流星の配信者 (メテオG)
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第一話

流星のロックマンが気付いたら10年以上前の作品になってて悲しみを覚えたので書きました。


 

 

─死にたくない、この場に居る誰かがそう呟き歩く。

 

 

 

 

───死にたくない、周りの他人を押し退け誰かが叫びながら走る。

 

 

 

 

─────死にたくない、全く関係のない誰かが泣きながら逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故こんな目に会わなければいけないのだろうか?ただ僕は家族と歌手のライブを見に来ただけだ、それなのに、何故。

 

 

「た、助け───ッ!」

「くそッ!退け!おれは死ねな─」

「ママーっ!」

 

 

何故、こんな人が炭へと変わる地獄の様な事件に巻き込まれなければならないのか。既に母は炭へと変えられた、今は泣きながら走る父に手を引かれてノイズから逃げていた。

 

 

 

─ノイズ、10年ほど前に国連が特異災害として認定した未知の怪物の名称だ。

 

ノイズは突如空間から滲み出る様に現れ、人を無差別に襲う得体の知れない化け物。どういう理屈なのか細かい事は知らないが、ノイズにはどんな攻撃も通じず、しかもこっちが触れたら人間を炭素の塊に変えるという能力を持っている。その化け物が今、このライブ会場を襲っていた。いつもならこんな人が多いところにピンポイントで現れるなんて有り得ない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。  

 

 

「大丈夫だ、大丈夫だからなスバル…!父さんが付いてる!」

 

 

恐怖で声が出ない、死が直ぐ側まで迫っている様な、気持ちの悪い感覚。走る足が震える、視界の焦点が合わない。きっと父に手を引かれていなければ歩く事すら出来ない。

 

 

それからどれだけ走ったのだろうか。僕ら二人の逃走劇はあっという間に終わりを迎える事になる。

 

 

上空から、ノイズが降ってきたのだ。

 

僕は降ってきたノイズに気が付いたが恐怖で声が出ない、父は気付いていない。…結果は目に見えていた。ぶちりと、父の着けていたペンダントが千切れる音が聞こえた。

 

 

 

 

その数秒後、父は炭に変わり果てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

中学生の頃。ふと気づけば、彼には不思議なものが見えるようになった。

 

 

それは端的に言えば電波。その流れとか色々なものを含めて、彼の目は電波を形有るものとして視認することが出来る。残念ながらON/OFFが利くようなものでは無いので時たま不便に感じるものの、二年も経つとその不思議な視界とも折り合いを着けることが出来ていた。

 

それに、彼にとってはその視界を得たお陰で色々と嬉しいこともあった。この二年で彼が以前の様に立ち直れたのは、間違いなくその特殊な視界のお陰だった。

 

そんな不思議体質の彼、星河スバルは今自室でぐーたらと布団の上でスマホを弄くりながらボーッとしていた。

 

 

『…おいスバル、お前また考え事してんのか?』

 

 

彼に声をかけてくる第三者。第三者といっても別に知らない人(?)ではない。

 

 

「ああ、ごめんねロック」

 

 

赤く鋭い目付き、触れたものを全て切り裂きそうな大きな爪。それに見合った、獣じみたという言葉がとても良く似合う、青で統一された大きな身体。一番の特徴は彼の身体が全て電波で構成されている、という所だ。

そんな彼の名前はウォーロック。本人曰く宇宙人、らしい。確かに電波体なんていう特殊な身体なら宇宙人でもおかしくなさそうだが。

 

 

『そいや、今日はハイシンはしねーのか?』

「いや、今日の配信はどーしよっかなーって。これからバイトだし」

『んなの!いつも通りノイズをぎったんぎったんにしてりゃいーだろ!?』

「そんな毎日ノイズが出るわけないでしょ。ただでさえ最近はトッキブツの人たちに目着けられてるわけだし」

 

 

星河スバルは配信者である。といっても、然程有名な訳でもない。だが彼の配信は回を超すごとに視聴者が増えている。というのも彼らの行う配信の内容が彼らにしか出来ないであろう、相当特殊なものであり、それが注目を集めているのだ。

 

『ノイズ狩り』。それが彼らが配信で扱っている内容だ。

 

 

「それに最近アカウント宛に色々とちょっかいかけてくる人たちがいるし…」

『そりゃノイズを倒せるんだ、そんくらいあるだろ』

「分かってるよ。でもそれが一時間に何十回もあるとさぁ、こう、メンタルがね…目に見える分余計に嫌なんだよね」

『難儀な体質だな』

「他人事だと思って」

 

 

ノイズ、それは触れた生物を強制的に炭素の塊へと変え分解する異形の化け物。それが生物なのかは不明、一つだけ確かなのはそれが特異災害として人類を脅かしているということ。

 

そして、通常物理法則下にある物理的破壊力を減退、もくしくは無効にする『位相差障壁』と呼ばれる力をもっている。…分かりやすく言えば、今現在量産されている人類の兵器ではノイズを撃退できない。

 

だからこその特異災害。ノイズが現れれば人は逃げるしか出来なくなる、触れられてしまえば死ぬのだから。そしてノイズは人のみを狙う、だからこそノイズは人類の天敵なのだ。

 

彼らは、それを『狩り』と称して撃退している。つまりは今語ったノイズの持つ『位相差障壁』を突破することが出来るのだ。埒外の法則を同じ様に埒外の法則で打ち破る、ましてやそれを配信という不特定多数の人間に見える形で流す、というのは。それが真実であろうと無かろうと人の目を惹くものなのだ。

 

 

「うわ!ほら噂してたら端末に!!ロック!!」

『しゃーねぇなァ』

 

 

彼のその言葉のすぐ後に配信用の端末の画面が乱れる。混乱する彼を尻目に、仕方無さげに彼の隣に佇んでいたウォーロックが端末に入り込んだ。

 

 

「ど、どうロック…?大丈夫?」

 

 

さっきまで死人のように動かなかった表情筋がヒクヒク、と怯える表情になるよう動き、端末に入ったウォーロックへ心配の声を挙げる。すると、乱れていた端末の画面にドアップのウォーロックの顔面が映る。

 

 

『別に大丈夫も何もねぇよ、いつもみたいに雑魚ばっかだ。ケッ、もっとこう張り合いのあるウィルスを送ってくれねぇもんかね』

「ちょっとロック冗談でもそう言うこと言うのやめてよ…いくら僕の端末じゃないからって使えなくなったら困るでしょ…」

『お前は割と人情味ねぇよな』

「失礼な」

 

 

彼らがそんな事をしていると、先ほどまで彼が弄っていた彼のスマホが震える。どうやら電話のようだ。

 

 

『誰だ?』

「店長みたい。どうしたんだろ、まだシフトの時間じゃないし…」

『とりあえず出てみろよ』

「そりゃね」

 

 

電話先は彼のバイト先のCDショップの店長。普段連絡なんてしてくるような人ではないので、彼は少し不思議に思いながらも電話に出る。

 

 

『スバルくんかい!?今君どこに居る!?』

「…?まだ家ですよ店長、そんなに焦ってどうしました?もしかしてシフトに穴でも空きました?」

『今こっちの方はノイズの避難勧告が出ている…というわけで今日はシフト無しだ!!というわけで僕も早く逃げなきゃならないんでね!失礼するよ!!』

 

 

プツン、と電話が切れる音。その背後で、いつの間にか端末から出てきていたウォーロックが凶悪な笑みを浮かべて彼の肩に手を置いた。

 

 

『行くぞスバル。バイトも無くなったしノイズも出た、行かねぇ理由はないよな?』

「いやうん、そうなんだけどさ…」

『運良くお前の部屋にはウェーブホールがあるよな?』

 

 

ウォーロックが部屋の隅を指差す、そこにはオレンジの大きな渦巻きが。どうやらそこは電波溜まりのようで、彼はそこを見て大きなため息を吐いた。

 

 

『お前だって見知った人間が死ぬのはやだろ?な?』

「…分かったよ、行こう」

『そう来なくっちゃな!』

 

 

ようやく布団から起き上がる彼、そのまま部屋着のジャージから外出用らしい適当なTシャツに着替え、ウェーブホールの真ん中に立つ。

 

 

「電波変換。星河スバル、オンエア」

 

 

スマホを天に掲げ呟けば、ウォーロックが彼の身体に覆い被さるように重なる。瞬間、閃光。目映い光が部屋中を包みこむ。暫くして光が晴れると、その部屋にはもう星河スバルとウォーロックの姿は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ電波体はいいねぇ、身体が羽みたいに軽いよ」

『まあ地球人に比べたらそりゃな』

「ところであとどのくらいで着きそう?急いで飛び出したから道分かんないんだよね」

『…スバル!お前オレのことカーナビかなにかだと勘違いしてんじゃねぇのか?』

「んなこたぁないよ。で、あとどんくらい?」

『…ケッ、あと三十秒もせず着くだろうよ!』

「ありがとう、ロック」

 

 

空に伸びる電波の道を駆ける彼。…いや、それは彼、星河スバルと呼ぶのは相応しくない。そもそも姿から既に星河スバルとは別物だ。一言で言えばウォーロックの鎧、それに身を包んでいるとでも言えばいいのだろうか。どこかのSF映画の戦闘スーツの様な服のような、タイツの様な何かが全身を覆い、肩や腕、胸だとか脚を守るように鋭角なデザインのアーマーが。顔は此方もまた鋭角なデザインのヘルメットに守られており、目元は赤いバイザーで誰だか分からない。面影が残っているのはそのトサカの様にとんがった毛髪くらいだろうか。

 

その中でも一番目を惹くのがその左腕、そこには拳よりも一回り大きなウォーロックの頭部。しかも喋る。この姿こそが、星河スバルとウォーロックが融合し変身した姿。ロックマンである。

 

 

「んじゃ。そろそろ配信開始しようか」

 

 

彼──ロックマンが手慣れた様子でヘルメット横の耳当てに手を当てる。すると、彼のバイザーに配信サイトの画面が薄く映し出される。どうやらバイザーはスクリーンとしても使えるらしい。そしてかちり、と配信開始のボタンが押された。

 

 

「おっすおっす。お前ら待ってた?」

 

 

メットール生放送

METOOL LIVE

わこつ    お前の配信を待ってた

でたわね         またノイズ出たんか        待ってた、はよ助けて

わこつ 

なんだこいつ       ←お、初見か?まあ肩の力抜けよ

      最初から人多いな

 

 

(ノイズ狩りの)やべーやつ                 特定まだー?

 

マジでロックマン何者なん?

どーせCG

↑ワイも最初はそう思ってました…

    

青タイツのド変態ちゃうんか?          助けてロックマン!!!!

                       

 00:00 ))────
□ ↸⚙️

  コマンド    コメント       コメント

 

 

 

 

「相変わらず賑やかだね。とりあえず今日は■■町のノイズを狩っていくよ」

 

《どこ?》《さっきノイズの避難勧告でたところだべ》《マジ?》《たすけて》

 

 

バイザー越しに大量に流れるコメントを眺める彼。ふう、と一息つくとまたヘルメットの耳当てを弄り、コメントをOFFにした。

 

 

「行くよ、ロック!」

『応よッ!』

 

 

それと同時にノイズが現れてるという現地に到着、電波の道から飛び降りノイズが居るであろう方向へと飛び出していく。そうすれば直ぐに逃げ遅れたであろう民間人を襲おうとするノイズが彼の視界に入る。

 

 

「バトルカード、ソード」

 

 

視界に入れば彼はウォーロックの口に何かを突っ込んだのち、ウォーロックの頭をノイズの方に向け、そのまま加速し突進していく。その加速力は異常で、50mほどあった距離を一秒も経たずに0にした。そしてぶつかる寸前、ウォーロックの頭部がエネルギーの刃に姿を変え、それをノイズに向かって振り下ろす。

 

 

「へ…?」

 

 

ノイズはロックマンが接近していた事にすら気付けず塵に変わり果てる。それを目の前で目視した民間人の女性は、何がなんだか分かっていない様だった。

 

その様子から、どうやら彼女には彼の姿の一切が見えていないようだった。彼女からすればいきなりノイズが消失したわけで、動揺も当然である。

 

 

「ロック、次行くよ」

 

 

彼は助けた女性など居なかったかの様にその場から移動し、次の獲物を見つければ、姿を戻したウォーロックの口にまた何かを(ほう)った。視界の先には十数体の様々なノイズ。普通の一般人からすれば生きるのを諦めるのには十分な数だ。

 

 

「バトルカード、デスサイズ1」

 

 

石ころ程の大きさの鎌が彼の右手の中に出現、それをノイズ達へと放り投げる。鎌は回転しながらノイズ達に近づくと、2m程の大きさへと巨大化、巨大鎌は何の抵抗もなくノイズ達を全て切り裂いていく。

 

 

デスサイズ1(もういっちょ)

 

 

次は空に滞空して機を狙っていた鳥型ノイズ数体に巨大鎌を。たった二度の攻撃で、周りのノイズは全滅していた。

 

 

「…ロック、あと何体?」

『今回は数が少ねぇみたいだな、あと五体くらいだ。ただ出現場所がマチマチだ』

「そりゃ面倒臭い」

『にしても戦いがいがねぇな…』

「数が少ないのは良いことでしょ?犠牲者が減るならそれに越したことはないと思うし」

『へっ、そうかよ。つーかコメント見なくていいのか?結構盛り上がってるみたいだぜ』

「…あ。そういやコメント切ってたね」

 

 

残りのノイズの位置をどうやったのか察知しているらしく、ビルを飛び越え迷いなく目的地へと進んでいく。その途中、耳当てを軽く弄りバイザーにコメントを映す。

 

 

《やはり鮮やか》《手慣れたノイズの処理…》《ビューティフォー…》《もはや作業》《助けた人に目もくれないの怖いわ》《←普段の配信はもっと明るいぞ。ノイズ狩りの時だけこんなになる》《ノイズだけを殺すロボットかよぉ!》《なんでこいつニュースとかで取り上げられないんだ?》《一般人には見えないからでしょ。》《なんでノイズ倒せんの!!!??合成?CG??》《合成だとしてもクオリティが鬼、というか》

 

「さて。ノイズも残り五体くらいになったみたいだし、多分あと少しでこの配信も終わるよ。具体的にはあと五分くらい」

 

 

喋りながらもウォーロックの口にまたまた何かを突っ込み、ウォーロックの頭部を先程のようにエネルギーの刃に切り替える。どうやら、目標を見つけたらしかった。

 

 

《一体一分の計算なんですがそれは》《むしろそれより早く終わるまである》《なんでお前らそんな慣れてるんだよwおかしいだろ》《半年も見てたらこーなる》《まあロックマンだもんな…》

 

「…今日の君らやけに反応悪いね、いつもならもっと否定的なあれこれが出るのに。悪いものでも食べた?」

 

 

話ながらも大道路のど真ん中で人を襲おうとしていた葡萄型ノイズに接近していき、後ろから横払いの一閃。消滅を確認した彼は何事も無かった様に次の獲物の元へと走り出す。

 

 

「残り四体。戦いながらフリートークするのは厳しいから昨日の配信で集めた質問に答えとくよ」

 

 

彼がそう言うと、彼の顔の斜め右横に透明な板の様なもの、ポップアップが表示される。

 

 

「まず一個目、《なんでノイズに触れても大丈夫なの?》。電波は炭にならない、つまり僕も炭にならない」

 

《早速わけわからん》《ロックマンは電波だった…?》《いや確かに発言は電波だが》《つまりどういうことだってばよ》

 

「次。《ノイズの位相差障壁を無力化してるのはどういう原理か?》。…ラジオの周波数を合わせてるみたいな感じかな?位相差障壁って文字通り位相…存在比率をずらして攻撃とかを無力化してるんだ。つまりこれ、こっちが相手の位相に合わせれば攻撃が当たるんだよ」

 

《急にハキハキ喋るな》《別人かの様に喋りはじめて草》《はえー…ノイズってそんな不思議なもん持ってたんすね》《位相を合わせるって簡単に言ってるけど、それが出来ないからノイズは特異災害なんだが??》《位相ってそんな簡単にずらせるもんなの…?というか位相って何》

 

「別に不可能なわけじゃないよ。元々ノイズがこっちに干渉する時はノイズ自体の存在比率を僕ら側に合わせるために増やさなきゃいけないわけ。つまり此方から合わせなくてもあっちの存在比率を弄れれば攻撃は当たるようになるよ」

 

《ほならね、やってみろって話ですわ》《そもそも存在比率とか位相差障壁がわからん。教えてエロい人》

 

「んー…とりあえず位相差障壁について知りたかったら櫻井理論を読むことを勧めるよ。小難しい単語が多いけどそれさえ解ればかなり分かりやすいし」

 

《まーた新単語》《櫻井理論とか聞いたこともないが》《ロックマンはそういう筋の方なん?》《こいつ学深いな》《というかこんな話してる内にノイズ三体倒してるのは誰も突っ込まないのか…》

 

「あと一体だね。コメントの通り五分も経たずに終わりそうだ」

 

 

こんなにもベラベラ話しているというのに、彼は一切ノイズ撃破の手を緩めなかった。ウォーロックの頭部を幅広のエネルギー刃(ワイドソード)だとか砲身(キャノン)に変えながらあっという間にノイズを残り一体にまでしてしまった。

 

 

「んじゃ、時間的にも最後の質問。《ノイズを倒すのは何故か?》。憂さ晴らし三割、ガス抜き六割、私怨一割かな」

 

 

そう言いながら、ついに最後のノイズを手にかける。

 

 

「んじゃ今日はここまで。次は料理配信でもやるよ」

 

 

そう言い終わると同時に配信を切る。それから彼はふっとため息をついて、背後に視線を向けた。どうやら、何か居るらしい。

 

 

「…ということで出てきても大丈夫だよ。トッキブツのシンフォギア」

「と、トッキブツ…?良く分かりませんけど、まず話し合いませんかロックマンさん!」

「相変わらず君はかしましいな、立花響」

 

 

現れたのは、独特の、端から見れば何かのコスプレ衣装にしか見えない様な衣装───FG式回天特機装束、通称シンフォギアに身を包んだ、一人の少女だった。

 

 




オリ主なスバルくんはもし家族やブラザーが居なかったら。みたいなイメージで作りました。つまりひねくれ者ですね。


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第二話



一話だけでUAが900越えて評価バーに色がついてました…。ありがとうございます…(震え声)
しかも今日の朝頃ルーキー日間にも乗ってたみたいで。いや本当に読んでくれてる皆様ありがとうございます…!


さて話を変えまして。とりあえずあらすじにはシンフォギア一期と書いてありますが大体何話か気になる方も、もしかしたら居るかもしれないのでここに書いておこうかな、と。今回の話で一期四話と五話の間くらいのイメージです。具体的には五話の前日です。

前書きが長くなりました、では本編どうぞ。


 

 

 

 

 

 

「ロックマンさん!」

「…何かな、僕は君に用は無いんだけど」

 

 

夕暮れの人気が無くなった商店街。いつもこの時間帯の商店街は活気立って人が数えきれないほど居るのだが、いまはそれが嘘の様に静かで、人の代わりにあるのはノイズが消え去った後の炭。人はここに二人しか居ない。

 

商店街の路地から現れたのは特異災害対策機動部二課所属、立花響。纏うはSG-r03 Gungnir(ガングニールのシンフォギア)。路地から現れた彼女を苦々しい顔で見つめているのはロックマンこと星河スバル。

 

 

「私とロックマンさんって前に会ったことありませんか!!?」

「…へ?」

 

 

いきなり突飛な事を聞いてきた彼女に、思わず肩の力が抜ける彼。何を言ってるのだろうか、口には出さなかったが彼はそう言いたい気持ちで一杯だった。これを通信越しで聞いている二課の面々も同じ気持ちだった。因みに、彼女は二課からロックマンの確保、又はノイズを倒す目的や敵意の有り無しを聞くよう言われている。明らかにこの質問は…あれだった。

 

 

「無いよ…僕らはこれで会うのは三度目。君の勘違いだ。そもそも何処で出会うって言うんだ」

「二年前の、ライブ会場!覚えは無いですか!?」 

「…無い」

「私は貴方を見たことがあるんです!あの崩れてくライブ会場で、奏さんと…」

「しつこいよ、無いって言ってる」

 

 

それ以上言わせたくないのか、彼は話を遮る。そしてため息を一つ吐いて、また何処からともなく取り出したチップ、のようなものをウォーロックへと放る。

 

 

「バトルカード、インビジブル」

 

 

彼の身体が段々と透明に近付いていく。彼の数少ない逃走の手段である。元々ノイズを狩るという目的は果たしていた、ここに居る旨味はないのだろう。

 

 

「待って!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいのか?スバル、さっさと逃げてきてよ』

「…うん」

 

 

逃走したあと、恐ろしいスピードで家へと帰宅した彼。電波変換を解除すればしょぼくれた顔で自分の部屋、布団の枕に顔を沈めて項垂れる。その様子はどこからどう見ても疲れきっていた。

 

 

「いや、だって。立花さん、相変わらず話聞いてくれないし。僕は別にあっちと仲良くする気はないんだ…それにしてもずるいよ、なんで歌を歌うだけで僕が見えるようになるのさ…」

『はぁ。どーしてこうロックマンの時と性格が変わるのかね、お前は』

「あれはキャラ作りだよ。少しでも星河スバル=ロックマンに繋がる可能性は減らしたいし」

『んなことしなくてもバレねーだろ』

 

 

ウォーロックが呆れた口調で彼に言う。確かにウォーロックの言う通りでもある、と彼は口には出さないが心の中で頷く。どうやら彼にはそれでも不安が拭えないらしい。

 

 

「やっぱ勢いで物事を始めるのは良くないって分かるね…」

『後悔すんのが遅すぎるだろ…つーか、別にハイシン辞める気もないんだろ?』

「…まあ」

『じゃあうだうだ悩んでても仕方ねーだろ、バレずにハイシンを続けるだけだ』

 

 

ぐうの音もでない、というのはこう言うことを言うのだろう。実際彼はウォーロックのその言葉に何も言い返せないでいた。ロックマンの時は彼の方がウォーロックをあしらっていたが、今はその真逆だ。なんというか、先程までとは完全に別人だった。

 

 

「…お腹減ったからなんか食べる」

『つっても買い置きねーだろ。昨日暴飲暴食したから』

「あ"あ"あ"…そうだったっけ…じゃあコンビニ行こう」

『まだ夕方だぞ、コンビニじゃなくてスーパーでもいいんじゃねぇか?』

「そうかな…」

 

 

気だるそうに布団から起き上がる彼。服装は先程家を出たときと変わってないので着替える必要はない、彼はスマホと財布だけ持って家を出る。勿論行くのはコンビニだ、彼曰くこの時間帯のスーパーは人が多くて苦手らしい。

 

 

『スバルはマジでトッキブツと会った後は金遣い荒いよな』

「会うだけで怖いからね。下手したら取っ捕まって身バレだよ?そんな危機を乗り越えたらそりゃ金遣いも荒くなるよ…またバイト入れなきゃ」

『太るぞ』

「うるさいやい」

 

 

軽口を叩き合いながらコンビニまでの道すがらを歩く彼。因みに彼の家からコンビニまで徒歩十分、その間他人から見ると彼は虚空に話しかけ続けている様に見えるので、相当引かれていた。そんなことを気にする彼では無かったが。

 

 

「…うわ」

『?どうした、スバル』

「嫌なものが見えた」

『は?』

 

 

思わず近くの電柱に身を隠し、指を指す。そこには、先程会ったばかりの少女、立花響とその友人と思わしき黒髪の少女の姿があった。

 

 

「小日向さんも一緒か…こっからリディアン寮は近くないはずなのにな…」

『右のはあれだろ、さっきのシンフォギア。その隣のは知らないが…もしかして知り合いなのか?』

「あー…そういえばロックに話したこと無かったっけ。あの二人、ロックと会う前まで良く話してた人たちなんだ、一応」

『へぇ…話しかけねぇのか?』

「意地悪言わないでよ。あっちだってそんな事望んじゃいないさ」

『へえ、そりゃまた。…でもよ、ロックマンの時は全然話しかけてるじゃねーかよ』

「あれは別に話しかけてる訳じゃないよ!それにロックマンの時はこう、僕であって僕じゃないというか…」

 

 

ウォーロックの意味深げな視線を受けながら彼は来た道をUターンしようとする。戻ってもコンビニがあるわけでもないのだが、相当彼女達に近付くのが嫌らしい。

 

…さて、だがしかし。あんなにも周りの目を気にせずに大きな声で虚空に語りかける彼が、果たして声量を抑えているとお思いだろうか?答えは否だった。彼は気付いていなかったが、二人の片割れ。小日向未来は彼の方をチラチラと見ていた。

 

 

『おいスバル』

「なにさロック、大丈夫これからロックの言う通りスーパーに行くよ、無駄遣いはいけないもんね」

『そうじゃねぇ。後ろ見てみろ』

 

 

はて、と後ろを振り向く。彼女達は完全に彼に気付いていなかった。

 

…何故ウォーロックは声をかけたのだろうか、そう思っている最中。ウォーロックが小石を握っていた。電波体といってもある程度は現実に干渉できる。彼は非常に嫌な予感がした。ウォーロックはニヤリと笑って、その握った小石を抜群のコントロールで彼女達の足元に転がすように投げた。

 

いきなり足元に小石が飛んできて驚く二人、自然な流れで彼女達の視線が小石が来た方向に向く。そこには当然彼がいる。

 

 

「…スバルくん?」

 

 

「ロォォォォックッッ!」

『お前は人と関わることを覚えた方がいいと思うぜスバル』

 

 

声をかけてきたのは当然彼が話題に出してた人物の一人、立花響である。いきなり怒鳴った彼に驚いて後退るものの、躊躇わず彼に近づいていく。それに比例して、どんどん青ざめていく彼の顔。その青ざめ方は、気分が悪くなっていると言うよりは、何か近付いてくる彼女に後ろめたい事があるような顔だった。

 

 

「ひ、久しぶりだね!元気だった?」

 

 

ぎこちない笑顔で立花響が彼に問いかける。恐らく彼女を知っている人間が今の笑顔を見たら違和感を覚えるのだろう、彼女は普段なら花の様な暖かな笑みを浮かべる人間だ。その彼女が、旧友に不自然としか思えないような笑みを浮かべている。彼女の後ろの小日向未来がやってしまった、と言わんばかりの顔をしていた。彼女と彼には、何かがあるらしい。

 

 

「──っ」

 

 

ぴしり、と彼の顔がヒビが入ったかのように固まる。ロックマンとしてならば彼女と話す時はもっと饒舌に、皮肉を織り混ぜながらでも話せると言うのに。星河スバルのままでは、言葉を吐き出すことさえも出来ていなかった。

 

 

「わ、私スバルくんに会いたかったんだ!ほ、ほら!あの日以来全然会えなくて、話も出来なかったでしょ?だから…」

 

 

残念ながら彼女の言葉は彼には届いていなかった。彼の頭の中は逃げ出したい、その感情で一杯だった。しかし逃げ出していいのかも分からない。彼の小心者な部分が完全に爆発していた。彼女も彼女で、彼の顔が青ざめているのに全く気付いていない、というか彼の顔を見て話せていない。完全にテンパっている。

 

…誰が見ても分かるような悪循環がここに生まれていた。

 

 

「それで、あの、私、スバルくんに謝りたくて───」 

「ひ、響!」

 

 

彼女がテンパりながらも必死に伝えたかったことを伝えるその寸前で、今まで黙っていた小日向未来が止めに入る。

 

 

「響!ちゃんとスバルの顔見て!」

「み、未来…?」

 

 

彼女の肩を掴み、冷静に彼の顔を見るように諭す。小日向未来は、この現状を不味いものと捉えたらしい。それは正しかった、親友の言葉を聞いた彼女は、初めて彼の顔を直視した。その顔は先程よりも青く、まるで死人の様に青ざめていた。それを見た彼女の顔も連鎖するように青くなっていく。

 

硬直。それを見かねたウォーロックが、彼の肩を軽く揺らす。するとその刺激でハッと正気に戻った彼、同時に顔を下げて彼女達に背を向けて走り出す。

 

 

「ごめん」

 

 

最後にそう言い残した彼へと彼女は思わず彼に手を伸ばしかける、だがそれを小日向未来が止める。彼は全く見ていなかったが、ウォーロックがそれを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来とコンビニにお菓子を買いに来てただけなのに、どうしてこんな事になったのだろうか。

 

 

「う、あ…」

 

 

彼のあんな顔は見たくなかった。私は何か間違ったことをしてしまった?何を間違えた?そんなネガティブな考えがぐるぐると回る。

 

 

「響!大丈夫?」

「み、く…うん、大丈夫だよ…」

 

 

嘘をついた。すぐにバレるような嘘を。また未来に嘘をついてしまった、罪悪感が湧いてくる。

 

 

「…スバル、どうしたんだろうね。まるで別人だった」

「うん…」

 

 

未来はスバルくんと一番付き合いが長い。私が未来と出会った時には既に、スバルくんは未来と友達だった。最初の頃は呼び捨てで呼ばれているスバルくんが羨ましかったんだよね、なんて事をどうしてか今思い出した。

 

 

「…ほら!行こう?コンビニでお菓子、買うんでしょう?」

 

 

この場に居てもどうにもならないよ、暗にそう言ってくれている未来は私の手を優しく包んで歩き出す。私もそれに釣られて足を進める。歩くペースは思ったりよりも早め、やっぱり、未来も久々にスバルくんに会ったから、私ほどじゃないにしても動揺してるのだと思う。

 

…スバルくんがいきなり転校して、私たちの前から何も言わず姿を消して二年が経とうとしている。その時彼を一番心配していたのは未来だった。未来はそれを表に出そうとは絶対にしなかったけど。

 

 

「大丈夫だよ響、きっとまた会えるから」

「え?」

 

 

未来がいきなりそんな事を言った。

 

 

「響、何かスバルに話したいことがあるんでしょ?」

「う、うん」

「響がスバルに何を言いたいのかは分からないけど、スバルならきっと聞いてくれるから。今日はきっと体調が悪かったんだよ」

「そう、なのかな」

 

 

違うんだよ未来、そう言いたかった。きっとスバルくんは私が嫌だったんだ、私があの時あんな事を言ってしまったから。彼の心を傷つけてしまったから。苦々しい思い出が私の脳裏に過る、忘れたくて首を振るおうとしたけど、これは忘れちゃいけない事だからとそれを抑えた。

 

 

「でも、また会えるかなんて」

「会えるよ。だってここでばったり会ったって事はここら辺に住んでるかもしれないんだよ?」

「えー」

 

 

確かに、とも思う。スバルくんはあんなにラフな格好で遠出するような性格じゃない、むしろ家から近い時にするだらしなさだ、あれは。

 

 

「ね?だから大丈夫」

「…そうだね!」

 

 

未来がそう言ってると、確かにそうかもと思ってしまう。きっとまたチャンスはある、その時こそ!諦めちゃいけないもんね!

 

 

「よーし!未来!コンビニまで競争しよう!」

「なんでそうなるの!?」

 

 

…それでも、晴れない気持ちも少しはあった。あとで師匠に夜も修行出来るか聞いてみようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







一話投稿が土曜の1時で今が日曜23時…つまり日間投稿だな…。早めに投稿出来るように頑張ります。あと文を書くのって難しいです。上手い文章が書きてぇ。


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第三話



さっき確認したらUAが1話の倍以上延びてました…。いや、どういうことなの…??しかも評価バーがオレンジでぐんと伸びてるんですよ!!!!
まさかと思い日間ランキングに飛び込むと居ました、この作品が。71位でした。

皆様本当にありがとうございます…!!流星のロックマン、どうしてもマイナーだから伸びないと思ってました…これからも皆様の期待に添えるよう頑張ります。



あと今回流星のロックマンを知らないと分からない場面があるやもしれません、申し訳ない。勿論今後の話で説明とか入れますが、もし待てなかったら流星のロックマン2を買ってプレイしてください。やったらなんとなく分かるかと思います。

また前書きが長くなりました、では本編をどうぞ。



 

 

 

 

 

 

 

「はい、今日はロックマンの料理配信だよー」

 

《マジでやるのか(絶句)》《その左手じゃ何も出来ないのでは…??》《ノイズの料理配信とかじゃなくて良かった》《わこつ》《というか台所汚いな》《ロックマンも普通の暮らしなんだな…》

 

 

彼が立花響と小日向未来の目の前から姿を消して1日が経った。逃げた後の彼は何事もなかった様な顔をして今日も今日とて配信を開始している。今日はどうやら、昨日の配信で言ってた通り料理配信の様だった。当然ロックマンの姿である。ウォーロックはあり得ないものを見る顔をしていた。

 

 

「うるさいぞ君たち。食材はロックの顔で押さえればいいだろ」

 

《悪魔か???》《相棒の顔をなんだと思っているのか》《お前左手の表情をよく見ろよ》《ロック(仮)がかわいそうだろ!》《で何作るの?》《というか料理出来んのか》

 

「出来るに決まってるでしょ。というわけで今回はカレーを作ってくよ。材料は目の前に置いてあるから」

 

 

視聴者が思っていたよりも手際よく、彼は調理の準備を終えて調理を始めていく。やはり二年も一人暮らしをしているとある程度の自炊は出来るらしい、つまらない、なんてコメントも度々見える中。あっという間に調理行程の半分を終わらせた。後は煮込むだけである。彼はやりきった、という顔だが、ウォーロックは半比例して疲れきった顔である。

 

 

「これで僕の二週間分くらいの食事です」

 

《どうりで量が多いと》《二週間カレーとか食生活狂っとんのか》《そいや今日はノイズ狩らないの?》《一人暮らし特有のそれで笑う》《そりゃそんな大きい鍋なら二週間はあるだろう》《草》

 

「カレー三昧は楽しいぞ。…あとノイズ狩りはノイズが出てないのでやらないよ。というかそもそもノイズが出ない事に越したことはないからね。僕としてはいつももう二度と現れるなと思ってるし」

 

《ホントか?》《何も信じられない》《調理中に効率の良いノイズの倒し方を語っていた人物とは思えない発言》《嘘はよくないぞ》《今さらだけど今のロックマンて料理してる青タイツの変態だよな、手しか見えてないけど》

 

「本当ならもう少し配信を続ける予定だったんだけど、米を炊いてないし買ってない事に気付いたので今日はここまでということで。じゃあね」

 

 

やってしまったな、そう言いたげな表情で彼は炊飯器を眺めながら配信を止める。何故米を買ってないのか追及するコメントが多く流れていたが彼は気にしていなかった。電波変換を解除して、ウォーロックに一言謝ったあと外出の支度を始める。

 

 

『おいスバル、メールが届いてるぜ』

「メール?僕に?…迷惑メールとかじゃなくて?」

『どうやらこの町のデンパからみたいだ。俗に言うHELPメールってやつだな』

「ああ、最近デンパくん達の間で流行ってるあれだね」

『どうする?行ってやるか?』

「うん。ここら辺のデンパくんには昔お世話になったから。ちゃんと恩を返したいんだ。そのついでにお米を買おう」

 

 

彼が珍しく、柔らかな笑みを浮かべる。デンパくん、というのはウォーロックと同じように意思と感情を持った電波の事だ。基本的に皆同じ見た目で区別がつきにくく、世界中に溢れるほど存在していたりする。電波があるところには必ず居ると言っても過言ではない。メールとかを運んでくるのもこのデンパくんであり、この時代にとって欠かせない存在だ。

 

彼自身もこの町のデンパくんに引っ越した当初大分助けられたことがあるようで、まるで旧友に会いに行くかのように少しウキウキしながら家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそッ、どうなってるのロック!!?」

『ありゃオーパーツみたいなもんだ!!聖遺物、だったか!!?そん中でも相当ヤベェぞ!こっからでもバシバシ嫌な電波が飛んできやがる…!』

「このままだと!?」

『良くてあそこの工場地帯が吹っ飛ぶ!!』

「最悪は?!」

『…考えたくもねぇな!!!』

 

 

工場地帯へと入るための鉄橋、その上をママチャリで全力疾走しているのは額から大量の汗を流している彼だった。しかしそれよりも目を惹くのは彼の行く道の惨状だ、酷く焦げて折れ曲がったガードレール、ノイズが消えたのであろう炭の跡、そして歪みに歪んで横転している黒い車。

 

更に視界の先には遠いせいで豆粒の程の大きさにしか見えないが、確かに光を放つ剣の様な物が上空に浮いている。あれこそが、ウォーロックの言っている聖遺物、というものなのだろう。

 

明らかに、彼は危険に首を突っ込もうとしていた。

 

彼の目的地はとある薬品工場。ウォーロックの導くまま、お祭りとかで売ってそうなお面を顔につけて愚直に自転車を走らせる。このままのペースなら五分も経たずに目的地に到着するが、それでは完全に間に合わなそうな雰囲気を彼は感じ取っていた。

 

 

「あ"あ"あ"あ"身バレじだぐな"い"ぃぃぃ!!!」

『んな事言ってる場合か!!?』

「だっ"で!!」

『泣くなバカ野郎!!』

「なんでこう言うときに限ってウェーブホールが無いんだ!!」

 

 

彼にとって危険に首を突っ込むイコール身バレの危機である。なので、本来ならこんな危険な場所に行くならロックマンに変身してから行くのだが、今回はそれが出来なかった。

 

というのも、彼が言っている通り、ロックマンに変身するために必要な電波溜まり…ウェーブホールがこの辺りに一切存在していないようで。しかも日頃運動なんてしていないので、この全速力で何十分も自転車を漕ぐという行為に身体が完全に追い付いていない。その鬱憤を晴らすかのように泣いて叫んでいるのだろう。それにしてもみっともなかった。

 

最初は仕方なくウェーブホールが見つかるまで自転車で移動しよう、なんて言っていたのが既に目的地のほぼ目の前に来てしまっている。せめてもの身バレへの抵抗でお面をつけているが、意味があるとは思えない。

 

 

「…改めて聞くけど、これ間に合うのロック!!?」

『…ウェーブホールが見つかれば』

「ここまで自転車走らせて間に合いませんでしたはシャレにならない!!!道中SPっぽい人とか監視カメラ潜り抜けるの大変だったんだよ!?」

『けっ、知ってらぁ!死にたくないならウェーブホール必死に探せや!』

 

 

何故こんなことになったのか、と問われれば偶然と彼は答えるだろう。事の始まりはデンパくんの悩み事を解決したあとの買い物途中。少し遠くのスーパーまで買い出しに来ていた彼とウォーロック。その途中でウォーロックがヤバい電波をこの先から感じる、なんて言わなければ彼はここまで自転車を走らせなかっただろう。

それもこれもウォーロックの言葉を信じていたからこそ、自信家のウォーロックが《ヤバい》なんて表現を使うのは、相当危険な証拠でもある。

 

 

「あった…!」

 

 

彼がどうすればいいか思考を巡らしている最中、鉄橋の道端にウェーブホールを発見する。渡りに船、とはこの事を言うのだろう。迷わず彼は減速することなく、むしろ自転車を加速させてウェーブホールへと突っ込んでいく。

 

 

「電波変換!星河スバル、オン・エア!」

 

 

電波変換直後特有の閃光、そして乗り手を無くした自転車がそのままバランスを崩して道路へ倒れこんだ。そしてその丁度真上には、ロックマンへと姿を変えた彼が電波の道であるウェーブロードに立っていた。

 

 

「このまま工場に突っ込むよ、ロック!」

 

 

止まっている時間などない。視界の先には宙に浮く聖遺物に手を伸ばす二つの人影。彼は焦るように、その場から一瞬で姿を消す。

 

そして次にその姿を現したのは、正しく戦場のど真ん中だった。

 

 

 

 

 

 

特異災害『ノイズ』で溢れた、とある薬品工場地帯。そこで先ほどまで二人の少女が戦っていた。一人は、それが誰かの助けになると信じ力を振るう少女、立花響。もう一人は、その道に進めば世界から争いが消えると信じて鎧を纏う少女、雪音クリス。全く違うようで何処か似ている思いを持った二人。力を振るう少女は守るために、鎧を纏う少女は奪うために、完全聖遺物『デュランダル』を巡って戦っていたのだ。

 

しかし、その戦いは彼が辿り着くよりも早く、二課の指令により完全聖遺物を守り抜こうとしていた彼女、立花響がその完全聖遺物を手にした瞬間に終結した。

 

しかし、ただ終わったわけではない。彼女がそれを手にした瞬間に、また新たな戦いの火蓋が切って落とされた。

 

その状況をなんと表現すればいいのか、彼女は聖遺物の力に飲み込まれ暴走したのだ。その身をまるで怪物の様な姿に変え、破壊衝動に流されるがままに聖遺物を振るう。

 

 

「なんだ…!?なんなんだよお前!!」 

 

 

少女、雪音クリスはその目の前の理不尽な現実を否定するかのように叫んだ。『ネフシュタンの鎧』と呼ばれる兵器の如き力を発揮させる鎧を身に纏っている彼女だが、今のこの異常な現状にはなすすべなく膝を着いていた。圧倒的な力による一方的な蹂躙、これを戦いとは呼べないだろう。その証拠に立花は雪音に背を向けていた。既に雪音など眼中にないのだろう。

 

「…!」

 

聖遺物に飲まれた立花が聖遺物の刀身を上に向け、両手で構える。すると聖遺物全体が目映い光を放ち始め、暴力的な力を放出し始める。

 

 

「そんな力を見せびらかすなッ!!」

 

 

咄嗟に雪音はその手に持つ銀色の杖を振るう、直後立花の背後に複数のノイズが出現。どうやらノイズを用いて立花を止めるつもりらしいが。

 

 

「─■■■■ッッ!」

 

 

ノイズの召喚に反応して雪音の方に振り返る立花。当然のようにデュランダルは構えたままだ。このままでは、力を貯めたデュランダルは雪音へと振り下ろされるだろう。まずい、雪音がそう判断するよりも早く、反応した人物がいた。

 

 

「チッ…!」

 

 

櫻井了子。二課所属の科学者であり、かのシンフォギアの開発者である。しかし溢れている雰囲気が異様だ、まるで蛇のような、狡猾で不気味なものを感じる。何かをするつもりなのだろう、事実、これから櫻井了子は今から振り下ろされるデュランダルの被害を抑える気だ。そんなことを普通の科学者に出来る筈がないが、生憎櫻井了子は()()()()()()

 

 

 

だが。

 

 

 

それよりも早く、誰よりも速く立花に接近する影があった。

 

 

「バトルカード、スタンナックルッ!」

 

 

黄色の巨大な拳が、立花の腹部に吸い込まれる様にぶつかる。同時に立花の身体が痺れた様に硬直、更に狙ったのか偶然なのか、デュランダルを振り下ろす寸前に生まれた隙を綺麗に穿ったようで、何の抵抗もさせずにその身体を5mも吹き飛ばした。

 

 

「な、んだ…お前…!?」

「…見えてるのか?」

『恐らくここら一帯があの聖遺物とやらのせいでビジブルゾーンになってんだろうな。それよりスバル』

「分かってるロック、早めに決着を着けよう」

『あの剣のエネルギーを解放させちゃまずいからな…』

 

 

突然の乱入者に驚く雪音、シンフォギアによる調律でもなければ本来見えない筈のロックマンがどうやら見えてるらしかった。ウォーロック曰く、ビジブルゾーン…一部の電波が視認出来るようになる空間が出来上がっているようだ。だが彼はそんなことを気にしている暇はなかった。

 

 

「■■■■!!」

「そんな大振り当たるか!」

 

 

片手、上段大振りでデュランダルを振るう立花。届く筈のない間合いが、デュランダルから伸びるビームの様な何かによって埋められていく。まさにビームの刃だ、彼が普段使うようなちっぽけなソードなんかとは比べ物にもならない出力。しかし、いかに出力が高かろうと大振りで、しかも速さはそこまでではない。かわすのに苦労はしなかった。

 

ただ予想外だったのはその余波だった。かわした筈のビームの刃が地面に触れれば、地面が元々地雷でも仕込んであったのかと思うほどの大爆発を起こす。運良くその爆発が彼に命中することは無かったものの、文字通り電波の様に軽い彼の身体は爆風に煽られ宙へと放り出される。

 

 

「■ッッ!」

「───バトルカード!ジェットアタック1!」

 

 

今の大振りな動きは嘘だったのかと言いたくなるような機敏さで、既に第二撃を繰り出そうとしている立花。否、今既に繰り出された。両手での切り上げ、あのビームの刃の射程の長さから考えてこのままならかわせない、そう即座に判断した彼は次の手を打つ。ウォーロックが黒いロケットに変わり、推力で勢いをつけて、高速で迫るデュランダルを紙一重で避けながら二度目の突撃。

 

しかし避けられたのを見た瞬間に立花は切り上げたデュランダルを無理やり横に振るう。普通の長剣ならばそんな芸当出来るとは思えないが、立花の纏うシンフォギアの馬力とデュランダルによるパワーアップがそれを可能にしていた。

 

剣が急に曲がる等と思っていなかった彼は虚を突かれ、攻撃はクリーンヒット。ジェットもバラバラと崩れウォーロックの頭部へと戻ってしまう。

 

 

「とんでもないな…っ、立花響に剣の心得なんて無い筈だぞ…!?」

 

 

いつもなら思い出そうともしない立花響との記憶が呼び起こされる。彼の知る立花響は、剣の心得どころか、喧嘩すらしない人物だ。それが暴走しただけでこんなにも脅威になるものなのだろうか。

 

 

『お前にも覚えがあるだろうよ!あの身体を勝手に使われる感覚は!』

「そりゃそうだけ、どォ!」

 

 

立花から三撃目が飛んでこないうちに地面に着地、なんとかデュランダルを避けながらもチャンスを伺う。

 

 

「チェイン、バブル!」

 

 

この場には場違いな、大きな三つの泡が立花に迫る。条件反射でデュランダルを振りかざすがもう遅い、泡はその大きな見た目から予想だにしない速さで立花に命中。更に立花をその泡の中へと閉じ込めた。

 

「──■■!?」

 

泡の中ではどうやら身動きが取れないらしい。ふわふわと浮く泡の中で立花は暴れるが中々泡は割れない。その隙を彼は逃さない。

 

 

「バトルカード、ホタルゲリ1!!」

 

 

繰り出したのは目映い雷光を纏った三連続の蹴り。泡を突き破り命中する度に立花の身体に電気が迸り大きなダメージを与える。更に、泡から解放された立花の身体はふらつきバランスを保てておらず、辺りに適当にデュランダルを振り回している。どうやら、今の蹴りは立花の視界を一時的に奪ったようだった。

 

 

「まだ倒れないのか…!?」

『これ以上はあの女の身体が持たねぇぞ!』

「分かってる!でもそんなの気にしてる場合じゃ…もっと火力の高いカードの一撃で!」

 

 

中々倒れない立花に動揺しながらも、攻撃の手は緩めない。デュランダルをやたらめったら振り回しているせいで迂闊に近寄れないので、ある程度の距離を取りながらウォーロックの口からエネルギー弾、ロックバスターを撃ちながら次の手を考え続ける。

 

 

『バカヤロウ!んなことして後悔すんのはお前だぞスバル!別にお前はあの女を傷つけてぇ訳じゃねぇだろうが!』

「だったらどうすんの!?あの剣のエネルギーは溜まってく一方なんだよ!?」

『だったら最初から手加減すんなって話だろうが!!お前は時折中途半端なんだよ!!』

 

 

彼の言う通り、デュランダルの放つ光はより一層強くなり始めている。光の強さは直結してデュランダルが秘めているエネルギーの強さなのだろう。あれが放たれるのだけは不味い。しかし何度も攻撃を加えているにも関わらず立花は一切怯まない、当初は気絶でもさせればいいと考えていたが、ここまで来ると気絶させられるような相手とは到底思えない。

 

 

「なんなんだよあいつ…腕と喧嘩してんのか?」

 

 

それを見ていた雪音は絶句していた。自分が手も足も出ないと一瞬でも考えてしまった相手に、一切臆すことなく戦うぽっと出の青い戦士。それがいきなり自分の腕に付いている顔と喧嘩を始めたのだから。しかも驚くべきは喧嘩しながらも油断なく応戦を続けている所だ。一体何者なのだろうか?

 

雪音はロックマンという存在を一切知らない、今初めて知ったほどだ。だが、ただ者ではないのだけは理解できていた。最初は二人が戦っているすきに乱入でもしてやろうと考えていたが、目の前の戦いに乱入する隙など無かった。

 

 

「…っ、埒が空かない!ロック!この際だ、アレを使ってごり押しだ!!気絶させられないなら強引にあの剣を奪い取るぞッ!」

『上等だ!さっきから俺の中のアイツらも暴れたくてウズウズしてたからなァ!』

 

 

既に立花の視界は回復していた。しかしその動きに先ほどまでの化け物染みた強さは感じない、少しはダメージが入っているのだろう。それを好機と見た彼とウォーロック、突進するように立花へと直進していく。

更にその右手に紫電を纏った一つのカードが生成される。それを右手ごとウォーロックの口へと突っ込んだ。

 

 

「バトルカード!」

『ウォリアーブラッドォ!』

 

 

バチバチィッ!とロックマンの身体の節々から雷が迸る。それはどんどんと強くなっていき、ロックマンを覆っていく。次第に発生した雷は、剣を構えた戦士の姿を象ったオーラへと姿を変える。

 

 

「■■■■■■■ッ!」

 

 

デュランダルを叩きつける様にロックマンへと振り下ろす立花。先ほどまでの彼なら致命傷になりかねないので避けていたが、今回は迫るデュランダルの刃を一切気にすることなく、減速も回避をもせずただ前に進んでいく。立花と彼の距離は約14m前後、このまま突き進めば2秒もあれば距離は0になるだろう。

 

当然避けなかったのだからデュランダルの刃は余すところなくロックマンの胴体を切り裂いていく。しかしロックマンは一切仰け反らないし怯まない、まるでダメージなど無いように振る舞い、更に加速をかける。

 

 

『あと12秒!』

「十分!!」

 

 

否。ダメージが無い筈がない、その斬撃はロックマンに致命傷に等しい程のダメージを与えている。

 

ならば何故ロックマンは何事もない顔をしているのか?それは、ロックマンが使ったバトルカード《ウォリアーブラッド》に理由があった。《ウォリアーブラッド》の効果は痛覚遮断と強制姿勢制御(スーパーアーマー)攻撃能力向上(バスターマックス)。これにより彼はどんな攻撃を受けても怯まず、仰け反りすらしない戦士へとなっている。人道とか、これを使う人間の事を一切考えていないバトルカードである。

 

更にこのカードは使い始めたが最後、戦いが終わるまで使用した者の精神と生命を削っていく。ウォーロックの言った秒数とはそのまま彼が戦ってられる残り時間だ。

 

 

「掴んだ!」

「─■■!?」

 

 

そうこういっている間に、立花が振るい続けていたデュランダルの刃をロックマンが掴んだ。その握力はとんでもなく、立花は掴まれたデュランダルを一切動かせなくなっていた。

 

 

「これで、終わりだァッ!」

 

 

デュランダルの刃を握り締めながら、強引に腕を横に振れば力負けした立花はデュランダルの柄から手を離した。デュランダルを奪い取った彼は、デュランダルを全力で地面に叩き付けた。デュランダルから溜まりに溜まっていたエネルギーが空気が抜けるように霧散していく。

 

デュランダルを手放した立花の目に理性が戻る、同時に今まで掛かっていたのであろう負荷にその身体は耐えきれず、膝から倒れこんでしまった。

 

 

「──」

 

 

立花が倒れるのを見届けた彼は複雑そうな顔をして動きを止める。何か思い出したくもないことを思い出してしまった、そんな雰囲気だった。

 

しかしそれも一瞬の事、彼はその場から姿を消した。身体も限界だったのであろうし、デュランダルによってこの工場一帯が吹き飛ぶ心配も無くなり、彼がここにいる理由はもう無かった。

 

 

 

 

 

 

そうしてこの場に残ったのは気絶している立花、舌打ちしてこの場を去ろうとしている雪音。興味深げにロックマンの居た場所を見つめる櫻井了子だけだった。

 

 

 

「…はっ、ロックマンか。ムーの遺産による電波体かと思えばどうも違うらしい…詳しく調べる必要があるか」

 

 

 

不穏な言葉を呟きながら櫻井了子は立花に近付く。容態を確認してみれば、どうやら目傷はないらしい。二課に連絡をして、救助を待つ。

 

 

「だがデュランダルの力を確認できたのは僥倖だったな」

 

 

改めて辺りを見渡す、雪音が姿を消していた。しかし櫻井了子はそれに微塵も興味を示していない、櫻井了子の視線の先にあるのはロックマンに地面へと叩きつけられたデュランダルのみ。

 

 

彼の預かり知らぬところで、何かが始まろうとしていた。

 

 

 






こんなに字数が膨らむと思いませんでした。気持ち的には5000字くらいで終わらす予定だったんですけど戦闘描写が難しくてあれでした。どうしても字数が膨らむと書くのに時間が掛かって投稿が遅れるので気を付けたいなと思います。



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第四話

日間ランキング上位+評価バーが真っ赤っかで長い!!!こんなの始めてですね…流石にそろそろしつこいので騒ぐのはやめますけど、とりあえずそれを知ったとき驚きすぎて風呂にスマホを落としたのは紛れもない事実です。感想も大量に戴いて…ちゃんと返していきたいと思います。



 

 

 

 

 

 

 

 

─■コセ。■■ダヲ■コセ。

 

 

「…あげないよ。これは僕のだ」

 

 

──フッ■ウ■!■ュゾ■ノフッ■ウ■!!

 

 

「貴方たちはもう滅んだんだ。亡霊に、居場所なんてない」

 

 

───ナラバ、オマ■ハ■■ダ?

 

 

「…同じ亡霊だよ。貴方たちと違って死に損ねた」

 

 

 

真っ白な何もない空間、そこに佇む黄色い戦士らしき人影達と彼。人影の声はノイズ混じりでよく聞こえない、しかし彼はその内容を理解しているようだった。

 

 

──チカラガホシクナイノカ?

 

 

急に、人影の声がクリアに、この何もない空間によく通る声になる。それは、彼の中の欲望に語りかけてるようだった。

 

 

「振り回されるような力なんて要らない。僕は、僕だけを…いや、ロックを信じてる」

 

 

──ナラバ、ナゼノイズヲカル?

 

 

「それは…っ!貴方たちが強いるからだ!貴方たちがロックの身体から出ていけば…っ!」

 

 

──ホントウニ、ソウカ?ノイズニチカラヲフルイ、コウヨウカンヲエテイルノデハナイカ?

 

 

「そんなことない!僕は、僕は…!」

 

 

──ニネンマエヲオモイダセ。タノシカッタロウ?チカラヲフルウノハ。キモチガヨカッタダロウ?フクシュウヲトゲルノハ。

 

 

真っ白な空間が姿形を変える、より彼の心に響くように。彼の中の思い出を再現し始める。

 

 

「やめろ、やめてくれ…!!」

 

 

そこは、彼にとっての運命の転換期。両親を無くした場所。…二年前の、ツヴァイウィングのライブ会場。半壊し瓦礫に溢れ、そこら中にノイズによって殺された元は人間であったのだろう炭の数々。遠くから聞こえる逃げ惑う人たちの悲鳴。

そして頭を抱えて膝を着いた彼の前に居るのは、父親だった炭の塊を抱いて泣き叫ぶ二年前の彼だった。

 

 

 

──チカラヲサイショニモトメタノハオマエダ、オマエガホッシタノダ。ダカラサズケタ。

 

 

場面が切り替わる。そこは変わらずライブ会場だが、そこにはもう泣き叫ぶ二年前の彼の姿は無かった。代わりにそこに居たのは、ロックマンだった。しかしその姿は二年後の、今のロックマンの姿とは大きく異なっている。

 

インナーは青ではなく黒、その上に白銀の重厚な鎧に身を包み、鋭角なデザインだったヘルメットは二本の雷を模した角の生えた兜らしきものに。最も目立つのは右手に握られている、彼の身長と同じくらいの大きさの、刀身がまるごと雷に包まれた両刃剣。その姿はまさに、歴戦の戦士と言っても過言ではなかった。

 

その二年前のロックマンが50体を超えるノイズを相手に戦っている。しかしその戦い方は戦士というよりと獣、まるでデュランダルに飲まれ暴走した立花響のようだった。剣を手足の様に振るい、ノイズを切り裂き、時にはウォーロックで噛み千切る。

 

それを見つめる彼の瞳がどろり、と濁っていく。

 

 

「今頃こんなものを見せて!一体何がしたいんだ…()()()()()!」

 

 

──シレタコト。ソノカラダガヒツヨウニナッタノダ。

 

 

「何度も言っているだろ!?僕の身体を渡す気はない!」

 

 

──ナゼ、コバム?キサマニミレンハナイダロウ?…アア、イヤ。恐イノカ。

 

──絆ヲ拒ミナガラモ、心ノドコカデハ繋ガリヲ欲シテイル。イズレハマタ誰カト、ソウ願ワズニハイラレナイ。ソノ機会ガ失ワレルノヲ恐レテイル。

 

──カカカッ、配信ナドシテルノガソノ証拠ダナ?擬似的ニ人ト人ノ輪ヲ覗クコトガ出来ルモノナ。先日我々ノチカラノ一端ヲ使ッテマデ、アノ女ヲ助ケタノモ似タヨウナ理由ナノダロウ。

 

──ソレデイテ人ヲ疑イ、裏切リニ怯エテイル。

 

──中途半端ナノダ。ソシテ矛盾シテイル。

 

──心ハ絆ヲ求メヨウト、条件反射デ理性ガ、身体ガソレヲ拒否シテシマウ。

 

 

段々と、ベルセルクと呼ばれた人影の言葉が流暢になっていく。悪辣に、彼の心を蝕むように言葉を選ぶ。更には彼が何かを挟む余地を与えないために複数で言葉を畳み掛けていく。

 

 

「うるさいッ!」

 

 

耳を塞ぎ怒鳴る彼。それでもベルセルク達の言葉の毒は彼に染み渡っていく。当然だった、これは夢の中。耳を塞いだからといって音が聞こえなくなるわけがない。それでも耳を塞がずにはいられなかった、何故ならベルセルクの語る事は全てが真実だったから。

 

堪らず目をそらす。ノイズに恨みをぶつける二年前の自分と、目があった。酷く苦しそうな顔だった。だが、二年前の自分の瞳越しに見えた今の自分が、一番苦しそうな顔をしている。何故?彼には分からなかった。

 

 

──絆デモナク、孤独デモナク。停滞ヲ選ンダ戦士ヨ。最後ニヒトツ教エテヤル。

 

 

 

今見える世界にヒビが入っていく。見覚えのある少女が、彼の横を通りすぎていった…気がした。

 

 

──オマエノ復讐ハ終ワッテイナイ。コノ事件ハ人為的ニ起キタノダカラ。

 

──終ワリノ名ヲ持ツ者。ソレコソガオマエガ恨ムベキ相手ダ。

 

──ソシテユメユメワスレルナ。オマエノカラダハ、ワレワレノ────

 

 

ベルセルクが何かを言い切る前に。世界が、崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めれば、そこは自分の部屋だった。1Kの狭い自室に、風が窓を叩く音が響いた。

 

 

「…夢」

 

 

ぽつり、と呟く。最悪な事に夢の内容は一言一句逃すことなく記憶に残っていた。終わりの名を持つ者、最後にベルセルクが言い残した言葉が嫌に彼の中に残っている。彼自身も気付いていた、ノイズは人為的に召喚されていると。この二年間で、その気付きはどんどん深まっていたのだから。

 

 

『おう、起きたかスバル』

「おはよう、ロック。僕、どれくらい寝てた?」

『大体三日くらいじゃねぇか?帰ってきて急に倒れたから心配したぜ』

「そっか。ごめんロック、心配かけた」

『気にすんじゃねぇって。んなことより腹減ってんだろ?前作ってたカレーでも食べとけ』

「うん」

 

 

ウォーロックはこういうとき、彼に何も聞かない。ベルセルクが夢に出てくるのは、何も彼だけじゃない。むしろ、彼の夢に出てくるならウォーロックの夢に出ていなければおかしいくらいだ。

 

ベルセルクの意思は、どこから彼に語りかけていたのか?その答えはウォーロックの体内から、である。正確に言えば、ベルセルクの意思を宿した何かがウォーロックの体内に眠っている。

 

もしかしたらウォーロックの方が彼よりも酷い悪夢を見ているのかもしれない。彼はそう思っても、直接聞くことは無かった。きっとウォーロックも同じことを考えている、そう信じていたからだった。

 

 

「というか米無いじゃん」

『おう。だからお前が寝てる間はルーを飲ませてた』

「寝てる人間に!!!?僕を殺す気かロック!?」

 

 

あ、と台所に立った彼は気付いた。空腹で少しふらつくが、歩けない程ではないらしい。しかしこいつはなんてことを、鍋の中身を見てみれば確かに中身が減っている。カレーを飲ませたと言うのは冗談ではないらしい。言われてみれば少し舌にカレーの味が残っている、気がした。

 

服装は三日前のまま。流石にそのままだと臭そうだったので軽くシャワーを浴びて、さっさと服を替えて出掛ける準備をする。最近嫌に出掛ける度に面倒事に巻き込まれてるが、今度は大丈夫だろうか。

 

 

「…今度こそ米を買いにいくよ」

『三日ぶりのリベンジだな』

「にしてもまだ身体の節々が痛い…」

 

 

玄関を開ける。まさかの夜だった。

 

 

「…夜じゃん」

『おう』

「おうじゃないよロック、そういうのはちゃんと言ってくれないと」

『いや、お前が時計見なかったのが悪いだろ』

「…おっしゃる通りで。相当寝てたんだね、僕」

『そりゃもうな』

「しばらくバイト入れてなくて正解だった奴だね、これ」

 

 

夜の道を二人で歩く。こうやって夜に外出することは普段しないので、彼は浮かれていた。夜空で綺麗な光を放つ星、そして天の川の様に夜空に架かる無数のウェーブロードを見ながら、スーパーへの近道である公園を横切っていく。

 

 

「やっぱり星は良いよね。見てると嫌なこと全部忘れられるし」

『そんなに良いもんかァ?俺からしたら何の面白みもないんどけどな』

「おいおい、仮にも宇宙人がそんなこと言わないでよ。この間のしし座流星群の時もそんなんだったし、ロックはこう、割と無粋だよね。なんでこの星の良さが分からないかなぁ」

『んなの、ずっと宇宙空間を漂ってたら飽きてくるもんなんだよ。お前も宇宙を漂えば分かるぜ』

「電波体ならともかく生身なら死んじゃうからねそれ」

『かもな』

「かもなじゃないよ、かもなじゃ。間違いなく死ぬよ…」

 

 

流石に夜だからか、声のボリュームを下げながら話す彼。久々に落ち着いた時間を過ごしている気がした。気分が乗りに乗っている彼は鼻歌を口ずさんでいるのだが、何故か段々と進む足がゆっくりになっていく。子供の泣き声が聞こえたからだった。

 

 

『行くのか?』

「…うん」

『スバルにしちゃ珍しいな、自分から他人を助けるとは』

「今日は、そんな気分なんだよ」

 

 

泣いている子供はすぐそこのベンチに居た。泣いているのは小さな女の子で、その目の前に立っている男の子が困ったような顔をしていた。

 

 

「ひぐっ…えぐっ…」

「泣くなよ。泣いたってどうしようもならないぞ!」

 

『…苛めか?』

「多分違うよ」

 

 

その様子から兄弟だろうか?と予想を立てる。男の子、兄の口調の当たりが強いのはきっと泣いた妹にどうしたらいいのか解らないのだろう。彼は深く深呼吸をすることで気合いを入れて、久々に人に声をかけることになった。

 

 

「大丈夫?迷子…かな」

「ひっ!」

「わぁっ!?」

 

 

ただ立ち位置が最悪だった。街灯を背にしながら声をかけたせいで、彼の顔が完全に影になって異様な不気味さを醸し出してしまっている。しかもガチガチに固まった笑顔も更に不審者感を増大させていた。

 

子ども達はまるで化け物を見たような反応をして驚いてしまった。そんな反応をされた彼も心の中の何かを刺激されて硬直。ウォーロックが呆れた顔をした。

 

 

「おいお前!子供を苛めんじゃねぇ!!」

 

 

さらに、そこに見知らぬ誰かが介入してくる。薄いラベンダー色の髪の少女だ。恐らく彼と同い年くらいだろうか?整った目鼻立ちと、更にグラマラスな体型をこれでもかと強調するファッションがとても目立つ。そんな少女にいきなり声をかけられた彼は更に硬直…

 

 

冤罪です!!!!ま、迷子っぽい子が居たので心配を声をかけて…!!」

 

 

──はせず、必死に自身の無実を訴えていた。結構な大声で。その姿は結構情けないもので、逆にこんな情けない奴が何か出来るようには思えない、という印象を少女に与えていた。

 

 

「…そうかよ。悪いな、勘違いしちまった」

「い、いえ…」

 

 

初対面の二人の間で何故か気まずい雰囲気が流れる。勘違いで言いがかりをつけてしまった事を恥じる少女と初対面の人と会話するプレッシャーに押し負けている彼、という図である。しかしそんな図は五秒も持たない。

 

 

「えぐっ…」

「妹を泣かしたな!!」

「えっいやちがっ…ご、ごめん…」

「わ、わりぃ」

 

 

何故か女の子がまた泣き始めた。大声を上げた彼と険悪な雰囲気を出した少女が怖かったらしい。兄はそれを見て彼と少女に怒る、それを直ぐ察した彼は秒で頭を下げた。少女もそれに釣られてしまって謝罪を口にする。年上の筈の二人が一回り小さな男の子に負けていた。

 

空回りしながらも彼は妹を泣き止ませようと行動を起こす。空に見える星の解説を始めたり、顔芸をしたり。すると、妹は涙は止まってないもののクスリと彼を見て笑った。彼の必死さがどこか面白く感じたようだ。

 

暫くして妹が泣き止む。それを見た兄は多少警戒を解いてくれたようで、彼と少女に自分たちが迷子であること、父親を探していること、そして妹が疲れて歩けそうにないことを簡単に説明してくれる。

 

 

「…じゃあ、一緒にお父さんを探そう。もうこんなに暗いし、二人だけじゃ危ないよ」

「…いいの?」

「うん」

 

『大丈夫なのか?スバル』

「な、なんとか…」

 

 

しゃがんでベンチに座る妹に目線を合わせて、出来るだけ強張らないように、優しい声色で提案をする彼。内心心臓ばくばくである。それに対して妹は嬉しそうな顔で彼に聞き返す、いくら兄が居ても暗い夜道、二人きりでは怖さは拭えないのだろう。それを横目で見ている兄の方も、少し表情が明るくなっていた。

 

 

「お父さんとは何処ではぐれたの?」

「あっち!」

「繁華街の方だね。じゃあ、歩けるようになったら繁華街の交番に行ってみようか?」

「うん!」

「君もそれでいい?」

「…は?アタシに聞いてんのか?」

「え、あ、うん…こ、この子達の事気にしてたみたいだったから」

「な、なんで私が!」

 

 

つい横に居た少女に会話を振れば不機嫌そうな反応を返される。予想外の反応だったので言葉を詰まらせる彼、そもそもこうやってまともに人と話すこと自体が彼にとっては久々だったりする。バイト先でも店長と一言二言話すことがあるかないか、配信に至っては自分のペースで話せる。前まで普通に出来ていたことがいつの間にか出来なくなっているのは、少し不思議な気分だった。

 

 

「お姉ちゃんは来てくれないの?」

「は、はぁ!?」

 

 

兄の方が少女に問い掛ける。妹も少女の方を見て頷いた、この二人は最初から少女が着いてきてくれると思っていたようだ。二人の小さな子供に無垢な期待の目を向けられて断れるほど、少女は悪人では無かった。

 

 

「わーった!わーったよ!だからアタシをそんな目で見るな…!」

 

 

照れてるのか、それとも本当に嫌がってるのかは彼には解らなかったが、なんだか接しやすい人だな、と思った。同時にウォーロックみたいな人だ、とも。口は悪いが面倒見はよく、がさつに見えて人の事をよく見ている。そうじゃなければ、街灯があるといっても中々に暗いこの公園で、怯えている子供が居るなんて分からないだろう。

 

それから少しして。休んで元気を取り戻した妹と、嬉しそうに妹と手を繋ぐ兄。そして現状をさっそく後悔している彼に加えてどうも納得してないらしい少女という、変てこな四人が繁華街へと足を運ぶ。ウォーロックは空気を読んでか、彼のスマホの中に入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の繁華街。子ども達はあまりこの時間帯に出歩いた事がないようで、見慣れない町並みにはしゃいでいた。それを見た彼が時折寄り道をして子ども達に軽いお菓子を与えたりして甘やかす。はしゃぎすぎた子どもたちがまた迷子にならないように少女が抑制する。なんというか、彼と少女の息は妙に合っていた。

 

 

「~♪」

 

 

少女は鼻歌を交えながら子ども達の父親を探している。彼はそんな少女を眺めていた。

 

 

「…何見てんだ」

「ご、ごめん。つい…」

「つい、なんだよ」

 

 

綺麗な歌だったからつい聞いてしまった、とは言えなかった。そんなキザなことを言う勇気は彼には元々備わってないし、もし言えたとしても少女の地雷を踏み抜きそうな気がしたからだ。そもそも少女は自分が歌っていたことに気付いていないようだった。しかし言葉を濁したせいで少女は不機嫌になっていく。

 

 

「お姉ちゃん、歌好きなの?」

 

 

棒つきの飴を舐めながら妹が問い掛ける。思わぬところから助け船が出た。

 

 

「大嫌いだ、歌なんか」

「なんでー!?お姉ちゃん、凄い綺麗な歌だったよ!!」

「っ、どうでもいいだろ!そんなのは!!」

 

 

やはり、少女にとって歌は触れられたくない所だったのだろう。怒鳴ったあとに、思わずそんなつもりじゃなかった。と後悔した表情になる少女。怒鳴られた妹はその目に涙を貯め始めている。

 

 

「っ~♪」

 

 

そんな中、彼が急に歌い始めた。明るい曲調で、アカペラではあるものの中々に上手い。今にも泣き出しそうだった妹は虚を突かれたという顔をして、歌っている彼の顔を見つめた。

 

 

「歌、好きなんでしょ?」

「う、うん」

「じゃあお兄さんと一緒に歌おっか」

「でも私、お兄さんの歌ってる歌知らないよ…」

「じゃあ君も知ってる曲を歌おう。ツヴァイウィングは知ってるかな?」

 

 

妹が頷く。既にその目にもう涙はなかった。更に先ほどから少女を睨んでいた兄の方も一緒に歌いたいと彼の話に乗っかってくる。兄弟揃ってツヴァイウィングのファンらしかった。

 

 

「「「聞こえますかー?、激情奏でるムジークっ」」」

 

 

三人で仲良く、歌い分けなんか一切気にせずに《逆光のフリューゲル》を歌う。音程もバラバラでお世辞にも上手いとは言えないかもしれないが、歌っている三人は中々楽しそうだった。

 

歌が二番まで差し掛かりそうになった頃。丁度当初の目的地であった交番が見えてくる。それとほぼ同じタイミングで、やけに疲れきっている年配の男性が交番から出てきた。その視線は此方に向いている。

 

 

「あ!父ちゃん!!」

 

 

妹が交番に向かって駆け出した、それに釣られて兄も。駆け出していった方向には此方を見ていた年配の男性、どうやら迷子問題は解決したようだ。一時はどうなることかと思っていたが、そう言わんばかりに彼は安堵の行を吐く。本当に久々に長く喋ったり歌ったせいで喉もからからだ。

 

 

「…ありがとな」

「へ?」

「アンタがあの場でいきなり歌わなかったら、アタシがあの子を泣かせちまう所だった」

「あ、いや…べ、別に大丈夫ですよ。さっきのだって、誰かが悪かった訳じゃないと思います、し…」

 

 

少女が彼に頭を軽く下げる。基本人に頭を下げられたことのない彼は対応に困っていた。

 

 

「あの…すみません、ご迷惑をおかけしました」

 

 

兄弟二人と手を繋いだ年配の男性が、子ども達が迷惑をかけてしまったと謝罪を彼と少女に伝えてくる。彼と少女は同じように少し困った顔をした、二人ともお礼を言われるのに慣れていないらしい。

 

 

「いや、なりゆきだから、その…な?」

「そ、そうですそうです。だから全然迷惑なんて。むしろ楽しかったです」

「そ、そうですか…?ほら二人とも、ちゃんとお兄ちゃん達にお礼は言ったのか?」

「「ありがとう!!」」

「歌のお兄ちゃん、またいっしょに歌おうね!」

「約束だよ!」

「…うん」

 

 

兄弟達はまるで最初から迷子じゃなかったみたいに元気で、少し二人との別れを惜しんでるようだ。そして妹が気まずそうに少女の手を握る。

 

 

「お姉ちゃん、さっきはごめんね」

「…なんでお前が謝るんだよ。悪いのはアタシの方だ、アタシの方こそごめんな」

「…うん!じゃあ仲直りしよ!」

「ああ」

 

 

妹が勢いよく少女に抱きつく、この短時間で大分懐いたみたいだ。その光景はとても微笑ましく、少女も満更じゃない顔である。

 

 

「そうだ。そんな風に仲良くするにはどうすればいいのか教えてくれよ」

「そんなのわからないよ。いつもケンカしちゃうし…」

「ケンカするけど、仲直りするから仲良しなんだ!」

「…そっか」

 

 

親子は何度も彼らにお礼を言ってその場を後にした。今の少女の質問には、どのような意図があったのだろう。

 

 

「…あの、もう大分時間遅いけど大丈夫ですか?」

「ん?ああ、大丈夫だ。心配は要らねぇよ」

「良かった、じゃあ僕はここら辺で。父親探し、手伝ってくれてありがとう」

 

 

そそくさと立ち去ってしまう彼。結局、二人はお互いの名を知ることなく別れることになった。もう会うこともないだろうし聞く必要もない、とでも思ったのだろう。それは少女も同じだった。しかし二人には少し違う点があって。彼は少女のことを明日にでも忘れてしまうかもしれないが、少女は彼のことが嫌に印象付いていた。前に何処かであったかもしれないという不思議な既視感。ただそれは間違いではない。

 

少女と彼は三日前に会っていた。お互いに顔は隠れていて、話すらもしなかったが。少女の名前は雪音クリス。三日前に立花響とデュランダルを巡って戦っていたあの少女である。どうしてそんな少女があの公園に居たのかは謎であるが。

 

 

 

 

『スバル、結局飯はどうすんだ?』

「あー…せっかく繁華街に来たんだし、米買うのはやめてラーメンでも食べてくよ。結構歩いて、人と話したからお腹ぺこぺこでさぁ」

『そんなこったと思ったぜ』

 

 

 

彼は何も気付いていない。これから食べるラーメンのことで頭がいっぱいなのだろう。今度の配信は歌でも歌おうかな、なんて言いながら財布を確認する。

 

 

『にしてもよ、名前聞かなくて良かったのか?せっかく普通に話せそうな相手だったのによ』

「いいんだよ。別に」

『俺の勘だけどよ、あの女とはまた会う気がするぜ?』  

「まっさか!」

 

 

ま、そうか。とウォーロックも冗談半分で言ったようだ。しかしウォーロックのこの勘は、後日当たることになる。

 

彼にとっての不幸は、もうすぐそこに来ているのだから。

 

 

 

 

 

 




まさかの戦闘無しでこの文字数!!!どうしてこうなるんでしょうか、いつの間にか膨れ上がってます。特に難産なポイントは無かった筈なんですけど。

あと始めて楽曲の使用を致しました。コピペしてコード張り付けるだけなのに緊張しました。


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第五話


評価バー赤MAX…!!長年の夢が叶いました。夢かと疑う出来事が起きすぎてちょっと変な笑いが込み上げますね…皆さんありがとう…ありがとう…

今回また戦闘無しの回なんですけど、文字数はこいつが一番長いです。どうしてかは私にも分からない。


 

 

 

 

 

 

「ノイズ、最近出る頻度多いね。なにもこんな時間に出なくてもいいのに」

 

 

未明、彼の住む町でまたノイズが発生していた。数は少ないものの、まだ眠っていたい身体を無理やり起こしてノイズをロックマンとして狩っていく。しかしまだ日も上ってないのでとても暗い、更に雨も降っている。遠距離系のカードではノイズに当てられそうにないと判断して、ソードやスタンナックル等の近接系でノイズに立ち向かっていた。

 

空から鳥型ノイズが槍状に変形しながら襲ってくれば、真っ正面からノイズの槍の先端にスタンナックルをぶつけ強引に粉砕、遠距離から攻撃してくるならかわしながら高速で近づいてソードで切り裂く。時には泡に閉じ込め、時にはハンマーで叩き潰す。相も変わらず、ロックマンはノイズに一切の手加減をしない。

 

 

《夜中の突発配信助かる》《雨と暗さでよく見えん》《やっぱこの時間帯だから人少ないな》《ロックマンも眠いのか戦い方が雑だ》《それでも全員一発で終わらせてるんだよなぁ》

 

「雑なのは許して、暗くて手元がよく見えないんだ」

 

《しゃーない》《時間問わずノイズが現れたらノイズを狩るのよくよく考えてたら怖いな》《なんでこいつのアカBANされないんだ》《ノイズを始末することに命をかけた男》

 

「今面白いコメントが見えたから答えようと思うよ。僕のアカウントがBANされない理由だね」

 

《え、なに理由あんのそれ》《ロックマンのやることだ、今さら驚かん》《最初の方なんてノイズ以外にも機械仕掛けの赤牛とか相手にしてたもんな…》《あれは謎だった》《今こいつリンク張りの回転斬りしなかったか???》《デヤァァァァァ!!》《厄災ロックマンじゃん》《(ノイズにとって)厄災》《特異災害を滅ぼそうとする厄災》

 

「急に失礼すぎるだろ、まぁいいけど。僕のアカウントがなんで消えないかと言ったら、僕のアカウント自体が僕の正体を特定する手かがりだからっぽいよ」

 

《マジ?》《冗談ではなさそう》《やっぱ特定しようとするやつはおるんか》《じゃあなんで特定されてないんだ》

 

「んなのロックマンパワーだよ」

 

《便利な言葉だ…》《納得してしまう自分が居るの悔しい》

 

 

嘘は言ってなかった。実際彼の正体を日本政府や、他の国なども暴こうとしている。特に酷いのはアメリカだろうか?前に彼が配信を止めると同時に、配信していた場所に黒服が群がったことがあった。ロックマンの姿が見えてなかったので事なきを得たが。

彼はその対策としてロックマンとウォーロックの力をフルに活用して自分の正体を隠し続けている。位置情報だとか登録情報、その他もろもろ全てが配信する度に切り替わっているのだ。家で配信しているときもIPアドレスを切り替えているのだとか。ウォーロックさまさまである。

 

 

「というかバレても電波体だから捕まったりはしないんだけどね」

 

 

《ここまで色々説明するくせに電波体については説明しない配信者の屑》《一回過去の配信で語ってたけど難しい単語ばっかで皆理解を捨ててたからな》《こいつ絶対友達いないゾ》《頭は良さそうなんだけど》

 

「うるさいよ。元々説明が難しい概念なんだ、学のない僕に説明を求められても困る…今日は嫌に雑魚が多いな」

 

《雑魚…?人類最大の脅威が雑魚…》《ノイズを雑魚と言える胆力が欲しい》《偽善者め》《お。ロックマンアンチか?死滅したと思ってた》《最近見なかったもんな》

 

 

ノイズを追いかけながら配信を続けていると導かれるように路地裏に辿り着いた。周りには、ノイズだったと思われる炭が散っている。何者かにノイズが倒された形跡だ。シンフォギアの存在が脳裏に過ったがそれを直ぐ否定した。それにしては破壊の跡が少ない気がしたのだ。

 

もしこれが立花響ならもっと路地裏の壁が壊れている筈だし、もう一人のシンフォギア装者である風鳴翼ならこのせまい壁の何処かに傷がついていてもおかしくない。しかしこの路地裏は嫌にキレイだ。まるでノイズだけを狙い打ちしたみたいに。

 

 

「…あれは?」

 

《人じゃね?》《壁に寄りかかってうずくまってるな》《確実に気絶してるでしょ》《え、なに?事件?》《大雨が降る路地裏で傘も指さず倒れている女性らしき人影…閃いた!!》《←閃くな》

 

「ごめん、今日の配信はここまでになるよ」

 

《しゃーなし》《まあ明らかに不味そうだし…》《おつ》

 

「今日の夕方頃、出来たらまた歌配信でもやるから。じゃあね」

 

 

配信が切れる。周りにノイズの気配はもうないし、丁度良いだろう。電波変換は解除しないまま人影に近寄っていく。

 

 

「…!この間の…?」

 

 

そこに居たのは、二、三日ほど前に共に迷子の兄弟の親を探したラベンダー色の髪をした少女…雪音クリスだった。その身体は雨に濡れて分かりにくいがかなりボロボロで、どうやら熱も出ているようだ。このまま放っておけば命に関わるかもしれない、ということが素人目にも分かった。

 

 

『スバル、気付いてるか?』

「?何が?」

『この女、シンフォギア装者だ』

「…本当?」

『ああ、この女の胸元のペンダントを見てみろ。こいつぁシンフォギアのコンバーターだ。…大方さっきのノイズを倒したのもこいつだろうな』

「つまり、日本政府の管轄外のシンフォギア…?…前にトッキブツのサーバーで見たときに正規起動してるのはガングニールと天羽々斬だけだった筈だし…」

『さっきのノイズ共も、もしかしてこいつを殺すために放たれたんじゃねぇか?』

 

 

あり得ない話では無かった。ノイズを操れる存在、ついこの間夢の中で言及されたばかりのその考えは、驚くほど彼の中で抵抗なく受け入れられた。しかし、それはそれとして、目の前の少女をどうしたものか。彼がそんなことを悩んでいると、少女が苦しそうに何か一つ呟く。

 

 

「…フィー、ネ…どうして…」

 

 

───《フィーネ》。

その単語を彼が、ウォーロックが認識するよりも早く、身体の内側が弾け燃え上がるような熱を持ち始める。まるで今にも彼の身体を引きちぎって何かが飛び出してくる感覚。

 

 

『ガッ…ギキ…ッ!』

「ベルセルクが…暴れて…っ!?」

 

 

思わずその痛みに膝をつく彼。熱は収まることなく、彼の身体全体に広がっていく。次第に視界が白黒に点滅し、膝をついてることすら辛くなっていた。目の前の少女の様にその場にうずくまる、それでも痛みは引かない。

 

身体の節々からは、まるで《ウォリアーブラッド》を使った時の様に雷の戦士…ベルセルクのオーラが溢れ出している。流石にこれ以上は許容出来ない、そう言わんばかりに電波変換を彼の意思で無理矢理に解除する。そうすれば、ウォーロックが彼の中から弾かれる様に飛び出し、彼らを飲み込もうとしていたベルセルクの力も依り代を失ったかのように霧散していく。

 

彼は自分の中の熱が引いていく感覚を覚え、咄嗟にウォーロックの方に顔を向ける。彼が大丈夫でもウォーロックも同じとは限らないからだった。

 

 

「ロック!」

『…けっ、心配すんな…こっちも大丈夫だ…』

 

 

疲れきった顔でウォーロックは笑う。

 

 

『…とりあえず、この女を連れて家に戻ろうぜ。この女には間違いなく何かある』

「うん、そうだね…。…うん…?えっ待って家に?病院とかではなく?僕の耳が腐ったのかな、ロック。それともロックの口が腐った?」

『病院なんかに連れてったら事情が聞けねぇだろ!!』

「いや家に連れてっても事情は聞けないよロック…こう、名も知らぬ女性を家に上げるのはさ…」

『うだうだ言ってんじゃねぇ!こっから病院行くより家の方が近いだろうが!』

「いや、うん…それはそうなんだけど…こう一般常識的にさ…」

『一般社会に馴染めてねぇ奴がなに言ってんだよ』

「ぐ…」

『元々助ける気はあんだろ?』

「いや、うん…」

 

 

結局、彼がウォーロックに説き伏せられ少女を家まで運ぶことになった。基本的にウォーロックの勢いが強いので、口論などになれば負けるのは彼の方だったりする。彼は押しに弱かった。因みに救急車を呼ぶ発想も彼には無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。それから数時間が経過した。既に日は登って、昼といってもいい時間帯である。少女は彼の布団の上に寝かされていた、着ていた服はどういうわけか乾いている。しかし少女は目を覚まさない、未だに高熱に魘され、意識は深い眠りの中にある。彼は時折額の上に置いたタオルを取り替えたりして看病をしている。

 

 

「…それにしても、フィーネってなんだろうね」

 

 

少女が無理に目を覚まさないよう、小声でウォーロックに語りかける。フィーネ。その言葉を少女が口にした瞬間にウォーロックの中のベルセルクが反応したのは確かである。ウォーロックと出会ってからの二年間で、ベルセルクが外界の何かに反応したことは一度も無かった。彼やウォーロックが語りかけても反応すらしない、あちらが語りかけることが時折あったとしてもノイズを狩れ、の一言だけである。

 

 

『さあな。アイツラにとって何かしら因縁のある相手なのは確かだと思うぜ。問題はなんでそれをこの女が知ってたのかって話だが』

「…うん」

 

 

今思い返してみれば、先日の様に悪夢を見ること自体も異常だ。彼はあの時以外にも、例えば巨大ノイズと戦うときなどで《ウォリアーブラッド》を使ったことがあるのだが、その時は使い終わって意識を失うことも無かったし、ベルセルクが何か言ってくることもなかった。

 

 

「ねぇロック、ベルセルクが約束を破ってまで出てこようとしたのってこれが初めてだよね」

『ん?ああ、そうだな』

「僕たちは、ベルセルクとベルセルクの闘争本能をノイズを倒すことで満たす代わりに、身体を乗っ取らないって約束をしてる」

『おう。まあ俺にとっては特になんのデメリットもない約束だけどよ』

「…駄目だ、全くわかんない」

 

 

むむむ、と頭を働かせるが全く答えが見えない彼。一体そのフィーネとやらが、ベルセルクとどんな関係があるのだろうか。そもそもフィーネとやらが人間なのか、物なのか単語なのかすら分からない。何か答えを導くためのパーツすら足りない気がする。推理パートは彼の担当ではないのだ。

 

 

「…この人が起きたときのために飯でも買ってこよっかな」

『なんだ?この間からお前妙に人助けするじゃねえか』

「別に今更変わりたいって訳じゃないよ。ただ、一回成り行きでも助けたんなら最後まで面倒見ないと。家で寝かしました、起きたら追い出します、はちょっと違うでしょ」

『ふーん、そういうもんかね』

「そういうもんだと思うよ」

 

 

今彼の家に食べれるのはカレーと白米しかない。当たり前だが病人にカレーは向いてるとは言えないし、白米だけだとちょっとあれかもしれない、それが彼の頭を悩ましていた。

 

 

『…お前が買い物行ってる間にこの女が起きたらどうんすんだ?』

「あ、確かにどうしよう」

『はぁ…女が起きてから買い物行けばいいんじゃねぇのか?』

「な、なるほど」

 

 

彼とウォーロックが暫く下らないコント擬きをやっていると、遂に件の少女が目を覚ました。

 

 

「っ!はぁ…はぁ…」

「ああ、良かった起きたんだ───「てめェッ!!!」」

 

 

彼が起きた少女に声を掛けて駆け寄れば、彼が言葉を発し終わるよりも早く少女の渾身の右ストレートが彼の顔面を殴り抜いていた。まさか少女が自分を殴ってくるなんて思わなかった彼は、衝撃を顔面だけでは殺しきれず、勢いそのままに後ろにひっくり返った。どんがらがっしゃん、そんな効果音がよく似合う転び方だ。

 

 

「ふーっ…ふーっ……あ?アンタはこの間の…?それに、ここは…」

「ろ、路地裏に倒れてたから…病院もあそこから遠くて、それで放っておけなかったんだ。ここは僕の家だよ」

 

 

少女が辺りを見渡す、少し悩んだ顔をしたものの状況を理解したらしい。少女は申し訳なさそうな顔をしてどもってしまった。

 

助けを元々望んでいなくても、一応助けてくれた人間を殴るのは駄目だよな、みたいな顔だ。彼にはその思いが余すところなく分かっていた。ウォーロックもそう言うところあるよなぁ、なんて殴られた事を忘れて微笑ましい気持ちになっていた。

 

 

「…そうかよ…殴ったのは悪かった。でも、別に助けなくてもよかったんだ」

 

 

少女が睨むように彼に告げる。きっと紛れもない本心だ。だがしかし、彼はそれを聞いてクスッと笑ってしまう。予想通りの反応だったからだ。

 

 

「何笑ってんだ!!」

「ご、ごめん。…それより、お腹減ってるんじゃない?今から何か軽く君の腹に入るもの買ってくるからさ、もう少し寝てていいよ」

「別にんなの要らねぇよ!助けてくれた事は礼を言うが、これ以上ここに居る理由は…!」

 

 

急に少女が立ち上がる。するとやはりまだ熱は退いてないらしく、ふらり、とよろけて布団の上に尻餅をついてしまった。この調子では、また何処かで倒れてしまってもおかしくないだろう。

 

 

「喉が乾いたら、そこの冷蔵庫に冷えたコップとスポドリが入ってるから飲んでいいよ」

「だ、だから!勝手に話を進めるな!」

「じゃあ大人しく待ってて」

 

 

少女、雪音クリスは心の奥底に隠しきれない孤独を抱えている。彼、星河スバルも同じだ。

 

孤独を抱えるに至った過程が違おうと、二人は何処か似ているのだ。例えば関わりを持つのが怖いところだとか、他人を拒絶しきれないところとか。だからこそなのか、彼はこうすれば少女は家から出ずに待ってくれるだろう、と半ば直感で当たりをつけていた。きっと自分もそうだからだ。

 

ウォーロックに念のため少女を見守ってほしいと告げて、まだ雨は降っているので傘を片手に玄関を開ける。

 

 

…さて、本当にいきなりだがここで少し話を変えよう。

 

彼の住む場所についてだ。彼は先程の路地裏から徒歩7分程度、木造の築うん十年のボロアパートの101号室に住んでいる。そして玄関のドアを開けて左を向けば直ぐ道路が見えるタイプ、しかもドアは右に開くので、このアパートの前を歩いてる人間には、特に101号室は部屋から出るところが丸見えだったりする。

 

 

「…スバル?」

「!!!??」

 

 

このように。

 

何が起こったかと言えば。彼が玄関を開けて道路に目を向けたその瞬間に、見知った顔である、彼にとっては会いたくない人でもある小日向未来と目が合ったのだ。

 

何故ここに彼女が?今は朝、寮暮らしであるはずの彼女がリディアンから遠いここに要る筈が、なんて考えが脳裏に過った。

 

彼は知らない、小日向未来が同室の立花響と喧嘩していることを。一緒にいるのが辛くなって早朝から出掛けていることを。

 

彼は理解を捨てた。本能が危険信号を鳴らして、彼はそれに逆らうことなくそのまま勢い強めで玄関のドアを閉めた。この間僅か2秒弱である、遅い。

 

 

「?おい、どうしたんだよ。行かないのか?」

「あ、あはは。…体調悪いと思うけどカレーでも良い?」

「はぁ?」

 

 

ピンポーン。彼の部屋のチャイムが鳴った。彼は硬直する、確実に小日向未来だ。出たくはない…が出なければ確実にまずい。…少し間が空いてもう一度チャイムが鳴る。彼は十数秒悩んだあと、もう一度玄関を開ける。

 

 

「…ひ、ひひ、久し、ぶり」

「久しぶり、スバル。…ごめんね、いきなりこんなことして。久々にスバルの顔見て、ちょっと焦っちゃって…」

 

 

どうやら彼の顔を見て条件反射でこんなことをしてしまったらしい。そんな事を言われても、彼にはどうしたらいいか分からない。一体何を焦ったと言うのか。

 

 

「…スバル、元気だった?」

「え、あ、うん…?」

「そっか」

 

 

小日向は彼の事をとても心配していたようだが、彼にはそれが一切伝わってなかった。はやくこの玄関を閉めたいな、しか考えていない。それと後ろの少女の事がバレたらなんかヤバそうだな、と。その予想は大正解なわけだが。

 

 

「ご、ごめん、小日向さん。僕、買い物に行かなくちゃいけないんだ…」

 

 

小日向さん、という、少し他人行儀な呼び方。それが小日向の心に小さくない動揺を与える。昔の彼は小日向の事を未来ちゃん、と呼んでいた。呼び方が変わっている、つまり心の距離が遠退いたという事でもある。二年会わないうちに、幼馴染みは何処か知らない人物の様になってしまったのでは、そんな風に小日向は不安を感じてしまう。

 

久しぶりに会えなくなった親友に会えて浮かれてしまった、これからどうすればいいのか?小日向の動きが止まる、つい彼から目線を反らしてしまう。…なにか、彼の部屋に見覚えのないものが見えた。

 

 

「スバル、その人、誰?」

 

 

彼の部屋は玄関から直線状に布団が置いてある。当然そこに居るのは少女な訳で。指摘されたくなかったものを指摘された彼はもう混乱の極みにいた。

 

 

「あ、いや!そのこの人は別に彼女とか友達ってわけじゃなくて…!?」

「え!?と、友達でもないのに部屋に居るの…?」

「う、拾った、というか…」

「女の子を!?」

 

 

ありえないくらい間違えた選択肢を全力で選び抜いていく彼。誤魔化して友達とでもなんとでも言っていれば素直に小日向もこの場を去ったであろうに。小日向はこの場を去る理由は無くなっている。更に、既に彼に生まれていた遠慮や申し訳なさは全て吹っ飛んでいた。

 

 

「スバル」

「は、はい!」

「詳しく話聞かせて」

 

 

反射的に頷いてしまった、彼は昔から小日向未来にだけは弱かった。尻に敷かれていたとも言う。いくら二年間会ってなかったと言っても、共に過ごした十一年間が無くなる訳ではない。残念ながら彼の身体は小日向に逆らえないと言うことを覚えていた。

 

結局彼はずるずると小日向に事情を大体全て話す。当然話せないような所は省いているものの、ギリギリ小日向の理解は得られた。

 

 

「スバル、買い物行くんでしょ?」

「う、ん」

「じゃあ、スバルが帰ってくるまで私がその女の子のお世話するよ」

「へ!?」

「スバル、女の子の身体拭ける?話聞いてた感じだと、シャワーとかも浴びてないんじゃない?」

「あー…」

「お願いスバル、手伝わせて」

 

『変なことになってきたな、スバル』

 

 

 

ウォーロックはそう言いながらも面白いものを見ているといった感じで、少女の横でケラケラ笑っている。

 

彼は彼で小日向に断りきれていなかった。一度小日向に待ってもらって少女に事情を説明する。当然少女は難色を示すがなんとか受け入れて貰えた。そして小日向を部屋に上げ、拙いながらも物の場所だけ教えて彼は買い物に出掛ける。彼の精神はこの短時間で大分疲弊していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ありがとう」

「うん」

 

 

少女の背中を濡れたタオルで拭く小日向。少女の背中は、青アザや切り傷、火傷の跡だらけだった。思わず小日向は息を飲む、その傷痕が少女の辿ってきた人生の過酷さを語っていた。しかし小日向は少女に傷のことを聞くような事はしない、何も知らない自分が、聞いてはいけないと思ったのだ。

 

 

「なんにも、聞かないんだな」

「…うん」

 

 

少女と小日向の間に、沈黙が残る。それでも小日向は少女の身体を拭いている。少女の言葉に、小日向も何か思うことがあるようだった。きっと、小日向が寮ではなく、ここに居ることに関係があるのだろう。

 

 

「私は、そういうの苦手みたい。今までの関係を壊したくなくて…なのに、一番大切なものを壊してしまった」

「それって、誰かとケンカしたってことなのか?」

 

 

小日向は無言で頷く。また二人の間を沈黙が満たす。結局少女の身体を拭き終わるまで、沈黙は続いた。

 

 

「なあ」

「なに?」

「なよなよしたアイツ、お前の知り合いなんだろ?」

「スバルのこと?…うん、幼馴染みで、幼稚園の頃からの付き合いなんだ」

「…なんでアイツはアタシを助けたんだ?普通、路地裏で倒れてる奴をわざわざ家まで運ばねぇだろ」

 

 

少女は心底不思議そうな顔だった。それだけが納得いってないんだ、そう言いたげで。

 

 

「スバルは不器用だからなぁ」

「不器用とか、そういう問題か?」

「ふふっ、不器用で、優しいんだよ。だからきっと、貴女を助けたのに深い理由なんて無いと思う。倒れてるの見て、つい咄嗟に助けたのかも。家に運んだのは救急車呼ぶみたいな発想が浮かばなかったからかな?」

「…変なやつだな」

「うん。昔から、最初に会ったときからスバルは変なんだ」

 

 

小日向の言葉は、案外的を射ていた。きっと彼はウォーロックに言われなくても少女を助けようとしただろうし、確かにフィーネという言葉が気になったりもあったが、あの時少女を助けたのに、理由らしい理由は無かった。

 

 

「なぁ。お前その喧嘩したやつ、ブッ飛ばしちまえよ」

「え?」

「どっちがつええのかはっきりさせたら、そこで終了…とっとと仲直り。そうだろ」

「できないよ、そんなこと」

 

 

少女の暴論を小日向は否定する、その光景を見ていたウォーロックは強く少女の言葉に頷いていたが。

 

 

「…そうかよ、わかんねぇな」

「でも、ありがとう」

「ううん、ほんとにありがとう。気遣ってくれたんだよね…あ、えっと…」

「クリス。雪音、クリスだ」

 

 

雪音が小日向から視線を反らす。

 

 

「私は小日向未来。…優しいんだね、クリスは」

「んなことは─」

「私は!」

 

 

雪音が否定の言葉を吐き出す寸前で、小日向は言葉に言葉を被せる形で遮り、雪音の両手を包むように握る。

 

 

「私は、クリスさえよければ、クリスの友達になりたい。よければ、スバルとも友達になってあげて?」

 

 

優しい言葉だった。なにかを強要するわけじゃない、雪音に委ねるように、雪音の気持ちを縛らないように。そんな優しさが込められている、気がした。

 

だが雪音はそれを拒否しなければならない。雪音の過去が、それを許さない。

 

「ッ!アタシは、お前たちに酷いことをしたんだぞ…?今更、今更!そんな都合のいいこと…ッ」

 

絞り出すように吐き出されたその言葉。小日向にその意味は分からない、当然ウォーロックにも。雪音自身も、どうしてそんなことを言ったのか解らなかった。

 

 

 

そんな時。ノイズの出現を告げる、避難警告の音が街中に鳴り響く。

 

…そして、買い物を終えて帰ってきていた彼は玄関越しに聞こえる会話を背に、気まずくて入るタイミングを失っていた。

 

 

 

 





因みにクリスちゃんの服はバトルカード使って乾かしてます。ロックマンの無駄遣い。

あと原作になぞると原作写してるみたいな感じが出てる気がします…申し訳ない。


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第六話

いつの間にか一話の時に喜んでいたUAの30倍以上のUA数になってますね…何がどうなっているのだ。

改めて毎話投稿する度に誤字報告を下さっている皆様には感謝しております、マジで書いてるとき気付かないんですよね…


 

 

 

 

 

 

 

 

外にノイズが現れたことを知らせる警報が鳴り響く。小日向は思わず立ち上がり、雪音に逃げようと伝える。

 

 

「お、おい!なんだよ!何から逃げんだよ!?」

「何ってノイズだよ!!ここから避難所は近いから、多分スバルも行くと思うし…!」

「ノイズっ!?」

 

 

雪音は、ノイズの警報を知らない。生きていてそんなことがあるのか?と小日向は邪推してしまうが今はそんなことをしている場合ではない、小日向はノイズの恐ろしさを知っている。親友が、ノイズを倒すために戦っているのも。

 

 

「…なあ、ノイズは何処に出たんだ?」

「え?え、えっと…商店街の方みたい、近くの避難所から遠いから─」

「商店街、だな?」

 

 

小日向はスマホを確認する、ノイズが現れた大体の場所が通知されるので、それを雪音に伝えた。それを聞いた雪音が立ち上がる、小日向は逃げる気になったんだ、と喜んだがそれは違う。まだ熱が残る身体で、雪音は部屋から飛び出した。バンッと玄関が開く。そうすると、入るタイミングを失い玄関の前で佇んでいた彼を押し退ける形になる。彼は情けない悲鳴をあげて転ぶが、雪音の耳にはそれは入らない。

 

既に避難は始まっている、雪音は避難し始めている人たちとは逆方向…つまり、ノイズが現れているのであろう方向へと走り出した。

 

 

「クリスっ!」

「いつつ…い、今のは…?こ、小日向さん?どうしたの…?」

 

 

釣られて小日向も部屋から出る。それに驚く彼、いきなりの事に理解が及んでいないらしかった。小日向は尻餅をついている彼の肩を掴んだ。

 

 

「す、スバル!大変、クリスちゃんが…!」

「え、あ、え!?く、クリスちゃん…って?!」

「貴方が助けた子!!それより、クリスちゃんもしかしたらノイズの居る方に行っちゃったのかも…!!」

 

 

ノイズの居る場所を聞いて飛び出した、しかも鬼気迫る表情だった、それは小日向に最悪の想像をさせるには充分だった。彼は部屋に居るウォーロックに目を向ける、そうすると小日向の発言に間違いはないと云わんばかりにウォーロックは頷いた。

 

 

「と、とにかく事情は分かったよ…小日向さんは先に避難してて。クリス…さんは僕が連れてくる」

「え…!?でも!」

「大丈夫…すぐ戻る、から」

 

 

小日向は納得しない。どうにかして彼を止めたい、が雪音も助けたい、そんな二つの感情がごちゃごちゃになっているようだった。

 

 

「…分かった。じゃあスマホ、ちょっと貸して」

「え」

「貸して」

 

 

スマホを渡す。まあロックもかけてるし大丈夫だと思ってたのだが、直後彼のスマホからロック解除を伝える音が鳴った。そこから自身のスマホも取り出して何やら同時に弄る。なんだろうか?彼がそう思っている間に、小日向はさっさと彼にスマホを返した。

 

 

「連絡先、入れておいたから」

「えっ」

「クリスを見つけて、避難所まで着いたらちゃんと連絡して。約束だよ」

「…分かった」

 

 

しぶしぶ、本当にしぶしぶといった感じで小日向と指切りを交わした。彼が人の手に触れたのはいつぶりだろうか、懐かしくなるくらいには触れていないのは確かだった。何か暖かいものに触れた気分になりながら、彼は雪音が向かった商店街へと走り出した。

 

 

『いいのかよ、スバル。あんな約束して』

「仕方無いよ。あそこで約束しなかったら絶対避難所まで引きずられてたと思う」

『おめーも尻に敷かれるもんなんだな、見てて面白かったぜ?』

「見てないで助けてよ」

『俺はお前以外には見えねーんだ、助けようがないだろ』

「…確かにそうだけどさ」

 

 

ウォーロックが彼の後ろに追随する。今日二回目の戦闘になりそうだからか、ウォーロックのテンションはやけに高かった。彼は逆にテンションが低い、当然と言えば当然ではあるが。

 

 

『にしてもよ。あのクリスってやつを助ける必要があんのか?シンフォギアがあるじゃねーかよ、あの女には』

「まぁそうだけど…もしもがあるから。あの熱がある状態でシンフォギアを纏えても戦えるとは限らないでしょ?一回助けたんだ、筋は通す。…それに」

『それに?』

「あの人は、僕や小日向さんの事を考えて、自分がノイズに追われてることを知ってて巻き込まないようにノイズの居る方に行ったんだ。…そんな好い人が割を食うのは、納得いかない」

『けっ、そーかよ』

「うん」

 

 

彼は人と関わる事を嫌うが、別に人が嫌いな訳ではない。そして彼は理不尽をとても嫌う。ノイズに襲われて死ぬ、災害だからどうしようもない。…そんな理不尽が一番嫌いなのだ。誰かのためになにかをしてる人が不幸な目に遭う、それも彼からすれば理不尽だ。それだけで、彼には充分助ける理由が出来ていた。

 

 

「電波変換!星河スバル、オン・エア…!」

 

 

この町のウェーブホールの場所を彼は全て把握している。彼は避難所へ逃げていく人々の流れに逆らい進みながら、往来のど真ん中にあるウェーブホールを踏み抜き、彼は姿を変えていく。その姿は、既に誰にも見えなくなっていた。

 

見えなくなればあとはどう動いてもいい、彼は空に伸びるウェーブロードへと跳躍し、最短距離で商店街へと向かう。その途中で雪音が居るはずだからだ。しかし、どういうわけか道中に雪音の姿は見当たらなかった。

 

 

「…っ一体何処に…?」

『あそこだスバル!!』

 

 

ウォーロックの声に視線を下げる。そこには、座り込んでいる雪音を取り囲んでいるノイズ達の姿があった。雪音は咳き込んでおり、シンフォギアを纏うための聖唱を歌えていないようだった。まずい、そう思ってウェーブロードから、飛び降り、彼の出せる最高速度で雪音の元に向かう─────が。

 

雪音の元に辿り着くまであと少し。そんな時に、彼の横を嵐が通る。いや違う、それは人だ。赤いシャツに2mを越えていそうな巨大な肉体、もはやそれは芸術的なまでに鍛えられている。漢、その言葉がもっとも似合う存在が、今、大地に立った。

 

そして今、有り得ないことが起きたことに彼は気付いた。彼は何度も言うが電波体、つまり電波で肉体が再構成されている。その彼の最高速度とはつまり電波が出す速さ…光とほぼ同等な訳である。それを今、彼の最高速度を越える速さで何が通った?人だ、人が、光の速さで動く彼を一瞬であろうと上回る速さで動いたのだ。一体それは人類に可能なのか?彼は、それが出来そうな人物を知っていた。

 

 

「風鳴、弦十郎…っ!?」

 

 

トッキブツ、特異災害対策機動部二課の司令。風鳴弦十郎。それが今、この場に現れた。

 

風鳴弦十郎は雪音の真正面に飛来、その勢いのまま着地する。そうすればその着地よ勢いに耐えきれなかったアスファルトの地面は悲鳴を上げ、クモの巣状のヒビが入り、一部は砕け捲り上がる。捲り上がった地面はなんと、飛行ノイズの突撃攻撃を受け止める盾として雪音を守った。偶然か?否、必然である。この漢は、アスファルトをただの着地だけで捲り上がらせ、あまつさえ盾として使ったのだ。

 

それからも風鳴弦十郎の行動は続く。捲り上げたアスファルトの壁を拳で粉々に砕きその破片をノイズへと打ち出しノイズ達を牽制、臆さずやってくるノイズの攻撃はまたアスファルトの盾をつくり耐える。最終的には、雪音を抱えて近くのビルの屋上まで跳躍してしまった。

 

まるでジャンルの違うアニメを見ているようだ、と彼は思ってしまう。それほどまでに、風鳴弦十郎は圧倒的だった。

 

 

「っ!僕たちも行くよ、ロック!!」

『ったりめぇだ!!あのゴリラに負けてたまるかよ!!!』

 

 

突然の出来事に硬直するが、負けじと彼も飛び出す。ソードを展開しビルの屋上に視線を向けているノイズ達を切り裂きながら、ウェーブロードにまた跳び移り雪音たちを追いかける。

 

 

「バトルカード、ジェットアタック1」

 

 

ウェーブロードに乗ればあとはこっちのもだと言わんばかりに、立花戦でも使ったジェットを展開し、ジェットの推力でビルの屋上まで直進していく。

 

 

「バトルカード!モジャ、ランス1!!」

 

 

雪音と風鳴弦十郎が視界に入る。同時に二人に襲いかかろうとする鳥型ノイズも。風鳴弦十郎は強いが、ノイズに通用する何かを持っているわけではない。位相差障壁は越えられず、ノイズに触れれば抵抗できず炭に変えられる、ただの人間だ。流石にそれはまずい、彼はウォーロックの頭部はジェットのまま、右手に長槍を出現させる。

 

身体は宙に、更に加速がついているという大分不安定な体勢でありながら、彼はノイズに槍を投擲する。かなりの速さで放たれた槍は一寸の乱れなく、直線上に並んでいた鳥型ノイズ二体を貫通する。それとほぼ同時に雪音が聖唱を歌い、その身に赤いシンフォギア、イチイバルを纏う。

 

 

「君は…!ロックマンか!?」

 

 

そして彼が二人の居るビルに着地、どうやら風鳴弦十郎には彼の姿が見えているらしい。聖唱により彼の存在比率、周波数が調律されたのだろう。雪音は警戒からか、条件反射でボウガンを彼に向けた。

 

 

「おっと。僕は別に二人の敵って訳じゃないよ、むしろその逆さ」

「なんだと…?」

「まぁ、細かい話も後にしてノイズを倒そうよ。ね、風鳴弦十郎さん」

「!驚いたな…俺のことも知っているのか」

「僕の事を調べてる相手のことくらい、こっちも調べるよ。そりゃあね」

 

 

彼は喋りながらも攻撃の手を緩めない、ウォーロックの頭部をガトリングに変え、一発も外さずに滞空しているノイズを撃滅していく。ここで風鳴弦十郎と敵対するのはあまりにも厳しい、恐らく彼が全力で戦っても勝てない相手だ。

 

 

「アタシのことはいいからアンタは他の奴らの救助に向かいな!」

 

 

雪音が風鳴弦十郎に告げる、滞空しているノイズへの攻撃手段を持たない風鳴弦十郎は、残念ながら足を引っ張ってしまう。それを本人も分かっているようだ。雪音はそのままノイズを引き付けるようにボウガンでノイズを撃ち抜き、ビルから飛び降りて、遠いもののノイズを倒すには充分な広さがある河川敷へと向かっていく。

 

 

「ついてこいっ!ノイズ共!!」

 

 

彼もそれに付いていこうとするが、風鳴弦十郎がそれを止める。何か、聞きたいことがあるらしい。

 

 

「…なんですか」

「君に、聞きたいことがある。君は敵か?味方か?」

 

 

風鳴弦十郎からすれば、彼が雪音を助けるようなメリットがあるようには見えない。トッキブツのシンフォギアたちと共闘したこともなく、出会えばすぐ逃げてしまう。それでいてノイズだけは狩りつくす、そんな不気味さすら覚える存在であったロックマンが、暗に雪音と風鳴弦十郎を助けると言ったのだ。

 

政府はロックマンを捕まえたいと思っている。誰にも見えず、それでいてシンフォギアと同等の戦闘能力をもつ。そんな存在を放っておける筈がない。しかし、ロックマンは一切その正体を掴ませない。半年間、政府は一筋の手がかりすら得ていない。どんな手を打とうともロックマンはそれを嘲笑うようにかわしている。そんなロックマンに、最近になって政府は対応を変えた方がいいのではないかと案が出た。

 

ロックマンが政府に味方をしないのなら、もしも敵なら排除した方がいいのではないか?そんな考えだ。シンフォギアを用いれば撃破も可能だ、とそんな声が。風鳴弦十郎はこれに反対していた、理由は色々あったが、一番はロックマンを信じたかったのだ。

 

そして、今、ロックマンを真意を聞く機会がある。

 

 

「…僕は味方でも敵でもありませんよ。僕は、僕のやりたいようにやるだけだ」

「なら─」

「ただ。貴方たちの邪魔はしません」 

 

 

彼は言うだけ言って雪音の後を追う。彼の答えを聞いた風鳴弦十郎の心意は、まだ誰にも解らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

河川敷を駆けるロックマン()が走り抜けた後の残光と、辺り一面で花火の様にノイズを貫き爆破するイチイバル()の弾丸。雪音が積極的にノイズを撃破し続け、その撃ち漏らしを彼が勝手に切り裂いていく。

 

 

「てめぇ!!何のつもりだッ!!!」

「言ったでしょ、僕は敵じゃないんだって!」

「んなの信じられるかよ!」

 

 

ノイズの残り数もあと52を切った所。折り返し地点な訳だが、どうも雪音が歌を歌いながらも器用に突っかかってくる。雪音からすればロックマンはほぼ初対面、最初にあった時に圧倒的な力で立花響を止めていたのが、雪音がロックマンを少し恐れている理由だった。

 

 

「てめぇにはアタシを助ける理由なんてねぇだろうが!!」

「小日向って子に頼まれたんだよ、クリスを助けてほしいってね」

「なっ!?」

 

 

嘘は言っていない、嘘は。正確には自分から言い出したのだが。しかしその言葉を聞いた雪音は少なからず動揺していた、まさか小日向が雪音を助けたいと思っているとは微塵も考えていなかったらしい。

 

 

「っ、それが本当だとして、なんでお前がアタシを雪音クリスだって知ってんだ!?」

「言えないな、強いていうならロックマンパワーだよ」

「もっと上手い言い訳はねぇのかっ!?」

「ないなぁ」

「だーくそ!!気に食わねぇ奴だなお前!!!」

 

 

話している最中に巨大なノイズが唐突に出現、いきなり現れたことに雪音は一瞬引き金を弾くのを止めてしまうが、逆に彼は巨大なノイズ目掛けて跳躍し、頭の上で静止。

 

 

「バトルカード、ビッグアックス1」

 

 

彼の左腕まるごとが、巨大な両刃の斧に姿を変える。その大きさは彼の四倍はあるだろうか?そして斧は重力に従いノイズの脳天を目掛けて、彼の身体をまるごと引っ張りながら落ちていく。斧の切れ味は恐ろしいほど良く、現れたばかりの巨大ノイズを何もさせることなく真っ二つにしてしまう。

 

 

「口を動かすより手を動かしてくれ」

「~っ、言われなくてもやってやるよ!!」

 

 

雪音の感情に呼応するように構えるボウガンがガトリングに変形、合計12門から息つく間も無く弾幕と呼べる量の弾丸が放たれていく。《BILLION MAIDEN》、正に必殺技と言える威力である。彼の一撃に見劣らぬ、いやそれ以上の火力、彼は思わず息を飲む。先程彼が使ったガトリングを、ガトリングと呼ぶことが許されるのか疑問になるほどだ。敵に回したら勝てないかも、とすら思う。

 

 

「その調子で頼むよ!撃ち漏らしは僕がっ!」

「出来るもんならやってみろ!」

 

 

正に暴力、正に蹂躙。ほんの少し河川敷の地形を変えるほどの戦いが繰り広げられていく。ノイズは彼と雪音に一撃も加えることなど出来ない、攻撃のモーションを行うことすら許されない。彼は宣言通り雪音が撃ち漏らしたノイズをウォーロックバスターやデスサイズなどの出の早い技で倒す。さらにはまるで曲芸の様に、回転するデスサイズにウォーロックバスターのチャージショットを当てることで、チャージショットは乱反射拡散し周りのノイズを無差別に撃ち抜く。あり得ない速度で、全てのノイズが跡形もなく消滅した。この量のノイズと戦えてウォーロックもご満悦の様で、解りにくいが獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 

「けっ」

「お疲れ様、本調子じゃないのにやるね」

「…わかんのか?」

「そりゃあね。じゃなかったら僕のサポートなんて要らなかったと思うし」

「…そーかよ」

 

 

体調不良を指摘された雪音は緊張の糸が解けたようで、どてっと川の上で座り込んでしまう。彼もロックマンとして戦いはじめて初の共闘、ノイズ狩りで慣れている彼も少し疲れてしまっているようで、今雪音が座り込まなければ彼が同じような事をやっていたであろう。その証拠に、彼の気はもう抜けきっていた。

 

それに少しは雪音のロックマンに対する恐れは抜けたらしい、無防備な彼にボウガンを向けるようなこともしていなかった。

 

 

「ロック、これからどうしようか?」

『ん、ああ…』

 

 

彼はどうやって雪音を小日向の元まで連れていけばいいのかを考える。このままでは確実に雪音を連れていくなんて無理だろう。一旦電波変換を解除してから改めて雪音の元に行って説得?駄目だ、その前に雪音は姿を消すのだろう。疲れきった彼の頭に良い考えは浮かんでこなかった。

 

彼がそんなことを考えている中で、ウォーロックだけが、今の戦いに違和感を覚えていた。相手はシンフォギア持ちとはいえたった一人にこの量のノイズを差し向けるものか?と。生まれながらの戦士の勘、という奴だろうか。あの数はまるで、最初から二人を相手取るためのものだった気までしてくる。いや違う、二人を倒すためではなく、体力をある程度削るための。

 

 

 

─────事実。その予想は完璧なまでに当たっていた。戦いはまだ、終わっていない。

 

 

『スバルッッ!』

 

 

ウォーロックだけがそれに気付き叫ぶ。彼の背後に向かって伸びる、鞭と思われる武装。彼は気が抜けていたせいで気づかない、反応できない。しかしウォーロックが気付いていたのは幸運だった。彼の意思に反して、ウォーロックの意思によって右腕を背後に伸ばす。拳の先に六角形のエネルギーシールドが生成され、紙一重の差で意識外からの攻撃を防ぐことに成功した。

 

 

「ほう?これを防ぐか」

 

 

それは、音もなく、いつの間にかそこに立っていた。金色の鎧に、蛍光色に発光する鞭を構えた、異様な威圧感を放つ金髪の女。

 

 

「誰だ…!?」

 

 

当然、彼はこの女を知らない。だが放つ威圧感は彼が出会ってきた敵の中でも最も強い、視界に入れているだけで、冷や汗が流れる。…そして、その女に呼応するように、彼の心臓が跳ねた、気がした。

 

 

「フィーネ…!?アタシを始末しに来たのか!!?」

「ハッ、今さらお前に興味などない。用があるのは…お前だ、ロックマン。いや、ベルセルクの適合者と言った方がいいか?」

 

 

ドクン、ドクンドクン。心臓が暴れる。

 

 

「私に復讐せんがためにその身を聖遺物へと作り変えていたとは…流石の私でも予想していなかったぞ、ベルセルク」

「フィー、ネ?…どうしてベルセルクの事を…!?」

 

 

フィーネと呼ばれたその女に、彼の言葉は届いていない。彼に用があると言っていたくせに彼に意識は向けておらず、フィーネの意識は彼らの体内に眠る…ベルセルクにあった。

 

 

『フィーネっつったか!?俺たちに何の用があんだよ!』

「簡単なことだ。私の計画の邪魔になりそうなお前を始末しに来たのさ」

『始末だぁ!?』

 

 

ウォーロックが吠える、それだけ警戒している証拠だ。フィーネのその発言から読み取れる、自分が弱者を殺す、絶対的強者なのだという自信。それが是が非でも彼とウォーロックに警戒を持たせる。最も恐ろしいのはウォーロックも無意識の内に自分達が弱者なのだと分かってしまっていることだった。あまりにも、存在の格が違いすぎる。

 

そんな中でふと、彼はフィーネという言葉の意味を思い出していた。それは、楽曲の終止を表す用語で、五線譜法の終始記号。つまりは、終わりを示す言葉。ベルセルクの見せた悪夢での言葉が甦っていく。彼の中で、何かが繋がった。

 

 

「フィーネ、終わりの名を、持つ者…」

「…知っているのか?私の事を」

 

 

ほぼ無意識で呟いた言葉に、フィーネの警戒が強まる。フィーネの中にほんの少しあった慢心が消えた。今にも戦いが始まる、そんな緊張感がこの場を支配していた。

 

 

「二年前のライブのノイズをけしかけたのは、お前?」

「この問答になんの意味がある?」

「…いいから、答えろ」

「もし、そうだと言ったら?」

 

 

彼はこの二年間で忘れてしまったものがあった。復讐心、彼から家族を奪った者に対する持っていて当たり前の感情。彼はそれを、きっと家族が悲しむ、望んでいないと、それだけで復讐を捨てた。あの日に自分の復讐はもう終わったのだと、自分に言い聞かせて。その筈、だった。

 

その筈だったのに、目の前に本物の復讐相手が居るというだけで、彼の血は蒸発するくらいに熱く、その目はこの世の何よりも濁り始める。抑えきれない、表現仕切れない何かが混ざりあったどす黒い感情が全てを塗り潰す、ウォーロックの言葉も何も届かない。

 

彼の内側で、ベルセルクが歓喜する。そうだ、それでいいのだと。怒りに、憎しみに、狂気に身を任せればいいと。既に肉体を無くした醜い亡霊の、戦士の血(ウォリアーブラッド)が彼の負の感情をかさ増ししていく。彼の中に残っていた理性を食い潰す。

 

 

 

 

「───殺す」

 

 

 

─戦いの火蓋が、切って落とされた。

 

 

 

 





前回の話で厄災ロックマンが少し人気なのに笑いました。今思えば確かにパワーワードだ…。あと司令の強さはどれだけ盛ってもいいと思ってるのは私だけでしょうか。


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第七話



毎話投稿する度に誤字報告もらって申し訳なさと感謝が溢れてます。自分で読んでるとマジで見つからないんですよ…


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が傾き始めた、夕暮れの河川敷。小さな戦場と化したそこは今、おおよそ常人が見れば絶句してしまうような、おぞましい戦いが繰り広げられている。

 

 

「ハハハハ!!そうか!?お前は二年前のライブの生き残りという訳だっ!復讐を望むベルセルクにお誂え向きの奴を選んだものだなァ!?」

「ベルセルク、ソードッ!!」

 

 

ソードの様に片手だけを変えるのではなく、両手を実体剣に変えていつも行っている突進染みた加速など非にならない、瞬間移動でもしてるのかと疑いたくなるほどの速さでフィーネの背後を取り、その首をはねるために右腕を振るう。

 

 

「ハァッ!」

 

 

しかしそれは失敗に終わった、背後から来ることを予め読んでいたフィーネは彼が振るう剣に強引に拳を当てて、あり得ない膂力で剣を砕いてしまう。だがそれで諦める彼ではない、むしろ残った左腕の剣で彼の剣を砕いた腕を鎧ごと切り落としてやると言わんばかりに、フィーネの腕に刃をぶつける。

 

普段の彼からは想像がつかないほどの戦闘への前のめりっぷりは、ウォーロックから見れば質の悪い自殺の様に見えてしまう。それほどまでに、今の彼には復讐以外がどうでもよくなっていた。

 

 

「ネフシュタンがそんななまくらで切れると思ったかッ!?」

「黙ってろッ!」

 

 

バチバチ、と剣と鎧の間に火花が散り、剣にヒビが入っていくが彼はお構いなしだ、此方も強引に剣を押し、ついには金色の鎧に傷を負わせる…が、フィーネが蹴りでこれ以上のダメージを受ける前に突き飛ばす。その後傷を負った鎧はまるで生きているように、その傷を再生させていく。

 

「が、ぐっ…」

 

地面を転がりフィーネから10mほど離されながら、なんとか頭から着地する彼だが直ぐ様体勢を立て直し、また同じ実体剣を両手に出現させる。強く強く地面を踏み締めて、再度の瞬間移動顔負けの動きでフィーネに離された距離を取り戻さんとしていた。小細工が通用しないなら、真っ正面から詰めていく。フィーネも彼が踏み込んだのと同時に、金色の鎧から生える水晶が連なった様な二振りの鞭を、彼の歩みを止めるように伸ばしていた。

 

 

「ベルセルクソードォッ!!!」

 

 

交錯し重なる二つの鞭と二つの剣。今度は、彼の振るう剣がフィーネの鞭を切り落とした。流石のフィーネもこれは予想外だったようで、咄嗟に鞭を引き手元に戻す。その最中に鞭は鎧と同じように再生していき、瞬く間に元の長さまで戻ってしまう。

 

それをもう一度振るおうとするフィーネだが、そんなことをするよりも速く彼はフィーネの目の前に現れた。彼はたった二歩で距離を零に戻したのだ。胸部に迫る二つの刃、しかし今度のフィーネは防御の構えすらとろうとしない。

 

 

「ッ、だが近づいた所で攻撃が通らなければなァ!」

「それはどうかなッ!?」

 

 

フィーネの不気味なまでの自信を打ち破るために弓の様に引き絞られた両腕が放たれる、それは吸い込まれる様にフィーネを切り裂いた。確かに先程の様な抵抗はあったが、今度の剣は砕けるどころかヒビすら入らず、鎧ごとフィーネの肌に深い傷を与える。その手応えから、刃は骨にまで傷を与えた筈だ。

 

それもその筈。今彼が使っているのは《ベルセルクソード》は《ベルセルクソード》でも、先程使ったものの強化版、《ベルセルクソード2》である。切れ味も強度も段違いの代物だ。そしてさっきの意趣返しなのか、今与えた傷めがけて渾身の蹴りを繰り出し、フィーネを吹き飛ばす。

 

そしてまだ彼の攻撃の手は緩まない、吹き飛ばしたフィーネを追いかけ、追い付けばベルセルクソードを解除、スタンナックルを使用し、巨大な拳をフィーネに叩きつける。地面にめり込むフィーネ、このまま止めを、そう思う彼だが、次のバトルカードを使用する前に彼を眩い閃光と衝撃が襲う。どうやらフィーネは握っていた鞭からエネルギー弾の様なものを零距離で彼に打ち出したらしい。威力こそ控えめであったが、フィーネが彼から離れカウンターの攻撃を仕掛けるには充分な時間を稼いだ。

 

次に彼を襲うは鞭による連撃、ベルセルクソードならばもう一度無力化出来たが、スタンナックルではどうあがいても高速で迫る鞭は防げない。

 

 

「ガアアアァッッ!?」

 

 

命中した鞭は彼に高出力の電流を流し、更に次々と身体の肉を削いでいく。電波体であったが故に流血はしなかったが、それでも深い傷が彼の身体に刻まれる。

 

 

『スバルッ!コイツには勝てねぇ、逃げろ!!このままじゃ死ぬぞ!!?』

「五月蝿い!まだ戦える…ッ!」

『くそッ!ベルセルクが何かスバルにしやがったのか!!?』

 

 

確かにフィーネにはダメージは与えたのだから五分五分のはず、攻撃が入るなら勝つ見込みはある。そんな彼の希望はあっという間に捻り潰される。切り裂いた筈のフィーネの胸元が、鎧だけではなく肉ごと再生しているのだ。

 

 

「ククッ、言ったろう?攻撃が通らなければ、と。いくら切れ味を、威力を、速さを上げようと…ネフシュタンの再生能力の前には意味を為さない」

 

 

フィーネの不気味なまでの自信の源は鎧にあった。その名をネフシュタンの鎧。完全聖遺物であり、青銅の蛇の名を冠するその鎧は、驚異的なまでの再生能力を持っている。それこそ、身に纏う人間の肉を巻き込むほどに。しかしネフシュタンに纏う人間を回復させる力は本来存在していない、ならばなぜフィーネの身体は再生したのか?

 

その答えは至極単純で、ネフシュタンの鎧はフィーネの身体も鎧の一部だと認識しているからだ。鎧の一部であるフィーネが傷ついたのなら、ネフシュタンはそれを再生させる。そんな、裏技染みた手段。しかしそれはフィーネの身体を人から遠ざける。フィーネはこの戦いの中で、人を捨て始めている。

 

 

「バトルカード」

『おいスバル!!話を聞け!!!』

「ウォリアーブラッド」

 

 

それでも彼は諦めない、ついに彼は奥の手を使う。前回とは比べるのもおこがましい速さで雷の戦士(ベルセルク)のオーラが彼の身体を取り込んでいく。出力だけで言うなら立花戦の時の二倍以上だろう。ウォリアーブラッドの使用に対しフィーネは様子見で先程彼がかわせなかった鞭の連撃を。

 

荒れ狂う感情の波に飲まれぬ様に堪えながらも、鞭を目で追いかけることすらせず二つの鞭を一発で掴みとる。そのまま力任せに鞭をこちら側に引っ張り、フィーネを強引に引き寄せた。しかしここまではフィーネも予想していたようで、次に鞭を通して彼の身体に電流が流れる。

 

だがそれも効かない、むしろ流れる電流を自らの力に変え始めた。彼の身体が点滅し始める、何かが変わる予兆の様に。

 

 

「スタンナックル!」

 

 

鞭から手を離し、引き寄せたフィーネの顔面に拳の一撃がクリーンヒットする。スタンナックルの他にも、威力上昇のバトルカードをこれでもかと詰んだ、彼の持つ最高最大火力、顔面を跡形もなく消し飛ばせる一撃は、フィーネの顔から鮮血を流させることしか出来なかった。

 

 

それすらも本人は気にする様子もなく、冷静に彼の手から離された鞭を彼に巻き付けた。

 

 

「私に滅ぼされた一族の力を借りて復讐を誓う…ハッ、良くできた話だな。だが相手が悪かった」

 

 

そこからは、圧倒的だった。今まで本気を出していなかったのか?そう聞きたくなるほどに。縛り上げた彼を地面に何度も叩きつけ、彼が高速から脱出したとしても時には拳で、時には蹴りで。

 

彼の攻撃の一手一手の初動を確実に、徹底的に潰し、攻撃するときは最大火力をぶつける。いかにウォリアーブラッドを使っていて怯まず倒れないと言っても、そのダメージは彼の身体に残るし、回復手段があるわけでもない。正確に言えば、回復手段はあるが彼が回復をしようとした隙をついて攻撃され、回復さえ出来ない。ボロボロにされ、それでも諦めない彼は時折反撃に出て、普通なら倒せるようなダメージをフィーネに与えたとしても、攻撃をくらった側から回復するのであればその攻撃になんの意味もない。ただ寿命が数秒延びるだけだ。

 

着実に、彼の命の灯火は消えようとしていた。

 

 

「最初の威勢はどうした?それとも貴様の復讐とやらはそんなものなのか?」

 

 

 

フィーネに足蹴されている彼。身体を起こそうとしても、ウォリアーブラッドのサポートがあるはずなのに起き上がらない。意識が闇に沈みそうになる、そんな時だった。

 

 

「─■ッ」

 

 

ベルセルクの意識が、彼の身体を無理に起こす。主導権が変わろうとしていた。

 

 

「今さら貴様が出てこようと無駄だ」

 

 

立ち上がった彼の、ウォリアーブラッドの出力がまた上がる。しかしそれでもフィーネには届かない。フィーネの再生能力を越える何かは手に入らない。

 

 

「■■ッフィーネェェェェェ!!!!」

 

 

ベルセルクが彼の身体を通して叫ぶ。千年もの憎悪の籠った叫び。一族、仲間、全てをフィーネというたった一人によって奪われた復讐者たちの慟哭。

 

人の身を捨ててまでも仇をとろうとして、やっとそのチャンスを掴むことが出来たのだ。なのにこの様はなんだ?そんなベルセルクの思いが、彼の意識に余すことなく伝わり、その記憶の一部が逆流していく。

 

 

 

ベルセルクとは、今の人の歴史が紡がれるよりも前に存在したとされる種族である。実在したかどうかは不明、ただ、彼らが滅んだ原因は敵対種族との争いによってではなく、ベルセルク同士での争いによるものとされている。

 

ここまでは、彼が知っているベルセルクの歴史。彼は歴史の真実の一端に触れる。確かにベルセルクは同種族間での争いによって滅んだ、これは真実だ。だがフィーネは自分が一族を滅ぼした、と漏らした。本来なら矛盾してしまう所だが、今回に限ってはどちらも正しいのだ。

 

フィーネは先史文明期から特殊な方法を用いて、()()()()()()()()()現代まで何度も転生を繰り返している。そんなフィーネはベルセルクの一人として転生したことがあった。…つまりは、ベルセルクとして転生したフィーネが種族を滅ぼしたのだ。その理由は本当に単純で、ベルセルクがフィーネの目的の邪魔になるから。これだけの理由でベルセルクという種族は歴史から姿を消してしまった。

 

その無念と恨みを彼は追体験する。ベルセルクたちは、何も出来なかった。いきなりの仲間の裏切りに、どうも出来ず滅ぼされた。許せるか?そんな理不尽が。ベルセルクがそう問いかけてくる、答えは当然否だ。

 

きっと、いつもの彼ならその理由をフィーネに聞いていただろう。何か理由があったのかと、どうしてそんなことをしたのかと。だが今の彼にそんな考えは浮かばない、復讐に囚われた心は揺れ動かない。

 

 

 

彼がベルセルクの過去を見ている間にも、彼の身体は戦っていた。意地汚く、チャンスを伺っている。ベルセルクの意志と彼の意志がお互いに鬩ぎ合う。

 

 

「■ィ■ネェッ!」

「存外しぶといな、だがもう終いだ」

 

 

フィーネが宙に浮かぶ。鞭を天に向かって伸ばせば、鞭の先に白い球状の高密度のエネルギーが発生していく。既にボロボロの彼がそれを食らえば、確実に死んでしまうであろう一撃。それが彼へと放たれる。

 

 

「────っ」

 

 

 

どう足掻いても打つ手はない。あれに対抗出来るバトルカードは持ち得ていないし、足も既に動かない。ウォーロックが何かを叫んでいるが耳鳴りでよく聞こえない。それでも彼は諦めない。その心が、一つの奇跡を起こす。

 

今まで彼はベルセルクを使いこなせないでいた。彼自身があまり闘いを求めない質というのが致命的なまでにベルセルクと相性が悪かったのだ。それをウォーロックがカバーすることで、ウォリアーブラッドという形で、低出力ではあるが力を引き出していたのだが…今は違う。彼と、ベルセルクの復讐心が共鳴しあっている。お互いがお互いを復讐のために利用し、他者を拒絶しながら力だけを求めている。

 

二者の心は、最低の形で最高の共鳴(フルシンクロ)を起こしていた。

 

そして最後に、死にたくないという思いが重なる。それが命運を分ける鍵になった。彼らの体内に眠るベルセルクの力を、今の彼が引き出せる最大まで引っ張り出す。一回きりの、白紙のバトルカードという形で出力される。

 

そして、彼の精神に本来は小さかった復讐心を増大させるために作用していたベルセルクの力も出力のために回され、一瞬ではあるが理性を取り戻す。

 

 

「──ロッ、ク。ごめん、最後に、力貸して。」

『やぁっと目ぇ覚ましやがったかこの大馬鹿野郎ッ!あとで話じっくり聞かせてもらうからなァ!』

 

 

相棒の帰還を素直に喜ぶウォーロック。目前まで迫ったフィーネの必殺を尻目に、彼の手に生まれたバトルカードを使用する。

 

 

 

 

 

「サンダー、ボルトォ!ブレイドッ!!」

 

 

 

 

 

それこそ、ベルセルクの力を彼が正しく引き出した時にのみ許される必殺技。刀身まるごとが雷によって形成された両手剣、二年前のロックマンが振るった最強の武器。そこから繰り出されるは雷鳴の三連撃。威力だけならフィーネの技も凌駕できる。

 

ぶつかり合う必殺と必殺。結果は相討ち、彼は力の全てを出し切り今にも倒れようとしている。このまま倒れれば電波変換が解除され、折角の生還のチャンスが不意に消えてしまう。

 

 

『女ァ!!!スバル抱えて逃げろォッ!!』

 

 

ウォーロックが、今の今までこの戦いを見ていることしか出来なかった雪音に叫ぶ、ウォーロックからしても苦肉の策だが、今はそれに賭けるしか無かった。当然雪音は咄嗟に反応できなかった。

 

 

「な…ッ!?」

 

 

雪音がこの戦いを眺めているだけだったのには理由がある。体調不良の中戦闘を行ったせいで身体を思うように動かなかったのに加え、どちらに味方すればいいのか分からなかったのだ。フィーネは雪音からすれば親代わりだ、しかしフィーネは雪音を裏切っている、それが雪音の足を止めさせた。彼に関しては助ける理由は無かったが、邪魔をする理由もなかった。

 

ほくそ笑んだフィーネが鞭を振るうが、その攻撃を彼は運良く倒れることで回避した。電波変換が解除される、ロックマンの姿から、星河スバルの姿へと戻っていく。

 

 

「あい、つは───」

 

 

雪音は彼を知っている。そして雪音の中で何故ロックマンが自分を助けに来たのか、その理由が組み立てられていく。こいつはまたアタシを助けようとしたのだ、と。そう彼女が思ったときには既に、身体は彼を助けに行っていた。

 

 

少し休んだおかげで身体はよく動く、彼の元に辿り着くまでそう掛からない。フィーネはさせじと追撃を仕掛けに行くが、雪音がそれをボウガンを当てて弾く。そのまま彼の身体を米俵の様に担いだ。

 

 

「って、逃げるたってどこに逃げりゃいいんだよ?!」

『おめぇがさっき居たとこだよ、ほら急げ!!』

「ど、どこから喋ってやがる!?」

『スバルのスマホだ気にすんな!いーから行け!!』

 

 

ウォーロックもウォーロックでなんとか雪音に指示を出すために、彼のスマホに入ることで声だけを届ける。目的地はまずは彼の家、それまでにフィーネを撒ききれることを願うしかない。

 

 

「逃がすと思うかッ!?」

 

 

フィーネも諦めない。地面に降り立ち追いかけようとするが、そのタイミングでフィーネの持っている連絡端末が振動する。それは、二課からの通信だ。気づいたフィーネは舌打ちをする、最悪のタイミングであった。フィーネは表の顔のせいでこの通信に出ないわけにはいかない。だがわざわざ出向いてまで殺そうとした相手を見過ごすのは戦いの意味が無くなる。

 

 

「!フィーネの動きが止まった!」

 

 

雪音はその隙を見逃さない。ウォーロックの音声案内に従って、この河川敷から離れていく。雪音が抱える彼の身体は、男の身体と思えないほどに軽かった。おかげで逃げるスピードが遅くならずに済んでいる。どうやらフィーネは、二課の通信を取ったようだった。

 

 

「チッ…!」

 

 

フィーネはネフシュタンの鎧のその姿から肉体を櫻井了子のものへと変貌させ、通信に応える。どうやらそれが表の顔らしい。これ以上深追いするつもりは無いようで、二課の職員と通信を交わすその顔は、明るげな声とは裏腹に歪んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪音とウォーロックは逐一後ろを確認してフィーネが追っているのかを気にするが、その心配は無さそうだった。河川敷からもある程度は離れることができ、ホッと一息つく。

 

 

「なんでこんな遠回りすんだよ」

『逃げてる途中でトッキブツにでも会ったら悲惨だろうが』

 

 

言葉の通り、あえて最短距離で商店街を抜けず遠回りで彼の家へと向かっていた。商店街はノイズが現れたら場所のため、二課が居る可能性が高いのだ。その道中ウォーロックが雪音にそろそろシンフォギアを解除しても大丈夫なんじゃねぇか、と言えば、雪音は言われなくても解ってんだよ、と返す。

 

 

「っと、こいつは背中に担ぐしかねぇか」

『おう、そうしてくれや』

「…なんで何もしてねぇのに偉そうなんだよ左腕!!」

『ア"ァ"?!誰が左腕だテメェ!!道案内してやってんのは誰だと思ってんだ!?』

「んなの無くても充分なんだよ!!つーか、なんでアタシがこいつを家まで送ってかなきゃいけねぇんだ!?」

『けっ、二度も助けてもらった恩を仇で返すのか?』

「っ、誰も送らねぇとは言ってないだろ!」

『んだよ面倒クセェ女だなテメーは!ぴーちくぱーちくよ!喋らずに歩けねぇのか!?』

「お前が話しかけなきゃいいんだろうが!!」

 

 

あれほどの戦いがあった直後だと言うのに、ウォーロックと雪音の二人は元気に怒鳴りあっていた。相当に相性が悪いというか、別の意味で似た者同士というか。結局少し黙っていてもどちらかがボソッと余計な事を言うせいで、また口論に発展している。

 

それから大体三十分くらい歩いただろうか。雪音の元々少ない体力が尽きて、途中で休憩を挟んでいた。

 

 

『お前体力ねーな。まだ家まで距離あるぜ?』

「うる、せぇ!…というか、お前はお前で何者なんだよ」

『あ?俺か?電波体の…つっても分からねぇか。まあ聞きてぇならスバルにでも聞けや』

「起きてないだろ」

『起きたときに聞けばいいだろ?』

「…そりゃ起きるまで面倒見ろってか?」

『そうは言わねぇよ、ただ聞きてぇならそうするしかねーかもな』

「嫌な奴だなお前」

 

 

雪音が心底嫌な顔をする。苦虫を噛み潰したような、といった表現が良く似合う。ウォーロックは声色でそれを感じてケラケラ笑っていた。

 

 

「…あとどんくらいで着くんだ?」

『五分もしねえだろ。なんだ、また疲れたのか?』

「別にそんなんじゃねえ」

 

  

気がつけば完全に日が沈んでいた。街灯が点き始めて、空気が夜独特のものに変わっていく。相変わらずウォーロックと話す雪音の顔は嫌がっているが、ウォーロックは何処か楽しそうでもある。

 

というのも、ウォーロックがこうやって彼以外と話すことがまずないからだ。だからなのか、本人も気づかない内に会話を楽しんでいるのだろう。雪音も顔こそ嫌がっているが心の底ではどう思っているか分からない。ただ、ずっと歩いているのを見て暇しないように話しかけているのだろう、ということはなんとなく察していた。

 

雪音にとってウォーロックは得体の知れない何かではあるが、彼女の毛嫌う存在よりは少しはマシだな、くらいには思えている。ウォーロックは孤独な人間の心を開かせるのが上手いのだ、伊達に彼と二年間を過ごしていない、ということだろう。

 

 

『おら、着いたぞ』

「ったく、やっとかよ…おい、鍵閉まってんぞ」

『スバルの野郎、律儀に閉めちまったのか』

「どうすんだよ?」

『スバルの服のどっかに鍵が入ってると思うから探してくれ』

「は、はあ!?あ、アタシに男の身体まさぐれってのか!!?」

『急に叫ぶんじゃねぇよ!お前やっぱ面倒くさい奴だなァ!!うぶかよ!?』

「う、うるせぇ!!」

 

 

因みにこのあと雪音は彼の家の鍵を探すのに二十分以上もかけてしまう。その間に彼が起きそうになったのを雪音が強引にまた気絶させたり、隣の住人から変なものを見る目で見られたり、気付いたら彼のスマホに小日向から大量のメッセージが来ているのにウォーロックが気付いて絶句する、と色々あるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 






こんなフルシンクロは嫌だなーと書いてる最中に思いました。あと地味にフィーネのネフシュタンとの融合が原作より早めになってます。

あと、クリスちゃんが疲れて休んでるのは一期8話最後でクリスちゃんが居る辺りです。原作だとあんな悲しい顔ですけどこっちは多分ウォーロックと喧嘩してます。


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第八話


ちょっと文字数少ないです。長くても読みにくかったら元も子もないですからね。

今回は少し羽休め回みたいな感じであんまりお話は動きません。申し訳ない。


 

 

 

 

 

 

 

 

彼らの戦いが終わった後。ノイズが現れた商店街では、二課職員たちによる事後処理が始まっていた。職員たちのほかにも、二課に保護された一般人たちも手当てを受けて、各々が自分の家などに帰っていく。そして、一般人に紛れて、立花響と小日向未来の姿もあった。二人とも土や埃まみれで、お世辞にも綺麗とは言えないくらいには汚れていた。

 

その二人の前には風鳴弦十郎と、二課所属のエージェントであり、トップアーティスト風鳴翼のマネージャーでもある男、緒川慎次の姿もあった。そして緒川の手には小日向の鞄が。

 

どうやら小日向は、星河と別れた後に避難所に行かず、無茶を行ったらしかった。全身が汚れているのもきっとその時に何かあったのだろう。

 

 

「はい。落ちていたのを回収しておきました」

「あ、ありがとうございます…!」

「どういたしまして」

 

 

因みに小日向が鞄を落としたのは廃ビルの中、彼女が行きつけのお好み焼き屋の店主を助ける際に落としたのだが、彼女はそれに気付かず他のとこで落としたのだと思っていた。半ば諦めていたのだが、この緒川は小日向が鞄を落としたことを伝えることもなかったというのに、鞄を探し出して本人に渡した。…一体何者なのだろうか。小日向は少し不思議に思った。

 

 

「あの…師匠」

「ん?」

 

 

師匠、というのは風鳴弦十郎のことである。立花響は人類最強と名高い風鳴弦十郎に師事していたりする。おかげで立花の戦闘能力は、シンフォギア装者になってから未だ半年も経っていないというのに高まっていた。具体的にはもう一人のシンフォギア装者である風鳴翼と同等くらいには。

 

 

「この子に、また戦ってるところをじっくりばっちり目の当たりにされてしまって…」

「違うんです! 私が首を突っ込んでしまったから…!」

 

 

本来シンフォギアは国家秘密である。なのでシンフォギアの存在を確認してしまった一般人は分厚い誓約書を書かされ、一般人向けの事情を説明してシンフォギアの存在が世にバレることを防いでいるのだ。小日向も少し前に立花がシンフォギアを纏って戦う所を見てしまい、誓約書を書かされている。そんな彼女がまたシンフォギアと関わるのは色々と不味かったりするのだが…

 

 

「ふむ。詳細は後で報告書の形で聞こう、まあ不可抗力という奴だろう。それに、人命救助の立役者にうるさい小言は言えないだろうよ」

 

 

そこをとやかく、野暮なことを言わないのが風鳴弦十郎である。人が出来ている、と言えばいいのだろうか。二人が元々仲良しだと知っていることから、一種の労いの意味もあるのだろう。

 

 

「やたっ!」

「うん!」

 

 

仲良くハイタッチする二人。昨日や今日の今朝がたは、今語った立花がシンフォギア装者であったことが小日向にバレたせいで長年の友情が危ぶまれるくらいの喧嘩をしていたのだが、どうやら仲直り出来たらしい。どちらも自分の思いを余すことなく伝えられたようだ。

 

さてそんなところで、空気を読んでか読まずかのタイミングで荒い運転の車が商店街に到着した。フィーネこと、櫻井了子がやってきたのだ。

 

 

「さて!主役は遅れて登場よ!」

 

 

改めてその姿を見れば、フィーネの面影は一切ない。本当にフィーネは櫻井了子なのか?そう疑ってしまうほどだ。まるで何事も無かったかのように、少し前まで戦ってなどいなかったというばかりに櫻井了子は落ち着いていた。二課の職員と連携をとりながら事後処理を進めていく、きっと彼がここに居たら絶句していただろう。

 

彼、といえば。小日向が、立花と話している最中ちらちらとスマホを確認している。なにやら先程から彼にメッセージを送っているようなのだが、一切反応が無いので不安を覚えているようだ。

 

 

「どしたの未来?」

「う、ううん!なんでもないの」

 

 

彼には二年前に何も言わず音信不通になった前科があるため、それが余計に小日向の不安を煽る。しかしそれを立花に言ってもどうにかなるわけでもなく、それを聞いた立花がどんな反応をするかも分からない。立花と彼の間には何かしらの軋轢がある、それがどんなものなのかは知らないが、きっと触れない方がいいのだろう。

 

…目前の親友との問題の解決を果たしたからこそ、改めて色々と考えてしまう。雪音クリスは果たして無事なのか?彼とは会えたのか?最悪ノイズに襲われて、ということもある。

 

 

「後は頼りがいのある大人たちの出番だ、響くんたちは安心して帰って休んでくれ」

「「はい!」」

 

 

二課の職員の一人、友里あおいが暖かいものということで、飲み物を持ってきてくれる。それを受け取って飲みながら改めてなんとかなったな、と立花は一息ついた。立花は上機嫌である。最初は不仲であった風鳴翼ともついに和解を果たし、一時はどうなるかと思った小日向とも今語ったように仲直りできた。今ならなんでも出来そう!と冗談半分ではあるが思ってしまうほどだ。

 

 

「あ、あの!私、避難の途中で友達とはぐれてしまって…星河スバルと、雪音クリスと言うんですけど…」

 

 

風鳴弦十郎が現場に指示を出すためにこの場を離れようとする、それを見た小日向は条件反射で声をかけた。風鳴弦十郎は挙げられた名前に少し反応を示したが、小日向はそれに気付かない。

 

 

「被害者が出たとの報せも受けていない。その友達とも連絡が取れるようになるだろう」

「よかった…」

 

 

小日向もホッと一息ついた。それならば彼のことだ、スマホを見てないか、そもそも存在を忘れたりでもしたのかもしれない。もしかしたら避難所の方に居る可能性だってある。少し心の落ち着きを取り戻した小日向だった。そして風鳴弦十郎は小日向に答えたあと職員に呼ばれ、今度こそこの場を離れる。

 

 

「み、未来ってばスバルくんに会ったの!?」

 

 

立花が小日向のした質問に釣られる。しかし星河スバル、という部分に気をとられたせいで立花は雪音クリスの名前は聞き逃していた。小日向の口からその名前が出てくるとは思わなかったらしい。

 

 

「うん、今朝偶然会ったんだよ」

「そ、そうなんだ…」

 

 

何か言いたげな顔の立花。

 

 

「気になるんだ?」

「あ、う、うん…」

「そっか」

 

 

少しからかった口調で小日向は問いかける。立花は彼のこととなると妙に奥手になる。二年前もそうだったな、と小日向は思い出した。

 

確かに彼が転校してしまった時期は小日向と立花にとって最も大変な時期ではあったのだが、それにしても立花は彼の事を話題に挙げるのを避けていたりした。当時は聞ける雰囲気になく、結局何も聞けなかったのだが。ただ、立花自体がまた彼と話したいのは確かなようで、それが小日向には少し嬉しかった。

 

そして二人は寮への帰路につく。立花が彼について何か聞いてくると思っていたのだが、結局彼女がその話題に触れたのは最初だけだった。ただ、他の話をしている最中悩んだような顔をしていたので、敢えて話題にしていないようである。

 

小日向も時折会話の節々で、何か手伝えることがあるのなら手伝うといったことを伝えるものの、当の本人である立花がそれを自分の問題だから、と拒否する。

 

 

「あ」

 

 

そんなところで、小日向が彼に送ったメッセージに既読が付いた。本当に無事だったようだ。そして既読がついてから二分ほどで返信も返ってくる。無事だから心配すんな、と彼の文章にしては何処か荒っぽい気はしないでもないが、とりあえずは無事な事に喜んだ。その後の返信で雪音が無事なのも伝えられる。久方ぶりになる彼とのやり取りは小日向が思っているよりも小日向の心を満たしていた。

 

小日向は彼のメッセージに返信を返す。無事で良かったことと、メッセージを大量に送ったことへの謝罪、あとは今度暇があったらまた会えないかな、といった感じだ。今度は直ぐに返事が返ってくる。考えとく、その一言だけだったが。

 

 

また三人で仲良く出来るようになればいいな、と小日向は思う。そうして、夜が更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は移り、彼の家。

 

 

「この事は誰にも言わないでください…っっ!」

 

 

───それは見事な土下座だった。綺麗に揃えられた指先、見事に真っ直ぐのびた背中。土下座をし続けるその身体は一切のぶれも許さず、平伏された頭はもはや芸術。そんな半ばふざけた様にも見える土下座をされている雪音クリスは、非常に困った顔をしていた。何がなんだか分からない、そう言いたげである。

 

 

「いや、あの本っ当に、僕がロックマンであることは秘密にしてくれると…」

「わ、分かったから頭上げろよ…」

 

 

家に運んでから直ぐ様起きた彼だったのだが、パッと傍にいた雪音の顔を見て急に土下座をし始めたのだ。なにやら意識を失う寸前のことを覚えていたようで、目が覚めた瞬間に状況をなんとなくで理解したらしい。彼からすればロックマンの正体がバレるのは一番避けていた事柄、これがトッキブツの面々でなくて良かったと思うものの、それはそれとして口止めは必要だと思ったのだろう。

 

ウォーロックはそれを見てゲラゲラと下品に笑っていた。因みにまだ彼のスマホの中に入ったままなのでその笑い声は雪音にも聞こえている。

 

 

「っ本当!?」

「あ、あぁ」

 

 

彼は求めていた言葉に咄嗟に起き上がり距離を詰める。彼の異様なまでに必死な剣幕に思わず圧されてしまう雪音。そして距離を詰めすぎたことに気付いた彼の顔の血の気がサッと引いて、謝りながら少し離れる。

 

 

「…」

「…」

 

 

彼としてはどうにかロックマンの正体を黙っていて欲しいとしか思っていなかったので、その後どうするかは一切考えてなかった。雪音も雪音で、彼が目覚める前にさっさと出ていくつもりだったのに、こんなことになってしまいそのタイミングを失ってしまっている。気まずい空気が少し続く。

 

 

「そ、そうだ。熱とかはもう大丈夫?」

 

 

雪音が無言で頷く、会話は続かない。

 

 

「雪音さん、は。こんな時間だけど、ご両親とかは心配してないの?」

「…居ねぇよ。パパとママはガキの頃に地球の裏側で殺されちまった」

「ご、ごめん」

 

 

完全に地雷を踏み抜いた。気まずい空気に重さが加わった、気がした。やってしまったと後悔する彼、どうにか出来ないかと辺りをつい見回すと、彼が玄関前に置いたまましていた買い物袋があった。どうやら雪音が部屋に入れてくれていたようだ。駄目元だがこれしかあるまいと思い立った彼。

 

 

「えと、お腹減ってない?まだ何も食べてない、よね。なにか作るから待ってて」

「いらねぇよ、別に」

 

 

雪音の言葉を聞いていながらも彼が立ち上がる。これくらいはしておかないと、助けてもらった恩は返せないと思ったのもあるが、このままだと気まずさが続くだけだからでもある。買い物袋からささっと食材を取り出して調理を始める。

 

そして調理を始めてから暫くして、無言を貫いていた雪音が口を開いた。

 

 

「…パパとママが死んでから、アタシはずっと一人だった。友達も、いなかった」

 

 

彼の調理を進める手が止まる。何か答えた方がいいのか悩んだが、きっと此方がとやかく言うのは求められていないだろう、と判断する。雪音の言葉が少し止まったのは、小日向の事が少し過ったからだった。

 

 

「たった一人理解してくれると思った人も、アタシを道具のように扱うばかりだった」

 

 

雪音は思い出す、フィーネに役立たずと言われたことを。元々フィーネの考えに賛同し、フィーネと共にこの世から戦争の火種を無くすという目的のために戦っていたのが雪音だ。その筈だったのに、雪音はフィーネに裏切られた。用はないと言われ、急に切り捨てられた。

 

 

「誰もまともに相手をしてくれなかったのさ。大人はどいつもこいつも、クズ揃いだ」

 

 

信頼していた人間に裏切られるのは、どれほど辛いだろうか。人生の大半を信じていた筈の大人や信じたかった大人の存在に苦しめられ続けて、彼女は何を思ったのだろうか。

 

「痛いと言っても聞いてくれなかった。やめてと言っても聞いてくれなかった」

 

フィーネはかつて雪音に、痛みこそが人と人の心を繋いで絆と結ぶと語った。一種の正解ではあるのだろう、しかしそれは常人にとっては呪いだ。痛みは人を縛り付ける、離れたくとも離れられない呪いになる。事実、雪音に残った痛みは雪音の心を今も縛り付けている。誰かを信じたくとも痛みがそれを拒否させる、歪んだ教訓として。

 

 

「アタシの話なんて、これっぽっちも聞いてくれなかった…ッ!」

 

 

きっと彼女はそれを吐き出さずにはいられなかったのかもしれない。親の様に慕っていたフィーネに捨てられ、もう一度会ったときには毛ほども興味を持たれていなかった。その辛さが雪音に望まぬ感情の発露を行わせる。言いたくもなかったであろう事を言わせてしまった事を彼は悔いる。必死に言葉を探す。

 

 

 

「…雪音さんは、強いんだね」

 

 

 

止まっていた調理を進める。ポツリと呟かれた彼の言葉を聞いた雪音が、怪訝そうな顔をした。どうして今の話から強いという結論が出るのだろうか。

 

 

「僕の両親、二年前に亡くなったんだ。だから、ほんの少しだけだけど、君の孤独がわかる」

 

 

未だに彼の手には、炭になってしまった父の背中の感覚が残っている。繋いでいた母の手の温もりが消えてなくなる瞬間を忘れられない。一人になった後の、親友に化け物を見るような目で見られたこと、謂れのない罪で消えた絆の脆さも覚えている。孤独の恐ろしさを知っている。

 

 

「僕はそれだけで誰かを信じるのが怖くなった。けど君は孤独になっても信じることを諦めなかった」

 

 

彼は人を信じることを諦めてしまった。人と関われないわけではない、だが関わっていく上で信じることが出来ない。悪夢でベルセルクが語った通り、彼は人を疑い裏切りに怯えている。だからこそ、孤独になっても、裏切られても人を信じることを諦めない雪音を彼は『強い』と評する。

 

 

「それはきっと、誇っていいことなんだと、思う。君の勇気は何よりも強いんだって」

「そう、かよ」

 

 

今まで雪音はそんなこと言われたことはなかった、心の中によく分からない感情が湧き出る。ほぼ初対面の男のほんの短い言葉で、雪音はほんの少しだけ救われた気持ちになってしまっていた。劇的に彼女の何かを変えるわけではない、それでも。

 

 

「…ありがとう。なんかすっきりしたよ」

 

 

変わるきっかけくらいにはなるのかもしれない、雪音は何かを決意したような顔で立ち上がる。そのままじゃあな、と告げて彼の部屋から出てってしまった。

 

 

『作ってる意味なくなっちまったな』

「あはは…まあいいよ。明日の夕飯にでもしよう」

 

 

ウォーロックがスマホから出てくる、ウォーロックにしては珍しく静かだった。実は今の今まで小日向のメッセージに既読をつけたりメッセージを返信していたのである。

 

 

『スバル、身体は大丈夫か?』

「正直やばいかも。立ってるのも厳しい」

『だろうな、あんなダメージくらっちまったんだ』

 

 

へたり、とその場に座り込んでしまう彼。どうやら無理をしながら調理をしていたらしい。ウォーロックもウォーロックで大きなため息をつきながら、彼に大事なことを告げる。

 

 

『スバル、暫く電波変換は出来ねぇと思え。今のお前じゃ戦闘に耐えられねーだろ』

「分かった、まあこの身体じゃ仕方ないかも。…配信どうしよ」

『知るかよ。つーか、結局あのフィーネとかいう女はどうすんだ?』

 

 

別にウォーロックは彼が復讐に走ろうと止めるようなことはしないだろうが、またあのような暴走をされるのは一心同体の身としては困るものがある。ウォーロックとしては聞いておかない訳にはいかなかった。

 

 

「…どう、しようね。でも何か不味いことをしようとしてるのは確かなんだと思うし」

 

 

あの時彼に流れてきたベルセルクの記憶の中で、フィーネは大きな目的があると語っていたことを思い出す。最低でもベルセルクの時代から現代まで存在している奴の大きな目的なんて確実にヤバイものに決まっている。

 

 

「…まぁ、そこはおいおい」

『急に雑だな』

「やっぱ疲れちゃってるのかも」

 

 

復讐を行うべきなのか、彼は迷っていた。確かに恨みはある、殺してやりたいと思う、しかし彼の心はそれが本当に正しいのかどうかを考えてしまう。あのライブの被害者の気持ちを勝手に語る気はないが両親が死んだ原因は許しがたい。

 

 

 

今はただ美味しいご飯でも食べたいな、と思う。少しだけ現実から目を反らしたくなった彼だった。

 

 

 






因みに投稿がいつもより遅いのは流星のロックマン2を改めてやってたからです、すまんかった。


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第九話

 


皆様お久しぶりでございます。メテオGです、長らく作品を放置してしまい申し訳ありませんでした。

とある事情でハーメルンそのものから離れていたんですけど、その間に全くと言っていいほど流星のロックマン作品が増えていないことを知って絶望し、それを理由に恥ずかしながら戻ってきました。約四ヶ月ぶりに文を書くので下手になっているかもしれません、どうかお許しください。

流星のロックマン作品もっと増えてほしい…(切実)


 

 

 

 

 

 

 

「…ロック。これ、なんだろう」

 

 

彼は今、因縁の深い場所に足を運んでいた。二年前にノイズが大量発生し、1万人以上の被害者を出したかの大事件が起きたライブ会場である。今は建て直され、二年前の傷跡は一切残っていない。ただライブ会場の前に建てられた慰霊碑が、確かにここであの事件は起きたのだと思い出させる。とある理由からこの場所に来ることになった彼なのだが、そこで彼は不思議なものを見つけていた。

 

 

『破損しまくってて内容はわかんねぇが、データのかけら…みたいだな』

「なんでそんな変なのがここにあるんだろ。しかも電脳世界とかじゃなくて、電波世界に」

 

 

電脳世界、というのはコンピューターネットワークによって自然に構成されている仮想空間である。簡単に言ってしまえばネットの中だ。因みに彼の目にしか見えていない電波の道だとか、現実世界に重なって存在している空間を引っ括めて電波世界と彼は呼んでいる。普通なら今ウォーロックの手の中にあるようなデータは電波世界に転がっていることはほとんどない、あったとしてもウィルスデータだったりくらいしかない。

 

しかし今彼が見つけたそれは、それとは違うように見えた。ならばこれは一体なんなのだろうか?彼が思考していると、ウォーロックがそのデータ片手にスマホの中に入り込んだ。

 

 

『おめーのダウンロードファイルの中に入れといたぜ』

「なんでそういうことするかな!?」

 

 

彼が咄嗟にスマホを取り出して確認してみれば、タイトルは《螟ゥ鄒ス螂》と文字化けしており、拡張子が何も付いていないファイルが入っていた。間違いなく今彼が見つけた破損データだろう。しかも死ぬほど容量が重い。

 

 

『なぁ、折角だから他にもないか捜してみようぜ』

「会話のキャッチボールをしようよロック。それに他にあるものなの?」

『かけらって言ったろ?多分他にもあるぜ』

「…いや、だとしても何処にあるか分かんないでしょ?」

『それを探そうって言ってんだよ!どうせ休憩中だしいいだろ?気分転換だよ、気分転換』

「少しは休ませてロック…肉体労働のしすぎでもう身体が…」

 

 

そもそも、何故彼がこのライブ会場に居るのか?それは今日の朝まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロック。これ、なに」

 

 

フィーネとの戦いから少し経って。今日は初っぱなから寝起きの彼がウォーロックに怒りを露にしていた。その手に掲げられているのは彼のスマホで、その画面には彼が普段使わないメッセージアプリが開かれている。会話先は小日向未来のようで、丁度30分ぐらい前に新着のメッセージが来ていた。内容としては当たり障りなく彼の体調を心配するものであったが、彼が気にしているのはその前の文。彼が送った覚えのないメッセージが小日向に送られていることである。

 

 

『通知が煩かったからお前の代わりに返信しといたんだよ』

「いやなに勝手に返信してるんだよロック…!!というか何これ!?なんで今度また会うみたいな感じになってるのさ!!!」

『別にはっきり行くとは言ってねぇから大丈夫だろ?』

「問題は誘いの連絡が来たときだよ…!断る文考えるの大変だろ?!」

『…んなのテキトーでいいじゃねぇか』

「ロックは小日向さんの誘いの断りづらさを知らないからそんなことが言えるんだ…!」

 

 

声を荒げる彼、その言葉は妙に実感が籠っていた。まだ小日向と友人だった頃に何かがあったのだろう。苦虫を噛み潰したような顔で尻に敷かれていたという過去に思いを馳せているが、ウォーロックからすれば知ったことではないので頭をポリポリ掻き、無視をしながら言葉を返す。

 

 

『だー!!さっきからごちゃごちゃうるせー奴だなお前はァ!?お前はそういうとこが女々しいンだよ!』

「女々しいとはなにさ!!」

『二年も前に付き合いが切れた奴に物怖じしてるなんざ十分女々しいだろうがよ!!』

 

 

次第にそれは口論に発展していき、中々の喧嘩を始める二人。…彼とウォーロックがこうして喧嘩するのは実は然程珍しくなかったりはする、時折ウォーロックが彼をおちょくったりして彼の怒りを買っているのだ。今回は珍しく彼がウォーロックの押しの強さに負けることなく言葉の殴り合いをしているが、結局隣の部屋の住人が文句の代わりに彼の部屋とを隔てる壁を強く叩き、その音に二人ともビビることで喧嘩は中断。ご近所トラブルは怖い彼だった。

 

 

『…つーかお前、俺が返信したのに今頃気付いたのかよ。もう一週間経ったぜ?』

「ぐっ、いや、それはその…」 

 

 

因みに彼が返信されていたことに気付かなかったのは普段から彼がメッセージアプリを一切開かないからである。連絡先に登録してるのもバイトの店長だけで、緊急時以外は連絡はないので今朝小日向からメッセージが来るまで気付かなかったという訳だ。

 

 

『まぁ勝手にお前のスマホ弄ったのは謝るぜ、悪かった。…で、結局返信は済ませたのか?』

「実はまだなんだ。文字を打とうとすると指が震えてね…」

 

 

別に身体にダメージが残っているわけではなく、精神的に厳しいらしい。人に業務と関係ない文を送るのは二年ぶりなので仕方無いのかもしれないが。

 

 

『おいおい…今日はこれからバイトなんだろ?早めに終わらせとけよ』

「あ。うん」

 

 

今日は久々のバイトである。といっても普段働いている場所ではなく、今日は短期バイト。最近外食が多かったせいで生活費に不安があるようで、仕方なく短期のバイトを入れたようだ。内容はライブ会場の設営、本当なら肉体労働系のバイトはしないのだが、暫く電波変換が出来ない状態が続くなかで身体が鈍らないように、少しでも身体を動かしておきたいらしい。最寄りの駅から送迎バスが出ているところも彼にとっては都合が良かった。

 

 

『にしても、ライブ会場の設営なんて大丈夫なのか?』

「ん。まあ大丈夫だと思うよ。二年前のあそこだったら嫌だけど」

 

 

因みに彼はどこのライブ会場でバイトするのかを確認していなかった、送迎バスにさえ乗ればいいと思っているようで、なんだか雑な彼だった。

ウォーロックはウォーロックで彼のトラウマが刺激されないかを心配している。先日あんなことがあったばかりなのだ、それなのに二年前を彷彿とさせるライブ会場という場所でのバイト、どうしても不安が残っているのだろう。今の彼の反応も余計にそれを加速させていく、どうも生返事な気がするのだ、先程から彼の言葉は。

 

 

『…スバル。お前フィーネの野郎と戦ってから少しおかしいぜ?あの女の時もそうだ、ロックマンとして正体がバレてんならフィーネについて根掘り葉掘り聞けただろ?お前なら間違いなく聞くと思ってたんだけどな』

「そうかな…でもウォーロックもあれを見たら分かるよ」

『ベルセルクが見せてきたっていうあいつらの過去のことか?けっ、見てねーからこうやってわざわざ聞いてるんだろうがよ』

「…そうだね、ごめん」

 

 

確かに、あの復讐心が溢れていた彼なら雪音の首根っこを締め上げてでもフィーネの情報を吐かせていただろうが、今の彼は違うらしい。何処か気だるそうな、何か悩んでいる顔をしている。ウォーロックはそれ以上何か聞くことはなく、結局そのまま二人は駅まで向かっていく。

 

 

 

 

こうして彼は短期バイト先──二年前にツヴァイウィングのライブが行われた会場に向かうことになった。それに気付いたのは送迎バスの中、担当の職員から説明を受けている時に気づいたようで。最初はこれから死ぬんだと言わんばかりの顔だったが、ライブ会場に到着すれば、昔を懐かしむ様な顔をしてバイトに専念していた。

 

 

「ふー…」

 

 

建て直されたライブ会場は彼が思っていたよりも二年前のままで、少しタイムスリップしたような気分に浸ってしまう…というよりは現実逃避していた。肉体労働を普段しない彼に会場設営は相当な苦行だったようで、既にこのバイトを入れたことを相当後悔しているようだ。

 

 

「あ"ー…疲れるなぁ」

「いや、星河さん力あるんすねぇ」

「…?あ、ぼ、僕?そうでもない、よ」

「いやいや!見た目大分華奢なのにパワフルっすよ!なんか鍛えたりしてるんすか?」

「特にしてない…です」

「えー、不思議っすねぇ。何処にそんなパワーが…」

 

 

あと十分ほどで休憩が入るので、駄目押しと言わんばかりに他のバイトと共に機材を運ぶ。その途中で一緒に機材を運んでいる、金髪のバイトの一人が彼に声をかけてきた、妙にコミュ力が高く絡んでくるので、彼としては鬱陶しくて仕方がなかった。時折無駄に喋っていると見られているのか周りのライブ関係者に睨まれたりもして気分は最悪である。

 

 

「星河さん星河さん、そういやここって二年前にツヴァイウィングのライブが有ったじゃないですか?」

「ああ、うん」

「風鳴翼さんは一応アーティストとしてまだご活躍してますけど、天羽奏さんってどうしたんすかね?()()()()()()()()()()()()()()?」

「…どう、なんだろうね」

「もー!星河さんノリ悪いっすねぇ!ほら、二年前のライブの後に天羽奏、意識不明の重体!ってニュースがあったの覚えてないんすか!?」

「いや、覚えてるけど」

 

 

天羽奏、というのは二年前まで風鳴翼と二人でツヴァイウィングというユニットを組んでいたアーティストの一人である。そして元々は、立花響が纏っているシンフォギア、ガングニールの装者でもあった。しかし今バイトの一人が語った様に、二年前のライブをきっかけに意識不明の重体になってしまっている。

 

 

「やっぱこういうの気になりません?だって三日後にはこのライブ会場で風鳴翼が歌うんすよ!?やっぱ飛び入り参戦とか燃えますよねぇ」

「ああうん、そうだね」

「そっすよね!!星河さんもそう思いますよね!?いや、星河さんは話が解るなァ!」

 

 

バイトの言葉を程よく無視しながら、やっとのことで機材を指定の場所まで運びきった彼。それと同時にある程度の休憩が言い渡され、彼は逃げるように人目の無い場所へと走っていった。バイトの一人は寂しそうな顔だった。

 

その後彼は人目のつかない舞台裏で支給された弁当を食べている最中で、冒頭の謎のデータのかけらを見つけたわけである。

 

 

「病み上がりにこれは辛いね…休憩があって良かったよ」

『こんなしみったれた場所で飯食うより身体動かした方が休憩になると思うがな』

「それはロックの場合でしょ?僕はこうやってゆっくりご飯を食べてたいよ」

 

 

こうして一週間も電波変換をしなかった事がないからか、ウォーロックは身体を動かしたくて仕方がないようだった。その大きな腕をぶんぶんと振り回しながら、彼の周りを飛び回っている。

 

 

『スバルだってあのカケラ、気になるだろ?』

「気になるっちゃ気になるけど。データのカケラを集めて何になるのさ?全部揃ったとして、解析も復元も出来るか分からないじゃないか」

『夢がねぇなお前は。男なら謎は解き明かしたいもんじゃねぇか』

「ロック、また変なドラマにはまったんてしょ」

 

 

 

その後も暫く話続ける二人、家を出る前の気まずさはもうなくなった様だった。休憩時間が終わるギリギリまで彼はウォーロックからおすすめのドラマについて語られ、なんというか、休憩が始まる前よりも疲れていた。

 

 

『じゃあ俺は暇だからカケラでも探してるぜ、アルバイトが終わったら呼んでくれ』

「ちょ、ロック!見つけても持ってこないでよ!?あのカケラ一つで相当容量喰ったんだから!!」

 

 

ウォーロックは彼に何も言わせず飛んでいってしまった。因みにあのデータのカケラ一つで2GBもする。彼のスマホはそこまで容量が多くないので、少なくともあと四つでも入ったらこれ以上他のものは入れられなくなるだろう。普通に考えれば入れられたデータのカケラを消去すればいいだけの話なのだが、どうしてか彼にはその決断が出来ないでいる。二年前に事件のあったライブ会場で、しかも最新更新日は二年前に事件があった日で。これでもかと何かあると訴えている破損データ、気にならない筈がなかった。ただこの好奇心に身を任せたら大変なことになる気もしている。

 

そしてまもなくして休憩時間が終了した。渋々彼は重い腰を上げて、バイトを再開する。とりあえず、データを探しに行ったウォーロックのことは忘れることにした。

 

 

 

 

 

(…どうしようかな、これから)

 

 

彼は悩んでいた。フィーネと戦ったあの日から、雪音の話を聞いたあの日から。

 

このバイトを入れたのも、身体を動かしたかったのに加えて今抱えている悩みを少しの間だけでも忘れたかったためだ。

 

 

(向き合うべき…なのかな)

 

 

あの日、彼は二年間自身の身体を蝕み続けていた呪い(ベルセルク)の恨みを知った。二年ぶりに()と向き合った。まともに目を見て、話を聞いた。自分の相棒と、自分に少し似た少女と触れあったことで、彼の内心に変化が現れようとしていた。

 

 

(少なくとも僕はもう、ベルセルクを他人のようにも思えない。…だからと言って復讐に手を染めたいわけじゃない)

 

 

少なくとも彼の中でフィーネを止める、という目的は生まれていた。恨みはないわけではない。しかしそれよりも、フィーネが転生を繰り返しながらも行おうとしている、壮大な何かは止めなければならない。ベルセルクから流れた記憶は彼にそれを決意させるには十分だった。しかしその決意は、同時に彼を悩ませていた。

 

 

 

このライブ会場は割り切れた、だが。フィーネに立ち向かえば間違いなく、彼にとって忘れたい二年前を思い出させるだろう。関わる中で確実に思い出は甦る。二年前の家族の死に顔も、それ以前の家族と過ごしてきた眩しい思い出も…裏切りの記憶も。

 

 

戦うという決意は確かに出来たかもしれない。しかし、ウォーロックたちと過ごして生まれた、その記憶を塞ぐカサブタを剥がす。その決意は彼にはまだ出来ない。

 

 

 

(ただ言えるのは。僕はもう配信をするだけのロックマンじゃ居られないって事だよなぁ。まあ、配信は続けるけど)

 

 

 

配信は彼に人との繋がりを保たせている。彼もそれに気づいているし、だからこそ彼は配信を止めない。

 

 

「…とりあえず働こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから彼は、特に目立った問題なども起こすともなくバイトを終わらせた。例の金髪バイトに連絡先を交換しないかと迫られたが、秒で彼は断った。初対面の人間と連絡先を交換なんてフィーネと戦って勝つ事よりも難しいことである。というか無理だ。そして彼は今、設営を終えた会場のトイレに居た。

 

別に尿意があったとかそう言うわけでなく、戻ってきたウォーロックと他人の目を気にせず会話が出来る場所だったからである。

 

 

「で、ロック。本当に全部集めてきたの?」

『おうよ!!へっ、探すのに苦労したぜェ…』

「こう、ロックはなんでこう無駄なことに本気を出すかな」

『褒めてもなんも出ねぇぞ。データは入るけどよ』

「褒めたつもりは一切ないよ!?というか入れないでって言ってるじゃんか!」

『まあ落ち着けよスバル』

 

 

 

仕方ないやつを相手してるかのような顔をするウォーロック。仕方のないやつはどっちだよ…と彼が呟いたが、ウォーロックは無視して話を進める。

 

 

 

『とりあえず解析だけはさせてくれねぇか?それで解析出来なかったら消していいし、解析出来て下らないデータでも消していいからよ。な?』

「えー…」

『いいじゃねぇかよ!解析も一時間くらいで終わるからよ!』

「…ウィルスとかだったら本気で怒るからね」

『わーってるよ!じゃあカケラを全部スマホにぶちこむぜ!』

 

 

そう言ってウォーロックが彼の手にあるスマホに入り込んだ。途端にスマホが重くなる、こりゃ解析が終わるまでスマホは使えないな、と彼が少し落ち込んだ。こうなったウォーロックは大体止められない。しかもウォーロックは見た目に似合わず器用だ、ロックマンの装備のカスタマイズなどもウォーロックがやっている。

 

 

「っと、そろそろバスが出ちゃうから急がないと」

 

 

送迎バスを逃せば間違いなく彼はここで野宿するはめになる、それだけは避けなければなるまい。急いで彼はトイレを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スバル!おいスバル、起きろ!もう駅に着いたぜ!』

「んぁ?」

 

 

バスの中。肉体労働の疲労からぐっすりと眠っていた彼。落ち着くためにイヤホンを着けていたのだが、そのイヤホンからウォーロックの大声が。重いまぶたを開ければそこは見慣れた最寄り駅。小声でウォーロックに礼を言って、さっさとバスを降りる。

 

 

「ふぁあぁ…重ね重ねありがとうロック」

『おう、気にすんな』

 

 

イヤホンを着けながらスマホの中に居るウォーロックと会話する。端から見てもイヤホン越しに誰かと電話をしているようにしか見えないだろう。

 

 

「…って、僕と喋ってるってことは解析終わったんでしょ?どうだった?」

『いや、それがよ』

「うん」

『大当たりだぜ、こいつは』

「なにさ。大当たりって」

『聞いて驚くなよスバル!これはな─』

 

 

ウォーロックの事だ、どうせゴミデータの中に珍しいバトルカードが入ってたとかだったんだろう、と推測する彼。しかし。

 

 

『人のデータ…いや、人そのものだ』

「──へ?」

 

 

返ってきたのは、予想とは全く違う突拍子もない言葉だった。

 

 

『もっと細かく言えば、生きた人間の意識データだな』

「ちょ…ちょっと待ってよロック。人の、意識データ?いきなり何言ってるんだよ!そんなのあり得る訳ないだろ!?」

『ああ、普通なら有り得ねぇ。最初はびっくりしたぜ?カケラ五つ同じ場所に集まった途端に最初からそうだったみたいに結合してよ。んで解析してみたらこいつは生きてたのさ、俺たち電波体みてぇにな』

 

 

彼は訳がわからない、そう言いたげな顔をする。当然だ、人間の意識のデータ、なんていきなり聞かされても理解できるはずがない。そもそも一体誰の意識データなのか?というか意識データとはなんなのか。今彼の脳内は、疑問で一杯だった。

 

 

「ほ、本当にこれが人間の意識のデータだとして、一体誰の…?」

『んなのオレに分かる訳ねぇだろ。ただ、こいつは大事なもんが欠けてるようだぜ』

「ええー…?大事なもの、って」

『容れ物だな』

「身体、ってこと?」

『ああ。んで、このスマホで代用してみようと思ったんだけどよ、やり方がよく分からなかったからやめといたぜ』

「やめてよ!僕に何も言わずとんでもないこと仕出かそうとするのはさ!というかどうするのさ、意識データとか言われても困るよ…!!」

『要らねぇんなら消せばいいだろ』

「そんなの聞いたら消せないだろ!?」

 

 

 

消すということは間違いなく殺すことと同義だろう、彼にそんな勇気はない。流石に声を荒げる彼に、まあだろうな、と分かっていたような反応をするウォーロック。結局この日は、この思わぬ収穫をどうするのか決めることは出来なかった。

 

 

 

…こうして彼に望まぬ悩みの種が増えることになる。一体この不気味なデータは彼に何をもたらすのか?彼の揺らぐ思いに、どんな影響を与えるのか?一つ分かるのは、これからの彼に平穏はない、と言うことだろう。

 

 

 




一体誰の意識データなんでしょうね…??(すっとぼけ)

今回出た意識データはあれです、流星3のルナちゃんを意識してます。当時めちゃくちゃ絶望した覚えがあります。…ロックマンはこういうとこに融通が効くの素晴らしいですよね。



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第十話

嬉しいことにこの作品が日間ランキングの六位に上がりました…!!久々の投稿なのでかなり不安だったんですけど、皆さんありがとうございます!!

今回はかなり息抜き回です。配信ものなのに配信要素が減ってる気がしたので急にぶちこみます。平和。


 

 

 

 

 

 

 

 

さて、彼が人の意識のデータという、非常に扱いに困るものを手に入れてから更に数日が経過した。と言っても、何か変わったことがあった訳はなく。強いて言うなら、意識データは消すことなく、彼のスマホが重くなったままなくらいだろうか。

 

 

 

「はい、皆さんお久しぶりだね、ロックマンだよ」

 

 

 

《わこつ》《生きとったんかいワレェ!!》《大体二、三週間ぶりくらいの配信か》《久々に見たわ、今日は何するの?またノイズ狩り?》《作るか壊すかどっちかしか出来ない男じゃん》《今回背景違わない…???》《妙にサイバーチックだな》《なんつーか現実感ない場所だな、ロックマンが全身映してるのも初めてじゃないか》

 

 

 

「君ら相変わらず賑やかだな。今日は久々の配信だし趣向を変えて、電子の海からお届けするよ」

 

 

 

《???》《こいつは何を言っているんだ…?》《電子の海ってどういうことよ》《ロックマン以外、特にチラッと見えてる空見てみ。明らかにおかしい》《空なのに雲も太陽もないし色が緑…どっかのオープンワールド?》《3Dモデルを動かしてるだけでしょ》《そうだとしたらロックマンがリアル過ぎる》《え、なに??いつの間にロックマンVtuberになったわけ?》《草》《ノイズを狩るVtuberが居て堪るか》《赤バイザーかっけぇ》

 

 

 

「いやほら、僕は電波体だからさ。インターネットの中にも入れるんだわ」

 

 

 

《【速報】ロックマン、また訳の分からないことする【意味不明の男】》《おめーポリゴン数が異様なんだよ》《キャプチャとは思えんくらい生々しい動きだしな…え、なに?インターネット?》《この第三者視点、誰が撮ってるんだ?》

 

 

 

そして彼は今、久々にロックマンとして配信活動を行っていた。やっとフィーネ戦での疲労やダメージが抜け、電波変換を行っても大丈夫なくらいに回復したのだ。今回の配信は、ロックマンのリハビリも兼ねている訳である。更に今までの配信と違うのは、彼の身体は今現実世界になく、電脳世界で配信を行っているという点。今彼が居るのは自身の持つパソコンの電脳だ。コメント欄は阿鼻叫喚である。彼はそれを見て爆笑していた。

 

 

 

《笑っとんやないぞ》《このロックマンに振り回される感じ…嫌いじゃないわ!!》

 

 

「いや、面白いなって。言っとくとこれは3Dモデルじゃないし、オープンワールドとかでもないよ。ここは電脳世界、よくあるインターネットの世界さ」

 

 

《あるあ…いやねーから》《新出用語ばっか出すなサムライ8じゃねーんだぞ》《選出が古すぎる》

《インターネットの世界とか今の科学でも何もかも無理なもん出してくるな》《いやでもロックマンだぜ…?》《初回配信で宇宙に居た奴だしな…》《そま?》《マジマジ。IPアドレスもどういうわけか宇宙からだったぞ》《初回配信から見てるやつとか猛者すぎんか???》

 

 

「ということで今回はこの電脳世界を渡り歩きながら雑談配信してくよ」

 

 

《コメントを無視するのは草》《お前の説明を全視聴者が求めてる》《何がどうなってるのかな》

 

 

 

爆速で流れるコメントを無視して歩き出した彼。彼は自身のPCの電脳世界から、リディアン等がある町の電脳世界へと移動する。そして説明を求められた彼は、本当に仕方がないと言った顔で口を開く。

 

 

 

「コンピュータネットワークによって構成された仮想空間、それが電脳世界だよ。不思議なことに現実世界に対応した形になってたりするんだよね」

 

 

《なるほど分からん》《つまり?》《俺たちの知らない世界があるってことよ》《嘘松》《←だからお前ネタが古いんだよ》《相変わらずSFの世界線みたいな話してるな…》《その話詳しく》

 

 

 

電脳世界は主に二つの区域に分けられる。一つが、今彼の居るインターネットエリアだ。インターネットエリアはいわゆる現実世界の町と同じで、電波世界のように現実世界に重なっているのではなく、別個として存在しており、各地域ほインターネットエリアとネットワークによって繋がっている区域である。

 

そしてもう一つが電脳、此方は各電子機器に設置された空間で、電子機器を制御している。此方は電波世界と重なっている部分が多く、一つの電子機器に電脳と電波、どちらもある場合があるとかないトカ。

 

残念ながら電脳世界は現在完全に廃れてきており、今そこには全く彼以外の電波やプログラムは存在していない。

 

というのも、この電脳世界が発展して生まれたのが電波世界だからだ。簡単に言えば世界ごとのアップデート、又は引っ越しである。引っ越し先に人が居るのは当然だし、引っ越し前の場所に人がいないのも当然だろう。居るとすればアップデートに対応できなかった旧世代のウィルスくらいだ。

 

 

 

《ロックマンの配信、この現実感の無さが楽しいんだよな…》《この人本当に実在してるんですか?》《してるぞ》《してるか?》《居るわけないだろこんな奴。現実見れないのか?》《実際に助けられた人が居るのにそういう発言は駄目だろ》《今こいつ現実に居ないからな…居ないもんは見れないだろ》

 

 

「本当は歌配信でもやろうと思ったんだけどね、よくよく考えたら歌える曲が一つしかないから止めとくよ。んで今回はさっき言った通り、雑談配信なので聞きたいことがあったらどんどん質問してっていいよ。…あと、コメントが賑やかなのは結構だけど喧嘩は勘弁」

 

 

《マジ?》《すまん》《あのロックマンがノイズを狩らず飯も作らず雑談…!?さては偽物だなオメー》《風鳴翼のライブ始まるまでここ居るわ》《そいや今日か、復帰ライブ》《テレビで生放送だもんな》

 

 

「ああ、例の飛び入り参戦のやつね」

 

 

《お、ロックマンも知ってるんだ》《ちょっと意外》

 

 

 

それから彼は電脳世界を練り歩きながら寄せられるコメントたちと会話をしていく。彼が電波変換して一番懸念していたベルセルクからの干渉も特になく、彼としては少し肩透かしをくらった気分だった。

 

 

《そういえば、最近ロックマン以外にノイズを倒してるやつ居るらしいよ》《聞いたことあるな、赤い女の子でしょ?》《最近聞くようになったよな》

 

 

「…へー、どんなのなわけ?」

 

 

《ヒェッ》《なんで声のトーンが下がるんですかね…》《ノイズ狩りの次は同業者狩りか?》

 

 

「いいから聞かせてよ」

 

 

彼には明らかに思い当たる節があった。間違いなく雪音クリスだろう、噂が流れている時点で間違いない。トッキブツのシンフォギアであれば目撃者が出たとしてもどうにか出来るし、それが噂に繋がるようなことはないからだ。ただ、何故ノイズと戦っているのかは分からないが。声が低くなったのは思わぬ収穫が得られたことにビックリしただけである。

 

そして話を聞いてみればやはりだ。ここ数週間、雪音クリスはシンフォギアを用いてノイズを倒している。その結果どうやら人命を助けているようで、その助けられた人たちが雪音クリスのことを噂しているらしい。恐らくだが居場所を掴むためトッキブツに泳がされているのだろう。

 

 

《というか電脳世界?ってめちゃくちゃ広いのな》《ちょっと不気味かも》

 

 

「最初は僕もそうだったよ。でも二回目くらいからは慣れるんじゃない?」

 

 

《やっぱロックマンって普通に喋ってると常人なんだよな》《まるでノイズを狩ってる時は狂人みたいな言い草を…》《実際マジで喋らなくなるのは何でだろう》

 

 

「逐一雑魚を狩る時に喋るのは面倒くさいでしょ…っと、ちょっと待ってね。ポップアップだ」

 

 

《ポップアップ?》《お知らせみたいなもんらしいぞ》

 

 

突如ロックマンのバイザーと顔のほぼ真横に、危険マーク付きのポップアップが出現する。その内容はノイズの出現を伝えるものだ。しかも出現したのは先程話題にも出た風鳴翼が出演するライブの会場が見える距離。ただ、その距離故にライブ会場にノイズの被害が行く事はないだろう。しかしそのライブ会場は、二年前に件の事件が起きたあのライブ会場。その付近にノイズ、というのは偶然だとしても皮肉めいたものを感じる。…いや、ノイズは人為的に操ることができるのだったか。

 

 

「どうやらノイズが出たみたいだね」

『よしスバル!さっさと向かうぞ!』

「…ええ?僕これでも病み上がりなんだけど」

『いいじゃねーかよ!これもリハビリだリハビリ!』

「……はぁ、分かったよ。行こうロック」

 

 

《!?腕が喋った!?》《お前初見か?ロックはこの配信唯一の癒しだぞ》

 

 

彼のその言葉を聞いて、ロックマンの左腕であるウォーロックが獰猛に笑った。彼の身を心配しながらも、やはり戦いに飢えていたようだ。腕を振るいポップアップを消去し、ついでに一時的に配信のカメラと音声を停止した。そして今まで彼をカメラプログラムで撮っていてくれていたデンパくんに彼は声をかける。

 

 

『もう撮らなくても大丈夫なんデスカ?』

「うん。わざわざ手伝ってくれてありがとうデンパくん」

『イエイエ!この間助けてもらったお礼デス!!』

 

 

そのデンパくんは彼が薬品工場地帯で立花と戦った日、工場地帯に向かう前に彼が助けた、あのHELPメールを送っていたデンパくんである。彼に何か恩返しがしたいと訪ねてきたのが丁度配信する少し前で、ならば、と彼はデンパくんにカメラ役を頼んだのだ。しかしそれもここまで、デンパくんから貸していたカメラプログラムを返してもらい、危なくなる前に帰るよう告げる。

 

 

『じゃあまた機会がアレバ!!』

 

 

そうすればデンパくんは彼にお辞儀をして、このインターネットから脱出した。デンパくんからすれば電脳世界は無法地帯だ、やはり怖かったのだろう、と彼は思った。

 

 

 

……彼やウォーロックは知らないことであるが。この捨てられた電脳世界は、今やバグやノイズの温床となっている。ロックマンは体内に聖遺物(オーパーツ)がある事からそういったバグやノイズの影響を受けないが、デンパくんにはそれに対応出来るような力はないためにさっさと帰りたかった、という経緯があったりする。そんな事情がありながらも帰らなかったのは、ひとえに彼へ恩返しがしたかったから、らしい。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、久々に暴れようか。ロック」

『へっへっへ…その言葉を待ってたぜェ!スバル!!』

 

 

それを確認した彼も、このインターネットから行けるセキュリティの甘い電脳を伝い、現実世界へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実世界、ライブ会場付近の無人の港。彼が配信の中断してから1分も経たず、彼はそこに降り立った。同時に耳当て操作し配信を再開する。

 

 

 

《お、戻った》《急に真っ暗になったからびっくりしたわ》《え、というか視点がいつものロックマン視点になってる》《現実世界だなここ》《まさかコメントで現実世界とか書く日があるとは思ってなかった》《これもしかしてもしかする?》

 

 

「勘がいいやつが居るね、うん。ノイズ狩りだ」

 

 

《許して…》《来ちまったか》《命だけは助けて》《待ってたけど待ってなかった》《なんかノイズ目線のコメントない??》《よし皆、酔わないように気を付けるんだ》

 

 

「とりあえず音声は切るよ、大分煩くなると思うし」

 

 

既に目の前にはノイズの群れ。その数はざっと数えただけで100以上は居るだろう。しかし彼は臆さない、何故ならばこの程度の数は脅威ですらないからだ。まず彼は空に伸びていた電波の通り道であるウェーブロードを踏み台にし、高く跳躍、大量のノイズを見下ろせる位置にまで跳べば、慣れた動作でウォーロックの口にバトルカードを投げ込む。

 

 

「バトルカード、デスサイズ1」

 

 

まず彼が初手に選んだのは、彼がノイズ狩りの際に最も愛用しているバトルカード、デスサイズ。自由落下しながら彼が放り投げた回転する小さいミニチュアの鎌は、まるでノイズの数に比例するかのように、10m以上に巨大化。その特大の鎌ミキサーのように回転し数多くのノイズを切り刻んでいく。

 

しかし、それだけではノイズは狩りきれない。彼はまだ終わらないと言うように、次のバトルカードをその手に出現させる。

 

 

「バトルカード、カウントボム1」

 

 

デスサイズによって生まれたノイズの群れの中の円形の空白地帯に突如直径50cmほどの時限爆弾が出現。それは3秒を数えた瞬間に大爆発を起こし、低空飛行をしていた鳥型ノイズすらも巻き込んで無数のノイズを爆殺していく。範囲と威力はデスサイズよりも大きいだろう。ここが広い港でなければかなりの被害が出ていたかもしれない。

 

そして爆発の直後、彼が地面に着地。その頃には、ノイズは既に数を半分ほどに減らしていた。

 

 

『…スバル、気付いてるか?』

「うん、さっきから異様に身体の調子がいい。バトルカードの威力も、間違いなく上がってる」

『なんでかは分からねぇが…強くなったことに変わりはねぇ!!ガンガン行くぞ!』

 

 

彼は返事の代わりに次のバトルカードのウォーロックの口に。そしてノイズが四方八方から彼へと迫る。たった一瞬で、彼はノイズの山の中に包まれた。

 

 

「───ビッグアックス1」

 

 

シンフォギア装者ですら、今のようにノイズに囲まれ潰されれば致命傷に成りうる。しかし彼はそのレベルの拘束を、ただの巨大な斧の一振りで打ち砕いた。元はウォーロックの頭部だった大斧は一度振るえば数十のノイズを叩き潰し、風圧だけで港にある建物の窓にヒビを入れる。

 

彼とウォーロックが言った通り、明らかにロックマンの力が増大している。身体能力と体力、そしてバトルカードの威力。その全てが数週間前の彼とは別人だ。まるでウォリアーブラッドを使ったときのような、道理すらもねじ曲げる強さ。それが今のロックマンにはあった。

 

何故こんなにもロックマンは強くなったのか?単純な話だ。今彼は、ベルセルクの力の一部を無意識に引っ張り出している。

 

フィーネとの戦いで彼が得たのは肉体のダメージだけではなかった。あの時の彼は復讐心によりベルセルクと一種の最高の共鳴(フルシンクロ)を起こした。その時彼はベルセルクから引き出せる力の上限を広げたのだ。それはイコールで、ロックマンの強化に繋がっていた。そして引き出された力はこれまた無意識にウォーロックが制御している。

 

 

 

《視点動くの速すぎてなにがなんだかわからねぇ…》《オエッ》《吐くな》《こいつだけ無双ゲーやってんだよな》《斧ぶんぶん振り回すとノイズが死ぬってことはわかった》《*ただしロックマンに限る*》

 

《つーかここの連中はなんでこんなにロックマン肯定的なの、怖くないの》《怖いわけないだろ》《コメントしてる連中の殆どがロックマンに助けてもらった奴らだからな。命の恩人を怖がるとかありえないわ》

 

 

 

爆速で流れていく配信のコメント欄。現在の視聴者人数は一万と八千人、恐ろしいほどの人数が彼の戦いを観戦していた。当然その中にはトッキブツ等の政府組織も紛れているが、それら全て含めて、視聴者たちは彼の戦いぶりに絶句していた。

 

彼の腕がウォーロックの頭部に戻ったあと、直ぐ様エネルギーの刃に切り替わる。彼の持つバトルカードで最も癖がなく使いやすい、ソードである。彼はそのままノイズを切り裂きながら群れの中に突っ込んでいった。

 

 

「だあああああっっ!」

 

 

切り裂く、切り裂く、切り裂いていく。そうして腕の剣を百回ほど振るった所で、ここら一帯のノイズは全て撃破された。

 

 

「ロック、他にノイズは?」

『まだ居るみたいだな、さっさと行くぞスバル』

「もう大分倒したし良くないかな…」

『オレが満足してねーんだよ!オラ!行くぞ!』

「うぇ~…」

 

 

ウォーロックの頭部が彼の身体を引っ張り、ノイズが居るらしい方向へ無理やり進めていく。彼も抵抗しているがウォーロックの方が力は強いらしい。

 

 

「…分かったよ、行けばいいんでしょ」

 

 

溜め息混じりに彼が跳躍、ウェーブロードに乗り上げ次のノイズの元へと走る。そして辿り着いた先のノイズを見て、彼は一瞬硬直。何か迷う素振りを見せて、配信の音声を入れ直す。

 

 

「っ!ごめん、今日の配信はここまで!」

 

 

《え?》《なになに?》《どうしたいきなり》《急に音声が入ったと思ったらマジか》

 

 

「また後でお詫び配信でもするから!本当にごめん!」

 

 

耳当てを操作し配信を終了、そして改めて、大量のノイズに囲まれている雪音クリスの姿を視認する。ノイズの数は此方もまた大量、雪音は多少苦戦しているらしかった。だが、このまま放っておいても雪音はノイズを倒しきるだろう。

 

 

『どうする、スバル?』

「あの人には助けてもらった恩があるからね、当然助けるさ」

 

 

そう言って彼はもう一度ウェーブロードから飛び降りる。先程と違うのはウォーロックの頭部を地面に向けているということだ。

 

ウォーロックアタック、という技がある。簡単に言えばウォーロックの頭部が彼の身体を力の限り引っ張る、ただの突進である。しかしただの突進と侮るなかれ、超高速のその突進は最早必殺であり、更に言えばこれは彼の攻撃のサポートでしかないのだ。

 

そして、彼は落下しながらウォーロックアタックを発動。

 

 

「バトルカード、スタンナックルッ!」

 

 

瞬間、轟音。彼はウォーロックアタックの発動から瞬く間に、雪音クリスを襲おうとしていた巨大ノイズをスタンナックルで貫き、その拳は地面に突き刺さっていた。

 

 

「な、てめぇは…!?」

「や、恩返しに来たよ」

 

 

いきなり現れたロックマンに驚愕の表情を浮かべる雪音。後ろから迫るノイズをソードでまた斬りながら彼は雪音へ軽口を叩く。そんな彼をアホを見るような目で見る雪音だが、それも一瞬だ。

 

 

彼以外に、もう一人乱入者が現れる。

 

 

 

 

 

「あれ!?クリスちゃんに…ロックマンさん!?」

 

 

 

 

 

立花響。風鳴翼のライブを守りたいという理由から単身ここに乗り込んで来た心優しき少女が、三度(みたび)彼と邂逅する。

 

 

 

 




やっぱりブランクがあるせいで前より書けてる気がしません。でも色々悩みながら書くのはこれはこれで楽しいんですよね。

余談ですが、戦闘中のスバルくんはほぼコメントを見てません。コメント欄の人たちの殆どが前に助けたことのある人なのも知りません。そしてコメント欄の方々はロックマンを信頼してるのでいきなり配信を切ったりしても、きっと人助けのためだろうと判断してます。


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第十一話







文字数がそんなに膨らんだわけでもないんですけど、ちょっと書いてて悩む回でした。とりあえず響ちゃんは書いてて結構楽しいですね…

あと改めて毎回感想をくださる方々、本当にありがとうございます。めちゃくちゃ書く励みになります。大助かりです、いつもウキウキで返信返してます。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響ちゃん、ロックマンと接触!」

「よし!あおい君はそのままデータの計測を開始しろ!」

 

 

彼が普段トッキブツと呼んでいる、特異災害対策機動部二課の本部。

 

立花響や小日向未来、そして風鳴翼らの通う私立リディアン音楽院の地下に存在するそこでは今、シンフォギア装者である立花響の補助が成されながら、同じ戦場で戦っているロックマンのデータが録られていた。そしてそれと同時並行でロックマンの情報が広がらないように最大限の情報処理、情報統制も行われている。

 

彼は全く知らないことだが、ロックマン、という存在は一種の都市伝説のようなものになっている。この半年という短い期間で、彼の噂は広まっているのだ。しかしそれは逆に言えば、あそこまでやっているのにも関わらず都市伝説程度にしか思われていない、ということでもある。

 

気を抜けば今回のように視聴者が一万人を超える人間が見ることがあるというのに、だ。これを含め、ロックマンがメディアやネットなどで公になっていないのも全て彼ら二課のおかげである。

 

 

 

「やっぱりロックマンは、シンフォギア装者を映さないために配信を切ったのか…?」

「恐らくそうだろうな。ロックマンは毎度装者を映さないように配慮しているようだ」

「俺たちからしたらありがたいですけど…結局目的は分からないですからね。そこまでしてくれるのに、どうして二課と協力はしてくれないんだろうなぁ」

 

 

 

うーん、と首をかしげながらも、聞くだけでもげんなりするような量の仕事をこなす二課職員の藤尭。二課における情報処理を担当しており、この半年はもっぱらロックマン関連の仕事をしてるらしい。そして処理を行う都合上彼の配信を毎回最初から見ており、実質ロックマンのファンみたいなものである。時々、ロックマンの配信が始まるのを見て、喜ぶところを同僚に怒られているのだとかなんとか。

 

それを抜きにしたとしても、恐らくこの二課の中でロックマンへの好感度が高いのはこの藤尭であろう。

 

 

そして二課の予想通り、彼はシンフォギア装者を配信に映さないように配慮していた。別に彼は二課を敵視している訳でもないし、味方になろうとも思っていない。というのも彼は二課に苦手意識を持っている。だが、だからと言って彼は二課の邪魔をする気もない。彼は二課がノイズから人を守り続けている事を、データ越しではあるものの知っている。

 

故に、配信でシンフォギア装者を映すことは、人を助ける為に戦っている二課の努力を無下にすることと同じだ、と彼は考えている。

 

 

 

「ロックマンは謎が多いですからね。二年前のライブ会場に現れたこと、ときたま戦闘中に正体不明の聖遺物の反応が出ること。他にも色々。その謎の中に理由があるのかもしれません」 

 

 

二課の職員の一人が呟くように話す。 

 

 

 

 

 

 

「…敵でも味方でもない、か。本当に我々は、君と手を取り合えないのか…?」

 

 

 

二課の司令である風鳴弦十郎は口には出さないものの、ロックマンは雪音クリスを助けに来たのだと考えている。

 

彼は前にも雪音クリスを助けた事があるのを風鳴弦十郎は覚えている。助けようとした理由は依然として不明ではあるものの、もっとも懸念していたロックマンの人間性は大丈夫なのではないか、と風鳴弦十郎は安心していた。

 

だからこそ、風鳴弦十郎はロックマンを信じる気持ちを強めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立花響。その名前を彼の脳内が勝手に反芻する。まさかここで会うとは、という思いと、そりゃノイズが居るんだったら現れるだろうという考え。他にも多種多様な思考が彼の中に溢れていく。ようは、今の彼は複雑な気持ちなのだ。だがそれで戦闘のパフォーマンスを落とす彼ではない。

 

 

「バトルカード、ネバーレイン1」

 

 

振るう腕。そこからタイムラグなく、立花の周りのノイズ十体程度に群青色の雨が降り注ぐ。当然それはただの雨などではなく、その雨の一粒一粒がノイズへ少なくないダメージを与え、そのまま撃破する。彼からすればほぼ条件反射で適当なノイズに攻撃しただけなのだが、立花はそう考えなかったようで。

 

 

「…っロックマンさん、一緒に戦ってくれるんですか!?」

 

 

ノイズを拳で穿ちながら、立花は心底嬉しいような顔をする。しかし彼はそれに答えない、というか答える精神的余裕もあまりないようだ。バイザーの下に隠れた顔も少し硬直しているように見えた。

 

 

「僕は僕で狩らせてもらうから」

 

 

必死に出した言葉がそれだった。いきなり冷たい反応を見せた彼に、雪音は人知れず驚いている。そんな事を言うような人間だとは思っていなかったからだ。

 

彼はロックマンになっている時は性格がガラリと変わる。彼曰く色々と切り替えている、らしいが、それでも彼は彼。立花響への苦手意識が変わるわけではない。更に言えばこの状況が良くなかった。

 

どうしても共闘する形になっている現状。彼はとある理由から自分に立花響と共に並ぶ資格はない、と思っている。彼に根付いた強い罪悪感、それが立花と共闘するという現実を拒否しようとしている。それを理由に、ロックマンは無意識に、彼の望まぬ形で立花へ冷たい言葉を出してしまう。

 

 

「それでもっ、ありがとうございます!」

 

 

しかし、立花はそんな言葉でへこたれる事はない。立花に背を向けノイズへ突っ込んでいったロックマンに、礼の言葉を叫ぶ。

 

 

「でやあああああああっ!!」

 

 

そして今は目の前のノイズに集中するべきだ。大切な先輩の、何よりも大事なライブを台無しにさせる訳にはいかない。立花は深く息を吸い込み、右腕のパワージャッキを引き絞る。歌と拳に意識を集中させる。

 

 

戦場を縦横無尽に駆け巡り、ノイズの間をすり抜けながら、ノイズをその拳一つで打ち砕いていく。彼女が通った跡にノイズは残らず、その殲滅スピードは先程のロックマンとは非にならない速さだ。ロックマンとは違い逐一バトルカードを使う必要もなく、手数の多さとけた違いの馬力でノイズを翻弄する。

 

 

「バトルカードッ、ライメイザンッ!」

 

 

小型ノイズを倒す立花に対し、ロックマンが相対するのは巨大な要塞型ノイズ。小型ノイズを弾丸として打ち出しロックマンを追い詰めようとするが、その一切が切り捨てられ無駄となる。

 

ロックマンが使ったバトルカードは、彼の持つバトルカードの中で最強の部類に入る、名の通り雷鳴の刃。常に刃の周りに発生している、ベルセルクを想起させる目映い稲光は触れるだけでノイズにあらゆる抵抗を許さず灰に変え、彼にノイズが近づくことを許さない。

 

 

「ロォック!」

『暴れるぜェェッ!』

 

 

彼のバイザーにターゲットサイトが出現、それを要塞型ノイズに向けることでウォーロックアタックが発動。

 

立花の歌を背に、100m以上あった距離を零に変え、勢いそのままに要塞型ノイズの身体に足を着ける。

 

そして壁走りの要領でその身体の上を駆け、生えている触手をライメイザンで全て両断、わざわざ一度達磨のような身体に変えた後にその巨大な図体にライメイザンを突き刺し、最大出力の放電。要塞型ノイズはその内側から雷撃で焼かれ、自壊する様に消滅した。

 

 

「ちょせぇっ!」

 

 

雪音はロックマンや立花が撃ち漏らしたノイズや、空を飛ぶ飛行型ノイズを両手に構えたガトリングで蜂の巣にしていく。その精度は正に百発百中、ただの一度の砲撃で100を超えるノイズが消え去る。

 

 

途中、雪音とロックマンの役割が切り替わる(スイッチする)。ロックマンの攻撃の手が緩まったその瞬間、それを見越したように雪音がロックマンが相手をしていたもう一体の要塞型ノイズの相手をし始めたのだ。そしてロックマンはウォーロックの頭部をガトリングに変えて、雪音がやっていた様に小型ノイズや鳥型を狙う。

 

 

 

 

シンフォギア装者二人とロックマン、敵でも味方でもない三人による奇妙な共闘。それが生み出すものは凄まじいものだった。拳撃、斬撃、銃撃。あの特異災害と呼ばれ恐れられているノイズが、たったの三人に手も足も出ずに灰に変えられていく。

 

 

そしてもう一体残っていた要塞型ノイズを立花が倒すことにより、この奇妙な共闘は終わりを迎える。雪音はいつの間にか姿を消しており、この場には立花とロックマンが残った。

 

 

「あの、ロックマンさん!今回もありがとうございました!!」

 

 

彼も既に用は無くなった。前と同じように、インビジブルのバトルカードでこの場から逃走を図るが、それよりも早く立花響が彼の前に立ち塞がり、彼に頭を下げた。頭を下げた立花の姿に思わず立ち止まってしまった彼。

 

 

「ロックマンさんも、翼さんのライブを守ろうとしてくれたんですよね!」

「…は?」

「配信、さっきまで見てました!ロックマンさん、楽しそうに翼さんのことについて話してて…きっとロックマンさんも私と同じで翼さんのファンなんだって!」

「一体、何の話を…」

「それに、さっきクリスちゃんを助けてたのも見ました!」

 

 

聞きたくない。彼は右手に握り締めたインビジブルのバトルカードをウォーロックの口に放ろうとしたが。ウォーロックは口を開かない、バトルカードを飲み込もうとしない。まるで、彼に立花の話を聞けと言わんばかりに。

 

 

「私、少し前までロックマンさんのことを冷たくて怖い人だと思ってました!!でも違ったっ!私を助けてくれたっ!二年前も、この間も!思い出したんです私!あの時確かにロックマンさんは、奏さんとノイズを倒してた!!」

 

 

その言葉に動揺を隠しきれないロックマン、咄嗟に言葉を返そうとするが声が出ない。立花のその必死の言葉に、ロックマンとしての仮面が剥がされる。立花響のその目は、ロックマンの赤いバイザー越しに、彼の揺れるその眼を見つめている。

 

 

 

「藤尭さんが言ってました、ロックマンさんに助けられた人がいっぱい居るって!悔しいけど、ロックマンさんじゃなきゃ助けられなかった人が居たって!」

 

 

優しくも力強いその瞳、彼はその瞳が苦手だ(好きだ)った。

 

 

「ししょ…二課の司令に聞きました、ロックマンさんは私たちの敵じゃないんですよね!?だったら、私達は分かり合えると思うんです!!」

 

 

彼の目を見つめたまま、立花が彼へと一歩近づく。同時に彼は一歩後ずさる。未だ握られていたインビジブルのカードが地面に落ちて、データに戻る。立花は後ずさった彼の右手を両手で握り締める。掴んで繋いだその手は離さない、その目がそう言っている。

 

 

「…ロックマンさん。一緒に戦ってくれませんか!」

 

 

その言葉は。ひたすらに前を向いて、望んだものへ手を伸ばそうとするその心の有り様は、彼が思っているよりも彼の心に響いた。それは彼が諦めた在り方だ。立花はロックマンを信じている、本気で人と人は分かり合えるのだと、なればこそロックマンとも分かり合うことが出来るのだと。

 

それは彼の心を大きく揺らす。信じることを恐れて逃げた彼の心に波を立たせる。

 

きっと、彼が彼を認めることが出来る一番の機会はここなのだろう。ロックマンの力は誰かのために使うことが出来る、ロックマン(星河スバル)は誰かのためにあっていいのだと。握られたこの手を握り返せば、彼は立花響に正体を明かさぬまま二課の支援者となる道があるのだろう。しかし。

 

 

「…ごめん」

 

 

強く握られた立花のその両手から、彼の右手がすり抜ける。彼は、その道を選ばない。

 

 

「僕に、立花さんの手を取る資格はないんだ」

 

 

ロックマンとしての仮面が剥がれた彼は、星河スバルとして再会してから初めて立花へ言葉を紡ぐ。冷たくも、皮肉混じりでも、毒づいてもいない紛れもない彼の本音。その顔は青ざめてもいないし、罪悪感に駆られているわけでもない。ただ少し、寂しそうな顔だった。

 

 

「ロック、行くよ」

『へいへい、わーったよ』

 

 

ずっと沈黙を保ち続けていたウォーロックが口を開く、開いた口に今度こそインビジブルのバトルカードを放る。ロックマンの姿が薄れていく。

 

 

立花響は呆然としていた。確かに断られたのはショックだった。しかしそれよりも、今のロックマンの姿が一瞬、どうしてか彼女が二年前から謝りたい少年の姿にそっくりに見えたことが、立花の思考を停止させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…良かったのかよ』

「ロックの事だし、ああなるのは分かってたんじゃない?」

『けっ、何のことだか』

 

 

彼がインビジブルを使ってから少しして。彼は、ウェーブロードを使ってどうしてかあのライブ会場の真上まで来ていた。ライブ会場からは大勢の歓声が聞こえてくる。どうやら今ちょうど、風鳴翼の歌が終わったらしい。

 

 

「ロック」

『なんだよ』

「僕は、向き合えるかな」

『あ?どうした、いきなり』

「いやさ、ずっと思ってたんだ。このままじゃいけないって。二年前を割り切れても乗り越えた訳じゃなかったから。でも、やっと決心が着いたんだ」

 

 

まだ少し悩んでいる顔つきだが、それでも少し晴れやかだった。悩みの解決法を見つけた、そう言わんばかりに落ち着いた顔をしている。

 

 

 

────何ヲ、言ッテイル。オマエニ必要ナノハ復讐ダ、怨敵デアルフィーネヘノ────

 

 

 

突如、ロックマンの中で眠っていたベルセルクの意志が目覚める。否、見定めていたのだ、戦いが始まってからずっと。

 

彼が本当にフィーネへの復讐を遂げることが出来る器なのか、その力は使えるのかを。今ここでわざわざ彼とウォーロックへ語りかけたということは、何かベルセルクにとって不都合が起きているらしい。

 

未だ電波変換を解除していないロックマンの身体に不穏な稲光が走る。先程彼が使っていたライメイザンのものとはまた別種の、何処か荒々しいその光。それはウォリアーブラッドを使った際の様に、彼の身体から溢れ纏わりついていく。

 

 

 

 

()()()()()()()()

 

 

 

 

だがその力の奔流は、彼のその一言で霧散する。更には浮上してきていたベルセルクの意識も抑え込み、彼とウォーロックの意識の中から姿を消した。彼は今、彼の遺志でベルセルクをコントロールしている。それほどまでに、強い意志が今彼にはある。

 

 

「僕はずっと、立花さんに会うのを怖がってたんだ。あのライブの日に大怪我を負わせたことを思い出すから。でもそんな僕と違って立花さんは向き合おうとしてるんだ、僕はそれにすら気づけなかった」

 

 

あの日、立花と小日向に会った日のことを思い出す。確かに彼女は彼へ謝ろうとしていたのだ、謝るべきは彼女ではないというのに。少なくとも彼からすればそうだ。立花は向き合っている、辛い過去に、向き合わなくてもいい過去に。

 

 

「眩しかった。けどそれよりも、恥ずかしかったんだ」

 

 

勇気の足りない自分が恥ずかしかった、と彼は続けた。

 

 

「僕に足りなかったのは向き合おうとする勇気だ。乗り越える必要なんてない、ロックは前に僕にそう言ってくれた。でも、それは向き合わなくてもいいってことじゃない」

 

 

彼は夜空に手を伸ばす。視界の先には無数の、天の川の様に空に架かるウェーブロードとその奥で輝く星。

 

 

「さっき立花さんには、本当に申し訳ないことをしたと思ってる。でも彼女の手を取るのは()じゃないんだ」

 

 

それは暗に、彼は彼女の手を取ろうとしていたということ。前の彼ならやろうとすらしなかった。彼は確実に変わろうとしていた。

 

 

星河スバルは、辛い過去と向き合い、乗り越えようとしている少女と再開した。孤独でありながら、信じることをやめなかった少女を知っている。そして、変わってしまった自分に、昔と変わらず接してくれた、元親友の少女を思い出す。

 

 

彼は勇気付けられたのだ。少女達の在り方に。何度でも言うが、彼は二年前に起こった事件自体は割りきっているし、彼なりのけじめはついていた。

 

 

ただ、それを起因に起こってしまったことに関しては彼は目を向けられないでいた。大事な親友を自らの手で傷つけたこと、親を犠牲に生き残ったのだと根も葉もない噂を立てられ、信頼していた人達に裏切られたこと。この事だけは二年経った今でも彼の心に残り続けているトラウマだ。

 

彼の中でそのトラウマは乗り越えられるようなものではないと思っていたし、そもそも彼の言う通りトラウマに向き合う勇気がなかった。

 

しかしその考えも覆された。雪音クリスの持つ勇気に勇気付けられ、トラウマに向き合う勇気を得た。立花響の向き合う心に影響を受け、自分はそもそもトラウマと向き合ってすらないのではないか?という思いを持てた。

 

そして何よりも、星河スバルを心配してくれている小日向未来に、そして自らが傷つけてしまった立花響に謝りたいと思った。

 

 

 

───変わりたい、と彼は明確に決意する。

 

 

 

「僕は向き合うよ。過去にも、孤独にも。それからちゃんと立花さんや小日向さんにも謝る。…だから、手伝ってくれないかな。ロック」

『はんっ!おめーはいつもだらだら、だらだらと話が長いんだよ!最初からそう言え!』

「うん。ロック、改めてよろしく」

 

 

 

 

 

その顔に、もう迷いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






というわけで、スバルくんの決意回でした。本当はもっとうじうじしてるスバルくんを書いていたいんですけど、そうするとちょっとあれなので。スバルくんは人に勇気付けられるのが似合うよなと個人的には思ってます。

シンフォギア一期も今回の話で九話までが終わりました。つまりもうクライマックスは近いってことですね。具体的にはあと六話もかからずシンフォギア一期は終わるかなー、と。実際は分かりませんが。


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第十二話



忘れ去られた頃だと思うのでそっと更新します。あと明けましておめでとうございます、気がつけば四月、春でした。







 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロック…これからどうしようか」

『おいおい、過去と向き合うとか言ってたお前は何処行ったんだよ』

 

 

彼の自宅。クーラーと扇風機がガンガンに回った部屋で、彼は自身の布団に寝転がりながら何か悩んでいるようだった。昨日のキメ顔が嘘のようである、彼の真上で浮遊しているウォーロックもそんな彼の姿に呆れているようだ。

 

 

「いやさ、向き合うって言っても具体的にどうすればいいか分からなくない?」

『オレに言うことじゃねーだろ』

「フィーネの情報も特にないしさ、なんだか知らないけど二課のセキュリティも固くなってて入れないし。デンパくんにも手伝って貰ってるけど、進捗は良くなさそうだし…」

 

 

打倒フィーネ、彼とウォーロックの中で共通した目的だ。最近だとウォーロックのやる気が凄い。曰く、負けっぱなしは性に合わないらしい。デンパくんたちにも協力してもらっているのだが、進展は全くといってていいほどに無い。

 

今まで彼はノイズの細かい情報やシンフォギアの情報、他にも様々な情報を二課のデータベースに侵入し閲覧することで得ていた。

 

二課の事だ、もしかしたらフィーネの情報も何かしらあるのかもしれない。そう思い先ほど二人は、いつものノリで二課のメインサーバーの電脳に潜り込もうとしたのだが…どういうわけか、異様なほどにセキュリティが固くなっていたのだ。

 

これを見た彼は撤退、ウォーロックはぶち壊せばいいだろ!などと言っていたが、壊せば確実に侵入がバレる。それは彼としても困るのだ。

 

さて、こうやって二課のセキュリティが固くなっているのには当然理由がある。

 

二課のセキュリティが更新されたのはロックマンがデュランダルを振るう立花と戦った直後だ。デュランダル移送計画、と呼ばれる、文字通り完全聖遺物であるデュランダルを永田町へ移送するための計画。

 

元々デュランダルは特異災害対策機動部二課本部最奥区画にて厳重保管されていたのだが、周辺に頻発するノイズの発生ケースから、政府は移送を計画。しかし移送途中に襲撃してきたノイズとの交戦の際、立花響の歌声によってデュランダルは予想外の起動を果たした。あの時はロックマンにより暴走を抑えられた訳だが。

 

そしてノイズの襲撃よりも不慮の起動というアクシデントに見舞われたため、永田町への移送を一時断念。現在は再度二課本部の最奥区画アビスへと格納されている。そしてそのデュランダルを守るためにも、二課のセキュリティが物理的にも電子的にも上げられた、という訳である。

 

 

「せめてフィーネの情報を知ってる人でも居たらなぁ、あれ以来全く動いてないみたいだし…」

『あ?居るだろ、フィーネの情報を知ってる奴ならよ』

「へ?」

『なんつったか?名前は覚えてねーけどよ。ほら、昨日も見た赤いシンフォギア装者だよ』

「あ、ああっ!!雪音さん!!そっか、あの人フィーネに追われてたんだ!!」

 

 

天啓を得たと言わんばかりに布団から飛び起きる彼。彼の中での雪音は(勝手に)恩人扱いであり、フィーネと関わりが有ったということはものの見事にすっぽ抜けていた。

 

 

「でもロック、それ雪音さんに連絡がとれなきゃ意味ないんじゃないかな」

 

 

そもそも連絡が取れたとしても聞ける様な仲でもないしなぁ、とぼやく彼。

 

 

『んなの知ってそうなやつに連絡とりゃあいいんじゃねーか?』

「居る?そんな人。そもそも僕の持ってる連絡先はバイト先と小日向さんだけだよ」

『その小日向って女だよ。確かあん時に世話してたろ、その時に連絡先交換してるかもしれないぜ』

「…えー、小日向さんに?いや、ちょっとそれはなんというか」

 

 

確かに一理ある、と頷くのと一緒に小日向の名を聞いて少し硬直してしまう彼。顔が青ざめる、とまでは行かないが、どうしても少し困った顔をした。向き合うとは言ったものの、彼は直ぐ様気持ちが切り替えられるような人間ではない。

 

 

『早速聞いてみようぜ』

「え、今!?」

『向き合うんだろ?だったらゼンは急げだぜ、スバル』

「う、そう、だけど」

 

 

しかしそんな彼の性格は二年間付き合ってきた相棒であるウォーロックが一番分かっている。いまいち意味は理解していない言葉を使って、いつもの様に彼のスマホに入り込み、内部から勝手に操作してメッセージアプリを起動する。彼も腹をくくった様だ。スマホを手に取り、早速メッセージを打ち込んで…いかなかった。

 

 

「──大変だロック」

『おう、どうした』

「あの、話の切り出し方が分からないんだ…というかそもそもどんな風にメッセージを打てばいいのかすら…」

『…お前はこう、よぉ…いや、なんでもねーわ』

 

 

彼からしたら切実な問題である。ウォーロックは呆れて何も言えない、と言った感じだ。この現状をかなり面倒に感じたらしいウォーロックは、勝手に内部から彼のスマホを操作し始めて、メッセージを送ることをすっ飛ばして小日向に通話をかける。スマホの画面がメッセージのやりとりから彼の見慣れない通話画面に移行。余りにも躊躇いなく行われたそれは当然彼の度肝を抜いた。

 

 

『も、もしもし?スバル、だよね?』

 

 

電話をかけて十秒も経たないうちに小日向が通話に出た。その声は少し上擦っており、メッセージすらない、いきなりの電話に少し動揺と緊張を感じているらしかった。彼は完全に硬直してしまっている…が、深く深呼吸をして、なんとか冷静さを取り戻す。ウォーロックのお膳立て、無理矢理なものではあるものの、正直ありがたいのは確かだった。

 

 

「う、うん。ごめんね小日向さん、急に電話なんてかけて」

『全然大丈夫だよ!えぇと、それで…何か用があるん、だよね?』

「あ、うん。良くわかったね」

『そりゃもう。幼稚園の頃からの付き合いだから』

 

 

電話の向こうで小日向が胸を張る光景がふと彼の脳裏に浮かんだ。そういえば、彼女とはそんなに昔からの付き合いだったんだな、ということも思い出す。それを思い出せば、不思議と緊張が少し和らいだ、気がした。

 

 

「えっと。雪音さん…って分かるよね。この間、小日向さんにお世話してもらった。その、連絡先とか知らないかな…って」

『クリスの?どうして?』

「うぇ、あー、うーん…その。彼女が僕の家に忘れ物をしてたみたいでさ。大事なものだったらあれだから、届けてあげたいんだ」

『…スバル、変わってないんだね』

「へ?」

 

 

一体どういう意味だろうか?急にそんなことを言われて驚く彼。そんな彼を差し置いて、くすくす、と小日向の楽しそうな笑い声が聞こえた。

 

 

『スバルは昔から優しいなって思って。…でもごめんね、私クリスの連絡先は知らないんだ』

「あ、そう、なんだ。分かった、教えてくれてありがとう」

『うん。えと、用ってそれだけ?』

「?うん」

『そっ、か』

 

 

それっきり小日向は黙ってしまった。正確に言えば、何かを言おうとしてるが言うかどうか迷っている。ただそんなこと彼には一切分からないので、どうして黙ってしまったのか、何か不手際をしてしまったのか?とひたすらに頭を抱えていた。そして、もしかして通話を切るのを待っているのか…!!と彼なりの正解に辿り着いた所で、タイミング良く小日向がまた口を開く。

 

 

『あの!』

「!?う、うん!!?」

『もし良かったら、なんだけどね?その。今日、後で会えない…かな』 

「へ」

『嫌だったら別にいいんだけど…』  

 

 

硬直、彼の時が文字通り止まった。しかし即座にウォーロックが彼の頭を叩いて彼が再起動、助けての視線をウォーロックに送る。

 

 

『まさか行かないとは言わねーよな?スバル』

「うぐ…」

『だ、大丈夫?スバル』

「だい、じょうぶ。………うん。会え、るよ」

『ほんとっ!?』

 

 

本当は今日お詫び配信する予定だったんだけどなー、とか。買い出しに行きたいんだけどな、とか。そんな断るための言い訳を無限に考えていたのだが、頑張ってそれに蓋をして。ウォーロックの一言もあって、彼は小日向のお願いを許諾した。

 

久しぶりに聞いた小日向の心底喜んだ声、対し顔が真っ青の彼。

 

 

『それじゃあ─────』 

「うん、うん…■■駅の前。だ、大丈夫だよ、うん」

 

 

それからトントン拍子で話は進んでいく。集合は授業終わりから少ししてなので、意外と余裕がある。彼は首の皮が一枚繋がった気分だった。上機嫌になっている小日向と通話を終わらせて、彼は深い深いため息を吐く。ニヤニヤしているウォーロックを無視して彼は立ち上がり、改めて今の自分の格好に目をやる。上下芋臭いジャージ、流石にこれで会うのはダメだろうな…と気付いた彼は自分の持っている服を確認する。

 

 

『ロックマンさん!今大丈夫デショウカ!』

「わ、デンパくん!?」

 

 

タンスを漁りながら自分の持ってる服の無さに困り果てていると、彼の丁度真上からデンパくんが勢い良く降ってきた。一瞬誰なのか、を考えた彼だったが、一瞬で見当がつく。先日の電脳世界での配信でもお世話になった、あのデンパくんだ。これで会うのも数回目、見分けが着くようになっていたらしい。デンパくんは大量の汗をかいており、その様子からして何か、相当焦っているようだ。

 

 

「どうしたの?そんなに焦って…」

『ソ、ソノ!見つけたんデス!』

「見つけた?」

『ロックマンさんが探していたフィーネのアジトデスヨ!』

「…え!?」

『本当かよ!?』

『ハイ!それで、大変なんデス!見つけた時には怪しい外国の人がいっぱい倒れていまシテ!!!』

 

 

身振り手振りで必死にその時の状況を伝えてくれるデンパくん。場所はここから相当放れた山奥にある洋館、そこでデンパくんはフィーネに変身する女性と、その変身したフィーネに殺された人たちを見てしまったらしい。 

 

 

「ロック」

『おう。…けどいいのか?あのオンナとの約束はよ』

「あー…ど、どうにかして間に合わせよう…!」

『じゃ、急ぐぜ!』

 

 

直後、電波変換をした際に発生する特有の、目映い閃光が部屋中を包み込む。そうして、彼の慌ただしい一日が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

『───ここデス!!』

「案内ありがとう、デンパくん」

 

 

デンパくんが彼の家を訪れてから数十分後。デンパくんの案内の元、ロックマンはフィーネが居るらしい洋館まで辿り着いていた。遠目からであるが、一部窓が割れている箇所があるのがわかる。恐らくそこが現場なのだろう。

 

まさかこんなところに洋館があるとは、と驚きを隠せないロックマン。フィーネが目の前に迫っている、その実感が要らぬ緊張を彼に持たせる。ウォーロックの中にいるベルセルクも、復讐相手に迫っていることを理解しているのか、いつも以上に反応を示している。ドクン、ドクン、とウォーロックを通して脈打ち、不愉快な熱をもっているのが伝わってくる。彼はそれを押さえ込み、覚悟を決める。

 

 

『気を付けろスバル、この洋館一帯がビジブルゾーンになってやがる。十中八九フィーネのヤロウの仕業だろうな』

「…そう」

 

 

もし内部でフィーネが構えていたら厄介だ。彼は即座に対応出来るように、洋館上のウェーブロードから飛び降り、ウォーロックアタックを使用して割れた窓から洋館、荒れ果てたホールへと突入する。そして、そこに居たのは──

 

 

「お前は!?」

「…雪音さん?」

 

 

フィーネ…ではなく。彼が探していた人物。雪音クリスだった。辺りには、デンパくんの言っていたように大量の死体。その多くが銃を持っており、どうやらフィーネと敵対していた…ようだ。炭になっていないことから、ノイズは使用されていないのがわかる。咄嗟の犯行だったのだろう。雪音から視線をずらさず、冷静に状況を分析していく。ホールの奥にはモニター、研究室でもあったのかもしれない。

 

 

「ッ、違う!これはアタシがやった訳じゃ…!」

「分かってる。雪音さんはどうしてここに?」

「…!?信じてくれる、のか?」

「そりゃあね。雪音さんがそんなことする人間じゃない、っていうことくらいは分かるよ」

 

 

彼のその返答にポカン、とした顔をする雪音。あっさりと信じてもらった事が相当に意外だったようで、少し黙りこんでしまった。しかしすぐ平静を取り戻し、酷い惨状の辺りを見渡しながら口を開く。

 

 

「けじめをつけに来ただけだっ…そういうお前は何でここに居んだよ」

「フィーネに用があったんだ、もう居ないみたいだけとね」

「…復讐か?」

 

 

復讐、その二文字に彼が少し反応を示す。雪音は彼とフィーネと戦いの際に話を聞いていたし、そもそも彼は彼女に両親についても軽くではあるが話している。そのどちらもが二年前に関連していた、気付かないほうがおかしいくらいだ。あの時の彼の狂戦士のような戦い方も、彼女に復讐のために戦っていると思わせる要因になっていた。

 

 

「別に、復讐とかじゃないよ」

「はあ?じゃあ何の為にフィーネを追ってんだよ」

「あれのやろうとしてることを止めたいだけ。フィーネを放っておいたら、僕みたいに家族を失う人が増えるかもしれないんだ。それは、止めなきゃ駄目だと思うから」

「何だよ、それ。正義の味方のつもりかよ」

『ハッハッハッ!正義の味方だってよスバル!お前には全く似合ってねぇな!』

「それはロックもでしょ。僕らは別に正義の味方とかでもないよ。…そういう雪音さんは、どうしてフィーネとけじめをつけようとしてるの?」

「それ、は…」

 

 

また黙ってしまう雪音。雪音自身にも、その理由は分かっていなかった。最初は何故自分を捨てたのかを問い詰めるつもりだった、しかしそれだけではない、もう一つ大きな理由が、言葉としては表せない、不確かな何かが彼女の中にはあったのだ。

 

その何かについて考えていくうちに漠然と、けじめをつけなくてはならない、と彼女は思った。結果、彼女は明確にその答えを出せず、この場に来ていた。今も考える、しかし答えは見つからない。代わりに浮かぶのは、大嫌いな筈の、夢想家で臆病者の両親の顔。

 

 

「聞いちゃいけないことだった、かな。ごめん」

「別に、そういうわけじゃねぇよ」

「…けじめってことはさ。フィーネと敵対してるってこと?」

「どう、なんだろうな。アタシにも分かんねぇ」

「そう」

 

 

少しの沈黙の後、何かガラスを踏み抜いた音がホールの中に響く。咄嗟に二人が視線をやれば、そこに佇んでいるのは、あの風鳴弦十郎だった。そして直後、十数人の、拳銃を構えた人相の分からない黒服の男たちがホールを占拠する。トッキブツ所属のエージェントかなにかなのだろう。ここはビジブルゾーンというのもあり、全員がロックマンの存在に少なからず驚いていた。ただ黒服たちは、彼ら二人に銃口を向けるようなことはしなかった。ホール内をくまなく調べているようだ。

 

居心地の悪い、重い空気がホールを満たす。身構える彼に対して、鋭い相貌の風鳴弦十郎が近づく。

 

 

「勘違いされたくないんだけど、これは僕らがやった訳じゃないよ」

「分かっている。君が居るのは少し予想外だったが…全ては俺やその子の側に居た、彼女の仕業だ」

「彼女?フィーネについて、何か知ってるんですね」

「!驚いたな、君も彼女を追っているのか」

「トッキブツには関係ないでしょう」 

「…どうして君はそう喧嘩腰なんだ」

 

 

どうしても風鳴弦十郎を警戒せざるを得ない彼、この場で風鳴弦十郎が彼を取り押さえようとすれば何の抵抗も出来ずに捕まる、というのが分かっているからだ。相手はそんなつもりは一切無いのだが、彼は立花響の誘いを断ってしまったことから、それを理由に相手が強行手段に出るのではないか、と疑っていた。

 

 

 

「司令!」

 

 

 

黒服の一人の、風鳴弦十郎を呼ぶ声、そしてそれをかき消す程の轟音と爆発、そして大きな揺れが、一瞬のうちに発生。何かを切っ掛けに、ホールに仕掛けられていたのであろう爆弾が起動したのだ。

 

 

瞬間、動けたのはロックマンと───風鳴弦十郎のみ。二人の視線がかち合う。風鳴弦十郎は咄嗟に状況を把握できていない雪音と近くに居た黒服たちを、彼は風鳴弦十郎の手の届かない範囲にいる残りの黒服全員を、ほぼ同時に助けに動く。

 

 

「…大丈夫ですか?」

「あ、ああ。すまない、助けられたよ…ありがとう」

 

 

崩れた天井をロックバスターで打ち砕き、崩れた壁からの瓦礫もどかし、最後にモニター付近で尻餅をついていた黒服に手を差し出す。黒服は恐る恐るその手をとって彼に礼を告げた。横目で風鳴弦十郎が雪音クリスを抱えて落ちてきた巨大な瓦礫を片手で受け止めているのが見える、あちらは何の問題もなさそうだ。

 

 

(…そういえば、こうやって面と向かって助けた人にお礼を言われるのって初めてだ。…いや、立花さんのは数に入らない、よね)

「君に助けられるのは、二度目だな」

「へっ?」

「俺は三度目だ」

 

 

面と向かって礼を言われるのに慣れていない彼がこそばゆさを感じてると、助け起こした黒服が予想外の事を告げてくる。追随するように、彼の背後の黒服も。

 

 

「ははっ、やっぱり覚えられていなかったか」

「流石になぁ」

「え、あ、ごめん、なさい」

「君が謝ることはないさ。いつも配信を見させて貰ってるが、あんなに人を助けてるんだしな」

「み、見てるんですか」

「そりゃあもう。最初の宇宙配信から欠かさず、毎回見させてもらってるよ」

「俺も俺も」

 

 

思わずロックマンではなく星河スバルとしての素のリアクションが漏れてしまっている。あの視聴者の中の何処かに彼らがいる、というのが受け止められてないらしい。それに加えて、守った命なのだ、という実感も彼を動揺させている一因だ。今まで感じたことの無かった感覚、改めて助けたことで礼を言われて、会話をして。助けた命の重さを理解する。

 

 

「私たちの立場でこういったことを言うのはあれなんだが…配信、応援してるよ」

「ありがとう、ございます…?」

「聞いたか?ロックマンのありがとうだ、言われたの俺たちが初めてじゃないか?」

「そう考えるといい貰い物だな」

「え」

 

 

なんというか、思っていた反応と違う返しをされて対応に困ってしまう彼。そんな彼を尻目に、黒服たちはもう一度ロックマンに礼を言ってホールの捜査に戻っていく。暫く放心していた彼だったのだが、雪音の大声が聞こえ、頭を振って思考を戻した。

 

 

『あっちはあっちで色々あったみてーだな』

 

 

そこには、風鳴弦十郎の胸で泣いている雪音クリスの姿。ただ視線に気付いたようで、咄嗟に風鳴弦十郎を突き飛ばすように離れた。突き飛ばされた風鳴弦十郎はその巨体故かピクリとも動いて居なかったが。

 

 

「ロックマン。部下を助けてくれたこと、感謝する」

「別に。誰かが死ぬのはボクとしても嫌ですから」

「そう、か。…ここはもう危険だ。爆破があった後だ、いつ崩れるかも分からん、出たほうがいいだろう」

 

 

風鳴弦十郎の言葉に無言で頷く。着いて行くつもりは特に無かった、のだが。

 

 

「時間はあるか?君と話したいことがあるんだ」

  

 

そう言われてしまっては、去るには去れない。向き合う、と決めてしまったからには余計に。素直にその提案に乗れば、風鳴弦十郎は意外そうな顔をしていた。

 

 

洋館の外。黒服たちは全員車に乗り込み、既にこの場を離れた。この場に残るのはロックマンと風鳴弦十郎、そして雪音だ。

 

 

 

 

「君は、どうして戦う?何のために、その力を使っているんだ」

 

 

 

 

 

「───僕みたいな人間を増やしたくないから、かな」

 

 

雪音にフィーネを追う理由を聞かれた時も、彼は自分のように家族を失う人を増やしたくない、と答えた。彼の原点はそこにある。

 

 

「大切な何かを失うのは、本当に苦しいことなんだ。あの痛みを感じる人を、僕は減らしたい。…前まではこんなこと考えてなかったんだけどね。ノイズ狩りだって憂さ晴らしみたいなものだったし。でも少なくとも今は、そう思ってる」

「立花くんみたいな考え、だな」

「げ。やめてよ、彼女の事を出してくるのは卑怯でしょ」

「そうか?だが解せん、なら何故立花くんの手を取らなかったんだ?そもそも、何故彼女をそこまで苦手とする?」

 

 

風鳴弦十郎の疑問はそこだった。その思いがあるなら、彼女の手を取っていてもおかしくない、と考えている。時折感じる彼の中の怯え、その正体を、風鳴弦十郎は知りたかった。

 

 

「言った筈だ。僕にはその資格がないって」

「そんなことはないと俺は思うがな。人ってのは、自分で思っているほど自分の事を客観的には見れんものだ」

「…そんなに二課に僕がほしいわけ?」

「それもある、が。一番は君が子供で、俺が大人だからだ!そこの彼女にも言ったがな。それに俺たちは君に何度も間接的に助けられている、その礼だってしていない」

「…頼りになるね、大人は」

「君の気が向いたらでいい、俺たちを頼ってくれ!それに今は同じ敵を見てるんだろう?」

 

 

風鳴弦十郎は豪快な笑みを浮かべてそう告げる。少し前までの彼であったら直ぐ様断っていただろう。しかし。

 

 

「じゃあ。気が向いたら頼らせてもらうよ」

「ッ!そうか!その答えが聞けただけでも十分だ」

 

 

予想していたよりも前向きな彼の答えに風鳴弦十郎はその笑みを深める、何処か嬉しそうだった。困ったように彼がその頬をかいていれば、風鳴弦十郎は車から何か機械のようなものを取り出して、彼と雪音に投げ渡す。

 

 

「通信、機?」

「そうだ、限度額内なら公共交通機関が利用できるし、自販機で買い物が出来る代物だ!便利だぞ。発信器ってわけでもない」

 

 

風鳴弦十郎は、車に乗り込みながら言葉を続ける。

 

 

「君たちは、君たち自身が思っているほどひとりぼっちじゃない。ひとり道を往くとしても、その道は遠からず俺たちの道と交わる」

 

 

その言葉に、彼はついポカンとした顔をする。まるで彼の心を読んでいるかのような言葉だった。同時に、自らの父のことも思い出す。そういえば、父もこの男のように、明るく豪快に笑う人だったな、と。彼は既に、風鳴弦十郎の事が嫌いになれなくなっていた。

 

 

「カ・ディンギル!フィーネが言ってたんだ、カ・ディンギルって。そいつが何なのかは分からないけど…そいつはもう完成している、みたいな」

「カ・ディンギル…」

 

 

そうして、風鳴弦十郎は先手を打つ、そう言い残してこの場を後にした。彼もそれに乗じて帰ろうとする、が…今度は雪音が彼の方を見ていた。彼はなんとなく察する、彼女は自分に何かしらの用があるのだと。今日はこういうのばかりだな、と内心愚痴るものの、気づいてしまっては無視するわけにはいかず。

 

 

「ええと、どうしたの?」

「ああ、その、だな」

 

 

妙に歯切れが悪い。もしかして風鳴弦十郎に告げてないフィーネの情報でもあるのだろうか?

 

 

『んだよ、言い淀んでないで早く言えっての』

「うるっせーな左腕!!」

『テメェッ!!またオレのこと左腕って言いやがったな!?』

「何も間違ってねぇだろうが!!」

『んだとォ!?』

 

 

ボソッと呟いたウォーロックの文句を雪音が拾って。唐突に始まった二人(?)の口喧嘩。話が脱線したと思い彼が止めにはいるのだがどうしてだか二人(?)に黙ってろと言われ。結局その喧嘩が終わったのは、数分後のことだった。

 

 

 

 

 








文章を書く、文章を書くってなんだ…?なんて思いながら書いてました、ほぼ半年ぶりに文章考えてます。後々手直し入れる気がします。

向き合うって決めたスバル君はどう動くんだろう?とか考えてて楽しかったです。果たしてスバルくんは未来ちゃんとデートに行けるのか…?ヒントは1期10話!!!!


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