おひとよしまじんさんのあわれなまつろ (塩谷あれる)
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おひとよしまじんさんのあわれなまつろ
めちゃくちゃ構成ガタガタになった気がする……色々目をつぶって、暖かい目で見てやってください。
よぉ!お前さん、数あるソレの中から、この俺のいるブツを選んで買ってくれるたぁ、いやはや中々、見る目があるじゃないか。……おっと、驚いてるな、ビックリ仰天~!って感じだぜ。そりゃそうだよなァ?ま、安心しな、ちゃーんと説明したるからよ!
さぁてお前さん、聞いて驚くなよ~?何を隠そうこの俺様は……ダダーン!何でも願いを叶えてやれる、所謂ランプの魔神さんなのさ!……とは言っても、今はまぁ、ランプなんて需要も何もねぇもんだからよ、こういう風に、コップの姿で現れてんだけどな?見た目も大して変わりゃしねぇコップ達の中から、よくぞ俺を選んでくれたってもんさ。へへ、中々嬉しいもんだぜ。
……さて、ご主人様よぅ。本題に移ろうじゃねぇか。……何ってほら!願い事に決まってんだろう!?ほら、何でも願いを言いなよ、三つまでなら何だって叶えてやるさ。何てったって俺様は、願いを叶える魔神さんなんだからな!
……えぇ?願いなんてどうでもいいから、俺が今まで叶えてきた願いについて教えてくれってぇ?……なんだいなんだい、そんなのが一つ目の願いだってのかい?え?違う?願いじゃなくて純粋に聞きたいだけだって?うへぇ……今度のご主人様は、見る目はあっても変わり種だったかぁ……あー、仕方ねぇ!ご主人様は絶対だ!そんなにお前さんが聞きたいってんなら、いくらでも話してやらぁ!でもいいのかい?興奮しすぎて、今日の夜眠れなくなっても知らないぜ?
最初に俺を使ってくれたのは、確かどこぞの若いお兄ちゃんだったかな。お兄ちゃんは言った。『王座になりたい』ってな。だから俺は叶えてやった。ソイツを王様にしてやったのさ。お兄ちゃんはそっから、自分の住んでた国をより一層繁栄させることに成功して見せた。いやー、大したもんだぜ。俺はお兄ちゃんを王様にはして見せたが、政治をこなす腕まではくれてねぇからな。そこはお兄ちゃんの才能だったって訳だ。え?それまで居たはずの王様はどうしたのかって?さぁ?どうにかしていなくなったんじゃね?その王様がいちゃあ、お兄ちゃん王様になれねぇもんな。
他にはって?あー、個人的に面白かったのはあの修道女のお姉ちゃんかな。『この世の悪の全てを取り除いて欲しい』っつって俺に頭下げてきたんだ。俺はソイツを叶えてやったんだが、そしたらそのお姉ちゃん、俺の目の前から消し飛んでやがんの。笑えるだろ?あのお姉ちゃんも、なんか人には言えない後ろ暗いことやってたってことだ。本人は良いことしてるつもりでも、実は……ってな?手前で手前のこと消し飛ばしてんだ、世話無ぇったら無ぇや。
そうだ、こりゃ自慢なんだが、俺実は、王宮に住んでたこともあんのよ。いやー、良い暮らしさせてもらってたぜ?飯は旨いし酒も良い。寝床はフッカフカで召し使いさんまでついてるときたもんだ。願いを三つ叶えるまでは好きにしててくれってんで、まぁ俺も楽しませてもらってたよ。結局俺を呼び出した王様は、三番目の願いで俺に今以上の富と権力を寄越せって言ってきた。今まで良い暮らしさせてもらったお礼ってことで、俺は王宮が一杯になるくらいの財宝をくれてやったね。いやー、あの頃も楽しかったよ。
あとは何だろうなぁ、あぁ、そうそう、『戦争に勝たしてくれ』って願いもあった。もう百何十年前の戦争かな、■■って国と■■■って国のなんだけどよ。ただ戦争に勝たせろっつっても、まぁ色々方法はあるからなぁ、俺はちょっと悩んだよ。でも結局勝たせてやった。叶えられねぇ願いなんて、俺にはねぇからな。ん?どうやって勝たせたのかって?そりゃお前、
他にも、お、そうだ、極東の島国の話なんかもあるな。俺を呼び出したソイツは、農民育ちの兵士だったんだがよ、『俺に天下をくれ』って言ってきた。そんだから俺は、そいつの上司を別の部下に殺させて、その部下をそいつに殺させた。それでそいつは瞬く間にその国のテッペンへと登り詰めた。でもソイツは言ってたな。「話が違う」「何故オヤカタサマを殺した」って。いやいや、お前が望んだことだろってな?なぁ、アンタもそう思うだろ?
「さて、こんなところで良いだろ?良いよな?……さぁ、ご主人様、あんたが願いを叶える時間だぜ。ここまで話しに話したんだ、最初の願いくらいは、言っちまって然るべきなんじゃないのかい?」
男は言う。いかにも人が良さそうな、善良な笑みを浮かべて。自分に任されるその“願い”を、今か今かと待ちわびて。ワクワクとした興奮の表情の色を、うっすらとその顔に浮かばせながら、沈黙する『ご主人様』を見ながら。
「………」
「何だって良いんだぜぇ!?底尽きぬ富、至高の権力、無敵の力、不死身の肉体……は、ちょっとムズいけど、まぁ、なんだ!無理難題だろうが大言壮語だろうが、どんな願いも何だって叶えてやる!何てったって俺ァ、そのためにいるんだからな!」
男の言葉を聞き、『ご主人様』はようやっとのこと口を開いた。
「……うん、決まったよ。僕の最初の願いだ」
「おぉっ!そうかいそうかい!へへへ、いやぁ、よかったよかった。んで、なんだい?お前さんの最初の願いってなぁ…──」「僕の最初の願いは、君が麻薬と酒に溺れたクソッタレになることだ」「───…………へ、ぇえ?」
男は、何を言われたか理解ができず、ぽかんとした表情を浮かべる。しかし悲しいかな、彼自身の権能により、願いは、叶う。そして『ご主人様』は、続けざまに言う。
「お、お、お、おま、お前、な、なな、なに、何を──」
「二つ目の願いは、最初の願いが取り消されないことだ」
「う、ぐ、が、『ご主、じん、さ」
願いは、叶う。視界が歪む。脳が割れるように痛む。欲したことなど一度もないのに、何かが壊れるように恋しくなる。
「──ごめんよ、で■君は、この■■に存■■■には、あま■■も■■■■あ■■■る■■」
何を言ったのか、聞き取ることすらできなくなるほどに痛みだした頭を抱える男の前から、『ご主人様』は、去る。三つ目の願いを語らずに。彼の、道具としての本懐すら達成させずに。
「あぁ、あ、あ、ま、て、まっま、まま、待て、待って、く、くくくく、くれ、なぁ、なぁなぁなぁなぁなぁ、まって、まって、くく、くれ、よぉ!ねが、願いを、み、みみみ、三つ目の、ねねね、願い、まだ、まだ、まだ、叶え、叶えて、ねぇじゃ!ね、ぇかぁ。たのむ、たの、たのむ、から、待って、くれよ、
男の悲しい叫びが響く。誰かのために願いを叶える──ただそれだけを望んでいたのに。今までにない欲望が、頭を支配していく。大粒の涙と、なけなしの自我を溢し続けながら、男の意識は次第に眩んでいったのだった。
不気味なほどに清潔に管理された、無機質な部屋がひとつ。そこに人が一人。そして、テーブルと椅子が用意されていた。テーブルの上には、何の変哲も無さげな、プラスチックのコップが一つ。白衣を纏った研究者然とした男は、テーブルの上のコップを擦る。すると途端に、コップはたちまち煙を立ち上げ、気づくとそこには、身なりの汚い
「ぁあ、あぁ、へ、へへ、お前さん、う、ううう、運が、良いな。お、おお、お、俺は、なんでも、願いを、叶える、魔法の魔神、さ、さささ、さん、なんだ、ぜぇ?」
男は笑う。気味悪く。馬鹿にするかのように、こちらを恨むかのように、泣き疲れたかのように。
「さ、さささ、さぁ、い、謂い、良い、言い、なよ。
───何が、望みだい?」
───アイテム番号 SCP-1481
オブジェクトクラスsafe
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