伸ばすのはほぼ同時だった。

主人公の手とリーゼントの先っぽが触れあった。

 

「あっ」

「おっと」

 

柔らかかった。

 

好感度+20

 

「お、上がったねぇ こうやって上げてくんだね」

 

wwwww

良かったね^^

んん~~草ぁ!

神ゲーだねえ!!

助  け  て

 



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恋愛ゲーだ![4]

リーゼント君と結ばれるには未だ好感度を上げる必要があった。今は+20。告白を成功させるには+100は欲しい数値である。

新たなイベントが起こる。

校舎に授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、画面は席を立つ生徒たちを映し出していた。

昼食の時間である。

主人公は鞄をごそごそと漁り弁当箱を探した。

 

リオ▽あれ・・・無い

 

お目当てのものは見つからない。うっかりしていた主人公はどうやら家に弁当を置いてきたらしかった。

 

リオ▽そんな・・・

 

主人公は肩を落として落ち込む。

食べるものが無い。かと言ってすぐに昼食を買いに行くことが出来るわけでは無い。

既に休み時間が始まって数分が経っている。購買には生徒の群れが押し寄せている頃合いである。

主人公は人混みが苦手だ。

だから主人公は後になってから買いに行こうと心に決めて、机から読みかけの本を取り出した。

腹は減るが暫しの辛抱である。

 

「リオちゃん、可哀そうになぁ・・・」

 

リオがつぶやくように言う。

 

「私ももやしで1か月耐えた時あるからね 気持ちわかるよリオちゃん、つらいね」

 

それはもう仙人じゃん

もやし使いのリオ

刑務所の方がいい飯食ってる

もやしもドン引きしてそう

 

「は?モヤシ皆舐めない方がいいよ? 下手な発言すると炎上するからね?」

 

”燃やし”だけに

 

つ ま ん な

直球で草

燃 や せ

もやし投げんぞおら

 

リオはもやしが好きだ。馬鹿にしてるわけでは無い。もやし教に誓って。ほんとに。

ゲームに戻る。

画面では主人公の横の席に座るリーゼント君が、主人公に顔を向けていた。

 

リーゼント▽どうしたんだい? ご飯食べないのかい?

リオ▽お家に弁当忘れちゃって

リーゼント▽そうか なら俺の弁当を分けてあげよう

 

そう言ってリーゼントは主人公に弁当箱をひろげて見せた。

 

リーゼント▽好きなものを選びな

リオ▽え、いいの?

リーゼント▽ああ、どれか一つ選ぶんだ

 

画面に具材が表示される。

 

→キャベツ

ほうれん草

小松菜

きゅうり

たんぽぽ

ブロッコリー

ウインナー

卵焼き

 

幾らかの具材。

プレイヤーに選択が迫られた。

 

「リーゼント君、、なんか、、コオロギが好きそうな弁当してる・・・」

 

wwwww

コ オ ロ ギ

確かに緑多いなww

てかタンポポってなんだよwww

拾ってきたんだろ知らんけど

 

「この中に正解があるのか・・・」

 

リオは何ともなしにカーソルをずらして、具材名の上を滑らせる。

何度か繰り返したのちに、リオはある変化に気が付いた。

選択してる具材に応じてリーゼント君の表情が変わるのだ。

例えばほうれん草やきゅうりなどの野菜たちは、顔を歪め嫌そうな表情を見せる。一方で、ウインナーや卵焼きは表情が明るくなる。

表情の変化は明白だった。

 

「これはもうどっちかで決まりじゃん! 楽勝かぁ?」

 

勝ったな

リーゼント君ババ抜き弱そう

分かりやす

どっち選ぶんだ

 

「私が卵焼き好きだから卵焼きだな」

 

リオは卵焼きを選択した。

 

リオ▽じゃあ・・・卵焼きもらうね

リーゼント▽ぐぬっ!?

リオ▽えっ・・?

 

「えっ?」

 

ダメージは入ってる顔してるぞ

なんでだよ

間違えたみたいですね・・・

リーゼントどうした

 

リーゼント▽いや、気にするな何でもない

リオ▽あ、、うん

 

主人公は卵焼きを掴むと口に運んでもぐもぐ食べる。

画面はリーゼント君の、まるで虫の交尾を見るような真顔が映し出される。上から怒涛のテキストが流れてくる。

 

俺の大好きな卵焼き。大大大好きな卵焼き。色も形もリーゼントに似ててこんなに素敵な食べ物地球上にあるか。あるわけねえ。車もそれほど走ってねえ。ウインナーも似てるだろ。形が。それなのにどうして。ああああ卵焼きぃぃなんで食べた?卵焼き好きなの?俺も好きだよ?俺の方が好きだよ?普通選ばないじゃん、こんな野菜いっぱいあるのに、タンポポだって混じってるんだぞ?タンポポ好きだろ?おい、タンポポ食ってくれよ?頭タンポポにしちゃうぞこらこらこら

 

「なんかめっちゃキレてるんだけど」

 

こっわwww

めっちゃ卵焼き好きじゃんwww

ガチ勢だった

 

「好きだからいい表情してたわけか・・・分かるかあ!」

 

喜怒哀楽ぶっ壊れてて草

トラップだったね

う~ん、この

しゃーない

 

好感度-20

 

 

 

放課後になる。生徒の多くは部活に励む時間だ。あのリーゼントでさえ部活に向かっている。水泳部だ。タッチの差でリーゼントが有利だとか。反則で草。

一方で主人公は部活には所属していない。いつも通り読みかけの本を読み終えて鞄を肩にかけて帰宅の準備をするが、ふと横に視線をやってあることに気が付いた。

リーゼントの座席の上に、白い鍵が落ちていた。無論リーゼントのものである。

カギ穴にリーゼントを差し込めば玄関の戸を開ける事など容易いが、それでも念のため鍵を持っているらしい。

主人公はリーゼントへ鍵を届けることにした。

 

水泳部の部室を訪れた。遠慮がちにノックすると扉が開いて、ブーメランパンツの男が現れた。

ブーメランパンツはもっこりしている。主人公は眼を逸らすように顔を上げる。男は笑っていた。

 

ブーメランA▽お、体験入部か?

リオ▽あ、いえ

ブーメランA▽そうか分かったぞ、俺の筋肉を見に来たんだな?

 

そう言うと両腕を腰に当てて体に力を入れ、ポージングを決め込んだ。

鍛え抜かれた筋肉が浮かび上がる。

主人公は困惑している。

 

リオは喜んでいた。

 

「うほーーー!!良い筋肉してる!作画細かい!大胸筋えっぐ!神絵師じゃん!ほほーーー!!」

 

盛り上がってるの草

お前だけだぞ

ゴリラ出ちゃったねえww

新規バイバイ

 

「クソゲーかと思ったらやるときはやるんだな いやぁ、感心感心」

 

筋肉さえあればいい女

そう言うゲームじゃねえから!

良かったね^^

pix〇vでも見とけ

 

「筋肉にしぇいしぇい」

 

リオ▽あの、リーゼント君の忘れ物を届けに来たんです

ブーメランB▽誰だい?

 

「おっ!細マッチョもきた!太ももの筋肉が良いね!」

 

リオ▽ですから忘れ物を・・・

ブーメランC▽がっはっはぁ!

 

「おお!腕がタイヤみたいに太い!足が細いのに!腕だけ太い!蟹みたい!」

 

リオ▽あの!

ブーメランABC▽よ゛お゛し゛っ゛腕゛相゛撲゛を゛し゛よ゛う゛!゛

 

こうして部員たちと腕相撲をすることになった。

 

そ゛う゛は゛な゛ら゛ん゛や゛ろ゛

・・・ケテ・・・タスケテ・・・・

公 式 が 病 気

狂気の沙汰

おい、恋愛しろよ

脚本ガバガバで草

 

部室には中央に丸テーブルが置かれていた。

主人公と、腕がタイヤみたいな蟹みたいな男が向かい合って肘を着き、腕を交じ合わせる、腕相撲に勝てば、鍵を渡すことが出来るようである。

部室の端っこでは、リーゼントが壁に寄りかかり腕組しながら、二人の様子を見ていた。

 

リーゼント▽どんな戦いになるか楽しみだ・・・

 

おい、殴れこいつ

お前のだろwww

リーゼントへし折れ

もう無茶苦茶だぁ・・・

 

「頑張れ主人公!」

 

画面には腕相撲に勝つための方法がテキストで表示される。

 

一分間でクリックをたくさんしてください♡

 

一分内でクリックをすることのできた回数が100回を超えるとクリアになるシステムである。

 

「私が頑張るのか」

 

きつそう

ジャンル変わってて草

腕もう一本生やせば楽勝よ

頑張れ♡頑張れ♡

 

「勝負なら負けるわけにはいかないよなぁ」

 

しゅるしゅると布の擦れる音が拾われる。リオが腕まくりをした音だった。

リオは負けず嫌いなので、どんな勝負にも本気であった。

 

「かかってこいや」

 

いけ

がんば

お前ならいける

腕まくり助かる

 

リオ▽うぅ・・勝てるかな・・・

 

カウントを開始します。

GO

 

「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら」

 

リオの凄まじいクリック音が響くと共に、画面に表示されるカウントの数が爆速で増加していく。

メッセージも消えては現れ消えては現れを繰り返す。リオのクリックは常識を凌駕していた。

 

「負けるかあああああああああああ」

 

100 目標達成☆

200 君はすごいね!

300 君は人間じゃないね!

400 ・・・?

 

メッセージ君動揺してて草

速すぎんだろwwww

もうマシンガンみたいになってるってwwwww

音を置き去りにしてやがるw

このゴリラ・・・底が知れねえ・・・

 

「ぐらああああああああああああ」

 

そうして。

相手の腕がテーブルを突き抜けて地面に埋まったところで、制限時間が終了した。

 

「っふう っふううう 勝った・・・勝ったぞ・・・」

 

リオ▽やったぁ! 私でも勝てた!

 

私でも勝てた!(圧倒的勝利)

不 正 は な か っ た

相手の腕めり込んでるんですがそれは

ヒカルの碁でもここまでやらないぞ

お前の背後霊ゴリラだぞ

 

リーゼント▽はっはっは いいもの見せてもらったよ

 

リーゼントは拍手をしながら主人公へと近づいてきた。他の部員たちも手の平を叩くようにして主人公のことを称えていた。

主人公は恥ずかしそうにしながら、リーゼントに鍵を渡した。

 

リオ▽あのこれ・・・

リーゼント▽あ、これは俺のじゃないか

リオ▽届けに来たの

リーゼント▽なんだ、最初から言ってくれればよかったのに ありがとう

リオ▽えへへ

 

好感度+50

 

「きたあ!」

 

やったぜ

勝ち卍

もうちょいだな

 

 

それからは、学校での日々を過ごす間にいくつかイベントがこなされたが、途中で少し変わったイベントも起きていた。

チャイムが鳴って休み時間になる。次の時間は音楽の授業である。

主人公が音楽室に移動する準備をしていると、同じクラスで幼馴染のユウコが近づいてきた。

表情は浮かない。困っているようである。

 

リオ▽どうかしたの・・・?

ユウコ▽実は・・・あたしのリコーダーが見当たらないんだよね

リオ▽え?そうなの?

ユウコ▽うん・・・朝はあったけど、今見たら見当たらないんだ

リオ▽え、それは変だね

ユウコ▽多分、最近はやりの変態仮面にやられたんだよ、ほんと最悪

リオ▽変態仮面?

ユウコ▽そう 教室が空っぽのうちに忍び込んで、女子のリコーダーを盗んじゃうんだってさ

リオ▽そんな

ユウコ▽あんたも気をつけなよ・・・?

リオ▽うん・・・

 

これが後に、主人公の未来に大きく関わってくることをこの時はまだ誰も知らない。

 

リーゼント▽あれ・・・リコーダーが無いな・・・

 

リーゼントは家に忘れただけである。

 

リーゼント▽まあいいか、リーゼント吹けば

 

(リーゼントがあれば)問題もない。

 

 

 

気付けば好感度は+70まで溜まっていた。告白をするために必要な好感度まであと+30である。

そして好感度を高めることのできるイベントは次で最後になる。

それは文化祭のための材料をリーゼントと一緒に買いに行く中で起こる。

イベントとはその際に発生するもので、早い話が主人公の私服姿でリーゼント君を惚れさせるというものである。可愛い服を着て、リーゼント君の心を掴むのだ。

 

 

画面上の主人公は今、服屋にいた。

リーゼントを惚れさせるための可愛い私服を買うためである。

 

リオ▽どれがいいかな~

 

画面にはいくつか選択肢が表示されている。

 

<うほ♡ゴリラコーデ>

上 ゴリラのイラストが大きくプリントされた服

下 傷いっぱいのダメージジーンズ 

 

<女の子らしさを出すカジュアルコーデ>

上 白いシャツ+青のデニムジャケット

下 ベージュのスカート

 

<いざ、戦国コーデ>

上 甲冑

下 甲冑

 

選ばなくてはならない。

 

「一番上」

 

却下

お ば か

絶対やめろ

死んでもやめろ

ありえない

 

「みんな、なんでそんなこと言うんだ 良いじゃんかゴリラ!イカすじゃんダメージ!2つ合わさって最強じゃん!」

 

最 弱 で す

お前は何と戦ってるんだ

ダ サ い の 極 み

リオの私服センスが壊滅的な件について

まあ、ないわな

 

「いーや、いけるね これは上でいける 私の直感を信じてよ」

 

このゲームやるときに神ゲーを直感してましたね?

蓋を開けたらクソゲーでしたね?

ゴ ミ セ ン サ ー

まるであてにならんポンコツちゃんのことですか? 

 

「ぐぬぬ・・・」

 

リオは言葉を詰まらせた。コメントの鋭い指摘たちにぐうの音も出ない。

 

カジュアル選んどけ

真ん中が正解だって

中一択

素直に真ん中

 

カジュアルコーデを推す意見がほとんどである。

しかし、リオはゴリラコーデを選びたくて仕方が無かった。ゴリラ好きの名に懸けて折れるわけにはいかないのだ。

そこでリオはとある方法を思い付いた。自らの意思を通すことの出来る可能性を含んだ手段だ。

それは奇策ともいえる。

リオが選ぶことにみなが反対している。ならばリオが選ばなければ問題は無い。

 

そう、武士に選んでもらえば解決だね☆

 

「どうだろう」

 

おかしいだろww

どっから出てきたあのちょんまげ

こら!汚いから江戸に返してきなさい!

雲行きが怪しい・・・

多分、違う

ヨセ、ヤメロ、ウワー

 

武士は同期の駿河武士である。

特徴はうるさいこと。

終わり。

 

「あいつも性別は一応男だしさ 実は適任じゃない?」

 

適任じゃないです

人選ミスだわw

そもそも人がおかしいから・・・

あれはそういう次元にいないだろ

 

リオは武士に連絡することに決めた。

 

「んじゃあ連絡してみっか どうせ暇でしょ多分」

 

wwww

あーあ

扱いの雑さで草

面白そうだからよし

 

「・・・あ、でもその前に」

 

リオはディ〇コードを掛ける前に、思いついたように言った。

 

「恒例の、武士の第一声に何て言って返すか会議やっとく??」

 

やったああああああ

きたああああああ

これだけが生きがいなんですううう!!!

無上の喜びぃぃ!!!

 

武士は第一声がとにかくでかいことでリオ界隈(激狭い)では有名である。

そのためこれに対し、最初にどう返すかというのがお決まりの行事になっていた。

 

「何かある?」

 

猫の真似

ショタ声で”お兄ちゃん”

ゴリラの雄たけび

ラッパ吹いとけ

 

コメントは一斉に案を流し始める。

 

「じゃあ抽選ってことで適当にコメ欄止めるわ」

 

別にリオは何でもよかった。

カーソルがコメ欄に移動する。丁度、ルーレットの矢印の役割である。コメントを1つ選ぶのだ。

やがて爆速のコメント欄が停止した。

カーソルは一つのコメントを指し示した。

 

”ヤギの鳴き声”

 

「了解」

 

あっさり受け入れるなw

絶妙なのきたwww

おもしろそうw

 

「それじゃあ改めて」

 

リオはでぃ〇コードで駿河武士に連絡を仕掛けた。

 

「ほらみんな、構えろ」

 

くるっ!!

総員戦闘準備ぃぃ!

音 量 注 意

ざわ・・・ざわ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「某いいいいい、すううううるがああああああああぶううううううしどぅわああああああああああぁぁ!!!!!!!!」

 

ま ず は フ ァ ー ス ト イ ン パ ク ト 。

 

「め゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ゛っ゛っ」

 

ヤ ギ も 鳴 い た 。

 

うっせえええwwww

圧 倒 的 音 圧

鼓膜ばいばい

怪 獣 バ ト ル

親の声より聞いた声

実 家 の よ う な 安 心 感

 

「お前はなんだあああああああああヤギかあああああああ!!!!

「め゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛(揺るがぬ意思)」

「ヤギなわけあるかああああああぁぁぁ!!!」

「め゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛(くじけぬ心)」

「正体を表せえぇぇぇ!」

「うほほほおおおおおおおおおおお!!!(天下無双)」

「時雨リオじゃないかあああああぁぁぁ!!!!」

「そうだよおおおおお!!!!!!」

 

地 獄 絵 図

1stラウンド終わったな

逃 げ 場 が な い

ど う し よ う も な い

NowTube君頑張って耐えて♡

 

ゴリラと武士、久々の邂逅である。

 

「何の用だぁ?BPEXかぁ?FALLGIRLSかぁ?受けて立つぞおお!?」

「いやコラボじゃない」

「ぬう?」

「ちょっとした相d・・・クイズだ」

 

相談というのは何となく負けた気がして悔しいので、クイズと言い換えた。

 

どこで負けず嫌い発動してんだよw

さあ上手くいくだろうか・・・

 

「テレンっ!!」

「敵襲かっ!?」

「問題です」

「あいやぁ・・・」

「あなたは女の子と出かけるとします」

「どこにだ?鍛冶屋か??小田原城か???」

「そんなんどこでもいいわ」

「じゃあ小田原城だなあぁぁ!!!知ってるかリオぉ?知らぬなぁ?教えて進ぜよぉぉ小田原城は難攻不落とまで言われた伝説の・・・」

「あーはいはい 興味ない興味ない」

「興味ないとは何事だあああぁぁぁぁ!!!!」

「今クイズの話だって言ってんだろおおおお!!!」

「上杉謙信や武田信玄の攻撃にいいいぃぃ負けずうううぅぅ!!!!」

「いいから話を聞けええええええええええええ!!!!」

 

あーケンカしたw

ノ ル マ 達 成

結局こうなるのよ

とりあえず草

たのしいいいいいいいいいいいい

 

「あーもう、いいっ??? あんたは女の子と出かけんの!その女の子が着ていく服装はどれですか!これが問題!」

「なんだぁ随分シンプルではないかぁ? もっと単純に言えばよかろうにぃ! がっはっはっは!!!」

「まじで池に沈めるぞまじで」

「池ぇ!?ならば松本城の池がよい!!是非とも某を松本城の池にぃぃ!!」

「シャラップ!ふぁっきゅうう!!コングラッチュレイション!!!」

 

黙れ!死ね!!おめでとうございます!!!

お め で と う ご ざ い ま す

お祝いの言葉!!!??

知ってるカタカナ適当に使ったんだろうなwww

支離滅裂で草

 

「っはあ・・・っはあ・・・」

「お疲れと見えるなあ?」

「・・・チッ」

「おい今なんk」

「選択肢は3つです

 

出来るだけ喋らせないように食い気味で言う。

 

「一つは・・・次は・・・」

 

リオは選択肢を順番に紹介していった。

 

<うほ♡ゴリラコーデ>

上 ゴリラのイラストが大きくプリントされた服

下 傷いっぱいのダメージジーンズ 

 

<女の子らしさを出すカジュアルコーデ>

上 白いシャツ+青のデニムジャケット

下 ベージュのスカート

 

<いざ、戦国コーデ>

上 甲冑

下 甲冑

 

「さあどれだ?」

 

こい・・・

真ん中・・・

カジュアルって言え

武士、お前ならいける

 

「もちろん・・・」

 

 

「戦国コーデだあああああっっ」

 

 

知 っ て た

あ ほ く さ

はい、解散

おつかれしたー

 

「却下」

「ぬん!?」

 

リオは即座に切り捨てた。辻斬りいいぃ。

 

「どこの世界に甲冑着て出かける女の子がいるんだ」

「いてもよいではないか!?イカすではないか!?最強ではないか!?」

「お前は何と戦ってるんだ」

 

デジャブで草

お前らほんとは仲いいだろ

言ってること一緒じゃねーかwwww

録音かな?

おんなじ思考回廊で草

 

「いい?女の子が着てくんの、自分じゃないよ? 女の子が着てきたら羨ましくなっちゃうだけじゃない?」

「むうう~・・・それは、言うとおりかもしれぬ 甲冑は着たくてたまらぬ」

「でしょ そしたらどうする?ゴリラかカジュアルか」

「それならば・・・」

 

ほら二拓だ

カジュアルやろ?

簡単だろ

これは勝ったな

 

武士は明快に言った。

 

 

 

「どっちでもよいな!」

 

 

 

何でだよ!!!

いいわけないだろw

はい!?

もぅマヂ無理。。バナナたべょ。。

 

実を言うと、武士にとってファッションというのはどうでもよかった。認識する違いと言えば、色が違うとかその程度なものである。それほどにファッションに関心が無い。

日常においてはでかでかと戦国武将のプリントされた服を武将ごとに数十枚もっていて、日替わりでルンルンで着ている。

そういう男である。

 

「どっちでもだと困んだよね・・・どっちか選んでもらわないと」

「そうは言ってもだな・・・全くイメージが出来ないからな」

「だったら、私でイメージするってのは??」

「ぬ!?」

「イメージしやすいでしょ 何度かコラボしてるし」

「しかしだなぁ・・・なんだか生々しくなって、某の所に”リオちゃんに色目使うな!武士きもい!武士の恥!切腹しろ!くたばれ!(裏声)”という声が来るかもしれぬぞ!!!」

「裏声すごいね」

「女Vに転生できそうであろう??」

「”きもい”って意味でのすごいだよ」

 

裏声最高にきもくて草

話がやけにリアルだな・・・

過去にあったんだろうなって。。

後輩とコラボしてるとなってるなww

武士はコミュ力が無いからな

一匹オオカミじゃんw

 

「それについては大丈夫だよ」

 

リオは穏やかな、丸みを帯びた声で言う。

 

「考えてみてよ武士、私たちは今までに何回か交流があるけど仲良かった試しがないでしょ? いがみ合うけど全く仲が良くない」

「それはそうだな!」

 

全肯定草

良い返事だw

傍から見たら仲いいけどなぁ

ケンカするほどって言うで

犬猿の仲やろ

 

「つまり私たちは距離が縮まりようが無いから、誰も変な勘繰りをしないんだよ」

「それは・・・無敵かあ??」

「無敵だよ」

「ほほぉ・・・(恍惚)」

 

何だこの会話w

自虐的で草

確かにてえてえ絵とか一切ないしな

そう考えると武士リオすげえわ

最後までチョコたっぷりだもん

 

武士の声色は納得したように感じられるものだった。

そこでリオは再度訪ねた。

 

「じゃあ改めて<うほ♡ゴリラコーデ>か<女の子らしさを出すカジュアルコーデ>かどっちか選んで」

「そうだな・・・それならば・・・」

「(ゴリラこいゴリラこいゴリラこいゴリラこいゴリラこいゴリラこい)」

 

 

「<女の子らしさを出すカジュアルコーデ>だな」

 

・・・

 

「ふぁ!?」

 

きたあああああああああ

勝ったああああああ

エンディングが見られるうううううう!!

告白できるううううう

たまにはやるなぁ武士ぃ!

 

「ぬ?」

「いやいやいやいや・・・・え?」

「ぬ?」

「いや”ぬ?”じゃくて」

「ぬぅ?」

「そうじゃねえよ」

 

リオは反論せざるを得なかった。

 

「”時雨リオ”をイメージしたら普通にゴリラ選ぶくない?私ゴリラ好きなの知ってんじゃん!」

「知っておる」

「選んでよゴリラを!待ってたよゴリラを!なんでゴリラじゃないんだよおお~」

「そう言われてもなぁ・・・普通にそっちの方が似合うんじゃないかと思っただけだしのぉ」

「ええぇ・・・」

「新衣装それにしたらどうだぁ?」

「え、嫌だけど・・・」

 

めっちゃ困惑してて草

可愛いリオネキみたい

新衣装楽しみ

 

「・・・じゃあ、しゃあないか カジュアルコーデ選ぶか・・・」

「ちなみにいいいい某のおすすめの服が合ってだなああああそr」

 

ピロリ

 

邂逅は終わった。

 

 

 

 

 

 

 



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恋愛ゲーだ![終]

一緒に文化祭の材料の買い出しに行く日、二人は最寄りの駅前にある犬の銅像の前を集合地点にしていた。

当日、主人公は上は白いシャツと青のデニムジャケット、下はベージュのスカートで身を包み、緊張気味に集合地点に向かっていた。

 

リオ▽褒めてもらえるかな・・・

 

表情は硬い。新しい服がリーゼント君の眼にどう映るか不安だった。

しかし全てはリーゼント君を惚れさせるためである。会わないで逃げるなどという選択肢は無い。

頑張らなくてはいけない。

少し歩けば、やがて犬の銅像が視界に現れてその前に立つ黄色いリーゼントが特徴の少年が見えてきた。

チェックのシャツを着てるリーゼント君。

リーゼント君は今日もリーゼントが長い。テトリスの棒くらい長い。身長と共に日に日に成長していると本人は言う。現在リーゼントの先っぽで二匹のスズメが仲良く休憩している姿を見れば、リーゼントも伸びた甲斐があったというものだろう。

リーゼントしか勝たん。

 

「スズメ頭に乗せんのうらやまなんだけど」

 

俺もチュンチュンしてえええぇ~~~~

すずめ可愛い

フランスパン頭に生やせば解決するってマ?

鳩くるで

 

リオ▽おーい、リーゼントく~ん

リーゼント▽あ、リオちゃ・・・

 

リーゼント君は目を見開いた。手を振る主人公の姿は、リーゼント君の心中に衝撃を与えた。

 

リーゼント▽(ん゛き゛ゃ゛ぁ゛ き゛ゃ゛わ゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ お゛っ)

 

つい地元の言葉が出てしまった。主人公の姿はそれほどまでに可愛く映った。

普段は物静かで落ち着いた雰囲気の主人公が、垢抜けた可愛らしい服を着ることによって生まれる素晴らしきギャップを感じ取ったのだ。

 

リオ▽どうしたの・・・?

 

口を開けたまま固まるリーゼント君に、主人公が問いかけた。

不思議そうに首を傾ける主人公にリーゼント君は胸をときめかせざるを得ない。

感情の高ぶりが起こり、リーゼント君の頭の中で俳句が読まれる。

 

リーゼント

逆から読んでも

リーゼント

 

はーっいとおかし!!いとおかし!!

 

リオ▽リーゼント君?

リーゼント▽いや、なんでもない

リオ▽そう?

リーゼント▽それにしても可愛い服だね とてもよく似合ってるよ

リオ▽そうかな!?

リーゼント▽ああ、きみのセンスは素晴らしい

リオ▽そっかぁ、不安だったから良かったぁ

リーゼント▽自信をもっていいさ 例えばゴリラの服なんて着てこられてたらドン引きだったけどね 甲冑なんて来てたら俺はリーゼントを切り落とすよ

リオ▽ふふ、なにそれ そんな服着ないよ

 

リオ▽あ り え な い よ

 

「んなっ!このアマ!!! くそおぉっ!!!!」

 

煽られてんの草

口わっるwwww

ありえないってよwwww

 

「なんだよ、、ゴリラの筋肉はあんなにムキムキでかっこいいのに、、何が足りないって言うんだ、、」

 

品性じゃない?

常識じゃない?

センスじゃない?

知性じゃない?

 

「へ? 品性も常識もセンスも知性も筋肉の前では無意味だよ??」

 

圧 倒 的 脳 筋

これは頭が筋肉ですわ・・・

香しいポンの気配を感じる

\筋肉しか勝たん/

 

画面上では二人が並んで100円ショップへと歩いていく姿が映し出されていた。

 

残すは告白イベ。

 

 

 

後日、文化祭は無事に成功した。主人公のクラスが催したお化け屋敷もたくさん人が入って繁盛した。

主人公もリーゼント君もクラスの輪の中に入って、一緒に笑い合う。

そんな中、ふとリーゼント君が主人公に耳打ちした。

 

リーゼント▽あとで校舎裏に来て

リオ▽・・・え?

 

「果たし状じゃん」

 

告白だろ

告白すんだろ

告白させろよ

リオネキ好き

 

 

夜になると後夜祭が開かれた。

校庭に生徒たちが集まって、火を囲んで、みんなでフォークダンスを踊っている。楽しそうなはしゃぎ声が校庭に響いている。

しかしそこに主人公の姿は無い。

主人公は校舎裏にいた。

校舎裏は建物の影になっていて薄暗い。遠くから聞こえてくる陽気な声が、広がる静けさを際立たせている。

主人公は緊張した面持ちを浮かべていた。

向かいには、同じように顔を強張らせるリーゼント君がいた。

 

「くるぞくるぞっ~ 待ち望んだ瞬間が来るぞ~」

 

ざわ・・・ざわ・・・

こいっ

山場が来る・・・

いけ

 

リーゼント君が口を開いた。

 

リーゼント▽あの、

リオ▽う、うん

リーゼント▽俺、気付いたらリオのことが好きになってて・・・

リオ▽ふぇ

リーゼント▽良かったらその、、

リオ▽・・・その?

 

 

リーゼント▽俺と付き合ってください!!

 

 

リオ▽はい、こちらこそ!

 

 

「えんだあああああああああああ」

 

いやあああああああ

きたああああ

やたあああああああああ

勝ったああああああああああ

 

こうして二人は結ばれた。

恥ずかしそうに俯く二人を、後夜祭の空に打ちあがった花火が明るく照らしていた。

 

 

 

 

「いや~ わりとどうにかなったね~」

 

しっかりとしたクソゲーだった

メルカリでも売れなさそう

他ルートもやれ

懲役2時間

 

「まあまあ楽しかったね 二度とやらんけど」

 

 

 

画面上には二人のその後が描かれていく。

 

「お、エピローグもあるんだね」

 

主人公とリーゼント君はいろいろな場所へデートに行った。

 

水族館に行ったり、動物園に行ったり、植物園に行ったり・・・

 

「生き物好きすぎだろ」

 

wwwww

生 き 物 の 鑑

 

勿論学校でも仲がいい。

休み時間などは一緒に廊下を歩いて、次の授業の教室まで移動する。

 

目の前から恰幅のいい50代後半の男性が歩いてきた。校長先生である。校長先生は主人公の隣を歩くリーゼント君を見付けると、立ち止まってうっとりした顔で眺めた。

 

リーゼント▽なんだ

リオ▽早くいこ

 

二人が校長先生の様子を訝しんでコソコソ話していると、校長先生がリーゼント君に向かってタックルを放ってきた。

中腰で迫る初老の校長。固まるリーゼント。ぶつかる体。

リーゼント君はあっという間に身体に両手を回され、捕まった。そのまま体を浮かせられた状態で校長が駆け抜ければ、後には主人公一人がぽつんと残った。

 

リーゼント君が攫われた。

校長に!

攫われた!

 

「皆、残念お知らせがあります」

 

はい

なんでしょう

どうされましたか

聞きたくないです

 

「第 二 章 開 幕 で す」

 

勘 弁 し て く だ さ い

懲役伸びて草も生えない

早く解放してくれ

俺たちは善良な人間だぞ!

デモっちゃうぞ☆

 

 

主人公はすぐさま連れ去られたリーゼント君の後を追った。

事情など何も分かっていない。ただ愛する人が連れ去られたとあれば追うのは当然のことである。配管工のおっさんもしょっちゅう連れ去られる姫を追っている。待っててねリーゼント姫えええ。

校長室の前までやって来た。遠目では校長とリーゼント君が校長室に入っていくのが見えていた。

早速扉に手を伸ばす。

しかし、その手は途中で止まった。

中からなにやら音が聞こえてきたのである。物音ではない、確実に人の声である。

しかもそれは実に艶めかしい。

 

???▽んあああっ んあああああっ

 

扉の先から喘ぎ声が聞こえてくる!

 

・開ける

・開けない

 

「やめてくれ! BANさせないでくれ! これ以上私を苦しめないでくれぇ!!」

 

まさかエロいシーンが来るのか!?

クソゲーが神ゲーになる瞬間見れる!?

R指定は言ってないから大丈夫でしょ(全裸待機)

お^^クソゲーやってんねえ^^

 

「もうやめよう 今ならやり直せる 何もなかった世界に戻ろう」

 

止まらねえからよ

ここで終わったら低評価爆発花火上げるわ

止まっちゃダメ♡

大丈夫!ちょっとだけ!ちょっとだけだから!

お前で隠せ

 

「分かった様子見しよ だめならすぐ配信停止してPCを神社でお焚き上げしてもらって私も滝に打たれてくる」

 

それでいい

最高じゃないか

よいですね

英 断

 

 

”開ける”が選択された。

 

主人公は意を決して扉に手をかけた。

重い校長室の扉が音を立てて開く。

 

きいいいいいいい

 

開いた扉の先に待っていたのは・・・

 

四つん這いのリーゼント君のリーゼントを撫でる校長と、その皺だらけの手に興奮して顔を赤くしてるリーゼント君だった。

 

リーゼント▽はぁ はぁ もっと、もっとしてワン!

校長▽おーーーよしよしよし よしよしよし

リーゼント▽ワンワン!

校長▽リ゛ー゛ゼ゛ン゛ト゛は゛可゛愛゛い゛な゛ぁ゛

 

「う゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛」

 

良かったな!BANじゃないぞ!

これは濃密なリーゼントプレイ

えっちだねえ^^

リーゼント最高!

これはKENZEN!!

 

「健全なわけあるか!この世の灰汁の塊みたいな現場じゃないか!」

 

きいいいいいいい

 

主人公は後ろ手に扉を閉めた。

その顔は主人公の人生史上最も強く引きつっている。ゴキブリの交尾を見た時よりも皺を寄せてゴミを見る視線を送った。

 

リーゼント▽はっ!? リオちゃん!? 違うんだ! 俺はただ性感帯のリーゼントを撫でられたからこうなってしまっただけで!!

リオ▽(じーーーーー)

リーゼント▽不可抗力なんだ!!!!信じてくれええええ んああああっ

 

校長▽ぐははははは どうだ、リーゼントは我が手中に収めてやったわ!

 

校長は大きな口を開けて高らかに笑った。

主人公には校長の意図がまるで分からない。

なぜ、リーゼント君のリーゼント君がリーゼント君されているのか。

なぜ、リーゼント君はおとなしくリーゼント君されているのか。

なぜ、リーゼントはここまでリーゼントリーゼントしてしるのか。宇宙か。神秘か。アーメン。

souディスティニィィィィィ!!!!

 

校長▽わしはリーゼントがたまらなくリーゼントが大好きなのだ!恋してると言っても良い!

リオ▽は?私の恋人ですけどそのリーゼント!

校長▽いいやこのリーゼントは私のものだ!恋人だ!愛してる!なでなで!!!!

リーゼント▽ワンワン!!!!

 

校長には校則に縛られて自由を謳歌できなかった悲しい過去があった。

本当は校長も学生時代にリーゼントにしたかったのだ。しかし校長が通っていた学校は私立の良いとこの学校であり、したがって校則は法律並みの鉄壁を誇り、崩すのは不可能だった。

ゆえに、リーゼントへの、あこがれが強し!

その憧れが一周回ってねじ曲がって愛しているに変換されれしまったのだ。

可哀想な校長先生である。

 

リオ▽とにかくそのリーゼント返してください

 

しかし校長先生はとにかくリーゼントを手元に置きたがった。

 

校長▽駄目に決まっている

リオ▽返してください!使い道ないじゃないですか!

校長▽わしがこの学校にリーゼント一生を閉じ込めて、わしがずーーっと愛でるのだ!!!

リオ▽はあ?

校長▽つまりわしがいる限り、リーゼントはこの学校から卒業できない!!

リオ▽なっ!?

 

主人公は驚いた。

リーゼント君と一緒に卒業しようと、観覧車に乗って夕日を見つめながらともに約束したのである。それがふざけたおやじの我儘により妨げられようとしている。

そのような暴挙、許すわけにはいかない。

 

リオ▽校長の好きにはさせません

校長▽がはははh わしはこの学校で一番偉いのだ わしの自由に決まっているだろう

リオ▽待ってろよ・・・

 

主人公はリーゼントを何としてでも取り返すと誓った。

体の横に降ろされている拳が強く握られていた。

 

 

 

 

「これってもしかして噂の胸熱展開??」

 

どちらかというと胸やけ

校長特殊過ぎて草

持てるリーゼントは大変だなー(白目)

校長ぶっ飛ばせばENDだね

 

「まじか」

 

 

 

その日の放課後から、主人公は早速情報収集に奔走した。

校長の権力が強いのは確かだ。今のままではどうにもできない。ならば権力を失わせればいい。

ゆえに失脚を狙う。

校長を貶めるための情報を求めて、主人公はあちこち調査する。

しかし、それは思ったよりも困窮した。

リーゼント所属の水泳部の筋肉馬鹿に校長の良くない話を聞けば、”大胸筋の鍛えが甘い”という記憶メモリーを圧迫するだけのごみ情報が提供され、担任の先生に尋ねれば、”最近はNowTuberへの転職を目指している”というナウでヤングでやはり役に立たない情報しか手に入らなかった。

しかしそんな中でも、主人公の友達のユウコだけは、有力な情報を主人公にもたらしてくれた。

それは一見校長と関係ないようだったが・・・

 

優子▽最近パンツが盗まれる事件が増えてるんだって・・・

リオ▽あれ?前はリコーダーだったよね?

優子▽うん、次はパンツみたい

リオ▽気持ち悪いね

優子▽ね しかも犯人を校舎裏の茂みで見たって人が言うには、50代後半の太ったおっさんで小さく”リーゼント is ゴッド! リーゼント is ゴッド!”って言ってるんだって

リオ▽ほんとに!?

優子▽きもいよね

リオ▽うん!きもい!

 

点と点が繋がった。

 

主人公はすぐさま校舎裏の茂みにカメラを設置して、自身も建物の影から顔だけ出して、隠れて様子をうかがっていた。

優子の話が正しければ、やがてここに校長が現れる。

主人公はじーっと視線を送り続ける。いつ現れるとも分からない。見過ごすわけにはいかなかった。

しかし、校長はなかなか現れなかった。

時だけが過ぎる。

陽は随分と傾き、やがて夕方ごろ。

件の校長先生がついにその姿を現した。

主人公は目を見開いた。

 

校長は頭にパンツを被り、リコーダーを吹いていた!

 

校長▽ミケちゃん~ おいで~~~

 

ぴろろろろ~~~♪

 

猫を呼んでいた!

 

リオ▽!?

 

「おいおいおいおい」

 

とんだ変態じゃねえかwwww

レベルが段チ

こいつはただもんじゃねえや^^

さあ絞め殺せ!パンチパンチ!

 

校長が頭にパンツを被る理由。それは猫をおびき寄せるためであった。

校長は初老により既に頭皮から隠しようもない華麗なる臭いを、加齢臭を漂わせてしまっている。これがミケちゃんには気にくわないらしい。校長の姿を見つけても逃げて行ってしまうのだ。

そこで校長が考えたのは臭いをカモフラージュすること。

パンツを頭にかぶることで、加齢臭を全く別のモノへと昇華するのだ。

さらにリコーダー。ミケちゃんはリコーダーの音が好き。ぴゃー♪と出せば猫の鳴き声と勘違いして寄ってくるのだ。

 

ぴゃああああ~~♪

 

校長がたくみにリコーダーを吹いた。

 

するとミケちゃんが茂みから現れ校長に近寄って来た。

 

校長▽ミケちゅわあああああああんんn

 

校長がミケちゃんに飛びつき、ミケちゃんはその腕をするりととびぬけ、またどこかへ行ってしまった。

またその一連の奇行は、主人公の仕掛けた隠しカメラに収められていた。

 

リオ▽これで勝てる

 

 

後日、全校集会が体育館で開かれた。

目的は、学校で頻繁に発生しているリコーダーとパンツの盗難についてである。

全校生徒は体育館にいくつもの列を作ってズラリと座っている。

その前に立った学級主任の先生が、マイク越しに皆に問いかけた。

 

主任▽リコーダー及びパンツを盗んだ生徒!正直に名乗り出なさい!今なら怒らないから!

 

しかし誰も名乗り出なかった。

当然である。

犯人は生徒では無く、校長なのだから。

 

主人公は突然立ち上がった。一斉に集まる生徒たちの視線を無視して、声高らかに言った。

 

リオ▽私は犯人を知っています!

主任▽なに!?

 

学級主任だけではない。生徒たちも驚いて一斉に騒ぎだす。体育館の横で他の先生と共に立つ校長も、別の意味で冷や汗をかいていた。

 

主任▽それで、犯人は誰なんだ!

リオ▽それはこの人です!

 

主人公がそう言うと、体育館のステージ上に普段は天井に固定されている大きなスクリーンが下りてきて、次いでプロジェクターによってある映像が表示された。

ミケちゃんをおびき寄せる校長の姿である。

主任が口を開けて驚く。

全校生徒が騒ぎ出す。

校長ががたがた震える。

 

主人公がきっぱりと言った。

 

リオ▽犯人は校長先生だったのです!!!

校長▽き゛に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

 

 

 

後日、校長先生は学校から追放され、リーゼント君は主人公の恋人へ戻った。

 

リーゼント▽ありがとう 君のおかげで俺は正気に戻れた

リオ▽別に何もしてないよ

リーゼント▽いや、何か恩返しがしたい そうだリーゼントをあげよう 俺のリーゼントは着脱可能なんだ!!!

 

今 日 か ら 君 も リ ー ゼ ン ト ! 

 

 

「やったな」

 

や っ た ね

良かったなー(棒読み)

良い話だった

うーん、この

 

 

 

 




ウェ


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鍋だ!

たまには一人称


私は時雨リオと言う名前で活動している。

先程まで雑談配信をしていた。

今はソファの背もたれにもたれかかり、ほっと一息ついているところだ。

視聴者から送られてくる怪文、通称クソ餅を消化するのはなかなか体力が消耗される。

最近はギリシア文字で文を送り付けてくるのが私の視聴者の中で流行ってるらしい。

なぜ流行った。日本だぞココ。私の配信で国境超えるな。

しかもあの落書きみたいな文字は無意識に意味を知りたくなる魔力が込められていて、ついつい翻訳をかけてしまう。

新手の呪いだろうか。

つまるところわたしが今Vtuberの中で一番ギリシャギリシャしてるわけだ。

ギリシャギリシャギリシャギリシャ。

・・・ギリシャしてるって何だ。

英語かな。

そうだな、多分。

雑談後は無性に糖分が欲しくなる。ただ喋るだけにしても疲れるから。

あとは酒。

仕事後に呑むのは最高。酒と結婚したい。

ということで”よっこらぁ”と立ち上がろうとしたとき、机の上に置いてあったスマホが鳴った。

うっほほおおおーーー^^ うっほおおおおおお^^

画面に表示されるのはマネージャーの文字。

すぐに嫌な連想をしてしまう。

うわ、怒られることしたっけか。

あ、配信でマネージャーの年齢分からないから適当に290歳だよーって言ったのがばれたのか。

図星だったのかな、ごめんね。

とりあえずスマホを手に取る。耳に当てる。

 

「お疲れ様です」

「お疲れ様です 〇〇です」

「はい あの、、31歳でしたよね」

「29です」

「あ、すみません10倍しちゃいました」

 

惜しかった。

 

「何の話ですか じゃなくて、あの、クリスマスの日、暇でしたよね」

「え、はい、暇ですけど え、暖めてくれるんですか?」

「いえ、仕事が入りました」

「へ」

「コラボです」

「げ」

「露骨に嫌がらないでください」

「いや私ほらあれじゃないですか ソロマスター的な一匹狼的な単葉植物的な えへへ」

「この業界に長くいたかったらコミュ障直してください」

「はい、すみません」

「ちなみにコラボ相手はもう決まっていて、影沼ヒトリ君です」

「・・・あ、後輩君!」

「そうです 出来るだけ緊張させないように」

「任せてください先輩ですから」

 

・・・

・・・

・・・

 

隣でがっちがちのヒトリ君がいた。

なぜに。

 

「あー初めまして、、」

「あ、はい」

「・・・」

「・・・」

 

私はスタジオにいた。

セットとしてこたつが置いてあって、その上にすき焼きの鍋が置いてある。

取り囲むように機材がいっぱい。なんでも事前に物体をキャプチャしてるから、視聴者には実際の鍋の映像と私たちVtuberの姿が見えててまじで私たちが食ってるのが分かるとかなんとか。

難しいこと言わないで欲しい。頭悪くなる。

コンセプトは”クリぼっちな視聴者をコラボ配信で楽しませる”こと。

さすが我が会社、全力で煽っていく。

そして炬燵で温まっているのは、私と、今隣で顔を真っ白にして明らかに緊張してる男の子。

見た目高校生くらいに見える。

DKってやつか。

猿じゃんね。

 

「緊張してる?大丈夫?お水呑む?」

「あ、いえ、大丈夫です」

「・・・」

「・・・」

 

沈黙が気まずい。

ここは先輩の私が喋った方が良いのかな。

 

「コラボ初めて?あんま経験ない?ないよね 私も全然なくて~」

 

なんかAVのインタビューみたいになった。

gg。

 

「あの、コラボはよくします同期の人と、でも先輩はあまりないです」

 

するんだね、ヒトリだけどヒトリじゃないね。ってくだらない事言うと香ばしい空気になるからね絶対言わない。

 

「ヒトリ君だけどコラボしてるんだね 社交的で良いね」

 

限界と戒めは破るモノ。

gg。

 

「あ、でも全然緊張しちゃってすみません 迷惑かけてしまうかも、しれません」

「ん いいよいいよ気楽にやろうよ 私なんて近所の遊んでくれるねーちゃんくらいに思ってくれればいいから」

「はい 頑張ります」

 

やがてスタッフの声掛けがあって配信が始まった。

 

「みんなうほうほー 時雨リオだぞ~」

「悠久の時を生きるゾンビ、影沼ヒトリです」

 

そう、彼はゾンビだ。

 

きたああああああああああ

待ってた

うほおおおお♡

こんばんぞんぞん!!

ぞんぞん~

 

目の前の台に固定されているでっかいディスプレイには私たちの配信が映っている。

私はいつも通り見慣れた時雨リオ。短いカラス色の髪の毛に、獲物を狙うような鋭い目。

今はすき焼きが獲物だけどね。

そして隣で一緒に炬燵INしてるのは、青白い肌の男の子。目元にかかる灰色の髪の毛と、そっから覗く黒目はちょっと暗い雰囲気。

敗退的・・・じゃない、退廃的だね。

私たちが映る画面の横、流れゆくコメントから察するに、結構視聴者が来てるらしい。

 

「すごい、見たことない数だ、、」

「クリぼっち意外と多いのかな」

 

は?

あっ

リオー^^?

はい炎上

それはギルティ

 

「冗談だよ冗談 それに私もぼっt・・・ヒトリ君がいたわ」

「え、あ、え、」

 

うわあああああああ

リオがリア充みたいなことしてる・・・だと・・・?

ヒトリ逃げて

悲報 かげぬーに彼氏出来る

彼氏・・・?

なんだこの敗北感は

 

今は寒いからね。

とりあえずコメントで暖を取ってみたよ。配信が温かいね。焦げなきゃいいんだ、焦げなきゃ。炎上するな頼む。

 

「ということで今日はよろしくヒトリ君!」

「はい、リオ先輩! よろしくお願いします!」

「うわ、先輩って呼ばれた あああ、、先輩なのか・・・そうかそうか」

 

顔がにやける。

 

「・・・まずかったですか?」

「いやむしろ喜んでるんだよ! 先輩って言う響き、かっこいいよね」

「それなら良かったです」

「もっと呼んでほしい」

「先輩先輩先輩」

「おお~~~」

 

何を見させられてるんだ・・・

新手のプレイやめろ

後輩で快楽を感じる女

この関係性は正直萌える

かげぬーかわいすぎる

 

後輩の思わぬ先輩呼びに感動したところで、私は鍋の具を自分の小皿にとりわけることとする。

大きな鍋でぐつぐつ煮えている具材たちは、さっきから食欲をそそる香りを放っていて、早いところ私の口に入れてあげたい。

菜箸を手に取る。

 

「肉、肉、肉・・・ あ、肉じゃん また、肉じゃん お、肉」

 

肉がいっぱい。やった。

 

肉食動物かな?

ゴリラじゃくて恐竜じゃん

野菜も食えよ

白滝も美味しいよ

 

「野菜も食うけど、やっぱ肉だよね マッスルマッスル~」

 

筋肉にも良いからね。

まさに肉を食って肉を制す!

 

「あ、ヒトリ君も食べよ食べよ」

 

ヒトリ君は隣で様子を見守って固まっていた。

いけない、いけない。コラボだった。

 

「あ、私がよそおうか?」

 

先輩の器量を見せましょうかね。

 

「いえいえいえいえ! 自分でやります!先輩にやらせるなんてそんな」

「あ、そっかそっか」

 

ヒトリ君はすごい勢いで拒否していた。

気遣わせちゃったか。

 

パワハラ予備軍

イエローカード

ヒトリの肉まだ残ってるんだろうな

これは口にネギ突っ込む刑ですね

 

ちなみにヒトリ君は白滝とネギと白菜とキノコを小皿に移していった。

肉もお食べよ。

 

やがて実食の時。

ヒトリ君が手を合わせていただきますをした。

 

「はっ! 礼儀正しい!」

「え、そうですかね」

「失われた儀式だと思ってた」

「そんな大げさですよ」

 

リオは酒にしか手を合わせない

酒のつまみしか食べたことがない

酒から生まれた

血液が酒である

酒しか友達がいない

 

「ヒトリ君の教育に悪いゴリラたちは燃やします」

 

ひえ

wwww

アルコールは良く燃えるからね

 

できるだけ純情な後輩でいてほしい。

少なくとも私の視聴者みたいに、近所の生意気な野良猫みたいにはならないで欲しい。

彼らは可愛げが無いんだ。

もっと懐いてよ、私に。

肉をもぐもぐする。

卵の黄身に絡めてご飯の上に乗せて食べる。すっごくおいしい。

 

「うまああ」

「美味しいですね」

「酒が欲しくなるよね」

「すみません 未成年なので」

「あっ」

 

あっ

あ・・・

 

あっぶ。見た目だけかと思ったらほんとに若者だったのか、、

 

その後も美味しくすき焼きをつついているところに、スタッフから紙を渡される。

 

「えーっと”お互いの印象を教えてください”だってさ」

「印象・・・」

「私たちはお見合いに来たのかもしれない」

「ええ、それは、あの、」

「冗談だから!そのリアクションはまずい!私が鍋の具にされちゃう!」

 

美味しくないよ!

 

wwwwww

お 見 合 い

ヒトリ君、そこ代わってくれないか?(真顔)

リオ、そこをどけ(真顔)

 

ヒトリ君は考えが纏まらずに言葉に窮している感じだったので、私から言う。

 

「実はヒトリ君のこと配信でちょくちょく見てるよ」

「嬉しいです・・・」

「歌うたってるよね~ たまにコメントして逃げてるわ」

 

逃 げ ん な

逃げんの草

通り魔じゃん

ヒトリ君の歌配信好き

心が癒されんじゃ^~

 

「それはほんとに、あの、ありがとうございます」

「いやいやこちらこそ 私もヒトリ君の歌声で心が洗い流される民の一人だから」

 

ア ル コ ー ル 洗 浄

酔い覚ましに使うなwwwww

ヒトリ君を汚すな

 

「だからね印象としては、すっごい歌うまい癒し系って感じかな~」

「ど、、どうも」

 

彼の歌声はほんとにすごい。

何というか透き通ってる。チューハイに浮かべる氷くらい。

でも力強さもある。ハイボールの炭酸くらい。

・・・ワタシヨゴレテル。 

 

「それじゃあヒトリ君の番だね」

 

シンプルに気になる。

視聴者がどう見てるかはコメントで察せるけど、同業者はそういう事も無いから。

 

「そうですね・・・」

 

ヒトリ君は少し言いズラそうにしていたけど、私からは目を逸らしながらぽつりぽつりとつぶやき始めた。

 

「僕にとっては、、憧れの人です」

「ふぇ?」

「僕がVtuberに興味を持ったのは、楽しそうなリオ先輩の配信を見ていたからなので」

「まじ?」

 

卍?

 

そうだったのか・・・

まあ前から公言してるよね

リオネキに憧れる新人が現れるのかぁ(白目)

まあ魅力的ではあるはな

視聴者と殴り合いできる才能はえげつないからな

 

「ちなみに私の何が好き? あ、いや、告白じゃないよごめん違うから許して殺して」

 

「視聴者の方と

 

”てめえ舌引っこ抜くぞあ゛あ゛っ゛! ?"

 

ってケンカしたりしてるのが好きです」

 

「ああ~うん・・・」

 

切り抜きで有名な奴じゃんwwwwww

視聴者とリオの果てしなきケンカpart3 htps://www.NowTube.com/!@l=Jw&hl=ja

50万再生された切り抜きwwwww

よりによってそれなの草

ヤンキーが過ぎるwww

 

他にもある筈だ、、なぜそれなんだ、、マネージャー怖い目をしないでください。ごめんなさい。

 

「あ、いやでも、恐いなとかじゃなくて、もっとこう、視聴者さんと、自分たちと対等なんだなって感じが好きで・・・」

「・・・え、涙腺に来る」

「あ、え、」

「ごめん続けて」

「はい、あのだから、すっごく面白くて落ち着く配信の方だなって思いました」

 

いい子過ぎる

リオと正反対すぎるwww

どうか汚れないで・・・

かげぬー可愛い

純情過ぎて興奮する

え?

 

何というか、、嬉しい。

続けてきて良かったと思った。ちょっとアレな動画でアレだけど。

その後はお互いに好きな動画を言い合っていた。

私が彼の歌ったことのある曲を次々口に出して言ったら、ちょっと驚いていた。

しっかりちゃっかりファンなんだよ。引かないで。あとメタル系も歌って欲しい。

やがてスタッフから再びの伝令が来た。

 

「ええっと、”時雨リオぱいせんによるかげぬーへのアドバイス”」

 

・・・

 

「なぜ私が”ぱいせん”でヒトリ君が親しげに”かげぬー”表記なのかな、運営さん! ちょっといじりにきてんなぁ、おい!」

 

wwwww

運営にもいじられるの草

愛されてるんやでw

いいぞもっとやれ

運営に噛みついていけ

 

目が合ったスタッフが軒並み視線を逸らしていく。

大人たちよ、戦争は好きか?

 

「まあいいわ、アドバイスね こういうのかっこよくて好きなんだよね」

「よろしくお願いします」

「ふ~む 思いつかない」

「!」

 

おいw

お前もやってんな!

ないのかよw

 

いきなりしろって言われても難しいよ、これ。

 

「逆に、何か訊きたいこととかないかな?」

「訊きたいことですか」

「そ 大体答えるよ、好きな酒の銘柄とか」

「そしたらあの」

「うん」

「どうしたらリオ先輩みたいに面白い配信が出来ますか」

「あ、むずそう」

 

正直、深く考えたことが無いから分からない。

そして多分それはそれで正解なんだと思う。

ヒトリ君は興味深々な様子で、初めて私にその瞳を合わせている。

だから答える。

真剣に。

 

「多分、ありのままがいいんじゃないかなぁ」

「それは・・・」

「自分をそのまま見せるというか、偽らない!さらけだしてやる!って感じ」

「・・・すごいですね」

「ん?」

「それは、かなり、勇気がいります僕には」

「そうかな~ 難しく考えなきゃ楽勝だよ?だって難しく考えて無いからね」

 

哲学かな?

そ う だ よ

馬鹿だからな

まあ、考え過ぎるのもよくないね

 

ヒトリ君は視線を下げた。伏せた目をしている。

賞賛と言うか、諦めというか。やっぱり先輩と自分は違うんだなみたいなやつ。

意地悪言ってるんじゃないんだ。

私は確かに考えるのが苦手だから。

何とか力になってあげたい。

 

「んとさ 私考えるにしても、人を楽しませるという知識はまるで知らなかったから、考えてもしょうがないんだよね」

「・・・はい」

「だからさ、とりあえず自分が楽しめばいいかな~って、そしたら自然体になってありのままになる でも、人が楽しそうにしてたらさ、何か自分も楽しさが移るじゃん?そんな感じなんだ」

「なる、ほど、、」

「まあ人それぞれだよね~」

 

なんか名言出てる

あちい

これは姉貴

かっけえ

 

人の力になるってのは結構難しいけど。

 

「とっても参考になります」

 

喜んでるなら良かった。

 

 



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四分音符ちゃんだ!

私は会社の方に来ていた。

マネージャーと配信の打ち合わせがあるためだ。

というかわざわざ会社まで来る必要あるのか、めんどい。

流行りのZOONじゃだめか?だめか。

私はマネージャーから言われていた通り、会議室3と呼ばれる小さい小部屋を訪れる。

入った。

誰もいなかった。

あるのは部屋の真ん中に設置された空っぽの椅子と机だけ。

ありゃ?

首をかしげる。

もう誰かいると思っていたけど、、

腕時計で時間を見る。

針は予定時刻の15分前を指していた。

私は集合時間にはある程度余裕をもって来るタイプだ。

圧倒的社会人魂。遅刻駄目絶対。

棒棒鶏。回鍋肉。油淋鶏。

謝謝。

ただそれはマネージャーも同じこと。

なんなら30分前くらいから大抵いる。

A:暇なのか、B:時計が壊れているのか、C:物好きなのか。

Dの仕事ができる人が正解だね。えらい。

でも今はいない。

なんでだろ。

もう実はいるのかな?たまに透明になるタイプのマネージャーだったっかな?ジャパニーズニンジャ?

・・・多分トイレだな。

座って待っとこ。

 

・・・

・・・

・・・ポ

 

こねぇ。

全然こねぇ。

このままじゃ椅子と合体しちゃうよ。椅子ケンタウロスになっちゃうよ。

ああ、こない。

いま10分前。

んー、、明らかにおかしいよな・・・。

もしかして私が間違えてるのか。

記憶改ざんされてたかこれ。

あるなそれ。

電話で口伝えに聞いただけだし、もしかしたら勝手にここだと思い込んでいただけかも。実は別の部屋だったりするかも。

まずいかも。

とりあえずマネージャーに電話しよ。

電池切れてた。

ふぁっ〇。

くそ!道中見た夢野雫のライブ配信が罠だったなんてくそ!

ふぁっ〇。

秘技ふぁっ〇サンドイッチ。

いあ、どうしよ。

会社は無駄に部屋が多いしなぁ。

あ、あそこかなあ。

配信部屋3。

前に配信で使ったことがある。

会社はこの手の部屋が複数ある。最初の方は機材揃えたりするの大変だし、社員さんもいるから高度な事もできるしね。

いってみよ。

 

 

扉の前に立つ。

防音室だから中の音とかまるで分からない。

ま、基本誰も使ってないんだけどね。大体1と2だよ使われてるのは。かわいそうな三男。

喜べ、いまから私が使うぞ。

 

「失礼します」

 

部屋がきいーと無機質な音と共に開く。

マネージャーさん、超人的な推理でやってきましたよ。私が。私が来た!!

果たして、マネージャーはいなかった。

代わりにどなたかがPCの前に向かい合っていました。

配信をされていました。

ハイシン=シトルヤン(1965年)

 

「あっ」

「う゛ぇ゛っ?」

 

わあ、だみ声。でも可愛い顔。新人さんかなー。知らんなー。

・・・逃げねば!

 

「失礼しました!」

「ま゛っ゛て゛く゛た゛さ゛い゛!」

「はう!?」

 

扉を閉めようとしたら唐突に呼び止められた。

声の圧がすごい。必死さがやばい。漂流者が見つけた船呼び止めてるみたいこわい。

 

「あの、ごめんなさいほんと、命だけはほんと」

「私゛を゛助゛け゛て゛く゛た゛さ゛い゛」

「ガチ漂流者!?」

 

 

 

 

 

私は彼女のPC前に座っていた。

どうしてこうなった。

訊けばやはり配信中だったらしい。彼女はゲームの実況をやっていて、そのゲームと言うのが

『跳べ!四分音符ちゃん!』

このゲームは横スクロールのゲームで、四分音符に顔が付いたキャラクターが障害物を避けてゴールを目指すというものである。

特徴としてはその操作方法にある。

声に反応してキャラクターが動くのである。

だから「ああ~」とか言えば、四分音符ちゃんが跳ねる。

それでこの新人さん、 ”海原なまこ” と言うらしいが、この子はゴールを目指して声を出しまくってたばかりに、とうとう声が枯れ果てていたらしい。

 

「お゛願゛い゛し゛ま゛す゛!゛あ゛と゛ち゛ょ゛っ゛と゛な゛ん゛て゛す゛ぅ゛」

 

助けてあげてください

救世主来たあああああ

嗚呼メシア

解放される~

天からの恵み!

 

すごい!コメントの悲壮感がすごい!私に対しての敵意が一切ない!

突然配信に乱入しちゃったのにこの歓迎っぷり。何時間やってたんだこの子。

まあ、よろしい。

お望みとあらば私が救済執行してあげましょう。

ちなみにナマコちゃんが言うように、ゲーム画面ではもはやゴール地点は見えている。目前である。

ただゴール前に大きな穴が開いている。

四分音符ちゃんはそれを飛び越えなければ、ゴールにたどり着けないようだ。

 

おk楽勝

 

「叫べばいいのよな」

「は゛い゛」

 

せーの

 

「酒ええええええええ!!!」

 

四分音符ちゃん落ちた。

GAME OVER

 

「むっず」

 

 

 

私はこの後予想以上の苦戦を強いられる。

 

「ビール!」

 

GAME OVER

 

「筋肉!」

 

GAME OVER

 

「バイク!」

 

GAME OVER

 

好きなもの責めを仕掛けてみたが、ひたすら四分音符ちゃんを奈落に突き落とす鬼畜の所業を行ってしまった。

悪気はないんだ。途中から落ちるのが見たかっただなんて、全然全く微塵もかなり思ってましたごめんなさい。

困ったね。

もうなにを叫べばいいのか分からないよ。

そうだな~

 

「なまこちゃん、好きな生き物いる?」

「ナ゛マ゛コ゛て゛す゛」

 

「ナ゛マ゛コ゛ォ゛ォ゛!゛!゛」

 

GAME OVER

 

駄目だな~。もっとインパクトが強い言葉の方が欲しいなあ。

 

「なまこちゃん、好きな食べ物ある?」

「ナ゛マ゛コ゛て゛す゛」

 

「ナ゛マ゛コ゛ォ゛ォ゛!゛!゛!゛」

 

GAME OVER

 

駄目だな~。もっと勢いのある言葉が欲しいなあ。

 

 

「なまこちゃん転生したら何になりt」

「ナ゛マ゛コ゛て゛す゛」

 

「ナ゛マ゛コ゛ォ゛ォ゛!゛!゛!゛!゛」

 

GAME OVER

 

苦しい・・・

楽にしてくれ。。

助けてくれええええ

もう無理だあ~

 

頭がナマコになっちゃうよ~^^

これなんか攻略法とかないのかな。

このままじゃ四分音符ちゃんに呪われそうだよ。朝起きて四分音符になってたらどうしよ。かわいい。

 

「ねえなまこちゃん、これいい感じの方法とかある感じ?」

「言゛葉゛尻゛を゛伸゛は゛す゛と゛い゛い゛感゛し゛て゛す゛」

「ほう」

「私゛は゛肺゛活゛量゛が゛足゛ら゛な゛い゛の゛で゛す゛」

「なるほどね」

 

それならば良いのがあるじゃないか。

 

万物はゴリラに帰着し、ゴリラより始まる。

全ての始祖。

森羅万象、その頂。

湯屋一同!心を揃えて!

 

「うっほおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

轟けゴリラ!

四分音符ちゃん飛んだ!

届いた!

 

GAME CLEAR!

 

「「や゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」」

 

やったああああああ

きたああああああ

よしゃあああああああ

喜びが深い

感 無 量

 

私となまこちゃんは抱き合った。

なまこちゃんは泣いていた。

おおーよしよしよし良かったね良かったねよしよしよし

 

「失礼します!」

 

突然扉が開いた。

私は弾かれたように顔を向ける。

立っていたのはマネージャーだった。

 

「マネージャー!」

「やっぱりいましたか」

「なぜここが」

「ゴリラの鳴き声を上げるのはリオさんぐらいしかいないでしょ」

「私の声は防音室を貫通したのか!?」

「さ、いきますよ~」

 

そうして私は連行されていった。

 

「さよならなまこちゃん!手紙も書くからね!引っ越してもずっ友だよ!」

「あ゛り゛か゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛し゛た゛」

 

ずっ友って死語じゃね。

 

 

 

 

 

 

後日、切り抜きを見つけた。

 

『朗報 海原なまこの配信に迷子のゴリラが乱入するも、無事飼育員に捕獲される』

 

いや草。

 

 

 

 

 



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マイクワだ!

マイクワをしてみた。

あらゆる物体がブロックで構成されたゲームである。

地面もブロック。家もブロック。牛も羊もニワトリもブロック。

プレイヤーはその世界で家を建てたり探検したりして自由な楽しみ方をすることが出来る

とはいえ私は始めたばかりで、何が出来るかもよく分からない。

現状把握。

とりあえず歩き回っていた。

 

緑が一面に生える平原のような場所を歩く。

なにか動物のようなものが歩いていた。

四足。茶色と白のぶち。

草を食んでのんびりしてる。

 

「なにこれ」

 

イノシシ

シカ

カラス

スイカ

 

「しりとりしてんじゃねーよ」

 

あと四足のスイカ連れてこい。

いないだろ。食ってやろうか。

 

これは多分、牛だね。

ブモブモ鳴いてるし。

子牛もいるね。可愛らしい。美味しそう。

あ、近づいてきた。

殴ろ。

 

「えい」

 

生物ピラミッド頂点パンチ!

 

ぶもおおおおおおおお!!!

 

断末魔。

消滅して肉になった。

 

こっわ

肉 体 言 語

何もしていないのに、、

さすゴリラ

 

「違うよ 襲われる気がしたんだよ」

 

・・・などと供述しており

襲ったのはお前じゃい!

やられる前にやるの草

先制攻撃は基本

尚、死んだ模様

 

しょうがないんだ。

スタミナが無きゃこのゲームでは生きていけないんだ。

私、肉、貴重。

でもアイテムいっぱいで肉拾えないなー。

よし、ほっとこ。

 

「肉は土の上に寝かせると美味しくなるらしいよ」

 

牛を殺したかっただけの女

オ ッ ク ス ス レ イ ヤ ー

牛 に 謝 れ

ほのぼのとしたゲームじゃなかったのか(困惑)

 

 

そのあと地面を掘ることが出来るというのを視聴者から聞いて、私はやってみることにした。

必要なピッケルとやらを制作。

手軽だ。

それを使って地面をモクモク掘っていく。

いっぱい地面ブロックが砕けていく。

楽しい!真下にどこまでも行ける!モグラの王に私はなる!!

 

「このままどこまでいけるかやってみようか!」

 

止めた方が良いよ

どこまでも進め

突き進め

行けるとこまで行こう

 

「うんうん いけるとこまでいって・・・ぴぃっ!?」

 

マグマが噴き出してきた。

身体が炎に包まれる。

 

「熱い熱い熱いやめてやめて!アイテム無くなっちゃうから!焼肉になっちゃうから!美味しくなっちゃうからぁ!!」

 

炎 上 (物理)

これが牛の呪いか・・・

だから直下掘りはダメだとあれほど、、

火だるまだよー^^

 

「知ってたなら教えてよ!今に特定して家凸してみんなマグマに突っ込んでやるからな!くそ!」

 

こっわ

wwwww

鬼畜の極みで草

 

「お願い消えて消えて!消えろ消えろ消えろ消えろ!」

 

ふしゅー

 

消えたのは私の命の灯だった。

悲みが深い。

 

 

 

「酷い目にあった」

 

気を取り直して、今度は横に真っ直ぐ掘っていく。

何か掘ってる最中にいくつも水色の鉱石が出てきたけれど何なのか全く分からない。

ほらまた出た。

かくれんぼ下手くそかよ。

 

「ゴミかこれ?綺麗なゴミなのかこれ?」

 

ダイヤモンドだよ!

レア鉱石だよ

全然でない・・・筈なんだよな~(白目)

ビ ギ ナ ー ズ ラ ッ ク

ゴ リ ラ の 豪 運

これは運営に銃突きつけてる

 

「え?レアまじ?この子らレアの自覚無さ過ぎじゃない?」

 

www

ガチャ引いてきます

また出たやんこわ

 

しばらく掘ってた。

掘る。掘る。

単純作業楽しい。これだけで生きていきたい。こんな仕事ないかな。

ぼーっと掘って満足したので、そのうちに地上に向かって掘っていった。

地上に出る。

青空が見えると思ったけど、茶色い天井があった。

どうやらさっきまで見てた土ブロックである。

周りもまた土ブロックで覆われている。

というかこれ

 

「家じゃね」

 

ぽくはある

こんな原始的な家があるのか

文明の欠片も感じない

もはや洞穴じゃん

 

ほんとに原始人の住居みたいだ。

家具も全くない。唯一置かれているものは剣を持ったマネキン。

マネキン君の家説ある?

一応扉らしきものもあったので外に出れた。

すぐ近くに看板が立っていた。

 

『武家屋敷』

 

・・・お ま え か。

 

 

 

 



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迷子だ!

私はマイクラ世界のオープンワールドを歩いていた。どこまで行っても豚がいるし羊がいるし犬もいる。全部ドット。可愛い。

あとゾンビもいる。ゾンビいらん。

本当、どこまで行ってもまるで果てが無い。無限とも思える世界だ。いつまでも歩ける素晴らしい。

 

ではここで一言。

 

「迷゛い゛ま゛し゛た゛ぁ゛ぁ゛!」

 

www

何の成果も得られませんでしたあああああ

堂々としてて草

迷子だよー^^

 

「いや違くて! 迷う気とか全然なくて!」

 

そらそうよw

迷子はみんなそう言う

子供かな?

おじさんが家まで連れてってあげよう(ゲス顔)

↑ちょっと君、署まで(真顔)

 

おかしいなー、途中まで迷子にならないようにラズベリーをぽろぽろ道に落としてきた筈なのになー。これぞヘンゼルとグレーテル方式!私あったまいい!とか思ってた時期があったんだけど。

・・・時間経過で消滅ね、もっと早く言ってもろて。

迷子になった現状、家に帰る手段は限られる。そのうちの一つは、いわゆるデスルーラ。死に戻りって奴だ。そうすればアイテムをぶちまける代わりに、リスポーン地点に設定されてる我が家にすぐさま ”ただいま” できる。

でもなー、アイテム無くなっちゃうの嫌なんだよなー。

私は実はさっきまで地下にいた。それも5時間。モグラの極み。

それで私のアイテムはと言えばダイヤモンドがいっぱいなのだ。これを落としたら消えることを私は既に知っている!(天才!)

 

「ダイヤモンドの神よ・・・どうか私を家に帰しておくれ・・・」

 

駄 目 で す

死ぬしかないねw

諦めも肝心よー

マップ見たら?

 

「マップ見てもそもそも位置知らないから意味ない というか地図見て目的地にたどり着いた試しがない あれほんと紙屑」

 

あっ

出たあああww地図わかんない民だあああwww

リオ姉貴・・・

可 哀 想

しょうがないね(白目)

 

地図って難しいよね・・・。

は、現実逃避してる場合じゃない。

このゲーム、じっとしてても腹が減る仕組みになってるのである。完全に空腹になったら体力が徐々に削られて行ってしまうのだ。そして手持ちにはもう食糧が無い。つまり迷子してたらそのうち死んでしまう。しかも夜になると敵が湧く。襲われたらやっぱり死ぬ。

死にたくないよー。

 

「誰か~~いませんか~~~」

 

もうすぐ日が暮れるよ

急げ―

もう大人しく死のう

無理ぽよ

 

私は諦めないぞ。諦めなければ夢は叶うって言葉を知ってんだ。・・・それが嘘だってことも知ってるうわあああああ。

そうだよなあ、そんな都合よく助けてくれる人が見つかるわけないよなああ。

・・・きっと私はこのまま死ぬんだ。死因:迷子とかいう世界一斬新な死に方するんだ・・・。ダイヤを抱いて死にます。

 

「みんな今までありがとな」

 

これは死亡フラグ

ありがとー^^

あれ城じゃね

城だな・・・

誰かの家か!?

 

「ほえ」

 

城?家?そんなもんあr・・・あったわ。

歩いてたらなんかすごくでかい城が見えてきた。外装にはラプスラズリが敷き詰められていて、めちゃくちゃ青いし派手だ。

これはあれだな。

 

「ラブホだね」

 

wwwwww

おいおいおいおいw

ラブホやめいwww

とりま燃えとくw?

恐いもの知らず過ぎて草

 

いや思うじゃん。派手なホテル大体ラブホじゃん。

 

「とりあえず入るか」

 

その思考はおかしいwwwww

誰かいるかもしれないからね!

物乞いしなきゃ・・・

もしもしポリスめえええん

 

ご飯を恵んでくれる人・案内してくれる人が欲しいんであって他意はない。ほんとだよ。面白いネタが転がってるやんけなんてミジンコたりとも思ってないよ!

そうして立派な門構え(建築力たけえ)を潜って、無駄に広い庭を歩いていると、城の入り口がいきなり開いた。

 

「おお!?」

 

城の中から出てきたのは、全身ダイヤ装備の真っ青なプレイヤー。

プレイヤーネーム。OKAMAKING。

ゴライアス先輩だった。

 

「ゴライアス先輩出てきた嗚呼ああーー」

 

wwww

ゴラさんの家だったwwwww

お前かwww

 

どうりで青いと思ったよ。

そしてこれはチャンス。ゴライアス先輩にすり寄らなきゃ。

チャットで文字を書いた。

 

▽ あの、迷子になりました

▽ ご飯取れる場所とか知りませんか 

▽ あと私の家知りませんか

 

 

 

━SIDE OKAMAKING━

 

「あら?庭に誰かいるわね」

 

新人かしら?

挨拶よん♡

お尻見せなさいよ!

迷子かしら(じゅるじゅる)

 

「あれは・・・リオちゃんじゃないのお!!!!」

 

来たあああああ

おっほ♡

リオちゃん可愛いしゅきいいいい

興奮してきたわあああああああ

 

「私に会いに来たのね♡」

 

▽ あの、迷子になりました

▽ ご飯取れる場所とか知りませんか 

▽ あと私の家知りませんか

 

「うふん、可哀想ね♡」

 

不憫リオちゃん可愛いいいいいい

いじめたくなるわね♡

保護しましょ!!!

あああ合体!!!!

 

「でもそうねー、ほんと丁度いいところに来たわよね!」

 

「新作トラップが試せるわ♡」

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

私が可愛そうな迷子アピをしたところ、少し経って先輩は、私の目の前でお肉を落としてくれた。

 

「こ、、これ、、食べていいの!?」

 

やさしいオカマだぁ・・・

良かったねえ

これで勝った

また命が繋がったね

 

先輩のアバターがペコペコしてる。ほんとにくれるらしい。

 

「やったあああ」

 

私は迷いなくそれを受け取った。

個数は一個、、でもこれでちょっと長生きできる・・・あ。また落としてくれた。あ、また、また。

先輩はまるで道を作るみたいに、ちょっと進んでお肉を落としてちょっと進んでお肉を落としてを繰り返した。

あああ、こんなに。嬉しい。アイテムは落としっぱなしだと消えちゃうからね、私が拾うしかないよね!

私は疑いなく順番に拾っていった。

そして気づけば城の中。

外装もすごかったけど内装もすごい。映画とかゲームでしか見たこと無いけど、めっちゃそれっぽい見た目してた。先輩天才なのでは?

というか肉まだくれる!先輩天使なのでは?

私はどんどん拾っていった。

拾って行って。

拾って行って。

 

がちゃん!!!

 

気付けば柵に閉じ込められた。

 

「えええええ何これエええええ聞いてないんだけどおおおおお!!!!!」

 

捕獲されて草

wwww

捕まったwww

トラップに誘導されたなw

 

「ちょっとぉ!? 全然出れないよ!! 私囚人みたいになっちゃったよ!! 肉盗んでただけなのに!!」

 

肉盗ったからやろ

因 果 応 報

なんか草

 

飛び跳ねても何しても柵は全然びくともしない。私は完全に閉じ込められてしまった。

目の前には先輩が立ってる。

 

▽先輩、出してください

▽♡

 

なにその♡めちゃくちゃ怖い!!出してよ!出せやおらあああ!

 

ガシュ

 

ゴライアス先輩が横にあったレバーを引いた。

 

底が抜けた。

 

「ふええええええええええええええ」

 

!?

ふぁ!?

堕ちるううううううう

悲鳴可愛いいいいいいいいいいいい

りおしゅきいいいいいいいいいいいい

 

 

私は真っ逆さまに落ちていった。

 

 

━SIDE OKAMAKING━

 

「上手くいったわね♡」

 

性交よ、成功よ!

ヤッたわね♡

焦ってるの可愛かったわね~

リオちゃんはドMの素質あるわ♡

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

私が落ちた先はご丁寧に水が広がっていた。だから落下死は免れた。

 

「よかったぁ・・・ いや、よくないわ」

 

自分で突っ込んでて草

せやなw

ハメられちゃったねええ

ゴラネキもリオ虐がお好き

リオ虐こそ至高

 

全く先輩もひどいことをする。

私何もしてないのに。何も出来なさ過ぎて死にかけてたくらいなのに。お肉うまっ。

とりあえずは上がるための石段も用意されてたので、大人しくそれを登っていく。上まで上がれば、城のお庭に出てきた。また会ったな地上。

既に先輩が先回りして立っていた。

 

▽先輩、私なにかしましたか

▽ごめんね 新作のトラップ試しちゃったの♡

▽これはお詫びの品が必要ではないですか?

 

ゲスくて草

ゲ ス の 極 み ゴ リ ラ

たくましくて草

プロの犯行

 

ただでは転ばぬ!

 

▽そうねえ、その通りね♡

 

そう言ってゴライアス先輩はまたアイテムを落としてくれた。

今度はパン。これも貴重な食糧だ。大切に懐にしまっtあ、また、落としてくれた。あ、また。まただ。

優しいなー先輩は。

そう言って気付けばトラップの前だった。

 

「あああぶない!」

 

wwwww

神回避

よく気づいたw

偉い

 

流石に同じ手は食らいませんよ、ゴライアス先輩。

 

ばちっ

 

痛っ。

後ろから叩かれた。

身体が跳ねた。

 

がちゃんっ!!!!

 

ト ラ ッ プ に 引 っ か か っ た !

 

「なんでえええええええええええ!!!!!」

 

▽ごめんね♡

 

wwwwwww

さ っ き 見 た

即 落 ち ゴ リ ラ

 

「やだああ!やだああああ!!!落ちたくない!!落ちたくないよおお!!!」

 

がしゅ!

 

「ふわあああああああああああああああああぁぁぁぁぁ」

 

wwwwwwww

落ちた嗚呼あああああああ

たのしいいいいいいいいいい

リ オ 虐 !

 

 

 



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迷路だ!

「やあ みんな」

 

きたあああああああ

うっほほおおおおおおおお

うっほおお

うっほっほほお

 

「はい、うほ」

 

白い世界に向かって私は手を振り上げた。いや、急に詩的なこと言うじゃんきもっ、とか思わないで欲しい。これほんとだから。

私はゴーグルの形状をした特殊な機械を付けることでいわゆる電脳世界を見ている。身体にも動作を感知するためのプロテクターみたいな機械をいっぱい装着していて、その結果わたしは電脳世界に降り立っているのである。だから私からしたら真っ白な世界が広がっていて、視聴者たちからすれば、きっと目つきの悪い女が白い空間にぽつんと立っている姿が画面に映っていることだろう。

あとみんなのコメントは私の視界の右横に常に流れている。NowTubeのコメント欄が浮き出てる感じだ。便利。

 

「今日はこの白い空間から配信してくよ」

 

島流しですか?

とうとう隔離されたのか・・・

リオに餌あげるアプリの画面

↑バナナと酒で喜びそうw

運営『断酒しろよ~^^』

 

「君たちは相変わらずツンデレだな~」

 

は?

????

え?

は?

 

「は?」

 

今日もプロレスは楽しいです^^。スパチャしないとコメント欄から抜け出せない呪いかけとこ^^。

さて、私が今回この世界から配信してるのは理由がある。それはとある迷路に挑戦するためだ。どうやらどっかの企業さんとうちの会社がコラボして、電脳世界に迷路を作ってもらったらしいのだ。

 

「いでよ、迷路」

 

私は指パッチンした。

すると私の背後に、巨大な迷路が姿を現した。先が全く見通せない、複雑に入り組んだ迷路である。

 

すげええええええ

でっか

技術がえぐい

入ったら出られなくなりそう・・・

 

「今日は皆の力を借りて、これのゴールを目指していくよ」

 

やたあああああ

楽しそーー!

ネズミの実験でよくある奴

知 能 テ ス ト

↑リオはネズミだったのか・・・

ネズミ・・・繁殖・・・閃いた!

通報でちゅー

 

「これさあスタッフさんから話を聞くときにさあ『リオさん、迷路とか苦手ですよね?ということでお願いします!』って言われたんだよね」

 

wwwwww

舐められてて草

最初から決めつけてて笑う

馬鹿だと思われてるよwwww

 

「ね、これ完全に舐められるよね だから絶対みんなでゴールしような」

 

いいね

おk

任せなさい

介護は任せろ!

自宅警備は任せろ!

ニート君おっす

 

まじで許さんからなスタッフ。秒でクリアしてやるからなスタッフ。スタックさせてやるからスタッフ(激寒)

そうして早速迷路の入り口へと足を踏み出す。

見れば迷路の壁はとってもでかかった。私の身長は軽く超えていて、3mくらいはあると思う。上から覗くなんてとても無理そうだ。

 

「殴ったら壊せるかな」

 

ゴリラ出てて草

強 行 突 破

攻略(物理)

やっぱり脳筋じゃねえかwww

 

いやまあ、実際は拳すり抜けちゃうだけなんだけどね・・・。何で分かるかって?殴ったからだよ?・・・んん?

こうして私は迷路の入り口に立った。壁で左右を囲まれて、一直線の道が伸びている。

 

「みんなやるぞ」

 

おーーー

いくでえええ

がんばえー

わくわくしてきた

うほうほする

 

私は皆に声をかけた後、遂に一歩を踏み出した。迷路の始まりである。

数歩歩いたところで背後から”がちゃん”と音が鳴った。私は驚いて後ろを振り返る。さっきまで開いていた入り口が柵で覆われていた。入り口は完全に閉鎖されてる。もう出られませんわこれは。

 

ホラゲみたいだな

出られないね

ここで一生暮らそう

新居やで^^

 

「冗談じゃない 屋根がないだろ」

 

そ う 言 う 問 題 じ ゃ な い

屋根があったら住むのか・・・

そもそも雨が降らないんだよなぁ・・・

迷 路 系 V t u b e r

 

歩いていくとT字路のような場所の突き当りに出た。左右には真っ直ぐ道が伸びていて、奥の方がかくっと曲がっている。どうやらどちらかが正解なようだ。

そしてその正解を方向で示す問題文が正面の壁に貼り付けられていた。

 

問題1

時雨リオが鳩に餌をやるゲームをしていた際、お気に入りの鳩に餌をやっていたら別の鳩が割り込んできて、思わず言ったセリフとは次のうちどっち。

 

←おいお前、焼き鳥は好きか?
  
黒く塗ってカラスにしてやろうか?→

 

「うわぁーー めっちゃ最初の頃の奴じゃん」

 

なっつ

よく発掘してきたなwww

出たクソゲーwww

懐かしすぎて草

 

「これどっちだろ?全然覚えてないなぁ」

 

二択が地獄で草

初期からゴリラだったんだなーって(白目

どう転んでも鳩を脅してんの好き

野蛮過ぎるwww

 

「い~や~、全く思い出せない」

 

もはや遥か昔の記憶過ぎて思い出せなかった。

しかしゲーム自体は覚えてる。お気に入りの鳩がいて、せっせと餌を上げて育てたのに、最終的には鷹にさらわれちゃったんだよなー。ああ、あの時が初めての台パンかぁ。いや懐かしい。。

っと、台パンの思い出に浸っている場合ではなかった。どっちか選ばないと。

 

「私は台パンしたことしか思い出せませんでした」

 

wwwww

でたねえww

フ ァ ー ス ト イ ン パ ク ト

 

「みんなはどっちだと思う」

 

左じゃね

たぶん右

上行こうぜ

 

「割れてんな~」

 

これは困った。

 

「みんな私より頭良いんだろ~?もっと頑張れよ~ほらぁ」

 

煽り方が斬新で草

馬鹿を受け入れてる・・・だと・・・

これは強いw

煽り声好きすぎる

もっと煽ってください

 

「もう適当に選ぶわ」

 

私は、黒く塗ってカラスにしてやろうか?をとりあえず選ぶことにした。理由はこれと言って無い。強いて言えば直感を信じてみただけだ。

私は右の道へ足を進める。曲がり角に差し掛かる。合ってんのかなー。そう思いながら曲がったが、道の先に見えたのは先を塞ぐ壁だった。

どうやら行き止まりらしい。

 

「こっちじゃなかったかー」

 

残念

壁殴ってもええんやで

大人しく引き換えそ

しゃーない

 

私は踵を返そうとした。しかし、反転しようとした体は途中で立ち止まった。なぜかといえば。行き止まりの壁の前に何か降ってきたのである。

 

げこげこっ

 

2mくらいの大きさがある、でけえカエルだった。

 

「え、、カエル降ってきたんだけど」

 

でっか

なんでwwww

誰だカエル捨てたやつは!

 

カエルは感情の分からない瞳で私のことをじっと見つめてくる。私もじっと見つめ返した。何だこのカエルけんか売ってんのか?黒く塗ってカラスにしてやろかええっ?

私が拳を握り臨戦態勢で構えてると、カエルは突然うぇっ!と口を開けて、舌をべっ!と伸ばしてきた。まるで赤い絨毯のようだ。しかしその表面にはなにやら文字が書かれている。私は舌によく目を遣った。

 

『不正解だよ☆』

 

「やかましいわ!」

 

wwwwwwww

煽られてて草

カ エ ル に 煽 ら れ る 女

 

私はさっと踵を返した。

 

 

 

正解の道を真っすぐ進んでいると、再びT字路が現れた。どうやらこの迷路は二拓を選んで進んでいくらしい。やっぱり左右に道が分かれている。

私は壁に貼られている問題文を見つめた。

 

問題2

時雨リオは公式の自己紹介の文に握力も加えて欲しいという旨を雑談で喋ったことがあるが、その際に実際に乗せたかった握力の数値は次のうちどっち。

 

←50kg 
   
500kg→

 

何だこれwww

右化け物じゃねえかwww

明らかに人外で草

どう見ても左だな

 

「これはねえ、右なんだよね」

 

えぇ・・・(ドン引き)

リオの握力どうなってんだよww

強すぎて草も生えない・・・

いや草

 

「これは私の握力じゃなくてゴリラの握力なのさ!」

 

あ、そういう・・・

やっぱりゴリラじゃないか!

ゴリラすっご

いやなんでゴリラの握力乗せるんだよwww

ゴリラの自己紹介しようとしてて草

そら断られるわww

 

これまた懐かしい。確か当時、Vtuberの自己紹介文なんか多少無理な設定でもいけんだろということで、ゴリラの握力を乗せてもらうとしたんだ。私はゴリラ教信者だから隙あらば布教活動しなきゃいけないんだ、仕方ないうほ。

私は迷いなく右の道を選んだ。すたすた自信満々に歩いていく。曲がり角を曲がると真っ直ぐな直線が伸びていた。

道の途中には壁の隙間から左へと進める小路がある。だがそれよりもずっと目を引くのは、正面に伸びる道の奥の突き当りにある、隠しルート☆と書かれた扉である。

 

「すっごい分かりやすいところに隠し扉あんだけど」

 

ガバってて草

隠す気皆無じゃんww

隠れないタイプの隠し扉でしょ(適当)

 

「これいいんだよね 行っていいんだよね」

 

ここまで分かりやすいと逆に不安になる。私は扉を訝しむ表情で見つめる。なんか落とし穴とかあったりするんじゃないだろうな・・・。それか地雷が仕掛けてあって爆発するとか・・・。

いろいろ可能性を頭に巡らせたが、結局考えていても埒が明かないのでまっすぐ進むことにした。

 

「近道とかかなぁ?それともなんか別の空間に繋がってるとか?」

 

スタッフが踊ってんるよ

武士が刀研いでるよ

カンガルーがボクシングしてるよ

ウサギが飛んでるよ

 

「じゃあスタッフが踊ってて武士が刀研いでてカンガルーがボクシングしててウサギが飛んでる部屋に繋がってんだろうね」

 

カオスで草

どこだよそれ

地獄かな?

 

そんな風に冗談を言って気楽に歩いていたのだが、事態は唐突に一変する。

 

ぐらぐらぐらぐら

 

「んっ!?」

 

突然に地鳴りが起こり始めた。迷路がぐらぐらと揺れていて、景色がぶれていた。

 

「なにこれなにこれなにこれ!」

 

地震だあああああ

こっわ

何が起こるんだ・・・

なんかやばい

 

皆動揺してる。私も動揺してる。嫌な予感がする。

そしてその嫌な予感は的中した。

 

ずががががっっ

 

いきなり正面の地面が盛り上がったかと思うと、次には大きな獣の腕が地面をぶち破って垂直に生えた。黒い毛が生えてる。5本指。大きな拳。間違いない。それは、、ゴリラの腕。

 

ずどどどどっっ

 

腕を出して顔を出して、最終的は身体までもが地面から現れた。一頭の雄ゴリラが地上へと降臨した。

 

「ゴリラ来たああああああああああ!!!!」

 

やべえええええええ

こええええええよ

うおおおおおおおお

ゴリラ過ぎて草生える

 

まさか迷路でゴリラに会えると思っていなかったから思わず興奮してしまった。ゴリラは私に鋭い目線を送っている。私は彼の身体に見惚れる。

 

「いやーー筋骨隆々な体えぐいよね~ あの逞しい腕みてよ!人死ぬでしょ! い~や~たまんねえわ~」

 

興奮してて草

ゴ リ ラ に 欲 情 す る 女 

うほ♡

ガチで怖いだけなんですが・・・

 

「ちなみにゴリラは自分のうんこを投げて求愛するんだよ!ああ、うんこ投げてこねーかなー」

 

それは草

発現がやばすぎるwww

ここだけ切り抜け

リ オ は う ん こ 好 き

 

「あとゴリラのドラミングはねえ約2km先まで届くんだってさ!やばすぎよな!」

 

雑学が止まらないwwww

こいつずっとゴリラについて喋ってんなww

楽しそうで何よりw

これは流石のリオ姉貴

いつもより喋ってて草

 

いやぁ、無意識に熱が入ってしまう。まあしょうがないよね。ゴリラを目の前にして興奮しない女とかいないからね。人類皆ゴリラに惚れてるから。もうウホよウホ。人類はウホ。

暫くゴリラを見ていたがやがてゴリラは上半身を起こして、二足で立った。

 

「あ、立った!」

 

1.7m!

 

でけえええええええ

俺より身長高くて草

筋肉ヤバすぎ・・・

胸筋えぐ

 

そうしてパーにした手を胸に叩きつけた。

 

「ドラミングきたああああああ!!」

 

こわいこわいこわい

滅茶苦茶叩くのが早いwww

ひいいいいいい

早く逃げろよw

 

「ちなみにドラミングするのは威嚇する時とか怒ってる時とか遊びたい時なんだよ!」

 

へえー

じゃあやばいじゃんw

逃げよ

私を置いて先にいけ!

 

「だからああやって歯とかむき出しにしてたらヤバくて・・・」

 

ゴリラが走ってきた。全速力。黒い巨漢が迫ってくる。

 

「やばいやばいやばいやばい!!!!」

 

私は振り返って走り始めた。

やばい。

ゴ リ ラ が 襲 い 来 る 。

 

ひいいいいいいいい

えぐいえぐい

はっや

逃げろーーー

 

「やばいよ!!!体重150kg握力500kg時速40kmが来るよ!!!」

 

走りながら豆知識言うの草

何が何でもゴリラ情報言うなw

オ タ ク の 鑑

言ってる場合かよw

 

「きっちいいいいいいい」

 

私は全速力で逃げた。後ろを振り向けばすぐそこにゴリラが迫ってる。私は壁と壁の隙間になってる、横の小路に入り込んだ。

大きな足音が止む。後ろを振り向けば、小路に入ってこれないゴリラが隙間から顔を覗かせて恨めしそうにこっちを見ていた。

 

「ごめんなゴリラ 君は連れていけないんだ・・・」

 

うほっ

 

「うんうん、、ごめん・・・ごめんよ・・・」

 

うっほおおおお

 

なんか感動する場面になってんの草

そんな場面じゃないだろww

弱いゴリラなんていらない!

じゃあのノ

 

私は泣く泣く歩を進めた。

 

 

 

それからたくさんの問題を解いていった。

 

Q配信中、PCに酒をぶち撒いた日はいつか

Q酔っぱらって謎にウサギの真似をし始めた配信はいつか

Q突然凸してきた夢野雫と15時間ほど雑談してたのはいつか etc

 

そうして私はとうとう最後の問題にまで到達した。

 

「ようやっとここまできた・・・」

 

長かったね

今までの配信歴史を振り返ってるみたいで楽しかった

結構濃密な配信人生で草ですよ

最後だね

 

「どれどれ、最後の問題は・・・」

 

問題10

時雨リオのチャンネル登録者数は25万人である。

 

←YES
   
NO→

 

「これは・・・」

 

私は、はっとした。

そういえば私の登録者数、そんくらい行ってた気がする。特別気にしてたわけじゃなったけど、、改めて意識させられた。

だから答えは・・・YES。

私は左の道を進んだ。

そしてその先に会ったのはGOALと描かれた扉。

私はそれを開いた。

 

ぱんっ! ぱんっ!! ぱんっ!!!

 

「おおっ!?」

 

そこは部屋だった。クラッカーが鳴り響いて、どこからともなくファンファーレが聞こえていた。

壁にはたくさんの風船が飛んでいて、横の壁にはゴリラのイラストがいっぱい描かれていて、そして正面の壁には、

 

登録者数25万人おめでとう!!

 

と、でっかく描かれていた。

 

「わあああああすげええええ」

 

おおおおおおおおおお

お祝いだああああああああ

やったあああああ

運営に愛される良い女

祝いだ祝いだあああああ

 

「まじかあ、、だから今までの配信振り返ってたのか・・・うぅん、ありがてえぇ・・・・」

 

つい、感嘆の声を漏らした。

 

泣けてきた・・・

うわああああああああ

普通に感動するわ

リオおめでとーーー!!

姉御おおおおおおおお!!!!

 

まさかこんな粋なサプライズをしてくれるなんて思ってなかった。とても嬉しい。

しかしこれでサプライズが終わったわけじゃない。部屋を見れば、中央に何やら冷蔵庫らしきものがある。

 

「なんか入ってんのかな」

 

ゴリラが入ってるよ

武士が入ってるよ

スタッフが入ってるよ

俺が入ってるよ

 

「開けてみよ」

 

ぱっかり、と開く。出てきたのは缶ビールだった。

 

「おおおおおおおおおおおおお」

 

酒だあああああああ

酒来たああああああああ

まじかよwww

 

私が手を伸ばして掴むと、恐らくリアルでもスタッフさんが持たしてくれたのだろう、冷たい持ち慣れたアルミの感触を感じた。

 

「それじゃあ、25万人記念しまして、飲まさせていただきます」

 

いけえええ

ぐいっとな!

いただいちゃってえ!!!

やったぜ!

 

「かんぱあああああい!!!!」

 

いええええええいい

ういいいいいいい!!

おめでとおおおおおおおおお!!!!!

かんぱああああああああい

うえええええええい

 

ごくごくっ

 

喉を豪快に鳴らす。冷たい液体が喉を通っていった。嗚呼、、、

 

「うっめえええええええ!」

 

いええええええいw

おっさんきたあああwwww

っぱこれなんだよなああ

さいこおおおおおおおお

 

コメントが自分のことのように祝ってくれた。

スタッフの笑い声も周りから聞こえた。

 

私はとても、嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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”歌ってみた”だ!




人生というのは、意外なタイミングで意外な出来事が訪れる。というのが、しょっちゅう起こる。

”しょっちゅう”起こったらもう意外じゃねーだろ、慣れんだろ、と思ったそこの君、その素晴らしき脳みそにドロップキックを決めて進ぜよう。震えるぞー^^。

話をもどそ。

慣れる事なんてありはしない。

だから人生は恐い。そして面白いんだ。

なぜ私の口からそんな格言めいた言葉が出てきたかって?

 

 

 

時雨リオ、歌ってみた、するってよ。

 

 

 

 

 

 

それは例の如くマネージャーさんと企画会議をしていた時に知らされた。(ちなみにZOONだ。ZOOは動物園・・・うほ!?ゴリラの気配!?)

 

「リオさん今度、歌うたいましょうね」

「はい?」

「シングァ ソングですよ」

「はい?」

「楽しみですねー」

 

毎回唐突である。

いや、歌う動画NGで、と言った記憶は無いけど。歌寧ろ好きだけど。マネージャさんにも企画にも罪はないけれども。

 

「それはあれですか 歌ってみたってやつですか」

「そうですね そういうやつですね」

「ああー、はい」

 

勿論知っている。Vtuberもよくやってるし、なんなら歌だけで勝負してる人もいるくらいだし。

でも、あれって、あれだよね。歌唱力無いと無理ゲーだよね。

これ偏見かも知らないけど、歌が上手くもない私の歌に果たして需要があるのか、、

 

「私どちらかというと下手ですよ」

「はい、下手ですね」

 

あああ、攻撃力たっか。

 

「でも聞いてくれる人はいるのでやりましょうね」

 

ということで、うたってみた、します。

 

 

 

 

ところで曲は何だろう。疑問に思ってたところ、マネージャーさんが歌ってみたの打ち合わせしますよーッというので、会社の会議室へ。

座っていたのは20代と思われるお兄さんだった。

なんか髪が青いぃぃ。首にタトゥゥゥゥ。強キャラ臭すごいぃぃ。

すかさず私は頭を下げる。先制攻撃は基本っ!お兄さんもペコリ。

 

「こちらが今回曲を提供してくださる、ザラぁPさんです」

 

横に立っていたマネージャーさんが紹介してくれた。

 

「どうもー お願いしますー」

「あ・・・時雨リオという名前で活動してるVtuberです」

 

すごいフランクな感じのお兄さんだ。優しそうな笑みを浮かべている。喋った時舌にピアスあった気がするけど・・・

 

「ちなみに僕のことは御存じですか?」

「・・・え?」

 

おお、ぐいぐい来るなぁ。そしてザラぁPという名前には憶えが無いかも、、

言葉に詰まってると、お兄さんはどこか悲しい顔をした。

 

「ご存じない」

「あ、どうですかねー曲は知ってるかもなんですけどー・・・あはは・・・」

 

私のその場しのぎの言葉を聞くと、彼はなにやら念仏のような言葉を唱え始める。

 

「『歌ってみたを出さないか』『ボカロはいいぞぉ』『曲作るから歌ってな』『歌えよほら』」

「んっ!?」

「『歌ってみたください歌ってみたください歌ってみたください歌ってみたください歌ってみたください歌ってみたください』」

「んんっ!?」

「赤スパチャ10,000¥」

「あああっ!!! いつも配信に来る人おお!!!」

 

知ってる人だった。

コメント欄に頻繁に現れ、スパチャを叩きつけ、歌を欲しがる名物スパチャニキの一人だった。

 

「ザラぁPさんって、あの方だったんですか・・・」

「いつも見てます」

「おぉ・・・」

 

スパチャのとき”ざらぴい”表記だから気付かなかったけど、、こんなことがあるものなんだー。驚いた。だが驚きはまだ続く。失礼ながらザラぁPさんの作った曲をいくつか教えてもらったのだけども、NowTubeで100万再生されてる曲が多くて、中には500万再生ぐらいされてる曲もあった。

彼は若き天才クリエイター。

つまり、マジのすげー人だった。

 

「ザラぁPさんの方からお声をかけていただきまして、今回の歌ってみたをやることになったんですよ!」

「あ、はい」

「さらに今回はリオさんのためだけに曲を作ってくださるそうです!」

「はいぃっ!?」

 

マネージャーのとんでも発言の隣でお兄さんがうんうんと相槌を打っていた。

やがてお兄さんは口を開いた。

 

「リオさん!」

「はいっ」

「名誉ゴリラの威信にかけて、絶対バズらせます!」

「ふええ・・・」

 

正直に言おう、荷が馬鹿重い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、なんで私にあんなに歌って欲しいコールを・・・?」

「リオさんの特徴的な低い声が僕の思ってた曲のイメージにぴったりなんですよねぇ」

「ああなるほど」

「それでどうしても曲が完成させたかったんで、もうリオさんの声の素材を集めて曲にしてやろうかなって」

「ええ、、」

「だから今回歌っていただけることになって本当に嬉しいっすね」

「それもし私が歌うことになって無かったら」

「過去配信すべて漁ってリオロイドを作ってましたね」

「やばすぎ」

 

 

 

 

 

それからなんやかんやあって歌ってみた、というか、オリジナル曲が無事に完成した。

 

 

 

 

曲名『うほっ!ゴリラしか勝たんっ!!』。

 

曲名から既にぶっ飛んでいる。メロディーの方もザラぁP独特のセンスが光る、ある種”狂気的”とも呼べるハイテンポなノリであり、聴いてるだけで頭が揺さぶられ脳内麻薬があふれ出す。一方で歌詞をよくよく聞いてみれば、ゴリラから見た人間社会の闇を痛烈に批判しており、時雨リオの暴力的で掠れた声と相まって多くの視聴者の心を揺さぶる。

もはや電子ドラッグと呼ぶに相応しい、センセーショナルな一曲である。

(NowTube 上半期JPミュージックチャートランキング11位 紹介文より抜粋)

 

 

 

「いやー、リオさんのおかげですわ」

「おかしいだろぉ、前日に練習しまくって声枯らしてたのにこの評価は絶対おかしいだろぉ、、」

「やっぱリオさんなんだよな~」



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武士が何言うか当てるゲームだっ!【1】




私は暇なときには大抵他のVtuberの動画を見てたりするけども、それで時々羨ましく思うことがある。

多人数コラボだ。

共通のテーマとか企画があって、それにたくさんのVtuberが参加してわちゃわちゃするアレである。何が良いって、Vtuber同士が絡み合うと、その人の普段見れない一面が惹き出されたりすることだよね。しかも、Vtuberが多いと視聴者もいっぱい来るし、混ざってぐちゃぐちゃなる混沌コメント君面白いし、”あ、このVしゅきー♡”っていう発掘があったりもする。

この前も私の推しの可愛い新人Vtuberちゃんが実は空手の有段者ってのが他のVtuberとの会話の中で明らかになったことがあったんよ、ありゃ震えたね。

羨゛ま゛し゛い゛な゛ぁ゛黒゛帯゛・・・。

んで。私はと言えば、そう言うコラボはあまりしない。

雫さんはほら、多忙な人だし。あんまりわちゃわちゃに入るキャラじゃない。

武士も、うん、声がでかいね。でか過ぎ。それで空気読めないんだからもはやテロ。私と喋ってると尚更でかい気がする、アレルギーみたいなもんなのか? 

だから珍しくいろんな人とコラボするよーっていう場面だと、私はソロでぶち込まれることになる。

やったね!ほかのライバーさんはある程度顔見知りなのに私だけだーれも面識ないや!ふぁっ〇!

まあ、つまり、浮くよね。いつも会話の中でふわふわしてるし大人しくしてる。どうも窒素です。だから視聴者からは借りてきたゴリラって呼ばれちゃうわけだ!ゴリラどこで借りれんだよ!私にも貸せよ!家に飾るよ!

かと言って、雫さんと武士と3人でコラボしたところで、上手くいくわけじゃないんだよねー。

別にみんな会話得意じゃないし、誰も仕切り方とか知らないし。謎の沈黙とか平気で生まれるし・・・。武士も黙るんよあいつ。何でなんあいつ。空気よめ。

コメント欄ではお通夜って言われてたな確か。あれで三人で集まるのはまずいっていう暗黙の了解みたいなのが出来たんだっけな・・・。運営も「^^;」みたいな感じだったね、うん。一対一ならだらだら喋るんだけどね、難しいね。

あーあ。誰か先頭に立ってもらって、企画考えてもらって、私たち三人纏めて仕切ってくれる人がいたらなー。(人任せの極致)

 

・・・そんな都合のいい都合のいい(ドラえもんチックな)話無いですよねぇ。

 

「あるわよ♡」

 

ありました!ドラ〇もんじゃないけど青い御方!

ゴライアス先輩とディスコードで通話してたら思いもよらない返答が返ってきました!

 

「あるんですか!?」

「あるわよ♡」

「それはどういう・・・」

「うふ、まあ楽しみに待ってなさい♡ あたしが楽しー企画を考えてあげるわ♡ うふふふ♡」

 

ゴライアス先輩はなんとも楽しそうに笑っていた。私は背筋に冷たいものを感じた気がした。

 

 

 

「第一回、次に武士ちゃんなんて言う大会~!」

「「「「いええええい」」」」

 

きたあああああ

うえええい

まってたあああああああ

いえええええええい

 

ゴライアス先輩の始まりの音頭と共に、私たちの配信は始まった。

ゴライアス先輩主催だ。まさか本当にコラボ企画をやるとは。さすが強欲のオカマ、行動力の化身。

 

「おっと、企画をする前に自己紹介しないといけないわね♡」

 

配信画面にはクイズ番組でよく見かけるようなIの形をした回答台が横に複数並べられていて、それぞれにVtuberが立っている。3Dではなく立ち絵。私はそれの一番右だ。端っこは良いね・・・。リリン、落ち着くね。

あと私たちのさらに上、画面上部に四角いワイプがある。誰がいるって・・・?髭面のちょんまげの人相の悪い知らん人だよ。

ちなみにゴライアス先輩は司会なのでちょっと離れたところに立っていた。これは選ばれしオカマ。

 

「まずは私、山田ゴライアスよん! 皆ぁ~~~んんんちゅ♡♡♡」

 

おええええええ

先制攻撃きたああ

デバフきちゃうううううう

▽防御力がガクッと下がった!

 

今日は赤いスキンヘッドに赤い唇である。

季節によって変わるのかな?紅葉みたいな感じで。あ、いま春か。あれ。

 

「じゃ、左からお願いねー♡」

 

有象無象を踏み潰して固めて地面にしてお花を咲かせるタイプのゴライアス先輩は、気にせずに次を促す。

一番左に立っているのは、白い長髪に赤目の美少女。雫さんである。

 

「うさぎさんたち、こんにちわ~ 夢野雫だよ~ えへへ」

 

は?可愛いが?

きゃわあああああああああ

あvぼえrhヴぇおあv

ありがとうございますぅぅ!!

可愛すぎてキレそう

 

コメントが発狂してるが概ね私も同意である。

雫さんは可愛い(至言)

 

「雫ちゃん久しぶりね~♡」

「そうですね!」

「4億年ぶりぐらいかしら?」

「二日前に連絡しましたね!」

「そうよねぇ♡」

 

ゴライアスの記憶ガバガバで草

時間軸歪んでるわw

オカマだけ別の次元を生きてるw

4億年はもう化石なんよ

シ ー ラ カ ン ス 系 オ カ マ

 

相変らずゴライアス先輩は適当だし、雫さんの包容力は宇宙だった。

 

「じゃあ次よん~」

 

今度は真ん中。

青白い肌で目にかかる灰色の髪の毛で負のオーラがすごい男の子だ。

君の名は・・・。

 

「悠久の時を生きるゾンビ、影沼ヒトリです」

 

何 故 だ 。

なぜ自分から死地に足を踏み入れたんだ、ヒトリ君。。君はまだ若いのに!(新人)

 

「私が連れてきたの♡」

 

お前かオカマ。

 

「私も若い子と絡みたいじゃない?? だからLIMEで一斉に募集かけたの~そしたら釣れちゃったの~♡ 上物ぉ~♡」

 

”上物ぉ~”じゃねえよwww

可哀想に・・・

これがV界の英才教育ですか?

かげぬー、強く生きて

↑もう死んでんだよなあ

 

「あ、、あの、みなさんよろしくお願いします!」

「ヒトリさん、初めましてっ」

「あああ初めましてっ!夢野先輩!あのっよろしくお願いしますぅ!」

「緊張してて可愛いですね~」

 

おまかわ

あら~^

うわ、てぇてぇだ!!

おねショタ感あってやばい死ぬ

いいですねぇ!(ゲス顔)

 

んーー、んっ!(唐突な死)

何だこの尊い空間は・・・。体の不調が全部直りそうだ・・・。でも私と会った時はそんなでも無かった気が・・・ん?

 

「もうイチャイチャしてずるいわねぇ~ 悔しいから次よ!次!一番右!」

 

人 を 緩 衝 材 に 使 う な。

 

「ええ~、時雨リオです 今日も元気です こんにちうほ」

 

出席確認かな?

うほおおおおおおおお

このローテンション、落ち着くw

落差で草

クールだぜ

 

「あら?ほんとに元気なのかしら?バナナ食べなさいよ、バナナ♡もう♡バナナバナナ♡」

「バナナって言いたいだけですよね?」

「良い響きよねバナナ♡ バ・ナ・ナ♡」

「絶対ダメな奴だこれ・・・」

 

セクハラで草

攻 撃 特 化 オ カ マ

一回怒られろw

去 勢 し ろ 

 

ゴライアス先輩って基本的に自分の配信でも下ネタばんばん使ってるからなぁ。Vtuberになる代わりに倫理観を捧げたのかな。ていうかNowTube君に怒られたりしないのかな。

 

「警告を喰らったことは一回あるのよ~♡」

 

確信犯だった!?

 

「リオさん今日もかっこいいですね!」

「ど、どうも・・・ あ、ああほら、雫さん、雫さんもすごく可愛いですよ!」

 

実は会う度に言われてるからな、一周回って慣れたわ。慣れてねえわ。

応援を付けなければ。

 

「ねえ、ヒトリ君、雫さん可愛いよね?」

「え、あっ、あの・・・」

「リオさん、かっこいいですよね~」

「あ、ええ、その。。」

 

後輩いじめてて草

やめて!かげぬーのライフはもう0よ!

修羅場ってて草

新作のギャルゲーかな?

↑もう詰みルートだよ

かげぬー、お前は強くなる

 

「私が好きって言いなさい」

「え?」

「私が好きって言っときなさい」

「あ、あ」

「さあ」

「あの、僕・・・」

 

「ゴライアス先輩が好きです!」

 

「「っっ!!??」」

 

なん・・・だと・・・?

 

「あら、うれしっ♡」

 

ええええぇぇぇwww

そんな馬鹿な・・・

狙いが大物過ぎんかww

気 狂 い

 

とまあ、こんな茶番を挟みつつ。次はいよいよあいつの自己紹介である。

 

「それじゃあ最後、主役の登場よんっ♡!」

 

四角いワイプの中にいる男が口を開いた。

 

・・・来るっ!

 

「某はああああああぁぁ!!江戸の大剣豪うううぅぅぅ!!!切った相手は数知れずうううぅぅ!!織田信長とは親友の仲ぁぁぁぁ!!! 我こそが!江戸の!一匹狼!駿河、武士であるぅぅぅ!!!!!」

 

きたあああああ

うるせええええええww

長えよww

きゃあああああぶしいいいいい

本 日 の 1 0 割

出 オ チ

 

瞬く間に大ボリュームが配信に響き渡った。

もちろん駿河武士である。

 

「いきなりうるさすぎるだろ、電車かよ」

「ふう!貴様が小さすぎるのだろう!!」

「そりゃあんた視点なら全部小さくなるわ!」

「そう!某はビッグ!トップ!!ヒップ!!!」

「最後ケツじゃねえか!!」

「ケツで何が悪いんじゃあああ!!!」

「うぜーから突っかかってくんなぁ!!」

 

いきなりコントしてて笑う

犬 猿 の 仲

生き生きしてんなぁww

リオの声が低くなるの好き

※声がでかい方が勝ちます

 

声帯どうなってんのこの人ほんと。

 

「相変らず仲良いのねえ♡」

「これで仲いいならこの世から争いが消滅するでしょうね」

「でもリオさん、さっきよりも声が出てますよ!」

「これに備えて準備してただけです」

「リオ先輩も駿河先輩も声おっきいなあ・・・」

「ヒトリ君、今のは感心するところじゃないぞ・・・」

 

むしろこの落ち武者みたいに放ってはならいという戒めを持ってほしい。ヒトリ君の声は透き通ってて良い声なんだから、こんなバズーカみたいな声にならないでね。

 

「そういえば武士とヒトリ君って面識あんの?」

「ないな!全くない!!お天道から御代官様からごry」

「はいはい分かった分かった じゃあ、挨拶しときなって」

「あら~リオちゃんお母さんみたいね♡」

「絶 対 嫌 だ」

「私、リオさんみたいなお母さんも欲しいです!」

「おk、今日からママになる」

 

即答で草

ママあああああああああ♡♡

母ゴリラ×雫 

う~ん、閃いた!

↑へーいぽりすめーん

これはナイスアシスト

 

武士とゾンビのファーストコンタクト。

ワーストコンタクトにならないことを祈る。

 

「あ、初めまして、影沼ヒトリです」

「ふうむ、某が駿河武士である」

「きょ、今日はよろしくお願いします」

「承った!」

 

偉そうで草

上下関係のある世界なんだなあ・・・

声のボリューム落ちてて草

※意外と気遣いが出来る男です

 

「なんで偉そうなんだよ・・・」

「それはだなああああ!!!!某が今日のおおおお主役!だからである!!!」

「主役だぁ・・・?」

 

そうだっけか。未だにゴライアス先輩から詳しい企画内容を聞いてないからよく分からない。

武士のたわ言じゃないのか・・・?

 

「確かに主役ね♡」

「!?」

 

たわ言じゃないのか!?

 

「リオちゃん、さっきもタイトルコールしたでしょ~ 『第一回、次に武士ちゃんなんて言う大会~!』なのよん♡ つまり武士ちゃんが今日のメインなのよ♡」

「ま~じですか。。」

「武士さん大抜擢ですね」

 

雫さんがニコリと笑う。ああ、なんて受入れが早い・・・。私は嫌な予感がしますよええ。

 

「ふっむ! ようやく某が主に相応しい器であることに気が付いたということだな!重畳重畳!」

「なんだこの言い返せない感じ・・・腹立つぅ」

「安心していいわよ♡手綱はしっかりあたしが握っちゃうから♡」

「なぬ!?」

「ああ、先輩がいてよかった」

 

頼もしいオカマ

ゴライアスに握られる(意味深)とかご褒美では?

おっと、それ以上はいけない

 

ゴライアス先輩が言うなら多分大丈夫だな。よしよし。

大声大会とか開催されるんじゃないかとびくびくしちゃったぜ。

 

「それでどんな企画何です?」

「そうね、説明しましょう

 

簡単に言うと武士ちゃんに、いくつかインタビューをしてあるのよ♡ それはもうたっぷりね♡

だからみんなには今から質問文だけを聞いてもらって、武士ちゃんがなんて答えるのかを当ててもらうと思うの。

 

ね、簡単でしょ?」

 

ゴライアス先輩はそう、説明した。

 

「「「ほえ~~」」」

 

私たち回答者三人は呆けた声を漏らした。

 

可愛い

かげぬー好き

雫ちゃんの方が可愛いぞ

あほリオ可愛い・・・

全 員 し ゅ き

 

・・・いやまてよ。

簡単?簡単なのか?

相手は駿河武士だぞ?人類を分けるとしたら人類か駿河武士か、でおなじみの武士だぞ?

 

簡単なわけなくないか?

言うなればそれは野生のタヌキが考えていることを当ててくださいみたいな・・・

 

「はっはっは~~~某の思考が読めるかぬぁぁ~~~???」

 

だめだ、”ぬぁぁ~”が嫌い過ぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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武士が何言うか当てるゲームだっ!【2】

「じゃあ改めてルールを確認するわよ」

 

ごライアス先輩はそう切り出して説明を始めた。

お願いします。

 

「今から武士ちゃんにした質問を出題していくから、みんなそれぞれ武士ちゃんがなんて言うか予想して回答を記入しちゃいなさい❤️書いた回答はみんなの下の方にある、あのー白いボード、そこに出ちゃうから❤️出ちゃうから!」

 

二回も言わんでいいw

この人ほんま…

何が出るんでしょうね…

言 論 統 制

 

ボードとはたぶん回答台の支柱部分にある白い横長の長方形のスペースのことだろう。今は白紙で、ペイントツールでお絵描きすると、そこに書いたものが反映されて出る。

 

「正解したら1p 外したら0p 問題は全5問ね」

 

あ、雫さんうさぎさん描いてる、かわいい〜。私もゴリラ描いとこ。1うほ、2うほ〜3ウホウホ〜。

 

無駄にうめえw

謎のスキルで草

汎用性なさすぎるだろそのスキルw

 

「こら年長組、説明中に落書きして遊ぶんじゃないの!キスするわよ! 」

「「あ」」

「全く、ヒトリちゃんを見習いなさい!大人しく待ってるでしょ!」

 

 

ゴライアス先生ごめんなさい

 

 

「雫ちゃん、それは口で言えば良いのよ?」

「先生、オランウータンなら良いですか?」

「リオちゃん、そういう問題じゃないの」

「ぬおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

「武士ちゃん!何もできないからって奇声をあげるんじゃないの!」

 

無茶苦茶で草

無法地帯すぎるwww

クソガキしかいないww

こ れ は ひ ど い

 

「あ、ええと、その」

「ヒトリちゃん、無理して何か言おうとしなくて良いのよー❤️ 唯一の優等生枠ね〜もう可愛いわ!チュ!❤️」

「ひっ!?」

 

結局キスしてるじゃねえかw

とばっちりだぁ…

ビビるかげヌー可愛ええ

小動物に似てる愛でたい

ヨスヨス^^

 

クソガキムーブをかましてたらヒトリくんにしわ寄せが行ってしまった。ごめんよぉ。

そうして、わちゃわちゃが済んで。

ゴライアス先輩はそう言えば、と続けた。

 

「言い忘れてたんだけど、優勝したら豪華商品も用意してあるのよ!」

「え、マジですか?」

「マジよ」

「リオさんと1日デートですか!?」

「それはどうかしら〜❤️」

 

ゴライアス先輩はもったいぶった様子で、それが何かを頑なに教えてくれなかった。

というか賞品なんてあったんだぁ…想定外だ…。

やっぱり先輩ってこう言うところほんとに抜かりないなぁ、こんなことされたらガチにならざるを得ないじゃないか!(強欲の化身)

 

「それじゃあ説明も済んだことだし、始めようかしらね?」

「はい!」

「優勝あるのみ!」

「が、頑張ります!」

 

こうして企画がスタートする。

 

「合戦じゃあああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

あんたは違うだろ。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ第1問!」

 

ウキウキな声でそう発して、ゴライアス先輩が質問文を読み上げていく。

 

「武士ちゃんに尋ねました! 武士ちゃんの一番好きな食べ物ってなあに?」

 

ほほお

知らないなぁ

一番最初の配信で言ってたで

何だっけか…

 

「お書きなさい!❤️」

 

おお…序盤からなかなか良い問題が来よる…

これは武士のプロフィールとか初配信を見てたら分かるやつだ。つまり、武士に興味があれば分かる。

なるほどなあ。これは他の二人には難しいかもねぇ。でも私は分かる!武士には興味はないけど!ゴキブリの方がまだ興味あるけど!でも分かる!

何故かって、あいつに直接聞いたからである。より正確に言えば、押し付けられた、からである

 

〜以下回想〜

 

「リーオーよー、お主ちょっと痩せすぎではないかぁあぁぁ?」

「いや平均だろ」

「いいや細い!そして小さい!細い!小さい!美味い!」

「人を叩き売りするみたいに言うな!」

「だぁからぁ、ビワを食えっ!」※ビワは果物

「は?」

「ビワを食えば大っきくなる!健康になる!これこそ某の大好物なり!!!」

「いらんて」

「食え!食わねばその口にねじこんでやろう!!」

「やめろぉ!手に持って近づいてくるなぁぁ!」

「ビワの極みいいい」

「うわああああ」

 

〜回想終わり〜

 

ということがあったんだ。

どこの世界にビワを片手に迫られる人がいるんだろう。いるんだよ。私だよ。

でも、あの時の私は武士のいつもの奇行に困惑していただけだったけど、全ては今日この瞬間のためにあったのかもしれない。

つまり私が正解を手にするために!

 

「みんなそろそろ書けたかしら~~」

 

ゴライアス先輩が皆に確認をする。

 

「書きました!」

「終わりました~」

「い・・・一応・・・」

 

雫さんは自信満々だけど、ヒトリ君はそうでもないみたい。まあ、そうなるわ。

 

「それじゃあ雫ちゃんから回答を見ていこうかしら❤️」

 

ゴライアス先輩はそう促した。

雫さんめっちゃ自信ありそうだなぁ、まさかビワ知ってたりして…?

 

「回答をドン❤️!」

 

 

 

ブリ

 

 

 

……ブリ!?!?!?

大根と一番仲が良い魚ブリ!?

なんでブリ!?

 

「なんでブリなのかしら?」

「武士…ぶし…ブシ…ブリ!ブリですね!」

 

ギャグきたあああああぁぁぁ!!!!!

雫さんの天然がここで発動されてしまったああああぁぁぁ!!!!!

 

「ぐはっ」

 

wwwww

ギャグwwww

ギャップすこ

リオになんかダメージ入ってて草

 

心の中で絶叫して私は勝手に悶えた。

はあ、はあ、忘れてた。雫さんってこういうところあるんだよなぁ…この天使はいつだって不意を突くのが得意なんだ。今までに何回心踊らされてきたことか、ふぅ、油断ならないぜ。

 

「ちなみにブシ…節ぃ…カツオ節ぃぃ!もありました!」

 

 

 

かつお節。

 

 

 

「ぐはっ!」

 

油断したああああああぁぁぁ!!!!

カツオにスキを突かれたあああぁぁぁ!!!

 

wwwwwwwwww

追いガツオで草

隙を生ぜぬ二段構え

お か わ り

二回行動で草

 

これが大天使シズクエルの力なのか・・・恐ろしや。。

 

「雫ちゃんの発想は豊かね~♡ それじゃあ次は、ヒトリ君の番♡」

 

ゴライアス先輩が先へと進める。

 

「自身は、無いんですけどぉ」

「そんな回答を ドン♡」

 

 

 

おむすび△

 

 

 

 

ああ~癒しだぁ。

回答を聞いただけで安らぎを感じることがあるんだなあ りぉ。

 

「なんでおむすびにしようと思ったのかしら?」

「駿河先輩は武士なので、おむすびとか好きかなぁ、、と」

「なるほどね♡ それは合ってるかもしれないわね♡」

「だといいんですけど・・・」

「自信持ちなさい」

 

ゴライアス先輩がそう励ます。そうだ。間違いない。常識的に考えれば、駿河武士とかいう名前なんだからおむすびとか兵糧丸とか好きそうなイメージもするもんである。・・・中身を知ると、ドッグフードも食べそうな図太さを知ることになるが。

というか、ヒトリ君の回答の隣に何かイラスト描いてあるなぁ。

 

 

 

おむすび△←what?

 

 

 

「ヒトリ君、それなに?」

「おむすびです」

「うわ、上手い」

「イラストでちょっと加点になればいいなあって・・・」

「うわ、あざと可愛い」

 

おむすび上手いとかあんのかww

ただの三角なんだよなあ~・・・

リオより女子力が高い

ヒ゛ト゛リ゛君゛可゛愛゛い゛な゛あ゛

 

「それじゃあ最後はリオちゃんの番ね」

 

こうして最後の私の番が回ってくる。

当然私の回答は決まっている。

 

駿河武士は。

 

「リオちゃんも回答をドン♡」

 

ビワ狂いの男。

 

 

 

ビワだよ!!

 

 

 

「ほほお~♡ ビワとはまた渋いわねえ~~♡」

「私もぶっちゃけ食べたことないですね」

「あらぁ?それじゃまたどうして?」

「あの落ち武者は、私をビワで追いかけまわしてきたことがあったので」

「あら~^ 楽しそうねぇ♡」

 

どんなエピソードwww

ヤバすぎて草

新手の嫌がらせかな?

世に〇奇妙な物語

 

さあて、後は正解発表を待つのみ。

 

「それじゃあ回答も出揃ったことだし、武士ちゃんの正解のインタビュー動画を見ましょうね♡」

 

ゴライアス先輩がそう言えば画面は切り替わって、インタビューされる武士が一面に映し出された。

 

「武士ちゃんに質問です!武士ちゃんの一番好きな食べ物ってなあに?」

「ぬぅ~~それはだなぁぁぁー」

 

こいこいこい。

 

「それはだぬあぁぁぁ」

 

こいこいこいこいこいこいこい。

 

「『ビワ』だなぁ!」

 

画面が戻る。

 

「ということで正解はビワよーーーん♡」

「おっしゃあああああああああああ」

 

きたあああああああああ

すげえええええ

さすゴリ!

正妻の本気きたなあwww

 

やったぁ。

何事も経験しておくもんだぜ。

 

「むぅ・・・」

「リオ先輩、流石です」

 

いやいやそれ程でも。

雫さんの悔しがる顔可愛い~。後輩に褒められるの気持ちえぇ~。

 

「やああああるではああああないかああああああ!!!!」

 

あ、うざい。

 

「そりゃビワのあんな思い出忘れんわ」

「ほほおおおおぉぉっ!? 某との思い出が忘れられないとぉ!? 頭から離れないとおおお!?」

「おいどんな解釈したらそうなるんだ!? 頭の中ビワで出来てるのか!?」

「先ほどからビワビワ、ビワビワ繰り返しておるお主! もしやお主ぃ!!ビワが好きになったのかぁ!?!?」

「誰か!こいつを止めてくれ!私が配信生命を賭けた罵声を繰り出してBANされる前に!!!」

 

wwwwwww

武士リオてぇてぇ

やっぱこれなんだよなぁ

切り抜きですね~

 

もってくれ私の身体!

 

「仲良しさんで羨ましいですね~」

「わあぁ・・・ケンカ生で見れたあ~」

 

止めてくれみんな!

 

「リオちゃん、まずは1p獲得ね」

 

ポイントゲット!

 

 

 

 

 

 

 



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武士が何言うか当てるゲームだっ![3]

びゃ


一点は何とか手に入れた。でも油断はできない。

さっきのはたまたま正解を知っていただけで、次の問題も正解できるとは限らないからだ。むしろもっとマニアックな問題を出されて答えに苦しむかもしれない。

ていうか武士のマニアックな問題って何だ、髭の長さは何寸ですかーとかか?東京タワーはちょんまげ何個分ですかーとかか?そんなん、答え分かっても意地でも答えないからな・・・。

とにかく。

ぜったいに気を緩めちゃいけない。このまま気合でリードを守り続けてやるんだ。

 

「それでは第二問目♡!」

 

こいやぁ!

 

「武士ちゃんに尋ねました! 『ま』から始まる武士ちゃんの一番好きな言葉ってなあに?」

 

・・・。

・・・?

・・・!?

 

無理だああああああぁぁぁぁぁ!!!『ま』から始まる武士の好きな言葉見つけ出すって!そんなん!無理だああああああああああ!!!

大体いくら言葉があると思ってるんだ!その中から当てるなんて運ゲー私に出来るわけないだろ!星座占い見たら何故かいつも最下位な私を舐めるな嗚呼!!うお座に幸あれえええええええ!!!

私は頭を抱える。浮かんでくるのは言葉の数々。

マリモ。マイタケ。マラカス。マンボウ・・・。

いやいやいや。

私は首を横に振って明らかに不正解な言葉たちを思考から追い出す。

 

「あらリオちゃん、首振っちゃってどうしたの~? 少し遅れたイヤイヤ期突入かしら~♡ ロリ・・・リオ・・・・ロリオちゃん♡!」

 

ロリオ!?

新しい呼び名生まれてて草

ゴリラであり、イケメンであり、ロリであると・・・

属性モリモリ

ロリオかわええ~

撫でてあげたい

興゛奮゛し゛て゛き゛た゛

 

誰がロリだ!

 

「必死に考えてるんですよ!」

「そうなのね♡ やっぱり難しいのかしらね♡ みんなも悩んでて可愛いわ~♡」

 

見れば、雫さんは「ん~、ん~」と唸っている。鈴みたいな透き通った声で可愛いなぁ~、ひょこひょこ揺れてるのも可愛えぇ~。

一方でその横のヒトリ君へと視線を移せば、ヒトリ君は目が可愛らしいことになっていた。

 

><

 

になっていた。

 

「うわああぁぁぁぁヒトリ君、何その表情!可愛いじゃん!えっぐ!」

 

思わず声を上げてしまった。

 

「え!?」

「あ、急にごめんw」

「い・・・いえw」

 

 

唐突なナンパで草

ゴリラが少年を誘ってんなぁ!

文面が強過ぎて草

ヒトリちゃん可愛い~

男の娘、なのか・・・?

うほ♡

 

ヒトリ君は回答を考え中だったから驚いたらしい、ごめんよ。

 

「目が『><』になるのはヒトリさんの特技ですね~」

「ですよね!私にはできない!」

「あ、ありがとうございます」

「くそお、、おらっ!おらっ!」

「おめめパチパチしてどうしたの♡? ドライアイかしら♡?」

「真似したいんですぅ!」

 

 

wwwwww

オカマの煽りスキル高すぎて草

リオの目痙攣してて笑うw

こっわw

 

ん~。たぶん新しい世代になって追加されたモーションなんだね。これがジェネレーションギャップか~(?)

 

「リオさん大丈夫ですよ! ヒトリさんが可愛いなら、リオさんはかっこいい方面で攻めましょう! リオさんはイケメン!!!リオさんかっこいい!!」

「それはフォローなのか・・・?」

「安心してよいぞおぉぉリオよおぉぉぉ! 某も出来ぬからなぁぁぁ!つまり某もお主の仲間よぉ!ぐははははは!」

「うわ、世界一いらん仲間来たぁ・・・」

 

 

同期てぇてぇ

圧倒的チームプレイで草

絶妙にフォローしない頭脳プレイだぞ

背中から仲間に撃たれてやがるw

これが同期の絆か・・・w

 

「お喋りも良いけど、回答も考えてちょうだいね♡」

 

 

 

 

 

それからちょっとの間、それぞれで真面目に回答を考え始めた。と言っても私は、もうギブアップなんだけど・・・。碌な回答が浮かびません。バタンキューです・・・。でも悩む振りはしとこうかな。悩んでる人ってかっこよくみえるからね!

そうしてみんなが真剣に悩み始めてからというもの、誰も言葉を発しなくなっちゃって、すっかり場は静まり返っていた。ゴライアス先輩も邪魔しちゃ悪いと思ってるのか、ただ時間を読み上げるマンに徹している。変に律儀だ。

そうして広がっていた静寂だったけど、やがて異音が混ざり始める。

 

「マ・・・マママ・・・マママママ・・・」

 

私ではない。

某ではある。

つまり、暇を持て余した武士が、何やら独り言をつぶやき始めたのである。

 

「マママママッ↑、マッマッマ~→、マママママ↓♪」

 

変なリズムを取って歌い始めた。何だこのデバフが掛かりそうな歌は!

 

「ママママ~→、ママッ↑、ママっ↑♪」

 

 

うぜえwwww

新手の呪いかな?

IQ下げてきて草

範 囲 攻 撃

 

「おい武士、その歌止めてよ! 気が狂うよ!」

「マママママ?(良い歌であろう?)」

「”アイラービュー”じゃねえよ! その口ホッチキスで止めるぞ!」

「マママママ!?(言って無いが!?)」

 

 

wwwwww

なんか違うっぽくて草

びっくりしてるなぁww

なんで『ま』しか喋らないんだwww

武士壊れちゃった^^

 

なんだろう、驚いていた気がするけどまあ良いか。それよりも回答だ。

 

「はい、終了よ~~~ん♡」

 

回答の時間が来た。

 

「さあて、誰から行こうかしらね~~♡」

 

ゴライアス先輩がそう言う。私は最初に名乗りを上げることにした。回答に自信が全く無いのだ。どうせ合って無いから一番最初が良い。

 

「はい! はい!」

「あらリオちゃん!元気ねー♡」

「はい!今なら岩も砕けます!」

「分かったわ♡じゃあ、リオちゃんから順番に行きましょうね♡」

「よっし」

 

 

wwwww

いわくだきで草

格闘タイプじゃんwwww

パ ワ ー 系 ゴ リ ラ

これは強いw

 

よかった、私からだ。さっさと済まそう。

 

「じゃあ回答をどんっ♡」

 

 

 

 

マンドリル

 

 

 

 

「なにこれ♡」

「マンドリルです」

「なにそれ♡」

 

 

マンドリルです(天下無双)

ゴラネキが困惑してて草

マwンwドwリwルw

どういうチョイスなんだwwww

 

「マンドリルというのは熱帯雨林とかで暮らす猿の仲間で、雄の鼻筋が赤くてその両頬が青くてめっちゃ派手なのが特徴的なイカした猿です!!!」

「そう、なのね・・・ それじゃあ、なんでそのマンドリル?を選んだのかしら♡?」

「私が好きだからです!」

「あら♡」

 

 

wwwwww

クソ早口で説明してて草

違 う 、 そ う じ ゃ な い

問題に答える気無えww

リオやってんねえ!

武士の歌でやられちまったんだぁ・・・w

 

いやいや、分かってるさ。

答えるんでしょ。

武士が何言うか。

でも知らんもん。しゃーないじゃん。そしたら何答えるってさ・・・マンドリルしかないじゃん?(偏見)

 

「そうね♡もしかしたら正解かもしれないわね♡」

「不正解だと思っています」

「おほ~♡」

「分からなかったんです・・・」

「難しかったものね、しょうがないわ♡」

 

合ってるわけないもんなぁ・・・。モニターに映る武士、めっちゃ渋い顔してるもん。呑み込めてないじゃん、マンドリル。ごめんね。

 

「そしたら次は・・・ヒトリちゃんね♡」

 

ヒトリ君に順番が回る。

私の代わりに頑張れぇ・・・。

 

「どう?」

「自信はあります」

「おお~♡ それじゃあ回答をドンっ♡」

 

 

 

 

曲げない心

 

 

 

 

 

おお~

かっけええ

正解っぽいのきたね

さすが俺のヒトリ君!!

↑お前のじゃない、私のだ

↑違う私のだ

厄介ファンもう付いてて草

 

「なんで"曲げない心"なのかしら♡」

「駿河先輩はその、、かっこいい言葉が好きかなーと思いまして、、」

「ふんふん♡なるほどね♡」

 

ゴライアス先輩は感心した様子で、微笑みと共に声を漏らしている。武士も静かに”うぬうぬ”と頷いている。

好印象だなー。もしかして正解来たか?少なくともかっこいい言葉は良いセンスいってるっぽい!

 

「武士ちゃんも首ぶんぶんね♡」

「合ってたらいいんですけど・・・」

「楽しみね♡」

 

楽しみだね~。マンドリルも応援してるよ~。

 

「そしたら最後は雫ちゃんねー♡」

「はーい!」

 

雫さんは元気よく返事を返す。いつも元気で可愛い女の子とか最強なんだよなぁ・・・。

 

「元気なお返事ねー♡」

「はい! 自信もりもりです!」

「モ・リ・モ・リ! 良い言葉ねー♡」

「ですよね!」

「さて、さっきのヒトリちゃんはかっこいい言葉を回答に選んで、武士ちゃんも良いリアクションをしてたけど・・・そこらへん、雫ちゃんはどう♡?」

「そうですね~!かっこいい言葉、仕込んであります!」

「あら♡それは期待できるわね~♡」

 

雫さんは相変わらず自信満々。かっこいい言葉を仕込んであるって言う表現がちょっと気になるけど・・・。

まあきっとかっこいい言葉が来るんだろうな~。

期待期待。

 

「それじゃあ雫ちゃんの回答、ドンッ♡」

 

 

 

 

負け戦

 

 

 

 

雫さああああああああああああん!!!

 

 

wwwwwww

かっこよさどこ行ったwwww

ダサい言葉の代表格で草

何が起きてるwww

 

あれぇ・・・負け戦って普通にかっこ悪くない・・・?私が間違ってるのか・・・?私の世界戦と雫さんの世界戦だと、言葉の意味が、違う・・・?

 

「負け戦って、負ける戦いのことよね?」

「そうです!」

 

そうだよねえ!

やばいよ、かっこいいの概念が壊れそうだよ・・・。雫さんどうしてそんな言葉を選んだの、、。

 

「この言葉って"戦"って言葉が入ってるじゃないですかー!」

「そうね♡」

「だから武士さんはかっこいいって思うはずなんです!」

「ん~でも、"負け"って言葉も入っちゃってるわよん♡?」

「それはそうなんですけど、私の直感では"負け”よりも"戦"の方がポイント高めなので、プラスマイナスで言ったらプラスになります!」

「んふ♡?」

 

 

お分かりいただけただろうか

哲 学

ぜっんぜん分からんぞww

なあるほどな~(白目)

 

・・・やべえ。何も分からん。あのこの世の全てを受け入れるでおなじみの武士でさえも顔引きつってるよ・・・。。

・・・雫さんは宇宙なのかな。そうか宇宙だったんだ。大きな宇宙。広い宇宙。。帰ろう、みんな。宇宙に・・・。あのすべてを包み込んでくれる優しい世界に・・。

 

絶対正解じゃないだろ。

マンドリルと互角だろ。

宇宙=マンドリルだ。間違いない。

 

「これで回答が出揃ったわね♡! 正解は果たしてあるのかしらん!? それじゃあ早速、正解のVTR見ましょうね~♡」

 

ゴライアス先輩の言葉で画面全体がインタビュー映像に切り替わった。

やはり中央に大きく映っているのは、インタビューされる武士の姿である。

さて、どんな言葉が飛び出すのか・・・。

 

「武士ちゃんに質問でーす♡」

「なんーぞ!」

「ぶーしちゃんに質問でーす♡」

「なーんぞ!」

「武士ちゃんに質問です!」

「なんぞ!」

 

その遊びいらんでしょw

 

「『ま』から始まる武士ちゃんの一番好きな言葉ってなにかしら!?」

「『ま』・・・とな・・・」

 

いよいよ質問が繰り出された。武士は腕を組んで遠くを見つめながら、髭を片手で撫でていた。

なんだろう。。絶妙なウザさを感じる。。

まあそれは良いんだ。

答えだ。

どうかな~、ヒトリ君が言った”曲げない心”とか、いかにも言いそうなんだよな~。

これは持ってかれたかも・・・。

 

「んん~~~」

「決まったかしら♡」

「そうだな!決まったな!」

「それじゃあ答えてチョーだい♡ 『ま』から始まる武士ちゃんの一番好きな言葉ってなにかしら!?」

 

 

 

 

「負け戦なり!!」

 

 

 

 

「ということで雫ちゃん、大正解♡♡♡!!!!!」

「なっ!?!?!?」

「すごいです・・・」

「やりましたあ~~!!!!」

 

 

ええええええええええ

そんなことあんのw?

もうチートじゃんwwww

ぶっ飛びすぎてて草

 

ふえぇ・・・こんなの絶対おかしいよぉ・・・。

だからさっき武士、顔引きつってたのか!雫さん、正解引いちゃったから!すげえ!

 

「武士ちゃん♡ これの理由を教えてチョーだい♡」

「うんむ! まずは驚いた!!! 雫よおおお! お見事なりぃぃぃ!!!」

「ありがとうございます!」

「それでこの言葉であるが・・・この負け戦、確かに戦いには負けているわけであるからして、言葉を見てダサいと思う輩も多くいる事だろう!!」

 

はい、私です。

 

「しかああああし!! 実はここに、負けの美学というものが存在するのであーーる! つまり! ただ負けるにしても、引き際はいつにするのかぁぁぁ!死に場所をどこに決めるのかあああぁぁぁ!!その葛藤が!意地が!この言葉には詰まっておるのだああああぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

おおおおおおおおおおおおお

すげえ熱量wwww

武士あついねえw

負けの美学は確かにあるな

なるほどね

 

武士は力強い言葉で力説した。

なるほど、意味ね。あんまり考えなかった。てっきり言葉だけで選ぶと思ってたけど、武士って賢かったんだ・・・。

でもそれを当てる雫さんすごすぎる。。これが運命力なのか。天使の力なのか。

 

「おめでとう雫ちゃん♡ 1ptゲットよん♡」

「やりました!」

「リオちゃんと一緒ね♡」

「はい!嬉しいですね!リオさんとお揃いです!!!」

 

雫さんが凄く嬉しそうにニコニコしていた。

 

いやぁ、雫さんの天然には敵わんなぁ。

 

 

 

 



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武士が何言うか当てるゲームだっ![終]




私が1点。雫さんが1点。

出題は当然続いた。

 

「それでは第三問目 『壺男、クリアするまで挑戦するんじゃああああああぁぁぁ』配信より・・・」

 

10時間やってたやつね。えっぐ。

卵。

 

「武士ちゃんが苦労してゴール目前までたどり着いたにもかかわらず、操作を誤ってスタート地点まで落下しました。その際に発した一言とは何でしょーか♡」

 

出たw

また懐かしいものをww

古過ぎて草

武士の断末魔好き

↑勝手に殺すなw

 

ゴライアス先輩が声高々に問題を読み上げたが無論知らない。

武士の耐久配信なんて追ってみろ、鼓膜飛ぶぞ。(⤴)

まあ配信してたのは知ってますけども、途中で”壺から出られぬ某を応援するがよい”とかいうふざけた文言とともに心折れかけた武士から通話がかかってきたんだけども。だから、お前は生まれた時から下半身が壺なのよ、って衝撃の事実を言っておいたんだったな。たぶん最適解だあれ。

それ以上何も知らない。

 

「ぐんぐんぐぐーーーん♪」

 

暇な武士は意味不明なことを呟いてまたデバフをかけてきている。考えると頭がぐんぐんぐぐーーーんするから考えてはいけない。

 

ぐんぐんぐぐーん^^ ぐんぐんぐぐーん^^

 

リオ壊れちゃった・・・

デバフかかりまくりで草

IQ下がるでほんま

こ ん に ゃ く

 

・・・ぐn、おっと。

 

「それじゃあ回答を一斉におーぷん♡」

 

私と雫さんの回答は、”もう限界じゃ!”とか”無理じゃ!”とか”じゃじゃじゃじゃぁ!!!!”とかそんな奴だった。

特に気に留める必要もない。正解に掠る事すらしてなかったのだから。

だけどもヒトリ君の

 

 

よぉぉぉし、決めた 次墜ちたらVtuberやめるぞぉぉぉ!!

 

は素晴らしい回答だった。

 

「正解を見ましょ」

 

過去のアーカイブである、壺男で落下した武士が言った。

 

「よおおおおし、某決めたぞ! 次墜ちたらVtuberやめるぞぉぉぉ!!!!」

 

正 解 だ っ た 。

 

wwwwww

自我失ってんの草

勝手に賭けられてるVtuber君可哀想

振り出しに戻ったのになんでこんなに元気なんだよwwww

 

ちなみにこの宣言の後、4回落ちたらしい。Vtuberやめてんじゃねえか。

映像がクイズ会場に戻る。

 

「でもよく分かったわね♡」

「天賦の才だのぉ」

 

ゴライアス先輩が褒めたたえる。天賦の才に謝れ。

でも確かに良く正解したと思う。10時間分の数秒なんて、普通覚えてないじゃん。

 

「僕、耐久配信を見るのが好きなんですよね・・・」

 

ヒトリ君はぽつんと呟く。まるで性癖を告げるように恥ずかしそうに言った。

 

「耐久配信してる方が段々と精神崩壊しておかしくなっていくのがその、好きなんです、よね・・・」

 

性 癖 で あ っ た 。

 

ひぇ・・・

こっわ

これは闇属性

サイコだぁ・・・

期 待 の 新 人

 

 

歪みさえも感じられるドS極まった発言に武士と私は閉口し、雫さんは微笑み、ゴライアス先輩だけが「まあ♡」と喜びを露わにしていた。

 

これが、、大型新人なのか・・・。

 

 

 

 

 

この後、雫さんがさらに1点を獲得して点数は

 

私1点 雫さん2点 ヒトリ君1点

 

となった。

いよいよ次がラストの5問目となるが、もはや逆転は出来ないんじゃないだろうか。

 

「これはもう無理なんじゃ・・・」

 

私が悲しげにつぶやくと、ゴライアス先輩が青い眼をかっと目を見開いた。

 

「あららららららら!?!? ここで逆転のチャンス到来よ!!!!」

 

「「「え?」」」

 

私たち3人は揃って驚きの声を漏らした。

 

「ぬう!?」

 

武士も驚いている。あんたも知らされてなかったのか・・・。

 

激熱展開きたああああああああああああ

チャンス!?

まだ舞える!!!

や っ た ぜ

 

ゴライアス先輩はいかにもサプラーイズな口ぶりで続ける。

 

「次の問題を正解すれば、なんと800点よ!!」

 

今までの小競り合いは何だったのか思わせるほどの大量得点であった。

これぞ様式美。

 

「すごいわね~♡ 大・サ・ー・ビ・ス、ね~♡」

 

ねっとりとしたゴライアス先輩の声を聴きながら消えかけていたやる気を奮い起こす。

 

「やったあ・・・ 僕にもまだ勝てるチャンスはあるんですね!」

 

え、この状態でも入れる保険が(ry

 

「負けませんよ~♪」

 

雫さんに対してもまだ勝機があるとは。

優勝しなければ。

 

 

 

 

 

「それじゃあ準備はいぃい?」

 

息を呑む音だけ。

楽しいバラエティ系クイズ企画とは思えないほどに緊迫した空気が漂っていた。

わちゃわちゃしてたけど最後ぐらいは真面目モードである。

 

「最終問題!」

 

ゴライアス先輩が言った。

 

「武士ちゃんに尋ねました! 武士ちゃんがもしも異世界転生するなら、どんな魚を望むのでしょうか!」

 

おしゃかなああああああああああああ

海鮮来たあああああああ

変なの来たああああああああ

みんな大好き異世界転生

尚、さかな・・・

 

ワァ、オサカナ・・・オサカナサンダァ・・・

 

「流行りの異世界転生だから楽勝よね~♡」

 

いや魚なんだよなあぁぁ。問題は生ものの方なんだよ。。

異世界転生であったかなー、魚になってみたって。”魚になった俺が異世界の海一周してみた”。

あるわけないね。

そもそもそんな願望を配信で言ったことがあるのだろうか?

 

「そもそもそんな願望を配信で言ったことがあるんですか?」

「ないわね♡」

「ないんかい」

 

なかったw

じゃあ分からんわw

武士がうちの金魚に転生しないかな~

↑金魚「餌をよこせえええええぇぇぇぇぇぇ」

↑猫の餌にしよう

 

言って無いんかい。

ヒトリ君も雫さんも既に回答を書き始めている。武士の性格から予測してるんだろうか。

そうは言ってもな・・・

 

「おろろろろろん おろろろろろろろぉ」

 

考えてると武士がなぜか泣き真似を始めた。

 

「おろろろろろぉ おろろろろろろろん」

 

泣き方特徴的過ぎだろwww

おじさんさぁ・・・

歌舞伎で草

武士を放し飼いにしたやつ誰だ!

 

おじさんの泣き真似なんて新手の拷問だよ・・・。

まあ気が散っても散らなくても、分からないもんは分からないんだよね。

せめて、ヒント。ヒントが欲しい。

 

「ゴライアス先輩!何かヒントはないですか!」

「ヒント、ね~」

「ヒント、です」

「欲しいの♡?」

「欲しいです!」

 

何となく熱の籠ったゴライアス先輩の言葉を押しのけて執拗にヒントをねだった。

 

「私も正直欲しいです~」

「僕も、あったほうが、いいです・・・」

 

回答を描き始めていた二人も自信はなかったようだ。

三人でヒントを求めた結果、ゴライアス先輩がとうとう喋ってくれた。

 

「ヒントはね~♡ 今までの言葉を思い返す事ね♡」

「「「???」」」

「そこに既に答えが出ているのよん♡」

「「「!」」」

 

みんな一様に驚いた表情をした。私も例外ではない。

もう出てる、ってどういうことだろ・・・。

私は今までのクイズを思い返す。

答えになりそうな者なんてあったかな?

答えか?

思い返す。

一問目の答え”ビワ”。

二問目の答え”負け戦”

三文目の答え”墾田永年私財法”

・・・駄目だ、なんの共通点も思いつかない。

他になかったかな?他に変わったこと、他に、他に・・・。

 

「おろろろろろろろぉ~ おろろろろろおぉ~」

 

うるさいなぁ。

 

「おろろろろお~ おろろろろお~」

 

考え中だっての

 

「おろろろろろぉ~ おろろろぉ~」

 

・・・いやまてよ。

武士は最初からなんか言ってた。

意味のない言葉だと思ってたけど。

暇つぶしだと思ってたけど。

 

まさか・・・!!

 

「終わりよーーーーん♡♡♡」

 

私が急いで回答を書き終えるのと同時に、ゴライアス先輩の回答時間終了のコールが響いた。

 

 

 

 

「はーい♡ そしたら回答を順番に開けていくわね~♡」

 

そう言ってヒトリ君から回答を明らかにしていく。

 

「ヒトリちゃんの回答はこれよ♡」

 

 

 

 

 

サメ

 

 

 

 

 

 

サメ来たああああああああ

ありそうなところ来たねえ!

好きそうだもんなぁ

庭の池で飼いたがりそう

ペット:サメ

パワーワードで草

 

フリップには海のキングの名前が堂々と描かれていた。

 

「どうしてサメだと思ったのかしら」

「サメはすごく強くてかっこいいので、駿河先輩も憧れるだろうと思ったんです」

「成程ね~ 確かにあり得るかもしれないわね~♡」

 

海の中で圧倒的な強さを誇る生物、サメ。確かになりたいと思うかもしれない私がなりたい。ほんとに。

だがそれではない。

 

「じゃあ次に、雫ちゃん!」

「私はこれです!」

 

 

 

 

ウツボ

 

 

 

 

 

ウツボ来たああああああああああ

まーた良いところ来た!

これはある

ウツボ食べたい

 

可愛らしい丸文字で書かれていたのは海のギャングの名前である。

 

「私もヒトリ君に似てるんですよね~ ウツボってかっこいいじゃないですか」

「それもそうね~♡」

「あとウツボは大体全長1mくらいで、温暖な地域の浅瀬にすんでいて、獲物に噛みつくとぐわーって身体を捻って噛み千切ろうとするんですよ~」

 

・・・やたら詳しいの笑うんだよなぁ。なんでなんだ。雫さんだからか。そうか(思考停止)。

 

「ふぁんきーね♡」

 

だがそれでも、ウツボじゃない。

かっこいいに違いはないけど、うつぼじゃない。

 

「それじゃあ最後、リオちゃん」

 

本当の答えは・・・これだ!

 

 

 

マグロ

 

 

 

「あら~♡ リオちゃんマグロ好きなの♡~?」

「え、あ、好きです」

「リオさん! 今のセリフもう一回!! 録音します!」

「えぇ・・・」

 

あら^~

百合展開来たあぁ!

しずリオてぇてぇ

 

かっこよく出したのに、ムードなくなったな。。

まあ気を取り直して。

 

「私は、この答えすっごい自信あるんですよ!」

「あらぁ、そうなの♡?」

「はい」

「それはどうして?」

「やっぱりゴライアス先輩のヒントがきっかけです」

「聞かせてもらおうかしら」

 

コナンみたいな展開で草

謎解きパートww

いつから純粋なクイズ番組だと錯覚していた?

リオは探偵だった・・・?

探偵(ゴリラ)

 

「ゴライアス先輩、答えは既に出ているとヒントで言いましたね」

「ええ」

「それで私は今までの回答の答えを考え直しました」

「なるほど」

「繋げてみたら何か浮かび上がってくるかとも思いましたが、全く 共通点すらありませんでした」

「ほうほう」

「私はそうして絶望しかけたのですが、もう一つ、あることに気づいたんです」

「言ってみなさい♡」

「武士の独り言です 武士は私たちがクイズに苦しんでる間、ずっとよく分からない事を言っていました」

「言ってたわね」

「私は最初、あれは武士の嫌がらせだと思ったんです 何度口に爆薬を詰め込もうかと・・・」

 

「はうっっ!!??」

 

モニタに映る武士が驚いた声を上げた。

 

こっわ

容赦なくて草

これが武士リオか・・・

武士はそれでもピンピンしてそうww

うまいうまいって喜んで食べそう

人外で草

人外なのよ

 

「でも違ったんです あれが答えそのものだったんです」

「というと?」

「最初は”ままままままままま”

次に”ぐんぐんぐぐーん”

最後に”おろろろろろろん”

 

順番に読むと浮かび上がってきますよね!」

 

そう、それがマグロ。

 

たしかに!

マグロ・・・だと・・・!?

リオいつからそんなに賢くなったんだ!

本物のリオどこ・・・

マ グ オ

 

「あらあ~名推理ね♡ 果たしてそれが正解なのかしら・・・答えの方を見てみましょう♡」

 

画面いっぱいにインタビューされる武士の映像が現れる。

 

「武士ちゃん♡ もしも異世界転生するならどんな魚を望むかしら!?」

「ぬおお~そうだの~」

 

ほら言え。言え。

 

「それはあれだの、ずーっと泳ぐ魚 某はずっと進み続けたい つまり、、」

 

言え。

 

 

「マグロであるな!!!!」

 

 

 

「ということでリオちゃん大正解♡♡♡♡」

 

おおおおおおおおおおおおおお

すげえええええええええええええええ

さすリオ!

持ってんねえええええ!

大 勝 利 !

 

やたああああああああああああああああ。

 

「そしてこの瞬間、リオちゃんが801点獲得! 優勝が決定よーーーーん♡♡」

「やったああああああああ」

 

「リオさんやりましたね!!」

「リオ先輩、すごいです!」

「うええええええええい!!!!」

 

念願の優勝を果たした。

今だけはパリピとか言う種族になろう。

 

「うえええええええい うええええええい」

「すごい喜んでるわね♡」

「それでそれで! 豪華な賞品って??」

 

私はうきうきで尋ねた。

ゴライアス先輩はうきうきで返した。

 

「私が深夜やってる”朝までオカマラジオ”でコラボ出来るのよ♡」

「・・・」

「コラボ出来るのよ♡」

「・・・ぅぇーぃ」

「うえーい♡」

 

引いてて草

良かったね^^

声が小さいぞ~?

可 哀 想

 



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ダイヤだ!

誤字報告ありがとうございます。


掘っても掘っても石ばかりが集まっていく。

どれだけ掘っても石、石、石。

私が求めるのはダイヤだ。石じゃない。無限石発掘編やめろ。

マイクワの地下で私はそう叫ぶ。

 

 

 

 

 

最初は軽い思いつきだった。

 

「ダイヤ100個集めるまで眠らない配信するか」

 

雑談配信の緩やかな空気が私にそんな迂闊な発言をさせたんだと思う。

ダイヤはマイクワの世界においてかなり価値の高い鉱石で、他の鉱石と比べても滅多に遭遇できないレア鉱石だ。

それを百個。正気の沙汰では無い。

そして視聴者もまた、正気では無い。

 

それだけでいいの?

ちょっと縛り緩くない?

もっとスリル欲しくない?

もっと心、奮わせたくない?

 

彼らは、謎の向上心の塊フレーズで私を煽り、

 

ダイヤ100個集めないと一生酒飲めない配信しよう

 

という悪魔の如き提案によって、私のダイヤ配信へのネガティブ感情が爆上がりした。

私はもちろん抵抗したで。言葉(こぶし)で。

 

「私から一生酒を取り上げるなんてお前ら人間じゃねえ!」

 

すまんな、俺たちはゴリラなんや

ダイヤ掘り頑張ってな~^^

うっほおおおおおおおおぉぉぉぉ(ボスへの激励)

や れ

 

「許されねえよ・・・こんなの・・・」

 

こうして、『ダイヤ100個集めたら禁酒から解き放たれるゴリラ』略して『100ゴリ』が行われることになったのだ。

 

 

 

 

 

ダイヤはやはりと言うか何というか、なかなか集まらなかった。

ツルハシを片手に、ブロック状の灰色の石をひたすらに砕いて進む。

時おり赤や茶色や緑の欠片が混じった鉱石が見受けられる。が、それらは目的とは別の鉱石なので見向きもしない。

ダイヤは水色だ。この水色がなかなか見つからない。

配信画面に表示しているタイマーは既に1時間が過ぎている。

手持ちダイヤ5個。

おk、悪運には自信がある。

 

「駄目だ全然集まらん」

 

まだ始まったばかりだぞ

酒でも飲んで元気だしな~?

煽ってて草

作業配信好き

 

「サナギになりたい」

 

現在のペースで考えれば単純計算で100個までに20時間要することになる。

20時間って。そんなに長い間ゲームしてたら多分死んじゃう。。

しかし私の心配は他所に、全くダイヤは出てこない。

これは交渉をしなければならない。

 

「みんなは酒についての認識を少し改める必要があると思うね」

 

説法くるぞ

必 殺 ゴ リ ラ 説 法

なんか草

言ってみ(上から目線)

 

「例えばさ、植物ってのは水が必要じゃん ウマには草が必要だよね」

 

そうね

それはそう

珍しく当たり前なことを言っている

リオ賢い!

 

「じゃあ、私にとっては何が必要か?それが酒なんだよね」

 

ふぁ!?

急展開で草

ゴミみたいな論法きたああああ

はい禁酒

 

「だから一生はやめてよ・・・ せめて半年とか数か月とか一週間とかにしてさぁ・・・」

 

どんどん自分に甘くなってくの草

声の悲壮感が好き

酒じゃなくて遠距離中の恋人へのセリフとして想像してみ?

↑天才じゃん

禁酒は楽しいね~^^

 

「っち」

 

駄目だ。交渉は失敗に終わった。

私は意地でもダイヤを集めなければいけないらしい。

酒神様見てますか。今から貴方にダイヤを届けます。

 

 

 

 

届 き ま せ ん。

集 ま り ま せ ん。

絶 望 で す。

酒神様に誓いを立てて3時間、ダイヤは20個に達していたがクリーチャーとか言う緑色の怪物が知らぬ間に背後に迫り、爆発し、全ロスした。

 

「まーじでクソゲー・・・ 返してよ!私の可愛い可愛いダイヤ20個返してよ!!!!」

 

これはママゴリラ

落ち着けw

これからww頑張ればwwwいけるってwwww

笑い堪えきれてなくて草

リオ虐が一番楽しいって辞書にも書いてあるしね

人 の 不 幸 は 蜜 の 味

 

「私が何をしたって言うんだ・・・」

 

酒という名の人質を取られ、炭鉱での労働を強いられている。一昔前の日本じゃないか・・・。

ちなみにプレイヤーが所持していたアイテムはプレイヤーがやられると、その場に一定の時間は残るシステムになっている。

当然クリーチャーに吹っ飛ばされ拠点にリスポーンした私は大急ぎで事故現場へと向かった。

だが辿り着くことは難しかった。

 

「私はどの通路の先で死んだんだ・・・」

 

ダイヤを掘る際は基本的に真っ直ぐ掘っていくのが定石である。その方が帰るのも楽だし迷わないのだ。

でも私は気分屋な部分がある。

だからダイヤを目指して真っ直ぐ掘っていたとしても

 

「ここ曲がったらダイヤ出るくね?」

 

と勝手に横の壁を掘り始めたり、

 

「こっちでないわ」

 

と入り口まで逆戻りしてまた別の方向に真っ直ぐ掘削を始めたりした。

コメント欄でA型のみなさんが阿鼻叫喚していたが、彼らの声に耳を傾けるべきだったかもしれないと今になって後悔している。

ボックスを置いた入り口中継地点より、円を描くように8方向に伸びた通路!

壮観!

通路があり過ぎてどこの先で死んだか分かりません!

 

「みんな出番だ!」

 

知らん

とりあえず右じゃね

いや正面の通路やで

片っ端から行こう

諦 め ろ

 

「く゛ぬ゛ぅ゛!」

 

結局私は一つ一つの通路を虱潰しに探っていくことになった。

一周した。

一周した!!

 

「制限時間間に合わなかったあぁぁぁ・・・」

 

アイテムは恐らく制限時間を過ぎて消滅した。

 

wwwww

可哀想で草

どんまいwww

A型の民ニヤニヤで草

気を取り直していけ

配信伸びて最高

 

「私のダイヤ・・・私のダイヤ・・・ぅぅ・・・」

 

 

 

 

いったん自宅に戻り体制を整える。

久々に空を見る。青くてきれいだ。まるでダイヤみたいだ。

ダイヤぁ・・・。

空は見ないことにした。

さて、家に戻ったのは理由があった。

エンチャント、とかいうのをするためである。簡単に言えば、ツルハシに特別なスキルがつく。スキルの中にはツルハシで採取した鉱石のドロップ数が倍になるとかがあって、是非ともダイヤ集めに利用したいところである。

エンチャントを付けるのに必要な本の前に立つ。

 

「あれ、出来ない? マイクワ君バグっちゃった??」

 

レベルが足りない

経験値が足らんのよ

まだ早いってよ

レベル上げしよ

 

どうやらレベルが足りないらしい。

ならば経験値を溜めなければ。とりあえず・・・

 

「庭の牛たちを切り刻むか」

 

ふぁ!?

えぇ・・・

邪知暴虐のゴリラ

野蛮過ぎるw

弱 肉 強 食 

 

牛育てれば食料に困んないじゃんということでたくさん牛を育てていた。

倒せば経験値の足しになるだろう。

 

「おらおらおらおら」

 

「「「ぶもおおお!」」」

 

「おらおらおらおらおら」

 

「「「ぶもおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」」」

 

「おらぁ!」

 

「「「ぶも゛お゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」」」

 

容赦なさ過ぎて草

本能出てますね

駿河武士:リオは、どうしたのだ、、??

武士困惑してて草

世 紀 末

 

 

 

 

森からの贈り物を使うことでダイヤは驚異的なペースで集まった。

え?それ何って?ツルハシの名前だけど?文句ある奴はかかってこい。森にしてやる。

現在ダイヤの数は92個。

ダイヤブロックは大体2~3個集まってるから、次にダイヤを掘り当てればツルハシのスキルも相まって念願の100個が達成されるだろう。

ということでノリノリで掘った。

見つかった。

 

「きたあああああああああああ」

 

おおおおおおおおお

やったあああああああああ

ダイヤだあああああああああああ

勝ったな風呂行ってくる

 

苦節7時間。ようやく終わる時が来たんだ!!これで一生酒飲めないなんて縛りともおさらばできる!!!

私はしかし直ぐにダイヤを掘ろうとはしなかった。

記念すべきダイヤである。

周りを綺麗に掘って、ダイヤブロックだけが見える形にして暫し喜びを味わうことにした。

水色のダイヤの周りを囲む灰色の石たちを先に壊していく。

それはもうウキウキで。

 

「ふんふんふーん♪」

 

堪らなく嬉しくて。

誰も私を責めれない筈だ。長い時間をかけて頑張ってきたのだから。

でももし未来の私がいたら、今の私を殴りつけただろう。

つまりどういうことかと言えば。

 

私は油断した。

 

壊したブロックの隙間からマグマが溢れ出した。

 

「っっ!?」

 

あっ

まずい

やばい

 

咄嗟のことで反応が遅れてしまった。あっという間に身体が炎に包まれる。

じゅうじゅうと肉の焦げるSEと共に体力ゲージが減っていく。

 

「ああああああああっつ!!!!あっつっつ!!!!あああああっ!!!」

 

燃えてるううううぅ

やばいやばい!

水かぶれ!!!

えぐい

 

生憎手持ちには水入りのバケツなど持っていない。さらに悪い事にはダイヤの周りを綺麗に掘っていたこと。

ダイヤ下もまるで溝になるように、ダイヤが浮かび上がるように掘っていたこと。

そうなれば溝からは自力では容易に上がれないし、マグマはプールのように溜まる。

 

「ひ゛き゛ぃ゛っ゛!!」

 

ジュ

 

シュパー

 

あぁ

・・・。

やったわね

 

ゴール目前に集めた92個のダイヤ。

その全てを。

 

失った。

 

 

 

 

 

「吐きそう」



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射撃練習場だ!

次話がいつになるのかは私にも分かりません。


ゲームには流行がある。数あるゲームの中でも大衆に愛された稀有なタイトルは、人々の間で一大ムーブメントを巻き起こし、そのジャンルの代名詞のように扱われ、NowTubeには実況動画やプレイ動画が山のように上がる。

BPEXも、これに該当する。

一人称視点のfpsゲームと言えば沢山あるが、その派手なエフェクトと多様なキャラによる無限の戦略性は、人々を魅了した。私も魅せられた。うわ何このゲームかっけええ!!ってなった。しゅぴいいん!!ばばばばばああぁ!!うほおおおっやりてえぇぇっ!!ってなった。

でもやってない。

BPEXを私が初めて知ったとき、丁度長編RPGの実況を始めたばかりだった為である。私はいわゆるマルチタスク出来ないマンであり、同時並行で物事に取り組むと、どこか気持ち悪いというか罪悪感があるというか、一つの事に集中したいというか何というか…はいこれでも元社会人ですどうもぉ^^

で、今までは他の配信者さん達が、同期が、後輩が、楽しそうにやってるのを羨望の視線で見てたのだけれど、数日前にようやくRPGの長き旅が終わりを迎えた。いやー、こっちもこっちでファイナルにファンタジーしてて最高だった!数ヶ月掛かったけど無駄じゃなかった!

じゃあね。それならね。私もね、BPEXをね、いよいよね・・・満を持してね・・・やろうかなってね・・・。

 

・・・。

・・・・。

・・・・・。

 

・・・旬を逃したんよ。

 

 

 

「ということで今更やるのもどうかなーって思ったりしました」

「いいえ、やりましょう」

「むーん・・・」

 

椅子に座った私はマネージャーさんと電話していた。つい先ほど向こうから掛かってきて何だろうと思ったら、「今お土産ショップいるんですけど何が欲しいですか?ゴリラのストラップですか?」などと遠出をしていたらしいマネージャーさんが開口一番に仰りやがったので、「ゴリラをください」と粋に返してやった。その話のついでにBPEXについても相談してみたのだが、それに対する返答がさっきの言葉である。やりましょう、とマネージャーさんは言う。私は唸った。

 

「何に迷っているんですか?」

「いやぁ・・・今頃になってBPEXをやると、流行に便乗して視聴者数増やそうとしてんだろって、皆が見るからやるんだろって思われそうでダサいなーって」

「はあ、何かと思えばそんな理由ですか・・・ らしくないですねぇリオさん、いつも配信ではあんなにイキり散らかしてるのに」

「配信中は無敵になるので」

「いいですか? 私が思うに、これはマネージャーとしてであり一視聴者の意見でもありますが、リオさんの良いところは、周りの目を気にしないところです 

その神を畏れぬ傍若無人っぷりが、人目を憚らない気ままっぷりが、社会という監視の目に囲まれた中で生きる人々にとって興味深く見えるわけです」

「感動しそうです」

「ですから視聴者からどう見られてるかとかあまり気にする必要が無いんですよ 勿論、他人を傷つける可能性のある発言とかコンプラとかには十分に注意していただきたいですが、そうでもなければ好き勝手やりゃいいんですよ そもそも、他人に見られていることを気にしてたら配信中にゴリラの鳴き真似とかしませんよね?」

「うほぉ・・・」

「だから遠慮なくBPEXしましょう 新規獲得のチャンスです」

「あ、でも、今はみんな目が肥えちゃってるから、私のくそ雑魚プレー興味ある人はあんまりいないかもですよね~」

「逆です みんな上手いプレーに見慣れてるからこそ、リオさんみたいな初心者のくそ雑魚ナメクジ底辺プレーが輝くわけです」

「なんか増えたな」

「ナメクジ」

 

ナメクジ、出撃します。

 

 

 

 

 

 

「やあみんなウホウホ〜、時雨リオの0から始めるBPEX 1日目にようこそ〜」

 

うっほおお!(気軽な挨拶)

うほおおおおおおっっ(歓喜の叫び)

リオのBPEXきたあああああ!

シンプルに楽しみ

待 っ て た

 

マネージャさんと通話した後にはすっかり迷いもなくなって、翌日の夜になると早速一回目のBPEX配信を行なっていた。今はBPEXのホーム画面を開いていて、わたし―黒髪短髪イケメン少女の時雨リオ―は、配信画面右下にひょっこり顔を見せている。

笑っとこ。おら八重歯見ろ八重歯。

 

「私の配信を見てくれてる人はまさか私がペックスすると思ってなかったでしょー 無論私も思ってなかった!ノーペックスで生きていくと思ってた!」

 

それはそう

これは嬉しい想定外!

ゲーム下手だけど果たして…?

姉御応援するで

ペックスって響きなんかえr…

初見です

 

「でもね誘惑には抗えなかったよ… あ、初見さんは初めまして 名前と声と顔だけでも覚えて帰ってなー」

 

がっつり覚えさせようとしてて草

たくましいw

挨拶も忘れないゴリラの鑑

媚びるな、攻め続けろ

ア タ ッ ク フ ェ イ ズ

 

挨拶は大事だからね。視聴者さんもいつもより数百人くらい多い気がする。さすが人気タイトルだ。普段私の配信を見ない人も見にきてくれているらしい。かっこいい所を魅せねば!

 

「そんじゃ早速戦場の方に行っちゃいますかぁ!」

 

※最初はチュートリアルです※

意気込み、よし!

気が早くて草

殺る気満々だねえ^^

練習大事

 

「…チュートリアルの方行っちゃいますかぁ!」

 

忘れてたわけではない。断じて。

 

 

チュートリアルは射撃訓練場と呼ばれるマップで行われるらしかった。人の配信でも見た。岩に囲まれた空間に砂地が広がっていて、人型の的や円状の丸い的があちこちにある。

 

「カーソル操作で照準を合わせ、左クリックで撃つことができます」

 

画面下の青枠に字幕が表示されると共に、案内役らしい滑らかな女性の声が聞こえた。とりあえず無視して辺りをキョロキョロしていたらアナウンスが繰り返された。やってみろという事らしい。おk、やってやろうじゃないですかええ。

私は指示に従い、人型の的に照準を合わせた。

 

「ふんっ」

 

数発の発砲音。

右下の私は自信に満ちた余裕の笑み。

肝心の銃弾は…虚空目掛けて一直線に飛んで行った。

 

「あれえ?」

 

隊長、全弾ハズレです!

 

抜けてって草

リオちゃん青空撃つのうまいねえ^^

鮮やかすぎるww

口開いてるの可愛い

ちょっとズレちゃったね

 

どうやら撃つ瞬間にマウスを動かしてしまったのが原因らしい。ふう、私としたことが油断したぜ。しかし二度は喰らわん。私は口を閉じるとキリッと真剣な表情をする。そして素早く照準を的に合わせ、二度目の発砲を行った。

 

「へぃ!」

 

副隊長、全弾ハズレです!

 

「なんでえぇ??」

 

さ っ き 見 た

癖になってんだ、弾外すの

手癖だなw

頑張って治そうねー

 

「ぐぬぬ…」

 

しかめっ面を浮かべる。結局この後3回ほどトライしてようやく当てることが出来た。

止まってる的に。

…貴様から当たりに来てくださいません?。

 

 

 

「色々な銃を使ってみましょう」

 

再びの女性の声。従うように色々な銃を試し撃ちしてみた。

 

ドォンッ!  ドォンッ!

 

「これがショットガンかぁ〜」

 

散弾が間隔をあけて重たく発射される。

 

マフティーな

当たれば最強!

当たらないからゴミ!

まだむずいかも

慣れが必要

 

「むっずー」

 

 

 

バババババババ馬場ッッ!!

 

「マシンガンきたああっー!!気持ちえええ!!」

 

激しく連射される銃弾。

 

やっぱデッドリボーションよ

頭溶けりゅうううう

弾の連射速度なら一番だっけ

ちなみに鬼のリコイルが必要

リオなら腕力で楽勝よ

 

「ああああああ照準が定まらんんんん゛ん゛ん゛」

 

 

 

 

ビイイイーーー! ビイイイーーーー!

 

「おおおおビーム出てるんだが!!」

 

真っ直ぐに光線が伸びていく。

 

ビームライフルはロマン砲なのだ!

害 悪 武 器

こいつ嫌い

反対派湧いてんの草

被害者があまりに多すぎる・・・

 

「かっけえええええええーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

戦場に出るのが楽しみである。



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出撃だ!

rにお


チュートリアルが終わって一通りの操作を覚えた。

走ったり殴ったり物を拾ったり投げたり。あとキャラのスキルの使い方とかも。いっぺんに覚えることが多すぎる。詰め込み教育良くない。操作キーが多すぎて手がバグりそうになる。もう一本腕が生えそう。生えろ。

 

「それじゃあ、そろそろこの場所ともおさらばするか」

 

悲しいなあ・・・

名残惜しい

とうとう出陣じゃああ!

戦じゃ!戦じゃ!

 

「さよなら私たちのマサラタウン!」

 

こうして射撃練習場を抜け出ると、カジュアルマッチとかいう初心者でも気軽にできそうなモードで遊ぶことにした。モードは他にもランクマッチと呼ばれるものがあるが、視聴者さんが言うにはとりあえずカジュアルをやってみるのが良いらしい。

画面が切り替わった。

 

「ああそっか、最初はキャラ選択か」

 

選択可能なキャラの顔を映したパネルがいくつか並んで表示されている。この中からキャラクターを選択するのである。私は始めたばかりなので選べるキャラクターは限られている。といっても、少ないわけでは無い。むしろバラエティーに富んでいる。

忍者みたいな風貌の女性、ガスマスク付けたおじさん、明らかに機械のメカメカしぃキャラクターなど。

 

「どれにしようかな・・・」

 

制限時間があるのであまり悠長にはしていられない。視聴者さんがオススメするキャラクターを教えてくれる。目を向ける。

 

ゴースティン使って大気汚染していけ

ライライちゃんは回復キャラだからおすすめよー

レイズはスキルが優秀だぞ

ブラッディハウンドかなーやっぱww(聞いてない)

 

「じゃあこの人にするわ」

 

そう言って選んだのはパーマが似合う戦闘服の女だった。視聴者ガン無視ですまんな。

姓は知らん名はガンバロール。武器のスペシャリストらしい。かっけえ。

 

「この女、強そうだから好き」

 

ガンバロール!?

渋いね~

確かに好きそうだなw

強者は惹かれ合うのか

 

ガンバロールを選択すれば「敵はすべて潰すわよ」とかいう勇ましいキャラクターボイスが流れた。よし、潰そう。一緒に世界の覇者となろう。

私の次には、私とチームを組む二人の野良の人がキャラクターを選択する。

BPEXは3人一組で戦うチーム戦の仕組みを取っている。私以外の二人はレイズとゴースティンを選択していた。ジャパニーズ忍者とガスじじい。これで準備は完了である。

再び画面が切り替わって、画面いっぱいに戦場の景色が広がっていた。

それは一言で言えば大自然であった。たくさんの木々がジャングルのように生い茂っており、かと思えば噴火している山々も見えた。それらをミニチュア模型に感じさせるほどの巨大な恐竜も歩いていた。これがBPEXの魅力の一つ、SFチックな世界観である。流行りの異世界転生の如くゲームの中に全く知らない世界が、それでいてどこかにあるんじゃないかと思わせるようなリアルなつくり込みの自然がここに存在している。散歩してるだけでも十分に楽しそうだ。

 

「それじゃあしゅっぱーつ」

 

スタート地点は飛行船。そこからプレイヤー達は落下をして各々チームで降りたい場所に自由に向かっていく。

場所を選択する権限はジャンプマスターに委ねられている。

私である。

 

「地球の彼方へさあ行くぞ!」

 

リオ・ライトイヤーさんも来てます

早速イきってて草

赤い光線みたいのが伸びてるところは絶対行くなよ!絶対だぞ!

他チームと被らないように気を付けて

嫌な予感しかしない

 

「あ~あそこにするか」

 

私が目を付けたのはいくつかの民家?と謎のコンテナが積まれている場所。特に家の中はアイテムが転がっていることが多いので(と、他の配信で見たので)よさそうに思えた。

他チームを来ていないようだったし。

この私の考え。結論から言えば、まあ合っていた。家の中には確かにアイテムが落ちていた。だがそれよりも私の目を引いてしまったものがあった。

 

「ぐえええええええぇぇぇぇ」

 

獣型の恐竜である。巨大でかっこいい狼みたいな虎みたいなのが檻付きのコンテナに閉じ込められていた。なぜ閉じ込められているのか、理由は分からない。コンテナが辺りに散乱していて船なんかも陸に転がってるから、きっとどこかに輸出する途中だったんじゃないかなぁ・・・。などと妄想を膨らませて勝手に楽しくなる。画面右下の私がまるで宝物を見つけた子供のように目を輝かせているのが自分でも分かる。こういう架空生物とか大好きなんです、たまらんです。

獣は口を歪ませて鋭利な犬歯を覗かせて、ガンバロールを睨みつける。そして咆哮する。

 

「ぐええええええぇぇぇぇ」

「ぐえええええ!!!」

 

私も真似をしてみた。

 

「「ぐえええええええぇぇぇぇ」」

 

!?

共鳴するの草

なんでぇwww

相変らず声真似が上手い

ニッチ過ぎるってw

可愛い

 

束の間のデュエットを楽しんでいると、突然に横から銃声が3発ほど聞こえた。直後に銃弾のエフェクトが獣を捉えた。

 

「ぐえっ!?!?」

「けものおおおおおお!?!?」

 

獣は倒れた。

 

やられたああああああ

可哀想だ・・・

無慈悲なり

弱 肉 強 食

 

誰だこんなひどいことをする奴は今夜のおかずにして食っちまうぞとばかりに憤って銃声がした方向を向けば、仲間の一人であるレイズが立っていた。

ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、マップに位置表示のためのピンを連続で指している。

“とっとと漁れ”という意味である

 

「叱られた・・・」

 

しょんぼりしてて草

そりゃそうよw

恐竜見るゲームじゃないからなぁ

ゲームでも働かなきゃいかんのか・・・

のんびりしてる暇なんてないんじゃよぉ!

 

私は死んだ獣の無念を思い若干の抵抗とばかりに唇を尖らせるが、

 

ばん! ばん!

 

「すいません、、働きますぅ。。」

 

すぐに瓦解した。

私は了承を示すようにガンバロールの視点を上下に振って頭を縦に振ると、急いで民家の中へと移動した。レイズはそれを後ろで見届けていた。これは現場監督レイズ。

家中にはいくつかアイテムが落ちていた。青い円柱状のものはキャラを守ってくれるシールドの回復アイテム。体力を回復するための医療箱や注射器。銃弾。銃。これらも落ちてた。私が拾えたのはモダンピークという名前のショットガン。

ショットガンって強いんじゃなかったっけ?

 

「モダンピークどう?」

 

限りなくゴミに近いゴミ

ワクワクさんも作れる

百円ショップで買える

ショットガンの恥さらし

土に還せ

 

「えぇ・・・」

 

予想以上にフルボッコだった。どうやらあまり性能がよろしくないらしい。と言ってもそれ以外銃は見当たらないし、丁度ショットガンの弾も落ちてたので持っておくことにする。

その後も目についたアイテムを手あたり次第拾い続け、気付けばアイテムポーチがパンパンになってしまっていた。

 

整理しなさい

何でも拾うの草

ハムスターじゃんw

スコープとかいらないもんは捨てとけ

スナイパー用の銃弾いらんくね

 

目の前には回復用の注射器がある。敵に見つかったら被弾しない訳がない、ハチの巣になる自信があるので、回復アイテムは少しでも多く持っておきたい。そのため敵の来ない今のうちにアイテム欄を整理しておくことにした。

 

「これはいらない」

「これもいらない」

「あ、でもこれいる」

「と思わせていらない」

「からのいらない」

「しかしいる」

 

もたもた・・・

お ば あ ち ゃ ん

急げ―

謎のフェイント入ってくんの草

初心者の頃は整理も大変よな

 

「えーっと、これはいらな・・・い?けど、後で使えるかも知れないしなぁ なんか黄色く光っててレアそうだしなぁ・・・」

 

その場に立ち止まってしばらく慣れない操作に悪戦苦闘していた。だがここは戦場。そんな悠長を易々見逃してくれるほど敵は甘くなかった。

 

タッタッタッタッ

 

階下で聞こえる足音。

 

「ん!?」

 

足音来たあああああ

来てる来てる来てる!

臨戦態勢とって!

リオちゃん出番よ~

出撃準備いいいいい!

 

マップを見れば仲間の位置は少し遠い。つまり近づいてきているのは味方ではない。

敵である。

 

タットッタットッタッ

 

「やばいやばいやばいやばい!!!!」

 

昇ってくる足音!私は滅茶苦茶慌てた!慌てふためいた!見よ私の顔を!瞳孔が開きっぱなしである!

 

「アイテムウィンドウ仕舞えないんですけどもぉ!!閉じろ閉じろ閉じろエヴァに乗れエヴァに乗れエヴァに乗れ!!いあああああ無理無理カタツムリ!!」

 

落 ち 着 け

情緒狂ってるwww

アイテム欄出すときとおんなじボタン押せばいいのよ

Iキーとかじゃねえの?

いまの初期設定ってどれだっけー?

 

「消えろおおお」

 

アイテム欄出すときどのボタン押したか忘れたのと、敵がすぐ近くに迫ってるので、もう滅茶苦茶になりキーボードのそれっぽいキーを片っ端から押してった。するとやがてアイテム欄は消えたのだが次にはBPEXの画面がタスクバーに引っ込んだ。

 

「ふぁ!?」

 

あっ

やばい

BPEXさん!?

デスクトップのゴリラちゃんうほうほ~^^

定期的に公開していくスタイル

 

無論、急いで再表示。

目の前には近くに来ていた敵がいた。マスクを被ったガスじじい。どうやら銃を持っていないらしい、素手でめっちゃ殴りかかってきている。

 

「やめろぉ! 暴力は何も生まない!!」

 

私は叫びながら逃亡を開始した。距離が近すぎて銃撃つってレベルじゃねえぞ。とにかく外を目指した。

追っかけてきてるやんけ。

 

「くそ、拳が可哀想だと思わないのか! 親が泣くぞ!」

 

 

ゲームに倫理観を求めるゴリラの図

拳が可哀想って何w

逃げろー

相手もよく殴りかかって来るねえ

ずっと追ってきてて草

 

「なんかしたのか私があ!?」

 

私は総合プレイ時間1時間の持てる限りのプレイスキルでひたすら部屋の外へと走った。入り口の扉の開け方で多少詰まったが、何とか外へ。しかしまだ追ってくる。殴られるとゴンッ!という鈍い音がして体力が減るので、後ろを見なくても分かる。もうすぐ体力がなくなりそうなのも分かる。

 

「どうやったら逃げれるんだこれ!」

 

私は逃げながらも視聴者に助けを求めた。何かスキルとかの概念があった気がするんですがいかがでしょうか大将!私は画面とコメント欄を右に左にすごい早さで交互に見る。首が取れちゃいますよ大将!

 

Qキー

Q押せ

Zも押しとけ

煙を出すのだ

 

「Qだぁ?」

 

私は藁にも縋る思いでQキーを押した。

するとあら不思議!

 

キュポンっ

 

と気持ちのいい音がすると共に、正面にスモークがもくもく焚かれたではありませんか。

 

「おお!」

 

スモークきたあああああ

これで勝ったな

※煙を焚いただけです※

ゴキブリみたいな相手だしこれで効くやろ

リオちゃんモクモクで草

 

私はその中に突っ込むと、そのまま走って、スモークの向こう側へと抜けた。

しばらく走った後で立ち止まる。気づけば殴られる音が止んでいた。振り返ると、敵のガスじじいは追ってきていなかった。どうやら煙で流石に諦めたらしい。

 

「助かったあ」

 

助かってない

回復アイテム巻いて

回復回復!

その前に隠れないか?

 

「ああ、そっか」

 

敵がいなくなったことで一瞬満足してしまったが、次が来ないとも限らない。忘れてた。初心者の私は歩きながら回復とかいう芸当は出来ないので、とりあえずその場に立ち止まって回復アイテムを使い始めた。回復アイテムは効果が発揮されるまでには一定の秒数を必要とする。私はその間、何の気も無しに煙を画面に映し出していた。

 

「そういえば、私がこんなにピンチだって言うのに仲間はどこで何をしてるんだろ」

 

勝手にやられてるんだよなぁ・・・

のろのろしてるのが悪い

素手相手に負けそうになってた銃持ちがいるらしい

アイテム漁ってるよー^^

 

回復アイテムが効力を発揮するのを待っていると、やがてスモークが無くなった。

予想通りというか、ガスじじいはいなくなっていた。

 

「良かったあ」

 

体力も回復したのでこれで一安心。と、安堵の息を漏らしたのだが・・・

 

ドゥっ!

 

再び殴られた。

 

「ふぇ!?」

 

!?

!?!?

また来たあww

第二ラウンド開始ぃぃ!

 

背後。振り返るとさっきのガスじじいがいた。

 

「うわあああまたお前かぁ!!!」

 

音もなく背後に回り込んでいたとは、本当にゴキブリじゃないですかやだ。懲りずに殴りかかってくる。私は流石にやられっぱなしも癪であったために拾った銃で、モダピで、応戦することにした。

 

バン! バン!

 

「当たるかこんなもん!!!」

 

弾は敵の横を華麗に抜けていく。

こちとら止まってる的にすら当たんないんじゃ!動く的に当たるわけないだろ!!!

 

綺麗に外れんの草

美しい・・・

これは・・・駄目ですね~

^^;

 

私が銃弾を外している間にもどんどんと殴られ、体力がゴリゴリ減っていく。

もう2発くらい貰ったら死ぬ。

 

ドゥっ! ドゥっ!

 

「も゛う゛や゛め゛て゛く゛れ゛え゛」

 

私が命乞いに全力を向けるのと、それはほぼ同時であった。

 

バババババババッッッ!!!

 

「!?」

 

どこからともなく聞こえてくる銃声。無限に連なる重低音。

これは・・・マシンガン!

 

バババババババッッ!!バババババババッッ!!

 

私に今まさに迫ってきていた敵はたくさんの被弾をして、あっという間にキルされた。横から銃弾が飛んできていた。私は左に視点を向ける。

そこに立っていたのは、先ほど私を叱ったあのレイズ。

 

「現場監督ううぅぅ!!!!」

 

私は安心と喜びでつい叫んでしまった。

 

現場監督ううう!!

謎の感動シーンで草

ほら泣けよ、クライマックスだぞ

何だこれw

 

右には仲間のゴースティンも立っていた。

 

戦場は、

あったけえなぁ。。    

                          りお。   

 



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