公式最強さん(に憑かれている者)です (枝豆%)
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 誰よりも強くなりたかった。

 この手の届く範囲くらいは、目の前にいる仲間くらいは。

 それくらい守る力を望んだってバチは当たらない、そう思っていた。

 

 誰かに頼られたかった。

 人の上に立ち、部下に慕われる。そんな闘将になりたかった。

 誰かに頼られるということは、それだけで素晴らしいことだと知っていたから。

 

 弱くなりたくなかった。

 誰かに守られるのは、苦痛であることを知っており。何も出来ずに背中に隠れる歯痒さが大っ嫌いだったから。

 

 弱者でいたくなかった。

 死に方すら選べなくなるから。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 夢から覚めた時、ソレは傍らに浮いていた。

 ソレがいつから居たのかなんて覚えていないし、ソレの存在意義なんて考えたことすらない。

 そこにいて当たり前、でもその姿は俺以外には見ることが出来ない。

 

 随分と古い格好をしている。

 刀を持っており、廃刀令が出た大正では鬼殺隊以外では見ることはほとんど出来ない。

 白髪で髪が長く後ろ一本で括られている。

 ヨボヨボの老体で、でも何故だか力の溢れているその姿に何か引き寄せられるものがある。

 

 そして何より額にある痣。

 ソレが俺には不気味でならない。

 

 口を開くこともほとんど無く、漸く話したと思えば。

 

「ヤツを討つ事が私の役割」

「本来なら私はここに居るべきではない」

「お前に剣客として才はない」

 

 と、訳の分からないことや核心をついたりなどしてくる。

 会話など殆ど出来ないし、こんな……なんというのだろうか。浮世離れ? した老人もまた珍しい。

 

 だが話さない代わりに、色々と物理的な指摘をしてくれる。

 育手の下で呼吸を学んでいた時に、育手からどこに力を入れればいいのかが分からなかった時に、老人は指で肺近くを押して感覚的に教えてくれたりしてくれた。

 

 それでも才能はなく『隠』として鬼滅隊に採用されたのだが……。

 どうやらその事も老人は分かっていたような顔をしている。剣客としての才がないとはこういう意味だったのだろう。

 鬼殺隊の剣士に欠かすことの出来ない呼吸。

 それが出来ないということは自分は弱者である。そういう事だからだ。

 

 

 そんな事実を認めたくなくて、受け入れたくなくて。

 それでも刀を振り続けた時期もあったが、それが意味の無いことだと自覚してしまい。隠として影ながら支えると決断し刀を捨てた。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 隠の業務は意外にもハードである。

 隊士達に比べれば命の危険は格段に減るが、過労で死んでしまうのではというほど激務である。

 本当だったら同期だった隊士が次々と出世していき、近々柱への昇進も控えていると噂もちらほら聞こえる。

 

 何度か後処理の為に出向いたことがあるが、あれだけ美しい顔立ちをしているのに鬼狩りの世界に足を踏み入れることに少しばかり哀れに感じた。

 恐らく彼女は死ぬまで現役なのだろう、それこそ鬼舞辻無惨を倒し全ての鬼をこの世から消し去るまで。

 それまで彼女はこの血腥い世界から出ていくことが出来ないのだろう。

 

 何とも悲しいことだ。

 あれだけ美しければ、裕福な家に嫁ぐこともできただろう。女としての幸せを掴み取れただろう。

 

 この世に鬼など居なければ……。

 そう思い各隊士や隠は今日も鬼を狩る。

 

 仕事も終わり宿で休んでいる時に老人に何気なく聞いてみた。

 

「俺に憑いているのは何か理由があるのか?」

 

 そう何気なく聞いてみた。

 いつもならシカトされていたが、鬼狩りの道を歩み後には引けないところまで来たからだろうか。老人は重たい腰を持ち上げるように口を開けた。

 

『私は数百年前に鬼舞辻無惨を殺しきることができなかった。恐らく何もかもやり残したまま妻の許へと行くことはできなかったのだろう。私はその為だけにここにいる』

「それってつまり鬼舞辻無惨を殺したいってこと? でもどうやって?」

 

『分からない。だが、私のように剣を振ることにしか能のない木偶が霊になってまでこの世にいる意味などそれ以外に考えられぬ』

「そっか……爺さんも色々とあるんだね」

 

 数少ない会話ではあるが、これだけ長く会話が成立したのは初めてだったかもしれない。

 胸の内を聞けたからだろうか、それがより濃く感じられる。

 

 鬼舞辻無惨を倒すことが出来るかもしれない。だが、やり方が分からない。

 そんな訳の分からないのが現状だ。

 

「大丈夫、俺はこの仕事を選んだ時から死ぬことを覚悟してるし。俺の魂一つで千年に終止符がうてるならソレは名誉な事だ。だから存分に使っていいよ」

 

 俺は他人に敏感だ。

 何も無いものを見ている子供、空虚に話しかける不思議な子供。

 そうやって育てられてきたからか、他人の悪意などには異常なまでに敏感だ。

 だから老人の「分からない」という発言も嘘だったことが分かっている。

 老人はそうすると俺に危険が及ぶと考えたから言葉を濁したのだろう。

 

『……かたじけない』

「いいよ、現実なんてそんなもんだよ」

 

 最後に名前を聞いた。

 老人は『継国縁壱』というらしい。

 

 

 ーーーーー

 

 

 鬼を倒すことの出来る毒が開発されたらしい。

 そしてその毒を作ったのは、よりにもよって俺と同じくどうしようもない落ちこぼれの『胡蝶しのぶ』だと聞き嬉しさと共に喪失感が心を襲った。

 

 あの柱である胡蝶カナエの実の妹であるしのぶは鬼の頸を斬れない剣士として当時カナエと共に教わっていた花の呼吸の育手から見放されたと聞いた。同情したし、その時は最低だが嬉しくもあった。

 俺は日輪刀の色が変わらず呼吸が使えないだけで、恐らく頸は斬ることができるだろう。

 そうやって自分と同じ、もしくは下が出来たことに愉悦を感じてしまったのだろう。

 そして姉は鬼殺隊最強の柱。

 

 比べるななどできるはずもない。

 姉と比較され、しのぶは辛いめにもあっただろうし、そういう環境で過ごすのは苦痛だっただろう。

 

 その逆境を跳ね返し、今では一傷与えれば致命傷になる鬼への毒を開発してドンドンと結果を残していっている。

 

 もう血筋がだとか天才はだとか。

 そういう事はとても恥ずかしいことだということに今更ながら気付き、その言葉は封印した。

 

 それをこれから口にしてしまえば、しのぶの苦労を天才の一言で片付ければ。もう二度と話すことが出来なくなる。

 だからもう、余計なことは言わない方がいいのだろう。

 

 俺はこの日、(同士)を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 今日無事だったから明日も無事。

 そんな日常は鬼殺隊には当てはまらないと誰もが知っている。

 

 隠の隊士すら遺書を残しているような職場だ。

 毎日が命を張った行いであり、その非日常がここでは日常。

 安心も安らぎもこの世にはない。

 

 だからだろう。

 

『カーッ! カーッ! 胡蝶カナエ! 上弦ノ鬼ト交戦チュウ! 近クノ隊士ハ増援二向カエ!』

 

 血生臭く、そして氷の匂いがした。

 そこに着くと辺りが地獄絵図だった、花柱の胡蝶カナエは立っているのもやっと。

 どう考えても勝てない相手を前にして、気力だけで立っている。

 

 出血も酷い、長年この仕事を続けてきたからか出血量をみて意識を失っていないことに疑問を感じる程だった。

 

 

 でも、俺にはどうすることもできなかった。

 俺には誰かを助けるだなんて、そんな力はない。そんなものがあったなら、隠などやっていない。

 

 

 ────不甲斐ない。

 

 歯が唇を噛み血が顎を通る。

 その無力を俺は知っている。

 

 何度も経験してきた。

 自分ではどうすることも出来ない歯痒さを。

 

 それをしたくなくて、それがしたくなくて。

 俺はここに入った筈なのに。

 

 護りたいと思った。

 助けたいと思った。

 

 それでもどうすることも出来ないと知っている。

 

「爺さん」

『なんだ?』

 

「爺さんは鬼舞辻無惨を倒すことができるんだよね?」

『ああ、今度こそ私が終わらせる』

 

「鬼舞辻無惨を倒せるってことは上弦の鬼も倒せるよね?」

『……ああ、問題ないだろう』

 

 

「爺さん、お願いだ。命だって差し出す、なんだってする。……だから──」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──彼女を助けて」

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 一瞬の出来事でした。

 上弦の鬼に追い詰められ、呼吸を使う鬼殺隊の剣士にとって天敵である肺への攻撃をする鬼。

 そのせいで私の肺は血鬼術の冷気を吸ってしまい殆ど壊死してしまった。

 

 絶体絶命、走馬灯のような物が頭の中を駆け巡る。

 鬼に襲われ両親を目の前で殺されたこと、辛い訓練のこと、最終選別の過酷な生活、妹たちや屋敷の子達。

 

 駆け巡ったのは記憶。

 辛くて、それでも暖かくて。

 傷の舐め合いだって言われるかもしれない、それでもあの屋敷には、私たちには確かにそこには言葉には言い表せないものがあった。

 

(ここで死んでたまるか)

 

 力の入らない手で刀を握り奮い立つ。

 ここで死ぬ訳にはいかない、そんな願いにも似た何かが私を奮い立たせてくれる。

 万全とは呼べない状況、そんなこと関係ない。

 

 何故なら私は、柱だから。

 

 

「まだ立つんだ! そんな事しても無駄なのに、待ってて直ぐに俺が救済して──」

 

 それ以上鬼は話さなくなった。

 明らかに全身の何かが警鐘を鳴らしているのが分かる、それは長年の勘によるものなのか。

 それとも血に刻まれた記憶なのか。

 

 そんなもの知る由もない。

 ただ、間違いなく後ろにいるこの男は。目の前にいる柱よりも警戒に値する。

 

「娘、楽にしろ。お前の勝ちだ」

「……あなたは……隠の」

 

「もう動くな、助かる命を無駄にするのは命への冒涜だ」

「なんで……大丈夫、私が守るから」

 

 突然現れた隠に動揺するが、私には関係ない。

 全てを守ってこその柱。

 

 守れ! 私が皆を! 

 

 するりと隠の彼は私の後ろから歩き、街中で歩くかのように私の刀を取り上げて前に立った。

 

 何をされたのか初めは分からなかった、ただ近づいて私を無理やりこの場から逃がそうとやってきたのだと思っていたし、この状況なら隠の人はそうすることは分かっている。

 もう日の出も近い、柱を逃がしきり上弦の鬼の能力を持ち帰るだけで価値のある収穫だ。

 

「……え?」

 

 自分でも間抜けな声が出たと思う。

 何をされたか分かっている、歩いて刀を取られた。

 

 理解することはできる。

 でも、それを実現させるのは隠には不可能だと知っている。

 

 なぜならこの隠は妹のしのぶと同じく落ちこぼれという部類だからだ。しのぶが珍しく他人に気を許していることで少し嫉妬して、話したことがある。

 呼吸が使えない、日輪刀の色が変わらない。

 

 最終選別へいく許可すら育手からもらえなかったと。

 

 それなのに彼は柱である私から刀を奪い、上弦の鬼を目の前にして物怖じもせずに堂々と立っている。

 

「…………そ、んな……」

 

 上手く言葉が出てこない。

 肺が壊死しているからか、それとも驚きのあまりなのか。

 理由なんて分からない。

 

 

「君は……誰だい? その()は」

日の呼吸──

 

 

 

 

円舞

 

 あれだけ遠かった上弦の鬼の頸を彼はいとも容易く斬り落とした。

 何が起きたのか殆ど見えなかった、次に視覚が捉えたのは私の櫻色のはずの日輪刀が煌々と燃える火、いや日のような色をしていたところ。

 

 通常ならありえない事だ。

 日輪刀は別名「色変わりの刀」とも呼ばれているが、色が変わるのは最初に手にした時だけ。

 何らかの異変があり、色が変わったなんて聞いたことがない。

 

「あの日の失敗から、無駄話はしないと決めている」

 

「刮目せよ、黄泉よりお前を屠る為だけに参った」

 

「私は今度こそお前を滅する」

 

 上弦の鬼は首を斬られ、何も言うことが出来ずに顔を刀で斬られ灰となった。

 最後に目に映ったのは、なんだったのか理解が及ばない。

 だが眼の奥に棲む奴には何が起こったか分かった。

 

 真の鬼狩りの帰還。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 




オリ主『憑依・口寄せ』


良ければ続きます


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 彼と私は同じでした。

 周囲に笑われ、無理だと貶され。それでも抗った同じ穴の狢。

 私には鬼の頸が斬れない、そして彼には剣客としての才がなく体も弱い。

 

 そんな彼と出会ったのは桜の蕾が開き始めた、少し寒さが残る初春の頃でした。

 

 あの時の私は姉さん目当てで蝶屋敷に押しかける隊士にうんざりして、毒の研究も行き詰まっていて、そういう負荷が重なって破裂寸前だったと思います。

 蝶屋敷に如何にも弱そうで、どこか浮世離れ(・・・・)した私と同じくらいの男の隠に向かって要件も聞こうとせずに怒鳴り散らしました。

 彼もあの時は大した要件はなく、寄ったのも先の任務で負傷した隊士へのお見舞いとあとから聞きました。

 

 それでもあの時の私は限界がきていたのでしょう。

 しょんぼりとして帰る素振りをみせる彼に向かって「それ見た事か」と追い討ちをかけました。

 それからは彼には関係の無い鬱憤を罵詈雑言の嵐で投げつけ続けました。

 

 全てを言い終わり、少しも晴れない私の胸の内を悟ったのか彼は。

 

「もういいのか?」

 と一言だけいい、私が「帰って!」というと少しだけ悲しそうな背中をこちらに見せて帰っていきました。

 

 少し悪い気もしましたが、その場で謝るなんてことあの時の私には出来ませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 それから怪我を負った隊士が蝶屋敷に来る度に彼は訪れました。

 それと同時に疑問も湧きます。

 

 これだけ任務を共にしているのに、何故彼だけ無事なのか。

 もちろん隠は後処理に重きを置いており、負傷しづらい位置にいます。ですが、それでも死と隣り合わせのこの仕事で負傷らしい負傷がない人はほとんど居ません。

 それこそ最高位にいる柱でさえ、負傷はします。

 

 考えすぎか……と思ったりもしました。

 ですが、やはり腑に落ちない。

 

 言い方は少し語弊がありますが、彼が怪我を負えばゆっくりと話すことが出来るのに。

 決して怪我をして欲しいという意味ではなく、患者として接すれば今までの非礼を詫びることができる。そう思いながら数年が経過しても彼は患者としてここに運ばれてくることはありませんでした。

 

 そうなった手前私も彼に初めて会った時のことを謝れません、そればかりか他の隊士よりも少しキツい対応をしてしまっています。

 

 姉さんに「どうして彼にキツく当たるの?」と聞かれ「関係ないでしょ」と切り捨てました。

「好きな子には冷たくしたくなるのよね」という姉さんの的外れな言葉が私の鬱憤を溜まらせます。

 

 多分だけど、そういうのでは無いことは理解しています。

 強がりや意地ではなく、私は多分彼のことは好きではありません。むしろ気味が悪いとすら思っています。

 

 いつか彼が蝶屋敷のベッドで横になった時に、これまでの非礼を詫びると同時に互いに胸の内をさらけ出せれば。そう思わずには居られませんでした……。

 

 

 

 彼と姉さんが瀕死で運ばれてくるまでは。

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 上弦の鬼を目の前にして、爺さんに体を託した瞬間。

 起きたら知らない場所で横たわっていた。

 

 いや、知っているが。まさかこちら側になるとは思ってもみなかった。

 任務で危なくなると爺さんが避ける場所を指示してくれていたし、なによりそう危険が及ばない位置に逃げていた。

 だからここ蝶屋敷に患者として運び込まれたのは初めての事だった。

 

 起きたら知らない場所というのはこういうことなんだ、と朦朧とした意識の中思う。

 

 傍らにはいつもの様に爺さんがいる。

 だが、少しだけ変化している。爺さんの痣、それが前あった時よりも大きく、そして広がっているように見える。

 

「爺さん、その痣──」

 

 そこから先の言葉は喉に詰まったかのように出てこなかった。

 いつにも増して悲しい爺さんの姿を見て、直感的に悟ってしまう。

 

 ほとんど何も覚えていない、動いたのはホント一瞬だけ。

 記憶もかなり困惑していて、どれが夢でどれが本物か脳があやふやになっている。

 それでも一瞬だけ、体が燃えるように熱くなり鬼の中身といえばいいのだろうか、骨や筋繊維が裸眼なのに見えて刀を持つ手に尋常ならない力が入った。

 たったそれだけの事を一秒未満で完成させ、そこからは記憶が無い。

 

 爺さんに憑依されたというのは分かる。

 体が勝手に動いたのはそのせいだと思うし、それよりも反動で全身のそこいらが痛い。全身筋肉痛なんて初めてだ。

 体に少しの力も入らない、指一本動かすことが出来ない。

 

『一度目は乗り切れた、次は命は無いだろう。何より痣が出てしまった、深く謝罪する』

 

 一度目は憑依のことだろう。

 それに痣? 

 それは爺さんの額の話では無いのか? 

 すぐにでも質問して爺さんから答えを毟り取りたい。だが、全身の疲れを認知したからか、全身が動かないことを理解したからか話す気にならなかった。

 

 ──疲れた。

 

 

 自分自身なぜあんな事をしたのか分からない、爺さんの言う鬼舞辻無惨を倒す憑依(奥の手)が相当危ないもの、それこそ使った途端に俺が死ぬ事くらい視野にいれていたし実際死ぬと思ってた。

 鬼舞辻無惨を滅するという爺さんの野望を踏みにじってまで、俺は何故胡蝶カナエを助けたのだろうか……。

 

 深く考えれば考えるほどに答えは出てこない。

 時間だけが有り余る治療の時間、目が覚めてから体が思うように動いたのは13日後だった。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 答えは出てこなかった、あれだけ莫大な時間を費やしても答えは出ないものだと知り少しばかり理不尽さを覚えた。

 しかしそうも言っていられない、時間は止まらないし止められない。

 例えば俺が死んだとしても、明日はきっと来るし明後日も鬼殺隊は通常運転しているだろう。

 

 鬼舞辻無惨を追い詰めた立役者である爺さんが死んでも鬼殺隊は滅びなかったんだ、生命力でいえばゴキブリ並だ。

 

 少しあの後の話を聞いた。

 柱が花柱の増援に駆けつけ、大人数で上弦の鬼を倒した。ということにされているらしい。

 隠が倒した、などということは眉唾として相手にされない。それならばと虚偽でも鬼殺隊の士気が上がるならとお館様のご意向らしい。

 

 花柱である胡蝶カナエから直々に聞いた。

 胡蝶カナエも瀕死の重症だったらしいが、妹の胡蝶しのぶの見事な手腕により俺たち二人は一命を取り留めることが出来て生きていられる。

 

 胡蝶カナエは血鬼術による肺の壊死で呼吸を使うことが出来なくなる、更に上弦の鬼の狩りにより足の血液を一時的に固められたことによって、両足が腫れ上がって切断寸前までいったらしい。

 これも何とか胡蝶しのぶが切らなくてもよい所まで持っていったが、歩くことは出来なくなり車椅子が欠かせなくなった。

 

 柱として実質の引退である。

 花柱の後釜としては妹の胡蝶しのぶが柱となるそうだ。条件も満たしているので、問題はなかったが『鬼の頸を斬れない』ということで、少し面倒事が起こっているらしい。

 

 これがあの後に起こった大体のこと。

 そしてこれから胡蝶カナエ、胡蝶しのぶ、そして俺がお館様より召集がかかった。

 

 内容は、考えずとも分かる。

 あの夜のことだろう。

 

 胡蝶カナエも胡蝶しのぶも、絶対安静だった俺に無理に聞こうとはしてこなかった。だが、この招集で俺だけに見える爺さんのことを説明しなければならないと考えた時。俺は憂鬱になる。

 今まで霊が見えると言っても戯言としてしか対応されなかったからだ。今更それを言うことで信じてくれるなど思ってもないし期待してもいない。

 それでも、何故か心は焦っていた。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 産屋敷邸に到着すると、そこには召集がかかっていない隊士が数名居た。

 胡蝶カナエの元の立ち位置、胡蝶しのぶの現立ち位置。

 その鬼殺隊最高位にいる柱が彼女ら以外に二人来ていた。

 

「……風柱様、音柱様」

 

 お館様の前なのでお二人は庭に膝をついている。

 だが、長年の勘からか風柱から異様なまでの危険を感じる。

 

「よく来てくれたね、私の可愛い子供達」

 

 俺も胡蝶しのぶも地に伏せる。

 胡蝶カナエもいつもの癖で同じようにしようとしたが、お館様にそのままでいいと止められていた。

 

「今日集まってもらったのは他でもない、上弦の弐討伐の真相だ。上弦の鬼を倒したのは数百年振りだ、鬼殺隊の士気を上げるためとはいえ嘘の為に名前を借りて済まなかったね天元、実弥」

 

 滅相もない、と風柱はいうが不満が感じられる。

 以前に風柱は就任前に仲の良かった隊士の命を失って十二鬼月の討伐に成功していた。状況は異なるが、風柱は自分で手に入れた手柄以外を手柄として見られるのを嫌う。

 あの時の任務で共に行動した俺からしても、あの時の彼らは兄弟分と言えるだけの存在だったに違いない。

 

 ここまで考えると馬鹿でも分かる。

 

 風柱は「なぜ力があって剣を握らない」と俺を責め立てているのだろう。

 

「烏からある程度の報告は貰ったよ、できれば無駄な時間は費やしたくない。君は何者だい?」

 

 優しい声音で問い掛けられた。

 ここに着いた時から俺はずっと正直に話すと……。

 

 

「お館様、貴方は幽霊を信じますか?」

 

 途端に周りから疑いの目を掛けられた。

 

 

 

「テメェ! お館様のお言葉を忘れたか! 貴様の戯言に付き合う時間など刹那たりとも存在しな──」

「──実弥」

 

 風柱の言葉を指一つで止めるお館様、貫禄が桁違いだ。

 

「幽霊……とはどういうことだい?」

「ハッ、俺には物心ついた頃より一人の幽霊が傍らにいました。その幽霊は名を『継国縁壱』といい数百年前の鬼殺隊で柱として活動していたと聞きます」

 

「おいおい随分と派手なウソをつくじゃねぇか、亡霊が? 数百年前の同業が? ぶっ飛びすぎて意味わかんねぇぞ、もっとマシな嘘つけや」

 

 外野から野次が飛ぶが気にせず話を進める。

 

「この男は鬼舞辻無惨を滅する寸前まで追い込み逃がしたことを悔いて俺の前に現れたと言っています。何故俺の前に、という問いには俺自身にも分からないのでお答え出来ません」

 

「なるほど幽霊か……実は私の妻は代々神職の一族でね……あまね、どうだい?」

「はい、一般家庭からこれ程に霊を引き寄せるのは珍しい。恐らくですが修行を重ねれば霊能力者になれるかも知れません」

 

「因みにあまねには、その継国縁壱は見えているのかい?」

「いえ、私に霊視の才能はなくハッキリとは見えませんが、何かそこにいるのは感覚的に分かります」

「なるほど、これで嘘でないと証明できたね。いいかな天元?」

 

「勿論です、口を挟み申し訳ありません」

 

 あまね様が神職の一族だったから話は一々止まらずに進む。

 こうなることも見越してお館様はあまね様を呼んだのか? 

 流石にそれは考えすぎだろうか……。

 

「ですが霊体の継国縁壱に現世で何かすることはできません。俺から離れることもできないようですし、物に触れたりすることもできません。あの時の上弦の鬼を倒した時に使ったのは本来なら奥の手。継国縁壱が鬼舞辻無惨と対峙した時にのみ使う予定だったそうです」

 

「なるほど口寄せの類か……私も妻が神職の家系だから調べたことがある。確か恐山の付近でよく見られるイタコの持つ力だね」

「はい、俺はこの奥の手を鬼舞辻無惨以外に使ってしまい恐らく鬼舞辻無惨もその事に気付いたでしょう」

 

「じゃあこの質問をしたら次の話題に移ろう。君はあと何回口寄せが使えるんだい?」

 

「あと1度です。そして使い切った後、恐らく俺は死にます」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 起きた時から、痣が浮かび上がってからやけに体が熱い。

 風邪をひいた時のように体温が熱く、それが一向に治る気配がない。

 13日の間、俺は訳の分からぬまま過ごした。

 何故か額に浮かび上がる痣、それを中心にしてか熱くなる体。

 

 同じ痣をもつ爺さんに尋ねた。

 

「この痣はなんなのだ」と。

 すると爺さんは答える。

 

『飛躍的に身体機能を上昇させるもの』だと、そして続けるように『それは齢25を超えるとほぼ確実に死ぬ』と。

 

 爺さんは悲しそうな顔をする。

 だが、その条件にそこまで気落ちはしていない自分がいた。

 

 元々死ぬ命に時間制限がついただけだ。

 

「そんなこと気にするなよ、元々俺の命は捨てたのと同じだ。何より爺さんに俺が言ったんじゃないか、『何でも出す』って」

『私は元より今の時代を生きる命を摘み取りたくなかった』

 

 そうやって爺さんは懺悔する。

 一度ならば死なずに済んだ、確証はないが爺さんは感覚的に一度ならイけると踏んでいたのだろう。それを俺のワガママで使ってしまい命が尽きるまで使えるのは一度、運が良ければ二度。

 

 

「本当に大丈夫だよ、俺は刀を握った時から命を捨てている。もう落ちた命だ、爺さん……だからどうか迷わないでくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 それから話は進み、鬼を斬った時のことを事細かに説明した。

 体が熱くなったこと、鬼の筋繊維や骨が見えたこと、刀が紅く色変わりしたこと、そして痣のこと。

 どれもこれも『ありえない』の一言で片付けられないだけに、報告会は難航していった。

 

 

 

 一通り話した後にお館様と二人だけで話すことになった。

 体の透視や紅い刀の話ではなく、もっと身近な『痣』のことについてだ。

 

 まず痣がでてから体温がずっと高いままだということ。

 

 これはお館様も調べてくださったようで、継国縁壱の時代から痣のでる剣士がでたことがあるということ。その痣は発現させれば常人を上回る力を手に入れられ、身体機能は何倍もの力を発揮することが出来る。

 

 だが、痣を発現させたものは一つの例外を除き25歳を迎える前に死ぬということ。

 恐らく唯一の存在は爺さんのことだろう。

 どう見ても25歳は超えている、大昔には珍しい長寿だ。

 

「君の痣は今代のものでは無いと私は思うのだが、そこはどうなのかな?」

「恐らくですが俺も同意見です。痣は連鎖のように次々と痣者を増やすと言われていますが、俺の痣は継国縁壱のものかそれに反応したもの。時期でいえば数百年前のものでしょう。だから恐らく今代の鬼殺隊とは関係はないようです」

 

「寿命……か。私の家も代々短命でね、30歳までは生きることができないんだ。少しでも延命するために代々神職の一族から嫁を貰っていてね、あまねもそうなんだよ」

 

「お館様、俺は死ぬことは怖いことだと思っておりません。継国縁壱が鬼舞辻無惨を倒すため特別強く生まれてきたように、俺にも継国縁壱を憑依させる特異な体質だと知りました。

 お館様、俺は痣では死にませぬ。隠とは言え、俺も鬼殺隊ですので」

 

「……杞憂だったみたいだね。どうやら既に覚悟は決まっていたようだ」

 

「はい」

 

「ありがとう。そして、済まない」

 

 

 

 隠という特殊な立ち位置故に、今回の上弦の鬼討伐で表立った報酬は貰うことが出来なくなった。

 屋敷など貰うことができたそうだが、どうにか拒否させて貰い渋々ながら小さな家を頂いた。

 山奥にある小さな小屋。

 

 長くても数年しか生きられない俺にとって、そのような形の残るものは拒否したかったのだが無理やり押し付けられた。

 爺さんも山奥の小さな小屋に、なにか懐かしさを感じた顔をしている。

 

 当然ながら鬼を討伐したからといって柱になれる訳ではなく、花柱のあとは胡蝶しのぶが蟲柱として継承した。

 此度の上弦の鬼の討伐、真相を知っているのは花柱、蟲柱、音柱、風柱、そして一番の古株であり鬼殺隊最強の岩柱のみとなった。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

「待て、()の」

「しな………風柱様」

 

「何故だ? 本当に鬼舞辻を滅する為ならば胡蝶は捨ておくのが最も正しい判断だ。テメェのその失態で鬼舞辻へと届く刃が使い物にならなくなるとは思わなかったかッ!?」

 

「……」

 

「なぜ胡蝶だ、今までもテメェの目の前で惨たらしい最期を迎えた隊士がいただろう! なぜ胡蝶だけはその力を見せた! 答えろ!!」

 

「……」

 

 

「俺はお前など認めねェ、鬼舞辻の頸を斬るのは過去の亡霊でもお前でもない──この俺だ」

 

 

 

「二度と俺の前に(ツラ)見せんなァ」

 

 

 

 




継国縁壱の回想で、兄の事とか他人との価値観の相違を感じたのは作者だけじゃないはず。だから主人公の心と胡蝶しのぶの心が食い違うのは必然(暴論)


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 ーーーーー

 

 

 奴とは同門で同期だった。

 同じ風の呼吸を操る育手の元で剣を習った兄弟分。

 

 といっても殆ど繋がりはなかった。

 俺は母親だった何かを殺してから、独学で鬼狩りを始め鬼殺隊の剣士と出会うことで剣を教えて貰った言わばはぐれ者。

 そんな例外な俺を育手は扱いに困ったのか、それとも奴の扱いに困ったのか、今となっては定かではないがなるべく接点を持たないようにさせられていた。

 

 奴はひたむきだった。

 育手から「才能がない」と言われながらも刀を捨てずに、誰よりも早く起きて剣に励み、誰よりも遅くまで剣に励む。

 そんな努力の虫である奴も、隠に転身したと聞いた。

 

 結局呼吸も使えず、日輪刀の色も変わらないまま育手から最終選別の許可を取れずに諦めたそうだ。

 

 どうしてそこまでして鬼殺隊に拘るのか、到底俺には理解できない。

 俺は自分の身の上話をしたのは隊士の中では一人だけだ。そいつとは兄弟分で鬼殺隊に勧誘してくれた恩人でもある。

 

 だが奴のそういった話を聞いたことが無い。

 異常なまでの執念、それが無ければ鬼殺隊への最終選別へ行く許可を貰うために平均よりも数年多く育手の元にいないだろう。

 何度か対抗して同じ時間に起きて剣を振ったことがあるが、殆ど睡眠時間はなく体を壊す前に止めた。

 あれだけひたむきな鍛錬をしているのは正隊士の中でもいないだろう。

 

 どうにも俺にとって奴は同期だったが、出来の悪い素直な弟のような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 粂野匡近が殉職した。

 下弦の鬼との痛み分けで。

 

 自分が長男だったからか、粂野匡近という人物は兄のような人物として慕っていた。自らの道を切り開いてくれた大恩人。

 その恩人が目の前で鬼に殺された。

 俺の血で酔わせて頸を斬ったが、残ったのは達成感よりも喪失感の方が強い。

 

 同じく任務で俺たちの処理に来ていたであろう隠となった奴がいた。

 あれほど独特な雰囲気を出している人物が、顔を隠した程度では同じ釜の飯を食った同門は誤魔化せない。

 

 話しかけようと思った。

 しかし、そう思い奴を見た時。

 

 奴の隊服の胸元に血が滲んでいた。

 鬼殺隊の隠の隊服は黒、目を凝らさねば見えないが血を敢えて流す戦い方をしているためか、そういうのには敏感だった。

 場所的に口からの吐血と考えるのが妥当だが、奴は隠。戦闘には参加しない。

 

 これこそ勘だが、奴は何も出来ない歯痒さから唇を噛みちぎったのでは無いか。

 あの異常なまでの執念、そしてそれが実らなかった奴の気持ちの終着点は何処になるのか。

 そう考えた時自分ならと考えるとゾッとした。

 

 努力もした、それに至る為に余分な物を全て切り捨てた。

 それでも届かずに悔しさで唇を噛まなければならない。

 

 俺にはそんなもの耐えられないだろう。

 

 

 

 

 だからだ、お館様に呼ばれ上弦の鬼との真相を聞き俺は激怒した。

 

 

 あれだけの執念だ。

 全てを聞いた後なら、あの訓練は全て身体を作る為(・・・・・・)だということも頷ける。あの生き地獄に才能がないのにも抗い続け、あの口寄せだとかいう訳の分からない術に一度だけなら死なずに使えた筈だと聞いた。

 

 ならば、と。

 ならば鬼舞辻無惨を倒す為にその一度をとっておくものだろう。

 

 剣士から隠に転身したのは鬼舞辻無惨に近づく機会が多くなるため。または体を鈍らせないようにするため。

 隠という戦闘に参加出来ず、目の前で剣士と鬼との戦いを見なければならない役は奴にとって苦痛以外の何物ではないだろう。

 

 隠の隠した素顔の中でどれだけ……今までどれだけ歯痒い思いをしてきたのだろうか。

 

 

 それなのに何故今回耐えることが出来なかったのか。

 奴が蝶屋敷に入り浸っているのは、とある筋から確かな情報としてきていた。だが、奴が恋煩いや一時の感情でそのような愚行をするとは思えない。

 それこそ、確信たる所以は同門であるという言葉だけで事足りる。

 

 ならば何故だ。

 

 

 もう一度口寄せを使えば死ぬと確かに聞いた。

 運良く生き残るかもしれないが後遺症が残れば、奴にとって幸せな生活は困難なものとなるだろう。

 剣士として足を洗ったなら戦場に出てくるな。隠ならば隠れておけ。

 

 だから俺は奴のことを認められない。

 そこは断固として認められないのだ。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 随分と体が動くようになった。

 お館様から頂戴した小さな小屋で数日ほど休息をいただき、やっと仕事にでられる。

 件の事での感謝や罪悪感から、胡蝶姉妹が何度か家に上がりに来たが要件だけを聞いて帰らせた。

 彼女らには蝶屋敷での仕事もある。俺の為に長居させて時間をとるのは怪我を負った隊士に申し訳がなかったからだ。

 

 世間話をして元花柱の今後を聞いた。

 車椅子が手放せなくなったため、戦闘どころか走ることすら不可能になり自作の薬をこれから試してみるとの事だが望みは薄いそうだ。

 

 そして蟲柱からは今までの非礼を詫びると言われたが、正直そのような心当たりは無いので受け取らないことにした。心当たりのないことで頭を下げられても何も晴れないので止めさせた。

 

 二人はどうにも俺に恩義を感じている節がある。

 命を使って守ったと聞こえはいいかもしれないが、そんなものじゃないことは俺が1番よく知っている。

 継国縁壱への依存。

 

 数百年前越しに鬼殺隊はソレをしてしまっている。

 爺さんもそれでいいと考えているから考えものだ。それを良しとしなかったのは現状風柱ただ一人。

 

 それが悪いことなのか。

 俺にはどちらが正しいなんて分からない。ただ、正しいと胸を張って言えないということは俺の中ではそういうことなのだろう。

 

 

 久方ぶりの任務はとある兄弟への接触だと聞かされた。

 なんでも継国縁壱の血筋が途絶えていないということ。それは俺の話を聞いてからお館様が継国縁壱について調べた過程で出てきた産物だということ。

 依存、と称したが鬼殺隊の方針はそれがどうしたと言うことだろう。

 確実に俺を鬼舞辻無惨の目の前に持っていく、それが最も確実な千年の終止符の打ち方であるとお館様は知っている。

 

 もしそれが叶わなかったとしても、鬼殺隊として戦力の向上は常に望ましい。

 

 幼少の頃から刀を持つ俺が言うことでは無いのだろうが、やはり小さな子供を戦場に引き入れたがる行為は後ろめたくなる。

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 そこには辺り一面に血が飛び散っており、何が起こっているのかわけも分からない。農具や巨大な岩を用いて何と殺し合いをしていたのはあやふやだが分かる、そしてそれが鬼であることも長年の勘で理解出来る。

 だが、日輪刀も呼吸も使わないただの森の木こりが鬼を倒せるものなのか? 

 風柱は昔鬼を独学で殺していたと聞いた事がある。

 

 それでも並外れた身体能力があってこそだが、それよりもその無謀な狩りを成立させていたのは稀血の中の稀血があったからに他ならない。

 

 結論から言えば、ありえないのだ。

 だがそれをもし成立させていたのなら……血筋──いや、この子は継国縁壱と同じく特別な人間なのかもしれない。

 

 

 まず一人ではどうすることの出来ない状況なので、連絡用の烏を飛ばして応援を呼んだ。

 双子の片割れは死んでしまっていて蛆が湧いているが、もう一人は生きたまま蛆が湧いている。非常に危険な状態だ。

 

 湯を沸かして手拭いを用いて両方の体を拭く。

 血と蛆を取り払い、仏は丁寧に取り扱う。

 

 数刻がすぎた頃に産屋敷家の方々が到着し、テキパキと掃除を終わらせ生きた方は俺が担いで帰った。

 なぜ産屋敷の方々が来たのかは、元々あの二人時透兄弟の勧誘はあまね様が行っており、俺にダメ元でいかせた。というのが真相らしい。

 

 故に場所の知識や面識のあるあまね様が訪ねてきたのだそうだ。

 

 

 爺さんの……継国縁壱の頼みとして時透無一郎は俺の家で面倒を見る事になった。継国の血筋、といっても爺さんの子孫という訳ではなく、恐らく兄の子孫だということ。爺さんは子を成す前に鬼に襲われたと語っている。

 爺さんからの頼みは鬼舞辻無惨を滅するために身体を貸してほしいという以外は初めてだったので了承した。

 

 

 

 

 少し厄介なことに時透無一郎は記憶の混乱が起こっている。

 歳を間違えたり、目の前で死んだのは兄だったが両親が死んだと言ったり、自分は一人っ子だといったり。

 目の前で兄を殺されたと考えれば、それも仕方ないことなのかもしれない。

 

 無理に思い出したくないものを思い出させる必要は無い。

 俺はそう思い、時透無一郎が望むことを望むままにやらせた。

 死の寸前まで鍛え上げるその姿は逞しく、そして本当に心配になる。

 

 それはまるで刀のようだ。

 何度も何度も叩き、焼き上げる。

 

 不純な物を取り払うかのように、意思だけが前進し肉体が追いつかない。

 爺さんは助言して止めさせるように催促してきたが、俺はやらせることにした。ああなって何も考えたく無くなる時間も必要だ。

 他でもない俺がそう思ったのだから。それは正しいことだと信じている。

 

 

 そんな生活を続けてあの夏から数ヶ月が経過し、時透無一郎は最速で柱へと登った。

 刀を持って柱になったのはたった数ヶ月の期間だけ、俺とはまるで格が違う。珍しく爺さんも他人のことを褒めていた

「あの歳で呼吸を極め、新しい型を編み出すのは私が居た時代の柱でさえも成すことができなかった偉業」と褒めていたが、恐らくこの爺さんの幼少期の方がエグかったのは言うまでもないだろう。

 何せこの人は呼吸を鬼殺隊に浸透させ、一人一人に稽古をつけたり呼吸の適性を見定めたりしていた人なのだから。

 

 時透無一郎と暮らし、兄の記憶を埋めるかのように懐いてきたが必要以上に構うのは止めた。

 それをしてしまえば亡き兄へ時透無一郎が記憶を取り戻した時に顔向けが出来なくなると思ったからだ。そして何より、俺はこの世に形残るものは残したくない。

 

 自分は確実に死ぬ。

 その確信が人との接触を避けたがる。時透無一郎にしろ胡蝶姉妹にしろ。

 俺は何かを残して死ぬのが怖い。

 

 随分と弱音が出てしまうようになった。

 

 

 

 ──ああ、一人は怖いや。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 ある鬼からの勧誘だった。

 鬼舞辻無惨を倒す為に協力して欲しい、そんな内容から鬼との会話は始まった。暴れたところでどうすることも出来ない。

 爺さんは信用に足りうる人物(・・)というが、鬼二人に囲まれて今の俺は気が気ではない。

 

「単刀直入に言います。私たちには継国縁壱が見えています」

 

 女の鬼は額に変な紙を貼って体をこちらに向ける。

 少し気味が悪いが、爺さんの言葉を信じて何とか落ち着く。

 

『久しいな、珠世』

「お久しぶりです縁壱さん」

 

 彼女らはあまね様のように霊視の才能があるのか。

 そんなことは不明だし、今そこは問題ではない。

 

 久しい? 会話できている? 

 俺の頭は少しパニックに陥ったが、深く呼吸をすることで何とか平然を保つ。

 

 ──この鬼は鬼舞辻の呪いは無いのか? そもそもこの鬼はなんなんだ? 

 

 当然の疑問。

 鬼との共存など考えたことも無い、数百年前から継国縁壱という人物は鬼との繋がりもあったということなのか。

 

 

 珠世という鬼は俺の質問に全て丁寧に答えてくれた。

 

 

 

 鬼舞辻無惨を倒す為に奴に効く毒を開発していること。

 鬼舞辻無惨の呪いは外しており、支配を受けていないこと。

 愈史郎という少年を鬼に変えたこと。

 

 思いつく限りの質問を投げつけ、珠世はそれに答えてくれた。

 

 

「そのためにお願いがあります。どうか鬼の血、出来れば十二鬼月などの鬼舞辻に近い血を採取して貰えないでしょうか?」

 

 しかし俺は剣士では無い。

 それこそ後処理でしか鬼とは対峙しないので、ほとんど灰になっている。

 だからできる範囲でしかすることが出来ないが、なるべく取ることを約束した。

 

 

 長時間会話を続ける中、愈史郎という少年に睨まれ続けたが俺にも一つこの鬼に頼み事をすることにした。

 

 

「──珠世殿、一つお願いしたいことがある」

 

 

 

 

 

 

 

 




時透無一郎っていいよな、ボコボコ泡吐くとこ好き


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 最近同じ夢を見る。

 そこには現柱達が殺された後、刀を持つ鬼に時透無一郎が殺されるところ、不死川実弥が殺されるところ、悲鳴嶼行冥が殺されるところ、伊黒小芭内が殺されるところ、甘露寺蜜璃が殺されるところ、冨岡義勇が殺されるところ、胡蝶しのぶが殺されるところ、宇髄天元が殺されるところ、煉獄杏寿郎が殺されるところ。

 

 何度も胴を切り裂かれ、兜割りにされ、心臓を貫かれ。

 そんな終わらない悪夢を見ていた。

 

 目が覚めると何時ものように朝が来る。

 家には爺さんと時透無一郎がいて、誰かが死んだということは無い。

 

 鬼舞辻無惨を滅する為に腹は括ってある。

 その為に他の全てを切り捨てる覚悟も俺の中にはできている。

 

 残虐にならなければいけない時が、俺には何度も訪れる。

 力のない隠は剣士の戦闘を見届けなければならない、無論そこで死に絶える剣士も腐るほど見てきた。

 だが同時に思ってしまうことがある。

 

 俺ならば救えた命では無いのか。

 

 俺は数多の屍の上に立っている。

 

 足元をみれば、そこには見捨てた命がある。救えたはずの命がある。

 

 そして、そこに大切な人を含むという覚悟もできている。

 

 

 本当に……俺に力があればどれだけ楽だっただろう。

 仮初の力(継国縁壱)ではなく、俺個人としての……。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 状況が変わった。

 いや、違うな時代が動いた。

 

 その一言で全てが片付く。

 鬼舞辻無惨の望む鬼が現れた。

 

 その名は竈門禰豆子。

 日の光を浴び肉体が滅びなかった唯一無二の鬼。

 そしてそれは鬼舞辻無惨が千年かけて探し続けた存在。

 

 里から帰ってきた彼らを訪ねる。

 蝶屋敷に丁度刀の里から負傷者達が帰ってきた。

 

 竈門禰豆子、竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助。

 この四人が帰ってくる。若い世代で柱には遠く及ばない剣士たち、だが何故か彼らは上弦の鬼と関わりがある。

 

 上弦の参のみ取り逃したが、それだとしても彼らに……いや竈門兄妹に鬼が集まり過ぎている。

 長らく疑問だったが、ようやく謎が解けた気になる。

 

 蝶屋敷に入り、寝静まる彼等を見て止まる。

 

 

「来てたんだ……」

 

 時透無一郎に声をかけられる。

 比較的軽傷だからか、とこに伏せる彼ら程疲れてはなかったのだろう。

 

「上弦の鬼を単独で討伐……凄いじゃないか」

 

「そんなことないよ……でも悪くない気分なんだ」

 

 そこには何時までも無機質だった時透無一郎ではなく、何か意志を持った瞳をしている彼がそこにいた。

 直感的に悟る。

 

 彼は記憶を取り戻したのだと。

 そして自分はもう彼には必要ないのだと。

 

「戻ったんだな」

「…………うん。今までありがとう、僕は一人で立って歩ける」

 

「そうか……なら屋敷を持て」

「……………………うん」

 

 短い間だった。

 だけど、悪くはない時間だった。

 

 でもそれは捨てなければいけないものだと知っている。

 鬼殺隊に長く身を置くとよくある事だ。残される者の悲しみを。

 

 いい例が煉獄杏寿郎だ。

 彼は誰よりも気高い最期を迎えただろう。未来に意志を繋ぎ、それはあの場にいた剣士たちの胸にある。

 

 彼らの炎の意志が消えない限り、煉獄杏寿郎という存在も消えない。

 なんと美しい姿だろうか、まるで炎のようだ。

 明るく周りを照らす……しかし近づき過ぎれば火傷を負う。

 

 あの在り方を俺には真似することなんてできない。

 俺は所詮太陽の代用品だ、日が照らせない間、影から見守る月。

 そんな矮小な存在だ。

 

「僕の兄にならないでくれてありがとう。僕はそれだけで救われた」

「ああ、達者でな。時透無一郎」

「はい。────」

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

「竈門炭治郎、起きたか?」

「……あなたは隠の」

 

「ああ、上弦の鬼2体討伐おめでとう。あの時とは見違えるほどだ」

 

 あの時。

 それは柱会議で竈門炭治郎の裁判をした時の事だ。あの時確かに竈門炭治郎は口だけの阿呆だと誰もが思った。

 しかし宇髄天元に同行し上弦の鬼を討ち取り、今回甘露寺蜜璃や多くの剣士と協力することでまたしても討ち取ってみせた。

 

 上弦の鬼を倒せなかった昔とは違う。

 

 この時代の太陽は間違いなく竈門炭治郎だから。

 形は違うだろう、爺さんのように背中で誰かを鼓舞したり、現れる全てを切り伏せることもこの少年には不可能だ。

 

 だが、それでも爺さんと同じような状況になっている。

 鬼は減り、鬼舞辻無惨は追い詰められ。穴熊を決め込んでいたが、竈門禰豆子によって奴は動かざるをえない。

 

「褒めないでください。俺はまだ禰豆子を人間に戻してません。上弦の鬼も皆の力があったからです。だから……褒めないでください」

 

「強い意志だ、竈門炭治郎。だが褒めさせてくれ、鬼殺隊だなんていつ死ぬか分からない職業についている。ここで君を褒めなければ次はもう無いかもしれない」

 

「だから褒めさせてくれ竈門炭治郎。おめでとう、君は凄い子だ。胸を張って生きろ」

 

 奇しくも最後に出た言葉は炎の言葉だった。

 残せるものなんてないと思ってた、残していいなんて思いもしなかった。

 

 誰かに覚えていて欲しいなんて思ってもみなかった。

 振り切れたと思っていた……。

 

 でも……。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

「胸を張って生きろ……ですか、よくそんなこと言えますね」

 

 いたたまれなくなった病室をでると、すぐ側には胡蝶しのぶが立っていた。目に見えてわかる、彼女の薄ら笑いが消えて顔には怒気しか孕んでいなかったからだ。

 

「ああ、我ながらおかしな事を言ったよ」

「違います! 私が言いたいのは──」

 

しのぶ(・・・)、もう決めたことなんだ。痣のことはもう聞いたろ? 俺はもう長くないんだ」

 

「私が治してみせます! 姉さんだってそれを望んでる!」

 

「姉さん……か……。胡蝶しのぶ、ならば敢えて言おう。俺はそれを望んでいない。もう賽は投げられた、ふんどしも締めた。だからこれ以上惑わさないでくれ」

 

「巫山戯るな! それは貴方が生きたいと思ってるからだ! 命を粗末にするな! 置いていかれる身にもなれ!! 私たちを……私を置いていかないで」

 

 医師としてなのか……薬師としてなのか……それとも……。

 その問いに対する答えは知っている。でも解いてしまったら、もう後には戻れないということも知っている。

 

 もう俺たちは友達では無い。

 立場という壁が自由を阻害する。

 

 彼女には彼女の意思があるように、俺には俺の貫かなければならないものがある。

 

「すまない…………すまない」

「謝るくらいなら!」

 

「本当に……すまない」

 

 認めよう、俺は彼女の事が───。

 だから彼女の姉を守ったのだろう。

 

 彼女の泣く姿を見たくなかったから。

 そんな随分と前の凝りが、ようやく溶けた。

 

「胡蝶しのぶ、図々しいが俺の最期の願いを聞いてくれ」

「図々しいにも程がある!!」

 

 思いっきりぶん殴られた。

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 お館様が鬼舞辻無惨を罠に嵌めて、自害なさった。

 俺は下に落ちる感覚を感じ取って、そのまま落ちていく。

 

 

 

 

 目の前に現れたのは六つ目の鬼。

 何処かの誰かの面影がある。

 

 

『これは──』

 

 爺さんが若かったなら、こんな感じなのだろうか。

 鬼となって人間とは異なる姿をしているが、姿形が知っている何かと酷似している。

 

「爺さんの血縁だよね?」

『ああ』

 

「他に隊士は居ない。嵌められたな、こうならないために幾つもお館様が策を考えてくれてたのに。まさか地面が抜けるとは思ってもみなかった」

 

 六つ目はゆっくりと刀を構えた。

 歪とも呼べる目の浮き出た刀。

 

「居るのだろう縁壱。早く出てこい。そして確かめさせろ、私はお前を越えられたのか」

 

 やむを得ない。

 残り1回は鬼舞辻無惨を確実に倒すために残しておきたかったものだが、それは彼らに託した。

 

 元々爺さんのワガママから始まった様なものだ。

 それが俺のワガママを叶わせることになって。

 

 今回も爺さんは鬼舞辻無惨を討てなかった。

 

 でもなんでだろう。

 

 爺さんからは鬼舞辻無惨を倒すと聞いた時よりも、覚悟が伝わる。

 

 もしかしたら爺さんも鬼舞辻無惨を倒すのではなく、この六つ目と戦うために存在するのかもしれない。

 全ては建前で……もしかしたら爺さんも。

 

「ホント似てるよな」

 

『なにがだ?』

「なにがだ?」

 

 2人から聞かれる。

 そういう所だよ、俺もアンタらも……同じ穴の狢だよ。

 

 

「いーや。なんにも」

 

 

「──それじゃあ始めようか」

 

 意識は消え失せた。

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 勝負は一瞬だった。

 

 互いに剣を持つ。

 予め用意していた日輪刀を継国縁壱は抜刀の構えを見せる。

 

 それを応戦するように六つ目の鬼、黒死牟は抜刀の構えをした。

 

 

 両者ともに世界が透ける。

 筋肉、骨格、全てを見通し先読みなどなせない。意表も付かせない。

 

 ただそこにあるのはどちらが武を極めたかということのみ。

 

 より早く、より強く、より鋭く。

 敵の首に刃を入れた方が生き残る。

 

 

 

 黒死牟は数百年前の事を今のように思い出す。

 寿命で死んだ弟の姿を、最期に屈辱を与えていった鬼狩りを。

 

 我が身を焼き切った赫刀を。

 

 

 

 何が合図だったのかは分からない。

 透ける世界で先にどちらかが動いたのか、どちらかに隙をみせたのか。

 もしくは…………体に限界がきたのか。

 

 

 

 

 

「──月の呼吸 壱ノ型」

「『──日の呼吸 捨参ノ型』」

 

「── 闇月・宵の宮(やみづき よいのみや)

「『──滅』」

 

 

 

 

 

 

 斬られたのは黒死牟。

 

「がッ!!」

 

 抜刀の構えから体を細切りにされた。

 首だけでなく心臓や脳みそまでも、関係の無い場所まで斬られた。

 

 そして黒死牟の攻撃で当たったのは刀の持っていない左手(・・)のみ。

 継国縁壱は片手を斬られたことに少しばかり驚愕するが、兄なら──……日本一の侍ならば、それくらいやってのけるだろうと考えるのを止める。

 

 隻腕となった継国縁壱。

 傷口を赫刀で薄皮1枚焼き切り、止血する。

 

 本来なら呼吸でやっただろうが、腕一本とはいえ肩からバッサリと斬られたので呼吸による止血は不可能。なにより体がもう持たない。

 

「縁壱、私はお前に届いたのか?」

 

「何をいいますか兄上」

 

 

「──私は元より日本で2番目に強い侍です」

 

 

「…………そうか……」

 

 

 この現状を見ても、そう言えるのが継国縁壱という男だったと黒死牟は思い出す。

 

 

「これだけ積んで尚、届いたのは片腕だけか」

 

 赫刀により焼き切られた首が崩壊を始める。

 

 

「清々しい気分だ……いっそ怒りも湧かん。無駄に思えるこの生涯もお前の片腕を討ち取ったと思えば、少しは意味があったのかもしれんな」

 

「いいえ兄上、人間ならこれは致命傷です。引き分けですよ」

 

 止血は出来たが、それでも止血するまでに血を流しすぎた。

 少し遅かったのだと継国縁壱は悟る。

 

「そうか、相打ちか」

「はい」

 

「なんとも……まぁ──」

 

 黒死牟は清々しい顔をして消えていった。

 塵となって消えた時に継国縁壱から俺へと人格が戻る。

 

 

「はぁ! はぁ! 頭がッ! 腕がッ!!」

 

 

 人として埒外の力を使った代償。

 それは死をもって清算される。

 

 

「よく! ひと太刀デ終わらせた! 爺さん! ……フゥッ! はぁ……」

『ああ、ワガママをした身だ。人として死なせてやれずに済まない』

 

「いイッ! ろクな死に方なんデ! ギダいしてな……い」

 

 見計らっていたのか、頼みの綱はやってきた。

 

 茶々。

 それは珠世の飼い猫。

 それは鬼。

 

 血液を運ぶことしかできない哀れな猫。

 

 いつもは血を渡す側だったが、まさか受け渡される側になるとは。

 

 

「茶ぢゃ! 早グッ」

 

 注射器を茶々から取り出す。

 それは珠世の血が入ったもの。

 

 

 愈史郎も──

 茶々も──

 

 全てはこの血によって生き長らえた。

 

 

『それを捨てさせた責任はとる。ありがとう、そして誓おう──』

 

「きがはェよ! この血が俺に適合するか!」

 

 

 注射器を首に刺し、血を押し入れる。

 

 

 確率は随分と低いはずだ。

 なぜなら俺は太陽に憑かれた存在だから。

 

 その体は日に焼かれる。

 

 

 

 

 

 この日俺は人間を捨てた。

 




タイトル間違いじゃありません。これでいいです。

鬼滅本誌で13の型がでるまで待ってましたが、どうやら出てこなさそうなので作者が1番濃厚だと思った考察を元に『滅』にしました。

要因は『柱』が9画で9人。
という所です。

そして度々出てくる『滅』という文字。
実はこれの画数が13画なんです。

それに刀に彫られた『滅』という文字。ダメ押しで『鬼(滅)の刃』
これだけ揃えば寧ろ滅以外何がある!?って感じです。

長らくお待たせしました。

次回最終話!


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 鬼舞辻無惨。

 それを見た時、俺は哀れに思った。

 

 千年もの間血と錆と鬼と鬼狩りに追い回される存在。

 自ら火種をまいているので自業自得ではある。

 

 奴は何人もの眠れる獅子を叩き起した。

 本来なら刀を握るはずのなかった者の方が多いだろう。

 

 鬼は悪だ、鬼は滅する、鬼は狩る。

 

 こんなこと数年前まで鬼殺隊では当たり前のことだ。

 竈門禰豆子が現れてから鬼殺隊は変わった。彼女ならと鬼を受け入れ始めるものも多い。

 

 だが彼女は例外だ。

 人を喰わない、そして誰か信じてくれる人が傍に居る。

 

 でも俺は違う。

 生者との関わりをできるだけ避けて、死者の願望に耳を傾けてきた。

 

 そう、俺は違う。

 俺は受け入れられない。

 俺は人にはもう戻れない。

 

 

 俺にはもう──

 

 

 ──道は残されていない。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 竈門炭治郎、冨岡義勇、悲鳴嶼行冥、時透無一郎によって煉獄杏寿郎を殺した鬼を、我妻善逸が新しい上弦の鬼を。そして上弦の空間を操る鬼を無惨が呪い殺し、残す鬼は鬼舞辻無惨のみとなった。

 

 空間から押し出され、無惨は地上に叩き出される。

 

 手を触手のように伸ばして一定の距離から柱全員を相手にする。

 かすり傷でさえ鬼へと変えられる致死量の毒を盛られるため、それすらも許されない。

 

 死んでしまう──

 

 

 などと怖気付く隊士はこの鬼殺隊には一人としていない。

 最後の目標、鬼舞辻無惨に対し全ての柱が惜しみなく戦っている。

 

 特に甘露寺蜜璃や竈門炭治郎、栗花落カナヲは既に手傷を負っている。

 彼らの未来は鬼の血を以って絶たれた。

 だが、それがどうした。

 

 命を賭して戦うと決めた彼らに未来など元より不要。

 力尽きる最期まで、彼らは剣を握る。

 

 

 柱同士での稽古の成果か、柱の連携は凄まじく揃い毛程の隙もみせない。同門であり水の呼吸を使う冨岡義勇や竈門炭治郎の連携も然り。

 

 

 

 最初に限界が来たのは、栗花落カナヲだった。

 

 

「──ッ!」

 

 鬼の血が身体を巡り、最大の武器である視界がボヤけてしまった。

 両目とも無惨と戦うまでは問題などなかったが、片目を無惨に潰され片側の視界が消える。

 そしてその死角からの攻撃を受けてしまい、毒の回りが早くなった結果足が止まった。

 

 迫る無惨の攻撃。

 柱が息を呑んだ時、意外にも動いたのは竈門炭治郎だった。

 

 

「ンッ!!」

 

 日輪刀で鬼舞辻無惨の攻撃を受け止めて、雑ではあるが栗花落カナヲを蹴って鬼舞辻無惨の射程範囲から外す。

 

 何とか栗花落カナヲを助けられたが、次に危険に陥ったのは皮肉にも竈門炭治郎だった。

 

 受け止めた剣が鬼舞辻無惨の攻撃で弾き飛ばされ、無手の状態になってしまう。

 そしてその竈門炭治郎に鬼舞辻無惨の意識が傾いた瞬間。

 

 柱達は好機と踏んで、全員がトドメを刺しに行く。

 

 それは空間を操る鬼に入れられた時と、似通った状況になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがしかし、致命傷を負っていなかった鬼舞辻無惨は前回とは違って一太刀も浴びせられることなく奥の手を発動した。

 

 

 

ドンッ!!!! 

 

 

 なんの音だったのか、傍で待機していた隠達は何が起こったのか分からなかった。しっかりと戦いを見ていたのにも関わらずだ。

 それは一瞬の出来事だった。

 

 全柱の呼吸による攻撃が鬼舞辻無惨を捉えた。

 そう思った瞬間に、まるでおはじきでもするかのように柱は飛び跳ねて建物に激突していった。

 

 

「……は、疾すぎる」

 

 誰の言葉だったのか、そんなものは分からない。

 

 ただ、鬼舞辻無惨以外に立っているものは居らず。

 鬼殺隊は鬼舞辻無惨に敗北した、という事実だけがそこに示されていた。

 

 

「──来たか」

 

 誰かがそういった。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 地に刺さった状態の日輪刀を手に取る。

 なんとも懐かしい刀だ。

 

 里のカラクリ人形に入れてから、もう見ることは無いと思っていた刀。

 数百年を経て本来の持ち主の手へと戻ってくる。

 

「何故お前のような存在が二度も現れる」

 

「巫山戯るな、死して尚私の邪魔をするか!」

 

「お前は黒死牟と戦い力を使い果たし死んだ筈だ!」

 

 鬼舞辻無惨は黒死牟の透ける世界で継国縁壱の宿り木は、もう一度使えば確実に死ぬと言われていた。

 だからこそそこいらの低級の鬼を向かわせようとしたが、黒死牟が名乗り出たため行かせた。

 

 だがどうだ? 

 確かに片腕は切り落とされているが、まだ体が動いている。

 有り得ないだろう。

 

 何故こうもこの男は常軌を逸しているのか。

 

 前もそうだ、ただの鬼狩りと思い身体を焼き切られた。

 今も尚その傷は残っている。

 

 この男だけは本当に何をしても、何を考えてもその上を行く。

 

 

「一つ、これは私の力ではない」

 

「これは生者(・・)の執念、そして希望が齎した奇跡だ」

 

「断じて私の力ではない」

 

 黒刀が継国縁壱の手に収まり、その刀の色は赫くそれでいて禍々しい。

 あの刀身に触れること自体が危険だと悟る。

 

 だがそれと同時に疑問を覚えた。

 

 ──コイツは。

 

 

 

「お前は、鬼の血が適合していないな」

 

 鬼舞辻無惨は笑う。

 鬼の血は適合する者としない者に別れる。

 適合したなら人間を超える力を手に入れ、一騎当千となり得るが。

 適合しなかった場合、細胞が壊死し確実に死ぬ。

 

 目元は腫れ上がり、腕は斬られ、身体から血管が浮きでる。

 なんとも人間らしからぬ姿に鬼舞辻無惨だけでなく、鬼殺隊一同ですら新たな鬼の登場かと疑ったほどだった。

 

「その醜い姿、最強の鬼狩りの末路がこれか」

 

 鬼舞辻無惨は知っている。

 適合出来なかった存在がどうやって死ぬか。

 激痛に悶え苦しみ、太陽に焼かれたように死ぬ。それが鬼のなり損ないの末路。

 

 本来なら立って歩くことすら不可能だろう。

 平然とやっている継国縁壱は賞賛に値するが、これで確信に変わる。

 

 

「お前を童磨から観た時は幾らか存在しない神や仏を憎んだが、これでハッキリした。やはり神も仏もいはしない、目前で夢破れた気分はどうだ? 継国縁壱」

 

 鬼舞辻無惨は勝利を確信した。

 この男がしている行為はハッタリで、自分を逃がすためにわざわざ瀕死で現れ柱を存命させ次の機会までに牙を研ぐ。

 

 そこまでが継国縁壱の筋書きであると。

 

「お前も懲りない男だ。その出来損ないでなければ私を討てたかもしれないが、やはりお前は私を討てない運命のようだ。早くくたばれ生者にしがみつく亡霊」

 

「タダでは死なん。そしてこの男は出来損ないではない、我が剣をもって証明しよう」

 

 

 日の呼吸は『はじまりの呼吸』と呼ばれることが多々ある。

 歴代炎柱の記述でこの場にいる者なら一度は聞いたことがあるはずだ。

 

 竈門炭治郎然り、時透無一郎然り。

 この二人を知っている者ならば、一度なら聞いたことがあるだろう。

 

 何故日の呼吸が最強と呼ばれるのか。

 

 

 

 ならば何故竈門炭治郎が使っても最強とは呼ばれないのか。

 

 

 

 

 

 そもそもの前提が間違っている。

 

 

 

 日の呼吸が最強なのではない。

 

 

 

 

 

「──日の呼吸」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 継国縁壱が使うことこそが、日の呼吸が最強たる所以。

 

 

 

 

 

 

 残ったのは肉の焼けた吐き気のする異臭だけだった。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

「何故だッ! 何故お前が立ち私が伏せる! 亡霊如きが私の! 私のー!!」

 

「いつか聞いたな『命をなんだと思っている』と」

 

「巫山戯るな! 人間如き! 鬼のなり損ない如きが! 私を見下すなッ!!」

 

「何とも思わなかったんだろ、自身以外は」

 

「自分の命を守って何が悪い!」

 

「いや、悪くは無い。だがこの男は、この男だけは常に誰かの為に命を使っていた」

 

「だからどうした! そんな偽善者が何故私を殺す!!」

 

「分からないのか?」

 

 

 

「──数百年お前と話す機会を待ち望んだ……だが結果は……分かり合えないものだったんだな」

 

 

 既に鬼舞辻無惨は継国縁壱から致命傷を受けている。

 身体の活性ではなく崩壊が始まっていた。

 

「辞めろ! 止まれ! 私は不変を! 私は!」

 

「待ち望んでいたのだが、もうお前の声は聞きたくない」

 

 継国縁壱は赫刀を鬼舞辻無惨の眉間に突き刺し、顔面を割る。

 切れる音よりも、熱を帯びた鉄が肉を焼く音の方がよく聞こえる。

 

 身体の断面は最初こそ再生しようと必死に動いていたが、焼かれたことによって動くことすら出来なくなり諦め身体を付けることを止めた。

 

 

 継国縁壱は鬼舞辻無惨が塵となったのを確認してから大地に伏した。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

『ありがとう。これでようやく妻に顔向けできる』

 

「ああ、こちらこそありがとう。継国縁壱、爺さんと過ごした人生。なかなか悪く無かったよ」

 

 現実ではない、夢を見せられているのか。

 そんな事は些細な問題だった。

 

 初めて実物の姿で会うような気さえする。

 

 場所は山奥の我が家と似た場所。

 もしかすれば継国縁壱と縁のある場所なのかもしれない。

 

『もう会えるはずのない兄上と会えた、叶わなかった子孫と過ごすことができた、皆と交わした約束をやっと守ることができた。私の生前は失敗の連続だった』

 

『だがお前と過ごして、私は生前果たせなかったものを果たすことが出来た』

 

『お前には感謝しかない』

 

 その言葉に涙を堪える。

 生涯常に傍らにいた継国縁壱からの感謝の言葉、そしてこれからは傍らにはいない。

 

 そう考えた時、何故だか涙が出そうになった。

 

「……違うんだ……俺だよ……感謝って言うなら俺の方だよ爺さん!!」

 

「俺は何かを失うのが怖くて! 目の前で誰かが死ぬのが嫌で! それでも俺には力がなくて! どうすることも出来なくて! でも死ぬのが怖くて! 爺さんに頼ってばかりの人生だった!」

 

「本当なら鬼殺隊に入らずに鬼舞辻無惨を一人で倒すこともできた! もっと早く見つけることもできた!! でも一人が怖かったから俺にはそれが出来なかった!!」

 

「実弥も! しのぶも! 無一郎も! みんなが大事で! それを失いたくなくて初めて重たい腰を動かした半端者だ!!」

 

「爺さんのおかげで誰も死なずに済んだ! みんな助かった!! だから感謝するのは俺の方なんだよ!」

 

 涙は堪えられなかった。

 ずっと自分を押し殺して、悟った振りをして、受け入れた振りをして。

 死ぬことだって本当は怖い、痛いのは嫌だし、自分が死んだと思うと本当にどうしようもなく恐怖が湧いてくる。

 

『それでもお前は選んだ、私は何も成せずに死んだ。だがお前は違う、お前は良くやった』

 

 一頻り泣いたからか、爺さんにも移ったみたいだ。

 爺さんも少し泣いている。

 

 

 

 すると爺さんの後ろから、黒曜石(・・・)のような瞳をもつ女の人が現れた。

 

『縁壱さん、一人で寂しくありませんか?』

 

 その声に継国縁壱は懐かしさと共に、懺悔の念を抱いた。

 涙がふとした拍子に止まった。

 

 これは爺さんの言っていた顔向けのできない妻なのか。

 

『成すべきことは成しましたか?』

『ああ、全て終わった』

 

『なら帰りましょう、私たちの家へ』

 

『こう見えて私は寂しがり屋なんですよ』

 

 

 継国縁壱は泣いた。

 諌めるでも叱るでもない、継国縁壱の妻である『うた』は帰ろうと言ってくれた。

 

 出会った時とは違う。

 だがとても懐かしい。

 

『ああ、知っている』

 

 何年も待たせた。

 何十年も何百年も。

 

 一人で寂しがっていた女の子を、鬼に殺された妻を。

 

『怒ってませんよ、ただ寂しかっただけです』

『ああ、帰ろう。私たちのあの家に』

 

 2人は光の方へと歩き出した。

 真っ白で何も無い空間、2人は手を繋いで歩いていく。

 

 もう何百年も繋げなかった、その手を握って。

 

 

『……最後に』

「ん?」

 

『死ぬ前に伝えることは伝えておけ、私は死ぬ前にそうすることで意思だけは竈門家に繋いで貰った』

 

「……ああ、ありがとう爺さん。そしてさようなら、すぐそっちに会いに行くよ」

 

『さよならだ、私は首を長くして待っている』

 

 爺さんとうたさんは幸せそうな笑顔で歩いて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「……──」

 

 意識が覚醒した。

 隻腕から温かさを感じる。

 

「やっと起きましたか……」

 

 頬が湿っている、顔をあげれば涙の跡が胡蝶しのぶにはあった。

 

「もう、泣き疲れましたよ」

「すまない……」

 

「鬼を治す薬、漸く届きました。これを使えば──」

 

「無理だよ。俺は鬼になれなかった半端者だ、現に細胞が壊死し続けている。薬が効いたとしても鬼になる前に血を流しすぎた血が足りない」

 

「そんな……鬼なら治癒力があります! いくら半端といえ!」

「いや無理だよ、赫刀で焼いて止血したが再生をさせないほどの強烈な熱ではなかったのに戻らない。だからもう俺は死んだまま戦ってたんだ」

 

「なら血を飲めば! 私だって差し出します! 不死川さんだって稀血です! 禰豆子さんだって貴方の為なら」

 

「──しのぶ。もういいんだ」

 

 

「でも……でも…………」

 

 

 

「いつか最期の願いを言ったな」

「やめてください! 私は貴方に!」

 

「──優しく殺してくれ」

 

 枯れたはずだったしのぶから涙が零れる。

 もう出ないと、もう出さないと。彼の前では振る舞おうと。

 

「私にそれを頼みますか」

 

「痛いのは嫌なんだ」

 

 彼にはもう痛覚はない。

 握っている手も反応が無くなってきてる。

 

「本当に……なんでこんな人に私は──」

 

 爺さんの言葉を思い出す。

 言葉を残すべきだと。

 

 それが繋ぐ意思になる。

 

 覚めることのない希望となる。

 

 何百年もの時を経て、爺さんの願いは実を結んだ。

 

 なら俺も──。

 

 しのぶに伝えておかないと。

 

 爺さんとうたさんの様な。

 あんな風になれたらと……。

 

 

 しのぶと──。

 

 

「しのぶ」

「はい、なんですか?」

 

 

 言うんだ。

 そう思うほど彼女のことを思ってしまう。

 

 これから先、俺は彼女の隣を歩くことは出来ない。

 継国縁壱のように傍らにいることも不可能だろう。

 

 ならば意思だけでも……。

 

 

「……ありがとう。これで最後だ」

 

 言葉は出てこなかった。

 隣に立てない俺にはそんなこと伝えることすら出来なかった。

 

 爺さんの言ったことは正しいと思う。

 でも俺にも曲げられないものの一つくらいあったんだろう。

 

 

「馬鹿ですね……分かってますよ」

 

 何に対しての言葉だったのか、そんなものは分からない。

 しのぶの顔は眼前に迫り、口が塞がった。

 

 痛覚など飛んで温かさなど微塵も感じないはずだが、何故か少しだけ温かくなる。

 

 チラリと身体を見ると、注射器のようなものを刺されているのがわかる。

 

 それが鬼を殺す薬なのか、鬼を人間に戻す薬なのか。

 

 

 

 俺は知らない────。

 

 

 

 

 

 ーーーーー




完結です。
ありがとうございます。


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