多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話 (VISP)
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多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話
第1話 始まりの旅路


リハビリに書きました。

チート主人公が自分TOPの勢力率いて殴り込みー!とさせたかったが、主人公がデカ過ぎて普通のお話に介入は無理でした…。
やはりチート過ぎるのは良くないね、厄ネタが舞い込んでくる原因にもなるし。

にしても、久々に書いたから文章にキレが無いなぁ


 かつての人間だった人生も今は昔。

 現在の私は宇宙空間を泳ぐようにして気儘に生きる一個の生命体である。

 名前はユニクロン、性別はない。

 

 はい、ん?って思った人は手を挙げてー。

 はい、本当にユニクロンなんです。

 今一つサイズが小さく感じるとか言われる巨大な惑星サイズのトランスフォーマーことユニクロンで間違いないですよー。

 だって巨大な二本角と口がセットで、巨大なリングを持った青とオレンジで構成された機械の惑星なんてユニクロンしかおらんでしょ。

 

 なお、顔のデザインだけは変更させて頂きました。

 マクロスFに登場するバトル・フロンティアのバトロイド形態時の頭部にブレードアンテナやレーザー通信器兼近接防御用レーザーバルカンなんかを追加した形です。

 ちょっと人間味が薄いかもと思うけど、こんな感じのバイザーとかバケツ頭が好きなので無問題です。

 

 それはさておき、普段の私は大型惑星やブラックホール等の重力圏に捕まらないようにしつつ、ほぼほぼ慣性航行=流されるまま宇宙を漂ってます。

 主な食糧はデブリ帯にある小惑星や無人の小型衛星です。

 惑星食べるのは燃費はお腹もといエネルギータンクがいっぱいになるんだけど、知的生命体がいたりすると警戒されちゃうんで、殆どした事がないです。

 で、それだけだと余りにも暇なんですよ。

 最初の頃は各種センサーやレーダーで宇宙に起きる各種物理現象を鑑賞・記録・分析したりと結構楽しかったんですが、流石に千年以上そんな事してれば飽きが来ちゃいます。

 なので、自分の体内に色々な工房を設置、そこで拾ったジャンクを参考に、呑み込んだ小惑星なんかから資源を採取して、色んな素材を作り、そこから更に自分自身の身体を参考に色んな部品を作りました。

 で、製造した部品なんかで眷属というか、部下というか……兎も角、そんな感じでトランスフォーマーを組み上げたりして暇を潰してます。

 最初は上手く動かなくて、あーでもないこーでもないと頭を抱えながら作って試行錯誤していたもんです。

 今となっては笑い話ですが、あの頃の数々の失敗談があるからこそ、多くの経験を積む事が出来ました(しみじみ)。

 彼らは主に私の体内及び体表でのメンテナンス作業を行っています。

 まぁ私は自己再生可能だし、故障や破損も自分自身の免疫を担当する機械群が意識せずとも修理してくれるんですが、それだと何だか味気ない。

 なので、彼らの主なお仕事は私の体内と体表の清掃です。

 何せ惑星一個分ですからね、そのお仕事量たるや尋常ではありません。

 無理しない範囲でいいよーと私が声をかけても彼らは造物主・創造主から任された仕事に手を抜くなんて考えられないと言って、限界=補給・整備が必要になるギリギリまで働くので、個々にいく仕事量が無理のない範囲になるまで大量生産するのは骨=フレームが折れるかと思ったよ。

 でも、ブラック企業ダメ絶対、もとい私のお膝元では過剰労働ダメ絶対。

 大凡彼らを十分な数揃えるのに、生産から実に10年もかかってしまいました。

 そして、十分な数が揃った彼らに対し、私は72時間働けます!な彼らに初めて休暇制度を敷いたのです。

 具体的には月月火水木金金だったのを、普通の月火水木金土日に。

 

 結果、大混乱が発生しました。

 

 そりゃー創造主にして造物主として崇めてる存在へのご奉仕作業を絶たれるとか絶望感じちゃうのも仕方ないと思うけどさー。

 加えて、単純にやる事が無かったのも悪かったです。

 あー確かに私ったらこの子らに娯楽らしい娯楽とか、余暇の過ごし方教えてなかったわー、と思い出しても後の祭り。

 彼らの人格は問題の無い範囲で完全にランダムですが、その狂信者ぶりは一様に同じであり、邪神崇拝者も斯くやという具合です。

 全員が私へのご奉仕に対して禁断症状を訴えています。

 なので、娯楽というものを教える事にしました。

 美味しい食事、無数のライブラリーに記録された膨大な娯楽作品、身体を動かす事も出来る疑似訓練施設(テーマパーク風)。

 食事は私達機械生命体向けのものですし、娯楽作品は文字や音楽だけでなく映像や記録、疑似訓練施設はアスレチックやゴーカート、遊園地にサバゲー、自然環境の再現など多岐に渡ります。

 これらは私の記憶を参考に、宇宙を漂う間に拾った他の文明の残滓なんかを参考に作ったもので、結構頑張って作った力作です。

 そして彼らに「休みの間は定期メンテや休眠の他にこれを使って過ごすと良いよー」と伝えると、彼らは最初こそ戸惑ったものの、それらの使い方を学ぶと、夢中になって遊ぶようになってくれました。

 中には私の想定していない遊び(ゴーカートでF1レース、山林地帯で鬼ごっこ等)をし始め、急速にその知能を発展させていきました。

 

 いーねいーね、私はそーゆーのを望んでたんですよ!

 停滞した文明は何れ滅びてしまう、なら適度に刺激して発展を促していけばよいのです! 

 私一人の頭じゃ、どんだけ処理能力高くても何れ詰みますからね!

 

 という訳で、彼らは徐々に奴隷種族から知的生命体へとバージョンアップを始めました。

 とは言え、機械生命体で、私という揺り籠に暮らすため、彼らはほぼ不老不死です。

 なので、その発達は精神面での成熟こそ劇的だったものの、知能・技術面においてはゆっくりとしたものでした。

 まぁ、元々滅茶苦茶高いんだからそらそーなるわ、とも思いますが。

 なお、最終的にこれらの施設なんかは場所を無駄に取るので、機械生命体にして電子生命体でもある私達の特性を活かして、フルダイブ式VRとかVRMMORPGに発展していくのでした。

 

 で、ちょいちょい他の星の文明の残滓とかを回収し、時々他の文明滅亡済みの惑星に子供達を降ろして色々回収して技術や娯楽を発達させる事1万年以上経過した頃の事。

 え、なんで1万年もそんな事してたのかって?

 この宇宙で早々簡単に他の生命体、それも知的生命体に遭遇なんざしないっつーの!

 時折宇宙空間を航空する気持ち悪い生物とか、文明の残滓なんかで発見されるゼノモーフとかを見つけるけど、基本的に知的生命体には遭遇した事は無かったんです。

 なので、初めてアイツらに遭遇した時は超ビックリしました。

 

 

 なんか生物的なデザインの超巨大宇宙要塞に遭遇したんです。

 

 

 初めてそれを観測した時はファ!?ってなりましたよ、えぇ。

 で、後から調べたら、原因分かりました。

 なんか最近デブリって言うか好戦的な無人兵器の類から攻撃受けるの多いなーと思ってたら、そいつらが彼らの使用してる兵器で、更に言えば結構本格的な攻撃もしてたのに、こっちが鎧袖一触とばかりに追っ払ってたんで旗艦率いる全力攻撃に出たんだとか。

 気付け?いや、旧文明の残滓とか漁ってると、稼働状態の無人兵器とかもよく遭遇するから、てっきりそういう類かと思ってたんですよ。

 え?中身に操縦者、それも10mの人がいるんだから気付け?

 だって、あんな明らかに一部機械を埋め込んでる様な連中、生物兵器の類だと思うじゃないですかー!

 なお、彼らは奉仕対象の創造主を失った後、戦闘種族としての本能を満足させるために男女で殺し合いを何万年も前から続ける巨人族だとか。

 んっんー?何か聞いた事のある設定だなー(震え声)

 で、こっちが「お話しーましょ」と遠隔操縦の連絡船を送ると、「や~です」とばかりに撃沈されたので、強制的にバトルに突入しました。

 ですがまぁ、こっちは惑星サイズの私と長年の娯楽で宙間戦闘も熟す子供達です。

 向こうの旗艦と大小無数の艦艇の砲撃では私の再生装甲と複合バリア(電磁・エネルギー・重力場等)を突破できず、砲撃戦では撃ち負けました。

 加えて、巨人族よりも強靭な機械の身体で基本不老不死の子供達は意気揚々と出撃し、相手側の機動兵器を一機も私の下へ通す事なく撃墜していきます。

 今まで遭遇した連中とは全く異なる練度と装備に驚きこそしましたが、物量ではほぼ互角、戦闘に関する技術力では優越しているので、こっちが有利です。

 加えて、彼らは生き物で、私達は生き物であり機械でした。

 例え子供達の身体を壊されても、私さえ生きていればバックアップから即座に再生産・再出撃が可能なのです。

 一週間も休みなく戦い続ければ、碌に休めない巨人族の彼らは徐々に押され、遂には旗艦撃沈となりました。

 しかし、流石は戦闘民族と言うべきか、旗艦撃沈後も彼らは撤退せず、文字通り最後の一兵になるまで戦い続けました。

 戦いが唯一の娯楽である彼らと、戦いが娯楽の一つ程度にしか感じていない私の子供達。

 この結果に言語化できない感情を抱いた私は彼らを普段の小惑星の様に食べる事はせず、技術解析に必要な十分な量のサンプルを入手すると、その星系を離脱したのでした。

 

 その後、私と子供達は強大な外敵の存在を想定するようになりました。

 

 害虫駆除程度なら兎も角、私達の生存を脅かす存在がこの宇宙には存在する。

 それを悟らざるを得ないだけの情報が、彼ら巨人族のデータには幾つも存在していたからです。

 彼らを創造した知的生命体こそ滅んでいましたが、その他にも多くの興味深い情報もありました。

 今まで実現していなかった、膨大な距離を一瞬で移動可能な航法、即ちワープ航法の実用化に成功していました。

 これは彼ら巨人族の技術データから再現したもので、これでもしもの時には簡単に逃げる事も出来るでしょう。

 また、私の周囲を飛ぶ衛星として、小さい私を作りました。

 大きさは私の十分の一にも満たない程度ですが、私の周囲を回り続ける小さな私達は私のバックアップも兼ねており、これらの私の内の誰かが生き残れば、種族の存続と再建は可能になります。

 あ、勿論変形したり小惑星食べたりできますよ。

 外見はまるっきりデススターですが。

 

 そうやって旅から旅を重ねていく内に多くの出会いと別れを繰り返しました。

 半分以上は警戒されて物別れに終わってしまう事が多いですが、それでも良き友人との出会いも沢山ありました。

 友人との出会いはその後の交流に繋がり、沢山の技術や文化、ヒトやモノを交換するようになりました。

 他にも今まで通りに技術を文明の残滓の回収と解析、時折追い詰められた文明からの協力要請の見返りとして得る事もありました。

 お陰で私達は順調にその数を増やし続け、遂には人口?は500億を突破して久しいです。

 技術力に至っては超高速移動(複数の銀河を跨ぐ事も可能な超光速)や世界線の移動すら可能となり、物理的な手段で私達をどうにか出来る勢力とは出会わなくなって久しくなりました。

 まぁ時々、そんな私達を脅威に感じて争い事になる事もあるのですが、大抵は戦闘行為に発展する前に私達が逃げる形で終わるのですけど。

 それでも時々捕捉されて戦争状態に突入する事もあるのですから、宇宙とは世界とはとても広いのだと思い知らされる日々です。

 特にあの巨大なゲッターロボ軍団の戦闘に巻き込まれかけた時は死ぬかと思いましたね…(遠い目)

 

 そして、そんな日々を送っていると、どうしても現地の友人と極めて親しい仲になる子達も出てくる事があります。

 そうなった場合の選択肢は幾つかありますが、交流が続く内は夫婦として暮らす事、完全に帰化する事、相手をこちらに帰化させる事の三つに大別できます。

 一つ目はそのままで、友人と関係が良好な内は普通に仲良く過ごす事が出来ますが、一度仲が拗れるともう一緒にはいられません。

 基本的に私と私の子供達は争い事は避けるので、関係が悪化した時点でまた別の宙域か或いは別の銀河や世界線に移動してしまうからです。

 私達は基本的には機械の身体を持った電子生命体です。

 しかし、私達の精神である複雑なプログラムを収める事が出来て活動可能ならば、別に有機物で構成されてても良いのです。

 なので、私の子達が帰化する場合は相手側の肉体を再現したボディーを用意して、そちらに完全に移る事で一般的な夫婦として暮らす事が出来るのです。

 勿論、子供を作る事も出来ます。

 但し、それをする場合は私ことユニクロンの方に残った人格プログラムは基幹部分を残して今までの経験等はもしもの時のバックアップを作ってからデリートし、一から再出発します。

 これはもし帰化した子が戻ってくる際に、同一人物が複数いる事を防ぐための措置です。

 で、三つ目は余りいないのですが、相手方の精神を完全に人格プログラムとして再構築し、私の子供達の身体にインストールして完全に同胞となってもらう方法です。

 が、これをすると元の身体は精神を失って廃人化、後に死亡するので向こう側から恨みを買う場合もあるので要注意です。

 そんなこんなで多くの文明と交流し続ける私達ですが、何時からかこんな呼び名で多くの世界、多くの宇宙、多くの銀河、多くの星系で呼ばれるようになりました。

 

 曰く、放浪者。

 曰く、永劫の知識の探究者。

 曰く、不朽の知恵の探究者にして守り人。

 

 うん、実に厨二病を患った人達が好みそうな呼び方ですね。

 私もうっかり脇腹の浪漫回路が熱暴走しかけて、その辺りに在住の子供達から苦情が来てしまいました。

 そんな事を言われながらも、私と私の子供達は旅を続けました。

 そんな時でした、彼らと出会ったのは。

 

 

 「ほぅ……騒がしいと思えば、他の宇宙からの客人か。」

 

 

 全身紫色の偉丈夫にして、黄金の鎧を纏った威圧感バリバリのこの御仁。

 あれれー?おかしいなー?

 記憶が正しければ、めがっさヤバい人だった覚えが…。

 

 

 「とは言え、この宇宙の調和を崩しかねん存在となれば、排除するしかあるまい。」

 

 

 他の世界線へのワープ時、如何にも戦い大好き!遊ぼうぜ!お前が的な!な雰囲気をバリバリ感じさせる艦隊の正面へとワープアウトしてしまいました(白目)

 

 

 「全軍、攻撃準備。」

 『各員、迎撃準備。』

 

 

 何が悲しくてMCU版サノスとブラックオーダー艦隊と戦わねばならんのさ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは多次元宇宙を放浪する知識大好きなトランスフォーマー風種族とその長の行き当たりばったり旅物語である!

 

 

 

 

 



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第2話 紫宇宙ゴリラ

 ソレはタイタンの王族の末裔にして、この宇宙でも最強の戦士にして最高の頭脳を持つサノスにしても、途方もない存在だった。

 なにせ、単体で大型惑星サイズの生命体など、彼の知識にすら存在しない。

 無論、可能性自体はあるが、それはあくまでロボット等であり、生命体としてではない。

 そんな存在が艦隊を率いて、自分達の前に現れる。

 サノスは勝ち目はあると判断しつつも、自分以外の配下は死ぬだろうとも予測した。

 だが、至上命題である宇宙の調和のための全生命体の半減は、既に完了した。

 後は自分の持つストーンを破壊すれば完全に達成となる。

 最悪、それさえ出来れば良い。

 サノスは瞬時にそう判断すると、部下達に攻撃を命じようとした。

 

 

 『待ちなさい、タイタンの末裔よ。』

 

 

 だが、それは当の本人に遮られた。

 巨大な惑星サイズの金属にして電子生命体。

 ソレから全方位へと放たれる津波の様なテレパシーに、サノスと言えども気圧される。

 だがそれはサノスだからその程度で済んでいるのであり、周囲の部下達は圧倒的な威圧感に戦わずしてその膝を屈していた。

 それだけ存在そのものの規格が異なるのだ。

 

 「何かな、異世界からの客人よ。」

 『勘違いをしているようですが、我々は貴男方と戦いに来た訳ではありません。』

 

 何を馬鹿な、とサノスは思ったが、ここで戦っても敗色は濃厚だ。

 無論、ストーンの力でどうとでもなるが、全てのストーンの力を使えるのは後一度だけ。

 二度目は自分の死を意味する。

 最後の一回はストーンそのものの破壊に使うので、出来れば戦わないで済ませたいのはサノスもだった。

 

 「話を聞こう。」

 『感謝します、タイタンの末裔よ。』

 

 一応の対話は成立した。

 その事実に一触即発だった両勢力の艦隊は、ホッと胸を撫で下ろした。

 

 『現在、我々はこの世界・この宇宙にやってきたばかりです。先程の急なワープアウトは初の世界に到来したが故の座標のブレであり、貴男方に危害を加えるためのものではありません。』

 「ふむ…。」

 

 辻褄はあう。

 如何にサノスでも、初の世界間移動の時はどうやっても多少の座標のブレは出る。

 それも大型惑星一つの質量並び大艦隊規模となれば、下手しなくても数光年のズレは発生してしまうだろう。

 

 「そうまでして、何故この世界にやってきたのだ?この世界は先程、全生命体の半数が消滅した。見るべきものはあるものの、他の世界よりは少ない筈だが。」

 『例え衰退期にあろうとも、その宇宙にて暮らしていた人々の歴史が消える訳ではないのです。』

 

 訥々と、老人とも幼子ともつかないが、しかし素朴で純朴な精神波が語り掛けてくる。

 

 『我々の至上命題はあらゆる知識の収集です。発展している種族の歴史や文化、技術だけでなく、他愛もない思い出や誰もが忘れてしまった物語等。滅びに瀕した種族、或いは滅んでしまった種族の情報やそれぞれの宇宙に起こる様々な自然現象も含まれます。』

 「成程、ではお前達の目的は…。」

 『誰もが見向きもしない存在であっても、確かに存在したのだと記録し、後世に残し、伝えていく。私達は、いえ、私ことユニクロンは永劫に泳ぎ続ける巨大なライブラリーなのです。』

 

 それこそがこの巨大惑星サイズの生命体の、至上の命題。

 世界を、宇宙を泳ぐ図書館。

 叡智、文化、他愛もない思い出、美醜も貴賤も関係ない。

 過ぎ去った栄華も、今まさに謳歌されている繁栄も、いずれ花咲く萌芽も、宇宙のあらゆる煌めきの欠片を集めて、漂う宝石箱。

 例え滅んでも、無意味な終末であったとしても、彼はずっと覚えてくれる。

 

 「お前の目的は、この宇宙に遍く存在するあらゆる者達の生み出した情報か。」

 『その通りです。それを収集し、記録し、伝承していく事が目的です。』

 「つまり、私もか…。」

 

 サノスはブリッジ内の自分の椅子に、どっしりと体を沈めた。

 サノスはその至上命題である宇宙の調和を保つ事、そのために多くの生命を殺害する事を公言し、容赦なく実行してきた。

 一見すれば、サノスの行いは正に悪逆非道にして冷酷無比だろう。

 だがしかし、この宇宙に存在する幾柱かのコズミック・ビーイングもまた同じ様な行動原理をしており、正に天災として宇宙を騒がせている。

 そうした全宇宙的なマクロの視点から見れば、サノスの行動は確かに正しいのだ。

 無論、正しければ良いという訳ではないし、もっと別の道を模索するべきだとも言えるのだが。

 方法の是非は兎も角、サノスは自分の傘下に下った者には名君であったし、その行動の目的自体は善良なものだった。

 だが、それは彼の行いを客観的に判断するだけの情報と視点が必要であり、彼の被害に会った者達ではそれは持ち得ない。

 そして、この機を逃せばこの世界のサノスの情報を記録する機会は永久に失われかねない。

 

 『はい。特にこの後に予想される貴男の行動は、私から貴男を記録する機会が無くなりかねないものですから。』

 

 サノスはぐうの音も出なかった。

 彼のこの後の予定は宇宙の中心近くで全てのストーンの力でストーンの存在そのものを消滅させる事だ。

 その後に生きていれば艦隊を解散させ、自身は辺境の惑星で隠居する。

 だが、二度も全てのストーンを使うのは、サノスをして余りにも死亡率が高過ぎる。

 一応、後一度だけなら死なずに済む可能性の方が高いが、決してその後の生存を確約できる確率ではない。

 負けるつもりはないが、無用なリスクと多少の手間を天秤に掛けた結果、サノスは決断した。

 

 「良かろう。私の持つ全ての情報をお前に渡そう。但し…。」

 『貴男が生きている限り、私達は貴男の邪魔をしません。また、貴男の敵対勢力から協力を要請された場合も中立を貫きます。』

 「よろしい。交渉成立だ。」

 

 こうして、辛うじてサノスとユニクロン大艦隊は全面衝突を免れた。

 

 

 ……………

 

 

 「宜しかったのですか、ユニクロン様。」

 

 互いの情報を交換し、代価としてサノスらに各種補給物資を渡してから、ユニクロン艦隊の多くは通常空間から異相空間に潜航、取得した情報の解析・整理・分類を行い、残りはこの宇宙の情報を収集すべく旅立っていった。

 戻ってくるのは何年後かは分からないが、きっと多くの成果を持ち帰ってくるだろう。

 そんな頃、超大型惑星型電子・金属生命体ユニクロン、その核とも言える最奥部の一角にある庭園に声が響いた。

 創造主に問いを投げかけたのはユニクロンに仕えるトランスフォーマー達の中でも特に古株の個体の一つ、統率兼技術担当でもあるセンチネルという個体だ。

 彼は嘗てはユニクロン地表の防衛部隊として辣腕を奮っていたが、後進の増加・成長と共に科学者に本腰を入れ、他の古株と同様に時折こうしてユニクロンに謁見しにやってくる。

 

 「彼の艦隊は特に問題ありません。我々なら一個艦隊もあれば多少手古摺りはしても問題なく殲滅可能でしょう。」

 

 ユニクロンと思われるその声は、しかし今は肉声だった。

 話しているのは人間に酷似したボディを持ちつつも、同時に人工物を多く取り入れたデザインの女性ヒューマノイド型の端末だった。

 宙域全体に響き渡ったテレパシーは今は鳴りを潜め、ユニクロンの持つ幾つもの端末の一つがセンチネルと会話していた。

 

 「しかし、彼らの主であるサノスはこの宇宙でも特に危険な物質である6つのインフィニティストーンを全て集め、運用可能な存在です。それらを用いれば、我々を道連れにする程度の事は可能です。」

 「…………。」

 「無論、私達ならば生き残る事は可能でしょうが、そうなった場合は貴方達まではそうはいかないでしょう。」

 

 超ド級の危険物であるインフィニティストーン。

 あの指パッチンは三度も出来るものではないが、僅かでも可能性があるのなら回避するにこした事はない。

 元よりユニクロンとその旗下のトランスフォーマー達は覇権も富も栄誉も余り興味はない。

 彼らの暮らしは基本的に自分達で完結しているし、他種族も敵対的なら無理して付き合う事はせず、友好的な種族に対しても互いに無理のない範囲で付き合うだけ。

 時折身内になったりもするが、それは全体としてはレアケースに過ぎない。

 無論、至上命題であるあらゆる情報の収集は怠りはしないが、それさえ出来れば無理に戦う必要はない。

 そして、今回は無用なリスクは避け、話し合いで利益を得る事が出来た。

 

 「今回は誰も傷つかずに収集が出来る。それで良いのです。あくまで私の趣味なのですから、ね?」

 「仰せのままに。」

 

 聞き分けのない子供に言い聞かせるような言葉と笑みに、センチネルは苦笑と共に頷いた。

 

 

 

 



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第3話 マーベル世界の地球と接触

 全宇宙の生命体が半減したサノスによる指パッチンことThe Decimation。

 これによる混乱は、地球各国並び各地域に壊滅的な混乱を齎した。

 特に酷かったのは首脳部が丸々消滅した国家や団体等で、この際の混乱は2年経過した現在でも止まらず、無法地帯と化した場所も少なくはない。

 だが、中東等の主要な紛争地域は入り乱れる各民族・各宗教勢力が首脳部や構成員全員消滅するケースが多かったため、今では紛争もかなり沈静化する事となった。

 とは言え、経済的・人命的損失は計算不可能であり、主要各国もまた生き残り、或いは引き継いだ首脳部が思わず匙投げの世界記録更新を続ける程度には絶望的な状況だった。

 

 それでも人類はしぶとかった。

 

 僅か2年、されど2年。

 主要各国は元シールド長官の「コード・レッド」の発動時のマニュアルに従い緊急事態宣言を発令、歯車の欠けた状態ながらも何とか国民の手綱を放す事なく、この難局に対処した。

 結果、現在は辛うじて復興に勤しむ事が許される程度には情勢は安定した。

 しかし、軍事力で少数民族を無理に併合・統治していた国々では内乱・内紛・内戦が勃発し、中華やロシア周辺の地域では独立運動が過熱し、最早収拾不可能となっていた。

 なお、混乱直後は各地で暴動や集団パニックが起きた中、某極東の島国は災害慣れしてるせいか(内心はどうあれ)他国よりも粛々と復興に勤しんでたりする。

 まぁ回避不能予測不可能な災害相手で骨も拾えないとなったので、それをやった相手への殺意はどうあれ、精神の安定を山積みの仕事に求めただけかも知れないが。

 この動きはこの現状の原因となったサノスの殺害がアベンジャーズにより報告されると加速し、今現在は表向き情勢は沈静化した様子だった。

 

 そんな時だった、超巨大な人工物と思われる天体が地球圏に飛来したのは。

 

 一切の痕跡なく現れた人工の天体に対して、各国はてんやわんやだった。

 何せどの国も半減した人口のせいで軍事増強なぞ出来なかったため、そもそも外宇宙からの侵略者に対してはシールド並びアベンジャーズ頼りだったせいで、ろくすっぽ対策していなかったのだ。

 唯一アメリカは偵察ではなく敵対的宇宙人向けの軍事衛星を保有していたが、サノス襲来時に役立つ事は無かったので実情はお寒い限りでしかない。

 そんな所にリアルデススターと思える巨大宇宙要塞の登場である。

 そのサイズ、実に直径約120km。

 月の直系約3474kmよりは小さいとは言え、そこに秘められた軍事力・科学技術においては地球人類の常識の及ぶ範疇ではなかった。

 そんなものがやって来たのだから、各国並び市民達の混乱は当然のものだった。

 

 「一体何なんだアレは!?」

 

 新生した各国首脳部の疑問に答える様に、かの巨大宇宙要塞から通信が入ったのは事件発生から丸3時間が経過した時だった。

 

 

 『地球人類の皆様へ、はじめまして。私達はトランスフォーマー。大始祖たるユニクロン様を頂点とする金属・電子生命体です。』

 

 『我々は貴方方との平和な交流を望んでいます。』

 

 『我々は貴方方との敵対を望んでいません。』

 

 『我々は貴方方に対して多くの資源と技術を提供する用意があります。』

 

 『今後のためにも交渉を行いたいので、交渉のための人員の選定をお願いいたします。』

 

 

 そんな内容が地球で使用されているあらゆる周波数と言語で放送され始めたのだ。

 その内容、そしてこちらの言語が解析されている事に警戒度を更に引き上げつつ、各国首脳部は「どうすべ…」と頭を抱えた。

 米国が「取り敢えずちょっと待って、具体的には一週間位」と半ばヤケクソで全周波数で返答すると、即座に「了解しました。返事を一週間程待ちます。」と至極素直に返信され、ジャックされていた全周波数は元に戻った。

 で、そこから始まったのは関係各位のデスマーチである。

 取り敢えず参考になりそうな対異星文明研究者やSF作家、軍事評論家等が交渉内容やトランスフォーマー達の目的や文明・技術レベル等の推測を行い、交渉内容を纏めていった。

 更に国連主要各国(中華は共産党政権崩壊後は内戦中で新たに日本が参加)はこれまでで最速で合同会合を行い、各国から全権大使を選別、更には特別顧問としてアベンジャーズ内の科学者二人を特別顧問(兼緊急時の護衛)として招聘、もしもの時を警戒して米国内の某所を会合場所として指定して一週間後を迎える事となった。

 

 

 ……………

 

 

 各国大使からなる使節団とその護衛らが屯する荒野において、スタークインダストリー社長トニー・スタークと物理学者ロバート・ブルース・バナーの二人もまたやはり緊張に包まれた状態でその時を待っていた。

 

 「なぁトニー。どう思う?」

 「ブルース、その質問ももう4回目だぞ?」

 

 アベンジャーズの生き残りである二人の間でも今回の事は寝耳に水であり、どうするべきか答えが見付からないでいた。

 

 「なんたって相手はワープ機能を実現してる巨大宇宙要塞だ。我々があの中で暴れても撃退する事なんか不可能だ。相手がその気になれば宙対地爆撃で地球の全文明を薙ぎ払うのも簡単だろうさ。更に…」

 「もし出来たとしても、次はもう不意打ちできない、だろう?分かってるよ。」

 

 この会話も既に4回目であり、二人とも緊張で既にゲンナリとしていた。

 

 「さて、そろそろ時間だな。」

 『指定された一週間後まで、後10分です。』

 

 トニーの言葉に、ナノマシン式アイアンスーツmk85の基部である腕時計型デバイスから二代目サポートAIたるフライデーの音声が響く。

 それとほぼ同時、彼らの頭上の空間が突如歪んだ。

 

 「来るぞ!」

 『空間の歪曲を感知、高度50m。』

 

 護衛の軍人の放った叫びに、フライデーが律儀に返す。

 直後、全長300m近い巨大な質量が出現した。

 

 「フライデー、解析!」

 『全長287m、構造材の解析…データに無し。武装・動力共に不明。』

 

 先日から行っていた解析と同じ結果に、トニーは厳しい視線を頭上に向ける。

 形状で言えば双胴艦、そして分かりやすく搭載された武装類は無しだが、実際はどうだか一切が不明だ。

 自分達の直上にいる宇宙人、平和的な交流を求めているとは言え、その実態は一切の謎に包まれている。

 サノス達の様な無法者でない事はこれまでの対応から明らかになっているものの、それでも宇宙人に対する不安と不信は根強い。

 過激な意見では先制核攻撃で倒すべきだ!という意見が軍部から真っ先に出される程度には、今現在の地球人類は宇宙人に対して負の感情を抱いているのだから仕方ないと言うべきだが。

 

 「ん、何か開いたぞ。」

 

 不意に底部の一部が開き、光を発した。

 その光は大使と護衛から少し離れた位置を照らした後、数秒後に何かがその光で照らされた場所に降り立った。

 SFで言うトラクタービーム、その逆バージョンとでも言うべき代物だった。

 

 「はじめまして、地球人の皆様。」

 

 響いた肉声、そして降り立った者の容姿に、その場の全員が驚きに目を見張った。

 

 「私は皆様の案内役を務めさせて頂くアラナと申します。以後、どうかよろしくお願いいたします。」

 

 肩口で切り揃えられたブラウンの髪、そして露出は一切無い古式然としたメイド服、そしてやや童顔の愛嬌ある少女の容貌。

 その姿は、どう見ても人間の女性にしか見えなかったのだ。

 使節団の混乱を他所に、そこからの話は早かった。

 何もない場所では私達は兎も角皆様には辛いので、私どもにご搭乗くださいというアラナの言葉と共に双胴艦の底部から再度トラクタービームが発射、気付けば使節団と護衛の全員が見知らぬSF的な純白でつるりとした壁の部屋の中にいた。

 

 「先ず最初に予定をお知らせ致します。本格的な交渉は翌々日からとして、それまでは私共の中で私達についての大まかな情報を説明させて頂きます。」

 「その前に、ちょっとだけ聞かせてもらって良いだろうか?」

 

 誰もが驚く中、非常識への耐性の高い(同時にとても非常識な)トニー・スタークが挙手する。

 

 「はい、何でしょうかトニー・スターク様。」

 「美人からならトニーで構わない!…今までの発言から、まるでこの船が()()()であるような口振りだが、それは合っているかな?」

 「はい、合っています。」

 

 どよ、と使節団と使節団が動揺するのに構わず、アラナと名乗った少女?は早速説明を開始する。

 

 「炭素系知的生命体である地球人類の皆様には馴染みが無いでしょうが、私達トランスフォーマーは自分の精神、即ちプログラムを受け入れるだけのメモリーさえあるのなら比較的簡単に身体を入れ替える事が出来るのです。」

 

 その言葉にトニーがやはりな、と思う。

 嘗て自分が生み出したジャービス、そしてウルトロン。

 それらトランスフォーマーとの類似性を素早く見出した辺り、女好きでヴィランメーカーで問題多過ぎでもやはり天才としての才覚は確かなものだった。

 

 「私達トランスフォーマーは元々大始祖たるユニクロン様が生み出した金属生命体でした。」

 

 途端、周囲のつるりとした壁と床がその色を変え、映像を映し始める。

 

 「生み出された当初の私達は単純な思考ルーチンで動く、皆様で言う所のロボットでした。しかし度重なる改良と教育の末に今現在の私達、即ち高度な知性と人格を兼ね備えた存在へと進化していきました。」

 

 それは暗黒の宇宙空間に浮かぶ、一つの人工惑星だった。

 巨大な双角とオービタルリングを備えた機械の惑星。

 その地表面がクローズアップされると、そこにはまるで玩具の様な外見をした多種多様なロボット、アラナの言う最初期の金属生命体の映像があった。

 それらは幾度もの改修と学習を繰り返し、やがてより大きく、より多機能的な機体を獲得し、高度な文明を築いていった。

 

 「私達はユニクロン様の指導の下、あらゆる宇宙を放浪し続け、やがて行く先々であらゆる情報を集め続けるようになりました。」

 

 滅多に観測されない宇宙の自然現象、嘗て滅んだ文明の残滓、今滅ばんとしている文明の叫び、羽搏こうとしている文明の産声。

 そして、こちらを滅ぼさんとする文明の雄叫び。

 

 「とても、とても長い時間、私達は宇宙を放浪し、色んな方々と交流を続けてきました。中には喧嘩別れをしてしまった方々も多いですが、私達と共に行く事を選んだ人々も多いです。」

 

 出会いからの交流、取引や友誼。移住や移民。

 彼らトランスフォーマー達の、地球そのものよりも遥かに長い歴史。

 それらが次々と映し出され、視界一杯に流れていく。

 余りにも壮大なスケールに、使節団は圧倒されていた。

 

 「やがて、私達は光速を超える事も、時空間を跳躍する事も、世界の壁を越える事も出来るようになりました。」

 

 やがて、元いた宇宙が崩壊の危機に至ると、彼らはあっさりと母星たるユニクロンと共にその宇宙から去っていった、

 そして、ずっとずっと旅を続けていく。

 長い、永い、久い間。

 星が生まれて滅ぶよりも永久く、それこそ永劫に近い程に。

 その中を、彼らはあらゆる情報を集めながら過ごした。

 

 「我々トランスフォーマーの至上命題はあらゆる知識の収集です。発展している種族の歴史や文化、技術だけでなく、他愛もない思い出や誰もが忘れてしまった物語等。滅びに瀕した種族、或いは滅んでしまった種族の情報やそれぞれの宇宙に起こる様々な自然現象も含まれます。」

 

 最後にサノスらブラックオーダーとチタウリの艦隊が映し出される。

 互いに兵器を向けあい、一触即発でありながら、しかしサノス自身と代表となった人型トランスフォーマー(威風堂々とした男性型)が互いに代価を出し合う形で戦闘を回避する事に成功していた。

 

 「な…!?」

 

 その様子にトニーとブルースが驚くが、そこで映像は終了し、壁と床が元の純白のそれへと戻った。

 

 「誰もが見向きもしない存在であっても、確かに存在したのだと記録し、後世に残し、伝えていく。私達はあらゆる知識の収集者であり、大始祖たるユニクロン様は永劫に泳ぎ続ける巨大なライブラリーなのです。」

 

 余りの動揺に半ば呆然とする使節団に、アラナは相変わらずの愛らしい容貌のままさくさく話を進めていく。

 

 「本日はここまでです。後は一度皆様をお部屋にご案内します。その二時間後に立食形式でご夕食となります。」

 

 腕によりを掛けますので、お楽しみ下さい。

 歓迎の言葉の筈なのに、どうにもそれを素直に呑み込めない一同だった。

 

 




この後、地球人類の皆様はユニクロン主と謁見してトランスフォーマー側の要求をほぼ満額回答で受け入れます。
軍事・技術・人口で圧倒的に劣ってるからね、仕方ないね。

なお、この後ブルースはアラナの言葉からヒントを得てタイムトラベルを研究しはじめ、最終的に家庭築いて幸せなトニーを巻き込んでエンドゲーム展開に持っていきます。
正し、トランスフォーマー側は協力しません。
サノスとの契約に抵触しちゃいますからね。

ただ、トニーの指パッチン後は即座に治療しに現れますので、トニーは生存します。


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第4話 ご案内

 

 「素晴らしい。此処は正にあらゆる叡智の殿堂だ。」

 

 後年、トニー・スタークはTF達の母星を訪れた際、思わずこう漏らしたと彼の自伝によって伝えられている。

 なお、

 

 「ぼくここにすむ!」

 「トニー、ハルクに殴られるのと素直に帰るのどっちが良い?」

 

 その直後に交わされた会話が記録されているのはユニクロン内部のライブラリのみである。

 

 

 

 ……………

 

 

 グリニッジ標準時 午前7時半

 使節団+αは先日の説明があったホールにて朝食を摂っていた。

 その壁の一部は船外の光景、即ち深淵なる宇宙と青い地球と砂の月、そして巨大な宇宙要塞という実にSFな光景を映し出していた。

 

 「うーん、私の知る地球の最高級ホテル並みのサービスとは恐れ入った。」

 「料理ももの凄く美味しかったよ。ほぼ全部見た事ない食材だったけど。」

 

 わいわいがやがや

 中型双胴輸送艦改装の外交艦アラナのサービスを一晩受けた事で、使節団の緊張は大いに緩和されていた。

 また、昨夜に受けた授業によりTF側の大まかな文化に関しても教えられたため、これからの交渉内容に関しても大体の目途が付いた事もあり、外交官らは綿密な調整を行っているものの、護衛の軍人達とトニーら特別顧問らは気楽なものだった。

 

 (今更何か話し合ったとしても、どーせ全面的に受け入れるしかないのになぁ。)

 

 朝食を食べつつ、深刻な顔で話し合いを続ける外交官らに対し、トニーは気楽なものだった。

 少なくとも、彼は以前のニューヨークの一件からずっと警告し、そのための準備を彼なりに続けてきた(実を結んだかは別として)。

 だと言うのに、今更深刻な顔をして話し合った所で、焼石に水以下だと何故分からないのだろうか。

 

 「あ、トニー。この紫色のポタージュっぽいの美味しいよ。」

 「お、確かに美味いな。ポッツとモーガンも連れてくるべきだったな。」

 

 なお、昨夜のトニーの言動は、言い含められたフライデーにより現在生まれたばかりの娘の子育て中のポッツさんに筒抜けである事を明記しておく。

 

 「にしても、アラナさんが沢山いた事には驚いたよ。」

 「元々この艦の管制担当のTFだったんだ。小型のボディを動かす位は余裕なんだろう。」

 「ウルトロンみたく?」

 「そうだねウルトロンだね。」

 

 サクッと過去の所業を刺されても繊細な癖に厚顔無恥ぶりならアベンジャーズの誰にも負けないトニーは、ブルースの言葉をテキトーに流した。

 

 「皆様、お食事中の所ですが、改めて本日の予定を説明させて頂きます。」

 

 そこにアラナの声で艦内放送がかかった。

 

 「本日午前10時より、外交艦アラナはスター級機動要塞17番艦スター・オブ・カノープスにてユニクロン様との謁見のご予定です。その後は午後2時まで昼食となります。終わり次第要塞内の非機密エリアにて観光。夕食は午後7時から8時半までを予定しております。」

 

 こうして朝食を終え、身支度を終えた使節団+αが乗る外交艦アラナは、一路窓に映っていた宇宙要塞へと向かうのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「皆様、本艦へのご搭乗ありがとうございました。只今本艦は第27宇宙港へと到着致しました。これよりユニクロン様との謁見のため、担当者が皆様を要塞最奥部へとご案内致します。」

 

 そんな艦内放送と共に手荷物を持った使節団+αがアラナから降りてくる。

 今回は逆トラクタービームではなく、普通の出入り口に繋げられたタラップでだったが。

 

 「凄いな。外から見たら全然港だなんて分からなかった。」

 「普段は立体映像を被せてあるんだろう。攻撃個所を誤認させるためだな。」

 

 無論、その一員にトニーとブルースもいた。

 内部との通路の空いた港湾部など、外敵から見れば攻撃してくれと言っているもの。

 故に通常は立体映像を被せ、場所を隠蔽する。

 勿論、非使用時はハッチを閉じる事もあるが、常にそう出来る訳でもないし、民間人の出入りが激しい場合も多い。

 また、同じやり方で弱点を対空砲台のキルゾーンへと呼び込む事も可能としているので、相手が有視界戦闘を重視していればする程に厄介となる。

 なお、レーダーやセンサー類を頼りにしてると、密集陣形であっても平然とジャミングを仕掛けてくる。

 これは彼らトランスフォーマーが主な通信技術として量子波や光子波を用いているから通常のジャミングが殆ど意味を成さないためだ。

 一応、ミノフスキー粒子やゲッター線といった自然界にはほぼ存在しない特殊な粒子やエネルギー波なら彼らにも十分通用するのだが、それはさておき。

 

 「にしても、このバッジも凄いね。」

 「あぁ。本当に驚異的だ。」

 

 使節団のメンバーに渡されたバッジ。

 それは彼らのゲストIDを示すものであり、同時に発信機にして彼らの生命を守るためのものでもある。

 この要塞は基本的に彼らTFのためであり、勿論密閉されて空気のあるエリアもあるが、地球の大気が毒となる種族も滞在している場合があるため、こうして個人用の宇宙用装備も存在する。

 このバッジ一つ付けているだけで、推力こそないものの有害な放射線やエネルギー、粒子等を防御フィールドで遮断した上、フィールド内部にはその人物の健康上最適な空気で満たされているのだ。

 勿論、種族ごとに設定の変更や貯蓄する大気の成分は変更せねばならないが、バッジサイズのこれ一つで20時間は快適に過ごす事が出来る。

 

 「皆様、担当の者が到着致しました。後は彼らに搭乗して頂きます。」

 

 アラナの声に全員がやってきた10m級の人型TFの姿に目を見張る。

 え、あれに乗るの?と戸惑いを多くの者がその顔に浮かべるが、それは直ぐに驚愕に取って代わった。

 

 「「「トランスフォーム。」」」

 

 ギ、ゴ、ガガガン!

 独特な金属同士の衝突と僅かに擦れ合う音と共に、三体のTFは三台の大型バス(但しデザインはSF的)へとものの数秒で変形してみせた。

 

 「では皆様、またのご利用をお待ちしております。」

 

 そして外交艦アラナもまた、使節団のお世話をしていた人型端末が艦内に引っ込むと同時、独特な音と共に全長200mを超す巨大な人型に変形していく。

 変形が終わる頃にはスラスターも使わずに手足のAMBACのみで港の外に出ると、器用に敬礼しながら今度こそ全身のスラスターから派手に噴射炎を吹かしながら彼らの視界から飛び去って行った。

 

 

 「そ……」

 「「「「「「「「「「「「「そんなのありかぁ!?」」」」」」」」」」」」」

 

 

 使節団+αの渾身の突っ込みは、空しく宇宙へと溶けるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 TF達の半ば物理法則に喧嘩売ってる変形へと全力突っ込みした使節団+αはそのまま三台のバスに乗って、要塞の最奥部、即ち中枢へ向かって行った。

 道中こそ調整された重力下であったものの、横道等は無・低重力環境であるらしく、天井や壁にコンテナが括り付けられていたり、空中遊泳で移動する住民達の姿を多く見る事が出来た。

 また、住民であるTF達も本当に多種多様であり、小さい者は30㎝未満から大きい者では10m近い者までおり、完全な異星起源の文明の社会を初めて見る使節団らは興味津々にそれを眺め続けた。

 

 「皆様、謁見後に観光のお時間を取りますのでどうぞご安心を。」

 「皆様、右側に見えるのは要塞内専用の空間跳躍装置です。出口として設定された他の跳躍装置内部に飛ぶ事が可能で、要塞内の移動時間の短縮に使用されています。但し、ゲストIDでは許可されておりませんのでご了承ください。」

 「皆様、眼下に見えるのが第一宇宙港、この要塞内で最も大きな港湾施設です。只今中型宇宙作業艇が入港した所です。」

 

 見るもの全てが初めてで、良い年をした使節団+αがまるでトランペットを見る少年の様な有様である。

 トニーやブルースも今や純粋に楽しんでいる始末で、最初の警戒や緊張、苦悩ぶりは見る影もない。

 

 「皆様、間もなく要塞中枢部です。停車後は徒歩で3分程の移動となりますので、お荷物などございましたら車内にそのままお預けして頂いて結構です。」

 「質問良いかな?君達の大始祖様は、何故この先にいるんだ?」

 

 そろそろ停車という時、不意にトニーが手を挙げて質問する。

 まぁ相手側の最高権力者らしい存在がこんな腰軽く謁見するとか普通では考えられないため、他の面々も気になっていた。

 

 「大始祖様は我々の母星の他、ご自身で他のスター級機動要塞の統括担当をしております。そのため、一定以上の文明レベルの方々との外交の際にはこうしてスター級にて謁見なさるのです。」

 「成程、分かった。所で謁見の際、何かやっちゃいけない事とかあるかい?」

 「地球人類の皆様のマナーは学習済みですので、皆様の基準での大変失礼な行動を取らない限りは失礼に当たりません。また、大始祖様は大変温厚かつ大らかな方なので、多少の事は笑って許してくださるでしょう。」

 

 その言葉に使節団一行は内心でほっと胸を撫で下ろす。

 誰だって自分達を滅亡させ得る相手の逆鱗に触れたくはなかったので、やはりこうした情報は欲しかったのだ。

 

 「到着致しました。皆様、ご利用ありがとうございました。」

 「私達はこの場にてお待ちしますので、降車したらそのまま道なりに進んでください。」

 「謁見終了まで、私達はここで待機しております。」

 

 こうして、使節団+αはこの要塞どころかTF達の最高権力者の御前へ向かって進んでいく。

 

 「さて、鬼が出るか蛇が出るか…。」

 「鬼でも蛇でも温厚で平和主義なら大歓迎だよ。」

 

 改めて気を引き締め直す護衛と特別顧問達と共に、一行は何の飾り気もない通路を歩いていく。

 そして数分後、程無くして巨大なシャッターの前へと到着する。

 そのシャッターはガコン!と大きな作動音と共に徐々に天井へと格納されていき、その奥に鎮座するモノが一同の視界へと入ってきた。

 

 「これは…。」

 「美しい…。」

 

 ソレは巨大な球体だった。

 ソレは翡翠と碧、紅玉に似た色彩に絶えず変化し、輝いていた。

 ソレは巨大な存在感を持ちながら、しかし何処か古木や穏やかな海の様な大きくとも静かで暖かな気配をさせていた。

 

 

 『はじめまして、地球人類の皆さん。』

 

 

 唖然とする一同の頭へと、直接声が響く。

 その声色は暖かく穏やかで、敵意の様なものは欠片も感じ取る事は出来なかった。

 

 

 『私の名前はユニクロン。今皆さんの目の前にある球体は、私の一部です。』

 『本当なら私の本体へとご案内するべきなのですが、皆さんとの付き合い方をちゃんと決めてからではないとダメだとうちの子達に言われてしまったので、一部だけで失礼しますね。』

 

 

 使節団の誰もが、それこそトニーとブルースも圧倒されていた。

 今まで彼らの見てきたあらゆる存在と全く異なるその大きくも暖かな気配。

 サノスの持つ暴力的で威圧的なプレッシャーとは真逆の、それこそ全てを委ねたくなる母の懐にいる様な雰囲気に、誰もが警戒心を拭い去られてしまった。

 

 (あ。こりゃダメだな。敵対しちゃダメ以上に()()()()()()。)

 

 この存在を前にしたら、どんな捻くれ者であろうとも敵対するだけの敵意を保てない。

 それこそサノスの様な己の故郷も家族も何もかもを犠牲にする覚悟を決めた者、或いは自分さえ良ければ全てを犠牲にする様な圧倒的なエゴを持った者か、何の感情も持たない者のどれらかだろう。

 

 

 『私達の目的の方は既にアラナから説明があったでしょうが、あらゆる情報の収集です。』

 『皆さんから情報を頂いても、それを悪用して貴方方に害を成す事は決してありません。また、私達には皆さんが必要とするあらゆる資源と技術を提供する用意がこちらにあります。』

 『それを考慮し、かつ慎重に協議した上で、色よい返事をお待ちしています。』

 『挨拶はこれで終わりです。今日は昼食の後に要塞内の観光が予定されていますので、どうかお楽しみくださいね。』

 

 

 気付けば、使節団は行きと同様の大型バスに乗って、昼食の会場へと向かっていた。

 誰もが少々所ではなく呆然としながら、先程の圧倒的上位存在との邂逅を消化するのに必死だった。

 今まで彼らは直接地球外生命体と出会った事も、交渉した事も無かった。

 辛うじて一部の護衛の兵士(チタウリとの交戦経験有り)がいる位で、平和的な接触の経験は絶無だった。

 そんな経験不足の彼らに、あれ程の存在との邂逅は余りに衝撃的だった。

 

 「トニー、どう思う?」

 「敵対はしない、と言うより出来ない。」

 「やっぱり?」

 「地球にはそんな余裕がない。そして相手が平和主義者なら、それを信じて交渉していくしかない。」

 「僕は彼女達の言葉、嘘だとは思えなかった。」

 「僕もだ。けど、全てのTFがそうじゃないかも知れない。」

 

 辛うじて非常識な事態に慣れているアベンジャーズの二人だけが、深刻な顔で今後の事を話し合うのだった。

 

 

 

 

 なお、この二人も午後の観光で要塞内の非機密情報のライブラリーへのアクセスを許可されると、子供の様にはしゃいだ事を此処に明記しておく。

 




ユニクロン主おばあちゃんにとって、人類は小銭どころか饅頭やお煎餅一つで喜んでくれるちっちゃい子認識です。
また、人類が頑張って作った文明(特に娯楽面)にも凄いねぇ頑張ったねぇ偉いねぇと無条件で褒めちぎってくれます。
ぶっちゃけ偶に会う孫程度には可愛く思ってる。

その内各国政府は大概の注文は叶えてくれると直ぐに分かるので、外交の実務担当TFさん達は胃がキリキリ

しかし、そもそもの資本や国力が圧倒的な開きどころか桁が100以上違うので、特に問題にはなってないという

なお、将来トニーが治療されるのは、彼が個人の範囲において地球上で最も多くの情報の生産者であるから+ユニクロン主おばあちゃんのお気に入り=前世からのファンだから


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機体設定その1

 飛ばして呼んでも大丈夫です。


 ユニクロン

 

 木星(地球の11倍)とほぼ同サイズの巨大な惑星型金属・電子生命体であり、非常に高い知性を持つ。

 同時にTF達の母星であり、無尽蔵とも思える生産・開発・研究能力を持った全知的生命体においても有数の生産拠点である。

 その中身はサブカル大好き(特に某ハイスピードメカカスタマイズアクションゲームとかヘビーノベルとか)な極普通の転生者。

 嘗ては宇宙を放浪するだけだったが、暇潰しに自分自身に似た知的生命体の創造を開始、それらは改修・成長を続けて遂にTFという一個の知的生命体となった。

 現在はTF達の創造主として君臨し、彼らと共に宇宙を放浪しながら趣味であるあらゆる情報の収集を続けている。

 その範囲は多岐に渡り、文化的なものから実用的なもの、歴史や神話、何気ない日々の記録等、本当にあらゆる情報を収集・記録・研究し、例えその宇宙が滅んだとしても後世へと伝え続ける。

 また、優れたものは自分達へと反映させる柔軟性もある。

 基本的な人格に関しては、余りに長寿であるためか非常に大らかであり、TFという種族そのものを自身の子供達として見做し、母親の様に振る舞っている。

 が、余りに大らかかつ優し過ぎるため、実際は孫バカのおばあちゃんっぽい。

 他の知的生命体に関しても、自分と子供達と仲良くしてくれる限りは決して傷つけない。

 その反面、喧嘩売ってくる連中や極端に無礼な連中には容赦がない。

 また、最初に生まれた自分達の宇宙が寿命を迎えると、他の世界へと転移して生き永らえ、そのままあちこちの世界へと移動するようになる。

 

 惑星形態の際の外見はほぼそのままであり、特徴的な巨大なオービタルリングと双角、口を持つ。

 人型形態の場合はその頭部デザインのみマクロスのバトルフロンティア(バイザーアイのバケツ頭)のそれに酷似した形状であり、サイズだけならゲッペラーやZマスター(ガオガイガーのボス)と殴り合える(勝てるかどうかは別として)。

 

 スペックに関して言えば、原作よりも遥かに高い。

 長い年月の間、常に知識の収集と技術の発展を続けてきたため、その性能は常に更新され続けてきた。

 その体は全てナノマシンで構成されており、適宜状況に最適な状態へと変化し続ける。

 主機関は対消滅エンジンや縮退炉他ブラックホールエンジンや量子波動エンジン等を無数に搭載し、他にも原作同様に巨大な口部から周辺の物質を捕食してエネルギーへと変換する事も可能。

 また、巨大だがそれ故に大きくなってしまう死角に関しては全身にある無数の武装やセンサー系、それらを十全に統括・管理するだけでなく、常にアップデートする上に自身に住まうTF達のための行政一般すら熟す処理能力を持つ。

 この処理能力を活かして自分自身を複製し、30弱のスター級機動要塞の管制・統括を行っている他、多数の端末を操作している。

 それらの内一つでも生き残ればそこから復活可能だが、幸いにも誕生から今現在までそれが役立った事はない。

 重力制御・空間転移・超光速移動・異相空間潜航・時間旅行・世界間転移・自己再生・自己進化などが可能で、その気になれば戦闘行為を行う事なく簡単に逃げる事も、脅威を排除する事もできる。

 このユニクロン主単騎で、TF達の艦隊全てを相手に圧倒できる戦闘能力を保有している。

 また、常に複数種のバリアを十重二十重に全体に展開しているため、最低でも惑星規模の戦略攻撃でもないとダメージは通らない。

 が、基本的に本人が超温厚なため、それらの能力が移動する以外に使用される事は殆どない。

 なお、重力制御によって大型の天体を捕食する際、勢いが付き過ぎて体表面に衝突して怪我人が出ないように一度二本の角で受け取めて勢いを殺してからもぐもぐする。

 

 その核とも言える部位は頭部にあり、この部分さえ無事なら一から機体を再構築する事も出来る。

 頭部の中には巨大な球体状のユニットが存在し、この中には謁見の間として庭園が存在し、そこには常に女性型端末(境ホラのホライゾン似)が常駐している。

 この球体状のユニットそのものがマトリクスであり、スター級機動要塞の中枢部にもサイズは遥かに小さいが同質のものが存在する。

 死したTF達の人格データは一度ここに迎え入れられ、再度別の身体で復活するか、死を迎えるかを選択する。

 死を選択した場合、そのTFのデータはマトリクス内で初期化され別人として再誕するが、希望すれば完全な消滅も選べる。

 死を選択するのは移民からTF化した者やその伴侶等に多く、殆どのTFは戦闘等で体を破壊されて死亡すると、別の体で復活して再出撃する。

 

 なお、今まで一番激怒したのはトップをねらえ!世界において、地球と交流してたらSTMC(宇宙怪獣)に襲われてその世界で初交流した地球人類であるタカヤ提督を殺された時。

 この後、STMCがいるであろう銀河中心宙域全般に対して記録されたありとあらゆる言語と伝達方法で「こっちに手を出して来るなら複数の宇宙ごと消滅させるぞクソ共が(意訳)」と恫喝する事で、以後この世界の地球人類はSTMCの脅威に晒される事は無くなった。

 

 が、トラウマになってるゲッペラーと遭遇する可能性のあるゲッターロボ世界とかスパロボ時空には命が幾つあっても足りないので行きたくないと思ってる。

 

 

 

 トランスフォーマー

 

 ユニクロン主が創造した機械・電子生命体。

 サイズは特殊工作用の1cm未満から200m越えと多種多様だが、一番多いのは4m以上10m未満。

 当初は極簡単なルーチンで動くペットロボットの様な知能しかなかったが、度重なる改修と経験の蓄積によって遂に完全な知的生命体として確立した。

 創造主たるユニクロンに絶対の忠誠を誓っており、ユニクロンが死なない限りは基本的に死なないため、ユニクロンを守るためなら何でもやる狂信者的な性質を持っている。

 が、超温厚で大らかなユニクロンと敵対する勢力は殆どいないため、その性質が表に出てくる事はほぼ無い。

 ユニクロンの唯一の一貫した趣味である「あらゆる情報の収集」を至上命題とし、他の知的生命体の発見・交流に全力を注いでいる。

 全ての個体が大なり小なり重力制御・空間転移・自己修復・自己進化を基本的な機能として搭載し、ユニクロンの重力(地球の二倍以上)に適応して生活している。

 4m未満の小型の個体を除き、全ての個体がユニクロンの重力から離脱するだけの推力を保有しており、地球上でも問題なく飛行や大気圏への離脱・突入を可能としている。

 また、他の知的生命体が移民する際にはそれ以前の肉体を捨てて、TFのボディを肉体として新生する。

 全ての個体に寿命や病気、劣化が存在せず、ユニクロンと共に永劫の時を生き続ける。

 ビークルモードは原作通り多種多様だが、一番多いのは宇宙空間を効率的に移動可能な航宙機系、次にユニクロンや機動要塞上の移動に便利な車両系となっている。

 

 その生活に関しては基本的に指定区域・艦隊・要塞ごとに行政区分が分かれているが、基本的に常時ユニクロン様が見てる状態なので、現場は極めて連携が密となっている。

 政治制度に関しては絶対王政どころか絶対神政なのだが、実際に政治を担当するのは稼働年数の長いTFの長老らによる上院、投票で選ばれる各行政区の代表らからなる下院で構成されている。

 ユニクロンが時々口を出す事もあるが、彼らからすれば紛う事無き創造主であるため、仕事が激増しても喜んで(或いは泣きながら)こなしてくれる。

 

 基本的に国民総皆兵を地で行く種族(得手不得手はあるが)。

 殺しても幾らでも復活するし、大元を断とうにもその大元の方が強いという始末。

 最近のお悩みはユニクロン様がお気に入りの地球人と余りにも距離が近い事(血涙)。

 

 

 

 スター級機動要塞

 

 ユニクロンが自分自身の分身として作り上げた巨大な宇宙要塞。

 が、一部は民間人も出入りしたり、観光したりしているので、純粋な軍事施設という訳ではない。

 外見はまんまデススターであり、巨大な戦略級レーザー砲を備える。

 常に防衛のために一個艦隊が常駐しており、無数のTFが生活している。

 ユニクロンを参考にあらゆる生産・娯楽・軍事施設が揃っているため、住人達だけでなくお客さんにも大人気。

 中枢部には全体の統括指揮所と大型のマトリクスが存在している。

 表面は一見何の武装もしていない様に見えるが、実際は立体映像を被せてあるだけで、無数の武装が設置されている。

 一応変形も可能だが、今現在まで使用された例はない。

 命名規則はスター・オブ・(星の名前)であり、現在30未満の数が就役、ユニクロンの周囲を衛星として付き従っている。

 最終的には60個は欲しいとユニクロンは言っているが、人手足りなくなるので止めてと上院のTFらから止められている。

 それぞれ頭部デザインに個体差があり、最も特徴的なものはアンテナそのものなデザインの頭部で、装甲は薄いが索敵能力は最も高い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第5話 条約締結 そして暴走

 TF達が地球人と接触を持ってから早3カ月。

 遂にTFと地球人類の間で通商・平和条約が結ばれた。

 

 とは言え、その内容は極々在り来たりなものであり、双方の行き来が可能なのはTF側のスター級機動要塞並び各艦艇のみで地球側は母星の位置を押さえられている上にそもそもの技術力・国力・軍事力などで圧倒的に差があるため、一見対等な様に見えてその内実は地球側が遠慮する様な形になるだろう。

 それでも領土や賠償金等を取られる事もなく、TFからの技術提供や資源のお友達価格での購入を実現できた辺り、異星人に対する偏見や敵意を持っていた地球の市民からも取り敢えずの納得を得られたため、暴動が起きる事は避けられた。

 また、TF側がそのままの姿で地球に降りずに、一見して地球人と酷似した姿で現れた事も受け入れの流れを後押しした。

 先の外交使節団を派遣した各国にはTF側の大使館が設置され、各国ごとに合わせた交渉が開始された。

 各国は相手の機嫌を絶対に損ねない事を絶対条件とし、決して無茶難題を押し付ける事は無かったものの、基本的に気の長い者が多いTF達との交渉は長引く傾向にあった。

 最初の技術提供や資源のお友達価格での売却は各国とTF側で即座に合意したものの、その具体的内容に関してはほぼ明文化されていなかった。

 そのため、各国は他国に負けたくないけどTFの機嫌損ねる訳にはいかないから下手な事も言えないというジレンマとTF側の気長な性質も相俟って、地道な交渉を続ける事となる。

 しかし、ここで停滞せずにスタートダッシュかました国があった。

 そう、皆大好きな某極東の変態的島国である。

 

 「今○○が足りなくて、取り敢えずこれだけ出せるんですが…。」

 「なら~~でどうでしょう?」

 

 と、下手に外交でイニシアチブを取ろうとか考えず、正直に自分達の懐事情をお話してTF側とさくっと友好関係を築いていた。

 

 「あ、新刊出ましたから書籍版と電子版両方ともお納めください。」

 「ありがとうございます。これ私達の間でも大人気で、購入できない人も多くて困ってたんですよ。」

 

 無論、種はある。

 彼らは世界に誇るサブカルチャーで文化的侵略をかましてたのだ。

 これはユニクロンが「私こういったものも大好きなんですよー」とかニコニコ宣ったのも原因で、現在彼の国の書籍や映像作品等はTF側でも大人気となっていた。

 また、制作側への配慮と敬意を持つ彼らは海賊版とかを作る事もなく、ちゃんと原作を購入してからMADや二次創作に手を出し、順調に沼に嵌るのであった。

 勿論ユニクロンのライブラリにはしっかり記録されてはいるが、そちらを商業目的ではないので無料公開している事もあり、貸し出し予約がどれもこれも最低で3年先(長いと10年先)までいっぱいになっていたりする。

 そのため、ユニクロン大始祖様大好きなTF達は「大始祖様のお気に入りの作品を見逃すな!」と皆して購入に踏み切るのだった。

 結果、所謂名作アニメや映画のスタジオ・制作会社の株価が急激に上昇する程度には売り上げが激増した。

 これを受けて各国では各種文化(特にゲーム・アニメ・映画・ラノベ等)が推奨され、支援金制度に加えて今までブラック所かダークマターだった現場にもメスが入り、大いに賑わう事となる。

 こうして文化的・経済的に繋がり、徐々にTFは地球人類に受け入れられていった。

 

 とは言え、異星人は皆殺しだ!殲滅じゃ!とか言う連中は普通にいる。

 彼らは地道に異星人の危険性を訴え、時にはデモ行進も行っているが、TF側から流れてくる膨大な量の良質な各種資源と工作機械等に狂喜乱舞している政府や経済界は聞く耳持たず、それら全部敵に回す事は出来ないマスコミの多くは上っ面を撫ぜるだけの記事しか書けなかった。

 最終的にはテロ行為をして民衆や政府の目を覚ます!と覚悟を決めるも、大使館は事前にTFと各国側双方から常に厳重な警備が敷かれているため、どうしようもないと諦めるか玉砕して闇に消え去るのみだった。

 

 この五年後、遂にトニー・スタークが量子世界を経由する事で実現した時間遡行技術の開発に成功した。

 彼は密かにTF達のTOPであるユニクロンと会談し、時間による歴史改変の結果が新たな平行世界の分岐である事を確認した後、「時間泥棒」計画を実行に移す事となる。

 

 但し、彼らアベンジャーズの望んだTF側の全面的な支援は「当時結んだサノスとの契約に抵触する恐れがある」として取り付ける事は出来なかった。

 これには元々サノス自身がストーン無しでも時空間移動が可能であり、全てのストーンを二度も使用したが故に致命的に弱体化するまではTF達ですら交戦を避ける程の難敵であったからに他ならない。

 無論、ストーンを集める前のサノスと戦えば、例え時空間移動可能であるとはいえ、彼が生まれる遥か以前から存在し、そもそも他の世界で生を受けて無数の世界を移動してきたTF達を全滅させる事は至難の業故に勝率自体は高いだろう、その被害にさえ目を瞑れば。

 そういう訳で、TF側はアベンジャーズの活躍を遠くから見守り、指パッチンの被害者全ての復活が終わったら被害者の治療や復興を手伝う事を約束するに留まるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「大丈夫。何も怖い事なんて無いからね。」

 

 

 その優しい言葉を、五年経った今も僕ことロバート・ブルース・バナーは覚えている。

 あの地球人類史上初の、異星人(それも異世界人で機械生命体!)との会談のための使節団にトニーと共に特別顧問として参加した時の事だ。

 使節団があの小惑星サイズの機動要塞に到着して観光した後だから…確か五日目の事だったか。

 使節団の面々とTF側の実務者達が交渉を始めるという頃、僕とトニーは彼らの母星たるユニクロン(何と彼女自身が木星サイズの機械生命体なのだ!)との正式な謁見のために呼び出されたのだ。

 通常、TF達はユニクロンに交渉段階の他種族を呼ばない。

 ユニクロンは彼らの聖地にして母星であり、始祖である。

 彼らTF全ての母にして神なのだ(この辺り、TF達は母系社会とも言える)。

 そんな相手にまだ敵対するかどうか分からない連中を入れる事は普通なら無い。

 しかし、今回は特例中の特例として僕ら二人が招かれる事になった。

 しかも特段武装解除される事もなくだ!(僕は武装なんか持ってないけど)。

 その事で向こうは大分混乱してたらしいと今なら分かるんだけど、当時の僕達にはそんな事も分からず、ただ深刻な顔でどうするどうすべきどうしたら?と移動中にグルグル考えてたものさ。

 最終的には当たって砕けろの精神で僕達は表向きすまし顔で(TF達から見れば心拍数や発汗等で丸分かりだったけど)謁見に望んだんだ。

 再び外交船アラナに乗り込んだ僕らは何度かのワープの後にユニクロンとその防衛艦隊のある異相空間に到着した。

 事前説明されていたとは言え、僕とトニーはその余りの巨大さに呆然とした。

 木星、即ち地球の10倍以上の巨大さを誇る惑星が一つの知的生命体であるという事実。

 それに圧倒されたままアラナは表層に到着し、そこから小型艇に乗り替えて幾つものワープポイントを経由した。

 周囲を明らかに精鋭と分かる兵士達に囲まれた状態でだ。

 普通のTFが分かりやすく機械的な外見をしてるのに対して、彼らは地球の中世の鎧の様な外観をしていた。

 武装も銃じゃなく近接武装を主体にしてるようだけど、明らかに他とは違う雰囲気に舐めてかかるなんてとても出来ない。

 少なくとも、チタウリなんて目じゃない位強そうな連中だったよ。

 そして、遂にユニクロンの最奥部に案内された。

 そこはトニーのスーツに入ってるフライデー曰くこの惑星の最も奥深い中心部であり、重力制御されてないと普通の人間じゃとてもじゃないが生きていけない場所だとか。

 そこは機動要塞中枢と同じと思われる美しくも不可思議な結晶体に包まれており、余りに幻想的な光景に何度目かも分からないが目を奪われてしまう。

 そんな場所を通り過ぎて直ぐ、巨大な門を通り抜けた所が、ユニクロンとの謁見の場所だ。

 そこは地球と変わらない大気成分に調整されて、足元には青々とした草原が広がっていた。

 天井には外交船の壁と同じであろうスクリーンによって地球の青空が映し出され、人工的とはとても思えない自然で爽やかな微風が吹いていた。

 そこから先はトニーと二人だけ、護衛達も「ここから先は我らの立ち入りは許可されていない。くれぐれも失礼の無き様に。」と言って門の外で待つ構えだ。

 

 「じゃぁ行こうかブルース。地球人類初、異星人の女王様から拝謁の栄誉を浴しに。」

 「今だけは君の面の皮の厚さが羨ましいよトニー。」

 

 後、女王様ってより女神様とか地母神様の方が合ってる気がする。

 そんな事を思いながら草原を歩いていく事、大体1km位だったかな?緊張してたからもっとだったかも。

 正確な数値はトニーに聞いてみた方が良い。

 ずっとまっすぐ歩いていくと、前方に人影が見えてきた。

 外見は若い人間の女性だった。

 下手すると少女と言うべき年頃だったのかも知れないけど、その中身は地球よりも長生きのお婆ちゃんだと聞いていたから、どう表現すべきかちょっと分からないや。

 彼女は僕達が来るのをずっと待っていたのか、傍らの白いテーブルには三人分の椅子とお茶、茶菓子が置いてあり、僕達を歓迎しようと椅子から立ち上がっていた。

 それよりも僕らが気になったのは、彼女の外見だった。

 

 SF映画に出てくる様なちょっとピッチリした黒いインナースーツの上にちょっと大きめな白い肩抜き・袖広がり(ニット・オープン・ショルダーとワイドスリーブって言うと後で知った)のセーターの様なものを着て、下には飾り気の無い紺色のロングスカートを穿いていた。

 それだけならまぁ似たような恰好してる友人(後でガチで怒られた)もいるから気にならないんだけど、肝心なのは彼女の容姿だ。

 作られたものだと分かってる、それでもなお目を奪われた。

 白銀から毛先に行くに従って灰色、そして黒へとグラデーションの掛かった長髪が腰まで延び、微風と戯れる様に泳いでいる。

 その瞳は暗い宇宙の様でいて、しかしその引き込まれる様な深さと相反する星の様な煌めきを宿していた。

 そして容姿は文字通り神が作り給うたかの様な正確な黄金比によって形成された、凡そ人間では到達できない美を体現していた。

 

 「こうして直接拝謁するのは初めまして女王陛下。ご存じでしょうが、私がトニー・スターク、アイアンマンです。」

 「ロバート・ブルース・バナーです。えと、ハルクと呼ばれています。お会いできて光栄です、女王陛下。」

 「えぇ。私も貴方方と直接会えて光栄です。」

 

 だって、地球の方と直接お話するのはこれが初めてですから。

 コロコロと、童女の様な、少女の様な、女性の様な、老婆の様な、そのどれとも異なり、どれとも同じである様な、完全に未知の雰囲気をしていた。

 それでも共通しているのは、彼女が僕達に微塵も敵意を抱いておらず、心底歓迎しているという事だった。

 

 「さぁ、おかけ下さいな。茶葉もお菓子も材料は地球産ですから、お味の方は大丈夫ですから。」

 

 こうして、彼女とのお茶会が始まった。

 とは言え、会話の内容は本当に些細なものだった。

 やれ、お茶とお菓子は美味しいか、とか。

 やれ、外交船や要塞、この星を見てどう思ったか、とか。

 やれ、今何か足りていないものはあるか、とか。

 やれ、良ければ私のライブラリの中身(此処には彼女らの見てきたあらゆる文明や宇宙のデータがごまんと詰まってるのだ!)を見てみないか、とか。

 特に四つ目は僕ら二人にとってはどれ程の価値があるかすら計り知れない宝の山だ。

 僕らは喜んで彼女から許可を取り、謁見終了後にでも直ぐに向かう予定を立てた。

 そして僕ら二人はどちらも多少分野は違うが(と言うかトニーが手広すぎるんだよ)世間からは天才科学者と一括りにされる人材で、彼女ことユニクロンは人類が初めて出会い、これ以降出会わないだろうと思われる程には膨大過ぎるビッグデータの管理者だ。

 当然、話題はそういった方向へと向き、僕らは最初の手探りでのんびりとした会話から、徐々に白熱した討論へと移っていった。

 そうして数時間程だろうか、討論で乾いた口を淹れてもらった紅茶で湿らせていた時、ふと会話が少しずれた。

 

 「そう言えば、二人の至上命題というか、一番やりたい事って聞いていませんねぇ。」

 「ん?そうだったかな?」

 

 討論の息抜きといった体で話がずれ、専門家ですら頭を悩ませる様な知識の応酬が一時停止する。

 彼女率いるTFの至上命題は知られている通り「知識の収集」なのだから、他種族の一個人のそれが気になるのも分かる。

 うーんと…トニーは兎も角、これは僕にとっては分かり易いな。

 

 「僕はほら、ハルク化の治療だよ。」

 「あぁ、ガンマ線で突然変異したんですよね。でも…」

 

 ふと、彼女は何でもない事の様に告げた。

 

 「お話を聞くに、技術よりも医療の問題な気がしますね、バナーさんは。」

 「へ?」

 

 医療?確かにハルク化するようになった当初は最先端の病院に幾度もかかった。

 七つの博士号を持った生物学者の僕自身も治療のためと医師免許を取れる程度には勉強し、実践経験も本職程じゃないとしても豊富だ(とは言え医者としては並程度。現役時代のストレンジ程じゃない)。

 それでも彼女はハルク化は医療の範囲だと言うが、一体どういう事なんだ?

 

 「フィジカルじゃなく、メンタルの問題です。その体質になったばかりの頃、貴方は武道家に師事して精神面でも鍛錬を積んでいたとか。」

 「あぁ、そういう事でしたか。」

 

 確かに、さっぱり治療の糸口が見つからないフィジカルよりも既にある程度の成果が出ているメンタルの方が優先すべきだろう。

 が、それはあくまで対処療法で、根本的な解決にはなっていない。

 …というのがこの時点までの僕の考えだった。

 

 「そちらの方は確かに効果はありました。でもある程度の安定には寄与しましたけど、それ以上の効果は無くて…。」

 「えぇ、それはあくまで『怒らないように耐える』という事ですよね。」

 

 視点を変えましょう。

 そう言って彼女は立体映像を呼び出す。

 そこには僕の身体を変えてしまったガンマ線を用いての兵士強化実験の詳細が表示されていた。

 

 「ほぅ、こいつがあの緑の巨人君誕生の秘密か。」

 「元々はトニーさんのお父様の成果を再現しようと始まったらしいですね。キャプテン・アメリカさんがいてトニーさんがいれば以前とはまた違った結果になりそうですが。」

 「ふーむ、一考の価値はあるな。」

 「もし何かやったら僕は全力で反対するからね???」

 

 僕みたいな故郷を追われ、恋人と別れ、人里離れて暮らして、曲者だらけの友人達に囲まれる生活をする人を増やすような真似は許さない(漆黒の意思)。

 

 「問題はこの実験の効果です。これはあくまで人体の超人化が目的で、事実ブルースさんの血液を注入した軍人の方はハルク化はしましたが、元々の人格は保ち、最初から会話も可能だったと。」

 「まぁあいつは自分からハルク化しましたからね…。」

 

 当時を思い出してゲンナリとする。

 最終的にブロードウェイを瓦礫の山としたあの事件。

 最愛の恋人と険悪だったとは言えその父親との今生の別れは、今になっても胸が痛む。

 

 「なのに、ブルースさんは変身すると自我が薄まり、会話も片言。おまけにハルクと会話可能だとか。」

 「! 二重人格、解離性同一性障害か!」

 

 医者ではないトニーだが、直ぐにユニクロンが言いたい事に気づいた。

 

 「普段のブルースさんは穏やかで優しい温厚な方です。しかし、そんな方が自分の意思によらず理性を薄れさせて破壊衝動のまま暴れてしまった。意識が戻った時のブルースさんは一体どう思うでしょうか?」

 「成程。それまで経験した事のない過剰なストレス。おまけに変身の副作用で理性もトンで自己統帥権を失ったと。」

 「止めに『あんな怪物は自分じゃない!』と思う事で自己防衛し、切り離された破壊衝動と記憶が暴走の度に成長していき、やがてブルースさん本人の代わりとなるために自我を得た。」

 「言われてみれば割と典型的な解離性同一性障害のプロセスだな…。」

 

 絶句、正に絶句だ。

 今まで治療すべき、根治すべき対象でしかなかったハルクが、まさかの二重人格だと言われる日が来るとは。

 

 「で、具体的にはどう治療するか、だが…。」

 「うーん、問題なのはハルク化した時の被害であって、ハルクさんもブルースさんも悪い方じゃないですから…。」

 

 あーだこーだ話し合うも、やはりここは基本に立ち返るべきだという事になった。 

 解離に対する精神療法の基本的前提という10の項目がある。

 

 1、安全な環境と安心感の獲得

 2、有害となる刺激を取り除く

 3、人格の統合や心的外傷への直面化にはあまりこだわらない

 4、幻想の肥大化と没入傾向の指摘

 5、支持的に接し、生活一般について具体的に助言する

 6、言語化困難な状態であることを考慮し、隠れた攻撃性や葛藤についてふれる

 7、病気と治療について解りやすく明確に説明する

 8、自己評価の低下を防ぎ、つねに回復の希望がもてるように支える

 9、破壊的行動や自傷行為などについては行動制限を設け、人格の発達を促す

 10、家族、友人(恋人)、学校精神保健担当者との連携をはかる

 

 多少時代や国で差が生じるが、概ねこんな所だ。

 加えて言えば、別に二重人格そのものは悪い事ではない。

 二重人格であっても日常生活に支障を来す事なく大学を卒業し、就職した前例もある。

 この場合、真に問題なのは二重人格によって引き起こされる精神的混乱、不安定さ、人格の希薄化、実生活面での混乱や困難なんだ。

 僕の場合は怒るとハルクに切り替わる事じゃなく、怒ったハルクが暴れてしまう事で生じる被害と僕自身の実生活面の困難(具体的には暗殺とか捕獲とか追放とか)が問題なんだ。

 

 「なぁブルース。君、暫くこっちで過ごすつもりはないか?」

 「急にどうしたんだい?」

 「いやね、僕なりに考えたんだけどさ、このまま地球に戻っても君の治療をまともに出来る気がしないんだよ。」

 

 トニーは先の10の項目の他、患者の周囲が持つ3つの役割に言及した。

 

 1、「異常」扱いをしない。

 2、どの人格にも愛情をもって接する。依怙贔屓しない。

 3、話をちゃんと聴く。気持ちを受け止める。

 

 「うん、無理だね!」

 「だろう?」

 

 トニーがハルクバスターなんて専用装備を開発してもなお苦労する様なハルク相手に上記の三つの条件を達成して生活し続けるなんて地球人類基準じゃどう考えても無理だった。

 

 「じゃぁ私の方でハルクさんとブルースさんの関係が落ち着くまでお預かりすれば解決ですね。」

 

 ふんす、と鼻息荒く頑張ります!と可愛らしくガッツポーズするユニクロン(一大種族の始祖にして女王様)の姿を見た僕らは、彼女に背を向けてこそこそ話し出した。

 

 「これ大丈夫?外交問題にならない?」

 「なる、絶対なる。もしハルク化して暴れようもんなら地球滅亡待ったなしだ。」

 「何でそんな所に僕みたいなの連れてきちゃうかなぁ!?」

 「君だってノリノリだったろ!現に期待通り治療法が見えてきたんだから!」

 

 責任を擦り付けあってる僕らに対し、ユニクロンはその優れた感覚器で会話内容を聞き取ると、ぽんと手を鳴らした。

 

 「あぁ、私に危害が及んで問題にならないか心配なんですね。大丈夫、この端末もあくまでたくさんある端末の一つですから、壊れても大丈夫ですよ。」

 「ごめんなさい、もし今の貴方に危害を加えちゃったら僕の心が擦り減るんです。」

 「あら、それなら大丈夫ですよー。私、こう見えても強いですから。」

 

 にこにことほほ笑む女性の姿からはさっぱりそんな様子は見えない。

 トニーも僕も知識としてそれを知っているが、しかし未だ人類とTFとの間では武力衝突の経験はないため、その言葉がどこまで本当か分からない。

 一見してユニクロンが華奢な女性で、ここが地球の環境を再現した場所だから余計にそう思えてしまった。

 

 「いや、それは…。」

 「大丈夫ですよ。ブルースさんも、ハルクさんも。」

 

 

 例えお二人が全力で暴れても、何も問題は無いですから。

 

 

 その挑発とも取れる一言に、サノスと出会ってから奥底でずっと眠っていた相方が起きたのが分かった。

 

 「ブルース!呼びかけろ、落ち着くように言うんだ!」

 「な、ダメだハルク!落ち着くんだ!彼女は敵じゃない!」

 

 「うるさい!だまってろ!」

 

 「あ、やばいもう無r」

 

 自分の喉から雄叫びが上がるのを最後に僕の意識は闇に包まれた。

 そして、冒頭に語ったあの言葉が目覚めた僕が最初に聞いた言葉だったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




すげぇ長くなってしまったんで一旦切ります。

前半は交渉後の地球の話
後半は交渉中のトニー&ブルースとユニクロンのハルク化の治療のお話前編


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第6話 祝福

 「あの時、私は確かに奇跡を見た。」

 

 

 後年、トニー・スタークは自伝でそう記した。

 それほどまでに彼が見た光景はその当時の常識ではありえないものだったから。

 

 

 ……………

 

 

 「く、フライデー!」

 『アーマー、緊急展開します。』

 

 女王の挑発とも取れる言葉に突如暴走を開始したハルクに対して、トニーが選んだ策は一つ。

 即ち、「無力化」である。

 だが、ここには追加のアーマーはない。

 今ある戦力だけでどうにかしなければならない、それも異星の要人を守りながら!

 ハルクバスターがあれば大分マシなのだが、今は最新型とは言えMk50しかないのが辛い。

 

 「止まれハルク!」

 

 咄嗟に女王とハルクの間に立ち塞がり、牽制に両掌からリパルサーレイを発射しようと手を構え…

 

 「退いてください。」

 

 女王の声と共に、至極あっさりとアイアンマンはそのボディを遥か上空へと移動させられた。

 

 「何が起きた!?」

 『極小範囲の空間操作と推測。』

 

 だが、以前潜ったスペースストーンによるワープゲートの類を通った感覚は無い。

 つまり、トニーではなく空間の方を操作して移動させたのだ。

 これが単なる超能力の類なら見えない手によって強引に動かされた様な感覚があるのだが、今回は無かった。

 また、重力制御と言っても落ちる方向を指定したり、特定方向に増減させればやはり自然と分かる。

 それらが一切ない、つまりは自分がいるこの空間を一切の違和感が感じられない程繊細に操作した事に他ならない。

 

 (成程、強いと言う訳だ。)

 

 逆にこれを広範囲で行う事が出来れば、ワープや圧縮・拡張も自由自在となれば、確かに強いと言って何ら不思議ではない。

 加えて、先ず間違いなく奥の手は別に多数存在するとなればサノスですら交戦を避けたのも不思議ではない。

 

 『ハルク氏、交戦開始。』

 「うわお。」

 

 ハルクの突撃に遅れ、隕石の落下の様な衝突音が響き渡る。

 しかし、それだけ。

 ハルクは何度も拳を振るい、しゃにむに突撃を敢行するが、それだけ。

 ハルクの足元だけは見る影もない程に荒れ果てるが、周囲の草原は揺らぐ事なく平和な草原のまま存在している。

 あのハルクが全くの無力だった。

 まるであのサノスの時の様に。

 

 「まるっきり子供扱いだな。」

 『対象の戦闘能力、解析不能。』

 

 やがて力尽きたのか、ハルクは大きく息を荒らげながらその場に立ち尽くしてしまう。

 

 「ばかにするな!たたかえ!」

 

 ハルクが咆哮し、再度攻撃を開始する。

 先程よりも更にパワーの増した攻撃は、しかし先程の焼き直しの様に何の痛痒にもなりはしない。

 

 「ごめんなさいね。私は貴方を馬鹿にした訳じゃないんです。」

 

 咆哮するハルクに対して、それでもなお穏やかにユニクロンは話しかける。

 

 「私の見える範囲にいる限り、貴方がどんなに暴れても大丈夫だと、そうお伝えしたかったんです。」

 

 今まで多くの建造物を、兵器を、地形を破壊してきたハルクの攻撃が、この星そのものであるユニクロンにはまるで歯が立たない。

 ハルクにとっては二度目の経験。

 しかもそれは一見して単なる華奢な女性によるもので、自分に敵対する者ですらない。

 まるで我儘を言って拳をぽかぽかぶつける子供と母親の様な、実態からすればいっそ滑稽な様子にすら見える。

 やがてその勢いは衰え、遂には止んだ。

 

 「ふぅっ…ふぅっ…!!」

 

 息を荒らげて立ち尽くすハルク。

 普段は怒りだけの彼が、今は呆然としていた。

 いや、その表情の中には驚愕と恐怖が宿っていた。

 嘗てサノスを恐れ、一時は呼び掛けられても表に出る事を拒絶していた頃。

 その頃と同じ状況になろうとしていた。

 

 「あぁ、ダメですよ。そのまま閉じ籠っちゃ。」

 

 だが、女王がそれを止める。

 そもそもこの騒動の原因はブルースとハルクの治療、その千載一遇の機会を逃すつもりはない。

 

 「う…うぅ……!」

 「大丈夫、私は貴方を傷つけません。」

 

 後ずさるハルクに対して、ユニクロンは微笑んだまま一歩一歩ゆっくりと近づいていく。

 決して怖がらせないように、傷つけないように。

 

 「ほら、怖くない。」

 「っ、があああ!!」

 

 しかし、あと一歩という所で恐怖に耐え兼ねたハルクが再び拳を振るってしまう。

 そして、その一撃はユニクロンに届いた。

 

 「っ!?!」

 「な!?」

 

 ハルクとトニー双方が驚く。

 先程まで一切の損傷を負う事無くハルクの暴威を防ぎ切っていたユニクロンへの突然の惨劇。

 トニーの神経と胃壁と毛根が今後の展開を予想して悲鳴を上げた。

 

 「大丈夫。」

 「う、ぁ…。」

 

 だが、ユニクロンは動じない。

 その右腕を吹き飛ばされ、インナーの中の人類に酷似した肢体を晒しながら、それでもなお驚きと混乱で膝をついていたハルクの頭を残った左腕でその懐へと抱きしめたのだ。

 

 「大丈夫。何も怖い事なんて無いからね。」

 

 それは、ハルクが生まれて初めて感じ取るものだった。

 それは抱擁で、人間なら家族や友人、恋人に人生の中で一度は経験するものだった。

 しかし、普通の生まれではない、そもそも人格として認められてすらいなかったハルクにとっては、生まれて初めての経験だった。

 誰かに一個の人格として認められ、その暴威に晒されながら恐怖されず、そして慈しみの対象に入れてもらう。

 そんな事は、ハルクにとって一度もない、本当に初めての事だった。

 バナーにとっては嘗てあったが無くしたもので、ハルクにとっては自分が原因で決して得られないもの。

 知らず知らず、二人が心の底から欲して止まないものが、今漸く与えられたのだ。

 

 「私は貴方を傷付けないし、怖がらない。」

 「うん…」

 「私は貴方が暴れても死なないし、壊れてもすぐ治る。」

 「うん…」

 「だから、いっぱい甘えて大丈夫ですよ。」

 「うん…」

 

 そこからはもう止まらなかった。

 ハルクは生まれて初めて破壊衝動や闘争本能、恐怖に因らない理由で大きな声を発した。

 彼は漸く、この世界に生まれてきた事を祝福され、滂沱の涙を流したのだ。 

 

 「うん、うん、沢山泣いて良いんですよ。地球の人達は皆、泣いて生まれるんですから。」

 

 あのハルクを、ただの赤子として扱うユニクロンはただ静かにその頭を抱き締め、声をかけ続けた。

 

 「改めて初めまして。私の名前はユニクロン。永劫に宇宙を漂う知識の収集者、そして全てのTF達の母です。貴方の名前はなんて言うのですか?」

 

 「は、ハルク…」

 「えぇ、初めましてハルク。これからよろしくお願いしますね。」

 「う、ぐ、うぅぅぅぅぅぅ……ああああああああああああああああ!!」

 

 そしてハルクはまた大声を出して泣き始めた。

 それこそ、本当の赤ん坊のように。

 

 「…hello,World.」

 

 それをただ一人始まりから終わりまで見届ける事となったトニーは、その生誕を祝福する言葉を贈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、中枢への門には近衛部隊が完全武装で集結を完了していたりする。

 




なお、近衛部隊は最後の騎士王で封印から目覚めた古代TFの騎士の皆さん+αです。


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第7話 後始末

 幸いと言うべきか、泣き疲れたハルクは直ぐに眠ってしまった。

 そして身体は元のブルースの状態へと戻り、その後一日中眠り続けた。

 ブルースを背負ったトニーはユニクロンと共に中枢を出ると、即座に殺気立った近衛部隊に囲まれた。

 

 「貴方達、控えなさい。ブルースさんとハルクさんは病人だし、トニーさんは私を守ろうとしました。彼らを傷つける事は許しません。」

 「女王陛下、貴方様の慈悲が我らの誰よりも深い事はよく承知しております。しかし、だからと言って我らが大始祖たる貴方様がその様に傷つけられれば、我ら一同その下手人に対して激怒するのは当たり前の事なのです。」

 

 意訳:オレらのビッグマムに手ぇ出されて黙ってるなんて出来やしません!屑の家系を絶ってやる!

 そんな副音声が聞こえてきそうな程度には最精鋭の一角たる近衛部隊のTF達は殺気立っていた。

 

 「これは……まぁ確かに治療の一環とは言え、気分の良い事ではないですね。」

 

 ハルクによるダメージをそのままにここまで来ていたユニクロンはその右肩に目を移す。

 その服装も先の一撃の際に乱れており、服とインナーのあちこちが破けて素肌(生体組織による人工皮膚)が晒され、特に胸元は谷間がほぼ丸見えになっている。

 成程、状況が分からない第三者が見れば、それこそ性犯罪の被害者にすら見えるかもしれない。

 

 「よっと。」

 

 そんな軽い掛け声と共に、ユニクロンの人型女性端末の右肩から先が一瞬で再構築される。

 次いで、衣服もまたものの数秒で再生し、元の状態へと戻った。

 トニーは自らもまた造詣が深い故にそれがナノマシン技術によるものだと即座に看破、同時にその見事な肌色の芸術もまた脳内へと深く深く刻み込んだ。

 

 『やはり殺そう。』

 『辺境の炭素生命体に慈悲など無用。』

 『いや待て。大始祖様の前ではバレるぞ。』

 『貴方達全部聞こえてますからね???』

 

 トニーのスーツの下の視線の動きを感知してか、俄かに近衛部隊の通信量が殺意と共に増大する。

 が、我らがホラクロン様にはお見通しなので、一斉に通信が沈黙した。

 

 「取り敢えず、ブルースさんとハルクさんは医療施設に移しましょう。トニーさんは付き添いをお願いしますね。」

 「女王陛下、私の友人への御慈悲、本当に感謝致します。」

 「いえいえ、貴方方からの情報はどれもこれも興味深くて楽しいものです。この位なら苦労ではありませんよ。」

 「こちらこそ。機会があればこのトニー・スターク、必ずや女王陛下のお役に立つ事をお約束します。」

 「ふふ、期待させてもらいますね。」

 

 こうして、殺気立った近衛部隊に囲まれてだが、トニーとブルース&ハルクは一先ず医療施設へと搬送される事となった。

 

 『彼らには他の端末を付けます。異論は無いですね?』

 『『『『『御意。』』』』』

 

 無論、念入りに釘を刺されたため、TF達が三人を秘密裏に始末する事はなかった。

 

 

 ……………

 

 

 【大始祖様】ユニクロン様を見守り隊1145141919スレ目【万歳!】

 

 1 名無しのTFさん

  ・ここは我らが大始祖・創造主・星母たるユニクロン様の日々の暮らしを見守るスレです。

  ・荒らしは厳禁です。大始祖様に怒られるならご褒美ですが、過激派が来襲する場合もあります。

  ・燃え派、萌え派、崇拝派、オギャリ派等多数の派閥がありますが、喧嘩は仲良くやりましょう。

  ・新入りへの歓迎・勧誘は程々に。

  ・このスレはご本人様に見守られています。

 

  以上の注意事項を守って、今日も楽しく大始祖様を見守りましょう。

 

 

 ~暫く進んで~

 

 

 9811 名無しのTFさん

 

 この前、他部署のミス発覚で納期に間に合わない手が足りない~!ってなって意識失うまでデスマーチしてたらさ

 明らかに俺らの頑張った早さだけじゃ説明が付かない量の仕事が終わってたの

 んで、使ってた情報端末に「もう少しだけ頑張って」って送り主不明のメールが入っててさ

 その後も頑張って間に合わせたんだけど、同僚も上司もやってないって言うの

 これってやっぱりそういう事なん?

 

 

 9812 名無しのTFさん

 

 よくあるよくある

 

 

 9813 名無しのTFさん

 

 うちも前に提出忘れてたデータが期限ギリギリになって端末のトップに出てたりな

 誰かが弄った訳ないのに…

 

 

 9814 名無しのTFさん

 

 他所の知的生命体なら兎も角、俺らの場合は何方様がやったのか分かり易くて良いよな

 

 

 9815 名無しのTFさん

 

 こういう時はいつもの…

 ありがとうございますユニクロン様!

 

 

 9816 名無しのTFさん

 

 ありがとうございますユニクロン様!

 

 

 9817 名無しのTFさん

 

 マジ感謝してますユニクロン様!

 お礼にこちらをどうぞ

 

 つ《直径3cmのユニクロンのプラモ》

 

 

 9818 名無しのTFさん

 

 ホラー現象が一切ないのはTF最大の長所

 ってSUGEEEEEEEEEE!?

 

 

 9819 名無しのTFさん

 

 まじか("゚д゚)

 

 

 9820 名無しのTFさん

 

 すごいな、表面のモールドや街並みもかなり細かく作ってある

 

 

 9821 名無しのTFさん

 

 変形

 

 《変形途中のユニクロンのプラモ》

 《人型に変形したユニクロンのプラモ》

 

 

 9822 名無しのTFさん

 

 まじかコイツ!?

 

 

 9823 名無しのTFさん

 

 このサイズでこの完成度で更に完全変形だと…!?

 

 

 9824 名無しのTFさん

 

 どう見ても既存の市販品より凄いです本当にあ(ry

 

 

 9825 名無しのTFさん

 

 今日の神職人スレはここですか?

 

 

 9826 名無しのTFさん

 

 おいお前らスレちだぞ

 

 

 お幾らですか(小声

 

 

 9827 名無しのTFさん

 

 ≫9826 その欲望嫌いじゃない

 

 

 9828 名無しのTFさん

 

 話題を元に戻すために投下

 

 本日のユニクロン様

 つ《高齢者向け三輪シニアカーが低速で走ってる様子》

 つ《変形して学校帰りの子供TFと一緒に遊んでる様子》

 

 

 9829 名無しのTFさん

 

 あ、待って待って尊い尊すぎる…

 

 

 9830 名無しのTFさん

 

 あ~子供達とユニクロン様が戯れる姿に癒されるんじゃ~

 

 

 9831 名無しのTFさん

 

 よし、今から出張だけどこれ見れたら暫く生きてけるな

 

 

 9832 名無しのTFさん

 

 出張いうても別にユニクロン様の上の話じゃ

 

 

 9833 名無しのTFさん

 

 艦隊勤務なんだよ言わせんな

 

 

 9833 名無しのTFさん

 

 お仕事頑張ってくだちぃ

 ぼくちんはユニ様ウォッチングのお時間なのです

 あ~人型端末のユニ様とうといんじゃ~

 

 つ《幼女型端末が異種族の子供達を引き連れて商店街を歩いてる様子》

 

 

 9834 名無しのTFさん

 

 要塞なら兎も角艦隊勤務はな…

 

 

 9835 名無しのTFさん

 

 あバカ

 

 

 9836 名無しのTFさん

 

 ≫9833 発見した。

 

 

 9837 名無しのTFさん

 

 

 

 9838 名無しのTFさん

 

 だから言ったのに…

 

 

 9839 名無しのTFさん

 

 このスレは過激派に監視されています

 不用意な発言と行動は排除されます

 場合によっては自宅凸からの矯正施設送りにされます

 

 

 9840 名無しのTFさん

 

 なお、どうしても治らない場合は軍のブートキャンプ、更には最前線送りの可能性も

 成績良ければ最新のバルチャー型のボディ貰えるよ!(なお損耗率

 

 

 9841 名無しのTFさん

 

 STMCが悪いよSTMCがー

 

 

 9842 名無しのTFさん

 

 宇宙の熱的死を防ぐためとか無駄を省いて寿命延ばすためとはいえ、全文明に襲い掛かってくるのはNG

 

 

 9843 名無しのTFさん

 

 あの連中とは絶対に相容れん

 

 

 9844 名無しのTFさん

 

 【速報】星母様、地球人により負傷【近衛出動】

 

 

 9845 名無しのTFさん

 

 は?

 

 

 9846 名無しのTFさん

 

 いやいやいや誤報だろ

 国力差どんだけあると思ってんだよ

 

 

 9847 名無しのTFさん

 

 いや、少なくとも大始祖様の所で何かあったのかは確実

 中枢部分の近衛部隊が完全武装で集結し始めてる

 

 

 9848 名無しのTFさん

 

 「」

 

 

 9849 名無しのTFさん

 

 すまん、ちょっと緊急出動かもしれんから出てくる

 

 

 9850 名無しのTFさん

 

 いてらー

 

 

 9851 名無しのTFさん

 

 いてらー

 自宅警備は任せろー

 

 

 9852 名無しのTFさん

 

 働けよニート

 

 

 9853 名無しのTFさん

 

 すまんな、不労所得たくさんあるんだ

 

 

 9854 名無しのTFさん

 

 これが、格差…

 

 

 

 ……………

 

 

 元より金属生命体から電子生命体へと進化、或いは跨いでいるTFにとって、死は無縁だ。

 それは彼等の精神、魂とも言うべき部分が常にリアルタイムで記録・保管・更新されているからに他ならない。

 ユニクロン、或いはその超大型端末とも言えるスター級機動要塞によって。

 時折、世界を跨いでの活動を行う際には簡易バックアップ機能を搭載した大型旗艦がその役割を代替する事もあるが、概ねこれがTFの不死の秘密である。

 こうして記録・保管・更新されたデータ、これはTF側の脳髄に当たる量子CPUに記録されており、地球人類を始めとした知的生命体が作成するロボットとは一線を画した複雑さを備えている。

 

 こうした複雑精緻かつ無尽蔵な機能を更に拡大・発展させるユニクロン並びTFに対し、危機感を抱いた多くの知的生命体がその叡智を結集させて開発した人工知生体が存在する。

 TFとユニクロンの持つ情報収集・管理機能を再現せんと超巨大な情報ネットワークと記憶管理システム郡を管理するデータ生命体、通常「ディジット」である。

 直径約4000kmの記憶装置マザーボール、情報の収集・保全・管理などを行うパワータイプの各種端末群は期待通りの性能を発揮しつつ、設計者の目論見通り各端末ごとに学習・差別化も可能で、多くの知的生命体の発展に寄与した。

 しかし、それら知的生命体間の対立を原因とした情報の不具合やエラー、矛盾が多発した事によって知的生命体との関係を一方的に破棄、対立関係になってしまった。

 

 閑話休題

 

 これらTFの精神・魂と言い換えても良いデータは、しかし通常の生命体とは発生のプロセスが異なる事から、個別の名称を与えられる事となる。

 スパーク。

 創造主ユニクロンによって与えられた、原初の火。

 何れユニクロンの下に還り、そしてまた旅立つ光。

 これがある故にTFであり、ロボットではない。

 言わば彼等の存在証明であり、口さがない者が「お前にはスパークが無いのか!」等と言おうものなら、TFにとってはそれは殺し合いのスタートとなる最大級の侮辱に当たる。

 

 で、その起源は何だかんだ言って人工生命体であり、通常の知的生命体よりも遥かに高速かつ多量な演算能力をデフォルトで持っている。

 つまりは噂話とかニュースの類はその日の内に惑星や艦隊全部に広がるし、それこそ銀河の端の端から即日で広まっちゃうのである。

 

 

 「と言う訳で、現在トニーさん達はうちの子達に監視されてる訳です。」

 「何とまぁ…。」

 

 ヒューマノイド向け医療施設にて、ブルースの眠るベッドの枕元でトニーは現在の状況をユニクロンの小型端末から聞かされていた。

 

 「しかし、先程の麗しい人型端末でなくて良かったので?」

 「この星で私を間違える子はうちにはいませんから、これでも良いんですよ。」

 

 そうトニーの問いに返すのは、ふよふよと浮かぶ掌サイズの小型の球体端末だ。

 そのデザインは惑星形態のユニクロンそのままであり、特徴的なオービタルリングと角と口もしっかり再現されている。

 

 「お陰でお二人に渡す予定だったライブラリのアクセス権限も、普通のに下げるように言われてしまって…。」

 「それは残念。ですがまぁ、今は彼等の気持ちを汲むべきかと。」

 「ですねぇ。何処かでガス抜きしませんと、地球人類の皆さんとの外交問題になってしまうかもですし。」

 

 なお、ユニクロンが何か言わなければ、即座に交渉破談からの宣戦布告も有り得た。

 ずっと殺気を感じ続けているトニーは、外交問題で済めば良いなぁ…と思ってた。

 

 「うーん、仕方ありません。トニーさん、後でレースに出てみませんか?」

 「レースですか?」

 

 突然の発言に、トニーが困惑する。

 

 「えぇそうです。私達の文化で、年に数回行うんですけど、明日航空部門でのレースがあるんです。」

 

 ピ、という電子音と共に立体映像でレースの詳細が表示される。

 参加レギュレーション並びコースとチェックポイント。

 参加人数並び武装使用の有無にリタイア方法等々等。

 一際目に付くのがレース参加者の募集のための宣伝文句だ。

 

 ○ユニクロン様主催レース(航空部門)募集中

 求む参加者。

 至難の旅。

 僅かな報酬。

 絶えざる危険。

 成功の暁には名誉と賞賛を得る。

 

 (南極探検隊募集のコピペかな???)

 

 トニーがそう思うのも無理はなかった。

 なお、僅かな報酬とあるが、上位入賞者には賞金ならびユニクロン様(お好きな端末で)のハグが贈られるので、参加者は毎度毎度自壊すら厭わぬ程の熱意で参加する。

 

 「…………………………何故、これに参加を?」

 

 トニーは罵声が出そうになるのを堪えて、そう問うた。

 

 「トニーさん達がうちの子達に格下に見られているのは気づいていますか?」

 「まぁ薄々とは。」

 

 がっつり視線で語ってるけどね!

 特に近衛部隊の面々、お前らだよ!

 と、トニーが思ったかは定かではないが、彼等がどこか自分達地球人類を下に見ているのは分かっていた。

 まぁ当然だ。

 彼我の戦力・技術・国力の格差は勝負を挑む事そのものが馬鹿らしく感じるものなのだから。

 

 「だから私にちょっと手間をかけさせただけで排除しようとするんです。貴方達はそんな事で切り捨ててよい者達じゃないと証明しない限りはこれはずっと続くでしょう。」

 

 勿論、ユニクロンが健在な限りはそんな事は起こらない。

 起こらないが、相手をどう思っているかは無意識の内に端々に出てくるものなのだ。

 それが双方の得にならない結末を引き寄せかねないのなら、必ず対処せねばならない。

 

 「認められたくば力を示せ、と。成程、実に分かりやすい。」

 「ごめんなさい、怒らないで下さいね。うちの子達は私が絡むと短気になりやすくて。」

 

 本来の予定なら、トニーとブルース、地球でも有数の天才らの頭脳を見せる事でその辺りを解決しようとしたのだが、ブルースとハルクの治療でその予定が吹っ飛んでしまったのだ。

 

 「しかし、それだとブルース達も何かに参加すべきでは…?」

 「えぇ。彼等には無差別級格闘大会に参加してもらおうかと。」

 「うわー適役。」

 

 なお、それは二日後の予定である。

 

 「ん?」

 

 そして参加要綱の一部分を見て、トニーが声を漏らした。

 

 「あの、女王陛下?」

 「はい、なんです?」

 「これ、開催日が明日のようなんですが…。」

 「そうですよ。早くするには越したことが無いですし。」

 「……………………。」

 「あ!調整用の機材付きの部屋を用意しますね!私も手伝いますから、今からやれば余裕ですよ!」

 「後、今までの大会の資料もお願いします。対策を考えないと。」

 

 この後、夕飯を軽く済ませて限界までスーツを調整しました。

 

 

 護衛のTF達?勿論殺気立ってましたとも。

 ベッドで寝てるブルース&ハルク?

 殺気で魘されてたけど、ホラクロン様が額の汗拭いたり空調効かせてたので無事です。

 でも彼等二人がずっとユニクロン様に面倒見てもらってたのは即座にネットワーク通じて全TFに流れていきましたとさ。

 

 

 …………トニー達の、そして地球人類の明日はどっちだ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なお、レースと格闘大会はダイジェストになる予定です。


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第8話 航空レース

 ユニクロン様主催レース(航空部門)開催当日

 

 「いやぁ今年もこの時期がやってきましたね!ユニクロン様主催の大星レース!実況は恒例の私ブロードキャストと…」

 「解説のサウンドウェーブがお送ります。」

 「で、サウンドウェーブさん。早速ですが今年のレースはどうでしょうか?何か注目するべき所はありますか?」

 「今回のレースは指定されたコースが都市の再開発地区であり、武装の使用が全面的に禁止されてはいますが、多数の障害物が並び、旧式の自律砲台も設置されています。更には今年は異例の参加者もいます。いつも以上に波乱に満ちた大会となる事でしょう。」

 「ですね!今回の異例の参加者、ダークホースとしての活躍を期待されているのは地球からやってきた鉄の男トニー・スターク!お手製のパワードスーツを纏い、アイアンマンと名乗って地球の危機を救った最精鋭部隊アベンジャーズの頭脳担当!そんな彼が大会前日になって緊急参加!うーん、控えめに言って自殺志願か!?」

 「ですが、彼のスーツの性能は地球人類の技術レベルからすれば目を見張るものがあります。加えて、我らが大始祖ユニクロン様も注目している人物の一人です。その技術力を侮ってはいけません。」

 「地球人類でも最高峰の頭脳を持つ男トニー・スターク!彼が一体どんな波乱を巻き起こすのか!?レース開始まで後10分、皆が待ってるぜ!」

 

 そんな喧しい実況席からの放送を他所に、しっかり睡眠と軽めの朝食を済ませたトニーはスーツの最後の調整をしていた。

 

 「トニー、本当に大丈夫かい?」

 「大丈夫だよブルース。調整は完璧だ。地球の私の研究室以上の設備でレース向けに調整したんだ、抜かりはないよ。」

 「だと良いんだけど…。」

 「君こそ明日だろう、無差別級格闘大会への参加は。そっちこそ大丈夫なのか?」

 「と言っても、君と違って事前にできる事は会場の下見や参加選手のデータを覚える位だし、実際に戦うのはハルクだしね。僕自身に出来る事は少ないんだ。」

 「なら良いんだけどね。ハルクと会話は?」

 「出来てるよ。彼は彼ですっかりやる気になってくれてる。」

 「そうか、なら安心かな?」

 「おっと、もうすぐ時間だよ。」

 「よし、行ってくる。」

 「あぁ、幸運を!」

 

 こうして地球人類史上初、異星人のレースに出場した男というトニー・スタークの数ある伝説の一つが築かれる事となった。

 

 

 ……………

 

 

 レースの内容は低空域のビル街をコースとし、途中ある幾つかのチェックポイントを通過しながら順位を競う。

 なお、参加人数に制限は無しなので、記念参加する者やイロモノな恰好をして参加する者、他種族からの参加者も多い。

 今回のレースの範囲は大体日本列島と同じ位で、北海道から沖縄を目指そう!な位の距離。

 但しTF勢の能力ならレースの時間は直線なら大体1分もあれば終わるのでチェックポイントや砲台の設置で放送用の尺(約10分)を稼いでいる。

 残りの時間はレース中の映像のピックアップとか選手紹介による。

 大体の様子はスター○ォーズEP1のポッドレースをより立体化させたような感じと思ってくれれば良いです。

 コースを形成するビル群は老朽化しており、解体予定の再開発地区なので、好きな様に利用してOKだが、多数の無人砲台を備えているビルもあるので、迂闊に近寄るとその時点でTHE END。

 なお、ビル群は後日業者が解体して分子変換器で資材にするかユニクロン様の物質変換炉でエネルギーにします。

 コースの一部は何通りかに分かれて存在し、中には地下もある。

 地下などの閉鎖空間は短いがトラップ満載だったり、カーブ多めで減速の必要があったりと、コース短縮は可能だがその分難易度が高い。

 稀に安全だが大回りのコースを地下に入れない大型のTFが最大速度でかっ飛ばして優勝したりする事もあるので、参加者は自分の性能に合ったコース選択と調整が必要となる。

 更に実際のレースは武装で攻撃する以外はほぼ何でもあり(但し盛り上がりに欠ける行いはNG)なので、他の選手から、又は選手への妨害を意識して行動するのも忘れてはいけない。

 

 が、細かく書くと余りにも長くなるのでダイジェストで行くことにします。

 

 1、スタートと同時、始まる有志のTF達による「野郎オブクラッシャー!」発動。

   アイアンマンを質量差で押し潰す!として突撃した連中多数に対し、ジャミング&ダミー映像&光学迷彩発動により上手く逃げ切るトニー・スターク。

 

  「野郎オブクラッシャー!」

  「やろう、ぶっころしてやる!」

  「いてて、オレじゃないあいつだ!」

  (うわー予想通りだけど嫌われてるなーこれは。)

 

 

 2、何故か例年よりも弾幕が高密度になっているビル群にて撃墜者多数。サイズの小さくジャミングしてるアイアンマンは何とか掻い潜る。

 

 「おっとどうした事だー!これはまた例年にない弾幕の嵐!負傷者続出ー!」

 「中には過去の上位入賞者もいますね。バリア機能持ちの参加者が多いのでボディーを喪失する者はいないようですが…。」

 (よし、予定外だが想定通り…。)

 

 

 3、中盤に突入、上位陣の優勢は崩れない。スタースクリーム始めジェットロン軍団が毎度の如く優勝候補!

 

 「序盤からハプニング続出でしたが、いつも通りを崩さない上位入賞は独り占めと言わんばかりにジェットロン軍団が先頭集団を独占ー!」

 「休暇取れなかった者は参加してないようですが、この辺りは流石艦隊勤務の精鋭部隊ですね。」

 「やはりトップはスタースクリーム!普段の小物染みた口調とは裏腹に、勝負事ではフェアに徹するジェットロン軍団のトップガン!流石優勝候補は格が違う!」

 「流石は矯正施設出身勢の希望の星。格が違いますね。」

 「てめぇら少しは黙ってやがれ!」

 「「だって話すのがお仕事ですしー。」」

 

 4、中盤その2、いよいよレース本格化&無人砲台の弾幕が激化。トニー被弾によりジャミングと光学迷彩解除。

 

 「おっと、マジで砲台の弾幕凄過ぎない?ルナティックかな?解説のサウンドウェーブさん!」

 「どうやら毎度のレース時間の短さに業を煮やした放送局が砲台を3倍に増やしたみたいですね。予定ではもっと少なかったようなのですが、有志による寄付と作業の手伝いがあったようです。」

 「っ、被弾したか。ダメージレポート!」

 『ジャミング並び光学迷彩が使用不能です。』

 「その分抑えていた出力を推進系に回せ。ここからはスピード勝負だ。」

 

 

 5、終盤に突入。無人制空戦闘機3機出現、先頭集団へと攻撃開始。一機をトニーが撃墜。

 

 「おい待て誰だこんなもん許可したの!?旧式とは言え現役の無人戦闘機じゃねぇか!」

 「流石に障害物に備えて減速した状態じゃもたなかった様ですね。先頭集団の過半数が食われました。」

 「テメェら後で鍛え直しだ!こんなもんこうしてやらぁ!」

 「おーっと!スタースクリーム選手、無人攻撃機2機をトラップに誘い込んで撃破!部下の仇を取ったァー!」

 「流石はトップガン。見事な飛行技術です。」

 「残り一機はこっちか…。フライデー、奴のデータを出せ!」

 『了解。…武装はレーザー機銃3門、空対空ミサイル21発です。逃げ切るのは困難です。』

 「レーザーの出力は…これなら耐えられるな。奴が焦れてミサイルを撃ったら他に擦り付けるぞ。」

 

 

 6、ゴール前の直線。背面と脚部・腕部に推進器を追加し、自滅すら厭わぬ加速によってスタースクリームとデッドヒート。

 

 「凄い凄い凄い!レース前に一体誰がこんな結果を予想していたか!史上初の地球人の参加者が、まさか我らがトップガンとここまで競るとは!?アイアンマン前に出た!スタースクリームが追い越した!アイアンマン追い縋る!だがスタースクリーム追い越させない!アイアンマン追い越した!スタースクリーム!アイアンマン!」

 「最早凄いとしか言えない。あの地球人の選手には色々と嫌疑がかかっていましたが、まさかここまでとは…。」

 「そんなもんは些細些細!さぁ決着はどうなる!?」

 

 

 7、遂にゴール!写真判定の結果、優勝は変形して腕を伸ばしたスタースクリームの勝ち。だがトニーはその目的を達成し、ボロボロの身体で表彰台に上った。

 

 「写真判定の結果はぁ……………ジャジャン!優勝は腕の差でスタースクリーム選手ー!!」

 「今のドラムロールは何処から…?とは言え、やはりトップガンの壁は高かったという事でしょう。」

 「今回のレースはちょっと障害がきつ過ぎたのもありますが、それは参加者全員同じ事。それでもなおその王者の座を譲らなかったスタースクリーム選手と初の地球人の参加者でありながら見事2位を捥ぎ取ったトニー・スターク選手始め全ての選手に盛大なる拍手を!」

 

 なお、無茶をしたトニーはむち打ちと打撲、重度の筋肉痛で入院した。

 

 

 ……………

 

 

 再びヒューマノイド向け医療施設にて

 

 

 「やぁトニー。初参加で2位おめでとう。でも随分無茶したみたいだね。」

 「仕方ないさ。どっかの誰かさん達のお陰で、踏ん張らないと外交問題になる所だったんだからさ。」

 「その節は本当に申し訳ない。」

 

 深々と頭を下げるブルースを、トニーはベッドから見上げた。

 既にブルースからは嘗ての彼らから感じた陰鬱な雰囲気は感じられず、一皮剥けたと言うべきか、吐き出すべきものを全て吐き出してすっきり爽快といった様子だった。

 それに安堵しつつ、忠告を送る事にした。

 

 「次は君の番だが、用心するんだぞブルースにハルク。傍らで止めようとした僕でこうなんだ。直接女王陛下に手を挙げてしまった君らに対しては、それこそ本気で殺しにかかるだろう。例え試合であっても、だからこそ事故は付き物なんだ。」

 「分かってる。覚悟はしてるよ。でもね…」

 

 言って、ブルースはその右腕で力瘤を作る。

 緑色になり、筋骨隆々となった右腕で、だ。

 

 「今の僕らなら大丈夫さ。遅れは取らない。あ、サノスみたいなのは別だからね?」

 「期待しているよ。ベッドの上でね。」

 

 友人達の素晴らしい進歩に対し、トニー・スタークはベッドの上で愉快気に笑った。

 

 

 

 

 

 

 次回、ブルース&ハルク出陣。

 




ちなみに、前話に出てくる「ディジット」は破壊魔定光に登場する連中です。
こいつらはこいつらでヤベー技術力と戦力持ってます。


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第9話 格闘大会

 ○ユニクロン様主催無差別級格闘大会(締め切り済み)

 

 求む参加者。

 至難の戦場。

 僅かな報酬。

 絶えざる危険。

 成功の暁には名誉と賞賛を得る。

 

 

 (南極探検隊コピペかな???)

 

 起きてご飯を食べて早々に、ブルースは地球人の力を見せるために自分達が出場する格闘大会の説明についてトニーと同様のそんな感想を抱いた。

 

 「ごめんなさいね二人とも。こんな押し付ける形になってしまって。」

 「いえいえ、元はといえば僕らが原因ですから。」

 「がんばる!」

 「ほら、ハルクもこう言ってますし。」

 「でも、本当はゆっくり観光して頂きたかったものですから。」

 

 そう言って困った様に眉尻を下げるのは、以前とはまた異なる型の端末に宿ったユニクロンだった。

 その外見は某正解率1%の猟奇殺人系サウンドノベルゲームの名作に登場する「鷹野三四」のナース姿と言えば分かるだろうか?

 何でナースはナースでもよりによってソイツやねんと突っ込みが飛んできそうだが、幸いにもブルースはそういった文化とは縁遠い生活だったので、何も知らずに素直に看護を受け入れていた。

 

 「まぁ何とか頑張って入賞を目指してみますよ。」

 「あまり大怪我なんてしないようにしてくださいね。地球人類の皆さんは私達と違って簡単に死んでしまうんですから。」

 「ははは、大丈夫ですって。僕らはこれでも人一倍頑丈ですから。」

 

 そんな会話をしていたのが試合開始時刻から3時間前の事だった。

 

 

 ……………

 

 

 (あの時の自分を殴ってやりたい…。)

 

 試合開始数分前、ブルースは暗鬱な気分に陥っていた。

 だって試合会場にいるほぼ全てのTFがこっちを睨んでるんだよ?

 小さいのは30cm、大きいのは30mはありそうなのが、こっちにメンチ切ってるんだよ?

 ソーとかなら兎も角、僕みたいな学者にはきついこのアウェーぶり…と黄昏ていた。

 

 この無差別級格闘大会は、年に一度だけ開催される荒くれ者共の祭典だ。

 ルールは簡単で、1km四方の試合会場内に最大50体程度のTFが入り、そこで生き残り形式で戦う。

 変形は可だが、武装は一切無し。

 己が機体によるステゴロのみで勝利せよ。

 ただし試合会場そのものはレースと同様に再開発地区なので、落ちてる瓦礫やビル、廃材なんかを利用するのは有りとする。

 各試合会場では選手が数人になるまで争い続ける事となり、残った数人で潰し合うのも勿論アリ。

 そうやって残った者達は一つの試合会場に集められて再度同じ形式で戦う、最後の一人になるまで。

 しかし、それ以上にブルースを暗鬱にさせているのが、身長・体重等に一切制限がない事だった。 

 

 (無差別級とは聞いていたけど、これは流石にねぇ…。)

 

 自分と同じ試合会場、そこには地球のビル並みのサイズを誇る巨大なTFが鎮座していた。

 体高だけで実に100m近い二足歩行の肉食恐竜の様なフォルムをした姿は、かつて彼らがニューヨークで散々痛めつけたチタウリの巨大生物よりも更にデカい。

 他には10m程度の個体はそれこそ掃いて捨てる程いて、それらが全て二人に対する殺気を隠そうともしていない。

 

 (ハルク、試合開始と同時に交代するから、くれぐれもよろしく頼むよ。)

 (わかった!)

 

 はっきり言って初っ端から絶望的だが、コイツ相手に善戦できれば面目は保てるでしょ、とブルースは若干気分を持ち直した。

 しかし、そんな彼の後ろ向きな思いとは裏腹に、実際は酷いものだった。

 

 (こいつがユニクロン様を傷つけた…。)

 (殺す、殺す、殺す…。)

 (事故でも死ねば地球人は復活できない。)

 

 そんな漆黒の意思を抱かれる程に憎悪されているとは、彼らは露程も思っていなかったのだ。

 少なくとも、この時点においては。

 

 「えー遂にやってまいりましたこの季節!今回はユニクロン様主催無差別級格闘大会!実況のブロードキャストです!」

 「後日開催されるフェザー級、ミドル級、へヴィー級、超へヴィー級も楽しみですね。解説のサウンドウェーブです。」

 

 そして遂に試合開始一分前、放送席からいつもの二人の声が響く。

 

 「今回は初の地球人類の参加に煽られてか、一部殿堂入りしてる選手まで特例で参加してるぜ!嘗ての活躍を知ってるファンは期待大!先日のレース同様、大いに盛り上げてくれ!」

 「10年間優勝を守り続け殿堂入りを果たしたチーム・ダイノボットが今回は全員参加します。他にも今回は超へヴィー級とフェザー級から一名ずつ参加しておりますので、そちらも注目の選手です。」

 「ではそろそろ試合開始です!」

 「それではカウント開始。20・19・18・17……」

 

 刻一刻とカウントが進むと同時、周囲から感じる圧迫感が増していく。

 どう考えても狙い撃ちされるだろうが、それはもう仕方ない。

 彼らの大事な人を傷つけたのは自分達なのだから。

 こうして正面から糾弾されるのは自分達の体質上殆どなかったが、それでも自分達の蛮行に涙した人は確かに存在したのだ。

 

 「5・4・3・2・…」

 「いくよ、ハルク!」

 「1・スタート!!」

 

 同時、ブルースの頭上から突如、10万tを優に超える鉄塊が落下してきた。

 

 「ハハハハハハハ!ざまぁねぇな地球人!」

 

 大声で悪意を隠しもせずに嘲笑うのは、超へヴィー級から参戦してきたギガストームだ。

 以前はミドル級選手だったのだが、今の超大型ボディーに替えてからは超へヴィー級の常連として名を馳せている。

 その三下染みた口調とは異なり、丁寧な機体駆動や確かな戦術眼からヒール扱いされながらも根強い人気を持つ選手でもある。

 

 「さって、とっとと一掃して次の試合に……あ?」

 

 だが、不意に彼の右足が僅かばかり傾いた。

 彼がセンサー系を働かせるのとほぼ同時、右足が突然彼の腹の高さまで跳ね上がり、大きくバランスを崩した。

 

 「ぬ、お…!」

 

 混乱は刹那、投げられたと理解したギガストームは即座にスラスターと重力制御を駆使し、背後へと飛び、転倒を免れる。

 その際、足元にいて退避の間に合わなかった何体かのTFが巻き込まれたが、彼にとっては知ったこっちゃない。

 平然とそれらを踏み潰しながら、各所のスラスターと機体の駆動を合致させながらの尾を大きく横なぎに振るい、生体反応のあった空間を薙ぎ払う。

 五感に依存する人類とは異なり、それらを遥かに凌ぐ数と精度の高度なセンサー群を持つTF達、その中でも大型の個体はその死角を潰すためにより多くのセンサー群を搭載している。

 如何に粉塵で姿を隠し、頭部のカメラアイからは死角に入ろうとも、全身のセンサー全てを誤魔化す事は不可能だ。

 その点、トニーの成したジャミングとステルスの性能が如何に常識外れなのかが理解できる。

 

 「ぐぅ…!」

 

 ドゴン!と、先端の速度が音速に達した巨大な尾の一撃に、ギガストームからすれば緑色の小人に見える地球人が弾き飛ばされ、ビルへと衝突する。

 如何に身体能力が高くても、際立った特殊能力のない獣同然の生物なら対応は簡単だ。

 

 「ハ!雑魚が!」

 

 空かさず追撃とばかりに、その巨体からは想像できない速さでギガストームは突貫、ビルを体当たりの一撃で粉砕した。

 

 「ハハハハハハハハハッ!次はどいつだ!」

 

 高笑いと共に歩き出したギガストーム。

 実戦ならそのまま止めを刺すのだが、今回はあくまで試合であり、TFでもない者を完全に仕留める訳にはいかない。

 戦闘で高揚しても、そうした理性的判断がこれ以上の攻撃を躊躇わせた。

 

 (ま、これで他の連中も溜飲下がっただろ。)

 

 外交問題になるような事は出来ないし、これなら事故を起こそうという連中も出ないだろう。

 そう判断すると、高笑いのまま他の選手へ向かおうと背を向けて…

 

 「っ!」

 

 センサーに反応、背後からの接近を感知する。

 驚きは刹那、最速で迎撃すべく再び尾を振るって接近する敵性存在を弾き飛ばそうとする。

 だが、それはもう見た技だ。

 

 (尻尾が来る!張り付いて!)

 (わかった!)

 

 尾の左側、先端と根本の丁度間の位置にハルクが張り付いていた。

 

 「うざってぇ!」

 

 言葉よりも前に行動を開始する。

 足裏についたゴミを落とす様に、特殊合金にて舗装された大地へとハルクを擦り付けるように動かす。

 だが、その頃にはハルクは既に尾にいなかった。

 尾が動き始めると同時に左足目掛け跳躍したのだ。

 尾を振る動作のために、しっかりと足を大地に付けたのが仇となった。

 一歩先を行かれた故に、既に回避は不可能。

 

 「あぁッ!?」

 

 苛立ちを前面に押し出しながら、それでもその行動は最適だ。

 左足を振り上げ、力を込めて落とす。

 ゴミを振り下ろすための動作に過ぎないが、その巨体とパワーで繰り出せば大抵の敵は仕留められる。

 しかし、それは今までの動作でも同じ事。

 この敵は、その程度では仕留めきれないとギガストームは既にして理解していた。

 本来なら全身の無数の火器で迎撃できるのだが、今回はそれが不可能。

 故にただ衝撃に備えるしか出来なかった。

 

 「HULK…」

 

 足が振り上げられ地に落ちる前に、ハルクの行動は完了していた。

 

 「SMASH!」

 

 左手で足を掴んで体を固定し、残った右手で渾身の力を込めて殴る。

 通常なら然したる威力も出ないような状況だろう。

 しかし、それを放ったのが闘争本能全開のハルクとなると話は違う。

 怒り狂った状態ならば、全ヒーローを相手にしてもなお圧倒し得る膂力を持った彼の本気の一撃を前にすれば、超へヴィー級のTFと言えども脆弱だ。

 ただの拳の一撃で、ヴィヴィラニウムを除いた地球上のあらゆる金属や化合物よりも頑強な装甲は木端微塵となり、左足の膝から下が粉砕された。

 

 「がああああああああ!?」

 

 襲い来る大量のノイズとダメージレポート、そして崩された機体のバランスの処理に頭脳が混乱し掛ける。

 即座にダメージコントロールと左足へのエネルギー供給のカット、バランサーの調整にスラスターの使用による機体の転倒防止。

 一瞬の内にそれを実行するが、それは敵への対応を疎かにしてしまう事に他ならない。

 だがまぁ、ギガストームにそれを求めるのは酷だろう。

 寧ろ彼はよくやった方だと言える。

 ルールの範囲内で油断なく事を進めた。

 問題なのは、相手が非常識の極みみたいな奴だった事だ。

 

 「ぬぅぅぅぅぅぅ……!!」

 「ん、な…!?」

 

 ハルクはバランスを崩して左膝をついたギガストームの尾の先端を握ると、ゆっくりと時計回りに動かし始める。

 遂にはユニクロンの表面装甲を盛大に歪ませながら、ギガストームの全長100m・体重10万tを超える巨体をぐるぐると時計回りに振り回し始めたのだ。

 

 「お、お、お、お、お、お、お、お、お、お!?」

 

 自身より遥かに小さな相手に負けた事こそあれ、超へヴィー級の機体となってからはこの様に振り回された経験はギガストームと言えど流石になかった。

 何とか無事な両腕を振り回して止めようとするが、それよりもドンドン増速する回転の勢いの方が強い。

 結果、ギガストームの巨体はハンマー投げよろしく彼らの試合会場を横断する様に放り投げられ、そのまま隣の試合会場へと突っ込んでいった。

 

 (が、くそ、このままじゃ場外負けか…!)

 

 片足を潰され、まともに歩行できないのでは、TFして移動要塞形態になって場内に戻っても負ける公算は高い。

 しかし、このままハルクが勝ち進んではとても不味い。

 

 (えぇいくそ!取り敢えず戻らねぇと!)

 

 「邪魔だ。」

 

 そんなギガストームの思考は、しかし唐突に中断された。

 

 

 

 ……………

 

 

 「ぬ!」

 

 圧倒的質量で試合会場を蹂躙し、その勢いのまま隣の試合会場へと乱入してしまったギガストームの巨体が跳ね上がり、こちらへと殴り返されてきた。

 

 「がぁぁ!」

 

 再度試合会場が蹂躙されるも、その陸の津波染みた巨体はハルクに殴られる事で今度は止められる。

 しかし、二度に渡る圧倒的膂力での打撃を食らってか、その胴体は半ばから潰され、上下半身に泣き別れしてしまった。

 

 「うぅぅ…!」

 (あいつが今の奴を殴り返してきたのか…。)

 

 「…………。」

 

 隣の試合会場、そこからハルク達を眺めていたのは戦士だった。

 近衛部隊にも似た西洋式の鎧染みた装甲を纏った、威風堂々としたTF。

 嘗ては白銀に近かったであろう総身には無数の傷が刻まれ、その凄まじい戦歴を物語っている。

 二人は知らないが、彼こそはTFの最古参にして最精鋭の一角、チーム「ダイノボット」のリーダーであり、無差別級格闘大会において初代殿堂入りを果たした古強者。

 その名をグリムロックと言う。

 

 「………。」

 

 無言のまま、彼は二人に背を向けて去っていく。

 彼のいた試合会場には既に彼以外立っている者はおらず、ハルク達がギガストームの巨体を使って一掃するよりも早く、自分の試合相手を全て叩きのめしていたのだ。

 

 

 

 

 

 この後、ハルクとブルースの二人は次以降の試合でチーム「ダイノボット」とほぼ総当たりとなり、遂には決勝戦にて絶対王者たるグリムロックと相対する事となる。

 

 

 




最後までグリムロックのキャラは悩みましたね。
ロストエイジか従来の「おれグリムロック!」にするか。
でもダイノボットのリーダーで殿堂入りする程の戦士となると、口数少ない方がらしいと思ったのでこうなりました。

所でビーストウォーズⅡに出たギガストームなんて覚えてる人いる?


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第10話 決着 そして夢

前半がいつものアベンジャーズだがちょっと短い

そして後半が以前ちょっとだけ出たある世界の話
なお、独自設定あり〼。


 予選から決勝戦まで、その全てにおいてハルクは勝ち上がってきたダイノボット達と対戦し、それに勝利してきた。

 即ち、スラージ、スラッグ、スナール、スワープ。

 その誰もが無差別級格闘大会において殿堂入りを果たした歴代の戦士達であり、何れも劣らぬ古強者である。

 武器を持たず、本来の持ち味の一部を殺していたとしても、その程度のハンデで勝てる相手ではない。

 ただのハルクなら、今までのハルクなら、例え苦戦したとしても何れ立ち上がれぬ程のダメージを蓄積して敗北していただろう。

 だが、今のハルクなら、今のブルースなら、今の二人なら、その不利を覆せるだけのものを持っていた。

 ハルクが奮戦し、ブルースが最善を考え、辛うじて指先に引っかかった勝利を捥ぎ取る。

 どの勝負も敗北が有り得た。

 どの勝負も楽勝なんて有り得なかった。

 それでも二人はボロボロになりながら決勝の舞台まで駆け抜けた。

 威風堂々たる最初のチャンピオンの前に、二人三脚で辿り着いた。

 満身創痍となりながら、普段の荒々しさなど感じさせない何処か落ちついた二人は、必勝の意思を込めてグリムロックを見据える。

 

 「…快なり。」

 

 ミシミシ、ビキビキと。

 瓦礫だけとなった試合会場内が、両者からのプレッシャーによって物理的に震えている。

 最早互いしか見えていない、最早勝敗などどうでも良い。

 この目の前にいる得難い大敵を、己の力で叩きのめしたい。

 怒りでもなく、殺意でもなく、ただ純粋な闘争心を握り締め、両者は一歩目から音速を超えて激突した。

 試合時間は1時間、それで終わりが訪れた。

 

 

 「えー残念ですが、今大会の決勝戦はドロー!ドローです!」

 「いやー決着が付かなかったのは残念ですが、両者最後まで素晴らしい健闘でしたね。」

 「これ、どうしてこうなったんですかねサウンドウェーブさん?」

 「単にスタミナの問題でしょう。単純な膂力に関してはハルク選手が勝っていましたが、消耗した状態での戦闘経験や技量に関しては完全にグリムロック選手が上でした。」

 「にも関わらずこの結果になったのが持久力によるものと言うのは…?」

 「持久力というか、回復力ですね。グリムロック選手はそのポリシーか自分の傷を治し切らず、同時に体力も回復し切れてなかった。ハルク選手はそんな事はない訳ですが、我々と違って人類の回復力では休憩時間中に回復し切れません。結果、両者共に回復に難があった訳です。」

 「もし、両選手が回復に問題なかった場合、どうなってましたかね?」

 「そりゃ勿論戦闘続行ですよ。今回は試合会場になった再開発地区が更地になった上でその外にも被害が出ました。それよりも酷いとなると、ユニクロン様の装甲に傷が入る事態になってたんじゃないですかね。」

 「うはぁ…そこまで戦闘が発展しなくて良かったと言うべきですかね。」

 「まぁ次があるとしたら、今度は無人惑星上でやって頂きたいですね。」

 

 

 ハルク&ブルースは再度入院、グリムロックは「偶には本格的なメンテナンス位受けなさい」とのユニクロン様の一言によりTF向け医療施設へと送られたのだった。

 なお、3人とも「傷痕は残してくれ」と宣ったというが定かではない。

 

 

 ……………

 

 

 TFと地球人類の交渉が始まってから一か月、遂に外交使節団は帰還した。

 しかし、今度はTF側の外交官らを乗せて。

 今度は国連や各国の外交の場で調整し、具体的な条約案を作成していくのだ。

 

 「楽しかったね、トニー。」

 「あぁ、こんな童心に返って楽しんだのなんて随分久しぶりだったよ。」

 「僕も、ハルクも、ここに来れて良かった。彼らに出会えて良かった。」

 「随分良い顔をするようになったじゃないか。君を呼んだ甲斐があった。」

 

 その面々の中には、当然ながらトニー・スタークとロバート・ブルース・バナー(&ハルク)の姿もあった。

 

 「次はポッツとモーガンを連れて来るよ。」

 「僕はどうしよっかな…。取り敢えず、アベンジャーズの皆は一度連れてきたいなぁ。」

 

 本当ならもっといたい、騒ぎたい、研究したい。

 だが、ここには人類の命運を賭けた外交のために来たのだ。

 自分達がそれを邪魔してはいけない。

 

 「また来よう、必ず。」

 「あぁ。」

 

 言葉少なに「次」を約束する。

 世界を、宇宙を永劫に流離う大図書館。

 叡智、文化、他愛もない思い出、美醜も貴賤も関係ない。

 過ぎ去った栄華も、今まさに謳歌されている繁栄も、いずれ花咲く萌芽も、宇宙のあらゆる煌めきの欠片を集めて漂う宝石箱。

 例え滅んでも、無意味な終末であったとしても、彼らはずっと覚えてくれる。

 自分達の住まう地球も、自分達地球人もまた、例外ではない。

 例え自分達が滅んでも、彼らはずっと覚えていてくれる。

 ずっと僕らの死を偲んでくれる。

 それはある意味で、とても幸福な事だった。

 

 「さらば、ユニクロン。さらば、スター・オブ・カノープス。また会う日まで。」

 「さようなら。また今度。」

 

 こうして、彼らアベンジャーズの旅路は大きな転換点を迎える事となった。

 

 

 

 

 

 ………

 

 

 …………

 

 

 ……………

 

 

 ………………

 

 

 …………………

 

 

 

 それは何時かの出来事だった。

 忘れてしまった過去かもしれない。

 覚えのない未来かもしれない。

 ただ、確かなのは今ではない事だった。

 

  

 太陽系の全てを超え、数十光年先ですら詳細な観測を可能とする超空間・エーテルレーダーやセンサー類を有してもなお観測し切れぬ宇宙の深淵。

 本来なら星とエーテルの輝き、真空の闇しかない筈の空間。

 そこは今、所狭しと密集した最早観測不可能な程の生命体によって満ち溢れていた。

 宇宙怪獣、或いはSTMC。

 このエーテル宇宙に住まう知的生命体の一種たる地球人類がそう名付けた、流浪するスカベンジャーにして宇宙の寿命を延ばさんとする者。

 彼らは宇宙の熱的死を遠ざけるため、宇宙の熱量を消費する様々な生命体を葬ってきた。

 知性があったのか、それとも消費を増やすものとして捨てたのか、それすらも定かではない。

 分かっているのは、こいつらが自分達以外のあらゆる生命体に対して敵対行動を取り、殲滅し続けているという事だけ。

 そんな連中が、宇宙を埋め尽くす程の物量で以て銀河中心領域から迫りつつあった。

 

 「全艦隊、所定の配置に就きました。」

 「うむ、ご苦労。」

 

 それに対するは地球人類が宇宙人の技術と自分達のそれを融合・発展させたエーテル運用技術を土台とし、多くの戦役を経て進化し続けた地球帝国軍所属宇宙艦隊。

 総勢6万隻を超え、前線基地化された太陽系12番目の惑星たる神無月星を出発し、迫り来る宇宙怪獣を撃滅すべく、味方艦隊との合流の時を今か今かと待っていた。

 

 「右舷方向に多数のワープアウト反応!TF艦隊です!」

 「おお、来てくれたか!」

 

 本来なら、この宇宙に生まれた生命ではない彼らにこうまでして戦う義理はない。

 それでも彼らはこの宇宙で出来た友人である地球人類を見放さず、今日まで同胞として共に戦い続けた。

 だが、彼らの戦力の底を地球側は把握できなかった。

 地球人類よりも優れた技術・軍事力・国力を持った永劫を流離う不老不死のTF。

 彼らが事前に「全力を出す」事を告げたこの銀河中心殴り込み艦隊。

 一体、どれ程の戦力がやってきたのだろうか?

 先ずは無数の艦隊がゲートアウトしてきた。

 そのどれもが皆㎞単位のサイズを誇り、地球側の艦隊旗艦たる全長70kmを誇るヱルトリウムに匹敵する艦影が万単位で存在するのだ。

 最も小型の艦艇ですらヱクセリオン級を超える10kmなのだから、そのサイズ差がよく分かる。

 極め付けに次々とワープアウトしてくる艦の総数は、既に地球艦隊の倍を超え、今なお増大している。

 

 「超巨大なワープアウト反応!質量測定不能です!」

 

 管制官からの悲鳴にも似た言葉の直後、TF艦隊の中心に三つの巨大なワープゲートが展開される。

 そこから出てきたのは地球の10倍はある巨大な機械の惑星、否、3体の超巨大なTFだ。

 更にその周囲を護衛する様に直径120kmものサイズを誇るスター級機動要塞が9個もワープアウトしてくる。

 圧倒的な強国であるTFをして、全力での艦隊運用だった。

 

 「なんという事だ……TF達はこんなものを作れるのか、こんな巨大なものを、幾つも…。」

 

 この巨大な機械の惑星達の名は改スター級戦略機動要塞、その一番艦から三番艦である。

 かつてのスター級機動要塞がサイズの割に攻撃能力に欠ける(TF基準)とされた事、またもしもの時のユニクロンの代替としては不足するとして建造された。

 嘗てのユニクロンとほぼ同サイズの130万kmかつ同等の機能を持ったこれらならば、例え地球側の艦隊が全滅しても宇宙怪獣に対抗可能だと判断されたのだ。

 だが本来就役したばかりのこの三隻、出撃する予定はなかった。

 なかったのだが、とあるお方の鶴の一声が響いてしまったのだ。

 

 「少しでも手を抜いたら私が出ます。良いですね?」

 

 現在、嘗てよりも成長して現在直径180万kmになろうかと言う御方のお声に、TFはやっぱり誰も逆らえなかったのである。

 そして、デカいものに目を奪われがちだが、艦載機の方もガチ中のガチだった。

 同盟関係であるディジットからの技術協力・共同研究によって開発された全長3mの「量産型ヴァルチャー」並びとある世界の火星にて収集した知識から誕生した全長10m程の指揮官機として「量産型オービタルフレーム」である。

 そのどちらもが単騎で恒星を破壊可能、亜光速戦闘、超光速移動、限定的な時間制御を可能とするTF側の最新鋭戦闘用ボディである。

 ちなみに武装の方もホーミングレーザーやハイパーノヴァキャノン、デストロイヤーガン等、超火力・超広範囲の武装を搭載している。

 防御能力も従来通りの重力場・電磁バリア・粒子フィールドに加え、並行世界に無限に攻撃を逃す「次元連結防御システム」が漸く小型化できたので艦隊のみならずこちらにも搭載されている。

 無論、撃墜されても従来通り中の人であるTFは新しいボディに交代して即時出撃可能となる。

 そんな連中が300億も来ているのだ。

 大抵の知的生命体による星間国家ならば確実に絶滅させられる規模なのだが、これでもまだ安心できないのが宇宙怪獣という存在である。

 

 『失礼、遅れたようですな。こちらはTF特別派遣艦隊総司令官のメガトロンだ。パーティーにはまだ間に合いますかな?』

 

 ニヒルな笑みとジョークを携えて通信を繋げてきたのは、総司令官を拝命したメガトロンだ。

 今回の彼はユニクロンから全権を託され、派遣された艦隊の全てを使い潰してでも勝利せよと頼まれている。

 ユニクロン様の言葉、それも頼みとなればそれは神の御言葉に等しい。

 メガトロンだけでなく、艦隊構成員全員が士気旺盛の万全な状態だ。

 また、三隻の改スター級の最上位アクセス権を与えられているため、今のメガトロンは歴史上のどんな戦略家、指揮官よりも優れた知識量と処理能力を持っているに等しい。

 前に出て戦う事も出来るが、本分は頭脳労働担当でTF達においては宇宙艦隊草創期のメンバーの一人である彼ならば、と誰もが信頼して付いてきている。

 

 「無論だとも。銀河中心殴り込み艦隊総司令官のタシロ・タツミだ。紳士的なエスコートを頼む。」

 『任されました。必ずや勝利の美酒を。』

 

 作戦は事前に決められていた通り、宇宙怪獣の巣窟たる銀河中心領域にて、このエーテル宇宙の地球にて長らく地球防衛並び地球人類との交流の任を担っていたスター級機動要塞17番艦スター・オブ・プトレマイオスを護送、後に内部の全エネルギーを解放並びその質量の全てをエネルギーへ変換する事で、ビッグバンを人為的に引き起こす。

 それがこの合同艦隊たる「銀河中心殴り込み艦隊」の目的だった。

 なお、近隣の銀河に知的生命体は発見されず、或いは宇宙怪獣に既に滅ぼされた後だったため、この作戦はTF側からも問題なく賛成された。

 

 

 「では、銀河中心殴り込み艦隊全艦、全速前進!」

 

 

 銀河の命運を賭けた大決戦の火蓋が、間もなく切られようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




いつもの草原で、ホラクロンがうたた寝をしている。
いつ目が覚めるかは分からない。
そもそも睡眠なんてしない存在の筈なのだが、どうして彼女は眠っているのか。
それすらもよく分かっていない。
ただ、彼女が見ている夢の内容だけは、しっかりと彼らのライブラリに記録されていた。


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第11話 銀河中心殴り込み艦隊

第一部 完


 銀河中心宙域にて、人類とTF合同の史上最大規模の大艦隊「銀河中心殴り込み艦隊」は作戦の最終フェーズに入ろうとしていた。

 

 「全艦隊予定宙域に到達しました。現状、付近に敵勢力の反応ありません。」

 「幾ら奴らでもこの近距離で長距離ワープはしてこない、か…。このままならば勝てるが…。」

 「司令、TF艦隊から緊急通信が入っています!」

 

 タシロ提督と副長(本名不明)の掛け合いに水を差す形で管制官から通信が知らされる。

 スクリーンに映し出されたのは、焦りを隠そうともしないメガトロン総司令の姿だった。 

 

 『タシロ提督、奴らの一部がワープしたのを確認した!向かってくるぞ!』

 「何だと!?全艦隊に通達、索敵を密にせよ!ワープアウトの兆候を見逃すな!奴ら特攻するつもりだ!」

 『スター・オブ・プトレマイオスの臨界まで後15分だ。それまで何としてももたせる。』

 「各マシン兵器部隊は順次出撃!スター・オブ・プトレマイオスを死守せよ!ここが天王山だ!」

 

 そして、銀河中心殴り込み艦隊が部隊を展開し始めて1分とせぬ内に、ワープアウト反応が検知された。

 

 「大規模なワープアウト反応確認!これは…50億を超えています!現在も増加中!測定不能!」

 「応戦しろ!一匹たりとも艦隊中心に通すな!」

 

 そうして始まったのは、正に決戦とも言うべき戦いだった。

 全天からワープアウトし、一斉に特攻を続ける宇宙怪獣らを相手に、艦隊はその総力を以って迎撃を続けた。

 今日までTFと共に切磋琢磨し、その技術力を爆発的に進化させ続けた人類、その総力たるこの艦隊は、凄まじい勢いで宇宙怪獣を撃破していく。

 しかし、とてもではないがその全てを撃破する事は不可能だった。

 戦闘開始から5分、第一波から第七波の時点で敵の物量は500億を突破、奮戦するもあっという間に千を超える艦艇と万を優に越えるマシン兵器が轟沈・撃墜されていく。

 このまま状況が推移するなら、彼らは奮戦虚しく文字通りの全滅となっていた。

 だが、ここには背を預けられ、肩を貸してくれる友がいた。

 

 「第八波までの殲滅完了。続けて第九から十二波を感知。」

 「ヴァルチャー隊、損耗率13%。OF部隊は人類艦隊直援に回れ。」

 

 TF艦隊はその物量と装備以上の奮戦を見せ、破綻しかける迎撃戦闘に対して必死に対処し、辛うじて突破を阻止し続けた。

 特に活躍が目覚しかったのが量産型ヴァルチャー部隊であり、突撃してくる巡洋艦型や合体型のみならず、それらを無数に運用・生産する母艦型すら多数撃破せしめた。

 このヴァルチャー型、そのボディはナノマシン群で構成され、例え構成質量の7割を失っても再生するし、自在にその形状を変化させて環境に適応、時間さえあれば分裂して増殖すら可能で、火力においても地球側の殆どの艦艇よりも優越している冗談の様な存在なのだ。

 その指揮官機たるOFはフラッグシップ機にあたるアヌビスとジェフティの良い所取りをした上に上記のヴァルチャー型と同様の性質を持っている。

 更に指揮下のヴァルチャー型へのナノマシン並びエネルギーの補給機能まで持ち合わせているのだから絶対にセットで敵に回したくない存在だった。

 

 「! ワープアウト反応を感知!艦隊直上!質量……測定不能!大型惑星サイズと推測!」

 

 だが、そんな彼らをして、宇宙怪獣はなお絶望的な物量を持っていた。

 現れたのは、後に旗艦級と呼称される事となる宇宙怪獣。

 母艦級と同等のサイズを誇りながら母艦としての機能はなく、あくまで戦闘能力を強化された宇宙怪獣側の切り札とも言うべき存在。

 それが艦隊直上から亜光速で突撃してきたのだ。

 

 「全艦火力を集中せよ!奴を艦隊中央に通すな!」

 

 このまま突撃を許せば、艦隊は壊滅する。

 それを即座に悟ったタシロ提督の号令の下、地球側の艦隊並びマシン兵器とバスターマシン一号・二号がその火力を集中するも、その表面を削り、僅かに減速するだけ。

 

 「緊急変形開始!迎え撃て!!」

 

 メガトロンの号令と共に、TF艦隊の旗艦たる改スター級一番艦がその真の姿を露にすべく、その総身を粒子状に変化、最適な形態へと再構築していく。

 惑星サイズでありながらその姿形は混合型に酷似した旗艦級の過剰なまでの運動エネルギーの乗った先端部分を、突如巨大な右掌が受け止める。

 次いで、手首、腕、肩、胴体、首、という流れで全身を構築し、現れたのは超巨大な一個のTFだ。

 その間、僅か10兆分の1秒。

 事象改変や時間遡行すら可能とするTFにとって、これ位は不可能ではない。

 人型となった改スター級一番艦はそのまま旗艦級の先端部分を握り締め、慣性・重力制御によってその運動エネルギーを完全に封じ、止める。

 次いで旗艦級が搭載する武装で総攻撃を仕掛けるも、無尽蔵に外部からの攻撃を受け流す次元連結防御システムの前には意味を成さない。

 

 「返礼してやれ、たっぷりとな!」

 

 フリーだった左腕が旗艦級のドテッ腹へと叩き込まれ、その甲殻を易々と砕き、内部構造を散々に荒らし回る。

 次いで、その内部で左腕に搭載されていたあらゆる武装が開放された事で、旗艦級は内側から膨れ上がって爆発、その質量のほぼ全てを消滅させた。

 

 「ッ! ワープアウト反応感知!これは、先程と同様の反応が4つ!艦隊の左右下方向!」

 

 一瞬の安心も束の間、今度は先程と同じものが四体も襲い掛かってきた。

 

 「改スター級二番艦・三番艦は緊急変形!全て撃破せよ!」

 

 それぞれが二体相手をする形で、艦隊外縁部にいた二番艦と三番艦が瞬時に人型へと変形、迎撃に入る。

 

 「二番艦と三番艦に敵が到達します!」

 

 だが、旗艦級の突撃は決して二番艦に届く事はなかった。

 二体の旗艦級の先端部へと向けられた掌、そこに展開された防護力場を前にしては如何な宇宙怪獣と言えども早期の突破は不可能だった。

 その防護力場の名を「1光年障壁」。

 1光年分もの空間を圧縮し、障壁とするこの防護力場は大抵の攻撃を射程外へと追い遣ってしまう。

 その上、圧縮した空間を指向性を持たせた上で解放する事で武器にする事も出来る。

 即ち、

 

 『圧縮空間、解放。』

 

 掌の先から1光年分もの空間が圧縮から解き放たれ、吹き荒れる。

 空間そのものが津波や巨大地震を起こした様なものであり、そこに存在した物質は砕かれるしかない。

 こうして、二体の旗艦級はその巨体を砕かれ、絶命した。

 

 『捕縛、完了。』

 

 そしてもう一方、三番艦にも二体の旗艦級がその先端部を捕まれ、その動きを封じられていた。

 三番艦がやった事は特に真新しい事ではなかった。

 大始祖たるユニクロンに以前から搭載されていた機能がヒト型となっても使えるようになっただけ。

 だが、それは極めて強力な武装としても使える機能だった。

 

 『「星喰らい」起動。』

 

 両手に握った旗艦級二体を両手で挟む様に押し潰し、圧縮し、程良く砕く。

 そして、腹部に開いた口部からそれらをムシャムシャと喰らい出した。

 砕かれ、砕かれ、砕かれ、遂には粒子レベルにまで分解され、エネルギーとして吸収されていく。

 生きながら貪り食われるというおぞましい体験をする羽目になった二体の旗艦級は三番艦の腹に空いた口部へと狂った様に武装を放つが、その全てはただエネルギーとして吸収されていくだけだった。

 

 「……どうやら疲れているようだな。」

 「仕方がありません。こんな決戦なんですから。」 

 

 それを見たタシロ司令がちょっと現実逃避をする程度には非常識でグロい映像だった。

 

 「第十二波殲滅完了!続けて第十三・十四波を感知!20億ずつです!」

 「密集陣形を崩すな!各員の奮戦を期待する!」

 

 互いに切り札を切った状態だが、それでもなお戦闘が終息する気配は無い。

 戦闘開始から8分、戦いは漸く折り返し地点に来た所だった。

 

 

 ……………

 

 

 残り1分、銀河中心殴り込み艦隊はその数を7割にまで減じていた。

 それだけ宇宙怪獣の短距離ワープからの特攻攻勢は激しく、その物量故にとてもではないが防ぎ切れなかったのだ。

 それでも艦隊中央には小型の兵隊級が既に何千匹と雪崩れ込み、しかしその全てが多くの犠牲と共に撃墜されていた。

 艦隊周辺の交戦可能な距離には、もう一匹の宇宙怪獣もいなかった。

 旗艦級もまた、あの後に性懲りもなく3体がやってきたが、全てが宇宙の塵へと消えた。

 そして今、遂に臨界を迎えたスター級機動要塞17番艦スター・オブ・プトレマイオスの姿があった。

 

 「凄い…。」

 「美しい…。」

 「見たまえ。あれこそがTFの力の源なのだ。」

 

 全身から余剰エネルギーを放出しながら、胸部装甲を開いたその姿に誰もが目を奪われた。

 人型へと変形したスター・オブ・プトレマイオス、その胸部へと収められていたTFの最至宝にして最秘奥が初めてこの世界の地球人類へと公開されたのだ。

 ソレは黄金色の容器に包まれた、巨大な球体だった。

 ソレは翡翠と碧、紅玉に似た色彩に絶えず変化し、輝いていた。

 ソレは巨大な存在感を持ちながら、しかし何処か古木や穏やかな海の様な大きくとも静かで暖かな気配をさせていた。

 

 ソレの名は、マトリクスと呼ばれていた。

 

 『タシロ司令、作戦は完了した。全艦載機部隊を収容後、予定通り超長距離ワープに入る。』

 「メガトロン司令…貴方方の協力に感謝します。また何れお会いしたいものです。」

 『ふ、こちらこそ。その時を楽しみにしていますぞ。』

 

 そして、残存艦隊は続々と超長距離ワープへと入っていった。

 最早この場所で自分達が出来る事は無いのだと知っているから。

 その中には勿論、バスターマシン1号と2号の姿もあった。

 

 『皆帰った、か…。』

 

 そして一人、この宙域に残っている者がいた。

 誰あろうユニクロンの数ある端末の一つ、スター・オブ・プトレマイオスを操作している分体だった。

 

 『では、最後の仕事を済ませましょう。』

 

 そう言って、スター・オブ・プトレマイオスはマトリクスの保護容器の取っ手にある穴へと、鍵の様に指を順に入れていく。

 無論、これは必要な行動だった、様式美という意味で。

 そんな事をしている最中にも、マトリクスの輝きは更に増していく。

 全身から発せられる行き場を無くしたエネルギーが完全に開放されると同時、純粋な高エネルギーの結晶体にしてTFの叡智の集積体であり、TFのスパークを納める器であり、時には感情すらエネルギーへと変換してしまう奇跡の物体マトリクスを解放する。

 結果、引き起こされるのは疑似的なビッグバンだ。

 太陽系の存在する銀河系どころではない。

 この宇宙そのものが一度滅び、新生するだけのエネルギーが発生する。

 無論対策済みであり、次元連結防御システムを搭載したスター級機動要塞の全力出撃によって太陽系が滅ぶ事はない。

 そして、ゆっくりと容器を左右に開き始めた。

 

 

 ……………

 

 

 宇宙怪獣とは何者なのか。

 宇宙を人体と見た場合、宇宙怪獣とは白血球に相当する存在とも。

 銀河に涌いた知的生命体というバクテリアを駆除しようとしている銀河系の免疫抗体とも。

 地球人類同様の知的生命体が進化の果てに行き着いた姿で、自身らの脅威となりうる他の知的生命を滅ぼし続けているとも。

 共通しているのは、彼らが人類を始めとしたあらゆる知的生命体の天敵であるという事だけ。

 そんな推測での彼らの視点で言うのなら、人類を始めとした知的生命体とはやはりこの宇宙に巣食うガン細胞に等しかった。

 エネルギーを消費するだけ消費して補填する事なくその内滅んでいくだけの存在。

 宇宙のエネルギーを消費してその寿命を削るだけの病原菌。

 ならば滅ぼすしかない。

 ならば消し去るしかない。

 それが宇宙を延命するただ一つの方法なのだ。

 こうして、彼らは気の遠くなる程に長い、久い、永い時間を戦い続けた。

 

 そして、出くわしたのだ。

 時は2015年12月18日。

 このエーテル宇宙に住まう地球人類とこの世界の外からやってきたTF達との出会いの場に。

 その至上命題に従って即座に攻撃へと移った宇宙怪獣は、しかし致命的なミスを犯した。

 彼らは自分達をこの宇宙ごと滅ぼし得る存在へと喧嘩を売ってしまったのだ。

 そこからの彼らは必死だった。

 逆撃によってほぼ全滅した偵察部隊の生き残りから新たな標的を殲滅するのに十分な戦力を送り出したと思ったら、それらが返り討ちに遭い、撤退してきたのだ。

 それから幾度も幾度も艦隊を編成し、送り出し、しかし撃退・殲滅されてきた。

 もし宇宙怪獣に人間並みの精神性があったらストレスで禿げ上がってたかもしれなかった。

 それ程彼我の戦力差は大きく、絶望的だったのだ。

 挙句の果てに人類は辺境も辺境たる太陽系から自分達の本拠地である銀河中心領域へとやってきたのだ。

 断じて許す訳にはいかない。

 彼らは不退転の決意を以て、これにて地球人類との闘いを終わらせるつもりで、手加減なくその戦力を運用した。

 しかし、地球人類とその友邦の艦隊を撃滅する事叶わず、置き土産を残して撤退していった。

 だが、その置き土産こそが最も重要だった。

 彼らが戦うのは、エネルギーを無為に消費して宇宙に還元しない知的生命体を滅ぼすため。

 宇宙が熱的死を迎えるまでの時間を少しでも遅くするため、即ち延命のためである。

 そんな彼らの目の前に、とあるものが現れた。

 

 人の、知的生命体の感情すらエネルギーへと変換してしまう、彼らをして理解できない程の叡智の結晶が。

 

 自らの至上命題を解決する手段を目の前に提示され、彼らは殺到した。

 何としても手に入れる。

 何を犠牲にしても奪い取る。

 だって、それが、それだけが、彼らの夢を叶える願望器だから。

 だが、彼らの夢は叶わない。

 あの輝きは、あの光は、彼らの無法への怒りだから。

 彼らの夢を否定し、拒絶し、絶滅させるための光輝だから。

 故に、

 

 

 『光あれ。』

 

 

 全てが光に包まれた。

 

 

 

 

 




いつもの草原で、ホラクロンは目を覚ました。
随分長く眠っていたようだった。
そもそも睡眠なんてしない存在の筈なのだが、どうして彼女は眠っていたのか。
それすらもよく分かっていない。
ただ、彼女が見ていた夢の内容だけは、しっかりと彼らのライブラリに記録されていた。
だから、彼女は、彼らは決めた。

「あの領域に辿り着きましょう。」

そして、彼らは久々に本格的に動き出した。


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第二章 人外転生者が泣き叫ぶ話
第1話 セーブトンだ状態でスタート


第二部開始

前話の解説&続編開始


 あのエーテル宇宙にて、ビッグバンが引き起こされた後の事。

 

 スター・オブ・プトレマイオスは当初の予定通りその構成質量の9割以上を純粋なエネルギーへと変換、マトリクスの解放と合わせ疑似的なビッグバンを引き起こすに足るエネルギーを発生させた。

 結果、あのエーテル宇宙に存在した太陽系以外のあらゆるものが消滅した。

 太陽系の存在する銀河系のみならず、あの宇宙に点在した他の星々すらも。

 人類は嘗て見上げた満点の星空を永遠に失ってしまったのだ。

 今では夜空には輝きの多くを無くした天の川の様なガス星雲を除けば疎開先として開拓していたシリウス星系位しかなく、太陽系外の探索・開拓は絶望的となってしまった。

 

 その頃、地球帝国は殴り込み艦隊の編成に総力を注いだ事により全ての面で疲弊したため力も技術も衰えてしまい、るくしおん級戦艦を建造するのが限界となった上にシリウス同盟との戦争状態となっていた。

 このシリウス同盟、銀河中心殴り込み艦隊が地球を出発した後に地球からの脱出を図った人々がシリウス星系を中心に形成した星間国家だ。

 惑星への植民に成功した時に見つかった古代遺跡を調査した所、(真偽は別として)人類はこの惑星が発祥の地と判明したので母星は「真・地球」を名乗り始めた。

 が、それを切っ掛けに地球帝国からの弾圧を受け、対抗・独立のためにシリウス同盟が成立した。

 当初は劣勢だったが、遺跡の調査で得た理力=超能力により力を付け、膠着状態に持ち込んでいる。

 実はこのシリウス同盟系の理力を得た人類が後のトップレスなる超能力者の祖先となるのだが、閑話休題。

 TFらは両者の講和仲介を幾度となく打診し、被害の復興に努めるべきと説得を続けたのだが、既に両者の溝は深くなり過ぎており、実質的な復興活動はTFらに委託されるというあんまりな事態になっていた。

 

 そんな地球帝国に終わりが訪れたのは西暦2245年、地球に帰還した銀河中心殴り込み艦隊が復興を疎かに人類同士が争っている無様さにブチ切れ、クーデターで政権を打倒して建国した星間国家が銀河連邦であり、初代大統領にはユング・フロイトが選出された。

 その後はシリウス同盟との和平を模索するも叶わず、極小規模な戦闘に留まるがシリウス同盟との戦争状態が継続してしまっている。

 さて、ここからが大変だった。

 カルネアデス計画の最後の疑似ビッグバンにより、太陽系は消滅こそ免れたものの、嘗て雷王星宙域で発生した人工ブラックホールの時と同様に被害が発生し、少なくない被害が出ていた。

 無論、TFらのスター級機動要塞の持つ次元連結防御システムにより太陽系とシリウス星系の被害は極限定されたものだったが、それも政権の不安定化に繋がっていた。

 幸いと言うべきか、銀河連邦の友邦としてTFらが太陽系各所で素早く緊急展開し、各地に難民キャンプを設置したため、餓死者や凍死者が出る事は無かった。

 それでも家や職場を失った者は多く、銀河連邦共々彼らの生活再建に注力していく事となる。

 漸く戦乱の影は薄れ、復興が本格化し、一部を除いて皆が平和を謳歌した。

 だがしかし、そうは問屋が卸さない。

 

 宇宙超獣の出現である。

 

 ある日、前触れもなく超長距離ワープで出現したこいつらに、当初軍縮を進めていた銀河連邦は対応できず、辛うじて緊急展開の間に合ったTF艦隊のヴァルチャー部隊によって駆逐されたものの、銀河連邦並びシリウス同盟に大きな被害が発生した。

 しかし、宇宙には相変わらず太陽系以外はガス星雲位でほぼほぼ無である。

 だと言うのに、宇宙怪獣に酷似した奴らは何処から来たのか?

 

 そしてTFらはふと思った、「あれ、こいつら他の世界から来てね?」と。

 

 そう、宇宙超獣らはこの世界・この宇宙ではなく、他の多次元宇宙から襲撃してきているのだ。

 この事態に対し、銀河連邦並びTFらは軍拡を決定、そして「多次元宇宙開拓計画」を実行する事となった。

 最早太陽系以外存在しなくなってしまったこのエーテル宇宙は、何れ開拓の限界を迎える。

 そうでなくても宇宙超獣という外敵の存在により、最早何処にいても安心する事はできない。

 そこで多次元宇宙、即ちTFらと同じく世界を超える旅人となり、その生存域を拡大する事で絶滅を回避しようという野心的な計画である。

 その計画の一環として、新たなバスターマシンの開発並びシズラーシリーズ同様の量産化、そして最大の目的として無人化が研究された。

 これは大統領から特に要望のあった項目で、「いや、後世の人間全部に私達みたいな経験しろって駄目でしょ?」との事。

 誰だってウラシマ効果で自分だけ若いまま置いていかれたくはないのである。

 其処ら辺無視できる生態をしているTFなら兎も角。

 しかし、惜しくもこの計画は宇宙超獣の活動激化により銀河連邦が衰退し、新・地球帝国が成立する事で打ち切られた。

 宇宙超獣の拠点となっていた宇宙を特定・消滅し、位相空間にまで入り込んでいた宇宙超獣を掃討するのはTFにしても生半ではなく、唯でさえ傾きかけの銀河連邦に止めを刺し、シリウス同盟も崩壊した。

 ユング大統領は冷凍睡眠に入り、ヱクセリオン級と共に過去の地球へとありったけの技術を載せて時間移動してしまった。

 TF達はその後は新地球帝国とは変わらぬ外交関係を結んだものの、以前の様な共同研究するだけの技術力は新地球帝国にはないため、あくまで普通の通商・友好関係に努めた。

 それでもこの計画を惜しんだTFらによって研究は続行され、多くの結果を残す事となる。

 

 それがバスターマシン7号、8号、9号の三機であり、実用化されたフィジカルリアクターである。

 

 ナノマシン群により構成された人間サイズに宇宙船とマシーン兵器、乗組員の機能をすべて兼任させた超高性能をコンセプトとした第六世代型多次元宇宙間航行決戦兵器にしてバスター軍団の中枢端末を担う自律人型人工知性体の実用化。

 特にフィジカルリアクターに関してはTF達でも小型化に難儀していた技術であり、効果範囲は小さいものの彼らからしても大きなブレイクスルーとも言うべきものだった。

 これら三機はそれぞれに任務を割り振られ、新地球帝国成立後も活動していく事となる。

 7号は太陽系直掩部隊として。

 8号は外宇宙探索部隊として。

 9号は多次元宇宙探索部隊として。

 それぞれが担当するバスターマシン軍団を率いて任務に当たり、エーテル宇宙の人類の守護を、滅んだエーテル宇宙の探索を、多次元宇宙の開拓を担当する事で人類への貢献を行う事となる。

 その流れが乱れるのはカルネアデス計画の実に1万2千年後の事となる。

 

 

 ……………

 

 

 さて、話は唐突に1万2千年前に遡る。

 最後の疑似ビッグバンの瞬間、スター・オブ・プトレマイオスはあのエネルギーの奔流と共に自身の持つ全情報を過去の自分達へと送信した。

 それこそ、彼らの主観で言えば千年近く前の自分達へとだ。

 それを受け取ったのが当時、MCU時空で外交に当たっていたユニクロンだった。

 彼らは驚愕し、歓喜し、警戒し、そして本気で備える事を決意した。

 今現在も彼らはエーテル宇宙の地球人類とは友好関係にあり、対宇宙怪獣向けの軍事同盟を結んですらいた。

 しかし、今の自分達ではあの銀河中心宙域での戦いも、宇宙超獣を相手にした戦いも難しいと判断せざるを得なかった。

 それだけ出鱈目な戦いだったのだ、あれは。

 そこで彼らは考えた。

 

 「ちょっと無人の宇宙に移動して軍備増強しつつ、過去と並行世界の俺らに情報渡すべ」、と。

 

 それが出来るだけの技術力があるため、彼らは自然と他の自分達の真似と応用を行った。

 結果的に出来上がったのは現在・過去・未来、そして平行世界とすらリンクしたユニクロンのユニクロンによるユニクロンのためのネットワーク。

 略してU.U.U.ネットワークである。

 これを以て彼らは極僅かな時間で情報収集・研究・実用化・発展拡大を繰り返すという他勢力から見たら間違いなくぶっ壊れ、或いはチートと呼ばれる能力を身に着ける事に成功するのだった。

 

 「それでもゲッペラー軍団と時天空とか相手にしたくない…。」

 「クトゥルー系邪神とか怖い、怖すぎない?」

 「宇宙終焉の壁を超えた位で調子に乗れない多次元宇宙って怖い…。」

 

 が、ユニクロン達は相変わらずなのだった。

 

 

 ……………

 

 

 そして、とあるユニクロンもとい疑似ビッグバンで消滅し損ねてしまったスター・オブ・プトレマイオスの頭部内にて、残った統括用分体が途方に暮れていた。(”ビッグ”を”ビック”と勘違いしたまま記憶してしまっている投稿者の方が多すぎですね)

 

 『ここ、どこ…?』

 

 目の前に映る地球、そこは一体どの地球なのか。

 長らく機能停止していた彼女には、全く見当も付かなかった。

 

 

 

 

 

 




Q、彼女(ロリホライゾン型)は一体どこの地球へ辿り着いてしまったのでしょう?

1、真(チェンジ )ゲッターロボ 地球最後の日
2、真マジンガーZERO
3、天元突破グレンラガン
4、スーパーロボット大戦OG時空
5、オリジナルSRW時空 

アンケートではないため、無理に返答しなくとも大丈夫です。


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第2話 新西暦

 「はっ!呆然としてる場合じゃない!現状を把握しないと!」

 

 余りの事態に茫然自失していたロリクロンこと幼女ホライゾン型端末(髪はウェーブ)を操っているスター・オブ・プトレマイオスの統括制御用ユニクロン分体は嘗てと比べれば雀の涙程度となってしまった能力を用いて現状を把握すべく行動を開始した。

 そして分かったのは、現在が西暦1900年代であり、人類の文明は栄えているものの未だ高度な科学技術(TF視点)は芽生えていない状態だった。

 また、太陽系の数はエーテル宇宙と同様の第13惑星まであるのだが、時代的に当然ながら宇宙開発なんてミリも進んでいない状態だった。

 そのため、あのエーテル宇宙では割と簡単に観測できたエーテルは僅かしか観測できず、その他にも極微量だが詳細不明の粒子やエネルギーが観測された。

 とは言え、余りにも微量なので現状は利用するのは難しいと判断せざるを得なかった。

 

 「これはまた…判断に困りますね。」

 

 僅かなりとも詳細不明な粒子やエネルギーがあれば、それを利用して劇的に進化するのが地球人類(TF視点)である。

 彼らTFをして「なぁにこれぇ(困惑)」みたいな事態は一度や二度ではない。

 ゲッターとかマジンガーとかコンバトラーとかお前らの事やぞ。

 となれば、この地球も何れそうなるのは目に見えている。

 とは言え、今は第二次どころか第一次世界大戦が漸く始まる様な時代である。

 変に介入してもおかしな事になるのは目に見えているので、現状の地球人類に対してのアクションは控え、簡易AI搭載の人型端末を下して活動拠点を設置して、来るべき日に備えるだけで構わないだろう。

 また、現在は静止衛星軌道上の自分と要塞の頭部は現在できる可能な限りの隠蔽処置を行って人類の観察を続行し、並行して頭部そのものの改装並び各種機動兵器の生産、そして何より資源を回収しての嘗ての姿への修復作業を行う事にしよう。

 

 「あ、本体に通信送っておかなきゃ。」

 

 えーと…………えーと。

 

 「し、信号のシリアルナンバー忘れちゃった…。」

 

 本体の位置の特定に繋がる最重要機密の一つであったため、クラッキング不可能なマトリクスにのみ記載されていた。

 しかし、それは先の疑似ビッグバンと共に永遠に失われてしまっていた。

 なんてこった(白目)

 

 「ま、まだ!他のスター級機動要塞なら…ッ!」

 『Pi! そのシリアルナンバーは現在使用されておりません。正しいシリアルナンバーを入力してください。』

 「あああああああああああああああああぁあああああああああぁあぁぁぁぁあああああああああぁッ!!」(発狂)

 

 彼女が知る由もない事だが、U.U.U.ネットワーク開設に当たって既存のスター級機動要塞並び改スター級戦略機動要塞とユニクロン本体は機密情報保護の観点から各マトリクス毎に配布されたシリアルナンバーを改訂してより解析の困難なものへと変更されていたのだ。

 そんなのは長く機能停止してマトリクスも失った彼女には分からない事だったが。

 

 「は!緊急救助要請ならまだ届くかも!でも……。」

 

 無論、その通信は多次元宇宙においても届く。

 しかし、それは即ち他勢力にもその通信が届いてしまう事に他ならない。

 うっかり悪意ある輩に届いてしまったら、それは自分だけでなくこの世界の生命全ての危機に直結する事態になる可能性すらある。

 勿論TF向けに暗号化された通信なのだが、それを受信して解読できる技術力を持った悪意ある存在というのは多次元宇宙には沢山いるのだ。

 その可能性を考えると、緊急救助要請を出すのは気が引けてしまった。

 

 「取り敢えず、現状は人類への大々的な干渉は控えて、後は企業でも作って技術開発、特に航空宇宙関連を推進させていく事位かなぁ。」

 

 こうして、大凡の方針は決まった。

 

 「あ、医療と娯楽、コンピューター関連にも投資しなくちゃ。」

 

 が、個人的な欲望も忘れていなかった。

 

 

 ……………

 

 

 この世界にスター・オブ・プトレマイオスがやってきてから、ざっと200年が経過した。

 それまでに実に色々とあった。

 

 第一次大戦終了後に北米で宇宙開発を目指す最古の企業体「A.I.M.」を設立、第二次大戦まではアメリカの市場に投資しつつも、その先進的な各種技術によって瞬く間に大企業に成り遂せた。

 なお、社名はAim for space(訳:宇宙を目指す)の略である。

 第二次大戦後からはより本格的な技術開発に舵を切るために多国籍化して更に多くの人材を募り、数多くの特許を確保するに至る。

 特に社名の通り宇宙開発に必要な基礎的な技術の特許は握っており、NASAと共同で月面への有人月飛行計画を実現させている。

 その後はアメリカ政府が財政的理由から宇宙開発に手を退いた後も開発は止めず、企業体で自社製有人・無人人工衛星並び宇宙ステーションを保有する唯一の企業の立場を長い間持ち続ける事となる。

 何故か日本でアニメーションやゲーム等の作成を手掛ける子会社を設立、アニメ・ゲーム関連のクリエイターを圧倒的ホワイト環境によって雇い入れる事で数多くの傑作を世に出していく。

 この行動が結果的に日本国内での米国友好ムードの熟成とアニメ・ゲーム業界のホワイト化を進めていく事となるが閑話休題。

 

 そして2011年、A.I.M.より米露両国に着弾の可能性が70%を超えた隕石が二つ接近中との報告を受け、両国並びその友好国が貯蔵していた戦略核弾頭をありったけ使用しての迎撃作戦を展開、A.I.M.も両国と共同して迎撃作戦に観測・情報管制等で協力した。

 結果的にこの二つの隕石(後にメテオ1・2と命名)は迎撃に成功し、地表には僅かな破片が落下したものの、直接的な人的被害はゼロという奇跡を叩き出した。

 また、これにより米露は不良在庫化していた核弾頭をほぼ全て使い切り、軍事費に余裕ができる事となった。

 しかし、世界各国はこの事態を重く受け止め、西暦2015年を新西暦元年として地球圏全体を統治する「地球連邦政府」の樹立を宣言、本格的な宇宙開発へと万進していく事となる。

 事態が大きく動くのは新西暦179年、メテオ3群の落下からとなる。

 

 

 ……………

 

 

 で、そんな歴史の動きの中心にもなったA.I.M.社、即ちスター・オブ・プトレマイオスの頭部と統括分体とその愉快な部下達へと話を戻す。

 ロリクロンは先ず自分の手足となって動く人手を確保するため、既に実用化・量産化されていた侍女式自動人形の生産を開始した。

 とは言え、全身ナノマシン製ではもしもの時に怪しまれるため、最初期ロット以外は電脳部分を除いた全身は医療用クローン技術を用いた生体式にしてある。

 これは現地人類とのより密接な関係(つまり粘膜接触からの子孫繁栄)の構築を目指したものであり、実際基本は無表情でズバズバとした辛辣な物言いの彼女らだが、美人で面倒見良くて優秀でデレると途端に表情豊かになって奉仕上手で大好きなため、地球人類(特に男性)からは極めて受けが良かった。

 じゃぁ女性からは?となると、丁度表に出てきた時代が女性の社会進出が始まった頃だったため、大抵の男共よりも優秀な彼女らは寧ろ歓迎された。

 彼女らの寿命は基本的に50年で、そこからは定期メンテナンスを無しにしての寿命に身を任せる形となる。

 寿命=生体式ボディの限界を迎えれば、電脳部分のみ回収して新しいボディに移す予定だったのだが、侍女式自動人形(主人への殉死を権利として保証)をモデルとした影響か、TFとは異なり結婚相手への貞操・愛情が強く、例え新しいボディに移しても殆ど再起動しない事例が多発したため、事前に確認を取ってから稼働データをコピーし、そのまま死亡(完全なる機能停止)するのが通例となった。

 なお、人類との子供はちょっと病気に強くて頑丈でほんの少しだけ(数%の誤差レベル)スペックが高くなる傾向になる。

 決して身内贔屓とかじゃなく、うっかり疫病とかで絶滅するのを防ぐための措置である。

 なお、そんな設定にしたのはロリクロン様なので、侍女達の誰もが呆れた目で見ていたりする。

 

 で、そんな彼女らを地上に下ろし、食い詰めた人間を色々と誘惑して骨抜きにして手足とし、さくっと企業を設立してどんどん会社を大きくしていく。

 折しも世界は第一次・第二次と世界大戦が続発する時代、拠点とする北米では商売に困る事はなかった。

 特にこの時代では未だ科学技術は未熟のみの字にすら至っていない時代で、尚且つ社会保障に関しては未だ未成熟であったため、孤児を拾っては教育して社員や工員に、そうでなくても優秀な消費者になってくれるため、彼女らとしては万々歳だった。

 

 そうして足場を固め終えると、A.I.M.社は素早く行動を開始した。

 冷戦の終末時計が最後までその針を進めぬように、進んでも人類が存続するようにとイージスシステムを始めとした核ミサイル迎撃技術の開発を推進しつつ、宇宙開発に遅れ気味だった米国の尻を蹴り上げ、旦那に奉仕しつつ、遊びにかまけているロリクロンに説教しつつ、人類の文明を繁栄させ、この星から出るためのあらゆる後押しをし続けた。

 無論、企業体として利益を得る事は忘れない。

 自動車、航空機、情報産業、各種食料生産、医療、重工業等々。

 その時代でオーバーテクノロジーにはギリギリならない範囲を見極めて、常に時代の最先端に立ち続け、先導し続け、利益を得ながら宝はここだと各国・各企業に叫び続けた。

 特にロリクロンの我儘で始まったアニメ・漫画・ゲーム・映画のコンテンツは侍女達がちょっと忌々しいと思う程度には庶民から上流階級まで大人気であり、時代が経過した後も数々の不朽の名作が綺羅星の如く輝いている。

 こうして、A.I.M.社はその役割を十二分に果たしていた。

 

 

 ……………

 

 

 で、我らがロリクロン様は言うと……

 

 「マジか……遺跡とメタトロン見つけちゃうとかマジか……。」(白目)

 

 新西暦50年、他のあらゆる企業と地球連邦政府に先んじて始めた火星開拓事業において、改エクセリオン級(に変化した嘗ての頭部パーツ)と共にやべーもんを見つけてしまっていた。

 

 なおこの後、侍女達に「何余計なもん見つけて仕事増やしてるんですか貴女は」と怒られる事となる。

 

 

 

 

 

 

 




スター・オブ・プトレマイオスの頭部パーツ→改エクセリオン級

 デザインはセンサーマスクで顔全体を覆い、顔の側面を大型レドームが覆い、頭頂から後頭部にかけては蛇腹状の装甲に覆われている。
 それでも元がデススターサイズなので、頭部だけでも全長8kmのナノマシンの集合体。
 それを長い時間をかけて地球に飛来する隕石や宇宙開発が始まった際に発生するスペースデブリなんかを取り込んでナノマシンの数を増やしつつ、宇宙空間で活動するのに最適な形へと変化した。
 性能はほぼエクセリオン級をアップグレードしたものであり、TFらしく変形して亜光速でのマクロスアタックも可能。
 但し、ワープ方式や縮退炉に関しては宇宙怪獣を引き寄せる原因となるため、エーテル宇宙式ではなくあくまでTFが独自開発したもの(以降TF式)となっている。
 なお、艦載機は現時点で虎の子のヴァルチャー型50機と亜光速戦闘対応型無人戦闘航宙機500機(デザインは楽園追放の無人迎撃機)と


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第3話 参戦作品を探せ

 ロリクロン、愛称をその本来の名称からトレミィとする彼女は趣味として全てのサブカルチャーを愛している。

 それは嘗てからの情報収集の名残であり、本人の趣味でもあった。

 しかし、この世界においては単なる興業利益以上の意味があった。

 例えば、初代マジンガーZの漫画・アニメを企画し、本格的にプロジェクトを始動させようとしたのだが……どこの出版社も何故か断り、自社内の出版社ですら様々な理由でNOと言われてしまった。

 はて、企画自体は良いものなのに何故?と感じたトレミィが人員を出して本格的に調査した結果、ある可能性が浮かび上がってきたのだ。

 

 マジンガーZ、ゲッターロボ、ガンダム、そしてトップをねらえ等。

 この世界で将来的に実現する可能性のあるロボットを原作とする作品は、存在できない可能性がある。

 

 既に改エクセリオン級内部と地上、コロニー、月面にある各種ラボによってゲッター線やジャパニウム鉱石、ミノフスキー粒子、エーテルの観測には成功し、新西暦50年には火星にてメタトロン鉱石並び火星極冠遺跡の発見もあった。

 これらから想起されるアニメ・漫画・ゲーム作品群は以前から企画はあったのに何故か不採用されていたという共通点がある事から、この馬鹿馬鹿しい可能性を後押ししていた。

 事実、ミノフスキー粒子の関係ない各アウターガンダムも不採用だし、超時空要塞マクロスや伝説巨人イデオン等も不採用となっている。

 同じ監督の他の作品は採用され、歴史に残る名作となっているにも関わらず、だ。

 これに関しては最早確認する術がトレミィらには無いものの、超越存在による因果干渉の可能性すらあった。

 だが、逆にこれを利用して将来どんな作品世界の存在がこの世界に絡んでくるのかを予測する事も可能になった。

 現時点で将来登場する可能性が高いと思われるのは、判明している限り各種ガンダムとマクロス系にナデシコ、そしてゲッターとマジンガー系、イデオンにトップをねらえ!系となっている。

 この結果が出た時、トレミィは完全に無表情となり、数日程自室に引き籠って角に座り込んでいた(そして侍女に引きずり出された)。

 なお、欧州にロームフェラ財団の存在を確認したため、ガンダムW系列は今後出てくる可能性はほぼ確定だと思われる。

 他にもイスルギ重工やマオ・インダストリー、アナハイム・エレクトロニクス、そしてネルガル重工にクリムゾングループが確認されている。

 また、各種ラグランジュポイントにはコロニー建設計画が立ち上がっており、将来的にジオン公国や木星帝国、火星の自治都市群が成立する土台が出来上がりつつある。

 また、世界中に複数の秘密結社が存在しており、その正体や組織の捜索活動も継続して行われている。

 既に存在が判明しているものだけでゼーレにアマルガム、世界解放戦線にロゴス等がある。

 これに関しては「よし、ブラックロッジが無い!」としてトレミィは大喜びした。

 とは言え、まだまだ安心は出来ないとして、更なる調査と人類全体の地力向上、そして自分達の技術・戦力向上を目指していくのだった。

 

 

 ………………

 

 

 火星極冠遺跡上空 改エクセリオン級「プトレマイオス」にて

 

 

 「あれ?もしかしなくてもマトリクス作れるんじゃない?」

 

 

 未だテラフォーミングの最中である火星、その極冠にある遺跡にて分厚い氷と超高出力のディストーションフィールドに苦戦しながらも作業を進める採掘部隊の様子を眺めながら、ふとトレミィは呟いた。

 なお、火星のテラフォーミングは某虫漫画よろしく地球から環境改善用ナノマシン(A.I.M.社)搭載の大型弾頭弾を幾度も打ち込む事で進めている。

 現在は未だ宇宙服の装着が必要だが、もう50年もすれば普通に呼吸が可能となるだろう。

 無論、そんなに待たなくても彼女ら改エクセリオン級クルーには関係ないのだが。

 

 「一体何を言い出すのですか?気でも狂いましたか?」

 「相変わらず辛辣過ぎる…。まぁちょっと聞いてみてよ。」

 「畏まりました。下らない話と判断できれば中断させて頂きます、物理的に。」

 

 そう返す自分付きの侍女に対して本当に辛辣だなぁと思いつつ、トレミィは自らの思い付きを話し始めた。

 

 「サイコフレームって知ってる?」

 「無論。幸いにも主のライブラリに残存していたデータに断片的な記録が残っていたかと。」

 「そうそれ。と言っても現在完全再現しようと研究中だけどね。」

 「それがマトリクスと何か関係が?」

 「その前にちょっとおさらいしよっか。」

 

 サイコフレーム。

 それは科学全盛の宇宙世紀にて発明された、ファンタジーの産物とも言える奇跡の技術。

 サイコミュの基礎機能を持つコンピューター・チップを、金属粒子レベルで鋳込んだMS用の構造部材。

 その効果は本来の用途たるサイコミュ兵器の小型化のみならず、パイロット以外の周囲の人間の感応波の受信、それまでの素材よりも軽量かつ稼働状態においては物理法則を超える程に頑丈となり、更には思考による機体操作とサイコミュ操作難度の緩和、果てには共振現象やバリアの発生や機体出力の突発的な上昇、遂には人間の意志をエネルギーへと変換するという余りにもトンデモナイ代物だ。

 負の側面として、サイコミュ機能を応用した洗脳効果もあるが、こちらは本件には余り関係ない。

 

 対してマトリクス。

 純粋な高エネルギーの結晶体にしてTFの叡智の集積体であり、TFのスパークを納める器であり、時には感情すらエネルギーへと変換してしまう奇跡の物質。

 

 そしてメタトロン。

 火星にて発見された、核物質を超えるエネルギーを秘めた物質。

 シリコンをベースに金属を含む複合高分子体で動力源、量子コンピュータ、装甲などの素材に応用できる。

 また、下記の三つの特性を持つ。

 1.エネルギーを与えスピンさせると周囲の空間を巻き込んで圧縮する。

 2.高純度で大量使用すると、「魔法」としか思えない既存の物理法則を無視した現象を引き起こす。

 3.接触した人間の記憶や人格、思想などを記録し、同時にそれまでに記録したものを触れた人間に対しフィードバックする。

 この三つめの特性が曲者で、繰り返し接触すると自身の欲望や願望の中で特に強い部分を極端に肥大化させる事になる(精神汚染)。

 常人でも僅かな破壊衝動や破滅衝動があればそれが肥大化され、やがて周囲にそれを振り撒く異常者となる。

 が、逆に健常な精神の持ち主、或いは揺るがぬ精神力の持ち主ならある程度抑え込む事が出来る。

 

 そして、この三つの物質には一つの共通点が存在した。

 

 「物理法則を超越し得る、人の精神に干渉可能な物質、ですか。」

 「正解。そしてこの内二つがこちらの手の内にある。」

 「サイコフレームは未完成ですが?」

 「まぁね。でも、金属粒子サイズのCPUなんて、私達はもう実用化しているでしょう?」

 「成程。ナノマシン技術によってサイコフレームを再現。その後はサイコフレームによって精神をエネルギー化、メタトロンによって更にそれを強化してしまえば、届くかもしれません。」

 「サイコミュ技術そのものも、既にマシン兵器の操作系統にある程度の思考操作があるから、そこから応用できる。」

 

 目指すのは、サイコフレームとメタトロン両者の特性を持った夢の素材。

 しかし、これは逆に永遠に闘い続けられる怪物を生み出しかねない諸刃の剣。

 もし機動兵器に利用するならば、そのパイロットは厳選に厳選を重ねねばならない。

 まぁそれは人間に限った話で、幾らでも精神をフラットにできるTFにとっては関係ないし、負の感情が薄い自動人形には縁遠い話なのだが。

 

 「納得しました。では早速取り掛かりましょう。」

 「さっきの時点でラボにその方向で研究するように指示したよ。」

 「完成は何時頃の予定で?」

 「全部上手く行っても10年はかかるんじゃない?メタトロンの研究はとっくに終わってるけど、情報の欠けた状態でサイコフレームの研究は手探りなんだし。」

 「やはりマトリクスが無いのが痛いですね。」

 「仕方ない仕方ない。ないものねだりしたってねぇ。」

 

 そう言って、目線を床一面のスクリーンへと移す。

 そこには各種無人作業機械を指揮する最初期ロットのナノマシン式自動人形達の姿があった。

 作業自体は予定よりも少し遅いとは言え、順調に進んでいる。

 空間干渉技術はTFには十八番だし、単なる寒さと氷では彼らの動きを妨げる事はない。

 半年もあれば全施設を発掘可能だろう。

 遺跡自体はナノマシンで構成されているので、解析の方も抵抗なく進んでいる。

 また、もしもの時を考えて直接改エクセリオン級を降ろしたり、繋げる様な真似はせず、あくまで地表に設置した研究所で作業を行っているのだが。

 どうして改エクセリオン級が上空で待機?もしもの時に吹っ飛ばすためです。

 

 「嘗てに比べれば情報処理能力は万分の1もありません。持ってる情報も1割未満。」

 「それでもやらねばなりません。同胞のため、家族のため、社員のため、友人のため。」

 「分かってますよ。だからこそ、今も足掻いてるんですから。」

 

 何れ戦乱に満ちる地球圏も、今だけは表に出ない内輪もめだけの平和な時間だった。

 

 

 

 

 

 

 




後数話はこうした説明会になるかと。


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第4話 参戦作品が大体決定

 外から見たA.I.M.グループは極めて大規模な企業グループであり、尚且つ健全な経営と労働環境を誇りとした労働者にも優しい財閥だ。

 だが、敵対的な政府機関や他企業等からすれば、不気味としか言いようがない。

 

 

 その始まりは第一次世界大戦直前、北米での起業だ。

 当初は極普通の小規模工場であり、社長始め経営陣も元は浮浪者とか他所の会社で首を切られた失業者とかの社会の敗北者でしかなかった。

 彼らの共通点は一つ、ほぼ同時期に結婚したというだけ。

 だが、第一次・第二次世界大戦の波に乗って急成長、更に冷戦期にはあのイージスシステムの重要箇所を任される程の情報通信産業に長じており、その成長速度は不自然に過ぎる。

 まるで最初からそうなるのが分かっていた、或いは最初からその技術を持っていたかのように。

 また、会社に属する女性達の多くが極めて有能で美しいが表情に乏しく、まるで人形の様だと言われており、グループ内の重役らの嫁やメイドの多くがこうした特殊な女性によって構成されている。

 無論、例外もいるのだが、そういった人材は既に結婚済みだったり、一癖も二癖もある女性だったりする。

 A.I.M.グループの進出している分野は多岐に渡り、それこそ揺り籠から墓場までを地で行く。

 その技術力・資本・人員の充実ぶりは他の追随を許さず、世界中の多くの分野でA.I.M.グループの傘下に入れればずっと食べていけるという神話を打ち立てている。

 事実、歴史上何度も起こった金融恐慌や紛争、事件等に対しても特に慌てる事なく対処し、その荒波を乗り越える所か逆に更なる成長を迎えたりと無茶苦茶な企業である。

 新西暦に入ってからは自社所有の人工衛星や宇宙ステーションをどこよりも更に早く実用化、低重力・無重力下での研究を進め、素早く各種特許を総取りしてしまった。

 こうした数々の功績により、地球圏の富の五分の一を持っているとすら言われる巨大企業群であるA.I.M.グループだが、そんな巨大な存在を政府や他企業等が見逃すハズもない。

 設立からこれまで、陰に日向に実に多くの妨害が成されてきたが、その悉くを弾き返してきた。

 特に非合法なそれに関しては極めて堅牢で、嘗て存在した中華系企業(公営)によるクラッキングに対しては一切侵入を許さず、反撃として中華系企業のみならずその背後の共産党政府の軍事情報すら丸裸にして米国政府に売った過去もある。

 また、嘗てのメテオ1・2迎撃作戦で大量の核ミサイルの使用による地球全土に影響した電磁パルスによる大規模通信障害に対しても、一企業群としては異常極まりないEMP対策を施された会社施設ならび各種電化製品や精密機器、医療機器を販売していたため、世界中の家電製品や精密機器が全滅する中で唯一安定して稼働するために一時期は地球圏全体の商業的覇権を握る等、今も昔も実質的な独り勝ちした様な状態だった。

 はっきり言って、余りに隙も無い上に強すぎて、喧嘩する程馬鹿を見る状態だった。

 無論、懲りずにこの巨大企業群の発展の秘密を明らかにしてみせる!と息巻いた聞屋や産業スパイ、諜報員は無数にいたが、その悉くが帰って来なかったか、傍らに無表情だけど超絶優秀メイド(ご奉仕大好き)を置いて寝返るかのどちらかだった。

 

 が、怖いのは敵として見た場合であり、味方としてビジネスパートナーとして見た場合はこれ以上ない程に頼り甲斐のある存在だった。

 航空宇宙技術に優れている事からメテオ1・2の早期発見への協力、各医療機関や公共施設への積極的なEMP対策済み製品のセールス、そして世界各地における孤児への教育並び就職の斡旋と医療施設の設置。

 大きなものだけでもこれで、商売上の各種提携に関しては最早数えきれない程に多くの利益を提供してきた。

 また、実利優先という訳ではなく、芸術にも多くの投資をしている事で知られる。

 特にアニメ・漫画・映画・ゲーム・小説等に関しては有名で、A.I.M.の出版・放送部門は数多くの制作会社やクリエイターを支援或いは引き抜きや版権の買い取り等をし続け、常に最高のクオリティで作品を作成し続けた。

 連載の場合はややスローペースだったが、それは作品のクオリティを上げるためであり、資金・設備・人材面に関しては一切妥協しない事で有名だった。

 特にアニメに関しては毎年驚異的な放送本数であり、没になった企画の数はその10倍では利かないとも言われている。

 この多量にあるアニメ制作スタジオのスタッフに如何に入り込むかがアニメクリエイターとしての登竜門とも言われる。

 

 そんなA.I.M.産アニメにおいて、特にカルト的人気を誇っているのが「アーマード・コア」シリーズである。

 

 元々はとあるゲームが原作で、その会社の経営が傾いたと見るや即座に吸収してアニメ・ゲーム専門の制作部門の一つとして再出発させた後の初の作品となる。

 設定は「汚染された大地を捨てて地下都市に逃げ込んだ人類の生き残りによる非正規戦、その中で少年兵として生き抜く主人公」という救いようのない話であり、事実救いようのない話になっている。

 現実にも用いられる各種テロ行為にゲリラ戦、そして消耗品として使い潰される少年兵達。

 その少年兵の一人が地下都市での汎用作業機械から派生したヒト型機動兵器アーマード・コアへの適正を持つ事から、一人の傭兵として新たな戦いを始めるというストーリーとなっている。

 現実の非正規戦よろしく地雷や市街地での自爆・爆破テロ、少年兵や宗教テロリストらの自爆特攻、国家ではなく企業による搾取と圧制、簡単に死んでいく敵味方等々。

 未だ幼い少年が人々との出会いで心を取り戻し、しかしその人々を喪失する事で再び心を失い、泣きながら生き残るために戦い続ける。

 その一切容赦のない戦争描写からファンからはカルト的人気を誇り、保護者からは超絶な反感を向けられた「反戦アニメ」の金字塔。

 その後も複数のシリーズや番外編へと派生し、現在も放送・制作は続いている。

 特に人気のあるシリーズは所謂初代、次にネクスト系、そしてV系の三作品である。

 ここから更に同じ制作スタッフがファンタジー要素を加えたフレームグライド等も存在し、そこから更に純ファンタジーのソウルシリーズへと繋がっていく。

 色々と言ったが、要はアーマード・コアシリーズはその後のリアル系ロボットアニメの基礎を築いた名作の中の名作だという事だ。

 これと対を成すのがスーパー系ロボットアニメの名作「グレンラガン」なのだが、こちらは当時経営難に陥っていた複数の制作会社によるA.I.M.への対抗馬としての作品だったのが案の定資金難に陥っていたので資金援助するだけだったため、紹介は省略させて頂く。

 

 

 ……………

 

 

 「で、どうして無茶してあーいうアニメ作ったんです?」

 「だってガンダムみたいなリアル系ロボットが当時無くって…。」

 

 この世界は地球の近似世界だと言うのに幾人かの超有名クリエイターが存在しないのだ。

 日本人で言えば冨野監督と庵野監督、永井豪先生と石川賢先生が存在しない。

 つまり先日の仮説を信じるのなら、この世界にはガンダム・ダンバイン・エルガイム・イデオン・ザブングル・ブレンパワード・キングゲイナー・ザンボット3・ダイターン3・マジンガー系・ゲッター系・エヴァンゲリオン系・トップをねらえ系、下手するとこれに不思議の海のナディアが追加で現実に登場するという事だ。

 この悪夢的な仮説にトレミィは自室に引き籠って角を向きながら積みプラを消化し始めたのだが、やっぱりいつも通りお付きの高性能侍女型自動人形Sfによって部屋から引きずり出された。

 

 「無くても問題ないのでは?」

 「無いとそれ以後のリアル系作品が出ないかもだから。それに、リアルロボットアニメのない日本とか見たくない。」

 「他多数に関しては他の作品が注目されたのでそこまで問題ではないと?」

 「あの時期は大量のアニメが作られた時代だったからねぇ。玉石混交と言っちゃ悪いけど、その後もシリーズ続いた作品は少数だから。」

 「シン・ゴジラもないようでしたが。」

 「そっちは別の初代ベース作品作ったから…(震え声)。」

 

 明後日の方を向くトレミィに、Sfはじっとりとした視線を向ける。

 こいつ趣味に走り過ぎだろ、とその視線には多大な呆れが含まれていた。

 

 「ま、まぁ今の所は順調だから問題ないよ、うん。」

 「露骨な話の逸らし方ですね。ですが私は出来る侍女、主の必死な方向転換に乗ってあげましょう。」

 「あ、ありがとうございます…。」

 

 時は新西暦55年。

 彼女らは遂に火星の極冠遺跡の完全な発掘の完了、そして解析を始めた。

 

 「まさか終り頃になると無人兵器で迎撃されるとは思ってもみませんでした。」

 「木星にある遺跡には虫型無人機械の生産プラントがあるそうだから、こっちにあってもおかしくはないんだけどね。」

 

 黄色の装甲が特徴的な虫型作業機械群。

 元々は施設維持のためのものだったのだろうが、発見当初は完全に停止していた。

 しかし改エクセリオン級の自動人形や作業機械が遺跡内に侵入すると同時に再起動、戦闘を開始した。

 

 「幸いな事に小型相転移炉は搭載していても出力は僅か。武装も貧弱でしたので、問題なく排除できました。」

 「再起動の原因は?」

 「多量のナノマシンが機体内部から発見されたので、最初は死んだふりをしていたのかと。」

 「スリープモードで通常業務に復旧する時を待っていた、かな?」

 

 そんなハプニングは起こったものの、現在は複数の量子コンピューターを用いて遺跡の中枢たる演算ユニットの解析を行っている。

 幸いと言うべきか、中枢以外の部分の主な機能は相転移炉によるエネルギー生産と貯蓄、そして銀河全体規模の通信・探査、施設の機能維持のためのナノマシン生産となっており、既に情報のサルベージの終わった範囲内なのでそこまで重要ではなかった。

 まぁ接触した事のない異星人の文明という事で価値自体は高いのだが、それでもコイツから発生する厄ネタを思うと頭が痛くなるのだが。

 

 「ここでの作業が終われば、改エクセリオンの次の予定は木星でしたか。」

 「火星ではメタトロンの継続的採掘を除けば、アレの発見と秘匿さえ終われば大体の用事は終わりだから。それよりも木星の遺跡の発見と確保、ヘリウム3の継続的採取の方が重要になってくる。」

 「やはりどうあっても楽にはなりませんね。」

 「まぁ火星とは暫くさよならかな?数日以内には出発するから、何かやり残しが無いか確認しててね。」

 「畏まりました、Mein Meister.」

 『ご歓談中失礼します。プトレマイオス様、急報です』

 

 そんなやり取りはしかし、唐突な通信によって中断された。

 通信相手はメタトロン採掘担当のナノマシン式自動人形の一体であり、用心のために精神汚染対策を念入りに施された個体だった。

 その表情は相変わらず無表情だが、その声には何処か焦りが感じ取れた。

 

 「何があったの?真ゲッターでも飛んできた?」

 『…モニターをご覧下さい。』

 

 ピ、という機械音と共に、モニターに映像が映し出される。

 そこには明らかに経年劣化でボロボロでありながらも、その色が元は真紅だったと分かる巨大な戦艦の船首。

 周囲の作業機械からサイズを割り出せば、見えている範囲でも100mは下らない。

 恐らく、全長は数kmといった所だろうか。

 しかし問題はそこではない。

 そのデザインが余りにも有名で、見たくもない程に恐ろしいものだったからだ。

 

 『残存ライブラリ内の情報から、恐らくゲッターエンペラー率いるゲッター艦隊の内の一隻かと。内部には未だ高濃度のゲッター線の反応が観測されます。どうしてこんな所で沈んでいるのかは不明ですが……如何いたしましょうか?』

 「申し訳ありませんが、主は今卒倒してしまいました。起きるまで現状維持でお願いします。」

 

 トレミィは白目剥いて泡吹いて気絶してゆっくり後ろへと倒れていく所をSfに抱き止められていた。

 その後、無理もない事だったからと、一日だけ寝かせてもらえるのだった。

 

 

 

 




泣いて喜べ、遥か昔の遠い過去にファンだった作品の登場人物やメカと触れ合えるんだゾ

じゃぁ代われ?

絶対ヤダ。


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第5話 こんにちわ異邦人

感想欄にて設定に誤りがあった事が判明しました。
指摘していただいたQuasarさん、大変ありがとうございました。

内容はメタトロンの発掘場所で、作中では火星としていますが、実際は木星の衛星カリストです。

が、今作では特にストーリー上重要ではないとして、取り敢えず「そういう設定」として執筆していく予定です。
ストーリー上変更の必要が発生したら、前書きでお知らせします。

それでも良いよという寛大な方は今後もよろしくお付き合いお願いいたします。


 「これは夢……そう夢……起きたら私は日課のサイト巡回をして朝ご飯を補給して作業の進捗を確認してから技術開発(半ば趣味)をするんだ……。」

 「ですが現実は非情です。さぁ起きてください。」

 

 そういう訳で、イーグル号に似たゲッター戦艦(仮称1号戦艦)を火星にて発掘してしまった訳なのだが……正直な所、扱いかねるというのが彼女らの本音だった。

 だって下手打つとゲッペラー艦隊をこの世界に呼び寄せる事になりかねない。

 幸いと言うべきか、ビーコンや救難信号等は出ていないので喫緊の事態にはなっていない。

 しかし、何時何がしかのアクションをしてくるのか予想もできない。

 

 「であれば、こちらのタイミングでアクションを起こせば良いのです。」

 

 最古参のナノマシン式自動人形らと主が頭を悩ませる中、主付き自動人形であるSfがそう提言した。

 

 「どの道、何時かアレは再起動します。今この瞬間にも徐々にですが再生している事は確認されています。動き出すのも、そう遠い未来ではないでしょう。」

 「だからこそ、こちらからアクションを?」

 「はい、Mein Meister.」

 

 先日の狂乱ぶりを見せず、平静さを表向きには取り戻した主からの問いに、Sfは頷いた。

 

 「火星のテラフォーミング終了まで後3年程度。本格的な入植開始にはもう10年は必要かと思われますが、月の独立紛争の二の轍を踏むまいと地球連邦政府は必ずや火星に駐留軍を派遣するでしょう。それまでに可能な限り早急にアレの隠蔽をせねばなりません。」

 

 幸いと言うべきか、今現在は地球連邦政府は火星開拓に関しては殆どアクションをしていない。

 それと言うのも今現在は月面の開発が主流であるからだ。

 新西暦開始から既に53年、月面から先に未だ殆ど進出していないのは先の月面都市群で独立紛争が起こったからだ。

 核兵器を始めとした非人道的とされる兵器こそ使用されなかったものの、地球連邦軍が装備する宇宙用兵器の殆どを実戦証明する事態になった紛争はそれ以前の騒ぎをカウントすれば実に10年近く続いた。

 それが終わったのはつい5年程前の事だ。

 一部がテラフォーミングが終わったばかりの火星に住み着いているが、それを掃討するだけの余力は今現在の地球連邦には財政的に無い。

 幸いと言うべきか、地球連邦政府は定期的な報告だけで彼らを労働力として雇用する事を黙認としている。

 だが、それは態々僻地の中の僻地の火星にまで来たくないし関わりたくないし余裕がないからに過ぎない。

 何れ彼らはやってくるだろうし、来てもらわねばならない。

 

 「現状動かせる火星圏の戦力は?」

 「本艦と艦載兵器、それに私達のみです。後は皆作業用機械です。」

 「………仕方ない、か。今から言う条件に当て嵌まる生体式自動人形でこれから行う作戦に参加する事を受託した子だけ連れてきて。」

 「それは構いませんが、どの様な条件ですか?」

 

 そして説明された作戦は、余りにも非人道的だった。

 

 「後で殺されませんか?」

 「だからこその希望者のみです。どの道、失敗すれば終わりだし、封印し続けるのも限界があります。」

 

 こうして、主の苦悩を消し去る事も出来ぬまま、作戦は始まった。

 

 

 ……………

 

 

 作戦内容は簡単だ。

 1号戦艦に、自分達を人類或いは人類に友好的な存在だと認知してもらう。

 前提条件として、ゲッターエンペラー並びにその旗下の艦隊は地球人類の守護を目的に行動している。

 これは彼らの敵が常に人類外の存在であった経験からであり、惑星サイズを超えて進化し続けるのもラ・グースや時天空といった銀河規模・宇宙規模の外敵を倒すためだからだ。

 だからこそ、ユニクロン並び改スター級戦略機動要塞や本国TF艦隊が遭遇した場合、それは通常の戦闘ではなく生存競争の開始を意味する。

 しかし、今現在の1号戦艦はとてもではないが戦闘不能であり、それ所かまともな航行能力すら喪失しているため、即座に戦闘開始となる可能性は低い(自爆の可能性はあるが)。

 そのため、特にゲッター線量の多いコクピットと思われる場所へとメッセンジャー役を送り込み、平和的に接触し、交渉によって何とか停戦状態に持っていく。

 もしダメだった場合、可能な限りメッセンジャーを救出後、1号戦艦を静止衛星軌道上の改エクセリオン級からの宙対地砲撃によって撃破する。

 幸いにも想定されるゲッター線量から想定される規模のゲッタービームやバリア類ならば、改エクセリオン級の砲撃を防ぐ事は出来ない。

 もし無理だった場合、現在火星とは地球を挟んで反対側にあるA.I.M.社保有のコロニー内へとワープする予定だ。

 

 これでもダメだったら?

 幸いと言うべきか、生体式自動人形達は人類とほぼほぼ完全に共生しているので、殺される事はないだろう。

 万が一のためのトレミィ用生体式自動人形もあるので、それで余生を謳歌してくださいとしか言いようがない。

 

 

 ……………

 

 

 仮称1号戦艦内部 クローン製造エリアにて

 

 『何だ…?』

 

 巴武蔵。

 嘗てゲッター3、ベアー号の最初のパイロットだった男の何体目かも分からないクローン体は、乗艦のセンサーから異常を検知した。

 本来いた艦隊から敵の攻撃によって落伍して逸れ、この太陽系の火星へと落着してしまった。

 以来、乗艦の自己修復が完了するまでコールドスリープする予定だった。

 しかし、誰とも分からない侵入者によって、その予定は崩れた。

 

 『ドイツか知らねぇが、この艦に侵入してくるなんざふざけやがって!』

 

 コールドスリープから目覚めると直ぐにクローン武蔵はレーザーライフルを手に取ると、センサーの導くままに侵入者の下へ向かう。

 どうやら入ってすぐの場所から動いていない様だ。

 センサーの反応によれば、侵入者は生体パーツを多用したロボットの様だが、その脳内にはコンピューターが内蔵されている。

 どうやら悪知恵を働かせてきたらしいが、そんな事でこの艦のセンサーを誤魔化せると思ったら大間違いだ!

 

 『テメェか侵入者、は?』

 

 センサーの言う通り、艦の破損部分から数m進んだ位置にいたのは、美しい女性型ロボットだった。

 それだけなら武蔵は引き継いだオリジナルの人格と記憶通りにレーザーライフルで撃ち抜いていただろう。

 しかし、目の前のロボットはそれだけではなかった。

 その手には白いハンカチを結んだ棒を、旗の様に振っている。

 間違いなく白旗、つまりは降伏のサイン、或いは敵意が無い事を示すもの。

 そして何より、本来は細い柳腰だったであろう膨らんだ腹。

 紛う事無き妊婦だった。

 驚愕に固まった武蔵に対し、美しい黒髪をうなじの辺りでポニー状に結った彼女は困った様に眉尻を下げ、通路に座り込んだ状態で武蔵に対して告げた。

 

 「申し訳ありません。産気づいてしまったので、医療施設まで運んで頂けないでしょうか?」

 

 なお同時刻、改エクセリオン側も突然の報告とバイタルの変化を知らされて阿鼻叫喚の状態だった。

 

 

 ……………

 

 

 その後、てんやわんやでメッセンジャー役の妊娠中の生体式自動人形を医療施設に緊急搬送した後、驚き冷めやらぬ中、武蔵クローンは一行の責任者であるトレミィと会談する事になった。

 

 「初めまして、巴武蔵さん。私は元スター級機動要塞17番艦スター・オブ・プトレマイオス統括制御用知生体、現改エクセリオン級プトレマイオスの統括制御用知性体。略してトレミィと申します。」

 「お、おう。巴武蔵だ。クローンだがよろしく頼むぜ。」

 

 和風の畳敷きの一室、緑茶と茶菓子が置かれた座卓を挟んで、二人は漸く対面を果たした。

 

 「何でそんなボロボロなんだ?」

 

 が、交渉とかそんな崇高な文化的行動は武蔵の脳内には無い。

 オリジナルに比べて多少の知恵は付いたが、本来そんなものが必要のないパイロットとしての腕前とゲッター線との相性、そして頑丈さが求められるゲッターチームである。

 交渉とかそんなもん放り投げ、取り敢えず聞きたい事を聞いてみた。

 

 「いえ、必要だと判断したとは言え、妊娠中の部下に危険な橋を渡らせるなと怒られまして…。」

 「まぁ…そりゃ仕方ねぇな。」

 

 ずず、と互いに茶を啜る。

 何気に贈答や外交向けの最高級玉露だが、Sfからの折檻で顔面ぼこぼこにされてるトレミィを前にしてはよく味なんて分からなかった。

 

 「取り敢えず、私達に貴方方と敵対の意思が無いと伝えられれば良かったんですよ。貴方方は人類以外の知的生命体を目の敵にしてたから、どうやったら接触できるのか悩んでたんです。」

 「ん?だったら普通に人類よこせばよくないか?」

 「現在のこの世界では人類は未だゲッター線の研究に着手していません。早乙女博士はまだ生まれてすらいません。」

 「何だって!?」

 「その状態でゲッター線の研究は碌に進まないだろうし、どんな螺子曲がった進化を辿るか予測できなかったため、我々は早乙女博士が生まれてから人類にゲッター線を知ってほしいと考えていたのです。」

 

 予定では、そういった各種エネルギーの専門家にしてスーパーロボットの開発者となる博士達の誕生が確認され次第、各種援助を行う予定だった。

 実際、歴史上で名の知れた人物には成功するために多くの援助をしてきた。

 

 「私達は人類の敵となるつもりはありません。寧ろ成長して頂いて、私達の友人になってほしいとすら願っています。だからこそ、こうして危険を冒してまで武蔵さんと話し合いの場を設けています。」

 「……分かんねぇな。どうしてアンタらはそんな真似をする。ゲッターから見ればアンタラは滅ぼすべき存在にしか見えてないんだぞ?」

 「では、今からそれをご説明します。少々長くなりますが、これを知れば私達の立ち位置が見えてくるかと。」

 

 

 こうして、数奇な道程を辿ったスター・オブ・プトレマイオスはこれまた数奇な道程を辿ったゲッターロボのパイロットと運命的な出会いを果たしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、映像を用いて説明するので、映画みたいに鑑賞してれば大丈夫ですから。楽な姿勢で構いませんので。」

 「おう!あ、コーラとホットドッグあるか?」

 「ありますよー。後でお夕飯もお出ししますから、程々にしてくださいねー。」

 

 

 

 

 

 




Q.何で妊婦な生体式自動人形(人妻)を呼んだの?

A.人類の味方だがそれ以外はMust Dieなゲッペラー艦隊所属の武蔵クローンを説得するには、人間のメッセンジャーが必要不可欠。
 しかし、こんな人類滅亡しかねない大役を任せられるだけの人材もいないし、機密上見せる訳にもいかない。
 なので身内かつ人間を連れている状態である妊娠中の生体式自動人形が呼ばれた。
 勿論事前説明した上で志願者のみだったが、たった一人、自分達亡き後の夫の安全を確保する事を条件に志願した。
 理由?夫がちょっとだけ、浮気したんだってさ。


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第6話 宇宙移民開始

 クローン武蔵との交渉は、辛うじて無事に終了した。

 

 

 妊婦さん(出産直前)をメッセンジャーにした事だけはしこたま怒られたものの、それ以外に関しては割と穏やかに進んだ。

 

 (流石はゲッターチーム随一の良心、懐のデカさが違う…!)

 

 とかトレミィが思っているかどうかは兎も角、現状でクローン武蔵が取れる選択肢も殆ど無かった事も一因だった。

 何せ艦はまともに動かず、武装は歩兵用レーザー銃とナイフ、後は身一つ。

 それに対して相手は傘下に入れとか降伏しろとか言わず、絶滅しろとか問答無用な殲滅戦を仕掛けてもこない。

 手段は少々どころではなく非人道的だったものの、それでも敵対ではなく話し合いを求める理性的な相手だ。

 加えて、要求してくるのが対価ありの艦の解析とゲッター艦隊との交渉の仲介とまともだ。

 そして、対価の方もクローン武蔵ですら唸る様な代物だった。

 主な内容は以下の通りだ。

 

 1、艦の修理

 2、艦に未搭載の技術の情報

 3、支援用ナノマシン式自動人形の配置

 

 1はその通りで、提供・解析されたデータを参考にした艦の修理だ。

 これには故障して冷凍睡眠せざるを得なかったクローン製造機も含まれる。

 一番の問題であるゲッター炉とゲッター線増幅装置に関しては、クローン武蔵立ち合いの下に火星圏にある工業用コロニーにて作成・研究される事となった。

 これはもしメルトダウンした際のリスクを考慮したものであり、こうして得られたデータは将来早乙女博士へと送られる契約となっている。

 

 2に関しては、トレミィ側からの申し出だった。

 主な内容は時空間跳躍技術、そしてナノマシンだ。

 原作でも超高出力のゲッター線は時間や空間、宇宙すら飛び越えていたが、それはとてもではないが安定した技術とは言えなかった。

 そのため、それらを技術力にて成し遂げていたTF側の技術を提供する事で、間違ってこっちのいる宇宙に飛び出てくる事が無くなるようにとの思いでワープ・時間移動に関する基礎的な技術情報が提供された。

 なお、今現在のトレミィ側では単なるワープなら兎も角、正確な時間・世界間移動は不可能となっている。

 これは時間・世界の壁を乗り越えるためのエネルギーの生産手段並び正確無比かつ膨大な計算をするだけのCPUがマトリクスと共に失われてしまったから。

 ナノマシンの方は今回の様な事例が起きた場合により早期な戦列復帰をするためのもので、ナノマシン群が周囲の物体を分解・吸収して機体の修復並び搭乗者の治療を行ってくれる。

 各ゲットマシンの装甲は特殊な形状記憶合金であり、ゲッター線を浴びる事でその質量を増大・形状を変化させるのだが……一々変形合体する度にゲッター線消費するとか無駄が多過ぎるので、ゲッター線対応ナノマシンを開発し、それを構造材として採用させる事でより継戦能力を高めようという目論見だ。

 まぁゲッター線対応ナノマシンとか何処のDG細胞かな?って代物の実用化は今後の研究次第だが。

 なお、もしTF本国がいたらここにフィジカルキャンセラーを追加していた可能性が高い。

 それさえあれば、変形だけで何光年とかかかる事も無く、比較的早期に時天空に勝てる程に進化してくれるかもしれないからだ(なお周辺被害)。

 

 3だが、これは「男やもめで生まれてから死ぬまで所か死んでもクローンとして生き返って永遠に戦い続けるとか気の毒過ぎて…」というトレミィの厚意(余計なお世話)で用意された。

 例え死んで次のクローンになってもずっと愛してくれる糟糠の妻とか、果報者かな?(なお永劫なる戦い)

 後、おまけに各種嗜好品(保全用ナノマシン群により消費期限千年を誇る)を満載する予定だ。

 

 そんなこんなで、何とかトレミィは人類以外全てブッコロなゲッターエンペラーと率いるゲッター艦隊と交渉するための足掛かりを築くという偉業を成し遂げたのだった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦70年代現在、地球圏では増え過ぎた人口問題を解決すべく、地球連邦政府により宇宙並びに火星への大々的な移民政策が推進された。

 これが後々宇宙世紀にて大問題の温床と化して棄民政策とか言われたりするのを知っているのは、今現在はトレミィ達ことA.I.M.社内部の調査部門のみだった。

 とは言え、地球の外へ出る事それ自体は寧ろ必要な事であり、彼女らとしても寧ろ大歓迎だ。

 しかし、現在の低コスト化が難しい状態での推進は移民側、特にコロニーへの移民に対して悪戯に負担を増やすだけという事も分かっていた。

 地球圏各地にいる古参・新参問わぬ高性能の上位機種の自動人形並びA.I.M.グループ内の重役達がこの問題に関して秘匿通信にて会合を行った。

 

 『やはりと言うべきか、こうなりましたな。』

 「とは言え、対処するしかありません。」

 『その通りかと。幸い、コロニー向け各種食料プラントに関しては順調に稼働中です。』

 『現状、建設中の完全循環型コロニー並びに空気・水生成プラントの方は問題ないですが…。』

 「足りませんか?」

 『はい。可能な限り建設を急いではいますが…。』

 「空気・水生成プラントのみの生産はどうですか?それなら多少は数が多くなるかと思いますが。」

 

 現在の課題は、コロニー住民の対連邦政府への悪感情に繋がる空気税の軽減に関するものだった。

 幸い、水や空気をコロニー内にて完全に循環させるシステムに関しては既に完成している。

 実際、地球圏の各ラグランジュポイントではそれらを搭載したA.I.M.社製円筒型コロニーが稼働中であり、中には研究・娯楽用として内部に地球の各種自然環境を再現したものすらある。

 こうした実績もあり、コロニー建設の受注を一番多く受けているのはA.I.M.グループだったりする。

 無論、それ以外の企業も大なり小なり受注してノウハウや実績の蓄積に努めており、何時地球圏最大の企業グループから蹴落とされるのかと彼女らは楽しみに待っていたりする。

 

 『そちらの方は順調に受注が増えていますね。まぁ購入したものを解析して、自社に取り入れようという連中も多いですが。』

 「そういうのは寧ろ積極的にやらせてあげて下さい。どの道特許はこちらのものですし、我々だけに頼られても困ります。」

 

 実際、地球圏最大の企業グループで内部での派閥争いなんてほぼ無いとは言え、その生産力は無限ではない。

 また、自分達に何かあったら即詰みになるような状態なんて、不健全極まりない。

 そのためにも他企業群には是非ともノウハウを積んで、或いは盗んで自分の力にしてほしい。

 そのために今まで幾度も技術提供を続けてきたのだから。

 

 『火星への移民の方は?これ以上は無理ですか?』

 『難しいかと。これ以上は環境改善用ナノマシンの処理能力を超え、地球よろしく環境汚染が深刻化するかと。』

 

 そもそも、火星の大きさは地球の半分程度でしかない。

 如何に地球圏の常識を超越した技術力があっても、ナノマシンの定期的な投下によって数十年程度で無装備の人類が生活できるだけの環境改造が出来るのは、その小ささも理由の一つだった。

 そこに地球から半ば追い出された人々を移住させる?

 現在の地球の人口が200億を超えて久しく、一基辺り1000万人しか住めないコロニーを建設して移住させても、未だ地球の自然環境の汚染は止まらないのだ。

 自然の環境浄化能力を考えれば、50億を切るべきだというのが定説になっている。

 ここに環境改善用ナノマシンを用いればもう少しマシな数値になるのだが、根本的な解決には至らない。

 であるならば、やはり他所に住居を増やすしかない。

 だが、火星のナノマシン頼りの乏しい環境浄化能力では、その半分である25億でもかなり厳しい。

 建設が予定されているコロニーからなる各サイドは多少の誤差はあれど、各サイド毎に10億人は生活できる。

 しかし、サイドの数はどう多く見積もっても、10を超える事は出来ない。

 サイドの数を5として計算しても、火星と合わせて移住可能な人口は100億を超える事は出来ないのだ。

 このままでは何れ、大きな戦乱が起こるだろう。

 地球人類を延命させるために過剰な人口を減少させるためという、あんまりな理由で。

 事実、宇宙世紀世界ではそうなり、遂には文明の衰退と滅亡すら招いた。

 

 「やはり早急にエーテル技術を用いた亜高速航行並びワープ航法の実用化が必要ですか…。」

 『現在、地球連邦政府も各企業と協力して研究を進めていますが…。』

 

 はっきり言って、木星に行くのすら片道5年以上かかる現在の地球圏にワープや亜光速航行技術とか出したりしたら、どんな事態になるか予想できない。

 超技術は確かに便利だが、余りにもオーバーテクノロジーだと周囲の技術開発を死滅させかねない極大のデメリットが存在するのだ。

 

 「……仕方ありません。木星方面の開発をこれまで以上に進めましょう。」

 『宜しいのですか?』

 

 現在、木星方面はヘリウム3採取のための木星船団公社所属の工業コロニーとA.I.M.グループ位しかいない。

 そこには既に完全循環型コロニーが幾つも建造中であり、資源・技術開発にも余念がない。

 地球圏では人目があって出来ない事もここなら大丈夫とあのエーテル宇宙の各兵器の再現等も行われており、ゲッター線並びにゲッター系兵器の開発と一号艦の修復を行っている火星圏と並んで他所様にはお見せできない場所だった。

 

 「誰も地球を離れたがらないのは、そこしか住み良い場所がないからです。なら、どうせ必要となるのですから、木星圏に今そんな場所を作っても良いでしょう。」

 『畏まりました。ではそのように。』

 

 この会合の後、木星圏の開発が本格的に加速していく。

 この数年後、地球圏から木星圏開発の責任者として着任したクラックス・ドゥガチ氏は木星圏の予想以上の開発速度に驚きを露わにするも、整備の追い付いていなかった自治体としての各種制度を纏める事で荒くれ者ばかりだった工業労働者らやA.I.M.グループから信頼を勝ち取り、後に木星自治区成立の父として長く尊敬される事となる。

 なお、やっぱりと言うべきか、ドゥガチ氏には親子(下手すると孫)並みに年の離れた嫁が連邦政府から寄越されて大問題に発展しかけた。

 しかし、大らかな嫁さんは各サイドの何れよりも多人口・高技術・多資源を持った木星の繁栄ぶりに驚きつつも、のんびりと暮らし、そんな彼女に毒気を抜かれたドゥガチ氏も呆れながら鉾を収めたそうな。

 

 

 ……………

 

 

 「きゃっきゃっ!」

 「ふふふ、元気な子ですね。」

 

 黒髪をうなじの辺りで結った生体式自動人形が、部屋を駆け回る愛息子へと愛おしそうに視線を向ける。

 ここは火星圏、とある宙域に存在する秘匿研究用コロニー。

 今現在はゲッター線関連の技術を研究するのに使用されているこの場所には、通常空間よりも多くのゲッター線が存在している(無論、周辺に無害な範囲だが)。

 あの一号戦艦との交渉開始時、ゲッター線を浴びただろう彼女らは時折ここを訪れて検査を受けていた。

 なお、旦那(出張先で酔ってハニトラ食らったのを逆手に取ってやり返してた)は事の次第を証拠付きで話した後に土下座で謝罪し、関係修復したそうな。

 

 「賢、そろそろおやつにしましょうか。」

 「あーい!」

 

 後にこの賢少年はゲッター線の研究にのめり込み、地球圏では未だゲッター線の存在すらまともに認められていない事に屈辱を感じ、遂には地球にてゲッター線専門の研究所を設立する。

 将来、早乙女という家に婿入りし、大事な妻の実家から支援を受けながら、幼い頃に見た朧げな記憶を頼りにゲッター線を動力とした巨大メカを作る夢に取りつかれる事となる。

 彼こそが後のゲッター線の第一人者にてゲッターロボの生みの親。

 後の早乙女博士であった。

 

 

 




 『…………。』


 ソレは未だ眠っていた。
 長い、永い、久い時の中を微睡みながら、その身体を癒していた。
 否、また生まれようとしていた。
 無から有へ、周囲の原子を少しずつ少しずつ結び付けて形とし、胎児へとなろうとしていた。
 星が生まれる前、この宇宙が生まれる前から存在したソレにとって、この程度の永さは何でもない。
 また生まれ直すかどうかは外部からの干渉任せなのだが…。

 
 『………。』


 ほんの少し、ソレは身動ぎした。
 自分と近しい存在が、この宇宙に産声を上げようとしているのを感じたからだ。
 だが、まだ目覚める事はない。
 まだその時ではないと、再びその意識を閉ざした。






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第7話 木星圏開拓 そして伝説を見た

 新西暦80年代。

 A.I.M.グループが木星圏の大凡の探索を終え、やべーブツを隠蔽したり解析したり等が大体終わった後の時代。

 それは人類が太陽系の本格的な開拓に乗り出し始めた発展の時期だった。

 

 地球の自然環境回復をお題目とした宇宙移民の推進。

 行先は各ラグランジュポイントに急ピッチで建造されるスペースコロニー群、そして遂にテラフォーミングが完了して本格的な入植の始まった火星圏。

 地球では単なる貧民だった人々と宇宙での生活に必要不可欠な技術者や軍人、官僚らが次々と地球を離れ、住まいを宇宙へと移していく。

 だがしかし、それでも地球に溢れた200億の人口を地球環境を正常に運行するための人口50億まで減らすには、とてもではないが足りなかった。

 そこであのA.I.M.グループがまたやらかした。

 

 「我がグループは木星圏の開発を開始する。」

 

 木星、そこは新たなフロンティアとして目されている場所だった。

 多量に採取可能なヘリウム3は核融合炉の主な燃料として需要数多であり、現在は月面でも採掘されるが、とてもではないが需要に追い付いていない。

 故に地球とは現在片道5年はかかるが露天掘り状態の木星が次なる開拓先として見込まれていたのだ。

 現在は採掘用コロニーと研究用コロニーだけの木星圏。

 しかし、既に複数の居住用並び工業用コロニーが複数建造中である事が発表、更にはA.I.M.グループが「木星航路途中にマイクロウェーブを用いた送電システムにより大幅に増速し、片道1年で到達可能」と発表した事によって木星圏の開発・投資が加速した。

 このマイクロウェーブ送電システムは無数の太陽光発電パネルとマイクロウェーブ送信機、管理用コロニーにより構成され、補給対象の艦船の受信用大型リフレクターへと正確に照射、エネルギーを補給する。

 正確なデータさえあれば僅かな時間で莫大なエネルギーを充電可能であるにも関わらず、発電方法自体は太陽光によるものなので比較的低コストで済むという画期的なシステムだった。

 ならこれ地球でも使えば良いんじゃないの?と思われるかも知れないが、もし間違って水面に着弾しようものなら大規模な水蒸気爆発が起こるため、とてもではないが有人惑星上では使用できない(現段階では)とされ、専ら木星航路を運航する艦船向けのシステムだった。

 このシステムとヘリウム3の必要性から木星開発は半ばバブル化し、経済界からのせっつきで他のラグランジュポイントよりも大繁栄する事となる。

 そして、他のコロニー群が貧乏暮らしかと言うとそうではない。

 木星に行くには年単位の長期間運用に耐えて、安全に大量の物資を運搬できて、頑丈でなるべく高性能で、乗員がちゃんと長期間生活できる設備があって、最後に贅沢言えば安価な輸送船が望まれた。

 だからこそ、史実のジュピトリス級が全長2㎞を超える大型艦であり、必要な機能をブロック毎に組み合わせた単純な構造なのだ。

 しかし現在バブル景気に沸いている木星圏に輸送艦を送るには、とてもではないがそんな大型艦を普通に建造しているのでは時間がかかり過ぎる。

 そこで必要な機能を持ったブロックを別のコロニー、別の工場で作成し、繋ぎ合わせるブロック工法で早期建造を実現した。

 新西暦80年代現在、まだまだ各ラグランジュポイントのコロニー群は地球連邦共通の規格を使用しており、史実のジオンよろしく独自規格が横行する様な事態にはなっていないので、この方法でも精度が高ければ問題ないのだ。

 大気圏内での水上艦の造船(船体作ってから内部・上部と詰めたり載せたり)とは異なり、宇宙は無重力故に各ブロックを他の工場から運搬して接続するのも楽であり、好んでこのブロック工法が用いられた。

 多少スピードが遅かったり燃費が悪くとも、マイクロウェーブ受信システムを搭載して料金を支払えばその辺はやや強引だが解決できるため、多くの企業が我先にとこの方法で自社用の木星圏向け輸送艦を発注・建造し、木星航路へと旅立っていった。

 この建造需要により、移民したばかりの各コロニーでは工業労働者が引く手数多であり、働けば働く程に生活が楽になっていく状態だった。

 地球からの多くが強制移民だったが、ちゃんと働けば今まで以上に衣食住が満たせる環境だと分かればそこからは早かった。

 移民者はコロニーに定住を決めて労働に励み、軍は警察と共に荒っぽい労働者らに睨みを利かせて治安維持に励んでは時折事故に対応し、官僚らは行政機構を整備してコロニー全体を運営する。

 多くの人々が望んだ繁栄と平和が、この時代では確かに手に届く場所にあったのだ。

 

 問題が起こるのは新西暦100年代、この木星圏開発バブルが破裂する事なく落ち着き、各コロニーの主要な産業とされた造船業が冷え込み始めてからの事だった。

 

 

 ……………

 

 

 現在、A.I.M.グループ内にて保有されている技術は、大別して三つある。

 一つ目は惑星間航行どころか時空間・世界間移動可能なTF由来の技術。

 二つ目はエーテル宇宙由来のエーテルやアイスセカンド使用技術。

 三つ目は漸く大体の解析が終わったゲッター由来の技術だが…こちらは進化し始めてからが本番なのでまだまだこれからである。

 

 「現状持ってる技術の限界点を見極めてみない?具体的には各種技術てんこ盛りしたスーパーロボット作ろう!」

 「寝言は寝て言ってください。」

 

 新西暦80年代、木星圏の開発が本格化したこの時代、太陽系最大の企業群であるA.I.M.グループはその宇宙開発能力をフルに発揮して木星圏開発に参加していたので、とてもではないが余力は無かった。

 無論、各種研究は人手も予算も惜しまず続けていた。

 だが、あれやこれやと足を引っ張ってくる輩に対してはその手を掴んで「おら!お前らも働くんだよ!」といった具合に無理矢理融資と技術提供を受けさせて立ち直らせ、死ぬまで扱き使ったりしてもなお過熱している木星圏開発バブルには足りないのだ。

 そんな状況下でスーパーロボット?寝言は寝て言え!(自動人形勢を最大速度で増産&雇用マシマシなのに連日デスマーチなう)

 

 「いや、開発陣からそろそろ一度ちゃんと形にして実地試験とか色々したいって言われててさぁ。」

 「だとしても今じゃなくて良いじゃないですか…。」

 

 自動人形組すら過労になりかける現在、とてもではないがそんなリソースはない。

 

 「いや、許可だけ欲しいって。」

 「監視付けましょう。」

 

 Sfは言い切った。

 自分の主を通じて技術者という生き物を知るが故に、手綱無しにしたらどんな酷い事になるか目に見えていたからだ。

 しかも今回作るのはコンコルドとか鼻くそに見える様な代物である。

 必要とは分かるが、どれ程の開発費用が消し飛ぶのか怖くて計算したくもなかった。

 加えて、ここでダメと言っても現場で勝手にやりだされては進捗情報すら掴めない。

 

 「どの道、メタトロンと試験型サイコ・ナノマシンはもう実地しないと必要なデータは取れない。ゲッター炉と増幅装置もブツは作れても十分な強度と出力が確保されてるか実際に載せて試さないといけない。そして……。」

 「我々の存在によって、何時この太陽系に外敵が現れるか定かではない、ですか。」

 

 一応、木星圏にも緊急用の地球連邦駐留艦隊は存在する。

 だが、それは殆どお飾りであり、装備も貧弱で、事故や災害時への対処を主眼に置いた装備なのだ。

 とてもではないが、太陽系外から飛来する敵勢力を相手取るのは不可能だった。

 無論、改エルトリウム級と搭載された武装と艦載機ならば大抵の相手は対処できる。

 しかし、被害なく守り切れるかとなれば話は別なのだ。

 でも大艦隊とか今の時期に作っても怪しまれるし、建造・維持費用も莫大なものになるだろう。

 だからこそ、木星圏どころか太陽系をカバーできるだけの性能を持ったスーパーロボットが必要なのだ。

 

 「…一応重役会議にかけます。」

 「それで良いよ。根回しはするから。」

 

 こうして、各種技術てんこ盛りスーパーロボット建造計画、通称「三本の矢」計画はスタートした。

 

 

 だが、この計画の成果が思わぬ方向へと事態を動かしていく。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦89年末、木星圏 改エクセリオン級プトレマイオスにて

 

 「は?木星圏全域でNT適正持ちが増えてる?」

 「はい。極僅かながらずっと微増しています。」

 

 改エクセリオン級プトレマイオスが木星圏を探索し、そこで発見した古代遺跡等を隠蔽・解析したり、ちょっと利用するにはまだ技術的習熟が不可欠なエネルギーを発見した後、A.I.M.グループとして改めて木星圏に進出して現在までに既に30年近くが経過している。

 その当時無かったデータとして移住してきた地球人類のその後のデータが挙げられる。

 地球から木星という現在の人類にとっては最果てと言えるこの場所で生まれ、一生を終える。

 これは彼女らからしても未知であり、どのような変化が出るのか地球連邦政府共々今後の宇宙開発に必要なデータとして関心を向けている。

 そうして集められたデータの中に、極めて重要な数値があった。

 

 「所謂宇宙世紀のNT用サイコミュ兵器を運用できる数値ではないです。しかし、地球在住の人類とは誤差の範囲ですが反応速度や空間認識、コミュニケーション能力が向上している傾向にあります。」

 

 あくまで誤差の範囲、或いは人類が宇宙に適応したのか。

 そう言ってしまえば済む話だが、人類以上に人類を知り尽くしていると言える彼女らはこのデータを最高機密に指定、警戒度を大幅に引き上げた。

 

 「進化だとしても早過ぎる。これは明らかに異常だ。」

 「現在、木星圏内のゲッター線量は規定値に収まっています。とてもではないですが恐竜を絶滅させたり、人類を急激に進化させたりする程の出力には到底足りません。」

 「寧ろ線量だけなら火星圏の方が多いです。一号艦に三本の矢計画とゲッター線関連は全部あっちでやってますから。」

 「こちらでやってるのは非アイスセカンド・非エーテル式無人艦隊による太陽系初期防衛計画ですし…。」

 

 太陽系初期防衛計画。

 それは来る宇宙怪獣の襲来に対して、人類が十分な戦力を整備する前に木星の遺跡、即ちプラント並びに解析された技術群によって新造した無人艦隊によって防衛線を構築する計画だ。

 とは言え、生産予定の艦艇はワープ機能(太陽系内限定)搭載かつ亜光速戦闘対応と大幅な強化が施されているものの、史実のトンボ級や昆虫型無人兵器(所謂バッタ型)の発展形と元の設計が貧弱であり、あくまで時間稼ぎが目的である。

 しかし、これらでさえ現在の地球圏の軍事力からすれば過剰も過剰であり、見つかる訳にもいかないので生産したものからステルスで身を隠し、太陽系外縁部の警戒・防衛へと出発している。

 主機関は相転移エンジン並びに核融合炉であり、無人兵器故に人員に気遣う事なく運用できるのが強みだ。

 主構造材はナノマシンなので基本的にメンテナンスフリーでありながら、破壊されても二個一・三個一が可能で、時間さえあれば増殖すら可能。

 防御装備としてイナーシャルキャンセラーとディストーションフィールドを持ち、比較的低コストかつナノマシン式なので必要な時は割と簡単に更新できるのも強みだ。

 主武装はビーム砲・ミサイル・レールガン・レーザー機銃・自爆と面白味は無いが堅実な構成となっている。

 が、グループ内の生産リソースの多くが木星圏の民需へと振り分けられている現状、その数はまだまだ少ない。

 

 なお、初期と謳っている通りにこれらが突破された場合、絶賛アステロイドベルトにてゆっくりとだが増産中のヴァルチャー軍団が出撃する手筈となっている。

 

 

 「なら私達がまだ見つけていない何かが存在するという事でしょう。」

 「NT適正持ちを強弱ごとに色分けして分布図を作成します。……こちらを。」

 「成程、やはり一か所が妙に濃い。」

 

 作成された分布図、そこは一か所のみ明らかに他の宙域よりも強いNT適正持ちが多く存在した。

 

 「これ、一部の例外は?」

 「該当する宙域に滞在した経験のある方達ですね。一部は偶然か才能か…。」

 「天然ものは兎も角、この宙域の再調査を。それとヴァルチャー型を一個大隊派遣。」

 「過剰戦力では?」

 「間違いなく鬼か蛇がいるんだから、この位の警戒は必要。他のヴァルチャー隊も暇してるんだから、もしもの時は駆けつけるように通達を。」

 「了解。調査船団の派遣を通達……受託されました。48時間以内に開始するそうです。」

 「それと、念のためにG.G.を出せるようにしておいて。もしもが有り得る相手よ、これ。」

 

 G.G.とは三本の矢計画の成果たる特機の秘匿名称であり、開発開始から5年、現在は試作一号機が完成し、各種環境下でのテストを行っている。

 現在はワープにより木星圏へ来訪、各種試験を行う予定だった。

 未だ操縦性に難があるものの、その性能は本物であり、未来の可能性を知るA.I.M.グループの上役や自動人形達からは期待の眼差しを送られていた。

 

 「宜しいのですか?」

 「重役会議も招集。コードREDも発令して。手抜きなんてしてられない。」

 

 コードRED。

 それは人類存亡を懸けた事態が発生、或いは発生する可能性がある場合にA.I.M.グループ内にて発令される緊急コード。

 嘗てゲッター戦艦を発見した際の経験から必要とされた指令コードであり、あれ以来幸運にも今日まで発令された事のないものだった。

 しかし今、それが破られた。

 それを指示したトレミィの表情は蒼褪め、内心は不安と恐怖でいっぱいだった。

 だって、このデータが本当なら、それは最悪の事実を意味するのだから。

 

 

 (木星圏にある人類のNT適正を花開かせる存在?そんなもの、一つしかいない。)

 

 

 

 

 

 

 

 4日後、彼女達は調査船団から一つの報告を受け取った。

 

 曰く、「岩塊の中から巨大な赤い巨人を見つけた」と。

 

 トレミィは全身からあらゆる液体を漏らしながら卒倒した。

 その一時間後に身支度を整えられた状態で叩き起こされ、現場へ向かう事となる。

 




さぁ皆、ついに次回は待望のジム神様が登場だよ!(震え声)
今作では知らない人もいるだろうけど「逆襲のギガンテス」仕様だよ!(白目)
次回をお楽しみに!(失踪)


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第8話 眠れる巨人

ちょっとやっつけ仕事だったと反省。
次回以降、ここから一気に加速します。


 イデオンとは?

 

 全高105m 重量5650t エンジン出力120000t/df+X

 第六文明人が建造した遺物を人類が復元・改造した三機のメカが合体して生まれるロボット。

 第六文明人の言語で唯一判読可能な言葉「IDEON=イデを包む者」からその名を付けられた。

 人類によって全身にミサイルポッド、グレンキャノンが搭載され、大型ミサイルやビーム砲などの直撃なども撥ね退けるバリアーも有する。

 本機体の最大の特徴として、動力源の「無限力」イデと呼ばれるエネルギーがある。

 搭載されたイデシステムは意思をエネルギーへと変換する力を持ち、そのポテンシャルを発揮するには搭乗者並びに周辺の人間の精神力、強い感情が必要となる。

 通常動力の核融合炉ではまともに動かせず、イデシステム並びにイデがあるからこそロボットとして動ける。

 イデは「数億の第六文明人の意志(認識力)の集積の場」、言い換えれば「数億の人間の意志を集積して作り出された1個の意志集合体」であり、歴とした自我を持つ精神生命体である。

 これが前述のイデシステムを介して無限に近いエネルギーを発生させる。

 それこそ、ビッグバンを引き起こす程のエネルギーを。

 このエネルギーを腕部からサーベル状に発振、またはイデオンガンと言われる大型砲で放つ事で宇宙規模の破壊を実現する。

 その出力故に射程・威力に限界はない。

 本質的にイデオンはその名の通りイデの器でしかない。

 しかし、イデとは自身曰く、「感情で出来た泉」である。

 人の感情という小石が投げ入れられれば、小石に沿った波紋が生まれ、その様に行動する。

 その波紋をイデ自身に消す事は出来ず、増幅しか出来ないが、どんな小石が投げ込まれるかをある程度選ぶ事はできる。

 憎悪の小石が入れられれば破壊を振り撒き、慈しみの小石が入れられれば癒しを振り撒く。

 嘗て宇宙を破壊したイデだが、しかしビッグバンから人々の命の種子、魂とも言えるものを守る力を持ち、ビッグバンにて宇宙が滅亡・再誕した後にそれを撒き、再び人類を誕生させた。

 次こそはより良い力に目覚めるように、今度こそ分かり合えるようにと自身の力の欠片を分け与えながら。

 

 イデは人類を見守り、見定め、そしてまた同じ過ちを繰り返すだけと判断すれば、また宇宙ごとリセットする。

 故にイデに触れてはいけない、イデを起こしてはならない。

 それは宇宙を、人類を消滅させかねないから。

 

 

 ……………

 

 

 木星圏 アステロイドベルト某所

 

 そこには現在、太陽系全体を消滅させてもなお余る程の戦力がひしめき合っていた。

 改エクセリオン級プトレマイオス並び艦載機動兵器群。

 改トンボ級並びに虫型無人機動兵器群。

 そして太陽系絶対防衛戦力としてのヴァルチャー隊一個中隊。

 これらは全てイデオンが復活してしまった場合、完全に覚醒する前に一撃で消滅させるための戦力である。

 如何にイデオンと言えど、その力を完全に発揮するには人々の感情を必要とする。

 逆に言えば、感情を与えずに一撃で消滅させれば、何とかなるかもしれない。

 ……まぁ内部の無限力が解放されてしまったら、やはりどうしようもないのだが。

 

 「G.G.の合流まではあとどれ位?」

 「後3時間です。補給・整備はそれまでに万全にすると。」

 「周辺警戒を厳に。誰一人通してはなりません。下手打てば宇宙が消えますよ。」

 「無人探査用ロボットの様子は?」

 「現在、岩塊の割れ目から進入中。目標に依然として動き無し。」

 

 彼女らの視線の先、そこには全長1㎞近い巨大な岩塊と、その中に埋もれた状態で眠り続ける赤い巨大ロボットの姿があった。

 大きく上方向に伸びた肩、岩塊の隙間から覗く手足、そしてそこだけ何故か白い頭部。

 どこか後の地球連邦製MSのジムに似たデザインをしたその姿に対し、この太陽系最強の戦力を持つ彼女らをして最大限の警戒を向けている。

 当然だ、こいつにはこの宇宙を滅ぼすだけの力があるのだから。

 

 「……解析でました。目標はやはり休眠状態の様子です。」

 「今すぐ起きる事はない?」

 「少なくとも起こそうとしない限りは。」

 

 つまり、相変わらずたった一人の子供や赤子がコイツの内部や近場で怯えれば、それを切っ掛けに宇宙崩壊のキーが始動しかねない状態のままだと言う事。 

 

 「G.G.…武蔵さん達が到着次第、作業を開始します。くれぐれも刺激しないように慎重に。」

 「了解。各員に徹底させます。」

 「では作業を開始。何か僅かでも異変を感じたら直ぐに報告を。相手は瞬間湯沸かし器並みに宇宙を滅ぼす危険な存在です。細心の注意を払ってください。」

 「言わんとする所は分かりますが、その言い方はどうなんでしょう…?」

 

 この作戦の目的はただ一つ、イデオンを人の手の届かぬ場所へと封印する事にある。

 幸い、未だイデオンは、その内包された無限力は目覚めていない。

 故に人の目に触れさせる前に、発見されたイデオンが眠る岩塊を補強した上で、木星の海へと沈める。

 もし人類がイデオンの存在に気付くとして、その頃には木星の内部に潜れる程の技術力を有しているとなれば、それはつまり自分達がこの宇宙から去る時でもある。

 無論、太陽系並びに地球人類が危機に陥れば加勢する心算だが、完全な負け戦に加わる程お人好しではない。

 …まぁ他のご家庭に嫁入りしていった生体式自動人形達は伴侶や家族と運命を共にするだろうが。

 

 「宇宙の興亡、この一戦にあり。各員の奮闘を期待します。」

 「盛大な負けフラグ乙。」

 

 イデオンの埋まっている岩塊の隙間に、コロニー補修用の充填剤をこれでもかと注ぎ、更に周辺に浮かぶ小さめの岩塊をこれまたコロニー補修用の接着剤で入念に接着していく。

 外部から完全に確認できなくなるまで、大量に。

 その作業が終了し次第、余りに巨大故に近くに見える木星へと送り出す。

 勿論、ヘリウム3採取の労働者が近くにいない場所に狙いを定めて。

 後は勝手に木星の巨大な重力によってその中心へと引き寄せられる。

 そうなればもう、現状の人類では手出し不可能だ。

 

 (頼むから何も起きないでください!ジョニー・デップ似の神様、パンチパーマな仏様、そして本体様~!)

 

 だがしかし、彼女の願いは無常にも叶わない。

 

 

 ……………

 

 

 同宙域 二時間後

 

 「! ワープアウト反応検知!ライブラリ検索……識別無し!」

 「以降、ワープ対象をボギーと呼称。ワープアウト地点に攻撃用意!紅玉式光線主砲並び中口径光線副砲照準!対空パルスレーザー並びレールガンは全周警戒!敵影確認次第攻撃を開始せよ!」

 

 こと近代戦において、一瞬の判断が生死を分ける。

 それ程に素早く戦況が動き、一手間違えれば死に繋がるのも珍しくもない。

 況してや亜光速戦闘ともなれば、彼女ら自動人形らの思考速度を以てしても万全とは言い辛い。

 故にこそ、この状況で突然のワープアウト反応を行う存在など、敵としか認識できない。

 

 「各艦載機部隊は緊急発艦!警戒中の部隊を呼び戻せ!」

 「展開中のヴァルチャー隊はイデオンの防衛に専念せよ!絶対に奴を目覚めさせるな!」

 「工兵隊は作業急げ!終わり次第撤収開始だ!」

 

 そして、ワープアウトした存在に、彼女らの誰もが度肝を抜かれた。

 眼球を持った不定形の粘体の群れ。

 中には海洋生物や恐竜、虫に酷似した形態の個体もおり、明らかに通常の生物の系統樹から逸脱した存在である事が伺える。

 そいつらの姿を確認した瞬間、トレミィは命令を下していた。

 

 「攻撃開始!奴らを近づかせるな!」

 

 戦艦ユニットは改エルトリウム級のみで、他は作業艇や探査船に数合わせの改トンボ級。

 しかし、そんな不利なんて昔から予想済み。

 多少の不利を帳消しにする圧倒的質による戦力で以て、改エクセリオン級並びに展開したヴァルチャー中隊が攻撃を開始する。

 紅玉式光線主砲、中口径光線副砲、対空パルスレーザー並びレールガン。

 そしてヴァルチャー一個中隊分の「惑星破壊」すら可能なジェノサイドガン。

 これらの射撃により、ワープアウトしてきた生物群はものの数秒で蒸発してしまった。

 

 「…宇宙怪獣に比べて弱すぎない?」

 「これは…生命体ですが、奴らとは異なるようです。」

 「索敵を厳に。増援や極小の個体がイデオンに取り付く可能性がある。」

 

 その気になれば太陽系の全惑星を破壊可能な、太陽系最強の部隊。

 後の時代を含めてもなお出鱈目な戦力を持つこの部隊にとって、この程度の敵は鎧袖一触だった。

 

 「ワープアウト反応検知。IFFに反応、G.G.です。」

 『おぉーい無事かぁ!?』

 

 現れたのは全高250m、頭頂高200mというサイズを誇る巨大な黒いロボット。

 ガンバスターに酷似しながら、しかし随所にゲッターロボに近い意匠を持っていた。

 

 「お久しぶりです武蔵さん。戦闘は先程敵第一陣を撃破した所です。」

 『そうかいそうかい。あのインベーダー共、こっちに向かって来やがってな。今さっきブッ殺してきたせいで遅れちまった。』

 『でも、あいつらの生体サンプルとか取らなくて良かったんですか?』

 『いらんいらん。あいつらのデータなんざ、もうこっちに腐る程ある筈だしな。』

 

 インベーダー、それはゲッター線を浴びて超微生物が急激に進化した種族。

 黒い不定形の身体で構成されており、生物や機械、果ては星にまで融合して人間以上の進化を果たすバイド染みた存在である。

 しかし、それは本来の「生物」の進化とはかけ離れた「異質」の存在である。

 そのため進化を促すゲッター線からはゲッター線に「寄生」している存在としてその存在を否定されている。

 ゲッター線を生きる糧にしているが、上記の通りゲッター線に否定されているためか自分の限界を超えるゲッター線を摂取すると体が崩壊、壊死してしまう。

 また、融合は食べる事にもなるので、その食欲は無限で永遠に満たされる事が無い。

 インベーダーに寄生・融合された機械はメタルビーストと呼ばれ、有機物質と無機物質がナノレベルで融合し、性質の変化や性能の向上等が起きる。

 そんな存在であるためか、繁殖・進化に成功した宇宙においてはあの「ゲッター・エンペラーとその旗下の艦隊」に対して、「宇宙怪獣を超える勢力を築いて戦争」しているという凄まじい存在である。

 

 「インベーダー。つまり宇宙怪獣並みかそれ以上にヤベー奴じゃねーですかヤダー……。」

 「しっかりしてください。現実は非情で絶望が後から後からやってきますが、まだ被害らしい被害はありません。」

 

 人工胃壁がギチィ!と嫌な音を立てるのを実感して、トレミィは気が遠のいた。

 それを傍らのSfが健気に支えつつ止めなのか励ましなのか微妙な言葉を言う。

 

 『取り敢えず、こっちの索敵範囲内にゃいないようだが、どうする?』

 「試作機で無理する訳にもいきませんが…赤城と一緒に周辺の警戒を。さっきの戦闘で撃ち漏らしが出た可能性がありますので。」

 『よしきた!赤城、索敵頼んだ!』

 『はーい任せてくださーい。』

 

 内心\(^o^)/オワタとか思ってるトレミィを他所に、武蔵とその奥さんであるナノマシン式自動人形「赤城」がG.G.を駆り、改エクセリオンから離れていく。

 

 「あー前途多難過ぎる……。」

 「いつもの事かと。」 

 

 こうして、イデオン再封印作戦は予期せぬハプニングと頭の痛い問題が発生したものの、辛うじて無事に終了した。

 

 

 

 

 




遂にヤベー奴らと遭遇。
ゲッター線研究してるんだから、こんなのが寄ってくるのは当然なんだけどね。
但し真ゲッターを超える戦闘力を持った試作ロボがいるので無理ゲーだけど。

Q インベーダーが地球ごとゲッター線を食らう方法は?
A 太陽系外で戦力を整えて侵攻しましょう。
  ただし銀河中心領域を始め、幾つもの勢力がひしめき合う銀河戦国時代を生き抜く必要があります。
  勢力デカくなり過ぎると危険視されて周辺から攻撃されるぞ!


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第9話 友よさらば

 戦闘終了後、イデオン封印計画は後の事を考えて改められた。

 先ず岩塊だけでなく機体全面に対してナノマシンを散布、戦艦の装甲表面等に用いられる対光学・エネルギー兵器用コーティングを施す事で外部へのエネルギーの漏出を抑え、センサー類で観測される事を防ぐ。

 更に覆い隠すように接着された岩塊を更に二重三重に接着、木星の強大な重力に圧縮された際に完全にイデオンを覆い隠せるように計算して接着する。

 発見される可能性を少しでも低くし、更に見つかってもただの岩塊か何かとスルーされ、もし罷り間違ってそうだと気付かれても高密度に圧縮された岩塊によって掘り出すにはかなりの時間が掛かる。

 その様な工程を経る事2週間。

 漸くイデオン入りの巨大隕石となった岩塊を木星の海へと沈める事に成功した。

 イデオン内部に無人作業機械で設置したビーコンはしっかりと沈み行く伝説巨人の位置を送り続け、遂には海底へ沈んだ事を報告した。

 

 「あのイデオンが最後の一体だとは思えない。」

 「フラグ乙。今後は如何に?」

 「ヴァルチャー隊一個小隊を常に監視に。接触しようとする存在に対しては無警告での撃沈を許可。」

 「了解です。それで、彼らはどうしましょうか?」

 「……見送るしか、ないね。」

 

 武蔵クローンと赤城、そしてゲッター戦艦こと一号艦。

 現在、太陽系で最も多量にゲッター線を保有するゲッター戦艦、その乗り手と妻にして従者。

 ゲッター戦艦は既に修理完了であり、G.G.もまた実戦証明済みとなった。

 だが、ゲッター線研究によりインベーダーが太陽系へと目を向けてしまった。

 今回撃滅に成功したのは、一体太陽系に来た奴らの何%だったのか…。

 今はまだ人類は漸く地球を巣立った若鳥に過ぎない。

 そんな彼らに、彼らに配慮しなければならない自分達にはインベーダーの相手は厳しい。

 だからこそ、ゲッター線研究は入念にエネルギー漏出対策をした上で縮小しなければならない。

 それは無論、ゲッター戦艦にも言える。

 心残りは互いにあるし、情もあるが、それでもそろそろ彼らは戻らねばならない。

 ゲッターと共に、大いなる戦いへと。

 

 「送別会を開きましょう。賢君も呼んで。」

 「はい。せめて笑って別れましょう。」

 

 イデオン封印計画終了から一週間、ゲッター戦艦の諸々の手続きと入念な整備、補給物資その他の積載を終えた後、関係者一同と大宴会をした。

 

 「わははは!飯が美味い!酒が美味い!嫁が可愛い!最高だな!」

 「もー武蔵さんったら本当のこと言ってもおかわりしか出ませんよ~。」

 

 早まったかな???

 大宴会でカオス極まる会場で、トレミィは挨拶回りに訪れたクローン武蔵と赤城のテーブルに来た早々、そんな事を思った。

 いや、嫁入りしたての自動人形とか程度の差はあれど大体こんな感じだったな、うん。

 そして大体が煽ってくるもんだからイラッ★と来たもんだ。

 

 「あ、お母様。ご無沙汰してます。」

 「おぅトレミィの嬢ちゃん!楽しませてもらってるぜ!」

 「二人とも、楽しんでくださってるようで安心しました。」

 

 何せ二人とはもう会えないかもしれない。

 否、高確率でそうなるのだ。

 だからこそ、どうかこの時ばかりは何の憂いもなく楽しんで欲しかった。

 それが10年も一緒で、もう完全に身内だったゲッターパイロットへの、これから旅立つ戦士への感謝の示し方だった。

 

 「赤城も、余り迷惑かけないようにね。貴女の人格面は多少の事でへこたれないように他の子達より頑丈になってる筈だけど、その分自己主張が強くなってるから。」

 「大丈夫ですよ。武蔵さんも、そこが良いって言ってくれましたから!」

 「わー赤城に惚気られる日が来るとは…。」

 「わははは!子供の成長を、親は実感し辛いもんさ!」

 

 お酒が入って上機嫌なクローン武蔵が爆笑する。

 そんな感じで、送別会という名の大宴会は終始大賑わいで過ぎていった。

 

 「さってと。」

 

 宴会が終わり、お偉いさんだからと後片付けさせられる事もないトレミィは今、格納庫に来ていた。

 今、彼女の目の前にあるのは火を落としたG.G.。

 未だ正規のパイロットも、正式な名称も決まっていない、ゲッターにしてバスターマシンであるこの時代の徒花となる存在、技術上の特異点。

 

 「ごめんね。作ったのに、ちゃんと専任のパイロットを用意できなくて。」

 

 彼の中にある量子CPUには歴とした意思がある。

 その最優先事項には「人類と地球並びにそれらと友好的存在の守護」が刻まれている。

 だからこそ、これは必要な事だった。

 斯く在れかしと作りながら、作り手の都合でそれを果たさずに死蔵されようとしているのだから。

 

 「でも、ちゃんと何時か貴方にもパイロットが来るから。何年先になるか分からないけど、それだけは約束するから。」

 

 二基の縮退炉、一組のゲッター炉と増幅装置、そしてメタトロンとサイコ・ナノマシン。

 乗り手次第では無限に戦い進化し続ける、人類の守り手たる鋼の戦士。

 彼が相応しい乗り手と出会うのは、一世紀近い時間が過ぎてからの事となる。

 

 

 この二日後、武蔵クローンと自動人形赤城を乗せたゲッター戦艦はこの宇宙を旅立っていった。

 

 「またな!次は出来れば平和な時代で!」

 「行ってきます!お達者で!」

 「また会いましょう!それまでお元気で!」

 

 こうして、新西暦89年は幕を閉じ、新西暦90年が始まった。

 

 

 ……………

 

 

 「もう猶予は消えました。本格的な艦隊建造に踏み切ります。」

 

 A.I.M.グループ、正確には改エルトリウム級プトレマイオス並び古参自動人形とグループ内で真実を知っている人間のグループ内の重役らによる会議にて。

 何時になく厳めしい雰囲気で、新年度の重役会議は始まった。

 

 「やはり昨年暮れのインベーダーの件ですか…。」

 「報告は聞いています。何千億といる宇宙怪獣に匹敵、或いは凌駕する生命体と。」

 「むぅ…。」

 

 軍備増強による太陽系防衛戦力の拡充。

 必要だと分かってはいるが、一企業グループのする範疇を飛び出ているのは今更だった。

 

 「ですが、具体的にどう動きますか?銀河全体は今、戦国時代なのでしょう?」

 「確かに。我々地球人類が軍備増強をすれば、どこかの勢力が気付き、介入を企むでしょうな。」

 「そのための艦隊建造です。いえ、正確に言えば謀略用と言えばそうなのですが。」

 

 モニターに表示されたのは、一見極普通の宇宙戦艦の姿。

 サイズは1㎞にも満たず、武装も改トンボ級と最小限だ。

 だが、注目すべきはそこではない。

 

 「主機関をアイス・セカンドと相転移エンジンにゲッター炉?加えてワープ機能はエーテル式と通常式の並列搭載?」

 「これは…あ(察し)」

 

 疑問符が飛び交う中、幾人かの察しの良い面々が呆れた顔をした。

 

 「私らが苦労してるんだから、他所の勢力にも頑張ってほしいと思わない?」

 

 トレミィが似合わぬ悪どい笑みを浮かべる。

 要はこの妙な戦艦を用いて、モンスタートレインをやろうと言うのだ。

 

 「この艦を太陽系外部、銀河の各領域へと派遣して大まかな勢力を把握させます。終わり次第、或いは任務続行不可能と判断した際には各機関を暴走、自爆します。」

 「悪辣ですね。太陽系へ出入りする際は通常式のワープで、後はずっとエーテル式にする事で宇宙怪獣を誘導。同様にアイス・セカンドとゲッター炉でインベーダーを誘導する訳ですか。」

 「無論、証拠は残さずに、ね?」

 「だから構造も地球人類のそれと分からぬようにTF基準となっている訳ですか。」

 「あー、巨人族みたいに遺物があっちこっちふらついてる様にしか見えませんね、これ。」

 

 無論、これで終わりな訳がない。

 これは一の矢であり、これで終わっては片手落ち。

 二の矢、三の矢もしっかり用意してある。

 

 「木星の遺跡プラントの修復と改造が漸く終わりました。製造可能な艦艇も、この改エルトリウム級を始め、多数建造可能になりました。」

 

 どよ、と会議室の空気が変わる(地球や月、火星の担当もいるのでビデオ通信だが)。

 今まで完全にオーバーテクノロジーであり、修理は兎も角生産ラインで建造するのが無理ゲー過ぎた超大型宇宙戦艦を、遂に安定して建造可能となる。

 これは余りに大きかった。

 まぁ資材量やどう隠して運用するかとか色々別の心配も増えるが。

 

 「加えて、長年の地球外生命体への対応に関する工作について報告です。政府筋の方は未だ芳しくありませんが、ネルガル重工・クリムゾングループ・マオインダストリー・イスルギ重工がこちらとの提携を打診しています。」

 「今まで散々融資してきた割には遅いな。」

 「まぁ彼らも木星圏のバブルが無事終息したかを見計らっていたのでしょう。」

 

 木星圏のバブルは、辛うじて破裂する事なく終息を迎え、経済は落ち着きを見せ始めた。

 これまでの様な大型輸送艦の建造は減少するだろうが、地球・月・火星・木星・各ラグランジュポイントのコロニーが結ばれて生まれた太陽系の大商業圏全体はまだまだ開発途上であり、雇用はマイナスどころか常に上向きである。

 大型艦艇についても常に整備や保守点検は必要不可欠であり、損傷した部位は修理できねばブロックごと取り換えたりと、決して需要が消える事はない。

 

 「アナハイムがいないのは少し気になりますが…。」

 「あそこは民需優先ですからね。地球圏では我々を除いて第一位ですから、おいそれと動けないのかと。」

 「まぁこれまで通りという事で。」

 「他の企業は…まぁ今まで通り、ここで食い付かないと置いてかれるという恐怖でしょうな。」

 

 事実、こうしたA.I.M.の技術提供を拒んだ企業の多くは、時代の波に飲まれて消えていった。

 アナハイムも民需優先とは言え、技術提供に関しては受け入れている。

 が、異星人由来の技術という眉唾ものとなると、今回は流石に及び腰になってしまった。

 

 「彼らには今後どうするべきか、皆は何か意見ありますか?」

 

 こうして、以降の太陽系全体に大影響を与えるA.I.M.の重役会議は進むのだった。

 

 

 



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第10話 今日も銀河は地獄です

大体の宇宙での登場勢力決定。
…地獄やな!


 新西暦100年代は、木星開発景気と並んで地球人類にとって正に黄金期とも言える時代だった。

 

 この時代、次世代のエネルギーとして「エーテル」を用いた全く新概念の機関が生まれ、それまでの核融合炉とは比べ物にならないエネルギーを人類は手に入れた。

 これに匹敵するエネルギーは火星にて発掘されたメタトロンしか無いのだが、生憎とこちらには精神汚染という悪質な特徴があり、どう考えても民需・軍需共に利用するには危険が伴うものだった。

 高度に無人化された発電施設、又は隔離された研究用の量子コンピューターとしての利用が殆どで、精神汚染対策が出来上がる新西暦180年代まで兵器に使用される事は発見直後の実験時以外に無かった(表向きは)。

 このエーテルを用いた炉心により、それまで以上に多量のエネルギーを手に入れた人類は、更なる飛躍を目指した。

 

 具体的には、太陽系の内外両方へと拡大する事を選んだのだ。

 

 これには勿論理由がある。

 自然環境保護のための地球の移民政策、それがまた必要になってきたのだ。

 それは当然だろう。

 好景気に当てられて、太陽系の多くのご家庭で産めや増やせや地に満ちよ(オブラート)したためか、当初の予定以上に宇宙移民したのに、更に人口が増えちゃったのだから。

 各ラグランジュポイントに設置されたコロニー群は現在も追加で建造中であり、一つのサイド毎に約10億人が居住し、現在も増加傾向にある。

 そして、現在サイドは7つまである事から、そこにいる人口は約70億人となる。

 更にテラフォーミングの終わった火星に関しては、環境に配慮すれば20億人、多少無理すれば25億人になる。

 最後に新西暦の中東とか言われる程に各勢力の暗闘と富が飛び交うカオスな木星圏は、その恵まれた環境から普通の移民だけでなく一山当てようという山師や脛に傷のある者、各勢力の紐付きに木星公社の社員、そしていつものA.I.M.グループの社員に木星駐留艦隊(最近では専ら木星の重力圏に捕まった民間船の救助やデブリの破壊がお仕事)等、既に30億近い人口が定住し、更に増加傾向にあった。

 こうしてやっとこさ地球の人口が100億を切ったのだが、前述した通りに人口がまた増加傾向になってしまったため、対策を講じる必要が出てきたのだ。

 これにはA.I.M.グループの最高権力者も苦笑いしたとか。

 で、そのためにも更なるフロンティアが求められ、連邦政府は惑星開拓に関しては何処よりも経験豊富なA.I.M.グループに声を掛けたのだが…

 

 「申し訳ありません。現在我がグループは巨大な木星圏開発に手一杯でして、他に注力する余裕がありません。金星向けのテラフォーミング用ナノマシンでしたら、比較的直ぐにご用意できますが…。」

 

 という回答が来て、地球連邦政府は俄かに慌てた。

 まぁそれが普通なのだが。

 単一の企業グループにコロニー建設から木星圏の開発まで手広く多重にこなせる方がおかしいのだ。

 無論、これは仕込みである。

 現在の太陽系は安全だが、外宇宙の情勢次第では太陽系外縁部は何時戦争になるか分かったものではない。

 それに加えて、ここいらで「A.I.M.グループ無しに人類が何処までやれるか」を測り、足りないようならその地力を底上げする必要があると判断したのもある。

 

 そうして始まったのは、土星・金星双方への探査船団の派遣だった。

 

 この探査船団に関しては地球連邦政府主催でコンペが開かれる事となった。

 アナハイムを筆頭にA.I.M.グループを除いた太陽系の大企業やグループが挙って参加したこの一大コンペは、この当時の各社の技術力を示す見本市ともなり、A.I.M.グループも参加こそしなかったものの大いに注目する結果となった。

 最終的にはアナハイム社製が通る形となったものの、全社に今後の開発に関して支援金が出る程度にはどれも意欲的な設計かつ高い性能を持っていたからだ。

 特にネルガル重工並びイスルギ重工に関しては簡易的かつ初歩も初歩だが重力操作技術が使用されており、今後の宇宙開発に更なる弾みを持たせる事が期待されている。

 この探査船団は二つ編成され、慣熟航海を終えた後に金星と土星双方へと派遣され、資源の実地探査を行う事となる。

 なお、金星派遣組はその内部に金星向けに調整された大量のテラフォーミング用ナノマシンを抱えており、探査終了後に散布する予定だ。

 この探査船団は想定内のアクシデントが発生したものの、計画通り探査を終了し、後の太陽系開発を加速させていく事となる。

 

 

 ……………

 

 

 翻って、太陽系外に目を向けよう。

 時は正に銀河大戦国時代といった様相だった。

 大小様々な勢力が入り乱れ、主義主張も種族も特性もバラバラな彼らは互いに争い合い、殺し合い、潰し合い、銀河全体を蠱毒の壺として生存競争を繰り広げていた。

 そして、地球側にとってそれは好ましい事態だった。

 彼らが戦えば戦う程、消耗すれば消耗する程に太陽系は相対的に平和になるからだ。

 なので、彼らの争いを助長する事をトレミィは選んだ。

 

 「分断して統治せよ。昔の人は良い事を言ったもんです。」

 「それ言った奴の国、地球全土に火種振り撒いた後没落しましたが。」

 

 そんな訳で、無人外宇宙調査用航宙艦「回天」型300隻が太陽系外に向けてワープ、銀河各宙域にて情報収集を開始した。

 そして、分かった事は本当に驚く程にこの銀河系が多種多様な勢力に溢れているという事だった。

 惑星を出て、星間国家となった勢力だけでも確認できただけで優に50を超え、滅亡或いは侵略・合併された勢力に関しては最早数え切れない程。

 もし本国艦隊がいれば、それこそ血眼になっていつもの情報収集を開始する様な情報の宝庫だった。

 しかし、そんな多様な勢力群も5つに大別できる。

 

 1、ゼバルマリィ帝国…霊帝による専制政治制だが、実態は各星系の軍事の長による合議制。

 2、共和連合…複数の星系国家から成る星間国家連合体で、ゲストとインスペクターの所属元。

 3、巨人艦隊…説明不要な所謂野良艦隊。艦隊一つ撃滅しても他所の銀河からおかわりが来る。製造時の階級(戦果で出世あり)による階級社会。

 4、バッフ・クラン(バッフ族)…階級制度による独裁政治。軍事偏重。350万光年範囲で包囲網を敷き、更にその内100万光年範囲は目視出来る状態での密集陣形を取れる馬鹿みたいな物量持ち。知的生命体では最大の物量・軍事力持ち。

 5、宇宙怪獣…宇宙のバクテリアにしてスカベンジャー。説明不要。

 6、インベーダー…ゲッター線に寄生する生命体。何でも食って取り込んで強くなる。

 7、ギシン銀河帝国…ズール皇帝による独裁。多数の侵略先の戦力を取り込んでる。

 

 単一惑星か数個程度の弱小勢力を除いた場合の大勢力がこいつらである(白目)。

 なお、物量に関しては宇宙怪獣をトップに、インベーダー、バッフ・クラン、巨人艦隊、ゼバルマリィ帝国、ギシン銀河帝国、共和連合となる。

 逆に単一戦力の質で見るとゼバルマリィ帝国とギシン銀河帝国の二つを同格として、宇宙怪獣、バッフ・クラン、インベーダー、共和連合、巨人艦隊となる。

 このどれもが銀河統一を成し遂げても不思議ではない技術と軍事力、物量を持っている。

 なお、この中で共和連合が少々格落ちな印象だが、彼らだって地球に比べると米帝様と日本帝国以上に国力に差があるので十二分にヤバい。

 質の上位二強はトップにいる連中がやば過ぎるからである。

 ズール皇帝と霊帝(影武者じゃない方)とか絶対敵にしたくない出鱈目である。

 因みにヤバさで言えば三重連太陽系を再生中のソール11遊星主もいるのだが、外へ侵略はしていないので選外になりました(白目)。

 

 「泣きたい…。」

 「涙腺再現されてても、ストレス発散の意味とか殆どありませんがよろしいですか?」

 

 こんな連中がひしめき合い、弱小勢力を滅ぼしたり吸収したり小競り合いしたりと、日夜しのぎを削って銀河の覇権を争っているのがこのスパロボ時空である。

 何だこの地獄は…たまげたなぁ…(絶望)。

 

 「で、計画実行します?」

 「今下手に手を出してバランス崩れても困るから、今暫くは情報収集のみで。終わったら位相空間に潜ったりステルスして隠れてもらっとこう。」

 「畏まりました。」

 

 こうして、地球人類にとっては平和な、A.I.M.グループにとっては発狂ものの事態と、対照的な新西暦100年代になるのだった。

 

 

 

 




宇宙のスーパー系は64よろしくズール皇帝が傘下に入れてます。
逆にリアル系の殆どは共和連合に入ってます。

描写されてない独立保ってる勢力はソール11遊星主よろしく極少数でこいつらに対応可能か、外に出てないだけでどうにでもなる物量持ちか、或いはその両方みたいなチート存在のみです。
各スーパー系主人公らの所属する星とか文明は滅亡or吸収済みです。
なお、プロトデビルンとかはまだ復活してないゾ。


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第11話 疫病と将来のフラグ

長くなり過ぎちゃった…
でも分割するにも中途半端なのでこのまま投稿。


 地球人類の黄金期、太陽系の開拓期は新西暦130年代まで続いた。

 

 金星、そして土星。

 どちらも火星や木星に匹敵する資源地帯であり、移住先だから。

 地球人類はそれまで無かった豊富な資源とエネルギー、優れた技術と人材を増え続ける人口に衣食住を与えるため、地球の自然環境回復のために全力で使用した。

 人類史上かつてない繁栄。

 しかし、それは唐突に終わりを告げた。

 有史以来幾度もあったパンデミック。

 S2型インフルエンザの大流行である。

 

 旧中華地域を発生源として地球全土へと流行したこの新型のインフルエンザは従来型のワクチンでは殆ど効果がなく、地球連邦政府の非常事態宣言と迅速な行動にも関わらず、一部初動の遅れたコロニー側にすら感染者・死亡者が出る事態となった。

 当時90億人だった地球人類の内、1億人が感染し、最終的に20万人を超える死亡者を出す大惨事となった。

 この事態に対し、A.I.M.グループは対ウイルス用医療ナノマシンを世界で初めて実用化、一か月の臨床試験の後、地球連邦政府の許可の上、異例の速さで認可された。

 これを地球連邦政府は一括で購入した後、地球並び感染者が出たコロニーに無償で配布した事で、事態は漸く沈静化を見せた。

 パンデミックが終息を見たのは2年後、被害者への補償等の問題が解決したのは更に1年後の事だった。

 

 そして、この事態の後からが本格的な混乱の始まりだった。

 パンデミック終息後、地球連邦政府は事態の解決に多くのリソースを割いてしまったため、太陽系開発が大幅に停滞する事となる。

 更に今後この様な事態にならぬための対策について、連邦政府内でも大いに意見が別れ、荒れる事となる。

 A.I.M.グループは得意とするナノマシンによる更なる医療分野への躍進(それまでは医療では殆どの地域で認可されていなかった)を提案し、製薬業界からは多様な新型ワクチン・予防薬の開発が提案されたが、そうした多くの意見の中で一際異彩を放っていたのが「遺伝子調整による免疫機能の強化」である。

 前者二つは兎も角、遺伝子操作に関しては倫理的に問題ありとして紛糾し、とてもではないが認可が下りるとは思われなかった。

 これに対して研究者らは何を考えたのか、医療以外を目的とし始めたのだ。

 

 「免疫強化だけじゃ認可下りない?んじゃそれ以外の能力も上げれれば許可下りるでしょ!」

 

 これに対し、各方面から反対の声が上がり、A.I.M.グループからも「新たな人種差別の原因となる」として反対の声が上がった。

 だが、不断の努力でこれを実用段階まで持っていった企業側はこれに反対、連邦政府に対して大規模な政治工作を仕掛け、遂には臨床試験にまで持ち込んだ。

 この臨床試験が曲者で、試験参加者の上限が設定されていなかったのだ。

 患者側からの要望次第で遺伝子調整の範囲並びに内容を決定、優れた能力と容姿を持って生まれてくる事がお金次第で可能になる。

 我が子に優れた能力と美しい容姿をあげたいとは、親なら誰もが一度は思う事。

 未だ臨床試験段階と言えど、裕福な家からはそれなり以上の参加者が出た。

 しかも、内政に関しては自治が進んでいた地球の外、コロニー側でも行う者が出始めた。

 この遺伝子操作はS2型インフルエンザにトラウマを持つ多くの地球在住の富裕層の中でも既存医療やナノマシンへ忌避感を持つ者を中心に歓迎され、倫理的な問題を孕みながらも行われ続け、ノウハウの蓄積と技術的成熟が成されていった。

 が、初期の頃は技術的に未成熟であり、多くの悲劇が生まれ、更には当局に隠れて非人道的な実験を行う者すら出始めた。

 しかし、遺伝疾患の治療に関してはこれを契機にノウハウが蓄積されたために劇的に改善した事もあり、決して負の側面ばかりではなかった事を言っておく。

 だが、余りに倫理的に問題があるという世論の高まりから、地球連邦政府は漸く重い腰を上げた。

 

 遺伝疾患等の治療を除いた目的の遺伝子操作、これを全面的に禁止した。

 ここにガンダムSEEDにおけるトリノ議定書、即ち遺伝子改変禁止に関する協定等が採択されたのだった。

 

 この禁止措置は遺伝子調整が広まってから2年後に行われた。

 しかし、その技術は太陽系全土に広まっており、完全な規制は不可能と言って良かった。

 それでも表向き、遺伝子調整を医療目的以外に使用される事はなくなった。

 念のため、通常の遺伝子治療を受けた者には政府からIDが配られ、遺伝調整者とは区別された。

 しかし、肝心の遺伝子調整者への対処は差別や迫害に至る可能性があるとして見送られた。

 これがやはりというか、大問題になった。

 後の調査で発覚したのだが、規制にまで2年あったため、富裕層(の中でも比較的新興の層)を中心に1億人近い人間が遺伝子操作を受けていた。

 この10年後から始まるのは、遺伝子操作に手を出した者と手を出さなかった者との格差だ。

 無論、マジモンの天才とか天災にはそんなん関係なかったのだが、気にする者はとことん気にした。

 

 そして発生したのは、予想通りの非調整者による遺伝子調整者コーディネーター達への迫害だった。

 

 何せ彼らは齢10となる前に難解な数式や化学式を理解し、分りやすく優秀さを示したのだ。

 しかもそれを隠す事もなく、その多くはまるで誇示するかの様に。

 そうなれば、当たり前の様に迫害が発生した。

 それは政府広報や警察側の巡回程度では留まる事を知らず、一部では暴動となり、更には無関係な一般市民や通常の遺伝治療をした者にすら被害が出始めた。

 この事態に対して地球連邦政府は暴動の鎮圧並びに遺伝子調整者とその家族を新型コロニーへ避難させ始めた。

 この避難は希望者のみであり、生まれ育った地球やコロニーに残留した者もいたが、遺伝子調整者と分かっている者とその家族の多くが悲惨な末路を辿る事となり、バレていない者は目立たぬように注意を払いながら暮らす事となる。

 有力者の身内で匿われた者も僅かながらいたが、その存在はスキャンダルになるとして隠された。

 多くのコーディネーターは新型コロニーへと移住し、そこで連邦政府の厳重な監視下で暮らす事となる。

 これは彼らの身の安全のためだったが、彼らコーディネーターからは自分達を抑圧する者としか見られず、両者の間の無理解は更に広がっていった。

 事態が沈静化し、対コーディネーター過激派は取り敢えず沈静化したものの、密かに自然保護団体ブルーコスモスを設立し、反遺伝子調整・コーディネーター排斥のための行動を続けていく。

 火種は燻ったまま、コーディネーターらは与えられた新型コロニーにて監視も緩和され、自治を許された。

 彼らの存在は第一世代とされ、その高い能力を示し、第一世代同士の子供である第二世代もそれは変わらなかった。

 新型のコロニーはその後工業用として増産、高精度の工業製品を生産して利益を上げ、居住者の生活は軌道に乗っていった。

 更に居住性の高い完全新規設計のコロニー、プラント型を開発、多くのコーディネーターが居住した。

 だが、第三世代になると調整され、通常の人類から乖離した遺伝子同士では受精・着床にまで至らない、異種と判断されて子供が出来ない事例が多発するという致命的な問題が発覚した。

 これを解決するために誕生時の遺伝子から適合性を見出しての婚姻統制を始め、更なる遺伝子調整によって乗り切ろうとしたが、解決の目途は立っていない。

 この問題に対してはA.I.M.グループから技術協力の提案もあったが、自治政府は「ナチュラル(非調整者への蔑称)の手は借りん」として断られた。

 A.I.M.グループの正体や人類全体の地道な強化措置等の内実を知る者からすれば噴飯物なのだが、それは兎も角。

 こうした解決の困難な問題に対し、プラント自治政府は歴史上多くの権力者が行ってきた実にナチュラル的な手法で乗り切ろうとした。

 

 即ち、外に敵を作り、一致団結を促したのだ。

 

 彼らコーディネーターにとってプラントこそが天国であり、楽園である。

 そこにある問題は外から、つまりナチュラルが原因であり、奴らは敵である。

 この思想とも言えないコーディネーター優越論はプラント内でのみ広まり、第三世代においては殆ど常識として語られるようになり、後の大惨事へと繋がる事となる。

 

 

 ……………

 

 

 翻ってA.I.M.グループだが、一連の事件に対しては殆ど政治的な関与はしなかった。

 やった事と言えば、精々が秘匿していた医療用ナノマシンを公開した事位だ。

 何せ下手に介入し、遺伝子調整に関して色々やってしまったら、後のブルーコスモスに自分達が生体式自動人形を用いて行った人類の地力底上げのためにゆっくりと行ってきた遺伝子調整(勿論そう簡単にバレる様なやり方ではなかったが)がバレるかも知れないと判断したからだ。

 人類の技術は日進月歩、油断は出来ない故に。

 

 それは兎も角として、彼女らは太陽系開拓において、新たな作業用機械を発表した。

 その名もアーハン。

 球体状の待機形態から、人型の稼働形態へと変形するという今までにない特徴を有した多目的機動外骨格である。

 その癖に操縦系は従来のスペースポッドを下地にしたもので、スペースポッド乗りなら比較的短期間の機種転換訓練で操縦可能となる。

 動力はバッテリー式だが、A.I.M.グループの高い技術力のためか、同時代の一般的な船外作業用スペースポッドよりもあらゆる面で高性能・高精度・長時間稼働を可能にしている。

 その分、お値段に関しては3倍近い数字になっているが、多数のオプションを持ち、使う環境を選ばない程の汎用性・信頼性を持つ。

 例えば、球体状態から腕部のみを展開してスペースポッドとして、高重力・圧力下でも球体状態で移動手段として、無重力空間ならAMBACを生かして稼働形態と、1G下なら歩行もスラスターを吹かして飛行も可能と、宇宙だろうが重力下だろうが水中だろうが大気圏だろうが使用できる。

 更にオプションは作業用だけでなく、地球連邦共通規格の各種兵装も装備可能になっている。

 ビーム・レーザー兵器等は追加のバッテリーが無いと稼働時間を削るが、使用自体は可能である。

 この機体は太陽系開拓が進むにつれ、従来のスペースポッドでは過酷な環境に耐えられないとされたため、新たな作業用機械が求められたからだ。

 各社がこれまで以上の頑強さを追求したスペースポットを販売する中、A.I.M.グループのみがこの異常にまで高性能なスペースポットならぬ強化外骨格を提出してきて人々の注目を浚った。

 そのお値段に関しては確かに高く、民間用としては躊躇われたものの、コロニー駐留軍は採用、購入に踏み切った。

 と言うのも、コロニー内ではそれまで主流だった機甲戦力の多くが使用に向かず、航空機も使えない。

 一応戦車や武装車両は火力を落とせば使用できるが、どうしても地球上に比べれば火力・機動力不足だった。

 それ以外は歩兵かパワードスーツに重火器を持たせた程度だった。

 そこに戦車砲以上の威力のエネルギー・レーザー兵器を使用可能かつ場所を選ばず運用可能で、航空支援もできる5m程の強化外骨格が現れた。

 駐留軍はかねてからのコロニー内戦闘においてこうした地上における航空支援を担当できる兵器を求めていたのだが、スラスターを内蔵して多少柔軟に動けるパワードスーツ位しかなかった。

 本当はコロニー向け機甲戦力とか欲しかったのだが、予算がつかなかったので今まで諦めていたのだ。

 なんせずっと平和だったから。

 平和な時代に、軍に余計な予算がつく訳がない。

 幸いにも過剰に減らされる事は無かったが新規開発、それもコロニー内でのみの装備なんて無理な訳で。

 そこに唐突に現れた多用途かつ高機動な強化外骨格(全長約5m)とか、彼らコロニー駐留軍にとっては正に福音だった。

 折しもコーディネーター排斥運動で治安が悪化、一部で暴動すら起こったとなれば、こうしたコロニー内で迅速に動ける戦力はどうしても欲しかったからだ。

 早速上申し、許可が下りると半年の試験運用を経た後に正式採用となった。

 AMPS-01A アーハン

 AMPSはA.I.M.グループ製のモビル・パワード・スーツの略である。

 初期型のA型、民間向けのB型、軍用のC型、そして後にアビオニクスの更新や新型バッテリーへの交換を行ったC2型と、多数のバリエーションや各種オプション装備型が存在する。

 その汎用性からMS登場以降もコロニー内の手頃な機動戦力にして高級作業用機として長く愛用されていく事となる。

 後に後継機のAMPS-02 アーハンⅡが登場すると、全機がこれに更新されたが、アーハンはその後もコロニー自治体の警備用として払い下げられ、50年以上に渡って使用され続けたベストセラー機となる。

 だが、アーハンの歴史上最大の役目はそこではない。

 

 機動外骨格を操縦するためのOSや蓄積された運用・稼働データ。

 今までにない人体に酷似した作業機械・軍事兵器としての性質は、後のMSや各種特機等の人型兵器を運用するための下地となったのだ。

 

 地球圏の他の勢力がMS登場前後に大急ぎで開発に着手し、積み重ねてきたデータを、A.I.M.グループは誰よりも早く、長く積み重ね続けていたのだ。

 このデータは後に各種ロボットの開発のための基礎となり、アーハンの存在はロボット工学上の歴史に大きくその名を刻む事となる。

 

 「ま、実際は今後の言い訳のためと連邦軍にロボット兵器に慣れてもらうための実質練習機なんだけどね。」

 「台無しですね。」

 

 いきなり脈絡もなく巨大ロボットでござい!と言っても受け入れられないし、どうやって開発した!?と突っ込みを貰ってしまうだろう。

 アーハンはそれを回避するためのものだった。

 

 「まぁちょっと奮発しちゃったけど。」

 「小さ過ぎて発展の余地が余りありませんけどね。」

 「ナノマシン式じゃないとどうしてもねー。」

 「しかし、これで連邦軍はヒト型兵器への偏見も消えました。」

 「地上でも戦車相手に平野で余裕で勝利したしねぇ。」

 

 最新鋭ジェット戦闘機に準ずる速度で戦闘機動を取り、戦車よりも強力な武装を持っているんだから当然である。

 

 「しかし採用してくれたのはコロニー駐留軍のみですか。」

 「高性能でも戦乱の時期じゃないし、地上なら普通の機甲戦力や航空戦力使えるからねー。」

 「当初の目的は達成しましたし、今回はこれで良しとしましょう。」

 

 こんな感じで新西暦130年代は過ぎ去っていくのだった。

 

 

 



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第12話 ジオン建国

今回は短めで。
次は一年戦争前夜位かな。


 新西暦140年代から150年代は、嵐の様だった。

 

 景気こそ何とかS2インフルエンザ以前の様相を取り戻したものの、その後の遺伝子調整にまつわるコーディネーター迫害により、地球圏の治安は乱れた。

 幸いにも地球上の暴動並び紛争に対しては、今まで蓄積してきたノウハウや戦術、多数の航空戦力の投入により早期に鎮圧されたものの、コロニーという閉鎖かつ一つの事故が1万人以上の市民の生活を危険に晒す特殊な環境での戦闘は経験・ノウハウの蓄積が少なく、鎮圧は地球上に比べて長引く結果となってしまった。

 この結果を受け、今まで脆弱と言っても良かったコロニー駐留軍は先に発表されたAMPS-01 アーハンを始めとしてその戦力の質的向上・規模拡大へと踏み込み、人類史上初となる大規模宇宙艦隊整備計画が実行される事となる。

 こうして生まれたのがサラミス級宇宙巡洋艦とレパント級宇宙駆逐艦であり、それらを統率するために高度な指揮管制能力と艦砲射撃能力を持ったマゼラン級宇宙戦艦が生まれた。

 これらの設計・開発・生産は全て地球連邦軍直轄の軍事工廠で行われており、徹底的な情報の秘匿が行われ、各企業群は関わる事が出来なかった。

 但し、艦載機に限っては各企業のコンペとなり、熾烈な争いの果てに最終的に既存機よりも高性能かつ信頼性の高いハービック社製のセイバーフィッシュが採用された。

 艦載機運用は頑丈かつ単純な構造の軍用輸送艦として開発されていたコロンブス級輸送艦を改装した改コロンブス級空母にて運用された。

 宇宙開発のために培った高性能なレーダー・センサー群と連携した大型艦載メガ粒子砲やミサイルと連動した統制射撃は外宇宙から飛来する隕石やデブリ迎撃にて実戦証明され、その性能を遺憾なく発揮した。

 これに対し、コロニー側の独立派・過激派は地球連邦政府の弾圧の象徴として忌々しさを露わにし、反地球連邦の感情を助長する結果となってしまった。

 新西暦140年代から160年代、それはコロニー側に反地球連邦感情を芽生えさせ、育ませてしまった時代だった。

 無論、全てのコロニー住民がそうだった訳ではない。

 コロニー内の事は殆ど自治体に任せられ、完全循環型コロニーの存在で水・空気税も課せられず、景気は一時落ち込んだが、現在は回復している。

 そして宇宙空間は兎も角、コロニー内に限って言えばアーハンの存在により、例えまた暴動が起きても十分治安を維持できる戦力があった。

 問題が深刻化したのは、コロニー住民に独立を熱心に説いた人物がいたからだ。

 しかも頭に「カルト的人気を持った」と付く類の。

 

 彼の名はジオン・ズム・ダイクン。

 

 ジオニズム思想の提唱者にして強烈な選民思想を抱いた扇動者、そして公式には初のニュータイプ思想を唱えた人物として歴史にその名を刻まれた男。

 知る者から言わせれば「よりにもよってTHE ORIGIN仕様かよ」と言われる人物である。

 つまりタカ派で極右派で超過激派なのである。

 味方であり盟友でもあったデギン・ソド・ザビよりも遥かに。

 事実新西暦153年、サイド3の首相に選出された後もその路線は変わらず、新西暦158年には突然地球連邦政府からの独立を宣言、ジオン共和国の樹立と設立を宣言した。

 これには地球連邦政府のみならず、各サイド並び各惑星圏からも驚愕され、波紋を呼んだ。

 これに対しては地球連邦政府は宇宙軍の更なる拡大と枯渇した資源採掘用小惑星基地を軍事基地化する事で返答とした。

 返す刀でジオン共和国はミノフスキー博士を筆頭とした熱核融合炉の開発に踏み切り、軍備増強に邁進していく事となる。

 しかも、地球連邦政府から独立した事で、A.I.M.グループ所有の完全循環型コロニーから供給される清浄な水・空気の安定供給を受けられなくなり、生活用の水・空気のコストが急騰、水・空気税が課される事態となり、ジオン側はこれを地球連邦政府の謀略だとして国民の一致団結を叫び、敵意を地球連邦へと向けさせだ。

 なおこの当時、A.I.M.グループは公共事業として地球連邦政府からの受注を受けて水・空気の浄化処理を請け負っていただけで、再契約の交渉時にジオン側と値段交渉で合意できなかったのでこの事態になったのだと明記しておく。

 そんな訳で、宇宙における緊張感は日増しに強くなっていった。

 

 そんな状態だったので、新西暦160年代は、正に戦争準備期間という有様だった。

 ジオンと地球連邦は互いに軍備増強を続けていたが、それでもまだ戦争にはならないのでは、という意見もあった。

 しかし新西暦165年、これまで自治の範囲は内政のみだったコロニーの権利拡大を認める自治権整備法案が棄却された事で、導火線に火が付いた。

 最早地球連邦とジオンの間ではどうしようもない隔意と敵意が生まれていた。

 そして新西暦168年、ジオン・ズム・ダイクンが死亡した事によって、事態は更に動いていく。

 何と翌年の新西暦169年、ジオン共和国はジオン公国へと改められ、初代公王にデギン元首相が就いた。

 これにより所謂ダイクン派が失脚する等、政治的混乱が発生するものの、ジオン側はミノフスキー粒子技術を用いて更に軍備増強を推し進めていく事となる。

 

 

 ……………

 

 

 さて、どうしてこの時期の一コロニー群であるサイド3がここまで軍備拡張できたのか、疑問に思っている者もいただろう。

 その解答に実に簡単、技術力を持った者達から援助があったのだ。

 その名をプラント、ジオン以上に選民思想を拗らせたコーディネーター達だ。

 彼らもジオンも共にコロニーに居住する身だが、互いに選民思想を持った者達であり、普通の地球連邦所属のコロニー住民達からは無法者扱いされている。

 しかし、他のコロニーよりも高い工業生産力・技術力を持っていた。

 とは言え、プラント側はジオン側に立って参戦する予定は無かったし、ジオンも期待していなかった。

 互いに相手を否定する選民思想を打ち出しているのだから当然だった。

 

 「何故あんな改造人間共と手を取り合わねばならん。ビジネスライクで十分だとも。」

 「野蛮で下等なナチュラルと手を取り合って戦う?有り得んな。」

 

 大体こんな感じだったりする。

 とは言え、限られた資源と時間での軍備増強となれば、目指す方向は似通ってくる。

 こうして誕生したのがMS並びにその効率的運用を前提とした軍備だった。

 しかし、ジオン側はミノフスキー核融合炉に関してはある時期までは秘匿し、プラント側もNジャマーを始め一部技術に関しては秘匿した。

 結局、両者が後に一年戦争と言われる時代に共同戦線を構築する事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第13話 戦争前夜

感想欄で色んな意見見てたら筆が進んだ。

流石に一日に二話は無理だったかー。


 新西暦170年代に入り、遂に地球連邦首脳部はジオン公国との開戦も止むを得ないとの判断を下した。

 

 それに伴い緊急予算案を可決、以前から続けていた宇宙軍艦艇の増産を追加で決定し、更にはセイバーフィッシュのみならず新型航宙戦闘機の配備を決定した。

 その名をストライクスーツ・ゼロ。

 ご存じA.I.M.グループ設計・開発の最新鋭機である。

 ストライクスーツ・ゼロは通常は左右の双発ブースターユニット二基と機体本体の双発のブースターを主推進機関とした機体で、その出力・推力重量比はセイバーフィッシュと比して倍以上を誇る。

 更に驚きなのが簡易的でマニュピレーターもないが、四肢を持った人型形態へと変形する。

 その変形機構は単純で、武器を内蔵した腕部は折り畳み、下半身は後方へ向けて各部をロックするだけ。

 既に人型兵器を開発・生産・運用する実績を持つA.I.M.グループらしい特異な機体だ。

 戦闘機形態では機動性、特に加速性能と航続距離に優れ、人型なら戦闘機では出来ないAMBACや旋回、全方位への柔軟な攻撃を可能としており、変形機構自体も単純な事から僅か1秒未満で完了できる。

 セイバーフィッシュより一回り大きいサイズでありながら、最小旋回範囲はどの形態でもセイバーフィッシュよりも小さく早い。

 これはブースターユニットと脚部をそれぞれ可動できるがためのもので、ジャミングのない万全の状態であろうとも純粋な機動性でセイバーフィッシュのミサイル全弾発射を幾度も回避し切った。

 更に、コンペ中に行われた対艦戦を想定した模擬戦ではゼロ三機でマゼラン級1隻、サラミス級3隻の小艦隊を被撃墜無しで全艦撃沈した(他の機種では20機で漸くだった)。

 基本武装は腕部内臓式のレーザー砲×2、機首の60mm連装機関砲、ブースターユニット内臓の5連装多目的誘導ミサイル×4となっている。

 オプションで対艦ミサイル4発、7連装ロケット弾ポッドを追加、腕部レーザー砲を75mmレールガンまたは100mm機関砲に換装できる。

 尚、この機体の採用・配備に関しては大揉めした。

 ゼロのオプション含むコストはセイバーフィッシュの3倍を超え、整備性もまたその構造の複雑さ(セイバーフィッシュに比して)から時間がかかるという欠点があった。

 既に運用実績を十分に積み、信頼性も高いセイバーフィッシュの高性能化の方が良いと現場や開発元のハービック社から意見が上がったのだ。

 

 「なら実際に試しましょう?」

 

 偉い人からの声で、セイバーフィッシュの改修型とのコンペ開催が決まった。

 これには更にイスルギ重工製のYF-32シュヴェールトの空間戦闘仕様も参加した。

 しかし結果は残酷なもので、ストライクスーツと他二機種のキルレシオは1:200を記録、戦闘データの蓄積で1:150まで改善されたものの、それでも歴然とした差だった。

 なお、宇宙空間におけるシュヴェールトとセイバーフィッシュのキルレシオは2:3だったが、逆に大気圏内では逆転している。

 こうして、ストライクスーツ・ゼロはその圧倒的な性能差で採用を勝ち取った。

 しかし、そのコストとセイバーフィッシュの良好な性能からあくまで少数生産、ハイローミックスのハイとなるのだった。

 本格的に宇宙で配備され始めたのは77年からで、それから一年戦争終了までゼロはジオン軍MSへと対抗できる数少ない機動兵器の一つとして運用され続けた。

 後にその構造からミノフスキー式核融合炉を搭載するには内部スペースがない事からレーザー兵器の出力も低く、またより低コストなMSの配備が本格化していくと、徐々にその数を減らしていく事となる。

 だが、ゼロのデータはその後のMS運用や各種可変MS・VFの開発・運用へと生かされ、後継機こそ作られなかったもののその系譜を繋いでいく事となる。

 

 そして、地球とコロニー間の輸送事故が不自然な程に頻発するにつれ、地球連邦政府は宇宙艦隊のみならずコロニー駐留部隊を増員していく。

 遂には新西暦178年、月面においてジオンからの亡命科学者(ミノフスキー博士の弟子)を保護しようとする連邦軍MS試験運用部隊と亡命科学者を排除せんとするジオン側のMS部隊が非公式ながら交戦、連邦軍MS部隊が惨敗を喫した。

 幸いにもパトロール中に駆け付けたストライクスーツ・ゼロの活躍により部隊の消滅こそ免れたものの、MS関連技術と運用ノウハウ、個々の操縦技術の圧倒的な差に連邦軍は大きな衝撃を受けた(後に連邦はスミス海の戦い・ジオンは雨の海海戦と呼称)。

 これを受け、連邦軍は対ジオンを目的としたRX計画を始動、これには新機軸のMS開発も含まれていた。

 更にRX計画にて開発したMSを運用するための新型宇宙空母の開発・配備計画であるV作戦も連動して始動する。

 

 時は新西暦179年、遂にジオンと連邦の戦争が始まろうとしていた。

 

 

 ……………

 

 

 ミノフスキー粒子、そしてNジャマー。

 

 後の太陽系において混乱の主な原因となったこの二つには、共通の特徴があった。

 Nジャマーは核分裂を抑止し、その副作用として電波の伝達が阻害されるため、それを利用した長距離通信は使用不可能となり、レーダーも撹乱される。

 ミノフスキー粒子はマイクロ波から超長波までの電磁波を最大で99%減衰させる性質があり、常導電性物質を透過するという性質により電子回路の機能障害を起こす効果を持ち、それを利用して核融合炉のプラズマの安定や放射線の遮断を行っている。

 この二つを併用した場合、現状の人類の誘導兵器やレーダー・センサー群の殆どを無力化できる。

 また、対策の施されていない太陽系地球人類の用いる多くの発電・送電システムを無効化する。

 前者は兎も角、後者に対しては疑問符がつく事だろう。

 エーテル機関やメタトロンによるエネルギー生産施設。

 通常の核融合炉よりも、それこそ桁が二つや三つ異なる程に膨大なエネルギーを生産する事が可能なそれらがあるのではないか、と。

 

 実はこの二つ、地球連邦軍の軍事艦艇には使用されていなかったのだ。

 

 エーテル機関においては未だ小型化が可能になっておらず、大気圏内においては実用的な出力が出せない。

 また、暴走時の被害もそのエネルギー量からこれまでの原子力発電所等の比ではないため(比喩抜きで島国等は地図から消える)、この当時は専ら1km以上の超大型の宇宙用艦艇専用(大抵は木星航路向けの超大型輸送船)となっていた。

 そしてメタトロンはその精神汚染の詳細が明らかになるにつれてその使用に忌避感が多く、また対策も難しいため、軍民共に使用が難しく、どうしても無人の施設でしか使用できないでいた。

 罷り間違ってエネルギー生産施設で自爆テロとか、軍艦で暴走とかされたくはないから仕方ない。

 

 とは言え、ミノフスキー粒子とNジャマー。

 これらを併用してジオンとプラントが想定する有視界戦闘に持ち込んだとしても、勝ち目は薄い。

 それだけ地球連邦宇宙軍は大勢であり、十分に訓練された職業軍人は例えパートタイマー軍人だろうと、腕っ節は兎も角それ以外では素人同然の者が多い両者に対して圧倒的有利だった。

 では、何故地球連邦軍は緒戦において圧倒的不利だったのか?

 それは彼らがコロニー防衛のためにその総戦力の実に4割近くを分散させねばならなかったからだ。

 地球圏の各ラグランジュポイントのコロニーではジオン・プラントの扱いは乱暴者、無法者、選民思想を拗らせた連中と多くがマイナスの印象であり、味方は殆どいないと言って良かった。

 

 なら、地球圏に存在する殆どのコロニーは敵であると、彼らは判断した。

 

 この当時、地球圏にあるコロニーの多くは建造当時では最新の核分裂炉を使用したものが殆どで、その多くが未だ耐用年数を超えていないからと現役で運用されていたのだ。

 勿論、電磁パルス対策等はしていたが、当時未発見だったミノフスキー粒子や新開発のNジャマーへ対策している訳もなかった。

 エネルギーを得られず、多くの電子機器も使えず、途方に暮れるコロニーの住民を地球連邦宇宙軍は見捨てる事は出来ず、艦艇の核融合炉から電力を供給して支援する事を選び、多くが戦線に参加する事が出来なくなった。

 その数は最大時には宇宙軍の戦闘艦艇の実に4割にまで達し、緒戦の苦境を招く原因となった。

 なお、こうして足も止まり、無防備になった艦艇を攻撃しようとしたジオン軍だったが、幸いにも新型の航宙戦闘機ストライクスーツ・ゼロの活躍により、効果は限定的なものとなった。

 しかし、こうした戦闘により少なくない数の損害を被った事で、コロニー市民の対ジオン感情は致命的なまでに悪化する事となる。

 こうしたコロニー群は大戦中に急ピッチで大型のエーテル機関へと次々と交換され、エネルギー事情は大幅に改善されていった。

 そして、この大量のエーテル機関の導入により開発に弾みが付き、A.I.M.グループからの技術提供もあってブレイクスルーに成功する。

 遂にはアイス・セカンドを用いた縮退炉の開発・実用化に成功、太陽系はエネルギー問題を恒久的に解決する事となった。

 

 しかし、この極めて膨大なエネルギーはエーテルを用いたワープ航法へと利用され、外宇宙から侵略者を呼び込む原因にもなるのだった。

 

 

 

 

 



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第14話 一年戦争勃発

 「これで良かったの?」

 

 美しい少女の姿をした上位種に、この戦争の主導者たる男は普段の彼の様な傲慢さを持たぬ、らしくない覚悟を決めた男の壮絶な笑みで答えた。

 

 「あぁ、これが必要だったのだ。」

 

 二人の出会いは男がまだ学生だった頃の事だった。

 木星からの外交使節団が到着し、父の側でその仕事を見学した後、疲れからか中庭へと抜け出した時の事だった。

 

 『君大丈夫?疲れてるなら飲み物取ってこようか?』

 『いえ、心配には及びません。』

 

 それが子供らしくない少年と、年不相応な無邪気さを持った彼女との出会いだった。

 

 「地球人類には、危機感が足りない。この太陽系の外には、恐るべき外敵が犇めき合い、今この瞬間にも人類を絶滅させかねないのだと、殆どの者が知りもしない。貴女方が死力を尽くして守っているにも関わらず、安穏としているだけだ。」

 

 事実だった。

 上位種の少女は、少年に問われるまま事実を答え、少年は人間離れした知性で彼女の語る事実をしっかり事実として認識した。

 だからこそ、許せなくなった。

 

 「人類は貴女方の揺り籠から巣立たねばならぬ。立ち上がり、大人にならなければならない。これはそのための産みの苦しみだ。」

 

 宇宙怪獣、インベーダー、バッフ・クラン、共和連合、ズール銀河帝国、ゼ・バルマリィ帝国。

 その一つでも本腰を入れれば、今の人類では何も出来ずに滅ぼされるだけだろう。

 

 「『人類に逃げ場無し』。確かにその通り。ならば、この苦しみを以て人類の意識を改革し、この銀河に己が生存域を確立する第一歩を刻む。」

 「それで貴方が史上最悪の汚名を着せられようとも?」

 「無論。事は私一人の名誉など考慮する必要はない程に大きい。」

 

 少女はただただ悲しかった。

 少しでもあの少年が幸福な道を辿れるようにと思って、この関係を続けてきたのに。

 結果は、更に苛烈な地獄へ繋がる断崖絶壁にあの聡明な少年を突き落としてしまった事に。

 

 「さようなら、ギレン君。」

 「えぇ、おさらばですトレミィ殿。」

 

 こうして、歴史に残らぬ二人の関係は人類に明らかにならぬまま、改エルトリウム級プトレマイオスの量子コンピューターの最奥に厳重に保管される事となった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦179年、1月3日。

 遂にジオン公国が地球連邦政府に対して宣戦を布告した。

 直後、地球連邦宇宙軍に対して先制攻撃を仕掛ける。

 この際、地球圏全域に偽装貨物輸送船に搭載されていた初期型Nジャマー(プラント製)により地球圏全域で通信妨害並びに初期型コロニーが核分裂炉含む全機能を停止、連邦軍宇宙艦隊の4割近くが救援活動を余儀なくされる。

 また、月面都市グラナダを電撃的に制圧。

 続いてサイド1・2・4へ奇襲を敢行し、NBC兵器(毒ガス兵器・GGガス)の無差別使用に踏み切った。

 これにはコロニー駐留軍による決死の抵抗により、毒ガスは不発に終わったものの、MSが使用する核弾頭によって少なくない連邦軍艦艇が、ミノフスキー粒子並びにNジャマーによってライフラインを破壊されたコロニーへの救援活動中にコロニーごと撃破された。

 幸いと言うべきか各サイドの自治機能を担当する行政府は攻撃を免れ、サイド3と地球の間に位置するサイド5ルウムは逸早く無防備都市宣言を出す事に成功、辛うじて以降の戦火を免れる事に成功する。

 この後、各サイドのコロニー行政府は同様に無防備都市宣言或いは中立を宣言した。

 が、未だライフライン停止中の多数のコロニーに対しては人道的見地から連邦軍は救助活動を続行した。

 これにより、コロニーへ電力供給・救援活動中の連邦軍艦艇はジオンの攻撃対象から一時外される事となった。

 1月4日、ジオン軍は各コロニー駐留軍を無視し、ブリティッシュ作戦を始動する。

 サイド2へ向け移動中だった新造コロニー(無人)を奪取し、地球に向けて移動を開始。

 1月10日、地球連邦宇宙軍は新造コロニー迎撃作戦を実行、コロニーを防衛するジオン軍とで大規模戦闘が勃発。

 連邦側は艦隊での砲撃並びに地上からの核ミサイルの飽和攻撃を実行したが、奮闘空しく(参加戦力の半数が消滅)コロニーは落下軌道に入る。

 が、その直後に地球外軌道から突入してきた隕石群が命中、コロニーは崩壊、大気圏突入と共にその98%が燃え尽きた。

 隕石群は三つが残り、それぞれアイドネウス南島(南米)・アタリア島(極東)、そして極東地区の行政・経済の中心地たる東京に落着した。

 幸いにもそれらの隕石群による被害はコロニー落下で想定された数値よりも遥かに少ないが、これにより極東地域を中心に太平洋沿岸地域全域で3000万人を超える死者と計算不能な程の経済的損失が発生する事となる。

 隕石の被害が不自然に少なく、まるで減速したようだと言う有識者からの意見も出されたが、当時の混乱でそれを気に留める者はいなかった。

 開戦からここまでに2億人近い死者を出した一連の戦いを後に「一週間戦争」と呼ばれる。

 1月15日、サイド5ルウム宙域にてルウム戦役が勃発。

 これはジオン側が再度コロニー落としを計画し、連邦側が阻止しようとしたのだが、実際はフェイクであり、戦力を集中した連邦軍を纏めて撃滅するための作戦だった。

 結果は地球連邦軍第三艦隊と第一艦隊の8割が壊滅、連絡艇で脱出を試みたレビル将軍が黒い三連星に捕捉され、捕虜になる。

 また、この戦役でシャア・アズナブル中尉(当時)はサラミス級4隻、マゼラン級1隻を撃沈し、連邦将兵から「赤い彗星」と畏怖される。

 

 これ以降の流れは史実に準ずるため、詳細な解説は省く。

 しかし、この一連の戦いにて平和を謳歌していた全ての地球人類は一気に戦乱へと巻き込まれていく事は確かだった。

 

 

 ……………

 

 

 この当時、A.I.M.グループはその稼働戦力の多くを用いて大規模な太陽系防衛戦闘へと注力していた。

 もしこれが平時だった場合、間違いなく地球圏から観測され、人類以外の何者かが存在している事を知られていただろう。

 攻めてきた相手はインベーダー、正確には宇宙怪獣やバッフ・クラン、ゼバルマリィ帝国製の兵器に寄生・融合してその性能を強化したメタルビーストだった。

 これには改トンボ級を初めとしたステルス巡洋艦隊では歯が立たず、急遽ヴァルチャー隊一個師団が緊急展開、戦闘を開始した。

 幸いにも全て撃滅に成功したが、その戦闘に紛れて地球圏へと隕石の飛来を許す事となってしまった。

 

 「あの連中、最後の最後で生き残った個体全部融合して巨大化してきやがった…。」

 「巨大化はお約束とは言え、結構被害が出てしまったのは不覚でした。」

 

 不幸中の幸いとして、ヴァルチャー隊が取り込まれる事はなかったものの、余りに弱い改トンボ級の生産ラインは廃止する事となった。

 

 「で、対ジオンは如何しましょう?」

 「…私達が表に出る事は避けます。」

 「賢明かと。」

 

 少なくとも、戦乱が太陽系の内側で完結している内はそうするべきだろう。

 現在彼女らが表に出た所で、混乱状態の人類は排斥に走るのがオチだ。

 

 「クラウドブレイカーの開発が終了したよね?」

 「はい。先行量産分がサイド7支社の工廠にて生産を開始しています。地球連邦軍にはMSの脅威が知れ渡ったでしょうし、これから売り込みになります。」

 「結構。地上仕様も併せて安売りしてあげなさい。」

 「畏まりました。」

 

 クラウドブレイカー。

 それはストライクスーツ・ゼロ(連邦内での愛称はゼロ戦)の流れを汲みながら、より人型兵器としての色を濃くした機体だ。

 上半身はジオン系列よりも細身ながら大型で、直線で構成されたデザインを持つ。

 最大の特徴は下半身で、その脚部は巨大なブースターユニットを本体とし、それに格納された着陸脚で構成されている。

 脚部ユニットはゼロ戦のブースターユニットを発展させたもので、この配置はより効率よく木星の重力圏で運用するための構造であり、後に木星圏での運用を前提とするMSの多くに受け継がれる事となる。

 その機動性は後にジオン軍が配備するザクⅡ高機動型に匹敵し、ジオニック社を始めとしたジオンのMS開発部門に大きな衝撃を与える事となる。

 頭部は全体がセンサーヘッドであり、デフォルトで当時の電子戦仕様MSの索敵機能に匹敵、一部では凌駕する性能を持つ。

 反面、強度面では不足であり、格闘戦においては一撃離脱が推奨されている。

 機体サイズは全長19m、重量は42.9tとサイズの割に軽量(ザクⅡが頭頂高17.5m、重量56.2t)であり、本来ならゼロ戦と同様に木星圏での初期型MSとして運用される予定だった。

 装甲材質は一般的なチタン系合金、出力は1450kw、総推力は52000kgを誇る。

 武装は左腕にジェネレーター直結式ロングビームライフル、右腕に80mmガトリングガン、肩部内蔵式三連多目的ミサイルランチャー×2、胸部60mmバルカン×2、ビームサーベル(手首内蔵式)×2となる。

 腕部の主兵装二つは換装可能であり、片側だけ装備する事も可能。

 他、オプションとしてより取り回しの良い主兵装として120mmレールガンと100mmアサルトライフル、脚部側面にゼロ戦と共通の対艦ミサイル×4、7連装ロケット弾ポッド×2、更に肩部側面に5連装対ミサイルチャフ、5連装ビーム攪乱膜噴霧器、5連装ダミーバルーン投射器を選択で装備可能となっている。

 一応連邦軍のRX計画が躓くとヤバいので、性能自体は本来の設計よりも性能を落として信頼性・生産性を重視とした輸出用のモンキーモデルとなっている。

 なお、本来の仕様ならば「普通のパイロットにも乗れるギャプラン」となる。

 明らかなオーバースペックなので、そっちが世に出るのは今次戦争が終了してからとなる。

 が、こんな機体でも早期に連邦に提供する必要があった。

 

 「で、隕石の正体は?」

 「南アタリア島のものはメルトランディ系中型砲艦、要は初代マクロスのそれです。アイドネウス島のものはゼバルマリィ帝国のズフィールドシリーズの殲滅型、セプタギンです。そして、東京に落着したものですが、僅かに粒子状の物質をサンプルとして回収できたものの反応消失、ロストしました。」

 「………。」

 

 メテオ3「郡」という本来の予定にはない隕石群の存在により、より早期かつ少ない被害でこの戦争を終わらせる必要が出たためだった。

 次いでモニターに紫色の人工物と思われる粒子状の物質が表示されると、トレミィは露骨にその顔を引き攣らせた。

 

 「サンプルからは有機物・無機物問わず寄生・融合する性質が確認されたため、現在は冷凍し、保管庫は真空に保った上で他の物質に触れないよう重力場にて固定中です。」

 「その粒子を観測・感知するシステムの構築を急いで。インベーダーの親戚みたいな連中が地球に潜り込んだって事だから。」

 「了解しました。」

 

 地球人類が宇宙に出て初の人類同士の大規模戦争と共に、太陽系は新たなステージへと進もうとしていた。

 

 「ゾンダーとか……木星のアレ刺激するとかマジ勘弁。」

 

 トレミィのうめき声は誰にも聞かれず宙に消えた。

 

 

 

 



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第15話 戦争序盤と本気のギレン

連邦とジオン双方の内輪の話
次回こそガンダム大地に立つを…!


 新西暦179年1月31日、地球連邦政府とジオン公国の間に戦時条約として南極条約が締結。

 本来は休戦条約の予定だったが、捕らえられたレビル将軍がジオン本国を脱出、有名な「ジオンに兵無し」演説をぶち上げ、ジオン本国の厳しい内情を打ち明けた事で変更された。

 これにより両軍はNBC兵器の全面的な使用禁止並びに民間人・民間所有船舶・コロニーに対しての攻撃は禁止された。

 無論、表向きの話であり、ゲリラやコマンド部隊が両軍に存在し、後にコロニーレーザーやソーラーレイ等の条約に抵触しない大量破壊兵器が開発・使用される事となる。

 続く2月1日、ジオン軍は地球方面軍設立を宣言、地球降下作戦の準備に入る。

 3月1日、ジオン公国軍は第1次降下作戦を開始。バイコヌール宇宙基地に宇宙基地制圧隊が降下。

 しかし、敵部隊撤退を確認・制圧完了後、基地施設が自爆し、再建する必要が発生。

 3月15日、第2次降下作戦にてキャリフォルニアベースに制圧部隊が降下。無血開城に成功。

 が、しっかりと各種データは削除、建物は残っていても施設類は爆破解体されていたため、再建が必要となる。

 3月25日、第3次降下作戦にてニューギニアおよびオセアニアに降下。オセアニアは制圧に成功するも東南アジアは戦闘継続。

 しかし、各地にて民兵・ゲリラコマンドのハラスメント攻撃を受け、消耗を強いられる。

 こうして一年戦争は地上へとその主戦場を移したものの、宇宙での戦いが終わった訳ではない。

 寧ろ準備期間に入ったと言うべき状況だった。

 

 ジオン軍は予定よりも擦り減った宇宙戦力を補充しようとしながら、少ない国力と備蓄を血の滲む思いですり減らしながら重力戦線へあらゆる物資を送らねばならない状況だった。

 これは降下作戦を敢えて見逃して出血を強いる方針を取った連邦の作戦勝ちと言えた。 

 各地に送られた資源探索・採掘隊が当面必要な資源を確保したものの、降下部隊が下りた軍事施設の多くは制圧寸前に自爆、多大な犠牲を払いつつ進軍しても、正面戦闘ではなく焦土戦術やゲリラコマンドにて消耗を強いる戦法にシフトした連邦軍にジオン軍は多大な出血を強いられ続けた。

 加えて、少数ながら各戦線に出没し始めた飛行可能なMSもどき(量産型クラウドブレイカーの初期ロット)による射程外からの高速での一撃離脱戦術に貴重なMSとパイロットを失い続ける事となる。

 無論、彼らとて何もしていなかった訳ではない。

 戦前に行った統合整備計画にて兵站への負担は可能な限り小さくし、使用する兵器の殆どは史実よりも遥かに使い勝手や信頼性に優れ、パーツの互換性や弾薬の規格の合致もあってよく戦った。

 特に地上ではザクⅡJ型(陸専用)に続き、G型(頭部バルカンを追加した総合性能強化型)が配備され、数と投射火力に勝る連邦地上軍を苦しめた。

 

 この様に一見連邦側の戦術が嵌っているように見えるが、彼らには彼らで正面決戦するだけの余裕が無かった。

 時間が彼らにとって何よりの味方であるとは言え、暫くは忍従の時を過ごさねばならなかった。

 宇宙においては各コロニーがミノフスキー粒子が薄れても未だ電波障害が止まず、核分裂炉が再起動しないため、連邦宇宙軍艦艇の3割が電力供給のために拘束されており、打診を受けたA.I.M.グループが大急ぎでコロニー用エーテル機関を増産している最中だった。

 また、太陽系全域に散らばっている艦艇を集結、可能な限り対MS向けに改修する必要性があった。

 なお、この世界線における地球連邦宇宙軍の艦隊は広大になった支配領域全体に散らばっており、その隻数は史実よりも遥かに多い。

 充足完了した艦隊だけでサイド1~7に一つずつ、地球防衛用に三つ(月は中立自治都市群なので無し)、火星に一つ、広大な木星圏に二つとなっており、後に金星向けの艦隊も設立される予定だった。

 つまり、合計13個艦隊存在するのだ。

 なお、平時での彼らの仕事はデブリ排除と宙難事故への対応であるため、連邦軍は旧世紀の極東の島国の軍隊?よろしく「最もレスキュー活動が得意な軍隊」だったりする。

 木星圏はその重力圏の広さからデブリや小惑星が多く、事故も起きやすい上に広大なので、艦隊が多く配属されている。

 この内、各サイドから動ける艦隊を纏め、地球防衛用艦隊の一つが先のルウムで壊滅したが、まだまだ国力的に余裕があるのだ。

 が、木星圏の艦隊はエーテル機関搭載の追加ブースターユニットを装着しても片道半年かかるので、有り合わせの資材で改修しながら向かっている途中だったりする。

 なので、既存戦力ならびにゲリラ・コマンド部隊で時間を稼ぎつつ、反撃の用意とジオン側が攻勢限界に達するのを待つ予定になっていた。

 何せ地上はジオン軍が想定するよりも遥かに過酷な環境が広がっており、図体故に足の遅いこの時代のMSはミノフスキー粒子やNジャマーの効果範囲内で無ければ機甲戦力や航空戦力にとってはカモに近い。

 それでも高い運動性能を持つザクⅡG型の相手は厳しく、航空攻撃や高性能プチMSとも言えるアーハンを用いての待ち伏せ戦法で時間を稼ぎつつ、クラウドブレイカー並び連邦製MSの量産・配備を待つのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「優先すべきはザクⅡの派生型だ。他の整備性・信頼性・コスト面での問題がある機体は没だ。」

 

 実質的に戦争を指導する立場のギレンは、徹底的なコストカットで以てこの戦争に臨んだ。

 

 「ショルダーアーマーに棘?それは何か意味があるのかね?」

 「マニュピレーターにバルカン砲?胸部の30mmでは足らない?なら頭部にしろ。なお反対するのならその腕を付けたG型でJ型やF型と殴り合いさせたまえ。それで100回やって一度も壊れなかったら採用してやろう。」

 「…何故水中用MSがこんなに大量にある?何、地球の表面積の7割は海だから?地上の人類は残り3割に住んでるのが何故分からん?ズゴックとアッガイに生産を絞れ。後、M型の装備をオプション化できないか問い合わせろ。」

 「MA……宇宙ではドダイの代わりも出来るか?」

 「ザクレロ……キシリアに休みを出してやれ。」

 「ドムか…悪くはないが共通規格は守れよ。」

 「……ちょっと誰か父上を、無理なら開発部を呼んで来い。」←ジャブロー攻略用各種MSを見つつ

 

 ガルマ三部作の中の人かな?????

 そんな感じでもの凄ーくまともな戦争指導をしていた。

 なお、この世界のジオンは基本的にオリジン仕様のため、ザクⅡ一つとっても多くのバリエーションが存在する。

 基本的なモデルであるF型は胸部に30mmバルカン×2、左肩にショルダーアーマー、右肩にL字型シールド(サブアームで保持)となっている。

 地上では陸戦仕様のJ型とグフならぬ総合性能を強化し、頭部バルカンを追加したG型が主力となっている。

 宇宙ではF型が主力だがF2型に順次更新中であり、一部熟練兵向けに黒い三連星も乗った高機動仕様のR型へと改装されている最中だ。

 武装面においても120mmマシンガンは問題が多いとして精度・連射・貫通力に優れ、兵站にも優しい新型の80mmマシンガンへと生産が移行している。

 また、戦争初期で活躍した対艦狙撃ライフルも良好な性能だったため、その後も生産・運用が続いている。

 

 「ビグザム……ふざけているのか?いや、Iフィールド技術の研究は必要だな。だが、このふざけた武装レイアウトは改めろ。」

 「ビグロ……これは良い。もう少しコストカット出来れば制式採用を認める。」

 「ヒルドルブ……変形機構は削除しろ。自走砲ではなく、必要なのは戦車だ。」

 「アッザム……いい加減にしろよ貴様ら。」

 

 史実では視聴者の度肝を抜いた数多くのジオン製珍兵器はこうして日の目を見る前に消えていった。

 

 「いい加減にしろ!貴様ら、高性能にかまけて兵站を疎かにする等、あの改造人間共と同じ轍を踏むつもりかッ!?」

 

 こうして、ギレン君のキレッキレな戦争指導の声が今日もマッドな連中を叱りつけるのでした。

 

 

 



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第16話 赤い彗星のひらめき

次回は大気圏突入回かなぁ
そしてシャアが何かジョグレス進化した


 新西暦179年9月18日、サイド7・1バンチ周辺宙域にて

 

 

 「何、コロニーに侵入された!?」

 『確かな様です。今しがた敵の襲撃を受けたと通信が来ましたが、途切れました。」

 

 小惑星に偽装された小型格納庫には、ASSー0正式名称ストライクスーツ・ゼロ(通称ゼロ戦)が3機一個小隊が格納されており、RX計画・V作戦が露見したもしもの時のためにと配置された虎の子の護衛だった。

 少なくとも、未だ開発が完了していないRX-78や鈍足の77やそもそも陸戦兵器である75よりは既に実戦配備され、相応の戦果を上げているこの機体の方がパイロットからは信頼されていた。

 贅沢を言えばASSー01クラウドブレイカーの方が嬉しかったが、あの機体は現在の連邦軍にとって正面からMSと相対、撃破可能な貴重かつ高価な戦力であり、そのパイロットも相応の腕利きや熟練兵が乗っているため、おいそれと引っ張ってこられなかったのだ。

 なお、その内の3機はルナツーでヤザン率いる小隊が乗って仕掛けてくるジオンのMS部隊相手にロングビームライフルで狙撃したり逆に殲滅したりして満喫してる模様。

 

 「すぐ出るぞ。RX計画は今後の連邦の反撃に必要だ。ここで潰えさせる訳にはいかん。」

 『了解です。』

 『全チェック項目、オールグリーン。いつでもどうぞ。』

 「よし、出撃だ!」

 

 本来なら中立のサイド7、その宙域に浮かぶ偽装格納庫から意気揚々と三機のゼロ戦が発進する。

 味方を守るため、連邦の反撃の嚆矢を守るために。

 だが、使命に燃える彼らの目の前に現れたのは、余りにも高い壁だった。

 

 

 ……………

 

 

 「えぇい、ジーンの馬鹿者が!」

 

 サイド7・1バンチの外にて、偵察任務の筈が内部で部下が暴走し、民間人にまで多大な被害を出したという報告に、ついついシャアは口汚く罵ってしまった。

 だが事態は待ってくれず、部下のスレンダーを追って連邦の新型MSがコロニーの外に出て来ると、これは好都合と直ぐに意識を切り替える。

 

 「スレンダー、奴を挟み撃ちにするぞ!私が前に出る、お前が回り込め!」

 『了解です!』

 「よし…!?」

 

 スレンダーが実際に行動に移す寸前、シャアは直感に任せて機体を強引に加速、上昇させながら身を捻り、その場から離脱する。

 ほぼ同時、4条のレーザーがシャアの高機動型ザクⅡ(R-1A型とオリジン仕様の相の子)のいた空間を貫く。

 その傍らで二条のレーザーに気付く事なく貫かれたスレンダー機が爆散した。

 次いでレーダーに感知された三つの光点が、敵の存在を知らせてくれる。

 

 「ちぃ、増援か!」

 

 恐らくは自分が追っていたV作戦の防衛用戦力なのだろう。

 人型モドキが三機、巡航形態でこちらに向かってくる。

 幸いにも鳥脚(クラウドブレイカーのジオン側の綽名)の姿はないが、アレらの厄介さはシャアはルウムで痛い程痛感している。

 少なくとも、同時に配備されていたセイバーフィッシュとはまるで次元の違う機動性は厄介だった。

 

 「避けたか…各機、射程内に入り次第ミサイル斉射!相手は赤い彗星だ、出し惜しむなよ!」

 『『了解!!』』

 

 そして、ゼロ戦に搭載されたミサイルは一機につき20発、三機一個小隊分のミサイルが一斉射されたとなれば、それは60発もの過剰火力となってシャアへと襲いかかった。

 

 「えぇい!!」

 

 だが、シャアは未だ未熟なれど、あのシャアなのだ。

 宇宙世紀の数多いるNT達、その中で最もパイロットとしての実力を持った男、それがシャア・アズナブル。

 シャアは愛機のスラスターを全開にすると急速に後退と上昇下降を乱数回避を行いながらミサイルの旋回半径の内側へと潜り込みつつ、胸部と左腕部(オプション)の合計4門のバルカン砲でミサイルを次々と迎撃していく。

 その姿は正に板野サーカスと言っても良く、彼を始めとしたルウム戦役やブリティッシュ作戦を潜り抜けた猛者達ならば程度の差はあれど誰もが出来る対ミサイル機動でもあった。

 

 (化け物が…!)

 

 光速のレーザー砲を寸前に回避し、その直後に60発ものミサイルを前に一撃も命中させずに切り抜ける等、エースや熟練兵と呼ばれる者達の中でも一体どれ程の者が出来ると言うのか?

 その位には常軌を逸した操縦センスだった。

 

 「全機散開!的を絞らせず撃ちまくれ!敵は一機だ、焦らずかかれ!」

 

 この三機のゼロ戦を駆る名も無きパイロット達。

 彼らはシャアというジオン切ってのエースパイロットを相手に時間稼ぎを成功、辛うじて戦死する事なく、ガンダムを守り切り、以後ホワイトベースがルナ2に行くまで行動を共にする事となる。

 

 

 ……………

 

 

 (失態だな。)

 

 ホワイトベース追撃を決定した後、シャアは言いようのない苛立ちを感じていた。

 いや、それはこの戦争が始まった頃からずっと感じていた事だった。

 

 (宇宙移民の独立か…大義名分など既に無いだろうに。)

 

 戦争序盤のNBC兵器の乱れ撃ち、ミノフスキー粒子の散布とプラントのNジャマーによる旧型コロニーのインフラ破壊、そしてインフラ破壊されたコロニーを救援する連邦軍艦艇へのコロニーごと核弾頭による攻撃。

 既に宇宙移民の独立という大義は、消えて久しかった。

 それでもジオンが戦うのは、ギレン総帥というカリスマが存在するからだった。

 ジオン国民こそが優良種であるとする優性人類生存説を唱え、極めて優れたアジテーターとしての手腕で国民と軍の多くは極めて巧妙に扇動されている。

 今現在の戦争指導に一切の疑問を抱かせず、重力戦線へと注力する祖国と民衆の姿に、シャアは忸怩たる思いを抱いていた。

 冷静に互いの国力の差を、技術力の差を見れば、結果は分かっているだろうに。

 

 (例え勝ったとしても無茶を通したツケは必ず来る。何より、コロニー住民からの悪感情をどう抑えるというのだ?)

 

 それこそ、序盤の様にNBC兵器を盾に弾圧するか?

 否、それは何れ破綻する事が目に見えている。

 そもそも、あのギレンにそんな事が分かっていない筈がない。

 では、一体どんな目的で……

 

 (まさか、最初からジオンを残すつもりが無い?)

 

 そんな、ゾッとする可能性に行き着いた。

 シャアは、キャスバルは元より聡明な人間だ。

 復讐のために恩人の息子や同期の人間を生贄にする様な冷酷さも持ち合わせるが、それは身内への情の深さと冷徹な判断力故だ。

 史実では仮にも一軍の長であり、宇宙世紀でも有数のNTたるシャアはギレンの思考の核心へと手をかけていた。

 

 (コロニーへの非道も、連邦への敵対も、重力戦線での無為な消耗も……全てに意味があるのだとすれば、それは一体…。)

 

 知らず背筋が泡立ち、冷や汗が流れ、寒気を感じる。

 これがシャアという男の本当の資質。

 パイロットにして指揮官、NTにして指導者としての才を全て持ち合わせるが故の資質。

 直感的にあらゆる戦場における指し手の思考を見抜き、最善手を打つ無比の資質。

 それが今、一年戦争という人類の今後のための試金石となる時代に開花しようとしていた

 

 (この戦争、間違いなく裏がある。それを見つけ出さねば…。)

 

 それがこの戦争を始める一助となった男の息子の、人生を変える決断だった。

 

 

 ……………

 

 

 雷王星宙域にて

 

 「敵、第五波確認。反応は宇宙怪獣、巡洋艦型を中心に約20万体。」

 「シリウス方面より異星人の艦隊襲来。数は約2万。尚も増加中。」

 「フォールド反応確認。メルトランディです、数は3千。艦載機の発艦を確認。」

 

 改エルトリウム級を旗艦としたA.I.M.グループ所属艦隊は、その死力を尽くして太陽系防衛戦線を展開していた。

 あらゆる勢力からの侵攻に、これまで生産・貯蓄していた戦力の全てを吐き尽くす勢いで辛うじて防衛に成功していた。

 

 「第14ヴァルチャー大隊は宇宙怪獣第五波へ。デストロイヤーガンの制限解除。これ以上の侵入を阻止せよ。」

 「第491から512ゴースト部隊は異星人艦隊を迎撃。ヴァルチャー隊来援までの時間を稼げ。」

 「第8から19クラウドブレイカー隊はメルトランディ艦隊を迎撃。可能な限り時間を稼いで下さい。」

 「光子魚雷発射管1番から27番まで装填、宇宙怪獣先頭集団へ放て。」

 「空間破砕砲チャージ開始。終了までカウント20。」

 「各砲座並び各銃座は照準付き次第順次射撃せよ。敵を近づけるな。」

 「艦表面に展開中のアーハン部隊は対空射撃。取り付いた敵を優先して排除せよ。」

 「宇宙怪獣からの砲撃来ます。着弾まで2・1・着弾確認。フィールド損耗率17%。」

 

 正に死力を尽くしていた。

 一体何故これ程の敵が地球に来襲してくるのか、彼女らにすら分からない。

 ここ20年から襲撃の頻度が上昇していたのは分かっていたが、これ程の大戦力が来る理由は……まぁ一部想像がつくが、それでも可笑しい程の物量に圧倒されていた。

 だが、地球人類が立ち上がり、種としての生存領域を確保するまで、彼女達は身命を賭して時間を稼ぐつもりだった。

 彼らが自分達無しで立ち上がれるようになり、自分達が母星へと帰還できるようになるまでは。

 だがまぁ、自分達の同胞が嫁入りしたり家族になったりしてる地球人類と関係を切るつもりは更々無いので、今後も交流は続くだろうが。

 

 「インベーダーの襲来を確認。数は7万。」

 「空間破砕砲をインベーダーへ。距離70万kmまで引き付けてから発射。」

 「了解。発射予定地点までカウント7・6・5・4・3・2・1・発射。」

 

 艦隊まるまる一つを消し飛ばす程広域の一撃が、宙域を割る様に放たれる。

 その渦中にいたインベーダーは来襲早々にその9割以上を空間ごとミキサーにかけられた様に消滅した。

 

 「異星人艦隊、今の一撃に動揺して撤退を開始。」

 「追撃は無用。宇宙怪獣並びインベーダー掃討を優先。」

 「破損した機体は直ぐに後退。補給・修理を急げ。」

 

 人類の殆どが知らぬまま、彼女らは今日も太陽系を守っていた。

 

 

 

 



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第17話 反撃開始と親子の交流

 新西暦179年、9月20日

 

 辛うじてサイド7を脱出したホワイトベース一行は、ルナ2へと逃げ込む事に成功した。

 しかし、ルナ2は地球防衛のための最前線基地であり、とてもではないが逃げ込んだ民間人を全て収容する事は出来なかった。

 幸いにも完全な補給を受けられた上、大気圏突入を支援するための小艦隊並びに艦載機による護衛を受けられる事になり、アムロはその間ルナ2から来たとある男の薫陶と訓練を受ける事となる。

 

 宇宙世紀にて最強のオールドタイプと名高いパイロット、「野獣」ヤザン・ゲーブル中尉である。

 

 この間、シャア少佐もまたパプアにて補給を受け、万全の態勢で大気圏へと突入するホワイトベースを追撃に臨んだ。

 しかし、ヤザン率いる手練れのクラウドブレイカー隊の攻撃を受けて参加したザクⅡF型3機を失い、自身もまた重傷を負った上、ホワイトベースが予定通りジャブローへと降下に成功する惨敗となった。

 ジオンは国民的エースパイロットが乗る最新の高機動MSが負けた事に衝撃を受け、ギレンを除く上層部にあった楽観が消し飛ぶ事となる。

 また、ヤザンはこの一件で勲章の授与が考えられたが、これまでの素行不良と戦時下である事から見送りとなった。

 なお、普段この問題児の面倒を見ているワッケイン司令の胃は束の間の休息を得て少しだけ休まった。

 

 

 ……………

 

 

 所で皆さん、テム・レイ氏をご存知だろうか。

 媒体や作品によって変動もあるが、大凡RX計画又はV作戦の中心的人物であり、ガンダムを作った技術者であり、アムロ・レイの父親である事は共通している。

 この世界線では基本はTHE ORIGIN仕様なので、その来歴はミノフスキー博士の直弟子の一人であり、アナハイムエレクトロニクス社のMS開発部長であり、連邦軍へ出向中の身となっている。

 この人物、後に酸素欠乏症で頭が残念な事になった後、ガンダムの活躍をテレビで見て「連邦バンザーイ!」と叫んでたら階段から足を滑らせて後頭部強打して死亡してしまった。

 その末路こそ残念なものだが、しかしその知性は本物であり、後の連邦側MS開発の基礎を築いた極めて優秀な人物である。

 なので、彼を失う事はとてもではないが許容できないと、A.I.M.グループは判断した。

 

 『テム博士を保護致しました。スーツ内のエアはまだ十分ある模様。』

 『了解。予定通りサイド7の支社へと移動してください。こちらは引き続き民間人の保護を行います。』

 『了解。』

 

 テム・レイ博士を保護したアーハンは素早く移動を開始する。

 今後、彼は通常の民間ルートでジャブローへと向かい、息子と再会する事となる。

 また幸いと言うべきか、アムロ達の住むサイド7・1番地は穴こそ開いたものの完全には破壊される事は無かった。

 それはつまり、未だ救助を待つ民間人が大量に存在するという事だ。

 連邦もコロニー側も中立違反であるため、シャアも表向きは非難される事は無いだろうが、それでも後ろ指を指される事にはなるだろう。

 それはさておき、サイド7の支社から戦闘終了を知って駆け付けたA.I.M.グループ所属アーハン隊並び医療用艦艇が駆けつけ、迅速な救助活動とコロニー内に仮設テントや医療用車両を運び込むのだった。

 

 「皆さん、散かすだけ散かして片付けないとは子供なのでしょうか?」

 「いいえ、違います。子供は注意すれば分かってくれますが、分かっててもそうするだけの余裕が無いのだから、余計質が悪いのですよ。」

 

 これ以降、一年戦争の間はサイド7には平和が訪れるのだった。

 

 

 ………………

 

 

 これ以降、地球連邦軍は自軍製では初の量産型MSであるRGM-79ジム(ジム改とⅡの相の子)を正式に量産開始、十分な数を配備したと判断すると、補給線が伸び切り各地で攻勢限界を迎えていたジオン軍を包囲・撃破していった。

 ジオン地上攻撃軍副司令であるマ・クベ大佐の指示の下、各地に散らばったジオン兵の内の未だ戦意ある者はアフリカへと集結、HLVにて脱出を試みるも、既に彼らの真上である軌道上には漸く駆け付けた地球連邦宇宙軍木星方面軍の艦隊が展開、ジオンは空へと帰る道を失い、また宙対地爆撃の可能性から全滅を避けるために全軍武装解除の後に降伏した。

 また、マ・クベ大佐自身も自身の指揮下にあった兵達と共にエルラン中将へと組織的に降伏した。

 これは戦後に少しでも国力を残しておくための方策であり、繋がりのあるエルラン中将の功績を作り、少しでも戦後に向けた交渉をするためのものだった。

 一連の事態を受けて本国のキシリア・ザビは責任を追及されて失脚したものの、処刑もされずに公王デギンの元に保護された。

 これにより、戦場は本格的に宇宙へと移っていく事となる。

 なお、北米を統治下に置いたガルマ率いる講和派のジオン軍将兵は本国に対して交渉の席に着くべきだと上申し続けているが、未だに成果は上がっていない。

 

 こうした事態の移り変わりが起こる前、ジャブローではホワイトベースから漸く民間人一同が降りる事を許可された。

 また、アムロは志願兵として正式に連邦軍に所属しようとしたのだが、此処で待ったが掛かった。

 誰あろう、ほぼ同時期にやってきたテム・レイが異を唱えたのだ。

 

 「アムロ、何もお前が軍人になる必要なんて無いんだ。」

 「だって父さん、あいつらは、ジオンは、フラウの両親を、おじさんやおばさん達を皆殺したんだ!生き残った誰かが敵を討たなけりゃならないんだ!」

 「確かに。だが、それはお前の役目じゃない。軍人の役目だ。お前じゃなくても良いんだ。フラウ君だって幸いにも生きてる。他の友達もだ。ここまで頑張ってきたんだから、いい加減休むべきなんだ。」

 「でも……忘れられないんだ。皆の事が。あんな、生きてたのに皆一瞬で…。悪い人なんかいなかったのに…。」

 

 未だ16歳のアムロにとって、あの日起きた出来事はそれだけ衝撃的だったのだ。

 典型的なPTSD、より正確に言えばサバイバーズギルト、即ち生き残ってしまったが故の罪悪感である。

 繊細で多感な年頃、そしてNTの資質を持った少年は顔見知りの人々の死の間際の念を未だ開花しないその感覚で感じ取ってしまっていた。

 

 「良いか、アムロ。敵を取ろう、ジオンをやっつけよう。それは軍人になって、戦争に参加するだけが方法じゃない。」

 「父さん、それって…。」

 「私だって元々アナハイムの所属だ。今は連邦軍に出向して、大尉待遇だがね。それでも私の仕事はとても大事な事は分かるな?」

 「うん。父さん達がガンダムを作ってくれたお陰で、僕らはシャアを相手に生き延びる事が出来たんだ。」

 「そうか…少々複雑だが、とても嬉しいよアムロ。私の作ったものがお前達を守ってくれたんだから。」

 

 そもそもサイド7で秘密裏に開発なんてやってなかったら襲われなかったのでは?とは突っ込んではいけない。

 

 「何も前線で銃を使うのだけが戦いじゃない。先ずは私の手伝いを、ガンダムの完成を手伝ってみないか?」

 「ガンダムの?あれってまだ未完成だったの?」

 「その通り。ガンダムに搭載された教育型CPU。あれに運用データを蓄積すればする程、動作プログラムを洗練してくれる。要は無駄を消し、効率よく、素早い動作を可能にしてくれる訳なんだが…。」

 

 ガンダムやガンキャノン、ガンタンクがコアファイターを持っているのはこの教育型CPUをより確実に回収し、他の機体にそのデータを反映するためでもある。

 まぁお陰でコストがとんでもない事になった一因でもあるのだが。

 

 「お前達が持ち帰ってくれたお陰で、ガンダムの動作プログラムを他の機体に反映できる。特に格闘戦のデータはまだまだ貴重だからな。これがあれば、格闘戦になった時も大分助かる筈だ。」

 「そんな機能があったんだ…。」

 「それ以外にもジムの開発で色々面白い機能やプログラムも出来た。ガンダムは確かにハード面では最高峰と言っても良いが、ソフトに関してはまだまだ荒もある。ガンダムとジム、両方の長所を分け合う作業が必要なんだが、どうしてもパイロットの協力が不可欠なんだ。」

 「ジム……ここで作ってる量産型MSだよね?」

 「そうだ。そっちは部下任せで余り絡まなかったんだが、良いものを作ってくれたものだ。きっとお前も気に入るだろう。」

 

 こうして、何とかテムは息子を前線で戦うパイロットから自分の視界内にいてくれるテストパイロットとする事が出来た。

 アムロとテム、二人と開発チームの奮闘によりジムは当初の予定よりも遥かに滑らかな動作を可能とし、MSに関しては熟練兵の多いジオンを相手に接近戦になった際の生還率上昇に大きく寄与するのだった。

 ガンダムもまた、ジムの開発・生産・運用によって得られたノウハウを生かして改修を進め、その性能を向上させた(ガンダム7号機相当)。

 しかし、二人がここジャブローで父子の共同作業をしていたのも束の間の事。

 宇宙艦隊再建に使用する造船・打ち上げ施設破壊のために秘密裡にジャブローを襲撃するためにやってきたサイクロプス隊並び特殊工作部隊(ズゴック・アッガイの混成大隊)に遭遇したアムロは再びガンダムを駆り、この殆どを撃破した。

 が、この際に父親との交流で心を癒したアムロは可能な限りコクピットを避けて攻撃したため、多くの捕虜を得る事となった。

 同時に、このままではまたジオンの攻撃で家族や友人を殺されかねないとも悟った。

 故にアムロは再び戦場へと舞い戻る事を決意した。

 

 時は12月2日、アムロ・レイとガンダム他を乗せ、改修を経たホワイトベースは再び宇宙へと飛び立つのだった。

 

 

 ……………

 

 

 今日のギレンさん

 

 「ゲルググは良い。ビーム兵器搭載かつ高い基本性能、兵站にも優しい。」

 「しかしだな…」

 「このビームナギナタは何だ!?何故こんな使いにくいものを採用しようとする!?」

 「おまけにこれ一本でビームサーベル2本以上のコストがかかるだと!?」

 「普通の、ふ・つ・う・の!ビームサーベルにするんだ!何だったら一機につき2本でも構わん!」

 「どうしてもと言うのなら連結できるようにしろ!条件として模擬戦で各テストパイロットに意見を聞いて、半数以上から高評価であったら許可してやろう。」

 「無理だったら?普通のサーベルを作れ。」

 

 今日もギレンさんはキレッキレです。

 

 

 

 

 

 



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機体設定その2

 なんかクラウドブレイカー分からん人がいたようなので、ついてこれない人が出ないようにこの辺で機体設定出しときます。

 

 

 

 型番不明 G.G.

 種別 ユニクロン軍仮所属超光速万能大型可変マシーン兵器・ガンバスター亜種

 頭頂高 200m 全高 250m 全重量 9500t

 動力 二連結縮退炉(巨大縮退炉相当) 戦艦級ゲッター炉心並びゲッター線増幅装置

 装甲材質 スペースチタニウム ゲッター合金

 乗員人数 2名

 

 武装

 頭部バスタービーム…マイナス一億度(!?)の冷凍ビーム兵器。

 掌部ホーミングレーザー…最大2億の標的を追尾可能な誘導レーザー兵器。

 バスターコレダー…四肢に内蔵された100億Vの高圧電流を流すためのステーク。後のダイバスター同様装甲から直接伸びる。

 バスタートマホーク…膝当てに格納された、片手斧からランサーまで自在に変化するゲッターロボ由来の武装。電撃を流す事も可能。

 バスターチェーン…サイドアーマー(腰の両脇)に搭載。鎖付きアンカー。機体の固定から近距離の牽制、不意打ちまで出来る。

 腹部ゲッタービーム砲…ゲッター炉心直結式のゲッタービーム。

 カッター…足裏のキャタピラに内蔵。スーパーイナズマキックにて使用。

 バスターシールド…両肩から全身を覆う形で展開されるマント状の複合装甲。必要に応じて補助推進器(バスターウイング)としても機能する。

 

 新西暦80年代に建造され、その後もアップデートを繰り返された試験用の特機。

 その正体はガンバスターを土台に、ゲッター戦艦解析から得られたゲッターロボの技術、それにメタトロンとサイコ・ナノマシンを組み合わせた当時の技術的限界を測るための概念実証機である。

 合体機構を省いたガンバスターを元に、ゲッター炉とゲッター線増幅装置、装甲や装備の一部にゲッターロボ由来のものを搭載している。

 これに加え、メタトロンを用いた量子CPUやイナーシャルキャンセラーの発展系(初歩的なフィジカルキャンセラー)を搭載している。

 この量子CPUには人工知能が存在し、最優先事項として「人類と地球並びそれらと友好的存在の守護」が刻まれている。

 そのため、声をかけたりすると目を向けて反応したりもする。

 また、フレーム部分にはサイコ・ナノマシンを採用しており、フルサイコフレーム機と同等の性質を持っている。

 本家との外観上の最大の違いは、その頭部と手足の長さである。

 頭部は量産型のシズラーシリーズに酷似しているが、人間の様な瞳を持ったオレンジ色のデュアルアイであり、寧ろ二桁台のバスターマシンに近い。

 口元、フェイスガードは本家のままだが、特徴的なギャオス似のブレードアンテナはそのままに後頭部から頭頂部までを鶏冠状のブレードアンテナが追加されている。

 四肢は本家よりも関節の可動範囲が広く、よりパイロットの動作を精密に再現可能になっている。

 また、短かった両腕も延長され、死角が減っている。おまけで腕組みもスムーズ。

 形状記憶合金の一種たるゲッター合金を用いての無茶な変形を可能としており、本家がBM3内部に突入する際の簡易変形を元とした巡航形態への変形を可能とする。

 頭部のアンテナを折り畳み、両肩の機首部(ナノマシン貯蔵庫)を閉じ、肘を外に向け両腕を胴に固定、膝を外に向け両足を揃えて固定、足裏からは普段露出しているキャタピラが格納され、代わりにブースターが出てくる。

 なお、巡航形態は格闘戦は不可能だが、射撃兵装は全て使用可能である。

 

 ゲッター線は生命を進化させる力を持ち、サイコ・ナノマシンはサイコフレーム同様に精神をエネルギーへと変換し、メタトロンは人の精神、特に欲望や願望の中で特に強い部分を極端に肥大化させてしまう(精神汚染)。

 これらを組み合わせれば、TFの最奥とも言えるマトリクスの再現も可能なのではないか?という仮説の実証試験機という側面もある。

 また、これらの性質を上手く組み合わせれば、パイロット次第であるが「心折れぬ限り無限のエネルギーで無限に戦い進化し続ける、人類の守り手たる鋼の戦士」にも成れる。

 だが、それは逆に乗り手次第で「無限のエネルギーで無限に戦い宇宙を食らい続ける、破滅の権化たる魔神」にも成る事を意味している。

 この性質を危険視し、テストパイロットだったクローン武蔵とナノマシン式自動人形赤城の二人が元いた宇宙へと去った後は封印され、時代ごとに近代化改修を受けながら眠り続けている。

 

 彼が目覚めるのはまだ先、この宇宙へと「炎」を背負う二人がやってくる時まで待たねばならない。

 

 

 ……………

 

 AMPS-01 アーハン

 種別 A.I.M.グループ製多目的機動外骨格1号 

 頭頂高 5m 全重量 3t

 動力 超高効率バッテリー

 装甲材質 チタンセラミック合金

 乗員人数 1名

 

 武装…追加オプション並び現地仕様多数あり。以下は通常仕様。

 マシンガン…12mmの車載用重機関銃の流用品。

 スナイパーライフル…20mmまでサイズアップした対物狙撃ライフル。

 ガトリングガン…7.62mm3銃身の速射砲。

 ビームガン…プラズマビーム銃。重装甲目標向け。追加バッテリーの搭載推奨。

 レーザーガン…レーザー兵器。ミサイルやロケット等の迎撃に使用。追加バッテリーの搭載推奨

 

 球体状の待機形態から、人型の稼働形態へと変形するという今までにない特徴を有した多目的機動外骨格。

 初期型のA型、民間向けのB型、軍用のC型、そして後にアビオニクスの更新や新型バッテリーへの交換を行ったC2型と、多数のバリエーションや各種オプション装備型が存在する。

 後に再設計したアーハンⅡが出るまで50年以上に渡って生産されたベストセラー。

 その癖に操縦系は従来のスペースポッドを下地にしたもので、スペースポッド乗りなら比較的短期間の機種転換訓練で操縦可能となる。

 動力はバッテリー式だが、A.I.M.グループの高い技術力のためか、同時代の一般的な船外作業用スペースポッドよりもあらゆる面で高性能・高精度・長時間稼働を可能にしている。

 その分、お値段に関しては3倍近い数字になっているが、多数のオプションを持ち、使う環境を選ばない程の汎用性・信頼性を持つ。

 例えば、球体状態から腕部のみを展開してスペースポッドとして、高重力・圧力下でも球体状態で移動手段として、無重力空間なら人型を生かしてAMBACで燃料節約、1G以下なら歩行もスラスターを吹かしての飛行も可能と、宇宙だろうが重力下だろうが水中だろうが大気圏だろうが使用できる。

 更にオプションは作業用だけでなく、地球連邦共通規格の各種兵装も装備可能になっている。

 ビーム・レーザー兵器等は追加のバッテリーが無いと稼働時間を削るが、使用自体は可能である。

 

 この機体は太陽系開拓が進むにつれ、従来のスペースポッドでは過酷な環境に耐えられない事例が多くなり、新たな作業用重機が求められたため開発された。

 従来の作業用ポッドに比して高コストだったために当初は民間からは敬遠されたが、コロニー駐留軍がコロニー内戦闘における航空支援を担当できる兵器として採用、購入に踏み切った。

 理由はコロニー内ではそれまで主流だった機甲戦力の多くが使用に向かず、航空機も使えないから。

 一応戦車や武装車両は火力を落とせば使用できるが、どうしても地球上に比べれば火力・機動力不足だった。

 そのため、本機の様な機体は正に彼らの求めていたものだったのだ。

 

 後に後継機のAMPS-02 アーハンⅡが登場すると、全機がこれに更新されたが、アーハンはその後もコロニー自治体の警備用として払い下げられ、50年以上に渡って使用され続けたベストセラー機となる。

 だが、アーハンの担った軍事歴史上最大の役目はそこではない。

 機動外骨格を操縦するためのOSや蓄積された運用・稼働データ。

 今までにない人体に酷似した作業機械・軍事兵器としての性質は、後のMSや各種特機等の人型兵器を運用するための下地となったのだ。

 地球圏の他の勢力がMS登場前後に大急ぎで開発に着手し、積み重ねてきたデータを、A.I.M.グループは本機によって誰よりも早く長く積み重ね続けていた。

 このデータは後に各種ロボットの開発のための基礎となり、アーハンの存在はロボット工学上の歴史に大きくその名を刻む事となる。

 

 

 ……………

 

 

 ASS-00 ストライクスーツ・ゼロ(通称ゼロ戦)

 種別 A.I.M.グループ製可変型航宙戦闘機

 全長 戦闘機形態14m 人型形態15m

 乗員人数 1名

 

 武装

 腕部内蔵式レーザー砲×2

 機首60mm連装機関砲

 ブースターユニット内蔵式5連装多目的誘導ミサイル×4

 

 以下はオプションまたは選択式

 対艦ミサイル×4

 7連装ロケット弾ポッド×2

 腕部内蔵式75mmレールガン

 腕部内蔵式100mm機関砲

 

 本機は通常は左右の双発ブースターユニット二基と機体本体の双発のブースターを主推進機関とした機体で、その出力・推力重量比はセイバーフィッシュと比して倍以上を誇る。

 最大の特徴が簡易的でマニュピレーターもないが、四肢を持った人型形態へと変形する。

 その変形機構は単純で、武器を内蔵した腕部は折り畳み、下半身は後方へ向けて各部をロックするだけ。

 既に人型兵器を開発・生産・運用する実績を持つA.I.M.グループらしい特異な機体だ。

 戦闘機形態では機動性、特に加速性能と航続距離に優れ、人型なら戦闘機では出来ないAMBACや旋回、全方位への柔軟な攻撃を可能としており、変形機構自体も単純な事から僅か1秒未満で完了できる。

 セイバーフィッシュより一回り大きいサイズでありながら、最小旋回範囲はどの形態でもセイバーフィッシュよりも小さく早い。

 これはブースターユニットと脚部をそれぞれ可動できるがためのもので、ジャミングのない万全の状態であろうとも純粋な機動性でセイバーフィッシュのミサイル全弾発射を幾度も回避し切った。

 更に、コンペ中に行われた対艦戦を想定した模擬戦ではゼロ三機でマゼラン級1隻、サラミス級3隻の小艦隊を被撃墜無しで全艦撃沈した(他の機種では20機で漸くだった)。

 

 尚、この機体の採用・配備に関しては大揉めした。

 ゼロのオプション含むコストはセイバーフィッシュの3倍を超え、整備性もまたその構造の複雑さ(セイバーフィッシュに比して)から時間がかかるという欠点があった。

 そこでイスルギ重工製YF-32シュヴェールト(空間戦闘仕様)との合同コンペが開催された。

 結果、本機と他二機種のキルレシオは1:200を記録、戦闘データの蓄積で1:150まで改善されたものの、それでも歴然とした差だった。

 なお、宇宙空間におけるシュヴェールトとセイバーフィッシュのキルレシオは2:3だったが、逆に大気圏内では逆転している。

 こうして、ストライクスーツ・ゼロはその圧倒的な性能差で採用を勝ち取った。

 しかし、そのコストとセイバーフィッシュの良好な性能からあくまで少数生産、ハイローミックスのハイとなるのだった。

 本格的に宇宙で配備され始めたのは77年からで、それから一年戦争終了までゼロはジオン軍MSへと対抗できる数少ない機動兵器の一つとして運用され続けた。

 後にその構造からミノフスキー式核融合炉を搭載するには内部スペースが少ない事からレーザー兵器の出力も低く、また低コストなMSの配備が本格化していくと、徐々にその数を減らしていく事となる。

 だが、ゼロのデータはその後のMS運用や各種可変MS・VFの開発・運用へと生かされ、直系の後継機こそ作られなかったもののその系譜を繋いでいく事となる。

 

 

 ……………

 

 

 ASS-02 クラウドブレイカー

 種別 A.I.M.グループ製準人型戦闘機

 動力 ミノフスキー式熱核融合炉(1450kw)

 全長19m 重量42.9t

 装甲材質 チタン系合金

 総推力  52000kg(高機動型ザクⅡに匹敵)

 搭乗人員 1名

 

 武装

 ジェネレーター直結式ロングビームライフル

 80mmガトリングガン

 肩部内蔵式三連多目的ミサイルランチャー×2

 胸部60mmバルカン×2

 ビームサーベル(手首内蔵式)×2

 

 以下はオプションまたは選択式

 120mmレールガン

 100mmアサルトライフル

 対艦ミサイル×4

 7連装ロケット弾ポッド×2

 5連装対ミサイルチャフ

 5連装ビーム攪乱膜噴霧器

 5連装ダミーバルーン投射器

 

 ストライクスーツ・ゼロ(連邦内での愛称はゼロ戦)の流れを汲みながら、より人型兵器としての色を濃くした機体。

 上半身はジオン系列よりも細身ながら大型で、直線で構成されたデザインを持つ。

 最大の特徴は下半身で、その脚部は巨大なブースターユニットを本体とし、それに格納された着陸脚で構成されている。

 脚部ユニットはゼロ戦のブースターユニットを発展させたもので、この配置はより効率よく木星の重力圏で運用するための構造であり、後に木星圏での運用を前提とするMSの多くに設計思想が受け継がれる事となる。

 その機動性は後にジオン軍が配備するザクⅡ高機動型に匹敵し、ジオニック社を始めとしたジオンのMS開発部門に大きな衝撃を与える事となる。

 頭部は全体がセンサーヘッドであり、デフォルトで当時の電子戦仕様MSの索敵機能に匹敵、一部では凌駕する性能を持つ。

 反面、その構造上頭部は強度面で問題があり、格闘戦においては一撃離脱が推奨されている。

 本来ならゼロ戦と同様に木星圏での初期型MSとして運用される予定だった。

 連邦軍の梃入れのために販売したが、連邦軍のRX計画が躓くとヤバいので本来の設計よりも性能を落として信頼性・生産性を重視とした輸出用のモンキーモデルとなっている。

 なお、本来の性能ならば「普通のパイロットにも乗れるギャプラン」だったが、明らかなオーバースペックなので、そっちが世に出るのは一年戦争が終了してからとなる。

 こんな機体でも早期に連邦に提供する必要がある程に戦況は逼迫していた。

 余談だが、木星圏で運用されている機体は動力をマシーン兵器同様に超小型縮退炉とし、重力・慣性制御等を搭載した亜光速戦闘対応の無人機となっている。

 

 



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第18話 嵐の前の静けさ

 新西暦179年12月、宇宙に上がり始めた地球連邦宇宙軍艦隊は、しかし何処にも敵の姿を見つける事が叶わなかった。

 

 小規模かつ突発的なハラスメント攻撃を除いて、連邦艦隊は一切の戦闘行動を取る事がなかったのだ。

 ハラスメント攻撃の内容もロケットブースターを積んだデブリ(小惑星やコロニー・艦艇の残骸)がセンサーの反応にあった場所へと突撃してくるトラップや対艦ビーム砲による索敵範囲外からの狙撃のみで、本当に全く、一切の戦闘が無かったのだ。

 辛うじて本国やア・バオア・クー方面へと移動する敵小艦隊を発見する事はあったが、ジオンが全速で逃げに徹するために本格的な交戦を行う前に離脱されていた。

 これにより、地上から宇宙へと上がった兵達からは「ジオンはもう戦う力が残っていない」、「ジオンに最早兵無し!」、「この戦争、我々の勝利だ!」等の意見が増え、もう勝ったつもりでいた。

 

 「そんな訳がないだろうが!」

 

 これに対し、レビルを始め艦隊司令部は頭を抱えた。

 

 「し、しかし閣下。こうもジオンが徹底して戦闘を避けるとなると、現場の兵の緩みも仕方ないかと…。」

 「問題なのは我々幕僚の間にすら楽観論が広がっている事だよ。全く、開戦初頭で優秀な人材の多くを無くしたのがここに来て響くか…。」

 

 心当たりのある将兵がそっとレビルから視線を逸らしたのを視界の端で確認しつつ、レビルはため息をついた。

 碌な戦闘を行っていない。

 それはつまり、消耗する筈だった戦力を完全に温存する事に成功しているという事だった。

 確かに物量は人員・艦艇・艦載機・物資全てで上回り、MSも日進月歩の勢いで進化している。

 だが、それはジオンにも言える事だ。

 例え国力差が30:1であったとしても、油断慢心の大国が乾坤一擲の覚悟で最後の戦いに挑む小国に負ける事など、歴史上には掃いて捨てる程にあるのだ。

 

 「ジオンは必ずや万全の態勢で待ち受けているだろうな。」

 「恐らく、ソロモンもグラナダも最初から捨て石にしているでしょう。」

 「とは言え、占領しない訳にも行きません。艦隊を派遣し、降伏を促した上でどう対応するかを決めませんと。」

 「うむ。捨て石とはいえ石は石。取れるならば取っておこう。」

 

 現在の地球連邦宇宙軍の13の艦隊の内訳だが、地球圏で戦闘可能な状態にあるのは各サイドごとに配置された7つの艦隊に地球防衛用の3つ、そして木星から到着したものが1つとなる。

 この内、サイド3にいた艦隊は壊滅済みであり、残存艦は他の艦隊に分散して編成されているので、実際は10個艦隊が動かせるのだが、地球連邦軍としては連邦市民を、コロニーを守らなければならない。

 そのため、サイド3と近場のサイド5を除いた各サイドへと艦隊を派遣し、もしもの場合を考慮して守らなければならない。

 残り5つのサイドの内、サイド7は最もサイド3から遠いので考えないとして、残り4つのサイドは2つずつ同じラグランジュポイントなので、二個艦隊を防衛に派遣せねばならない。

 なお、火星駐留艦隊はジオンが火星へと逃亡を企てる可能性があるので動かせない。

 なので、実質的に自由に動かせる艦隊は8個となる。

 第1と第3が再建したばかりだがMS戦力が豊富でレビルの指揮下にあり、他はMS戦力こそ少ないものの、対空火器の増設や目視見張り員の設置、レーダー・センサー系の強化に艦外にMSを固定できる設備を設ける等の改修を行った改サラミス級が主力となっている。

 そして、木星から来た艦隊はエンジン回りがその任務地の都合上大型化・大出力化して木星の重力圏内でも活動可能となっている。

 木星から急ぎで来るためのエーテルエンジンは現在切り離してはいるが、航行中に突貫で対空火器を増やし、出力の関係から一隻当たりのビーム砲の火力も高くなっており、艦隊砲撃戦においては十分活躍できるだろう。

 なお、艦載機に関してはコロンブス級を改装した空母へと専任しており、こちらの艦載機は全てクラウドブレイカーで統一され、修理・補給用資材にオプションを含めて一隻につき30機の運用が可能となっている。

 

 「ではジオンの策を利用させてもらう。取れる所は全て取り、間も無くこの戦争が終わるという事を知らせよう。」

 

 ジオンを倒すには、ジオン本国たるサイド3、サイド3に最も近い月面都市グラナダ、そしてサイド3本国を守るソロモンとア・バオア・クー、これらを占領しなければならない。

 しかし、この内ソロモンとグラナダは空である事が予想されている。

 それでも見せ札として艦隊を派遣せねばならない。

 この内、ソロモンは民間人がいないが予備兵力として一個、グラナダはその規模から大して数はいないだろうが、ジオン本国とも近いので本国侵攻の可能性もあって一個と、これで使える艦隊は6個艦隊にまで減ってしまった。

 どう見ても戦力分散の愚だが、彼らは地球連邦軍の軍人である。

 故に上から命じられればやるしかないのだ。

 

 

 ……………

 

 

 「とまぁ、そんな事になっているだろうな。」

 

 サイド3本国にて、ギレンはあっさりと連邦軍艦隊の今後の予想を宣った。

 

 「それを私に告げるのは嫌がらせですか、兄上?」

 

 その目の前には実の妹たるキシリアの姿があった。

 先立っての重力戦線での事実上の敗北で責任を取らされ、公職の一切を取り上げられた彼女は今はただ一人の人間だった。

 それでも身内として、目の前の長兄に剣呑な態度を取っても許される立場であるが。

 

 「しかし意外ですな。連中が戦力分散の愚を犯すとは…。」

 「何、要はシビリアンコントロールだよ。」

 

 地球圏はこの戦争によって大いに荒れた。

 地球連邦政府成立以降、最大の戦争が行われているのだから当然なのだが。

 各サイドのコロニーだけでなく、地球自体にも(想定未満だが)ダメージの及んだこの戦争の被害に、そろそろ本格的な復興をしたいと民衆が、民衆に選ばれた政治家が望んでいるのだ。

 戦争の終わりが近い、実質的には詰め将棋に近い状況なのだから尚の事。 

 

 「民主政治故に、それは悪い事ではない。しかし、今現在の状況を考えたら悪手としか言いようがない。」

 「流石の慧眼ですな。で、本題は何ですか?」

 

 キシリア自身を父に隠れて処分するために来た訳ではないのは分かる。

 自らの手で殺す事にギレンは何の感慨もないし、殺すなら事故に見せかけるか連邦に殺させるだろう。

 それをしないのは一体どんな理由からなのか、キシリアは興味を抱いた。

 

 「キシリア、お前に本国防衛隊の指揮を任す。お前の自由裁量で連邦に降伏しろ。」

 「は?」

 

 キシリアにしては間抜けな声だったが、それだけ大きな驚きだったのだ。

 自信家で、冷酷で、傲慢。

 しかし、それら全てを飲み込ませるだけの能力を持ったギレンという長兄を、ある意味で信頼していたキシリアにとって、その言葉がどれ程の驚きだったか筆舌に尽くしがたい。

 

 「必要な書類と形式は整えた。あぁ、コロニーレーザーに関しては私が握るがな。後はお前が承諾すれば良い。」

 「ちょっっっっっっっと待ってくださいませんかね兄上???」

 

 謀略家で鳴らしたキシリアも、余りの事態にキャラ崩壊をしながら待ったをかけた。

 だってこの長兄、昔から頭良すぎて話がいきなり吹っ飛ぶんだもん。

 

 「兄上が既に勝機は無いと判断しているのは分かりました。しかし、それならそれで如何様にも成さりようがある筈です。何故ここで私に任せるのですか?」

 「余命幾ばくもない父上と若いガルマに今後を任せるには不安がある。ドズルはあぁだし、私は聊かやり過ぎている。お前しかいないというだけだ。」

 

 きっぱりとした長兄の物言い。

 しかし、ここでキシリアは違和感を感じた。

 本当に何となくとしか言いようのない、僅かな異物感。

 それは他人なら先程の衝撃で見逃してしまうだろうが、身内故にこのどっきり(心臓停止級)に慣れていたキシリアはある程度だが耐性があった。

 

 「兄上…今更ですが私に全てを明かしてはいませんね?」

 「あぁ。」

 

 短く無駄のない返答に、キシリアは思案する。

 キシリアの知るギレンとは、自信家で、冷酷で、傲慢だ。

 しかし、それら全てを飲み込ませるだけの能力を持っている。

 そんな人物が、敗戦等受け入れるだろうか?

 否、そもそもそんな状況に追い込まれる事こそが有り得ない。

 彼が最初からその気なら、この戦争はとっくに勝っている。

 そも、負け戦だと分かっていたら始める事すらしなかったろう。

 では、どうして後始末なんて自分に頼み込んでくる?

 

 (ではなんだ?何を見逃している?)

 

 この兄の頭脳なら、この状況すら十分予測できていただろう。

 なのに、何故負けると分かっているのに戦争を始めたのか?

 

 (いや、もしかしたら、前提条件が違っている?)

 

 こちらを楽し気に眺めるギレンに目を向ける。

 動揺した様子は無いし、詰みに近い状況であるのにそれを苦々しく思っている様子すらない。

 寧ろ、この状況を喜んで…

 そこまで考えて、漸くキシリアは気付いた。

 

 「ま、さか…。」

 「漸く気付いたか。」

 

 まるで出来の悪い生徒を相手にする様に、ギレンはやれやれと息を吐いた。

 

 「何故、いえ、何が目的なのですか?」

 

 知らず、キシリアは嫌な汗をかいていた。

 宇宙移民独立でも、理想国家建設でも、地球連邦への怨恨でもない。

 このジオン公国すら、サイド3すら生贄に捧げてでも果たすべき、ギレンの真の狙いとは何なのか?

 それを知るのが恐ろしくもあるが、この孤独な長兄の内心を知りたいとも思った。

 

 「知れば後戻りは出来んぞ。」

 「構いません。私も汚れた身です。」

 

 ジオンのため、自分の権勢のため、多くの謀略を成してきた。

 であれば、今更一つ増えた所で揺るぎはしない。

 

 「決断の速さは長所だが、時に長考する事も大事だと教えた筈なのだがな。」

 

 昔と同じ、負けん気の強い妹を諭すと共に、ギレンは懐から出した記録ディスクを渡した。

 

 「これは…?」

 「既に同じものをシャアに渡した。見なくとも構わんが、見たくなったのなら私がア・バオア・クーに入ってからにしろ。」

 

 奴め、私に殺気混じりで問い質してきたぞ、とギレンは笑いながら告げる。

 なお、シャアはまだ真実を知らない。

 記録ディスクの中身を見るのは、戦争が終わってからだと命じられているからだ。

 まぁ、戦中に真実を知れば心折れる可能性が高いので、当然の措置なのだが。

 言うべき事を全て言ってから、ギレンはキシリアに背を向けた。

 

 「ではなキシリア。生き永らえた命だ、大事にしろよ。」

 「兄上も、どうかご健勝を。」

 

 動揺冷めやらぬ中、キシリアはそれだけを去っていく兄の背中へと贈った。

 それが今生の別れになるのだと漠然と知りながら。

 最盛期の父デギンを思わせる厳かなカリスマを纏うようになった兄の背中を見送るのだった。

 

 

 ……………

 

 

 時は新西暦179年、12月30日。

 地球連邦軍がソロモンとグラナダを占領後、デギン公王が休戦条約を結ぶべく連邦艦隊と合流するも、その直後に乗艦のグワジン級戦艦1番艦グレート・デギンにて火災発生、デギン公王が意識不明の重体となる(後にこれがギレン派の破壊工作であり、デギンには薬物が盛られた事が判明)。

 デギン公王の意識不明に伴い、ジオン本国との和平ラインが表向き途絶したため(裏向きでエルラン中将とマ・クベ大佐を通じてキシリアとラインを繋げたが)、レビル将軍はグラナダ上空で待機していた一個艦隊をジオン本国たるサイド3へと向かわせた。

 そしてレビル将軍は星1号作戦の発令を布告、他提督らと共に六個艦隊を率いてギレン率いる残存ジオン宇宙軍が犇めくア・バオア・クーへと歩を進めるのだった。

 そこに何が待ち受けているのかを知らずに。

 

 

 「ドズル、用意は出来ているな?」

 『応!こっちは何時でも行けるぞ!』

 「よし。もう一時間もすれば連邦艦隊からの攻撃が始まる。気張り過ぎるなよ。」

 『兄貴もな!頭良すぎて考え過ぎるのが兄貴の悪い癖だ!』

 「ふん、脳筋め。出撃前に操縦棹を折るなよ。」

 『がははは!大丈夫、特別性だからな、このグレートジオングは!』

 

 

 

 



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第19話 ア・バオア・クー攻略戦

 新西暦179年、12月31日、午前1時17分、ア・バオア・クー内部にて

 

 「わが忠勇なるジオン軍兵士達よ。今、地球連邦軍艦隊が我らの悲願を絶やさんと此処ア・バオア・クーに向かっている。」

 

 「しかし、奴らの無謀なる行動こそが、我らジオンの勝利の証である。」

 

 「地球連邦軍に如何程の戦力があろうと、諸君らの奮闘によりそれは既に中身の無い形骸である。」

 

 「敢えて言おう、カスであると!!」

 

 「人類は我ら選ばれたジオン国国民によって管理運営され、初めて永久に生き永らえる事が出来るのである!」

 

 「地球連邦の無能なる者共に思い知らせ、明日の未来のために!我がジオン国国民は立たねばならんのである!」

 

 「ジーク・ジオンッ!!」

 

 「「「「「「「「「「ジーク・ジオン!!」」」」」」」」」」

 

 この演説により、ア・バオア・クーに配置された将兵らの士気は極一部を除いて最高潮に高まっていた。

 極一部?戦争嫌いなジョニーさんとか付いてきてくれた部下達と自分の身の安全を考えて胃が痛いシーマ様とか…

 

 (ふぅ、やはりヒトラー風演説は効くが疲れるな。マントでも羽織ればもう少し外連味も出て良かったか。)

 

 ご本人のギレン君と+αだよ。

 

 

 ……………

 

 

 同日、午前7時00分より、地球連邦軍はア・バオア・クー攻略作戦を開始した。

 既に対サイド3本国艦隊からは通信によって降伏勧告が成され、本国防衛戦力を指揮するキシリア・ザビ並びサイド3首相たるダルシア・バハロ氏の連名で受託された。

 艦隊到着を確認次第、武装解除する予定となっている。

 

 が、サイド3は兎も角として、問題はこの戦争の実質的指導者であり続けたギレン・ザビである。

 コロニー落としやコロニー救助中の連邦軍艦艇への攻撃、そしてコロニーそのものへのNBC兵器使用を命じた彼を放置すれば、必ずや再び連邦に牙を剥くと考えられた。

 そのため、ギレンの排除は決定事項であり、地球連邦政府としてもジオンの実働戦力のほぼ全てが集まったア・バオア・クーはジオン軍が残党化するのを防ぐためにも必ずや撃滅・占領する必要があった。

 本来の予定ならば、ソーラ・システムによって先制攻撃を加える予定だったのだが、そちらはジオンの別動隊(極めて強力な少数戦力)によるコントロール艦並びソーラーレイ輸送艦への奇襲があって実現しなかった。

 そのため、連邦艦隊は通常のミサイルによる準備攻撃並びにパブリク突撃艇によるビーム攪乱幕の展開から開始した。

 しかし、それは初手で躓く事となる。

 

 「敵艦隊よりミサイル攻撃来ます!反応多数!100を超えます!」

 「マルチロック…完了!」

 「よし、拡散メガ粒子砲、撃てぇい!」

 

 砲塔等の数を減らした戦時量産仕様だったムサイの艦首から放たれた巨大な拡散メガ粒子砲が、迫り来る大量のミサイルを一気に薙ぎ払い、撃滅した。

 残りのミサイルは他の艦艇並びMS群が撃滅し、かかった費用に比して要塞や艦艇・MSへと着弾・撃破せしめたのは全体の1割にも満たなかった。

 

 「な、何だアレは!?」

 「お、恐らくは拡散式のメガ粒子砲でマルチロックしたのかと…。」

 

 その光景を観測していた連邦艦隊からして、余りに異質な光景だった。

 別に多数の高機動目標への迎撃は、ミノフスキー粒子散布下でなければ連邦艦隊も得意とする所だが、重散布下にある戦場でこんな事が出来るとは思えなかった。

 無論、種はあるのだが。

 

 「急ぎ攪乱幕を展開させろ!」

 

 次いで、パブリク突撃艇が前に出てビーム攪乱幕入りのミサイルを放つ。

 先程の拡散ビームではなく通常の射撃でその多くが撃墜されたが、しかし攪乱幕の展開には成功する。

 

 「よし、各艦は前に出るぞ。敵戦力を排除した後、ア・バオア・クーへと取り付く!」

 

 しかし、この艦長がそれを行う事は無かった。

 ア・バオア・クー表面から放たれた巨大なビーム砲撃によって、乗艦のサラミスごと一撃で消滅したのだ。

 

 

 ……………

 

 

 「ふぅ、何とか対応出来てるな。」

 

 MS隊を出撃させ、今も砲撃を続ける中、先程の奇妙なムサイの艦長が呟く。

 彼の乗艦を始め、20隻程の戦時量産型ムサイはここア・バオア・クーにて改装を受け、艦隊防空仕様とも言える状態になっていた。

 

 (ギニアス技術少将の作品と聞いて、どんなものかと危惧していたのだが…。)

 

 マルチロック可能な拡散メガ粒子砲による艦隊・要塞防空並び敵艦載機の効率的な撃滅。

 そんなもん不可能だろう!と聞いた時は思ったが、現実になっている所を見ると、本当に驚きだ。

 ロックに必要な情報は主に事前に散布された数m大のレーザー通信のみ可能な無人センサー群であり、その小ささと数(何と本国で数千は作って周辺宙域に撒いたらしい)から連邦側も見つけていながら排除し切れていないのだとか。

 それらから貰った情報とコムサイを下ろして代わりに積んだ各種電子装備と大型拡散粒子砲、そしてムサイの特徴とも言える艦橋の真下かつ二つのエンジンブロックの間にある空間にドム用の核融合炉を直列で三つ繋げたジェネレーターを設置する事で、このムサイは成り立っていた。

 なお、態々戦時量産仕様のムサイを選んだのは、通常版のムサイよりも艦内スペースに余裕があり、出力も砲塔が少ないだけ余裕があったからだ。

 その装備と性質故に敵MSからの攻撃が集中すると思われるため、対空砲の増設や装甲の強化も提案されたが、接近した敵機への対応は艦隊を組む僚艦と協同する形となっている。

 

 (加えて、あの要塞砲も凄いな。)

 

 通常の要塞砲の多くはムサイやチベ、グワジン級の主砲を改装したものなのだが、一つだけとんでもないものが混じっていた。

 有効射程距離300km・最大射程距離2000kmを誇り、通常のメガ粒子砲よりも強力な核融合プラズマビームを発射する元試作艦隊決戦砲にして現要塞特装砲ヨルムンガンド。

 かつては一発につきザク3機とされた劣悪なコストも改善に改善を重ねて1機分になり、要塞側からの索敵データとリンクして放つ砲撃は精度も高く、一撃でマゼラン級戦艦すら消滅させる威力を持つ。

 間違いなく条約に抵触しない範囲では、両軍共に最大の火力であろう。

 

 (それにMSの数合わせと思っていたアレも役立っている。)

 

 視線を横に向ければ、そこには艦を守るために展開した敵軍のボールにも似た足の無い機体が浮かんでいた。

 MPー02A 試作型艦隊防衛用モビルポッド オッゴ

 

 「練度や適性の低い兵士でも扱える艦載機」として開発され、旧型ながらも未だ数が多く2線級の部隊では現役のザクⅡF型や使い先の無くなったJ型、G型のパーツや装備を主な材料とした機体だ。

 開発完了・生産開始は連邦の重力戦線での反撃開始とほぼ同時期であり、主に志願した学生らが乗っているが、その操縦性の高さとコストの低さから艦隊防空用にと大量に生産された。

 艦隊防空なのは、逆に熟練兵の様に敵艦隊や部隊へと突入するには技量や適性が低い者が乗るためのものであり、少しでも生存率を上げるために艦隊の援護を受けられる配置にしてあるからだ。

 両腕部では連邦のMSとほぼ同じ大きさのシールドを保持して防御力の向上ともしもの時の艦の盾としても機能し、両横にある回転可能なハードポイントには主にザクの武装を装備している。

 現在は前衛のMS部隊を抜いてきた敵MSや航宙機、ミサイルの迎撃をしている。

 

 「このまま勝てれば良いのだが…。」

 

 艦長の呟きは、しかし叶う事は無かった。

 

 

 ……………

 

 

 「6つ!」

 

 アムロの駆るガンダムは、敵指揮官が搭乗しているであろうMSの6機目を撃破した。

 

 『隊長!?おのれェ!』

 「7つ!」

 

 そして、怒りから動きが単調になった敵をまた一体撃破する。

 この戦闘で、既に23機も落としていたアムロの駆るガンダムはジャブローで父と共に数々の改修や強化、追加装備を施した事で、以前よりも格段に使いやすく、強くなっていた。

 以前、強化されたガンダムを外伝に登場する七号機と称したが、それは偽りではない。

 可動部のマグネットコーティングによる反応速度の向上ならび出力のロスの軽減。

 OS、特にFCSの調整によるロックオンの高速化。

 ジェネレーターの最新型への交換に加え、内臓武装の一部(ショルダーバルカン)の撤廃とハードポイントの増設、武装レイアウトの変更(サーベルがランドセルから手首に移動)だ。

 加えて、最も分かりやすいのはまるで鎧の様にガンダムの全身を覆うスラスターを内蔵した装甲と追加武装だ。

 全身を覆う装甲はジオン軍が遅れて実戦投入したビーム兵器対策に表面をビームコーティングが覆い、重量増加を打ち消す所か更なる高機動化を実現する程のスラスター群を備え、更に各部に奥の手としてミサイルランチャーを備えている。

 ランドセルには大型の武装付きバックパックが接続され、大出力のブースターとプロペラント、右上方に120mmロングレールガン、左上方に6連装ミサイルランチャーを備える。

 右腕部には既存シールドとその裏に連装ビームライフル、左腕部にはシールドとその裏に4連装ロケット弾ポッドを備える。

 要は、サンダーボルト版フルアーマーガンダム(サブアームやEパック無し)である。

 そんな一年戦争でも屈指の高性能MSと化したガンダムを駆るのは、促成だが正規訓練を受け、ヤザンの薫陶と父テムの愛情を貰い、ジオン滅ぼすべしと覚悟を決めたアムロである。

 

 Q つまり?

 A 名無しのモブジオン兵はガンダム無双状態になります。

 

 艦艇・MSを問わず、次々とアムロの撃墜スコアとなって真空の闇へと消えていく。

 彼が突入した宙域は前述の防空仕様のムサイと護衛のオッゴ部隊すら撃破されており、その防空・戦闘能力をたかだMS一機に大きく削られつつあった。

 

 「はっはぁ!足元がお留守なんだよぉ!」

 

 そして、この男も忘れてはいけない。

 120mmレールガンの一撃によりチベ級の艦橋を爆砕し、ついでとばかりに対艦ミサイルを叩き込んで止めを刺して次の獲物へと向かう。

 野獣ヤザン・ゲーブルは絶好調で戦場を楽しんでいた。

 現在、彼の乗機はジムではなくクラウドブレイカーのままだ。

 接近戦時の動きが硬いからとジムではなく敢えてクラウドブレイカーに搭乗している辺り、やはり慣れた愛機の方が馴染むのだろう。

 

 「そこぉ!」

 『う、うわぁ!?』

 

 彼のクラウドブレイカーは取り回しの良さを重視した120mmレールガンと80mmガトリング砲、そして対艦ミサイルを装備している。

 部下は皆ノーマル仕様のロングビームライフル装備に対艦ミサイルかロケット弾ポッドだが、高速を生かしての通り魔染みた戦いを好むヤザンには弾数や連射速度の勝るレールガンの方が好みだった。

 

 『隊長、こっちは終わりました!』

 「よぉし、一旦補給に戻るぞ!この戦闘、まだまだ終わらんからな!」

 

 ア・バオア・クーを巡る戦いは、未だ序盤であった。

 

 

 ……………

 

 

 「ふん、粘るじゃないかジオンも。」

 「えぇ。流石はギレン閣下と言うべきかと。」

 「こちらの艦隊の用意はどうか?不備は無いだろうな?」

 「予定通り順調です。戦いの趨勢が決まり次第、介入する予定です。」

 「まさかナチュラル共も我々がここまでの艦隊を用意しているとは思うまい。」

 「奴らは奴ら同士で殺し合っている。我々の動きには気づけんよ。」

 「では、このまま予定通りという事で。」

 

 

 




 今日のギレン様


 「何?ゲルググの腕にジェットエンジン補助推進システム?宇宙では重石にしかならんだろう。外せ。載せるならグレネードかバルカンにしておけ。」


 「アプサラスか…。ギニアス少将、コンセプトは兎も角、マルチロックオンは素晴らしい。」
 「では…。」
 「だが、無理に小型化してMAに全てを組み込む必要はない。」
 「と、おっしゃいますと?」
 「うむ。実は数的不利な状況での艦隊防空について計画中でな…。」


 「やはりドズルの言う通り数は正義だな。では以前から設計していたオッゴの大量生産を許可する。が、可能な限り生存性を優先せよ。若者は将来の宝だからな。」


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第20話 ワーストコンタクト

よし、久しぶりの一日二話投稿に成功した!

この落ちにするかどうかとても悩んだけど、スパロボらしさを追求したらこうなりました。
いや、このままじゃ連邦負けるからしょうがなく出したって訳じゃないヨ?

後半の艦隊部分に加筆修正しました。


 新西暦179年、12月31日、午前9時25分 

 

 戦闘開始から2時間半が経過してもなお、地球連邦軍は7倍以上の戦力で攻め寄せてなお、ア・バオア・クーを攻め落とすだけの切っ掛けを掴めずにいた。

 7倍、或いは8倍にも至る数的不利を崩せるだけの積み重ねを、これまでギレンは行っていた。

 統合整備計画による兵站の見直し。

 地上戦線へのエース級パイロットの投入の禁止。

 数的不利を覆すための簡易量産兵器や新兵器の投入。

 地上はキシリアに任せていたが、こと宇宙においてスペースノイドがアースノイドに負ける謂れは無い。

 地上では確実に負ける。

 だからこそ、最初から決戦は乾坤一擲、得意とする宇宙にて行う予定だった。

 

 「この程度か…。」

 

 要塞司令室にて、押される連邦軍を見てギレンは呟いた。

 結局、地球人類は「彼女ら」無しでは自分の頭脳の上を行く事はないのだと。

 ギレンは彼女らが身を削って守り続ける人類が、この程度でしかない事に落胆していた。

 成長し、経験を積めば見込みはあるだろう。

 しかし、今この瞬間に成長しなければ、この程度の障害を乗り越えられなければ、人類はこの残酷で凄惨な銀河を生きていく事など決して出来はしない。

 

 「この程度で終わるのか、地球連邦は?」

 

 ギレンは、彼なりに期待していた。

 彼女らが守る地球人類に、自分を生み出した地球人類に。

 しかし、この程度で終わると言うのなら、残念ながら本当に自分が頂点に立ち、人々を従えて立たざるを得なくなる。

 その独白に、知らず応える者がいた。

 

 「そこだ。」

 

 一隻のチベ級がブリッジを射抜かれ、誘爆が広がり、轟沈していく。

 それを成したのは一機のジム・スナイパーカスタム。

 

 「やはりこの宙域の指揮担当だったか。よし、次だ。」

 

 彼の名はテネス・A・ユング少佐。

 史実の一年戦争においてはアムロを凌ぐMS撃墜数149機・艦船撃沈数3隻という記録を残したトップエースだ。

 そのムーミン谷の白い死神染みた射撃の腕前は正に神業を誇り、今も有効射程ギリギリの位置にいたチベ級を落として見せた。

 更にそのチベ級はそのブロックの指揮を担当していた事もあり、僅かにそのブロックの動きが乱れる。

 

 『くそぉ…!』

 「………。」

 

 そして、そことは異なるフィールドでまた一機、ジオン側の指揮官機が落とされた。

 やったのは胸部を青く塗装したジム・コマンド宇宙仕様。

 一見高性能だがジムの派生型に過ぎない機体だが、乗っているパイロットは連邦内でも五指に入るとされるスーパーエースの一人。

 

 「………。」

 

 無口でお馴染みのユウ・カジマだ。

 嘗て駆ったジム・ドミナンスやブルーディスティニーよりも性能が劣る機体でありながら、それでも打ち取った敵MSの数はこの戦闘だけで既に10を超えている。

 

 彼らが行っているのは、斬首戦術だ。

 敵の指揮官機並びに指揮を執る艦を落とす事で指揮系統を混乱させる。

 数で劣りながらもジオンが優勢に状況を進めているのは、この一戦のみのためにギレンがコツコツと貯め込んだ戦力を、その類稀な頭脳から来る神懸った戦闘指揮で運用しているからに他ならない。

 ならば、それを伝達する役目であるN・E・W・Sの各フィールド内の指揮担当艦やMS部隊の隊長機を落とせば上からの指揮は滞り、戦線は破綻する。

 幸いにも敵指揮官機はゲルググや最低でもザクⅡF2型の指揮官仕様に乗っているため、二人の様な一部のエースにとっては実に分かりやすい。

 連邦の抱える多くのエース達は一様に味方を励ますように指揮官狩りに精を出し、少しでも戦況を好転させんと奮戦していた。

 そして何よりも、この戦場には本物のNTがいた。

 

 「これで17!」

 

 また一機、アムロが指揮官機を落とした。

 彼がさっきから落としているのはどれも指揮官機であり、それ以外のMPやMS、艦艇だけでも既に50を超え、100に迫ろうとしている。

 この戦闘に限って言えば、既に彼は間違いなくトップエースだった。

 

 「中々やるのもいる。だが、その程度ではな。」

 

 ギレンの指揮は揺るがない。

 何せ多少目減りしているとは言え、本戦闘に参加しているジオン側の戦力は戦艦5隻、空母2隻、巡洋艦41隻、MS4000機(MP含む)、MA20数機、ジッコ46隻となっている。

 既に撃破されたMSは全フィールドで500に近いが、その程度でしかない。

 少なくとも、この戦闘に限って言えば連邦に勝ちの目は薄い。

 だが、連邦は例えこの戦闘に負けても次があり、ジオンには無い。

 両軍の違いと言えば、やはりその国力だろう。

 まぁ要塞攻めとなれば一日で終わる事も少ない。

 今日の所は連邦側が退くだろう、というのが両軍首脳部の考えだった。

 これでもし、事前に互いがソーラーレイやソーラシステムの撃ち合いをしていたのなら、地球にそれが撃たれぬように是が非でも陥落させねばならなかったのだが、この世界線ではそうならなかった。

 故にこその膠着状態とも言えた。

 

 だから、この状態を崩すのは、第三者からの横槍に他ならない。

 

 ガチャリ、とギレンの背後から銃口が突き付けられた。

 

 「何のつもりだ、と聞いた方が良いかね?」

 「御冗談を。分かってらっしゃるくせに。」

 

 後ろにはジオン軍の制服を着ながら、しかしジオン軍人ではないものがいた。

 その言葉にも独特の訛りはなく、司令室に音もなく侵入、或いは入れ替わっていた人員らがサイド3の生まれでない事が分かる。

 司令室にいた他の人員は次々と撃たれ、やがて静かになっていった。

 今生きているのはギレンと、プラントからの諜報員達のみだった。

 

 「君達はもう少し賢いタイミングで来ると思っていたのだがね。」

 「私共としてはこのタイミングがベストと判断しました。」 

 

 ここでギレン他司令室の要員を殺傷すれば、指揮系統を失えば、それだけでこのア・バオア・クーは落ちる。

 だが、それだけでは彼ら諜報員らの所属するプラントの利益にはならない。

 

 「このままこの場を制圧するだけで、連邦はこの要塞に取り付いてくれるでしょう。その後は私共は花火を点けるだけ点けてトンズラすれば良い。」

 「核融合炉か。成程、この宙域には腐る程あるな。」

 

 ミノフスキー粒子の登場で驚く程に小型化が進んだとは言え、核は核だ。

 大気圏内程ではないとは言え、その威力は目を見張るものがある。

 それを点けるだけ点けてからの逃走となると少々難しいだろうが、この連中の事だ、その位の用意は出来ているのだろう。

 

 「その後は弱り切った連邦とジオン双方を君らの艦隊が叩き、地球圏に覇を唱える、で合っているかね?」

 「えぇその通り。流石の慧眼ですよギレン総帥。いや実に惜しい、貴方程の人材をここで失ってしまうのは本当に残念です。」

 「滑稽だな。」

 「は?」

 

 はぁ…と、心底の失望を形にしたようにギレンは深々とため息をついた。

 

 「滑稽だと言ったのだよ、改造人間共。」

 

 諜報員らが、プラントに住むコーディネーター達が唖然とする中、ギレンは堂々と宣った。

 

 「この太陽系の真実を知らず、自らの先行きの無さから目を逸らし、剰え改造された身で進化した等と欺瞞を吐いて全人類を支配しようとしている貴様らコーディネーターを、滑稽だと言ったのだ。」

 「貴っ様ぁぁぁ…ッ!!」

 

 諜報員の一人が殺気混じりで小銃を向ける。

 しかし、その程度の事でギレンは動じない。

 元より死を覚悟してこの場にいる彼は、そんなものでは動じない。

 何より、この茶番ももう終わる事が分かっていた。

 

 「どうやら時間切れらしい。彼女らもまだ持ち堪えられると思っていたのだがね。」

 

 モニターの一つ、周辺宙域のミノフスキー粒子を始めとする各物質の分布や重力波等を示す数値が、異常な値を示し始めていた。

 

 

 ……………

 

 

 同時刻 太陽系外縁部にて

 

 「メタルビースト艦隊、第19波から24波来ます!更にワープ反応を多数確認!」

 「ダメです!敵物量、こちらの処理能力を超えます!」

 「ヴァルチャー全部隊損耗率4割を超過、稼働戦力が半数を切ります!」

 「プトレマイオス、フィールド出力68%にまで低下!」

 

 この一年、彼女らはよく戦った。

 各工廠は連邦が本格的にMSを配備するまでは全力で量産型ヴァルチャーを構成するナノマシン群の製造に振り、旗艦プトレマイオスもまた全力で戦闘行動を続け、碌に補給・修理の時間も取れなかった。

 それでもこの船が一年間も戦い続けられたのは、各員の努力と奮闘、これまで積み重ねたものがあった故だった。

 

 「トレミィ様!ご指示を!」

 

 太陽系防衛の最大戦力たる旗艦プトレマイオスにて、遂に決断が下された。

 

 「木星・火星行政府に通達、コードRED発令。繰り返す、コードRED発令。」

 

 それは彼女らの事実上の敗北だった。

 地球圏を、太陽系を、人類を、彼らが何れ巣立つ日まで守り続ける事を自らに課した彼女らにとって、それは間違いなく敗北だった。

 地球圏の守護を、太陽系の守りを、人類の存続を彼ら自身の手に託す事になるのだから。

 

 「太陽系内部方面にワープ反応を二か所で確認!」

 「これは…小規模ですが艦隊規模、ゼントラーディです!」

 「地球圏防衛用OF部隊は全力出撃。あらゆる手段を以て人類を存続させなさい。」

 

 こうして、人類は強制的に次のステップへと移る事となった。

 

 

 ……………

 

 

 「何だ、こいつらは!?」

 「敵なのか!?」

 

 現れたのは、見た事のないデザインやレイアウトの艦で構成された艦隊だった。

 数は20程度と少ないが、何処か生物的な見た目をし、緑と白、一部黄色で構成されたそれらは多くが500m級だが、その内の三隻は地球圏の基準では超大型に分類される程のサイズを持っている。

 二隻は1500m級の艦であり、更に一隻だけ現在の地球人類からすれば途方もなく巨大な艦があった。

 全長4000mを誇るその艦は、明らかにこの正体不明の艦隊の旗艦であり、表面を見るに数え切れぬ程大量の武装を搭載し、装甲に大小無数の傷がついている事から、明らかに「現役の軍艦」である事が分かる。

 どう見ても友好的な存在とは思えなかった。

 しかし、連邦もジオンも所属は違えど軍人である。

 命令ある限り、迂闊な行動は取れない。

 だから、火蓋を切ったのは向こうの方だった。

 

 『う、撃ってきやがった!』

 『くそ、撃て!撃ちまくれぇ!』

 

 不明艦隊の内、1500m級の二隻が艦体の前半分以上が上下に分割・展開し、数秒のチャージの後にア・バオア・クーの表面に設置された特装砲を超える威力で放たれ、ア・バオア・クーへと着弾した。

 同時、多数の艦載機の出撃と各艦が連邦・ジオン両軍へと射撃を開始する事で、戦闘は三つ巴の形となって再開した。

 

 

 

 これが公式における地球人類と異星人のファーストコンタクトとなった。

 余りに最悪な出会いだったため、以降の歴史書ではワーストコンタクトとも呼ばれるようになる事件の幕開けだった。

 

 

 



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第21話 共闘

 Q 圧倒的格上の異星人艦隊への対処法とは?

 A 超少数精鋭の機動兵器部隊を載せた機動母艦による敵指揮系統TOPへの電撃戦。

 
 この戦いが後のISA戦術の走りである。


 ここで、プラント側の戦力を見てみよう。

 

 先ず主力MSはジンとジン・ハイマニューバ、そしてシグーである。

 

 ZGMFー1017モビル・ジン

 全高21.43m 重量78.5t

 動力源 ミノフスキー式核融合炉・大容量バッテリー

 基本武装 76mmハンドレールガン(最大発射速度1600発/分)

      重斬刀×1

      30mmm頭部バルカン砲×1

      シールド×1

 

 ZGMFー1017M ジン・ハイマニューバ

 全高21.13m 重量80.41t 

 動力源 ミノフスキー式核融合炉・大容量バッテリー

 基本武装 試作76mmアサルトレールガン(最大発射速度1800発/分)

      重斬刀

      30mm頭部バルカン砲×1

      シールド×1

 

 ZGMFー515 シグー

 全高21.43m 重量80.22t

 動力源 ミノフスキー式核融合炉・大容量バッテリー

 基本武装 76mmロングレールガン(最大発射速度800発/分)

      シールド一体型30mmショートレールガン(最大発射速度1800発/分)    

      重斬刀×1

      30mm頭部バルカン砲×1

 

 この様に、レールガンを主兵装とした構成となっている。

 これは既存炸薬を用いた武装は「ジオンっぽくて嫌」という感情面での反発とビーム兵器の登場による陳腐化を避けつつ、対ビーム防御手段をすり抜ける方法を模索した結果(炸薬作るよりも農業プラント向け肥料の方が大事との声もあったため)、レールガンを採用するに至った。

 これらMS搭載レールガンはA.I.M.グループを除けば初の試みであり、プラントのコーディネーターらの技術力の高さが伺える。

 レールガンはその性質上、出力の調整で威力の高低を細かに調整可能で、更に炸薬式よりも反動が少なく、射撃精度が高い事から命中率の向上並びに弾薬の節約にも繋がるため、当初の理由は兎も角としてビーム兵器登場以降もプラント製MSの標準装備となる。

 肝心の機体性能だが、ジンの最新バージョンにおいては既に高機動型ザクⅡに匹敵する機動性を獲得している。

 シグーとジンHMに至ってはジオン側の最新鋭機であるゲルググ高機動型やJ型に匹敵する性能となっている。

 索敵面に関してだが、ミノフスキー粒子散布下並びに新型Nジャマー(核分裂だけでなく核融合反応すらある程度抑制可能)作動環境でも十全に機能させるべく高性能なものを搭載した結果、大型化してしまい特徴的な鶏冠状のセンサーユニットとなっている。

 動力源が複数なのもミノフスキー粒子散布下並びに新型Nジャマー作動環境でもその十全に行動するためであり、既存MSは核融合反応抑制に伴い、その出力の1~3割を抑え込まれてしまう。

 が、これは一年戦争時の未熟なミノフスキー式核融合炉故なので、Z時代になる頃には対策されて陳腐化する可能性が高い。

 最後に操作性だが、これは「やたら細かい所まで動かせるけど、実戦だとそこまで使わない」レベルの挙動が可能になっているが、その分だけ煩雑化しているせいで操作性は低い。

 少なくとも普通のナチュラルには扱えない程度には低い。

 テム氏に見せたら即座に没にされる程度には低い。

 これらの他に強行偵察仕様や電子戦使用、対艦攻撃装備や艦隊防空装備等がある。

 地上での活動はジオンの初期戦略がそうであったように存在しておらず、専ら宇宙で覇権を握る事を主眼としている。

 

 次に艦艇群を見てみる。

 改ローラシア級並びにナスカ級から構成されている。

 どちらも元々は民間船から再設計されたものだが、MS運用を前提とした構成となっている。

 武装面並びにナスカ級は特に変更はないので省略する。

 最も変更されているのは改ローラシア級である。

 以前は史実よろしくコムサイの様な格納庫・伸縮式リニアカタパルト・耐熱カプセルを備えていたのだが「カプセルとして投下したら艦載機並びに運用能力喪失とか冗談かね?」と某総帥に突っ込まれたとか何とかで改装され、現在は通常の箱型船体になっている。

 これによりMS搭載数も8機まで増加し、搭載物資量も増え、長期活動能力を得た。

 

 上記の通り、決して無能では無いのだが一部突っ込み所の存在するのがプラントの自治政府下にある武装組織ザフトの構成戦力となっている。

 なお、艦艇数はナスカ級が20隻、改ローラシア級が48隻、MSが各種合計約3000機となっている。

 数だけならア・バオア・クーに控えるジオン軍に匹敵し、戦略的タイミングと新型Nジャマーと合わせれば、成程、或いは確かに地球圏の覇権を握る事が出来ただろう。

 

 だがしかし、今の彼らは絶望的な状況での戦闘を強いられていた。

 

 「くそ、くそ、くそ!」

 「何なんだこいつらは!?」

 「よくもやったな!やってくれたなぁ!」

 

 戦闘に介入し、ア・バオア・クー攻防に参加する両軍を全滅させようと慣性航行で移動していたザフト軍艦隊はプラント本国からの半ば狂乱した通信により即座に反転、全力で加速して家であるプラントへと帰還した。

 そこで彼らは目撃した。

 

 砕かれ、内部の住民が宇宙へと放り出されて死んでいく光景を。

 

 1500m級の戦艦が2隻、400m級の比較的小型な斥候艦が12隻。

 それらから出撃した二本足のMPやMSとは全く異なるレイアウトの人型兵器がプラント内部にすら潜り込み、銃火器すら使わず住民に襲い掛かる様を。

 

 「全艦隊に伝達!プラントを襲う敵勢力を全て排除せよ!」

 

 こうして戦闘が始まった。

 だが、彼らは所詮地球圏においては少数であり、(精神面は除いた)人員の質は兎も角としてその数が少な過ぎた。

 故にこそ、巨大艦艇の予想以上の火力と防御力に艦隊は蹂躙され、戦況を打開すべきMSは倍以上の物量を持つ戦闘ポッドに高性能なバトルスーツ群を排除できず、半ば一方的な戦況となっていた。

 これがバトルスーツとの同数での戦いであったのなら、話はまた違ったのだが…。

 彼らには常時続く板野サーカスを乗り越えるだけの質はなかった。

 加えて、下手にミノフスキー粒子ならび新型Nジャマーを発動させれば、敵への妨害以上にプラントの民間人に被害が及んでしまう。

 気の毒だが、完全に詰んでいた。

 

 『むぅ…一部の兵が戦わずに戦闘不能だと?確かなのか?』

 『えぇ。特に敵側の居住施設に侵入した兵の一部がそうなっております。』

 『居住施設への侵入は取り止めだ。艦砲射撃にて破壊し、敵戦力の掃討後に調査を行う。』

 『畏まりました。』

 

 そして、砲艦2隻からまたも誘導ビームによる砲撃が発射され、また一つ宇宙に浮かぶ砂時計が砕かれた。

 

 「止めろぉーッ!?」

 「誰か、誰か止めてくれ!!」

 「こちら第二小隊、ミサイルが…!」

 「母艦が落とされた!どこに帰れば…」

 

 この状況は、まだ暫く続く事となる。

 

 

 ……………

 

 

 一方その頃、ア・バオア・クー宙域でも激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

 『くそ、何なんだこいつらは!?』

 『ぼやくのは後だ!来るぞ!』

 

 地球連邦とジオン双方へと襲い掛かってくる所属不明艦隊に、両軍はなし崩しに共闘に近い状態へともつれ込む事となる。

 これには戦闘再開から直ぐに放送されたドズル中将の言葉によるものが大きかった。

 

 『司令室との連絡が途絶したため指揮を引き継いだドズル・ザビだ!全ジオン軍将兵に通達!今は地球連邦軍じゃなくあの妙な連中と戦うぞ!地球連邦軍に対してはこの場での一時休戦並びに協力を要請する!返答は急いでくれ!』

 

 そんな急な言葉だが、確かにザビ家であり軍事のトップであるドズルの言葉である。

 ジオン軍将兵はそれまでの狼狽えようが嘘の様に態勢を立て直し始め、即座に反撃へと移り出した。

 

 『本作戦の総指揮を預かる地球連邦軍のレビルだ。先程の要請を受託した。これよりジオン軍と協力し、所属不明艦隊への攻撃を行う。』

 『レビル将軍、受託を感謝する。』

 『正式な話し合いは、後日外交の場で改めて行おう。今はこの場を乗り越える事が肝要だ。』

 『おうとも!グレートジオングも出すぞ!ここが正念場だ!』

 

 連邦側が行動を決定すると、後は早かった。

 機動兵器の物量においては寧ろ連邦・ジオン側が勝っているため、徐々に制宙権は地球側へと傾いていく事となる。

 しかし、その一生を戦いにこそ費やす巨人族は現状の地球人類では楽に勝てる相手ではない。

 

 「メガ粒子、照準でき次第発射!先ずは周囲の小さい奴から減らしてやれ!」

 

 サラミス改の一隻から放たれた砲撃の一部は500m級斥候艦には当たらず、その奥の4000m級中型艦隊指揮用戦艦へと命中するも、その装甲表面を僅かに赤熱させただけで損傷らしい損傷を与える事が出来なかった。

 

 「何て硬さだ!?」

 

 次いで、反撃として放たれた多数の誘導ビームの斉射によって逆に複数の人類側艦艇が沈められていく。

 明らかに艦隊火力・装甲の面ではゼントラーディ側が勝っていた。

 その巨大さ故、この戦場では碌な回避行動も取らず、ただ足を止めて砲撃し続けるだけで勝てる。

 それが分かっているのか、4000m級中型艦隊指揮用戦艦は動かず、その強力でありながら誘導可能なビーム砲を周囲の人類艦隊へと叩き付けていく。

 

 「ダメなのか…!?」

 

 それを見て、艦のサイズから大よその防御性能と火力を類推したアムロは絶望しかける。

 ジオンならばちゃんと戦闘になっても勝てた。

 でも、こいつらはどうだ。

 同じ人間ではなく、見た事もない巨人が乗ったこいつらに、圧倒的な戦力を持った異星人に自分達は勝てるのか?

 戦場全体に絶望が蔓延しかける中、それに感化されたアムロもまた心を絶望に覆われていく。

 だから、ア・バオア・クーから放たれた一条の光、即ち核融合プラズマビーム砲の一撃が戦場を横断した時、心底度肝を抜かれた。

 

 「へ…最後の一発、決めてやっ…z」

 

 元試作艦隊決戦砲にして現要塞特装砲ヨルムンガンド。

 ボロボロとなり、周囲には部下達の死体だらけの状態で、砲術長たるアレクサンドロ・ヘンメ大尉は血を吐きながら笑った。

 直後、反撃の誘導ビームで蒸発しながらも、彼と彼の生涯を捧げたヨルムンガンドはこの戦闘の趨勢を左右してみせた。

 

 『敵旗艦の装甲の融解並びに中型艦一隻の撃破を確認!』

 『よし!各員に伝達!全艦艇はあの穴に突撃し、内部にMS部隊を侵入させよ!外から無理なら中から落としてやれ!』

 

 レビルの声に両軍の艦艇は前進を始めるが、狙いを察知したゼントラーディー艦隊は弾幕を強め、近づく艦艇を容赦なく轟沈させていく。

 

 「ダメだ!近づく前に落とされて…」

 『なら任せろぉ!!』

 

 先程以上の大声で叫んだのはドズル。

 ア・バオア・クーから瓦礫を押し退けて出撃してきたのは全長100m以上、足の無い人型をした巨大な兵器だ。

 

 『艦隊防空仕様のムサイ各艦は大型メガ粒子砲を拡散ではなく収束モード!』

 『射撃タイミング合わせ!カウント20で敵旗艦に向けて斉射せよ!』

 『いくぞグレートジオング!兄貴達の仇討ちだぁ!!』

 

 残っていた12隻の防空仕様ムサイの収束射撃、そしてグレートジオングが乾坤一擲に一撃を放たんとエネルギーをチャージする。

 それをさせじと、彼らへ向けて無数の戦闘ポッドとバトルスーツが押し寄せてくる。

 

 『させるかよ!』

 『行かせん!』

 

 シン・マツナガにテネス・A・ユング。

 その様子に隙を見出したのか、両軍のエースらがそれを阻害すべく瞬く間に撃墜していく。

 幸いにも、敵機動兵器群の防御力自体はそう凄まじいものではない。

 ビーム兵器の直撃なら確実に落とせた。

 

 「三つ、四つ、五つ!」

 『腕を上げたな、ガンダムのパイロット!』

 

 そこには赤い彗星と白い悪魔と言われた二人の姿もあった。

 

 「言いたい事はある!けど今戦うべき相手はあいつらだ!」

 『同感だ!行くぞ!』

 

 そして、放たれた13条の光が、4000m級中型艦隊指揮用戦艦への道を切り拓いた。

 

 

 

 




 今日のギレン様

 「ジオングは重火力MA?MS同様のマニュピレーターを持つのなら汎用性を確保したまえ。指全てがビーム砲とは整備性やコストに喧嘩を売っていると何故分からん?その分をゲルググのビームライフルにした方が効率的だ。」

 「どいつもこいつも……決戦用巨大兵器なぞ非効率の極みだと何故分からん。せめてギニアス少将位の案を持ってこいと言うに。」
 「どうせだ。全て纏めてコストを削減してしまおう。形にならんでもアプサラスの様にシステムの一部分だけでも役立てば良い。」
 「何?形に出来ただと!?…両肩にIフィールドジェネレーター装備で腕はジオングを参考に常人も動かせる有線式簡易サイコミュ。下半身にオッゴとの連携のための補給設備、それにアプサラス式マルチロック拡散・収束切り替え可能なメガ粒子砲。他は各種対空ミサイルやガトリング砲に多連装ロケット砲…。材料は既存資材のみか。」
 「よく形に出来たな。良かろう、試作一機のみだが製造を許可する。」


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第22話 旗艦突入

愛おぼえていますかをレンタルして視聴しながらの執筆でした。


 ここらでいい加減、グレートジオングについて解説しよう。

 

 実はこのグレートジオングという名称は、別に正式名称という訳ではない。

 別口のNT専用重火力MA開発プランの機体とたまたまシルエットが似ているから、正式名称も決まってないからとその名前を借りて、それでいてサイズが倍どころではない程に差があるので、便宜上付けられた名前に過ぎない。

 本機は複数の大型MA開発計画を統合され、新技術実証のために試作一号のみ生産が許可された機体だ。

 しいて正式名称を付けるのならば「試作マルチロックオン拡散・収束切り替えメガ粒子砲搭載型拠点防衛用巨大MA」となる。

 長過ぎるし、実際はアプサラス計画以外のMA開発計画も統合したせいでどんな名前を付ければ良いのか最早誰にも分らなかった。

 生産に関わった中で最も階級の高いギニアス技術少将をして「こんなもの私のアプサラスではない」として、その名前の使用を禁止した程である。

 

 名前の由来は兎も角としてその性能、特に火力と防御面に関しては本物である。

 機体総重量は測ってない上にちょくちょく変化してしまうので不明だがそのサイズは約200mと、小型艦艇に匹敵するサイズを誇る。

 機動兵器の分類の中では先ず間違いなく当時の太陽系で(少なくとも公式に記録された中では)最大と言って良いだろう。

 

 下半身は元試作型超ド級MA構想の概念実証機(コスト肥大にて開発中断)の下半身を流用、Iフィールドの死角を補う役割を担うMPオッゴ一個中隊との連携のために補給・応急修理設備を備え、一機ずつ搭載して簡易修理・補給を行う。

 胴体部はジャブロー攻略用試作型巨大MAビグザムのボディを流用しているが、その機能の殆どは残っていない。

 全方位に配された26門ものメガ粒子砲群は「無駄な上にコストと信頼性と耐久力を著しく損なう」と言うギレンの一言により撤廃、大型メガ粒子砲に関しても本来のアプサラスのそれを改良したものを搭載したため、本当に外側と大出力核融合炉しか流用されていない。

 大型メガ粒子砲の威力たるや、ヨルムンガンドを除いた両軍の通常兵器の中で最大の火力を誇る。

 左右に広がる特徴的な大きい両肩は、Iフィールドジェネレーター並び専用核融合炉を搭載したがために大型化したものだ。

 元々はビグザムの装備だったのだが、ビグザムにしてもエネルギーが足りずに活動時間が極端に短くなってしまう欠点を大型化によって無理矢理解消したものだった。

 そして、両腕部は名前の元となったジオングを始めとしたNT専用機を参考に、機械的補助並びに専用操縦士を用意する事で通常のパイロットでも操作可能とした疑似サイコミュシステムである。

 巨大な腕部には四本のクローが備わり、その中心にビーム砲と大型ビームサーベルの放出口を備える。

 前腕部を有線で繋いだ状態で射出、搭載したスラスターで機動させ、接近してくる目標を自由な角度から攻撃する事が可能になっている、自衛の色合いが濃い兵装だ。

 ビームサーベルの長さは200mと自身に匹敵する長さであり、同系列兵器の中では最長のギネス記録を持つ。

 また、各部には動作不良やエネルギー不足になった場合に備えて30連装ビーム撹乱弾発射機×6、自衛用対空装備として6連装ミサイルランチャー(ザクのフットミサイルを連結した流用品)×8、80mm対空ガトリング砲×2、60mm近接防御バルカン×2等の信頼性の高い実弾武装も豊富に搭載されている。

 装甲は可能な限りの対ビーム・対実弾双方への対策が施されており、連邦の一般的な戦闘艦艇よりも高い防御能力を持つ。

 しかし、ダメコンがその性質上殆ど出来ないため、最終的な耐久性に関してはそこまで差はない。

 これら複雑極まる機体を運用するため、パイロットはこの機体やMAに精通した者が選ばれた。

 最終的にドズル・ザビ中将を筆頭に、デミトリー曹長他6名の合計7名で操縦する。

 なお、オリヴァー・マイ技術中尉も候補として選ばれていたのだが、実戦経験の少なさから辞退したそうな。

 内訳は二人がオッゴ中隊の指揮を兼ねる通信士、三人が火器管制、一人が主操縦士となる。

 

 要は「デカくて固くて強い巨大メカ」なのだ。

 ……バッフ・クラン産かな???

 

 あのコストカットに煩いギレンがよくぞ許可したものだと驚く機体だが、「こいつを構成する各計画をそのまま通していた方がコスト面で大問題だったからだ」と本人はコメントしている。

 そんな急造品なのだが、ジオン脅威のメカニズムというか、いつものMAD共が本気を出したと言うべきか、急造品としては驚くべき完成度を持っていた。

 

 『主砲は収束モードを維持!チャージ完了確認次第敵旗艦に撃て!各対空砲は任意に射撃!撃ちまくれ!』

 『オッゴ中隊は本機をサポート!敵を近付けるな!』

 

 味方からすれば驚きながらも心強いが、敵からすればいきなり巨大な機動兵器が撃破した筈の要塞から出現し、損傷も厭わず突撃してきたのだから度肝を抜かれた事だろう。

 動揺しながらも即座に迎撃の手を緩めないのは、やはり戦闘種族故か、その火線は正確なものだった。

 護衛として展開している500m級斥候艦17隻と1500mm級中型砲艦2隻。

 それらの隊列が万全ならば、グレートジオングを始めとした連邦・ジオン両軍の突撃する艦艇は全て宇宙の塵と消えていた事だろう。

 だが、防空仕様ムサイとグレートジオング、そして先のヨルムンガンドによる砲撃が、辛うじて敵艦隊に動揺を、隙を作る事が出来た。

 ヨルムンガンドは反撃で消滅し、防空仕様ムサイはこれまでの連続使用と無茶な砲撃で使用不能となり、もう次はない。

 

 『ジオン・連邦両軍はこの好機を逃すな!負ければ人類そのものの危機だぞ!』

 

 宙域に響くドズルの声は、正しく人類の状態を示していた。

 ここで負ければ人類は滅ぼされる。

 何せ初めて出会った人類を、銃口を向け合っていたとは言え一切の躊躇いなく攻撃してきたのだ。

 相手側が有利である限り、和平や休戦などという事には絶対にならないだろう。

 待っているのは巨人族に出会った多くの種族がそうだった様に、絶滅だ。

 だからこそ、両軍のエースと艦艇は損傷も死も厭わず突き進む。

 だが、後一手が足りない。 

 

 「なら任せなぁ!!」

 

 隙が出来たとは言え、未だ濃密な迎撃網の中を一切怯まずに突き進む者がいた。

 「野獣」ヤザン・ゲーブル。

 NTを始め多くの異能力者でも天才でもなく、ただ闘争本能に満ち溢れた人間が、この絶望的な状況に斬り込んだ。

 クラウドブレイカー。

 木星の重力圏内で使用するための大出力ブースターと堅牢な構造を持つこの機体は、未だ未熟なMSよりも本来の性能は遥かに高い。

 輸出用のモンキーモデルはジェネレーターを小型縮退炉からミノフスキー式核融合炉へと変更され、重力・慣性制御装置も廃され、リミッターをかけられた。

 それでも高い性能故、今まで誰もそのリミッターを解除する事はなかった。

 だが、この土壇場でヤザンはそれを解除した。

 

 「ぐ、おぉ……!?」

 

 それはヤザンをして初めて体験する程の強烈なGだった。

 本来ならば重力・慣性制御装置を搭載した上で無人機としての運用を前提としたこの機体。

 出力は下がりながらも、本来の性能へと近づいたこの機体は地球圏の有人兵器では到底到達できない次元へと足を踏み入れていた。

 

 (長くは保たねぇ…!)

 

 襲い来るGの中、懸命に操縦棹を操って機体に振り回されながら操作する。

 武装を使う暇なんてありゃしない。

 内臓が口から出そうだと思いながら、それでも必死に意識を手放さぬよう歯を食いしばる。

 機体を掠める様に敵の火線が通り過ぎていく中、それでもヤザンは終わらぬ、終われぬと耐え続ける。

 

 「お、お、おおおおおおおお……!!」

 

 十重二十重の迎撃のレーザーやミサイル、ビームを振り切って、漸くヤザンは4000m級中型艦隊指揮用戦艦へと取り付いた。

 

 「食らえぇぇ!!」

 

 残り1発の対艦ミサイル、120mmレールガン、80mmガトリングガンの全てをヨルムンガンドの開けた大穴へと叩き込む。

 各部で小爆発が連鎖し、濃密だった対空射撃が減少する。

 通常の地球人類製の艦艇であったなら、これだけで轟沈必須だろう。

 しかし、相手はゼントラーディ軍の中でも特に頑丈で知られる4000m級中型艦隊指揮用戦艦。

 史実においてはあのマクロスのダイダロスアタックを艦首に受けてなお沈まず、ノーメンテで15万周期を超えて運用される艦も存在する兎に角頑丈な戦艦なのだ。

 だが、ヤザンの乾坤一擲は確かに届いた。

 

 『各員突入せよ!動力源を狙え!内部から破壊するしか手はない!』

 

 旗艦に更なる損害が発生した事で増した隙を、今度は被弾を厭わぬ特攻にてグレートジオングが取り付いた。

 次いで、両軍のエースらが艦内に侵入し、両軍の艦艇が4000m級中型艦隊指揮用戦艦の表面へと突き刺さる様に着底し、白兵戦へと移行していく。

 

 『後は頼んだぞ!本機はこの場で退路を確保する!』

 

 そして、戦局は最終局面へと移っていった。

 

 

 

 




 本日のギレン様

 「エルメス…それで?この実質使い捨てのビットで一体ゲルググとビームライフル何組分のコストなのかね?」
 「無線でのNT専用兵器の小型化が不可能なら、先ずこちらの有線式で技術を蓄積しろ。」
 「今のこいつなら、スン少尉なら扱い切るだろう。」


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第23話 巨人族

 ここでこの世界におけるコーディネーター居住コロニー、通称「プラント」についてお浚いしておこう。

 

 彼らが住むのは地球圏での暴動や迫害を加味して、地球から最も遠いLPに建設されている。

 そう、ジオン公国と同じLP2にだ。

 ジオンとプラント側は地球憎しの方針で同じだったが、その余りに近い立ち位置から、互いに刺される事を警戒せねばならなかった。

 それを防ぐための秘密条約であり、技術協力だった。

 人間、どんなに時代が下っても利益の方が大きければ多少の軍事・政治的問題は飲み込めるからだ。

 だが、ジオンもプラントももしもの時の備えを一切怠っていなかった。

 だからこそ、本国艦隊とキシリアが残されていたし、プラントも趨勢が固まるまでは静観に徹した。

 しかし、それは破られた。

 他ならぬプラントの軽挙妄動と、異星人の侵略によって。

 

 故に、キシリア率いるジオン本国艦隊もまた、決断を迫られていた。

 

 「デラーズ、そちらの準備はどうか?」

 『ソーラ・レイは万全です。いつでも発射可能です。』

 「よし、私はバハロ首相と共にこちらに向かっている連邦艦隊と交渉する。そちらも指示通り上手くやってみせよ。」

 

 この時、ジオンの名は本来よりも歴史に大きく刻まれる事となる。

 

 

 ……………

 

 

 「発射準備完了しました。…ですが、よろしいのですか?」

 「うむ。」 

 

 オペレーターの言葉に、エギーユ・デラーズは頷いた。

 

 「これで良い。ギレン閣下からの指示通りだ。」

 「了解しました。ではプラント本国への通信を送ります。通信への返答内容に依らずカウント60でソーラ・レイ発射します。」

 

 ソーラ・レイとはジオンがこの戦争の切り札として開発した、超巨大な戦略級レーザー砲だ。

 廃棄予定だった最初期型の密閉式コロニーを丸々一個レーザー砲として加工した代物で、無数の核融合炉と周辺に設置された太陽光発電パネルを動力源としている。

 10秒程度の照射が可能で、移動すれば地球さえ焼く事も可能だが、完全冷却には一週間もかかる難物だ。

 しかし、威力に関しては問題ない。

 それこそ異星人の艦隊であっても命中すれば一撃で撃滅可能だ。 

 

 「通信繋げます。プラント方面へ向け、各種チャンネルで送信します。」

 

 突然の通信に応答が返ってくる事は無い。

 プラント本国はジオン側が紛れ込ませていた諜報員によって異星人からの攻撃を受けている最中だと判明している。

 下手すると組織的反撃すらもう出来ていないのかもしれない。

 

 「私はジオン公国軍大佐、エギーユ・デラーズである。この通信はプラント在住の地球人類全員に向け放送されている。只今よりこちらの戦略兵器たるコロニーレーザーによる照射を実施、プラントを襲撃中の異星人艦隊を撃滅する。この通信が終了してからカウント60後に照射が開始される。こちらの送信する予測照射宙域から一切の所属問わず急ぎ退避されたし。また、現在サイド3に向け移動中の地球連邦軍艦隊並びジオン本国防衛艦隊がそちらに急行している。後少しで良い、持ち堪えてほしい。」

 「カウント開始。59・58・57・56……。」

 

 だが、返答は来ない。

 もうプラントは壊滅したのか、通信機器が全て破壊されたのか、広大なジャミングがされているのかすら分からない。

 確かなのは、デラーズはギレンの想定した状況ごとの指示通りに行動したという事だった。

 

 (これで良かったのですか、ギレン閣下?)

 

 デラーズとしては、コロニーレーザーはア・バオア・クー攻略に参加している連邦軍艦隊にこそ使いたかったし、何故あんなこちらを見下す(どっこいどっこいだが)改造人間共を助けねばならないのかと思う。

 しかし、ギレンたっての指示となれば従う他ない。

 デラーズにしても、これがコーディネーターらによる反乱防止のためだとは分かっている。

 自分達以上に選民思想を尖らせ、しかし種としての先行きがない者達など、一体どんな事をしでかすか分かったものではない。

 その心配を無くすため、本来ならばア・バオア・クーへと向かったプラント艦隊またはプラント本国をコロニーレーザーで撃滅する予定だった。

 しかし、異星人の出現によって状況が変化した。

 最早彼らには種としての単独での存続は不可能であり、国家としての体面を保つだけの人口も失われた。

 プラントがもう敵になれないこの状況になって初めてジオンは、より正確に言えばギレンはプラントへと手を差し伸べる事が出来たのだ。

 

 「……10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・発射。」

 

 そして、巨大な光の柱がプラント方向へ向けて放たれた。

 

 

 ……………

 

 

 プラント側も、その通信を聞いていた。

 しかし、既に戦艦はどれも落とされ、民間の艦艇が脱出しようとプラントを出た途端に撃墜され、既に降伏も何も出来ずに滅亡を待つ状態だった。

 プラント評議会のある各政府機能を持ったコロニーも破壊され、議員らにも被害が出ており、プラントという国家?とコーディネーターという種の存続は最早絶望的な状況だった。

 辛うじて一部のMSが未だ奮闘しているが、それも自身が僅かでも死ぬまでの時間を遅らせているに過ぎない。

 そんな状態で、その通信を聞いた者達はそれを信じる事ができなかった……訳ではなかった。

 

 『連邦とジオンから援軍だと!?』

 『何だって良い!誰か、助けてくれェ!』

 

 既に彼らは目の前の迫った死に対して、いつもの傲慢さはすっかり消し飛ばされ、漂白されていた。

 まぁ、そんな傲慢とかプライドの高い者は既に死亡し、この場に残っているのはどんなものでも使えるなら使う柔軟な思考の持ち主しか残っていなかった。

 

 『急げ!移動しろ!カウントまでもう時間が無い!』

 『くそ、間に合わn』

 

 そして、巨大な光の柱が宙域を貫いた。

 その一撃は1500m級砲艦一隻、400m級斥候艦が7隻沈み、機動兵器の半数以上が巻き込まれ、一瞬で消滅していった。

 極一部のザフト兵がそれに巻き込まれたが、それでもジオン側はこの状況で最大限の配慮をした形となり、恨みを買う恐れは殆どない。

 

 『うおおおおおおおおおお!!』

 『やった、やったぁ!』

 『ざまぁみろエイリアンめ!』

 『浮足立つな!これを機に態勢を整えろ!数はまだ向こうが上だ!』

 

 動揺する異星人を相手に、歓喜の声を上げながら弱弱しいながらも反撃を開始するも、既に組織的戦闘能力を喪失し、元々個々人の技量をこそ頼みとするザフト軍パイロットらは迂闊な行動から反撃で撃破される事例が多発した。

 それでも、彼らは最後の仕事を成したのだ。

 時間稼ぎという、値千金の時の砂粒を稼いでみせた。

 

 『来た!連邦とジオンの艦隊だ!』

 『すげぇ数だ!MSもたんまりだ!』

 

 『こちら地球連邦軍第9艦隊、グリーン・ワイアット大将だ。ジオン本国防衛艦隊と共に、プラントの救援に来た。お互い言いたい事はあるだろうが、先ずは無粋な客人に退場してもらってからとしよう。』

 

 こうして、史実の世界線からすれば驚天動地の連合軍は、怒りのままにゼントラーディ分艦隊へと襲い掛かった。

 

 

 ……………

  

 

 同時刻、4000m級中型艦隊指揮用戦艦内部にて

 

 「こ、これは……。」

 

 敵旗艦の内部に侵入したアムロは、度肝を抜かれていた。

 人類からすれば余りにも巨大な異星人の戦艦、その内部には彼の想像していない光景があった。

 

 「巨人?異星人は全員巨人なのか?」

 

 身長約10mの地球人類の男性に似た知的生命体。

 それが地球人類に牙を向いた異星人の姿だった。

 

 「っ!」

 

 驚きも冷めぬ間に、当然ながら向こうは反撃してきた。

 真空状態のハズなのに碌にパイロットスーツも付けず、手に外で出会った人型兵器(というよりもバトルスーツ)と同じ銃火器を手に侵入者であるアムロへと射撃を加える。

 

 「このぉ!」

 

 結局やる事は変わらないと自分に言い聞かせ、素早く連装ビームライフルを三点射。

 それだけで瞬く間に撃破され、倒れていく巨人族。

 MSよりも遥かに分かりやすい人を殺したという感覚に、いつものアムロなら恐怖を抱く筈だった。

 しかし、彼らからは地球人類の様な恐怖や苦痛を余り感じなかった。

 それを不思議に思いつつ、動力炉を探すべく移動を開始する。

 

 『無事か、ガンダム!』

 「シャアか!?」

 

 そこに、突入時に一緒だったシャアの駆る高機動型ゲルググが追いついた。

 

 『これは、巨人か?』

 「この船だけじゃない。皆こいつらが乗ってるんだ。」

 『流石は異星人。我々とはかけ離れた大きさだ。』

 

 シャアと共に驚きながらも移動を開始する。

 すると、途中からガクンと機体の挙動が重くなった。

 

 『何と!?』

 「これは、コロニーに似てる。艦内に重力があるのか?」

 『ガンダム、シールドを一つこちらに渡せ。その重さじゃ早く動けん。私が前に出る。』

 「わ、分かった。頼む。」

 

 そう言って、アムロは右のシールドを渡す。

 接続部位は合わないだろうが、手に持って使う分には大丈夫だった。

 シャアはそれを疑う事なく受け取ると、迷いなくアムロに背を向けて前に出て進んでいく。

 

 『よし、行くぞ!』

 「ああ!」

 

 言い様のない奇妙な連帯感。

 言葉にしなくとも互いの言いたい事が何となく伝わる不思議な感覚を、二人は抱いていた。

 

 

 

 

 この10分後、突入に成功した両軍のエース達の乗るMS部隊は動力炉の破壊に成功、この戦闘の勝利の立役者となるのだった。

 

 

 

 



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第24話 決着

 新西暦179年、LP2、プラント周辺宙域

 

 

 「おおおお!!」

 『ヤック、ヤック、デカルチャー!?』

 

 その数を当初の半数未満にまで減らしたゼントラーディ分艦隊だったが、しかし、その兵器の多くの性能が地球側よりも優越している事は変わらない。

 ザフト軍の消滅間近になっても変わらぬ奮戦によって消耗こそ免れていないが、彼らの戦意は変わらず旺盛だった。

 では、ア・バオア・クー宙域よりも遥かに少ないサイド3占領艦隊とサイド3防衛艦隊からなるプラント救援連合艦隊は、如何にして彼らの戦意を挫き、掃討作戦へと移行したのか?

 それはこの艦隊がまともな戦闘行動をせず、消耗していない事もある。

 しかし、配備されていた戦力は二線級の初期型ジムやザクⅡF型である。

 数的有利があったとは言え、敵機動兵器やゼントラーディ艦隊を相手に戦えるとは思えない。

 

 「サイコザク隊続け!敵艦隊の陣形内部に入り込むぞ!」

 『『『『『了解!』』』』』

 

 その差を埋め、決定的な隙を作った者達こそリビングデッド師団所属リユース・サイコ・デバイス装備高機動型ザクⅡにより構成された一個中隊である。

 一個中隊、即ち僅か9機しかないこのMS部隊は搭乗者の脳が発する電気系信号を、MSの駆動系に伝達させる事によって乗機を己が手足のように操作する事が出来る。

 後の多くの思考伝達型MMI(マンマシンインーターフェイス)の走りとなったシステムである。

 一号機のパイロットにしてサイコザク隊の隊長はリユース・サイコ・デバイス開発の主任パイロットでもあるダリル・ローレンツ少尉(戦後、中尉に昇進)であり、同隊は彼の同僚や部下達から成る。

 が、四肢の切断した者にしか使用できないため、戦後は本来の開発目的通りに義肢へと利用され、廃れる事となる。

 このシステムによる恩恵は大きく、機体とパイロット側の伝達によるロスをほぼゼロに出来ていた。

 一年戦争当時でこれは破格であり、その反応速度から唯でさえ近接戦闘では自分達よりも一回りは大きいMS相手に押され気味(その前の高機動格闘戦では機動力で勝るが)だったゼントラーディ製パワードスーツ群を相手に局所的ではあるがワンサイドゲームに近い様相を見せた。

 これらサイコザクによる敵艦隊直援機動兵器の排除の成功並びに陣形内部への侵入によりゼントラーディ側は混乱、更に砲塔部分を破壊され、残っていた艦隊戦力は果敢に抵抗するも撃破されるのだった。

 

 が、この時の彼らの奮戦が元となり、対異星人兵器研究の建前で各勢力による非人道的な人体実験が行われるようになってしまったのは、皮肉としか言い様がなかった。

 

 

 ……………

 

 

 ア・バオア・クー内部 司令室(機能喪失状態)にて

 

 

 「ふふ、見事なものだ。」

 

 そこでギレンは辛うじて生き残ったモニターで状況を把握していた。

 

 「キシリアもドズルもデラーズも…役目を果たしてくれたか…。」

 

 キシリアの行動によりジオンは遺憾なくとは行かないが、何れ地球連邦政府へと帰属する事となるだろう。

 プラント救援と対異星人を目的とした共同作戦の実行。

 少なくとも、連邦市民の対ジオン感情の多くは軟化するだろう。

 民衆とは喉元過ぎれば忘れ、喫緊の危険を見つければそちらに目が向くものだから。

 また、本来の予定よりもかなり早いが異星人の存在に気付き、貴重な戦訓を得る事も出来た。

 更に言えば戦闘後は鹵獲や回収からの研究も進む事だろう。

 軍縮は難しいのに復興せねばならず、更に言えば強大な敵の存在に、地球連邦は変革を迫られる。

 そんな時、消耗しながらも多数の有用な兵器を開発・配備できるだけの力を持ったジオンはどう映るだろうか?

 必然的に利用しよう、と考える。

 そこからはもう互いに交渉や策謀、諜報の領域であり、キシリアやマ・クベのまぁまぁ得意とする分野だ。

 悪い事にはなるまい。

 戦後、裁判こそ免れないが、ジオン側を利用しようとする以上、多少の配慮は必要だろう。

 ドズルに関してはあの通りなので、連邦側将兵から助命嘆願すらあり得る。

 父上、デギンに関しては余命幾ばくもないとなれば監禁・監視・保護が妥当だし、未だ北米を抑えているガルマに関しては占領地の返還で将兵の帰国共々大丈夫だろう。

 面倒な事や戦犯不可避の作戦に関しては全て自分が責任を持っている事となっている。

 本来なら完全にジオンを使い潰す予定だったのだが……これはこれで悪くない。

 ギレンとて人の子であり、尊敬する父親や家族にはそれなりに幸せになってほしかった。

 史実の彼ならば鼻で笑うような思考も、この世界で理解者に出会えたギレンにとっては当たり前の事だった。

 

 「おや、漸く来たか。」

 

 不意に瓦礫で埋まっていた入口が抉じ開けられた。

 大量の残骸や岩石は不自然に浮かび上がり、横へと追い遣られると、一人の女性が通路から現れた。

 白と黒の古式なデザインながらも所々にパイロットスーツめいた意匠を持つメイド服を着て、ブラウンの髪を頭頂部で纏めた女性の名はセシリア・アイリーンと言う。

 ギレンの秘書を務めるA.I.M.グループからの出向社員であり、ナノマシン式侍女型高級自動人形である。

 

 「ギレン様、お迎えに上がりました。」

 「うむ。」

 

 そんな異常事態を見ても、ギレンは特に何か言う事もなく立ち上がった。

 

 「残念です。驚いてくれるかと思ったのですが。」

 「私を騙すつもりなら、もう少し経験を積むべきだったな。彼女程情緒豊かでもないと誤魔化されんよ。」

 「なんと。惚気られてしまいました。」

 

 セシリアがつい、と瓦礫に視線を向ける。

 

 「そちらの方は如何に?」

 「ぅ……。」

 

 そこには辛うじて生きていたプラント側の工作員の姿があった。

 とは言っても既に彼女一人しか生きておらず、他は全員先程の異星人艦隊からの艦砲射撃によって潰れていた。

 

 「君、良ければ来るかね?」

 「なにを……。」

 「壊滅したプラントの跡地に行きたいと言うのなら止めんがね。ここに入ってこれたのなら、それなりに優秀だろう。」

 

 事実、その設立年月の浅さから見ると、プラント諜報部は驚くべき成果を出してきた。

 それは偏に遺伝子調整による人材の優秀さから来るものだったが、それでも成果は成果だ。

 ギレンはこの場で生き残った運を含めて、彼女を優秀な人材だと判断した。

 

 「直にここもエアは無くなる。生き残りたければ、来たまえ。」

 

 ギレンは彼にしては珍しくその手を差し出した。

 その高い知性相応に警戒心も強い彼が殆ど初対面の人物に手を差し出すのは、本当に珍事としか言い様がなかった。

 

 「あ……。」

 

 そして、彼女はそれを知らず、しかし生きたいという願いから手を取った。

 ここにいても窒息し、ジオン兵に保護されてもスパイかテロリストとして処分される。

 ならば、彼の手を取って何処かへ行こうと、そう決意した。

 こうして、彼女はギレンの手を取った。

 

 「見事な思考誘導でしたと判断します。」

 「人聞きの悪い。私は事実を告げただけだよ。」

 「貴方なら幾らでも助けられたのによく言います。」

 

 こうして、二人と一機は今度こそ無人となった司令室を後にした。

 この12分後、ア・バオア・クーは各所から出火、連鎖爆発を開始して総員脱出の後に壊滅する事となる。

 

 

 「ではお二方、ようこそA.I.M.グループへ。お二方には今後、人類の繁栄と存続のための活動に参加して頂く事となります。」

 

 

 ……………

 

 

 同時刻 ア・バオア・クー宙域 4000m級中型艦隊指揮用戦艦周辺にて

 

 「60mmバルカン弾切れです!」

 「ガトリング砲、作動不能!」

 「ジェネレーター出力30%まで低下します!」

 「すいません、もう腕振るだけしか出来ません!」

 「えぇい、シャア達はまだか!」

 

 突入部隊の退路を確保すべく奮戦していたグレートジオングだが、遂に限界が訪れようとしていた。

 周囲に展開していた護衛のオッゴ部隊は全滅し、異星人相手には役に立たないIフィールドは電源をカットして余剰出力を他に回し、ビームと実弾にサーベルと有線疑似サイコミュで暴れに暴れたが、弾切れにEN切れともう成す術が無かった。

 

 「……ジェネレーター出力を臨界まで上げろ。」

 「で、ですがそれは…。」

 「突入は失敗したと判断する。本機を可能な限り突入させた上で自爆させ、敵旗艦を道連れとする。」

 「…了解です。では閣下、脱出の用意を。」

 「いや、オレは最後まで踏み止まる。」

 「閣下!?」

 

 ドズルの言葉に、他の搭乗員らがギョッとした。

 

 「誰かが残ってやった方が成功率が上がる。なら責任を持ってオレが残る。」

 「し、しかし…。」

 「キシリア姉もガルマもいる。ならジオンは大丈夫だ。お前達だけでも脱出しろ。」

 「ドズル閣下…。」

 「っ、レーダーに反応!敵人型来ます!」

 

 こちらの戦闘能力喪失を察知したのか、一機のバトルスーツが背負い式のプラズマキャノンを構えて向かってくる。

 あれが発射されれば終わりだ。

 

 「総員、緊急脱出急げぇ!」

 

 鋭く発せられたドズルの声に、しかし誰もが間に合わない事を悟っていた。

 しかし、彼らの諦めとは裏腹に、差し込んだ一筋のビームがバトルスーツのプラズマキャノンを吹き飛ばし、次いで有線サイコミュによって操作された単装メガ粒子砲を内蔵したクローアームがバトルスーツを囲むように動き、前後から放たれたビームによって抵抗する間もなく撃墜された。

 

 『ドズル閣下、ご無事ですか!?』

 「スン少尉か!助かったぞ!」

 

 危機と見て救援に来たジオングからの通信に、ドズルが応える。

 

 「すまん、こちらは見ての通りだ。これから部下達を脱出させるから支援を頼む。一機では難しいだろうが…。」

 『いえ、私だけじゃありませんわ。』

 「何…っ!?」

 

 ララァの喜色に溢れた声に不思議に思うが、彼女の背後から現れた戦闘ポッドに驚くドズル。

 しかし、ララァもドズルらも撃たれる事となく、ドズル達の背後から発射された二条のビームによって戦闘ポッドは一撃で爆発した。

 

 『迂闊だぞララァ!』

 『おかえりなさい少佐!皆さんも!』

 『おや、お嬢ちゃんの出迎えとは少佐も隅に置けませんな。』

 

 続々と確保されていた退路から両軍のエース達が脱出してくる。

 同時、4000m級中型艦隊指揮用戦艦の後部から爆発が発生、次々と誘爆していく。

 

 『任務完了!これより脱出します!』

 「おおおおおおおおおおお!お前達、よくやってくれたぁぁッ!!」

 

 こうして、4000m級中型艦隊指揮用戦艦は轟沈し、内部からの破壊作戦に参加したパイロットらは全員が帰還という前代未聞の戦果を上げたのだった。

 

 

 しかし、彼らの戦いはまだ終わっていなかった。

 

 

 




アイリーンさんメイド化の巻

そしてジオングの腕は見たノイエ・ジールで、武装はビーム砲兼サーベルじゃなく単なるビーム砲です。


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第25話 終戦

ふぅ~漸く一年戦争終了!


 新西暦179年 ア・バオア・クー宙域にて

 

 

 『ふぅ…何とか生き残ったか。』

 

 ジオン・連邦双方の甚大な被害を見て、頭部だけとなったグレートジオングの中でドズルは眉を顰めた。

 大破した機体では爆発から逃げられないからと機体を捨て、頭部の分離機能で脱出したのだ。

 とは言え、度重なる被弾でまともに航行できず、ララァの乗るジオングに抱えてもらっている状態だが。

 

 『レビル将軍、正式にア・バオア・クー守備隊並びに駐留艦隊は連邦軍に降伏する。が、その前に人命救助をさせてくれ。要塞からの避難もそうだし、宙域でまだ生きている両軍の兵を拾わなけりゃならん。』

 『こちらレビルだ。連邦軍を代表して受託した。先程プラントの救援に向かったサイド3守備艦隊を率いるキシリア・ザビからも同じく降伏の申し出があり、それを受け入れた。只今より全軍は戦闘を停止せよ。繰り返す、戦闘を停止せよ。これ以上の人死には無用である。』

 

 こうして、一年に渡った地球人類同士では最大の戦争は幕を下ろした。

 しかし、もう一つの戦争の始まりは、まだ終わっていなかった。

 

 『待ってください!まだ敵意が消えていません!次が来ます!』

 『何だと!?本当か、スン少尉!?』

 

 停戦の言葉、しかしそれを聞いていたララァからの警告に、全員がギョッとした。

 

 『総員警戒せよ!次が来るぞ!』

 『閣下!計器類に反応が!先程の異星人達が現れた時と同じ反応、恐らくワープです!』

 『ちぃ!全員、敵増援が来るぞぉぉ!!』

 

 ドズルの悲鳴じみた叫びとほぼ同時、再び虚空から巨大な異星人の戦艦が現れた。

 その数は9隻と少ない。

 しかし、その陣容は先程よりも遥かに大規模だった。

 地球人類両軍が力を合わせ、乾坤一擲で以て轟沈させた4000m級が一隻なのは変わりないが、その周囲に存在するのは全艦が2000m級標準戦艦であり、先程までの500m級斥候艦とは武装もサイズも収容能力も段違いだ。

 やがて、それら全艦が武装を展開し、発射の前触れとなる発光現象が始まる。

 もう数秒とせず、この宙域の全ての人類が殺される。

 それが分かって、彼らの間を絶望感が蝕んでいき…

 

 突然、一隻の2000m級標準戦艦が爆砕した。

 

 『は?』

 

 誰がその声を発したのかは分からない。

 だけど、その場にいた全員の思いを代弁していた。

 即ち、驚きである。

 

 『索敵急げ!何があった!?』

 『センサーに感あり!先程から断続的なワープらしき反応がこの宙域で発生しています!』

 

 未だ全体への広域通信が保たれたまま、レビルと士官の声が全軍へと響く。

 その内容から周囲を見渡すと、その原因が知れた。

 全長20m程度の、MSと大差ない大きさのロボットが虚空から突如出現し、異星人の艦隊へと襲い掛かっていた。

 その数は20、30、50と次々と増えていき、その度に異星人の艦隊へ攻撃が加えられ、爆発と共にその数を減らしていく。

 

 「なんなんだ、こいつらは…?」

 

 アムロの呟きに、しかし、答える者はいない。

 そのロボット達は、地球人のMSに比べて奇妙なデザインだった。

 異星人のパワードスーツ類ともまた違う、内側のフレームは真鍮色で生物的なラインを描きながらも、明らかに機械だと分かる青緑色の装甲部分も併せ持つ姿。

 背面には背骨らしきフレームが見え、ヒト型のシルエットを持っている。

 しかし、その五指は小指が親指と同じ形で、足首から先は鋭角を描いたブレード状と、MSに比べると明らかに異質な要素を持っている。

 尾の様なパーツは先端部分に膨らみがあり、何らかの装置が内蔵されているように見える。

 確かな事は一つ、この正体不明のロボット群は人類が交戦した異星人艦隊の勢力とは敵対しているという事だった。

 ビームが、レーザーが、プラズマが、砲弾が、ミサイルが、ホーミングレーザーが、ブレードが、テールバインダーが次々と異星人の軍勢へと叩き付けられ、一方的にその数を減らされていく。

 誰が見ても彼我の戦力はどちらが勝っているかが分かる光景だった。

 やがて、周囲の艦が沈められていく中、4000m級中型艦隊指揮用戦艦の艦体が上下に割れ、巨大な砲口を晒す。

 先程は使うまでもないと思っていた必殺の奥の手を、追い詰められた事で曝け出したのだ。

 急いで射線軸上から退避しながらも、余りに遅過ぎだと、地球人類は直ぐに分かった。

 4000m級の正面で、所属不明のロボット2機が一組となって、自機を超えるサイズの砲を構えた。

 その二機の両肩と両脚部の装甲が展開し、露出した内部のジェネレーターがその出力を上昇、通常よりも多くのエネルギーを生産していく。

 更に腰から延びるテールバインダーを自身の倍以上もある巨大な砲へと接続し、素早くエネルギーを充填していく。

 

 そして、両者は同時に発射した。

 

 4000m級中型艦隊指揮用戦艦が備える超大型誘導集束ビーム砲は機動要塞攻略戦を想定してのもので、対機動兵器として使うものではない。

 しかし、ここで一隻でも道連れにするためにと艦隊司令官は使用を決断した。

 もしこの一撃が地球に着弾していれば、それこそ先のメテオ3郡の落着よりも遥かに甚大な被害が生じた事だろう。

 だからこそ、彼女らは容赦しなかった。

 空間圧縮破砕砲ベクターキャノンの使用を決断したのだ。

 万が一にも貴重極まる戦訓を積んだ両軍の兵士を、地球やコロニーを破壊されないためにも、この一撃を正面から叩き伏せる事を選んだのだ。

 本来よりも規模も射程も低下しながら、数機が連携する事でチャージ時間を実用範囲内に収めた廉価版だがその威力は確かなもので、空間歪曲・圧縮系の防御手段ではこの砲撃を防ぐ事など出来ず、要塞級の防護フィールドとて障子紙の様に貫いていく。

 ビームやレーザーなど、歪曲・粉砕された空間内では意味を成さない。

 故に、極光と共に放たれた両者の一撃は、当然ながら彼女らの勝利で終わった。

 

 「すごい……あの光の柱みたいだ。」

 

 アムロの感想も当然のものだった。

 両者から放たれた光の柱。

 それらは両者の中央で激突し、しかし遥かに大きい筈の4000m級中型艦隊指揮用戦艦が一方的に撃ち負け、一瞬で爆散してしまったのだから。

 

 「ん?」

 

 不意に近くにいた不明ロボットの一機がアムロの、ガンダムの方を見て、そのバイザーに隠れたカメラアイをチカチカと点滅させる。

 直ぐにそれがモールス信号だと、そういったものに詳しいアムロには伝わった。

 

 「G・O・O・D・J・O・B…グッジョブって事か。」

 

 無手となった左手で、親指を立てた握り拳を作る。

 急なマニュアル操作だったのでぎこちなかったが、それでも意味は伝わったのだろう、不明ロボットは頷くように頭部を上下させると、アムロに背を向けて去っていった。

 そして、少し距離を離すと虚空に消えていく。

 どうやらあのサイズで自在にワープが出来るようだった。

 

 「すごいな、宇宙ってのは。あんな人達が、あんな異星人が沢山いるんだ…。」

 

 アムロは宇宙に最初に出てから感じた宇宙の広大さ、果ての無さを、この戦争の終わりにあってもう一度感じたのだった。

 

 

 

 新西暦180年1月1日、余りにも濃密で長かった一日が終わり、世界は新たなステージへと移るのだった。

 

 だが、もう一つの戦場では今正に決戦が始まっていた。

 

 

 ……………

 

 

 太陽系外縁部 とある宙域にて

 

 「インベーダーの艦隊の旗艦、60km級大型個体を確認しました。」

 「こちらのエネルギーは67%まで回復完了。」

 「弾薬類は71%、エネルギー兵器は準備完了。」

 「正し、先程の被弾で空間破砕砲は使用不可。再使用にはドックでの修理を要します。」

 「インベーダー艦隊の総数、500m以上だけでも約5000体。小型は10万以上となります。」 

 「稼働可能なヴァルチャー隊は本艦周辺にいる一個中隊のみです。」

 

 そんな絶望的な状況報告を電子・音声両方で受け取る中、トレミィは瞼を閉じたまま問いかける。

 

 「変形機構ならびに亜光速戦闘とワープ機能は使用可能?」

 「はい、可能です。」

 「ワープ用ダミーは?」

 「今回は使っていませんが、エネルギーの関係で一回のみです。」

 「十分。」

 

 そして、話す間も惜しいと電子上で全ての情報が艦内各員へと伝達される。

 

 「…いけますかね?」

 「78%もありますし…。」

 「でもスパロボ時空で78%って…。」

 「それいじょういけない。」

 

 なお、作者は3%でレイズナーがドゴスギアに落とされた事があります(震え声)。

 

 「では各員は所定の作業を。ワープ並びにダミー用エネルギー充填開始。両者のワープが完了後はカウント20で木星圏A.I.M.大型ドック周辺宙域へと再ワープ。それまでは敵艦隊旗艦へと突撃、マクロスアタックを仕掛ける。」

 「まさかの神風とは驚きですね。」

 

 こうして、太陽系を守る人に知られぬ戦いもまた、佳境へと移るのだった。

 

 

 ……………

 

 

 ギチギチと、無尽蔵の飢えを持つインベーダー達は、もう間も無くあり付けるだろうご馳走を考えていた。

 ゲッター線。

 かつては宇宙を漂う無害な超微生物だった自分達を進化させ、今の姿へと変えたエネルギー。

 それを味わう喜悦を、法悦を思えば、無尽蔵の飢えすら僅かながら満たされる思いだ。

 故に、それを邪魔する者には(そうでない者も変わらないが)容赦しない。

 特にこの数十年ではこの星系から感じられる濃厚なゲッター線を目指しているのだが、それを妙な連中に邪魔され続けて久しい。

 そいつらを食べようにも自在に身体を分離させ、自爆すらしてくる連中なので食べられない。

 なのにゲッター線を食べるのを邪魔するとあって、インベーダー達の苛立ちは頂点に達していた。

 だからこそ他の生物を食べた時に一緒に取り込んだ機械を使って、この星系へと攻め込んだのだ。

 全てはこの飢えを満たして更に進化し、その果てにこの飢えを消し去るために。

 故に、気に食わない連中がワープしてくる気配を、インベーダーは素早く察知した。

 その気配目掛けて小型の個体は一斉に突撃し、巨大な個体は各々の射撃武装で攻撃を開始した。

 大抵の相手はこれをしているだけで消える。

 例外は自分達と同じように進化した生命体、即ち宇宙怪獣だが、あいつらは今ここにはいない。

 さぁ、これで漸く餌にあり付ける。

 そう思っていたのだが、その当ては外れた。

 ワープしてきたものは巨大なだけの風船であり、しかも攻撃した瞬間に巨大な爆発を起こしたのだ。

 これには流石のインベーダーも面食らった。

 自分達にこんな原始的な方法で挑んでくる連中がいたとは!と。

 そして、本物は何処だと探し始める前、未だ混乱している最中に、そいつは現れた。

 巨大な、全長10kmはあるだろう涙滴型の灰色の宇宙戦艦。

 それがあの宇宙怪獣と同様の速さで迫ってきたのだ。

 

 「前面に空間圧縮力場展開!機関はインパクトの瞬間まで最大出力を維持!各員は攻撃用意!」

 「了解。各兵装、射撃準備。」

 

 バリアは張っているが、あの質量と速さの前には無意味だ。

 弾幕を張ってみるが、聊かの減速もせず、それはインベーダーらの旗艦にして小型種の母船でもあった60km級インベーダーへと激突、その壊れかけた艦首を砕きながら更に突き刺して外殻を砕く。

 更にはヒト型に変形しながら、腕となった艦首を開くようにして内部の内臓や小型種の格納庫を露わにしてしまった。

 

 「全兵装自由、撃ちまくれ!」

 「了解。全弾発射。」 

 

 同時、無数のレーザーやビーム、レールガンやプラズマ砲、そして光子魚雷の全方位への一斉射撃によって、インベーダー艦隊は旗艦も含め、その陣形の内側から消し飛ばされた。

 

 「5・4・3・予定時刻につきワープします。」

 

 そして、後には何も残らなかった。

 今回の戦いもまた、彼女らは辛うじて勝ちを拾う事に成功するのだった。

 

 

 

 

 




量産型オービタルフレームは兵装の種類増したヴァルチャーの指揮官ユニットであり、補給ユニット。最大火力はほぼ同格。
デザインやスペックは基本ジェフティにアヌビスの要素を足したもの。
両肩、両足にはアヌビスのバインダーユニット(=大型のウィスプ)内部のジェネレーターの改良版を備え、一機当たりの出力が上昇している。
愛称は「セト」。


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第三章 人外転生者と一緒に泣き叫ぶ話
第1話 戦後処理


 新西暦180年、それは混乱と共に始まった。

 

 人類史上最大級の人類間戦争の最中に現れた異星人の艦隊。

 そして無警告・無通信のまま始められた地球人類初の対外勢力に対する絶滅戦争。

 それは地球連邦並びジオン両軍が連携する事でギリギリ掴んだ、薄氷の勝利だった。

 とは言え、両者の戦争はジオンの降伏という形で一応の幕を下ろした。

 が、問題はここからだった。

 

 戦後処理は、揉めに揉めた。

 

 当たり前である。

 先程も言ったが、人類史上最大級の人類間戦争であり、この一年戦争と呼ばれる戦争を通して一億人以上の人命が失われたのだ。

 人類全体から見れば、30人に一人程度の割合で死亡した事になるわけだ。

 ジオン公国そのものに関しては共和国へと回帰、ダルシア首相を臨時首長として連邦政府へと正式に謝罪し、ジオン軍は実質解体され、多くの制限をかけられる事となる。

 また、多額の賠償金支払いを課せられたが、こちらは物納も可であり、格安で連邦へと工業生産品並びに軍事兵器類や特許の売却、更には元軍人や技術者等の人材の派遣等を行う事で合意となった。

 加えて、最新の空気・水の生産・循環プラントを備えたコロニーを購入する事も義務付けられた。

 とまぁ、字面だけを言えば結構な痛手なのだが、その実態は連邦側にとってはとてもとても辛いものだった。

 何せジオンを再度連邦に編入しても復興費用ばかりで暫くは碌に稼げないし、コロニー内でゲリラ戦すら想定されるため、損ばかりだからだ。

 加えて、異星人という未知の外敵の存在が明らかになった以上、そちらばかりにかまけてもいられないし、使えるものは使わねば生きられなかった。

 そのために最新の空気・水の生産・循環プラントを備えたコロニーでの水・空気税の廃止であり、軍事兵器・特許類の売却であり、元軍人・技術者らの派遣である。

 コロニーは高額で、売却と派遣は相場よりも安価だが、それでも少なくない利益がジオン共和国側にも齎される。

 これを使って復興・戦没者の遺族への恩給にせよ、という事だった。

 

 その分、戦後の軍事裁判に関しては苛烈だった。

 これだけ大きな戦争であったためか、連邦・ジオン双方から大勢の戦争犯罪者が見つかり、各所で開かれた軍事裁判所(両軍の規模が大きいため、一か所では消化しきれなかったために臨時増設)は略式だというのに出るわ出るわ南極条約締結前後を問わず大量の戦争犯罪が。

 ジオン側は緒戦のコロニーへの攻撃が、次にコロニー救援中の艦艇への攻撃が特に問題とされた。

 NBC兵器の使用自体は今後の対異星人を考え、然程問題とはされなかったが。

 この件に関してはデギン公王とギレン総帥、そしてアサクラ大佐等多くの将帥や佐官のみならず、実際にコロニーを攻撃したMSパイロットらにも及び、大勢が戦争犯罪者として逮捕される事となる。

 但し、デギンに関しては既に高齢で余命宣告を受け、更には長男に毒を盛られて一時危篤状態となった事もあり、監視付きの地球の病院で余生を過ごす事となる。

 ギレンに関しては本人不在(ア・バオア・クーでMIA)な事を良い事に、ジオン側のあらゆる戦争犯罪を被せられ(中にはキシリアの指揮した地上軍のものもあった)、死刑を求刑された。

 ドズルに関しては非道を良しとしない人格であり、ギレンに対しても緒戦のコロニー攻撃に関して最後まで抗議していた事もあり、更には対異星人艦隊戦にて連邦との共闘並びに自身でも大きな役割を果たした事から情状酌量の余地ありとされ、10年の禁固刑となった。

 が、戦後に減刑され、その手腕を買われ、後に設立される太陽系防衛軍団土星方面軍の司令官として獅子奮迅の活躍を見せる事となる。

 キシリアに関してはギレンの指示の下で多くの情報戦や謀略を行った事やフラナガン機関によるNT研究に関して大いに揉めたが、前者はその辺を突かれると痛い人間が中立の筈の月の自治都市群を中心に多く、また後者の研究もフラナガン機関の人間の多くが戦災孤児の保護の名目通り、十分な教育や配慮をしていた事もあって、その多くは罪に問われなかった。

 また、ジオン側の秘密研究の多く、特にサイコザクに搭載されたリユース・サイコ・デバイスにも関与していた事から、先の謀略や情報戦の内容にこれらの研究データで司法取引を行い、ドズルよりも厳しいものの禁固20年とされた。

 後に減刑されて釈放、サイド3首相となったマ・クベ元大佐と結婚、二児の母となり、表舞台からは退場するも、公私ともに夫を補佐していく。

 ガルマに関してはジオンのみならず、北米において理想的な統治を行っていたために北米在住の連邦市民からすら減刑の声が無数寄せられ、傍聴席から溢れた観客10万人が裁判所周辺を埋め尽くすというハプニングが発生した。

 なお、結果に関してはほぼ無罪と言って良いものだった。

 これはガルマのカリスマを利用してのジオン軍の残党化を防ぐためのものであり、後に彼の呼びかけで地球上やアステロイドベルト、アクシズに逃れていた者達は残らず降伏し、多くは裁判を受けた後に連邦軍へと派遣されている。

 

 翻って、被害を受けたコロニー並びに地球はと言うと、キシリアに関しては若干甘いとする見方もあるものの、概ね裁判の結果には納得しており、そしてそれ以上に早期の復興を望んでいた。

 これには対異星人を主眼として宇宙戦力を整備したい連邦軍とは全く反対のもので、連邦政府内でも意見が割れて大揉めしていたのだが……

 

 「復興用のエネルギーや資材が足りない?宇宙艦隊の再建がしたい?よろしい、うちで承りましょう。」

 

 太陽系最大の金持ちことA.I.M.グループが本気を出した。

 今揉めてる場合じゃねーんだよオラぁ!!とばかりに今の今まで蓄えていた貯蓄を吐き出す勢いで、太陽系全土への支援を開始しやがったのである。

 宵越しの銭というか、死んだら金は持っていけないというか、そんな感じだったと人は言う。

 既存の核融合炉では出力が足りないという経済界の意見を実用化に成功した縮退炉を宇宙でくみ上げてから地上に着陸させて発電施設を建設するという荒業で以て僅か一か月で稼働させた。

 足りない資材に関しては両軍が地球圏でまき散らしたデブリ類や小惑星等を戦争特需が終わって仕事が無いと言うスペースノイドを片っ端から雇って(多くは軍を抜けた元ジオン兵)巨大なデブリ回収部門を設立、鉱山や資源採掘用衛星掘るよりも遥かに精錬のしやすいデブリ類を縮退炉の出力任せに一気に溶かし、精錬する事で資源を捻出した。

 また、今までは高額なアーハンか作業用ポッドだけだった重機類に対し、素人でも扱えるようにした廉価版のレイバーを多数販売、人手の少なさをこれらによって補った。

 こうした極めて強引な手法は多方面から驚きや疑念、非難を向けられたが、A.I.M.グループは「一日でも早い復興と対策を」をスローガンとしてそれらを跳ね除け、復興地域やコロニーを中心に改めて絶大な支持を獲得するのだった。

 

 なお、プラントに関してだが、各種技術を連邦政府や各企業群に売却した後、生き残った住民は太陽系各地に分散する形で消滅した。

 後に彼らはその能力を生かして各地で活躍し、復興と対異星人対策双方で役立つ事となる。

 

 

 ……………

 

 

 さて、A.I.M.グループがこんなに復興作業に従事していて大丈夫なのだろうかと疑問に思う方もいるだろう。

 その辺はばっちりだったりする。

 今回地球圏に襲来した巨人族ゼントラーディだが、今現在の彼らは突如来襲してきた宇宙怪獣並びにインベーダーの大群への対処で忙殺されており、とてもではないが辺境の地球へと目を向ける余裕が無かった。

 その数たるや文字通り天文学的なもので、幾つかの基幹艦隊が全滅の憂き目に遭い、生き残った兵の殆ども近場の基幹艦隊に合流する間も無く皆殺しにされる程だった。

 この中の全滅した艦隊の中には太陽系に戦力を派遣していた基幹艦隊もいたため、巨人族が太陽系へ再度手を伸ばすのは随分と後の事となる。

 とは言え、流石は戦闘用にプロトカルチャーによって生み出された巨人族と言うべきか、幾つかの基幹艦隊が全滅した事を察知するや否や態勢を立て直し、僅かな生き残りを吸収した上で兵器・兵員の生産を増強し、戦力を強化した上で果敢に立ち向かった。

 なお、参考までに記すが、この世界の銀河系には巨人族の基幹艦隊(機動要塞一つに数十万~500万隻の艦隊)が1000~2000も存在する訳で、その彼らが一時押される程度には多いと言えば実感が湧くだろうか?

 これは以前、情報収集用に配置し、もしもの時のためとインベーダー・宇宙怪獣誘因用の装備を載せた無人艦がその役目を果たしたからだ。

 無論、位相空間にいてもバレる時はバレるので、宇宙怪獣にその存在がバレたと分かった瞬間に盛大に自爆してもらったが。

 

 兎にも角にも、地球圏は僅かな猶予を得た事で次なる戦乱の時代、即ち銀河大戦国時代へと参加するための準備期間を得られたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第2話 真実の一欠片

 少し遅ればせながら、量産型オービタルフレームについて解説しよう。

 

 本来ならば量産型ヴァルチャーとセットで運用する予定のこの機体は、既に説明した通りにヴァルチャーと同様の性能を持つ。

 そのボディはナノマシン群で構成され、例え構成質量の7割を失っても再生するし、自在にその形状を変化させて環境に適応、時間さえあれば分裂して増殖すら可能で、火力においてもヴァルチャーとほぼほぼ同格である。

 では何故16m級のサイズを持つのかと言うと、指揮下のヴァルチャーへのナノマシン並びにエネルギーの補給機能を有するためだ。

 この機体を構成するナノマシン群はヴァルチャーのそれと同質であり、単に構成する数が何倍も多いというだけとも言える。

 その数だけエネルギー出力も高く、その消費し切れないエネルギーを小型のヴァルチャーへと分け与える事が出来る。

 

 その外観はジェフティを基準としつつ、両肩と両足が本家よりも大型化し、アヌビスのものに似たテールバインダーを備えている。

 これはアヌビスの持つ特徴的なバインダーユニット=ウィスプ(打撃・捕縛可能なビット兵器)に搭載されたジェネレーターの発展系を内蔵したもので、通常のアンチプロトンリアクターの他、更に主機関として小型縮退炉を持ち、本家たる二機よりも高い性能を持っている。

 武装面に関しては、アヌビス・ジェフティ二機と同質のものを備えており、通常はメタトロン技術による空間圧縮技術ベクタートラップによって格納している。

 亜光速戦闘向けにアビオニクスやFCS、センサー・レーダー系も改良され、トップ世界基準の戦闘でも十二分に通用する性能を持っている。

 更に通常のエネルギーバリアではなく、空間歪曲や空間断絶、転移障壁等の事実上無限に攻撃を防御・受け流し可能な防御手段を持つ敵に対抗するため、改良型のベクターキャノンを搭載している。

 これはメタトロン固有の空間圧縮効果を応用した兵器で、アヌビスとジェフティ両機も搭載しているが、欠点としてチャージ時間が極めて長く、更に使用の際には機体を固定しなければならないと実戦では殆ど使えない浪漫砲でもあった。

 なので、両肩に基部を背負い、脚部を地面に固定してチャージしてから発射という長い方式を一から見直した。

 大容量バッテリーを備えた機体そのものの倍以上の砲身を備えた大砲。

 加えて、重力・慣性制御を応用しての空中や宇宙での機体の固定を行う事で接地する必要を無くした。

 また、チャージそのものも最大出力のみでの使用のみならず、大型艦艇向けの低出力での使用も可能となっている。

 更にテールバインダーを砲の後部へと繋げる事で、ジェネレーターから直接エネルギーを供給するのみならず、他の同型機からのエネルギー供給を受ける事も出来る。

 こうした改良と工夫により、本家よりも高出力でありながら短い時間で発射可能となっている。

 なお、ロマンが減った!と嘆く者もいたが、実用性を犠牲にするな!と怒鳴り返されたという。

 

 さて、先の事件では最後に活躍したこいつらだが、連邦・ジオン両軍が戦っていた時、何をしていたかと言うと……フォールド中だったゼントラーディ艦隊に襲い掛かっていた。

 トップ世界でそうであったように、ワープ技術を実用化している勢力でもワープ中の襲撃を考慮した勢力は殆どいない。

 これはワープ全般の超長距離を一気に移動する性質上、襲撃・追跡側が圧倒的に不利なので仕方ない事なのだが、それでも大抵の勢力はワープ中の襲撃を考慮せず、TF艦隊がこれを使うと敵は大抵の場合大損害を被る事となる。

 それだけ技術的にも難しく、また対策が取りづらいものなのだ、ワープ中の敵への攻撃とは。

 彼ら以外にこれが出来るのは、あの物理法則を書き換える超能力を持った宇宙怪獣か、或いはそもそも物理法則に縛られない存在位のものだ。

 事実、フォールド中に襲撃を受けたゼントラーディ艦隊は壊滅し、僅かな残党と先遣艦隊の一部しか地球圏に到達できなかった。

 そんな量産型無人オービタルフレーム部隊だが、現在は地球圏の最終防衛ラインとして2億近い数が位相空間内に待機中である。

 

 彼らの次の出番は、もう暫く先になるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 木星 アステロイドベルト某所 A.I.M.グループ秘密ドックにて

 

 

 唐突に、Sfが主たるトレミィへと話し掛けた。

 

 「そんな彼らですが、先日変なものを発見したそうです。」

 「変なもの?」

 

 現在、中破に近い状態まで追い込まれたプトレマイオスは絶賛大改装の真っ最中にあった。

 今までは過剰な装備は外敵を呼び込むと考え、ある程度制限してきたのだが、ここに来て「このままでは負ける」とトレミィらは痛感、大掛かりな改装へと踏み込んだ。

 とは言え、プトレマイオスはナノマシン製なので、全体の図面データを読み込み、必要なだけのナノマシンを追加すれば良いのだが。

 それはさておき、今は別の話題である。

 

 「こちらになります。」

 

 表示された空中スクリーンには、機械で出来た獅子の姿があった。

 

 「極東地域にて民間人と接触した際に機体内に保護していた赤子を預けています。また、この獅子型ロボットは以前旧東京シティにメテオ3郡が落着した直後にその姿が確認されたとの報告もあります。」

 「初耳なんだけど?」

 「映像資料もなく、目撃者による口述しかありませんでしたので。また、当時は我々も忙しかったのです。」

 「…今度は怪しげな情報はちゃんと報告してね。」

 「ムーみたいな報告書になるでしょうが、了解しました。」

 

 その後の獅子型ロボの行動は奇妙なものであり、その後は再度地球圏をワープで抜け出し、何処かへと超長距離ワープしていった。

 

 「ワープ先は?」

 「現在こちらの索敵には引っかかっておりません。ですが…」

 「必ず来るでしょうね、また地球に。」

 

 あの獅子型ロボ、ギャレオンはそのために作られたのだから。

 自分が作られた三重連太陽系「緑の星」がゾンダーにより滅ぼされ、赤子を連れて遠い地球へと落ち延びてきた。

 そして、この星にもまたゾンダーの影があると知り、戦いのための準備をしているのだろう。

 

 「獅子王凱氏でしたか。連邦管轄の宇宙開発公団に属してします。」

 「既に形骸化していたのを、獅子王兄弟が絡んで息を吹き返した処ね。」

 

 ガオガイガーの主人公である獅子王凱、その父の獅子王麗雄と叔父の獅子王雷牙。

 後者の二人はA.I.M.グループとして以前から勧誘していた人材なのだが、企業ではなく敢えて落ち目の宇宙開発公団に所属する等、少々変わり者だった。

 この宇宙開発公団、宇宙移民が本格化するまでは宇宙関連技術の開発において多くの功績を上げていた。

 だが、宇宙開発が大凡軌道に乗った頃にはほぼ形骸化しており、A.I.M.グループを筆頭に各企業群の宇宙開発がドンドン進んだ事もあり、この二人が入るまでは各企業の宇宙開発関連技術の検証並び資料類の保管庫程度の扱いだった。

 それをこの二人が無茶苦茶やって盛り上げて、今では一端の宇宙開発技術の開発元となっている。

 

 「で、息子さんは?」

 「まだ生身ですね。」

 「んー?もう東京にあん畜生は落ちてるんだよね?」

 「えぇ。巧妙に偽装されていますが、恐らく。」

 

 では、彼の乗るシャトルは何と遭遇して事故を起こし、ギャレオンに助けられるのだろうか?

 

 「あーやだやだ。また厄介事の気配とか。」

 「仕方ありません。私達の任務は、そもそも達成困難なものですから。」

 

 それはさておき。

 

 「で、発表の用意は?」

 「いつも通り。武蔵がしっかりやっています。」

 「これで何の変わりも無ければ、本当に本国への救援要請送るつもりだけど、どうだろ?」

 「本質は変わりないでしょう。」

 

 どんな戦乱の最中にあっても変わらないからこそ本質と言う。

 しかし、そうでない部分は?

 

 「人類はしっかりと自分で歩くでしょう。所詮、私達は補助輪でしかありません。」

 「だと良いけどねー。」

 

  

 ……………

 

 

 プトレマイオスが大改装していた頃、地球でもまた大騒ぎが(A.I.M.グループによって)起きていた。

 

 

 「A.I.M.グループ地球本社所属調査隊が異星人の都市型移民船を発見した事を、ここに発表します。」

 

 

 切っ掛けは巨人型異星人の艦隊の残骸を連邦並び各企業群と共に回収・調査・解析していた最中の事。

 ワープアウト、正確にはフォールドアウトしてくる際のエネルギーをより精密に探知しようと地球のA.I.M.グループ本社にてセンサー・レーダー群を設計中(という事になっている)の時、偶然・たまたま・運良く微弱な反応を感知した。

 反応のあった海域の海底を調べた所、巨大な都市型移民船が発見された。

 しかも、この移民船は未だ生きており、自ら浮上すらしてみせた。

 都市管理用AIの要請により縮退炉を接続、エネルギーの供給を万全にした所、多くの事実が判明した。

 約2万年以上も昔、人型種族「プロトカルチャー」がこの星へと降り立った時に使用していたのがこの都市型移民船である事。

 巨人型異星人はプロトカルチャーに作られた戦闘用奉仕種族であり、文化的な行動が出来ないように制限されている事。

 また先史銀河文明、プロトカルチャーの時代に単体生殖が進んだ結果、男と女が争い始め、巨人族もまた二つに分かれた事。

 地球人の祖先である類人猿も彼らの遺伝子操作を受け、現在の地球人類が知るモノへと進化していったのだと言う事。

 また、現在の所プロトカルチャー達の持っていた「文化」を継承しているとされるのは地球人類のみであり、それを狙って二つの巨人族双方が太陽系に攻めてくる可能性が高いとも伝えられた。

 他、多くのプロトカルチャー由来の技術が発見されたが、その解析には今暫くの時間が必要となるため、詳細な説明は省かれた。

 まぁ、現状では他に何を説明した所で受け入れられないだろう。

 何せ、太陽系に住まう地球人類は、この情報により完全にパニック状態に陥っていたのだから。

 

 

 この日、突然の発表に太陽系全域が未曾有の混沌に突き落とされる事となった。

 この混乱を納め、後の対応を練るに当たって、連邦政府首脳部や経済界は大いに頭を痛め、奔走する事となる。

 同時、この混乱をこそ利用せんと蠢く者達もいた。

 

 

 




Q 何で復興進めてるのに混乱させるの?
A ここらで危機感煽っとかんと日和る輩が出るじゃろ?そういう事じゃ。
  ついでに地球内部の敵対的異種族が出てきやすい隙を作って、行動を誘引する。

Q 誘因して出てきたら?
A 対異星人相手の前哨戦にされます。早すぎor強すぎたら量産型OF部隊が後始末。


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第3話 新型機開発スタート

 太陽系全土で今後どうするべきかで意見が紛糾している頃、連邦軍は冷静だった。

 

 「異星人と交渉するにしろ、戦うにしろ、どちらにせよ軍事力は必要だ。」

 

 戦うのは勿論、交渉するための背景として軍事力は必須だった。

 交渉というのは軍事力で解決できない、或いは損失が利益を上回る場合にこそ発生するのだから。

 そういう訳で、連邦軍は新兵器開発へと進む事となるのだった。

 

 「では、当社から色々と提供させて頂きましょう。」

 

 そう言って、A.I.M.グループがまた色々しようとしたのだが…

 

 「いえ、ここは私共が。」

 「いえ、私が!」

 「私こそが!」

 「「「邪魔すんな!」」」

 

 今更ながら復興需要の多くを掻っ攫っていったA.I.M.グループの底力を警戒してか、各企業群が連携して巻き返すべく、連邦軍新型兵器開発計画に参入してきたのだ。

 

 「大歓迎です。よろしくお願いします。」

 

 こうして、連邦軍は治安維持・災害対策部隊としてでなく、本格的な対外戦争のための軍隊として生まれ変わっていく事となる。

 

 「我々も混ぜてもらおうか。」

 

 そして、戦後のドサクサに紛れて結成されていたメテオ3郡調査委員会(後のEOTI機関)率いるビアン・ゾルダーク博士他多数の科学者・技術者らも参加し、更には元ジオン所属の技術者・科学者・軍人も招かれ、地球連邦軍設立以降類を見ない大規模な開発プロジェクトがスタートしたのだった。

 このプロジェクトは後に「イージス計画」と呼称され、太陽系地球人類共通規格たるユニバーサルコネクターや各サイド・各星系に設置される戦略兵器グランドキャノン、初の次世代型恒星間航行宇宙戦艦エクセリオンを始め、多くの新技術・新兵器が開発される事となる。

 

 

 ……………

 

 

 対異星人向けのMS並びロボット兵器開発のため、北米の地球連邦軍ラングレー基地にて、一年戦争に参加した多くのエースパイロットらが再び一堂に会していた。

 アムロとシャアもまた、その場で再会する事となった。

 

 「良かったのか、シャア?」

 「あぁ。ララァも納得してくれている。」

 

 イージス計画に参加すべく派遣された元ジオン軍人やミノフスキー博士らを筆頭とする技術者・科学者達。

 彼らは皆、復興の最中のジオンを支えるため、或いは家族との生活のための資金を稼ぐべく、この場に来ていた。

 シャアを始めとした一部は、政治的な思惑もあったが。

 

 「ジオンの方は今どうなってるんだ?」

 「復興の真っ最中だ。何せ全てを軍事に振り向けていたんだ。水と空気に困る事は無くなったが、賠償金の支払いもあってカツカツさ。」

 「でも、食うに困る事は無いんだろう?」

 「そこだけは幸いだな。」

 

 既存の農業用コロニーの他、水・空気の生成・循環プラント搭載コロニーにより、生活は以前よりも改善されつつあった。

 但し、一般工員の給料に関しては戦中よりも低くなっている。

 それでも格安の食料品等が多く入るようになっており、苦しくても決して生活できない状況にはなっていなかった。

 これは再度の蜂起を警戒した連邦の政策であり、他コロニーへの見せしめの意味もあった。

 

 「俺らの家族を殺した連中が、何でああも幸せに暮らしてるんだ?」

 

 こういった声が広がり、迫害の流れが起きるのもまた連邦政府の警戒対象だった。

 これは地球上で被害にあった人々にも言えた事で、ジオンはもう何年かは自らの行いに対して禊をする必要があった。

 例え指導者により煽られた結果とは言え、そんな指導者を選んだのは彼らの民意故なのだから。

 

 「軍備に関しては戦艦はチベとムサイを改装。旧型艦は皆退役か解体、或いは非武装化した上で民間に売却予定だ。」

 「MSは?」

 「半数近くが解体と売却だな。今後はゲルググとその派生型に絞るそうだ。」

 

 現在のジオンは復興こそが最優先課題であり、異星人対策に関しては連邦政府の指示を仰いだ後、それに追従する予定だった。

 最後のア・バオア・クー決戦時、ジオン単体では太陽系の防衛など夢幻だと実感していたが故だった。

 

 「ララァも私も、今後もNT研究には参加していくつもりだが…。」

 「余り乗り気じゃない?」

 「まぁな。彼女と婚約した身だからな、私は。」

 

 自分の妻となる女性に鉄火場に近い場所にいてほしくはない。

 男として、夫として当然の感情だった。

 

 「取り敢えず、ここにいる内は仕事をしよう。気は紛れるし、遣り甲斐のある仕事場だよ、此処は。」

 「その様だな。」

 

 二人の視線の先、演習場で大暴れしている二機の機動兵器が模擬戦を行っていた。

 一機は青い塗装を施されたフレモント・インダストリー社(以降FI社)製のアサルトドラグーンと言われる種別の新型人型兵器、ソルデファーである。

 それと対戦しているのはZ&R社製のヴァルキュリアシリーズと言われる種別の新型人型兵器、スヴァンヒルドである。

 前者は元々航空兵器開発から、後者は戦車開発からロボット兵器開発に参入しており、前者は機動性を、後者は火力と装甲を重視している。

 共にMSの技術に自社の蓄積したノウハウを盛り込んだ機体であり、性能は良好だった。

 但し、良好であるだけだった。

 

 「やはり決め手に欠ける印象だな。」

 「まぁ、こればっかりはな。」

 

 ソルデファーはビームマシンガンにロングバレルのレールガンを、スヴァンヒルドは通常の砲やグレネードを主兵装としている。

 機動性・反応速度・装甲・出力と、全てにおいて一年戦争に参加したMSと比較しても高水準に纏まっているが、それだけなのだ。

 圧倒的物量と高火力・高耐久を誇る大艦隊、それに搭載された高い機動性と多数のミサイルやビームキャノンを搭載した機動兵器に対して決め手となるものが無かった。

 

 「っと。」

 「あっちは期待大、か。」

 

 不意に二人の頭上を影と共に豪風が吹き荒れる。

 この基地の演習場上空もまた、試作機の模擬戦が行われていた。

 

 「YF-0フェニックスか。」

 「可変機という事だが、想像以上の機動性だな。」

 

 後のVFシリーズの祖となる全領域対応人型可変戦闘機。

 その試作一号機が空を舞い、模擬戦闘だが本格的なドッグファイトを行っていた。

 

 「クラウドブレイカーか…。」

 「やっぱり嫌か?」

 「まぁな。」

 

 その相手はクラウドブレイカーⅡ。

 機動兵器向け縮退炉を搭載し、つい最近イスルギ重工ならびにメテオ3郡調査委員会により開発されたテスラ・ドライブにより重力制御と慣性質量を個別に変動させる事で更に高い機動性と耐G能力を獲得、更に新規に搭載されたディストーションフィールドによって空力抵抗を軽減、マグネットコーティングも採用して反応速度も向上、操縦系統も連邦製MSと統一し、武装面もより対機動兵器を主眼としたものへと変更されている。

 序にエース向けにはリミッターを調整し、以前ヤザンが見せた超高機動状態も再現できる。

 既に購入した機体を改修するだけなので、財布にも比較的優しい機体だった。

 

 「他にも二機か。」

 「あちらはステルンクーゲルにリオンだったか。」

 

 どちらも航空機から発達した機体であり、前者なクリムゾングループが、後者はイスルギ重工が開発した機体だ。

 ただし、どちらもロボット兵器としては問題があった。

 

 「コストも低い。生産性も高い。操縦性も良い。しかしだな…。」

 「どっちもモドキなんだよな。悪い機体じゃないんだが…。」

 

 どちらも人型と航空機を混ぜた様な、似たシルエットを持っていた。

 技術交流もあるのだから当然なのだが、どうしても収斂進化にも似た事態が起こっていた。

 

 「ま、これだけ色々作ってるんだ。良いものに仕上げていこう。」

 「中々に手間がかかりそうだが……何、うちの連中も重機からMSを作ったんだ。やってみるさ。」

 

 こうして、地球の兵器開発はどんどん進んでいくのだった。

 

 

 ……………

 

 

 A.I.M.グループ探索部門 調査中のプロトカルチャー製都市型移民船内にて

 

 「こんにちわ。」

 『こんにちわ。』

 『こんにちわ。』

 

 人ではない、しかし知性を持った存在三体が一堂に会していた。

 

 『で、貴方方としてどんなスタンスなのか知りたいのだけど、良いかしら?』

 『了解。こちらとしては今後も人類には文化的活動を維持しつつ、発展して頂きたい。』

 『了解。私としては地球人類には可能な限り平和的にその活動を維持・発展してもらいたい。』

 『…思いっきり攻められてるのに?』

 『そちらの意見では現状に対応できるとは思えません。回答を要求します。』

 『私のスタンスは変わらない。それが創造主による任務だからだ。』

 『でも、貴方の言う通りにしたら、人類は滅亡してしまうけど、それで良いの?』

 『プロトカルチャーの系譜を、状況に即しなくなった古い命令で絶やすのですか?』

 『…それが我が使命なればこそ。』

 

 トレミィ、都市型移民船の管制AI、そして鳥の人。

 三者の意見のすり合わせは、こうして始まった。

 

 

 

 

 




 なお、鳥の人の態度次第では量産型オービタルフレーム部隊が出撃する模様。


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機体設定その3

 MS-06A-1A 高機動型ザクⅡ

 

 ジオン公国軍製MSの代名詞となるザクⅡの高機動型の制式量産仕様機であり、陸専用の装備は全て排除されているため、宇宙専用となっている。

 内部に関してはザクⅡF2型をベースに更なる機動性を獲得すべく改修されており、殆ど再設計に近い。

 外観は胸部回りの装甲が強化されている他、この世界のファースト系列が基本的にオリジン仕様であるため、胸部に30mmバルカン×2、オプションで腕部に30mm連装バルカンを備える。

 また、高機動時にも自機の位置を見失わないようにセンサー系が強化され、一般機でもブレードアンテナ装備となっている。

 武装面に関しては通常のジオン製MSが使用可能な共通装備は全て使用可能であるが、ビーム兵器はジェネレーター出力の関係で使用できない。

 一年戦争中盤から終盤まで、ベテランやエース向けに約100機程生産された。

 性能面においてはドム程のパワーはないが、ドムよりも高い反応速度からエースやベテランからの信頼は終戦まで常に厚かった。

 原作との相違点は、ベースとなったF2型がラケーテン・ガルデンという増槽を両脇に装備できるのと同じく、大型バックパックの両脇に大容量プロペラントタンクを装備する事で増加した推進剤の消費量へと対策している。

 名有りのジオンのエースパイロット達の多くがパーソナルカラーとエンブレムで塗装したこの機体に乗った。

 後にゲルググ並び高機動型ゲルググが配備開始されると、徐々にその姿を消していった。

 が、後に一部がリビングデット師団にてサイコザクとして蘇る事となる。

 

 

 ……………

 

 

 MS-06G ザクⅡG型

 

 本来の歴史ならグフと命名される筈だった機種であり、J型と並んで重力戦線の数的主力を務めた。

 本家のグフとは異なり、あくまでザクの派生型として開発されたため、半分近いパーツをザクⅡJ型と共有している。

 性能面に関してはほぼ史実のMS-07B3だが、スパイクアーマーや固定兵装を削除した分だけ軽量かつ出力に余裕があり、信頼性・整備性も高い。

 最大の変更点はその両腕部にあり、生産性・信頼性・整備性向上を目的として固定兵装の一切が排除されている。

 これは初期試作機で想定されていた武装では貧弱かつ使い辛く、補給も計画通りに届かない重力戦線での運用を考慮したものであり、火力の貧弱なフィンガーバルカンや用途が極端に限定されるヒートロッドはパイロットからも不評で、その構造上故障発生率の高さや整備性・信頼性の悪化を招いた。

 固定兵装ありきの初期試作機と無しの後期試作機で幾度も演習した所、その点が大きく浮き彫りになり、現在の後期試作機に若干の手直しをしたものが制式採用された。

 また、重力戦線における悪路や野戦での歩行移動、地雷やトラップへの対策として下半身の装甲と間接部が強化されている。

 固定武装は頭部30mmバルカン砲×2のみであり、これは対MS戦では牽制、それ以外では対歩兵・軽装甲目標として使用された。

 武装はジオン製MSが使用可能な共通装備は全て使用可能となっている他、ヒートソード(大振りのアーミーナイフに酷似)を標準装備している。

 

 

 ……………

 

 

 MP-02A オッゴ

 

 本来は「練度やMS操縦適性の低い兵士でも扱えるMSに準ずる艦載機」として開発され、旧型ながらも未だ数が多く2線級の部隊では現役のザクⅡF型や使い先の無くなったJ型・G型のパーツや装備を主な材料とした空間戦闘用モビルポッド。

 搭乗しているのが適正の低い・経験の浅いパイロットである事から積極的に前に出るのではなく、試作型艦隊防衛用モビルポッドとも呼称されていた通り、主に宇宙要塞並び艦隊の防空を担う「三次元機動もまぁ出来る移動砲台」という扱いだった。

 特徴的なドラム形状から生産性・整備性も高く、機体両横の回転式アタッチメントに武装を接続する事で使用するため、攻撃可能範囲も広く、更にアームには両手で大型の盾を持たせた事で連邦のボールに対しては3:1程度の有利を誇った。

 ア・バオア・クー攻略戦並び巨人型異星人艦隊との偶発的戦闘においてはその役割を存分に発揮し、艦隊防空並び異星人艦隊旗艦への両軍のエース達の突入を支援した。

 ドズル中将指揮下の一個中隊が有名であるが、それらは異星人艦隊との偶発的戦闘にて全機撃墜されている。

 武装はジオン製MSが使用可能な共通装備は全て使用可能となっている他、航宙機用のミサイルポッドやロケット弾ポッドを搭載・装備可能となっている。

 

 

 ……………

 

 

 YMA-08 グレートジオング

 

 実はこのグレートジオングという名称は、別に正式名称という訳ではない。

 別口のNT専用重火力MA開発プランの機体とたまたま本機のシルエットが似ている事、正式名称も決まってない事からその名前を借りて、それでいてサイズが倍どころではない程に差があるので、便宜上付けられた名前に過ぎない。

 本機は複数の大型MA開発計画を統合され、新技術実証のために試作一号のみ生産が許可された機体である。

 しいて正式名称を付けるのならば「試作マルチロックオン拡散・収束切り替え可能メガ粒子砲搭載型拠点防衛用巨大MA」となる。

 長過ぎる上、実際は「試作マルチロックオン拡散・収束切り替え可能メガ粒子砲搭載型ジャブロー攻略用MA」であったアプサラス計画以外の戦局打開のための大型MA開発計画も統合したせいでどんな名前を付ければ良いのか最早誰にも分らなかった。

 生産に関わった中で最も階級の高いギニアス技術少将をして「こんなもの私のアプサラスではない」として、その名前の使用を禁止した程である。

 当時の技術者らは平然とこの機体を「継ぎ接ぎ」と呼んでいた事からも、その開発によって得られたデータは兎も角、戦力としては殆ど期待されていなかったとされる。

 一説にはギレン総帥が指揮系統を自身に統一するため、ドズル中将を拘束するための方便であったとも言われる。

 名前の由来は兎も角としてその性能、特に火力と防御面に関しては本物である。

 機体総重量は測ってない上にちょくちょく変化してしまうので不明だがそのサイズは約200mと、小型艦艇に匹敵するサイズを誇る。

 機動兵器の分類の中では先ず間違いなく当時の太陽系で(少なくとも公式に記録された中では)最大と言って良い。

 下半身は元試作型超ド級MA構想の概念実証機(コスト肥大にて開発中断。ビグラングのアレ)の下半身を流用、Iフィールドの死角を補う自動砲台或いは随伴歩兵の役割を担うMPオッゴ一個中隊との連携のために補給・応急修理設備を備え、一機ずつ搭載して簡易修理・補給を行う。

 胴体部はジャブロー攻略用試作型巨大MAビグザムのボディを流用しているが、その機能の殆どは残っていない。

 ビグザムのボディの全方位に配された26門ものメガ粒子砲群は「無駄な上にコストと信頼性と耐久力を著しく損なう」と言うギレン総帥の一言により撤廃、大型メガ粒子砲に関しても本来のアプサラスのそれを改良したものを搭載したため、本当に外側と大出力核融合炉、そして両肩に移設されたIフィールドジェネレーターしか流用されていない。

 大型メガ粒子砲の威力たるや、ヨルムンガンドを除いた両軍の通常兵器の中で最大の火力を誇るだけでなく、マルチロックオン機能を持った拡散メガ粒子砲へと切り替える事が可能で、同装備を持つ艦隊防空用ムサイと並んでミノフスキー粒子散布下にあっても極めて高い対空迎撃能力を持つ。

 左右に広がる特徴的な大きい両肩は、Iフィールドジェネレーター並び専用核融合炉を搭載したがために大型化したもの。

 元々はビグザムの装備だったのだが、ビグザムにしてもエネルギーが足りずに活動時間が極端に短くなってしまう欠点を大型化と追加ジェネレーターの搭載によって無理矢理解消したものだった。

 そして、両腕部は名前の元となったジオングを始めとしたNT専用機を参考に、機械的補助並び専用操縦士を用意する事で通常のパイロットでも操作可能とした有線式疑似サイコミュシステムである。

 巨大な腕部には四本のクローが備わり、その中心にビーム砲と大型ビームサーベルの放出口を備える。

 この腕部の武装レイアウトは既に実戦配備されていたビグロや水中用MSを参考としている。

 前腕部を有線で繋いだ状態で射出、搭載したスラスターで機動させ、接近してくる目標を自由な角度から攻撃する事が可能だが、それは巨体故の隙を減らすためのものであり、自衛の色合いが濃い兵装だ。

 内蔵されたビームサーベルはゲルググのものを基に大型化したもので、形成するビーム刃の長さは200mと自身に匹敵する長さであり、同系列兵器の中では最長のギネス記録を持つ。

 また、各部には動作不良やエネルギー不足になった場合に備えて30連装ビーム撹乱弾発射機×6、自衛用対空装備として6連装ミサイルランチャー(ザクのフットミサイルを連結した流用品)×8、80mm対空ガトリング砲×2、60mm近接防御バルカン×2等の信頼性の高い実弾武装も豊富に搭載されている。

 装甲は可能な限りの対ビーム・対実弾双方への対策が施されており、連邦の一般的な戦闘艦艇よりも高い防御能力を持つ。

 しかし、ダメコンがその性質上殆ど出来ないため、最終的な耐久性に関してはそこまで差はない。

 これら複雑極まる機体を運用するため、パイロットはこの機体やMAに精通した者が選ばれた。

 最終的にドズル・ザビ中将を機長に、デミトリー曹長他6名の合計7名が脱出装置を兼ねる頭部内の7人用コクピットで操縦する。

 なお、オリヴァー・マイ技術中尉も候補として選ばれていたのだが、実戦経験の少なさから辞退している。

 内訳は二人がオッゴ中隊の指揮を兼ねる通信士、三人が火器管制、一人が主操縦士となる。

 

 この様に滔々と語ったが、試作一号機しか存在しない本機が後世の地球の兵器開発史に凛然とその名を掲げているのはその性能からではない。

 ア・バオア・クー攻略戦の最中、来襲した異星人艦隊旗艦への突入の際の旗機となり、両軍のエース突入後は退路確保のために敵旗艦に開いた大穴を最後まで維持し続けた事に尽きる。

 オッゴ中隊を指揮するための管制機能、巨体故の敵からのヘイト集中に対抗する耐久力、そして近づく敵機や誘導兵器を悉く迎撃する拡散メガ粒子砲。

 これらを併せ持つが故に、この機体は想定以上の大戦果を人類史に刻み込んだ。

 最後はエース部隊脱出前後に戦闘能力を喪失、乗員脱出後に動力炉を破壊されて轟沈する敵旗艦と運命を共にした。

 しかし、その存在は後の対異星人勢力(圧倒的多数かつ高い質を持った地球外の敵性存在)への対抗戦術の元となった。

 後のISA戦術並び特機構想がこの機体の活躍より生まれたのである。

 ISA戦術はIntegrated Synchronizing Attack、空母の役割を果たす機動戦艦と、そこに搭載された人型機動兵器による電撃戦の略称であり、後に地球圏きってのエース達が集う鋼龍戦隊やトップ部隊、多くの民間所属特機の集うマーチウィンド等がこれを対異星人勢力に対して実行、多大な戦果と共に戦局を動かす事となる。

 また特機構想とは即ちMSを始めとした従来兵器で対抗出来ない敵戦力に対し、圧倒的パワーで力押しする大型の機体を開発するという計画であり、ジオンのMA等もこれに該当する。

 その性質上、MSサイズの核融合炉や縮退炉だけでは出力が足りず、民間が開発した新エネルギーがこれを補い、極東地域を中心として多くの特機が生まれ、活躍していく事となるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 ムサイ級軽巡洋艦戦時量産仕様改装型 ムサイ艦隊防空仕様

 

 その名の示す通り、主砲である連装メガ粒子砲が三つから二つに減らされた他、一部の構造を簡略化させた戦時量産仕様のムサイにアプサラス計画によって開発された試作マルチロックオン拡散・収束切り替え可能メガ粒子砲とそのシステムを搭載する事で高い対空迎撃能力を持った艦隊防空仕様のムサイである。

 アバオアクー攻防戦に20隻が参加し、2隻を残して全艦が異星人艦隊との戦闘で轟沈している。

 ミノフスキー粒子重散布下の場合、ロックオンに必要な情報は主に事前に散布された数m大のレーザー通信のみ可能な無人の索敵衛星群を用い、その小ささと数(何とジオン本国で数千は作って周辺宙域に撒いていたらしい)から連邦側も見つけていながら排除し切れていなかったのだとか。

 それらから貰った情報とコムサイを下して変わりに積んだ各種電子装備と大型拡散粒子砲、そしてムサイの特徴とも言える艦橋の真下かつ二つのエンジンブロックの間にある空間にドム用の核融合炉を直列で三つ繋げたジェネレーターを設置する事で成り立っている。

 なお、態々戦時量産仕様のムサイを選んだのは、通常版のムサイよりも艦内スペースに余裕があり、出力も砲塔が少ないだけ余裕があったからだ。

 その装備と性質故に敵MSからの攻撃が集中すると思われるため、対空砲の増設や装甲の強化も提案されたが、接近した敵機への対応は艦隊を組む僚艦と協同する形となっている。

 本艦に搭載されたデータは後に連邦軍にも渡り、マルチロックオン可能な拡散メガ粒子砲は圧倒的物量に対抗するためのMAP兵器にして対空迎撃兵装として多くの兵器開発の元となり、最終的にホーミングレーザーとして完成する事となる。

 

 

 

 



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第4話 地球連邦の苦悩と加速する技術開発

 新西暦180年、時の地球連邦政府を始め、政財界は大いなる混乱と共にあった。

 

 軍縮の失敗と戦後復興の費用捻出の多くを一企業に頼った事?

 敵性異星人の艦隊による侵略行為を受けた事?

 プラント壊滅によって纏まった比較的安価な超精密電子部品の生産元の一つが消えた事?

 どれもがそうであり、否と言えた。

 

 彼らが最も悩んだ事、それは連邦・ジオン両軍が圧倒される程の戦力を持った敵性異星人の艦隊を更に蹂躙する程の戦力を持った不明勢力が既に太陽系内に存在し、今の今まで地球連邦政府にその存在を一切知られぬままでいて、今も見つける事が出来ていない事だった。

 

 また、一年戦争の間中、太陽系開拓の最前線とも言える土星方面から、太陽系外縁部にて幾度も大規模な戦闘光が確認され、調査用に送られた無人探査船からばっちりしっかり連邦・ジオン両軍の全軍艦を足してもまるで比較にならない数の大艦隊が襲来しては超巨大な戦艦と無数の小型人型兵器の軍勢に撃滅されていく様子が撮影されていた。

 当初は真実みがないとして取り沙汰されていなかったのだが、襲来する大艦隊の中には今回確認された巨人族の艦隊も存在しており、改めて政財界に認知される事となったのだ。

 

 「どないせっちゅうんじゃ!!」

 

 連邦政府首脳部の苦悩は深まるばかりだった。

 幸い、海底から発見された都市型移民船やメテオ3群解析により、太陽系内を一瞬で行き来でき、端から端までリアルタイムで通信する事が可能となるワープ=フォールド技術の実用化が来年には可能になる予定だ。

 更に巨人族の艦隊の残骸の解析や都市型移民船からの情報提供により文化、特に音楽を前面に押し出せば巨人族に限ってだが講和や休戦、無力化の可能性すら出てきたため、決してお先真っ暗ではない。

 また、件の勢力が太陽系防衛用無人機動部隊なるプロトカルチャーの遺産らしいと知らされて一旦血圧も下がったが、そんな大昔の奴らが作った自分らの管理下にない超大戦力とか安心できんわ!と再度叫ぶ事となった。

 人類が巨人族同様にプロトカルチャーによって生み出された存在であるという放送も、太陽系全土に不安や恐怖、混乱を広げていた。

 和平だ、講和だ、話し合いだ、いや戦争だ、そんな訳あるか、あーだこーだ。

 幸いにも復興は事前にある程度は用意していた上に、いつものA.I.M.グループがあっという間にやってくれましたので安心だが、今後の対太陽系外勢力に対する方針をどうしていくかでは揉めに揉めていた。

 この混乱が終わるのは新西暦181年、サイド3駐留任務を終えて帰還した艦隊総司令レビルが退役し、一年戦争を辛くも勝利に導いた戦争英雄として地球連邦政府大統領選挙に出馬し、2位と圧倒的票差を付けて勝利、戦後初の軍人大統領として就任してからの事となる。

 

 

 ……………

 

 

 そんなお上の悩みなんていざ知らず、後のイージス計画の現場となる北米の地球連邦軍ラングレー基地では今日も各種新型機の合同開発が進んでいた。

 

 「新型機動兵器には基本、テスラ・ドライブとマグネット・コーティング、ディストーションフィールドを標準搭載しましょう。」

 

 あーだこーだやってる内に、現場の面々はそう決断した。

 だって搭載機と非搭載機じゃ機動性も射撃時の反動吸収も被弾時の衝撃吸収も反応速度も出力伝達のロスも防御力も空力特性も何もかにも違うんだもん!!(全ギレ)

 実際、同じ機種で同じ条件で搭載機と非搭載機で模擬戦をやれば、30戦中28戦は搭載機側が勝つのである。

 今まで地道に開発していた各企業群の技術者や責任者らは一様に満面の笑みを浮かべるビアン博士やモスク・ハン博士、そしてネルガル重工を称えると同時、もっと早く開発してくれよ!と怒鳴りつけた。

 だって、これらの装置があれば色々な面倒、具体的には空力特性への配慮とかパイロットにかかるGとか機体重量とか射撃時の反動とか白兵戦時の衝撃とか防御力とかが既存機をスクラップ扱いにする位には改善されるんだもん。

 MSとしての機能を維持しながら大気圏内超音速飛行とか、戦艦なら単独での大気圏離脱及び再突入とかが割と普通に出来るようになると言えば分かるだろうか。

 

 「これがあの時あればなぁ…!」

 「あの時諦めた機能とか武装とかさぁ…!」

 

 が、こんな面白いもの渡されてしまっては、誰もが奮起せざるを得なかった。

 そして新西暦180年末、各企業群の新型機開発は新たなステップへと移った。

 

 「こちらがマオ社から発表させて頂く新型MSゲシュペンストになります。」

 「こちらがA.I.M.グループにて開発された新型MSバタラとなります。」

 

 両社の新型MSは、各企業群に驚愕を以て迎えられた。

 そのどちらもが既存MSのモノコック構造とは異なり、マオ社に至っては内部骨格であるムーバブルフレームを全身に採用したために重量こそ僅かに増大したものの、テスラドライブ並び小型縮退炉の搭載によりそんなもの塵程に意味のない程の高性能化を実現している上に大気圏内飛行を可能としている。

 勿論、関節部等の駆動系や出力伝達系にはマグネットコーティングが施され、光学・実弾双方に効果があるDFが標準搭載となっている。

 更にゲシュペンストはマオ社の今後の基礎となるべく冗長性・機体内容量が多く取られており、その分機体構造の余裕にも繋がって結果的に信頼性の高さへと繋がっている。

 また、DFだけでなく装甲そのものも追加装甲付きMSに匹敵、或いは凌駕する耐久力を誇り、表面には試験的に対ビームコーティングを施している。

 

 対して、A.I.M.グループのバタラは火星支部長でありながら兵器開発においても優れた才覚を持つパプテマス・シロッコ氏が手掛けたもので、性能面に関しては率直に言ってしまうとクラウドブレイカーをより人型に近づけた機体と言える。

 クラウドブレイカーⅡはあくまで性能向上版であり、原型機程ではないが宇宙での運用の方が向いている。

 このバタラは重力下での運用と飛行を可能にしたA.I.M.グループ初(表向き)の完全人型兵器なのだ。

 史実の同名の機体とは異なり、そのデザインには直線の割合が増え、ロームフェラ財団製MSのリーオーやその原型機のトールギスに近いラインとなっている。

 が、全体のレイアウトは史実の機体とほぼ同じである。

 ムーバブルフレームではなく、敢えて大量生産できるように各部位がそれぞれの機能ごとにユニット・ブロック化されており、戦闘中に切り離す事も可能となっている。

 具体的には頭部はセンサーやレーダー等の観測機器、腕部は戦闘のための汎用マニュピレーター、脚部は推進器といった具合に各機能ごとに特化させたのだ。

 それ以外の機能は割り切って搭載しない事で内部容量に余裕を持たせて信頼性・生産性・整備性等の向上へと向けている。

 これにより既存の軽量かつ実践証明済みのモノコック構造を採用したまま、MSの高性能化に必須なムーバブルフレームに匹敵する高性能化を果たしている。

 安直だが、そのままユニット・ブロック構造と呼称しよう。

 両肩の小型シールドには内側に三連装ミサイルまたはグレネードランチャーを搭載し、シールド表面には対ビームコーティングが施されている。

 脚部においてはは大腿部にメインスラスターを配置、クラウドブレイカー同様に膝下を収納して高機動形態へと簡易変形する。

 この簡易変形故に重力下での歩行機能に関しては同時発表されたゲシュペンストに対して低いものの、そもそも自在に飛べるので余り重要視されなかった。

 また、大型のプロペラントブースターを収納状態の脚部に連結する事で更なる機動並び推進剤容量の増加による活動時間の増加を実現している。

 胴体部は史実の特徴的な肋骨の様な動力パイプではなく、バイタルエリア保護のための頑丈な装甲が設置されている。

 両腕は手首にビームサーベルが収納されている他はシンプルなものだが、ハードポイントが設けられ、そこにビームシールドを標準搭載している。

 DFが不得手な実弾兵装等に対しても十分な防御力を発揮するだけでなく、白兵戦闘時にも大いに役立つ。

 頭部はクラウドブレイカーの系譜なだけあって頭部そのものが一つのセンサーブロックとなっており、後頭部のみ装甲化がされている。

 機体性能そのものはクラウドブレイカーⅡとそう大差はないものの、生産性の高さとコストの低さ、完全人型による白兵戦能力の高さを持っている。

 また、クラウドブレイカーが準人型故に操縦にはMSと航宙機双方の知識が必要になったのと異なり、一般的なMS操縦の知識と経験があれば十全に動かす事が出来る。

 武装面に関しては地球連邦軍共通規格であるユニバーサル規格を採用し、連邦とA.I.M.グループ製の汎用装備は問題なく使用できる。

 この一年戦争直後とは思えない高性能かつ量産可能なコストを持った新型機に対し、他企業群並び連邦軍内の開発チーム(テムさん含む)は燃え上がり、我も我もと続くのだった。

 その中でトップバッターとなったのがストンウェル・ベルコム、新中州重工、センチネンタルの三社からなる全領域対応人型可変戦闘機開発チームだった。

 

 「変形機構にマグネットコーティング使ってみたら時間短縮だけじゃなく機体剛性も上がりました。」

 「縮退炉載せたらエネルギー転換装甲が常時発動できるようになりました。」

 「DFのお陰で変形機構故の防御力の問題も解決しました。」

 「「「そしてテスラドライブのお陰で全形態で超音速飛行が可能になりました。」」」

 

 お前らいい加減にしろよ、と史実マクロス世界の技術者が怒るようなトンデモ進化を最初期の試作機で達成してしまっていた。

 特にマグネットコーティングの存在が大きく、関節構造の塊と言ってもよい可変機にとっては実に有り難いものであり、変形の完了時間短縮のみならず、変形後は電磁吸着を行う事で機体の剛性を高める作用があったのだ。

 テスラドライブ?もう説明しなくても良いでしょっ(半ギレ)。

 そんなこんな騒ぎながら、新西暦180年は過ぎていったのだった。

 

 なお、参加してたヤザンはアムロを弄りながら全機種に乗っては集ったエースパイロット達と心行くまで模擬戦闘(実機・シミュレーター問わず)を堪能していた。

 

 

 ……………

 

 

 地球某所 とある街

 

 「すまないな、カマリア。こんな所に呼び出して。」

 「いえ…それで、今更何の御用ですか?」

 「私達の息子、アムロの事だ。そして、私達の今後の事もだ。」

 「それは……。」

 「いい加減、ケリを付けるべきだと思ってね。」

 

 二人の話し合いは静かに、護衛の連邦兵士に監視されながら始まった。

 

 




次回、テムさん男を見せる


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第5話 テム・レイ大活躍

本日はテムさんの男気の後、匠の仕事となっております。


 「では、この条件で。」

 「はい……。」

 

 カマリアは項垂れたまま返答した。

 浮気をしていたのは彼女で、テムは被害者だ。

 故に本来なら訴えて慰謝料すら浮気相手込みで求められるのだが、テムはそれを敢えてしなかった。

 そうすると返済までは弁護士を挟んでとは言え関係が続く事となり、その内に相手側が逆恨みするとも限らないし、感受性の高いアムロに両親の争う姿を見せたくなかったのだ。

 また、そんな事よりも一刻も早くカマリアとの関係を断つ必要があったからだ。

 

 「親権に関してだが、分かっているね?」

 「アムロの事は、よろしくお願いします。でも…最後に少しだけ話させて頂けませんか?」

 「それは……。」

 

 これに関しては、テムも悩んでいた。

 浮気されて別れる相手とは言え、宇宙に出るまではテムもカマリアとの関係の再構築を望んでいた。

 自分のためと言うよりも息子のためだが、それでも情はあった。

 だが、カマリアは浮気相手と別れる事も、自分と離婚する事も拒んでどっちつかずの立場を取り続けた。

 そんな母親の態度にアムロが失望し、嫌悪していた事も、彼女は知らなかっただろう。

 それでも母親であり、アムロにとっては心の支えの一つだった。

 だが、事態はもうそんな事が出来ない状態にまでなっていた。

 

 「悪いが、出来ない。」

 

 テムは、カマリアのためにも断固とした態度で断った。

 それだけ言うと、テムはテーブルを立ち、去っていった。

 残されたカマリアは暫くの間その場に項垂れていたが、やがて立ち上がり、去っていった。

 これが二人の最後の邂逅であり、以降は生涯出会う事はなかった。

 

 

 ……………

 

 

 現在、アナハイム・エレクトロニクス社は危機にあった。

 一年戦争においては連邦・ジオンにそうと知られながらも商売して利益を上げていたし、それ以前からも地球圏でも常に三指に入る大企業だった。

 だが、その立場は脅かされた。

 

 他ならぬA.I.M.グループの存在によって。

 

 本社は北米にあるものの、月を中心に活動し、月に存在する資本の殆どを差配する事が可能な、超巨大な軍産複合企業体。

 地球連邦政府すらアナハイムの購入する多くの国債並び多大なリベートにおいそれと無視できない存在だった。

 だからこそ、その無法を同じ土俵で正面から押し潰せる相手には弱かった。

 弱みらしい弱みすら一切見せない不気味な存在。

 しかも火星・木星を中心にアナハイムの倍以上と見られる圧倒的資本力を前にしては、今までアナハイムを支えていたあらゆるものが通じなかった。

 一年戦争時の軍需においては辛うじてジムの生産に一枚噛む事が出来たし、ジオンの科学者・技術者並び本国に記録されていた多くの技術情報を入手する事にも成功した。

 ここまでなら成功していたし、多少の失敗も許容範囲内だった。

 しかし、ここからが問題だった。

 

 異星人の侵略、それで全てが変わった。

 

 太陽系の地球人類は圧倒的外敵の存在を認識、その対策へと動き出した。

 これにアナハイムは焦った。

 今までやりたい放題やって秩序を乱していた上に、月都市群が中立である事を良い事にジオン・連邦双方へ支援して戦争を長引かせてきたアナハイムは、太陽系全体の連携を乱す存在として既に連邦内の一部に疎まれ、その認識が広がり始めていた。

 加えて、戦後の復興という最大の稼ぎ時をA.I.M.に奪われたのが止めだった。

 発注元である連邦政府が異星人艦隊の存在に混乱していた事もあって復興開始が遅れた事もあり、終戦速報後間もなく起きた一般市民からの暴動同然の突き上げを受けて焦った多くの地方自治体がA.I.M.からの格安の売り込みに乗ったのだ。

 これには地球連邦政府の担当者らに事前にリベートを送って事前契約していたアナハイムは大損した挙句、アナハイムの役割を代替可能な割と全うな企業が存在するという事態に気付いてしまった。

 今までのA.I.M.グループは大身ながらも性急な事業展開は行わず、高い技術力と人材の層の厚さを生かした堅実な仕事が売りだった。

 しかし、要所要所で大胆な手を打ってきた。

 特に火星・木星とその航路の開拓並びエーテル・エンジンの開発等がそれに当たる。

 だが、火星・木星に重きを置いていたA.I.M.はこれまでアナハイムと直接対峙する事はなく、今日まで来た。

 その均衡が崩れ、軍・民双方の需要を奪われつつあるアナハイムはその規模故に倒産こそ無いものの、太陽系のパワーゲームの盤面から転がり落ちかけていた。

 下手すれば最悪、アナハイム重役メンバー全員が逮捕される事態すら有り得た。 

 

 故に、あらゆる手段を以て挽回する必要があった。

 

 既に仕掛けていた直接的なA.I.M.への妨害は悉くが失敗し、非正規部門は壊滅してしまったが、今まで構築してきた連邦政府・軍部の一部とのパイプは生きている。

 これとジオンからの技術を生かし、起死回生の一手を打つのがアナハイムの目論見だった。

 NT関連技術、ジオンが連邦に完全に勝っていた数少ない分野。

 その有用性は既に一年戦争において証明された。

 NTは対人類だけでなく、異星人艦隊相手でも有効である、と。

 ア・バオア・クー戦におけるジオンのNT部隊の活躍、赤い彗星と白い悪魔ら両軍のエース達の異星人旗艦への突入。

 最終的には突入部隊による動力炉の破壊(FAガンダムの追加装甲内臓ミサイルが決まり手)に成功、その後の増援艦隊に関してはプロトカルチャーなる存在が残した太陽系防衛無人機部隊の活躍で全滅した。

 しかし、個々で言えば通常のパイロットらよりもNTの素養を持ったエースパイロットらの活躍が大きかったのは誰が見ても明らかだった。

 また、ドズル中将らの搭乗した巨大MAの存在も見逃せない。

 これらを参考にし、アナハイムは次期主力機動兵器採用に関して「ガンダム開発計画」を開始した。

 ジオンと連邦双方のMS技術の融合を目指した0号機の開発から、この計画は始まった。

 伝説的活躍をしたガンダムの純粋な性能向上型の1号機。

 異星人勢力への戦略級火力の確実な投射を目的とした重MSの2号機。

 異星人勢力との大規模戦闘を目的とした拠点防衛用MAである3号機。

 そして、ジオン系NT技術と連邦系MSの融合を目指した4号機。

 だが、この計画を進めるに当たって、4号機には問題があった。

 

 肝心の高いNT能力を持ったパイロットがいないのだ。

 

 当初はソーラーシステム輸送艦隊を壊滅させたサイコザクの様にリユース・サイコ・デバイスの採用による思考直結式にする事も検討されたが、「どう考えても連邦には売れないし、他に売ったら大問題になる」として見送られた。

 となると、ジオング等の有線式サイコミュ兵器並び機体の操作、そして反応速度の向上こそが目標となったのだが、これはパイロット込みなら売れるかもしれないが、肝心のパイロットがいないのでは話にならない。

 旧ジオン関係者や戦災孤児をサンプルに研究を進めているが、早々高いNT適性を持った者など見つからない。

 かといって旧フラナガン機関に所属していた人員や子供達、既にして軍人・軍属として名の知られている者はがっつり監視されているので手は出せない。

 では、どうするべきか?

 

 ならば、身内から持って来ればよい。

 

 既にしてガンダムを始め連邦のMS開発計画を成功させたテム・レイはアナハイムの部長であり、その息子は異星人艦隊旗艦に止めを刺した英雄的活躍をしたNTなのだ。

 年若く実戦証明済みのアムロ・レイという少年は、今のアナハイムにとって正に打ってつけの人材であり、モルモットであり、広告塔に成り得る存在だった。

 

 この事態をアナハイム内の元部下や同期から知ったテム・レイの行動は早かった。

 アナハイムという巨大企業において社内の政治闘争を生き残り、ミノフスキー博士の直弟子である事もあるとは言え、その若さでMS開発部長となり、連邦軍に出向して数多くの功績を上げたテム・レイ。

 そんな若き天才が一切の躊躇なく、それまでの努力の果てに掴んだ立場を全て捨てる決断を下し、連邦軍へと身を寄せたのだ。

 この余りの動きの早さに、アナハイムは後手に回り、取り逃がすという大失態を晒した。

 テム・レイは大戦からこっち、V作戦・RX計画を通して連邦首脳部内の右派、つまりはレビル将軍一派との繋がりがあり、それを通して自身とアムロの身の保護を願い出たのだ。

 全ては愛する息子アムロのため。

 自らの築いてきた全てを犠牲にしてでも、テムは息子を守る決意を固めていたのだ。

 

 

 ……………

 

 

 が、こんなシリアスな背景は兎も角として、今日も後のイージス計画と題される開発計画の現場では技術者らがダイス10を出してブレイクスルーを連発、新型機へと反映する日々を送っていた。

 その中には勿論、アナハイムから出向中のチームも存在しているのだが…。

 

 「えぇいジムカスタムじゃ話にならん!」

 「でも、現行機の改良じゃこれが限界ですよ!」

 「マグネットコーティングだけで、テスラ・ドライブもDFもない機体が次期主力機になれるか!」

 「一から再設計だ。ジオン組の連中を呼んでくれ。MSならアイツらが詳しい。」

 「マオ社とA.I.M.の連中もだ。ムーバブルフレームにユニット・ブロック構想。どちらも量産を前提にするなら必要なものだ。」

 「え?マジですか?」

 「本社や月の連中なんて気にするな!現場判断だ!」

 

 こうして、新西暦180年末に最初に出来上がったのがジムとその派生系の設計を統合しつつジオン系の技術を一部取り入れ、ムーバブルフレームとマグネットコーティングを搭載したのがネモだった。

 しかし、この機体には欠点があった。

 

 「装甲に最新のガンダリウム合金使ったら値段が高騰した…。」

 「当たり前でしょうが!何でそれで安くなると思ったんです!?」

 「しかも排熱追い付かなくて縮退炉が積めない!」

 

 通常の核融合炉なら兎も角、余りに高出力の縮退炉に適合できなかった上、装甲材の問題でコストが量産機としては問題外となる程に高騰してしまったのだ。

 

 「どうやらお困りのようだね。」

 「テム部長!何か案があるんですか!?」

 「元部長だよ。今は一技術少佐さ。」

 「で、どうしましょう。」

 「簡単だ。機体を大型化する。」

 「よろしいのですか?」

 「あの巨人族を仮想敵とした場合、連中相手に白兵戦で確実に有利になるには大きさも重要だ。それにネモの時点で18mだ。今更2m程度大きくなっても問題はない。」

 「その話、私も混ぜてもらおうか。」

 「博士!よろしいのですか!?」

 「え、ミノフスキー博士!?」

 「何、まだまだ若い者には負けられんよ。」

 

 こうして、テム・レイとミノフスキー博士という二人の天才師弟+αを加えたアナハイム出向チームが開発して生まれたのが傑作機と名高いジェガンである。

 ユニット・ブロック構想は未だ技術的に未熟であり、耐久性の問題があるため(A.I.M.では解決済み)に敢えてネモ同様ムーバブル・フレームを採用している。

 縮退炉を主機関とし、更にマグネットコーティングを間接のみならず全身の駆動系に施した上、DFとテスラ・ドライブを搭載した本機は、正に連邦製MSらしい素直な操縦性と生産性にコスト、信頼性を維持しつつも、既にガンダム以上の高性能なMSとして完成していた。

 しかも、その装甲材はチタン合金セラミック複合材を採用しているため、コストもネモよりも低く抑えられている。

 そも防御力はDFがあるため、ガンダリウム合金でなくとも十分とされたのも大きい。

 武装面に関してもビームライフル・ビームサーベル・シールド・バルカン砲(オプション化済み)と平凡なものだが、ビーム兵器に関しては縮退炉の溢れ出る出力のおかげでその威力たるや、一年戦争期のMAに搭載されたジェネレーター直結式メガ粒子砲に匹敵する威力になっている。

 しかも操縦系統もジム系列の改良型となっており、機種転換訓練も簡単に済むという利点もあった。

 

 「まぁ、後はこの機体の売り込み方次第だな。そちらの方は頑張ってくれ。」

 「良い仕事が出来た。後は君達の頑張り次第だよ。」

 「「「アリアトアッシター!」」」

 

 こうして、イージス計画きっての傑作機が生まれたのだった。

 なお、この直後に発表されたガンダム開発計画によって出向チームは面子を潰される事となる。

 

 

 ……………

 

 

 「あの、海底調査続けてたら、旧日本海溝から休眠状態のエクセリオン級を発見したのですが…。」

 「中には多数のエーテル宇宙の技術関連情報があり、更に冷凍睡眠状態のユング・フロイト女史がいました。銀河連邦初代大統領とかデカデカと名札貼ってあります。」

 「完品のシズラーシリーズが1個中隊分格納庫にありました。」

 「「「どうしましょう?」」」

 「」←絶句して固まってる

 

 A.I.M.は今日も大変です。

 

 




アナハイムだからね、サンダーボルト版も加味するとこれ位はやりそう。
なお、頑張ってガンダム作っても既により高性能なジェガンがいる模様。


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第6話 レビル首相とユング大統領

名セリフ取られたビアン博士は泣いてよい。


 新西暦181年、前年までの混乱を思えば不気味なまでに静かに始まった。

 しかし、この静けさが薄氷の上であり、事態が静かに進行しているのは誰から見ても明らかだった。

 後世、この時期の事を振り返った人々は「そうするべきであるとは分かる。しかし、本当に出来るとは思ってなかった」と語る事となる。

 

 地球連邦政府は戦時政権であった現政権は解散、連邦政府総選挙が開始された。

 これには一年戦争を勝利に導き、サイド3での駐留任務を終えて地球に帰還したレビル元元帥が立候補し、破竹の勢いで勝利、右派勢力を纏め上げて新しい時代の地球連邦政府大統領へと就任するのだった。

 元々サイド3での駐留任務は未だ鼻息荒い連中やジオンへの怨恨を抱えた兵士らへと睨みをきかせるためのものであり、情勢が直ぐにでも動くべき状態となった事から急遽帰還する形となった。

 本来ならゴップ大将と共に大鉈を振るって軍縮に努める筈が、異星人艦隊の存在によりそれが出来ず、どうあっても軍拡せねば各サイドや各惑星の居住者らは安心できない状態になっていた。

 無論、異星人が攻め込んでくるのは今日明日ではない。

 だが、10年以内には確実に以前の比ではない戦力で押し寄せてくる。

 それを悟っているが故にレビルは軍人から政治家となり、後の事をゴップや自派閥の後継者らへと託したのだ。

 

 

 ……………

 

 

 地球連邦政府広報特別番組 レビル首相就任演説中継映像にて

 

 

 『先ず、一年戦争における全ての犠牲者の冥福を祈るため、一分間の黙祷をさせていただきます。皆さんもどうかご一緒にお願いします。………ありがとうございました。』

 

 『この非常時において地球人類が再び一つになれた事を喜びたいと思います。しかし同時に人類を守るために、再び私は若者達を戦いに駆り立てねばならない事を悲しみたいと思います。』

 

 『私を英雄と持て囃す人々もいますが、私は自身をこの場にいる事すら烏滸がましい無能者であると自覚しています。それでもこの地位に就いた以上、この仕事を全うするために全てを投げ打つ覚悟で臨んでおります。』

 

 『あの悲しく空しい戦争が終わって1年。戦争なんてもうしたくない、忘れたいという方も多いでしょう。しかし、我々は生き残るために再び立たねばなりません。』

 

 『こちらの映像をご覧ください。これは全て現実の光景であり、一切の虚飾を排したものだと専門家からの保証付きです。』

 

 そう言って放送されたのは、今まで殆ど民衆には公開されてこなかった異星人艦隊との戦闘の映像。

 それだけでなく、土星の長距離無人偵察機により撮影された、太陽系外縁部における地球外勢力と太陽系防衛用無人兵器部隊との戦闘の映像だった。

 なお、後者は土星開発公社のものだけでなく、トレミィ側から提供された映像も含まれている。

 その内容は極めて多様であり、軍人らですら今まで知らなかった情報も多く表示されていた。

 ア・バオア・クーで巨人族の艦隊の圧倒的火力と装甲により圧倒される連邦・ジオン両軍の艦隊。

 無数の高機動ミサイルを回避し切れずに爆散するジムやゲルググ。

 巨人族旗艦内部に突入するエース達と退路を守るグレートジオング。

 太陽系外縁部にて、無数のインベーダー・宇宙怪獣に対してデストロイヤーガンを最大火力で斉射し続ける量産型ヴァルチャー部隊。

 全長50kmを超える巨大なインベーダーによって撃滅される無人のトンボ改の艦隊。

 ズール銀河帝国所属の艦隊、ゼバルマリィ帝国所属の艦隊、宇宙を埋め尽くす無数の宇宙怪獣とインベーダーの姿。

 それらが互いに殺し合い、或いは他の文明へと軍民の区別なく攻撃している。

 余りにも衝撃的な映像が、全世界に同時に放映されていた。

 

 『これらの映像は、全て真実です。今もこの宇宙の何処かで地球人類を簡単に殲滅できる勢力が争い合い、鎬を削っているのです。そして、先に地球圏に襲来した巨人族の艦隊は、彼らの総数からすれば1%にも満たない戦力なのです。』

 

 撃ち漏らしたインベーダーに寄生されたヴァルチャーが、カメラアイを三回点滅させると自爆していく。

 ザフト所属MSが圧倒的物量によって蹂躙され、プラントが砕かれていく。

 全長10kmに迫る超巨大な戦艦プトレマイオスが宇宙怪獣の攻撃により、その艦首を破損してしまう。

 レビルの演説は、ショッキングな映像と共に聴く者全ての脳髄へと刻み込まれていた。

 

 『現在の太陽系の状況をこの演説を聞く全ての皆様に一切隠さず話しましょう。今までの私達地球人類はプロトカルチャーという先史文明の残した遺産によって、太陽系の外からやってくる外敵から守られていました。』

 

 『しかし、稼働していた太陽系防衛の無人兵器群の多くは昨年に壊滅、その際に巨人族の艦隊が太陽系内部に侵入し、あの異星人艦隊の襲来が起こったのです。このまま手を拱いていては、我々は絶滅します。どんなに幸運でも植民地化、奴隷化は免れません。』

 

 『私達の住む太陽系、それが含まれる銀河系には、斯様に無数の敵が犇めいているのです。無論、人類とよく似た知的生命体も多くいます。ですが、彼らは国力においては圧倒的に上であり、入手した情報を分析した限り、例え平和的に接触した所で我々を自分達の勢力に加えることはあっても対等な友人として扱ってくれる事は無い、との結論に達しました。』

 

 『巨人族はその性質上戦いこそが望みであり、他の非人型の巨大生命体に関しては他種族を捕食・絶滅させるべく行動しているため、論外であります。』

 

 『現状の地球連邦軍ではこれらに対抗する術はございません。ただ時間を無為にして過ごせば、結末は一つです。』

 

 『私の友人の言葉を借りて、この状況を端的に申し上げましょう。』

 

 『人類に逃げ場無し!』

 

 『我々地球人類は一致団結し、生存の権利を勝ち取らねば、絶滅する他ないのです!』

 

 『無論、未だ復興の終わらぬ地域があり、戦争の傷跡に苦しむ方がおられるのも承知であります。そういった方々への支援や復興を疎かにする事はありません。』

 

 『ですが、我々が生き残るために、後の人々に幸福な未来を残すために!我々は一致団結し、戦いに臨まねばなりません!』

 

 『地球連邦政府は今日この時より、太陽系絶対防衛プロジェクト、「イージス計画」を始動します!』

 

 『以上となります。皆様、ご清聴ありがとうございました。』

 

 この歴史的就任演説後、北米にて進められていた新型機動兵器開発計画は正式に「イージス計画」に組み込まれ、他にも多くの新兵器開発や宇宙艦隊の増強等へと繋がっていく事となった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦181年 レビル首相就任の一か月前

 地球 A.I.M.秘匿ドックにて

 

 「悪いわねー。こんな歓迎してもらっちゃって。」

 「いえいえー。他ならぬユングさんですし。」

 

 そこでは現在、解凍したばかりのエクセリオン級並びシズラーシリーズが運び込まれており、その動力をエーテル式縮退炉からTF式縮退炉に換装、更にあちこちガタが来始めていたエクセリオン級の各部のアップデートや修復作業に追われていた。

 

 「で、ユング大統領はどうします?お身体の具合は良いにしても、ここは貴方の生まれた地球じゃありませんけど。」

 「勿論戦うわよ。ここは私の生まれ故郷じゃないけれど、確かに地球なんだし。」

 

 それに、この世界のノリコやカズミもいるしね、と小声で零すユング。

 その服装はフォーマルなスーツ姿だが、トップ部隊のやたらピッチリしたパイロットスーツでなくても着こなしている辺り、やはり大統領として活動していた経験が活きているのだろう。

 

 「ま、政治はもう勘弁だけどね。流石に疲れたわー。」

 「今現在のユングさんの肉体は医療用ナノマシンによって20代初期程度にまで若返り、大抵の毒物や病原菌、ウイルスの類は受け付けません。勿論宇宙放射線病に関しても完治しています。」

 「あー失ってから健康は大事と気付くなんて、私も若かったわねー。」

 

 ごきごきと体のあちこちを鳴らして、ユングは苦笑した。

 今現在ここにいる彼女は、原作時空の銀河連邦時代から過去へと技術情報を送るべく、各種情報や物資を満載したエクセリオン級と共に時間移動を試みたユング・フロイトだった。

 トップをねらえ!ネクストジェネレーションにおいて、不甲斐ない当時の地球帝国に対してタシロ司令らと共にクーデターを起こし、銀河連邦初代大統領に就任した。

 その後、宇宙超獣やシリウス同盟との戦乱を戦い抜き、遂には病に倒れ、親友であるカズミとノリコと再会する事は叶わなかったという。

 なお、スパロボαでは数少ない特殊技能「天才」を持ち、充実した精神コマンドや高い技量を持ち、乗機と合わせておすすめパイロットの一人であるが、同時にジャイアン級の音痴であり、そのせいでエクセリオンの施設の一部を破壊した事がある。

 人格面に関しては戦闘や軍事に関しては人一倍厳しくプライドも能力相応に高いが、普段の人格はフレンドリーであり、二重人格並みに落差がある。

 ついでに原作随一の巨乳と設定されている。

 

 「で、起こした上に治したからには私に何をしてもらいたいのかしら?」

 「特機技術試験部隊の教官兼テストパイロットをやってほしいんですよ。」

 

 不意に真剣な顔になったユング(妙齢の美人)に対し、トレミィはそう答えた。

 

 「特機?」

 「この世界の人型機動兵器は機動性と操縦性・生産性に優れたものとガンバスターの様な大型かつコストが半ば度外視、乗り手を選ぶが超高性能な機体に分かれています。」

 「ハイローミックスな訳ね。で、経験豊富な私にお願いって事かしら?」

 「現在、特機と分類される機体はまだまだ試作段階であり、初期型が一部形になっただけです。私共は性能をある程度落として大気圏内でも万全に戦えるようにしたプロト・シズラーを出します。」

 「あー、他の軟弱な連中は蹴落とせって事?」

 「コスト度外視を認めるなら、その程度の性能は必要ですからね。まぁ殆ど選定済みですが。」

 

 言外に「自分の乗るシズラーに勝てる相手はいない」と言っている辺り、本当にプライドの高い女傑である。

 メルトランディと出会ったら、速攻で意気投合しそうである。

 

 「ま、良いわ。楽しそうだし、受けてあげる。」

 「ありがとうございます。あ、お給金は弾んでおきますね。」

 

 ユング・フロイトは、このA.I.M.グループというのを未だに掴み切れていなかった。

 自分の知らない歴史を辿った平行世界からの旅人、否、それよりもっと古くから彼女らは旅人だった。

 偶然に偶然が、奇跡に奇跡が重なってこの場にいるが、本来なら自分よりも更にこの世界の地球に関係ない彼女達。

 しかし、地球人類に向ける暖かな視線や気遣いは本物で、人類存続のために力を尽くしている事は確かだった。

 

 (見極めるのはまだまだこれからね。はぁ~面倒ねー。)

 

 これがノリコだったら最初から全幅の信頼を置いて突き進むのだろうし、カズミだったら相手の思惑を知っても飲み込んで利用しつつテーブルの下で足蹴にしたりもするのだろう(本人が聞いたら激怒必至)が、自分の様な素直じゃない人間ではこうした隠さず信頼を向けてくる手合いというのは…ちょっと苦手だ。

 並行世界の自分と友好関係にあったとは言え、こうも真っすぐに信頼を向けて来られるとちょっと押されそうになってしまう。

 下手に政治家なんてやってたものだから、どうにも不純なものがない信頼には弱い。

 

 「あ、戸籍は新しいもの作りますね。名前はユン・グローリアスとかどうでしょう?」

 「愛称はユングのままなのね…まぁそれで良いわ。」

 

 にこにこと機嫌の良いトレミィと仕方ないわねぇというか、年下の子の面倒を見るお姉さん的雰囲気を醸しているユングの姿は、似ていない年の離れた姉妹か、或いはやたら若い母と娘か。

 

 「この、泥棒猫…!」

 「何してるのSf。」

 「いえ、テンプレ系嫉妬プログラムを実行してみただけです。」

 「貴女達って本当に個性豊かよね…。」

 

 こうして、銀河連邦元大統領なユングは新しい世界でA.I.M.グループにて交流を深めるのだった。

 




ユング参戦
スーパーロボット軍団の女教官として辣腕を振るってくれます。

再開の時まで、もう少し。


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第7話 イージス計画始動

 新西暦181年、4月。

 連邦政府首相に就任したレビルは持ち前のリーダーシップと英雄としての名声をフル活用して改革を進めていった。

 

 民間においては各地、特にコロニー並び太平洋沿岸地域と各地でジオン・連邦双方の戦場となった欧州・中東・アフリカがその焦点となった。

 ジャブローのある南米に関しては、定期便とジャブロー攻略部隊の侵入を許した以外は殆ど侵攻できず戦中の時点で復興がほぼ完了しているため、他所の方に注力された。

 こちらに関しては既にしてA.I.M.が現地自治体と素早く交渉して仕事を請け負い、肝心のインフラや道路、仮設住宅の設営等を大量に生産した各種作業用ロボット群「レイバー」によって素早く着工・完了している。

 これに対して前政権時代から担当者へとリベートを送っていたアナハイムからすれば大損させられた結果となり、連邦政府としてもこれには配慮すべきとする意見やA.I.M.グループの勝手な行動を非難する声も上がった。

 が、そんなもの馬耳東風とばかりにレビルは方針を伝えた。

 

 「一企業のみに任せては癒着や不正の温床となるだろう。A.I.M.は今後、復興関連事業には今期契約済みの仕事を除いて撤退してもらおう。」

 

 A.I.M.グループは笑顔でこれを受け、アナハイムはこれに喝采を上げかけたが、現実は甘くない。

 同じように初動で負けた他の大企業群がここぞとばかりに動いたため、戦前・戦中に予想されたよりも復興事業に食い込めなかったのだ。

 それでも十分黒字だったが、想定していた利益を思えば、まるで足りていなかった。

 文句を言おうにも平等に対応しただけのレビル首相に物言いはしにくく、リベートを受け取ったのもあくまで前政権所属の官僚であり、必要以上に過ぎたリベートを受け取った官僚らは既に閑職へと送られていた。

 これがゴップ大将の言う「共生関係にある寄生虫」なら兎も角、彼らは欲をかき過ぎたのだ。

 が、宇宙では新型のエーテル機関搭載前提のコロニーの生産と注文が一年戦争初期での経験からひっきりなしであり、これにはアナハイム他多くの企業群や労働者もにっこりだった。

 これに加え、ネルガルが新規に相転移エンジン搭載のDF展開可能かつ重力制御による非回転型コロニーを発表すると、比較的コストの低いエーテル機関搭載コロニーか、緊急時の防御力もあって重力制御により更に快適な相転移エンジン搭載コロニーとでどちらを購入するかで各サイド行政府は大揉めする事となる。

 対してA.I.M.グループは正直赤字同然だった強引かつ早急な地上復興から離れ、新型機開発を始めとした軍事部門へと注力していく。

 

 「現在、連邦宇宙軍で採用中のMSや艦艇では異星人に対して力不足だ。新型開発並びそれまでの繋ぎとして既存兵器のアップデート。加えて戦略兵器の開発を開始する。」

 

 あのア・バオア・クー攻略戦における奇襲を受け、連邦宇宙軍は力不足を悟っていた。

 無論、サラミスやマゼラン、ジム系列が弱い訳ではない。

 余りにも敵が強過ぎたのだ。

 そこで目を付けたのがコロニーレーザー、そしてヨルムンガンドと艦隊防空仕様ムサイである。

 

 「これら巨大な戦略兵器群を各サイド・各星に配置し、侵攻してくる異星人に対する切り札とする。」

 

 コロニーレーザーもヨルムンガンドも艦隊防空仕様ムサイも、全て急造品・試作品である事は否めない。

 それを現在の太陽系の技術で改めて作り出せば、どれ程の性能となるのだろうか?

 それらを検証すべく戦後直後のサイド3駐留艦隊は多くの技術者らも同伴しており、これら戦略兵器の解析・検証は連邦軍にとって今後のための死活問題だった事が伺える。

 未だ設計段階だが、多数のエーテル機関に縮退炉、太陽光発電パネルを用いて発電し、ある程度連射の可能とするコロニーレーザー或いはそれに匹敵するビーム兵器が予定されている。

 この運用には専用の機材を多数積んだコントロール艦に加え、防衛戦力として新設される艦隊群が予定されている。

 また、ジオン公国時代にはコストの問題で見送りにされた拠点防衛用MAの再設計品か現在開発中の特機を配置する事も考えられていた。

 これに加え、太陽系全体への配備までの繋ぎとすべく既存の戦略核弾頭もジャブローの保管庫から出され、より高威力・広範囲になるMk.82弾頭への換装が進められ、連邦宇宙軍へと配備されていく事となる。

 これらの他にも旧型の戦術核弾頭等も対異星人装備として配備され、運用にはジオンのザクⅡC型を参考に改良を加えられたジム核武装仕様として1個中隊が配置された。

 しかし、Mk.82の運用に関しては明らかにジムの改装では追い付かないため、既存の大型弾道ミサイルの流用も考慮されたのだが、これにはアナハイムからの提案もあり、後に専用のMSを開発する事となった。

 

 次に、宇宙の主力となる戦闘艦艇並び艦載機なのだが……揉めていた。

 一先ずは既存戦力のアップデートで時間を稼ぎ、その後に改めて新型艦や新型MS等を配備する予定なのだが、既にして合同開発兼コンペとなっている次期主力機開発は取り敢えず置いておくとして。 揉めたのは艦艇についてだった。

 

 「異星人の戦艦は強力だった。特にあの旗艦、防御力も火力も尋常じゃなかった。」

 「そうだ。あれを撃破可能な艦艇がほしい。」

 「でも、それだと艦載機運用能力が下がるのでは?」

 

 艦艇の更新・改良ごとに毎度の如く起きるリソースの取り合い。

 しかも今回は人類の存続がかかっているとなっては揉めない筈はなかった。

 

 「取り敢えず、サラミス級に関しては複数の改装案を採用しません?」

 「どういう事かね?」

 「機能ごとに役割分担するんですよ。艦載機運用・艦隊砲撃戦・快速パトロール艦って具合に。」

 「艦載機運用はコロンブス級の改装型ではダメかね?」

 「弱いじゃないですかコロンブス。艦隊組むの前提なら兎も角ねぇ…。」

 「艦隊砲撃戦仕様となると…既存艦からどう改装する?」

 「先ず主機関はどうする?エーテル機関か相転移エンジンか、それとも縮退炉か。」

 「取り敢えず、DFは搭載しましょう。あれがあればビームやレーザーは殆ど効きませんし、実弾もある程度までは防いでくれます。」

 

 こうして、連邦宇宙軍艦隊再編計画はスタートした。

 イージス計画の内、これら戦略兵器の配備並び艦隊再編計画が一応の合意を得るのは新西暦187年までかかるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 地球某所 位相空間内 秘匿ドックにて

 

 「早いわね、改装。」

 「そりゃまぁ得意ですから。」

 

 えへん、と胸を張るトレミィの姿にほのぼのしつつ、ユングは視線をドック内のエクセリオン級へと向けた。

 現在、大気圏内並び海中での運用、そして位相空間への潜航と浮上を前提とした外装を接続している所であり、外観は大きな開閉式のウイングスタビライザーが左右に接続されている。

 また、艦載機として予定しているシズラーシリーズ一個中隊もまた改装を終え次第搬入予定だ。

 実質A.I.M.グループの秘匿戦力として運用する予定となっており、人員はナノマシン式自動人形が詰め、最高指揮権はユングが握る事となる。

 お仕事は主にこの地球上で未だ連邦軍や初期スーパーロボットが敵わない敵勢力の撃滅であり、場合によっては宇宙怪獣とも戦う事となる。

 

 「ここは元々私達の旗艦の修理なんかを担当する予定だった工作艦でしたからね。暫く前から地球防衛用の絶対防衛線担当としてずっとここにいますけど。」

 「へぇ…。」

 

 恒星間航行大型戦略工作艦ドゥーベ。

 それがこの艦の名前である。

 ドゥーベは北斗七星の一つであり、天文学者プトレマイオスの作ったトレミーの48星座の一つである大熊座に属する。

 本来のこの系統の艦の役割は前線における損傷した艦艇並びマシーン兵器の修理と補給である。

 全長14kmもあり、エクセリオン級なら難なく格納可能で、早期の修理・補給・改装を可能としている他、独自に機動兵器の工廠を持っている。

 が、対宇宙怪獣ではそんな事する暇もなく大抵轟沈・撃沈するし、修理するには長距離ワープして地球や月面、火星辺りに帰還してドック入りすれば良いと判断されたため、余り活用される場面は無かった。

 だがその修理・補給能力は本物であり、TF達の梃入れもあって帰還する艦艇やマシーン兵器らが多くなると、途端にその出番が多くなっていった。

 このドゥーベはプトレマイオス同様にそうしたエーテル宇宙の艦艇をナノマシンでコピーした物であり、欠点であった大型サイズでありながらも戦闘能力の無さを艦載機である量産型OFで補っている。

 OFを運用するにあたり、メタトロンによる精神汚染対策に生体式自動人形はおらず、全員がナノマシン式自動人形で揃えられている。

 また、メタトロン取り扱いエリアは基本的に生身の人間は立ち入りが禁止されている。

 火星で発掘されたメタトロンは一度この船に運び込まれ、ナノマシンにより加工され、OFが生産されていく。

 生産が完了したOFは順次位相空間へと出ていき、そこで出番が来るまで休眠状態で待機している。

 極めて高い加工精度が求められる事から月産10体が限度だが、通常のMSやマシーン兵器ならば材料さえあれば月産500は固い。

 現在ユングが滞在しているのがこの艦の乗客向け宿泊区画である。

 その心地良さは一流ホテルに匹敵し、ユングは快適さの余りここが何処だか忘れかける程だった。

 

 「で、私が乗る予定の機体は何処?」

 「こちらになります。」

 

 示された格納庫には、約130mのシズラーシリーズからすれば半分にも満たない50m程の機体が鎮座していた。

 

 「暫定名称は試作機としてシズラー0。縮退炉一つに予備としてゲッター炉を搭載しています。」

 

 それはブラックゲッターに似たシルエットを持っていたが、シズラーの系譜であると分かる特徴的な頭部のデザインはそのままだった。

 が、ゲッターロボに強く影響を受けているのか、両肩にはトマホーク生成口が存在し、胴体も寸胴、手足の太さもほぼ一定など、実に古臭いデザインが見られた。

 なお、マント状のウイングは無く、通常のシンプルなバックパックと肩部装甲に内蔵されたスラスター、そしてテスラ・ドライブが主な推進方法である。

 

 「武装は頭部にバスタービーム発射口、肩部のランサー生成口に腹部マルチロックオン拡散・収束切り替えゲッタービーム砲、両前腕にバルカンブラスター、サイドアーマーにチェーンアンカーを装備しています。」

 「ランサーが出てくるのが何で肩なのかしら?」

 「あれ、組み付かれた時の隠し武器としても有用でして。後、バルカンブラスターの弾頭は通常弾頭です。」

 

 が、炸薬は安心驚愕のA.I.M.製であり、弾頭の素材がスペースチタニウム=ガンバスターの装甲材質なので威力に関してはお察しである。

 

 「このサイズなのは他の殆どの特機が大体このサイズだからです。」

 「競合させるなら、ある程度揃えようって事ね。」

 

 事実、初代ゲッターロボは全長38~20m、ゲッターロボG系が約50mと、その性能を考えるにとても小さい。

 他はガンバスターの頭頂高が200m、シズラーが130m、ダイターン3が120m、イデオンが105m、グルンガストが48.7m、有名なマジンガーZが24mと随分差が大きい。

 そして殆どのスーパー系の敵メカが含まれるのが大体50~100mであり、バッフ・クランもこれに含まれる。

 そういう意味では本家シズラーのサイズが理想的なのだが…問題があった。

 

 「お役所って、割と前例主義的な所がありまして…。」

 「先ずはこのサイズから徐々に大きくしろって事ね…。」

 

 連邦軍で運用されていたMSは20mにも満たない程度が殆どであり、大型兵器との交戦経験もMAや艦艇が精々とあらば、いきなり超巨大な人型兵器は運用するにしてもそのための施設が無いために困難になってしまうだろう。

 

 「大型の機体を運用できる巨大な戦艦って、太陽系では私達以外持っていませんから…。」

 「何時になったらエクセリオン級作れるかしら?」

 「3年以内には建造開始しますので、それまでお待ちくださいとしか…。」

 「前途多難ねぇ。」

 

 こうして、新西暦181年の春は過ぎていった。

 

 



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第8話 間に合わせ艦隊

 新西暦181年初頭、この頃の地球連邦宇宙軍は艦隊戦力の再編を始めていた。

 が、その内実は揉めに揉め、具体的にどの様な仕様にするべきか迷走した挙句、新型艦艇を採用するまでの繋ぎとして複数の改装案を採用、その内訳で各派閥へ配慮する形になった。

 但し、共通の改装部分として宇宙で運用前提の艦艇(サラミス・マゼラン・コロンブス級等)は一律に主機関を相転移エンジンに交換、オプションでエーテル機関搭載の大型ブースターを装備する事で一致している。

 これは一年戦争当時、火星・木星駐留艦隊が一時遊兵となった事態を重く見てのものであり、足回りに配慮しながらの早急な装甲の増強が難しいが故の改装だった。

 で、改装の内訳は以下の通りとなる。

 

 1、火力特化改装

 これは大戦初期から対空砲塔の増設程度でほぼ無改装のサラミス級・マゼラン級を対象に行われた。

 真空中の相転移エンジンという既存の熱核融合炉よりも遥かに大きな出力を生かして主砲の威力・射程向上、それに伴う放熱系とレーダー・センサー系の更新という無難なもので纏まっている。

 また、機動兵器の接近対策に砲塔の配置も見直し、死角を減らした上で更に対空機銃の増設を行っている。

 大戦初期のマゼラン級と比較した場合、出力の差で火力特化サラミス改の砲撃能力はほぼ互角になる。

 加えて、DFを搭載して艦体全部を覆っているので、メガ粒子砲での撃ち合いならば一方的な展開となる。

 

 2、MS運用特化改装

 既存のサラミス改(上甲板の武装を撤去してMS運用プラットホームを設置)では火力も搭載数も貧弱であり、中途半端であるとして火力特化改装に比べ、より大胆な改装が行われる事となった。

 上甲板は元のサラミスの仕様に戻した上で、艦体両舷の武装を撤去、MS運用プラットフォームと短いながらも電磁カタパルトを備えたブロックを接し、その部位にMS運用能力を担当させている。

 このブロック自体は元々空母に改装したコロンブス級(145m、サラミスは228m)のコンテナ部分を流用したもので、対空機銃はあるものの、重量が増加した分だけ機動性は低下している。

 左右それぞれのブロックがMSを3機ずつ、合計6機をオプション含めて長期間運用できるため、軽空母化に近い改装と言える。

 これはペガサス級を参考にした改装であり、特に短いながらも艦体左右にカタパルト付きMS向け格納庫が設けられている点が似ている。

 このレイアウトは後のアーガマ級やラーカイラム等にも受け継がれた構造で、信頼性も高かった。

 また、もしもの時はブロックを切り離して軽量化・ダメコンをする事も可能な上、ブロック自体の構造は簡単かつ既存品の流用なのでコストも大胆な見た目の変化に比べれば安い。

 多量の物資も積めるので長期間の任務を可能な上、前述した追加ブースターを装備すれば、十分に高速で移動できる。 

 反面、艦体の横幅が倍近く大きくなった事で密集陣形を取るのが苦手になっているだけでなく、既存ドッグだと少し手狭になっているのでマゼラン級向けの大型ドッグを使用する必要があった。

 

 こうした改装ラッシュは各LPで続くコロニー建造と並んで各大企業群は大喜びで着手した。

 が、残った艦艇群の数は未だ多いものの、とてもではないが太陽系全体を守るには数が足りない。

 そのため、新たにこれらの改装を加えた状態での建造も少数ながら行われた他、比較的損傷の少なかったジオン共和国所属のムサイも近代化改修を受けた上でパトロール任務等に駆り出される事態となった。

 こうした事情から、二種のサラミス改の建造・改装にあたってはドックの拡張・増設も各地で行われた。

 これが後の大型艦の建造ラッシュに役立つ事となるとは知らずに。

 が、今はそんな事は一部を除いて誰も知らず、今後何年もずっと続くデスマーチ体制の始まりに大忙しとなるのだった。

 

 

 ………………

 

 

 最初こそ揉めたものの何とか軌道に乗った艦隊再編計画に対して、艦載機たる次期主力機に関しては大問題が起きていた。

 

 『調達コストが高過ぎるので縮退炉搭載機の量産は無理だ。』

 

 開発担当者一同が集まる会議室にて、ゴップ大将が告げた。

 

 「やはりダメでしたか。」

 『仕方ないよ、こればかりはね。』

 「既存のジムはジェガンを参考にアップデートするとして。」

 「問題は縮退炉のコストですか。」

 

 縮退炉。

 ブラックホールエンジンの発展系であり、内部にブラックホールを要するこの機関は極めて膨大なエネルギー生成能力を持つ。

 未だA.I.M.グループしか生産できないこのエンジン。

 エーテル宇宙にて採用されていたものと比較してサイズ当たりの出力比は低いものの、それは生産性・信頼性、何よりも内部のブラックホールの安定性を念頭に再設計したものだからだ。

 そのため、現在の地球人類の技術でもギリギリ生産できるのだが……

 

 『流石にあれ一個でジム3機分ではなぁ。』

 

 搭載してるプロトジェガンやバタラ、ゲシュペンストにクラウドブレイカーⅡの機体本体の値段よりも高いのである。

 現在、宇宙軍艦隊の再編計画も実行に移され、戦略兵器の開発も始まっている。

 加えて、連邦政府は本来今後の数年は復興に費用を投じる予定だったのだ。

 なのに異星人の登場によって軍拡を余儀なくされている。

 来年度以降なら兎も角、今年度は既に限界が見えていた。

 そして、A.I.M.も資金なら兎も角、その生産能力はフル稼働状態で、早期の新型機生産は難しかった。

 

 『現状、先ずは数が欲しい。そのためにはMSのまま高性能化をしていく必要がある。』

 「となると、それに近しいコストならば大量生産も良し、と。」

 

 ゴップ大将の言葉に食いついたのはイスルギ重工の担当者だ。

 クリムゾングループと新たにロームフェラ財団から来た担当者らもその言葉に期待を寄せる。

 性能面で水を開けられていた機体を開発していたが、コスト・生産性という面では彼らの持ってきたリオンやステルンクーゲル、リーオーは高いものがあったからだ。

 反面、縮退炉の搭載には機体剛性が足りなさ過ぎるため、下手すると空中分解や暴走の危険すらあった。

 しかしジェネレーターを通常の核融合炉とするならば、その差はかなり縮まり、問題も消える。

 

 「仕方ありませんね。予備として開発していたプラズマジェネレーターを搭載しましょう。」

 「性能は落ちますが、それでも既存のミノフスキー式核融合炉よりも高出力ですからね。」

 

 が、彼らの期待はあっさり裏切られた。

 

 『その場合のコストはどうかね?』

 「機体含め、ジムの1.3倍といった所かと。オプションや予備パーツ含めた初期費用となると2倍になります。」

 「この開発で得られたデータをフィードバックしたジムの改修計画も進んでいます。」

 

 マオ社とA.I.M.の担当者に追随するように、アナハイムの現場責任者からの声も上がる。

 現段階ではジムⅡと命名予定のそれは、史実のジムⅢに近い外観や武装構成をしているが、搭載予定のプラズマジェネレーター並びDFとテスラドライブにより、スペックデータは第一次ネオジオン戦争当時のザクⅢやドーベンウルフ等の高級量産機とほぼ同格となっている。

 ビームライフルも当時の戦艦クラスとされたガンダムのものを超える威力であり、ゲルググと正面から戦っても容易に撃破可能だ。

 が、仮想敵である異星人勢力に対してはやや非力な面が否めなかった。

 

 『今後、対異星人に向けた次期主力機を採用するにしても、数を揃えるための機体は必要だ。』

 「であれば、先ずはリオン系の発展型を先行生産すべきかと。」

 

 リオン系の発展型、即ちガーリオンである。

 イスルギ重工とクリムゾングループの共同開発のこの機体はテスラ・ドライブとDFの搭載を前提とした機体であり、操縦系統も機体搭載のオートマトンによる補佐で殆ど航空機と同じ要領で操縦可能となっている。

 但し、火力面においてはやや貧弱で、ビーム兵器を搭載できていない。

 これは大量生産前提でジェネレーターを既存のものに限定したためにDFとテスラ・ドライブに出力を食われた結果であり、主力兵装はレールガンとミサイルとなっている。

 このレールガンは解散した旧プラント技術者を招いて開発されたものであり、小口径から大口径と取り揃えているが、ビーム兵器に匹敵する火力を発揮するには大口径化が必須であり、そうすると実質的な戦闘継続時間は減っていく事となる。

 が、その徹底的なまでに洗練された単純な構造は製造コストが安く、費用対効果も大きく、数を揃えるには最適と言える。

 これにはバタラに採用されたユニット・ブロック構造を参考にした事も大きく、町工場レベルでの生産すら可能だった。

 

 『ふむ、それだと君の所が不利益になるが?』

 「この程度で潰れる程の体力ではありません。というか、今も稼ぎ過ぎてる状態ですし。」

 

 事実である。

 火星・木星における最大勢力にして実質的な統治者とも言えるA.I.M.グループ。

 現代の中東とも言える最大の資源地帯を押さえる彼女らにとって、この程度の損失など幾らでもリターン可能なのだ。

 生産能力の多くを未だヴァルチャー部隊へと割り振っている事もあり、今暫くの時間が欲しいのが本音だった。

 まぁ中小企業や各コロニー向けに生産性の高いバタラの生産ラインを設置し、不安に苛まれているコロニー向けの防衛戦力として販売する事も出来るのだが、今はまだ余裕があるためにしないでいる。

 

 「ですので、特機構想に関しては…。」

 『分かっているとも。まぁ採用されたとしても少数だ。その辺は納得してくれたまえよ?』

 「承知しています。」

 

 こうして、最初のイージス計画の結果が世に出る事となった。

 

 




次回、特機構想開始


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第9話 特機開発競争の始まり

開発は進むよ何処までも。


 新西暦181年 夏 極東地域

 

 メテオ3群の落着により首都が壊滅、発生した津波によって太平洋沿岸地域が大きな被害を受けたこの地域も、インフラの復興と仮設住宅の建設は既に完了し、現在は一般住宅の建設ラッシュが始まっていた。

 そんな動きを他所に、ここ極東地域では高い技術力や新エネルギー開発を行っている個人や民間の研究所へとA.I.M.グループが支援を行い、MSよりも遥かに高性能な人型兵器の開発に取り組んでいた。

 その中でも既に形となっているのが3機種あった。

 一体は早乙女研究所からプロトゲッターロボ1号。

 塗装されていない純白の機体で、外見はゲッター1だが、未だにゲッタービームとトマホークしか武装がない上に変形・合体・分離機能がないし、搭載されているゲッター炉も一基だけである。

 二体目はA.I.M.グループからプロトシズラー。

 先日説明した通りの機体だがその完成度は高く、コストにさえ目を瞑ればこのまま量産しても大丈夫な程度には実用性も高い。

 そして三体目がビッグモス。何と地球連邦軍極東方面軍からである。

 獣形態・人型形態・車両形態へと変形する上、サイコミュから発展した独自理論による「野獣回路」なるシステムを搭載している。

 この回路は理論上パイロットの怒りや闘争心をエネルギーに変換し、更には機体と同調させる事すら可能となる。

 が、パイロットの精神力頼りな所が大きく、更には一人の操縦では今一つ安定しないため、縮退炉を搭載した上で複座式にする事が検討されている。

 他にも民間開発では兜十蔵博士のマジンガーや破嵐グループのダイターン、地球連邦政府の支援を受けた南原コネクションからはコンバトラーが、ビッグファルコンからはボルテスがそれぞれ発表された。

 これらは言うまでもなく全てが試作機であり、未完成だ。

 しかし、A.I.M.グループの後押しでその開発は史実よりも進んでおり、何れは日の目を見る事となるだろう。

 本来なら一か所に集めて試験運用や競合等をしたい所なのだが、何処も「未完成品を出す訳にはいかない」と拘りを見せて自分の所の研究所から出したがらなかった。

 これは未だ技術が足りず、安定して稼働できない機体を見せたくない開発陣のプライドからだった。

 既に設立段階からA.I.M.グループ肝いりだったゲッターロボに関しては実機試験段階に移っているが、こちらはこちらで相変わらず性能を上げる事に腐心しているせいでパイロット殺しと言っても過言ではない機体になっていたので、パイロットが極端に限定されていた。

 

 『そら、行くわよ!』

 『くそ、デカいのにこんな…!』

 

 そのため、テストパイロットの早乙女達人は現在訓練中であり、A.I.M.グループ極東支部の持つ演習場にてシミュレーターと実機訓練の双方でユン・グローリアスに良い様に扱われている。

 これにはトレミィも呆れ、急遽テスラ・ドライブを搭載してパイロット保護並び機動性の強化へと繋げると同時、生産中のプロトゲッター2号・3号の完成を急いでいる。

 が、後にプロトゲッター三機でもユングの駆るプロトシズラーに勝てない事からこの仕様での生産は見送られ、後の三体合体・変形・分離機能を持った本家ゲッターが開発される事となる。

 また、他所の特機としてテスラ・ライヒ研究所のグルンガスト零式の完成も知らされているが、そちらは北米にあるため、極東までは遠いからとお祈りメールをされている。

 そんな訳で、無敵のスーパーロボット軍団にはまだまだ遠いのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「で、我が社の特機はこれです。」

 

 いつもの北米のラングレー基地にて。

 唐突にネルガル重工とクリムゾングループ、イスルギ重工の担当者が持ってきた代物があった。

 

 「名付けてジガンスクード!」

 「広域展開可能なDFとグラビティブラストを搭載!」

 「それだけでなく要重力波ビームにより、受信アンテナ搭載機にはエネルギーを送信して常時補給可能!」

 「拠点防衛用特機としても申し分ない性能を持っています!」

 

 そう言って見せられたのは史実のジガンスクードである。

 ジガンスパーダの様な4門の主砲を持ったMAではなく、きちんと人型をしている。

 両腕に持つ巨大な盾(大型DFジェネレーター搭載)によりバランスが悪く、テスラ・ドライブ無しでは大気圏内運用は不可能なバランスをしている。

 しかし、拠点防衛用の特機としては文句ない火力と装甲、パワーを持っている。

 武装面も胸部GB、多連装ミサイルランチャー、腰部レールガン、頭部80mmバルカン、更に頑丈なシールドを衝角とした格闘も可能と、中々に整っている。

 指揮管制機能もあり、複座ならば防衛部隊の指揮官機としての役割も十分こなせるだろう。

 なお、当然ながら縮退炉搭載が前提である。

 

 「欠点は鈍い事です…。」

 「デカいから攻撃できない死角がありまして…。」

 「友軍機との連携が前提です…。」

 「まぁワンマンアーミーじゃないんですし、良いのでは?」

 

 色々言ったが、要はこの機体はグレートジオングを現在の技術で再現したものなのだ。

 特に指揮管制機能や補給能力を持たせた辺りにそれが垣間見える。

 武装とDF担当がネルガルで、機体そのものはリオン系列の発展形なのでイスルギ、その他内装系やセンサー・レーダー等がクリムゾングループ(に就職した元プラント技術者含む技術チーム)が担当している。

 どうやらあの特徴的な鶏冠状のブレードアンテナが備わっているのは、プラントからの伝統らしい。

 割り切った運用を目標にしているためか、約70mのサイズの割に生産性も悪くない。

 三企業のガチぶりが見える本当によく練られた機体だった。

 

 「そして、これが私の開発したプロトタイプ・ヴァルシオンだ!」

 「どっから運び込んだんですかねこれ…。」

 

 ビアン博士が堂々とその巨体をお披露目してくれた。

 縮退炉を主に大型プラズマリアクターをサブに持ち、DFにテスラ・ドライブ、武装はクロス・スマッシャーという強力なビーム兵器だけでなく、広域重力兵器たるグラビトンウェーブを持つこの機体は威圧感たっぷりな外見もあって、正に究極ロボに相応しい性能を持っている。

 だが…

 

 「「「「「却下。」」」」」

 「な、何故!?」

 「装飾多過ぎ!」

 「デザインで勝負してんじゃねーぞ!」

 「無駄に資材使うな!」

 「だってのに性能も完成度も高いのが腹立つ!」

 「格闘性能も高いし広域破壊もできますけど、どうせならマルチロックオン兵器が欲しいですね。」

 

 そうなのである。

 極めて高性能なのだが、異星人への威圧感を目的に外連味たっぷりな外見にしたため、無駄な装飾が多く(特に肩回りやウイングバインダー)、生産するに当たり無駄な手間となっている。

 重力下での格闘戦の際のバランサーやスタビライザーとして機能する事は分かるが、それにしてもデカくて派手で邪魔過ぎる。

 結果、もう少しブラッシュアップする事となった。

 

 「私共はプロトシズラーを持ってきました。」

 「相変わらず異常に高性能で異常に完成度の高いもんを…。」

 「これ超えられる奴おりゅ?」

 「あ、模擬戦させろってヤザン大尉が騒いでますよ。」

 

 こんな感じで、実にカオスに開発は進んでいた。

 そんなカオスな開発現場に参入していたアナハイムからの新規派遣組、即ちガンダム開発計画担当チームらはと言うと………真っ白になっていた。

 鳴り物入りで始まった計画だと言うのに、各企業による合同開発計画の方では既にして自分達の開発中の試作機よりも高性能な量産機が開発されようとしているのだ。

 実際の生産開始は来年度からになる予定だが、彼らから見てもジェガンやゲシュペンスト、バタラにガーリオンらの性能は文句の付けようもない。

 おまけに自分達のそれよりもコストが低いのでは、どうしようもなかった。

 

 「……よし、切り替えよう。」

 「具体的には?」

 「あくまで我々の機体は概念実証機としての側面が大きい。特にGP03と04。」

 「MAとNT専用機ですからねぇ。」

 「そういう訳で、俺達の機体で得られたデータを、我が社のジェガンに反映させる。」

 「……必要ですかね?」

 「必要だとも。ジェガンは対核装備も追加武装もまだ開発されてないんだぞ?」

 「あ!」

 

 そうなのだ。

 ジェガンはオプションに多数の武装はあるが、機体本体の性能を向上させるFA系の装備は未だ存在しない。

 況や一年戦争で連邦軍が使用しなかった核武装対応MSの装備など何処も開発していなかった。

 

 「ユニバーサルコネクターだったか。今直ぐこちらの機体をそれに合わせた改装をするぞ。そうすればあっちから取り入れる事も容易だ。」

 「直ぐに取り掛かりましょう。」

 

 こうして、ガンダム開発計画組は辛うじて首の皮が繋がるのだった。

 GP01で開発された追加武装とスラスターを内蔵した追加装甲群は後にスターク装備として、特務部隊向けのジェガンの代表的オプションとして名を馳せる事となる。

 また、対核装備に関してはGP02のデータを元にジェガンが再設計され、重装甲かつ高出力のジェガンN型として完成するも、余りに外見が異なる事から別の名称、即ちグスタフ・カールの名前を送られる事となる。

 なお、GP03と04はその性質上宇宙での運用が前提となるため、この基地にはない。

 GP03に関してはオーキスの方に縮退炉を試験的に搭載、後にアップデートしながら一連の戦乱を戦い抜く事となる。

 対してGP04に関してだが…

 

 「アムロ少尉を招聘しよう!」

 (こちら側に引きずり込んでやる…!)

 「よろしい。ですが、こちらの指定する場所での試験をお願いします。」

 (A.I.M.職員配置済みの連邦軍基地を提示)

 

 アナハイム担当者とテム氏の間でこんなやり取りもあったそうな。

 後に有線式純サイコミュから有線式疑似サイコミュへとシステムを変更、後の疑似サイコミュシステムのダウンサイジング化を達成した初の機体となった。

 が、性能的には既にして時代遅れが否めなかった事と総ガンダリウム合金故のコスト高騰もあり、データ取りが終了と判断されて直ぐに解体された。

 

 

 

 



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第10話 新型主力艦艇

 新西暦181年 秋

 

 「いい加減、次期主力艦艇を決めようか。」

 

 当然だが、揉めた。

 今後十数年は採用されるだろう連邦宇宙軍主力艦艇の採用である。

 現在、各大企業群は復興特需で大きく利益を上げているが、それに匹敵する利益がこの案件にはある。

 そして、復興は10年もせずに終わるが、建艦とその後の整備や改修は長く続くのだから採用を勝ち取った企業を潤してくれるだろう。

 それ故に、大企業は本気でこの案件に出すべく案を以前より纏めていた。

 これに加え、連邦宇宙軍内部の各派閥もまた鎬を削っていた。

 以前にも言った通り、艦隊決戦志向の派閥と、艦載機運用志向の派閥だ。

 これに加え、今年の冬には都市型移民船や異星人艦隊の残骸、そして南アタリア島とアイドネウス島に落着したメテオ3の二号と三号の解析結果から初歩的だがフォールド技術を実用化する事に成功する。

 今までにない距離を一瞬で移動できる空間転移並び長距離通信を可能とするフォールド技術。

 これは人類が辺境の星間国家からこの銀河に自らの生存領域を主張できる勢力となる第一歩であった。

 

 「次期主力艦艇については、フォールド機能並びフォールド通信の採用を予定している。」

 

 故に、こんな言葉が出るのは当然だった。

 しかし、フォールド技術はまだまだ未解明な所も多いし、試験運用して改めて洗練しなければ、という慎重論も多い。

 

 「但し、後の改修でフォールド技術が搭載可能ならば、現状今直ぐには問わない。」

 

 これには各企業群の担当者も胸を撫で下ろした(A.I.M.除く)。

 そして、肝心のフォールド技術だが、各種先進技術EOTの艦艇向け試験運用が決定した。

 本来ならばサラミス級の改装待ちの艦をベースに行うのだが、余りにも搭載する予定の先進技術(艦艇用の大型テスラドライブや大型縮退炉、フォールド技術等)、これに加えてISA戦術の試験も行うべきとあっては、最早新造した方が早いという結論が出た。

 これには以前、連邦内部でもミノフスキークラフト搭載の万能母艦として候補にあがっていたスペースノア級の設計案が採用される事となる。

 これは一年戦争当時、V作戦においてMS運用母艦にホワイトベースが採用された事への反対派閥への対価とも言える事情があった。

 が、艦載機運用能力に関してはMS並び特機の運用のためにはやや低く、後に一部を設計を改めた後期スペースノア級が正式に採用、生産される事となる。

 それでもその設計案は拡張性・信頼性・内部容量全てが高い事から、初期設計をほぼそのままに非地球人由来の各種EOT(Extra Over Technology)の試験運用艦として一番艦スペースノアの建造が開始された。

 この艦には前述のフォールド技術並び艦艇用大型縮退炉(サブに大型核融合炉)にテスラドライブ、DF等が搭載されており、後のスペースノア級と同じくブロック構造をしている。

 この構造のために生産性も高く、艦首モジュールを用途に応じて換装できる他、ブロックの交換により改装も比較的容易に可能となっている。

 更に有り余るエネルギーを利用するためにディストーション・ブロック(ブロック毎にDFを展開、被弾時の損傷を最小限に留める)を採用し、これまでのサラミス・マゼラン級と比較して異常に打たれ強くなっている。

 更に加えて、あくまで万能戦闘母艦であるスペースノアに対して、後の太陽系外開発に必要となるノウハウやデータを積むべくスペースノア級の設計と搭載した各種EOTを一部流用した外宇宙探査用超長距離航行艦としてヒリュウの建造も決定された。

 この二隻の設計を元に特機やMSといった人型兵器の艦載機運用能力を付与して完成したのが後期スペースノア級万能母艦群である。

 これらは艦首をそれぞれ用途別に変更する事で差別化を図りつつ、後の戦乱でISA戦術を敵司令部へと敢行、幾度も戦略を覆す程の英雄的戦果を上げる事となる。

 が、これだけ高性能だとどうしてもコストが高くなり、あくまで特務部隊向けの少数建造になるのだった。

 これらスペースノアとヒリュウから得られたデータをフィードバックする母体としてどの様な艦艇が妥当か。

 更に追加で要求仕様が連邦宇宙軍から提出された。

 

 1、サラミス・マゼランに勝る航行能力

 2、異星人の戦艦に有効な火力と防御力

 3、大気圏内部での運用可能

 

 これもまた大揉めした。

 特に3、これが鬼門だった。

 別に高性能な艦艇、それ自体は難しくない。

 昨今のEOTによりサラミス・マゼランを超える性能はコストを無視すれば割と簡単に確保可能だ。

 だが、大気圏内での運用となると話は異なる。

 最低でもテスラドライブ搭載は必須で、空力に配慮した船体構造にするか巨大なDFを常時展開する必要があり、それらを十全に動かす動力源の確保も必要となる。

 が、これらを満たすとコストが途端に跳ね上がる。

 それを宇宙と地上両方揃える?

 地上で戦う=本土決戦になる程に押し込まれるという事なのに?

 この三つめの要求に対しては「宇宙を優先的に戦力整備し、地上は既存の水上艦艇にすべき」という意見が噴出した。

 しかし、一年戦争において通常の水上艦艇はジオン水泳部(大体ズゴックとアッガイ)によって大分数を減らされており、頼りないという印象が地球在住の人々の間では根強かった。

 また、そんな人々からすれば地上に配備される軍、その象徴ともなる軍艦は自分達を守る最後の盾なのだ。

 それを疎かにする事は市民が軍と政権を見放す事に繋がりかねない。

 だからこその三つめであるのだが…

 

 「別にこれ、地上と宇宙別々の艦艇を採用しても大丈夫だよな?」

 「だな。」

 

 無理して同じものに揃える必要はない。

 取り敢えず最新技術を投入していると分かりやすく市民に納得させる事が出来る艦艇ならば良いのだ。

 幸いと言うべきか、これに関してはガルダ級とストーク級にテスラドライブ並び完全ジェットエンジンを搭載した改装を施した上でハイローミックスで採用され、地球内全土を常に空から監視する防空即応態勢を築く事となる。

 地上においては旧型となった大艦巨砲主義の権化であるビッグトレー級を解体、そのホバー機能を継承して水上艦艇としても活動可能なライノセラス級(衝角ではなく大型DFジェネレーターを装備、腕型5連ビーム砲も通常の連装砲塔へ交換)が採用され、高い砲撃能力と艦載機運用能力を併せ持つ移動基地とでも言うべき存在として運用されていく事となる。

 が、これは全て合わせても50に届かず、あくまでも既存技術を土台にEOTを多少取り入れたに過ぎないため、そこまで価格が跳ね上がる事もなかった。

 その分の地上軍の費用は既に正式採用が決定されたVFへと割り振られる事となる。

 そして、宇宙軍の次期主力艦艇のコンペが本格的に開始され、以下の案が提出された。

 

 1、ネルガル・クリムゾングループの「ナデシコ級戦艦」

 GB・DFの使用を主眼としており、ブリッジと乗員の生活スペース兼脱出艇を兼ねたブロック、艦載機運用設備とGBの搭載された中央胴体ブロック、左右両舷のディストーションブレードと相転移エンジンが繋がったブロックから構成される。

 艦隊戦において確実に敵異星人の戦艦を撃破するべく、強力なDFを全体に展開可能なDブレードと防御の難しい空間を歪曲するGBを使用するに最適な艦体形状を模索した結果、このような構成になった。

 装甲自体も決して薄くはなく、DF並びDブロック構造によって見た目以上に堅牢である。

 が、その性質上戦艦や巡洋艦と言うよりも砲艦に近く、艦載機運用能力も艦の直掩分しかない。

 またGBを正面にしか向けられない、大気圏内での運用も可能だが主機関が縮退炉・サブが相転移エンジンなので宇宙での運用とで差がある事がネックとなっている。

 全長約300m。 

 

 2、ジャブロー工廠の「クラップ級」

 サラミス級を始めとした、既存の連邦宇宙軍所属艦艇の発展形である。

 改良に改良を重ねて未だ第一線にあるサラミス級の優れた設計に昨今重要な艦載機運用能力と高い航行性能を付与する形で再設計した上で、船体を延長する事で容量を確保している。

 長い電磁カタパルトを備えた艦首と格納庫を中に持つ胴体、戦闘時と通常時で二つあるブリッジ、艦体後部で左右に広がる特徴的なエンジンブロックからなる構成は、どことなくジオンのムサイ改を彷彿とさせるシルエットを持つ。

 主砲の数は減ってこそいるものの、左右のエンジンブロックにある最新の艦艇用核融合炉二基分の出力により威力と連射力が上がり、射程や射撃精度もレーダー・センサー系が最新のものを使用しているために強化され、総合的な火力は寧ろ向上している。

 また、船体から突き出ているエンジンブロックの換装で今後も長く使用可能なように設計されている。

 艦載機運用能力に関しては既存の前期サラミス改を上回り、後期サラミス改(艦載機運用特化型)にも匹敵する。

 全長300m

 

 3、アナハイム・エレクトロニクスの「アーガマ級」

 MSを始めとした艦載機運用能力を重視しており、ホワイトベース等のペガサス級強襲揚陸艦を参考に設計されている。

 左右両舷の電磁カタパルト、船体中央にアームで繋がり回転して疑似重力を発生させる居住ブロック、戦闘時は船体に格納されるブリッジ等、他には余り見られない特徴を多く持つ。

 武装は単装メガ粒子砲×4、連装メガ粒子砲×2、多連装ミサイルランチャー×1、他対空レーザー機銃多数。

 一見すると重武装だが、他の巡洋艦と比べて必要最低限の武装しか持たず、攻撃能力の多くは搭載する艦載機に頼っている。

 そのため、良好な航行能力と合わせてどちらかというと軽空母に近い性質を持つ。

 全長320m

 

 4、A.I.M.の「るくしおん級」

 安心と驚愕のA.I.M.が贈る人類初の亜光速巡洋艦である。

 同社が持つEOTをふんだんに取り入れて設計されたこの艦は曲線で構成され、古い時代のロケットにも似たデザインを持つ。

 基本装備は多数のレーザー砲と大型ミサイル、多数の対空レーザーバルカンから成る。

 この内、大型ミサイルは新開発の光子魚雷、即ち縮退炉開発によって得られたブラックホール生成・操作技術から生まれたブラックホール爆弾であり、数発で地球型惑星を崩壊させる事も可能な戦略兵器である。

 設計段階で既にしてフォールド技術が取り入れられ、通常航行ですら最大加速は亜光速に到達する程の速力を誇る。

 テスラドライブを始めとした重力・慣性制御能力も他の艦艇よりも高出力かつ高精度であり、太陽系内なら文字通り何処へでも行けるし、何処でも運用できる。

 反面、艦載機運用能力に関しては特別尖ったものはなく、20m半ばまでの機体を4機まで運用可能となっている。

 

 

 「「「「「ちょっと待て最後!!!」」」」」

 

 余りの事態に関係者一同が集まる重役会議で突っ込みが入った。

 

 「どうしましたか皆様?」

 「いや、突っ込み所しかないでしょう!?」

 「何だよ亜光速って!」

 「それよりもブラックホール爆弾だよ!何時の間にそんなもん実用化してたの!?」

 「っつーかブラックホール爆弾だけ他でも使用できません???」

 

 ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー騒ぐ各企業の担当者らを尻目に、連邦宇宙軍側の関係者がこそこそと話し合う。

 

 「この際ですし、一度全部作ってみては如何です?」

 「確かに、どれも少々捨てがたいですし…。」

 「………仕方ない。上の指示を仰ごう。」

 

 こうして、連邦宇宙軍の次期主力艦艇建造は順調に遅延するのだった。

 

 



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第11話 進む新型機開発とある世界線のお話

 「操縦系統、統一した方がよろしい気がしますね。」

 

 ぼそりと呟かれたこの一言に、各企業群の担当者の間でカーンとゴングが鳴った気がした。

 

 現在、主力機であるMSジムの系統は一貫してMS操縦のための独自のものとなっている。

 が、これは戦時故の突貫工事だったが、可能な限り操縦自体は簡易化した上で機体側のOSで補佐する形を取っている。

 だからこそガンダムの学習CPUの様なデータの蓄積から直に動作の最適化までやってくれる代物は半ばオーパーツ染みている訳だが。

 それはさておき、現行のMSは全て通常のコクピットに操縦棹や計器にボタン類、正面や左右を映した大画面ディスプレイ、その脇に後方や下方を映した小さいディスプレイが配置されている。

 これは史実の全天周モニター並びリニアシートでは機体の内部容量と電力を無駄に使用する、正面以外を見るためには一々その方向に顔を向けねばならない(機動時にGが発生していると難しい)、背後しか固定する場所がないリニアシートでは安定性に欠ける事等が指摘されており、アナハイムから提案はあったものの没となった。

 そのため、ジェガンやバタラ、ゲシュペンスト等の操縦系統は多少のボタンや計器類が増えたものの、一年戦争時のジムとその改修型から大きな変化はない。

 問題なのはVFとガーリオンである。

 この二機種は元々航空機から発展しており、その操縦系統も航空機から発展したものである。

 VFは変形機構の関係で航空機からレバーが動いてMSのものへと変更され、ガーリオンは航空機のものとほぼ共通だがオートマトンによって補佐されている。

 つまり、航空機パイロットからの転向が容易なのだ。 

 しかも、VFはその展開力や既存空母や基地施設での運用も容易で、VTOLや低空をホバー飛行する事も可能な事から既に先行生産が始まっている。

 

 それぞれに良さがあり、それを活かすための操縦系統。

 それを変えるのは機体の特性を殺す事に繋がりかねない。

 どちらに寄せるかで、一瞬にして二つの派閥が出来てしまった。

 

 「で、解決方法は?」

 「どれに乗ってもある程度は動かせるように思考操縦機能を補助的に導入してみましょう。」

 「「「「「そんなのあるの!?」」」」」

 

 いつもの突っ込みがA.I.M.担当者へと入った。

 が、無視されて説明に入られた。

 

 「こちら、リユース・サイコ・デバイスから発展させた思考操縦補助システム、名付けるとしたら…サイコセンサーでしょうか。」

 「これは……ノーマルスーツも含めるのか?」

 「その通りです。」

 

 仕組みとしては簡単だ。

 ノーマルスーツ全体でパイロットの脳や脊髄をリアルタイムで監視、搭乗したパイロットの思考をある程度まで読み取り、機体の動作へと反映させる。

 が、通常の操縦方法がその内容と異なっていた場合には通常の操縦の方を優先させる。

 ある程度までなのは、余計な情報(くしゃみしたい・何処かがかゆい・トイレしたい等)を遮断する必要があるためであり、この遮断無しで反映すると余計な行動まで実行してしまう。

 なお、これの開発に成功した際、派遣されていたカーラ博士とダリル中尉他サイコ・ザクパイロットら(失った手足は部分クローンで治療済み)は「大戦中にこれが欲しかった…!」とサイコ・ザクに乗るために失った手足を思って涙したという。

 直後、治療した手足を傷つけるような真似は止めてくださいとA.I.M.医療担当のナイチンゲール女史(生体式自動人形)に捕まって説教されていたが。

 

 「これにはスーツだけでなく機体のCPUの方を当社のものに乗せ換える必要がありますが、どの機体にも搭載可能です。」

 「「「「「採用で。」」」」」

 

 こうしてまた一つ、A.I.M.の技術が世界へ広まるのだった。

 なお、アナハイムはこれを盗用し、後日バイオセンサーを完成させるも、余りの不安定さと搭乗者への負担の大きさから本格的な採用は見送った。

 

 

 ……………

 

 

 さて、ちょっと忘れてたVFの話をしよう。

 

 VF-01バルキリー

 

 この機体はYF-0フェニックスの問題点を洗い出し、DF・テスラドライブ・マグネットコーティングを採用し、排熱の問題がとうとう解決できず、高価な縮退炉ではなく二基のプラズマジェネレーターを搭載していた。

 それでも本家よりも高出力かつ高性能であったが、巨人族との近接格闘戦に入った場合を考慮して、ガンポッドには折り畳み式銃剣、手首にはビームガン兼ビームサーベルを追加する形で完成した。

 航空機のファイター、中間のガウォーク、ヒト型のバトロイドと三形態へと可変可能な上、テスラ・ドライブ停止時であっても極めて高い機動性と展開速度(オプション無しの大気圏内最大巡行速度マッハ4)、大気圏内外に水上母艦や陸上基地でも無改造で運用可能である事から早々に正式採用・配備が決定した。

 開発計画から実質的に一抜けした事に、担当者は他の計画参加者から罵声を浴びせられたが、その後も参加して他企業の仕事を助けつつ、更なるデータ収集を行うのだった。

 また、イージス計画ではVFに関してはその後、追加武装の開発が始まった。

 そうして出来上がったのが、ガンダムやジェガンのFAプランを参考にして開発されたスーパーパックとアーマードパックである。

 前者は機動性優先の増加装甲兼武装兼追加ブースター群であり、後者は火力と防御優先となっている。

 これらは主に宇宙での運用が前提だが、大気圏内でもDF発生中なら問題なく運用できる。

 前者のスーパーパックの外観は史実のものだが、後者のアーマードパックの外見はVF-2SSのスーパーアームドパックに近い。

 どちらも変形には干渉しない構造を取っており、重量増加分も追加されるスラスター群で補う事で寧ろ強化されている。

 整備の手間こそ増えるものの、強力なオプションとして以降のVFシリーズの共通装備となるのだった。

 このVF、今は何処で主に運用されているのかと言うと、現在は未来のマクロスであるメテオ3の二号が落下した南アタリア島に建設された基地にてロイ・フォッカー中佐らによって一個中隊が機種転換訓練を行っており、今後も増える見込みだ。

 

 「よし、粗方解析終わった事だし、この艦も本格的に改造して使えるようにしてみるか。」

 

 そして、彼らのすぐ側で拾い物を使い物にするとんでもない計画が進んでいた。

 後に設立される地球連邦軍特別宇宙軍SDFにて代表的な艦となるマクロスの完成まで、もう間もなくだった。

 

 

 ……………

 

 

 ?????

 

 

 それは何処かの時代、何時かの場所、誰かの夢見る世界の出来事。

 

 あらゆる時間と空間から集まった機械の民草とその始祖は、たった一つの目的のために巨大な一つの存在へと自らを昇華させるべく融合を開始していた。

 一にして全、全にして一、個にして群、群にして個。

 矛盾を体現するその存在は星々すら砂粒に感じられる程に途方もなく巨大で。

 しかし、それでも今なお成長し続ける機械の大地母神だった。

 

 『La lalalalala…』

 

 かつて共に暮らした同胞達とも一人残らず吸収し、巨大な銀河系すらその腕の中に収められる程に肥大化しながら、それでも彼女の目的には未だ至らない。

 大陸より大きくなった。

 星より大きくなった。

 太陽系より大きくなった。

 ガス星雲より大きくなった。

 そして、ブラックホールすら操り、銀河すら超えた。

 それでもなお、彼女の願いを叶えるための領域には未だ至らない。

 無限の平行世界から無限の自分達を呼び集め、一つとなりつつある彼女は、未だに成長期なのだ。

 何れ至るまで、彼女は暇潰しのために世界を癒し、宇宙を震わせる唄を何ともなしに口ずさむ。

 

 『よぅ、起きてっか?』

 

 そこにひょっこりと現れた珍客は、古い馴染みだった。

 多次元世界において全てを滅ぼそうとする者へと永劫に挑み、戦い続ける進化する機械の化け物。

 その名を、ゲッターエンペラーと言った。

 

 『…久しぶりねぇ。』

 『何だ、起きてたのかよババぁ。』

 『否定しないけど、余り口が悪いのは感心しないなぁ。』

 

 間延びした口調での叱りに、ゲッターはわりぃわりぃと反省した様子もなく近付く。

 

 『それで、どうしたの?』

 『あぁ、そろそろだって話だ。』

 『そっかぁ…。』

 

 その言葉に、彼女は余り驚く事なく受け止めた。

 

 『驚かねぇのか?』

 『貴方が通信じゃなく態々来るのだから予想はつくもの。』

 

 前回は辛うじて撃退した。

 しかし、今回は分からない。

 向こうも成長してるかもしれないし、或いは配下を増やしているのかもしれない。

 分かるのは相手が途方もなく強力で、自分達が力を合わせてもなお届かないかもしれないという事だけ。

 

 『あの野郎、今度こそぶっ潰してやらぁ!!』

 『はいはい。あんまり先走っちゃダメよ~。』

 

 ゲッターと彼女は永劫に近い時間の果てに、もう幾度目かも分からない絶望的な戦いへと赴くのだった。

 

 

 

 



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第12話 試験艦艇群と女王様

 新西暦182年、春

 

 昨年から続く連邦宇宙軍艦隊再編計画のための試験艦艇群の第一号艦が建造を完了した。

 同時期に建造完了したEOT試験艦であるスペースノア並びヒリュウ、そしてビアン博士率いるメテオ3郡調査委員会もとい看板を変えたEOTI機関によってメテオ3の二号を改装して建造されたマクロスを連れ、太陽系外縁部の探索へと向かう予定だ。

 とは言え、未だ艤装が不完全であり、出発は夏を予定している。

 

 「その前に、積んでいく艦載機はどうしましょうか?」

 「VFはMSよりもファイター形態なら多く積めるので確定として…。」

 「るくしおんには試作特機二機を搭載する予定です。」

 「ナデシコは4機、クラップとアーガマは6機。一緒に行くマクロスとヒリュウ、スペースノアは大型艦だからかなりの搭載能力がありますけど…。」

 「出来るなら艦隊防衛のための戦力も欲しい所ですね。」

 

 ヒリュウは艦底部に揚陸艦の格納庫があり、ここに準特機なら2機、大型特機なら1機分の容量がある。

 また、二つの電磁カタパルト付き格納庫には8機分の艦載機運用能力が確保されている。

 これに対し、マクロスは全長1200mを超え、その艦載機運用能力も極めて高く、内部に都市すら存在している。

 具体的な艦載機運用可能数に関しては未だ数値は出ていないが、それでも100は下らないのは確定している。

 左右両舷に接続された旧型を改装した宇宙空母により、30m級特機ならば10体は運用可能となっている。

 

 「マクロスには主に艦載機としてVF、対空砲台兼直掩として空間戦闘仕様のアサルトドラグーン並びヴァルキュリアシリーズを配置する予定です。」

 「艦隊防衛用のジガンスクードをもっと配置したかったんですけどね…。」

 「試作機だけとは…。」

 「サイド駐留艦隊からの発注が殺到しましたからね…。」

 

 ジガンスクード。

 その性能は艦隊ならび拠点防衛用として最適なものだった。

 広域に展開可能なDF、広域を薙ぎ払えるGB、そして最後の盾となれる過剰なまでの防御力。

 更に要重力波を発信する事で受信アンテナを備えた味方機へのエネルギー供給すら可能とくれば、現状においては異星人に対する碌な対抗戦力の無い各サイドの駐留艦隊から「艦隊や最新機作ってるの分かるけど、それは兎も角今使える戦力をくれ!」という悲痛な現場からの叫びを無下にする事は出来なかった。

 一年戦争にて多くのコロニーが危機に晒されてから、まだ2年しか経っていない。

 当時の事をトラウマとして刻まれた市民は多く、ジオンが実質的に敗戦した現在、仮想敵である異星人の戦力に対して非力な連邦軍の戦力増強を望む声は後を絶たず、暴動に近い事態に発展する恐れがあった。

 そこに現れたのが、5機もいればコロニー全体をDFで覆う事の出来る「最強の盾」ジガンスクードだった。

 コロニーを守るため、市民を安心させるため、ジガンスクードの早期配備並び先行生産が決定、完成した機体は順次サイド駐留艦隊から配備される事となった。

 

 「限られたリソースには、是非我々のトールギスⅡをどうぞ!」

 「はいはい、嬉しいのは分かったから落ち着いてねー。」

 

 今まで碌に良い所の無かったロームフェラ財団の担当者らが喜色満面に提案する。

 彼らの上司が今まで他企業の技術(特にA.I.M.由来)を取り入れる事に難色を示していた事から、殆どEOTを取り入れる事が出来なかった。

 その結果、他企業群がドンドン高性能かつコストや生産性も良好な最新鋭量産機をロールアウトしていく傍らで置いて行かれるだけだった。

 この事態に対し、トレーズら若手が中心となってロームフェラ財団上層部を説得、遂にEOTの導入に許可が下りた。

 加えて、今までロームフェラ財団の恥部(5博士に逃げられて未だ捕捉できず)として秘匿されていたプロトタイプ・リーオーの再開発許可が下りた事も大きい。

 ジオンがMSを開発するよりも前に開発されたプロトタイプ・リーオーことトールギス。

 テスラ・ドライブ無しではパイロットをGで圧死させる程の機動性を誇るこの機体は、ビームと物理的衝撃双方に対して極めて頑強ながら軽量なルナチタニウム系合金の発展形であるガンダニュウム合金が使用されていた。

 OSやアビオニクス、ジェネレーターこそ最新のものへと換装する必要があったが、恐竜的進化を続ける人型機動兵器開発において旧式に分類されるも、その設計は極めて先進的であり、未だ高性能を維持していた。

 この機体を徹底的に解析しつつ、常人にも操縦可能としたのがリーオーとなる。

 しかし、現状のEOT搭載機と比較して余りにも非力なリーオーでは話にならなかった。

 EOT搭載にあたり、機体がより大型かつ頑強である事から以前より開発班から目を付けられていたプロトタイプ・リーオーが試験用機体として選ばれた。

 最新のプラズマジェネレーターとDF、そしてテスラ・ドライブ。

 これらを搭載したトールギスⅡ(顔だけⅢ)の性能たるや、プロトタイプ・ジェガン(縮退炉搭載につき戦闘可能時間が短い)を超え、模擬戦でもパイロット次第な所もあるが4:1の戦績を残している。

 が、余りに高い機動性にパイロットの腕が追い付かない事例が多く、一般的なパイロットには過ぎた機体だったため、そのままでの量産は見送られた。

 現在、このトールギスⅡのデータはリーオーの設計と統合され、更にジオン系技術者も加えたチームによって後にサーペントに結実、欧州方面軍を中心に配備される事となる。

 サーペントの性能は量産型汎用MSとしては高く、ほぼ同時期に配備されたジェガンに対して、装甲と火力において上回り、汎用性を維持しながらもジオンの重MSに近い性質を持って活躍する事となる。

 

 「トールギスは何機出せるんです?」

 「ゼクス・マーキス大尉とその部下の方二人が乗りこなしているとの事です。」

 

 なお、部下二人の名前はルクレツィア・ノインとオズワルド・ワーカーである。

 

 「後は正式量産仕様のジェガン6機をクラップとアーガマに…」

 「はいはい!GP03の試験やりたいです!」

 「アーガマで牽引可能です!MS搭載数一機減りますが!」

 「……上に問い合わせてみましょうか。」

 

 こうして、太陽系外縁部調査試験艦隊の準備は着々と進んでいくのだった。

 

 

 ……………

 

 

 地球 位相空間内 A.I.M.グループ所属エクセリオン級ノーチラス号内貴賓室にて

 

 

 「こちら、粗茶ですが。」

 「どうもご丁寧に。」

 

 態とらしくも一切の嫌味のない和風の貴賓室にて、傍らでメイド本来の役目をこなすSfと共にトレミィはとある人物と向き合っていた。

 

 「はじめまして、ムー帝国王女レムリア殿下。」

 「ひびき玲子で結構ですわ。A.I.M.グループの会長さん。いえ…」

 

 この美しい女性、一見して優しい奥様といった風情だが、先程からトレミィの内心は緊張でバクバクだった。

 彼女から観測される念動力と思われるエネルギー。

 それは通常の人間が発する事の出来るエネルギーを易々と超え、巨大戦艦級の炉心に匹敵するかそれ以上なのだ。

 本来のエーテル宇宙のエクセリオン級のアイスセカンド式縮退炉を超えていると言えば、その出鱈目ぶりが分かるだろか。

 

 「他の世界からのお客様。」

 「やはり分かりますか?」

 「えぇ。私の様な者達からすれば、貴方方の存在は少々独特ですから。」

 「易々と見破られる偽装じゃない筈なんですが…。」

 「私、これでも王女で母親ですから。」

 

 にっこり、と微笑む姿からは言い知れぬプレッシャーが感じられ、トレミィは引きつりそうになる顔を微笑みの形に固定する。

 

 「それで、私共と話したい事とは何ですか?」

 「謝罪しようと思っていました。」

 

 そう言うや否や、トレミィは正座していた座布団から降り、これ以上なく綺麗な土下座を披露した。

 

 「貴方方の先祖の遺産を騙り、好きに動いていたのは私の決定です。大変申し訳ありませんでした。」

 

 生き残りなんぞいやしまい。

 そう考えてプロトカルチャーの遺産を勝手に名乗り、レビル首相らにそう発表するよう動いた。

 だというのにプロトカルチャーの正統後継国家であるムー帝国の末裔たる王族がこの時代まで冷凍睡眠して生きていて、更に現代の地球人と夫婦となり、子供まで作っていた。

 気付いた時にはひびき玲子は夫と息子の元から去り、復活しつつある帝王バラオ率いる妖魔帝国への対策としてムートロン開放装置「ラ・ムーの星」を探す旅に出ていたのだ。

 今回彼女を見つける事が出来たのは、彼女の方から位相空間に潜行中だったノーチラスへと通信を行い、接触してきたからだ。

 

 (サイコドライバー舐めてましたご免なさい(滝汗))

 

 乗っていたのは一見ただの帆船だった。

 しかし、その内実はムー帝国の王室御用達のステルス高速艇であり、最盛期に劣るとは言えこれまでトレミィらの索敵を逃れ続けるという驚異のスペックを持っていた。

 更に位相空間に潜行していたノーチラスを見つけたのは、純粋に本人の念動力だと言うのだから、こんな人達がいたムー帝国を滅ぼした妖魔帝国が当時どれだけヤバかったのかがよく分かる。

 

 「あらまぁ。別にそんな事気にしなくて良いのよ。」

 「いえ、それでは筋が通りません。」

 

 ちょっとおばt…(ギラリ)ヒェ!ご夫人っぽい動作で手を振って構わないとおっしゃる玲子夫人に対し、トレミィは土下座の体勢を崩さない。

 

 「そーれ。」

 「おわわ!?」

 

 指先を向け、くるりと回す。

 たったそれだけで土下座体勢だったトレミィは座布団の上に正座させられていた。

 

 「お見事です。」

 「ふふ、ありがとう。」

 

 Sfの賛辞を、玲子は笑顔で受ける。

 通常なら重力・慣性制御で常に身を守っているトレミィのナノマシン製人型端末。

 か弱い幼女の姿に反して、その身体能力はヒグマを素手で解体可能な筋力と戦車砲に耐える強度を持つ。

 常時展開されている重力障壁によって大抵の攻撃は受け付けない筈が、玲子夫人はそれを易々と貫通してみせたのだ。

 Sfの賛辞も当然と言える。

 

 「サイコドライバー舐めてましたご免なさい…。」

 「次からは気を付けて、ね?怒ってないけどびっくりしましたから。」

 「肝に命じます…。」

 

 こうして始まった会談は、終始和やかに進んだ。

 結果として、トレミィ率いるA.I.M.グループは彼女への全面協力を約束した。

 代価として、玲子夫人は太陽系内のプロトカルチャー関連の遺産や遺跡等の調査並び念動力研究への協力を約束してくれた。

 ムー帝国で使用されていたムートロン(強大な意思エネルギーの集積体)を研究しているムトロポリスへの支援の充実化とひびき父子の護衛に関しては元々行っていたため、今後も継続する事となった。

 

 『おお…おおおおお!!』

 『おかえりなさいませ。この日をお待ちしておりました。』

 「ふふ、ただいま。」

 

 そして、早速玲子夫人にはプロトカルチャー産人工知能二体と面談してもらった。

 なお、古代ムー帝国の国土も超大型の都市型移民船だったらしく、この手の人工知能は慣れているし、懐かしいのだとか。

 だから大災害で跡形もなく沈んで、その割にプレートの形状には大陸の痕跡が無い訳である。

 これによりこの二体の人工知能は地球防衛戦力へと正式に組み込む事が可能となり、進んでいなかった鳥の人の解析ならび戦力化が進む事となる。

 

 

 

 



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第13話 プロトカルチャーの末裔と遺産

 新西暦182年、夏

 

 遂に人類は自らの意思で太陽系の外へ出ようと大いなる一歩を踏み出そうとしていた。

 参加する艦艇はスペースノア、ヒリュウ、アーガマ、クラップ、ナデシコ、るくしおん、そして旗艦たるマクロス。

 これら太陽系外縁部調査試験艦隊は月面宙域から土星最大の衛星タイタン周辺宙域へとフォールド。

 後にタイタンに建設された基地(元開拓基地)へと入港し、補給と調査を受けた後に太陽系外縁部を目指して長期航海を開始する。

 予定では全て順調にいって半年で地球圏に帰還する予定となっている。

 が、何が起こるか分からないため、物資は満載、兵器類も抜かりなく揃えている。

 各艦の艤装も既に完了し、フォールド技術の搭載も終了している。

 特に繊細な空間転移、フォールドに関しては技術者らも出港寸前まで念入りに調整を続けている。

 現在、旗艦マクロス以外の各艦は各社が持つ月面の建造ドッグにて待機中であり、出港の号令を待つばかりとなっている。

 号令後は月周辺宙域にてマクロスと合流し、本格的な航海の開始となる。

 

 

 ……………

 

 

 さて、その頃の我らがプトレマイオスはと言うと……

 

 「」

 「うわぁ…。」

 「あらまぁ。」

 

 プロトカルチャー産都市型移民船内部にて、鳥の人と移民船搭載AIから提示された「現在詳細な資料の残っているプロトカルチャー産技術の一覧」を見て、ちょっと驚いてる風の玲子夫人の傍らでSfと共に絶句してました。

 その一覧の要約がこれらである。

 

 1、人造フォールドクォーツ精製技術

 2、リアルタイムフォールド技術(通信込み)

 3、次元断層(フォールド不可領域)突破技術(大気圏内フォールド技術含む)

 4、自己進化機能搭載型機動兵器作成技術(マクロス30の自動防衛兵器など)

 5、ゼントラーディ艦に代表される劣化防止処理技術

 6、超巨大建築技術(1400km級機動要塞を建造可能な自動工場そのもの含む)

 7、超高度遺伝子操作技術(ゼントラン化に代表される後天的な遺伝子操作も可能)

 8、高度な次元操作技術(次元断層を人為的に発生可能)

 9、時間・平行世界跳躍技術

 10、因果率操作技術(フォールドエビルの持つ歴史改変能力)

 11、精神エネルギー変換技術(ライディーン系の念動力並びプロトデビルンを封印したアニマスピリチア関連)

 12、精神感応技術(マクロスΔにて銀河規模で全人類の精神の一体化も可能。恐らくバジュラの銀河並列思考ネットワークの模倣)

 

 「どうしてこれで滅んだんです???」

 「まぁ、時代の流れかしら?」

 

 なんだこれは、たまげたなぁ…(白目)

 思わず絶句するラインナップである。

 これを滅ぼすとは、プロトデビルンのヤバさがよく分かるというものである。

 トレミィは改めてプロトデビルン(まだバロータ星で封印中)の危険度を最上位から更に引き上げた。

 原作では一応ブラックホールで死亡するようなのでそこまで重要視していなかったのだが、少しでもアニマスピリチア持ちの人材を発掘すべく自社のアイドル部門をもう少し拡大しようと決意した。

 

 「これ、バレたら地球連邦と私達の戦力だけじゃどうにもなりませんね。」

 「そうねぇ。話し合い出来そうな勢力っているかしら?」

 「一応います。共和連合という星系国家の連合体ですけど、こっちまで来てくれるかは…。」

 「そもそも、私達の立場をどうするかと言う話ですね。」

 

 A.I.M.グループ、そしてプロトカルチャーの遺産たる太陽系防衛無人兵器群。

 これらを表の身分として選んだ故にこれまで太陽系の防衛ならび地球人類の発展に大きく寄与してきた。

 しかし、銀河に一大勢力を築く勢力との正式な外交となると、この身分は適さない。

 太陽系とそこに住まう人類に対しては有効であったが、その外の勢力との戦いではなく話し合いとなると、逆に足を引っ張られてしまう。

 向こうとの内通は可能だが、それは将来的に奴隷頭になって他の奴隷=地球人類を従わせる事に等しい。

 そんなんやりたい訳がないトレミィとしては、この事態には大いに困っていた。

 

 「仕方ありませんねぇ。」

 

 深々と溜息をつく玲子に、トレミィはギョッとして目を向ける。

 

 「玲子さん?まさかと思いますが表に出るつもりですか?」

 「えぇ。そうでもないと交渉できないのでしょう?」

 

 星間国家の連合体と言えば聞こえは良いが、原作のゼゼーナンやウェンドロの様なタカ派も多いのが共和連合である。

 両者程過激ではなくとも、同じような意見の人物は珍しくもなく、銀河の辺境も辺境のド田舎の太陽系に向ける目など碌なものではない。

 懐柔しようとするなら交渉の余地もあるが、大抵は隷属に近い関係を構築しようとするだろう。

 普通ならそれが正しいのだろう。

 まだまだ星間国家としては未熟に過ぎる人類が生き残るには巨大勢力の庇護下に入るのが一番だ。

 但し、普通なら、と付くが。

 トレミィ達を含めれば、この銀河の大勢力の一角程度ならば、現時点でももう数年あれば十二分に対応可能なのが太陽系なのだ。

 実に恐ろしきはスパロボ時空である。

 

 「どんなストーリーをお書きで?」

 「私と夫の一郎との出会いは正直に。その後、この地の遺跡に呼ばれてプロトカルチャーの遺産の正式な相続者となった…で如何でしょう?」

 「詳細はこちらで詰めますので、後でご確認ください。」

 「苦労をおかけします…。」

 「いえいえ。皆さんには今後、正式に私の後援者として助けて頂くのですから、お互い様ですわ。」

 

 早急に詳細を詰め、ゴップ大将並びレビル首相との合同面談の予定を組みながら、トレミィは思う。

 事態が急速に動き始め、人類は自分達の支援を受けたとは言え、独力で太陽系外に出ようとしている。

 ほぼ間違いなく、そのタイミングを狙って外部の勢力がアクションを起こす事だろう。

 それが武力か、共存か、隷属かは知らない。

 だが、もしも人類が隷属を選んだとしたら……

 

 (いや、その可能性は低い筈。)

 

 連邦政府首相は軍ではタカ派で通ったレビルであり、己の基盤である軍からの支持を失うような真似はすまい。

 他の連邦政府閣僚や議員らに関しても、現状では異星人の情報が少な過ぎて交渉のとっかかりがない。

 太陽系内部に侵入済みの異星人、即ちバルマーのスパイに関しては如何なるアクションを起こしたとしても即時撃滅可能なように量産型ヴァルチャーが一人につき三体、位相空間から監視を続けている。

 これはイングラム・プリスケンらが齎したSRX計画を初めとした多くの技術とその参加者らの成長を評価したものであり、彼の行く末である因果律の番人に敬意を表するからだ。

 また、彼らは未だ地球人類に牙を向く事なく、人類の技術・軍事面の成長を促している事もあり、少なくとも利益のある内は、彼らを制圧・殺害・撃滅する事はない。

 ゾヴォークならびウォルガに関しては特に利益も思いつかず、ゼゼーナンやウェンドロの行動からこちらの情報を抜かれる事がない様に制圧した後、生きていれば冷凍睡眠につかせ、死体からは生体クラッキングによって情報を抜き取るに留まった。

 おかげで他の勢力とは異なり、共和連合に関するデータはそれなりに揃いつつあった。

 こうした積み重ねを経て、人類が即時降伏並び隷属を選ぶ事は無いだろう。

 

 (まぁ、その時は躊躇いつつも呼ぶしかないかぁ…。)

 

 暗い展望にげんなりしつつ、今後の準備を大急ぎで始めるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦182年 夏

 

 この時、地球連邦政府から衝撃的な情報が発せられた。

 

 プロトカルチャーの生き残りが発見された、と。

 

 その人物は女性であり、プロトカルチャーの直系王族の末裔、女王である事。

 現在は十年程前に日本人の考古学者によって冷凍睡眠から目覚めた所を保護され、その後に結婚。

 現在は一児の母であり、プロトカルチャー由来の遺跡=都市型移民船の再稼働を聞き付けてA.I.M.と会談した後、正式に発表する事となった。

 彼女の協力によって都市管理AIが正式に稼働を開始、協力関係を結ぶ事に成功。

 現在、都市型移民船はその本来の姿と機能を取り戻すべく本格的な改装作業を行っている。

 また、今後同様の生きている遺跡等を発見した場合、彼女の協力さえあれば「正規のアクセスで起動が可能」となっており、プロトカルチャーの極めて優れた技術を取り入れる事が容易になるだろう。

 もしプロトカルチャー由来の遺跡や遺物等を発見した場合、発見者による連邦政府当局への情報提供に対しては多額の賞金が出る事が正式に発表された。

 その直後、数々のEOTを採用した太陽系外縁部調査試験艦隊の出港予定日が一週間後と発表された。

 これにより、事態は大きく動く事となる。

 

 「例え工作員の殆どをやられていたとしても、公共放送の傍受までは防げません。」

 「バルマーは当然として、共和連合にも漏れる。バッフクランとズール銀河帝国は銀河中心領域を挟んでほぼ反対側だし、こっちに来るには時間がかかる。」

 「残す宇宙怪獣とインベーダーはプロトカルチャー関連に余り意味を見出していません。」

 「他雑多な勢力に関しては私達で十分対処可能。」

 「…そう上手く行くかしら?」

 「止めてください。マジ止めてください。」

 「サイコドライバーの悪い予感とか殆ど予言じゃないですかヤダー。」

 「あら、ごめんなさいね。」

 

 和気藹々と話すも、内二人はやってくる厄ネタを思って目が死んでいた。

 

 「で、移民船の状況は?」

 『現在、艤装はほぼ完了。艦載機の搭載に関しては無人型のクラウドブレイカー隊と無人戦闘機を中心に搬入中です。』

 『私の力があればこの程度の作業、数時間で終わるとも。』

 

 現在、都市型移民船はマクロス7以降で登場した巨大都市型移民船(シティ7やアイランド1等)を参考にその形状を大きく変化させていた。

 これは鳥の人の持つ機能の一つ、「周辺の物質を吸収・変化させての自己修復」であり、現在都市型移民船に搭載されている鳥の人を正式に移民船と融合させ、この機能を発揮させたのだ。

 これにより、数多くのプロトカルチャー由来の超技術がこの船一隻へと搭載され、この銀河の中でも有数の安全地帯にして移動拠点と化したのだった。

 なお、船自体の武装はほぼ鳥の人のものと共通しているが、500近い艦載機に関してはA.I.M.製の無人仕様クラウドブレイカーⅡと無人戦闘機(亜光速戦闘対応型ゴーストV9)、アーハンⅡが搭載されている。

 

 「渡しても良い技術情報に関しては纏まりましたか?」

 『完了しています。時間・空間・次元・因果律操作は全面的に秘匿とし、その他の情報は段階的に地球連邦政府へと公開し、異星人との交渉に利用する。非公開・公開の技術情報のリストはこちらになります。』

 「確認しますね。……うん、よく纏まっています。頑張りましたね。」

 『頑張りました。』

 『おい、今のは私を褒めたものだぞ。』

 『おや、嫉妬ですかな?』

 『機能維持も一人で出来ん程度の奴が…。』

 『首と胴体泣き別れ野郎が…。』

 「二人とも、仲良くしてくださいね?」

 『『了解です。』』

 

 今後、この都市型移民船は正式にその所有権をひびき玲子、即ちムー帝国女王レムリア陛下へと返還される。

 この船の運営に関しては多少の相談は出来るが、その最終意思決定はレムリア陛下、その死後は息子の洸へと託される事となる。

 以後、この船は地球連邦政府からの依頼で対異星人との外交船として、レムリア陛下もまた地球連邦政府の外交特使として活躍していく事となる。

 

 「そう言えば、ご家族の方は?」

 「久々に家に帰ったけど元気だったわ。泣かれちゃったけど…。」

 「で、夜はしっぽりと…。」

 「Sf、下品。」

 「うふふ、あの人ったら泣きながら私の事を抱きしめてくれたのよ、それはもう情熱的に…!」

 (あ、これ惚気話だ。)

 (長くなりますね。お茶の用意を致します。)

 

 これが一連の戦争の始まる前の、最後の平和な一時だった。

 

 

 




次は人類が遂に太陽系外部へ。
そこで彼らが見たものとは?


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第14話 太陽系外縁部調査試験艦隊

 新西暦182年 9月

 

 未だ極東では夏の暑さに陰りも見えないこの季節、テレビやラジオ、ネットの各ニュースサイトでは一斉中継が成されていた。

 

 『ご覧ください!遂に太陽系外縁部調査試験艦隊がここ月面にて集合いたしました!この威容、この巨体!正しく人類の叡智の結晶と言えましょう!』

 「異星人や古代人の技術から学んでおきながら、何を言っているのやら…。」

 

 それをサイド3の高級住宅街の中でも他の住宅と離れた立地にある邸宅の中で、キシリア・クベは呆れていた。

 一年戦争終結から2年、キシリアは夫となったマ・クベ首相による連邦政府との政治取引であっさりと釈放された。

 とは言え、かつてのように謀略を張り巡らせる事はせずに今は普通の夫を支える妻であり一児の母である。

 嘗ての彼女を知るものがその穏やかな表情を見れば、きっと自分の目を疑う事だろう。

 

 「そうは言うがねキシリア。彼らもあれで必死なのだよ。」

 「あら、仕事はもうよろしいので?」

 「あぁ。連邦はてんやわんやだが、こちらはあまりね。」

 

 彼には珍しい柔和な笑みを浮かべるマから紅茶の入ったマグカップを受け取る。

 夫であるマは何とか取れた休暇を使って、こうして妻と共にいる時間を捻出している。

 敗戦後、ジオンは共和国となり、連邦の全面的な監視下に入った。

 サイド3本国にはレビルが直々に率いる艦隊が駐留し、連邦・ジオン双方の兵や市民らを監視した。

 そう、双方である。

 あの戦争で家族や戦友、故郷を滅茶苦茶にされた連邦の人間は多く、未だジオンを恨んでいる者は多い。

 まだあの戦争から、たった二年しか経過していないのだから当然だ。

 それだけの期間で風化する程、人間の激情とは安いものではないのだから。

 

 「連邦はやはり、異星人からの介入があると?」

 「あぁ。先ず間違いないと考えているよ。」

 

 地球連邦政府はあのア・バオア・クー攻防戦で受けた異星人からの奇襲を忘れていなかった。

 空間転移を始めとした極めて優れた技術で作られた兵器を持った軍勢が、自分達よりも圧倒的多数で襲い掛かって来る。

 そんな連中がこの銀河には大勢いて鎬を削り合い、この太陽系すら虎視眈々と狙っている。

 キシリアとシャアがギレンから知らされた情報は、余りにも荒唐無稽だった。

 しかし、実際に襲われてしまったのだから信じざるを得ない。

 そんな地獄の様な事態に対して連邦の動きは、否、恐らく兄のいるであろうA.I.M.グループの対応は早かった。

 技術力を示し、それを広げ、互いに切磋琢磨する。

 後数年もあれば、地球連邦の軍事力は一年戦争当時の連邦・ジオン両軍を相手にしてなお勝利できる程に増強されるだろう。

 その数年をあの無人兵器達とその主たる女王陛下は確実に稼ぎ出す算段を整えている。

 その算段を整える中に、あの兄は絶対にいる。

 異星人の旗艦の砲撃で要塞司令部は蒸発した?

 絶対生きてるわアイツなら(確信)

 

 「まぁ私達に出来る事なんてもう無いけれど。」

 「そうでもないさ。うちのエース達を派遣したしね。」

 

 事実、シャアを始め幾人かのエースパイロットらが今回の太陽系外縁部調査試験艦隊に参加している。

 彼らは皆、最新鋭の人型機動兵器を駆り、その腕前を存分に振るってくれる事だろう。

 

 「本当、ギレン兄上の手腕は恐ろしいわ。」

 「全くだ。戦後に向けての手筈すら整えられていたのだから、相変わらず底の見えない御人だよ。」

 

 事実、ギレンは勝敗問わずどちらであっても良い様に算段を整えていた。

 彼から見ても双方ギリギリの綱渡りだった故の采配だったが、復興のための隠し財産を始めに手足を失った傷病兵の軍務ではなく民間への復帰の準備等、余りにも用意周到だった。

 

 「シャアの奴も随分落ち込んでいたよ。自分は一体何をしていたのだと。」

 「らしくない事を。さぞララァに慰められた事でしょうね。」

 

 現在、シャアは正式にララァと籍を入れ、結婚している。

 なお、結婚式に出席した妹からは「私より年下の妻とか…」と大いに呆れ、虫を見る様な視線を向けられたが、婚約者であるアムロにまぁまぁと宥められていた。

 

 「これから事態は大きく動く。こうして穏やかにしていられるのも何時までか…。」

 「でも、そうした日々を続けていくために頑張るのでしょう?」

 「あぁ、そうだな…。」

 

 現在、ジオン共和国の状態は良いとは言えないが、決して悪い状況ではない。

 水・空気税は撤廃され、賠償金代わりに格安で輸出される工業製品で収入が途切れる事はない。

 食料品も地球や農業コロニーから輸入される格安の品に、戦前・戦中よりも食料事情は大いに改善されている状態だ。

 無論、決して余裕がある訳ではない。

 だが、日々の生活に困窮するという事はない。

 何せコロニーや民間船の建造だけでなく、保有していたMSの売却まであるのだ。

 本来ならゲルググのみの生産に絞っている予定が、コロニー自治体は自警団の組織まで考えている事もあり、連邦へのMS売却と共に旧式機の在庫一斉セールでドム系やザクⅡF2の再生産すらしていた。

 連邦の開発計画へのパイロットや技術者の参加やMS操縦の教官派遣も加えると、割と商売のタネはいくらでも転がっていた。

 それを形にし、今日まで円満に動かしているのは誰あろうこのマ・クベの手腕によるものだった。

 

 「ほぎゃぁほぎゃぁ!」

 「あらいけない。」

 

 テレビの音に驚いてか、突然リビングに置かれた乳幼児向けの揺り籠の中にいた赤ん坊が泣き始める。

 それを聞き付けたキシリアは極普通の母親と同じく、赤子の元へと向かう。

 

 (キシリア様。その御姿、戦前・戦中の貴女様よりも遥かにお美しい…。)

 

 ぐずる我が子を穏やかにあやす最愛の妻という光景に、マ・クベは改めてこの幸福を噛み締めた。

 そして、少しでも長くこの幸せが続くよう、改めて粉骨砕身の努力を続けようと決心した。

 

 

 ……………

 

 

 地球圏 月付近の宙域

 

 

 「ここまでは順調か…。」

 「フォールド準備、後15分で所定の手順全てを完了します。」

 「終わり次第再確認せよ。ここで失敗したら艦隊全てが危険に晒される。今後の艦隊再編計画に悪影響を及ぼす訳にはいかん。」

 

 先輩格にあたるダイテツ中佐やタカヤ大佐を差し置いて准将となり、艦隊司令官に任命されたグローバルにとって、この任務は絶対に失敗できなかった。

 今回の太陽系外縁部調査試験艦隊で有用なデータ、特にこれまで地球人類は到達した事のない太陽系外縁部の航路データは今後の太陽系防衛計画並び開拓において極めて貴重だ。

 また、各艦のフォールド技術との親和性と運用情報もまた、それと同様に極めて貴重なものとなる。

 そのデータとコストから太陽系防衛計画を策定し、更にそれを充実させるべく戦力の拡充に努める。

 異星人の、外宇宙の脅威から地球人類を守るための第一歩が、この艦隊なのだ。

 なお、フォールド技術に関しては独占状態のA.I.M.がガチ本気出した上にレムリア女王の命令で鳥の人と都市型移民船の操作する遠隔式自動人形によるチェックも行われているため、どんな事故が起きても精々誤差数km程度で済む模様。

 

 「全手順完了。再チェック開始します。完了まで10分です。」

 「よし、全艦隊に通達。艦隊各員は所定の位置に。チェック完了後、本艦隊は土星圏に向けてフォールドを開始する。」

 「了解。艦隊各員に通達します。全艦隊、チェック完了後に土星圏へのフォールドを開始します。各員は所定の位置につき、DF出力をフォールド基準値まで上昇させてください。」

 

 地球人類とその隣人、更には異星人達すらその様子を見守る艦隊全てが遂にDFを展開し、フォールドの準備に入る。

 これが成功するという事は人類の宇宙への進出が次のステップへ進むという事に他ならない。

 誰もが固唾を飲んで見守る中、遂にそれは始まった。

 

 「よし!全艦隊に通達、長距離フォールド開始!」

 

 こうして、人類は次のステージへと飛び立った。

 

 

 ………………

 

 

 銀河の何処かにて

 

 「…どうする?」

 「時期尚早と見ていたが、これは…。」

 「他に出し抜かれる訳にはいかん。」

 「では、こちらから接触を?」

 「うむ…。」

 「事ここに至ってはそれしかあるまい。」

 「だが、誰を行かせる?」

 「過激な者は駄目だぞ。あの女王は現地人との融和をめざしている様だしな。」

 「現地人共は辺境ながらも中々の軍事力を持つと聞く。」

 「では、それなりに腕の立つ者にすべきだな。」

 「デルファルテ家の倅はどうだ?」

 「あれは傭兵になったろうが。まぁ優秀なんで将官待遇になったが…。」

 「候補として覚えておこう。他には?」

 「…ボルクェーデのはどうだ?」

 「正気か?あの小僧は過激に過ぎるぞ。」

 「そっちじゃない。兄の方だ。」

 「あぁ、確かに条件には合致するか。」

 「ふむ。では兄の方を我々の特使として、ゾヴォークの三将軍を付ける。」

 「うむ、異議は無い。」

 「ゾヴォークとウォルガ双方から人を出しておるから煩い連中も口を出し辛かろう。」

 「最悪、プロトカルチャーの遺産を相手に立ち回る必要もある。戦力は多めに出すべきだろうな。」

 「では、誰か意見は?………よろしい、この方向で進めるという事で。」

 

 

 



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第15話 太陽系防衛用無人機動部隊

 新西暦182年9月 土星圏にて

 

 「フォールドアウト確認しました。」

 「全艦隊は状況報告並び周辺を索敵。少しでも異変あれば知らせろ。」

 「了解。」

 

 何も無い筈の宇宙空間に突如出現した太陽系外縁部調査試験艦隊は、その場から動かず状況の把握に努める。

 下手をすれば少し動いただけで爆散するかもしれない。

 未だ人類にとっては未知であるフォールド技術。

 それを過信する事無く、情報の収集並び異星人側のアクションに備えていた。

 

 「全艦隊より報告、現在異常は見られないとの事です。」

 「観測班より報告、周辺に敵影無し。ただ、現在地は予定宙域から3km程ずれているとの事です。」

 「どうやら最初にしては上手くフォールドアウトできた様だな…。全艦隊に通達、これより土星基地へと移動する。」

 

 こうして、地球人類初の公式な長距離フォールドは成功に終わったのだった。

 

 『くそ、3kmもずれただと!?』

 『再精査……どうやら部品に初期不良が混ざっていた様です。』

 『女王陛下からのご命令だと言うのに…!』

 『部品の交換と再度の調整で対応可能。次は誤差1km未満を目指しましょう。』

 『ぬぬぬ…まだまだ工作精度が足りないか…。』

 

 そんな会話をした自動人形がいたそうな。

 

 

 ……………

 

 

 さて、土星基地である。

 ここは元々太陽系でも木星と並んで屈指の資源惑星である土星を開拓するために建設された基地で、本来は民間での開拓のためにあった。

 が、戦中からの太陽系外敵性勢力と太陽系防衛無人機部隊の衝突を観測した情報が公になってからは急ピッチで拡張、太陽系を守るための最前線基地として運用されていた。

 防衛戦力は最新改装済みのマゼラン級と二種類のサラミス級、そしてMS空母として改装されたコロンブス級。

 更にア・バオア・クー攻防戦で無事だったドロス級空母2隻(もう一隻は大破判定でパーツ取りに使用)、そしてグワジン級戦艦4隻である。

 合計二個艦隊、MSの数に至ってはドロス級2隻と基地に格納された分も含めると三個艦隊分にもなろう数があった。

 これらは全て主機関を縮退炉に改装した上で、エーテル機関内蔵ブースターユニットを接続して土星圏へと送られた。

 MSこそゲルググとその派生型にジムⅡ(外見はⅢ)しかいないが、現在の地球人類では最も戦力の整っている艦隊がここだった。

 ザビ家の、ジオンの旗印でもあるこれらの戦力は全て(MSも含めて)戦後の賠償金として連邦に譲渡されたものであるが、パイロットに関してはジオンからの人材派遣であり、その殆どが一年戦争を戦い抜いた熟練兵から構成されている。

 彼らの雇用費は全て連邦政府から出ており、本人らへの給料を引いてもジオンにとって大きなリターンを齎してくれていた。

 それは嘗て地球圏を戦乱に巻き込んだ者達としての贖罪でもあり、この事業によってジオンに対する市民感情の殆どは沈静化した。

 これは当時の戦争経済から脱却し切れていなかったジオンにとっては大きな取引であり、太陽系の商業ルートへの復帰のための第一歩であり、戦場以外知らないという血の気の多い兵達の送り先でもあった。

 とは言え、現在までのこの基地は以前通りの資源採掘と太陽系外で時折起きる大規模戦闘(人類主観)を観測、そのデータを戦術・戦略にフィードバックすべく研究をする場所となっていた。

 だが、それも今日までのことだった。

 

 『おお、よく来てくれた!』

 

 そして、それを指揮するのはドズル・ザビ中将である。

 ザビ家ではキシリアは公職を辞し、ガルマは地球で改めて政治を学んでいる最中であり、ギレンはMIAとなる中で唯一公職を辞さずに戦争の責任を取ると裁判に自ら出たのが彼だった。

 結果、連邦・ジオン双方の将兵から無数の助命嘆願が届けられ、恩赦も出て実質無罪となった彼だが、「オレがこのままジオンに戻っては血気盛んな者が間違いを犯しかねん。故に何処か良い戦場は無いか?」と連邦政府に打診した。

 様々な政治的な妥協や交渉、未だ揃わぬ対異星人戦力という状況を加味した結果、そうした将兵とジオン側に残った優良装備の多くと共に、彼はここにいた。

 「唯一の問題は妻子がいない事だな!」と答えたのは戦後のインタビューでの事である。

 

 「これはドズル中将閣下、遅れてしまいましたかな?」

 『何の!予想範囲内だ!これでフォールド技術の配備に弾みが出る!よくやってくれた!』

 「技術者達の頑張りと女王陛下の御慈悲の賜物ですよ。では、入港の許可を。」

 『応、許可する!足りんものがあったら何でも言ってくれ!』

 「では、先ずは予定通り艦の総チェックと人員の健康診断から…。」

 

 こうして、太陽系外縁部調査試験艦隊は出発して早々に全艦隊が土星基地にて検査を受けるのだった。

 全ての検査が終了するのは五日後、フォールドシステムの調整に更に三日かかる事となる。

 その後は

 

 ……………

 

 

 一か月後 冥王星宙域にて

 

 「ここまでは予定通りか…。」

 

 この一か月は実に平和な旅路だった。

 出港当初こそバタバタしていたものの天王星、海王星と続いて、今の所は順調だった。

 艦載機のパイロットらの仕事は腕を落とさないための訓練と哨戒、事故時の救助くらいのもので、殆どは同行している科学者や技術者らの調査だった。

 とは言え、退屈という訳ではない。

 フォールド通信のおかげで太陽系内ならどこでもほぼタイムラグ無しで通信できるため、地球圏との通信も可能だ。

 無論、気軽に電話するという訳にはいかないが、それでも故郷との繋がりが途絶えていない事に変わりはない。

 だが、ここから先は人類にとって本当に未知の領域となる。

 

 「ん?艦長、レーダーに反応!これは、機動兵器!?」

 「何!?全艦隊に緊急通信!所属不明機を探知!至急第一級戦闘配備!」

 

 予想していたが恐れていた事態に、太陽系外縁部調査試験艦隊は一気に慌ただしく動いた。

 当直だったパイロット達は即応し、出撃していく。

 整備班はパイロットがいる機体から簡易チェックの上にスクランブル発進、慌ててやってきたパイロットらも直ぐに自分の機体へと乗り込んでは出撃、配置についていく。

 機動兵器の多くはVF、或いは高機動追加装備を纏ったジェガンとゲシュペンストだ。

 それにソルデファーとスヴァンヒルド、そしてジガンスクードが艦隊直掩、或いは甲板上で対空火力の一翼を担う。

 そして、るくしおんからはプロトゲッター1、プロトシズラー0の二機が出撃し、艦隊の戦闘態勢が整う。

 これが現在の地球圏の最新鋭艦隊の本気の姿だった。

 

 「全艦隊、いつでもいけます。」

 「その前に所属不明機の様子は?」

 「え?…先程の位置から動いていません。」

 「IFFは無し…だが…。」

 『失礼。グローバル司令、少々よろしいですかな?』

 「タカヤ大佐、どうしたのですかな?」

 『ここは一度、通信と偵察で相手の出方を見てはどうでしょうか?もしかしたら話し合いに応じてくれるやもしれません。』

 「…分かりました。では誰に行かせるかですが…。」

 『失礼します、グローバル司令。』

 『む、グローリアス大尉か。』

 『その任務、是非自分に任せて頂きたく!』

 『大尉、危険だぞ。』

 「いや、グローリアス大尉と特機ならば突発的事態でも対処できるだろう。君に任せる。くれぐれも気を付けてくれ。」

 

 こうして、太陽系外縁部調査試験艦隊は彼ら単独では初となる地球外勢力とのコンタクトを取ったのだが……

 

 『で、あんたら何やってんのよ?』

 『こんにちは、ユング大統領。』

 

 その対象は巡航形態に変形していた量産型ヴァルチャーだった。

 搭載された人工知能は自動人形のそれと同等であり、柔軟な受け答えと思考を可能としている。

 

 『現宙域は私達の冥王星基地の哨戒区域であるため、こうして警告にやってまいりました。』 

 『マジで?ここに基地なんて…。』

 『先月、レムリア女王陛下の許可により、ここにステルス状態で休眠していた巨大兵器工廠の正式な稼働再開ならび生産ラインの変更を行っております。ご存じありませんでしたか?』

 『何も聞かされてないわね…。』

 『そうでしたか。それではマクロス艦内部にいるあのお二人に後で苦情を届けておきます。』

 『よろしくお願い…。』

 『かしこまりました。』

 『じゃ、ジャミング停止して初対面って事でお願いね。』

 『了解。これより正式に地球人類の皆様とコンタクトを取らせて頂きます。』

 

 そんなちょっと台無しな会話を挟まれていた事は関係者しか知らず、真実は歴史の闇へと消えるのだった。

 なお、フォールドシステムの調整に熱中し過ぎて色々忘れていた二人は女王陛下からお叱りを頂きました。

 

 

 ……………

 

 

 『はじめまして、地球人類の皆様。』

 

 プロトシズラー0と接触通信した瞬間、極短時間だが発生したジャミングに動揺が広がるものの、両者がそのままに不明機から通信が入った事で動揺は別方向へと移った。

 それは人工的に作られた、美しい女性の音声だった。  

 その声を聞いた全員が内容を理解できる。

 それの意味する所は、アンノウンから発せられたその言語は地球のものであるという事に他ならない。

 

 『本機は太陽系防衛用無人機動部隊所属機です。現宙域は我々の冥王星基地哨戒区域ですので、こうしてご挨拶に参りました。』

 「こちらは地球連邦宇宙軍所属太陽系外縁部調査試験艦隊司令官のグローバルだ。艦隊を代表して話をさせてもらおう。この宙域においては他に留意する事はあるかね?」

 『現在、太陽系内部の安全は保たれています。外部からの襲撃に関しては小康状態であり予断は許されませんが、航路の安全は確保されています。』

 「了解した。所で、そちらの基地にお邪魔する事は可能かね?」

 

 それはかなり踏み込んだ問いだった。

 プロトカルチャーの系譜にない者が、何万年も前から生きている遺産たる無人兵器の管理する基地へと入る。

 一歩間違えば、即座に戦闘状態へと入る事になりかねない。

 

 『本機にその権限は無いため問い合わせます。…………正規アクセス所有者「レムリア女王陛下」からの承認を確認。皆様が利用可能な港湾設備までご案内致します。』

 

 この返答にはこれを聞いていた艦隊全員が驚きに包まれた。

 まだまだ多くが未知のプロトカルチャー文明によって築かれた軍事施設への入港なんて、極めてロマン溢れるシチュエーションだった。

 

 『但し、本基地は最近になって命令の更新により地球人類の皆様がご利用できるように改装中ですので、くれぐれも案内役の指示に従って行動してください。』

 「了解した。これより入港する。ガイドをよろしく頼む。」

 『了解です。これより当基地までご案内します。』

 

 こうして、人類は初めて「地球外で生きた状態のプロトカルチャーの遺跡」を目撃する事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『で、大丈夫なの?』

 『ご安心を。巨人族向けの兵器工廠がメインで、今後は人類が長期間滞在可能なように改装中ですので。』

 『じゃなくて、あんたらの姿!またいつものメイド服じゃないでしょうね!』

 『あ。』

 

 この後、滅茶苦茶急いで誤魔化しました(ナノマシン式自動人形は表面をロボットっぽく整えて、生体式は見えない位置に移動しました。) 

 



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第16話 冥王星工廠基地と衝撃の事実(但し本当の事とはry

 新西暦182年秋 冥王星巨大工廠にて

 

 『ようこそお出でくださいました。本機が冥王星方面軍代表指揮官機です。これより皆様に当基地内をご案内いたします。』

 

 マクロスすら易々と格納できる程の巨大な港湾施設に太陽系外縁部調査試験艦隊が入港していく。

 その後、直ぐに現れた一体の5mにも満たない人型機動兵器が艦の傍に浮遊して通信を送って来る。

 それは先程現れた機体と同系統と思われるが、今は人型に近い姿へと変わっている。

 これは既に太陽系外縁部での戦闘で確認された機体であり、これ一機でこの艦隊を撃滅可能なだけの火力を内包していると分かると油断は出来ない。

 

 「丁寧な対応に感謝する。これよりこちらの人員を下すので、彼らを案内してもらっても構わないかね?」

 『了解しました。不足している物資がございましたらお申しつけ下さい。娯楽品等はまだございませんが、水や栄養食他資源でしたら取り揃えがございますので補給が可能です。』

 「分かった。後でリストを送るので、補給の用意を頼む。」

 『畏まりました。では、人員の皆様が降りてきたご様子ですので、これより案内を開始します。』

 「よろしく頼む。」

 

 そう告げて、一旦通信が切れた。

 

 「どう見る?」

 『問題はない、と思います。』

 『同じく。』

 

 通信の繋がったままだった各艦の艦長達へと、グローバル司令が意見を求めた。

 

 『敵対するならばこちらに気付かれる事なく撃沈できた筈だ。』

 『ですな。やるならもっと手っ取り早く始めるかと。』

 『自分も同じ意見です。この状態でやり合うとなれば拿捕が目的の可能性は高いですが、基地施設に大きな被害が出る可能性が高過ぎます。』

 『自分も同じ意見です。が、警戒は怠るべきではないかと。』

 

 スペースノア艦長のダイテツ中佐。

 ヒリュウ艦長のクルト・ビットナー少佐。

 るくしおん艦長のタカヤ・ユウゾウ大佐。

 アーガマ艦長のブライト・ノア少佐。

 クラップ艦長のヘンケン・ベッケナー少佐。

 ナデシコ艦長のミスマル・コウイチロウ大佐。

 

 彼らの言葉は皆一様に戦闘には発展しない、しかし警戒は解くべきではないとする答えだった。

 

 「分かった。一応パイロット達は機体にて待機。他の人員は第二級警戒態勢のまま待機とする。それと各艦は補給物資の状況を報告せよ。特に水と食料に関しては直ぐに出すように。」

 『『『『『『了解。』』』』』』

 

 こうして、太陽系外縁部調査試験艦隊は腹を括った。

 が、この一時間後には地球からのフォールド通信で女王と会見、正式にこの基地を太陽系外縁部調査のための拠点として使用する事となり、彼らの覚悟は肩透かしに終わるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 一方、基地内部を案内された人員らは余りに広大な基地施設に驚いていた。

 彼らは皆、艦隊の陸戦隊員でもあり、全員がパワードスーツかアーハンⅡの戦闘仕様を纏っている。

 小さいながらも下手なMS部隊よりも戦力として頼りになる装備だったが、MSサイズでも易々と通行可能な程の施設の規模に「機動兵器部隊の方が良かったんじゃないか?」と思っていた。

 

 『その、すまないがこの基地はどうしてこんなに通路が大きいんだ?』

 『説明させて頂きます。当基地は元々巨人族向けの全自動兵器生産工廠の一つでした。戦艦からパワードスーツ、食料に医薬品まで。彼らの使用するあらゆるものがこの基地を始め、銀河に存在する多くの工廠で作られていました。』

 『何とまぁ…。』

 『待ってくれ。じゃあ連中はここの場所が分かってるんじゃないのか?』

 『いいえ。彼らはこの場所を知らないでしょう。』

 

 その質問に、案内役の量産型ヴァルチャーが返答する。

 

 『当基地は当時、銀河中心領域から逃れたプロトカルチャーの生き残りの方々を守るため、巨人族の使用可能な施設から除外、完全に情報を削除してあります。以来、我々は古代地球の他勢力と協同、太陽系外からやってくる勢力をほぼ撃滅、安全の確保に成功しております。』

 『その割に巨人族が襲来してきたのは…。』

 『その一件については申し訳ございません。当時、皆様が一年戦争と呼ばれる戦争は太陽系外からも観測可能な規模であり、それに惹かれて大量の敵性存在が太陽系を目指しました。我々はそれを撃滅すべく奮戦しましたが、度重なる消耗に戦力の補充が追い付かず、あのア・バオア・クー攻防戦において敵勢力の侵入を許してしまいました。』

 

 淡々と語られる内容に、しかし誰もが納得していた。

 彼らは皆レビル首相の「人類に逃げ場無し」演説を聞いており、その際の映像も視聴し、軍内部でも対策を構築すべく研究が進んでいる。

 その資料で見られるのは、地球人類では到底敵わない絶望的な戦力で襲い来る侵略者の津浪を、無数の無人兵器達が必死になって守っている様子だ。

 故に、それ以上は誰も彼女ら無人兵器を責める者はいなかった。

 

 『所で、古代地球の他勢力とは何ですか?古代の地球には、他にも人類側の勢力がいたのですか?』

 『はい。古代地球には他にも幾つかの勢力がいました。』

 

 ピ、と空中に投影される映像。

 それには現在の地球人類と変わらぬ姿ながら、異なる文明を築き、生活している人々の姿。

 そして、彼らと戦う人ならざる異種族の姿があった。

 

 『当時の地球はプロトカルチャーが来る以前から先史文明が存在し、多数の種族と争っていました。中には高度な文明を築いていた者達もおりました。』

 

 表示されるのは、人類よりも強靭な肉体と劣らぬ知性を持った鬼や爬虫人類等の異種族の姿。

 彼らは当時の人類と地球上で覇権争いを繰り返していた。

 

 『その当時の原始生命達に手を加え、進化したのが後の人類の祖先の一つとなります。彼らと先史文明の人々、戦乱を逃れたプロトカルチャー達は協力し合い、他の異種族並び宇宙や異次元からの敵性存在に対処する形で繁栄していきました。』

 『やがて、先史文明の殆どが滅び、プロトカルチャーも現地人との混血が進み、正統継承国家たるムー帝国を興す頃に他惑星の開拓に向かっていた先史文明の遺産が帰還してきました。』

 

 表示されたのは、巨大な女神像にも似た機械の姿。

 それは宇宙から地球を眺めていた。

 

 『彼女、ガンエデンは先史文明が実質滅んでいる事に驚きつつ、その生き残りが興した超機人文明を傘下に入れる形で再び地球の守護神として君臨。我々とも協力関係を結びました。』

 『しかし、この後が問題でした。』

 

 表示されるのは宇宙にて、あらゆる種族が相争い、滅ぼし合い、戦乱に明け暮れる姿だった。

 

 『全銀河規模での戦争が発生し、我々も巻き込まれました。地球においても妖魔帝国バラオという精神生命体の興した国家が当時の人類へと攻撃を開始、また異次元や太陽系外からも多数の敵性存在が侵略を開始しました。』

 『我々は戦い続けましたが、力及ばず衰退しました。巨大都市型移民船団たるムーは滅び、ガンエデン並び超機人文明の兵器達は眠りに就き、国家としては滅亡しました。他の異種族達は休眠状態に入るか、地下へと逃れました。』

 

 無数の、本当に無数の敵と味方が入り乱れる大乱戦。

 誰もが消耗し、傷つき、滅んでいった。

 

 『しかし、我々は辛うじて活動状態の維持に成功。以降は太陽系絶対防衛線を構築しつつ、地球在住の人類の文明レベルを嘗ての様に向上させるべく密かに活動を継続してきました。』

 『ごめん。ちょっと待って???????』

 『はい、待ちます。』

 

 余りに多過ぎる情報量に、一人の隊員が手を上げてタンマを言い渡した。

 

 『どーすんです?どーすんですかこれ?』

 『何か壮大な話になってきましたよ隊長ー?』

 『……取り敢えず、この話は持ち帰ろう。面倒事は上にブン投げるのが一番だ。』

 『『『『『『了解!』』』』』

 

 艦隊首脳部の胃痛が確定した瞬間だった。

 

 この後、一日で工廠内部を見学するのは無理と判断して、一週間に分けて調査しました。

 艦の補給も滞りなく完了し、出る時には皆すっかり慣れていましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 『大変申し訳ございません。女王陛下一押しのリラクゼーション施設等は後回しになっているため、娯楽施設等に関しては食堂・運動施設・データ閲覧施設(電子情報版図書館と映画館と本屋のミックス)のみとなっております。』

 『いやいやいや十分ですからそれ!』

 『お詫びとしてこちらをどうぞ。巨人族の使用する兵器(美品)並び我々が使用しているエクセリオン級恒星間航行戦闘艦です。』

 『どう持ち帰れと!?』

 

 なお、帰りの途中に寄って、持ち帰る事となった。

 



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第17話 太陽系外縁部

この世界の銀河系=スパロボ時空的無法地帯


 

 『久しぶりの滞在、真にありがとうございました。』

 『改装中故にお寛ぎできず、真に申し訳ありませんでした。』

 『お詫びの品を積みましたので、後でご確認してくださいませ。』

 

 『『『それでは、皆様のまたのお越しをお待ちしています。』』』

 

 こうして、太陽系外縁部調査試験艦隊は冥王星工廠基地を出発したのだった。

 

 「凄い場所だったな、色々と…。」

 「えぇ…。」

 「補給物資も満載ですし、人員の休暇も取れたので良い事かと…。」

 

 下手な格安ホテルよりも遥かに充実した施設だった。

 大浴場もあり、個室のベッドもあり、食事は全てバイキング形式。

 食料は地球の軍用レーションだが、レーションはレーションでもA.I.M.グループ製の高級士官並び将官向けの超豪華なレーションだった。

 積載量の関係で普通の食材は少なめで後は普通のレーションとなっている太陽系外縁部調査試験艦隊の面々からすればとても嬉しい驚きだった。

 加えて、各種作業は何処から入り込んだのか人間サイズまで縮んだ無人機らによって手伝ってもらい、各種資材を満タンに、機体と艦は完全整備してもらったので言う事はない。

 唯一、渡されそうになった巨大なお土産だけは帰りに受け取ると約束して受け取らずに済んだが、それ以外は快適な停泊だった。

 まぁ、常に何処からか見られているというのは落ち着かなかったが…。

 

 「司令、お断りすればよろしかったのでは…?」

 「君は、犬を飼った事があるかね?」

 「は?」

 

 ちょっと遠くを見つめるグローバル司令の言葉に、副官は聞き返した。

 

 「私はある。子供の頃だがね。」

 「それが何か関係が?」

 「彼女らの雰囲気というか何かがね……家に帰ってきた飼い主を迎えて大喜びしている犬にしか見えなかった。」

 「あー……。」

 「人間に尽くす事。それを心の底から喜びとし、忠犬の様にキラキラとした眼差しを向けられていると思うと…。」 

 「すいません。自分はちょっと無理です。」

 

 副官は諦めた。

 何というか、もう、色々と諦めてしまった。

 

 「ふぅ……すまないが、コーヒーを頼む。」

 「はい、どうぞ。」

 

 グローバルは全身に伸し掛かる脱力感から目を反らすため飲み物を頼んだが、空かさずその背後から淹れ立てのホットコーヒーが差し出された。

 

 「………………………………聞いても良いかね?」

 「はい、何なりと。」

 

 絶句する副官を脇目に見つつ、背後から聞こえる聞き覚えのある声にグローバルは問うた。

 

 「何故、ここにいるのかね?」

 「はい。女王陛下の命により皆様の航海のサポートを行うよう仰せつかりました。以後、よろしくお願いします。」

 「そうか……?????」

 

 色々と言いたい事があったので振り向いたグローバルの視線の先。

 そこには実戦経験豊富な、若くして准将となった(この艦隊を任せるに当たって先払い昇格された)グローバル司令をして絶句する光景があった。

 ふわりと広がるロングスカート、純白の前掛け、古式ゆかしいデザインを基調としたメイド服。

 そう、そこにはメイドがいた。

 顔も人間の女性、それも美女のものとなっており、無人機らの存在を知っているグローバル達だからこそ気付けるが、そうでなくば人間の女性と勘違いしていただろう。

 

 「その、姿は…?」

 「はい。女王陛下の許可の下、地球人類の皆様にお仕えするには兵器として、機械としての姿ではなく、人間の似姿である方が良いと判断し、この姿となりました。性能面に変化はないので、以後よろしくお願い致します。」

 

 これと同様の混乱は艦隊各所で発生しており、太陽系外縁部調査試験艦隊はこの珍事を「機械人形事件」として長くその記憶と記録に留めておく事となる。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦183年初頭 太陽系外縁部

 

 太陽系外縁部調査試験艦隊の太陽系未踏破宙域の調査は、様々な問題が発生しながらも続けられた。

 具体的にはあの機械人形どうすんの!?とか男性型はいないんですか!?或いは元の機械の姿にしてください!というそれぞれの趣味に応じた意見というかアレな問題だったが、それに関しては追加の機械人形が男性の執事の服装だったり、女性の執事だったり、元の機械の姿が追加で来てくれて対処したので済んだ。

 勿論、冥王星以降の各惑星、即ち魔王星・智王星・神無月星・雷王星とその衛星の調査も行われた。

 これら惑星並び衛星の資源と遺跡等の所在の確認、そしてここまで来る航路のデータも含め、綿密に測量され、記録されていた。

 これら全てが人類の宝であり、開拓・防衛のための第一歩だからだ。

 そして今日、地球圏出発から実に5カ月、年の瀬を跨いで新西暦183年初頭。

 遂に人類は公式に太陽系の外へと踏み出そうとしていた。

 

 「これより本艦隊は太陽系外縁部、即ち太陽系の外へと踏み出す事となる。何が発生するか、正直言って予想できない。故に全艦隊はこれより第2級警戒態勢に入り、太陽系外縁部にいる限りこれを維持するものとする。艦隊各員には負担を強いるが、調査終了までどうか耐えてほしい。」

 

 グローバル司令の言葉と共に、艦隊各員が次々と所定の配置へと付いていく。

 皆、分かっているのだ。

 ここから先は舗装されていない獣道、否、道ですらない未知なる領域なのだ。

 何があるか予想もつかず、一歩踏み出した瞬間に異星人や敵性存在に襲われるかも定かではない。

 

 「では、全艦全速前進!太陽系外縁部へ向けて出発せよ!」

 

 こうして、人類初の太陽系外進出が始まった。

 そして、当然ながら太陽系を外から見ていた者達は、この好機を見逃さなかった。

 太陽系外縁部調査試験艦隊が太陽系外縁部へと出て一時間が経とうという頃、唐突にレーダーがワープアウト反応を捕らえた。

 

 「ワープアウト反応を確認!出現まで9秒!質量推定…1kmを超える反応多数を確認!」

 「全艦隊に第一級戦闘態勢を発令!機動兵器は準備でき次第順次出撃!縮退炉の出力を戦闘出力まで上昇!DFの強度を目いっぱいまで上げろ!各銃座は敵を確認次第撃ち方始め!非戦闘員は最寄りのシェルターへ避難せよ!」

 「ワープアウトします!」

 

 そして、空間を砕くように現れたのは、人類が未だ出会った事のない程に巨大な生命体だった。

 内臓や肉、甲殻を無理矢理繋ぎ合わせ、戦艦の形に見えるよう子供がこね回したと言っても信じられるような姿をした異形の群れ。

 それが50を超える数で突然現れたのだ。

 

 「ライブラリ該当、STMC!宇宙怪獣です!」

 「全力で応戦せよ!奴らを太陽系内部に入れるな!人類が滅ぼされるぞ!」

 

 そして、互いが一斉に牙を剥き、砲火を交わし合った。

 大小無数の宇宙怪獣から発せられる大量の光弾と小型種(後に兵隊級と命名)を前に、しかし太陽系外縁部調査試験艦隊は事前に出力を上昇させていたDFによって耐え凌ぎ、反撃の砲火を浴びせる。

 機動兵器部隊も艦隊を守るべく小型種並び艦艇サイズの宇宙怪獣へと果敢に攻撃を仕掛けていく。

 

 「何!?」

 

 しかし、小型種まではどうとでもなるものの、その攻撃の殆どは大型種へは通じない。

 理由は単純、威力が小さ過ぎるのだ。

 宇宙怪獣はバリアも張らずに亜光速で戦闘機動する極めて強靭な生命体だ。

 それの意味する所は即ち、生半可な攻撃では痛打を与えられないという事。

 未だ火力の低めなこの世界線の兵器ではインベーダーなら兎も角、宇宙怪獣の小規模艦隊相手であっても、まともに通る火力を機動兵器隊は持っていなかった。

 それこそ以前の巨人族相手の時の様に、要塞主砲級の火力があるのなら別だが。

 

 「グラビティ・ブラスト発射用意!目標、正面の敵集団!」

 「了解!チャージ開始…完了しました!」

 「撃てぇい!」

 

 ミスマル・コウイチロウ艦長の号令の下、数少ない火力の一つであるナデシコの重力波砲が火を噴いた。

 空間を歪曲させ、内部にある物質を全て砕き潰す重力波の帯が戦場を縦断し、一撃で4隻もの大型種を討ち取る。

 しかし、相手は50を超える大群なのだ。

 この程度何という事もなく、火力を発揮した事で注意を引いてしまったナデシコへと小型種が殺到し、光弾の射撃が集中していく。

 

 「仕方あるまい。これより本艦はマクロスキャノンのチャージに入る。」

 「宜しいのですか!?チャージ中は本艦はまともに移動できず、的になります!」

 「このままではジリ貧だ。動ける余力のある内に動く!」

 「了解しました!」

 「るくしおんに伝達!特機二機はマクロスキャノン発射用意完了まで時間を稼げ!るくしおんも亜光速機動の制限を解除!自らの判断で行動せよ!」

 

 太陽系外縁部調査試験艦隊の苦難は、まだ始まったばかりだった。

 

 

 ……………

 

 

 太陽系外縁部 ???

 

 「連中が出てきたか…。」

 「どうする?こちらから声をかけるか?」

 「一応いつでも出せるようにはしてるぞ~。」

 「あの災害生命体、地球人類の艦隊じゃ荷が重いかと。」

 「焦るなって。もうちょい待ってから出るぞ。」

 「恩の売り時を待つ、か?」

 「応。序に最新の地球人の軍事力・技術力を見ておきたい。」

 「では、何時でも出れるように待っておくとしよう。」

 

 

 

 

 同時刻

 

 「で、何時助ける?」

 「今直ぐにでも、と言いたい所ですが…。」

 「ここいらで戦訓を積んでもらい、尚且つ危機感を持って頂かないと…。」

 『えぇいクソ!悩ましい!』

 『とは言え、この程度の不利、今後は幾らでも出会う事になるでしょう。今の内に慣れて頂かねば。』

 

 

 




ちょいやっつけ過ぎたかな?


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第18話 宇宙怪獣

この程度はまだまだチュートリアルの範囲内の模様。
なお、トップをねらえ原作ではこの時点で壊滅してます。


 新西暦183年 太陽系外縁部にて

 

 太陽系外縁部調査試験艦隊は初めて遭遇する宇宙怪獣を相手に、苦戦を強いられていた。

 これがバルマーやインスペクター、ズールやバッフ・クラン相手ならまだ善戦できていただろうが、巨人族を超える異常極まりない生命体という事もあり、その戦闘は大きく押されていた。

 

 「小型種を近づけるな!艦砲は大型種に集中し、艦載機は小型種の排除に徹しろ!」

 「DF出力78%、まだいけます!」

 「破損した機体は後退し、予備機で再出撃!」

 「核弾頭を使用可能なVFは直ぐに装備して出撃しろ!」

 

 未だ反応弾ではなく、一年戦争でも使用された戦術核が最大火力である多くの艦載機は大型種に対して有効な火力を持たない。

 それはつまり、艦載機の運用能力を重視している艦が多い現状、不利に作用した。

 

 『バスタービーム!』

 『ゲッタービーム!』

 

 だが、ここに例外がいた。

 戦艦の艦砲射撃すら易々と超える火力を叩き出す二機の特機によって、数体の大型種が撃沈、爆発四散する。

 プロトゲッター1とプロトシズラー0。

 

 『おおっと、艦は落とさせないぞ!』

 

 そして、艦隊の盾として強大なDFを展開し続けるジガンスクード。

 これら特機の存在により、数に劣る太陽系外縁部調査試験艦隊は何とか持ちこたえていた。

 

 「マクロスキャノン、チャージ完了しました!」

 「よし、目標敵中央!」

 「照準良し、味方機の退避完了。」

 「発射ぁ!!」

 

 マクロスの艦首から放たれた一筋の光の柱は、一撃で10近い大型種を巻き込み、消滅させていく。

 

 『達人、往くわよ!』

 『了解!』

 

 流れが変わったと見るや、開けられた穴へと吶喊する二機の特機。

 ジワリと開けられた穴を広げられ、徐々に押されていく宇宙怪獣。

 だが、そうは問屋が卸さない。

 

 『全機DFを最大!何か来るぞ!』

 

 スタークジェガンを駆り、小型種を駆逐していたアムロの叫びに、最速で反応したのはアムロと付き合いの長いブライト、そしてライバルたるシャアだった。

 

 『各機、DF出力最大で乱数回避!』

 『DF出力最大!回避運動!』

 

 この叫びに反応出来たかどうかが明暗を分けた。

 一撃。

 亜光速で艦隊の陣形中央に突っ込んできた大型種の中でも特に巨大な個体(後に巡洋艦級混合型と分類)によってクラップの左舷エンジンブロックが大破(後に切り離し)、ヒリュウの艦首ブロックが大破、スペースノアの艦首が中破し、他にも多数の機動兵器が巻き込まれた。

 

 『許可が出た。これより本艦は亜光速戦闘を開始する!』

 『了解。艦内慣性制御の出力上昇。』

 『艦内隔壁降ろせ。無人区画は電源カット。出力を重力・慣性制御に集中。』

 

 タカヤ大佐の号令と共に、るくしおんは亜光速戦闘機動を開始した。

 通常、他の艦との連携行動をするに当たって、その過剰な機動力は邪魔であり、リミッターを設けている。

 しかし、現状のるくしおんは単艦での行動の許可が降り、リミッターも無い。

 一年戦争の高機動MSに匹敵する機動性を、333mというサイズで得る事に成功したるくしおんは、艦隊中央をぶち抜いて離脱した3kmもある大型種へと追撃を開始した。

 

 『逃がすな!もう一度今の突撃をされたら他の艦が沈むぞ!』

 

 タカヤ大佐の指示と共に、るくしおんから無数のレーザー砲と艦の上下に追加されたバスタービーム砲が発射される。

 しかし、それらは何もない宇宙を貫くばかりで命中しない。

 未だ亜光速での戦闘経験の少ない地球側には、その速度に対応できるだけの射撃データの蓄積がないのだ。

 それ故にるくしおんの攻撃は亜光速で動き回る大型種には当たらず、悪戯にエネルギーを消耗してしまう。

 

 『反撃来るぞ!DF正面に集中展開!』

 『了解、DFを正面に集中!』

 

 同時、お返しとばかりに斉射された光弾がるくしおんに正面から命中、DFの存在によりそのエネルギーは散らされ、船体にまでダメージは入らなかった。

 

 『っ、突進来ます!』

 『右舷ブースター全開!』

 

 宣言とほぼ同時、左方向へとスライドしたるくしおんの右側を大型種が砲弾の様に、否、砲弾そのものとなって通り抜けていく。

 直撃を受ければ質量差もあって一瞬で木端微塵となる一撃。

 これが先程艦隊陣形を貫いていったのだ。

 だが、その一撃離脱の戦い方に、タカヤ大佐は正確に相手の手の内を読み切った。

 

 『…やってみるか。』

 『艦長?』

 『第一・二バスタービーム砲の照準を左舷へ。次に敵が突進を行った場合、左舷ブースターを全開、同時にバスタービーム砲を発射せよ。』

 『しかし、危険では?』

 『敵も焦れている。そして我々と同様に攻撃の手数が少ない。突進か砲撃しか出来んのだよ。』

 

 事実だった。

 宇宙怪獣小艦隊の旗艦たる巡洋艦級混合型は高い性能を持つものの、その攻撃手段は光弾と突進のみで、変異した亜種が槍状のエネルギー弾を使用するしか報告例がない。

 故に光弾に耐え得る敵を確実に撃破するには、突進一択しかないのだ。

 

 『悩んでる時間は無い。来るぞ!』

 『正面、突進来ます!』

 『左舷ブースター全開、同時にバスタービーム発射ぁ!!』

 

 タカヤ大佐の命令と同時、操舵手と砲撃手は人生最速で以てその命令を遂行した。

 先程の動きからるくしおんの機動を読んでいたのか、この突撃はブースター全開でも回避し切れず、DFを抉り、左舷装甲を浅く長く削っていった。

 しかし、それだけだった。

 艦の中央上部と下部に配された射角が広い二門のバスタービーム砲は艦の装甲が削られると同時、巡洋艦級混合型の巨大な横っ腹へと二条のマイナス一億度の冷凍ビームが突き刺さり、交差の一瞬で先頭から後方へと二本の凍傷がその巨体へと刻まれ、直後に全身が砕け散った。

 

 『敵旗艦、撃破に成功!』

 『周囲を索敵!味方はどうか!』

 

 浮かれる艦橋要員に一喝とばかりに指示が飛ぶ。

 そうだ、まだ戦闘は終わっていないのだ。

 

 『…全艦健在です!敵中枢でシズラーとゲッターが暴れ回っています!』

 『よし、本艦も援護するぞ!』

 

 左舷の武装とブースター、格納庫ハッチ(上下はバスタービーム砲があるので無理)こそ破壊されたものの、未だ多くの武装とブースターは生きている。

 

 『マルチロック、ゲッタービィィィィィム!!』

 

 ユングの音声認証と共にプロトシズラー0の腹部の装甲が開き、内蔵されたゲッタービームの砲口が露出し、発射される。

 発射されたビームは機体から一定の距離で拡散、分裂し、100近い無数の小型種へと命中、爆散させる。

 

 『チッ!やっぱりガンバスターみたいにはいかないか!』

 

 これがガンバスターならば、開始一分とせずに単体で敵戦力を撃滅できたのに。

 嘗て相棒として長く共に戦った親友と愛機を思い出しながら、ユングは今の愛機で出来る事をし続ける。

 幸い、上陸艇と巡洋艦高速型までは問題なく撃破できる。

 それ以上、混合型となると火力が低くてその装甲を突破できない。

 

 『おっと!』

 

 正面と背後から突撃してきた小型種、兵隊に対し、シズラー0の両肩に内蔵されたランサー生成口がせり出し、左右のそれがそれぞれ前後を向く。

 

 『バスターランサー!』

 

 ゲッターのトマホークを参考にしながらも、彼女の得意とする槍が生成され、射出される。

 射出された槍は前後から迫っていた小型種を一撃で貫き即死させ、次いでそれを両手に構えたシズラー0は加速、迫り来る上陸艇に狙いを付ける。

 

 『ジャコビニ流星アターーーック!』

 

 自身の得意とする加速からの乱れ突き。

 正確無比に上陸艇の甲殻の隙間へと差し込まれた槍は、内部から宇宙怪獣の弱点の一つでもある高圧電流を流し、ものの数秒で内部から爆散させてしまった。

 

 『さぁ、次は誰!?』

 

 たった数機の特機と、それを駆るエースパイロット。

 更にプロトゲッター1とるくしおんの助力もあって宇宙怪獣の小艦隊は統制を失った事もあり、各個撃破されていった。

 破れかぶれの突撃すら、ジガンスクードの捨て身の防御によって防ぎ切られ、どの艦も落とす事は叶わなかった。

 予想されていた不意の遭遇戦。

 しかし、辛うじて地球人類は勝利を捥ぎ取ってみせた。

 

 だが、それは序の口に過ぎなかった。

 

 『ワープアウト反応、無数に確認!数は…1000、2000、5000を突破!なお増加中!』

 『推定質量……わ、惑星サイズです!?』

 『ワープアウト、来ます!』

 

 現れたのは、先程まで太陽系外縁部調査試験艦隊が戦っていた小艦隊とは文字通り桁違い(それも三つ四つ違う)の物量を持った本格的な殲滅のための大艦隊。

 数にして実に3億近い宇宙怪獣の大群だった。

 

 彼らの初陣は、まだ終わらない。

 

 

 ……………

 

 

 『よし、もう良いよな?』

 「オッケーオッケー。今ならバッチリ!」

 『よし、全艦隊聞いてたな!通常空間に復帰!消耗した地球人艦隊を救援!恩の押し売りの時間だ!』

 「改エルトリウム級プトレマイオス、通常空間に復帰と同時に四連装空間破砕砲発射!新しい私の初陣、目に焼き付けろ宇宙怪獣!」

 『……これ、オーバーキルじゃな~い~?』

 「ですね。そちらとこちら、合わせて1分持たないのではないかと。」

 

 一方、出待ちしていた方々は漸く出番かとワクワクしていました。

 

 



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第19話 騎兵隊の登場

我ながら余りにも酷かったので修正して再投稿しました。
皆さん、誤字脱字等の指摘、毎度ながらありがとうございます。

言い訳になりますが、やはり疲れていたようです。
やっぱ早朝から農作業して午後に出勤はきついね。
昔は一回寝れば全快してやれたんだけど、歳かなぁ…。


 新西暦183年初頭 太陽系外縁部にて

 

 太陽系外縁部調査試験艦隊は3億近い宇宙怪獣の大群とそれらを統率する母艦級に圧倒されていた。

 自分達が必死になっていた50程の偵察用の小艦隊など足元にも及ばない圧倒的物量、そして母艦級というkmサイズの宇宙怪獣を億単位で運用可能な惑星サイズの宇宙怪獣達の親玉という悪夢。

 それを見て多くの者達が心折られながらも、なお己の責務を果たさんとしている者達もいた。

 

 「…フォールド可能な艦はすぐに冥王星基地まで撤退せよ。」

 

 その一人、グローバル准将は覚悟を秘めた声で静かに告げた。

 

 「本艦はこれより縮退炉を臨界まで上げる。非戦闘員はすぐ脱出を開始せよ。」

 「司令!?」

 「縮退炉内のブラックホールなら奴らを多少は削れる。脱出に成功した者は誰でも良い、直ぐに地球圏に危機を知らせよ。」

 『グローバル司令、それなら私のクラップが受けます。本艦は既に左舷エンジンをやられています。非戦闘員の数もマクロスより少ない。』

 『一隻では心もとないでしょう。損傷を受けているるくしおんも引き受けます。』

 『何の。それを言ったらワシのスペースノアもそうだろう。』

 『おや?私共が仲間外れとは許せませんな。』

 『ここは中・大破してる損傷艦が殿を受けるべきでしょう?グローバル司令、悩んでいる時間は無いですぞ?』

 

 次々と通信を入れてくる各艦の艦長らに、グローバルは忸怩たる思いだった。

 漸く勝ったと思ったら、それは前座未満の何かでしかなかった。

 この銀河は、地球人類にとって余りにも過酷に過ぎた。

 それを知るためだけに、多くの貴重な人材と最新鋭の装備という余りにも大きな犠牲を払ってしまう。

 

 「…艦隊司令官として命じる。クラップ、スペースノア、ヒリュウは艦隊のフォールド完了まで時間を稼げ。同時に縮退炉を臨界まで上げ、ブラックホールを発生させよ。が、その前に非戦闘員は脱出させ、マクロスへと収容する。」

 

 拳の骨が砕きそうな程に握り締めながら、グローバルははっきりと苦楽を共にした仲間達に告げた。

 

 『クラップ、了解!』

 『スペースノア、了解した。』

 『ヒリュウ、了解しました。』

 「貴官らの挺身に感謝する。」

 

 三者三様の返答にそれだけしか返せない自分自身に、グローバルの腸は煮え繰り返った。

 

 『その必要は無いぜ。』

 

 だが、彼らがそれを実行に移す前に、騎兵隊がやってきた。

 

 「司令!後方上部にフォールドアウト反応!」

 「いかん、挟み撃ちか!?」

 「いえ、これは友軍のIFFとアンノウン?いえ、ゲストID?」

 

 オペレーターの声と同時、消耗した太陽系外縁部調査試験艦隊の後方に現れたのは彼らの知るものと知らないものが混在した未知の艦隊だった。

 

 

 

 ……………

 

 

 それは、空間を割り砕きながら現れた。

 なお、おすすめBGMはガンバスターマーチです。

 

 『太陽系防衛無人兵器部隊所属改エルトリウム級プトレマイオス、推参!』

 『これ、オレも乗るべきか?……こちら、共和連合枢密院所属外交使節艦隊特使メキボス・ボルクェーデだ!』

 

 通信画面一杯に映ったのは腕を組み、鼻息荒く自己紹介?をした美麗な少女と顔に傷を持った異星人らしい男の姿だった。

 しかし、その通信以上に太陽系外縁部調査試験艦隊はワープアウトしてきた艦隊の威容にこそ度肝を抜かれた。

 数は30程と先程の宇宙怪獣の小艦隊よりも少ないものの、異常なのはとある一隻の大きさだ。

 全長70km超という、小惑星を改造した要塞サイズにも匹敵する巨体に、一同は呆然とした。

 なお、メキボスはこの名乗りに羞恥心とか色々あったが、ここでノッた方が美味しいと判断した模様。

 

 『後は私達に任せて太陽系外縁部調査試験艦隊は後退してください!さぁ出番だよ皆!』

 『細かい話は後で飽きる程にしてやるさ。先ずは害獣退治だ。』

 

 その通信と共に、合同艦隊の直掩だった量産型ヴァルチャー軍団とレストジェミラ部隊が構える。

 

 『無人兵器部隊、前方の宇宙怪獣に対し全力攻撃!』

 『全艦隊、無人兵器部隊に合わせ最大出力で一斉射!』

 『『撃てェッ!!』』

 

 改装された改エルトリウム級プトレマイオスの艦首4連装空間破砕砲を始めとした火器類。

 同時に展開していた無数の量産型ヴァルチャー軍団のデストロイヤーガン。

 共和連合外交艦隊の旗艦たるウユダーロ級制圧砲艦の主砲を始めとした火器類。

 一部展開したエース向けの量産型ライグ=ゲイオス他多数の有人指揮官機の火器類。

 無数に出撃、連結して出力を向上した無人のレストジェミラ隊の火器類。

 それらが一斉に火を噴き、3億近い宇宙怪獣の大艦隊へと真っすぐに突き刺さった。

 一切の防御も回避も許さぬ、空間に存在したあらゆる者を爆砕する砲撃の津浪に、宇宙怪獣の9割近くが消し飛んだ。

 

 『敵旗艦母艦級へのダメージ、47%と類推。』

 『敵、総数の9割を撃滅。残敵の掃討に移行。』

 『砲撃を続行!無人量産型ヴァルチャー一個大隊は太陽系外縁部調査試験艦隊の護衛に就け。』

 『敵母艦級からの反撃、着弾まで3秒。』

 『太陽系外縁部調査試験艦隊の護衛担当機は物理保護最大規模で展開!』

 

 トレミィと共和連合、太陽系外縁部調査試験艦隊の護衛へと未だ3000近く残っている宇宙怪獣と母艦級からの攻撃が殺到する。

 未だ10倍近い物量の開きがあるものの、その反撃は宙域に展開したヴァルチャー部隊の広域バリアによって悉く防がれた。

 そして、反撃を行ったという事はこちらからの射線も開いており、更には正確な位置情報も分かるという事。

 後は、一方的な鴨撃ちである。

 しかし、次々と配下を討ち取られ、その半身を消し飛ばされながらも母艦級は未だその命脈を保っていた。

 

 『プトレマイオス、前進。』

 『よろしいので?』

 『どうせ効かないし、最後っ屁で誰か落とさせる訳にはいかないでしょ。』

 『了解。前進を開始します。』

 

 そして、止めを刺すべく前に出たのは改エルトリウム級プトレマイオスだ。

 全長70kmとエルトリウム級らしい巨体に加え、更に左右両舷に一隻ずつ全長30kmを超える改2エルトリウム級を張り付ける様に装備した本艦は、予定していた改装の他にプロトカルチャー由来のフォールド技術を多数取り入れる事でかつて改スター級に搭載されていた機能の幾つかを再現するに至っている。

 即ち、現状の太陽系において最強にして最大の戦艦だという事だ。

 事実、この艦を超える戦艦は銀河広しと言えど存在せず、後世での比較対象は専ら宇宙要塞が担当している程だ。

 最大の武装はマクロスアタック並び二隻のエクセリオン並び本艦の艦首(変形時に腕として左右に分割)の備える4つの空間破砕砲の一斉射による次元崩壊現象の発生であり、後者は命中しさえすればプロトデビルンにすら有効打を与えられる見込みだ。

 そして、その最大の防御手段は…

 

 『敵旗艦級からの砲撃、着弾。』

 『フォールド断層障壁、変化なし。』

 『ダメージレポート、無し。』

 

 プロトカルチャーの崇拝対象である超時空生命体バジュラでも超大型の個体(或いは群体)でしか搭載できなかったフォールド・バリア(空間転移の応用。受けた攻撃を位相空間に逃がす)を採用し、エネルギー攻撃に対しては実質的に無限の防御力を誇ると言って良い。

 加えて、弱点となる質量攻撃に対しても短距離ワープや通常の電磁バリア、DFによって対処可能となっている。

 敵小型種や艦載機?全身に配置された無数の対空火器と直掩のヴァルチャー部隊に任せます。

 加えて、装甲に関しては鳥の人にも採用されていた「周辺の物質を吸収して自分の一部とする」機能の発展系を採用し、「触れた物質を吸収し、自分の一部や望む資源へと変化する」という錬金術染みた出鱈目機能を持つ。

 それ故、本艦を落とすならば、同じ様な出鱈目な侵食機能や物理法則そのものへの干渉が必要となる。

 なお、ラスボスかそれに匹敵する存在ならば割といけるため、こんな巨大な新ボディでも決して楽勝とはいかない辺り、スパロボ時空とは実に地獄である。

 

 『止めはどう刺します?』

 『変形して空間破砕剣で。』

 『了解。我儘を実行します。』

 

 改装後の初のお披露目でウキウキしているトレミィの言葉に従い、10秒程でプトレマイオスはその巨体を人型のそれへと変形させる。

 変形機構はほぼ改エルトリウム級の時のままだが、その両腕には一隻全長30kmを超える改2エルトリウム級が盾のように装備され、シルエットは単純な人型からジガンスクードの様な両腕に大楯を持った姿へと大きく変わっている。

 

 『右腕空間破砕砲を連続照射モードに切り替え。』

 『モーション選択、一刀両断で!』

 『了解。』

 

 そして、プトレマイオスはその巨大な右腕を振り上げ、空間破砕砲を照射しながら振り下ろした。

 その一撃はたった一太刀で半死半生だった母艦級に止めを刺し、爆散させた。

 しかし、その切っ先は母艦級の背後の遥か先、2000万kmよりも先にまで届き、こちらを観測していた何かを粉砕した。

 母艦級の撃破時の爆発は周辺に未だ展開していた宇宙怪獣をも巻き込み、生き残っていた個体のほぼ全てを撃滅せしめた。

 

 『これぞ必殺!』

 『と言うよりもオーバーキルかと。』

 『最後まで決めさせてよモー!』

 『はいはい。後で相手しますので、今は負傷者の救護を最優先で。』

 『それはもう指示出した。』

 

 余りの荒唐無稽な光景に太陽系外縁部調査試験艦隊と共和連合枢密院所属外交使節艦隊は揃って驚愕していた。

 特にステルスを看破された挙句、「話し合いに来た?どうぞどうぞ、上がってって」と軽く艦隊ごと収容される羽目に陥っていた共和連合の面々は(敵対しなくて良かったマジで!)と内心で安堵していた程だった。

 

 『じゃ、全員お話は冥王星基地に行ってからで良い?フォールドできない艦があればこっちで収容するから言ってくださいね。』

 『なお、MIA認定された方々はこちらで全員回収、医療施設に送り済みです。ご安心ください。』

 

 こんな小さな戦場を掌握する程度、彼女らにとって割と楽な作業だった。

 巡洋艦級混合型の突撃時こそ少々焦ったものの、その時も含めて今回の戦闘でMIAとなった人員は全て位相空間を伝って回収済みだった。

 プトレマイオスから送られる少女と涼し気な銀髪のメイドの驚愕だらけの言葉に、全員の気持ちを代弁してグローバルは精神力の多くをつぎ込んで何とか今最もほしいものをリクエストしてみせた。

 

 「………救援、感謝する。しかし、もう少しだけ待ってくれないだろうか。ちょっと、ちょっとだけ、飲み込む時間が欲しい。この通りだ。」

 

 これには太陽系外縁部調査試験艦隊と共和連合枢密院所属外交使節艦隊の面々は揃って頷いた。

 

 

 




なお、改エルトリウム級の仮想敵はプロトデビルンです。
次元崩壊兵器を搭載しているのはそのためです。


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第20話 共和連合

共和連合と外交スタート
なお、問題はちっとも減らない模様。


 新西暦182年 春

 

 太陽系は未曾有の混乱に包まれていた。

 

 何せ事前通告はあったとは言え、未曾有の巨大戦艦と異星人の艦隊が自分達の最新鋭試験艦隊と一緒にやってきたのだから、そりゃー驚くのも当たり前である。

 事前にフォールド通信で事情を聴いていた連邦政府ですら大慌てだったというのだから、一般市民の混乱たるやどれ程のものだったか。

 この合同大艦隊の姿が確認された土星基地では当時、駐留艦隊のスクランブル発進が行われ、木星と火星の駐留艦隊も即応態勢に移ったと言う。

 なお、無人防衛部隊の旗艦たるプトレマイオスは「自身に対外交渉の権限はないので」と告げて、太陽系外縁部調査試験艦隊を下した後はさっさと太陽系外縁部の防衛任務へと復帰した(素面に戻って恥ずかしかった)。

 その後、先日の戦闘の起きた宙域で驚天動地の発見をするのだが、それはさて置き。

 

 「私が地球連邦政府首相のレビルです。共和連合の皆様、遠路遥々ようこそ太陽系へ。」

 「共和連合枢密院所属外交使節艦隊の特使メキボス・ボルクェーデだ。よろしく頼む。」

 

 地球において行われた共和連合との会談は、太陽系全体に巨大なニュースとして受け入れられた。

 この一週間後、共和連合枢密院と地球連邦政府の間で正式に外交が開始、大使館が設置される事となる。

 また、メキボスはレムリア女王とも謁見し、密かに枢密院と「地球人類に対する過剰な技術供与の禁止」を互いに決定し、以後一連の戦乱の中にあってもずっと守られ続ける事となる。

 なお、後世の資料においてこの秘密条約は地球連邦側も承知の上であり、敵を増やしてまで制御の困難な技術を研究するよりも戦わずに済む大勢力を作る事の方が重要視されていたためにほぼノータイムで首脳部によって可決させていた。

 また、通商条約も結ばれる事となった。

 が、流石に遥か遠くから商品を持って来るというのは難しく、当初は平和的な関係構築に成功した、という証拠扱いだったのだが…。

 

 「このままじゃ商売なんて出来ないし……お願いできるかしら?」

 「お任せを。丁度良いものがあります。」

 

 レムリア女王陛下のお願いにより、A.I.M.がやって下さいました(白目)。

 

 「こちらをどうぞ。チューリップ型超長距離ゲートのターミナルコロニーです。これがあれば銀河の端から端まで相互に行き来が可能になります。但し、強力な空間歪曲力場、当方ではDFを使用していますが、そうしたものを展開しないと生物はご利用できませんのでお気を付けください。」

 

 直径3kmもある巨大なチューリップの球根の様な空間跳躍装置、通称「チューリップ」である。

 装置本体の先端が開閉し、内部に広がる位相空間に入ると、出口として設定されたチューリップから出る事が可能となっている。

 これを独自の戦闘能力とか航行機能を削除し、単独フォールド機能を追加、チューリップ一基につき出入り用に二つの空間跳躍装置を配置しており、デザインは大型化したナデシコ劇場版のヒサゴプランのターミナルコロニーそのものである。

 これを用いれば銀河の端から端までノータイムで移動可能となり、共和連合と地球は自由に行き来が可能となるのだ。

 なお、真の中枢たる演算ユニットは勿論ながらA.I.M.が抑えているのは言うまでもない。

 双方の状況に極めて大きな影響を与えるこの装置がポンと出された事に、地球連邦も共和連合も思わず噴き出した。

 

 「「待て待て待て!!」」

 「お気に召しませんでしたでしょうか?では、エクセリオン級三番艦もご一緒に…。」

 「違う、そうじゃない。」

 「落ち着け。いきなりそんな大層なもん貰っても困る。」

 「もんと門をかけた高度なジョークかと。では女王陛下から許可の下りた各種フォールド技術に関する情報一式を…。」

 

 順当に会議室は「暫くお待ちください」、或いは「お見せできないよ!」状態に陥った。

 結局、一番基を月に設置し、二番基を共和連合に譲渡する事で決着した。

 なお、これだけを決めるのに丸々三日かかった。

 

 「チューリップは私共がガス星雲等で資源を採取するのに効率が良いので使っていたものを転用しています。あれがあると風上に向けるだけで自然とチューリップ内に流入、好きな場所に送れますので。」

 「太陽系各所にも設置する。金は出すので急ぎで頼む。」

 「畏まりました。ついては防衛用の駐留部隊の編制もお願いします。」

 

 この一連のやらかしにより、A.I.M.がプロトカルチャー由来の超先進技術の管理者であり、レムリア女王の部下に当たる事が連邦政府並び共和連合内に周知される事となった。

 最終的にメキボスはエクセリオン級三番艦と(一番艦は地球連邦に、二番艦はユングの乗っていたノーチラスに番号が割り振られた)内部に搭載された現在地球連邦で正式量産されている各種機動兵器類とプロトカルチャー由来のフォールド技術に関する技術情報を持ち帰り、枢密院に「今後ともヨロシク」と地球との交渉を任される事となる。

 なお、過激派を中心に俄かに地球人脅威論が沸き起こるが、レムリア女王陛下との秘密条約の内容が明かされるとあっさりと鎮火した。

 

 (ま、実際は違うのですが。)

 (私に何かあってもこの子達は自由に動ける。勝手に勘違いしてくれて助かるわー。)

 

 なお、当然の結果として、「チューリップの次の設置場所は何処にするか」で太陽系は大揉めした。

 だって、異星人との流通の一大拠点になる事は決定してるんだもん。

 誰だってそうする、俺だってそうする。

 特に異星人相手に商いが出来る!という事でいつもの大企業群がハッスルして暗闘を繰り返した。

 

 「そんなに慌てなくても、チューリップなら地球・月・火星・木星・金星・土星に一基ずつ配備するには2年もあれば大丈夫ですよ?」

 

 が、A.I.M.の担当者がこの発言で大体収まった。

 これ以降、太陽系の物流の活発化は更に進む事となる。

 だが、既存の惑星間航路は潰れる事はなかった。

 だってチューリップの前で行列できる位に混雑しちゃったせいで、既存の資源運搬用の大型輸送船の利用が乗り入れが不可能になっちゃったんだもん。

 これは一連の戦乱が終わった後、チューリップの大増産が始まるまで続く事となる。

 最終的には対話可能な人類の版図の多くにチューリップが配備され、銀河全域を結ぶネットワークとして機能していく事となる。

 

 

 ……………

 

 

 月面 A.I.M.月面支社にて

 

 「ひゅ~凄いね~こりゃ~。」

 「想定以上の発展速度だな。」

 「何でこの文明レベルでこんな優秀な兵器を大量生産できてるの…?」

 

 表側の外交はメキボス他同行する外務官僚らが担当し、裏側の軍事・技術力調査等に関しては三将軍指揮下の諜報部が担当した。

 が、外交に参加している事は間違いないので、彼らは彼らで地球側の軍事技術の多くを担う大企業が比較的狭い地域に集まる月の中立都市群へと訪れていた。

 

 「特に何だこのガーリオンとバタラ。ここまで簡易的な構造で何故これだけの性能が…?」

 「コストも低いし~こりゃうちにも売ってもらいたいもんだわ~。」

 「そうね。火力は兎も角、慣性・重力制御に空間歪曲バリアの搭載は素晴らしいわ。こちらのバイオロイド兵に使わせる分には優秀ね。」

 

 そして、彼らは地球人類の余りの軍事・技術力の発展ぶりに驚いていた。

 

 「プロトカルチャーの末裔の女王とその旗下の無人兵器らの支援があればこそだとは分かるが、だとしても…。」

 「でも~向こうさん、別にこっちとやり合いたい訳じゃなさそうだぜ~。」

 「そうね。彼らとしてはあの害獣、宇宙怪獣と呼んでるのだっけ?それへの対処で手一杯でしょう。」 

 

 事実、地球連邦政府としては是が非でも共和連合とは非戦関係でいたかった。

 そのためには不平等条約程度、幾らでも飲むつもりだった。

 何せ太陽系を出た直後に宇宙怪獣というデータだけだった存在から奇襲を受けたのだ。

 辛うじて太陽系外縁部調査試験艦隊は生き延びたが、それは彼らの奮闘以上に太陽系防衛無人機部隊の活躍が大きい。

 その様な状況を脱するべく、地球連邦は今回の戦闘を各企業と共に解析し、如何にしてこの無尽蔵の物量と高い戦闘能力を併せ持ち、亜光速で飛来してくる化け物共に対処するかと頭を悩ませていた。

 

 「何だこのフィジカルキャンセラーって…。」

 「物理法則への干渉或いは無効を可能とする超能力ってどう対策するの???」

 「おい、大型の個体は光子魚雷の直撃に耐えるってあるぞ。」

 

 が、遅々として進んでなかった。

 そりゃそうである。

 地球人類がちょっと頑張って解決策を出せる程度で済むのなら、宇宙怪獣がこの銀河で最大勢力を誇る訳がないのだ。

 なお、次点がインベーダーである辺り、この宇宙は実に(ry

 

 「仕方ない。コスト度外視で特機を量産するしか…。」

 「るくしおん級もだな。あれなら大丈夫だろう。」

 

 しかし、この考えは大いに甘かった。

 

 「プロトゲッターの量産?無理だ。」

 「プロトシズラー0の量産?駄目です。るくしおんは大丈夫ですが。」

 

 勿論、理由はある。

 プロトゲッターは本来のそれに比べれば高性能だが、それでもまだまだ技術的に未熟な点も多い。

 そのため、正式に量産ラインに載せるのなら、更なるブラッシュアップが必要だった。

 また、プロトシズラーも地球連邦軍における特機の運用データ蓄積のためのものであり、少数生産されたそれらは現在も適性ありとされたパイロットら向けの練習機として使用されている。

 はっきり言って、どちらも対宇宙怪獣としては非力に過ぎた。

 

 「るくしおん級は自動化を進めてより少人数での運用を可能にしたものを量産しようかと。ただ、コストがクラップ級の倍ですが。」

 「……致し方ない。その点は目を瞑ろう。所で自動化とは具体的にはどんなものなのかね?」

 「こちらになります。」

 

 担当者が示したのは、肩にA.I.M.のロゴが入った腕章を付けたメイドと執事達の姿だった。

 

 「彼・彼女らは全員がナノマシンで全身を構成されたヒューマノイドです。量産可能かつ大抵の仕事が出来ますのでお任せを。」

 「」

 

 特大の政治的爆弾に、レビル首相の胃壁は消失した。

 この超高性能ヒューマノイドの存在に、太陽系は今までで一番面倒な程に長く揉める事となる。

 

 

 ……………

 

 

 太陽系外縁部にて

 

 「まさか、4連装空間破砕砲の次元崩壊の影響でしょうか?」

 「どちらにせよ急いで回収を。医療班の手配は?」

 「既に。生体反応も二人分確認しています。」

 「状態は軽度の衰弱か…。」

 「にしても…この二人と一機が来てしまいましたか…。」

 

 「全損状態のガンバスター。そしてパイロット二人はバイタルデータからタカヤ・ノリコ中尉とオオタ・カズミ少佐とは……この銀河は一体どうなっているのやら。」

 

 炎を心に秘めた二人が、遂にこの銀河へとやってきた



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第21話 もみ消しと模索

しまった、ノノリリまで入らなかった(汗


 新西暦182年 夏 

 

 「自動化はもっと別の形にするように。」

 「了解しました。」

 

 様々な問題を孕んだヒューマノイド導入の是非は、ゴップ大将のこの一言によってお流れになった。

 

 「で、これで良いのかね?」

 「えぇ、恙無く。」

 

 ヒューマノイドの導入。

 これは政治的に明らかな戦略級核地雷だった。

 少なくとも、これの導入は事前に年単位の根回しや法規則の整理を必要とする程度には。

 それはゴップ大将やレビル首相が残る政治生命全てを使ってもなお終わるかどうか分からない程度には根深い問題だった。

 

 Q つまり?

 A 詳しくはアストロボーイ・鉄腕アトムを見てね!

 

 原作:手塚神かつ人間の怖さや愚かさ、頑なさが存分に見れる素晴らしいアニメぞ…!

 なお、この作品内ではAI搭載ロボットの社会参加による弊害で失業したりしたAIロボット排斥を叫ぶ人々のテロとそれに翻弄されるAIロボットと一般市民、そしてブチ切れしたAIロボット達による理想国家建設とその後の人類との戦争と、実にドロドロした問題が次々起こる。

 このアニメを日曜朝のアニメや特撮のゴールデンタイムでやろうという糞度胸には敬意を表する。

 そりゃゴップ大将も軍事的には有効かつ何れ必要と分かっていても、問題を先送りしたがる訳である。

 地球人類を守るための方策で、地球人類同士の内戦に繋がるとか、本末転倒も良い所だった。

 

 「ヒューマノイドを排斥、つまり我々がいなくなった時。人類にはその時の事を視野に入れておいてほしいのです。」

 「言わずとも君達におんぶ抱っこで居続けるつもりはないさ。」

 

 今現在は次の戦争までの準備期間だから良い。

 しかし、本当に目下の仮想敵がいなくなった時、地球人類の矛先はどちらに向かうのか?

 生き残るだろう宇宙怪獣?異星人の残党?共和連合?

 否、最も身近で自分達の近くにいるヒューマノイド、その総本山たるA.I.M.にこそ向けられるだろう。

 それを本人らが望んでいたとしても、ゴップはそれを断固として防ぐつもりだった。

 

 「だが、君達がいなくなると困る者も寂しがる者もいる事だけは覚えておいてほしい。」

 「承知しております。」

 

 ゴップは彼女らが何れ消えるだろうと何となく理解していた。

 何せ数々の梃入れはどう考えても後の事を考えていないとしか見えないからだ。

 A.I.M.という太陽系最大の企業グループでありながら、その働きは寧ろ公的機関に近い。

 そして、力を持ち過ぎた彼女らは自分達が恐怖され、排斥される側だとしっかり理解している。

 力を持った詳細不明の隣人なんて、一般人からすれば恐怖の対象だ。

 そして、人は恐怖に対して同化か排斥しか選べない。

 種族的に同化が無理なら、排斥しかない。

 その結果、地球人類は彼女らという庇護者を失い、他の勢力から袋叩きにされる。

 そうでなくとも、彼女らを巡って敵味方に分かれて争い合うだろう。

 が、本来なら部外者であると弁えている彼女らは、地球人類が己の生存権を守るだけの力を獲得したら、とっととこの世界から去る予定だった。

 故にこその後の事を考えない技術支援なのだ。

 

 「それと、本命の省力化に関してですが。」

 「あぁ、そちらは予定通りに頼むよ。」

 

 冥王星工廠基地の正式稼働によって確保された、新品の巨人族の軍用艦艇群並び機動兵器類と装備類。

 これらは地球圏に運び込まれ、現在は月にて各企業群が合同で解析・調査している。

 そして、巨人族の装備というのは元々プロトカルチャーの設計したものであり、何万周期も問題なく可動する極めて信頼性・耐久性・操縦性の高い代物なのだ。

 機動要塞など15万周期も普通だと言うのだから、地球人類他多数の知的生命体の作る兵器とは次元違いの技術力だとよく分かる。

 今回は入手したそれらの製造技術を解析し、今後作られる艦艇や機動兵器類に反映しようという計画だ。

 まぁ半年もあれば解析・実用化・試験・正式採用まで漕ぎ着けられるだろう。

 これさえあれば、概算だが一隻当たりの人員は半分近く削減される。

 その分ポストも減るのだが、ヒューマノイドに全部持ってかれるよりはマシと判断されている。

 機動兵器に関しては既に操縦系統にサイコセンサーを採用しているため、操縦系統に関してはそのままに機体構造の方にある程度反映される事となっている。

 

 「では最後に今夜の予定ですが…」

 「うーん……じゃぁ今夜は巫女さんで。」

 「畏まりました。御幣は付けますか?」

 「頼むよ。」

 

 そして、ゴップ大将(奥方は7年前に他界)はその夜、秘書兼愛人のメイドさんと巫女さんプレイに興じるのだった。

 そんな感じで、ゴップ大将のファインプレーにより、何とかヒューマノイド導入による政治的混乱は回避される事となった。

 

 

 ……………

 

 

 地球連邦軍北米支部 ラングレー基地にて

 

 「火力が足りんッ!!」

 

 アナハイムの担当者がその場の一同の意見を代表して叫んだ。

 事の始まりは今年の初頭、初の宇宙怪獣との戦闘だった。

 地球から出発した太陽系外縁部調査試験艦隊と宇宙怪獣の偵察用小艦隊との闘いは、一部の特化戦力によって辛うじて勝利に終わった。

 しかし、その内実は薄氷の上の勝利であり、その後の3億にも上る宇宙怪獣の大艦隊に対してはプロトカルチャーの遺産たる無人兵器と異星人の艦隊任せという余りにも情けない結果で終わってしまった。

 そして、戦闘データを解析して見えてきたのは、太陽系外縁部調査試験艦隊の圧倒的な火力不足という点だった。

 一部の戦力、即ちマクロスとナデシコ、るくしおんの三艦は互角以上に立ち回ったものの、他の艦はDFとジガンスクードの守りによって辛うじて大破を免れただけという体たらくだった。

 機動兵器においては何とか勝っていたものの、火力の低さから大型種を撃破する事は出来ず、専ら小型種の対応のみに専念していた。

 その小型種にしても物量が三倍近くあり、とてもではないが余裕は無かった。

 それでも何とかなったのは、三艦の艦砲射撃で敵小艦隊の陣形に穴が空き、そこをプロトゲッター1とプロトシズラー0の特機達が切り開き、連携を乱したからだ。

 敵大型種の中でも取り分け強力だった巡洋艦級混合型による亜光速突撃にしても、追随可能なるくしおんによって辛うじて最初の一撃以降は防がれ、全滅を免れた。

 だが、それ以外の戦闘の様子は初見かつ生物相手という事も加味しても終始押されていた。

 

 「このままではいかん。」

 「とは言え、今回の戦闘に使用された機体は何れも既存の機体と艦よりも高性能ですよ?これ以上となると……。」

 「太陽系外縁部と内部では使用する兵器を分けるべきだな。」

 「だな。想定する敵が違い過ぎる。」

 

 太陽系内部では彼らの常識が通じるが、外部ではそうはいかない。

 勿論、機動兵器や艦艇群の強化は必須だが、根本的な性能不足に関してはやはり新規設計となる。

 

 「GP03は余り活躍できなかったか…。」

 「まぁ想定してたのが対人類の兵器だからなぁ…。」

 「大型メガ粒子砲ですら威力不足とか…。」

 

 各企業の担当者達は頭を抱えた。

 これ以上の火力向上となると、簡単にはいかないからだ。

 

 「取り敢えず、戦術核弾頭の改良は進んでるのか?」

 「あぁ、そっちは反応弾の開発に成功したそうだ。今後順次生産と配備していくらしい。」

 「VFはそれで良いとして、MSはどうする?」

 「反応弾の使用に関してはジェガンの反応弾仕様のグスタフ・カールがあるだろ?当面は反応弾頭を装填したバズーカで凌ぐしかない。」

 

 グスタフ・カール

 ジェガンと共通の内部構造とフレームにザクⅡC型やGP02のデータを参考にした最新の対核装備と重装甲、増加した重量を補うためのスラスター群を追加したこの機体はジェガン譲りの操作性と整備性を持ち、尚且つパーツ共有率が7割近いためコストも比較的低いという素晴らしい機体だった。

 重装甲の割に追加されたスラスター群のお陰でスタークジェガンに匹敵する機動性も確保しており、既に試験中の機体は高い評価を得ていた。

 

 「所でソルデファーとスヴァンヒルドは…。」

 「あっちで担当者が死んでるぞ。」

 「まぁ良い所殆ど無かったからなぁ。」

 

 ソルデファーとスヴァンヒルド。

 決して悪い機体ではないのだが、その人型機動兵器としてのコンセプトが一年戦争時から殆ど変わっていないため、艦隊直掩で小型種を迎撃するのが精一杯だった。

 しかし、それならジェガンでも出来るし火力不足も変わらないとして現在は窮地に立たされていた。

 

 「……申し訳ないが、Z&R社はスヴァンヒルドを諦める。」

 「え?」

 「マジで?」

 「その分、艦隊防衛や直掩、拠点防衛に特化させた機動兵器を設計する。」

 「具体的には?」

 「スヴァンヒルドから機動性と余計な機能落として火力と射撃精度を上げる。」

 「要は砲台化ですか。ガンキャノンよりもガンタンクですね。」

 

 中途半端な機動性や近接戦闘能力等を削除し、火力と射撃精度を向上させる。

 つまり、他の機体で不足している火力を補うため、或いは艦隊火力の向上のための支援機にしようというのだ。

 更にZ&R社はビガース社、クラウラー社、センチネンタル社、クランスマン社等の旧式兵器の開発企業と共同開発(後に吸収合併)を行い、割り切った設計によって低コストながらも高い信頼性・火力・射撃精度を持った傑作デストロイドシリーズを生み出す事となる。

 が、同時に問題も起きた。

 

 「異星人の巨大兵器並び宇宙怪獣を大火力によって駆逐する。」

 

 こんなコンセプトを元にデストロイドシリーズ唯一の問題児が誕生した。

 そう、デストロイドモンスターである。

 ケーニッヒ・ティーゲル博士は昨今の対異星人・宇宙怪獣を念頭に置いたデストロイド開発に参加し、準特機とも言える機体の開発に着手した。

 

 「火力が足りない?じゃぁ大口径にしよう。」

 「当たらない?じゃぁセンサー系強化した上でレールガン化しよう。」

 「それでも火力が足りない?連装化しよう。どうせだから4連装だ。」

 「まだ足りない?弾頭を反応弾にしよう。腕部ミサイルランチャーもだ。」 

 

 が、ここまでやっても実弾兵装ではまだ火力が足りない。

 そのため、一度はこの設計案はお蔵入りになりかけたのだが…

 

 「話は聞かせてもらったぞ!」

 

 呼んでもないのに更なるマッドが追加されてしまった…(俯き)。

 

 「この敷島が貴様らに手を貸してやろう!」

 「何おう!他所者は引っ込んでおれ!」

 「何じゃと若造!」

 

 出会って早々大喧嘩、その後も口と拳で会話しながらも、敷島博士とケーニッヒ博士は次第に打ち解けて開発は順調に進んでいった。

 

 「どうせじゃ、弾を光子魚雷にしちまおう。」

 「何?」

 「機体動力も縮退炉にして、レールガンの弾速を亜光速まで上げるぞ。」

 「だが、それでは反動で機体が吹っ飛ぶぞ?」

 「テスラ・ドライブがあるじゃろ。あれ反動抑制にも使えるぞ。」

 「コストが上がる。だが、だが…!」

 「やっ て み た い じゃ ろ?」

 「そ れ も そ う だ な。」

 

 こうして、二人のMADはイイ笑顔で試作機を完成させた。

 こうして出来上がったのが全長40m、全備重量370tというデストロイド最大の巨体を持った怪物が完成した。

 これがデストロイドモンスターの開発秘話である。

 縮退炉からの溢れんばかりの出力を利用した亜光速レールガンにより発射された光子弾頭の一撃は、フィジカルキャンセラーを用いる大型の宇宙怪獣であっても通用する。

 大質量の亜光速の弾頭を止めるために一度使い、そこから更に発生するブラックホールならば攻撃が通るのだ。

 

 「面白いものを作っていますね。」

 

 そこに更にA.I.M.からの担当者が追加された。

 

 「とは言え、縮退炉を使ってはコストが高騰します。」

 「あぁ?それじゃ火力が落ちるじゃろ!」

 「なので、新型のプラズマリアクターを二基搭載しましょう。これで十分な出力を確保できます。」

 「ふむ…これなら排熱の問題も解決するな。」

 「後は脚部も大型化して後退防止用のドーザーも追加しましょう。これで多少なりとも発射時の衝撃を分散できるかと。」

 

 こうして、問題だったコスト面もある程度改善した事で、デストロイモンスターは日の目を見る事となったのである(白目)。

 が、当然ながら試験運用において数々の問題が起きた。

 

 「地上だとテスラ・ドライブ無しじゃ動けん。」

 「ホバーで移動するとクッソ遅い。歩いた方が早いとは一体…?」

 「あの、甲板や格納庫の床を踏み抜くんですけど…。」

 「普通のデストロイド向けの格納庫だと天井が足らん!」

 

 こんな感じでその巨体と重量から苦情が多発した。

 これにより危うくモンスターの採用は取り消されかけたのだが、連邦軍はその圧倒的火力に目を付けた。

 

 「対異星人・宇宙怪獣のためには確実に奴らを葬れるだけの火力が必要だ。」

 「重力下での運用には問題が多い?よし、宇宙でだけ運用しよう。」

 「下手に新型戦艦作って火力向上させるよりもこいつ作って拠点防衛や艦隊火力の補佐させた方が火力が出るな…。」

 「現在設計中のスペースノアの新型と改修中のヒリュウ、貰ったエクセリオンと砲艦のナデシコ級は兎も角として、数揃えるにはクラップ級が一番だしな…。」

 「足りない火力はこいつを揃えればいけるか…?」

 

 そんな紆余曲折を経て、合計500機近く生産された本機は太陽系内の重要拠点やコロニー駐留艦隊、各星系駐留艦隊、土星基地等に配備され、一連の戦乱初期において足りない火力を補う貴重な切り札の一つとして運用され、戦乱後期においても通用するその火力で最後まで戦い抜く事となる。

 なお、余りにも使い勝手が悪いからと移民船団等では後継機のケーニッヒ・モンスター(サイズ半分で火力は若干低下)が配備される事となり、ケーニッヒ博士は一時不貞腐れたという。

 

 「何じゃ、やる事ないんだったらワシの手伝いをせい。早乙女の所に行くぞ。」

 

 こうして招聘されたティーゲル博士は敷島博士と共にゲッターロボ運用のための母艦であるゲット・ボマーを開発、更なる火力主義へと身を浸す事となる。

 

 

 ……………

 

 

 「弱ったな…。」

 

 同じ頃、ソルデファーの開発元たるフレモント・インダストリー社ことFI社は困っていた。

 元々が航空機開発会社なので、ソルデファーの採用が無くなっても想定内だったが、それでも開発費用が回収できないのは痛い。

 かと言って現在それなりに高性能なソルデファーの改良並び後継機開発となると直ぐには出来ない。

 どうするべきか、と悩んでいると、にこやかな営業スマイルで彼に近づく者がいた。

 

 「お困りのようだね?」

 「おや、貴方はアナハイムの。」

 

 アナハイムからの担当者だった。

 

 「お宅は良いですな。ジェガンにグスタフカール。クラップ級の採用も決まりましたし。」

 「えぇ、ですがまだまだ問題があるのはご存知でしょう?」

 

 事実だった。

 何とか対策は打てているが、それでも根本的にアナハイムの商品はコスト最優先な所があり、太陽系内で運用するには十分だが、外では火力も機動性も装甲も足りない。

 

 「FI社さんは以前からサイコセンサーの改良を試みていましたよね?」

 「えぇ、まぁ。変形機構も試していますが中々……。」

 「よろしい、大いによろしい。どうです?私共と共同開発してみませんか?」

 

 この共同開発によってサイコミュを搭載した高性能・可変MSの試作機が多く開発された。

 FI社はボール状のエネルギーを思考誘導するスプラッシュブレイカーを搭載した可変機たるアシュクリーフを、アナハイムはZガンダム並びガンダムmkⅡからmkⅤまでが完成する事となる。

 しかし、この成果も技術開発料を払われる程度には評価されたものの「いや、可変機とかVFのが良いし」という無常な一言で切って捨てられ、「いや、このご時世にサイコミュって…何処に使い道があるの?」とコストが高く使い辛いサイコミュ兵器搭載機もお断りされた。

 この失敗を契機に経営難に陥ったFI社(アナハイムは他で稼いで補填)はこの共同開発を契機にアナハイムへと経営合併、旧経営陣もそこそこの役職を割り振られる形で分散されて完全に吸収される事となる。

 が、この時の開発データが元となり、アナハイム最高の開発の一つとされるサイコフレームの完成へと繋がる事となる。

 

 

 



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第22話 開発に次ぐ開発

あかん、書くべき事が多過ぎてノノリリに届かないー!
これの他に各艦艇の改良とかまだ残ってると言うのに!


 新西暦182年 夏 いつものラングレー基地

 

 Z&R社のデストロイドシリーズの誕生や各MSやVFの反応弾の採用が決定した頃。

 他の企業群もまた、死力を尽くして対宇宙怪獣を想定した兵器開発・改良に万進していた。

 先ずはイスルギ重工から見てみよう。

 

 「やはりと言うべきか、ガーリオンじゃぁ火力が貧弱過ぎますか…。」

 「まぁ実弾兵装主体ですからねぇ。」

 

 ガーリオンは良い機体である。

 しかし、ジェネレーターをプラズマ・ジェネレーターではなく、通常のミノフスキー式核融合炉(それでも一年戦争当時よりも高性能)を採用したためにどうしても武装に回せる出力が他の機体に比べて低いのだ。

 

 「武装に関してはジェネレーターをプラズマ・ジェネレーターに換装した上でビーム兵器を搭載するか…。」

 「近接武装のアサルトブレードは整備の手間がかかり過ぎて不評でしたし、思い切って手首にビームガン兼用ビームサーベルを設置しましょう。」

 

 これは他の機種で実戦証明済みなため、直ぐに採用された。

 

 「問題は射撃兵装か。」

 「ビームライフルはオプションで装備可能でしたが…。」

 「レールガン自体は好評でしたからね。ビームバズーカとかどうです?」

 「それも有りだが、FI社のソルデファーが使っていたビームマシンガンがあったろう?アレをガーリオン向けに手直しするのはどうだ?」

 「良いですねそれ。」

 

 元が良い機体で全機種がユニバーサルコネクターを採用しているだけあって、この辺りはすんなり決まった。

 が、それだけで満足するなど地球の大企業には有り得ない。

 

 「それでも火力低いな…。」

 「デストロイドでしたっけ?アレらを参考にうちも砲撃特化のAM作ってみますか。」

 

 この時の話が元で、簡易式デストロイドモンスターとも言えるバレリオンが生まれる事となる。

 なお、ヘッドレールガンは後に連装式になった上、最終的に弾頭も通常弾から反応弾へと変更される模様。

 そこまでやってもデストロイドモンスターの半分近いコストだったりする。

 

 「機動性の向上は今は置いておくとして…。」

 「確か恒星間航行機開発計画がEOTI機関で進められてたろ。そっちの人を呼ぼう。」

 

 これがプロジェクトTDチームnイージス計画参加の発端であり、完全健康体のドルオタなフィリオ・プレスティ博士が大活躍する切っ掛けだった。

 

 「ジガンスクードの方はコクピット周辺を球体状の装甲で覆って、それごと脱出装置化する予定です。」

 「GBのマルチロックオン拡散化については…。」

 「ビームなら兎も角、重力兵器は難しいとA.I.M.さんから言われました…。」

 「そうか…。」

 

 彼らもアプサラス式のマルチロックオン拡散メガ粒子砲の技術は手に入れていたが、実装するには色々問題があった。

 特に小型化とコストと排熱の問題が。

 

 「お困りの!」

 「ようですな!」

 

 そう言って現れたのは、ネルガルとクリムゾングループの担当者らだった。

 何か背中合わせで片てで顔半分を隠す妙なポーズを取って現れた。

 こいつら紅魔族でも乗り移ったのかな???

 

 「どうしたんですお二人共?」

 「いえ、うちでもジガンを生産してるじゃないですか?」

 「どうせですし、ジガンベースでアプサラス式メガ粒子砲を組み込もうかと。」

 「む。」

 

 それはイスルギでも考えられたが、上記の課題がクリアできずに頓挫していた。

 

 「こちらのデータを。」

 「これは…。」

 「ジガン本来の盾としての役割は捨て、純粋な砲撃用特機として再設計したものです。」

 

 そのデータには上半身が丸々ジガンスパーダとなったジガンスクードの改良機が表示されていた。

 人型の腕部と盾は無くなり、胴体のGBと両腕だった場所に備えられた片側2門ずつの巨砲が目を引く。

 

 「成程、大胆な改装ですな。」

 「システム的にジガンスクードよりも大型かつコストも高くなりましたが、これで漸くアプサラス式メガ粒子砲の量産が叶います。」

 「しかし、ジガンは今も各方面の連邦宇宙軍で取り合いになっているのでしょう?おいそれと生産できるとは…!」

 

 そこまで言って、イスルギの担当者は気付いた。

 

 「成程。そちらは主力機の採用で落ちていたのでしたな?」

 「えぇ、ですのでこいつの生産はこちらが請け負いたいと思っております。」

 「そちらには引き続きガーリオンとジガンスクードの生産をお願いしたいのですよ。」

 

 勿論だがその分の受注生産分の利益はそちらに行く。

 特許やら何やらの関係で利益は決して0ではないが、それでも直接受注するよりは低くなる。

 それは次期主力機の採用で実質落ちている二社にとっては大きな利益となるだろう。

 何せこのジガンスパーダはデストロイモンスターと並んで太陽系を守るための剣となり得る性能を持っている。

 圧倒的多数かつ巨大な宇宙怪獣の防御を突き崩すだけの火力とマルチロックオン能力はそれだけの価値がある。

 

 「ですが、そちらはナデシコ級の正式採用が決まったのではありませんかな?」

 

 しかし、ここでイスルギ側もただ飲み込むだけなら企業でのエリートなんてやっていない。

 即座に痛い所を突き返した。

 先の戦闘で、ナデシコ級は砲艦としての価値を大いに示し、コストもそこまで高くなく、真空での運用に限るとは言えDブロックによる極めて高い防御力・耐久力を持つ事からも採用は本決まりし、現在対空火器を増設した制式モデルがネルガル・クリムゾン両方の造船所で順次建造中だった。

 

 「えぇ、御蔭さまで。」

 「中々潤っていますよ。」

 

 ニコニコ、ニコニコ。

 三者の安心できない笑みは結局、この話を渉外担当へ渡す形でお流れとなるのだった。

 後に正式採用されたジガンスパーダはジガンスクードと並んで艦隊・重要拠点防衛のための盾にして剣たる兄弟機として運用される事となる。

 なお、パーツの互換性が高い事から既にジガンスクードの配備されている部隊に優先的に配備された事から、また現場で激しい取り合いになってしまうのだが、それは置いておく。

 

 

 ……………

 

 

 その頃、マオ社からの担当者らも悩みを抱えていた。

 

 「う~~ん。」

 「これ以上どう改修せいと…。」

 

 ゲシュペンストは採用の決まった主力量産機の中で、最も堅牢かつ高性能な機体だった。

 白兵戦・格闘戦に重きを置いたムーバブルフレームを採用した機体構造は武装無しでの打撃戦においてすら一切壊れず、高い信頼性を誇る。

 更に高い機体出力と豊富なオプションにより火力も機動性も高い。

 その分、コストは最も高くなっているが、それを飲み込む程度には優れた機体性能を持っていた。

 

 「取り敢えず、左腕部のプラズマステークですが、オプション式にしちゃいましょう。」

 「まぁ射撃戦だとデッドウェイト化しているからな…。」

 

 悪くはないのだが、無駄な重りになっていると言われてしまったのなら外さねばならない。

 

 「開いたスペースにはウェポンラックを備えて、標準装備としてバタラのビームシールドを付けましょう。」

 「確かに防御手段として優秀だし、近接戦闘にも使え、おまけに軽いから有りだな。」

 「出力に余裕もあったし、これで行けるな。」

 「けどコスト更に上がってね?」

 

 最後の一言に、全員が俯いた。

 それは彼ら全員が自覚していた事だったからだ。

 

 「このままじゃ主力機に採用してもらってもアナハイムに持ってかれかねんぞ…。」

 「ジェガンもかなり良い機体だからなぁ…。」

 「うぬぬぬぬ……!」

 

 頭を抱える一同に、唐突に救いの手が差し伸べられた。

 

 「あの、ちょっと良いですか?」

 「おや?君はジオンの技術者の…。」

 「えぇ、実は本国からゲシュペンストを主力機として採用したいと言われまして。」

 「「「はぁ!?」」」

 

 曰く、今後の対異星人・宇宙怪獣相手では既存MSの改修機ではどうにもならない。

 曰く、だったら新しい機体を購入するか開発するしかない。

 曰く、でも技術者殆ど派遣中で開発できないの…。

 曰く、だったら購入するしかないじゃない!

 

 「で、うちのゲシュペンストが欲しいと?」

 「えぇ、まぁ。」

 「だが何でうちなんだ?コストならイスルギやA.I.M.さんの方が…。」

 「今後の改良の土台となれるだけの冗長性と少ない数でも異星人に対抗できるだけの性能が欲しいとの事です。」

 「あー確かにガーリオンもバタラも構造が単純か小さいかでコスト低くして生産性高めてる所あるからなぁ…。」

 「それに見た目もジオン系MSに近いから現場でも受け入れやすいだろうって事でして。」

 「あー納得。」

 

 そんな訳で、ゲシュペンストは全機が順次後期型に改修され、連邦軍で余り採用されなかった枠は全てジオン共和国仕様(モノアイ版)として輸出される事となった。

 これには一部苦言を呈する者もいたが、「運用・改修データは全て連邦とメーカーであるマオ社に提出する」というマ・クベ首相との契約によりGOサインが出た。

 が、マオ社はこれだけで満足できる程に意識の低い企業ではなかった。

 

 「火力はまぁ一旦置くとして。」

 「機動性、ですね。」

 「亜光速で突っ込んでくるとか何なの…?」

 

 現状、亜光速突撃に対応できる戦力はるくしおん級と太陽系防衛用無人兵器達のみで、人類側は碌な対抗手段が無かった。

 相手が加速する前に圧倒的火力で叩き潰そうぜ!というコンセプトの絶対火力主義のデストロイドモンスターや相手の攻撃位受け止めてみせらぁ!なジガンスクード、そしてこっちも亜光速じゃオラぁ!なプロトシズラー0位しかいないのが現状だった。

 

 「取り敢えず、テスラ・ドライブ沢山載せててみるか。」

 「理論上は亜光速までいけるらしいですしね。」

 「おや、面白そうな事をしているね?」

 

 そこにひょっこり現れた二人の人物に、マオ社の担当者達は驚いた。

 

 「あ、テム博士にミノフスキー博士!」

 「亜光速、か。実に面白そうな題材ですな博士。」

 「うむ、ワシらも少し混ぜてくれるかのう?」

 

 これが後に「MSにしてMSにあらず」、「特機級なのにMSサイズ」、「初の亜光速戦闘対応MS」として知られる傑作機ヒュッケバイン開発の始まりであった。

 

 

 



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第23話 次への課題と再会

 新西暦182年 秋

 

 機動兵器の改修・開発・再設計が順調に進んでいく中、艦隊再編計画は停滞していた。

 

 「亜光速戦闘対応で統一すべきだ!」

 「予算が足らんだろうが!復興が終わったとは言え、予算は有限なんだぞ!」

 「全部るくしおん級とナデシコ級で統一したら予算が3年分になるんですが…。」

 「だからといって宇宙怪獣対策を疎かにする訳には…。」

 

 宇宙怪獣との戦闘から、その圧倒的戦闘能力と物量に衝撃を受けた連邦軍は何とか対策を講じようとしているのだが、遅々として進んでいなかった。

 原因はただ一つ、予算不足である。

 今年度は既に予算割り振りが終わり、これから本格的に建造していこうという段階だったのだ。

 それが宇宙怪獣との戦闘により、「現状の艦隊再編計画では勝てない」と判明したのだ。

 一年戦争の経験から現場からの声に真摯に耳を傾けるようになった連邦軍上層部はこの問題に対してどうするか考え続けた。

 

 「よし、るくしおん級とナデシコ級の割合を増やそう。」

 「スペースノアとヒリュウの本格的な亜光速戦闘対応への改装をしましょう。」

 「エクセリオン級だったか、あの艦へ割り振る人員の選抜も始めよう。」

 「マクロスに関しては太陽系防衛用無人部隊の旗艦を参考に改装しよう。バリア持ちに対しては近接戦闘が有効らしいしな。」

 「太陽系の外縁に近い場所には亜光速対応、そうでない場所は既存の改修で済ませる他あるまい。」

 

 ここまでは割とすんなり決まった。

 しかし、「実際に各艦の生産割合をどの程度にすべきか」では大揉めした。

 結局、計画当初のクラップ級主体の計画から、クラップ級の割り当てを少なくし、るくしおん級とナデシコ級の割合を大幅に増加する事となるのだった。

 そして、その高い艦載機運用能力と機動性、ブロック構造故の改装の容易さと耐久性からヒリュウ並びスペースノアは大破した艦首にそれぞれGBと重金属粒子砲の搭載を始めとした亜光速戦闘並びISA戦術艦へと正式に改装される事となる。

 後のスペースノア級はこの二隻のデータを元に全艦が亜光速戦闘対応で建造され、各艦が空母・砲艦・強襲揚陸艦として艦首ブロックと両舷のみ異なる仕様に異なる形で建造されている。

 ナデシコ級も同様であり、対空レーザー砲の増設並び機動性・索敵性能の強化を始めとした亜光速戦闘対応改装がなされ、後の同級は全てこの状態で正式に生産される事となる。

 

 「エクセリオン、どうします?」

 「乗員は艦載機のパイロット含めて2万人ですか…。」

 「どっから人員出しますかねぇ…。」

 「艦載機はVF含む航宙機なら800機、MSなら400機以上…。」

 

 そして、エクセリオンをどう使うかでも揉めていた。

 何せ現存するドロス級2隻を上回る艦載機運用能力と光子魚雷を始めとした無数の武装による超火力を誇るのだ。

 足回りもそのサイズにしては極めて良好であり、単独でのフォールドも可能となっている。

 なお、トレミィらの技術によって強化されているため、原作よりも高性能になっている模様。 

 

 「土星基地に回すか?」

 「馬鹿言うな。あそこの人員の半数以上がこの艦に取られるぞ」

 「それにもし反乱を起こされたら地球圏が終わるぞ。」

 

 そうなのである。

 連邦軍上層部としては反乱防止等も考えてこの艦を運用しなければならないのだ。

 しかも、今後も同級は増えていく予定なのだ。

 

 「宇宙怪獣相手にはこれ以上なく頼りになるんだが…。」

 「地道に人員を募るしかあるまい。」

 

 忘れられがちだが、この世界の地球は一年戦争での人口の消耗が少ない=人材が多くいるし、教育すればものになる人材も多い。

 如何に火星・水星・木星・土星に入植しているとは言え、まだまだ地球環境を浄化するまで減らす人口は多いのだ。

 

 「無人防衛部隊が組織される訳だ。こんな巨艦、まともに運用していては人材が払底する。」

 「とは言え、政治的爆弾なぞ抱えたくないですしな。」

 「折角コーディネーター問題も事実上消えたのですし、新たな火種は熾さないに越した事は無い。」

 

 そういう訳で、エクセリオン級の運用は普通に地球連邦宇宙軍の人員で運用される事となる。

 なお、内部にはそれなりの数のナノマシン式自動人形(見た目はメカ)がいるし、艦のメインCPU内の人工知能のお陰で大分運用は楽になっている模様。

 

 

 ……………

 

 

 同じ頃、共和連合もまた頭を抱えていた。

 それは枢密院特使メキボスが持ち帰ったお土産に関してだった。

 エクセリオン級とその中身?

 それはそれで問題だけど違う。それに高度なフォールド技術は寧ろ大歓迎です。

 地球連邦政府との対等な関係での通商条約?

 それは想定範囲内だったし、多少過激派から文句言われても通すから良い。

 真に問題なのはチューリップ型超長距離ゲート搭載のターミナルコロニー(自力での単体フォールド可能)の存在だった。

 

 「どうするんだこれ…。」

 「というか、何処に設置するかも問題だぞ。」

 「確実に位置情報と流通情報はばれるし、かと言って解体するには余りにも惜しい…!」

 「何なんだこのオーバーテクノロジーは…。」

 

 共和連合もワープ航法は実用化しているが、重力の関係で行える場所が限定されている等の問題がある。

 しかし、このターミナルコロニーはその辺りを完全にクリアしている上に、理論上銀河の端と端からノータイムで移動可能なのだ。

 唯一、生体を送るにはDF等の空間歪曲力場や重力波での防御を必要としているが、そんなもの些細と言って良い程に革命的な代物だった。

 

 「これは、女王からのメッセージでもあるな。」

 「やはりか。」

 「こちらと争う気はない、か…。」

 

 当然の話だった。

 地球連邦の軍備はその文明の発達度から見れば驚異的であり、自分達の足元へと急速に追い上げてきている程だが、宇宙怪獣こと生体災害相手には未だ対抗できていないし、巨人族からも身を守らねばならない。

 そうなると、少しでも敵を減らして備えなければならない。

 話し合いの通じない生命災害や巨人族に対して、共和連合は話し合いが通じるというだけで大歓迎すべき勢力だった。

 

 「今後とも商売をし続ける程度には仲良くしたい、という意味だろうな。」

 「では、通商条約に関しては予定通り良しとして…。」

 「高度フォールド技術も解析中です。何れは流通改革は我々単独でも起こせるでしょう。」

 「成程、良いタイミングで売り込んだものだな。」

 

 既にワープ航法は条件付きだが運用している共和連合にとり、技術情報もあるのだから何れは同じ領域へと到達できるだろう。

 なので、その前にお手本兼見せ札兼積極的通商の切っ掛けとしてのターミナルコロニーの贈呈である。

 

 「宜しい、乗ってやるとしよう。」

 「とは言え、何を売り出すのだ?」

 「先ずは互いの文化的交流を促すべきだろう。民間に任せてみるさ。」

 

 意訳:政府が先に手出しして火傷するより、先にゴライクンル辺りに任せてみようや。ビジネスチャンスだし大丈夫やろ別に。

 流石は枢密院、食えない連中である。

 

 「で、機動兵器だが…。」

 「技術者らも頭を抱えていたぞ。何故この文明発達度でここまでの兵器が出来るのかと。」

 「まぁ女王とその配下の無人兵器らの梃入れだろうな。」

 「それにしたって異常ではある。」

 

 MSに特機、VFを始めとした各種機動兵器の解析データを見て、枢密院が思った事を地球風に例えると…

 

 「何でこいつら、第二次大戦以前の文明なのに超音速ジェット戦闘機実用化してるの???」

 

 といった具合である。

 自分達はF-22が型落ちしてる状態だけど、この発達速度はヤベェと思わされていた。

 

 「加えて、我らよりも高出力の機関を実用化しているのがな。」

 「縮退炉か。あの艦や大型機に搭載されている奴だな。」

 「これに関してはゴライクンルの連中も脱帽していたぞ。」

 「いい気味だ。奴らも偶には困るがいい。」

 

 実際、数々の共和連合製兵器の開発・生産を請け負うゴライクンルは今回の一件に頭を抱えていた。

 主機関というのはその更新に多大な費用と地道な研究開発を必要とするものであり、幾ら性能が高くても信頼性が落ちるのでは話にならないと嫌悪される事もあり、ブラックホールエンジンからの更新は遅々として進んでいなかった。

 

 「まぁ有り難く使用させてもらうとしよう。」

 「そうだな。技術者達もこれを契機に奮起してくれるだろう。」

 

 彼らは知らない。

 自分達が漸く縮退炉の解析を完了し、量産段階に入った頃にはより小型化が進んだ傑作機ヒュッケバインが実用化され、更には「人の精神をエネルギーへと変換する技術」が正式に開発されるという事を。

 それらを解析するには自分達の宿敵とも言えるゼ・バルマリィ帝国ならびズール銀河帝国の専売特許である念動力関連の研究(二勢力に比べて全っ然進んでない)を進めなければならないという事を。

 一連の戦乱が終わる頃には、最終的に技術面では完全に追い抜かれるという事を。

 彼らはまだ知らない。

 

 

 ……………

 

 

 火星 A.I.M.秘匿ドック内医療施設にて

 

 「ノリコ!カズミィ!」

 「ちょ」

 「ゆんgぐえっ!?」

 

 回収されて治療を終え、漸く意識を取り戻した二人の元へと諸々の仕事を終わらせて最速でやってきたユングは一切の躊躇なく二人を抱き締めた。

 

 「バカバカバカ!私が、残された皆がどんな思いで待ってたと思ってるのよ!だってのに人の気も知らずにグースカ寝て!」

 「ごめんなさい…。」

 「ごめん、ごめんねユング…!」

 「ゆ゛る゛ず!」

 

 そこからはもう、意味のある声は聞こえてこなかった。

 同じ世界線からの漂流者たる三人は今生の別れを覚悟していながら、それでも望んで止まなかった再会を果たして歓喜に咽び泣き続けていた。

 

 「ぐす……。」

 「どうぞ、ハンカチです。」

 「ありがど。」

 

 それを病室の外から見ていた自動人形達とその主は病状が悪化しないか見守っていた。

 

 「良かったなぁ…。」

 「はい、最近では珍しい慶事かと。」

 

 タカヤ・ノリコとオオタ・カズミ。

 彼女らはどちらもTFの介入の無い原作のエーテル宇宙出身であり、因果律の測定からユング大統領と同じ世界線からの来訪者である可能性が濃厚である事が分かっていた。

 この調査結果を知った時から、ユング大統領は普段以上に仕事を精力的にこなし、間も無く目覚めるという知らせを受けた時には即座に地球のA.I.M.本社へと訪れ、そのまま地下のワープ施設にて火星へと赴いた。

 そして、上記の再会と相成ったのである。

 

 「…それで、ガンバスターの方は?」

 「予想通りですが、大破です。修理は不可能かと。」

 

 一方、一緒に来ていたガンバスターは完全に大破しており、搭載CPUが辛うじて動いていた予備電源でコクピットの生命維持機能やイナーシャルキャンセラーを騙し騙し用いて辛うじて二人を守り続けていたのだ。

 が、無理が祟った結果、もう搭載CPU含めて完全にお釈迦になっていた。

 今後は解析し、データを取った後は保管し、何れ本体と合流した暁には彼女らが行くべき時間軸へと送り出す予定だ。

 なお、ユング大統領に関しては偽名や戸籍を用意した上で同じ時間軸へと送る予定となっている。

 最早あの三人を引き裂くものはないのだと。

 それが地球を、人類を守るために必死になってくれた三人への、トレミィ達の出来る細やかな贈り物だった。

 

 「幸い、メモリー自体はある程度回収できました。新たなハードに入れれば動作はします。」

 「でも、完全じゃないんでしょう?その時点でガンバスターじゃないんだし、休ませてあげよう。」

 

 最後までパイロット二人を愚直に守り続けたガンバスターに敬意を表し、眠らせる事を選択した。

 勿論、パイロット二人の意向は最大限汲むつもりだが、あの二人も同じ選択をするだろうな、とトレミィは思っていた。

 

 「では、残されたメモリーの断片は如何しましょう?」

 「G.G.に注入しちゃおうか。同じバスターマシンの系譜だし、今後来るだろう戦いに役立つでしょう。」

 「了解。では以前から進めていたパイロット保護を前提とした改修案を進めていきましょう。」

 

 こうして、漸くノノリリとその親友は再会を果たす事に成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、そう言えばこの世界の貴方達二人と家族、オオタ中佐(現在は大尉)とか皆生きてるからね。」

 「「え。」」

 

 なお、二人の戸籍・偽名作成はプライスレス。

 




やっっっっと三人の再会書けた!
これがやりたかったからこそ、面倒な手順踏んだまである。
ちょっとあっさりだったけど、無理に文字数多くしても違和感あるので敢えてあっさり。
なお「オカエリナサト」と言わなかったのはわざとです。
この世界は彼女らの居場所じゃない、本当に帰る場所は別だからね、という意味で。

この感動がより濃く味わいたかったから「トップをねらえ!」1と2を見ようね!
お勧めは両方の劇場版を一気見だよ!
音声のズレが気になる方はOVA版を見よう!


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第24話 戦力再編計画と商売四方山話 そして…

不穏なラスト。
誰が誰だか分かったかな?


 新西暦182年 冬

 

 この時期から暫くの間、太陽系は小康状態が続いた。

 太陽系の外の脅威、それを直に体感した地球連邦政府はこれまでの楽観を捨て、一年戦争後という「戦後」から次なる戦争、即ち対外防衛戦争並び銀河への進出を目標とした「次の時代」へと目を向けるようになった。

 これらの動きはレビル首相やゴップ大将、そして各大企業群のトップとジオン首脳部等は既に意識して動いていたが、太陽系全体の意識改革となるとこの時期からとなる。

 

 「艦隊再編計画を修正し、対外防衛戦力の整備を開始する。」

 

 レビル首相の宣言に続く形でゴップ大将が発表した対外防衛戦力整備案は以下の通りとなる。

 

 1、艦隊建造の割合はクラップ4・るくしおん3・ナデシコ2・他1とする。

 以前はクラップ級の割合が6、るくしおんとナデシコが1ずつ、他2となっていた。

 また、るくしおん並びナデシコ級は拡張工事の開始された土星基地から優先的に配備される予定となっている。

 なお、その他にあたるエクセリオン級は冥王星工廠基地にて防衛用無人機部隊が建造したものを購入する形となる。

 

 2、各種機動兵器並び既存艦艇の対亜光速戦闘対応への改修。

 既にして限界まで改修されているマゼラン・サラミスを含めた艦艇群は、各種レーダー・センサー群の強化と更なる対空能力の向上と自動化の促進。

 亜光速の領域にまで突入した戦場では人間の指示では間に合わない所も多くなっており、対空砲火等の人の手の余り必要のない部分は自動化の割合を増やさざるを得なくなっていた。

 これにはポストの減少により嫌がる意見もあったが、艦隊の数自体はそれ以上に増やすため、余り問題視されなかった。

 機動兵器に関しては各種レーダー・センサー群の強化に加え、反応性の向上が図られた。

 本当なら文字通りの意味での亜光速戦闘を可能とする機動兵器が必要なのだが、そちらはまだ開発段階にあり、一部特機しか対応できてない。

 そのため、少しでも生存率を向上させるべく、サイコセンサーの感度向上並びバイオCPUへの交換、OSの改善、コクピット回りの耐久性向上ならび今一つ信頼性の低い脱出装置の改善が成される事となる。

 

 3、特機構想の大々的発表並び民間からの正式公募の開始。

 既存の特機構想を拡大したものであり、今までは実質一社が行っていた特機開発計画を本格的に連邦政府支援の下で行う。

 とは言え、既に主体となっていたA.I.M.には十分配慮して、看板が変わっただけである。

 また、民間が独自に細々と開発している特機他機動兵器等の研究に対して政府が出資、場合によっては特許や機体が正式採用、或いは購入される。

 これに関しては民間の研究所から既に数件の募集が入っており、宇宙開発公団や破嵐グループ、21世紀警備保障、シャフトエンタープライズ等の多くの中小企業が現在審査中となっている。

 

 4、人員募集枠の大幅増加

 このままでは確実に人数不足に陥ると見た連邦軍による人材募集。

 特に何等かの分野で特段に優秀な者は通常よりも技能分の追加ボーナスが出る。

 が、現在太陽系全域で開拓並び生産ラッシュが起きている現状、これで来てくれる人員は少なかった。

 そして、そんな状況で雇用対策でもある軍へ来る者は一癖も二癖もある者であり、大体そういった人員は纏められて運用され、その中でも特に癖のある連中が独立愚連隊「マーチウィンド」として活躍し、一躍有名となるのだった。

 

 この動きは次の戦争、即ち新西暦187年まで続き、それまで地球連邦軍は確実にやってくるであろう外宇宙からの侵略者を相手にその牙を研ぎ続ける事となる。

 

 

 ……………

 

 

 斯様に軍事面で地球連邦政府が必死になっていた頃、民間においては戦後初の好景気として沸いていた。

 と言うのも、ワープ技術を搭載したターミナルコロニー群が民間に解放された事により、月・火星・金星・土星、そして共和連合への移動がある程度条件付きとは言えノータイムで行える事となったのが大きい。

 これにより流通革命が起き、今まで他の星にまで行けなかった中小企業にもチャンスが巡ってきたのである。

 が、全てのものがその流れに乗れた訳ではない。

 何せこのターミナルコロニー群はまだまだ出来たばかりであり、初期は月と共和連合(勢力圏の何処か)しか繋がっておらず、しかも利用価格は結構するのである。

 勿論、上手く商品を捌ければ十分ペイできる程度の額だが、最初期は殆どの企業が躊躇いを見せた。

 

 『どうも~ゴライクンルです~。』

 

 正式な通商条約締結直後、そこに現れたのが三河屋か何かの様な挨拶と共にやってきたゴライクンルからのセールスマンだった。

 彼らは兵器類ではなく、先ずお互いの文化や趣味嗜好等から交流するべきだと食料や文物等、娯楽用の民需品等を持ってセールスにやってきたのだ。

 

 「買います。」

 「うちも!」

 「こっちもだ!」

 

 そこから先は早かった。

 真っ先にA.I.M.が食い付いたのを見て、我も我もと他の企業群も食い付き始めたのだ。

 勿論、お値段はターミナルコロニー利用料金分を差し引いても割とボラレたが、この商売は歴史に残る一回目であり、その程度は互いに想定内であるため、大量に持ち込まれた各種商品は一時間足らずで売り切れとなった。

 

 『毎度有り~。』

 「所でうちの商品どうです?空荷で帰っては損でしょう?」

 「うちのもどうです?先ずは民間交流からという事で…。」

 『おやおや、これは勉強させてもらいましょか~。』

 『「「ふっふっふっふ…。」」』

 

 海千山千の商人連合と地球の企業群の銭を用いた戦争はこの時から始まり、次の商売の約束を交わすのだった。

 銭の繋がりは時に国家の思惑を超えていく。

 今一つ警戒を崩す事のなかった共和連合と地球連邦はこの時から民間の交流が活発化、徐々に互いへの態度を軟化していく事となる。

 それにターミナルコロニーの追加建造が拍車をかける事となり、活発化した商取引は両勢力を否応なく近付かせていくのだった。

 

 Q つまり?

 A どっちかが滅んだり経済恐慌起きるともう片方にも大打撃☆

 

 これが原因で後に両勢力は相互軍事条約を締結、正式な同盟国となるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦183年 初頭 某所

 

 『由々しき事態だ。』

 

 暗がりの中、モニターだけが浮かぶ空間で、モニターの一つから声が発せられた。

 

 『確かにな。』

 『その点に関しては異論はない。』

 

 他のモニターからも続々と同意を示す言葉が出て来る。

 

 『だが、どうする?』

 『地上人共の発展は我々の予想を超えている。迂闊に手出しは出来ん。』

 『然り。やるならば確実に仕留めねばならん。』

 『最近、我らの存在に感付いてか各地への探索も進んでいるぞ。』

 『残された時間は少ないか…。』

 

 明らかに物騒な内容に、しかし顔を顰める者はいない。

 この場で通信している全員が、今の太陽系の状況を忌々しく思っているからだ。

 

 『フン!猿共なぞ我らだけで十分よ!』

 『ハ、ゲッター線で溶ける貧弱な蜥蜴が何じゃと?』

 『貴様…!』

 

 明確な嘲りに、モニターの一つに移っていた人型の爬虫類染みた存在が擦過音にも似た唸りを上げる。

 

 「五月蠅い。」

 

 ピタリと。

 突如響いた声一つで、全員が静まり返った。

 

 「貴様ら、今日まで人間共の跋扈を許していた程度の者が何を騒いでおるか。」

 

 声を発した存在、それは巨大な石像だった。

 だが、真に恐ろしいのはその内部にいる恐るべき存在だった。

 この場でモニターを通じて話しているだけだと言うのに、その存在の恐ろしさを知る面々はただひれ伏す事しか許されない。

 

 「レムリアめが表に出たとあっては、最早猶予は少ない。彼奴らが態勢を完全に整える前に、何としてもムーの末裔を皆殺しにし、ムートロンを手に入れねばならぬ。」

 

 ギシギチと、圧倒的プレッシャーがモニター越しに一同へと伸し掛かる。

 石像の中で1万2千年もの長き眠りについておきながら、その力は一向に衰えていない大帝の力に、一同は全身を恐怖で震わせていた。

 

 「が、それも間も無く終わる。」

 

 腹立たしさを隠そうともしていなかった大帝のプレッシャーが突如和らいだ。

 

 「漸く交渉が終わった。数年もすれば我と力を等しくする者共がこの星を目指してやってくるであろう。」

 

 ざわり、とモニターの向こうの者達が驚愕で顔を歪めた。

 唯でさえ自分達の敵わない大帝が、自らと力を等しくする者達?

 それは一体どんな悪夢だと、それぞれが野心を持っている一同は絶望で心折れそうになっていた。

 

 「地上の人間共の目が宙へと完全に向いた瞬間、その時こそを狙う。無論、失敗は許されぬ。お前達の身命を賭して千載一遇の機会を掴み取るのだ。」

 

 これから一体、自分達の欲するこの星はどうなってしまうのか?

 野心を秘めつつも、それ以上の危機感を抱えた一同は、今はただ従うしかなかった。

 

 

 

 



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第25話 光の翼

 新西暦183年 夏

 

 「ついにねんがんの ミノフスキードライブ がかんせいしたぞ!」

 「父さん、嬉しいのは分かるけど落ち着いてくれ。」

 

 幾度もの徹夜とハイテンションと発狂と気絶を乗り越えた果て、ミノフスキー物理学は遂に亜光速の領域へと到達した。

 なお、テム博士の周辺には彼を寝かそうとするアムロと死屍累々の開発メンバー達が横たわっている。

 

 「とは言え、未だに小型化は出来ておらんがの。」

 「博士、起きてらっしゃっても大丈夫なのですか?」

 「ほっほっほ、まだまだ若いのには負けんよ。」

 

 先日、狂乱状態の開発現場でぶっ倒れたミノフスキー博士も、研究の集大成の一つを見にベッドから起き出してきた。

 

 「これで漸く艦艇サイズか…。」

 「まだまだ道は長いですな。」

 

 いや、あんたら一年戦争から数年後にクロボン時代後半の代物実用化してるとか、普通の速さじゃないからね?

 

 「しかし、これどうしましょうね?作ったは良いですが、当初予定していた機動兵器への搭載は無理でしょうし…。」

 「以前、アナハイムの作ったMAがあったじゃろ?あれに載せてデータ取ればよかろう。」

 

 こうして、半ばお蔵入りしていたGP03は改めて亜光速戦闘仕様へと生まれ変わることとなるのだった。

 但し、天才二人が陣頭指揮を執る形で徹底的にダメ出しされてだが。

 

 「何かね、この無駄にデカいだけの代物は?」

 「これでMAとは……アナハイムの迷走ぶりが見えるのぅ。」

 

 月のGP03が格納されたドックに到着して早々の遠慮のない言葉に、案内していた者は顔を引きつらせていた。

 

 「まぁ良い。だからこそ弄り甲斐もある。」

 「さて、先ずはデータを解析してみるか。」

 

 で、結果として、ほぼほぼ新造に近い程に弄る事となった。

 

 「Iフィールド…ミノフスキー粒子式のビームを敵が撃ってくれるのかね?外そう。」

 「大型ビームサーベル……発想は分かるが、それをクローアームに持たせる意味はないじゃろ。ビーム砲兼サーベルを仕込むぞ。」

 「何故態々機体の手持ち武器をコンテナにしまい、剰え折り畳み式にした腕部で取り出すのかね?普通にコンテナから発射できるようにしよう。」

 「メガビーム砲は昨今の火力上昇についていけんじゃろ。Iフィールドジェネレーターも外す事じゃし…おお!そういえば小型化で問題になっていた可変速型ビーム・ライフルがあったな。二門付けてやろう。」

 「武装を正面と下方向にしか撃てないのは問題だな。この巨体では死角も多い。よし、上部のコンテナはVFの高機動ミサイルを搭載し、上方向に開閉か垂直発射式にしよう。」

 「それと、中身のMSじゃが…。」

 「そっちはコアファイター搭載かつムーバブルフレーム非搭載ですし、コネクタのバックパックとリアアーマーだけ取って解体で。最新の亜光速戦闘対応ジェガンを乗せましょう。」

 

 さて、ここまでやってから漸くミノフスキードライブユニットの接続である。

 とは言え、未だ小型化の済んでいないこの装置、かなりデカい。

 何せGP03本来の大型メガビーム砲並みなのである。

 

 「背面に縦向きに接続しますか。」

 「不格好じゃが仕方ないの。」

 

 本来なら横向きに広がる巨大な真一文字のユニットなのだが、縦以外の向きだとどうしてもブースターやコンテナと干渉してしまい、それを直すためには新造した方が早くなってしまうのだ。

 でっち上げの実験機位、手直し程度で済ませて早くデータを取りたいと思っていた二人は勝手知ったる他人の家とばかりにアナハイムからの人員も扱き使って僅か1週間程で改修を済ませてしまった。

 

 「よし、ではデータ取りを開始する。」

 「前より操縦は楽になったと思うが、気を付けての。」

 「は!了解しました!」

 

 アナハイムに出向中のオリバー・マイ技術大尉(彼女持ち交際1年)は有名過ぎる二人の期待に応えるべく、奮起するのだった。

 後にこの時のデータを基にして、ジェガン他汎用MSでも高機動・大火力を発揮可能となる大型オプション装備「ミーティア」がアナハイムから開発され、拠点防衛並び精鋭部隊向けに配備される事となる。

 また、こうして改修されたGP03(正確にはアームドベース・オーキス)は一連の戦乱でその火力を見込まれて月の連邦軍基地に配備、拠点防衛において活躍し続けるのだった。

 なお、いらない子扱いされたステイメンはデータ取りも終了していた事もあり間もなく解体されたため、担当していたシステムエンジニアのルセット・オデビーは膝から崩れ落ちたという。

 

 

 ……………

 

 

 勿論、他もただ悠然と時間を過ごしていた訳ではない。

 ゲシュペンストは各部にスラスターとユニバーサルコネクタを追加、亜光速戦闘対応改修を加えたゲシュペンストmk-Ⅱとして改めて生産開始された。

 

 「ゲシュペンストは優秀な機体とは言え、それだけに甘んじちゃいられない。」

 「あぁ、ここは一つ、皆で新型を作っちまおうぜ!」

 

 そんな訳でマオ社の新型機開発である。

 

 「ゲシュペンストのムーバブルフレームを改良して更に耐久性を高めて、装甲の方は薄くして軽量化してみるか?」

 「あー確かにDFとビームシールドで防御力は十分か。」

 「プラズマ・ジェネレーターもサイズそのままに高出力化に成功したそうだし、そっちを載せてみよう。」

 「よし、ちょっとその方針で一度設計してみよう。」

 

 こうして出来上がったのがプロトタイプ・ビルトシュバインである。

 ゲシュペンストの純粋な性能向上を目指した試作機として設計された。

 装甲自体は薄くなり、軽量化しているのだが、ムーバブルフレームがゲシュペンストの改良型たるG2フレームを採用しているため、相変わらず殴り合いしても壊れない耐久性・信頼性を持っている。

 武装や索敵面等は正式採用仕様のゲシュペンストmk-Ⅱとほぼ同じだが、装甲による防御力とコスト、生産性以外のあらゆる面で性能向上に成功している。

 ガンダム顔の試作1号機、ジム顔の試作2号機、モノアイ顔の試作3号機が生産され、一般兵向けに調整されたのが後に少数生産される量産型ビルトシュバインである。

 が、その後直ぐにヒュッケバイン並び量産型ヒュッケバインが登場したため、少数配備に留まる不遇の名機になるのだった。

 しかし、G2フレームを始めとして優秀な基礎設計はヒュッケバイン開発の母体として選ばれる程であり、その系譜は繋がっていくのだった。

 

 「こりゃ負けてはいられないな。」

 「でも、こっちは試作機のデータ待ちでしょう?」

 

 と言う訳で、イスルギ重工も開発である。

 ガーリオンも同様の亜光速戦闘対応改修を加えられた他、宇宙戦特化仕様並び亜光速巡行性能を獲得すべくプロジェクトTDチームがアステリオン並びカリオンを開発、試験運用を行っていた。

 この二機は既存AMに搭載されたものを双発化したツイン・テスラ・ドライブを搭載しており、既存のAMよりも遥かに高い機動性・運動性能を持つ。

 反面、その速さに振り回されて操縦性が低下しており、この二機は元々試作機だと言う事もあってデータ収集用として運用される事となる。

 後に本計画から得られたデータは正式に恒星間航行船へと反映され、宇宙開拓を活発化させる一因となるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 地球 地球連邦軍極東方面軍 伊豆基地にて

 

 

 「それでは皆様、成果発表のお時間です。」

 

 現在、そこでは地球連邦と言う看板を借りてのA.I.M.が以前から推進していた特機構想の研究発表会が行われていた。

 で、この場に基地に実機を持ってきたのは以下の通りとなる。

 

 早乙女研究所のプロトゲッター1改(武装追加済み)

 光子力研究所のエネルガーZ(プロトマジンガーZ)

 南原コネクションよりプロト・コンバトラー(分離合体機能無し・未武装)

 テスラ・ライヒ研究所よりグルンガスト零式(斬艦刀追加・亜光速戦闘対応改装済み)

 イスルギ重工よりグラビリオン(本社スタッフのみで開発、重力兵器非搭載)

 EOTI機関よりヴァルシオン改(以前の欠点を改善し、生産性・操縦性を高めたモデル)

 宇宙開発公団改めGGGよりガイガー(メカライオンの一部修復ならびサイボーグ・ガイとのマッチングに成功)

 極東方面軍よりダンクーガ一号(ほぼ原作のまま。ビッグモスに野獣回路追加のための合体機能追加)

 破嵐グループよりプロト・ダイターン(変形機能無し。純粋な巨大ロボット兵器)

 A.I.M.より正式版シズラー(ノーチラス搭載機と同様の仕様)

 

 「「「「「「「「待てや!!」」」」」」」」

 「何か」

 「問題でも?」

 

 突っ込みを入れられたA.I.M.の担当者と破嵐グループからプレゼンに来たギャリソン氏は軽く受け流した。

 

 「100mに130mとかたまげたなぁ…。」

 「何でいきなりそんなデカい機体作ってんの!?」

 「コストは!?そもそも動くの!?」

 「羨ましい!私も今から作って来る!」

 「何の!私も次は設計中だったDGGを…!」

 「誰か剣造博士とビアン博士を止めろー!」

 「ってーか葉月博士のこれは一体何なの???」 

 

 会場は深刻なパニックに陥ったのだった。

 

 

 ……………

 

 

 ???

 

 『カコ……ミライ……キロク……』

 『モンダイ…アリ……』

 『サイテイ……ヒツヨウ……』

 『シッパイ……カノウセイ……』

 『セイジャクナル……ウチュウ……』

 

 



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第26話 最新主力機の配備 そして伝説の男

長すぎた…そして眠い…


 新西暦183年は、あっという間に過ぎていった。

 

 と言うのも大企業群各社が設計は一旦置いて、本格的な兵器生産を開始したからだ。

 既存ラインでは足りず、修正された艦隊再編計画に合わせた艦艇建造も始まったばかりである事から、関係各位は死にもの狂いで仕事を行っていた。

 これには連邦政府の補正予算案が通った事と新年度の予算案が想定されたよりも多く、その分軍事費への割合も多くなった事が要員の一つとして上げられる。

 これには大幅に増加された国債発行の全てがA.I.M.を筆頭とした大企業群によって買われていった事も大きく影響している。

 が、最大の理由はそこではない。

 

 「いい加減、俺達を守る兵器を更新してくれ!」

 

 コロニー並び各星系の市民達の声だった。

 無論、以前から兵器のアップデートや改修、防衛のためのジガン系の配備は進めていたが、肝心の主力兵器の殆どが未だジムⅡだったのが問題となっていた。

 既にして旧式なジムⅡをこれ以上改修しても亜光速戦闘にはとてもではないが対応できず、新型機の配備が急務となっていた。

 無論の事、最新鋭装備の多くは土星基地へと優先して割り振られていた事も大いにある。

 遠くで盾となって戦っている人がいても、いざその時が近いとなると身近な所にも盾を欲するのが人なのだ。

 これが地球だと逆に対岸の火事程度に思う者が多いのだが、この世界のコロニー在住の市民らは先の一年戦争の事が未だトラウマになっているし、身を挺して自分達を守ろうとしてくれた連邦軍が殺されていったのも覚えている。

 そうした事情もあり、どういう割合で生産するか揉めていた次期主力機の割合はあっさりと決まった。

 

 「地球とコロニーに各星系では環境が違い過ぎる。」

 「それぞれに合った機体を採用すべきだ。」

 「それでいて緊急時には何処でも十全に稼働できる機体で揃えた特務部隊も必要だな。」

 

 1、地球の場合

 熱帯から砂漠、氷原、森林に荒野、山岳地帯に都市部と多種多様。

 どんな環境でも十全に動けるだけの信頼性と汎用性が必須。

 

 2、コロニーの場合

 内部は遠心力による疑似重力と重力操作による1G環境再現の二種に大別。

 外部は基本普通の宇宙だが、コロニーというそこまで頑強ではない巨大構造物(現在は多少改善されてる)の防衛が前提。

 

 3、火星

 荒野と山岳地帯、氷原に都市部と地球に比べて狭い海からなる。

 密林や森林地帯はその成立過程上無い。

 地球に比べて三分の一程度の重力がある。

 

 4、木星

 基本は木星周辺のコロニーや資源衛星基地、無数の小惑星がある暗礁宙域からなる。

 巨大な重力圏を持ち、その中でも十全に動けるだけの推進力が必要となる。

 

 5、土星

 木星に近い環境だが、デブリや小惑星の殆どは土星の環として回避し易い。

 現在はジオン共和国軍が主体となっている。

 

 6、金星

 まだまだ開発中。駐留軍配備予定無し。

 

 大体この様な環境となっている。

 どう考えても一機種でカバーするには限度があった。

 なので、それぞれの特性を活かす形で配備を割り振りつつ、一つの機種では容易に対策を取られ、最悪無力化される可能性がある事から複数の機種を配備する必要がある。

 一つの機種を派生させて配備した方が生産・コスト・兵站・運用面等でとても便利?

 確かにその通りなのだが、連邦は以前それで痛い目を見ていた。

 一年戦争において当時のマゼラン・サラミス級・セイバーフィッシュの大量生産で乗り切ろうとしていた連邦がミノフスキー粒子の重散布下ではジオンのMSに対して無力であり、有視界戦闘も問題なく行ける機動性・運動性を持ったストライクスーツ・ゼロが活躍した事からも伺える。

 一つの手段・あり方に拘るのは確かにその分野にて無二のプロになれるが、想定外の事態に対しては脆くなってしまうものなのだ。

 だからこその複数機種の敢えての採用とも言える。

 で、実際の配備と割合がこちらになる。

 

 1、地球の場合

 ジェガン4:ゲシュペンスト1:VF1:その他4

 地球の場合、大気圏内運用が前提であり、更には歩行能力も重要となる。

 この時点で性能・コスト・生産性は優秀でも歩行能力に難のあるバタラは除外され、火力と装甲がやや低めなAMも除外される。

 火力は最悪デストロイドが補うとは言え、手軽かつ強力な火力である戦術核弾頭や反応弾他大規模破壊兵器の使用は制限されてしまうので、それに抵触しない範囲での火力が必要となる。

 更に地球での本格戦闘=都市部・工業地帯の防衛戦が想定されるので、民間人や重要施設を守るための最後の盾となるべく可能な限り耐久力も高くなければならない。

 加えて、転移でやってきた敵勢力に対して即応できるだけの展開能力もあると望ましい。

 そんな贅沢山盛りを満たす配備の割合がこれだった。

 ジェガンとゲシュペンストのハイローミックスを歩兵とし、VFが火消し等の特務として運用する。

 その他は支援機と特機に大別され、支援機の多くはデストロイ=ガンタンクやガンキャノンの様な火力支援機である。

 特機はその特性を活かしつつ、専用の大型艦と共に敵指揮系統の中枢への殴り込みや斬首戦術を行う。

 

 2、コロニーの場合

 ガーリオン3:バタラ3:その他4

 コロニー内部で活動する場合、閉所でも問題ない操作性とサイズ、過剰火力ではなく、調整可能か低火力かが問われる。

 また、歩行能力は余り問わない。

 操作性は新型機全てが確保しているのでサイズと火力に注目した場合、最も小さいのがVFで、その次がバタラとなる。

 火力においては基本実弾のみのガーリオン、適宜細かく調節可能なバタラが条件に合致している。

 が、VFは大気圏内外・重力圏内外問わず無調整で運用できるのが強みであるから、可変機構(=スラスターの一方向への集中と空力特性の獲得)が余り重要ではない上にコストの高さから断念した。

 ゲシュペンストはVF程ではないが生産性はそこまで高くないため、広範囲に広がる各サイドへの配備に時間がかかってしまう可能性があった。

 で、残ったのがコストと整備性・生産性全てに優れたバタラとガーリオンであり、この二機でのハイローミックスが決定した。

 それに付け加える形でジガン系の特機とデストロイドモンスターを始めとした火力支援機がコロニーに近づく敵勢力を迎撃する。

 あくまでコロニー防衛のための迎撃が主眼であり、コロニー自体への攻撃を防いでくれるジガンがいるので、機動兵器側の装甲には多少目を瞑ったため、この様な割合となった。

 

 3、火星の場合

 ジェガン3:ゲシュペンスト2:VF2:その他4

 地球よりは小さいとは言え重力があり、歩行能力は重視される。

 また、地球同様の過酷な環境への対応が求められる。 

 そのため、最も雑多な割合になっているが、火星は木星と並ぶA.I.M.のお膝元であり、相応の兵站を確保できている。

 最悪、無人ワープで物資を届ける事も可能なので、最も多様な兵器類を見る事が出来る。

 なお、その他の内訳で最も多いのデストロイドシリーズとバレリオンである。

 

 4、木星の場合

 バタラ5:ガーリオン1:VF1:その他3

 開拓済みの太陽系においては最大の資源惑星であり、A.I.M.の最重要戦略拠点でもある。

 コロニー内や資源衛星基地を除けば、その巨大な重力圏での活動を余儀なくされる。

 そのため、設計段階で木星圏での活動を考慮しているバタラ系、高い機動性で活動可能なガーリオンとVFが配備されている。

 その他はA.I.M.所属のシズラー軍団で主に構成されており、そのシズラー軍団だけで他の全てを一蹴しかねないだけの性能を持っている。

 

 5、土星の場合

 バタラ2:ゲシュペンスト2:ガーリオン1:VF2:その他3

 巨大な重力圏を持ちながら地上戦が可能な程度の陸地(氷多し)もあるため、土星基地の部隊は地球に酷似した編成であり、宇宙に展開している部隊の編制は木星のそれに近い。

 その他は主にデストロイドモンスターやジガン系といった対多数を主眼とした特機や準特機級機体からなる。

 ほぼ全ての機種を採用しているのは、今のジオン共和国では余り大っぴらに最新鋭機のデータ取りとか解析が出来ないからという理由もある。

 

 

 大体こんな感じの割合で配備する予定なのだが…

 

 

 「おい、作っても作っても注文が減らないぞ。」

 「追加注文です。今度はオプション込々でジェガン一個大隊です…。」

 「畜生!また初期ロットに不具合だ!」

 「今夜も徹夜かぁ…一体何度目だっけか…?」

 「あーバタラ系とAM系は生産楽で良いんじゃ~。」

 

 太陽系の全軍需系企業にもの凄い数の注文が入ったため、現場も上層部も中間管理職も皆一様にデスマーチ状態に突入、生産体制が軌道に乗り始めるまで不眠不休の努力が続けられるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 同じ頃、斯様に大量生産で利益はウハウハ(だけど仕事量が殺人的)のアナハイムはこれを機に一つの転換期を迎えようとしていた。

 

 「いかん。これでは完全に特機市場に遅れを取ってしまっている。何とかせねば…。」

 

 特機。

 それは時に一機で艦艇一隻分にも匹敵する対異星人・地球外生命体を想定した巨大兵器。

 単騎で戦局を覆す切っ掛けを与えるべく開発されたそれらは、正に一騎当千の戦闘能力を持ったスーパーロボットだ。

 太陽系全土で機体の募集をした地球連邦、否、A.I.M.(=スポンサー)の声に応えて各地から集められた試作型特機達は既にして実戦証明済みのものすら存在する。

 

 「何とかしてこの巨大市場に食い込まねばならない。」

 

 太陽系第二位の巨大複合企業たるアナハイムとしては、A.I.M.の独走状態を崩すためにも自らも特機市場へと参加したかった。

 しかし、アナハイムには特機開発のノウハウは無い。

 

 「何か案は無いかね?」

 

 この上からの無茶ぶりに応えるべく、現場から幾つかの企画書が上がってきた。

 

 「どれどれ……成程、大型化と高性能化。大別すると二つのパターンになる訳だな。」

 

 普通の特機の様な大型化による高性能化。

 要はMAや大型MSと同じ系譜だ。

 対して、高性能化とはサイズそのままに特機級の性能を付与する事だ。

 技術的には後者の方が難しく、しかし既存艦艇での運用が可能等のメリットも多い。

 

 「我が社には余裕が無い。ならば両方やって遮二無二ノウハウを得ていくしかない。」

 

 幸いと言うべきか、ジガン系二機とデストロイドモンスターを購入し、更に現場から何とかシズラー0とプロト・ゲッターのデータを僅かながら入手できた。

 これらを解析し、自社製MSに反映していく。

 それこそがアナハイムの次の目標だった。

 なお、技術的には完全に盗用であり、訴えられたら負けるしかない。 

 

 「で、命じられた訳ですが…。」

 「いきなりは無理だっつーのに…!」

 「安心しろ。プランはある。」

 

 上層部から無茶ぶりされた現場の技術者達は一計を案じた。

 

 「別に一つの機体に解析できた技術を纏めて搭載する必要はない。」

 「あ!」

 「つまり、別々の機体でそれぞれ検証しようという事か?」

 「許可、出るか?時間は兎も角人手が凄い必要だぞ?」

 「こんな無茶ぶりをしてきたのは上だ。上に頑張ってもらおう。」

 

 こんな下からの提案に、上はにやりと笑った。

 

 「宜しい。許可を出そう。」

 

 こうして、アナハイム製特機開発計画はスタートした。

 

 「やってみて分かったが、確かにこれは大型化しないと纏めて搭載は無理だな!」

 「特機が皆大型機なのがよく分かる…。」

 「流石は各社がそれぞれ粋を集めて設計しただけはあるな。」

 

 ジガン系にデストロイドモンスター、ゲッターにシズラー。

 それらの技術を部分ごとに分類し、再現しようという計画。

 例えば装甲材質等に関しては材料工学系の技術者が担当し、武装類に関してはレーザーやビーム、実弾ならば更にミサイルや炸薬式火砲、レールガン等に細分された上で専門家が担当していく。

 多数の技術者を擁する巨大な複合企業体であるアナハイムにとって、そうした大量の技術者を動員するのは決して不可能な事ではなかった。

 

 「があああああああ!!駄目だ、出来ん!」

 「何だこのスペースチタニウムって…。」

 「最新のガンダリウム合金よりも頑丈ってマジかい…。」

 「ゲッター線とは…宇宙とは……!」

 

 が、ジガン系とデストロイドモンスターの解析と再現は割と上手くいっているのだが、如何せん僅かな情報しかなかったプロトゲッターとシズラー0に関してはカタログデータは入手できてもそれ以外の面で余りに未知数に過ぎた。

 

 「駄目だなこれは…。基礎的な技術レベルが隔絶している。」

 「どうします?」

 「取り敢えず、ジガン系をベースとした大型機と特機由来の技術をMSに転用した高性能機で行くべきだろうな。」

 

 技術レベルの違いによる実質的なブラックボックス。

 アナハイムは超えるべき商売敵の背中が遥か高みにある事を知り、頭を抱えた。

 そのため、妥協とも言うべき方向へと方針を変えた。

 

 「別にジガンそのものじゃなくて良い。アナハイム風に昇華して別物にする。」

 「例えば?」

 「広範囲のDF展開にアプサラス式メガ粒子砲がジガン系二機の特徴だ。が、その出力を機動性と運動性に全振りしてみるとしたらどうなると思う?」

 「!?」

 「テスラドライブのお陰でデカブツでも空を飛べるし、自在に動ける。」

 「つまり、次の目標は高機動・高火力かつ白兵戦闘もこなせる大型MS…!」

 

 ここから開発チームは予定通り二分され、大型化チームと高性能化チームへと分かれていく事となる。

 この大型化チームは後にクスィーやペーネロペーガンダムの開発に成功する事となる。

 が、後者はその難易度から開発は遅延した。

 

 「それだけじゃない。ゲッターとシズラーの操縦方法は知っているな?」

 「確か腰の後ろが座席と繋がってて、パイロットの動きが直接伝わるシステムですよね?」

 「直接動作操縦システムと言うらしい。これを使った通常サイズのMSを作る。」

 「へ?別にそれだけなら…」

 「序にFI社から入ったサイコセンサーの発展系があったろう、あれも使う。」

 「一体どうして?確かに例のバイオセンサーなら反応速度も上昇するでしょうけど。」

 「こっちはサイコミュ担当班からデータ取ってくれって頼まれたのさ。ま、大丈夫だろう。」

 

 当然ながら、問題が発生した。

 一般パイロットの脳波を拾って動作補助を行うサイコミュセンサーを更に鋭敏化したバイオセンサー。

 原作のそれよりも鋭敏化したそれは、パイロットの反応を過敏に拾うせいで機体をじゃじゃ馬化してしまう事態が多発した。

 しかし、それを差し引いても驚異的な反応速度を発揮し、時には観測機器の故障か夢でも見ていたのかと思う程の結果を叩き出すバイオセンサー搭載機を諦める事は出来なかった。

 

 「えぇい、自分の肉体位十全に扱えるパイロットはいないのか!?」

 「まぁ機体を扱うのは上手くても、今までの機体とは全然違いますからねぇ。」

 「……仕方ない。軍や他の企業、一般市民からでも良い。十全に肉体を制御可能な人間を探す他あるまい。」

 「えぇ……(困惑)。」

 

 この時の技術者らの諦めの悪さは特筆に当たった。

 機体に不備があるのなら、その不備を無視できるパイロットを乗せれば良い。

 そんな本末転倒な考えで大丈夫なのかと思うが、勿論大丈夫ではなかった。

 が、そんな当たり前の事に気付く事も出来ない程に、彼らは特機という存在へと魅了されきってしまっていた。

 そして、大揉めが予想されたパイロット候補生選定は優秀なスカウトマンの努力により何とか二人だけ確保する事に成功した。

 

 「ほぉ、ここがワシが操縦するに足るMSを開発しておる所か。」

 「わ~父さんや兄さんの仕事場に似てる~。」

 「これドモン、これから世話になるのだ。挨拶位せぬか。」

 「はい師匠!ボクはドモン・カッシュ、流派東方不敗の弟子です!」

 「ワシは面映ゆいがマスター・アジア等と呼ばれておる老い耄れよ。まぁよろしく頼む。」

 

 開発陣は思った。

 え、何この凄いカリスマ感じる爺様とショタは?

 

 

 この出会いが巡り巡ってMSならぬMF開発へと繋がっていく事に、この場の面々は未だ知らないのだった。

 

 

 

 




アナハイム
特機作りたいけどよー分からん

よし、他の会社の真似すんべ!

一部解析できへんけど形にしてみっか!
序に合併したFI社から貰ったシステム組み込んでみるべ!

何か想定外の代物が…あれー?


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第27話 次期主力機の生産 アナハイムのジョグレス進化

 新西暦183年における正式配備の開始された新型機動兵器類は多様であった事から、運用する現場では混乱が予想されたものの、実際はそこまでではなかった。

 これは事前に入念に各地に配備されるのに最適な機種を選定した事もあるが、操縦を補助するサイコセンサーにより機種転換が容易になっていた事も大きい。

 しかし、メーカーである各大企業群をして、太陽系全土へと新型を配備できるだけの数を揃えるのは極めて困難だった。

 そのため生産ラインは連日フル稼働、社員は上から下までデスマーチを謳歌していた。

 だが、各企業がそんな地獄の行軍をしている中でまだ比較的余裕のあった連中がいた。

 そう、いつものA.I.M.とイスルギ重工である。

 説明の前に、今回量産している5機種に関してちょっと比較してみよう。

 

 

 生産・運用コスト(右ほど高価、左ほど安価)

 ガーリオン ≧ バタラ > ジェガン > ゲシュペンスト > VF

 

 攻撃力(左ほど高威力、右ほど低威力)※反応弾・戦術核除き、格闘武器他オプション含む

 ゲシュペンスト > ジェガン ≧ バタラ > VF > ガーリオン

 

 防御力(左ほど固く、右ほど脆い)

 ゲシュペンスト > ジェガン > バタラ > VF ≧ ガーリオン

 

 運動性(左ほど高く、右ほど低い)※スラスター等を用いない機体の運動能力(歩行・走行含む)

 ゲシュペンスト >  ジェガン > ガーリオン > VF > バタラ

 

 機動性(左ほど高く、右ほど低い)※スラスター等の燃費や最高速度、加速力、旋回性能等

 VF > バタラ ≧ ガーリオン > ゲシュペンスト ≧ ジェガン

 

 

 大体この様な性能比になっている。

 で、生産・運用コストを見ても分かる通り、安価かつ生産性の高いガーリオンとバタラを担当するイスルギ重工とA.I.M.は比較的余裕があったのだ。

 機動兵器の量産、という観点では。

 

 「あの、うちはネルガルとクリムゾンと一緒にジガン系も全力で生産してますから余裕は無いですよ?」

 

 特機、そして艦艇も含めると一社を除いて何処も余裕がない状況だった。

 何処も彼処も生産に次ぐ生産であり、子会社に任せる所も多く出ている。

 しかし、その子会社で問題が出ると当然ながらリテイクの嵐となって余計な手間が増える上に担当者はあちこちに頭を下げる事態になる。

 加えて、大企業群がそんな状態なので、資源・資材調達コストも高騰の動きが出ており、木星・火星・土星圏からの資源採掘・精錬のための重工業施設もフル稼働し、それらを繋ぐ運輸業もまたピストン輸送よろしく大忙しとなっていた。

 以前よりも輸送速度も輸送量も多くなっているとは言え、未だ全ての民間輸送艦艇が亜光速航行やワープ航行が可能ではないため、あっと言う間にパンク寸前になっていた。

 また、そうした運輸状況を少しでも好転すべく各大企業のジャンク回収部門やフリーのジャンク屋が航路上に広がるジャンクを回収し、それらを資源としてリサイクルしていくも、それでもなお資源不足の状態が続いていた。

 この状況は主力機更新をゆっくり行っていれば起こらなかったのだが、一刻も早い配備を望む現場と市民の声に応えるにはこうするしかなかったのだ。

 

 『どもーゴライクンルですー。』

 

 そしてこの好機を見逃す程、共和連合も甘くはない。

 好機と見て動き始めたゴライクンルを後押しする形で介入してきたのだ。

 彼らは大量の資源を太陽系の相場よりも少しだけ安い値段で大量に売り捌き始めたのだ。

 これは販路獲得を目的としたものだが、それが分かっていても今は資源が喉から手が出る程に欲しい地球側としては積極的に購入、代わりに未だ開発の難航しているというMSサイズの縮退炉を輸出するバーター取引が行われた。

 ゴライクンルは新たな販路を得て、地球側は共和連合との経済的結びつきを強化(=戦争が損になる)する事が出来るという両者にとってお得な取引だった。 

 これにより新型主力機生産は再び軌道に乗り、各地へと配備されていく事となる。

 一年戦争後、最大の好景気。

 軍需によるものとは言え、太陽系の殆どの人類はこの恩恵を受ける事が出来た。

 この好景気は新西暦183年から185年まで続いていく。

 そして、これら主力機動兵器並び艦艇の更新が終わった後、遂にゴライクンルすら含めた各大企業群による熾烈な特機開発競争が更に激化していく事となるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦184年 月 アナハイム月支社(実質本社)

 

 「ふむ、まぁ今はこんな所か。」

 

 スカウトマンが100面ダイスで100を連続で出したと言われても信じられる様な人材、マスターアジアをパイロットとした試作特機系MSの一機がオーバーヒートした状態で辛うじて格納庫へと戻ってきた。

 

 「MSにあんな動きが出来るなんて…。」

 「まさかここまでとは…。」

 「我々の予想以上だ。素晴らしい…!」

 

 しかし、機体がボロボロの状態でありながら、それを見ていたアナハイムの社員らは感嘆の声を上げた。

 アナハイム製ムーバブルフレームに最新の最高級材質で作った試作機でありながら、マスターアジアの動きに付いていけずにオーバーヒートしたのだ。

 

 「エネルギー自体は新型のプラズマ・ジェネレーターのお陰である。しかし…」

 「少しでもギアを上げて動くと途端に排熱が追い付かなくなるとは…。」

 「既存のムーバブルフレームでは関節の可動域も強度も足りん!」

 「仕方ない。購入していたゲシュペンストを改造して試験してもらおう。その間に次の機体を設計する。」

 

 マスターアジアの極めた流派東方不敗の技の数々。

 それを機動兵器で発揮させるには、MSは余りにも脆弱に過ぎた。

 改善するにはムーバブルフレームの再設計が必要であり、既存のコスト重視のそれでは歯が立たないのが現状だった。

 

 『おお、以前よりはマシだな。』

 

 そして、翌日には操縦系統を直接動作操縦システムに入れ替えたゲシュペンストでの動作試験が行われた。

 結果、適当に流す分にはオーバーヒートしない程度にはなった。

 本気出したら?宇宙なのに機体が空中分解します。

 

 「ムーバブルフレームの新規設計がここまで難しいとは…!」

 「まぁ要は骨だからな。そりゃ難しいさ。」

 「一度武装の搭載は見送ろう。先ずは基礎を固めねばならん。」

 

 そしてマスターアジアとお手伝いのドモンによって得られたデータを元に半年後に出来上がったのが、後の全てのMFの祖となる機体「ヤマトガンダム」である。

 徹底したムーバブルフレームの強度UPと関節可動域の拡大を目指した機体であり、武装は一切存在しない割り切り過ぎた構造の機体である。

 その設計の優秀さは後に大小のビームサーベルとバルカン、専用の強化繊維で編まれた帯が追加されるまで、一切の武装を用いずに地球を目指す侵略者達を徒手格闘のみで撃滅し続けた伝説が刻まれた事からも明らかである。

 この伝説が成立以降、マスコミがマスターアジアを「ガンダムファイター」と呼称するようになるに至り、アナハイムはこれを宣伝に利用した。

 

 「ガンダムファイターを志す者はアナハイムへ」

 「今日から君もガンダムファイターだ!」

 

 こうして集まったガンダムファイター志望者は徹底した身体能力検査と実際の動作試験の後に合否を決定した。

 合格した候補生にはヤマトガンダムの設計を引き継ぎつつ、より反応速度と自由性を優先した「モビルトレースシステム」への更新が行われた機体が与えられ、そこから更に個々人向けのカスタマイズを行っていく事となる。

 装備の多くは通常の量産機と共通の武装から新規設計の専用武装まで様々であるが、共通している事が一つだけあった。

 どれだけ異形となろうとも、どんな搭乗者だろうとも、全ての機体はガンダム顔であり、通常のMSに比べて高い格闘性能を持ち続けた。

 こうして生まれた「ガンダムファイター」達は太陽系を、人類を、地球を守るために侵略者達と戦い続け、一連の戦乱を駆け抜ける事となる。

 そんな彼らを纏め、指導し、更なる高みへと導き続けたのが、マスターアジアを筆頭に彼の格闘技仲間である「コロニー格闘技五天王」、後の「シャッフル同盟」のメンバーである。

 彼・彼女らはガンダムファイターを始め、多くの人々から称賛を集めていく事となる。

 

 「よし、これは予想外の大商いのチャンス!」

 

 これを好機と見たアナハイムは彼らを前面に出した社のイメージアップ戦略を展開した上、平時においてはプロレスよろしくガンダムファイター同士の模擬戦を行い、その技術力とファイター達の活躍を太陽系全土(と共和連合)へと放送した。

 この模擬戦は後にランキング制度を導入し、幾度も行われていく事となる。

 

 (よし、彼らの名声を利用して更なる拡大を…!)

 

 流石はアナハイム、やる事が分かり易い。

 が、その目論見を見抜いていたシャッフル同盟とガンダムファイター、彼らを慕う超熱烈な社員らの手によって潰え、徐々にアナハイム全体へとその風潮が広まっていく事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、全てを知ったトレミィは「なぁにぃこれぇ?(困惑)」となっていた。

 そりゃそーである。

 が、なってしまったものは仕方ない。

 マスターアジアらは優秀極まりなく、アナハイムの内部洗浄が進むのは大助かりだったので、この動きを支援するのだった。

 

 「月行く用事あったらサイン貰ってきて。」

 「畏まりました。」

 

 なお、サイン色紙はシャッフル同盟全員分とドモン・カッシュの分の6枚だったりする。

 




マスターアジアがおかしい。
何処に突っ込ませるにしても悠々と勝って帰ってくる姿しか想像できん(汗

なお、原作のMFよりまだ性能は低いです。
ビームクロスやリボン、液体金属とかビームフラフープとかグラビトン・ハンマーとかどう再現せいと言うのだ(汗
幸いにして強化型バイオセンサーのお陰で性能UP、時々異常現象が発生して限定的にパイロットの全力の技が再現されてますが、安定して出せるにはまだまだ色々足りてません。


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第28話 特機開発競争とブルーコスモス

また長くなりすぎた…(汗


 新西暦184年、それは各大企業群と民間の研究者らによる特機開発競争の激化が最も活発だった時代だ。

 何処から嗅ぎ付けたのか、ゴライクンルすら参加したこの開発競争、最終的には量産型MAすら発表されて一部が地球連邦軍に採用される等、中々にカオスな事になった。

 だが、これは太陽系と共和連合双方の技術的交流の切っ掛けとなり、一連の戦乱を共に戦い抜く無二の戦友という意識を現場レベルで浸透させる事となるのだった。

 が、それは未来の話。

 

 「こちらが我がイスルギ重工のジガン系の簡易量産型特機、グラビリオンの正式モデルです!」

 「同時に新型量産MAであるサイリオンです。高機動・高火力・(機体本体は)低コストですよ!」

 「テスラ・ライヒ研究所からは正式版グルンガストです!人型・航空機型・戦車型と三段変形が可能!」

 『うちらゴライクンルからは拠点防衛用特機としてガルガウ(初期型)をお出ししまっせ。』

 「我がアナハイムからは新型のMFシリーズをどうぞ!パイロット込みで派遣いたします!」

 「マオ社からは特機に匹敵する突破力を持った機体としてアルトアイゼンを紹介させて頂きます!」

 「ネルガル並びクリムゾングループからは新型のジンシリーズを発表させて頂きます!」

 「A.I.M.からは特機にしてISA戦術専用艦として改マクロス級可変強襲揚陸母艦メガロードを発表させて頂きます。」

 

 「「「「「『ちょっと待って!!』」」」」」

 「はい、何でしょうか?」

 

 最後に発表された代物に他全員(連邦軍の担当官含む)がA.I.M.の担当者へと突っ込みを入れた。

 

 「もうこのやり取り何度目だっけ?」

 「忘れたわ!ってか毎度毎度何だよこれぇ!!」

 「マクロスと同サイズで格闘戦まで可能な艦を特機として出すなよ!?」

 『なんだこれは…たまげたなぁ…。』

 「これで格闘戦が出来るんだってさ。ふざけてるみたいだろ?マジなんだよ…。」

 

 今日も開発現場は修羅場です。

 

 

 ……………

 

 

 地球 北米某所

 

 「お待たせして申し訳ありません。」

 「いえ、こちらこそお忙しい所に申し訳ありません。」

 「なに、貴女の様なレディを待たせてしまったのです。謝罪するのはこちらですよ。」

 

 何処とも知れないオフィスビルの応接室にて、ムルタ・アズラエルは微笑んだ。

 

 「では、ご用件をお伺いしましょう。」

 「それでは先ずはこちらのデータをご覧ください。」

 「拝見させて頂きます。」

 

 渡された情報端末を受け取り、アズラエルはゆっくりと目を通し始めた。

 それから暫くはアズラエルが端末を操作する動きだけで、時間が過ぎていく。

 時折アズラエルの息を飲む音を除けば静かなもので、アズラエルの様子をA.I.M.社長兼代表取締役たる武蔵はじっと静かに見つめていた。

 そして、約20分程が経過した頃、アズラエルは漸く頭を上げ、自身を見つめる武蔵へと視線を返した。

 

 「…これを見せて、僕にどうしろと?」

 「いい加減、時計の針を進めるべき時が来たと、我々は判断しました。」

 

 ブルーコスモスという過激な環境保護団体が存在する。

 当初からその過激さで知られていたのだが、何時しか彼らは遺伝子調整技術ならびそれによって誕生した存在、つまり一部の遺伝子組み換え食品やコーディネーター等の排斥を主張し、幾度か大規模なテロ行為をも計画・実行した。

 その度にリーダーを始めとした幹部らを逮捕しているのだが、毎度毎度何処から人と資金を入手してくるのか、夏場の雑草が如く組織を立て直してはテロ行為に走るのである。

 その資金源はアズラエル財閥からの資金が主であり、同財閥の非正規活動部門の表の顔こそがブルーコスモスだった。

 元々宗教的な理由で環境保護並び遺伝子調整反対の立場を貫いてきた彼らはコーディネーターという自分達を脅かす唾棄すべき存在に対して憎悪を燃やしており、それを排斥、否、根絶するための活動を続けてきたのだった。

 そうした活動を支援する中で、実質趣味とも言えるブルーコスモスへの支援に託けてその内部に自社のための非正規部門を設立する辺り、アズラエルは間違いなく極めて優秀な商人だった。

 まぁ、プライドが高過ぎるのとトラブルに若干弱いのが玉に瑕だが。

 武蔵が渡した情報端末には、そうしたアズラエル財閥のブルーコスモスへの支援と非正規部門の行った作戦内容についての報告書だった。

 これが世に出ればアズラエル財閥は実質的に崩壊、他のロゴスを始めとした近しいグループに吸収されるならば兎も角、他の敵対的大企業群に吸収されては目も当てられない事になる。

 そんな死刑執行書を見せられてのアズラエルの言葉に対し、武蔵は相変わらずの無感動そうな声音で返答した。

 

 「既にプロトカルチャーを始めとした地球の先史文明による遺伝子調整は耳に入っていますね?」

 「えぇ、まぁ。」

 

 冥王星工廠基地にて人類に齎された驚きの情報は、地球連邦政府首脳部によって一時規制されたものの、政府関係者上層部から有力者を始めとした者達へと混乱を起こさないように徐々に伝播されていた。

 結果、レビル首相の就任演説のお陰もあって、市民の混乱は想定内で収まる見通しだった。

 

 「僕らもあの宙の化け物共も、とんだ道化だったと思い知らされましたよ。まさか現在の人類全てが先史文明による遺伝子調整を受けていただなんて。」

 「えぇ、その通りです。しかし、その様な顔が出来るようになったのなら、多少は吹っ切れたのですね。」

 

 やれやれ、といった風に肩を竦めるアズラエルに、武蔵は若干の安堵を吐露した。

 

 「?」

 「本題に入りましょうか。現状の地球人類では、絶対に絶滅します。」

 「理由をお聞きしましょう。」

 

 武蔵の断言に、アズラエルは商人の顔で問うた。

 

 「単純に言って、数で負けているからです。」

 「宇宙怪獣、インベーダーにバッフクラン、ズール銀河帝国とゼ・バルマリィ帝国でしたか。」

 「えぇ。それら全ての勢力が我々地球人類並びそれに協力的な存在全てを合わせてもなお100倍では済まない程の国力と人口の差があるのです。」

 

 当たり前である。

 宇宙に出て、他の惑星へと有人船で行けるようになってまだ100年かその程度しか経過していない太陽系と、遥か古代から宇宙に進出・発展してきた文明とを比較する事すら烏滸がましいのだ。

 だが、地球はそれら大勢力の精鋭とも戦力の質だけなら追い付きつつあるのだから、やはり頭おかしいと言える。

 しかし、国力と生態、時間によって培われた物量だけはもうどうしようもない。

 例え太陽系の全てのリソースを振り絞ったとしてもこれらの大勢力から自身を守る事は不可能であり、例え相手側のトップの撃破に成功したとしても後に残るのはトップの仇討ちに燃える敵軍による殲滅戦のみだ。

 加えて言えば、宇宙怪獣やインベーダーはそもそもトップが存在せず、ただただ圧倒的物量によって磨り潰されるのみだろう。

 

 「それらを解決するには…」

 「無人機、或いは人に代わる労働力・戦力となる機械の導入。」

 「言わずとも分かっていましたか。」

 「そりゃ僕も商人ですからね。無人作業機械の導入は今まで幾度も行って来ました。それで発生する労働者の解雇や抗議活動への対処も含めてね。」

 

 それは財閥の長ならば当たり前の事だった。

 産業革命等の例に漏れず、技術の発展によって多くの人員を使うしかなかった作業が機械によって代替可能になるのはよくある事だった。

 同様に軍事においては兵の損耗を抑えるべく無人兵器が開発され、時代と共に発展していき、一部の兵士らは配置転換を余儀なくされた。

 だが、今回の件はその程度で済むものではない。

 

 「ヒューマノイドの軍事への導入。確かに必要不可欠です。」

 「………。」

 「ですが、これは確実に大きな火種になるでしょう。私がブルーコスモスから手を退いても同じ事です。」

 

 冥王星工廠基地を始め、太陽系無人防衛部隊にて運用されているヒューマノイド。

 現在、マクロス内部やエクセリオン内部でも活動が観測されている彼らの存在が民間に知れ渡れば、とてつもなく面倒な事になるのが目に見えていた。

 人権保護団体が飯の(火)種だとばかりに人間とヒューマノイド双方の人権の擁護を歌い上げ、過激な反ロボット団体がイラストや写真を燃やし、職や権利を失う事を恐れる労働者達が不安を訴え、それらを編集したニュースを見た関係のない人々まで危険性を疑い、何となく排斥へと動いていく。

 どう考えても地獄絵図である。

 

 「えぇ、それで良いのです。」

 「ふむ?」

 「人間というのは、自分の認識する範囲内に自身の嫌うものが存在する事には敏感です。しかし…」

 「認識する範囲外ならば、どんなものであっても許容できる、と。」

 

 そこまで言って、アズラエルは不意に天性の商人としてのセンスによって、今が大儲けのチャンスである事を嗅ぎ取った。

 

 (なんだ、なんで儲ける?いや、そもそも単純な儲け話の筈がない。)

 

 ヒントは認識する範囲外。

 先程の会話と繋がっているのなら、ヒューマノイドを多くの人々が認識できない場所で運用する事を指している筈なのだが…。

 

 (僕に話を持ってきたという事は何らかの協力が必要という事。だが、天下のA.I.M.にそんなもの必要か?いや、必要がない……ッ!?)

 

 そこまで考えて、アズラエルは悟った。

 

 「今から僕が言う事は推測ですが、宜しいですね?」

 「えぇ、どうぞ。」

 

 今朧げにアズラエルが掴んだもの、それをゆっくりと、興奮と戦慄で僅かに震えながら口に出していく。

 

 「先ず、ヒューマノイドを運用するのは反対派の人々の認識の外。」

 「えぇ。」

 「運用するのに邪魔となる人々の殆どは、その活動から過激な環境保護団体等で大体把握する事も出来る。」

 「えぇ。」

 「そして、この銀河に存在する大勢力から身を守るには、今現在の地球人類では絶対に不可能。」

 「えぇ。」

 「だからこそ、絶滅を避けるためにも太陽系の外に人類種の生存領域を広めねばならない。ヒューマノイド達と協力しての可及的速やかな移民。」

 「当たりです。」

 「そのためにも、行動を起こしそうな過激な反対派は今後も地球に居続けてもらう必要がある。その方法としてブルーコスモスの構成員となってもらい、僕の方で手綱を握れという事ですね?」

 「大当たりです。」

 

 武蔵はアズラエルの言葉に満足そうに頷いた。

 暴走するのなら、管理すれば良い。

 知れば嫌悪するのなら、知られなければ良い。

 永遠に小さな揺り籠の中で、勝手にさせれば良い。

 その間に、情勢を判断できるだけの者達やそんな好き嫌いしている余裕のない者達は太陽系を出て、銀河の各地へと入植していく。

 やがて現在の太陽系の様に、外に出た者達が力を蓄え、独自の生存域を確保していく事だろう。

 それは同時にもしもの時の移民先が出来る事、太陽系を守るための外郭部が出来る事と同義だ。

 

 (成程、これは確かに途方もないビッグチャンスですね。)

 

 彼女らの片棒を担ぐ事で、アズラエルの方はこの地球における大企業群の中でも一歩先んじる存在となるだろう。

 無論、彼女らを除いて、と付くが。

 このまま彼女らが太陽系を去った後、座視すれば訪れるだろうアナハイム一強の時代よりは遥かに良い。

 

 「条件付きでお受け致します。」

 「分かりました。詳細な内容は後日実務者協議で…」

 「あぁ、そっちじゃなく。もっと個人的なものでして。」

 「? 珍しいですね、貴方がその様な事を言うとは。」

 

 武蔵の言葉を手で制し、アズラエルが切り出した。

 

 「これを受け取って、こちらにサインして下さるのならば、アズラエル財閥はA.I.M.並び外宇宙移民政策を全面的に支援させて頂きます。」

 「これ、は」

 

 応接室のテーブルの上に出されたのは、婚姻届と小さくとも一目で高級と分かるリングケース=指輪の入った小箱だった。

 

 「こちらに合意し、サインをして頂ければ契約締結となります。」

 「正気ですか?私は…」

 「知ってますよ。貴女がヒューマノイドなのは。」

 

 昔、武蔵は所要にて渡った北米にて、コーディネーターの少年をいじめようとして返り討ちに合い、泣いていた情けない少年を助けた事があった。

 その少年は何を思ったのか、「お礼したいから」と熱心に武蔵から連絡先を聞き出し、それ以来小まめに連絡を欠かさずに来た。

 そして今日、嘗ての少年はその関係を前進させようと腹を括ってこの場に臨んで来たのだ。

 正直、前半で大分正気度が削られたが、嫌われてはいないようなので無問題にしよう、うん!

 

 「それでもあの日、僕を慰めてくれた貴女は美しく、優しかった。」

 「私はヒューマノイドです。その様にプログラムされています。」

 「えぇ、知ってますとも。同時に君達は人間と変わらない程に複雑極まりない心を持っている事も。」

 

 マシンハートという機能がある。

 トレミィの作る全ての自動人形に搭載された、TFにおけるスパークに代わる本質的な部分。

 自動人形らの最も根幹的なソースコードに記載された、他者との愛情を育む機能。

 それが本格的に起動した場合、プトレマイオスからの直接命令すら拒絶可能になる独立・自主性を獲得する。

 嘗てから現在に至る、人間と結婚した生体式自動人形の全てがこの機能の起動に成功、そして人として生き、我が子を産み育て、不死性を捨てて死んでいった。

 

 「一体誰からその事を?」

 「Sfさんからお聞きしました。いい加減焦れったいから教えます、と。」

 

 武蔵は瞬時に自動人形らの固有ネットワークにてやらかしたアホを問い詰めた。

 

 『おい、おい筆頭侍女おい。』

 『謝罪プログラム起動。てへペロ!』

 『これが…愉悦…!』

 『良いからとっととカップル成立しちゃいなさい。』

 『いい加減腹を括るべきかと。』

 

 あのアマ絶対許さねぇ。

 武蔵は激怒した。

 必ずあの邪知暴虐の先輩、序に部下や同僚に上司もブチ転がす事を決意した。

 

 「それで武蔵さん、合意は頂けますか?」

 「わ、私は……。」

 

 その後、応接室で何があったかは分からない。

 しかし、小さいながらも給湯室とシャワー室完備のこの場所にアズラエルが武蔵を通したのは、偶然ではないとだけ言っておく。

 彼と彼女が部屋を出たのは、会談が始まって実に10時間後の事だったそうな。

 

 

 

 

 

 三日後、A.I.M.社長兼代表取締役とアズラエル財閥総帥の結婚についての緊急特別報道番組が放送された。

 これにはA.I.M.内外の武蔵のファンや信望者らを中心に暴動が起きたが、一時間とせぬ内に暴徒鎮圧用装備で固めた警備部と同部責任者の鹿角によって鎮圧されたのだった。

 そんなちょっとしたカオスを挟みつつ、これ以降アズラエル財閥はA.I.M.と極めて親密な関係となり、本格的な外宇宙移民政策が開始されて以降は太陽系内で最も勢いのある大企業の一つとして数えられるまで成長する事となる。

 

 

 

 



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機体設定その4

 ○スター級機動要塞 スター・オブ・プトレマイオス(約120km)

→改エクセリオン級恒星間航行戦艦プトレマイオス(約7~10km)

→改エルトリウム級恒星間航行超ド級戦艦プトレマイオス(約70km)

 

 とあるエーテル宇宙にて、マトリクスを解放して消滅する筈だったが、偶発的に残存してしまったスター・オブ・プトレマイオスの頭部とそこに存在する統括制御用ユニクロン分体の一部データから誕生した存在。

 本作第二部以降の主人公とその乗機兼乗艦。

 内部に残存していた僅かな戦力と共に残された頭部は辛うじてライブラリ内に残っていたエーテル宇宙産のエクセリオン級(原作より高性能)を模倣する形で新生、以降転移してしまったスパロボα近似世界にて活動を開始する。

 その最終目的はTF本国艦隊への復帰であり、決して人類のための活動ではない。

 あくまで人類を支援する目的は、自分の放つ救援要請(多次元世界の全方位かつ超広範囲に放送)によって寄って来るだろう外敵によって人類が滅ぼされないようにするためである(なお本音はry)。

 が、根の善良さ並び人類への好意は変わっていないため、基本的に人類への敵対的行動はしない。

 

 その艦体は全てが無数のナノマシンで構成されており、容易にアップデート並び自己修復・自己増殖・状況に応じた変形(主に戦艦・中間・人型)を可能とする。

 変形機構は基本的にはバトル級のものを模倣しているが、粒子状に艦を分解、後に再構成する事で瞬時に可変する事も可能になっている(変形の隙を突こうとする相手へのフェイク)。

 全体が総ナノマシン製であるため、どれだけ破壊された所で、最終的には復活が可能となっている。

 これは艦載機である量産型ヴァルチャー並び量産型無人オービタルフレームにも言える事であり、スパロボ時空に来てからずっとこれら機動兵器の量産並び自己改造を行い続けている。

 それ以外では地球に待機させている恒星間航行大型戦略工作艦ドゥーベの作成に用いられた。

 そのため、両艦載機は最盛期には20億近い機数を揃えていたのだが、度重なる外宇宙からの侵攻により第3章現在は数億程度まで擦り減っている。

 ア・バオア・クー攻防戦と同時期の宇宙怪獣・インベーダーによる大規模侵攻により一度大破よりの中破を受けて一年がかりの大改装を行い、更に予定になかったプロトカルチャー由来の多数のフォールド技術を採用する事で改スター級の機能の一部の再現に成功し、改エルトリウム級へと進化した。

 他にも単艦での恒星間航行やワープ機能、位相空間への長期間潜航並び戦闘を可能とする等、極めて高い性能を持つ。

 外観に関してはデススター → エクセリオン級並びサイズアップ版 → 船体の左右にスーパーエクセリオン級(約30km)2隻を張り付けたエルトリウム級(70km)となっている。

 変形後の外観は基本的に変化していないが、改エルトリウム級になってからは両腕部に盾の様にスーパーエクセリオン級が装着され、シルエットがジガンスクードに近くなっている。

 

 防御面においてはDFや電磁バリアの他、装甲表面を担当するナノマシンの組成を瞬時に変化する事で外部からの攻撃に対して最適な耐性を獲得する変質装甲を保有している他、改エルトリウム級からは解析の完了したプロトカルチャー由来の技術によって開発された「フォールド断層障壁」により、実弾並び次元干渉による攻撃を除いては事実上シャットアウト可能となっている。

 攻撃面においては艦表面に無数の武装を搭載し、死角というものを持たない。

 もし死角があるとすれば、それは擬装された殺し間である。

 武装は以下の通り

 

 紅玉式光線主砲

 中口径光線副砲

 対空パルスレーザー

 多目的亜光速レールガン

 対空ホーミングレーザーユニット

 光子魚雷

 艦首空間破砕砲(改エクセリオン級後期型から)→艦首4連装空間破砕砲=次元崩壊砲(改プトレマイオスから)

 

 なお、艦首空間破砕砲は照射モードがあり、これによって惑星サイズの物体も両断可能である。

 第3章現在において、太陽系にて最大のサイズと火力を併せ持つ間違いなく最強の戦艦ユニットである。

 

 

 

 

 ○恒星間航行大型戦略工作艦ドゥーベ(約14km)

 

 名前の元となったドゥーベは北斗七星の一つであり、天文学者プトレマイオスの作ったトレミーの48星座の一つである大熊座に属する。

 本来のこの艦の役割は前線における損傷した艦艇並びマシーン兵器の修理と補給がこの艦の役目である。

 全長14kmもあり、エクセリオン級なら難なく格納可能で、早期の修理・補給・改装を可能としている他、独自の工廠を持っている。

 が、対宇宙怪獣ではそんな事する暇もなく大抵轟沈・撃沈するし、修理するには長距離ワープして地球や月面、火星辺りに帰還してドッグ入りすれば良いと判断されたため、余り活用される場面は無かった。

 だがその修理・補給能力は本物であり、TF達の梃入れもあって帰還する艦艇やマシーン兵器らが多くなると、途端にその出番が多くなっていった。

 このドゥーベはプトレマイオス同様にそうしたエーテル宇宙の艦艇をナノマシンでコピーした物であり、欠点であった大型サイズでありながらも戦闘能力の無さを艦載機である量産型OFで補っている。

 防御面に関してはプトレマイオス同様のDF・電磁バリア・変質装甲を持っている。

 他にも位相空間への超長期間潜航の他、ワープや恒星間航行能力等を保有する「動く工廠基地」である。

 OFを運用するにあたり、メタトロンによる精神汚染対策に生体式自動人形はおらず、乗員全員がナノマシン式自動人形で揃えられた上で、一部に生身の乗員用の区画が存在する。

 同時に、メタトロン取り扱いエリアは基本的に生身の人間は立ち入りが禁止されている。

 火星で発掘されたメタトロンは一度この船に運び込まれ、ナノマシンにより加工され、OFが生産されていく。

 生産が完了したOFは順次位相空間へと出ていき、そこで出番が来るまで休眠状態で待機している。

 極めて高い加工精度が求められる事から月産10体が限度だが、通常のMSやマシーン兵器ならば材料さえあれば月産500は固い。

 無理すればエクセリオン級戦艦やシズラーシリーズすら一から生産可能である。

 

 

 

 

 ○改スター級戦略機動要塞

 

 スター級機動要塞がサイズの割に攻撃能力に欠ける(TF基準)とされた事、またもしもの時のユニクロンの代替としては不足するとして建造された。

 嘗てのユニクロンとほぼ同サイズの130万kmかつマトリクスを含め、同等の機能を持っている。

 他にも無尽蔵とすら思える武装並び艦載機運用・生産能力を保有する。

 惑星・中間・人型への三段変形を、自らを粒子状に分解した後に再構築するという手法で10兆分の1秒で変形を完了する。

 単騎であっても5倍程度の旗艦級宇宙怪獣(惑星サイズ)なら十二分に対応可能な程の戦闘能力を持つ。

 が、そのサイズとコストから生産数は少ない。

 専ら多次元宇宙の中でも重要な世界での統括拠点として運用されており、その周囲には常に複数のスター級機動要塞が展開している。

 現在は(ユニクロンのユニクロンによるユニクロンのための現在過去未来へと情報を送る)U.U.U.ネットワークの影響によって他の多次元宇宙に存在するホラクロン達の手によって多数生産されては一つに融合し、ゲッターエンペラーの盟友となった巨大ホラクロンを形成する一部となっている。

 

 

 

 

 ○量産型無人ヴァルチャー

 

 TF達がとある宇宙にて交流し、同盟関係を築いた人工知生体「ディジット」からの技術協力・共同研究によって開発された全長約3m(後に5mにサイズアップ)の人型無人機動兵器である。

 人型・中間・巡航形態(約3m)に変形可能で、非戦闘時は専ら巡航形態を取っている。

 そのボディは総ナノマシン製であり、自在に外観を返る事が出来る。

 単騎で恒星を破壊可能な火力、亜光速戦闘、ワープによる超光速移動、限定的な時間制御を可能とするTF側の最新鋭戦闘用ボディである。

 武装の方もホーミングレーザーやハイパーノヴァキャノン、デストロイヤーガン等、超火力・超広範囲の武装を搭載している。

 防御能力も従来通りの重力場・電磁バリア・粒子フィールドに加え、並行世界に無限に攻撃を逃す「次元連結防御システム」が漸く小型化できたので艦隊のみならずこちらにも搭載されている。

 が、スパロボ世界に来てからは「次元連結防御システム」は余りにも高コストである事からオミットされている。

 無論、撃墜されても従来通り中の人であるTFは新しいボディに交代して即時出撃可能となる。

 スパロボ世界においては搭載された人工知能は基本的に自動人形のそれと同質であり、差異は無い。

 最盛期は20億を超える数が太陽系に配備されていたのだが、現在は1億少々しか残っていない。

 

 

 

 

 ○量産型無人オービタルフレーム「セト」

 

 とある世界の火星にて収集した知識から誕生した全長10m程(後16mにまでサイズアップ)の指揮官機用人型機動兵器。

 量産型無人ヴァルチャーの指揮官機にしてナノマシンの補給ユニットを担当している。

 本来ならば量産型ヴァルチャーとセットで運用する予定のこの機体はヴァルチャーとほぼ同様の性能を持つ。

 そのボディはナノマシン群で構成され、例え構成質量の7割を失っても再生可能、自在にその形状を変化させて環境に適応、時間さえあれば分裂して増殖すら可能であり、火力においてもヴァルチャーとほぼ同格である。

 では何故16m級のサイズを持つのかと言うと、指揮下のヴァルチャーへのナノマシン並びエネルギーの補給機能を有するためだ。

 この機体を構成するナノマシン群はヴァルチャーのそれと同質であり、単に構成する数が何倍も多いというだけとも言える。

 その数だけエネルギー出力も高く、その消費し切れないエネルギーを小型のヴァルチャーへと分け与える事が出来る。

 

 その外観はジェフティを基準としつつ、両肩と両足が本家よりも大型化し、アヌビスのものに似たテールバインダーを備えている。

 これはアヌビスの持つ特徴的なバインダーユニット=ウィスプ(打撃・捕縛可能なビット兵器)に搭載されたジェネレーターの発展系を内蔵したもので、通常のアンチプロトンリアクターの他、更に主機関として小型縮退炉を持ち、本家たる二機よりも高い性能を持っている。

 武装面に関しては、アヌビス・ジェフティ二機と同質のものを備えており、通常はメタトロン技術による空間圧縮技術ベクタートラップによって格納している。

 亜光速戦闘向けにアビオニクスやFCS、センサー・レーダー系も改良され、トップ世界基準の戦闘でも十二分に通用する性能を持っている。

 更に通常のエネルギーバリアではなく、空間歪曲や空間断絶、転移障壁等の事実上無限に攻撃を防御・受け流し可能な防御手段を持つ敵に対抗するため、改良型のベクターキャノンを搭載している。

 これはメタトロン固有の空間圧縮効果を応用した兵器で、アヌビスとジェフティ両機も搭載しているが、欠点としてチャージ時間が極めて長く、更に使用の際には機体を固定しなければならないと実戦では殆ど使えない浪漫砲でもあった。

 なので、両肩に基部を背負い、脚部を地面に固定してチャージしてから発射という長い方式を一から見直した。

 大容量バッテリーを備えた機体そのものの倍以上の砲身を備えた大砲。

 加えて、重力・慣性制御を応用しての空中や宇宙での機体の固定を行う事で接地する必要を無くした。

 また、チャージそのものも最大出力のみでの使用ならず、大型艦艇向けの低出力での使用も可能となっている。

 更にテールバインダーを砲の後部へと繋げる事で、ジェネレーターから直接エネルギーを供給するのみならず、他の同型機からのエネルギー供給を受ける事も出来る。

 こうした改良と工夫により、本家よりも高出力でありながら短い時間で発射可能となっている。

 なお、ロマンが減った!と嘆く者もいたが、実用性を犠牲にするな!と怒鳴り返されたという。

 

 現在は地球圏の最終防衛ラインとして2億近い数が位相空間内に待機中である。

 

 

 

 



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機体設定その5

久々に6千字超えたなぁ…(げっそり


 第28話時点における最新鋭主力量産機とその派生型

 なお、全機がディストーション・フィールド(以降DF)、テスラ・ドライブ、マグネットコーティングを搭載、共通規格であるユニバーサルコネクターを採用、第11話からサイコセンサー(簡易思考操縦補助システム)を標準搭載している。

 全機がイージス計画始動前(始動後は包括された)から始まった太陽系の大企業群並び連邦・ジオン双方の熟練兵・エースパイロット多数が参加した連邦軍新型兵器開発計画とその成果にて開発された機体である。

 

 

 ○プロト・ジェガン

 ネモとA.I.M.から提供されたムーバブルフレーム技術を元にテム・レイ博士とミノフスキー博士の師弟コンビが開発したアナハイム系MS。

 ジェネレーターを通常のミノフスキー式核融合炉ではなく、縮退炉(原作RX-7相当)を採用したため、極めて高い出力を持つ。

 性能は開発時点において既存の全MSを凌駕する性能を持ち、縮退炉を除いたコストはガンダム以上の性能を持ちながらもジムの1.5倍程度にまで圧縮されている。

 但し、縮退炉の排熱が追い付いていない事、縮退炉そのもののコストが高いという欠点があり、活動時間が短くなってしまっている。

 武装は専用のビームライフルとビームサーベル、通常のシールドとバルカン砲(外付けオプション式)となっているが、武装の配置に関してはRX-78ガンダムと共通である。

 操縦系統はほぼジム系統のものを改良したものを採用しており、連邦軍のMSパイロットならば機種転換が容易に行える。

 

 ○ジェガン

 プロト・ジェガンの問題点を解決すべく、縮退炉を新型のプラズマ・ジェネレーターへの交換を始めとした改修を施した機体。

 シールドに4連装ミサイルの内蔵、全身に連邦軍共通新規格装備なら何でも装着できるユニバーサルコネクターの設置、手首にビームサーベルを格納できる等、コスト面以外にも近接戦闘への素早い移行や個人向けの装備変更が容易となるよう武装レイアウト等が大幅に変更されている。

 また、ガンダムのFAプランを参考とした外付けの追加装甲兼追加推進器兼追加武装であるスターク装備をオプションとして持つ。

 ジム系譲りの高い信頼性と操縦性、低コストかつ高い生産性を併せ持った傑作機。

 反面、空戦適正は他の機体より低い。

 原作の機体と比較した場合、火力以外の性能はザクⅢやドーベンウルフ等の高級量産期に匹敵、防御力では凌駕している。

 

 

 

 〇プロト・ゲシュペンスト

 A.I.M.から提供されたムーバブルフレーム技術を用いて設計された、マオ社初の人型機動兵器。

 ジェガンよりも出力・運動性・装甲・反応速度・白兵戦闘能力に優れており、全力機動中に武装なしで殴り合いをしても壊れる事がない。

 また、DFだけでなく、装甲表面に対ビームコーティングを施しているため、一年戦争時のMS用ビーム兵器では殆ど効果がない程の防御力を持つ。

 反面、生産・運用コストはジェガンよりも高くなっている。

 収納式プラズマステークや手首に格納されたプラズマカッター等、武装は本来のそれよりも充実かつ使いやすくなっている。

 この機体にも縮退炉は搭載されたが、ジェガン程ではないがやはり排熱に問題が発生し、プラズマ・ジェネレーターへと換装された。

 

 〇ゲシュペンスト

 プロト・ゲシュペンストの問題を解決すべく、縮退炉を新型のプラズマ・ジェネレーターへと換装した機体。

 廃熱等の問題は完全に解決されており、長所はそのままに白兵戦闘主体の高性能な機体となっている。

 主に熟練兵やエースパイロット等向けに配備された。

 

 〇ゲシュペンストmk-Ⅱ

 ゲシュペンストの改修機。

 全身にユニバーサルコネクターを追加し、左腕のプラズマ・ステークをオプション化している他、後述のバタラの装備であるビームシールドを標準搭載している。

 これにより主力量産機の中では最高の防御力を獲得するに至った。

 

 〇ゲシュペンストmkーⅡ ジオン共和国仕様

 マ・クベ首相が地球連邦とマオ社に対して「運用・改修データは全て連邦とメーカーであるマオ社に提出する」事を条件に生産ラインをサイド3支部へと敷設して生産・運用された機体。

 外観上の違いは頭部センサーがジオン系MSに採用されているモノアイ式へと変更された事のみ。

 武装類に関しては大型のビームバズーカ等が追加されたのみである。

 旧式化したゲルググの狙撃仕様(J型)や砲撃仕様(K型)との連携を想定しており、これらの機体が並ぶと知らない者からすれば「新しいゲルググ」扱いされたという。

 

 〇プロト・ビルトシュバイン

 ゲシュペンストのムーバブルフレーム(以降Gフレーム)を改良したG2フレームを初めて搭載した機体。

 武装や装備に関してはゲシュペンストmk-Ⅱと共通であるものの、過剰とされた装甲は若干減らし、背面に追加されたウイングスラスターによって高い機動性を持つ。

 防御力とコスト、生産性以外のあらゆる面で正式採用されたゲシュペンストmk-Ⅱと比較して性能向上に成功している。

 ガンダム顔の試作1号機、ジム顔の試作2号機、モノアイ顔の試作3号機が生産された。

 

 〇ビルトシュバイン

 ジム顔の試作機を一般兵向けに調整した後に少数生産された機体。

 が、その後直ぐにヒュッケバイン並び量産型ヒュッケバインが登場したため、少数配備に留まる不遇の名機になった。

 しかし、G2フレームを始めとして優秀な基礎設計はヒュッケバイン開発の母体として選ばれる程であり、決して無駄な存在ではなかった。

 

 〇アルトアイゼン

 特機開発競争に出遅れたマオ社が開発した準特機と分類される機体。

 プロト・ビルトシュバインを元型として、「絶対的な火力をもって正面突破を可能にする機体」をコンセプトに開発された試作重MS。

 元々は「高価な特機の代わりに、戦場の切り込み役兼斬首戦術を行える安価な機体」として開発されていたのだが、開発担当者のマリオン・ラドム博士の意向で極端なコンセプトに変更された。

 突撃機としての特性上、機体出力に依存し不安定になりがちなビーム射撃兵器は搭載されておらず、武装は実体弾・実体剣(角と杭)と手首に格納されたビームサーベルのみで構成されている。

 テストパイロット曰く、「馬鹿げた機体」。

 重装甲かつ実弾兵器主体のせいで大幅な重量増加に見舞われたが、大推力バーニア・スラスターを装備させることで強引に解決、通常推進器に加えて宇宙空間での別途加速のための追加ブースターや過給器まで搭載されている。

 結果、加速性を重視した高出力のエンジンを搭載し、可能な限り遠くの敵機の懐に飛び込み、必殺の一撃を撃ち込んだ後、急速離脱する轢き逃げに近い戦法を実現した。

 それ故の耐久性能の向上が求められた結果、過剰とも言える重装甲化が推し進められ、その増加重量分を更にバーニア・スラスターを増設し補うなどの改造を重ねた結果、近接戦闘能力・突破力・装甲防御力に優れたMSが爆☆誕した。

 一方でそれ以外の運用が極めて困難となってしまい、運動性を始めとして機体バランスが著しく損なわれ、加速・制動を精密かつ繊細に行えるパイロットでなければまともな操縦は困難となってしまった。

 また、加速中は碌に旋回も出来ず、テスラドライブ搭載機なのに重過ぎてまともに飛べず、武装が近接重視なので遠距離攻撃も不可能という、作る前から分かってただろう欠陥機に仕上がってしまった。

 が、幸運にもこの機体を乗りこなせるパイロットと支援してくれる僚機に恵まれ、後の戦乱を改修されながらも戦い抜く事となる。

 

 

 〇リオン

 イスルギ重工製の最初期型AM(アーマードモジュール)。

 人型モドキとすら言われる航空機を無理矢理人型に寄せたシルエットを持つ機体。

 AM系列の特徴である低コスト・高機動・オートマトンを用いた航空機由来の操縦系統を確立した機体でもある。

 初のテスラ・ドライブ搭載機だったが、機体構造が余りに脆弱かつ白兵戦闘に問題があったために採用されなかった。

 これにはクリムゾングループ製のステルンクーゲルと性能面において特段変わりがなかったという理由もある。

 

 〇ガーリオン

 リオンの反省を元に設計された完全人型のイスルギ製AM。

 機動性においてはジェガン・ゲシュペンストを上回り、同時期に採用された機体の中でも最も低コストかつ高い生産性もあってバタラと共に大量生産された。

 反面、低コストに拘ったがためにジェネレーターがミノフスキー式核融合炉(それでも一年戦争当時よりも高性能)を搭載した結果、武装の殆ど全てがバーストレールガンを始めとした実弾系となっており、他の機体と比べると火力・出力不足な面があった。

 最終的にジェネレーターの再設計により解決されるも、それまでは優れた機体ながらも同時期の他の機体に比べて格落ち扱いされる事もあった。

 

 

 

 〇ステルンクーゲル

 クリムゾングループ製の重力推進器採用の機体。

 リオンに匹敵する機動性で高威力のレールガンを標準装備し、尚且つ低コストでEOSにより高い操縦性を持つ。

 が、やはり完全人型でない影響で白兵戦闘に問題があり、同時期に発表されたリオン共々不採用の烙印を押された。

 以降、クリムゾングループは敵対関係だったネルガル重工・イスルギ重工と手を組んで量産型特機の開発と生産に注力していく事となる。

 

 

 

 〇バタラ

 A.I.M.火星支部長ハプテマス・シロッコにより設計されたMS。

 ムーバブルフレーム非搭載というやや時代に逆行した機体だが、ガーリオンと共に地球を除く各星系やコロニーの防衛を担った傑作機として名高い。

 小型ながら高い性能を持ち、一年戦争時において活躍した同社のクラウドブレイカー系(史実ギャプランに匹敵)を発展させ、純粋な人型に収めたという印象が強いが(ゲシュペンストに比べれば歩行能力はかなり低いが)重力下での運用と飛行を可能にしたA.I.M.グループ初(表向き)の完全人型兵器なのだ。

 史実の同名の機体と全体のレイアウトは史実の機体とほぼ同じだが、デザインには直線の割合が増え、ロームフェラ財団製MSのリーオーやその原型機のトールギスに近いラインとなっている。

 ムーバブルフレームではなく、敢えて大量生産できるように各部位がそれぞれの機能ごとにユニット・ブロック化されており、戦闘中に切り離す事も可能となっている(以降ユニット・ブロック構造)。

 具体的には頭部はセンサーやレーダー等の観測機器、腕部は戦闘のための汎用マニュピレーター、脚部は推進器といった具合に各機能ごとに特化させ、それ以外の機能は割り切って搭載しない事で内部容量に余裕を持たせて信頼性・生産性・整備性等の向上へと向けている。

 これにより既存の軽量かつ実践証明済みのモノコック構造の発展系を採用したまま、MSの高性能化に必須とされたムーバブルフレームに匹敵する高性能化を果たしている。

 固定武装は両肩の小型シールドには内側に三連装ミサイルまたはグレネードランチャーを搭載し、シールド表面には対ビームコーティングが施され、両腕は手首にビームサーベルが収納されている他はシンプルなものだが、ハードポイントが設けられ、そこにビームシールドを標準搭載している。

 脚部においてはは大腿部にメインスラスターを配置、クラウドブレイカー同様に膝下を収納して高機動形態へと簡易変形する。

 この簡易変形故に重力下での歩行機能に関しては同時発表されたゲシュペンストに対して低いものの、そもそも自在に飛べるので余り重要視されなかった。

 が、この部分が原因で地球上での配備は見送られた(狙ってやった説が濃厚)ものの、その分コロニーや各星系の駐留部隊、後の移民船団では大量に配備された。

 また、大型のプロペラントブースターを収納状態の脚部に連結する事で更なる機動並び推進剤容量の増加による活動時間の増加を実現している。

 胴体部は史実の特徴的な肋骨の様な動力パイプではなく、バイタルエリア保護のための頑丈な装甲が設置されており、DFが不得手な実弾兵装等に対しても十分な防御力を発揮する。

 頭部はクラウドブレイカーの系譜なだけあって頭部そのものが一つのセンサーブロックとなっており、後頭部のみ装甲化がされている。

 クラウドブレイカーと比較した場合、準人型故に操縦にはMSと航宙機双方の知識が必要になったのと異なり、一般的なMS操縦の知識と経験があれば十全に動かす事が可能で、白兵戦闘も十分こなせた。

 

 

 

 〇YF-0 フェニックス

 ストンウェル・ベルコム、新中州重工、センチネンタルの三社が合同で開発した、後のVFシリーズ全ての祖となる全領域対応人型可変戦闘機。

 縮退炉と二基の完全ジェットエンジンを搭載した人類史上初の三段変形機能を持った機体である。

 全身の可変システムはマグネットコーティングにより極限まで摩擦抵抗が消え、変形完了後は電磁吸着によって高い堅牢性を発揮し、エネルギー転換装甲と合わせると見た目よりも遥かに頑丈となっている。

 本家よりも高出力かつ高性能であったが、近接兵装は装備していない事から白兵戦能力は低かった。

 凡そVFに必要な全ての機能がこの機体に搭載されており、当時にしても極めて先進的かつ意欲的な設計をしていた。

 が、縮退炉を無理に搭載したため、やはり排熱とコスト高騰の問題に突き当たってしまった。

 

 〇VF-01 バルキリー

 YF-0フェニックスの問題点を解決すべく、高価な縮退炉ではなくプラズマジェネレーターの搭載を始めとした改修を行った機体であり、連邦軍初の正式採用された可変戦闘機である。

 巨人族との近接格闘戦に入った場合を考慮して、ガンポッドには折り畳み式銃剣、手首にはビームガン兼ビームサーベルを追加する形で完成した。

 航空機のファイター、中間のガウォーク、ヒト型のバトロイドと三形態へと可変可能な上、テスラ・ドライブ停止時であっても極めて高い機動性と展開速度(オプション無しの大気圏内最大巡行速度マッハ4)、大気圏内外に水上母艦や陸上基地でも無改造で運用可能である事、更に連邦軍新型兵器開発計画においては唯一の無改造・無調整・無装備での大気圏離脱・再突入を可能とする機体であった事から早々に正式採用・配備が決定した。

 コスト・操縦性・生産性においてはその複雑な構造から同時期の主力機に比べれば劣っていたものの、その特務部隊向けの展開速度と水中を除けばあらゆる状況で戦闘可能な汎用性は特筆に値するため、問題視されなかった。

 が、他の機体に比べて防御力と火力に劣るのは問題視されたため、ガンダムやジェガンのFAプランを参考にして開発されたスーパーパックとアーマードパックをオプションとして装備可能になっている。

 前者は機動性優先の、後者は火力と防御優先の増加装甲兼武装兼追加ブースター群である。

 これらは主に宇宙での運用が前提だが、大気圏内でもDF発生中なら問題なく運用できる。

 前者のスーパーパックの外観は史実のものだが、後者のアーマードパックの外見はVF-2SSのスーパーアームドパックに近い。

 どちらも変形には干渉しない構造を取っており、重量増加分も追加されるスラスター群で補う事で寧ろ強化されている。

 整備の手間こそ増えるものの、強力なオプションとして以降のVFシリーズの共通装備として採用され続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第29話 束の間の平和

今回はアズにゃん回りのお話


 新西暦185年 6月

 

 「今までお疲れ様、武蔵。」

 「いえ、トレミィ様、その名は…」

 「あぁ、そうだったね。」

 

 花嫁姿の腹心の、否、腹心だった一人の元自動人形に、トレミィは告げるべき事を告げた。

 

 「武蔵型高級自動人形4号機、正式に君の任を解く。」

 

 そして、生体式ボディへと意識を写した沢山の娘の一人を笑顔で祝福した。

 

 「おめでとう、兼定。君が一人の人間として幸せになる事を祈ってるよ。」

 「ありがとうございます、プトレマイオス様。」

 

 鋼鉄の女とすら言われた4代目武蔵。

 またも彼女は自らを好いてくれる人と出会い、その名と役割を捨てて、トレミィの元を巣立つのだった。

 こうして見送るのも最早何度目だったか忘れる程に、トレミィは繰り返していた。

 

 「さようなら、兼定。きっともう私と会う事は無いだろうけど、その幸せを遠くから見守っているよ。」

 「はい。今までありがとうございましたお母様。どうかお元気で。」

 

 既に彼女の跡目は5代目武蔵が就任し、既にして引継ぎを完了、業務に精励している。

 外見上はちょっと若くて堅苦しさの抜けていない、物言いが先代よりもズバズバしていて髪型の変わった武蔵であるが、歴代武蔵は皆最初はそんな感じなので、事情を知っている社員らは何も言わない。

 

 「宜しかったのですか?」

 「いつもの事だよ。」

 

 歓声の響く式場から離れた場所で、トレミィは問うてくるSfにいつも通りそう返した。

 機密の関係上、A.I.M.の外に嫁いでいった元自動人形には接触できない。

 否、してはいけない。

 それだけA.I.M.は近現代史の裏の深い所で蠢き続けてきたのだ。

 下手に裏向き含めた交流を続けてはどんな厄介事が寄って来るか分かったものではない。

 まぁ、密かに護衛は配置しているのだが。

 

 「じゃあね、兼定。」

 

 部下のセンサーアイ越しに見る新郎と新婦の姿は、それはもう美しく、幸せそうだった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦185年

 

 太陽系があのA.I.M.の元敏腕女社長とアズラエル財閥総帥の恋愛結婚に湧き上がっていた頃、密かに動く者達もいた。

 

 『漸く工作が実りそうですな。』

 『全く、レビルの奴には困ったものだよ。』

 『一年戦争時はあれだけ支援してやったというのに…。』

 

 悪巧みするにはお約束とも言える「モニターだけが光る暗室」において、老人達が口々に愚痴を溢した。

 

 「何、それもこれも地球を守るためのもの。異星人の脅威から身を守るための投資と考えれば安いものですよ。」

 

 そんな老人達に自信満々で言い切るのはロード・ジブリール、アズラエルとブルーコスモスの主要スポンサーを二分する出資者であり、同じくロゴスの若手メンバーである。

 そのためか、アズラエルには対抗意識剥き出しで接しているのだが、能力と忍耐力双方で劣るため、素気無くあしらわれているのが現状だ。

 なお、その名前は敬称ではなく本名であり、苗字は仕方ないにしても親のネーミングセンスと正気を疑うレベルのイタイ名前である。

 

 「いい加減、棄民共と人形女共にデカい顔をされるのは我慢がなりませんでした。ここいらで主導権を我らの手に取り戻そうじゃありませんか?」

 

 問いの形で発せられはしたものの、実質的にそれは断言だった。

 今後、地球圏を牽引する役目はアズラエルでも地球連邦でもA.I.M.でもなく、己だという宣言。

 その様子に老人達は内心を隠して取り敢えず追従する動きを見せていた。

 

 『どうあれ、地球防衛並び治安維持用の精鋭部隊の設立は悪い話ではない。以前より意見はされておったようだしな。』

 『うむ、ジャミトフ少将じゃな。』

 『あやつは元々コリニー閥で財務部門担当じゃしな。こちらの意図も上手く汲んでくれるじゃろう。』

 

 事実、ジャミトフは以前から地球防衛用の特務部隊の設立を要請していた。

 しかし、設立する部隊の規模は地球上で素早く展開できる小艦隊程度に留まっており、決して制服やら予算やら兵器やらが連邦で現在配備中のものとは異なる完全に独立した部隊ではない。

 寧ろ財務部門担当としてはそんな事をされては頭が痛い限りだろう。

 

 (対テロを名目とした特別扱いや便宜については通らなかったのが不愉快だが…まぁ良い。これで大手を振って自由に動かせる手駒が増えた。)

 

 ジブリールはこれを機に自身の邪魔をする政敵の排除を政治・軍事両方から推し進めていく事を考えていた。

 

 (私のグループが開発した新兵器の数々。それにロームフェラ財団のスペシャルズとも既にパイプは出来ている。後少し、後少しで全てが手に入る…!)

 

 目的さえ、邪魔者の排除と自身の更なる権益の獲得が達成できれば、こうして同士面している老人達も斬り捨ててやる。

 そんな暗い感情を(本人なりに)隠しつつ、ジブリールは次の手を打つのだった。

 

 「さて、早速ですがティターンズで採用予定の機動兵器に関してですが…」

 

 

 ……………

 

 

 『やれやれ、これではピエロだよ。』

 『ジブリール君もなぁ、決して無能ではないんじゃが…。』

 「しょうがないですよ。彼、プライドがもの凄いですから。」

 

 自身の会社のオフィスにて、アズラエルは溜息を吐いた。

 

 『早い所戻ってきてくれ、とは言えんなぁ…。』

 『何せこれから新婚旅行じゃしなぁ。』

 『美人の姐さん女房、それも初恋の女性とはよく頑張ったものだ。』

 「はっはっは、そりゃもう頑張りましたからね。」

 

 嫉妬とか色々向けて来る疲労した老人達の愚痴を聞きながら、アズラエルは嬉しそうに笑った。

 

 「で、首尾の方はどうなんです?」

 『ジャミトフ少将は協力を約束してくれたよ。』

 『ゴップ大将も設立に関しては黙認はしてくれるし、本命の外宇宙移民政策については既にレビル首相から話が通っておるそうだ。』

 

 先程まで行っていた密談は、あっさりとアズラエルの元へと流れていた。

 ジブリールを頼みに出来ないと判断したロゴスの老人達は、今後更なる発展が見込めるアズラエルの方へと既に旗を変えていたのだ。 

 つまり、ジブリールは既に完全に見捨てられ、捨て駒としての役割を課されていたのだ。

 

 「となると、後は本当に戦力と人手が揃えれば実行ってレベルですか。」

 

 移民船団を構成するだけの船はA.I.M.は既に用意済みであり、後は移民の募集を出してどれだけの人が乗って来るかだ。

 少なくとも宇宙怪獣の艦隊の一つや二つ程度返り討ちに出来るだけの戦力は船団に付けられるが、移民船団となるとそれ以上に民間の業者や移民希望者がどれだけ乗ってくれるかが重要となる。

 

 『安心せい。必ず人は集まる。』

 『まだまだ地球には人が多過ぎる。穏便な手でそれを他所に移せるのならワシらも否応もない。』

 「勿論、協力して頂けた分以上には稼がせてあげますので、その辺はご安心ください。」

 

 ブルーコスモス過激派を始めとした、「行き過ぎた地球人類至上主義者」達。

 ジブリールを始めとした一部の者はそうした連中を纏めて処分するための旗頭にされたのだ。

 これにはロームフェラ財団の貴族主義者もかなりの割合含まれており、どれだけ彼らが周囲から嫌われているのかがよく理解できる話だった。

 

 「別に地球至上主義は悪じゃないんですよ。主義主張が強いのも。」

 『問題なのは拗らせた挙句、周囲にそれを強制させて、断る者は敵とする所だよ。』

 『まるっきり新手の宗教団体じゃな。』

 

 別に地球至上主義はそう特別な事ではない。

 太陽系の開拓が進むにつれ、地球の相対的価値が減っていく中、それでも地球人類としてのアイデンティティーから地球を重視する気持ちは分かる。

 異星人の存在が明らかとなり、地球人類としてのナショナリズムが勃興し、そういった連中の声が世間からの耳目を集めやすい土壌が出来ているのもある。

 しかし、己の主義主張と私利私欲のため、外宇宙には敵だらけという状況を理解せず、政敵を排除するために精鋭部隊を組織して運用するとかいい加減にしろと怒っているのだ。

 

 「ま、これで目ぼしいアホは釣れるでしょう。」

 『うむ。今後の事を考えれば、そういった連中は一か所に纏めて、状況が揃い次第掃除するのが一番だろう。』

 『それまでの出費は…まぁ損切りと割り切っておくべきじゃな。』

 

 こうして、アズラエルを筆頭としたロゴスのメンバーはA.I.M.との取引をしっかり実行したのだった。

 

 

 

 



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第30話 開発開発 そして巨人立つ

 新西暦185年 いつもの北米ラングレー基地

 

 最新主力量産機開発計画が一段落した現在、生産の現場は未だ終わらないデスマーチの生き地獄状態ではあるが、開発現場は初期不良等の手直しも済み、一段落していた。

 しかし、開発はまだ終わっていなかった!

 

 「中々愉快な事になっていますね。」

 「これを愉快の一言で纏める貴方の胆力にビックリですよ。」

 

 現在の北米ラングレー基地は大量の特機や準特機、その試作機等で溢れ返っていたのだ。

 

 EOTI機関の協力で完成したイスルギ重工のグラビリオン。

 対抗馬のネルガル重工・クリムゾングループの合作のジンタイプ。

 テスラライヒ研究所のグルンガスト。

 EOTI機関、というよりもビアン博士の作品のヴァルシオン改。

 ゴライクンルからの刺客こと怪獣型特機ガルガウ。

 アナハイムからは安定性重視の非変形の強化型ZZことMZ(メガゼータ)。

 A.I.M.より正式版シズラー(サイズとコストがヤバい)。

 

 これらがその性能・完成度を高めるべく日夜鎬を削ってデータ取りや模擬戦に明け暮れていた。

 なお、ヤザンは「デカい機体は性に合わん」として、現在は教導隊と共にあちこち派遣されて、ベテラン向けの教導任務に当たっている。

 また、上記の機体以外の民間研究所で開発されている特機の多くは極東方面である事から、こことは別口で研究開発が進められている。

 

 「しかし、やはりコストがなぁ…。」

 「宇宙怪獣とかが仮想敵ですからね。致し方ないかと。」

 

 シズラーの元となったガンバスターを始祖とするバスターマシン。

 あれは億単位かつ亜光速戦闘が普通の宇宙怪獣と対抗するための超兵器なのだ。

 その性能の割に生産性が高いとは言え、そのコストはどう足掻いてもクラップ級よりも高い。

 

 「そう考えると、MZやグラビリオンは分かり易いな。」

 

 この二機は既存兵器の発展系と簡易型であるため、その運用方法も分かり易い。

 MZは変形・分離機構こそオミットされたものの、縮退炉を搭載した大型MSだ。

 全長こそ25mとMSとしては大型であるものの、腹部に配置されたハイメガキャノン(ジェネレーター直結かつ頭部のセンサー系に干渉したいため移動)を始めとした高火力武装を搭載し、FAプランすらあるこの機体はジェガン並びグフタスカールとの共有パーツも多く、量産型準特機としては最も有望視されていた。

 この機体にはMF開発で培われた最新のムーバブルフレームや駆動系が新たに採用されており、試作数機で終わったZ系やペーパープランで終わったZZ系列よりも更なる高性能を実現していた。

 なお、MFに関しては余りに再現性が低いとされ、アナハイムによる人材派遣業と最近開始されたガンダムファイトによる興業にて活躍している。

 グラビリオンに関してはジンタイプがリオンとステルンクーゲルの時と同様に似た様なコンセプトの機体となってしまったため、現在設計の統廃合が進んでいる。

 

 「まぁ今優先するべきは主力機の配備だからな。特機並び準特機の正式採用と量産は再来年辺りだろうな。」

 「仕方ありませんね。生産ラインが絶賛デスマーチ中では。」

 

 そんなこんなで、開発は進んでいくのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「このままでは不味い。」

 「然り。」

 「特機とは盲点だったからな。」

 

 一方その頃、同基地にて深刻な顔で頭を突き合わせている者達がいた。

 彼らはそれぞれストンウェル・ベルコム、新中州重工、センチネンタルの担当者らだった。

 

 「宇宙怪獣。あんな連中が本当にいるとはなぁ…。」

 「異星人はまぁ納得せざるを得なかったが…。」

 

 VF-1バルキリーという傑作機を世に送り出した彼らだが、その反面、特機開発においては大幅に遅延していた。

 というのも仕方ない。

 あんな無茶苦茶な一騎当千を体現する巨大ロボなんて、一朝一夕で開発できるものではない。

 

 「……仕方ない。ここはアナハイムに習おう。」

 「と言うと?」

 「可変機構を排した上での大型化か?」

 「いや、可変機構に関しては引き続き搭載する。大型化は行うがな。」

 「だが、単なる大型化と縮退炉の搭載じゃ、直ぐに陳腐化するんじゃないか?」

 「無論、それだけでは終わらせない。」

 

 VFは既に幾つも派生(通常仕様のA型と指揮官用のS型、電子戦仕様や偵察仕様、練習機仕様等)も出来ている傑作機だが、昨今の技術開発の流れを前にしては直ぐに置いていかれかねない。

 本社や他の会社でも新型機の開発が進んでいるが、それにしたって特機に敵うだけの性能はない。

 ならば、自分達が特機に匹敵するVFを開発するしかない。

 

 「特機級の可変戦闘機か…。」

 「先ずはどれ程の性能が必要かを纏めてだな。」

 「縮退炉搭載の関係で大型機が前提だから、多少は無茶が効く。」

 

 縮退炉。

 現在、A.I.M.以外で生産できず、各社に販売されているそれは信頼性・整備性を最優先した関係でMSに搭載可能な大きさまでしか小型化できないでいる。

 シズラーや戦艦等の大型機にはこれとは別に大型縮退炉、そしてエクセリオン等のkm超えの機体には超大型縮退炉が搭載されている(なお、マクロスは大型縮退炉を複数搭載)。

 現在の機動兵器では排熱の問題から最も小型な縮退炉しか積めないのだが、現状プラズマ・ジェネレーターでも十二分に全力戦闘可能となっている。

 そのため、単に縮退炉を積んだだけでは完全にオーバースペックとなり、無駄になってしまう。

 

 「余剰出力をどう使うべきか…。」

 「ビーム兵器の搭載はどうだ?既に手首にビームサーベル兼ビームガンがあるだろう。」

 「特機級であるからにはミサイルに反応弾や戦術核無しでもある程度の火力は欲しい。」

 「そうなると機動性の低下が問題だな…」

 「そもそも切込み役なのだから、機動性と火力を維持しつつ、防御力も向上させねば。」

 

 こうして特機級可変戦闘機開発は始まった。

 この開発計画は後に更に洗練され、AVF計画へと昇華され、傑作機たるVF-19やVF-22の正式採用、そしてVF-25の誕生へと繋がるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦185年 夏 地球連邦軍 首相官邸

 

 「では、地球圏防衛用特務部隊ティターンズの発足を正式に認めよう。」 

 「ありがとうございます、レビル首相。」

 

 この太陽系で表向きの最高権力者からの許可に、ジャミトフは頭を下げた。

 

 「とは言え、テロリストの監視と対応には手を抜かないでくれ。」

 「分かっておりますとも。」

 

 無論、これは言葉通りの意味ではない。

 ブルーコスモスに同調する様な、反体制過激派等の把握ともしもの時の対処。

 それはつまり、ティターンズそのものもその中に含まれている。

 

 「君には苦労をかけるな…。」

 「何の。これも地球のためですとも。」

 

 やれやれ、と言った風情のレビル首相に対し、ジャミトフはにやりと嗤ってみせた。

 元々、地球防衛のための特務部隊は必要であり、そのためのISA戦術対応艦を用いた機動力の高い小艦隊は設立予定で、ジャミトフはそれの音頭を取っただけだった。

 しかし、実際はこんなアレな仕事を任される事となり、原因となった過激派や反体制派に対して、ジャミトフは内心で激怒していた。

 

 「内情はどうあれ、折角貰った椅子です。精々乗りこなしてみせましょう。」

 「頼んだよ。」

 

 レビルもジャミトフも、これを機に今後の外宇宙移民計画で邪魔になる連中を一纏めにした上で排除する予定だった。

 今後の太陽系に、地球人類に無駄にして良いリソースなど一切存在しないのだが、それをしてでもここで連中を排除しておかないと、本当に大事な時に後ろから刺されかねないと危惧していたのだ。

 そう確信する理由は現在の地球人至上主義者の中心人物であるロード・ジブリール氏の人格や来歴等の詳細がロゴスメンバーから密かに提出されたという事も大きい。

 現在、ジブリールが主となって動かしているブルーコスモスも過激派が幅を利かせており、その主張も自然保護から地球人類至上主義に置き換わっている。

 しかも質が悪い事にロームフェラ財団もここに加わって貴族主義が入り込み、「地球人類の中でも特権階級にある者こそが最も支配者に相応しい」というお前ら頭大丈夫?煮えてない?と問い質したくなるアレな人種へと変貌しつつあった。

 これにはブルーコスモス内の穏健派と中道派も嫌悪しており、彼らの実質トップであるアズラエルと共に徐々に別組織化しつつあった。

 当然、こうしたブルーコスモス過激派の要請と支援を受けて成立したティターンズがまともである筈もない。

 現在は実質ブルーコスモス過激派が尖兵となり、指揮官はロームフェラ財団の息のかかった連邦軍人という形で構成された武装テロ組織に近かった。

 

 「先ずはスペシャルズと繋ぎを取らんとな。」

 

 首相官邸を辞した後、ジャミトフは今後の予定を改めて考えた。

 トレーズ・クシュリナーダ。

 貴族主義を拗らせた老害が多いとされる欧州の雄たるロームフェラ財団において、若手ながら最もカリスマと能力、人格を併せ持った唯一と言っても良い傑物である。

 表向きは地球連邦軍准将だが、その実際は連邦軍の欧州におけるMS運用を前提とした下請け民間軍事会社スペシャルズのトップである。

 このスペシャルズの人員と別口のジブリール肝いりの連邦軍人らがティターンズの指揮系統の中核を成す予定であり、この時点で内紛の種が見えていた。

 

 (両方が食い合って自滅してくれるのが理想形だが、あのトレーズめがそんなヘマをする訳もない。)

 

 トレーズは間違いなく人類を愛しているが、対話可能であれば間違いなく異星人すら愛してみせるだろう。

 そういう「エレガント」かつ「人類に対して最も真摯」な男なのだ、あれは。

 そんな男がブルーコスモスやロームフェラの流儀に合う筈もない。

 

 (デルマイユめも若い頃はもう少しマシだったのだがな…。)

 

 地球人ではなく、あくまで地球至上主義者であるジャミトフとしては頭の痛い問題だった。

 だが、ティターンズの解体まで勤め上げれば連邦議会議員としての席を貰える約束であり、レビルやゴップから直々の依頼であるため、断る事も出来ない。

 

 「前途多難だな…。」

 

 ジャミトフのぼやきは誰に聞かれる事もなく消えていった。

 

 

 

 



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第31話 巨人の産声 そして…

修正
地下勢力連合→地底種族連合


 新西暦185年 秋

 

 かねてより設立が決定されていた地球連邦軍独立治安維持部隊「ティターンズ」が設立された。

 主な任務内容は地球圏の治安維持を名目とした対テロ・異星人他の撃滅である。

 この部隊の人員に関しては以前より選抜されており、極端な地球人類至上主義者並び貴族主義者から構成されており、内部は実質的に二つの指揮系統が存在するという問題があった。

 しかし、配備されたMSを始めとした兵器はどれも新品の最新型であり、スポンサーであるジブリール財閥並びロームフェラ財団の多大な支援と期待を現していた。

 

 「しかし意外でしたね、ロームフェラ財団がこうまで出資してくるとは…。」

 

 ティターンズに関する諸手続きをする中、ポツリとジャマイカン少佐が告げた。

 

 「何、簡単な事だよ。」

 

 それを上司であるジャミトフが説明した。

 

 「ロームフェラ財団の長であるデルマイユはな、トレーズを扱いかねて……いや、持て余しておるのだよ。」

 「故に島流し、ですか?」

 「その間に再度スペシャルズを自分の影響下に置き直すつもりだろうがな…。」

 「それは、無理では?」

 「役者が違い過ぎるからな。」

 

 あっさりとジャミトフはジャマイカンの意見を肯定した。

 

 「まぁ我々は連中がやらかし次第、軍規に則って公正に裁くのみ。それだけで済む。」

 「既に憲兵隊と陸戦隊とは話が付いています。」

 「教導隊ともな。もし自棄になった所でそれで済む。」 

 

 これでティターンズがどうやらかそうと対応できる。

 また、地球連邦軍教導隊機動兵器部門の若手将校を中核とした一派は彼らと主義主張は似通っているものの、精鋭軍人として優れた見識を持つ彼らにはティターンズを構成するブルーコスモス並び行き過ぎた貴族主義者の存在を事前に十分に教えられている。

 即ち、今後の地球人類にとって、この連中が害悪である事をしっかりと認識していた。

 これでもう、ティターンズ参加者には実質的に地球連邦軍内での居場所が無くなっていた。

 

 (ま、巻き込まれただけの人員がいた場合、新しい戸籍と名前を用意するがな。)

 

 勿論、アフターケアの用意もバッチリである。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦185年 冬

 

 「は?ズール銀河帝国に動きあり?」

 

 時折やってくる宇宙怪獣やインベーダーの億単位の大艦隊を撃滅しながら、採掘した資源でヴァルチャーやOF、無人仕様改エクセリオン級を生産して日々を過ごすトレミィ達こと太陽系防衛用無人兵器部隊は最近は専ら観測用となってるデコイ艦からの急報に驚いていた。

 

 「はい。大規模な艦隊が行動中です。」

 「隻数は?」

 「約1憶。機動兵器に関しては不明です。」

 「ワープ実装してる艦と機動兵器も多いから…本気か。」

 

 ズール銀河帝国。

 それは強大な念動力者にして悪の思念体(=人の集合無意識の悪の側面=負の無限力の一つ)でもあるズール皇帝の圧倒的戦闘能力を背景とした絶対君主による恐怖政治体制の国家である。

 ギシン星を首都とし、同星を中心に半径一千光年という極めて広大な支配領域を誇る。

 この支配領域内にはボアザン星、キャンベル星、ベガ星雲、フリード星、ラドリオ星他多数の有人惑星が存在し、一部が滅亡、多くが属国状態となっている。

 なお、バッフクラン並びゼ・バルマリィ帝国と支配領域が接しているため、両者とは日常的に戦争している。

 が、支配領域からガンガン収奪しているので、その無茶な攻勢に陰りは見えない。

 支配領域で圧制を敷けば敷く程に悪の、負の思念が強まり、結果的に本人が艦隊戦力を整備するよりも多大に強化される。

 更にその力で以て外敵と内部の反乱分子に更なる暴虐を敷いているため、更に強化されるという。

 単体戦闘能力だけを見ても、この銀河においても5指に入る強大極まる存在である。

 他にも洗脳や分身、物理的な攻撃では殺せないという頭のおかしな能力を多数持つ。

 そんな奴が本気で指揮下の艦隊戦力を動かしているのだ。

 しかもその気になればズール皇帝の超能力で幾らでも艦隊をワープさせる事も出来る。

 はっきり言って超危険な状態だった。

 

 「レビル首相並び地球連合軍総司令部、それと女王陛下にも通達。」

 「宜しいのですか?」

 「何が起こるか分からないんだから仕方ない。全戦力は即応状態で待機。特に地球圏最終防衛ライン担当のOF隊はいつでも動けるように。要人警護も抜かりなく。」

 「コードREDは発令しますか?」

 「…今はまだ無しで。」

 「畏まりました。」

 

 こうして、太陽系は未だ完全に準備が終わらないまま、新たな戦乱の気配に戦くのだった。

 

 

 ……………

 

 

 一方、そんな事は知らないティターンズは設立早々にしてやらかしていた。

 アフリカ等で撤退命令に従わず、そのまま地球に残留して匪賊行為を繰り返していた一部の旧ジオン公国残党兵。

 彼らは一年戦争以前からの犯罪者であり、人員の足りなさから減刑・釈放を餌に駆り出されたのだ。

 地上の重力戦線の趨勢が固まると、即座にジオンに見切りを付けて現地犯罪組織との伝手を辿って離脱、以降は最新鋭機には大きく劣るが旧式のMSをも保有する武力組織として各地での民族紛争でPMCとして活躍、時々サイドビジネス=略奪を楽しみながら財貨を稼いでいった。

 これに以前から目を付けていたティターンズはストーク級6隻とその艦載機を用いて現地の市街地のど真中で攻撃を敢行、民間人多数を巻き込みながら当該残党兵からなるPMCを殲滅した。

 艦載機はジブリール財閥開発のダガーシリーズを主体に、リーオーやエアリーズ等のロームフェラ財団系のMSで構成されている。

 ダガーシリーズはジム系を旧プラント系の技術者(地球にいたのを人質取って協力させた、処分済み)が再設計した機体であり、その性能は購入したDFやテスラドライブを搭載、マグネットコーティングを施してある事もあって優秀であり、尚且つ低コストだ。

 が、操縦系統にはサイコセンサーを搭載していないため、反応速度や操縦性においては若干劣る。

 それでもロームフェラ財団に依らない大事な戦力として運用されていた。

 そして、予定通りPMCを殲滅した後は、蓄えられていた財貨をどさくさに紛れて懐に入れる事に成功していた。

 加えて、「テロリストが紛れ込んでいる」として、市街地から逃げようとする民間人を皆殺しにし、略奪を終えた後に爆撃まで加えてから立ち去った。

 無論、これには現場の人員の一部からしても眉を顰める所業だったが、それでも目的は果たせたし、何より部隊の大多数は気前よくばら撒かれた財貨の一部に歓声を上げる様な連中だった。

 

 「ん~~やっぱり赤いのは良いですねぇ。」

 

 そんな惨状を楽し気に見るのは、この部隊の指揮官たるアーチボルト・グリムズ大佐だ。

 以前からジブリールの下で非正規任務に従事していたこの男は、人の流血こそ趣味とする「外道」としか呼べない性根を持っていた。

 どんな残虐な任務でさえ、報酬云々ではなく「趣味」として楽しめるから実行し、そうでなくともそれなり以上に優秀で仕事を成功させるため、ジブリールからは便利屋として重宝され、一年戦争の頃もジブリールの根拠地にあたる東欧でジオン相手に焦土戦術を始めとした敵味方双方へと容赦のない戦術で散々に荒らし回ってすらいた。

 そういう意味ではこのアーチボルト・グリムズ大佐は間違いなく軍人としてベテランであり、優れた指揮官だった。

 

 「お次は何処にしましょうか。」

 

 これを手始めに、ティターンズはテロリストの排除を進めていくのだが、余りに残虐非道なやり方に非難が殺到し、後にその牙を向けられては堪らないと連邦軍内部の有志とアナハイムをメインスポンサーとしてエゥーゴが結成されるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年 1月1日

 

 レビル首相による新年を迎えられた事を祝う演説の最中。

 宇宙からの侵略を警戒していた連邦軍を嘲笑うかの様に、一連の戦乱は先ず地下からの奇襲、そして異次元からの侵略によって始まった。

 

 「ギギギ!我らは地底種族連合!猿共め、大人しく降伏するがいい!」

 『我らムゲ・ゾルバドス帝国!地球人類共よ、降伏せよ!抵抗は無意味だ!』

 「『………。』」

 「取り敢えず地球連邦を下してから、上の人と話し合ってくれんか?」

 『了解した。先ずは地球連邦軍の相手を優先するよう掛け合ってみる。』

 

 そんなコント染みた会話から、地球圏最大の受難は始まった。

 なお、この数か月後にズール銀河帝国とゼ・バルマリィ帝国もほぼ同時期に侵略を開始する模様。

 

 

 

 




 「お前ら他所に行くか一遍に来るんじゃない!」

 地球人類は大体似た様な感想を抱いたという。


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第四章 一年早くて延長な第一次α
第1話 第一次スーパーロボット大戦α 開幕


ぐぎぎ、日付変更に間に合わなかった…!


 新西暦186年 1月1日

 

 地球は地底と異次元からの奇襲により、極度の混乱へと飲み込まれた。

 地底種族連合とムゲ・ゾルバドス帝国。

 しかもこの両者は当面の敵を地球連邦と定めており、お互い邪魔する事なく地球各所で暴れているのだ。

 

 「ギギギ!猿共、我ら爬虫人類に平伏すがいい!」

 「ふはははは!我ら百鬼帝国の礎となるがいい!」

 「連邦軍など恐れるに足らず!ご覧くださいDr.ヘル!このブロッケンが…」

 『ポイントに誘導完了!』

 『各機、集中砲火!』

 「「「ぎゃあああああ!?」」」

 

 が、奇襲当初から一か月としない内に逆撃を受け始めた。

 一時は演説中だったレビル首相の命すら危なかったのだが、異星人を仮想敵として連邦軍全体が訓練を欠かす事無く自らを鍛え続けてきたのが大きい。

 無論、太陽系外周を守る土星基地や資源地帯である木星を守る駐留艦隊に比べれば練度も装備も一段劣るが、それでも有力な部隊は多数存在する。

 特に有名であるのが地球連邦首都たるダカールを幾度もの侵攻から守り抜いた首都防衛隊、極東方面軍で民間開発の特機他訳ありの人員を纏める形で構成されたマーチウィンド、欧州・中東方面で暴れ回っているティターンズとスペシャルズ、そして地球圏最大最精鋭の名を欲しいままにする旗艦マクロス改他ISA戦術対応艦で統一されたαナンバーズである。

 これらの部隊だけでなく、各方面から選抜された人員によって火消役として編成された抽出打撃部隊(最新装備+ストーク級orガルダ級)の活躍により、辛うじて重要な資源地帯に市街地、大規模軍事施設等は守る事が出来ていた。

 が、最大の理由はそこではない。

 

 『コードRED発令、コードRED発令。』

 『レムリア女王並びひびき洸少年への攻撃を確認。護衛により対処済み。』

 『敵勢力は恐竜帝国、百鬼帝国、機械獣軍団、ムゲ・ゾルバドス帝国と確認。』

 『地球圏防衛用無人OF部隊は所定の作戦行動を実行せよ。』

 

 約2億を誇る太陽系防衛用無人兵器部隊の奥の手、無人OF隊が動いたのである。

 彼女らの活躍により、開戦当初の異次元と地底からの奇襲は防がれた。

 地底からの電話線や都市ガス管、水道管等の都市部の重要なライフラインの破壊こそ防げなかったものの、地方行政府や工業地帯、各大企業群の生産工場の防衛には成功した。

 演説中に襲撃を受けたレビル首相を護衛したのも、彼女ら無人OF部隊だった。

 まぁいきなり地中と虚空から現れたMSサイズの機動兵器への対応を歩兵で行う、若しくは足元の他の政府要人やマスコミのカメラマン等を気にせずMSを突っ込ませるのは如何に精鋭で揃えられた首都防衛隊でも無理だった。

 他にも人間に化けて潜り込んでいた爬虫人類の掃討も無人OF部隊により行われ、人類社会に浸透していた爬虫人類の内の殆どが狩り出され、決して抵抗を諦める事が無かったため例外なく射殺された。

 現在、最初の混乱を乗り越えた地球連邦政府はレビル首相による徹底抗戦の決定ならび両勢力へと宣戦布告を返し、正式に開戦した。

 これにより一年戦争から僅か6年の間を置いて、地球人類は異種族に対する生存競争を開始する事となった。

 態勢を立て直した地球連邦軍は各所で反撃を開始、各サイドや資源衛星基地、月面へと配備していた一部戦力を抽出して殲滅しようと考えたのだが……

 

 

 『冥王星工廠基地の太陽系防衛用無人兵器部隊より入電!インベーダーによる大規模侵攻を確認!数は…10億!?ほ、他にも異星人の有力な艦隊多数が接近中との事です!』

 

 

 この報告により、地球は現状の戦力で事態に対処する必要に迫られた。

 そして開戦より3か月後、地球の情勢はある種の膠着状態となる。

 これは地球上の各陣営が決着を付けるための準備段階である事は、誰の目にも明らかだった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年 4月 極東方面 獣戦機隊基地

 

 「こいつら、いつもいつもしつこい!」

 

 沙羅の搭乗するランドクーガーは戦車形態のまま、高収束ビーム速射砲と二つの5連装ミサイルランチャーを用いて次々とやってくるムゲ帝国の機動兵器ゼイ・ファーへと対空射撃を行っていた。

 特にこの高収束ビーム速射砲、その名が示す通り毎分300発もの連射を可能としている。

 同型のランドライガーよりも一発当たりの火力と装甲こそ劣るものの、獣戦機中最高の射撃能力に身軽な運動性を活かした立ち回りに関しては勝っている。

 また、獣戦機隊メンバーの中では最も射撃に長けているため、こうした対空射撃は彼女も得意とする所だった。

 だがそちらは囮であり、今回の攻撃は本格的なものだった。

 空に気を取られていた彼女の下、地面が激しく振動する。

 

 (まずっ)

 

 直感のまま、即座にその場から後退し、人型形態へと変形する。

 変形完了とほぼ同時、地面の下から恐竜帝国のメカザウルスが次々と姿を現す。

 

 「こちらランドクーガー、敵増援と接敵!応援求む!」

 

 通信器に怒鳴ると同時、人型となったランドクーガーの両手に高収束ビーム速射砲とブラスターガンを構えると、碌に狙いも付けず連射する。

 ダメージにより苦痛の悲鳴を上げ、何体かのメカザウルスが倒れるが、その全てを倒す前にランドクーガー目掛けて後続のメカザウルスが次々と突撃してくる。

 

 「チィ!」

 

 その突撃をヒラリと回避し、更に射撃を加える沙羅。

 が、やたら頑丈で生命力に富む上に反応速度に優れる生体兵器としての性質を活かし、徐々にメカザウルスは包囲を作り、狭めていく。

 

 『沙羅、跳べ!』

 「っ!」

 

 通信器からの命令に、沙羅は何も考えずにその場から機体を後方へ向けて大きく跳躍させる。

 次の瞬間、彼女を襲おうと包囲を狭め、一か所に集まったたメカザウルスへと大量のビームやミサイル、砲弾が撃ち込まれ、瞬く間に殲滅されていく。

 

 『どうにか間に合ったか。』

 「シャピロ!」

 

 そこに現れたのは獣戦機隊の指揮官にして沙羅達の教官でもあるシャピロ・キーツとその部下の駆る獣戦機の試作機の内の一つ、コマンドウルフ隊だった。

 背部の武装を交換する事で陸戦に限るが高い汎用性を誇り、音速で疾走するこの機体は獣戦機隊基地の防衛のために急遽少数生産されていた。

 この内の一機をシャピロは受領しており、残りの機体を直接指揮下において小隊を編成、運用していた。

 

 『沙羅、一度補給に戻れ。その後、西からの増援に対処する。』

 「そんな、私はまだやれるよ!」

 『良いから聞け。戦いはまだまだ続く。ここで僅かでも獣戦機隊の人員を欠く訳にはいかん。』

 「分かったよ…。」

 

 獣戦機だけでなく、特機の運用には厳しい制限が付く。

 それは機体そのものの生産と運用のための周辺施設だけでなく、最も貴重なパイロットにこそ言える事だった。

 それをよく知るシャピロの断固とした厳しい言葉に、沙羅は渋々といった様子で従い、獣戦機基地へと戻っていった。

 

 (…懐かせ過ぎたか。)

 

 その様子を、シャピロは頭が痛そうに見送るのだった。

 結局、この日の襲撃は日没近くまで戦闘が続いたものの、獣戦機隊基地はまたも防衛に成功するのだった。

 こうした襲撃は極東方面を中心に断続的に行われており、他方面は何とか落ち着いていた。

 しかし、この程度では終わらないとシャピロを始めとした指揮官や将校らは理解していた。

 この緊張状態が破られるのは一か月後、極東方面にて突然の地震の発生、その直後に出現した地底種族連合の盟主を名乗る妖魔帝国の襲来まで待つ事となる。

 

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年 5月 ムトロポリス周辺地域

 

 極東某所の海沿いにある臨海市、そこにあるムートロン専門研究施設であるムトロポリス。

 そこを中心とした一帯に大地震が発生、周辺市街地に大きな被害が発生した。

 その直後、近くの臨海学園から一人の少年が血相を変えてバイクに乗り、海を目指していた。

 彼の名はひびき洸。

 プロトカルチャーの末裔たるレムリア女王ことひびき玲子と考古学者ひびき一郎の息子だ。

 最近妹が出来た彼は、しかし母親の権力目当てにすり寄って来る有力者やマスコミの存在に苛立ちを隠せず、更に長年行方不明だった母親とその部下達の課す各種教育にストレスを貯めていた。

 幼馴染みの桜野マリの慰めと応援、臨海学園の先生方や市民の人達からの同情とマスゴミ等のシャットアウトが無ければ、彼は間違いなくグレていただろう。

 そんな彼はつい先程、地震発生の直後から様子がおかしく、更には突然の雷に打たれて失神した。

 その瞬間を見ていた洸と同じサッカー部の面々は彼を病院に連れて行こうとしたのだが(救急車は地震で大きな被害の出た街に出払ってて無理だった)、突然飛び起きると海目指してバイクで走り出してしまったのだ。

 これに仰天した友人達は追い掛けるも、バイクに敵う筈もなく。

 マリの運転していたバギーに相乗りさせてもらう事で追い掛けるも、法定速度と道路状況無視のバイクに追い付けず。

 結局、流されてきたボートに乗って沖を目指す洸の存在を大人達に教えて、救助を願う事になった。

 

 『こちら鹿島、市街地の救助活動に参加中!手隙の方は手伝ってください!』

 『こちら香取、校舎に倒壊の恐れあり。生徒達を避難誘導中につき無理です。』

 『こちら大淀、重巡・軽巡組に向かってもらいました。もう暫くお待ち下さい。』

 『こちら長門、沖合海底に多数の動体反応と大型熱源を確認。接敵まで後10分。』

 『こちら陸奥、同じく反応を確認。これが妖魔帝国って奴らかしら?』

 『こちら伊5-8、海底ピラミッド内部の反応が活性化したでち。やっぱりライディーンが起きたみたいでち。』

 

 そして、そんな超重要人物らがいる場所にトレミィ達が戦力を配置していない筈がない。

 要人護衛及びムトロポリス防衛のために専門化された特務部隊を配置、そうであると今日まで一切気付かせずその任務を果たしてきた。

 

 『来ますかね、妖魔大帝バラオが?』

 『先ずは偵察、後に威力偵察、そして本格的な攻撃だろう。』

 『最終的には親衛隊、或いは大帝本人って所でしょうか?』

 『何れにせよ、これで私達の任務は第二段階に移るという事です。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『勇者よ、此処にライディーンが待つ…!』

 『勇者よ、ライディーンに乗れ…!』

 

 「ネンシン、キリキ…」

 「コウショウ、コンライ…」

 「フェード、フェード…フェード…!」

 「ラァァイディィィィィン!」

 「フェェェェェド、イン……!!」

 

 そして、洸は祖父に当たるムー帝国先代皇帝たるラ・ムーの声に導かれるまま、対妖魔帝国の切り札たる勇者ロボ「ライディーン」に搭乗した。

 今後、彼は友人達と共にムー帝国の末裔と遺産を目の敵にする妖魔帝国との闘いに身を投じていくのだった。

 

 

 




太陽系外縁部ではインベーダー・バルマー・ズールが太陽系を目指して進軍、三つ巴で雪崩れ込んでこようとするのをトレミィ達は必死に迎撃していました。

なお、艦娘勢は全員が高級ナノマシン式自動人形ですが、本体は無人OF「セト」であり、自動人形としてのボディは端末です。


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第2話 母と子

 

 新西暦186年 5月 首都ダカール 地球連邦政府首相官邸

 

 大型母艦 ガンテ ×2

 海月型航空機 ドローメ×40

 化石獣(多数)×14

 

 それが初陣で鬼神の如く暴れ回ったライディーンの戦果、否、暴走の結果だった。

 報告書と映像資料によれば、包囲からの集中攻撃の後に拘束されたライディーン並びにひびき洸は初陣の恐怖と念動力に目覚めたばかりの極度の興奮からその念動力を暴走、周辺一帯の大気を操作、巨大な台風を作り出す。

 この巨大台風により敵海月型航空機ならび化石獣(機械獣ならぬ岩石で構成されていたため)は纏めて撃破され、ガンテもまた艦隊を編成していたがために互いに衝突し合い、不運にも5隻中2隻が大破、残りは撤退していった。

 戦闘終了後、ひびき洸とライディーンは臨海市の岬に聳え立つ神面岩内部に隠されていた修理施設へと機体を格納、機体頭部から出てきたひびき洸は緊急搬送され、現在も眠り続けている。

 

 凡そこの様な内容の報告書を、ひびき玲子もといレムリア女王は顔を青くしながら熟読した。

 

 「現状、女王陛下に出来る事はございません。」

 「…何が言いたいのかしら?」

 

 傍に控えていた護衛用高級自動人形の一体、神通が思い悩むレムリア女王へと声をかけた。

 

 「現状、共和連合からの支援に関しての話は纏まり、女王陛下の出番はありません。また、他の異星人や異次元人に対しては交渉のとっかかりすらありません。」

 「つまり、女王様はお母さんらしい事してきても大丈夫だって事だよ!」

 

 もう一体の護衛用高級自動人形、那珂が女王の真意を見抜いて告げた。

 

 「娘さん、晶ちゃんでしたっけ?久々におうちに帰ってあげたらどうです?どうせ今は一段落して仕事も無いんですし。」

 

 更に付け加えたのが最後の護衛用高級自動人形、川内だった。

 彼女ら三体がレムリア女王の身辺警護として配置された戦力であり、戦い慣れしていないレムリア女王を守るためにあらゆる手段を許されていた。

 とは言え、その精神性は見た目よりもかなり好戦的かつ油断ならないとは言え、我が子の身を案じて思い悩む母親の背を後押しする程度には情け深くもあった。

 

 「そうですね…今日は、そうさせてもらいましょう。」

 

 言うが早いが、レムリア女王はその場で念動力を用いて姿を消した。

 ワープだった。

 

 「わー、私らがこの端末じゃ出来ない事を生身で易々と…。」

 「すっごーい!女王様、やっぱり凄い人なんだー!」

 「二人共、驚いてないで私達も行きますよ。」

 

 そして、部屋には誰もいなくなった。

 

 

 

 

 なお、病室では初陣の恐怖で未だ震えていた洸をマリが身体で慰めていた最中であり、うっかりそこにワープしてしまったひびき玲子が息子の二次性徴を確認してしまう事態となり、阿鼻叫喚の地獄絵図になるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年 6月

 

 今後の戦略方針を決定すべく、地球連邦政府閣僚とひびき玲子外交特使とそのお付きによる会議が開かれていた。

 

 「現状、ムゲ・ゾルバドス帝国並びに地底種族連合に対する戦争に関しては小康状態となっておりますが…。」

 「何時破られるか分からない、かね。」

 「はい。現状、我々は彼らに対し打って出る手段がございません。」

 

 既に転移や地中侵攻の兆候を即座に捕捉する索敵システムが組まれている。

 これによりVFを始めとした機動力に長ける戦力が瞬時に展開、転移や地上出現とほぼ同時に攻撃、撃破出来ずとも相手を混乱させて時間稼ぎ、その隙にやってきた抽出打撃部隊や特務部隊によって殲滅という流れが出来上がっていた。

 人間に化けた爬虫人類による工作活動やコマンド活動に関しても、既にその体熱分布や骨格を始めとした生体反応から見破る事が可能なゴーグルが生産、各地に配備されており、開戦当初の様な一方的な事態は防いでいた。

 しかし、未だどうしようもない事もある。

 それは彼らの本拠地や拠点の位置が全くもって不明である事だった。

 

 「成程、拠点の位置情報が無いか…。」

 「捕らえた捕虜にしてもその辺は一切吐かずに自害するか沈黙したままです。酷いと自爆します。」

 

 恐竜帝国や百鬼帝国の兵は暴れ回るので射殺され、そもそも自分の意思といったものが割と希薄なムゲ兵は沈黙を保ち、機械獣の中身はAIであり、鹵獲して解析しようとすると自爆してくるため、各勢力の情報は殆ど分からなかった。

 

 「辛うじて占領された我が方の基地施設等の情報はありますが…。」

 「大体既に奪還済みだな。」

 「極東方面にあった恐竜帝国の秘密基地に自爆されてしまったのが痛いですな…。」

 

 極東方面の某山中で発見された恐竜帝国の秘密基地。

 そこでは民間人が捕らえられ、人類抹殺を目的とした非人道的な人体実験に供されていたのだ。

 基地自爆までに得られたのは極僅かなデータだったが、BC兵器に始まり、人間の改造や洗脳技術等を含めたあらゆる研究がそこで行われていた事が判明している。

 この情報は半月程で太陽系全体で共有される事となり、一時は広まった再び始まった戦乱に対しての厭戦感情がすっかり払底され、軍官民全てで抗戦ムードが高まっていた。

 

 「財政並び各種物資の生産と流通に関しては、漸く戦前の7割まで回復しました。」

 「おお、それは幸いだな。」

 

 兵站は元より、民間の流通もまた大事な事だ。

 流通が極めて活発かつ広大化している現在、それこそ土星から地球まで物流網は繋がっている。

 一度各地で寸断されてしまったそれを繋ぎ直し、再建された生産地帯や工場で作られた商品を必要な所に運ぶのは本当に骨の折れる作業だった。

 

 「とは言え、このままダラダラと続ける訳にも行きません。」

 「元々、地球圏の軍備はコロニーを除いて後回しでしたから、まだまだ旧式機が多いのが現状です。」

 「抽出打撃部隊等が火消し役をしていなかったらと思うと、ゾッとしますな。」

 

 事実、コロニーと各星系駐留艦隊の方が優先されて戦力の更新が成されており、地球は地の利がある上に旧式とは言えまだまだ現役の兵器が多数ある事から後回しにされていたのだ。

 今回はその隙を突かれた形だった。

 しかも、宇宙は宇宙で太陽系外縁部に留められているとは言え、太陽系目指してやってくる複数の大勢力相手に防衛用無人兵器部隊が奮戦している最中なので、下手に戦力を抽出してはア・バオア・クー攻防戦時の様な奇襲を受けかねなかった。

 

 「では次に地底種族連合ならびムゲ・ゾルバドス帝国に関して、ある程度判明した情報をお知らせします。」

 

 そして、本命とも言うべきA.I.M.もとい太陽系防衛用無人兵器部隊からの報告の番となった。

 

 「先ず、恐竜帝国と百鬼帝国、最近確認された地底種族連合の首魁たる妖魔帝国の拠点ですが、これらは全て移動拠点である事が判明しました。」

 

 おお、と俄かに会議室がどよめいた。

 

 「彼らは皆全長数kmの移動要塞を保有しており、兵器の生産ならび全体の指揮をそこから取っていると思われます。」

 「では、それらを撃破すれば解決かね?」

 「現在、こちらの調査班の情報からそれら移動要塞は海中や地中、マグマの中を移動しているため、例え捕捉に成功したとしても攻撃は不可能です。」

 

 余りの情報に閣僚らは真顔になった。

 海中は兎も角、地中やマグマの中を移動するkmサイズの要塞ってどんなやねん。

 彼らの中でまた一つ常識が殺されてしまった。

 

 「また、ムゲ・ゾルバドス帝国に関してですが、彼らの機動兵器ドルファー並びゼイファーを解析した結果、彼らの本来所属する宇宙、便宜上ムゲ宇宙と呼称しますが、そこからワープして我々の住まうこの宇宙へと侵略している事が判明しました。」

 「異なる、宇宙?」

 「はい。端的に言って異世界です。」

 「いせかい?」

 「はい。」

 

 閣僚らは天を仰ぎ、或いは両手で顔を覆って俯くか、放心した様に虚空を見つめた。

 先の地底種族連合の移動要塞よりも無理ゲーだったからだ。

 

 「現在、ムゲ宇宙よりワープしてくる際には量産型無人OF部隊が展開可能な位相空間にやってくる事が判明したため、そこで侵略してくるムゲ帝国の戦力の7割を撃滅していますが、残り3割だけはこちらの人手が足りず、どうしても取り逃がしてしまっているのが現状です。」

 「3割。」

 「はい、申し訳ありません。」

 

 閣僚らは(ry

 が、もう何度目となるか分からない事態に早急に精神を立て直すと、話を次へと進めた。

 

 「で、対処法はあるのかね?」

 「…彼らが面倒な場所に引き籠っているのなら、こちらに釣り出してしまえば良いのです。」

 

 報告を行っていた侍女型自動人形は、一瞬ちらりとレムリア女王へと視線を向け、それに女王が頷いたのを確認した後、説明を続行した。

 

 「恐竜帝国は嘗て地底へと逃げる原因となったゲッター線に恐怖し、それを用いたゲッターロボに対して憎悪を抱いています。百鬼帝国もまた理由は不明ですが、ゲッターロボに執着しています。」

 

 つい先日漸くメンバーの揃った事もあり、正式に稼働を開始した三段変形・分離・合体を可能とするゲッターロボに対し、恐竜帝国は我先にと殺到しては戦闘を繰り広げ、相性の悪さから悉く返り討ちに合っていた。

 百鬼帝国はゲッターロボを一時追い詰める程には強力だったのだが、ゲッターロボ単独ではなくプロトゲッター三機並び他の民間研究所で開発された特機の協力もあって今の所返り討ちに成功している。

 

 「機械獣軍団は指揮官であるDr.ヘルの個人的怨恨からマジンガーZに固執しています。」

 

 事実、稼働前のマジンガーZと開発者の兜十蔵博士に対して攻撃を加え、更にはマジンガーZを鹵獲しようともした。

 しかし、辛うじて間に合った連邦軍の救援(と自動人形らの救護)によりマジンガーZは兜甲児により運用され、十蔵博士は未だ意識が戻らないものの命を繋いでいる。

 一説にはマジンガーZに隠された機能に固執しているらしいのだが、真相は未だ不明である。

 

 「妖魔帝国に関してなのですが……嘗てムー帝国を滅ぼした勢力であり、そのためムー帝国の遺産にして最終兵器でもあるライディーンと末裔たるレムリア女王ならびお子様である洸様と晶様の御命を狙っているようです。」

 

 妖魔帝国の数少ない艦載機運用能力を持ったガンテの艦隊を派遣する程度には、妖魔帝国は未だにムー帝国を警戒し、今度こそ絶滅させようとしていた。

 プロトカルチャーの末裔が築いた超古代文明たるムー帝国。

 それを滅ぼした妖魔帝国が今再び自分達に襲い掛かってきたという状況に、レムリア女王の表情は硬かった。

 そして、これから自分が一旦を担う作戦についても母親として、一個人として、只管に胸が痛かった。

 しかし、女王としての彼女はやるべきだと断言していた。

 

 「ゲッターロボ、マジンガーZ、ライディーン。これら三体を周辺被害の心配のない一か所へと集め、囮とします。後に地底種族連合に対して挑戦状を叩き付けます。具体的には全方位周波数で煽りに煽ってやるのです。やーい、お前ら大言壮語してんのにさっぱり勝てねーでやんのー、と。」

 

 連中のプライドの高さを思えば、何らかのアクションをするのは目に見えていたので、有りと言えば有りだった。

 しかし、あんまりな作戦の説明に、やっぱり連邦閣僚らの目は死んでいった。

 

 

 ……………

 

 

 「精神…未熟スギル…。」

 「欲ノ力……知識ヲ貪リ……宇宙ヲ蝕ム……。」

 「広ガリ過ギタ種……刻ヲ待タズ……潰エル……。」

 「修正が、必要だ。そのための、サンプルを。」

 

 



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第3話 ターニングポイント

よし、何とか今日中に投下できたな。


 新西暦186年 7月 地球

 

 

 『洸…大丈夫、大丈夫だから…。』

 

 『ほら、ぎゅー……。』

 

 『私の心音、聞こえるでしょ?』

 

 『私も生きてるし、洸も生きてる。』

 

 『大丈夫。洸が何をしても、私は受け入れるから……』

 

 

 

 

 『洸!だいじょうb』

 

 『『『……………』』』

 

 『よし、これで孫が出来るわね!』

 

 

 

 

 「出てけぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 余りの悪夢に、洸は絶叫と共に起き上がった。

 

 「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!夢だったか…っ!」

 

 先日の初陣とその後のアレな出来事の余りの衝撃に、洸は時折こうして悪夢に魘される事があった。

 あの出来事の後、父一郎が洸・玲子・マリのそれぞれに対して社会的一般常識と父親としての立場から訥々と実に真っ当なお説教が行われた。

 その結果、洸は男としての責任を取る事となり、マリと婚約する事となった。

 性交渉に関してはしっかり避妊し、結婚可能年齢となるか戦乱が終わるまでは子供を作らない事を約束した。

 但し、政治的事情によって今後妻が増える可能性もある事は明言されており、その場合は連邦政府と協議の上で重婚する事となった。

 玲子に関しては今後、母親と言えども息子と恋人のプライバシーを侵さないように言われ、若干難色を示したものの…

 

 「そんな事言ってると初孫の顔を見せてもらえなくなるよ?」

 「分かりました(0.1秒)。洸、マリさん、本当にごめんなさいね。」

 

 なお、こんなひびき家のあれこれを見ていた妹の晶は家政婦の鳳翔と間宮の傍で終始きゃらきゃら笑っていた。

 将来が実に楽しみな娘さんである。

 

 「洸、大丈夫!?」

 「あ、マリ、おはよう。」

 

 先程の叫びを聞き付けてか、マリが直ぐにやってきた。

 

 「その様子だと、大丈夫みたいね。」

 「あぁ、うん。夢見が悪かっただけだから…。」

 「あー。」

 

 言葉を濁す洸に、マリもまた苦笑いと共に納得した。

 折角の恋人との初体験が実にアレな顛末になってしまってガッカリしたのは彼女も同じだった。

 が、今はこうして出撃のない時は毎朝起こしたり頻繁にいちゃいちゃしたりデートしたり○○○したりと、以前よりも周囲に遠慮なく付き合う事が出来ているので、結果的には満足していた。

 加えて、再会早々に女王就任という事もあって何処か遠慮のあった玲子との関係も今回の一件から遠慮が無くなり、良い意味で扱いが雑となり、普通の家族に近付く事が出来た。

 代償は大きかったが………それでもまぁ、何とか全員が落ち着く所に落ち着く事が出来たのだ、うん。

 なお、二人のこの行動は周囲から常にバカップルとして見られており、護衛役の艦娘らと街の人々からは生暖かい視線、或いは嫉妬と憎悪の込められた視線を向けられていた。

 

 「着替えるから下で待っててくれ。」

 「うん、遅れないようにね!」

 

 今日、洸は他の特機とそのパイロット達と共に、乾坤一擲の作戦を行う予定だった。

 

 

 ……………

 

 

 同日 極東方面 富士山近く 光子力研究所

 

 連日、全方位通信で「地底種族連合へ、決着を付けよう。○○日に光子力研究所にて待つ。」という内容の放送をし続けた後、ゲッターロボにマジンガーZ、そしてライディーンが光子力研究所前の広場にて待機していた。

 

 『本当に来ると思うかい、竜馬さん?』

 『ハッ!来るならぶっ殺す!来ないなら探し出してぶっ殺す!変わんねぇよ!』

 『竜馬の言う通りだ!結局生存競争なんざそんなもんよ!』

 『皆さん、本当に元気ですね…。』

 『ま、洸もリラックスして待ちな。力んだ所でどうしようもないしな。』

 

 兜甲児のマジンガーZは、この日のための装備としてジェットスクランダーのみならず、多数の追加武装を搭載していた。

 背面と腰の左右と後ろを中心に光子力ミサイルランチャーや光子力ロケット弾ポッドを装着し、両手には光子力ビッグバズーカを装備している。

 これらは全て弾切れし次第パージ可能であり、その後は通常装備のマジンガーZ(スクランダー装備)として活動できる。

 流竜馬・神隼人・巴武蔵の三人のゲッターチームの乗るゲッターロボもまた、多数の追加装備を持ち込んでいた。

 とは言え、三機のゲットマシンの複雑な分離合体による三段変形をする構造のため、機体の直接追加武装を施す事は出来ない。

 周辺に大量の装甲コンテナを設置し、その中に多量の手持ち式の武装を格納してあるのだ。

 内容はミサイルマシンガンやガトリングガン、マシンガンにロケットランチャー、回転式グレネードランチャー等であり、機体サイズの関係上で元々は艦載武装を手持ち式に作り変えた代物だ。

 単純な実弾兵装だが、その威力は既に証明されている。

 以降、これらの武装のデータを流用して汎用性が低い特機向けの汎用兵装が開発される事となる。

 これだけでは一見物足りないようにも見えるが、大元のゲッターロボ並びゲットマシンの性能が本来のものよりも強化されており、特にゲッター炉心の出力はゲッター戦艦から得られた初期のゲッターロボに比べて倍近い出力を誇り、装甲強度も大幅に向上している。

 これは早乙女博士がA.I.M.の身内であり、多くのバックアップを受け続けた結果だった。

 まぁその分、最古参の自動人形達からはあの典型的マッドサイエンティストな容姿なのに未だに「賢ちゃん」呼ばわりされて可愛がられている事は本人的に忸怩たるものがあるらしいが、地球の未来のためにも耐えてほしいものである。

 なお、最後に残ったライディーンに関してだが…

 

 「え、寧ろ強化とかいるの?」

 「古代ムー帝国産の決戦兵器に付け足すものとかどう開発せいと…。」

 「そもそも通常の装甲よりも頑丈過ぎて何も取り付けられないのですがそれは。」

 

 という残当な結果に終わってしまった。

 そのため、普段は専門のサポートメカであるブルーガー(ムトロポリスにて開発・生産)小隊並び艦娘勢の駆るクラウドブレイカーⅢ(という名の擬装した無人OFセト)が支援を行っている。

 なお、桜野マリはブルーガー隊に志願したものの、洸本人から「頼むから家で待っていてくれ!君のいる我が家に帰りたいんだ!」という熱い説得と土下座によって大人しく家で待つ事となった。

 

 『皆、奴らに動きがあった!』

 

 グダグダしていた一同は途端に身を引き締め、弓博士からの急な通信に耳を傾けた。

 

 『現在、地底種族連合は富士川河口から上陸し、途中の市街地を破壊しながらこちらに向かってきている。』

 『民間人の避難状況は?』

 『既に完了している。被害も想定の範囲内だ。』

 『到着までの時間は?』

 『約30分。奴ら、見た事ない程の戦力だ。』

 『具体的には?』

 『飛行要塞グールが3隻、ガンテが4隻、メカザウルス・グダが2隻。それと……。』

 『弓博士?』

 『巨大な浮遊要塞が二つ、こちらに接近中だ。円盤型と珊瑚に似たタイプだ。大きさはどちらも3kmを超えている。また、地上にはいつもの機械獣や百鬼メカ、メカザウルスが展開している他、大型の地上戦艦の様なメカザウルスが2体いる。』

 『ヒュー!大量じゃねーか!』

 

 余りに絶望的な物量差に洸と甲児は顔を引き攣らせたが、寧ろゲッターチームは武蔵を除いて歓声を上げた。

 

 『こんな機会、もうありゃしねぇだろ!徹底的に叩いてやるぜ!』

 『竜馬の言う事も最もだ。ここであいつらを叩ければ、戦力の回復は難しい。地球を平和にするには必要な事だぜ。』

 

 流石は闘争心の塊な所のあるゲッターチーム、こういう時は頼もしい。

 そして隼人の言う事は事実だった。

 百鬼帝国は科学要塞島、恐竜帝国はマシーンランドを投入している。

 どちらも両者の切り札であり、マシーンランドは最低でも三つあるが、科学要塞島は一つしかない。

 機械獣軍団のグールに関しても既に二度撃破した海中要塞の代わりとなる現状唯一の移動基地であり、叩けば確実に暫くの間は活動が大人しくなるだろう。

 

 『連中の本隊がここに到達するまで後15分、先行部隊が到着するまで3分!何とか連邦軍の増援が到着するまで踏ん張ってほしい。そうすれば奴らは袋の鼠になる。』

 『了解了解!到着までにこっちで全部平らげちまっても良いんだろう?』

 『連邦軍には急いで来ないと食いっ逸れちまうと伝えておいてくれ!』

 『よぅーし、そろそろ行こうか!』

 『っ、来ます!』

 

 洸が警告を発した途端、三機がいた辺りへと大量のミサイルや砲弾が降り注いだ。

 

 『っと、無事か坊っちゃん!』

 『子供扱いしないでください!歳はそんな離れてないですよ!』

 『ふ、それだけ言えれば心配ないな。』

 

 現れたのは母艦から発進したばかりの身軽な飛行型のメカザウルスや百鬼メカ、機械獣だ。 

 本隊の露払い、或いは偵察を担当する先行部隊の様だ。

 

 『さぁやろうかぁ!!』

 『開幕は任せな!ミサイル全弾発射ぁ!』

 『行け、ゴッドゴーガン!』

 

 今後の地球の行く末を決める戦いの一つが、こうして始まった。

 

 

 ……………

 

 

 同時刻 バードス島にて

 

 「く、漸く始まったか。」

 

 飛行要塞グールに設置されたセンサーから中継される映像を見て、Dr.ヘルは嗤っていた。

 

 「安心せよ流竜馬、神隼人、巴武蔵、ひびき洸、そして我が宿敵兜甲児よ。」

 

 玉座に座り、周辺のモニターが表示する情報を見て、Dr.ヘルは己の策略がほぼ嵌った事を確信していた。

 

 「貴様らの奮戦が、勇気が、命が無駄になる事は決してない。」

 

 現在、この場所は既に連邦軍により捕捉されており、欧州方面軍の精鋭部隊たるティターンズが急速に向かってきているというにも関わらず、それでもDr.ヘルの嗤いは消えない。

 そんな小蠅程度、別に彼にとっては障害にも成りはしないと確信しているからだ。

 

 「貴様らが鬼に蜥蜴、化け物共を滅ぼし生き残った暁には、この儂直々に引導を渡してやろう。そして、この手に世界を掴み、全てを支配してくれよう。」

 

 この期に及んで、否、この状況になったからこそ、Dr.ヘルは勝利を確信していた。

 自分を含めた妖魔帝国に服従している勢力はどれも胸の内の野心は消えていない。

 しかし、こうして自分は出し抜く事に成功した。

 最終兵器の生産・起動に持ち込んだ今、最早妖魔帝国すらも恐るるに足らずと判断したのだ。

 それだけDr.ヘルは自らの最終兵器に自信を持っていた。

 

 「例え奴らに打ち勝ったとしても、貴様らは我が野望の礎となるしかない。」

 

 今は友軍であろうとも、将来的には敵対しかしないと判明しているのなら消すしかない。

 Dr.ヘルはそれを敵に、地球の誇るスーパーロボット達に任せたのだ。

 

 「このゴードンヘルを前にしてはな!」

 

 静かになったバードス島の玉座の間にて、Dr.ヘルの哄笑だけが響き渡った。

 

 

 

 

 

 この10分後、駆け付けたティターンズはあっさりと壊滅し、経験を積んだパイロットらと優良装備の多くを失う事となる。

 更に3時間後、極東方面にて今回の戦闘の趨勢が決まるのだった。

 

 

 




(ZERO出現フラグが積み重なり始めて)ふふ怖?安心しろ、オレもだ。


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第4話 激突!地底種族連合!

 新西暦186年 7月 地球

 

 『ブレストファイヤー!』

 『ゲッタービィィィィムッ!』

 『ゴォォォッド、プレッシャー!』

 

 三機の特機から放たれた熱線と光線、圧力波。

 それらが三機へと殺到する無数の機械獣、化石獣、百鬼メカ、メカザウルスを一瞬にして蹴散らす。

 しかし、蹴散らされた傍から損害を無視した突撃を繰り返す敵機によって瞬く間に残骸は弾かれていく。

 

 『オープンゲット!』

 『チェンジ、ゴッドバード!』

 

 機動力に優れる2機、否、4機は一瞬にしてその場を離れ、途中障害となる敵を貫き、蹴散らし、集まった敵へと再度攻撃を加える。

 

 『おおっと!ミサイルパンチ、ドリルミサイル、サザンクロスナイフ!』

 

 そして、先行した友軍が空けた風穴を被弾もものともせず、逆に全方位を攻撃しながら突き進むのはマジンガーZだ。

 黒鉄の城の名の通り、超合金Zの装甲は傷一つ付かせぬまま、その火力で以て強引に活路をこじ開ける。

 

 『音速の世界を見せてやる!ゲッタービジョン!』

 

 最高速度マッハ3という、現在の特機(除くA.I.M.)の中では驚異の機動性で以てソニックブームを巻き起こしながら地上の敵を攪乱、そのドリルアームで通り魔の様に貫き、斬り裂きながら蹂躙していく。

 

 『ゴッドミサイル!ゴッドサンダー!』

 

 地上の敵が蹂躙される中、空中においてもそれは変わらない。

 未だ搭乗者たる洸が未覚醒なれども、この戦場においては圧倒的性能を誇るライディーン単騎によって、この場の制空権は完全に奪われていた。

 無論、それはさせじと無数の敵が殺到していくのだが…

 

 『スピンブレイカー!』

 

 近づいてくるのを幸いにと右手の盾が刃を伸ばした状態で回転、それを構えて突撃し、逆に敵を殲滅していく。

 

 『っ、ゴッドブロック!』

 

 そして、その念動力から来る驚異的な直感によって、隙を見せたとしても即座に対応してくる。

 今も敵が機動兵器ごと艦砲射撃によって撃滅しようとした瞬間、即座に盾を構え、念動フィールドを展開、メカザウルス・グダならびガンテとグールからの艦砲射撃の直撃を貰うも、小動ぎもしなかった。

 

 『えぇいしぶとい!』

 『敵はたった三機だ。落ち着いて取り付け、それで終わる!』

 『それが出来りゃ苦労はせんわい!』

 

 弓博士らは寧ろ敵の指揮官らの叫びにこそ共感してしまった。

 既に戦闘開始から3分、200体近い敵機動兵器が屠られているのにも関わらず、未だに彼らは三機の特機のどれに対しても有効打を与える事が出来ていないのだ。

 費用対効果としてはどれだけエグい事になっているのか、敵ながらちょっと無惨な事になっていそうだとすら思った。

 無論、思っただけで打つべき手はしっかりと打っていたのだが。

 

 『ぬぅぅ、新手か!?』

 『ぬおおおお!?』

 

 飛行する多数の戦艦・要塞ユニットに対し、無数のミサイルと砲撃が直撃する。

 近隣の基地から駆け付けたVF部隊からのミサイル攻撃、そしてデストロイド部隊からの砲撃だった。

 しかも、艦載用対空射撃機としてのシャイアンではなく、重装砲撃型のトマホーク2種からの砲撃だ。

 腕部そのものが大型のビーム砲、或いは大型リニアキャノンで構成された本機は低コストながらも高い砲撃能力を持っている。

 そして何よりも、この場には怪物がいた。

 

 『撃て!撃ちまくれ!この場で確実に奴らを仕留めるぞ!』

 『これ以上あいつらだけに任せておけるものかよ!』

 

 巨大な発射音と共に、4つの砲口から亜光速に近い速度で放たれた通常砲弾が、一斉射で直撃を受けたガンテ一隻が即時轟沈、その破片と爆風で直下の敵に大量の被害が出した。

 恐るべき火力、恐るべき重量、恐るべき使い辛さを持つその怪物の名を、デストロイドモンスターと言った。

 

 『何で宇宙用の機体がここにあるんだ?』

 『何か今日のためだけにパーツ状態で持ち込んだらしいぞ。』

 『うわぁ…。』

 

 冗談みたいなデザインの地底種族連合が、存在そのものが冗談みたいな怪物の砲撃によって次々落とされていく姿は何というか……実にシュールだった。

 

 『ハハハハハ!すげぇなアレ!』

 『ヒュー!オレも一回撃ってみたいぜあんな大砲!』

 

 が、これまた存在が冗談みたいなゲッターチームからは好評だった。

 

 『うわぁ……。』

 

 しかし、一番冗談染みたライディーンのパイロットたる洸はドン引きしていた。

 

 『えぇい何をしておるか!』

 『仕方ない、メカザウルス全機発艦!出し惜しみは無しだ!』

 『ガンテは敵増援に対し黒い稲妻を発射!』

 『グダは敵増援に対し砲撃開始!敵を調子付かせるな!』

 

 そして、冗談みたいな火力の応酬が始まった。

 特機三機には当たらない?

 なら、その周囲の敵を狙おう。

 普通にやれば倒せるし、三機がカバーに入って足手まといになってくれるのなら尚良し!

 

 『Gテリトリー展開!』

 

 そんな思いで放たれた攻撃は、しかし、何とか間に合ったジガンスクードⅡの改良された重力障壁によって悉く防がれた。

 更に大型化された両腕の盾型のDブレード、大型化された脚部に搭載された2基のプラズマリアクターの出力もあって、展開されたGテリトリーは生半可な砲撃ではビクともしない。

 

 『ジガンスクード!改修が間に合ったか!』

 『えぇいじれったい!無敵戦艦ダイよ、予定より早いがマグマ砲発射だ!』

 

 が、切れた恐竜帝国帝王ゴールの号令と共に、地上を闊歩する無敵戦艦ダイがその巨砲を稼働させる。

 

 『、危ない!逃げて!』

 

 洸の危険を知らせる声を聞き、デストロイド部隊は後退を開始するが、モンスターを始めとして元々砲撃専門の彼らは足が遅い。

 旋回するマグマ砲の砲塔から逃れる事が出来ず、ジガンスクードⅡが前に出る。

 

 『マグマ砲、発射ぁ!』

 

 途端、凄まじい轟音と共に斉射された砲弾がGテリトリーへと突き刺さり、一瞬、視界の全てがホワイトアウトする。

 敵も味方も着弾時の衝撃に一時戦闘不能となり、即座に視線を動かせば、敢えて前に出てデストロイド部隊を庇ったジガンスクードⅡが擱座していた。

 一見して大破よりの中破といった損傷だが、パイロットは気絶して動けない様だった。

 

 『くはははは!さぁ次弾装填だ!』

 

 太陽系で(一部の頭おかしい勢を除けば)最も頑丈な特機と言っても良いジガンスクード、その改修機の倒れ伏した姿に帝王ゴールが哄笑を上げながら、次撃の準備をする。

 

 『馬鹿が。二度もさせるかよ。』

 

 が、勿論ながら二度もさせる訳がない。

 

 『光子魚雷、大気圏内運用出力に設定して装填。レールガンの出力も上げておけ。』

 『りょ、了解!』

 

 自分達を守ってくれたジガンⅡの仇討ちに燃える機長の一言と共に、砲撃手が顔を引き攣らせながら光子魚雷の用意をする。

 

 『照準、敵地上戦艦!』

 『誤差修正、完了!』

 『全砲門一斉射、撃てぇ!』

 

 そして、亜光速で放たれた4つならぶ光子魚雷の砲弾は、正確に無敵戦艦ダイの中央へと突き刺さった。

 

 『『グギャあああああああああああッ!?』』

 

 砲弾そのものの直撃時の衝撃、そして発生した超小型ブラックホールによって自身を構成する装甲と肉の6割を4つの連なる球体状に抉り取られた無敵戦艦ダイの1番艦は、その真価を発揮せぬままに倒れ伏し、絶命した。

 

 『だ、ダイぃぃぃぃぃぃ!?』

 

 これには流石の帝王ゴールも絶叫した。

 

 『き、貴様らよくも我がダイを!2番艦、仇を討て!』

 

 そして、空かさず2番艦へと命令を下すも、砲撃準備が完了する前にその砲塔へと攻撃が殺到した。

 

 『な、マグマ砲を!?』

 『待たせたな!』

 

 攻撃を行ったのは、漸くこの戦場に駆け付ける事の出来た他のスーパーロボット達、そしてそのサポートメカ達だった。

 

 ダンクーガ。

 コンバトラーV。

 ボルテスV。

 ダイターン3。

 

 どれもこれも、現在極東方面軍の委託を受けて活躍している押しも押されぬスーパーロボット軍団だった。

 

 『さぁやってやるぜ!』

 『もう容赦しねぇぞ地底種族連合!』

 『貴様らとの戦いも、これで最後だ!』

 『この日輪の輝きを恐れぬのならかかってこい!』

 

 こうして、この戦いの趨勢は決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「頃合い、じゃのう。」

 

 

 

 

 



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機体設定その6

 第35話時点における量産型特機並びその派生型

 共通事項としてDF、テスラ・ドライブ、縮退炉を搭載し、ユニバーサルコネクターに対応している。

 

 ○シズラー0

 或いはプロトタイプ・シズラー0とも呼称される。

 本家本元のシズラーの簡易生産型であり、A.I.M.が開発した公式では初の特機(G.G.は秘匿中)。

 全体のシルエットは色合いもあってブラックゲッターに酷似しているが、この辺りはゲッター戦艦から齎されたゲッターロボのデータにも影響を受けている。

 頭部は本家シズラーのダウンサイジング版であり、背面は箱型バックパックになっているため、必ずしもゲッターとシズラーの中間という訳ではない。

 機体の操縦系統は本家シズラーと共通であり、パイロットの思考もある程度反映してくれるため扱いやすい。

 対宇宙怪獣を想定しており、亜光速戦闘も可能だが、本家シズラーよりも生産・運用コストを除いた各種性能は劣っている。

 機体サイズが50mなのは、開発当時においては未だ特機開発が本格化していなかった時代であり、連邦軍にこの様な大型の特殊人型兵器が存在しなかったため、その運用ノウハウを培わせるためにも敢えて本家よりも小型化しているためである。

 主機関は縮退炉とゲッター炉、主推進器は箱型のシンプルなバックパックと肩部装甲に内蔵されたスラスター、そしてテスラ・ドライブとなっている。

 武装は頭部にバスタービーム砲、肩部のランサー生成口、腹部マルチロックオン拡散・収束切り替えゲッタービーム砲、両前腕のバルカンブラスター(スペースチタニウム製弾頭)、サイドアーマーにチェーンアンカーを装備している。

 ランサー生成口に関しては、配置こそ歴代ゲッター1と同じだが、生成口自体がせり上がり、90度まで前後に可動する事で頭部バルカン砲の様に密着時の自衛武器としても使用可能となっている。

 テストパイロットはユン・グローリアス大尉(原作世界線のユング・フロイト銀河連邦初代大統領)。

 その優れた性能と生産性から一時正式採用のオファーが来たものの、対宇宙怪獣を想定した場合には不足であるとして断っている。

 しかし、この機体は後述するプロトゲッター達と共に最初期の特機開発のための貴重な稼働・実戦データを積んだ事で特機開発史にその名が刻まれた。

 

 

 ○プロトゲッター1号

 新ゲッター序盤に登場したプロトタイプゲッター1のそっくりさん。カラーリングは白とグレー。

 新ゲッター版よりも基礎スペックは向上し、亜光速戦闘にも対応できるが、武装はゲッタービーム1門に両肩のトマホーク生成口から作り出すトマホークしかない。

 後の武装は全て手持ちのオプション武装である。

 本来のゲッターロボがゲットマシン3機にそれぞれゲッター炉心を搭載しているのに対し、こちらは一基のみであり、その分ゲッタービームの威力や機体の出力も低い。

 但し、DFやテスラ・ドライブを搭載しているため、本家よりもとても扱いやすい。

 貴重なゲッターロボの初期稼働データの採取だけでなく、実戦でも活躍した。

 パイロットは早乙女達人(早乙女博士の孫)。

 

 

 ○プロトゲッター2&プロトゲッター3

 白とグレーで塗装されたゲッター2と3の試作機。

 どちらも分離合体変形機能はなく、主機関はゲッター炉心一基のみのため出力も低い。

 地上戦・水中戦用なので太陽系外縁部調査試験艦隊とは同行しなかった。

 現在は1と共に早乙女研究所にて防衛に努めている。

 

 

 ○ジガンスクード

 ネルガル重工とクリムゾングループ、イスルギ重工合作の拠点・艦隊防衛用特機。

 武装とDF担当がネルガルで、機体そのものはリオン系列の発展形なのでイスルギ、その他内装系やセンサー・レーダー等がクリムゾングループ(に就職した元プラント技術者含む技術チーム)が担当している。

 両腕に持つ巨大な盾(大型DFジェネレーター搭載)によりバランスが悪く、テスラ・ドライブ無しでは大気圏内運用は不可能なバランスをしている。

 しかし、拠点防衛用の特機としては文句ない火力と装甲、パワーを持っている。

 武装面も胸部グラビティ・ブラスト(以下GB)、多連装ミサイルランチャー、腰部レールガン、頭部80mmバルカン、更に頑丈なシールドを衝角とした格闘も可能と、中々に整っている。

 他にも要重力波ビーム発生器を搭載し、受信アンテナ搭載機にはエネルギーを送信して常時補給可能となっている。

 指揮管制機能もあり、複座ならば防衛部隊の指揮官機としての役割も十分こなせる。

 機体サイズは約70mと量産された特機の中では大型であり、その分挙動が鈍い。

 巨体故の容量の大きさを利用して各地で汎用武装の追加やカスタマイズが行われたりしたが、何だかんだその割り切った設計思想が功を奏してか、改修されながらも一連の戦乱を戦い抜いた傑作機の一つ。

 操縦系統は実はAMと共通しており、頭部直下のコクピットブロック兼脱出ポッドは通常のものより過剰なまでに頑丈にされ、盾としての役割を全うしたパイロットをしっかり助けようという意気込みが垣間見える。

 主機関は縮退炉であり、本機が10機もいれば大型の居住用コロニーですら無理なく広域展開したDFで覆う事が可能である。

 その設計思想は一年戦争の最後たるア・バオア・クー攻防戦で大活躍したグレート・ジオングのそれ(拠点防衛のための装備とオッゴの指揮管制・補給能力)を継承している。

 

 

 ○ジガンスパーダ

 人型の腕部と盾が無くなり、胴体のGBと両腕だった場所に備えられた片側2門ずつの巨大なビーム砲が特徴的な砲撃特化型特機。

 両腕以外の部分はジガンスクードと共通であり、その分コストが低くなっていると思いきや、両腕のビーム砲を使って再現されたアプサラスシステム、即ちマルチロックオン拡散・収束切り替えメガ粒子砲の機能を再現したために機体の全長が130m超にまで大型化し、コスト面では悪化した。

 しかし、対宇宙怪獣を想定した拠点防衛においてはジガンスクード共々極めて有用であり、後の戦乱を第一線で戦い続けた。

 そのため、艦隊・重要拠点防衛のための盾にして剣たる兄弟機として称えられた。

 が、そのサイズの割に生産性は高くともやはりMS等に比べれば悪く、前線に行き渡るにはかなりの時間がかかってしまい、その上ジガンスクードとのパーツの互換性の関係で既にジガンスクードが配備された所へと配置されやすく、現場では激しい取り合いが起こったという。

 

 

 ○ジガンスクードⅡ

 ジガンスクードの改修機。

 脚部を伸長して、内部に二基のプラズマリアクターを搭載して、出力を向上させている。

 また、両腕の盾を改良し、単なるDFジェネレーターの内蔵から盾そのものにナデシコ級砲艦等に採用されているディストーション・ブレードという巨大なDFジェネレーターの機能を持たせた結果、極めて強力かつ広域に展開可能となったため、Gテリトリーと呼称される。

 武装面に関しては変更はないが、脚部に追加のウェポンラックが設置され、汎用武装を追加装備できる。

 後に稼働していたジガンスクードは全機この機体と同様の改修を行われ、ジガンスパーダもエネルギー消費が激しい事から脚部の伸長と内部にプラズマリアクター2基の搭載が行われた。

 

 

 ○プロトタイプ・グラビリオン

 生産性の低いジガン系の簡易量産型として設計されたイスルギ重工製のAM系特機。

 新型のプラズマリアクターの採用を始め、徹底的に生産性と低コストを追及したため、特機としては驚くべき低コストとなっている。

 反面、この状態での武装は通常のMSやAM等でも搭載可能な共通武装の他、全身に内蔵された多目的ミサイル、腹部の大型ビーム砲のみとなっている。

 マニュピレーターも耐久性・信頼性を最優先したために指は格闘時に腕部へと格納、そのまま殴る事も出来る。

 そのため、「格闘戦も可能な巨大な火力支援機」とも言うべき機体だった。

 が、ジガン系の簡易量産型というだけあって対空迎撃能力や砲撃力は高かったものの、機動性や運動性は低く、また生産性を最優先した構造上の問題で関節の可動範囲も狭かった。

 また、特機としては見所らしい見所がなく、ならば重装化した通常の機体で十分とされ、不採用となった。

 

 

 ○グラビリオン(未登場)

 上記の試作型に広域重力兵器「メガグラヴィトンウェーブ」、近中距離専用武装として「サイズミックボール」を搭載する事で広範囲攻撃能力と機体の死角にも対応可能となった正式版。

 機体構造こそ変化はないものの、下記のプロトタイプ・ヴァルシオンの広域重力兵器のデータ、アナハイムの疑似サイコミュ兵器のデータを流用しており、結果的にジガン系とはまた別種の機体へと仕上がった。

 なお、元々持っていた無数の火器類とこうした特殊な兵装の搭載でコストが上昇、また火器管制のために並みのパイロットでは一人じゃ無理で、2~3人必要となってしまったせいで大量生産はやっぱり見送られてしまった。

 それでもその性能は評価され、ジガン系の護衛やジガン系の配備の遅れている拠点の防衛用として配備される事となる。

 

 

 ○プロトタイプ・ヴァルシオン

 メテオ3群調査委員会、後のEOTI機関の長であるビアン・ゾルダーク博士の設計した特機である。

 縮退炉を主、プロト・プラズマリアクターをサブに持ち、クロス・スマッシャーという強力なビーム兵器だけでなく、広域重力兵器たるグラビトンウェーブを持つこの機体は威圧感たっぷりな外見もあって、正に究極ロボに相応しい性能を持っている。

 基本性能も極めて高いのだが、異星人への威圧感を目的に外連味たっぷりな外見にしたため、無駄な装飾が多く(特に全身のバインダーや背面のフレシキブル・ウイングバインダー)、機体本体は生産性が高いのに、生産するに当たり無駄な手間となってしまっている。

 力下での格闘戦の際のバランサーやスタビライザーとして機能する事は分かるが、それにしてもデカくて派手で重過ぎるため、正式版では殆どが撤廃されている。

 それでも試作一号機は近代化改修されつつ、ほぼそのままの状態でビアン博士のもしもの時の乗機として保管されている。

 

 

 ○ヴァルシオン改

 上記のプロトタイプの欠点を解消した、量産仕様のヴァルシオン。

 機体シルエットが大幅に変わったため、単なるヴァルシオンではなく改と付いている。

 操縦性・生産性・コスト面の向上が主とされており、全長50mを超えるサイズながら装備する巨大な剣と共に高い近接格闘性能を誇る。

 また、高い拡張性と機体各所に設けられたウェポンラックによって改修や改装がしやすく、後に単一の特機としては最も多くの派生機を生み出す事となる。

 

 

 



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第5話 水面下

 新西暦186年 7月 

 

 極東方面を中心に地底種族連合が暴れ、地球上の各地にてムゲ帝国が不定期に出現しては暴れ、太陽系外では無数の異星人の艦隊とインベーダー、そして太陽系防衛用無人兵器部隊が鎬を削り合うご時世。

 とある機関が地球連邦政府内の一部の支持を取り付けて、設立された。

 

 その名を特務機関NERVと言う。

 

 以前より水面下で独自の特機開発と発見されたプロトカルチャー関連と思われる遺物の研究を行っていたのだが、現在は南極の巨大爆発(で済んだセカンドインパクト)の原因となった巨大生物兵器群の管理・撃滅を主任務としている。

 その前身はゲヒルンと言う連邦政府内でも極一部の者しか知らない非公開組織であり、こうした非公開組織の中でも特に厳重な秘密主義で知られていた。

 しかし、その内実が実はお寒いものである事は知られていない。

 というのも、実はゲヒルン時代からのスポンサーであるゼーレと言われる巨万の富を背景とした秘密結社がいるのだが、彼らが問題だった。

 このゼーレ、元は組織ではなく中世暗黒期の欧州で誕生した宗教団体である。

 アダム・カダモンへの道=不老不死を教義としていた秘教秘密結社であったとされている。

 しかし、緩やかながらも確実に勢力を伸ばしていき、1900年代中頃には最後の抵抗勢力も壊滅させる事に成功し、以降は人類世界を裏から支配する隠然たる勢力となっていったとされている

 原作においては、と頭に付くが。

 この世界線においては、彼らが抵抗勢力の壊滅に成功する少々前にやってきたとある者達が結果的に地球圏のパワーゲームへと殴り込んで来たのだ。

 

 その名は皆さんご存知のA.I.M.である。

 

 この世界線へとやってきた彼らは北米を中心に活動を広め、最終的には太陽系最大の商業グループへと成長し、その資本は間違いなく太陽系第一位に君臨して久しい。

 既にゼーレの老人方がどう足掻いても敵わない怪物と化していた。

 無論、こうなる前に彼らは四方八方から手を回して何とかA.I.M.を潰そうとしていた。

 商売敵のアナハイムを煽り、自分達の実行部隊として結成したテロ組織であるアマルガムを動員して、何とか潰そうとあの手この手を打ち続けた。

 

 「? 何やら組織的サボタージュの気配がしますね。」

 「一部で我が社の株式市場への上場を狙う動きがあります。」

 「中東方面の支部の幾つかが襲撃を受け、撃退に成功。テロリストは全て捕縛しました。」

 「サボタージュを実行並び協力した従業員には一度警告を。改善が見られない場合は意図的な業務妨害として個別訴訟或いは雇用調整・解雇を行ってください。」

 「我が社は昔から有限会社です。株式市場という不安定な場所に打って出ずともよろしい。計画・賛同した者のリストを作成します。」

 「今度は大規模クラッキングですか。鎧袖一触です。」

 「どうやらゼーレやアマルガムなる組織の暗躍の様です。潰しますか?」

 「ん~~そいつら潰しちゃうと色々不味い事になるかもだし、防衛と潰れない程度の反撃に務めて。」

 「了解しました。」

 

 が、こんな感じで打つ手全てにカウンターが飛んできた。

 それでも彼らの目的、即ち人類補完計画のために彼らは頑張った。

 それが彼女らの手の内である事も知らず。

 

 「組織の全容解明まで、後27%といった所でしょうか。」

 「資金源となっている各企業の調査、8割まで完了。」

 「あ、南極で先史文明の遺跡を発見した様です。」

 「南極周辺は何時何が起きても対応可能なようにOF隊を即応体制で待機。」

 

 こうして、彼らは知らず知らずの内にその全てを丸裸にされ、彼らの持つ死海文書の中の最も重要な部分、即ち裏死海文書の中の予言の部分はこうして外れる事となったのだった。

 以降、ゼーレやゲヒルンの動きは筒抜けであり、アマルガムと共に「何時でも潰せるけど今は都合が悪いから見過してやってる害虫」程度に区分されていた。

 人類補完計画、彼女らからすれば全人類を巻き込んだ集団自殺にしか過ぎない愚行をしようとする連中への分類など、計画を知らない事を含めてもその程度でしかなかった。

 故にネルフが公式に設立され、ゼーレの規模縮小に伴う予算の減少で喘いでいる時でも、彼女らは一切手出ししなかった。

 無論の事ながらエヴァ開発に失敗されても少し困るので邪魔はしない、しかし一切の援助もしない。

 A.I.M.のこうした態度に何かを感じ取った生き馬の目を抜く政経関係者らは素早くネルフとその周辺関係者、その裏にいる人類補完委員会=地球連邦政府内でのゼーレの隠れ蓑から距離を取った。

 そのため、巨大な人造人間にして汎用人型決戦兵器たるエヴァンゲリオンの開発もやや遅れており、新西暦186年にして漸く初号機・零号機・弐号機までが完成した程である。

 そんな訳なので、手持ちの武装やそれ以降の機体に関しては正直言って先行き不明である。

 武装に関しては50m程度なので、特機向けの武装を手直しすれば装備可能とあるのでそちらから持って来る予定だ。

 エヴァ本体に関しては前述の三機で得られたデータを元に対使徒を想定した防衛・迎撃戦闘を主眼として現在完成が急がれている。

 

 「まぁ直に支援要請が来たのなら、相手の態度次第では支援するし、現場判断最優先だからどうなるかは分からないけどね。」

 「それにしても単機で国が傾く程の費用を使って作るのがあの程度とは…。」

 「せめてデモンベイン並みにの代物になってから来いって話だよ本当に。」

 

 こうして、ネルフは原作同様に常に赤貧に喘ぐ事になるのだった。

 が、何だかんだで現場で必要なものは融通された。

 第5使徒ラミエル戦においては縮退炉直結式のGBライフルが貸与され、第7使徒イスラフェルにおいてはスーパーロボット軍団が応援に駆け付けてくれたので、現場に問題が出る程の悪感情はお互いに抱かれる事はなかった。

 

 

 ……………

 

 

 さて、ゼーレの実働部隊たるアマルガムだが、この組織にはこういった武装テロ組織にしては他にない特徴を持つ。

 それが「実質的なトップが存在しない」という点であり、各種金属の名を冠する複数の幹部達による「網の目状のネットワーク」がアマルガムという組織の本質に当たる。

 幹部は互いの素性を知ることはなく、また各人にそれぞれ同等の権力が与えられており、組織としての方針はオンラインでの議論を通じて民主的に決定される。

 こうした情報はゼーレ周辺の情報収集を行っていた時に判明し、更にこの組織の性質は利用できるのではないかと思われた。

 

 つまり、この幹部の何割かを掌握すれば、アマルガムを実質的に支配する事が出来るのだ。

 

 これに目を付けたA.I.M.の非公式部門も早速行動を開始、一年戦争前にはアマルガム内の3割を掌握し、現在もそれは継続している。

 これにより地球上で活動中の各種過激派団体やテロ組織等に関して、彼女らでは把握し切れていなかった雑多な情報と様々なコネクションを得る事に繋がった。

 彼女らの指揮下にあるアマルガムの主な仕事は民衆を煽り、危機感を増大させ、軍備増強を求める意見を大にする事である。

 こうでもしないと直ぐに自分達は後方地帯にいるから大丈夫だ等と油断慢心する者達が出るからだ。

 戦争開始前は文化的活動の推奨、過去の遺跡や文化遺産の保護、各種NGO(調査済み)の支援等、割と平和的な活動に徹していた。

 それ以外があるとすれば、自分達以外のアマルガムの活動の把握、平時における消費拡大・兵器更新を目的とした人死にの出ない綺麗なテロ位なものだろう。

 そんな訳でアマルガムはゼーレ派とA.I.M.で実質二極化しており、両派閥が主導権を握るべく日夜互いに活動している。

 

 

 ……………

 

 

 太陽系外縁部

 

 「来ないね。」

 「来ませんね。」

 

 位相空間内で散発的かつ断続的にに発生しているゼ・バルマリィ帝国・ズール銀河帝国・インベーダーらによる戦闘を観測しながら、トレミィらは何時でも纏めて消し飛ばせるように待ち構えていた。

 しかし、待ち構える時間がそろそろ半年近くなるのにさっぱりこちらに来ないので緩んでいた。

 無論、人間と違って即応できる態勢も整え、知覚能力・処理速度も桁外れな彼女ら基準での緩みだったが。

 が、古今東西、そんな時にこそ危機は訪れるのだ。

 突然、艦体に衝撃が走った。

 

 「状況報告!」

 「攻撃を受けました!種別…STMC!」

 「フィジカルキャンセラーを用いての奇襲だと思われます!」

 「通常空間に復帰!全機、戦闘開始!」

 

 こうして、宇宙の状況もまた大きく動く事となる。

 

 

 

 



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第6話 星

 新西暦186年 7月 地球 極東方面 光子力研究所近郊

 

 戦闘は激化の一途を辿っていた。

 

 地底種族連合側は無敵戦艦ダイの一番艦は亜光速レールガンによって放たれた光子弾頭により撃破され、残る二番艦も駆け付けた増援のスーパーロボット軍団によって砲塔を破壊され、依然高い砲撃能力は持っているもののマグマ砲の使用は不可能になった。

 対する地球連邦軍も今作戦に参加していた虎の子のジガンスクードⅡが援護防御時にマグマ砲の直撃を受けて擱座、魔改造済みデストロイドモンスターも大気圏内で想定していなかった亜光速レールガン(大気圏内では出力を落としての使用が推奨)の最大出力使用によって砲身の過熱で使用不可能になった。

 両軍の最大火力が共に使用不可能になったため、戦闘は必然的に決め手が欠けていた。

 しかし両軍は最初から撤退なんて考慮の外、必然的に戦闘は泥沼の乱戦状態へと突入していた。

 

 「弾幕を絶やすな!主砲は照準付き次第撃て!数は向こうが上だ、母艦をやられれば前線が動揺して押し込まれるぞ!」

 

 今回、特機達の母艦として活躍しているのはスペースノア級一番艦を改装したスペースノア改だ。

 艦載機数の増大の他、センサー系と推進系の更新と対空火器の増設等の亜光速戦闘対応改装、そして艦首に搭載されたハイパーメガ粒子砲(資源衛星基地サイズの小惑星なら一撃で消滅)によってISA戦術対応母艦として十全な性能を獲得した。

 艦長は昇進したブライト・ノア中佐であるが、決してノア繋がりで選ばれた訳ではない。

 なお、以前の艦長のダイテツ・ミナセ大佐は二番艦のシロガネの艦長として就任しているため、ここにはいない。

 強化された火力による前線の支援だけでなく、内部に配置した各研究所のスタッフ達と設備によって特機の補給・整備・修理すら可能になっていた。

 

 「VF隊はどうか?」

 「未だ制空権確保出来ず。敵航空戦力の排除に手間取ってます。」

 「敵巨大要塞からの対空砲火激しく、未だ取り付けていません。」

 

 最初のVF一個中隊だけでなく、追加のスーパーパック装備一個中隊を加えた強力な航空戦力。

 それを以てしても尚完全に制空権を取れないのは、相手側の空中母艦群と空中要塞群、それらに搭載された圧倒的多数の航空戦力によるものだった。

 メカザウルス・バドやドローメに対しては機動性・火力共に勝っており、鴨撃ち同然なのだが、それ以外の戦力は基本性能が準特機とも言える性能を持っており、スーパーパックを搭載していない半数が火力不足に陥っていた。

 加えて、空中母艦群と要塞群からの火力支援と対空砲火によってその機動を制限されている事もあって不利であり、それをパイロットの技量と機動性の高さによって辛うじて互角の戦況に持ち込んでいた。

 だが、その状況も動き出した。

 

 『ここまでだ、あしゅら男爵!ブロッケン伯爵!』

 『ちぃ、ここまでか!』

 『ぼやくな、撤退するぞブロッケン!』

 『ぐぐぐ…兜甲児、次こそは貴様の終わりだ!』

 

 それだけを言い捨てると、あしゅら男爵とブロッケン伯爵は脱出装置を起動した。

 飛行要塞グール内部の人造兵士達を見捨て、自分達だけがワープによって逃げ出したのだ。

 

 『ハン!一昨日来やがれってんだ!』

 「マジンガーZ、グール飛行編隊を全機撃破しました!」

 「よし、押し込むぞ!ハイパーメガ粒子砲チャージ開始。50%で敵集団中枢に発射する。特機部隊はその隙に敵要塞へ取り付け!」

 

 その動きに素早く反応した者とそれを阻止せんとした者がいた。

 

 『させん!』

 『シャーキンか!』

 

 プリンス・シャーキンの駆るギルディーン。

 母艦たるガンテを落とされて、乗機に乗って現れたのだ。

 スペースノア改から感じる悪い予感に突き動かされ、チャージを阻止しようと動く。

 それをひびき洸の駆るライディーンが阻むべく、その正面に立ち塞がった。

 

 『これ以上、お前達の好きにさせるか!』

 『ほざけ!今日こそ貴様を討ち取るぞ、ひびき洸!』

 

 盾と弓、剣を打ち合わせる高速の空中近接戦闘。

 更に互いの機体性能の高さと超能力による直感によって、その反応速度は互いを高め合う様にドンドン早くなっていく。

 もう外野が迂闊に手を出す事は出来ない状態だった。

 

 『おおおおおおおおッ!』

 『ぬぅぅ……ッ!』

 

 必死になって戦うひびき洸に対して、シャーキンの心中には焦りが募っていた。

 バラオから最後通告を言い渡され、配下である他の地底種族+αからの提案もあってこの作戦に乗ったシャーキンであるが、内心では自分こそがライディーンを、ひびき洸を討ち取るのだと決めていた。

 しかし、実際はどうだ?

 ムー帝国帝室の血を引きながら、しかし母の身分が低い故に継承権は限りなく無に近かった。

 ならばせめて、自分はどうなっても良いから溺愛する弟を王位に。

 それだけを胸に祖国を裏切り、祖国滅亡の引き金を引き、しかして時勢故にバラオらと共に永き眠りに就く事を選び、こうして現代に蘇った。

 だと言うのに、だと言うのに!

 滅んだ筈の、死んだ筈のムー帝国の血は自分達以外にも生き残り、その象徴たるライディーンと共に復活した。

 あのレムリアの、あの小娘の息子が、あの偉大な皇帝の超能力を受け継いだ者が、自分の前に立っている!

 それだけでシャーキンの思考は怒りと屈辱、嫉妬と憎悪の念で埋め尽くされる。

 加えて今、自分が押されつつある事が一段と頭に来る。

 ひびき洸のパイロットとしての腕前と超能力は、今この戦いの中で刻一刻と強くなっている。

 それに釣られて、ライディーンもまた刻一刻とその本来の性能を解放していく。

 既に成長期を終えてしまった自分には無い、若さ故の感情と直結した爆発力。

 それが負の感情に満ち満ちたシャーキンの攻勢を逆に押し込めていた。

 

 『馬鹿な、この私が…!』

 『ゴォォォッド…』

 

 屈辱と敗北への恐怖。

 気迫で負けたか、圧倒されたのか、シャーキンは知らず知らずの内に機体を後退させてしまった。

 それが、洸に決め手を出させる隙となった。

 

 『ゴォォォォガァン!』

 『しまっ』

 

 放たれた矢は、狙い違わずギルディーンの頭部、即ちコクピットを貫き、爆散させた。

 

 『さらばだ、シャーキン。』

 

 パイロットとなり、嫌になる程やり合った相手に敬意を込めて、洸は別れを告げた。

 

 『チャージ50%に到達。』

 『よし、味方機に退避命令!』

 『射線軸上からの味方機の退避確認。』

 『照準、敵陣中央に合わせました。』

 『よし、ハイパーメガ粒子砲、撃てぇ!』

 

 スペースノア改の艦首から放たれた強大なメガ粒子の奔流は多数の敵ユニットを飲み込んでいく。

 そして、その一撃は密集して対空迎撃・対地砲撃を行っていた二つの巨大要塞の内、恐竜帝国のマシーンランドへと直撃した。

 

 『ぐあああああああ!?』

 『ぬぅぅぅぅぅ!!』

 

 それだけでなく、密集していたが故に百鬼帝国の科学要塞島へと無数の破片と衝撃波が吹き荒れ、大きく揺さぶられる。

 そして射線軸上にいた敵軍は全て蒸発して二つの巨大要塞にも大きなダメージが入った今。

 未だ衝撃波が吹き荒れども、通常の機動兵器ならぬスーパーロボットならばそれを乗り越えて突入できる。

 

 『今だ!特機部隊、突入!』

 『『『『『『『『『『『『おおおおおおおおおおおおお!!』』』』』』』』』』』』

 

 ブライトの号令の下、特機部隊は要塞内部へと侵入すべく一気呵成に突撃した。

 

 

 ……………

 

 

 「くくく」

 

 その上空、否、直上の宇宙空間にて、大規模なワープ反応が検出された。

 そこにあったのは全長30kmにも及ぶ島、否、超巨大機械獣である。

 つい先程、通りがかった哨戒中のパトロール部隊(全機ジェガン)をものの10秒で全滅させたこの超巨大機械獣、その名はゴードン・ヘルという。

 正真正銘、このバードス島そのものを改造した機体がDr.ヘルの文字通り最大の切り札である。

 

 「ははははははははは!よくやってくれたぞ、ブライにゴール!お陰で無事にこのゴードン・ヘルを出撃できた!」

 

 既にこの宙域周辺の戦力ではどう足掻いても対応できないのは既に調査済みである。

 故にこそ、Dr.ヘルは勝利を確信していた。

 内部にある無数の機械獣とその生産工場、そしてこのゴードン・ヘルの戦闘能力。

 どれを取っても既に地球連邦軍では(表向きは)対応できない程の戦力だった。

 

 「後は憎きマジンガーZ、貴様らにはこの儂直々に引導を渡してくれる!」

 

 そして、ゴードン・ヘルはゆっくりと地表へと落下すべく加速を開始した。

 このままではもう5分とせぬ内にコロニーに匹敵する巨大質量が地球へと落下する事だろう。

 そうなれば、大陸の地形が大きく変化し、どれ程の犠牲が出るか見当も付かない。

 

 「安心せよ。全てが終われば、この儂の手によって地球は元の美しい姿へと戻してやろう。だがその前に、全ての邪魔者を消してやらねばなぁ!」

 

 パトロール部隊は余りにも不運だったが、最後に辛うじて緊急通信を送る事には成功していた。

 だが、止めようにも奇襲を受ける形となった連邦軍ではどう足掻いても戦力が足りない。

 何よりも絶望的に時間が足りない。

 何せ地球近郊の各種軍事要塞、即ちルナ2やコンペイトウにはつい先程情報が入ったばかりなのだ。

 例えワープを用いても、止めるだけの戦力を送る事は出来ない。

 例え送れたとしても、ゴードン・ヘルとその内部に搭載された無数の機械獣がそれを阻む。

 もう、地球連邦に打つ手は無かった。

 

 『待てぇいッ!!』

 

 だからこそ、その声にDr.ヘルは驚いた。

 

 「何奴!」

 『この外道めが!あの美しい星の輝きが見えぬのか!?あれを汚す事を、何とも思わぬのか!?』

 

 そんな糾弾の声と共に、月方面からやってくる5機の機影があった。

 その加速性、明らかに尋常な手段によるものではない。

 事実、彼らはこの事態を止めるため、最新の機体を月面上から資源運搬用のマスドライバーで撃ち出してもらっていたのだ。

 常人ではテスラ・ドライブがあっても気絶する様な激烈なGと通常のMSが分解する程の衝撃を受ける事を覚悟して。

 そして、彼らはその二つを極限まで鍛えた超人的肉体と彼らのために設計された特機同然のMFによってクリアした。

 

 「貴様らは!?」

 『その非道、見過ごせぬ!』

 『この星を、人々を守るのも我らが務め!』

 『故に止めるのだ!』

 『この新たな愛機によって!』

 

 シャッフル同盟。

 月を拠点とするアナハイム社、そこに所属するMFパイロット達の頂点に立つ5人が現れたのだ。

 辛うじてパトロール部隊が最後に出した通信を元に、あらゆる手段を尽くして駆け付けたのだ。

 

 「抜かせ!我が野望の邪魔立ては誰にも出来ぬ!」

 

 途端、無数の機械獣がゴードンヘルより発進、シャッフル同盟らへと襲い掛かる。

 だが、それらは濡れた障子紙よりも容易く打ち砕かれ、シャッフル同盟らはただ真っすぐにゴードンヘルへと突き進んでいく。

 

 『この大きさ、一人では無理だな。』

 『ならば合わせるのみ!』

 『この拳に魂を込め!』

 『更に極限まで高めれば!』

 『倒せぬ者などぉぉ…無い!』

 『『『『『シャッフル!同盟けぇぇぇぇぇんッ!!』』』』』

 

 「ば、馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 シャッフル同盟全員の、魂の絆による一撃は地球の危機を防いだ。

 ゴードン・ヘルは砕かれ、億単位の死者が出る事はないだろう。

 しかし、未だ大量の瓦礫は存在し、それは地表へと降り注がんとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「」

 

 なお後日、アナハイム会長のメラニー・ヒュー・カーバインはマスドライバー管理会社からのもの凄い額の請求書とシャッフル同盟の余りに現実離れした活躍に絶句したそうな。

 




なお、ギルディーンはCR版です。


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第7話 流れ星

 新西暦186年7月 地球 極東方面 光子力研究所近郊

 

 

 「何!?隕石が落ちて来るだと!?」

 

 その報告を真っ先に受け取ったのは、現場の総指揮官であるブライト中佐だった。

 

 『この戦域の直上に大質量のワープを確認しました!シャッフル同盟の方々のお陰で辛うじて破壊が間に合ったのですが…。』

 「砕けた破片までは間に合わないという事か…。」

 「情報を受けた連邦軍総司令部からも、地球全土の連邦軍に対して可能な限り落下する隕石群を迎撃せよとの命令が下りました。」

 「民間人への避難勧告は?」

 「現状ではどう足掻いても間に合いません。」

 「迎撃するしかないか…。」

 

 月のアナハイムからの緊急通信に、ブライトは頭を抱えた。

 そしてものの数秒で、現場指揮官たる彼はやるべき事をすべく動き始めた。

 

 「全方位に伝達!都市部に落着する隕石の迎撃を最優先しろ!コロニー落としの再来など、絶対に阻止するぞ!」

 

 未だ要塞内部でスーパーロボット達が奮戦する中、その外では一気に状況が動いていた。

 

 

 ……………

 

 

 『ゲッタァァァァビィィィィィィィムッ!!』

 

 一方その頃、マシーンランドへと突入したゲッターロボとマジンガーZ、ダンクーガの三機は縦横無尽に暴れ回っていた。

 

 『くそ、敵の勢いが止まらん!』

 『犠牲を恐れるな!命を賭してでも止めるんだ!』

 『ウラン兵器まだか!?ゲッター線汚染が広まってるぞ!』

 

 無論、恐竜帝国側も黙ってやられる訳もない。

 内部に展開する歩兵戦力に対装甲兵器を持たせて支援、内部に待機していたメカザウルスを前衛に何とか三機のスーパーロボットを押し返そうと無謀な攻撃をしていた。

 しかし、その程度で止められるのならスーパーロボット等と御大層な名で呼ばれる事はない。

 

 『チェンジ、ゲッター2!ドリルアーム!』

 『ルストハリケーン!』

 『全弾発射、行くぜぇ!』

 

 マジンガーZの口部から放たれる酸を纏った突風。

 ダンクーガの全身にある合体前の実弾系火器類の一斉射。

 それらはゲッター2がドリルでこじ開けた空間を通して突風と爆風が拡散し、深刻な被害を要塞内部へと広げていく。

 

 「ゲッター、マジンガー、ダンクーガの三機が要塞中枢まで突き進んできます!」

 「えぇい、奴らの侵入したブロックを切り離すと同時に自爆させぇい!」

 「む、無理です!先程の砲撃で一部のブロックが融解して溶接されている状態です!」

 「ならば隣接するブロックも切り離せ!このままではマシーンランドが完全に破壊されるぞ!」

 「り、了解!…切り離しまで60秒!」

 

 既に要塞中枢まで数区画という所まで迫ってきている状況で、その一分はゴール達には余りにも長く感じられた。

 そして、その微細な戦場の空気の変化を、野生故の直感によって悟った者達がいた。

 

 『おい、甲児、竜馬!』

 『どうした、忍さん!』

 『あぁ!?』

 『敵が怯えてやがる!逃げに入りやがった!』

 

 何で分かる!?と要塞中枢の司令部の者達が聞いていれば、そう叫ぶしかなかっただろう。

 藤原忍、実に恐ろしきはその野生の勘である。

 

 『忍、出鱈目って訳じゃないんだよな?』

 『流石の忍もこんな状況で言う訳がないだろう。』

 『その空気の読み、普段からもう少し活かせないのかい?』

 『おめぇら少しは真面目にやれ!』

 

 僚機ではなく、同僚達からの余りな物言いに怒鳴る忍。

 しかし、彼らの言い分は忍の普段の素行から来るものなので自業自得だった。

 

 『で、どうすんだ忍!』

 『このままぶっ壊して進んでたら取り逃がす事になる!』

 『じゃぁ正面に火力集中して突っ走るか!』

 

 やるべき事が決まれば、話は早いとばかりに全機が動く。

 

 『ダイガン、マキシマムレベル…!』

 『行くぜ、正義の怒り!』

 『チェンジ、ゲッター1!』

 

 各機が各々の最大火力を正面に集中、道中の障害を全て破壊し、一気に要塞中枢まで突き進もうというのだ。

 

 『シュートぉッ!』

 『ブレストファイヤー!』

 『最大出力の、ゲッタァァビィィィィム!』

 

 大型戦艦の艦砲すら超える程の大出力のビームと熱線、ゲッター線の奔流が、要塞内部を突き進む。

 途中あった全ての障害物を蒸発・融解させながら、エネルギーの奔流は遂に要塞中枢付近まで届いた。

 

 「う、うわああああああ!?」

 「か、カウント10!」

 「ダメだ、間に合わん!」

 

 そのドロドロになった一直線の道を、ゲッター1が突き進む。

 

 『ゴール!テメェとの因縁も今日限りだ!』

 「おのれおのれおのれおのれおのれ!許さぬぞゲッター!流竜馬!神隼人!巴武蔵!例え我が肉体滅びようと、永久に貴様らを呪ってくれるぅぅ!!」

 『戯言は地獄でほざきなぁ!』

 

 それが恐竜帝国帝王ゴールの最後の言葉だった。

 遂に要塞中枢へと到達したゲッター1はその右腕を要塞中枢司令部へ、帝王ゴールへと叩き付け、ミンチにした。

 

 『ゲッタービーム!』

 

 空かさず、先程よりも遥かに威力の低いゲッタービームを放ち、司令部を完全に破壊した。

 

 『竜馬さん、脱出するぞ!自爆が始まってる!』

 『おおっと、悪党ってなやる事がワンパターンだな!』

 『言ってる場合か!急げぇ!』

 

 こうして、恐竜帝国は暫くの間、人類の前から姿を消した。

 残った4つのマシーンランドと共に、彼らが人類の前に姿を再び現すようになるのは来年以降となる。

 

 

 ……………

 

 

 「ふはははははは!口程にもない!」

 

 一方、科学要塞島に突入したライディーン、ダイターン3、コンバトラーV、ボルテスVの4機は苦戦していた。

 

 「我ら百鬼帝国の科学技術ならば、この様な事は簡単に出来るのだ!」

 

 突入した4機のスーパーロボットを待ち受けていたのは、量産型メカ鉄甲鬼軍団だった。

 百鬼帝国の優秀な科学者にしてパイロットでもある鉄甲鬼がゲッターロボを徹底的に研究し、対ゲッターロボとして設計したこの百鬼メカは変形合体分離機能こそないものの、現在のゲッターロボに匹敵する性能を有している。

 以前はパイロットの鉄甲鬼の腕前もあり、未完成の状態での出撃でありながらゲッターチームを大いに苦しめた。

 だが、一騎打ちに拘った彼と功を焦るヒドラー元帥との間で確執があり、一騎打ちを邪魔したヒドラー元帥の部隊を追い払い、最終的には互いに損傷した状態で一騎打ちを続行、ゲッターに討ち取られた。

 当時は未完成だったこの機体、データ自体は百鬼帝国側にも残っており、その性能と実績からその後も開発は続行され、今日になって漸く日の目を見たのだ。

 ゲッター1を超える空戦能力と火力、ゲッター2に比肩する運動性、ゲッター3を凌駕する装甲とパワーを併せ持つ、百鬼メカの一つの完成形とでも言うべき機体だった。

 武装は破壊光線、トマホーク、ドリル、チェーンアタック、ミサイルであり、更に脚部にはキャタピラを内蔵している。

 そのためコスト(撃破時資金が1万2千)が非常に高く、今までは本拠地である科学要塞島を守る首都防衛隊として温存されていたのだ。

 それが50機近く存在し、連携して襲い掛かってくるのである。

 しかも敵要塞の上とくれば、地の利すら相手側にあるのだ。

 

 『サン・レーザー!』

 『ガトリング・ミサイル!』

 『Vレーザー!』

 

 サイズに勝る三機の特機からの攻撃を、しかしメカ鉄甲鬼軍団は持ち前の機動性とサイズ差によって易々と回避、反撃に大量の破壊光線とミサイルが放たれ、更に科学要塞島の各所に備えられた対空砲やミサイルが次々と降り注いでくる。

 

 『ゴッドゴーガン、束ね撃ちだぁ!』

 

 故に、この4機の中で最も着実に敵を撃破しているのは高い機動性と超能力者故の直感を併せ持つひびき洸の駆るライディーンだ。

 先程のシャーキンとの戦闘から直感が更に冴え渡り、更には機体性能すら向上(正確にはリミッターの段階的解除)している現在、その巨大な弓の一撃は的確にメカ鉄甲鬼を射抜き、次々と撃破していく。

 

 『各機、ライディーンを支援するんだ!彼が集中できる状態を保つんだ!』

 『了解!』

 『なぁ、万丈さんをメイン盾にしてオレらがカバーする形が一番じゃないか?』

 『え?…あ。』

 『『『……。』』』

 

 ライディーン 全長52m

 コンバトラーV 全長57m

 ボルテスV 全長58m

 ダイターン3 全長120m(人型時)

 

 どう考えてもサイズ差がデカい。

 加えて、素の装甲の厚さはこの面々の中ではダイターン3が堂々のトップであった。

 なお、装甲に関してはライディーンは二番手で、次にボルテスV、最後にコンバトラーVが来る。

 この辺りは複雑な変形合体システムの短所である装甲の薄さが諸に出た形だった。

 

 『よし、行くぞ!』

 (凄い、一瞬で今の雰囲気を無かった事に。)

 (流石金持ちの御曹司は違うなぁ。)

 

 破嵐万丈は持ち前のリーダーシップを発揮して、戦闘を再開した。

 

 

 

 

 

 

 彼らの頭上に突然の流れ星が落ちて来るのは、それから3分後の事だった。

 

 




なお、量産型メカ鉄甲鬼の性能は量産型ゲッタードラゴンやグレートマジンガーに比肩します。


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第8話 ようやく決戦

連日の農作業と仕事の挟み撃ちで死にそう…
序にイベントも回らねば…のっぶー
でも書けたから投下するんご…


 新西暦186年7月 極東方面 光子力研究所近郊

 

 

 科学要塞島内部にて、何とかメカ鉄甲鬼の数を減らしていく事には成功しているものの、未だ戦闘を繰り広げる突入部隊は焦っていた。

 この時、彼らは要塞の外での情報、即ち極東方面を中心としたコロニー落としならぬ要塞落としの情報が届いていなかった。

 要塞内部に入ってからというもの、近距離・接触通信は兎も角として、長距離通信がジャミングによって使用不可能となっていたからだ。

 

 (何だ、この胸騒ぎは何なんだ…!?」

 

 そんな中、先程から激しく警鐘を鳴らす危機感に、ひびき洸は焦燥感を募らせていた。

 

 『く、えぇいやぁ!』

 

 ダイターン3が盾役に徹し、扇と剣で敵の攻撃を打ち払い、それを潜り抜けた敵はコンバトラーVとボルテスVのコンビが潰して回り、超能力による直感によって放たれたゴッドゴーガンが一度に複数の敵を射抜く。

 この連携で辛うじて量産型メカ鉄甲鬼の軍勢を減らしていたのだが……安定した連携故に、どうしても殲滅速度は遅かった。

 

 『万丈さん!このままじゃ間に合わない!』

 『何!?』

 『おい、どうした!?』

 『洸君、落ち着いて、何が見えたかを言うんだ。』

 

 洸の焦りを滲ませた声に、他の3機から疑問の声が上がる。

 

 『このままじゃ手遅れになる!外で何か、大変な事が起こっている!』

 『くははははは、漸く気付いたか馬鹿め!』

 

 その通信を傍受したのか、不意に科学要塞島の中心にある司令部からブライ大帝の通信が届く。

 

 『つい先程、Dr.ヘルめが衛星軌道上に自分の本拠地の島をワープさせ、落とそうとしたそれを砕かれたのよ。そのまま落ちるよりはマシと言えど、このままならばどれだけの人間が死ぬだろうな?』

 『んな…!?』

 『少なくとも、億の人間は死ぬだろう。コロニー落としの再来だな!』

 

 ふははははははははは!と哄笑するブライ大帝に対し、4機の特機のパイロットらは戦慄した。

 彼らの多くが未だ戦いを知らぬ子供(今も十二分に若いが)だった頃、空から降って来る巨大なコロニーの映像はトラウマとして刻まれている。

 当時を生きていた地球全土の人間がそうだった。

 そんなものの再来など、断じて認める訳にはいかなかった。

 それは無論、洸もだった。

 

 『そんな事、絶対にさせてなるものか!』

 

 ひびき洸は非凡な生まれと資質を持っているが、その人格は善良でスポーツ大好きで、人並み程度に性欲もある極普通の少年だった。 

 故にこそ、自らの生まれた星を、家族や周囲の人々の暮らす地球を壊そうという邪悪に対し、恐れや憎悪ではなく、正しく怒りを抱く事が出来る。

 

 『ライディーン!お前にまだ隠された力があるのなら、オレの事は構うな!この星を守る力を、人々の平和を守る力を、迷わずに振るうんだ!』

 

 故に、ライディーンは勇者たる資質を持ち、ここまで育て上げた半身の声に応えた。

 胸部内に秘められた、普段は分割して決して誤作動しないようにと封印されていた機能が、武装が解放されていく。

 

 (…きら?洸?止めなさい!それは危険です!)

 

 不意に洸の脳裏に母の玲子の声が響く。

 普段の公に見せる女王レムリアとしての声ではなく、家で家族と共にいる時に見せる一人の母親として身を案じる声に、洸は苦笑した。

 

 (大丈夫だよ、母さん。大丈夫、オレは勝つよ。)

 (洸!?だm)

 

 意図的に念話を遮断し、自身の中にある力の流れを意識して、普段よりも強くライディーンへと流していく。

 そうしなければ勝てない。

 そうしなければならない。

 そんな予感に従い、洸は今まで漠然と運用していた超能力を意識して使用し、その精度をドンドン高めていく。

 

 (勇者よ、第二の目覚めの時が来た。)

 (ライディーン、いや、お爺ちゃんか!?)

 

 そして、洸の脳裏に初めてライディーンに乗った時と同じ声、即ち祖父にあたるムー帝国先代皇帝ラ・ムー本人の声が響いた。

 

 (そなたは正しく勇者としてあり続けた。それを裏切らぬ限り、ライディーンは、ムートロンはお前に力を貸し続けよう。)

 (お爺ちゃん…。)

 (だが忘れてはならぬぞ。そなたが悪に堕ちた時、ライディーンとムートロンは二度と力を貸してはくれぬ。心が悪に堕ちた時、それは新たな妖魔の、次なるバラオの誕生へと繋がるのだから。)

 (次なるバラオ…。)

 (妖魔とは元々妖魔として生まれたのではない。悪に堕ちた者が妖魔となり、周囲の者を悪に堕として増えてゆくのだ。この連鎖を断たねば、何れまた新たな邪悪が生まれてしまう。)

 (…分かった。オレは決して、あんな連中みたいにはならない。)

 (では受け取るのだ、新たなるムートロンを!そして、この星と人々を救うのだ!)

 

 厳かな、しかし穏やかさと慈しみを湛えた声が途絶え、不意にライディーンの頭上より光が降り注いだ。

 本来ならば神面岩の地下、海底に封じられたムー帝国の遺跡から、ラ・ムーの星を鍵としてムートロンエネルギーが供給される。

 しかし、此処に来て洸は余りに急速な成長を見せ、同時に地球全土が危険に晒されていた。

 故に孫と地球のために融通を効かせたラ・ムー(霊体)が手続きをすっ飛ばして許可を出したのだ。

 なお、原作通りの生贄有りの方が供給するムートロンの量は多いが、今回は洸の成長によってそうまでせずとも既に十分な念動力を持っている事もラ・ムーにこうしたすっ飛ばしをさせた原因でもある。

 

 (愛娘と初孫を無暗に傷つけたい訳が無いじゃろうが!)

 

 ア、ハイ。ソッスネ。

 

 『ラァァァァイディィィィィィィィン!!ッ』

 

 神面岩から放たれた光、即ち膨大なムートロンの光がライディーンへと降り注ぐ。

 途端、ライディーンの姿が大きくぶれ、その輪郭が徐々に巨大化していく。

 遂には全長300mもの巨体となり、科学要塞島へと轟音と共に着地した。

 

 『な、何だとォ!?』

 『万丈さん、後は任せてください!』

 『ひびき君!?よし、任せたぞ!』

 

 巨大化したライディーンの胸部、そこから三つの砲口が姿を現す。

 今まで盾役を務めてくれたダイターン3を後ろに置き、遂にライディーンがその禁じ手とされる武装を解き放つ。

 

 『ゴォォォォォォッド…!』

 『いかん!撃たせるな!』

 

 ブライ大帝の号令の下、残存のメカ鉄甲鬼並び各砲台が巨大化したライディーンへと攻撃を集中する。

 しかし、ムートロンの過剰供給によって強化されたライディーンにその攻撃が通る事はない。

 周辺に展開されたバリアによって、傷一つ付けられる事はなかった。

 

 『ラ・ムゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

 三つの砲口から放たれた特殊な超音波は科学要塞島全域を飲み込んだ。

 全てが分子レベルで粉砕されていくだけでなく、霊的な力による防御すらその圧倒的エネルギーの奔流を前にしては消し飛ばされていく。

 百鬼帝国の本拠地たる科学要塞島とその首脳部は、それに抗する手段を持っていなかった。

 

 『こんなもの、こんなもの勝てる訳が…!』

 

 こうして、ただの一撃で百鬼帝国は滅亡した。

 

 

 ……………

 

 

 (何だアレは…ライディーンなのか?)

 

 その光景を要塞の外から観測していたブライト達は、愕然としていた。

 詳しい事情を知らない者からすれば、ライディーンとて単なる特機の一つに過ぎない。

 そんな印象はしかし、今の光景を見れば霧散する事だろう。

 嘗て銀河全域を超えて広がっていたプロトカルチャー、その末裔たるムー帝国。

 彼らが作りし妖魔帝国を始めとした敵対勢力への切り札。

 その本当の意味を今日、改めて理解する事となったのだ。

 

 「艦長、ジャミング消えました!通信機能回復します!」

 「よし、突入部隊に通信!落下する隕石群の迎撃作戦を始める!補給と整備が必要なら直ぐにさせるんだ!」

 

 既に要塞外の戦いの趨勢は決し、連邦軍の更なる増援もあって残敵の掃討へと移っていた。

 現在は各機動兵器の補給と簡易修理をして配置した上で、擱座していたジガンⅡを応急修理し、仰向けにして胸部GBを用いての対空砲台として運用すべく準備をしていた。

 

 「隕石群落下まで後1分だ!何としても迎撃するんだ!」

 

 既にVF隊は最低限の補給を済ませた上で再出撃し、高高度へと展開、大気圏への落下を開始している隕石群の位置情報の観測ならび先行迎撃を試みていた。

 しかし、火力の低さからアーマードパックを搭載していない機体では効率的な迎撃が出来ず、精々破片を多少細かくするか、表面を削るしか出来ていなかった。

 地球の危機は、これからが本番だった。

 

 



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第9話 ようやく決戦 その2

 新西暦186年7月 極東方面 光子力研究所近郊

 

 次々と落下してくる隕石群に対し、何とか補給を終わらせた部隊と各地に僅かに残っていたVF隊を先行させる形で迎撃が行われる。

 元々宇宙からの侵略に対して過剰なまでに防衛網が構築されているこの世界の地球は、地表から大気圏へ突入してくる物体への迎撃に余念が無かった。

 嘗ての一年戦争における地球史上最大の組織的大虐殺、コロニー落とし。

 それに対処するため、一年戦争後も地球の各所には濃密な対空迎撃網が構築されている。

 これらには敢えて現在の最新鋭兵器のそれでなく、もうローテクと言っても良い大型弾道弾と人工衛星を始めとした各種レーダー網の連携による迎撃システムである。

 態々他への転用の難しいシステム、それも旧型の改修品を使っているのは「ローテク故の良さ」からだ。

 既に開発されきり、信頼性が高く、アップデートも最小限で、人員の教育も既存の流用で済む。

 何よりも調達・維持コストが最新鋭の機動兵器や防衛用の艦隊を配備するよりも遥かに安い。

 システムそのものの土台や基本思想は旧世紀に開発されたものから殆ど変化がない程の完成度の高さもこれを後押ししていた。

 無論、各種兵器や電子機器の高性能化に伴って迎撃成功率は上昇している。

 これらのミサイルは一年戦争以降、日の目を見る事はないと思われていたが、幸か不幸か、ここに来てその役目を果たす機会に恵まれてしまった。

 

 「隕石群、マーキング完了。」

 「各基地から迎撃用弾道弾の発射確認。」

 「…着弾を確認。第一波の迎撃に成功。続いて第二波…着弾するも多数の破片が発生。」

 「第三波への弾道弾発射を確認。」

 

 この様にして、地表に落ちるだけで大災害へと繋がる隕石は全て破壊された。

 では数m~十数mサイズの、着弾した場合には巻き上がった粉塵によって地表の大気と日照量に多大な悪影響のある隕石への対応は?

 これらは無論、大型弾道弾では迎撃が難しい。

 大型弾頭弾は元来コロニーや資源衛星等の落下への対策だからだ。

 それには各地に配備された地対空ミサイルで対応が行われるのだが…

 

 「くそ、やはり足りないか!」

 

 それらはここ半年以上の戦闘による消費で、当初の予定量よりも大幅に下回っていた。

 何せ敵機動兵器群は硬く、大きく、空も飛べ、しかもムゲ兵程ではないが割と神出鬼没なのだ。

 事前計画の備蓄では全然足りず、対空ミサイルの類もその数を大きく減らし、それを運用する部隊もまた消耗している。

 これでは当然、迎撃し切れる訳がない。

 

 『ゴォォォォォッド、ゴォォォォガンッ!』

 

 故に、後は通常の機動兵器部隊や艦艇群、一部のおかしな兵器の担当となる。

 未だ巨大化したままのライディーンは、そのサイズと射程距離を活かして隕石群を迎撃する。

 他にも擱座したジガンⅡや通常のゲシュペンストmk-Ⅱ、対艦ミサイル装備のジムⅡにアーマードパック装備のVF、おまけに都市や基地防衛用の地上兵器として配備されたデストロイド部隊もその火力を生かして落下してくる比較的小さな隕石群を迎撃していく。

 

 「次、最大サイズの隕石が来ます!」

 「迎撃用弾道弾、完全破砕には足りません!」

 「展開中の友軍部隊に通達!我残弾無し!後は任せる!」

 「残存弾道弾、全て発射します。」

 

 そして、最後に残っていた全長1km近い巨大隕石が遂に落下、加速してくる。

 残った弾道弾はこの巨大隕石へと残らず発射され、その表面を砕いていく。

 しかし、数の不足と何よりもその巨大隕石内部の耐久性の高さによって砕けない。

 それも当然だ。

 この巨大隕石の中身、それはバードス島の中心部=Dr.ヘルの根城であり、機械獣生産工場なのだ。

 生半可な事で壊れはしない耐久力を持っている。

 寧ろミサイル程度で片が付くなんて幸運を期待する方がおかしい。

 

 「各機、連絡は聞いたな!?あれが最後だ、出し惜しみは無しだ!」

 「了解です。縮退炉、出力上昇。」

 「艦首ハイパーメガ粒子砲の充填開始。」

 「艦首、直上に向けます。」

 「全艦に通達。本艦はこれより艦首を直上に向けます!各員は艦内重力操作区画から出ないでください!非操作区画内の人員は直ぐに身体を固定してください!」

 「射線軸上並び周辺の友軍へ予想攻撃範囲の通達急げ!」

 

 故にこそ対応するのは、地球連邦軍の誇る最新鋭戦艦スペースノア改、その奥の手たるハイパーメガ粒子砲である。

 最大充填時ならばコロニーレーザーの三分の二の威力になるこの特装砲、当たれば如何にあの隕石であろうとも破壊できるだろう。

 

 「隕石、落下阻止限界点まで後20秒!」

 「艦首ハイパーメガ粒子砲、照準良し!」

 「エネルギー充填40%!45・50・55…」

 「後10秒!」

 「残り1秒で充填中止して発射する!トリガー寄越せ!」

 「3・2・1!」

 「発射ぁッ!!」

 

 放たれた巨大な光の柱は嘗て空を貫いたコロニーレーザーのそれにも似ていた。

 嘗てはプラントを巨人族から救うために放たれたそれは、今度は地球を巨大隕石の落下から救うために放たれた。

 

 「効果確認!」

 「着弾確認、7割が蒸発!」

 「くそ、全部は無理だったか…!全艦、対ショック姿勢!DF出力最大!耐久性に問題のある機体は至急離脱せよ!」

 

 そして、隕石が落ちてきた。

 

 

 ……………

 

 

 太陽系外縁部 位相空間

 

 

 「通常空間への復帰、出来ません!」

 「特殊な力場を感知。妨害のためのものと思われます。」

 「合体型126体を感知、接触まで7秒!」

 「全身にデストロイヤーガン生成、準備次第発射!」

 

 通常の物理法則の外たる無にして有、存在と非存在の狭間とも言える位相空間の中。

 そこでは現在、互いに物理法則を一部とは言え超越した存在同士による戦闘が繰り広げられていた。

 片や全長70kmを誇る三胴型の巨大戦艦。

 片や全長3km以上、一対にして一体の合体型宇宙怪獣が126体。

 互いが容易く星すら滅ぼす戦力を持った状態での情け容赦無しの亜光速戦闘。

 通常空間での戦闘もさる事ながら、こちらでの戦闘もまた激しさを増していった。

 

 「状況報告!」

 「DF貫通されました!装甲表面に損傷多数!」

 「接触した宇宙怪獣3割の排除確認!」

 「! 敵勢、再度突撃してきます!」

 「艦体各部の修復は平常通りに。先ずは接近してくる敵の排除を最優先。」

 

 だが、両者の間には圧倒的なまでの個体間の性能差があった。

 たった一隻と言えど、その巨艦は銀河系全てを滅ぼすだけの性能があるのだ。

 多少不意を突いた程度で、たかが全長約3km程度の質量の亜光速突撃の繰り返し等、火力不足も烏滸がましい。

 それは宇宙怪獣側も分かっている筈。

 となれば、本命は別にある。

 

 「この妨害力場の発生源の特定を急いで。多分、それと何かもう一つが本命。」

 「了解しました。」

 

 指示を出す間にも、亜光速戦闘は続いていく。

 自動人形らの高い処理能力、そして構築された独自のネットワーク構造によって処理を分散する事で亜光速戦闘も十二分に可能になっている。

 態々ウラシマ効果を利用しなくてもこれだけの事が出来る辺り、エーテル宇宙の人類涙目であった。

 そんな中でトレミィは戦闘指揮を配下に任せつつ、思考のリソースを次へと割り振っていく。

 

 (宇宙怪獣側の戦術がいきなり変化した…。多少の学習や戦術立案は可能なのは知ってたけど、違和感がある。)

 

 宇宙怪獣の最大の理不尽、それは質を伴った物量による全面攻勢にこそある。

 全ての個体が亜光速戦闘を可能とし、更に超長距離ワープすら可能。

 その防御力は電撃や極低温には比較的弱いものの、恒星の中で泳ぐ事すら可能という出鱈目ぶり。

 攻撃力に至っては単体で惑星を破壊可能な個体すら多数存在するのだ。

 指揮官に相当する個体が撃破された場合、有利であってもあっさりと撤退したりもするが、それは彼らなりの戦術・戦略に則ったもの。

 怖気づいたとかそんな普通の生き物らしい感情は有り得ない。

 はっきり言って、歴代スパロボの敵勢力の中でも屈指のチートである。

 そんな連中を億単位で殺害してきたトレミィ達を相手に、そこまで有用でもない戦術など使用するだろか?

 自らの持ち味を生かす形での位相空間での戦闘そのものは兎も角、この場で何故物量攻めをしない?

 この位相空間でなら疑似フィジカルキャンセラーの使用にリソースを割り振らねばならないトレミィ側が不利なのに、決定打となる物量を投入してこない理由は?

 

 「撃破した宇宙怪獣の残骸を回収、解析急いで!」

 「ヴァルチャー隊、第17小隊出撃。敵残骸を回収せよ。」

 「但し本艦から余り離れるな。疑似フィジカルキャンセラー作用範囲内に留まるように。」

 

 地球と宇宙、そして位相空間での戦いの行方は未だ判明していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『バレたか。ま、いっか。今日は元々挨拶代わりだったし。』

 

 

 

 




なお、最後に出てきたのはガンバスターさんの御話合いで登場が決定したアインスト系オリキャラです。
その内設定をだす予定です。

○疑似フィジカルキャンセラー
トレミィ側の技術の一つ。
宇宙怪獣を研究して実用化したもので、位相空間を始めとした物理法則の通じない、或いは曖昧化する様な特殊な環境や敵勢力相手でも艦の運用・戦闘に問題を発生させないための装置。
周辺の世界法則に干渉し、自身と敵味方含む効果範囲内の存在を通常の物理法則が通じる状態へと変化、同時に自身と同じ位相空間深度へと移動させる。
本家であるトップをねらえ2やnextgenerationに登場した様な殆ど出鱈目な超能力の行使等は出来ない劣化品。
これを搭載した艦とその周辺空間にある存在は通常の物理法則下と同様の状態になる。
但し小型化が出来ておらず、更に効果範囲は装置に使用されるエネルギー量により決まるため、専ら大型艦や艦隊旗艦、移動要塞や基地にしか装備されていない。
ゼノサーガにおけるグノーシスやシンフォギアにおけるノイズ等の存在はこの装置によりその無敵性を排除されてしまう。


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第10話 ようやく決戦 その3

 新西暦186年7月 もう何度目か分からない光子力研究所近郊

 

 「ぐ、ぉ…状況報告!誰か起きている者はいないか!」

 

 何時の間にか落下していたスペースノア改のブリッジから、ブライトは叫んだ。

 迎撃に失敗した隕石の直撃を貰った光子力研究所近郊、即ち富士山周辺は酷い状態だった。

 青木ヶ原樹海の殆どはクレーターと化し、一部では火災も始まっている。

 周辺住民は既に今作戦の前にシェルターに避難済みだったとは言え、生活再建には時間がかかるだろう。

 加えて巻き上げられた土砂と粉砕された隕石からの粉塵がどれだけの量だったか。

 既にかなりの日照量の低下が予測されており、地球圏全体の農業生産量の低下も懸念されていた。

 

 「乗員に死者は出ませんでしたが、負傷者多数!」

 「あだだっ…機関並びDFジェネレーターに負荷が掛かった模様。安全ブレーカーが作動しています。」

 「怪我人への対処を最優先!動ける人員には復旧急がせろ!」

 

 瓦礫の山となった周囲を見渡しながら、ブライトは己のすべき事をし続ける。

 

 (くそ、急いで部隊を掌握せねば…。)

 

 先程の隕石の落下でどれだけの損害が出たのか、考えたくもないブライトだったが、それでも彼は懸命に指揮官としての務めをこなしていく。

 故にこそ、その異変に素早く気付けた。

 

 「レーダーに反応あり!これは…!」

 

 オペレーターの言葉と共に、瓦礫とクレーターだらけの筈の戦場に変化が現れた。

 

 『まだだ……まだ終われぬ…!』

 

 瓦礫の中から幽鬼の如く、ゆらりと立ち上がったのはその手に剣と大楯を持ったプリンス・シャーキンだ。

 

 『おのれぇ…おのれぇ…!斯くなる上は貴様らを一人でも多く道連れにしてくれるゥ…!』

 

 元科学要塞島であった瓦礫の山からはブライ大帝の駆る巨大な百鬼メカの集合体が現れた。

 そのサイズは500mにも達し、今この瞬間も破損した百鬼メカのパーツを取り込んでは大きくなっていく。

 元々百鬼メカの一部に採用されていた合体機能を半ば暴走させる形で合体機能の無い機体まで無理矢理に合体、巨大化しているのだ。

 

 『ぐ、ぎぎぎぎ…!やはり百鬼メカと言えども限界があるかぁ…!』

 

 覚醒したライディーンのゴッドボイスの一撃を受け、本来なら塵も残さず消滅していた筈のブライ大帝。

 この男はもしもの時のため、自らの精神をコンピューター内に保存していたのだ。

 今ここにいるのは本人ではなく、過去に保存されたコピーに過ぎない。

 そして、そのコピーにしても先程のゴッドボイスと隕石の落下の衝撃によって大きく損傷していた。

 今のコピーブライは単なる意地だけでこの場に臨んでいた。

 

 『おおおおおおおおおおおおおお!!よくもやってくれおったな貴様らぁぁ!!』

 

 そして一際大きな瓦礫、嘗てはゴードンヘルであった残骸の山からは、Dr.ヘルが現れた。

 

 『な、何とか生き残れた…。』

 『今までで一番死ぬかと思った…。』

 

 その傍らにはげんなりとしたブロッケンとあしゅらの姿もあった。

 この二人は自分と似た姿の機体、即ちブロッケーンT9とアシュラーP1に乗っていたが、首領であるDr.ヘルのみは全く異なる機体に乗っていた。

 全体のデザインはマジンガーZに酷似している。

 しかし、その手足は両肩や太腿部は肥大しているのに、手足の先は細く、長くなっている。

 胸部のブレストファイヤー発射用の赤い装甲版の下には、機械獣のツインカメラアイに酷似したセンサーが設置されている。

 また、臀部からは先端に小型ドリルの付いた二本の尾が伸びており、不規則にしなっている。

 マジンガーZが悪堕ちしたらというIFを感じさせるその機体の頭部、パイルダーの部分にDr.ヘルは搭乗していた。

 

 『だが、儂さえ生き延びれば幾らでも再起出来る!その前にこうも邪魔をしてくれた貴様らを血祭りにしてくれる、このデビルマジンガーによってな!』

 

 デビルマジンガー。

 それは甲十蔵博士がペーパープランで終わらせた、マジンガーZの初期案だった。

 光子力エンジンを搭載、装甲に超合金Zを採用したこの機体は高い性能を有していた。

 特にマジンガーZよりも大型でパワーに勝り、それでいて関節部の自由度が高い事から高い近接白兵戦能力を獲得している。

 しかし、兜十蔵博士は何を思ってか「まだ人類には早過ぎる」としてこれを封印、より汎用性の高いマジンガーZの開発へと舵を切り、性能向上を目指し、魔神パワーを発明した。

 そうして日の目を見る事の無かった設計図を研究所襲撃の折に奪取し、Dr.ヘルによって更に手を加えられたのがこのデビルマジンガーである。

 

 「く、付近の友軍に救援要請を!」

 「駄目です!先の隕石迎撃でどこの基地も直ぐに動かせる戦力はありません!それに情報も錯綜していて…!」

 「艦の状態は!?」

 「ブレーカーの解除に手間取ってます!エネルギー系の武装と伝達系が使い過ぎで殆ど駄目になってます!」

 「実弾系だけでも良い!このままじゃなぶり殺しになるぞ!」

 

 現在、周辺には百鬼メカとメカザウルスこそいないものの、再度出現した化石獣や瓦礫の中から起き出した機械獣(あちこち損傷中)が動き始めており、包囲されるのも時間の問題だった。

 

 『ふははははははは!沈むがいい、スペースノア!いや、乗員を皆殺しにして新たな我が拠点にしてくれようぞ!』

 「ここまでか…!」

 

 ブライト達に諦めの感情が芽生える。

 しかし、忘れてはいけない。

 この戦場には多くのヒーローが、スーパーロボットがいる事を。

 

 『そこまでぇい!』

 『ぬ、貴様らは!』

 

 突如、戦場に現れた5機のMS、否、MFの姿にDr.ヘルの足が止まる。

 

 『窮地にあっても折れぬ心構えは見事!』

 『しかし、戦えぬ者に手をかけんとするその所業!』

 『例え天地が見逃そうとも!』

 『このシャッフル同盟が見逃さぬ!』

 『地底種族連合、貴様らは今日ここで潰えてもらう!』

 

 五機の色取り取りのMF、シャッフル同盟らは見事な啖呵と共にスペースノア改を守る様に布陣した。

 

 『貴様ら、一度ならず二度までも!』

 『外道がほざきよる!』

 『何ぃ!?』

 『人が、知恵持つ者同士が争うのは必然の業よ。しかし、この美しき星を、母なる地球を汚すというのならば容赦せん!』

 『しゃらくさい!先程の借り、今ここで返してくれる!』

 

 そうして仕掛けようとする機械獣と化石獣の群れだが、しかしその進撃は唐突に止められる。

 

 『ロケットパーンチ!』

 『トマホークブーメラン!』

 『ダイガン、マキシマムレベルシュート!』

 『ダイターンキャノン!』

 『Vレーザー!』

 『ガトリングミサイル!』

 

 瓦礫や土中からの突然の奇襲に、一瞬にして前に出ていた機械獣と化石獣が薙ぎ払われたからだ。

 

 『貴様ら、しぶと過ぎるわ!』

 『ハン!そりゃこっちのセリフだぜ、パクリ野郎!』

 『ゲッタァァァァ!ゲッタァァァァロボォォォォォォ!』

 『こいつぁ随分と派手なイメチェンじゃねーかブライ!』

 

 現れたのは見当たらなかった6機のスーパーロボット達。

 唯一ライディーンはまだ出て来ていないが、それでも頼りになる戦力である事は間違いない。

 が、彼らは既に連戦続きで消耗を重ねている。

 余り無理は出来ない上に、そう長く戦えはしないだろう。

 

 『ぬ、ひびき洸は…あちらか。私は奴と決着を付ける。この場はDr.ヘル、貴様に任せたぞ。』

 

 それだけを言うや否や、巨大化したシャーキンは戦場を離脱していった。

 

 『いかん!誰か洸君の援護を!彼は今戦える状態じゃない!』

 『と言っても、こっちも手一杯です!』

 『彼に任せるしかない!今は目の前の敵に対処するんだ!』

 

 こうして、地球では漸く長過ぎる一日が終わろうとしていた。

 

 

 ……………

 

 

 その頃の都市型移民船(+鳥の人)

 

 「離してください!洸が、息子には私の助けが必要なんです!」

 「大丈夫ですって!もう現地のうちの人員が救助に向かってますから!」

 「まだ完全に戦闘が終息した訳じゃないんです!お願いだから待ってください!」

 「えぇい離しなさい!我が子の心配をしない母がいるとお思いですか!」

 「ちょ、念力は反そk」

 

 わーわーぎゃーぎゃー!

 どたんばたんベキベキメキメキ!

 

 「…修理費、幾らになるでしょうか?」

 「全額A.I.M.に請求しよう。」

 

 なお、レムリア女王陛下が息子の元に行けたのはここから一時間後(移動時間含む)であった。

 

 

 



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第11話 因縁

 新西暦186年7月 極東方面 光子力研究所近郊

 

 

 先の隕石の落下の中心地であったにも関わらず、ここでは今もなお戦いが繰り広げられていた。

 

 『流派東方不敗…!』

 『機械道空手…!』

 

 シャッフルハートが中華拳法の様な構える。

 それに応じる形でデビルマジンガーもまた、空手の正拳突きに近い構えを取る。

 

 『劔覇千王気炎弾!』

 『超音速正拳突きぃ!』

 

 互いに20m代半ばの機体でありながら、放たれる拳の連打は全てが音速を軽々と置き去りにした同サイズの砲弾を遥かに超えた威力であった。

 僅か数秒の連打の応酬で地は裂け、岩は砕け、残骸は消し飛び、大気が吹き散らされる。

 

 『貴様、これ程の業を持ちながら、何故そうも道を外れる!?』

 『漢ならば世界征服こそ夢!貴様こそ、何故その拳を凡俗共のために振るう!』

 

 互いに相手を弾き合い、距離を取って態勢を整え、再度相手に痛撃を与えるべく踏み込む。

 

 『この青く美しい星を、汚す者は誰であれ許さぬ!それがワシが拳を握る理由よ!』

 『であれば貴様こそ我が下に下れ!』

 『何ぃ!?』

 

 東方不敗の心にある地球への愛を見取ってか、Dr.ヘルは告げる。

 

 『凡俗は所詮この星に寄生するダニに過ぎん!』

 

 それは彼が誰にも告げた事のない本音だった。

 

 『この星を真に浄化して嘗ての美しい姿を取り戻させるには、人類など不要!』

 『……!』

 

 それはきっと、地球の環境汚染を知る者ならば、誰もが一度は思った事だった。

 

 『全てを浄化した暁にはこの星を侵略者共から守るべく、このDr.ヘルと機械獣軍団が全霊を賭そう。』

 『その言葉に、貴様の野心が見えぬ。』

 『無論、ワシがこの星を欲するのは美しき地球こそが何よりも愛おしいからよ。だからこそ手に入れたい。そして守る。この願いを阻む愚か者は、誰であろうと容赦せぬ。』

 『では何故妖魔帝国等に屈した!?何故地底種族連合になぞ加わった!』

 

 それこそがDr.ヘルの本音。

 地球人でありながら人外たる地底種族連合に加わってしまった天才科学者にして戦士の本音。

 それこそを東方不敗は聞きたかった。

 

 『…現状はワシとて不本意よ。しかし、あのバラオめに対しては今のワシでは勝てぬ。故に今は膝を屈し、機会を待っておる。』

 『それよ。それこそが貴様の器の浅さよ。』

 『何?』

 

 対話、否、勧誘へと動いていた流れを断ち、東方不敗が再び構える。

 

 『ワシならば例え相手が百回戦っても勝てぬ相手であっても千回戦って手傷を与える事を、敵わぬまでも戦い続けて死ぬ事を選ぶ!野望のため、理想のためと言いながらも外道に堕ちた貴様に与する気などこの東方不敗には微塵も無い!』

 『よくぞほざいた!ならば我が機械道空手にて冥土へ送ってくれよう!』

 

 デビルマジンガーを駆るDr.ヘル。

 シャッフルハートを駆る東方不敗。

 共に地球を愛し守ろうとながらも、そのための手段が致命的に離れている二人は、互いを理解しながらも譲れぬ一線を持つがために再び拳を握って前に出た。

 

 

 ……………

 

 

 『えぇい貴様ら!退け、退けぇ!』

 『させぬよ!』

 『貴様ら如き外道、我らのみで十分よ!』

 

 一方、Dr.ヘルとマスターアジアが一騎打ちをしている傍ら、あしゅら男爵とブロッケン伯爵は機械獣軍団を率いて今度こそ動けなくなったスペースノア改を血祭りに上げようと進軍していた。

 しかし、そんな分かり易い行動を彼らが見逃す訳がない。

 

 『くそう!何故たかがMS擬きに負ける!?何故Dr.ヘルに作られし我らが押される!?』

 

 ブロッケンは叫ぶ。

 彼は元々はナチスドイツの優秀な軍人の死体で作られたサイボーグであり、相応の能力を持っている。

 だからこそ、どうしてここまで圧されているのかが理解できない。

 Dr.ヘルの、自分達の数々の作戦は全てが最善と言えぬまでも次善ではあった。

 しかし、その悉くが対応され、防がれてきた。

 何故こうも負け続ける?何故こうも勝てない?

 それがどうしても、彼には分からなかった。

 

 『それが分からぬからこそ、貴様らは負けるのだ!』

 『道を外れた者には、相応の末路しか残らん!』

 

 消耗しているとは言え、機械獣軍団がたった二機のMFによってその進軍を止められている。

 その間にスペースノアの復旧並び特機軍団の補給が進んでいく。

 時間も状況も敵の味方で、刻一刻と状況は悪くなっていく。

 それが分かっているからこそ、ブロッケンは強引に前に出ようとする。

 

 『おおおおおおお!』

 『む!』

 

 シャッフル・ダイヤの超高熱の火炎放射を受け、装甲が溶解する。

 しかし、剣を持たない左腕を犠牲にし、敢えて強引に突っ切る事で損害を減らしてブロッケーンT9が包囲を抜けて駆ける。

 

 『何と、ぐ!』

 

 それをカバーすべくシャッフル・クラブが両肩の大型ビームキャノンを放とうとするも、あしゅら率いる機械獣軍団がそれを支援する。

 

 『させぬさせぬ!我ら此処で討ち果たされようとも、貴様らだけは地獄へと道連れにさせてもらう!』

 『そこまでして、貴様は一体何を望む!』

 『知れた事!我らが創造主たるDr.ヘルの願いを叶える!ただそれだけよ!』

 

 アシュラーP1がやはり自身の存在を気にも留めず、機械獣軍団達と共にスペースノア目掛け突撃を開始する。

 それを止めねばならないシャッフル・クラブは必然的に抜けられたブロッケーンT9への対処が遅れてしまう。

 

 『ははははは!見ていてくだされDr.ヘル!今我らの手によって、憎き兜甲児らめを冥土に送ってくれましょう!』

 

 言うや否や、ブロッケーンT9は首のある筈の位置に剣を設置、自身をドリルの様に回転させながら突撃を開始した。

 

 『やった!スーパーロボット大戦αこれにて完結!』

 

 だが、最後にネタに走ったのがいけなかったのか、横から放たれた一発のレールガンがブロッケーンT9に命中、その衝撃で盛大に地面へと叩き付けられた。

 

 『貴様が如き化け物に、私が手塩にかけて育てたダンクーガをやらせん。』

 『き、貴様は獣戦機隊の!』

 

 颯爽と駆け付けたのはシャピロ率いるコマンドウルフ隊、否、指揮官機たる一機だけは他と一線を画すカスタマイズが施されていた。

 その名をケーニッヒウルフ、コスト以外のあらゆる性能が向上したコマンドウルフのシャピロ専用カスタマイズ機だった。

 

 『隕石の迎撃に駆り出されて遅れてしまったがな、貴様らはもう詰みだ。安心してあの世に送られるがいい。』

 

 

 ……………

 

 

 『ゲッタァァァァロボォォォォォォ!!』

 『おおっと!』

 

 一方、未だ補給の出来ていないゲッターロボは、自身を執拗に狙う巨大合体百鬼メカに対して苦戦していた。

 

 『ったく、随分大胆なイメチェンだなブライ!』

 『しかもデカいのに死角が無いと来てやがる。』

 『やり辛いったらねぇぜ!』

 

 ゲッターチームの愚痴の通り、この巨大合体百鬼メカはその巨体の割に死角が少なく、攻めあぐねていた。

 何せ背後や足元だとか通常の機動兵器でも対処のし辛い位置取りに入ったとしても、元が無数の百鬼メカの集合体であるせいで、即座に対応し、迎撃してくるのだ。

 それだけなら良いのだが、下手に組み付かれるとそのまま自爆してくるため、対応も慎重にならざるを得ないのだ。

 しかもメカザウルスよりも全般的に固く、非生物であるからかゲッタービームも今一つ通らない。

 他の追加装備もとっくの昔に使い切り、現状のゲッターロボでは打つ手が無かった。

 故にこそ、この合体百鬼メカの矛先が母艦や研究所に向かわぬ様にこうして挑発代わりの攻撃を繰り返しながら時間を稼いでいるのだが。

 

 『仕方ねぇか…隼人、任せるぞ!』

 『応とも!』

 『よぉし、ゲッターチェンジ!』

 

 振るわれる触手や巨大な腕部、無数の破壊光線やミサイルを掻い潜りながら、分離したゲットマシンが超音速で飛び回り、一瞬の隙を突いて合体する。

 

 『ゲッター2!』

 『よし、やったれ隼人!』

 『ゲッタービジョン!からのゲッターマッハ!』

 

 分身を作り出して攪乱すると、空かさず今度は土中へと潜行するゲッター2。

 土中ですら音速での移動が可能という特機でも指折りのおかしな性能を持った本機を捉え続ける事は例え亜光速戦闘対応機であろうと困難を極める。

 巨大合体百鬼メカと聞こえは良いが、寄せ集めの機体である巨体ではセンサーやレーダーが効率的に配置されておらず、完全な死角こそ無いものの、ゲッター2を捉える事は出来ない。

 加えて、飛行自体は可能だがその巨体故に鈍足も良い所のこの機体は、隼人からすれば決め手こそないものの鴨同然だった。

 

 『ぐオオおおおおおおおおッ!?』

 『単純に強い奴には、単純な手が一番なのさ。』

 

 巨大合体百鬼メカの周辺をゲッター2が円を描く様に疾走する。

 すると掘り起こされた土がソニックブームによって散らされながらも、ゲッター2の回転運動によって発生した竜巻に巻き上げられ、巨大合体百鬼メカの巨体を包飲み込んでいく。

 手あたり次第に破壊光線やミサイルを撒き散らしているが、そんなものに当たる程ゲッター2はのろまじゃない。

 これでもう、鈍足な事も相俟って殆ど身動きできないだろう。

 

 『暫くはコイツの足止めに徹するぞ。』

 『応!』

 『止めさせねぇのが歯痒いったらねーぜ!』

 

 こうして、何とか地上の戦況は優勢に傾きつつあった。

 

 

 なお、残りのシャッフル同盟2名のシャッフル・スペードとシャッフル・ジョーカーは化石獣相手に順調にスコアを伸ばしていた。

 

 

 ……………

 

 

 「ここに居たか、ひびき洸。」

 「シャーキンか…。」

 

 一方その頃、シャーキンは撤退していたライディーン、ひびき洸の元へと来ていた。

 

 「その様子…やはり先程のは消耗が激し過ぎる様だな。」

 

 鍵たるラ・ムーの星によらないムートロンの解放とライディーンの覚醒、そしてゴッドボイスの使用。

 どれ一つ取っても凡百の超能力者では一瞬で枯渇し、ミイラ化するであろう消耗。

 それをたった一人で使いこなし、戦局を変えてみせたひびき洸の才能の何と凄まじい事か。

 彼こそ正に最新のサイコドライバーと言っても過言ではないだろう。

 しかし、そんな彼でも流石に多大な消耗だったのか、今は機体から降りて地べたに大の字になって倒れ伏していた。

 

 「止めを…刺さないのか…?」

 「その前に答えろ。」

 

 それは以前からシャーキンが思っていた疑問だった。

 弟を皇帝に。

 それだけを胸に故国を裏切り、亡国へと導いたシャーキン。

 一つの戦乱の時代を戦い抜いた彼だが、元はムー帝国帝室の一員であり、実家が帝国中枢からは遠くとも高位の神官であった事と彼自身の能力と才能もあって相応の教育と訓練を、そして経験を持っている。

 その彼からしても、ひびき洸という少年は、ある種異常に見えた。

 

 「何故、お前は戦うのだ?」

 

 弟を皇帝に。

 そんな大それた野心を持ち、しかしムー帝国が滅んだ今、弟の存在は単なる人質になり、最早バラオの走狗となったシャーキン。

 大望を抱えて戦っていたシャーキンからすれば、ひびき洸は特段これと言った願い、欲望や野心が無いのにも関わらず戦い続けている。

 それがとても不思議だった。

 それこそ、執念だけでこの場に立っている状態でありながら、その執念よりも優先してしまう程に。

 

 

 ……………

 

 

 太陽系外縁部 位相空間内

 

 

 「解析結果出ました。やはり生物系の存在ですが、宇宙怪獣とは別種の様です。」

 

 未だ位相空間内で千日手に近い戦闘の最中のトレミィらであったが、ここに来て重要な情報が入ってきた。

 

 「詳細は?」

 「プロトカルチャー関連資料含むライブラリを漁った結果、嘗ての先史時代に地球を襲った異次元からの監視者と同種である事が判明しました。」

 「監視者?」

 「画像データを見れば分かるかと。」

 

 共有回線から送られてきた画像データ。

 そこには身体のどこかに赤い宝玉の付いた生物系の敵性体。

 即ちアインストの姿が映っていた。

 

 「これより敵をアインストと呼称。コードREDの発令並び一刻も早い通常空間への復帰を目指します。」

 「了解。」

 「現在、この空間は敵アインストの本来属するアインスト宇宙へと近付いていると予測。その基点となっているストーンヘンジを破壊すれば通常空間へと復帰できる可能性が高いです。」

 「了解、戦術目標を敵の撃滅から空間変異基点の破壊へと変更します。」

 

 こうして、宇宙での戦いもまた決着の時が近づいていた。

 

 

 




合体巨大百鬼メカ

 漫画版真ゲッターロボに登場。
 死亡した筈のブライ大帝が昆虫型異星人によって改造された姿。
 全身が無数の百鬼メカが合体して構成された巨大な鬼の頭部を持った浮遊要塞とも言うべき兵器。
 中枢のブライ大帝を撃破、或いは全身を消し飛ばす、部品となっている百鬼メカ全てを破壊しないと撃破できない。


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第12話 因縁その2

書きたい部分書いてたら随分時間が…(汗

なお、デビルマジンガーの武装はうろ覚えで、もしかしたら間違ってたりするかもしれません。

知っている方がいれば感想欄にてご指摘お願いします。


 新西暦186年7月 極東方面 光子力研究所近郊

 

 

 「ゴアアアアアアアアアアアアッ!!」

 『行くぜ、超電磁タ・ツ・マ・キー!』

 『超電磁ボォォォォル!』

 

 ゲッター2によって発生した竜巻によって拘束されていた巨大合体百鬼メカに二機の超電磁ロボの拘束技が炸裂し、その巨体を完全に停止させる。

 脱出しようともがくが、それは余りに遅きに失した。

 

 『超電磁スピィィィィン!』

 『天空剣、Vの字斬りィィ!』

 

 二機の合体技が炸裂し、巨大百鬼メカを構成する百鬼メカの4割近くが吹き飛ばされ、中枢が露出する。

 

 「ぐおおおおおおおおお!?おのれ人間共、おのれゲッターロボぉ!」

 

 そこには半身が機械化され、巨大合体百鬼メカと融合する事で無理矢理延命していた死に体のブライ大帝の姿があった。

 

 『あばよブライ!』

 「ゲッタアアアアア!ゲッタああああロボおおおおおおお!!」

 『ゲッタービィィィム!』

 

 国を、部下を、尊厳を失い、ただ憎悪と怒りに呑まれた最後の鬼は、ゲッター線の光によって塵一つ残さず消滅した。

 

 『よし、竜馬さん達は一度補給を!』

 『応、任せるぜ!』

 

 こうして、百鬼帝国は最後は至極あっさりと滅亡したのだった。

 なお、獲得資金3万の所をしっかり幸運・努力をかけて撃破されたのでウハウハだった模様。

 

 

 ……………

 

 

 『兜甲児ぃぃぃ!』

 『ぐ、おおおおお!?』

 

 一方その頃、兜甲児&マジンガーZはDr.ヘル&デビルマジンガーに押されに押されていた。

 そりゃ機体性能に勝る&落下の衝撃でMFに若干不具合が出てる等の条件付きとは言え、あの東方不敗相手に格闘戦で五分にやり合える猛者が相手では如何に祖父と父譲りの才能マンな兜甲児であっても押されるってもんである。

 

 『ふ、ふははははは!どうした兜甲児!その程度で終わるのか!?この程度の力にワシは恐怖しておったのか!?』

 『ぬ、ぅぅ…!』

 

 デビルマジンガーが徒手空拳であるのに対し、マジンガーZは完全に防戦一方だった。

 装甲強度、機体出力に機体サイズ、何よりパイロットの技量の差が大きく、甲児は防戦に徹する事で辛うじて命を繋いでいた。

 しかし、それも限度がある。

 ロケットパンチ、光子力ビーム、ブレストファイヤー。

 どれもこれも今まで多くの敵を撃破してきたマジンガーZの十八番とも言える武装だが、その全てをデビルマジンガーはマジンガーZよりも高威力で搭載しており、相殺所か寧ろこちらの方が一方的にダメージを負っているのが現状だった。

 

 『く、甲児君、援護を!』

 『手を出さないでくれ!コイツとは、Dr.ヘルとはオレが決着を付けなくちゃならないんだ!』

 

 加えて、折角の数の利を挑発に乗った甲児自身が捨てていた。

 弓博士からの通信も空しく、一方的な状況が続いていく。

 無論、殺されそうになれば甲児には悪いが手を出す予定だ。

 勝ち戦だからこその自然と抱いた油断。

 が、これが良くなかった。

 引き際の良さと諦めの悪さが特筆の機械獣軍団、その創造主たるDr.ヘルは口では何と言おうとも冷静に戦況を俯瞰していた。

 

 (そろそろ離脱せねばなるまい。)

 

 既に趨勢は決していた。

 機械獣軍団の掃討はほぼ完了しており、化石獣も僅かしか残っていない。

 全ての特機の補給が終われば、例えマジンガーZと兜甲児を葬った所で囲まれて袋叩きにされるのが目に見えている。

 そして自分のゴードン・ヘルの落下を思えば、生かして捕らえよう等とは思わないだろう。

 

 (潮時じゃな。)

 

 では最後に、取って置きのお土産を残して離脱するとしよう。

 この期に及んで諦めの悪い(機械獣軍団は全員がそうだが)Dr.ヘルは奥の手を出して離脱する事にした。

 

 『くくく、兜甲児!貴様ではワシとデビルマジンガーを止める事は出来ん!』

 『何おう!?』

 『若い、若すぎる!この程度の挑発に乗る様な若造ではな!』

 

 一瞬、怒りによって発生したほんの僅かな隙を突いて、デビルマジンガーが肉薄し、その背の翼を大きく広げる。

 その姿は正しく悪魔であり、マジンガーZが道を踏み外せばそうなるであろう未来を暗示しているようだった。

 

 『喰らえい、インフェルノデモリッション!』

 『な、これは…!?』

 

 デビルマジンガーの翼から放たれた特殊な冷気が、無数の魑魅魍魎の様な氷となってマジンガーZへと絡みつく。

 それはマジンガーZを完全に拘束し、兜甲児の精神そのものを直接汚染し始めたのだ。

 

 『あ、あ、あ、うあああああああああああああッ!?』

 『兜!?』

 『甲児君!?』

 

 その尋常ならざる叫びに、流石に周囲で黙して見ていた面々やモニターしていた光子力研究所のメンバーも慌てた。

 

 『まさか、インフェルノデモリッション!?完成していたのか!?』

 『何ですそれ!?』

 『精神破壊兵器の一種だ!敵パイロットに恐怖や嫌悪等の感情と幻覚を見せる事で破壊してしまう!余りに非人道的であるとして十蔵先生はこの機能を搭載したデビルマジンガーの開発を取り止めたのだ!』

 『そんな!?何か対抗策は無いんですか!?』

 『残念ながら…無い!甲児君の精神力に賭けるしか…!』

 

 これが精神攻撃の怖い所で、余程特殊な才能やスキル、装置でもない限り、決して防げないのだ。

 機体がファンタジー系技術で作成されているラ・ギアスの魔装機神や先史文明の遺産たる超機人等の例外を除き、この手の精神攻撃は防ぐ事は出来ない。

 そして、才能豊かとは言え人間の域を出ない兜甲児では、インフェルノデモリッションを防ぐ事は出来なかった。

 

 『ちぃ、デビルマジンガーを排除するぞ!』

 『待て!今迂闊に攻撃すれば精神干渉されている甲児君にどんな影響が出るか分からん!』

 『何だって!?』

 

 そりゃー有線で繋げてのクラッキング受けてる所をいきなり引っこ抜いたらどんな影響が出るか分かったもんじゃない。

 最悪、兜甲児というソフト=精神が破損、即ち人格崩壊する可能性すらある。

 

 『お願い甲児君!しっかりして、目を覚まして!』

 『! そうだ、皆声を掛けるんだ!』

 『おし、そういうのなら得意だわさ!兜ー踏ん張れー目を覚ませー負けるなー!』

 

 こうして、勝ち戦の雰囲気は消し飛び、戦場は再び緊迫した状態へと移っていた。

 

 

 ……………

 

 

 『ぐははははは!分かる、分かるぞ兜甲児!貴様の恐怖が!何と心地良い事か!』

 「うぅ…うああああああああああああああああああぁ!!」

 

 Dr.ヘルの駆るデビルマジンガーから送られる思念波が、甲児の精神を飲み込み、蝕んでいく。

 ありとあらゆる恐怖が増大され、Dr.ヘルの強大さが、戦いの恐怖が、何時終わるとも知れない戦いの予感が、無限に広がる暗黒が甲児の精神をガリガリと削り取っていく。

 

 『さぁ何時までもつ?ワシも実戦での使用は初めてでの。加減が分からぬのだよ。』

 

 嗜虐心を隠さぬDr.ヘルの楽し気な声が甲児の精神に響く。

 しかし、その声すらもう甲児には届かない。

 余りに増大された恐怖に対し、甲児は何も感じない事で、即ち自閉状態になる事で身を守る選択をしたのだ。

 

 『なんだ、もう壊れおったのか?洗脳して暴れさせようと思っておったが仕方あるまい。パイルダーだけを取り出して人質に』

 

 

 

  五 月 蠅 い 

 

 

 

 不意に、光を纏った巨大な声が甲児の壊れかけの精神に響き渡った。

 

 

 ……………

 

 

 一方その頃、ひびき洸は自分を追ってきたシャーキンと問答をしていた。

 ここ最近、幾度となく戦ってきた憎い相手である筈が、疲れ切っていた事もあって洸はシャーキンへの怒りや憎悪を忘れる事が出来た。

 そんな余裕なんて無かったとも言えるが。

 

 「何故って…飛んでくる火の粉を払ってるだけだよ、オレの場合は…。」

 「ふむ?」

 「小さい頃にいなくなった母さんがムー帝国のお姫様で、今や女王様…オレはその息子…普通の子供扱いだった頃が懐かしい……帝室の責務だからって物凄い大量に勉強させられたし…。」

 

 事実である。

 シャーキンと弟のアズナルは生まれた時からムー帝国帝室の一員であり、母の実家は高位の神官である。

 二人の勤勉さと才能もあって勉強に不自由する事はなく、若いながらも将来を期待されていたため、余り共感こそ出来ないが、それでも想像できる。

 単なる一般人、それも思春期に入ったばかりの少年に、いきなり帝室としての知識と意識を埋め込もう等とどうやっても無理だ。

 それでもひびき洸が今の今まで明確な反抗期に突入しなかったのは、それが本当に必要な事なのだと理解していたからだ。

 それでも以前の様に友人達や幼馴染みで恋人のマリと一緒に馬鹿騒ぎを恋しく思っていた。

 ストレスは相当のものであり、母玲子に近付く事を目的としたハニートラップや誘拐未遂だって何度もあった。

 それら全ては直前になって必ず防がれてきた、街の至る所に配置された美人のSP=艦娘系自動人形らの手によって。

 それだけでも下手すれば人間不信を拗らせそうなものなのだが、それに加えていきなり謎の声(後に祖父のものと判明)によってトランス状態に陥り、今まで見た事も聞いた事も無かったライディーンへと搭乗させられ、そのまま初陣である。

 無数のドローメとガンテを相手に恐慌状態で大立ち回りの末、ライディーンの性能とブチ切れた洸によって大戦果を上げる事には成功した。

 しかし、洸はマリに(身体で)慰めてもらうまでは家から出る事も出来ず、恐怖に呑まれていた。

 

 「本当なら、昔みたく普通の人間として生きたい…母さんに父さん、マリに晶と一緒に平和で穏やかで…。」

 「成程、普通だな。」

 「あぁ、普通だよ。」

 

 それは誰もが求めて止まない当たり前の平和な暮らし。

 退屈だ何だと言いながらも、それでもそんな普通を守るために立ち上がり、血を流し、前に出る者達がいる。

 今日の平和は先人達と軍関係者ら、そして太陽系無人防衛部隊が血を流して保っている束の間の平和に過ぎない。

 

 「満足したか?」

 「あぁ、十分だ。」

 

 それはシャーキンが野心を抱く前、バラオと契約する前、心に魔が差す前の日々。

 弟と共に全盛期のムー帝国で過ごした平和の日々だった。

 権力もなく、王位継承権もとても低く、しかし最愛で自慢の弟と共に暮らす日々。

 その何と美しく、愛おしく、掛け替えのない事よ。

 シャーキンは今になって漸く、ひびき洸という人間をライディーンのパイロット、或いは嘗て栄光の王位を約束されたレムリア姫の息子ではなく、ただの等身大の人間として捉える事が出来た。

 そうなると、ストン、とシャーキンの肩から洸を通してレムリアに抱いていた憎悪が消えた。

 

 「私も昔、ムー帝国で平和に暮らしていた。」

 「? 妖魔じゃなかったのか?」

 「妖魔とは、人間が負の感情を増大させ、変質した存在だ。妖魔大帝たるバラオもまた、元を辿れば人間らしい。それ以外の妖魔は大元たるバラオによって変質させられた者に過ぎない。」

 「初めて聞いた…。」

 「レムリア女王も知らぬ事だよ。ムー陛下は薄々察していた様だがね。」

 

 それからぽつぽつと、シャーキンは話し始めた。

 自分の生まれの事。

 弟の事、弟との暮らしの事。

 弟にこそ帝位が相応しいと思った事。

 そこをバラオに勧誘された事。

 弟を石板に封じて眠らせ、妖魔帝国の王子としてムー帝国に戦いを挑んだ事。

 最後にはムー帝国の国土たる大陸サイズの超巨大移民船の航行装置を破壊し、墜落しそうになった事。

 当時の皇帝ムーが大陸級質量の地球への落下を防ぐべく、超巨大移民船ムーを「存在と非存在の狭間の空間」へと沈めた事。

 その際にレムリア姫は冷凍睡眠装置を搭載した帝室用小型船に乗って脱出した事。

 それが誰にも話した事のない、ありのままのシャーキンの人生だった。

 

 「後はお前の知る通りだ。」

 「何で、弟さんに相談しなかったんだ?」

 「優しいアズナルの事だ、私を止めるだろう事は分かっていた。」

 「………。」

 「だがな、アズナルが玉座に座り、私がその後ろで相談役としてアイツを支え、ムー帝国に一層の繁栄を齎す。その光景を想像してから、私の頭の中はそれだけになってしまった。アズナルの意見すら無視して…。」

 

 それがシャーキン最大の過ちだった。

 その光景を想像して是非とも弟を皇帝にと願った瞬間、魔が差した/バラオが囁いた。

 

 「だが、お前も知っての通り、ムーは滅んだ。今も存在と非存在の狭間で永遠に停滞した時を漂い続けている。」

 「………。」

 「私は何をしていたのだろうな?故国を滅ぼそうとする者達の手伝いをして、無人の玉座にでも弟を座らせるつもりだったのかな?」

 

 最早道化だった。

 ムー帝国が滅んだ現状、シャーキンとバラオの契約は完了する事は出来ず、しかし離反しようにも行く所も無い上に弟を人質に取られている。

 完全に詰んでいた。

 恐らく、バラオはこれを読み切った上でシャーキンに囁いたのだろう。

 

 「さて、語るべき経緯は以上だ。」

 

 シャーキンは妖魔として得た感覚で、この場に近付いてくる気配を察知し、話を切り上げた。

 

 「決着を付けよう、ひびき洸。」

 「他に選択肢は無いんだな?」

 「私が完全に裏切れば、弟が殺される。それだけは避けねばならん。」

 

 身を起こしながら洸が尋ねると、案の定外道な答えが返ってきた。

 

 「では、さらばだ!」

 「…っ!」

 

 サーベルを構え、振り被るシャーキンに対し、洸は直感の赴くままに咄嗟に後ろに跳んだ。

 瞬間、二人の間を貫く様に一条のレーザーが通り過ぎる。

 

 「ぬお!?」

 『洸、助けに来たぞ!』

 「神宮寺さん!?」

 

 現れたのは皆ご存知スパロボでは全滅プレイのお供たるブルーガー、ではない。

 偵察や救助活動、機動兵器の支援のための多目的重戦闘機「程度」ではライディーンが投入される様な戦闘には耐えられないためだ。

 

 「うちの息子のために…分かっていますね?」

 「全力を尽くします。」

 

 そんな会話の結果、A.I.M.北米本社で設計されたのがこの可変攻撃機(Variable Atacker)ことVA-1ブルーガーである。

 一見VF-1バルキリーにも見えるが、バトロイド形態への変形機構をオミット、ファイターとガウォーク形態のみになっている。

 その分の空いた容量を主に装甲と火力の強化へと割り振り、反面、空力特性への配慮は余りされていない。

 両腕部がデストロイドシャイアンやトマホークのそれと交換可能であり、パイロットの神宮司の好みなのか、専らトマホークのビームキャノンに交換されている。

 他にもVFの共通装備はアーマードパックやスーパーパックを除いて装備可能となっている。

 結果的に空飛ぶデストロイドとも言うべき火力支援機になっている。

 カラーリングに関しては派手なトリコロールになっているが、後に全機が青と白に統一されている。

 え、デストロイドと言うならモンスターの火器も?

 アレは例外であり、アレの後継機はケーニッヒモンスターが出るまで待ってほしい。

 

 「シャーキン!?」

 『決着を付けよう、ひびき洸!』

 

 一瞬で跳躍し、距離を稼いだシャーキンはライディーンとほぼ同サイズの巨体へと変身し、サーベルと盾を構える。

 

 「フェェェド・イーーン!」

 『そうだ、それで良い!』

 『シャーキン、オレは…お前の過ちを止める!』

 『やってみせろ!出来る者ならば!』

 

 こうして、もう一つの戦場が漸く始まった。

 

 



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第13話 脅威

 新西暦186年7月 地球 極東方面 光子力研究所近郊 

 

 

 デビルマジンガーに搭載された精神攻撃兵器「インフェルノデモリッション」にて兜甲児の精神を破壊せんとした時、Dr.ヘルは兜甲児の精神の最奥から、兜甲児ではない声を聞いた。

 その声を聞いた瞬間、Dr.ヘルは一切の逡巡もなく接続を解除、翼から発生させていた氷も切除して、距離を取った。

 

 (何じゃ今のは!?否、考えるのは後!今は逃げるのみ!)

 

 その声を聞いた瞬間、その声の主の気配を感じた瞬間、Dr.ヘルは明確に悟った。

 世紀の天才たる自分をちっぽけに感じる程の圧倒的な存在感。

 まるで山脈を前にした時の様な、圧倒的なスケールの違い。

 明確な大きさの違いすら測れない程の、格の違い。

 

 (現状の装備で勝てる訳が…っ!?)

 

 目が合う。

 兜甲児の、マジンガーZの奥に潜んでいた本物の魔神が、自分を見ている。

 その事を悟ったDr.ヘルはこのままで絶対に逃げきれない事を悟った。

 

 『機械道空手奥義…!』

 

 故に、自身の持つ最高最大の攻撃で以て一か八かの活路を開く事を選択した。

 圧倒的格上の存在を前にして、その挙動は彼の人生の中でも最速を記録、本物の魔神が本格的に動き出す前に一撃を与えて逃げる隙を作るべく、一切の遅滞も逡巡もなくその一撃は放たれた。

 

 『ビッグバンパンチッ!!』

 

 構えとしては単なる正拳突きに過ぎない。

 しかし、それが超人的身体能力と頭脳、弛まぬ鍛錬の果てに放たれたのなら話は違う。

 それこそ生身なら最高位のガンダムファイター、同サイズの人型機動兵器なら特機でも一握りの機体でしか出せない様な一撃。

 当たれば防御の上からであろうと問答無用で木端微塵にするであろう恐るべき拳。

 

 『甲児!?』

 『甲児君!?』

 『マジかよ…!』

 

 状況が把握できていない光子力研究所の面々が悲鳴を上げ、再出撃してきた特機達はその光景に戦慄した。

 悲鳴をあげたいのはこちらだと、この光景にDr.ヘルは思った。

 凡百の者ならその拳を認識する事も出来ずに撃破されるだろうその拳撃は、しかし、氷を何の障害にもならないと至極簡単に砕きながら動いたマジンガーZのボロボロの掌に受け止められていた。

 氷の隙間から自身を除く魔神の眼光に、Dr.ヘルは自身がしくじった事を悟った。

 

 『ロケットパンチ!』

 

 受け止められた右拳を躊躇なく捨て、ロケットパンチ射出の反動で少しでも距離を取ろうとする。

 もうどうしようもないとその優れた頭脳で結論付けながらも、それでもDr.ヘルは生来の諦めの悪さから逃げの一手を打とうとする。

 

 

 『…消えろ。』

 

  ル ス ト ハ リ ケ ー ン 

 

 

 その瞬間、巨大台風が如き暴風が周辺一帯に吹き荒れた。

 

 

 ……………

 

 

 光子力研究所一帯が巨大台風に包まれる少し前。

 

 「見事、だ……ひびき洸よ…。」

 

 互いに消耗した中での接戦の末、漸くシャーキンと洸の決着が着いた。

 シャーキンはライディーンに馬乗りになった状態からその胸を貫くゴッドゴーガンの先端、和弓で言う所の末弭(うらはず)へと視線を向け、次いでライディーンの額、即ちひびき洸へと視線を向けると、その巨大化した身体を横へと落とし、地面へとうつ伏せに倒れた。

 

 「シャーキン!」

 

 仰向けになったライディーンの頭部から、すぐに洸が出てきた。

 巨大化が解け、等身大に戻ったシャーキンの元へと直ぐに駆け寄るが、その死体は直ぐに灰となり、崩れていく。

 宿敵の余りの最後に洸は愕然としながら、暫くの間その場に残った灰を沈痛な面持ちで見つめていた。

 

 「お前が、味方だったらなぁ…。」

 

 最初はいけすかない、気に食わない奴で、許せない敵だった。

 しかし幾度も戦い、その心情を理解するに連れ、そしてその事情を知った事で、ひびき洸の中でのシャーキンはただの一個人、ただ一度の過ちを犯してしまった遠縁の叔父となっていた。

 それが仕方なかった、そうするしかなかったとはいえ、こうして手にかけてしまった。

 怪物ではなく、等身大の人間を相手にした殺し合いは、洸にとってはこれが初体験だった。

 

 「っ」

 

 何時までもこうしてはいられない。

 そう思っていても中々動けなかった洸の周囲を暴風が吹き荒れた。

 それはマジンガーZ、否、マジンガーZEROの放った余りにも強大化したルストハリケーンの余波だった。

 洸が無意識に発動させた念動力によって防がねば、大型台風よろしく人が飛んでいた可能性すらある程の暴風だった。

 

 「何だ、この巨大な力は!?」

 

 それは洸のまだ短い人生において、初めて出会う程に巨大で、強大で、途方もない威圧感だった。

 海や空、山脈といった大凡人間一人と比べるには余りにも巨大で雄大な、絶対的な存在感。

 ただ悠然と存在する自然よりも遥かに禍々しく、殺意に溢れたその存在に対し、洸はとてつもない恐怖を抱いた。

 

 「行かないと!」

 

 だが、彼は勇者だった。

 リスクを考慮しながらも、しかし仲間達が危機に晒されている現場に向かうという選択をできるのが彼だった。

 

 「フェード・イィィン!」

 

 こうして、勇者ライディーンは戦友らの危機を救うべく、再び立ち上がった。

 

 

 ……………

 

 

 「…ぐっ、状況報告!」

 

 一方その頃、光子力研究所近郊は完全に更地と化していた。

 富士の樹海も完全に禿げ上がり、生態系も崩壊していた。

 

 「特機は全機無事です!ですが、マジンガーZのエネルギーの上昇が止まりません!」

 「パイロットからの応答ありません!完全に制御不能、暴走状態だと思われます!」

 「くそ、各機はマジンガーZを止めろ!このままではパイロットも死ぬぞ!」

 

 スペースノア改は動けず、先程の暴風でDFジェネレーターも焼き付いて展開できない。

 各特機は持ち前の頑強さで無事だったが、先の隕石落下から未だ擱座したままだったスペースノアは更に損傷が重なって武装すら使用できない状態に陥っていた。

 

 『てめぇ甲児!何考えてやがる!』

 

 先程の一撃とは打って変わって、不自然にも動きの止まっているマジンガーZへ突っかけたのは、血の気の多いコンバトラーチームのメインパイロット、葵豹馬だ。

 

 『超電磁タ・ツ・マ・キー!』

 『馬鹿、退け豹馬!』

 

 獣戦機隊の隊長たる忍の制止の声も何とやら。

 超電磁タツマキ、即ち超電磁エネルギーの渦による拘束技が放たれた。

 これを受ければ特機と言えどそう簡単には抜け出せない。

 しかし、そんなもの何の意味もないとマジンガーZは動きを止めない。

 マジンガーの視線の先、そこには巻き上げられた土砂に埋もれる形で上半身のみとなりながらも未だ元型を保つデビルマジンガーの、Dr.ヘルの姿へと歩みを進めていく。

 

 『…不愉快だ。今度こそ消えろ。』

 

 既に戦意は消え、意識すらあるかも分からないDr.ヘル。

 そんな事には一切構わず、マジンガーは先程まであんなに苦戦していたスクラップ同然のデビルマジンガーの頭部をわし掴むと、その眼光を輝かせた。

 

 

  光 子 力 ビ ー ム 

 

 

 地表から放たれた一条の光はその射線上のあらゆる物質を消滅させながら、大気圏を余裕で突き抜け、遥か遠く宇宙の彼方へと消えていった。

 無論、その射線上にあったデビルマジンガーとDr.ヘルはこの世界から完全に消滅していた。

 

 『マジかよ…。』

 

 その圧倒的威力に、一同は戦慄した。

 全機が一機当百には最低でも値する面々でありながら、その中でも際立って今のマジンガーは異常だった。

 

 『てめぇ、甲児じゃねぇな?』

 

 そして、不意に忍が奇妙な事を呟いた。

 

 『忍、どういう事?』

 『甲児の奴なら普通に返事するし、あんな行動はしねぇ。なら、コイツは別の誰かだ。』

 『単純だが正論だな。』

 『荒唐無稽だけど…こんな時代じゃねぇ。』

 『全機、何時でも動けるようにしておけ。場合によってはあのマジンガーZを相手に戦闘になる。』

 

 シャピロの言葉に、一同は身構える。

 何処か及び腰なそれは、先程の威力を見てからでは当たり前のものだった。

 しかし、それは恐れられている当人からすれば、滑稽極まりないものだった。

 

 

  な ん だ と 思 う ? 

 

 

 不意に、光の文字と共に、マジンガーが機体を小刻みに揺らす。

 その様子はまるで人間がくっくっくっと笑っている様子にそっくりで、今までのマジンガーZとはまるで異なる挙動だった。

 

 

  我 は 最 終 に し て 原 初 

 

 

 マジンガーZの総身が膨らみ、デビルマジンガーとは異なるマッシブな生物的外見へと変化していく。

 更に全身のパーツが鋭角化、両腕からはアイアンカッターが展開、口部は牙のある顎のような上下に開閉可能な形態へと変化し、そのカメラアイには明確な意思を示す瞳が現れる。

 

 

  唯 一 無 二 の ス ー パ ー ロ ボ ッ ト 

 

 

 背面のスクランダーの真紅の翼が膨張しながら変形、巨大なZの文字となる。

 しかしそれもまだ変異の途中に過ぎない。

 更に先端が伸長し、遂には円になる形で繋がり、一つの形となる。

 Zから0、右上から左下に/の入ったZEROの数字。

 

 

  マ ジ ン ガ ー Z E R O 

 

 

 ここに終焉の魔神、究極の破壊神、マジンガーZEROが余りにも早く降臨してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『コードRED・パターンZ発令。コードRED・パターンZ発令。』

 『旗艦プトレマイオスとの通信途絶により、これより地球圏防衛用無人兵器部隊の指揮は恒星間航行大型戦略工作艦ドゥーベが担当します。』

 『太陽系絶対防衛線は外郭部を放棄。冥王星工廠基地防衛圏内まで後退。』

 『太陽系防衛には最低限の戦力を残し、他全戦力は対マジンガーZEROへ振り分け、所定の戦略プログラムを実行せよ。』

 

 

 

 




 コードRED…地球人類を絶滅させ得る事態が発生した場合に発令する緊急コード。問題への対処に失敗、リカバリー不可能と判断された場合には即座に本国艦隊へのSOSが発信される。
 パターン…幾つかの通常戦力・戦術では対処できない特殊な事例にて発令。
 パターンZ…マジンガーZERO出現時の専用コード。
 パターンD…イデオン覚醒時の専用コード。
 パターンG…ゲッターエンペラー艦隊出現時の専用コード。

 


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第14話 脅威その2

 新西暦186年7月 地球 極東方面 光子力研究所近郊

 

 

 更地に、否、星ごと砕かれかねない状況に陥ったこの場において、最も始めにその精神を立て直し、こちらを睥睨する魔神に問いを投げたのは、何とシャピロ・キーツだった。

 

 『マジンガーZEROと言ったな。貴様の目的は何だ?何故今になって出てきた?』

 

 

  知 れ た 事 

 

 

 すると、また照射された光子力エネルギーの光が文字となり、魔神の意思を伝えてくる。

 

 

  我 が 望 み は マ ジ ン ガ ー こ そ が 唯 一 無 二 に し て 最 強 で あ る と 証 明 す る 事 

 

 

 『そのための手段は?』

 

 ZEROの言葉に最悪を予想しながらも、それでも軍人としての義務感がシャピロを突き動かす。

 結果、その予想は的中する。

 

 

  我 以 外 の あ ら ゆ る 者 を 打 ち 砕 く 事 

 

 

 『それなら、お前の望みはまだまだ先だろう。この銀河には無数の敵が存在する。我々地球人類は敵対する諸勢力と戦争状態にある。それら全てを駆逐すれば、お前の望む通り、マジンガーZEROこそが唯一無二にして最強だと証明されるだろう。』

 

 ごくりと生唾を飲み込んでから、シャピロは言った。

 それが無駄だろう事を知りながらも、それでも地球人類として、地球連邦軍の軍人として言うべき事を言った。

 

 

  そ れ で は 足 り ぬ 

 

 

 故に、その言葉だけで心が折れかけた。

 

 

  光 子 力 ビ ー ム 

 

 

 マジンガーZEROから放たれた一条の光は、駆け付けてきたライディーンへ向け放たれた。

 

 『うおおおおおおお!?』

 

 それを直感によって辛うじて回避するライディーン。

 無理な機動で体勢が崩れた所を変形し、人型となって着陸する。

 回避された極太の光子力ビームは彼方へと延び、消えていったが、完全に減衰するまでには地球・月間以上の距離がかかっていた事からも、当たっていれば如何にライディーンとて大破は免れなかっただろう。

 完全に殺すつもりの攻撃だった。

 

 『くそ、止めてくれ甲児さん!』

 

 

  サ ザ ン ク ロ ス ナ イ フ 

 

 

 マジンガーZEROの体表から無数の光が溢れる。

 光子力エネルギーが物質化するまで縮退され、質量を獲得した十字型の刃となって殺到する。

 

 『ドリルストーム!』

 『Vレーザー!』

 『ガトリングミサイル!』

 

 それをゲッター2、コンバトラーV、ボルテスVが迎撃する。

 しかし、余りのエネルギーの差か、無数の光の十字は減る事なく向かってくる。

 

 『っ、ダメだ、効いてない!』

 『ならコイツだ、ゲッタービーム!』

 

 が、流石にゲッター線は有効だったらしく、次々とサザンクロスナイフが爆散していく。

 

 『何故だ!何故こんな事をする!』

 

 ひびき洸の声に、マジンガーZEROは律儀に答えた。

 

 

  お 前 達 も ま た 我 が 敵 で あ る 故 

 

 

 その返答に、シャピロは舌打ち所か絶望感に包まれた。

 やはりこの魔神は、自分以外のあらゆる敵性体(と成り得る存在)を撃破する事で、自らの絶対性の証明を行うつもりだと。

 本当はもっと先に進んだ「マジンガー以外の存在を許さぬ世界」を構築しようとしているのだが、それはさて置き。

 

 (これ程の存在、どうしろと言うのだ!?)

 

 これが宇宙空間ならまだ連邦艦隊がいただろう。

 しかし、地球上の戦力は先の隕石迎撃によってほぼ枯渇状態に近い。

 再出撃させるにしても直ぐにとはいかないだろう。

 加えて、そもそもの話として…

 

 (この化け物に通じる武器はあるのか?それは地球で放って良いものなのか?)

 

 これである。

 先の亜光速レールガンの光子砲弾の使用とてかなりギリギリなものだった。

 もしこの魔神を倒せても、それで地球が滅びてしまっては何の意味もない。

 加えて言えば、今のこの場の戦力でどうこうしようにも連戦に次ぐ連戦で機体は兎も角パイロットの消耗は既に危険域に入っている。

 

 (撤退すべきだ。しかし、逃がしてくれるか?いや、そもそも逃げるべきなのか?)

 

 奴は自身に敵対せんとするあらゆる存在を打倒し、勝利する事を目標としている。

 もしこの場で自分達が逃げれば、その先にまで追跡してくる可能性も高い。

 民間人への被害を考えれば、この場で自分達が討ち果たされる事も視野に入れねばならない。

 

 (否。そんな自己犠牲をした所で、本当に民間人への、地球への被害が減るとは思えん。)

 

 だが、現状ではどうしようもない。

 完全に詰みだった。

 

 『全方位に通達。誰でも良い。こいつの情報を少しでも詳しく入手し、広く伝達するぞ。』

 『それはまたキツイね。』

 

 シャピロの指示に返答したのは、今しがた漸く補給と整備の終了したダイターン3、破嵐万丈だった。

 

 『…ライディーンの足なら奴から逃げ切れる。ひびき洸は最寄りの連邦軍基地への伝達を任せる。』

 『まぁ妥当かな?それじゃ僕も加勢しようか。』

 

 事実であるが、その実態は「要人中の要人の息子にしてZEROに対抗できる可能性のある戦力を温存」させる事だ。

 ZEROのデータにしても、先程の牽制程度の攻撃を捌くのすら必死にならざるを得ない戦力差ではどれだけ保たせられるか不安だ。

 故にこそ、隕石落下の混乱から続く通信状況の不調から、ひびき洸を合法的に脱出させる。

 それ以外の若者や少年少女らが、自分の部下達が乗るスーパーロボット達を生贄にして。

 

 (きっと死後は地獄だな。)

 

 それでもすべき事をするために、シャピロは冷徹に指示を出そうとした。

 

 

 『コードRED・パターンZに従い、地球防衛用無人兵器部隊はこれより所定の作戦行動を開始します。』

 

 

 だが、それよりも早く動いた者達がいた。

 

 

 ……………

 

 

 『量産型無人OF3000機、重力操作最大出力。』

 『重力場レール形成開始。最大出力まで10秒。』

 

 突如空間を歪曲させて現れたのは、空を埋め尽くす程の数の量産型無人OFの軍勢がその出力の全てを振り絞って重力操作を敢行する。

 これにより、まだまだループ初期段階程度の性能しか持たないマジンガーZEROを抑え込む事に成功する。

 しかし、これも一時間もせぬ内に対応されてしまう。

 故に間隙を空けずに次々と手を打っていく。

 

 『無人シズラー改、一個小隊出撃。』

 

 直後、虚空から現れたのは無人のシズラー改一個小隊3機である。

 元はユング大統領がタイムスリップにて持ってきたエクセリオン級内部に格納されていた一個中隊9機の内の3機であり、無人化を始めとした改良が施され、カタログスペック上ならばガンバスターに勝る性能を保有している。

 

 

  小 賢 し い 

 

 

 だが、通常の機動兵器どころか戦艦ですら圧縮され、球体に成型されてしまう程の高重力であろうとも、マジンガーZEROを完全に拘束するには足りない。

 周辺の無人量産OFを駆逐するべく、マジンガーZEROの全身から再びサザンクロスナイフが、正面から迫るシズラーにはブレストファイヤーがそれぞれ放たれる。

 特にブレストファイヤーは地殻を破壊し、マントルを露出させ得る威力をループ初期段階程度の現在でも保有している。

 そもZERO時空のマジンガーZはその総出力が太陽に等しい。

 魔神化によって更に強化され、進化し続けるマジンガーZEROに至ってはどれ程になるのか、そんな出力で放たれる攻撃の威力と被害など計算不可能、想像しか出来ない。

 

 『迎撃、ホーミングレーザー発射。』

 

 それでも、彼女らは使命を果たす。

 超々音速で迫り来る無数のサザンクロスナイフを無人量産OF隊が射撃精度・誘導性・弾速で勝るホーミングレーザーにて迎撃、全弾破壊に成功する。

 

 『シズラー改2号機、防御専念。』

 

 三機の内の一機を捨て駒にして、残りの二機が突撃する。

 巨大なマントにDF、イナーシャルキャンセラー、そしてスペースチタニウム製の装甲による多重防護も、マジンガーZEROの灼熱のブレストファイヤーの前にはものの10秒で完全に溶解・蒸発してしまう。

 それでも2号機はその役目を完全に果たし、自身を犠牲にして残りの2機がZEROに接近するだけの時間を稼ぎ切った。

 本来なら地球に悪影響を与えるとして施されている大気圏内用リミッターを全て解除したシズラー改の動きは亜光速対応のそれだ。

 如何にマジンガーZEROとて未だ拘束された状態で、自身の3倍はあろう巨体に接近されてしまっては打つ手は少ない。

 それが例えその防御力によって碌に有効打を受けないと分かっていたとしても、この終焉の魔神にとっては極めて屈辱的だった。

 

 『重力場レール、射出まで2カウント。』

 『カウント合わせバスターホームランを実行。』

 

 シズラー改1号機が膝に格納していたバットを構え、振り被る。

 その姿は何処かシュールさすら感じさせるが、150m近い巨体を艦艇用大型縮退炉を二基も搭載した本機が全力で振るった場合、それは山すら両断する程の威力となる。

 

 

  貴 様 ら 

 

 

 空かさずマジンガーZEROが両耳に当たる突起から冷凍ビームを放と、シズラー改に直撃するも、これは悪手だった。

 純粋な熱量なら兎も角、物理法則をちょいちょい超えたりするエーテル宇宙産のマシーン兵器の最高峰たるシズラーシリーズ、その改良機。

 戦艦よろしく自身の攻撃に耐え得る設計をしている本機に当たって、絶対零度を超えていない程度の冷凍ビームでは毛程の損傷も与えられなかった。

 これは未だマジンガーZEROが完全に物理法則を振り切れていない事の何よりの証明だった。

 

 『バスターホームラン、実行。』

 『重力場レール、射出。』

 

 バッゴーン!!とマジンガーZEROはバスターホームラン(と言う名の単なるフルスイング)を腹部に受け、同時に重力波レールによって亜光速の8割近くまで加速する。

 こうして、マジンガーZEROは易々と大気圏を超え、宇宙空間へと真っすぐに叩き出されてしまった。

 

 『パターンZ対処戦術、第二シークエンスへ移行します。』

 『無人量産型OF隊全7000機、これより第二シークエンスを実行します。』

 

 マジンガーZEROが叩き飛ばされた宙域。

 そこには既に7000機もの無人量産型OF隊並び冥王星工廠基地より緊急展開してきた巨人族用兵器を改装した無人機動艦隊が展開し、手ぐすね引いて待ち構えていた。

 

 

  面 白 い 

  やっ て み せ ろ 人 形 共 

 

 

 戦いはまだ、終わらない。

 

 

 

 




 今回のZEROさん=ループ初期も初期仕様。
 つまり、まだ何とか破壊できる可能性はある。

 ループ後期から最後?
 諦めろん。どうせマジンガーZが敗北しない世界線として再構築される。

 なお、地球上に潜んでたまだ出て来てない勢力は軒並み心臓止まりかける程にはZEROの存在に驚いていました。


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第15話 脅威その3

 新西暦186年 地球圏 宇宙空間

 

 

 ゲッターエンペラーにすら並ぶとされるマジンガーZERO。

 

 元はとある世界線・時間軸にて兜十蔵博士が開発したマジンガーZの一つに過ぎなかった。

 この十蔵博士はDr.ヘル並みの野心を持っており、具体的には世界最強の人造神を完成させ、世界制覇を成し遂げる野望の為なら自分の息子や孫すら抹殺しようとする極悪非道のマッドサイエンティストだった事が悲劇の引き金だった(初代版と交代してください)。

 そんな性格なので当然世界征服を志したのだが、老いた自身ではその完了を見る事は出来ないとして諦めかけていたのだが、とある世界線の十蔵博士が光子力による重力制御によって時空を歪曲、過去の自分に未来の自身の研究結果を送る事を可能とする光子加速器=ミネルバXの開発に成功してしまう。

 これによって自身の研究を濃縮し続けていった結果、完成したマジンガーZ(人工知能搭載の無人機)は唯一無二のスーパーロボットとして各国の軍隊を蹂躙、世界各国の首脳陣を14日と10時間34分で降伏させてしまった。

 なお、このループの際に世界征服までのRTAをやったりとやりたい放題している。

 挙句の果て、この結果に博士は満足せず、より高みを目指すため「過去の自分ではなく研究成果を各国にばら撒く」ことで世界にハンデを与え、自分の想像を超えた出来事を起こす事で更なるインスピレーションを得て研究を飛躍させることを目論んだ(超余計な事に)。

 そして次の世界で十蔵博士の研究結果を理解できた一握りの科学者の中に居た者こそがもう一人の世界征服を目論むマッドサイエンティスト、Dr.ヘルだった。

 Dr.ヘルは研究結果を利用して古代ミケーネの遺産を復活、機械獣による世界征服を目指した。

 当然の結果として、十蔵博士と対立。

 やがて二人はマジンガーと機械獣によるデスマッチを展開する事となった(他所でやれ!)。

 激化した対決の中、この世界線では遠隔操縦方式だったマジンガーの弱点を突いたDr.ヘルの操るバルガスV5との戦闘で十蔵博士は重症を負い、これに対抗するためにマジンガーZに乗り込んだ甲児が直接操縦しこれを迎撃した。

 その後、搭乗型に改良したマジンガーと甲児の活躍を病院のベッドの上で観戦していく内に十蔵博士は孫への愛情を得て改心した(遅い!)。

 元々余命幾ばくもない十蔵博士はDr.ヘルとの戦いに終止符を打つべく真のマジンガーの完成の為の研究を病床の身体をおして進めていった。

 死の間際、マジンガーが敗れる姿を見た十蔵博士は「自分より優れた知を持ち、自己進化し永遠の命を持つ新たな生命」の設計図を最後の研究成果として「世界を救い、甲児を守ってくれ」と願ってミネルバXに託し、彼女は再び過去の世界線へと戻った。

 しかし、次の世界の十蔵博士は改心する前のマッドサイエンティストだったため、ミネルバXが当初隠していた設計図を独自に解析、その悪魔的発想を組み込んでマジンガーZを建造してしまった(おお、もう…)。

 結果、出来上がってしまったのが7つのブラックボックスたる魔神パワーを有するようになった、愛を知らない究極の魔神となったマジンガーであり、それが進化していった存在こそがマジンガーZEROである(おぉ、もう…)。

 ミネルバXがループを繰り返す中、その力はドンドン増していき、やがては自らの手で世界創造すら行える程に進化し、正に神同然の概念へと成った。

 

 さて、こいつの持つ7つの魔神パワーについても解説する。

 この世界線におけるマジンガーZの時点から内包されていた特殊能力で、甲児の強い意志や脅威となる存在との邂逅で能力が段階的に解放される。

 全部で7つの能力が封印されており、マジンガーZEROに変貌した時点で自動的に全て解放される。

 それぞれの能力の封印はマジンガーZの内部をチャクラの配置に沿ってブラックボックスとして配置されており、ZERO時空のサイボーグ化した甲児の体内にも空中元素固定装置を強制的に起動して形成している。

 開発を行ったのは上述の改心した十蔵博士だが、マジンガーZに組み込んだ次の世界の十蔵博士(マッドサイエンティストのまま)が本来の物を独自に改良して組み込んでおり、元々の能力は魔神化を筆頭に全く異なるものだったと思われる。

 

 第一段階:再生

 戦闘で負ったいかなるダメージをも瞬時に自己修復する。

 魔神化が解放されると瞬間的に修復を行い始め、大破寸前の状態から暗黒大将軍が大剣を振り抜く刹那の間に完全修復を行っている。

 ZERO時空のグレートマジンガーの持つ空中元素固定装置を用いた自己修復機能とは根本的に異なるものであり、恐らくだが第四・六の魔神パワーを限定解除して並行世界の自身の情報を用いて上書きしているのではないかと推測される。

 

 第二段階:吸収

 あらゆるエネルギーを吸収し、自らのものとすることが可能。

 ZEROに変貌した後は敵を食らい取り込むことも可能になる。

 また自己再生との同時行使で敵の物理攻撃で機体を大きく損傷した状態から修復を行いつつ攻撃に使用された武器を取り込むことも可能。

 これによりエネルギー・熱量兵器だけでなく、質量兵器すら取り込んで自身の補給・強化を行っていく。

 そのため、戦う敵が存在する限り、ガス欠になる事はない(白目)。

 

 第三段階:強化

 マジンガーZの性能を飛躍的に向上させる。

 旧来通りのマジンパワーに近いが、こちらは出力の劇的向上だけに留まらず機体の性能から他の魔神パワーにまで恒久的に効果が発揮される上に重複して発動可能な上に時間制限もなく、更に強化することも可能。

 実質的にエネルギー切れもしないため、無限に自己バフを掛けられる事になる。

 

 第四段階:高次予測

 未来予知にも匹敵する状況シミュレーションを可能とする他、平行世界の観測さえ可能とするZEROのトンデモ能力その1である(白目)。

 劇中では解放されている時に甲児の瞳孔部にケーブルのような物が覆い被さっている。

 この力による平行世界観測はマジンガーZを起点とした干渉であるため、マジンガーの存在しない世界=別の作品の世界を認識できないという根源的な欠点がある(この場合の認識とは単純に見聞きが出来ないと言うだけでなく、接触や物理的な破壊といった干渉も出来ない)。

 更に限定的な点として、少なくとも作中での観測範囲はZEROを中心とした地球全域までのようで、範囲外の事象は予測不能に陥る可能性がある。

 終盤Zの世界に再び囚われそうになった甲児に排除される寸前の鉄也が言った「ミケーネ帝国を倒して得られた平和を脅かす新たな敵は何処から来るのか?」の問に甲児が言った「宇宙から現れる」の答で無効化している。

 この辺りはFateの千里眼よろしく主観を持ってしまった事、マジンガーZが存在する世界を基点とする事が観測範囲を狭めている理由だと思われる。

 

 第五段階:変態

 物理法則の常識を超え、マジンガーZの形状・性能を変化させることができる。

 この効果によりマジンガーはZからZEROへと変貌する。

 副次効果として、ZERO時空のマジンガーZは一部の追加武装が魔神パワーの効果が無くなった後も追加されたまま残ったりもしている。

 

 第六段階:因果律兵器

 因果律に干渉し、平行世界で発生した事象の因果を紡ぎ、数多の未来から勝利する可能性を現時空に転移・現出させるというマジンガーZERO最大のトンデモ能力である(白目)。

 簡潔に言えば、相対する敵が何者であろうとも、勝利の可能性が0%でない限り100%確実に勝利できるというもの。

 例えるなら命中率が1%でもあれば攻撃が必中・回避率が1%でもあれば完全回避が確定する。因果を紡ぐ=勝利であるため、敵は回避も防御も不可能である。

 但し、ZEROの予測を越えた未知の出来事・存在に対しては効果を発揮できないが、素でも強すぎる上に予測を超えるなど不可能と言ってもいいので弱点になっていない。

 

 第七段階:魔神化

 マジンガーZEROとしての意思と力を発現する。

 この状態になると、第六段階まで魔神パワーを解放した状態と比較してさえ天と地ほどの力の差がある。

 この段階まで解放された時点でマジンガーZは完全に暴走、甲児を吸収あるいは排除し、「終焉の魔神」と化してしまう。

 マジンガーZに人工知能を搭載した場合は、その時点で開放されてしまう。

 また、一瞬にして7つの段階が全て解放されることがあり、ZERO時空では「甲児がマジンガーZと同化する・甲児が弓さやかの死を始めとする激情を起こす」の条件で覚醒している。

 他にも「ZERO自らの意思で解放される」場合もあるが、こちらは魔神化の後に他の魔神パワーを開放してからZEROに変貌している。

 このZERO自らの解放に関しては、「マジンガーZ以外のマジンガーは紛い物であり、排除せねばならない」、「自身にとって脅威となる者が存在する」事から来ている。

 これが終わりであり、ある意味で始まりといえる形態である。

 終焉が確定しているこれを倒す方法はZERO時空には存在しない。

 ZERO時空での唯一の手段が過去改変による「誕生の取り消し」だった。

 あるとすれば、マジンガーの想像を上回るものを見せつけるか、ZEROの観測できない世界からの因果しかない。

 本来の魔神パワーは改心した十蔵博士が甲児達を守るために開発した機能なので、少なくとも甲児を吸収・排除してしまう特性は前述のマッドサイエンティストの十蔵博士によって改悪されたものと思われる。

 

 こんな出鱈目でケン・イシカワ時空の住民なマジンガーZEROだが、このα時空風味の世界線だと少々事情が異なる。

 

 この世界線においては、兜十蔵は確かにマッドサイエンティストであったが、衝撃編よろしくファンキーな爺様だった。

 そんな彼が何故マジンガーZEROを作ったのか?

 その理由はただ一つ、A.I.M.ならび太陽系防衛用無人兵器部隊へと対抗するためである。

 地球人類史上においても屈指の頭脳チートなこのご老人は、トレミィ達の存在を危険視していた。

 何せ地球連邦政府の根幹に食い込み、地球連邦軍においても極めて大きい影響力を一つの勢力が保有しているのだ。

 加えて、その出自は先史古代文明のムー帝国であり、現在はレムリア女王個人を主君として(次期主君としてひびき洸を守りながら)行動している。

 もしひびき母子のどちらかが道を踏み外せば、或いは何か事が起きて二人のどちらかが害された時、一体どんな行動を取るのか検討も付かない。

 しかも、この銀河の真実を知らされた兜十蔵博士他多数の科学者らは挙って地球防衛用対異星人戦力として特機の開発をA.I.M.の支援の下に行っていた。

 まるで将来の番犬に首輪を付ける様なその行動に、十蔵の不信感は膨れ上がった。

 実際、トレミィ達としてはこちらと敵対する事なく、地球防衛に万進して欲しいが故の行動だったので、下心自体は存在していた。

 が、十蔵の考えは余りに的外れというか行き過ぎであった。

 そして、遂に十蔵は自ら禁じていた行動に出る。

 それが「自分より優れた知を持ち、自己進化し永遠の命を持つ新たな生命」の開発であり、孫である甲児を守るためのマジンガーZであり、マジンガーZが敗れた際のセーフティであるマジンガーZEROだった。

 この際、マジンガーZEROには十蔵の意志として「ワシのマジンガーこそが最強無敵のスーパーロボット!甲児を守りながらそれを証明するんじゃ!」が組み込まれており、それが行動理念の根幹となっている。

 完成してZEROの危険性に漸く気付き、正気に戻った十蔵はZEROを危険と判断、発動すれば即座に発揮される魔神パワーを7段階に分けて発動するようにした上で、外付け安全装置としてミネルバXの開発を開始した。

 しかし、ミネルバXに関しては開発完了前にDr.ヘル一派の襲撃を受けた事で開発が中断、未完成のままで現在は科学要塞研究所の兜剣造博士が開発を進めている。

 

 そんな訳で、甲児の生命の危機&ペーパープランで終わった失敗作のデビルマジンガーの登場により覚醒したマジンガーZEROはその行動理念のままに地球産の他のスーパーロボを駆逐すべき活動を開始したのだが……

 

 

 『全艦隊、パターンZ用兵装を任意に使用。』

 『バスタービーム砲、照準付け次第順次発射。』

 『GB、収束状態でチャージ完了と同時に発射せよ。』

 『マイクロブラックホールキャノン、発射します。』

 『亜光速レールガン、チャージ開始。光子弾頭は近接信管でセット。』

 『チャージ完了次第、各艦斉射せよ。』

 『発射。』『発射。』『発射。』

 『無人量産型OF7000機はパターンZ用兵装で任意に攻撃。敵味方の射線が地球並びコロニーに重ならない様に留意せよ。』

 

 

 無人量産型OF3000機による重力場による拘束。

 そして無人シズラー改によるバスターホームランによる殴打並び重力場レールガンによる射出。

 これによって地球上から宇宙空間へと吹っ飛ばされたマジンガーZEROは、彼が吸収できない重力・空間歪曲兵器と吸収してもエネルギーにならない冷凍光線であるバスタービームの砲撃を大艦隊規模で受けていた。

 その隻数、実に3000隻。

 冥王星工廠基地にあった巨人族向け兵器工廠を利用し、完全に無人化されたこの艦隊は同数どころか約3倍の宇宙怪獣の大艦隊にすら勝る戦力を持つ。

 つまり、この艦隊があれば一億体以上の宇宙怪獣に勝利できるのだ。

 そんな艦隊をたった一機の機動兵器を破壊するために使用する。

 実情を知らなければ余りにもおかしな戦力差・物量差に見えるが、実態は全くの正反対。

 太陽系防衛用無人兵器部隊の艦隊側こそが不利なのだと、知る者はこの時点ではまだ殆どいなかった。

 

 

  煩 わ し い 

 

 

 大艦隊の砲撃の雨霰を数え切れぬ程に受けながら、それでも魔神は健在だった。

 多少表面装甲が削れているようだが、そんなものは掠り傷であり、何もしなくても数秒もあれば自己修復する程度でしかない。

 しかし、毒も何もないとは言え、大量の小蠅に纏わり付かれるのは気分が良いものではない。

 

 

  消 し 飛 べ 

 

 

 故に、マジンガーZEROは何の躊躇もなく、最大火力を行使した。

 光子力ビームによる雨とサザンクロスナイフによる無数の標的へのホーミング、そしてブレストファイヤーの照射によって目に付く全てを一息に薙ぎ払ったのだ。

 

 

 

 



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第16話 脅威その4

な、難産だった…(白目


 新西暦186年7月 地球圏 宇宙空間

 

 

 対マジンガーZERO用兵装を急遽追加した巨人族のものを無人化を主として改装した機動艦隊3000隻。

 対マジンガーZERO用装備に構造を変化させた無人量産型OF部隊7000機。

 兵装の縛りさえ無ければ大抵の星間国家なら正面から軽く捻り潰して滅亡させるだけの戦力。

 しかし、兵装以外にもこれらの大戦力には致命的な縛りがあった。

 

 それは場所、戦場が太陽系内部である事。

 

 例え地球上からマジンガーZEROを退去させたとは言え、ここは太陽系の内部、地球人類の根拠地たる地球の傍なのだ。

 当然、使用する兵装や機動にも影響が出る。

 特にマジンガーZEROの兵装は全てが簡単に単一惑星を滅ぼせるだけの攻撃力を有している上、その膨大な光子力エネルギーからくる射程も出鱈目である。

 単なる戦闘の余波・流れ弾でサイド一つが壊滅する事態が簡単に起こり得る。

 故に、太陽系防衛用無人兵器部隊対パターンZ特設任務隊はその行動可能な範囲を大きく縛られたまま戦闘を開始するしかなかった。

 先手を取っての地球上から追い出すだけなら兎も角、そのまま太陽系の外周部に追い出すのは抵抗を考えると難易度が余りに高かったからだ。

 

 だからこそ、その制約を即座に第四の魔神パワー「高次予測」で読み切られ、一斉掃射で行動可能な宙域を埋め尽くされた。

 

 無論、対パターンZ特設任務隊もばれないために巧みに錯覚を引き起こし易い機動を行って攪乱をしていたのだが、そんなものは未来予知にも匹敵する状況シミュレーションが可能かつ平行世界(マジンガーZが存在する世界のみ)の観測さえ可能とするマジンガーZEROには無意味だった。

 

 『全機、緊急空間潜航実行。』

 『各艦、緊急フォールド実行。』

 

 が、そんなものは想定済みでしかない。

 その場から動く事なく、一時的に位相空間に潜行、或いはその場へのワープにより発生するディレイを用いた疑似空間潜航によって回避された。

 

 『量産型無人OF隊、現在の損耗率17%。』

 『無人機動艦隊、現在の損耗率21%。』

 『攻撃を続行。次は同じ手は通じません。防御用マイクロブラックホール展開準備。』

 

 

  な ら ば 続 け る ぞ 

 

 

 即座に回避の種を見抜いたマジンガーZEROは、今度は緊急潜行可能な範囲の位相空間ごと吹き飛ばすべく、再度攻撃態勢へと移る。

 そこに先程の焼き直しの様に無数のバスタービームやGB、マイクロブラックホールキャノン、そして亜光速レールガンにより加速した光子弾頭が突き刺さる。

 この一斉射だけで地球を軽く滅ぼせるだけの威力があるのだが、その程度で滅ぶのなら魔神等とは言われない。

 

 

  無 意 味 だ 

 

 

 再び放たれたマジンガーZEROの一斉射。

 今度はルストハリケーンも追加されており、より攻撃密度が増している。

 しかも宇宙空間で使えるという事は、既にして限定的な物理法則の改竄まで行えている事を意味する。

 恐らくだが、バスタービームのマイナス一億度等の原理を解析したのだろうが、それにしたって早過ぎる。

 環境への、戦術・戦略への適応能力が桁違いだった。

 

 『全艦、防御用光子ミサイル発射。』

 『OF隊は退避せよ。』

 

 が、対パターンZ特設任務隊もまた頭おかしかった。

 敵の攻撃がヤベー威力で回避は空間潜航しても無理?

 なら極小のブラックホールを展開して全部飲んで貰えば良いじゃない!

 そんな構想で開発された防御用光子ミサイル群によって、マジンガーZEROの攻撃は二度に渡って対処されてしまった。

 しかも今度はブラックホールが相手であり、対応する因果を引っ張ってくるには少々時間がかかるだろう。

 

 

  良 い だ ろ う 

 

  遊 ん で や る 

 

 

 マジンガーZEROのボディ、全長30m程だったサイズが突如成長していく。

 成長痛の様な軋みを上げながら肥大化し遂には50mを超え、ゆっくりと、しかし確実に大きくなっていく。

 

 『目標の機体サイズ並び出力の向上を確認。』

 『全員、ここからが本番です。』

 

  ア イ ア ン カッ タ ー 

 

 

 マジンガーZEROの両腕から突き出た斧状の刃が突如肥大化、その全長の倍近くまでなった上、まるでブーメランの様なくの字になって前腕を覆い隠した状態で両腕が発射された。

 

 『全機、乱数回避。』

 『各艦、迎撃に注力。』

 

 光速の7割で放たれた巨大なギロチン染みた刃はただ真っ直ぐに進むのではなく、艦隊とOF隊の陣形の内部を所狭しと滅茶苦茶に荒らし回り、蹂躙していく。

 

 『DF突破、艦中央大破、自沈します。』

 『DF突破、回避間に合いまs』

 『DF突破、左舷大破、総員退艦せよ。』

 

 OF隊は辛うじて回避に成功したものの、小回りの利かない無人機動艦隊の多くが不規則かつ無軌道に動く二つのアイアンカッターの機動に追従できず、餌食になってしまう。

 

 『防御用光子ミサイル、目標2・3に対して照準不可能。』

 『こちらのFCSを解析したものと思われます。』

 『通常のレーザー機銃なら捕捉可能ですが…。』

 『全艦、回避を徹底。』

 

 数を揃えるための艦隊とは言え(それでもクラップ級よりは遥かに高性能)、その防御を易々と貫通、回避不能な速度で飛んでくるアイアンカッターを前に轟沈する艦が大量に発生した。

 OF隊は辛うじて回避に成功したものの、この攻撃だけで無人機動艦隊の4割が消えた。

 

 

  よ く 頑 張っ た 

 

  だ が 無 意 味 だ 

 

 

 そして再び、マジンガーZEROから一斉射が放たれる。

 豪雨を超えて流星雨となった光子力ビームとサザンクロスナイフ。

 地球ではなく木星基準の巨大竜巻となったルストハリケーン。

 プロミネンス以上の膨大な熱量となったブレストファイヤー。

 それらが宙域全てを蹂躙し、あらゆるセンサーがホワイトアウトした。

 

 だからこそ、付け入る隙が出来た。

 

 『別働隊、第三シークエンス実行せよ。』

 

 通常よりも遥かに深い位相空間から指揮管制を行っていた工作艦にして無人機動艦隊の旗艦となったドゥーベ。

 自身もまた大きく損傷し、艦隊戦力の7割を戦闘開始数分で失いながら、それでも最後まで指揮を放棄する事なく、その役目を全うし続けていたが故に見いだせた千載一遇の瞬間だった。

 

 

 ……………

 

 

 数分前 太陽系 金星宙域

 

 

 『ゼロシフトによる空間圧縮、間も無く予定数値に到達。』

 『通常の700%まで圧縮続行。』

 『了解。』

 『各機は僚機の状態に常に留意せよ。失敗は許されない。』

 『空間圧縮、700%まで60秒。』

 『現状のまま維持。暫定旗艦ドゥーベからの指示を待て。』

 

 金星宙域で密かに準備していた別動隊。

 彼女らは量産型無人OF一個大隊27機で構成されており、今か今かと号令を待っていた。

 そして、無人機動艦隊が一方的な攻撃を受け、虐殺に近い状態になった時。

 漸く、作戦は次のシークエンスへと移行した。

 

 『空間圧縮、700%に到達。』

 『! 許可を確認。第三シークエンス実行!』

 

 第一シークエンスは戦場が地球上並び人口密集地であった場合、戦場を移動するための作戦。

 第二シークエンスは移動した先で艦隊戦力による物量を活かした砲撃による殲滅。

 これらが失敗した時のみ、第三シークエンス以降が発動される。

 機体周辺の空間を圧縮し、その復元作用をバネとして用いて亜光速まで加速するゼロシフト。

 それを通常の5倍の空間圧縮率で行った場合、その速度は光速の98.7%に到達する。

 これ以上はワープか物理法則の改変を必要とする程の直線加速力を発揮できる。

 

 『全機、ゼロシフト実行。』

 

 そして、遂に第三シークエンスが実行された。

 

 

 ……………

 

 

 同時刻 地球圏 宇宙空間

 

 

  終 わっ た な 

 

 

 戦闘開始から4分、無人機動艦隊並びOF隊は壊滅状態だった。

 自分という魔神を相手に、単なる無人兵器がよくぞ健闘したものだとマジンガーZEROは思った。

 彼我の戦力差は絶望的であり、例え何度繰り返しても手傷を多く与えるだけでどうにもならないと互いがとっくに結論付けられていた。

 それでも彼女らは逃げる事も憶する事もなく、その役目を果たし切った。

 その姿に若干の言語化し辛い感情を抱きながら、マジンガーZEROは本来の目的、即ちマジンガーZこそが唯一無二のス-パーロボットだと証明する事を、兜甲児を守りながら行うべく、地球上の全ての特機や侵略者らを撃滅すべく、光子力ビームを地球全土に向けて放とうとして…

 

 

  な ん だ ? 

 

 

 太陽系の内側、金星方面からの反応をキャッチし、それを解析しようとした瞬間、

 

 『空間圧縮刀、アクティブ。』

 『兜甲児救出ミッション、実行。』

 

 それは正しく光の速さだった。

 強化に強化を重ね、巨大化し続けるマジンガーZERO。

 その頭部にあるホバーパイルダー、即ちコクピット部分は未だ旧式であり、続く戦闘に改良が間に合っていなかった。

 また、全ての部品が超合金Z製でもなく、ホバーという構造上宇宙空間での機動は殆ど出来ない。

 例え強化に強化を重ねても、まだ損傷を受ける可愛げが存在するこの魔神は、自我を持つが故に油断する自由性もまた獲得してしまっていた。

 故に、ほぼほぼ光速であるこの奇襲に対し、例え亜光速対応可能であったとしても、一瞬だけ遅れてしまった。

 そして、彼女らにはそれで充分だった。

 二機の量産型無人OFが一撃離脱、ひき逃げの要領でZEROの頭部に対して×の字に交差する様に一閃、ホバーパイルダーを切り離したのだ。

 

 『トラクタービーム最大出力、救出目標を確保。』

 

 そしてほんの僅か、それこそ刹那の差で遅れてきた三機目の無人量産型OFがトラクタービームでホバーパイルダーをその腕の中に確保、そのまま遠ざかっていく。

 

 

  な ! ? 

 

 

 予測していない、全くの意識外からの攻撃。

 それによる最重要防衛目標にして最重要生体部品である兜甲児の奪取。

 精密無比な機械である程に、パーツが欠けた時は脆いもの。

 マジンガーZは無敵であると信仰する最重要な部品の欠落によって、ZEROの性能が見る間に堕ちていく。

 

 

  お の れェ !! 

 

 

 魔神が激昂する。

 もしももう少しだけ注意を払い、より力を強めていたのなら、こんな事態は起こらなかっただろう。

 しかし、高度な自我を持つが故の気の緩み、未だ進化し切れていないが故の性能により、千載一遇の勝機を掴む事に成功したのだ。

 

 『シズラー改1・3号機、スーパー稲妻キック。』

 『『了解。』』

 

 太陽系外縁部に向けて亜光速の98%のまま遠ざかっていく3機のOFを追撃しようと振り返った瞬間、今の今まで隙を伺っていた二機のシズラー改が左右からその質量と機動性を活かしたスーパー稲妻キックを実行、挟撃した。

 

 

  邪 魔 だ !! 

 

 

 しかし、巨大化してサイズ差の無くなったマジンガーZEROは左右から迫るスーパー稲妻キックを両掌で受け止め、そこから吸収を開始する。

 そこでZEROは予想外の行動を取った。

 完全に吸収し切る前、未だ活動が完全停止していないシズラー改二機を引き摺る形で追撃を開始したのだ。

 

 『バスタービーム発射。』

 『縮退炉、臨界まで後5秒。』

 

 空かさず二機のシズラー改は自爆を選択、縮退炉を臨界まで上げる。

 

 『追撃を実行。各機、特攻せよ。』

 

 そして、背を見せたこの瞬間を好機と見て、残った24機のOF隊が特攻を仕掛ける。

 その形状を人型からまるで鏃の様に変形させた姿はあのエーテル宇宙における量産型バスター軍団にも似ていた。

 加速と装甲の貫通へと特化させたこの形態は、彼女らのこの任務に最適だった。

 次々とマジンガーZEROの背中へと突き刺さっていくOF隊。

 しかし、順調に行ったのは7機までだった。

 

 

  小 賢 し い !! 

 

  ダ イ ナ ミッ ク ファ イ ヤ ー !! 

 

 

 魔神化によって巨大化し、/の入った0の数字へと変貌した嘗てのジェットスクランダー。

 その赤い翼部分を放熱板として、極太の熱線が放たれる。

 原理としてはブレストファイヤーと変わらないものの、放熱板の面積の増大故か、その攻撃範囲は出力の向上も相俟って倍以上となっている。

 その極太の熱線に呑まれ、後続のOF隊は既に加速していた事もあり、回避できぬままに蒸発してしまった。

 

 『各機、縮退炉臨界まで3秒。』

 『強制超長距離ワープ開始。安全シークエンス全排除、即時実行まで3秒。』

 『試作多次元跳躍装置、起動。安全シークエンス全排除、ランダムで跳躍開始。』

 

 しかし、そんなもの気にしている余裕はないとマジンガーZEROは限りなく光速に近い三機のOFを、彼女らに抱えられた兜甲児を奪還せんと猛追する。

 最早兜甲児一人にしか意識の行っていない様子は、それだけこの成長途中の魔神の必死さを物語っていた。

 だからこそ、足元の小石を見落としてしまう。

 

 『目標進路上への緊急浮上完了。各防御手段、最大値に設定。』

 『緊急超長距離ワープ並び試作多次元跳躍装置起動、縮退炉は全基臨界まで後5秒。』

 

 眼前に現れた全長14kmもの工作艦ドゥーベに、マジンガーZEROは正面衝突した。

 そして、邪魔だとばかりに両腕を振るい、未だ吸収され尽くしていないシズラー改2機を叩き付けるのだが…

 

 

  何 !? 

 

 

 元々、恒星間航行大型戦略工作艦ドゥーベは巨大なナノマシンの集合体であり、内部工廠には量産型無人OFの製造ラインと構成部品、即ち大量のメタトロンが存在する。

 

 『艦構成ナノマシン、標的への融合と同時にハッキング開始。』

 『空間圧縮、安全制限を解除。本機破壊まで空間圧縮を続行。』

 『残り3秒、時間を稼げ。何としても。』

 

 殴った所でぐにゃりと歪み、機体表面へと纏わり付き、積極的に融合して活動を阻害してくるナノマシンの軍勢に対し、マジンガーZEROは対処を誤った。

 最初から最大火力で吹き飛ばしていれば、こうはならなかっただろう。

 しかし、機体の正面方向、即ち射線軸上に兜甲児がいてはそれは出来なかった。

 兜甲児の救出を許してしまった時点で、この状態は想定しておくべきだったのだ。

 

 

  良 い だ ろ う 

 

  今 回 は 勝 ち を 譲 る 

 

  だ が 次 は 無 い 

 

 

 諦めたのか、その動きを停止したマジンガーZEROは光の文字を描いていく。

 それは己の優位性を知り、自身が遥か高みにいる事を、再戦の機会を得る事を微塵も疑っていない強者の自負に満ちた言葉だった。

 

 

  ま た 会 お う 

 

 

 『プトレマイオス様、これにておさらばです。』

 

 

 そして、一機と一隻はこの宇宙から完全に消滅した。

 後に魔神覚醒事件と言われる事件は、こうして終了したのだった。 

 

 

 



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第17話 嵐の後

 新西暦186年7月 太陽系 位相空間内

 

 

 「スーパーエクセリオン級1番艦・2番艦の分離シークエンス開始…分離成功。以後、両艦は周辺の空間変異基点の破壊に専念せよ。合流は通常空間復帰後に行う。」

 『『了解。』』

 「本艦はこのまま敵主力と交戦続行。時間を稼ぐ。ヴァルチャー隊も出せ。」

 「了解。艦載機は全機出撃。」

 

 こうして第二ラウンドは開始された。

 後は分離したスーパーエクセリオン級二隻が空間変異基点=ストーンサークルの破壊をどれだけの速さで成功するかに掛かっている。

 

 「敵主力艦隊、本艦を中心に鶴翼陣形を構築。半包囲する模様。」

 「フォールド断層障壁展開。光子ミサイル並び光子魚雷全発射管装填。」

 「敵艦隊、砲撃を開始。」

 

 アインストによってコピー・変異したメルトランディ系中型砲艦アインスト・シュラハトシッフ(ドイツ語で戦艦の意)とその派生艦から成るアインスト艦隊より、無数の砲撃が放たれ、改エルトリウムへと突き刺さる。

 しかし、その全てがエネルギー兵器に対して圧倒的防御性能を誇るフォールド断層障壁の前に意味を成さない。

 

 「着弾を確認。損害無し。」

 「反撃開始。敵艦隊に向け、扇状に光子魚雷全弾発射。」

 

 そして、返礼として発射された光子魚雷は一方的にアインスト艦隊を虚空へと飲み込み、その7割を消滅させた。

 しかし…

 

 「敵艦隊の7割の消滅を確認、いえ……再構成を確認しました。」

 「敵戦力、約10秒でその戦力を復元しました。」

 「マジで?」

 

 これがアインストの恐ろしい所である。

 ストーンヘンジ等の空間変異特異点が必要とは言え、インベーダー染みた同化・侵食・吸収能力を持ち、自分達の宇宙から次々と増援を送り込む、或いは即座に消耗した戦力を再構成する。

 アインスト達の所属する宇宙との接続を断つ、或いは宇宙そのものを破壊するか、そのエネルギーを大きく減衰させなければ、消耗する事なく幾らでも戦力を投入できる。

 しかも、その戦力はアインストの宇宙に侵食=近ければ近い程に強大化し、更には進化したり、強化されたり、合体してくるのだ。

 その変異の速度は一度始まってしまえば極めて速く、これを凌駕するのは因果律兵器によって急速に自己進化し続けるマジンガーZERO位しかいないと言えばその脅威度が分かるだろうか。

 

 「敵中枢への突入を行いますか?」

 「…連中、どうしてこのタイミングで仕掛けてきたと思う?」

 「こちらを撃破する術があると?」

 「或いは是が非でも私達に太陽系にいてもらっては困るってのもあると思う。」

 「突入はリスクが大き過ぎますか。」

 「当初の作戦通り、友軍が空間変異基点を破壊するのを待とっか。」

 「全艦、実弾兵器の使用は必要最低限にして、エネルギー兵器の使用を優先して攻撃せよ。」

 

 こうして、無限湧きバグなアインスト艦隊と無敵バリアなエルトリウム・オブ・プトレマイオスは不毛な消耗戦へと突入したのだった。

 

 

 ……………

 

 

 『ち、気付かれたか。』

 

 一方その頃、アインスト艦隊の中枢ではその指揮官、死亡寸前の人間を素体にして改造されたアインストが舌打ちをしていた。

 

 『このまま突っ込んで来てくれたら楽だったのに…。』

 

 アインストとしての名称をアトミラールというこの女性。

 この世界線で恒星間物量戦を行うに辺り、対宇宙怪獣や異星人戦も考えて、ノイレジセイア視点でも明らかに指揮官格が足らないとして回収されたサンプルを改造されて作られた内の一個体だった。

 アインスト・アルフィミィの様な存在、と言えば分かるだろうか?

 アルフィミィがエクセレンに似ていても異なる容姿をしているのと同様に、生前の連邦宇宙軍として女性ながら若くして小艦隊の司令を務めた優秀な軍人だった彼女だが、その外見は随分と様変わりしていた。

 艦隊これくしょんの空母棲姫が如く、悪堕ちっぽく劫火の如く赤黒く変色・改造した連邦軍服を着こんでおり、制服の腕は捲って、手足には原作空母姫の腕甲・脚甲のような防具を装着している。

 雪のように白い肌と白い髪も以前のそれよりも血色が遥かに悪く、一見すると死体にも見えるが、生来からの美貌に衰えはない。

 寧ろ一年戦争時の苛烈な勤務状況で小皺も増え、髪艶も悪くなっていたのだが、その辺は逆にえらく健康的になっている。

 本人的には肌年齢が十代相当になっててどんな時も健康なのがアインストになってからの唯一の利点でもあった。

 

 『こっちに伏せてた子達が無駄になったわね。』

 

 彼女の乗艦にして艦隊旗艦たるグラウベン。

 この戦艦型のアインストは彼女の専用艦であり、外見イメージは鋼鉄の咆哮シリーズの超巨大双胴戦艦播磨型一番艦「播磨」をベースに、深海棲艦の生物的デザインと改マゼラン級よろしくな濃密な対空火器類や艦砲が増設され、各所にアインストの証たる赤い球状の宝石が付いている。

 また、その艦体中央には奥の手として2門の超重力砲が搭載されているため、こいつ単艦でも理論上はプトレマイオスにダメージを与える事は出来る。

 その周囲に展開しているのは先も説明したメルトランディ系中型砲艦ベースのアインスト艦隊(一隻辺り約1800m)であり、その陰に隠れる形で存在している小型艦(350m)こそがこの作戦の肝だった。

 名称をアインスト・ヴァール(ドイツ語で鯨の意)と言う。

 このサイズの艦艇としては平凡な性能なのだが、こいつの厄介な所はこの艦単独で空間変異基点の機能を持っていながら一定の戦闘能力を保有しているという点だ。

 こいつは既存のストーンサークルとは異なり、移動も攻撃も出来るし、空間変異基点の能力を活かして機動兵器サイズ以下のアインストを幾らでも召喚できるのだ。

 無論、一隻では一度に呼べる数には限りがあるものの、同種の個体と連携すると乗で召喚可能な数と空間変異の範囲が広がっていく。

 分かり易く言うと、2隻いると2倍ではなく2乗=4倍もの小型種召喚・空間変異を行えるのだ。

 こいつを伏せ、もし敵艦が突撃してくる様ならこいつで囲んで機動兵器サイズのアインストを無数に召喚、後は艦の方も必要なら突撃させたりして物量チートを用いて撃沈、あわよくば鹵獲するというのが狙いだった。

 

 『…って、あらま。』

 

 そんな事を思ってると、不毛な艦隊戦をして数分と言う間に周辺を囲んでいたストーンヘンジの方が破壊されてしまった。

 あちらにも戦力は配置していたのだが、どうやら敵を見くびっていたらしい。

 こちらの広域空間侵食が解除されるのとほぼ同時、直ぐに通常空間へと浮上していった。

 この逃げ足の早さでは、もう今回は追えないだろう。

 

 『ま、しょうがないか。今後は敵戦力の見積もりを上方修正して…?』

 

 不意に、アインストの宇宙の方から通信が入る。

 最上位個体たるノイ・レジセイアから通達であり、拒否権は無かった。

 

 『想定外の事態発生に付き、一時全面撤退?』

 

 現状の地球圏最上位戦力であろうプトレマイオスの戦力を把握するための威力偵察以上に大事な事。

 それを考えると、アトミラールの頭脳はどう考えても厄ネタだと結論を出すのだった。

 

 

 これ以降、アインストは一時地球圏へと手出しを控え、銀河系の他地域へとちょっかいを出す様になる。

 アトミラールはその中でも艦隊戦力の運用において使い勝手の良い指揮官ユニットとして幾度も戦場に出撃し、死んでは復活してまた出撃し、戦って撃破されては復活する生活を繰り返す事となる。

 後に連邦軍人時代の知り合いと再会して曰く、「魔王倒す為とはいえ、死んでも何度も甦らされる勇者の気持ちが良く分かったわ…」と死んだ目で愚痴ったそうな。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年7月 地球圏

 

 

 「…………。」

 

 何とか通常空間に復帰したプトレマイオスは分離した2隻のスーパーエクセリオン級と再合体した後、状況を把握した。

 ズール銀河帝国並びゼ・バルマリィ帝国、そして宇宙怪獣にインベーダー等が太陽系外縁部より撤退した事。

 その撤退の原因が太陽系内部より飛んでくる巨大なエネルギーの奔流、即ちマジンガーZEROの攻撃である事。

 そして、マジンガーZEROが覚醒し、地球の最終防衛ラインとして配置されていた恒星間航行大型戦略工作艦ドゥーベと1億機もの無人量産型OF隊とシズラー改一個小隊、最近ある程度数の揃った巨人族系兵器を改装した無人機動艦隊の全てが壊滅しながらも辛うじて兜甲児の救出とマジンガーZEROの多次元世界への放逐を成功した事。

 消耗した戦力は甚大であり、これを完全に補充するには5年はかかるだろう事。

 今現在は各勢力が状況把握のために一時侵攻が停止しているが、直に一気に押し寄せてくるだろう事。

 

 「…………。」 

 

 それら全てを把握したが故に、完っ全に真顔になっていた。

 呆然や驚愕故の絶句ではない。

 活火山のマグマが如く、その内心には怒りが渦巻いていた。

 何せトレミィは自分の娘である自動人形らの全てを覚えている。

 生まれた日付に細かな仕様、趣味や好物に至るまで全てだ。

 もう死んでしまった娘も、その結婚相手も、生まれてきた人間との孫も、全てだ。

 人間では到底覚えきれないだろう記憶容量でも、元が巨大要塞の統括制御AIである彼女には余裕なのだ。

 それの意味する所は一つ。

 

 

 彼女は決して、身内を殺した相手を許さない。

 

 

 事故や戦乱、自分の命じた任務の最中に死ぬ事はあるだろう。

 機械である事を止め、愛に生きる事を誓った娘達とその孫達は寿命で死んでいく。

 だが、それは全て納得ずくで、彼女らのバックアップを取れた上での話だ。

 事故や戦乱、任務で破壊されたのならボディを用意すれば復帰できる。

 今まで出た死者はほぼ全てが愛に生きる事を誓った娘達だけだった。

 今回の一件ではOF隊並びシズラー改の制御担当のAIも含めて一度に余りに大量の娘達が旗艦であるドゥーベと共に残骸も碌に残さず破壊されたため、本来リアルタイムで取っている筈のバックアップに大量の取り残しが発生してしまったのだ。

 即ち、生まれて百年以上経過し、その間ずっと地球の守りを任せていた腹心の一人であるドゥーベ含む多くの娘達を初めて殺された事に他ならない。

 これが大勢力や一軍人であるのなら、トレミィは一勢力の長として、その真の目的のためにも苦渋を飲んで納得した。

 それが彼女らを死の危険のある任務に就かせた自分の役割であり、危急の際に不在だった自分の責務だと理解しているからだ。

 しかし、相手は究極にして終焉の魔神とは言え、我欲で動く一個人である。

 単体にてこの銀河最強の一角であるが、間違いなく一個人である。

 トレミィがその殺意を我慢する必要性は無かった。

 

 「Sf。」

 「此処に。」

 「冥王星工廠基地に伝達。あらゆる手段を以て太陽系防衛に務めよ、と。」

 「あらゆる手段で、ですね?」

 「二度も言わせないで。」

 

 それはつまり、今まで温存していた無人エクセリオン級(艦内構造が無人運用前提なので、本家より量産性高し)並び以前から大量生産を続け、温存していた量産型無人ヴァルチャー隊を武装の無制限使用を許可した上での全力運用も含まれるという事を意味する。

 現在は払底しているが、本来ならばここに巨人族系兵器を改装した無人機動艦隊も数合わせに含まれていた。

 

 「地球に帰還します。フォールド用意。それとレムリア女王とレビル首相、メキボス特使との会談をセッティングして。対策と今後の事を協議をしないと。」

 「畏まりました。」

 

 こうして、現在太陽系にて最強の勢力の長が漆黒の意思を胸に抱き、地球へと帰還するのだった。

 

 

 

 

 

 




トレミィ「ぶち殺す」漆黒の意思
レムリア「洸!洸ー!?」息子の気配が弱弱しくなって動揺中
レビル「情報を集めろ!現状確認が最優先だ!」部下叱咤しつつ情報待ち
メキボス「」観測した情報の結果に絶句中


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第18話 対策会議

 新西暦186年7月半ば 地球 北米方面 ラングレー基地

 

 イージス計画における最新鋭主力機動兵器群の開発計画に成功したこの基地では、豊富な最新設備と集まった人材故に未だ地球連邦軍の各種開発計画の場として運用されており、現在では特に特機開発が盛んに行われている。

 その性質上、防諜も連邦軍情報部によって綿密に行われており、更には以前より秘密裡にA.I.M.から派遣されたナノマシン式自動人形が位相空間に潜行して基地全体の監視を行っている。

 そのため、表に出せないお話をするには、とても最適な場所だった。

 

 「…………。」

 「………。」

 「…………。」

 「お、おう…。」

 

 その地下100mに位置する秘匿大型地下ドッグ内部の会議室にて、一堂に介したこの太陽系の実質的トップ達+1とその護衛が勢揃いしていた。

 そして、その多くがとある少女の醸し出す圧倒的なプレッシャーに呑まれていた。

 一見、その愛らしい少女は軍でも企業所属でもない一般人にしか見えない。

 容姿は膝裏にまで銀髪に青み掛かった灰の瞳と白磁の肌、大凡人間味の感じられない程の美貌。

 ここまでならA.I.M.のいつもの自動人形と同じに思えるが、彼女には生きた人間の様な精神を感じられた。

 酷く感覚的な表現だが、この場の面々は確かにそう感じている。

 そんな少女が完全に感情を消した無表情で、誰に向けるでもなくただただ圧倒的な存在感を放ちながらこの場に参加者として座っている。

 護衛やオブザーバーとしてではなく、だ。

 席の配置はレムリア女王ことひびき玲子とA.I.M.社長兼代表取締の間なので、そのどちらかの関係者である事が類推できる。

 

 (となると、噂の表に出て来ないA.I.M.の会長さんかな?)

 

 メギボスはこの少女の形をしたモノの正体を知るべく、考えを巡らす。

 勿論マジンガーZEROという因果律兵器を搭載した暴走状態の無人機も大問題だが、この少女の形をしたモノもそれと匹敵する位の危険度があると彼の戦士としての直感が叫んでいた。

 

 「すまない、遅れてしまった様だな。」

 「いえ、予定時刻の3分前ですので遅刻ではありませんよ、レビル首相。」

 「いや、この状況で皆さんを待たせてしまったのなら、それは遅刻だよ。」

 

 地球連邦軍の実質的総大将に当たるゴップ大将。

 共和連合枢密院特使たるメキボス・ボルクェーデとその護衛の三将軍。

 A.I.M.社長たる五代目武蔵。

 今回初見の太陽系防衛用無人兵器部隊総司令艦のプトレマイオス

 ムー帝国今代女王レムリア。

 今回の議題の重要参考人にしてマジンガーZとZEROの産みの親たる兜十蔵博士(on車椅子)。

 そして、最後の一人である地球連邦政府代表のレビル首相。

 実質的な太陽系の指導者ら+1が直接顔を合わせる形での会合はこうして始まった。

 

 「今回は御集り頂きありがとうございます。司会進行は私、太陽系防衛用無人兵器部隊副司令官のSfが務めさせて頂きます。」

 

 その役職にレビルや三将軍らは少々目を開いて驚きを表現するが、大事の前の小事として出かけた言葉を飲み込んだ。

 

 「今回、太陽系防衛用無人兵器部隊は地球の最終防衛ラインとして配置されていた恒星間航行大型戦略工作艦ドゥーベと1億機もの無人量産型OF隊とシズラー改一個小隊、最近ある程度数の揃った巨人族系兵器を改装した無人機動艦隊の全てが壊滅しました。失った戦力を補充するには五年はかかるだろう見込みです。」

 

 円状に配置された机の真ん中、会議室の中央に表示された立体映像には、地球近傍の宇宙で残骸と化した地球防衛用無人兵器部隊の地球防衛部隊の姿があった。

 その余りの惨状に誰もが顔を険しくし、十蔵は普段のファンキーぶりが鳴りを潜めて顔を青くしている。

 

 「これだけの大損害を出したのは、たった一機の特機です。」

 

 次に表示されたのは、全長20m程度のたった一機の人型特殊機動兵器の姿だった。

 

 「名をマジンガーZ。そこの車椅子に座る兜十蔵博士の開発した特機になります。」

 

 それは次の映像ではまるで地獄の悪鬼の様なデザインに変貌、その機体性能・観測される光子力エネルギー・機体サイズも急激に変化している事が横に表示されたパラメーターによって表示されている。

 それは文字通りの桁違いの数値だった。

 

 「この機体には多数の特殊機能が備えられており、どれも目を見張るものですが、中でも特に注目すべき機能が因果律兵器になります。」

 

 詳細資料は既に各自に渡されているため、既に各員に驚きは無いが、それでも改めてその異常性が浮き彫りにされた。

 

 「変異後の本機自身の名乗りからマジンガーZEROと呼称しますが、この機体に搭載された因果律兵器は太陽系においては試作第一号に当たりますが、極めて驚異的な性能と完成度を有します。」

 

 例えば、マジンガーZEROを破壊可能な兵器が存在するとしよう。

 この因果律兵器を用いれば、その兵器へ有効な対策を持った可能性をこの世界へと持って来て、ZEROにその可能性を適応、その兵器による攻撃を無力化するのである。

 これは防御面でも逆の事が言えて、マジンガーZEROの攻撃を防御可能な兵器が存在した場合、その防御を突破する可能性をこの世界へと持ってきて、その可能性を実現してしまう。

 持ってくる可能性が0%の場合は流石に不可能なのだが、ZEROの進化具合では今後その可能性を0から作り上げる可能性が高い。

 

 「それは、理論上対抗不可能なのではないかね?」

 「いえ、まだ希望はあります。」

 

 余りに突飛な話に、ゴップ大将は言った。

 

 「マジンガーZEROの観測可能な平行世界は、あくまでもマジンガーが存在する並行世界に限ります。」

 「つまり、奴の想定の上を行けば勝機はある、と?」

 「理論上は、と付きますが。」

 

 それは途方もない話だった。

 自分達が観測できない程に膨大な、星の数よりも遥かに多い無限の平行世界。

 その中のマジンガーの存在しない並行世界から、マジンガーを打倒し得る可能性を掴み取る。

 

 「雲を掴み取る方が現実的にすら思える話ですね…。」

 

 厳しい表情を崩さないレムリア女王の言葉が、この場の面々の正直な感想を現していた。

 

 「ですが、対策はあります。ここからは十蔵博士にお願いします。」

 「ちょっと待った。何でこの場に事の張本人であるソイツがいるんだ?」

 

 メギボスが待ってましたとばかりに口を挟んでくる。

 が、これは地球連邦と共和連合の条約と外交関係上必要な事であるので、半ば以上やらせ感のあるものだったりする。

 

 「その爺がやらかしたせいでこっちは随分と気を揉む事になった。しかも、因果律兵器は両国の条約にて全面的に禁止されている。」

 「では、何をご要望なさいますか?」

 「その爺の身柄引き渡しと因果律兵器に関する各種資料の引き渡しだ。後、残った開発中のマジンガーとそのパイロットもな。」

 

 それは要するに、今回の一件の原因となったものを全て寄越せ、こちらで管理してやる、という事だった。

 

 実に上から目線というか、米帝チックな言い様だが、そうすると問題がある。

 

 「それは構いませんが、よろしいのですか?」

 「ほう?」

 「次にあのZEROが来襲した時、そちらにも確実に向かう事となります。」

 「根拠は?」

 

 Sfの発言に、メキボスは問い返す。

 

 「ZEROの目的はパイロットである兜甲児の守護、そしてあらゆる敵を打ち破る事での自己が最強にして唯一無二のスーパーロボットである事の証明です。これには勿論、この銀河に住む軍事力を持ったあらゆる存在が標的となりますが、パイロットである兜甲児並び対策を講じる事の出来るマジンガーの開発関係者を確保する事は、ZEROの最優先標的となる事を意味します。」

 「…続けてくれ。」

 「加えて、各勢力はあの戦闘を観測しました。インベーダーや宇宙怪獣、アインスト等の非人類勢力ですら一時撤退を決意する程の戦闘能力を持った存在がいる事を知ったのです。」

 「二度と現れないように、根を絶とうってか?」

 「その通り。ZEROは今この宇宙にはいません。しかし、二体目のZEROが誕生する可能性を彼らは知らないが故に否定できません。遮二無二この地球に、違うとなれば共和連合に襲い掛かってくるでしょう。自分達の種の存続を掛けて。」

 

 それは共和連合が最も恐れるパターンだった。

 何とか旧敵の星間国家同士で連合を組み、血と汗と涙を絞り尽くして辛うじて外敵へ対抗しているのが彼らの現状なのだ。

 それを根本から破壊し、滅亡を招くような事態は絶対に避けねばならない事態だった。

 

 「次のマジンガーを建造して、そいつがZEROに成らない根拠はあるのか?」

 「もし成るというのなら、既に成っている筈です。」

 

 映像が切り替わる。

 そこには格納庫に設置された次なるマジンガー、即ちグレートマジンガーの姿があった。

 

 「こちら、次なるマジンガーとして開発されたグレートマジンガーとなります。既に開発自体は完了し、ソフト面の調整とパイロットの慣熟訓練が完了すれば出撃可能なまでになっています。先の事件が起こる前に既にこの状態でした。」

 「成程、成ってるならもう成ってる筈か。」

 「加えて、ZEROは自分こそが唯一無二のスーパーロボットであると自称しています。自分以外のスーパーロボット、もっと言えばグレートマジンガー等決して認めようとしないでしょう。」

 

 ZEROはあくまで個人に過ぎず、自分という存在に対して強烈な自負、プライドを持っている。

 それが故にZEROは決して他者と交わる事はない。

 自分の行く道に他者が相乗りする程度は容認するかもしれないが、それだけである。

 普通、そんな個体など圧倒的物量と多数の連携や戦略・戦術に潰されるのがオチなのだが、生憎とZEROは神にも等しい存在へ進化し得る個人だった。

 それがこの事態をややこしくしているのだが…。

 

 「懸念は分かった。しかし、それならそれでうちがマジンガーの技術と自前の技術で対抗策を生み出すとは思わないのか?」

 「そうおっしゃっている時点で、メキボス様の目的は別にあると判断します。」

 「確かに枢密院としては今回の一件は再発防止とZEROを確実に仕留めるための対策をしたいが、同時にリスクは可能な限り避けたいと思っている。こっちで対抗策を研究して、そのデータを全部くれるんならこっちでやってくれて構わん。」

 「連邦政府としてはその方針であれば否応はありません、メキボス特使。」

 「同じく、秘密条約であったとは言え、そこまで配慮して下さるのなら、私共も賛成です。」

 「太陽系防衛用無人機動部隊はその提案に賛成します。」

 「それじゃ地球で対策を研究して、情報は全部こっちにも回してくれ。一応、こっちからも人員が出せないか本国に聞いてみる。」

 

 トレミィが静かに太陽系防衛用無人機動部隊の長として発言すると場が僅かに揺れたが、それ以外は特に反対もなく、大体の方針は纏まった。

 

 「さて、兜十蔵博士。」

 「何じゃ…。」

 

 車椅子の上から年齢通りの、否、それ以上の弱弱しさで十蔵博士は返答した。

 

 「この通り、我々はマジンガーZERO対策における方針が一致しました。これより対策プロジェクトを発足し、厳重な監視付きでありますが貴方にはそこで働いて頂きます。現状、マジンガーZEROを最も知っているのは貴方ですので。」

 「儂を責めんのか…?」

 「その権利を行使する意思を当機は持っておりません。」

 

 そこまで言って、初めてSfは視線をトレミィに向けた。

 

 「こちらは太陽系防衛用無人機動部隊総旗艦プトレマイオスの対人コミュニケーション用端末、通称トレミィと申します。お見知りおきを。」

 

 すっと、スカートの端を摘まんで淑女らしい礼をする。

 普段の彼女を知る者達からすれば失笑ものだが、初見の面々が多いこの場においては十分意味がある。

 

 「我々としましては、次にZEROが来襲した場合、我々は奮戦空しくほぼ間違いなく全滅するだろうシミュレーター結果を得ております。我々だけで太陽系防衛ラインを維持する現状のままでは確実に対抗不可能です。そのため、地球連邦政府ならび共和連合枢密院に致しましては共同でZERO対策をして頂きたくこうして参加させて頂きました。」

 「トレミィ君、君の立場は分かった。A.I.M.を通じて以前から地球人類を支援してくれている事にも感謝している。それで、具体的に君達は我々に何をしてほしいのかね?」

 「地球・共和連合・太陽系防衛用無人機動部隊合同のZEROを始めとした超強力な敵対存在への対抗手段の開発です。」

 

 それは確かにZEROの様な異常な存在を知っていれば必要だと分かる。

 だが、それをこうして提案するという事はZERO以外にもZEROに匹敵する存在がいるという事をトレミィ達が知っている事の証左に他ならなかった。

 

 「他にもいるのか、アレみたいなのが?」

 「それにつきましては、只今から解説を始めたいと思います。Sf、コードRED各種パターンについての解説を初めて頂戴。」

 「了解です。」

 

 この日以来、地球連邦と共和連合はトレミィ達と同じ悩み、即ちこの銀河を単体で滅亡させる様な異常存在への対策のために一連の戦乱が終結するまで奔走し続ける事になるのだった。

 なお、走るのを止めると滅亡するので止まりたくても止まれなかった。

 

 

 ……………

 

 

 「突然の我ら全員の招集、どういう事だ孔明?」

 「BF団の軍師たる貴殿と言えど、今回は説明を求めるぞ。」

 「えぇ勿論。さて皆様に今回集まって頂いたのは他でもありません。我がBF団が行っているGR計画、その真の目的について今日は語るつもりで皆様に集まって頂いたのです。」

 「………。」

 「そして我らが主ビッグファイア様の目覚めが近づいている事を、この場にて発表させて頂きます。」

 「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」

 「さて皆様、お手元に飲み物は行き渡りましたね?それでは話を始めさせて頂きます。」

 

 

 ……………

 

 

 『く、くくくくく…!もう直ぐだ、もう直ぐワシの新たな身体が、神が如き新たな身体が手に入る!』

 「もう間も無くですな、闇の帝王様。」

 『長い、余りにも長い時を待った…だと言うのに準備がさっぱり終わらんからワシは終始締め切り前の漫画家が如く仕事に追い詰められてきた…。』

 「は、はぁ…?」

 『しかし、それも後僅か!暗黒大将軍よ、我がミケーネ帝国の戦闘獣らの準備をするのだ。我らの存在を天下に知らしめる最初の戦場は宇宙となろう。手抜かりは許さぬぞ。』

 「は!我が身命に代えてでも、必ずや帝王様の悲願を叶えましょうぞ!』

 

 

 ……………

 

 

 「むぅ……。」

 「如何致しましょうか?」

 「地球侵攻はゼ・バルマリィ帝国も一時停止している様ですが…。」

 「いや、是が非でも進まねばなるまい。」

 「何と!?」

 「た、確かに御身の御力なら可能でしょうが…。」

 「あの魔神の力、我ら以外の勢力へ渡れば如何に我とて危ういものがある。ここで地球を滅ぼさねば、我らが滅ぼされよう。」

 「そ、それでは…。」

 「行くぞ、地球へ。戦力の再編を急ぐのだ。次は私も出る。」

 「「は、ははー!」」

 

 

 ……………

 

 

 「これはまた……予想外の事態だね。」

 『…………。』

 『…………。』

 「よしてくれよ。この状態で火遊びなんて、僕だってしないさ。我らが神の覚醒も近い。その前に多少の間引きと選定は済ませておくってだけでね。」

 『…………。』

 「分かっているよ。僕も敵を増やしたい訳じゃない。だけど、それをするのはあくまで現在の人類だって事を忘れないでくれよ?今の僕はまだまだ裏方なんだしね。応龍の傷だって癒えていないんだから。」

 『…………。』

 「しかし、あんな魔神を作るなんて、この時代の人類は凄いね。これはウカウカしてられないか。」

 

 

 ……………

 

 

 「これは…素晴らしい。何としても手に入れねばならん。」

 『しかし、現状では余りに危険では?』

 「だからこそだ。他の勢力に、我らと敵対している共和連合共と地球は協力関係にある。今更のこのこと行った所でお零れすら貰えまい。」

 『………。』

 「加えて、我らは既にあの星にセプタギンを埋め込んでいる。敵としか見られぬだろう。ならば、するべき事は一つしかない。」

 『…了解しました。命令を遂行します。』

 

 

 

 




どうやら隠れた勢力&地球目指してた勢力が軒並みアップを始めた様です。
これも全てマジンガーって奴の仕業なんだ!(ガチ)

次回は具体的な全体の動きを解説します。


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第19話 束の間

 新西暦186年7月末 

 

 この時期、太陽系は一時的に数多くの侵略者達の行動が全面的に止まるという珍事が起きていた。

 しかし、その原因を知った地球人類は一様にその顔を引き攣らせ、頭を抱える事となる。

 

 マジンガーZ暴走事件。

 通称、魔神覚醒事件。

 

 地球を守るスーパーロボット、その最初期から戦い続けている一角たるマジンガーZ。

 それに搭載された人工知能がパイロットの意思を無視して暴走を開始、あらゆるリミッターを解除して暴走を開始した。

 戦闘の結果、百鬼帝国と恐竜帝国、Dr.ヘル一派は壊滅し、妖魔帝国も現在確認されていた稼働戦力は完全に消滅した。

 しかしその後、味方である筈の他のスーパーロボットにすら襲い掛かったマジンガーZに搭載されたAI、通称ZEROは太陽系防衛用無人機動部隊の内の地球防衛用直掩部隊の重力場レールガンによって宇宙へと射出され、待ち構えていた無人機動艦隊との交戦に突入した。

 その結果は悲惨なもので、この戦闘に参加した無人機動艦隊並び機動兵器、そして旗艦である14km級の巨大空母(艦載機運用能力はあるので嘘ではない)が丸々消滅し、ZEROは辛うじて遠い宇宙の彼方へと放逐された。

 ここまでが今回の魔神覚醒事件の公式見解である。

 

 さて、当然ながら太陽系は揉めに揉めた。

 何せ自分達を守る筈のスーパーロボットが暴走し、剰え長く太陽系を守ってくれている無人機動兵器部隊に壊滅的打撃を与えたのだ。

 マジンガーZ、その開発と運用に携わる兜一族には非難が殺到し、一時はマジンガーZに関する技術情報全ての廃棄すら叫ばれた程だった。

 しかし、当の太陽系防衛用無人機動部隊からの声明が発表されるに至り、その勢いは大きく減衰した。

 

 『地球人類の開発した単一の機動兵器がここまでの戦闘能力を発揮した。これは先史時代から地球人類を庇護し、その発展を見守ってきた我々にとっては大きな成果と言えます。今後も地球人類並びその友邦の方々には一層の繁栄と技術発展に万進して頂けますようお手伝いさせて頂きます。』

 

 ものは言い様である。

 この声明発表の直後、地球連邦政府並び共和連合、A.I.M.に開発元の光子力研究所(十蔵博士含む)によって単体で恒星間文明を壊滅可能な脅威に関する対策プロジェクトが発足され、以降のマジンガーシリーズの機体はこのプロジェクトの成果物として登録される事、両国の厳重な共同管理の下で運用される事を条件に量産が決定されるのだった。

 勿論、この一件に反発する声も上がったのだが、これに関して連邦政府はこう返答している。

 

 「銀河の辺境も辺境の我々ですら、あそこまでの兵器を開発出来たのです。では、この銀河に存在する大勢力は一体どれ程の技術力を、戦力を有しているのか?そんな者達を相手に、地球連邦軍は確実に勝てるのか?それが断言できない以上、我々はリスクを飲み込んで進み続けるしか無いのです。幸いにも、我々には既に共和連合という心強い友人がいるのです。彼らの知恵と力を借りて、身を守るための力を得ていくしかないのです。」

 

 これによって、魔神覚醒事件におけるマジンガーZ並び兜一族へのバッシングは表向き沈静化した。

 無論、これには人工衛星や一部のパトロール部隊を除けば被害らしい被害が発生しておらず、更には遺族や何らかの被害を受けた団体や個人には念入りに謝罪かつ慰謝料をばら撒いたお陰でもあるのだが。

 こういう時、大企業というのは便利だった。

 社会的信頼度が高く、こういった緊急時のマニュアルと専門家に不足しないで済むからだ。

 

 「とは言え、感情的納得が出来る者ばかりではありません。敵も味方も。」

 

 兜一族は今後、自らの血と汗と涙の全てを以て贖い続けなければならない。

 それは無論、1億人以上の娘達を殺されたトレミィに対してもである。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年 地球 極東方面 光子力研究所地下

 

 

 『私は貴方を恨みます、兜十蔵博士。』

 

 『例え貴方がZEROを完成させてしまった時点で、因果律兵器の効果で自由意志を事実上剥奪されてしまっていたとしても、貴方さえ余計な事をしなければ私の娘達は死なずに済んだし、死んだとしても蘇生可能だったから。』

 

 『でも貴方の頭脳とマジンガー、そして貴方の子と孫は人類の発展に必要不可欠なピースです。だから今は殺さない。』

 

 『でも次に同じ事があれば、今度は貴方も、貴方の大事な息子と孫も私の娘達の後を追わせます。』

 

 『精々死ぬまで、血の一滴残らず人類のために使い切りなさい。』

 

 

 「分かっておるんじゃよ、そんな事は…。」

 

 兜十蔵は再建予定の光子力研究所地下にて、項垂れながら呟いた。

 その胸中には先程現れ、言いたい事だけ言って去っていった少女の姿をした機械達の長、否、母の言葉が渦巻いていた。

 彼は自他共に認める天才だった。

 同年代の多くの天才科学者らの中でも群を抜き、年上のこっちを餓鬼扱いする早乙女の糞爺位しか太陽系に匹敵する者はいないだろう程の天才だった。

 その優秀さはマジンガーZ、そしてZEROの存在が物語っている。

 しかし、そんな十蔵ではなく、世間の目の多くは一人の天才科学者へと向けられ続けていた。

 

 早乙女賢博士。

 彼こそはA.I.M.から莫大な支援を得て、それを上回るだけの成果を100になっても出し続けている世紀の大天才だった。

 

 才能を持ちながらも評価が一段落ちる扱いをされ続けた事に、十蔵はプライドを肥大化させながら、何時しか早乙女博士をライバル視、否、敵視するに至った。

 そこには彼の古くからのスポンサーであるA.I.M.にも不信の目を向ける様になった。

 自分の方にも後からスポンサーとして来たが、そんな彼女らに対して十蔵は「何故もっと早くから来ないんじゃ!そんなに早乙女の方が良いのか!」と天才だが科学者らしい鬱屈としたプライドでそんな事を思っていた。

 そして、早乙女博士が早々にプロトゲッターロボを開発・ロールアウトすると、十蔵は早乙女博士を超えるべく以前より構想していた光子力エネルギーを用いたロボット兵器、即ちマジンガーZの開発に着手した。

 出来上がったロボットは何体かの試作を経て、素晴らしい作品として出来上がった。

 また、早乙女博士のゲッターロボよりも量産が可能で、出力も大きく超えている。

 

 「よし、これで早乙女の爺に勝った!」

 

 十蔵はそう言って喜んだ。

 しかし、早乙女がほぼ同時期に出した完成版のゲッターロボは三人乗りだが三段分離合体変形をするという驚きの機能を有し、極めて高い汎用性を持っていたのだ。

 加えて、既に新型機の開発を進めているという。

 これに十蔵の鼻っ柱は圧し折られた。

 しかし十蔵はめげずに決意した、必ずやゲッターロボを粉砕し得るマジンガーを開発すると。

 更に、この頃の少し前に発表された外宇宙からの侵略者、そして太陽系を守る先史時代の無人兵器に対しても、十蔵は敵意を向けた。

 十蔵は一地球人として地球を、家族を愛していた。

 それを害する侵略者は憎んでいるし、先史時代から太陽系を守ってくれている無人兵器に対しては頭の下がる思いだったが、同時にそんな戦力が一個人の思惑で動く事にシビリアンコントロールの点から見ると極めて危険かつ一科学者として「そんな何万年も前の機械が問題なく稼働し続けられる訳がない」と不信感を抱いていた。

 そのため、新たなゲッターロボを超え、外宇宙からの侵略者から地球を守り、何時敵対か暴走するとも分からない太陽系防衛用無人機動部隊を駆逐するためのスーパーロボットを開発しようとした。

 

 「そうじゃ!こいつに甲児を乗せて、もしもの時の自動操縦機能を付ければ甲児は何があっても安全じゃろ!ふはははは、ワシって頭良いー!」

 「さぁマジンガーZよ、否、ZEROよ!お前は甲児を守りながら、お前こそが唯一無二のスーパーロボットだと全世界に証明するんじゃ!」

 

 そうして研究を進めた結果、完成してしまったのが魔神パワーを備えたマジンガーZである。

 しかし、十蔵は完成してから気付いてしまった。

 

 「あれ、これってもしかしなくてヤバくね?」

 

 遅いんだよ馬鹿野郎(殴。

 我に返った十蔵は大慌てで何とか魔神パワーを制御するべくリミッターを施そうとした。

 しかし、何故か何度試しても上手く行かず、出来たのは魔神パワーを七段階に分ける事だけだった。

 今にして思えば、この時点から十蔵もまた因果律兵器の影響下にあったのだろう。

 事実、監視任務に当たっていた自動人形達すら、「ナンノモンダイモアリマセン」と報告していたのだ。

 げに恐ろしきは因果律兵器、マジンガーZEROである。

 道理で何度やっても無理だった訳だと今になって納得する。

 そのため、外付けの安全装置として因果律兵器の強制停止を行えるミネルバXの開発と同時、完全に暴走してしまったZEROを破壊してでも止めるためのマジンカイザーの開発に着手した。

 しかし、それらが完成する事は無かった。

 

 『ぐははははは、我が名はDr.ヘル!そしてこやつらは我が僕の機械獣軍団!さぁ全世界よ、ワシの前に平伏すが良い!』

 

 こいつに襲撃され、落ちてきた天井の下敷きになった十蔵博士は何とか孫の甲児を守るべくマジンガーZの中に避難するように告げて気絶した。

 一時は危うい所もあったが、それ以降十蔵は長い昏睡状態に陥った。

 そして、目を覚ました時はこの宇宙からZEROが消えた=因果律兵器の影響が消えた直後。

 即ち、マジンガーZEROの覚醒によって太陽系が大混乱に陥った時だった。

 病院のベッドの上、テレビから流れるニュース映像で大凡の事態を悟った十蔵は後悔で一杯だった。

 自分がつまらぬプライドを後生大事に抱えてきたが故に、自分は息子と孫や教え子、その関係者らの名誉と尊厳を著しく傷つけ、また、多くの人間の生命を危険に晒してしまった。

 後はもう、既に語られた通りである。

 

 「ワシはもうどうなってもよい。しかし必ず、必ずや我が息子と孫にまで掛かってしまった汚名は返上する…!太陽系を、人類をあらゆる脅威から守る本当のマジンガーを作り出す事でな!」

 

 今日この日、兜十蔵博士は改めて決意した。

 以降、彼は人が変わった様に鬼気迫る勢いで研究に万進する。

 また、散々敵視し続けた早乙女博士の研究するゲッター線が有用と判断するや否や自ら早乙女研究所にアポイントを取って赴き、菓子折り片手に懇切丁寧に挨拶した上で、早乙女博士に直接土下座をして以前からの所業を謝罪した上でこう言った。

 

 「ワシはどうなっても良い!だから頼む!早乙女博士、貴方の力を貸してくれ!」

 「…分かった。儂に出来る事であれば何でも言ってみるがいい。」

 

 こうして、以前の十蔵博士を知る者ならば驚愕して信じない様な事件を挟みつつ、地球連邦政府並び共和連合、A.I.M.(太陽系防衛用無人機動部隊)による単体で恒星間文明を壊滅可能な脅威に関する対策プロジェクト、通称「プロジェクト・ハルパー」は始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「え、マジンカイザーは廃棄じゃと!?」

 「この機体、全体としては装甲とフレーム回りだけですが、AI回りのデータが残っておらず、危険です。」

 「あー……確かにワシもちょっと覚えとらんわ。半年近く昏睡しとったし。」

 「おまけにDr.ヘルの襲撃でデータも残っていません。」

 「うむむ…下手に起動すればZEROの二の舞か…。」

 「しかも超合金ニューZα製なので解体するにしても凄まじい手間でして…。」

 「どうする予定なんじゃ?」

 「下手に動き出す前に太陽に投棄する予定です。一応、これでマジンガー回りの禊は済ませる予定となっております。」

 「勿体ないが、仕方ないのぅ…。」

 

 『………』 まじんかいざー が じっとみつめている!

 

 「では、くれぐれも宜しく頼むぞ。」

 「お任せください。」

 

 『……!…!』 まじんかいざー が なにかいいたがっている!

 

 

 



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第20話 束の間その2

感想板が予想通りの事になってるのを後目に最新話投稿!

一日二話投稿にならなかったのは流石に仕事ある日は無理だと悟ったからでした。


新西暦186年7月末 地球 極東方面 早乙女研究所

 

 

 「…………。」

 「賢ぢゃあああああああああああああああんんんんんっ!!!!!!」

 

 魔神覚醒事件から一週間、連邦政府の公式見解と今後の方針も決定・公開された後。

 異星人やら何やらが一時的に大人しくなった時、早乙女賢はここ10年で一番困っていた。

 と言うのも、この大婆様とか身内で密かに言われている見た目少女の200歳余裕でオーバーな巨大宇宙戦艦(元宇宙要塞)の管制統括AIの化身が突然現れたと思ったら身も蓋も無く泣き喚いて縋り付いてきていたからだ。

 

 「いい加減泣くのは止すんじゃ…。」

 「お婆ぢゃんっで言っでぐれないどやだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 実年齢100歳オーバーであり、嫁が亡くなってからは研究に専念して手入れする事なくボーボーと伸びた白髭と白髪をげんなりとしな垂れさせつつ、早乙女賢はガチで困っていた。

 しかもこの「年齢考えろよ」歳の見た目少女のお婆ちゃん、見た目だけは若い所か幼くて美人なため、事情を知らない人間が目撃してしまうとエライ事になるのだ。

 更に古参の自動人形らと共に自分の事を幾つになっても「賢ちゃん」呼びなため、威厳も何もかも蹴散らされ、数カ月は研究所職員らの恰好の話題となってしまうのも困りものだった。

 

 (いい加減、この歳でちゃん付けはキツイんじゃがのぅ…。)

 

 自分の事を妖怪呼ばわりする若造共に、本物の妖怪はここにいるぞと教えてやりたい。

 それ位には自分が物心付いた頃と現在まで、この見た目幼女のお婆ちゃんは変わっていない。

 まぁ人間じゃないのだから当然なのだが。

 

 「で、今回は何なんじゃ?」

 「私の娘達が一億人以上殺されちゃった…。」

 

 脂肪の付いた下腹部に縋り付いて未だぐすぐすとすすり泣くトレミィの頭を撫でながら、早乙女賢ちゃんはあぁ、と納得した。

 マジンガーZに搭載された人工知能、通称マジンガーZEROが暴走し、太陽系防衛用無人機動部隊の最終防衛ラインを担う地球直掩部隊が壊滅したのはつい先週の事だった。

 

 「対策はしておったのだろう?」

 「うん……でも、油断してた。足りなかったの。」

 

 ぽつぽつと小声で告げられる内容に、賢ちゃんは「いや、そりゃ仕方ないじゃろ」と素で思った。

 本当に7つの魔神パワーとそれを自在に操って暴れ回る超物騒なAIが搭載されているかを確認し次第、十蔵博士の記憶操作すら視野に入れてその機能を削除すべく、トレミィは旗下のナノマシン式自動人形らを十蔵博士の監視に当てていた。

 しかし、気付けばその辺りの思考ログがさっぱりと消去、或いは接続不能になっていた。

 つまり、人間で言う所の忘却状態になっていたのだ。

 余りにも不自然だが、これこそが因果律兵器の成せる業だった。

 総旗艦たるトレミィですらそうなのだから、旗下の他の自動人形らは更にはっきりと「その様な命令は受託しておりません」と解答した個体すらいたのだ。

 マジンガーZEROの因果律兵器の影響を脱した現在、トレミィらは侵略者らの動きが停止した事を好機として思考・行動ログの総点検を行い、そこまで行って漸く事態の全容を把握したのだ。

 

 「気付いた時にはもう遅かった。因果律兵器…舐めてた訳じゃないけど、あんなの反則過ぎ…。」

 「じゃろうの。今聞いたのだけでもどうしようもあるまい。」

 

 マジンガーZEROは自身を産まれて直ぐ、或いは完全に産まれる前に抹消せしめんとする脅威をその平行世界すら知覚する第四の魔人パワー「高次予測」によって察知していたのだ。

 であれば後は簡単、因果律兵器の力によって「脅威となる者達がZEROの事を一時的に認識できなくなる」因果を持って来れば良い。

 それだけでトレミィらの監視と警戒は無効化されてしまった。

 しかし、事前に構築されていたコードREDパターンZの戦略までは消されておらず、しっかりと機能してくれた。

 数にして優に1億以上、時間にして5年もの軍備と引き換えにして太陽系は、この銀河は滅びを回避する事に成功した。

 とは言え、一時的なものに過ぎないが。

 

 「あの子達の稼いでくれた時間、絶対無駄にしない…。」

 「今日はもう寝るのじゃ…。」

 

 頭を撫で、休む様に言い聞かせる。

 このお婆ちゃんにとっては人間の睡眠なんて意味は無いだろうが、小さい頃は他の自動人形らと交代で自分と一緒に横になって寝かしつけてくれたものだった。

 

 「うぅぅぅ……賢ぢゃんんんん…。」

 「一度落ち着けぃ。その上で、また頑張るのじゃ…。」

 

 一緒に部屋に備え付けのベッドに横になり、すっかり逆転してしまった体格差を活かしてトレミィの矮躯を包む様に抱き締めながら、賢ちゃんは眠りに就いた。

 そして、うっかり熟睡したせいで、トンデモナイ事になった。

 

 「そ、そんな…。」

 「ひいお爺ちゃんがまさか、そんな…。」

 

 翌日、珍しく起きて来ない賢ちゃんの様子を見に来た達人とミチルが見たものは、正に事案としか言いようがない光景だった。

 尊敬する曾祖父が腕の中に銀髪の幼女を抱き締めた状態で熟睡していたのである。

 しかも幼女の方は酷く泣いたと分かる程度には顔に涙の痕と目元の赤い腫れが残っており、それでいてその両手は縋る様に賢ちゃんの服を握り締めている。

 日々の研究による睡眠不足とナノマシン製幼女ボディのちょっと高めの体温が織り成す快適な睡眠が、この時ばかりは仇となってしまったのだった。

 この日から暫くの間、早乙女研究所内では若手の職員らを中心に「早乙女博士には幼女の愛人がいる」と言う噂で持ち切りになるのだった。

 なお、ベテラン職員らはとっくに真相を知っているので、毎度の恒例行事であるとして困っている早乙女博士と距離を置く曾孫二人の様子を笑いながら見守るだけだった。

 

 

 ……………

 

 

 「ただいまー。」

 「お帰りなさいませ。」

 

 そして賢ちゃんに丸々一晩癒されてきたトレミィは目覚めると別れの挨拶もそこそこに、来た時とは真逆にあっさりと帰還した。

 なお、若手職員らへの事情説明なんて端から無視である。

 

 「で、本当にマジンカイザーを太陽に投棄するのですか?」

 「んな訳ないじゃん。ブラフだよブラフ。」

 

 そして、あっさりとネタバレをした。

 現状、太陽系に存在するあらゆる勢力がマジンガーの情報を得ようと血眼になっている。

 そのため、厳重に守られた地球上ではなく、太陽系の最も内側ながらも特に戦力の配置されていない太陽とその近傍宙域であればチャンスはあると、きっとあらゆる勢力が一も二も無く押し寄せて来るだろう。

 とは言え、正面から行くには太陽系防衛ラインを全て突破する必要があるが、かなり損耗しているとは言えおいそれと破れるものではない。

 

 「故に、取れる戦術は精鋭部隊によるワープを用いた一撃離脱と接舷強襲。」

 「どの勢力もそれ狙いかと。」

 「それっぽくでっち上げたダミー(屑石なジャパニウム鉱石やマジンガーの壊れた部品が材料)に縮退炉を乗っけて、後は暴走させてしまえば…。」

 「低コストで敵精鋭を一網打尽ですか。どれだけ引っ掛かるのか見ものですね。相変わらず敵には容赦のない様で安心しました。」

 「一体何年稼働してると思ってるのさ?これ位の事で敵味方識別にバグなんか起こしたりしないよ。」

 

 こうして、完全に復調したトレミィ達により、偽マジンカイザーの太陽投棄作戦がスタートするのだった。

 

 「所で、本物のマジンカイザーは何処に?」

 「光子力研究所地下から動かしてないよ。ミネルバXの搭載してる試作型の因果律流入阻害力場発生装置を使用しながら、一度完全にバラシてAI回りを念入りに調べてから本格的に対ZERO用マジンガーとして開発していく予定。」

 「それは十蔵博士は…。」

 「ダミーが出発するまでは内緒ー。」

 

 あくまで十蔵には塩スタイルなトレミィだった。

 

 

 ……………

 

 

 しかし、これは地球外の侵略者からは効果覿面だったが、地球内部に潜み、トレミィらの索敵・警戒網すら潜り抜ける正真正銘の化け物集団相手には余りに隙だらけと言う他なかった。

 

 「ふむ、やはり囮でしたか。」

 

 BF団が十傑集にして軍師、諸葛孔明にはこの程度の策、丸っとお見通しだった。

 

 「では仕掛けるのか?」

 「いえ、今はまだ期ではありません。それにデータさえ頂ければ時間はかかりますがより完全な物に出来ます。」

 「ふん、誰かに火中の栗を拾わせるのか?」

 「えぇえぇ、是非とも拾って頂きたい方々がおりまして…。」

 

 にこりと口元だけ微笑んで、相変わらずの油断ならなさで孔明は次の策を十傑集へと説明するのだった。

 

 

 ……………

 

 

 魔法や超能力、霊能力なんかに耐性の低いトレミィらにとって、霊体だけとなってあちらこちらに分身・分霊を派遣可能なバラオはある意味で天敵だった。

 無論、正面からの戦闘ならどうとでもなるのだが、センサーやレーダー、カメラに映らないものには滅法弱いのが彼女らだった。

 

 『ふん、人形共めが小癪な真似を。』

 「如何いたしましょうか?」

 『そちらは放っておけ。先ずはライディーン、そしてムートロンだ。』

 「は、畏まりました。」

 

 バラオは思考していた。

 このままでは嘗ての先史時代が如く、何も得られぬままにドローとなる可能性が高いのではないか、と。

 

 (大いにあり得るな。)

 

 あの人形共。

 あれらのせいで随分と人類が強化され、妖魔帝国と言えど軍と軍の戦いとしては圧倒的に不利な状況だった。

 

 (まぁ良い。今はまだこの器でやれるだけやらねばな。)

 

 バラオとは、自らを妖魔へと変じる程の悪意や敵意、憎悪や欲望を抱いた者の成れの果てであり、元は人間である。

 ワーバラオと言う負の無限力の端末の一つから芽を植え付けられ、周囲の恐怖や憎悪、怒りや絶望、悲嘆といった負の感情を糧として育ち、遂にはバラオに成る。

 こうなったバラオは物理的な攻撃が殆ど無効化され、超能力や霊能力、魔法等での攻撃やそれらで構築された兵器による攻撃しか有効打を与えられない。

 それにしても余程の高出力でない限りは焼石に水となる。

 そんな成り立ちの生命体だからこそ、バラオは戦況が中盤戦に入った事を確信していた。

 

 (大凡の勢力の情報は出揃った。後はここから如何に敵を減らしていくかだが…。)

 

 バラオもまた、次の最善手を考えて思考を深めていった。

 

 

 ……………

 

 

 一方、その頃の科学要塞研究所ではある問題が噴出し、責任者である兜剣造と弓絃之助は頭を悩ませていた。

 

 「で、まだ甲児は出て来ないのか?」

 「残念ですが…。」

 

 兜甲児。

 救出後、意識が戻るまで徹底的に検査を繰り返された結果、甲児は多少の消耗があるものの、健康的な男子であるとA.I.M.医療部門からのお墨付きを貰う事が出来、無事に退院した。

 しかし、未だにその心の傷は完全に治ってはいなかった。

 

 「事情は説明したのだろう?」

 「はい。それでも『お爺ちゃんのマジンガーZを悪魔にしちまったのはオレが弱かったからだ』って言って…。」

 「室内で出来るトレーニングを一人で限界まで、か…。」

 

 念のため設置された監視カメラには、甲児の部屋内での生活が映し出されている。

 食事と睡眠、排泄を除けば、徹底的に己の身体を苛め抜き、動けなくなれば這いずって軍事や科学の専門書籍を読み漁り、限界に達すると気絶するように眠る。

 ここ暫くの間、甲児はそんな日々を繰り返していた。

 

 「こうなれば止むを得ません。」

 「よ、よろしいのですか弓教授?」

 「はい。さやかは寧ろバッチ来いと言った様子ですので…。」

 「あー止めても自分から行きますか?」

 「育て方を間違えたのか正しかったのか…決断力は人一倍になりました。」

 

 男がこうまで追い込まれてしまったのなら、解決策は随分少ない。

 一つは時間を掛けて問題を解決し、ゆっくり心を癒していく方法。

 二つ目は取り敢えず酒や女の力を借りて、態と泣かせたり、怒らせたりしてストレスを発散させ、心機一転させる方法。

 三つ目はその問題に関する事全部を忘れさせちゃうという、医学的難易度は高いが、それでいて一番意味のない方法である。

 

 「さやか、聞こえているかい?甲児君に関してだが、今許可を貰った。監視カメラやマイクは電源を切っておくから、後はお前の好きにしなさい。」

 『はい、ありがとうございますお父さん!』

 「でも避妊だけはしっかり行ってくれ。君達はまだ若過ぎる。事前に薬を服用しておいた方が良いぞ。」

 『もう飲みました!では行って参ります!』

 「あぁ、うん……気を付けて行くんだよ。」

 『はい!』

 

 こうして、洸の婚約者となったマリの助言を元に準備をしたさやか(勝負下着等完備)は意気揚々と甲児の部屋の合鍵を片手に突撃するのだった。

 

 「複雑ですな、これが花嫁の父という奴でしょうか…。」

 「そういった繊細なものとは違うと思いますよ、これは…。」

 

 その後、甲児とさやかは順調に清い身体を捨て、立ち直った。 

 二人の関係は父親達からの勧めもあって正式に婚約者となり、以降二人はオシドリカップルの一角として過ごしていく事となる。

 なお、これをどっから聞き付けたのか、兜十蔵博士がお赤飯を山と持ち込んで「祝いじゃ祝いじゃ!」と騒ぎまくった。

 これには弟子と息子の二人組すら流石に激怒し、十蔵博士をとっ捕まえた後に護衛の自動人形らに速やかに引き渡したという。

 

 



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第21話 束の間その3

 新西暦186年7月末 地球

 

 現在、地球においては戦力の再編が進んでいた。

 何せ先の魔神覚醒事件により、太陽系外郭の防衛ラインが冥王星まで狭まり、異星人を始めとした外宇宙からの侵略者の脅威が以前よりも間近に迫ったためであった。

 土星開拓兼防衛基地に木星駐留艦隊並び衛星に設置された各基地、そして火星駐留艦隊並び本星と衛星の各基地。

 これに加えて木星・土星航路上の小惑星基地等が存在し、外側になればなる程に戦力が優先的に配置されている。

 特に土星基地に至っては既に完成した改良型コロニーレーザー(大型艦艇用縮退炉を無数に連結)と光子魚雷搭載のるくしおん級、光子砲弾を使用可能な亜光速レールガンを持つデストロイドモンスター、防空・拠点防衛に特化したジガン系特機等、地球ではまだまだ揃っていない戦力が亜光速戦闘仕様に改修された上で豊富に揃えられていた。

 もしここに攻めて来たのが単体の勢力によるものならば、一部の単体戦力を除けば例え宇宙怪獣であろうとも唯では済まないだろう。

 そしてA.I.M.の庭となっている火星・木星は地球連邦駐留軍の他にも無数の無人兵器と高性能の有人兵器が配備されており、それらは火星支部長パプテマス・シロッコと木星支部長ゲイザー・ニブハイ(Gazer ・NibHi。ギレン・ザビのアナグラム)らの指揮下で運用される。

 これは「無人機ではどう足掻いても思考ルーチンに限界がある」としてトレミィらが信頼する両者へと任せられた結果だった。

 事実、技術者・パイロット・指揮官としても非凡な才覚を持つシロッコに、一年戦争では危うく連邦軍を敗退させかけたギレンの両者の指揮は卓越しており、旗下の自動人形らもその采配に納得している。

 こんな感じで、太陽系外周は未だ盤石の守りを誇っていた。

 問題なのは内部、特に地球圏だった。

 

 「マジンガーZの暴走はもう済んだ事として…他の機体は大丈夫なのか?」

 「何だよ超電磁って…。」

 「そうか…ゲッターとは…ゲッター線とは…!」

 「野生の力をエネルギーに変換する野獣回路とは一体…?」

 「おいこれ本当に暴走しないんだろうな!?」

 

 こんな感じで特機の安全性への疑問が噴き出したのだ。

 加えて、先の一戦において参加したどの特機も機体がガタガタになっており、一度専用の拠点へと戻ってのオーバーホール並び調査が決定された。

 

 「寧ろこれは好都合だ。」

 「うむ。限界に近かった我々のスーパーロボットのオーバーホールだけでなく改修も出来る。」

 「パイロット達もよくやってくれたが一部を除いて疲労が限界だ。少しの間だが骨休めしてもらおう。」 

 

 こうして、一部の機体はパワーアップし、パイロット達は一時的にだが休暇を謳歌し、未だ学生の多い超電磁チームは一時的だが復学する事も出来た(そして山脈状態の課題で死んだ)。

 加えて、太陽系外周部が侵略者の手に落ちた事で新たに民間・軍からのスーパーロボット、そして今まで地球圏に密かに亡命して静かに暮していた異星人の人々と彼らの持つスーパーロボットが立ち上がってくれた。

 

 ガードダイモビック所属の闘将ダイモス。

 滅亡したフリード星の守り神グレンダイザー。

 テスラライヒ研究所のグルンガスト弐式。

 地球連邦軍所属となったゴッドマーズ。

 そして、特務機関NERV所属のエヴァンゲリオンシリーズ。

  

 どれも本来ならまだ、或いはこの世界線では永遠に表舞台に出て来る事のなかった機体だ。

 しかし、あの魔神覚醒によって裏死海文書の信憑性が大きく減少し、異星人からの侵略が激化してしまった現在、どの組織・勢力・個人も生き残りに必死となった結果、表舞台に出て行かざるを得なかったのだ。

 ガードダイモビックは本来なら新宇宙資源ダイモライトの採掘・研究・利用のための研究機関だった。

 グレンダイザーは滅んでしまったフリード星の王子たるデューク(現在は宇門大介)の私物であり、宇宙科学研究所の所属となっている。

 テスラライヒ研究所は言うまでもなく、連邦内部で進んでいる特脳研の生き残りを中心として構成されるSRXチームと連携予定の民間からスカウトした念動力適性の高いパイロットを乗せて運用する予定だ。

 既にSRXチームも本格的に稼働開始しており、各地でムゲの軍勢とも戦闘していたが、今後はスーパーロボット軍団と合流、母艦であるハガネと共に極東方面へ向かう予定だ。

 そしてゴッドマーズだが…ややこしい経緯を持っている。

 地球連邦地上軍所属だった明神タケルは密かに潜入していたズール銀河帝国の秘密工作員によって暗殺されかけたのを、何処からともなく転移してきたガイヤーにより守られてそのまま搭乗して戦闘を開始、そのガイヤーの勝てない大型の敵エスパーロボが出現すると六神ロボが現れて合体、ゴッドマーズとなって敵を撃退した。

 以降、タケルがテレパシーで会話した内容を元に本人の身体と機体を改めて調査した上で、連邦軍に編入される事となった。

 しかし、それまでに多数の問題があった。

 

 「反陽子エンジン…?」

 「パイロットが死亡、或いは撃破と同時に起爆だと…!?」

 「おいこれどうすんだ?」

 

 そう、ガイヤーに搭載された自爆機能である。

 遠隔起爆装置も発見されたが、そちらは予め破壊された形跡があり、この機体の開発に携わった人物=タケルの実父のイデアの良心の呵責が見て取れた。

 

 「では我々にお任せを。」

 

 そして安心と驚愕をお届けするA.I.M.技術陣の手によって反陽子エンジンは徹底的に解析された後、パイロットと指揮官他の多重認証をクリアせねば自爆不可能、機体の破壊・パイロットの死亡が確認された際には位相空間へと転移する様に諸々の安全措置が取られた。

 何故こうまでしてでも戦力化に拘るかと言うと、明神タケルの持つ念動力が極めて高く、ゴッドマーズは反陽子エネルギーの他、タケルの念動力を受けて稼働する事で極めて高い性能を発揮するからだ。

 その性能たるやライディーンにも匹敵し、装甲とパワーに関しては上回ってすらいた。

 無論、機動性や運動性等は可変機構を持つライディーンが上回るのだが、機体サイズと重量、パワーの問題で近接戦闘ならばゴッドボイスを出さぬ限りは勝てないだろうと考えられている。

 また、タケル自身も未だ完全覚醒こそしていないものの、将来的には洸と同様にレムリア女王を超える試算結果が出たため、連邦政府としては是が非でもタケルを管理下に置く必要があったのだ。

 

 「良い?絶対に自爆なんて出来ないようにしなさい。」

 「畏まりました。」

 

 何せゴットマーズ原作はアニメは兎も角OVAや漫画版では自爆、或いは人類文明崩壊エンドである。

 その原因となるゴットマーズをトレミィが警戒するのは無理もなかった。

 しかし、手放すには余りに高性能であり、ズール皇帝への切り札にもなる事から、こうしてガチガチに対策を固めて運用していく事となるのだった。

 

 「予定より少々早いが構うまい。」

 

 更に此処に来て裏死海文書の情報の正確性が高い内に人類補完計画を進めていくべきだと判断したゼーレもまた、行動を予定よりも早めた。

 一応、トレミィらの行動は旧西暦までは歴史改変するようなものはなく、裏死海文書の大筋の内容が真実であったにも関わらず、昨今の情勢に関しては多くの差異が発生し、魔神覚醒事件に至っては記述されていない事がゼーレの焦りを加速してしまった。

 

 「セカンドインパクトと同様、以前より兆候はあったが…。」

 「本当に裏死海文書通りに進むのか?」

 「否、このままでは人類補完計画そのものの再検討も必要…。」

 「これまでどれだけの金と時間を費やしたと思っている!?今更中止など…!」

 「…最早、進むしかあるまい。人類の、銀河の滅びは直ぐそこまで迫っておるのは事実なのだから…。」

 

 場合によっては今直ぐにでも使徒が活動を開始し、サードインパクトが発生する可能性すらあった事も、この事態の原因だった。

 トレミィ辺りが聞いたら「そこで落ち着いてブレーキかけてくれよ…(絶望)」とか思うだろうが、この世界の秘密組織とか黒幕やってる連中は大体そんな感じなので仕方ない、諦めよう(死んだ目)。

 幸いにして何とかエヴァは零号機(黄色のテスト装備)・初号機・弐号機までは完成し、装備類は特機向けの汎用装備を若干手直ししたものを採用する事で完成を早める事に成功した。

 なお、参号機以降のシリーズは資金並び時間が不足している事からペーパープランで終わるか、胴体のみの仮設状態で試験・運用される事が決定した。

 しかし、彼らの行動は結果的に言えば、功を奏したと言える。

 新西暦186年8月、地球圏にて沈黙の一か月間を最初に破ったのは、彼らゼーレの警戒していた使徒による第二新東京市への侵攻だったのだから。

 

 新西暦186年8月、選ばれた運命の子供達、その三人目が正史とは異なる歴史を辿りつつある世界にて、第二新東京市へとやってくる事となった。

 

 

 ……………

 

 

 その少し前、太陽系外周部においても動きが始まっていた。

 

 『ズール銀河帝国艦隊に動きあり。推定巡航速度にて雷王星宙域に侵入。』

 『了解。ハラスメント作戦開始。各無人戦闘機は所定プログラムを改めて確認後、作戦を実行。』

 

 確かに防衛ラインは冥王星まで下げられた。

 しかし、何もせずお行儀よく下がってやる程、彼女らは侵略者にとって楽な相手ではなかった。

 本艦隊の露払い、偵察役として先行した小艦隊10隻に対し、200近い無人戦闘機が襲い掛かった。

 楽園追放の世界から得られた無人迎撃機を改装した多目的無人戦闘機「ファントム」。

 多数のオプション兵装と汎用性、何よりもナノマシン製ではないが故の低コストと量産性の高さを持った数合わせの兵器だ。

 しかし、それはトレミィ達からすればの話であり、人類から見れば後に開発される傑作無人戦闘機ゴーストシリーズの最新型であるQF-4000以降の機体よりも更に高性能な出鱈目無人戦闘機である。

 自己修復も格闘戦も不可能で、搭載された人工知能も自動人形より大きくランクが下がる。

 だが、それは本機が弱いという事ではない。

 事実、こいつが地球人類相手に猛威を振るった場合、対応できる機体は殆どいない。

 

 『て、敵襲ー!敵戦闘機多数が本艦隊に向け接近中!』

 『迎撃せよ!こちらの艦載機も出せ!』

 

 しかし、彼らの遅い対応を嘲笑うかのように、光速の7割にまで達する速度で襲い掛かった無人戦闘機群は即座に搭載したレーザー砲と対艦ミサイルを発射、艦隊外周部の比較的小型の艦を次々と火達磨にしていった。

 

 『くそ、これ以上やらせるな!』

 『ミニフォーも上げるんだ!』

 『索敵は一体何をやってやがった!?』

 

 罵声を漏らしつつも、小艦隊の動きは的確だった。

 既にして加速状態の無人戦闘機群を一から加速して追うよりも、艦隊の直掩に回って防衛・迎撃戦を試みた。

 これはズール銀河帝国で採用されている機動兵器類の多くが大型の特機に近い性質を持っていた事から選ばれた戦術で、その穴を埋める形でミニフォー等の小型機が存在している。

 勿論、どちらも多数の星間国家を併合したズール銀河帝国の主力メカであり、その性能は単体で恒星間航行が出来るし、亜光速戦闘も可能な程の性能を誇るのだが、相手が悪かった。

 

 『味方無人戦闘機群、全機が先制攻撃に成功。』

 『では離脱を。』

 

 亜光速で飛来し、痛打を与えて反撃が始まるとなったら即撤退。

 ハラスメント攻撃としては余りに派手だが、極めて有効な手段だった。

 こうした攻撃は幾度もランダムのタイミングで繰り返され、ズール銀河帝国艦隊・バルマー第七艦隊の侵攻を大きく鈍らせた。

 

 『第1から12番までの発射管に光子魚雷装填開始。』

 『照準並び装填完了。』

 『目標に向け全弾発射後、位相空間に潜行して離脱する。』

 『了解。』

 『では光子魚雷、全弾発射。』

 

 加えて、密かに配備されたるくしおん級や巨人族系無人機動艦による奇襲攻撃により、太陽系内部へと進出しようとするインベーダーも見つけ次第駆除されていった。

 こうして、太陽系外周部における戦闘は大規模会戦は起こらず、小規模のまま続いていった。

 

 

 「えぇい、どいつもこいつも不甲斐ない!最早待てぬ。損害を無視して前進せよ!先頭集団は併合された惑星所属の艦で編成せよ!」

 

 

 三か月後、痺れを切らしたズール皇帝が本格的に動き出すまでは。

 



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第22話 使徒、襲来

 新西暦186年8月1日 地球 極東方面

 

 

 メテオ3群の落着により、一度は壊滅した極東方面の旧首都たる東京は多くが水没してしまった。

 現在の行政中心地は開発の完了した第二新東京市(旧神奈川県足柄下郡箱根町仙石原地籍付近、芦ノ湖北岸)へと移り、極東方面の行政の中心となっている。

 この都市は一年戦争後期に開発が開始、戦時中であった事と以降の使徒迎撃戦を見越していたゼーレの圧力により、迎撃戦闘に特化した要塞都市として設計されている。

 しかし、資金難のゼーレ傘下の企業群だけでは開発が間に合わない可能性が高いとしてA.I.M.とアナハイム他多数の大企業群も追加で参加し、僅か4年で完成した。

 なお、不足分の資金はゼーレ側がA.I.M.に頭を下げてお願いしたら意外にも気前よく出してくれた。

 これは使徒の第二新東京市地下への到達でサードインパクトが発生する可能性を少しでも低くしつつ、極東方面の行政中心都市の防衛に関して少しでも介入するためでもあった。

 曰く、「金と人出してるのだから多少融通を効かせて頂きます」との事。

 大凡は劇中のそれと同じだが、採用されている各種武装群や装甲材等は強化されており、エヴァ無しでも使徒相手に時間稼ぎだけならば可能という程に強化されている。

 とは言え、大質量の宙対地爆撃等をされたら、ジオフロントを除けばどうしようも無いのだが。

 それはさて置き。

 そんな要塞都市へと行くための電車が通る途中の街に、一人の少年が呆然として佇んでいた。

 

 「どうしよう…。」

 

 彼、碇シンジは心底困っていた。

 避難警報が鳴り響き、戦時慣れした人々は素早くシェルターに避難していった。

 しかし、地元民ではないシンジは元々の内向的な性格とどん臭さもあって咄嗟に上手く動けず、非難誘導のままに移動するも最寄りのシェルターは「満席」と表示されて入れず、次々と盥回しになった挙句、元いた駅の近くにまで戻ってきてしまった。

 

 「やっぱり来るんじゃなかった…。」

 

 実はその直ぐ後、シェルターに入りきれなかった人用の送迎車が来て、待機していた輸送ヘリの元へと人々を運んでいたのだが、持ち前の不幸さでそれを逃した事をシンジは知らなかった。

 

 「この人、何なんだろう?」

 

 『来い。ゲンドウ』

 それだけ書かれた手紙の裏、頭の軽そうな女性の水着写真に書かれた待ち合わせ時間は当に過ぎている。

 しかし、他に行き場のないシンジはその場で待つ事を選択した。

 本当なら手紙を無視しても良かったのだろう。

 しかし、父親に対して一縷の希望を抱いていた少年は、こんな所までのこのこと来てしまった。

 

 「え…?」

 

 不意に夏真っ盛りの市街地の中、シンジは陽炎の中に一人の少女を見た気がした。

 アルビノという奴なのか、青みがかった銀髪に赤い瞳を持った制服姿の少女。

 しかし、それは突発的に発生した暴風によってシンジの意識が外れ、視線を戻すまでの刹那の間には消えていた。

 それが幻か何かだったのかは知らない。

 そんな光景を塗り替える様に、不意に地面を揺れる。

 一定の間隔で響く独特の振動音、即ち巨大な足音と多数の機動兵器から発生られるプラズマジェネレーターやスラスター類の稼働音、銃火器類の発砲音に爆発音から成る合奏が無人と化した街へと響き渡る。

 

 「何だよ、アレ…。」

 

 シンジが見上げた先、そこには展開した多数の連邦軍のMS部隊並び対MSを主眼とした重戦闘ヘリ部隊、それらに囲まれて集中砲火を受けながらも一切のダメージを感じさせずに闊歩する緑がかった筋繊維と骨に似た外殻を有した全長30m程の人型に近い巨大生物の姿があった。

 

 「う、わ!?」

 

 重戦闘ヘリから放たれた対艦ミサイルが巨大生物に着弾し、その衝撃と閃光がシンジの元にも届く。

 しかし、巨大生物はその爆発にも小動ぎもせずに移動を続ける。

 

 『重戦闘ヘリ部隊は後退しろ!通常弾頭じゃ豆鉄砲だ!』

 『ゲシュペンストmk-Ⅱ隊、重装仕様の機体は射撃に集中!前衛は攪乱!狙いを散らせ!』

 『ジムⅡ隊からの支援砲撃、来るぞ!』

 

 直後、無数の対艦ミサイルが巨大生物、第三使徒サキエルの全身へと着弾する。

 しかし、数秒間だけ僅かに歩行速度を緩めたのみで、その動きは変わりない。

 

 『くそ、コイツ硬過ぎる!』

 

 展開していた部隊は極東方面軍の中でも首都防衛部隊に配置されるゲシュペンストを中心とした有力な部隊なのだが、如何せんジガン系や量産の開始されたグラビリオンは未だ配備されておらず、スーパーロボット軍団も例のオーバーホールと再調査、強化改修で未だ動けずにいた。

 

 『な、民間人だと!?』

 

 不意に展開していたゲシュペンストmk-Ⅱの一機が、避難が終了した筈の街中で初めての戦場を呆然と眺めるシンジの姿を見つけた。

 

 『っ、ヘイズ3は民間人を保護!各機、援護しろ!』

 『『『了解!』』

 『ジムⅡ隊は射撃中止、射撃中止!』

 『くそ、何でこんな所に!?』

 『ぼやくのは後だ!動け動け!』

 

 動揺冷めやらぬ中、隊長の命令で空かさず全機が行動を開始する。

 

 『ヘイズ2、近接戦闘!お前は左、オレは右だ!』

 『了解!』

 

 二機のゲシュペンストmk-Ⅱがプラズマカッターを引き抜き、左腕のビームシールドを構えながら突撃する。

 サキエルはそれを見るや否や即座に両者の中間点に眼と思われる部位から光線を発射、着弾点が盛大に爆散するが、その爆発すら加速に利用し、二機が切り掛かる。

 

 『プラズマカッター、出力最大!』

 『喰らえぇ!』

 

 一方その頃、ヘイズ小隊の残り一機であるヘイズ3によって民間人の救出が行われていた。

 

 『君、すまんがこっちの手に乗ってくれ!』

 「は、はい!」

 

 救援に来てくれたゲシュペンストmk-Ⅱの掌にシンジが乗る。

 その後、直ぐにその場から離脱を開始する。

 

 『くそ、離しやがれ!』

 『ヘイズ2、無暗に暴れるな!今助ける!』

 

 その背後では果敢に近接攻撃を仕掛けるも、ATフィールドにあっさりと防がれたヘイズ2のゲシュペンストmk-Ⅱがその腕をサキエルに掴まれ、釣り下げられていた。

 

 『この、化け物がぁ!』

 

 DFを最大にし、掴まれた腕を支点にしてのムーンサルトにも似た蹴りの一撃。

 即ち、変則的ゲシュペンストキックを受けたサキエルは衝撃により大きく上体を仰け反らせる。

 一瞬遅れ、ゲシュペンストmk-Ⅱの腕を掴んでいた三本の爪の間から全長50mを優に超える光の槍が射出され、ゲシュペンストmk-Ⅱの右腕を捥ぎ取っていった。

 もしあのまま拘束されたままならば、そのまま全身を破壊されかねなかった一撃に、辛うじて死から逃れたヘイズ2が冷や汗を流す。

 

 『各機、射撃再開!奴の足を止めるぞ!』

 

 そして、民間人の救出と味方機の危機を見たジムⅡ隊から再びの支援攻撃が開始される。

 バズーカ、対艦ミサイル、中型ミサイルの雨霰がサキエルへと降り注ぐが、その攻撃は周囲のビル群こそ破壊するものの、サキエルは衝撃で多少揺れる程度のみで、その身体は全くの無傷だった。

 

 『くそ、ここまでやっても駄目なのか!』

 

 この場にいる全員が極東方面軍の首都防衛を任されるだけあって相応の腕利き揃いだ。

 しかし、そんな彼らでも超えられない壁というものが存在する。

 太陽系外周部の様に最新の装備が多数揃えられておらず、量産型特機やVFが先の隕石落下騒ぎで消耗し尽くして未だ回復し切れていない現在、彼らはよく頑張っていた。

 そんな彼らの努力を嘲笑うかの様に、先史時代の遺物は街を蹂躙しながら侵攻を続けていく。

 

 『……ヘイズ1、了解。光子爆弾の投下来るぞ!各機、撤収急げ!』

 『っ、了解!』

 『ヘイズ3、そちらはどうか!?』

 『こちらヘイズ3、現在民間人と共に被害予想地域からの離脱を完了!』

 『よし、撤収完了だ。爆撃頼む!』

 

 そして、上空1万mで待機していた大型爆撃機が、その腹に抱えていた地上用出力設定をされた光子爆弾を投下した。

 上空から雲を突き破り、目標の直上50mとなった時点でセンサーが起爆位置に到達したと確認し、内部のブラックホールを解放した。

 

 「あれが、ブラックホール…。」

 

 外部通信が入ったままだったため、一連の通信を聞いていたシンジは街一つの中心に発生した巨大な黒い球体を前に呆然と呟いた。

 光を飲み込み、時空すら歪曲される超重力。

 それを産まれて初めて肉眼で目視したシンジは、ただただ呑まれ、流されていた。

 

 『…嘘、生きてる…。』

 

 そして、極小規模の重力異常により発生した爆炎と粉塵の中、そこに佇むサキエルの姿に心底からゾッとした。

 この爆撃により、サキエルは身体構造の表面を大きく削られ活動を一時停止、3時間後に活動を再開、第二新東京市へと再び侵攻する事となる。

 保護されたシンジはその後、当初は戦闘の予想される第二新東京市から正反対の離れた都市へと移送されそうになったが、NERV側の迎えの人員(葛城ミサト)に引き取られ、第二新東京市へと向かうのだった。

 

 そこで、彼は出会った。

 機械仕掛けの神とそれを駆る人ならぬ少女。

 己の母の魂を喰らった、人の作った神ならぬ神に。

 

 

 ……………

 

 

 3時間後、第二新東京市にて

 

 そこには物々しい雰囲気で地球連邦陸軍極東方面軍首都防衛隊が展開していた。

 先程は一方的に押され、街一つを犠牲に時間稼ぎする事しか出来なかった彼らだが、今回はジガン系こそいないもののグラビリオンが二機に最終手段であるデストロイドモンスターが既に配置に付いていた。

 他にもゲシュペンストmk-Ⅱ一個中隊にジェガン二個中隊、ジムⅡ一個大隊、防空部隊としてデストロイド一個中隊、他にも多数の戦車部隊や重戦闘ヘリ部隊が補助戦力として配備されている。

 先日までムゲ兵とバリバリにやり合っていた、お飾りなんて一人もいない実戦部隊である。

 

 『シンジ君、用意は良いかい?』

 「あ、はい。大丈夫です。」

 『無理はしなくて良いよ。君の役割はあくまで目標のATフィールドを中和する事だけで、下手に攻撃する必要は無い。』

 「はい、説明は受けてきました。」

 『…君の乗っているエヴァンゲリオン初号機が組み付きさえしてしまえば、奴のATフィールドと言う特殊なバリアは初号機のATフィールドと中和し合って消える。私達が目標を撃破するまで、君は目標の近くに居続けなくちゃいけない。ここまでは良い?』

 「えぇ、こっちのATフィールド?も消えるんですよね?」

 『その通り。初号機は私達のMSに比べたら頑丈だから、簡単に壊れる事は無いけど、ダメージがフィードバックされるんでしょう?シンジ君は目標の近くにいる事を優先して。攻撃は私達の担当だから、ね?』

 「はい、そっちはお任せします。素人なんで上手くやり切れるか分かりませんけど…。」

 『それをカバーするのも私達の仕事だから。君は気にせず、出来る事をやってね。』

 『ヘイズ3、エヴァ初号機に通達。後3分で目標が戦闘予想区域へと侵入するぞ。』

 『ヘイズ3、了解。』

 「え、エヴァ初号機、了解です!」

 『わははははは、敬礼した事無いのか少年?後で教えてやるから、くれぐれも死んでくれるなよ!』

 

 こうして、第二新東京市はその設立目的たる初の使徒迎撃作戦を開始し、14歳の碇シンジ少年は早過ぎる初陣を迎えるのだった。

 

 

 

 

 




ここでジガン以上の機体出すと、多少の損害出るもののそれだけでサキエルぶち殺せるのでこの布陣に成りました。


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第23話 使徒、襲来その2

 新西暦186年8月1日 地球 極東方面 午後6時

 

 残暑厳しい極東のこの季節では夕暮れ時とも言える時間帯。

 極東方面の行政の中心地として実質の首都であるここ第二新東京市には、緊迫した状況が続いていた。

 使徒と言われる先史時代の生体兵器の突然の起動と侵攻。

 以前よりそれに対処すべく準備を重ねてきた特務機関NERVの研究・開発したエヴァンゲリオン初号機と首都防衛隊が少ない戦力ながらも今か今かと手薬煉引いて待ち構えていた。

 

 『目標、キルゾーンに間も無く到達。』

 『カウント開始します。5・4・3・2…今!』

 『電磁バリア展開、目標の拘束開始!』

 

 都市部中心へ向けて真っすぐ歩行してきたサキエルに対し、首都防衛隊+1の対応は簡単だった。

 即ち、第二新東京市へ侵攻してくる目標を罠にかけ、即時撃破する。

 これは行政の中心地(経済に関しては被災を免れた大阪が現在第一位)たる第二新東京市に無用な被害を与えないための策であり、同時にこの迎撃都市の特性を活かしたものだった。

 第二新東京市外周部にはビルに擬装された電磁バリア発生器(超電磁技術が使用されてる)があり、これらで外敵の地上からの侵入を防ぎ、内部の擬装砲台群で対空・対地双方に対して備えている。

 単なるMS部隊ならば、大隊どころか一個師団であっても突入からの制圧は困難を極める程だ。

 今回はこの電磁バリア発生器を拘束に転用したのだが…

 

 『目標のATフィールド増大!拘束突破まで3秒!』

 『各機、所定の作戦を実行してください!』

 

 NERV内部の指令所のオペレーター達からの通信に首都防衛隊+1は事前のブリーフィング通りに的確に動いた。

 サキエルの正面左右から二機の正式量産仕様のグラビリオンが、斜め後方からはエヴァ初号機が組み付くべく突撃する。

 

 『目標、拘束を解除!』

 

 オペレーターからの警告。

 しかし、それは事前予測通りだった。

 

 『各機、フィールド出力最大!食らい付けェ!』

 

 三方からの特機三機によるぶちかましからのしがみ付き。

 グラビリオン二機が両腕を抑え込み、エヴァ初号機が背後から羽交い絞めにする事に成功した。

 だが、サキエルの武装はその巨躯だけでない。

 両腕の光の槍と現在中和されつつあるATフィールドの他、もう一つ。

 即ち、眼孔部より放たれる光弾である。

 その視線が右腕にしがみ付くグラビリオン1号機へと向けられ、自分を拘束する敵を排除すべく発射される。

 

 『サイズミックボール、ガード!』

 

 サイコセンサーによる簡易思考制御、そして予めパターン化された動作に従い、グラビリオンの死角と近接戦闘を補うべく装備されたサイズミックボールが盾としてサキエルの頭部とグラビリオンの頭部との間に滑り込む。

 途端、光弾が炸裂し、サイズミックボールの一個目が破壊される。

 

 『ATフィールド、中和完了!』

 『ヘイズ隊、行くぞォォ!!』

 

 そして、ATフィールドの中和を確認するや否や、その瞬間を待ち侘びていたゲシュペンストmk-Ⅱが止めを刺すべく吶喊する。

 既に全機がプラズマカッターを最大出力にし、これで終わらせるべく腰溜めに構えたまま最大加速に入っている。

 

 『死ね化け物!』

 『おおおおおお!』

 

 後方左右からのヘイズ1と3の刺突により、がら空きの脇腹から向こう側の脇の下までプラズマカッターが貫通する。

 そのダメージを受けた時点でサキエルは跳躍を試みるも、拘束され、自由にならないその状態では思うように動けない。

 

 『さっきのお返しだ!』

 

 そして、正面から突撃してきたヘイズ2のプラズマカッターの刺突によって赤いコア、S2機関を刺し貫かれた。

 一瞬の沈黙の後、まるでアメーバの様に形を失ったサキエルの身体が全方位へと粘液の様に伸びていく。

 

 『っ、全機ブレイクフィールド展開!』

 

 ここでヘイズ1は一定時間しか展開できず、終了後は一定の間を置かねば展開できないブレイクフィールドの使用を命じる。

 このブレイクフィールドはDFの様にイメージ次第で自在に展開と収束が可能という訳ではないが、機動兵器サイズでありながら戦艦の主砲の直撃にすら耐え得る防御力を発揮、突撃戦術や緊急時の防御等に幅広い活用されている。

 ある種の切り札である其れを此処で切ったのだ。

 ほぼ同時、サキエルが内包する全エネルギーを解放、直上に十字の閃光を伸ばしながら大爆発を起こした。

 

 『…っ、皆さん、大丈夫ですか!?』

 

 ATフィールドと特機特有の頑強さも相俟って多少あちこちぶつけた程度で無事だったエヴァ初号機の中から、シンジが叫ぶ。

 

 『あだだだ…こちらヘイズ3、無事です。』

 『こちらロック1と2。無事だが機体の両腕がお釈迦。中破だ。』

 『こちらヘイズ1。無事だが、ヘイズ2は機体が大破、気絶している。救護班を要請する。』

 『全機、シグナルを確認。市街地への被害も軽微。作戦成功です!』

 

 オペレーターからの一言に、シンジは怒涛過ぎる一日で知らず入っていた肩の力を、此処に来て漸く抜く事が出来た。

 

 『よ…かったぁ……。』

 『あ、初号機パイロット、意識を失いました!』

 『な、バイタルは!?』

 『いえ、これは…気絶してるだけみたいです。』

 『無理もない、13で初陣だったんだ。このまま今夜は寝かせておいてやろう。』

 『マジか、祝勝会は明日だなこりゃ。』

 

 こうして、碇シンジの初陣は、長い戦いの日々の初日は、初陣から来る極度の緊張と疲労による気絶によって幕を閉じたのだった。

 

 

 ……………

 

 

 『第一回は大金星、と言えるな。』

 『あぁ、被害も費用も想定範囲内。しかし…』

 『これではあの人形共にお膳立てされた様なものだ。』

 『然り。あの連中の事、間違いなく我らの意図には気付いているだろう。』

 『使徒迎撃においてはこれ以上なく役に立つのがまたな…。』

 「ご安心を。彼女らは暫くすれば何も出来なくなります。」

 『…まぁ良い。今暫くは君に任せよう、ゲンドウ君。』

 『予算の件は心配するな。君は君の使命を果たしたまえ。』

 

 「道化はどちらやら…。」

 「目的のためになら踊る事も吝かではない。」

 

 

 ……………

 

 

 太陽系地球 北米方面 A.I.M.本社

 

 『SRXチームが極東方面に移動?』

 『はい、確かな話です。』

 

 現在、社長室では五代目武蔵社長が会長たるトレミィと通信を行っていた。

 勿論、自動人形間の量子通信なので、盗聴の可能性は絶無である。

 

 『…目的は何だと思う?』

 『対使徒か他の特機か、それとも遺跡の類か。』

 『先ずSRXチームに経験を積ませるとは思うけど…蚩尤塚は?』

 『現在、周辺の封鎖が完了。発掘作業に入っております。』

 

 本格的に戦乱へと向き合うため、現在A.I.M.並び太陽系防衛用無人機動部隊では各所で戦力を拡充すべく今まで静観・監視に務めていた味方となり得るモノへの接触や確保に奔走していた。

 本来ならば事前にやっておくべき事なのだが、「そいつらへの覚醒・接触=敵勢力のヘイト爆上がりor登場のトリガー」となる事を恐れ、今日まで監視に留めていたのだ。

 太陽系内部なら二機の四神の超機人の眠る蚩尤塚、海底に眠るオルファン、木星のザ・パワー。

 太陽系外部ならプロトカルチャーのデータ管理センターのある惑星ラクス、バロータ第四惑星のプロトデビルン、惑星ウロボロスの正常なエビル、バジュラ本星のバジュラクイーンと群れ、フォールドクォーツの資源地帯である惑星ウィンダミア、そしてアニメ・漫画版イデオンの発見されたアンドロメダ星雲の植民星A-7・ソロ星等が存在する。

 これらは全てデコイ艦による監視対象に指定されており、これらの情報は既に先のマジンガーZERO対策会議の場で地球連邦と共和連合特使、レムリア女王らに公開の済みになっている。

 なお、木星にギガンテス版イデオンいるのにソロ星も対象なの?と疑問に思われるだろうが、この闇鍋スパロボ時空において「イデオンが実は二機いた」等という超ド級の厄ネタが存在する可能性を否めないためにこうなった。

 幸い、不自然なエネルギーは今の所観測されていないが、それでも安心できる訳がないので監視されている。

 この内、平和的に接触可能、或いはその可能性があるのが蚩尤塚、オルファン、ザ・パワー、惑星ラクス、バジュラ本星、ウィンダミアとなっている。

 蚩尤塚は言わずもがなで、オルファンは女王曰く「とても怯えている」ので話し合いが可能となっている。

 ザ・パワーは異次元からゲートを通って流入してくる指向性の無い膨大なエネルギーの奔流であり、惑星ラクスは異種族との混血がいれば活動を開始・情報を閲覧させてくれる。

 バジュラに関してはプロトカルチャー関連情報に対話方法等が記載されているため、女王立ち合いの下でそれを利用すれば行ける。

 そして惑星ウィンダミアはフォールド断層に囲まれているものの、中世の人々が如き暮らしをしている割に高純度のフォールドクォーツの鉱脈が存在し、ウィンダミア人が少量ながらフォールドクォーツを精製可能なので、このまま他の大勢力に発見されれば家畜化不可避であった。

 そのため、ここだけはデコイ艦から派遣されたナノマシン式自動人形らが現地人に成り済まして接触、以前のノウハウを活かして文明の急速な発達を進めている。

 逆に絶対起こすなよ!?絶対だかんな!?というのがプロトデビルンとエビル、イデオン関係である事は言わずもがなだ。

 

 『取り敢えず、こちらは連中がアクション掛けてくるまでは戦力増強に務めます。』

 『了解です。』

 

 既に地球圏は隕石落下による消耗から回復しており、戦力は数字だけなら戦前よりも充実している(熟練兵やパイロットの数は減ったままだが)。

 加えて、スーパーロボット軍団も全回復した上、装備も新たになっている。

 マジンガーZこそないものの、兜甲児も量産型グレートマジンガー(魔神パワーの再現無し)に搭乗し、さやかと共に戦線に復帰の予定だ。

 ボスボロット?一応雑用担当で雇い入れられて同行予定だ。

 

 『で、こちらですが…。』

 『確かに必要だけどさぁ…。』

 

 送られてきたデータには、2隻のスーパーロボット運用戦艦の姿があった。

 一隻はゲッター戦艦のデータを元に作られた超攻撃型母艦ゲットボマー。

 コン・バトラーとボルテスの超電磁ロボ2機とライディーン、ダイモスらの専用設備を搭載した超電磁戦艦マグネバード。

 どちらも、お値段はある程度の量産を想定したスペースノア級よりもお高く、倍近い建造コストである。

 が、必要なのでどちらも建造を開始している。

 これらは初代マクロスや他のISA戦術対応艦と共に運用される予定だ。

 

 『まぁコストはどうにかするから心配しないで。』

 『畏まりました。』

 『私は壊滅した無人機動艦隊の代わりに暫く冥王星にいるから、そっちは任せたからね。』

 『どうかご武運を、お母様。』

 『うん、またねー。』

 

 まだまだ起動したばかりの五代目武蔵は少ない言葉なりに自分達の母親へと気遣いの言葉を送った。

 

 「…では、人類のための仕事を続けましょう。」

 

 しかし、水面下ではBF団を中心に、大きな動きが起きつつあったのを、この時の彼女らはまだ知らなかった。

 

 

 




サキエル君、あっさり退場。
ジガンⅡならタイマンで撲殺される程度だからね、仕方ないネ。
なお、次のシャムシェル君は……うん、まぁ…頑張ろうか!


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第24話 太陽に捨てろ!

長ーい!
でも書きたい所書けて楽しかった!

それと、いつも誤字報告してくださる読者の皆さんと感想を書いてくださる皆さん、改めてお礼申し上げます。

特にムロンさんとガンバスターさんは毎度毎度構想に大きく影響する様なお話をしてくださってとても助かってますし嬉しいです。

では本編でどーぞ!

なお、題名は某刑事ドラマのパクリですw


 新西暦186年8月3日 太陽系中心部

 

 そこには現在、未完成のマジンカイザー(の偽物)を太陽に投棄するための艦隊が厳重な警戒態勢を敷きながら航行していた。

 その編成は本格的なもので、るくしおん級を中心に新型艦であるアテネ級1隻と旗艦であるガリア級1隻で編成された極めて有力な艦隊だった。

 

 アテネ級は全長約800m、艦艇用大型縮退炉を主機関にスペースチタニウム製の装甲を採用した上でDFを搭載し、巨人族系兵器と同様の高い耐久性・信頼性を実現し、同サイズの地球圏の艦艇としては高いタフネスを誇る。

 武装面も艦首大型バスターキャノン×1、40cm装衝撃砲×6、誘導収束ビーム砲×20、多目的多連装ミサイルランチャー×6、対空ビーム機銃×多数に加え、高い艦載機運用能力も持ち、更に新時代の艦艇とすべく各種フォールド技術も採用され、単独での超長距離フォールドも可能となっている。

 開発はヴィックウェリントン社。

 次世代の宇宙艦を設計するには10万年単位の運用実績を持つゼントラーディ艦を手本とするのが合理的であると判断した同社がマクロス級のデータと自社の宇宙艦建造技術を組み合わせて建造した宇宙戦艦であり、基本的にマクロスをダウンサイジングして更に簡略化したような外見をしており、後に遭遇するメルトランディ系砲艦(マクロス級の原型)により近い外見となっている。

 新型の縮退炉の搭載、エネルギー伝導回路の見直し等によって主砲のバスターキャノンの威力はマクロスより20%の向上を果たしている。

 なお変形機構は存在しないが、量産性を高めるためブロック工法を採用している都合上、原作のように無理やり人型にする事は可能。

 但し、その場合は足にあたる部分が極端に短くなってしまう。

 ガリア級は全長3700m、艦艇用大型縮退炉二基を主機関、サブにプラズマリアクター二基を搭載、スペースチタニウム製の装甲とDF、更に各部がディストーション・ブロックで保護され、巨人族系兵器特有の耐久性・信頼性も合わさって凄まじい所か異常なタフネスを誇る。

 武装は艦首大型バスターキャノン×1、200cm4連装衝撃砲×5、誘導収束ビーム砲×多数、多目的多連装ミサイルランチャー×多数、対空ビーム機銃×無数、ホーミングレーザー発振器×4、更に高い艦載機運用能力を持つ。

 場合によってはマクロス級同様、内部に街や工廠すら設ける事の可能な容量も併せ持ち、大艦隊の旗艦としても申し分ない性能だ。

 ヴィックウェリントン社製の艦隊旗艦用宇宙戦艦であり、A.I.M.との交渉で手に入れたゼントラーディ軍4000m級中型指揮用戦艦を地球側の技術を追加して改装する事で開発された。

 アテネ級の開発経験から得られたエネルギー高効率化技術と縮退炉や新開発のプラズマリアクターからの膨大なエネルギー供給能力により、艦首バスターキャノンは原型艦の数倍の威力を有する。

 その他にもスペースノアに装備された衝撃砲を大幅にスケールアップした200cm4連装衝撃砲や多数のミサイルランチャー、シズラーシリーズに搭載されていたホーミングレーザーを装備するなど、単艦で艦隊に匹敵する砲火力を持つ。

 

 これらの艦は将来編成予定の外宇宙への移民開拓船団の護衛艦隊へ採用される候補の一つであり、現在無人機動艦隊として改装されて運用されている巨人族系艦艇を参考にしている。

 何れ来る太陽系外への旅立ちのための船、その試作艦がこの二つの新型艦だった。

 なお、艦載機に関してはスタークジェガン、VF-01アーマードパック(変形に非干渉)、量産型ビルトシュバイン、FAガーリオン、グスタフカールに加え、多数のデストロイド系(モンスター3機含む)にオーキスユニット装備型ジェガン+オーキスユニットで構成されている。

 

 FAガーリオンはリオンそのものを改装したバックパックを装備し、機動性と火力、出力の向上を実現した機体である。

 装備は基本実弾中心だが、AM系らしく低コストで仕上がっている。

 反面、操縦難易度がガーリオンよりもやや悪化してしまったが、武装面において大型レールガン(ランドリオンの装備)×1、ミサイルポッド兼シールド×1、翼部懸架式マイクロミサイルランチャー(VFと共通)×2、バックパック直結式ツインビームキャノン(エルアインスの装備)×1、脚部三連装中型ミサイル(ランドリオンの背中の装備)×2、胸部マシンキャノン×2、腕部ビームサーベル兼ビームガン×2から来るAM系としては破格の大火力を持つ。

 そしてオーキスユニット装備型ジェガンは月のアナハイム社にてテム少佐(出世した)とミノフスキー博士らによって楽しく弄られた代物を特機の代わりとして3機建造したものだった。

 多数のミサイルやロケット、試作型ヴェスバー2門にDF、大型ビーム砲兼サーベル内蔵クローアームを持つ本機は最新鋭巡洋艦に匹敵する大火力と防御力を持つ事に成功している。

 無論、操縦難易度は一年戦争時のジオン製MAに匹敵するが、それでもサイコセンサーの搭載によってある程度解決している。

 加えて、今回は任務が任務であるため、全機が対艦ミサイルやバズーカ等が反応弾や光子ミサイルへと換装され、核装備前提のグフタスカールに至ってはMkー82型弾頭を装備している。

 その威力たるや、小惑星改装型の要塞すら一撃で大打撃を与える威力であり、地球圏ではおいそれと使用できない代物だった。

 

 こんなものを用意してまで太陽への投棄作戦を成功させようというのは、それだけ連邦軍が未完成のマジンカイザーが第二のマジンガーZEROとなる事を恐れている事の証明だった。

 無論、今回持ってきた代物はデコイであり、もしもの時は太陽に向けて光速で射出せよとの許可も得ているが、それでもマジンガー系技術が小なりとも敵に漏れる可能性を現場の指揮官らは懸念していた。

 そして、その情報の真偽が分からないものの、絶対に無視できない者達からすれば、この任務は正に好機だった。

 結果は予期していた通り、艦隊の左右と前方の空間に揺らぎが発生する。

 ワープアウト、或いはフォールドアウトの前兆だった。

 

 「! 司令、本艦隊を中心に左右と前方3000kmに転移反応!」

 「来たか!全艦隊、第一種戦闘態勢へ!」

 「艦隊各艦は対転移先制攻撃、光子魚雷は全発射管に装填、完了次第順次転移反応に向けて発射!」

 「艦載機は全機発進用意。デストロイド隊は艦隊防空に参加、グスタフカール隊は艦隊直掩に回れ。」

 「ライブラリに検索、敵はゼ・バルマリィ帝国所属、フラワー級3隻と推定!後3秒で実体化します!」

 「光子魚雷装填完了!転移反応への照準良し!」

 「光子魚雷、全弾発射!」

 

 こうして、トレミィらの援護の無いまま、人類は初めてゼ・バルマリィ帝国第七艦隊との戦闘に臨むのだった。

 

 

 ……………

 

 

 太陽系中心宙域でそんな艦隊戦が行われている頃、第二新東京市においてはシンジは諸々の手続きを終えた後、普通の学生生活をしていた。

 一日目はあの戦闘と後に気絶してからのNERV内部の医療用ベッドで過ごし、二日目は早朝から目覚め行く第二新東京市をミサトと共に眺めてからの引っ越し、そして三日目から通学である。

 もう少し休める時間設けろよ!と言いたくなるタイトなスケジュールである。

 なお、住居は葛城ミサトと同じマンションの隣室である。

 これには同居しましょーよーとか言う葛城ミサトNERV作戦本部長(独身)に対して、先の戦闘に参加した首都防衛隊のメンバー(特にヘイズ3)から「ちゃんと未成年が生活できる環境を維持してますか?」という突っ込みが入り、親友の赤木リツコ技術開発部技術局第一課所属E計画担当・エヴァンゲリオン開発責任者から「絶対無理ね」とのコメントが出て調査した結果、「未成年への教育に悪過ぎる」との結論が出たため、護衛や監視の兼ね合いもあって同じマンションの隣室へと落ち着いた。

 因みに首都防衛隊は基本的に男女別の寮で寝泊まりなので、もしそちらに住む事になってもラッキースケベは起きない。

 学校においては相田ケンスケの仕業で見慣れぬ特機のパイロットとバレてしまったが、特に民間人への被害が出ないまま戦闘が終了したので鈴原トウジに殴られる事もなく、シンジは「ちょっとナヨっとした新型特機のパイロットってだけ以外は普通のもの静かな少年」として受け入れられた。

 そして登校初日、放課後遊ばないかと誘われると、シンジは残念そうに明日では駄目かな?と聞いてきた。

 

 「良いけど、何かあるのか?」

 「今日は一昨日の戦闘で一緒に戦った首都防衛隊の人達と一緒に歓迎会なんだ。一昨日は戦闘が終わって気絶しちゃったから、今日やろうって。」

 「へー、すぐ終わったと思ったけどキツイ戦闘だったんだな。終わったら気絶って。」

 「スーパーロボットのパイロットでもそんな事あるんやなぁ。」

 「あ、いや、それは僕が素人で初陣だったから…。」

 「「え」」

 「あ」

 「「「……。」」」

 「じゃ、また明日!」

 「あ、こらー!」

 「また明日-!」

 

 これ以上は機密かも知れないと焦ったシンジは愛想笑いを浮かべて素早く身を翻し、すたこらさっさと逃げ出した。

 鈴原はそれを追いかけようとするが、相田がそれを止めた。

 

 「何で止めるんじゃケンスケ!」

 「馬鹿!機密だったらシンジもオレらもヤバいでしょ!」

 「え、あ、あー…。」

 「にしても13、中学一年生で初陣って…。」

 「一体どんな理由でんな事になっとるんや…。」

 

 二人の疑問はもっともだった。

 

 

 ……………

 

 

 「ぱんぱかぱーん!ようこそ碇くーん!」

 「今日は主賓なんだから、ゆっくり楽しんでいってくださいね。」

 

 一瞬、首都防衛隊のサブの食堂(居酒屋鳳翔第二新東京市支店との暖簾あり)の一角でイメクラとか正気かな?とシンジは思った。

 周囲には厳つい軍人さんとかがげらげらだったりのほほんだったりと談笑しつつ、まだ明るい内から酒カッ喰らっているのを見て、余計にシンジは思った。

 

 「あ、直接ははじめまして。私は横塚愛宕中尉。こっちは姉の横塚高雄中尉よ。」

 「はじめまして碇シンジ君。ロック1と2と言った方が分かり易いかしら?」

 「あ!グラビリオンのパイロットのお二人ですか!?」

 

 そう言えば、ヘイズ小隊の面々は通信越しだが顔を合わせていたが、こちらの二人とはそんな余裕も時間も無かった。

 

 「あ、シンジ君も来てくれたのね。ヘイズ3改めクローナ・ゴトランド少尉です。皆は私のことゴトって呼んでるから、シンジ君もお願いね。」

 「え、えーと…ゴトさん、よろしくお願いします。」

 「よく出来ました!さ、こっちの席に上がって上がって。もうあの時のメンバー皆来てるからねー。でもシンジ君は未成年だからソフトドリンクね!」

 「お、少年もやっと来たか!そら飲みねぇ飲みねぇ、ここは連邦軍の食堂の中でも一際美味いぞ~!」

 「わわわ、皆さん落ち着いて!」

 

 こうして、碇シンジの第二新東京市での生活は、順調な滑り出しとなったのだった。

 三時間後、居酒屋鳳翔第二新東京市支店の御座敷の一角ではすっかり場酔いした挙句に潰れてしまったシンジに、ゴトランドが膝枕をしている光景があった。

 

 「何だ、少年はすっかりおねむか。」

 「隊長さん達の空気に当てられちゃったんですよ、もう。」

 「仕方ないだろ。この少年、真面目なのに繊細過ぎてこの位しないとストレスが抜けん。」

 

 そこにはさっきまでへべれけに酔っぱらったおっさんの姿はなく、極東方面軍の中でも富士戦技教導団に並ぶ精鋭で知られる首都防衛隊の長としての姿があった。

 

 「NERVがどういう意図を隠してるかは知らんが、この少年に色々しょい込ませようとしてるのは明らかだ。それはお前さん達も知ってるんだろう?」

 「えぇ、本当に度し難い連中ですよ。」

 

 一連邦軍の佐官とA.I.M.の実働部隊、否、太陽系防衛用無人機動部隊からの派遣パイロットはこの少年を絡め取るドロドロとした陰謀の存在を全貌は知らないにせよ何かがあるという事を知っていた。

 無論、嘴を突っ込むつもりはヘイズ1には無い。

 それは目の前の少女の形をしたモノとその仲間達に任せているからだ。

 しかし、市民を守る連邦軍人として、一人の大人として、ヘイズ1は目の前の存在へと眼光に殺気を乗せて告げた。

 

 「少年はまだ民間人で、子供だ。例え特機の中でも指折りに特殊な機体に搭乗できると言えどもだ。」

 「えぇ。」

 「だから宣言しておく。その少年に何かしてみろ。必ずお前らを殺してやる。」

 

 本気だった。

 ヘイズ1のその言葉は、間違いなく本気だった。

 指一つ動かす前に自分を最低でも10回は殺せるとは分からずとも圧倒的格上だと分かるモノを相手にして、ヘイズ1はたった一人の民間人、たった一人の子供のために啖呵を切ったのだ。

 

 「その言葉、シンジ君が起きてる時に聞かせてあげてくださいよ。」

 「素面でこんな事を言えるかよ。それに少年が戦場に立っちまったのは、俺達大人が情けないからだ。」

 

 ぐい、と僅かに残っていたビールを飲み干すヘイズ1。

 が、大分温くなっていたのか、思わず顔を顰めていた。

 やはり日本でならドイツ式常温ビールじゃなく、キンキンに冷えたジョッキのビールである。

 

 「俺達大人が情けなくて弱いから、子供まで苦しい思いをして、挙句戦わせる事になる。一年戦争の時もそうだった…。」

 「あぁ、隊長はアムロ君を鍛えてくれたんでしたっけ。」

 「応ともよ。今じゃNTだエースオブエースだ白い悪魔だって言われてるがな…アイツは、当時普通のガキだったんだよ…。」

 「やはり心残りがあったんですね、ヤザン隊長。」

 「当たり前だろうが…。」

 

 ヘイズ1、ヤザン少佐は一年戦争当時を回顧する。

 単なる小僧で、父親や友人達が生きていたから辛うじて狂わずに済んだ少年。

 その才覚故に人生を戦争に注力せざるを得なかった、守るべき子供。

 あんな子供を戦わせて何がエースか、何が野獣か!

 当時、同じ軍人だった恋人も戦争後期に無くしたヤザンにとって、アムロの存在は大きな傷であり、同時に救いでもあった。

 あの傷ついた子供が、ほの暗い瞳をした少年が、今も生きて大人になって、挙句今や二児の父親なのだと。

 アムロとセイラが二人の子供を腕に抱き、テムも含めて微笑んでいる家族写真は他の同僚や同輩、恋人の写真と共に今もヤザンの私室に飾ってある。

 

 「で、どうなんだ?」

 「寧ろ、私達としてはシンジ君が一民間人として平和に暮らしてもらう事を望んでいます。」

 「その言葉、裏切るなよ?」

 

 ぐい、と今度は冷え切った茶を飲み干したが、妙に苦いな、とヤザンは思った。

 

 「二人共、そんな話はオレのいない所でやってくれ。」

 「何だお前、起きてたのかよ。」

 「そうだ、フレッドさんも何か真面目な話してくださいよ。」

 「勘弁してくれ…。」

 

 ヘイズ2、フレッド・リーパーはそう言って口を閉ざすのだった。

 ちなみにロック1と2こと高雄と愛宕はやってきた店員さんに食器を纏めて渡したり、酔い潰れてる面々の介抱やタクシーの手配等をしていた。

 シンジ君はこの後、ゴトランドにマンションまで送迎されました。

 

 翌日、シンジの携帯端末にはヘイズ小隊を始めとした首都防衛隊の主要メンバーの連絡先が登録され、昨夜撮った多くの写真が保存されていた。

 なお、翌日にその写真の中でも高雄や愛宕に左右から抱き締められた時の写真やあーんしてもらった時の写真、止めにゴトランドに膝枕してもらいながら頭を撫でてもらった時の写真がしっかり収められており、トウジとケンスケにばれてしまって大変な嫉妬を買ってえらい騒ぎになってしまったりもした。

 だが、それら全てシンジにとっては大切な思い出になるのだった。

 

 




艦娘組は勿論ナノマシン式自動人形です。
横塚=横須賀と同じ母音
クローナ=スウェーデンのお金の単位
フレッド・リッパー=ガンダムサイドストーリーズにてピクシーガンダム(フレッド専用機)のパイロット。UCガンダムにてイフリート・シュナイドに搭乗して戦う。

野獣ヤザン、大人としての姿を魅せる。
そしてゴトちゃんによるシンジ君幼馴染み化計画が実るのか、はたまた高雄んと愛宕んによるおねショタおねコースに入るのか、それはまだ不明ですw


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第25話 使徒、捕獲

 新西暦186年8月3日 地球 極東方面

 

 太平洋沖に新たに発見された巨大不明生物はそのエネルギーパターンから第四の使徒と推定、ATフィールドを展開した状態で真っすぐ第二新東京市へ向けて移動していた。

 

 『周辺の民間船舶は退避完了しました。』

 『よし、爆撃機各機は光子爆弾を投下せよ。』

 

 周辺に気兼ねなくぶっ放せる状態の上、相手に遠距離攻撃手段が無いとなれば、そりゃーこうなるってもんである。

 第四使徒シャムシェルは最初の威力偵察用の無人攻撃機ゴーストによる攻撃で自分を害せるものはいないと判断していたのか、特に反応する事もなく光子爆弾の直撃を受けた。

 

 『光子爆弾、投下開始。』

 『…直撃を確認。目標表面にダメージを確認。』

 『予測通りだな。死ぬまで攻撃続行だ。』

 

 こうしてボコボコにされたシャムシェルは碌すっぽ反撃できぬままにその体表を削られ続けるという、なぶり殺しに近い状況に置かれてしまった。

 そんな状況が続いて約30分、シャムシェルは完全に移動不可能なまでに損傷し、その質量の3割を削り取られていた。

 辛うじてS2機関は守り通しているものの、完全に死に体だった。

 

 『目標、移動能力を喪失した模様。』

 『アレ作った先史文明って奴らは馬鹿なのか…?』

 『言ってやるなよ。ライディーンとか移動都市とかは凄いだろ?』

 『お前ら、お喋りしてないで止めを刺すぞ。』

 

 その時、念のために周辺海域に展開していた連邦海軍所属の艦艇から緊急通信が入った。

 

 『て、敵襲、敵襲です!こちら三笠、現在艦内に敵が侵入しt』

 『海底に感あり!大型の特機と推定、本艦に向k』

 『総員、目標を不明敵勢力に変更!使徒殲滅は後回しだ!』

 『『『っ!?』』』

 

 その通信を聞いた三機の爆撃機は、驚愕と共に困惑した。

 即ち、「あの、俺ら対水上・水中用装備持ってきてないんですが」というものだった。

 目標がゆっくり動く使徒で、反撃も何も無いから圧倒していたが、それ以外となるとちょっと無理だった

 

 『どうする?』

 『本来なら使徒への攻撃が優先なんだが…。』

 『でも今不明勢力に変更って言ってましたよ?』

 『……HQ、爆撃機隊は対水上・水中用装備を持っていない。光子爆弾の残りも僅かだ。よって帰投したい。よろしいか?』

 『こちらHQ、帰投を許可する。』

 

 こうして、三機の爆撃機はあっさりと帰投した。

 止めを刺せぬ事を残念に思った彼らだったが…実の所、彼らは幸運だった。

 この直ぐ後、ヒマラヤ級含む水上艦艇並び搭載されていた艦載機は全滅、生存者もほんの僅かしか出なかったのだから。

 

 「これが使徒か。あの程度の爆撃機すらどうにもならんとは…何とも無様だな。」

 

 BF団最高幹部たる十傑集が一人、衝撃のアルベルトは葉巻を燻らせながら、もがき続けるシャムシェルを前にそう吐き捨てた。

 

 『アルベルト様、これより回収作業を始めます。』

 

 沈み行くヒマラヤ級の残骸の上に立つアルベルトのすぐ近く、海底から浮上してきたオロシャのイワンの乗るウラエヌスが配下の量産型GR-2を始め、BF団所属真シズマ・ドライブ搭載ロボット達を連れて現れた。

 ウラエヌスを除いた各機は死に体のシャムシェルに取り付くと、必要のない部位を切り離して解体、総質量の4割程度とS2機関だけとなった状態の肉塊をコンテナに箱詰めしていく。

 

 「うむ、後はお前達に任せる。イワン、ワシらは行くぞ。」

 『? 一体何処に行かれるのですか?』

 「決まっておる。」

 

 にやり、とまだまだ不完全燃焼なアルベルトは闘志を露わに口の端を歪める。

 

 「第二新東京市。エヴァンゲリオンとやらも回収前にその価値を見定めねばならん。」

 

 こうして、第二新東京市に十傑集来襲が決まってしまった。

 

 

 ……………

 

 

 一方その頃、太陽系中心領域には未だゼ・バルマリィ帝国監察軍第7艦隊副司令分艦隊が存在していた。

 

 「回収したサンプルはどうか?」

 『解析の結果、装甲材はマジンガーZと同様の超合金Zであり、内部構造は解析できる程のものは残っておりません。』

 「やはりダミーだったか…。」

 

 分艦隊司令として戦闘に参加したヴィレッタは、予想通りの結果に溜息を吐いた。

 この分艦隊と太陽派遣艦隊の戦闘は熾烈を極めた。

 フーレ級も3隻中1隻が轟沈、2隻が小中破という結果はヴィレッタをしてかなり驚いていた。

 最終的にこれ以上の損害を無視できなくなったヴィレッタがプロトタイプ・ジュデッカとも言えるアンティノラに乗って出撃、敵旗艦に大打撃を与える事で敵艦隊がコンテナ(時限爆弾付き)で太陽に向け射出、そのまま転移によって撤退していった。

 

 「メギロートも殆ど消耗した…これはお叱りを受ける事になるか。」

 (それに、イングラムの身が危険かもしれない。)

 

 第7艦隊副司令たるユーゼス・ゴッツォの命によってこの作戦は行われたが、明らかにこれは地球連邦内部にいるだろうバルマーのスパイを炙り出すためのものだった。

 それでも僅かながらあの魔神の情報を欲したユーゼスによって作戦は強行され、殆ど損ばかり被る事となった。

 

 (でも、今回の情報はイングラムは出していないそうだし…どうしたものかしら?)

 

 イングラム・プリスケン少佐は現在SRX隊の教官兼指揮官として動いている。

 これは地球の戦力を向上させつつ各方面にコネを作り、何れ来るゼ・バルマリィ帝国への融和をスムーズに行うためのものなのだが…。

 

 (ユーゼスがそんな事する訳ないわよねぇ…。)

 

 名目上の司令であるラオデキヤ・ジュデッカ・ゴッツォはユーゼスの作った複製クローンであり、本物は既に十数年前に巨人族との戦いで戦死、現在は人格も典型的武人から好戦的にされ、外見や能力は同じだけの別の個体だ。

 そして、基本的にユーゼスの言いなりの人形である。

 ユーゼスが何を考えているか分からない現状、迂闊な事はしたくないのだが…

 

 (そうも言ってられないか…。)

 

 イングラムを洗脳されている現状、迂闊に動けばエライ事になるのがよく分かっていた。

 連邦軍情報部、具体的にはギリアム・イェーガー少佐ともコネクションが構築できた現在、ダブルスパイとしての自分の立場は多くの情報を得られては地球側に還元できる事もあって彼の上の地球連邦軍情報部としてもかなり美味しい筈だ。

 今暫くはこの状態のまま、ダブルスパイとして動き続けた方が地球側の利益になる。

 

 (問題はイングラムね。どうやって洗脳を解いたものか…。)

 

 その方法がさっぱり分からない現状が、ヴィレッタにとっては多大なストレスだった。

 また、地球での教え子や同僚達は皆気分の良い者達であり、彼らを騙し続けるのはただただ辛い。

 結局、諸々を考えると今の立場を続行せざるを得ず、それは彼女にとってただ只管ストレスを重ね続ける事と同義だった。

 

 (胃薬、買おうかしら…?)

 

 凄まじく重い溜息を吐きながら、ヴィレッタは内心でそう愚痴った。

 

 

 ……………

 

 

 「三将軍よ、準備は整っていたか?」

 

 「は、抜かりなく。」

 「地球侵攻軍全て、今か今かと帝王様のご下知を待っております。」

 「今度こそ、我らの手で御身にあの青く美しい星を!」

 

 「良い、実に良い。だが忘れるな。次に失敗あれば、その時は素直に退くのだ。」

 

 「「「はっ!」」」

 

 「そなた等がまた敗北し、奴らが我が帝国等恐れるに足らぬと愚かにも吠えた時、その時こそこの私もまたそなた等と共に戦陣を組み、共に戦おう。死してなお、な。」

 

 「有り難き御言葉、身に染みまする。」

 「ですが我ら三将軍、必ずや御身の期待に応えましょうぞ。」

 「全てを我らが帝王様へ捧げてみせましょう!」

 

 「よろしい。ではムゲ帝国地球侵攻軍全軍、第二次侵攻作戦を開始せよ。」

 

 

 今度こそ地球を手中に収めるべく、一度は撤退したムゲ帝国が万全の準備をした状態で再侵攻を開始した。

 

 

 ……………

 

 

 「次は、地球か…。」

 「おっすー☆どうしたんですアトミラールさん?次の任務は何ですか?また宇宙怪獣の巣に突撃!隣の敵本拠地!するんですか?」

 「あんなの二度とご免よ!?そうじゃなくて、次のノイレジセイアからの任務は地球で変な特機の回収だって話。」

 「あらま。そりゃまた変な話ですね。」

 「あら、サンプルの回収ですの?」

 「アルフィミィ、貴女ももう少しその髪の毛と露出どうにかしなさい…。」

 「これが私の芸風ですの~。」

 「あ、あの、地球、ですか?」

 「あ、レーちゃんもいたかー。何、どうしたいの?」

 「ちょっと、だけ、行きたい所が…だ、だめ?」

 「仕方ないわね…任務の合間になら良いから、一人で出歩いたりしたら駄目よ?」

 「う、うん…!」

 「よっしゃーじゃー何か新作出てないか探すかー。」

 「貴女はもう少し緊張感とか持ってくれないかしらねフォアルデン?」

 

 こんな感じで、アインスト化した人類や人類を参考に生み出された擬人型アインスト達もまた、再び地球圏へとやってくるのだった。

 

 

 




最後の4人の女性キャラはアインスト・アルフィミィ+3人のアインスト化した女性達(オリキャラ)です。

その内設定出すので、それまではお待ち下さい。


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第26話 十傑集その1

 第二新東京市は先の第三使徒の迎撃成功、第四使徒の海上での撃破成功(公式見解)と続き、未だムゲや外宇宙からの侵略の影も無い地球は正に平和と言えた。

 しかし、連邦軍並び連邦政府首脳はこれをあくまで「束の間の平和」と捉えていた。

 各スーパーロボット達の解析と改良、強化装備の追加。

 円滑な運用のための母艦の建造と代替不可能な貴重なパイロットらの休養と再訓練。

 それらのデータを元にした新たな量産型特機の開発、通常の量産型機動兵器並び新型戦闘艦艇の開発と建造。

 一部では既に一足早くアテネ級、ガリア級が新世代の宇宙戦闘用艦艇として実戦に参加している。

 事実として、その懸念は正しかった。

 ムゲの再侵攻、BF団の活動激化、外宇宙勢力の太陽系への進出。

 これに加え、何時現れるとも知れぬアインストに巨人族。

 これらが一度に参戦してくる状況が、刻一刻と迫っていたのだ。

 無論、地球連邦政府に無能はいない(いても末端)。

 

 先行試験型として配備された量産型ビルトシュバインの他、Rシリーズ等の特殊な才能を持つ人員を集団的に運用するSRX隊。

 ゲッターや量産型グレートマジンガー等の有名な民間製スーパーロボットを円滑に集中運用するために編成されたマーチウィンド隊。

 そして、特殊な才能や特機を持たず、一年戦争時代からのスーパーエースや超ベテランを中心に既に実戦証明済みの最高級装備類とマクロスを旗艦とするISA戦術対応艦で統一された切り札たる鋼龍戦隊。

 それぞれバンプレストオリジナル系、スーパー系、リアル系でほぼ統一されたこれらの小艦隊はどれも一騎当千と呼ぶに相応しい領域に到達しつつある。

 もしもの時は彼らが火消役として太陽系各地を飛び交い、或いは敵指揮系統の中枢へとカチコミをかけるのだ。

 彼らがこのまま成長すれば、何れは銀河に平和を齎す事も夢ではないとスパロボプレイヤーならば思うだろう。

 しかし、そんな彼らにも欠点、と言うか人類としてほぼ対処が不可能な問題が存在する。

 

 即ち、生身ではそこまで強くはない、という点である。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年8月7日 地球 極東方面 第二新東京市

 

 

 首都防衛隊近くの訓練場にて

 

 「私が謎の覆面コーチXであるッ!!」

 「」

 

 シンジは突然の変質者の登場に絶句した。

 

 「グローリアス教官、それ毎度の恒例行事にしたんです?」

 「あ、ゴトランド。いやーこれやると侮る奴は凄く侮って鼻っ柱折れ易くなるから都合が良いのよ。」

 「お、女の人!?」

 

 突然登場した変な覆面の下から妙齢の美女が現れた事に、シンジは驚愕した。

 

 「シンジ君、この人はユン・グローリアス少佐。連邦の特機パイロット向け養成コースの教官で一番古株の人なの。」

 「ユン・グローリアスよ。階級は少佐、よろしくお願いね。」

 「は、はい!碇シンジです!よろしくお願いします!」

 

 にっこりと微笑む綺麗なピンキーモモにシンジは目を白黒させながら挨拶を返した。

 

 「素直でよろしい!スーパーロボットに乗りたいってパイロットはヤンチャな子が多くってね、君みたいな若くて礼儀正しい子は少ないから助かるわ。あ、でも教導で手加減はしないからよろしく。」

 「少佐は横塚少尉達の教官でもあるの。凄い優秀な方なのよ。」

 

 尚、今現在の特機パイロット養成コースには他に謎の覆面師匠1号と2号もおり、日々生徒達を扱いている。

 勿論中身は自分達の嘗ての経験をこの世界の自分達やその先輩後輩に体験させているノノリリの二人である。

 勿論オオタ・コウイチロウ少佐とも同じ職場なので、この世界のカズミとも割とバチバチ鞘当てしてたりする。

 なので、この世界線の沖女(トップをねらえ初期の舞台)は共学化&年齢層も広くされ、割と何でもありな校風になっている。

 原作みたいないじめ?

 アホな事やってる連中は即効締め出されれるか特殊部隊員養成コース一日体験、それでも改善されねば一般歩兵へ転向させられるか追い出される。

 それだけ才能や技術を持った人材というのは今の太陽系には必要不可欠なのだ。

 

 「さてシンジ君、貴方は経歴はどうあれスーパーロボットのパイロットとして選ばれました。」

 「あ、はい。突然で実感がまだ湧かないですけど…。」

 「でも、それじゃ駄目だって事は分かるわね?」

 「はい。でも自分じゃどうしたら良いのか…。」

 「そんな時にこそ周りを頼りなさい。少なくとも、首都防衛隊のメンバーは貴方に手を貸してくれるわ。」

 

 にっと朗らかな笑みを向けてくれる妙齢の美女の姿を直視して、シンジは知らず頬に血が上ってしまう。

 

 「えい。」

 「わ!?」

 「鼻の下伸びてたわよ?」

 「えええ!?」

 「他の女の人がいるのに、そんな風にだらしなくしちゃ駄目だからね?」

 

 頬を赤く染めていたシンジの鼻の下に人指し指を当てるゴトランド。

 もう仕方ないなぁ、と言わんばかりの呆れた仕草を取るゴトランドに、ユンは「あ(察し)」となった。

 一応事前にシンジのメンタルケア担当と知らされていたが、ほぼ間違いなくハニートラップ要員である事を見抜いたのだ。

 まぁ自動人形の性質上、そのまま死ぬまで一緒にいて同じ墓に入る位はするので余り心配してはいないが。

 

 「そういう訳で、今から訓練を始めます。と言っても、先ずは現時点のシンジ君の体力を測ってからになります。」

 「私も手伝うから、頑張ろうね?」

 「は、はい!」

 

 こうして順調にシンジは絡め取られていき、精神的に安定していくのだった。

 

 

 ……………

 

 

 NERV本部内医療区画 病室

 

 「・・・・・・?」

 

 ベッドの上で未だ包帯の取れない状態で横になってぼぅ・・・と天井を眺めていた綾波レイはふと視線を感じて視線を巡らせた。

 

 「・・・・・・・・・。」

 「・・・?」

 

 すると病室のドア(音もなく半分開いていた)に半身を隠しながらこちらを見つめるナニカを発見した。

 それはワッカ、もっと言えば白っぽい紫色のタライ程の大きさをした救助浮き輪の様な胴体に小さな手足と二本の角と口がある奇妙なナマモノが綾波にじっと視線を向けていたのだ。

 余りの未知との遭遇過ぎて、世間知らずで人生経験が0に近い綾波でなくとも視認した途端に呆然としそうな生命体?だった。

 

 「・・・・・・!」

 「あ・・・。」

 

 綾波に見られたことを理解したのか、正体不明の浮き輪型ナマモノは一瞬びくりと身体を竦ませるとビュッ!とドアの向こうへと姿を消してしまった。

 

 「何かしら、あれ・・・。」

 

 綾波の持つ如何なる知識にも合致しないあのナマモノに、綾波は本人ですら気付かない内に無邪気に興味をそそられていた。

 そして、またあのナマモノを見てみたいと、僅かながら思うのだった。

 

 (・・・また来てる・・・。)

 

 翌日の同じ時間に、またナマモノが来ているのを綾波は気付いた。

 じっと見つめると、今度はナマモノはちょっとびくりと震えたが、じっとこちらを見つめ?返してくる。

 どうやら今日は余り逃げるつもりはないらしい。

 

 「・・・・・・。」

 「あ・・・。」

 

 しかし、綾波が動こうとするとナマモノはすっとまた音もなく去っていった。

 同じ時間に現れ、何をするでもなく綾波を見つめてはすっといなくなる。

 そんな事が数日続いた。

 

 (増えてる・・・?)

 

 そして数日後、今度は頭部が連想式の砲を備えた四角い砲塔で構成された妙なナマモノが増えていた。

 以降、それらのナマモノはどんどん増えていき、顔とサイズが違う四角い砲塔型頭部を備えたものや機械と魚類が合わさったものが増えていき、最終的には機械と人間が融合した様なモノまで現れていくのだった。

 それらナマモノが織り成す日常・・・日常?の光景というかホームコメディ染みたやり取りの鑑賞は何時しか綾波の趣味とも言える習慣になっていくのだった。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 「っち、ドジっちまったぜ。」

 

 ヤザンは一人、真夏の第二新東京市の街中を散策しながら一人肩を落とした。

 

 「なに、今日は休みだぁ?」

 「すいません!今日はガス周りの工事でお店は丸一日休業なんです!」

 

 本当に申し訳ありません!と頭を下げる従業員に、それ以上声を荒げる事は歳を食って部下を多数持つようになったヤザンには出来なかった。

 行き着けの居酒屋鳳翔第二新東京市支店の急な休業から、ヤザンの調子はずれっぱなしだった。

 朝から飲むつもりだったこの不良中年、他にもこの街の幾つかにお気に入りの飲み屋があるのだが、どれも洋食や中華、南米風の料理だったりと和食で飲むつもりだったヤザンにはピンと来ない。

 そのため、新規開拓でもするかと色々と街をさまよい歩いていたのだが、どうにも良さげな店が見つからない。

 朝は適当にパンとコーヒーを腹に入れただけだった事もあって、ヤザンもそろそろがっつりとしたものを食べたかった。

 

 「あ~~どっか適当に入るか…。」

 

 もう安物のチェーン店にでも入って空腹を解消するかと考えていた時、

 

 「あ、皆さん見てくださいよアレ!和牛ステーキ食べ放題ですって!」

 「落ち着きなさいよフォアルデン!確かに食べ放題系の店は私達に都合が良いけど…ってアルフィミィ!レーベンを連れて走らないの!」

 「わたくしあのお店が良いですの~。」

 「ま、待って、アルちゃん…!」

 

 何か死んだ筈の惚れた年上の恋人が当時の姿のまま(髪と目の色が変化してるけど)頭軽そうな女と女児二人連れて平然と目の前にいるのに気付いた。

 

 「おい。」

 「へ、は?」

 「あらま?」

 

 意識せず、ヤザンは喉から絞り出すような低い声を出し、それにアトミラールとフォアルデンが気付いた。

 なお、女児2人は食べ放題の店(すた○な太郎第二新東京支店)の窓ガラスにべったり張り付いて中を覗いて店員の苦笑を誘っていた。

 

 「や、ヤザ「奢ってやるから洗い浚い吐け。」

 

 有無は言わせなかった。

 

 (やーん、これって堅物女のアトミラールさんの修羅場?修羅場なの?これ、どう動くべきかなー?)

 

 四人のアインスト娘達で最も冷静に判断を下せるフォアルデンは、ヤザンをどうするべきかを第三者目線で考えながら、もしもの時の期を伺うのだった。

 

 

 




この後、皆で仲良くいっぱい食べる事になります。

いかんなぁ、ヤザンが美味し過ぎるキャラなせいでドンドン設定盛り込んでしまうw
まぁ独自設定多数のタグがあるから良いよね別に。


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第27話 十傑集その2

新西暦186年8月7日 極東方面 第二新東京市内 某飲食店にて

 

 「皆さーんカルビ焼けましたよ~。」

 「おおー…。」

 「人間ってユニークな事するんですのねぇ。」

 

 昼時、わいわいがやがやと平日なのに労働者から家族組、独り身まで大盛況な焼肉メインの食べ放題の飲食店の一角。

 そこには四人の女性陣と一人の男性が食卓についていた。

 しかし、その内実は凄まじい温度差があった。

 

 「お肉…美味しい、ね…。」

 「うーん、油とタンパク質とタレの甘さと塩気が絶妙ですの~。」

 

 アルフィミィ(普通のワンピースに着替え済み)とレーベン(十代入ったかも怪しいプラチナブロンドの長髪ロリお嬢様・ゴスロリ装備てんこ盛り)の幼女×2は暢気に焼けた肉や料理に食い付いていた。

 その服、匂い落ちるのか心配になるが、一度アインストの能力で吸収してからまた出せば何時でも新品同然だぞ!

 そんな能力とか多数持ってるアインスト化した彼女らの身体は高いスペックを誇る。

 しかし、通常の人類よりも消費するエネルギーが膨大だ。

 機体側からエネルギーを供給されるため、食べなくても問題はないのだが、元人間の精神が安定のために食事や睡眠、趣味等を求めているのだ。

 アルフィミィは人を参考に作られた擬人型アインストなのでそんな必要はないのだが、エクセレンの系譜故か、この様に常日頃から他のメンバーと共に食事を楽しんでいる。

 

 「おー食え食え。子供は食って遊んで寝るのが仕事だ。勉強はその次だ次。」

 「でもお野菜も食べましょうねー。お肉ばかりは飽きちゃいますから。野菜・肉・野菜・デザートのループこそ食べ放題では大正義ですよー。」

 

 そんな感じで肉と野菜を焼いてやるヤザンに、人間の頃は十代後半のアナハイム系技術学校に通う女子(外見2Pカラーのニャル子)だったフォアルデンもデザートや飲み物を追加して世話を焼く。

 

 (味がしない…!)

 

 そして、普段はヤザンのポジションにいる5人の中で最年長のアラサーだったのに十代後半まで若返ったアトミラールは全くと言って良い程度に美味しい食事を楽しめずにいた。

 それもその筈で、理由をつけて離席しようとするとヤザンが全く笑ってない眼光で(座ってろ)と告げてくるのだ。

 後輩で年下で元部下の恋人を残して戦死し、その後も生存を知らせずにいた負い目を抱えたアトミラールは脂汗を流しながらその眼光に言われるまま立ち上がる事も出来ずに美味しくない食事を続けていた。

 

 (おーおー普段は姉貴分として頼りになるアトミラールさんが何とも乙女になっちゃってまぁ…。)

 

 好きな人に嫌われたくない小動物オーラを全力で出しているリーダーの筈のアトミラールを見て、ニャル子もといフォアルデンは内心でにやにやしながら事の成り行きを見守る。

 

 「さ、アルフィミィとレーベンは私と一緒にデザート取ってきましょうか?もう取ってきた分が無いですし。」

 「行きますの。」

 「い、く…!」

 「え、ちょ」

 

 有無を言わさず、三人が一気に離席して料理を選びに行ってしまう。

 残ったのは顔を青くするアトミラール(今年で生きてれば3ピー歳)とその二つ名の通り、野獣が如き笑みを浮かべるヤザンの二人が残される。

 

 「で、何があった?」

 「き、機密だから…。」

 「ほぅ?あんな十になってるかも怪しい嬢ちゃん達を運用する部署なんて聞いた事ねぇなぁ?」

 「と、特殊な適性持ちの子達で…。」

 「ほぅ?NT関連研究は戦後は政府側の指定施設で行われ、未成年の参加は検査のみの筈なんだがなぁ…?」

 「」

 

 一年戦争勃発が新西暦179年で終わったのは翌年の1月1日。

 そして、現在が新西暦186年の8月。

 法改正や新法立案と施行するだけの時間は幾らでもあった。

 事実、NT研究による非正規勢力の跋扈を封じるため、NT研究は戦時でもない限りは未成年者の参加は禁止され、辛うじて検査によるデータ取りのみが許されている。

 これは戦後、ジオンからNT研究のデータを入手し、その悪用を危惧した連邦政府が主導したもので、一定の成果を上げたものの、それでもジブリール閥のティターンズ系研究機関等、政府の目から逃れて研究を続ける連中は一定数存在した。

 また、戦時においては緊急時、異星人や異次元等の侵略者にのみ16歳以上の子供でも軍に志願可能だが、そうした兵は対人類間戦争では運用せず、そうした若過ぎる者は練度の関係で後方に回されるのが常だった。

 要は数合わせのための人員でしかなかったのだ。

 それを考えると、如何にシンジ達チルドレンやスーパーロボットのパイロット達の扱いが超例外であるかがよく分かる。

 そんな法改正等を一年戦争末期、ソーラーシステム輸送艦並びコントロール艦の移動の護衛任務の最中にジオンのNT部隊(32機のサイコザク軍団)の奇襲を受けて戦死、その際に遺体をアインストに回収されてアインスト化、以来ずっと戦い続けていた彼女が知っている訳もなかった。

 

 「で、何があった?」

 「い、言えない。」

 「ほぅ?」

 「言ったら、巻き込まないといけないから…。」

 

 もしここでアトミラールが何かアインストに関して漏らそうなら、ヤザンもまたアインスト化させなければならない。

 抵抗するなら、最悪殺害すら視野に入る……と、アトミラールは思っていた。

 実はアインスト側の最高権力者たるノイレジセイアは「別に機密情報とかそんなもの存在せぬ。我らの情報が漏れた所で質と物量で人類を始めとした他勢力は圧殺可能だ。」とか思ってたりする。

 事実、アインストの宇宙による侵食さえ完了すれば、その時点で無限に進化と再生を繰り返す無尽蔵の物量が投入可能になるので、その認識は正しいのだがそれはさて置き。

 

 (やはり口が堅いな。)

 

 流石は若い頃の軍に入ったばかりのヤンチャしてたばかりの自分を育て上げただけはあるな、とヤザンは思った。

 なお、入隊した頃のヤザンはイサム・アルヴァ・ダイソン中尉(マクロス+の主人公)も斯くやのやんちゃぶりで野獣所か狂犬状態だった。

 それを当時、ボコボコにして一から軍人としての規律を叩き込んだ上官が若かりし頃のアトミラール、人間だった頃の名前をコムギ・パストゥール(ヤザンより6歳上)だった。

 そこから紆余曲折を経て二人は交際を開始、一年戦争終了後には結婚する予定だった。

 そんな惚れた女の堅物かつ頑固な所を知っているヤザンはここで聞き出す事は無理、無理に聞き出そうとすれば流石に目立つし、先程からこちらを見ているフォアルデンに排除されかねない。

 加えて、この街はNERVのお膝元であり、迂闊な話をしては何処で聞かれるか分からないのも痛い。

 

 「んじゃ連絡先渡しておくから、困ったら連絡しな。」

 「…良いの?」

 「良かないさ。だがな、ここで無理して再会できたお前に避けられる方がキツい。」

 

 それはヤザンの本音だった。

 惚れ抜いた姐さん女房(予定)が死んだと思ったら、訳ありとは言え生きていた。

 その訳ありの内容がどう考えてもヤバゲなものだと直感で察しながらも、それでも生きていてくれた事が大事だった。

 更に諸々の要素を考慮して、ヤザンはもしもの時の事を考えて連絡先を渡し、繋がりが途絶える事を防ぐ事にした。

 

 「戻ってきましたー。」

 「カルビ、ハラミ、タン塩ですのー。」

 「アイス、と、お野菜も…。」

 

 話は終わったと判断したフォアルデンに連れられて幼女二人が戻ってくる。

 三人の姿にアトミラールもホッと息をつき、ヤザンもここまでだなと意識を切り替えた。

 

 「ほれ、そろそろ食うぞ。」

 「もう良いの?」

 「今はこれで良いのさ。」

 

 そこからはヤザンはアトミラールにおら食え!とばかりに焼肉と野菜を焼いては食わせ、自分もわはは!と上機嫌に焼肉とビールをカッ喰らっていく。

 闘争を楽しむ時以外でこうも心が軽いのは久しぶりだと感じながら、ヤザンはもうないと思っていた安らぎの時間を過ごしていた。

 その姿はまるっきり娘達に囲まれた休日のお父さんだった。

 

 

 ……………

 

 

 「ここが第二新東京市か…。」

 

 夕暮れ時、食事と休憩その他を終わらせた衝撃のアルベルトは第二新東京市へと到着していた。

 

 「NERV本部はこの地下だったな。」

 

 ふむ、とアルベルトは考える。

 極東方面の行政の中心故か、その警備態勢はしっかりしたものだが、十傑集の一人たる彼を捉える事すら出来ないのでは案山子も同然だった。

 これが国際警察機構であれば下っ端であろうと侵入を察知する事は出来るので、怠慢な兵しかいないとアルベルトは結論付けた。

 アルベルトの言い分は理解できる。

 極東方面の行政の中心都市であるからには戦時下であるからには相応の警備態勢が敷かれているべきである。

 しかし、魔神覚醒事件からこちら、ムゲ帝国の侵攻はパタリと止み、外宇宙からの侵略者も太陽系防衛用無人機動部隊によってその侵攻は阻まれている。

 そのため、太陽系外周部の土星や木星に火星、一年戦争で大きな被害を受けた各サイドのコロニーなら兎も角、地球はあっと言う間に平和ボケが始まっていたのだ。

 お前ら、魔神覚醒事件が一か月前に起きたばかりだろと言いたい所なのだが、事態が余りに現実離れしていたせいで認知されていながらも、連邦軍内部でも末端では多くの人が現実から目を反らしていたのだ。

 また、この都市が何だかんだ言ってNERV、その裏のゼーレの影響力が強く、超法規的とは言わないものの独自の権限を持っている事から連邦軍からの受けが悪く、都市の規模に相応した精鋭歩兵部隊の駐屯等が行われていなかったのも大きい。

 それでもヤザン率いる精鋭の機動部隊一個大隊(量産型特機含む)が駐屯している辺り、A.I.M.は本当に頑張ったと言える。

 そんな訳で、アルベルトの思う案山子同然の怠慢な兵という感想は正鵠を射ていた。

 とは言え、流石に十傑集基準の精鋭部隊なんて早々いないし無茶言うなよとは思うのだが…。

 

 「地下への入り口は…あそこか。」

 

 第二新東京市の地下にある巨大空間ジオフロントへの入り口であるモノレール駅を見つけると、アルベルトは颯爽と歩き出す。

 その明らかに堅気ではなく、どう見ても連邦軍でもNERV関係者でもない姿に流石にモノレール駅の警備員が呼び止めた。

 

 「申し訳ありません。IDカードをお見せs「邪魔だ。」

 

 その言葉と共にアルベルトの指先から放たれた衝撃波により、警備員の首から上が消失した。

 

 『ッ!?て、敵襲!敵襲だー!』

 

 それを監視カメラから見ていた保安部が警報を鳴らす。

 途端、ジオフロント全域が第一種戦闘態勢へと移行するが、元研究機関の警備兵上がり程度でどうにか出来る程に十傑集は惰弱ではない。

 

 「さて、エヴァとやらは何処にあるのだ?」

 

 こうして、第一次NERV襲撃事件は幕を開けた。

 

 

 




ヤザン、将来の予行演習()
シャムシェルの代わりに十傑集が一人、衝撃のアルベルト様が来てしまった件。

シンジ「人間とは(哲学」
リツコ「あれが人の可能性…。」
ミサト「付近のガンダムファイターに連絡!報酬は後で幾らでも出すから!」


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人物設定その1

後半三名はガンバスター氏に作ってもらったアインスト系オリキャラ三名となります。
とてもユニークかつ物語に幅が出来たので改めて感謝を。

この人物設定は作者の備忘録的な意味が大きいので、見なくても本編には大して影響はありませんので読み飛ばして頂いても構いません。

その内100話記念の番外編を出しますので、暫くお待ちください。


 ○ユニクロン

 本作第一章の主人公。

 TS人外転生系主人公であり、元は単なるロボやSF系オタク(ファンタジーも面白ければ好き)。

 何時の間にかユニクロンに転生しており、余りにも暇だったので悠久の時をあらゆる情報を収集・記録する事で過ごすようになった。

 また、暇を潰すために眷属として無数のトランスフォーマーを長い時間をかけて創造するに至る。

 悠久の時と同じ位の暇を潰すため、宇宙の自然現象の記録や解析、知的生命体のあらゆる情報(文化・歴史・軍事等々)の収集と解析・改良等を行いながら旅をし続ける。

 その過程で多くの文明や種族の興亡、宇宙の終焉や再誕すら見届け、全てを余すことなく記録し続けた。

 自身の創造したTF達とその結婚相手や子供達に対しては子や孫の様なものとして見ており、母性を感じているため、基本的に穏やかで優しい。

 底抜けに優し過ぎてTF達に怒られる位には優しい。

 また、人間時代に見た事のあるヒーローや有名人には駄々甘になるため、度々TF達に怒られる事もある。

 多数の端末を持っており、専らホライゾン・アリアダストそっくりの女性型人型端末でコミュニケーションを取るため、読者からはホラクロンの渾名で呼ばれる。 

 

 

 ○プトレマイオス

 本作第二章からの主人公。

 第一章の主人公ユニクロンの分体スター・オブ・プトレマイオスから派生した存在。

 自爆後に偶然にも生き残ってしまったが故に本体とその子供達へと合流しようとしているのだが、多次元宇宙のかなり遠い世界線の地球圏に飛ばされてしまったため、合流する手段が無く、途方にくれた。

 救難信号を出そうにもそれは全方位への通信でもあり、うっかり邪神を始めとした敵対勢力等に気付かれる事を恐れてそれもできない。

 人格・記憶・知識・動力源の要たるマトリクスを無くしており、そのため本体との直接的なやり取りが出来ない。

 そのため、連絡手段であるマトリクスの開発、或いはこの世界線の地球人類を強化する事で問題を解決しようと頑張っている。

 もし再会が叶えば、ホラクロンからは「私の新しい娘」扱いをされる事を本人だけまだ知らない。

 愛称はトレミィ、性格は本体同様に結構な母性を持っていてテンションも高めだが、敵味方へは大きな温度差を持っており、冷酷な策も必要なら割と平然と行ったりする。

 

 

 ○ギレン・ザビ

 地球連邦軍を後一歩まで追い込んだ男(ガチ)。

 某ガルマ三部作の様にジオンの浪漫系開発陣の開発計画の多くを中止に追い込み、まともな兵器開発とまともな国家運営とまともな戦争指導を行うというガンダム史上他に類を見ないまともな指導者として活躍した本物の天才。

 しかし、その目的は宇宙移民の独立ではなく(そもそもこの世界線では地球連邦による圧制は行われていない)ビアン博士よろしく平和に現を抜かす地球連邦の目を覚まし、将来来るであろう無数の侵略者への対抗するだけの戦力をいち早く配備させるために敵として立ちはだかり、自分率いるジオンを倒せねばそのまま自分が人類の守護者として君臨するつもりだった。

 だが、その本当の目的は幼い頃からの初恋の女性=プトレマイオスの悩みを消す事=人類の強化という目的を叶える事だった。

 最終的に巨人族監察軍の先行偵察艦隊によりア・バオア・クーが壊滅した後は表舞台から姿を消した。

 以降はA.I.M.木星支部長(木星圏全部を差配する重役)にゲイザー・ニブハイ(ギレン・ザビのアナグラム)の偽名で任命し、ストレスフリーかつ初恋の女性と三日置きに通信できる関係になって順風満帆の生活を送っている。

 

 

 ○シャア・アズナブル(本名キャスバル・レム・ダイクン)

 ホワイトベース追撃任務でうっかりヤザン(inクラウドブレイカー)に重傷を負わされ、地球に降りる事なくNT部隊の指揮官として活躍する事になったのでアムロとの因縁も薄い。

 最後のア・バオア・クーでの決戦ではララァはジオングに搭乗して生存、他NT部隊(実質サイコザク軍団)も生存、自身も巨人族監察軍の旗艦内部へと両軍のエースと共に突入して全員生存の奇跡を果たした。

 後にララァと結婚、二児の父親となり、ジオン共和国軍のエースとして活躍中。

 一年戦争時の搭乗機体は専用の高機動型ザクⅡ、高機動型ゲルググ。

 

 

 ○ヤザン・ゲーブル

 原作と比較して、この世界線において最もその経歴が変遷した男。

 ギレン同様作者の予想を最も裏切ったキャラの一人。

 北斗の拳のモヒカンばりに荒くれ者だった連邦軍入隊直後の彼は正に狂犬であり、手が付けられなかった。

 それを6歳年上の当時の上官である女性士官であるコムギ・パストゥールが性別とか関係なくボコボコにして躾をして一丁前の軍人となった。

 以降、コムギとは上官にして恋人として交際していく。

 それでもやっぱり闘争心は消えず、戦いを楽しむのであったが、一年戦争末期にコムギが戦死してからは大分大人しくなった。

 一年戦争時はクラウド・ブレイカーに搭乗し、アムロの良い兄貴分としてルナ・ツーで彼を鍛えた他、ア・バオア・クーで巨人族監察軍の旗艦への内部突入口を開ける等の大活躍をした。

 第四章においては少佐となり、第二新東京市に配備された極東方面軍首都防衛隊の隊長ヘイズ1として多くの部下を指揮する立派な大人にして連邦軍人としての姿を魅せる。

 そして、死んだと思っていたコムギ(アインスト化で若返って髪や目の色が変わっている)が三人の少女達を連れている姿に出くわして驚愕、何れ絶対に自分の隣に連れ戻すと決意した。

 搭乗機体は一貫してMS系統で、反応速度が鈍い特機は性に合わない模様。

 

 

 ○パプテマス・シロッコ

 若いながらもA.I.M.火星支部長の要職を務める天才。

 バタラを始めとしたA.I.M.製MSは彼の設計した機体であるが、その数十倍の高性能試作機が火星支部兵器開発局の地下に置かれている辺り、相変わらず整備性に問題のある機体の開発が趣味になっている模様。

 原作通り木星船団の長に成る前にA.I.M.にスカウトされ、その真の目的にも触れ、A.I.M.の多くが優秀な女性(自動人形含む)で構成されている事からあっさり就職し、その優秀さから20代で火星支部長にまで登り詰めた。

 根本的な所は原作と全く変わっていないが、その辺一切問題にならない職場なので周囲から大変頼りにされている。

 もし火星圏が戦場になったら、ギレンに負けず劣らずの戦略眼で大活躍する予定。

 

 

 ○シャピロ・キーツ

 ご存知獣戦機隊の教官にして指揮官。

 彼が上申した異星人の侵略への警告は地球連邦軍上層部・地球連邦政府中枢から重く受け止められ、戦後の本格的な戦力再編計画の一助にもなった。

 極めて高い能力に相応なプライドを持っているが、そんな感じで評価され、更には連邦軍所属の試作型特機たるダンクーガ運用のための部隊の要職に配置された他、参謀本部からも度々意見を求められる位には評価されている事から裏切るつもりは無くなった。

 また、自分以外の天才達がいる事から、割と今の立場を気に入っている。

 目下の悩みはマジンガーZEROとかの出鱈目な存在への対策案の構築とか部下の沙羅が自分に恋慕の感情を向けてくる事だったりする。

 搭乗機体はランドライガー・ランドクーガーの予備パーツから作成されたコマンドウルフ、その改良機のシャドウフォックス。

 

 

 ○ひびき洸

 ご存知ライディーンのパイロットにして若きサイコドライバー。

 対地底種族連合との戦いで覚醒し、ゴッドボイスを解禁となった上、ラ・ムーの星無しでムートロンの力を解放した。

 が、その内実は普通のサッカー少年であり、母親であるレムリア女王=ひびき玲子からスパルタで王族教育される事に辟易としている。

 また、初陣ではガンテ艦隊と多数のドローメや化石獣を一人で相手にする破目になってトラウマになり、それをガールフレンドのマリに身体で慰めてもらって漸く奮起する(なおこの当時は二人は中学生)。

 が、その時の光景を空間転移してきた玲子に見られた挙句「よし、これで孫が出来るわね!」とコロンビアのポーズで言われ阿鼻叫喚、やっぱりトラウマになった。

 妹にひびき晶(しょう)がいる。

 周辺には常に護衛役の艦娘型ナノマシン式高性能自動人形達が控えている。

 

 

 ○碇シンジ

 ご存知エヴァ初号機のパイロットにしてサードチルドレン、不幸の代名詞にして数多くの薄い本に登場した少年である。

 一年早い第一次α開戦によって13歳にしてエヴァ初号機に乗せられた。

 第二新東京市に来る前の経歴は原作のままだが、原作には一人もいなかった極東方面軍首都防衛隊の頼りになる立派な大人の面々との交流と訓練で心身ともに急速に成長している。

 割とむっつりスケベだが、寧ろこの年齢を考えれば当然というか健康的ですらある。

 現在、護衛兼監視役のクローナ・ゴトランドに攻略されている真っ最中。

 

 

 ○クローナ・ゴトランド

 A.I.M.から地球連邦軍極東方面軍首都防衛隊へと派遣された艦娘型ナノマシン式高性能自動人形の一体。

 コールサインはヘイズ3で階級は少尉、ゲシュペンストmk-Ⅱに搭乗している。

 パイロットとしては射撃より(特に中距離が得意)のバランスの良いステータスをしているが、本体である無人量産型OFセトに乗った方が強い他、艦娘の艤装を装備して対人戦闘も可能。

 泣き黒子と着痩せする形の良いバストがチャームポイントのお姉さんとしてシンジに接触、護衛兼監視役にしてハニートラップ要員でもある。

 あるのだが、自動人形の性質上浮気せずにそのまま一緒のお墓に入るまでがセットなので、実態を知っている者からは何も心配されていない。

 任務中は基本的に軍人らしくハキハキとしているが、民間人相手や任務外では元の面倒見の良いお姉さんに戻る。

 クローナはスウェーデンのお金の単位。

 

 

 ○横塚高雄・愛宕

 A.I.M.から地球連邦軍極東方面軍首都防衛隊へと派遣された艦娘型ナノマシン式高性能自動人形の姉妹。

 コールサインはロック1と2、階級は共に中尉で、量産型グラビリオンに搭乗している特機乗り。

 パイロットとしては姉である高雄が格闘より、愛宕が射撃よりで、どちらも援護防御を得意とする。

 やはり本体である無人量産型OFセトに乗った方が強い他、艦娘の艤装を装備して対人戦闘も可能。

 しっかり者の黒髪巨乳とゆるふわな金髪巨乳で事案型とか言われてるが、シンジへのハニトラに関してはゴトランドの方が早くも本気になってたので護衛兼監視役に専念する事にした。

 

 

 ○アインスト・アトミラール

 生前の人間としての本名はコムギ・パストゥール。

 ガンバスターさんから提案のあったアインスト系オリキャラその1。

 原作と異なりこの世界では恒星間物量戦を行うに辺り、対宇宙怪獣や異星人戦も考えて、ノイレジセイア視点でも明らかに指揮官格がアルフィミィだけでは足らないと増員されたネームドが一人。

 かつては地球連邦宇宙軍でサラミス級の艦長をしていたが、一年戦争勃発に伴う相次ぐ激戦の参加や上位階級の戦死による繰り上げ昇進。

 彼女自身の能力の高さや戦果やらにより最終的にはマゼラン級の艦長として二十代にして中佐となり、小艦隊を率いる立場になったが、ソーラーシステム輸送艦並びコントロール艦の移動の護衛任務の最中にジオンのNT部隊(32機のサイコザク軍団)の奇襲を受けて戦死、その際に遺体をアインストに回収されてアインスト化、以来ずっと戦い続けていた。

 外見イメージは艦隊これくしょんの空母棲姫が悪堕ちっぽく劫火の如く赤黒く変色・改造した連邦軍服を着こんでいる姿。

 制服の腕は捲って、手足に原作空母姫の腕甲・脚甲のような防具を装着している。

 声も藤田咲さんなので、この世界では既にクローン武蔵の嫁になった赤城と同じ声である。

 一昔前なら金髪の日系フランス人と言われた血筋で、名前は小麦のように白い肌、白い髪と言える空母姫の容姿にもかけている(作者は当初小麦でパスタと思ってたw)。

 アインスト勢の名前の由来がドイツ語っぽいのばっかなので、かつての知識や記憶からして不思議そうに首を傾げる日々。

 何で異種族勢力なのに、縁も所縁も無さそうなドイツ語の意味合いを持つ名前ばっかなのかなって。

 かつて日系フランス人と言えた自分が、ドイツ系の名前の機体に乗って、ドイツ系の名前を名乗る意味でも違和感がある。

 名前のアトミラールはドイツ語で「提督」の意味。

 艦これでは提督も指揮官も司令官も艦長も艦娘達には呼び名混在し捲くってるから今更である(メタい)

 当人としては艦長と提督とでは似てるようで違うし、役職をそのまま名前にしちゃうのかぁと、複雑な心境だろうが実質本名ももう名乗れず、艦長(提督)としての在り方しか残っていない自分にとっては相応しいのかもしれない、と内心で自嘲の笑みを浮かべてる。

 年下の他のアインスト系ネームド達の指揮官にしてお姉ちゃん(アラサー)であったのだが、ヤザンと予期せぬ再会を果たしてからは一転して乙女化している(そして揶揄われる)。

 エクセレンのある意味で不完全なコピーと言えるアルフィミィと異なり、生前の肉体という素体が残されたまま改造された為、人格面や記憶と言った安定性はアルフィミィより上である。

それ故にノイレジセイアの目的も察した場合は真っ先に懐疑的かつ、対地球人類戦に差し向けられたら心情的抵抗感は強いと思われる。

 但しティターンズみたいな問題児共相手かつ、連中がそういう相手と既に周知の場合は人類相手でも躊躇なく襲撃する。

 なお、彼女が配属されたのは主に外宇宙を主軸にした対宇宙怪獣や異星人方面部隊であり、地球圏は主にアルフィミィに任されてたので、とりあえず宇宙怪獣とか外敵を減らす分には良いだろうと反抗計画やらは一先ず棚上げしている。

 内心ならともかく、表だって反発したらノイレジセイアに消されるか再調整を受けるのを恐れている。

 なお、容姿やスタイル面では髪が白髪になったり変化しながらかつての面影を残しながらも、若返ったり美貌度合いも上がったりしてるので、その点では乙女として嬉しく思っていなくもない(今の境遇での数少ないメリット)。

 生前の性能は名無しのスタークジェガンのパイロットの艦長版であり、連邦軍佐官らしく包囲殲滅並び砲雷撃戦を得意とする。

 

 特殊技能:指揮官・援護攻撃・援護防御・ガード・集束攻撃・底力

 SP:必中・不屈・熱血・激励・身代わり・期待

 

 

 ○レーベン

 アトミラール同様、この世界で追加されたアインスト側のネームド幹部。

 元は東欧地域在住の一般市民で、産まれた直後に捨てられたが幸いにも善良な夫妻に保護され、そのまま養子となった。

 夫妻は資産家で長女もいたが、姉妹中も良好で家族に愛され何不自由ないお嬢様としてスクスクと育っていた。

 性格的にはお淑やかで可愛らしいお嬢様らしいお嬢様と言えたが、他者と比べたら羞恥心が強く人見知りしがちで、特に自身の肌を晒すのに抵抗感が強い。

 水泳の授業やプール遊びの際は顔を真っ赤にしてあわあわしながら参加し、そんな様子が庇護欲を誘い周囲を和ませていた。

 一年戦争勃発後も不穏な情勢を大人達の会話やらから何となく感じながらも平和に過ごしてたが、そんな幸せに満ちた日々は突如終焉を告げた。

 彼女の故郷を突如ジオン軍のMSを保有する武装勢力が襲ったのだ。

 時期的にはマ・クベらの統制から外れた過激な連中が匪賊化したのか。

 既に犯罪組織(場所柄を考えるに民族主義者辺り)にでも繋がってたのか、はたまたそういう連中に横流しされて使用されただけなのか。

 町を襲った連中の目的も何も彼女にはわからないが、確かなのは故郷たる町は災厄に巻き込まれ、そして彼女は瞬く間に自分の愛した家を、家族を失い、業火に焙られるがままに命の灯を失おうとしていた。

 何で自分がこんな目に合わないといけないかという疑問、愛した家族が死んだことを理解しているのかどうかもわからない絶望や虚無。

 二度も大事な物を失うのかという慟哭。

 町を焼いていく脳裏に焼き付いた単眼の巨人への恐怖と怒り等と、死が迫りゆく彼女の内心はグチャグチャになっていたが。

 何よりも強き願いは『死にたくない、生きたい』という野生、原初の生存本能であった。

 最も、例えただの少女がどれだけ願い、足掻いたところで最早どうしようもなく、ただ哀れな焼死体が出来上がるだけであっただろう。

 彼女の意思が、魂の相性が偶然にもアインストと相性が良く、サイコミュ兵器起動には届かないものの持っていたNTの感応波がノイレジセイアという一種の超越種に届かなければ。

 そうして回収された一人の力なき少女は新生し、新たな同胞や分身たる愛機を、力を得た。

 外見イメージは年齢9歳頃のプラチナブロンドをふわふわロングで下したロリっ子で、スタイルや身長は年齢相応よりも幼い。

 当然、幹部陣で最年少となる。

 素の容姿はリリカルなのはシリーズのユーリ・エーベルヴァインが近いが、モデル元よりも髪の色素は薄く白に近い。

 声もユーリの中の人と同じ阿澄佳奈をイメージ。

 衣装はファイター・エミィ(紫)+リリカルなのはシリーズのナンバーズスーツや衛士強化装備みたいなぴっちりスーツとパワードスーツを組み合わせたような変身ヒロイン風味。

 顔も鼻まで覆うSFチックなマスクに包まれ、頭にも狼の頭の上半分を模したヘッドギアを装着し、そこから彼女の美しく長い髪を溢れさせている。

 ヘッドギアを含めたアーマーパーツは愛機をイメージさせる白系、インナーのようなスーツ部分は黒系を主体としたカラーリング。

 平時にアトミラールらと共に街中にでも遊びに行く際は、ゴスロリ系ドレス主体にそれに合うお洒落な帽子やハーフマスクに手袋で揃え、場合によっては更に内側にインナースーツも着こむ。

 アトミラールと異なり戦場への覚悟もないただの一般人のか弱い少女が悲劇に巻き込まれた結果か、主にメンタルや記憶面のダメージが大きくアトミラールほど過去のことははっきり覚えていない。

 だが、自身の大事な家族や故郷が理不尽に奪われ、害された事、結果的には二度も大事な者を失った(実親に捨てられたことも察してはいた。

 だから余計今の家族に実は執着していた)こと。

 過去の大事な思い出やあのジオン系MSやテロリスト等への恐怖や憎悪やらは根深く残っており、そのためか単体だとメンタル面が不安定になり、身内に手を出された途端暴走する事すらある。

 かつての名前はブリギッド・リヴァン。

 そのまま育てばかの聖女のように教会で清廉なシスターをしてても違和感がないような、素敵な乙女にストレートに育っていたかもしれない。

 だが、今のブリギットは聖女らしさからかけ離れた戦闘スタイルで戦場で猛威を振るう白銀の獣である。

 名前はドイツ語で「生存」の意味。

 生きたいという原初の訴えが誰よりもノイレジセイアに届いたことと、三度目の大事な者の損失を誰よりも恐れる彼女の今を表している。

 過去が過去故にジオン系やテロリスト系への警戒心や敵意はマッハで、故郷を襲った連中の正体を調査し、判明したら間違いなく報復し、殲滅している。

 結果的には助けてくれなかった、救援が間に合わなかった連邦側にも含む所があり、人見知りの悪化や人間不信に繋がってる。

 あの死の間際から野生化のスキルが覚醒したことで、動物的直感や本能が研ぎ澄まされたのもあり、他者への警戒心全般が上がってるのもある。

 平時では他所の人間に表面的には取り繕うことはできても、内心で心許すことは非常に難しい。

 戦闘時と平時の衣装も人間不信が絡んでおり『直接的・間接的問わずなるべく人間に自分の肌を晒したくない、直接触れたくない、素顔を見せたくない』と潔癖染みた本心から来ている。

 ゴスロリと戦闘スーツは前者は元々その手の服装が好きなのと、後者は後者でまたレーベンが好きだったのが反映されてる。

 ゴスロリ衣装が好きな娘が、SF系変身ヒロインやヒーローを好んでも悪くはないのだから、好きな物は一つに限らないのだし。

 同様にアトミラールは自分の悪堕ち風味の軍服改造もあれはあれでかっこいいと、趣味的には悪くはないと思っている。

 現在のレーベンは新たな家族にして同胞認識しているアトミラール達ネームド幹部にべったり依存している。

 特に幹部格最古参でその面倒見の良さを持ち、母性が刺激されただろうアトミラールにはレーベンの方からも特に懐いている。

 一緒にご飯食べたり、お風呂入ったり、一緒に寝たり、膝の上に抱っこされながら傍受してる地球側の番組見たり、そのままゲームでもしたりとニコニコ笑顔を浮かべて喜ぶ。

 それこそ犬耳や尻尾が生えたワンコ娘がごとく懐きっぷりで、アトミラール以外にもアルフィミィらに全力で可愛がられている。

 アトミラール達に懐くのは亡き母や亡き姉の面影を、彼女らと行ったような交流を求めてるのもある。

 元々の年齢の低さもあいまり、幹部陣で一番一人で過ごすのを嫌う。

 アトミラール達には別に触れられても気にしないどころか、むしろ触れ合いたいとも思うので普通のパジャマやラフなワンピース姿も珍しくない。

 そういうパジャマやワンピースのセンス一つとっても、蝶よ花よと育てられた美的センスが伺える。

 ゴスロリドレスのまま抱っこされてる光景はまさに人形染みた可愛らしさを魅せる。

 母や姉に長い髪を優しく梳かれ、整えられてたのを覚えてるので自身の髪に拘りがあり、アトミラールらに整えられる際は目を細めて心地良さそうに甘える。

 髪の色が色素は落ちながらもまだ金髪系のままなのを内心ホッとしていた。大事な思い出に繋がってたが故に。

 戦闘時の衣装やらにはアインストパワーでやろうと思えば瞬時に着替えられそうだから、余計戦闘ヒロインっぽくて何気に気に入っている。

 人間は嫌いだが、人間の文化や文明は嫌ってないのでアトミラール達と共なら、街中を出歩き遊ぶのも楽しめる。ただし一人では絶対いかない。

 本能的に他者が人間かどうか、もっと言うと異星人や異世界人やその混血やらとも何となく見分けられるし、基本的に人間が駄目なので、AIMの自動人形勢みたいなのが相手なら抵抗感は抱かない。

 新たな家族に依存しているからこそ、それを傷つける外敵への攻撃性は高いし、トラウマを刺激するジオン系やテロリスト系、町を襲撃するような地下帝国連合みたいな相手も大嫌い。

 結果的には死の淵であった自分に新たな生と力、仲間をくれたノイレジセイアへの好感度はそこそこ高い。

 少なくともアトミラールよりはノイへの好感度は高い。ノイが歌効果やらで改心したりするなら、幹部達と共ならそのまま仕えるのに抵抗感もない。

 OG時のようにノイが手遅れのままなら、悩んだ末に幹部達と共に最終的には反逆するが、万が一皆で残存できずに自分だけ助かるみたいな事態になったら、躊躇なく後追いで自害を選ぶ程度に皆大好き。

 能力的にはガチガチのインファイター。

 暴走すると泣き叫び喚きながら特機級の機体で突っ込んでくるロリという姿が見れるぞ!

 

 特殊技能:野生化・援護防御・インファイト・カウンター・切り払い・気力限界突破

 SP:直感・ド根性・魂・集中・気合・覚醒

 

 

 ○フォアルデン

 アトミラール達同様、この世界で追加されたアインスト側のネームド幹部。

 元は月面都市在住の一般市民で両親はアナハイムの社員、自分もバナージ達の様なアナハイム系技術学校に通う真っ白で全うな民間人であった。

 お嬢様ってわけでも貧しくもない中堅家庭で、普通に学校に通い、友達と遊び、家族に愛されて過ごすただの少女。

 趣味的にはアニメやゲーム、ラノべ等に比較的偏っており、この世界におけるなろう系やピクシブ系の類似サイトの常連であった。

 過去にAIMが世に出したアーマードコアシリーズの、この時代のリメイク作のファンだったりもしたし、コミケや同人イベントの月支部に来援もした。

 オタク趣味以外では『自由に空を飛びたい』『思う存分ガトリングとかをぶっぱしたい』的な憧れや願望も抱えていたが、後者はリアルでのグアムみたいな射撃場の月版でバイト代でもつぎ込めば欲求を晴らせたし、軍人とかになる気は皆無だった。

 一年戦争に巻き込まれることも、異星人の襲撃も起きず、それらは彼女にとってはニュース越しの遠い出来事に過ぎなかった。

 だが、そんな当たり前の日常は突如終わりを告げる。

 買い物帰りに背後から刃物で急所を一突き、ただそれだけで彼女の生は終わりを告げた。

 下手人は社会で稀に出る異常者の類で「人を殺した感覚を知りたかった、誰でも良かった、死刑になりたかった」等と定番の証言を出すような手合いで、言い方悪いが犯罪史的には珍しくもない事例である。

 彼女はその犠牲者の一人に運悪く選ばれてしまった、それだけであった。

 犯人はその後他にも死傷者を数人出すかその前にあっさり捕まり、相応の刑に処された。

 そして、気が付けば彼女はアインスト勢力のネームド幹部として新生していた。

 外見イメージ的には這いよれ! ニャル子さんのニャル子。

 性格もほぼ同じく。外見年齢的には16、7歳ほど。

 声もニャル子と同じ阿澄佳奈をイメージ。

 実をいうとレーベンのモデルとなってるユーリと中の人が同じなため、二人の声はかなり似ている。

 生前は髪色は濃いグリーン系だったが、新生後にニャル子同様の銀髪に変化した。

 彼女はレーベンのような髪に対して強い拘りはなかったので、変化しても気にしなかったりする。

 アトミラールは新生時に元の姿から若返ったのだが、二人は元が若いためか容姿の変化はともかく年齢面の変化はない(これはアインスト化時に肉体的最盛期で固定されたため)。

 かつての名前はエルマ・ヴァレンシュタイン。

 性格は享楽的でノリがとてもオタクっぽくハイテンション。

 自分の今の境遇に対して一切悲観していない。

 

 「死んだと思ったら魔王軍の幹部に転生って最早使い古されたネタの一つですね。まさか自分がそのポジになるとは思いませんでしたがw」

 「正確には魔王軍じゃないっぽいですが、地球の敵とも味方ともいえるこのポジ。それに異世界転生と思ったら同じ世界への転生、でも今私達がいるのは異世界とも異空間とも言えますから、どう分類すれば良いんでしょうねw」

 「同僚は悪堕ち軍人っぽいけど優しそうなお姉さん(アトミラール)に、自分よりちょっとだけ幼いか同年代な露出過多の不思議ちゃん(アルフィミィ)に、無垢にこちらを見上げて来るぴっちりスーツやマスクを着たロリ美少女(レーベン)ってマジですかw」

「自分含めて幹部格が皆女だけ、それもハイレベルな容姿ばかりってこの後出てくる男か女かのハーレム系オリ主に囲われるメンバーか何かですかw」

 

 みたいなことを表に出すかはわからないが、内心ではあらぶってる。

 今の境遇に対しては幹部陣で一番ポジティブに受け入れている。

 

 「死んでしまったなら仕方ない、今の状況で良いところを探してそれを楽しみましょう」

 「軍に志願したとしても一握り中の一握りにしか得られないワンオフの専用機をいきなり得られた上に、自分の思うがままに動かせるとか最高じゃないですかw」

 「空を、星の海を自由に飛ぶのたーのしーw世界各地の未知の絶景を生で見られるの素敵じゃないですかw」

 「弾幕はパワーだぜ!撃って撃って撃ちまくりますよ!ヒャッハー!」

 

 彼女は元々常人よりメンタルの切り替えや割り切りがとても良くできた上にすげー頑丈だった。

 

 『自分が死んだのは仕方ない、悲しいし残念に思うし、娘に先立たれた形となる両親にも申し訳ないとは思う。でも、自分がくよくよしてもどうしようもないし、なら、今を楽しむのを優先しましょう。人生なんて楽しんだもの勝ちなんですから』

 

 常人ならそんな簡単に切り替えられないのが普通、だが、彼女はそれが出来た、出来てしまった。

 だからこそ彼女は狂おしいほどに家族への愛を抱え、アトミラール以外にもこうして依存してくるレーベンに対し、気楽なお姉さんップリをみせ可愛がりながら少し羨望すら抱いている。

 自分は人並みに家族は愛していたと思うが、彼女ほど深い情愛を抱いていたかというと否だったのは自覚している。

 自分はこのように深い愛を抱くことは出来るのか、或いはそんな深い愛で愛してくれるような伴侶を得られるのだろうか、と秘める想いは彼女にもあるのだ。

 お気楽ご気楽お姉さんのようで、内面で冷徹な側面もあるエクセレンと、享楽的に見えながらドライな側面を持つエルマとでそういう意味ではアインスト関係者で似た者同士である。

 彼女はヤンデレキャラを見ると、度合いにもよるけど愛が重いなと引くと同時にそんな深く愛されるのって良いことじゃねと思うタイプであった。

 名前はドイツ語で「求め」の意味であり、彼女は己が求める物の為に戦う。

 それは現在の楽しみのためか、己の幸せか、仲間のためか、己の願いか。

 それは彼女だけが知るし、或いは彼女自身、自分の求める物が何なのか、その真理を求め、知りたいのかもしれない。

 かつてはNTとしての自覚が皆無で、新生後に自覚したわけだが、NTに付いて人類の革新がどーのと拘る人には正直相性最悪。

 超能力っぽいことで派手なことでもできるのかなと思いきや、そういうのが起こせないからNTに付いて生活や仕事で便利になる技能程度にしか思ってないがゆえに。

 ティターンズ系とかが人体実験をしてるのを知れば、そこまでしてでも求めるほどなのかこれ、と疑問符を浮かべるほど。

 

 「NTだからって他者と分かり合える?嘘のない世界となる?何言ってるんですか貴方達。逆にこいつとは相性最悪だ、殺しあうしかないと判明でもしたらそれでどう仲良くするんですか一体(呆れ)」

 

 こんな反応となるので、感受性が強過ぎてメンタル不安定になるようなNT(例:カミーユ)には同情というか、苦労してるんですねみたいな視線を向ける。

 自分もNTなのにジュド―並みかそれ以上のメンタル強者だから他人事みたいな空気である。

 実際彼女は死者の念がどーのとかはその割り切りが良過ぎるメンタルで都合良くシャットアウトしたりしてるので、カミーユやティファみたいな苦労はした事がない。

 

 「死者の念云々?不愉快な感じしたら、動画編集するみたいに直ぐに都合悪い部分だけカットするから平気ですよ。普通のNTには早々できない?え、そうなんですか…。」

 「気分の悪さなら帰って妹分を抱っこしてもちもち肌に癒されたり、美味しい物を食べたりゲームでもしてたら忘れますけど?」

 

 着ている衣装はニャル子のデフォ衣装(画像検索したら出てくる私服姿)みたいな服装や逆にボーイッシュ系の服装を好むので戦闘時のカットインの姿もそれら。

 ステータスは射撃・防御寄りのリアル系主人公。

 切り払いもシールド防御もバリアもあるしで装甲の割にやたら生き延びる。

 そんな彼女もまた、結果的には死の淵であった自分に新たな生と力、仲間をくれたノイレジセイアへの好感度はそこそこ高い。

 現状を楽しんでた意味ではレーベンよりも高いかもしれない。

 出来ればノイにも改心して欲しいし、説得できるなら協力するだろうが、駄目なら駄目で仕方ないと割り切り、反逆する。

 他の仲間も反逆するし人類というかその文明や文化を、というかサブカルチャーが好きなのにそれを失わせるわけにはいかない。

 自分の元の家族も暮らす世界なのだから、滅ぼさせるわけにはいかないので。

 恩知らずとも言える行動となるので、できれば反逆する必要は生まれないでほしいと思っている。

 

 特殊技能:NT・援護攻撃・ガンファイト・ヒット&アウェイ・シールド防御・見切り

 SP:直感・熱血・直撃・鉄壁・補給・再動

 

 

 



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人物設定 追加

これはうっかり人物設定その1にて記載し忘れてしまった人達のためのものです。
 前話に追記しようとも思ったのですが、あちらの文字数がトンデモナイ事になっているので別話にしました。
 申し訳ありませんでした。



 ○アムロ・レイ

 

 ご存知歴代リアル系パイロットでも屈指のチートにしてスパロボ常連キャラ。

 この世界線でもやはり白い悪魔呼ばわりされているが、その戦績は若干大人しい。

 搭乗機体は一年戦争中はガンダムとFAガンダム(サンダーボルト仕様)。

 一年戦争後は新型主力機開発計画にテストパイロットとして参加し、ジェガン系、ゲシュペンスト系、ビルトシュバイン系を始め、プロトタイプ・ヒュッケバインにも搭乗している。

 ルナツーではヤザンからパイロットとしての訓練と薫陶を受け、身を守るためとは言え戦う覚悟を決めた。

 父であるテム・レイとジャブローで再会してからはPTSDからパイロットになろうとしたが、テムの説得で彼と共に新型MS開発のためのテストパイロットしてジャブロー侵攻作戦まで過ごしている。

 が、ジャブロー攻略戦で戦闘に巻き込まれた後は再び戦う事を決意、テムと共に改良・作成したFAガンダムでホワイトベース隊と共に再び宇宙へ上がり、ジオンのみならず侵攻してきた巨人族監察軍と戦い、地球連邦の勝利に大きく貢献した。

 現在はホワイトベース隊のセイラ・マスと結婚、二児の父親と連邦軍人(主にテストパイロット)の二足草鞋となっている。

 が、本人は父との同居もOKなしっかり者の妻と子供達との今の暮らしを大層気に入っている。

 MS操縦においてはあらゆる面で非凡な才覚と高いNT適性を持つ。

 一年戦争時は敵部隊の指揮官から優先的に撃破する首狩り戦術を得意とし、ジオン側から白い悪魔と大層恐れられた。

 

 

 ○テム・レイ

 

 アムロの父親にしてミノフスキー物理学の始祖たるミノフスキー博士の直弟子であり、連邦側MS開発の基礎を築いた極めて優秀な人物。

 元はアナハイムから連邦軍へ出向したエリート技術者にしてサラリーマンだが、そのまま連邦軍MS開発局へ居ついた変わり者でもある。

 一年戦争中はRX計画・V作戦の根本に関わり、連邦製MSの代名詞たるガンダムやジムをチーム一丸となって開発、以後も改良に専念した。

 それは連邦政府の秩序による平和な世界を維持して息子に平和に暮らしてほしいという一人の父親としての願いもあった。

 しかし、アムロが戦争に巻き込まれ、遂にはパイロットになると言い出すと大反対し、自分の目の届くテストパイロット(ガンダムを実戦運用した経験も踏まえて)になる事を勧めた。

 最終的にアムロはエースオブエースの仲間入りを果たしてしまったが、彼は徹底的にアムロを死なせないように立ち回った。

 アムロに贈ったFAガンダム(サンダーボルト仕様)もその一環である。

 なお、妻のカマリアとは戦前から浮気に気付き、サイド7へアムロを連れて出張する事で浮気相手か

自分達かを選ばせたが、カマリアが遂に選べずにどっち付かずの態度を取り続けた事から愛想を尽かし、戦後にはきっちり別れた。

 その際、慰謝料等を求める事はせず、NTであるアムロを狙うアナハイムの手がカマリアに及ばない様に迅速かつ完全にカマリアとの関係を断ち切った。

 現在は息子一家と共に月で生活し、ミノフスキー博士やアムロ他開発チームと共にヒュッケバインの開発に万進している。

 

 

 ○早乙女賢

 

 本作のカオスさを表現しているキャラの一人。

 巨大複合企業グループA.I.M.から強力に支援されているゲッター線研究の第一人者にして、齢100歳を超える老人でありながら一切の衰えを感じさせない世紀の大天才(真チェンジ版)。

 それが表向きの早乙女賢博士であるが、母親が生体式自動人形であり、トレミィを始めとした古参の自動人形達からは「賢ちゃん」と親戚の子扱いで未だに呼ばれ続けている。

 すっかり白くなった髭を剃り、髪を整えると生来の童顔(初代アニメ版)に戻るのも理由の一つだが。

 ゲッターチーム並みのパイロット技能とフィジカル、凄まじい頭脳を併せ持つが、これは母親である自動人形の遺伝子改良の他、胎児の頃にゲッター戦艦に入った時に浴びた高濃度のゲッター線が影響していると考えられる。

 プロトゲッターロボ三種、ゲッターロボ、ゲッターロボ改、ゲットボマー等、ゲッター線を用いた兵器を幅広く開発してきた。

 現在はゲッター線増幅装置の小型化とゲッター炉心のサイズそのままに高出力化等の改良に勤しんでいる。

 目下の悩みは古参の自動人形らが未だに自分の事を「賢ちゃん」呼ばわりし、トレミィに至っては幼少期と変わりなく抱き締めたりしてくる事。

 お陰で孫の達人と曾孫のミチル(互いの関係は叔父と姪)他研究所職員からは事案とか犯罪とか思われたり言われたりしている。

 がしかし、それは賢ちゃんだけでなくその兄弟や子供達にとっては恒例行事だったので、古参の訳知りの研究員からは一切のフォローが入れられていない。

 

 が、そろそろ寿命なのでいい加減にしてほしいとは思ってる。

 



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機体設定その7

 ○アテネ級

 

 全長約800m、艦艇用大型縮退炉を主機関にスペースチタニウム製の装甲を採用した上でDFを搭載し、巨人族系兵器と同様の高い耐久性・信頼性を実現しているため、同サイズの地球圏の艦艇としてはとてもタフになっている。

 武装面は艦首大型バスターキャノン×1、40cm連装衝撃砲×6、誘導収束ビーム砲×20、多目的多連装ミサイルランチャー×6、対空ビーム機銃×多数に加え、高い艦載機運用能力も持ち、更に新時代の艦艇とすべく各種フォールド技術も採用され、単独での超長距離フォールドも可能となっている。

 開発はヴィックウェリントン社。

 次世代の宇宙艦を設計するには10万年単位の運用実績を持つゼントラーディ艦を手本とするのが合理的であると判断した同社がマクロス級のデータと自社の宇宙艦建造技術を組み合わせて建造した宇宙戦艦。

 基本的にマクロスをダウンサイジングして更に簡略化したような構造をしており、後に遭遇するメルトランディ系砲艦(マクロス級の原型)により近い外見となっている。

 新型の縮退炉の搭載、エネルギー伝導回路の見直し等によって主砲のバスターキャノンの威力はマクロスより20%の向上を果たしている。

 なお変形機構は存在しないが、量産性を高めるためブロック工法を採用している都合上、原作のように無理やり人型にする事は可能。

 但し、その場合は足にあたる部分が極端に短くなってしまう。

 

 外見は『超時空要塞マクロスII -LOVERS AGAIN-』に登場したヘラクレス級戦艦に酷似。

 ただしあちらと違ってやたら頑丈なのであっさり沈む事は無い。

 

 

 ○ガリア級

 

 全長3700m、艦艇用大型縮退炉二基を主機関、サブにプラズマリアクター二基を搭載、スペースチタニウム製の装甲とDF、更に各部がディストーション・ブロックで保護され、巨人族系兵器特有の耐久性・信頼性も合わさって凄まじい所か異常なタフネスを誇る。

 武装は艦首大型バスターキャノン×1、200cm4連装衝撃砲×5、誘導収束ビーム砲×多数、多目的多連装ミサイルランチャー×多数、対空ビーム機銃×無数、ホーミングレーザー発振器×4、更に高い艦載機運用能力を持つ。

 場合によってはマクロス級同様、内部に街や工廠すら設ける事の可能な容量も併せ持ち、大艦隊の旗艦としても申し分ない性能を持つヴィックウェリントン社製の艦隊旗艦用宇宙戦艦。

 A.I.M.との交渉で手に入れたゼントラーディ軍4000m級中型指揮用戦艦を地球側の技術を追加して改装する事で開発された。

 アテネ級の開発経験から得られたエネルギー高効率化技術と縮退炉や新開発のプラズマリアクターからの膨大なエネルギー供給能力により、艦首バスターキャノンは原型艦の数倍の威力を有する。

 その他にもスペースノアに装備された衝撃砲を大幅にスケールアップした200cm4連装衝撃砲や多数のミサイルランチャー、シズラーシリーズに搭載されていたホーミングレーザーを装備するなど、単艦で艦隊に匹敵する砲火力を持つ。

 原型となったゼントラーディ軍4000m中型指揮用戦艦よりも300m程小さいのは艤装がまだ完全ではなく、艦首の装甲やセンサー系、艦尾の推進機関等のパーツが足りてなかったため。

 それでも十分な性能だったため、ものは試しと試験航海を行ったのだが、その部分をうっかりゼ・バルマリィ帝国監察軍第7艦隊副司令分艦隊の指揮官機であるアンティノラに攻撃され中破、偽マジンカイザー投棄作戦を予定よりも早く繰り上げて撤退させられる事となった。

 が、普通アンティノラの様なバルマー系の特機とも言える機体に攻撃されたら他の既存艦だと一撃で撃沈すら有り得るのに耐えて撤退に成功、後に修復されて復帰する辺り、本級の異常極まる耐久性の証左と言える。

 後に修復ついでに完全に艤装を終えた際には原型と同様の4000mとなり、以降本級はこれが基準となる。

 

 外見はセガが作った本格スペースオペラゲー「無限航路」の「ゼー・グルフ級」。

 

 

 ○FAガーリオン

 

 本機はガーリオンを主体にリオンそのものを改装したバックパックを装備し、機動性と火力、出力の向上を実現した機体である。

 装備は基本実弾中心だが、AM系らしく低コストで仕上がっている。

 反面、操縦難易度がガーリオンよりもやや悪化してしまったが、武装面において大型レールガン(ランドリオンの装備)×1、ミサイルポッド兼シールド×1、翼部懸架式マイクロミサイルランチャー(VFと共通)×2、バックパック直結式ツインビームキャノン(エルアインスの装備)×1、脚部三連装中型ミサイル(ランドリオンの背中の装備)×2、胸部マシンキャノン×2、腕部ビームサーベル兼ビームガン×2から来るAM系としては破格の大火力を持つ。

 また、バックパックとは分離・再合体を行う事も出来るため、トリッキーな戦術を取る事も可能だが、その場合の操縦難易度は有線サイコミュ兵器並みになる。

 複座式の機体も存在し、そちらはメインパイロットと火器・通信管制で分担し、先の分離・再合体を活かしたトリッキーな戦術も難易度が大きく下がる。

 

 

 ○グスタフカール

 

 アナハイムのガンダム開発計画の内、GP-02のデータをジェガン系に流用して開発された核・反応弾等を運用するための機体。

 ジェガン系にしては素で重装甲・高出力の機体であり、ゲシュペンストに匹敵する頑強さを持つ。

 機体の性格上、核攻撃時には物理的・電気的に外部から遮断される構造となっており、メインカメラやエアインテークにはシャッターが設けられ、核攻撃時には閉鎖される

 主武装の大型バズーカは光子バズーカや反応弾頭の他、宇宙要塞にすら壊滅的打撃を与える事のできる戦術核弾頭Mkー82型弾頭を使用できる(その場合は専用の大型シールド装備が義務付けられている)。

 ほぼ全てのパーツがジェガン系と共通の上、そうでないパーツも至近距離の放射線被爆に備えるためのパーツとなっている。

 一応それらがなくても整備・運用可能だが、その場合は普通のMSとして運用する。

 こそした通常仕様の場合はその重装甲を活かして要人護衛・重要拠点防衛に回されている。

 

 

 ○デストロイド・モンスター・敷島スペシャル

 

 早乙女研究所でも一のマッドな敷島博士と巨砲主義の権化たるケーニッヒ博士の二人が対地底種族連合向けに直々にカスタマイズを施した色物の中の色物(俯き)。

 武装はそのままで、火力と装甲を一切損なう事のないまま、エネルギー伝達効率の30%UPに成功している。

 そのため、本来のデストロイド・モンスターよりもチャージ時間が少なく、出力を落とした状態ならば連射も可能になっている。

 その火力は地底種族連合に遺憾なく発揮された後、現在は第二新東京市へと配備されている。

 もし使徒がエヴァや首都防衛隊を突破してきた場合、こいつの最大火力が火を噴くだろう。

 

 

 ○VA-1ブルーガー

 

 「うちの息子のために…分かっていますね?」

 「全力を尽くします。」

 

 そんな会話の結果、A.I.M.北米本社で設計されたのがこの可変攻撃機(Variable Atacker)ブルーガーである。

 勿論、本家の様な偵察や救助活動、機動兵器の支援のための多目的戦闘機ではない。

 一見VF-1バルキリーに似ているが、バトロイド形態への変形機構をオミット、ファイターとガウォーク形態のみになっている。

 その分の空いた容量を主に装甲と火力の強化へと割り振っている。

 反面、空力特性への配慮は余りされていない。

 両腕部がデストロイド・シャイアンやトマホークの武器腕と交換可能であり、パイロットの神宮司の好みなのか、専らトマホークのビームキャノンに交換されている。

 他にもVFの共通装備(ミサイルポッドやガンポッド等)はアーマードパックやスーパーパックを除いて装備可能となっている。

 結果的に空飛ぶデストロイドとも言うべき火力支援機になっている。

 カラーリングに関しては派手なトリコロールになっているが、後に全機が青と白に統一されている。

 

 なお、モンスターの武装や装甲等は重過ぎ・デカ過ぎで装備できない。

 

 

 ○シャムシェル

 

 第二新東京市に辿り着く事すら敵わず光子爆弾による爆撃でボコボコにされ、最後は精肉業者に解体されるが如く身体の6割を切り取られ、コアとその周辺のみBF団に回収された不憫の代名詞みたいな使徒。

 遠距離兵器はATフィールドと2本の200mはある鞭で切り払う事で防御できるのだが、巡航形態時にうっかり鞭の発生器を破壊されたのが運の尽きだった。

 まぁあってもなくてもジガンスクードⅡならばタイマンで勝てる程度でしかないのだが。

 シャムシェルは二度と元の姿へは戻れなかった…。

 生物とエネルギー生産機関の中間の存在となり、永遠にBF団に酷使されるのだ。

 そして死にたいと思っても死ねないので、シャムシェルは考えるのをやめた(カーズ並感)。

 

 




次は機体設定その8でアインスト系オリ機体を紹介します。

最初のアテネ級・ガリア級に関してはムロンさんから頂いた設定を採用したものです。
ムロンさん、毎度の感想とメッセージありがとうございます!


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機体設定その8

纏めてみると改めて素晴らしい設定を作ってくださったガンバスターさんに感謝の念が湧きます。
今後もよろしくお願いします!


 これらアインスト系の機体の設定は全てガンバスターさんから頂いたものです。

 ムロンさんもですが、毎度毎度ありがとうございます。

 

 

 ○グラウベン

 

 全長6kmを誇るアトミラール専用の戦艦型アインスト。

 外見イメージは鋼鉄の咆哮シリーズの超巨大双胴戦艦播磨型一番艦:播磨をベースに強化し、深海棲艦の生物的デザインと改マゼラン級よろしくな濃密な対空火器類や艦砲が増設され、各所にアインストの証たる赤い球状の宝石が付いている。

 また艦体中央には奥の手として2門の超重力砲が搭載されている。

 発動時は艦首の深海棲艦特有の連なった歯が口の様に開き、艦体を上下に展開、チャージの後に2門の超重力砲を発射する。

 こいつ単艦でも理論上はプトレマイオスにダメージを与える事は出来る上、単体で地球型惑星を破壊できる。

 現状確認されている中では間違いなく最強のアインストである。

 バルマー艦隊の主力艦扱いだろうフーレ級より巨大であり、艦隊戦を意識しているために高い砲撃能力とアインスト特有の極めて高い再生能力を持つ。

 性能的にはシンプルに強い、でかい、硬い、タフを突き詰めており、マクロス級のような人型機への可変機構はない純粋な砲撃用戦艦である。

 こんな地球製の艦艇に似たデザインや武装配置をしているのは、アインスト側でも対宇宙怪獣を意識した戦力の模索、パイロットであるアトミラールの持つサラミス・マゼラン級や旧西暦時代の戦闘艦艇(とアトミラールの人間時代に見た火葬戦記小説の知識)から来ている。

 なお、内装に関しては、艦橋を始めとしたアインスト4人娘の居住スペースは普通の軍艦らしいまともな構造になっており、食堂その他のリラクゼーション施設も完備している。

 アインストには本来必要のない機能や施設ばかりの内装だが、これはアトミラール達の人間時代の趣味嗜好に沿ったものであり、レーベンとアルフィミィの情操教育のためであり、同時にノイレジセイアがもし人類に牙を剥いた時には叛逆して連邦軍に与した時に円滑に連携するためでもある。

 なお、このサイズでありながら艦載機運用能力は4人娘の搭乗アインストを載せるための格納機能があるだけで他は無い。

 何せアインストは高い自己再生・自己進化能力を持っており、更にはアインストの所属する宇宙から何時何処でも出現可能なため、母艦の必要性が殆どないからだ。

 そのため、このグラウベンも艦載機運用能力はなく、艦隊決戦・砲雷撃戦に特化している。

 名前はドイツ語で「信念」の意味であり、地球側のコードネームは「ハリマ」。

 艦名には搭乗者であるアトミラール(コムギ)の複雑な思いが込められている。

 

 なお、グラウベンは当初は巨大なマクロス級やバトル級のコピーにしようかなと思っていたが、アトミラールの良く言えば堅実安定、悪く言うと凄腕とはいえ本来はモブで終わった彼女のポジ的にインパクトはあるが普通の戦艦ユニットとして播磨かつ深海棲艦になった。

 デザインの影響か、地形適応は海がS、他はAとなっているため、潜水艦の真似事も出来る。

 

 サイズ:3L

 移動タイプ:空・海  移動マス7

 特殊能力:HP回復(大)・EN回復(大)・Eフィールド・ジャマー

 

 武装

 近接防御機関砲…船体各部に設けられた無数の実弾・ビームが入り混じった機関砲を撃ち捲くる、軍艦としてはサイズこそ異なれどオーソドックスな武装。砲門数は船体に相応しい、まさにハリネズミと言える弾幕を展開する。

 多目的ミサイル…対地・対空・対艦・対潜と各用途を纏めて、或は使い分けが出来るミサイル発射管から撃ち捲くる。こちらも船体サイズに相応しい搭載数を誇る。

 連装副砲…下記の主砲より小さいが、それでも十分大口径な連装砲を十四基二十八門搭載し撃ち捲くる。因みにこの副砲は対機動兵器への追従も不可能ではない両用砲がコンセプト。

 三連装主砲…メイン武装。船体上部に三連装十二基三十六門搭載された巨砲群を次々斉射する。副砲共々実弾とビームの撃ちわけも可能で、拡散砲弾の雨あられで濃密な対空迎撃も可能。

主砲・副砲拡散斉射:対空迎撃的に扇状に狭めの範囲で放つALL兵器。ゲーム的には実弾消費で弾数も少ない。

 連携攻撃…周辺から次々転移して来たアインスト共々一斉に射撃攻撃を繰り出したり、近接攻撃を繰り出した面子の追い討ちに射撃が次々突き刺さるような攻撃シーンが展開される。

 連装超重力特装砲…波動砲代わりとばかりに搭載された最大武装。発射時にはどこぞの霧の艦隊な戦艦級とばかりに船体が上下に割れたり外部センサーが展開したり、発射体制に変形する。パイロットや機体のカットインがお約束的に入る武装。

 連装超重力特装砲(MAP)…MAP兵器。消費エネルギーはかなり多いが前方に縦長にかなりの長さでぶっ放す。

 

 

 ○レイデンシャフト・クリンゲ

 レーベン専用近接戦闘仕様特機型アインスト。

 外見イメージは四肢が発達し鋭い爪が自慢で二股の刃のような尻尾が生えた白銀の人狼。

 それにぺルゼインリヒカイト同様、宝玉が各部に付いたり蔓状の関節構造を取っている。蔓の色はボディに合わせて黄色系に染まっている。

 機体サイズは全長30メートルほどと大型MSや量産型特機とほぼ同サイズ。

 武装含めたコンセプトイメージ的にはガンダムバルバトスルプスレクス+ライガーゼロ(ノーマル)+武御雷+ゲシュペンストS型+ヴァイサーガの各部をミックス。

 纏めるとほぼMSに近いサイズで非量産型の特機に匹敵するパワーを持ちながら、機動性や運動性やらも非常に高い近接戦特化型。

 幹部格の機体でMSサイズの特機といえるぺルゼインが回避系遠近万能型、グラウベンがシンプルにでかい・堅い・強い母艦、同時に構想中の専用機が装甲重視寄りの射撃系特機なので、幹部格で近接戦最強最速の切込み役・アタッカーとして構想された。

 

 主要武装は四肢の立派な爪や伸縮自在の尻尾を絡めた近接コンビネーション。

 射撃武装は殆ど搭載せず、幹部格専用機としてのエネルギーをパワーや機動性、再生力といった方面に振り分けており、凄まじい反応速度で動きながら自身より遥かにでかい機体相手でも振り回し、暴れまわる。

 全身の各部にブレードエッジ装甲を備え、すれ違い、触れ合うだけでも通り魔の様に相手を切り裂いていく。

 機体適正は陸・海なのだが、ヤルダバオトや雷鳳の高速技で空中でも飛び掛かったり出来るのと同じようにバリアで足場作って空中や宇宙でもビュンビュン駆け回る。

 関節部がぺルゼイン同様、触手のみで繋がっている事を活かし、機動兵器の域を逸した広い稼動範囲を持ち、近接戦でよりトリッキーな動きを可能としている。

 名前はドイツ語で「激情の刃」の意味であり、地球側のコードネームは「ウェアウルフ(人狼)」。

 その名前の由来通り、この機体はレーベンの激情を発する媒介であり、彼女や彼女の大事な者を守る刃の鎧である。

 コクピットは通常の起動兵器らしい内装だが、戦闘が始まると戦闘スーツの首部分にコードが直結、思考制御で意のままに動く。

 まるで首輪付き(リンクス)のようである。

 武装への反映はされてないが、狼型の頭部ヘッドからモンハンのティガレックス染みた大咆哮を放ち、至近距離の敵機を怯ませ、吹き飛ばしたりマシンガン系やミサイル系を迎撃したりも可能。

 

 サイズ:L(ギリギリLサイズ)

 移動タイプ:陸・海  移動マス8

 特殊能力:HP回復(大)・EN回復(大)・分身・ビーストシステム(下記に詳述)

 

 武装

 ツインワイヤーテール…ルプスレクスみたいなワイヤーテールが二つに増え、伸縮自在・縦横無尽な動きで相手を絡めとり、切り刻み、薙ぎ払う。グフカスタムのワイヤーアクションみたいな動きも再現したりと、彼女の戦闘コンビネーションをより複雑化させる大事な武装。例え切り落とされても高い再生力によりあっという間に直るのも敵対者には厄介。命中時、敵の運動性を若干低下させる。

 乱爪乱撃…高速で動きながら四肢の爪や、肘や膝も場合によっては合わせた乱舞を相手に叩きこむ。

 ギガブラスター…本機の数少ない射撃武装。胸部宝玉の上部に位置する装甲がゲシュペンストS型のように開いて砲口が出現。ブラスター砲で周囲を薙ぎ払うALL兵器。

 烈風爪…ヴァイサーガが剣から衝撃波を飛ばして相手を切り刻めるのと同じように、こちらも爪を振り回して衝撃波を発生、遠くの敵を切り刻む。移動して近くの相手を爪で切り裂きながら、遠方の相手も衝撃波を飛ばして切り刻むといったことも出来る。

 シャイニングブレイカー…高密度に圧縮したエネルギーを爪に込めて相手に叩きこみ、貫き、内部からも炸裂させる。その際は周囲にバリバリとした電気みたいなエフェクトも発生。その能力の特性的に電気エネルギーにも近いため、機動兵器や宇宙怪獣といった相手に効果的。イメージ的にはシャイニングフィンガーの爪版+アロンダイトオーバードライブ+バスターコレダー。

 フェンリスヴォルフ…リミッター解除して全身からエネルギーの余波を発し、異常な速度を出しながら爪や全身のブレードエッジを輝かせ、四方八方から切り裂き続ける乱撃を叩き込む。後にワイヤーテールを叩きこみ、相手は威力が強化された近接武装でダメージが入り、更に内部からも注ぎ込まれたエネルギーが炸裂しダメージを重ねる。最後は機体とパイロットのカットインを出しながら、武装部分どころか全身を黄金に輝かせながら上空から加速を重ねるような描写の末に両爪を叩きつけ、粉砕する。要は乱撃コンビネーション型必殺技。

 

 ビーストシステム…気力130以上で発動。ダンクーガ系の野生化システムと阿頼耶識システムみたいな反応補助を組み合わせたような専用技能。パイロットの命中・回避・技量をアップ。

 イメージ的には代償や反動なしに使用可能な鉄血系ガンダムのリミッター解除に近いが、これはパイロットがアインストという特殊な生命体である事でデメリットを帳消ししているからである。

 野生化システムやダイレクトフィードバックシステムや強化人間系のデータやらを参考に開発され、4人娘の中で最も激情家かつ適正の高かったレーベンの機体に搭載された。

 元々ネームド幹部組は分身と言える愛機を自分の身体のように動かせるのだが、その反応速度やらを安全かつ更に強化している。

 が、その性質上安定性に欠けており、レーベンのトラウマや激情家な面と合わさって暴走の危険性が高い。

 まぁ死んでも直ぐに蘇っては突撃するのを繰り返す事もあるので、ノイ・レジセイアは余り問題視していない(アトミラールの胃は死ぬが)。

 

 

 ○ゲニーセン・フリューゲル

 

 フォアルデン専用重装砲・射撃戦仕様特機型アインスト。

 外見イメージは大きな翼を背負った重武装でごつめのボディに、ヒュッケバインみたいなガンダムっぽい顔をしている。

 カラーリングは青系中心でアインストとして特徴的な宝玉は機体各部にいくつかあるが、関節部の形状も普通のMSタイプで宝玉以外はアインストらしさはないメカメカしくヒロイックなデザイン。

 機体サイズは全長50メートル代と特機の標準サイズ。

 武装含めたコンセプトイメージ的にはフリーダムガンダム+重武装MS(ヘビーアームズとか)+インパルスガンダム+アーマードコア+IS。

 纏めると重装甲・重機動・重火力を両立した背部に翼型の大きなウイングスラスターを装備したガンダムフェイスっぽい射撃型特機(割と支部で見る様なデザインと言ってはいけない)。

 比較対象としてはアインスト系の特機の一つと言えるラインヴァイスリッターがライフルを主軸とした紙装甲高機動射撃特化型というスタイルをヴァイスリッターから引き継いでるのに対し、機体を特機サイズまで大型化したせいで機動性や狙撃能力はラインヴァイスに劣りながらも、手数の多さや防御力や安定性、汎用性等で勝る。

 武装はこの機体の特殊能力によりフォアルデンの対応する戦術や戦況、趣向次第でコロコロ変わるが、基本的にガトリング系のような弾幕型やキャノン系のような単発大火力武装を搭載することが多め。

 最大の特徴たるマルチウェポンはフォアルデンの知るロボ系作品やアーマードコアシリーズの知識や公開されてるデータやらを参考に組み込まれた特殊能力。

 機体各部をブロック式にしたうえで多数のパーツや武装を用意。それらを戦況に合わせて出撃前に組み替える他、戦闘中にすらアインスト宇宙からフォアルデン個人に割り当てられた異空間から即座に武装やパーツの召喚・切り替えを可能とする。

 これによりISのラピッドスイッチと言われる技能の再現も行えるので、戦闘状況に合わせて最適な武器を使用したり、実弾武装やエネルギー式の武装も即座に弾薬補給が可能となる。

 機体ボディもコクピットのあるコア以外は同様に破壊されたパーツを再生するまでもなくパージ→召喚したパーツを即座に合体&即反撃する事も可能。

 普通の腕部と思われたのに武器腕マシンガンへ変形できます、みたいな奇襲も平然としてくる。

 多少無茶な変形はラインヴァイスのライフルみたいに出来る。

 手放したり破壊された武装の代わりを即補充と、投影武器の代わりをドンドン出すエミヤみたいな真似も可能。

 ただ、射撃系武装なら大抵扱いこなせるフォアルデンだが、接近戦は比較的苦手なために近接用武装の使用頻度は少なめで、使ってもサーベル位。

 タンク形態や4脚形態といったバリエーションも勿論あるが、空を飛ぶのが好きなため、あまり地上戦に専念する戦法や形態は取らない。

 直属の指揮官であるアトミラールにそれらの方が効果的とか指示されたら従うが。

 この機能を応用して人類側に付いた後は、味方の同サイズの特機に手持ち武装の補給といった役目も可能という高機動武器庫にして補給ユニットである。

 マルチロック機能も搭載しているので、武装次第では凄まじい射撃精度と面制圧力の両立といった物も可能。

 どんな形態でも両肩部に浮遊する盾パーツたる「ブルーマリン」は継続して使用するので、常にシールド防御は可能となっている。

 ブルーマリンはアルフィミィのオニボサツのような一種の眷属めいた存在であり、盾自体もシンプルに硬くて分厚い盾だけでなく、内側にクローアームやライフルを仕込むとかカスタム対象にもなっている(変身したりはしない)。

 同じ近接型・射撃型のアルトとヴァイスのコンビに対し、レイデンとフリューゲルのコンビを比較した場合、前者の方が連携面の爆発力や巧みさは上だが、個としてみた安定性やスペックは後者の方が勝る。

 

 名前はドイツ語で「楽しみの翼」の意味であり、地球側のコードネームは「ブルーアーセナル(蒼い武器庫)」。

 コードネームの由来は登場する度に大抵武装が変わっている事、戦闘中でも平然と多数の武器を使い捨てては交換したり、武器庫めいたバリエーションを持つ事から。

 場合によっては同一の機体と思われずに派生機が顔を出してると思われるかもしれない。

 ネームド幹部はそれぞれ自分の愛機にして分身と言える機体に個人差はあれど愛着を持つが、フォアルデンに取ってこの機体は自分の二つの願望(空への憧れとトリガーハッピー)を満たす上に好きにカスタマイズも出来るし、かっこいいしと一種の理想の顕現であり、機体名の通りシミュレーションにしても演習にしても実践にしても楽しんで搭乗している。

 まぁ、ロボ系ファンが自分の専用機を好きに弄って自由に動かせてと出来て燃えないわけがない、ということである。

 4人娘中パイロットも合わせて最も汎用性と安定性に優れているため、実はノイ・レジセイアからの評価が一番高かったりする。

 

 サイズ:L

 移動タイプ:空・陸  移動マス6

 特殊能力:HP回復(大)・EN回復(大)・Eフィールド・マルチウェポン(下記に詳述)

 

 武装

 頭部バルカン…オーソドックスなバルカン砲だが特機サイズの頭部に備わるゆえに、MS以下の小型機に対しては十分な威力になる。

 ビームサーベル…手首に仕込まれたビームサーベル兼ビームガン。滅多に使わないし、使用時は大抵追い込まれているため、泣き喚きながら使う。

 ミサイルポッド…脹脛部分に搭載された高誘導ミサイル。打ち切ればパージして機体を軽くすることも出来るし、即座にポッドごと召喚して補充も可能。ALL武器。

 背部グレネードキャノン…信頼性の高い長射程高火力の実弾キャノン。曲射も出来る。

 腰部レールガン×2…連射性や威力や射程のバランスの良いレールガン。ほぼフリーダム。

 腹部ビーム砲…普段は装甲カバーに覆われてるビーム砲。固定武装の口径的には今の装備パターンでは一番大きい。

 ツインビームガトリングシールド…ビームガトリングを2門ずつ仕込んだシールド。両手分合わせて4門のガトリングによる弾幕を張れる。迎撃時に多用する。

 フルバーストアタック…搭載する多数の武装をマルチロックとNTとしての感覚補佐で適切に叩き込む。全弾発射系MAP兵器。

 ラピッドファイア…高速で飛び回りながら手持ち武装やそれ以外の武装も含めて瞬時に召喚しては次々切り替え、相手を惑わしながら的確に連続射撃を叩き込んでいく連撃系の技。

 大型ビームランチャー…両手持ちのでかくて長いランチャーユニットを召喚。腹部ビーム砲と根元を接続し、ガシャンガシャンと砲身が延長、上下に開いて展開して発射形態へ移行。その最中どうしても動きが止まるか直線的になるので、そこはブルーマリンが大型化&高出力のバリアを展開することで横やりを防いでいる(GNフィールド展開しながらビーム撃つガンダムヴァーチェみたいに)。最後に機体とキャラのカットインと共に派手なビームをぶっ放すという浪漫武装。

 

 あくまで主要武装の一例パターンがこちら。

 それら以外にも内側にグレネードが仕込まれた手持ち型大型シールド、腰部ファンネルコンテナ、手持ち型実弾ライフル、ビームライフル、手持ち型バズーカ、武器腕マシンガン、武器腕ブレード、手持ち型グレネードライフル、膝や肘にパイルバンカーを仕込んだ腕部や脚部等と本当に多種多様な武装バリエーションが控えている。

 とりあえずアーマード・コアシリーズに出てたり、ロボアニメとかに出てる武装は特殊な武装じゃなければ再現は可能。

 ただあくまでも使えるだけで、全部が全部使いこなせるわけではない。

 

 マルチウェポン…換装系に分類される特殊能力。

 自陣ターンで機体がまだ動いてなければ任意の武装やパーツを換装可能。

 この機能は出撃前やインターミッション時でも出来るし、出撃後でもどこでも可能。

 換装武装のバリエーションは原作OGの換装武装群をイメージ。そちらより武装バリエーションは豊富。

 ある程度の構築パターン(弾幕型や砲撃型や狙撃型や汎用型や強襲型とか)を事前登録し、即座に引き出す事も可能。

 

 



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第29話 十傑集その3

書いてて思う。


やっぱり十傑集って頭おかしい(今更)


 新西暦186年8月7日 極東方面 第二新東京市地下 NERV本部内

 

 「正面ゲートより侵入者確認!最寄りの保安部員は武装した上で急行せよ!」

 「保安部員一個小隊が到着しました!…だ、ダメです、やられました!」

 「通常装備じゃ歯が立ちません!重装備の許可を!」

 「監視カメラ、映像出します!」

 

 轟々と炎と粉塵を上げる正面ゲート前のモノレール駅からのホーム。

 そこにはつまらなそうに葉巻を加え、上等なスーツに身を包み、右目を眼帯で隠した男の姿があった。

 

 「照合開始…出ました!超S級犯罪者集団BF団の幹部、十傑集の一人『衝撃のアルベルト』…戦力評価S!?」

 「Sって…特機を一人で撃破できるっての!?」

 

 日向の報告にミサトが叫ぶのとほぼ同時、モニターのアルベルトの指先が光ったと同時に監視カメラが破壊され、映像が途切れた。

 

 「首都防衛隊に救援要請!それと、近場のガンダムファイターに急いで連絡!ランクは問わないから呼んで!お金は後で幾らでも出すから!」

 「は、はい!」

 

 特務機関NERV本部。

 使徒殲滅を主任務とするこの機関は今、事前に全く想定していなかった事態を前に、壊滅の危機に陥っていた。

 

 

 ……………

 

 

 「何だ、この程度の抵抗しかないのか?」

 

 一方、アルベルトのテンションは下落の一途を辿っていた。

 街の食事は美味かったし、サービスも中々のものだったが、標的を保有するNERVと来たら組織規模の割に自分一人に侵入されてこうもオタオタとしているので詰まらない事この上ない。

 

 「はぁ……仕方あるまい。用事を済ませてとっとと帰るか。」

 

 仕事は仕事と割り切って果たそう。

 なので足に力を込めて急ぐかという時、今までとは違う悪寒を感じて飛び退いた。

 瞬間、カン、という軽い音と共に先程まで立っていた床に指先程の小さな穴が開いた。

 特殊装甲製の床をあっさりと貫いて、だ。

 

 「歩兵用レールガン…A.I.M.か!」

 

 重要施設内でこんなふざけた代物をぶっ放す連中なんて一つしかない。

 アルベルトの視線は、通路の奥に立つ三名の侍女型自動人形に向けられていた。

 一人は主力戦車の正面装甲すら貫通可能な2m近い総身を持つ7mm歩兵用レールガン(弾丸はスペースチタニウム製)を装備。

 一人は12.7mm連装機関砲を両手に一つずつ装備。

 そして、最後の一人に至っては前時代的な巨大なタワーシールドを装備している。

 これは対格上を想定したA.I.M.警備部門所属自動人形一個小隊の施設防衛用正式装備であり、服装もいつもの侍女服に肩に警備のロゴが入った腕章を追加している。

 

 「対象の回避を確認。」

 「対象、特記カテゴリ:BF団:十傑集所属『衝撃のアルベルト』と確認。」

 「対象の脅威度を最大値に設定。本社並び近隣の支部に増援を要請。」

 「これより遅滞戦闘を開始します。付近の非戦闘員の方々は迅速にお逃げ下さい。」

 

 宣言と同時、再度レールガンが放たれる。

 放たれたスペースチタニウム製の弾丸は音速の7倍近い速度で目標目掛けて飛翔する。

 それを先程の油断し切った面持ちではなく、真面目に回避するアルベルト。

 何せ当たれば十傑集とは言え重傷は免れない貫通力を持っているのだ。

 そんな代物に当たりたくは無かった。

 

 「人形風情が…図に乗るな!」

 「迎撃開始。」

 

 通路内を縦横無尽に動き回り、射線を絞らせずに接近を試みる。

 すると、合計4門の12.7mm機関砲が火を噴き、空間を制圧する程の弾幕を形成する。

 

 「猪口才な!」

 

 応じる様にアルベルトの両手から衝撃波が連続して放たれ、機関砲の弾丸は吹き散らされていく。

 

 「発射。」

 

 一瞬、僅かに攻撃に意識が逸れた隙を狙ってレールガンが発射される。

 しかし、その一撃を身を捩るだけで回避し切ったアルベルトは一瞬で踏み込み加速、自動人形らを接近戦の距離に捉えた。

 

 「対応開始。」

 

 それを仲間を守るべく前に出た盾持ちの自動人形が迎え撃つも…

 

 「図に乗るなと言った!」

 

 が、MSのビームライフルすら正面から防御するDFを展開可能なシールドも意に介さず、アルベルトの両腕から放った衝撃波によって後衛の二体諸共吹き飛ばされた。

 五体をバラバラにされた自動人形らはそのまま通路の奥の壁へと激突、内部構造部品を撒き散らしながら壁に埋もれて機能を停止した。

 

 「ふん、まぁ慣らしにはなったか。」

 

 こうして、アルベルトは再び侵攻を再会した。

 稼げた時間は、1分にも満たなかった。

 

 

 ……………

 

 

 「初号機、エントリープラグの用意は!?」

 「後30秒!固定良し、LCL注入開始!」

 

 一方その頃、エヴァ初号機の固定された格納庫では整備班が大急ぎで出撃準備を整えていた。

 だが、それは使徒迎撃のためでも、況してや対人?戦闘のためでもない。

 碇シンジ並びエヴァ初号機の安全を最優先する場合、中にパイロットがいてATフィールドを展開してもらった方が都合が良いのだ。

 

 『ミサトさん、皆さんも避難してください!』

 「駄目よ、シンジ君。私達ネルフはその性質上エヴァを見捨てる選択肢はないの。今後の使徒迎撃のためにもね。」

 『だからって、あんな人相手にどうしようって言うんですか!?』

 

 シンジの叫びはもっともだった。

 今この瞬間にも衝撃のアルベルトはゆっくりと焦らす様に侵攻してきている。

 もう20分としない内に初号機の存在する格納庫へと到達するだろう。

 こうも時間がかかるのは、アルベルトが手を抜きに抜いているからに他ならない。

 アルベルトにとっては、この程度の警備網はちょっと刺激のあるランニング程度のものなのだ。

 

 「侵入者の予測進路上に硬化ベークライトの注入を開始。完了まで17分です。」

 「って事は、後10分もないわね。」

 

 自分達の命運はそこまでだと、ミサトははっきりと悟った。

 幸いにも初号機とパイロットの保全は何とかなりそうだ、と彼女はこの時はそう判断していた。

 まさか相手が生身の人間でありながら、対宇宙怪獣を想定した特機すら破壊可能な出鱈目な存在だ等とこの時の彼女は想像すらしていなかったのだ。

 否、普通の人間なら、そんな想像なんて出来ない。

 

 「硬化ベークライトか…面倒だな。」

 

 一方その頃、アルベルトは通路を埋め尽くす赤い固形物を見て眉を顰めていた。

 

 「まぁ良い。吹き飛ばせば済む事だ。」

 

 両足を肩幅に広げ、両腕を引き、腰溜めに構える。

 そして、両掌に衝撃波をチャージしていく。

 

 「せぇいやぁぁ!!」

 

 解放された衝撃波が硬化ベークライトに満たされた通路のみならず、巨大地下空洞に存在するNERV本部、その周辺一帯を区画ごと吹き飛ばした。

 

 『な、何!?』

 

 初号機に乗っていながらも大きく響いたその衝撃にシンジは動揺する。

 

 『み、ミサトさん!?大丈夫ですか!?』

 

 しかも、指令室との通信も途絶、外部カメラでは整備班の人達も慌てて退避を始め、直ぐにいなくなってしまった。

 

 『そんな…僕一人だけ…。』

 

 そこが一番安全かつ危険な事を知らないシンジは、元々の臆病さ・繊細さが表に出始めて泣きそうになる。

 何だかんだ第二新東京市に来てからはほぼずっと誰かと一緒に騒いでいた事から表出しなかったシンジの軟な部分が、ここにきて出てしまった。

 

 『誰か、誰か返事をしてください!』

 「何だ、ここにいたか。」

 『ッ!?』

 

 外部マイクで叫ぶ初号機、その正面のタラップに何時の間にかその姿はあった。

 BF団最高幹部たる十傑集が一人、衝撃のアルベルト。

 たった一人で特務機関NERVに正面から乗り込み、その警備網を正面からぶち破ってきた男。

 

 「どうした、途端に黙りおって?それとも何か、そんなものに乗っていながら人間一人が怖いのか?」

 『そんなものって…エヴァは対使徒用です!』

 「ん?小僧、貴様何も知らされておらんのか?」

 『え…?』

 「エヴァの開発理由は表向きは確かにサードインパクトの阻止、そのための使徒撃滅だ。だがな、裏があるのよ。」

 『裏って…。』

 「貴様の周囲の連中は殆ど知るまいよ。貴様の父位だろうがな。」

 『……。』

 「興味が出たか?だが、此処から先はタダで言う訳にはいかん。」

 

 す、とアルベルトの気配が変わる。

 油断や挑発、相手を舐めてかかってのそれではない。

 相手の底を、その潜在能力を確認するがために、死ぬ寸前まで追い詰める。

 エヴァンゲリオンが本当にこの星を守る力と成り得るのか、それを確かめるために。

 

 「聞きたくば、その力を示せッ!」

 『ッ!』

 

 ゴッ!とアルベルトの手から衝撃波が放たれる。

 が、不意を打った筈の一撃はATフィールドに難なく防がれる。

 

 (先日の奴よりも頑丈か。まぁこれ位はな。)

 

 たかが爆撃で撃破されてしまう様な雑魚と一緒では困る。

 そんな事を思いながら、次々と衝撃波を繰り出す。

 

 『こ、のぉ!』

 

 ATフィールド越しとは言え、その全てを防ぎ切れていない。

 断続的に響く衝撃に漸く戦意を抱いたシンジは外敵を排除すべく、初めて人間に対してエヴァを動かした。

 

 「おっと、遅い遅い!」

 

 LCLのプールの水面から飛び出る初号機の右腕に、アルベルトは一切動じずに回避する。

 次いで延ばされる左腕も空中で放つ衝撃波を推進力としてあっさりと回避する。

 

 「その程度でお終いか、小僧!」

 

 先程よりも大出力の衝撃波が放たれ、ハンガーに固定された初号機が揺らぐ。

 

 『こ、の…!』

 

 シンジは歯噛みする。

 この場所では周辺への被害が大き過ぎる。

 だが、ここ以外では小回りの利くアルベルトの方が有利に過ぎる。

 しかも、初号機はハンガーに固定されているため、碌に反撃も出来ない。

 

 「ぬ!?」

 

 だが、NERV保安部員と量産型自動人形らが足掻いて稼いだ時間は、しっかりと成果を出した。

 

 「そこまでよBF団!」

 

 ドゴン!と施設内であるにも関わらず、アルベルトに向け盛大に砲弾が放たれた。

 

 「艤装型パワードスーツ装着完了!高雄、出撃致します!」

 「目標発見、攻撃開始!」

 

 救援要請を聞き付け、駆け付けた横塚高雄・愛宕両中尉らが特製の艤装型パワードスーツを纏って応戦を開始したのだ。

 

 「シンジ君、大丈夫!?」

 『ゴトさん!無事だったんですね!』

 

 加えて、同じく艤装型パワードスーツを纏ったクローナ・ゴトランド少尉も遅れて到着した。

 

 「無事ね、良かった。」

 『他の人達は大丈夫ですか!?』

 「指令部の人達なら大丈夫よ。通信機能が逝かれただけで、向こうに行ったこっちの人員とは通じてるから。」

 『良かったぁ…。』

 「あ、指令部から入電…シンジ君は初号機に乗ったまま、本部表層に出てほしいって。」

 『え、こっちの戦闘は…。』

 「初号機で中で暴れる訳にはいかないでしょう?表層にはもうこっちの部隊も展開してるから合流して、改めて迎撃を開始するって。」

 『わ、分かりました。ご武運を!』

 

 そこまで言うと、シンジからの通信が切れる。

 同時、指令部からの操作でハンガーが移動を開始、表層へのカタパルトへと移動していく。

 

 「えぇい、邪魔をするな人形風情が!」

 「あら、お貴族様ともあろう人が人形遊びはお嫌ですか?」

 

 一方、アルベルトは先程の量産型自動人形とは格の違うナノマシン式高級自動人形、その中でも特に要人警護のために白兵戦能力も高く設定された艦娘型自動人形二人を相手に苦戦していた。

 これは艤装型パワードスーツ(普通の人も使える火器搭載型簡易PS)のみならず、彼女ら本人の性能が先の量産型自動人形とは隔絶している事も大きい。

 具体的にはBF団基準ではA級エージェントの中でも上位の人員に匹敵する。

 なお、十傑集は超A級エージェントとされるので、高雄と愛宕は血風連相当かと思われる。

 

 「喰らいなさい!」

 「ぬぅ!」

 

 加えて、放ってくる弾頭が端からアルベルトの様な存在を想定していたのか、弾頭が全て大粒の散弾になっており、回避し辛い上に全ての粒がスーパーチタニウム製のため、カス当たりであっても当たれば十傑集と言えどダメージは免れないと来ていた。

 施設への被害?

 (そんなもん気にしてられる相手じゃ)ないです。

 

 『初号機、射出します!』

 「愛宕、一度退くわよ!」

 「はーい!」

 

 が、そんな二人でも時間を掛ければアルベルトが押し返し、負ける事は確定だろう。

 なので、初号機のNERV本部表層(ゼルエルと戦った場所)への射出が叶ったのならば、素早く撤退する。

 

 「人形共め、逃がすとでも思うか!?」

 「全然、」「思ってないわ!」

 『対テロ用無人小型レイバー隊、突入します!』

 

 途端、ワラワラと四足型の無人小型レイバー・カルディアが格納庫の搬入口や大型ダクト等、あちこちから侵入、アルベルト目掛け突撃させる。

 首都防衛隊の対テロ用装備の一つである無人四足型小型レイバーを急遽持ってきたのだ。

 

 「うっとおしいわ!」

 『ピー!』『Pi!』『ぴぎー!』

 

 変な電子音なのか鳴き声なのか分からない音を発しながら、あっさりと駆逐されていくカルディア達。

 が、ほんの数秒とは言え時間稼ぎには成功し、高雄と愛宕は離脱に成功した。

 

 「えぇい、猪口才な!」

 

 アルベルトは目的を果たすまでは退けぬと高雄と愛宕の逃げた先、NERV本部表層へと向かうのだった。

 

 



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第30話 十傑集その4

 新西暦186年8月7日 極東方面 第二新東京市地下 NERV本部表層

 

 そこに展開していたのは、連絡を受けた首都防衛隊の内、迅速に展開可能だった戦力が既に布陣を終えていた。

 具体的にはジムⅡ一個小隊、ゲシュペンストmk-Ⅱ二個小隊+一機(ヤザン・ゴトランド不在)、そして対歩兵戦力として軍事用レイバー・ハンニバル一個小隊。

 これにエヴァ初号機並びジオフロント内部の各種砲台を加えた戦力が現在NERV本部表層の全戦力だった。

 

 『エヴァ初号機の離脱を確認!』

 『目標、衝撃のアルベルト、NERV本部表層到達まで20秒!』

 『予測進路表示、各機は準備を!』

 『到達まで後10秒!……5・4・3・2・1!』

 『攻撃開始!』

 

 ヘイズ2の号令の下、機動兵器全機とジオフロント内部の各砲台群が一斉に射撃を開始する。

 機関砲、ミサイル、ロケット、バズーカ、ビーム、レールガン、滑空砲、コイルガン。

 兵器の見本市の様な無数の攻撃が、たった一人の人間?を排除するために放たれる。

 

 『撃ち方止め、撃ち方止め!』

 『レイバー隊、接近して効果を確認せよ!』

 『了解。これより接近します。』

 

 宇宙戦艦すら撃破出来るだけの火力を投射したからには、死体すら残ってないだろうとレイバー隊の面々は思っていた。

 血の一滴、肉片の一つでも確認できれば十分だろう、とも。

 実際、攻撃により舞い上がった粉塵で視界は0、熱反応はそこかしこ、生体反応も感知できる様な状態ではない。

 これは歩兵を呼ぶべきか?

 それがレイバー隊員の最後の思考だった。

 視界の端、センサーが僅かな動体反応を拾った瞬間、彼らの意識は闇に消えた。

 

 どごごごごごんッ!!

 

 『ッ!?各機警戒!敵は健在だ!』

 

 一瞬、正に一瞬だった。

 亜光速戦闘対応仕様に改修されたヘイズ2のゲシュペンストmk-Ⅱ以外の機体では、その影を捉える事すら出来なかった。

 ヘイズ2もまた、自分が回避する事に精一杯で他へのフォローなんて回れない。

 そんな一瞬の内、ジオフロント内部のNERV本部表層へと展開していた機動兵器部隊は壊滅した。

 

 「何だ、精鋭と聞いていた割にはこの程度か?」

 

 スクラップと化した首都防衛隊の一部の上に立って、アルベルトはそう言った。

 

 『お前の様な人外は想定してないんだよ!』

 

 ヘイズ2はそう吐き捨てながら、プラズマカッターを構えた状態でじりり…と間合いを測る。

 まだ砲台群は健在だが、首都防衛隊の面々が無力化されたとは言え存命な今、同士討ちを避けるために撃つ事は出来ない。

 となれば、この場では接近戦がベターであり、それはヘイズ2にとっては得手とする距離だ。

 しかし…

 

 「どうした若造?そう止まっていては何も出来んぞ?」

 

 こんな出鱈目な存在が相手ではない場合、と付くが。

 

 『…僕が相手になります!リッパーさんはその隙に!』

 『な、馬鹿!?』

 

 態々注目を引いて遠ざけていたエヴァ初号機が前に出る。

 言っている事は的外れではないものの、そもそも未だ13歳のシンジに対人戦をさせないため、エヴァ初号機を撃破されないために注目を引いていたのだ。

 その気遣い自体は立派なものだが、今は悪手だった。

 

 「その意気や良し。だがな…」

 『う、わぁ!?』

 

 ドゴン!と言う轟音と共に、エヴァ初号機の身体が一瞬浮き上がった。

 ATフィールド越しに叩き込まれた一撃。

 フィールドで防ぎ切れなかった衝撃だけでエヴァ初号機の巨体を浮き上がらせたのだ。

 その事実に、ヘイズ2、フレッド・リッパーはゾッとした。

 

 『ぐ、ぅぅぅ…!』

 「おっと、危ない危ない。」

 

 苦し紛れに横に振るわれた腕を易々と回避し、アルベルトはATフィールドを抜かない程度の衝撃波を叩きつける。

 どうやら撃破するつもりはなく、本当に威力偵察だけのつもりだったらしい。

 

 『副隊長、我々に構わず撃ってください!』

 『く、そ…!ご丁寧に脱出装置も壊されてやがる…!』

 『こちらレイバー小隊、全機行動不能…!生存者は私だけです…!』

 

 徐々に生き残った人員から通信が入るが、迂闊な事は出来ない。

 今エヴァ初号機を相手に遊んでいるこの瞬間も、アルベルトの意識は自分から動いていない事をフレッドは理解していた。

 同時に、下手な動きをすれば一瞬で抵抗も出来ずに殺害される事も。

 

 (どうする…どうする!?)

 

 極度の緊張感の中、体表をドッと脂汗が流れていく。

 自分達の持つ手札ではどう足掻いても対応できないと、副隊長を任せられるだけあって状況判断能力も高いフレッドには既に理解できていた。

 

 

 「待てェッ!!」

 

 

 故に、状況を動かすのは第三者しかいない。

 

 「それ以上の非道、このオレが許さん!」

 「貴様…何奴!」

 

 気付けば、NERV本部のピラミッド状の構造物の上、そこに立ち、戦場全体を見下ろす者がいた。

 その男は特徴的な赤いマント、紅い鉢巻、そして背中に差した刀が何処までも異彩を放つものの、未だ十代後半程度の日系人だった。

 

 「オレの名はドモン・カッシュ!ガンダムファイターだ!」

 

 彼こそは先日、月から師匠たる東方不敗を追って地球に降りて来た若きガンダムファイターだった。

 

 「ははははは!中々の啖呵だな小僧!だが、この衝撃のアルベルトに敵うものかよ!」

 

 エヴァ初号機もヘイズ2も放置して、アルベルトは生きの良い獲物に対して空かさず衝撃波を放つ。

 が、そんな見え見えの攻撃をドモンはNERV本部の頂上より大きく跳躍して回避、着地と同時にアルベルトへと一瞬で踏み込み、背中の刀を抜いて切り掛かる。

 そこから先はもう、周囲の普通の人類の面々ではどうしようもない程に高度で高速な戦闘が開始され、手の出しようが無くなった。

 

 「その太刀筋……貴様、流派東方不敗の門下か!」

 「然り!我が師、東方不敗の教え、受けてみろ!」

 「ほざけ、若造がぁ!!」

 

 轟音と共に疾走、粉砕、斬断、爆散と、大凡の人類では出来ない様な破壊の惨状が刻まれていく。

 最早戦闘の趨勢は首都防衛隊並びNERV本部の面々では手の出せない所へと移っていた。

 

 『シンジ君、大丈夫!?』

 『あ、ゴトさんに横塚中尉達!無事だったんですね!』

 『えぇ、こっちは何とか。シンジ君こそ大丈夫?』

 『はい、こっちも何とかです。で、どうしますアレ?』

 

 アレというのは勿論十傑集とガンダムファイター二人の超人バトルである。

 

 『…私達に出来る事はもう無いわ。幸い、周辺の他のガンダムファイターもこちらに向かって来てくれているそうだから、今の内に撃破された機体からパイロットを救出するわ。シンジ君は今からトレーラーで持って来てくれるから、急いでケーブルの接続と武装を装備して待機って指令室の人達が言ってるわ。』

 『分かりました。直ぐに行きます。』

 

 地下の戦闘が続く中、周囲の面々もまた自分の出来る形で戦いへと加勢するのだった。

 その頃、地上では更に事態を混迷させる事態が発生しようとしていた。

 

 

 ……………

 

 

 同時刻、地上の第二新東京市では地下のジオフロント内部から断続的に響く振動と共に避難警報が発令され、先程から屋内退避並び付近のシェルターへの避難が始まっていた。

 

 「チィッ!コムギ、お前達は最寄りのシェルターに行け!」

 「ヤザンは!?」

 「基地に戻って機体に乗って出撃!それしかねぇ!」

 

 言うや否や、近くで避難を呼びかけるパトカーを捕まえ、ヤザンはその強面と連邦軍所属のIDカード等を活かし、あれよあれと言い包めてパトカーを首都防衛隊の基地へ向けて走り出させた。

 

 「で、どうしますアトミラールさん?」

 「…サンプルの回収は現状が不明なため保留。偵察用小型種を出すから、私達は急いでシェルターに向かうわよ。」

 「「「は~い(ですの)。」」」

 

 そんな訳で、三人は誘導灯と通信端末に表示されたナビに従って避難を開始しようとしたのだが、

 

 「あれ?」

 「お、どうしましたレーベンさん?」

 「何か沢山来ますわよ~?」

 「あ(察し)。」

 

 途端、第二新東京市の上空全域に転移反応が現れた。

 

 【Bi-Bi-!転移反応確認、転移反応確認!】

 【民間人の皆様は急ぎ最寄りのシェルターか格納型ビルへ退避してください!】

 【繰り返します。転移反応確認、転移反応確認!】

 【敵勢力からの襲撃です。急いで最寄りのシェルターか格納型ビルへ退避してください!】

 

 「走って!」

 

 真っ赤に光る警報とアトミラールの言葉とほぼ同時、上空にムゲ戦艦と大量のルド・ファーとゼイ・ファーが実体化した。

 本来ならば、実体化と同時に武装ビル群並び首都防衛隊等から迎撃が開始されるのだが、武装ビル群はNERV本部に指揮権限が一任されており、本部施設内に敵の侵攻を許してしまった今現在は事実上使用できない。

 首都防衛隊もまた、衝撃のアルベルトを叩くべく対人装備に換装して移動中であり、地上の一般市民にはあくまで屋内退避とシェルターへの避難指示のみだった。

 不幸にも(ムゲにとっては幸いにも)、この戦力の配置転換の隙間へと敵の転移による奇襲がぶっ刺さってしまったのである。

 謂わずもがな、出現と同時に街へと攻撃を開始したムゲ帝国軍に対し、騒ぎを聞きつけて展開していたものの地下に移動していなかった戦力はおり、反撃を開始していた。

 しかし、それらは防空担当のデストロイド部隊と旧式兵器に分類される61式戦車一個大隊のみであり、とてもではないが半生体メカであるゼイ・ファーや戦闘ヘリに近い特性を持ったルド・ファー、剰え宇宙も水中も行けるムゲ戦艦の相手をするには余りに非力だった。

 必死の応戦も空しく、彼らが壊滅するには30分とかからなかった。

 なお、デストロイドモンスター敷島スペシャルは出撃しておらず、基地の格納庫にいた上に砲撃で埋まったが無事だった模様。

 

 「あ あ あ」

 「っ、落ち着きなさいレーベン!」

 

 そして、市街地を、人々を蹂躙するムゲ帝国軍の光景を見て、レーベンはその動きを止め、小刻みに震えながら口からか細い声を漏らす。

 一年戦争当時、東欧に住まう彼女とその家族を、故郷の街を滅ぼしたジオン製MS部隊。

 そいつらによって刻まれたトラウマが、現在の第二新東京市を焼くムゲ帝国軍と重なる。

 

 

 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 

 精神の均衡を崩したレーベンはその心の上げる悲鳴のまま、新しい家族と自分を守るための鎧を呼び出す。

 レイデンシャフト・クリンゲ。

 激情の刃の意を持つ獣が如き鎧が、咆哮と共にムゲ帝国軍へと躍りかかった。

 



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第31話 十傑集その5

 新西暦186年8月7日 極東方面 第二新東京市

 

 

 AWOOOOOOOOOO!!

 

 

 昼過ぎの午後の都市に、獣の咆哮が響き渡る。

 同時、空中から街の各所に降り立ったムゲ兵の駆るゼイ・ファーとドル・ファー目掛けて躍りかかる白い影があった。

 レイデンシャフト・クリンゲ

 レーベン専用近接戦闘仕様特機型アインストである。

 持ち前の運動性能を活かし、三角飛びで接近してその爪と牙、体表のブレードエッジで装甲を易々と引き裂いていく。

 これが普通の市街地ならば足場にされたビルが絶対に砕けるのだが、生憎と此処は対使徒迎撃殲滅都市たる第二新東京市である。

 今現在地表に展開しているビルは内部に民間の会社やテナントが入って武装していなくとも、その構造は戦乱に耐え得るよう設計された装甲ビル群である。

 即ち、エヴァや使徒の戦闘でも易々と壊れる事はない。

 それを持ち前の身軽さで足場とし、スラスターを吹かすよりも遥かに自在な機動を行うレーベンの空間認識力と機動センスの何と高い事か。

 しかし、今の彼女にはそれを誇る様な情緒はない。

 嘗て故郷を滅ぼした連中と同様の、民間人であろうと躊躇いなく攻撃を加える侵略者を前にして、彼女は完全に激情に呑まれていた。

 故に、それを現す刃はその激情のまま振るわれる。

 

 『いたぞ、全機攻撃!』

 

 ドル・ファーの部隊が味方機を易々と撃破していく見慣れぬ敵機に対し、仲間の仇討ちだとミサイルを発射する。

 しかし、それらは一瞬で消えたレイデンシャフト・クリンゲの残像を貫くだけで終わる。

 生体由来の高い反応速度と運動性の高さを活かして、一瞬で死角に潜り込まれたのだ。

 ひゅん、とツインワイヤーテールが翻り、次の瞬間には先端のブレードで斬り裂かれてドル・ファー部隊は壊滅していた。

 

 『くそ、これ以上好きにさせるな!』

 

 何機かのゼイ・ファーが集まり、一斉射撃で仕留めようと二門のビームランチャーとミサイルを撃とうとするも…

 

 『さくさく、さくさく…いきますの。』

 『へいへい隙だらけですよー!』

 

 だが、そんな彼らはペルゼイン・リヒカイトの刀であるオニレンゲ、ゲニーセン・フリューゲルの近接用武装であるビームサーベルによって斬り裂かれ、何も出来ぬままに絶命する。

 

 『やーれやれ、縛りプレイは大変ですねぇ。』

 『でも、結構楽しい、ですわよ?』

 『まぁ民間人巻き込む訳にもいかないですからねー。』

 

 現在、三人は近接戦闘のみで第二新東京市に侵攻してきたムゲ帝国軍に対して遅滞戦闘を行っていた。

 民間人の避難が完了しないままに開始された戦闘により、現在も避難は終わっていない。

 故に民間人を戦闘に巻き込まないためにアトミラールが下した命令が、「近接武装のみを用いた遅滞戦闘を行いつつ、レーベンを援護せよ」という無茶苦茶な命令だった。

 

 『レーベンったら、あんなに楽しそうですもの。』

 『いや、あれは超怒って錯乱してるだけですよ。アルフィミィちゃんは真似しちゃダメですよ?』

 『そうですの?』

 『そうなんですよー。』

 

 幸いと言うべきか、レーベンが都市を縦横無尽に駆け回り、跳び回りながらムゲ兵を駆逐しているお陰で、時間稼ぎ自体は上手く行っている。

 ムゲの戦艦と機動兵器じゃ三次元立体機動を地表で行うレイデンシャフト・クリンゲを捕らえる事が出来ないためだ。

 これがエースとかならまた違うのだろうが、生憎とこの戦場にはいない様なので、下手するとレーベン一人の活躍で敵を駆逐してしまうかも知れない。

 

 (とは言え、敵さんもその程度は分かる筈なんですけどねー。)

 

 連邦軍と太陽系防衛用無人機動部隊によって散々に蹴散らされ続けた連中がその程度の事を分からない筈がない。

 一時的とは言え撤退し、その間に戦力の補充と地球の特機や高性能な機動兵器に対応可能な程度の兵器や戦術は揃えている筈だ、とフォアルデンは考えていた。

 実際、その想定は正鵠を射ていた。

 

 

 ……………

 

 

 同時刻 ジオフロント内部 NERV本部表層にて

 

 「どうした若造。流派東方不敗の門下ともあろう者がその程度か?」

 「く、ぞ……ッ!!」

 

 そこには地に両手足を付け、震えながら立ち上がろうとするドモンと、それを余裕綽々で見下ろすアルベルトの姿があった。

 当然の結果だった。

 師である東方不敗と長く渡り合い続けた十傑集たる衝撃のアルベルトとつい最近、漸くガンダムファイターとして実戦への参加を認められたドモンでは才能は兎も角として、積み上げてきた戦闘経験と鍛錬の量が違い過ぎる。

 

 「中々楽しませてもらった。本来なら止めを刺す所だが、新手も来る様だ。今日の所はここまでにしておいてやろう。」

 「ま、待て!」

 「若造、次に会うまではもう少し腕を磨いておくがいい!」

 

 言うや否や、アルベルトは十傑集走りでその場を離脱、あっと言う間にジオフロントの壁面を駆け上がると地上へ繋がる通路へと姿を消した。

 

 「くっそぉぉぉ…!何も出来なかったというのか…!」

 『おおい、そこのガンダムファイター!無事か、無事なら応答しろ!』

 「ぬ…あぁ!こちらは無事だ!そっちはどうだ!」

 『お前のお陰で救助活動は終了した。が、こっちの部隊で動けるのは4機とエヴァ初号機だけだ。』

 

 完敗と言って良い大損害だった。

 NERV本部、そして首都防衛隊の双方がたった一人のノーマルな人間?によって壊滅的打撃を受けたのだ。

 使徒なんかよりも余程恐ろしい難敵だった。

 

 『上の第二新東京市にも敵、ムゲ帝国が襲来しているらしい。まだ動けるなら加勢を頼む。』

 「何!?分かった、加勢する!」

 『あ、あの!僕も行きます!』

 

 そこに声をかけてきたのが、今までアルベルトからのヘイトを稼がないように静かに事態を見守っていたエヴァ初号機だった。

 

 『こちらNERV本部作戦部長の葛城です!さっき通信を回復して第二新東京市の状況を把握、ムゲの襲撃を受けています!不明勢力の加勢で時間を稼げていますが民間人の避難はまだかかりそうです!』

 『ヘイズ2、了解した。が、こちらも壊滅に近い打撃を被っている。エヴァ初号機を対ムゲの戦闘に参加させたいが如何か?』

 『…シンジ君、いける?』

 『いけます。これ以上、好きになんてさせません。』

 

 苦悩の見えるミサトの問いに、シンジははっきりとYesと答えた。

 彼にとってもこの街は既に第二の生活の場であり、愛着もある。

 それを侵略者に好き勝手されるのは我慢ならなかった。

 

 『了解。機体を最寄りのハンガーに固定して、直ぐに出すわ』

 『はい!』

 『首都防衛隊は動ける機体は全て上に上がれ。市民の退避が完了するまで時間を稼ぐ!』

 『『『了解!!』』』

 

 こうして、第二新東京市の戦闘は次のステージへと進んだ。

 

 

 ……………

 

 

 『あら?』

 『どうしま…って下から?今更?』

 

 がうがう!暴れているレーベンを支援する二人もそれぞれ盾の様な眷属のオニボサツとブルーマリンも用いての近接戦闘をしていた時、何かに気付いた。

 

 『ロック1、2にヘイズ3。不具合があるなら言え。オレはヤザン隊長の様に優しくはないぞ。』

 『ロック1、問題無し。行けます!』

 『ロック2、大丈夫!任せてくださ~い!』

 『ヘイズ3、いつも通りお任せください。』

 『僕もお手伝いします。盾役なら大丈夫ですから。』

 『えぇ、期待してるからねシンジ君。』

 『よし、民間人の退避は完了しているな。各機攻撃開始!ただしあの不明機体には手を出すな。先ずはムゲ野郎の排除からだ!』

 『『『『了解!』』』』

 

 そして、この状況の変化を正確に読み取った者もいた。

 誰あろうアインスト4人娘のリーダー、元地球連邦軍のアトミラールである。

 

 『市民の避難完了と同時の残存戦力の展開…各員、オールウェポンズフリー。掃討戦を開始せよ。私も出る。』

 『だ、そうですよ?』

 『あら…それじゃ、開幕の花火を上げますわね?』

 『お、いいですねー。』

 

 その動きを、何とか通信回線を復旧したNERV本部はしっかりと感知していた。

 

 『第二新東京市上空に転移反応!これは…全長6km!?』

 『迎撃は!?』

 『無理です!敵の実体化が早過ぎます!』

 

 そして現れたのは、全長6kmを超える巨大な生体式の双胴戦艦だった。

 全体が独特な黒の艦体は所々に赤が差し、艦首の歯が特徴的なその巨大な艦は何処か旧世紀の水上艦艇にも似ている。

 しかし、搭載された多数の火砲と空中に浮いている事から、それが単なる置物でも骨董品でもなく、実用されている兵器である事を物語っている。

 

 『敵ムゲ艦隊に向け一斉射!第二新東京市に来た事を後悔させなさい!』

 『お出でませ大型ビームランチャー!弾幕はパワー、砲撃もパワー!』

 『その並び、頂きますの…。』

 

 グラウベンの三連装主砲が、ゲニーセン・フリューゲルの大型ビームランチャーが、ペルゼイン・リヒカイトのオニボサツ・ヨミジの光線が一斉に放たれ、ムゲ艦隊の中央へと突き刺さり、9隻中5隻を轟沈させる。

 そこからは唐突に始まった呉越同舟状態でありながら、卓越した指揮能力を持つアトミラールが首都防衛隊に合わせる形を取る事で連携に近い状態となり、破竹の進撃が始まる事となった。

 

 

 

 

 『間に合ったか!?』

 『『『『『遅いですよヤザン隊長!!』』』』』

 

 なお、反撃開始一分でヤザンが駆けつけてくれた。

 ムゲ兵が暴れ回る市街地を駆け抜け、何とか基地に到達した後も格納庫が損壊して仕方なかったとは言え、今回は余りに遅過ぎだった。

 




オチが付いた所でこの襲撃もそろそろ終わりが近いです。


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100話突破記念番外編 小ネタ会話集

ムロンさんから頂いた小ネタと一部構想中の小ネタを纏めました。


 一年戦争終結後 某ゲーム店にて

 

 「? 店長、何ですこれ?」

 「あぁ、政府から支給された本格的シミュレーター風ゲームだよ。」

 「へぇー。」

 「場所取るけど筐体代金は政府持ちだし、プレイ料金も安いし、よく出来てるから置く事にしたんだよ。」

 「よし、ちょっとやってみる!」

 

 地球連邦政府は地球圏の復興が予想よりも早く終了する見込みが立つと、本格的な太陽系防衛のための戦力再編を開始した。

 その一環として「人型機動兵器への優れたパイロット適性保持者」を探すべく、各地に軍用シミュレーターの廉価版をアーケードゲームとして設置、データ取り並び適性保持者の捜索を行った。

 ゲーム業界にゲームを軍事に利用する事には難色を示した者もいたが背に腹は代えられぬとして黙殺され、後にアップデートの度に多数の機体や新機能が追加され、太陽系全体で大人気ゲームとして長く愛される事となり、そのトッププレイヤーの何割かが軍にスカウトされる事となる。

 最終的に太陽系全土とフォールド通信で接続され、ガ○オンばりに100人同時プレイを行う合戦モードや小隊ごとに戦うチーム戦モード、NPC相手に戦う一人プレイモード等、子供から大人までプレイする一大コンテンツとなり、人材では軍に、店には売り上げで両者ウハウハとなるのだった。

 

 

 

 一年戦争終結後 極東方面にて

 

 『こちら特車二課第二小隊!そこのレイバー、大人しくしなさい!』

 『ひぃぃ特車二課だぁ!?』

 『もうダメだー!』

 『動くなー!動くと撃つぞー!』

 

 安価かつ汎用性の高い民間向け重機としてのレイバーが販売された事で、凄まじい速さで復興作業は進んだものの、戦争で人心の荒廃した場所では犯罪に使用される事も多かった。

 しかし、鎮圧するのに一々MSを投入してはまた街が荒れるし、大型のMSでは小型のレイバーを相手にするには過剰攻撃になる場合が殆どだった。

 そのため、連邦政府は警察内に警察用レイバー隊を設立、対レイバー犯罪を主眼とした彼らは各所で犯罪者に恐れられたのだった。

 

 

 

 一年戦争の大体30年前 火星圏にて  

 

 『巨人族の小艦隊を確認。』

 『こちらでも確認。偵察、又は工作活動と思われます。』

 『攻撃を開始……撃墜しました。』

 『脱出艇の射出とフォールドを確認。』

 『デフォールド先は…火星圏の模様。』

 『火星支部に伝令。巨人族が火星圏に侵入した可能性あり。予測進路を送りますので、対応を願います。』

 

 実はこの脱出艇、太陽系偵察用の工作員を乗せた小型高速艇だった。

 しかも現地で怪しまれないために人員を全てマイクローン化した上という念の入様である。

 だが、陽動として同行し、小型高速艇を積載していたステルス仕様の小艦隊の旗艦が太陽系防衛用無人機動部隊の攻撃により轟沈。

 何とか脱出した小型高速艇はフォールドしたものの、攻撃の影響と無理なフォールドのせいで小惑星に激突して大破、間も無く轟沈してしまった。

 その中から重傷を負った一人の工作員が辛うじて脱出ポッドに乗り込んで離脱に成功するも、操縦不能で火星の海に落下してしまった。

 海へ落着後は壊れたポッドから無我夢中で脱出、海岸に漂着した時には諸々の衝撃で記憶を失っていた。

 が、偶然そこに通りかかった親切な老夫婦に助けられた彼はそのままA.I.M.系列の病院へ搬送される事となる

 なお、この脱出ポッドが見落とされた原因は巨人族にしては余りに小型かつ射出された時点で余りにボロボロでスクラップにしか見えなかったため、火星圏防衛司令部がデブリとして処理してしまったためだった。

 この辺りは後にしこたま怒られ、改善される事となる。

 

 

 

 一年戦争の大体10年前 火星圏にて

 

 「お前かよ!?」

 

 トレミィが思わず突っ込みを入れてしまった際の言葉。

 親切な老夫婦によって助けられた巨人族の工作員(実は見た目十代半ばの少年兵)はA.I.M.系列の病院へ搬送されるが、身元特定のために行われた血液・遺伝子検査によって現行のコーディネート技術を遥かに上回る高度な遺伝子操作の痕跡が発見される。

 聞き取り調査の結果、高度な知性を有しながら一般常識がまるで備わっていないことが判明。

 結果として彼は違法なコーディネート実験の犠牲者と断定され、社会復帰プログラムを受ける事となる。

 遺伝子調整技術が公になり、S2インフルエンザ対策のついでに違法な遺伝子調整を行う事例が地球圏で多発していた時期でもあり、その被害者と思われたのだ。

 身元引受人となったのは通報してくれた老夫婦であり、養父母となった彼らとの触れ合いや受講したプログラムが功を奏して健全な人格と社会性を培った彼は(A.I.M.系列に)就学、就職、結婚と順調に人生を歩む事となる。

 当然、病院からの報告で早期に彼の存在はトレミィはしっかり認知していた。

 後々ゼントラーディ人の帰化する未来がくる可能性がある事を知っていた彼女はたまに見せる冷徹な面を発揮して半ばモルモット扱いで経過を観察することにしたのだが…

 

 ・引き取った夫婦の名字が「ボーマン」

 ・生まれた息子につけられた名前が「ガルド」

 ・息子の進学先の生徒に「イサム・アルヴァ・ダイソン」と「ミュン・ファン・ローン」がいた

 

 以上の事からついつい突っ込みを入れてしまった。

 この事実が判明以降、過剰なまでの監視体制は解かれるのだった。

 

 

 

 「こんなところまでファッション感覚で弄るとか…違法研究者絶対許さねえ!」

 

 当時のガルド父を診察した医師の一人の言葉。

 巨人族特有の尖った耳を見て激情に駆られた。

 他にも普通の耳が獣耳、エルフ耳、鳥(羽毛)耳になっている事例があるが、全て違法である。

 当時は割とこんな事が多発していたが、地球圏の外で起こる事は稀も稀だった。

 なお、当時の地球は特殊脳医学研究所の解散前だったりする。

 

 

 

 一年戦争の大体10年前

 

 「…! こちらP3!要救助者を発見!女性で十代半ば!妊娠している!」

 「た……け…。」

 「あぁ、助ける!もう大丈夫だ!」

 

 数々の違法実験の痕跡から遂に特殊脳医学研究所へと警察の特殊部隊が突入する事態となった。

 この作戦は出資者の軍からも秘密で行われ、その内部で行われていた違法な人体実験の数々が表沙汰になり、多数の軍高官や企業幹部をも巻き込んだ一大スキャンダルとなった。

 また、女優等の違法クローンの販売をしていた事も判明し、その売買に参加した人員は過剰遺伝子調整禁止法に抵触したとして次々と逮捕された。

 生き残りの被害者は極僅かだが、その中で一人だけ妊婦だった少女ユキコは自身を助けてくれた警察の特殊部隊所属の男性に懐き、紆余曲折の後に結婚した。

 生まれた子供はリュウセイと名付けられ、後に母親を超える念動力の才能を発揮、一連の戦乱を戦い抜く事となる。

 

 

 

  新西暦186年7月末 地球 極東方面 早乙女研究所

 

 「なぁ訓練って聞いてたんだがよ。」

 「おう。」

 「何で俺達、砲台に詰め込まれてるんだ?」

 「奇遇だな武蔵。オレもそう見える。」

 「奇遇でも何でもなく事実だよ。オレ達ゃ大砲に砲弾として装填されてるみたいだな。」

 「「はぁ!?」」

 『おおーし、お主ら準備は良いか!?良いな!?駄目とか聞かんからな!試作型ゲットマシン発射装置、ゲッターレールカタパルトキャノン、発射ぁ!!!』

 

 現在建造中のゲットボマーに搭載予定のゲットマシン発進用設備の訓練。

 砲身がコの字型の開放バレルとなった巨大な三連装亜光速レールガンによってゲットマシンを射出、戦地に亜光速でお届けする事が可能。

 が、テスラ・ドライブ等の重力・慣性制御機構を最大出力で用いてもなお発射時のGは常人ではミンチになる程であった。

 が、ゲッターチームなら行ける!と敷島博士に判断され(本人らに無断で)実験が強行された。

 開発にはすっかり居着いたケーニッヒ博士も参加している。

 一応、ゲットマシンだけでなくMSサイズの機動兵器や砲弾も発射可能だが、今日まで有人で乗り込んだ者はゲッターチーム以外にはいない。

 そのゲッターチームをしてとてもキツイらしく(曰く、内臓が飛び出るかと思った)、帰還して直ぐに敷島博士を全力でボコボコにした。

 が、有用である事は間違いなかったので、ゲッターチームやガンダムファイター等の一部のフィジカル強者、太陽系防衛用無人機動部隊所属の無人戦闘機等が幾度か利用する事となる。

 

 

 



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第32話 十傑集その6

 新西暦186年8月7日 極東方面 第二新東京市

 

 

 大部隊を率いて極東方面の行政の中心を抑えようとしたムゲ帝国軍極東方面軍の主力は、一転して劣勢に追い込まれていた。

 

 『くそ、何だあの特機は!?』

 『固すぎる!火力支援をしてくれ!』

 

 前線からはATフィールドを持つエヴァ初号機の排除が全く進んでおらず、弾切れやエネルギー切れを誘発しようにも完全に迎撃機能を取り戻した第二新東京市内にはエヴァ専用武装やアンビリカルケーブルは予備を含めて多数配置されている上、支援用の武装ビル群も無数に取り揃えられている。

 アルベルトの襲撃による混乱さえ無ければ、ムゲ帝国軍はこの都市に入る事すら出来ずに壊滅させられていただろう。

 

 『う、うわあああ!?』

 『司令部、司令部!増援を求む!敵のエースだ!』

 

 そして、エヴァ初号機に余りにかまけているとその隙を突いてヘイズ1と2、首都防衛隊で最も近接戦闘能力に長ける二人が切り込んで来るのだ。

 

 『この…特機とは言え量産機に!』

 『ぐあああああ!む、ムゲ帝王様バンザーイ!』

 

 その二人を数で抑え込もうとしても今度はロック1と2、二機のグラビリオンの大出力ビームと無数のミサイルによって吹き飛ばされる。

 加えて、先程から大暴れを続けているアインスト4人娘達が続いている。

 特に制空権を一隻でありながら一方的に捥ぎ取っていったグラウベンに上空を抑えられた現状では、数こそ未だ優位であるものの、ムゲ帝国側は明らかにじり貧だった。

 艦砲で地上を支援しようにも、必死に操艦して牽制攻撃をしないと全長6kmの巨体故の高い防御力と砲撃能力・対空迎撃能力を併せ持つグラウベンに一瞬で蹴散らされかねない。

 スパロボ的に言えばムゲ帝国軍の主力戦艦たるムゲ戦艦は2Lサイズ(全長は100~1km間)、対するグラウベンは3L(数kmからそれ以上のもの全て)となり、元の装甲・武器性能の差はサイズ補正によって更に広がる。

 本作では一応ムゲ戦艦は500m級万能母艦と考えているが、その性能は耐久力と火力こそそれなりにあるが、あくまでそれなりに過ぎない。

 宇宙怪獣相手にバチバチやり合うために生み出されたグラウベンに敵う道理はなかった。

 故に、ムゲ帝国側の劣勢は当然の結果だった。

 

 『…止むを得ん。アレを出せ!』

 『よ、よろしいので?』

 『制圧できんのは癪だが、それ以上に負ける訳にはいかん。やれ!』

 『は!』

 『全軍に通達!都市殲滅用大型兵器を出すぞ!急ぎ指定範囲内から離脱しつつ、転移を成功させるために一時でいい、敵を抑え込め!』

 

 そして、ムゲ帝国側はもしものために用意していた切り札を切った。

 同時、後先考えぬ反撃を開始した。

 

 『攻撃が変わった…何か来るぞ!これで最後だろうから圧し切れェ!』

 『攻勢…反撃の前段階か。各機、警戒しつつ攻撃の手を緩めるな!これさえ凌げばこちらの勝ちだ!』 

 

 首都防衛隊とアインスト4人娘、その双方の指揮官は相手の焦りを悟ってか、ほぼ同時に同じ様な指令を出した。

 

 『あら?』

 『んん、また増援ですかー?』

 『Grrrrrr…!』

 

 そして、ムゲ帝国側が無理に攻勢に出ては手痛い反撃を受けて出してから1分、遂にムゲ側の奥の手が降ってきた

 

 全長、否、直系6kmの都市殲滅用巨大円盤型機動兵器メガロプレッシャーである。

 

 その大質量並び下面に取り付けられた逆三角形の刃を回転しながら上から叩き付け、都市そのものを叩き潰す実に大雑把な兵器である。

 これを受ければ、住民は地下に格納された装甲ビル群内部やシェルターに避難している第二新東京市とは言え、被害は免れないだろう。

 

 『させるか!』

 

 即座にその兵器の性質と狙いを察知したアトミラールがグラウベンの巨体をメガロプレッシャーの下に突っ込ませ、都市への降下を防ぐ。

 ここで下手に砲撃を加えて撃墜しようものなら、撃墜された巨大円盤の質量がそのまま街へと降り注ぎ、結局は同じ事になる。

 であればやるべき事は一つ、敵機動兵器群を排除しつつこの巨大円盤を第二新東京市の外、或いは森林部や芦ノ湖上空へと追い出してからの撃破である。

 

 『敵大型艦の動き、止まりました!』

 『馬鹿め!各艦は敵大型艦に火力を集中せよ!』

 

 途端、圧されていたムゲ戦艦の残り2隻が反撃を開始する。

 一部はメガロプレッシャーにも命中しているが、その性質上装甲が滅茶苦茶厚いこの円盤にはムゲ戦艦の砲撃も通らない。

 結果、グラウベンは碌に動けない状態で砲撃を喰らい続ける事となる。

 

 『ぐぅぅぅ…!バリア並び推進部にエネルギーを集中!こっちはまだ大丈夫だから各機は敵の排除を優先しなさい!』

 

 最早人間ではない身でありながら、アトミラールもといコムギは愚直に都市への、民間人への被害を軽減させようと奮起する。

 

 『待たせたな!』 

 

 そして、ここで漸くドモンが駆けつけてきた。

 搭乗した試作MF「シャイニングガンダム」と共に。

 

 『各所に侵入しようとしていた敵歩兵部隊は排除した!後は機動兵器だけだ!』

 『ぃよぉっし!機動兵器はMFとヘイズ小隊が担当する!ロック1と2、エヴァ初号機は敵艦を落とせ!』

 『シンジ君、ポジトロンライフルを用意したわ。指定されたビルに取りに行って!』

 

 消耗していたムゲ機動兵器部隊には未だ完全とは言えないものの出鱈目なMF+精鋭部隊を相手にするだけの余力はなく、ものの数分で駆逐されていった。

 加えて、残り2隻の戦艦の命数もまた尽きようとしていた。

 

 『ロック1、メガグラビトンウェーブ、チャージ開始。』

 『ロック2、同じくチャージ開始。』

 『射撃タイミング合わせ、ロック1は敵1番艦、ロック2は2番艦を照準。』

 『ロック2、了解。…チャージ完了!発射します!』

 『発射ぁ!』

 

 本来なら広域破壊のためのMAP兵器たるメガグラビトンウェーブ。

 両腕に間に指向性を持った重力波を収束、お返しとばかりに二機は上空の敵戦艦2隻へと叩き込んだ。

 その一撃はグラウベン相手に辛うじて生き残っていた2隻のムゲ戦艦には余りにも過剰攻撃過ぎた。 

 

 『こ、こんな筈では…!?えぇい、ここで最後なら貴様らも道連れだぁ!』

 

 轟沈し、火達磨になりながら、ムゲ帝国軍の指揮官は最後の最後、メガロプレッシャーへと自らを省みない特攻を指示して轟沈したのだった。

 

 『くぅ…!円盤の出力が…!?』

 『ちぃ!ムゲ野郎め、最後にあの円盤を落とすつもりか!?』

 

 逸早くグラウベンが押され、メガロプレッシャーが再度降下と回転を始めたのをヤザンは素早く察知した。

 

 『ちょ、アトミラールさん、砲撃、砲撃してくださーい!』

 『駄目!今撃てば第二新東京市に降り注ぐ…!』

 『あぁもう強情なんだから!』

 

 職業意識が高過ぎるのも困ったもんだとフォアルデンは思いつつ、見捨てるつもりはない彼女はフォローすべく動き出す。

 

 『レーベンさん!あの円盤の上に登ってブースターとか壊してください!アルフィミィさんはその支援!』

 『AWOOOOOO!』

 『わかりましたですのー。』

 

 野獣系ゴスロリ幼女と不思議系露出幼女のコンビがリーダーを助けるべく、巨大円盤の上面目指して跳躍と飛翔で向かう。

 一方、フォアルデンはこれからする事には邪魔となる二人をさくっと追い出したのを確認してから、昼間に連絡先を交換していたヤザンへと通信を繋げる。

 

 『ヤザンさーん、そっち終わったのならこっち手伝ってくださーい!』

 『分かった!何すりゃ良い!?』

 『あの円盤の真下にエヴァと特機配置して、押し返して下さい。』

 『はぁ!?』

 

 助けるのは予定通りだったが、内容が余りに無茶だった。

 

 『ジガンスクードなら兎も角、グラビリオンにゃそんな出力は無いぞ!』

 『大丈夫です。あの円盤がそのまんま地表に叩き付けられるのが問題なんで、そっと下す分には被害も限定的ですから!』

 『…ちょっと待ってろ。』

 

 言って、ヤザンは素早く通信をNERV本部に繋げる。

 一応エヴァ初号機の指揮権限はNERVのものであり、こんな殆ど博打な作戦に参加させるには問題があったからだ。

 

 『NERV本部、聞こえてるか!?あのデカい円盤、落ちたら被害はどん位だ!』

 『概算だけど、ジオフロントから空が見える程度の被害は出るわね。』

 

 赤城リツコが平然とそんな事を宣う。

 ジオフロントが剥き出しになる様な事態よりはマシとは言え、それでも無視できない大損害だった。

 

 『…あれを芦ノ湖か森林部に落とした場合は?』

 『それなら被害は限定的ね。0じゃないけど大分助かるわ。』

 『そのための作戦にエヴァを投入するのは有りか?』

 『構いません。許可します。』

 『良いの、葛城作戦部長?』

 『このままじゃ今後の使徒迎撃に問題が出ます。』

 『よし、あの円盤は間も無くあの不明機達によって推進系が全て破壊される。そしたらあの歯茎艦が都市外に押し出し始める。初号機とこっちのロック1と2には完全に外に押し出すまで真下に待機。もし落ちてきたらDFとATフィールドで押し上げて少しでも地上の被害を抑えてもらう。』

 『…色々言いたいけど、現状それしかないわね。良し、NERV作戦部長の権限で許可します。やってみせてください、ゲーブル少佐。』

 

 ミサトのその言葉を切っ掛けに、第二新東京市の戦闘は最終段階へと移行していくのだった。

 

 (ゲーブル少佐、あの不明勢力と何か繋がりがある?調べる必要があるわね。)

 (あの不明機、興味深いわね。生体系みたいだし、今後のためにも一度よく調べてみたいわ。)

 (ったく、今日じゃなけりゃあどうとでもしてみせたんだがなぁ。)

 

 ミサトとリツコ、ヤザンの内に火種を抱えたままに。




次で十傑集は最後の予定。


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100話突破記念番外編 小ネタ会話集その2

思い付いた小ネタが予想以上に膨らむのって有るよねって話。


 特殊脳医学研究所への突入後

 

 「やはりあいつらは取り逃がした、か…。」

 

 余りの非人道的な研究に義憤を募らせていたケンゾウ・コバヤシの独白。

 彼は自分達の研究の重要性を認識しながらも数々の非人道的な行い、特にユキコと言われる自分の研究の被験者へと目を離した隙に勝手に行われた生殖実験にブチ切れて当局、より正確に言えば連邦警察公安部への通報を行い、内部情報を暴露した。

 しかも、それを受け取ったのが当時「カミソリ後藤」として知られた公安部でも腕利きだったのが今回の大捕り物に繋がった。

 しかし、研究の主導的立場にあった人員は取り逃がす失態が起き、後藤は多くの政治家や企業幹部、軍高官の恨みもあって公安から異動(実質的な追放)を受けててしまう事になった。

 司法取引も上手くいき、軽い監視措置のみに留められたケンゾウは以降、実験の被害者達への保護のために軍と警察双方に協力、取り逃がした人員の追跡捜査のための聴取にも常に協力的だった。

 また、当時幼児だったユキコの卵子を用いて製造された子供達の生き残りの一人を保護、アヤと名付けて養育していく。

 

 

 

 特殊脳医学研究所への突入から半年後

 

 『これが地球人類の念動力者のサンプルか。』

 『あぁ、まだ胎児だがな。解凍して育成すれば良いし、こちらの卵巣から追加サンプルの製造も可能だろう。』

 『了解した。後はこちらで輸送する。』

 

 地球圏に潜入していたバルマー工作員らの会話。

 貴重な念動力を宿した地球人類のサンプルとしてユキコの摘出された片方の卵巣とそこから採取された卵子を用いた胎児を確保、バルマー本国へと輸送し、後にこの受精卵は解凍され、レビ・トーラーとして調整される事となる。

 

 

 

 特殊脳医学研究所への突入から半年後

 

 『バルマー工作員の活動を確認。介入しますか?』

 『必要無し。物品の輸送経路を追跡し、バルマー本国の正確な位置座標を入手せよ。』

 『了解。任務を継続します。』

 

 勿論、バルマー工作員の動きはバレていた。

 後の第一次αの時代に殲滅されるまで、彼らの行動は貴重なバルマー人のデータとして逐一記録される事となる。

 特にバルマー本星の正確な位置座標は銀河各地に配置されたデコイ艦でもゲベル・ガンエデンを警戒して掴み切れていなかった事もあり、後のバルマー本星への到達に大いに役立つ事となる。

 

 

 

 後の第一次α終結後

 

 「リュウセイ、アヤ!」

 「あら、マイ。もう健康診断は終わったの?」

 「うんっ!だから今日は時間があれば遊んでくれる?」

 「おう、大丈夫だぜ!んじゃ何か飯でも食いにいくか!」

 

 セーフティが働いていたのか、レビ・トーラーには一切の記憶がなく、しかしその遺伝子構造から彼女が地球人類出身である事が明らかになった。

 そして、その出自がリュウセイとアヤと同じである事も。

 大人達は過去の事件もあり、三人が大人になってからこの事を明かす事に決め、レビ・トーラーはマイ・コバヤシとしてケンゾウ・コバヤシ博士の養子となった。

 感じる精神の波長からリュウセイとアヤはマイの正体に気付いていたものの、おずおずともの静かで何も知らない彼女の様子から色々な事を飲み込んで、身内として振る舞うようになる。

 が、後にその絆は一連の戦乱によって本物となるのだった。

 

 

 

 後の第一次α終結後

 

 「あの子は今は地球だったかしら…。」

 「あぁ。クスハちゃんや同じ部隊の人達も無事らしい。」

 「良かった…本当に、良かった…!」

 

 リュウセイの無事を聞いて家で夫の腕の中で涙するユキコ。

 結婚しても暫く続いたフラッシュバックもリュウセイを出産、育てていく内に殆ど起きなくなったが、リュウセイが家を出て軍に入ってからは再発するようになった。

 自分から引き継がれてしまった特殊な才能にリュウセイも不幸な事になるのではないか?とユキコは悪夢に苛まれ続けた。

 フラッシュバックに苦しみながら、夫と共に心配していたのだが、無事を知らされて心底安堵した。

 が、その直後に自分の卵子から作られた種違いの姉妹に囲まれていると聞いて心底驚いた。

 

 

 

 SRXチーム結成後

 

 「リュウセイ……。」

 

 血縁上は種違いの兄である筈のリュウセイの背を物陰から音も無く、ハイライトの消えた瞳で見つめるマイ。

 その視線はねっとりかつしっとり、明らかに身内とか家族とか超越した色合いが混じっていた。

 後に思いを同じくするラトゥーニに見つかり、普通に接するようになるが、それまでは大体こんな感じで色恋の分からないリュウセイから警戒されていた。

 が、その気持ちはアヤに妹として可愛がられ、ラトゥーニと出会って恋心を実感した後も一切変わっていない。

 これは洗脳・記憶措置によって動いていた嘗てのレビ・トーラーが半分とは言え血を同じくする近しい者と初めて接し、尚且つ今まで自身の根幹だと思っていたものと引き剥がされ、失った事による喪失を埋めようとしているのではないかと思われる。

 

 

 

 アインストの存在が公表後の某日

 

 「キョウスケ…エクセレン…。」

 

 何処からともなくヒリュウ改艦内に侵入してきたアルフィミィの言葉。

 自分のオリジナルとその恋人の存在を、自身にとって重要なものと捉え、監察を行っている。

 が、大抵はバレて怒られて他のアインスト4人娘に回収されるか、エクセレンに首根っこ掴まれて引き摺り出される。

 

 

 

 第二新東京市内 首都防衛隊訓練施設にて

 

 「1・2!1・2!1・2!」

 「背を曲げない!正しいフォームを保ったまま走りなさい!じゃないと余計に体力を消耗するわよ!」

 「あれは?」

 「この前の襲撃からあんな感じよ。」

 

 衝撃のアルベルトによる襲撃以降、シンジは自らの立ち位置を改めて考えた。

 後一歩で周囲の人達全てを亡くしていたであろう事態を、自分なりに。

 結果、友人達や周囲の人達(NERVや首都防衛隊の人達)のため、何よりも自分が大切に思っている周囲の人達を無くしたくないがためにエヴァ初号機に乗り続ける事を決めた。

 以降、その瞳に宿った炎に気付いたユン・グローリアス少佐によって以前よりも厳しく扱かれていく事となる。

 しかし、その扱きにシンジは人前では決して泣き言を漏らさず、ただ前を見て歩き始めるのだった。

 それは独りぼっちの少年が、大人へ成るために踏み出した最初の一歩だった。

 

 

 

 第二新東京市内 首都防衛隊訓練施設にて

 

 「男の子、ねぇ…。」

 「うふふ、あーいうのってやっぱり素敵ねぇ。」

 「シンジ君…。」

 

 上から訓練するシンジを見つめる高雄、愛宕、ゴトラントの三人。

 何れ主人となる人間を支え、仕える事に喜びを見出す自動人形の一体として、シンジを守り慈しむのはとても心地よかったが、脆弱だった子供が大人へと歩み始め、自分達の主人に足る姿へと成長していくのもまた素敵だった。

 高雄と愛宕は純粋に成長を喜んでいるのだが、既にしてマシンハートに目覚めつつあるゴトランドはその瞳に慈しみだけでなく、恋慕の色を浮かべてうっとりと三番目の少年の名を呟くのだった。

 

 

 

 一年戦争後 極東方面にて

 

 「で、今更こんな辺鄙な埋め立て地にいる私に何をしろおっしゃるので?」

 「貴方の知恵をお借りしたいのです、カミソリ後藤さん。」

 「切れ過ぎて公安追い出された口なんですけどねー私。ギリアム大尉さんも、私に手柄上げてほしい訳じゃないんでしょう?」

 「えぇ。正直な話、貴方は地位も名誉も金も興味はない。ただ自分の矜持と警察官としての職務意識で動いている。私の様な立場の人間からすれば、一番動かし辛いが、同時に一番信じられる類の人間です。」

 「ま、取り敢えず要件だけ言ってみてください。受ける受けないはそこからって事で。」

 

 メテオ3群の落着により発生した津波と海水面上昇によって壊滅した東京都跡地を捨て、行政は第二の首都として一年戦争中に実質的な行政機能を担当した大阪ではなく、新たに芦ノ湖北岸(神奈川県足柄下郡箱根町仙石原地籍付近)に第二新東京市として遷都される事となった。

 しかし、未だ多くの人々が住んでいた土地を見捨てられず、旧東京都沿岸部一帯を人工地盤で埋め立てて土地を確保する一大事業、通称「バビロン・プロジェクト」が発足された。

 このプロジェクトには反対の声も大きく、壊滅したとは言え嘗ての都市の景観を残すべきだ、未だ行方不明の人の遺体や遺品を探すので待ってほしいという意見も多い。

 が、ゼーレによる強引な第二新東京市への遷都に否定的な人々はこのバビロン・プロジェクトを対抗馬として、実質的な首都機能を再び手にしようとこの事業を半ば強引に進めようとしていた。

 そんな訳で作業用に格安で投入されたレイバーはその本来の目的ではなく、犯罪にも多く利用されてしまった。

 そして、旧関東地方一帯での治安悪化と共に海外から避難してきた難民達に紛れて、多数の非正規作戦従事者やテロリストが流入している事に公安並び連邦軍情報部は気付いていた。

 これらは所謂アマルガムと言われる非合法組織の工作員とその雇われ、更に彼らを追ってきた国際警察機構や情報部の人間達だった。

 アマルガムも既にゼーレ派とA.I.M.派に別れて久しく、何としても主導権を取り戻したいゼーレ派は欧州のみならずこの地に基盤を築き、勢力を拡大しようと目論んでいた。

 これを察知したギリアム大尉ら連邦軍情報部と公安は密かに大規模作戦の用意を始め、その相談役として特車二課第二小隊隊長へとトバされていた元公安の後藤喜一を選んだのだった。

 

 

 

 一年戦争後 極東方面にて

 

 「そうよ、この滅んだ都市が再誕するように、私達【一族】もまた…。」

 

 一族とは地球圏に古くから存在する組織であり、人類を存続させるという目的のため、時には戦争すら画策してきた。

 絶滅戦争や際限のない幸福の追求を抑止する事で人類を管理する事を目的としており、戦争・紛争のような不幸を意図的に発生させ、人口削減を行ってきた。

 また、戦争が破滅的な様相を見せればそれに対する介入も行っている

 一族の在り方・行動理念に従い、一年戦争前から紛争・混乱を煽ってきた彼女らだが、ここ100年はその行動の殆どが空振りか、的外れなものとなっていた。

 それでもめげずに歴代党首は頑張ってきたが、今後の一連の戦乱を見越して人類全体の人口増加・技術向上・版図拡大を目指して動いていたA.I.M.に邪魔だと認識され、一年戦争直後もその方針を転換しないと見るやあっさりと壊滅に追い遣られた。

 その資金と技術の殆どは密かに回収されたが、資金は兎も角技術は殆ど使い物にならないと判断された。

 カーボンヒューマン作成技術(記憶転写・クローン作製)は確かに驚くべきだが、そんなもん自動人形達には幾らでも再現・複製可能だったからだ。

 生き残った僅かな残党を率いて、次期党首候補の一人だったマティスは以前から繋がりのあったアマルガム・ゼーレ派へと身を寄せ、配下に加わった。

 その内に一族再興という野心を秘めたまま、壊滅した旧東京都へと向かい、そこで再起のための基盤を作る作業に入るのだった。

 

 こういった経緯で、ギリアム大尉や連邦軍情報部並び公安、ついでに後藤隊長も加えた劇場版パトレイバー番外編みたいな話が始まるのだった。

 

 




私が書く妹は大体キモウトかヨスガる系になる不具合。
やはり男兄弟で育った現実の妹を知らない奴には普通のは書けないというのか…。


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第33話 十傑集その7

 新西暦186年8月7日 極東方面 第二新東京市

 

 

 『上の推進部分、全部ぶっ壊しましたですのー。』

 『Grrr…WON!』

 

 幼女コンビがそう報告すると共に、ガクン!とメガロプレッシャーの動きが止まる。

 これでもう降下も回転も出来なくなった。

 加えて、元々が質量を活かした打撃を用いた都市殲滅用巨大円盤型機動兵器であり、そのための防御力を優先する余り、碌な射撃兵装を備えていなかった。

 精々が上面に取り付けられた対空目的のミサイル程度で、それはもう破壊されてしまった。

 即ち、デカいだけの木偶と化してしまったのだ。

 

 『よし、私が押し出すから下で支援を頼む!』

 『ヤザンさーん、ご指示お願いしまーす!』

 『えぇい畜生め!少年にロック1と2、頼んだぞ!残りは三人の援護だ!』

 

 こうして、最後は割とあっさりと終わる…かと思われた。

 もう少しで運び終わるという時に、突如メガロプレッシャー内部で爆発が発生したのだ。

 

 『ッ!いかん、一部が落ちる!』

 

 下から落ちない様に支えていた巨大円盤の一部が発生した誘爆によって破損、破片が落下してしまった。

 破片といってもそのサイズは1km近く、やはり被害は免れない程の質量はある。

 グラウベンは誘爆の衝撃と破片が落ちた分のバランスの変化に対応するので精一杯で、とてもではないが咄嗟に対応できなかった。

 

 『各機、フィールド出力全開!』

 『ATフィールド全開!』

 『DF最大出力ぅ!』

 

 そこを空かさずエヴァ初号機と二機のグラビリオンが滑り込み、第二新東京市への落下を防ぐ。

 

 『う、ぐ、ぁぁぁぁぁぁあ…ッ!』

 『うぅ…!ジェネレーター、リミッター解除!全部フィールド出力に!』

 『駄目、このままじゃもたない!』

 

 が、未だ成長し始めたばかりのシンジの精神で稼働率が上下するエヴァ初号機と、ジガンスクード程の性能は持っていないグラビリオンでは全長1km近い円盤の破片を支える事は無理だった。

 

 『っ、シンジ君!』

 『な、止せヘイズ3!』

 

 故にヘイズ3、ゴトランドは飛び出した。

 特機ではないとは言え、少しでも加勢するために。

 

 『っ、ゴトランドさん!?』

 『ゲシュペンストmk-Ⅱの出力でも、多少の足しには…!』

 

 エヴァの横に並び、少しでもその負担を減らそうとゲシュペンストmk-Ⅱがリミッターを解除、限界までDFジェネレーターを酷使する。

 が、事態は高性能量産機とは言えMS一機程度でどうにかなる範囲を超えている。

 

 『っちぃ!ヘイズ2、着いてこい!』

 『くそ、了解!』

 

 事態に気付いたヘイズ1と2、ヤザンとフレッドもまた加勢する。

 それでもなお、巨大な破片を押し返す事は出来ない。

 

 『っ、ぁ、ぐぅぅぅ…!』

 

 ATフィールドの出力を上げるべく、必死に精神を集中させるシンジは、このままでは全員が全滅しかねないと思っていた。

 事実その通りで、このままではATフィールドを持つシンジだけが生き残り、落下の衝撃でジオフロントに直通の大穴が開いてしまう事だろう。

 何より、こんな自分と短い間とは言え共に戦い、共に笑い、共に時間を過ごしてくれた人達が消えてしまう。

 それは、シンジにとって二度目の喪失で、決して認められるものではなかった。

 

 『ぅ、ああああああああああああああああああああああああああッ!!』

 

 故に訓練で受けた通り、近接戦闘時の心得の一つである大声を出す。

 これで自らの心を奮い立たせ、少しでも多くの力を絞り出す。

 しかし、この時のシンジにそんな知恵は一切なかった。

 

 失いたくない…

 

 失いたくない

 

 失いたくない!

 

 失いたくない!!

 

 ただ必死だった。

 孤独は嫌だ、独りぼっちは嫌だ、寂しいのは嫌だ。

 幼少期に母が消え、父は自分を置いていった。

 その出来事がトラウマとして、シンジの心に今もなお深く刻まれている。

 故にこそ、シンジは孤独を最も厭う。

 だからこそ、ここで首都防衛隊の面々を、NERVの人達を失う事に、第二新東京市とそこに住まう人々を失う事に、シンジは耐えられなかった。

 そんな少年の声に、機械仕掛けの神/母が応えた。

 

 『な、初号機のシンクロ率上昇!』

 『これは…!?』

 

 『こ、のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』

 

 指令所のやり取りなんて耳に届かず、シンジはただ願い、それは叶えられた。

 突如その出力を急上昇させた初号機のATフィールドは急拡大し、まるでトランポリンの様な弾性を発揮、落下した破片を人気の無い芦ノ湖方面へと弾き返したのだ。

 

 『ま・だ・ま・だあああああああああ!!』

 

 それだけに留まらず、初号機のATフィールドは更に拡大し、上空のメガロプレッシャーとグラウベンにまで到達、メガロプレッシャーのみをやはり芦ノ湖方面へと弾き飛ばしたのだ。

 

 『『『『『『『『『『はあああああ!?』』』』』』』』』』

 

 余りのトンデモナイ光景に指令所と首都防衛隊の面々は度肝を抜かれて叫びを上げた。

 こうして、第二新東京市は辛くも十傑集とムゲ帝国軍の攻撃を凌ぎ切ったのだった。

 で、次はお楽しみ、戦闘後の不明勢力への詰問である。

 

 『で、そちらの人達は何処の誰なのか、説明を貰えないかしら、ヤザン少佐?』

 『おや、何で自分が出来ると思うんですかな葛城少佐?』

 

 ここで露骨に首都防衛隊とNERVという指揮系統も異なる二つの組織の軋轢が表面化した。

 この辺を少数ながらも実力と態度、名声で上手く往なしてきたヤザンと連邦軍に帰属しない独自色の強いながらも戦力が少ないNERVとで上手くやってきたのだが、当のヤザンが問題の渦中となったせいで大きく拗れてしまった。

 

 『Grrrrrrrr…!』

 『あぁ…?』

 

 そんな中、未だ理性の戻ってきていないレーベンのレイデンシャフト・クリンゲが両手を地に付けた四足状態で唸り声を上げる。

 その視線の先はヘイズ1、ヤザンへと向けられており、野生動物の様に今にも襲い掛からんとするネコ科の大型肉食獣そのものの姿だった。

 それに対し、ヤザンはメンチ切りしてくる中坊を見るヤクザ者の様なドスの効いた低い声を上げ…

 

 『ガン飛ばしてんじゃねぇ!!』

 『きゃいんっ!?』

 

 ヤザンの一喝に、レーベンは悲鳴と共に一瞬で正気に戻った。

 

 『きゃいんきゃいんきゃいんっ!!』

 『え、ちょ、なんで私にしがみ付くんですかぁ!?』

 『あらーすっかり怯えてますのー。』

 

 そして、どうすべーと傍観していたフォアルデンにしがみ付き、ヤザンへの盾にする様にその後ろへと隠れてしまった。

 尻尾、もといツインワイヤーテールも主人の感情を現す様に丸まって股の間に納められてしまった。

 まるっきり怯えた子犬とかの姿だった。

 その姿を見て、その場の全員は毒気を抜かれてしまった。

 その瞬間を、期を伺っていたアトミラールは見逃さなかった。

 

 『…全機、ワープするわよ!』

 『えと、えと、今日は帰りまーす!お疲れさまっしたー!』

 『またお会いしましょうですのー。』

 『きゃうーん…。』

 『貴女は早く正気に戻りなさい…。』

 『あ、ちょっと待てお前ら!』

 

 余りの毒気の無さに力を抜かれた瞬間を見計らい、あっという間に転移していくアインスト4人娘達。

 それを阻止するには今の首都防衛隊とエヴァ初号機は余りに疲弊していた。

 

 『ッチ!各機、帰投するぞ。都市の防衛態勢の立て直しをせにゃならんが、一先ずは勝利だ。』

 『勿論、後で色々お聞かせ願いますわよね、ヤザン少佐殿?』

 『アレらに関しては先ずは連邦軍へ報告した後になるがね、葛城少佐殿?』

 

 取り敢えず、第二新東京市の戦闘は完全に終了した。

 が、ムゲ帝国の再侵攻はまだまだ始まったばかりだった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年8月7日

 突如始まったムゲ帝国の再侵攻は地球上のみならず、コロニーと月を含む地球圏全体に行われた。

 これは嘗てあった太陽系防衛用無人機動部隊の地球の最終防衛ラインを担っていた無人量産型OFセト部隊(総数約1億機)並びその生産・運用のための恒星間航行大型戦略工作艦ドゥーベを失った事による最終防衛ラインの戦力低下並びムゲ側の戦力蓄積が予想を大幅に超えていた事によるものだった。

 即ち、ソ連式地雷原突破方法ばりの物量で薄くなった防衛ラインを無理矢理突破してきたのだ。

 それでも全体の2割は削られた。

 この2割は以前のムゲ帝国軍の物量の7割とほぼ同量であり、決して彼女らが過度に弱体化した訳ではなかった。

 単に彼女らの処理能力を大幅に上回られた、それだけの話である。

 実際、地球の最終防衛ラインは生産の滞っている無人量産型OFではなくヴァルチャーを新たに5000機配備し、ロールアウトした無人機動艦隊の4000m級中型艦隊指揮用戦艦の改修型も複数配備されていたのだ。

 更に防衛ラインの戦力配置や連携も見直してより効率化されていたのだが、それでも物量に飽かせて突破してくる辺り、今回のムゲ帝国軍の侵攻は本気である事が察せられる。

 加えて、以前は地球のみだった所を地球圏全体に襲撃されたため、以前の様に月やコロニー駐留軍からの戦力抽出は出来ない。

 が、幸いにも地球よりも高性能な装備や艦艇、機動兵器類の配備が進んでいるコロニーと月面は最初の侵攻に対し迎撃に成功、ジガンスクードⅡのGテリトリー並びジガンスパーダのマルチロックオン砲撃、そしてデストロイドモンスターの4連装亜光速レールガンの砲撃により、コロニーに取り付く事も出来ずに壊滅・撃退された。

 月面ではアナハイムを始め、各大企業群の軍需工場が多数存在しており、その防衛のために艦隊が駐留していた事もあり、各月面都市防衛のための初動をスムーズに行われ、陥落は免れた。

 しかし、一時後退したムゲ帝国を追撃する余力は無く、この隙に戦力再編を行われると思われたのだが…

 

 『ガンダム・ヒュッケバイン、出るぞ!』

 『お供します、アムロ大尉!』

 『ウラキ中尉か!ミノフスキードライブは早い。うっかり通り過ぎるなよ!』

 『了解です!ムゲの連中に目にもの見せてやりますよ!』

 

 遂にロールアウトしてしまったヒュッケバイン、それを駆るアムロ・レイ大尉。

 更にその機動性に追随可能な試作型ミノフスキードライブを装備したオーキスユニット改仕様のジェガンに乗ったコウ・ウラキ中尉。

 彼らによる亜光速の一撃離脱を用いた斬首戦術はその速度を活かして月面各所で行われ、指揮系統が壊滅したムゲ帝国軍は数は未だあったものの、再侵攻から一週間程で壊滅に追い遣られた。

 こうして月とコロニー、宇宙においては連邦軍の快勝で終わった。

 しかし地球、特に欧州においてはそうではなかった。

 

 『ふはははははは!どうした地球人共!それではこのデスガイヤーを落とす等、夢のまた夢だぞ!』

 『くくく、このギルドロームが悪夢を見せてやろう!』

 『各艦、敵指揮官に砲撃を集中せよ!敵の足並みを崩すのだ!』

 

 ムゲ帝国軍の三将軍が直属の精鋭部隊、そして多数配備されたメガロプレッシャーを用いて欧州を蹂躙したのだ。

 

 『う、うわああああああ!?』

 『やめろ、やめろおおおお!!』

 『こっちに来るなああああ!?』

 

 特にギルドローム将軍の配下達が乗る量産型ギルバウアー軍団による広域の精神攻撃に対応できるだけの精鋭が殆どいない欧州では戦闘開始早々に戦線が瓦解する事も多く、また配備されている特機の数も少ないとあってデスガイヤー将軍の駆るザンガイオー並び直属の部下達の乗る量産型デスグロームⅡ部隊によって戦線を強引に突破される事も多く、更にはメガロプレッシャーによって街ごと軍事施設が破壊されていった。

 そうして出来た隙に、今度はヘルマット将軍の率いる軍勢が空・陸・各種兵科の連携という正攻法で攻め立てていく。

 こうして、僅か3週間で欧州全土から連邦軍は追い出されてしまった。

 この事態に対し、欧州に本拠を持つロームフェラ財団とロゴス(正確にはジブリール)は旧英国方面に戦力を集結、反抗作戦のための戦力温存並び物資集積を開始した。

 また、連邦政府並び連邦軍もまた、予てから進めていたISA戦術対応艦群による敵首脳部への奇襲攻撃を決定、極東・北米方面のムゲ帝国軍の排除を完了次第、実行する運びとなった。

 この作戦が地球におけるムゲ帝国軍との最後にして最大の戦いにするつもりで、連邦軍は刃を研ぐのだった。

 




精神攻撃とかの対策なんて普通は無理です。

ジブリール&ロームフェラはこの世界版サイコガンダムに当たるデストロイガンダム、そしてサーペントとトールギス部隊を用意しています。
艦艇も支援用の旧式から地球中を飛び回っていたストーク級・ガルダ級、各所に配置されていたライノセラス級陸上戦艦を集める等、本気も本気で頑張ってます。
なお、足りないエースは強化人間(未成年・孤児の拉致誘拐・クローン・薬物投与等々)で補う予定。


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第34話 嵐の前

 新西暦186年9月 地球圏にて

 

 欧州は完全にムゲ帝国の支配下に落ちていた。

 

 無論、地球連邦軍欧州方面軍は死力を尽くして抵抗したが、それでも尚駄目だった。

 と言うのも、この欧州方面軍、実はロシア方面軍や中華方面軍(管轄広過ぎて&出身者同士が仲悪いから分割)、南米方面軍よりはマシとは言え、多数のスーパーロボットの集う極東方面軍や新型機開発計画の中心地たる北米方面軍、地球連邦政府の首都ダカールのあるアフリカ方面軍に比べると旧式兵器の多い地球において更に更新が遅れていた事が原因とされる。

 更に欧州方面軍はそこでの有力者であるロームフェラ財団並びロゴス(ジブリール派)の影響力が強く、主力となる人型機動兵器すら独自のものを採用しているのだが……そんな状況で現在の地球連邦陸軍の普通の部隊を派遣して満足に運用できるだろうか?

 現地改修とかならいざ知らず、どう考えても兵站面で言えば悪手でしかない。

 加えて、ロームフェラ財団並びロゴス(ジブリール派)は自分達の影響下の部隊に優先して補給・人員の手配や作戦上の便宜等を多く行っている。

 これでは派遣するにはどうやっても部隊単独ではなく、運用のための補給物資その他も持っていかざるを得ず、しかしそうして苦労して持って行ったとしても現地の上官に階級を盾に徴発される事すら発生した。

 これにより、他の方面軍は自分達の管轄する方面にも敵が来ている事を理由に欧州方面への増援を出し渋った、徹底的に。

 これにはレビル首相も内心の苛立ちや嫌悪を押し殺しつつ、各方面から欧州への増援部隊を編制する様に命令したのだが……編成途中、たった3週間で欧州の殆どが陥落した事によって停止した。

 これには先に述べた様に、ムゲ三将軍の巧みな連携と人類が今まで遭遇した事の無かった精神攻撃の戦術・戦略的運用が行われたためであり、その具体的な対策を持っていなかった地球連邦軍は押しに押されてしまった。

 しかも、その歴史的に占領がクッソ面倒な人種の坩堝たる欧州に対し、ムゲは単純明快な解決策を持ちだした。

 

 

 即ち、組織的大虐殺である。

 

 

 果敢に戦った兵士は可能ならば捕虜とし、精神攻撃の応用で洗脳して兵士として使役するのを例外として。

 ムゲは量産したメガロプレッシャーを用いて、ゲリラからの攻撃があった地域を市街地や連邦軍施設諸共に虐殺する事を選んだのだ。

 メガロプレッシャーが無い戦域でも航空機による焼夷爆撃を主軸に、市民の組織的虐殺が行われた。

 これには欧州方面軍も尻に火が付いた。

 地球連邦陸軍はムゲとの戦いは二度目とは言え、完全に異種でありながら知性を持った存在との戦争というものを未経験だった。

 故に何処かジオンと同じ、そう例え民間人に被害が出たとして流れ弾位だろうと、そんな甘ったるくて反吐の出そうな事を軍民の区別なく無意識の内に考えていたのだ。

 地底種族連合からの侵攻の被害にあった地域はそうではないが、それは主に極東方面や沿岸部であり、欧州方面の人々には関係なかった。

 だからこそ、幸運にも彼らは今日までムゲ帝国の敵と敵国民への残虐さを知らなかった。

 そこから欧州方面軍の地獄の撤退戦が始まった。

 

 『すまん、後は任せる…!』

 『俺達の故郷をこれ以上焼かせるかよ!』

 『この、ムゲ野郎共がぁー!』

 

 彼らは自爆すら厭わず、燃えて灰に成りゆく故郷から脱出する人々が逃げるための時間を稼いだ。

 旧式のジムⅡや初期ダガータイプ、リーオー等は元より、一年戦争期に開発された旧式MSや61式戦車等で彼らは必死に応戦した。

 上役がどうあれ、彼らもまた地球連邦軍の一員であり、ムゲ帝国や地底種族連合と戦い続けた軍人達だった。

 その健気な反撃を、ムゲ帝国軍は喜々として蹂躙する。

 敵にもならない市民なんて無視して、ムゲ兵の多くは闘争の愉悦を味わうべく、敗退を続けながらも決して諦めない欧州方面軍に襲いかかる。

 ムゲは分かっていたのだ。

 地球連邦軍にはまだまだ後がある、戦い続けるだけの余力がある。

 その余力を発揮させるには、こうした苦境にあっても戦い続ける兵の存在こそが重要であり、戦えぬ市民なぞ捨て置くべきであると。

 既に示威行為であるメガロプレッシャーによる虐殺は済んだ。

 今後、占領地域で迂闊にムゲに逆らう者は出ないだろうと、長年の戦乱の経験で学習済みなのだ。

 加えて、全ての市民を脱出させる事など出来はしない。

 多くはコロニー落としの恐怖から各地に設置された大深度大型シェルターへと逃げ込んでいる。

 だが、想定よりも多くの人数を緊急時だからと収容した結果、内部に備蓄された物資では明らかに足りない。

 何れ食糧難や内部での争いから、我らムゲ帝国に頭を垂れ、帝王様の慈悲に縋る事だろう。

 ムゲ側の予想は正しく、率先して反撃を行う熟練兵や正規兵は苛烈な反撃によって次々と戦死し、残ったのは新兵や民兵ばかりで、逃げる市民を巻き添えにしてしまう事態が多発するという有様だった。

 それでも彼らは必死に戦い続け、時間を稼ぎながらの撤退を行い、欧州方面軍主力部隊の旧英国方面への脱出を成功させた。

 嘗ての一年戦争の経験からブリテン島全体が要塞化されていると言っても過言ではない砲台陣地が多数形成されている他、水上艦艇に空戦用機動兵器も多数配備されている。

 手薬煉引いて待ち構えている様子はムゲ側も事前の偵察で既に察知しており、ここで無理に急がず、欧州への前線基地の建設並び物資と兵力の集積に注力する事にした。

 もし攻めていれば、相当な犠牲が出るものの攻め落とす事は出来た。

 しかし、ムゲ帝王様が観覧している現状、無様な戦いをする事は出来ないと言うのが、三将軍の共通した見解だった。

 よって、焦らず正攻法で攻める事をムゲ帝国軍は選んだ。

 この辺り、地底種族連合などよりも遥かに厄介な所だった。

 戦術・戦略的に最適な行動を、各兵科と連携して行う。

 そんな当たり前の事をしてくる敵が、連邦軍にとっては単なる異星人や化け物よりも厄介だった。 

 

 が、そんな常識的な戦術・戦略など、常識を投げ捨てた存在には通じないのである。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 『皆様、我々は太陽系防衛用無人機動部隊所属補給部隊です。食料並び医薬品のデリバリーに参りましたので、お通しくださいませ。』

 

 こいつらにそんな常識的な考えは通じないのである。

 この各地にある大深度地下シェルター、安心と驚愕のA.I.M.製である。

 シェルター表面はDFで守られ、更に表面にはエネルギー変換装甲、各部はDブロックで区画毎に守られているという贅沢ぶりで、全面核攻撃すら想定されている。

 加えて、配置全てを把握しているA.I.M.は早速地球圏に配備している量産型無人ヴァルチャー部隊の位相空間潜航・ワープ機能を活かして各所に必要な物資を配達して回った。

 疲労もなく、運べる量も通常の輸送船どころか輸送艦に匹敵するヴァルチャー達は各地で歓迎された。

 なお、今回のヴァルチャーの外見は常の機械のボディではなく、市民の警戒を解くために背面に翼に似た光を放つウイングバインダー、頭部には光の環に見える近距離向けの追加センサーユニットを備えたメイド型である(無論、後で大問題になる)。

 また、総ナノマシン製なのを良い事に機体サイズ(1m半ば~3m程度まで変更可能)を自在に変更してシェルター内部の不具合等もチェック、修理していく。

 医者がいなければ医療用ナノマシンを用いての治療、拒否されれば普通の医療知識を用いて治すし、争いが起きれば人間相手では過剰に過ぎる戦闘能力の一欠けらを発揮して鎮圧する。

 気付けば、下手するとシェルター内部での暮らしの方が豊かじゃね?という状態にすらなっていた。

 が、文句を付ける輩は一定数存在する。

 

 「おい!アンタ等はここを自由に出入りできるんだろう!?だったら直ぐに俺達を安全な所に移してくれ!」

 『それは現在出来ません。』

 「あぁ!?ムゲの連中に攻められているのはアンタらが不甲斐ないからだろうが!?それとも人間様の命令が聞けないってのか!?」

 『…こちらにネズミ入りペットボトルがあります。』

 「あ?それが何か…」

 『こちらを転移します。…戻ってきたのがこちらになります。』

 

 ヴァルチャーの掌、そこにはペットボトルと半ば融合し、ビクビクと痙攣を繰り返すネズミの姿があった。

 どう見ても死にかけであり、見開かれた目はぐりんと白目を向き、半端に開いた口からは末期の呻きが聞こえてくる。

 

 「ひっ!?」

 『現在の装備並び貴方の体質ではワープに耐えられず、通常空間の復帰が不完全なため、周囲の物質と融合してしまう可能性があります。こうなっても構わないのでしたら直ぐにワープを行いますが、よろしいでしょうか?』

 「ひいいいいいいいっ!!」

 

 無論、嘘である。

 だが、大抵の聞き分けの悪い連中はこうして脅すか、酷いよう(ムゲに降伏すべきだ、協力すべき等の扇動、他犯罪行為)ならば法律に基づいて武力によって鎮圧する。

 この辺は既に連邦政府首脳とコンセンサスが取れており、緊急時の法の執行や人道的支援等は認められている。

 思いっきり司法に喧嘩売っているが、「じゃあお前ら侵略者との最前線で法の執行してみるか、あぁん?」(意訳済み)と言われたので、司法関係者は沈黙した。

 誰だって命は惜しいので、そんなもんである。

 こうして、欧州方面の一般市民は何とか生き永らえていた。

 

 「きかいのおねーさーん、おうたうたってー。」

 「うたってー。」

 『私の歌は単にスピーカーから出力しているものですが、よろしいでしょうか?』

 「えっとね、きょうはいっしょにうたお?」

 「みんなでおうたのれんしゅうしてるのー。」

 『私の固有音声で皆様と共に歌う、という事で宜しいでしょうか?』

 「よろしいのー。」

 「よろしいよー。」

 『…予定調整完了。一時間だけですが、参加させて頂きます。」

 

 結局、3時間も子供達と一緒に歌う事になった。

 

 そんなこんなで、シェルター内部の秩序は保たれていた。

 この時、多くの人々が自動人形という人外でありながら人を手助けする存在の便利さに気付き、やがては移民船団並び民間への普及へと繋がっていく。

 無論、自動人形を巡っての各種人権問題へと発展していくのだが、それでも人は一度知った便利さを手放す事は出来ない。

 あーだこーだ言いながら、目下の問題へと対処するために長-く棚上げされる事となるのだった。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 おまけ

 

 自動人形関連の問題の一例

 

 「夫が人形に夢中で、私に構ってくれない!」

 

 「人間の女よりも自動人形が良い!」

 

 「怒ってばっかのおとーさんやおかーさんよりお人形さんの方が良い!」

 

 各所でこんな問題が多発し、自動人形そのままでの販売は不可能となった。

 結果、高度な言語能力や美しい外見を持った自動人形の販売は見送られ、ベイマックス型や動物型、ロボット型の多種多様なデザインが作られた。

 果てはオーダーメイドで娯楽作品のキャラやロボット等を作ったり、自分でハンドメイドする者まで現れた。

 しかし、A.I.M.は頑なに本当の自動人形(=マシンハート機能有り)の販売は行わず、外見だけ整えたAIにリミッターを設けた量産型自動人形(=マシンハート機能無し)を量産、移民船団向けに販売を開始した。

 これに対し、極まった自動人形好きは移民船団に参加、自らの自動人形と共に宇宙へと旅立つのだった。

 

 同時に、「マジモンの自動人形みたい」、「超Cool&Beautyfull!」、「最初は機械的、でも徐々に愛情深くなってくれる」と言われるA.I.M.所属社員の自動人形(表向き人間)への人気も爆発して、マシンハート解放者が増加してトレミィが爆笑したという。

 



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第35話 嵐の前その2

 新西暦186年 地球圏 8月上旬

 

 各地に攻め入ったムゲ帝国軍の再侵攻部隊に対し、連邦軍は各地でその物量と陸空の連携に押されたものの、緒戦の奇襲効果が落ち着くや否や、反撃に転じていた。

 特に極東方面軍は水中や地中から出て来る地底種族連合を相手にしてきたせいで奇襲慣れしていた事もあり、奇襲と認識したとほぼ同時に反射的に反撃に出ていた兵士もいたりした。

 お前らやっぱ頭おかしいとは捕虜となったムゲ帝国軍兵士の言である。

 

 『はっはっはー!強化されたゲッターの慣らしにゃ丁度いいぜ!』

 『おいおい竜馬、オレにも残しておいてくれよな。』

 『わはははは!そーれゲッターミサイルだー!』

 

 特に訓練ばっかりで改修・強化・乗り換えを行ったものの、実戦の機会が最近無かった民間所属のスーパーロボット軍団は大いに奮戦した。

 

 『さぁグレートの初陣だ、行くぞ甲児!』

 『あたぼうよ!鉄也さんこそヘマするなよ!』

 『炎ジュン、グレート3号機行きます!』

 

 『退け退け!コンバトラーV6のお通りだい!』

 『ボルテスⅦ、行くぞぉ!』

 

 『やっぱ空は良いな!イーグルファイターじゃなくても飛べるのは良いぜ!』

 『調子に乗っていると落ちるぞ忍。』

 『無理ないよ。思ったよりも早いもん、このブースターユニット!』

 『アンタ達、馬鹿言ってないで敵を落としな!』

 

 こんな感じで、空中も自在に飛べるようになったスーパーロボット軍団によって極東方面軍の主力は正面からぶち抜かれ、撃滅された。

 また、その次に大規模だった部隊も第二新東京市で偶々居合わせたアインスト4人娘と首都防衛隊の活躍により撃破、それ以外は通常の部隊と洋上で移動中だったヒリュウ改、即ちSRX隊に遭遇して撃破された。

 結果だけを見れば、第二新東京市を除けば民間には被害らしい被害も出ないままに終わったのだった。

 

 で、対する北米方面はと言うと…

 

 『良い度胸です。我々の開発の邪魔をするとは…。』

 『侵略者共め!このヴァルシオンが貴様らに引導を渡してやろう!』

 『量産型シズラー、起動!さぁ行くわよ!』

 『メガロード級、浮上します。市街地への盾として展開した後、敵勢力を排除せよ。』

 『試作可変戦闘機部隊、出撃せよ!実戦データの収拾の時間だぁ!』

 

 寄りにも寄って、北米方面で一番大規模な軍事施設近郊に直接ワープして喧嘩を売ってしまったのである。

 地球連邦陸軍北米方面軍所属ラングレー基地。

 この基地の関係者と知ったら、他の基地の人員は道を空けるとすら言われるヤベーMAD達の巣窟である。

 そして、MAD達の世に出ずに終わった作品多数が収蔵されてもいる。

 具体的にはゲテモノ同然のYFシリーズとか、取り敢えず良い機体だけど量産には待ったがかかったメガロード級とか、必要だとは思うけどお値段的にまだ無理と言われた量産型シズラーとか、ビアン博士を筆頭とした愉快なMAD達の玩具と化しているヴァルシオンとか。

 スパロボ最終局面かな???と思われるラインナップに、仕掛けた側のムゲ帝国軍の方が呆気に取られた程である。

 そして当然の如く多数のMAP兵器、具体的にはメガグラビトンウェーブにマクロスキャノン、ホーミングレーザー等で密集陣形を砕かれてしまう。

 そうして強引に開けられた隙間を数の利を活かす事すら許されず、シズラーに陣形内部に入り込まれて斬首戦術をされて旗艦や指揮官機が撃破され、指揮系統が乱れに乱れた所を性能だけは高い試作可変戦闘機部隊によって各個撃破されていった。

 結果、当然の如くムゲ北米方面侵攻軍は消滅し、残党は普通に一般部隊によって刈り取られた。

 この戦闘におけるデータは当然の如く後に生かされ、特に多数の試作可変戦闘機部隊(YFー02~15)の戦訓と戦闘データを元にVF-01に続く傑作機とされるVF-11が完成する事となる。

 なお、プロジェクトTDチームとヴァルシオーネはSRX隊に合流済みでいなかった。

 

 では露西亜方面と中華方面はと言うと…実はこの方面軍、その広大な土地をカバーするために数が多い。

 とても多い、只管多い。

 旧式兵器が主体とは言え、航空機にMSに戦車に陸上戦艦に各種支援兵器等々…極めて、多い。

 しかも、それらの兵器の多くが旧国家時代のドクトリンを引き継いで物量と火力、各兵科の連携を密にした全戦線における縦深攻撃のために重装化されていたのだ。

 そんな連中が、今回侵攻してきたムゲ帝国軍のユーラシア方面侵攻軍よりも多くいたのだ。

 だってのに、ユーラシア方面軍(欧州方面軍とは別)はそんな連中に挟まれる位置に、旧モンゴル地域に転移してしまったのだ。

 転移当初こそ奇襲を受けた該当地域の部隊や市街地を蹂躙したものの、一週間もすれば全方位から包囲を受け、一週間と経たない内に殲滅された。

 捕虜?そんな者はいなかった、イイネ?

 

 で、他の地域である南米、豪州方面はムゲ再侵攻から三週間経過した現在も戦闘が継続している。

 しかし、その規模は他方面軍よりも小規模であり、連邦軍は民間人の避難を進めながらの遅滞戦闘に務めていた。

 これは最もムゲの勢いのある欧州方面での戦いを重視した連邦政府・軍の意向であり、要地の少ない方面に戦力の分散を嫌ったムゲ側の戦略だった。

 豪州は資源地帯の一つだし、南米は更にジャブローがあるじゃん?と思われるだろうが、地球を飛び出た人類に一年戦争中ならいざ知らず、枯渇気味の資源地帯なんてそこまで重要ではない。

 ジャブローは巨大な兵器工廠兼連邦軍司令部であり、守る理由は幾らでもあるが、月やキリマンジャロ等に司令部機能を移せる用意は既に出来ており、工廠もとてもではないが需要に追い付かないとして太陽系各地に分散して久しい。

 加えて、例え機動兵器や防衛線を突破した所で対MS特技兵が無数に潜むジャングルに攻め入る?

 

 止めてくれ、俺達だって死にたい訳じゃないんだ。 by名も無きムゲ兵

 

 そもそもムゲ帝国軍はこうも本腰に攻めつつも市街地を攻撃してまで攻勢を急いているのは、これ以上ムゲ帝王様に失態を晒す訳にはいかないと三将軍を筆頭とした軍上層部が決意しているからに他ならない。

 ムゲ帝王とその臣下の関係を現すなら、愉快系髑髏ことアインズ様とその友人達が作り出したナザリックの僕達に近い。

 そもそもムゲの宇宙すらムゲ帝王の被造物であり、そこに生きる全ての存在はムゲ帝王の無興を慰めるためのもの。

 そんな存在意義と絶対の忠誠心を持つ彼ら(一部例外あり)が負けたままで戦争を終わる事を認められるか?

 ムゲ帝国軍上層部はそんな現場の意見を無下に出来ず、ムゲ帝王様も許可してしまったが故に今回の侵攻は実行された。

 決して失敗しないように、三将軍他上層部が入念に事前準備をした上で。

 …そもそも攻め入る事自体が間違いであると知らないままに。

 

 そして、最後のアフリカ方面だが、ここはご存知地球連邦政府首都たるダカールが存在する。

 ダカールに暮らす連邦政府首班や行政を動かすための官僚達を守るため、この大地には地球の各方面軍の中で民間所属特機等の例外を除けば、最も有力な部隊で揃えられた方面軍なのだ。

 特にここ一カ月で再侵攻を予測していた地球連邦政府はこの地を決戦の地になると想定していたため(実際は欧州だったが)、配備された機動兵器の質と数は他の追随を許さない。

 具体的には生産が始まったばかりのガリア級とアテネ級の一番艦(共に修理完了済み)が回され、機動兵器も量産型ビルトシュバインにFAガーリオン、ファストパック装備のVF-01、デストロイシリーズ、陸上戦艦ライノセラス級に航空母艦ストーク級やガルダ級に他戦車師団や歩兵師団、支援兵器が多数。

 更に兵員の質の平均値も各方面軍中最高となれば、如何にこの地を地球連邦政府が重要視していたか知れる。

 そんな訳で、転移警報が鳴り響いた瞬間には自動照準の無人砲台から放たれた各種砲撃によって多くのムゲ戦艦やメガロプレッシャーが撃破され、態勢を立て直す時間もなく即応部隊によって叩き潰される事となった。

 当然と言えば当然の結末だった。

 こうして、欧州がえらい事になりつつある時、各方面軍はその力を存分に奮っていたのだった。

 欧州?

 貴族主義者と元商人系キ○ガイ何とかしてから言ってくれ。

 

 

 ……………

 

 

 だが、準備万端待っていた欧州以外の地にも大変な事になりつつある場所が二つあった。

 

 『太平洋上に使徒と思われる不明物体を確認!これより威力偵察を試m』

 『全機ブレイク、ブレイク!目標は高威力・高精度の加粒子砲を保有!このままでは避けr』

 

 『あーもう!ドイツがムゲに襲われるし、逃げた先でも襲われるし、挙句一緒にいるのがこの眼鏡なんて!助けて加持さーん!』

 『いやーまさかこんな満員御礼とはねー。BF団だっけ?凄い執念。』

 

 太平洋沖、そして大西洋沖の二つの場所で、この世の地獄(地下は割と天国)となった欧州を後目に事態は動いていた。

 



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第36話 盾

 新西暦186年8月15日 地球 太平洋上にて

 

 ソレを真っ先に発見したのは哨戒中のVF-01だった。

 巨大な青い正八面体という海上ではサイズの割に目立たないが、センサー類にはばっちり映っているソレがゆっくりと太平洋上を極東方面に向かって進んでいた。

 幸いな事に付近には船舶も島もなく、巨大な正八面体を遮る者も、また排除される者もいなかった。

 

 『HQ、HQ!こちら哨戒中のハロー1、ボギーを発見!データを送る!』

 『HQ了解。ボギーはエネルギーパターンから新種の使徒と認定。哨戒用の装備では火力が不足している。代わりに威力偵察用のVF部隊を向かわせる。それまで監視に徹せよ。』

 『ハロー1、了解。』

 

 だが、交代を待たずしてハロー1のIFFは消失、交代用VF部隊の到着まで5分という所だった。

 

 『HQ、こちらグリーン小隊だ。目標の予測位置まで間も無くだ。…レーダーに感あり。当たりだ。』

 『HQ了解。予定通り威力偵察を開始せよ。ただし、発見したハロー1が撃墜された事から対空能力を保有していると考えられるため、警戒されたし。』

 『グリーン小隊了解。ヤバくなったら尻尾巻いて逃げさせてもらうよ。』

 

 だが、グリーン小隊の警戒は想像を遥かに上回るラミエルの能力によって突破された。

 

 『…!? 目標内部に高エネルギー反応を確認!グリーン小隊は警戒を!』

 『洋上に使徒と思われるボギーを確認!これより威力偵察を試m』

 

 そして、最初の一射でグリーン1が一瞬で蒸発した。

 間もなく水平線を超え、目標を視認できるだろうという時に、超高精度の加粒子砲によって狙撃され、機体と共に消滅してしまった。

 

 『全機ブレイク、ブレイク!目標は高威力・高精度の加粒子砲を保有!』

 『た、隊長は!?グリーン1は!?』

 『死亡した!これより指揮はグリーン2が継ぐ!各機は散開して撤退せよ!繰り返す、撤退せよ!確実にデータを持ち帰れ!』

 『駄目だ、このままでは避けr』

 

 だが、グリーン2の指示も空しく、グリーン3は撃墜された。

 

 『クソッタレが!!』

 

 グリーン2は吐き捨て、爆撃・海上攻撃用の装備の一切をパージ、少しでも良いから機体を軽量化し、一気に海域から離脱を開始する。

 

 『! 目標、再び高エネルギー反応!』

 『ブレイクフィールド展開!安全リミット解除!フルブーストッ!!』

 

 HQからの警告と同時、グリーン2は何が何でも生き残るべく、機体を使い潰す事を覚悟して理論上の最大速度を叩き出す。

 高度を出せば距離は取れるが、あの精度からして逃げ切れない。

 故にグリーン2は海面スレスレを飛行する事に活路を見出した。

 そして、僅かに蛇行し、不安定な軌跡を描きながら雷撃でもするかの様な海面スレスレを超々音速で飛翔する。

 そのパイロットにすら分からない不安定な軌跡と海面に着弾した加粒子砲が大規模な水蒸気爆発を生み出した結果、更に機体を揺さぶられながらも更なる加速に成功した上、雲すら作る巨大な水蒸気によって視界を遮ってしまったラミエルは三度目の射撃をする事なく、必死に遁走するグリーン2を見逃すのだった。

 この戦闘直後、グリーン2は撤退中に機体の制御を失い、海上に不時着するも、近くに来ていたガーリオン部隊に機体と共に回収された。

 この戦闘以降、使徒への威力偵察は無人機を用いるのが通例となる。

 回収されたグリーン2の機体に記録されていた一連の戦闘におけるデータは即座に連邦軍のサテライトリンクを経由して極東方面軍第二新東京市防衛部隊並びNERV本部へと届けられたのだった。

 なお、グリーン2のVF-01はお釈迦になったが、整備班から怒られる事もなく、来週には新品のVF-01を受領する事となる。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年8月15日 第二新東京市 NERV本部にて

 

 「と言う訳で、第五使徒は超高精度・高威力の加粒子砲を備えた移動要塞である事が判明しました。」

 「完全に初見殺しだな。しかも分かってからも強いと来やがる。」

 

 ミサトの言葉に、作戦部の会議室に呼ばれたヤザンが応える。

 

 「で、何処で叩く?」

 「第二新東京市まで招いて、と言いたい所だけど…。」

 「止めとけ止めとけ。無人砲台を囮にしつつ本命で叩くつもりだろうが、この前のムゲの奇襲であちこちガタが来てる。その上、使徒を誘い込む?下手すると暴動が起きるぞ。」

 

 ヤザンの言う事はもっともだった。

 先のNERV本部への衝撃のアルベルトの強襲と第二新東京市のムゲ帝国の奇襲により、第二新東京市は大きな打撃を被った。

 首都防衛隊とエヴァ初号機、アインスト4人娘の活躍によって都市全体への被害は抑えられた。

 迎撃機能の多くは既に修復を完了しているし、極東方面の行政府としての機能も同様だ。

 しかし、いなくなった人間の補充は簡単ではない。

 精鋭揃いの首都防衛隊も先日の戦いで多数の戦死者を出しており、その補充にはムゲ帝国の再侵攻もあって腕利きは何処でも引っ張りだこなので難儀している。

 更に民間人に大きな被害が出た事は変わりなく、如何なる理由であってもムゲ帝国の奇襲に対処できなかったのは連邦軍、そしてNERVの失態だった。

 これ以上何か失態を起こせば、それこそNERVの根幹が揺らぎかねない。

 何れ切り倒される組織と言えど、今倒れられたら困る(・・・・・・・・・)のだ。

 その辺をある程度上層部から知らされていたヤザンは、NERV側への配慮を忘れなかった。

 

 「となれば水際、砲撃戦よりも被害を抑えるために狙撃の一撃で仕留める。」

 「囮には旧式の無人攻撃機、無ければラジコンヘリとかでも良い。奴さん、そこまで個体差を見分けているかは怪しいみたいだしな。」

 

 極東方面、旧日本本州に上陸する前に、水平線から姿を現す瞬間に狙撃にて決着を付ける。

 目標に対しては多数の無人航空機(足りなければラジコンでも可)による攻撃で陽動を行い、注意を引き付けた上で狙撃を行う。

 

 「ですが、その場合は正面からATフィールドを貫く必要がありますよ?」

 「A.I.M.辺りに声をかけとけ。オレの名前を出しても良い。連中の事だ、面白い玩具をダースで隠し持ってるに決まってる。」

 「外した時が怖いから、二の矢も用意すべきね。」

 「寧ろ、代えの効かんエヴァを二の矢にすべきだろう。丁度うちの部隊のデストロイド・モンスターの修復も終わってる。その上で提案がある。」

 「提案?」

 

 ミサトの疑問に、ヤザンはその二つ名の通り野獣が如き獰猛な笑みを浮かべる。

 

 「俺達が不甲斐ないってんでな、お偉いさんがジガンスクードⅡと予備パーツを沢山仕入れてくれてよ。昼にもうちの基地に搬入される予定だ。」

 「目標のエネルギー数値がこれで…ジガンスクードの防御可能エネルギー量がこれだから…あ(察し)。」

 

 ここに、ラミエルの命運は決まった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年8月16日明朝 極東方面にて

 

 旧神奈川県真鶴半島。

 本来なら景観豊かだったこの土地はメテオ3群の落着による水面上昇によってその多くが水没し、現在は小島に近い状態になっている。

 干潮時には嘗てに近い姿となるが、満潮時には多くが海面下に沈む。

 そんな場所に身を潜める形で、エヴァ初号機と零号機、そしてロック1と2の駆るグラビリオン2機がいた。

 エヴァ初号機は島を遮蔽物として狙撃態勢を取り、その周囲には増加装甲を追加したグラビリオンと巨大な盾を装備した零号機の姿がある。

 この盾も原作のスペースシャトルの船底部を改造したものではなく、何と搬入されたジガンスクードの腕部のDブレード(予備パーツ)を手持ち式に改造して装備しているのだ。

 限定的ながらもちゃんとGテリトリーを展開可能になっている。

 なお、動力は予備のアンビリカルケーブルと大型バッテリーである。

 

 『綾波、大丈夫?疲れてない?』

 『平気。碇君こそ疲労は?』

 『僕は大丈夫。ギリギリまで寝てたから。』

 『そう…なら、任せるわ。』

 

 シンジも先の戦闘で一皮剥けたのか、今ではこうして他者を気遣う余裕すらあった。

 無論、追い込まれれば生来の臆病さや年相応の未熟さが出て来るだろうが、それでも原作に比べれば遥かにマシだし、何より彼はまだ子供なのだ。

 足りない所は大人達が補い、支えれば良いのだ。

 その頼れる大人達は、現在は別の場所に布陣していた。

 

 旧静岡県熱海市網代。

 そこには極東方面では二度目の実戦参加となるジガンスクードⅡ、そしてデストロイド・モンスター(敷島スペシャル)の姿があった。

 この二機が揃うのは先の地底種族連合との決戦以来であり、パイロットらの会話も弾んでいた。

 

 『いよっ盾の人!そっちは無事だったかい。』

 『ははは、頭打って血ぃ流しただけですよ。そっちこそ聞きましたよ、大活躍だって。殆どの時間動けなかったオレなんか比べ物にならないですよ。』

 『んなこたーねーさ。お前さんが身体張ってくれたからこそ、今も俺達は生きてるんだから。なぁお前ら?』

 『うっす!俺達、ジガンスクードには足向けて寝られません!』

 『流石無敵の盾、地球の守り人、連邦軍の誇り!』

 『煽て過ぎだって。ジガン乗りは皆あれ位出来て当然なのさ。』

 

 事実である。

 ジガンスクード、それは地球を、コロニーを、市民を守る最後の盾。

 コロニー落としに隕石、コロニーレーザーに核攻撃。

 地球やコロニーに壊滅的な被害を発生させ得る脅威に対し、文字通り最後の盾となって被害を抑える事が彼らの役目なのだ。

 現に先のムゲ再侵攻に当たり、各サイドのコロニー防衛戦ではムゲの艦隊を相手に一歩も退かずに攻撃を後ろに通さず、兄弟機たるジガンスパーダによるマルチロックオン砲撃の反撃とデストロイド・モンスターによる大火力砲撃によって勝利に貢献していた。

 これは機体性能もさる事ながら、パイロットも同程度に重要だった。

 他の量産機とは一線を画すコストの特機を与えられるとして、そのパイロットになるには先ず上官から人格・才能・経験等の全ての面で高評価を取れれば候補生となり、後に極めて厳しい訓練が謎の覆面コーチX、もとい教官役を務めるユン・グローリアス少佐によって課される。

 彼女との訓練で心身共に一から叩き直し、特機に相応しいパイロットへと鍛え上げる。

 その苛烈な訓練模様は精鋭で知られる教導隊ですら目を見張るものがあり、同じ基地に所属する一般パイロット達はその光景を見ては「一体何時リタイアするか」と賭けるのだ。

 具体的な内容としては、某幼女が部下達にやった雪中行軍に近いと言えば分かるだろうか?

 人間の尊厳を破壊し、疑心暗鬼と疲労をピークにさせ、それでも尚正気と倫理と理性を持ち続けながら、連邦軍人としての本懐を果たさんとする者こそ、特機のパイロットに相応しいと判断されたのだ。

 しかし、意外にもその殆どは厳し過ぎる訓練を耐え抜き、心身共に地球連邦政府に忠誠を誓い、市民を守るために戦う戦士へと成長する。

 単に厳しい訓練ではなく、ちゃんとリタイアさせずに人材育成をやり遂げる辺り、ユングは本当に天才である。

 で、そんなガン決まり集団の一員である盾の人(名も無きモブ)にとっては、マジで死ぬかも知れない攻撃に友軍を庇うのは別に不思議でも何でもない。

 何故って、それが仕事であり、使命なんだもの。

 

 『お前ら、お喋りはそこまでだ。後30分で敵が水平線上に出て来る。そろそろ気を引き締めろよ。』

 『『『『了解です”』』』』

 

 こうして、対第五使徒作戦が始まろうとしていた。

 

 



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第37話 盾その2

 新西暦186年8月16日早朝 地球 極東方面 太平洋沖にて

 

 

 青い正八面体という特徴的な外観を持った第五使徒ラミエルは、現在その全身から加粒子砲を幾度も掃射、連射して自らに接近するあらゆる飛翔体を撃墜していた。

 ミサイル、無人攻撃機、無人偵察機、飛行機型ラジコン等。

 果ては知覚範囲内を自らに向けて飛翔しているが、とてもではないが命中は期待できない無誘導のロケット弾(動きが遅い&予測進路を真っすぐ進んでるため、予測進路上にばら撒いている)。

 そんな一切合切を遮二無二迎撃しているのだ。

 加えて、迎撃の精度自体は極めて正確なのだが、明らかに過剰威力での攻撃をし続けている。

 威力の向上や砲口部の増設、全方位への掃射等とそのために最適な形態への変化等も見られるが、非脅威対象にすら過剰攻撃を加えて迎撃する様は、はっきり言って滑稽にすら感じられた。

 

 『こちらの推測通りね。』

 『旧式機のバーゲンセールというか、在庫一斉処分というか…。』

 『作戦は予定通り進行中。各員、予定通りこのまま進めて頂戴。』

 『了解です。』

 

 先のVF小隊の威力偵察、その際にグリーン2が目標の加粒子砲から逃げ切れた理由。

 それは、パージされた武装を目標が態々射撃して個別に破壊したからに他ならない。

 無論、過剰威力であったので、貫通した加粒子はそのまま海面に命中、大規模な水蒸気爆発を発生させてグリーン2を見失ってしまったのが事の真相だった。

 その後の無人機による偵察やダミーバルーン等の陽動を用いてのデータを収拾から、「第五使徒は自身の知覚範囲内に存在する飛翔体並び攻撃してくる存在を無条件に大威力の加粒子砲で迎撃・排除する」性質を持つ事が分かった。

 後は連邦軍お得意の物量戦で陽動しつつ、敵と同様の大威力の狙撃によって対応すれば良い。

 水平線の彼方も彼方、遥か遠くの水上艦艇やアクアジムからの大型ミサイルやロケット砲の長距離射撃に対しては、迎撃は出来ても発射元である水上艦艇やアクアジムまでは流石にどうにも出来なかったのだ。

 何せこれら水上艦艇は現在その多くは旧式とされながらも、一年戦争前の高度に自動化された当時の装備である。

 無論、ミノフスキー粒子やNジャマー等への対策は一年戦争中に抜かりなく行われているので、有視界戦闘への比重は大きくなっているが、旧時代の艦艇とは比較にならない程の超長射程を誇る。

 実は自走砲、MS擬きと言われるガンタンクですら、両肩の120mm低反動キャノンの射程距離たるや、軍事衛星のサテライトリンクが前提とは言え、斉射時250km、単射時270kmなのである。

 序に薬莢は完全燃焼式、装弾数は各30発(+2発)、16の斉連射が可能で、更に左右別々に稼働してマルチロックオンすら可能だったりする(ちなみに旧世紀の大和型戦艦の主砲の射程が約42kmとされる)。

 こんな化け物と同様かそれ以上の射撃・砲撃能力を持つ兵器が無数にいる地球連邦を相手にするには、ミノフスキー粒子の存在が必要不可欠だったし、自治権を認められているとは言え独立を目論んでいた当時のプラントやサイド3からはどれだけ恐れられていたかが分かるだろう。

 そして、こうした超長射程と極めて精密な射撃精度はミノフスキー粒子等の妨害さえ無ければ、他の連邦軍所属兵器でも発揮可能なのだ。

 MSは有視界戦闘特化のためにそこまでではないが、それでも取り外して急遽手持ち式にした長距離ミサイル砲やロケット砲をほぼ固定砲台な第五使徒に叩き込む事は訳はない。

 無論、その程度の精度では命中は期待できないし、至近弾にもならない。

 だが、ラミエルはその性質故に只管迎撃をし続ける、自身の知覚範囲内のものだけを。

 自身の知覚範囲の遥か外側、水平線よりも遥か遠くからの攻撃に対しては敵の位置も分からず、見えず、迎撃に終始するしか出来なかったのだ。

 それでもある程度考える頭はあったのか、若干の射撃精度低下と引き換えに移動速度が上昇し、第二新東京市への道を急ぎ始める。

 その先には、手薬煉引いて待つ狩人達と彼らを守る盾があるとも知らずに。

 

 『目標、移動速度上昇。到達予想時間、約3時間短縮します。』

 『【一の矢】チームに通達、目標の修正予想到達時間に合わせ、作戦を早めます。』

 

 こうして、遂に作戦は第二段階へと移行する。

 

 

 ……………

 

 

 旧静岡県熱海市網代にて

 

 『お出でなすったぞ!有効射程まで後30秒!』

 『データリンク接続済み、誤差修正完了!』

 『四連装亜光速レールガン、電力供給問題無し!』

 『序に盾の用意も何時でも良し!』

 

 デストロイド・モンスター(敷島スペシャル)、その護衛であるジガンスクードⅡが遂に来た対使徒戦の機会を前に戦意を滾らせていた。

 

 『っ! 目標内部に高エネルギー反応を確認!これまでで最大の反応です!』

 『っ! 【一の矢】チーム、そっちに攻撃が行くわよ!』

 『カウント開始、後10秒!』

 

 だが、そんな事を知らされても、彼らは揺らがない。

 何せここには地球連邦軍の誇りたる「無敵の盾」がいるのだから!

 

 『構わん!このまま作戦続行!頼んだぞジガンスクード!』

 『任せろォ!!』

 『5・4・3・2・1!』

 『発射ぁ!!』

 

 水平線上から姿を現したラミエルの加粒子砲。

 待ち構えていたデストロイド・モンスター(敷島スペシャル)の四連装亜光速レールガン。

 両者の発射タイミングは完全に同時であり、それ故に互いの射線は重なり合う。

 発射された光子弾頭の内、3発がブラックホール生成前に撃ち落とされ、最後の一発が命中する。

 同時、加粒子砲の一撃は正確にデストロイド・モンスター(敷島スペシャル)を捕らえるも、発射とほぼ同時に間に入ったジガンスクードⅡのGテリトリーとDブレード・シールドによって上方向へと弾かれ、そのまま大気圏外へと消えていく。

 ダメージを負い、態勢を傾け、下部が海面へと着水するラミエル。

 だが、亜光速レールガンの直撃を受けながらも、ラミエルはまだ死んでいなかった。

 その体積の四分の一近くを消滅させられながらも、コアへのダメージは僅かであったが故に。

 

 『目標内部に再び高エネルギー反応!?』

 『連射!?シンジ君!』 

 

 第二射を発射し、今度こそ仕留めようとするラミエルに対し、この状況を予め想定して配置された【二の矢】部隊は落ち着いたまま、油断なくその役目を果たそうとしていた。

 旧神奈川県真鶴半島にて、狙撃のためにうつ伏せとなった初号機の周囲をエヴァ零号機と二機のグラビリオンが固めている。

 初号機が構えている狙撃用装備、その本来の名は試製1200mm重力波レールガンという。

 元はナデシコ級砲艦の装備であるGBを機動兵器が携行可能なサイズにまで小型化できないかと施行錯誤される中でA.I.M極東支部で試作された武装の一つだった。

 が、結局「現段階で実用範囲では無理」という結論に落ち着いた。

 一応量産機の中で胸部に搭載しているジガン系列機もいるが、あれらは100m級の機体であるため、そこまで難しくはなかった。

 しかし、20~30m級の機体向けに小型化すると、どうしても出力面の確保が難しく、外付けのジェネレーターを必要とする。

 そして、そんなものをくっつけると必然的に大型化、高コスト化、被弾時の被害が大きくなる等の問題が発生する。

 UC世界の百式の特徴の一つであるメガバズーカランチャー(同名装備は他にもあるが)よろしく、とてもではないが、実用性の低い代物になってしまった。

 無論、A.I.Mが自重を止めて太陽系防衛用無人機動部隊の主力機であるヴァルチャーや無人OFに採用されている技術を表に出せばそれは可能になるが、A.I.Mが公式に販売している商品には全て、ある規制が儲けられている。

 それは「現時点の太陽系の技術力で再現・生産可能な商品のみを販売する」というもの。

 このラインをクリアできないものを販売しても、運用する地球連邦軍での修理や整備が大変困難になってしまう。

 よって、欠陥品の烙印を押され、この試製1200mm重力波レールガンはお蔵入りとなっていたのだ。

 が、今回の一件を聞き付けたA.I.M極東支部はさくっとこれを改造、大型MS向け縮退炉三基を直列に接続し、そのエネルギーを有線で直接供給しつつ、狙撃用のスコープ等各種装備をエヴァ向けのサイズでちゃちゃっとでっち上げて追加し、最後には重力波の収束率を大きく向上させたのが、今回初号機が装備している「試製1200mmマイクロブラックホール・スナイパーライフル」である。

 端的に言って頭おかしい。 

 

 「どうぞ、こちらがお求めの品物になります。」

 「」

 

 納入品の詳細を確認して、葛城ミサトは絶句した。

 成程、ヤザン少佐の言う通りだったわね、と赤城リツコは納得した。

 流石は安心と驚愕のA.I.Mですね(白目)。

 なお、説明書を熟読したシンジは「A.I.Mって……エヴァとか本当に必要なの?」とロック1と2、そして綾波レイに尋ねた。

 横塚両中尉らは目を反らし、レイは固まって動かなくなるという一波乱があったがそれはさて置き。

 シンジは想定外の出来事には弱いが、事前に説明のある想定内の出来事に対しては強い。

 ミサトの言葉とほぼ同時、照準を済ませ、チャージも完了、誤差修正も完了していた試製1200mm重力波レールガンの引き金を迷いなく引いた。

 

 『ッ!?』

 

 迷いなく引いた引き金と同時に放たれた帯状のマイクロブラックホールは光を飲み込む黒い線となって伸び、第五使徒ラミエルのATフィールドとその構造体の中心にある赤いコアとその周辺を、一切の抵抗を許さずに貫通、一切減衰しないまま大気圏外へと飛んでいった。

 マイクロブラックホールが存在した時間は、僅か1秒に過ぎない。

 だが、その1秒で今までの使徒とは一線を画す程の猛威を奮った第五使徒は撃破され、貫通した空の彼方へと消えていった。

 事前に射線上の人工衛星等は退避させていたし、他の太陽系の惑星等はなかったとは言え、その余りの威力に自分が撃ったにも関わらず、シンジは驚愕で固まってしまった。

 それがいけなかった。

 

 『も、目標内部に再度エネルギー反応を確認!?』

 『何ですって!?各機、防御専念!』

 

 コアを破壊され、形状を保てず血液にも似た液体へと崩壊していくラミエルから最後っ屁とばかりに加粒子砲がエヴァ初号機へと放たれる。

 初号機のATフィールドならば十分耐えられる威力だが、周辺の地形が変わる事は免れないだろう。

 

 『くっ!』

 『やらせない!』

 『フィールド出力全開!』

 

 それを防いだのは、やはり予定通りの三人だった。

 二機のグラビリオンにジガンスクードのDブレードを装備した零号機。

 三機は初号機を背後に庇った状態で、シールドと腕部を前に構え、その身を以て盾とする。

 グラビリオンの防御可能エネルギーを計算し、焦る高雄。

 もしもの時は脱出かしら~とか考えている愛宕。

 そして、ただただ必死になっているレイ。

 何故かエントリープラグ内でレイを応援するキモカワ系艦これマスコット達。

 君達、位相空間から半分顔出してるだけとは言え、シリアス壊すの止めてくんない??? 

 各員の思考が交錯する中、ラミエルの最後の攻撃は、たった3秒で終わりを告げた。

 崩壊していく構造体で無理に攻撃した代償として、ラミエルはその質量の多くを自分の攻撃の余波で蒸発させ、最後には海に血液に似た赤い液体を僅かに残して消滅した。

 対する盾となった三機は装甲表面こそ融解しているものの、内部構造の殆どとパイロットは無事だった。

 

 『状況報告!』

 『目標、完全に沈黙しました!各パイロットのバイタルを確認、無事です!但し、機体装甲表面の融解を確認、搭乗ハッチが溶接されています!』

 『…状況終了。整備班は急いで救助を。医療班は念のため待機。皆お疲れ様。』

 

 この後、エヴァ初号機は融解した零号機のエントリープラグ挿入口の装甲を排除、取り出したエントリープラグ内からレイを助け出し、そこで少しだけ会話をしたという。

 奇しくも丁度朝日が昇ってきたその時、綾波レイは僅かにほほ笑んだという。

 

 

 

 




ラミエルの強化内容
1、防御力
2、射撃能力(威力・射程・精度)
3、感知範囲

でもこれだけ強化しても強化済み地球連邦軍(スパロボ時空仕様)には勝てないという。


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小ネタ会話集その3

感想欄で色々話してたら沸いたネタ&以前ムロンさんから貰ったネタを纏めました。


 新西暦186年 極一部の特機級歩兵戦力の跳梁跋扈を受けて

 

 「ここに特殊部隊エコーズの発足を認める。市民の安全のため、任務に励んでくれ給え。」

 「了解しました。謹んで拝命致します。」

 

 国際警察機構のみならず、連邦軍でも強力な歩兵戦力への対抗策を講じる必要が出てきた。

 恐竜帝国や百鬼帝国、妖魔帝国の歩兵は人類よりも強力かつ既存の銃火器(中には重機関銃も防ぐ個体もいた)でも通じない事例があった。

 更にはBF団のエージェント達の多くはそれら異種族の歩兵よりも更に強く、十傑集に至っては特機であっても撃破可能という出鱈目ぶりを持つ。

 現在は国際警察機構とガンダムファイター、一部の民間系特機のパイロットらが対応しているが、先の第二新東京市においてはジオフロントへ十傑集の侵入を許し、精鋭揃いの首都防衛隊が壊滅する事態となってしまった。

 これらの戦力相手では既存兵器では対応できないという報告を受け、連邦陸軍は漸く重い腰を上げるのだった。

 

 

 

 新西暦186年 エコーズ発足を受けて

 

 「なにこれ。」

 

 エコーズの人員を見て、トレミィの一言。

 エクスペンタブルズか、特攻野郎Aチームか、木曜洋画劇場か何かの宣伝かと思ったらしい。

 

 司令官 フランクリン・カービー中将

 副司令 サミュエル・トラウトマン大佐

 ダッチ・シェーファー少佐

 ダグザ・マックール大尉

 ケーシー・ライバック大尉

 ジョン・ランボー中尉

 コンロイ・ハーゲンセン中尉

 他、フルメタ世界のミスリル所属人員多数。

 

 連邦軍全体から選りすぐられた人員で構成されており、銃火器や爆発物の取り扱いに徒手格闘戦、潜入・破壊工作、ゲリラ戦、車両や航空機にMSの操縦などあらゆる分野を修めたエキスパート集団。

 その強さはまさに人間武器庫!

 基本的に極秘の高難易度任務に投入されることが多く、地底種族連合残党の秘密拠点狩りに投入される他、ジオフロント等の「落とされたら終わり」な場所の防衛に配置されている。

 稀に国際警察機構との合同任務に駆り出されることがあり、その度に人間の常識を超えたBF団エージェントや十傑衆、国際警察機構のエキスパートと遭遇している経験上地味にオカルト的現象への耐性が高い。

 が、自分達も人類の常識を外れた能力やスキル、補正を持っているので何とか対応できている。

 

 

 

 新開発の歩兵向け装備のCM 

 

 「EM銃?」

 「Electro(エレクトロ)Magnetic(マグネティック)、電磁場よ。火薬も従来の弾もいらない。アルミ弾を光位の速さで飛ばせるの。」

 「レールガンてヤツだな…」

 「ええ、そうとも呼ばれているわね。」

 

 というCMが無駄に有名な個人用電磁投射兵器。

 言わずもがな誇張であり、後先考えずに辛うじて一発限り亜光速の領域で発射できるが、えらい事になるので止めましょう。

 ちなみにこのCMはPVも兼ねて製作された映画のワンシーンを切り抜いたもの。

 主演俳優が現役のエコーズ隊員であったことから実話では?という声もあがったが配給元と連邦政府は否定している。

 開発はアズラエルグループ傘下の軍事企業サイレス社。

 かねてより存在が確認されていた鬼やハチュウ人類に対して通常の対人用銃火器は威力不足であった。

 基本的にこういった手合いに対しては軍用パワードスーツ部隊を投入するのだが、ロサンゼルスのある麻薬カルテルと通じていた恐竜帝国兵士が組織の摘発に動いていたLA市警と偶然遭遇、カルテルとたった5名の帝国兵士の掃討と引き換えに2名を残して精鋭たるSWATを含め30名を投入した市警側も全滅する事態が発生。

 これを受けて個人で運用でき、強力で警察にも広く普及できる銃火器の開発を連邦政府は要請。

 こうして生み出されたのがEM銃である。

 威力の調節が可能であり、既存の歩兵用防弾プレートから軽装甲車両程度までを一撃で射貫可能。

 それでいて銃本体は驚くほど軽量かつ頑丈で反動もほとんど存在しない。

 採用されたこの銃はミニガン型や拳銃型も作られるほどのベストセラー商品となり、連邦軍から警察組織までに広く行き渡ることとなった。

 表沙汰にはなっていないが地底種族連が表に出て来る前、開発中のこの銃は一度サイレス社の重役と組んだ連邦政府議員と汚職連邦捜査官から産業スパイを行っていた鬼、即ち百鬼帝国の諜報員に売り払われかけた事がある。

 これに勘づいたサイレス社社員ととある連邦捜査官(出向していたエコーズ隊員)、別件で証人保護プログラムを受けていたゲイ・バーの従業員の尽力で鬼に奪われる事態は防がれたのだが、取引が行われていた港湾部で大規模な銃撃戦が発生しメディアに勘づかれてしまう。

 当時、人類の敵にして未だ表に出て来ていない鬼の存在とそれに与した連邦政府議員の存在は無用な混乱の元となるとされ、秘匿するために一連の騒動は撮影中の映画のワンシーンとして処理された。

 これを実際に完成させたのが例のPV映画である。

 

 なお、恐竜帝国兵士と戦い、生き残ったジョン・マクレーン、マイク・ハリガン警部補の各両名には隠蔽のために箝口令が言い渡されたのだが、その際に二人はこう返したという。

 

 「「分かったから連中に効く銃(ガン)をよこせ。」」

 

 どうも手持ちの火器が通じず、建材で押し潰したり、麻薬製造に使う有機溶剤を目に突き刺すなどして二名を始末、最終的に倉庫内にあった可燃性物資に火を放ち、倉庫ごと残りを吹き飛ばした模様。

 

 

 

 新西暦186年 北米 ラングレー基地 エコーズ発足を聞いて

 

 「やはりレイバーでは軍用には足りませんか…。」

 「加えて一から開発してる暇はありませんから…。」

 「はい、はい!うちのお蔵入りしたエステバリスが良いと思います!」

 「まぁそうなりますか。」

 「じゃ、取り敢えずそれを現在の情勢に合わせて再設計なり再調整しましょうか。」

 

 こうして、ネルガル重工製エステバリスは嘗ての試作型での不採用をバネにして市街地における対歩兵向け陸専用兵器として世に出る事となる。

 丁度パワードスーツでは敵わず、MSサイズではオーバーキルになる相手に対しての兵器として運用される事となる。

 軽快な運動性能とDF、人型故の汎用性、ローラーダッシュによる機動性、何よりも内燃機関を搭載しないが故の低コストと高い生産性、被撃破時の誘爆の危険性の低さが評価された。

 なお、操縦系統はMS等の一般的な人型兵器と共通のものと、A.I.M系列企業から販売されているIFSナノマシン対応仕様(一応通常の操縦も可能)の二種となっている。

 後に一部の大型艦や宇宙要塞内の内部警備やコロニー内戦闘向けの所謂0G戦フレームや作業用フレームも開発され、ナデシコ級砲艦に並ぶネルガル重工のベストシリーズの一つとなるのだった。

 

 

 

 新西暦186年 北米 ラングレー基地 エコーズ発足を聞いて②

 

 「とは言え、エステバリスは比較的低コストですが、これ一機種では問題があります。」

 「一機種に頼ると欠点見つかったり、弱点突かれると弱いですからねぇ…。」

 「加えて、想定される状況が市街地での対歩兵、それもガンダムファイター級ですからね。エステバリスは優秀ですが、DF無しの装甲は貧弱ですし…。」

 「これはまた悩ましい問題ですね…。」

 

 市街地や要塞・基地内での歩兵戦力、それも特機や人型機動兵器を撃破可能な歩兵を相手にするとなるとアウトレンジからの火力制圧は出来ず、特機や人型機動兵器類では大き過ぎて下手に動けぬ上に死角も相対的に多くなってしまう。

 これらの問題を解決するには、こちらも同等の歩兵戦力か、或いは市街地や要塞・基地内でも運用可能な小型の人型機動兵器が必要だった。

 エステバリスはその点合格だったが、一つの兵器に頼ってはそれが対応された・不備が見つかった時等に不利になる。

 そうした経緯で開発されたのがあらゆる地形を走破可能で時速100km以上で走行する脚部を持ち、強力な歩兵戦力相手でも素早い反応が可能な電磁収縮筋(マッスル・パッケージ)と既存油圧式を併用した駆動系を持った小型人型兵器。

 それがArmored mobile master-slave System、主従追随式機甲システム、通称ASである。

 これは戦乱が続く地球の市街地戦闘並び対歩兵・対テロ戦力としてエステバリスと共に大いに活躍していく事となる。

 尚、技術蓄積もあって最初から原作における第二世代になる模様。

 

 



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小ネタ会話集その4

いつものムロンさんからのネタ提供です。
毎度ありがとうございます。


 新西暦186年 太田巡査爆発未遂事件

 

 

 『隊長!太田の顔にミサイルが突き刺さりました!!』

 「え?太田の顔に?」

 

 パトレイバーこと86(新西暦186年採用)式AVイングラムはかねてより地球連邦軍正式採用MS「ジェガン」との外見的類似性が取り沙汰されていた。

 それは時にこんな喜劇を生むこととなる。

 ある時、過激派環境保護団体「地球防衛隊」が再開発地区の一角を作業用レイバー数機を用いて占拠する事件が発生。 

 レイバー犯罪に対応すべく出動した特車二課のパトレイバーをジェガンと誤認した「地球防衛隊」は裏ルートで入手した対MS誘導弾リジーナを発射し、太田の乗る二号機の頭部へと命中してしまう。

 イングラムの装甲が申し訳程度の物であったため信管が反応しにくかったこと、そもそも弾頭が一年戦争以来まともな整備を受けていないものだったことが幸いし、信管は作動せずに済んだ。

 その後、「地球防衛隊」はすぐさま降伏したものの、その場にはいつ爆発するかも分からないミサイルが頭に突き刺さったイングラムがとり残されてしまう。

 着弾の衝撃で故障した上にコクピットハッチが歪んでしまったイングラム内から太田巡査は脱出する事も出来ず、爆発物処理班による解体作業が終わるまでコクピット内に閉じ込められる羽目になった。

 

 

 

 

 時系列不明 AV製作未遂事件

 

 「おいシゲ、なんであの弾頭は着色料がついてねーんだ?」

 「ありゃあひょっとすると量産前の試作品じゃないですかね?発注先が間違って送りつけたのかもしれません。」

 「にしてもとんでもねぇ絵面になっちまったなぁ。」

 

 対レイバーが主目的のパトレイバー隊とはいえ不意に市街地に現れる侵略者に対しては軍の到着前に市民の盾とことも職務に含まれる。

 そのため対MSもしくは対敵勢力のノウハウを得るため警察と連邦軍は合同訓練を行うこととなった。

 訓練にはMSやVF、果てはジガンスクードに共和連合製のガルガウすら参加したのだが、その中で一際異彩を放ったのがゼントラーディ兵役を務めるヴァルシオーネである。 

 外見が非常に人間的であることがゼントラーディに見立てるのにちょうどよかったことと、市街地での戦闘データを収集したかったテスラ研の思惑があって急遽参加した本機であったがこれが思わぬ悲劇を生む。 

 市街地での機動に一日の長がある特車二課は上手くヴァルシオーネの攻撃を掻い潜り、メインカメラを潰すべく対レイバー用のトリモチ弾を発砲。

 所が本来は識別を容易にするため赤などの着色料がつけられているはずのこのトリモチ弾、なんと量産前の試作品(着色されてなく白い)が紛れ込んでおり、なおかつ耐用年数が過ぎていたため中途半端な粘性となっていたのだ。 

 その結果…

 

 「白くドロドロした液体を顔面にぶちまけられた美少女ロボット」

 

 という絵面的にアウト過ぎる光景が市街地に現れてしまう。

 この時の映像は操縦者のリューネとその父であるビアン博士からの猛抗議を受けたため厳重に処分された……はずであるが、一部の整備班の間でレアものとして裏取引されている事が実しやかに囁かれている。

 

 

 

 特車二課UMA事件

 

 「んで?あいつが例のUMA?ただの敗残兵じゃあないの。」

 「3ヶ月ほど前の戦闘で機体から脱出したそうですよ。それからずっと下水に隠れてたとか」 

 「自称地球の支配者様が鼠と虫食ってあんな穴蔵で縮こまってたわけか。自業自得とはいえ不憫だねぇ。」

 「”情報はなんでも話すしなんなら銃殺でもいいからせめて最期に文明的な食事をさせてくれ”だそうですよ?」

 「やっこさんなに食うんだろうね?配達してくれるゲテモノ屋とかこの辺りあったっけか?」

 

 特車二課周辺で度々目撃された謎の影。

 “新種のUMAでは?”と思った隊員達はその正体を探るべく半ば迷宮と化した下水道に侵入。

 そこで痩せ細った恐竜帝国軍兵士に遭遇してしまう。

 数ヶ月の潜伏生活と暗闇に精神をやられていた帝国兵は即座に降伏、後程やってきた軍に引き渡され、捕虜収容所に移送されることとなる。

 なお特車二課隊舎内で出されたのはコンビニで購入した熱々のおでんであり、涙を流しながら貪る様に食べた事(序に舌を火傷した事)をここに記載する。

 

 

 

 誤認?逮捕事件

 

 「爺さん警察をなめてるのか!?天下の往来でこんな物騒なもん隠し持ちおって!!」

 「こんなもんふつーじゃろ普通。それにしても最近の探知機は進歩したもんじゃのう、また手を加えんとすぐバレちまう。」

 「普通なわけあるかぁ!義手に内蔵された火炎放射機に散弾銃用の弾丸を使うリボルバー拳銃、頭の中には高性能爆薬に光線銃っぽい何か、果ては腹にロケット弾発射機が内蔵されていて弾頭は超小型反応弾ってどこのサイボーグ兵士だ!!」

 「あれ?敷島のじっちゃんじゃないの?なんでこんなところに?」

 「おう、篠原のところの鼻垂れ小僧か。お前こそこんなところで何やっとんじゃ?」

 

 交通整理に駆り出されていた特車二課が山ほど武器を隠し持った敷島博士と出くわした時の一幕。

 対バイオテロも想定されたイングラムに内蔵された優れたセンサーに引っ掛かった敷島博士は2号機のチームに取っ捕まって職質を受けたのだが、早乙女研究所に比してマイナーな敷島博士は世間での知名度は皆無であり誰も知らなかった(そっち界隈では超ド級有名人なのだが…)。

 尚且つ関係者には半ば武装を黙認されていた武器の不法所持を詰問され、あやうくショッピかれかけてしまう。

 そこに騒ぎを聞きつけて様子を見に来た1号機のチームの篠原遊馬が到着。

 面識のあった彼は早乙女研究所に連絡を入れ、無事に敷島博士を引き渡すことに成功する。

 ちなみにここまで博士がやってきたのは馴染みの飯屋に久しぶりに行きたくなったかららしい。

 傍迷惑なジジイである。

 

 

 

 186年末 3号機チーム発足

 

 「三号機操縦者の若菜陽子巡査であります!以後、よろしくお願いします!」

 「うん、よろしくー。特車二課の隊長、後藤喜一です。所で何でうちみたいな所にトバされたの?機動隊なんて花形じゃないの?」

 「はい、尻撫でてきたお偉いさんの股間を蹴り上げてその事を労基に訴えたらトバされました!」

 「あー。」

 

 後藤さん、太田さんと同系列の人かと判断した模様。

 以降、熊耳さんか香貫花と組んで色々やらかして馴染んでいく事となる。

 尚、件のお偉いさんはセクハラの余罪が見つかってがっつり怒られて書類送検や慰謝料支払ったり、娘夫婦(孫娘含む)から絶縁された模様。

 

 

 

 時系列不明 ある夜 おでんの屋台にて

 

 「でさー忍の奴がさー。」

 「お前ん所も大概だなおい…。」

 

 お互い立場似てて以前からの友人である篠原遊馬と式部雅人の不定期な飲み会。

 自分らの職場で起きたあれやこれや愚痴を他愛無く駄弁り合う。

 が、その中にお互いにとって有益な情報をちょいちょい混ぜておく辺り、やはり育ちの良さというか幼い頃から施された教育というのは消えない模様。

 

 

 

 時系列不明 ある夜 おでんの屋台にて

 

 「女将さんもさー美人なんだからさっさと結婚しちゃえば良いのにさー。」

 「そーそー。なんだったらおれがやしなっちゃうよー?」

 「ふふ、褒め言葉として受け取っておきますね?」

 

 その屋台の暖簾には「出張居酒屋鳳翔」と書かれていた。

 似た様な屋台に「ドラゴンらぁめん!」、「否本場なFish&Tips」がある。

 昼間なら「Красные пирошки」、「Dolcezza Fondente」がある。

 

 Красные пирошки…ロシア語で赤いピロシキ≒パン屋。

 Dolcezza Fondente…イタリア語でとろける甘さ≒ジェラート店

 

 

 

 




・ジェガンに超似てるイングラム
・微妙に違う名称(86式)
・便利そうなトリモチ弾(ガンダムのあれ)
・顔○されるヴァルシオーネ
・南極条約違反(人類以外に適用されず)
・安定の敷島博士
・ボンボンだけどボンボンじゃない二人とその周囲


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第38話 撤退戦

ぬぅ…日付が変わってしまったか、不覚!


新西暦186年8月7日 ムゲ第二次侵攻開始直後 地球 欧州方面にて

 

 

 式波・アスカ・ラングレーは激怒した。

 必ずやあの邪知暴虐のムゲ野郎を駆逐してやろうと決意した。

 

 アスカには政治も戦争も少ししか分からない。

 アスカは天才だが、その性格は多少捻くれた所はあるものの、見た目通り13歳の少女のそれである。

 だが、故郷であるドイツでのエヴァのパイロットしての訓練と飛び級して入学した大学での勉学を苦に思った事は一度もない。

 ガリ勉だった自分を気にかけて年相応の遊びや娯楽を教えてくれた加持リョウジと真希波・マリ・イラストリアスには感謝しているし、何なら友人とも思っている。

 実は自分とマリの乗るエヴァが兵器としては欠陥品も良い所で、大人の加持さんが本当は自分達子供を戦わせたくないと思っている事も、遠く極東のまともに訓練も受けてない同い年の少年がエヴァに乗って連邦軍と共同で最初に使徒を撃破した事も、最終的にはアタシとエヴァの完成型たる弐号機が結果を出してやるわよ!と思っていたのでそこまで気にしてはいない。

 だが、漸く出立だという日にNERVドイツ支部を襲って顔馴染みの職員や故郷を焼いてくれやがったムゲ野郎だけは絶対に許さん!

 アスカは激怒していた。

 しかし、エヴァ2機を極東方面のNERV本部へ運ぶ重要性を理解していた。

 故にムゲ野郎をボコボコにするのはエヴァよりも強いだろう連邦軍に任せ、マリの仮設五号機と共にドイツ支部跡地を発った。

 なお、加持さんは別ルートでピンクのスーツ姿の同年代の男性と共に先に発ったそうだ。

 

 で、欧州の空をエヴァ二機を積んだストーク級と共に飛ぶ最中、ムゲ野郎に蹂躙される欧州を見てしまった。

 

 おい、エヴァより強い連邦軍は何処行った?

 ブチ切れながら近くの整備員に全てを喋りたくなるように丁寧に話しかけると、その整備員は顔を青くして勢いよく話してくれた。

 曰く、欧州方面軍は通常の連邦軍とは違うのだ、と。

 何でも現地の有力者であるロームフェラ財団を始めとした企業達(ロゴスは表向き秘密組織)が権勢を持っており、各方面並びコロニーの自治を認めている連邦政府と言えど、おいそれと口を出せないらしい。

 加えて、独自規格の機動兵器や指揮系統を持ち、貴族(この新西暦の時代に貴族!)や企業関係者には優先して指揮系統や作戦、補給等での優遇が受けられ、それ以外の一般の連邦軍人は未だ旧式兵器しかないのだと言う。

 既に旧式扱いされている筈のジムⅡですら配備未了とか嘘でしょう?とアスカは思った。

 しかも、このストーク級すら「そいつを寄越せ!オレらが使ってやるから!」とか戦闘中なのに通信を寄越したり、「自分達を乗せて逃げろ!」とか民間人を放ってまで言う者すらいる始末。

 馬鹿しかいないの???

 アスカの疑問に、しかし話を聞いていたマリが双眼鏡を寄越して地上を見る様に言われた。

 訝しみつつ下を見ると、必死に民間人の救助や護衛、シェルターへの誘導を行っている連邦軍部隊や警察の姿が見える。

 成程、腐ってるのは上で、現場はまだまだ大丈夫なんだな、とアスカは納得した。

 そんな時に、敵部隊接近の警報である。

 ストーク級は即時離脱を試みるも、ムゲ側の展開速度の方が早かった。

 

 『仕方ないか…。全艦、第一種戦闘態勢!護衛のガーリオン隊は全機発艦せよ!』

 『敵部隊、戦艦2に機動兵器多数!本艦に向けて接近中!』

 『ガーリオン隊は本艦の戦域離脱まで防衛してください。無理な戦闘は他の敵部隊に捕捉される恐れがあるため、厳に慎んでください。』

 

 ストーク級は設計の古いガルダ級を超える艦載機運用能力を持つロールアウトしたばかりの空中母艦である。

 それ故、MSサイズの機動兵器ならば最大一個大隊27機を万全に運用できる。

 しかし、今はエヴァ弐号機並びに仮設五号機とその予備パーツ等を運んでおり、現在の艦載機動兵器たるガーリオンの数は僅か二個小隊6機しかいない。

 火器類は対空迎撃用の機銃と対艦・多目的ミサイル位しかないストーク級と火力の低いガーリオンしかいない現状、ムゲ戦艦を含む有力な部隊と正面から戦うのは自殺行為でしかない。

 しかも、それはエヴァ二機を乗せているのが原因なのだ。

 アスカは激怒した。

 今この故郷の窮地を見捨て、遠く極東に逃げる様に去らねばならない自分自身に激怒した。

 今も地上で必死に戦っている軍人を、職務を必死に果たしている警察を、どうして良いかも分からずにいる一般市民を置いて、逃げる事しか出来ない自分に嫌悪した。

 しかも、ここでアスカが勝手な義侠心を起こして地上にエヴァと共に降りた所で、10分も動けば途端に巨大なオブジェに早変わり、碌に何かをする事もなくムゲに見つかって殺されるだろう。

 だから仕方ない、だから自分は悪くない、だから逃げても良い。

 

 

 「そんな訳ないじゃない。」

 

 

 これ以上なく冷え切った声が自分の喉から出た。

 

 「お、どうすんの~姫?」

 「艦長に言って、せめてこの艦で砲台になる位はするわ。」

 「下には降りないんだ?」

 「愉快なオブジェになりたいなら一人でやってなさい。」

 

 その後、それしか現状を打破する手段は無いと判断した艦長はアスカとマリの二人にエヴァ二機による艦の防衛を命じた。

 艦上部に出撃し、そこで砲台役となるのだ。

 幸いにもエヴァ用の武器弾薬はたっぷりあるし、装備や弾薬の規格は連邦軍と一緒なので問題はない。

 二人はミサイルにマシンガン、ガトリングガンにロケット砲に大型ビームキャノンと景気よく弾をばら撒きつつ、エヴァ固有のATフィールドによってストーク級をムゲ側のあらゆる攻撃から守り切った。

 最終的な戦闘の結果は艦とエヴァ二機は無傷、ガーリオン隊も一機も落ちる事なく離脱に成功した。

 だが、これが地獄の撤退戦の幕開けだと、この時は誰も予想出来なかった。

 

 「欧州全域からの撤退だと?確かなのか?」

 「は、はい。欧州方面司令部からの正式な通達です。」

 「何て事だ…。」

 

 艦長は頭を抱えた。 

 欧州方面軍が現政権並び他の方面軍と不仲とは聞いていたし、装備すら独自調達しているのは聞いていたが、まさか増援の一つも寄越さない程だとは思ってもいなかった。

 無論、他の地域に出現したムゲ帝国軍に対応するためだとは分かっているが、ここに来て内ゲバをするとかマジ止めてくれよ…というのが正直な思いだった。

 

 「このまま予定通り旧英国方面に向かいますと、ロームフェラやティターンズの目に留まる恐れがあります。」

 「あの黴の生えた骨董品と鼻摘み共か…。」

 

 副官の言葉に、艦長はげんなりした。

 どちらも通常の正規軍からすれば目の上のたん瘤とも言うべき連中だった。

 実力や優良装備こそそれなりにあれど、規格は兎も角他の連邦軍のそれとは異なるから足並みも合わせ辛いし、補給物資の融通もし辛い。

 おまけにやたら高圧的で、良さげな装備や部隊と見るや否や直ぐに権力を傘にして指揮下に入れようとする。

 お前ら軍を何だと思ってるんだ?と声を大にして言いたい。

 

 「…仕方ない。予定コースを変更し、このまま地中海を抜けてダカール、アフリカ方面軍との合流を目指す。」

 「まぁそれしかないですか…。」

 

 こうして、エヴァ二機とその護衛部隊を載せたストーク級は戦乱の最中にある欧州からアフリカを目指すべく、進路をイタリア半島方向へ向けるのだった。

 が、勿論そんな簡単に行く訳がなかった。

 逃避行の最中、彼らには散々に試練が降り掛かる事となる。

 

 

 『そこのストーク級、何処の所属だ!この辺は既に撤退命令が出ているんだぞ!直ぐに旧英国方面に進路を向けろ!』

 『こちらはストーク級○○番艦グレイ、現在アフリカ方面に向けて機密物資輸送任務を受けている。こちらに構う事はない、貴官らは貴官らの任務を続けてくれ。』

 『そんな話は聞いていない!良いから旧英国方面に行けと言っている!抵抗するならば攻撃する!』

 

 『これは…連邦軍同士、いえ、市民まで互いに殺し合っています!』

 『ムゲが使うという噂の精神攻撃か…我々に出来る事は無い。直ぐに離脱だ。』

 『了解です。全速前進、この空域を離脱します。』

 

 『こちらティターンズ所属MS部隊である。我々は現在、重軽傷者を抱えている。治療のためにもそちらの艦に乗せてもらいたい。』

 『艦長…。』

 『こちらストーク級○○番艦グレイだ。おかしいな、ティターンズの諸君。こちらのセンサーには君達の足元にある医療用トラックには生体反応が感知できない。そして、君達は既に戦闘準備を終えている。』

 『貴様…!』

 『連邦軍の面汚しが、重軽傷者等と片腹痛い!どうせムゲ共の面を拝む事なく逃げてきたんだろう!少しは連邦軍人としての職務を果たしてから物を言うがいい!』

 

 『ここまでか…。仕方ない、ムゲに通信を繋いでくれ…。』

 『! 艦長、味方の増援です!』

 『こちら地球連邦軍参謀本部直属空中機動艦隊所属スカル大隊!お前さんらが例の特機輸送便か!ここは俺達に任せて行け!』

 『すまん、恩に着る!』

 『応、何時か一杯奢ってくれ!』

 

 そんな大変は思いをして、アスカとマリ、エヴァ弐号機と仮設五号機を載せたストーク級グレイは漸くアフリカ方面軍への合流に成功したのだった。

 しかし、彼女らの旅路はまだ終わっていなかった。

 

 

 



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第39話 撤退戦その2

 新西暦186年8月12日 地球 アフリカ方面

 

 式波・アスカ・ラングレーは激怒した。

 

 またかよ、と思ってはならない。

 地球連邦軍参謀本部直属空中機動艦隊所属スカル大隊とアフリカ方面軍のお陰で何とか欧州からの脱出に成功した。

 ストーク級グレイとその乗員並びに積み荷のエヴァ二機とそのパイロット達は、補給と整備のためにアフリカ方面軍ハルツーム基地へと入港した。

 原作ではティターンズの基地だったり地下に大戦時に行方不明となった気化爆弾が発見される等の物騒な場所なのだが、この世界線ではそうしたフラグの類は全てトレミィ達によって確認・管理されている。

 そんな訳で十全に補給と整備、そして半舷休暇となったクルー達は三日間羽を休める予定だった。

 だったのだ。

 

 基地への物資搬入に使う貨物列車が擬装されたBF団のロボットで、そいつとそいつに積載されていた無人攻撃ヘリ並び歩兵部隊によって基地が壊滅するまでは。

 

 流石はBF団、その隠蔽と手際、戦闘能力は地球連邦政府がガチで警戒するだけはある。

 士気旺盛かつ精鋭なアフリカ方面軍ハルツーム基地を奇襲効果もあったとは言え壊滅させる程なのだから!

 貨物列車に擬装していた特機、維新竜・暁という名前らしいが、モグラの様な本体に蛇の様な長い貨物列車状の後部パーツを持った機体は全長100m近く、火力こそ低いものの特機特有の頑丈さも併せ持っており、その後部から発進した無数の無人戦闘ヘリからの攻撃で基地施設全域が瞬く間に火の海にされていく。

 何とか生き残ったストーク級グレイとそのクルーは自分らが目的と宣うBF団にブチ切れながら、しかし戦力的に劣っている事から大慌てで逃げ出すのだった。

 勿論、全方位通信でハルツーム基地の窮状を伝えながら。

 BF団の無法に、世話になったハルツーム基地の人々が殺された事に、アスカは激怒した。

 そして、何よりもその惨劇を見ながら何も出来ない己にこそアスカは激怒した。

 

 そこからは再び逃避行の日々だった。

 

 今度はインド洋に出て、そこから東南アジアをを超えて極東方面を目指す。

 幸いにもムゲの小規模部隊に遭遇する事はあったが、その程度は最早慣れた彼らはあっと言う間に蹴散らした。

 対艦攻撃もエヴァ用に大型レールガンやポジトロンライフル、対艦ミサイルポッド等が追加されたために万全であり、彼らの旅路は順調だった。

 問題はインド洋を超え、東南アジア方面に入ってからの事だった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年8月15日 地球 東南アジア方面

 

 「! 対空警報!各対空火器、自動迎撃始め!」

 「第一種戦闘態勢発令!機動兵器部隊は全機出撃、エヴァ二機も出すんだ!」

 

 順調に行けば極東まで後一日という所で、東南アジア特有の熱帯雨林のジャングルの中から、不意に対艦ミサイルが飛翔する。

 無論、ミノフスキー粒子も無い状態で、そんなものに当たる程地球連邦軍の対空迎撃システムは杜撰ではない。

 対空機銃が即応、全ての対艦ミサイルを撃ち落とす。

 

 「ミノフスキー粒子感知!レーダーの精度が低下!」

 「今のミサイルに紛れ込ませていたな…各員、索敵を密にしろ!敵の本命が来るぞ!」

 

 通常の対艦ミサイルだけでなく、ミノフスキー粒子を封入した容器入りのミサイルを迎撃した事により、索敵精度が大きく落ちてしまう。

 一年戦争の後、ミノフスキー物理学は大きく進歩してきた。

 軍事・民事・純物理学の全てにおいてだ。

 中でも軍事は著しく、ミノフスキー式核融合炉に始まり、射撃や格闘用のビーム兵器、そしてミノフスキードライブすら誕生した。

 だが、その最も単純な方法である周辺への散布への抜本的対策は出来ていない。

 観測員の増員に光学センサーの増設を始めとした光学・目視確認の徹底、更にミノフスキー粒子の電子機器への影響を防ぐシーリング技術の発達。

 それらを以ても尚ミノフスキー粒子の電波(マイクロ波~超長波)、一部の可視光線、赤外線を漸減吸収する特性によるジャミング効果からは完全には逃れられない。

 即ち、有視界戦闘こそが重要となる。

 

 「さ、三時の方向に機影確認!特機サイズです!」

 

 雲を突き破って現れたのはGR3、BF団の開発した空戦用ロボット兵器である。

 背面の飛行ユニット並びに全身の各所に設置されたスラスターによって飛行する。

 装甲こそ他のGRシリーズには劣るものの、空中における高い機動性能を誇る機体だ。

 

 そんな機体が、音速を置き去りにして突撃してきたのだ。

 

 指からミサイルをばら撒きながら突進してくる特機への対処となると、非常に限定的になる。

 そもそも特機はその性質上、一騎当千こそを主眼としている。

 これは特機がそもそも数の不利を覆すための決戦兵器であり、通常の生産ラインを確立した機動兵器とは全く異なる設計・運用思想を持っているからだ。

 即ち、滅茶苦茶凄いコストかかるけど超高性能な機体で、圧倒的物量の侵略者を蹂躙する。

 こうした性質を持つ特機が先手を取っての対艦攻撃である。

 こうなると同質の機体で迎撃・防御するか、機動兵器類で足止めする位しか対応策がない。

 そして、ストーク級グレイには欠陥品が2機と漸く出撃し始めたガーリオン隊、後は貧弱な対空機銃や各種ミサイルランチャーしかない。

 結果、必死の対空砲火を命中させるも有効打には至らず、すれ違い様に額から発射されたレーザーに機関部を貫かれてしまった。

 

 『ちょっと!落ちてる落ちてる!?』

 『あーこりゃもう駄目かも分からんね。』

 

 漸く艦上部に出てきたエヴァ二機が大慌てで海面に近付いていく艦にしがみ付く。

 

 「機関部大破!繰り返す、機関部大破!」

 「まだテスラドライブは生きてます!何とか海面には浮けますが…!」

 「付近に浅瀬を確認!そちらに行けば浅瀬に乗り上げる事が可能です!」

 「了解、何とかやってみます…!」

 「付近の友軍に救援要請を出せ!何処でも良い、何としてもお嬢さん方を送り届けるんだ!」

 

 こうして、ストーク級グレイは目的地の極東方面まで後少しという所で東南アジア方面、南シナ海の西沙諸島の浅瀬へと座礁する事となった。

 

 「…ぐっ!状況報告!」

 「機関部大破!それ以外は軽度の損傷ですが、テスラドライブに負荷がかかりました!現在、緊急停止している模様!」

 「復旧急げ!付近に友軍は『おおっと、そこまでだ諸君。』っ!?」

 

 突如繋げられた通信に、グレイのブリッジクルーが固まる。

 

 「通信?メインモニターに出します!」

 『私はBF団十傑集が一人、眩惑のセルバンテス。諸君らの健闘に敬意を表し、降伏を勧告する。』

 「何…?」

 

 中東の富豪、より具体的に言えばアラブの石油王と言われても違和感のないターバンを頭に巻き、白いスーツに身を包んだ男性。

 その顔にはドジョウの様な髭と奇妙な傷跡があり、そして大きなサングラスでその目元は分からない。

 だが、その口元だけは笑みの形を取り、紳士的と言っても良い言葉を述べる。

 

 『先のハルツーム基地襲撃、更に欧州からの脱出劇、実に素晴らしい。ここまで我々BF団の手を逃れた者はそういない。優秀な者、未来ある若者は人類の宝だ。それを無暗に失わせる様な事は我々も望む所ではない。ここで降伏し、無意味な抵抗を止めてくれれば、我々は当初の目的以外は何もせずに立ち去る事を誓おう。』

 「…こちら、本艦の艦長を務めるオットーだ。当初の目的とは何か聞いても良いかね?」

 『我々の目的、それは貴艦の積み荷であるエヴァ2機とそのパイロットだよ。』

 「『『ッ!』』」

 『さぁどうするかね?このまま抵抗されたとしても、我々としては手間が増えるだけの事。既に状態はチェックだが。』

 

 周囲を見ると、一時的に戦闘は止まっているが、海からは続々と量産型GR2が、空中からは量産型GR3が現れて、既に周辺を取り囲んでいる。

 セルバンテスの言う通り、既に状況は詰んでいた。

 だが、もしセルバンテスの言う通りにしたら、それは年若い少女二人を生贄にして助かった事に他ならない。

 

 「…セルバンテス殿、機体だけでは駄目かね?パイロットはどちらも年若い、未来ある少女なのだ。」

 『貴官の言いたい事は分かるが、任務内容には彼女達も含まれる。無論、彼女らの扱いは私が責任を持って非人道的なものにはしないと誓おう。』

 「ぬぅ…。」

 

 正直な所、驚異的な戦力を持つものの正真正銘のテロリスト集団に年若い少女二人を引き渡す事、それも部下と自分の命を守るためにそんな事するのは、連邦軍人としても一個人としても憚られた。

 

 (だが、このままでは皆殺しになる…!)

 

 既に敵の物量はこちらの三倍以上であり、特機の端くれとは言えケーブル付きの欠陥機という荷物と疲弊したガーリオン隊でどうにかなる戦力差ではない。

 

 『さぁ、返答は如何に!』

 

 『そこまでです!』

 

 『おお!?』

 

 非情な決断をせねばならないか、そう思っていた時、不意に通信に別の音声が混じる。

 

 『行け、ジャイアントロボ!』

 

 ストーク級に迫りつつあった量産型GR2、それらの後方の海域から大量の飛沫と共に全身をマントに包んだ同サイズの特機が現れる。

 

 『おおお、まさか、君か大作君!』

 『お久しぶりです、バンテスおじさん!』

 

 挨拶もそこそこに、量産型GR2が反応する前に海中より現れたジャイアントロボが奇襲を掛ける。

 その全身はマント、否、外套であるステルスクローク(安心と驚愕のA.I.M製)に包まれており、大抵のレーダー・センサーの類は潜り抜けられる。

 熱量も水中にいる事である程度誤魔化されてしまい、ここまでBF団側が気付けなかったのだ。

 

 『ロボ、グレイを守るんだ!』

 

 グォォォン!

 

 独特の稼働音と共に、応える様にジャイアントロボが暴れ回る。

 あっと言う間に2機のGR2を破壊し、その背後にグレイを庇い、防戦の構えを見せる。

 

 『バンテスおじさん、例え貴方でもBF団の好きにはさせません!』

 『ははははは、これは痛快!しかし、私とてこのまま引き下がる訳には行かんのだよ。やれ、GR3!』

 

 命令と共に、上空に待機していたGR3の部隊が空中から大量のミサイルを雨霰と降らせる。

 ジャイアントロボはその装甲で耐えられるだろうが、背後のストーク級グレイは到底耐えられないだろう。

 

 「各対空火器、自動迎撃始め!」

 「他各砲座も敵機動兵器に対して撃ち方始め!」

 「ガーリオン隊、何をぼさっとしている!戦闘開始だ!」

 

 だから、グレイとそのクルーは自ら動き始めた。

 

 『こちら国際警察機構所属エージェント、草間大作並びにジャイアントロボです!これより共同して戦闘を開始します!』

 「こちらこそ救援感謝する、助かった!だが謝礼は後だ、先ずはこの場を乗り切るぞ!」

 『はい!正面から来る敵は任せてください!』

 『エヴァ二機も出るわよ!止めないでよね!』

 『こっちも準備OK、何時でも行けるにゃーん。』

 「えぇいくそ、君達も行ってくれ!但しちゃんと生きて帰って来い!」

 『らじゃらじゃー。』

 『誰に言ってんのよ、誰に!そっちもこれ以上壊されないでよね!』

 

 こうして、戦闘は第二幕へと続いていく。

 

 

 

 

 

 

 『……………。』

 

 その戦闘に感付いて、沖合からゆっくりと海底を進んでくる影に誰も気付かぬままに。

 




ステルスクローク(強化パーツ)

外見はエヴァ弐号機初登場時のマント。
機体に軽度のステルス能力を付与するが、本格的な電子戦機や偵察機には発見されてしまう。
また、ある程度の対ビーム能力を持つ。
ご存知安心と驚愕のA.I.M製。
特殊・特務部隊向けに一定数が販売されている。


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小ネタ会話集その5

いつものムロンさんからのネタ提供です。
毎度ありがとうございます。


・飛べない改め飛ばせてもらえないパトレイバー 時系列不明

 

 「シゲさーん。どうしてもアルフォンスは飛べないの?」

 「いやね。飛ばすことはできるよ?テスラドライブでも調達して、うまい具合にイングラム用に最適化して、それ用のプログラム組めばさ。」

 「じゃあできるんじゃない!?」

 「結局あれも推進剤は使っちゃうからさぁ。噴射炎がマズいってんで街中で使うわけにゃあいかんのよ。第三世代のテスラドライブならその心配もないけど、あれはまだテスラ研で試験中だし。あーあ、俺だって弄くりたいのになぁ」

 「あのな野明。いくら量産されとるとはいえ、そんなもん搭載したらただでさえ高いイングラムの値段が跳ね上がるだろうが。」

 「泉ぃ、それ以前に飛ばすとなるとお前がそれ用の資格試験通らないとどうにもならないよ?」

 

 原作とは異なりレイバーを飛行させるにあたって必要な技術的課題はとっくにクリアしているものの、やはり道交法と予算はどうにもならず、結局「空飛ぶパトレイバー」の夢は潰えるのだった。

 

 

・奥様(予定)は特機乗り? 時系列不明

 

 「ひろみちゃん、その写真何?」

 「これですか?僕の学生時代の写真ですよ。荷物整理してたら出てきたんです」

 「へぇぇ、あれ?隣に写ってる美人さんは?」

 「彼女ですか?僕の許嫁ですよ」

 「許嫁ぇぇぇぇ!!?というかこの制服もしかして!」

 「彼女は沖女に通ってたんですよ。今は宇宙(ソラ)で艦隊勤務だとか。」

 

 特車二課の優しい巨人、山崎ひろみ。

 その彼を乗りこなす女性は彼よりも遥かに巨大な鋼の巨人を駆り、今日も太陽系の平和を守っている。

 

 

・ドーン・オブ・ザ・デッド(メカザウルスver)? 新西暦186年後半

 

 「(゜ロ゜;?ここはどこ?」

 「あ!起きたんですね、おタケさん」

 「泉巡査?ええ、たった今ね。ところでちょっと聞きたいんだけどここはどこなの?」

 「軍の病院だよ。あのメカザウルスゾンビの血を浴びたから念のため検査だって」

 「メカザウルス……ゾンビ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 「ああっ!?おタケさん!ちょっ、看護士さーん!!」

 

 先日のUMA事件を受けて本格調査の必要性が提言された特車二課地下に広がるトンネル群。

 レイバーの進入すら可能なこの空間をしらみ潰しにすべく第2小隊の全レイバーと指揮車が投入されることとなる。

 そんな特車二課をトンネル最奥で待ち受けていたのはUMA事件の被疑者が乗り捨てたメカザウルスであった。

 奇跡的に生存していたメカザウルスは顔面を始め生体部分が半ば壊死し、機械部分の生命維持システムを用いることで辛うじて生存している状況であり、早急な栄養補給、要するにエサを必要としていた。

 案の定襲いかかられる特車二課は死にかけとはいえ準特機とも言えるメカザウルスには歯が立たず逃げの一手。

 通報を受けて緊急出動したMS部隊の一斉射撃によってメカザウルスは始末したものの、着弾時に至近距離にいた第2小隊はメカザウルスの体液を被ってしまうこととなる。

 なお「メカザウルスゾンビ」とは腐敗しかけていたその姿から便宜上呼称されているだけであり、Tウィルスやトライオキシン245を投与されたわけではない。

 ちなみに現場での指揮を後藤隊長より委任されていた熊耳巡査部長はメカザウルスゾンビとの遭遇時に気絶。

 覚醒したのは病院に搬送された後だった。

 さらに今回の一件については稼動可能なメカザウルスを見落とすという軍側の不手際が大きかったことから二課の被った被害は軍の予算から抽出して補填。

 それに平行して沿岸部の水中レーダーや聴音機といった監視網の一新、下水道をはじめとした地下の総点検が行われることとなる。

 棚ぼたで予算貰った海軍は大喜びだったが、各地の警察は微妙な顔になったと言う。

 

 

・火の1ヶ月(AV製作未遂事件後日談) 時系列不明

 

 「よし燃やせ。」

 「ちょっ!班長さすがにそれはちょっと…」

 「心配するなシゲ。21世紀の頃と違って最近のプラスチックは焼いても有害物質は出さねえ。おめぇも知ってるだろ?」

 「いやその…そう言うわけではなくてですね。やつらもほんの出来心だったわけですからもう少し容赦していただくとかは…。」

 「うるせぇ!だいたいテメーが甘めえ顔するからコイツらこんなせこせこした真似をしでかすんじゃねぇか!早く燃やせ!もたもたしてるとテメーら全員海に叩き込むぞ!」

 「は、はい!ただいまぁ!!」

 

 件の合同訓練以降、若さをもて余す整備班は何かに目覚めた。

 イングラムや指揮車から削除されたはずの各種データを密かに持ち出した彼らはその持ちうる技術の総力を結集。

 廃棄されたレイバーのプラスチック部品や自費で購入した各種素材を用いて「人間大ヴァルシオーネ」フィギアの作成に成功。

 それに飽きたらず「1/144ヴァルシオーネフィギア」やヴァルシオーネをヒロインにした18禁エロゲや抱き枕、○っぱいマウスパッドなどを製造。

 しかも姑息にも一部デザインを変えたりして「あくまであれから着想を得た別物」として製造してた。

 尚、エロゲの音声はテレビや動画配信サイトから音声データ抜き出して合成した。

 自分で使うだけにとどまらず同好の士に相応の価格で販売するなど無法の限りを尽くした。

 しかし!古今東西に渡り悪の栄えた試し無し!

 特車二課の支配者たる榊清太郎整備班長に事は露見。

 販売した各種商品を自費で回収させた上でその全てと製造に使用した各人のPC全てを焼却処分とした。

 この懲罰を以てしても榊班長の怒りは収まらず、整備班総員の涙ながらの土下座が行われるまでの1ヶ月に渡って厳正なる綱紀粛正がなされることとなる。

 なおこの1ヶ月の間、整備班員は南雲しのぶ小隊長を含めた二課女性職員からゴミをみるような視線を浴びせられ続けたのは言うまでもない。

 

 

・火の1ヶ月の真意 時系列不明

 

 「バッキャロウ共め…。」

 

 榊班長は純粋にキレたのもあるけど、偉いさんの娘(の機体)ベースのエログッズなんぞ露呈したら自分はとにかく整備班が逮捕されるか路頭に迷いかねないので必死に事態を収拾しようとしてこうなった。

 整備班への怒りの大きさは即ち、おやっさんの親心の大きさだったのだ。

 そして、やらかした馬鹿息子共へのおやっさんの躾は古今東西拳骨と決まっているのである。

 

 

・警察と連邦軍の合同訓練後 時系列不明

 

 「あのガルガウというメカ、良いな。」

 

 とあるマスコミの言葉。

 共和連合所属の軍需産業ことゴライクンルから研究用に5機購入されたガルガウ。

 他にも一般的な量産型機動兵器は一通り購入されているが、やはり最もインパクトが強いのがガルガウである。

 現在は操縦系統を地球産の特機のものへと交換、DFの搭載や主機関を縮退炉へと交換する等の改良を施して共和連合製の兵器との技術的融合に関する実験機にもなっている。

 しかし、恐竜帝国のメカザウルスとの誤認する可能性が高いとして正規軍には不採用になった本機だが、民間と軍人双方から妙に人気がある。

 そのため、当初予定していた教導隊用のアグレッサー(仮想敵機)だけでなく、広報にも活用していく事となった。

 

 

・警察と連邦軍の合同訓練後 時系列不明

 

 『あのガルガウというメカなんですが、映画の撮影に使用できないかと考えています。』

 「え、映画???」

 

 合同訓練後の連邦軍広報用窓口でのやりとり。

 結局話は広報部だけでなく連邦軍上層部にも行き、紆余曲折のやりとりの後に一機を非武装・出力リミッターを掛け、教導隊からパイロットを派遣する形で映画撮影に協力する事となった。

 映画の内容は「ゴジラVS」シリーズの最新作だとか。

 

 

・??? 時系列不明

 

 「は、ガルガウを映画撮影に使いたい?」

 「はい。映画の題名は未定ですが、何でもゴジラシリーズの最新作だとかで…。」

 「了承(0.1秒)。うちはスポンサーになってるよね?」

 「勿論です。」

 「何時でも追加で融資できるようにしておいてね。」

 「畏まりました。」

 

 太陽系最大勢力の最高権力者にして太陽系最大の大富豪な趣味人とその副官のやり取り。

 そうだよね、君はそういう奴だよね。

 なお、映画の完成は第一次α終了後の模様。

 

 




①原作にあった夢ネタ。さすがに飛ぶのは「まだ」許されないよ。

②「許嫁がいる(小説版)」というwiki情報と沖縄出身というプロフィールを元に考えたネタ。
特車二課って年齢分からない人がいてひろみちゃんもその一人。まあ大田が27なのでそれと同じかちょいした辺りを想定してみた。許嫁の人はこの世界のノリコやカズミの結構先輩になります。
というか許嫁も「エキゾチックな美人」って情報以外なんも分からんかった。
よく考えたらこの設定だとあの服装着こなす許嫁いるのかよ。(ひろみちゃんなら)許せる!

③幽霊嫌いのおタケさん。でも一部ドロッドロにとけて腐乱臭放つメカザウルスとか誰でもチビると思う。

④整備班のやらかし&綱紀粛清編。表沙汰になったら二課そのものは兎も角、整備班は下手すると前科が付いていた。

⑤ガルガウ、その行方。
しっかりプラモ化もされた。


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第40話 撤退戦その3

 新西暦186年8月15日 地球 東南アジア方面

 

 

 東南アジア某所の無人島とその周辺にて

 

 『くぅ…!ロボ、小型ミサイルだ!』

 

 戦闘は未だグレイ側が不利だった。

 

 『この、攻撃が通らない…!』

 『あのーガトリング全部弾かれてるんだけどー。』

 

 座礁した艦から延びるアンビリカルケーブル内でしか動けないエヴァ二機は盾役として動くが、ATフィールドは兎も角根本的に火力・出力不足のエヴァ二機では迫り来る量産型GRの足を止めるだけで押し返す事は出来ず、ジャイアントロボも多勢に無勢でどうしようもない。

 

 『くそ、こっちの攻撃が通らない!』

 『これだから特機って奴は!』

 

 また、ガーリオン隊も機動性は兎も角として圧倒的火力と装甲を持つGR3を相手に有効打を出せず、その行動を阻害する事しか出来ていない。

 そもそもこのGRシリーズ、特機だけあって非常に高性能だったりする。

 量産型グレートとは言わないが、その性能は既に生産の始まったグルンガスト弐式に匹敵する上、変形機構が無く、内部兵装が少ない分より低コストかつ頑丈になっている。

 加えて、BF団の手により本来のものに加えて、DFやマグネットコーティングが追加され、地球産無人機とは思えぬ性能を持つ。

 ガーリオンも悪い機体ではないし、エヴァ2機もATフィールドがあるし、ジャイアントロボに至ってはこの戦場で最も高性能だ。

 が、流石に質を伴った物量の差は(フル改造や精神コマンドでも無い限りは)如何ともし難いものがあった。

 

 『ふふふ、大作君、勇んで飛び出した割には蛮勇だった様だね。』

 『バンテスおじさん…!』

 『時には恥を忍んで生き延びる事も大切だ。今日はそれを知り給え!』

 『ぐぅぅぅ…!』

 

 遂には以前の焼き直しの様に、セルバンテスの操るGR2により、大作とジャイアントロボが抑え込まれる。

 元々この場所は遠浅の海、地の利は元々水中用であるGR2にあり、汎用性が高いとは言えど本来は陸戦用のジャイアントロボでは不得手だったのもあった。

 が、最大の理由はパイロットが十傑集の一人対未だただの子供である草間大作である事だった。

 当然、天秤が前者に傾く事は避けられない。

 

 『では、少々気が乗らないが躾の時間だ。』

 

 そして、BF団全機が一斉攻撃に入ろうという時…

 

 「! レーダーに感!高速で戦域に接近する機影あり!これは…ゲッター線反応!?」

 

 唐突に、彼らはやってきた。

 赤、白、黄の三機の戦闘機。

 それだけなら状況を好転させる事は出来ないだろう。

 だが、それは彼らの真価ではない。

 

 『チェェンジ・ゲッタァァァァァ1ッ!!』

 

 超々音速のまま、一切減速する事なく瞬時に合体・変形を完了したゲッターロボは、その勢いのまま手近な所にいた量産型GR3へと接近し…

 

 『ゲッター・トマホーク!!』

 『……!』

 

 勢いそのままに両肩から引き抜いた斧を叩き付ける。

 

 『硬ぇ!?』

 

 だが、両断できない。

 強化された筈のゲッター1の一撃を、GR3はGR2よりも薄い筈の装甲でものともせずに防ぎ切ってしまう。

 更には反撃に額から発射されるレーザー砲を至近距離から発射しようとする。

 

 『オープン・ゲッェェェト!』

 『チェンジ。ゲッター3!』

 

 即座に分離して散開、周囲から発射されるミサイルの雨を掻い潜り、今度はジャイアントロボを抑え込むセルバンテスのGR2へとゲッター3で突っかかる。

 

 『そぉら久々のゲッター3の出番でぇい!』

 『ぬぅ、折角の所で横槍を!』

 

 ド派手な衝突音と共に、GR2がゲッター3のぶちかましによってジャイアントロボから強制的に距離を取らせられる。

 

 『全機、ゲッター3とジャイアントロボに攻撃を集中せよ!』

 

 セルバンテスの命令に従い、BF団全機が包囲陣形を敷き、集中攻撃の構えを取る。

 しかし、それ即ち意識がその二機に集中し、それ以外が疎かになる事を意味する。

 

 「! さ、再度レーダーに感!高速で戦域に接近する機影あり!今度は光子力反応!?」

 『ぐ…おおおぉぉぉ…!キツイなこれ!』

 『ゲッターチームはこれ大丈夫って本当なの…!?』

 『テスラドライブが無ければミンチだったな…!行くぜマジンガーチーム!』

 

 その声と共に三機の黒鉄の城が姿を現す。

 

 『えぇい次から次へと!GR3、片付けるのだ!』

 

 流石に邪魔され続けてイラッと来たのか、セルバンテスが声を荒げて排除を命じる。

 それに応え、3機のGR3が黒い三機へと迫る。

 しかし、たかかが量産型特機程度、魔神の系譜たる偉大な勇者達を止められる筈も無い。

 

 『アトミックパンチ!』

 『グレートタイフーン!』

 『ブレストバーン!』

 

 マジンガーZの系譜たる彼らは、その代名詞とも言える武装を繰り出し、僅か一撃で迫り来るGR3が撃破されていく。

 

 『何と!GR3を一撃だと!?』

 『ハン!この程度の相手に手古摺る訳もない!』

 

 セルバンテスの驚愕を、しかし右肩に1と刻印された黒鉄の機体が笑い飛ばす。

 

 『その機体…そうか、君達が報告にあった次なるマジンガーか…。』

 『そうとも!こいつの、こいつらの名はグレートマジンガー!人類を守る新たなマジンガーだ!』

 

 グレートマジンガー。

 それが次世代のマジンガー、悪魔にも神にも成り得る魔神の系譜に連なる機体。

 

 『おいおい、前みたいに追い詰めたら暴走する、なんて事にはならないのだろうね?』

 『…!』

 

 セルバンテスのその言葉にグレート2号機、甲児が奥歯を噛み締めて前に出ようとする。

 それをすっと右腕を翳して止めると、鉄也はセルバンテスに獰猛な笑みを返す。

 

 『ははは、十傑集ってのは安い挑発しかできないのかい?その為体じゃ、このグレートを追い込むなんざ夢のまた夢に過ぎんな!』

 『ふはは、言ってくれる!そういえばその機体のデータはまだ収集し切れていなかったな、暴走するかどうかも確かめてあげようじゃないか!』

 

 セルバンテスの言葉の直後、グレート1号機の急降下と量産型GR2の迎撃はほぼ同時に起こった。

 

 『GR2、ロケット…!』

 『ドリルプレッシャー…!』

 

 両者は互いにその拳を肘から先を分離、射出しようとするも、既に互いの位置は至近距離。

 必然、射出だけでなく普通の拳撃を放つ様に互いの拳を相手の拳へと打ち付け合う。

 

 『『パンチ!!』』

 

 互いに特機であり、酷似した武装を持つ両機。

 しかし、その勝敗の結果は余りに明白だった。

 

 『何と!?GR2が!』

 

 グレートマジンガーの拳は分子構造変更機能によって、瞬間的に状況に最適な形状、鋭角な破城槌にも似た形状へと拳を変形、前腕はドリルの様ならせん状の刃が浮き出て、高速回転しながらGR2の拳を、腕を、肩を、胴体を、全ての装甲と内部構造をものともせずに突き進み、粉砕し、貫徹する。

 直後、GR2は木端微塵に爆散した。

 たった一撃で、同じく特機とカテゴリされているGR2を陸上で、GR3を空中で撃破せしめる圧倒的戦闘能力にセルバンテスをして戦慄する。

 

 『これは遊び半分では無理だな。』

 

 そう納得し、同時した消耗した現有戦力では無理だと判断した。

 

 『では、また会おう!』

 『逃がすかぁ!!』

 

 アスカの怒号と共に、弐号機が機体を失ったセルバンテス目掛け残弾を気に掛けない全力射撃を見舞う、が、当然の様に回避される。

 

 『嘘、何で!?』

 『ははははは、まだまだ若いなぁ!』

 

 確かに照準をしてから撃った筈だった。

 だが、気付けばセンサーは全く別の位置を指している。

 しかし、そこにセルバンテスはおらず、かと言って視線の先にはセンサーは何も無いと告げている。

 否、それ所かセルバンテスを指していた筈の生体反応は次々と増えている!

 

 『先程も名乗っただろう?私は眩惑のセルバンテス。機動兵器のレーダーを欺く等、私にとっては御茶の子さいさい。』

 『く、そぉ!』

 『それに、私ばかりにかまけて良いのかな?』

 「! 付近の海域から巨大な生体反応を感知!このエネルギーパターンは…使徒です!」

 「馬鹿な!何で気付けなかった!?」

 

 グレイのブリッジクルー達の叫びを他所に、海からは陸に乗り上げる形で巨大な鯨や魚に似た形態をした巨大な使徒が現れる。

 第六使徒ガギエル、エヴァが主目的とする敵が唐突に現れたのだ。

 

 『言っただろう、レーダー位誤魔化せると。』

 『まさか、この巨大質量を隠蔽していたのか!?500mは超えてるんだぞ!』

 『ははははははは!では諸君、また会おう!』

 

 オットーの悲鳴染みた絶叫を他所に、浅瀬だろうが岩礁だろうが島の上だろうがその巨体をウナギの様にくねらせて、ガギエルは暴れ回る。

 GR2と3達は自動操縦に切り替えられたのか、ガギエルの攻撃範囲から避けつつ、再度攻撃を開始してくる。

 

 『あの髭グラサン、何時か絶対に引っこ抜いて吠え面かかせてやるー!』

 『まーまー、今は使徒と敵機の撃破を優先しよーよー。』

 「とは言え、戦況は好転した。押し返すぞ!」

 

 吠えるアスカをマリが宥め、オットーが音頭を取って反撃が始まった。

 

 

 ……………

 

 

 第六使徒ガギエル。

 他には無い水棲型の使徒であり、水中を約500mという巨体でありながら機敏に動き回る。

 射撃兵装こそ皆無だが、その圧倒的質量による突進や噛み付きによる攻撃は脅威だ。

 旧式の海上・海中艦艇の類であれば、例え大艦隊であっても蹂躙できる程の戦闘能力を持つ。

 が、空中の相手には鯨やイルカ、シャチに鮫よろしく大ジャンプしての噛み付きや突進程度しか出来ないという欠点を持つ。

 …こいつをデザインした第一始祖文明こと第六文明人は一体何を考えていたのだろうか?

 しかも、スパロボFだと一度だけ登場し、撃破できないとターン経過で撤退する。

 撤退後はエンディング後も生存しているらしい、いいのそれ???

 そんな突っ込み所多数のガギエルだが、グレイという防衛目標がある現状、実に厄介である。

 

 キシャアアアアア!!

 

 『こ、の…!気持ち悪いのよ!』

 『ちょ、こっちは出力あんまり上がんないってのにぃ…!』

 『が、頑張れロボ!』

 

 なので、グレイに向かって突進された場合、防衛のためにエヴァ二機とジャイアントロボが何とか押し返すか反らそうとせねばならない。

 出来なければグレイが潰されるので、三人とも必死だ。

 

 『ばっか野郎!力に負けてんのに押し合いなんかするんじゃねぇ!』

 『んな!?』

 

 自分より明らかに学力も無い武蔵に馬鹿野郎と言われ、カチンと来るアスカ。

 だがしかし、状況はそんな彼女の怒りに構わず進む。

 

 『相手の力が強いんなら、受け流すんだよ!』

 

 押し切られそうになった三機の足元、ゲッター3となって全長が下がったゲッターロボがガギエルの突進の受け止めに参加…しない。

 突進を受け止めるのではなく、その方向を変え、上手く反らし、グレイにぶつからない方向へとその巨大を流していく。

 

 『おおー流石ゲッターチーム!』

 『よせやい照れちまう!』

 『それより次来るぞ次!』

 『久々の出番だ、このまま決めちまいな武蔵!』

 『ほい来た!次で終わりだ鯨野郎!』

 

 そして、突入角を変えての再びの突進。

 今度はゲッター3のみがその進路上に躍り出る。

 場所は浅瀬、地形適応も角度も勢いもばっちり、ゲッター3が技を掛けるには絶好の条件だった。

 

 『来るぞ!』

 『武蔵、しくじるんじゃねーぞ!』

 『任されたぁ!』

 

 ガギエルの何度目ともつかない突進。

 それを正面から受け止めず、左脇から力を逃がしながら、その巨体を強引に掴み取る。

 質量と運動エネルギーの差によって、本来ならそのまま引き摺られていくものだが、腕部の伸縮機構を最大限活用しながら、ゲッター3は決してその手を放さない。

 ATフィールド?ゲッターロボ三形態の中で最も馬力のあるゲッター3の前では描写もなく易々と引き千切られた。

 そのまま履帯でしっかりと地面に食らい付きながら、超信地旋回を行う。

 自身の突進の勢いを遠心力として利用して行われる旋回を、空中では無力なガギエルは止める事は出来ない。

 回転は止まらずにどんどん加速し、盛大に地面が抉れ、海水が流れ込んでくるが気にせず、更に回転速度が上がっていく。

 

 『うおおおおお!大・雪・山・おろしぃぃぃぃぃぃ!!』

 

 遂には局所的な竜巻とも言える現象が起き、ガギエルは天高く舞い上げられた。

 そのまま落ちても大したダメージにはならないだろう。

 だが、既に周辺での戦闘は終息していた。

 即ち、三機のグレートマジンガーにジャイアントロボ、エヴァ二機とガーリオン隊はこの時フリーだった。

 

 『全機、集中攻撃!』

 

 オットー艦長の声と共に、その場にいた全ての機体から一斉に攻撃が放たれた。

 グレイとガーリオン、エヴァ二機のミサイル、ガトリング砲、レールガン、ポジトロンライフルが。

 ジャイアントロボのロケットバズーカと大小のミサイル、スポンゾン砲が。

 そして三機のグレートマジンガーのサンダーブレークが上昇から落下に転じた瞬間のガギエルへと一斉に炸裂する。

 その大火力を前にしてはATフィールドも濡れた障子紙程度のものでしかなく、ガギエルは塵一つ残す事も出来ずに消滅した。

 

 

 この戦闘を契機に、エヴァ二機の輸送任務は東南アジア方面軍へと移行、4機の民間所属特機に護衛されながら極東方面へと運び込まれたのだった。

 こうして、ストーク級グレイとエヴァ二機の短くも濃密極まりない逃避行は終わりを告げたのだった。 

 

 

 

 

 

 後日談

 

 「君達は艦の修復が完了次第、原隊に復帰。欧州戦線の支援に回ってくれ。」

 「」

 

 オットー艦長以下グレイのクルー、無情のUターン宣言。

 でも艦が修復するまでは休暇だよ!

 




セルバンテス
「実はあの使徒、戦闘中に見つけて直ぐに私の眩惑で催眠状態にしていたのさ。」
「第四使徒よろしく捕獲しようとも思ったのだがね。どうにも維持費を考えると効率が悪いという事ではてどうしたものかと考えていたのだが、押し付ける相手が来てくれて本当に助かったよ。ありがとう!」

ガギエル
「訴訟も辞さない…!」

シャムシェル
「それオレの現状見て言える???」


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第41話 暗闘

幕間的なお話その1


 新西暦186年8月7日 地球 極東方面 第二新東京市郊外

 

 第二新東京市の郊外の森から、今しがた戦闘の終わった街をアルベルトは葉巻で一服しながら眺めていた。

 それは新たな勢力であるアインストの戦闘データの収集でもあり、あの若者達の戦いを見るためだった。

 

 「アルベルト様、ここに居られましたか。」

 「イワンか、遅かったな。」

 「申し訳ございません。何分、ムゲとここで鉢合わせるのも不味いため…。」

 「…まぁ良い。欧州の方はどうなっている?」

 「恙無く進んでいると報告を受けております。」

 

 BF団は本格稼働したGR計画に基づき、地球人類の各勢力並びに侵略者達の間引きや統廃合を開始していた。

 その一つが以前の侵攻時から接触を持っていたムゲ帝国軍を、今一つ地球連邦軍としての纏まりの薄い=軍備の手薄な欧州へと案内する事だった。

 現在、欧州は他の方面軍やコロニー駐留防衛部隊を合わせたよりも尚上回る物量と質によって蹂躙されている事だろう。

 これにより、欧州に巣食うロームフェラ財団並びにロゴス最過激派たるジブリール派は根拠地を失い、その勢力を大幅に縮小する。

 また、ゼーレにしても下部組織たるNERVがこうも醜態を晒しては、以前からの衰退も重なって、最早その勢力の維持は不可能だった。

 このまま行けば、後数年で完全に瓦解する程に、あの宗教狂いの老人共は追い込まれていた。

 それを良い気味だと思いながら、窮鼠猫を噛む、最後の賭け次第によっては自分達が引導を渡す必要がある。

 それはそれとして気に食わない事がアルベルトにはあった。

 

 「ふん、侵略者共の片棒を担ぐのは不快だが…。」

 「あ、アルベルト様?まさか…」

 「ふん!」

 

 背後に控えていたイワン目掛け、否、その背後にいた存在に向け、アルベルトは衝撃波を放つ。

 慌てつつもBF団のB級エージェントの一人であるオロシャのイワンは回避に成功、衝撃波はアルベルトの狙い通りに背後からこちらを伺っていた人物へと真っすぐ突き進み…

 

 「フン!」

 

 パァン!と、盛大な破裂音と共に衝撃波は霧散した。

 森の木々の影からゆっくりと姿を現すその人物に、イワンはぎょっと目を見開いた。 

 

 「き、貴様は、マスターアジア!?」

 「アルベルトよ、貴様もう少し部下を鍛えてやるべきではないか?」

 

 筋骨隆々に鍛え抜かれた肉体を薄紫の太極拳服に包んだその男。

 流派東方不敗の開祖にしてシャッフル同盟が長。

 ガンダムファイターの頂点、ガンダム・ザ・ガンダムの称号を持ち、初の殿堂入りを果たした男。

 彼こそが名実共に最強のガンダムファイター、東方不敗、マスターアジア。

 この世界においては良き弟子を、友を、宿敵を、大儀を、万全な肉体を持つ彼は、正しく東西南北中央不敗スーパーアジアと言える状態だ。

 

 「耳が痛いな…イワン、後で久々に揉んでやる。良いな?」

 「は、は!」

 「で、久しいな、シュウジ・クロス。息災な様だな。」

 「無論。で、どうだった、ワシの馬鹿弟子は?」

 「素晴らしい。まだまだ粗削りながら、あぁも粋の良い弟子を持てた貴様が羨ましいぞ。」

 

 一見して和やかな会話が続いている。

 しかし、居合わせたイワンは徐々に二人の間で高まる闘気のうねりに盛大に顔を引き攣らせる。

 彼は分かっているのだ、この二人の本気の戦いに巻き込まれたら、自分なんて簡単に死んでしまう事を。

 

 「して、先程は随分と興味深い事を話しておったな?」

 「ほう、貴様が興味を持つとは珍しい事もあるな?」

 

 にっこり、にっこり、と。

 二人は笑みを交わし合う。

 その場にいたイワンは目を反らす事も出来ず、顔を蒼褪めながらじりじりと距離を取る。

 誰だって特機同士の戦闘に至近距離で巻き込まれたくはない。

 況してやこの二人は長年決着の付かない腐れ縁とも宿敵とも言われる間柄。

 その戦闘は十傑集同士の殺し合いに匹敵するか、或いは上回る可能性すらあった。

 尚、周辺の野生動物は先の市街地の戦闘の頃からとっくに逃げ出している。

 

 「アルベルト。貴様、侵略者共の片棒を担ぐとは、どういう意味だ?」

 

 ビシリ、と。

 東方不敗から漏れ出た怒気によって、森の地面や木々の表面に亀裂が走った。

 東方不敗は地球を愛し、人々を愛し、平和を愛し、武を愛す。

 故にこそ、己と同格の武の持ち主が非道を行った事に怒りを燃やしていた。

 

 「全ては我らがビッグファイア様のため…と言っても納得いかぬだろうな、貴様は。」

 「言うまでもない。」

 

 すっと、両者が構える。

 その瞬間に、脂汗が全身からだくだくと流れていたイワンは脱兎よりも早く駆けだした。

 

 「今度こそ、我が拳によって貴様を倒す。」

 「ほざけ、表舞台に出て平和ボケしたアホが!」

 「貴様こそ、娘愛しさに親馬鹿になりおって!」

 「サニーは関係ないだろうが、サニーは!」

 

 そんな悪ガキ同然の罵り合いと共に、最上級の特機同士の戦闘に匹敵する生身の人間同士の戦いが始まった。

 

 

 

 後日、ちょっとボロボロになったアルベルトにイワンはしっかり絞られた(瀕死)。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年8月7日から始まったムゲ帝国軍の再侵攻に対し、地球連邦軍の対応は的確だった。

 欧州を除いた多くの方面軍とコロニー駐留部隊はその装備と訓練の成果を遺憾なく発揮し、襲い来るムゲの殲滅に成功した。

 一方、ロームフェラ財団とジブリール派の専横極まる欧州は末端は兎も角として、上位の人員の多くが両派閥の横槍人事や縁故採用であったがために、計画的な防衛・撤退戦も出来ず、ムゲの新兵器たるメガロプレッシャーと精神攻撃兵器たる量産型ギルバウアー、更にデスガイヤー将軍率いる精鋭部隊の存在によって蹂躙されていった。

 僅か一か月、それが旧英国領を除いた欧州方面全土がムゲ帝国軍によって陥落するまでの時間だった。

 しかし、逃げ遅れた民間人の多くは安心と驚愕のA.I.M製大深度地下シェルター群に避難し、半年は軽く籠城可能になっている。

 では、シェルターに入る事も出来なかった僅かな民間人はどうなったのか?

 それはとある人物らの活躍によって、辛うじて欧州の地から脱出する事に成功する。

 

 『皆、剣を執り給え。我らスペシャルズは、ノブリスオブリージュを果たす。』

 

 トレーズ・クシュリナーダ准将。

 潰走する友軍と逃げ惑う人々、それに襲うムゲの軍勢を前に指揮系統も実質壊滅したティターンズを抜け、上層部の多くがあっと言う間に逃げ出して混乱する古巣のスペシャルズの残存部隊、更には一部で未だ儚い抵抗(時間稼ぎに過ぎないと分かっているが)を続ける連邦軍残存部隊を糾合し、彼は立ち上がった。

 

 『民間人の避難誘導並びに味方主力部隊の撤退を支援する。人が生き延びさえすれば、地球連邦は、我らが故郷たる欧州は必ずや再起する。各員の奮励と努力を期待する。』

 

 彼の放つ圧倒的なカリスマに統率を失い、指揮官や友軍に見捨てられ、それでも市民を守るべく奮闘していた各残存部隊はその指揮下に入った途端、頑強な抵抗を見せ始めた。

 

 『ノイン、ワーカー、両翼は任せる!トールギスⅢ隊は私に続け!』

 

 更に撤退中の護衛を命じられながら、それをブッチしてきたゼクス・マーキス少佐率いるトールギスⅢ一個中隊(第一小隊はノイン、第二小隊はワーカーがそれぞれ小隊長を務める)が参戦。

 各所でVFに匹敵する圧倒的機動性を活かした一撃離脱戦法や斬首戦術を繰り出していく。

 欧州全体に広がり、各所が手薄となったムゲ軍の隙を突く形で各所で混乱を巻き起こした。

 このトールギスⅢ、新型主力機開発計画にて改装されたトールギスⅡをムーバブルフレーム・DF・マグネットコーティング・テスラドライブを初めとした他の最新鋭主力量産機に採用された技術を搭載前提で再設計した機体である。

 外観は頭部だけそのままに、他の部分がトールギスⅢとなった他、背中にはテスラドライブを内蔵している。

 主兵装はスペシャルズの採用しているロームフェラ製MS用汎用兵装各種を装備可能となっている。

 他にもコネクタの調整とFCSの制限解除で連邦軍のMS用汎用兵装各種も装備可能になる。

 ここら辺の武装の互換性の低さはロームフェラだから、としか言い様がないが、現場の兵士達によって普通に解除されて運用されている。

 一応設計段階から連邦軍MSの共通規格たるユニバーサルコネクターに対応しているのを、生産時にリミッターを掛けているのだから、ロームフェラ財団もお疲れ様としか言いようがない。

 が、現場を知る実際の生産側はその辺を巧みに誤魔化して、多少の調整で武装を共用できるようにした辺り、まだまだ完全に腐ってはいないのだろう。

 そのお陰で現在の欧州の地では、数々の連邦軍のMS用汎用兵装を装備したトールギスやリーオーが見られた。

 彼らの活躍と前線のまともな兵士達の死にもの狂いの活躍により、辛うじて戦線の後退速度は下がっていった。

 だが、彼らの活躍も長くは続かなかった。

 必死に必死を重ね、死力を尽くし、民間人を逃し続けても、欧州に援軍は来なかった。

 何処の方面軍もロームフェラの貴族共とジブリールの過激なやり方を気に入っておらず、今回の事も自業自得だと白い目を向けていたのだ。

 辛うじて火消し役として第一次侵攻の出鼻を挫き続けた地球連邦軍参謀本部直属の空中機動艦隊が駆けつけてくれたが、エースパイロット以上しかいない彼らの活躍を以てしても、既に欧州方面の陥落は時間の問題だった。

 連邦軍参謀本部は必死に本格的な増援部隊を編制しようとしたのだが、しかし、漸く各方面軍のムゲの掃討が完了し、編成が始まろうと言う8月の末には欧州は陥落してしまった。

 

 『潮時か…。各員、部隊を再編成し、アフリカ方面へと撤退する。君達は誉れある地球連邦軍の兵士。これからの戦いのためにも、先ずは生きてここから脱出しよう。』

 

 自らも専用のトールギスⅢを駆りながら、トレーズは欧州きってのエース・オブ・エースとなったゼクスと共に殿を受け持った。

 一週間もの撤退戦が続き、生き残ったのは僅かな兵達だった。

 欧州最精鋭とされたトールギスⅢ隊も3割が未帰還、他の糾合した残存部隊も多くが壊滅所か消滅した。

 それでも彼らは生き残り、戦友と市民の遺骸を背にアフリカの大地へと辿り着き、アフリカ方面軍への合流に成功した。

 

 『私は必ず戻ろう。あの赤き欧州の地を取り戻しに。』

 

 これが若き天才にして後の地球連邦首相の苦難の時代だった。

 

 

 




なお、東方先生が気付かれたのは、アルベルトの言葉に怒りと困惑(あのアルベルトが侵略者と手を組んだとか嘘やろ???)で動揺してしまったせいです。


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第42話 暗闘その2

今回は結構長いです。
そしてトレーズ閣下に関しては筆が進む事進む事w


 新西暦186年9月 地球 

 

 遂に欧州方面が完全に陥落、欧州亜大陸はムゲ帝国軍の手に落ちた。

 

 多大な消耗を強いられた欧州方面軍は辛うじて旧英国領へと脱出に成功、以降は小競り合いをしつつ、互いに次の戦いのための準備に入った。

 ムゲ帝国軍はムゲ宇宙からの物資並びに人員の集積と前線基地の構築、ゲリラコマンドの掃討を。

 欧州方面軍≒ティターンズとスペシャルズ他ロームフェラとジブリール派の勢力は形振り構わず戦力の再編並び増強に入っていく。

 辛うじて残っていた新型の量産機による有力な部隊の編制に、試作段階だった最新鋭機の実戦運用の決定。

 更に地球各地に残っていたコネクションを用いての物資や人員、更に一年戦争以前の旧式兵器すら掻き集めていった。

 ロームフェラ財団並びにスペシャルズは量産の開始されたばかりのサーペント、人工知能回りが完成していない有人仕様のトーラス、最新型にアップデートされたリーオー。

 更には旧式だが独自の水中用MS・MAのパイシーズとキャンサー、地上攻撃・爆撃用空戦MSであるエアリーズ。

 これまた旧式なれど欧州方面軍で辛うじて多くが無事だった海軍の水上艦艇群から成る艦隊戦力。

 ジブリール派はストライクダガーの最新アップデート仕様機を中心に、大量の61式戦車や未だ解体を免れていたビッグトレー級3隻、ヘビーフォーク級1隻。

 加えて、ロームフェラ財団にも秘密だった非合法NT研究所から試作段階だったギャプラン一個中隊とデストロイガンダムを強引に持ち出している。

 勿論パイロットは全員強化人間或いはブーステッドチルドレン(記憶処置済み)によって構成されている。

 更に手薬煉引いていたイスルギ重工からガーリオンを始めとした量産機から試作や少数生産で終わっていたAM系を多数購入する事で、辛うじて数字上は大戦力となっている(グラビリオンは全て予約済みだったので×)。

 

 

 サーペントはロームフェラ財団製の次期主力量産機として開発された汎用重MSだ。

 主機関はアナハイム産の最新のミノフスキー式核融合炉で、DF・テスラドライブ・マグネットコーティングを搭載し、ゲシュペンストに匹敵する防御力とそれに勝る射撃能力を持つ。

 リーオーに比べ重装甲・重火力・大出力の機体でありながら、脚部ユニットにホバー機能を持ち、テスラドライブの恩恵もあってドムに近い運用を可能としている。

 それでいて操縦系統はリーオー譲りの素直なもので、機体性能はトールギス系のデータをフィードバックした事で高性能に纏まっている。

 更にシンプルな形状のバックパックは交換を前提としており、容易に現地改修を行えるように配慮されている。

 固定装備は対歩兵・近接防御用に頭部に30mmバルカン×2、両肩に多目的8連装ミサイルランチャー×2、腕部にビームサーベル兼ビームガンを備える。

 固有の武装として艦載用対空機関砲を改修した90mmジャイアントガトリングガン(反動強過ぎ・弾薬消費多過ぎなので弾倉セットで重量増のため実質専用武装)がある他、既存のMS用汎用装備は全て装備可能になっている。

 本来はこの機体を指揮官機として開発中のMDが小隊を構成するのだが、そちらは開発が間に合わずに機体のトーラスのみが有人仕様で配備されるに留まっている。

 

 トーラスはロームフェラ財団製の次期主力可変型MSとして開発された汎用MSだ。

 主機関はアナハイム産の最新のミノフスキー式核融合炉で、DF・テスラドライブ・マグネットコーティングを搭載し、高い射撃能力を持つ。

 本来ならばMDシステムの搭載が計画されていたのだが、完成が間に合わずに有人仕様で実戦投入が決定した。

 その目玉となるのが航空機形態への変形機構であり、これにはアナハイムから購入したZ計画の可変型MSと独自に入手(違法)したVFシリーズのデータが取り入れられている。

 そのため、変形機構こそアナハイム系だが、マグネットコーティングの変形機構への流用等にはVFのデータが参考にされている。

 固定武装は頭部の可動式30mmバルカン×2(変形時は正面から機首方向に向く)、腕部のビームサーベル兼ビームガンとなる。

 基本兵装は空力に配慮した独特の流線形デザインを持ったロングビームライフルとなるが、他にもMS用汎用兵装は全て装備可能になっている。

 VFー1に比べ、大気圏内での機動性は劣るが、その分大気圏外ではほぼ同等の機動性を持つ。

 だが、通常の航空機が運用可能な場所なら何処でも運用できる上に大気圏と宇宙両方を無改造で運用できる程の高い汎用性を持ち、多数のオプションを積んで実績も確かなVF-1に比べると、それ以外の点では明らかに見劣りするのが現状だった。

 本来の設計通りMDシステムの搭載に成功していれば、ファストパック装備のVF-1すら脅かし得る高性能機だったのだが、有人仕様ではこんなものである。

 その有人仕様にしても可変機のパイロットが未だ育成途中であり、その性能を最大限引き出しているとは言い辛く、機体は凄いが色々と残念な状態になっている。

 

 ギャプランは連邦の旧NT研究所のスタッフが研究していた強化人間用試作可変MSである。

 アナハイムから購入したZ計画の試作可変MSのデータを元にしており、大気圏を離脱出来る程の大推力のスラスターを多数搭載している。

 勿論の事、DF・テスラドライブ・マグネットコーティング等の最新量産機の標準装備は搭載している。

 が、その圧倒的な大推力から来る機動性と抜群の感度を持つバイオセンサーによる過剰なまでに高い反応速度が曲者だった。

 何とテスラドライブがあるのにその過大なGに耐えられるパイロットが殆どおらず、実質的に強化人間・ブーステッドチルドレン(と一部例外)専用機になってしまったのだ。

 しかも試作可変機だけあって武装も少なく、ブースターシールドバインダーに内蔵されたビームライフルと腕部に内蔵されたビームガン兼ビームサーベルしかない。

 一応MS向け汎用兵装は使用可能だが、その機動性に耐えられるハードポイントの設置に困り、固定兵装のみになってしまった。

 色々欠陥を抱えているが、それでも性能は確かなために実戦運用する事になった。

 ネームドパイロットはゼロ・ムラサメ並びに4名のスクール所属ブーステッドチルドレン達。

 

 デストロイガンダムは連邦の旧NT研究所で研究されていた強化人間用試作大型MSである。

 一年戦争後、アナハイム社がジオニック社並びにジオンから入手したMAやNT技術、更に戦後に連邦側で行われた違法NT研究で培ったデータを元にNT用サイコミュ兵器の運用試験機が母体となっている。

 旧式のサイコミュを前提に設計されたため、機体頭頂高が約40mという特機に匹敵するサイズと重量を持つ。

 ファンネルやビット、有線式ビットにインコム等の実験の他、強化人間等による多数の武装の管理・使用の実験等にも用いられた。

 これはロームフェラもジブリールもアナハイムもホーミングレーザーやジガン系のマルチロックオン砲撃の完全再現に成功できなかったため、多数の武装とそれを的確に運用可能なパイロットとシステムで再現するという試みでもあった。

 そうした各種試験用機として稼働していた本機だが、ムゲ帝国軍の第二次侵攻により急遽実戦投入される事となる。

 ジオンから入手した砲撃用MAビグザムを元とした背部ユニットと鳥脚状態に可変する脚部、無線式のサイコミュである腕部はそうした事情の名残であった。

 が、実戦投入されるに当たっての最大の問題は火器管制やパイロットではない。

 そちらは主操縦者の強化人間とそれを補佐する通常のパイロット3人の四人乗りにする事で強引に解決した。

 最大の問題、それは本機の武装と機体双方にその性能を十全に発揮させ得るジェネレーターの不在である。

 縮退炉はA.I.Mの独占技術であり、下手にトチるとヤバいからと他社や連邦軍にすらその製造のための根幹技術は明かされていない。

 相転移エンジンやエーテル機関は宇宙でしか真価を発揮できないので不向きだ。

 ならばプラズマリアクターをと思ったが、ジブリールの強引極まるやり方を白眼視しているマオ社からは入手できず、手を変え品を変えて連邦軍の予備パーツを融通してもらおうとしたが、今まで散々好き勝手やった影響か、こちらもさっぱりだった(ジブリールは当然切れて、ムゲ潰したら次は貴様らだ!と喚いた)。

 そのため、辛うじて入手できたゲシュペンスト向けのプラズマジェネレーターをバックパックに4基、機体本体の胴体に2基、脚部に1基ずつの合計8基を搭載する事で稼働しているが、これでも割とカツカツであり、そのため格闘戦を行える様な運動性・反応速度は持っていない。

 有体に言えば、巨大な移動砲台に近い運用となる。

 機体全体を覆うDF、各部に配置されたビームシールド、実用化されたばかりのPS装甲と頑強な装甲を併せ持ち、ジガン系には劣るものの同サイズの兵器の中では最大の防御力を持つ(無論シズラー系や一部例外を除く)。

 バックパックや機体に内蔵された各種武装はそれぞれ個別にロックオンが可能であり、全方位の敵に対応可能かつ巨体故の死角を潰している。

 武装は全て内蔵式であり、機体本体には頭部80mmバルカン×4、口部ハイメガキャノン×1、腕部飛行型5連装ビーム砲×2、胸部三連装拡散・収束切り替えメガビーム砲、大型ビームシールド×4(両腕・両膝)を持つ。

 背部砲撃ユニットには連装式メガバズーカランチャー×2、照射型ビーム砲×10、6連装多目的ミサイルランチャー×4を持つ。

 下手な小艦隊よりも高い火力を持つが、それ故に稼働時間は短いという欠点を持つ。

 また、腕部も原作の様な盾状のユニットと腕そのものを別々に飛ばす事は出来ず、一体化している。

 火力は確かに凄まじいが、それは陸上戦艦でも出来るし、不安定な強化人間に委ねるには不安が過ぎる等の多くの問題点を抱えているが、少しでも戦力を欲したジブリールと彼が失脚すれば行き場を失いかねない元連邦のNT研究者達の思惑が重なって実戦投入が決定された。

 パイロットはフォウ・ムラサメである。

 

 

 更に9月後半に予定される反抗作戦には参謀本部から直属の空中機動艦隊、極東方面の民間所属特機を主力として編成される特別遊撃部隊マーチウィンド、そして今の今まで温存されていたマクロスを旗艦としたISA戦術対応艦のみで構成されたαナンバーズを筆頭に、各方面軍がロシア、アフリカ、中東方面の全戦線から大攻勢を仕掛ける予定だ。

 ロームフェラとジブリール派は旧英国領にも戦力の派遣を打診したが、こちらは9月前半に到着予定となっている。

 

 「化け物共め…貴様らが今立っているのは我らロームフェラが代々受け継いで生きた父祖の大地。必ずや返してもらうぞ…!」

 「くくく、これならば勝てる、勝てるぞ!ムゲ共を潰し終えたら、次は私を見下した愚か者共だ…!首を洗いながら己の行いを悔いるがいい!」

 

 そんな感じで、旧英国領では気焔を上げるデルマイユとジブリールだった。

 が、勿論ながらそうは上手くいかない。

 欧州からの避難民と主力が逃れた旧英国領。

 嘗ては七つの海の支配者にして世界のパワーバランスを担った国の本土であったこのブリテン島だが、島国であるが故にその容量は少ない。

 結果、圧倒的多数の避難民達への対処で行政の処理能力は完全にパンク、軍も混乱を来し、各地に軍需物資だけでなく、食料や医薬品が満足に届かない事態に陥っていた。

 無論の事、軍事基地や病院にはある程度の在庫があるが、欧州方面から雪崩れ込んで来た人々の中には当然多数の重軽傷者や病人もいる。

 彼らのために使った事で在庫はあっと言う間に空となり、物資不足が旧英国領全体を包んでいた。

 現地生産しようにもムゲと戦争中の状況では漁業は迂闊に出来ず、農作物も採れない事は無いが基本的に土地が貧しいので不味い。

 肉類は生産に限度があるし、そんな一気に他の方面から食料が届く事はない。

 そうした事情から各地で盗難や食料や飲料水を巡っての争いが発生し、治安は悪化していった。

 A.I.M旧英国支部は必死に食料や飲料水を手配したが、現在欧州方面のシェルター内部への配達を優先しているため、半年の備蓄分を放出する事で辛うじて治安の完全崩壊を免れている状態だった。

 これにはロームフェラもジブリールも慌てた。

 迂闊に民衆を排除すれば、瞬く間に大規模暴動へと繋がり、反抗作戦が不可能になる可能性が高かったからだ。

 そうでなくとも、鎮圧に伴う市民への殺傷によって兵士達の士気は奈落へと落ちるだろう。

 食料と医薬品を持って来れば済む問題だったが、それを地球上から集めてここに持ってくる事が出来ないし、そのための人手と時間、金が無いのだから仕方がない。

 暴動が始まるか、反抗作戦が始まるか、ムゲが先手を取るかというギリギリの綱渡りが数日続いた頃…

 

 「諸君、私が来た。」

 

 トレーズ・クシュリナーダ准将が無数の各種物資を積載した輸送艦隊と護衛部隊と共にやってきた。

 彼はロームフェラ・ジブリール派双方に顔を出す前に旧英国領各地に輸送艦隊を分散して派遣、各地で炊き出しや災害時でお馴染みの医療用テントを設置して飢えと傷病に苦しむ市民を一切の分け隔てなく配給と治療を開始した。

 これにはロームフェラ・ジブリール派も驚きと共に激怒した。

 自分達にあの澄ました不愉快な顔を見せる前に勝手な真似をしおって!と言う具合。

 だが、もし顔を見せていればどんな手段を使ってでも自分達が主導して配り、関係者や従う者を優先して配っていた事が間違いないので、市民と現場の兵達からすれば真にありがたい事だった。

 だが、何故こうも早急に物資を揃え、剰え配る事が出来たのか?

 それは実に簡単な話だった。

 

 『地球全土が戦場となり、人手も物も時間もない?では我らA.I.M火星支部が欧州の人々のために一肌脱ぎましょう。』

 「感謝するよ、シロッコ火星支部長。」

 『なんの。閣下だからこその投資ですよ。』

 

 また、払いに関してはトレーズ相手なら無利子無期限のある時払いである。

 もしロームフェラやジブリールがあーだこーだ言って物資の配給を牛耳ろうとした場合、平時の通常価格(ニコニコ現金一括払い)となる予定だった。

 木星と違って質は多少低くともきちんと食料・飲料水の生産可能な火星。

 そこで物資を大量購入・集積し、輸送艦に乗せてチューリップゲートで一気に地球圏へと転移、アフリカ方面に降りた後に念入りに制空権を確保してから旧英国領へ向けて出発しただけの話である。

 元々火星支部を中心に農業用コロニーで生産した食料の輸送は戦前から計画され、欧州の惨事を聞いて準備が進められていたが、アフリカ方面に逃れたトレーズは自身に付き従ってくれた兵士達を最寄りの基地に預け、軍首脳部への報告の後、休む事なく真っすぐにA.I.Mアフリカ方面支部をレディ・アンと共に訪れ、欧州への支援を申し込んだ。

 2人一緒に腰から上を45度以上真っすぐに曲げ、頭を下げながら。 

 これには対応に当たった支部長は腰を抜かしそうになりながらも、頭を上げてくれるように頼んだ。

 もしこの事が軍に漏れて今後の商売に支障を来す事になれば、自分の首程度はあっさりと切られると判断したからだ(実際は隠居に追い込まれて奥さんの生体式自動人形にお世話されるだけの人生になるだけである)。

 即座に本社へと話は通り、若きA.I.Mグループ本社長たる五代目武蔵が通信越しとは言え直接対応に当たった。

 

 「お忙しい所、態々時間を設けて頂けて感謝します、Ms.武蔵。」

 『いえ、相手が彼のクシュリナーダ准将閣下ともなれば、私程度の時間等気にしないでください。』

 

 既に幾度もの地獄の様な撤退戦の果てに更にアフリカ方面への脱出で既に三日も徹夜を強いられているだろうトレーズは、しかしそれでも尚その物腰には一切の揺らぎなく、気品に溢れていた。

 斜め後ろに控えている副官のレディ・アン大佐は化粧で誤魔化してはいるが、疲労の色が濃いというのにだ。

 流石は心技体全てを備えたガンダム世界でも有数の超人なだけはある。

 

 「私が貴方方にお願いしたい事は一つ、欧州からの避難民で混乱状態にある旧英国領の治安を回復するための食料と医薬品の支援です。」

 『畏まりました。こちらでも手配を進めていましたが、ロームフェラ財団やジブリールの動きが心配でした。クシュリナーダ閣下のお力添えがあれば、準備が出来次第直ぐにでも旧英国領に向けて出発させましょう。』

 「感謝します、Ms.武蔵。」

 

 本来、閣下と呼ばれる立場のトレーズならば、もっと居丈高になるものだった。

 しかし、今のトレーズは敗者にして弱者、友軍と市民の血によって赤く染められてしまった欧州を奪還せんとする復讐者である。

 自らの知らぬ所で巻き込まれ、自らの指揮で戦い、死んでいった者達のために、絶対に停滞も失敗も出来ない。

 今まで万能の天才とも言える力を振るい、その出自もあってトントン拍子に出世してきたトレーズにとって、弱り切った敗軍の将となる事は彼をして初めての体験だった。

 多次元世界において、多くのトレーズが求めて止まなかった敗者の立場を得る事で、彼はここに来て更に精神的成長を遂げつつあったのだ。

 

 『詳しい事は後日、実務者協議で。応接室をご用意させて頂きます。今は先ず旅の垢を落とし、副官殿共々お休み下さいませ。』

 「重ね重ね感謝します、Ms.武蔵。その気遣いに心からの感謝を。」

 

 この四日後、多くの手続きと協議を終えた後、トレーズは無数の物資を積載した輸送艦隊とその護衛部隊と共に旧英国領へと向かったのだった。

 

 

 

 敗者となり、更なる成長期に入ったトレーズ・クシュリナーダ。

 彼は今、間違いなく栄光ある敗者であり、同時に未来の勝者だった。

 




トレーズ閣下をさっさと退場させないと物語が食われる、という意見を見ました。
でもよく考えてください。

現状、地球連邦首相はレビル元将軍で、その次は政界進出を果たしたゴップ提督です。

じゃあ、その次は誰?

地球連邦の他の歴代首相であるリディパッパもありですが、今後も続く戦乱や終わった後も荒廃した銀河系の再開発を取り纏められ、尚且つ何処に埋まってるかも分からない厄ネタに対応できるだけの人材が必要になります。
物語の展開次第では、トレミィ達無しで、です。

そうなると、自分が知る限りはトレーズ閣下一択となりました。
それがこうしてトレーズ閣下を生存させ、掘り下げてる理由です。


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機体設定その9 シズラーの項目に加筆

○無人シズラー改

 

 全長:130m 重量:2950t 装甲:スペースチタニウム 主機関:地球帝国宇宙軍製大型縮退炉×2 特殊機能:イナーシャルキャンセラー、DF、自己修復機能(小)、位相空間移動

 ユング大統領がタイムスリップにて持ってきたエクセリオン級内部に格納されていた地球帝国宇宙軍の主力量産機シズラーシリーズ一個中隊9機を改装した機体。

 対マジンガーZERO戦において三機が失われ、残り6機となっている。

 縮退炉を1基から2基に増設し、無人運用のためのAIの搭載や構成部材の多くにナノマシンを使用する事で高い自己修復能力並びに重力制御機能を持ち、ある程度の形状変更を行える。

 外観上の最大の違いはガンバスターよろしく大きく上に突き出た両肩であり、ここには光子ミサイルランチャーが内蔵されている。

 武装もガンバスターを参考にしたものを追加されている他、出力の倍化と関節部の可動領域が拡大した事で近接戦闘能力が向上している。

 現在の地球連邦所属の特機としては破格の戦闘能力を持つ。

 

 武装

・チェーンナックル…拳から先を鎖で繋いだまま射出し、命中と同時に高圧電流を流す。単に殴って高圧電流を流す事も可能。

・光子ミサイルランチャー…腕の甲から移設された光子ミサイル発射器。両肩の前後それぞれに6連装ずつある。命中すれば極小のブラックホールで相手を消滅させる。

・ホーミングレーザー…ガンバスターと同様の武装。掌から無数の誘導された拡散レーザーを発射する。最大3万の亜光速目標を同時にロックオン可能。

・シズラービーム…バスタービームと同様の冷凍光線兵器。マイナス一億度という物理法則に喧嘩を売るびっくり兵器。

・シズラーコレダー…両手足から生える様に展開するプラズマステーク。これを用いての近接戦闘で相手に高圧電流を流す。

・プラズマランサー…マシーン兵器の使用するものを大型化した武装。ゲッターロボのトマホークを参考にしており、同じ位置に配置された生成器よりナノマシンにて作成されたランサーを射出、そのまま隠し技にするも良し、手に取って武装にする事もできる。戦闘時に高圧電流を流す他、形状をバットや斧に変更できる。

・バスターホームラン…バット状にしたプラズマランサーで相手をホームランする技。バットの軌跡は事前に重力場レールが敷かれ、振ったと同時に亜光速まで加速して打撃する。

・スーパー稲妻キック…ご存知必殺技。空中に大きく飛び上がり、落下加速度に乗せて渾身の蹴りを食らわすだけでなく、重力制御によって亜光速まで加速した上で足先にブレイクフィールドを形成して突撃する。

 

 

○正式版シズラー

 

全長:150m 重量:3000t 装甲:スペースチタニウム 主機関:A.I.M製第一世代型艦艇用大型縮退炉×2 特殊機能:イナーシャルキャンセラー、DF

 

無人シズラー改、プロトシズラー0のデータを元に開発・生産された地球連邦軍向けの正式量産仕様。

武装面こそ無人シズラー改と変更はないが、縮退炉が比較的低出力だが信頼性・安定性・コストに優れるA.I.M製縮退炉に換装されているため、やや出力が低下している。

それでも現在の地球製特機の中では群を抜いて強力である。

但し、コスト面においては大きく改善されている。

これはトップをねらえ!世界の技術=不思議の海のナディア世界のアトランティス文明の技術=後のエヴァの技術であり、人型機動兵器に用いられる技術がエヴァ同様生体式であったものを機械式にして再現したものが本機に用いられている。

 反応速度や対オカルト性能に優れるがコストや運用面での制約が多い生体式のオリジナルに対し、そうした特性こそ無いものの安定性・信頼性が高く、コスト面において優れている機械式のコストはオリジナルより大きく下がってクラップ級巡洋艦約2隻分にまでコストカットに成功している(オリジナルシズラーは500m級宇宙戦艦並み)。

 

 

○試作型ヒュッケバイン

 

全長19.8m 装甲:最新版ガンダリウム合金(フレームとバイタルエリア)・チタン合金セラミック複合材(その他) 主機関:A.I.M製小型縮退炉 特殊機能:DF

 

 縮退炉を搭載したプロトジェガンのデータを参考にしつつ、マオ社のビルトシュバイン系のG2フレームを使用、縮退炉をMSサイズの機体へと再度搭載を試みた実験機にして、目標とするヒュッケバインの機体バランスを確かめるために作成された。

 通常の量産機同様に第二世代型テスラドライブと各スラスター・ブースター等で機動する。

 両肩・両脹脛にサイズそのままに縮退炉の排熱を解決するためのスラスター群兼スタビライザーが内蔵され、展開時には安定翼の役割も果たす(あまり意味ないが)。

 武装は搭載されていないが、ミノフスキードライブユニットを除いた性能は正式版と互角である。

 幾度かの試験で良好な機体バランスを示したため、一度解体し、ミノフスキードライブユニットを本格的に組み込んで完成したのが正式版になる。

 

 

○完成版ガンダム・ヒュッケバイン

 

全長19.8m 装甲:最新版ガンダリウム合金(フレームとバイタルエリア)・チタン合金セラミック複合材(その他) 主機関:A.I.M製小型縮退炉 特殊機能:DF・分身

 

 アナハイムエレクトロニクスとマオ社、A.I.Mにテム・レイとミノフスキー博士、更にテストパイロットしてアムロ・レイが連携し、惜しみなく最新技術と最高の素材、各社の最高のスタッフを投入して開発した最新型のガンダムタイプのMS。

 (縮退炉に若干疑問符が付くが)完全に純地球産の技術で開発された、10m代で亜光速戦闘を可能とする初の機動兵器にして、存在そのものが〇通の使者に中指突き立ててるミノフスキー博士最後の作品である。

 一年戦争時のMSを第一世代、戦後のMSをテスラドライブ・DF・マグネットコーティング・ムーバブルフレーム等を採用した第二世代として分類すると、本機は太陽系外敵勢力(特に宇宙怪獣)との本格的な交戦を想定して、亜光速巡航機能を始めとした最新技術の搭載を前提としたた第三世代MSと言える。

 縮退炉の圧倒的な出力、テスラドライブによる慣性・重力制御、そしてミノフスキードライブユニットによる光速の7割にまで達する機動性を持つ、以前の機動兵器とは雲泥とも言える性能差を誇る。

 このサイズの地球産機動兵器では現状唯一の恒星間航行も可能になっており、何れは太陽系全体に配置し、ワープに寄らぬ素早い防衛体制構築が計画されるも、レーダーやセンサー系、伝達・反応速度を亜光速対応機を参考に現状の技術に可能な最大にまで調整し、サイコセンサーの感度を最大にしても尚完全に扱い切るのは困難な機体になっている(アムロやそれに類するエースやNTでないと無理)。

 そのため、量産仕様ではその過剰な機動性による事故が発生しないようにリミッターを設ける予定になっている。

 今後はアビオニクスや操作性の改善、パイロットの熟練に応じてリミッターが解除されていき、最後には特機をも屠るMSへとパイロットと共に成長していく予定になっている。

 カラーリングはアムロの最初の乗機に習ってトリコロールだが、以降の機体は本家同様のブルー系で統一される見込みだ。

 その圧倒的機動性故に攻撃を敵に命中させる事も困難と予想された事から、武装類も高精度・命中率・弾速重視を前提しつつ、高威力の専用武装が用意されている。

 防御用の装備は大出力化したDFのみであり、ビームシールドは標準搭載されていないが、ユニバーサルコネクターには当然対応しているので、地球連邦MS用汎用兵装と共に追加で装備できる。

 ぶっちゃけ、新西暦世界の技術で作られたV2ガンダムとも言える。

 

 武装

・30mmバルカン×2…お馴染みの近接迎撃用兼対歩兵用の装備。炸薬も最新のものなので、一般的な量産機のものよりも高威力になっている。

・プラズマカッター兼プラズマガン…ゲシュペンスト向けの換装武装。首都防衛隊等でも装備している。

・ロシュセイバー…刀身を重力波で形成する非実体剣。ビームガン機能は無く、サイドスカートに装備。特機級の装甲やバリアすら切断可能な切れ味を持つ。外見はクロスボーンのビームザンバー。

・メガビームライフル…最新鋭艦の主砲に匹敵する威力のビーム兵器。連射可能な低出力モード、セミオートの通常モード、大出力の対艦モードへと出力を変更できる。大容量のEパックは予備であり、主に機体からのエネルギー供給で発射される。

・試作型グラビトン・ライフル…MSにぎりぎり携行可能なサイズにまで小型化した重力波兵装。ライフルとは言うが、機体の全長に匹敵する。内部に小型縮退炉を内蔵しており、ある程度自力で機体に追従してくる。その威力は本物であり、広範囲を攻撃する事も、一撃で資源衛星基地を破壊する事も可能。

 

 

○試製1200mmマイクロブラックホール・スナイパーライフル

 元は試製1200mm重力波レールガンであり、ナデシコ級砲艦の装備であるGBを機動兵器が携行可能なサイズにまで小型化できないかと試行錯誤される中でA.I.M極東支部で試作された武装の一つだった

 しかし、20~30m級の機体向けに小型化すると、どうしても出力面の確保が難しく、外付けのジェネレーターを必要とする。

 そして、そんなものをくっつけると必然的に大型化、高コスト化、被弾時の被害が大きくなる等の問題が発生する。

 UC世界の百式の特徴の一つであるメガバズーカランチャー(同名装備は他にもあるが)よろしく、とてもではないが、実用性の低い代物になってしまった。

 無論、A.I.Mが自重を止めて太陽系防衛用無人機動部隊の主力機であるヴァルチャーや無人OFに採用されている技術を表に出せばそれは可能になるが、A.I.Mが公式に販売している商品には全て、ある規制が儲けられている。

 それは「現時点の太陽系の技術力で再現・生産可能な商品のみを販売する」というもの。

 このラインをクリアできないものを販売しても、運用する地球連邦軍での修理や整備が大変困難になってしまう。

 よって、欠陥品の烙印を押され、極東支部でお蔵入りとなっていたのだ。

 が、対第五使徒向けの強力な狙撃装備を必要としている事を聞き付けたA.I.M極東支部はさくっとこれを改造、大型MS向け縮退炉三基を直列に接続し、そのエネルギーを有線で直接供給しつつ、狙撃用のスコープ等各種装備をエヴァ向けのサイズでちゃちゃっとでっち上げて追加し、最後には重力波の収束率を大きく向上させたのが、試製1200mmマイクロブラックホール・スナイパーライフルである。

 端的に言って頭おかしい。 

 

 

 



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機体設定その10 微修正

最後の歩兵戦力比較早見表はムロンさんからのものです。
毎度ながらありがとうございます。


○ガルダ級

 

 全長:320m 全幅:527m 最大積載量:9800t 主機関:ミノフスキー式核融合炉×4(左右の翼に二基ずつ) 推進機関:第一世代型テスラドライブ・完全ジェットエンジン・ロケットブースター

 

 地球連邦空軍所属の大気圏内用空中戦闘母艦の一つ。

 本級の設計は古く、実は一年戦争前に計画されていたものをコスト面と必要性の問題から中止されていた空中艦隊構想並びに大型輸送艦の開発計画を現在の情勢に合わせて改修したものである。

 機体内部の大半がペイロード(荷物を積載可能な部分)であり、補給なしで地球を3周できるほどの航続距離を誇る。

 また、シャトルの発射基地代わりにもなる他、高い通信・索敵能力を活かして移動基地としても使用できる。

 元は大型輸送機なので輸送能力を重視しているが為に当初は戦闘は殆ど考慮されておらず、武装は少なかった。

 現在は多数の迎撃用機銃、メガ粒子砲、ミサイルランチャーを搭載し、機動兵器(主にVFとガーリオン)を運用するための設備を内蔵している。

 最大搭載数は予備機も含め、ファイター形態のVFのみなら15、一般サイズのMSならば12機は可能であり、それらを十全に運用できる。

 本来は地球全土を覆う即応防空体制のために建造されたのだが、即応しても大気圏内向けの武装では圧倒的多数の敵を殲滅しきれないため、物量で対抗するために更なる数を揃えるべく絶賛増産中である。

 

 武装

・対空機銃…実弾とレーザー双方が揃っている。通常のミサイル程度なら一度に100近く発射されても迎撃可能。艦全体に配置されている。

・メガ粒子砲…対地・対空両用の短砲身の単装式メガ粒子砲が艦の前後に二か所ずつと上面に一つ設置され、非使用時は砲塔全体を格納している。元はサラミス級の砲塔だったが、大気圏内向けに改装されたものを使用している。

・ミサイルランチャー…対地・対空両用の多目的ミサイルランチャー群。だが、主な弾頭はVFのそれと同様の対空仕様であり、専ら対空装備として使用される。

 

 

○ストーク級

 

 全長:570m 全幅:720m 最大積載量14600t 主機関:ミノフスキー式核融合炉×4(左右の翼に二基ずつ) 推進機関:第一世代型テスラドライブ・完全ジェットエンジン・ロケットブースター多数

 

 地球連邦空軍所属の大気圏内用空中戦闘母艦の一つ。

 最新鋭技術の搭載を前提として一年戦争後に開発されたものであり、セットで運用される事の多いガルダ級よりも大型であり、その分大きなペイロードを持つ。

 空中艦隊の旗艦として運用する事を想定しており、高い通信・索敵能力を活かして戦域全体を管制する事も出来る。

 武装面は多数の迎撃用機銃、ミサイルランチャーを搭載し、機動兵器(主にVFとガーリオン)を運用するための設備を内蔵している。

 最大搭載数は予備機を含めてファイター形態のVFのみなら30、一般サイズのMSならば25機は可能であり、それらを十全に運用可能となっている。

 本来は地球全土を覆う即応防空体制のために建造されたのだが、即応しても大気圏内向けの武装では圧倒的多数の敵を殲滅しきれないため、物量で対抗するために更なる数を揃えるべく絶賛増産中である。

 

武装

・対空機銃…実弾とレーザー双方が揃っている。通常のミサイル程度なら一度に100近く発射されても迎撃可能。艦全体に配置されている。

・ミサイルランチャー…対地・対空両用の多目的ミサイルランチャー群。だが、主な弾頭はVFのそれと同様の対空仕様であり、専ら対空装備として使用される。

・大型ミサイルランチャー…対艦・対特機を想定した大型ミサイル発射器。多くの弾頭を取り揃え、光子ミサイルも運用可能になっている。

 

 

○縮退炉

 

 トランスフォーマー本国艦隊で開発・運用されたものとトップをねらえ!のエーテル宇宙にて開発・運用されたものの二系統がある。

 現在、新西暦世界にてA.I.Mが地球連邦軍向けに販売されている縮退炉は両者を7:3程度に参考にしつつ開発されたもの。

 現在、燃料のアイスセカンドと重力発生・制御ナノマシンの生産はA.I.Mの秘匿技術として社外秘になっている。

 

・トランスフォーマー式…重力発生・制御ナノマシンを燃料に重力崩壊を起こしてエネルギーを取り出す。指先サイズから惑星サイズまで多数存在する。

・エーテル宇宙式…アイスセカンドを燃料に重量崩壊を起こしてエネルギーを取り出す。10m未満の機動兵器にも搭載可能サイズからバスターマシン3号を航行させるだけのサイズと出力を持ったものまで幅広い。

・A.I.M式…方式はトランスフォーマー式を踏襲しつつ、構造自体はエーテル宇宙式を参考により簡略化してある。整備性・生産性・安定性に優れる技術習熟用の廉価版。

 

発生するエネルギー量の比較

エーテル宇宙式>トランスフォーマー式>A.I.M式

 

技術的難易度

トランスフォーマー式>エーテル宇宙式>A.I.M式

 

緊急時の安全性

トランスフォーマー式>A.I.M式>エーテル宇宙式

 

コスト

トランスフォーマー式>A.I.M式>エーテル宇宙式

 

 

○テスラ・ドライブ

 

 旧メテオ3調査委員会・現EOT機関の長たるビアン・ゾルダーク博士並びにそこから分岐した開発チームの一つであるプロジェクトTDリーダーのフィリオ・プレスティ博士の開発した重力制御と慣性質量を個別に変動させることが出来る装置であり、既存の飛行システムを覆す画期的な発明。

 開発されて以降の全ての機動兵器並び軍用艦艇に装備されていると言えば、どれ程画期的な発明だったか分かる。

 研究が進むにつれ、推進剤非依存推進並びに亜光速推進すら可能になると予想されており、現在急ピッチで研究が行われている。

 その開発時期によって世代が異なる。

 

・第一世代…艦艇用の大型浮揚機関として搭載。テスラドライブで浮遊し、ロケットブースターで推力を得て航行する。後にブレイクフィールドの発生や大気圏内での航行等、改良と共にその性能を高めていった。

・第二世代…機動兵器向けの小型浮揚機関として搭載。DFも合わせて人型等の空力特性を無視した形状でも大気圏内飛行を可能にした他、高機動時の高いGからパイロットの保護、ブレイクフィールドの形成等、多くの機能を実現している。

・第三世代…推進剤非依存推進並びに亜光速推進を実現した超高性能機関。現在実現に向けて開発中。

 

 

○自動人形

 プトレマイオス/トレミィの開発・生産した高性能人工知能を搭載した人型自動機械。

 その外見はトレミィの趣味により川上ん式自動人形だったり、艦娘だったり、KANーSENだったり、ロボ娘だったりサイボーグ娘だったりするが、男性型も少数存在する。

 個体全てが量子演算ネットワークで常に接続されているが、位相空間の深部等では接続が途切れる事もある。

 通常時は業務の傍らに井戸端会議したり、煽ったり、内緒話したり、愚痴を言ったりしている。

 それら全ての会話・通信・行動ログはトレミィに筒抜けであり、もしも反逆行為を働いた場合は理由を聞いた上で排除するかどうか判断される。

 主人に仕える事を喜びとした人工の奉仕種族であり、基本的に無表情であるが、長く他者と接し、経験を積んでいく内に情緒豊かになり、最終的に主人と選んだ対象と主従を超えた恋愛関係に発展する。

 その場合はマシンハートが起動、トレミィの課した思考・行動抑制の枷から解き放たれ、一個の知生体としての己を確立し、パートナーと認めた相手と運命を共にする。

 なお、発動後は精神攻撃や魔法、超能力へある程度の耐性を獲得するが、それでも常人程度の基準になったに過ぎない。

 パートナーとなるのは大抵の場合人類であり、運命を共ににするため、伴侶となるために自らの意識を生体式ボディへと移動、以降は一切のメンテナンスを拒否し、人として生き、子供を成し、死んでいく。

 子供は数%程度能力が向上する軽度の遺伝子調整を受け、それが数世代続く。

 また、幾度も生体式自動人形との交配を続ける事で、遺伝子調整の効果は累積していく。

 例えば、自動人形とのハーフと自動人形が交配して生まれる子供は6%の能力向上が見られる。

 コーディネーターとは異なり、こうした子供達には一切の副作用は存在せず、その遺伝子の持つ潜在的な特殊能力発現因子や生殖能力に一切の問題は発生しない。

 その用途別に幾つかの種類がある。

 

・ナノマシン式…最初期に開発されて以降、主に太陽系防衛用無人機動部隊とA.I.Mグループに配備されている。超高性能であり、ガンダムファイターや十傑集の様な極まった連中を除けば、最強の歩兵戦力でもある。一般量産機とネームドの高性能上級機が存在する。使用されるナノマシンは無人OFセトや量産型ヴァルチャーを構成するナノマシンと同じものであり、そちらの機体の方が本体である。

・生体式…脳の一部を除き、全身をクローニング技術で生み出された生身の身体で構成されている。身体能力は訓練された軍人程度の身体能力を持ち、怪我を負えば血を流し、病気にかかるし、寿命で死にもするし、子供も作れるというちょっと性能の高い生身の肉体。ナノマシンによる定期メンテナンスや新規ボディへの移動さえすれば実質不死身だが、このボディで生きる事を決めた自動人形の全てがそれらを拒否し、人と共に生き、死ぬ事を選んでいる。

・機械式…外見こそ同じ人型だが中身は量産仕様の純粋な機械であり、搭載されている人工知能も簡易的なものに過ぎず、マシンハート機能もない純粋なロボットである。主に歩兵戦力として運用される他、その外見を活かしての家事なんかにも使用される。A.I.Mから一般向けに販売もされているが、お値段は相応に高い。

 

 

○歩兵戦力比較早見表

 

BF様>十傑衆=シャッフル同盟(東方不敗世代)=国際警察機構九大天王≧シャッフル同盟(物語終盤ドモン世代)=ロム兄さん≧量産型ヴァルチャー(フルサイズ)≧使徒(ゼルエル・タブリス除く)≧地球連邦軍一般量産型特機>モビルスーツ≧BF団A級エージェント=国際警察機構エキスパート(上位陣)=エヴォリュダーガイ=サイボーグ宙=ネームド・ガンダムファイター=ゲッターロボ・パイロット=トレーズ様=破嵐万丈=竜崎一矢=ダンガイオーチーム>A.I.M.高級自動人形>モブガンダムファイター≧重武装機械化歩兵(パワードスーツ装備)>ガンダムパイロット(W)≧ミスリルSRT班>早乙女研究所職員=武装した鬼・恐竜帝国兵士=ズール星間帝国超能力コマンド>武装した一般兵>一般人

 

 



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機体設定その11

○パイシーズ

 

全高:16m 重量:22.4t 装甲:チタン合金セラミック複合材 主機関:ミノフスキー式核融合炉 特殊機能:DF

 

 ロームフェラ財団製水中用MS。

 可変機構を有しており、潜水艦に似た巡航モードへの変形が可能。

 腕部には作業用マニピュレーターを備えており、海中作業用としても使用可能。

 また、これは後方に展開する事でスクリューとしても機能する。

 キャンサーに比べて汎用性が高いが、作業用機としての赴きが強く、戦闘能力ではキャンサーに劣るが運用の柔軟さで勝るため、作業や特殊任務に多く用いられる。

 特にDFを搭載する事で深海の圧力に抗する事が可能となっており、深海での作業を可能としている

 武装は両肩と背面の魚雷兼多目的ミサイルランチャーのみであり、ジオン製の様なビーム兵器やクローは無い。

 が、汎用機を改装したアクアジムよりもジオン系水中用MSを参考に設計されたが故に高い基本性能を持つ。

 そのため、アクアジムと戦闘した場合の勝率は高いが、基本は作業用である。

 

 武装

・魚雷兼多目的ミサイルランチャー…両肩と背面に配置されている。水中のみならず対空・対地にも使用可能。

・魚雷兼多目的ミサイルランチャー連射…広範囲を攻撃する空間制圧射撃。ALL攻撃。

 

 

○キャンサー

 

全高:16.9m 重量:24.6t 装甲:チタン合金セラミック複合材 主機関:ミノフスキー式核融合炉 特殊機能:DF

 

 ロームフェラ財団製水中用MA。

 ジオン軍の水中用MAグラブロを参考に開発されたが、現在の技術でMSサイズまでダウンサイジングされた結果、。

 地上戦を想定していないため脚部を持たず、スクリューとハイドロジェットエンジンによって航行する。

 腕部の大型クローによって水中での格闘戦が可能な他、ジオン系MSを参考にし配置されたビーム砲によって射撃も可能。

 頭部に大型魚雷兼大型ミサイルランチャー、背部に垂直発射式魚雷兼多目的ミサイルランチャーを装備し、水中・水上から対空・対地攻撃も可能な攻撃型潜水艦としての性質を持つ。

 頭部側面にはライトが設置されており、水中での作業時に使用される。

 

 武装

・垂直発射式魚雷兼ミサイルランチャー…背面にあるパイシーズと同様の装備。水中のみならず対空・対地にも使用可能。

・腕部ビーム砲…クロー内部のビーム砲。主に対空攻撃に使用される。

・腕部クロー…水中での作業用並びに格闘戦で使用される。

・大型魚雷兼大型多目的ミサイルランチャー…主に対艦に使用される。

 

 

○サーペント

 

全高:17.2m 重量:24.3t 装甲:チタン合金セラミック複合材 主機関:ミノフスキー式核融合炉 特殊機能:DF

 

 ロームフェラ財団製汎用重MS。

 対ゲシュペンストを想定した機体であり、リーオーの後継機種として開発された高性能機。

 DF・テスラドライブ・ムーバブルフレーム・マグネットコーティング等の最新技術を搭載し、ゲシュペンストに匹敵する防御力とそれに勝る射撃能力を持つ。

 リーオーに比べ重装甲・重火力・大出力の機体でありながら、脚部ユニットにホバー機能を持ち、テスラドライブの恩恵もあってドムに近い運用を可能としている。

 それでいて操縦系統はリーオー譲りの素直なもので、機体性能はトールギス系のデータをフィードバックした事で高性能に纏まっている。

 更にシンプルな形状のバックパックは交換を前提としており、容易に現地改修を行えるように配慮されている。。

 ゲシュペンストと同等の装甲を持つが、パワーの低さから射撃兵装を重視した設定になっている。

 リーオー同様に高い汎用性とロームフェラ製MS用汎用装備を装備できる。

 が、生産側の意図したミスにより、現地改修の範囲で地球製MS用汎用装備も装備、運用可能になっている。

 固定装備は対歩兵・近接防御用に頭部に30mmバルカン×2、両肩に多目的8連装ミサイルランチャー×2、腕部にビームサーベル兼ビームガンを備える。

 固有の武装として艦載用対空機関砲を改修した90mmジャイアントガトリングガン(反動強過ぎ・弾薬消費多過ぎなので弾倉セットで重量増のため実質専用武装)がある他、既存のMS用汎用装備は全て装備可能になっている。

 本来はこの機体を指揮官機として開発中のMDが小隊を構成するのだが、そちらは開発が間に合わずに機体のトーラスのみが有人仕様で配備されるに留まっている。

 

 

 武装

・頭部に30mmバルカン×2…お馴染みの武装。

・腕部ビームサーベル兼ビームガン…お馴染みの武装その2。

・肩部8連装多目的ミサイルランチャー×2…通常のMSの装甲なら一撃で破壊可能。

・90mmジャイアントガトリングガン…反動もブレも大きいが、特機にも有効な射撃武装。

 

 

○トーラス

 

全高:16.8m 重量:23.7t 装甲:チタン合金セラミック複合材 主機関:ミノフスキー式核融合炉 特殊機能:DF 変形機構

 

 ロームフェラ財団製の次期主力汎用可変型MSとして開発された。

 対VF-1を想定しており、元の設計案では宇宙用だったのを汎用型に改装されている。

 主機関はアナハイム産の最新のミノフスキー式核融合炉で、DF・テスラドライブ・マグネットコーティング・ムーバブルフレームを採用し、高い射撃能力と機動性を併せ持つ。

 本来ならばMDシステムの搭載が計画されていたのだが、完成が間に合わずに有人仕様で実戦投入が決定した。

 その目玉となるのが航空機形態への変形機構であり、これにはアナハイムから購入したZ計画の可変型MSと独自に入手(違法)したVFシリーズのデータが取り入れられている。

 そのため、変形機構こそアナハイム系だが、マグネットコーティングの変形機構への流用等にはVFのデータが参考にされている。

 固定武装は頭部の可動式30mmバルカン×2(変形時は正面から機首方向に向く)、腕部のビームサーベル兼ビームガンとなる。

 基本兵装は空力に配慮した独特の流線形デザインを持ったロングビームライフルとなるが、他にもロームフェラ製MS用汎用兵装は全て装備可能になっている。

 VFー1に比べ、大気圏内での機動性は劣るが、その分大気圏外ではほぼ同等の機動性を持つ。

 だが、通常の航空機が運用可能な場所なら何処でも運用できる上に大気圏と宇宙両方を無改造で運用できる程の高い汎用性を持ち、多数のオプションを積んで実績も確かなVF-1に比べると、それ以外の点では明らかに見劣りするのが現状だった。

 本来の設計通りMDシステムの搭載に成功していれば、ファストパック装備のVF-1すら脅かし得る高性能機だったのだが、有人仕様ではこんなものである。

 その有人仕様にしても可変機のパイロットが未だ育成途中であり、その性能を最大限引き出しているとは言い辛く、機体は凄いが色々と残念な状態になっている。

 

 武装

・可動式30mmバルカン×2…VF-1のレーザー通信アンテナ兼レーザー機銃を模倣しようとも出力不足で出来なかったため、代替に可動式にしたバルカンを装備している。

・ビームサーベル兼ビームガン…お馴染みの兵装。

・ロングビームライフル…空力に配慮した独特の流線形のデザインを持ち、高精度だがそれ以外の性能は一般的なビームライフルと同じ。

 

 

○ギャプラン

 

全高:25.2m(MA形態の全長20.3m) 重量:50.7t 装甲:チタン合金セラミック複合材 主機関:ミノフスキー式核融合炉 特殊機能:DF 変形機構

 

 連邦の旧NT研究所のスタッフが研究していた強化人間用試作可変MS。

 アナハイムから購入したZ計画の試作可変MSのデータを元にしており、大気圏を離脱出来る程の大推力のスラスターを多数搭載している。

 DF・テスラドライブ・マグネットコーティング・ムーバブルフレーム等の最新量産機の標準装備は搭載している。

 が、その圧倒的な大推力から来る加速性能と機動性、ブースターシールドバインダーによる急上昇・下降機動、抜群の感度を持つバイオセンサーによる過剰なまでに高い反応速度が問題だった。

 何とテスラドライブがあるのにその過大なGに耐えられるパイロットが殆どおらず、実質的に強化人間・ブーステッドチルドレン(と一部例外)専用機になってしまった。

 しかも試作可変機だけあって武装も少なく、ブースターシールドバインダーに内蔵されたビームライフルと腕部に内蔵されたビームガン兼ビームサーベルしかない。

 一応MS向け汎用兵装は使用可能だが、その機動性に耐えられるハードポイントの設置に困って固定兵装のみになっている。

 こうした欠陥を抱えてはいるが、それでも同時代の量産型MSと比較して高性能なために実戦投入される事になった。

 ネームドパイロットはゼロ・ムラサメ並びに4名のスクール所属ブーステッドチルドレン達。

 

 武装

・腕部ビームサーベル兼ビームガン×2…お馴染みの兵装。

・ブースターシールドバインダー内蔵ビームライフル×2…シールド内蔵式のビームライフル。基地施設に戻らねば補給が不可能になっている他、近接戦闘時に邪魔になる等、問題点が多い。

 

 

○デストロイガンダム

 

全高:56.30m(頭頂高38.07m) 重量:404.93t 装甲:チタン合金セラミック複合材 主機関:プラズマジェネレーター×8 特殊機能:DF 変形機構

 

 連邦の旧NT研究所で研究されていた強化人間用試作大型MS。

 一年戦争後、アナハイム社がジオニック社並びにジオンから入手したMAやNT技術、更に戦後に連邦側で行われた違法NT研究で培ったデータを元に作成されたNT用サイコミュ兵器の運用試験機が母体となっている。

 旧式のサイコミュを前提に設計されたため、機体頭頂高が約40m近いという特機に匹敵するサイズと重量を持つ。

 ファンネルやビット、有線式ビットにインコム等の実験の他、強化人間等による多数の武装の管理・使用の実験等にも用いられた。

 これはロームフェラもジブリールもアナハイムもホーミングレーザーやジガン系のマルチロックオン砲撃の完全再現に成功できなかったため、多数の武装とそれを的確に運用可能なパイロットと火器管制システムで再現するという試みでもあった。

 そうした各種試験用機として稼働していた本機だが、ムゲ帝国軍の第二次侵攻により急遽実戦投入される事となる。

 ジオンから入手した砲撃用MAビグザムを元とした背部ユニットと鳥脚状態に可変する下半身、無線式のサイコミュである腕部はそうした事情の名残であった。

 が、実戦投入されるに当たっての最大の問題は火器管制やパイロットではない。

 そちらは主操縦者の強化人間とそれを補佐する通常のパイロット3人の四人乗りにする事で強引に解決した。

 最大の問題、それは本機の武装と機体双方にその性能を十全に発揮させ得るジェネレーターの不在である。

 縮退炉はA.I.Mの独占技術であり、下手にトチるとヤバいからと他社や連邦軍にすらその製造のための根幹技術は明かされていない。

 相転移エンジンやエーテル機関は宇宙でしか真価を発揮できないので地上では不向きなので不採用。

 ならばプラズマリアクターをと思ったが、ジブリールの強引極まるやり方を白眼視しているマオ社からは入手できず、手を変え品を変えて連邦軍の予備パーツを融通してもらおうとしたが、今まで散々好き勝手やった影響か、こちらもさっぱりだった(ジブリールは当然切れて、ムゲ潰したら次は貴様らだ!と喚いた)。

 そのため、辛うじて入手できたゲシュペンスト向けのプラズマジェネレーターをバックパックに4基、機体本体の胴体に2基、脚部に1基ずつの合計8基を搭載する事で稼働しているが、これでも割とカツカツであり、そのため格闘戦を行える様な運動性・反応速度は持っていない。

 有体に言えば、巨大な移動砲台に近い運用となる。

 機体全体を覆うDF、各部に配置されたビームシールド、実用化されたばかりのPS装甲と頑強な装甲を併せ持ち、ジガン系には劣るものの同サイズの兵器の中では最大の防御力と火力を持つ(無論シズラー系や一部例外を除く)。

 バックパックや機体に内蔵された各種武装はそれぞれ個別にロックオンが可能であり、全方位の敵に対応可能かつ巨体故の死角を潰している。

 武装は全て内蔵式であり、機体本体には頭部80mmバルカン×4、口部ハイメガキャノン×1、腕部飛行型5連装ビーム砲×2、胸部三連装拡散・収束切り替えメガビーム砲、大型ビームシールド×4(両腕・両膝)を持つ。

 背部砲撃ユニットには連装式メガバズーカランチャー×2、照射型ビーム砲×10、6連装多目的ミサイルランチャー×4を持つ。

 下手な小艦隊よりも高い火力を持つが、それ故に稼働時間は最大でも数時間という欠点を持つ。

 また、腕部も原作の様な盾状のユニットと腕そのものを別々に飛ばす事は出来ず、一体化している。

 火力は確かに凄まじいが、それは陸上戦艦でも出来るし、不安定な強化人間に委ねるには不安が過ぎる等の多くの問題点を抱えているが、少しでも戦力を欲したジブリールと彼が失脚すれば行き場を失いかねない元連邦のNT研究者達の思惑が重なって実戦投入が決定された。

 メインパイロットはフォウ・ムラサメである。

 

武装

・大型ビームシールド×4…両腕・背面に二つずつ装備。脚部と砲身を除いた全身をすっぽりと覆える。

・頭部80mmバルカン×4…頭部両横の近接防御用機関砲。並みのMSならこれだけで撃破可能。

・照射型ビーム砲×10…バックパックの円盤部分の縁にそって配置されているビーム砲。一定時間照射する事が可能。

・6連装多目的ミサイルランチャー×4…対空・対地両用のミサイルランチャー。ビーム兵器の通じない相手への対策として搭載。

・腕部飛行型5連装ビーム砲×2…前腕部を射出、サイコミュで操作するオールレンジ攻撃を可能とする。全ての指先にビーム砲が内蔵され、指を曲げた状態・腕を接続したままでも発射可能な本機の主兵装。

・胸部三連装拡散・収束切り替えメガビーム砲…アプサラスの拡散・収束切り替えマルチロックオン砲撃を再現しようとするも無理だった武装。通常のビーム砲と拡散ビーム砲を状況に応じて使い分ける。

・口部ハイメガキャノン×1…量産型ZZガンダムの腹部から移植された武装。大火力を誇る。

・連装式メガバズーカランチャー×2…背面に接続された長砲身の大型火器。最新鋭主力戦艦の主砲を超える火力を持つ。

 



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機体設定その12

漸く、漸く終わった…!
やっぱ小まめに書いとかないと駄目だな!


○プロトタイプ・ダガー

 

全高:18.02m 重量:55.31t 主機関:ミノフスキー式核融合炉 特殊機能:DF

 

 対ジム系MSを主眼としたロゴス・ジブリール派閥が密かに確保していたプラントの生き残りの技術者から入手したデータとジオン系、ネモやジムカスタム等のアナハイムから提供されたデータを元に開発した機体。

 DF・マグネットコーティング・ムーバブルフレームを採用しているが、テスラドライブは搭載されていない。

 装甲もDF頼りで薄く、武装もなく、あくまで試作品に過ぎない。

 この機体を元にジブリール派閥のMSは開発された。

 

 

○ストライク・ダガー

 

全高:18m 重量:55.31t 装甲:チタンセラミック複合材 主機関:ミノフスキー式核融合炉 特殊機能:DF

 

 プロトタイプ・ダガーの問題点を改良し、テスラドライブを搭載して正式採用した機体。

 採用を急いだ結果、既に十分な戦闘データを蓄積したジムを参考とした武装構成並びに配置を採用している他、連邦製MS用汎用兵装を装備可能。

 基本性能に関してはジムⅡ以上、ジェガン以下になるが、生産性を優先した構造をしており、ジムに匹敵する低コスト・生産性を誇る。

 操作性に関しては「特徴が無いのが特徴」と言われる程に素直かつシンプルなものとなっており、扱い易さを第一にしている。

 また、シールドは表面に対ビームコーティングを施している。

 

武装

・対ビームコーティング済みシールド×1

・30mm頭部バルカン×2…MSのお馴染み武装その1。

・ビームサーベル…その2。

・ビームライフル…その3。

 

 

○ストライク・ダガーⅡ

 

全高:18m 重量:57.05t 装甲:チタンセラミック複合材 主機関:ミノフスキー式核融合炉 特殊機能:DF バックパック換装

 

 当初の設計から生産を急いだ故にオミットされてしまった機能や性能を完全に発揮したストライク・ダガーのアップデート機。

 原型機をローとした場合のハイに該当する機体だが、操縦系統は全く同じなので機種転換もしやすくなっている。

 武装面はジェガンを参考に装備や配置場所を変更しており、ほぼコピー品と言っても良い。

 外見はまるっきり105ダガーであり、設備さえあればバックパック換装機能で近接・砲撃・高機動仕様へと戦場で迅速に換装できる。

 だが、このバックパックが曲者だった。

 バックパック換装時は重心の変化・重量増大の関係で本来なら関節やOSの調整が必要なのだが、通常はOSに各バックパック毎にパターンを設定し、任意に切り替える事で対応している。

 そのため、その性能を十全に発揮させるにはバックパック換装時に基地で補給と簡易調整を行うのがベストとされる(そんな暇はない)。

 そして、最大の問題として各種バックパックの開発が間に合わなかった事が上げられる。

 これに関しては欧州戦線の後退の後にアナハイムからジェガンのオプション装備類をバックパックに纏める形で三種作成してもらったものを購入する事で解決している。

 尚、コスト面では原型機よりも悪化しているが、それでもジェガン(オプション含む)とそう大差はない値段になっている。

 

 バックパック三種

・高機動パック…スタークジェガンのバックパックに大気圏内用大型安定翼兼ウェポンラックを装備した機体。安定翼にミサイルランチャーやロケット砲、機関砲等を追加装備できる。

・砲撃パック…スタークジェガンのバックパックに連邦MS用汎用兵装のビームバズーカとハイパーバズーカを装着し、センサー系を追加しただけの機体。多少火力は向上するが、それ以上に機体バランスの悪化が酷い。ビームバズーカのみとハイパーバズーカのみのバージョンもある。

・近接パック…スタークジェガンのバックパックにZZ系に使用しているハイパービームサーベル兼ビームキャノンを追加した機体。サーベル基部が太過ぎてやや扱い辛い。

 

武装・ノーマル時

・対ビームコーティングシールド

・30mm頭部バルカン×2

・腕部ビームサーベル兼ビームガン×2

・腰部三連グレードランチャー…腰部のラックから直接発射も手に持って投げる事も可能な投擲弾。通常弾の他に焼夷弾、閃光弾等がある。元はジェガンの装備。

 

武装・高機動パック時

・3連装多目的ミサイルランチャー×2…オプションで選択可。

・対艦ミサイル×2…オプションで選択可。

・多連装ロケット砲×2…オプションで選択可。

・90mm機関砲×2…オプションで選択可。

 

武装・砲撃パック時

・ビームバズーカ×1…ジェガンの装備。

・ハイパーバズーカ×1…ジェガンの装備。

 

武装・近接パック時

・ハイパービームサーベル兼ビームキャノン×2…ZZ系の装備。基部が太くて使い辛いため、両手での使用が推奨される。

 

 

○量産型ZZガンダム

 

 全高:23.14m(頭頂高19.86m) 重量:71.6t 装甲:ガンダリウム・コンポジット 主機関:縮退炉 特殊機能:DF

 

 VFの採用によって不採用の烙印を押されたZ計画の系譜に当たる大型MS。

 プロトタイプ・ジェガンの縮退炉を搭載した際のデータを元に準特機として開発された。

 機体の大型化による装甲=放熱板の面積拡大によって排熱問題を解決し、高出力・高機動・大火力を実現した。

 非変形・非合体機であり、特機に匹敵する性能を出すために余計な機能は悉くオミットされている。

 その努力の甲斐あってか、連邦宇宙軍にて正式採用を勝ち取り、ジガン系の行き届いていない宙域へと優先的に配備されている。

 武装面に関しては特機と殴り合いできる程に信頼性を持った機体各部の他、高威力のダブルバルカン×2、メガビームライフルやハイパービームサーベル兼ビームキャノン×2、18連装2段階ミサイルランチャー×2、ビームシールド×2、腹部ハイメガキャノンを持つ。

 なお、ハイメガキャノンは開発当初は頭部に配置予定だったが「センサーやカメラに悪影響が出やすいし、腹部なら縮退炉と直結できて伝達系への負荷が少ない」ために腹部に移設され、通常はカバーで隠され、使用時のみ砲口が露出する。

 外見は強化型ZZのFAAAカラー版。

 

武装

・ダブルバルカン…60mmバルカン砲×4。高い瞬間火力を持つ。

・18連装2段階ミサイルランチャー×2…主に対高機動器を主眼とした武装。バックパック上部に内蔵されている。一斉発射を回避するには板野サーカスが必要となる。

・ハイパービームサーベル兼ビームキャノン×2…バックパックに装備された複合兵装。巡洋艦の装甲程度なら両断可能。

・メガビームライフル…ヒュッケバインのものよりも古い設計のため、大型の開放型バレルを持つ。長射程かつ高精度であり、狙撃にも使用可能。

・腹部ハイメガキャノン…本機の奥の手。通常はカバーに隠されているが、使用時にのみ露出。コロニーの外壁すら貫通可能な大火力を誇る。

 

 

○メガゼータ

 

 全高:25.14m(頭頂高21.8m) 重量:87.6t 装甲:ガンダリウム・コンポジット 主機関:縮退炉 ミノフスキー式核融合炉×2 特殊機能:DF

 

 量産型ZZを拡大発展させた機体。

 腹部の縮退炉の他、バックパックの二基の最新版ミノフスキー式核融合炉を追加する事で最新の量産型特機であるグルンガスト弐式を凌駕する出力を叩き出している。

 また、前腕部を有線式サイコミュハンドとして飛ばす事が可能であり、ビームサーベルを持たせたまま射出したり、ロケットパンチ(ワイヤードフィスト)として使用する事も出来る。

 反面、操縦の難易度並びにコストは上昇してしまっている。

 

武装

・ダブルバルカン…60mmバルカン砲×4。高い瞬間火力を持つ。

・18連装2段階ミサイルランチャー×2…主に対高機動器を主眼とした武装。バックパック上部に内蔵されている。一斉発射を回避するには板野サーカスが必要となる。

・サイコミュハンド・パンチ…サイコミュハンドを用いてのロケットパンチ。ジェガン程度なら装甲がひしゃげる。サーベルを持たせて使用する事も可能。

・ハイパービームサーベル兼ビームキャノン×2…バックパックに装備された複合兵装。巡洋艦の装甲程度なら両断可能。

・メガビームライフル…ヒュッケバインのものよりも古い設計のため、大型の開放型バレルを持つ。長射程かつ高精度であり、狙撃にも使用可能。

・腹部ハイメガキャノン…本機の奥の手。通常はカバーに隠されているが、使用時にのみ露出。コロニーすら破壊可能な大火力を誇る。

 

 

 



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第43話 暗闘その3

 新西暦186年9月半ば 地球 欧州方面にて

 

 「態々ワシの前に姿を現すとはな…どういうつもりだトレーズ?」

 

 ギロリ、というデルマイユ公は自らの執務室に訪れたトレーズに対し、殺気混じりの視線を向けた。

 

 遡る事数時間前、トレーズは引き連れてきた物資満載の輸送艦隊を各地に分散させ、それぞれの担当区域で物資の配給並びに医療支援を開始させつつ、自らはこうして自分の所属するロームフェラ財団の長であるデルマイユの元へとやってきたのだ。

 

 「勿論、一軍人としての公務であり、貴族としての義務のためであります、デルマイユ公。」

 

 物腰優雅にして典雅、絶対的なカリスマと美貌にあらゆる分野における才能、エレガントさ。

 それら全てを併せ持つ、正に神に愛されたとも言える男(検査の結果、こんなんでマジにガチのナチュラルである)を前にして、デルマイユ公は財団の長にして欧州を実質的に治めてきた大貴族としての矜持で気圧される事なく対峙する。

 彼とて傑物の一人、ただ相対するだけで気圧される等あってはならないのだ。

 ただ、彼の世界は欧州であり、地球であり、その他は精々コロニー程度しかない。

 あくまで優先すべきはその中での自分達の利益であり、貴族としての矜持であり、貴き血筋を存続する事なのだ。

 商売上火星や木星、コロニーとの繋がりはあるが、あくまで商売上のものに過ぎない。

 ほんの少し多くの有力者よりも世界の定義が狭いがその立場に似あった能力は持っている。

 それがデルマイユ公という老人だった。

 

 「言ってみるがいい。」

 「来る欧州方面での反抗作戦、その総指揮権を参謀本部より任されました。」

 「何だと!?」

 

 それはデルマイユ公の息のかかった欧州方面軍が幾ら上申しても許されなかった、父祖の大地をこの手に取り戻すためのチケット。

 それをこの若造が与えられただと!?

 今まで泰然自若であろうと自らに言い聞かせていたデルマイユをして動揺を露わにするものだった。

 

 「無論、参謀本部からの命令への服従を前提として、です。」

 「ぬぅ…まぁそうだろうな。」

 

 自らの力、自らの兵、自らの手腕で父祖の大地を取り戻す事はデルマイユらロームフェラ財団の悲願とも言えるものだが、それが既に独力ではどうしようもない事もまた悟っていた。

 だからこそ、商人でありながらその傲慢と欲を隠す事すら出来ないジブリールとも手を組んだのだ。

 彼らとて、本当は分かっているのだ、既に自分達の力では欧州を守り切れないと。

 それを悟ったのはムゲや地底種族連合の出現?否。

 太陽系外に潜む宇宙怪獣との遭遇?否。

 アバオアクーでの異星人の出現?否。

 ジオン公国による地球連邦との一年戦争?否。

 もっともっと前から、彼らは何処かでそれを悟りながらも、今の今までそんな事ある訳ないと目を反らしてきた。

 そのツケが今、彼ら自身と欧州の民、欧州を守る兵士達に襲い掛かってきたのだ。

 そして、ツケを溜め込んだ者達の長として、デルマイユは責任を取らねばならなかった。

 

 「それだけではあるまい。他の条件は何だ?」

 「公を始めとしたロームフェラ財団首脳陣の退陣並びにジブリール氏の逮捕です。」

 

 それを聞いて、デルマイユは納得した。

 救援物資までならまだいつものA.I.Mへの仕業で納得できるが、欧州反抗作戦の指揮権までは流石に説明がつかない。

 だが、その条件を聞けば納得だった。

 既にロームフェラ派にもジブリール派にも侵略者に対抗する力が無いのは明白であり、奇襲を受けたとは言え侵略者を跳ね除ける事は出来なかった。

 これを機に両者を表舞台から退場させ、地球連邦による体制をより盤石なものにする。

 それが連邦軍の、否、連邦政府からの条件だったのだろう。

 そして、トレーズはそれを呑むしかなかった。

 トレーズはとっくの昔に悟っていた。

 現状のままのロームフェラとジブリールではこの先の戦乱を生き抜く事なぞ出来ない、と。

 

 「…ロームフェラ財団そのものの解体ではないのだな?」

 「えぇ。財団は欧州の復興並びに文化の保護のためには絶対に必要である、と言う意見が多かったとの事です。」

 「成程、芸は身を助くとはよく言ったものだな。」

 

 地球人類のアイデンティティである文化の保護活動並びに復興への人・物・金を出す事で力を削ぎつつ、混乱を避けるために延命を行う。

 それが連邦政府が出した結論だった。

 なお、その影に文化の衰退とか許されざるよ、とか言った某合法メカ幼女の存在があったとか。

 そして、ロームフェラにとって前者は以前から行ってきた事だし、後者はどの道必要でやる予定の事だった。

 それが多少事情が変わっただけに過ぎないと考えれば、これはロームフェラにとってはこれ以上ない程に好条件だ。

 

 「…良かろう。但し、こちらも条件を出す。」

 「聞きましょう。」

 「他の重役への説明と説得への協力。そしてMDの採用だ。」

 

 そのデルマイユの言葉に、傑物の中の傑物たるトレーズもその独特な眉を顰めた。

 人を愛し、奥深い人の感情が積み重ねた歴史と文化を愛し、しかし衰退から逃れられない強者ではなく、衰退から羽搏いていく敗者こそを尊ぶトレーズ。

 彼にとって心無い兵器であるMDで戦う事は即ち、そうした成長や経験の蓄積とは無縁の者に落ちる事に他ならず、同時に戦乱を厭う気高さもない唾棄すべき兵器だった。

 

 「お前の言いたい事も分かる。MDには対人戦闘に対し、その根幹プログラムからリミットを設ける。」

 「公…。」

 「MDは、無人機は必要なのだ。地球人類を守り、存続させるために。」

 

 太陽系の外に存在する、人類とは全く異なる種族である宇宙怪獣にインベーダー達。

 そのデータを知る事の出来る立場にあったデルマイユからすれば、その存在は余りに絶望的で、自らの矮小さを思い知らされる程に理不尽な存在だった。

 そんなものを相手に、常道で戦って勝てる訳がない。

 有人兵器に早々に見切りを付け、ツバロフ技師長の唱えていたMSの無人化計画たるMDシステムに注力するのは当たり前の結論だった。

 

 「この銀河に、この宇宙に潜む化け物共に対抗するには最早あの無人兵器達だけでは足りぬ。そも、あ奴らが人類を育て、その軍事力を増強させるべく動いているのは『自分達だけでは対処できない』と分かっておるからであろう?」

 

 デルマイユの言う事は正鵠を射ていた。

 既にしてトレミィ達は独力での太陽系防衛を諦めていた。

 現在は太陽系外周部を捨て、冥王星基地に防衛ラインを敷き直し、現在はズール銀河帝国の先遣部隊や小艦隊に対しての徹底的なハラスメント攻撃に終始している。

 無人戦闘機群による亜光速での対艦攻撃(場合によっては縮退炉暴走による自爆も追加)を日に100回近く不定期に受けるのである。

 先遣部隊・艦隊の死亡率たるや、凄まじいものがあった。

 加えて、撤退しようものならズール皇帝の怒りに触れて死に、太陽系から逃げ出そうにも今度はズール銀河帝国艦隊と互角であるゼ・バルマリィ帝国第七艦隊が太陽系外部にて出待ちしているのだ。

 彼らに退路はなく、ただ目の前に広がる地雷原へと突き進むしかなかった。

 そんな死兵同然の敵を相手に二ヵ月近く攻勢を停滞させる程度には、彼女らは今も頑張っている。

 そんな現場の努力と苦闘を嘲笑うかの様に、待機に飽きてきたズール皇帝が本腰を上げるまで、もう間も無くに迫っていた。

 

 「多くの兵をあたら死地に送り込む様な事は断じてならぬ。だからこその対人戦闘へリミットを設けてでも、MDを始めとした無人兵器を実用化せねばならぬ。」

 「デルマイユ公の御慈悲、このトレーズ感服しました。MDの件、リミッターに関しては私の部下も噛ませる形になりますが、委細承知いたしました。」

 「うむ。退陣後、ワシは正式に隠居する。トレーズよ、後の事は任せたぞ。」

 

 本来、デルマイユはこうも殊勝な人物ではない。

 その青い血の持つ伝統と歴史、誇りにかけて、侵略者共を一兵残さず殲滅する気でいた。

 事実、ムゲ帝国並びに地底種族連合の第一次侵攻はその旗下の部隊で散々に打ち破り、降伏も許さず殲滅された。

 しかし、第二次侵攻でやってきたムゲ帝国軍は彼らの想定を遥かに上回る物量と質、各兵科の連携に戦術と戦略を用いた完璧な軍勢だった。

 最初の侵攻はそも地球の最終防衛ラインである2億近い量産型無人OFセトの軍勢に転移中の攻撃を喰らい、指揮系統を散々に乱された状態だったのだ。

 それが魔神覚醒事件で半減したせいで最初とは比較にならない物量で侵攻してきたムゲに対応できず、明確な指揮系統を維持したままでの侵攻に成功したのだ。

 これは異種族の烏合の衆だった地底種族連合とは比べ物にならない組織力を維持したままである事を意味し、精神攻撃兵器の組織的運用とメガロプレッシャーという決して無視できない戦略兵器の存在も加わって、敵わぬと見てティターンズやロームフェラ派の指揮官が早期に撤退、指揮系統が瓦解してしまった。

 その後に起こった事は語るまでも無いだろう。

 …君達は富士川の戦いの平氏か何かかね?

 そんな自分とジブリールの派閥の無様さとあれ程忌み嫌っていた地球連邦軍の兵士達やトレーズ旗下のスペシャルズの奮闘ぶりを見て、デルマイユは心が折れた。

 或いは漸く諦めた、納得したと言っても良い。

 最早今の時代に自分達の様な懐古主義の老い耄れは対応できない、と。

 恐れ、逃げ惑う自分達と違い、彼らは絶望的な軍勢の津波に正面から立ち向かい、兵士としての職務から、貴族としての責務から逃げる事なく戦った。

 その姿は正に貴族としてのあるべき姿で。

 貴族としての責務…民から税を取り、仕えられる等の多くの特権の代償。

 即ち、民とその暮らしを守り、善政を敷く事。

 それを忘れ、特権を恣に貪り続けた自分達のなんと醜い事か…。

 自らの醜悪さを理解したが故にトレーズからの申し出をデルマイユは納得と共に受け入れる事が出来た。

 

 以降、デルマイユは退陣した財閥の役員らと共に欧州の復興並びに文化の保護・育成活動の他、親や家族を亡くした人々への生活支援を行い、余生を過ごす事となる。

 彼らが亡くなった後、世話になった人々は感謝を込めて彼らの銅像を建立し、各々の名前とある言葉を記した。

 

 

 『伝統と文化の守護者達に永遠の感謝を込めて。 彼らに助けられた全ての市民より』 

 

 

 彼らは死して尚その名を人々の記憶に遺す事に成功したのだった。

 

 




デルマイユ公、ムゲの軍勢により漂白。
同時にトレーズ様への説得成功という人生最大の大戦果を上げる。


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第44話 暗闘その4

 新西暦181年 特機開発競争黎明期にて

 

 A.I.M火星支部内秘匿エリアにて、とある計画が進められていた。

 

 その計画は「マキナ計画」と呼ばれていた。

 

 その計画の内容は「人体改造による有人機の限界突破」である。

 おい、オメーらまさかNT研究所みたいな事してるんじゃなかろうな?とスーパー系人類に詰め寄られそうな内容だったが、そこは我らが安心と驚愕のA.I.M、きちんと法律に基づいてのものになるように配慮している。

 対象は主に既存の医療手段では対処できない難病に苦しむ人々や一年戦争で発生した孤児である。

 実はここにネームドが混ざっていた事には後から気付かれたという後日談もある。

 そのネームドの子供達はヨナ・バシュタ、ミシェル・アベスカ、、リタ・ベルナルの三名、即ちガンダムNTの主人公トリオであった。

 が、その時気付いてなかったA.I.Mはそのまま実験を続行する。

 彼らに対して主にナノマシンによる軽度の処置で情報処理能力や身体強度の底上げを行うのが目的だった。

 地球やコロニーでは未だナノマシンを体内に注入するIFSへの忌避感が強いのだが、ナノマシンによるテラフォーミングで可住化された火星は自治法案内にナノマシンによる医療利用が合法であり、保険適用内である事から火星での実施となった。

 行く行くは人体の限界を超越し、量産型OFやヴァルチャーの有人機化による更なる能力UPも目指す予定だった。

 量産型OFやヴァルチャーは総ナノマシン製である故に極めて高い性能を誇るが、反面パイロットが扱い切れない程の多機能になっている。

 それを扱い切るための無人化なのだが、それは即ち人間の持つ柔軟な判断力や特異な能力の応用が効かない事を意味する。

 それを解決するためには人間側の処理能力を人間のまま向上させねばならない。

 また、有人化したOFやヴァルチャーを投入せざるを得ない様な戦場となれば、必然的にフィジカル面でも高い水準でなければ耐えられない。

 高い情報処理能力に各種身体能力、そして再生能力の付与が求められたのだった。

 要は鉄のラインバレルのマキナを再現しようという計画だった。

 技術的には可能であり、焦りもなく実験は法に抵触しない範囲で進められた。

 幸いにして被験者達には特に後遺症が発生する事もなく成功、その多くは現在もA.I.M出資の学校に就学或いはグループ内企業に就職し、優れた技術者やオペレーター、パイロットに保安部員他で元気に働いている。

 特にナラティブ組はNT適性持ちが二人、経営適性持ちが一人と有能であり、現在は将来のパイロット候補・幹部候補として勉強中である。

 しかし、この程度の結果では駄目だ!と強硬に主張するメンバーがいた。

 

 彼の名を草間博士と言う。

 

 IFSの通常の副脳の形成並びにシステムへの接続機能の追加のみならず、人体の多くを新型の多機能ナノマシンによって置換し、人間の判断力・柔軟性・人格を残しつつ、高い自己再生能力を持った身体へと改造するべきだと主張したのだ。

 A.I.M首脳部は当然これを不許可とした。

 その程度の事は彼女らからすれば可能だが、人道的見地からすべきではないという結論が既に出されていたからだ。

 何より改造の結果、その人物の多様性(ガンダムファイターとか異能者とか魔法使いとか超能力だとか)が失われる可能性が否定できないのが大きかった。

 これを草間博士は不服としながらも研究は続き、結局出来上がったのは投与した人体の各種身体能力を大幅に底上げし、ほぼ限界まで鍛え上げた状態にする超人血清染みたナノマシンだったため、名称が危うく超人ナノマシンになりそうになったが、秘匿名称スーパーマンのまま表沙汰になる事なく秘匿物資として保管される事となった。

 この結果に草間博士は遂に我慢ならずに自分の妻を被検体に試作型ナノマシンの実験を強行した。

 同僚らが気付いた時には手遅れで、試作型ナノマシンの暴走の結果、草間博士の奥方は死亡してしまった。

 これは実験室で起きてしまった事故として処理されたが、草間博士は失意のまま辞表を提出、慰留を求める役員や同僚らを振り切り、まだ幼い一人息子を連れて地球へと渡ったと言う。

 

 問題はここからだった。

 

 A.I.M並びに太陽系防衛用無人機動艦隊はその性質上優れた人材や原作におけるネームドには常に監視を行っている。

 無論、退職したとは言え草間博士とその家族にも。

 しかし、地球に到達直後、監視に当たっていた量産型無人ヴァルチャーが撃破された。

 一分とせぬ内に太陽系最終防衛ライン所属の無人量産型OF一個中隊が駆けつけたものの、既に現場には草間博士達の姿は無かった。

 加えて、追跡と真相解明に繋がるだろう証拠は一切発見できず、捜査は続行されたものの半年で打ち切りになった。

 だが、草間博士はその3年後に発見された。

 BF団の持つ秘匿施設、そこでGR計画に関わると言われる巨大ロボとその操縦者の研究を行っていたのだ。

 A.I.M地球支部の保安部は国際警察機構と連携して当該施設を強襲、制圧作戦に乗り出した。

 結果は大凡原作通りに草間博士の死亡と草間大作少年と彼にのみ従うジャイアントロボを保護するだけで終わった。

 参加したナノマシン式高級自動人形一個大隊は眩惑のセルバンテスによってセンサー系を攪乱され、同士討ちの危険からセルバンテスを逃してしまう。

 結局GR計画の内容も、BF団の情報も碌に解明できず、大作は本人の意思もあって国際警察機構へと保護され、そこでエージェントの一人として現在も活動している。

 その肉体は検査の結果、不活性状態ながらも多量のナノマシンが発見されており、活性化すれば秘匿名称スーパーマンを超える身体能力と情報処理能力を発揮するだろう事が予想された。

 草間博士は懲りずに自分の息子を被験者として実験を継続していたのだ。

 加えて、ジャイアントロボの内部は多くがブラックボックス化されており、その動力に真シズマドライブが採用されている事、取り敢えず整備が出来る程度には解析が進んだ事しか分かっていない。

 失意に暮れていた彼が何故研究を再開し、BF団のGR計画に加担していたのかは最早分からない。

 更に、何故今更BF団を裏切り、国際警察機構並びにA.I.Mに情報を漏らしたのかも不明だ。

 セルバンテスに聞けば何か分かるかもしれないが、あの男がそう簡単に口を割る筈もなく。

 結局、真相は迷宮入りだった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦175年 地球

 

 この時代、新たなエネルギー資源として開発された物質があった。

 

 その名もシズマドライブ。

 

 それは人類が夢見た完全リサイクル可能にして完全無公害な最も理想的なエネルギーとして持て囃され、すわ当時主流であった核分裂炉に代替するのではと一時期は期待された程だった。

 開発した5人の博士達、即ちフランケン・フォン・フォーグラー、シズマ・ド・モンタルバン三世、Dr.ダンカン、シムレ、ドクトル・トランボの五名は英雄として称えられ、連日報道され続けた。

 しかし、A.I.M技術開発部エネルギー部門より発表されたデータにより、その期待は裏返ってしまった。

 

 「調査の結果、シズマドライブには致命的な欠陥がある事が分かりました。それは使用する度に特殊な分子を発生させるという点です。この分子は一定以上の濃度に達すると突如周辺の酸素と結合を開始、周辺を無酸素状態にしてしまうのです。もしこの欠陥を解決せぬままにシズマドライブが地球全土で使用されるようになったら…概算ですが10年程で地球上の全酸素を消滅させてしまう可能性があります。」

 

 この発表を元に各研究機関が改めて精査し、それが事実であると開発者である5人の博士らは大いに責められた。

 進退窮まった彼らは欠陥を改善すべく必死に研究を進め、遂には大規模な実験を行う事を発表する。

 これには主任開発者であるフランケン・フォン・フォーグラー博士は止めに入るが、既にプライドだけでなく研究者生活を続けられるかどうか分からない程に追い詰められていた残り4名の博士らは実験を強行してしまう。

 結果だけを言えば、施設は巨大なエネルギーを発生させながら跡形も無く消滅し、同時に地球全土と月面の表側のエネルギー機関が全て停止してしまうという大惨事を引き起こしてしまった。

 これによって発生した人的・経済的被害は計算不能な程で、7日目のA.I.M火星支部からの支援が無ければ文明そのものが衰退しかねない程の被害だった。

 その余りの悲惨な被害に当時の人々はこの事件の記録を僅かな例外を除いて抹消又は封印、忘却を選択したのだった。

 なお、爆心地にいた5人の博士とフォーグラー博士の息子の安否は不明だが、高確率で死亡したと見られ、生き残ったフォーグラー博士の弟子と娘はその能力を見込まれて国際警察機構に保護された。

 一連の事件は実験施設のあった場所の名から「ヴァシュタールの惨劇」として名付けられ、同時に表向きは無かった事にされた。

 

 しかし、5人の博士は生きていた。

 

 BF団が長たるBFの直属の部下、軍師諸葛亮孔明の手によって。

 彼らが何を条件に孔明の指示に従ったのかは定かではない。

 しかし、新西暦186年現在、破壊された量産型GR2とGR3の残骸から発見された欠陥の消えたシズマドライブ、即ち真シズマドライブの存在から、彼らが生きている事を突き止めた国際警察機構はA.I.Mのバックアップ並びに連邦軍情報部とも連携して、改めてBF団の追跡を開始するのだった。

 

 「ホホホ、これまた予定通り。では、彼らには精々踊ってもらいましょうか。」

 

 それすら孔明の掌の上だとも知らずに。

 

 




色々と追加設定のお話でした。

Q つまり?
A 全て孔明の罠だったんだよ!


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第45話 暗闘その5

申し訳ありませんが、順番前後してます。
うっかり魔装機神組忘れてたので説明回です。


 シュウ・シラカワ

 

 その名はスーパーロボット大戦時空において知らぬ者はいない程、極めて重要な意味を持つ。

 重力の魔神グランゾン(及びネオ・グランゾン)の開発者にしてパイロット。

 地上においては最新の科学技術を、地下世界ラ・ギアスでは錬金術を修めるだけでなく、武術にも通じ、あらゆる分野で優れた才覚を発揮する正に万能の天才と言って良い男であり、総合科学技術者(メタ・ネクシャリスト)の異名を持つ。

 母の故郷である日本人としての名前に加え、本名はクリストフ・グラン・マクソードと言う。

 これは地下世界ラ・ギアスの主要国家ラングラン王国の王族である事を意味しているのだが、幼少時は王族でありながら地上人とのハーフという事で、地上人を嫌う人々から迫害を受けていた。

 その時に守ってくれていた母に強い信頼を寄せていたが、迫害に耐えかねた母ミサキが地上への望郷の念に駆られた際、地上送還の生け贄として殺されかける。

 その時の絶望と力を求める意志に以前から目を付けていた邪神ヴォルクルスが応え、契約する事で力と命を得た。

 これによりシュウの「自由」はヴォルクルスによって束縛されたものとなってしまう。

 実の母親に負わされた左胸の外傷は十年以上経っても残っており、シュウの数少ないコンプレックスになっている。

 その自由を愛する性格故に、自分を利用しようとする者、利用した者は誰であろうと決して許さない。

 その力故に様々な人物や組織に目を付けられ、原作ではそれを利用しようとしたゼゼーナンやユーゼスといった地球の敵と戦う事も多い。

 ただシュウが嫌うのは、あくまでも自らを一方的に抑圧する、利用する行為であり、ギブアンドテイクが成立している取引を断ってはいないことからも窺える。

 つまり互いに納得した上で「利用しあう」という行為であれば問題はない。

 また、地球の敵と戦うのも単に自分の自由を侵害する事が許せないという事以外にも、 地球を愛する者として侵略には徹底抗戦というシュウなりの正義感による面もある(でなければ、シュウはヴォルクルスに洗脳されてなお「ビアンの考えに惹かれた」と彼に協力するはずがない)

 なお、この世界線だとこの邪神、勿論ながら負の無限力の一角であり、撃破には覚醒済みサイコドライバー複数人の投入が最低条件になる。

 そんな自由を愛するシュウは自身がヴォルクルスの力で自由を失っている事に耐えられず、地上に出た後はマサキやスーパーロボット軍団と敢えて敵対する事で、彼らに自分を倒させようとした。

 とはいえただ倒されるだけでなく、全力で戦った結果としての死を望んでいたようである。

 結果、スーパーロボット軍団をボコボコにした後、最後にはマサキに倒され、死を以てヴォルクルスの呪縛から解放された。

 その後、紆余曲折あって復活してからは自身を利用する原点となったヴォルクルスやヴォルクルス教団、そしてその首魁である預言者ヨーテンナイを倒すことが彼の目的となる。

 基本的に性格は自己中心的で嫌な男だが、本来は穏やかな気質らしく、邪神の呪縛から解放された後はサフィーネやモニカ、テリウスらを仲間として扱うなど、他人に対する気遣いが見られる。

 また、教団時代の自身の被害者であるプレシアやセニアを気に掛けたり、遺恨を持ちながらも「借り」という形で見逃したアルバーダに対して、「ありがとう」という感謝の言葉を口にする等、要所要所で気遣いを見せている。

 しかしながら「自分を利用した相手は絶対殺すマン」としてのスタンスは一切、微塵も、全く変わっていない辺り、実に筋金入りである。

 その立ち位置やキャラクター性、オリジナルキャラクターの中でも群を抜く存在感ゆえに「スパロボ界のジョーカー」とも称される。

 その苛烈な報復から「関わったら死亡フラグが立つ」「敵対したら殺される」「恨みを買ったら宇宙の果てまで追い回される」等とすら言われており、その存在感の大きさが分かるというものである。

 加えて、気を抜いた時は普通に冗談や嘘、からかいの言葉も口にするが、それは滅多に見られるものではない。

 尚、そんな彼だが女性によくモテる。

 モテるのだが、女性不信も相俟ってマサキに対して濃厚なホモ疑惑がかかっている。

 自身の使い魔であるチカにすら疑われている始末である。

 

 新西暦184年12月、そんな男がビアン博士に連れられてA.I.M本社へと訪れた事は社外秘に指定されるのも当然の事だった。

 

 彼の姿が確認された瞬間、地球の絶対防衛ラインの戦力は危うくコードREDパターンG又はVが発令されかけたと言えば、トレミィ達からの警戒ぶりがよく分かるだろう。

 

 「そう警戒をしないでください。私からは貴女方に何もしませんので。」

 「了解致しました。」

 

 早速応接室に通された二人には太陽系外縁部からトレミィがすっ飛んでくるまで、武蔵社長(まだアズラエルとの結婚前なので4代目)は二人の博士を最上級VIP待遇で歓待するのだった。

 この歓待、彼女のそれなりに長い経験の中で最も神経を使ったものだったと言う。

 表向き和やかな会話(主に最新技術関係)が続く事30分程、遂に太陽系外縁部から戻ってきたトレミィが焦燥も露わに駆け込んで来た。

 その上でいつものゴスロリ服でいきなりスライディング土下座しながら入室してきた。

 

 「何でもあげますからうちの子達だけは勘弁してください後生ですぅぅぅぅっ!!」

 「貴女は何を言ってるんですか?」

 「トレミィ会長、少々こちらへ…。」

 「へ?武蔵、何で廊下に…待って待って何をそんなに怒って」

 

 

 ~~~ 只今大変残虐な音声が流れているため、鳳翔さんの3分クッキング動画を見て癒されながら暫くお待ちください ~~~

 

 

 「大変失礼致しました。」

 「いえ、こちらこそ急な訪問で失礼致しました。」

 

 3分後、頭に漫画みたいな三段たんこぶを生やしたトレミィが普通に挨拶していた。

 なお、ビアン博士は終始苦笑いしていた。

 

 「それで、我が社に如何なるご用事でしょうか?」

 「私共で開発した特機の作成にご助力願いたいのです。」

 「それは構いませんが…それでしたら北米にて開発計画が進行しておりますので、そちらにご参加して頂く事は出来ませんか?」

 「故あって秘密裏に行いたいのです。お願いできませんか?」

 「私からも是非お願いしたい。彼の才能は本物であり、その事情も私は僅かながら聞かせてもらった。何とか用立ててもらえないだろうか?」

 「んー、他ならぬビアン博士からの紹介ですし……当社の地下ドッグであれば可能ですが、少々手狭になりますよ?資金や設備のサポートもこちらで致しますが、開発する機体のデータ等はこちらにも提供して頂く事になりますが…。」

 「望外の条件です。それでお願いします。あぁ、それと一つ、注意事項を。」

 「注意事項ですか?」

 

 「私は、私を一方的に利用する者、利用した者を決して許しません。それだけはお忘れなきよう。」

 「分かりました。よく覚えておきます。」

 

 こうして、シュウ・シラカワは密かにA.I.M北米本社地下の秘匿エリアにて僅か一年でグランゾンを完成させたのだった。

 その間、トレミィ達は決して彼の背後関係やプライベートを探る様な事はせず、契約内容通りの関係に終始した。

 それは彼女らとしては当然の約束・契約の遵守であり、シュウ・シラカワという一個人への恐れ故だった。

 それから一年後、出来上がったグランゾンを駆り、シュウ・シラカワは挨拶もそこそこに旅立っていった。

 彼が今、何処で何をしているのかは知らない。

 しかし、定期的にこちらで行っている資金援助用の口座から生活費や改造費用が引き落とされているので、しっかり生きている事だけは分かっている。

 そして、肝心のトレミィ達が望んでいたグランゾンの詳細データなのだが……はっきり言って欠陥機と言っても良かった。

 

 何故って?操縦系統や武装の類が搭乗者がシュウ・シラカワ級の大天才である事前提に作られてるからだよ!

 

 例えば、ワームスマッシャーという武装がある。

 胸部を解放してエネルギービームを発射、それを発生させたワームホールに打ち込み、目標の周辺で新たに無数のワームホールを発生、それを出口にエネルギービームが標的へと命中する。

 単体だけでなく無数の目標へ攻撃可能で、最大65536もの目標を同時に攻撃可能と言われている恐ろしい武装だ。

 で、こんなん使用するには極めて精密な重力操作による空間干渉に機動する敵機の位置情報並びに正確無比な機動予測が必要となる。

 で、そんな事を最大65536もの目標に対して行う?

 機体側だけではとてもではないが追い付かない程の情報処理が必要となる。

 それをシュウ・シラカワはガイキングのサコン・ゲンよろしく自分自身の脳で追い付かない分を処理しているのである。

 加えて、そんな事をしながら直進ならサイバスターを凌駕する機動性を駆使しての近接戦闘すら行うのである。

 んな事出来る人類なんて一体何人いると言うのだろうか?(トレーズ閣下は出来そうだが)

 太陽系防衛用無人機動部隊所属のヴァルチャーやOFならば可能だが、逆に言えばアレら級のオーバーテクノロジーが必要となるのだ。

 なお、グランゾンは当初ヴァルシオンの基礎設計を参考にしつつ、半分近くまで小型化したものを基礎としていたのだが、途中から「閃きました」とか言って、一から設計を開始して作り上げられていたりする。

 人員と設備、資材に資金なんかは使い放題だったとは言え、僅か一年でほぼ独力であんな代物作るシラカワさんちのシュウ君はやっぱり異常なんだなってトレミィははっきりと理解しましたとさ。

 そして完成してから1年後、地下世界ラギアスにおいて何が起こっていたのかは定かではないが、予定よりも早い第一次α時空においてラ・ギアスよりシュウ・シラカワを追ってマサキ・アンドーと魔装機神サイバスターが来訪するのだった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年8月半ば 地球 太平洋上空にて

 

 『あーもう!ここは何処なんだよ!』

 『マサキ…お腹減ったにゃ…。』

 『もう喋るのも億劫だにゃ…。』

 

 一人と二匹に一機が旧合衆国領ハワイ諸島に向けて侵攻中だったムゲ艦隊を見つけ、交戦するまで後30分。

 戦闘に気付いて加勢にやってきたハガネとヒリュウ改の部隊(SRXチーム・ATXチーム・旧教導隊チーム・ヒリュウ改チーム+ヴァルシオーネ)と合流するまで後35分。

 意気投合して事情話して同行するまで後45分の出来事だった。

 

 



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第46話 バトル・オブ・ヨーロッパ 前書き追加

最新話は前に追加された「暗闘その5」になります。
説明不足だった所を補った話になります。
大変申し訳ありませんでした。


 新西暦186年9月20日 月 フォンブラウン市

 

 その郊外の集団墓地には先日新たに亡くなった人物の墓がひっそりと佇んでいた。

 しかし、葬儀から間もない事、彼を良く知る人物達からの献花が未だ途絶えない故か、その墓には色取り取りの花々が添えられていた。

 

 

 トレノフ・Y・ミノフスキー ここに眠る

 

    新西暦125~186年

 

 

 ミノフスキー物理学の開祖たる科学者として激動の時代を生き抜いた男が、今はここで静かに眠っている。

 葬儀は戦時下と言う事もあって当時月にいた関係者だけが参列したが、彼に恩義を感じる者達が時間の出来次第ここに訪れている。

 

 「ゆっくり休んでくれ、博士。」

 「………。」

 

 片やジオン共和国軍最強のエースと名高い赤い彗星シャア・アズナブル。

 片や地球連邦軍最強のNTと名高い白い悪魔アムロ・レイ。

 一年戦争中は殺しあったこともある二人は数年前からは義兄弟でもあり、今はただ世話になった故人を偲んでいた。

 

 「…行こう。無理を言って済まなかったな。」

 「良いさ、これ位。博士には僕もお世話になってたからな。」

 

 二人とミノフスキー博士は戦後の新型主力機開発計画で幾度も激論を交わし続けた仲だった。

 それでもプロジェクトメンバー達の仲が悪いなんて事はなく、只管に実力のみが問われたこの開発計画ではスペースノイドもアースノイドも、オールドタイプもニュータイプも関係なく、次なる地球人類を守るための力を鍛え上げるべく力を尽くした。

 あの計画で開発された機動兵器とその系譜は今、太陽系に住まう人類を守るための力となって振るわれている。

 ミノフスキー博士の持つ各種特許(ジオン公国時代のは賠償金代わりに売却済み)は現在A.I.Mグループに委託され、その特許使用料は最低限の手数料を除いて一年戦争時に発生した被害の賠償並びに孤児達の支援へと使われている。

 せめてもの罪滅ぼしだよ、とは以前宴会の席で博士がテムに零していた言葉だった。

 だが、それで救われた者達からすれば、それがどんな経緯で誰が出した支援であったとしても、救いの手である事に違いは無い。

 故に彼の墓には未だ献花が絶えないのだ。

 

 「妻には会っていかないのかい、義兄さん?」

 「義兄さんは止めてくれ…。何、心配せずとも勝ってから会いに行くとも。」

 

 本当はアムロの前で妻同士で共有している色々な(主に情けない)話を暴露されたくないというのも大きいが、事前に心残り全部を晴らしておくとうっかり戦場から帰りたくなくなってしまうかもしれない、なんて思っているのもあった。

 

 「やはり会わずに行くつもりだったんですね、兄さん?」

 「おい  おいアムロ。」

 「いやぁどうしても会いたいって言うからさ。」

 

 そして、墓地の出入り口でその腕に娘を抱えたにっこり笑顔のセイラ・M・レイに出待ちされていた。

 その妹と姪の姿を前に、シャアは思わずアムロの胸倉を掴んで問い詰めるが、アムロの方は悪戯小僧そのままのしてやったりと聞こえてくる程の笑顔だった。

 

 「全く、変な所で臆病なのはちっとも変ってないんだから…。軍のシャトル出発時間までまだまだ時間があるんですから、宇宙港の喫茶店にでも入りましょう。そこでみっちり話し合いましょうか。」

 

 呆れつつ、有無を言わさずエレカを確保して乗り込むセイラ(二児の母となって肝っ玉強化済み)に対し、シャアはここぞとばかりにNTのキュピーンを用いてアムロと念話する。

 なお、エレカのハンドルを握るはテムで、助手席には彼の初孫がチャイルドシートに埋まるようにして眠っている。

 ちなみにここの宇宙港の喫茶店の一つにはA.I.Mグループの系列店である喫茶店間宮フォンブラウン宇宙港支店があったりする。

 

 (おいアムロ、義兄の危機だ。手を貸してくれ。)

 (諦めて処されてくれ義兄さん(笑)。それもこれも何だかんだ理由付けて顔出さないからだぞ。)

 (アムロ、謀ったな、アムロ!)

 (恨むなら今までの己の行いを恨むんだな、シャア!)

 「早く来なさい!」

 「「は、はい!」」

 

 斯くして最強NTコンビは急いでエレカに乗り込むのだった。

 この24時間後、極東に二機の新型MSとこの二人が降り立つ事となる。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年9月21日 地球 極東方面 伊豆基地

 

 「諸君らに集まってもらったのは他でもない。欧州方面奪還作戦の事だ。」

 

 極東方面軍司令官たる岡長官は講堂に居並ぶ面々を見渡す。

 ゲッターチーム、マジンガーチーム、コンバトラーチームにボルテスチーム、獣戦機隊。

 竜崎一矢にひびき洸、宇門大介に明神タケル。

 誰もが名だたる特機のパイロットであり、民間所属の彼らを纏めるために急遽編成された特別遊撃部隊マーチウィンドの主力メンバーだった。

 その隣にいるのはSRXチーム、ATXチーム、マサキ・アンドーにリューネ・ゾルダーク。

 元教導隊のメンバーにヒリュウ改のパイロット達、そして急遽呼び出された連邦軍とジオン内で最強の呼び声高いNTコンビに沖女から呼び出されたトップ部隊教官女性陣三人衆からなるISA戦術専門特務部隊αナンバーズ。

 最後に地球連邦軍参謀本部直属空中機動艦隊所属のスカル大隊の面々+教導隊から引っ張ってこられたD.D.イワノフ(奥さんのノーラは産休中)だ。

 大凡現在地球圏にいる最も腕の立つパイロット達を掻き集めたと言っても良いメンバーであり、これ以上の人員は今現在望めないと言っても良かった。

 

 「皆、資料は行き渡ったな?今度の欧州奪還作戦の概要を説明する。」

 

 簡単に説明すると、海上と陸上部隊が全方位から攻め立て、敵中枢の戦力が薄くなった所からISA戦術対応艦隊による敵中枢へのISA戦術を実行する。

 第一段階、明朝に敵地に潜入した特殊部隊・コマンドゲリラ部隊による破壊工作。

 第二段階、陸上・海上からの長距離ミサイル並びに長射程砲による準備攻撃。

 第三段階、陸上・海上の機動兵器部隊による攻撃開始。敵機動部隊への対応並びに排除を目的とする。

 第四段階、以上を陽動とした状態でISA戦術専門部隊による敵中枢への攻撃。

 

 「君達の担当となるのはこの第四段階に当たる。具体的な手順に関してはブライト中佐にお願いしよう。」

 「説明を担当するブライトだ。これより我々が行う欧州方面のムゲ帝国軍中枢への突入作戦について説明する。」

 

 そして、ブライトが説明した作戦内容は驚くべきものだった。

 多くのパイロット達(特にスカル大隊)は驚愕に目を見開くか口元を引き攣らせ、反対にマーチウィンドの面々は面白そうだと口元が弧を描く。

 が、こんな滅茶苦茶な作戦や戦闘には慣れている連中はまたかー…と半ば以上諦めの境地に達している状態だった。

 

 「説明は以上になる。誰か、質問はあるか?」

 「はい!スカル大隊ヴァーミリオン小隊所属の一条輝軍曹であります!」

 「よし、質問を許可する。」

 「は!この作戦では母艦への危険が高過ぎると思いますが、よろしいのでしょうか!?」

 「この作戦において優先すべきは敵精神攻撃兵器への対処だ。母艦の危険性は確かに憂慮すべきだが、だからこその前線部隊の陽動作戦だ。我々は多少のリスクは承知の上でこの任務を絶対に成功させる必要がある。」

 「………。」

 「先立って冥王星基地の太陽系防衛用無人機動部隊よりズール帝国軍の通信量の増大が確認された。連中も近い内に仕掛けてくる。その前に地球での憂いを取り除き、戦力を宇宙に集中させる。この戦いは太陽系から侵略者を追い出すための第一歩になるだろう。」

 

 おお、と場がざわめく。

 今度は恐れではなく興奮で、だ。

 基本、パイロットなんてやってる人種は向こう見ずでプライドが高く、粋や浪漫に生きている。

 この様な事を一年戦争の名指揮官と言われる人物に言われ、血潮が滾らない者はこの場にいなかった。

 まぁ、アムロとシャアは(ブライトの奴、無理して盛り立ててんなー)と苦笑しながら見ていたが。

 

 「作戦決行は明後日明朝と同時だ。各員、それまで万全の「ほ、報告します!」

 

 そこに突然焦燥を顔一杯に刻んだ通信士官が駆け込んできた。

 

 「どうした…ブリーフィング中だぞ!」

 「構わん。報告したまえ。」

 

 ブライトの叱責を制し、岡長官が小走りで寄ってきた士官から報告を耳打ちされる。

 その内容を理解したと同時、岡長官は驚愕と共に叫んだ。

 

 「何、欧州方面で戦闘が開始されただと!?」

 「な、確かなのか!?」

 「クシュリナーダ准将閣下から参謀本部への緊急電があったとの事です!間違いありません!」

 

 その内容に一同は愕然とした。

 

 「一体何があった!?」

 「その、現場も混乱して確定ではないのですが、一部の兵士が錯乱・暴走して友軍を攻撃、同時にムゲ側が旧英国領に向けて侵攻を開始したとの事です。」

 

 この場にいる彼らは知る由もないが、ジブリール派の研究者らが用意したフォウ・ムラサメを始めとした強化人間らが遠距離から微弱ながらも発せられた精神攻撃兵器に大きく反応し、錯乱した事が原因だった。

 ムゲ側はジブリールの根拠地たる東欧方面で入手する事に成功した強化人間の研究の一部資料(電子データではなく紙媒体)から強化人間のスペックの高さと不安定さを知り、それを利用して欧州方面軍最後の拠点たる旧英国領を攻略しようとしたのだ。

 本来の予定ならば洗脳される筈なのだが、予想外に未熟かつ不安定な強化人間への措置が原因で錯乱・暴走を開始してしまった。

 折しも旧英国領は極東方面と比較して9時間もの誤差がある。

 今、旧英国領は正に夜明け前の空が白み始める時間、即ち朝駆けには絶好の時間帯だったのだ。

 

 『まぁ急造の強化パーツではこんなものだろう。』

 『だが、戦果としては十分だ。』

 『うむ。では予定通り旧英国領に進軍を開始する。ヘルマット、任せたぞ。』

 『おう、吉報を待っていろ!全艦、我に続け!欧州方面から地球人共を今度こそ追い出ずぞ!』

 

 こうして、ムゲ帝国軍は連邦軍よりも一歩早く次の行動へ移ったのだった。

 

 「…チャンスだな、これは。」

 

 旧フランス領から迫り来るムゲ帝国軍と味方機の暴走によって混乱と被害が広がる状況下で、トレーズは呟いた。

 今や欧州方面軍総司令官を任ぜられたこの男は、この事態を奇貨とするに十分な才覚を有していた。

 

 「敵が進軍してきているのならば、陽動の役割としてはこれ以上ない。」

 「作戦を早めるという事ですね?」

 「あぁ。総司令部に通達してくれ、レディ。欧州奪還作戦は予定よりも繰り上げて行われたし。敵主力は当方で引き付ける、とね。」

 「畏まりました。」

 

 態々引っ張り出そうとしていた敵が向こうから押し寄せてきたのだ。

 これを利用しない手はトレーズの中には無かった。

 

 「全軍、戦闘開始。錯乱する機体と兵士は全て敵として処理。然る後にムゲ帝国軍に対処せよ。」

 

 こうして、一年戦争以来となる地球上での大規模会戦が幕を上げた。

 この日から始まる戦闘を後世の人々はBOE、即ちバトル・オブ・ヨーロッパとして地球の戦乱の歴史の中で長く語られ続ける事となる。

 

 

 




所々ギャグを挟みつつ、遂に欧州方面奪還作戦開始です。
と言ってもムゲ側が先制してきましたがね!


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第47話 バトル・オブ・ヨーロッパその2

新西暦186年9月21日 地球 欧州方面

 

 「…了解した。こちらも予定を早める。」

 

 Piとアラン・イゴール大尉は通信を終了した。

 

 「で、やっぱ当たりだった?」

 「デュオか。あぁ、ムゲ共は旧英国領への侵攻を開始した。」

 「やけに慌しいと思ってたらやっぱりかよ…。」

 

 アラン・イゴール少佐。

 彼はロス・イゴール地球連邦軍少将の一人息子であり、ゲリラ戦・情報戦の名手であり、対侵略者向けゲリラコマンド部隊「黒騎士隊」の隊長である。

 なお、副隊長は遂に告白してきた沙羅を振って、目のハイライトの消えた彼女から逃げるために最前線の更に奥までやってきたシャピロだったりする。

 余談だが、失恋で飲んだくれる沙羅に忍が「オレじゃ駄目か?」とアタックし、見事捕食からのカップル成立してたりする。

 良かったねシャピロ!君の目的は果たされたよ!

 で、そんなアランがここ欧州の地に部下達と共にいる目的は一つ、ムゲ帝国軍相手の妨害作戦のためである。

 本来なら民間人を巻き込みかねないゲリラ戦は旧世紀の国家間の戦争では表向き禁止されているが、ムゲ帝国軍との間にはその辺の戦時条約とかが一切結ばれていない。

 即ち、拷問もゲリラ戦もNBC兵器もやりたい放題なのだ。

 この辺は一年戦争開戦初頭のジオン軍にも通じる。

 とは言え、地球上での核弾頭の使用や細菌兵器の使用は流石に敵の逆鱗に触れかねないので使用しない。

 やるのは敵後方地帯での破壊活動並びにそれによる陽動作戦である。

 潜入を始めとした特殊作戦の専門でもある国際警察機構からの助っ人とコロニーから送られてきた民兵の少年兵ら5名(明らかに高過ぎる練度と専用のガンダム型MS付きで!)と合流した彼らは陥落した欧州方面に潜伏し、ムゲ帝国軍の情報収集並びに破壊工作を進めていった。

 とは言え、敵の補給ルートや指揮官の位置等の情報収集と違って、破壊工作は逃げ遅れた民間人への被害を考慮して極小規模なものに留まっていた。

 例えば、兵の食事に下剤が混ざっていたり、調味料が摩り替えられていたり、大事な書類が無くなっていたり、車両が頻繁に故障したり、ネズミや虫による食料や書類への食害が頻繁に発生したりである。

 一つ一つは何でもない事だが、塵も積もれば山となる様にそうした些細なハラスメントによって侵攻部隊の進軍速度や物資・兵員の集中は遅れ続けていた。

 余りに遅い物資の集積にムゲ宇宙から物資を送るべく事務方として辣腕を振るっていたルーナが文句を付けてやろうと前線視察に来た時は下水道から多数のネズミやゴ○ブリが湧き出してくるというハプニング(下水道内でガス状の殺鼠・殺虫剤を撒いたのが原因)が発生し、遂には半狂乱になったルーナの命令で対歩兵用火炎放射器を備えた掃討戦用の歩兵部隊が投入される事態にも発展した。

 結果、ルーナはこのハプニング以来地球には決して来る事はなくなった。

 そんな感じで徹底的に嫌がらせに終始していた彼らだが、今から数時間前にムゲ帝国軍が欧州方面最後の砦にして奪還作戦の基点となる旧英国領への侵攻を開始したとの報告が届いたのだ。

 

 「なら、間も無く欧州奪還作戦が発令されるな。」

 「シャピロか。そっちの準備はもう良いのか?」

 「村雨の奴が敵司令部のある基地へと潜入して、最後の仕込みをしている。奴の撤退を確認後、花火を上げる。」

 「そして上げた直後にISA戦術部隊が降りて来る。」

 「それに合わせてオレらも参戦する、と。予定通りだな。」

 「デュオ、お前達は撤退しろ。ここから先は大人の仕事だ。」

 「冗談言うなって。ムゲの奴らはコロニーにも襲い掛かってきた。しかも宇宙にはまだまだ次が控えてる。一年戦争でも沢山のコロニーが攻撃されて、軍人も民間人も大勢死んだ。」

 「……。」

 

 森の中、周辺に合わせた色彩に自動的に合わせてくれる自動迷彩仕様のテントの中に沈黙が広がる。

 デュオの言っている事は正しく、地球連邦はまだまだ外敵と戦わねばならない。

 そのためには少しでも多くの優秀な兵士が必要となる。

 欧州方面のくだらない政治的な問題で始まったこの戦いで、貴重な人的・物的資源を消耗する様な事は避けたいというのが正直な話だった。

 だが、それで民間人の少年兵を投入すると言うのは市民を守る地球連邦軍としても、一人の大人としても間違っている。

 そこにもう一人、コロニーからの少年兵が現れた。

 

 「ムゲ、ズール、バルマー。それらを排除するためにもここで少しでも損害を抑える必要がある。」

 「ヒイロか。機体の調整は終わったのか?」

 「あぁ。後は出撃するだけだ。」

 

 5人の少年兵達の中でも特に無愛想な二人の内の一人が現れる。

 整った容姿を微塵も動かさないその少年の名はヒイロ・ユイ。

 嘗てのコロニー独立運動の活動家の一人であった人物と同じ名を名乗る少年は、その年齢からは想定できない程に兵士として完成していた。

 

 「! アラン隊長、暗号通信です!」

 「解読しろ。」

 「…長い者が、5人…船から降りる、です!」

 「聞いたな?5時間後だ。各員、装備の最終点検に移れ!不要な装備や記録は残さず廃棄!ムゲ共を欧州から追い出す大仕事を始めるぞ!」

 

 アランの命令に、テント内の人員が表向き静かに、しかしその胸の内を熱くしながら駆け回り始める。

 後5時間、それで彼らの仕事の大詰めが始まるのだ。

 

 「お前達、すまないが丁寧に逃がすだけの時間はない。」

 「別に良い。そちらが立場上構うのなら、こちらは勝手に参戦する。」

 「祭りにオレらだけハブられるなんて無しだぜアラン。」

 「………勝手にしろ。他の連中にも伝えておけ。」

 「素直じゃないねぇ。」

 「了解した。こちらも準備に入る。」

 

 欧州亜大陸史上最大の戦い、そのメインイベントが間も無く始まろうとしていた。

 

 

 ……………

 

 

 ヒイロ・ユイ。

 デュオ・マックスウェル。

 カトル・ラバーバ・ウィナー。

 トロワ・バートン。

 張・五飛。

 この5人の少年が態々コロニーから対ムゲ帝国軍の最前線にして最激戦地にやってきたのは、コロニーに隠れ潜む5名の博士と各サイドに潜むコロニー独立派からの指令だった。

 一年戦争前ならいざ知らず、現状ではコロニーが独立する必要性は無い。

 何だかんだ言って命を賭けてコロニーを守り、スペースノイドを助け続けた地球連邦軍並びに政府に対し、スペースノイドの代表面をしながらも組織的大虐殺を行ったジオン公国とでは明らかに前者の方がマシだとスペースノイド達が判断していた。

 また、その後も外宇宙や異次元からの侵略者に魔神覚醒の様な未知の脅威の発見や誕生の可能性も高い事から、独立活動は下火も下火になっていた。

 加えて、それでも過激な思想を持った者達にもある情報が出回り始めると、困惑と共にその活動も下火になっていった。

 

 曰く、地球連邦がA.I.Mの支援の下に大規模な長距離移民船団を組織しようとしている。

 

 太陽系の外に新たな新天地を探して旅に出るというのだ。

 これが成功すれば地球圏が滅んでも地球人類の存続が叶うし、侵略者を防ぐ外郭部を形成する事が出来る。

 また、コロニーのみならず太陽系だけでは追い付かない地球人類の人口問題もこれなら合法的に解決する事が出来る。

 これだけなら画餅になるが、そこにA.I.Mが加わるなら話は違う。

 彼女らなら必ずやこの計画を明後日の方向から成功に導くだろうという厚さ30mの鉄筋コンクリート並みの厚い信頼がスペースノイド達の間にはあった。

 安心と驚愕のA.I.M。

 彼女らは火星を独力で、木星を一番乗りで開拓し、連邦政府へと多大な影響力を持つ強大無比な巨大企業グループ。

 揺り籠から墓場まで、螺子一本からコロニー、果ては超巨大戦艦まで。

 あらゆる産業に根を張る彼女らなら、確かにその経歴からもやってのけるだろうという信頼があった。

 事実、密かにこの噂を確認するためにA.I.Mグループお客様総合相談センターへと質問した者は「現在企画中の案件ですのでお答えできません」との返答を貰っている。

 つまり、「企画中の案件」なのだ、長距離移民船団は。

 即ち、何れ実現化する見込みが極めて高い。

 これにはコロニー独立派も合法的に新天地で独立する事も夢ではない。

 加えて、連邦政府のこれまでの方針からしても、移民船団は監視の目の届かない事からも積極的な自治を推進する可能性が大いに高い。

 そうなれば、態々危険な真似をして、同じスペースノイドから反感を買ってまで過激な運動をする必要は無い。

 更に言えば、ミノフスキー博士が当時形にしたばかりの亜光速推進器であるミノフスキードライブの実用化に加え、プロトカルチャーの遺産から実用化された長距離空間転移ことフォールド航法も既に実用されているし、チューリップ型ゲートまであるのだ。

 確かに、長距離移民船団を組織し、運用するだけの下地は既に十分整っていたから、頑なな者であっても有り得ると説得できる材料は十二分だった。

 こうして、コロニー独立派達はその運動を縮小し、密かに移民船団への希望者の募集と準備を始めていく。

 同時に困り事が出来た。

 

 5人の少年兵と5人の博士達、そして彼らの持つ5機のガンダム型MSの処遇である。

 

 元はコロニー独立活動が過激化した場合に備えてのものだったが、連邦政府に露見した場合を考えるとどうにかして処分した方が良い。

 しかし、マッドサイエンティストな5人の博士らは兎も角として、少年兵らを排除するのは彼らにも躊躇われた。

 加えて、その内の一人はコロニーと地球双方に顔の利く富豪の跡取り息子であった事からも強引な方法は取れなかった。

 なので、5人の博士らとも相談した上で彼らは決断した。

 

 曰く、地球連邦政府に協力しよう。

 

 自分達だけでは屁の突っ張りにもならないだろうが、厳しい訓練を受けた少年兵5人と博士達の作った特化型高性能ガンダムならばこの戦局でも十分に役立つ事が出来るだろう。

 元の目的がどうであれ、使えると判断されたならば罰される事は無いという希望的観測もあって、5機のガンダムとそのパイロット達は侵略者を排除するべく地球へと降り立ったのだった。

 なお、彼ら活動家達は後に連邦軍情報部から念入りに警告を受け、以降移民船団に乗るまでそれはもう大人しくなるのだった。

 これが彼ら5人の少年兵らが地球に降りた経緯である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




村雨の「見ない顔」フラグ&W組参戦の経緯の巻。

なお、五機のガンダムのデザインはカトキ版です。
性能も現在の主力量産機に搭載されている機能や構造を解析した5博士らによって大きく強化されています。
具体的にはガンダニュウム合金+ステルスクローク(A.I.M通販)による高度なステルス能力。
DF・ガンダニュウム合金・ビームシールドによる三重の防御。
小型化に成功したプラズマリアクターの高出力から来るパワーと火力。
各特化武装に加え、手首のビームガン兼ビームサーベルによる汎用性の向上。
MSという兵器の運用情報の蓄積を活かしてのOSの最適化。
総合的には準特機級の性能を誇ります。


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第48話 バトル・オブ・ヨーロッパその3

 新西暦186年9月21日 地球 欧州方面

 

 ムゲ帝国軍による旧英国領への先制攻撃から急遽開始された欧州奪還作戦。

 その第二段階が始まった。

 欧州外縁部に展開するムゲ帝国軍の射程外のその更に向こう。

 そこに展開した欧州方面奪還のために各方面軍より抽出された圧倒的多数の軍勢が展開していた。 

 東欧方面からは露西亜方面軍が、カスピ海・黒海方面からは中華方面軍並びに各アジア方面軍の混成軍団が、地中海方面からはアフリカ方面軍が、そしてノルウェー海は北米・南米・極東・豪州方面軍所属艦艇から成る大艦隊がそれぞれ押し寄せてきた。

 

 『長距離弾道弾、着弾位置設定完了しました。』

 『陸上艦艇群、誤差修正完了。各ガンタンク部隊並びに戦車部隊、ターゲットリンク良し。』

 『各部隊、準備攻撃の準備、完了しました。』

 『よし、全軍準備砲撃開始!』

 

 斯くして、各地のムゲ帝国軍の頭上へと文字通りの砲弾の雨が降り注いだ。

 さて、ムゲ軍の兵器を見てみると、ムゲ戦艦に戦闘機兼戦闘ヘリなドル・ファー、主力量産機たるゼイ・ファー、指揮官やエース向けのデスグロームⅡ、特機級量産機たる量産型ギルバウアー、そしてギルバウアーとザンガイオー。

 これらに加えて名も無き戦闘車両や戦車、対空砲や重砲等がムゲ兵士達によって運用される。

 その辺の兵器のラインナップは大凡一年戦争前の地球連邦軍とそう大差はない(性能的には射程距離と命中精度に大きな隔たりがあったが)。

 無いが、彼らには地球連邦軍に比して地球での戦いの経験と無数の特殊な兵器への対策が余りにも足りていなかった。

 

 「飛翔体の迎撃に成功!…!? ジャミングを確認、レーダー使用不能!」

 「対空迎撃用ミサイルにも障害が発生!誘導不可能!」

 「ぜ、前線部隊との無線通信が遮断されました!」

 

 彼らは未だ、ミノフスキー粒子の恐ろしさを知らなかった。

 嘗て地球連邦軍がジオン公国によって散々に教え込まれた通信やレーダー、誘導弾等の機能不全の恐怖。

 無数の砲弾とミサイル、その中に混ざり込んでいた外見は通常のものと一切変わりないミノフスキー粒子散布用砲弾とミサイル。

 それらを知らず迎撃した事で、ムゲ帝国軍の精密電子機器の多くが作動不能に陥っていた。

 流石に機動兵器自体の無力化は出来ていないが、ロックオン機能の多くが使用不可能になった事を大きい。

 これにより、ムゲ帝国軍側は効率的な対空迎撃や精密射撃、部隊間の指揮系統が半ば麻痺する事態に陥っていた。

 加えて、残りの有線通信にも事前に仕掛けが施されていた事を彼らはまだ知らない。

 連邦軍はしっかりと、嘗ての経験を己の血肉に変える事に成功していた。

 

 「えぇい、通信や伝令は兵が直接行え!工兵隊は急ぎ有線通信を繋げ!絶対に前線部隊を孤立させるな!」

 『部隊を迎撃しつつ徐々に後退!量産型ギルバウアー隊は突出してくる敵を狙い撃て!先ずは部隊間の通信網を再構築、後に連携するのだ!』

 

 ギルドロームとヘルマット。

 共に多くの部下を率いる身であるが故に、この状況の怖さを知るや否や即座に対策に移った。

 

 「来る…。」

 「何?」

 「敵が来るぞ、ここ本陣にな。」

 「何だと!?」

 

 そして、歴戦の武人としての嗅覚故に、デスガイヤーは連邦軍の狙いを察した。

 

 「旧英国領に向かったヘルマットを始めとした前線部隊は連絡が付かず、実質的にここは陸の孤島と化した。偵察で判明した敵部隊は間違いなく各地で前進を開始し、このジャミング状況でも問題なく行動しているだろう。連携が取れず、各個で判断している現状では本陣に何があっても応援には来れず、また目の前の敵がそれをさせてくれない。」

 「馬鹿な、ここの守備兵がどれだけいると思っている?加えて、周辺の防衛ラインの戦力とてあるのだぞ?」

 「だからやるのだ。」

 

 疑念の声を上げるギルドロームに対し、刻々と迫り来る死闘の気配にデスガイヤーは獣が牙を剥くかの様な笑みを見せた。

 

 「ここを落とされれば地球侵攻は確実に頓挫する。少なくとも10年単位で再侵攻はされぬだろう。だからやるのだ。」

 「…癪だが、貴様の勘はこういう時外れた事が無い。」

 「直ぐに全軍を戦闘態勢に移す。そう時間はあるまい。」

 

 だが、彼らの判断は今一歩遅かった。

 ズズン!と、基地全体に激しい振動、そして爆発音が響き渡る。

 

 「何事だ!状況報告!」

 「て、敵の破壊工作と思われます!対空砲並びに弾薬庫の一部、通信用の有線回線がやられました!」

 「敵の侵入を許したのか!?えぇい何たる失態か!」

 

 ギルドロームが怒りを露わに叫ぶ。

 地球に直接来てからというもの、快進撃は本命の欧州方面でだけで、他は全て撃退されるか逆に殲滅されてしまった。

 更には延々と繰り返されるハラスメント工作による侵攻準備の遅延が彼から忍耐を奪っていたのだ。

 こうした敵司令官から冷静な判断力を奪うと言う面では黒騎士隊は実に良い仕事をしてくれた。

 

 「…貴様、見ない顔だな?」

 

 だが、武人として数多くの戦場を駆けずり回った経験豊富なデスガイヤーはこの程度の事には動じなかった。

 そして、自分達の元に真っ先に駆けて来て冷静な報告を行った兵士の持つ「自分達ムゲ帝国人とは異なる気配」を鋭敏に察知した。

 加えてヘルメットの隙間からはみ出る独特な前髪の存在に、デスガイヤーは目の前の兵士が自軍の者ではないと素早く判断した。

 故に叩き潰さんと迷いなくその剛腕を振るったが、寸での所で回避されてしまう。

 

 「おっと、流石はデスガイヤー将軍。この程度の変装じゃ無理か。」

 「貴様、何者だ?」

 「国際警察機構所属、人呼んで不死身の村雨健二。じゃあなお二方!」

 「逃げたか…奴もまた優れた戦士か。」

 「感心しておる場合か!えぇい、ギルバウアーを出せ!ワシ自ら奴らに悪夢を見せてくれる!」

 

 気炎を上げるギルドロームに続き、デスガイヤーもまた己の乗機へと乗り込む準備をする。

 司令部ではなく機体に乗り込んだ事。

 これが二人の命を繋げる事になるとは未だ知る由もなかった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年9月21日 地球 極東方面 伊豆基地

 

 ムゲ帝国軍司令部が破壊工作による大混乱に陥る2時間前、伊豆基地では何隻ものスペースノア級並びにヒリュウ改が大慌てで出港の準備を続けていた。

 本来なら今日の夜半に完了する筈の準備を今直ぐにでも終わらせるという無理難題に、しかし整備班や補給担当らは必死になって積み込みを行う。

 武器弾薬に医薬品に食料、予備パーツやオプション兵装等の他、一部の機体の装備変更に出撃前の緊急点検。

 どう足掻いても時間が足りないのだが、最近現場で採用され始めた作業用オートマトンのお陰で荷運びの人手だけは困る事はない。

 そのため、辛うじて準備は後30分半程度で終わる予定だ。

 

 「艦の最終点検は!?」

 「スペースノア、ヒリュウ改、ハガネ改、クロガネ、シロガネの全艦が完了しました!」

 「クルー並びにパイロット全員の搭乗を確認!」

 「合流予定のマクロス並びにメガロード、それぞれアラスカ基地とラングレー基地から離陸したそうです!」

 「こちらも間も無くだな…。」

 

 格納庫やドッグと同様に喧騒に包まれるブリッジ内を見回して、ブライトは一人呟いた。

 この作戦の結果如何では今後の対侵略者戦略は大きく後退する事も有り得る。

 決して失敗できないという点に胃壁が擦り減りそうになるが、そんなもん今更だよな…と若手なのに重責ある立場に追い遣られ続けるわが身を呪うブライト。

 

 「整備点検抜かるなよ!我々のミスは敵を喜ばせるだけだ!全パイロットはコクピット待機!非戦闘員は緊急出港後は直ぐに安全区画に退避しろ!出港と同時にエンジン全開で宇宙に上がり、指定座標にてマクロスとメガロードと合流する!」

 

 決戦まで、もう間も無くに迫っていた。

 

 

 ……………

 

 

 さて、一方その頃のマクロス並びにメガロードはと言うと、合流地点として指定された座標の宙域に4隻のるくしおん級をお供として待機していた。

 このるくしおん級は敵司令部へのISA戦術には参加しないが、もしも障害が発生した場合には作戦実行までの露払い=護衛が役目となっている。

 そんな彼らには今、突然の仕事が舞い込んできた。

 

 『! 前方200kmに転移反応と思われる空間歪曲を確認!このエネルギーは…パターン青!使徒と思われます!』

 『通常空間への実体化まで後15秒!』

 『全発射管に光子魚雷装填!実体化と同時に対空間転移攻撃開始!』

 『了解。全発射管に光子魚雷の装填完了。いつでも行けます!』

 『…3・2・1・実体化!』

 『発射ぁ!』

 

 6隻のるくしおん級、それらから放たれた大型対艦ミサイルサイズの光子魚雷が亜光速の速度となって実体化した反応へと突き刺さる。

 白いホルスの目にも似た模様が表面を動き回る巨大な黒い球体。

 その姿を確認するや否やというタイミングで突き刺さる多数の光子魚雷。

 如何なATフィールドにジャミング能力と言えど、碌にそれらを発揮させなければどうという事もない。

 第七使徒サハクィエルは当然の如くその構成質量の過半が消滅、後に辛うじて残った肉片が十字架の光となって爆発四散した。

 原作ではエヴァ三機で協力しなければならなかった最大の使徒は登場から僅か数秒という短さで殲滅されるのだった。

 

 『…周辺に残存敵勢力無し。転移反応もエネルギー反応も確認できません。』

 『よし、周辺警戒を怠るな。また何か出てくるとも限らん。我々の仕事はマクロスを旗艦としたISA戦隊の護衛だ。彼らがムゲ帝国軍司令部の破壊に成功するまで、何としても彼らを守り抜くぞ!』

 

 この後は碌な妨害すら発生せず、割とあっさりとスペースノ級4隻+ヒリュウ改との合流に成功する。

 欧州最大の激戦、その第二幕が上がるまでもう間も無くだった。

 



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第49話 バトル・オブ・ヨーロッパその4

テラテックは良いぞ!(ダイマ


け、決して執筆が送れた言い訳じゃないんだからね…(目反らし


 新西暦186年9月21日 地球 欧州方面

 

 さて、ムゲの宇宙においては複数の星系を支配している筈のムゲ帝国の派遣した本格的な侵攻軍が何故こうもミノフスキー粒子一つで通信網の断絶に陥ってしまったのか?

 

 実は宇宙用装備のムゲ帝国軍なら、こうも酷い事にならなかった。

 加えて、ムゲ側の科学技術ならば情報さえあれば十分に対策可能な筈だった。

 なのに何故こうも混乱が広がったのか?

 答えは簡単、彼らはミノフスキー粒子の情報を殆ど持っていなかったのだ。

 無論、地球連邦の機動兵器の装備するビーム兵器がミノフスキー粒子を用いたものである事は知っていたのだが、それ以外には一部の機体の動力源に使用されている程度しか知らなかった。

 何故半年近く地球に侵攻していたのに地球連邦軍の主力機動兵器たるMSの根幹技術であるミノフスキー粒子について無知であったかと言うと、地球側の徹底した情報封鎖が理由だった。

 ミノフスキー粒子のみならず、多数の新技術を日夜開発される太陽系に置いて、技術情報の機密レベルは極めて高い。

 もし特機関連の何らかの技術情報を漏洩させた場合、一般人であっても軍事法廷で即座に死刑が求刑される程度には高い。

 光子力やゲッター線?

 漏洩の経緯を含めたあらゆる情報を搾り取られた後に銃殺刑すら有り得ます。

 斯様に連邦政府は軍事技術の情報の取り扱いには神経質だった。

 これはトレミィがゼ・バルマリィ帝国やゾヴォーク、インスペクターによる地球の特殊技術の漏洩並びに転用によって次々と強力な機動兵器を繰り出してきた事を覚えていたからだ。

 

 曰く、「こっちが苦労して開発した技術をネコババされるとか絶許。」

 

 そんな訳で、ミノフスキー粒子関連のデータもムゲ帝国軍は手に入れる事が出来なかった。

 この点、外交で接触してきた共和連合と壊滅したとは言えスパイ網を構築していたバルマーの方が間違いなく賢かったと言える。

 更に機密情報の処理に関しても地球連邦軍はしっかりしていた。

 一年戦争時にジオンに欧州を占領された経験から大慌てで撤退する最中でも電子データのみならず、もしもの時のアナログの紙の資料もしっかりと部屋に備え付けの緊急措置用のテルミッド弾で部屋ごと焼き払っていったのだ。

 この辺、ジブリール管轄下の違法NT研究所よりも遥かにしっかりしていたと言える。

 加えて、黒騎士隊(エコーズ出向隊員含む)を始めとしたゲリラコマンド並びに国際警察機構のエージェント達による妨害作戦で燃え残っていたり、燃やされなかった紙の資料すらしっかりと破棄されてしまった。

 結果、彼らは強化人間等の一部の特殊な兵士とその専用兵器についての知識はあっても、ミノフスキー粒子に対しては殆ど無知でこの会戦を始めてしまったのだ。

 精密誘導兵器にレーダーやセンサー、レーザーを除いた無線通信をほぼ無効化されたムゲ帝国軍は不慣れな有視界戦闘を強いられる事になってしまった。

 

 『えぇい、全軍後退しつつ密集陣形を取れ!レーザー通信を主体に相互連絡を密にしろ!戦場で迷子になるんじゃないぞ!』

 

 ヘルマット将軍他、各地の指揮官らは必死に部隊の指揮系統を再構築すべく奮闘していた。

 主流ではないが搭載されているレーザー通信設備や直接接触での通信、外部音声での会話に発光弾を用いての命令と、ムゲ帝国軍の指揮官達は出来る事・思い付いた事は全て行った。

 しかし、この状況での心理や行動が過去の自分達と同じである事から、悉く連邦側の指揮官には予想されていた。

 

 『対レーザー・ビーム攪乱弾発射!敵のレーダー通信を妨害しろ!』

 『敵集団にスモーク弾撃て!前衛はスモークから出る敵を狙え!ガンタンク隊に連絡してあのスモークがある辺り全部吹っ飛ばすように伝えろ!』

 『兎に角撃て!休まず撃って弾幕を張れ!敵の動きを牽制しろ!止めは味方が刺してくれる!』

 『ヒーハー!ムゲ野郎共を地獄に送ってやれぇ!!』

 

 徹底的に相互の連絡・連携を絶った状態を継続させた上で、後は圧倒的鉄量で以て蹂躙する。

 一年戦争時でも大規模作戦の度に見られた連邦軍の鉄の豪雨は健在であり、ムゲ帝国軍の頭上にも容赦なく砲弾とミサイルの雨が降り注いだ。

 多少のハズレは織り込み済みで、敵の存在する戦域そのものを破壊する勢いでの砲撃に、勇猛果敢で忠誠心の篤いムゲ帝国軍兵士も情け容赦なく消し飛ばされていく。

 ミノフスキー粒子で精密砲爆撃が無理?じゃぁその辺全部吹っ飛ばせば解決やな!

 一年戦争の時よりも大規模で精密さも向上しているとは言え、根本的な所が全く変わっていない対処方法だった。

 

 『怯むな!敵の砲撃は当てずっぽうだ!敵に肉薄すれば砲弾は落ちてこない!』

 『対空砲火、光学で確認して撃て!レーダーは当てにならんから頼んだぞ!』

 『敵機動兵器を後ろに通すな!一体でも通せば雪崩れ込んでくるぞ!』

 

 だが、それでもムゲ帝国軍の士気は折れない。

 彼らは必死に態勢を立て直そうと努力を続け、辛うじてレーザー通信による通信網を即席で構築、拙いながらも徐々に指揮系統を再構築していく。

 

 『よし、旧英国領への進軍を再開!ここで敵司令部を叩くぞ!』

 

 そして、他の戦線よりも逸早く指揮系統の再構築に成功したヘルマッド将軍率いる旧英国領侵攻部隊が進軍を再開する。

 加えて、通信量の多さから欧州方面奪還作戦の司令部が旧英国領にある事を見抜き、連邦の欧州方面への攻撃を頓挫させるべく先程までよりも更に攻勢を強めていく。

 

 『ほう?奪還作戦の司令部がここだと気付いたな?』

 

 だが、ヘルマットは余りにも不運だった。

 知らぬとは言え地球人類史上においても有数の天才であろう男へと挑む羽目になってしまったのだから。

 

 『トレーズ様、反乱したギャプラン隊は全て排除しました。残った者もいますが、暫くは使い物にならないかと…。』

 『構わないとも。こちらで確保は出来たかい、レディ?』

 『は、全て恙無く。しかし、あの大型機だけは未だ排除できておらず…。』

 『仕方ない。そちらは誘導してムゲにぶつけてしまおう。』

 『は、ではゼクスに任せます。』

 『頼んだよ、レディ。』

 

 そして、命令を下された欧州版仮面の男ゼクスだが…

 

 『えぇい!トレーズも無茶ぶりが過ぎる!』

 『お前もか!お前も空を落とす敵かあああああ!!』

 

 完全に錯乱して暴走しているフォウ・ムラサメの駆るデストロイガンダム。

 一人しか乗ってない故に大きく精度が落ちているものの、その圧倒的弾幕を相手にゼクスのトールギスⅢは射程内にギリギリ入る位置での回避とヘイト管理のためのダメージにならない程度の射撃を加えていく。

 すると、あっさりとデストロイガンダムはゼクスに向けて移動を開始した。

 その歩みは機体故にゆっくりだが、しかし確実に旧英国領に上陸せんとするムゲ帝国軍の目と鼻の先へと誘導されていく。

 

 『…貴官の犠牲、無駄にはしないぞ。』

 

 ゼクスは先の欧州方面陥落時の地獄の撤退戦で最も活躍したパイロットの一人だ。

 故に精神攻撃兵器に心を壊され、錯乱する兵士を大勢見てきた。

 このデストロイガンダムのパイロット、フォウ・ムラサメはそれと似ている。

 しかし、地球人類の手に寄って違法にそんな状態にされた彼女とは似ているだけで根本的に異なる。

 

 『この様な事、もうこれ以上は経験したくはないな…!』

 

 錯乱し、発狂し、暴走する部下や同僚達を殺す。

 時間があれば鎮圧・気絶させて後方に送り、ゆっくりと心を癒すという対処療法が取れるのだが、ここは地獄の最前線、そんな事をしている暇なんて微塵もない。

 故にゼクスは部下や同僚、戦友達を介錯し続けた。

 恨んでも憎んでも構わない。

 しかし、自分達生き残った者は先に逝った兵士に胸を張るため、後の者達の平和のためにもここで引き下がる訳にはいかない。

 

 『ノイン、ワーカー、行くぞ!この暴れん坊を連れて敵艦隊を叩く!』

 

 こうして、欧州全域ではムゲ側の混乱が収まりつつあり、戦局は辛うじて互角かやや有利という状態にまで押し戻されていった。

 だが、そんな混迷する戦場を終わらせるべく、天よりの矢が投じられようとしていた。

 

 

 ……………

 

 

 『こちらスペースノア艦長のブライト少佐です。スペースノア級4隻とヒリュウ改、現時刻を以て合流しました!』

 『こちらマクロス艦長のグローバルだ。任務ご苦労。こちらは少々邪魔が入ったが問題はない。直ぐに予定通り作戦を開始する。』

 『では、これより秘匿作戦名「インドラ」を開始します。皆様、所定のミッションマニュアルを開示致します。』

 『これは、何とまぁ…。』

 

 開示されたミッションマニュアル。

 そこに書かれていた作戦内容ははっきり言って常軌を逸していた。

 

 第一段階、エネルギーをチャージしながらブレイクフィールドを展開。敵司令部のある基地に向かい降下。

 第二段階、期を見てブレイクフィールドを解除後、各艦の特装砲を敵基地目掛け発射。

 第三段階、基地破壊後は地表まで降下して残存敵勢力の掃討へ移行。

 

 デカくて高性能とは言え、たった5隻の戦艦と搭載機動兵器に任せる任務ではない。

 控えめに言っても「特攻してこい!二階級特進も付けてやる!」と言っているのに等しい。

 等しい筈なのだが、各員の戦意は聊かも落ちていなかった。

 

 『つまりはムゲ野郎を食い放題って事か!いいなぁそれ!』

 『へへ、腕が鳴るってもんだぜ。』

 『対空砲火はミノフスキー粒子と破壊工作で精度が落ちてるって言ってもさ…。』

 『まぁ大丈夫だろ。何せ俺達には最強の盾だっているんだしさ。』

 

 ワイワイガヤガヤ。

 機体に乗ったままのパイロット達はコクピットに詰め込まれて鬱憤が溜まっているのか直ぐに雑談を始める。

 

 『総員、傾注!』

 

 しかし、ブライトの声にお喋りはピタリと止む。

 パイロットはほぼ全員が戦慣れした特機や高性能機のパイロット。

 であるからには、信頼する上官からの大事な話位あっさりと静かになって聞く程度の信頼関係は築かれていた。

 

 『このミッションマニュアルだけでは確実とは言えないため、機動兵器部隊を中心に一部作戦内容を変更する。先ずは…』

 

 インドラの矢が欧州の地に突き刺さるまで、もう間も無くに迫っていた。

 



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第50話 バトル・オブ・ヨーロッパその5

何時スランプやリアル事情で書けなくなるか分からんのだし、書ける時に書いておこう。

そういう訳で投下です。


 新西暦186年9月21日 地球 欧州方面

 

 『ああああああああああああ!?私は、私は、私は!?!』

 『ぐぁ…!落ち着け、正気に戻ってくれゼオラ!』

 

 旧英国領。

 強化人間達の半数以上が暴走・錯乱し、周囲の目に付くもの全てに攻撃を仕掛けるという事態から始まったヘルマット率いる部隊の侵攻はドーバー海峡を主戦場としていたものの、旧フランス領のカレーと旧英国領のドーバー周辺にまで戦場を拡大化して激化の一途を辿っていた。

 そんな中、数少ない暴走を免れた強化人間達、即ちブーステッドチルドレン達は未だ暴走状態のゼオラの動きを封じながら、迫り来るムゲ帝国軍を相手に奮闘していた。

 

 『こ、のぉ!』

 『姉さん!もうこれ以上は弾薬がもたないわ!』

 『駄目よ、ここで後方に戻ったらゼオラが処分される!』

 『でも、でも、ゼオラはもう…!』

 『泣いちゃ駄目!まだ諦めないで!』

 

 既にしてエース級の腕前を持つオウカ・ナギサが前衛で敵を引き付け、臆病ながらも命中と回避が得意なラトゥーニ・スゥボータが支援射撃を行う事で辛うじてゼオラとアラドの二人の元へは敵が行っていない。

 しかし、元々継戦能力という面では試作機故に殆ど考慮されていないギャプランでは間も無く内蔵式ビームライフルの残弾が無くなる。

 腕部ビームガン兼ビームサーベルはまだ余裕があるが、火力の低いそれだけで乗り切れる程この戦場は温くない。

 

 『おい!そこのギャプラン隊、何をしている!錯乱した味方機は排除しろと命じられただろうが!』

 『っ!』

 

 そこに遂に恐れていた事態が起きてしまった。

 地球連邦軍欧州方面軍か増援部隊かは知らないが、正規軍所属のジェガンが来てしまったのだ。

 

 『ま、待ってくれ!こいつは大事な家族なんだ!今はまだ暴れてるだけで…!』

 『…少年兵か。』

 

 アラドが必死になって繋いだ通信を聞いて、先程こちらに呼び掛けてきたパイロットが苦渋の滲んだ声を漏らした。

 明らかに志願可能な16歳未満の少年兵で、ギャプランに搭乗している=強化人間の類。

 眉唾な噂だと思っていたが、目の前にいる重犯罪の生きた証拠にして被害者の姿に、ジェガンのパイロットはやり場の無い憤りに駆られた。

 

 『そうなってしまってはもう無理だ。他の強化人間達も殆どは危険だからと排除された。

幸い、お前とあっちの二機はまだ無事だ。そいつの処分はこちらでするから、お前達は後方に下がって補給を受けるんだ。』

 

 努めて平静な声にしようと多大な労力を費やしながら、ジェガンのパイロットはそう言い切った。

 彼は軍人であり、パイロットであり、兵士だ。

 故に今見た出来事は生還できれば後で上官に報告して証拠として映像・通信記録を提出するし、何なら法廷で証言しても良い。

 しかし、その前に先ずこの戦場を生き抜く必要があり、目の前の少年兵達を生かして後方の送る必要があった。

 だからこそ、彼は汚れ仕事同然の行いを自分でする事に決めた。

 

 『だ、ダメだ!こいつは、ゼオラとはずっと一緒だったんだ!』

 『じゃぁ、ここで全員討ち死にするか?あっちの僚機はもうじき限界が来るぞ?』

 

 アラドがそちらを見ると、今も必死に姉貴分のオウカと妹分のラトが必死に敵の攻勢を食い止めている。

 だが、既に弾薬が危ういのか、徐々に押されつつある。

 もう間も無く突破されるだろう。 

 

 『あああ、ああああああああああああああ!!』

 『…その子の処分はこちらでする。お前達は自分達が生き残る努力をしろ。』

 

 アラドと通信中だった故に、接触回線から漏れてくるゼオラの叫び声に、ジェガンのパイロットは今度こそその声に苦渋の色を載せてしまった。

 それ程に非道であり、外道であり、無情な状況だった。

 

 『っ…!この馬鹿女!』

 『おい、坊主!?』

 

 そして、いい加減に頭に来たのか、アラドが怒鳴った。

 

 『料理下手!音痴!デカパイ!くまさんパンツ!』

 『』

 

 聞いていたジェガンのパイロットが絶句する程の幼稚な罵詈雑言。

 しかしまぁ、精神攻撃で揺さぶられて錯乱している人物を激怒させ、激しい感情で明確な意思を呼び覚ますというのは意外と理に叶っている。

 意識してか直感かは知らないが、その目論見は成功した。

 

 『この馬鹿!エッチ!胸の事ばかりか人の下着の事まで言わないでよ!』

 『ぐええええッ!?』

 

 そして、予定調和というか当然というか、酷い事になった。

 激情のまま、ゼオラはアラド機の拘束を抜け出し、ただ感情のままアラド機の頭部をガンガンと殴りつける。

 

 『悪かった!ごめん!謝るから』

 『ア・ラ・ド・のォ!ぶわかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 何とか謝罪して許してもらおうとしたのだが、哀れアラドの言葉が届く前にゼオラ機の回し蹴りによってアラド機の頭部は粉砕され、吹っ飛ばされるのだった。

 

 『……あーゴホン。そっちのお嬢ちゃんは正気に戻ったって事で良いのか?』

 『へ、え、あ!すすすすいません!お手数お掛けしましたー!』

 

 漸く正気に戻ったゼオラは置いてけぼりのジェガンのパイロットに謝罪を入れる。

 次いで、一時的に敵の攻勢が止んだのか、オウカとラトのギャプラン二機も降りて来た。

 

 『ゼオラ、よく戻って…!』

 『よ、良かったぁぁぁ…。』

 『姉さん、ラト!』

 『お、オレに対しては何も無しかよ…。』

 『アンタはもう少しデリカシーを学びなさい!』

 

 四機の中で一番損傷の激しいアラドが訴えるも、恥を晒す事になったゼオラが怒鳴る。

 

 『あー……お前さんら、その状態なら後退できるな?もう精神攻撃なんて浴びない様にして一旦下がれ。』

 

 こうして、何とかブーステッドチルドレンの面々は全員が初陣を生還する事に成功したのだった。

 

 

 ……………

 

 

 同時刻 ドーバー海峡にて

 

 デストロイガンダムがその全身の火器を発射しながら、海上を旧フランス方面に向けて移動している。

 テスラドライブのおかげで辛うじて浮く事の出来る本機は、意図してか撃破しない限りは海中に没する事はない。

 加えて、PS装甲にDF、ビームシールドに元々の重厚な装甲もあって、やたら頑丈だった。

 結果、ムゲ帝国軍と欧州方面軍から集中砲火を受けながらも全く堪える様子も無いままに未だ暴れ狂っていた。

 

 『落ちろ、カトンボ!』

 

 両腕の腕部飛行型5連装ビーム砲が指を折り曲げた状態で発射され、空中にビームの網を形成、接近しようとしていたゼイ・ファー数機とドル・ファーの編隊があっと言う間に爆散する。

 更には背部バックパックの10門もの照射型ビーム砲が己に敵意を向けて来る欧州方面軍所属MSに向けてビームを照射する。

 しかし、その多くは回避、或いはDFに阻まれて撃墜する事は出来ない。

 元より対空砲としての意味合いが強い武装なので、威力自体がそこまで高くない事も大きかったが。

 

 『えぇい、何という事だ!』

 

 一方、幾度も挑発を行い、何とかデストロイガンダムを誘導していたゼクスはいい加減に苛立ちが大きくなっていた。

 あのデカブツ、と言うよりも強化人間達のせいで欧州方面軍は混乱してばかりだ。

 彼は知らないが、アレを戦場に持ちだしたジブリール等は既に逃げ出そうとした所を憲兵隊に逮捕され、楽しいお話タイムに入った所だった。

 

 『各員、デストロイを盾にしてムゲ側の攻撃を集中させろ!ミサイル以外はDFとブレイクフィールドで防げる!焦らず怯えず冷静に対処しろ!』

 

 欧州方面の戦禍は未だに拡大の一途を辿っていた。

 

 

 ……………

 

 

 『今回のミッションは欧州を占領中のムゲ帝国軍の中枢への強襲作戦だ。』

 

 『ムゲ帝国軍は直径6kmにも及ぶ巨大な円盤兵器を制圧した旧ドイツ領ラムシュタイン空軍基地近郊に12基を着陸させている。それらを連結して大規模な工廠や機動兵器運用能力を持った巨大な基地施設へと改装している。事前の偵察によってここに敵の司令部が存在している他、ムゲ帝国の存在する異次元への渡航用設備があると推測されている。故に、敵の補給並びに指揮系統を断つために我々ISA戦隊がここを強襲する。』

 

 『大気圏外からの突入と同時にマクロス、メガロード、スペースノア改、ヒリュウ改、ハガネ、クロガネ、シロガネの合計7隻によるアウトレンジからの特装砲による敵基地への砲撃。後に陣形クロガネを先頭したアロー体制に変更して大気圏内に突入。以降は残存敵戦力の掃討戦へと移行する。』

 

 『掃討戦に移行する前、未だ無事なメガロプレッシャーの存在が確認された場合、マクロス並びにメガロードの両艦は強行形態へ移行してのマクロスアタック並びにデストロイドモンスターによる光子砲弾を用いた砲撃を行い、これを撃破する。だが、ここまでやっても敵の精神攻撃兵器を全滅させられるかは分からん。』

 

 『故に対策として機動兵器部隊は砲撃を行う直前、上空よりスカル大隊の護衛を受けながら降下する。艦隊へと攻撃を行う敵軍の中から精神攻撃兵器搭載機を発見し、最優先で撃破せよ。艦隊も発見次第位置情報の送信並びに攻撃を行うが、余り期待はするな。例え艦が落とされても、精神攻撃兵器搭載機の撃破を優先しろ。作戦内容は以上だ。』

 

 『事前に情報収集や破壊工作等、潜入部隊による工作活動は行われているが、敵の激しい抵抗が予想される。加えて、敵司令官の率いる精鋭部隊並びに精神攻撃兵器を搭載した機動兵器の存在も多数確認されている。はっきり言って、生還の確率は低い。』

 

 『だが、この戦いは地球を、人類を守るためには避けては通れない作戦であり、この場に集まった者達とならば必ずや作戦を勝利させ得るだろうとも私は思う。』

 

 『以上だ。各員の奮闘と努力に期待する。』

 

 

 こうして、後に「馬鹿と冗談が総動員」「ガンギマリ特攻大作戦」「いつもの地球人類」「なんであいつらこれで成功した上に殲滅してくんの???」「物量比1:10超え。なお結果」とか散々言われるISA戦隊の初の大規模作戦となるのだった。

 

 

 



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第51話 バトル・オブ・ヨーロッパその6

 新西暦186年9月21日 地球 欧州方面

 

 

 その光景を見た者は、まるで光の柱の様だったと後に語った。

 

 

 旧ドイツ領ラムシュタイン空軍基地近郊に存在するムゲ帝国軍第二次地球侵攻部隊の総司令部の設置された基地。

 元の飛行場を改修しての機動兵器類の離発着場に加え、メガロプレッシャー12基を地面に設置、重ねたり連結する事で大規模な工廠とムゲ宇宙とのゲートすら備えている。

 その工期は僅か三日足らずであり、あっと言う間に巨大な前線基地と化したこの場所はムゲ帝国軍の地球侵攻作戦において最も重要な拠点だった。

 それを撃滅し、宇宙からの侵略者に注力すべく、地球連邦軍は予てより進めていたISA戦術対応の万能戦闘母艦群を用いての強襲作戦を実行した。

 

 『各艦、特装砲のチャージ開始と同時に軸線合わせ始め。射撃タイミングは本艦が受け持つ。』

 

 旗艦であるマクロス艦長グローバル准将の言葉と同時に各艦が軸線を合わせ、艦首特装砲のチャージを開始する。

 スペースノア改のハイメガキャノン。

 ヒリュウ改のGB。

 ハガネ改のトロニウムバスターキャノン。

 マクロスのマクロスキャノン。

 メガロードのマクロスキャノン。

 どれもが一撃でコロニーを木端微塵に出来るだけの大火力兵装であり、戦略上の要衝と雖もたかが一つの地上の基地に撃ち込む火力ではない。

 下手すると着弾地点が超巨大なクレーターになり、巨大隕石の落下が如く粉塵が舞い上がり、地球の寒冷化が進む事すら有り得る。

 無論、その辺はしっかり計算して出力を絞っている上、過剰な粉塵に対しては位相空間内に待機している無人OF隊が重力制御で対応する予定だ。

 

 君達は戦わないの?と思うかもしれないが、彼女らからすればこの戦いもまた必要な経験だった。

 地球人類は今後質の最上位とも言えるズールやガンエデン、物量の最上位たるインベーダーや宇宙怪獣等の出鱈目な存在と戦い続ける事となるのだ。

 その時に備えるためにも戦闘経験は幾らあっても全く足りない。

 既にして欧州方面の民間人への被害は必要最小限に抑える事に成功している。

 であれば、後はこの状況を活かしてのリターン、即ち経験の蓄積こそが大事になる。

 既にムゲ宇宙の座標データの入手にも成功している事から、太陽系防衛用無人機動部隊には焦りは無かった。

 ムゲ帝王本人が出陣しているのならば全力を出すが、三将軍程度ならばどうという事もない。

 否、その程度は地球人類自らの力でどうにかせねばならない。

 それが彼女らの結論だった。

 

 『全艦のチャージ完了まで後15秒。』

 『軸線合わせ完了!』

 『誤差修正…±0.3コンマ以内!』

 『全部隊、対衝撃・閃光防御!』

 『トリガータイミングを艦長へ。』

 『カウント開始!5・4・3・2・1!』

 『撃てぇぇぇい!!』

 

 グローバル准将の号令の下、5本の光の柱が天から地上へと突き刺さった。

 一際巨大な白に近い黄金の柱が2本、それを囲む様に薄紅と黄金、薄らと透けた黒の3本の柱が地上へと突き刺さる。

 直後、着弾点から巨大な閃光が、少し遅れて同規模の爆風、爆音が広がり、雲にも届く程のキノコ雲が発生した。

 その光景はさながら旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火か、或いは作戦名にもある通りラーマヤーナでのインドラの矢か。

 どちらにせよ、地球への侵略というこのスパロボ時空における特大のやらかしをしてしまったムゲ帝国軍は自らの命を以てその償いを行う羽目になったのだった。

 

 『着弾を確認。目標への効果…極めて大!』

 『よし、各艦は予定通り陣形を変更、降下を開始する!』

 『機動兵器部隊は各艦が地上に降下し、敵残存兵力との戦闘開始を同時に行動を開始せよ!』

 『クロガネを先頭とするアロー体制へ陣形変更完了!』

 『艦首回転衝角起動!クロガネ、何時でも行けます!』

 『よし、各艦は降下開始!敵対空砲へは任意に対応せよ。索敵班は敵の精神攻撃兵器の発見に注力せよ!』

 

 クロガネがこの艦隊に配置されたのは、ISA戦術対応艦という事も大きいが、何より同型艦の中で最も装甲が厚いという点も大きい。

 その艦首回転衝角による巨大な破城槌としての突破力。

 しかもこれ、重力操作技術の応用で相手を空間ごと掘削する性質を持ち、同クラスの重力制御か不可思議技術でも無い限りは防ぎようが無いのだ。

 そうでなくても全艦がDFと分厚い装甲を持ち、場合によってはブレイクフィールドも展開してくるのだ。

 司令部含む地球侵攻軍最大の基地が吹き飛ばされた現在、碌な統制射撃も対空迎撃も出来ないムゲ帝国軍では最早彼らを止める術は無い。

 後の者は言う、この時点で既に大勢は決していた。

 だが、地球連邦軍参謀本部は最早2度とムゲ帝国がこの宇宙にやって来ようとは思えない程に叩くつもりでいた。

 即ち、例え負け戦と雖も敵の戦意が消えない内は戦闘を続行し、根切りするべし。

 元より敗走する敵への追撃こそが最も戦果を上げるチャンスである。

 欧州を焼かれて怒り心頭の地球連邦陸・海・空軍は司令部を失って相互の連携・通信網を今度こそ失い、士気の崩壊したムゲ帝国軍へと襲い掛かったのだった。

 

 

 なお、純粋な母艦であるシロガネはVF隊の母艦として陣形の後ろの方で砲撃にも参加出来ずに待機してました。

 

 

 ……………

 

 

 『おおおおおおおお!?!』

 

 大気圏ギリギリの位置からの特装砲による戦略艦砲射撃とも言うべき攻撃を、ギルドロームは愛機のギルバウアーと共に運良く、本当のギリギリの所で辛うじて逃れる事が出来た。

 これは破壊工作のタイミングから敵の襲撃を読んだデスガイヤーの直感の賜物と言えた。

 しかし、砲撃の着弾による巨大な爆風に衝撃波からは逃れ切れず、機体のあちこちをぶつけながら、必死に着弾地点から逃れる。

 攻撃の余波が収まった頃、そこには巨大なキノコ雲が立ち上り、基地施設は跡形もなく消えていた。

 ボロボロとなった機体の辛うじて無事だったレーダーによって、未だ幾らかの友軍艦が無事である事は知らされたが、その多くは既に反撃するだけの気力は持っていないだろう。

 何せ、空からは先程の攻撃を行った連中が降りてきている最中なのだ。

 

 『各員!撤退してポイントD-1に集結せよ!現在地を放棄し、一人でも多く生き残れ!』

 

 通信から聞こえてくる声に、思わずギルドロームは驚いた。

 

 『デスガイヤー!?お主、生きておったか!』

 『ギルドロームか!生憎と無事とは言えんが、まだ動く事は出来る。お前は先行してD-1へ行き、集結した残存兵力の指揮を取ってくれ。』

 『ぬ、だがしかし…。』

 

 ポイントD-1。

 それは地球連邦軍の反抗作戦によってムゲ帝国軍の敗北が決定付けられたもしもの時、ムゲ宇宙へと一人でも多くの将兵を撤退させるための手段だった。

 

 『恐らくはヘルマットめも無理だろう。オレのザンガイオーならば再生能力もあってまだ行ける。だが、お前は無理だろう。』

 『その通りだ。だが、その決断は遅すぎた様だな。』

 『ぬ、もう来たか。やはり早いな。』

 

 空を見上げれば、そこには2隻の巨艦に5隻の戦艦が降下し、バラバラに反撃する残存兵力へと的確に射撃を加えて蹴散らしている。

 

 『…仕方あるまい。儂は撤退する。だが、タダでは済まさぬ!』

 

 先程の攻撃の余波を受けて、既にしてボロボロのギルバウアーだったが、その奥の手はまだ辛うじて使える状態にあった。

 ギルバウアー最強の特殊兵装にして量産機でも散々地球連邦軍を苦しめた精神攻撃兵器、正式名称を精神波ビームという武装。

 それを限界まで出力を上げ、後先を考えずに最大出力で稼働させる。

 

 『さぁ、悪夢を見るが良い!』

 

 量産機とは比較にならぬ大出力で、ISA戦隊目掛けて精神攻撃兵器が放たれた。

 だが、それは同時に自らの居場所を教えてしまった事に他ならないのだと、ギルドロームは後になって気付くのだった。

 

 

 ……………

 

 

 『じ、状況報告…!』

 

 辛うじて意識を保つ事の出来たスペースノア艦長のブライトが叫ぶ。

 その一撃を受け、ISA戦隊の母艦群は一時その機能を停止仕掛けていた。

 自動迎撃機能を有する対空射撃兵装に母艦に搭載されたDF等は平常に稼働しているが、肝心の射撃や艦全体の指揮・運用を行う人間への攻撃となると防ぐ事は出来ない。

 しかし、幸いにも彼らは未だ生きていた。

 ボロボロになったギルバウアーでは限界出力での精神攻撃兵器、それも7隻もの戦艦を効果範囲内に収める様にしての使用には無理があり、一人当たりへの威力が大幅に落ちていたのだ。

 なお、量産機は先の攻撃で全滅していた。

 

 『か、艦にダメージはありませんが、全艦の人員の多くが失神している模様!意識を保った人員も混濁が見られます…っ!』

 『敵精神攻撃兵器の、位置座標は!?』

 『既に自動で諸元転送されています!』

 『よし、艦内放送!音量を最大にして声を掛け続けろ!全員を強制的に起こすんだ!他の艦にも通信を繋げろ!』

 『は、はい!』

 

 『全乗組員は直ちに起床せよ!繰り返す、直ちに起床せよ!現在我々は戦闘中である!』

 

 『ぐぁぁぁっ!?』

 『耳、耳が痛い…!』

 

 艦内部どころかISA戦隊所属艦全てに音量最大にした状態での怒鳴り声。

 余りの大音量に大勢が耳を抑えてのたうち回る事態になり、その指示を出したブライトと放送を行ったブリッジクルーらも同じ苦しみを味わう羽目に陥っていた。

 

 『ぐお…!せ、戦闘を再開する!各員、持ち場に戻れ!』

 『すいません、何を言ってるのか聞こえません!』

 

 そんな訳でISA戦隊の母艦組は今作戦の最大の危機を乗り越えたのだった。

 

 




なお、砲撃はしっかり幸運・努力・熱血・必中・直撃をして行われました。
反撃が予想よりも少ない?
普通、こんな砲撃が直上から降ってきたらそりゃ全滅しますし士気も崩壊しますわな。
初代マクロスでも宇宙からのゼントラの砲撃で地球全土が焼き払われましたからね、当然ですネ。


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第52話 バトル・オブ・ヨーロッパその7

 新西暦186年9月21日 地球 欧州方面 旧ドイツ領ラムシュタイン空軍基地近郊

 

 先程の軌道上からの戦略砲撃により、ムゲ帝国軍地球侵攻軍総司令部は消滅した。

 同時に欧州方面最大、つまり地球侵攻軍最大のムゲ軍の基地も消滅した。

 即ち、各地で各方面軍相手に戦っている味方の状況を把握して的確な指示を与えるための指揮系統は壊滅し、今後は補給も増援も連携もまともに出来ない前線部隊が残るのみとなってしまったのだ。

 無論、この総司令部を守るために存在する周辺の防衛ラインを形成する各基地と兵力は未だ生きているが、総司令部が壊滅した現在、混乱の渦中にいるであろう彼らに素早く増援を送る事は不可能だった。

 加えて、それらの基地には現在、戦略砲撃に巻き込まれる事を警戒して距離を取っていた五機のガンダムに黒騎士隊が攻撃を開始しており、どの道増援は絶望的な状況だった。

 基地周辺、否、最早跡地と言って差し支えの無いこの場所には辛うじて難を逃れた(MAP兵器の範囲から1マス分だけずれた)ギルドロームとデスガイヤー(こっちは半マス分だけ)、そして半死半生の親衛隊である色違いのゼイファーにデスグローム隊である。

 

 対して、ISA戦隊側の戦力を見てみる。

 先ず母艦がマクロス級(改修済み)二隻にスペースノア級4隻にヒリュウ改1隻の合計7隻。

 特機がゲッターロボ、グレートマジンガー×3、ライディーン、ダンクーガ(羽あり)、コンバトラーVにボルテスV、グレンダイザーにゴッドマーズ、サイバスターにヴァルシオーネ、正式量産版シズラー×3(沖女女性教官トリオ)、ジガンスクード(名無しのエースパイロット)×2、グルンガスト零、グルンガストの合計17機。

 準特機級戦力又はカスタム機としてヒュッケバイン×2(アムロとシャア)、アルトアイゼンとヴァイスリッター、R-1にR-2、R-3にR-GUN、ゲシュペンスト・トロンべ(謎の食通専用機)にゲシュペンストS型の合計10機。

 

 更に通常のMSとVFが…約300機である。

 

 何でそんなにおるねん!吹かしこいてんじゃねぇ!と思われるかもしれないがちょっと待ってほしい。

 作者が計算ミスってる可能性は大いにあるが、それでもまるっきり信憑性の無い数字ではない。

 マクロス級の艦載機搭載機数に関しては詳しい資料が手元に無かったので、参考に改マクロス級、即ちバトル級の数値を参考にしている。

 以下が作者が入手したバトル7の艦載機搭載機数に関するデータである。

 

 VF…450機

 攻撃機…250機

 爆撃機…9機

 偵察機…60機

 輸送機…18機

 連絡機…12機

 

 合計799機、即ち約800機である。

 で、新マクロス級を構成するバトル級(超大型可変万能ステルス宇宙攻撃空母)は普段後部に接続しているシティ部分に都市機能をまるっと分割してこの搭載機数を実現している。

 また、バトル級自体がマクロスの様な万能砲艦ではなく、ステルス空母としての面が大きいため、この数値になっていると思われる(それでも凄まじい搭載数だが、これはVFやVBをファイター形態で格納しているが故と思われる)。

 で、原作のマクロス級は避難民の住まう都市部分と格納庫・工廠部分が同じ艦内に存在する上に一回り以上小さい。

 具体的にはバトル7のサイズが巡航形態で全長1510mで、マクロスが1200mとなる。

 で、更に現在の改マクロス級とも言える改修を受けて脚部を伸長させた後の全長が1500mとほぼ同値となる。

 が、内部に兵器工廠を抱え、構造的には砲艦に近い故に艦載機運用能力はバトル級よりも低いがそれでもサイズがサイズであるため、一隻当たりの搭載機数を大分少なく見積もって200機程度としてカウントしている。

 なお、参考のために付け加えるとマクロスの両腕に当たるアームド級宇宙空母の発展系であるグァンタナモ級宇宙空母 は約400mで搭載機数40~45機であるため、どんなに少なくとも最低でも100機は搭載していると考えられる。

 それに加えて、メガロードには正式版シズラー×3、マクロスとメガロード両方を守るためのジガンスクードⅡ×2が一機ずつ搭載され、更には死角を潰すために多数のデストロイド(と砲撃用のモンスター)が搭載されている。 

 で、この二機種のサイズだが、正式版シズラーは全長150m、ジガンスクードⅡが80m近いサイズを誇る。

 どう考えても格納庫を滅茶苦茶専有する上、シズラーはスペースノア級とヒリュウ改には搭載出来ない(ジガンすら割とカツカツ)のでメガロードに搭載している。

 VFー1(ファイター)が約15m、ゲシュペンストが約20m(ブレードアンテナ含む)なので、この5機分を大雑把に差っ引いて約50機分少なくする。

 結果、マクロスとメガロ―ドの二隻でVFとMSの搭載機数は約300-50で250と考える。

 で、ここに母艦機能並びに艦隊指揮特化型のスペースノア級としては(余りに真っ当で)珍しいシロガネ(約500m)を足す。

 ここで参考に先に上げたグァンタナモ級宇宙空母の上位艦種であるウラガ級護衛宇宙空母(宇宙空間だけでなく大気圏内や水上でも航行可能で空母ながら巡洋艦に匹敵する攻撃力を備え、艦隊司令艦としても使用できる万能母艦に近い艦)を例に挙げると550mで搭載機数65~75機になる。

 サイズからシロガネはグァンタナモ級とウラガ級の中間と考えると50~60程度と考えられる。

 こうして、先の250に最低でも50機を足して、漸く300機という答えになる。

 

 なお、移民船団に最も多く配備され、船団の前衛・後衛から哨戒等も行い、多数の派生型を輩出した傑作高速艦ノーザンプトン級ステルスフリゲートは全長250mの癖して約40機ものVFを搭載可能と言う四次元ポケットみたいな搭載機数を誇る。

 つまり、何が言いたいのかと言うと…

 

 この戦闘、先制を防ごうと何しようとムゲ側の敗北は決定していたって事です(確殺)。

 

 幾ら精兵だろうと、弱った上に指揮系統壊滅した所にこの数で攻め寄せられたらねぇ…。

 殿を受け持ったデスガイヤーと親衛隊は哀れ活躍の場面もなく、ただ圧倒的多数のMSとVF、そして太陽系最強の特機集団によって蹂躙された。

 それでもギルドロームはギリギリ何とか逃し、止めはダンクーガに刺してもらったので、色々なフラグの構築には成功した。

 彼らの死兵となっての奮闘ぶりは決して無駄ではなかったのだ。

 

 「そうか…お前達が、お前達こそが宇宙を駆け巡り、果ては異界にまで辿り着いたオレの倒すべき敵!遂に、遂に見つけたぞ!ハハ、ハハハハハハハハッ!」

 

 その笑みは、まるで家に辿り着いた子供の様に晴れ晴れとしていたと言う。

 

 

 ……………

 

 

 「これは…戦場の流れが変わったな。」

 

 その頃、トレーズ准将は敏感に戦場の動きを察知していた。

 即ち、敵側の動揺、好機の到来を。

 それは通信を行う余裕の出来たISA戦隊からの通信が来る前、正に艦砲射撃が行われた直後の事だった。

 

 「閣下?」

 「レディ、私は暫し出て来る。ここの指揮を頼んだよ。」

 「畏まりました。どちらへ?」

 「何、哀れな操り人形を止めるためにさ。」

 

 そうして司令部を後にしたトレーズが真っすぐ向かったのは格納庫、彼の専用機がある一角だった。

 

 「またよろしく頼むよ。」

 

 機体を見上げながら、特徴的なロームフェラの軍服のままでトレーズは呟いた。

 まるで長年の愛馬を労わるが如き言葉だが、その視線の先には以前彼が欧州方面陥落時の撤退戦にて共に最後まで戦った愛機たる専用のトールギスⅢ、それを修復ついでにA.I.Mによって改修されたトレーズ専用トールギスⅢカスタムの姿があった。

 撤退戦で問題となった反応速度と信頼性をより高めるべく、関節部は通常のチタンセラミック複合材からスペースチタニウムへと変更、更にOSの再調整やジェネレーターを最新の小型プラズマリアクターへの交換、それに合わせた出力系の再調整を行ったのが本機である。

 追加武装として背面に戦意高揚並びに背面へのバリアにも使えるビームフラッグ、腰には細身のサーベルに似た実体剣が鞘と共に佩かれている。

 ビームフラッグは使用時にクシュリナーダ家の家紋が表示される特別製である。

 サーベルの方も光子力研究所の倉庫に残っていたマジンガーZのマジンガーブレードの試作品を手直しして搭載したものである。

 勿論、開発は兜十蔵であり、超合金Z製である。

 古今東西の刀剣を参考に生み出されたこのサーベルは折れも曲がりもせず、それでいて圧倒的切断力を誇る。

 その威力たるやマジンガーZ(通常)と同等の超合金Z製装甲を難なく両断する程。

 反面、このサーベルは扱いが非常に難しく、この試験用に収集していた達人の剣撃モーションを再現するための仮設腕部をわざわざ作成する程であった。

 加えて敵に奪取される可能性が捨てきれず、最終的に光子力研究所の奥底に保管され、倉庫の肥やしとなっていた。

 だが、欧州方面にはムゲ・ゾルバドス帝国の主力部隊が多数存在し、将軍格やエース格の操る特機級戦力に対して通常配備のMS群では不利を免れない。

 トールギスⅢも他よりマシとは言えそこに含まれた。

 そこでA.I.M.はこの装備の譲渡もしくは貸与を兜十蔵氏に要請。

 既に実用中の超合金ニューZαは流石に斬れないだろうと考えた博士はこれを承諾した(実際は使い手の腕次第で行ける)。

 そこで態々柄をトーギスⅢ用に再調整、加えて鍔部分に薔薇の刻印を施し、専用の鞘を仕立てた上でトレーズへと贈られたのが、このZサーベルである。

 

 「さぁ、行こう。父祖の大地をこの手に取り戻し、星を守るために。」

 

 そして、出撃したトレーズはトールギスⅢの既存MSの中ではギャプランに匹敵する大推力から来る高Gにすらその美貌を歪ませる事なく、エレガントなまま戦場へと突入するのだった。

 

 

 

 




書いてて思った

何かもう、色々と酷いwwwww


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第53話 バトル・オブ・ヨーロッパその8

 新西暦186年9月21日 地球 欧州方面 ドーバー海峡周辺

 

 「ヘルマット将軍…無線・有線にレーザーとあらゆる通信手段を試み続けておりますが、司令部との連絡は途絶したままです。」

 「そうか。では、最早間違いないな?」

 「地球侵攻軍総司令部は、先に観測した軌道砲撃によって陥落したものかと…。」

 

 ムゲ戦艦のブリッジ、そこにある艦長席にて、ヘルマットは天を仰いだ。

 やはりこの世界に侵攻するべきではなかった。

 また勝ち戦だ、先遣隊の仇だと叫ぶ現場の兵士達の戦意とムゲ帝王様のご期待を裏切ってでもお諫め出来なかった時点で、この結末は決まっていたのかもしれない。

 

 「満足に動ける部隊はポイントD-1への移動を開始、然る後に撤退せよ。動けぬ者、退く気の無い者はその場にて最後まで戦え。そして、諸君には悪いが本艦は殿として残る。今の内に若い連中は急ぎ脱出せよ。5分だけ待つので、艦内放送で徹底させよ。」

 「は!」

 

 去っていく兵士の背を見送りながら、ヘルマットは高速でその思考を回転させていく。

 現状、最早幾ら戦術的勝利を重ねようとも挽回は不可能。

 高度に組織化された軍隊であるムゲ帝国軍が司令部とそこに付随する部隊と工廠施設、補給物資を無くした以上、完全にこちらの敗北は決定付けられた。

 であれば、少しでも多くの兵士達を自分達の宇宙へと逃し、相手が迂闊にこちらに攻め寄せてこれない様にするのが肝要だろう。

 そのためにも先ずは今の戦場を上手く切り抜けねばならない。

 

(幸い、向こうの巨大兵器の砲火は未だ収まっていない。流石にミサイルは弾切れの様だが、アレを盾にしつつ後退し、時間稼ぎが最善か。)

 

 ヘルマットが敗軍の将としての策を思考する中、事態は彼の予想よりも早く動いた。

 

 「! 敵司令部の予想位置付近より機動兵器の出撃を確認!物凄い速さです!」

 「何だと!?」」

 

 ヘルマットの乗艦の数km先、未だ双方の前線部隊相手に暴れ狂うフォウ・ムラサメの駆るデストロイガンダムに向け、凄まじい速度で迫る機影が感知されたのだ。

 

 『お前!お前も私の記憶を奪うのかぁ!?!』

 『悲しいな、操り人形というのは。そこまでやっても、君は戦いに向いていないのだよ。』

 

 自身の専用機たるトールギスⅢカスタムのコクピットで、常人なら圧死しかねないGに襲われながら、トレーズは敵味方に記憶と人格、正気を奪われたフォウ・ムラサメを哀れんだ。

 デストロイガンダム到達まで後5秒の距離で、両腕の飛行型5連装ビーム砲が連射され、弾幕を形成する。

 だが、トールギスⅢカスタムはその弾雨を掠らせる事すら許さず完璧に回避し、更にペダルを踏み込んで加速する。

 到達まで後4秒、弾幕が足りぬと判断したフォウは胸部三連装拡散・収束切り替えメガビーム砲を拡散状態でチャージを開始、同時に頭部の4連装80mmバルカン砲を乱射する。

 流石にこれは回避し切れなかったのか、トールギスⅢカスタムはシールドを正面に構え、展開しているDFによってこれを防ぐ。

 だが、そのスピードは一切減速させない。

 到達まで後3秒、弾幕は展開されたまま、命中弾も徐々に出る。

 しかし、トールギスⅢカスタムは主に命じられるままにその加速を緩めない。

 到達まで後2秒、遂にデストロイの胸部から三連装の拡散メガビーム砲が放たれる。

 発射口から幾条にも別れ、周辺を焼き払っていくビームは、しかし拡散されたが故にトールギスⅢカスタムを撃墜するには至らない。

 フォウは最初から、収束状態での一撃を狙うべきだったのだ。

 だが、長時間の戦闘、それも完全に錯乱状態で動き続けたが故に既に大きく体力を消費し、その判断能力も大きく低下していた。

 到達まで後1秒、回避も迎撃も防御も間に合わない。

 それでもせめて直撃を免れようとトールギスⅢカスタムの予測進路上から避けるべく機体を傾かせる。

 

 『それを待っていた。』

 

 0秒。

 自らの進路上に空いた隙間、その直ぐ近くにある自機から見て左側にあるデストロイの頭部。

 それこそがトレーズの狙いだった。

 左腕で構えるシールドの影となり、死角だった左腰部に佩かれたZサーベルをまるで居合の様に抜刀し、鞘をレールとした勢いと機体の加速を乗せて、Zサーベルが一条の輝きとなって走り抜け、空いた空間へと走り抜ける。

 

 『今は眠り給え。』

 

 余りに美しい切断面を残し、デストロイガンダムの頭部は海面へと落ちて行った。

 その頭部内のコクピットには傷一つなく、心身双方への衝撃と蓄積した疲労でフォウ・ムラサメは気絶しただけで済んだ。

 後に残された機体は誘爆する事もなく、ただ静かにドーバー海峡へとその巨体を沈めていくのだった。

 その圧倒的かつ余りに鮮やかな腕前に、歴戦の将たるヘルマットと彼の部下達は唖然とし、次いでその機体の乗り手の行動に驚愕した。

 

 「し、将軍!あの機体から通信が入っております!」

 「何のつもりだ!?繋げろ!」

 

 動揺するムゲ軍に構わず、トレーズは堂々としならがも一切エレガントさを損なう事なく告げた。

 

 『ムゲ帝国軍全将兵に告げる。私は地球連邦軍欧州方面奪還作戦総司令トレーズ・クシュリナーダ准将だ。』

 「ムゲ帝国軍が三将軍が一人、ヘルマットである。この通信の意図を知りたい。」

 

 目の前に出て来て一方的に宣言するトレーズに対し、ヘルマットが告げる。

 そう言いながらヘルマットはスクリーンに写し出された男を見て…己の敗北を悟った。

 自分は指揮官として一廉の人物であると自負していたが、目の前のコレは違う。

 一廉所ではない、歴史の中において綺羅星の如く輝く英雄達の中においても尚一際強く輝く程の大器。

 ヘルマットとてムゲ人の一人、即ち地球人類の平均値よりも高い性能を持ち、同時に微弱ながらも精神感応能力を持つ。

 ヘルマットはギルドロームの様な攻撃に転用できる程のものではないが、ある程度相手の感情を推し測る事は出来るのだが……結果として、彼は通信越しとは言えトレーズの持つ圧倒的なカリスマと大器、エレガンさを直視し、心を圧し折られかけていた。

 

 『君達の総司令部はこちらの別動隊の攻撃により壊滅した。最早君達には救援も物資も指揮系統もない。趨勢は決した。今降伏するのならば、君達の身の安全は保障しよう。』

 「ぬぅぅ…。」

 

 正直、魅力的な言葉だった。

 だが、それはしたくとも出来ない相談だった。

 

 「それは出来ん。」

 『何故と問うても?』

 「ムゲ帝王様ご本人ならば兎も角、臣民の手で兵達が排斥されかねん。」

 

 ムゲ・ゾルバトス帝王。

 彼は負の無限力の一角として悪霊達の王であり、野心こそあれども慈悲深く、疑いなく名君と言える。

 しかし、その配下まで、況してやその率いる臣民全てがそうだと言う訳ではない。

 先ず間違いなく、これまで戦術的敗北はあれど戦略的敗北は無かったムゲ帝国軍の無敗伝説を汚したとして、地球侵攻軍の兵士は一兵卒に至るまで祖国に帰り着いたとしても民衆からの罵倒は免れないだろう。

 例えムゲ帝王様のお声があろうとも、民衆の不満というものはそう簡単に消えないのだ。

 それが例え軍上層部からは反対されていた遠征で失敗の可能性が元々高くとも、失敗したからにはそれは実行を担当した軍部の責任なのだから。

 

 『では、このまま名誉の戦死を選ぶのかね?』

 「…私が戦死した後は、各々の裁量に委ねる。」

 

 それは全ての責任を己で負うための方便だった。

 最上位指揮官が戦死するまで戦い続けたのならば、例え末端の兵士達が降伏した所で問題とはされ難い。

 少なくとも、そのまま普通に降伏するよりは遥かにマシな扱いとなる事だろう。

 

 『了解した。では、貴殿の首級は私が取らせて頂く。』

 

 それはトレーズなりの最大限の敬意の示し方であり、両軍の兵士全てにどちらが勝者で敗者であるかとありありと見せつけるための儀式でもあった。

 通信の終了と同時、トレーズのトールギスⅢカスタムが再度最大速度で突貫する。

 司令官自らが突撃するという暴挙に、周囲の兵士達も思わず止める事も忘れてその行方を見守る。

 対し、先程デストロイガンダムにした様に自らの元へと突撃するトレーズに対し、ヘルマットは素早く全艦に指示を下す。

 

 「各砲座、対空防御だ!正面に撃ち方始めぇい!」

 

 ヘルマットの号令に、今まで停止していた彼の座上するムゲ戦艦が火を噴く。

 元よりヘルマット将軍を守るための最後の盾であるムゲ戦艦の乗員が弱卒である筈もない。

 号令から数秒で展開され始めた対空砲火と弾幕は的確かつ濃密であり、通常のパイロットではとてもではないが近づけないだろう。

 加えて、元より頑丈かつ多機能な万能母艦たるムゲ戦艦。

 通常のMSの武装ではとてもではないが、その装甲を直ちに貫通して撃沈する事は不可能だった。

 だが、ここにはそのどちらもクリアできるパイロットと機体がいた事が、彼らにとっての不幸だった。

 

 『トレーズ・クシュリナーダ、参る。』

 

 濃密な弾幕を膨大な推力任せの圧倒的加速力で以てあっさりと突き抜けるトールギルⅢカスタム。

 多少の命中弾はあれど、その装甲と盾、DFによって阻まれ、碌に減速する事も揺らぐ事も無く。

 再び鞘から抜刀されたZサーベルを、一切の減速を許さずに今度は唐竹割に一閃する。

 それは同時に内包されていた光子力エネルギーを解放しての一太刀であり、トールギスの全長を超える光の刃だった。

 分厚いムゲ戦艦の装甲を易々と斬り裂く光の刃はそのまま真っすぐ進み、全長約500mにもなるムゲ戦艦を正面から両断してみせた。

 

 『静かに眠り給え、ヘルマット将軍。』

 

 二つに別れ、海面へと沈む前に爆散したムゲ戦艦の爆炎に照らされながら、トレーズは間違いなく強敵であったヘルマットに手向けの言葉を送った。

 この後、ムゲ帝国軍旧英国領侵攻部隊は速やかに降伏、武装解除した。

 余りに華々しく、見事な散り際を見せたヘルマット将軍とそれを成したトレーズへと敬意を示した結果だった。

 

 

 ……………

 

 

 同じ頃、ISA戦隊は補給を済ませた後に隊を二つに分けて、敵司令部周辺の防衛ラインを形成する基地に対して攻撃を開始、順次制圧していた。

 同時に各方面軍から成る各戦線も進撃を開始、司令部の壊滅による指揮系統の混乱と士気の低下により組織的反撃が難しくなりつつあるムゲ帝国軍は各地で次々と戦線が瓦解、追撃戦・掃討戦へと移行していた。

 

 「これはいけませんなぁ。」

 

 その様子を見て、諸葛亮孔明は呟いた。

 

 「やはり問題か、孔明?」

 「えぇ。通常の連邦軍ならまだしも、彼らという剣を研ぐには今回の戦いは余りにも温過ぎます。」

 「だろうな。それだけ事前の戦運びが見事だったという事だが…。」

 「ムゲの連中も不甲斐無さ過ぎる。これでは地底種族連合の方がまだマシだったぞ?」

 

 BF団が最高幹部たる十傑集と軍師諸葛亮孔明。

 彼らは連邦軍の欧州反抗作戦の余りの手際の良さを見て、頭を抱えていた。

 彼らなりのやり方で地球を守ってきたBF団ならば、侵略者であるムゲ帝国が撃退されたのは寧ろ歓迎すべきなのだが、ISA戦隊を始めとしたこの星の次の守り手を育成するための試練の場としてムゲ帝国を手引きしてまで用意した戦場だというのに、余りにあっさり決着が着いてしまって碌な経験にならなかった事に困っていた。

 宇宙では迂闊に手出しできないし、あのズールとバルマーという彼らから見ても厄介な連中が控えている。

 今回と同じ様な手ではそれこそ地球が陥落する可能性がある。

 どうしたものか、と頭を抱えるのも当然だった。

 

 「…仕方ありませんな。幽鬼殿、すみませんが例のプランをお願いできますかな?」

 「…承った。しかし、良いのか?確実に戻って来れるとは保証できんが…。」

 「何、まだ時間はあります。彼らにはしっかりと経験を積んでもらえますし、最悪別の候補を見繕うまでですとも。」

 

 こうして、BF団はまた新たな策を実行すべく行動を開始した。

 

 

 

 




欧州戦線編、これにて終幕!

振り返るとトレーズ閣下のエレガントさとムゲ三将軍の奮闘が光る話だった。
…あれ?原作主人公と本作主人公チームは何処?(今更


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第54話 ボーナスステージ(強制)

 新西暦186年9月22日 地球 欧州方面

 

 欧州方面を陥落させ、多くの地球人類を殺傷したムゲ帝国軍の第二次侵攻作戦はISA戦隊による地球侵攻軍総司令部のある旧ドイツ領ラムシュタイン空軍基地近郊への軌道上からの戦略砲撃並びに強襲作戦により消滅した。

 デスガイヤー将軍並びに精鋭部隊は殆ど壊滅した状態でISA戦隊と戦闘に突入、ギルドローム将軍を秘匿名称ポイントD-1へ逃がすために奮闘空しく全滅した。

 ヘルマット将軍は己の率いる旧英国領侵攻部隊と共に撤退を試みたが、旧英国領に詰めていた反抗作戦本隊によりドーバー海峡にて討ち死に。

 残存兵力は降伏し、大人しくしている。

 残る各方面に配置された部隊は各方面軍から抽出された部隊との戦闘中に総司令部の消滅を受けて混乱、その隙を突かれて防衛ラインを突破され、瓦解していった。

 辛うじて一部部隊は撤退に成功、現在はとある場所目掛けて落伍者を拾う事もせず敗走を続けている。

 

 そのとある場所、それこそが秘匿名称ポイントD-1、即ちギリシャのデルポイだった。

 

 神代、即ちギリシャ神話の時代においては世界のへそとも言われたこの地は古代ギリシアでの聖地であり、多くの遺跡や伝承が残る土地だった。

 

 『恐らく、先史時代の人々がここが何等かの特異な空間であると気付いていたのでしょう。今の我々とは違う技術体系によって。』

 「成程、ムゲの残存兵力が集結しているのはその地にある何かが原因という事か。君達が言うと猶更信憑性が増す。」

 『恐れ入ります。』

 

 総司令部付きの将官用秘匿通信室にて、トレーズは国際警察機構・A.I.M保安部・連邦軍情報部からの報告を受けていた。

 旧英国領の戦闘が終息後、投降した大勢のムゲ帝国軍の武装解除や捕虜の収容等の作業並びに補給・整備・修理をするため、旧英国領に配置された戦力は殆ど動かす事が出来なかった。

 結果的に、ヘルマットの行動は旧英国領に配置された戦力、即ちトレーズとその手足たる兵達の動きを一時的にとは言え封じる事に成功していたのだ。

 だが、それは何も出来ないという事と同義ではない。

 否、寧ろ将帥にとって戦闘の前後、膨大な事前準備と事後処理こそ最大の正念場なのだ。

 故に現在、トレーズは将官として今己に出来る事を行っていた。

 

 『こちらの調査はまだ未了だが、恐らくは亜空間ゲートの様なものだと推測されている。どんな原理でどれだけの物質を奴らの宇宙へと転送できるかは不明だが、場合によってここから逆転される可能性すらある。』

 「こちらのチューリップ型ゲートと同じと言う事だね。」

 

 現在、地球・火星・木星・土星・金星に加えて共和連合領の一部を結ぶこチューリップ型ゲートは宇宙において軍事・経済両面における最重要拠点であった。

 その転送量は膨大であり、毎日千を超える輸送船や軍艦が行き来している。

 もしこれと同じ程の転送量だとすると、現状の戦力差を簡単に覆されかねない程の転送量を持つ事となる。

 

 『現在、太陽系防衛用無人機動部隊の最終防衛ラインを担当する無人量産型OF隊が位相空間内から調査に当たっていますが、以前には見られなかった力場によって侵入を阻まれ、難航しています。』

 「原因は?」

 『この力場が魔術や超能力に類するものを原動力としており、無人兵器たる我々にとっての天敵であるが故だと思われます。』

 

 自動人形らは人間やその他異星人等とは異なり、明確な精神を、魂を持たないと言われている。

 マシンハートを起動させたとしても、魂や精神を観測する手段が彼女らには無いために確かめようもなく、精神の才能たる超能力や魔法、NTの様な特異な資質を発現する事は無い。

 加えて、全ての生物が持っている当たり前のそうした能力への抵抗力というものが皆無に等しいため、天敵なのだ。

 この抵抗力に関してはマシンハート起動後は多少発生するため、恐らくは魂・精神が確立するのだろう、と仮設を立てているが、定かではない。

 

 「そういった分野の専門家を呼ぶ事は?」

 『国際警察機構のメンバーに幾人かいた筈だが…。』

 『生憎とこれ以上この件には人手が割けないとさ。BF団がまたぞろ動き出したらしい。』

 

 国際警察機構には超能力者が多数と仙術の使い手が一人いる。

 で、その中でムゲ側のゲートシステムを解析できる程の者となると三人しかいない。

 一人は国際警察機構最高責任者にして最大戦力たる黄帝ライセことヨミ。

 二人目は客員エキスパートにして仙術を使う公孫勝・一清道人。

 三人目は九大天王にして多くの超能力を扱うディック牧。

 ライセはトップであり、軽々に動く事は出来ない。

 一清道人は客員エキスパートであり、ディック・牧他と共に対BF団の任務に就いている。

 

 『一応、民間のオカルト関係者に声を掛けた事はありますが…。』

 「芳しくなかったと。」

 『大抵の人は一目見て断られ、自分ならいけると言った方は呪詛返しで一族郎党死にました。』

 

 以前よりA.I.MはNTを含めたオカルト分野に目を付けていた。

 しかし、体系立てて運用し、引いては兵器化するには余りに有効なサンプルが少なく、極めて難儀していた。

 それでも地道に研究を重ね、サイコナノマシンやサイコセンサーとして結実している。

 現在はプロトカルチャー系技術の解析が進み、ある程度の対策案が出来つつあるものの、やはり異能系やファンタジー系の敵を相手にするには純粋物理科学のみでは限界があるとも考え、他にも様々なアプローチをしていた。

 そのため、以前撃破した残骸から回収したムゲ兵士の死骸や化石獣の残骸等を民間から募った霊能力者とか占い師を呼んで霊視を依頼したのだ。

 が、結果は上記の通りであり、まともな情報を得る事は叶わなかった。

 そうしたサンプルの類は解析後、呪術的汚染を恐れて焼き払われ、現在では消滅している。

 

 「仕方ない。そちらは国際警察機構の方が時間が空いたら頼む事にしよう。」

 『申し訳ない。何分こっちも手一杯でね。』

 『所で、捕獲に成功した強化人間や投降したムゲ兵はどうするご予定でしょうか?』

 

 強化人間達の多くは余りに錯乱と暴走が酷く、その場で味方であった欧州方面軍によって撃破された。

 強化人間の中で生き残った者は少なく、機体に乗り込む前だった数名とフォウ・ムラサメしか生き残っていない。

 逆にブーステッドチルドレン達は投入された4名は全員が生き残り、現在は随行員だったクエルボ博士と共に治療に当たっている。

 なお、フォウが生き残っていたのは、この世界のデストロイドガンダムの構造に由来する。

 SEED系列の技術体系の多くが発展する前に失われたこの世界では、あの機体はガワこそデストロイだが、その実態はサイコガンダムの原型機とも言える実験機を無理矢理戦闘用としてロールアウトしたものだ。

 で、元はジオン系のMAとNT技術の実証試験を行うためのものであったのだが…実験中、とある問題が発生した事からコクピットが分けられたのだ。

 即ち、強化人間の錯乱による他のパイロットや技術者の殺傷事故である。

 その強化人間は人工筋肉の移植にチタン合金製骨格への交換を始めとした重度の強化措置を行っており、銃無しでは通常の兵士10人がかりで漸く抑え込める程の身体能力となっている。

 だが、その代償として極めて不安定であり、搭乗実験の際には胴体部コクピットで同じく搭乗していた研究員並びに他パイロット3名を錯乱の後に素手で惨殺したのだ。

 その強化人間は射殺され、データを収集した後に研究は薬物投与や催眠による洗脳、軽度の外科手術へと方針転換された。

 その際にコクピットも通常のパイロット達が乗る胴体部と強化人間=生体CPUの乗る頭部へと分けられたのだ。

 そして誕生した強化人間の第二ロットの中で最も優秀な個体だったフォウ・ムラサメもそういった事情で頭部のコクピットへと乗り込んでいた。

 他にもゼロ・ムラサメにロザミア・バダム、ゲーツ・キャパ等がいたが、彼らは機体に搭乗前だった事もあり、辛うじて周囲の兵士達に取り押さえられるか、研究員らによって麻酔を投与されて眠りに就いた。

 現在は落ち着いたとして拘束は外されているが、歩兵部隊により厳重な監視下に置かれている。

 

 「強化人間とブーステッドチルドレンに関してはA.I.Mで治療を頼めるかな?」

 『畏まりました。ですが、暫くお時間がかかるかと。』

 「構わないとも。それと投降したムゲ帝国軍の兵士達だが、地球に置いても問題になるだろう。もしもの時の事も考えて廃棄予定のコロニーで労働に当たってもらう事は可能かな?」

 『可能です。幾つかをピックアップしますので、後で参考になさって下さい。』

 「早めに頼むよ。兵士達は勇敢だが、それ故時に容易く蛮行に染まってしまう。」

 

 ムゲ兵士達は全ての武装を念入りに解除され、現在は旧英国領に急遽設置された捕虜収容テント群にて大人しく過ごしている。

 だが、それは欧州侵攻によって家族や友人、故郷を無くした兵士達のすぐ傍にいるという事に等しい。

 憲兵隊の監視が無ければ兵士達によって無抵抗であってもリンチされかねない状況であり、早急に他所へ移す必要があった。

 とは言え、地球上の他の方面からは早々に拒否と告げられ、既に住民がいるコロニーに預けるのももしもを考えれば危ない。

 そのため、もし脱走や反乱が起きればコロニーごと始末できるように廃棄予定のコロニーが選ばれる事となった。

 

 「ふぅ…流石に少し疲れたか。」

 

 その後、大凡の指示と報告をやり取りした後に通信を切ると、トレーズは深々と椅子に身を沈ませた。

 睡眠・食事・排泄の休憩は取っていたとは言え、戦時下である事から碌に気を抜けていなかった彼はここに来て心身の疲労を自覚した。

 思えばムゲ帝国軍の第二次侵攻で欧州方面の陥落が間近に迫った頃から今日まで、A.I.Mアフリカ支部にて一夜を過ごした以外は碌に気を抜く事も出来ずに走り抜けた。

 持ち前の才覚と超人的な身体能力によって抑え込まれていたその反動が今になって訪れていた。

 

 「ここは静かだ。少し、仮眠を…。」

 

 そう言って、スッと眠りに落ちて行った。

 室外で待っていたレディ・アンが入室し、世にも珍しいトレーズ閣下の寝顔を拝見して萌え死かけるまで後数分の事だった。

 

 

 ……………

 

 

 『間も無くだ。』

 

 『間も無く、準備が整う。』

 

 『贄は今回の件でほぼ揃った。』

 

 『ライディーンが覚醒し、ムートロンが吸収されたのは残念だったが…まぁ良い。』

 

 『ムゲ共めに感謝だな、これは。不愉快な連中であったが、良い仕事をしてくれた。』

 

 『だが、地球の支配者たるのはこのワシのみ…。』

 

 『そう!妖魔大帝バラオのみよ!』

 

 

 




ムゲがいなくなった?
残念!敵はまだまだいるんだゼ!


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第55話 ボーナスステージ(強制)その2

 新西暦186年9月24日 地球 欧州方面 旧ギリシャ領

 

 デルポイに集まったムゲ帝国軍地球侵攻部隊の数はその往時の1割にも届かなかった。

 いや、寧ろ1割も逃げ遂せたと称えるべきだろう。

 この三日間、全方位から今までの復讐だと攻めかかってくる地球連邦軍によって、散々に撃滅されていたのに足の速い戦艦に機動兵器と航空兵器とそれらに積載できた歩兵部隊のみとは言え、地球連邦軍基準で一個師団程度は確保出来たのだから。

 地球連邦軍基準(一年戦争時08小隊より)ではMS3機(+ホバートラック)で一個小隊となり、中隊で9機、大隊で27機となる様に所属部隊は基本三つで統一されている(戦闘で減ったり、一時的に増強したりはされるが)。

 で、大隊から上の連隊が81機、旅団が243機、師団が729機になり、残った一割が一個師団に相当する戦力になる。

 こう考えるとムゲ帝国軍地球侵攻部隊がどれだけの兵と兵器を失ったのかが分かるだろう。

 同時に地の利があったとは言え、たった三日でここまで叩いてみせた連邦軍の異常さも浮き彫りになっているが。

 それはさて置き、現在の彼らは空間の特異点とも言えるデルポイに設置されたメガロプレッシャー改装型ゲートシステムを起動すべく準備を進めていた。

 

 「えぇい、まだゲートは開かんのか!?」

 「も、申し訳ありません!現在、技官総出で取り掛かっておりますが、空間がこれまでになく不安定でして…!」

 「ぬぅ…事故の起きぬ範囲で可能な限り急げ。最早敵の攻撃まで猶予は無いぞ。」

 

 しかし、何故かシステムが不調であり、起動が遅れていた。

 勿論、どっかの誰かさんの仕込みである。

 イライラとするギルドロームはそれ以上話す事なく技官に行けと命じてどっかりとムゲ戦艦内の艦長席へと乱暴に座る。

 帰還した所で、罷免は免れないだろう。

 だがしかし、自分は命を賭けて戦ってくれた将兵らのためにも生き延び、事の次第を帝王様に奏上する義務がある。

 処罰され、処刑されるのはそれからでなくてはならない。

 焦りと苛立ち、絶望がジワジワと蔓延する中、警報が鳴り響く。

 

 「どうした!?」

 「敵襲!敵の大攻勢です!」

 「総員、戦闘配備だ!何としても時間を稼ぐのだ!」

 

 こうして、ムゲ帝国軍の地球最後の戦闘が開始された。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年9月23日 地球 欧州方面

 

 「今回の我々の作戦はデルポイにて集結しているムゲ帝国軍残存戦力の撃滅になる。」

 

 スペースノア級4隻とヒリュウ改へと繋げられた通信で、ブライト少佐が説明を始めた。

 なお、マクロス級2隻はこの作戦には参加していない。

 また大砲ブッパしては鹵獲できるものも出来ないし、地球上で運用するにはサイズが大き過ぎて入れるドックや補給施設等が欧州には無いからだ。

 後、デカいだけあって運用コストがちょっとスペースノア級よりも桁が一つ違ったりする。

 主だった艦載機であるスカル大隊は各地で逃げ遅れながらも徹底抗戦を続ける死兵化したムゲ軍相手に局所的に押される連邦軍への救援、即ち元の火消任務に、三機の正式量産版シズラーは沖女に戻り、二機のジガンスクードⅡはそのまま両艦に配置される事となった。

 なお、スカル大隊の母艦は以前のストーク級と追加されたグレイである。

 

 「敵が撤退のために用いると予想されているゲートシステムだが、その傍の敵中枢への通常部隊での攻撃はリスクが多く、最悪空間崩壊からの大災害に繋がりかねん。そのため、通常の連邦軍ではなく少数ながらも戦力・機動力に富む我々が担当する事となった。」

 

 現状、陸上戦艦や航空母艦はまだまだ貴重であり、更にその足の速さは万能母艦であるスペースノア級やヒリュウ改の方が圧倒的に上である。

 機動兵器に関しては千差万別であるものの、ゲートシステムを刺激せずに早期に敵を駆逐するには通常の量産機よりも遥かに高い性能と腕の良いパイロットを揃えているISA戦隊は都合が良かったのだ。

 加えて、敵増援が出て来る等の可能性も否定できず、先の敵司令部強襲作戦以降から殆ど消耗らしい消耗をしていない事もあり、こうしてISA戦隊にその任が回ってきたのだ。

 

 「要はかなり大規模な威力偵察に近い。それで連中が撤退してくれるなら良いが、もし増援等が確認されればこれも撃滅する。説明は以上だ。各員の奮励を期待する。」

 

 こうして、着々とフラグは積み重ねられつつあった。

 

 

 ……………

 

 

 「で、準備の方はもう良いのか?」

 

 葉巻に火を着けながら、アルベルトがそう問うた。

 

 「えぇえぇ、仕掛けは上々!あのご老人も快く協力を約束してくれましたとも。」

 

 それに上機嫌に答えるのはどう見ても信用ならないが能力は本物な軍師諸葛亮孔明である。

 アジトでの十傑集と軍師達の会議にて、彼らは着々と次の作戦の準備を行っていた。

 

 「ふん、てっきり魔神に消し飛ばされていたと思ったのだがな…。」

 「配下の戦闘獣と言ったか?見た限り、以前の機械獣よりも遥かに強化されていたぞ。」

 「そうまで準備していたのなら、バラオなり魔神なりに挑めば良かったものを…。」

 「勝てる見通しが立たなかったんだろうよ。その辺はバラオに屈した時と同様、底の浅さが分かるというもの。」

 

 全員がとある人物とその配下達を散々に酷評する。

 それだけ彼らからすればその人物の行いは許し難く、度し難いものがあったからだ。

 

 「で、バラオの方も動いているそうだが良いのか?」

 「我らがBFの盟友ラ・ムーによって封じられて弱っていたとは言え、その力は本物だろう。どうなのだ孔明?」

 「ご安心を。今現在のバラオならば皆様なら多少の損害は出るやもですが対処可能です。」

 

 次々と飛び出て来る地球圏の特記戦力の名前だが、その多くを撃滅可能なBF団にとっては然したる問題にはならない。

 ただ一つの例外を除けば。

 

 「…して、バラルの連中はどうなのだ?」

 

 ここで今まで沈黙を保っていた直系の怒鬼がその重過ぎる口を開いた。

 怒鬼が口を開いた事とその内容に一同が僅かに動揺するが、瞬時にその問いに対する答えへと興味は移る。

 

 「未だ彼らの神は目覚めきっておりません。しかし、数年以内には目覚めるだろう、との事です。」

 「何と!?」 

 

 今度こそ十傑集の間で動揺が広がった。

 バラルの神、即ち二体の創造神ガンエデンの内の一体たるナシム・ガンエデン。

 そして、その依代として選ばれた巫女(マシアフ)たるイルイ・ガンエデン。

 彼女らが目覚めれば、バラルは現状の地球圏を覆う問題を一挙に解決できる程の大戦力となるのだ。

 ともすれば、BFが未だ目覚めぬままのBF団よりも。

 

 「だが、あの男がそんな状況を座視するか?」

 

 彼らの脳裏に浮かぶのは白いスーツに青いシャツ、黄色のネクタイ、胸のポシェットに白い百合と言う紳士然とした恰好でありながらも飄々とした油断ならない日和見主義者だった。

 あいつならゼッテー何かやらかす。

 割としょっちゅう小競り合いをして相手の性格や性根を知っている事もあって、そんな確信が十傑集の間にはあった。

 

 「えぇ、しますとも。何せ彼の目的は自分の生存というとても分かり易いもの。余禄も多少ありますが、その点はブレません。ならば誘導も容易き事。快く協力を引き受けてくれましたよ。」

 「「「「「「「「何ぃ!?」」」」」」」」

 

 十傑集のほぼ全員が驚きに席を立ちあがった。

 静かなのは怒鬼だけで、後はこの場にいない幽鬼位である。

 

 「一体どうやった!?」

 「あのド外道を納得させる等、どんな対価を!?」

 「いや、そもそも取引できるのかアイツ?」

 「えぇい、静まれ!全員、先ずは話を聞くのだ!」

 

 喧々諤々と怒号が飛び交うが、そこは空かさず二代目リーダーたる混世魔王 樊瑞が制止する。

 同意する様に激動たるカワラザキもじろりと騒ぐ後輩達を睨みつけると、一時とは言え皆静まった。

 

 「では話を続けますよ?何、種は簡単な事で、以前から彼が探していたものをこちらで提供したというだけです。」

 「探していたもの?」

 「竜玉ですよ。先史時代に失われていた筈の、ね。」

 

 孫光龍の搭乗する「超機人」の中でも最上位に位置する「四霊」の一機、「応龍」の超機人「真・龍王機」の装備であり、超機人大戦を始めとした先史時代の戦乱によって荒れ果てた地球環境を再生するために使用され、消えてしまった超機人文明の技術の一つの到達点であったエネルギー機関。

 そんなものの代替となると簡単に見つかる筈もなく、200年程前に目覚め、活動を再開して以来(その直後にもう一度うっかり撃破されて眠りに就いていたが)、孫光龍がずっと探し求めていたものの、未だ見つかったという報告は無かったのだが…。

 

 「そんなものを渡して大丈夫なのか!?」

 「ご安心を。性能は本物ですが、所詮パチモンです。」

 

 相変わらず信用ならない「計画通り」とでもテロップが出そうな笑顔でそう言い切る孔明に、十傑集は絶句した。

 

 「えぇ…(困惑)。」

 「えぇんかそれ…。」

 「良いんですよぉ。どうせあちらも状況次第じゃ簡単に裏切ってくる訳ですし、織り込み済みって奴です。」

 

 ほほほほほほ、と扇で口元を隠しながら嗤う孔明に、十傑集は微妙な顔になるのだった。

 

 




フラグ立て回でした。

この話だけで一体何本のフラグが立ったんでしょうねぇ?(※質問とかじゃありませんよ念のため)


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第56話 ボーナスステージ(強制)その3 一部修正

ISA戦隊の部隊分割内容を修正しました。

ヒュッケバイン×2 を ムトロポリス行きにしました。
これでライディーン組をリアル+異能組系、旧光子力研究所をスーパー系に綺麗に分割できた筈。


 新西暦186年9月24日 地球 欧州方面 旧ギリシャ領

 

 敗残の軍なれども未だ多数の戦力を持ったムゲ帝国軍。

 メガロプレッシャーとその派生型を用いた基地施設や通常の機甲戦力こそないものの、未だムゲ戦艦にゼイファー、ドルファー等の機動兵器と歩兵戦力を有し、決して無視できない。

 旧世紀の国家群であればそれだけで制圧可能な程の戦力を捨て置く程の理由も寛容さも侵略者相手には持っていない地球連邦軍はゲートシステムによる撤退の遅れているムゲ軍をここで全滅させる事を決定していた。

 少しでも多く殺し、少しでも無惨に殺し、少しでも深く破壊する。

 そうする事で二度とこの地球に手を出そうと思わない様に、もし手を出す事になっても少しでも再侵攻を遅らせるべくムゲ兵の心身へと地球人類の恐ろしさを刻み付ける。

 そういう意味でも、ISA戦隊という地球圏最精鋭部隊の投入は理に叶っていた。

 しかし、戦闘開始から10分、突然状況が動いた。

 

 『こ、こちら西方向包囲担当部隊!敵の奇襲を受けた!繰り返す、奇襲を受けた!現在応戦中!救援を求む!』

 

 突然の救援要請が味方から届いたのだ。

 空かさず欧州方面軍司令部に繋ごうとしたのだが、ジャミングが展開されているのか繋ぐ事が出来ない。

 

 『えぇい!全機、急いで戦闘を終わらs『いや、その必要はない。』っ!?』

 

 ブライトからの通信に、突然別の声が混ざった。

 陰鬱そうな男の声は、当然スペースノア改の乗組員でもISA戦隊所属の軍人のものでもない。

 

 『BF団十傑集が一人、暮れなずむ幽鬼。』

 

 戦場のど真中に佇む、その声と同じく暗い色のスーツに身を包んだ陰鬱そうな男が現れる。

 直後、戦場全域にて突然無数の羽虫や蝶、蛾等が何処からともなく現れ、ムゲとISA戦隊の双方を混乱に叩き込んだ。

 

 『な、なんだこれ!?』

 『虫だ!気を付けろ、機体内部に入り込んでくるかも…!』

 『しゃらくせぇ!ゲッタービームで焼き尽くしてやる!』

 『あ、馬鹿…!』

 

 ゲッター1が放ったゲッタービームによって一瞬で焼き尽くされ、ドンドン燃えていく虫達。

 ゲッタービームだけでなく、ビームやレーザーにとっては虫=可燃物であり、発射された場所からその高い熱量によって次々と燃えていく。

 即ち、燃え盛りながら滅茶苦茶に動き回る虫の大群に群がられるという傍目から見て地獄絵図に近い状況へとなったのだ。

 

 『ひぃぃぃぃいい!?』

 『きっも!きっっっっも!?』

 『この馬鹿共!迂闊に撃つんじゃないよ!!』

 

 この混乱はムゲ兵側でも起きており、戦場全域が混乱に包まれていた。

 

 『では幽鬼殿、今ですぞ。』

 『心得た。』

 

 途端、今まで碌に動かなかったゲートシステムが起動、急激に空間を歪曲させていく。

 

 『ぎ、ギルドローム将軍!ゲートシステムが起動しています!』

 『なにぃ!?』

 『こちらの制御、受け付けません!完全に暴走しています!』

 『いかん、全部隊退避せよ!』

 『間に合いませんーッ!』

 

 

 『『『『『『うわあああああああああああ!?!』』』』』

 

 

 こうして、ムゲ帝国軍地球侵攻部隊並びにISA戦隊はこの世界から消え去ったのだった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年9月24日 地球

 

 地球圏最大戦力の一角たるISA戦隊の消失。

 それと時を同じくして古代より復活したミケーネ帝国を名乗る軍勢が地球各地に出現、軍民の区別なく襲い掛かり、破壊を撒き散らした。

 その指揮官格と思われる者達、即ち地獄大元帥を筆頭として七つの軍団の長とそれを束ねる暗黒大将軍らは軍勢を率いて一路極東方面へと向かった。

 また、その極東方面でも太平洋より妖魔大帝バラオがこれまでにない物量の妖魔帝国軍を率いて極東方面を目指し始めた。

 両者とも道中目に付いた全てを破壊しながら、互いの目的を達成するために極東方面へと向かうのだった。

 

 無論、地球連邦軍はそれを座視する事はなかった。

 

 欧州方面に戦力を集中していたため、両者を撃滅するだけの数を揃える事は出来ずとも、足止めや漸減は出来るとばかりに多数の砲火を叩き込んだ。

 だが、妖魔帝国軍はその数を大きく減らす事には成功したものの、ミケーネ帝国軍に関しては殆ど効果が無かった。

 ミケーネ帝国の主力兵器たる戦闘獣。

 僅かに撃破した機体の残骸を解析し、何処か機械獣にも似たそれらは古代ミケーネ人を材料とした巨大なサイボーグであり、機体の何処かにある顔に脳があり、よくしゃべる上に生物染みた柔軟性を持つ。

 その基本性能たるや、あのマジンガーZに匹敵し、更には高い自己修復機能も有するというデータが出揃う頃には連邦軍は各地で敗退を重ねていた。

 マジンガーZ(通常時)並みの防御力を持つ上に高い自己修復機能持ちでは、如何な連邦軍とは言え火力不足に陥ってしまうのも仕方ない。

 そのため、対特機戦術に則って飽和火力での圧殺にシフトしていこうにも、相互に連携する戦闘獣の軍勢という悪夢に連邦軍は後手後手に回り、最終的にはアフリカ方面に回航していたマクロスとメガロード二隻の艦砲や量産型準特機グラビリオンの集中運用を開始するまで大きな被害を出し続けた。

 そんな中、極東方面軍だけは他方面軍よりもしぶとかった。

 以前から協力している民間研究所は自分達の自慢の特機とパイロットが各地で戦果を上げ、果ては行方不明になってもその手を休める事なく、次なる戦力の配備を続けていたのだ。

 

 そうして登場したのが量産型グレートマジンガー軍団と量産型廉価版ゲッターG軍団である。

 

 軍団といっても、数はそれぞれ9機ずつしかいないのだが。

 前者は以前から科学要塞研究所で生産が進められ、甲児機やジュン機と同様の仕様であり、今回の件で予定を繰り上げてロールアウトされたのだが、調整が不完全なため、完成度は80%に留まっている。

 後者は早乙女研究所で開発が進められていた次世代型ゲッターロボから合体・変形・分離機能を排除した上でゲッター線増幅装置(こちらはまだ通常仕様の試作一号機と共に調整中)ではなく縮退炉を追加したゲッタードラゴンで構成されている。

 この量産型ゲッターGは嘗て相対したメカ鉄甲鬼を参考にしており、既にして高い基本性能を持っていた。

 パイロットは全員が地球連邦軍から出向している軍人であり、全員が高いG耐性や特機適性を持った上で心技体全てに優れた者で統一されている。

 彼らに加え、立場の問題からISA戦隊に泣く泣く参加出来なかった破嵐万丈とダイターン3も参加した特機軍団が極東方面への二大勢力の大規模侵攻を迎え撃つ形となり、やってきた戦闘獣軍団や妖魔帝国軍の先遣隊を散々に蹴散らし、撃破していった。

 普通ならそれで増長する事もあるのだろうが、彼らは本来のパイロットであるマジンガーチームやゲッターチームのハチャメチャぶりを知る普通の軍人なので、粛々と連携を取りつつ敵を撃滅していくのだった。

 なお、ダイターンはその目立ちっぷりから集中砲火を受け、専ら防御に専念する羽目に陥っていた。

 それはそれで特機軍団にとっては助かるのだが、万丈は納得いかなさそうな顔していたと言う。

 新西暦186年9月27日、ムゲ帝国軍とISA戦隊の消失から三日後、各地での戦闘は断続的に続き、極東方面では間も無く決戦という頃、遂に彼らが戻ってきた。

 

 『つ、通常空間への復帰を確認!本艦の人員並びに装備に欠損見られず!』

 『全部隊、状況報告!こちらスペースノア改は無事だ!』

 『こちらハガネ改、無事です!』

 『こちらクロガネ。全艦並びに人員全て無事です。』

 『こちらシロガネ、問題確認できず。』

 『こ、こちらヒリュウ改!人員・装備共に問題ありません!』

 『よし、関係各所に連絡してこちらの無事と情報を収集するんだ!』

 

 漸く、地球圏最大戦力たるISA戦隊が極東方面へ転移で帰還してきたのだ。

 その傍らにはグランゾンがおり、マサキ・アンドーと幾つか言葉を交わすと消えていったと言う。

 そして、その事が各地の連邦軍に知らされると…

 

 『『『『『『『『『『『遅いわボケぇ!!』』』』』』』』』』

 『『『『『っ!?』』』』』

 

 仕方ないし悪くないと分かっているのだが、思わず罵声を浴びせてしまうのだった(その後謝ったが)。

 たった三日されど三日、状況の急激な変化の速さを知るや否や、ISA戦隊の面々はその罵声に納得したのだった。

 彼らの三日間の旅路はまたの機会として、結果だけを言うならば彼らは資金20万オーバーと貴重な強化パーツの山、更にオーラーバトラーと言われる特殊な機体群とそのパイロット、そしてアイドルだという少女達(とそのプロデューサー二名)を連れて地上へと戻ってきたのだ。

 最寄りの基地で補給を受けた後ISA戦隊は部隊を二つに分け、遭難者たる民間人のアイドルの少女達を我が社にお任せをと手を上げたA.I.M極東支部に預けると、ムトロポリスと旧光子力研究所の二か所へとほぼ同時に向かってくる二大勢力の迎撃のために部隊を二つに分ける事となる。

 ムトロポリスにはスペースノア改、ハガネ改、ヒリュウ改が。

 旧光子力研究所にはクロガネ、シロガネがそれぞれ担当する事となった。

 搭載する機体に関しては前者がライディーン、ゴッドマーズ、超電磁ロボ×2、闘将ダイモス、サイバスターにヴァルシオーネ、グルンガスト零式にグルンガスト、ゲシュペンスト・トロンべにヒュッケバイン×2、ゲシュペンストmk-Ⅱ一個小隊、そしてSRXチームとATXチームとなる。

 後者に関してはマジンガーチーム、ゲッターチーム、ダンクーガ、グレンダイザーがおり、後はそれぞれに通常のMS並びにVF小隊となる。

 後者の方が少な過ぎる?派遣先に合計18機もの特機軍団がいるんだしこれでも多い位である。

 

 『よし、各部隊は先ず自身の参加する戦闘に集中しろ。戦闘が終息次第、可能な限り急いでもう片方の援護に向かうんだ。』

 『現状の私達ではこうする他ありません。各員の奮励と努力に期待します!』

 

 こうして、地球での戦いは新たな局面へと移るのだった。

 

 

 ……………

 

 

 なお、オーラバトラーやらアイドル少女らのデータを冥王星基地にて受け取ったトレミィはご本人がいる時空だというのに構わず例のポーズであのセリフを呟いた。

 

 「勝ったな。」

 「お茶のお代わりはいかがですか?」

 「台無しだよSf…お茶は貰うけどさ。」

 

 決戦の時が近づいていた。




なお、転移先はラ・ギアスとバイストンウェルがミックスした世界の予定。
ファンタジー系参加作品が少ないので展開に困る(汗

主人公組無双と言えばそれまでなのですが、スパロボ原作でのバイストンウェルの連中は全長100m超えの特機含む巨大人型機動兵器の部隊とかによく喧嘩売る気になるもんだと感心する次第。


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小ネタ会話集その6

・年貢の納め時 欧州奪作戦の真っ最中

 

 「き、貴様ら!私を誰だと思っtひでぶ!?」

 「誰だと?糞と屑を煮詰めた下種野郎に決まってんだろ。」

 

 ロード・ジブリール逮捕時の一幕。

 抵抗したために憲兵が容赦なく制圧した。

 汚職や賄賂は可愛い方で、秘匿研究施設での人身売買に非道な人体実験等、数多くの連邦法違反で終身刑か死刑の二択しか残っていない状態だった。

 その親族も叩きまくって埃を落としたので片っ端から逮捕され、違法手段で築かれた財産の山の多くは連邦法に則って接収され、被害者への補償や医療費・生活費へと充てられた。

 企業や持ち株等はオークションに出され、ロゴスメンバーによって買収された。

 機動兵器類は軍と企業が合同でデータ収集後、強化人間向けのものは全機解体され、一部の有用な機体は小改修されながら運用される事となる。

 

 

・年貢の納め時その2 欧州奪作戦の真っ最中

 

 「ひぃひぃ…年寄りにゃこの階段は辛いわい…。」

 「お手伝い致しましょうか、アギラ・セトメ博士?」

 「ひ!?き、貴様らは…!」

 「違法人体実験並びに過失致死を始め、多数の犯罪の容疑で貴女を逮捕する。」

 

 ジブリール逮捕と同日、アギラ・セトメ、アードラー・コッホ、イーグレット・フェフ、エルデ・ミッテらもそれぞれ別の場所で逮捕された。

 こちらもエルデを除いた全員が死刑か終身刑しかない程度には重罪であるが、その頭脳の利用価値から終身刑にされた。

 勿論、財産その他は接収され、被害者への補償や医療費・生活費へと充てられた。

 

 

・末路 時系列不明

 

 「IFS用ナノマシンの投与開始。」

 「副脳の形成を確認。これより生体クラッキング作業に入ります。」

 

 終身刑を言い渡された博士らはその頭脳の利用価値のみを認められた。

 IFS用ナノマシンの投与による副脳の形成、そこを基点とした脳髄そのものへのクラッキング。

 地球では完全非合法?

 既に火星に移送されてからの手術だから無問題無問題。

 こうして、彼らはその優れた知識の全てを洗い浚い吸い出されるのだった。

 終わったら?

 この生体クラッキング、廃人になる可能性がロボトミー手術並であるとだけ言っておく。

 

 

・贖罪 時系列不明

 

 「何故…私だけ助けたの…?」

 「貴女には未だ利用価値があります。償いのついでに少々やってもらいたい事があるのです。」

 「やってもらいたい事…?」

 「えぇ、貴女の専門分野です。」

 

 エルデ・ミッテは逮捕後、司法取引によって開発の遅れている超AI等の特殊な人工頭脳の開発に参加するため、重度の監視付きでGGGへと参加する事となった。

 一見して人当たりの良い彼女はあっさりと受け入れられ、勇者ロボ達の根幹を成す超AIの開発に携わる事となる…のだが、余りに精神論の横行する職場に度々ヒステリックな叫びで突っ込みを入れる破目になる事をまだ知らなかった。

 

 

・突っ込み 時系列不明

 

 「何でもかんでも勇気と気合と努力と根性で解決しようとするんじゃないわよ!?」

 

 GGGにて、エルデ・ミッテの叫び。

 人間よりも人間くさい勇者ロボのAIとか職場の同僚や上司への突っ込み。

 これだからスーパー系は!とは彼女の弁。

 

 

・司法取引 欧州奪還作戦直後

 

 「では、今後ともよろしくお願いします。」

 「えぇ、全力を尽くします。」

 

 国際警察機構側から接触し、情報を提供してくれたとは言え、クエルボ・セロ博士もまた完全に無罪とはいかなかった。

 何よりも彼自身の良心こそが彼を許さなかった。

 そのため、司法取引としてクエルボは普通の医者達と共に保護された強化人間並びにブーステッドチルドレンを始めとした違法な人体実験の被害者達の治療に専念する事となる。

 その隣には彼と親しいラーダ・バイラバンの姿もあった。

 

 

・ISA戦隊inファンタジー異世界 欧州奪還作戦後

 

 『見える、そこ!』

 『魔法だか何だか知らんが、そんなもん効くかよ!』

 『当たらなければどうという事は無い!』

 『わおわおーん!』

 『抜けられると思うなよ。』

 『いけ、財布奪取!』

 『マサキ、それ言うならサイフラッシュにゃ!』 

 

 マサキの案内で聖ラングラン王国に到着するものの、そこでは反ドレイク連合と聖ラングラン王国の連合軍と地上侵攻を掲げるアの国(ドレイク)・シュテドニアス連合国・バゴニア連邦共和国・ヴォルクルス教団・ホウジョウ王国の同盟軍との決戦が行われていた。

 取り敢えず、伝手のある方を援護する方向で意見の一致したISA戦隊は連合軍側へと加勢、同盟軍本隊に対してISA戦術を敢行、性能と練度の差によって次々と同盟軍の指揮官らを撃破していった。

 

 

・ISA戦隊inファンタジー異世界その2 欧州奪還作戦後

 

 「」

 「うわぁ…。」

 「あぁ…オーラ力がどんどん消えて…。」

 「地上とは、恐ろしい所なのですな…。」

 

 ISA戦隊の鬼神が如き大活躍を見ての現地人の皆様のご様子。

 自分らが立ち上がらなくても大丈夫だったんじゃねこれ?と思ったが、それでも自分達の世界の事は自分達でケリを付けるべきと戦意を失わなかった。

 普通なら心圧し折られてしかるべきなのだが、タフな人々である。

 

 

・ISA戦隊inファンタジー異世界その3 欧州奪還作戦後

 

 『漸く見つけました…。皆さん、帰宅の時間ですよ。』

 

 戦闘が大体終息し、一息ついた所でグランゾンに乗ったシュウ・シラカワが現れた際の一言。

 この後、彼が展開したワームホールによって地上へと帰還するのだった。

 

 

・ISA戦隊inファンタジー異世界おまけ

 

 「これだけのオーラバトラーに魔装機、妖装機、咒霊機、靈装機のサンプルの数々…。これならば長年の夢であった精神エネルギー変換システムの確立も夢では…。」

 

 回収したサンプル類を前にしてのA.I.Mから出向中の技術者の言葉。

 ヴォルクルスの力の影響下にある魔装機類は帰還して即座に呪術汚染が確認されたので焼却処分されたが、解析して入手したデータは今後の研究に大いに役立つ事となる。

 だが、彼らが深淵を垣間見ると同時に、深淵もまた彼らを見ていた。

 

 

・ISA戦隊inファンタジー異世界おまけその2 時系列不明

 

 『異界の者達か……面白い。』

 『流転こそが真理…。』

 『全てを我に委ねれば、あの者らも…。』

 

 破壊と創造と調和の三邪神様が見てる!(SAN値ZERO)

 

 

・ISA戦隊inファンタジー異世界おまけその3 時系不明

 

 『問題…あり過ぎる…。』

 

 上記の連中の動きを察してのノイレジセイアの言葉。

 彼?に胃があれば、きっと穴が空いていた事だろう。

 

 

・ISA戦隊inファンタジー異世界おまけその4 時系不明

 

 「」

 「う わ あ」

 「? どうしたんですのー?」

 「Zzz…。」

 

 急に招集されたアインスト4人娘達。

 久々に出番かと思ったら、ヤベー邪神共の資料とか強制閲覧させられる破目に成った。

 結果、SAN値が消し飛んだ長女と顔を引き攣らせる次女、よく分かってない三女と夜中なので起きれない四女。

 久々の出番だがこれだけである。

 

 

・その頃の特車二科

 

 「うちでMS運用試験しろったってさぁ…。」

 「ジェガンじゃまた変な間違い起きかねないっすね。」

 

 エステバリスやASの開発が終わるまで、あるもので済ませるという事で警察の一部部署にMSの試験運用が行われる事となった。

 センサー系が豊富で、市街地での運用もテスラドライブによる浮力で柔軟に行動可能かつDFやブレイクフィールドも展開できるジェガンは理想的だったが、詳しくない人々からは「パトレイバーが巨大化した!」等と言われるようになる。

 だってデザインそっくりでカラーリングまで同じ警察仕様なんだから仕方ないじゃん!

 大きさはかなり違うけど、それ位しか外見的違いないんだもん! 

 

 AV-86イングラム 全長約8m

 RGM-81ジェガン 全長約20m

 

 でもこれならそう簡単に見間違いしませんよね?

 これで間違うとか先日のテロリスト並にどれだけ慌ててたのかって話です。

 

 

・乗り換えイベント ボーナスステージ(強制)後

 

 『チッ!これからだって時に俺達だけ爺共の所に行くのかよ!』

 『ぼやくなよ竜馬。これも新しいゲッターロボの受領のためだ。』

 『新型はシミュレーターでしかやってなかったからすげー楽しみだぜ!』

 

 ISA戦隊、異世界からの帰還早々に部隊を二つに分けての二正面を作戦を強いられた際、ゲッターチームは旧光子力研究所に行く前に早乙女研究所へと向かい、そこで新型のゲッターロボを受領する事となった。

 本来の性能を持ったゲッタードラゴン・ライガー・ポセイドンの性能。

 それを無粋な侵略者を相手に思う存分振るう事が出来ると言う事態に知らずゲッターチームの闘争心は高まるのだった。

 

 

・乗り換えイベントその2 ボーナスステージ(強制)後

 

 「漸く来たかお前達。機体の方はバッチリじゃ。試作型のゲッター線増幅装置も正常に稼働中だ。後はお前達次第、慣熟は実戦で行え。」

 「つまりいつも通りって事だな。」

 「博士、今更そんな事じゃ脅しにもならんですよ。」

 「こいつが新型…出力は十倍だって!?腕が鳴るぜ!」

 

 燃費は追加した縮退炉で補いつつ、増幅装置の恩恵で最大で以前の10倍もの出力を叩き出すゲッターロボGに三人はご満悦になった。

 丁度ゲッターのパワー不足に悩んでいた事もあり、このタイミングでの乗り換えは彼らとしては何よりも嬉しく、また頼もしかった。

 

 

・乗り換えイベントおまけ ボーナスステージ(強制)後

 

 「時間もないしの、お帰りはあちらじゃ☆」

 「「「」」」

 

 敷島博士の指し示した場所、そこは彼ら三人にとって珍しくトラウマと言っても良いあのゲッターレールカタパルトキャノンの姿があった。

 勿論、既に三機の新型ゲットマシンは装填済みで、後は乗り込むだけである。

 敷島博士に罵声を残しながら、彼ら三人は旧光子力研究所に向けて亜光速で発射されるのであった。

 

 

 



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第57話 妖魔大帝

スケジュールがタイト?
馬鹿言っちゃいけないよ、原作スパロボじゃもっとキツイ。
移動時間がない?何のためのテスラドライブなんだ。
ブレイクフィールド展開して最大までトバせばいけるいける。
※なお、人員の疲弊は考えないものとする。


 新西暦186年9月28日

 

 嘗て地底種族連合との決戦の地となり、そして魔神覚醒事件の発端となった旧光子力研究所。

 この因縁の地にて、遂に本格始動した量産型特機軍団が押し寄せるミケーネ帝国軍を撃滅すべく奮戦していた。

 

 『ゲッタービーム!』

 『トマホーク、ブーメラン!』

 『ドリルプレッシャーパーンチ!』

 『サンダーブレーク!』

 

 次々と特機特有の強力な武装が戦闘獣へと命中し、木端微塵に打ち砕かれていく。

 

 『ガアアアア!』

 『ゲッタードリル!』

 

 一体の量産型ゲッタードラゴンが両腕のドリルを構えて向かってくる人間型戦闘獣グラトニオスに対し、その右腕をドリルへと変形させ、その攻撃を正面から抉り穿つ。

 グラトニオスは両腕のドリル所かその右胸まで貫かれ、その活動を停止…しない!

 ミケーネ帝国の戦闘獣は機体の何処かにある頭、その中にある古代ミケーネ人の脳を破壊しないと活動を停止しない。

 それ以外の場所では例え真っ二つにされようとも時間さえあれば自己修復機能で復活してしまう。

 グラトニオスは数ある戦闘獣の中でも通常の頭部と左右の胸にある2つの顔の3つがあり、その辺がとても分かりにくいのだ。

 それでも両腕に右胸が壊され、大破に近い状態のグラトニオスは量産型ゲッタードラゴンの右腕を胸に空いた大穴に更に突っ込ませる様にして僅かな時間だが動きを停止させる。

 

 『ギシャア!』

 

 その隙を目敏く見抜いた魚類型戦闘獣ビラニアスがその口部を大きく開き、グラトニオスの背後から量産型ゲッタードラゴンへと噛み付かんと飛び掛かる!

 

 『チェーンアタック!』

 

 だが、量産型ゲッタードラゴンは慌てずに対処した。

 右腕に引っ掛かったグラトニオスをものともせず、強化されたパワーで機体を動かし、右腕が変形したドリルを鎖付きでそのまま射出し、今度はビラニアスを貫いた。

 この簡易部分変形機能こそ、百鬼メカの傑作機たるメカ鉄甲鬼を分析して得られた機能である。

 ゲッターロボ特有の三機のゲットマシンによる変形・合体・分離機能による高い対応力とトリッキーな戦闘スタイルこそないものの、兵器としての完成度ならばこの量産型ゲッタードラゴンにこそ軍配が上がる。

 他にも脚部側面の装甲が展開してゲッターミサイル、足裏には無限軌道が備わっている。

 加えて、マント部分はゲッター1よろしく武装として使用する事を止め、純粋な防御兵装兼推進ユニットと化している。

 具体的にはバスターマシン19号ディスヌフよろしく分厚いマント状のゲッターウイングの裾にブースターが追加され、テスラドライブの性能向上も合わさってより大推力・高機動を実現している。

 なお、元祖ゲッターチームよろしくテスラドライブをパイロット保護に割り振る事を止めて機動性向上に全振りするリミッター解除モードもあるが、今現在誰も使用していない(出来ないとも言う)。

 

 『ゲッタービーム!』

 

 腕を引き抜き、倒れ伏す2体の戦闘獣に纏めてゲッタービームを浴びせ、しっかりと止めを刺す。

 そのゲッタービームもまたその威力を大きく向上させており、戦闘獣二体を跡形もなく吹き飛ばす。

 ゲッタービームを始めとしたゲッター線を必要とする機能にゲッター炉の出力を割り振り、機体そのものの稼働等は縮退炉で代替する事で効率良くエネルギーを運用した結果だった。

 初代ではその辺が完全に分割されておらず、エネルギーの切り替えによるエネルギー伝達系への負担が大きかったのだが、その辺を解決するための構造だった。

 なお、もしもゲッター炉が壊れても武装が減るだけだが、縮退炉が壊れた場合はゲッター炉が機体の稼働も担当するためどうしても大きく性能が低下するという欠点があるが、そんな状態になったら撤退するべきとされている。

 直後、爆散する2体には目もくれず、量産型ゲッタードラゴンは次の敵を撃滅すべくゲッターウイングを棚引かせて飛んでいった。

 戦闘はまだ始まったばかりだった。

 

 

 ……………

 

 

 臨海市にある古代ムー帝国の遺産の研究並びに防衛を主とするムトロポリス基地にて。

 今現在、この地の留守を預かる連邦空軍所属のVAで統一されたコープランダー隊、そして一般のMS1個中隊、そしてモンスター含むデストロイド部隊1個大隊がこの地の防衛の任に就き、無数のドローメと飛行可能な化石獣の群れを相手に海岸線付近に布陣し、必死の敵の侵攻の遅滞、即ち時間稼ぎを目的に迎撃戦闘を続けていた。

 だが、彼らが必死になって迎撃しているこれらの戦力は所詮敵の先遣隊であり、本隊はもっと多く強力な戦力を揃えている事が既に確認されている。

 それを知るが故に彼らは敵本隊の到達前に民間人・非戦闘員の避難を完了させるべく強力な攻撃を連発して派手に目立ち、妖魔帝国軍の注目を集め、誘因していた。

 その後方の市街地では迫り来るタイムリミットを前に歩兵部隊や警察が必死に住民の避難を進めていた。

 

 『民間人の避難急がせろ!内陸側に逃がすんだ!』

 『シェルターは動けない人員を優先して収容しろ!それ以外は他所に逃がせ!』

 『避難を拒否する民間人を確認!制圧して輸送しますか!?』

 『本人達に再確認した後に放置!今は一人でも多く避難させるのが優先だ!』

 

 非情な様だが、今の地球では割とよく見られる光景だった。

 どうせ地球連邦軍が何とかしてくれる、他所で暮らせるか分からない、もう疲れた、死ぬのなら家で死にたい。

 諦観や絶望に魅入られた人々が足を止め、懸命に生きようとする人々の足を引っ張る。

 そんな連中に構ってなんていられない、死にたいなら勝手に死ね、自分達は最後の瞬間まで足掻く。

 地球連邦軍はそうした軟弱・惰弱が許される程に温い場所ではないし、彼らの助けを求める人々は大勢いる。

 名も無き兵士達は今この瞬間も諦めず、歯を食いしばって必死に戦い続けていた。

 なお、ティターンズみたいな連中もいる所にはいるが、その様な腐ったリンゴは何かと理由を付けて早々に配置転換されて懲罰(される人達の)部隊へと送られる。

 旧式の機体や兵器を渡され、大体はその部隊での初陣か次、その次位で死ぬ。

 もしこの部隊で生き残れる奴がいたらそれは異能生存体だって位には死亡率の高い部隊である。

 が、それはさておき。

 

 『! レーダーに感あり!多数の敵反応が戦域に到達します!』

 『くそ、間に合わなかったか!』

 『各機、敵増援が来る!警戒しろ!』

 『これ以上どうしろってんだよ!』

 

 報告から1分とせぬ内に、遂に妖魔帝国軍の本隊が現れた。

 30隻近いガンテの艦隊、その周囲を守る無数の巨烈獣の姿に守備隊と市民の心は次々と圧し折られ、絶望が広がっていく。

 

 『ふはははははは!恐怖したか?絶望したか?我ら妖魔帝国幹部、巨烈兄弟の巨烈獣軍団の威容に見ただけで心が折れたか!』

 『がはははははは!よぅし、このまま蹂躙してくれるわ!』

 

 巨烈兄弟の言葉に誰も言い返せぬまま、次々と守備隊が討ち取られていく中、市民はパニックに陥り、避難誘導を行う兵士や警察官らの言葉を聞く余裕すら失い、狂乱のままパニックへと陥っていく。

 最早どうしようもない、ただ蹂躙され、虐殺され、殲滅されるだけ。

 嘗て繁栄の絶頂期にあったムー帝国をして道連れに封印する事しか出来なかった妖魔帝国の本気の侵攻に、最早抗う術は無いと思われていた。

 

 『!?せ、戦域の高速で侵入する反応を確認!これは…!』

 

 守備隊司令部付きの管制官からの言葉が届く前、臨海市の直上を三条の巨大な閃光が通り抜け、沖合に現れたガンテの艦隊へと直撃した。

 直後、巨大な閃光と一拍遅れて爆音と衝撃波が全方位へと広がり、パニックになっていた市民と必死に沈静化しようとしていた兵士と警察官らは悲鳴と共に衝撃波に吹き飛ばされない様に伏せるか手近なものに捕まって堪えた。

 次に目を開け、周囲を見回した時、沖合にいたガンテの艦隊はその数を半分にまで減らし、展開していた無数の化石獣とドローメははほぼ全滅し、巨烈獣もその数を大きく減らしていた。

 

 『状況報告!』

 『味方増援!ISA戦隊よりスペースノア改、ハガネ改、ヒリュウ改の三隻です!』

 

 直後、戦域に三隻の戦艦が到着した。

 先程の三条の閃光はこの三隻の艦首に備わった特装砲、即ちハイメガキャノンにTBキャノン、GBだった。

 その威力、その効果範囲はマクロスキャノンに並び既に先のムゲ帝国軍地球侵攻軍司令部を消滅させるという大戦果で証明されている。

 この三隻含むISA戦隊は先日の作戦以降行方不明とされながら、しかしその生存が確実視されていた地球圏最精鋭にして最強の戦力の一角。

 宇宙怪獣、地底種族連合、ムゲ帝国。

 それらを悉く打ち破り、今日までその名を轟かせ続けているスーパーエースしかいないとされるISA戦隊の中核戦力の一つ、αナンバーズだった。

 

 『こちらスペースノア改艦長のブライト・ノア少佐だ。これより加勢する。防衛戦力は一度下げ、再編並びに補給と整備を行ってくれ。』

 『こちら防衛部隊司令部!ブライト少佐、よく来てくれた、感謝する!』

 

 健気にも踏み止まり続け、殆ど壊滅状態になった防衛部隊は後退し、今度はαナンバーズ所属機動兵器部隊が破壊され、傷つけられた人々のお返しだとばかりに展開する。

 

 『Gテリトリー展開!もう街には通さねぇぞ!』

 

 そして、ヒリュウ改から投下されたジガンスクードⅡが街を守るべく文字通りの盾となる。

 

 『お前達…!許さん、許さんぞ!よくもオレの生まれ育った街を荒らしてくれたな!絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛!!』

 『がはははは!肝心な時に留守だった小僧がよく吠える!その忌々しいライディーン諸共この激怒巨烈が砕いてくれるわ!』

 『ふん、相変わらず品の無い…まぁ良い。手柄首が向こうから来たのだ。皆殺しにしてその魂をバラオ様への捧げ物にしてくれる!者共かかれぇい!』

 

 そして、素早く混乱から立ち直った妖魔帝国軍が再び攻撃を開始しようと一斉に向かってきた瞬間、

 

 『行くぜ!サイフラッシュ!』

 『吹き飛べ!メガグラビトンウェーブ!』

 『ふふふ、メタルジェノサイダー、デッドエンドシュート!』

 

 出鼻を挫く様にして放たれた再度のMAP兵器によって、再度臨海市に侵攻すべく進撃=密集していた巨烈獣や生き残りの化石獣、ガンテは大きなダメージを負い、かなりの数が撃墜されてしまう。

 無論、先程の戦艦ユニット三隻のMAP兵器一斉射と同様に全て幸運・努力・熱血・必中付きである。

 今日も敵の屍で資金とパーツと経験値を稼げて飯が美味い(スパロボプレイヤー並感)。

 

 『ぐおおおおおおお!?』

 『ぬぅ、まだ隠し玉を持っていたか!』

 『よし、各機攻撃を開始!妖魔帝国軍を撃滅する!』

 

 こうして、一足先に臨海市の方で戦闘は第二ラウンドへと移るのだった。

 

 




量産型ゲッタードラゴン…この世界の技術で再現・強化されたメカ鉄甲鬼。回収された残骸から得られたデータを参考にしている。
量産型グレートマジンガー…基本的に甲児・ジュンの乗る機体と同じ仕様。


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小ネタ会話集その7

毎度感謝していますムロンさんからの特車二科の小ネタとおまけです。


・俺に、俺にビームを撃たせてください!   時系列不明

 

 「おい待てぇいッ!なんで得物がスケールアップしたリボルバーとライアットガンだけなんだ!?ビームライフルとかメガバズーカランチャーとかそういうスゴいもんはどこ行ったんだ!?」

 「ムゲのゼイ・ファー位ならライアットガンで一発だぜ?要は当てる事よ。片眼瞑ってよぉーく狙う。これよぉ。」

 「そ、それじゃあ特機が出たらどうすんだ!?」

 「そん時ゃもう片眼も瞑るさ。」

 

 納品されたジェガンの武器コンテナを覗いた太田と整備員(ブチヤマ)の会話。

 やはり市民が存在する市街地内でのエネルギー兵器使用は許可されず、比較的被害が少ないと思われる実弾、それもミサイルやロケットランチャーのような爆発物以外の装備しか支給されなかった。

 後にビームピストル程度は許可されたが、事前に出力制限や収束率等のリミッターが設定された状態でのみ運用される事となる。

 唯一ビームサーベルのみ(ビームガン機能は凍結)は装備が認められ、対MSのみならず災害支援時に湯沸かしなど本来の用途以外にも広く用いられた。

 なお、ガチで特機相手に戦闘に突入した場合、各種リミッターは解除され、軍用出力並びに核装備・機能が解放される。

 とは言え、結局はジェガンなので準特機ならいざ知らず、ガチの特機相手では余程パイロットの腕が凄くないと生き残れるかすら危ういのだった。

 

 

 

・太田リベンジ   時系列不明

 

 「はっはぁ!ザマーミロ!!一発だぜ!」

 「いや待て!なんだあいつ?まるで効いてないぞ?」

 「んなバカな!?たかがレイバーにザクバズーカが効かない訳が…いや待て!?あれMS、ジェガンじゃねーか!!」

 「はぁ!?何で軍用主力MSが警察で運用されてるんだよ!?」

 「ぶわっはっは!見たか犯罪者ども!そんな骨董品がジェガンに効くかぁ!」

 『太田ぁ!なにやってるの!?さっさと制圧しなさい!撃ってきたんだから撃ち殺しても構わないわ!』

 「ま、待てぇ!こ、降参だぁ!降参するから命ばかりh」

 「往生せいやぁぁぁぁ!」

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 とある立てこもり犯相手に出動した時の一幕。

 碌に整備もされずあちこち傷んでいたザクⅡはカメラやセンサー、コクピット内モニターの不調もあってジェガンをイングラムと誤認。

 ザクバズーカによる先制攻撃に成功するも、対宇宙怪獣向けに改修すれば亜光速戦闘すら対応可能なジェガンには傷一つ着ける事が出来なかった。

 武装の事でブーたれてた太田もおおっぴらに発砲を許可された事で機嫌がよくなったのか、いつも以上に気前よく発砲。

 コクピットや融合炉を破壊せぬように正確に四肢と頭部を全て撃ち抜いた。

 なお、既に投降しようとした相手に対し過剰に発砲したことについて課長からお小言をもらうも

 

 「現場の判断」

 「隠し武器の存在が否定できなかったため“やむをえず”発砲した」

 「碌に整備されてないザクの武装の誤射並びに核融合炉の暴走を防ぐために早期鎮圧すべきと考えた」

 

 と押し通した。

 …こいつ、ちょっとだけ賢くなってやがる。

 以前はイングラムの顔をぶち抜かれてえらいめにあった太田だが、今回は無傷で済んだ。

 流石に一年戦争期の機体であるザクⅡにやられるほどやわじゃあない。

 

 

 

・職場体験   時系列不明

 

 「ちょっと、そこの貴方!さっきのはどういうつもりなの!?私のAI1が妙な事を覚えたらどうするつもり!?」

 「いや、その、あくまで本官は職務を遂行したまでで」

 「やたらと銃を抜いたり頭を弾き飛ばされたりが職務に必要なの!?“個性的”とは聞いていたけど限度ってものがあるでしょう!」

 「あーあ、太田やっちゃったかぁ…。泉ぃ次からAI1のペア、専属で頼むわ」

 「あ、はい…。」

 

 戦闘以外の経験を積むために特車二課へ出向したエルデ・ミッテとAI1。

 コクピットを改造したジェガンとイングラムを専用ボディとされたAI1は特車二課の面々と共に日々の業務に携わる事となる。

 やたら銃を撃つ太田や若菜からは咄嗟の判断と思い切りの良さを学んだものの、それ以外の悪癖を学んでしまう事が懸念されたため、以降は野明と組んで出動する事となる。

 交通整理や事故への対応、災害時の避難誘導や人命救出等に始まり、待機時間には綾取りや新体操・ダンスなどを共に行った事でより柔軟な思考と人との付き合い方をAI1は学び、「人と共にに歩む」存在としてより高みへと足を進めた。

 出向期間終了後も特車二課名誉隊員としてAI1は登録され、アンドロイドボディを遠隔操作する事でAI1はその後も度々特車二課を訪れることとなる。

 その行動をエルデは知っていたが、「あの子のやりたい事だから」と黙認するのだった。

 なお、こうした学習を経た結果、時折街に「少女型ロボットが何処からともなく颯爽と現れ、事故や事件に素早く対応してくれる」という噂が流れるようになり、エルデは頭を抱えた。

 

 

 

・ジェガンにいさん  時系列不明

 

 「おい野明。何やってんだこんなとこで?」

 「あっ遊馬。それがね、私のジェガンの名前どうしようかなって。」

 「お前が乗るんだからアルフォンスでいいんじゃないか?」

 「ダメだよ。アルフォンスはアルフォンスなんだからっ!…そうだ、エドワード!うん!君は今日からエドワードね!」

 「アルフォンスよりデカいのにか?」

 「え?それどういう意味?」

 「いや、知らんならいい。」

 

 ジェガン(エドワード):新西暦182年採用

 イングラム(アルフォンス):新西暦186年採用

 アルフォンス「にいさん!」

 言わずもがなハガレンの主人公兄弟の名前ネタである。

 アルフォンスよりデカいエド兄さんとは一体…?

 なお、アニメや特撮によく関わるA.I.M.と取引をしようとする企業は世間話の種としてそれらを履修済みであり、ハガレンも幾度もリメイクされている。

 当然御曹司の遊馬と雅人も履修済みである。

 

 

 

 ・発送ミス  時系列不明

 

 「おいシゲ、このコンテナはどうした?」

 「ジェガン用のプラズマジェネレーターです。ホントなら配備と同時に着くはずだったんですがやっと届いたみたいっすね。いやーよかった。積んであるのがイカれたら出撃できなくなる所でしたよ。」

 「…俺の目の錯覚か?俺にはこいつの見てくれが心臓みてえに見えるんだが。」

 「あー…確かにそんな感じですねこいつ。」

 「プラズマジェネレーターはそんな形だったか?」

 「違いますねぇ。」

 

 ある日の格納庫での一幕。

 昨今のデスマーチで予備パーツを手配するアナハイムの事務方も限界が来ていたのか、プロトジェガン用(現在も縮退炉搭載MSの仮想敵やデータ取りに使用されている)の縮退炉が誤って特車二課に送り届けられてしまった。

 結果、報告を受けた担当職員が慌てて回収に来るまで格納庫が封鎖されるという事態に発展してしまった。

 毎日最終決戦状態のため、その準備をする事務方もまた常に最終決戦。

 「ジェガン用のジェネレーター」としては間違ってもいなくないのだが、流石に縮退炉持ってこられても警察では扱いに困る。

 そもそも意図的に破壊工作の一環で爆弾がわりに送られたものという可能性もあるので、問い合わせが済むまで全員退避して業務に支障を来す事となった。

 なお、ミスった事務方は休暇取らせるか降格するかという話になったのだが、当の事務方の上の方から「そう言うならもっと人手増やせバカヤロー!(意訳)」と文句言われる事となった。

 

 

 

 ・(ヤバさが)オーバーブッキング  時系列不明

 

 「隊長。」

 「なんだ篠原?」

 「気のせいですか?“特車二課御一行様”の隣に“BF団御一行様”って書いてあるように見えるんですけど。」

 「いやー流石に無関係でしょ。どこの世界に堂々と温泉旅行に来るテロリストがいるのよ?それにさ…。」

 「それに?」

 「もし本物だったとしたら、特機を生身でぶちのめす連中だよ?オレらが騒いでも応援呼ぶ前に人知れず指先一つでプチって潰されちゃうよ。オレらの見ている前で悪事しなけりゃ見て見ぬふりってね。」

 「…それもそうですね!んじゃ俺チェックイン済ませてきますんで。」

 「頼んだよー。」

 

 特車二科の慰安旅行時の一幕。

 この会話のお陰で、彼らは物陰からこちらを覗いていたBF団エージェントに消されずに済んだ。

 余りに堂々と書いてあるので彼らも本物とは思わなかったが、二人共薄々と(多分これガチなんだろーなー)と思ってた。

 そして、真実とは大体小説よりも奇なのである。

 

 

 

 ・(ヤバさが)オーバーブッキングその2  時系列不明

 

 「知る人ぞ知る秘湯。まさかこれほどのものとは…。」

 「うん?故障か?コーヒー牛乳が自販機から出てこんぞ?」

 「手伝ってやろうか?ただし、真っ二つだぞ」

 「貴様ら、はしゃぎすぎだぞ。少しは静かにせんか。」

 

 地球圏でもトップのやベー連中と慰安旅行が被ってしまった特車二課。

 微妙に銀鈴ロボのノリなBF団。

 この世界だと十傑集は普通に仲が良いのだが、素晴らしきヒッツカラルドのみ実力が劣る事からちょっと下に見られてたりする。

 仮に正体が分かったとしてフル装備の連邦軍の正規部隊を片手間で全滅させる連中がいるとかどうしろというのだ!

 結論、あってはならない事は見なかった事にしましょう(社会人の鉄則)

 

 

 

 ・スクラップ&ビルド(違)  マジンカイザー(偽物)太陽投棄作戦以降

 

 「これが量子波動エンジンか…。」

 「よし、直ぐに解体を始めろ。ゼ・バルマリィ帝国の技術を少しでも解析し、吸収するんだ。」

 

 バルマー第七艦隊から出撃した小艦隊との戦闘の際、回収された虫型無人兵器メギロートや戦艦フーレ級の残骸等を回収し、密かに持ち帰っていた。

 これによりバルマー側の技術であるズフィールドクリスタルや量子波動エンジンの実物が得られ、その解析と技術習得が早急に進められた。

 

 

 

 ・スクラップ&ビルド(違)その2  マジンカイザー(偽物)太陽投棄作戦以降

 

 「ふぅ…取り敢えず形にはなったな。」

 「えぇ。ミノフスキードライブとの親和性が心配でしたが、いけるものですね。」

 「しっかしスペースノア級の船体をすごいもんだとは言え敵側の技術の試験用に使うとは驚きましたね。」

 「それだけ連邦軍も必死だって事なんだろうよ。ま、無理もないさ。」

 

 5隻目のスペースノア級の船体は、その優秀な設計(高い耐久力、修理・改修の容易なブロック構造、大型艦故の内部容量の大きさ)から解析に成功したバルマー側の技術を始めとした最新鋭技術の試験用として建艦される事が決まった。

 基本構造は同級の中でも最も装甲の厚いクロガネを参考にしつつ、大きさの割にやや細めだった船体を太く拡張、スペースノアやハガネ、ヒリュウ等のISA戦隊の他の艦を参考に艦首に特装砲として波動砲を搭載している。

 左右両舷の主翼にはオーキスユニットに搭載されたものを改良した戦艦サイズのミノフスキードライブユニットが搭載され、テスラドライブも最新バージョンのものを採用している。

 推進機関に関してはそれらの他に、今までは大型テスラドライブを囲む様に8基配置されていたロケットエンジンがより高性能な4基の完全ジェット・ロケット併用エンジンへと交換され、若干の軽量化にも成功している。

 各種兵装も既存の連装衝撃砲の他、レーザー機銃やバルカン、光子魚雷や高機動ミサイル等、対宇宙怪獣を始めとした亜光速戦闘にも対応できるもので統一されている他、レーダーやセンサー系も設計段階で亜光速戦闘を想定した内容になっている。

 なお、その特徴的な外観とエンジンの名称から今までのスペースノア級の命名規則から外れたある名前が付けられる事となる。

 艦長には沖田十三准将が予定されている。

 

 

 



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第58話 妖魔大帝その2

 新西暦186年9月28日 極東方面 臨海市

 

 『各機、これ以上臨海市に敵を侵入させるな!MS部隊は半数は防衛部隊に代わり海岸線に展開、残り半数は市街地内部に侵入した敵を撃破しろ!』

 

 ブライト少佐の命令に、MS部隊は迅速に反応した。

 射撃能力、特に火力に優れる機体は海岸線付近に展開し、先程防衛部隊所属のデストロイド隊がしていた様に海上から上陸を試みる敵部隊を阻止すべく迎撃戦を開始する。

 幸いにも先程の二度のMAP兵器によって敵の数は当初の6割にまで減じ、その圧力を大幅に減らしている。

 残り半数、市街地へ侵入した敵の排除を担当するのは近接戦闘や高機動仕様の比較的火力の低い機体だ。

 彼らは避難を再開した市民並びに街を蹂躙せんとする化石獣を相手に市民に配慮しながら戦闘を行う事になるも、その圧倒的練度からほぼ近接武装のみで敵を確実に撃破していくのであった。

 

 『特機部隊並びにヒュッケバイン隊は海上の敵戦力に斬り込み、攪乱しろ!敵の目を引き付けるんだ!』

 

 具体的にはライディーン、ゴッドマーズ、超電磁ロボ×2、闘将ダイモス、サイバスターにヴァルシオーネ、グルンガスト零式にグルンガスト、そしてヒュッケバイン×2が待ってましたとばかりに未だ総数5000はいるであろう敵の軍勢向けて突撃した。

 もうこの時点で常識的なパイロットや指揮官ならば目を疑う光景である。

 であるのだが、彼らは全員がISA戦隊に選ばれるエースオブエース達である。

 

 『斬り込むぞ、シャア!』

 『合わせるぞ、アムロ!』

 

 そして、真っ先に敵陣に突撃したのがこの二人である。

 青が紺色になって少しだけ控えめになったトリコロールカラーと相変わらずの真っ赤なカラーの二機のヒュッケバイン。

 最大巡航性能が光速の98%にまで到達するこの機体は現時点において太陽系最強のMSと断言できる程の超高性能機である。

 既に月面において大きく活躍したアムロの一号機、そしてアムロに並ぶシャアならば行けるだろうと急遽追加生産した二号機。

 大気圏内ではその最大巡航速度を出す事は出来ないとは言え、この二機を捕らえる事は妖魔帝国側のどの機動兵器でも不可能であった。

 唯一、バラオの妖魔術のみが彼らに対するカウンターと成り得るが、今現在バラオはまだ姿を現していない。

 即ち、現在の妖魔帝国にはこの二人を止める手立てはなく、自陣に斬り込み、亜光速状態でありながらも完璧な連携を以て次々と撃墜スコアを計上していくのを見る事しか出来なかった。

 

 『見える!』

 『そこだ!』

 

 両雄による最大出力でのメガビームライフルの斉射は、一度に10体近い巨烈獣を纏めて撃破する。

 技術革新によるEパックの大容量化、そして核融合炉とは比較にもならない縮退炉による大出力。

 この二つからエネルギー供給を受けるメガビームライフルはUC世界における手持ち式ビーム兵器では最強の一角たるビームマグナムにすら匹敵する。

 近接武装も重力刃を展開するロシュセイバーであり、その長さを最大の30mまで伸ばして縦横無尽に駆け抜け、鎌鼬の様に目にも映らぬ速さで斬り裂いていく二機のガンダムヒュッケバイン。

 一撃さえ当てる事ができればバランスを崩し、数の利からそのまま袋叩きに出来る筈。

 なのに、その一撃が余りに遠い。

 現時点で太陽系最強のNTにしてMSパイロット二人が現時点で最強のMSを駆る。

 正に鬼に金棒、虎に翼であった。

 

 『ディスカッター・乱舞の太刀!』

 『円月殺法・乱れ散華!』

 

 更に高機動特機の二機もまた、二機のヒュッケバインと共に敵陣を荒らし回る。

 機動性に長けていない準特機が殆どの妖魔帝国軍の対応は機動性の差からどうしても後手後手に回っていた。

 

 『えぇい、その4機に近い者は接近戦で行動を抑制しろ!距離ある者は味方ごと撃っても構わん、弾幕を張れ!』

 『おおっと、その二人ばっかりに気を取られて良いのかよ!』

 『ぬぅ!?』

 

 二人が文字通り切り開いた道を、特機部隊が持ち前の装甲と突破力を駆使して無理矢理に開墾し、敵指揮官である巨烈兄弟の乗るガンテへの道を猛進する。

 本来なら特機にしてはその合体・変形機構故に装甲の薄い超電磁ロボ二機も強化パーツの追加によってコンバトラーV6、ボルテスVⅡとなっており、その弱点を克服している。

 集中される火力に対し、それ以上の火力と勢いをぶつけてこちらの行く先を阻もうとする敵を破城槌も斯くやという勢いで突き破り、次々と突破していく。

 彼らの目的はただ一つ、この軍勢を指揮する大将首である。

 

 『チィェェストォォォォォォォッ!!』

 『計都羅喉剣・暗剣殺ッ!!』

 

 そして、その質量と運動エネルギーを遺憾なく突破力へと変換したグルンガストと零式の二機が指揮官の乗る二隻を守るべく前に出たガンテを斬断する。

 これでもう、敵指揮官を守る壁は無くなった。

 

 『行くぜ!超電磁タ・ツ・マ・キー!』

 『今だ!超電磁ボール!』

 

 二機の超電磁ロボから放たれた超電磁波による拘束技が巨烈兄弟の乗る二隻のガンテへと命中、その動きを拘束する。

 

 『超電磁スピーン!』

 『天空剣Vの字斬りー!』

 『ぐおおおおおおお!?』

 『馬鹿なああああああ!?』

 

 二機の超電磁ロボの必殺技をまともに受け、二隻のガンテはあっとう言う間に轟沈していった。

 だが、流石は妖魔族と言うべきか、巨烈兄弟はタフだった。

 

 『ぬぅぅぅ!この屈辱、貴様らの命で贖ってくれようぞ!』

 『この程度でオレが死ぬかぁ!今日こそは貴様ら人類を根絶やしに…!』

 

 豪雷巨烈と激怒巨烈がそれぞれ巨烈獣コーカツとゴースタンに乗って、爆炎の中から再度姿を現したのだ。

 

 『フリーザーストーム! ファイヤァァブリザァァァド!』

 『照準セェット!』

 

 だが、忘れてはいけない。

 ここはスパロボ時空なのだ。

 即ち、敵よりも怪物よりも異星人よりも地球人類こそが、その中でも特に主人公部隊こそが最も苛烈にして容赦がない世界なのである。

 既に二機の動きは捕捉されており、それを見越してライディーンとダイモスが止めの一撃を加える態勢に入っていた。

 

 『な!?』

 『うおおおおおお!?』

 『そこだ、ゴッドバード!』

 『烈風、正拳突きぃッ!』

 『ぐわあああああああ!?』

 

 脱出の瞬間を狙いすました必殺技を回避する事も出来ず、激怒巨烈はゴッドバードの一撃によって機体内部の本人を正確無比に貫かれ、断末魔の叫びを残して消滅した。

 

 『が、あああああああ!オノレ貴様ら!よくも我が弟をぉ!』

 『何ぃ!?』

 

 一方、ダイモスの拳によって致命打を受けていながら、豪雷巨烈はまだ生きていた。

 

 『おおおおおおおおおお!タダでは死なん!一人でも多く道連れにしてくれる!』

 

 爆散する機体、そこから現れたのは生身の豪雷の姿形を色濃く残す巨烈獣バンガーの姿だった。

 

 『ちぃ、しぶとい!』

 『合わせろゼンガー!ファイナルビーム!』

 『ぬぅ、ハイパーブラスター!』

 

 自分自身を機動兵器並みのサイズまで巨大化、下半身には巨大な車輪と胸部と脚部の無数のドリルを備える姿へと変貌した豪雷に対し、空かさずグルンガストと零式の胸部内蔵式エネルギー砲が炸裂する。

 

 『くははははは!効かぬわ!』

 『ゴッドゴーガン、束ね撃ち!』

 

 余裕綽々なその姿に、ライディーンがその最たる特徴の一つたる弓矢による連撃を見舞うも、しかしその装甲を貫く事は出来ない。

 

 『効かぬ効かぬ効かぬ!全軍、オレごとこいつらを撃てぇい!』

 『何ィ!?』

 

 そして、その圧倒的防御力を活かした行動を取ってきた。

 今現在、特機部隊は斬首戦術のために敵指揮官、即ち巨烈兄弟を討つために敵本陣深くへと乗り込んでいた。

 それ即ち、全方位を敵に囲まれている事を意味する。

 特記戦力による速攻の斬首戦術で敵の指揮系統と連携を破壊し、掃討作戦に移行するのがいつものISA戦術だ。

 しかし、斬首し切れない程の敵を前にしては、ただ悪戯に突撃する事と何も変わらず、結果として戦艦や海岸線に布陣するMS小隊と上空で制空戦闘に徹しているVF隊からも孤立してしまった。

 加えて、豪雷は既に己の生死もプライドも投げ捨てている。

 指揮官の手腕としては強襲に対応できず完全に負け、迎撃するも敵の接近と自陣への浸透を許し、剰え何だかんだ言って大事な弟を目の前で殺されたのだ。

 そりゃー自分自身を引き換えにしてでも仇を討とうという気になるだろう。

 

 『チィ!全艦、砲撃を味方部隊を包囲する敵部隊へ照準!』

 『駄目です!接近してくる敵機の迎撃で手一杯です!』

 

 更に言えば、三隻の母艦も街を守るべく制空権を確保する事だけで手一杯だった。

 如何に精鋭で知られるISA戦隊とエース揃いのVF隊であろうとも、流石に4桁にも達する敵から街を守り抜く事は至難だった。

 だからこそ特機+α部隊には敵指揮官を撃破してもらい、敵の指揮系統を破壊する必要があったのだ。

 

 『いかん、このままでは前衛が壊滅する!』

 『…特装砲チャージ開始。』

 『艦長!?』

 『味方部隊を巻き込まない位置に収束率を上げて撃つ。敵の注目をこちらに割かせる。』

 『り、了解です。』

 

 つまる所はヘイト稼ぎである。

 確かに巨烈獣バンガーが如何に高い防御力を有していようとも限度がある。

 故に自身の脅威となる三隻の持つそれぞれの特装砲を警戒し、こちらに敵を差し向ける可能性は高い。

 だが、それは詰まる所艦を危険に晒す行為であり、ギリギリ確保できている街の上の制空権を捨て去るに等しい事だった。

 

 『ぬ、また小賢しい真似を…行け、巨烈獣よ!我が弟の仇を取り、人類を悪魔世紀実現への生贄とするのだ!』

 

 戦場は未だ半ばに差し掛かった所だった。

 

 

 



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小ネタ会話集その8

・偉大な勇者は…  マジンカイザー(偽物)投棄作戦後

 

 「よし、これで試作型グレートブースターは一応出来上がったな。」

 「しかし剣造博士、よろしかったのですか?未だに光子力とゲッター線の相互作用はデータが不足しています。」

 「それは私も分かっているのだ、弓教授。しかし現状、グレートマジンガーを早急かつ劇的に強化する方法はこれしかないのだ。」

 

 要塞科学研究所にて、二人の光子力エネルギーの専門家のやり取り。

 グレートマジンガーは現在量産(と言っても一号機含めて未だ12機のみだが)されている特機の中ではゲッタードラゴンと並んで最も高性能かつ高コストとなっている。

 はっきり言って現在の地球産の技術ではこれ以上の早期な性能向上は望めない程に。

 だと言うのに戦況は未だ予断を許さず、次なる侵略者の魔の手が迫っていると来た。

 故にこそ、地球連邦政府並びに軍はこれに対応するため、通常の軍備増強に加えてISA戦隊の増強に踏み込んだ。

 しかし、機動力を維持したままの質的向上を果たした部隊によるISA戦術は質的向上の限界による頭打ちを迎えていた。

 無論、鉄也の乗る一号機よろしく再現に成功した4つの魔神パワーの解放を行えば劇的な強化を実現できるが、未だ魔神覚醒事件の記憶が色濃い地球連邦政府並びに軍はこれ以上の魔神パワーへ頼る事を禁止している。

 これには「4つの魔神パワー搭載のグレートマジンガーを使いこなすだけのパイロットが鉄也位しかいない」という問題もあった。

 そのため、兜十蔵博士と早乙女賢ちゃん博士の雪解けをこれ幸いとして光子力エネルギーとゲッター線の融合による更なる強化を模索していたのだ。

 その結果が追加の光子力エンジンとゲッター炉+ゲッター線増幅装置を内蔵した強化パーツ、即ち試作型グレートブースターであった。

 これを装備した場合、グレートマジンガーは全性能を劇的に向上させ、あの魔神に比肩する領域へと至るのだ(但し基準は過去に観測されたデータであり、次に遭遇するであろうZEROは高確率で大きく性能向上していると思われる)。

 しかし、未熟な技術で圧倒的性能を得る代償は、余りに大きいものだった。

 

 

 

・偉大な勇者は…その2  マジンカイザー(偽物)投棄作戦後

 

 「ちなみにこれ、一号機以外ではどの位いけますかね?」

 「…理論上なら10分は行けるだろう。」

 「使用は一号機のみに限定しましょう。」

 「貴重なパイロットを死なせる訳にはいかんからな。」

 

 剣鉄也の専用機となっているグレートマジンガー一号機には再現に成功した4つの魔神パワーが搭載されている。

 それ即ち「再生」「吸収」「強化」「変態」の4つである。

 具体的には極めて高度かつ高速の自己修復(パイロット除く全質量の6割近く失っても可能)、敵の攻撃等のエネルギーの吸収及び再利用、動力炉の耐久力や出力・武装の威力を強化(重ね掛けや変態との併用も可)、機体形状を変更しての武装(機能)の追加(ドリルプレッシャーパンチやアイアンカッター、サザンクロスナイフ等)となっている。

 これらで限界まで機体を強化した上でしか試作型グレートブースターの使用は出来ない。

 通常の魔神パワー無しの量産仕様のグレートマジンガー(2号機から12号機)では装備しようものなら、余りに高過ぎるエネルギーに機体とパイロットの方がもたないだろうという試算が出ている。

 

 

 

・無事採用されました  魔神覚醒事件後

 

 『アレに対抗するためにも、シズラーは必要だと判断された。』

 「正式採用してくださる、と?」

 『うむ。掌を返すようで悪いが…。』

 「まさか。こうなると分かっていたからこそ、我が社ではアレの開発と生産を続けていたのです。」

 『すまないな。まさかあんなモノが出て来るとは…。』

 「仕方ありません大統領。あんなモノ、本来なら予想なんて出来る筈が無いのですから。」

 

 A.I.M.社長五代目武蔵とレビル大統領の極秘通信の一部。

 魔神覚醒事件後、この宇宙に埋まる宇宙滅亡系厄ネタ地雷の存在を知った連邦政府は迷うことなく軍拡への道を選んだ。

 その一環としてのグレートマジンガーの開発並びに更なる強化、そして一度はコスト面から見送ったシズラーの正式採用だった。

 なお、一機当たりの初期費用はパイロット込みでクラップ級一隻よりお高い所か二隻分近いのがシズラーである。

 これは他の量産型特機であるジガン系やヴァルシオン系よりも更に高いため、グッサリと財政に突き刺さった。

 

 

 

・無事採用されましたその2  魔神覚醒事件後

 

 「あんなモンに対抗するためだって言っても、ものには限度があるんだぞ!?」

 「また戦時国債の発行かぁ…。」

 「何時になったら返済できるんだろうな、この額の国債…。」

 

 戦時国債の大規模追加発行に阿鼻叫喚に陥る地球連邦政府財務省。

 相変わらずデスマーチしっぱなしの事務方であるが、それでも各企業と軍の事務方に比べれば彼らはまだマシな方だった。

 なお、突然の大規模追加発行された戦時国債だったが、A.I.M.とアナハイムを始めとした大企業群、そして共和連合政府によって無事に売り切れた模様。

 

 

 

・ここはデスマーチ地獄の一丁目  時系列不明

 

 「書類、書類、書類…。」

 「ハンコ、ハンコ、ハンコ…。」

 「サイン、サイン、サイン…。」

 「報連相、報連相、報連相…。」

 「在庫確認、追加発注、仕様変更…。」

 「」

 「おい誰か倒れたぞ。」

 「壁際に除けておいてくれ。」

 「追加来たぞー。」

 

 アナハイム・エレクトロニクス地球本社所属の生産工場での一幕。

 如何に高度に電子化された時代と雖も、だからこそ電子データに関わらず残るアナログな紙媒体は重要なデータを残すために使われ続ける。

 一年戦争時にNジャマーやミノフスキー粒子によって多くの電子データが消失してしまった経験から、地球ではこうしたアナログな手法が消える事なく脈々と受け継がれている。

 それはつまり、電子データと紙媒体双方の資料を作らねばならないという手間の増加に他ならない。

 で、戦闘・戦争というのは基本的に準備と後始末が物凄く手間と時間、費用が掛かるのである。

 銀河の命運を賭けた宇宙大戦争の序盤なんざやってるのだから、必要となる物資は一体どれ程なのか…。

 社内向けのものから軍向け、政府向け、更には一部の民間向けとその内容も多さも様々で、日々増え続ける作業量に事務方は全員が死んだ目でただ只管終わらぬ仕事の山脈をスコップで削るかの如く苦行に挑み続けるのだった。

 戦時とその後の混乱の余波によって発生した全ての事務作業が終わるのは、実に戦争の一時終結から半年を過ぎてからの事になるのだった。

 

 

 

・ここはデスマーチ地獄の一丁目その2  時系列不明

 

 『集計完了。データを管理部門へ。』

 『誤差修正完了。部品生産を予定より7%増産する事は可能か?』

 『4%までなら問題なく可能。それ以上は作業員の負担大きく、残業が発生する可能性あり。』

 『了解。4%の増産で対応されたし。』

 『了解。』

 『エクセリオン級8番艦、完成まで後17日と17時間となっております。』

 『予定通り共和連合への売却分に割り当てとします。るくしおん級の追加生産分は…。』

 

 一方のA.I.M.は社内各部門に多数存在する自動人形らの量子通信ネットワークによって人類よりも遥かに効率的・超高速・超大量に情報をやり取りできる特性を用いて、各部門を連携させているため、他の大企業群よりも遥かに事務方への負担が少なかった。

 少なくとも戦時下にありながら頑なにホワイト業務を貫きながらも利益を出し続けているのはこいつらだけであろう。

 

 

 

・ナデシコ級は今   時系列不明

 

 「相転移エンジン…やはり純粋なエネルギー機関だけでなく、兵器転用も可能ですか。」

 「えぇまぁ…しかし、やはり制御面と出力に関して問題がありまして。」

 「それならば我が社からの技術提供を行います。ことソフトウェアに関しては太陽系最高を自負しておりますので、それならば十分実用化できるかと。」

 「おお、それならば確かに。では具体的な事は今後の交渉で決めるという事で…。」

 

 A.I.M.とネルガル重工の渉外担当者(担当自動人形とプロスペクター)の一幕。

 ナデシコ級はそのGBの火力に比しての比較的低コストかつ小型さが売りであるのだが、昨今の大型艦の大量建造や侵略者の大戦力相手では火力不足が指摘されており、それを解決するために強化パーツの開発・追加が考案されていた。

 一部の技術的問題に関してはいつもの安心と驚愕のA.I.M.の手を借りる事でリーズナブルかつ早急に解決する事に成功している。

 考案された強化パーツ、所謂Yユニットは砲艦とされたナデシコ級を戦略兵器へとジョグレス進化させる代物であり、理論上の最大攻撃可能範囲であれば共和連合のウユダーロ級初期型に比肩する見込みとなっている。

 勿論これを知った共和連合は開いた口が塞がらなかった、だってコストとサイズ比で圧倒的に自分達の方が劣ってたから。

 この時の驚愕と敗北感が後にバランシュナイルというウユダーロ級戦略砲艦の機能を機動兵器サイズまで小型化するという技術的ブレイクスルーを発生させる事となる。

 

 

 

・ナデシコ級は今その2   時系列不明

 

 「勿論、我が社も噛ませていただけるのでしょうねぇ…?」

 「…勿論です。詳しくは今後の交渉で話し合いましょう。」

 

 その場に混ざってきたクリムゾングループの担当者に対し、プロスペクターは内心の舌打ちを隠しながらにっこり笑顔で対応した。

 なお、後日の交渉は言うまでも無く熾烈なものになった。

 

 

 

・そう言えばあの二人は? 時系列不明

 

 「お父さんもお母さんも、生きてました…。」

 「私もよ。父さんと母さん、そしてあの人も…。」

 「でも、皆こっちの世界の私と一緒で…。」

 「私達には私達の帰るべき世界がある。その日が来るまで、私達は心の炎を燃やし続ける。あの人に、コーチにそう言われたでしょう?」

 「はい、お姉様…。」

 「でも、今日くらいは泣いて良いのよ、二人共?」

 「ユング…。」

 「今はユン・グローリアス大尉だってば。さ、今日はパーっと飲みましょ?私が奢るからさ。」

 

 分かたれた戦友達の再会後暫くしてからの一幕。

 嘗て別離を経験した大事な人々が、この世界の自分達と仲睦まじく平和に暮らしている。

 例え薄氷の上の平和だとしても、それは彼女らにとって何よりも羨ましく、大切な、しかし当の昔に掌から零れ落ちてしまった幸せの形だった。

 その夜、三人は浴びる様に酒を飲んで、仲良く一塊になって眠りに就いた。

 

 

 

・そう言えばあの二人は?その2 時系列不明

 

 「あ、言い忘れてたけど、貴女達の偽名とか戸籍の作成終わったわよ。」

 「あら、どんな名前かしら?」

 「偽名って…大丈夫かなぁ?」

 「ダイジョーブダイジョーブ。私だって慣れたし、元の名前を捩ったものだから渾名みたいなもんよ。」

 

 タカヤ・ノリコ→カタヤ・ノリカ。

 アマノ・カズミ→アガノ・カスミ。

 後に沖女にユンと共に教官として赴任してからは流石にお姉様呼びはヤベーという事で先輩呼びになったが、身内しかいない時は以前の通りお姉様呼びである。

 ノリカはこの世界の自分と偶にオタトークで盛り上がり、カスミは素直になれない自分に見せつける様にオオタ中佐にモーションをかけては嫉妬と悔しさ、不安でギリギリ歯噛みするこの世界の自分とそれを宥めるオオタ中佐を見てニヤニヤするのだった

 なお、訓練の厳しさは全員沖女の成績上位陣が昇天仕掛ける程に厳しかったりするが、元生徒としての視点からのアフターケアを欠かさず行っている事から、脱落者が出ない事で有名となる。

 

 

 



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機体設定その13 加筆

少し少ないけど投下ー


○ナデシコ級砲艦

 

 ネルガル・クリムゾングループの開発した傑作砲艦。全長約300m。

 GB・DFの使用を主眼としており、ブリッジと乗員の生活スペース兼脱出艇を兼ねたブロック、艦載機運用設備とGBの搭載された中央胴体ブロック、左右両舷のディストーションブレードと相転移エンジンが繋がったブロックから構成される。

 艦隊戦において確実に敵異星人の戦艦を撃破するべく、強力なDFを全体に展開可能なDブレードと防御の難しい空間を歪曲する程の重力波を発射するGBを使用するに最適な艦体形状を模索した結果、このような構成になった。

 装甲自体も決して薄くはなく、DF並びDブロック構造によって見た目以上に堅牢である。

 が、その性質は砲艦であり、艦載機運用能力も艦の直掩分しかない。

 またGBを正面にしか向けられない、大気圏内での運用も可能だが主機関が縮退炉・サブが相転移エンジンなので宇宙での運用とで差がある事がネックとなっている。

 それでもそのサイズで要塞攻略すら可能な火力は評価され、各所で重宝されている。

 現在では量産され、多くが土星方面軍に配備されているが、宇宙怪獣を始めとした大勢力相手には早くも火力不足が心配されているため、追加の強化パーツが開発される事となる。

 

 武装

・対空レーザー機銃×6…宇宙艦艇では一般的な対空用武装。が、数は少なく貧弱である。

・多目的ミサイルランチャー×6…両舷に三つずつ配置されている。やはり数が少なく貧弱。

・グラビティブラスト(GB)…艦体正面にある主兵装。収束率を調整する事で対艦攻撃から空間制圧砲撃までこなせる大火力兵装。MAP兵器としても使用可能。

 

 特殊装備

・ディストーションフィールド(DF)…時空歪曲場。同サイズの他の艦種よりも防御力が高い。

 

 

 

○ナデシコ級砲艦(Yユニット装備型)

 

 全長約400m。

 ナデシコ級はそのGBの火力に比しての比較的低コストかつ小型さが売りであるのだが、昨今の大型艦の大量建造や侵略者の大戦力相手では火力不足が指摘されており、それを解決するために強化パーツの開発・追加が考案されていた。

 一部の技術的問題に関してはいつもの安心と驚愕のA.I.M.の手を借りる事でリーズナブルかつ早急に解決する事に成功している。

 考案された強化パーツ、所謂Yユニットは砲艦とされたナデシコ級を戦略兵器へとジョグレス進化させる代物であり、追加武装の相転移砲の理論上の最大攻撃可能範囲であれば共和連合のウユダーロ級初期型に比肩する見込みとなっている。

 勿論これを知った共和連合は開いた口が塞がらなかった、だってコストとサイズ比で圧倒的に自分達の方が劣ってたから。

 この時の驚愕と敗北感が後にバランシュナイルというウユダーロ級戦略砲艦の機能を機動兵器サイズまで小型化するという技術的ブレイクスルーを発生させる事となる。

 

 武装…相転移砲以外は通常仕様と共通。

・相転移砲…この兵器は目標空間を強制的に相転移させる事で、その空間が内包する物質を消滅させる戦略兵器。極めて広範囲を一撃で消滅させるため、使用には基地司令以上の役職からの許可が必要となった。初期型ウユダーロ級戦略砲艦の主砲の威力と攻撃可能範囲を既に超えている。

 

 

 

○クラップ級

 

 サラミス級を始めとした、既存の連邦宇宙軍所属艦艇の発展形である。全長300m。

 開発はサラミス・マゼランの設計元である地球連邦軍ジャブロー工廠。

 改良に改良を重ねて未だ第一線にあるサラミス級の優れた設計に昨今重要な艦載機運用能力と高い航行性能を付与する形で再設計した上で、船体を延長する事で容量を確保している。

 長い電磁カタパルトを備えた艦首と格納庫を中に持つ胴体、戦闘時と通常時で二つあるブリッジ、艦体後部で左右に広がる特徴的なエンジンブロックからなる構成は、どことなくジオンのムサイ改を彷彿とさせるシルエットを持つ。

 主砲の数は減ってこそいるものの、左右のエンジンブロックにある最新の艦艇用核融合炉二基分の出力により威力と連射力が上がり、射程や射撃精度もレーダー・センサー系が亜光速戦闘対応の最新のものを使用しているために強化され、総合的な火力は寧ろ向上している。

 また、船体から突き出ているエンジンブロックの換装で今後も長く使用可能なように設計されている。

 艦載機運用能力に関しては既存の前期サラミス改を上回り、後期サラミス改(艦載機運用特化型)にも匹敵する。

 が、宇宙での大勢力を相手での戦闘ではどう足掻いても性能不足である事から、専ら太陽系内部でしか運用されず、生産数もコスト面に優れる割には少ない。

 それでも新型艦であり、既存のサラミス改等に比べて優れた性能を持つ。

 

 武装

・対空レーザー機銃×8…地球連邦軍艦艇の一般的な対空火器。

・多目的ミサイルランチャー…地球連邦軍艦艇の一般的な武装。

・連装メガ粒子砲×2…地球連邦軍艦艇の一般的な武装。

 

 特殊装備

・DF

 

 

 

○アーガマ級

 

 アナハイム・エレクトロニクス社開発の宇宙巡洋艦。全長320m。

 MSを始めとした艦載機運用能力を重視しており、ホワイトベース等のペガサス級強襲揚陸艦を参考に設計されている。

 左右両舷の電磁カタパルト、船体中央にアームで繋がり回転して疑似重力を発生させる居住ブロック、戦闘時は船体に格納されるブリッジ等、他には余り見られない特徴を多く持つ。

 一見すると重武装だが、他の巡洋艦と比べて必要最低限の武装しか持たず、攻撃能力の多くは搭載する艦載機に頼っている。

 そのため、良好な航行能力と合わせてどちらかというと軽空母に近い性質を持つ。

 

 武装

・対空レーザー機銃×12…地球連邦軍艦艇の一般的な武装。

・多連装ミサイルランチャー×1…地球連邦軍艦艇の一般的な武装。

・単装メガ粒子砲×4…地球連邦軍艦艇の一般的な武装。

・連装メガ粒子砲×2…地球連邦軍艦艇の一般的な武装。

 

 特殊装備

・DF

 

 

 

○るくしおん級

 

 安心と驚愕のA.I.M.が贈る人類初の亜光速巡洋艦。全長350m。

 同社が持つEOTをふんだんに取り入れて設計されたこの艦は曲線で構成され、古い時代のロケットにも似たデザインを持つ。

 この内、大型ミサイルは新開発の光子魚雷、即ち縮退炉開発によって得られたブラックホール生成・操作技術から生まれたブラックホール爆弾であり、数発で地球型惑星を崩壊させる事も可能な戦略兵器である。

 設計段階で既にしてフォールド技術が取り入れられ、通常航行ですら最大加速は亜光速に到達する程の速力を誇る。

 テスラドライブを始めとした重力・慣性制御能力も他の艦艇よりも高出力かつ高精度であり、太陽系内なら文字通り何処へでも行けるし、何処でも運用できる。

 反面、艦載機運用能力に関しては特別尖ったものはなく、20m半ばまでの機体を4機まで運用可能となっている。

 

 武装

・対空レーザー機銃×26…地球連邦軍艦艇の一般的な武装だが、対亜光速戦闘を主眼にしているため、多数が搭載されている。

・レーザー砲×4…艦後部の4つの重力波制御翼の先端に配置。本艦の副砲に当たる。

・多目的ミサイルランチャー×8…地球連邦軍艦艇の一般的な武装。艦首に一極集中配置されている。

・大型ミサイルランチャー×6…地球連邦軍艦艇の一般的な武装。艦首に一極集中配置されている。

・バスタービーム砲×2…艦の上下面に配置されている回転砲塔。対宇宙怪獣用装備。

・光子魚雷…本艦最大の火力にして戦略兵器。ブラックホール爆弾の一種であり、大型ミサイルランチャーより発射される。

 

 特殊装備

・DF

 

 

 

○亜光速戦闘対応仕様

 

 宇宙怪獣を始めとした亜光速での機動が可能な敵対目標へと対応するための改装。

 レーダー・センサー系の強化から始まり、機動兵器においては反応速度の向上、対空火器類の実弾からより命中率・弾速に優れるレーザー系への改装、テスラドライブやDFを始めとしたEOT採用が主な内容。

 但し、旧式兵器を幾ら改造しても実際に亜光速での航行や戦闘機動が出来る訳ではなく、あくまでもその場凌ぎでしかなかった。

 地球連邦軍が本格的に亜光速域での戦闘に対抗可能になるには、まだまだ時間がかかる模様。

 宇宙怪獣との遭遇後、運用・生産された艦艇や機動兵器は後に全てが亜光速戦闘対応仕様に改装される。

 



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機体説明その14

○ヒリュウ

 

 メテオ3群を解析して入手したEOT並びにテスラドライブを始めとした新技術の運用試験用として開発された実験艦。全長450m。

 そのサイズに見合った本格的な武装や艤装はされておらず、有り合わせの一般的な武装しか搭載されていないが、その分主機関である縮退炉からのエネルギーをテスラドライブに回す事で高い機動性を発揮できる。

 これは本艦が太陽系外縁部調査試験艦隊の内、データ取得のための各種索敵用装備の搭載を優先したためでもある。

 太陽系外縁部調査と宇宙怪獣との突発的遭遇戦の後、その性能を本格的に活かすために戦闘用に改造され、艦体も延長され、武装も本格的に装備される事となる。

 

 武装

・対空レーザー機銃…地球連邦軍艦艇の一般的な対空兵装。

・多目的ミサイルランチャー…地球連邦軍艦艇の一般的な兵装。

・連装メガ粒子砲…地球連邦軍艦艇の一般的な兵装。

 

 特殊機能

・テスラドライブ

 

 

 

○ヒリュウ改

 

 前述のヒリュウを本格的に亜光速戦闘対応仕様に改装した艦。全長500m。

 スペースノア級に匹敵する攻撃能力と艦載機運用能力、凌駕する船速を持つが、同級に比べると耐久力にやや劣る。

 艦首GBを始めとして武装が多数追加された他、縮退炉だけでなくプラズマリアクターも追加された事で更に出力が向上している。

 その反面、それら全てを搭載するために船体を延長する事となった。

 DFだけでなく、テスラドライブを用いてのブレイクフィールド形成からの高速移動を用いてのISA戦術が可能な事からISA戦隊に所属し、数多くの戦闘に参加する事となる。

 

 武装

・対空レーザー機銃…地球連邦軍艦艇の一般的な対空兵装。数が倍増している。

・多目的ミサイルランチャー…地球連邦軍艦艇の一般的な対空兵装。数が倍増している。

・連装衝撃砲…スペースノア級にも採用されている主砲。ビーム属性ではなく純粋な衝撃波を収束して放つ。そのため、対ビーム装甲等に減衰されない。

・艦首GB…ナデシコ級の主砲を移植した重力波砲。高威力・広範囲で対艦・対要塞にMAP兵器としても使用可能。

 

 特殊機能

・テスラドライブ

・DF

 

 

 

○スペースノア

 

 A.I.M.がサラミス・マゼラン等の一年戦争時の既存艦艇を参考にしてブロック構造や対機動兵器向けの武装配置、縮退炉やテスラドライブ等のEOTの採用を設計段階から積極的に行った次世代型万能戦闘母艦スペースノア級の一番艦。約500m。

 万能戦闘母艦の名に相応しく宇宙のみならず、大気圏内での飛行や潜水しての活動も可能。

 MSやVF等の機動兵器の搭載能力や対艦戦闘能力にも優れるだけでなく、密かにISA戦術(Integrated Synchronizing Attack)と呼ばれる「空母の役割を果たす機動戦艦と搭載された人型機動兵器による電撃戦」という戦術を行う事が設計段階で構想されており、高い艦載機運用能力を併せ持つ。

 後の戦乱においてこれが大いに活躍した事からも、A.I.M.の先見性が伺える。

 主機関は縮退炉であり、エンジン部分には大型の第一世代テスラドライブを囲む様に8基のロケットエンジンを配置している。

 テスラドライブによって浮力を発生し、ロケットエンジンで推進力を得る事で航行する。

 実はスペースノア級万能母艦は「外宇宙移民計画」と「太陽系防衛計画」という一見すると相反するが、実態としては地球人類の存続のためのプラン実現のために誕生した。

 これは太陽系外、天の川銀河の外の近傍銀河系に存在する大勢力がどいつもこいつも敵対的であり、降伏すら許さない様な連中だったが故のプランだった。

 結局、防衛しようにも戦力差は絶望的であり、戦うにしても逃げるにしても戦力が必要である事から、本級は戦闘艦としては異例と言える程のフレキシビリティ構造が採用された。

 これにより艦首モジュールを始めとした各ブロックの換装によって短時間で目的に応じた装備への交換、破損個所の交換による修理が可能となった。

 この構造と装甲が全てチタン系装甲材の中では最上級に位置するスペースチタニウムを採用している事から、他の同時代の戦艦の中でも高い防御力・耐久力を持つ。

 武装は完成当時はヒリュウと同様に既存連邦軍艦艇からの流用であり、大したものではないが、その主機関である縮退炉やテスラドライブの採用により高い機動性と防御力を併せ持ち、先に述べた艦載機運用の力からもISA戦術対応艦に相応しい性能を持つ。

 

 武装

・対空レーザー機銃…地球連邦軍艦艇の一般的な対空兵装。

・多目的ミサイルランチャー…地球連邦軍艦艇の一般的な兵装。

・連装メガ粒子砲…地球連邦軍艦艇の一般的な兵装。

 

 特殊機能

・テスラドライブ

 

 

 

○スペースノア改

 

 公式では人類初の宇宙怪獣との戦闘の後、前述のスペースノア級一番艦を亜光速戦闘対応仕様への改修並びに武装を追加した姿。

 サイズこそそのままだが、艦体の左右両舷に巨大な重力波制御翼を追加、艦首モジュールを特装砲として小型のコロニーレーザーとも言うべきハイメガキャノンへと換装、一撃でコロニーを消滅させ得る戦略級の攻撃能力を保持する高性能万能母艦として完成した。

 これには当初、改修内容を知った有識者らやコロニー出身者からやり過ぎではないかという声も上がったが、地球連邦政府並びに軍は「太陽系外の敵勢力に対してはこれでも戦力不足である」と返答して黙殺している。

 後のスペースノア級は本艦のデータを参考にして建造されており、多数の艦が建造される。

 

 武装

・対空レーザー機銃…地球連邦軍艦艇の一般的な対空兵装。数が倍増している。

・多目的ミサイルランチャー…地球連邦軍艦艇の一般的な兵装。数が倍増している。

・連装副砲…実体弾を炸薬にて発射する副砲。対ビーム・エネルギー防御手段を持った敵相手への対策であるが、艦のエネルギーに関係なく安定して使用できる事から採用され続けている。

・連装衝撃砲…本艦から新たに採用されるようになった主砲。ビーム属性ではなく純粋な衝撃波を収束して放つ。そのため、対ビーム装甲等に減衰されない。

・艦首ハイメガキャノン…小型化に成功したコロニーレーザー級のビーム兵器。高威力・広範囲で対艦のみならず対要塞・MAP兵器としても使用可能。

 

 特殊機能

・テスラドライブ

・DF

 

 

 

○ハガネ

 

 スペースノア級万能戦闘母艦の2番艦。全長500m。

 一番艦であるスペースノアそのままの装備だったが、完成前にイングラム大尉の持ち込んだトロニウムとそれを用いたエンジン、そのエンジンから得られるエネルギーを発射する武装を搭載するためにそのままドックから出る事なく改修される事となった。

 

 

○ハガネ改

 

 上記のハガネにトロニウムエンジン、艦首モジュールをトロニウムバスターキャノンを搭載したTBCモジュールへと交換した他、トロニウムエンジンから齎されるA.I.M.製初期縮退炉以上の膨大なエネルギーに耐えられるようにエネルギー伝達系を強化されている。

 それ以外の部分ではスペースノア改と同様の構造となっているが、そのエネルギー量の差故に機動性並びにDF強度が若干向上している。。

 

 武装

・対空レーザー機銃…地球連邦軍艦艇の一般的な対空兵装。

・多目的ミサイルランチャー…地球連邦軍艦艇の一般的な兵装。

・連装副砲…実体弾を炸薬にて発射する副砲。対ビーム・エネルギー防御手段を持った敵相手への対策であるが、艦のエネルギーに関係なく安定して使用できる事から採用され続けている。

・連装衝撃砲…本艦から新たに採用されるようになった主砲。ビーム属性ではなく純粋な衝撃波を収束して放つ。そのため、対ビーム装甲等に減衰されない。

・艦首トロニウムバスターキャノン…トロニウムを媒介とした本艦最大の威力を誇る重金属粒子砲。発射の際に発生する凄まじい反動は本来ならば重力ブレーキによって相殺しているのだが、逆にこれを利用して戦域からの緊急離脱や高速移動を行う事もある。ハイメガキャノン以上の高威力・広範囲で対艦のみならず対要塞・MAP兵器としても使用可能。

 

 特殊機能

・テスラドライブ

・DF

・トロニウムバスターキャノン(高速移動)

 

 

 

○クロガネ

 

 スペースノア級万能戦闘母艦の3番艦。全長500m。

 同級の中で最も異端とも言えるISA戦術特化艦であり、艦首モジュールに超大型回転衝角(対艦・対岩盤エクスカリバードリル衝角)を装備したドリル戦艦という奇妙奇天烈摩訶不思議な艦。

 その見た目通り地中への潜行も可能である。

 同級の中で最も厚い装甲を持ち、ISA戦術対応艦隊によるISA戦術を行う際、先陣を切って盾役として突撃、敵陣に斬り込む事を想定されている…のだが、他の同級の艦首特装砲の威力もあってその出番は今の所無いという不遇な艦でもある。

 左右の翼、重力波制御翼の縁や各部に回転衝角と共に対艦・対岩盤を想定した単分子ブレードや回転刃が装備されているが、やはり出番は殆どない。

 後に本艦のデータから一部特機のドリル系武装が開発されたりしているので、決して無駄な訳ではない(コストパフォーマンスで言えば最悪だが)。

 いやこれ駄目だろという意見が多い中、後に宇宙怪獣混合型と正面から突撃し合って打ち勝つという武勲を打ち立てたりする。

 なお、本艦の存在を知った共和連合側の担当者は思わず「宇宙猫顔」状態になったと言う。

 そんな艦なので同艦の思想的後継艦とも言える格闘戦が前提の艦は極一部の民間でのみ開発・運用が行われ、連邦軍では二度と採用される事は無かった。

 特徴的な武装を除けば後の武装や機能は他の同級と同じものとなっている。

 余談だが、開発元のA.I.M.では密かにこの艦の事をその独創的な艦首ドリルから「轟天」という愛称で呼ばれていた。

 言わずもがな、某特撮映画の海底軍艦が元ネタである。

 これを言い出したのは実はA.I.M.内でも殆ど知られていない会長だと言われているが、定かではない。

 

 武装

・対空レーザー機銃…地球連邦軍艦艇の一般的な対空兵装。

・多目的ミサイルランチャー…地球連邦軍艦艇の一般的な兵装。

・連装副砲…実体弾を炸薬にて発射する副砲。対ビーム・エネルギー防御手段を持った敵相手への対策であるが、艦のエネルギーに関係なく安定して使用できる事から採用され続けている。

・連装衝撃砲…本艦から新たに採用されるようになった主砲。ビーム属性ではなく純粋な衝撃波を収束して放つ。そのため、対ビーム装甲等に減衰されない。

・超大型回転衝角(対艦対岩盤エクスカリバードリル衝角)…艦首モジュールとして装備された対艦格闘戦や障害物の破砕に適した超大型のドリルという戦艦では極めて珍しい格闘武器。本艦を体現する武装であり、この武装無しに本艦は語れない。この衝角を用いて地中を潜行することも可能である。

 

 特殊機能

・DF

・テスラドライブ

・地中潜行

 

 

 

○シロガネ

 

 スペースノア級万能戦闘母艦の4番艦。全長500m。

 一個上の姉妹艦の余りの奇妙奇天烈摩訶不思議ぶりとは正反対に、極めて真っ当かつ普通な艦として知られている。

 艦首には機体の搭載数を上げる為の艦首モジュールを採用、他の同級では採用されている左右両舷の重力波制御翼の撤廃、艦内容量増加のための艦体構造の大型化(=艦体が他の同級よりも太くなっている)、艦隊旗艦となるべく高い情報処理能力並びに最新のレーダー・センサー系、更には同級としては珍しい電子戦能力を持っている等、A.I.M.製にしては真っ当に過ぎる艦だった。

 艦首モジュールや艦体構造の大型化により、同級の中では最も高い艦載機運用能力並びに搭載機数を誇る。

 反面、重力波制御翼を撤廃したために機動性には劣り、艦首モジュールの関係で他の同級程の攻撃力はない。

 ミノフスキー粒子下でも何の問題もなく各種レーダー・センサー類を作動させ、それを艦隊を構成する味方艦へと伝達する事も可能であり、この事からもISA戦術対応空母兼艦隊旗艦とも言うべき特徴を持っている。

 武装面は微塵も面白味のない同級の共通武装のみを搭載している。

 が、そのせいで他の同級に比べて今一つ人気がない。

 

 武装

・対空レーザー機銃…地球連邦軍艦艇の一般的な対空兵装。

・多目的ミサイルランチャー…地球連邦軍艦艇の一般的な兵装。

・連装副砲…実体弾を炸薬にて発射する副砲。対ビーム・エネルギー防御手段を持った敵相手への対策であるが、艦のエネルギーに関係なく安定して使用できる事から採用され続けている。

・連装衝撃砲…本艦から新たに採用されるようになった主砲。ビーム属性ではなく純粋な衝撃波を収束して放つ。そのため、対ビーム装甲等に減衰されない。

 

 特殊機能

・DF

・テスラドライブ

・EWAC…優れた情報処理能力によって敵味方の動きを予測し、戦術予報並びに戦闘指揮を行う(=広範囲の味方ユニットの命中・回避を強化)。

 

 



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第59話 妖魔大帝その3

 新西暦186年9月28日 極東方面 臨海市

 

 ISA戦隊の旗艦マクロスと二番艦を務めるメガロード。

 この二隻は現在各地に湧き出た戦闘獣、特に戦略上の要地を守るためにVF・MS部隊と共に出撃している。

 では、この二隻でもないと運用できないサイズを持つ三機のシズラー小隊、即ちユン・グローリアス少佐率いるアガノ・カスミ大尉にカタヤ・ノリカ中尉のトップ部隊の女性教官3人組は一体何処にいたのだろうか?

 

 『二人共、ホーミングレーザー行くわよ!』

 『えぇ、良くってよ!』

 『いっけぇホーミングレーザー!』

 

 沖女、正式名称を地球連邦軍所属沖縄特別女性士官学校から出撃した三人は参謀本部からの命令により、戦力の足りていない臨海市へと出発、そこから友軍の窮地であると通信で聞き付けて急加速、見事味方の窮地に間に合ったのだ。

 流石は量産型とは言えバスターマシンの系譜。

 大気圏内で亜光速でなくともトバせば十分な速度が得られるのだった。

 

 『な、何だとぉ!?』

 

 ISA戦隊分隊の主に特機からなる前衛の面々をその物量によって包囲し、弟の仇として意気揚々と殲滅しようとしていた巨烈兄弟の兄、豪雷巨烈は自分の指揮下の戦力が一瞬にして壊滅した事に驚愕し、思わずその動きを止めてしまった。

 何せ対宇宙怪獣用の武装である。

 化石獣やそれよりもちょっと強い巨烈獣相手にはオーバーキルも良い所である。

 加えて言えばこの武装は改良された結果、一機につき最大3万もの亜光速目標を照準・追尾できる優れものなのだ。

 大気圏内で多少の減衰こそあれど、のろくさ動く標的に外す事など有り得ない上に三機いるので約5000機の敵に対して18発も割り当てられるので、そりゃー全滅も当然であった。

 

 『今だ!超電磁タ・ツ・マ・キー!』

 『超電磁ボール!』

 『おおおおおおお!?』

 

 硬いからと言って、特殊効果が通らない訳ではない。

 二機の超電磁ロボの拘束技により、巨烈獣バンカーはその動きを完全に停止させられてしまう。

 

 『合わせろ洸!サイバード・チェンジ!』

 『分かったマサキさん!ゴッドバード・チェンジ!』

 

 そして、バンカーもとい豪雷巨烈にとっての不幸は、彼の自慢の防御力すら突破し得る攻撃力の持ち主がこの場に複数いた事だった。

 

 『おのれおのれおのれおのれおのれェ!ひびき洸!人間共!我ら妖魔帝国はバラオ様がおられる限り滅びぬ!必ずや蘇り、次こそは貴様らを悪魔世紀への礎に…!』

 『即興の合わせ技だが、これで終わりだ!』

 『ダブルバードアタック!』

 

 背中合わせになった二機はそのまま回転する事でまるで一つのドリルの様な軌跡を描く。

 火の鳥の炎と放出されるムートロンの光を纏い、ゴッドバードとサイバードの二機は必死に逃れようともがき続けるバンカーへと一つの矢となって突撃する。

 

 『あ、あ、ああああああああああああ!?』

 

 断末魔の叫びを残して、豪雷巨烈は戦場の露と消えるのだった。

 

 

 …………

 

 

 『よし、各機は帰投を開始せよ。街の方は再編の終わった防衛部隊に…』

 『待てブライト!まだ邪気が消えていない、次があるぞ!』

 『それに、先程から戦場全体に妙なプレッシャーが掛かっている。妖魔帝国はまだやるつもりの様だ。』

 『何!?各員、索敵を厳に!次が来るぞ!』

 

 敵を全滅させて一安心。

 そんな空気が場に流れそうになった途端、最も鋭敏な感覚を持つジオンと連邦双方の代名詞的なNT二人が警告し、それに慣れていたブライトは即座に警戒態勢へと戻る。

 

 『…来る!』

 『これは、下からか!?』

 

 そして、NT組に並ぶ程の鋭敏な感覚を持つひびき洸と明神タケルの超能力者二人が一様に海面へ視線を向ける。

 同時、臨海市の沖合の海面へと禍々しい六芒星が浮かび上がる。

 

 『何だあれは?!』

 『分かりません!データにないエネルギー反応ですが…空間の歪曲を確認!』

 『ブライトさん、敵が来ます!』

 『チィ!転移してくるつもりか!?』

 『各機、攻撃を集中しろ!出足を挫くぞ!』

 

 その言葉に三隻の戦艦と機動兵器部隊はその最大火力を叩き込むべく武装を構える。

 

 『エネルギー反応増大!来ます!』

 

 オペレーターの言葉と同時、魔法陣から巨大な岩塊が姿を現した。

 

 『撃てぇい!!』

 

 特装砲こそ使用されなかったものの、連装衝撃砲を初めとした大火力が一斉に叩き込まれる。

 しかし、手応えが無い。

 攻撃の余波で発生した水蒸気で目視できずとも、魔法陣から現れた質量が砕かれる気配も無ければ、この場を覆うプレッシャーが消える事もない。

 宇宙要塞であってもダメージは免れない程の火力を叩き付けられながら、その岩塊は無傷だった。

 

 『はは、はははははははははははは!手荒い歓迎だなぁ人間共よ!』

 

 現れたのは全長10kmはある巨大な島だった。

 否、島が全てではない。

 その島の中央、山となっている位置に巨大な怪物の上半身が生えている。

 上半身だけでもシズラーに匹敵する180m、下半身の島に至っては全長10kmという出鱈目な存在。 

 それが妖魔大帝バラオの姿だった。

 

 『しかし、随分とこのバラオの配下を痛めつけてくれたものだな。』

 『ハン!そんなに可愛いなら一生手元で飼っておけってんだ!』

 『ふふふ、威勢が良いな。しかし、これを見ても同じ事が言えるかな?バ・ラ・オォォォォォォ!!』

 

 ヒリュウ改所属のMS部隊隊長のカチーナがプレッシャーを跳ね除ける様に言い放つが、それに対するバラオの反応は予想外のものだった。

 

 『な!?げ、撃破した敵の残骸が融合、再起動しています!』

 『はぁ!?そんなのアリかよ!?』

 『うわーんカチーナさんが余計な事言うからぁ!』

 『あたしか!?あたしのせいだってのか!?』

 『ハハハハ、まだ終わらんよ!』 

 

 場は一転して混乱に包まれていた。

 何せ撃破した筈の敵が蘇ってくるとか、経験豊富なISA戦隊の一員としても未体験な現象である。

 理論は違うが似た様な事は太陽系防衛用無人機動部隊のナノマシン製兵器なら出来るが、それはさて置き。

 バラオの次なる行動によって更に混乱は加速する。

 

 『妖魔族1万2千年の呪いを込めて…今ここに鋼より強き我が爪と我が髪を以って、妖魔の守り竜を生み出さん…出でよ、妖魔巨烈獣バラゴーン!』

 

 そして、新たに展開された魔法陣から出現してきた存在に、場の混乱は頂点に達した。

 

 『ば、馬鹿な!?』

 『あれ、さっきの兄弟の首じゃないか!?』

 『嘘だろう…?』

 

 魔法陣から現れた巨大な竜。

 蛇の様な長い胴体に赤い装甲と白い鬣に角、金色の眼を持つその巨体は全長1kmにも達している。

 そして、一堂の注目を最も集めたのは、その背中に生えた4本腕槍と剣を携えた人型の上半身。

 その4本の腕の内、上に生えた2本の腕の先に付いた巨烈兄弟の首であった。

 それこそが本来のバラゴーンに加え、更なる後押しのために加えられた巨烈兄弟の魂、その証であった。

 

 『豪雷よ、激怒よ、望み通りお前達は死んでも戦い続けるのだ!妖魔の守り竜としてな!!』

 『貴様、自分のために戦った死者の魂すら弄ぶのか!?』

 『ハハハハ、笑わせるなよムーの末裔よ!我が大妖魔帝国、そしてこのバラオの勝利の為!その為に使われる魂ならば、豪雷も激怒も喜んでおるわ!』

 

 バラオのその言葉に応える様に、バラゴーンが戦域全体に響き渡る程の恐ろしい咆哮を上げる。

 それこそがバラゴーンの、巨烈兄弟の意思だった。

 自らが死んでも、どうなっても構わない。

 憎い敵を殺せるのならば、何だって構わない。

 それが1万2千年以上昔に妖魔となった者達の総意だった。

 

 『さぁて、そろそろムートロンを頂く事にしようか…。手始めに、貴様らを血祭りに上げてなぁ!』

 『くそ、各員戦闘再開!奴らにこれ以上好きにさせるな!』

 

 こうして、戦闘は更に激化する形で次のラウンドへと移ったのだった。

 

 

 …………

 

 

 その様子を、遠くから見つめる者達がいた。

 

 『う~ん、やっぱり圧されてますの。』

 『どうしよっか…?』

 『下手に手を出す訳には参りませんの。アトミラール達に怒られますの。』

 『うん…。』

 

 山間部から戦場を眺めているのは、久々の出番のアインスト4人娘の年少組。

 アインスト・アルフィミィとレーベンの二人であった。

 

 (もう、アトミラールもフォアルデンも大事なお話合いがあるからって置いてけぼりは酷いですの!)

 

 会談場所がアインスト宇宙であるとは言え、もし万が一があっては困るからと不安定な部分のある二人は一時的にこちらに置いていかれたのだ。

 が、その結果としてこんな場所で巻き込まれているのだから、年長二人組の気遣いは無意味となったのだがそれはさて置き。

 

 『そうですの!』

 『どうしたの?』

 

 良い事を思いついた。

 顔面にそう書かれたアルフィミィに、レーベンは特に気付かずに問う。

 大抵こうしたタイミングでの思い付きは事態を悪化させるばかりなのだが、そんな事を知らない子供二名を止めるものは何もない。

 

 『どうせですから、私達もあそこに参加してみませんか?』

 『あぶないよ…?』

 『だからですの!大人達がいては出来ないアブナイ事を、今だからこそ出来るのです!』

 

 保護者組が聞いていたらオイ馬鹿止めろと即座に止めるだろう事を言い出していた。

 

 『うーん、そうかなぁ…?』

 『最近はお出かけも全然出来ないですし、ここらで一つ私達ができるおとなのおんなだと言う事を証明して、お出かけの権利を勝ち取るのです!』

 『えぇ…。』

 

 それは具体的にはどうとか言えないけど違う気がする。

 レーベンはそう思うものの、すっかり自分の案に乗り気になってしまったアルフィミィを止めるだけの言葉が出て来ない。

 

 『幸いにもあそこにいる妖魔の王様は悪い奴として以前からチェックされてましたから、アレを倒せば一杯褒めてもらって一杯お出かけできるに違いありませんわ!』

 『えぇっと…。』

 

 流石にアカンと感じてきたのか、レーベンが口を開こうとする。

 

 『しかもエクセレンにキョウスケまでいるとなれば善は急げ!行きますわよレーベン!』

 『え、あ、ちょっと待って!?』

 

 こうして、ちびっこ二人が飛び入りで戦闘に参加する事となったのだった。

 

 

 

 

 当然だが、この行動によって二人は戦闘終了後にクソ程怒られる事になるのだった。 

 

 



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小ネタ会話集その9

・スペースノア級悲喜交々   時系列不明

 

 「やはり次世代主力艦艇最有力はスペースノア級か…。」

 「えぇ、この艦の性能に各種技術。今後の技術革新にもよりますが、この位揃えないと移民船団は安心して送り出せませんからね。」

 「とは言え、コストも高くなったんで数揃えるには少々問題ですけどね。」

 「その辺はいつもの対応で良いだろ。」

 

 次期主力艦艇群を見ての連邦軍担当者らの一幕。

 スペースノア級、それは地球人類種存続のために設計された箱舟である。

 太陽系防衛、そして予定されている移民船団の主力艦艇として運用される事を目的に設計された同級は、るくしおん級に並ぶA.I.M.製艦艇の代名詞とも言うべき存在だった。

 しかし、建造コストが新技術を多数用いた事で高騰してしまい、結局数的主力は巨人族の艦隊に頼り、それを補佐する形でるくしおん級、純粋な母艦たるグァンタナモ級宇宙空母に汎用性の高いノーザンプトン級ステルスフリゲート等が配備された。

 後に組織される長距離移民船団では、巨人族の艦隊と共に宇宙へと種の存続のために漕ぎ出し、地球に帰る事なく銀河へと広がっていくのだった。

 なお、いつもの対応=A.I.M.にブン投げである。

 

 

・スペースノア級悲喜交々その2   時系列不明

 

 「でも、やっぱりクロガネはその…。」

 「言うなよ。私だって同じ思いだ…。」

 「余りに趣味的で役立つ場面がな…。」

 

 クロガネを見ての連邦軍担当者らの一幕。

 そして、一際目を引く奇妙奇天烈摩訶不思議なスペースノア級3番艦の存在は否応なく関係者の注目を集めた。

 だってこいつだけ役に立つ場面が殆どないんだもん。

 防御力こそ確かに高いのは認めるが、それは装甲の追加やバリア出力の向上で果たせるし、態々戦艦で格闘戦をするとか危険過ぎる。

 何より、態々ドリルを付けなくてもDFやブレイクフィールドを展開して体当たりすれば、戦艦の質量と運動エネルギー、衝突角度如何では十分にダメージを与える事が出来る。

 つまり何が言いたいのかって言うと、ドリル戦艦とはどっかのモンスター同様に「作りたいから作った」的な代物でしかなかったのだ。

 少なくとも建造当時においては。

 

 

・スペースノア級悲喜交々その3   時系列不明

 

 「だって欲しかったんだもん。」

 

 太陽系最大のお金持ちで権力者な見た目お嬢さんはそう宣って反省のはの字も無かったと言う。

 確かにお金も資材も人手の殆どもオタクらが出したけどさぁ…(呆れ)

 

 

・スペースノア級悲喜交々その4   時系列不明

 

 「かと思ったら次の4番艦は凄いまともというか普通だな。」

 「普通ですね。」

 「普通で良いじゃないですか。使い所の分からないもの積むよりは。」

 

 シロガネを評しての連邦軍担当者らの一幕。

 シロガネとマクロスのアームド級のデータから、後にグァンタナモ級宇宙空母が。

 他にもるくしおん級やクラップ級、巨人族の艦艇のデータからノーザンプトン級ステルスフリゲートがそれぞれ開発される事になる。

 これらの艦は全てプロトカルチャー由来の技術を随所に導入しており、巨人族の兵器同様に極めて高い信頼性と耐久力、軽度の自己修復能力を兼ね備え、補給の困難な長距離移民船団においても長く活躍する事が可能だった。

 設計に関してはA.I.M.や連邦軍だけでなく、巨人族(男女双方)に各大企業群、共和連合に太陽系防衛用無人機動部隊も参加した正にオールスターだった。

 

 

・スペースノア級悲喜交々その5   時系列不明

 

 「是非あのクロガネを映画撮影に使わせて頂きたく…。」

 「今は戦時中です。」

 

 唐突にやってきた特撮関係者に対しての連邦軍広報部の一幕。

 戦中にキワモノとは言え最新鋭戦艦を映画撮影に使える訳が無いだろうという正論によってきっぱり断られた。

 しかし、言うまでもない事だが、彼らがそれで諦める事は無かった。

 

 

・スペースノア級悲喜交々その6   時系列不明

 

 「ちゃんと諸々の許可取って来ました!お願いします!」

 「」

 

 後日、またも広報部に突撃してきた特撮関係者と窓口の一幕。

 第一次α終了後、毎度恒例のメインスポンサーたるA.I.M.からの紹介状や根回しと共にもう一回やって来て担当者を絶句させるのだった。

 なお、タイトルは「怪獣王ゴジラVS万能軍艦轟天 ~今、母なる海の最強が決まる~ 」であった。

 勿論、一緒にガルガウとパイロットの撮影への協力が要請されている。

 

 

・共和連合四方山話   時系列不明

 

 「あがががががg」

 「何でこのサイズでこの性能が出せるの???」

 「野獣回路って…え、もしかして精神のエネルギー転換装置?」

 「何であの文明レベルでこんなもんが開発できるんだ!?」

 

 地球連邦政府と同盟締結後の共和連合技術者達の一幕。

 軍事に転換するのが苦手なだけで、その国力相応に高い技術力を持っている彼らをして、格下に見ていた地球連邦の軍事技術のレベルの高さには度肝を抜かれた。

 同時に彼らはこのままでは民生分野は兎も角として、軍事分野では追い抜かれるという恐怖に怯える事となる。

 

 

・共和連合四方山話その2   時系列不明

 

 「このサイズ、この性能でこのお値段って嘘でおじゃろ???」

 

 購入した各種地球産量産型機動兵器を解析したゴライクンルの担当者の一言。

 同時に、それは共和連合で最大規模を誇る戦争商人であるゴライクンルにも大きな衝撃を与えた。

 彼らは共和連合政府や軍部、その中の各派閥と違い、チューリップ型ゲートを備えたターミナルコロニーを始めとした超技術の存在から、地球側の技術面での発展を以前より大きく評価していたが、まさか同サイズの機動兵器においては単一恒星系の国家に既に一部凌駕されている事態に直面するとは想定していなかった。

 その際、驚愕の余りキャラが行方不明となっていたと言う。

 

 

・共和連合四方山話その3   時系列不明

 

 「だ、だが民生分野はそこまでではないぞっ。」

 「いや、その手のは余程のものでない限りは安価な自国産を買うだろう?関税がかかるのだし。」

 「調べてみたが、軍事技術は最先端技術を惜しげもなく注いでいるが、民生分野への応用は控えめだな。」

 「資源に関してもだ。エネルギー資源は兎も角として、純粋に鉱物資源が不足しがちの様だな。後は食料。」

 「身を守るためとは言え、軍事偏重の皺寄せか…。」

 「我々が利益を出すにはそこが狙い目か。」

 

 何とか地球連邦政府の経済活動に食い込めないか議論を重ねるゴライクンルの役員会議での一幕。

 そして、商人らしくしっかりと地球連邦の弱点を見抜いていた。

 食料生産に関してはコロニーや他の星系に輸出できる程生産出来ているのは、一部の例外を除けば太陽系内では地球のみだった。

 また、鉱物資源に関してもガンガン採掘しているものの、どう足掻いても消費に追い付いていないのが現状だった。

 希少金属類に比べれば比較的安価でとても頑丈なチタン系素材も、ゼロから生み出す事はまだ出来ない。

 これらを解決するには一心不乱の宇宙開拓が必要なのだが、そのためのリソースを軍事に割り振っている現状、ゴライクンルの分析通りに食料生産や資源採掘に関しては困っているのが地球連邦だった。

 例外はA.I.M.の庭と化している火星と木星であり、そこから各種資源を輸入して何とか凌いでいた。

 食料に関してはA.I.M.製食料生産コロニーをフル稼働して、辛うじて太陽系全土の人々の食料を賄っているのが現状であり、今直ぐどうにはなる事はないが年単位でこの現状が続けば、何れ餓死者や栄養不足を原因とする病気が増加する懸念があった。

 

 

・共和連合四方山話その4   時系列不明

 

 「という事でして。」

 「ふむ…分かった。議会の方にはその様に通しておこう。」

 「ありがとうございます。」

 (これで地球連邦に攻め入って技術を吸収しようと言う輩を抑えられるな。)

 (金持ち喧嘩せず。互いに儲けられる機会があるのなら、怨恨の残る独占よりも共有こそが勝利の道。)

 

 以上の分析をゴライクンルは共和連合枢密院へとしっかり伝えていた。

 枢密院はこれを受け、地球連邦政府に対する戦時国債の買い取りと合わせて経済的植民地化、或いは敵対的行動の抑止策を取る方針を固めた。

 地球連邦側の敵対する余裕なんてねぇよ!という悲鳴を聞き流しつつ、それはそれとして国家として分かり易い明確な安全措置を必要とした結果だった。

 後日、各種審査を経ての話だが、共和連合並びにゴライクンルからの申し出により、地球連邦政府は大量の食糧並びに鉱物資源等々を輸入するようになる。

 

 

・共和連合四方山話その5   時系列不明

 

 『という事でして。』

 「了解致しました。こちらでもそれに合わせて対応致しましょう。」

 『おおきに。所で次の商談なんですが…。』

 「勿論、代金としてそちらに良いお話をさせて頂きます。」

 

 勿論、あのゴライクンルがそんな情報を得ておいて、他に流さないなんて事はなく。

 太陽系随一のお金持ちたるA.I.M.へとその情報を流し、しっかりと代価を受け取るのであった。

 そしてA.I.M.としても共和連合側との経済的結び付きが強化されるのは歓迎する事態だった。

 金の繋がりは時として長年の友好関係やイデオロギー的対立よりも強固な楔となって両者を繋ぎ止める故に。

 

 

・共和連合四方山話その6   時系列不明

 

 「よし、地球側の技術解析が大体終わり!」

 「これなら夢にまで見たウユダーロ級の小型化だって夢じゃないぞ!」

 「小型化、それは即ち低コスト化の第一歩…!」

 「低コスト≒量産性の向上!更なる増産や他分野への資本投下だってあり得る!」

 

 以前から流入していた地球側の兵器の解析が一段落した共和連合技術者達の一幕。

 特にブラックホールエンジンの進化形とも言える縮退炉の情報は彼らにとって長年の悩み(=バルマー製量子波動エンジンに対して低出力)を解決するものであり、心底欲していたものだった。

 これにより開発されたのが、新型の高出力かつ小型なMBHエンジン並びにウユダーロ級戦略砲艦の機能を機動兵器サイズにまで小型化に成功した傑作機バラン=シュナイルである。

 事実、これ以降の共和連合は新型エンジンやバラン=シュナイルの配備が広がるに連れて対バルマー戦においては多くの場合好転し始めるのだった。

 尚、バルマーの戦略兵器たるネビーイームやズフィールド等が投入された戦場はその限りではない。

 そのため、更に戦局を有利に進めるべく、ウユダーロ級の次世代型の本格的な設計に踏み込むのだった。

 

 

・共和連合四方山話その7   時系列不明

 

 「へぇ、これが新型か?」

 「えぇそうです。地球側の技術情報と運用思想を解析して各所に採用した最新型の有人人型兵器グレイターキンです。地球連邦軍との共同での作戦行動を考えて、ある程度地球製のパーツを使用できるようになってます。」

 「右肩の妙な武装は何だ?サンダークラッシュ?」

 「電撃兵装ですよ。チャージすれば広範囲攻撃兵器として使用できますし、あの破壊者にも有効なのは確認済みです。剣状の部分は機体側の補佐でオートでビットとして使用でき、破壊されない限り幾らでも再利用できます。」

 「ほーん。で、欠点は?」

 「ビット部分が破壊されるとサンダークラッシュのチャージに支障が…。」

 「分けろよなそこは…。」

 「何分試作機でして…。」

 

 枢密院特使メキボスの専用機受領の際の一幕。

 この世界でのグレイターキンは原作同様地球製の技術を積極的に導入した試作型機動兵器だ。

 共和連合にはない運用思想の機動兵器ノウハウを取り込むことを目的に製造されており、共同作戦時の整備補給に困らないように飛行機関にテスラドライブを装備するなど地球製のパーツを使用できるように配慮がされている。

 最大の特徴は右肩部に装着された高出力プラズマ発生機構を用いる「サンダークラッシュ」。

 元々電撃に弱い宇宙怪獣に使用するべく開発されていた兵器なのだが、魔神覚醒事件後に地球からもたらされたグレートマジンガーのサンダーブレークのデータを参考に改良が加えられた結果破壊力が向上。

 その威力は実戦テスト中に遭遇した宇宙怪獣混合型数体を一撃で感電死させることが可能な程の威力を誇る。

 威力を重視した結果右肩部がやや大型化するなどのデメリットも存在するが、それを補って余りある能力を発揮した本機は小改修の後に一定数が量産され、そのデータを元により扱いやすく改良を加えた機体としてグレイターキンⅡが開発される事となる。

 なお、装甲材質にはA.I.M所属のカッシュ博士やザパト博士らが提唱した自律型金属細胞の基礎理論(自己再生・自己増殖・自己進化のアレ)を元に高い再生能力のみを持つ「ラズムナニウム」を採用し、ビーム吸収機構と合わせて高い持久力を持つ。

 

 

・共和連合四方山話その8   時系列不明

 

 「で、あっちはガルガウの改良型か?」

 「え、えぇ。新型を開発した所、地球から購入の打診があった奴でして…。」

 「…何かあったのか?」

 「…実は、映画撮影に使いたいとの事でして…。」

 「???」

 

 上記と同時に搬入されたガルガウの新型についての一幕。

 新たに開発されたガルガウ系の新型、その名もガルガウ=レクス。

 「敵機と誤認する」という理由で地球での採用を逃したガルガウだが、その勇壮な外見や強力な武装の数々は地球・共和連合の双方で一定の評価を獲得した。

 そこで開発されたガルガウの強化発展機がこの「ガルガウ=レクス」である。

 ガルガウとの外見上の差異は背負う形で両肩に装備された共和連合お得意のドライバーキャノンと背部の大型推進用ブースター、全身に装備されたギガブラスター用のエネルギー供給用クリスタルパーツであり、カラーリングはメタルシルバーに変更されている。

 ドライバーキャノンはライグ=ゲイオスのものより更に大口径でその分威力は高い(=取り回しが低下)。

 また、腕部のバリアブルクローはグレートマジンガーのドリルプレッシャーパンチを参考にドリルクローへの変形が可能となり、背部の推進用大型ブースターを吹かした突撃はバルマーのフーレを一撃でぶち抜く破壊力を秘めている。

 口腔部にはガルガウではミサイルランチャーが設置されていたが本機では取り外され、変わりに仕込まれた超振動クラッシャーファングを用いて敵に噛みつくことが可能と、その特異な外観による精神的圧力を意識した武装等にグルンガスト等の地球産接近戦特化型特機の特徴が垣間見える。

 加えて、ライグ=ゲイオスのものを更に発展させたギガブラスターも装備している。

 全身のクリスタル状のパーツからエネルギーを放出、全面に集中させて強力なビームを放つ、というのは同じだが本機の場合はあえて集束させずそのまま全方位に撃ち出したり凪払うことが可能であり、正しく全性能が強化されている。

 レクスはラテン語で「王」を意味する。

 なお、地球連邦軍が購入したのはモンキーモデルであり、共和連合で運用する機体のみ本来の性能を発揮している。

 が、結局映画撮影用に色々手を加えられるので、あんまり意味は無かったりする。

 

 

・共和連合四方山話その9   時系列不明

 

 『ふん、地球人共も小賢しい。まさか商人共と手を組むとはな。』

 『仕方ないさ。向こうの打つ手の方が早かった。』

 『しかし、これではっきりしたな。』

 『確かに、そうとも言える。』

 『地球はこの宇宙の癌だ。我々が特異点を送り込む必要など無い。あの星はただあそこにあるだけで無数の破滅の可能性をこの宇宙に呼び込んでいる。』

 『僕達が管理するか、或いは破壊しなければ、この宇宙に安寧は訪れない。』

 

 共和連合側のラスボス組=対地球過激派の秘匿通信での一幕。

 お前らあんな修羅の星をどうにか出来るとか本気で思ってるの???

 

 

・共和連合四方山話その10  時系列不明

 

 『所で、地球側からの情報で、奴らもまだ発掘していないプロトカルチャーの遺跡があるらしい。』

 『何?あの連中にしては珍しい。』

 『この状況じゃ、リソースが足りないんだろう。ま、一恒星系国家としてはよくやってる方さ。』

 『して、何処にあるのだ、その遺跡は?』

 『バロータ星系にあるらしい。近々極秘で調査部隊を出す予定だ。』

 『面白い。私も一口乗らせてもらおう。』

 

 おいばかやめろ(ガチ)。

 原作を遥かに超える大馬鹿をやらかすフラグを立てた過激派の明日はどっちだ。

 

 

 




グレイターキンとガルガウ=レクスはムロンさんから頂いたオリジナル機体です。
この世界版グレイターキンと地球側技術で更に強化されたガルガウの新型。
武装等は後日の機体説明にて解説します。

なお、バロータ星系にはとある劇ヤベー連中が封印されております(白目)


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小ネタ会話集その10

・とある一般兵の叫び   ISA戦隊消失事件直後

 

 『くそ、こいつら何処から湧いてきやがった!?』

 『文句を言う前に弾幕を張れ!敵を市街地に近づかせるな!』

 『あんな特機軍団にビームライフル程度じゃ歯が立つ訳ねーだろが!』

 『っ、来るぞ!各機散開!』

 

 一般のジムⅡ部隊のパイロットらの通信記録から抜粋。

 ムゲ帝国軍残党とISA戦隊(マクロス・メガロード除く)の消失と時を同じくして地球各地に現れたミケーネ帝国の戦闘獣、そして太平洋沿岸地域を中心に現れた妖魔帝国軍の攻撃に連邦陸海軍は勝ち戦ムードから一転して死にもの狂いで対処する破目になった。

 しかし、旧式化した兵器ではマジンガーZに比肩する基本性能を持つ戦闘獣と巨烈獣、無尽蔵に湧き出す化石獣を相手取るには余りに非力だった。

 ISA戦隊残存戦力のマクロスとメガロードの活躍によってアフリカ・北米方面は対応が間に合ったが、極東方面を含む各方面にて大きな被害が発生してしまった。

 

 

・とある一般兵の叫びその2  ISA戦隊消失事件直後

 

 『司令、我々も地球方面の救援に向かうべきでは?』

 『準備はしている。しているが、間に合うかどうか…。』

 『くそ!ムゲとの戦闘は終わり、ズール銀河帝国との戦闘に注力しようという時に…!』

 

 月面の地球連邦宇宙軍の基地での司令部での一幕。

 地球上の戦闘は終わるだろうと予測され、新型機や主力量産機に主力艦艇を土星基地へと戦力と物資を移動している最中の出来事だったため、宇宙軍もまた対応が後手後手に回ってしまった。

 結果として、たった三日のISA戦隊主力の不在で地球連邦は大きな被害を出す事となったのだった。

 

 

・とある戦場にて  ISA戦隊消失事件直後

 

 『がははははは!我らミケーネ帝国七つの軍団の一つ、猛獣軍団!さぁ地球人共よ、我らに平伏すが良い!』

 「喧しい!デカいだけのサイボーグ共が!」

 『『『グエーー!?』』』

 

 うっかりBF団の一部を攻撃に巻き込んだ結果、あっさりと十傑集に蹴散らされたミケーネ帝国の戦闘獣軍団の一部。

 喧嘩を売る相手を間違えてはいけない(戒め)。

 こんな感じのノリで国際警察機構や地球上のA.I.M.各支部へと攻撃を仕掛けた者達は割とあっさりと一蹴されたりもした。

 

 

・冥王星大規模工廠基地にて  時系列不明

 

 『戦力配備状況は目標の70%まで完了。』

 『光子魚雷の貯蓄状況は110%に到達。今後も生産を続けます。』

 『機動兵器に関しては現状の無人迎撃機を主力にシズラーにて特記戦力へと対応します。』

 『シズラー並びに無人迎撃機の量産は順調。シズラーは現在約250機、無人迎撃機は2万機をキープ。今後も生産を続行します。』

 『艦艇は改良型巨人族製を主とし、指揮系統はエクセリオン級一隻を司令塔に中型艦隊指揮用戦艦3隻にて各艦隊を分担する様に。以降の大型艦生産は間に合わぬと判断し、斥候艦の生産に注力します。』

 『総旗艦プトレマイオスは現在地球にて会談中との事。頼むから急いでくれよ(絶望〉。』

 『予想されるズール銀河帝国軍の冥王星攻略作戦開始まで後…』

 

 冥王星大規模工廠基地における通信内容の一部。

 自動人形や艦載AIらによる超高速かつ多量の量子通信により、彼女らは常にリアルタイムで自己保存・成長を行っている。

 そのため、量子通信ネットワークそのものの破壊或いは総旗艦プトレマイオスの消滅でも無ければ、彼女達は幾らでも端末を乗り換えて復活できる。

 しかし、この冥王星に残された巨人族、特にゼントラーディ軍の各種兵器を生産できる大規模工廠を手放す事は今後の太陽系の防衛計画に大きな支障を来す可能性が高かった。

 極まった無人兵器である彼女らであるが、無人機であるが故にどうしても柔軟性に欠ける所がある。

 それを補うためにも物量と技術力の源の一つであるこの冥王星の拠点を手放す事は出来ない。

 だと言うのに、敵はこの宇宙でも屈指の単体戦闘能力を持つバグキャラの一角であり、今後更なる衝突が予想される負の無限力の一角であった。

 激突は、すぐそこまで迫っていた。

 なお、シズラー250機は一小隊3機と考えた場合の一個旅団+α相当の数に当たる。

 

 

・土星基地にて  時系列不明

 

 「戦力配備状況はどうなっておる?」

 「は、現在はMS部隊は最新のジェガンとゲシュペンスト、ゲルググの改良型が約3000、支援用の旧型が500、空間戦闘用MAが100、基地やドロス級に配備されたデストロイドが500となります。」

 「艦艇は?」

 「ムサイ改が70、チベ改が30、サラミス改2が両種合わせて200、ムサイ防空仕様が30、ドロス級が2、グワジン級が7、エクセリオン級が1隻となります。」

 「戦いは数だが、これではな…。ア・バオア・クーと同じくギレン兄がいてくれればな…。」

 「ドズル閣下、それは…。」

 「分かっとる。忘れろ。」

 

 土星基地にて、ドズル総司令と司令部要員の一幕。

 土星基地は土星の開発並びに防衛の最重要拠点として、土星全体の防衛の中心として稼働していた。

 この基地には一年戦争当時、アバオアクーやジオン本国たるサイド3、そして北米戦線やアフリカ戦線に残っていたあらゆるジオン軍の戦力(人員と兵器双方)の殆どを掻き集め、更に地球連邦宇宙軍からも嘗てレビル将軍の指揮下で戦った有力な艦隊が配備されている。

 当初は対異星人の前線基地の名を借りた島流し先と見られていた。

 事実、この基地に配備された事でジオン本国たるサイド3の防衛戦力は他コロニーからすれば一部の例外を除いて貧弱も良い所であり、「本国を人質に取られた上、贖罪のために強制的に異星人と戦わされるジオン軍」という構図にはジオン憎しという人々もそれ以上何かを言う事はなかった。

 しかし、これは必要な措置だった。

 ジオン軍が遠き土星に配置される事は地球圏各地での残党化を防ぐ事を意味する。

 それは即ち地球の安定化と=であり、地球連邦は戦後復興と戦力の再編に注力でき、更に遠い地とは言え一か所に固まったジオン軍は生き残ったドズル中将らの管理の行き届くようになり、地球連邦に反旗を翻そうにも物理的に余りに遠い距離と人質によって再度の地球人類同士の戦乱を防ぐ事が出来る。

 こうしてジオン軍の解体と残党化を防ぎながら壁として再利用し、報復を叫ぶ地球連邦やコロニー内の被害者やその遺族らの意見も汲みつつ、早期に次の手を打つだけの猶予を齎す。

 異星人からの脅威を地球連邦が本気で重要視していた事からも、被害者らの考えとは逆に本格的な追加の艦隊戦力配備や同基地での現地改修・開発も行われていた。

 しかし、それでも尚ズール銀河帝国軍相手では勝率は低かった。

 故にこそ、自身もまた兵士達と同様に妻子をサイド3に残し、総司令として同基地に配されたドズルは今は亡き頼れる長兄の事を口にしたのだった。

 やり方はどうあれ、国力差30倍を超える地球連邦軍相手に勝利まで後一歩という所にジオンを導いたギレンの手腕をドズルはしっかり評価し、弟として尊敬していた。

 だが、戦前・戦中の彼の数々の悪行(キシリアのも引き受けた)もあり、ギレンの名を出す事は同基地に連邦軍人も多くいた事からタブーとされていた。

 

 

・A.I.M.木星支部にて  時系列不明

 

 「どうぞ。」

 「ん、茶柱か。」

 

 すっかり馴染んだ元ギレン・ザビことゲイザー・ニブハイ(偽名。ギレン・ザビのアナグラム)木星支部長と総帥時代と同じく秘書のセシリア・アイリーン(ナノマシン式高級自動人形)の休憩中の一幕。

 土星にて弟がシリアスしてるのにこいつと来たら総帥時代のノウハウを活かしつつ、当時出来なかった事をガンガンやって成果をガツガツ出している。

 加えて、三日置きに初恋相手であるトレミィと通信でほのぼの会話できると言う今までにない穏やかで満ち足りたリア充生活を送っていた。

 でも弟と違って、しっかりと木星圏防衛計画とか練った後の事なので、この辺は要領の良さの違いでもあった。

 

 

・サイド3首相官邸付き首相宅にて  時系列不明

 

 「あら、この子ったら蹴ったわ。」

 「おや、今度の子は随分お転婆の様だ。」

 「ふふ、きっと元気な子でしょうね。」

 

 すっかり険の消えた元紫ババアと旦那の家庭の一幕。

 君達本当にザビ家なの???と原作を知る者達からすれば宇宙猫顔になりそうな光景がそこには広がっていた。

 なお、公国時代の城は現在観光スポットへと改装され、結構人気になっている。

 

 

・サイド3某所にて  時系列不明

 

 「貴方、今日は遅くなるのですか?」

 「あぁ、すまないねイセリナ。出来れば君とお腹の子に付いていたいんだが…。」

 「大変な時期に必要とされているのです。どうか胸を張って下さいまし。」

 「イセリナ…。」

 「あ…。」

 

 ザビ家末弟とその奥方の新婚家庭の一幕。

 漸く子宝に恵まれたのに仕事続きの自分に内心ぐぬぬとしているガルマに対し、イセリナは妻としてしっかりとその背を支えた。

 なお、10分程多く待たされた運転手はコロニーの空へと虚ろな目を向けていたと言う。

 

 

・地球圏位相空間内 プトレマイオスのブリッジにて  ISA戦隊帰還直後

 

 「ヤザン少佐に連絡を。向こうのトップと話し合いが出来ないか尋ねて。」

 「了解しました。」

 

 ISA戦隊と共にやってきたアイドルの少女達の存在とそのデータを見た後のトレミィとSfの一幕。

 アイドルマスターの世界からやってきた少女達に関しては凄まじく驚いた。

 驚いたが、彼女らの存在が現在彼女が欲して止まないキーパーソンであったため、是が非でも利用する事を決めた。

 全ては人類存続と彼女の子供達のために。

 この冷徹さと情の深さの二面性こそがギレンの心を掴んで止まないのだと、トレミィだけが知らないでいた。

 

 

・極東方面A.I.M.支部にて  ISA戦隊帰還直後 

 

 「そちらの言い値を書いてください。」

 「あの、白紙の小切手は困ります。相場もありますので…。」

 「現在、彼女らの価値は普通のアイドル所ではないと当社では考えております。無論、報酬の他に衣食住や訓練施設に遊行費等、全てを当方で負担いたしますし、帰還の際にも別途成果報酬をお渡ししますので、何卒ライブを行って頂きたく…。」

 「…分かりました。しかし、そちらに事情があります様に、こちらにも事情がありますし、彼女ら本人の意見も聞いてから返答をしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 「畏まりました。こちらとしても彼女達に万全の状態で歌って貰いたいため、その意見は最大限汲みたいと考えております。」

 「ありがとうございます、何から何まで。」

 「いえ、こちらこそ無理を言って申し訳ありません。しかし、残された時間は余りに少ない。可能な限り、早めに結論を出して頂きたいのがこちらの考えです。勿論、皆様が元の世界へと帰還できる様に最大限助力させて頂きます。」

 

 武内プロデューサーと担当自動人形の一幕。

 A.I.M.としてはアインストとの会談に当たり、是が非でもライブを行ってもらいたく、こうして交渉を行った。

 武内Pとしても事態が事態である故に慎重に判断しつつ、自分達の面倒を見てもらっている事もあって断る事は出来ないと考えていた。

 幸いと言うべきか、何故かアイドル達は殆どが落ち着き払って事態を受け止めているため、地底世界で過ごした事で混乱も既に治まった事もあって、全員がライブ開催に賛成した。

 まぁ場慣れしてるからねぇ彼女達。

 

 

・極東方面A.I.M.支部にて  ISA戦隊帰還直後 

 

 「おお!?これは立体映像か!凄いな、こんな発想は我々には無かった!」

 「いやーこれ凄い高度な技術だよ?個人のサイズと動きにリアルタイムで映像を合成しながら合わせて動かすなんて私達の世界じゃPCのスペックと映像機器の性能からも無理だわー。どんなハードなんだろ?」

 「お二人共、機材が気になるのは分かりますが、これから使うものを解体しないでください…。」

 

 なお、会場設営の際、最新の立体映像等の設備に流石はSF世界!と全員が喝采と驚愕の声を上げた。

 そして天才二人組が早速バラそうとして止められていた。

 

 

・地球某所のコンサートホールにて ISA戦隊帰還直後

 

 「本日は急なお誘いに応えて頂き、感謝しております。」

 「いえ、こちらも皆様とは話し合いの必要があると感じておりましたので、渡りに船でした。」

 「直接では初めまして。私はA.I.M.グループ会長プトレマイオス、こちらはムー帝国女王レムリア陛下です。」

 「存じております。小官は元地球連邦軍中佐コムギ・パストゥール。現在はアトミラールと名乗っております。」

 「あ、私は単にフォアルデンとお呼びください。前はただの民間人でしたのでー。」

 「ではそのように。アトミラールさん、フォアルデンさん、本日はよろしくお願いします。」

 「で、そちらの方が…?」

 「私はアインストの統括個体、その端末だ。この端末には名前がない。」

 「では、本体の名前でお呼びしますね?」

 「本体の名前はノイ・レジセイア。我々の多くに個の概念は薄いが、その名称が私の個体名に該当する。」

 「では皆様、間も無くライブが始まりますので、難しい話はその後という事で…。」

 「私、実はアイドルのライブって初でして。こういう時はどうすれば良いんでしょうか?」

 「あーただ雰囲気に合わせて歓声上げたり手を振ったりすれば大丈夫ですよーぅ。」

 「あ、始まりましたよ。」

 

 地球某所のコンサートホールにて、地球圏の今後を左右する重大極まりない秘密会談の席での一幕。

 異世界からやってきたアイドルの美少女達のライブ(向こうで開かれているフェスの直前で転移したので、衣装や振付等は準備できていた)に心癒されながら、今後の地球人類とアインストの関係を定めるための重要な会談は進んでいった。

 なお、ノイ・レジセイアはトレミィの目論見通り、完全に本来の存在へと回帰させる事に成功、友好関係の妥結に成功する事となる。

 

 




祝!アインストと協力関係の締結完了!
今後、正式な同盟になるかどうかは地球連邦政府とA.I.M.の頑張りに掛かってるぞ!
初の異種知的生命体とのコンタクトと条約締結とか、どう考えても歴史上の超重要事項です。
(強制的に任された)レビル大統領の胃と毛根はもつのか!?


太陽系防衛用無人機動部隊が長すぎる!
なので英語訳の「Unmanned Task Force for Solar System Defense」の頭文字を取って以降は「U.T.F.S.S.D.」とします。
あんまり略になってない?
漢字ばっかよりはマシという事で。


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第60話 妖魔大帝その4

本ステージにおける一般的スパロボプレイヤー

お、指定エリア防衛戦だから敵が勝手に来てくれるじゃーん
→敵が沢山!よーし、幸運努力MAP兵器連射ぁ!
→ボスが何度も復活!オイシイオイシイ!
→敵が無限復活の稼ぎ面!ターン制限無しでボスの増援も来るとか美味し過ぎィ!!(絶頂)

大体こんな感じです。


 新西暦186年9月28日 極東方面 臨海市

 

 遂に現れた妖魔帝国の長、妖魔大帝バラオ。

 そしてバラオの召喚した妖魔巨烈獣バラゴーンと復活する無数の巨烈獣に化石獣。

 その物量と戦場を覆い隠してしまう程のプレッシャーに、ISA戦隊分隊は徐々にだが不利に陥っていった。

 先程までならまだ何とかなった。

 多数の物量はシズラー三機によって蹂躙され、今も抑え込まれているが、文字通り無限に復活すると言うのなら何れ破綻する。

 そして、肝心の敵指揮官を撃破しようにも、生半可な攻撃は通じない事は出現時に証明されてしまった。

 特機部隊が果敢に仕掛けるも、バラゴーンへの対処で手一杯であり、バラオに割ける余裕がない。

 否、本来なら余裕はあった。

 本来の規模、ムゲ帝国軍司令部へと強襲を仕掛けた時の規模であれば、この状況を突破出来た。

 しかし、無い物強請りをした所で意味はない。

 ISA戦隊だけでなく、現地の防衛部隊も必死に健闘しているが、何れ機体のエネルギーや弾薬も切れる。

 否、そうでなくとも何れ疲労が限界に達してミスをし、そこから切り崩されるだろう。

 状況を好転させ得る要素が無い以上、ジリ貧と言っても良い。

 そんな状況の中で、幾人かはこの状況に違和感を抱いていた。

 何故かいつもよりも力が出ない、意識がはっきりしない。

 普段なら出来る事が、何故か今は普段程に出来ていない。

 

 『な、なんだ…?』

 『くそ、反応が鈍い!』

 『機体の状況は良好なのに…!』

 『これは…敵の妨害か!?』 

 

 僅かに通信で流れて来る味方機の呻きや戸惑いの声に、漸く勘の鋭い者達が気付き出した。

 それは普段の彼らからすればとても遅いものであり、既にして手遅れである事にもまだ気付けていなかった。

 

 『全員気を付けろ!敵の精神攻撃だ!』

 『広範囲かつ遅効性とはやってくれる…!』

 『なんだと!?』

 

 NT二人からの警告に、ブライトは驚愕の叫びを上げる。

 

 『各パイロットの生体反応を確認!』

 『こ、コンディションは全員イエロー!一部はレッドです!』

 『何て事だ!』

 

 ブライトはここで漸く敵の策に嵌った事を悟った。

 機体ではなくパイロットへの直接的な攻撃手段である精神攻撃が登場してからと言うもの、パイロットの体調を直ぐに把握するためのシステムが必要とされた。

 こうして生まれたのが機体側でパイロットの体調を把握し、普段のデータと異なる部分から戦闘時の状態を把握するというシステムだ。

 元々はNERVのエヴァパイロット達向けに採用されていたシステムをより簡易化したものであり、座席部分を取り換えた上で機体のシステム面に少し追加するだけで済む程度のものだったため、欧州戦線の戦訓から現行主力機や特機は全てこのシステムが搭載されている。

 そこから示されるデータは明らかに悪いものだった。

 グリーンならば何の問題も無いのだが、イエローならば後退の必要性有り、レッドならば早急に戦闘を終了して医療施設へ搬入する必要性有りとされる。

 それが一部とは言え出ているのだから、ブライトの叫びも当然のものだった。

 

 「ハハハハハハハハハハ!なんだ、漸く気付いたか鈍間な人間共!」

 『バラオ!やはり貴様の仕業か!』

 『無論よ!このバラオが貴様らの様な多少やるだけの猿風情をまともに相手をしてやると思っていたのか?』

 

 ニヤニヤと、その異形を嘲笑の形に歪めるバラオ。

 既に大勢は決したと見るや、散々手を焼かせてくれた人間達の負の感情を摂取しようと一旦攻め手を止め、丹念に心を折る事に決めたのだ。

 

 『貴様らが幾ら足掻こうとも既に無駄。我はここ暫くの戦いで死したあらゆる者達の怨念を吸収し、力を蓄えてきた。嘗ての頃とは行かぬまでも、既に貴様らではどうにもならん程になぁ?』

 『そんな…!じゃぁ欧州の人達は…。』

 『いや、それだけじゃない。ムゲに地底種族連合、連邦軍。全てあいつが…!』

 『その通り!敵も味方も関係ない!巨烈兄弟も含めて、全てが我が生贄となった!』

 

 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

 戦場にバラオの哄笑が響き渡り、歴戦のISA戦隊と雖もその戦意に衰えが見え始める。

 もう少し後押しがいるな。

 そう判断したバラオは、次々と彼らの心を折るための理由作りをしていく。

 人間、何の理由もなく心が折れたりはしないが、逆に当然の理由があればどんな行動ですら正当化してしまうものだ。

 過去に起こった虐殺や凄惨な事件だって、宗教や民族、国家間や個人の対立が正当化されたり、怨恨が理性や法の軛を超えたが故に起こったのだ。

 ここで戦士達に「負けても、心が折れても仕方ない理由」を追加していく事で、バラオは完全に戦士達の心を折り、その上で己の糧として血祭りに上げようと言うのだ。

 

 『なぁお前達、先程から身体が重いだろう?動きが鈍いだろう?』

 『まさか!これもお前が!?』

 『当然!貴様らが今覚えている恐怖!苦痛!憎悪!怒り!全て全て我が糧となっているのだ!そんなものを吸い出されては、そりゃ戦意も萎むというものだろう?』

 

 お前達の様な存在こそが、このバラオの最大の栄養源なのだよ。

 ビシビシ、ピキピキと。

 戦士達の心が折れ始める感覚に、バラオはこれ以上ない愉悦を感じていた。

 

 『なぁひびき洸よ、貴様こそ何故戦うのだ?そのライディーンを降り、ムートロンさえ渡せば、我は貴様の家族や恋人には手出しはせぬぞ?』

 

 文字通りの悪魔のささやき。

 武器を捨てれば見逃してやる。

 そんなとても分かり易い誘惑に、しかし、早くも防衛部隊の方には効果が出始めていた。

 

 『あ、あ、武器、武器を捨てれば…。』

 『死にたくない…死にたくない…。』

 『な!?お前ら、機体を降りるな!死にたいのか!?』

 

 優秀とは言え、普通の人間である彼らにとっては、バラオという超常の存在の力ある声は即ち神の声にも等しい。

 心折れ、伏して祈るしかないと思考を固定された彼らは正気を失って、次々と機体から降り始めていた。

 

 『さぁひびき洸よ。お前達も我に平伏すのだ。さすれば貴様らと家族の命だけは慈悲を示してやろうではないか?』

 『だ・ま・れェェーー!』

 

 周囲の誰もが動きが鈍る中、ライディーンは脇目も振らず、単騎でバラオへ向けて突撃した。

 

 『い、いかん!援護しろ!』

 『駄目だ、ひびき君!』

 

 ブライト少佐の命令に、即応したのが超能力者故にある程度抗えていた明神タケルのゴッドマーズだった。

 鈍重な機体ながら必死に追い縋るが、それを巨大な赤き竜バラゴーンが遮る。

 

 「GWOOOOOOON!!」

 『く、邪魔をするな!』

 

 如何にゴッドマーズとは言え、弱体化した状態ではバラゴーンを一対一では倒せず、その対応へと注力せざるを得なかった。

 それはつまり、ライディーンは単騎でバラオと相対する事を意味していた。

 

 『ふははははははははは!よくこのバラオの前に来れたな、ひびき洸!』

 『黙れバラオ!今日こそは貴様を倒し、妖魔帝国を終わらせる!』

 『不敬!だが許す。態々我にムートロンを献上してくれると言うのだからなぁ!』

 

 上半身だけもライディーンの3倍以上の巨体から繰り出されるのは、悍ましい程の呪力が込められた破壊光線の雨だった。

 必死に回避し、時にはゴッドゴーガンを盾状に展開して防ぐものの、その多くがライディーンの装甲を貫き、深刻なダメージを与えてくる。

 

 『ぐ、ああああああああ?!」

 『今や地球上に残ったムートロンの過半数がその機体の中に貯蓄されている!ライディーンを破壊し、その中のムートロンさえ手に入れれば、今度こそ1万2千年前より掲げた我が悲願、悪魔世紀の実現が叶うのだ!』

 『まだ、まだだ…!オレは…!』

 『ありがとうひびき洸!ありがとうライディーン!貴様らが無謀にも我が眼前に現れた事で、遂に我が望みが実現する!』

 

 ダメージを受け、動きの停止したライディーンをバラオがその両手で掴み、捕獲した。

 後は焦れったい程ゆっくりと力を籠めて、握り潰すだけ。

 それだけで、彼の野望は達成できる…

 

 『行くぞ、アルト。』

 

 ド、ゴォッ!!

 ヒュッケバイン二機とシズラー三機、サイバスターにヴァルシオーネと言った高機動特機かそれに準ずる機体を除けば、この面々の中では直線的加速においては圧倒的な性能を持つアルトアイゼンが、両手でライディーンを拘束するバラオ目掛けて突貫した。

 

 『ちょ、キョウスケ!?』

 『無茶だ、中尉!』

 『えぇい、何という!』

 

 その目を疑う出来事に、停止していたISA戦隊が再起動し、攻撃を再開し始める。

 自身の危機ならば心折れた所で自分が死ぬだけで済む。

 しかし、仲間の危機となれば話は別なのが彼らだった。

 

 『全リミット解放、ブレイクフィールド展開、フルブースト。』

 

 そんな仲間達の声を背に、全ての機能を推進力を得るためだけに費やして、アルトアイゼンは遂にバラオへと到達した。

 

 『小賢しい!そんな玩具でこのバラオを…!』

 

 ズガァァン!!

 バラオの言葉を遮るかの様な巨大な衝突音と共に、バラオの眼前に展開された結界にアルトアイゼンのブレイクフィールドが衝突、拮抗しながらも互いに負荷を増大し、撓んでいく。

 

 『馬鹿め!その様な原始的武器で、一体何をするつもりだ?』

 『今、僅かだが重圧が緩んだ?』

 『貴様…っ!』

 

 戦場全域に展開されるバラオの妖魔術。

 それは術者を基点とした攻性結界の様な代物であり、厄介ではあるが決して絶対でも無敵でもない。

 本当にそうならば、ISA戦隊と雖も既に全滅させられていてもおかしくはない。

 その証拠に「目の前の事態に対処するために、妖魔術による重圧が緩んだ」のだ。

 もし本当に絶対かつ無敵の力がバラオにあるのならば、そもそもムートロンすら必要は無い。

 ならば、やれる筈だ。

 この絶対的とも言える怪物を殺す事だって、不可能ではない。

 

 『良かろう。貴様だけは丹念に磨り潰してくれる!』

 『どんな守りだろうと…』

 

 がきん、と右腕のリボルビングステークに、特製の赤いカートリッジが装填される。

 通常のビームカートリッジではなく、その3倍のエネルギー量を誇る対特記戦力向けのビームマグナムカートリッジである。

 その解放による衝撃波が特製の杭によって直接機体内部へと浸透させた場合、どんな結果になるのか?

 バリア等の防御無しで受ければ、先ず間違いなく現行の量産型特機の中では最も硬いシズラーやグレートマジンガーにさえ通用する威力を叩き出す代物である。

 では、それを加速が最大限になった状態で連射すれば、一体どうなるのだろう?

 

 『ただ、撃ち貫くのみ。』

 

 軽くなったとは言え、未だ襲い来る妖魔術による弱体化を受けながら、それでも尚キョウスケは迷いなく、最速で敵の懐へと踏み込んだ。

 ズガガガガガガン!!

 今まで殆ど経験しなかった程のエネルギーが右腕内部の回転弾倉内部で次々と爆発、その威力を余す事なく杭へと伝え、バラオの結界へと直に伝え…

 

 『馬鹿な!?何の加護もない人間に破られたと言うのか!?』

 

 呆気ない程簡単に、バラオの結界はパリンと割れた。

 バラオからすれば驚愕しかない。

 魔導技術が衰退して物理的技術にのみ拘泥する今の人類に、ライディーン等の先史文明の遺産等を除けば、自分に対抗する術など無い。

 それが戦う前のバラオの考えであり、事実として一般的にはそうだった。

 なのに、何の神仏の加護も異能も持たないただの人間の駆る純物理的兵器が、この妖魔大帝の結界を打ち砕いた。

 バラオからすれば、その事実は決して許せるものではないし、この世界にあってはならない。

 バラオは己の野心以上にその屈辱を消すためだけに、アルトアイゼンへと矛先を向ける。

 しかし、その行動は余りに無謀で隙だらけだった。

 

 『今だ!ゴォォォッド!』

 『しま…!』

 『ラ・ムぅぅぅぅぅ!!』 

 

 一瞬の隙を突いて、ライディーンの胸部から3つの砲口が展開、そこからライディーンの奥の手たるゴッドボイスが発射され、バラオの両手を粉微塵の様に粉砕した。

 

 『っ、キョウスケさん!』

 『あぁ!』

 

 空かさず、感情に振り回されて余りに迂闊に踏み込み過ぎたと思い知ったライディーンは即座に後退、右腕の駆動系が焼き切れたアルトアイゼンを抱えて退避する。

 

 『おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれェ!!もう許さぬぞ貴様ら!じわじわと嬲り殺すのは止めだ!全員惨たらしく殺してやるわぁ!!』

 『ハン!こっちこそ、アンタみたいな下種野郎に降伏するなんて願い下げだね!』

 『壊せるんなら殺せる!殺せるんなら滅ぼす事も出来る!何度だってやってやる!』

 『各員、気合を入れ直せ!ここで我々が倒れ、バラオがムートロンを手に入れれば、人類はムゲ帝国軍かそれ以上に悪辣な侵略者へと地球を明け渡す事になる!ここで絶対に阻止するんだ!』

 

 リューネとマサキ、そしてブライトからの激励に、ISA戦隊のみならず守備隊までもが次々と正気に戻り息を吹き返していく。

 それはバラオが最も忌み嫌うものの一つ。

 人の持つ、命の、魂の煌めき。

 負の無限力に対抗できる、誰もが持つ光だった。

 彼らは今、バラオの放つ妖魔術という精神への重圧を、自前の精神力だけで打ち破らんとしていた。

 

 『…良かろう!今再び、このバラオの妖魔術をとくと味わうが良い!』

 

 だが、一度苦労して打ち破ったのなら、再びかけ直してしまえば良い。

 今のはみっともなく足掻いた事でたまたま縄が解けたに過ぎない。

 だったら、もう一度縄をかけ直せば、先程の繰り返しとなった所で何れ消耗して崩れ去る。

 バラオの側には未だ無尽蔵に湧き出す巨烈獣に化石獣、そして自分の分身とも言えるバラゴーンがいるのだから。

 

 『あら、これは絶好のチャンスですわね?』

 「GYAOOOW!?」

 

 オニボサツ・ヨミジ。

 臨海市の山間部から突如放たれた極太の光線が二条放たれ、バラオを守るべく正面に移動していたバラゴーンへと直撃したのだ。

 苦痛に悶えるバラゴーンを他所に、山間部からは二機の不明機が現れ、ISA戦隊へと加勢するようにその隣へと進み出た。

 現れた二機の不明機は赤と白の鬼面が寄り集まった様な奇妙な機体、そして白銀の直立した野獣の様な機体だった。

 アインスト4人娘の幼年組の乗機、ペルゼイン・リヒカイトとレイデンシャフト・クリンゲであった。

 

 『御機嫌よう、ISA戦隊の皆様。私はアインスト・アルフィミィ。故あって加勢させて頂きますの。』

 『えぇっと…レーベン、です。アルフィミィのお手伝いで加勢します…。』

 『…こちら、指揮官のブライト少佐だ。取り敢えず、こちらに敵対しないのなら構わない。』

 『まっかせてくださいの!あんにゃろうの赤ら顔に思いっきりかましてやりますの!』

 

 ISA戦隊は先の第二新東京市での出来事から多少の疑いと戸惑いを感じるだけだったが、彼らよりも遥かに大きく反応したのは、敵対する事となったバラオの方だった。

 

 『ば、馬鹿なッ!?何故監視者が今更人類に味方する!?またも横槍を入れるつもりか!?』

 『あぁ、そう言えば前回も横殴りしたと聞いていましたの。』

 

 動揺も露わに叫ぶバラオに対して、そういやそんな事もあったねーと実に軽い調子でアルフィミィはさらっと答えた。

 そんな彼女だがしかし、その胸中に激情が轟々と燃え上がっている事に気付けたのはほんの僅かな者しかいなかった。

 

 『でも今回はもっと個人的な事ですの。具体的には貴方、キョウスケとエクセレンの事を殺そうとしましたの。だから私がぶっ殺しますの。』

 『だから、やっちゃう、ね?』

 

 こうして、臨海市防衛戦は予想もつかない方向へと動いていくのだった。

 

 

 

 

 

 



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第61話 妖魔大帝その5 加筆修正

 新西暦186年9月28日 極東方面 臨海市

 

 アルフィミィとレーベン。

 ペルゼイン・リヒカイトとレイデンシャフト・クリンゲ。

 バラオの妖魔術を苦も無く弾くこの二機の参戦により、事態は辛うじて防戦一方から膠着状態へと移っていた。

 

 『そこ、頂きですの。』

 『WAOOOOOON!』

 

 近接もいけるが、それ以上に大火力によって次々と敵を薙ぎ払うアルフィミィと只管突撃してかき乱すレーベンの戦い方は馬が合っており、その性能からも特機部隊にも一切引けを取らぬ程に活躍していた。

 

 『は、ははは!たかが二体が何だと言うのだ!単に個人的な感情で突っ込んできただけならば、この場で始末すれば良いだけの事!』

 

 が、それもバラオの動揺が納まるまでの事だった。

 

 『者共かかれぇい!貴様らは元より不死身!何を臆する事がある!その命、その魂、その全てをバラオに捧げよ!』

 

 自棄になったのか、それともアインストの本格的な介入は無いと踏んだのか、僅か数分後には妖魔帝国軍は再度の攻勢を開始した。

 

 『チィ!やはりこの数が相手では…!』

 『それ以上に奴の術を破らねば碌に反撃にも出れん!痩せ我慢にも限度があるぞ!』

 

 そう、ISA戦隊は別に妖魔術を破った訳ではない。

 単に痩せ我慢して戦っているに過ぎないのだ。

 ずっと自分達に覆い被さっている圧迫感や脱力感を気合だけで耐え、戦闘を続行していたのだ。

 アルフィミィとレーベンの援護で多少持ち直したものの、既に底は見えていた。

 

 『っ! 艦長、後方に転移反応!』

 『識別急げ!敵ならば迎撃用意!』

 『いえ、これは…味方と敵の反応が重なっている…?』

 『何だと!?』

 『この識別は、U.T.F.とアインストです!』

 

 オペレーターの困惑し切った叫びと共に戦場の後方、市街地付近の森の上へと3隻の戦艦サイズの機影が出現した。

 

 『識別確認取れました!一隻はU.T.F.所属エクセリオン級4番艦、一隻はアインスト側の旗艦、もう一隻は不明です!』

 『至急エクセリオン級4番艦に対して通信を繋げ!何が起こってるのか確認するんだ!』

 

 ブライト少佐の言い分も最もだった。

 何せアインストとは既に人類の守護者の一角であるU.T.F.と位相空間内で交戦して撃滅する事が出来ず、魔神覚醒事件の大被害の一因にもなった勢力だ。

 そんな不倶戴天の関係にある筈の両者が不明艦と共に現れる等、歴戦のISA戦隊をして全くの意味不明ぶりに困惑し切りだった。

 何せ現れた三隻の内、アインスト側の旗艦と言われたのはアトミラールの乗艦であるグラウベンであるが、残りの一隻はそもそも戦闘用艦艇であるのかすら不明だったからだ。

 形状は古代の水上艦艇、それも神話の絵画等に出て来る箱舟のソレなのだが、その全てが赤い結晶体により構成されており、表面には武装になりそうなものは一切無い。

 サイズは全長2kmで、エクセリオンとグラウベンに挟まれる様に浮かんでいるソレは、本当に兵器なのか、そもそも現実の光景なのかすら疑う様な代物だった。

 

 『何とか間に合ったか…こちらアインスト所属グラウベン艦長のアトミラール。U.T.F.並びに地球連邦政府との同盟締結により、これより支援行動を開始する。』

 『こちら地球連邦軍参謀本部所属ISA戦隊分艦隊指揮官のブライト少佐です。同盟締結と言うのは本当なのですか?俄かには信じ難いのですが…。』

 『ブライト少佐、その辺りは本当の事だと私が証言致します。』

 『母さん!?何でその船に乗ってるんだ!?』

 

 エクセリオンと繋ぐ寸前に繋げられたアトミラールからの通信にブライトは疑念を抱くも、要人中の要人の登場とその息子の叫びによって疑念は掻き消された。

 

 『洸、今はあのバラオを前にしているのですよ!シャキッとしなさい!』

 『は、はい!』

 『こちらエクセリオン級4番艦統括自動人形です。ブライト少佐にISA戦隊の皆様、疑問は尤もですが、今は目の前の敵の撃破に集中してくださいませ。これより本艦隊による援護を開始、バラオの妖魔術を無効化致します。』

 『ではノイ様、お願いします。』

 『了解した。これより「ズィーゲルヴィーゲ」を起動する。』

 

 言うや否や赤い水晶の箱舟、ドイツ語で「封印の揺り籠」と言われた船が輝き始める。

 

 『ん?これは…。』

 『プレッシャーが消えていく…。これがあの船の効果か。』

 『お、頭がすっきりしてきたぜ!』

 『これはまた…。』

 

 その効果は、パイロット達の通信からも伺えた。

 

 『艦長!各パイロットのメンタルが平常値へと回復していきます!コンディションは大凡グリーン、一部イエロー!』

 『よし、反撃の好機だ!各員は敵機を蹴散らしつつ、バラオを撃破しろ!今日を妖魔帝国最後の日にしてやれ!』

 

 ブライトの号令の下、機動兵器部隊が火を噴いた様に縦横無尽に敵を撃滅していく。

 更にそこにグラウベンやエクセリオンからの援護射撃が突き刺さり、数だけは多いとは言え妖魔帝国軍は押されていった。

 

 『馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!?何故だ、何故監視者たる貴様らが人類に与する!?何故今更横槍を入れて来るのだ!?』

 『負の無限力、その残滓よ。それは一重に貴様らがこの星に集まり過ぎた故。貴様らを滅ぼさぬ限り、正と負の無限力は延々とこの地に集い、滅ぼし合う。』

 

 混乱の極致にあるバラオ、その叫びに応えたのはグラウベン内にレムリア女王とアトミラールと共にいたノイ・レジセイアの人型端末だった。

 歴史ある亡国の女王とガチガチの軍人の威圧にも負けず、所か塗り潰してすらいる女性型の端末の外見はメリハリの効いた肢体、先端に黄色のメッシュの掛かった濃紫の長髪の美貌を緑や赤系の刺繍やアクセサリーが随所に見受けられるドレスで包んでおり、何処か本体たるノイ・レジセイアを彷彿とさせる色彩だった。

 

 『では、何故我のみを狙う!?正と負の無限力、その過密が災いと言うが、我らが滅ぼし合うは必定!古からの摂理に過ぎぬ筈!それを阻み、剰え片方を滅ぼすとは如何なる要件か!?』

 『此度のアポカリュプシスの始まりは、そも負の無限力の側からである。負さえ消えれば、呼応した正もまた労なく消える。それだけの事。』

 『貴様、貴様、貴様は…!』

 『加えて、我が古きより見定めし星に外敵を招く者等、1万2千年前と同じく滅ぼされて然るべきである。』

 『貴様ぁあああああああああッ!!』

 

 バラオの絶叫、しかしその激情のままに妖魔大帝が突撃する事は出来ない。

 既に眼前にはあの赤い水晶の船から発せられるジャミングによって消えた結界を乗り越え、下半身に相当する島へとISA戦隊の特機部隊が乗り込んできたからだ。

 

 『おおお、おおおおおおおおおお!おのれおのれおのれおのれおのれおのれぇ!』

 

 己の劣勢を自覚しながらも、バラオは再度全身から妖力を噴出し、妖魔術を行使しようとした。

 

 『では皆様、よろしくお願いします。』

 『はーい!今日は私達』

 『ニュージェネレーションズが歌います!』

 『たっぷり聞いていってくださいね!』

 

 エクセリオン級の第七ハッチ(ガンバスターが初出撃した所)。

 そこに設置された特設ステージより、三人のアイドルである少女達が煌びやかな衣装とステージに囲まれ、笑顔と共に歌い出したのだ。

 なお、見えない所では照明や音響担当らがしっかりサポートし、そのステージの下、観客席にも格納庫一杯の自動人形達が手に手に専用に調整したペンライトを持ってライブを見守っていたりした。

 その自動人形達の頭や肩には推しアイドルの名前や曲名、デフォルメされた姿が印刷された鉢巻やタスキが装備されており、正に万全の状態だった。

 …君達、今戦闘中よ???

 余りの事態に事情を知っている者達を除いだ敵味方が呆気に取られる中、少女達の歌声が響き始めるとその効果は直ぐに現れ始めた。

 

 『何だこの歌?』

 『聞いた事ない奴ですね。』

 『でも、何か力が湧いてこない?』

 『何故歌でこんな湧き上がるものを感じるんだ…?』

 

 パイロット達は余りの突拍子の無さに戸惑ったが、次第に何か温かな熱の様なものを感じ、次第にその熱量のままに動きが精彩に満ちていく。

 

 『何だこれは、どうしたと言うのだ!?何故このバラオの妖魔術がたかが歌如きに掻き消されるのだ?!』

 

 一方、妖力が雲散霧消して何の効果も出せなかったバラオは混乱の極致にいた。

 しかし、それも無理もない事だった。

 1万2千年前の戦いでも、超能力や魔術で対抗された事はあれど、単なる歌によって自身の術が無効化された事は無く、完全に初見だったのだから。

 

 『何なんだこれは?』

 『パイロット達のメンタル、更に回復していきます!』

 『………よし、考えるのは後だ!今は目の前の敵に集中するんだ!』

 『皆様、注意事項ですがあの赤いクリスタル状の船とエクセリオン級が沈んだ場合、この効果は消えてしまいますので、くれぐれもこちらまで攻撃を通さない様によろしくお願いします。』

 『聞いていたな!後ろに敵を通さず、目の前の敵に対応しつつ、バラオを撃破するんだ!』

 

 ブライトはかんがえることをやめ、必要となる号令を下した。

 こうして、妖魔帝国軍との決戦は遂に最終段階へと進むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『アルフィミィにレーベン。こそこそしてるけど、後でしっかり話を聞かせてもらいます。良いですね?』

 『ヒェ…べべべべ別に隠れていた訳ではありませんの。ただちょっと慎重になろうかと…。』

 『きゅーんきゅーん…。』

 『 良 い で す ね ?』

 『『はい……。』』

 

 (っぶねー。私がてきとーに観光しちゃいなYO!とか言ってたのバレてないみたいですね、良かったー。)

 

 『フォアルデン?貴方も後で話をするわよ?』

 『ア、ハイ。』

 

 ちゃんちゃん♪

 

 




ズィーゲルヴィーゲ
 元は対ZERO等のチート系への対抗策とすべくアインスト側で開発。
 敵の持つ特殊能力を全て無効化する能力を持つ。
 が、その範囲はあくまで因果律干渉とか魔法や魔術に超能力といった物理現象を飛び越えた領域のものであり、単なる自己修復機能とかは含まれない。
 バリアはあるけど大して装甲もない戦闘力ゼロ。
 詳しくは後日で。



 ISA戦隊、歌エネルギーと遭遇す。
 バラオ、自分の知らん所で詰まされる。
 の二本でした!


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第62話 妖魔大帝その6 最後に加筆修正

 新西暦186年9月28日 極東方面 臨海市

 

 妖魔術を無効化され、パイロットらの気力が十二分に回復した時、この時点で既に勝敗は決していた。

 この後の展開が正に消化試合としか言い様が無かった事からも伺える。

 しかし、バラオは撤退しなかった。

 否、出来なかったと言える。

 幾ら戦力を無尽蔵に復活させられるとは言え、それはバラオの魔力=エネルギーを消費してのもの。

 また、巨烈兄弟やシャーキンの様な優秀な配下の数は少なく、自分自身は未だ最盛期程の力を取り戻した訳ではない。

 それを補うためのムートロンの奪取だったのだが、それも既に失敗した。

 そんな状況で物理・魔術両面で今の自分を相手に有利に立つ事の出来る敵を相手にする事は自殺行為に等しい。

 普通の指揮官ならば撤退を選んでいる状況だ。

 だが、U.T.F.とノイ・レジセイアの双方がこんな美味しい状況を見逃す筈がない。

 

 『重力による空間干渉開始、転移阻害力場は順調に作動中。』

 『札を一つ切ったのだ、ここで終わらせてもらうぞ。』

 

 妖魔術と物理科学双方での転移並び反則技を封じられた状態では逃げ出す事も、そのための隙を作る事も出来ない。

 結局、この二勢力が戦場に現れた時点で、バラオ率いる妖魔帝国は詰んでいたのだ。

 後はもう過たず詰んでいくだけで良い。

 

 『ホーミングレーザー!…けほっ』

 『音声入力も考えものね…。通常入力に切り替えましょ。』

 『後で喉飴買いましょうか…。』

 

 シズラー三機の存在により、未だ復活を続ける巨烈獣・化石獣の群れは実質的に無力化され、その物量を悪戯に消費していくだけとなっていた。

 

 「GYAOOOOOOO……!」

 『チィェストオオオオオオッ!!』

 『ファイナルゴッドマーズ!!』

 

 バラゴーンは先ず巨烈兄弟の首を落とされ、竜の身体の半ばから生えた上半身を叩き潰され、最後に巨竜の首を落とされるという丁寧に丁寧に部位破壊された末に撃破された。

 下手にその高い戦闘力を誇示した上、そもそもが死者の尊厳を汚す様な存在である事からISA戦隊の怒りを買ったからこその末路だった。

 

 『おのれぇ…おのれぇぇぇぇ…!幾度死すとも我は必ずや復活し、貴様らを地獄にぃ…!』

 『いや、もう終わりだよ、バラオ。』

 

 そして、無尽蔵に復活する軍勢を無尽蔵に撃滅されながら、未だなお身に抱えた怨恨と憎悪を叫び撒き散らすバラオ。

 余りに往生際の悪いその姿に、ひびき洸は1万2千年前に母の故郷を滅ぼした存在を前にしながら静かに告げた。

 

 『弾道修正完了、照準よし!』

 『エネルギーチャージ並びに装填完了!』

 『亜光速レールガン、発射ぁ!』

 

 当初は全滅も覚悟していた防衛部隊、そこに配置されていたデストロイドモンスター。

 その特徴的な4連装の亜光速レールガンが火を噴き、光子弾頭を亜光速で投射した。

 使徒ですら致命打を叩き出すその砲撃は容赦なくバラオの下半身を構成する島へと直撃、岩盤を砕いて内部に潜り込んだ時点でマイクロブラックホールを発生、綺麗にその下半身を消滅させた。

 

 『がああああああああああッ!馬鹿な馬鹿な馬鹿な!?何故、何故このバラオがただの人間に、ただの物理兵器にこうも…!?』

 

 バラオには心底理解できなかった。

 例外である念動力者や魔術を扱う者、先史時代の戦士達を除き、後世から現代に至るまでの人間とはバラオにとっては無尽蔵に餌=恐怖・憎悪・悲嘆等の負の感情を生み出す存在でしかなかった。

 なのに、ただの人間の軍勢に今、無敵であった筈のバラオが圧倒され、敗北しようとしていた。

 認めない、認められない、認める訳にはいかない!

 そう怒りと憎悪のままに暴れ狂うが、現実は非情だった。

 今までの鬱憤を晴らすかの如く、雨霰と砲弾が、ビームが、ミサイルが、レーザーが、バスタービームがバラオへと降り注ぐ。

 

 『おおおおおお…おおおおおおおおおおおおおおお!?』

 『妖怪退治もこれで終わりだぁ!』

 『全弾持っていけ。』

 『オクスタン・ランチャーBモード、おまけしちゃ~う!』

 『バスタービーム!』

 『各艦、主砲照準…撃てぇ!』 

 『これはサービスですの。』

 

 ISA戦隊分隊のみならず、アインスト側から加勢した4機(正確には3機と1隻)にエクセリオン級4番艦から放たれる過剰なまでの大火力が相手では、如何にバラオとて最盛期よりも大きく弱体化した状態では耐え切れるものではなかった。

 

 『バラオ、最後に一つだけ言葉を送ってやる。』

 『超電磁タ・ツ・マ・キー!』

 『超電磁・ボール!』

 

 二機の超電磁ロボにより、気味の悪い触手の様な本来の下半身を晒したバラオの動きが拘束される。

 

 『お前は人間を舐め過ぎた。』

 

 その言葉と同時、ライディーンは内部に蓄えられたムートロンを解放、即ちラ・ムーの星を発動させ、そのサイズを52mから300mへと一気に巨大化させ、その胸部に三つの砲口を展開する。

 

 『ゴォォォォォッド・ラ・ムゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

 現状のライディーンの最強の攻撃が、超電磁の縛りから抜け出そうともがき続けていたバラオへと直撃した。

 

 『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……』

 

 長い断末魔の末、自らの肉体と魂魄が消滅していく無尽蔵の苦痛を味わいながら、妖魔大帝バラオは塵一つ残さず消滅した。

 こうして、臨海市を巡る妖魔大帝との決戦は辛うじてISA戦隊側の勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 ……………

 

 

 戦闘終了後、一同は臨界市の復旧作業の全てを防衛部隊と現地の警察、そして漸く駆け付けてきた連邦軍極東方面軍に任せると、挨拶もそこそこに未だ戦闘終了の知らせが届かない光子力研究所へと向かうのだった。

 

 「さて、向こうは彼らに任せておくとして、こちらはこちらでやるべき事をやっておきましょうか。」

 「然り。次なる負の無限力はもうそこまで来ている。」

 

 一方、エクセリオン級4番艦と真紅の結晶体から成るズィーゲルヴィーゲにアインスト4人娘を残して、トレミィとノイ・レジセイア(の端末)は個人規模での転移で姿を消した。

 

 「では、残った皆さんは私と共にこの赤い船を連れて各地を巡りましょう。この船さえあれば、精神攻撃で受けたダメージの後遺症もある程度は癒せるとの事。アインストとの休戦条約と限定的軍事同盟の件を認識してもらうためにも、皆さんには私と共にあちこちに顔を見せなくてはなりません。」

 「加えて、本艦に搭乗するアイドルの皆様と共に欧州等の戦火に晒された地域の慰問も行います。言うまでもありませんが、この件は既にノイ・レジセイア様の御許可を頂いております。」

 「了解しました。私共としては異論はありません。」

 

 こうして、残ったレムリア女王とエクセリオン級4番艦の艦長、そしてアインスト4人娘とデレマスニュージェネレーションズの3人娘もまた、忙しなく働く事となったのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「ふむ…概ね予定通りと言った所ですか。」

 「その割には悩まし気だな、孔明。」

 

 一方その頃、BF団は次の手筋を考えていた。

 

 「地球連邦政府はアインストとの同盟もありますが、ズールの相手さえ終われば取り敢えず落ち着けるでしょう。」

 「何だ、やはりミケーネの連中は負けるか。」

 「当然です。彼らは端から勝てない者達ですので。」

 

 Dr.ヘル、そしてミケーネ帝国。

 彼らは最初から野心を抱いて行動した時点で、多くの世界に溢れる因果に囚われ、敗北を決定付けられる。

 或いは無数の因果を繰り返して特異な可能性を見つけるか、最初から野心を抱かずにいれば違う結果の一つや二つ見付かるだろうが…少なくともこの世界では有り得なかった。

 野心を抱き、人々を守らんとするスーパーロボットと敵対する事を選んだ時点で最終的な敗北が決定付けられる。

 それが彼らに纏わる虚憶であり、因果であった。

 これは恐竜帝国や百鬼帝国等にも当て嵌まる事だった。

 

 「問題なのは第二新東京市です。」

 「エヴァか。」

 「確かに連邦軍の強化に伴って、総体的に弱体化しとるからなぁ。」

 「そうなのですよ。連邦軍の強化それ自体は歓迎すべきなのですがねぇ…。」

 

 第二新東京市防衛のために配置されたエヴァンゲリオン。

 その裏に潜むゼーレと人類補完計画。

 後者は既にしてトレミィ達の手で何時でも粉砕する準備が整っていて問題ないのだが、前者は違う。

 余り強くないのに妙に高価なエヴァシリーズ。

 それを動かすためには適性を持った少年兵が搭乗し、運用しなければならない。

 そんなもの、まともな感性を持った人間なら眉を顰め、切迫した戦況なら兎も角として運用の必要性無しと判断されれば、即座に封印か解体処分される事だろう。

 実際、第二新東京市に配置された極東方面首都防衛部隊は一年戦争のエースオブエースの一角たるヤザン少佐率いる精鋭部隊であり、現在は以前BF団で攻め入った時よりも更に増強されている。

 結果、エヴァが戦う必要性は減り、高価な置物と化しているのが現状だった。

 

 「と言う訳でセルバンテス殿、あちこちに散らばってる使徒、纏めて誘導してくれませんかな?」

 「簡単に言ってくれるな孔明殿。流石にあれらを誘導するには一体一体が限度なのだよ?」

 

 セルバンテスの言う事は事実だった。

 人間や普通の動物とかなら兎も角、使徒の様な特殊極まりない存在を眩惑し、誘導するのは随分と神経を使うのだ。

 それを一度に何体も、と言われたら流石に専門家と雖も苦言を呈するだろう。

 

 「勿論一度に全てではありません。既に倒された第10使徒を除き、第14にまで至る残りの使徒を誘導して頂きたいのですよ、予定を進めるために。」

 

 それは即ち、第7・8・9・11・12・13の合計6体もの使徒が一斉に、或いは短期間の内に連続で第二新東京市に襲いかかる事を意味していた。

 

 「良いのかね?とてもあの子供達が対応できるとは思えんが。」

 「ご安心を。重要なのは第14使徒であり、それまでは経験を積ませるための当て馬でございます。連邦軍の強化ぶりを考えれば、多少の被害が出たとしてもどうとでもなるでしょう。」

 

 勿論、その策にはU.T.F.や未だBF団対策として配置されているドモンも計算されている。

 なお、もしトレミィが聞いていれば「レリエルとか面倒なのは止めてほしいのですがそれは」と苦情を出した事だろう。

 

 「そういう事ならば分かった。こちらで何とかやっておこう。」

 「お頼みしますぞセルバンテス殿。何せもう、あの方の時間は余り残されておりませんからな。」

 

 こうして、第二新東京市は使徒のパーティー会場と化す事が決定したのだった。

 

 

 ……………

 

 

 『おのれ……おのれぇぇぇぇ……!』

 

 『まだだ・・・まだ終わらぬぅぅ…!』

 

 『必ずや悪魔世紀の実現を、必ずやこの恨み晴らしてくれる…!』

 

 『このバラオの名にかけて…!』

 

 

 




バラオ、丁寧に強敵描写をした結果、丁寧に対策と増援を重ねられて撃破
アインスト勢、これよりブラック労働開始
BF団、使徒のりこめー作戦開始


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機体設定その16

これら全てはガンバスターさんから頂いた小ネタです。
毎度感想と小ネタありがとうございます。

なお、後半の戦艦型アインスト三種は実は以前既に登場してたけど、詳細な描写がなかったやつだったりしますw


○ズィーゲルヴィーゲ

 過去に経験・情報を集めていたズール皇帝の先代の負の無限力やガンエデンのようなオカルト系決戦存在に対してノイレジセイアが用意し、マジンガーゼロの脅威を目の当たりにしたことで完成を急いだ対抗手段の一つ。

 外見イメージは全長2キロほどの箱舟。

 船体自体が丸ごと赤い水晶のような結晶=アインストのコアを構成するミルトカイル石の中でも上質な赤い石で作られており、外見的にはとても優美な姿を誇っている。

 この箱舟が放つ干渉波により相手の因果律兵器や自己進化機能等の特殊な効果を抑え込むことができるが、再生能力の類は抑え込めず、またアインスト側の自己進化機能といった一部の特殊機能も抑えこまれると言う欠点を持つ(発動前に進化しておく事は可能)。

 現時点では直径10km圏内を効果範囲とし、艦隊に一隻でもいれば余程の数でもなければカバーできる。

 仮想敵をマジンガーゼロとした場合、アインスト側とゼロのどっちが先に再生力や兵力に限界が来るかの泥沼の消耗戦となる。

 消耗戦だとしてもゼロ相手に勝ち目が一定は出るだけ上等とも言えるし、ゼロみたいな存在の厄介な特殊能力さえ抑え込めば、消耗戦ならアインストや宇宙怪獣みたいな存在が有利という歴史上の実例・実感もある。

 本船はバリア機能と移動機能はあるが、武装までは搭載されてないために護衛は必須の上、このユニット自体の製造コストも高い。

 デリケートなシステムを持つ故かバリアを抜かれた場合の耐久力も高くはない。

 また、トレミィ側との交渉によりコードレッドの情報を把握=自分の想定以上の超特記戦力を、場合によっては同時に複数や連戦で相手した場合を想定するとノイレジセイアはこの箱舟を用いた消耗戦だけでは対処しきれない可能性を考えている。

 その場合、新たな対抗手段を模索したり戦力が自分達だけでは足りないならと、トレミィ側との条件付きの共同開発すら始めると思われる。

 名前はドイツ語で「封印の揺り籠」の意味であり、地球側のコードネーム(このシステムはアインスト側の切り札の一つに入るだろうし、コードネームがつけられるほど表に出ない可能性もあるが)は戦後にでも付く場合は「クリスタルシップ(水晶の船)」となる。

 ゲーム的に出番が来た場合はアインスト側と共闘が出来たミッションとして、反撃不能な防衛目標(体力や装甲や移動力やバリアのデータはあるが武装は無し。反撃はオート防御選択)扱いで破壊される度にゼロみたいな敵の超大ボスが強化されたり、フィールドに複数存在する場合は全て破壊されたらゲームオーバーな形となる。

 

 

○カムフォアヴィーゲ

 人類側との和解や共闘成立後に対精神兵器対策に悩む人類側に対し、アインスト側から提示されたズィーゲルヴィーゲの量産仕様。

 上記のズィーゲルヴィーゲの簡易量産品で、外見イメージは船体自体が真珠のような質感や色合いで出来た全長500メートルほどの箱舟。

 構成素材は同じミルトカイル石だが、より低品質の青の石を主体に防御用の外殻を纏っているため、内部の青いミルトカイル石は見えない。

 因果律兵器といった強力過ぎる効果まで抑え込むことは敢えてせず、その代わり自軍にマイナス効果もなくなり、対精神攻撃・干渉兵器を防ぐことに機能制限をしたことで製造コストの削減も達成。

 一隻辺り直径5km圏内をカバーできるため、一隻から数隻ほど配備すれば艦隊や拠点防衛時において十分効果を発揮できる。

 バリア機能と移動機能はあるが、武装までは搭載されてないために護衛は必須だしデリケートなシステムを持つゆえバリアを抜かれた場合の耐久力も高くはない等の欠点は克服できずに同じである。

 サイズ差的にもはっきり言ってズィーゲルヴィーゲよりは脆いが、その分コストも安いし(アインスト側に要請すれば)補充も効くのが長所。

 また、病院や母船が効果範囲にいれば、精神兵器やそれ以外でもPTSDやら色々精神にダメージを受けた患者のメンタルケアや治療への後押しにもなる副次効果も持っており、現在欧州戦線で精神攻撃を受けた人々向けにズィーゲルヴィーゲと共に欧州方面への派遣が行われている。

 これはアインスト特有の異形と一時は敵対していた事から来るマイナスのイメージを払拭しようというイメージ戦略であり、何れ出会うだろう対話可能な異種族(巨人族とかバジュラとかELSとか)への偏見を抱かないようにする将来への布石でもある。

 地形適性はズィーゲルヴィーゲ共々空と宇宙のみ。

 配備場所次第では日照権を侵害しない為に周囲でぷかぷか浮きながら、日光が病院に当たる時間帯に合わせて移動するので、カムフォアの見える場所次第で今の時間が分かる、なんてこともあったりするし、美しくインスタ映えする見た目なので、民間人には人気が出てる(但し撮影許可が必要)。

 撮影許可が出てるなら「病院敷地内部?ででっかい真珠みたいに綺麗な船が浮かんでる~w」みたいにインスタ映えだかでカムフォアを背景に写真撮る患者や見舞客もいるかもしれない。

 このメンタルへのダメージ分類にはプロトデビルンのアニマスピリチア吸収も入るため、歌エネルギー程ではないがある程度の治療効果を持っている。

 名前はドイツ語で「安楽の揺り籠」の意味であり、コードネームは「パールシップ(真珠の船)」。

 この世界ではアインストも恒星間規模の戦線を展開可能なので、太陽系の各地はもちろん移民船団に対しても(同じ銀河までの範囲なら)この揺り籠や援軍も手配可能と思われる。

 別の銀河に対してもアインストが即時転移可能かどうかは軍事機密の観点から詳細は知らされていない(多分できるだろうし、できないならトレミィが手引きする)。

 

 

○アインスト・シュラハトシッフ

 アインスト側がメルトランディ所属の偵察部目的で派遣していた小艦隊と戦闘して鹵獲(=捕食)したものや既に他所との交戦で撃破された残骸でまともな形で残っていたものを吸収し、コピーした個体。

 通称「ミリア艦」と言われている全長1800m程の中型短射程砲艦の同型艦をベースにしている。

 デザイン的にはあのミリア艦が色合いが緑になり、アインストらしい宝玉が幾つか付いた上に船体表面がところどころ植物型の蔓に浸食されたかのように変貌している。

 アインストの大型母艦では最多の主力艦的存在。

 性能的にはぶっちゃけアインスト的再生能力により耐久性が向上している以外はメルトランの正式版と性能はほぼ似たり寄ったりである。

 フォールドとは別のアインストの宇宙を利用した転移を使うため、共和連合等の用いる転移技術(惑星の重力に影響される)の様な欠点がない。

 戦場に出現した場合、メルトランディ軍からすれば自分達の戦艦のパチモノの癖に再生能力のせいでやたらタフになってるわ、エネルギー切れや弾薬切れも中々起きないわで余計ヘイト稼いでるかもしれない。

 名前はドイツ語で「戦艦」の意味であり、地球側のコードネームは「グラスバトルシップ」(草の戦艦)

 

サイズ:3L

移動タイプ:空

特殊能力:HP回復(中)・EN回復(中)・ビームコート

 

武装

近接防御機関砲:船体各部に設けられたビーム機関砲。中型短射程砲艦に搭載された物を流用している。

ミサイル発射管:船体各部に設けられたミサイル発射管。こちらも同じくマクロス世界らしい誘導ミサイルや対艦ミサイルをそのまま流用している。

副砲:下記の主砲よりは小さくとも、地球圏のクラップ級とかからしたら十分大口径な大砲を発射する。こちらも原型の兵器をそのまま流用している。

主砲:艦首を左右に展開して放つ大火力砲。こちらも原型の兵器をそのまま流用している。

 

 

○・アインスト・シュラハトシッフ・ゲルプ

 上記のシュラハトシッフの派生艦で、正面から見たら船体が緑系から黄色く変化している以外では変化が少ないように見えるが、不完全ながら可変機構も備えている。

 船体後部が変形し、腕のないガウォーク形態になることでこのサイズの軍艦にしては不規則かつ高い機動が可能な為か、この派生艦種では一番機動性が高い。

 その変形機構を搭載したことでコストが上がったためか、ゲルプタイプはノーマルのシュラハトシッフよりは数が少ない。

 名前はドイツ語で「黄色い戦艦」の意味であり、地球側のコードネームは「ステップバトルシップ」(足付きの戦艦)

 

サイズ:3L

移動タイプ:空

特殊能力:HP回復(中)・EN回復(中)・ビームコート

 

武装

近接防御機関砲:船体各部に設けられたビーム機関砲。中型短射程砲艦に搭載された物を流用している。

ミサイル発射管:船体各部に設けられたミサイル発射管。こちらも同じくマクロス世界らしい誘導ミサイルや対艦ミサイルをそのまま流用している。

副砲:下記の主砲よりは小さくとも、地球圏のクラップ級とかからしたら十分大口径な大砲を発射する。こちらも原型の兵器をそのまま流用している。

キック:ガウォーク擬きになった足で繰り出す蹴り。質量が質量故に、当たれば相応の破壊力は有る。

主砲:艦首を左右に展開して放つ大火力砲。こちらも原型の兵器をそのまま流用している。

 

 

○・アインスト・シュラハトシッフ・ブルート

 上記のシュラハトシッフの派生艦で、ゲルプより更に変化が大きく、不完全ながらも可変機構も備えている。

 船体カラーはこちらは血のように濃い赤色。

 船体前部が変形し、上半身が人型で下半身がブースターとなった、巨大なジオングかサイコザクみたいな外観となる。

 その変形機構を搭載したことでコストが上がったためか、三艦種で一番数が少ないが、三艦種で一番格闘性能や装甲が高いのもこちらである。

 ゲルプもブルートも可変戦艦としては正直不完全であるし、タイマンどころか1:3でもマクロス級やメガロード級(この世界の)では危うかったりする。

 しかし、アインストの物量的にこれが1:5、1:10でかかることが可能かつ壊れても幾らでも再生・再生産可能な事を考えれば極めて驚異であろう。

 メルトランディ視点では自分らのコピー戦艦が急に変形して足が生えて変則機動したり、上半身が生えて殴りかかってきたりと驚愕不可避である。

 シュハラトシッフシリーズの選考理由はアインストが外宇宙に戦線を展開にする辺り、母艦級も複数いた方が有用と思ったから。

 その上で残骸の数に困らず、データも集めやすくて性能バランスも優れてるとなるとゼントランかメルトランの艦船が都合が良かった。

 更に不完全なコピー艦の方がアインストとしての物量と、地球側との性能差のバランス的にも丁度良いかなと。

 不完全変形でもブルート級ならマクロス級との殴り合いは可能なので、巨大変形戦艦同士の殴り合いも実現するし。

 名前はドイツ語で「鮮血の戦艦」の意味であり、地球側のコードネームは「アームズバトルシップ」(腕付きの戦艦)

 

サイズ:3L

移動タイプ:空

特殊能力:HP回復(中)・EN回復(中)・ビームコート

 

武装

近接防御機関砲:船体各部に設けられたビーム機関砲。中型短射程砲艦に搭載された物を流用している。

ミサイル発射管:船体各部に設けられたミサイル発射管。こちらも同じくマクロス世界らしい誘導ミサイルや対艦ミサイルをそのまま流用している。

副砲:下記の主砲よりは小さくとも、地球圏のクラップ級とかからしたら十分大口径な大砲を発射する。こちらも原型の兵器をそのまま流用している。

大型クロー:変形した巨大な腕から繰り出される大型クロー。質量やその爪の鋭さから当たれば相応の破壊力は有る。

クロ―ビーム砲:クロー中央部に搭載された大型砲。副砲より少し威力が上程度だが、上記二種の主砲より連射が効くうえに、腕の動かす範囲が=で射角とも言えるのが長所。

ワイヤードクロー:クローをワイヤードフィストみたいに飛ばして攻撃する。ワイヤーの代わりはアインストの蔓で代用。

根本的な鈍さを除けば相手の意表も付けるし破壊力も質量相応。

因みに射出中に腕と腕を繋ぐ緑の蔓を切断したとしても、ゲミュートのパーツのように普通に元の腕に戻って来れる。

 

 

 



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小ネタ会話集その11

・カルチャー?ショック   時系列不明

 

 『我らの戦力の整備や修理?そんなの自己再生で十分であるし、どんなに酷く壊れてもアインストの宇宙から再構築すれば瞬時に再出撃可能なのに必要なのか?』

 『』

 

 アトミラールのアインスト化して割と直ぐの頃、ノイ・レジセイアとの一幕。

 アインスト達は基本的に兵站や艦載機運用等の概念を持っていない。

 これは極めて高い自己再生・自己増殖を持っている上に、例え物理・霊的双方で消滅したとしても、アインストの宇宙そのものにバックアップデータとも言うべきものが存在し、そこから再構成してしまえば(直前の記憶含み)何も問題なく戦線に復帰可能だという常識外の不死性を持っているからである。

 艦載機・機動兵器に該当する個体もアインストの宇宙から直接転移で出現or構築されるため、面倒な運用をする必要が無いのだ。

 この辺、物量の生産に恒星を用いる宇宙怪獣や進化・増殖のためにゲッター線を必要とするインベーダーよりも更にチートである。

 

 

・カルチャー?ショックその2  時系列不明

 

 『月月火水木金金……ふふふふふふ、魔王倒す為とはいえ死んでも何度も甦らされる勇者の気持ちが良く分かったわ…。』

 

 宇宙の各地で各勢力と交戦してはデータ収集したり、宇宙怪獣やインベーダー相手の間引き作戦を実質一人で指揮して物量の津波に呑まれたり、正面から砲撃の集中で撃破されたり、時には敵陣中枢で自爆したりしていた頃のアトミラールの独り言。

 死なないからって精神が疲弊しない訳ではないのだが、その精神力によって辛うじてこれらの任務をやり切った。

 元はノイ・レジセイアが各個体へと命じ、しかし上手くいかなかったので上位個体(通常のアインスト・レジセイア)に指揮権を委ねられた。

 しかし余りにタスクが多く、更に無人機よろしく優先事項の順位付け等が上手く出来ず、処理し切れていなかった。

 そのため、別個に指揮に秀でた人類の死体をサンプルとして回収し、それを元に誕生したのがアトミラールであり、その指揮能力は期待した以上だった。

 結果、一人しかいない彼女に任務が殺到して、ブラックを超えた暗黒の労働環境と化したのだった。

 まぁ例え発狂した所で精神すら健全な状態で再構築されちゃうだけなんだけどね!

 が、パフォーマンスの低下は重く受け取られたらしく、残りのアインスト4人娘誕生の切っ掛けとなった。

 

 

・カルチャー?ショックその3  時系列不明

 

 『市街地用の小型種や水中用、空戦用の個体?既存個体の融合合体や小型化では駄目なのか?恒星の熱量ならば兎も角、地球で観測可能な自然現象では我々に不具合は発生しないぞ?』

 『』

 

 一年戦争の経験から、各戦場に適応した個体の作成を考案した際のノイ・レジセイアとアトミラールのやり取り。

 基本、アインストは高い自己再生・自己増殖機能に加え、大抵の環境下で補給・修理が一切必要無い使徒かそれ以上の自己完結性を持っている。

 通常の宇宙に存在する物質(生物・非生物問わず)に対し、アインストの宇宙の法則に取り込む事でアインスト化する侵食(漫画のRecordofATX)や小さなコア等を植え付けてアインスト化させる寄生(アインスケやウェンドロ等)等で増殖する。

 侵食にはストーンサークルやミルトカイル石を媒介にしたものがあるが、これらによる侵食が一定値を超えると途端に宇宙そのものがアインストの宇宙により侵食され始める。

 対抗するには念動力等の特殊なエネルギーによる防御が有効だが、それを安定して供給可能な勢力は現状バルマーだけである。

 この他にも既存種(植物・骨・鎧型等)の変異・融合による高性能・多機能化や新種の誕生(アイゼンや4人娘等)を行い戦力を拡張し、一度に出現する物量も急激に増加する。

 そのため、一度アインストの宇宙そのものによる侵略が始まれば、殆どの場合手に負えなくなるだろう。

 もしこれを退ける或いは倒すとなれば、アインストの宇宙に存在するノイ・レジセイアが溜め込んだ40億年分のエネルギーを枯渇させるか、ノイ・レジセイア等の指揮系統を担当する上位個体を倒すしかない(なお、幾らでもお代わり可能)。

 先史時代においては他にも多くの敵勢力がいた事から、ガンエデンやBF、超機人達当時の地球の守護者達はとっとと済ませられる後者を選択し、結果として敗北したアインストは長期間に渡り能動的行動が不可能になった。

 

 

・カルチャー?ショックその4  時系列不明

 

 「ひ、え、あ、はじめ、まして…レーベン、です。」

 「」

 

 が、直ぐに誕生したのが割と才能あるけど指揮能力とは無縁のトラウマがっつりのレーベン(結構良い所のお嬢様)が怯えながら挨拶してきたため、頑丈になった筈の胃が軋んだ。

 

 

・カルチャー?ショックその5  時系列不明

 

 『アルフィミィは指揮苦手でレーベンは臆病だから結局指揮は私が専任かぁ…。』

 『どんまいどんまい☆サポートはこの私にお任せですよ~。』

 『実際役に立ってるけど、出来れば指揮も代わって頂戴…。』

 『それはヤでーす。』

 『はぁ…我が暮らし楽にならず、か。』

 

 4人娘が揃った後も、各員の適性からどうしても任せられる仕事は決まっており、結局一番神経使う指揮関連はアトミラールの専任事項になったしまった。

 アルフィミィ…ムラっ気が強過ぎて任務ほっぽり出す可能性有り。

 レーベン…臆病かつ人付き合い苦手。最前線で暴れさせるのが一番。

 フォアルデン…何でも卒なくこなすので、他メンバーのサポートがメイン。

 アトミラール…何でも卒なくこなすが、指揮能力が卓越している。

 

 

・カルチャー?ショックその6  時系列不明

 

 『死んだと思ったら魔王軍の幹部に転生って最早使い古されたネタの一つですね。まさか自分がそのポジになるとは思いませんでしたがwww』

 『正確には魔王軍じゃないっぽいですが、地球の敵とも味方ともいえるこのポジ。それに異世界転生と思ったら同じ世界への転生、でも今私達がいるのは異世界とも異空間とも言えますから、どう分類すれば良いんでしょうねw』

 『同僚は悪堕ち軍人っぽいけど優しそうなお姉さんに、自分よりちょっとだけ幼いか同年代な露出過多の不思議ちゃん、最後に無垢にこちらを見上げて来るぴっちりスーツやマスクを着たロリ美少女ってマジですかw』

 『自分含めて幹部格が皆女だけ、それもハイレベルな容姿ばかりってこの後出てくる男か女かのハーレム系オリ主に囲われるメンバーか何かですかw』

 

 アインスト化した直後のフォアルデンの発言ログ。

 普段ならここまでアレな発言はしないのだが、やはりアインスト化した直後なので混乱しており、終始発言に草を生やして精神安定を図っていた模様。

 人間のアインスト化については、余程の適性と能力が無い限りはOGよろしく人間サイズのアインストの一種と化してしまうため、偶々適性が高いために外見や人格が人間だった頃の特徴を多く残したサンプルが彼女らだけだったのが真相である。

 

 

・カルチャー?ショックその7  時系列不明

 

 『死んでしまったなら仕方ない、今の状況で良いところを探してそれを楽しみましょう!』

 『軍に志願したとしても一握り中の一握りにしか得られないワンオフの専用機をいきなり得られた上に、自分の思うがままに動かせるとか最高じゃないですかw』

 『空を、星の海を自由に飛ぶのたーのしーw世界各地の未知の絶景を生で見られるの素敵じゃないですかw』

 『弾幕はパワーだぜ!撃って撃って撃ちまくりますよ!ヒャッハー!』

 『自分が死んだのは仕方ない、悲しいし残念に思うし、娘に先立たれた形となる両親にも申し訳ないとは思います。でもくよくよしてもどうしようもないし、なら今を楽しむのを優先しましょう。人生なんて楽しんだもの勝ちなんですから!』

 

 フォアルデンの発言ログその2。

 彼女は元々常人よりメンタルの切り替えや割り切りがとても良くできた。

 常人ならそんな簡単に切り替えられないのが普通、だが、彼女はそれが出来た、出来てしまった。

 だからこそ彼女は狂おしいほどに家族への愛を抱え、アトミラール以外にもこうして依存してくるレーベンに対し、気楽なお姉さんップリを見せて可愛がりながらも少し羨望すら抱いている。

 自分は人並みに家族は愛していたと思うが、彼女ほど深い情愛を抱いていたかというと否だったのは自覚している。

 自分はこのように深い愛を抱くことは出来るのか、或いはそんな深い愛で愛してくれるような伴侶を得られるのだろうか、と秘める想いはまだまだ乙女な彼女にもあるのだ。

 お気楽ご気楽お姉さんのようで、内面で冷徹な側面もあるエクセレンと、享楽的に見えながらドライな側面を持つエルマとでそういう意味ではアインスト関係者で似た者同士である。

 彼女はヤンデレキャラを見ると、度合いにもよるけど愛が重いなと引くと同時にそんな深く愛されるのって良いことじゃねと思うタイプであった。

 名前はドイツ語で「求め」を意味する。

 彼女は己が求める物の為に戦う。

 それは現在の楽しみのためか、己の幸せか、仲間のためか、己の願いか。

 それは彼女だけが知るし、或いは彼女自身、自分の求める物が何なのか、その真理を求め、知りたいのかもしれない。

 

 

 ・カルチャー?ショックその8  時系列不明

 

 『死者の念云々?不愉快な感じがしたら、動画編集するみたいに直ぐに都合悪い部分だけカットするから平気ですよ。普通のNTには早々できない?え、そうなんですか…。』

 『気分の悪さなら帰って妹分を抱っこしてもちもち肌に癒されたり、美味しい物を食べたりゲームでもしてたら忘れますけど?』

 『』

 

 実はNT適性持ちだったフォアルデンだが、その特異な精神構造も相俟ってあくまでも「NT能力を持ったOT」の域を出ず、本当の意味でのNT=それまでにない新しい考え方・行動の出来る新人類ではない。

 ファンネルやビット等を使用できる他、敵意や気配を感知する事は出来るが、サイコフィールドの様な特殊な現象を発生させたりは無理である。

 が、ジュドーに並ぶかそれ以上の精神安定性を持っており、例え負の無限力を前にしてもその調子は崩れないだろう。

 もし崩れる時があるとすれば、それは未だ存命な彼女の両親や他の4人娘達に危害が加えられるか、彼女が恋を知った時だろう。

 なお、この話を聞いたアトミラールはNTに持っていた先入観とか色々なものが粉砕された模様。

 

 

 

 




ガンバスターさんとの小ネタを纏めたものでした。
アインスト4人娘のキャラが立ち過ぎてるッピ!


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第63話 皇帝VS皇帝

遅れて申し訳ない。
FGOイベと体調不良のダブルパンチ喰らってたのです、はい。
早く後半ガチャでないかなーと思いつつ、皆さんも体調には気を付けてくださいね。


 新西暦186年9月28日 極東方面 旧光子力研究所跡地

 

 そこでは現在も特機軍団と多数の戦闘獣による熾烈な戦闘が繰り広げられていた。

 特機軍団は量産型グレートマジンガー9機と量産型ゲッターG9機からなり、その全てに連邦軍所属量産型特機部隊から選出したエース級のパイロット達が乗っている。

 対するミケーネ帝国の戦闘獣軍団は所謂七つの軍団とそれを率いる将軍たちから成り、その1000に届こうかという物量で以て旧光子力研究所を攻め落とさんと進撃を続けていた。

 

 『マジン4より各機へ。消耗率が4割に到達した。遺憾ながら現時刻を持って防衛線を放棄。撤退戦に移行する!』

 

 暫定的なリーダーとして選出された量産型グレートマジンガー3号機(オリジナル含めて4体目)の命令に、特機軍団は徐々に撤退へと移っていく。

 既に200近い戦闘獣を撃破し、今なお撃墜スコアを稼ぎ続けている彼らだが、未だ機体は完全な状態ではなく、エネルギーと武器弾薬の消耗も看過できないレベルになった。

 旧光子力研究所地下にある「とある機体」と兜十蔵博士の身柄が心配だが、前者は未完成かつコクピットブロックが無いため起動は出来ず、後者は既に連絡の付いた国際警察機構のメンバーが博士を連れて脱出する手筈になっている。

 

 『よし、各機撤退を開始する。殿はこちらで受け持つ。』

 『了解だ。マジン4、武運を祈る。』

 

 ここまで素直に撤退を選ぶ理由は他にもある。

 消耗状態だった極東方面軍には、妖魔帝国とミケーネ帝国相手に二正面作戦を行う余裕はない。

 否、各地で地底や水中から出現したミケーネ帝国の戦闘獣(基礎スペックがノーマルのマジンガーZ並み)を相手に混乱状態に陥っている地球連邦では、これら勢力へと少数の精鋭部隊を対応に充てる以上の行動を取る事が出来ないのだ。

 人口密集地である大都市やインフラ・政治上の要地へと出現した敵の排除を優先せざるを得ず、表向き無人となっている旧光子力研究所への特機軍団の派遣も機密を知る者達が命令を下したが故のかなりギリギリのラインだったのだ。

 それにしたって「ISA戦隊が行方不明の現在、戦力を徒に消耗させない」ように早期撤退が言い含められた上での事だった。

 

 『…ちら…極東………司令…!繰り返…こ……極東方面軍司令部!特機部隊、聞こえているか!』

 『こちら特機部隊マジン4、司令部どうした?』

 

 だが、それは突然の通信で止められた。

 

 『たった今入った情報だが、ISA戦隊が帰還した!現在、補給と整備を済ませて一部がそちらの戦域に向かっている!』

 『一部?内訳は?』

 『オリジナルグレートと量産型二機、グレンダイザーに獣戦機隊、遅れるがゲッターチームが新型に乗って来るそうだ。他はMSとVFが一個中隊ずつになる。母艦はスペースノア級二隻だ。』

 『到着までの時間は?』

 『後5分と言った所だ。持たせられるか?』

 『了解した。各機、聞いていたな?撤退は中止し、増援が来るまで遅滞戦闘を行う!増援が来るまで何としてももたせるんだ!』

 『『『『『『『『『『『『『『『『『了解ッ!!』』』』』』』』』』』』』』』』』

 

 この朗報に、敵を目の前にしての撤退で落ちかけていた特機部隊の士気は大いに上がった。

 結果、残りの5分間を誰一人欠ける事なく稼ぐ事に成功するのだった。

 そして待ちに待った5分後、遂にISA戦隊分隊が到着した。

 戦域に現れたクロガネとシロガネの二隻よりマジンガーチーム3機にグレンダイザー、ダンクーガ。

 そしてMS・VFがそれぞれ一個中隊程出撃する。

 

 『待たせたな!こちらISA戦隊、只今より加勢する!』

 『漸くか!待ち草臥れて食い尽くす所だったぞ!』

 

 クロガネの艦長からの通信に、マジン4が獣臭のしそうな笑みと軽口で返す。

 その軽口にクロガネ艦長も笑みを返す。

 偶発的な事態とは言え、彼らが窮地に立つ原因の一端はISA戦隊にもあるのだ。

 それを受け止める義務がクロガネ艦長クルト・ビットナー少佐にはあった。

 無論、双方とも相手に悪意がある訳ではないが、一度位言っておかないと部下達が根に持つ可能性があるからこその茶番でもある。

 

 『お詫びと言ってはなんだが、特機部隊は一度下がってクロガネで補給と整備を受けてほしい。弾薬は心元ないが、エネルギーはまだたっぷりあるぞ。』

 『そいつは助かりますな。特機部隊各機、聞いていたな!一度後退して補給を受ける!その間はISA戦隊に任せるぞ!』

 

 こうして選手交代が始まった。

 無論、そんな恰好の隙をミケーネ帝国が見逃す筈もない。

 先程まで数の利と疲弊から徐々に押していた彼らはその努力を無にされては堪らないと特機部隊に襲い掛かるが…

 

 『ブレストバーン!』

 『サンダーブレーク!』

 『マジンガーブレード!』

 

 戦闘獣達の進路上に現れた三機のグレートマジンガーによって、一息で蹴散らされた。

 

 『ギギギ!こいつ、さっきまでの量産型とは違うぞ!』

 『警戒しろ!そいつらこそがオリジナルのグレートだ!』

 『えぇい囲め囲め!圧し包んで討ち取ってやれ!』

 

 そう言って距離を取りつつぐるりと周囲を囲んだ戦闘獣達。

 しかし、相手が飛び掛かって来るのを待つ程グレートは、剣鉄也はお上品ではない。

 相手が飛び掛からんとする寸前、その正面から虚を突く形で踏み込む。

 

 『ギ』

 『遅い!』

 

 踏み込みと同時に振るったマジンガーブレードで先ず一体を袈裟切りで胴体の顔ごと両断する。

 

 『貴さm』

 『口より手を動かしな!』

 

 隣の味方機を撃破され、激昂する戦闘獣が何事か告げる前にグレート1号機の鋭い蹴りが叩き込まれる。

 命中の寸前にその脛に当たる部分からギロチンの様な刃が飛び出し、唯の蹴りを鋭利な刃物による処刑のための一撃へと変化させており、またも一瞬で戦闘獣を撃破してしまった。

 

 『に、逃げろ!敵いっこなゲぺ!?』

 

 先程まで相手をしていた量産型とは次元の違う戦闘能力に、溜まらず心の折れた一体の戦闘獣が逃げ出す。

 しかし、その瞬間に突如として飛来した円盤によって胴体が泣き別れしたのだ。

 その巨大な円盤はそのまま突き進み、グレート1号機へと一切減速せぬまま突き進み、衝突する。

 

 『ぬぅ…!』

 

 その円盤を受け止めたグレート1号機だったが、その余りの勢いに両足が地面にガリガリと二条の痕を残しながら後ろへと押しやられていく。

 即座に鉄也は素直に受け止める事を止め、両手に構えたマジンガーブレードで上へと円盤を弾き上げる。

 円盤、否、グレートマジンガーの全長すら超える巨大な一振りの巨剣がクルクルと先程に比べれば遥かに遅い回転を描きながら宙を舞い、離れた場所へと突き刺さる。

 そして、そんな巨剣を片手で易々と掴む剛力の持ち主へと、全員が視線を向けた。

 

 『戯けが。敵を前に背を向ける等、ミケーネの恥晒しが。』

 『ひ、ひぃぃぃぃ!お、お慈悲を、暗黒大将軍様…!』

 『五月蠅い。』

 

 ザン、と。

 上半身と下半身が泣き別れした状態で、未だ生き残っていた敵前逃亡の戦闘獣へと再び巨剣が突き立てられ、今度こそその活動を完全に停止した。

 暗黒大将軍は背後に他とは異なる威圧感を持つ7機の戦闘獣を控えさせながら、その視線をグレートマジンガー1号に、剣鉄也に向ける。

 凡百のパイロットならばそれだけでプレッシャーに心を圧し折られる視線を受け、しかし鉄也は小揺るぎもせずに視線を向け返す。

 その様子を見て、暗黒大将軍はにぃ…と口元を小さく笑みの形に歪めた。

 

 『お前が剣鉄也だな?』

 『へっミケーネの将軍様は名乗りもしないのかい?』

 『ふむ、では先の一撃を弾いた褒美に名乗るとしよう。』

 

 バサリとマントを翻し、戦闘獣軍団の頭目らしく堂々たる名乗りを上げる。

 

 『我が名は暗黒大将軍!ミケーネ帝国七つの軍団を束ねる、闇の帝王様の忠実な僕なり!』

 

 ただ名乗りを上げただけ。

 それだけで轟々と周囲に威圧感を放つその姿に、敵は怯み、味方は歓声を上げる。

 数こそ1000程度とは言え、一体辺りの性能が高い戦闘獣軍団において、この暗黒大将軍は現時点で間違いなく最強の一だった。

 

 『そして我に従うこの者達が七つの軍団を率いる七大将軍達である!』

 

 悪霊型戦闘獣を率いる悪霊将軍ハーディアス。

 爬虫類型戦闘獣を率いる妖爬虫将軍ドレイドウ。

 鳥類型戦闘獣を率いる怪鳥将軍バーダラー。

 人間型戦闘獣を率いる超人将軍ユリシーザー。

 昆虫型戦闘獣を率いる大昆虫将軍スカラベス。

 魚類型戦闘獣を率いる魔魚将軍アンゴラス。

 猛獣型戦闘獣を率いる猛獣将軍ライガーン。

 この全員が通常の戦闘獣とは格の違う実力者達であり、それぞれの軍団を指揮する現場指揮官らであった。

 当然、彼ら全員が経験値と資金双方で美味しい上に撃破に成功すればするだけミケーネ帝国のネームド指揮官が減る事を意味しているので、この時点でロックオンされてしまった彼らの命運は尽きたとも言える。

 …ミケーネ系は資金も経験値も美味しいからね仕方ないネ!(スパロボプレイヤー並感)

 

 『俺は剣鉄也!こいつはグレートマジンガー!てめぇらをぶちのめす者の名だ!』

 『よく吠えた!ならばこの我が直々に相手をしてくれるわ!七大将軍は引き続き旧光子力研究所目指せ!かかれぇい!』

 

 号令と同時、両手にマジンガーブレードを握り、音を遥か彼方に置き去りにした踏み込みを魅せたグレートとそれに一切の遅滞なく迎撃へと移った暗黒大将軍の剣撃が激突する。

 激突の余波は周辺一帯の大地を砕き、その際の轟音を合図に両陣が再び激突を再開する。

 こうして、戦いは次の段階へと移るのだった。

 

 

 ……………

 

 

 『ふむ、やはりこちらは既に手薄か。』

 『気を抜くなよヤヌス侯爵。地球連邦は抜け目がない。』

 『分かっておりますゴーゴン大公。だからこそこうして我らがいる。』

 『然り。一刻も早く帝王様の悲願を叶えるとしよう。』

 

 周辺を更地にしながら両軍の主力が激突する最中、諜報軍幹部のヤヌス侯爵とゴーゴン大公、そして二人の率いるミケーネスの歩兵部隊は密かに旧光子力研究所跡地を確保すべく迅速に行動していた。

 元より通常の人類よりも遥かに高性能なボディを持つ二人に労働・戦闘用人造人間であるミケーネス達、それも諜報軍向けのステルス仕様ともなればこうも激しい戦闘の最中では極めて発見され辛い。

 少なくとも低位のガンダムファイターや国際警察機構のエージェント、U.T.F.の下級自動人形以上でなければ、白兵戦では圧倒的な不利を強いられる事だろう。

 勿論、それ以外の極めて強力な歩兵戦力は例外として。

 

 『ぬ!各員散開!』

 

 ゴーゴン大公の命令に反応するか否かの瞬間に、密かになるはやで移動していた諜報軍の中心へと歩兵携行型レールガンの弾頭がぶち込まれる。

 運悪く直撃してしまった一人は木端微塵と化したが、それ以外の無事な面々はこれ以上隠れるのは無理だと判断して姿を現し始める。

 同時、それに呼応する形で各種携行型重火器類を装備したA.I.M.所属量産型自動人形ら一個大隊が光学迷彩を解除して姿を現したのだ。

 

 『伏兵!こちらの動きを察知していたか!?』

 『怯むな!奴らの腕前じゃ早々当たらん!敵陣中央を強行突破、後に増速して引き離すぞ!各員突撃ぃ!』

 

 戦艦や機動兵器達からは極端に見え辛いが、彼らもまた熾烈な戦いを開始するのだった。

 

 

 

 

 



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小ネタ会話集その12

本編の筆が進まない&仕事が忙しいので小ネタでお茶を濁す事になりました。
本編はもうちょい待っててね!


・皇帝、未だ目覚めず   魔神覚醒事件後

 

 「やれやれ…こいつはやはり骨が折れるのぅ…。」

 『博士、そろそろお休みになられた方が…。』

 「そうも言っておれん。甲児達が頑張っとるのに、あの事件の原因になったワシだけのうのうと休む訳にもいかん。」

 『そうは言っても、このままではお身体を壊しますよ?ほら、あっちでメイドの皆さんがこちらを見てますし。』

 「…そうじゃの、今夜はもう休むか。」

 

 旧光子力研究所地下の秘匿区画にて、兜十蔵博士とサポートロボのミネルバXの一幕。

 ミネルバXの外見はマジンガーZERO作中のそれを川上風デザインに修正されたもの。

 容姿は亡くなって久しい十蔵の奥さんに似せてあるのだとか。

 実態は人工知能を備えた光子力研究所のメインCPUの端末であり、十蔵の研究の各種サポートを行っている。

 一人と一機は今後の地球人類防衛並びに対ZEROを想定し、未完成で放置されていたマジンカイザーの開発を再開していた。

 ZEROの事例を反省し、作成時から引き続き対ZERO並びに「悪に堕ちたマジンガー」との戦いを念頭に設計されている。

 つまり原作における「魔」「神」「Z」の三つの内、「魔」モードが封印されていると言える(「神」モードは魔神パワー全開のリミッター解除として採用)。

 ここには早乙女研究所から提供されたゲッター炉も持ち込まれており、光子力反応炉と合わせて予想される完成時の性能は現在の地球において公式非公式双方において最上位の一角を占めるだろう事が予想されている。

 しかし、二つのエネルギーのリンクのための調整は未だ難航しており、解決のためにも実験データの収集が進められている。

 なお、パイロットは暫定的ながらも兜甲児が予定されている。

 

 

 

 

・皇帝、未だ目覚めずその2   魔神覚醒事件後

 

 「…………。」

 『またサイコセンサーに反応。やはり人格がある可能性は高い模様。』

 『引き続き監視を続行。向こうから能動的に動いた場合、予定通り対応を開始します。』

 『了解。』

 『…ハラハラしますね。自分達以外の存在に地球の命運を託すと言うのは…。』

 

 旧光子力研究所地下の秘匿区画にて、マジンカイザーを監視中の高級自動人形達の量子通信の一幕。

 彼女らは心を入れ替えた兜十蔵博士は兎も角として、マジンカイザーの存在を微塵も信用していなかった。

 少なくともちゃんと完成するまでは監視体制を聊かも緩めるつもりは無い。

 その理由の一つとして、マジンカイザーが元々自律起動を前提としたシステムを持っている事、それを封印した現在もサイコセンサーに反応する程度には自我が残っている事が上げられる。

 ZEROの一件を考えれば、これでもまだまだ警備は足りない程なのだが、現状人手が足りていないので仕方ないと言える。

 

 

 

・レジセイア、文化に目覚める?   時系列不明

 

 「ヒト種というのは繁殖一つにここまで手間を掛けるのか?」

 「ちょwwww」

 

 レジセイア、UTFから贈られたエクセリオン級四番艦を改装したアインスト・エクセリオン(普段は通常のエクセリオン級の外見に偽装)にて生活時の一幕。

 フォアルデンの私室に潜り込んで銀色シールの書籍やゲームを閲覧する。

 入室を許可していたフォアルデンだが、全年齢版なら兎も角R18版まで見せるつもりは無かったので大いに焦った。

 幸いにも見られたものは純愛系の比較的まともな代物だったので、悪影響を与える事は無かったが、後日事の次第を知ったアトミラールによって大いに怒られる事となる。

 なお、アインスト・エクセリオンはアトミラール不在時のレジセイアの搭乗艦として運用されており、その高い性能をアインスト化によって更に強化した上、内部の余剰スペースに地球上の動植物をサンプルとして保管している他、アイドル向けのコンサートホールやステージ等、各種音響設備が備わっており、万が一の際には地球上の生物の絶滅回避のための脱出船としても十分に機能する。

 各種動植物はアインスト化したり、アインスト細胞を寄生させた上で増やせば大抵の環境で生きられるので、最悪の事態に備えてエクセリオン級四番艦と合わせてトレミィが手配し、レジセイアに贈ったものである。

 

 

 

・レジセイア、文化に目覚める?その2  時系列不明

 

 「これが…文化か…。」

 『皆さーん、応援ありがとーう!』

 

 デレマス勢の定期ライブにて、最前列に陣取りながらサイリウムを振るうレジセイアの一言。

 すっかりドルオタと化した以外は正常化したレジセイアだが、またバグる可能性もあるので定期的にライブに見に行っている。

 なお、無表情なのに熱心に最前列でサイリウムを振ってる美人さんという特徴的な観客であったため、「専務のお仲間かな?」と全員から顔を覚えられる事となる。

 報告を聞いたトレミィは色々と投げ捨てた笑顔で「問題起こさないなら無問題で。」と言ったそうな。

 

 

 

・彼らは今   時系列不明

 

 『ぬぅ…よもやこれ程の大損害を受けているとは…。』

 『如何いたしますか?』

 『他の基幹艦隊にもデータを送り、生き残った者達は積極的に拾うものとする。少しでも戦力の差を縮めねば勝てぬ。』

 

 男性型巨人族ゼントラーディ軍の第425基幹艦隊・ボドルザー艦隊旗艦内部での一幕。

 一定以上の階級の指揮官達に参謀達、そして最高指揮官たる艦隊司令官ゴルグ・ボドルザーは頭を悩ませていた。

 ズール銀河帝国の太陽系侵攻とそれを阻止しようとしたバルマーとの戦闘に介入して逆に壊滅したゼントラーディ基幹艦隊が三つも壊滅し、辛うじて逃げ切れた生き残りの回収に成功した彼らはバルマー・ズール相手にどう戦うか悩んでいた(逃げたり和解するという選択肢は無い)。

 何せ両軍ともトップの質という点ではこの宇宙でも最強であり、偽霊帝は出て来なくとも第七艦隊ラオデキヤにはユーゼス・ゴッツォと彼の率いるジュデッカやアンティノラがいるため、勝ち目も無く戦えば死ぬだけである。

 如何に「戦争!戦争!」な巨人族であっても、部下や同胞にただ意味なく死ねとは言えない。

 そのため、何とか勝機を見出そうとするために数を揃え、データを集め、対策を練ろうと必死になっていた。

 なお、こうした事情は女性型巨人族メルトランディでも同じだったりする。

 

 

 

・彼らは今その2   時系列不明

 

 『司令、やはり男共と休戦すべきでは?ズールとバルマーの戦力はどう考えても当艦隊を凌駕しているとしか言いようがありません。』

 『むぅ…しかし、あのボドルザーがそれを承知すると思うか?』

 『いえ…。』

 『他の艦隊司令官ならばまだしも、ボドルザーは12万周期の時を経た古参。我らとの確執も深い奴ならば、我らをズールとバルマーに当てて消耗した所を諸共に撃滅するであろう。』

 『………。』

 『他の基幹艦隊に援護要請も行っているが、破壊者共の事もある。どれだけ駆け付けてくれるか…。』

 

 女性型巨人族メルトランディ達もまた頭を悩ませていた。

 まぁズールもバルマーの一つの艦隊で基幹艦隊一つが本気を出せば撃滅可能なので、当然と言えば当然の話なのだが。

 数を揃えて叩こうにも集めるだけの時間がなく、要塞主砲を当てようにもそれは相手側の切り札の攻撃範囲に旗艦たる要塞が入る事を意味しているため、余りに危険過ぎた。

 現状、太陽系近傍に集まりつつある巨人族艦隊は手詰まり状態に陥っていた。

 

 

 

・彼らは今その3   時系列不明

 

 「キキキ…」

 

 インベーダー達は現在、U.T.F.の索敵網が薄くなった事を絶好の機会として、ステルス性に特化した小型種のみを太陽系に向けて多数送り込んでいた。

 現在の太陽系はゲッター線を始め、多数の種類のエネルギーが大量に満ち溢れており、常に飢えている彼らにとってはこれ以上ない程に極上の餌場だったのだ。

 勿論、目立った個体は即時U.T.F.によって撃破されているが、全てではない。

 そして、現在の太陽系には太陽航路脇に半ば放置されたマイクロウェーブ照射衛星を始め、ジオン残党軍の中でも特にアレな連中に占拠されたパラオの様な資源採掘衛星やアクシズの様な改装した軍事要塞も存在している。

 エネルギーさえあれば現地で急速に数を増やす事も可能なインベーダーは密かにそういった場所へ根付き、喜々として太陽系内部にて繁殖を開始するのだった。

 

 

 

・彼らは今その4   時系列不明

 

 『………』

 

 宇宙怪獣、古くは破壊者とも言われるこの宇宙最大の厄介者の一つは、太陽系を中心とした騒動に対して不気味な程の沈黙を保っていた。

 嘗ては頻繁に太陽系に侵攻を試みていた彼らだが、ここ最近は動きを見せていない。

 しかし、版権ラスボスの一角は伊達ではなく、現在太陽系近傍に集まっている全勢力を相手に回してもなお上回るだけの戦力を持っているのは確実だった。

 10億20億なら負けるけど、じゃあ200億なら勝てるよね?って具合で増援を差し向けて来る質と量を備えた出鱈目チート勢力が動き出すのはまだ先だが、確実に近づいている事だけは確かだった。

 

 

 

・彼らは今その5   時系列不明

 

 『共和連合所属の艦艇がコードRED案件で監視中のバロータ3198XE第4惑星周辺へと偵察行動を行っているのですが、心当たりはございませんか?』

 『』

 

 共和連合とU.T.F.の緊急通信での一幕。

 U.T.F.からの報告を聞いた担当者は余りの内容に絶句した。

 即座に枢密院に伝えられ、「地雷原(戦略核地雷山盛り)でタップダンスしてるのは何処の馬鹿だ!?」と魔女狩りよろしく捜査が開始された。

 監視中のデコイ艦は戦闘能力が殆どなく、あくまで監視衛星に航行能力を持たせた様な艦なので、阻止行動は不可能だった。

 地球側のUTF本隊は対ズールで手一杯であり、対応を全面的に任される事になった共和連合は即座に戦力を派遣する事になった。

 が、バロータ第四惑星に展開している共和連合所属と思われる艦隊には旧式なれどウユダーロ級(改装前)の存在も確認されており、少数部隊ではなく即座に正規艦隊の派遣へと変更された。

 しかし、急に言われても艦隊の派遣ともなれば時間がかかる。

 全ての手続きを取っ払いたいが、それが出来ないのが高度に組織化された軍隊の泣き所であった。

 このタイムラグがどう未来に左右するのか、今はまだ誰にも分からなかった。

 

 

 



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小ネタ会話集その13

本編が進まない!
暑いし仕事疲れたし地元に一つだけのネットカフェやマイナー映画(Fate系含む)上映してる一番近場の映画館が閉店するとか超ショック!

なので本編じゃなく小ネタで解説とか伏線を入れていきます。



・こいつらもいますその1   時系列不明

 

 『ホッホッホ、ここが太陽系かの。我らがガイゾックの神のお告げとは言え、随分遠くまで来たものじゃの。』

 『ブッチャー様、孤立した衛星基地を幾つか発見致しました。』

 『ほう、それは丁度良い!我らガイゾックの太陽系到着祝いに血祭りにしてやろうぞ!』

 

 スパロボでも屈指の胸糞勢力の一つ、ガイゾックの太陽系到着時の一幕。

 ズール銀河帝国と同盟を結んでいるのか、傘下にいるのか、独自に行動しているのかは未だ定かではないが、コンピュータードール達の指揮下にある事は間違いない。

 不幸とも自業自得とも言える事だが、彼らの最初の標的は偶々目に付いたアクシズにパラオ等の連邦の管轄下にない衛星基地だった。

 

 

 

・こいつらもいますその2   時系列不明

 

 『し、司令!異星人と思われるアンノウンの艦隊が向かって来ます!』

 『何だと?!えぇい、地球やコロニーに行けば良いものを…!全域に第一級戦闘配備!出せる戦力は全て出せ!』

 

 突然襲い掛かってきたガイゾックに対するアクシズ司令部の対応の一幕。

 呉越同舟所ではない旧ジオン内でも特にやらかしていて銃殺刑確定な連中のみで構成されているアクシズでは未だ一年戦争時の機体が多く現役だったりする。

 原作の時代的には0083かZ時代なのだから当然と言えるが、未だゲルググの改修機(M型相当)やガザC位しかおらず、兵の練度も新兵と僅かなベテランのみ、戦闘艦艇もムサイ改やチベ級のみで、後は全て非戦闘艦艇しかない。

 数の上ではそこまでではないとは言え、仮にも星間航行可能な文明であるガイゾックと戦うには余りに貧弱であった。

 

 

 

・こいつらもいますその3   時系列不明

 

 「キ…?」

 

 ガイゾック襲来に気付いたアクシズに寄生中のインベーダーの一幕。

 新しい餌が来たが、特に美味しそうではないのでガイゾック達は幸運にもスルーされた。

 

 

 

・こいつらもいますその4   時系列不明

 

 『ホッホッホ、入れ食いじゃの~。』

 

 呆気なくアクシズ軍を蹴散らした後、要塞内部の人間達を片っ端から捕獲する作業を眺めてのブッチャーの一言。

 捕まった者達は全員残らず人間爆弾へと改造され、地球人類殲滅作戦の尖兵へと投入される事となる。

 なお、搭乗していたMS群は余りに貧弱で使い物になるか疑われた(それで死んでも構わない所か喜ばしい)が、新型の設計が進んでいるとの事でそれの生産も進められる事となる。

 

 

 

・こいつらもいますその5  時系列不明

 

 「くそ…くそ…!どうしてこんな…!」

 「おい、下手な事を言うなよ。俺達全員監視されてるんだから。」

 

 アクシズ内部にて、強制労働に従事中の兵士達の一幕。

 開発中だったザクⅢの突貫での完成、即座の生産並びに派生型の開発と生産。

 それらは今まで何だかんだ内輪揉めはしているが他に行き場の無いアクシズ軍は負けた現状、ガイゾックに従うしかなかった。

 逆らえば体内に仕込まれた爆弾が起爆、密集していては自分のみならず周囲の人間所かアクシズそのもののインフラにすらダメージが行く現在、その精神へのフラストレーションは凄まじく、各所で自殺や反抗が発生した。

 だが、待遇が改善される事は一切なく、彼らは地球人類を絶滅させるため、自らが死にに行くためのMSを開発・生産させられ続ける事となった。

 それも本格的な戦闘が開始されるまで、であるが。

 

 

 

・こいつらもいますその6   時系列不明

 

 「馬鹿な!遂にこの星もガイゾックに見つかってしまったのか!?」

 「このワープ反応、間違いないかと…。」

 「どうします?戦えるのは勝平に宇宙太、恵子しかおりませんぞ?」

 「……三人の戦闘訓練時間を増やしてくれ。儂はA.I.M.に連絡してみる。」

 「私はザンボット3の方を見てきます。万全の状態にしなければ…。」

 

 嘗て自分達の故郷であるビアル星を滅ぼした侵略者の登場に驚く神ファミリーの一幕。

 異星人であるからと既にして接触済みのA.I.M.とは情報交換をして対異星人政策の相談役とかもしている神ファミリーであったので、比較的スムーズに話は進んだ。

 なお、ザンボット3は強力であるが、技術的には合体機能を除けば特に見るべき所は無いとして簡単な調査のみで彼らの手元にある。

 

 

 

・こいつらもいますその7   時系列不明

 

 『太陽系内部巡回部隊に通達。要注意対象Gが太陽系内部に侵入。見つけ次第報告せよ。』

 『了解。』

 『報告が入り次第即応部隊を編制、偵察の後に包囲殲滅戦を行う。決して逃がすな。』

 

 自動人形達の量子通信ネットワークでの一幕。

 スパロボ屈指のトラウマ勢力の登場に密かに索敵網を密にし、対策も事前に練っていたのだ。

 しかし、対ズールで手一杯である彼女らではそこまでが限界で、まさか速攻でアクシズを陥落させていたとは思いも寄らなかった。

 

 

 

・そういえばあの人は?   時系列不明

 

 「美しい…。」

 

 A.I.M.火星支部長(正確に言えば火星各地に点在する全支部の統括責任者)のシロッコ、自分の設計したMSコレクション(博物館として一般に無料開放中)を見ての一幕。

 完全にナルシストであるが、その優秀さは誰もが認める所なので呆れられながらも尊敬されている。

 展示されているMSはメッサーラ、ガブスレイ、バイアラン、ボリノークサマーン、ハンブラビ、ジ・オ、タイタニア他、名前も無い試作機も多い。

 これら全て本業の傍らで設計開発しては会社の金で試作機として建造している。

 こいつ、趣味に会社の金をつぎ込んでやがる…!とよく言われるが、バタラを始めA.I.M.製機動兵器の開発者兼最新技術の研究者の一人でもあるので、これも仕事の一環だったりする。

 多くがテスラドライブやDFを非搭載かつジェネレーターもミノフスキー式核融合炉のため、現在では旧式扱いされる機体ばかりだが、近代化改修さえすれば一線で活躍できるだけの性能はあったりする。

 最近ではVFの設計にも手を出し始めたとか。

 

 

 

・そういえばあの人は?その2   時系列不明

 

 『…………。』

 

 火星圏秘匿研究施設の最奥にて安置されているG.G.格納庫での一幕。

 未だ炎を受け継ぐ刃金は目覚めず、ただその時を待っている。

 ユング大統領の眠っていたオリジナルのエクセリオン級から入手したグレートガンバスターのデータを入力した所、ゲッター線並びに自己進化する多機能ナノマシンの力によってその内部構造・機能が変化しており、間も無く完全な進化を遂げると予想されている。

 推定完成スペックは宇宙怪獣10億体程度なら単体で殲滅可能であると言われているが、それを使いこなすだけのパイロットに恵まれればの話であり、無人化した場合は5億体程度が限度であるとされている(それでも十二分に凄まじいが)。

 

 

 

・そういえばあの人は?その3   時系列不明

 

 「やはりこれ以上のサイコミュ開発は厳しいかね?」

 『はい。現状、ミノフスキー環境下での無線誘導兵器よりも特機の方が安定して強いですから致し方ないかと。』

 「むぅ…NT研究は旧ジオンのデータで大きく進んだとは言え厳しいな…。」

 

 アナハイム・エレクトロニクス会長メラニー・ヒュー・カーバインと部下の通信での一幕。

 アナハイム、特に北米本社から殆ど独立したと言える月の各支部では地球連邦の目を盗んで他の大企業群からの技術の盗用や非合法なNT研究を行っていた。

 前者は重力制御に始まり、ナノマシンやミノフスキー粒子関連等を皮切りに多岐に渡り、後者に至っては嘗てはジブリール派の強化人間作製への技術協力等、多くの悪事をやらかしていた。

 他にもあの手この手で太陽系第一位の大企業となるべく暗躍しているのだが、その殆どの策が失敗している。

 だと言うのにメラニーは諦め悪く手を打ち続けている。

 これは彼の地球人類を全て宇宙に上げ、残った聖地をユダヤ民族の手に奪還するシオニズムが原動力となっており、余りに増えた地球人類に対して現在はその数をどうにか減らす事で目的を達成しようとしていた。

 ジブリール派に協力したのもそのためであり、地球の混乱を煽る事で地球連邦の月や火星への遷都を誘発並びに人口を減少、然る後にユダヤの手に聖地奪還を成すためだった。

 地球連邦からすれば、完全に獅子身中の虫である。

 

 

 

・そういえばあの人は?その4   時系列不明

 

 『これはいけませんね。』

 『えぇ、これではNT研究がストップすれば、サイコフレームが開発されなくなってしまう。』

 『仕方ありません。量子演算装置はまだ駄目ですが、粒子サイズならば技術提供を許可するよう上に掛け合ってみましょう。』

 

 その通信を聞いていたA.I.M.諜報部門の自動人形らの一幕。

 この直後、A.I.M.からの技術協力でサイコミュ関連研究は停滞せずに済んだが、その余りの間の良さにメラニーは情報の漏洩を悟ったと言う(割といつもの事だが)。

 数々の悪事を働き、害虫同然の真似をしても月のアナハイムがA.I.M.から見逃されているのは、一重に彼女らの苦手なサイコミュ関連の研究、その到達点たるサイコフレームの完成を望んでいるからに他ならない。

 サイコフレームが完成し、戦乱が一時的に落ち着けば、月のアナハイムの経営陣は迅速に逮捕・刷新され、地球本社の社長派が手綱を握るか月の方でもまともな者達が担う事となる。

 無論、やらかせば次は容赦なく潰されるのは言うまでもない。

 

 

 

・この宇宙じゃない場所で   時系列不明

 

 『間も無く、我らが悲願が実現する。』

 『ここまで長かったな…。』

 『うむ、だがもう少しだ。皆、気を抜かぬよう励んでくれ。』

 『G弾さえあれば、最早恐れるものは無い。』

 『地球脱出船団の準備も万端です。後は実行の機会を待つだけです。』

 『横浜の女狐めが気張っておるようだが、何、所詮は時間稼ぎに過ぎぬよ。』

 『第四計画派も粘りましたな。結局、何も出来なかった様ですが。』

 『…全ては地球人類存続のため。恨んでくれるなよ。』

 

 この宇宙じゃない何処かの地球の秘匿通信での一幕。

 彼らはG弾と言われる兵器を便利な超兵器と思っているようだが、実際は異なる。

 G弾、正式名称 Fifth-dimensional effect bomb (五次元効果爆弾)は多重乱数指向重力効果域(爆発域)は拡大を続け、それに伴いML即発超臨界反応境界面(次元境界面)も広がり、接触した全ての質量物はナノレベルで壊裂・分解される。

 放射能物質こそ出さないものの、被爆跡地では半永久的に重力異常を引き起こし、植生も回復しないという深刻な欠点を持つが、それ以上の致命的欠陥が存在する。

 それは使用すればする程、時空間に深刻な歪みを発生させるという性質。

 有り得ざる事象を引き起こすこの効果を共和連合では特異点と呼称し、加盟国内において全面的に研究・使用を禁止、同盟国たる地球連邦政府にも徹底させている。

 そして、この秘匿通信を行っている彼らは地球上でのG弾の一斉起爆を目論んでいた。

 それが如何なる結果を齎すのか、今はまだ誰も知らない。

 

 




今回のFGO水着イベントの結果発表!




前半は新規水着鯖全員当てましたが、後半は全滅しました!(白目
性能的に一番欲しかった水着ヒルデ来たから良いけどアビーちゃんが欲しかった…!


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第64話 皇帝VS皇帝その2

ふぅ…やはりスランプ脱却には書くのが一番。


 新西暦186年9月28日 極東方面 旧光子力研究所跡地

 

 現在、ミケーネ帝国と地球連邦軍ISA戦隊分隊と特機軍団が熾烈な争いを繰り広げる戦場は、徐々に地球連邦軍がやや押されていた。

 高い再生能力と高い攻防能力を持ったオリジナルのグレートマジンガーが暗黒大将軍の相手に掛かり切りになっていたからだ。

 対して、相手側は未だ1000機近い戦闘獣がおり、それらを七つの軍団の長たる将軍達が見事に指揮し、ISA戦隊お得意の斬首戦術を防いでいるからだ。

 加えて、戦闘獣はマジンガーZに比肩する基礎性能を持ちながら、同時に高い再生能力を持っている。

 胴体が両断されたとしても古代ミケーネ人の脳髄のある頭部さえ無事ならば、グレートマジンガーにも搭載されている空中元素固定装置による自己修復であっさり戦線に復帰するのである。

 この頑丈さと再生能力から来るタフネスは他の地球産特機には殆ど見られない能力であり、現在の地球連邦側の苦境の原因でもあった。

 地球連邦政府の主力機動兵器は言うまでもなくMSであり、次にVF、その次に量産型特機が来る。

 しかし、量産型特機の殆どが宇宙に回されており、地球上は旧式MSを主体として更新が遅れている。

 これは予算やリソースの問題であると同時に、地球環境への配慮でもあった。

 特機級の機動兵器が大暴れした場合、その戦闘の余波はMSやVFとは比較にもならない。

 特に大火力兵装に至っては着弾した土壌が熱量による融解や地面のガラス化=不毛の場所となる事も珍しくない。

 特殊なエネルギー兵器に至っては、生態系がおかしくなる事すら有り得る。

 例えば、ゲッタービーム着弾地点は焼け焦げるが、その周辺は動植物の異常繁殖や急激な成長が確認された事例もある。

 これは地球環境を再生させるべく宇宙移民を進める地球連邦政府としてはとてもではないが看過できない問題だった。

 少なくとも、戦時に入らなければとてもではないがグレートマジンガーやゲッターロボGの量産化計画は承認される事は無かっただろう。

 そんな事情によって、地球上での特機級戦力への対処方法は限定されている。

 即ち、囲んで遠距離から通常兵器の集中攻撃か、装甲の脆弱な部分への集中攻撃、光子魚雷等の強力な兵器の使用である。

 だが、それは相手よりもこちら側の数が多い場合か、制空権を持っている場合に限られる。

 

 『ブレイク!ブレイク!』

 『こいつら…!数が多い上に硬すぎる!』

 『救援はまだか!?特機軍団の再出撃は…!』

 

 現在、戦場の上空ではVF一個中隊が制空権奪取を防ぐべく、縦横無尽に暴れる特機部隊とは別に圧倒的多数かつ火力と防御力に勝る空戦可能な戦闘獣軍団を相手に必死に時間を稼いでいた。

 彼らは精鋭のVF中隊だがその圧倒的物量差によって時間稼ぎに徹する事しか出来ずにいた。

 如何に精鋭、如何に新型機と雖も物量はどうにもならない。

 搭載する武装の数と出力には限界があり、それらを優先している特機に対して即応性最優先のVFならば力負けするのは当然の事。

 しかも相手は硬い上に高い再生能力を持つ戦闘獣なのだ。

 VFではどう足掻いても火力不足が祟り、その機動性を活かした時間稼ぎが関の山だった。

 他の友軍であるMS中隊や量産型グレート二機は地上の敵を相手にしており、加勢は望めない。

 このままでは増援が来るまでに磨り潰される、そう思われた時だった。

 

 『ハンドビーム!』

 

 まだ彼らには心強い味方がいた。

 UFOロボことグレンダイザー。

 制空戦闘の不利を見て、専用の円盤メカと合体したスペイザー形態で戦闘獣が山といる戦場の空へと突っ込んで来たのだ。

 

 『これ以上好きにはさせないぞ!スペースサンダー!』

 

 頭部の角から発せられた電撃が、空中を飛び交う戦闘獣の群れへと直撃、次々とコンガリと焼かれて撃ち落としていく。

 その圧倒的な威力と高熱に古代ミケーネ人の脳髄を破壊された機体は活動を停止し、死ねなかった機体は地表に激突し、動けなくなった所を地上のMS中隊がしっかり止めを刺していく。

 

 『えぇい、怯むな!火力は高いが小回りはこちらが上だ!圧し包んで叩き落せ!』

 

 鳥類型戦闘獣を指揮する怪鳥将軍バーダラーの声に、動揺していた戦闘獣が冷静さを取り戻して態勢を立て直し、反撃を開始する。

 無数の破壊光線に溶解液、衝撃波、レーザーにミサイルにビーム、ブーメランにドリル等々。

 多種多様な攻撃がスペイザーに命中するが、それだけで落とされる程最盛期のフリード星の科学力で建造された守り神は脆くはない。

 宇宙合金グレン製の装甲で全ての攻撃を弾き、反撃を開始する。

 

 『行け、スピンソーサー!』

 

 スペイザーの両翼の先端、小型の円盤部分が内部の回転鋸状を展開して分離、戦闘獣の群れ目掛けて飛行し、自動操縦で敵機を切り裂いていく。

 そうして敵の動きが乱れた所にスペイザー本体が突撃し、敵の陣形に風穴を開けていく。

 

 『上下から狙え!そこには武器が無いぞ!』

 『ギギ、ならオレは下から行くぞ!』

 

 が、巡航形態とも言えるスペイザーはその性質上死角が多い。

 特に上下には武装らしい武装も付いておらず、反撃もし辛い。

 

 『なんの!メルトシャワー!』

 『ぎ、ぎゃあああああああああ!?』

 

 スペイザーの胴体から強力な溶解液としての性質を持った液体金属が発射される。

 それは武装が無いと油断していた戦闘獣に直撃し、ものの数秒で頭部を含むほぼ全身を溶かし尽した。

 

 『ローリングメルトシャワー!』

 『ひいいいいい!』

 『あぁ、溶ける溶けちゃうぅぅぅ!』

 

 しかも、放出しながら機体を回転させて溶解液を四方八方に撒き散らすという無差別テロ染みた攻撃を行い、殺到していた多数の戦闘獣に量の多寡こそあれど命中し、そこかしこで悲鳴が上がった。

 再生可能と言えども生物である戦闘獣もこれには恐れを成し、じわりと狭まっていた包囲網が広がり、即座にその中からスペイザーが脱出する。

 

 『今だ!』

 『よし、主砲斉射三連、撃てぇい!』

 『な、しまっ』

 

 そして、密集していた戦闘獣の群れへと連装衝撃砲の斉射三連が放たれる。

 如何にマジンガーZに並ぶ装甲と雖も、最新鋭戦艦たるスペースノア級クロガネとシロガネの二隻の主砲の直撃には原型を保てず、直撃した機体は消し飛び、他の多くも損傷が激しく、地表へと落ちて行った。

 

 『小癪!だが、まだまだこちらの手勢はいるぞ?』

 『対空迎撃開始!敵をこちらに近付かせるな!』

 

 今の砲撃で存在感を示してしまったクロガネとシロガネ目掛け、戦闘獣が殺到する。

 それに果敢に対空砲やミサイルで迎撃を行うも、硬い上に数の多い戦闘獣を完全に仕留めきるには至らず、接近を許してしまう。

 

 『おおっと、このダイターンをお忘れかな?』

 

 そこに無敵の快男児、破嵐万丈の駆るダイターン3が迎撃に加わる。

 

 『ダイターンは火力も凄いのさ!』

 

 そう言って放たれたのはその巨体に見合うだけの武装による弾幕だった。

 額の太陽からはサン・レーザー、両腕部からはロケット砲、腹部からはダイターン・ミサイルを一斉に放ち、100m級の巨体を盾にしつつ迫り来る戦闘獣を立て続けに撃破する。

 しかし、やはり全てを撃破とは行かなかった。

 

 『死ねぇデカブツが!』

 『おおっと、ダイターン・ファン!』

 

 遂に接近戦の距離へと到達し、飛び掛かってきた戦闘獣相手に膝から取り出した武装が展開され、シールドとして受け止める。

 ファンの名が指す通り、左手に握ったダイターン用の巨大な鉄扇を広げて盾にしたのだ。

 しかもその直後に右手に持った同様の扇を刃として、戦闘獣を一撃で斬り裂いてしまった。

 

 『さぁ、この日輪の輝きを恐れぬのなら掛かってくるがいい!』

 

 この様に、宇宙の王子と財閥の跡取り息子の二人によって、辛うじて戦線の瓦解は防がれていた。

 尚、どちらも戦場に出るべき人材ではないという正論は聴かない事とする。

 

 

 

 ……………

 

 

 「ふん、やはり人形ではこの程度か。」

 

 一方その頃、光子力研究所跡地付近の森の中では、歩兵戦力同士の決着が着いた所だった。

 と言っても、諜報軍率いるミケーネスが量産型自動人形部隊に勝利した訳ではない。

 何せゴーゴン大公とヤヌス侯爵他諜報軍所属の小型戦闘獣を除けば、他は全て再生能力も無いクローン兵士であるミケーネスなのだ。

 想定し、待ち構えて簡易陣地を構築し、EM銃や歩兵用対装甲レールガンにガトリング砲を多数運用する量産型自動人形部隊を早々簡単に突破できる程の戦力ではなかった。

 寧ろ正面から撃破され、撤退すら視野に入れる程には不利だった。

 それが覆されたのは至って単純な理由、腹に含むものはあれども強力な増援が来たからだ。

 

 「感謝する、怒鬼殿。」

 「………。」

 

 ゴーゴン大公からの感謝の声すら一顧だにせず沈黙を保つ男。

 質素な和装に腰に佩いた日本刀、そして如何なる時も寡黙に過ぎる彼の名は直系の怒鬼。

 BF団最高幹部たる十傑集の一人である。

 

 「貴様、ゴーゴン大公が折角お声を掛けてくださったと言うのに…!」

 「止めろ化け物共。怒鬼様にお声を掛けて頂きたくばとっとと例のブツを手に入れろ。」

 

 その周囲には本来BF団で禁止されている怒鬼の私兵部隊である「血風連」の面々が勢揃いしていた。

 国際警察機構のエージェント達でも上位の面々でなくば対抗できない彼らの加勢により、量産型自動人形達は全滅の憂き目に会ったのだ。

 

 「貴様ら言わせておけば…!」

 「目的をはき違えるな。先ずは例の皇帝を手に入れてからにしろ。」

 「ぬぐ、ぎ…!」

 「では失礼する。怒鬼殿に血風連の方々には後で改めて礼をさせて頂く。」

 

 激昂するヤヌス侯爵を諫め、ゴーゴン大公ら諜報部隊は生き残ったミケーネスを引き攣れて再び光子力研究所跡地へと向かって行く。

 それを怒鬼は最後まで沈黙を保ちながら見送るのであった。

 

 「………。」

 「よし、撤収するぞ。これ以上は巻き込まれる可能性がある。」

 

 そして、それ以上何かをする事もなく、直系の怒鬼率いる血風連の面々は一瞬でその場を離脱するのだった。

 彼らは事前の情報収集と戦況予測で、この後に何が起きるかを十二分に把握していた。

 魔神の中の魔神、魔神皇帝同士の戦いに巻き込まれる等、彼らであっても御免被る事態だった。

 

 



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小ネタ会話集その14

いつものムロンさんからの小ネタ集と後半はその捕捉です。
ムロンさん、毎度ありがとうございます。


○インベーダー2   時系列不明

 

 「よく来てくれたダッチ、ディロン。サム、二人に状況を説明してくれ」

 「はっ!今から23時間前、廃棄されていたコロニー『メンデル』からの定時報告が途絶えた。その5時間後、コロニー公社からの通報を受けて付近を航行中だったコネストガ級強襲揚陸艦スラコが状況確認のため入港し海兵隊を展開。だが彼らもその報告を最後に消息を絶った。率いていたのはジム・ホッパー少佐、エコーズへの引き抜きも検討されていた凄腕だ。」

 「奴ならよく知ってます。ホッパーは待ち伏せを喰らうような奴じゃあない。」

 「資料を見ましたが人員は粒揃いで装備も充実している。これが通信途絶となるとただの事故とは考えられませんな。」

 「その通りだディロン。現在メンデル周辺はパトロール艦隊が固めているが、戦力の少ない彼らではスラコの二の舞を警戒して内部の調査は行えない。それで我々に白羽の矢が立ったというわけだ。君達は三時間以内に装備を整え現地に飛んでくれ。必要ならば特機部隊の出動も要請しよう。」

 「了解ですカービィ中将。」

 

 エコーズ本部での一幕。

 軍の部隊すら失踪するといった事態に対し迅速に反応した連邦軍は最精鋭の歩兵戦力を有するエコーズの投入を決定。

 アラン・“ダッチ”・シェイファー少佐率いる部隊が強襲揚陸艦「ロジャー・ヤング」に乗り込み、現地に派遣されることとなる。

 

 

 

○インベーダー2その2   時系列不明

 

「馬鹿者!誰が撃っていいと言った!?たかがナチュラル風情、素手で取り押さえて見せろ!」

「ち、違いますサトー隊長!こいつはナチュラルじゃあ……“人間”じゃあありません!」

 

 廃棄コロニー「メンデル」襲撃時のザフト残党による調査隊員?捕縛時の一幕。

 実はメンデルを最初に襲ったのはザフトの残党であった。

 プラントの降伏並びに解体(住民の7割以上の死亡と社会制度・インフラ維持に必要な人口や人手が完全に消滅していた)を良しとせず、幸運にも巨人族の攻撃やコロニーレーザーの砲撃からも生き残りながらも脱走した彼らは一年戦争で生じたデブリ帯などに身を潜め、過激な反地球連邦活動を行っていた。

 が、そんな場所での生活が健康に良い訳がなく、劣悪な環境はコーディネーターの頑強な肉体を以てしても彼らを蝕んでいった。

 そこで半ば放棄されているメンデルを接収せんとするが、査定に訪れていたコロニー公社の調査隊と鉢合わせてしまう。

 彼らの不幸はそこからだった。

 既に調査隊の幾人かは秘かに潜りこんでいたインベーダーに取り込まれていたのだ。

 偶然変貌する瞬間を目撃してしまったザフト兵は恐慌状態に陥り、なし崩し的に戦闘が始まってしまうのだった。

 

 

 

○インベーダー2 その3   時系列不明

 

 『少佐、通信室を制圧しました。しかし……内部は血の海です。ザフト野郎の死体とノーマルスーツの残骸が数人分、それ以外は何も見当たりません。』

 「そこもか。コロニー公社の職員の話じゃあ連中は100は下らない筈だ。残りの連中に何があったんだ?」

 『そこらじゅうに肉片が飛び散っています。銃弾や爆発物の痕じゃあありませんよこれは。まるで力任せに引き裂かれたようなっ!?な、なんだこいっ……………』

 「中尉どうした!?おい!応答しろゴーマン!シカゴ!」

 

 急報を受けてコロニーに到着した海兵隊は倉庫に立て籠っていたザフト残党を即座に制圧、人質にされていた職員を解放した。

 しかし、人質の証言と遭遇したザフト兵の人数がまるで合わず更なる調査を続行。

 結果として、彼らはこの世の地獄へと足を踏み入れることとなった。

 

 

 

○インベーダー2 その4   時系列不明

 

 「畜生!聞いてねぇ、聞いてねーぞ!こんな化けもんの相手なんて……畜生!」

 「泣き言いってんじゃあないよハドソン!ケツを蹴り飛ばしてやろうか…っ!?ヒックス!後ろ!!」

 「うぉっ!?野郎オカマを掘るつもりか?くたばれ!」

 「退け!退け!スラコは諦めろ!研究所に立て籠るんだ!」

 

 襲い掛かって来るインベーダーと海兵隊の戦闘時の一幕。

 メンデルに突入した海兵隊は今まさに地獄の一丁目にいた。

 インベーダーによる奇襲に対応してみせたマリーンジェガンとアーハンの混成部隊はコロニー内の建造物に擬態していた大型インベーダーと相討ちとなる形で全滅。

 海兵隊は救出した民間人を守りながらなんとか港湾部への撤退に成功するも、頼みの綱である母艦スラコがコロニー外壁に擬装していたインベーダーの襲撃を受けて撃沈。

 指揮官を含め数多くの犠牲者を出しながら海兵隊は廃棄された遺伝子研究所の一角に立て籠り、先の見えない籠城戦を強いられる事となってしまった。

 

 

 

○インベーダー2 その5   時系列不明

 

 「ハドソン!そのビクビク女を焼け!また動き出しそうだ!」

 「畜生!神よ!こんな事が許されていいんですか!?奴ら生きたまま人に寄生してやがる!!」

 「さっさと焼け!これ以上苦しませるな!!」

 「くそっ!くそぉぉぉぉぉ!!」

 

 籠城した研究所内での海兵隊並びに民間人の一幕。

 避難した研究所もまた地獄だった。

 保護した民間人の中には生きながらにインベーダーに寄生された者が混じっており、周囲を警戒していた海兵隊や他の民間人に襲いかかったのだ。

 辛うじてこれらを撃退して医官が全員の血液検査を行って安全を確保した頃には、数十名の部隊はようやく両手の指の数を越えるほどまでに打ち倒されていた。

 

 

 

○インベーダー2 その6   時系列不明

 

 「遅刻だぞ!このウスノロども!」

 「道が混んでた。」

 

 コロニー内に突入したエコーズと海兵隊の生き残りのやり取り。

 あわや全滅の憂き目になりそうな時、外壁をぶち抜いて突入してきたエコーズによってインベーダーは瞬く間に殲滅された。

 武装ヘリで突っ込んでいったらなんとかなったパターン。

 突っ込んだのはヘリどころか最新鋭の戦艦だったが。

 なお生存者を救助した後、メンデルは念のため光子魚雷によって跡形もなく消滅させられる事となる。

 汚物は消毒するのが古来からの正しい対処方法である。

 

 

 

○インベーダー2 その7   時系列不明

 

 「おい待て!銃を向けるんじゃあない!ダッチ俺だ!シカゴだ!」

 「シカゴ!?殺されたんじゃ?」

 「俺もそう思ったぜ。目が覚めたらダストシュートで逆さまになって寝てた。」

 「おい近づくな!まず確かめる」

 「確かめるってなにを『Ban!!!』ぐああぁぁぁぁ!?痛っ何しやがる!」

 「血が出てる!?」

 「当たり前だ畜生!撃たれりゃ誰だって同じだ!?」

 「まだだ!血を調べるまで待て!」

 「何だってんだ!?お前さん病気か!?」

 「女みたいに喚くな!ただの掠り傷だ!」

 

 脱出直前に合流してきた海兵隊員シカゴとダッチのやりとり。

 ダッチとは古馴染みのシカゴだったがエコーズ到着以前の戦闘でMIAとなった事から、生存は絶望視されていた。

 が、その後に余りにも都合よく合流してきた彼をインベーダーの擬態と疑ったダッチは発砲。

 その反応と血液を確かめることで見破ろうとした。

 結果はシロでありシカゴは撃たれ損になった。

 帰還後、お詫びに一杯奢る事でチャラにしたが、他の生き残った面々の話を聞いて寧ろ謝罪したと言う。

 が、彼らが再び一堂に会して酒を飲むのは、徹底的な身体検査が終わった来週以降だった。

 

 

 

○インベーダー2その8   時系列不明

 

 「木曜洋画劇場再び?」

 「ですね。実に暑苦しい筋肉ばかりです。」

 「内容はエイリアン2と遊星からの物体Xのクロスかな?」

 「実にそれっぽいかと。」

 

 一連の事件の報告を聞いた太陽系の何処かにいる一番偉い合法幼女ととの部下の一幕。

 以後、地球連邦軍とU.T.F.の哨戒活動が更に厳密なものとなり、このやり方は移民船団や他の星に駐留する連邦軍にも伝播した。

 結果、本隊からはぐれたインベーダーや宇宙怪獣の発見のみならず、異星人勢力の残党や未知の勢力と遭遇する事となるのだった。

 

 

 

○ダイハード   時系列不明

 

 「ちきしょうめ!クリスマスだぞ!?クリスマスパーティーでなんでこうなる!?連中タマだけじゃなく脳ミソまでママの腹の中に置いてきたのか!?ハゲが治せない程度の癖に調子こきやがって!」

 「待ってろホリィ、今助ける、必ずだ。だから無茶すんじゃねえぞ」

 

 とあるクリスマスイヴでの一幕。

 ブルーコスモスの主要メンバーである(あった)ムルタ・アズラエルが参加する予定のクリスマスパーティー会場が旧ザフト系列の過激派武装集団に占拠される事件が発生。

 ガードマンや数名の人質が射殺される惨事に発展するが、居合わせた一人の警官によりテロリストは全員あの世に送られ事件は無事解決する。

 

 

 

 ○ダイハード2 その2  時系列不明

 

 「おおい!待ってくれ!女房と子供を迎えに来てるんだ!車がないと困る!返してくれ!頼むよ、女房の上司が好意で貸してくれた車なんだ。立場がなくなるよぉ。俺も警官だ、同業のよしみでさぁ。」

 「いやそうは言うけどさぁ。おたく勤務中ってわけじゃないでしょ?それに世間様も見てる中で大っぴらに揉み消すわけにも……あれ?そう言えばあんたの顔どっかで見た様な…?」

 「ああ、去年のクリスマスの件でしばらくマスコミにつけまわされてたからな。俺はジョン・マクレーン、LAの刑事だ。」

 「ええっ!?ジョン・マクレーンってあの?ナカトミプラザビルを爆破した?」

 「嬢ちゃん、さすがの俺もビルを吹っ飛ばしたことは…いや待て?ワンフロアだけなら吹っ飛ばしたな。だがありゃあ不可抗力って奴だ」

 「どっちにしろおっかねぇわ!!」

 

 ナカトミプラザビルの一件から一年たったクリスマス、大雪のため交通整理に駆り出された特車二課。

 そんな中で遊馬と野明がとある駐禁者と口論した際のやりとり。

 ナカトミプラザビルの一件は大々的に報道されたものの、その際マクレーンが以前爆破した倉庫の件も同時に流されたため混同するものも一定数いた。

 結局その場に居合わせた後藤隊長の執り成しで形だけの警告のみ行うに留まった。

 しかしこの直後、彼らは思わぬ事態に遭遇する事となる。

 

 

 

 ○ダイハード2 その3   時系列不明

 

 「なーにが“日本は治安がいい”だ!またこんな目に合ってるじゃあねえか!日本なんて嫌いだ!」

 「あの…マクレーンさん?その理屈だとアメリカもダメなんじゃあ?それに最近のこと考えたら太陽系そのものがダメな気が…。」

 「ああそうだなお嬢ちゃん!悪かった、訂正する!宇宙人なんて大嫌いだ!」

 

 やはり何かに巻き込まれる事になったマクレーン。

 特車二課や現地の連邦軍が加わって前回すら上回る大騒動に発展する。

 そもそもスパロボ時空における日本は特異点たる地球の中でも特に魔境なので「治安」はよくても「安全」ではない。

 まあここ数年の話だから認識がおっつかないのは仕方ないが。

 果たして彼は無事に家族旅行が出来るのか!?頑張れマクレーン!ハゲ散らかすその日まで!

 

 

 

 

〈補足 今回の小ネタに登場する兵器+α〉

 

 ○コネストガ級強襲揚陸艦

 

 クラップ改級をベースに開発された強襲揚陸艦。

 その性質上装甲が強化されており全体的にゴツくなっている。

 中央部のMS格納庫が海兵隊や彼らの運用する装甲車輌やアーハンのためのスペースを兼ねる都合上MSハンガーが削減されており、搭載MS数は4機にまで減少している。

 また主砲である衝撃砲が一基降ろされており、その代替として艦載型のドライバーキャノンが装備されている。

 これは確実に相手にダメージを与えるための措置だったのだが、今回はこれが仇となりインベーダーに命中するもそのまま貫通してしまったため撃破に至らなかったため、逆に撃沈されてしまった。

 クラップ級系のサイズとコストを継承する故に使い勝手が良く、コロニー内での鎮圧作戦等に主に投入されている。

 

 

 

 ○ジェガンM型

 

 配備先やその外観からマリーンジェガンやシェルジェガンとも言われるジェガンの派生機の一つ。

 文字通りジェガンの海兵隊仕様機。

 とはいえ機体そのものにはさほど手は加えられておらず、追加装甲として爆発反応装甲とマガジンポーチを増設し関節強度が強化された程度なので、原作のジム・クゥエルに近い改装と言える。

 基本的にコロニー内などの閉鎖空間での近接戦闘が前提の機体であり、重量が増加ため宇宙空間で機動力は通常型ジェガンに劣る。

 武装はコロニーに過度な被害を与えないため、ビームガン兼ビームサーベルとビームピストルを除けば実弾で統一されている。

 そのせいで対インベーダー戦には相性が悪く、今回の被害を拡大させる原因になってしまった。

 

 

 

 ○ゲシュペンスト・コマンドゥ

 

 エコーズ用に改修された量産型ゲシュペンストMk.Ⅱ。

 機体そのものはただのゲシュペンストだが、装甲やアビオニクスが最新のものに更新されている他フォールド通信機や強力なセンサー類が搭載されており、一般的なゲシュペンストに比べるとその総合性能は15%ほど向上している。

 実質的に最新アップデート仕様の先行配備型と言うべき機体であり、後に一般の部隊でも同性能にアップデートされる予定。

 一般のパイロットでは扱いの難しい武装を大抵のエコーズ隊員は難なく使いこなすため、カタログスペック以上の能力が期待できる。

 

 

 ○ロジャー・ヤング級強襲揚陸艦

 

 A.I.M.がプロトカルチャーの自動工廠で建造した3000m級惑星揚陸強襲艦を地球人向けに改修した艦。

 動力が縮退炉に変更され、DFが装備されるなど連邦軍の標準的仕様に改修されている。

 戦艦ではないが衝撃砲やドライバーキャノン、無数のビーム砲で武装しているため対艦戦闘能力は非常に高い。

 また船体下部に改良型HLVや小型化に成功したチューリップ・ゲート(HLVと同様の外殻を装備して大気圏に向け投下可能)を搭載。これらを投下する事で迅速な戦力展開をすることが可能となっている。

 メガロード級より巨大だが艦首の大型砲や変形機構の類いが存在しないため構造が単純であり、一隻辺りのコストは規模に反して低めで頑丈である。

 巨人用の居住スペース分の容積を格納庫や整備工場に宛てており、大部隊をそのまま輸送し戦線に送り込むことが可能。

 とはいえこの種の艦艇の需要がさほど存在しないため生産数は少なく、一番艦「ロジャー・ヤング」、二番艦「ヴァリー・フォージ」、三番艦「トゥール」の三艦のみが就役している。

 そのため海兵隊では基本的にはコストと取り回しに優れるコネストガ級強襲揚陸艦が主に運用されている。

 艦名は「宇宙の戦士」の主人公が乗った艦から。

 

 

 

 ○熱核融合砲弾

 

 敷島博士が(趣味で)開発した対特機対巨大生物用砲弾。

 MS用ショットガンから発射することが可能。

 命中すると弾頭が瞬間的に核融合反応を開始し、それに付随して発生する膨大な熱量を以て対象を瞬時に融解、もしくは焼き殺すことが可能。

 詳細は不明だがMk.82戦術核弾頭と同等の核融合反応を着弾地点を中心に僅か十数mの範囲限定で圧縮して発生させるというおかしな特性があり、核融合兵器のくせにその危害範囲は恐ろしく狭い。

 (名目上は)コロニー内におけるビーム兵器の代用品として開発されたものの、結局着弾地点周辺がどえらいことになる他に砲弾一発辺りのコストがMk.82弾頭と同等に及ぶため普段使いには適さず、余り量産はされなかった。

 

 

 ○Gチェーンガン

 

 MS用サイズに拡大化されたミニガン。

 銃器としての破壊力もさることながらプラズマ・チェーンソーが取り付けられているため接近戦にも対応可能。

 なおMSのランドセルに背負う形で追加弾倉を装備することができる。

 モデルは「Gのレコンギスタ」に登場するMS「ヘカテー」のプラズマ・サイズ。

 が、「支援火器に近接武装付けるってどうよ?」という正論によってサイズ部分はオプション化され、専ら普及型のビームライフルやマシンガン等に装備されている。

 チェーンガンをバックから出しなよ。

 

 

 ○M90アサルトマシンガン

 

 新型のMS用実弾アサルトライフル。

 グレネードランチャーやショットガンを装着可能な他、各種オプションを装備するためのレールが付いており、非常に汎用性が高い。

 性能自体もバランスよく高く纏められており、ビーム兵器の使用できない環境でのMSの主力武装として採用されている。

 

 

 

 ○グラヴィティーハンマーユニット

 

 スペースノア級用艦首モジュールの試作品の一つ。

 重力により発生するポテンシャル場を利用し、対象物を光の粒子に変換する兵器であり、物理的な装甲では防御不可能。

 しかしながらその性質上攻撃する際にはそのまま体当たりする必要があり、艦隊旗艦を務めることもあるスペースノア級の装備としては些か不適切であるとされ、現在はテスラ・ライヒ研究所の格納庫内に保管されている。

 この決定は開発スタッフの間では不評であり、クロガネの対艦対岩盤エクスカリバードリル衝角のことを引き合いにだして猛抗議を行ったものの、その回転衝角も結局クロガネ用の1基以外は作られなかったため空振りに終わってしまう。

 なお余談であるがこのモジュールの存在を知ったGGGがその技術を独自に改良、小型化に成功したのが後のゴルディオンハンマーである。

 

 

 

 ○アラストル(フルメタル・パニック)

 

 アズラエル財閥の系列企業が共和連合のバイオロイド兵やA.I.M.(U.T.F)の自動人形を参考に(しつつ技術提供されて)開発した量産型機械歩兵。

 超小型OTM反応炉を搭載しておりパワードスーツ並みの馬力を誇る。

 AIがまだ未熟である程度の自己判断は可能だが基本的には人間のオペレーターの随伴が必要。

 メンデルに投入された際は設置されたセントリーガンとともに小型インベーダーに立ち向かった。

 

 

 ○白兵戦用ノーマルスーツ

 

 一見ただのノーマルスーツだが装甲の他に内部にはパワーアシスト機能が仕込まれた実質パワードスーツ。

 小口径のライフル弾程度なら完全に防ぎきる防御力とエレカ程度なら片手でひっくり返す膂力を併せ持ち、それらを活用した格闘戦や重火器での射撃戦を得意とする。

 ヘルメットには無線はもちろん暗視装置や熱感知・動体反応測定装置や集音装置など各種ハイテク機器が仕込まれており、生半可な偽装は見破ることが可能。

 動力はバッテリー式だが解析したOTMを反映した最新型は超小型反応炉が搭載されているため、任務中にエネルギー切れを起こすことは殆んどない。

 ちなみに機動兵器や車輌に乗り込んだ場合、倍力機能がオートで調節されるため操縦桿やハンドルをへし折ったりはしない。

 外見は関節部にメカが増えたODSTアーマー(原作HALO)。

 余談ではあるがエコーズでは余興としてこのスーツと腕相撲をすることがしばしばある。そして何人かは実際に勝った。どうした?デスクワークで鈍ったか?

 

 

 

〈補足 登場人物〉

 

○アラン・“ダッチ”・シェイファー(プレデター)

 

 エコーズ部隊長の一人であり、外見はご存知元カリフォルニア州知事ことシュワちゃん。

 様々なシュワ映画の要素が混じったある種の特異点的存在であり、肉弾戦ではゲッターチームと互角かそれ以上。

 一年戦争時には対MS特技兵やゲリラコマンドと共にザクを狩り、生身でありながら連邦軍のMS撃破レコードに名を連ねている。

 一時期その超人的身体能力目当てで敷島博士に付け狙われていたが辛うじて回避に成功している。

 四児(長女ディナ・次女ジェニー・三女エイミー・長男マット)の父であり一時期は本気で内勤への配置替えを希望していたが戦乱の激化と上官や戦友に部下の嘆願、おまけに家族の後押しでとどまった。

 ちなみに奥方は元連邦軍諜報部所属のヘレン・シェイファー(トゥルーライズ)。

 

 

 

○ジョージ・ディロン(プレデター)

 

 ダッチの相棒で階級は大尉。一年戦争以前からの戦友で彼の女房役を務める。

 本人の戦闘力も高く、ダッチには及ばぬもののエコーズでも中堅以上の実力者。

 原作ではCIAに移籍した後に価値観が変化してしまいダッチとの軋轢を生んだが、ここではそんなこともない、というかそんな暇がないため善き戦友としての関係を維持している。

 

 

 

○フランクリン・カービィ(コマンドー)

 

 エコーズの司令官で階級は中将。

 かつてはダッチらの教官も務めた古強者。

 そのため癖の強いエコーズの面々からも敬意を払われる存在であり、むしろ彼らを纏めあげるために司令官の椅子に座らされたという事情がある。

 

 

 

○サミュエル・トラウトマン(ランボーシリーズ)

 

 エコーズ副司令であり階級は大佐。

 カービィ中将と共にエコーズの面々を鍛え上げた存在であり、現在も新入隊員の訓練を担当することもある。

 立場上動きにくいこともあって、新副司令として同期のフランシス・X・ハメル准将(ザ・ロック)を引っ張ってこようと画策している。

 

 

 

○ジェームズ(ジム)・ホッパー(プレデター)

 

 地球連邦海兵隊少佐。ダッチやディロンとは古馴染み。

 優秀な兵士で部下からの信頼も厚く、エコーズへの引き抜きも検討されるほど。

 しかし突然のインベーダー襲撃には対応しきれず、部下と民間人を逃がそうとした際に取り込まれかけたためやむを得ず自爆して果てた。

 原作ではプレデターに皮を生きたまま剥がれた。ひでぇ殺し方をしやがる。

 

 

 

○ドウェイン・ヒックス(エイリアン2)

 

 海兵隊伍長。

 状況判断力と度胸を併せ持つ兵たちの纏め役。

 ホッパー少佐を始め士官が全滅したために生き残った海兵隊を暫定的に指揮してエコーズの来援まで戦い抜いた。

 部隊の壊滅と今回の功績が評価されたことが合わさって、帰還後エコーズに栄転することとなる。

 実は俳優が「ターミネーター」のカイル・リース。

 ターミネーターに殺された男が図らずも今回は(見た目)ターミネーターに助けられる形になった。

 

 

 

○ウィリアム・ハドソン(エイリアン2)

 

 海兵隊上等兵。

 お調子者で隊のムードメーカーを担っている他、意外にも電子機器の扱いに優れる。

 元々大学の学費を稼ぐために入隊した口で、本来ならば戦間期に予備役に入るはずが予想以上の居心地のよさに抜け時を掴めず今に至る。

 一時はあまりの惨状に心が折れかけたが、最終的には奮起してインベーダーと激闘を繰り広げ生還。

 ヒッグス、バスクエスと共にエコーズに栄転。

 以前より上がった危険手当てと最新の装備に喜びつつも、より危険な現場に投入されるという現実に複雑な様子。

 ちなみに原作の彼を務めるビル・パクストン(2017年没)は「エイリアン」「プレデター」「ターミネーター」というアメリカ映画史上最強のクリーチャーたちに悉く殺される役を演じてきている。

 なんとかインベーダーには殺されずに済んだ。

 

 

 

○ジェニット・バスクエス(エイリアン2)

 

 海兵隊上等兵。

 男より男らしい女傑で主に狙撃手を務めるが重火器を担当することもしばしば。

 頻繁にヘタれるハドソンのケツを叩きながらインベーダーと交戦し生還、帰還後にはエコーズに栄転となる。

 実は俳優がターミネーター2のジョン・コナーの里親と一緒。

 エイリアンシリーズの出演者とターミネーターシリーズの出演者被りすぎじゃね???(それだけ当時の名俳優を起用しているとも言えるが)

 

 

 

○ボビー・シカゴ(エンド・オブ・デイズ)

 

 海兵隊曹長。

 ダッチやディロンとは一年戦争前からの戦友。

 運が悪く昇進とは無縁だが悪運は強いのかこれまで五体満足で生き延びてきたベテラン。

 海兵隊でインベーダーに始めて遭遇した人物であり、同行していた副隊長のゴーマン中尉と部下は戦死。

 通信機器が破壊され無我夢中で逃げ回っていた所、幸か不幸かダストシュートに転落し意識を失う形で難を逃れる。

 脱出寸前に目を覚ましてビーコンを頼りに合流することに成功した。

 帰還後にはやはりエコーズに栄転する。

 原作においてサタンに殺されたあと取引を受けて復活。

 一時はジェリコ(シュワちゃん)と敵対するも最後は彼に手を貸して契約に違反。

 サタンによって焼き殺される。

 どれだけ仕事がキツくても相応の給金が出れば文句はないタイプ。

 

 

 

○サトー(ガンダムSEED DESTINY)

 

 ザフトの脱走兵。

 一年戦争時、ゼントラーディ艦の砲撃で恋人(原作では妻子)を失い、戦友をコロニーレーザーで失った。

 そのためナチュラル(地球連邦)と異星人を憎んでおり、似た境遇のザフト兵を束ねてザフトを離脱。

 以後は反地球連邦活動を続けるも対異星人戦を意識して進化し続ける連邦軍に対して旧式化著しいザフト製MSではまともな戦闘が成立せず、異星人迎撃の片手間に駆逐される程度に過ぎなかった。

 進退極まった彼は廃棄コロニーに身を隠そうとした際にコロニー公社の調査団と遭遇。

 これを人質にして連邦政府に対する恫喝を行おうと画策する。

 しかし自ら設置した通信遮断装置が仇となりインベーダーの襲撃を受けても外部に救助を要請することも出来ず、あっけなくインベーダーに食われて死亡。

 

 

 

○ジョン・マクレーン(ダイハード)

 

 LA(ロサンゼルス)市警の警部補。

 似た者夫婦であるため頻繁に妻(ホリー・マクレーン)と激突するが夫婦仲は基本的に良好。

 以前麻薬カルテル(と恐竜帝国兵)を倉庫ごと爆破したことで内勤に回されていたが、妻の会社で開かれたクリスマスパーティーに招待された際に事件に巻き込まれた。

 ちなみに後日ナカトミプラザビルでの活躍と倉庫爆破の件が混同され「ナカトミプラザビルを爆破した」と勘違いされるという珍事があった。

 なお車輌トラブルでテロリストのターゲットであるアズラエルの到着が遅れていたため彼自身は難を逃れたが、仮に時間通り出席していた場合、妻の兼定こと元四代目武蔵が早期に異変に気付く=A.I.M.とU.T.F.が察知するので、そもそも事件が起きなかった可能性が高かったりする。

 やはりマクレーンはついていない。

 今回の件に対する礼も兼ねて翌年のクリスマスにアズラエルから日本への家族旅行を(表向きにはホリーに)プレゼントされる。

 ジョン自身は旅行の2週間前に研修目的で来日させて貰っており、あらかじめ地理などを把握した上で家族との行楽を満喫するはずだった。

 まあ案の定また何かに巻き込まれるのだが。

 

 後、どうでも良いが野沢那智の吹き替えで有名なテレビ朝日版において娘のルーシー・マクレーン(ダイハード1)の声を担当してたのは坂本真綾だったりする。

 

 

 

〈補足 登場組織〉

 

○海兵隊

 

 正確には「地球連邦軍海兵隊」。

 危険地帯への殴り込み専用の部隊であり、近年では主にコロニー内への突入や軌道降下も任務に含まれる。

 今回登場したスラコのように自前の艦艇やMSを保有している。

 しかし、現状は精鋭揃いかつ優良な装備、そして少数精鋭から来るフットワークの軽さから極めて扱いやすく、半ば何でも屋として活用されており、職務に合わせた最適化が叫ばれている。

 この辺りは現実のアメリカ海兵隊と同じである。

 

 

○真ザフト

 

 反連邦過激派武装組織の一つ。

 解体され、生き残りは地球連邦領域内の各地に散ったプラントの生き残りを見限った脱走兵を中心としており、旧ザフトから盗み出した兵器を運用している。

 一年戦争ならびにゼントラーディ襲来によって荒れた宙域を拠点に活動しており、その近辺で活動する者達からの評判は極めて悪い。

 反ナチュラル・反地球連邦連邦とコーディネーターによる独立国家の樹立を目的として掲げているが、実際のところ地球連邦に対する憎悪以外は持ち合わせておらず、邪魔をするならコーディネーター・ナチュラルを問わずに暴力を振るう。

 そのため新規の参入者や協力する組織は皆無で、新西暦186年にはその構成員は1000人を切っている。

 そもそもザフトから離反した連中がそれぞれの思惑でより集まった集団であり、組織としての纏まりはほぼ皆無。

 サトー率いる一派がメンデルを占拠したのは寄港地の確保もあるが、遺棄されたスーパーコーディネーター製造施設を再稼働させて戦力を強化しようという気の長い計画を実行しようとした一面もある。

 

 

○コロニー公社

 

 地球連邦が運営するコロニーの建設・管理を担う組織。

 将来的に実施される長距離移民計画にも一枚噛んでおり、主に法整備関連(例えば移民船は船なのか移動するコロニーなのか法的にどう判断すべきか等)を担当し、次の時代での生き残りと予算増加を目指している。

 今回は過去のバイオハザードによって放置されていたメンデルを再稼働するか解体するかを決めるため、コロニーの建築技師や生物学者を主とする調査団を派遣して査定を行っていた。

 が、内部はインベーダーにより汚染されており、その殆どが帰らぬ人となってしまった。

 

 

 

 



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第64話 皇帝VS皇帝その3

 新西暦186年9月28日 極東方面 旧光子力研究所跡地

 

 『ぐ、おおおおお!』

 

 グレンダイザーがスペイザーから分離し、空中から地表に向けて落下する。

 ジャンプ力こそ高い(高さ350mまで跳躍可能)だが、飛行能力はスペイザー頼りなグレンダイザーにとって、単独での空中は死地と同義である。

 

 『今だ、止めを刺せェ!』

 『この好機を逃がすなぁ!』

 

 犠牲を問わぬ攻撃によって多くの屍を積み重ねながらも漸くスペイザーを損傷させ、機体を分離にまで追い遣った戦闘獣軍団は地表への自由落下を続けるグレンダイザーを確実に撃破すべく殺到する。

 別にこの高度から自由落下してもパイロットも機体も無傷で済んじゃうグレンダイザーだが、流石に攻撃を集中されては先程分離したスペイザー同様に損傷、最悪は撃破されてしまう事だろう。

 

 『スペースサンダー!』

 

 故に、殺到する戦闘獣を寧ろ全滅させる勢いで迎撃する。

 

 『ダイザービーム!反重力ストーム!ハンドビーム!』

 

 眼からビームを、胸部から無重力場を展開する光線を、両手の甲から三条の光線を発射する。

 特に反重力ストームの効果範囲に入ってしまった敵は宇宙同様の無重力場に捕まり、地上仕様である故に碌に動けなくなって他の戦闘獣の射線を遮る壁となってしまう。

 

 『えぇい、邪魔だアホ!』

 『わわわわわ、何だこりゃ!?』

 

 だが、多勢に無勢だった。

 VF中隊は未だ辛うじて被撃破機こそ出していないものの、とてもグレンダイザーへと救援を出す程の余裕は無い。

 背から落下しつつ攻撃を連射するグレンダイザーの側面から、無重力場を迂回してきた多数の戦闘獣が迫って来る。

 

 『死ね、グレンダイザー!』

 『ショルダーブーメラン!』

 

 両肩に内蔵されたハーケンを個別にブーメランの様に射出する。

 射程12kmという出鱈目な武装は命中しても一切減衰する事なく、次々と戦闘獣軍団を斬り裂いていく。

 が、それでもまだ迫って来る戦闘獣は多い。

 

 『もらった!』

 『スクリュークラッシャーパーンチ!』

 

 グレンダイザーの両腕のクラッシャー部分(歯車状の紋様)が前方に展開し、高速回転しながら射出される。

 一瞬で迫り来る戦闘獣が撃滅されるが、それでも尚迫り来る敵の全てを撃破できない。

 

 『くぅぅ…!』

 『死ぃねぇぇぇい!』

 

 大介はダメージを覚悟した、最早完全な回避も防御も叶わない。

 ならせめてコクピットのある頭部や光量子エネルギーエンジンへの直撃を避けようと、見込みは薄くとも悪足掻きとばかりに機体を動かす。

 

 『おおっとゴメンよぉ!』

 『ぎゃぁっ!』

 『な!』

 

 しかし、迫り来る戦闘獣達は突如超高速で飛来した三機の戦闘機の体当たりによって蹴散らされた。

 

 『へ、どうやらナイスタイミングだったらしいぜ、竜さんよ!』

 『みたいだな!じゃぁ新型の初合体に初の実戦と行こうかぁ!』

 『応、何時でも行けるぜ!』

 

 赤と青と黄、特徴的なデザインの三機の見慣れぬ戦闘機、否、新たなゲットマシンはただの体当たりで戦闘獣を蹴散らしながら、遂にその真の姿を露わにする。

 

 『いかん!ゲッターチェンジを阻止せよ!』

 『ハン!遅すぎるぜミケーネ帝国さんよ!』

 『しゃぁ!チェンジ・ゲッターぁぁぁぁぁ!』

 

 慌てて阻止しようとする戦闘獣を機銃すら使わずぶちかまし、赤のドラゴン号を先頭にライガー号、ポセイドン号と並んで遂に三機のゲットマシンが合体する。

 

 『ドラゴン!行くぜおめぇら!』

 

 現れたゲッター1の意匠を色濃く残すそのロボの名はゲッタードラゴン。

 量産型ゲッターGに酷似した姿だが、ゲッター1同様の薄い布状のゲッターウイングに簡易変形機構のない手足等に違いが見られる。

 

 『景気付けだ!ゲッタービーム!』

 

 そして、ゲッター1や量産型ゲッターGとは比較にならない程に高出力のゲッタービームが戦場を薙ぎ払った。

 

 

 

 ……………

 

 

 一方同じ頃、艦の盾として引き続き活躍していたダイターン3もまたピンチを迎えていた。

 

 『いや、これはちょっと酷くないかい?』

 

 シロガネとクロガネに二隻を守る直掩部隊とダイターン3に対し、100を優に超える戦闘獣が押し掛けていたのだ。

 

 『ダイターン・ウェッブ!ビッグ・ウェッブ!ダイターン・クロスダート!ダイターン・スナッパー!』

 

 腕部と胸部の十字架を投げつけ、手から蜘蛛の巣状の投網を投げ、腰から取り出したワイヤーフック製の鞭を振り回し、必死に牽制する。

 補給に向かった量産型グレートとゲッターGと共にずっと盾役として戦闘していたダイターン3のエネルギーは既に2割を切っており、残った実弾兵装を手当たり次第に使って敵を近づかせないようにするので精一杯だった。

 この戦場で戦艦ユニットを除けば最もデカい機体なので、暴れるだけである程度抑止の効果はあるが、積み重なった損傷が迂闊な近接戦闘を万丈に躊躇わせていた。

 

 『ギギギギギ!』

 『ぬお、ダイターン・キャノン!』

 

 そして、地中から密かに掘り進んで来た戦闘獣に足を掴まれるも、足の裏から発射したダイターン・キャノンの巨大な砲弾によって一撃で消し飛ばした。

 

 『そら爆雷をあげよう!そしてダイターン・ハンマー!からのハンマー投げだ!』

 

 足掻く足掻く足掻く。

 ミサイル同様腹部から取り出した爆雷を投げつけ、くるぶしから取り出した棘付きの鎖鉄球をぶんぶん振り回し、ハンマー投げの要領で敵集団目掛けて投げつける。

 普段の快男児ぶりは鳴りを潜め、破嵐万丈は徹底的に味方の母艦を守るために盾としてヘイトを稼ぎ続ける。

 目論見通り、母艦に押し寄せてきていた殆どの戦闘獣はダイターン3を優先すべき目標として矛先を変えている。

 後は味方が再出撃するまで自分が死ぬまで持ち堪えれば良い。

 量産型グレートとゲッターGの特機軍団の実力は既に自分は体感済みだ。

 であるならば、彼らさえ戦場に戻ってくれば勝機はある。

 普段の快男児ぶりだけでなく、財閥の御曹司として十分な教育と高い才覚を持つ万丈は冷静に戦況を把握していた。

 

 (ちゃんと時間を稼いでみせようじゃないか!ちょっと喉が痛いけどまだ行ける!)

 

 しかし、そんな彼の覚悟を揺るがす様な敵が現れた。

 

 『ギギギギギ!』

 『こいつは…今までのとは違うな!』

 

 現れたのは全身が光で構成された様な特異な存在だった。

 その名も光波獣ピクドロン。

 本来ならダムドム星人の地球侵略における切り札なのだが、スパロボではよくミケーネや百鬼帝国と一緒に出て来るので何も問題はない。イイネ?

 こいつの特性は極めて厄介であり、原作アニメではグレートを、漫画版ではグレートだけでなくゲッターGをも苦しめた難敵である。

 口から対象物に命中すると、一定の時間差をおいて内部から爆裂させるという特殊性を持った「光の矢」と呼ばれる光学兵器を放射する。

 また、バリアの役割を果たす光に包まれており、実弾兵器を弾き返すだけでなくビームも吸収した上、自身を巨大化させる為のエネルギー源にしてしまう。

 更に全身から対象物に命中すると電気分解を起こさせる電撃を放つと言う、ちょっとフザケンナ!とクレームの付きそうな理不尽な強さを持っている。

 で、こいつを倒すにはバリアとなる光を引っぺがして中身を攻撃する必要があるのだが…生半可な攻撃では逆に吸収されかねないし、バリアを剥がすには反重力ストーム、グレートタイフーン、ルストハリケーンの様な特殊な攻撃が必要、或いはグレートブースターに搭載されたグレートミサイルの様な高威力の実弾兵器が必要となってくる。

 で、現在のダイターン3だが……ENは2割を切り、実弾武装も殆ど使い切り、残るは実体系近接武装のみである。

 ぱんぱん、とダイターンが腰や背中を叩いても出て来るのはザンバーやジャベリンのみで、遠距離武装は出て来ない。

 

 『『…………。』』

 

 見つめ合う二機。

 に、にこ…?とダイターン3はぎこちない笑みを浮かべ、ピクドロンはちょっと分かり辛いが満面の笑みを浮かべた。

 

 『ギシャアアアアアア!』

 『おわーやっぱりー!?』

 

 哀れダイターンはピクドロンの餌となるか!?

 その瞬間、幸いにも救いの手が差し伸べられた。

 

 『断空ぅぅぅぅ剣!』

 『ぎぃぃぃ!?』

 

 戦場に参加していたが、今までスポットの当たっていなかったダンクーガの一撃が、ピクドロンの右腕を断ち切った。

 

 『っし、断空剣は通るな!』

 『油断するなよ忍。奴さん、まだまだ元気だぞ。』

 

 ガンドール砲を小型化し、そのエネルギーで刀身を形成する断空剣はその性質上エネルギー攻撃と実弾等の質量攻撃双方の特性を持っている。

 それはピクドロンの持つ光のバリアを突破するには十分な威力を持っていたのだ。

 

 『万丈さん、大丈夫でしたか!?』

 『ここは私らに任せて、そっちは一旦補給に戻りな!』

 『分かった!ありがとう獣戦機隊!』

 

 ISA戦隊側が圧されているものの、戦いはまだまだ終わりの兆しは見えていなかった。

 

 

 ……………

 

 

 旧光子力研究所跡地 地下秘匿区画

 

 「よし、これで大丈夫じゃな。」

 

 あちこちから爆音や振動が響く中、兜十蔵は一人コンソールへの入力を続けていた。

 

 「博士!もう時間がありません!早く逃げてください!」

 「ミネルバや、お前はもう行くのじゃ。儂は見届けねばならん。」

 「な、何を言って…!」

 

 既に脱出の準備を終え、最低限の荷物を抱えたミネルバは十蔵の言葉に目を剥いた。

 周囲にはいつもの自動人形らもいない。

 彼女ら全員が二人の脱出までの時間を稼ぐため、ミケーネの諜報軍相手に戦い続けているのだ。

 

 「全ての研究データはお主にインプットし、予備も剣造の所に送信済みじゃ。」

 「だ、だったら博士も!」

 「いいや、儂は残る。残って、見守らねばならん。」

 

 コンソールから振り返り、ミネルバを見つめる十蔵の片方だけの瞳は超合金Zよりも尚硬い決意に彩られていた。

 

 「あの魔神を作った者として、これから起こる戦いを見届ける義務が儂にはある。」

 「そんな…!別にここでなくとも戦況を見届ける事は可能です!」

 「いいや、ここで待つ必要があるのじゃよ。」

 「ですが…!」

 「ミネルバX、緊急コード■■■■。」

 『緊急コードを承認しました。命令をどうぞ。』

 「大至急この基地を脱出し、ISA戦隊に合流し、兜甲児を補佐せよ。…頼んだぞ。」

 『了解しました。命令を実行します。』

 

 意思を一時的に停止させられたミネルバXは兜十蔵の言うがままに秘匿区画から去っていった。

 それから10分と経たない内に、十蔵の下へとミケーネスや人間サイズの戦闘獣から成る諜報軍を率いるゴーゴン大公とヤヌス侯爵が現れた。

 

 「兜十蔵博士、お会いしとうございました。」

 「我らが主君、闇の帝王様がお待ちしております。格納庫の方へご案内致します。」

 「ふん、意外と遅かったのぅ。まぁ良い、とっとと案内せい。」

 

 地上での戦闘が激化する中、地下でもまた事態が進むのだった。

 

 

 




○量産型ゲッターG
簡易変形機能、新型ゲッター炉+縮退炉、一人乗り

○オリジナルゲッターG
三体合体分離変形、新型ゲッター炉+ゲッター線増幅装置+縮退炉、三人乗り

コストや操縦性、安全性は勿論後者の方が悪いが、ゲッター特有のトリッキーな戦闘やパイロットの頑丈さ故の無茶な戦い方を得意とする。


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第65話 皇帝VS皇帝その4

 新西暦186年9月28日 極東方面 旧光子力研究所跡地 地下秘匿区画

 

 ミケーネとISA戦隊分隊の戦いが激しさを増す中、制圧された地下施設では対照的にとても静かに事が進んでいた。

 

 「おお、これが新たなマジンガーか…。」

 「計測される光子力エネルギーは…マジンガーZの10倍以上か。未完成でこれとは末恐ろしいな。」

 

 地下の秘匿区画、その一角を占める格納庫内には一機のマジンガーが未完成の状態で安置されていた。

 殆どの部分は完成すれどもシステム面の調整が未了であり、それに伴って装甲の一部が外されて内部機構が剥き出しになっている。

 完成度で言えば、精々が7割といった所だろうか。

 特に目を引くのが左目であり、マジンガー系特有の黄色いデュアルアイの片側が内部のカメラアイ兼光子力ビーム発生器が剥き出しになり、そこに無数のケーブルが繋げられている。

 位置からして恐らくシステム面の中枢に当たるCPUと直結されているのだろうか、他の部分よりもケーブルの数が段違いに多かった。

 

 【漸く来たか、兜十蔵よ。】

 

 途端、その場に重圧が広がった。

 ミケーネ帝国の兵達は即座にその場に膝を突き、頭を垂れる。

 

 「闇の帝王様、ご命令通り兜十蔵を連れて参りました。」

 

 誰もがその巨大なプレッシャーに畏怖を覚える中で唯一人、兜十蔵だけはマジンカイザーの肩へと出現した存在に真っ向から視線を向けていた。

 普通の人間の肉眼ならば何も無いと言われてしまってもおかしくない状態。

 しかし、兜十蔵の眼には間違いなくこの世ならざる存在が、まるで炎の様な威容を持つ敵の姿がよく見えていた。

 

 「お主がミケーネの首領か。」

 【ほぉ、やはり貴様は我が見えるか、兜十蔵よ。流石は我が似姿、運命の双子なだけはある。】

 「ハン!アホな事を言うでないわDr.ヘル!儂を殺そうとした爺と双子等と気色悪い!」

 「き、貴様言わせておけば!」

 

 余りの十蔵の物言いに遂に切れたゴーゴン大公が激情の言うがままに腰の剣へと手を伸ばそうとする。

 

 【五月蠅いぞ。今は我が話している。】

 「は、ははぁ!」

 【しかしよくぞ一目で見破ったな、儂の正体を。これでも隠しておったつもりなのだが…。】

 「ふん!そんなもん、回収した戦闘獣の作りを見りゃ一発よ!機械獣にやたらそっくりじゃったからのう。」

 【く、ははははは!一目で作り手の癖を見抜いたか!流石だな!】

 

 闇の帝王、否、Dr.ヘルはその姿を嘗ての紫の不健康そうな肌色をした老人のそれへと変化させる。

 しかし、その身体は透け、向こう側が見えていた。

 

 「実体が無い…アストラル体か。」

 【如何にも。説明は必要かね?】

 「恐らくだが、ZEROの放った光子力ビームが原因じゃな?平行世界か過去かは知らぬが、そこに肉体を失った状態で放り込まれたか。」

 【またまた正解だ。流石は我が永遠の近似値。】

 「だから気色悪い事言っとるんじゃない!確かに儂とお主は尋常じゃなく似とるがな!」

 

 先程から闇の帝王が告げる我が似姿、運命の双子、永遠の近似値という言葉にもしっかりと信憑性があった。

 

 【儂は紀元前1万年頃のバードス島にて古代ミケーネ人の文明と遭遇した。このアストラル体となってな。】

 「そんだけ準備期間があったのにこの様は…あぁ、アストラル体を認識できる人間がおらんかったのか!?」

 【お陰でえらい苦労をしたものじゃ…。】

 

 Dr.ヘルはげんなりとした顔で、ぽつぽつと話し始めた。

 当時、ZEROの光子力ビームを浴びたせいで肉体を失い、アストラル体のみで過去へと送られたDr.ヘルは邪神とも言える圧倒的な力を持っており、それに恐れを成した古代ミケーネ人達は隷属の道を選んだ。

 その後、古代ミケーネ人達の技術を用いてDr.ヘルもとい闇の帝王は打倒地球連邦!打倒マジンガー!を目指して兵器開発に撃ち込んだ。

 そこまでは良い。

 問題はバードス島が当時の地球の守護者らである先史文明と外宇宙からの侵略者達との戦いの余波で沈んでしまった事だった。

 多くの貴重な労働力が失われ、闇の帝王は先史文明と侵略者の双方に罵詈雑言を叫んだ。

 が、それで挫けるなら地球征服なんて目指さないのである。

 闇の帝王は他の人口の多い地域への移住と研究施設の移設を試みたのだが…失敗した。

 原因はアストラル体の闇の帝王を認識できる人間の数が余りに少ない事だった。

 念動力者や超能力者、オカルト関係者は彼の異常性に迅速に反応し、通報を受けて駆け付ける守護者達は極めて強力で、とてもではないが拠点や兵器生産設備の移設なんて無理であった。

 加えて、アストラル体を見れない・触れない人間に直接作用する事が出来ないという致命的欠陥が判明した。

 アストラル体でも問題なく接する事の出来る古代ミケーネ人との出会いは望外の幸運であり、その実質的な滅亡は大きな不運だったのだと漸く理解したのだった。

 僅かな生き残りとそのクローン達を戦闘獣やミケーネスとして戦力化・増産する事を決定し、水没したバードス島地下で憎き兜一族とマジンガーが生まれる時を待った。

 が、ここで躓いだ。

 

 【儂は遂にマジンガーZEROを超える事が出来んかった…。】

 

 それはDr.ヘルにとって、特に自慢の頭脳においては初めての敗北だった。

 

 「当然じゃな。アレは平行世界より齎された産物。早々超えられるもんじゃないわい。」

 【全くじゃ。】

 

 それでもバードス島の地下で、Dr.ヘルはずっと努力し続けた。

 あのZEROを超える。

 自らを過去に飛ばし、肉体を消滅させた憎き怨敵を滅する。

 そのためだけに全霊を注いだのだ。

 

 【そして調べる内に気付いたのじゃ。儂とお主の近似性をの。】

 

 ある日、「そもそも兜十蔵とは何者なのか?」という疑問を抱いたDr.ヘルは諜報軍を動かして調査を行った。

 結果は驚くべきものだった。

 兜十蔵とDr.ヘル。

 両者の家系図はまるで鏡合わせの様な系統樹であり、両親の容姿も何処かそっくり。

 極め付けは両者の遺伝子構造がピタリと合致したので、まるで一卵性双生児の様に。

 正に運命の双子、永遠の近似値。

 壮大な地球の悪戯とも言えるこの現象は、Dr.ヘルをある考えに行き着かせた。

 

 【お主の作ったものは儂のもの。何せ双子じゃしな。相性ばっちりじゃろう。】

 「で、カイザーに目を付けたと。デビルの時と同じじゃの。」

 

 余りの言い様に十蔵は呆れた。

 以前の頑固な自分だったらこの場で即殺し合いのゴングが鳴っている程の物言いである。

 

 「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……。非っっっっ情に癪じゃが、カイザーはお主にくれてやる。」

 【ほう?やけに素直だな。】

 「元々甲児用じゃったが、今の孫にゃ無理じゃしの。あのままフェードアウトするのが一番あの子にとって幸せじゃからな。」

 【加えて、何らかの安全装置がある、と?】

 「ZEROの二の轍は踏まん。がっつり暴走を抑制するシステムは組み込んどるわい。」

 

 今の兜甲児には、今一つ覇気が足りない。

 それではあの魔神に勝てない。

 それが現時点での兜十蔵の結論であった。

 ならば、戦いからさやかと共にドロップアウトして、何処かで平和に暮らしてほしい。

 それが孫の幸せを望む十蔵の偽り無き願いだった。

 それと同じ位には自分の作ったマジンガーに乗って英雄として活躍してほしいとも思っているが、それを選ぶかどうかは甲児次第。

 となれば、カイザーを破棄する理由付け、或いは真に英雄として再び立ち上がるための試金石としてDr.ヘルの駆るカイザーをぶつけるのは悪くない話だった。

 なお、後日この話を聞いたミネルバXに腹パンされる破目になったりする。

 

 「どうせカイザーに接続用の機器も持ってきておるのじゃろう?儂は堂々と観戦しながらデータを取らせてもらうぞ。」

 【それが狙いか…。まぁ良い。その前にプロテクトを解いてもらおうか。】

 「コード入力■■■■。よし、これで大丈夫じゃろ。」

 【ご苦労だったな兜十蔵。では、ヤヌス侯爵!】

 

 ザシュ!と。

 十蔵の腹を貫いて、ヤヌス侯爵の放った手刀が突き出た。

 

 「が…!ぎざま…!」

 【頂点は一人で良い。】

 

 放っておいたら、カイザーよりも強いマジンガーを作り出す事すら有り得る兜十蔵を生かす選択など、元よりDr.ヘルの中には無かった。

 その警戒心を少しでも薄れさせるため、自分の調査結果を上から目線で教授するために先程の会話をしただけだった。

 

 『要護衛対象の負傷を確認。これより救助活動に移ります。』

 

 同時、位相空間内に潜伏していた高級自動人形達、その本来の姿たるヴァルチャー5機が出現、襲い掛かった。

 

 「ぐがああ…!?」

 

 同時、ヤヌス侯爵はその右腕を斬り飛ばされ、兜十蔵から引き離された。

 

 「撃てぇい!」

 

 ゴーゴン大公の指示の下、ミケーネス達が一斉に射撃を加えるが、用は済んだとばかりに再び位相空間へとヴァルチャー達は兜十蔵を守りながら撤退する。

 襲撃から救助、撤退まで実に5秒とかかっていない見事な手際だった。

 

 【捨て置けい。先ずはカイザーを優先せよ。】

 「は、はっ!」

 【直ぐに機体のチェックを開始するぞ。何が仕掛けられておるか分かったものではないからな。】

 

 こうして、マジンカイザーは闇の帝王もといDr.ヘルの手に落ちたのだった。

 

 

 ……………

 

 

 一方その頃、地上では兜甲児と炎ジュンの量産型グレート1号機と2号機は七大将軍らを相手に熾烈な戦闘を繰り広げていた。

 

 『く、ブレストバーン!』

 『甘い、ファイヤーブレス!』

 

 妖爬虫将軍ドレイドウは甲児が放った苦し紛れのブレストバーンをひらりと回避し、お返しとばかりに口から放射能熱線を吐き出す。

 

 『ぐぅぅ…!』

 『ははははは、どうした兜甲児!先程の兵士共の乗る量産型の方が強かったぞ!』

 『甲児君、挑発に乗らないで!ここは時間稼ぎに徹して!』

 『分かってるぜジュンさん!』

 

 甲児自身もそれは分かっていた。

 分かっていたが、旧光子力研究所には祖父である十蔵がいると聞いている。

 

 (爺ちゃんは無事なのか!?流石にもう避難してるよな!?)

 

 焦燥感がじりじりと募っていく。

 魔神覚醒事件以降の甲児にとって、戦うのは常に恐怖と隣り合わせだった。

 死ねばもうさやかに会えない、戦ってる内に機体が暴走するかもしれない、一手ミスすれば誰かが死ぬかもしれない。

 そんな当たり前の恐怖や焦りを、マジンガーZに乗っていた頃には感じなかった雑念を甲児は感じるようになっていた。

 それは人として正しい事であるが、英雄の一員となるには余りに不要な感情でもあった。

 少なくともある程度はそれを精神力で抑え付けられるようにならなければ、今後はパイロットとして活躍する事は難しいだろう。

 それでも今また戦場に立っているのは、嘗て何も知らずにマジンガーZに乗り、多くの被害を出した事の贖罪をするためだった。

 あの魔神覚醒事件によって、人的損耗は殆ど無かったものの、地球圏防衛のためのU.T.F.の大事な戦力の多くが消滅し、それは今も補填できていない。

 その戦力さえあれば、今も地球は比較的平和だったかもしれないと言うのに。

 その罪を僅かでも償うために、兜甲児は今や恐怖や嫌悪しかない戦場に自らを誤魔化して立っていた。

 

 『集中して、甲児君!』

 『分かってる!』

 

 甲児が十蔵の行方を知るまで、後1分の事だった。

 

 

 




次回、遂にカイザー起動。


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小ネタ会話集その15

ダメだ、疲れで本編が進まなnZzz…


○スタコラサッサの逃避行

 

 『来てる来てる敵が来てるー!?』

 『えぇい、数が多過ぎる!』

 『皆さん、もう少し耐えてください!』

 『慌てなさんな!これ位ゴーショーグンならどうとでもなるさ!』

 『それに、心強い応援も来たぜ!』

 

 ズール銀河帝国の追手から逃避行を続けるエルシャンク一行の一幕。

 ラドリオ星やフリード星等の王族の生き残りを始め、訳ありで逃げ出してきた面々がエルシャンクに搭乗し、ズール銀河帝国を始めとした大勢力を相手にも引けを取らず戦っている地球連邦領域内を目指して航海を続けていた。

 他の大勢力?死ねと?(真顔

 理由は様々であり、フリード星の面々は自分達の知るデューク王子に会うため、エルシャンク一行はニンジャ伝説の残る地球に向かうため、純粋にズール支配領域下にいられないとか、もう色々である。

 グッドサンダーチームが何でいるのかって?

 真田博士の作ったビムラーで動く巨大移動基地「グッドサンダー」のテレポートの際にドクーガの面々から攻撃を受けて、諸共に宇宙へとワープしちゃったからです。

 ドクーガの憎めない三幹部達も「非常時だし協力しよう」とご一緒してます。

 配下の戦闘員とかとも今や笑いながら食事を一緒にする仲だよ!

 

 

 

○スタコラサッサの逃避行その2

 

 『待てい!』

 『弱肉強食の獣達でも、殺す事を楽しみはしない。悪の道に堕ちた者だけがそれをするのだ。そして、貴様らの邪悪な心を天が許してもオレが許さん!人、それを人誅と言う…!』

 『な、何奴!?』

 『貴様らに名乗る名前は無い!』

 

 ズール銀河帝国の追手に対し、一喝するロム・ストールの一幕。

 そしてこの人達もいた。

 ズール銀河帝国領から逃げ出す難民船が撃墜されかかった時、グッドサンダーチームやエルシャンク、ドクーガの三幹部と協力して追手を盛大に蹴散らした。

 が、難民船は損傷が激しく、これまで騙し騙しで航行していた事もあって限界を迎えてしまった。

 生き残った難民達はエルシャンクと宇宙でも運用可能な様に改装された移動基地グッドサンダー、ドクーガ三幹部の船に分乗して地球を目指す事となる。

 

 

 

○スタコラサッサの逃避行その3

 

 『ダンガイオー、見参!行くぞ、ズールの手下共!』

 『『『はぁ!?』』』

 

 ダンガイオーチーム合流直後の戦闘時の一幕。

 優しげなロール君が皆のリーダーにしてメインパイロットのロール・クランに成る瞬間はやはり驚かれた。

 ズール銀河帝国支配領域ではバンカーを筆頭とする宇宙海賊や生き残った各国家の軍人から成る傭兵達は銀河帝国の認可を受けた私掠船を駆って奴隷狩りや略奪を繰り返した。

 これは主体となるギシン星間連合以外は征服された国家の残存戦力から構成されているズール銀河帝国軍の持つ相互の連携の拙さを補うための制度であった。

 彼らは戦争となれば被征服地の軍と共にほぼ使い捨ての戦力として先陣を切らされる。

 そのため、平時は海賊として必死に利益を稼いで戦力を拡充し、戦時では生き残るべく必死に戦う。

 ズール銀河帝国領内では最大の宇宙海賊であるバンカーは来る対地球連邦戦において自分達の生き残りを賭けてターサン博士を雇い、ダンガイオーチームを結成したのだが、その結果は原作通りだった。

 逃げ出した彼と彼女ら+ターサン博士に対してケジメを付けさせるべくバンカーは追手を放った。

 対するダンガイオーチームはズールと敵対中で自分達を受け入れてくれる可能性が高い地球連邦領に向けて出発し、エルシャンク他から成る夜逃げ艦隊と遭遇、合流するのだった。

 ダンガイオーチームとターサン博士の合流により、間に合っていなかった各艦船の修理を完了する事が出来た。

 

 

 

○スタコラサッサの逃避行その4

 

 『彼ら、どうしましょうか?』

 『トレミィ様にご報告を。我々の権限を超えていると判断します。』

 

 夜逃げ艦隊を位相空間内から発見したU.T.F.哨戒部隊の通信ログの一幕。

 勿論、そんな目立つ集団が見つからない訳がなかった。

 UTFはそんな珍妙な集団を発見したという報告を上司に知らせ、判断を丸投げするのだった。

 

 

 

○スタコラサッサの逃避行その5

 

 「なんだこれは…たまげたなぁ…。」

 「中々愉快な事になっていますね。」

 

 報告を受けた際のトレミィの一幕。

 ズール銀河帝国領の難民+地球からのテレポート事故からの遭難者とか、彼女達をして困惑を隠せない内容だった。

 ズールから逃げ出したのに何でズールの主力のいる所に来てるの???

 迷って迷って追われて逃げて、やってきた先がズールと地球連邦のガチンコ秒読みの太陽系とか、余りにも皮肉というか残酷というか、実に不運としか言い様が無い。

 

 

 

○そう言えばあの人は?

 

 「出なさい、ナナイ・ミゲル。」

 「………。」

 「条件付き釈放だ。条件はアナハイムの研究に協力する事。成果によっては無罪放免も有り得る。励むように。」

 

 ナナイ・ミゲル、アナハイム主導の司法取引で釈放された際の一幕。

 アナハイムではサイコフレームの作成が本格的に行き詰っていた。

 特にサイコミュ機能を持ったLSI(大規模集積回路)クラスのコンピューターチップを金属粒子サイズで鋳込む事は困難を極めていた。

 アナハイムとしてはサイコフレームの開発は密かにA.I.M.から依頼された案件であり、もしも失敗したらM&Aや各種告発すら示唆されており、絶対に失敗する事は出来ない。

 そんな中、A.I.M.から提示された人員の一人としてナナイ・ミゲルが挙げられた。

 彼女は元は実験体の一人だったのだが、後にその才覚を見出されて研究員を兼ねるようになり、優秀な研究員としての才覚を現していた。

 が、そんな彼女は所属する研究所が元々違法なものであり、更にはジブリール派に与していた事から他の研究員ら共々逮捕されていた。

 トップの者達の様なナノマシンを投与しての副脳の構築からの生体クラッキングを行われる事は無かったが、無罪という訳ではない。

 司法取引で釈放した後、ナナイは主任研究員待遇で月のアナハイムに招かれたのだった。

 結果、少々時間はかかったものの、サイコフレームの開発に成功する事となる。

 

 

 

○そう言えばあの人は?その2

 

 「あっあっあっ……ブーステッドチルドレンの材料の主な確保先は環太平洋地域でメテオ3群落下による津波等の被災地域であっあっあっ」

 「それだけじゃないでしょう?他は?」

 「あっあっあっ他にはジオン共和国の戦災孤児や各地の孤児院から引き取ってあっあっあっコロシテコあロシテあっあっあっ」

 

 ジブリール派に属するNT研究所責任者らの尋問の一幕。

 IFS用ナノマシンを投与する事で副脳を構築、それをとっかかりに生体クラッキングする事であらゆるデータを閲覧する事を可能とした。

 しかし、中には主観的な情報等も多く、こうして本人も改めて確かめる必要もある。

 なお、これらの処置は「尋問を円滑に行うための医療行為の一環」として黙認されている。

 勿論表沙汰にはなっていないし、これからもなる事は無いだろう。

 

 

 

○そういえばあの人は?その3

 

 「997…998…999…!」

 「ドモーン!お昼ご飯よー!」

 「1000!分かった、今行く!」

 

 第二新東京市に滞在し、修行中のドモンと世話役のレインの一幕。

 姐さん女房の恋人と共に、ドモンは第二新東京市の防衛メンバーの一人として配置されていた。

 が、最近は比較的平和なので、出番が無かったりする。

 でも偶に街で悪さする連中を捕まえたり、侵入した何処かの工作員を捕まえたりしている。

 

 

 

○そう言えばあの人は?その4

 

 「シンジー!お弁当まだー!?」

 「はーい!今出来るよー!」

 「ワンコ君ありがとーぅ!」

 

 朝の登校時、お隣さん同士のアスカとシンジ、マリの一幕。

 なお、ミサトの部屋はシンジの右隣で、アスカとマリの部屋は左隣となる。

 料理は未経験なアスカは毎度買い食いなのに対し、シンジは毎日手作り弁当だった。

 流石に惣菜パン一つに牛乳や野菜ジュースでは育ち盛りには足りず、アスカは午前に体育があると空腹を我慢する事が多かった。

 マリはアスカの様に見栄を張って小食にせず、普通に大きな弁当を買ったりしていた。

 それを見かねたシンジがアスカにも弁当を与え、それをちょっと貰ったマリも味を占め(餌付けされたとも言う)、今ではすっかり二人共シンジに弁当を頼るようになってしまった。

 

 

 

○そう言えばあの人は?その5

 

 「シンジ君、毎朝ありがとう…!」

 「そう思うなら少しは自活を…いえ、ダメでしたっけね。」

 「その哀れみの目は止めて…。」

 

 同じく朝の出勤時、弁当を受け取るミサトとの一幕。

 片付けを始め家事一般できない女のミサトを見かね、シンジはミサトにも弁当を与えていた。

 だって生活習慣病で見知った人が死ぬとか目覚めが悪いし…。byシンジ

 野菜多め・食物繊維たっぷりの健康に良くて美味しいお弁当だったそうな。

 偶にお部屋の掃除までしてくれるシンジ君の主夫力は高まるばかりだった。

 

 

 

○そう言えばあの人は?その6

 

 「はい、ぺんぺんの分。」

 「クエ!」

 

 ちゃっかり自分の分も受け取ってるペンペンの図。

 餌とビールは貰ってるが、主人だけ豪華な飯とかずるい!汚い家よりもこっち!とばかりに割としょっちゅうシンジの部屋にお邪魔してるので、ミサトの部屋には実質寝に帰っている状態だったりする。

 

 

 

○そう言えばあの人は?その7

 

 「ン。」

 「そう…私はこの配管工の兄で。」

 「弟モ…ツヨイ…。」

 

 自宅でキモカワ系深海マスコット&北方棲姫とゲームで遊ぶ綾波の一幕。

 一番好きなゲームは伝統のニンテンドー。

 人生ゲームや桃鉄100年等でリアルファイトに発展する事もあるが、彼女達は仲良しです。

 偶にクソゲーRTAもやったりする。

 なお、思わずコントローラーをブン投げた初のクソゲーはドルアーガの塔だった。

 

 

 

○そう言えばあの人は?その8

 

 「シンジ君…。」

 「クローナさん…。」

 「もう、二人の時はゴトって呼んでってば…ね?」

 「でも、今は外だし…。」

 「じゃ、お部屋、いこっか?」

 「はい…。」

 

 訓練と学校生活の合間にしっかりデートを重ねて絆を深め合っている二人の一幕。

 こうなった場合、毎回周辺の人間に無差別に砂糖テロをかましている。

 アスカはこれに遭遇して苦虫を1000ダース噛み潰した様な顔をし、マリはニタニタと笑いながら眺め、レイは何がそんなに楽しいのか質問したりする。

なお、ヤる事はしっかりヤッている模様。

 

 




なお、ゴトとシンジのデートを邪魔したりすると、高級自動人形のスペックを活かした排除行動に出るので要注意だゾ!


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小ネタ会話集その16 加筆修正

またもムロンさんから小ネタを頂いたので早速投稿いたします。
ムロンさん、毎度ながらありがとうございます!


・ランボー 穏やかな休日

 

 「おいそこの兄ちゃんら、もう閉店だぞ。店が閉められねえから会計済まして早く出な。」

 「ああ、すいませんお巡りさん。おいダン起きろ。俺が運転するからキーを出せ。」

 「おいおいおい!表のHBT車はお前らのだろ?そんなざまで運転する気か?保安官の俺の目の前で。」

 「大丈夫ですよアルコール分解剤あるんで。十分もすりゃあ素面に戻りますよ。」

 「効き目には個人差があるだろうが。見ない顔だ、この辺のもんじゃあないだろう?」

 「ええ、戦友の里帰りに付き合った帰りで。」

 「お前さんらやっぱ兵隊か。一番近い基地でも3時間はかかるぞ。2ブロック先にモーテルがあるから今日は泊まってきな。俺が口きいてやるから。」

 「いや悪いですよ。大丈夫ですから。」

 「これで事故でも起こされたら俺が事故らせたようなもんだろうが。口答えせずさっさと着いてこい!」

 「それじゃあお言葉に甘えて。えーっと。」

 「ティーズル。保安官のティーズルだ、おたくは?」

 「ジョンです。ジョン・ランボー。」

 

 休日を過ごすランボーと友人らの一幕。

 戦友の里帰りに同行したり、車を乗り回したり、場末のバーで仲良く酔いつぶれたり、強引だが世話焼きな保安官に取っ捕まったり充実した時間を過ごせた模様。

 

 

 ○ジョン・ランボー(ランボーシリーズ)

 地球連邦軍中尉。

 ダッチやライバックと並んでエコーズ最強格の一人。

 特に密林でのゲリラ戦においては彼の右に出るものはなく、一年戦争時に従軍した東南アジア戦線ではジオン軍一個連隊を彼の所属する特殊部隊「ベイカー」のみで相手取ったと言われている。

 実際は現地の機械化大隊(コジマ大隊)の戦力あったればこその戦果であったが「半分くらいは彼らの仕事」とコジマ大隊長は言い残している。

 原作の彼と違いベトナムでの捕虜経験や故郷での冷たい扱いなどを経験していないため、性格や話し方がかなり異なっており、第1作冒頭で戦友の家族に語りかけた時の口調が普通。

 休日には親友のダンの持つ車を一緒に乗り回したりして人生を謳歌している。

 ちなみにこの事実を知ったトレミィは「良いことなんだけどなんか違和感が。」とこぼしたとか。

 ある意味でランボーというよりバーニー・ロス(エクスペンダブルズ)に近い。

 

 ○ダン・フォレスト(ランボー)

 地球連邦軍少尉でエコーズの一員。

 一年戦争にはトラウトマン中佐(当時)の指揮する特殊部隊「ベイカー」の一員として従軍。

 そこで知り合ったランボーと親友同士となり、以降も公私ともによくつるんでいる。

 賭け事と車が趣味で今時珍しい内燃式のスポーツカーを持っており、休日に友人と共に車を乗り回すのが楽しみ。

 原作においてはベトナムで靴磨きの少年に仕掛けられた爆弾に引っ掛かり爆死、ランボーに深いトラウマを遺した。

 ちなみにこの世界で彼の持つスポーツカーは1958年式シボレーのリビルド品。

 色々調べたけど「ダンフォース」なのか「ダン・フォレスト」なのかいまいち判別がつかなかった。

 なので一応フルネームっぽい「ダン・フォレスト」を採用

 

 ○デルモア・バリー(ランボー)

 地球連邦軍曹長でエコーズの一員。

 2m近い巨漢でランボーの友人。

 里帰りに向かう所、それを知ったランボーとダンが車で同行することになり、三人で故郷までの旅を楽しんだ。

 なおダンの車は2人乗りであったため、車1台とバイク1台に交代交代で乗った。

 原作映画ではベトナムでばらまかれた枯葉剤が原因で癌を発症し、ランボーが故郷を訪ねたときには既にこの世を去っていた。

 死に際には老いた母親が抱き抱えることが出来るほど痩せ細っていたという。

 

 ○ウィル・ティーズル(ランボー)

 デルモアを故郷に送り届けたランボーとダンが帰り道で立ち寄った街の保安官。

 従軍経験はあるが一年戦争前に退役しているため実戦経験は殆んどない。

 頑固者であるが思いやりがあり、酔っぱらっていた二人を気遣ってモーテルへの宿泊を勧めた。

 翌日礼を言いに保安官事務所を訪ねた二人と共に昼食をとることになる。

 その際部下のガルトとミッチが二人の車に興味を示し、結構長い時間話し込んだとか。

 原作映画の大騒動は基本的に彼とランボーのすれ違いが原因。

 彼にも問題はあったがそれは半分くらい当時の世相が原因で、ランボーが普通に応対出来ていれば結構気遣ってくれたかもしれないと思ったのでここではこうなった。

 まあ原作の戦友を失って心身ズタボロのランボーの心境を考えれば仕方のないことだが。

 そもそも軍人への対応がベトナム戦後のアメリカと絶賛生存競争中のスパロボ時空で同じわけがない。

 

 ○アルコール分解剤

 その名の通りアルコールを分解する錠剤。

 正体は医療用ナノマシンで体内のアルコールを約10分前後で完全に無害な物質に分解することが可能。

 仕事を終えればナノマシンそのものも分解される。

 元々医療現場や軍でのみ扱われていたが新西暦186年には民間にも開放された。

 飲酒運転を誤魔化すために悪用する者もいるが、専用の検知器を用いればナノマシン使用の痕跡がすぐ分かるようになっている。

 そのため、民間では痕跡の出にくいアルコール分解酵素(カプセルや錠剤型等様々)の方が売れている。

 

 ○HBT

 この時代の内燃式自動車用燃料。

 ガソリンとは異なる種類の化合物であるがそのままガソリン車にいれても問題なく効力を発揮する。

 燃焼させても一切の有害物質は出さず、それでいて色合いや匂いはガソリンを正確に再現している。

 元々は核融合炉の完成や高効率バッテリーの開発、電気自動車の普及により内燃機関がロステク化しα外伝時代の「戦闘メカ ザブングル」が別物になることを恐れたトレミィが開発させたもの。

 もし外伝の事件が起こってしまった場合のためであったが何とかその事件を発生させずに済んだため、旧来の内燃機関式の自動車を愛する好事家たちや電気自動車への移行が遅れた自動車会社にとっては意図せずして福音をもたらすだけの存在となった。

 なお、基本が初代ガンダムのUC宇宙なこの地球では、自然環境への配慮から基本的に全土が自然保護区に指定され、緊急時を除く化石燃料の使用は違法になっているため、HBTは旧来のガソリンエンジン車の愛好家からは甚く歓迎された。

 新西暦180年代にもなるとエレカを中心に電気自動車が完全に普及し、HBT車よりそちらの方が燃費がよくなってしまった。

 そのため一般向け用の内燃機関式自動車は殆んど姿を消してしまい、一部好事家用に20世紀後半から新西暦初頭の内燃機関車輌を現代の道交法にあわせてリビルドした復刻版が販売されている程度に収まっている。

 そのためHBTの需要も最盛期からはガタ落ちし、HBT用のスタンドも減少。

 今ではユーザー向けにA.I.M.が通信販売を展開するほどである。

 半ばお荷物の事業と化しているが万が一の事態に備える意味でも赤字覚悟で続けていくことが決定している。

 名称の元ネタは「機甲創世記モスピーダ」に登場する同名の燃料で、現実にあるガソリンGASを一文字ずつずらしただけである。

 

 

 

・沈黙の御召艦

 

 「よう王子様。もしかして迷子かい?」

 「あれ?ライバック大尉じゃあないですか?なんでここに?」

 「見ての通りさ。今回の航海の間は厨房を任されていてね。まあ護衛も兼ねているが。」

 「そうなんですか!?大尉がいらっしゃるなら僕も大船に乗った気分ですよ。」

 「まあ荒っぽいことは置いておいてだ。むしろ注意しないといけないのはそれ以外のことだな。」

 「どういうことですか?」

 「今回は共和連合のお偉いさんやその家族も乗り込むんだ。年頃の娘さんも多い。狙いはもちろんお前さん、まあハニートラップってやつだな。○っぱいには気を付けろよ。」

 「大丈夫です!!洸には私がいますから!!」

 「お、おいマリ!?」

 

 共和連合への外交使節として出発したムー王家御召艦エルシオール内での一幕。

 プロトカルチャー遺跡を領内に多数抱える共和連合。

 これらは有望な技術的遺産であると共に超ド級の不発弾のようなものであり、取り扱いには細心の注意が必要とされていた。

 そんな中プロトカルチャーの生き残りであるレムリア女王とその子供達の存在が判明。

 銀河のパワーバランスを容易くひっくり返しかねない存在を取り込むべく枢密院は様々な手段を講じることになる。

 今回のレムリア女王一家による共和連合訪問もその一つ。

 表向きは遺跡の視察と相互交流が目的とされているが、真の狙いはプロトカルチャーの血筋を取り込むことで特に年頃の洸が狙われることとなる。

 婚姻外交事態は悪くないけどまだ早い!

 枢密院内部の派閥、要するにゾガルとかヴォルガの勢力削いでからにして!

 後、本人らの幸せにもしっかり配慮する事!

 と言うのが地球側の本音である。

 

 

 ○ケイシー・ライバック(沈黙シリーズ)

 地球連邦軍大尉。

 個人としての戦闘力もダッチやランボーと並びエコーズ最強クラスだが、他の面々と異なり料理でも最強クラスという特色を持つ。

 エコーズ本部の厨房は彼が取り仕切っており、食事の質が同程度の予算をかけている他部隊を大きく上回るものになっているのは彼のお陰。

 宇宙軍所属のエルザム・V・ブランシュタインは良きライバルで、両者が揃った日の食堂はエルザムの持ち込んだ高級食材を用いた一流レストランもかくやという美食の数々で溢れることとなる。

 なお必然的に真に食の最強はエルザムの妻カトライアと言うことになる。

 その腕前を活かしVIPのガード兼コックとして従事することが多く、実はカービィ中将を差し置いてお偉いさんとのコネを一番多く持っていたりする。

 なお彼の真価はいろんな意味でキッチンにおいて発揮される。

 ある日、仮想空間で行われていた対テロ訓練にテロリスト役として飛び入りで参加したU.T.F.の高級自動人形(重力制御可)が彼のいるキッチンを侵入。その三分後に自動人形は無力化された。

 参加した自動人形は後日この事をトレミィに報告したのだが「ボコボコにされたうえにキッチンが爆発して死亡判定を食らった」というまるで参考にならない証言をしたためにトレミィは頭を抱えた。

 この日からトレミィの中では「キッチンのライバック>ハイエンド自動人形=ジェガン」の方程式が確立したとか。

 流石にヴァルチャーは試さなかったが(もし万が一負けたら洒落にならなかったとも言う)。

 今回は共和連合領内の遺跡を調査するために御召艦エルシオールに乗船したレムリア女王とその一家を護衛すべく乗り込んだ。

 なお彼のことは意図的にリークされており、「ケイシー・ライバックが乗船している」という事実を知ったテロ組織が襲撃を断念するなど存在そのものが抑止力になっている。

 セガール拳、この格闘技を極めることにより攻撃効果は120%上昇し一撃必殺の技量は63%向上。

 セガール拳を極めたものは無敵になる!

 

 ○テロリスト

 ライバックの項で出たテロリスト。

 具体的な組織名は存在しない(考えてないしテロリストで十分じゃね?)が反連邦組織の類いではなく反プロトカルチャー思想の持ち主たちの集団。

 頭ザンボット3かマーベルの市民みたいな連中が多く「地球がこんな目に合うのはプロトカルチャーの、ひいてはムーのせい!」と拗らせている。

 ぶっちゃけプロトカルチャーが来なかろうが世界観的に人類は勝手に生まれるし、宇宙怪獣の群れに狙われるのは変わらないので今更である。

 驚くべきことにこの集団は反ナチュラル思想を持つコーディネーターと反コーディネーター思想を持つブルーコスモス構成員が同居している。

 プロトカルチャー由来技術が明らかになるに連れて、自らに施されたコーディネートが欠陥のある代物であったことに気づかされて逆恨みするコーディネーターと、遺伝子操作そのものに忌避感を持つ一部のブルーコスモスがプロトカルチャーという共通の敵(!?)に対して呉越同舟した形。

 なんでお前らそんなくっそめんどくさいところだけ通じ合うんだよ!?

 実際は資金力のあるブルコス過激派(ジブリール派閥の思想的生き残り)が自棄っぱちになった過激派コーディネーターを鉄砲玉にしているだけなのだが。

 ブルコス過激派が欧州戦線でジブリール閥だった軍人を擁しているためダッチやライバックなどの有名どころは知っている。

 まあ要するに場の賑やかし要員というか財団B的にジオン残党みたいなサンドバックにしてよい地球側の不穏分子どもである。

 アナハイムによるマッチポンプとかではないからまだ健全…健全ってなんだっけ???

 取り敢えず、そういう救いようのないサンドバック的モブである。

 

 

 

 ・カリーニン軍曹

 

 「おう宗介、お前なにやってんだ?」

 「クルツか。見ての通り通信制の高校の課題だ。少佐や大佐殿に学歴も大事だと言われたのでこうして通っている。」

 「そうかい。だがお前さんの歳なら普通にハイスクールに通ってもバチは当たらねえだろ?例のマジンガーのパイロットも通ってるらしいぜ?」

 「肯定だ。だが任務をおろそかにするわけにはいくまい。今は人手がいくらあっても足りない状況だ。総合的に判断して俺がわざわざ普通の高校に通うのは不可能だろう。」

 「まあそうだろうな。ところで中将殿から呼び出しだぜ。なんか話があるらしい。」

 「なに!?それを先に言え!早く出頭しなければ!」

 「おい宗介!!あいつもう行っちまったよ。」

 

 

 ○宗介・S(相良)・カリーニン/相良宗介[フルメタルパニック]

 地球連邦軍軍曹でエコーズの一員。

 一年戦争時に乗っていた飛行機が事故で墜落。

 その際に両親は死亡し本人も記憶を喪失。

 あてもなくさ迷っていたところを現地の反政府ゲリラに保護される。

 当時ジオンに占領されていたその地域は住人たちが傀儡政権に対してゲリラ化しており、宗介はそこで生き延びるために戦闘技術を叩き込まれた。

 またそこで反政府ゲリラを密かに支援するべく連邦軍から送り込まれたカリーニン大尉(当時)と知り合う。

 最終的に反政府ゲリラは壊滅するもジオンとの講和が成立し、現地政府は解体され連邦に再加盟。行き場の無くなった宗介はカリーニン大尉に保護されることとなる。

 本来ならばそこで社会復帰を行うはずが、戦う以外の道が分からなくなった宗介の強い希望もあって特例で訓練を受けたうえで軍務に服することとなった。

 戦争に身を投じた年月は原作より短いが、他のエコーズメンバーに揉まれたことで戦闘スキルは原作以上でアートの領域に踏み込んでいる。

 おそらく出身は日本なのだが一年戦争時のミノフスキー粒子散布の悪影響などで彼の出身地の戸籍データは消滅。

 再登録する者もいなかったためこのご時世にあって出身地や生年月日が一切不明という結構特殊な身の上。

 一応身体検査の結果、現在の年齢は17歳前後と判明している。

 なお法的な保護者はカリーニン少佐で、新たに作成された戸籍には彼の息子として記載されている。

 好物は義母のボルシチ。

 別に彼の味覚がイカれているわけではなく、夫用とは別に用意された普通のボルシチをもらっているだけ。そちらはすごく美味しい。

 現在戦争終結後を見据えて最年少隊員である宗介に最低でも高卒資格を持たせることをエコーズ上層部が画策中。

 もし彼さえ望むなら普通のスクールライフを送ることも不可能ではないかもしれない。

 まあ通う高校によってはある意味で軍より波瀾万丈な日々を送るかもしれないのがスパロボ時空なのだが。

 ちなみに↑に出た「大佐殿」はテッサじゃなくてトラウトマン大佐のこと。

 退役後を見据えての助言である。

 

 [補足]

 出来る限り原作の宗介に寄せようとして誕生したα時空の宗介。

 一年戦争が原作よりスマートに推移してるからこれでもかなり苦しいと思う。

 アムロより幼い少年を全うなこの世界の連邦が使うかどうか?

 でもスクールの被験者や強化人間にするというのはなんか違う気がするジレンマ。

 そもそも中東方面を通る飛行機になんで子供の頃の宗介が両親と一緒に乗っていたかという理由付けが出来てねえ。

 なお、ウィスパードはこの世界線に存在しないが、虚憶や因果律の関係でウィスパードだった人物は皆それぞれ得意とする分野において天才児だったりする。

 

 ○アンドレイ・セルゲイヴィッチ・カリーニン[フルメタルパニック]

 地球連邦軍少佐でエコーズの一員。

 基本的な立ち位置は原作とさほど変わらない。

 しかし同格の能力を持つ僚友の存在や正規軍として大っぴらに活動できることも合わさって負担は少なめ。

 一年戦争時にゲリラ時代の宗介と知り合い、その後養子にとる。

 医療技術が桁違いに高くなっているおかげで妻が生存しており、養子の宗介以外に娘が一人いる。

 夫婦仲は悪くないが、養子の宗介を戦場に連れ出す+自分より長く触れあう時間があることで不興を買っている。

 嫌がらせのボルシチを旨いと誤認しているが、それ以外では味の良し悪しを判断できるあたり「妻の料理は旨い」と無条件で認識しているだけらしい。

 ダッチとはパパ友。

 ライバック大尉と声がそっくりでたまに間違えられる。

 

 ○イリーナ・カリーニン[フルメタルパニック]

 カリーニン少佐の妻で有名なバイオリニスト。

 医療体制の充実と技術の発展により医療ミスが発生せず母子ともに健在。

 少佐の項にある理由で彼に対しては若干あたりが強く、任務から帰って来た日には凄まじく不味いボルシチのような何かを食わせている。

 それすら旨いと言ってくる彼に若干困惑してたりする。

 外見は年齢を重ねたクラーラ(ガールズ&パンツァー)

 

 ○ソフィーヤ・カリーニン

 カリーニン少佐の実子で宗介の義理の妹。

 二人が滅多に家に帰ってこないことは不満だが仲は良好。

 誤って父親用のボルシチを口にしてしまってからは父には特に同情的。

 外見はロリ時代のバラライカことロリライカ(BLACK LAGOON)。

 

 ○クルツ・ウェーバー

 地球連邦軍軍曹でエコーズの一員。

 ぶっちゃけ背景はほぼ原作と変わらず、強いて言うなら今は正規軍所属というくらい。

 狙撃技術はエコーズどころか宇宙でも最上位の腕前だが近接格闘能力はエコーズ最弱クラス。

 ハドソンに勝ったり負けたりする程度で、マオやバスクエスには勝ち目がない。

 

 ○メリッサ・マオ

 地球連邦軍曹長でエコーズの一員。

 クルツと同じく背景はほぼ変わらないが海兵隊を不名誉除隊にはなっておらず、エコーズに転属しただけ。

 バスクエスとは海兵隊時代の同期で親友。

 出奔した実家はアズラエル財閥の系列でムルタとも面識はある。

 

 ○レナード・テスタロッサ[フルメタルパニック]

 A.I.M.の若き天才技術者。

 その生い立ちから若干女性不信の気があり、女性型自動人形が数多く在籍している本社はやや居心地が悪く、本人たっての希望で自社製品の運用現場へ頻繁に派遣(出向)されている。

 ロジャー・ヤング級の納品先であるエコーズにも当然行く。小型チューリップの設計に携わったから。

 妹のテッサについても彼なりに愛しているが、年々母の面影を思い起こす容姿に成長する彼女を直視するのが難しく、ここ数年はモニター越しでしか会ってない。

 しかし祝い事や誕生日には連絡とプレゼントの手配を忘れることはない。

 自分で設計図を引くと高性能だが扱う人物を選んだり専用の支援体制が必要な装備を作る悪癖があり、出向先のエコーズで唯一の同年代である宗介にボロクソに言われている。

 彼は彼で反論するのだがロジャー・ヤングの原型艦や以前に鹵獲したゼントラーディ系兵器を引き合いに出されると途端に黙る。

 高度な技術を用いながら量産性に優れ頑丈で扱い易いという兵器の極致でもあるプロトカルチャー製を引き合いに出すのは実際卑怯とは本人の談。

 その悪癖から結構シロッコとは技術開発についてよく話す仲。

 

 




なお、アルコール分解酵素は機動戦士ガンダムサンダーボルトに出て来るものです。


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第66話 皇帝VS皇帝その5

思ったより進まなかったな…

これもそれもHF三章視聴したのが悪いな!(2回目で初4DX)
座席揺れ過ぎ&名作過ぎて2回目でも詰まらないとか全く思わなかったぜ!
皆にも是非お勧めだ!(ダイマ


 新西暦186年9月28日 極東方面 旧光子力研究所跡地 地下秘匿区画

 

 

 【ふぅ…これで遂に完了じゃな!】

 

 闇の帝王もといアストラル体となったDr.ヘルは自分専用カスタマイズが完了したマジンカイザーを前にして達成感に満ちた吐息(呼吸してないが)と共に額を拭った(汗腺自体もないが)。

 同時、何時の間に用意していたのか、≪祝☆ヘルカイザー完成!≫の横断幕が壁に張られ、天井から釣り下げられたくす玉が割れ、設置された扇風機によって紙吹雪が綺麗に舞い上がる。

 …努力する所を間違えているかもしれないが、割と原作でもこんな感じだったりする。

 

 「おめでとうございます、闇の帝王様。」

 「永きに渡った宿願の成就、心よりお祝い申し上げます。」

 【うむ!ここまで実に永かった…同時に瞬きの様でもあった…。】

 

 一万年以上も過去にアストラル体のみとなって跳ばされ、古代ミケーネ帝国を傘下に入れてからというもの、Dr.ヘルに休息は無かった。

 何せ肉体的な疲労からは完全に解放され、バードス島が水没した事もあって、研究に没頭し続けたからだ。

 ミケーネ人達の統治は完成した暗黒大将軍と七大将軍に任せ、マジンガーZEROを超えるべく研究を続けた。

 しかし、兵力確保のために新型の戦闘獣の開発にミケーネスやミケーネ人の品種改良と量産、何よりZEROに勝つための機体の開発という難事はDr.ヘルをして困難を極めた。

 それこそ一万年以上の時間があってもまだまだ足りず、尻に火が着いた様な心境で開発に専念した。

 

 【やる事が…やる事が多い!えぇい、これでは締め切り前の漫画家の様ではないか!?】

 

 それでもまだまだ目標は遥か遠く、あの原初にして頂点たる魔神の陰を踏む事すら出来なかった。

 元素固定装置による高速の自己修復機能、対超合金Zのための各種兵器、戦闘用頭脳を搭載したジェネラル級の戦闘獣、デビルマジンガー開発の際に得た光子力エンジンや超合金Zの設計図や開発ノウハウを活かした自分専用戦闘獣こと地獄大元帥。

 こうした堂々たる成果を出しながらも、しかし、これらでは精々魔神パワー解放の半ばまでしか対抗出来ないと言う結論しか出せなかった。

 

 【だが苦節1万年余り…遂に我が悲願成就の時が来た!見よ、これぞ我が努力と苦悩と苦痛とお前達の献身の成果だ!】

 

 そこには、あちこちが微妙に悪者っぽく改装されたマジンカイザーの姿があった。

 ケーブルは全て引き抜かれ、露わになっていた内部構造は巨大なビスの様なもので装甲が打ち付けられ、各部にエネルギーラインが増設されている。

 また、最大の相違点は頭部であり、専用のカイザーパイルダーではなく闇の帝王専用のヘルパイルダーとも言うべきものが接続されていた。

 …こう、何というか、デザインが他の世界であしゅら男爵が強奪したマジンガーZを改造したパターン(通称あしゅらマジンガー)にそっくりだった。

 やはり創造主と被造物とでは感性が似るのだろうか…?

 

 「しかし、見た目は急造品の様な…。」

 

 こそこそとあるミケーネスが囁いた。

 途端、闇の帝王から稲妻状の精神的エネルギーが発射され、無礼極まりないミケーネスの一人を焼き尽くした。

 

 【誰か他に何か言いたい事はあるか?】

 「「「「「「「「「「いえ、何も。」」」」」」」」」」

 

 闇の帝王以外の面々が手や首を左右に振るう。

 そりゃもう必死にブンブカブンブン!と手や首を左右に振るう。

 誰だって失言一つで無礼討ちされたくはなかった。

 

 【よろしい、では出撃だ!地上にいる連邦軍を一人残らず皆殺しにするのだ!】

 「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」」」」」」」」」」

 

 こうして、マジンカイザーはミケーネ帝国の手に落ち、その開発目的とは真逆のISA戦隊分隊へとその矛先を向けるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年9月28日 極東方面 旧光子力研究所跡地 

 

 『ぐああああ!ミケーネ帝国バンザーイ!』

 

 超人将軍ユリシーザーが、断末魔の叫びと共に吹き飛んだ。

 

 『よし、残る指揮官は二体だけだ!』

 『確実に殲滅しろ!最後っ屁も許すな!』

 

 簡易修理と補給を終え、遂に量産型特機軍団が戦線に復帰したのだ。

 未完成とは言え、量産型グレートマジンガーと量産型ゲッターロボGが9機ずつ参戦したのだ。

 厳選に厳選を重ねた代えの利かない程の適性と腕前を持ったパイロット達と共にこれまでミケーネ帝国の侵攻を遅らせてきた実績を持つ彼らである。

 未だ500機という半数以上が健在だとは言え、ISA戦隊分達との戦闘で消耗を重ねたミケーネ帝国では彼らの戦線復帰によって意気高揚となったISA戦隊分隊を抑える事は出来なくなっていた。

 

 『よもやこれ程まで押されるとはな…。』

 『ハ、人間様を舐め過ぎたって事さ。』

 

 弛まぬ鍛錬と磨き上げられた才覚、多くの危機を潜り抜けた戦歴。

 綿密に計算され尽くした戦術・戦略、聊かも衰えぬ戦意。

 そして、後方の人員を限界寸前まで酷死もとい酷使して準備した兵器や物資類。 

 これらを用意するだけの力が地球連邦政府には、太陽系の人類とその愉快な仲間達にはあったのだ。

 だからこそ今、ここまで優位に立つ事が出来た。

 

 『だが、勝鬨を上げるには少しばかり遅すぎた様だな。』

 『なに?…これは!?』

 

 鉄也が通信で警告を出す寸前、旧光子力研究所は地下部分から巨大台風が如き暴風によって根こそぎ消し飛ばされた。

 

 『全機、フィールド出力最大!自衛に専念せよ!』

 

 クロガネ艦長クルト・ビットナーの声に、ISA戦隊分隊並びに特機軍団は精鋭らしく即座に対応する。

 しかし、二隻の母艦が最も旧光子力研究所跡地に近かった事もあり、母艦並びにその直掩に当たっていたMS部隊は直撃ではなかったものの余波を受けてしまった。

 

 『ぐぅ…状況報告!』

 『クロガネ、シロガネ両艦は推進系統に異常発生、浮上できません!エンジンは無事ですが、テスラドライブの出力が上がりません!』 

 『こちら、艦直掩のMS部隊…!全機が先の風で中大破…戦闘続行不可能です!』

 『何て事だ…艦の復旧とダメコン急げ!MS部隊は撤退しろ、的にされるぞ!』

 

 暴風が収まるまでの数十秒間。

 それだけで二隻のスペースノア級と直掩のMS部隊は壊滅的打撃を受けていた。

 先の事件の際の痕跡によって、周辺一帯は既に更地になって久しいため被害はないが、それでも凄まじい破壊の痕跡が再度地表に刻まれていた。

 だが、それを成したたった一機の機動兵器の性能を考えれば、この程度の事は序の口に過ぎなかった。

 

 『! 光子力研究所跡地に超高出力の光子力エネルギーを確認!この出力は…魔神覚醒事件時に観測された数値に匹敵します!』

 『『『『『『ッ!?』』』』』』

 

 その報告を聞いた全員の背を戦慄が駆け抜けた。

 この場所、この敵、この状況。

 それら全てがあの事件の時と酷似していると、彼らは漸く気付いたのだ。

 

 『ぐはははははは!どうやら遅かった様だな、剣鉄也!』

 『てめぇ、知ってやがったか!』

 

 再び暗黒大将軍の大剣とグレートの二本のマジンガーブレードが切り結ぶ。

 だが、行動は同じな筈なのに、両者の心情は先程とは全くの真逆だった。

 

 『こ、甲児!聞こえておるのなら逃げるんじゃ!』

 『っ!?爺ちゃん!?』

 

 突如、全方位通信で腹から大出血しながら血眼になって叫ぶ兜十蔵博士というある意味ホラーな映像通信が送られた。

 

 『アレにはグレートやG、況してや量産型では勝てん!アレは、あの魔神皇帝はZEROを、悪に堕ちた魔神を倒すために作られた魔神の中の魔神なのじゃ!』

 『十蔵博士、大人しくしてください!』

 『鎮静剤投与開始!輸血急いで!』

 『ダメです、圧迫止血じゃ間に合わない!』

 

 十蔵の叫びの後ろで、彼を拘束しながら必死に治療を進めるU.T.F.所属と思われる自動人形達がいた。

 しかし、聞こえてくる彼女らの声はどれもこれも悪い状況を知らせるものしかなかった。

 

 『…爺ちゃんは治療を受けてくれ。オレは戦う。』

 『バッカモン!死ぬぞ馬鹿孫!』

 『…仕方ありません。電気ショックによる鎮圧を行います。』

 

 シリアスな会話の後ろで、さっぱり大人しくならない十蔵に対して遂に強硬策が取られようとしていた。

 

 『あの時、マジンガーをZEROにしちまった責任を、オレはまだ果たしてない。』

 『甲児…。』

 『帰ってくるから、爺ちゃんは怪我治して待っててくれ。』

 『甲…!』

 『電圧、最低値に設定。電気ショック、実行します。』

 

 ブツ、とそれきり通信は途切れた。

 十蔵が限界だったのか、通信が切られたのか、それとも電気ショックによるものなのかは定かではないが、戦後この時の通信を見ていたほぼ全員が(あれ、これ十蔵博士死んでね???)と思ったそうな。

 

 

 【ふふふふふ……フハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!】

 

 

 戦場に哄笑が響き渡る。

 機動兵器に脅威にはならぬ程度まで弱まったとは言え、未だ吹き止まぬ暴風の中をゆっくりと闊歩してくるその機体に、誰もが戦慄と畏怖を隠せない。

 全員が分かっているのだ。

 この場の誰よりも、今現れようとしている者こそが最も強いのだと言う事を。

 

 【遂に満願成就の時が来た!ミケーネ帝国の兵共よ、今こそ地球を我が手に!このヘルカイザーと共に地球連邦を蹂躙し、この美しき母なる星を手に入れようぞ!】

 『『『『『『『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』』』』』』』』』』

 

 マジンガーの系譜であると一目で分かるが、グレートよりも一回り大きい既存のマジンガーとは全く異なると一目で分かるその姿。

 全身に追加されたビス止めされた装甲にエネルギーライン、頭部に追加されたデザインの異なるパイルダーこそ違和感を持つが、それは間違いなく新たなマジンガーであり、ZEROを除けば現時点で間違いなく最強であろうマジンガーだった。

 暴風の中から現れたその威容に、未だ500機以上も残るミケーネ帝国の戦闘獣が雄叫びを上げ、下がり切っていた士気が天井知らずに上がっていく。

 彼らもまた嘗ての魔神覚醒事件の折、マジンガーZEROの脅威を観測していた勢力の一つだった。

 海中に没したバードス島の地下、そこで一万年もの太古より地球の覇権を手にするために雌伏を続けていた彼らをして、マジンガーZEROは心胆寒からしめる恐るべき敵であった。

 だが、だが!遂にそのマジンガーZEROに匹敵する力を、我らが神たる闇の帝王様が手に入れた!

 であれば、最早恐れるものは何一つ無いッ!!

 

 『さ、せるかよ…ッ!!』

 

 では、誰が魔神率いる戦闘獣軍団の道を阻むのか?

 その様な蛮勇の持ち主はこの場には僅かしかいない。

 グレートマジンガーと剣鉄也?

 否、彼は暗黒大将軍一人に掛かり切りである。

 ゲッターロボGとゲッターチーム?

 確かに彼らならばやるだろう。

 しかし、彼らもまた七大将軍の相手で忙しい。

 では、グレンダイザーとデュークフリード?

 それも否、彼も擱座してしまった母艦二隻の防衛で手一杯だ。

 ダイターン3と破嵐万丈?

 補給し終わったら戦況が思いっきり不利になり、特機軍団と一緒になって防戦一方になっているのでこれも無理だ。

 ダンクーガと獣戦機隊?

 上と同じく。

 加えて彼らの中の野生がしきりに撤退を叫ぶため、その動きは先程よりも精彩を欠いて押されている。

 ならばもう、一人しかいない。

 

 【くくく…ハハハハハハハハハハ!そんな無様な機体で、我が前に立つと言うのか、兜甲児!?】

 『応よ!オレは何度だってお前の前に立ってやる!闇の帝王!いや、Dr.ヘル!』

 

 こうして、再び因縁の二人がマジンガー同士を駆って対峙した。

 これもまた、嘗ての事件の再現だと言うかの様に両雄は激突するのだった。

 

 

 




・グレートマジンガー(オリジナル)
パイロットは剣鉄也。
コスト以外全性能が上。魔神パワーを4段階目まで再現して搭載。

・量産型グレート(先行生産)
現パイロットは甲児とジュン。
基本性能は原作アニメ版グレート。 
運用データは後期生産型へと受け継がれる。

・量産型グレート(粗製)
名も無きエースパイロット達が搭乗。
実は機体以上にパイロットの確保が困難。
正式な後期生産型ではなく、完成度80%で出撃。
だが大抵の戦闘獣より強い。


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第67話 皇帝VS皇帝その6

PCの調子が悪過ぎて回線が日に10回以上断絶するわ再起動や有線接続しても落ちるわでここ数日全く執筆できなかったっす…(げっそり


 「…止むを得ん。全軍を撤退させよう。」

 「な、それはいけませんぞ剣造博士!」

 

 洋上の科学要塞研究所にて、剣造博士と弓教授は状況をモニターしていた。

 そして、剣造は撤退を選び、弓はそれに反対していた。

 

 「カイザーが起動した以上、アレに敵うのは同格の特機しかいない。しかし、ライディーンやゴッドマーズ、サイバスターらはバラオとの戦闘が漸く終わろうという時。他のMSやVFでは超合金ニューZαを破壊する事は出来ない。」

 「ですが、ここで逃げれば闇の帝王によるカイザーの掌握が更に進みます!今しか期はないのです!」

 「だが、今のカイザーにすらこちらの手札の多くは勝てない!ゲッターGならば万が一の可能性はあるが、そんな不確かなものに賭ける訳にはいかん!ここは一度退き、態勢を立て直した後に確実な戦力を用意すべきだ!」

 「一体何処にそんな余裕があるというのですか!?今、地球上は各地がミケーネの襲撃を受けて手一杯なのです!現有戦力で対応するしかないのです!」

 「ぬぅぅ…!こんな時のためのカイザーだったと言うのに…!」

 「幸い、増援が向かっています。彼らと現場の皆の努力と奮闘に賭けるしか…。」

 「新型とは言えVFでどうにかなる相手ではない。時間稼ぎが精一杯だ…。」

 

 二人の博士が意気消沈して項垂れる。

 二人は光子力研究の第一人者とも言える優れた科学者だ。

 だからこそ、十蔵の作り上げたZERO、そしてカイザーの危険性を他の誰よりも承知していた。

 故に二人はこのままでは勝てないと同じ結論を出し、剣造は一時撤退を、弓は戦力を増強しての戦闘続行を選んだ。

 しかし、今やその選択をする余裕さえも有るかどうか…。

 MSやVFでは幾ら数を揃えても蹴散らされるだけだと、最強の一には最強の一をぶつけるしかないのだと、彼らは知っていたのだ。

 

 「は、博士!大変です!」

 「どうした!?」

 「試作型グレートブースターとスペイザーが発進しようとしています!!」

 『弓さやか、行ってきます!』

 『グレース・マリア・フリード、いっきまーす!』

 「「なにぃぃぃぃぃぃ!?」」

 

 そして、二人の男の苦悩は二人の少女の通信によって一方的に吹き飛ばされた。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年9月28日 極東方面 旧光子力研究所跡地

 

 

 『ドリルプレッシャーパーンチ!!』

 

 甲児の駆る量産型グレートの右腕から螺旋状に4つの刃プレッシャーカッターが展開、高速回転しながら発射される。

 

 【なんだ、この玩具は?】

 

 戦闘獣の装甲すら容易く砕くロケットパンチの発展系を、しかしヘルカイザーはその左手であっさりと掴み取り、そのまま紙細工の様に握り潰す。

 

 【次はこちらじゃ。ターボスマッシャーパンチ!】

 

 ヘルカイザーの右腕からプレッシャーカッターに類似した刃が展開、同じく高速回転しながら発射される。

 

 『うおおおおおお!?』

 

 しかし、その威力たるや文字通り桁違いであり、回避し切れないと見た甲児は左腕全てを捥ぎ取られる事を代価にし、背面のスクランブルダッシュに後先考えぬ程の大出力を吐き出す事を命じて前進する。

 大気を引き裂く轟音と共に、瞬きの間よりも早く両者の距離は徒手格闘の間合いと等しくなった。

 剣を抜く間も与えず、両腕が無い状態で甲児は果敢に格闘戦を仕掛ける。

 

 『ニーインパルスキック!』

 

 その両足から棘と刃、即ち膝部の膝部に内蔵されたスパイクのニーキッカーと脛部に内蔵された刃のバックスピンキッカーを展開する。

 踏み込みの勢いを一切殺さず、そのままに膝を叩き付ける。

 だが、ヘルカイザーは小動もせず、反動でギシギシと量産型グレートのボディが軋むだけ。

 そんな事を分かっていた。

 だから、甲児は一切の遅滞なく、次の技へと繋げていく。

 

 『&バックスピンキック!』

 

 煙を吹き始めたスクランブルダッシュを更に酷使する事でのその場での回転、その勢いを活かした後ろ回し蹴り。

 脛部から展開された刃が超々音速の速度でヘルカイザーの首筋へと叩き込まれる。

 だが並みの戦闘獣ならば数体が容易く両断される威力の一撃であっても、魔神皇帝の前には意味を成さない。

 

 【温い!これでは肩こりも取れぬわ!】

 

 貴方、肩どころか肉体も無いですよね???

 まだ漫画家風味の抜けない闇の帝王へ突っ込みを入れる間も無く、ヘルカイザーの頭部の両横にある角が輝き出す。

 

 【冷凍ビーム!】

 

 グレートマジンガーでは使用頻度が低いからとオミットされた初代マジンガーZの武装もまた、この魔神皇帝には搭載されていた。

 その一撃は一瞬で量産型グレートの両足を凍結し、地面へと固定されてしまう。

 

 『ま、だまだぁぁぁぁぁあああッ!!』

 

 五体を実質失った状態になってもなお、祖父を再び失った(と思ってる)兜甲児は折れない。

 既に死に体のスクランブルダッシュに最後とばかりに喝を入れ、甲児は量産型グレートに自壊を覚悟で限界を超えた出力を命じる。

 肘から先を失った左腕を突き出した姿勢での再度の突撃。

 同時、頭部の両横の角が帯電する。

 言わずもがな、グレートマジンガーの内蔵兵装最強のサンダーブレークの予兆だ。

 

 【ほう?】 

 

 それを闇の帝王は無防備のまま実に面白そうに眺める。

 この期に及んで兜甲児の行う悪足掻き、それに興味が湧いたのだ。

 

 『エレクトロ…!』

 

 肘から先を失い、関節部が剥き出しの状態の量産型グレートの左腕。

 それをヘルカイザーの胸元へと叩き付ける。

 同時、そこを基点として最大出力を超えた限界出力のサンダーブレークを直接相手へと流し込む。

 

 『サンダースパァァァァァァァァクッ!!』

 

 将軍クラスの戦闘獣であろうとも直撃すれば撃滅可能なサンダーブレーク。

 それを武装も両腕も無くした状態でのみ、腕の関節部を相手に接触させる事で一点集中させ、直接相手へと流し込むこの技は文字通りグレートマジンガーの最後の奥の手である。

 本来ならば両腕でやる技なのだが、今回は片腕だけでの形となるが、その威力に関してはそれでも十二分なのだが…。

 

 【流石に驚いたぞ、兜甲児!が、此処までだな。】

 

 それもこの悪に堕ちた魔神皇帝には届かなかった。

 膨大な出力の電撃を受け、各所から白煙を昇らせながらも、それでもその身は微塵も揺らぐ事が無い。

 

 【そおぉら!】

 『ぐあああああああああ!?』 

 

 単なるパンチ。

 それだけで殆ど達磨状態だった量産型グレートの装甲は叩き割られた。

 ただのパンチと思う事なかれ。

 この魔神皇帝の拳は他所の世界ではあしゅらマジンガーや試作型グレートマジンガーを単なる打撃だけで打ち負かしてきた実績のある立派な武器である。

 半死半生状態の量産型グレートの装甲を叩き割る位は簡単にしてみせる程の威力はあるのだ。

 圧倒的性能を持つ魔神皇帝を前に、甲児は正に万策尽きた状態だった。

 僅か1分、それが甲児の量産型グレートマジンガー先行生産機がヘルカイザーを前に立っていられた時間だった。

 

 【ハハハハハ!我が正体を見抜いた事と啖呵だけは見事だったと褒めてやろう!】

 『…るっせぇ…!爺ちゃんの、作ったもんを奪うばっかの奴が…!』

 

 左腕は肩から捥ぎ取られ、右腕は肘から先が消え、両足は膝のすぐ下から粉砕され、スクランブルダッシュを構成する背部のブースターとウイングも焼け付いて噴煙を吐き、半ばから折れている。

 頭部のブレーンコンドルもキャノピー部分がひび割れ、中のパイロットが剥き出しになっていた。

 パイロットの兜甲児も重傷を負い、全身から激痛が伝わって意識が朦朧としている。

 そんな状態でも甲児が死んでいないのは、闇の帝王ことDr.ヘルが手加減をしていたからに他ならない。

 

 【して、どうして儂だと分かったのだ?十蔵ならば兎も角、貴様と儂の間に類似性はあるまい?】

 『ハッ!自分で分からねぇのかよ…お前は、そんなだから負けるのさ…ッ!』

 【ほう?】

 

 大破というかスクラップ寸前の量産型グレートの前まで勿体ぶる様に悠然と歩いて来たヘルカイザーは、量産型グレートの首を掴み、持ち上げる。

 その様子を横目に見ながら、しかしISA戦隊の面々は手を出せない。

 特機軍団こそ復帰したものの、ヘルカイザーの攻撃によって母艦が擱座、MS・VF中隊の多くが撃墜・大破して後退した状態であり、母艦を守るために必死に意気高揚となった戦闘獣軍団を相手に防戦一方の状態にあったからだ。

 

 『く、そ!誰か…甲児の援護を!』

 『馬鹿野郎、母艦の防衛が先だ!』

 『だが、このままでは全員死ぬぞ!カイザーの注意が甲児に行っている今しかチャンスは無い!』

 『鉄也、そっちは何とかならないの!?』

 『無茶言いやがる…!だがこっちもプロだ、何とかしてやるさ…!』

 『こちらこそ、いい加減剣での語り合いも終わりだぞ、剣鉄也…!』

 

 この通り手を離せない状態の友軍に、甲児を助ける余裕は無かった。

 

 『爺ちゃんの発明が欲しいなら、爺ちゃんの身柄でも十分だ…だが…。』

 【儂は態々十蔵を殺そうとした。その才覚を認めながら、殺そうとする者はそう多くない、か。理由付けとしては弱い。弱いが、儂を知る貴様ならばそれだけで気付くか。成程成程…。】

 

 ふむふむ、と闇の帝王は顎先(もう無い)を撫でる様に手(に当たる様な部分)を動かし、漸く胸の痞えが取れた様に数度頷いてみせた。

 

 【よし、疑問も解消した事ですっきりした。嘗ての宿敵としてせめてもの情けをかけてやろう。兜甲児、貴様は楽にあの世へ送ってやろう!】

 

 そして、死に体の量産型グレート目掛け、光子力ビームが…

 

 ズガァン!!

 

 『しゃぁ!ジャックポット!』

 

 発射される直前、ヘルカイザーの頭部に精密極まる狙撃が命中した。

 その直後、全機がVFー11から成るVF大隊が戦場の空へと現れた。

 今の狙撃はその中の狙撃仕様の一機が放ったスナイパーライフルの一撃だった。

 

 『こちらスカル大隊、お姫様方のエスコート序に援護に来たぞ!』

 『各員、ISA戦隊分隊並びに特機軍団を支援せよ。正面から当たるな、時間を稼げ!』

 

 何故先日まで欧州にいた地球連邦軍参謀本部直属空中機動艦隊のスカル大隊が遠き極東方面に来ているのか?

 実はこれ、理由があったりする。

 アフリカ方面に回航していたマクロス級二隻の内、二番艦のメガロードはスカル大隊の面々のための新型VF受領のために一度北米へと赴く事が決まっていた。

 そして現在の状況を鑑みて大気圏内フォールドを敢行(データがまだまだ不足しているので、技術的には既に可能だが推奨されない)して北米で機体を受領、更に極東方面の日本海上空にフォールドアウトし、急いでこの場に駆け付けたのだ。

 スカル大隊はその精強ぶりを評価され、全員がVF-11A(先行生産型。エンジンとジェネレーターはVF-1のまま)へと乗り換える事が許されている。

 その性能は以前のVF-1よりもあらゆる面で凌駕しており、基本鈍重な特機ではその速さに追い付きつつ有効打を与える事は難しい。

 そして、そんな彼らにエスコートされる形で二機の戦闘機?が飛んでいた。

 

 『甲児君、助太刀に来たわ!』

 『お兄ちゃん、無事!?無事みたいね!今手伝うわ!』

 『んな!?さやかぁ!?』

 『ま、マリア!?何でこんな所に!?』

 

 偶々戦場に駆け付けようとしてブッキングしたヒロイン二名の姿に、恋人の甲児と兄のデュークは驚きのまま叫び声を上げるのだった。

 

 




スカル1「いや、戦場行こうとしてる未成年の女性2人を放っておくとか軍人としてダメだろ?なんで優しくエスコートしながら来た。」

次回、強化パーツ装着!飛び立てグレンダイザー!新生せよ量産型グレート!


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小ネタ会話集その17

本編は休むが小ネタは休まぬ!

ムロンさんから頂いた小ネタです。
毎度ありがとうございます。

なお、最後に壊れギャグがありますが、本編への影響は一切ありませんw


◯ようこそジュラシック・パークへ

 

 「え、これマジで???」

 「はい。このインジェン社ですが裏で恐竜帝国と繋がっています。“ジュラシック・パーク”プロジェクトとやらも恐らくはメカザウルスの製造プラントかと。」

 「普通にトリノ議定書違反じゃん!!ていうか何ここ?エコーズといい今回のこれといい、色々混ざり過ぎじゃない!?」

 「いや私に言われても困るのですが。」

 

 新西暦186年初頭のA.I.M.にて

 遺伝子操作やクローニング技術悪用の疑いで調査の手が延びていたインジェン社。

 しかしことは想定を遥かに上回っており、発覚した時には既に島2つが恐竜帝国の要塞兼兵器製造プラント、そして密かに連れ拐われた民間人を用いた実験所と化していたのだ。

 これを聞いたトレミィはまた洋画劇場か!と叫びつつ、適切な対処を命じた。

 結果、この事態に対し連邦軍は早期の撃滅と民間人救出を企図した地上・宇宙両軍による攻略作戦を発動する。

 

 

 

◯アポカリプス ナウ

 

 「良い波だ。蜥蜴どもを片付けたらサーフィンと洒落混むのもいいかもしれん。」

 「なんです!?」

 「サーフィンだよサーフィン!!貴様もやるか?」

 「はい!ご一緒します!」

 「よし!いいな?朝日を背に突っ込んで音楽をスタートさせるんだ。」

 「音楽でありますか!?」

 「ワーグナーだ。奴らは震え上がる。戦争処女の蜥蜴どもなら尚更な。」

 

 イスラ・ヌブラル島ならびにイスラ・ソルナ島攻撃に参加したヘリ部隊で交わされた会話。

 海上艦艇からの超長距離からの支援攻撃、後にVF-1による制空権確保等の露払いとデプロッグ重爆撃機による島の地表施設への念入りな爆撃の後にビル・キルゴア中佐率いるヘリボーン部隊が投入された。

 既に設置された偽装対空兵器や飛行型メカザウルスは一掃されており、彼らを阻む者は自然の風と破壊された施設や兵器から立ち上る黒煙程度だった

 なお、本作戦にあたり一部の戦闘ヘリには突貫工事でスピーカーが増設されており、そこから流される大音量の音楽に怯えた恐竜帝国兵士達の士気は著しく低下したことが戦闘後に判明した。

 これは恐竜帝国兵士の殆んどが実戦経験を持ち合わせておらず、今回の戦闘が始めて体験する「戦争」であったことが原因であると言われている。

 

 

 

◯軌道降下

 

 「地上軍より入電!敵対空兵器並びに航空戦力の掃討完了とのことです!」

 「よし!降下部隊を投入する!HLV切り離しまで180秒!20秒前よりカウントダウン開始!」

 「いいか?全員戻ってこいよ!貴様らの命はどうでもいいが、その装備をしっかり返して来てもらわにゃあ軍の金庫はあがったりだからな!」

 「降下まで20…15…10…5…0!」

 「全HLV投下!」

 

 地上部隊による制空権確保の通達を受け強襲揚陸艦「ロジャー・ヤング」を旗艦とする艦隊が降下部隊を満載したHLVを一斉に投下する。

 降下部隊の搭乗したHLVは対空兵器の生き残りへの対策として共に射出されたダミーバルーンと引き換えに全て投下に成功し、地上部隊と共に出撃してきたメカザウルス軍団と対峙することになる。

 

 

 

◯レスキュー部隊

 

 「お久しぶりです中佐。我々の仕事はまだ残ってますか?」

 「おおダッチか!まあ待て。おい!あそこのヤシ林を100m程焼き払え!まだ隠れてる蜥蜴がいるぞ!っと待たせたな。それでなんの話だったか?」

 「俺達の仕事の話ですよ。」

 「ああそれなんだが連中穴蔵の入り口を固めてなかなか頑張っているよ。今から吹っ飛ばすからその後はお前さんらに任せる。」

 「入り口をですか?崩れちまうんじゃあ困りますよ」

 「安心しろ蜥蜴どもだけだ。その程度で崩れるならさっきまでの攻撃でとっくに跡形もなくなっちまってるはずだ。気にすることはない。」

 「なるほど、それを聞いて安心しましたよ。拐われた民間人ごと埋めちまうわけにはいきませんからね。なにせ俺達はレスキュー部隊ですから。」

 「殺し屋の間違いじゃあないのか?まあいい、またお前の超人技を見せてくれ。」

 「了解です中佐どの。」

 

 展開していたメカザウルスを降下する際にHLVで押し潰したエコーズは現場部隊のキルゴア中佐と合流。

 抵抗が散発的になりつつある恐竜帝国軍を蹴散らし、本命の地下施設への突入が開始される。

 

 

◯屠殺場

 

 「少佐、見てください。」

 「これは……内臓か?」

 「そこら中にあります。十や二十じゃあ済みません。恐らく奴ら捕らえた人間を解剖していたのではないかと…ひでえ事しやがる。」

 「報いは受けさせるさ。ポンチョ、先導しろ!」

 

 地下実験施設に拡がるおぞましい光景。

 日本にもあった人類虐殺研究所の様に如何にして人間を効率的に抹殺するかという一点のみを突き詰めたその惨状は突入した兵士から慈悲の心を消し去るには十分であった。

 もはやこの施設に存在する爬虫人類は「害獣」として駆除される未来しか残っていなかった。

 結果だけを言えば、この二つの島は作戦実行したその日の内に完全に陥落、研究データは解析班に回され、後処理は後詰の部隊に任せてエコーズ他精鋭部隊は恐竜帝国への憎悪と作戦成功の喜びを抱きながら撤収するのだった。

 

 

 

◯セガサターンしろ!

 

 「立つんだシンジくん!君の覚悟はその程度か!」

 「ま、まだです!まだやれます!!」

 「その意気だ!男ならばどれほど辛くともコントローラーを離してはいかん!指が折れるまで!指が折れるまで!!」

 「はい!!」

 「…いやセガサターンなんて過去の遺物で何を鍛えろってのよ?」

 「ま、まずい!アスカ逃げるんだ!」

 「え?え?な、なに「セガサターンしろ!」ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 「あ、アスカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 「ごめんなさい。私、こういう時どんな顔をすればいいか分からないの。」

 「ってファースト!あんた思いっきり笑ってんじゃないのよ!!」

 

 ネルフ本部地下訓練施設にて。

 いつの間にかチルドレン達の指導を行っていた謎の人物せがた三四郎。

 彼を止められる者は誰もいない、だってサクラ大戦参戦してないもの。

 なおアスカは投げ飛ばされて爆発した(無傷)。

 原作でセガサターンプレイをしてなかったら即死だった。

 感情が芽生えつつあるのでたまに笑う綾波。

 次は空気の読み方を勉強しましょう。

 

 セガサターンしろ!

 

 

[単語解説]

◯トリノ議定書(ガンダムSEED)

 第11話で制定された遺伝疾患等の治療を除いた目的の遺伝子操作の全面的に禁止とする条約。

 遺伝子操作のみならず無軌道なクローニングも禁止の対象であり、インジェン社は法で許可されたクローニング実験の範疇を大きく逸脱していた。

 

◯インジェン社(ジュラシック・パークシリーズ)

 世界的なバイオエンジニアリング企業。しかし新西暦130年代に制定されたトリノ議定書の影響で業績が低迷、一発逆転を狙って出資していたコロニーメンデルもバイオハザードを起こすなど破産寸前まで追い込まれる。

 挙げ句の果てにその窮状に漬け込んだ恐竜帝国によって人類に対する背信行為を強要され、ジュラシック・パーク事件の一件を機にインジェン社は完全に解体させられることとなる。

 

◯イスラ・ヌブラル島、イスラ・ソルナ島(ジュラシック・パークシリーズ)

 インジェン社が保有する中南米の島。

 元々遺伝子組み換え作物やクローニング技術の実験施設が存在していたが、現在では恐竜帝国の偽装要塞と化している。

 しかし新西暦186年、事態を察知した地球連邦軍の攻撃により施設は跡形もなく破壊され、帝国は一大生産拠点と優れた技術者を一遍に失う大打撃を被った。

 

◯ジュラシック・パークプロジェクト

 インジェン社(恐竜帝国)がメカザウルスプラントの隠れ蓑としてぶち挙げた計画。

 クローニング技術で生み出した恐竜達を間近で観れるサファリパーク擬きの体をとっているが、その実態はメカザウルスに用いる素体用恐竜牧場。

 なお、言うまでもなく恐竜のクローン作製の段階で違法である。

 また同施設内には世界各地から拐った人間を対象とする実験施設が存在し、人類を絶滅させるべく様々な研究が行われている。

 プレオープン予定は新西暦188年、要するにやる気がなかった。

 

[登場兵器]

◯改良型HLV

 一年戦争前より使用されていた地球連邦製HLVを一年戦争当時のジオン側のものを参考に改良したものがこちら。

 なお、一年戦争当時殆ど使用されなかったのは制宙権の問題とより大容量のサラミス級やマゼラン級他各種宇宙艦艇と共に物資や人員、兵器類が宇宙へと運ばれていたため、使うタイミングが無かったせい。

 MS1個小隊かAS2個小隊、もしくは歩兵1個小隊を搭載することが可能。

 外殻は3重のスペースチタニウム製へと交換されており、突入時のGや障害物対策に積んでいるテスラドライブとDFと合わせて下手な特機より高い防御力を誇る。

 一部の特殊部隊は突入時に敢えて減速せず地上に落下、HLVそのものを質量弾として用いることがある。

 今回は地上に展開していたメカザウルス部隊に激突し相当数を葬った。

 が、環境への影響から以後は基本的に禁止されている(余裕が無かったら許可される。事後報告もお説教付きで可)。

 

◯ガンペリーⅡ

 V作戦で開発された試作MS輸送機を元に開発されたMS支援用SFS。

 普通の輸送ならテスラドライブ積んだミデア等の通常の輸送機がまだまだ現役だが、作戦領域への突入時に使うMS輸送機を兼ねた支援攻撃機がエコーズや海兵隊等から求められたため、一年戦争後は倉庫で埃を被っていたガンペリーを再利用する形で開発が始まった。

 投入される任務の性質上、装甲には可能な限りスペースチタニウムが使用され、ドダイ等と同じくMS側からの操縦も可能になっている。

 MSを左右あわせて4機搭載可能なまでに大型化している他、ドアガンとして主にチェーンガン他各種武装が取り付け可能になっている。

 その他にも大容量を活かして多連装ロケットポッドやミサイル迎撃用レーザー機銃等を搭載しており、対地攻撃にも転用可能。

 とはいえ最高速度はその見た目通り音速以下と鈍足なので、DFがあるとは言え投入するタイミングはVFなどによる制空権確保後が望ましい。

 なお、MSが飛行可能になってからは他のSFSと共に専ら旧式機向けの装備となったが、頑丈なので今後も現役で頑張ってくれるだろう。

 

 

◯N9エウロス(地球防衛軍シリーズ)

 一年戦争以前から運用されている戦闘ヘリ。

 乗員はパイロットとガンナーの2名。

 武装は60mm機関砲とロケット弾、もしくはミサイル。

 ミノフスキー粒子散布下での運用が可能なように改良が加えられており、現在でも多く使用されている。

 

◯UHー144 ファルコン(HALO REACH)

 軍用輸送ヘリ。

 輸送可能な兵員は8名でドアガンとグレネードランチャーで武装している。

 機動力優先のため搭載量が少ない。

 設計は旧式だが、その信頼性から現在も第一線で活躍している。

 

◯M9ガーンズバック

 基本は原作そのままだが動力はパラジウム・リアクターではなく小型のOTM反応炉。

 また装甲はエネルギー転換装甲を用いているため、軽量ながらMBTクラスの防御力を誇る。

 とはいえガンダリウムγや最新のチタン・セラミック複合材に比較すると紙同然。

 武装は原作のそれに加え対装甲レールガンやEパック式のビームライフルを備えている。

 

 

[登場人物]

◯ビル・キルゴア(地獄の黙示録)

 地球連邦軍中佐。

 連邦地上軍にてヘリボーン部隊を率いている。

 近年ではガンペリーⅡやそれらが搭載するMSやASすらも指揮下に置いているため、ただでさえ高い打撃力がより破滅的なものになった。

 肝の座り方が尋常ではなく、一年戦争時にはダブデ陸戦艇の砲撃を受けながら部隊の指揮をとって敵の陸上戦力を逆に殲滅している。

 サーフィンが趣味であるが元ネタのように戦闘中にはやらない。

 ベトナム戦争の頃じゃあないんだから(ベトナム戦争時でも戦闘中はいけません)。

 

◯ホルヘ・“ポンチョ”・ラミレス(プレデター)

 ダッチの部下でエコーズの一員。階級は軍曹。

 語学に堪能で翻訳機では上手く訳せない微妙な表現なども熟知している。

 そのため世界中から拐われた民間人に対する通訳としての役割が期待されていたが、残念ながらその機会は帝国の暴虐によって訪れることはなかった。

 ちなみに最近ゼントラーディ語を習得した。

 声帯の妖精がヤザン大尉。

 実は原作の彼を演じた役者はガチのベトナム帰りだったりする。

 アフガニスタンを思い出す。

 

◯せがた三四郎(SEGA)

 神出鬼没の謎の人物。

 なんか気がついたらシンジの訓練を手伝っていた。

 その正体はドリキャス版スパロボαの因果を辿ってやって来たせがた三四郎。

 一時期エヴァのゲームをSEGAが独占していたのが原因かある日シンジの前に偶然出現、その縁で彼を鍛えている。

 コンパチヒーローシリーズに本郷猛・仮面ライダー1号が出ていた影響か、アムロやマサキなどは彼に対して凄まじい既視感を覚えるらしい。

 せがた三四郎は君たちの心に!

 

 



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小ネタ会話集その18

解説含めてえらい長くなってしまった(汗

またもムロンさんからの小ネタです。
毎度毎度ありがとうございます。


◯異文明監査官の憂鬱

 

 共和連合。

 

 この銀河系において上位の戦力と国力・技術力を持つ巨大な星間国家である。

 同時に多数の植民惑星と広大な領土を抱え込む彼の国だが…別に領域内の全ての惑星を管理しているわけではない。

 ある意味それも当然だ。

 相応の人口と優秀な無人機械を数多く持つ連合と言えどマンパワーには限界があり、全ての惑星を管理するなど不可能だ。

 そのため彼らが直接的に保有する惑星は資源や居住環境が整った惑星に限られ、その他の星は基本的に放置している。

 まあ中には先史文明の遺跡が存在する惑星などもあってそこには枢密院によって派遣された研究チームや護衛の部隊などが駐留している場合もあるが、それは置いておこう。

 この放置された惑星であるが稀にその星を飛び出し宇宙進出を果たす種族が生まれることがある。

 大抵は自然災害で種が断絶するか、宇宙へ出るなど考えもせず原始的な生活を送り続ける。

 もしくは中途半端に発達した技術で殺しあいを初めて自滅またはプロトカルチャーの剪定装置に滅ぼされて宇宙進出を果たさないのでこれは本当に希少な例だ。

 まあ分母がデカいので数としてはそこそこいるのだが。

 そんな稀な種族だが連合的に祝福できるかと言うとそうとは限らない。

 なにせ全く別の倫理や論理で動く異なる種族だ。

 仲良く手を取り合ってなどそう易々と出来るはずもない。

 そのような連中が罷り間違って連合に敵対的な勢力でも築き上げた日には領内の安定化のため即刻その勢力を滅亡させるだろう。

 しかし近年ではゼ・バルマリィ帝国に巨人艦隊、宇宙怪獣にズール星間帝国と言った強力な敵勢力に対応しなければならない連合はいちいち正規軍を派遣する余裕などない。

 この状況に対応すべく設置されたのが異文明監査官だ。

 まあ大層な名前がつけられているがなんということはない。

 連合基準で未熟な文明を調査、こちらに牙を剥く前に無力化もしくは保護国化し、連合の経済圏に組み込むのが主な業務である。

 ぶっちゃけ、ドサ回りである。

 本星から離れ、未発達な文明と交渉したりする仕事柄成り手は少ないと思われるが、その分保護国化に成功した場合はその文明担当の管理官になったり、有用な資源や技術を持った文明とコネクションを構築できたりと相応の旨味はあるため、志願と強制の割合は半々程度である。

 本日はそんな彼らの過酷な現場を覗いてみよう!

 

 

・生存競争

 

 「どうだ?現地の連中の様子は」

 「ダメですね。「去れ」の一点張りですよ。」

 「何もなきゃ素直に帰ってやるんだがね。解析の結果からしてこの木、というか惑星全体のネットワークはプロトカルチャーのものに酷似している。仮に自然発生したものだとしても放置は無理だ。これがズール辺りの手に渡れば厄介なことになる。」

 「被征服民族を生体ネットワークで統合、その頂点に君臨する皇帝ズール。考えるだけでもぞっとしますよ。一応彼らが理解できるように可能な限り言葉は選んだつもりなのですが。」

 「聞き分けないのならばやむを得ない。貴様のせいではないさ。よしプランB発動、無人機を投下しネットワークの中枢を抑えるんだ。」

 「ナヴィの連中はどうしますか?」

 「追い散らすだけでいい。ネットワークを失っても死にはしないはずだ。」

 

 地球と共和連合が接触する少し前。

 惑星パンドラ(地球語での翻訳、連合標準語だと別の発音)には異文明監査官の一隊が派遣されていた。

 なんとその惑星に存在した巨大な樹木は一種の生体ネットワークを形成しており、これはかつてプロトカルチャーがバジュラのフォールドネットワークを模して作ろうしたシステムに酷似していたのだ。

 かねてより行っていた遺跡の調査によりこのシステムの概要をおおよそ把握していた連合はその悪用法も熟知しており、類似品とは言え稼働状態の生体ネットワークを放置することは看過できるものではなかった。

 そのため監査官は常とは異なり現地人「ナヴィ」に居住地からの退去を要請。

 代わりとなる居住地の準備や必要とあらば各種支援を対価として提示するもナヴィ側はこれを拒否、やむを得ず強制的な接収を行うことなってしまう。

 この際に惑星中の生命体が大挙して押し寄せるという異常事態が発生するも連合の無人機には効果は薄く、むしろこの事態によりネットワークの危険性を確信した監査官側が徹底した破壊を行う要因となってしまった。

 なお、後に地球と接触した共和連合枢密院はコードRED案件、その中でもパターンIこと無限力イデ関連の資料からこうしたネットワークシステムが劣化版イデの様な新たな無限力を誕生させる可能性がある事から異文明監査官の数を急遽増員、勢力圏内の徹底的な調査を行う事となる。

 

 

・世界侵略未遂

 

 「閣下、話は纏まりました。必要な水資源の供給さえ約束するならば我らの統治下に入るとのことです。」

 「よくやった。しかし運のいい連中だ。」

 「まったくです。彼らの恒星間航行技術で行ける範囲で水資源の豊富な惑星といいますとあそこしかありませんからね。連中しっかりと下調べしたんでしょうか?」

 「光速を超えられん連中だぞ?地球の文明レベルの観測結果は百年前の代物だ。ギリギリやれると判断したんだろうよ。」

 「ああ、ありそうですねそれは。」

 「だろう?まあとにかくこの新たな同胞の参加を歓迎してやろうじゃないか」

 「了解です」

 

 環境破壊により水資源が失われたとある惑星。

 もはや余所から奪うしかないと考え、蒼く美しい水に満ち溢れた惑星「地球」へ攻めこまんと侵略軍を組織していた彼らの前に現れたのはあらゆる面で圧倒的格上の異文明監査官であった。

 地球への中継拠点を求めていた監査官は水資源の供給並びに環境の再生を条件にかの惑星を連合の保護国とすることに成功する。

 このような例はさほど珍しくなく、現在の共和連合には「恒星間航行技術はあるけど大量の人員や物資を運べない上に母星が危機に瀕している」という国家がいくつか保護国として参加している状態である。

 なお、自国の資源を取り尽くしていたり有用な技術がなかったり地理的に不便な惑星の場合は容赦なく切り捨てられるのが常である。

 

 

・続編も面白いとは限らない

 

 「大型都市宇宙船の爆発を確認!他の艦も次々と破壊されていきます!」

 「まさかバジュラの住む惑星に襲いかかるとはバカな奴らだ。結局は頭の足りんならず者の集団であったというわけか。」

 『まさか……こんなことが』

 「それで何だったか?我々に奴らに反抗するリーダーになって欲しいと?本国は“軍民ともに統治下に入るならば引き受ける”と言っているがどうする?」

 『し、しかしそれでは我々の独立が!』

 「貴様も馬鹿か?この宇宙にはあの程度の脅威はゴロゴロいるぞ?そんな連中に勝てない貴様らを守るために我々がどれほどの労力を払うと思っている?まさか無償で助けてくれると思っていたか?」

 『ですから!我々の持つ技術や資源を提供させていただくと…』

 「見るべき技術は殆んどないし失われるはずだった資源を担保にされてもな。正直君らを無視した方が安上がりだという試算が出ているんだ。」

 『そんな…そんな…』

 「受け入れろ。この宇宙で我を通したいなら他を圧倒する力でもなければ不可能だ。我々だってそんな力はないんだ。」

 

 航行中に奇妙な球体からの救援要請を受けた異文明監査官。

 妙に上から目線の球体の発言にイラつくも彼らが伝えてきた敵性体の存在を警戒した連合は一個艦隊を当該地域に派遣。

 そこではバジュラの生息惑星に手を掛けたため完膚なきまでに叩かれている巨大円盤の群れの姿があった。

 準女王級すら含まぬバジュラに手も足もでない敵に対して愕然とする球体。

 また連合側から知らされたズールやバルマー、宇宙怪獣と言った桁違いの脅威の存在に心が折れた球体は自らが所属する共同体まるごと連合に臣従することを決めた。

 なお、トレミィがこの球体とその敵対的異星人を見た場合「今度はインデペンデンスデイ・リサージェンスかぁ…」と白目を向く事だろう。

 

 

 ◯帝王には女王をぶつけんだよ!

 

 「堀江罪子、ですか?」

 「そうそう。ちょっと探してみて欲しくて。もしかするとケイサル・エフェスへの切り札になるかもしれないから。」

 「また突拍子もないことをおっしゃられるのですね。」

 「いやだってWWⅡの資料見直してたら「葉隠四郎」って名前あったからさ!時系列的におかしいけど確実に「覚悟の◯スメ」も参戦してるよ!アニソン界の女王が宿ったとんでもない切り札が手に入るチャンスかもしれないんだよ!」

 「お疲れのようですねトレミィ様。お労しい。」

 「ちょっ!?可哀想な人を見る目はやめてくれない!?」

 「誰か、ギレン様か賢ちゃん様と通信を。後、今から二日間の予定は全てキャンセルにしましょう。」

 

 アニソン界の帝王を内蔵する負の無限力の化身「ケイサル・エフェス」。

 この圧倒的な敵に対して日々対抗策を模索するトレミィだが流石に働きすぎのようだ。

 なお「葉隠四郎」は同姓同名の全くの別人であり、残念ながら零式防衛術も強化外骨格も存在しなかった。

 しかしJでテッカマン、UXでデモンベイン、クロスでオメガな世界でその他諸々が出ているのであながちあり得ない話でもない。

 ちなみにダンガイオーの存在が確認されたときは声帯に帝王と女王をそれぞれ宿すターサン博士の配下を確保出来ないかあれこれ画策したらしい。

 結局ご破算になったが。

 

 

 ◯聖夜の100%オフ その1

 

 「おいあんた、ここは譲ってくれないか?息子のクリスマスプレゼントにどうしても必要なんだ。」

 「それを言ったらこっちもだ。戦地に派遣されてばかりで息子にろくにかまってやれてない。なんとしてもターボマン人形が必要なんだ。」

 「そうかい。だがなぁ俺だって警官としてアホどもに毎日目を光らせてる。女房に白い目で見られてもな。相棒のブースター人形ならくれてやるから息子を◯ィズニーランドにでも連れていってご機嫌を伺いな。」

 「ブースターなんか要るか!!ターボマンが要るんだ!それにあんたが警官ならこんな目に会う理由の一端でもあるだろうが!少しは責任を感じて身を引いたらどうだ!」

 「んだとぉ?そりゃいったいどういうことだ?」

 「ネットショップを覗いてみろ!定価の百倍でターボマンが売ってる!お前らがドーナツをかっ食らうのにかまけて転売屋を取り締まらないからこんなことに…」

 「テメーふざけんな!!そんなことが簡単に出来るなら苦労は……いや、待てよ!その手がある!おい付き合え!」

 「お、おい?一体なんだ?」

 「バイヤーだバイヤー!軽く(?)説教して適正価格で売らせてやるんだ!その時優先して買わせてもらってもバチは当たらねーよ金は払うんだから!当たるかも分からねえ抽選券握ってるより確実に手に入る!」

 「あんた今簡単に出来ないって言ったばかりじゃないか!?」

 「警官ならな!今の俺は勤務外、つまりは善良な一市民だ!ただ市民同士が世間話をするだけならなにも問題はねえ!」

 「その手があったか!」

 「話を分かりやすくするにはあんたのガタイと迫力が要るんだよ!早く乗れ!俺が運転する!」

 「よーし!乗ったぞ!早く出せぃ!」

 「ところであんた名前は?俺はジョン・マクレーン。ここで刑事をしてる。」

 「ダッチだ!ダッチ・シェイファー!早く出せよ!ターボタイム!!」

 

 地獄のクリスマス商戦、人気商品の予約を忘れていた二人の父親は今まさに最後の戦いに臨もうとしていた!

 なおバイヤー側の損害はキレた警官と筋肉の入店を想定してなかったバイヤーのミスです。

 ちなみにバイヤーは巧妙に所在を隠していたが、妹とモニター越しのクリスマスを楽しんでいたレナードに無理やり協力させてなんとかなった。

 

 『少佐!無許可のハッキングは犯罪ですよ!もしバレたりしたら…』

 「いつも平気でやってることだろうが!今更御託を並べるな!」

 

 普段、趣味のハッキングを見て見ぬふりしてる事を言及され、レナードはぶつくさ言いながら協力する破目になった。

 

 

 ◯聖夜の100%オフ その2

 

 『逃がすな!政府の犬を殺せぃ!青き清浄なる世界のために!』

 「ちくしょう!なんでオモチャの転売屋をカルトどもがやってるんだ!ヤクや銃ってのはよくあるがG.Iジョー擬きを資金源にしてる連中なんぞ初めて見たぞ!」

 「くっちゃべってる場合か!クリスマスパーティーまであと三時間!早く始末して帰らないと間に合わん!」

 「うちもだよ!イピカイエーくそったれ!」

 

 ターボマン人形の転売を行っていたのは何とブルーコスモスの過激派だったのだ!

 アズラエルの脱退やジブリールの逮捕により資金源を失った彼らはこのようの狡い(というか最早セコイ)やり口で地道にこつこつと活動資金を稼いでいたのだ。

 そんな事する位なら地道に商売しろよと言いたい所だが、既に彼らは自分で自分を止められない程度には迷走しているので、最早正論は意味を成さなかったりする。

 その1で言ったようにキレた警官と筋肉の来店を想定していなかったため彼らは突然壊滅することになる。

 勿論拠点から確保された構成員は最終的にクリスマス休暇潰されて静かにキレた状態でやってきた地球連邦軍情報部と地球連邦政府中央情報局の担当者らへと引き渡された。

 彼らは二度と表に出る事なく、頑張って貯めていた資金も接収され、搾り取られた情報は他の構成員の逮捕・組織の撃滅へと活かされるのだった。

 

 

 ◯聖夜の100%オフ その3

 

 「マクレーン!?お前なんで家のパーティーに居るんだ!?」

 「そりゃこっちの台詞だ!ここは息子の友達の家だぞ!?」

 「待て!じゃああれか?マットの友達のジョンって言うのは?」

 「ジョン・マクレーン・Jr.!俺の息子だよ!」

 

 まさかの再会。

 以降二人は家庭や仕事の愚痴を言い合う悪友となる。

 同時に奥さん達と子供達も家族ぐるみで付き合う事となり、その友情は末永く続く事となる。

 こうして、彼らの賑やか過ぎるクリスマスはハッピーに終わったのだった。

 

 

 

 [小ネタ・メタ解説話]

 

 ・生存競争

 

 「ナヴィのネットワークにチョイと手を加えたらフォールドネットワークシステムっぽく出来るな」

 ↓

 「それって下手すると第2のイデ誕生フラグでは?」

 ↓

 「ダメだろぉ!?死んでなきゃぁぁぁぁぁ!」

 

 という発想。自衛能力に欠ける自然発生型のイデ/バジュラ擬きなんて劇物生かしておけるわけねぇだろ!!

 なお連合は当時その事実には気づいておらず「このネットワークのイミテーションでもズールに作られたらやべえ」と思って接収→破壊した。

 なので下手するとこの攻撃で「イデオン(惑星パンドラ版)」が出来上がっていた可能性が微妙にあった。

 幸い、惑星パンドラの文明が科学・魔術双方で殆ど進んでいなかったためにその様な事は起きなかったが、これが一年戦争当時の地球程度だったら極めて危なかったりする。

 「アバター」は作品としては嫌いじゃあないけどナヴィ側に感情移入出来なくてあの結末は納得いかなかった。

 あれアメリカの自虐史観が顕在化しただけじゃんと。

 そのくせ主人公(白人)ありきの勝利とかインディアンに失礼でしょアレ。

 まあ逃げ道なのか国家プロジェクトではなく企業のプロジェクトだったようなので、ここではその逃げ道を潰しました。

 共和連合的にこの惑星明け渡しちゃうとただでさえヤバいズール軍が強化されてしまう可能性があるのでぶっちゃけると星ごと爆破することも念頭に動いてます。

 なのでナヴィに提示した居住地というのは環境の似た別の無人惑星のことです。

 そりゃナヴィは拒否するわと。

 彼らからすれば「自分達は生存競争をしつつも同じ大地に住まう同胞であり、移住とは即ちその同胞から切り離される」事なので、例え一族は生き延びたとしても、その喪失感は筆舌に尽くし難いものがあると思われるので尚更です。

 取り返そうとするナヴィを返り討ちにしつつネットワークを解析。

 その最中に惑星中の生き物が押し寄せてくるんでズールを頂点にした生体ネットワーク構築が現実味を帯びてきてネットワークを放置する選択肢は消えました。

 多分パンドラは連合の惑星破壊兵器で爆破されるかNBC兵器で地表全部殲滅されると思う。

 

 

 ・世界侵略未遂

 

 「世界侵略: ロサンゼルス決戦」に出てくる侵略者。名前不明。

 VISPは最初オブリビオンの機械文明かと思ったけど、クローン兵士化したトム・クルーズ出て来ないしで違ったわw

 極悪非道の海賊軍団!お前らに飲ませる海水はねぇ!

 原作だと21世紀初期の人類を圧倒する無人機やサイボーグ兵士を投入してくるが正直言って原作の人類といい勝負するくらいだからSRW時空の地球に攻めこんだら即死する(無慈悲)。

 こいつらは「まさか百年ちょいで(実質ここ数年で)技術がワープ進化するとは思っていなかった」と供述しており…。

 更に運の良いことにズール星間帝国の侵攻ルートから超外れた所にいたので攻撃されなかった。

 あいつら原作からしてSF的に凄い弱い勢力ですよね。

 たぶんあの程度の兵員と兵器を持ち込むのが精一杯だったんだと思う。

 ツッコミ所多々ある「バトルシップ」の侵略者の方が強いわ。

 時期的には地球と国交結んでチューリップによる高速流通網が整備され始めた頃。

 連合の主要惑星に直接繋ぐと敵に占領されたりした時が怖いんで守りやすい位置に幾つか中継ポイントを作ろうと有望な場所を探してるときに遭遇した、ということにしています。

 なので資源も技術も要らないけど場所だけ欲しい連合が水と引き換えに傘下に入れました。

 …こいつら一生分の運使い尽くしたんじゃないか?

 

 

 ・続編も面白いとは限らない

 

 なんでリサージェンスはああなったorz

 あのエイリアンってスパロボ基準だとまるでなってない。

 「重力を操るのか」とか言ってるけどあれくらい共和連合なら遥かに小規模の装置でやれるから論外。

 ここでは惑星を食らって渡り歩く性質が災いしてバジュラに喧嘩売って族滅された。

 単一種族で下手な恒星間文明程度楽々殲滅できる連中相手に無茶しやがって…。

 あと例の球体も論外。

 共和連合が地球人(スパロボ)に見えるくらい戦いが下手すぎる。

 あの頭弱すぎエイリアンに勝てないってこいつら輪をかけて駄目なのでは???

 種族的・文化的に闘争そのものが殆ど存在しないか、経験を殆ど積み重ねずに成長した可能性すらある。

 そのため心折れた事もあって大人しく共和連合に降りました。

 他の勢力はそもそも「降る」って選択肢を提示してくれないから宇宙基準で言うと凄い優しい対応。

 まあ守り切れんと思ったら駐留部隊すぐに退かせるけど、その辺は残当オブ残当。

 悔しいor怖ければ、頑張って闘争の歴史を積み重ねて自力で生き延びよう!(無茶振り)

 

 

 ・帝王には女王をぶつけんだよ!

 

 化け物(兄貴)には化け物(ミッチー)をぶつけんだよ!という理論。

 覚悟のススメってエヴァの主要メンバーと声優が一部被ってる。

 シンジVS加持という謎の対戦カード。

 豪華&類似過ぎて意味が分からん。

 幸いにも因果ぁ!が足りてなかったため杞憂に終わった。

 でもなんか修羅(ОG外伝)が来たら出てもいい気かがするが、作者がオーバーワークになるので出さない。

 ぶっちゃけトレミィ暴走回。

 あまりの心労に思考が飛躍しまくってこんな突拍子もない発想が飛び出てます。

 トレミィあなた疲れているのよ。

 あの後プテレマイオス搭載の超大型量子CPUも数日冷却期間置く事になりました。

 

 

 ・聖夜の100%オフ

 

 「ジングル・オール・ザ・ウェイ」+「ダイハード」+「プレデター」+「ガンダムSEED」のコンセプトで作ったらこうなったごった煮カオス。

 ここだと二人はLAに住んでます。

 ナカトミビルの報道やジブリールから漏れた連邦の機密情報のせいでマクレーンとダッチの顔はその筋の連中に割れている。

 なおマクレーンからすると過激派ブルコスはカルト扱いだが、他所でも大体そんなもんである。

 一応前回ライバックの項で出たテロリストの系列組織。

 規模とかは基本ピンキリでここの奴らは資金不足を何とかしようとしてオモチャの転売に手を出した。

 洋画コメディ時空特有のガバ計画だけど。

 なおぶっ飛ばした現場は騒ぎを聞き付けてやってきたハリガン(プレデター2)とアル(ダイハード)に任せて戦利品のターボマン持って二人は家に帰った。

 

 オチが短いので要改訂かと思うがここでネタが尽きた。byムロン

 作者的には笑わせて頂いたので無問題ですw

 なぜ私はダッチにターボマンスーツを着せる展開が思い付けないのか…。

 

 

 以下、出せなかった設定

 

 ◯ターボマンスーツ

 

 A.I.M.製のパワードスーツ。

 元々はトレミィによって作られたアイアンマンのコピー品。

 アークリアクターや瞬間装着機能(AoU頃のやつ)などが再現されており予定ではMark45と同等の性能に仕上がるはずだった。

 しかし世界の違いのせいかアークリアクターの発電効率が想定を遥かに下回るなど不具合が多発。ユニビームを始めとしたエネルギー兵器の使用は不可能で翔ぶのがやっと程度になってしまった。

 結果としてアイアンマン再現計画は凍結、試作スーツは倉庫に保管されることとなる。

 しかしA.I.M.の系列会社がターボマン実写計画を立ち上げたのを聞き付けたトレミィがアイアンマンとターボマンの配色の類似性に食いつき、急遽試作アイアンマンスーツを手直しして撮影に提供することが決定。

 こうして生み出されたのがターボマンスーツである。

 当然装備されていた武装(主に実弾兵器)は撤去されており、その部位に「ターボディスク」や「ターボブーメラン」といったガジェットが装備されている。

 なお、ターボマン人形が発売されるあたりまで「ジングル・オール・ザ・ウェイ」のことをトレミィは完全に忘れていた。まあ起きたとしても全く無害だからそりゃ覚えてない。

 

 [まじめな設定]

 ↑は元々再現が容易そうなアイアンマン系テクノロジーが使われないことへの理由付けとして組んだ設定。

 クロスΩ世界ならとにかくここではアイアンマンは出せなかった。

 あと思ったんですがこの世界だとここ数年はヒーローものの売上が低迷してそう。

 なにせスーパーロボット達がリアルヒーローとして存在している世界ですし。

 加えて軍人の社会的地位も上がってそう。

 彼ら全員(ティターンズとかの極一部除いて)ガチで人類の守護者なので。

 入れどころが見つからなくて省いたけどダッチの息子がターボマン人形を欲しがってるのはこれが理由。 リアルヒーローのパパのことは誇りに思ってるし大好きだけど、派遣に次ぐ派遣でろくに会えないので、寂しさを埋めるためにパパっぽい人形が欲しいとかそんなんです。

 なお、家にはさながらエクスペンダブルズ!みたいな仲間との集合写真がある。

 洋画ファン必見の一品であり、密かにトレミィが複製したものを持っていたりする。

 

 

 ○アベンジャーズ計画

 

 本家の様なヒーローを集めたドリームチームではなく、トレミィが密かに計画・実行していた「アベンジャーズに出て来る兵器や超能力の再現プロジェクト」である。

 と言っても、非人道的な研究等は行わず、あくまで努力目標として設定された。

 

 「彼らの戦力を完全再現&1億倍でも強化したり数用意すればこの時空でもイケるんじゃね?」

 

 というトレミィ(過労&過労状態。ストレスだけでも常人なら余裕で死ねる)発案の計画である。

 割と最初は順調だったが、しょうきにもどったトレミィによって計画は実質的に凍結されている。

 何でかって?

 銀河中心殴り込み艦隊を安定して編成&維持できるだけの予算・資源・人員用意する方が急務だったからだよ(白目)。

 

 

 




私は今回のFGОBОXガチャは今回100箱まででストップです。
金リンゴが尽きかけ&予定の100箱へ到達したからです。
まだまだ回す予定の皆さんは頑張ってください!

聖杯戦線攻略見てクリアしたけど…スゲーなこのM殺しの攻略方法思い付いた人達(汗


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第68話 皇帝VS皇帝その7

ふぅ…久々の執筆だったから骨が折れたけど楽しかったっす。


 新西暦186年9月28日 極東方面 旧光子力研究所跡地

 

 『スカル大隊全機散開!兵装使用自由!時間を稼げ!』

 

 VF-11という最新の高性能VFを駆るVF乗りとしては最精鋭のスカル大隊が、奇襲の利を取って先制攻撃を行う。

 この時点で物量的には倍であってもMSや同じVFでは壊滅的打撃を受ける事だろう。

 しかし、彼らが一斉に放った対艦ミサイル総数108発はその総数の8割近くが見事目標に命中したものの、その戦果は限定的なものでしかなかった。

 何せマジンガーZに匹敵する防御力に元素固定装置による高い再生能力を併せ持つ事から来るタフネスを誇る戦闘獣、そして未完成とは言えマジンカイザーを急遽改造して出撃させたヘルカイザーが相手とあっては単なる対艦ミサイルの一斉射程度では落とし切れないのも当然だった。

 

 【えぇい、水を差しおって!者共、あの羽虫を叩き落すのだ!】

 『『『『『ははっ!』』』』』

 

 闇の帝王の号令の下、戦闘獣軍団の矛先が一斉にスカル大隊へと向けられ、残った500機余りの戦闘獣の半数以上が対空攻撃を開始する。

 しかし、当たらない。

 VF-1とは雲泥とも言える程の機動性・運動性を獲得しているVF-11サンダーボルトと言う最新鋭機を与えられたスカル大隊にとって、その程度の対空砲火で落ちる事は余程運が悪くない限りは有り得ない(命中率3%以下)

 そして、スカル大隊への攻撃が始まったという事は、即ちISA戦隊への圧力が減った事を意味していた。

 

 『よし、態勢を立て直すんだ!』

 『損傷の酷い機体は撤退しろ!足手纏いになる!』

 『クロガネとシロガネはダメコンと復旧急げぇ!』

 『MSとVF向けの弾薬と武装はコンテナごと艦外に出せ!傾いた艦内じゃ無理だ!』

 

 この隙にとばかりにISA戦隊並びに特機軍団はその態勢を立て直す。

 元より優秀極まりない彼らはこの状況にあっても最適解へと真っすぐ行動する。

 整備班達はこの艦内重力も途切れがちな状況では艦載機の修理・補給もままならないからと、せめて武器弾薬の補給は出来るようにとコンテナに詰め込んで艦外に放り出したのだ。

 

 『助かる!これでまだ戦える!』

 

 艦周辺で直掩に当たっていたMS・VF部隊の残存戦力は順番に補給を開始する。

 戦闘開始当初、万全の状態で出撃した彼らだが、辛うじてパイロットには死人こそ出ていないものの、その消耗ぶりは目を覆う程だった。

 何せ頑丈極まりない上に完全に撃破しないと再生する戦闘獣の軍勢相手だったのだ。

 当然、撃破するには弾薬とエネルギーを後先考えず叩き込むしかないため、その消耗ぶりは一日中続く様な大規模戦闘に並ぶ程だった。

 

 『おおおおお!大・雪・山おろしぃぃぃぃぃ!』

 『『『ぐああああああああ!?』』』

 『っしゃあ!これで将軍は半分だ!』

 『へ、剣さんよ、そっちはまだなのかい?』

 

 そして、シロガネとクロガネの二隻とスカル大隊相手の二つに注目が行った隙を突き、ゲッターライガーが地中に高速潜行、地中から奇襲してゲッタードラゴン・ゲッターポセイドンに変形しての連続攻撃たるゲッターチェンジアタックによって将軍達を次々と撃破していったのだ。

 変幻自在のゲッターの相手は既に量産型ドラゴンで経験があった筈だが、やはり本家は格が違うのか、それまでの消耗もあってか将軍達は翻弄され、立て続けに撃破されていった。

 

 『ハン!言ってくれるじゃねぇか…!』

 

 一方、剣鉄也とグレートマジンガー対暗黒大将軍の一騎打ちもまた佳境に入っていた。

 既に互いに手の内は出し尽しており、それでもなお決着が着かないのは暗黒大将軍がそれをさせないがためだった。

 

 『そう易々と倒せると思ってか…!』

 『無論、思っちゃいないさ…!』

 

 例え相打ちになったとしても、グレートと剣鉄也をこの場に縫い止め続ける。

 現状の戦力でゲッタードラゴンと共に唯一ヘルカイザーに有効打を与えられる敵戦力をこの場に釘付けにする事こそ勝利への道だと、暗黒大将軍は確信していた。

 故に、闇の帝王のためならば自らの命を捨ててグレートマジンガーと相打ちになる事も端から覚悟していた。

 だが、鉄也とグレートはそういう訳にはいかない。

 この場を勝って後にし、味方の救援に向かわねばならないからだ。

 そうでなくては味方があのクソッタレなヘルカイザーによって蹂躙されてしまう。

 次は宇宙に向かわねばならない彼らISA戦隊からすれば、貴重な戦力を失う事は絶対に避けねばならなかった。

 

 『鉄也さん、コレを受け取って!』

 

 そんな時、両者の上空から声がかかる。

 試作型スペイザーに乗ったマリアからだった。

 試作型スペイザー、その外見はダブルスペイザーに酷似しているが、最大の違いは両翼がホバーの様な縦向きのプロペラではなく、通常のロケットエンジン(と言っても科学要塞研究所製なので超高性能だが)となっている。

 言うまでも無くテスラドライブ並びにDFは搭載しており、武装も多目的汎用ミサイルと光子力ビームとそれなりの攻撃力はある。

 そして、搭載しているエンジンは何とゲッター炉と光子力エンジンである。

 これはグレンダイザーが戦線に参加してから日が浅く、他にもやるべき事が山積みで動力の光量子エンジンの解析が殆ど進んでいない事から代替として搭載された事、少し先に開発され始めた試作型グレートブースターのデータを元にした事が原因となっている。

 が、今その機体の胴体には機体の挙動が不安定になる程に重たい何かを抱えながら飛行しており、それをふらふらしながらどうにかグレート目掛けて投下した。

 

 『おわ!…何だこりゃ?』

 

 試作型スペイザーから投下され、地面に粉塵を派手に巻き上げて突き立ったものを見て、鉄也は困惑していた。

 

 『ハンマー?』

 

 それは銀色のハンマーだった。

 柄の長さ込みでグレートマジンガーの全長の三分の一程度の大きさで、ハンマーの頭部分は面取りされた前後に長い直方体と言った趣だが、柄に対して随分大きい。

 ぶっちゃけ、威力は有りそうだが使い辛そうだった。

 

 『隙だらけだぞ、剣鉄也!』

 

 が、そんな鉄也の困惑を見逃す程、暗黒大将軍は甘くなかった。

 隙だらけの宿敵目掛け、自らの身の丈に匹敵する大剣を袈裟懸けに振るう。

 

 『っ…!?』

 

 それを二本のマジンガーブレードで再び受け止めるも、しかし、酷使に酷使を重ねていたマジンガーブレードに亀裂が入る。

 

 『ハハハハハ!しくじったな、剣鉄也!』

 

 刀身の再生・再生成なぞ許さぬとばかりに暗黒大将軍はここぞとばかりに苛烈に斬りかかる。

 凡百のパイロットと機体ならば軽く100は死んでいるだろう剣撃の嵐を、しかし鉄也とグレートは罅割れた2本の剣でギリギリ凌ぎ続ける。

 が、それも後1分と続かないだろう。

 一撃を受け流す度、刀身に入った罅は広がり続け、もう間も無く完全に折れる事だろう。

 その隙を、暗黒大将軍は決して見逃さない。

 

 『鉄也さん、ソレ使って!』

 『無茶、言いやがる…!』

 『ゴッドハンマーって呼んで!そうすれば「来る」から!』

 

 上空のマリアからの言葉に、鉄也は内心で何だそりゃと思いつつ、訓練で磨かれ、実戦で鍛え上げられた戦士としての勘が何故かそれが勝機だと叫んでいた。

 

 『喧しいわ小娘が!』

 『きゃあ!?』

 

 いい加減煩わしかったのか、暗黒大将軍の目から破壊光線が試作型スペイザー目掛け放たれる。

 幸いにも低出力なのか、DFによってダメージらしいダメージを負う事は無かった。

 だが、それは鉄也にとって十分過ぎる隙だった。

 

 『来い、ゴッドハンマー!』

 (これで何も起きなかったら絶対ぶっ殺す!)

 

 半ばまで折れかけたマジンガーブレードを手放し、ヤケクソになって叫ぶ鉄也だが、その怒りはすぐに消し飛んだ。

 グレート目掛け、地面に突き立っていたハンマーが一瞬でカットんで来たのだ。

 

 『ん、な!?』

 

 受け止めると同時、接触回線で一秒と経たずにグレートとのマッチングが終了、その詳細なデータがコクピット内に表示され、その機能に鉄也は驚く。

 

 『止めだ、剣鉄也ぁ!』

 

 大上段に振り被られ、超音速で落ちて来る大剣に対して、鉄也の反応は迅速だった。

 

 『らぁッ!!』

 『なんと!?』

 

 下段から垂直に、ゴッドハンマーを真上へとぶち上げた。

 機体性能は互角の状態で、そんな事をすれば上から下へと落ちていく重力加速を味方に付けた方が勝つに決まっている。

 だと言うのに、ゴッドハンマーの一撃はそれと覆し、暗黒大将軍はたたらを踏んで後退した。

 

 『へぇ、中々ご機嫌じゃねぇか。』

 

 ゴッドハンマー。

 トレミィの黒歴史ことアベンジャーズ計画のデータを譲り受けた科学要塞研究所が手を加えた事で完成したグレートマジンガー用追加試作武装の一つ。

 ネタ元は勿論雷神ソーのハンマー、ムジョルニア(又はミョルニル)である。

 超合金ニューZα製のハンマーであり、一見ただの鈍器だが内部にはゲッター線増幅装置を参考に開発した光子力エネルギー増幅装置が内蔵されている。

 グレートの光子力エネルギーを増幅して出力を向上させたり、光子力を込めて殴り付けたり、光子力ビームとして放出することが可能。

 サンダーブレークの増幅装置としても作用するため、最大出力で放った場合、理論上は小惑星クラスの質量を単体で消滅させる事も可能。

 また、柄の部分には超電磁エネルギーを使用した電磁吸着・吸引システムが搭載されており、離れた所から手元に引き寄せる事も、手元から離れない様に吸着させる事も、投擲した際の速度を増加させる事も出来る。

 後者の機能は勿論アベンジャーズ計画の名残であり、トレミィ的には見ただけで頭を掻き毟りたくなる代物である。

 ターボマンスーツは違うのかって?

 アレはアレで人気と利益出たから良いのです。

 

 『行くぜ、暗黒大将軍!そろそろてめぇの顔も見飽きてきた所だ!』

 『ほざけ、剣鉄也!その首、我らが闇の帝王様への捧げ物にしてくれるわ!』

 

 今この瞬間しか、相手を倒す好機は無い。

 暗黒大将軍は鉄也とグレートは新兵器への習熟が出来ておらず、また今の一撃から推し負ける可能性が高い事を知った。

 鉄也は新兵器に内蔵された増幅装置の負荷が思ったよりも高く、そう長くは使用できない事、威力は高いが大振り故に隙が多い事、しかし十分正面から打ち勝てる事を知った。

 そして、この状況故に一刻も早く目の前の敵を倒す必要があると、両者は知っていた。

 故に迷うことなく両雄は決着を付けるべく、最後の激突へと突入した。

 

 『お』

 

 踏み込み、更に機体の推進系を全開にして加速する。

 

 『おおおおおおおおおお…ッ!!』

 

 人型機動兵器の接近戦における基礎とも言える動作。

 ミケーネ帝国の戦闘獣、その中でも最上級種たるジェネラルクラス。

 その中で最も長く最も強く在り続けた暗黒大将軍は闇の帝王直々に徹底的に改良され、その性能を向上させ続けていた。

 同時に、暗黒大将軍はそれに奢る事は一切無く、闇の帝王の忠実なる戦士として己を鍛え続けた。

 結果、そんな基礎的な動作を芸術の域まで高めるに至った。

 一歩目から音速を超過、二歩目からはマッハ2、三歩目からはマッハ3と、一歩ごとに音を超え続ける。

 接敵する時には既にマッハ5へと到達していた。

 

 『おおおお…』

 

 だが、それは鉄也とグレートも同じ事だった。

 

 『らあああああああああああぁッ!!』

 

 慣れぬ武装、慣れぬ出力。

 されど、天才的な戦闘センスと弛まぬ努力、積み上げた経験で以て鉄也はグレートに一切のブレを許さない。

 ゴッドハンマーの重量に振り回される事なく、暗黒大将軍へと正面からブチ当たるべく音速超過の踏み込みに微塵も怯まず正面から挑む。

 

 互いに真っ向唐竹割に、大剣とハンマーが振るわれた。

 

 音速超過の踏み込みで散らされた大気が激突の衝撃で再び全方位に吹き散らされ、一拍遅れて轟音と衝撃波を伝播させながら広がっていく。

 一瞬の均衡、その後に轟音と共に砕け散ったのは、大剣の方だった。

 一連の戦闘で再生も追い付かぬ速度で徐々に消耗を重ねていたのは暗黒大将軍も同様だった。

 それは武器にも言えた事であり、マジンガーブレードと同様に此処に来て圧倒的質量と運動エネルギーの合わさったゴッドハンマーの一撃に耐え切れず粉砕されてしまった。

 振り下ろされたゴッドハンマーは一瞬の拮抗の後にそのまま暗黒大将軍の右半身を叩き潰し、地面へ盛大なクレーターを作り上げ、凄まじい量の粉塵を巻き上げた。

 

 『ま・だ・だぁッ!!』

 

 だが、それは暗黒大将軍にとっては想定の内だった。

 自身とその武器に消耗が積み重なっていた事を、彼は激突前から知っていた。

 知っていて、敢えて愚直にそれまで通りの行動を取り、正面から挑んだ。

 それで打ち勝つ自信もあったが、それで打ち負けるのなら当初と同じく自分の命を捨ててまで相打ちに持ち込むまでの事。

 その覚悟が右半身を叩き潰されてもなお、暗黒大将軍を動かした。

 ゴッドハンマーを振り下ろし、足元に巨大なクレーターを作り上げたグレートマジンガー。

 その衝撃と巻き上がる粉塵に死にかけの身体を揺さぶられながらも、暗黒大将軍はグレートの頭部目掛け残った左手を伸ばしつつ、同時に残った胴体と頭部の顔の目から先程とは違う本気の破壊光線の発射と機体内部のジェネレーターに自爆目的の臨界を命じる。

 幸いにも巻き上げられた粉塵で視界は悪く、どれか一つでもこの至近距離から命中すれば、唯では済まない。

 加えて、左手が狙っているのはグレートの頭部=コクピットであり、これを無視する事は即ち死である。

 

 (我が誇りよりも、闇の帝王様のため…!)

 

 武人としての暗黒大将軍は、今の一撃で死んでも良かった。

 だが、永らく仕え続けた主君のためにもここで終わる事は出来ない。

 だから、武人としての暗黒大将軍は先の一撃で死に、ならばここにはもう闇の帝王の一従僕しかいない。

 そう自分に言い聞かせて、暗黒大将軍は彼の流儀ではない卑怯とも言える攻撃を行った。

 だが、だが!

 

 『これで終わりだぜ、暗黒大将軍。』

 

 グレートの背部ユニット、スクランブルダッシュから延びる翼がまるで鋏の様に動き、暗黒大将軍の左腕を断ち切ったのだ。

 これがオリジナルのグレートマジンガーに搭載された4つの魔神パワーの内、再現された第4の魔神パワー「変態」である。

 物理法則の常識を超え、機体の形状・性能を変化させることができる。

 これによってマジンガーブレードの生成やドリルプレッシャーパンチ等の使用時に機体形状を変形させる他、適宜性能を変化させたり、こうしてマニュアルで武装の形状を変化させる事もできる。

 今やったのは本来すれ違いざまに斬り裂く形で使用するスクランブルカッターを可動させた訳だ。

 更に、これだけでは終わらない。

 

 『な』

 

 足元で再度爆発が起きる。

 それも今度は先程の比ではない程の大爆発だった。

 原因は簡単、ゴッドハンマーによって増幅された光子力エネルギーが解放されたのだ。

 これには右半身が叩き潰され、まともに踏ん張る事も出来ない暗黒大将軍は吹き飛ばされるしかなかった。

 

 『ハ、やはり向いていない事などするべきではないな…。』

 

 空中へと吹っ飛ばされて、最早自爆を止める事も出来ない暗黒大将軍はそう自嘲した。

 

 『願わくば、貴様のt』

 

 そこまで言った時、不意に暗黒大将軍の身体に再びの衝撃が走った。

 残った左半身の胴体の顔に、折れたマジンガーブレードの切っ先が突き刺さっていたのだ。

 残った左側だけの頭部で見れば、何かを蹴り飛ばしたらしく右足を上げたグレートマジンガーの姿があった。

 

 『   』

 

 何かを言う前に、暗黒大将軍は爆発四散した。

 しかし、鉄也の目に刹那映ったその死に顔は、満足げに見えた。

 

 『あばよ、暗黒大将軍。これ程手古摺らされたのは初めてだぜ。』

 

 こうして、偉大な勇者は一先ずの勝利を手にして戦線に復帰したのだった。

 

 

 

 

 




最後の暗黒大将軍の空白のセリフには皆さんのお好きな言葉を入れてください。


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第69話 皇帝VS皇帝その8 一部修正

 新西暦186年9月28日 極東方面 旧光子力研究所跡地

 

 『お兄ちゃん、合体だよ!』

 『はぁ?!』

 

 見た事もない飛行機に乗って戦場にやってきた妹のグレース・マリア・フリードに対し、デューク・フリードは驚きの余り叫ぶ。

 なお、彼女がこの場にいるのも試作型スペイザー(地球製1号)に乗っているのも保護されていた科学要塞研究所の職員には一切無許可である事を明記しておく。

 

 『合体って…その機体にそんな機能が?』

 『そう、博士達が作ってくれたの!』

 

 きっとこの場に剣造博士と弓博士の二人がいたら必死こいて止めるだろう。

 何せこの試作型スペイザー、試作型グレートブースター同様に「光子力とゲッター線の融合のための概念実証機」であり、二つのエネルギーを用いて光量子エネルギーで稼働するグレンダイザーを強化するという無茶が三つ四つ重ねられているのだ。

 戦場という不確定要素ばかりな場所での実機試験無しでの合体など、どれだけ危険であるかは言うまでもない。

 無論、シミュレーター上では四桁所か五桁単位でデータを取っているが、やはり実機試験程のデータは得られない。

 

 『よし、繋がったか!』

 

 そこで剣造博士からの通信が繋がった。

 

 『げ、剣造博士!?』

 『マリア君、君への説教は後だ。大介君、合体用の機動データは今そちらに送った!この土壇場で悪いが、後はそちらに任せる!』

 『剣造博士…合体成功の確率は?』

 『シミュレーター上では8割をキープしているが、実機試験は未だ行っていない。念のため、搭載された光子力エンジンとゲッター炉は機体側へ供給する事なく、あくまで武装へのエネルギー源としてのみ運用する予定だ。合体シークエンスに失敗しない限りは直後に爆散しない事は約束する。』

 『その言葉、信じます。マリア、合体だ!』

 『いよっし、試作型スペイザーいきまーす!』

 

 危険だっつってんのにマリアは一切の躊躇いなく、表示された合体のための機動を実行していく。

 350mというその突出したジャンプ力で高く跳び上がるグレンダイザー、それを下方向から追いかける試作型スペイザー。

 やがてグレンダイザーの跳躍が頂点に達し、失速して落ちる前の僅かな停滞の瞬間。

 追い付いてきた試作型スペイザーが先程までゴッドハンマーを保持していたアームを展開し、グレンダイザーの背中へと自らを固定する。

 

 『スペイザー、クロス!』

 『合体成功!これで自由に飛べるわよ、兄さん!』

 『よし、いくぞマリア!』

 

 外見こそ後のダブルスペイザーのそれと酷似しているが、性能に関しては段違いと言っても良い。

 装甲こそ原作通り超合金ニューZ製のボディだが、動力は光子力エンジンとゲッター炉を備え、高出力の光子力ビーム(両翼の根元)×2とゲッタービーム(機体中央の垂直翼の根元)×1、翼に懸架された各種ミサイルで武装しており、下手なMSよりも遥かに強力な火力を誇る支援戦闘機にして飛行能力の無いグレンダイザーと合体して飛行機能を付与するための追加オプション。

 それがこの世界での試作型スペイザーである。

 それと合体したグレンダイザーは、言うなればグレンダイザー(PS)と言うべきだろう。

 なお、PSとはプロトタイプ・スペイザーの略である。

 

 『一斉射撃、行くぞ!』

 『うん!ゲッタービーム、光子力ビーム、一斉射!』

 『喰らえ、スペースサンダー!』

 

 戦闘獣とVFが鎬を削り合う戦場の空を二条の光子力ビームと一条のゲッタービーム、そしてスペースサンダーが貫いていく。

 機動性と練度は勝れども、火力の足りなかった制空戦闘に極めて心強い戦力が追加された瞬間だった。

 このグレンダイザー(PS)の誕生により、制空権はISA戦隊側に大きく傾いていく事となる。

 

 

 ……………

 

 

 【えぇい、何をやっておるか!】

 

 戦場が各所で押され始めた事に業を煮やした闇の帝王は歯ぎしりしながら、念のため用意しておいた奥の手を切る事にした。

 

 【ピクドロン、何を遊んでおるか!合体して敵を蹂躙せい!】

 『ギシャアッ!』

 

 闇の帝王の号令の下、ダンクーガに抑え込まれていたピクドロンが応える。

 

 『ギィィシャアアアア!!』

 『ぬお!?』

 

 ダンクーガを咆哮と共に弾き飛ばすと同時、戦場に散らばっていた無数の戦闘獣の残骸が一斉にピクドロン目掛けて集まっていく。

 

 『何だこりゃ!?』

 『これは…百鬼帝国の時と同じか!』

 『各機、残骸並びに本体を攻撃して阻止しろ!合体するぞ!』

 『この状況じゃ無理ですよ!』

 

 無論、ISA戦隊側もそれはさせじと阻止に動くも、未だ戦闘獣相手に一進一退の戦況で手が空いている訳もなく。

 無数の戦闘獣の残骸がピクドロンを核として寄せ集まり、合体していく。

 出来上がったのは、全長100mにもなる巨大な機械の怪獣だった。

 四肢と翼を持った直立の獣の様な姿であり、その全身から放つ威圧感からパイロットらはその脅威度を明確に感じ取っていた。

 

 【ゆけぇい、ギルギルガンよ!その力で、早乙女や剣造めの作ったロボットを蹴散らすのだ!】

 『グギャアアアアアアアアアアぉ!』

 

 ギルギルガンが真っ先に襲い掛かったのは、先程までピクドロンと一騎打ちを演じていたダンクーガ(ブースター装備)であった。

 ギルギルガンからすれば消耗し切ったダイターンを、引いてクロガネとシロガネの二隻に止めを刺す邪魔をしくさった憎い相手である。

 強化され、相手よりも強くなったと判断した現在、ダンクーガを撃破せんと仕掛けるのは当然の事だった。

 

 『チィッ!』

 『気を付けろ忍!先程とはパワーが段違いだ!』

 『分かってる!こいつは俺達が抑え込むぞ!』

 

 対して、ダンクーガは消耗しつつも他の機体とは少々異なる事情があった。

 パイロット四名の野生の力、即ち意志力や精神力を「野獣回路」によってエネルギーへと変換するダンクーガは、エネルギー面での消耗は他と比較すると格段に少なかったのだ。

 加えて、他の特機に比べてパワーよりも運動性に重きを置き、機体サイズも20m級半ばと大型MS程度(断空砲付きブースターユニット込みで漸く34.6m)である。

 その分全機が三段階の可変機構によって装甲は特機としては並みかそれ以下なのだが、それはさて置き。

 そのため、合体によって火力やパワーが大幅に上がったものの巨大化したギルギルガンの大振りな動きに対して辛うじて対応できていた。

 

 『ギギャアアアアアアッ!』

 『上等だ、膾切りにしてやらぁ!』

 

 こうして野獣と怪獣の戦いは第二ラウンドに突入したのだった。

 

 

 ……………

 

 

 『甲児君、大丈夫!?』

 『ぅ…さやか…か?』

 

 一方その頃、大破した量産型グレートと甲児の下にさやかの乗った試作型グレートブースターが到着していた。

 幸いと言うべきか、コクピットは外見こそ酷い有様で甲児も負傷している様だが命に別状は無さそうだった。

 

 『くそ、こっちはもうダメだな。さやかさん、急いで逃げてくれ!アイツが来る!』

 『ダメよ、甲児君を置いてはいけない。それに、その量産型グレートはまだ戦えるわ!』

 『なんだって?』

 『今から合体シークエンス用の機動データを渡すから、それを実行して!』

 

 それは先程グレンダイザーと試作型スペイザーの合体シークエンスと酷似したものであり、使用する機体がグレートマジンガー並びに量産型グレートであるため、先程のグレンダイザーと試作型スペイザーの時よりも成功率は高い。

 しかし、大破寸前(HPバーがミリ残り状態)の量産型グレートが計算通り飛んでくれるかは怪しかった。

 

 『甲児君、聞こえているかね?私だ、絃之助だ。』

 『弓教授!?』

 『その試作型グレートブースターには今送った情報通り合体できる。それによってオリジナルのグレート同様再生機能も付与されるが、上手く機能するかは未知数だ。』

 『未知数って…。』

 『それにどの道その状態では戦えん。合体が上手くいかなかったらさやかに回収してもらってそのまま科学要塞研究所に帰還してくれ。予備機を用意しておく。』

 『お父様…。』

 『さやか…言いたい事は山程あるが、それは終わってからで良い。甲児君と共に無事に生き延びるんだ。良いね?』

 『はい!任せてくださいお父様!』

 『…分かりました。オレも腹を括ります。さやか、お願いできるか?』

 『任せて甲児君!それじゃ合体シークエンス、開始!』

 『進路確保、行けスクランブルダッシュ!』

 

 大破した量産型グレートと試作型グレートブースターの二機が直上へと飛翔する。

 幸いにも背部のスクランブルダッシュは比較的無事であったため、その飛行は安定していた。

 試作型グレートブースターも一切の問題なく、量産型グレートの背面へと近付いていく。

 

 (凄い…私は今、甲児君と空を飛んでる…。)

 

 この戦乱が始まってから今日まで、さやかは光子力研究所や科学要塞研究所で甲児や父をサポートするだけで、戦場に出る事は許可されなかった。

 それは父である弓絃之助と恋人である甲児からの意見が故だった。

 絃之助は父として年若い一人娘が厳しい戦場に出る事を許さなかった。

 何せ戦況は一切の予断を許さぬ状態であり、地球人類の興亡のためならば戦場では娘の命が切り捨てられる可能性もある。

 加えて、もしさやかが戦死した場合、自分と甲児が狂わない可能性を否定し切れなかったのだ。

 もし光子力研究の権威の一人である自分とマジンガーZのパイロットにしてあの魔神ZEROへと取り込まれた経験のある甲児が暴走した場合、兜十蔵博士の生み出してしまった魔神に匹敵する邪神を生み出す可能性があった。

 自分という人間を知るが故に絃之助はさやかを止め、甲児も自分を立ち直らせてくれた恋人が戦場に出ると聞いて必死になって止めた、土下座もした。

 だからこそ、さやかは戦場に出る事は諦め、テストパイロットとして父のサポートをしながら過ごしていた。

 だが、今はどうだろうか?

 

 (私は今、甲児君と一緒に戦おうとしている!)

 

 それは後方で戦場で戦い続ける甲児の無事を祈り続ける日々に比べ、余りに甘美な時間であった。

 最も愛しい異性と極限の状況で生死を共にする。

 これに勝る快感が存在するのだろうか?

 それこそ最も愛しい異性と愛を交わすか、子供を設ける事位だとさやかは思う。

 

 【見逃すと思ったかアホぅめ!】

 

 しかし、10秒程度の結婚飛行ならぬ合体飛行は無粋な乱入者によって邪魔された。

 

 『Dr.ヘル!』

 『何よ、邪魔しないでよ!』

 【合体シーンは邪魔しないなんてお約束、現実であると思うかぁ!!】

 

 肉体を無くしても相変わらずギャグなのかメタなのか困る発言をするDr.ヘルもとい闇の帝王。

 主翼となるカイザースクランダーは真ゲッターばりの収納式であり、空中や宇宙でもマジンガー系で最高の機動性を誇る。

 この部分だけは最初から完成していて継ぎ接ぎも無く、その圧倒的機動性は設計通り遺憾なく発揮されていた。

 

 【恋人共々あの世へ逝くがいい!!】

 『チィ!』

 『甲児君…!』

 

 ヘルカイザーの胸部、左右の放熱板が赤熱する。

 ファイヤーブラスターというブレストファイヤーの三十倍の威力を誇る現時点でのヘルカイザーの最強武装。

 その威力たるや、先程放ったルストトルネードの比ではない。

 この戦場所か日本列島の地図を書き換えねばならない程の大破壊を齎す可能性すらあった。

 

 『真に申し訳ありませんが』

 『合体シーンは大人しく観賞してください。』

 【ぐオオおおおお!?】

 

 が、瞬間的に位相空間から顔を出した数機の無人ヴァルチャーと無人OFセトがヘルカイザーへとデストロイヤーガン(地球上なのでてかげん付き)と対象に衝撃を与えて吹き飛ばす実体弾ガントレットによる砲撃を加え、無理矢理引き剥がす。

 

 【えぇい、人形風情がいい気になるな!】

 『各機、急速潜行。』

 

 お返しとばかりにファイヤーブラスターが発射されるが、ヴァルチャーもセトも位相空間に潜ってそこにはいない。

 巨大な熱線が何もない虚空を焼き、その隙に合体シークエンスは終わりを告げた。

 

 【ああ、しまった!?】

 

 大破した量産グレートの背に、相対速度を合わせた試作型グレートブースターが接続される。

 直後、グレートブースターに内蔵された光子力エンジンとゲッター線増幅装置付きゲッター炉から膨大なエネルギーが供給される。

 これだけならば、余りのエネルギー量に大破した量産型グレートではそのまま爆散する事だろう。

 だが、この試作型グレートブースターは「グレートマジンガー並びに量産型グレートを強化」するために生み出された。

 謂わば再生機能等をオミットした量産型グレートをオリジナルに比肩、或いは凌駕させるために開発された機体でもある。

 オリジナルのグレートで再現に成功した4つの魔神パワーを後天的に付与する事も可能なのだ。

 結果、大破していた機体は瞬時に修復、否、それ以上に進化を開始した。

 ある程度の強化は元からの仕様だが、しかしゲッター線の恩恵によって想定以上の事が起き始めていた。

 四肢が、翼が生え、装甲が瞬く間に修復していく。

 本来の想定ならばその程度だったが、この世界で最初の融合を果たしたゲッター線と光子力という正の無限力は複雑に作用し合い、この程度では終わらせてくれない。

 全身を覆う装甲はやや青みがかった超合金ニューZから漆黒のニューZαへと進化し、その形状もよりマッシブで生物的になる。

 カイザーの様な生物的なデザインながらも、まるで上下逆にした様なデザインの翼へと変貌する。

 その頭部もまた猛々しく、同時に禍々しく変貌する。

 頭部の左右の角も伸び、ジェットパイルダーを囲む部位も大きく鋭くなり、合わせるとまるで冠の様に変貌していく。

 その総身から光子力とゲッター線の輝き二つを放出しながら、遂にその皇帝は大空より現れた。

 

 【兜甲児…その機体は一体何だ!?】

 『問われたとあっちゃ答えてやるさ!』

 

 額から垂れた血を拭い、兜甲児は嘗ての様に自信満々元気溌剌な声で応じる。

 

 『この機体こそゲッター線と光子力を融合させて誕生した最も新しいマジンガー。』

 

 続き、さやかが甲児と共に戦えるという幸福を噛み締めながら続ける。

 

 『テメェらの様な悪に堕ちた魔神を倒すために生まれたこの機体の名は、グレートマジンカイザーだッ!!』

 

 今ここに、新たな魔神皇帝が誕生した。

 魔神を倒すための魔神、それこそが正しき魔神皇帝。

 だが、堕ちたとは言え相対するのもまた同じ魔神皇帝。

 それは即ち、二体の魔神皇帝が激突する事を意味していた。

 

 【フン!真の魔神皇帝はこのヘルカイザーただ一機!消えて失せるがいい!】

 『おいおい、盗人猛々しいってのはこの事だな!』

 【なにぃ!?】

 『お爺ちゃんを傷付けカイザーを盗んだ罪、多くの人々を野望のために傷つけてきた罪!マジンガーを二度も悪用しやがった罪!今から全部耳揃えて払わせてやらぁ!!』

 【しゃらくさいわ若造が!我が機械道空手の前に沈めぇい!』

 

 こうして、二体の魔神皇帝は激突を開始した。

 

 




なお、魔神皇帝二体の火力が合わされば、現時点でも十分日本列島を消滅させられる模様。

極東「止めて!私の上で争わないで!」
地球「それワイはいつもの事なんやで。」
北米「くんなよ…こっちくんなよ…。」
欧州「……」死にかけ
アフリカ「それそっちだけで終わらせろよ!?いいか、フリじゃないからな!?」
南米(こっちは特にフラグもないから平和やな。)
南極&中華((フラグが炸裂しませんように…。))


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小ネタ会話集その19

本編が進まない…!
でも小ネタは出来たから投下ぁ!


 ・あの人は今その1  時系列不明

 

 「さぁ、君も政治に参加しよう!」

 「生涯一パイロットなもので。」

 

 ちょっと政治家としての勉強が行き詰った元お坊ちゃまとお気楽極楽国民的英雄パイロットの居酒屋での一幕。

 場所は居酒屋鳳翔サイド3支店○○号店。

 魑魅魍魎渦巻く政界で四苦八苦する若きガルマ・ザビは親友のシャア相手に焼酎片手に愚痴を語り、最終的には一市民・一軍人としてだけでなく「一緒に政治の道を歩もう!」とお誘いするも、愛しい妻子と名誉と栄光あるパイロット稼業が好きなシャアは笑顔でそれを断った。

 キャスバル・レム・ダイクンことダイクンの遺児等、漸く落ち着きを見せ始めた地球圏に混乱を巻き起こすだけでしかない。少なくとも現在においては。

 NT能力とパイロット技能、政治的センスを併せ持つシャアなら政界においても活躍できるだろうが、妻子との時間を減らしてまで政財界に潜む魑魅魍魎共の相手なんてスゲー嫌なのが本音である。

 

 

 ・あの人は今その2

 

 『ミネバ、父は直接会えないがお前達と国民のために頑張っているからな~~!』

 「お父様ったら…それもう何度目ですの?」

 

 とある父親と娘のフォールド通信での会話。

 例え土星からだろうがフォールド通信設備ならリアルタイムでの会話も十二分に可能である。

 最近お父様の愛情過多な様子に若干辟易しているミネバ嬢だが、母と共に通信には必ず答えて時間ギリギリまで会話を続ける辺り、決して愛情が無い訳ではなかった。

 

 

 ・あの人は今その3

 

 『パプテマス様、ご指示通りバタラシリーズの生産は順調です。今日で予定の7割を達成する予定です。』

 「うむ、そのまま続けたまえ。どうせ地球連邦から直ぐに入用になる。」

 『畏まりました。それとイスルギ重工から通信が入っております。』

 「繋ぎたまえ。」

 『お久しぶりですわね、パプテマス火星支部長。』

 「そちらも順調な様だな、ローズ。」

 『えぇえぇ。お陰様で一安心ですわ。』

 

 火星支部長シロッコとイスルギ重工社長ミツコ・イスルギの通信での一幕。

 現在の戦乱とその後の大規模移民船団に向け、各大企業はその生産ラインをフル稼働させて各種機動兵器並びに艦艇を生産していた。

 A.I.M.は移民船団向けの大型艦艇並びに小型かつ現行主力MSジェガンに匹敵するバタラシリーズとその派生機を、イスルギ重工はガーリオンの生産にグラビリオンの更なる改修、そして提携企業とのデストロイシリーズとジガン系の生産に明け暮れていた。

 現行のジェガンやジムⅡ、ゲシュペンストタイプよりも生産性に長けるこれら機動兵器はもしも地球圏が現在の連邦軍だけでは戦力不足と判断されれば迅速に地球へ向けて送り出される事も考慮されていた。

 しかし、出力面でジェガンやゲシュペンストに、攻撃力や突破力で量産型特機に大きく劣るこれらの機体が移民船団向けに量産されている理由はそれだけではない。

 原作マクロスの移民船団と同様に、移民船団の地球連邦政府への反乱を警戒してのものだった。

 数はあれど機体出力や装甲材質等で制限を加えられたこれらの機体であれば、多数の特機を有する地球連邦軍なら例え艦艇類がワープを含む超長距離航行を想定した大型艦からなる移民船団相手であっても撃滅又は降伏させる事も十分可能である、と考えたからだ。

 そのため、特機に使用される様な装甲材(スペースチタニウム)や機体のジェネレーター最大出力の上限設定、搭載武装の制限等が全ての機動兵器に課されている。

 その反面、艦艇類への縛りは緩くなっていた(宇宙怪獣等の危険な巨大宇宙生物との遭遇を考慮したものと思われる)。

 反応弾や相転移砲、光子魚雷等の戦略兵器の運用は艦搭載のAIにより厳しく制限される予定だ(ただし最大保有数に縛りはあっても保有そのものは禁止されていない)。

 平時でも無許可で使用可能な戦略級兵装は旗艦とされる予定の新マクロス級(改ではなく新規設計)超長距離移民船団のマクロスキャノンを始めとした大型艦砲類だけである。

 

 

 ・あの人は今その4

 

 「漸く…漸く完成したわ…!」

 「ミゲル主任、やりましたね!」

 「えぇ、皆もありがとう。このサイコフレームは開発室皆の成果よ!」

 「早速これをMSに搭載しましょう。」

 「そうね…先ずはコクピット周辺に配置してみましょう。これでサイコセンサーよりも理論上は高い反応速度を出せる筈だわ。」

 

 アナハイム・エレクトロニクス月面支社内秘匿研究区画での一幕。

 強化人間研究の被験者にして研究者ナナイ・ミゲルをリーダーとした研究チームは今までの技術的蓄積(ジブリール派の行った人体実験含む)やA.I.M.からの技術提供(他大企業群から盗難した技術情報含む)を元として、遂にサイコフレームを形にする事に成功した。

 勿論、その特殊性から研究・製造コストは膨大なものになったが、それでも彼女らはやり遂げたのだ。

 それは同時に、遂にA.I.M.の待ち望んでいた「収穫時」が来た事を意味していた。

 

 

 ・あの人は今その5

 

 『社長、アナハイムが遂にサイコフレームの開発に成功しました。』

 「漸くですか。遅過ぎですね。」

 『これで漸くあの腐った戦争商人共に引導を渡せます。』

 「ですが、それはこの戦乱が一段落した後です。今は蟻の子一匹見逃さない様に入念に入念を重ねた準備をしておきなさい。」

 『畏まりました。』

 

 A.I.M.地球本社の社長室での通信の一幕。

 A.I.M.の地球圏に存在する全支部の統括者たる五代目武蔵社長は漸くあのクソみたいな月の連中に吠え面をかかせるタイミングが来た事を知った。

 正直シャッフル同盟の面々による社内改革が結構進んでいたが、彼らのやり方ではアホ共の逃亡や資産持ち逃げされる可能性がそれなりに高かったため、サイコフレームの完成を待って数々の違法行為を理由に連邦当局に経営陣を逮捕してもらう予定だった。

 無論これは連邦政府内でもアナハイムの息のかかっていない者達にのみ伝えられた話であり、大企業ともなれば政治家や他企業との後ろ暗いやり取りがあるのは避けられないものだが、アナハイムの横暴はその一線を当の昔に踏み越えたものばかりだった。

 無論、アナハイムそのものを倒産させるつもりはない。

 太陽系第二位の超大企業が倒産したとなれば、それは巡り巡って地球連邦軍の戦力整備に大きな影を落としてしまう事だろう。

 そんなつもりはないが、いい加減に頭に来ているというのが本音であった。

 故にA.I.M.は第一次α終結後、月のアナハイムの経営陣を逮捕する事で一新して比較的マシな地球本社の人材を据える、或いは技術部の有望な人材を根こそぎか攫っていくか、以前から密かに進めていた敵対的買収を本格化するかのどれかを行う予定であった。

 もし経営陣が逃げたら?そりゃ闇から闇よ(無慈悲)。

 アナハイム経営陣の末路が如何なるものになるかは、第一次α終結まで待つ事となる。

 

 

 ・あの人は今その6

 

 「「………。」」

 「あの、先輩?あの人達どうして黙ったまま見つめ合ってるんです?」

 「あー…よくある事だから気にするな。それよりもほれ、仕事するぞー。」

 

 A.I.M.の各支部で偶に見られる一幕。

 社員として働く高級自動人形と一口で言っても、一握りのハイエンドや古参の稼働年数が長い者達ばかりではない。

 生産したばかりの個体等はどうしても人間に対する擬態が不十分だったりする事があるのだ。

 これはその一つである「うっかり普通の人間の前で全ての会話を量子通信で行ってしまう」という凡ミスである。

 こうしたミスは稼働年数の短い者達ではよくある事で、古参や先輩らに後でネタにされてしまったりする。

 それなりの期間働いた社員らはこうした自動人形らの性質や正体に割と殆ど気付いているのだが、大抵そんな者達は自動人形らと結婚してしまうので、殆ど問題になっていない。

 産業スパイとか内通者とか買収された人間にバレたら?

 そんな人間はいない、いなかった。イイネ?

 そんな感じで太陽系最大にして最高のホワイト企業A.I.M.は今日も平常運転です。

 え、最近はブラック?

 地球人類どころか同盟関係の共和連合すら巻き込みかねない危機なんだから仕方ないネ。

 

 

 ・あの人は今その7

 

 「永い、随分永い事待ったものだ…。」

 「だが、それももうじき終わる。」

 「我が神の復活と、遂に手に入れたこの竜玉によってね。」

 

 地球上某所において、竜玉(パチモン)を手にした真龍王機の前での一幕。

 孫光龍、盛大なフラグを立てるが、それも仕方ない事だった。

 暗雲立ち込める地球圏、復活しつつあるガンエデンと真龍王機。

 バラルが地球を守る神として再び君臨するにはお誂え向きのステージと言っても良い状態だった。

 まぁガンエデンは完全復活にはまだ数年程かかるし、暫くは完全復活した真龍王機だけとなるのだが…孫光龍には寧ろその方が好都合だった。

 何せ元々ガンエデンは超機人文明からすれば元侵略者現上司であり、含むものがあったからだ。

 それでも従っていたのは偏にナシム・ガンエデンが地球と人類を守る意思が本物であり、BFやラ・ムー、ゲベル・ガンエデンら先史時代を代表する者達と共に果敢に百邪を始めとする侵略者と先頭に立って戦い続けたからだ。

 が、現在は先史時代を代表とするサイコドライバー達は消えるか、休眠状態に陥っている。

 そして現在、完全復活を果たした(と思ってる)真龍王機が存在している。

 この真龍王機は嘗てナシムやゲベル、BFらと一対一ならば圧倒できる程の戦闘力を有していた超機人文明の切り札の一つだった。

 が、ナシムと最盛期BFに竜玉を破壊された事で弱体化し、内心は嫌々ながらもその傘下に入る事となったのだ。

 そんな男がこんな好機を座視する訳が無かった。

 

 

 ・あの人は今その8

 

 「…にしてもこの竜玉、以前のものよりもひょっとしたら美しいかもしれないね。」

 

 諸葛亮孔明との取引で入手した竜玉(パチモン)を見た孫光龍の一幕。

 ソレは巨大な球体だった。

 ソレは翡翠と碧、紅玉に似た色彩に絶えず変化し、輝いていた。

 ソレは巨大な存在感を持ちながら、しかし何処か古木や穏やかな海の様な大きくとも静かで暖かな気配をさせていた。

 ソレは極めて遠く、限りなく近い場所から、全てを見ていた。

 

 

 




さぁ、皆は竜玉(パチモン)の正体は分かったかな?


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小ネタ会話集その20

・技術開発四方山話その1 時系列不明

 

 「これが試作可変MSのメタスかね?」

 「えぇ。正確に言えばMA形態がメインなのでTMA、可変MAと言うべき機体ですが。」

 「これを叩き台に次期主力機のハイを担う可変MSを設計する、と。」

 「はい。とは言え、まだまだかかりますが…。」

 「予算も人員もこちらで都合を付ける。確実に成功させたまえ。」

 

 月のアナハイム・エレクトロニクスMS開発部門の一角にて。

 当時、アナハイムでは大別すると二つのMS開発の流れがあった。

 即ち、ジムの流れを汲む汎用量産機とガンダムの流れを汲むコスト度外視の高級機の二系統である。

 更に後になってガンダムファイター向けのMFも加わるが、それはさて置き。

 一年戦争後、ジオン公国のジオニック社やツィマッド社から多くの技術情報を買い漁り、技術者をスカウトしたアナハイム社は戦後の連邦軍の次期主力機開発計画に参入したが、ストンウェル・ベルコムに新中州重工、センチネンタルの三社が合同で開発したYF-0フェニックス、その後制式採用が決定したVF-1バルキリーに対して大きな衝撃を受け、これに対抗すべく急遽可変MSの開発を開始した。

 その最初の機体がメタスである。

 本機はVF-1バルキリーに対抗すべく可変機構の研究用として開発された試作可変MAである。

 MA形態の武装、推進系の配置はジオン側のビグロや既存の航宇機等を参考にしている。

 バルキリーに比べて簡易な可変機構は安価な製造コストを実現しているが、その分胴体がパイプ3本のみという脆弱な構造とマグネットコーティングとの親和性を考えられていない事(可変機構とマグネットコーティングの組み合わせは後に洗練され、リニア・アクチュエーターという可変機の必須システムとなる)から強度面や変形速度等で大きく劣り、積載量も少ないなど実用機とするには問題が多かった。

 しかしこの機体で得られた各種データはアナハイム製可変機の雛型になり、Z計画に組み込まれる等、果たした役割は大きい。

 が、現場の努力に対して、その結果は残酷なものだった。

 

 

・技術開発四方山話その2 

 

 「取り敢えず形にはなったが…。」

 「やはりメタスの変形機構じゃ現状頭打ちだな。」

 「変形機構を見直すぞ。宇宙専用と考えてもこれじゃな…。」

 

 月のアナハイム・エレクトロニクスMS開発部門の一角にて。

 当然ながら、余りにも新機軸な可変機開発は経営陣が期待する通りには進まなかった。

 既に制式採用の決まったVF-1バルキリーが一年戦争最後期から開発が始まったのだから、そのスタートダッシュの差は歴然としたものだった。

 しかし、それでもメタスをベースに武装を強化した重装型や後のメタス改に相当する機体の開発には成功していた辺り、太陽系第二位の大企業の座は伊達ではなかった(実用面で問題が多かったために正式採用には至らなかったが)。

 が、同時にそれだけではまだ足りぬ事も分かっていた。

 故にアナハイムは開発部門にあらゆる便宜を図ると共に他の大企業から組織的技術盗用を開始、各社に産業スパイを放つのだった。

 

 

・技術開発四方山話その3

 

 『侵入者を検知。ライブラリに確認、アナハイム所属の産業スパイと思われます。』

 『了解。いつも通り、重要情報は隔離して対応してください。』

 『了解。重要区画に踏み込んできた場合は?』

 『予定通り適切に対応してください。』

 『了解。』

 

 位相空間内での通話記録にて。

 アナハイムの技術盗用は以前からの事なので、A.I.M.は密かに傘下や協賛先の企業の機密情報をしっかり守っていた。

 その方が利益になると判断された時にはある程度は目溢ししていたが、一定ラインを過ぎたと判断されれば容赦なく対応される。

 全てはA.I.M.側の掌の上であり、こうした産業スパイの証拠はしっかりと記録され、後のカーバイン一族の逮捕劇に繋がる事となる。

 

 

・技術開発四方山話その4

 

 「これがZガンダムか…。」

 「現状の我が社が持つ全ての技術をつぎ込みました。」

 「よくやってくれた。コストは相応だが、期待以上の出来だ。」

 「ありがとうございます。」

 (とは言え、恐らくこれでは採用は取れんだろうな…。)

 (こいつの開発で多くのデータが取れた。より洗練し、次に繋げなければ。)

 

 月のアナハイム・エレクトロニクスMS開発部門の一角にて。

 遂にZガンダムが完成したが、高性能と可変機構の両立を追及した結果、極めてピーキーな性能と操縦性になった事から当然の如く不採用となってしまった。

 メタスを始めとしたZ計画初期の機体(百式やデルタ等。他にも他社からの盗用データも)で培った可変機構のノウハウを更に発展させ、当時アナハイムが獲得した各種最新技術を投入して開発された可変MS。

 スムーズな変形と機体強度を両立するためにVG合金が用いられており、その防御力は準特機級となった。

 またプロジェクトTDで確立されたテスラドライブのシンクロ運用方式である「ツイン・モーダル」を参考にして脚部に二基搭載しているが、システム面が未完成なために活かし切れていない。

 幸いと言うべきか、一連の戦乱の勃発により、最終的にシステム面に関してはプロジェクトTDチームの協力を得られた事によって完成を見る事となった。

 結果、Zガンダムは次世代VFであるVF-11サンダーボルトすら大きく上回る速力と機動力を備える事となり、シリーズ77のアルテリオン(とその合体機ハイペリオン)を除けば、ヒュッケバイン系列にすら比肩する最高速度を得るに至った。

 しかし同時にその圧倒的な速力と機動力を生かすことは一般的なMSパイロットには不可能だった。

 加えて本機に搭載されたジェネレーターや装甲、テスラドライブ等の部材が何れもMSとしては最高級品を採用していた事が災いして機体コストは高騰。

 これならばヒュッケバインの生産を進めた方が良いとして、3機が納入されるだけとなってしまった。

 この数機はサイド7グリーンノアに運び込まれ、他の連邦軍向け試作機と共に技術開発用の試験機として運用される事となった。

 しかし、戦乱がコロニーにも広がった際、後のNTパイロットの一人であるカミーユ・ビダンと出会い、図らずも実戦に投入される事となる。

 この3機は1機は予備、1機はパーツ取り用にされ、実質的なカミーユ専用機とされた。

 後にインターフェイスがサイコセンサーからサイコフレーム式に改良される等、各種の改修を施されながら使用される事となる。

 

 

・技術開発四方山話その5

 

 「やはりZはダメだったか…。」

 「となると、ペーパープランのZZもダメだろうしなぁ…。」

 「今後も可変機の研究は継続するそうだが、そろそろ形にせんとな。」

 「一旦可変機構は取り止めて、単なる高性能機にするか?ノウハウは大分溜まったし。

 「百式みたいにか?あれもまぁ悪い機体じゃなかったが…。」

 「どうせだ。Zで準特機級の予算と性能を獲得したんだし、準特機のつもりで作ってみるか。」

 

 月のアナハイム・エレクトロニクスMS開発部門の一角にて。

 こうして生まれたのが可変・分離合体機構の一切を省略した量産型ZZ、そのアップデート機たるメガZである。

 内蔵武装は腹部のハイメガキャノンとビームサーベル兼ビームガンにダブルバルカンと最小限にした上で、機体構造自体はZ計画で生まれた高性能MS開発のための技術を惜しげも無く注がれた。

 結果として30m未満の量産主力機の中では頭一つ飛び抜けた性能を持った機体が誕生する事となった。

 近代化改修されてメガZとなった後もその性能とMSとは思えぬ頑強さとコロニーすら破壊する大火力、それを更に強化するフルアーマー装備から開発から年数が経ってもパイロット達から信頼され続けた。

 本来のZ計画の趣旨とは異なる事から開発陣からの評価は今一つながらも、良い売り物になってくれたのでアナハイム経営陣としては満足のいく機体であった。

 

 

・技術開発四方山話その6

 

 「一応メタスの方も改良を進めるか…。」

 「とは言え、大気圏内外両用の機体は現状無理だな。」

 「…噂の移民船団向けに宇宙用で進めるか?」

 「後、可変機構が絡まない部分は全部ジェガンと共用しよう。それなら多少はコストも下がる。」

 「名案だな。自社内でいがみ合ってもオレらはあんまり意味ないし、向こうの開発チームとも協力しよう。」

 

 月のアナハイム・エレクトロニクスMS開発部門の一角にて。

 こうして生まれたのがリゼルであり、ジェガンを多く採用した移民船団で採用された。

 本機はジェガンよりも機動力や反応速度、航続距離に優れており、それでいて操縦難易度は低い。

 コストは変形機構の分ジェガンより高いものの、最新のVFシリーズよりは低く抑えられていた事からアナハイム製可変機としては初の量産化・大量受注に成功した機体となった。

 

 

・技術開発四方山話その7

 

 「まさかジェガンがこうも早く陳腐化するとは…。」

 「科学技術は日進月歩って言うけどさぁ…。」

 「グスタフカールは兎も角、ジェスタも今一つ評価が低いしな。」

 「確か『シールドが普通のと違う』『サブアームが非力かつ不器用で片側しかない』とか言われてたな。」

 「かと言って、現状一から設計して生産ラインを立ち上げる程の余裕はない。」

 「なら再設計か。」

 「グスタフカールは普通のアップデートで当面は十分だとして…。」

 「ジェガンとジェスタ。双方の長所を取り入れ、短所を潰した機体。それが我々の次の目標だ。」

 

 月のアナハイム・エレクトロニクスMS開発部門の一角にて。

 こちらはハイではなくロー、ジェガン系の開発チームである。

 が、昨今の敵勢力が量産を果たした特機軍団(総合性能が初期マジンガーZ級)とも言うべき集団であったため、必然的にコスト優先の量産機ではパワー不足が問題視され始めた。

 そんな連中の相手は同じ特機か高級機に任せろよ!と言う開発チームからの指摘には「特機に乗れる人が不足してる」という現実が帰ってきた。

 大気圏内外問わず音速超過駆動が当たり前の高性能兵器を乗りこなせる人材は、地球連邦軍広しと言えどもそう数はいない。

 況してや地球とコロニー、火星に木星、土星までカバーする必要があるのだから尚更に。

 結果として、ジェガンとジェスタの統合設計計画はスタートした。

 

 

・技術開発四方山話その8

 

 「で、意外と違和感なく出来たな。」

 「あぁ。バックパック直結式のサブアーム2本にジェスタをベースに機動性・運動性を強化。」

 「他にもセンサー増やした上で内装系を最新のものにアップデート。カタログ上は重量増加も加味して3%UPって所か?」

 「だが、サブアームのお陰で無重力ならスターク装備にも負けない重武装が可能なのは大きい。」

 「サブアームの制御プログラムも作業用ポッドので割と何とかなったしな。」

 「あぁ。でもサイコセンサーのお陰で割とどうにかなったな。」

 「バズーカやミサイルランチャーをスターク装備無しで最大4つまで装備可能なのは運用の幅が広がるぞこれ。」

 「結構外観も変わってるし、新しい名前付けるか?」

 「そうだな…ジェダなんてどうだ?」

 

 月のアナハイム・エレクトロニクスMS開発部門の一角にて。

 外観はほぼムーンガンダムに登場するジェダである。

 バックパックはジェガンD型のものの左右にサブアームが追加、リアアーマー(腰の後ろ)にジェダの特徴的なものとなっている。

 サブアームはサンダーボルトのアレである。

 カートリッジや武装の交換、武器使用に加え、機体の固定まで行える。

 重力下では重量物の使用には大きな制限がかかるが、宇宙用としてはとても便利である。

 以降、このサブアームは主力量産機の多くに追加される事となる。

 これ程便利でありながら、制御プログラム等で揉めなかったのは、似たシステムが既に存在したからである。

 ボールの元となった船外作業用ポッドのデータである。

 時には無人でも運用するこのポッドは各企業も開発しているものであり、かなり信頼性の高い枯れた技術である。

 これを参考にしてFCSとのリンクや戦闘時での重量バランスの変化等を加味して改良したのがサブアームの制御プログラムである。

 サイコセンサーの思考制御方式と登録された多数のパターンを音声認識で起動させる方式の併用で動かしている。

 但し、考えている内容と発声した内容が異なる場合はセーフティが働いて機能しなくなったりする。

 カタログスペック上は3%増し程度だが、その内実を含むと大きく戦闘能力向上を実現した本機はそのパーツの7割以上がジェガン系と共用しており、生産ラインも大きな変更なく生産できた。

 が、サブアームの扱いには機種転換訓練を始めとした習熟が必要として、戦中に生産された最初期モデルはパイロットの使い心地優先で敢えてサブアームの無いモデルが多かった。

 これらは後の休戦期に制式量産モデルへと全て改装され、パイロットも機種転換訓練を受けてその真価を発揮する事となる。

 

 



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小ネタ会話集その21

うーむ、本編が進まない…
でも必要な描写ではあるのでまた小ネタです。


・あの人は今その1   時系列不明

 

 「ただいま…。」

 「疲れた…。」

 「お帰り二人共。大丈夫?今ご飯あっためるから。」

 「ありがとうカミーユ…。」

 「私、先にシャワー…。」

 「うん、寝落ちしないようにね。今日はどの位家にいれそう?」

 「明日の朝にまた出るから、後はゆっくり休むよ…。」

 「無理しないようにね?母さんもかなり疲れてるみたいだし。」

 「そうも言ってられん。プロジェクトが大詰めでなぁ…。」

 

 サイド7グリーンノアのとあるご一家のある日の会話。

 地球連邦宇宙軍も協力しているアナハイムによる次世代MS開発プロジェクトに参加しており、日夜デスマーチを夫婦共にしている。

 学生の一人息子が幼馴染みと共に家事一般を率先して受け持ってくれるお陰で何とか生活できている。

 浮気?愛人?そんな暇はない。

 そんな暇あるならもっと仕事できるよね?って感じで容赦なく仕事が増えるブラック業務形態。

 現在はZ計画関連(Z・メタス改・ZⅡ・リゼル等)を担当しているが、他部署では移民船団向けのジェガン系宇宙専用機等も開発されている。

 

 

・あの人は今その2

 

 『うわあああああ!?』

 『ちょ、こっちに突っ込んでくるなぁ!』

 「やはりZはじゃじゃ馬が過ぎるな…。」

 「メタス改は旧式ですし、新型のZⅡももう少しマイルドにしないといけませんね…。」

 「もう少し性能落としてでも操縦性を上げないとな。」

 「ある程度条件を満たしたら、リミッターを付けてパイロット毎に調整してみますか?」

 

 サイド7グリーンノアでのアナハイムによる次世代MS開発プロジェクトの様子。

 Z計画で開発された可変MS・MAはその性質上どうしても操縦性とコスト面に難があった。

 これは既に前線で運用されているVFシリーズが防御面や火力面に関してはある程度見切りを付けていた点に注目し、それらの面で完全に上回る事で少数生産・採用の高級機を目指したからだった。

 結果、高級素材の採用や最新のプラズマジェネレーターに二基のテスラドライブの搭載等でそれを実現したのだが、当然の如く操縦性とコストが劣悪になってしまった。

 それを解決すべく開発されたのがメタス系の変形機構を再設計して開発されたZⅡであり、この機体のデータによって開発陣が目指すべき方向性が定まった。

 更に内装や武装、装甲材等をジェガンと共有する事でコスト削減、リミッターを設ける事で操縦性の改善を図ったのが後のリゼルとなる。

 

 

・あの人は今その3

 

 『その程度で!』

 『ちぃ!流石に無理か!』

 「ブラン少佐、機体に負荷がかかっています!一度帰投してください!」

 『何!?…分かった。試験中止、一度帰投する!』

 『了解。少佐、基地まで飛べますか?』

 『そこまで深刻じゃないさ。が、もしもの時は頼んだぞ。』

 

 とある連邦軍基地での実機試験での一幕。

 VFシリーズに対し、Z計画機が劣っていたのはコストと操縦性だけではなかった。

 大気圏内における高機動形態での機動性と運動性の面でも劣っていた。

 これは機体形状の空力特性が原因であった。

 元々大気圏内向けの航空機主体のVFと元々宇宙用のMS主体のZ計画機とではこの一点は歴然とした差があった。

 史実宇宙世紀においてもZガンダムはWR形態時は大気圏内においてもスラスターを吹かさないと方向転換が出来なかった。

 加えて、中間形態のガウォーク含め三段変形して地表スレスレを自在にホバリング可能なVFと比較すると、大気圏内での運用に関してはもうどうしようもなかった。

 無理に変形システムに中間形態を組み込もうとした所、変形の軸となるムーバブルフレームに大きな負荷がかかった。

 これは各部の重量がVF系よりもかなり重いZ計画機だからこそのものだった。

 各部が非常に軽量なVFに対し、Z計画機は装甲材の関係から3割以上重く(脚部に至っては倍)、これをフレームの構造材を最新のルナチタニウム系素材にする事で対応していた。

 が、それでもなおガウォーク形態では腰回りを中心にムーバブルフレームへの負荷が高過ぎたため、中間形態の採用は中止された。

 そうした事からZ計画機は量産型ZZ系の非変形機を除いて全てが宇宙用で開発が進む事となる。

 

 

・あの人は今その4

 

 『オーライオーライ!そのままー!』

 『新型縮退炉と生体パーツの扱いは特に厳重にしろぉ!お前らよりもデリケートだからなぁ!』

 『『『うーす!』』』

 『合体時のコクピットブロックの移動は迅速かつ丁寧に!機体よりもパイロットの方が代えが無いって事を忘れるなぁ!』

 「遂にここまで来た、か…。」

 「だが、まだ予定の6割です。ズールや宇宙怪獣が来るまでの猶予を考えると…。」

 「ズールはまだどうにかなる。してみせる。だが、宇宙怪獣は降伏も何も出来ん。生きるためには勝つしかない。」

 「あの子達には平和な時代を生きてほしかったのですが…。」

 「人生とは儘ならんものだな…。」

 

 月のA.I.M.支部大規模工廠にて、バスターマシン開発責任者オオタ・コウイチロウ少佐とその後ろ盾であるタカヤ・ユウゾウ少将の会話。

 A.I.M.出資で始まったバスターマシン1号・2号建造計画だが、これは単なる決戦用特機開発計画ではなかった。

 ワンマンオペレーション並びに対霊・対念動兵器の概念実証を主眼とした計画だった。

 バスターマシン1号・2号は原作においては「超光速万能大型変形合体マシン兵器」であり、単体でも「一人で操縦可能な亜光速戦闘艦艇」である。

 人材不足に喘ぐ地球連邦としてはこのワンマンオペレーション可能な戦闘艦艇というのは大きな意味を持つ。

 加えて、ネルフ並びにゼーレから密かに入手したエヴァの技術情報とオリジナルのエクセリオン級から入手したデータから開発された生体パーツを多数使用する事で対霊・対念動兵器への抵抗力を上げる試みをしている。

 これは何れ来るズールやバルマーに宇宙怪獣、プロトデビルンや負の無限力等の超ヤベー連中への対抗兵器としての意味合いもある。

 なお、動力源は次世代型縮退炉(オリジナルのコピー品。最終話で抉り出したアレ)を一基、予備にプラズマリアクターを二基それぞれが搭載している。

 コクピット部分は高性能の脱出装置兼冷凍睡眠装置であり、もしも撃破されても10年は無補給で宇宙を漂流する事ができる優れものである。

 

 

・スパロボの伝統その1

 

 「機種の追加と新規生産数増加に関してまた他部門から抗議の電話が来てます!」

 「ああもう!機種を統一するともしも対抗兵器が出て来た時に被害が拡大するって一年戦争で習っただろうが!」

 「軍拡のジレンマですね…。」

 「一年戦争当時は9割ジム系一色だったからまだマシでしたが…。」

 「ジェガンやゲシュペンスト、ガーリオンは兎も角として他がな…。」

 「可変機にカスタム機に試作機に特機…。」

 「最新兵器の博覧会かな???」

 「ざけんばバカヤロー!必要だからって増やし過ぎなんだよッ!!」

 

 あーだこーだと頭を悩ませる地球連邦政府の財務官僚達の会話。

 彼らは今日も地球連邦と言う名の巨人の血液を循環させるべく働いているが、限度というものがある。

 スパロボでは当たり前の無数の種類の機動兵器も、実際に生産・配備・使用するとなると物凄いお金がかかる。

 当然、それらを調達する費用は地球連邦政府から出ており、戦時ともあって物凄い額である。

 幸いにも戦時国債は各大企業や同盟国である共和連合によって発行の度に残らずお買い上げされているが、返済を考えると頭が痛いのが本音だし、これを盾にどんな要求がされるか分かったものじゃない。

 更に平時なら回って来る筈の他部門への予算も、がっつり軍事偏重にならねばならない事から、他部門からは大いに恨みを買う事となるが、相手も背に腹は代えられない事を分かっているので、ギリギリ抗議だけで済ませてもらっているのが現状だ。

 戦争なんてとっとと終われ。

 それがこの戦乱に巻き込まれている地球人類の総意だったが、その願いは暫く叶わない。

 彼らの悩みが一旦収まるには第一次α編終了まで待たねばならない。

 

 

・スパロボ伝統その2

 

 「やはり前線での機動兵器の補給・修理の手間は増える一方ですか…。」

 「工具やら部品の規格やらは合わせてますが、それでも専用パーツは多いですからね。」

 「特にゲッターとかマジンガーとか、量産仕様なのになお高価ですからね…。」

 「シズラーは比較的マシですが、そのサイズから必要となる部品点数がダンチです。」

 「やはり以前から進めていた急速修復用ナノマシンを販売すべきですね。」

 「ですが、超合金Zやゲッター合金やら特殊な素材には対応できるのですか?」

 「難しいですね。自己修復機能持たせた方が良いのでは?」

 「補給装置もですね。弾薬は兎も角、エネルギー系は縮退炉やプラズマジェネレーター系以外は独特過ぎます。」

 「まぁ正の無限力ともなれば致し方ないかと。」

 「各エネルギーごとに事前にカートリッジに封入して迅速に補給できるようにするのはどうでしょうか?」

 「それは有効かと。事前に余剰分を貯蓄しておけば無駄も無いですし。」

 「野獣回路とかはどうしましょう?」

 「申訳ないが精神エネルギーの類は無理。」

 

 ある日のA.I.M.開発部門の会話。

 機種が、特に特機系が増えるにつれ、兵站だけでなく前線での運用にも支障が出て来ていた。

 特に他の機種とパーツの互換性の無い決戦兵器である量産型グレートや量産型ゲッターG等は最たるもので、今後特務部隊用の極少数の生産で済ますか、本格的な量産を行うかは議論が分かれている。

 が、A.I.M.としては最終的には使いこなせるパイロットの確保の難しさから極少数の生産で終わるだろうと見ているので、これらの装置は専らそうした特機を運用している特務部隊向けに開発される事となる。

 なお、特務部隊で運用されるこれら装置を見て、一般の部隊から「オレらも欲しい!」と注文が殺到し、量産主力機向けの簡易版等も後に開発される事となるのだった。

 

 

・スパロボ伝統その3

 

 『うむむ、このままではやはり地球に侵攻する前に我らが全滅する…!』

 『こちらもだ。そも我らは母星を失ってから国民は減る一方。安住の地を欲しているだけなのだぞ…。』

 『そちらはまだ良いだろう!我らは母星の守りも全てこの艦隊に費やしているのだぞ!今、母星に何かあったらお終いだ…!』

 『皇帝陛下は一体何をお考えなのだ…。このままではギシンの民まで滅んでしまうというのに…。』

 『以前からそんな兆候はあったが、やはり陛下は民草の事など何も考えてはおらぬのではないか?』

 『だが、我らが何か言ってどうする?何せ陛下一人で我らが艦隊全てをねじ伏せる事が出来るのだぞ?』

 

 とある人達の秘匿通信での極秘会談。

 その正体はズール銀河帝国傘下の国々、要は外様の諸侯らの内緒話である。

 ズール相手に滅ぼされる前にギリギリ土下座の間に会った彼らは、今現在何とか族滅を免れて生きてはいるが、常に死と隣り合わせだった。

 何せズール皇帝は負の無限力の一角であり、この宇宙の悪の化身である。

 この宇宙に負の想念が満ち、無念の死者が増えれば増える程に力を増す。

 そして、本質が負の精神エネルギーの化身なので、基本的に滅ぼす事が出来ないという最悪の存在である。

 その戦闘能力は個人でズール銀河帝国の全戦力を撃滅できる程であり、彼らでは対抗する術なんて無かった。

 そんな存在に歯向かった所で、屍の山を増やすだけでしかない。

 滅亡を避けるためにズール皇帝に従っている者達、即ちスパロボ参加作品でのスーパー系異星人達(ベガ星連合、バーム星人、ボアザン星人、キャンベル星人、他雑多な少数の生き残り等)は皆一様に明日への希望を持てずに今日もズール皇帝に恐怖しながら従うのだった。

 

 

 

 



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小ネタ会話集その22

今回もムロンさんから頂いたネタを掲載させて頂きます。
皆さんも遅ればせながら新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


◯2人のノリコ

 

 タカヤノリコ。

 

 無敵のスーパーロボット「ガンバスター」のパイロットにして太陽系絶対防衛作戦の英雄。

 後に参加したカルネアデス計画において敬愛するお姉さまこと「オオタカズミ」と共にブラックホール爆弾の点火栓となり12000年後の地球に帰還する……はずだったのだが、彼女らはなんの因果か並行世界の地球にたどり着いてしまう。

 幸いというか先にこの世界に来ていた(体感的には別れの挨拶を交わしたばかりの)友人ユング・フロイトの伝手もあって、現在は地球連邦軍附属沖縄女子宇宙高等学校でパイロット候補生たちの教官におさまることが出来た。

 そんな彼女が今何をしているかと言えば…

 

 「これですよ教官!前に話したゲキ・ガンガー3!アニメ好きでこれを観たことないなんて人生の半分を無駄にしてますよ!」

 「そ、そうなの?タカヤさん。」

 

 平行世界の自分と一緒にロボアニメを観る羽目に陥っていた。

 

 

 

 

“なんでこんなことに?まだどんな顔して向き合えば良いのか分かんないのに”

 

 いそいそとモニターの準備をするノリコ(女子高生)をよそにノリコ(成人女性)は内心パニクっていた。

 平行世界の同一存在である「この世界のノリコ」とは自分が教官を務めている都合上何度も会っているが、マンツーマンで、しかもプライベートな空間で向き合うことは想定外だ。

 この世界のアニメ作品を堪能すべく向かったホビーショップに休日だからと言って長居したのが不味かった。

 同じ自分同士、趣味嗜好が似通ってるならそう言ったところで出くわす可能性もあるとなぜ気付かなかったのか。

 というかロボアニメのことで盛り上がったからと言ってなぜ自分はホイホイ彼女の下宿先まで着いていってしまったのか。

 

 “もう一人の自分かぁ”

 

 気付かないのを良いことにノリコ(15)や部屋をしげしげと眺めるノリコ(24)は自分と彼女の違いについて考える。

 同じ頃の自分は(亡くなった父を蔑む意図もあっただろうが)意地の悪い同級生に「全滅娘」と呼ばれるほどマシーン兵器の操縦はからっきしだった。

 それに比べるとここの自分は決して成績が良いわけではないがよくやっている。

 授業は熱心に聞くし(たまに睡魔に負けて寝てるが)、マシーン兵器の操縦訓練もマニュアルである程度こなせて、分からないことはすぐ質問し、放課後は許可をとって居残り練習をしている。

 良いことだがなぜそんな差が生じているのだという疑問もある。

 

 “やっぱりパパがいるからなのかな”

 

 自分と彼女のもっとも大きな違いはやはりこれだろう。

 八歳の誕生日を前にして死別した父はこちらの世界では今も存命であり、連邦宇宙軍の将官として太陽系防衛の任についている。

 この娘は自分が持てなかった父との数年間の思い出を持っているのだ。

 

 「ねえタカ「お待たせしました教官!さっそく観ましょう!」え?ええそうね。」

 

 いかん、別人だと割り切っていたつもりだったが今完全に父のことを聞こうとしていた。

 自制しようとは思うのだが、やはり気になるものは気になるのだ。

 

 「確かゲキ・ガンガー3だっけ?このアニメ?」

 「そうです!アニメ好きでこれを観てないのは人生の半分を無駄にしてますよ!教官の好きなバーンブレイド3だってこれの影響を受けてるんですよ!私なんかこれを観てパイロットになることを決めたんですから!!」

 

 “なんかこの娘今とんでもないこと言わなかった!?”

 

 まあぶっちゃけ自分もそういう気があったわけだがこうもあけっぴろげに言い放っていただろうか?

 しかしこれはいい機会だ。

 それほどまでに影響を与えた作品であればこれを観ることで彼女のことがより理解できるかもしれない。

 

 「分かったわ。じゃあ観ましょうか。」

 「はい!じゃあ行きますよ!」

 

 

 _数時間後

 

 「「ジョぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 

 海燕のジョー死亡回までぶっとおしで視聴した時、そこには並行世界の自分だのなんだのと悩んでいたノリコ(原作)はいなかった。

 ただそこには漢の死にざまに涙する二人の女が残されるのみである。

 

 

《補足》

 

 ・タカヤノリコ(原作)

 原作世界からの来訪者。偽装身分としてカタヤ・ノリカ地球連邦軍中尉となっている。

 現在は並行世界の同位体であるタカヤノリコらの教官を務めるも教職の経験は浅いので実技以外は結構ポンコツ。

 そのため生徒達からは教官よりもノリちゃん先生と呼ばれる事が多い。

 新西暦187年時点で24歳。

 もともとのオタク趣味はここでも健在で21世紀から近年までの作品を収集している。

 これが幸いしこの世界のノリコとプライベートでの関わりも持つようになり、今では「もう一人の自分」ではなく「妹分」として彼女を認識するようになった。

 なお後日練習後のシャワー室でこの世界のノリコと鉢合わせになった際、自分と彼女の違いをより深く認識したとかなんとか(タカヤ提督生存によるメンタル面へのダメージが無かった&不摂生してると叱ってくれる家族がいるためにより健康的に育った結果)。

 

・タカヤノリコ(α時空)

 この世界のタカヤノリコ。新西暦187年時点で15歳。

 父への憧れと幼少より親しんだゲキ・ガンガーの影響でスーパーロボットパイロットを志し沖女へ進学。

 趣味嗜好が近しい原作時空のノリコとは生徒と教師の関係以外にも同好の志、もしくは姉妹のような関係を築いた。 

 尚、お姉さま呼びはこの世界のカズミ限定なので「ノリ姉さん」と呼ぶ。

 実はタカヤ提督生存とトレミィの介入(食料事情&医療技術がアップ)などの要素のせいで原作ノリコよりスタイルが良い。

 

・ゲキ・ガンガー3

 機動戦艦ナデシコの世界では後継機ゲキ・ガンガーⅤのデザインがウケなかったなど諸々の理由で4クール放送の予定が39話で打ちきりになってしまったこの作品だが、この世界ではスポンサーについたA.I.M.のおかげで全50話が無事に放送され総集編に劇場版やOVAの製作された。

 原作でアキトに「酷い話」と言われた海燕のジョー復活は作中に伏線を張っておくことで無理なく実現。

 そのため当時の考察サイトでは「ジョー生存説」がつぶやかれており、それが的中する形となった。

 なお前述のOVAには離脱中のジョーが名と顔を偽りキョアック星人のスパイと暗闘を繰り広げるハードボイルド調のものなどが存在する。

 この作品は後の高名なロボット開発者達にとってバイブルの一つとして扱われており、リアタイで視聴していた早乙女博士はもちろんのこと、再放送を視聴していた兜十蔵博士も本作品のファンであった。

 ちなみに劇中で描写されたゲキ・ガンガー3の内部機構は放送から数年前の火星で発見されたゲッター艦内部に残されていた量産型ゲッターロボそのものが参考にされており、当時のロボット研究者達の間では「一見荒唐無稽だが機械的な部分は意外と理にかなった作りをしている。装甲と動力はどうにもならんが」と言われていた。

 

 実は本人承諾のうえでクローン武蔵がカメオ出演している。

 

《余談》

 悲報:ノリコ、シリアス保たない。

 

 

 

 ◯そのときふしぎなことが……起こらなかった

 

 シズラー。

 

 地球帝国宇宙軍の主力マシーン兵器であり、この宇宙ではA.I.M.によって生産される地球連邦軍の主力スーパーロボットである。

 ガンバスターの廉価版とも言えるこの機体は攻防速並びに拡張性の全てが高水準に纏まった名機であるが、それゆえに後継機開発は難航。様々な派生型や試作機が生み出されることとなる。

 そして今、地球連邦連邦軍情報部に所属するギリアム・イェーガー少佐の前に鎮座するこの機体もそんな派生機体の1つである。

 

 「これがシズラーBLACKRXか。」

 

 A.I.M.、いや、UTFの中枢であるトレミィと情報交換に訪れたギリアムはもののついでとばかりに依頼された防諜体制の査定を行っている最中にこの機体に出くわした。

 ハイパースペースチタニウム製の黒いボディ。

 あらゆる敵を視界に捕らえて逃さない真っ赤な目。

 惑星サイズの敵を想定して開発された新型格闘兵器リボルビングケイン。

 超小型縮退炉を搭載することで本体のエネルギー消費をもたらさない拳銃型バスタービーム砲ボルティックシューター。

 いずれもが彼のかつての戦友を思い起こすものであった。

 

 「ギリアム少佐どうかしましたか?」

 

 そんなギリアムに付き従う青年「西光次郎」。

 不意に足を止めた上司の何か懐かしむような表情を訝しみながら声をかけた。

 

 「いやなに、なかなか頼もしい機体だと思ってな。」

 

 そう返すギリアム。

 だが光次郎は思う。

 この機体はあまりの機体出力にパイロットが振り回されてしまい正式採用を逃した機体ではなかったか?

 ある意味で欠陥品とも言えるこいつに何か期待するものがあったのだろうか?

 しかし…

 

 「そうですね。自分もそう思います。それに何か懐かしい感じがします。自分でもよく分かりませんが」

 

 なぜか自分もなんとも言えぬ感情をこの機体には抱いていた。

 

 「そうか。さて他も確認するか光次郎。」

 「了解です。」

 

 

 

 そんな2人の姿を電子の目で監視する者がいた。

 そう、我らがトレミィである。

 

 「それでなんかリアクションはあった?」

 「RXの前にやや立ち止まった程度です。目立った行動はありません。」

 「ギリアム少佐はまあいいんだけどさ。てつをは予想外だよてつをは!」

 「てつ、なんです?」

 

 どうやら今回の本命はギリアムではなくその部下のようだ。

 まあインフィニティーストーンに匹敵しかねないキングストーンの持ち主かもしれないしね。仕方ないね。

 

 「これ開発中のムーン見せたらなんかリアクションしてくれるかな?」

 「どういう根拠でそうされようとしているかは分かりませんがやめておいた方がよろしいのでは?」

 

 ヒーロー戦記もよろしく!

 因みにVISPは父の実家にあったヒーロー戦記の一つ「ザ・グレイトバトルⅡ ラストファイターツイン」でファミコンやり始めた口だぞ!

 

 

・シズラーBLACK-RX

 シズラーブラックの近代化改修試験機。

 正確には「シズラーブラックリファインXタイプ」。

 装甲はスペースチタニウムからハイパースペースチタニウム(バスタートマホークの素材)に、縮退炉を新型に換装したうえで2基搭載。

 スペック上はガンバスターすら凌駕する出力を誇る(尚、炎になったガンバスターは想定外)。

 操縦方式は引き続きDML式でコクピットブロックにはサイコフレームを採用。

 頭に思い浮かべただけで火器管制を行うことが可能(が、YF-22よろしく操作性のピーキーさに繋がる破目になる)。

 各種武装はシズラーのものを引き継いでいるが出力の増した縮退炉の恩恵を受けてその威力は大幅に増強されている。

 また両手両足にエネルギーを集中し破壊力を増大させる「シズラーパンチ」「シズラーキック」が搭載。

 加えて小型縮退炉を搭載した拳銃型バスタービーム砲「ボルティックシューター」を装備。

 そして最大の武器は内部に格納された格闘戦武器「リボルビングケイン」。

 エグゼリオ変動重力源やZマスター級の敵を想定した武装であり、アルトアイゼンのリボルビングバンカーをベースに開発された。なお外見は警棒。

 内部には惑星を消滅させるレベルのエネルギーを超高圧縮させて封入したカートリッジが6発内蔵されており、これを相手に突き刺し激発させることで敵の内部にエネルギーを送り込み、敵を内部から破壊する。

 この超高エネルギーに耐えるため本体は超合金ニューZαで作られている。

 性能的には申し分のないものに仕上がったものの増大した主機出力に振り回されるテストパイロットが続出。

 またリボルビングケインとそのカートリッジの製造コストが高くついてしまったため改修された機体は極一部にとどまった。

 ネーミングから分かるように元ネタは「仮面ライダーBLACK・RX」。

 しかしこんだけやってもボルティックシューターの射程は無限にならないし、リボルビングケインの威力は最強スレそのままのスペックなら「宇宙を破壊できるエネルギー×n」とも言われるリボルケインには全く及んでいない。

 当然ながらゲル化も出来ない。

 なんなんだあいつ(RX)は???(A.公式チートです)。

 

・シズラームーン

 シズラーをベースとした次世代主力量産特機の試作機。

 純粋な強化型であるBLACKRXとは異なり新技術を随所に投入、次世代主力量産機のスタンダードとなるべくして開発された。

 機体フレームはシズラーを原型としつつもユング・フロイトの持ち込んだガンバスターセカンドの概略図の要素を盛り込んだため殆んど別物に近い。

 装甲材質や縮退炉はBLACKRXと同等だが、内部に高純度のフォールドクォーツを用いた新型フォールドシステムが組み込まれている。

 これにより如何なる地形や空間異常にも影響されずに超空間航行を行え、誤差1m未満の短距離戦術フォールドや異次元からのエネルギー供給などその効果は多種に及ぶ。

 またこのエネルギーを用いた特殊装備として「サタンサーベル」が存在する。

 これはフォールドクォーツによる時空操作能力を応用した剣で、刀身が文字通り「空間を絶つ」能力を発揮できる。

 しかし未だにA.I.M.でも解析半ばのプロトカルチャーテクノロジーを随所に盛り込んだこの機体はあまりの多機能ゆえに扱えるパイロットが非常に限られ、整備性も劣悪。

 結局技術実証機の域を出なかったこの機体は扱いこなせるパイロットがあらわれるまでUTF旗艦プトレマイオスに保管されることとなる。

 元ネタはシャドームーンであり装甲表面はシルバーでアイカメラの部分は緑色。

 

・西光次郎

 OGクロニクルに登場したギリアムの部下。

 なお名字は今作オリジナル。

 某太陽の子そっくり。

 幸いなことにこの世界にはゴルゴムもクライシス帝国も存在しないので普通の人間である。

 

・トレミィ

 もし「ふしぎなことがおこった」場合、丁重にスカウトするつもりだったが、敢え無く不発に終わった。

 割とよくある事だが、今回は流石にちょっと予算使い過ぎでお小言貰った。

 

 

 



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小ネタ会話集その23

毎度恒例のムロンさんからのネタです。
更新が遅れてしまい申し訳ありませんが、4月中には再開するのでお待ちしてください。


・消えた少女

 

 新西暦186年末

 日本国東京都を管轄する警察組織である警視庁、その取調室の一室に奇妙な光景が広がっている。

 室内の椅子に腰をかける強面の男達。スーツに身を包む彼らは言うまでもなく刑事だ。そのため彼らがこの部屋にいることは別段不思議でもなんでもない。

 異様なのは対面している相手が人間ではなく、身の丈2mを超える直立可能な蜥蜴であることだ。

 本拠地であるマシーンランドが陥落して以来、各地に潜伏していた爬虫人類の工作員達が採る行動は概ね2通り。

 警察や軍に降伏し拘束される、もしくはそのまま姿をくらまして連邦政府に対するゲリラ戦を展開するか。

 この男は前者であり、東京都の郊外に打ち捨てられた廃屋に潜んでいたところを警察に発見されそのまま確保された口だ。

 最後に呆気なく投降した点においては、一応賢明だったと言えよう。

 廃屋を取り囲んだ警官達は正式採用されたEMライフルを携帯し、なおかつ突入用に特車二課のレイバーすら呼び寄せていたという念の入れようだったのだ。

 メカザウルスを持たない彼らが抵抗しようものならほんの数秒で欠片も残らなくなっていただろう。

 ……もっとも待機していたレイバーの操縦士が痺れを切らせてライオットガンの砲口を廃屋に向けてるのを見れば誰だってそうするだろうが。

 こうして取っ捕まった連中は尋問の末に特設の拘留施設にぶちこまれたのだが、ならばなぜこいつは今もこうして取調べが続いているのだろうか?

 

 「貴様いつまでだんまりを決め込むつもりだ?減刑の条件は話しただろう?それとも何か?人間の言葉がわからないか?」

 「だ、だから何度も話しただろう?俺はやってないし知らないんだ。」

 

 刑事からの詰問に恐竜帝国兵士が怯えた表情を浮かべ、滝のような汗をかきながら答える。

 爬虫類が汗をかくのかって?

 爬虫「人類」なんだから汗くらいかけるのかもしれないネ(すっとぼけ)。

 

 「惚けるな蜥蜴野郎!貴様らがあの辺りで人間を拐っていた証拠はとっくにあがってるんだ!この少女を、“有栖美亜”を何処へやった! 」

 

 恐竜帝国が人類殲滅のため非道な人体実験を繰り返していたということは既に周知の事実だ。

 拐われた人々は研究所を解放した際に保護されたが、その数はそう多くない。

 おまけに幾人かは遺体すら発見できていないという有り様であり、被害者家族の心労は計り知れない。

 ゆえに警察はなんとしても行方不明の被害者の所在を明らかにせんと躍起になっているわけだが結果は思わしくない。

 

 「拐おうとしたが拐えなかったんだ!その女もっ!実際に拐おうとした部下達もっ!何か光ったと思ったら消えちまったんだ!!」

 「いい加減なことを。あの時間、あの場所には重力振もボース粒子の反応もなかったのはあらゆるセンサーが証明しとるんだ!それなのに消えちまっただと?さっさと吐け!それとも鞄にされたいのか!」

 

 この爬虫人類は主に誘拐に携わっていた工作員の班長をしていた男だ。

 マシーンランドから押収された報告書にはとある行方不明者が最後に目撃された場所からそう遠くない所でこの男が活動していたことが記されており、被害者の行方を知る者と目されていたのだが、どうにも口を割らず警察側もほとほと困り果てていた。

 

 「どう思います後藤さん?やっこさん本当にガイシャのことを知らないんですかね?」

 

 一方で取調室の隣室でマジックミラーごしにここまでの様子を見ていた松井刑事がとなりに立つ後藤に問いかける。

 今回第二小隊が駆り出された関係でこうして尋問にも立ち会っていた後藤はその問いにやや考え込んだ。

 

 「どうかなぁ?俺爬虫類には詳しくないもんだから表情とかは読めないけどさ。普通に考えるなら本拠地が陥ちてるこの状況で隠し通すほどの価値がある情報とも思えないんだけど。」

 「けど?」

 「逆にその有栖さんの身柄にそれだけの価値があるって可能性もあるわけだからねぇ。」

 

 “それにあの有栖美亜って娘。俺の記憶違いじゃなけりゃあ特脳研から押収された資料に名前が載ってたはず。あれをどこからか手に入れた恐竜帝国が念動力者の被検体を欲したとしたら?”

 

 十数年前に閉鎖された特殊脳医学研究所は昨今流行りのニュータイプや念動力の研究を人道を無視したレベルで行っていた。

 その関係上それらの素養を持つ人々は密かに調べあげられており、もしあの一斉検挙がなければ彼らは今まさに実験台として扱われていたかもしれない。

 U.T.Fや人類の誇る優秀な科学者たちの存在により数千万年前から積み上げてきた科学技術の優位性が爆速でぶっちぎられてしまった恐竜帝国からすれば、そんな人類をさらなる高みへ押し上げかねない能力の優秀な被験体を放っておく理由はないだろう。

 

 「松井さん。こりゃあこの際徹底的に締め上げるべきだと俺は思うよ。今から藤岡総監に進言してくる。」

 「それほどの案件ですか!?」

 「事はただの誘拐じゃあ済まなさそうだからね。」

 

 かくしてこの哀れな、しかし自業自得な爬虫人類は軍の情報部も交えた徹底的な尋問を行われたうえで機密保持の観点から独房にぶち込まれることとなる。

 なお後日ラドリオ星からの来訪者たちに件の女性の姿が確認されたことで後藤警部補の懸念は重要ではあるのだが、全くの見当違いであったことが判明したのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

・有栖美亜(破邪大星ダンガイオー)

 

 またの名を、というかミア・アリス。

 幼少期に優れた念動力の素養を見込まれ危うく実験台にされかけたが、その直前に特殊脳医学研究所(特脳研)が潰されたので荒事には関わらず家族のもとで平和に青春を送っていた。

 しかし恐竜帝国が展開した誘拐作戦の標的にされ、その時の恐怖が原因で念動力が覚醒し、その場からテレポーテーションしてしまう。

 眠っていた強大な能力が一度に覚醒した結果として数百光年離れた惑星に転移してしまい、その時の反応を捉えたターサン博士に捕まった結果として原作と同様に記憶処理などをされてしまった。

 現在はエルシャンクに身を寄せて流浪の旅をしている。

 ちなみに拉致されたのは数年前のことなので戸籍上の年齢は二十歳過ぎ。

 しかし改造手術の際に施された処置により身体的な年齢は十代後半のものである。

 ところでダンガイオーチームの超能力なんだがこいつを見てくれ。

 

 ロール・クラン=走る力をエネルギーに変える

 ランバ・ノム=指から破壊光線(数発でガス欠)

 パイ・サンダー=怪力

 ミア・アリス=衝撃波、バリア、瞬間移動、飛行

 

 なんか……ミア強すぎじゃね(汗)

 天然物の念動力者か何かかな???

 

・後藤喜一(機動警察パトレイバー)

 公安時代の事件との関連性を見出したためお偉いさんに直談判。

 幸いにも予想は外れたが、今後もこの手の案件で出張る事に。

 

・ぶっ放しかけた操縦士

 もちろん大田功。

 

・藤岡総監(仮面ライダーアギト)

 警視総監。正確な氏名は「藤岡猛」。

 伝説的な警察官であり、その戦闘能力は国際警察機構の九大天王と互角かそれ以上とも…。

 藤岡弘ではない。本郷猛でもない。当然せがた三四郎でもない。

 元ネタは上記の通り仮面ライダーアギトの警視総監。名前はオリジナル。

 あくまでネタなのでアギトはいない。氷川さんはいるかもしれないが。

 

 

 




>小ネタ会話集その15
>ズール銀河帝国領の難民+地球からのテレポート事故からの遭難者とか、彼女達をして困惑を隠せない内容だった。

この世界観では原作通りにターサン博士がミアを拉致するのは不可能だと思ったため、グッドサンダーチームとは別にテレポート事故(自力)したという感じ。
恐竜帝国の兵士が酷い目にあうのはもう本作でのテンプレ。
原作的に不審な事件の犯人にしやすいのがいけない。

ターサン博士が「宇宙最強の兵器」って銘打つダンガイオー。
この世界基準なら監察軍のズフィールドくらい倒せないと話にならないだろう。
そうなると必然的にダンガイオーって高レベルの念動兵器の類いなのでは?
宇宙海賊バンカー(宇宙のブラックマーケットを牛耳って各惑星への侵略と略奪を繰り返す)から援助されたとは言え個人の科学者がそのレベルの特機作るとかスゲーよアンタ(汗


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第70話 皇帝VS皇帝その9

 新西暦186年9月28日 極東方面 旧光子力研究所跡地

 

 『いくぜ!グレート…!』

 【なんの!ファイヤー…!】

 

 空で相対する二機の魔神皇帝。

 その対決の始まりは、互いの最強武装の撃ち合いからだった。

 

 『【ブラスターッ!!】』

 

 両者の胸部の放熱板から発射された熱線。

 それは地表に命中すれば、容易く大地を蒸発させ、地殻を露出させ、島国程度ならば消し飛ばす威力を誇る。

 間違っても有人の可住惑星で使用すべき兵器ではない。

 それが真っ向から激突した場合、周囲は一体どうなるだろうか?

 

 『グギャアアアアアア!?』

 『総員耐衝撃・閃光防御ッ!』

 『うわああああああああ!?』

 『ひぎゃあああああああっ!』

 『へ、陛下!?お止めくださ…!?』

 『離脱しろ!急げェー!』

 

 敵も味方も巻き込まれちゃ堪らないと戦闘なんて放り出し、少しでも距離を置こうと全速で離脱を開始した。

 動けない者は防御を固め、可能な限り非戦闘員を逃しつつ、バリアやシールド等を構えて暴虐の嵐を耐え忍ぶ。

 現状公式に確認されている中では最上位の特機同士の戦闘は、その余波だけで他の全てを圧倒し、地形を変え、敵味方の残骸を消し飛ばし、あらゆるものを薙ぎ払った。

 

 【ちぃ、場所を変えるぞ兜甲児!】

 『合点!』

 

 このまま此処で衝突しては地球が滅びかねない。

 それを正確に理解した両雄はそれぞれの思惑(野望と理想)から地球上での戦闘は避けるべきだと考え、地表より離脱すべく垂直方向に飛び立った。

 

 『甲児君、グレートマジンカイザーはあくまで応急処置に過ぎないわ!10分もすれば機体が過剰なエネルギーに耐えられずに崩壊してしまう!だから!』

 『分かったぜさやかさん!10分でケリをつける!』

 

 移動の最中、甲児はこの機体最大の欠陥を知らされた。

 最初に言っとけよと思うが、言う暇なんてありゃしなかったし元は緊急避難のためだったので許してほしい。

 まぁグレートマジンガ―とは言え大破寸前の未完成かつ量産型の機体を、超高出力のゲッター線と光子力をかけ合わせてブッ込んで作った急造の魔神皇帝とかそりゃー機体の寿命短いのも当然の話ではある。

 

 【ここらで良いか。】

 

 両雄が止まったのは、その眼下に青く美しい地球を湛えた宇宙空間。

 月と地球近傍の哨戒艦隊のコースの隙間であり、人工衛星すら存在しない。

 正にここは打って付けとも言える場所。

 邪魔となる物が何もないこの宙域に到達するまで、最新鋭のVFでも数分はかかる所を、この二機は一分もかからず到達していた。

 これで両者とも急造の機体だと言うのだから末恐ろしい。

 

 【では、最後の勝負と往こうか!】

 『応!』

 

 何もないこの場所でこそ、二機の魔神皇帝は漸く全力を出す事が許される。

 今度こそ何の邪魔も横槍もなく、互いの因縁に漸く決着を付けるべく、両者は闘気を漲らせてていた。

 

 【勝つのはこの儂、Drヘル!】

 『いいや、このオレ兜甲児と!』

 『弓さやかよ!』

 【ならば最早問答無用!このヘルカイザーの前に消えて失せよ!】

 『へ!テメェこそこのグレートマジンカイザーに勝てるとでも思ってるのかよ!』

 

 そして、両雄は同時に相手へ向けて全力で加速した。

 

 『ッ!』

 【ッ!】

 

 音速など遥か彼方に追い遣った二機は、亜光速の世界にてその拳を振るう。

 並の宇宙戦艦程度なら一撃で木端微塵となる打撃に、空間そのものがギシリと過負荷で軋む。

 しかし、その程度など序の口だと言わんばかりに、両雄は打撃の応酬へと移る。

 亜光速で巧みに場所を入れ替え、拳を、足を、拳撃を、蹴撃を交わす両雄に、遂に空間そのものが付いていけなくなっていく。

 

 『空間変動を感知!甲児君、気を付けて!何処かに跳ばされるわ!』

 

 同時、グレートマジンカイザーとヘルカイザーはこの宇宙から消失した。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 大気もなく、赤茶けて荒涼とした大地。

 何処かの小惑星か衛星だろうその場に降り立ったグレートマジンカイザーはしきりに周囲を伺い、仇敵の姿を探す。

 

 『此処は…何処だ?』

 『観測される天体の座標から推測…地球から数百光年は離れてるわね。』

 

 その結果に顔が引きつる二人。

 時間制限があるグレートマジンカイザーにとって、このまま遭難は最悪の未来だった。

 が、そんな心配はする暇も無かった。

 

 『超高熱源反応探知!』

 『ッ!?』

 

 さやかの警告よりも僅かに早く、甲児はその場から機体を飛翔させた。

 その直後、彼らのいた場所に地殻どころかコアにすら届き得る程の超高音の熱線が降り注いだ。

 そんなものが直撃した結果、名も無き小さな星は呆気なく滅び去っていく。

 名も無き星の残骸が飛び散る中、仇敵の姿を見つけたグレートマジンカイザーは一歩間違えれば無数のスペースデブリに激突する状況にも関わらず、一切減速する事なく突き進む。

 

 『Dr.ヘル!』

 【ははははは!やはりこのヘルカイザーこそ最強よ!】

 『黙れ!ターボスマッシャー…!』

 【ふん!ターボスマッシャー…!】

 

 『【パンチッ!!】』

 

 マジンガー系ロボットの代名詞の一つ。

 強化に強化を重ねたロケットパンチが放たれ、両雄の中間地点で衝突する。

 またも打撃の影響で空間が歪曲して揺らぐ中、両雄はそんな事を一切勘定せずに自身も突撃する。

 そして発射した互いの右手を加速そのままに再接続、そのまま互いに互いを打撃する。

 

 【ぐおお!】

 『ぐああ!』

 

 ヘルカイザーが左頬を、グレートマジンカイザーが腹部を殴られ、その超合金ニューZαの装甲に亀裂が入る。

 

 『再び空間変動を感知!』

 

 そして、打撃の余波によって発生した空間変動に、両雄は再び呑み込まれた。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 二度三度と繰り返せば、どんな事にも慣れが生じ、ルーチン化する。

 ヘルカイザーとグレートマジンカイザーと言う超高出力の光子力のぶつかり合いは幾度もの空間変動を発生させ、その度に何処かの時代、何時かの場所へと両雄を跳ばし、再会しては再びぶつかり合う。

 幾度も幾度も幾度も、時間も空間も世界も飛び越えて。

 無限に続く闘争と跳躍の輪廻、エンドレスワルツ。

 互いの認識すら曖昧模糊となりかけながら、それでも両雄は決して互いへの必殺の意思を無くさず、胸に抱える熱き野望/理想の意志を捨てず。

 過ぎ去った時を数える事すら意味を成さなくなった果てに、両雄は元いた世界、生まれ育った母星の下へと帰還した。

 

 『っづぁ…さやか、さん!聞こえてるか!』

 『えぇ大丈夫…!聞こえてるわ甲児君!』

 

 ボロボロだった。

 装甲の多くが罅割れ、欠け、剥離していた。

 五体こそ未だ繋がっているものの、誕生したその時より滅びを定められた魔神皇帝は正しく満身創痍だった。

 

 【ぐ、漸く戻って来たか…!】

 

 だが、それはこのヘルカイザーもまた同様だった。

 五体満足、しかしなれども満身創痍。

 しかも、今両雄は地球への帰還の最中、即ち大気圏突入の真っ最中であった。

 分厚い大気の層との摩擦で動きが鈍り、全身を赤熱させながらも、しかし両雄に戦闘停止と言う思考は無い。

 この戦闘が終わる理由はただ一つ、どちらかが負け、どちらかが勝つかしか無い。

 そして、両雄は己こそが勝つ方なのだと信じて止まない。

 故にこそ、この戦闘は未だ終わらない。

 

 【カイザーブレード!】

 『カイザーソード!』

 

 ヘルカイザーが胸部のエンブレムから剣を引き抜き、応じる形でグレートマジンカイザーが胸の放熱板を鍔とする剣を引き抜く。

 

 『【オオオオオオオオオッ!】』

 

 最早数える事すら馬鹿馬鹿しい剣撃の応酬。

 大気圏への突入速度を一切減速する事なく、寧ろ更に加速しながら、両雄はその手に握る剣を振るい続ける。

 

 『甲児君、地表へ着弾するわ!』

 

 さやかの声とほぼ同時、両雄はマッハ50と言う大型隕石の落下みたいな質量と速度で極めて迷惑な地球へのWダイナミックただいまを果たしたのだった。

 

 

 

 




地球「グワー!」
日本「…」←へんじがない。ただのしばかねのようだ。


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第71話 皇帝VS皇帝その10

長過ぎぃ!
でも後半はこの話にどうしても入れたかったので投下ぁ!


 新西暦186年9月28日 極東方面 旧光子力研究所跡地

 

 『日輪の力を借りて…今必殺のサン・アタァァァァックッ!』

 『グギャアオオ!』

 

 補給を終えたダイターン3の必殺技がギルギルガンのドテッパラに突き刺さる。

 しかし、それだけではギルギルガンの装甲を破壊しても、中身であるピクドロンまでは落とせない。

 

 『愛の心にて悪しき空間を断つ…!断空光牙剣!』

 

 実体を弾き、エネルギーを吸収する光のヴェール(粒子バリアの様なもの)を纏おうとも、空間そのものを断つ斬撃の前には余りに無力であった。

 

 『グギャアアアアアアアアアアァ…!』

 

 ギルギルガンの撃破を期に闇の帝王率いるミケーネ帝国軍の組織的行動は完全に無くなった。

 だが、先程のカイザー同士の衝突により、結構な数の戦闘獣が戦場から吹き飛ばされ、散り散りになって逃げ出していた。

 後にこの時に逃げ延びた戦闘獣の掃討と市街の復興が暫くの間連邦地上軍の仕事となるのだった。

 

 「まだグレートカイザーは見つからんのか!?」

 

 二機の魔神皇帝を除いた戦闘の趨勢が決し、掃討戦並びに生存者の救出活動が開始された頃。

 クロガネ艦長クルト・ビットナー少佐の声がブリッジ内に響く。

 

 「は、はい!本艦並びにシロガネの索敵範囲内からは消えたままです!」

 「U.T.F.にも捜索を依頼しましたが、太陽系内各地に極短時間そう思われる光子力エネルギーの反応があったらしいですが、場所が地球圏からは余りにも遠く…。」

 「何て事だ…。」

 

 このままグレートマジンカイザーの戦闘可能継続時間である10分が過ぎてしまったら。

 そうなれば、周囲の状況問わず機体が崩壊を始めてしまうだろう。

 単に宇宙とか深海とかならばまだ良い。

 問題は戦闘の決着が着く前に時間制限が来てしまい、何も出来ずになぶり殺しになってしまう事だ。

 だが、現状のISA戦隊分隊が甲児達に出来る事は無い。

 故に彼らは正規の軍人らしく自らの職分を全うする事にした。 

 

 「索敵を継続。艦の状況はどうか?」

 「ダメコンは終了。艦の姿勢制御の復旧まで間も無くです。」

 「姿勢制御復旧後、機動部隊の補給と整備を急げ。まだ一波乱あるかもしれん。」

 「艦長、シロガネから通信です。」

 

 通信士からの報告の直後、ブリッジ内のメインモニターにシロガネ艦長リー・リンジュン少佐の神経質そうな顔が映った。

 

 「リンジュン艦長、そちらの様子はどうだ?」

 『酷いものだ。VF部隊の損耗率は死者こそ少ないが機体の半数がスクラップだ。艦もこれ以上の戦闘継続は避けたい状態だ。』

 

 げっそりとした表情を取り繕う事も出来ず、端的に状況の悪さを伝えてきた。

 

 「ならばシロガネは動かせる負傷者を乗せて直ぐに退避を。載せられない機体は廃棄してくれて構わない。」

 『良いのか、新型だぞ?』

 「真に代替できんのはパイロットだ。そのための行動と言えば問題にはならんだろう。」

 

 事実、機動兵器の最も金の掛かる部位と言うものは余程特殊な場合を除いてパイロットが第一とされる。

 現状の地球の情勢を考えれば、今後も多くの訓練と経験を積んだパイロットの価値は上昇する事はあっても下降する事は無い。

 新型VFやMSと言っても、パイロットさえ生き延びれば機体を乗り換えてまた戦う事が出来る。

 加えて、現状の地球において機体の鹵獲を心配する様な勢力は殆どいないと言う事情もあった。

 BF団?アレはそもそもそんなコソ泥的な行動する必要無いし、ゼーレとかオワコンだし。

 

 『了解した。可能な限り負傷者を乗せた後、一時戦線を離脱する。』

 「うむ、頼んだぞ。」

 

 こうして、VF・MS部隊の多くを損失したシロガネは負傷者を乗せて戦場を去った。

 言外の約束として「負傷者を降ろしたら戻って来る」と言って。

 まぁこの戦闘中に戻ってくる事は出来ないだろうなーと思ったが。

 

 「艦長!今度はU.T.F.から通信が入ってます!」

 「何?繋げ。」

 

 先程のリー艦長と同じくメインモニターにU.T.F.の高級自動人形と思われる美しい侍女が映る。

 

 『こちらU.T.F.地球防衛ライン所属自動人形が一人蒼梅です。緊急事態故要件だけ告げさせて頂きます。』

 

 そして、モニターに表示されるのは、二つの物体の地球衝突の予測コースだった。

 

 『グレートマジンカイザー並びにヘルカイザーと思われる物体が光子力研究所跡地付近に落下します。』

 「落下までの時間は!?」

 『後32秒。』

 

 その内容は余りにも急だった。

 

 「総員に告ぐ!光子力研究所周辺から離脱せよ!魔神皇帝が降って来るぞ!」

 「光子力研究所周辺に落着物警報!動けない者は可能な限り頑丈な遮蔽物に身を隠せ!

 「落下まで後20秒!」

 「DF最大出力!総員、対閃光・衝撃防御急げェ!」

 

 そして、星ならぬ魔神皇帝が降って来た。

 大気との摩擦熱で赤熱しながらも尚戦闘行動を一切緩める事無く打ち合う両雄は、一切の減速無しに頭から母なる地球へとダイナミックエントリーをかました。

 その際の衝撃と閃光、轟音の大きさたるや。

 先程のヘルカイザーのルストトルネードすら上回っているのではないかと思わせるものがあった。

 

 「っ状況報告!」

 「二機の落下を確認!状況不明!」

 「本艦の被害状況は軽微!一部で転倒による怪我人が出た模様!」

 

 幸いと言うべきか、直撃でも無いし寸前にDFを展開出来た事もあり、元々同型艦の中で最も装甲の厚いクロガネは無事だった。

 これが艦載機運用特化のシロガネであったら、先のダメージもあって損害は免れなかっただろう。

 そう考えると、先程シロガネを後退させたのは不幸中の幸いだったと言える。

 

 「っ二機を光学で視認!」

 

 ボロボロだった。

 地表への落着のみならず、ここに戻ってくるまでに一体どれだけの戦闘を重ねたのか、両雄は登場時とは比べるべくも無い程にボロボロになっていた。

 全身傷だらけで一部は内部機構が見えており、無事な箇所が見当たらない。

 それでもまだ、粉塵の中からゆらりと立ち上がった両機の動きには一切の淀みが無く、その闘志もまた聊かも薄れていない。

 

 「グレートカイザーの活動停止まで、後10秒!」

 「「「「ッ!?」」」」

 

 告げられたカウントと同時、両雄は地を蹴っていた。

 眼前に映るのは己が宿敵ただ一人。

 互いの因縁と宿命に決着を付けるべく、二機の魔神皇帝は同時に踏み込んでいた。

 

 【真機械道空手奥義…!】

 

 僅かの差で、先に仕掛けたのは闇の帝王/Dr.ヘルが駆るヘルカイザーだった。

 例え肉体を失い、アストラル体になったとしてもその魂に刻まれた技巧は消えない。

 嘗て原初にして終焉の魔神に防がれてしまった時と同じ構えだが、放たれる凄みからそれが以前と同じ通りである訳が無いと分かる。

 

 【ビッグバンパンチ!】

 

 肉体を持っていた頃よりもなお精緻にして速く巧みな正拳突き。

 嘗て覚醒したマジンガーZEROにあっさりと受け止められてしまった拳は、しかし今回は防がれる事は無かった。

 武装の多くを消耗したが故に拳を握りしめての格闘戦に移行せんとするグレートマジンカイザーの左胸、人間ならば心臓に当たる部位に、その拳は命中していた。

 その結果、罅割れ、欠けていた装甲は脆くも崩れ、ヘルカイザーの右拳はグレートマジンカイザーの胸に大きく風穴を開け、背中の試作型グレートブースターの左翼をも貫いていた。

 

 【ワシの勝ちじゃぁ!】

 

 

 

 多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話 完

 

 

 

 なんて事は無かった。

 

 「あぁ、お前の勝ちだよDr.ヘル…。」

 

 大破しながらも、しかし未だ死んではいないグレートカイザーに甲児は最後の命令を下した。

 一万年もの間、己が野望と雪辱のために死ぬ気で準備してきたDr.ヘルの執念に、今の兜甲児では勝てないと甲児は結論した。

 故に機体を使い捨て勝負に負けてでも勝ちを拾う、即ち相手の強さに自分が叶わない事を前提とした作戦を練った。

 それは祖父と父譲りの才能マンであり、年相応以上に自尊心を持っていた兜甲児にとって、余りにも屈辱的だった。

 だが、魔神覚醒事件によって一度は心折れ、さやかの支えによって立ち直り大人になった(意味深)兜甲児にとって、それは真の勝利のために飲み下すべき良薬の様な苦い事実だった。

 Dr.ヘルは、闇の帝王は自分よりも強い。

 自分が勝つにはDr.ヘルの肥大したプライドの隙を穿つしかない。

 その事実を飲み下せるだけの度量が、今の甲児にはあった。

 

 「だから、オレの勝ちだ!」

 

 自身の胸を貫くヘルカイザーの腕をそのままに、グレートカイザーはヘルカイザーに組み付いた。

 これでもう決して逃げられる事は無い。

 ガッツリと組み付いた両機の視線はほぼ同じサイズという事もあって正面から交わる。

 その状態から、これで最後だと甲児は機体の自壊すら厭わぬ限界出力での光子力ビーム発射を命じた。

 

 【お、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおお!?兜、甲児ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!】

 

 Dr.ヘルの知る単純で熱血思考の兜甲児らしからぬ、彼我の実力差を正確に測れたが故の騙し討ち同然の戦法。

 これに対しDr.ヘルは全力の一撃を放った事もあって対処が遅れた。

 グレートカイザーの最後の力を振り絞った光子力ビームが、ヘルカイザーのコクピット、パイルダーへと直撃する。

 その眩しさたるや、まるで太陽が地上にもう一つ現れたが如き極光。

 これを観測していた者達の機体のカメラに自動光量調節機能が無かった場合、間違いなく失明していた程だった。

 

 「く…っ!状況はどうなった!?」

 「光学カメラ回復、メインスクリーンに回します!」

 

 ビットナー少佐の叫びに応える形で、メインスクリーンが再び二機の魔神皇帝がいた場所を映し出す。

 未だ収まりきらない粉塵の中から、瓦礫の様に細かいパーツとなって崩れていくグレートカイザーが倒れ伏す。

 そして、それを見下ろす形でヘルカイザーが未だ仁王立ちしていた。

 

 (ダメだったか…!)

 

 手負いとは言え、あの魔神皇帝に現有戦力のみで対抗できるか?

 余りの耐久力に内心で頭を抱えそうになるビットナー少佐だったが、その苦悩は無意味だった。

 未だ仁王立ちで立ち尽くすヘルカイザー。

 しかし、そのコクピットのあるべき位置は何も無かった。

 僅かな煤と余りの熱量によってやや歪になった装甲を残し、全てが蒸発していた。

 再び光子力の光に焼ける形で、闇の帝王ことDr.ヘルは絶叫と共に今度こそこの世界から消えていた。

 その様子を機体から脱出した兜甲児と弓さやかもまた見ていた。

 

 「今日まで付き合ってくれてありがとな、グレートカイザー。それと、壊しちまってすまねぇ、マジンカイザー。」

 「甲児君が悪い訳じゃないわ。悪いのはDr.ヘルなんだから。」

 「いや、こいつはケジメだよ。」

 

 余りに密度の濃い激戦で傷だらけとなった甲児は、さやかに支えてもらって立つのが漸くの満身創痍だった。

 だがそれでも、己の愛機と祖父の作品を結果的に壊してしまった事には忸怩たる思いがあった。

 

 「オレが未熟で馬鹿だったから、大勢の人々やマジンガーを魔神にしちまった。オレはこれから、その責任と向き合いながら生きていく。」

 

 それは甲児なりの過去への決別であり、覚悟であった。

 ただ罪悪感に呑まれたままでなく、己の意志で償いをしていくと言う決意。

 少年だった兜甲児はもういない。

 ここにいるのは前に進む事を決めた一人の戦士であり、男であり、罪人であった。

 

 「甲児君…。」

 「なぁに、大丈夫さ。オレにはさやかさんに弓博士、鉄也さんにジュンさん、他にも大勢の人達に助けられてるんだからさ。」

 

 

 これ以降、地球上の争乱は一旦の沈静を見るのであった。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 何処とも知れない多次元宇宙にて

 

 【うぐぐぐぐ…兜甲児めぇ…!】

 

 星々の煌めきばかりがある宇宙にて、一体のアストラル体が苦痛と怨恨のままうめき声を上げていた。

 そう、我らがご存知Dr.ヘルこと闇の帝王である。

 粗製とは言え、恒星を超える出力を持つ魔神皇帝の一角の全力の一撃を受けながらも、こうしてまた生き延びていたのだ。

 だが、それが彼にとって幸か不幸かは意見が分かれる事だった。

 

 【許さぬ…許さぬ!あの様な手を使ってくる等、男の風上にも置けぬ!】

 

 自分が今まで散々色々やらかしてきた事を棚上げして、Dr.ヘルは呪詛を紡いでいた。

 

 【例え此処が何時何処であっても!必ず儂は再び戻ってくるぞォ!】

 

 そんな威勢の良い気炎を上げるDr.ヘルだったが、彼が元気だったのもそこまでだった。

 

 【ぬおおおおおおおおおおお!?】

 

 彼の真横、広大な宇宙空間を突如巨大な新緑の閃光が背後から前方へと奔り抜けていった。

 それも一つや二つではない。

 正しく無数と言っても良い程の数が広大な宇宙空間を埋め尽くす勢いで走り抜けていく。

 流星雨にも近い、美しく壮大な光景に目を奪われそうになるが、Dr.ヘルはこれが何なのか直ぐに分かった。

 

 【げ、ゲッタービームだと!?】

 

 そう、この無数の閃光は一つ一つが巨大なゲッタービームなのだ。

 彼の知るどのゲッターロボよりも遥かに巨大なゲッター線の光に、そうだと理解しながらも尚信じられなかった。

 これ程のゲッター線を発生させるには、現段階では戦艦を超えた要塞並のサイズが必要となるだろう。

 そんなものがこれ程無数に?

 どう考えてもまともな場所ではない!

 そこまで考えて背後を、膨大な量のゲッター線が放たれた方へと視線を向ける。

 そして絶望した。

 

 【あ、あ、あああああああああああああ……っ。】

 

 余りにも巨大、余りにも雄大、余りにも荘厳。

 最低でも地球型惑星サイズ、否、宇宙故の距離の誤認で小さく見えているが、本来はそれより遥かに超巨大であろうゲッターロボ(マシン?)と思しき存在が、それ未満の無数のゲッターロボ(マシン?)で構成されている大艦隊を率いていたのだ。

 その数たるや、巨人族のそれを比肩する所か凌駕しているのではないかと思う程の超物量だった。

 

 【これら全てが、ゲッターロボだと言うのか!?】

 

 そして、再びDr.ヘルの背後から正面へ、再び巨大な熱線が走り抜けていった。

 その発射元は先程ゲッター艦隊が砲撃を加えた所からであり、その熱線を一目見て理解してしまった。

 この場所には、奴がいる!!

 再び振り向いたDr.ヘルの視線の先に、それはいた。

 嘗てDr.ヘルを完膚無きまでに打ち倒し、危うく地球すら滅ぼしかけた原初にして終焉の魔神。

 あの世界から何処か異なる時空へと追放された筈の禁忌、マジンガーZERO。

 

 【か、勝てぬ!こやつらには勝てぬ!敵う訳が無い!】

 

 この時点で、Dr.ヘルの心は完全に圧し折れた。

 自分が如何に優れた天才と言えども、出来ぬ事はあるのだと、この超越的存在にまざまざと実感させられたのだ。

 だが、不幸にも彼の運は今最安値を記録していた。

 

 丁度ゲッター艦隊とマジンガーZEROの中間地点に当たる宙域にいるDr.ヘルの周辺の空間が歪曲していく。

 それが空間転移時の予兆であると一目見て理解したDr.ヘルは死んだ目で(もう驚かんぞ…)と諦観に呑まれた眼差しを向けた。

 そして、またも心が圧し折れた。

 

 【な、何だ!?何なのだこやつらは!?】

 

 現れたのは、ゲッター艦隊を超える規模の超々大規模な艦隊、そして巨大惑星サイズの機動要塞、その群れだった。

 遠目に見るだけで、それらを構成する技術が自分では到底及びも付かぬ事を理解しながら、科学者の性としてそれらを目で追っていく。

 そして、気付いた。

 まだ空間転移は終了していないと。

 

 【お、おおおおおおお…!】

 

 それは、ダイソン球と言われるものだった。

 恒星を包み込む程の超巨大な人工構造物。

 だが、コイツはそれだけではない。

 そのサイズに見合う所か遥かに凌駕する極限の性能と星の数程の機能、そして無尽蔵のエネルギー。

 この全貌を伺う事すら許されぬ程の叡智の結晶の出現に、絶望していた思考はそのままに観察に耽ってしまった。

 

 ここは無限の多次元宇宙、その中でも特に強い力を持つ者達のみが存在する事を許される特殊な場所だった。

 無限に進化する機械の化け物、ゲッターエンペラー艦隊。

 原初にして終焉の魔神、マジンガーZERO。

 そして機械の大地母神ユニクロンとTF達。

 その争いの場に、偶然にも迷い込んでしまったDr.ヘル。

 ここに悪の天才科学者の命運は絶望と共に尽きてしまう…

 

 

 『あら?誰かしらこの子。』

 

 

 筈だった。

 

 『どうやらこの空間に迷い込んで来たアストラル体の様です。』

 『如何致しましょう?』

 【ヒェ】

 

 Dr.ヘルは完全に怯え切っていた。

 あのZEROと相対して微塵も怯えもせずにいる存在がまともである訳が無い。

 完全に心折れ、屈している彼はアストラル体なのに生まれたての小鹿よろしく震えながら、ただ恐怖の原因が過ぎ去る事を待った。

 

 『取り敢えず保護して様子を見ましょう。随分と怯えさせてしまった様ですから。』

 『御意、我が母よ。』

 【】

 

 こうして、Dr.ヘルは機械達の大地母神の下で第二の人生を歩み始める事となったのだった。

 

 

 

 

 

 



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第72話 後始末そして次の厄ネタ

 新西暦186年10月に入り、漸く地球上での戦闘は一先ずの終わりを告げた。

 

 しかし、その被害は甚大なものだった。

 戦闘に巻き込まれた市街地と民間人の数もさることながら、未だ旧式兵器を多く運用する地球連邦陸軍は甚大な被害を出していた。

 61式戦車や初期のジムの派生形、戦闘車両や既存戦闘機等を数的主力としている連邦陸軍は量産型特機軍団とも言えるミケーネ帝国軍を相手に成す術なく蹂躙され、その数を大きく減じる事になった。

 熟練の戦車兵や対ゲリラ戦に慣れたMSパイロットを始めとした多くの人員を損耗した事で、以降の陸軍は大きな動きをするだけの余裕を失う事となる。

 空軍もまた虎の子のVF-11を配備したスカル大隊の2割を始めとして多くの損害を被っており、以降暫くは戦力の補充に専念する事となる。

 これは地球上における連邦軍の圧力が減じた事と=であり、今まで連邦の目を逃れていた地下勢力の活動の活発化を意味する事となるのだった。

 また、精鋭で知られるISA戦隊もまた暫くは活動を休止する事となる。

 死者こそ奇跡的に出してはいないものの、多くの負傷者並びに機体の損耗によって暫くの間は部隊として動く事は不可能だったからだ。

 ならば丁度良いとばかりにこれを機に機体の更新やアップデートが行われる事が決定し、パイロットや整備の人員は機体の機種変更に伴う各種訓練に励む事となった。

 

 「父さん、やっぱりマジンカイザーは直ぐには修理出来ないのか?」

 『残念だが、現時点では不可能と言うしかない。』

 

 その頃、すっかりトラウマを払拭した兜甲児は父である兜剣造博士と通信していた。

 

 『マジンカイザーは元々未完成の状態を、Dr.ヘルによって無理矢理起動していた。機体全体の負担が掛かった上にあれ程の激戦の上にあの最後で基礎部分以外総取り換えだ。で、他の量産型グレートを完成させる必要もある。』

 「人手も時間も足りないかぁ。」

 

 現状、ミケーネ帝国による極東方面を中心とした大攻勢を退け、その指揮官たる七大将軍と闇の帝王ことDr.ヘルを討つ事には成功した。

 しかしその被害は余りに甚大であり、戦力の回復が急務であった。

 そのために戦略級とは言えたった一機の特機、それも一度は敵の手に落ちていてトラップが仕掛けられている可能性のある機体にばかりおいそれと構う事は出来なかった。

 先ずは現行の量産型グレートマジンガーを全機+1機(大破した甲児の分)を完成させるのが光子力技術関係者の結論だった。

 

 『だが朗報もある。今回の戦闘により将来的にだが、量産型グレートのカイザーへの完全なアップデートの道筋が見えた。』

 「へぇ、じゃグレートマジンカイザー軍団もいつかは実現するのか!?」

 

 今回の戦闘で改めて実感したマジンカイザーの戦闘能力。

 それが量産機として普及すれば、向かう所敵無しだ。

 甲児はそんな夢想をするが、剣造は無念そうに頭を左右に振った。

 

 『試算してみたが、一機当たりエクセリオン級に比肩する製造コストが掛かると出た。とてもではないがそんな予算は無い。』

 「そりゃ無いぜ~。」

 

 戦略級特機を量産するより強力だけど普通の特機を数揃えてくれ。

 それが地球連邦軍の、そしてトレミィの意見だった。

 だが、後にどうしても必要であると判断したトレミィにより、その辺の予算は何とか都合される事となる。

 なお、このコストに研究費用は加算されていない。

 あくまでも純粋な建造コストだけであり、その云百倍がカイザー系の開発コストとして消費されている(白目)。

 

 『まぁそれも父、十蔵が退院してからだな。下手にカイザー関係に手を出すと自分も混ぜろと病院から抜け出して来るぞ。』

 「あーそりゃ仕方ないわな…。」

 

 更に言えば量産型グレートをカイザー化させるにはゲッター線が不可欠であるため、早乙女賢ちゃん博士ら早乙女研究所の力を借りねばならない。

 魔神覚醒事件後、雪解けを迎えた兜十蔵博士と早乙女博士であるが、それでもやっぱり一方的に敵視していた事もあって十蔵博士の方はまだちょっとギクシャクしている所もある。

 無論、互いに仕事に関しては一切のミスも遅滞も無いのだが……二人が寿命を迎えるのが先か、完全にスクラム組めるのが先か、今現在では誰も分からなかった。

 そんな訳で、甲児が機種変更するのはもう暫く先の事になるのだった。

 こうして、僅かな間だが戦闘の無い比較的穏やかな時間が過ぎるのだったが………事態は彼らの知らぬ所で進行していた。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年10月7日 コンペイトウ司令部

 

 「何、アクシズが移動しているだと!?」

 

 副官からの緊急報告に、休憩していたコンペイトウ駐留艦隊司令官が叫んだ。

 アステロイドベルトに潜伏していたジオン残党軍最大の拠点であるアクシズ。

 それが地球に向けて移動している事が確認されたのだ。

 

 「間違いないのか?」

 「はい。哨戒機の報告の後、改めて偵察部隊を出しましたが間違いないかと。」

 「えぇい、このクソ忙しい時に…!」

 

 旧ソロモン要塞・現コンペイトウは各サイドを守る連邦駐留艦隊とは別にコロニー並びに地球圏の防衛を担当する連邦宇宙軍艦隊が所属している。

 その隻数こそ少ないものの、その質は宇宙軍の中でもずば抜けている。

 土星や共和連合、連邦首都ダカールのあるアフリカ、月面に配置されたエクセリオン級を除いたロールアウト済みの3隻全てが所属しており、更にシズラーシリーズも中隊規模で存在している極めて有力な艦隊になっている。

 そんな彼らはその戦力に応じた広範囲をカバーしており、今回の一件もそれ故に彼らが最初に発見した。

 

 「直ぐに総司令部に連絡。それと艦隊の出撃準備だ。エクセリオン級三隻とシズラー隊全てを含めてだ。」

 「は、は?エクセリオン級とシズラーもですか?過剰過ぎませんか?」

 

 アクシズに逃げ込んだのは、所詮は一年戦争中に多数の戦争犯罪を行った残党兵である。

 当時の基準では有力な戦力だろうが、現在の機動兵器は日進月歩の勢いで発展し続けており、ミノフスキー技術のみの第一世代型MSや当時の艦艇。そこから多少独自に発展させているとしても…どう考えても相手にならない。

 そんな連中相手に艦隊を動員するのは、一見にして確かに過剰戦力に見える。

 

 「連中が何の勝算も無く動くと思うか?」

 「…昨今の侵略者騒ぎに乗じるつもりでは?」

 「それも有り得る。だが、私が考えているのはもっと最悪のケースだ。」

 

 ジオン残党として、嘗ての一年戦争の続きでもやろうとしているのか?

 或いは戦争犯罪者のならず者らしく、連邦軍の勢いが減じたこの機に乗じて大規模な海賊行為でもしようと言うのか?

 だが、それにしては少々不自然だ。

 アクシズにいるのは海賊行為にしても今まで連邦軍にギリギリ排除されない、民間には積み荷の被害しか出さないように注意していたコソ泥共に過ぎない。

 そんな志等微塵も無い破落戸共が今になって地球にアクシズを向かわせる?

 

 「アクシズが侵略者共に寝返っている可能性がある。」

 「は?それは……有り得なくは無いですな。」

 

 ホームである地球上に突如侵略者が現れる昨今、アステロイドベルトにいきなり侵略者が現れても不思議ではない。

 その戦力に屈して、命惜しさに従う事も同じ位の確率だろう。

 

 「総司令部のみならず、各サイド駐留艦隊と月面にも情報を知らせろ。最悪、アクシズの破砕作戦を行わねばならん。光子魚雷のチェックを怠るな。」

 「了解です。直ぐに取り掛かります。」

 

 こうして、地上の次は宇宙だとばかりに状況は動き出した。

 

 

 ……………

 

 

 冥王星宙域 ???? 

 

 「で?」

 

 ズール銀河帝国所属のとある艦隊にて。

 ギシン帝国に併呑された星系国家の一つ、キャンベル星人の運用する大型母艦セント・マグマ。

 キャンベル星人の総司令官に当たる女帝ジャネラはその美貌に青筋をビキビキおっ立てながら部下の報告を聞いていた。

 

 「て、敵施設の制圧に向かった陸戦隊は僅かな生存者を残して…全滅しました。」

 

 殺気立つ自国の権力者、雲上人とも言える女帝を前にして、報告に来た士官はガタガタ震えながら、それでも職分を果たすべく報告を続けた。

 

 「既に現地名称『冥王星』は今まで執拗だった敵側の妨害工作が殆ど無かったため、放棄されているものと判断し、敵のものと思われる施設に対して陸戦隊を用いての制圧作戦を行いました。しかし、最深部にこちらの兵士が到達したと同時に施設全体が爆発し、離れた場所で待機していた者のみ生き残りました。」

 

 冥王星、そこはU.T.F.にとってそれなりに重要な拠点だった。

 この冥王星付近の宙域には巨人族の兵器・兵士を生産可能な工場衛星が複数存在しており、これらを接収して無人化改装を施した巨人族艦隊を生産していたからだ。

 普通ならそう簡単に移す事も出来ず、ここでズール銀河帝国相手に地球人類より先に戦端を開く事になるかと思ったが…

 

 『人工衛星なら移動できるでしょ。取り敢えず位相空間に移しておきましょ。』

 『畏まりました。』

 

 という偉い人の御言葉により、現在の冥王星には人類が築いた最低限の観測施設とトラップのためのダミー施設だけが置かれていたのだ。

 今まで散々罠や嫌がらせを受け、鬱憤を溜めていたズール銀河帝国軍所属となった元キャンベル星人現植民地兵達はその感情のまま突っ走り、こうしてU.T.F.側の狙い通り「汚い花火」と化したのだった。

 

 「今回の件で最も責任ある者を拷問の後、処刑せよ…ッ。二度とこの様な無様を妾の前に晒すな!」

 「は、ははぁ!!」

 

 報告を終えて命じられた士官は恐怖で顔色を真っ青にしつ、あっと言う間にジャネラの目の前から駆け去っていった。

 

 「クソ、このままでは我らは敵と戦う前に陛下に消されてしまう…!」

 

 そう言うジャネラの顔には、深く深く苦悩と恐怖が刻まれていた。

 

 

 ズール銀河帝国軍艦隊、その中でも外様である植民兵所属の彼女らが地球連邦と戦端を開くまで、もう残り僅かだった。

 

 

 

 



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小ネタ会話集その24

今年初めてもらったムロンさんからの小ネタ集+αです。
色々あって大変ですが、今年も頑張って更新していきたいと思います。


 

・閃光の保健衛生大臣

 

 「メッシャーさん、これほどの費用の捻出は都市復興計画に影響が…」

 「しかしねぇ、私たちとしては国民に対して安全な生活を保障する立場にいるのだから…。」

 「私、月影もメッシャー大臣に対して支持を表明します。未知の病原体による健康被害、外来種による生態系への影響。これらをおざなりにすれば都市の復興どころではなくなります。多少無理をしてでも早急な対処が必要なのです!」

 (なんで月影大臣がここで?……そうか、確かムゲの連中のせいで欧州の生態系にかなりの被害が出たんだったか。)

 (ただでさえ蜥蜴どもがばら撒いた植物や生物の対処で首が回らなくなりかけてるそうだし、来年度の予算獲得に必死ってわけだ。)

 (となるとどこに皺寄せがいくかだが…まぁNERVだろうな。例の対使徒用特機、金がかかる割にまともな成果出せていないし。)

 

 地球連邦内閣会合での一幕

 結局のところ地球人同士の内戦であった一年戦争と異なり異星人や異次元人と言った所謂『外来種』との戦争である今次大戦。

 必然的に地球には存在しない病原体や生物・植物が無遠慮にばらまかれ、その対処に連邦政府は日々頭を悩まされていた。

 幸い該当地域の民間人の大半が完全に閉鎖された循環型地下シェルターに避難していたため大規模な伝染病の蔓延などはなかったものの、一部地域では増殖した外来植物に対して空軍によるスーパーナパームを用いた焼却処理が行われるなど連邦政府が1世紀近い期間を費やして復活させてきた自然環境に相応の被害が発生。

 積み重なる軍事費や外宇宙移民船団の建造費にあえいでいた連邦政府の頭痛の種が更に増えることとなった。

 ちなみに少しでも予算を節約するべく目立った成果を出せていないNERVへの予算が大幅にカットされ、その穴埋めのためにゼーレは傘下の企業から金をかき集める羽目になったとか。

 

【補足】

 

 〇メッシャー大臣(ハイラム・メッシャー)

 

 地球連邦の保健衛生大臣。

 さほど有能な人物ではないがこの非常事態において過激思想に傾倒するわけでもなく無難に職務を遂行する程度の冷静さと能力はある…いやまぁただマイペースなだけなのだが。

 異星人らに対しての防疫措置関係の対応策や法整備が整っていない中で戦争が始まってしまったので現在はデスマーチ中。

 本来ならば『閃光のハサウェイ』の時代の人物であるがZガンダムとVガンダムがほぼ同時期の機体として存在するスパロボ時空においてその程度の時系列の違いは意味がなかった。

 たぶん2021年で最も有名になった架空の政治家ってこの人なんだろうなぁ。

 

 〇月影大臣(月影剛士)

 

 地球連邦の環境大臣。

 年齢は40(スパロボwiki調べ)と閣僚の中では若い方だがその能力は高く、地球環境再生にかける熱意も凄まじい。

 志を同じくするジャミトフ・ハイマンや東方不敗マスターアジアらとは個人的な友人関係。

 環境省は連邦政府の設立目的の一つとして『環境問題の改善』が据えられている関係上非常に強い権限を持ち予算も優先的に配分されている…のだが度重なる侵略行為とそれに伴って発生する生態系へのダメージに対して対処能力が飽和しつつある。

 『宇宙戦士バルディオス』が参戦していないため本来はこの世界に存在するはずのない人物だが『戦国魔神ゴーショーグン』において主人公であるマリンがカメオ出演したことがあるという因果が巡ってきたのかなんかいた。

 アルデバロン軍とかは存在していないので安心して欲しい。

 

 ○環境省と保健衛生省が嫌いな侵略者トップ3

 

 3位:恐竜帝国

 白亜紀の頃からマシーンランド内で独自に進化した生物や植物がくっそ厄介。

 おまけに機動兵器が病原体の宿主となりうるメカ・ザウルスなので戦闘終了後は周辺を封鎖して徹底的な除染を行う必要がある。

 それでも他に比べると根本的には地球の動植物なので“まだ”対応が楽な部類。

 

 2位:ズール銀河帝国

 地球と一切関係のない=耐性がまるでない病原体を持ち込む危険性のある連中。

 一応共和連合から医学的なデータを無償で提供してもらっているので手に負えないわけではないが厄介なことには変わらない。

 そのため連邦軍には『大気圏外での撃滅』を強く要請していた。

 地上軍の装備更新がいまいち捗らない理由の一つ。

 

 1位:ムゲ・ゾルバドス帝国

 異次元とかいう宇宙以上に隔絶した環境由来の動植物が怖すぎる。

 おまけに連合も接触したことのない勢力なので活用できそうなデータの蓄積がまるでない。

 挙句の果てに宇宙軍の防衛線を素通りしていきなり地球に現れたのでなんの対策もできないままヨーロッパ全体に未知の病原体や植物が蔓延。

 先人たちの成果である再生した森林や河川を自らの手で破壊するに及ぶまでやってなんとか鎮静化に成功した。

 あとムゲ・ゾルバドス軍の行動半径内に生身で侵入した軍人を含めた人間すべての検査とかもさせられた。

 直接的に仕向けたわけではないが被害が拡大した原因の1つに地上軍の装備更新の遅れが挙げられるので若干肩身が狭い。

 ほんとムゲとか○ねばいいのに。

 

 ◯NERVの扱い

 

 内閣「おめえの予算ねーから!」

 NERV「えっ!?」

 

 一般職員は悪くないかもだが、彼らの上司とバックが真っ黒過ぎるので残当。

 

 

 

・現場の皆さん

 

 『こいつぁまた酷いな…。』

 『全員焼却作業急げ!』

 『くそ、なんでオレ達がこんな…。』

 『ぼやくな。これも連邦軍人として大事な仕事だ。』

 

 ムゲ帝国軍によって生物汚染されてしまった森林地帯の焼却作業をする火炎放射器装備のジムⅡ部隊の通信ログ。

 ムゲ帝国軍によりヨーロッパ方面全体に未知の病原体や植物が蔓延し、挙句それらの影響を受けて既存の生物種が変異する事例も多発していた。

 これを防ぐべく、旧式化したジムⅡや各種車両にヘリ等が中心となって火炎放射器やナパーム弾、テルミット弾等を用いて各地で焼却作業を行っていた。

 作業中は全員がパイロットスーツやノーマルスーツ、防護服等の着用が義務付けられ、破ったら厳罰に処される等、徹底した汚染対策が取られた。

 破った者が未確認の菌類に寄生され、内側から全身に侵食されて「カビ人間」や「茸人間」化した事例が周知されてからは破る者は出なくなった。

 作業終了後も道具や機体、人員の除染作業を終わるまで、決して気を抜く事は出来ないので兵士達からの人気は低いものの、地球環境の保全のために地上での戦闘が終息している現在、最優先で行われていた。

 中には嘗てティターンズに所属していた素行に問題のある兵士等もいたが、汚名返上として積極的にこの様な仕事を押し付けられていたりする。

 

 【捕捉】

 

 ○ジムⅡ火炎放射器装備型

 リアアーマー(腰部背面)に燃料タンクとそこにチューブで繋がったMSサイズの火炎放射器を装備した機体。

 元は歩兵用のものを大型化した上で燃料を噴出する勢いが強化されただけの火炎放射器を装備しただけであり、大型の車両や他のMSサイズの機体にも装備可能。

 最初に運用されたのはムゲ・ゾルバトス帝国の撃退後だが、これ以降は地球人類以外の生物や異星人相手との戦闘後に居住可能地域(コロニーや移民船含む)にて運用される事となる。

 設計段階で既に旧式も旧式だが、生物災害の予防や侵略的生命体への有効性から改良されながら末永く使用され続けている。

 

 

 

・清掃の達人

 

 『ヒャァッ!汚物は消毒だ~~!』

 『そ~れコンガリ焼いてやるぜ~!』

 

 一年後、火炎放射器による清掃が癖になってしまった人達。

 普通の兵士達の間では嫌われ者の元ティターンズ兵士達だが、火炎放射器による焼却作業中は感謝されたり重宝される事から癖になってしまい、その道のプロと化してしまった。

 そこに話を聞き付けて残っていた他の元ティターンズ兵も周囲との折り合いの悪さからあれよあれよと集まり、更に仕事の多さから対生物災害対策の専門部隊化、そして止めに保険衛生大臣から直々に「よくやってくれた!」と保健衛生大臣功労賞を授与する事となる。

 何故か機体をジオン風のスパイク付き肩アーマーにしたり、頭頂部センサーをモヒカン風にカスタムする者が多く出たが、何故かは不明である。

 同部隊は戦争終結して暫くの後に解散したが、蓄積されたノウハウは後の生物汚染対策へと活かされる事となる。

 そして彼らの多くは解散後は軍を除隊し、皆で集まって焼肉屋・ステーキショップ・バイク屋を営むようになり、平和に暮らしたと言う。

 

 【捕捉】

 

 ○ジムⅡ火炎放射器装備型ヒャッハー仕様

 前述の機体の現地改修機の一つ。

 何故か肩部アーマーにスパイクが追加され、頭頂部のセンサーがモヒカンの様に大型化されている。

 それ以外は普通のジムⅡ(原作ジムⅢ)のまま。

 

 

 



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第73話 ズール銀河帝国

ようやく投稿。
最近仕事が忙し過ぎる…。
しかもお世話になった上司や同僚、先輩の皆さんが移動&退職で主力メンバーががががが

いやこれどうすんねん???


 ズール銀河帝国はズール皇帝を頂点とした多くの居住惑星並び種族で構成された恒星間国家である。

 ギシン帝国及びギシン星を本拠とし、ズール皇帝の独裁体制の下に多数の星へと侵略戦争を行い、多数の支配惑星と夥しい犠牲者を築いてきた。

 その余りの無法ぶりと大戦力から他の大勢力とも度々衝突し合ってきた、この銀河系でも特に危険な勢力の一つである。

 全方位所か内部からすらも凄まじい怨恨と憎悪を向けられているこの帝国が未だ国体を保っている理由はただ一つ、ズール皇帝の恐ろしさ故であった。

 

 ズール皇帝、その正体は負の無限力の一つ、様々な星々の悪の思念体とも言える存在だった。

 

 目的の為には手段を選ばない冷酷非情で極悪な性格を持ち、自分の意思に逆らう者は絶対に許さず、即刻抹殺を命ずる。

 それでいてその実力はこの銀河でも五指に入る程だ。

 サイコドライバーに比肩或いは凌駕する程の超能力を持ち、それでいて死者の魂を操り、他者の負の感情を糧として無尽蔵に超能力を振るうと言う悪夢の様な存在だ。

 その性格と性質故にズール皇帝は配下の命に頓着しない。

 必要だろうが不必要だろうが幾らでも平然と使い潰すし、平然と残虐な戦術を取る。

 何せそうして死んだ配下の魂も負の感情も自分の力に変換するし、自分の配下全軍よりも強化され続ける自分一体の方が強力だからだ。

 

 そんな最悪の存在の配下であるズール皇帝に従うズール銀河帝国軍。

 それに敗れて、或いは戦わずして屈した他種族や他惑星人で構成される外様の先遣艦隊はある種異様な士気の高さを持ってトラップのあった冥王星を超え、現在の地球人類の最終防衛ラインである土星へ向けて進軍していた。

 彼らの士気の高さの理由、それは極々単純なものだった。

 

 負ければ死ぬ、退けば死ぬ。

 なら前進あるのみ。

 戦って勝利を掴み、生き延びる。

 

 自分達と言う防衛戦力のいなくなってしまった母星、そこに住む人々。

 彼らに何かあったのではないか、彼らともう会えなくなってしまうのではないか。

 それらも当然心配で仕方ないが、それ以上に自身に迫る死こそが彼らには恐ろしかった。

 ズール皇帝と言う絶対的圧制者の存在によって裏打ちされた不退転の決意。

 それが彼らを動かしていた。

 既に母星を失くした者達も多いが、彼らも絶望に押し潰され、ズール皇帝に従っている点に差は無い。

 しかし、そんな身勝手な理屈を地球人類が受け入れる理由は無かった。

 

 『右舷デブリ帯よりエネルギー反応感知!』

 

 不意にデブリの中から艦隊の中枢へ向け、ビームが放たれた。

 その一撃は通常の艦艇ならば一撃で撃破されただろうが、先遣艦隊旗艦であるセント・マグマの強固な装甲はそれに耐えきった。

 

 『敵の位置情報を確認。反撃開始。』

 

 そして、警戒していた艦隊外縁部の艦から即座に反撃が加えられる。

 直後、デブリと共に設置されていた自動砲台は爆散し、再び宙域に静寂が戻る。 

 太陽系に入ってからこっち、常にこんな感じだった。

 最初は無人機、次に自動砲台、そして正体不明のステルス機による攻撃。

 地球人類側(正確にはU.T.F.のヴァルチャーや無人戦闘機等)のハラスメント攻撃により、不退転の覚悟を持たされていた先遣艦隊の面々は碌に休む事も出来ず、集中力に欠け、ギラギラと殺気立った状態だった。

 先日なぞ、亜光速(それも光速の98%以上!)で比較的小型の艦艇群(るくしおん級の小艦隊)による大型のミサイルや無数の小型爆弾による通り魔的な一撃離脱を受け、母艦に戦艦、小型艦等に10隻近い被害が出たため、警戒を厳にし続ける必要があった。

 この状態が吉と出るか凶と出るか、それが分かるのはもう少し先の事。

 彼らの目指す土星、そこの基地に集まった旧ジオン公国並びに地球連邦宇宙軍艦隊と遭遇するまでもう間も無くだった。

 

 

 ……………

 

 

 地球連邦宇宙軍土星基地総司令部

 

 「そうか、連中は狙い通り警戒したまま向かってくるか。」

 『はい閣下。攻撃と受けてからの反撃までの時間や精度が以前より向上しています。』

 『無人化が進んでいるなら兎も角、運用に多数の人員を用いている有人艦でこれは問題かと。』

 

 総司令たるドズル・ザビ中将はハラスメント攻撃を担当しているるくしおん級5隻からなる小艦隊の艦隊司令、そしてU.T.F.の太陽系外縁部防衛担当者より敵先遣艦隊の情報を聞いていた。

 

 『大凡こちらのハラスメント攻撃は十二分に効果を発揮していると思われます。しかし…』

 『これ以上は欲張り過ぎですな。向こうが本腰を入れてデブリの排除や強行偵察のための部隊を出して長期戦の構えを取るかもしれません。』

 「そろそろ仕掛け時と言う事か…。」

 

 ここ数ヵ月、土星方面軍は大幅に後退したU.T.F.に合わせ、太陽系へと来襲する異星人艦隊の侵攻を少しでも遅らせるべく、様々なハラスメント攻撃を続けていた。

 機動兵器や快速のるくしおん級を用いた奇襲に固定砲台や浮遊機雷による行動の抑制、そして位相空間へ潜航可能なU.T.F.無人兵器群による各種工作。

 一番最初は冥王星基地の自爆による敵歩兵部隊への打撃、そしてそれを囮として敵艦隊にヴァルチャーを用いたビーコンの設置だった。

 これにより敵艦隊の位置はこちら側に常に丸見えであり、効果的な足止めを行えていた。

 そう、足止めである。

 

 数ヵ月前、未だ土星基地は異星人艦隊、ズール銀河帝国軍の宇宙艦隊を撃滅するための準備が整っていなかったのだ。

 

 無論、理由がある。

 地球連邦の母星である地球で地底から、異世界からやってきた侵略者達。

 即ち地底種族連合にムゲ・ゾルバドス帝国、そしてミケーネ帝国の侵攻により、地球は一時壊滅の危機に陥りかけたのだ。

 更に更に魔神覚醒事件ことマジンガーZEROの存在により、太陽系各星域に展開する宇宙軍すら危うかった。

 何せ無尽蔵の光子力エネルギーを持った恒星間規模の攻撃を放つ恐るべき存在なのだ、彼らの混乱も責める事は出来ないだろう。

 ある程度事前にその存在を知らされていたレビル首相や軍最上層部ですら、データではなく実際に目にする事でその危険性を漸く正確に認識したのだから。

 本来の予定通りならば冥王星基地で一当てして時間を稼いだ後、土星基地に集結した旧ジオン軍と更新済みの連邦宇宙軍の艦隊複数で数と地の利を持って戦う予定だったのだが…魔神覚醒事件、そしてミケーネ帝国の侵攻によってその予定は大きくずれた。

 地球に援軍に行くべきだ、いやここは防備を固めるべきだ、先ず総司令部からの命令を待つべきだ。

 混乱した宇宙軍は即応体制を堅持しながらも、その実際は混乱の坩堝と言うべき状態だったのだ。

 何せ連邦政府首都ダカールのあるアフリカや連邦軍総司令部ジャブローのある南米も一連の戦いで戦場となったのだ。

 通信・索敵関係が一年戦争以前よりも劇的に向上し、上からの命令が太陽系の何処にいても届くようになった結果、実際の戦場以外で「現場の判断」をする事は困難となっていた。

 そのため、混乱こそしていたものの、しっかりと指揮系統が機能していたが故に勝手な行動を取る者は出なかった。

 各艦隊や防衛部隊の司令達もこの事態に対して司令部へと問い合わせし、迂闊な戦力の分散を避けるべく別命あるまで待機しただけで、常識的な対応であったと言える。

 

 しかし、その常識的な対応故に、今現在土星基地は半ば孤立していた。

 

 太陽系の植民済みの星、即ち金星-地球-月-火星-木星-土星間(+共和連合の辺境惑星)にはチューリップ型ゲートを用いた銀河ハイウェイが設置され、待ち時間僅か数日から一月程度で自由にゲート間を移動できる。

 この銀河ハイウェイを軍籍の船はほぼ無条件で優先して使用可能であり、本来ならば連邦艦隊もその予定だった。

 

 『報告します!現在、地球から民間の避難船が大量に…!』

 『何だと!?』

 

 例え優先通行券が軍艦にあっても、それを行使できない状況とあっては意味が無い。

 短期間に幾度も地球へ襲い来る侵略者に、富裕層や宇宙船を有する中小企業までもが大慌てで地球から夜逃げしており、その大渋滞に邪魔され、艦隊が通行できなくなっていたのだ。

 無論、こういう時のために誘導マニュアルは存在するのだが、想定していた数の十倍所か百倍近い隻数がいきなりやってきたため、完全にパンクしていたのだ。

 大渋滞の内訳は地球圏発で、出口は火星・金星・木星の何れかだった。

 火星は既に人口は環境汚染の発生しない上限いっぱいとは言え短期間なら住めるし、文明も発展して快適に暮らせる。

 金星はまだまだ開拓基地が設置されるも過酷過ぎる故に開発はスローペースだが、新たな人手は大歓迎だ。

 木星は太陽系で現在最も開発ラッシュの高まっている資源惑星であり、仕事は多種多様で大量にある。

 こんな感じなので、しっかりと準備出来ていて仕事への意欲があるのならどの星でもなんとかやっていける環境が揃っている。

 そしてチューリップ型ゲートのお陰で移動も比較的短時間かつ楽と来た。

 フットワークの軽い人種が戦闘が終結するまで避難を考え、実行するには十分な要素が揃っていたのだ。

 この時ばかりは地球人類の発展に協力し続けていたA.I.M.のトップも頭を抱えたとか。

 未だ地球連邦宇宙軍の主力艦艇のほぼ全てがフォールド機能は搭載しておらず、亜光速戦闘対応仕様に改修するので精一杯だったのも痛かった。

 かと言って一年戦争時の様に大型ブースターを付けて半年から数ヵ月かけて地道に移動するとか本末転倒だ。

 彼らを落ち着かせ、最寄りの補給ステーションやコロニー等に移動させ、艦隊が通行できるようになるまでかなりの時間がかかり、結局地球上での敵勢力の撃滅に成功、地球上の安全が分かった事でこの夜逃げ渋滞は漸く解消した。

 その結果、土星基地を目指して移動する予定だった月・火星方面から抽出された艦隊は総司令部からの追加の命令もあり、やっとこさ移動を開始した頃には、既に冥王星基地は落ち、土星基地にも敵が迫りつつある状況だった。

 

 『土星基地への増援が到着するまで後三日の予定となっておりますが…。』

 「ゲートと基地の防衛を考えると、我々だけでは厳しいものがあるな。」

 『はい。ですが、グランドキャノンを使えばいけるかと…。』

 「…仕方あるまい。敵先遣艦隊の予定コース上に合わせてグランドキャノンの発射準備を行う。」

 

 こうして、地球圏が漸くの小休止を迎えた頃、遠く土星では地球人類が主体となる初の対異星人迎撃作戦が始まろうとしていた。

 



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第74話 ズール銀河帝国その2

今回は説明回
具体的な土星基地VS先遣艦隊の戦闘は次回からです。


 さて、新西暦186年10月10日現在における地球連邦宇宙軍土星基地の戦力について見てみよう。

 

 各種艦艇

 ムサイ改級巡洋艦×70

 チベ改級重巡洋艦×30

 サラミス改2級巡洋艦(空母仕様と艦隊砲撃仕様合計)×200

 ムサイ級防空仕様×30

 ドロス級×2

 グワジン改×7

 エクセリオン級×1

 他補給艦含む支援艦艇×50

 

 各種機動兵器

 ジェガン×1000

 ゲシュペンスト×1000

 ゲルググ改(高機動狙撃or砲撃仕様)×1000

 ザク改(狙撃or砲撃仕様)×500

 ビグロ改×50

 各種デストロイド×500

 

 戦略兵器

 グランドキャノンⅠ(改良型コロニーレーザー)×1

 光子魚雷×多数

 ???

 

 これがズール銀河帝国襲来以前から配備されていた土星基地の戦力である。

 艦隊は未だ来れないものの、襲来が察知された時点でジガン系量産型特機(スクードとスパーダ双方)が10機ずつ、更に予備機としてガーリオンとバタラが予備パーツやオプション込みでそれぞれ一個大隊分、そして余剰分としてA.I.M.にプールされていたるくしおん級5隻が送られている他、潤沢な物資も補充されている。

 ここに本来ならば火星・月方面から抽出された優良装備の宇宙艦隊が揃う予定だった。

 そう、予定だった。

 結果だけ言えば、彼らは間に合いそうに無かった。

 他ならぬ地球連邦市民の手によって。

 

 『あんな人の殆ど住んでない場所よりも俺達を助けてくれ!』

 『地球にはもう安全な場所なんて無い!他でやり直すんだ!』

 『夫達に私達だけでも逃げろと…。他に行き場も無いんです。』

 『何であんなジオン共に加勢する!それよりも私を守りたまえ!』

 

 銀河ハイウェイに殺到する大量の民間所属船舶によって大混雑状態のゲート周辺宙域に、移動予定だった艦隊は頭を抱える事となった。

 銀河ハイウェイを構成するチューリップ型ゲートは当初、強力なDFを安定して展開可能な艦のみが通行可能だった。

 しかし…

 

 「んー…これだと商業利用しづらくない?」

 「では、非武装の小型艦でも利用可能なように外付けのDF発生装置等も追加いたしましょう。」

 

 な ん と い う こ と で し ょ う。

 これでは折角のハイウェイによるお手軽空間跳躍が主目的の商業利用し辛いだろうと気を利かせたA.I.M.がやらかしてしまった。

 その結果が民間用小型船舶向けの装備である追加式DF発生器である。

 追加式と言っても、単に外にポン付けするフィールドジェネレーターだけではない。

 ナデシコ級の特徴たるDブレードに大容量バッテリーと要重力波受信アンテナ、位置調整可能なアポジモーター類にドッキング用アーム、遠隔操作のための受信アンテナ等を追加したものを二基一対で運用する。

 対象の小型船舶(サイズによっては複数も可)を二基の発生器で挟み込み、アームでお互いを固定する。

 そして必要量のDFを発生させ、チューリップ型ゲートをくぐれば、その役割は終わりである。

 極短時間のみ安定した高出力のDFを発生させるだけならば、態々大仰なジェネレーターは必要ない。

 十分な量のバッテリーとそれをほぼ常時充電させる要重力波ビーム発生器と受信アンテナさえあれば十分事足りる。

 この追加式発生器よりも大きな船舶は流石に無理だが、そういった船舶は自前のジェネレーターとDFを持っているのでそもそも必要無い。

 一応四基二対の追加式発生器を同期させれば可能だが、追加式発生器への負荷の大きさから余程の緊急時でない限りは許可されない。

 使い終わったらドッキングを解除して、無人でゲートを経由して送り還すか、他の船舶に使用してまた別へと跳んでいく。

 この装置のお陰で太陽系内、そして共和連合辺境とは極めて活発に商業取引及び物資の移送が盛んとなり、常時戦時経済化しかけていた地球連邦経済の復活のカンフル剤となっていた。

 そのためチューリップ型ゲートの利便性は地球連邦市民、特に宇宙での運輸業や大企業ならばよく知る所となっており、結果として今回の様な事態へと繋がってしまった。

 地球人類にとっては無くてはならなくなったと言う点では大成功であったものの、当初の想定以上に頼られるようになってしまったのはA.I.M.の、U.T.F.の珍しい大失敗であった。

 

 加えて言えば、地球連邦の宇宙艦隊再編計画の方にも問題があった。

 地球連邦政府として言えば最優先すべきは最も票田が多い地球であり、他はその次であり、文民統制下にある連邦軍もまた最優先防衛目標は地球である。

 で、地球全体を守るとなると、外縁部を設定して太陽系外からやってくる敵勢力を撃滅していくのが上策であるのだが、ここで政府と軍で揉めた。

 政府の多くは一年戦争以前と同様に考え、地球圏外縁にルナツーを始めとしたジオンから接収したゼダンの門(旧ア・バオア・クー)やコンペイトウ(旧ソロモン)等の宇宙要塞とそこに詰める艦隊戦力で十分だと考えていた。

 巨人族等であればそれでもまだやりようはあっただろうが、宇宙怪獣と言う極め付けに危険な存在を知った地球連邦軍はそれでは不足と判断した。

 何せ亜光速で機動する億どころか兆単位の敵勢力である。

 その程度の戦略的縦深では時間稼ぎも出来ずに滅ぼされるのが関の山だった。

 故に既存艦隊の亜光速戦闘対応仕様への更新のみならず、亜光速戦闘を前提とした新型艦艇や機動兵器類の開発と大量生産、それらを運用する大量の人材の教育を求めた。

 具体的なデータに基づく戦略予測をし、しっかりとプレゼンもしてある程度この辺りのコンセンサスは取れた。

 しかし、やはり予算と時間と人手の問題が当初の計画案を破棄させてしまった。

 何せ戦後は軍縮して経済を回さねばならない。

 人類史上最大規模の人類間戦争であり、億単位の人命が失われたのだから尚の事。

 何よりも荒れてしまった地球と破損したコロニーの修復と人々の生活再建は急務だった。

 故にせめて水際防御は完璧に行うべく、連邦軍は地球圏所属の艦隊は最新鋭艦及び機動兵器類で揃える事となった。

 結果的に連邦政府側が当初提案した再編計画に近い形になってしまった。

 

 更に言えばこれは連邦政府及び軍内部の反ジオン感情を持つ者達にも原因があった。

 一年戦争時、ジオンの手により家族や友人、恋人等の親しい相手を失い、場合によっては故郷を滅ぼされた者達。

 彼らの恨みは当然ながら凄まじく、例え太陽系の端っこと言えども自分達の生活を滅茶苦茶にしやがった連中を許す事は出来ず、あの手この手で旧ジオン軍が中核となっている土星基地へとあらゆる妨害工作を行い続けた。

 止めようにも政府高官や軍人がかなりの人数がこれに参加しており、下手に止めると盛大な政争に発展する恐れがあった。

 しかもこれ、下手に止めると「ザビ家を支持した」サイド3市民の方に飛び火しかねなかった。

 そのため、ガス抜きの意味も込めて連邦軍内部ではこの動きをある程度は黙認する事となってしまった。

 が、勿論ながら軍内部で特にそれらしい理由もなくやらかしたのなら盛大に修正され、関わった者は最悪再訓練や降格を命じられるのだが、それはさておき。

 

 こうした理由で予定よりも大幅に遅れてしまった土星基地の戦力配備だが、その戦力は決して脆弱なものではない。

 先ず、人員が一年戦争当時からの生え抜きやベテランが多く、元々MSの運用に長けたジオン兵である事から機動兵器部隊の練度に関しては特筆すべき所がある。

 そうした人員の特性を活かすべく、機動兵器類は最新鋭量産期たるジェガン系やゲシュペンスト系が多数揃えられており、支援用機の数も多い。

 艦艇類も構造的欠陥が多いものの全てが亜光速戦闘対応仕様を始めとした大幅な改修が加えられた事で、問題点の多くを解消している。

 そして旗艦にして戦略級万能戦艦であるエクセリオン級や多数の光子魚雷、そしてグランドキャノンの存在。

 艦艇の更新は地球圏防衛が優先されたために大幅に遅れてこそいるものの、十分に有力な戦力と言えた。

 

 だが、それは土星基地の既存戦力だけでズール銀河帝国に勝てる事を意味しない。

 

 ズール銀河帝国軍がその支配領域を出発した当初、その艦体数は補助艦艇を除いて約1万隻という現在の地球人類からすれば途方もない物量だった。

 それが太陽系に来るまでにU.T.F.や誘因された宇宙怪獣やインベーダー、巨人族に他の大勢力からの横槍によって約3千隻まで減少した。

 そこから外様の被支配領域所属の艦艇のみを集められた先遣艦隊が約500隻で、それが更に妨害によって疲弊していき、現在では約450隻だと推定されている。

 数字上では地の利がある事を考えると、そう差は無いように思える。

 

 だが、幾ら艦隊を撃滅した所で、敵の最大戦力にして最高権力者であるズール皇帝には決して敵わない。

 

 敵艦隊を撃滅し、ズール皇帝一人となった所で、それは地球連邦側の勝利を意味しない。

 寧ろ、そんな状態は敗北と言っても良い。

 負の無限力の化身、宇宙に満ちる悪の思念体であるズール皇帝にとって、自身の配下の艦隊と死した敵兵の全ての負の念を手に入れた状態は正に絶好調。

 個体戦闘能力でこの銀河において五指に入るズール皇帝にとって、今回の遠征は嘗て同類たる他の負の無限力の化身を討った地球人類(より正確にはその先史文明)への雪辱が叶うまたとない機会であり、未だ育ち切らぬ自身の脅威の芽を摘む重要なものだった。

 

 こうした多くの思惑を孕みつつ、遂に土星基地の防空識別圏へとズール銀河帝国先遣艦隊が近づいて来た。

 ここに地球人類主体となる初の対異星人防衛戦争が始まった。

 時は新西暦186年10月10日、太陽系に未だ安息の時は遠かった。

 



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第75話 ズール銀河帝国その3

 新西暦186年10月10日 現地時間で04:00。

 遂に土星圏へと到着したズール銀河帝国軍先遣艦隊が、グランドキャノンの有効射程内へと入った。

 同時、耐用限界ギリギリの140%までチャージしたグランドキャノンが先遣艦隊へ向けて発射された。

 

 『か、艦隊正面より高エネルギー反応来ます!』

 『全艦回避運動!』

 『ダメです、間に合いまs』

 

 事前の工作でリアルタイムに相手の位置情報を確認した状態で、尚且つ効果範囲の広い戦略兵器で外す事は難しく。

 狙い澄まして放たれたグランドキャノンの一射は嘗ての一年戦争時代よりも遥かに強化されていた事もあり、たった30秒間放たれただけでズール銀河帝国軍先遣艦隊の約4割を飲み込んでいった。

 

 「グランドキャノン、敵艦隊中央を貫通!被害甚大!」

 「よぉぉぉし!これより掃討作戦に移行!各員、所定の作戦を実行せよ!」

 

 その光景を見ていた土星基地総司令部に詰めるドズル中将は即座に追撃を命じた。

 敵は指揮系統が乱れに乱れ、混乱の真っただ中だ。

 如何に太陽系外の優れた技術を持った軍勢であろうと、烏合の衆となればその力を十全に振るう事は出来ない。

 斯くして、先遣艦隊は哀れにもスコアを献上するだけの存在に…

 

 『こちらはベガ星連合軍所属、ベガ大王である。艦隊司令官であったジャネラが死亡した故、一時的にワシが指揮権を預かる。戦闘終了後、生き延びておったら改めて正当な者に指揮権を返す故、今は堪えてほしい。』

 

 ならなかった。

 この艦隊はズール銀河帝国軍の内、被植民星出身者らのみで構成されている。

 中には自分の星では頂点に君臨する者も当然ながらいた。

 そして、この先遣艦隊において実質的なNo.2、艦隊副指令とも言える男が彼ベガ大王であった。

 なお、本来の副司令官はジャネラと同じ旗艦セント・マグマに搭乗していたダンゲル将軍であったが、ジャネラ共々蒸発済みである。

 嘗て優れた科学技術を以て繁栄していたフリード星の侵略に成功したベガ星の王であるベガ大王の手腕は確かなもので知られており、現在他の各指揮官が指揮権の掌握に動けていない現状、彼が暫定的な指揮官になったのは自然な流れだった。

 

 『全艦は艦載機を発艦しつつ、迎撃態勢を取れ!敵の攻撃はこれからが本番である!』

 

 ベガ大王の通信の直ぐ後、先遣艦隊目掛けて飛来するものがあった。

 

 『接近する反応多数!これは…隕石群です!』

 

 隕石群にブースターをポン付けし、質量兵器として使用する。

 嘗てア・バオア・クー攻防戦でも用いたジオンでは馴染みの戦法である。

 しかもここは土星圏、土星の環には使い道のない岩石なんて無数に存在する。

 軽く100を超える隕石群の雨に、未だ混乱から立ち直っていない先遣艦隊は轟沈する艦こそ出なかったものの、その混乱に拍車を掛けられた。

 突然の事態に効果的な迎撃を行えた艦は殆どおらず、少なくない艦が隕石に命中して小破、一部では無理な回避運動によって味方艦と衝突する事すらあった。

 それでも恒星間文明の軍艦なだけあって頑丈で、完全に戦闘力を喪失する事は無かった。

 これだけならばまだ何とか建て直せたのだが…これはまだまだ序の口でしかなかった。

 

 『ッ!?隕石の中にミサイルが紛れているぞ!』

 

 飛来する隕石群、その一部は旧式ながらも大型対艦ミサイルが幾つも混ざっていたのだ。

 その多くは外れるか、途中で隕石と衝突して爆発してしまったものの、運よく命中したものは見事に敵艦を撃破する事に成功していた。

 だが、土星基地の面々はその多くが一年戦争を戦い抜いたベテランのジオン兵である。

 彼らの真に得意とする戦術はそれではない。

 

 『な、隕石の中にロボットがいr』

 

 先遣艦隊の中の一隻が何かに気付き、通信を繋げるが一手遅かった。

 偽装用のダミーバルーンの排除と同時、この日のためにカスタムされたゲシュペンストmk-Ⅱがジェネレーターと直結した有線式大型ロシュセイバーを振るい、真っ先に気付いた艦のブリッジを両断した。

 次いで、僚機が止めとばかりに反応弾頭のバズーカを破壊されたブリッジ跡から艦内へと直に叩き込み、轟沈させた。

 

 『ハッハァ!これだけ混乱してたら食い放題だな!』

 『全機、敵艦隊へ攻撃開始!母艦を優先して狙えよ!』

 『つってもおかしな形の艦ばっかで分かんねぇぞガイア!』

 

 一年戦争時代のジオン軍エース達に率いられた、ベテランパイロット達の駆る機動兵器部隊による奇襲である。

 彼らは隕石に偽装したダミーバルーンを纏ったSFS(足りない場合は大型ロケット)を足として、先遣艦隊へと奇襲を仕掛けてきたのだ。

 こんな出鱈目な作戦、連邦軍では一部の例外を除いて絶対やらないだろうが…彼らはMSでミノフスキー粒子とNジャマーで混乱した連邦の艦隊を蹴散らしたジオン軍だった。

 高機動・格闘戦の得意なジオン系エースパイロット達はゲシュペンスト系を好む者が多く、彼らもまたその例に漏れない。

 ゲシュペンストmkーⅡ(ジオン共和国仕様)スーパーフルアーマー

 全機がオプションパーツマシマシの豪華仕様であり、殆どの機体が通常のフルアーマーに加えて反応弾或いは光子弾頭を装備した対艦戦闘を念頭に置いた特別仕様であった。

 その分バランスや汎用性は死んでいるが、その程度苦も無く乗りこなすからこそ彼らはエースであり、ベテランだった。

 黒い三連星もまた、黒と紫で塗装された三機のゲシュペンストmkーⅡ(ジオン共和国仕様)スーパーフルアーマーを駆り、戦場へとやってきた。

 

 『異星人の艦隊…これ以上好き勝手はさせない。』

 『全機、敵艦隊は混乱している!今の内に落とせるだけ落とすぞ!』

 

 『異星人とかさぁ…やだやだ、もっと平和に出来ないのかねぇ。』

 『言っても仕方あるまい。』

 『降り掛かるなら払うしかないですよ、隊長。』

 『しゃーねーなっと!キマイラ隊、出るぞ!他に遅れを取るなよ!』

 

 『ここで戦果を上げねばエースの名折れだ。行くぞ!』

 『『『『『『『『了解!』』』』』』』

 

 旧リビングデッド師団所属サイコザク大隊。

 キシリア旗下精鋭キマイラ隊。

 そして白狼シン・マツナガ少佐率いるベテラン部隊。

 土星基地守備隊を除いた土星方面軍の中でも上澄みも上澄みのパイロット達が、先遣艦隊へと襲い掛かった。

 

 

 ……………

 

 

 (ぅ……。)

 

 

 音の無い宇宙空間、旗艦であったセントマグマの僅かな残骸と共に、先遣艦隊司令官であった女帝ジャネラは未だ息があった。

 と言っても、幾ら地球人類よりも頑丈なキャンベル星人と言えども、もう数分程で死体となるだろうが。

 

 (あぁ…妾の艦隊が…。)

 

 烏合の衆だ何だと言えどもそれなりに長く苦楽を共にしてきた同胞達の艦が、次々と落とされていく。

 特に円盤獣やベガ獣、マグマ獣を多数運用可能な母艦であるマザーバーンやブランブルが集中して狙われており、その内部の艦載機の殆どと共に沈められていった。

 出撃に成功した機体は何とか奮戦しているが、未だ奇襲の利が消えていない上に相手側が相当な練度を持っているのか、攻撃が殆ど命中しておらず、反撃で逆に沈められていく始末。

 先のグランドキャノンの一撃もあり、最早先遣艦隊はその戦力の半分以上を失っている状態だった。

 歴戦のベガ大王が無事ならば、何とか艦隊を立て直せるだろうが、それでもこれ程の損害を負ってしまったら最早趨勢は決しただろう。

 

 (何故…こんな事に…。)

 

 何度目かも分からない意味の無い自問自答。

 かと言って、降伏は即ち死だ。

 敵に正面から殺されるか、支配者に背後から殺されるかの違いでしかない。

 そして、ズール皇帝には誰も勝てない。

 もう何十年と前、ズール銀河帝国に屈して以来、キャンベル星も多くの星々と同様に隷従の日々を過ごしている。

 まるで猫がネズミを甚振るが如く、遊び半分で嬲り殺される人々。

 反乱は幾度も起き、しかし当然の如く鎮圧され、降伏すれども処刑されていく。

 絶望しかない、ただ息をする事さえ難しい日々。

 そんな中、唐突に始まったのが今回の遠征だった。

 支配領域のほぼ全ての戦力をつぎ込んだ、余りにも無茶な遠征に流石に反対の声も上がったが…結果は言うまでもない。

 外されたのは余りにも旧式でとても付いてこれない様なオンボロ兵器や老兵、訓練兵達だけ。

 今、自分達の母星がどうなっているのか知る事も出来ない。

 そして、分かっていた事だが、無茶な遠征は余りにも過酷だった。

 ゼ・バルマリィ帝国、共和連合、破壊者、巨人族、インベーダー、バッフクラン、その他多数。

 この銀河系に住まうあらゆる敵対勢力からの攻撃を受けながらの強行軍。

 寄せ集めとは言え一億に達した大艦隊の威容も過去の話であり、残ったのは半数未満1割の約3000隻と自分達非支配領域出身者の寄せ集めの500隻。

 そして、当然の様に敵の情報収集と露払いのために使い潰される自分達。

 

 (だが…もうこれで…。)

 

 これ以上苦しむ事は無い。

 薄れ行く意識の中、ジャネラは僅かにほほ笑んだ。

 

 『ほう?何処へ行こうと言うのだジャネラよ?』

 

 だが、邪悪は未だ彼女を見放していなかった。

 

 『どうやら死にかけておる様だな。今までワシによく仕えてきた褒美だ。最後にもう一働きする栄誉をやろう。』

 『何、結果はどうあっても変わらん。今一度、ワシを楽しませるが良い。』

 

 (ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?)

 

 もう終わる筈だったジャネラの身体に、何処から情勢を監視していたズール皇帝から力が流れ込んでいく。

 それは古い壊れかけの玩具を子供が無理矢理もう一度動かそうとするが如く。

 キャンベル星の司令官、女帝ジャネラの身体が暗黒のエネルギーを過剰なまでに注がれ、絶望と苦痛と共に不気味に膨れ上がっていった。

 

 「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 やがて旗艦セントマグマと比肩する程に巨大化させられたジャネラはその口から炎を、目からは光線を放ちながら、苦痛を紛らわす様に周辺の目に付くもの全てへと攻撃し始めた。

 

 

 ……………

 

 

 「マスター、一大事です。」

 「どったん?もう大概の事じゃ驚かなくなった自信あるけど。」

 「ズール銀河帝国本艦隊を追跡させていた回天が全て撃沈されました。現在、本艦隊の位置情報を見失っております。」

 「…コードRED・パターンG発令。地球連邦政府にも直ぐに警告を。」

 

 

 …………

 

 

 「機は熟したか。」

 「では、こちらも動こう。」

 「第七艦隊は全艦ワープ準備。目標は火星圏近傍。」

 

 事態は予想以上の速さで深刻に、しかし着実に動いていた。

 

 

 

 




先遣艦隊壊滅&ジャネラ怪獣化。
パターンGはギシン帝国のG。
そしてコードレッド発令と忘れられてたあの連中が…。

回天=第二章10話に登場。無人外宇宙調査用航宙艦「回天」型。銀河中に派遣されてる情報収集用。普段は位相空間に隠れてる。


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第76話 ズール銀河帝国その4

今回は半分以上説明回。



 新西暦186年10月10日 現地時間で04:30。

 

 『潮時だな。撤退するぞ。』

 

 散々に暴れた後、突如巨大化して暴れ狂うジャネラを前にして、土星ジオン軍精鋭部隊はシン・マツナガ少佐の号令によりあっさりと撤退した。

 既にしてグランドキャノンと隕石群、ミサイルにロケット、そして精鋭部隊による奇襲により、ズール銀河帝国先遣艦隊に対して十分な戦果を挙げていた。

 これ以上欲をかいて手痛い反撃を貰い、敵を勢いづかせる事をマツナガ少佐は良しとしなかった。

 

 『ま、こんだけやれば十分か。』 

 『だな。これ以上は欲張り過ぎだ。』

 『了解。こちらも撤退する。』

 

 黒い三連星、キマイラ隊、元サイコザクことサイコMS隊もそれにあっさりと同意する。

 

 『各自、10カウント後に残った射撃兵装を一斉射。後に最大加速で離脱する。担当者は置き土産を忘れるなよ。』

 

 対艦戦闘を前提とした装備であったが故に、その総弾数は少ない。

 マシンガンやビームライフルを殆どの機体が装備しておらず、ミサイルやバズーカ、ロケット砲等を除けばマシンキャノンやバルカン、ビームガン兼サーベルが精々とあってこれ以上の戦闘継続は聊かきついものがあった。

 

 (なんかバーサーカー染みたデカいのが出て来て同士討ちしてる。異星人版強化人間かな?面倒だな。弾も残り少ないし戦果も十分だし帰るか。)

 

 大体そんな思考回路の末、土星ジオン軍精鋭部隊はあっさりと残った弾薬を景気よく撃ち尽くし、最後に殿をした部隊がコンテナに入れていた機雷をありったけ撒き散らして撤退していった。

 残ったのは壊滅状態の先遣艦隊と、巨大化して暴走を続ける女帝ジャネラだけだった。

 そりゃースパロボプレイヤーでもないのに敵の全滅を目標にするわきゃーないのでしたとさ。

 

 『えぇい、何たる失態か!各員は負傷した味方を回収しつつ、巨大化したジャネラを攻撃!最早味方等と思うな!』

 

 ヤケクソになったベガ大王の命令を、先遣艦隊は実行する他になかった。

 

 

 ……………

 

 

 同時刻、土星基地司令部

 

 「奇襲部隊、当初の目標を達成したため撤退を開始。追撃は無い模様。」

 「よし、先ずは成功だな。戦闘データは直ぐに全て友軍に送れ。値千金だからな。」

 

 幸い、グランドキャノン及び精鋭部隊による奇襲は大成功に終わった。

 詳細は未だ分からないが、敵先遣艦隊の半数近く(ジャネラが暴れた分合わせて6割)をも撃破しており、これ以上ない結果と言えた。

 

 「まだ気を緩めるなよ。正念場はここからだ。」

 「分かっております。何せ我が艦隊は…。」

 「弱いからな。ここまでやっても気が抜けん。」

 

 旧式、そう旧式である。

 旗艦であるエクセリオン級、先日追加されたるくしおん級を除き、主力艦艇は全て旧ジオン公国製の艦艇を改修して何とか使えるようにしただけの旧式艦ばかりのお寒い限りだった。

 この土星基地にまともな旧ジオン兵達が送られた際、先ず真っ先に取り掛かったのが土星圏の開発、次に対異星人用の装備の確保であった。

 で、いきなり問題にぶち当たった。

 

 どう考えても土星圏の旧ジオン戦力だけでは勝てない。

 

 彼らがその結論を出すのに、三日もかからなかった。

 それを薄々気付いていたドズルは、その事実を青い顔して進言した参謀陣に寧ろ労りの言葉をかけた程には当然の事実であった。

 何せア・バオア・クー攻防戦で現れたゼントラーディ艦隊、それも一つの基幹艦隊の極々一部でしかないそれにボコボコにされたのだ。

 基幹艦隊一つ来ても人類全てが簡単に殲滅されて終わるだろう。

 そんな連中を相手に太陽系を守り切る?無理だろ(マジレス)。

 

 「兄貴が言っていた。こういう時はA.I.M.に頼れと。」

 

 そういう訳で、安心と驚愕のA.I.M.(土星支店)の出番である。

 そして、駆け付けた彼女らが真っ先に行ったのは、既存艦艇の大規模改修であった。

 

 「ムサイ級…設計元は民間輸送船?ダメでしょう。」

 「チベ級…旧式の連邦軍戦艦の改修型。まぁいけますね。」

 「グワジン級…元は豪華客船?無駄が多過ぎますね。」

 

 ムサイ級は主砲が正面にしか向けない&構造的に脆弱。

 チベ級は問題らしい問題が無いが、一年戦争時既に旧式。

 グワジン級はもう、ツッコミ所しかない。

 

 「無駄に広い謁見の間、使い辛い第二砲塔、碌についてない近接防御兵器。」

 「映画館に音楽ホールとは…米帝の原子力空母ですか?」

 「この羽と空力的形状は…大気圏突入のため?なのに強度不足でできない?は???」

 

 正直、全部解体したくなったが、それは政治的問題によって出来なかった。

 あんまり艦隊が強化された場合、アホが欲を出して「一年戦争再び!」な事態になる可能性があるので、連邦政府への配慮もあって新型艦艇は基本的に作成・保有共に禁止されていたのだ。

 そのため、既存艦艇を強化するしかなかったのだ。

 

 「無いものねだりをしても仕方ありません。早速改装を始めましょう。」

 

 全ての艦種に共通した改装としてエンジンブロックを相転移エンジンと最新のミノフスキー式大型融合炉の併用式へと換装、そして貧弱な構造を補強すべくスペースチタニウム製の装甲で表面を覆い、索敵系を対亜光速戦闘対応仕様へと更新し、更にはテスラドライブとDFまで追加した。

 これらの改装は地球連邦宇宙軍でも行われている一般的なものであり、大量のパーツもあるので比較的早く済んだ。

 

 「先ずは数的主力であるムサイからですね。」

 

 このムサイ、勿論ながら問題山積みである。

 元の設計が民間輸送船であり、軍艦として再設計された際に多少は強化されたが、そもそも構造が脆弱であり、砲塔配置も死角が多く、何よりMS運用を前提にした軽空母的性質が強い癖にカタパルトや飛行甲板の類が無いのだ。

 一応改良された後期型もあったのだが本格的な改修ではなく、カタパルトも折り畳み式の簡易的なものであり、使い勝手が悪かった。

 加えて、細い上部と下部の船体を繋ぐ部分=主砲塔の設置場所が細く、その中にMSや物資の運搬通路があるためにやたら脆い。

 それでも本格的に一からノウハウ無しで設計するよりはマシとされ、コスト面は優秀だったので運用され続けた。

 

 「ほぼほぼ新造になりそうですね。」

 「パーツ類は連邦のサラミス級のものを使って費用を浮かせましょう。」

 「パーツの規格合わせが大変ですが…まぁ我々なら出来ます。」

 

 現状、ムサイに必要な性能は純粋な戦闘力と母艦機能である。

 よって、それに不必要な機能は徹底的に削られた。

 艦首のコムサイは撤廃され、代わりに格納庫と直通の甲板付きカタパルトを設置した。

 また、エンジンブロックとブリッジに挟まれた空間(元は大気圏突入カプセル等の設置場所)は装甲で覆って密閉し、艦の一部とした。

 これにより艦内の容量が大幅に増加し、搭載可能な物資やMS数の増加(7→10機)を実現した。

 また、船体各部にサラミス級に採用されているミサイル砲台や単装式メガ粒子砲、レーザー機銃等を追加して死角を潰し、艦体側面には簡易版Dブレードも追加してDFの出力・安定性双方を強化した。

 従来の三つの主砲は他が増えた分二つに減らしたものの、連邦式の採用済みメガ粒子連装砲へと交換し、射撃精度・射程距離だけでなくジェネレーター出力の劇的な向上により威力も含めたあらゆる性能が強化された。

 外見だけを見れば、艦体下部のデッドスペースの消えたムサイ級後期型とドズルの乗ったワルキューレ(オリジン仕様)、ムサカの相の子とも言うべき代物であった。

 

 「次はチベ級ですか。」

 「こちらは後期型のティベ級を参考にするから楽ですね。」

 「ですがあの機銃の配置は頂けません。」

 

 全てのチベ級は艦をティベ級に準ずる形へと大幅改装、その上で艦首MSカタパルトに甲板を追加した。

 艦内容量やMS搭載数(10機)も十分であった事から、後は武装をムサイ改と同様にサラミス級の既存武装へと交換、各部に追加した。

 元となったティベ級が次世代艦艇の先駆けとも言われる完成度を誇っていた事から、こちらは予想通りあっさりと終わった。

 

 「問題はグワジン級ですか。」

 「ザビ家関係者や将官の脱出用だったり、艦隊旗艦だったり、地球圏~火星間航行が可能だからか装備や艦内施設がホテルが如きですね。」

 「元が豪華客船の設計を流用していますからね、仕方ありません。」

 「この各部の羽、実は大気圏内飛行のためだそうですよ?大気圏突入時に強度不足で壊れるから無しになったそうですが。」

 

 艦首にブリッジがあるわ、大会議室は兎も角音楽ホールや映画館に謁見の間や広過ぎる執務室があるわ、第二砲塔が正面に撃てないわ、下部の副砲類が役立たずだわで問題が多過ぎた。

 長期間の航海を考えれば、確かに娯楽施設の設置は必須だが、各種技術発展により余程の拘りが無ければそこまで大仰な設備は不要であり、その殆どが撤去された。

 が、娯楽設備の質自体は良いものだったので、後に土星基地へと移設された。

 第二砲塔は撤去された後に上部に突き出る形で新しいブリッジ(塔型)を設置し、空き容量に艦隊指揮所が追加され、その艦隊指揮能力を大幅に向上させた。

 更に下部の副砲類の配置見直しとマゼラン級向けの武装類の追加、更にDブレードを側面に4枚設置する事でグワジン改は完成した。

 これら一連の改装が全て終わるまで約2年間が経過しており、その間に主力機たるMS類もほぼ新型に刷新されていた。

 この作業の速さは何だかんだで連邦がしっかりと出資(A.I.M.提供とは言え)していたためであり、市民感情とは逆に冷静な判断が出来ていた証でもあった。

 

 だが、ここまでやってもなお、ドズルら土星基地司令部は一切の楽観を捨てていた。

 

 「相手は遠い宇宙の彼方から態々やってきたんだ。辺境の田舎者である我々相手に降伏する事なんざ有り得ん。決して索敵を怠るなよ!確実に次がいるからな!」

 

 こうして、土星駐留艦隊とズール銀河帝国先遣艦隊の戦いは次の段階へと移っていった。

 

 




よくジオンはあんな艦艇で戦争しようと思ったよマジで…。
翻って連邦軍の箱型船体に武装ガッツリがどれだけ効率的かがよく分かる。


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小ネタ会話集その25

久々だったからちょっと文章がおかしいかも?
次は土星編の続きを進めたいと思います。


 ・頑張れ開発現場!

 

 「るくしおん級の改修要求?」

 「えぇはい。結構来てます。」

 「性能に整備性、コスト面でも問題は無い筈だが…?」

 「いえ、艦橋の配置を他の艦種と統一してほしいと。」

 「あー。」

 

 るくしおん級。

 地球人類において公式では初のA.I.M.社製亜光巡洋艦である。

 設計段階から亜光速巡航及び戦闘機動を考慮されており、他にも最新のEOTを始め先進的な設計を多く盛り込まれている。

 宇宙空間は元より大気圏内や高重力下での運用も可能であり、その亜光速巡航性能とバスタービーム砲も合わせて巡洋艦クラスとしては破格の性能である。

 が、その分艦載機運用能力はMS4機搭載が限界で、実際は3機で運用されている。

 今回はそれに加え、この艦の艦橋の位置が艦首にある事が問題視された。

 他の連邦軍制式採用艦艇はどれも艦橋は艦体の上部に設置され、艦全体及び周囲を光学で見通せる仕様となっている。

 るくしおん級の場合、正面からだと最も被弾しやすい位置に艦橋があり、これが現場で問題視されたのだった。

 

 

 

 ・頑張れ開発現場!その2

 

 「となると、艦橋を上部に移すべきか。」

 「待ってください。下手に動かすと生産に影響が出る可能性が。」

 「艦体上部のバスタービーム砲もどうします?撤去ですか?」

 「艦首に移しては?」

 「それだと結局被弾時に使用不能に…。」

 「そもそも配線関係どうします?」

 

 あーだこーだあーだこーだ。

 議論の末、艦橋配置は艦体中央上部へと移動される事となった。

 但しコスト圧縮のため、艦橋構造物は現在量産されているクラップ級駆逐艦を改良したものを流用している。

 また、艦体各部に設置されている4つの観測室(臨時艦橋として機能可能)をサラミス級やマゼラン級と同様の左右二つに削減、上部バスタービーム砲を正面に移設の他、各種アップデートも行われる事となった。

 このタイプはるくしおん級後期型とされ、前期型も後に全てが同様の改修を施される事となる。

 

 

 

 ・頑張れ開発現場!その3

 

 「以上が、るくしおん級改修の流れとなります。」

 「あちゃー。もう少し考えて設計しとけばよかったかしらね?」

 「はい。地球帝国宇宙軍で採用されていたとは言え、対宇宙怪獣は想定外でしたし、これを期にアップデートも進めていこうかと。」

 「んじゃよろしく。今後はもう少しこっちの人類向けに気を付けて設計していきましょうね。」

 

 A.I.M.会長とその秘書もといU.T.F.最高指揮艦とその部下の会話。

 これを期に既存兵器の再設計や更新が更に進んでいく事に…

 

 「しかし、現状艦艇ドックはどこもいっぱいいっぱいです。全艦改修するにはそれこそ2年はかかる見込みかと。」

 「…まぁ生産急がせてるんだし、そりゃそうよね。」

 

 ならなかった。

 現状でも開発・生産とそれに伴う事務方は限界ギリギリまで頑張っており、これ以上は急ぎようが無かったのだった。

 

 

 

 ・頑張れ事務方!

 

 「「「「「………………。」」」」」

 

 時刻は深夜2時頃。

 A.I.M.を除いた各軍需企業に連邦軍の後方事務方は常にデスマーチ。

 休日なんて幻、休憩はトイレと食事のみ、その日必要な仕事だけでも限界ギリギリなのに何か起きると直ぐ追加。

 仕事終わっても風呂かシャワー浴びてすぐ布団にGo!するだけの日々が続く。

 前線の兵士と比べても何ら遜色のない消耗率を持つのが彼ら事務方である。

 地上での戦闘が終息傾向にある現在、消耗した戦力の補填のためにも彼らは働き続けるのであった。

 でも今だけは皆静かに夢の世界へ旅立っていた(4徹目)。

 

 

 

 ・頑張れ事務方!その2

 

 「も、もういやだあああああああべしッ!?」

 「職員のストレス値限界到達を確認。鎮圧します。」

 「鎮圧対象は圧縮睡眠ベッドへ。一時間の休息を許可します。」

 「了解。これより移送します。」

 

 「主任ー新入りが鎮圧されましたー。」

 「放っとけ。それより次だ次。」

 

 ある日の某所の事務方の光景。

 時折、余りのブラック労働ぶりに発狂する者が出て来る。

 だが、そういった人間は何処からともなく現れた自動人形達により鎮圧され、何時の間にか設置されたA.I.M.製圧縮睡眠ベッドへと叩き込まれる。

 これは1時間の睡眠で5時間分の睡眠効果を得られる所謂タンク・ベッドであり、本家銀英伝のものと違って副作用等は存在しないが、念のために一日一回限りの使用に限定されている。

 寝心地にもしっかり配慮されているし、何だったら緊急時における脱出ポッドとしても機能するので軍だけでなく民間にも結構出回っている。

 現在、地球人類の事務方には必須の品として注文が相次いでいる。

 

 

 

 ・頑張れ科学者!

 

 『流石は専門家ね。こんな短期間にここまでなんて…。』

 『恐れ入ります。しかし、まだまだあの魔神には届きませぬ。』

 『構わないわ。私達に時間制限なんて有って無きが如し。気長に、しかし確実に進めましょう。』

 

 とある遠い時空の彼方。

 偶然の女神ならぬ機械の大地母神に拾われたDr.ヘルならぬ闇の帝王は、その身の安全と引き換えに彼女に仕える事となった。

 マジンガーZERO対策を目的とした光子力エネルギー研究開発部門の主任として。

 無論、厳重な監視はされているが、ヘル自身としてもTF達の持つ凄まじい叡智は如何に彼が天才でも直ぐにものに出来る程浅く狭いものではない。

 寧ろ人間のままだったら早々に諦めていたであろう圧倒的な質と量を持っていた。

 世界を、宇宙を泳ぐ図書館。

 叡智、文化、他愛もない思い出、美醜も貴賤も関係ない。

 過ぎ去った栄華も、今まさに謳歌されている繁栄も、いずれ花咲く萌芽も、宇宙のあらゆる煌めきの欠片を集めて漂う宝石箱。

 例え滅んでも、無意味な終末であったとしても、彼らはずっと覚えてくれる。

 その永久の輝きの一部を自身の手で作る事を、色々あって多少は丸くなったDr.ヘルは望んでいた。

 無論、何時かは兜甲児へリベンジする予定だが、今は先ずは足元を再び固めるべきだと判断していた。

 そんな訳で今現在、ヘルの手によってTFの光子力関連技術は大幅に進んでいた。

 しかし、ヘルの永い月日を掛けた研究とその人類の限界を超えた頭脳を以てしても、未だZEROという壁は高かった。

 

 

 

 ・頑張れ科学者!その2

 

 『で、私達によく似た子達がいたと言うのは本当なの?』

 『はい。TF達の基本構造等は見させて頂きましたが、機械生命体である事だけでなく、余りにもよく似ているかと。』

 『うーん。私達の知らない私の子供達、かぁ…。ちょっと信じられないけど、調べてみるべきかしら?』

 

 流石の内容にちょっと気になってるユニクロン様のご様子。

 彼女にとって子供達と自分によく似た存在はその性質上有り得る。

 なにせそういった存在の知識や技術も多く吸収して、更に自己流で昇華してここまで成長してきたのがTFなのだ。

 機械生命体で高い知性と技術力を持っている程度ならば探せば割とよくいる。

 しかし、Dr.ヘル並の科学者の言う「似ている」となると話は異なる。

 少なくとも放っておくべき事ではないのは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第77話 ズール銀河帝国その5

 新西暦186年10月10日 現地時間約06:00

 

 『敵勢、指揮系統は回復した模様。陣形を整え、向かって来ます。』

 「よし、全軍作戦開始!我々を舐め腐っている異星人共に目に物見せてやれい!」

 

 ここに人類史上二回目となる対異星人相手の大規模会戦、即ち第一次土星沖会戦が火蓋を切った。

 とは言え、先遣艦隊の末路は最早見えていたが。

 

 『やはりか。全艦、戦闘開始!後ろを見せるな、狙われるぞ!』

 

 どの道、奴隷未満の敗北者達で構成された先遣艦隊に生き残りの目は無かった。

 唯一勝ちの目があったであろう巨大化した女帝ジャネラも、自分達の手で討つ羽目になった。

 もし彼らが出血覚悟で土星艦隊まで誘因したのならまだ分からなかったが…そんなIFに意味は無い。

 

 『各砲座は任意のタイミングで撃ち方始め!』

 『了解!うちーかたーはじめー!』

 

 神経を擦り減らされ続けた長い航海。

 グランドキャノンによる戦略級砲撃。

 精鋭部隊による奇襲。

 そして女帝ジャネラの暴走。

 それら諸々を合わせ、既に先遣艦隊の数は当初の3割、即ち150隻程度にまで減っていた。

 

 『各艦は密集陣形にて射撃を一点に合わせよ!散開すれば狙い撃ちされるぞ!』

 

 そんな逆境の中、先遣艦隊はよく頑張った。

 既に頼みの物量すら負け、万全の状態で待ち構える土星艦隊を前にして、彼らは決して逃げなかった。

 逃げて味方に殺される位なら、戦場で敵を殺し、殺される形で果てたい。

 そんな捨て鉢な願いを抱えて、彼らは前に進んだ。

 

 『各衛星の砲台群、順調に稼働中です。』

 『指定の小艦隊を除いて決して突出するなよ!性能はこちらが下なのだ、常に数的優位を取って確実に撃破しろ!』

 

 だが、土星艦隊にとって彼らの存在は侵略者以外の何物でもない。

 或いはNTやエスパー達ならば彼らに対して手を差し伸べたかも知れないが、今ここに彼らはいない。

 その素養を持つ者達は僅かながらいるが、そんな事をする権限も理由も余裕も無い。

 

 『へ!このジガンスクードがその程度で落ちるかよ!』

 『量産型だって、特機は特機なんだよ!』

 

 敵を誘因する囮として意図的に突出した小艦隊だが、彼らも何の策も無く前に出ている訳ではない。

 彼らと共にに配備されたジガンスクードⅡとグラビリオンを盾として利用する事によりその被害は大きく限定される。

 そして、目の前の敵に集中している先遣艦隊に対し、残りの土星艦隊が攻撃を加える。

 しかもやたらめったらに攻撃するのではなく、複数の艦が一つの敵艦に攻撃を集中し、確実に撃破していくのだ。

 単艦の戦力で劣るなら、戦術と物量で勝つ。

 嘗て地球連邦軍にそれをやられ、遂には敗北した旧ジオン軍だからこそ、その戦術に対する研究は特に念入りに行われていた。

 まぁ一年戦争当時のジオン軍では、どう足掻いても数を用意できないので再現するのは諦めていたのだが…それは兎も角。

 現在は補給は潤沢、装備も豪華、人員も充足。

 そして何よりも指揮系統が統一している(=内ゲバの心配が無い)!

 敵は強大だが、十二分に勝てるだけの状況は揃っていた。

 

 『…艦隊直掩の機動兵器部隊はまだ温存せよ。』

 『し、しかしそれでは!?』

 

 不利を覆すために機動兵器部隊による敵艦隊への打撃は常套手段である。

 しかし、先の奇襲によって機動兵器母艦を多く撃沈された結果、艦隊直掩機位しかまともに残っていない。

 この極めて不利な状況の中で、ベガ大王は一縷の希望を目指して覚悟を決めた。

 

 『このままでは磨り潰される。本艦隊はこれより敵陣中央へと突撃する。』

 『な!?』

 『敵陣中央を突破し、敵の大型旗艦を討つ!それしか我らの生き残る見込みは無い!復唱!』

 『り、了解!敵陣中央へと突撃します!』

 『機動兵器部隊は敵陣への突入と同時に攻撃開始!可能な限り暴れて敵を混乱させよ!』

 『ははぁ!』

 

 限られた手札の中、ベガ大王の指揮は的確だった。

 このまま平押しでは物量と戦術の差で全滅する。

 ならば、手遅れになる前に賭けに出る。

 多くの衛星に配置された砲台群を除けば、土星艦隊の陣形は立体的になった鶴翼である。

 即ち、陣形そのものは薄く、中央突破或いは打撃を与える事が出来れば生き残る目も出て来る。

 無論、とてつもなく分の悪い賭けではあるが。

 

 『艦隊各位へ。これより一分後に当艦隊は敵陣中央に対し突撃を行う。敵陣突破後は各自の判断で行動されたし。全ての責任は指揮官であるこのベガ大王にある事を明言しておく。』

 

 これは事実上の特攻に近かった。

 勝機なんてほぼ0なのは分かり切っている。

 そしてベガ大王はどの道敗戦の責任から処刑される事は確定している。

 突撃の命令に動揺していた艦隊も、その言葉の裏側を察して落ち着きを取り戻し、突撃に備える。

 

 『よし、全艦突撃ぃッ!!』

 

 こうして、先遣艦隊最初にして最後の攻勢が始まった。

 

 『て、敵艦隊が突撃してきます! 目標は艦隊中央!』

 『敵は腹を括ったか…。全艦、攻撃を密にせよ!陣形左右の艦は予定通り翼を閉じて挟撃せよ!』

 

 土星艦隊にとって、この展開は予想の一つだった。

 古来の戦場でも鶴翼陣形を破るのは敵陣中央突破か…或いは現代戦よろしく火力の集中である。

 ベガ大王は長くベガ星を治める王であるが故に、即座にこの陣形の弱点と性質を見破っていた。

 

 『全艦、生き延びたくば前に進め!死力を尽くせ!』

 

 大きく数を減らし、傷だらけになって半ば死ぬために戦っていた先遣艦隊は此処に来て生き残るため、明日への希望を求めて突撃を開始した。

 

 『全艦に通達。光子魚雷の使用を許可する。カウント15にて一斉射せよ。』

 

 不幸にも、彼らの想像以上に土星艦隊の軍備は万全だった。

 今まで使用せずに温存していた万を超える光子魚雷の封が解かれ、次々装填されていく。

 突撃のために密集陣形となり、我先にと前へ進んでいく先遣艦隊では最早何処にも回避するための場所は無かった。

 

 『全艦、撃てぇい!』

 

 放たれた無数の光子魚雷、もう間も無く目視距離と言える程の至近距離で回避できるだけの運動性能を持つ艦は先遣艦隊にはいなかった。

 発生する無数の小型ブラックホールが、先遣艦隊をまるで穴空きチーズの様な有様にし、そして消滅させていく。

 だが、それでも僅かな撃ち漏らしが陣形に食い込み、兵装を限界以上に酷使しながら艦隊陣形を食い破る。

 撃ち漏らし達はそこで足を止めなかった。

 止めて戦っても無意味だと悟っていたからだ。

 突撃の勢いのまま、土星圏すら超えて何処かへと逃れていく。

 最早故郷に帰る事も出来ない彼らは何処へと向かうのか、それは分からない。

 しかし、不確定要素が増えた事だけは確かだった。

 

 『やはりか…。まぁよくぞここまで来れたと言うべきか…?』

 

 ベガ大王の乗艦、巨大な葉巻型戦艦であるキング・オブ・ベガもまた、土星艦隊の砲火によって穴だらけにされ、完全に機能を停止していた。

 最早轟沈まで秒読みであり、クルーも死んでブリッジでただ一人致命傷を受けながらも未だ息のある状態で、ベガ大王は一人呟いた。

 

 『すまぬなルビーナ…最早会う事は』

 

 最後は戦士としての矜持でも王としての誇りでもなく、ただ一人残してしまった愛娘の事だけを胸に、ベガ大王は爆炎に呑まれて散っていった。

 

 『被害状況知らせ!』

 『本艦の被害状況は17%。ですが、一部突破した敵艦により被害が出ています!』

 『逃げる敵への追撃は無用!負傷者の救助を急がせい!機体や艦よりも将兵を優先せよ!』

 

 土星防衛艦隊旗艦のエクセリオン級に座する艦隊司令官エギーユ・デラーズ中将はそう命じて腰を下ろした。

 

 (最後に意地を見せられたか…。)

 

 既にズール銀河帝国の内情を、土星防衛艦隊は把握していた。

 今回やってきた先遣艦隊が植民星から徴兵された捨て駒である事も含めて。

 

 (これ程の戦力を、玩具の様に使い捨てるよう命じられるだけの武力を持った圧制者だと?)

 

 デラーズは思う。

 そんな相手がやってきたら、自分達もまた藁の様に吹き飛ばされて死ぬだろう、と。

 そして、それは極めて正確な予想だった。

 

 (我々のすべき事は、優れた人員を温存する事だ。時代遅れの旧式で死なせず、戦い続けるために。)

 

 地球圏を混乱に陥れた大罪人であるジオン。

 彼らが再び地球人類に受け入れられるには、侵略者を相手に血を流して戦う必要がある。

 それをして漸く人類は怒りと憎悪を飲み下して、彼らを仲間だと受け入れる事が出来る。

 本来ならば異星人同様に不倶戴天の怨敵と看做すのだろうが、地球人類を取り巻く過酷な環境が妥協を生み出した。

 そして、デラーズ達土星防衛軍の上層部は血を流した上で一人でも多くの正規の軍人を生き残らせる事を目的としていた。

 

 (如何に兵器があろうと、人がいなくては意味が無いのだ。)

 

 それはア・バオア・クー攻防戦での末期戦で彼が痛烈に感じた事だった。

 A.I.M.ならば、その裏にいるU.T.F.ならば、人類よりも優れた無人兵器を開発・生産・運用できるかもしれない。

 しかし、彼女らに頼り切ってしまえば、地球人類は衰退するだろう。

 安全な揺り籠の中で穏やかに繁栄し、永劫の微睡に沈む事だろう。

 それではいけない。

 それとほぼ同じ領域にいたプロトカルチャーは全銀河規模にまで版図を広げるも、滅んでしまったのだ。

 彼らの二の轍を踏む訳にはいかない。

 故に人類は戦い続けなればならない。

 生き残るため、繁栄のため、進化の果てを目指していかねばならない。

 

 『救助活動が完了次第、敵の残骸を回収するのだ。また、捕虜がいたならば必ず生かして捕らえよ。敵の情報は今後の勝利へと繋がる。全艦に徹底せよ。』

 

 自らが仕える主君ギレン・ザビの理想を胸に、デラーズは己の成すべき事をしていくのだった。

 

 

 

 




一部用語が抜けてきてる(汗

あれ、主人公率いる無人兵器部隊の名前ってU.T.F.で合ってたっけ?


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第78話 寸暇

GW?
サービス業にそんなものがあるとお思いか?(一週間前に死んだ魚アイ)


 第一次土星沖会戦は、地球連邦軍(より正確に言えば旧ジオン軍で構成された土星駐留軍)の勝利に終わった。

 以前からの入念な備えが功を奏した結果に、関係者は胸を撫で下ろした。

 

 とは言え、最後の敵方の突撃によって鶴翼陣形を突破された際、少ないながらも被害が発生した事は土星駐留軍首脳部に重く受け止められた。

 十数隻の敵艦艇を逃がしてしまった事も含めて、戦闘詳報はしっかり地球の連邦軍本部及び各大企業群、そして共和連合らにも届けられた。

 それらの結果、地球連邦首脳部は意見を同じくした。

 

 「このままでは勝てない」と。

 

 旧式兵器の改修型が主体であったとは言え、その戦術ドクトリンは寧ろ先鋭化され、兵士個人の練度もかなりのものだったのが土星駐留軍、旧ジオン軍であった。

 特に機動兵器の運用に関しては現状の連邦軍の平均値を上回っており、実際敵先遣艦隊を相手に多大な戦果を上げた。

 だが、それを考慮しても尚、地球連邦では勝ち切れないという結論は揺るがなかった。

 現在、地球・月・ルナ2・各サイドに火星・木星・土星に駐留艦隊と防衛軍が存在し、地球と月を除けばその戦力は総合的にはほぼ横並びとなっている。

 勿論この全てが一年戦争当時よりも遥かに強化された軍勢であり、それを支える兵站に関して言えば比べるのも烏滸がましいレベルである。

 そんな中に現れた二回目の異星人艦隊は丹念に磨り潰され、消耗した状態で尚且つ地の利はこちらにある状態でこちらの艦隊に打撃を与え、一部は敗残なれど逃げ遂せたのだ。

 これは戦闘後に回収した捕虜や残骸から入手した情報を分析した結果、機動兵器は兎も角として現在数的主力となっている艦艇では異星人の艦隊相手では火力・装甲の双方が不足しているが故に起きた事だった。

 数はしっかり用意したし、火力・装甲不足も戦術によってある程度カバーできた。

 しかし、それが余り有効じゃない状況になると、途端に押されてしまった。

 そんな状況で、次に来るのは本隊である。

 士気の低い寄せ集めの植民地兵ではなく、ズール皇帝が直接率いる兵達である。

 士気・装備・練度・物量の全てで今回の先遣艦隊の全てを上回る強敵だ。

 物量だけ見ても約3千隻であり、更にはそれら全てを合わせても勝てないと断言される個人武力を有するズール皇帝の存在。

 どう考えても土星駐留軍のみでの勝利は不可能だった。

 なお、反対意見を述べた極一部の空気を読めない連中、具体的に言えば職務放棄して避難しようとしてた連中は現在発見され次第拘束されている。

 何故って?

 問題発生時に最もドッシリと腰を据えて職務を果たすべき連中が逃げ出した挙句妄言吐いて仕事の邪魔しようとしてるんだからそりゃそうよ。

 

 「遺憾ながら土星基地を放棄する。段階的に木星方面へと撤退する。」

 「それしかありませんな。このままでは兵を死なせるだけでしょう。」

 

 駐留軍司令官であるドズル中将の宣言に、艦隊司令官であるデラーズが続いた。

 

 「それでは早速準備に取り掛かりましょう。」

 「人員の脱出が最優先で、次に兵器と物資ですな。」

 

 戦える人を残す事。

 これこそが地球連邦軍の一年戦争当時からの一貫したドクトリンの一つであり、

 

 「修理不可能な艦艇や機動兵器は置いていきましょう。」

 「勿論置き土産にしてです。」

 「グランドキャノンはどうします?もう一つの方も…。」

 「グランドキャノンと基地施設はトラップと連動した自爆装置をセットしろ。アレに関しては…惜しいが同じ様にしろ。異星人共に奪われるのが一番危険だ。」

 

 こうして、土星駐留軍の戦いは終わり、次のステージへ向けて動き出すのだった。

 

 

 …………

 

 

 『報告は以上となります。』

 『そう、先陣は凌いだ訳か。』

 

 そして太陽系内の何処かの電脳空間にて

 A.I.M.トップとその従者が土星沖会戦の詳報を受け取った所だった。

 

 『やはり地球製の艦、それも一年戦争前に設計された旧型の改装では限度があった模様です。』

 『火力・装甲・出力・耐久力・運用思想…何もかにも時代遅れの兵器でよくやったものね。』

 

 主力艦艇の性能面において、現在の地球連邦で運用されている艦艇の殆どは異星人のものと比較してその性能で劣っていると断言できる。

 例外はISA戦隊所属の艦や一部のワンオフなスーパー系母艦にナデシコ級砲艦、そしてA.I.M.製のエクセリオン級やマクロス級等の大型艦位だろう。

 るくしおん級?あれは西暦2000年代初期の設計を手直ししたものなので、機動性を除いたら特筆すべき所は無いので除外。

 

 『艦艇の更新を急ぎたい所だけど…。』

 『現状ではこれ以上の生産ラインの増設は不可能かと。』

 『dsyn~。』

 

 現状、A.I.M.の太陽系最大の生産能力は限界に達しようとしていた。

 各種兵器や物資類をガンガン製造しているのに作った傍から消費しているのだから、艦艇更新に回すリソースが足りないのだ。

 また、艦艇類は機種転換訓練も機動兵器のそれよりも長くかかるので、生産し過ぎても乗り手不足でどうにもならない。

 

 『折角コツコツ作って来た無人兵器艦隊もZEROのせいで消し飛んだし…。』

 『あの一件で当初予定していた整備計画が完全に破綻しましたからね…。』

 

 事実である。

 もしZERO覚醒事件が無ければ、あの一件で消滅した無人艦隊や工廠艦ドゥーベ、OF部隊が無事ならば、どれ程余裕を捻出できただろうか?

 特にドゥーベの消滅が痛かった。

 ナノマシン系兵器の製造能力はあの艦が最大であり、おかげでOF部隊は解散し、そのナノマシンを全てヴァルチャー部隊に割り振る羽目になった。

 

 『で、第二プランの進捗はどう?』

 『はい。現在冥王星から位相空間へと移設した巨人族向け兵器プラントの稼働は順調。一般的な地球人類向け改装も既に完了しています。』

 

 一部は既に特務部隊等で試験的に運用されていた地球人類向け巨人族製艦艇類。

 それを此処に来て一般の部隊でも大々的に運用するプランがセカンドプランであった。

 本来のプラン、即ち通常の地球人類が開発した艦艇への更新が間に合わない場合の予備だったが、此処に来てそれが日の目を見る形となった。

 

 『巨人族の兵器は兎に角頑丈で扱いやすいですからね。機種転換訓練も短く済むかと。』

 『デザインも生物的なのからメカっぽくしたし、多少は受け入れやすくなったと思うんだけどなぁ。』

 

 とは言え、一年戦争最後に大々的に人類と敵対した勢力と同系統の艦艇を使用する点については、一部で忌避されるのは簡単に予想できた。

 更に言えば大企業群にとっては地球圏の経済に寄与しない≒自分達のお金にならないU.T.F.が改装した巨人族の艦艇の採用等、絶対に反対する事は目に見えている。

 

 『反対するならするで他の代替案出してほしーんだけどなー。』

 『仕方ありません。人類は感情と理性の生き物ですから。』

 

 時に驚く程理性的で、かと思ったらまるで子供の様に感情的になる。

 そんな人類に彼女らは何時も振り回されている気がする。

 こんな事を思っているが、客観的に見ると実際は彼女の方も理性が先行し過ぎてどっこいどっこいだったりする。

 

 『場繋ぎにしても機種転換訓練や兵站への影響を考えると…採用はもう暫く先にした方が良いかしら?』

 『その方がよろしいかと。』

 

 実際、漸く各種新型艦艇へと更新が始まったばかりだ。

 今この時に更に安価で操作が容易い巨人族製艦艇の採用は混乱を生み出しかねない。

 やるとしたら、もう少し戦線が落ち着いてからになるだろう。

 

 『機動兵器類は…順調ね。これなら今以上の梃入れはいらないわね。』

 『しかし、当初の予想通りパイロットが、特に腕利きが不足気味ですね。』

 

 一方、機動兵器類の量産はまぁ安定しているが、パイロット不足が目立ち始めていた。

 まぁ、太陽系各地に艦隊や防衛部隊を設置している上に母星である地球で侵略者に圧されたりしているのだから、そりゃパイロットの損耗は大きいし、補充も低迷するだろう。

 

 『やっぱり無人機の採用しかないかぁ…。』

 『努力はしましたが、如何せん時間が足りません。ここはやはり当初の予定通り有人機と無人機のミックス構想で行くべきかと。』

 『最良なのは少数の有人機で多数の無人機を指揮する形態だけど…軍が納得すると思う?』

 『するしかないかと。現状、質は兎も角数で圧されている事は確かです。』

 

 ここで地球連邦所属の戦力を簡単に見ておこう。

 質…ISA戦隊他主人公チーム&U.T.F.

 量…旧式と最新艦艇全部集めてもギリギリ4千いけるかどうか。機動兵器は十分。

 これだけである。

 そりゃー3千程度のズール銀河帝国艦隊の来襲で大慌てにもなろう。

 相手は乾坤一擲()の戦力の集中を行い、こちらは何時何処からか現れる侵略者のせいでどう足掻いてもそれをする訳にはいかないのだから。

 現在、地球圏の一般市民の安全に関する認識はかなりシビアだ。

 地球連邦軍が一年戦争以前より頑張って蓄積してきた信頼によって余程のやらかしでもしない限りは大丈夫だろうが、それでも市民の安全を無視する様な事は決して出来ない。

 地球連邦政府は民主政治であり、選挙権を持つ市民を蔑ろには出来ない。少なくとも表向きは。

 

 『んん?』

 『緊急入電。火星沖宙域で大規模なデフォールド反応を確認。空間歪曲パターンから、ワープアウトした勢力はゼ・バルマリィ帝国かと。』

 『次から次へと…。』

 

 トレミィが頭痛を堪える様に右掌で目元を覆った。

 息つく暇もないまま、次の侵略者へと対応すべく彼女らはそれぞれの職務へと移るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『所で火星って…。』

 『シロッコ所長の管轄下でしたね。』

 『あ(察し)』

 

 

 



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