if垣根帝督が杠林檎を助けられていたなら (弥未耶)
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第一話 可能性の始まり
頑張って続けようと思うので気楽に読んでくだされば嬉しいです。
「お前を取り巻く面倒が終わったんだ」
木原相似を
垣根帝督が一方通行の演算データを手に入れるために起きた『暗闇の五月計画』の生き残り杠林檎をめぐる戦いが終わった。
「終わったならさっさと撤収しない?」
後から駆けつけて二人の様子を見ていた
「まて、その前に木原相似が林檎に埋め込んだ
そう言いながら『スクール』のメンバーである誉望万化に木原相似のパソコンからデータを抜き出すよう指示を出す。
指示を受けた誉望も慣れた手つきでデータを探っていく。
しばらく無言でキーボードを操作した後「データ出ます」と短く告げられた言葉を聞き垣根がパソコンの画面を覗きこむ。
「ふん、やっぱ完璧には程遠いか……あん?」
画面上のデータに目を通していた垣根は一方通行の能力データに関係ないプログラムを見つけた。
「自壊プログラム?」
垣根が呟くと同時に後ろからドサッという音がした。
瞬間『スクール』の全員が音の発生源すなわち杠林檎に顔を向けた。
「林檎!?」
声を上げて真っ先に駆け寄ったのは垣根だった。
素早く、それでいて普段では考えられない程優しく杠を抱き起こした。
「どういう事?」
次に行動したのは心理定規。一瞬の驚愕の後冷静に誉望に状況を確認する。
誉望もすぐに我に帰りキーボードを操作することで杠に起こった異変の原因を突きとめた。
「これは……特定条件下における臓器への機能停止命令!? おかしい、このプログラムだけどう見ても合理性がない。記述式そのものが木原相似の基本プログラムからはずれてる」
「クソが! おい、機能停止命令の解除はできねぇのか!?」
「ここの設備じゃできるかどうか……」
そうしている間にも垣根の手の中で杠の体からはどんどん力が失われたていく。
「垣根、お願いがあるの……」
「なに死にそうなこと言ってんだ」
杠の弱気な発言を遮り手を握る。
「ふざけんじゃねえぞ! そうやっていつも何もかもを奪えると思ってんじゃねえ!」
自らの腕の中で力なく目を閉じ命を閉ざす寸前の杠をみて過去を思い出し垣根は叫ぶ。
「テメェも勝手に諦めて何満足そうな顔してんだ! 俺を誰だと思ってやがる!? 学園都市第2位の超能力者『未元物質』だぞ!」
垣根の頭の中で状況を打破するための全力の演算が開始された。同時に無意識に垣根の背中に六枚の白い翼が展開される。
学園都市第2位の頭脳が総動員され今までにない速度で『未元物質」を
理解し発展させていく。
(俺の未元物質に常識は通用しねえ!)
いつからか口癖になっている言葉を心の中で叫び、杠の体に未元物質で干渉していく。殺す為ではなく救うための人体への未元物質による干渉など初めての試みであり垣根の演算能力を持ってしても難易度の高い作業になり一歩間違えれば未元物質が杠を殺すことになる。
(止まった臓器の機能を未元物質で代替する。……杠林檎という人間の全てを掌握し、全臓器を把握……完了。未元物質により各臓器の半分を人体に無害な物質に分解、同時並行して未元物質で代替となる物質を生成し臓器を再構成して動きを再開させる…………)
そばにいる誉望、心理定規の二人はかつてない集中力で能力を使用している垣根をじっと見ている。いや、正確には今は動かずに見ていることが正解であると理解している。二人ともそれなりの能力者である。能力の使用において演算がどれだけ重要なものかをよく理解している。だからこそ今の垣根には声をかけることはおろか少しでも動いて集中を乱すことさえ許されないのだ。
そして、永遠とも思える緊迫した時間に終わりがくる。
(臓器の再構成……完了。臓器機能回復……成功)
ふぅ、と息を吐き垣根の背から白き翼が霧散する。
腕の中にいる杠に目をやり呼吸を確認すると弱っているが確かに息をしていた。
「か、垣根さん、どうスっか?」
「バァカ、俺を誰だと思ってやがる」
「成功したのね」
「あの状況から助けるとか普通は無理っスよ!」
「普通はだろ? 俺の未元物質にその常識は通用しねえ」
「かきね?」
垣根が能力の使用が終了したのをみて話しかけてきた二人と話をしていると抱き抱えていた杠が目を覚ました。
「よお、死に損なった気分はどうだ?」
「たすけてくれた?」
「ンなわけねえだろ。俺はこれを仕組んだクソ野朗の思い通りになるのが気にくわなかっただけだ」
「それでもありがとう」
「ハッ、おめでてえヤツだな」
「じゃあ、今度こそ帰らない?」
「そうっスね。手に入れた情報はまとめておきます」
「だな。まあ一応成果はあったし帰るか」
「わたしは、ッあああああァァッ──────! !」
それは突然だった。順調に回復したかに見えていた杠の言葉が最後まで発せられことはなく突如苦しみだし絶叫を上げ、意識を失った。
「なんなんスか!? 」
「プログラムが完全に停止してなかったの?」
「そんなヘマするかよ! 未元物質で置き換えた臓器にそんなもんが効くわけねえ!」
言葉を返しつつすぐに未元物質を使い杠の体をしらべていく。
(こいつは……未元物質の拒絶反応か? 未元物質そのものが意思を持っているかのように動き、林檎の体を侵食しようとしてやがるのか? ……どうする、未元物質を取り除くのが最適だが臓器の機能を代替させている現状では不可能だ。仕方ねえ……)
状況を把握した垣根は次の行動を決め未元物質の翼を出し飛翔する。
「どうする気?」
「第七学区の病院に向かう」
「
垣根を見上げながらどうするのか訪ねた心理定規は返ってきた言葉を聞くとすぐに目的にあたりを付けた。確かに『神の摂理さえ曲げる』とされれ医者ならばどうにかするかもしれない。しかし……。
「いいの? あそこには今、一方通行が入院してる。もし鉢合わせたら……」
「問題ねえよ。あの第一位サマはいちいち他のlevel5の顔なんて調べちゃいねえよ」
垣根帝督が現状越えるべき
確証があったわけではない。それでも垣根には確信していた。
「……わかった。 病院にはこちらからできる限り手を回しておくわ」
心理定規がそれをどう受け止ったかはわからないが彼女は納得し自分のできることをすることにした。
「まかせた」
一言短い言葉を残し垣根は杠の体に負担がかからないようにしながら全力で飛び去った。
楪林檎を救うため行動する垣根帝督。果たして楪林檎は救われるのか?次回
登場人物紹介
垣根帝督
本作の主人公。学園都市に七人いるLevel5第二位の超能力者。この世に存在しない物質『未元物質』生み出しを操り、その能力は物理法則ではあり得ない現象を引き起こす。本来であれば未元物質による人体細胞の構築は木原病理の研究によって行えるようになるが楪林檎を助けるための全力の演算により完璧ではないができるようになりつつある。
暗部組織スクールに所属しリーダーをしている。
一方通行にかわりアレイスターの進めているプランのメインプランとなりアレイスターとの直接交渉権を手に入れようとしていたが本作では……
杠林檎
とある科学の未元物質にて登場した少女。『暗闇の五月計画』の生き残りである。実験の中で他の被験者と同様に一方通行の思考と演算パターンを植え付けられているが能力値が安定せず普段はLevel1、2の念動力者でしかない。しかし、強い負荷がかかると能力の出力が上昇する。上昇した際の力はLevel4くらしとなり垣根をして、まるでベクトル操作だな、と言わせるほど。絹旗最愛や黒夜海鳥と同じく能力使用中は一方通行の思考や口調に引っ張られ普段のおとなしい性格とは別人のように凶暴になる。
過去に実験施設で見た垣根に憧れており。未元物質の翼を素直にキレイと言う。
本来は命を落とすはずだったが本作では……
心理定規
暗部組織スクールのメンバー。組織内では垣根に次ぐナンバー2のような立ち位置にいる。
能力は他人との心理的距離を操ることができる。
本名は判明しているが現段階では能力名での紹介とする。
誉望万化
暗部組織スクールのメンバー。かつて垣根に挑み返り討ちにされた過去がありその後スクールに所属することになった。垣根に対しては強いトラウマがある。
Level4の大能力者であり能力は
木原相似
とある科学の未元物質に登場した木原の一人。木原数多と共にいる場面を描かれていた。サイボーグ技術をメインに研究している。楪林檎を攫うさいにDAアラウズを利用していたため個人的な部隊を持たされてはいないと思われる。
垣根帝督の未元物質により人体を砂にされ死亡した。
研究していたサイボーグ技術は後に黒夜海鳥に利用されていた。
黒夜海鳥
楪林檎同様に『暗闇の五月計画』の被験者にして実験をしていた研究者を皆殺しにして計画を頓挫させた張本人。
Level4の大能力者であり窒素を利用した
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第二話
空を飛んで移動する垣根は何の障害もなく第七学区にある病院の屋上におりたった。
「彼女の言う通りだったね」
「あ?」
「飛んで行くから多分屋上に降りるだろうって電話で言われてね」
降り立った直後に声をかけられその方向に顔をむける。
そこに立っていたのはどこかカエルに似た顔をした白衣を着た男だった。
「お前が
「僕をそう呼ぶ人もいるね」
「
「わざわざ話をつけるまでもないね。患者を連れてきたなら誰だろうと僕は全力で助けてみせるよ」
「そうかよ。ならさっさとコイツを診ろ」
「連絡してきた彼女から話は聞いているよ。相当に危ない状況のようだね。だが手術室まで運ぶのは頼むよ。さすがに此処では無理だからね」
冥土帰しは垣根の腕の中でぐったりとして意識を失っている杠に目を向けた。
「……案内しろ」
「ついてきてくれ」
垣根は早足で歩いていく冥土帰しに案内されるままについていくと、既に治療のための準備はされている様子だった。
「手術台に寝かしてくれ。それで君の仕事は終わりだ。よくこの子を生きたままつれてきた。ここからは僕の戦場だ」
冥土帰しは垣根の返事を聞く前に手術室の中に入っていった。
それを見送った垣根は手術室近くにあった椅子に腰をかけて大きく息を吐いた。まだ助かったわけではないとわかってはいるが自身の想像以上に消耗が大きいことにようやく気付いた。
一度気づいて仕舞えば疲労というものは一気に襲ってくるものだ。垣根は強烈な眠気を感じ目を閉じた。
────どれほどの時間眠っていたのか垣根の意識はふと目覚めた。
座った体勢で眠ったせいか体に怠さは残っているがある程度の疲れはとれていた。
「あら、起きたのね?」
「来てやがったのか。なら起こせよ」
垣根が目を覚ましてすぐに声をかけてきたのは心理定規だった。垣根が眠った後に合流しにきたようで垣根が隣に視線を向けると少し間を空けて座り爪の手入れをしていた。
「いやよ。寝起きで機嫌を悪くされても困るもの」
「バカにしてんのか?」
「冗談よ。それより手術終わってるわよ」
手術という言葉で思考が完全にクリアになり自分が何故ここにいたかを思いだした。
「チッ、尚更早く起こせよ。林檎はどうなった?」
「詳しくは聞いてないけど冥土帰しが言うには一先ずは問題ないそうよ。しばらくは検査もあるから入院が必要らしいけど。貴方が起きたら詳しく話すから来てくれって言ってたわ」
「そうかよ。ならさっさと行くぞ」
垣根は椅子から立ち上がり少し残る怠さを紛らわすように軽く伸びをして案内のため先に歩く心理定規の後に続いた。
──────────────────
「単刀直入に言うと彼女は助かったといえるね」
垣根が心理定規に案内された部屋に着くなり冥土帰しはそう告げた。
「引っかかる言い方だな。命だけは助かったが意識はもどらねぇなんてふざけた事ぬかすわけじゃねえよな?」
「当然だね。僕は患者に必要な物は全てを用意して助けてみせる」
「ならどういう事だ?」
「垣根帝督くん、君は彼女の臓器への強制停止命令から救うために能力を使用した」
「ああ」
「その判断は間違ってなかったね。それがなければ彼女は助からなかった。けれど君の使う『未元物質』が彼女を救うと同時に彼女を蝕む毒となった」
「どうしてそうなった? 処置は完璧にやった」
「君が自分自身を治すなら問題ないだろうね。ただ他の人間に使うのはあまりおすすめはできないね。君の『未元物質』はあくまでも君のもの、一部と言っていいだろう。だからこそ能力に君の匂い、痕跡とでも言うべきものが強く残っている。ゆえに他人に使えば体を『未元物質』に侵食される」
冥土帰しの口から聞かされた話は垣根を驚愕させるには充分だった。
未元物質にそんな特性があることなど全く気づいていなかったからだ。
(俺は自分の能力をまるで理解しきれてねえってことか。『未元物質』には常識は通用しねえが俺自身が常識に囚われた使い方しかできてなかったってわけか……なら『未元物質』にはまだ……いや能力について考えんのは後だ)
「それでそんな状況でお前はどうやって林檎を助けた? 『未元物質』を取り除いて人工臓器にでもいれかえたか?」
「それも考えたね。でもその前に彼女の変化の方が早かった」
「変化?」
「彼女は無意識の内に『未元物質』という数値を自分の
冥土帰しの言葉を受けて垣根の驚愕は先程の比ではなかった。
「ふざけてんのか。そんなことはありえねぇ。他人の能力、それもレベル5の能力を入力するなんざ成功するはずがあるかよ」
「そうだね、普通ならば不可能だ。だが彼女には普通ではない事情があるんじゃないかな?」
杠林檎という少女にある普通ではない事情に垣根はすぐに当たりをつけた。
たがそれでも垣根は自分が辿りついた結論に対し驚愕を隠せなかった。
「……暗闇の五月計画か⁉︎ 一方通行の思考と演算パターンによって新たな
「そう考えるしかないね。ただ君のように『未元物質』を創り出せるようになったわけじゃない。あくまでも彼女自身の能力を介して『未元物質』を操作すると言ったほうがいいね」
「それでも異常だろ。だがひとまずは納得した。完全に適合したってことは体はもう問題ねえんだな?」
「今のところは異常はないね。ただ極めて特殊な事例だからね。しばらく様子を見るため入院してもらうよ。ああ、それと彼女の能力に制限をつけさせてもらったよ」
「制限?」
「簡単に言えば能力のオンオフを制御する装置をつけさせてもらった。詳しく話すと少し長くなるがいいかな?」
「いや、今日はもう引き上げる。制御装置とやらについてはデータを渡せ」
「構わないよ。彼女もよく眠っているからまた明日くるといい。大切なんだろう?」
「今日のとこは世話になったから見逃すがふざけたこと言ってやがると潰すぞコラ」
垣根は冥土帰しの言葉に乱暴に返事を返しながらも特に何をするでもなく椅子から立ち上がり部屋を後にした。
垣根が部屋から出ると心理定規が携帯の画面を眺めながら扉の前の椅子に座って待っていた。
「終わったの?」
垣根を見た心理定規は椅子から立ち上がりつつ垣根に問いかけた。
「ああ。誉望はどうした?」
垣根は心理定規に言葉に応えながらも病院の出口に向かい歩きだした。心理定規も横に並んだ。
「彼なら貴方が始末した木原の施設を押さえてくれてるわ。ただ上も動いてるみたいだから全ては無理ね」
「たとえ雑魚とはいえ『木原』の施設を簡単には渡しちゃくれねぇか。ある程度あさったら切り上げて戻って来いって言っとけ」
「了解。でもいいの?」
「かまわねぇよ。今回の件は予定よりでかい話になった。この状況で学園都市上層部とやりあうのは無駄だ。それに面倒だが俺にもやる事があるしな。とりあえず林檎が退院したら全員を集める」
「そう、……それなら今日は解散ね。ようやくゆっくり休めるわ」
解散とわかった心理定規は何か考えながら垣根とは違う方向に歩き出した。
「相変わらずつかみどころのねえ女だな」
去っていく心理定規の背中を見ながら誰に聞かせるわけでもなく呟き、最後に病院の方へ一度顔を向け垣根もまた帰路についた。
一人歩きながら垣根は今日起きたことについて考える。
自身の『未元物質』や林檎の変化、短い期間で学園都市第二位の頭脳でさえ理解が追いつかない事態が起きた。中でも垣根にとって重要だったのは『未元物質』について自分が全てを理解できていなかったということだ。
(テメエの能力すら掌握できてねえとはな……これじゃ
垣根とって『未元物質』は学園都市で開発を受けた幼少期から持っている力である。垣根帝督という人間にとってあって当然のものであり象徴でもあり、最も信頼するものでもある。そんな力を自分は理解しきれていなかった、レベル5の第二位という座が気に食わないにも関わらず気付かないうちにその立場に胡座をかいていた。そのせいで危うく林檎を殺しかけた。状況が落ち着き一人になったことでそのことについて深く考えてしまう。
「クッ!」
嫌な考えを振り払うように垣根の拳が近くの壁にたたきつけられた。弱気な自分など似合わない。自分は学園都市レベル5第二位『未元物質』である前に垣根帝督なのだ、と自分に言い聞かせて再び歩きだした。
「荒れてるわね?」
「あ?」
不意に背後から此処にはいるはずのない声がした。
不審に思いながらも振り替えればそこには先ほど別れたときと変わらないドレスの少女が立っていた。
「
次回「心理定規」
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