【デレマス×ガンブレ】シンデレラとガンプラのロンド (擬態人形P)
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第0話 アップル・パンチ

「よーし!今日は負けないよ、あかりちゃん!」

『こっちこそ負けないんご、忍さん!正々堂々と勝負!』

 

シミュレーター状の空間がカタパルトに変わり、モビルスーツがうち出され、月面のステージに風景が変わる。

忍………工藤忍は白い巨大な太刀を持ったモビルスーツを操っていた。

彼女はセンサーで正面に同じように大剣とボウガンを持ったX字型のバーニアが特徴のモビルスーツを捉える。

 

『相変わらず忍さんのモビルスーツはキチガイですね。色々ある中で「フルアーマー・ストライカー・カスタム」を選ぶなんて………。』

「「クロスボーン・ガンダムX1フルクロス」を選んでるあかりちゃんに言われたくないよ。防御ガチガチじゃん………。」

 

忍は通信から流れてくるあかり………辻野あかりの声を聞き、苦笑いを浮かべる。

それに少し怒った様子であかりが更に通信をしてくる。

 

『あおもりんごに勝つには、複雑な出来のモビルスーツがいいと思ったんご!それにX1フルクロスはカッコいいんご!』

「あ、それ同感。このバトル終わったらリンゴ食べながら語りあう?」

『鋼鉄の7人トークは大歓迎です!………てなわけで、勝利のリンゴジュースは頂くんご!』

「負けないよぉ!」

 

冗談交じりのトークが急に終わる。

2人の機体がそれぞれの射程に入ったのだ。あかりのX1フルクロスがきりもみ回転しながら「ピーコックスマッシャー」と呼ばれるボウガン状の武器から大量のビームを撃ってくる。

 

「相手が実弾にもビームにも通用しにくい「フルクロス」なら、最初から本気で行くよ!」

 

忍がコンソールから「妖刀」というコマンドを選ぶ。すると頭部センサーが赤く光り、機体の動きがフルアーマーのそれでなくなる。

 

「工藤忍、突貫します!………てねッ!」

 

そのままビームの雨の中を全部回避しながらバーニアで突っ込んでいく。

背中に背負っている実体剣である太刀「フカサク」を取り出すとマニュピレーターを介して振動させる。これによって切れ味を極限まで上げられるのだ。

 

「この刀に斬れない物無し!例え、ビームであっても!!」

『ならば、こっちは「ムラマサ・ブラスター」んご!』

 

これを見たあかりのX1フルクロスはピーコックスマッシャーを捨てると大剣に14基ものビームを発生させる。太刀と大剣が何度もぶつかり合い、鍔迫り合いが起こる。

機体サイズはX1フルクロスの方が小さいが、そちらは防御装備のフルクロスが頑丈な分、有利だった。しかし、妖刀とビーム刃がぶつかり合う余波で徐々にその装甲が剥がれていく。

 

「状況は有利………なワケ無いよね。」

 

忍のフルアーマー・ストライカー・カスタムも防御装甲である「ウェラブル・アーマー」が剥がれていく。徐々にお互いの機体のダメージが溜まっていった。

 

『忍さん、降参するんご!「妖刀」は時間が限られてます!そろそろ………!』

「ッ!?」

 

あかりの言葉通り、頭部のセンサーが元に戻る。それと同時にフカサクが普通の実体剣に戻り、ビームの刃で易々と斬られてしまう。

 

『トドメです!』

「ええい!!」

 

ムラマサ・ブラスターを突きつけてきたX1フルクロスに対し、左腕の「スパイクシールド改」で防御する。何とか大剣の機動を変える事はできたが、代償に左腕を持っていかれる。だが、その隙に忍は装甲をパージさせ、ストライカー・カスタムの素体を露わにする。

 

「ど根性のーーーッ!!」

『んごッ!?』

 

残った右腕でフルクロスの取れたX1のドクロ型の装甲に、腕の下から潜り込ませるように吸着爆弾の付いた拳「バースト・ナックル」を炸裂させる。

 

「アップル・パンチーーーッ!!」

『んごおおおおおおおおッ!?』

 

白い派手な爆発が起こり、X1フルクロスが吹き飛ぶ。勝負はついたが、ストライカー・カスタムのほうも両腕を失っており戦闘継続不能の状態。見方によっては引き分けとも言えた。

 

『………忍さんとバトルするとどうしても対戦成績が五分五分になります。』

「そうだね………実力が拮抗してるのかなぁ。」

 

そう言った2人は最後に笑い声を響かせてシミュレーションを終えた。



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第1話 タッグ結成

「やっぱりドレックだよね。臆病だった自分を克服して、あのF91を最大限に活用して、影のカリストを倒す為の布石を作ったシーン!」

「分かります!F91の元祖はシーブックさんが使っていた機体だから、トビアのX1とは違う意味で代々、受け継がれているって思いますもの!」

 

シミュレーションバトルを終えた工藤忍と辻野あかりの2人は、カフェでリンゴジュースを飲みながら熱い「鋼鉄の7人」トークをしていた。

今、この事務所ではガンプラが流行っており、それに伴うガンプラバトルも流行していた。その為、必然的にガンダム作品に触れる機会も多くなり、知識が詳しくなるアイドルも多いのだ。

 

「随分、盛り上がってるみたいだな。」

「あ、専務。ご苦労様です。」

「専務も混ざりますか?」

「いきなりそこから来るか………。」

 

忍とあかりは歩いて来た事務所を纏める美城専務の姿を見る。

彼女は目を輝かせるあかりに嘆息したが、忍達に一礼するとカフェの席に座った。

 

「実は2人に話があって来た。」

「話………ですか?」

「最近流行っているガンプラバトルについてだ。」

「あ、もしかして私達やったらダメですか?」

「本来ならな。だが………このブーム、最大限に活かしたいとも思った。」

「………というと?」

 

専務は企画書を見せる。

そこには、「シンデレラとガンプラのロンド」と書かれていた。

 

「簡潔に述べよう。ガンプラとのコラボレーションを行おうと思う。ガンプラバトルも含めて………だ。」

「本当ですか!?」

「凄い企画です!参加者は!?」

「ここに所属するアイドル「全員」だ。………それだけ膨大な流行になってるからな。」

 

専務はそう言うと、2人の瞳を見る。

 

「先程のバトル、実はひっそりと見させて貰った。」

「え?………いや、アタシ達、お互い未熟だと思うんで恥ずかしいです。」

「勝負に対する熱意は伝わった。………だから、どうだ?2人でタッグを組んでみないか?」

「忍さんとタッグですか?それはどうして………?」

 

専務は説明する。

このプロジェクトは他のアイドルのプロダクションも行い始めていると。

それ故に場合によっては様々な事務所の集うガンプラバトルの大会が開かれるかもしれないと。

 

「ガンプラバトルの大会………!」

「ガンプラを研究して何度もバトルをして切磋琢磨している君達の姿を見てティンと来た。君達がタッグを組むと他のアイドル達への刺激になる。それは将来、我が事務所のガンプラバトルのレベルを上げるのに役に立つだろう。」

(いや、単純に青森と山形の抗争がこう発展しただけだけれど………。)

(でも、大会に出れるだけの実力が付けば、山形リンゴのアピールには繋がりますかね?)

「何かね?」

『い、いえ………。』

 

専務の鋭い視線を受けて乾いた笑みを浮かべる2人。

しかし、忍はふと気づく。

 

「あの、タッグとかチームとか作るなら既存のユニットで組むのがいいのでは無いですか?アタシなら「フリルドスクエア」の4人とか………。」

「私なら「#ユニット名募集中」ですね。」

「最初はなるべく既存のユニットに縛られずにチームを作ってみたいのだ。それぞれの個性を最大限に活かせるようにな。そのプロトタイプとしての意味も兼ねての君達だ。」

「成程………。」

「納得しました。」

 

企画としてはまだまだ白紙に近い段階の物だ。

それでも、ワクワクする何かを2人は感じていた。

シンデレラとガンプラのロンド………素敵な響きである。

 

「あかりちゃん、チーム名、何にする?」

「うーん、悩むんご。」

「そこは追々決めていくといいだろう。他社とのすり合わせもあるから確定ではないが、企画段階では大会は3対3を予定している。控えメンバーも合わせて考えると4人でチームを作るといいのでは無いか?」

「そうですね、時間もありそうですし、ゆっくりと考えてみます。」

「専務!ありがとうございます!」

「ところで、だ。」

『??』

 

話が纏まった所で専務が改めてコホンと息を吐く。

 

「さっきの「鋼鉄の7人」トーク、宜しければ私も混ぜてくれ。」

 

 

――――――――――

 

 

(ガンプラバトル大会に向けてのチーム作り………でも、フリルドスクエアは禁止だなんて………。)

 

事務所の入口で、少女が佇んでいた。

彼女は綾瀬穂乃香。工藤忍と同じフリルドスクエアのユニットの一員である。美城専務からガンプラ大会用のチーム編成をしてくれと言われ、誰を募集しようか迷っていた。

 

(保奈美ちゃんはどうかしら?………あ、これもユニットだ。じゃあ、私と同じでぴにゃこら太好きな千夜ちゃんとか………。)

「見つけたわよ!綾瀬穂乃香!!」

 

1人悩んでいた穂乃香は声に振り向く。見れば、事務所の出口で黒髪のナイスバディな少女が穂乃香に対し、人差し指を向けて立っていた。



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第2話 バレエの挑戦者

「えっと、貴女は………。」

「忘れたとは言わせないわよ!」

「ごめんなさい、ちょっと待って下さい………。」

「ちょっと本当に忘れてるの!?」

 

少女の怒声に綾瀬穂乃香は慌てて自分の中の記憶を巡らせる。

見た所、自分と同じ位の年齢と思える。だが、比較的高めの身長である穂乃香自身よりも更に高く、何よりナイスバディである。

 

「セクシーなボディですね。素晴らしいです。」

「それ、褒め言葉にならないわよ!バレエをやっていた私にとってはね!」

「バレエ………。」

 

確かにバレエをやるにあたって大きすぎる胸はジャマだ。

しかし、穂乃香と同じようにバレエをやっていた子だと考えると………。

 

「あ!もしかしてリサちゃん!?」

「そうよ!「羽田リサ」!!貴女のライバル、羽田リサ!!」

「久しぶり!元気にしてましたか!」

「ちょっと、喜ばないでよ!この屈辱忘れたとは言わせないわよ!挑んでも挑んでも貴女にバレエの賞を奪われて、その上アイドルに転身しても成功して………!」

「あ、リサちゃん。「さわやかレモン」のCM見ましたよ。」

「話を聞きなさい!私はこの胸があったから仕方なくバレエを諦めてアイドルになったのに………貴女って人はーーーッ!」

 

微妙にマイペース………というより天然な所がある穂乃香に対し、リサは思わず吼える。

細かい事情は違えど、バレエの表現に限界を感じてアイドルに転身したのは2人共同じ。だが、穂乃香に負け続けたリサにとっては面白くなかったのだ。

 

「だからこそ、今のブームに乗って、貴女を倒しに来たのよ!」

「ブーム………ガンプラバトルですか?」

「そう!ガンプラは自由よ!その気になればバレエのように舞う事もできる!私の作って来たガンプラならば、穂乃香!貴女にだって負けない!」

「ちょ、ちょっと待って下さい。何かバトルする前提の話になっていますが、こういう事はお互いの事務所を通さないと………。」

「いいではないか。そこまでやる気であるのならば。」

「え?」

 

振り向くとそこには美城専務が立っていた。その後ろには工藤忍と辻野あかりも首を傾げて立っている。後、何故か専務の口元には生クリームが付いていた。

 

「あの専務、口元に………。」

「ああ、すまない。………羽田リサ。綾瀬穂乃香とガンプラバトルをしたいという気持ちは本物なのだろうな?」

「はい!今度こそ負けられないんです!」

「ならば、我が社のシミュレーターを使うといい。他社のアイドルのデータが取れるとなれば、池袋晶葉達を始めとしたアイドルが喜ぶだろう。」

(この事務所、どうなってるんだろう………。)

 

綾瀬穂乃香、工藤忍、辻野あかりの3人は専務が統括するこの事務所………通称346プロと呼ばれる事務所のアイドル達の個性の暴力っぷりを思い描き、改めて不思議な気分になる。

 

「決まりね!さあ、綾瀬穂乃香!アンタのガンプラを見せなさい!私のガンプラでその自信事、粉砕してあげるわ!」

「お手柔らかにお願いしますね、リサちゃん。」

 

綾瀬穂乃香と羽田リサ達は、専務に連れられて事務所内のシミュレーター室へと向かった。

 

 

――――――――――

 

 

「やあ、専務。直々に来るとは私に何か注文かね?」

「シミュレーターを使わせてほしい。我が社への挑戦者が現れた。」

「成程………いいデータが取れそうだ。泉やマキノ達が喜びそうだな。」

 

穂乃香達がレッスンルームの外れに作られたガンプラバトルのシミュレーター室へ入ると、池袋晶葉の歓迎を受ける。晶葉はロボの作成に関しては天才的で、このシミュレーターの開発のメインを務めていた。尤も、彼女を手助けできるアイドル達も多数いる時点で、この事務所の魔境っぷりが分かる物だが。

 

「羽田リサです。宜しくお願いします。」

「では、お互いのガンプラは最初に見せ合うか?それとも秘密にしておくか?」

「どうせすぐ明らかになる事ですので、見せ合いたいです。」

 

リサはそう言うとカバンから自分のガンプラを取り出す。

その機体は黒と白が半々ずつ真ん中で左右に分かれて彩られた鳥のような機体だった。

 

「んご!?「インプルース・コルニグス」!?鋼鉄の7人のガンプラです!」

「知っていますか?黒鳥と白鳥を組み合わせたようなこのボディ。バレエをやっていた私にはピッタリだと思ったんです。」

「へー、そういう選び方もあるんだ。………アタシは気持ちよくぶった斬ったりぶん殴れたりするガンプラが性にあうかなって思ってあの機体なんだけれどなぁ。」

「忍さん、ある意味己の欲望に忠実すぎるんご………。自分のバトルスタイルとか憧れのガンダムキャラとか総合的に考える物じゃないですか、普通?」

 

あかりのツッコミに忍はアハハと笑う。

確かに我ながら単純な理由でフルアーマー・ストライカー・カスタムを選んだと忍も思った。

一度読んだとはいえ、元となったガンダムカタナの漫画の設定をしっかり調べようと決めた。

 

「凄いですね、リサちゃん。しっかり練り込まれています………。」

「さあ、穂乃香!次は貴女の番よ!自慢のガンプラを見せなさい!」

「はい、私のガンプラはこの子です。」

 

穂乃香が取り出したのは、青と白のカラーリングが特徴的なゴーグルアイのスリムなモビルスーツだった。飛行機のようなユニットが付いており、空戦用の機体だと分かる。

 

「カッコいいんご………あれ、でもこれって………?」

「機動戦士ガンダムSEED DESTINYの「ウィンダム(ジェットストライカー装備)」だね。」

 

その穂乃香のガンプラと忍の言葉を聞き、リサが思わずふらつく。

 

「よ、よりにもよって量産機………しかもやられ役で有名なウィンダム!?私を舐めてるの!?」

「な、舐めてません!………だって、この子のやられっぷりを見てると愛着が湧いて………。」

 

その「やられっぷり」のバリエーションは他のガンダム作品と比べても群を抜いて多い。

纏めて蒸発させられるわ、極太ビームで貫かれるわ、ミサイルの雨で撃ち落とされるわ、大剣で斬り払われるわ………。それだけウィンダムのやられ役としてのイメージはファンの間に印象付けられていた。

 

「柚ちゃんのグサーーーッ!!って刺されるぴにゃこら太を見ていると、この子にもいつかデスティニーガンダムすら超えるような活躍を見せて欲しいと願うじゃないですか!?」

「よ、よく分からないけれど、本当にそれでいいのね!後悔してもしらないわよ!」

 

穂乃香の身内しか分からない理論にリサは一瞬気圧されるが、強気の表情に戻ると一足先にシミュレーションの準備に入る。

穂乃香も続いてウィンダムと共に戦闘準備に入った。

 

「専務………この戦い、どうなると思います?」

「モビルスーツの従来の力がガンプラバトルを左右するわけでは無い。………私に言えるのはそれだけだ。」

 

心配そうな忍達に対し、専務は淡々と答えた。



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第3話 舞い踊るウィンダム

『両方とも空戦用のガンプラだ。折角だからステージは地上にしよう。荒野をセットするぞ。』

 

池袋晶葉の言葉に綾瀬穂乃香は椅子に座り、操縦桿を握りながらペダルに足を掛ける。

周りの景色が電子的なカタパルトに変わり、綾瀬穂乃香のガンプラ………ジェットストライカーを装備したウィンダムが立つ。

 

『穂乃香………本気でその機体でやるのね?』

「はい。宜しくお願いします。」

 

インプルース・コルニグスを扱う羽田リサの通信に応える穂乃香。彼女達はしばし沈黙すると、ガンダム出撃時のお決まりの言葉を叫ぶ。

 

「綾瀬穂乃香、ウィンダム!発進お願いします!」

『羽田リサ!インプルース・コルニグスが行くわよ!』

 

そして発進する穂乃香は橙色の大地が映る荒野へと飛び立つ。元々お互いに空戦用の機体というだけあって、すぐに互いのレーダーに入った。

 

『さっそくだけれど、これで終わりにしてあげるわ。行きなさい、ファンネル!』

「フェザーファンネル………!」

 

インプルース・コルニグスは大気圏用の強化パーツ「インプルース」を装備しており、誘導兵器である「フェザーファンネル」を何と28基備えていた。これで敵を斬り裂き圧倒的な実力を示すのがこの機体の特性だ。

 

『ファンネル系は扱いが難しいけれど、これに関してはずっと練習してきたのよ!外してくれると思ったら大間違いなんだから!』

「!?」

 

そのリサの言葉通り、大量のファンネルがウィンダムを襲う。穂乃香は頭部と胸部の「トーデスシュレッケン」………いわゆるバルカンで撃ち落とそうとするが、その隙間を縫ってファンネル達が殺到する。その刃はウィンダムを捉え………。

 

バキンッ!

 

『え?』

 

リサはきょとんとした。フェザーファンネルが装甲に当たった途端、斬り裂く所か逆に折れたのだ。それも1基だけでない。次々と折れて落下していく。

 

『どうなってるの!?』

「ウィンダムには「ヴァリアブルフェイズシフト装甲」があります。物理的な攻撃をしばらくは防げます。」

『アニメではそんな描写無いわよ!?』

「そうなんですよね、何故か………。」

 

演出の犠牲になった結果なのか、残念ながらそんな描写はアニメには無い。だが、「設定」にはあるのだ。ガンプラのシミュレーターはそこをしっかり再現してくれていた。

 

『クッ………フェザーファンネルの弾数じゃフェイズシフトダウンは狙えない………。だったら!』

 

リサはインプルース・コルニグスの頭部から「頭部メガ粒子砲」を撃つ。強力なビーム砲。直撃すればウィンダム程度は落とせる。しかし………。

 

「防御します!」

『ええッ!?』

 

ウィンダムはシールド………「攻盾タイプE」でそのビームを弾く。普通ならば盾ごと貫通できるはずのビームを………だ。

 

「アニメでは表現されてませんでしたが、このシールド、「耐ビームコーティング処理」が施されてるんです。」

『聞いて無いわよ!ウィンダムにそんな設定あるなんて!』

 

またもやアニメの演出の都合に防がれたリサは地団駄を踏みたい想いだ。

普通に楽勝かと思われた量産機との戦いに対し、思わぬ苦戦を強いられてしまっていた。

 

「反撃します!」

 

それに対し、穂乃香が今度は「ビームライフル」を撃つ。

だが、その攻撃に対し、インプルース・コルニグスは両脚を屈曲させ鳥形へと変形し、楽々と躱す。そのまま高速でウィンダムの上を取ると再度変形し、ビームクローを叩きこむ。

 

「速い………!?」

『こちらの設定の解析不足があったけれど、基礎能力はコルニグスの方が高いわ!何てったって全身がスラスターだもの!』

 

辛うじてそのクローを躱したウィンダムであったが、インプルース・コルニグスは舞うように連続で両腕のビームクローを振ってくる。

美しく鳥のように舞う敵機に対し、穂乃香は防戦一方であった。

 

『さあ、どうするのかしら、穂乃香!?今度こそ私が貴女より上である事を証明してみせるわ!』

「凄まじい機動性………!これがリサちゃんのガンプラ………!」

『貴女のガンプラではここまで舞えないでしょう!?』

「確かに………でも、今までアイドルとして培った経験は、私に柔軟性という力をくれます!」

 

後ろに飛んだ穂乃香のウィンダムはインプルース・コルニグスを正面に据える。一瞬だが、そこで動きが止まった。

 

『チャンス!』

 

リサはここぞとばかりに携帯武器のビームアックスを取り出しウィンダムを狙う。

だが、インプルース・コルニグスの突進に合わせ、ウィンダムは………何と背後のジェットストライカーをパージして移出した。

 

『しまッ!?』

 

リサはそのままジェットストライカーを至近距離でビームアックスを使って斬り裂いてしまう。

ジェットストライカーにはまだ推進剤と「3連装ヴュルガー空対空ミサイル」が備えられていた。

派手な爆発が巻き起こり、視界が完全にふさがれる。

 

『ふ、ファンネ………!』

「遅いです!」

 

飛行ユニットをパージしたウィンダムはバーニアを最大まで吹かし、インプルース・コルニグスに対し、敢えて武器を取り出さず、高速の回し蹴りを喰らわす。

リサのインプルース・コルニグスは機動性に長けている分、装甲面に不安があった。蹴りをもろに受けた機体はバランスを崩し吹き飛ぶ。

 

『ま、まずい………!?』

「セイッ!!」

 

そして、無理な回し蹴りの衝撃で逆さまになりながらもウィンダムはアーマーからクナイのような「スティレット」を取り出し投げつける。これは、OVAでフリーダムガンダムのシールドを一撃で破壊するだけの威力があるだけの物。一直線にコックピットを捉えたそれは起爆し、インプルース・コルニグスを爆発に巻き込んだ。

 

『ま、また負けた………。』

「ごめんなさい、リサちゃん………。」

 

機体を制御し足から着地して華麗な舞を見せたウィンダムは、降り注ぐ敵機の破片を見上げていた。



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第4話 「楽しむ」という事

「また負けた………。どうして穂乃香には勝てないの………。あれじゃあ、ネオ機のウィンダムよりも強いじゃない………。」

 

シミュレーションを終えた羽田リサは、肩を落として出てくる。綾瀬穂乃香に勝つために戦いを挑んで来ただけに、そのショックは大きいようだ。そこに、美城専務が話しかける。

 

「試合中、綾瀬穂乃香が言っていたが、柔軟性が勝負を分けたな。とはいえ、インプルース・コルニグスの性能を最大限まで引き出そうと努力してきたその姿は褒め称えられる物だ。」

「でも、私は穂乃香にまた負けました………。勝ちたかったのに………。」

「ふむ、勝負を分けたのはその必要以上の勝ち負けへの意識かもな。」

「え?」

 

専務は不可解な顔をするリサと、遅れて出てきた穂乃香を見比べる。

 

「勝負である以上、勝ちたいと思う事が悪い事だとは思わない。だが、ガンプラバトルを「楽しむ」という姿勢を君はこの戦いで持っていたか?」

「それは………でも、私はずっと負け続けてたから………。」

「リサちゃん。私がバレエに限界を感じてアイドルになったのはそれが原因なんです。」

「穂乃香?」

 

専務の言わんとした事を理解した穂乃香は、リサの目を見据えて言う。

昔の穂乃果は確かにバレエで幾つもの賞を取って来た。だが、いつしか「楽しむ」事を忘れてしまい、表現力に限界を覚えてしまったのだ。

 

「私のプロデューサーや忍ちゃん達を始めとしたこの346プロの仲間のみんなと出会って学びました。何事も「楽しむ」事が大事なんだって。みんなと出会って私は表現する事の楽しさを思い出せたんです。だから、私はアイドルとして色んな事に挑戦したいと感じています。」

「穂乃香………。」

「ガンプラバトルもその一環。だから、全力で楽しむんです!」

「……………。」

 

リサは穂乃香の嬉しそうな笑顔を見て眩しさすら感じた。

思えばバレエで競っている時代の穂乃香にこんな表情は見られなかった。アイドルとしての経験が穂乃香を変えた。いや、「綾瀬穂乃香」という人間性を引き出したのだ。

 

「私は、根本から負けていたのね。素直にガンプラバトルを楽しんでいた貴女に挑んだところで勝てるわけ無いもの………。」

「リサちゃん………。」

「いきなり押しかけてごめんなさい。私、もっと自分を鍛え直してくるわ。」

「では、綾瀬穂乃香と組んでみたらどうだ?羽田リサ。」

「………え?」

 

突如投げかけられた専務の言葉にリサは思わず彼女に振り向く。他の346のアイドル達も見る中で、専務は淡々と告げる。

 

「君達のバトルと今の言葉を受けてティンと来た。羽田リサ、君は綾瀬穂乃香とタッグを組んで「シンデレラとガンプラのロンド」に向けたチーム作りを行うべきだ。」

「いや、待って下さい!美城専務!私、346プロのアイドルじゃないんですよ!?」

「素敵な考えです、専務!丁度パートナーを探してましたし、リサちゃんと組めると私も嬉しいです!」

「貴女も喜んでる場合じゃないでしょ、穂乃香!私にもプロデューサーはいるし、何よりも会社の社長が………!」

「イヤですか?」

「い、イヤじゃないけれど、事務所対抗になる以上………。」

 

思わず赤面するリサは困った顔になる。確かにリサは346プロのアイドルでない。事務所対抗のガンプラバトル大会にこんなチームを作っていいのだろうかと思うのは当然だった。それに対し、専務が答えを示す。

 

「君にその意志があるならば、君のプロデューサーと社長にそれを伝えればいいだけだ。勿論、私も口添えしよう。………実は、私としては事務所混合チームというのもアリだと思っているのだ。」

「そうお考えになる理由は………?」

「今の所、事務所によっては所属アイドルが少なくてチームが自由に組みにくく、このプロジェクトに参加できないという声を聞いている。だから、気軽にチームを組めるような采配を行い、出来る限り多くの事務所とアイドルを集いたかったのだ。」

 

専務の説明によれば、馬が合って上との了承を得られるのならば、男性アイドルを引き入れてもいいという考えすら持っているという。シンデレラだけでなく、白馬の王子様もロンドに参加していいという事だ。

 

「765プロ、961プロ、876プロ、315プロ、283プロ………ざっと数えられるだけでも346プロ以外にこれだけの事務所に有望なアイドル達がいる。どうせロンドを踊るならば、豪勢な物にしたいだろう?」

『……………。』

 

専務の描くスケールの大きさにリサだけでなく、穂乃香や忍達も言葉を失う。

一体、どれだけのアイドルが参加する事になるのか。想像すらつかなかった。

 

「その為の一歩として綾瀬穂乃香、羽田リサ。君達のタッグ結成を行いたい。………受け入れて貰えるか?」

「はい!………リサちゃんは?」

「え、えっと………お願いします!」

 

リサは専務に向かって頭を下げる。

後日、リサのプロデューサーや社長に承諾を頂き、正式に2人はタッグを結成する事になった。



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第5話 作る者と手助けする者

「うーん………このガンプラ、どう仕上げようかな~?」

 

好物のフライドポテトを食べながら346プロ内の2階の見晴らしの良い通路を歩くアイドル………北条加蓮は悩んでいた。

ガンプラバトルに向けて本格的な機体選びと組み立ては順調に行っていたが、肝心の塗装とチームメンバーの募集が上手くいって無かった。

 

(やっぱりアッと驚くようなチームを作りたいよね。トライアドプリムスがダメって言われている以上、私と共通性を持った子を引き入れたいというか………。)

 

テラスに差し掛かった所で加蓮は見る。丸いテーブルの席に2人のアイドルが座っていた。

1人は黒髪の栗原ネネ。もう1人は灰色の髪の成宮由愛であった。

 

「やっほ、ネネに由愛じゃん。何してるの?」

「あ、加蓮さん、こんにちは。………って、またポテト食べてるんですか?」

「いいじゃん、健康体なんだし。ネネもたまには食べてみるといいよ。………で、改めて何してるの?」

「私がネネさんのガンプラに色を塗っているんです………。ちょっと細かいパーツが多いので………。」

 

由愛の言葉に、加蓮はネネが持っている物を覗き込む。

確かにそれは塗装中のガンプラであった。ガンプラの組み立てを終えたネネは、由愛に塗装を手伝って貰っていたのだ。しかし、そのガンプラの正体は………。

 

「へ~………、ネネってそんなガンプラが趣味だったんだ。ちょっと意外。」

「茶化さないで下さい、加蓮さん。」

「だって、ネネってテレビ鑑賞が趣味でしょ?ガンダムのアニメの知識もあるとは思ってたけれど、まさか「小説」の方のモビルスーツを使うなんて思わないじゃん。」

「昔、入院していた頃は漫画や小説も読んでいたんです。………それだけ時間もありましたから。後、妹のしーちゃんに読ませていい物を選ぶのに、全部読み込んでたんです。」

「成程ねー………。他人事じゃないね、それ。」

 

加蓮も昔は病弱で入院していたのだ。そこでの肉体的、精神的苦痛は想像を絶する物だ。お互い滅多に言葉にはしないが、これは経験した者にしか理解できないだろう。

 

「大丈夫ですか、加蓮さん?」

「あ、大丈夫、大丈夫。………そうだ、ネネ。私とチーム組まない?」

「チームですか?でも、まだ私ガンプラバトルには慣れて無くて………。」

「いいのいいの。………元病弱同士、チームを組んだら面白いと思ってね。周りをアッと言わせたいじゃん。」

「加蓮さんがいいなら………お願いします!」

「よーし、1人ゲット!由愛はどうする?」

「あ、御免なさい。私はサポートに回ろうかなって………。」

 

由愛は少し申し訳なさそうに言う。

ガンプラの組み立てをするに当たってサポートをする者達の存在は必須だ。由愛のように塗装等の手伝いを行って回る者達の存在も少なくない。346プロでは、他にも吉岡沙紀が塗装の手伝いを行っていたし、組み立てに関しては原田美世といった存在が皆のサポートを担当していた。そう言った人達の存在はバトルをする者達にとっては本当に有り難い。だからこそ………。

 

「そんな謙遜しなくていいって。由愛達に感謝している人達は多いんだからさ。」

「そうでしょうか………?」

「うん。………と言うか、実は私も塗装手伝って欲しくて。」

「分かりました。見せて下さい。」

「はい!」

 

加蓮は自慢のガンプラを2人に見せる。それを見たネネが珍しく怪訝な顔を見せた。

 

「加蓮さん………。何でそんな「無茶」なガンプラ使うんですか?きっと、凛さんや奈緒さんが怒りますよ?」

「だって、カッコいいんだもん!」

「でも、偶然ですが、ネネさんと加蓮さんのガンプラ、イメージが似通ってます。「空」をイメージしているようで………。」

「そう言えばそうだね。………って事はこの出会いは運命だったって事だね!」

 

加蓮の笑みにネネと由愛も思わず笑い合った。

 

 

――――――――――

 

 

数時間後、ガンプラの塗装を終えた加蓮とネネの2人はうずうずしていた。早速この新規のガンプラを使ってバトルを行いたい。それが人の性であった。

 

「でも、そう簡単に2対2のバトルをしてくれる人なんて………。」

「いや、いるかも………。」

 

加蓮はテラスを見下ろす。その視線をネネと由愛は追った。

見れば、下の階の広場で工藤忍と辻野あかりが地元のリンゴについて口論を行っていた。



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第6話 リンゴVS元病弱

「いきなり加蓮ちゃんとネネちゃんからバトルを挑まれるなんてね………。」

『でも、2対2のバトルを経験できる貴重な機会ですから思い切って行きましょう!』

 

北条加蓮と栗原ネネの通称「元病弱タッグ」にガンプラバトルを挑まれた工藤忍と辻野あかりは、それぞれのガンプラ………フルアーマー・ストライカー・カスタムとクロスボーン・ガンダムX1フルクロスをスタンバイさせる。

 

『作りたくなると戦いたくなるものだし、多めに見てよ。』

『もう、加蓮さん………。ごめんなさい、急に勝負を挑んでしまって………。』

 

加蓮とネネが同じようにガンプラをセットしたのがメッセージボードで分かる。

今回、初めて使うという事で、ハンデとして2人のガンプラは見ない状態でバトルを行う事になった。

 

「2人はバトルに慣れてる?」

『う~ん、私は出たとこ勝負って感じかな。』

『私は………まだ慣れてないです。』

『そういうわけでお手柔らかに宜しくね!』

 

加蓮とネネの2人からの通信が切れた所で別の通信が入る。

それは2人のガンプラを塗装したという成宮由愛だった。

 

『あんまり知識が無いとハンデが大きすぎるので、私が忍さんとあかりさんに、加蓮さんとネネさんのガンプラが「その機能」を使った際に説明をしますね。』

『由愛ちゃん。加蓮さんとネネさんには私達のガンプラの事は伝えなくていいんですか?』

『2人はフルアーマー・ストライカー・カスタムもクロスボーン・ガンダムX1フルクロスも詳しいので………。』

「それが本当なら………思ったよりも強敵かもしれないよね………。」

『気を付けるんご………。』

 

そんなこんなで忍の背景が電子的なカタパルトに変わり、発進可能になる。

いつもの通り、ガンダムお馴染みの掛け声を叫ぶ場面だった。

 

「んじゃ行くよ、あかりちゃん!工藤忍、フルアーマー・ストライカー・カスタム!行っきまーす!!」

『辻野あかり!クロスボーン・ガンダムX1フルクロス、発進するんご!!』

 

2人のガンプラが勢いよく飛び出して行く。

不思議な慣性を感じると共に、背景が宇宙のデブリ地帯に変わる。

 

『隠れるにはもってこいですよね………。』

「狙撃型のガンプラだったらマズいかな………。」

『忍さん、ここは私が先導するんご。このフルクロスなら実弾もビームもそんな………。』

 

ピピピピピッ!

 

『んごッ!?』

 

バシュゥウウウウウウンッ!!

 

あかりが前に出ようとした時だ。アラートと共に大型の桃色のビームがデブリを薙ぎ払い、X1フルクロスの右手に持っていたピーコックスマッシャーを吹き飛ばす。

 

「あかりちゃ………うわッ!?」

 

バシュゥウウウウウウンッ!!

 

続いて更にデブリを吹き飛ばす極太の桃色のビームが飛来し、フルアーマー・ストライカー・カスタムの右肩の背部ロケット砲を半分吹き飛ばす。慌てて忍はロケット砲をパージさせ、誘爆で自機が破壊されるのを防ぐ。

 

「狙撃ってレベルじゃない!?」

『忍さん、見て下さい!』

 

あかりの言葉に忍はデブリの巨大な穴越しに2機のモビルスーツの姿を捉えた。

片方は白に青と黄色のカラーが混じった忍のフルアーマー・ストライカー・カスタムと同じくらいの大きさのモビルスーツ。Zガンダムに似た顔とシャープなボディが印象的だった。

もう片方は白に水色と赤のカラーが混じったあかりのX1フルクロスと同じくらいの大きさの小柄なモビルスーツ。Vガンダムに似ていたがその武装はV2ガンダムアサルトバスターに似た物を感じた。

 

「あの機体は一体………!?」

『説明しますね。加蓮さんのモビルスーツは「ガンダムデルタカイ」。漫画「機動戦士ガンダム U.C.0094 アクロス・ザ・スカイ」等で登場したモビルスーツです。ネネさんのモビルスーツは「セカンドV」。小説版「機動戦士Vガンダム」で登場した機体です。』

「ヤバい………由愛ちゃん、アタシその2機知らない!?」

『んご!?それを言ったら多分、忍さんのフルアーマー・ストライカー・カスタムも相当なレベルですよ!』

「そんな事言ったってーーーッ!」

『ちなみにあかりさんへの砲撃はセカンドVの「メガビーム・キャノン」。忍さんへの砲撃はデルタカイの「ハイ・メガ・キャノン」です。』

「メガビームとハイメガ!?そんな物騒な物持ってるの、あの2機!?」

『忍さん、デルタカイが!?』

「ッ!?」

 

あかりの言葉に忍は更にこの後驚愕する事になる。

 

 

――――――――――

 

 

『とりあえず、最初の手筈通り、相手の厄介な武装は奪う事ができましたね。』

「上出来♪上出来♪ネネ、思ったよりやるじゃん!これなら次の手筈も上手くいきそうだね。」

『お願いします………加蓮さん!』

「ネネこそ、サポート頼むよ!」

 

加蓮はセカンドVを扱うネネに通信画面越しにウインクをしながら別の武装を選択する。

デルタカイの背後からカートリッジ付きのライフルが取り出される。

 

「「ビーム・マグナム」は加減が効かない………ってね!」

 

ズギュウゥゥウウウウンッ!!

 

次の瞬間、スパーク光を帯びた強力なビーム弾が撃ちだされた。



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第7話 「空」を駆けて

スパーク光を帯びた強力なビーム弾………ビーム・マグナムが連射され、デブリを次々と破壊していき、工藤忍のフルアーマー・ストライカー・カスタムと辻野あかりのX1フルクロスを襲う。

 

「ビーム・マグナムってユニコーンガンダムの系列の専用武装じゃないの!?」

『デルタカイは漫画で1回だけ使った描写があるんです。関節の機能不全も起こしていないのでこうして連射できます。』

 

成宮由愛の解説を聞きながら忍は冷や汗を浮かべる。こんな滅茶苦茶な機体があるなら、もっと調べておくべきだったと今更後悔する。

 

『忍さん、落ち着いて!ビーム・マグナムは5発撃つたびにカートリッジを交換する必要があります!その隙を狙えば!』

「ナイスアイディア、あかりちゃん!邪魔なデブリは向こうが吹き飛ばしてくれてるからね!」

 

あかりの言う通り、加蓮のデルタカイは5発撃った所でマグナム・カートリッジの交換作業に入る。その隙を逃すわけにはいかなかった。

 

「同時砲撃だよ!」

『任せるんご!』

 

忍は右腕の「2連ビーム・キャノン」を、あかりはムラマサ・ブラスターから「ビーム・ガン」を発射してデルタカイを狙う。

だが、デルタカイに隠れていたネネのセカンドVが前に出て左肩をかざすとビームが無効化される。

 

「Iフィールド!?」

『「ミノフスキー・シールド」です。見ての通りビームを無効化できます。』

『ぼ、防御も万全って事ですか!?』

 

再びビーム・マグナムの雨が飛来する。

その内の一発が背中の太刀フカサクを掠ったのに気づいた忍は誘爆を防ぐためにこれもパージ。近接戦闘用のメイン武器も奪われてしまった。

 

『どうします!?』

「………あかりちゃん、セカンドVに向けて撃ちまくって!」

『で、でもビームは………。』

「動きを制限するだけでいい!その間にアタシが近づいてデルタカイをどうにかする!」

 

忍はそう言うと、フルアーマー・ストライカー・カスタムの残りの増加装甲を全部パージする。そして、更に妖刀システムも起動する。

 

「動きの速さならこっちが有利!」

 

強烈な加速力を得た忍は弾丸のように飛び出した。

時間制限があるとはいえ、機動力を飛躍的に上げてくれるこのシステムは敵の懐に潜り込む際には絶大な効果を発揮してくれる。

事実、今回もビーム・マグナムの雨を避ける事ができた。

 

「喰らえ!」

『クッ!』

 

思わず通信を入れてしまった加蓮はビーム・マグナムを投げつける。

それはストライカー・カスタムの拳から電気を発する武装である「スパーク・ナックル」に破壊され、強力な砲撃手段を失う。

これを見てチャンスとばかりにあかりのX1フルクロスも前進してくる。

 

『ネネ!』

『フルクロスは任せて下さい!』

『宜しく!………こっちも本気を出す!「n_i_t_r_o(ナイトロ)」!』

 

加蓮が叫んだ瞬間、デルタカイに変化が起こる。関節から青白い炎が発生し、背中から2基の放熱板が飛び出し、ストライカー・カスタムを狙う。

 

『「プロト・フィンファンネル」ならどう!』

「ファンネル………!?でもッ!」

 

ビーム散弾を放ってきた2基のファンネルを妖刀の機動力で回避した忍のストライカー・カスタムは、バーニアを吹かし、1基を側面から狙う。

すぐさまファンネルはストライカー・カスタムの方を向きビーム散弾を放つが、忍は「ビーム・サーベル」を2本連結させ「ツイン・ビーム・サーベル」を作り、プロペラのように高速回転させビーム・シールドを作る。そのまま1基を斬り捨てた。

 

「まず1基!」

『やるね!』

 

しかし、お返しと言わんばかりにその背後から残りの1基のファンネルがビーム散弾を放つ。

ストライカー・カスタムはツイン・ビーム・サーベルを横に回転させながら後ろに投げつけ相殺させるとすぐさま宙返りをするように弧を描きながら跳び、ファンネルの上からスパイク・シールド改を突き付ける。

 

『貰った!』

「ッ!?」

 

その瞬間を狙い、デルタカイがもう一度左腕のシールドからハイ・メガ・キャノンを撃ち、ファンネルごとストライカー・カスタムを貫こうとする。

忍はすぐさまスパイク・シールド改をパージしてビームを回避すると、一気にデルタカイに迫り、右手でZガンダム風味の顔を押さえつける。

 

「この距離なら外さない!」

『なら、せめて!!』

 

そのまま左腕でバースト・ナックルを放つ忍のストライカー・カスタム。

しかし、加蓮のデルタカイも同時に左膝から「ニー・クラッシャー」を繰り出し、互いの機体のコックピットをぶち抜いた。

 

 

――――――――――

 

 

2機の爆発が起こる中で、別の宙域ではX1フルクロスとセカンドVが戦っていた。

 

『加蓮さんが相打ち………!これで、実質1対1………!』

「忍さん、お仕事ご苦労様………んご!」

 

あかりはX1フルクロスのビーム・ガンを無効化されるにも関わらず忍のサポートの為にずっと撃ち続けていた。ネネのセカンドVも負けじと「ビーム・ライフル」を撃っていたが、フルクロスのIフィールドに阻まれ、両者決め手に欠ける状態であった。

だが、忍のお陰で厄介な攻撃手段を持つデルタカイが倒れたなら思い切って接近戦ができると考えたあかりは、ムラマサ・ブラスターからビーム刃を展開する。

 

「ネネさん!近接戦闘ならフルクロスの方に分がありますよ!」

『ですね!………だからこっちも!』

 

言葉と共にネネのセカンドVに変化が起こる。右肩のメガ・ビームキャノンをパージすると、その背中から輝く翼を出す。

 

「「光の翼」!?V2ガンダムの武装使えるの!?」

『試作機ですから!』

 

セカンドVの機動力が爆発的に変わり、その翼で一刀両断しようと突撃してくる。あかりは咄嗟に横軸をずらすが、ムラマサ・ブラスターが両断され破壊されてしまう。

そのまま高速で反転してくるセカンドVは、今度はX1フルクロスの両脚を持っていった。

 

「は、反応が追い付かない!?」

『降参して下さい!しないなら………!』

 

ネネのセカンドVは更に反転して光の翼をぶつけようとして来る。胸部の「ガトリング砲」で牽制しようとしたX1フルクロスだが、突如セカンドVのミノフスキー・シールドが3基に分裂して飛来し、三角形のスパーク状の電気が目の前に流れて視界が塞がれてしまう。

 

「んごッ!?」

『「シールドビット」です!攻撃用ではありませんが、目隠し程度なら………ええッ!?』

 

あかりにとって絶体絶命と言った所でセカンドVの背中が突如爆発を起こす。それと共にシールドビットが力を失いその場でバラバラに浮遊する。

あかりが呆然とする中で、光の翼を失ったセカンドVが煙を上げながら横を通過していき、派手に爆発を起こした。

 

『勝負ありました。忍さんとあかりさんの勝利です。』

「か、勝った………んご?」

 

由愛の通信を聞いたあかりは………しかし、勝利の実感が湧かなかった。



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第8話 フォーティチュード・アップル

「うぅっ………迂闊に「ミノフスキードライブ」を「最大出力」してしまったから機体が………。ごめんなさい、加蓮さん。」

「ドンマイ、ドンマイ!ここまで善戦しただけでもいいほうだって!」

 

シミュレーションを終えて、栗原ネネは北条加蓮に慰められながら出てくる。

反対側から出てきた工藤忍と辻野あかりはバトルの最後に何が起こったのか分からず首を傾げる。

 

「あの、ネネさん………セカンドVって………?」

「あ、バトルありがとうございます、あかりちゃん。………実はセカンドVは光の翼を発生させる「ミノフスキー・ドライブ・ユニット」を「Vガンダム」の基本フレームに外付けした機体なんです。ですから、最大出力で光の翼を出し続けていると………。」

「ボカーンッ!と、「空中分解」を起こしちゃうってワケ。」

「く、空中分解って「ヅダ」じゃないんだから………。」

「ガンダム顔のヅダ………んご。」

 

呆気に取られる忍達に対し、ネネは恥ずかしそうにする。

実は346プロ内にもそのヅダを愛用しているアイドルはいるのだが、やはり空中分解とは隣り合わせの戦い方をしている。

それ故に、ネネの大人しそうな性格を考えると、この危うさが入り混じるセカンドVという機体のチョイスは意外に思えた。

 

「テレビを見ていると、Vガンダムが不憫に思えて………それで、せめてVガンダムの一番の装備………セカンドVで挽回させてあげたかったんです。」

「Vガンダムと言うよりシュラク隊だよねぇ。ネネの気持ちはよく分かるよ。」

 

その事情を説明するネネと加蓮の言葉を聞き、忍とあかりは納得する。確かにVガンダムの不憫さは、ある意味ウィンダムに匹敵するからだ。そういう機体を自分の手で活躍させたいという気持ちは何となく2人には理解できた。

 

「何はともあれバトル楽しかったよ!ありがとう!………由愛ちゃんもガイドをしてくれて………。」

 

そこで忍達は気づく。

笑顔で見守る成宮由愛の所に多数のアイドル達が集まっている事に。

 

「すっごーい!忍ちゃんやネネちゃんって強いんだね!まいちゃんもそう思ったでしょ!」

「はい。あかりさんと加蓮さんもカッコよかったです!」

 

目を輝かせて横山千佳と福山舞がバトルを終えた少女達を褒める。

それに続いて、遊佐こずえと市原仁奈が独特の口調で話しかける。

 

「ふわぁ………。ガンプラバトル………たのしそー………。」

「楽しそうでごぜーます!仁奈達もやりたいでごぜーます!」

「みんな………これは一体?」

「私達………途中から………ネネさん達のバトル………見てた………。」

「かおる達ね!お姉ちゃん達のガンプラに興味あるの!」

 

驚く忍達に対し、佐城雪美と龍崎薫が状況を説明する。

10歳になるかならないかの小学生組は年齢的な事情から自分のガンプラを持ちにくい。だからこそ、その自分のガンプラを使ってカッコよく戦う忍達4人のような存在は憧れだったのだ。

 

「みんな、ガンプラバトルがしたいのですね。………でも、困りましたね。私達の手持ちのガンプラは癖が強いから、今貸してあげるのは難しいですし………。」

「ならば、シミュレーターに登録されているガンプラを使ってCPU戦を行うか?」

「晶葉ちゃん?………それに、泉ちゃんも!」

 

悩むネネに対し、現れたのはシミュレーターの作成を行っていた池袋晶葉。そして、今回はデータ面で協力をしていた大石泉も一緒だった。彼女は手持ちのノートパソコンを開き、説明する。

 

「このシミュレーターは元々多数のCPUのガンプラと戦う事を想定して作られてるわ。だから、忍達のような癖の強すぎるガンプラはともかくとして、基本的な「ジム」とか「ザク」とかの機体のデータは登録されているのよ。」

「じゃあ、その登録されている機体を使えば、みんなでバトルができるんですね!」

「そういう事。今の所、最大で4人までしか参加できないから順番待ちになるけれどね。」

 

喜ぶネネに対し、泉も笑顔で応える。

何でもシミュレーターによるガンプラ同士のバトルはあくまで二次的な副産物で、元々は大多数の対CPU機体とのバトルを楽しむ為に作られたのだ。

メインで開発を行っている晶葉はニヤリと笑いながら忍達4人を見渡す。

 

「勿論、危ない事が起きないように忍達にも手伝ってもらうぞ。………あ、その癖の強すぎる機体も今は無しだからな。」

「分かったよ!アタシ達もガンプラバトルの楽しさ、知って欲しいし!」

「私達も色んなガンプラを使って学ぼうと思います!」

「初心に帰るってヤツだね。いっちょやりますか!」

「みんな、良かったですね!じゃあ、順番に、ケンカせずに………ね♪」

『は~~~い!』

 

ガンプラバトルができるという事で、幼い少女達の元気の良い声が響いた。

 

 

――――――――――

 

 

その日の夜、小学生アイドル達を家や寮に帰した後で、忍達4人は集まっていた。帰宅する前に、加蓮からある提案を持ちかけられたのだ。

 

「4人でチームを作る!?」

「そ。専務も言っていたじゃん。大会に出るには控え合わせて4人必要だって。こういうのは早い内に結成しておいた方がいいと思ってね。」

「加蓮さんのアイディアは素晴らしいけれど、私達、まだまだガンプラバトルは未熟ですよ?」

「未熟だからこそ、競い合って鍛え合うのが上達への早道!これはトライアドプリムスで学んだ事だから、効果はあるよ。」

「確かに………それに、新しいガンプラを作りたくなった時に、忍さんやあかりちゃん達を含め4人で金銭面でも相談できますよね。」

「そうそう、ネネの言う通り。………ってなワケでどう?」

 

笑顔で投げキッスをしてみる加蓮の姿に忍とあかりは考える。

これも何かの縁だし、4人チームを結成してみるのも面白いと思えた。何より、先程のバトルで加蓮とネネの力も知る事ができたのだから、ガンプラバトルに関しては問題は無かった。

問題があるとすれば………。

 

「チーム名、どうする?リンゴと元病弱………じゃ、カッコ付かないし。」

「そうだね………「不屈のリンゴ」とか?」

「「不屈のりんごろうさん」?」

「何でそこでりんごろうが出てくるの!?」

「え、英訳してみますね!………えっと、「フォーティチュード・アップル」って出てきました。」

 

携帯端末で検索をしたネネの言葉に、他の3人はおおっと顔を合わせる。

 

「何かカッコいい………!」

「いけるんご!」

「じゃあ………決まりだね!」

 

加蓮が手を出す。

それに忍、あかり、ネネが手を乗せていく。

 

『フォーティチュード・アップル!結成!!』

 

こうして346プロの最初の4人チームがここに結成された。



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第9話 悩める初心者

工藤忍、辻野あかり、北条加蓮、栗原ネネの4人ガンプラチームである「フォーティチュード・アップル」の結成の情報は346プロ内を駆け巡った。

これによってそれぞれのアイドル達が自分の個性を活かしたチーム作りをしたいと考えるようになり、その過程で自分達のガンプラへの技術力を高めあう事になった。

 

(正に美城専務の思惑通りだよねぇ………。)

 

そう苦笑いをしながら言ったのは、最初に専務にあかりとのタッグ結成を依頼された忍である。

少々堅い所がある専務ではあるが、こういう先見の目はあるのだろう。フォーティチュード・アップルの一員となったネネはそう考えながら、今日の分のレッスンを終え、帰路に付こうとしていた。

 

(しーちゃんも喜んでくれたし、私ももっとセカンドVと一緒に頑張らないと♪………アレ?)

 

ネネはレッスン室の内の1つ………楽器や歌を練習する部屋の1つの前で、長い黒髪の女性と金髪の外はねの長身の女性が会話をしているのに気づく。

 

「星花さん、音葉さん。」

「あ、ネネさん。お久しぶりです。」

「チーム結成おめでとうございます。」

 

涼宮星花と梅木音葉。共に346プロのアイドルである。星花はバイオリンを弾く事に関しては右に出る者はおらず、音葉は様々な演奏関係………特に声楽に関して天性の才能を持っていた。

つまり、2人は音楽という分野に関して特化しているアイドルであった。そんな彼女達であったが………。

 

「星花さんの持ってるそれ、ガンプラですよね。もしかして、2人でチームを組もうと思ったんですか?」

「はい。わたくしは「ノーブルセレブリティ」のユニットでゆかりさんと琴歌さんと一緒に新しい事に挑戦してきました。ですので、今流行っているガンプラバトルにも挑戦してみたいと思い、音楽繋がりで音葉さんを誘ったのですが………。」

「音葉さんはガンプラバトル、嫌いなのですか?」

「嫌いではないです。只、その………私、音楽以外だとかなり不器用なので………。」

 

恥ずかしそうな音葉の言葉にネネは悟る。つまり、音葉はガンプラを作るのが下手なのだ。

実はシミュレーターはガンプラの出来具合も計測しており、しっかり細部まで作らないとバトルをする際に不具合を起こしてしまう。だからこそ、皆自分のガンプラに熱意を込めて作成するのだが………。

 

「あ、それなら、美世さんとかに協力して貰うのはどうですか?」

 

ネネは提案する。

原田美世を始め、手先の器用なアイドルは、こういうガンプラ作成を手伝ってくれる。そういうアイドル達の手を借りて、少しずつガンプラという物に慣れていくのも手なのだ。しかし………。

 

「それは考えました。でも………私、試しにシミュレーターもやってみましたが、バトルに関しても不器用で………。」

「もう、音葉さん………。」

 

この言葉にネネは少し頬を膨らませる。

たった1回やっただけで不器用と決めつけるのは良くないと彼女は思ったからだ。

 

「誰だって最初は初心者ですよ。私だってまだまだ自信は無いんですから。でも、だからこそ、上達しようとするんです。これはアイドルのレッスンと同じですよ。」

「そ、そうですけれど………本当に操作方法が分からないんです。動きながら攻撃するとか、どう操縦桿を動かせばみんなあんなに上手くできるんですか?」

「そうきますか………。」

 

本気で困った顔をする音葉にネネは悩む。

こればかりは何度も修練をして慣れていくしかない………というのが正直な答えだが、「切っ掛け」がせめて欲しい所であった。

 

「音葉さん………。」

「はい。」

「音葉さんは星花さんの誘い、本当は受けたいんですよね?」

「本心では受けたいです。私も音楽以外の楽しさをもっと知りたいとは思います。でも、本当にこの不器用な自分だけは変えられなくて………。」

「星花さんは音葉さんの修練に付き合って貰えますか?」

「はい。わたくしは、その不器用さを受け入れた上で音葉さんと組んでみたいです。」

 

ネネは星花のガンプラを見る。このガンプラを活かす事ができれば音葉にガンプラバトルの楽しさを知って貰う事ができるかもしれない。その為には………。

 

「こういう時、つかささんなら臨機応変に対応できそうですけれど………あ!」

 

女子校生でありながら「社長」を務めている桐生つかさというアイドルの姿を思い浮かべ、ネネはポンと手を叩く。

 

「1つあるかもしれません。初心者の音葉さんでも少し練習するだけでガンプラバトルを楽しめる方法!」

「本当………ですか?」

「まあ!教えて下さい!」

 

ネネは2人に閃いた案を説明し始めた。

 

 

――――――――――

 

 

「え?あの工藤忍って子達、もうチームを結成したの!?」

「はい。負けてられませんね。」

「負けてられないって………肝心の組む相手がいないじゃない。」

 

後日、綾瀬穂乃香は羽田リサにフォーティチュード・アップルの事を話していた。

リサはこの事務所のアイドルでは無い為、たまに暇な時にプロデューサー等の許可を取って穂乃香とのガンプラバトルの特訓に来る。そうしながら彼女達は腕を地道に磨いていた。

 

「大丈夫ですよ、リサちゃん。実力を磨けばきっと「出会い」が待っています!」

「昔の貴女にそんな大らかな心は無かったわよ?本当にアイドルになって変わったわね………。」

 

妙な自信を抱く穂乃香に対し苦笑するリサであったが、こちらに歩いてくる影に気付く。見れば、先程噂をしていたチームの1人である栗原ネネであった。

 

「ネネちゃん?どうしたんですか?」

「穂乃香さんに………それにリサさんですね、こんにちは。実は2人にお願いがあって………。」

「こんにちは。………お願いって何ですか?」

「実は………。」

 

そこで後ろから涼宮星花と梅木音葉が出てくる。

彼女達は一礼をすると穂乃香達に告げた。

 

「穂乃香さん、リサさん。わたくし達と………。」

「勝負をしてください………!」

 

2人の言葉に、穂乃香とリサは顔を見合わせた。



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第10話 響き合う曲

『ねえ、穂乃香。星花さんと音葉さん、バトル初心者だって言ってたけど、どんな人なの?』

「どちらも音楽に精通している方達です。音葉さんのほうは、演奏以外は不器用だって聞きますが………。」

『ああ、だからネネさんは今回、2人のガンプラを内緒にしてくれって言ったのね。』

 

ハンデ用のルールとして綾瀬穂乃香&羽田リサチームには、涼宮星花&梅木音葉チームのガンプラ情報は伝わっていない。その代わり栗原ネネが彼女達のナビを務めてくれる事になっていた。

 

『ネネさん、手加減はしなくていいんですよね?』

『はい。全力でのガンプラバトルを望んでいますから。』

「じゃあ、リサちゃん全力で行きましょう。………今回のフィールドは?」

『砂漠に設定します。』

「では、ジェットストライカーの装備をちょっと変えて………準備よしです!」

『ネネさん、向こうも準備出来ましたか?』

『大丈夫です、システム起動しますね。』

 

見慣れた電子的なカタパルトと共に出撃の合図が鳴る。

穂乃香とリサはガンダムお馴染みの発進コールを叫ぶ。

 

「綾瀬穂乃香、ウィンダム!発進お願いします!」

『羽田リサ!インプルース・コルニグスが行くわよ!』

 

2人の機体は勢いよく打ち出され、砂漠の空に舞いあがった。

 

『さて、敵機はどんな機体で来るかしらね………。』

「リサちゃん、地上にいます!」

 

早速敵機を探す2人は、地上をバーニアで飛んでくるトサカのような頭部が特徴的な、青いアーマーを纏った白いガンダムを見る。何の意匠か背中にマントを靡かせていた。

 

『「新機動戦記ガンダムW」に出てきた「ガンダムサンドロック」………よね。でも、あのアーマーは何?』

「フルアーマー形態でしょうか?………でも、サンドロックにそんな設定は。」

『実はあるんですよ。あの機体は漫画作品である「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 敗者たちの栄光」で登場した「ガンダムサンドロック(EW版/アーマディロ装備)」になります。』

『な、何………それ………?』

 

ネネの説明を聞き、通信越しのリサは怪訝な顔をする。

そんな長ったらしい名前の機体のバリエーションまで把握できるわけが無かったからだ。これは穂乃香も同じで内心、少し動揺していた。

 

『アーマディロは「アルマジロ」を意味するとか。』

『………って事はあの機体も「固い」のね。フェザーファンネルは通用しないと思うけれど、ビームはどうかしら!』

 

ネネの言葉を聞き、リサのインプルース・コルニグスは頭部メガ粒子砲を放つ。

普通ならビームシールドも貫通する威力のビームだ。だが、例によってサンドロックは動きを見せる。背中のマントを翻すと高出力のビームを防いだのだ。

 

『「耐ビームコーティングマント」って所ね………。「ABCマント」みたいな物があるとは………。』

「リサちゃん。もう1機の気配はありますか?」

『こっちは無いわよ?初心者なんだし、整備不良を起こした………とか?』

「その考えは危険ですよ?」

『じゃあ、「ブリッツガンダム」のような「ミラージュコロイド」で隠れているんじゃないのかしら?………どちらにしろこちらの隙を伺ってるのならば、隙を見せる前に空の利を活かしてサンドロックを倒し………ッ!?』

 

そこでリサの言葉が途切れる。

突如地上にいたサンドロックがバーニアを吹かして弾丸のように飛び上がってきたのだ。よく見れば追加装甲には補助ブースターが付いており、高高度跳躍が可能となっていた。

 

『強引に行かせて貰いますわ!』

『その声は星花さんですね!でも、そんな単調な攻撃で!』

「あ!待ってリサちゃん!?サンドロックのシールドは!?」

 

飛び上がって来たサンドロックの、爪の付いた左腕のシールドによる「クロスクラッシャー」のアッパーを後ろに下がって躱したリサのインプルース・コルニグスは反撃のビームクローを振りかぶる。だが、そのシールドが光り輝く。

 

『掛かりましたわ!』

『ッ!?「シールドフラッシュ」!?でも、目くらましで!』

『音葉さん!』

『なッ!?』

 

落下しながらサンドロックを操る星花は叫ぶ。

すると次の瞬間、遥か彼方からビームが飛来し、インプルース・コルニグスを貫いた。

 

 

――――――――――

 

 

「当たった?こんな上手くいくなんて………。」

 

緊張、興奮、達成感等によってゾクゾクする物を感じながら、音葉は落下するインプルース・コルニグスを見た。

彼女は砂漠の上でカーキ色に塗装されたモノアイの機体をうつ伏せ状態にしており、右肩の「ビーム・キャノン」を放っていた。

彼女がやってみせたのは、いわゆる「狙撃」という物で、動かないで良い分、敵機に狙いを付けるだけで済む。特に最初の一撃は星花と上手く連携できれば意表を突けるだけに、効果は抜群だった。

 

「ネネさん、ありがとうございます。私………今、ガンプラバトルを楽しめているかもしれません。」

 

次の狙いは残ったウィンダム。後は星花のサンドロックに当てない事だけを考えながら撃ちまくればいい。音葉は気合を入れると再びビーム・キャノンを放った。

 

 

――――――――――

 

 

「ネネちゃん!?あの狙撃機はなんですか!?」

『「ゲルググキャノン1A型」………と言うより「ジャコビアス・ノード専用ゲルググキャノン」ですね。』

 

何でも、漫画「機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還」に登場する「社長」のパイロットの搭乗機らしい。

ネネは桐生つかさの姿を思い描いた時に、この機体を音葉の練習用のガンプラとして試してみればいいと考えたのだ。

 

「初心者の戦い方じゃないですよ、それ………!」

『後は私を信じてくれた音葉さんの特訓の成果です。さあ、どうします?』

「正直、参ってます………。」

 

大型の二振りの曲刀である「ヒートショーテル」を発熱させながら取り出し、飛び上がりながら振りかぶってくる星花のサンドロックの攻撃を躱しながら、穂乃香のウィンダムはとにかく動き回る。

音葉のゲルググキャノンの狙撃はそこまで正確無比では無い。だが、指揮官機としての性能も持つサンドロックの出すタイミングに合わせてしっかり撃ってきてるので、攻撃のタイミングがつかめない。

 

「突破口は………。」

 

穂乃香は何とか自分の機体と武装を最大限に引き出せる術を考えていた。

 

 

――――――――――

 

 

(………まだ、生きてる?)

 

撃ち落とされたリサはインプルース・コルニグスの機体の手足を動かしてみる。その挙動はとても弱々しかったが、全く動かないわけでは無かった。

続いて大気圏専用の強化パーツのインプルース。こちらは片側からフェザーファンネルが数基撃てるくらいである。

 

(なんかアヒルになった気分ね………。)

 

醜い姿を披露して、多分、穂乃香に執着し過ぎていた頃の自分なら屈辱で嘆いていただろう。

だが、今は、違う。嘗てのライバルである彼女は味方として戦っている。そして、自分の失態で苦戦を強いられている。

 

(だったらせめて………「白鳥」が舞えるように支えるのもアリ………よね。)

 

リサは頬を叩きコンソールを叩くとビームの飛来する方角を確かめる。ジリ………ジリ………と機体の向きを変え………。

 

「たまには………「泥臭く」楽しむわよ!」

 

操縦桿を握りながらペダルを全力で踏み、インプルース・コルニグスの動かせるありったけのバーニアを吹かした。



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第11話 鳥の意地

『ッ!?』

 

砂漠の砂を思いっきり噴き上げる羽田リサのインプルース・コルニグスの姿に気付いた涼宮星花のサンドロックは、その狙いに気付き、慌てて止めようとする。

 

『やらせない!』

 

しかし、同じくその意図に気付いた綾瀬穂乃香のウィンダムがジェットストライカーの今回の装備に選んだ空対地ミサイルである「ドラッヘASM」を撃ちだす。

それは、サンドロックでは無く砂漠に炸裂し、大量の砂を巻き上げ目くらましをする。

 

『し、視界が………!?』

「ありがと、穂乃香!………「アイツ」は任せて!」

 

弾丸のように飛び出したインプルース・コルニグスは全身がスラスターである事を活かし、強引に砂地を疾走していく。

………味方を邪魔するビームを撃っている、梅木音葉のゲルググキャノンに向かって。

 

『迎撃して下さい、音葉さん!』

『は、はい………!』

 

星花の指示を受け、音葉はビーム・キャノンを撃つがインプルース・コルニグスのあまりの速さに照準が定まらない。どんどん距離が詰まってきて、焦りが募る。

 

『回避して下さい!敵は曲がれません!』

『ッ………!』

 

ビームクローを何とか突き出しながら突貫して来た敵を見て、もう間に合わないと思った音葉は慌てて機体を転がしその突進を躱す。インプルース・コルニグスは推進剤が尽きたのか、そのまま減速していく。ホッとする音葉。だが………。

 

「ごめんなさい、音葉さん。………ファンネル!」

『あ………。』

 

そのインプルース・コルニグスから僅かに稼働する事ができた数基のファンネルが飛び出す。音葉が気付いた時にはゲルググキャノンは引き裂かれ、爆発を起こしていた。

 

『す、すみません。星花さん、後を頼みます………。』

「穂乃香、任せたわよ………。」

 

戦闘不能になった2機のモビルスーツはそれぞれ味方にエールを送った。

 

 

――――――――――

 

 

『まさか、音葉さんを倒すとは………やりますね!』

「そちらこそ………!これなら十分バトルで通用しますよ!………でも、ここからは!」

 

リサの活躍で邪魔な狙撃の心配がなくなった。

これにより、穂乃香のウィンダムは空中から攻勢に出る。彼女は右手にビームサーベル、左手にスティレットを持つと、サンドロックに「同時に」突き付けるように突進する。

 

『う………ッ!』

 

ビームの刃と実体剣。どちらを対処すればいいか分からず、止むを得ず左腕の巨大なシールドで受け止める。しかし、無情にもビーム刃の方で装甲が引き裂かれてしまう。

 

『だったら………!』

「ここは砂漠ですよ!」

 

増加装甲をパージして相手の隙を作ろうとした星花だったが、大気圏内では、重い装甲は周りに飛ばずに自分の傍に落ちてしまう。

穂乃香はそのままスティレットを右手のヒートショーテルに投げて爆破。ビームサーベルで左手のヒートショーテルを破壊し、完全に武器を奪う。

せめて最後に、とサンドロックは頭部からバルカンを撃ってくるが、ウィンダムは身を低くするとコックピットにビームサーベルを突き付けた。

 

『………参りました。降参です。』

 

穂乃香の怒涛の攻撃に、星花は負けを認める。

こうして、穂乃香&リサチームが勝利を収める結果になった。

 

 

――――――――――

 

 

「ごめんなさい、音葉さん。わたくしの判断ミスで………。」

「いいえ。星花さんのせいでは無いですよ。………それに、少し分かりました。」

 

シミュレーターを終えて出てきた星花は、何故か充実した表情を浮かべる音葉の姿に首を傾げる。

 

「分かった………とは?」

「ガンプラバトルの楽しさです。不器用な私でも役に立てたと感じた瞬間、これが楽しさなのだなって思いました。だから、ありがとうございます、皆さん。私に………この楽しさを教えてくれて!」

「えぇ!?」

「ど、どういう事ですか!?」

 

1人1人深々と礼をする音葉に思わず穂乃香とリサは慌てる。

そんな2人に笑みを浮かべながら栗原ネネは事情を説明する。音葉が不器用故にガンプラを楽しめないでいた事を。

しかし、今回のバトルで彼女は少し自信を付ける事ができた。これは今後、彼女がガンプラバトルをやって行く上での基盤となるだろう。

 

「ガンプラってこんなに自由に溢れてるんですね………。私でも、楽しいと感じられたのだから。」

「わたくしも、元はこのガンプラのパイロットが、バイオリンを得意としているから親近感を覚えて選んだのですが………確かに音葉さんの言う通り、色々な可能性に溢れていますね。」

「……………。」

 

笑いあう音葉と星花の姿を見て、リサは無言になる。

音葉も音葉なりに楽しさを見つけようとしていたのだ。そして、その切っ掛けを今回、見つけた。その姿は、美城専務が言っていたガンプラバトルを楽しむ事に対する1つの答えのように思えた。だからこそ………。

 

「あの!音葉さん!星花さん!私達と組みませんか!?」

『え?』

 

その言葉に2人だけでなく、穂乃香やネネも驚いた顔を見せる。

思わず自分の言った言葉に赤面したリサは、しかし言葉を続ける。

 

「わ、私もガンプラバトルの楽しさを穂乃香と探っているので………だから………。」

「まあ!それはいいかもしれませんわ!「バレエ組曲」ってジャンルもあるのですもの。私達が合わさったら綺麗な音楽を奏でられません?」

「そうですね………。4人のハーモニーが揃えばガンプラもより楽しく舞い踊るかもしれません。「ガンプラバレエ組曲」を響かせられますね。」

 

喜ぶ顔を見せる2人の姿を見て、リサは穂乃香を見る。どうやら最終確認を求めているらしい。

 

「音葉さん、星花さん、それにリサちゃん。私からもお願いできませんか?みんなで響かせていきましょう、この「ガンプラバレエ組曲」を!」

『はい!』

 

こうしてネネの見ている前で2つ目のガンプラチームが完成する事になった。まだまだ未完成で、しかし大成が楽しみなチームが。



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第12話 ダジャレンジャーズ

(穂乃香ちゃんがチーム結成かー………。)

 

フリルドスクエア仲間の綾瀬穂乃香が、羽田リサ・涼宮星花・梅木音葉と「ガンプラバレエ組曲」というチームを結成したのを栗原ネネから聞いて、工藤忍は考えさせられていた。

これからこうして自分達の影響を受けてチームができてくる。しかも、最初はユニットという枠組みに囚われるなという美城専務の提示した条件の通り、意外性のあるメンバーばかりが集う事になるのだ。

 

(今度はどんなチームができるか………っと思ったら早速。)

 

昼飯を食べようと休憩室に入った所で忍は見る。美しいロングの髪を持った少女が、長めの黒髪を纏めた少女にガンプラの作成を教わっている所を。前者は依田芳乃、後者は藤原肇だった。

 

「忍さん、こんにちはなのでー。」

「こんにちは、忍ちゃん。ご飯ですか?」

「そうだよ、芳乃ちゃんに肇ちゃん、こんにちは。タッグ結成………じゃないよね。」

 

この2人は「山紫水明」というユニットを結成しており2人で曲も歌っている。ソロ曲も持っており、その歌唱力はかなり………いや、凄まじい物を持っていると忍は思っていた。

とにかく、2人が組むのは専務の提示した条件に違反するので、何か別の要件だと思っていたのだ。

 

「特に大した用では無いですよ。私が芳乃さんのガンプラ作成を手伝っていただけです。」

「作成が難しいがんぷらゆえー、肇さんの手助けが無ければ完成させるのが難しくてー。」

「成程………どんなガンプラか見てもいい?」

「どうぞー。」

 

何処か間延びした口調の芳乃が出したのは、金のフレームの一角のモビルスーツ。後ろに補助パーツか、2本の尻尾のような物を付いた板が付けられていた。

 

「………「フェネクス」?」

「正確な名称は「ユニコーンガンダム3号機 フェネクス(ナラティブVer.)」ですね。」

「「機動戦士ガンダムNT」のモビルスーツ!?凄い機体作ってるね………。」

「「ですとろいもーど」の時の青と金の姿が、わたくしのあいどるとしての衣装に似ていると思ったのですー。」

「成程………。」

 

確かにデストロイモードの時の機体カラーは芳乃の衣装に通じる所があるように思えた。そういうカラーリング的な選び方もあるのだった。

 

「みんな自分の個性を最大限に発揮できる機体を選んでいますからね。私も土に想いを込めた機体を愛機にしています。」

「肇ちゃんの場合、土じゃなくて、「「土」星エンジン」でしょ!陶芸家アイドルだからって「ヅダ」を選んで暴れまくるなんて誰も予測できなかったよ!」

「「ヅダ」ではありません!漫画「機動戦士ガンダム ザ ブレイジング シャドウ」に登場する「ヅダF(ファントム)」です!改良機にしましたから暴発は少なくなりました!」

「少なくなっただけで暴発はしてるじゃん………。」

 

ぷくーと頬を膨らませる肇に対し、忍は苦笑いを浮かべる。

以前、ネネがセカンドVで空中分解を起こした時に忍と辻野あかりが話題に出したのが青い空中分解機体であるヅダだった。

肇はその改良機である黒をベースとして「ギャン」のパーツを組み込んだヅダFのガンプラを愛用している。改良機なだけあって暴発は少なくなったが、それでもする事はあるのだ。

 

「危険な機体、よく練習できるなぁ………。」

「もう!そもそも気持ちよくぶん殴れる機体だからってフルアーマー・ストライカー・カスタムを選んだ忍ちゃんに言われたくありません。」

「うッ………流石にそこを突かれると言い返せない………。」

「まあ、落ち着いて下さい!作成者の個性が出るのはガンプラのいい所です!」

『ん?』

 

忍と肇は首を傾げる。2人の口論を止めたのは芳乃では無かった。彼女の視線の先を見ると、3人の少女達が立っていた。

1人は黒髪を後ろにお団子で丸めた少女。1人は紫の外はねが少し混じる特徴的な髪の少女。そして残りの1人は綺麗な長い黒髪の女性であった。

 

「貴女達は………。」

「あ、待って下さい!名乗りますんで!」

 

そう真ん中の少女が肇を止めるとビシっとポーズを決めた。

 

「ダジャレンジャー!オレンジ!矢口美羽!………イエイ!」

「ダジャレンジャー、ピンク!輿水幸子!………フフーン!」

「だ、ダジェレンジャー………レッド………黒川千秋。」

『ダジャレンジャーズ、ここに参上!』

『……………。』

 

矢口美羽、輿水幸子、黒川千秋の名乗りとポーズに無言になる忍達。

特撮系を真似ているとは思ったが、妙な口上であったり、暖色系しか集まって無かったり、そもそもダジャレンジャーって何って思ったり………。

 

「………美羽ちゃん、幸子ちゃん、千秋さん。もしかしてチーム組んでるの?」

「はい!私が仕事で忙しい楓さん達の教えを受けて、チームの勧誘を行ってるんです!」

 

笑顔で応える美羽に忍はどう反応すればいいか分からなくなる。

美羽の言う楓………高垣楓というのは25歳児と一部で呼ばれている程のダジャレ好きなアイドルだ。ダジャレを極めたい美羽はそんな楓にそんな自分の代わりにチームを作ってくれと頼まれたのだろう。しかし、という事は………。

 

「幸子ちゃんもダジャレンジャーズの一員?」

「ボクはダジャレアイドルでは無いですが、美羽さんに頼まれて仕方なく組んであげたんです!………美羽さんはカワイイ素質があるからボクが導いてあげないといけませんからね。」

「やだなぁ、幸子ちゃん。私、カワイくないですよ?でも私、幸子ちゃんみたいに身体を張るアイドルになりたいです!」

「………本当に導いてあげないと近々道を踏み外しそうです。」

 

自覚が無い美羽を見て幸子は肩を落とす。

彼女は美羽の言う通り、何故か身体を張った仕事を得意としている。勿論、それに誇りを持っているのは確かだが、本来はカワイさに自論を持つ程のキュートなアイドルだ。

 

「千秋さんは?」

「私は2人の「お守」よ。………確かに最近、楓さんの影響でダジャレは嗜んでいるけれど、美羽に誘われるとは思わなかったわ。」

 

こちらも肩を落とす千秋。

本来は高潔な20歳のアイドルであるのだが、何故か色々な役柄をやる事が多く、経験豊富である。本人曰く、くっころ騎士もやったし、メタルも歌ったとの事。

 

「んで、3人のターゲットは………。」

「はい!私達のチームに「ダジャレンジャー・ゴールド」として芳乃さんに入ってほしくて!」

「わたくしですかー?でもわたくし、だじゃれは得意では無いですよー?」

「このチームには癒しが欲しいんです!ガンプラバトルはガンダムとは違います!ギスギスしす「ぎス」ないように芳乃さんのような存在がいてくれると嬉しいんですよ!」

 

微妙に気づきにくいダジャレを挟む美羽の言葉に対し、芳乃は考え込む。

彼女としては悪い気はしていないらしいが、如何せんコントのようなチーム故に入りたい気も起きていないらしい。

 

「保留でお願いするのでー。わたくしはまだ、がんぷらが作れていませんしー。」

「そうですか。無理強いはしません。じゃあ、また機会があったらお願いしますね!」

「芳乃さんもカワイイガンプラ作って楽しんでください!」

「邪魔したわね。それじゃあ、失礼するわ。」

 

とりあえず曖昧な答えで済ませた芳乃に対し、3人は笑顔で去っていく。それを見送って忍や肇は芳乃のガンプラを見た。

 

「まずは、芳乃さんのガンプラ、完成させませんとね。」

「アタシも手伝うよ。みんなに楽しんでほしいからね、ガンプラバトル。」

「宜しく頼みますー。」

 

こうして芳乃のガンプラであるフェネクスが完成した。

 

 

――――――――――

 

 

「できた!………長かったが遂に4対4のシミュレーションバトルができるようになった!」

 

それから数日経ったある日、シミュレーター室で池袋晶葉は額の汗を拭って喜ぶ。

今までは2対2のバトルしかできなかったが、これで大会の控えメンバーも含めバトルができるようになる。

 

「ありがとう、泉、マキノ。お陰でようやく1つの形になった。」

「私達だけの力じゃないわ。」

「そうね。美城専務や美世さんを始めとした協力者の人達に感謝しないと。」

 

その場には大石泉と紫の長い髪の眼鏡の女性である八神マキノがいた。2人はデータに関する知識が豊富で、晶葉を始め彼女達がいるから346プロのシミュレーターが稼働するのだ。

 

「早速データ面でもパワーアップしたこのシミュレーターの実験をしてみたいが………。」

「失礼しますのでー。」

「おお、芳乃か。もしかしてガンプラバトルがしたいのか?」

「はいー。この完成したふぇねくすを試してみたいのでー。」

「ほう………ナラティブ仕様か。いいタイミングで来たな。早速コイツで試してみてくれ。」

「分かりましたー。」

 

芳乃はシミュレーターに入り、CPU戦を楽しもうとする。

………この時、誰もこれが騒動に繋がるとは思っていなかった。



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第13話 暴走

「え?芳乃ちゃんが何処にいるかって?」

「はい、そろそろガンプラできたかなって思って。」

 

食堂で工藤忍がお昼を食べていると、矢口美羽が問いかけてくる。

前に依田芳乃に「ダジャレンジャーズ」の一員になってくれないかと聞いた為に、その答えを知りたかったのだ。

 

「うーん、ちょっと知らないなぁ………。」

「そうですか。どうします?幸子ちゃん、千秋さん?」

「とりあえず、お昼を食べませんか?」

「そうね。腹が減っては、戦はできず………とも言うし。」

 

メンバーの輿水幸子と黒川千秋の進言で3人は忍の許可を取って同じテーブルで食事を取ろうとする。その時だった。

 

「い、いた!」

「泉ちゃん?」

 

慌てて走って来たのか、息を切らす大石泉の姿に4人は何事かと立ち上がる。

彼女は自分の走って来た方を指しながらお願いをする。

 

「力を貸して!芳乃さんが………大変なの!」

 

芳乃の名前を出されて忍はイヤな予感を覚えた。

 

 

――――――――――

 

 

シミュレーター室に走って来た忍達は、中で機械とコンソールを必死に弄る池袋晶葉と八神マキノの姿を見る。シミュレーターのほうを見ると、8機の内1機が稼働状態になっているが、何か変だった。

 

「ええい!強制終了ができない!ガンプラのこんな設定まで再現されるのか!?」

「晶葉ちゃん、マキノさん。何が起こったんですか!?芳乃ちゃんが大変って………。」

「忍達か!芳乃のフェネクスがコントロールを乗っ取った!」

『え!?』

 

晶葉の言葉に忍達は怪訝な顔になる。

ガンプラが人間のコントロールを乗っ取るとは一体………?

 

「「デストロイ・アンチェインド」。」

「………マキノさん?」

 

コンソールを叩いているマキノはこちらを見ずに答える。その画像を覗くとデストロイモードになって宇宙空間で多数のモビルスーツを蹴散らしているフェネクスの姿があった。

 

「フェネクスには「インテンション・オートマチック・システム」というのがあって、考えるだけでガンプラを動かせるという便利なシステムがあるの。………でも、その脳波と相性が良すぎるとデストロイモードからこのデストロイ・アンチェインドになって見る物全てを破壊する殺戮マシンになってしまう。」

「よ、芳乃さんは大丈夫なんですか!?」

「命に別状が無いように作ったのがシミュレーターよ。でも、これは「想定外」の出来事。だから、万が一の事もある。」

「想定外って皆さんは製作者ですよね!?何でこんな事が………!」

 

思わず言葉を荒げる美羽にマキノ達は僅かに申し訳なさそうに呟く。

 

「………346プロは大きなプロダクション。それ故、反感を買われやすいわ。今回の企画を受けて、外部からバグを起こすウイルスを送り込んだ存在がいる可能性もある。」

「私達のミスだ………。いきなりフェネクスなんかで試すんじゃなかった。」

 

晶葉は思わず頭をかく。

その上で立ち上がると忍達に頭を下げる。

 

「忍達を呼んできて貰ったのは他でも無い。芳乃を助け出してほしい。」

「助けるってどうするの?」

 

千秋の問いに晶葉は芳乃と反対側の4つのシミュレーターを指差す。

 

「単純な話だ。シミュレーター内でフェネクスを破壊すればいい。………だが、暴走状態のフェネクスは相当強い。4人で挑んでも返り討ちにあう可能性もある。」

「でも、それしか手が無いんですよね?だったらやるまでです。」

 

幸子の言葉に、晶葉はすまないと頷く。

こうなった以上、シミュレーション内で物理的に何とかするしか無い。4人共OVA等で暴走したフェネクスの圧倒的な実力は知っている。でも、芳乃は大切な仲間だった。

 

「連れ戻すよ………芳乃ちゃんを。みんな!」

「合点です!ヤグチパワーでフェネクスを止めます!」

「ボクのガンプラの力、見せる時ですね!」

「強敵だからこそ、ガンプラバトルは楽しめるのよ!」

 

4人は頷きあうとシミュレーターに入り、それぞれのガンプラをセットした。

 

 

――――――――――

 

 

「さて、問題は誰がリーダーをやるかだけれど………。」

『忍さん!臨時リーダーお願いします!』

「アタシ!?ダジャレンジャーズを集めた美羽ちゃんとか年長の千秋さんとかじゃないの!?」

『私達はまだそんな沢山チームでバトルをしてないわ。だから経験豊富な貴女に任せるわよ。』

「わ、分かりました。やってみます!」

 

内心不安を覚えながらも忍は電子的なカタパルトが展開されると共に、いつもの発進時の言葉を発する。

 

「工藤忍、フルアーマー・ストライカー・カスタム!行っきまーす!!」

『矢口美羽!ガンダムAGE-1 タイタス!マッシブにゴー!』

『カワイイ輿水幸子がギラ・ドーガ サイコミュ試験タイプで出ますよ!』

『黒川千秋!ビギナ・ロナ、騎士の誇り見せるわよ!』

 

4人の機体が宇宙空間へと飛び出す。その光景は………。

 

『うわあ………。』

 

思わず4人がなんとも言えない声を出す。

辺り一面、様々な世界線のモビルスーツの残骸が広まっており、暴走フェネクスによる破壊の凄まじさを示していた。

 

『CPUのモビルスーツをぶつけているけれど、効果なし。………この先に芳乃のフェネクスがいるから、今のうちに機体特性とか話し合っておいたほうがいいわよ。』

 

マキノの通信を聞いて、忍は美羽達3人のモビルスーツを理解していない事に気付き、順次見渡す。

まず、美羽の機体はガンダム顔であったがレスラーのように赤く太い四肢を持っていた。

次に幸子の機体は赤いモノアイのジオン系。「ヤクト・ドーガ」に似ていたが少し違っている。

千秋の機体は小柄ではあったが白い騎士を思わせる風貌で大量の槍を背負っていた。

 

「美羽ちゃんのガンプラは「ガンダムAGE-1 タイタス」だっけ?「機動戦士ガンダムAGE」の。」

『ハイ!ウケが狙えると思って気に入っちゃいました!射撃武器は持ってませんが、近距離での格闘戦は任せて下さい!』

「フェネクスは遠距離武装が使えるらしいけれどどうするの………?」

『そこは皆さんに任せます!』

「任せるって………。」

『チーム戦は連携ですから!………それにこの空間なら武器には困らないですし。』

 

そう言うと美羽のタイタスは破壊されたヅダが使っていたと思われる「135mm対艦ライフル」を掴み残弾数を確認する。成程、ステージによってはそういう戦い方もあるのか、と忍は内心感心する。

 

「幸子ちゃんの機体は?」

『「ギラ・ドーガ サイコミュ試験タイプ」です。「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」の「モビルスーツバリエーション」………通称「CCA-MSV」の機体ですよ。』

「主な特徴は何?」

『ファンネルや「インコム」による遠距離攻撃ですね。………とはいえ、フェネクスはファンネルのコントロールを奪う「サイコミュ・ジャック」があるから有線によるインコムがメインになりますが。』

 

しっかり自分の機体特性と相手の機体特性を理解しているのだな、と忍はこちらにも感心する。幸子はこう見えて勤勉なのだ。

 

「千秋さんの機体も教えて下さい。」

『「ビギナ・ロナ」はゲーム「SDガンダム GGENERATIONシリーズ」のオリジナル機体よ。7本の槍を移出する「バスター・ランサー」が切り札だから覚えておいて。』

「ありがとうございます。」

 

簡潔に特徴を説明してくれる千秋に忍はこの3人は場慣れしていると勘づく。千秋はあまりチームで戦ってないと言っていたが、恐らくメンバー勧誘の過程で個別に実力は磨いていたのだろう。

急に忍は彼女達に頼もしさを覚える。後は、どうフェネクスに対して戦っていくかだ。

 

「アタシの切り札は「妖刀システム」による一時的な高速機動………か。」

 

忍はとりあえず何が起こってもいいように自分が前に出て、3人に後ろからの援護を任せる。しかし………。

 

ズギュウゥゥウウウウンッ!!

バシュゥウウウウウウンッ!!

バシュゥウウウウウウンッ!!

 

「うわッ!?」

 

その妖刀システムはいきなり発動せざるを得なかった。というのも、遠距離からビームが雨のように飛来してきたからだ。

どういう事か、赤いビームと青白いビームが複数入り混じっている。

 

「マキノさん!?」

『赤いビームは「ビーム・マグナム」!青白いビームは2基の「シールド・ファンネル」からの「メガ・キャノン」!』

「3つの砲門から強力なビームが飛んできてるの!?」

 

更に忍は見る。

前方から破壊したモビルスーツを蹴散らして、芳乃からコントロールを奪ったフェネクスがシールド・ファンネルと共に高速で突進してくるのが。

 

「負けられ………ない!」

 

忍達は強大な敵と対峙した。



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第14話 フェネクスとの対峙

『忍、仕掛けるわ!』

『私と幸子ちゃんで1基!千秋さんで1基!ファンネルを狙います!』

『その隙に本体を狙って下さい!』

「分かった!」

 

黒川千秋はビギナ・ロナの「ヴァリアブル・メガビームランチャー」を使い、左手に見えるシールド・ファンネルに高出力のビームを放つ。

同時に矢口美羽のタイタスはヅダから奪った135mm対艦ライフルを右手のシールド・ファンネルに撃ち、輿水幸子のギラ・ドーガは「オプション・シールド」の4門の「メガ粒子砲」を同じ方向に集中させる。

堅い「フル・サイコフレーム」で「Iフィールド」を備えたシールド・ファンネルには全然効果が無かったが、シールド表面を向けて防御しないといけない為、その間はメガ・キャノンを使えないという欠点があった。

その間に工藤忍はフルアーマー・ストライカー・カスタムで一番破壊力のある太刀フカサクを使い、一発で決めようとビーム・マグナムを回避しながら懐に飛び込む。

 

「一刀両断………ッ!?」

 

だが、妖刀システムによる超振動で簡易なビームすら斬り裂けるはずだったその太刀はかざした左腕で防がれる。見れば腕から高出力のビーム刃が発生しており、フカサクを防いでいた。

 

「「ビーム・トンファー」!?………でも、フカサクで押し切れば………!」

 

しかし、ここで奇妙な事が起こる。

フェネクスが右手でフカサクに触れると突如爆発したのだ。

 

「えぇッ!?………うわぁッ!?」

 

その僅かな隙に付け込まれ膝蹴りで蹴り飛ばされた忍は揺れを感じながらも、本能でフェネクスの次の行動を予想し、慌てて増加装甲を全てパージさせ、とにかくバーニアを吹かす。

思った通り、今いた場所にビーム・マグナムが飛来し、パージした武装を次々と吹き飛ばしていく。

 

「今のは何!?」

『「ソフトチェストタッチ」!?右手で触れた物をわけの分からない力で粉砕するわ!』

「わけの分からない力って………!?みんなは………!?」

 

八神マキノの通信にツッコミを入れつつ、モニターを見渡すと、シールド・ファンネルは美羽達を執拗に襲っていた。

目立った被弾は今の所無いが、機動性に難がある美羽のタイタスが若干遅れ始めており、135mm対艦ライフルはもう破壊されていた。

 

「分断された………!どうすれば………!?」

 

妖刀システムも残り時間が少ない。怒涛のフェネクスの攻撃をどうするか。忍は頭がいっぱいになる。

 

「突破口は………!」

『忍さん!ビーム・マグナムだけでも破壊できますか!?』

「美羽ちゃん!?………それだけでどうにかなるの!?」

『えっと………正直、信じて下さいとしか言えないですが………。』

 

タイタスは機動力が追い付かず、ビギナ・ロナに半分引っ張って貰う形で回避している。その頼りなさを見ると心配にはなってしまう。だが………。

 

「………信じるよ。」

『本当ですか!?』

「その代わり、美羽ちゃん!必ず芳乃ちゃんを救って!」

『分かりました!』

 

他人を信じ、頼らなければ何も始まらない。アイドル活動でそう習った忍は美羽に賭けた。

彼女はストライカー・カスタムの「ナックル・ダガー」を取り出すと、トンファー状のビームを展開する。

 

「うおおおおおおおッ!!」

 

そして、敢えて一直線にフェネクスに向かって行く。当然フェネクスはビーム・マグナムを撃つが、彼女は最小限の動きでビーム弾の周りを回るように動くとナックル・ダガーを2つビーム・マグナム本体に向けて投げる。しかし当たらない。

 

「まだまだーーーッ!!」

 

それでも諦めずにバースト・ナックル用の吸着爆弾を2つ放り投げる。それが丁度ビーム・マグナムの次発の発射と重なった。赤いビーム弾が投げつけた爆弾を至近距離で爆発させ、ビーム・マグナムの本体を呑み込む。

忍の機体はビーム弾の奔流に貫かれ爆発したが、目的は達成する事ができた。

 

「頼むよ、美羽ちゃん………!」

 

最後に忍はそう言った。

 

 

――――――――――

 

 

『さて………どうするんですか、美羽さん!』

「幸子ちゃん!「インコム」で1つのシールド・ファンネルを!ビームじゃなくて「紐」を使って!」

『成程………そう来ますか!』

 

美羽の言いたい事を理解した幸子はオプション・シールドの側面からインコムを3基撃ち出し、シールド・ファンネルの内の1基に巻き付かせ、がんじがらめにする。

そこに、もう1基のシールド・ファンネルが咄嗟にメガ・キャノンを放って来た為、幸子のギラ・ドーガは動けず………いや、堂々と動かず撃破される。

 

「1基にバスター・ランサーを「6本」頼みます、千秋さん!」

 

そう言うと、幸子のギラ・ドーガの紐で身動きが制限されているシールド・ファンネルに向かって、右前腕部からリング状のビームを発生させながら美羽のタイタスは突っ込む。

そのまま「ビームラリラット」を青いフル・サイコフレームが剥き出しになっている部分………「耐ビームコーティング」がされていない部分を狙って思いっきり叩きつける。

 

「ヤグチラリアットーーーッ!!」

 

膨大なビームのラリアットをまともに受けたシールド・ファンネルは力で両断され爆散。

もう1基のシールド・ファンネルは、隙だらけの美羽のタイタスを狙おうとするが、そこに太い槍が6本飛来する。

千秋のビギナ・ロナがバスター・ランサーを中心の1本以外全て発射したのだ。これにはシールド・ファンネルも回避しきれず、2本刺さってしまい、爆発を起こす。

 

『邪魔なシールド・ファンネルは撃破したわ!美羽!』

「行ってきます!!」

 

美羽はタイタスの「磁気旋光システム」のリミッターを外し、四肢にビームのリングを生成し、忍のストライカー・カスタムを撃破したフェネクスへと突撃していく。

フェネクスはその動きを読み、ビーム・トンファーを両腕に出しながら機動力の差を活かし、高速でタイタスの背後に回りこむ。

 

「その動きは読んでます!」

 

だが、振り向きざまに美羽のタイタスは回し蹴りを喰らわして、フェネクスを吹き飛ばす。そのまま高軌道スラスターによる高い瞬発力を活かして突進すると、左手でフェネクスの右腕を掴み、ビーム・トンファーを握りつぶすと共に厄介な右手の動きを封じる。

 

「これでソフトチェストタッチは使えませんね!………おっと!」

 

フェネクスは左腕のビーム・トンファーでコックピットを狙ってくるがこれはリング状のビームを纏った右腕で防御。戦況を打開しようとお互いがスラスターを噴き上げる形になり、動きが止まる。

だが、徐々に根本的なパワーの差からタイタスの腕にヒビが入ってくる。マキノがそのデータを確認し、珍しく焦る。

 

『マズい!タイタスが………!?』

「だからこそ、残りの「1本」です!千秋さん!「私ごと」やって下さい!!」

『その覚悟、無駄にはしないわ!』

 

フェネクスは気づかなかった。タイタスの後ろからバスター・ランサーを構えながらビギナ・ロナが迫ってきていたのを。

フェイスオープンをして、赤いデュアルアイを見せた千秋のガンプラは、美羽のタイタスを貫通しながらフェネクスのコックピットにその太い槍を突き刺す。

 

『はぁぁぁぁああああああ!!』

 

フル・サイコフレームの装甲をゴリゴリと削ったバスター・ランサーは遂にフェネクスを貫く。手を離し下がったビギナ・ロナの前で、フェネクスとタイタスが同時に爆発を起こした。

 

「お、終わった………?」

『………芳乃のシミュレーターが開いたわ!貴女達の勝ちよ、美羽。』

「え?あ、いや~、私は美味しい所持っていっただけで………。」

『そんな事無いよ、美羽ちゃんの機転のお陰で芳乃ちゃんは助かったんだから。………ありがとう。』

「……………。」

 

忍の温かい言葉に、美羽は少しだけ泣きそうになった。



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第15話 ガンプラと「心」

シミュレーターを急いで開けた工藤忍・矢口美羽・輿水幸子・黒川千秋は反対側に回る。

見れば、目を閉じている依田芳乃の周りに池袋晶葉・八神マキノ・大石泉だけでなく、泉が呼んできたのであろう、藤原肇・美城専務もいた。

 

「芳乃さん!目を開けて下さい!大丈夫ですか!?」

「うーん………。」

 

肇の声に、ぼんやりとだったが芳乃の目が開く。

彼女は周りを見渡すと思わず申し訳なさそうに俯いた。どうやら、コントロールを乗っ取られていた時の記憶があるらしい。

 

「そのー………大変申し訳ございませんー。わたくしの不徳の致す所で皆様に多大な迷惑を掛けてしまいましてー………。」

「そ、そんな迷惑だなんて!」

「そうですよ、芳乃さんが無事で良かったです!」

「大体、これはウイルスの仕業。貴女が悪いわけじゃないでしょう?」

 

しおれたような声を出す芳乃に対し、ダジャレンジャーズの3人が思わず励ましの言葉を送る。

確かに今回の騒動は芳乃に非があるわけでは無い。ウイルスによってシミュレーターがバグを起こして暴走してしまっただけなのだ。それでも破壊衝動のままに皆を苦しめてしまっただけに、芳乃の顔は晴れなかった。

 

「わたくしは………ふぇねくすとあわなかったのかもしれません………。」

「芳乃ちゃん………。」

 

忍は何て言っていいか分からなくなる。

ガンプラバトルは楽しむ為の物なのに、こんな形で芳乃が苦しむ事になるなんて辛かった。何か言いたい忍だったが、そんな彼女の肩を専務が叩き言う。

 

「依田芳乃………ガンプラのせいにしてはいけない。今回はウイルスの件もあったが、元々フェネクスが暴走状態になってしまったのは君の未熟さもあったからだ。」

「ちょ、ちょっと専務!?そんな言い方!?」

「最後まで聞け。………逆に言えば暴走状態になるだけの素質は持っていたとも言える。少しずつ別の機体でガンプラバトルを鍛えていけば、いつかフェネクスも使いこなす事ができるだろう。」

「それはー………本当なのでー………?」

「本当だ。ユニコーンガンダム系列のパイロット達は、皆そうだっただろう?」

 

専務の言う通り、「バナージ・リンクス」を始めとしたパイロット達は、最初は皆機体を暴走させている事が多い。

そうした経緯があるからこそ、ドラマが生まれる。今回の忍達を巻き込んだ騒動のように。

 

「工藤忍達を巻き込んでしまった事に責任を感じているのならば、今後どうやってその責任を取っていけばいいか自分なりに考えればいい。」

「ですがー………。」

「嘗てテレビで「ダグザ・マックール」が言っていた。自分で自分を決められるたった1つの部品が「心」なのだと。」

「………心………ですかー。」

 

芳乃は胸を押さえる。

どうすればいいのか、自分の心で考えないといけない。彼女はシミュレーターに置かれたフェネクスを見る。自分が今後フェネクスと共に付き合っていくには………。

 

「えっと………いいですか?」

「矢口美羽。意見があるなら言ってもいいぞ。」

「そ、それでは………ふとんがふっとんだ!」

『は?』

 

いきなりのダジャレに皆が固まる中で美羽は叫ぶ。

 

「クールな矢口がくーる!………ガンダムネタじゃないとダメ!?じゃあ、お正月にはガンタンク!」

「………矢口美羽。何がしたいか説明しろ。」

「え、あの………とりあえず苦しい時は笑って貰えるように振る舞うべきかなって思って………。」

「その程度のレベルでは笑えないぞ?」

 

専務の容赦ない言葉に美羽は思いっきり肩を落とす。

呆然とする芳乃に対し、美羽は俯きながら、指を弄り呟く。

 

「な、悩む事なんて常にあると思うんです。だから、辛いと思った時はみんなで手助けしながら笑う方法を考えたほうがいいんじゃないかなって………。」

「美羽さんー………そなたはー、わたくしに笑えと仰るのですかー?」

「き、強制じゃないですよ!でも………1人で悩んでいるなんて芳乃さんらしくないです。失せ物探しが特技の芳乃さんなんですから、きっと答えは見つかります!だから………楽しんでいきましょう!」

 

最後は顔を上げて言った美羽に芳乃はしばし目を見開き………。

 

「くすくすー………。」

「え?私、何か変な事言いましたか!?」

「いいえー………わたくし、大事な事を忘れる所でしたー。がんぷらばとるを楽しむ気持ちを抱かなければ前を向く事もできませんよねー。」

 

芳乃はそう言うと立ち上がり、周りを見渡し、頭を下げた。

 

「皆様ー、この度はありがとうございますー。わたくし、もっと精進いたしますー。」

 

間延びした口調は変わらなかったが、その顔には力強さが混じっていた。

 

 

――――――――――

 

 

「あのー、このがんぷらー、ぱーつを刺す部分が間違っていましてー?」

「アレ?………あ!本当だ!は、早く外さないと!」

「何やってるんですか、美羽さん!これじゃあ、芳乃さんのガンプラの組み立ての邪魔になるだけですよ!」

「みんな落ち着きなさい!………もう、このチーム先行きが思いやられるわ。」

「本当なのでー。」

 

後日、ダジャレンジャーズの3人は新しい芳乃のガンプラの作成を手伝っていた。というのも芳乃がダジャレンジャーズの一員に正式になったからだ。

別に罪滅ぼしの意識で参加しなくていいと美羽達は言ったが、芳乃はこのチームで鍛えてみたいと懇願したのだ。

その結果、こうしてレッスンの合間に4人で活動する事になっている。

 

「わたくしより、美羽さんのがんぷらを作り直した方が宜しいのではー?たいたすでは足を引っ張るだけなのでー。」

「あー!言いましたね!私のタイタス、結構自信作なのに!」

「フフーン!その点ボクのギラ・ドーガは「サザビー」の原型機なだけあって素晴らしいです!」

「私のビギナ・ロナも忘れないで欲しいわね。」

 

そんな4人を遠目から忍と辻野あかりがアップルパイを食べながらのんびりと見ていた。

何だかんだで、芳乃の表情は明るい。いい仲間に恵まれたと思っていた。

 

「肇ちゃんが嫉妬していたよ。芳乃ちゃんを取られたって。」

「楽しそうな表情を見ればそれも分かります。………そう言えばシミュレーターは?」

「あの日以来、毎日メンテしているから大丈夫だって。専務の行動も早くて、ウイルスを送って来た犯人はもう捕まったみたいだし。でも………。」

 

また、いつこういう事件が起こるか分からない。それだけは心に留めておかなければならなかった。

 

「そう言った経緯もあって、今後は外のゲームセンターのシミュレーターも管理する事になったんだ。」

「そこでガンプラバトルをする事も許可されたって言っていましたね。色々なプロダクションのアイドルが集いそうです。」

「リサちゃん以外にも混成チームができるかもね。………あ、最後の一切れ貰い!」

「んごッ!?………ううッ。ちょっと私も出かけようと思うんご。」

「何か新しいガンプラを買うの?」

「ちょっとゲームセンターに行こうと思いまして………。」

「ここのシミュレーターは使わないの?」

「順番待ちだから色んな所のシミュレーターを活用したいんです。」

「成程………じゃあ、面白い事あったら教えてね。」

「分かったんご。」

 

あかりは忍にそう言うと、未だ楽しそうにガンプラ作りをしているダジャレンジャーズの様子に苦笑しながら街へと出た。

 

 

――――――――――

 

 

あかりが街に出る数時間前、藤原肇はヅダFをカバンにしまい、同じくゲームセンターへと出ていた。実は専務から外でのガンプラバトルを定期的に試してほしいという依頼を受けたからだ。

そんな彼女であったが、元々は機械に強くない事もあってゲームセンターの雰囲気には毎度呑まれそうになる。

 

(えっと、目的のシミュレーターは………。)

 

色々と確かめようとしたためだろうか。若干周りへの注意が疎かになった。そこで、向こうから同じように周りを見渡していた為か、前方不注意だった少女とぶつかってしまう。

 

「きゃあッ!?」

「ご、ごめんなさい!」

 

尻もちをついた少女を見て、思わず肇は謝る。

その娘は白い長い髪を持っていた。綺麗だと思うと同時に何処かで見たような覚えも肇は抱く。

 

「大丈夫ですか?」

「はい、私こそごめんなさい。クレーンゲームで景品を取って興奮してしまいました。」

 

見ればそれはガンプラの箱であった。この少女もガンプラが好きなのだ。

そして、立ち上がると少女は肇を見て神妙な顔をして言う。

 

「あの………もしかして、346プロの藤原肇さんですか?」

「え?はい、そうですけれど………。貴女は?」

「まあ!「あらかねの器」素晴らしい曲でした!………あ、名前言わないと。」

 

少女は肇のソロを褒めると礼をする。

 

「私は詩花。961プロのアイドルです。宜しくお願いします!」

 

少女………詩花は肇にそう名乗った。



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第16話 各事務所のアイドル達

「「シンデレラとガンプラのロンド」!夢みたいな企画ですよね♪美城専務から私の所属する961プロにも参加してみないかという依頼が来たので、私がパ………社長に無理やりお願いしたんです!」

「そうなのですか………。」

 

ゲームセンターの隅に置いてあるベンチの1つに座りながら藤原肇は詩花の話を聞いていた。

961プロというのは黒井崇男社長が統括する大手プロダクションだ。

彼はスカウトの才能はあるのだが、過去の経緯からなのか、765プロの高木順二朗社長に憎悪に近い感情を抱いており、固執しすぎているのが難点であると聞いた事がある。

それ故に765プロへの妨害工作に出やすく、それを嫌悪した所属アイドルに離反をされた事があるという話も肇は知っていた。

 

「今の961プロは所属アイドルが少ないと言われていますけれど、チームメンバーは集められているのですか?」

「そこなんです………。本当は765プロのアイドルの方と組みたいのですが、社長がそれを許してくれなくて………。それで、お姉さま………玲音さんと共に、別の事務所でそれぞれチームを組んでくれそうな人達を探してるんです。」

「大変ですね………。」

 

落ち込む詩花の姿に肇も考え込む。

専務はそうした961プロのアイドル達にもロンドを楽しんでもらえるように変則チームをアリにしているのだろう。とはいえ、社長の選り好みで制限が掛かってしまうのは問題ではあった。

 

「肇さんはもうチームを組んでいるんですか?」

「まだですよ。でも、私の機体はヅダFなので中々誘いにくくて………。」

「ヅダF!?カッコいいじゃないですか!そんなモビルスーツを操れるなんて………!凄いです!」

「そ、そう言われると………。」

 

手放しに誉める詩花の言葉に思わず肇は赤面する。確かに気に入ってはいるが、ここまで褒められたのは初めてかもしれない。

 

「いいなぁ………。私のガンプラと勝負してみたいなぁ………。」

「あ、じゃあ戦ってみます?私、ちょっと仕事でここのシミュレーターの調子を確かめに来ているので。」

「本当ですか!やります、やります!」

 

手を合わせて喜ぶ詩花は早速、肇をシミュレーターへと誘った。

そして、ゲームセンター内を歩いていくと、2対2で戦えるそれがあった。

このシミュレーターは4人でCPU戦を楽しむ事もできるように出来ており、近日池袋晶葉達によって量産されたシミュレーターが運び込まれ、4対4のバトルも楽しめるようになるらしい。

 

「こういう所は346プロの技術力の高さに感謝ですよね♪」

「私は機械に弱いので、専門外ですが………あら?」

 

肇達は気づく。先客がシミュレーターを起動しており、丁度終えていたのを。

中から地団駄を踏んだ茶髪の長い髪の少女が出てきて、反対側から出てきた苦笑いを浮かべる栗色の髪の少年に突っかかっている。

 

「あんな戦法アリ!?どう見たって反則でしょ、涼!」

「夢子ちゃんだけには言われたくないなぁ………。あ、ホラ、次のお客さんだよ。代わらないと。」

 

その姿を見て、詩花は思わず声を上げる。

 

「もしかして、876プロの桜井夢子さんと315プロの秋月涼さんですか!?」

「あら?貴女達は961プロと346プロの………。」

「こんにちは。2人共ガンプラバトルをしに来たんですか?」

「あ、はい。点検も兼ねて………。驚きましたね、別々のプロダクションのアイドルがこうして揃うなんて………。」

 

876プロは石川実社長が経営する比較的小さめなプロダクションだ。

しかし、所属アイドルは個性的で可能性に満ちており、美城専務や各事務所の社長を始めとした人々からはチェックされている。

桜井夢子は、元々は別のプロダクション所属であったが、過去に起こした妨害工作等の不祥事によって876プロに受け入れて貰った経緯がある。勿論、今はそういった工作は控えてはいるが、勝気な性格は続いていた。

一方、315プロは齋藤孝司社長が経営する男性アイドルが中心のプロダクション。

本人はパッションな人材を求めているらしく、過去に理由があってアイドルになった人物達が揃っている。

秋月涼は、876プロとの兼任をしている珍しいタイプの人材で、何と元々は女装アイドルとしてデビューしていた。それが色々あって男性アイドルとしてもデビューする事になり、315プロに所属している。

 

「それで、夢子さんと涼君はここでガンプラバトルをしていたんですね。」

「そうです!でも、涼ったらズルい手段ばかり使うんだから!」

「だから夢子ちゃんだけには言われたくないなぁ………。」

「まあ、2人は仲が良いのですね!」

 

詩花の言葉に一瞬だけ夢子が赤面したのを肇は見逃さなかった。どうやらこの2人の間には一方通行の甘酸っぱい感情があるらしい。

 

(涼君は朴念仁なのかもしれませんね………。)

 

少し心の中で嘆息した肇は何かを閃き3人に提案する。

 

「そうです!折角だから4人でガンプラバトルしてみませんか?」

『4人で?』

 

肇の言葉に対し、3人は同時に首を傾げた。

 

 

――――――――――

 

 

「こ、これは一体どういう事!?」

 

ゲームセンターのシミュレーターへと来た辻野あかりは、人が集まっているのを見る。

このシミュレーターはアイドルが使用している事もあって、たまにファンが集まる事もあるが、今日はいつもとは比較にならない位の膨大な人数が集っていた。

 

「あ!あかりちゃん。丁度良かったです!私達のバトルの実況をして貰えませんか!?」

「肇さん!?………って、ええッ!?」

 

シミュレーターの前で手を振る肇の傍に詩花・夢子・涼の姿を見たあかりはひっくり返りそうになる。

各事務所の知る人ぞ知るアイドル達が集っていたからだ。

 

「なして!?346と961と876と315の異種ガンプラバトルが!?」

 

正にファンはこの珍しい光景を見に来たのだった。

店側もこれは売上を伸ばすチャンスと言わんばかりに大型モニターに映像を映し出している。あかりが見てみると、今回はステージとして、宇宙の暗礁宙域が選ばれていた。

 

「肇さん、これ、やり過ぎですよ………。」

「すみません、稼働状況を確かめようとしたらこうなっちゃって………。」

 

サインを求める人達に応えつつ、何とかシミュレーターまで辿り着いたあかりは肇に言う。

肇はぺろっと舌を出して謝るとシミュレーター内へと入っていく。

 

「えっと、それでは始めますんで皆様、整列を願います。後、山形リンゴを宜しくお願いします。」

 

しょうがないと思ったあかりは、しっかりと地元アピールをしつつ実況を始める。

ファンからは大きな歓声が上がった。

 

 

――――――――――

 

 

「では、私と詩花さん。夢子さんと涼君のチーム対抗というわけで。」

『こちらは準備できました、肇さん♪』

『やるからには全力で勝ってみせるわ!』

『楽しむ事、忘れないでね、夢子ちゃん。』

 

肇はヅダFをセットしてイスに座り操縦桿を握り、ペダルを踏む。電子的なカタパルトが出てきて発進準備が整った。

今回は互いのガンプラを事前に公開したので、ある程度の戦法は予測できる中での戦いだ。頼りになるのは腕と機転になった。

 

「では………藤原肇、ヅダF!参ります!」

『詩花がνガンダム ダブル・フィン・ファンネル装備型で出ます!』

『桜井夢子!ザンスパインで勝ちに行くわよ!』

『秋月涼、ザクII改で男らしく行くよ!』

 

4人のそれぞれのガンプラがカタパルトから宇宙に飛び出した。



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第17話 346&961対876&315

宇宙に飛び出した藤原肇のヅダFは、詩花の「νガンダム ダブル・フィン・ファンネル装備型」と共に暗礁宙域を飛んでいた。

この詩花の白いガンダムは、文字通り「νガンダム」の「フィン・ファンネル」をバックパックの左右両方に装着した物だ。大気圏内ではデッドウェイトになるが、宇宙では倍のファンネルを駆使できる為、空間戦闘で有利になる。

 

「味方として頼りにさせて貰いますね。」

『はい♪任せて下さい。』

「問題は夢子さんと涼君の機体ですが………。」

 

桜井夢子の操る「ザンスパイン」はゲーム「SDガンダム GGENERATIONシリーズ」のオリジナル機体。「V2ガンダム」をザンスカール帝国用として開発したという設定だ。「ミノフスキードライブ」から「光の翼」を出す事ができる他、「ティンクル・ビット」という4基のビット等の攻撃手段を持つ。

一方で秋月涼の「ザクII改」は「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」の主役機体。「バーナード・ワイズマン」の手で「ガンダムNT-1」と相打ちになったという経緯がある。武装はそんな強力な物は備えていないが、前のガンプラバトルでの夢子の発していた言葉が気に掛かっていた。

 

「あの雰囲気だと涼君のザクII改は夢子さんのザンスパインに勝ったらしいですが………。」

『気になりますが………いえ、今はこのバトルに集中ですね。来ましたよ、ザンスパインが!』

 

詩花の言う通り、夢子の小柄で紫を基調としたザンスパインが、赤い光の翼を発しながら迫って来た。肇のヅダFと詩花のνガンダムは宇宙空間での機動力と瞬発力を活かし、突撃を躱す。そのまま、両肩からザンスパインはティンクル・ビットを出した。

 

『ッ!?………フィン・ファンネル!』

 

詩花は早速背中のフィン・ファンネルを放出する。そして、倍のファンネルがある事を活かし、自分と肇の機体の両方に四角錐の「ビーム・バリア」を張る。

 

「ありがとうございます。これでビームは防げますね。」

 

ティンクル・ビットは赤いビームを数発、ヅダFとνガンダムに撃ってくるが、見事にこれを無効化する。そのまま詩花の号令と共にバリアを解除すると、ヅダFは「95mm狙撃ライフル」を、νガンダムは「ニュー・ハイパー・バズーカ」を撃つ。

 

『やるわね!』

 

夢子はそう言い残すとティンクル・ビットを回収し、ザンスパインを反転させる。

肇と詩花は砲撃を続けながら追いかけるが、そこで奇妙な光景を見た。

 

「こ、これは………?」

 

何と、暗礁宙域いっぱいに巨大なサンタクロースが浮かんでいたのだ。これには肇達は思わず戸惑ってしまった。

 

「も、もしかして、ポケットの中の戦争で登場した「ダミーバルーン」ですか?」

『涼さんのザクII改がセットしたのでしょうか?通るのに邪魔ですね………。破壊しますか?』

「そうですね、何処にザンスパインが潜んでいるかも分かりませんし………。」

 

だが、そこに夢子の声が聞こえてきた。

 

『さて問題。この中に「ハンド・グレネード」入りのバルーンは幾つあるでしょうか?』

『ッ!?』

 

その言葉に2人は固まった。

ハンド・グレネードはザクII改の武装だ。確か最大で弾数は3つあったはずだから、少なくとも3つのバルーンは爆弾入りという事になる。

下手に破壊して近くで誘爆したら目も当てられない。

 

「………どう、飛び込みましょうか?」

『落ち着いて下さい、肇さん。要は爆発に巻き込まれない距離から破壊すればいいだけです。その為のフィン・ファンネルですから!』

「確かにそうですが………。」

 

イヤな予感がした肇のヅダFは一瞬動きが止まってしまう。その結果、詩花のνガンダムと少しだけ距離が開く。詩花はファンネルの1基でバルーンを撃ち抜いた。すると………。

 

ボフッ!!

 

『ええッ!?』

 

思わず2人は驚かされる。

破壊したバルーンから出てきたのは爆弾ではなく煙幕。しかも、奥で涼のザクII改が他のバルーンも起爆させたのか、立て続けに煙幕が起こる。若干ではあるがファンネルの操作の為に近づいていたνガンダムはそれに呑まれてしまった。

 

『ば、爆弾入りっていうのはウソだったのですか!?』

『ウソを付いたらいけないって決まりは無いわよね!』

『!?』

 

正面から赤いビームが飛来する。夢子のザンスパインが「ビーム・ライフル」を撃って来たのだ。慌てて防ごうと詩花のνガンダムはビーム・バリアを張ろうとする。

 

『ファンネルで………!』

「待って!詩花さん、バリアはダメ!?」

 

バチッ!

 

直感でマズいと感じた肇の忠告は間に合わず、展開したフィン・ファンネルの1基がイヤな音を立てる。ザンスパインが右肘から出していた電磁ワイヤーである「ビーム・ストリングス」に引っかかったのだ。

 

バチバチバチバチバチッ!

 

『ふぁ、ファンネルがッ!?』

 

そのままフィン・ファンネルに電気が流れてショートしてしまい、ビーム・バリアが消える。更に、ザンスパインは素早く左肘から直接νガンダムにビーム・ストリングスを放ち、今度は機体をショートさせ動きを封じこめてしまう。肇のヅダFは助けに行きたかったが、煙幕の外にいるので状況判断が遅れてしまった。

 

『涼!』

『楽勝!………って事でゴメン!』

 

響いて来たのは爆発音。

ザクII改が「ヒート・ホーク」でνガンダムを叩き斬った事だけは理解できた。

煙幕が収まって広がった空間には、νガンダムの残骸だけ。ザンスパインとザクII改はまた隠れていた。

 

『私もザクに敗れるガンダムになっちゃいました………。ごめんなさい、肇さん。迂闊でした。』

「気にしないで下さい。バルーンがハッタリと分かっただけでも………ッ!?」

 

アラートが鳴り、肇のヅダFは自分の後ろに4基のティンクル・ビットが飛来したのを察知する。否が応でも前進を余儀なくされてしまう。

 

(落ち着いて………!暗礁宙域だからビットも簡単には当たらないはず!)

 

「ザク・マシンガン」を持って撃ち落とそうと反転して狙いながら肇のヅダFは土星エンジンを吹かし、暗礁宙域内を飛びまくる。何とか1基でも破壊できれば楽になる。そう思い、マシンガンをひたすら連射する。

 

「当たって………!」

 

その労力もあって1基のビットに命中し、爆発させる。

しかし、その時、右足に何かが巻き付くのを察知した。

 

「なッ!?」

 

それは、バルーンに入って無かった紐付きのハンド・グレネード。ブービートラップに引っかかったのだ。

 

「しまッ!?」

 

次の瞬間、それは起爆し、派手に爆発を起こした。



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第18話 ジオンの名機

爆発を見ながらザンスパインを操る桜井夢子はガッツポーズを見せる。

敵となった時は厄介だった秋月涼のザクII改のブービートラップが、このバトルでは見事に役に立った。自分が想いを寄せる人物の功績であるだけに思わず嬉しくなってしまう。

 

「やったわね、涼!」

『待って、夢子ちゃん………。シミュレーターが終わってない!?』

「え?それって………。」

 

ピピピピピッ!

 

「後ろッ!?」

 

夢子は気づく。背後からヅダFが左腕の「シールド・ピック」を突き立てるようにして突撃して来たのを。その白兵戦用のピックはザンスパインの背中に突き刺さり、一気に貫く。そのまま距離を取ったヅダFの前でザンスパインが爆発した。

 

「何で!?脆いヅダの装甲じゃ………!?」

『脆かった分、ザク・マシンガンでも即座に撃ち抜いて切り離す事ができました………。』

 

唖然とする夢子に藤原肇の通信が聞こえる。見ればヅダFは右膝から下が無くなっていた。肇は咄嗟の判断で右膝を破壊し、右足の爆弾を切り離したのだ。

 

「うそォ………。」

『さあ………これでザクとヅダの一騎打ち。勝負です、涼君!』

 

項垂れる夢子の前で肇は高らかに宣言した。

 

 

――――――――――

 

 

肇の宣言を受けても、涼から通信は帰ってこなかった。

味方をやられても激昂せず、こうして落ち着いている所を見せると、相当メンタルは強いらしい。

 

(機動力は有利。………ですが、状況や機体ダメージは圧倒的に不利ですね。)

 

肇は周りの状況確認に集中しながら自分の今後の成すべき行動を確認する。この場合、下手に動かず涼のザクII改が狙ってくるのを待つしかない。どの方角から来るか………。

 

「………上ッ!」

 

「ザク・バズーカ」による砲撃を回避した肇のヅダFは即座にザクII改を追いかける。ブービートラップは怖かったがこの状況ではもう気にしてられない。ひたすら「ザク・マシンガン」で撃ちながら狙うしか無かった。だが………。

 

「狙いが………定まらない!」

 

実は、肇はあまり射撃が得意では無い。以前、祭りの出店の射的をした際に、外しまくった事もある。その分、咄嗟の集中力に長けているが、この場ではあまり役に立たなかった。

 

『もらうよ!』

「クッ!?」

 

更に涼のザクII改が逃げながら「MMP-80マシンガン」を連射してくる。今のヅダFが受けたら危ない。片足がもげて機体バランスも悪くなっている中で肇は必死になっていた。

 

「何とか狙いを………またッ!?」

 

そこで今度は左足にハンド・グレネード付きの紐が巻き付く。涼に上手く誘導された事でまたブービートラップに引っかかったのだ。今度は左膝を撃ち抜き、切り離す。

 

「バランスがどんどん崩れる………!でもトラップは後1個あるかもしれない………!」

 

ブービートラップはこの暗礁宙域のどこにあるのか?それとも実は自衛手段として直接ハンド・グレネードを持っているのか?色々な事が頭の中で駆け巡り混乱しそうになる。

 

「………そうだ!」

 

しかし、突如頭の中で妙案を閃いた肇は、ヅダFの右腕から弾を前に撃ちだす。それは涼のマシンガンで撃ち落とされるが、爆発の瞬間に左目を閉じる。

 

パァァンッ!!

 

『「信号弾」!?』

 

緑に発光するそれを見た涼は一瞬ではあるが視界を塞がれる。

肇は左目を開き自分のヅダFと涼のザクII改の間の空間を確認。そこに最後の1つのワイヤー付きのトラップを見つけた彼女は持っていたザク・マシンガンを直接ハンド・グレネードに投げつけて無理やり起爆させる。

 

「これでもうトラップは………!」

『クッ………!』

 

肇は「ヒート・ホーク」を持って一気に突っ込む。機体はボロボロであったが加速力はあった。決めるならこの一撃に賭けるしかない。

 

『僕も………諦められない!』

 

それに対し、視界が回復した涼もマシンガンを捨て、ヒート・ホークを持って一気に迫る。

ヅダとザク。ジオンの最初のモビルスーツとして生産ラインを争った機体同士がヒート・ホークを振りかぶり………。

 

「せいッ!」

『たぁッ!』

 

互いのコクピットを貫き2つの爆発がステージ上に広がった。

 

 

――――――――――

 

 

「す、凄いんご………。」

 

モニターの前でファンが大歓声を上げる中、辻野あかりはこのバトルの結末を見守っていた。どの機体も持ち味を最大限に活かし戦おうとするその姿に感動すら覚えていた。

 

「まさか、引き分けとは………勝ちたかったですね。」

「ごめんなさい、肇さん。私がもうちょっと役に立てれば良かったです………。」

「いえ、たまたま今回、詩花さんとの相性が悪かっただけですよ。」

 

「ゴメンね、夢子ちゃん。勝てなかったよ。」

「何、謝ってるのよ、アタシが油断したのが悪いんだから。それに楽しんだでしょ?」

「うん、楽しかった。」

 

肇、詩花、涼、夢子の4人はガンプラと共にシミュレーターから出てくる。その姿にファン達は更に大きな歓声を響かせた。そして、そんな中、拍手が聞こえてくる。

 

「………美城専務?いつの間に?」

「偶然近くを寄ったのでな。………見事なバトルだった。」

 

あかり達が驚く中、専務は4人を褒め称えるとコホンと息を吐き言う。

 

「各事務所対抗戦になったが、感想はどうだ?」

「そうですね………。皆さん、かなり自分のガンプラとバトルの技術を練っていると思いました。………でも、勝ちたかったですね。」

「私ももう一度バトルをしたいです。もうちょっと活躍したかったですし………。」

「あ、それはアタシも同じです。油断してやられたから今度こそは!」

「僕ももう1回バトルしてみたいです。引き分けだとまだまだ物足りないですし………。」

「成程………。」

 

各アイドル達の意見を聞きながら専務はもう1度4人を見渡す。みんな気持ちの良さそうな汗をかいていた。

 

「つまり………君達はガンプラバトルを「楽しめた」のだな?」

『はい!』

「ならば、提案だが………4人でチームを組んでみてはどうだ?」

『え?』

 

専務の言葉に4人は顔を合わせる。

事務所が全員違う中でチームを組んでみろと言われたのだ。確かにこの面子で競い合うのは楽しそうである。だが………。

 

「各プロダクションの社長の許可は取らなくて大丈夫なのですか?」

「その為の私だ。根回しはしておく。そのコンビネーションや発想力。一時的な物にしておくには惜しい。」

「4人で集まってガンプラバトルを鍛えるには………。」

「346プロに自由に出入りするといいだろう。それがイヤならここのゲームセンターも使うといい。………ワクワクしないか?事務所に囚われないチームというのも。」

 

専務の言葉に4人は思わずうずうずした物を感じる。確かにこのメンバーでどこまで高みを目指せるか試してみたかった。

 

「空気を読まないのが僕の座右の銘だから、賛成かな。」

「アタシも肇さんや詩花さんとは組んでみたい………かな。」

「まあ!私も3人と組めるなら組んでみたいです!」

「じゃあ………決まりですね!」

『うん!』

 

肇の言葉に事務所が違うはずの4人の心が合わさる事になった。

新たなチームの誕生に、あかり達が温かい拍手を送る。

 

(………アレ?)

 

そこで涼は気づく。

熱狂的に盛り上がるファンの後ろに帽子と眼鏡を掛けた少女がいるのに。

 

(もしかして、あの人は………。)

 

少女は涼に気付くと、笑顔で軽く手を振り去って行った。

 

 

――――――――――

 

 

(どのプロダクションの子達も凄いなぁ………。これは、私達も負けられないよね。)

 

ゲームセンターを出た所で少女は眼鏡を取り、帽子を外して特徴的な2つのリボンを出す。

空を見上げながらさっきの試合の様子を思い出すと、笑みがこぼれた。

 

(これから、がんばるぞー!765プロ、ファイト!)

 

そう心の中で叫ぶと少女………天海春香は帰路へと付いた。

 

 

――――――――――

 

 

後日、リーダーに任命された肇によって「豊穣の色」と呼ばれる事務所混同チームが結成される事になる。この情報は各プロダクションのチーム結成への意欲をより高める事になった。



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第19話 好きなガンダムキャラ

「もー、ビックリしたよ。そりゃ、あかりちゃんに面白い事があったら教えてくれとは言ったけれど、まさか肇ちゃんが凄いチーム作るなんて思わないじゃん?」

「そうですね………でも、「豊穣の色」。楽しそうなチームです。」

 

346プロ近くのカラオケ店で、工藤忍は綾瀬穂乃香と語り合っていた。

彼女達だけじゃない。その場には栗色の前髪ぱっつんのボブの少女である喜多見柚と、黒いお団子ヘアの背の低い少女である桃井あずきもいる。

彼女達4人は「フリルドスクエア」というユニットを結成しており、今回は最近の活動内容の報告を兼ねたカラオケ大会を開催していた。

 

「柚ちゃんは何か面白い話ある?」

「そうだねぇ………。柚はまだティンと来たガンプラできたばかりだからこれからかなー。でも、早く忍チャンや穂乃香チャンのように楽しそうなチーム組みたいとは思ってるよ。あずきチャンは?」

「え?あずき?」

 

丁度、曲を歌い終わったあずきは話題を振られて考え込む。いつも「○○大作戦」という言葉を考えて使うのが特徴的な彼女であるので、何か悩んでいるのかもしれない。しかし、出てきた言葉は意外な物だった。

 

「あずきもガンプラは作ったけれど………中々受け入れて貰えなくて………。」

「ええッ!?それヒドくない!?ガンプラは自由なのに!」

「あずきちゃん、その話の詳細を教えて下さい。私達で分かち合いましょう!」

「そうそう、フリルドスクエアの絆を見せる時!」

「本当!じゃあ、「みんなで分かち合おう大作戦」発動!」

 

そう笑顔であずきは言うと、ポケットからお手製のガンプラを取り出す。

それは黒いモノアイのアンテナ付きのザクだった。だが、ザクの特徴であるスパイク付きのシールドは両肩にあり、背中に巨大な砲身らしき物が付いたバックパックを装備していた。

 

「………「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」の「ザクファントム」?」

「この装備は………「ガナーザクファントム」ですね。」

「でも、黒いって事は………「ディアッカ専用機」?」

「そう!!」

 

柚の言葉のディアッカって所であずきが思わず力拳を握る。

 

「あの「ディアッカ・エルスマン」が乗ってたとされる、「ディアッカ専用ガナーザクファントム」!漫画やゲームにしか登場していない幻の機体だよ!」

「ねえ………あずきちゃん、もしかしてディアッカ好きなの?」

「え?忍ちゃんまで否定するの!?日本舞踊が好きなんだよ!カッコいいじゃん!」

「た、確かにディアッカが好きという方は多いですが………。」

「好戦的だし、一言多いし、フラれマンだし、どこか抜けてるし………。」

「ガーーーーーン!!」

 

柚のディアッカ・エルスマンという人物の問題点を的確についた言葉にあずきが頭を抱えてうずくまる。どうやらあずきが分かち合おうと言いたかったのは、そのディアッカへの愛らしい。その事に気付いた穂乃香が慌ててフォローを入れる。

 

「で、でも仲間想いですし、ムードメーカーですし、いい所は沢山ありますよね!」

「穂乃香ちゃん優しい!ありがとう!」

 

コロコロと表情を変えるあずきに忍は苦笑い。

ディアッカの趣味の日本舞踏好きという設定は実はあまり表現される機会が無い。一部のゲームとかで明らかにされるくらいじゃないかと忍は認識している。とはいえ、それは言わないのが優しさだろう。

 

「とりあえず歌おっか。折角だし、ガンダムの歌でも。」

『さんせーい!』

 

こうしてフリルドスクエアの愉快なカラオケ大会は続いた。

 

 

――――――――――

 

 

「えー………ディアッカ・エルスマン?そこはキラ・ヤマトでお願いしますよー。」

「なんでッ!?どうして好きなガンダムキャラ言うのに制限掛かるの!?」

 

しかし、翌日あずきは、大規模なガンプラブームを兼ねた取材の仕事を受けた際に、好きなキャラを主人公の1人であるキラ・ヤマトに変更してくれと記者に言われてしまい、ご立腹する事になる。

 

(好きなキャラは好きなキャラでいいじゃん!)

 

結局その場は偶然通りかかった美城専務の助言でどうにかなったが、納得できない怒りを覚えたあずきは仕事帰りにうさ晴らしとして近くのゲームセンターに行く。

そこは、藤原肇達がチームを結成した所だった。

あずきは足早にシミュレーターに行き、ディアッカ専用ガナーザクファントムをセットすると対CPU戦のシミュレーションを始める。

舞台は海上都市にセットされ、海の向こうから沢山の各世界線の飛行モビルスーツが飛来して来た。

 

(これ、オーブ防衛戦が元だよね。)

 

ステージの特徴から自分のガンプラの世界線の戦いを参考にしているのだと感じたあずきは味方CPUと協力しながら迎撃していく。

ガナーザクファントムの最大の武器は背中に背負った「ガナーウィザード」に付属している「オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲」だ。その強力なビームは敵を纏めて撃ち落としてくれる。

実際今回も、ジェットストライカーを装備したウィンダムや黄色の円盤のような形状の「アッシマー」といったモビルスーツを薙ぎ払っていった。

しかしそこに………。

 

『あの………私も参加して宜しいでしょうか?』

「あ、途中参加者?いいですよ。」

 

隣のシミュレーターを起動させたのか、少女の声が聞こえてきた。

対CPU戦は味方陣営に入る事に限り、割り込み参加ができるようになっている。今回、そのガンプラバトルに参加したい人が出てきたのだ。

あずきが了承し、コンソールを弄ると隣に別の機体がホログラムと共に出現する。

それは、赤い小柄なガンダムに似た機体であった。槍を装備した騎士のような風貌であるが左腕が異質な物になっている。鞭のような紐の先に丸いギザギザのような円盤が付いているのだ。あずきはそれが「スネークハンド」と呼ばれる武装だという事を理解した。

 

「「機動戦士クロスボーン・ガンダム 鋼鉄の7人」に出てくる「ギリ専用ビギナ・ギナII」!?………使ってる人初めて見ました!」

『な、何か、皆さんが私に似合いそうって勧めてくるので………練習するのに苦労しました。あ、あの敵達を撃ち落とせばいいのですね。』

「うん、そうですよ………って、待ってそれって!?」

 

ギリ専用ビギナ・ギナⅡの遠距離装備を思い出したあずきは思わず慌てる。少女は槍………「ショットランサー」の下部から5連装の「核弾頭ミサイル」をぶっ放す。それは空中で派手な爆発をもたらす。

 

「……………。」

『す、すみません………ウチ、空気読めなくて………。』

「い、いや、ガンプラバトルだから大丈夫ですけれど………。」

 

何か動揺しているのか素の口調が出ている少女を慌てて慰めるあずき。そこに………。

 

『何やら楽しそうですね………。参加しても宜しいでしょうか………?』

「あ、はいはい、どうぞ!」

 

今日は途中参加者が多いなと思いながら、あずきはコンソールで承認する。

すると、今度は空中に白い美しい翼をはやしたこれまた騎士のような機体が出てくる。

 

「「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 敗者たちの栄光」の「トールギスF(フリューゲル)」!?これも初めて見ました!?」

『皆様が選んで下さったのです………。行きますね………。』

 

若干抑揚のない声を響かせながら別の少女はトールギス特有の加速を見せ、空へと羽ばたく。

空では水色の足を降りたたんだ機体である「バリエント」が牽制の「ミサイル」を撃つが、トールギスFは華麗に回避し、「ビームサーベル」で斬り捨てる。

 

「カッコいい………あ、援護しないと!」

『は、はい………!近づく敵は任せて下さい!』

 

3人の少女達はその後も順調にガンプラバトルを楽しんだ。

 

 

――――――――――

 

 

「ふー、すっきりしたー!………ってアレ?」

 

あずきは見る。シミュレーターの前で北条加蓮が苦笑いを浮かべながら待機しているのを。手に愛機のガンダムデルタカイがある所を見ると、シミュレーターが終わるのを待っていたのだろう。

 

「加蓮さん、途中参加しても良かったのに………。」

「この3人が揃ってたから控えたほうがいいかなって思って。何てったって、みんな「呉服店繋がり」だもん………。」

「え?」

 

加蓮の言葉にあずきはシミュレーターから出てきた人物達を見る。

1人は薄い青い長髪が綺麗な少女。もう1人は青髪のボブのお人形のような少女。

あずきは彼女達を知っていた。

加蓮の言う通り、呉服店繋がりである765プロの白石紬と283プロの社野凛世。

ここに、3人の呉服店アイドルが集っていた。



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第20話 呉服店の娘達

「それは………酷すぎる話です!」

「ですよね!幾ら雑誌の取材だからって、好きなキャラ強制する権利は無いです!」

「どのキャラを好きになるのも………自由ですから。」

 

桃井あずきは、シミュレーターで出会った同じ呉服店の少女である白石紬、社野凛世と今朝の取材の問題に付いて、ゲームセンター内のベンチに座って分かち合っていた。

ちなみに北条加蓮は今、そのシミュレーターでガンプラバトルの練習中をしており、折角出会った3人の邪魔をしないように配慮してくれている。

 

「紬さんと凛世さんと出会えて良かった!呉服の話題も分かち合えるし、好きなガンダムキャラについても分かち合えるし、もう最高です!」

「そ、そう言って貰えると私も嬉しいです。………正直、346プロのアイドルの事はまだよく分からなかったので、桃井さんのように優しい人がいるって分かっただけでも良かったですし。」

「あー、個性の塊ですからね。あずきも紬さんの所属する765プロは、今まで雲の上の存在だと思ってましたよ。」

 

白石紬の所属する765プロは、高木順二朗社長が統括する中堅プロダクションだ。

中堅なのにあずきが「雲の上」と評するのは現状52人ものアイドルを少数精鋭のスタッフで管理している事と、その基盤を作り上げた13人のアイドル達のレベルの高さに起因する。

765に所属している金沢出身の紬は流石に彼女達を雲の上とは思ってはいないが、尊敬する先輩だと感じているのは事実であった。

 

「社野さんの所属する283プロは、比較的新鋭のプロダクションでしたね。」

「「放課後クライマックスガールズ」ってユニット知ってますよ!歌も聞きました!」

「ありがとうございます。凛世は………事務所の仲間達と楽しく過ごしています。」

 

社野凛世の所属する283プロは、天井努が立ち上げた比較的新しいプロダクション。建物の規模は小さいが、将来性が期待できるアイドル達が現在進行形で所属していっている。

所属したアイドル達は同期とユニットを組む事になるのが大きな特徴で、鳥取出身の凛世は「放課後クライマックスガールズ」という5人ユニットに入っている。比較的年齢差が激しく個性もバラバラだが、不思議と仲は良好であった。

 

「先程も述べましたが………、このトールギスFは、放課後クライマックスガールズの5人で作り上げた物なのです。だから、凛世にとっては宝ですね。」

「私のギリ専用ビギナ・ギナIIも、765プロの先輩や同期の方々に制作を協力して貰いました。だから、大切にしています。」

「ユニットですか………。あずきもフリルドスクエアで活動してるから気持ちは分かります。でも、今回の「シンデレラとガンプラのロンド」では、既存のユニットはダメって346プロで言われているので、新しいメンバーを探してるんですよ。」

「では………組んでみます?」

「え?」

 

いきなり組んでみようかと言った紬に対し、あずきは思わずビックリした顔を向ける。それを見て、紬は思わず動揺してしまう。

 

「あ、いや、ウチ!呉服店仲間も面白いって………。」

「凛世は宜しいですよ?実は283プロもこの機会にユニット以外のメンバーで組んでみると良いというお達しが社長からありましたので………。」

「本当ですか?………ええっと、それなら桃井さん次第になりますが。」

「……………。」

 

その言葉にあずきは俯き拳を膝に置いて震わせる。マズい事を言ったかと紬は思わず身を引きそうになるが………。

 

「それ!ナイスアイディアですよ!紬さん!凛世さん!!」

 

あずきはいきなり立ち上がり腕を上げてガッツポーズ。店内をうろついていた客は何事かと思い驚いた目で見るが、それに構わずあずきは何度も拳を上げる。

 

「呉服店出身のアイドルによる事務所別チームが旋風を起こす!チーム名は「和装の美少女」ってのはどうかな!早速、各プロダクションの社長達に打診して………!」

「あずきー。喜んでる所に水差して悪いけれど、チームは4人じゃないとダメだよ?」

「ふぇッ?」

 

立ち上がっていたあずきが別の声に振り向いてみれば、シミュレーターを終えていた加蓮の姿が。丁度話が纏まったかなと思ったタイミングでやってきたのだ。

 

「そっか………後1人誰か集めてこないといけないんだ。どうしよう………。」

「こればかりは、私は助言できないね。3人で協力して決めないと。」

「確かに北条さんの言う通りですね。………あ、「薄荷 -ハッカ-」聞きました。素晴らしかったです。」

「チームメンバー集めどうしましょうか………。私も聞きました、「蛍火」もいいですよね。」

「ありがと♪まあ、気軽に頑張ってよ。大会はまだ企画段階で開催日も来まって無いんだしゆっくりと………。」

「いえ!善は急げとも言います!和装が似合いそうな子を探してきましょう!」

 

あずきはそう言うと紬と凛世と頷き合い、3人はゲームセンターを出て行った。

その様子に加蓮は少し呆然としながらも………最終的にはクスリと笑みを浮かべた。

 

 

――――――――――

 

 

「中々見つからないですね~………あずき達に協力してくれる女の子。」

「事務所が違うと私達自体が中々集まりにくいですし………。」

「あずきさん達はともかく、凛世は………若干勧誘が苦手なのも影響していますね。」

 

それから数日後、あずき達は同じ場所………346プロ近くのゲームセンターに集まって溜息を付いていた。

あずきと紬は同じ事務所のアイドル達との予定が合わずに機会に恵まれず、凛世は一歩引いて人と接する所がある為、勧誘行動が思ったより上手くいって無かった。

 

「………シミュレーターで練習しましょうか。腕を磨いてれば出会いがあるって穂乃香ちゃんから聞いたし。」

「そうですね。………あ、でも今対人戦が行われているみたいですよ?」

 

紬の言葉にあずき達はモニターに注目する。

そこには宇宙空間で戦う2つのモビルスーツの姿があった。1対1のバトルを行っているらしい。

片方は背中からオレンジの粒子を放つ灰色の機体で、背中に背負っている大きな槍が特徴的だった。

そして、もう片方は赤い三日月型のバックパックのような物を背負ったガンダム型のモビルスーツ。

 

「灰色の方は「擬似太陽炉」を背負ってる………。「機動戦士ガンダム00V」とかで登場した「アドヴァンスドジンクス」だ………。」

「ガンダムの方は「サイコプレート」を背負った「ムーンガンダム」ですね。「機動戦士ムーンガンダム」の主役機です。」

 

お互いの機体が遠距離武装をほとんど使いきったのか、持っていた射撃武器を捨てる。

先に動いたのはアドヴァンスドジンクス。接近戦の主兵装である「プロトGNランス」を持ち、先端部の「粒子ビーム砲」を放ちながら一気に突進していく。

それに対し、ムーンガンダムは背中を見せ、三日月型のサイコプレートでビームを防御。そのままバックパックに装備されている「ビーム・トマホーク」を取り出すと対艦用の「ビーム・ソード・トマホーク」にモードを切り替え、何と振り向きざまにそれをプロトGNランスに向けて投げつけ破壊する。

それでも鋭利なマニュピレーターである「GNクロー」でインファイトを諦めないアドヴァンスドジンクスであったが、ムーンガンダムのサイコプレートが動くと、巨大な実体剣に変わる。

アドヴァンスドジンクスは慌てて下がろうとしたが、ムーンガンダムはその隙を逃さず、リーチの長さから実体剣を擬似太陽炉に突き立て、派手に敵機を爆発させた。

 

「中々興味深いガンプラバトルでしたね………。」

「そうですね………。あずきもドキドキしました。」

 

「あー、やられちゃったよ!もうちょっとだったのになー!」

「ん?」

 

見知った声にあずきは開いたシミュレーターを見る。

そこには見知った顔………同じフリルドスクエア仲間の喜多見柚がいた。

 

「柚ちゃん!?アドヴァンスドジンクス使ってたの、柚ちゃんだったの!?」

「あ、あずきチャンこんにちは!どう、柚のジンクス!グサーッ!ってできそうでしょ!?」

「た、確かにプロトGNランスはグサーッ!ってできそうだけれど………。じゃあ、もう片方は………。」

「あ………あずきちゃん、こんにちは。もしかして、試合見てた?」

 

反対側のシミュレーターから出てきた人物はおでこを出した栗色のウェーブがかったセミロングくらいの髪の女の子だった。彼女は、あずきの後ろにいる紬や凛世に気付くと恥ずかしそうに挨拶をする。

 

「えっと………346プロ所属の関裕美です。宜しくお願いします。」

 

そう言うと少女………関裕美はぺこりと頭を下げた。



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第21話 クロックワークメモリー

「裕美ちゃんがムーンガンダムを愛機に選ぶなんて驚いたよ………。」

「そ、そうかな………。「GIRLS BE NEXT STEP」のユニットのみんなで考えたんだ。私には「月」が似合うって。」

 

シミュレーターを終えてベンチの傍に集まった桃井あずき達5人は談笑をしていた。その中で話題に上がるのはやはり関裕美がムーンガンダムを操っていた事だった。

実はムーンガンダムは、背中のサイコプレートがビットのように機能するので、扱いが難しいとされているモビルスーツの1つである。それを操っているという事は、裕美はガンプラバトルをそれなりに練習しているという証明になった。

 

「柚も頑張ったんだけれどなぁ………。裕美チャンの方がまだまだ上手だね。」

「そんなことないよ、柚ちゃんも作ったガンプラ活かしていたし。」

 

アドヴァンスドジンクスで挑み敗北した喜多見柚がいつものようにテヘペロと舌を出す。

裕美と柚はとあるプロジェクトで一緒に曲を歌った事がある。それ以外にも、互いのユニットについて意見交換を行った事もあり、かなり仲が良かった。

 

「んで、あずきチャンと紬サンと凛世サンはチームメンバーを探してるんだよね?」

「はい。できれば着物等の和装の経験がある方を集っているのですが………。」

「中々集まらない物ですね。」

「じゃあ、裕美チャン勧誘しちゃったら?お祭りで着物着てるよ?」

『え?』

 

その言葉にあずき、白石紬、社野凛世の3人が裕美を見る。

思わず裕美は柚の頭を叩くと、3人を向いて慌てて手を振って弁明する。

 

「そ、そんな!私なんか実力も大して無いし、それに「美少女」じゃないし!?」

「えー、美少女じゃん。柚を負かしてるし、肇サンと櫂サンと一緒に着物のユニットもあるよねー。」

「もう!柚ちゃんは黙ってて!」

 

思わず柚を睨み付けてしまった裕美は、あずき達3人の真剣な視線を受けて考え込んでしまう。

どうやら「和装の美少女」というチーム名が恥ずかしいだけで、組むのがイヤというわけでは無いらしい。

 

「あの、関さん………私達としては入って貰えると非常に助かります。」

「で、でも………本当に美少女じゃないし………。」

「柚さんも言っていましたが、裕美さんは可愛らしいと思いますよ?」

「そりゃ、可愛く振る舞えるようには努力しているから………。」

「裕美ちゃんって手先も器用だよね。ガンプラバトルも得意そうだし、裕美ちゃんさえ良ければあずき達のチームに入って欲しい!」

「う、うーん………。」

 

ここまで真剣に懇願されてしまっては裕美としても新しくワンステップを踏み出すしかない。そう覚悟を決めた彼女は思い切って顔を上げて言う。

 

「分かった!ここで一歩踏み出せないと「ワンステップス」仲間のほたるちゃんや乃々ちゃんに失礼だもんね!入るよ、チーム「和装の美少女」に!」

『やった!』

 

決断を下した裕美の言葉にあずき達は喜ぶ。

そして、チームを組んだからには早速やってみたい事があった。

 

「………バトルしてみたくなりますよね、4対4の。」

「大会では、1人は控えに回って3対3で戦うのでは?」

「それは………あくまで構想段階の話ですから、ルールが変わる可能性もありますよ。」

「じゃあ、あずき達も4人同士の対戦に慣れておきたいですよね!」

 

4人対4人。しかし、やるならば相手チームがいないと盛り上がらない。誰か気軽にやってくれる人達はいないものか?

 

「穂乃香チャンや忍チャンのチームに頼んだら?」

「4人もいると揃う機会が限られるらしくて………あずき達も今日たまたま全員オフだから集まれてるんだよ?」

「じゃあ、今4人チームで行動している人達じゃないとダメだね。」

 

柚は軽く言うが、そんな都合よく集まっているメンバーはいるのだろうか?

しかし、そこで何かを思い出したように裕美が呟く。

 

「そう言えば今、346プロで泰葉ちゃんが………。」

『ん?』

 

あずき達4人の視線が一斉に集まるのを受けて、また裕美は慌てる事になった。

 

 

――――――――――

 

 

346プロの一室では写真撮影が行われていた。そこに集っているのは4人のアイドル達。彼女達はそれぞれ歯車を模したような衣装を着ており、スチームパンクをイメージしている事が分かった。

1人は青髪のボブで前髪がぱっつんの少女………岡崎泰葉。

1人は栗色のボブでアホ毛が印象的な女性………斉藤洋子。

1人は茶髪のロングで癖の強い髪の少女………神谷奈緒。

1人は黒髪のロングでツインテールの少女………中野有香。

4人はある公演でメインを張っており、その作品が爆発的な人気を出した事で有名だった。

 

「へー、4人はガンプラチームも組んでいるのですか。」

「はい、色々な方々がチームを作る中で、私達も負けていられないと思いまして。」

「いやー、楽しみですね。あの「蒸機公演」のメインメンバーがガンプラバトルをするのですから。頑張って下さいね。」

「ありがとうございます。」

 

代表して記者の質問に答えるのは一番前に立っていた主役である泰葉。終始にこやかに撮影が行われる中、カメラなどの設備が置いてある空間で美城専務と何故かガンプラを組み立てていた北条加蓮がいた。

 

「………北条加蓮、何で君がここにいる?」

「オフだからいいじゃないですか。それに、たまには敵情視察もアリでしょう?」

「それはそうだが、この場でガンプラの加工を行うのは止めたまえ。」

「みんなで買った新しいガンプラで、それぞれオフの時間に交代で組み立てているんですよ。時間は大切にしないと。ところで………。」

 

専務の忠告を流して加蓮は泰葉達を小指で指す。

 

「ユニットでのチーム作成はダメって専務自身が言ってませんでした?」

「正確には彼女達はユニットではなく公演の演者だ。………それに、私生活での彼女達での仲の良さを聞いていると例外も作ってみたくなった。」

「ふーん、昔に比べて丸くなりましたね、専務も。」

「………後は、彼女達が演じた「蒸機公演クロックワークメモリー」の人気からだ。色々考える事があるのだよ、上の立場というのは。」

「成程ねぇ………。」

 

専務や加蓮達が見守る中で、蒸機公演組の写真撮影が終わった。

 

 

――――――――――

 

 

『ありがとうございました!』

 

写真撮影が終わった後、346プロの一室で泰葉達は専務に礼をしていた。

そんな彼女達に専務………と何故かまだ一緒にいた加蓮は拍手を送りながら、4人を褒め称える。

 

「君達こそ御苦労だった。かなり順調に進んだから時間が少し余ったな。今日は早く休んでもいいぞ。」

「あ、専務。質問ですが、ガンプラバトルはできませんか?4対4の。」

「アタシも興味あります!………今日ずーっと加蓮のヤツが見ていたし。」

 

トライアドプリムス仲間の奈緒の何処か恨めしそうな言葉に、加蓮はにこにこと手を振りながら携帯端末を取り出して何かを入力する。

 

「私のチームはダメだよ。今日は3人が仕事やレッスンをしてるから。」

「じゃあ、ダメか。なら、みんなで美容の為にスパにでも………。」

「あ、でも洋子さん、戦える相手はいます。」

「本当ですか、加蓮ちゃん!?あ、もしかして、専務の傍にずっといたのって………。」

 

何かを察した有香の言葉に加蓮は携帯端末をしまいながら4人………チーム名「クロックワークメモリー」のメンバーに告げる。

 

「実は丁度チームを結成したあずきちゃん達から泰葉ちゃん達を捕まえておいてくれって頼まれてたんだよね♪みんな346のシミュレーター室で待ってるってさ!」

「ほう………。」

 

笑顔を崩さない加蓮の言葉に、横に立っていた専務が興味深そうに腕を組んでいた。



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第22話 初めての4対4

「裕美ちゃんがいきなり4人チームを組んだなんてビックリだよ。」

「そう言われても私も本当にさっき入ったばかりだし………「和装の美少女」なんて似合わないかな?」

「そうは思わないよ、可愛いし。………というわけで、皆さんバトル宜しくお願いしますね。」

『宜しくお願いします。』

 

シミュレーター室で8人の少女達は互いに挨拶をしあっていた。

片側に集うのは、チーム「和装の美少女」。桃井あずきを始め、765プロのの白石紬、283プロの社野凛世、そしてあずきと同じ事務所の関裕美だ。

もう片側はチーム「クロックワークメモリー」。岡崎泰葉をリーダーに斉藤洋子、神谷奈緒、中野有香の4名の公演仲間が集っていた。

ちなみに今回のバトルを見守るのは美城専務と北条加蓮と喜多見柚である。

 

「岡崎泰葉。君達のガンプラも見せておかないと不公平だろう。」

「はい。じゃあ、紹介しますね。」

 

専務の言葉に泰葉は答えると、背中にKともXともとれる変わった形のパネルを背負った白と青の機体を見せる。

 

「「機動新世紀ガンダムX」の主役機、「ガンダムX」!?………でも、肩の部分の色とか違ってるような………。」

「後日談を描いた漫画作品「機動新世紀ガンダムX NEXT PROLOGUE「あなたと、一緒なら」」で出てくる「ガンダムX3号機」です。」

「「サテライトキャノン」は健在なのですか………?」

「設定上は使えますよ。」

 

サテライトキャノンというのは月の施設からの「マイクロウェーブ」を背中のパネルである「リフレクターパネル」に受信して、凄まじいエネルギーを照射する攻撃だ。隙も大きいが、破壊力もガンダム作品の中で1、2を争うだけの物は持っていた。

泰葉曰くガンダムX3号機は武装面で隙が無くなっているとか。

 

「洋子さんの機体は、「百式」ですか?」

「「ミッシングモビルスーツバリエーション」、略して「M-MSV」から登場している「フルアーマー百式改」だよ!只の百式だと思ってもらったら困るんだから。」

「顔つきとかが違っていますね。フルアーマーの名の通り、堅そうです。」

 

洋子の取り出した金色のモビルスーツは、百式を改造した「百式改」と呼ばれる機体に追加装甲や武装を取り付けた機体だ。左肩にマーキングされている百改のペイントが特徴的で、防御面はかなり優れているという事らしい。

 

「有香さんは………。」

「押忍!「機動武闘伝Gガンダム」のライバル機「マスターガンダム」です!蒸機公演のユカの役割を考えると、この機体が似合うと思ったので!」

 

有香が高く掲げた機体は、黒めの塗装をしており、全身を覆う「ウイングシールド」と呼ばれるマントを付けていた。Gガンダムに登場するガンダムは「モビルファイター」と呼ばれており、搭乗者の動きに反応する「モビルトレースシステム」を採用しているのが特徴だ。………流石にシミュレーターまではそうはいかないが。

 

「最後に奈緒さんは………。」

「アタシは比奈さんや菜々さん達と最近ガンプラ作りをしているからなぁ………。今回はバランス考えて「機動戦士ガンダムUC」の「ジェスタ・キャノン」を使うよ。」

 

奈緒が見せてくれたのは、マッシブな体型の銀色の重装備型の機体。「ジェスタ」という地球連邦軍の当時のエリート向けのモビルスーツを砲戦型に換装した物であるらしく、キャノンの名の通り、後方からの援護能力が高かった。

 

「この4機を使って今回は戦わせて貰います。あずきちゃん、準備は大丈夫ですか?」

「あずき達は大丈夫だよ、泰葉さん!勿論、やるからには全力だから!」

 

お互いのチームのリーダー(と言ってもあずきの方はまだ仮段階だが)は笑顔で握手をすると、シミュレーターへと入って行く。8基のそれは無事に稼働し始めた。

 

「えっと………今回のステージは「夕暮れの渓谷」?………夜になるとサテライトキャノンが怖いね。」

『こちらも私のビギナ・ギナⅡが核弾頭ミサイルを持っていますが………切り札ですよね。』

『飛べるのが今の所、私のトールギスFだけなので、機体の位置の把握等はお任せください。』

『地形にも気を付けてね。前に「ビルドファイターズ」のアニメを見た時は、岩を降らす攻撃もあったから。』

 

それぞれの意見を確認したあずきはふむふむと頷きディアッカ専用ガナーザクファントムをセットする。

 

『こちらも準備できました、あずきちゃん。』

『お姉さん達の強さ、見せちゃうよ!』

『ガンプラバトルも負けたくないからな!』

『それでは正々堂々と勝負させて貰いますね!』

 

クロックワークメモリーの4人の通信が入り、8機のガンプラが発進準備に入る。電子的なカタパルト空間に変わり、それぞれがお決まりの口上を名乗る。

 

「桃井あずき!ディアッカ専用ガナーザクファントムでグゥレイトな大作戦発動!!」

『白石紬の愛機であるギリ専用ビギナ・ギナII………発進です!』

『社野凛世………。トールギスF、参りますね。』

『関裕美でムーンガンダム………ワンステップを踏み出します!』

 

『岡崎泰葉流ガンダムX3号機………咲かせてみせます!』

『斉藤洋子でフルアーマー百式改!………師匠の意地、見せますか!!』

『神谷奈緒!ジェスタ・キャノン、行きます!』

『押忍!カラ=テの使い手である中野有香が、マスターガンダムで出ます!』

 

そして、一斉にカタパルトから飛び出して行った。

 

 

――――――――――

 

 

ステージである渓谷に降り立ったあずき達は地形を確認する。

周りは様々な高さの崖がそびえ立っており、上から射撃を行ったほうが効率は良さそうだった。但し、その分狙われるリスクも高くなる。一方で、谷の部分はそんなに広くなく、モビルスーツ1機が通れるくらいの広さの曲がりくねった道が様々な場所で続いていた。時間帯に関しては、日は沈みかけており、夜になるのはそう遅くは無い。

 

「………どう考えます?この状況。」

『紬です。………まず、桃井さん。敬語を使わなくても宜しいですよ。そのほうが指示もしやすいでしょうし。』

「じゃあ、お言葉に甘えて………紬さんはどうしたい?」

『あまり上手く飛べない機体ですが、崖の上で戦いたいですね。狭い谷だと、スネークハンドを扱うのに邪魔になります。』

『裕美だよ。私もサイコプレートとかの武装を扱うのが難しいから敢えてリスクの高い崖の上に登って敵のモビルスーツを確認して一気に突入したい。』

「上かぁ………。ガナーザクファントムはスパイクシールドに対ビームの効果もあるからジェスタ・キャノンやフルアーマー百式改の攻撃もある程度は耐えられるけど………。」

 

崖の上に行きたがるチームメンバーの意見を聞き、あずきは考える。そもそも谷の底では切り札の「オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲」がそこまで機能しない。

それは相手の砲撃機もそうだったが、こちらはサテライトキャノンという時間経過によるリスクがあった。アレを撃たれると地形なんか関係ない。

 

「よし、登ろう。まずは手短な………。」

『凛世です。相手が先に動きました。泰葉さんのガンダムXが空中に………。』

「どうしたの、凛世さ………?」

 

珍しく言葉に詰まった様子の凛世にあずき達は空を見上げ驚く。

そこには確かに泰葉のガンダムX3号機がいた。だが、その周りに10機ものモビルスーツが浮かんでいるではないか。

 

『な、なんなん!?アレ、反則じゃ………!?』

『いえ、紬さん、違います!………あの機体、思い出しました!「GXビット」です!』

『ビット!?岡崎さんが「フラッシュシステム」で操っているのですか!?』

 

紬と裕美の会話にあずきは戦慄する。ガンダムXはサテライトキャノンだけの機体では無かった事に今更ながらに気付かされる。この機体にはフラッシュシステムという物が備えられており、ビットモビルスーツを操る事ができた。

ガンプラバトルでもその辺を活かす事ができるが、その分のガンプラを作るのは大変だし、細かい動作を命令するのも難しい。それでも数の利を発揮できるのは強力であった。

 

『公演での私の「エンフォーサー」をイメージしてみました。行きますよ。』

 

泰葉からの通信が聞こえると共に、GXビットが一斉にあずき達の方向に向けて「シールドバスターライフル」を乱射してきた。



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第23話 みんなライバルだけれど………

岡崎泰葉の操る10機のGXビットはその膨大な数故か動作が甘く、狙いも適当なのでビームが直接当たる事は無い。だが、崖の上や壁面に次々とビームがぶつかり、崖崩れを誘発させていく。

どうやら彼女は最初からこれが目的であるらしく、GXビットは尚もシールドバスターライフルを連射して、ガナーザクファントムを操る桃井あずき達を混乱させてくる。

 

「うわわ!?さっそく裕美ちゃんの言っていた岩を降らす攻撃!?でも降ってくる量が………!?」

『あずきちゃん!GXビットは「サテライトキャノン」も撃てるよ!夜になる前に数を減らさないと危ない!』

「ええッ!?」

 

ムーンガンダムを操る関裕美の言葉にあずきはぞっとする。流石にいっぺんに数機がかりでサテライトキャノンを撃てるとは思えないけれど、本機を合わせて1発の物が2発になるだけでも危険度が高すぎた。

 

『桃井さん。排除しましょう。………私の武装なら可能です!』

「うーん、それを誘われてる気もするけれど………仕方ない!お願い、紬さん!凛世さん!」

『了解です。』

 

社野凛世のトールギスFが白石紬のビギナ・ギナIIを抱えて空に飛びあがる。

紬は空中でショットランサーを敵陣に向けると吼える。

 

『派手にですが………!撃たせて貰います!!』

 

声と共に5連装の核弾頭ミサイルが一斉に飛んでいく。

GXビット達は回避行動をする余裕が無かったのか、次々と爆発に呑まれていく。残念ながら泰葉のガンダムX3号機は回避をしたが、邪魔なビットはいなくなった。

 

 

――――――――――

 

 

「空中の「エンフォーサー」がやられましたが、相手の厄介な切り札を奪えたので手筈通りですね。」

『泰葉ちゃん………いや、「ヤスハ」。えげつないねぇ。』

「この作戦を考えたのは「ヨーコさん」じゃないですか。」

 

シミュレーターの中で斉藤洋子の通信を聞きながら泰葉は思わず笑う。GXビットは公演の様子を再現したいと思った泰葉、洋子、神谷奈緒、中野有香の4人でコツコツと作ったのだ。

公演を演じる事も、ガンプラを作る事も、バトルをする事も、みんなで楽しまなければ意味は無い。

何故なら、自分達はアイドルという「仲間」だから。

 

「みんなライバルだけれど、それだけじゃない………ですからね。」

 

泰葉は、自分のアイドルとしての心構えとして刻んでいる教訓を口にしながら、ガンダムX3号機のバーニアを吹かした。

 

 

――――――――――

 

 

「ガンダムX3号機がこちらに来ました。………夜まで身を隠す気は無いらしいです。」

『凛世さん、泰葉ちゃんは射撃が凄く上手いから気を付けてね!』

「分かりました………。」

 

左肩に担いだ「ハイパーバズーカ」を撃ってきた泰葉のガンダムX3号機の動きを見て、凛世のトールギスFは紬のビギナ・ギナIIを降ろすと空中戦に入る。

 

「泰葉さん、機動力ではこちらが上です………。」

『分かっています。………ですが、まだ居ますよ!』

「………まあ。」

 

泰葉の声に地上に隠れていたGXビットが2機飛来してくる。

そのビットは泰葉のガンダムX3号機に並ぶと時間差でシールドバスターライフルをトールギスFに向かって撃ってくる。

 

『凛世さん!今撃ち落として………!』

「いえ、あずきさん達は地上の敵を。残りの3機は崖の上からそちらに向かっています。」

『わ、分かった!』

 

あずき達に地上の敵の邪魔が入らないようにお願いすると凛世はトールギスFの加速力を活かし、懐に潜り込もうとする。しかし、ビットが少ない分泰葉のコントロールが正確なのか、2機のGXビットも母機並に射撃が正確だ。

 

「さしずめ、「エンフォーサー・エリート」ですね。よくできています。」

『公演、見てくれたのですか?ありがとうございます。』

 

口では何気ない雑談を喋りながらも凛世のトールギスFは泰葉のガンダムX3号機の隙を狙っていた。………長い根競べの始まりであった。

 

 

――――――――――

 

 

『いくよ、ヨーコさん!』

『任せて!』

 

崩れた岩を崖の上まで登って来た裕美とあずきは早速先制攻撃を受ける事になった。

洋子のフルアーマー百式改が携行武器である「ロング・メガ・バスター」を、奈緒のジェスタ・キャノンが「ビーム・キャノン」をそれぞれ裕美とあずきの機体に向けて撃ってきたのだ。

 

「あずきちゃん!」

『防御!』

 

それに対し、裕美のムーンガンダムはビームを防いでくれるサイコプレートを実体剣に変えて斬り裂くようにビームを弾き、あずきのガナーザクファントムは同じくビームを防いでくれるスパイクシールドを展開してビームから身を守る。

 

『お返し!』

『うおッ!?』

 

あずきが反撃に撃ったオルトロス高エネルギー長射程ビーム砲は直接相手の機体を狙わなかった。奈緒のジェスタ・キャノン前の足場に炸裂させると、崖崩れを起こしたのだ。

 

『わああああああッ!?』

 

岩と共に下に落ちていくジェスタ・キャノン。

更にあずきは有香のマスターガンダムの射程外から同じように足場を砲撃する。

 

『反撃の狼煙大作戦!』

『甘いです、せいッ!!』

 

だが、マスターガンダムは飛び上がり布状のビーム兵器「マスタークロス」を巨大な岩の破片の1つに絡めると、そのまま回転し、遠心力で岩を投げつけガナーザクファントムに炸裂させる。

 

『うそおおおおおおッ!?』

 

スパイクシールドで咄嗟に防御はしたが、後ろに弾き飛ばされたあずきのガナーザクファントムも奈緒機と同じく崖下へ転がっていく。

 

『関さん!』

「つっこもう、紬さん!」

『分かりました!』

 

遠距離戦が不利だと判断した裕美は紬と共に距離を詰める。ムーンガンダムは「ビーム・ライフル」をビギナ・ギナIIは「ヘビーマシンガン」をそれぞれマスターガンダムに集中させる。

 

「洋子さんの百式改は遠距離型!距離を詰めれば有香さんのマスターガンダムに集中しやすくなる!」

 

しかし、ここで意外な事が起こった。洋子のフルアーマー百式改はロング・メガ・バスター等の遠距離武器を捨てると何と空手の構えを見せ、マスターガンダムに並んだのだ。

 

『な、何?「ビーム・キャノン」が内蔵武器であるとはいえ、ウチら舐められてる?それともまさか………。』

『そのまさか!………ヨーコはユカの師匠だからね!』

「「炸裂ボルト」だけで勝負する気ですか!?」

 

洋子の通信を聞いて裕美達は仰天する。フルアーマー百式改の両腕に装備されたパンチの瞬間に榴弾を浴びせる炸裂ボルトは大した威力は無い。精々相手の機体のセンサーや関節などを破壊する事くらいしかできないのだ。

 

「「倒す」だけがバトルじゃない。………見せてあげるよ、アタシとユカのコンビネーション!」

「押忍!お願いします、ヨーコ先生!参りますよ!」

 

マスターガンダムの気が高まり明鏡止水の域になる。機体が金色に染まると、フルアーマー百式改と並び、黄金のモビルスーツが2体並び立った。



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第24話 黄金のコンビ

明鏡止水の中野有香のマスターガンダムと炸裂ボルトだけを武器にした斉藤洋子のフルアーマー百式改。黄金のモビルスーツ2機の連携は想像以上に厄介だった。

マスターガンダムは「DG細胞」を持っており自己再生能力があるし、フルアーマー百式改はその重装甲とビームを無効化する「Iフィールド」によってタフだった。

2機はその防御面の強さを活かし、関裕美のムーンガンダムと白石紬のビギナ・ギナIIに迫る。

 

『ハァァッ!「ダークネスフィンガー」!』

 

黒い闘気を込めたマスターガンダムの指がムーンガンダムに迫る。ビーム・ライフルを既に捨てた裕美のムーンガンダムは転がり込むように回避行動を取る。そこに炸裂ボルトを炸裂させようとフルアーマー百式改が突っ込んで来たので、紬のビギナ・ギナIIが慌ててスネークハンドを薙ぎ払うようにして牽制する。

 

『フルアーマー百式改にこんな戦い方があったなんて………。』

 

炸裂ボルトは大した威力は無い。………だが、「一瞬」だけでも相手の動きを止める事はできる。その一瞬がマスターガンダムに対し、致命的な隙を見せる。

その為、常に2体の動きを見ながら戦わなければならなかった。

 

『さあ、覚悟!「十二王方牌大車併(じゅうにおうほうぱいだいしゃへい)」!』

 

有香はマスターガンダムの気によって12体の小型の分身を作り出し、ムーンガンダムに突撃させる。

 

「………お願い、「バタフライ・エッジ」!」

 

マズいと感じた裕美は両腕部に搭載されているビーム刃の遠隔兵器を出す。それは、12基のマスターガンダムのビットの内、6基を斬り捨てるが、刃をすり抜けた残りの6基は裕美機に体術を炸裂させていく。

 

『関さん!………クッ!』

 

動きの取れなくなったムーンガンダムに対し、紬のビギナ・ギナIIは仕方なくヘビーマシンガンを浴びせる。裕美機のダメージは増えるが邪魔なビットは破壊される。

だが、そこにフルアーマー百式改が追撃をかけようとした。

 

『いい加減に………!』

 

裕美機の前に立ちはだかりスネークハンドで振り払おうとしたビギナ・ギナIIだが、それがマズかった。フルアーマー百式改は増加装甲をパージさせると加速。ビギナ・ギナIIのスネークハンドを躱して一気に懐に入ると炸裂ボルトを喰らわせ動きを止める。

 

『しまっ!?』

『ユカ!』

『ダークネスフィンガー!!』

 

ダークネスフィンガーの一撃がビギナ・ギナIIに炸裂し、機体が爆発。その余波で裕美のムーンガンダムのダメージも増加し、後ろに倒れる。

 

『ご、ごめんなさい、関さん!機体は………!?』

「も、もう、動かない………。」

『OK!OK!よーし、この調子で残りの2人も………!』

「………それだけはさせない!」

 

連携での撃破に喜んでいた洋子と有香の機体の「後ろ」から、突如ビーム刃が貫通し爆発させる。裕美が、ビットを斬り捨てる為に投げ飛ばしたバタフライ・エッジをブーメランのように飛来させ、2機を貫いたのだ。

 

『も、もしかしてバタフライ・エッジって、裕美さんの意志で操作できるのですか!?』

「そうだよ、サイコミュ兵器の1つ………。」

『アチャー………最後の最後でミスったねー。』

『でも、こう言ったら何ですが………勉強になりましたし楽しませて貰いました。ありがとうございます。』

 

通信で感謝の礼をした紬の姿を見て、残りの3人は笑みを浮かべた。

 

 

――――――――――

 

 

谷の底では、桃井あずきのガナーザクファントムが慎重に歩いていた。崖の上の情報は伝わっている。そして、恐らく同じく自分と共に落下していった神谷奈緒のジェスタ・キャノンも。

 

(砲撃機が谷の底でできる事は限られるよね………。)

 

オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲はしまっており、手には「ビーム突撃銃」を持っていた。敵に姿は勿論、影も見せてはいけない。だが、次の瞬間………。

 

「見えた!」

 

沈む夕日の影響か、ジェスタ・キャノンの影が壁面に映ったのを確認したあずきは一気に距離を詰めようとする。しかし、そこでジェスタ・キャノンから何かが発射され、閃光が目の前で輝く。

 

「閃光弾!?しまった!?左肩の「4連マルチ・ランチャー」はそういうのも装備できた!?」

『悪いな!』

 

動けなくなったあずきは、何かが複数自分の上で爆発を起こすのを感じ取った。

 

(「ハンド・グレネード」!?確か12基装備していてミサイルのように一斉射も可能で………!?)

 

次に起きる事をあずきは予測する。

ハンド・グレネードによる爆発によって大量の岩が降り注ぎ、あずきのガナーザクファントムを押し潰すだろう。

 

(落ち着こう、あずき!ハンド・グレネードを投げられるなら今は射線が通ってるはず!)

 

本能で動いたあずきの行動は迅速だった。

邪魔なガナーウィザードを外し、ビーム突撃銃も捨て、「ビームトマホーク」を取り出しながら全力で前に走る。

自分の後ろで岩の落ちる音、破片が散る音、捨てた武装が爆発を起こす音………色々な音に恐怖を感じながら左肩のスパイクシールドで前にある物にタックルをする。

ぶつかったそれが壁なのかモビルスーツなのか分からなかった。それでも思い切ってビームトマホークを咆哮と共に叩きつける。

 

「うわあああああああ!!」

 

そして、少しだけ下がったあずきザクファントムの前で爆発音。少し経って視界が回復した所にあったのは何かが焦げた後だった。

 

「げ、撃破………したの?」

『何だよ………、見えてなかったのか?』

 

聞こえてきた奈緒の通信でようやく状況を把握するあずき。地上の邪魔な敵機はこれで撃破できた。しかし………。

 

(これからどうしよう………。)

 

長距離砲撃ができるガナーウィザードは捨ててしまった為、空中で戦いを繰り広げる凛世の援護はできない。しばらくあずきはその場で考え込んでしまっていた。

 

 

――――――――――

 

 

『これで実質的に1対1ですね。』

「3対1の間違いでは………?」

 

トールギスFを駆る社野凛世はGXビットを2機従えたガンダムX3号機を操る岡崎泰葉の前に防戦一方だった。美しい羽である「ウイングバインダー」は展開する事でシールドにもなったが、もう何発も泰葉の正確な射撃を受けていた為、ボロボロになっていた。両肩の「大型ミサイル・ランチャー」も既に発射済み。遠距離武装で頼りになるのはカートリッジ式のビーム兵器である「ドーバーガン」だったが、発射時に隙ができてしまう為、デッドウェイトにしかならなかった。

 

(捨てましょう………。)

 

そのドーバーガンを崖の上に放り捨てると巨大な槍である「ヒートランス〈テンペスト〉」を持ち更に加速。敢えて正面からガンダムX3号機に迫る。

 

『正気ですか!』

 

3機の一斉射で破壊を狙う泰葉だったが、何と先端が赤熱化したヒートランスはシールドバスターライフルを弾く。

 

『!?』

「この槍はヘビーアームズのビームガトリングガンも弾きます。………シールドバスターライフルに通用するかは賭けでしたが。」

 

咄嗟にGXビットの1機が盾になって直撃は回避するが、泰葉の操れる機体数は3機から2機に減る。

弾幕も薄くなった所でトールギスFはもう一度ガンダムX3号機に迫るが、今度は残ったGXビットが「大型ビームサーベル」を構えて接近戦を挑んで来る。

 

「この動きは………。」

『時間切れです。』

 

凛世が見渡せば、日は暮れて夜になっていた。泰葉のガンダムX3号機は背中のリフレクターパネルを広げ、月からマイクロウェーブを受信する。サテライトキャノンを撃てる用意が整っていく。

 

「不味いですね………。」

 

凛世はGXビットを破壊しようとするが、強引に動いた一瞬の隙を突かれ組みつかれる。身動きが取れなくなってしまった。

 

「……………。」

『これで……………ッ!?』

 

だが、そこに地上から長距離ビームが飛来し、ガンダムX3号機を貫く。何事かと思った泰葉は地上を見下ろして納得する。

 

『………成程。』

 

そこには、あずきのザクファントムの姿。彼女は凛世のトールギスFの落としたドーバーガンを使って砲撃したのだ。

 

『完敗です。………でも、楽しかったです。』

 

その言葉と共に、ガンダムX3号機は爆発した。



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第25話 謎の来訪者

「お、終わった~~~………。何とか勝ったよ~~~………。」

 

シミュレーターでのガンプラバトルを終え、チーム「和装の美少女」の桃井あずき・白石紬・社野凛世・関裕美の4人はシミュレーターから出てくる。

反対側からは、チーム「クロックワークメモリー」の岡崎泰葉・斉藤洋子・神谷奈緒・中野有香も同じように出てきた。

 

「凛世さん、ドーバーガンを落としたのはあずきちゃんとの連携を狙ってたのですか?」

「いえ………そこまでは考えて無かったですね。あずきさんの機転のお陰です。」

「そ、そう言われると嬉しいけれど………ギリギリの勝利だったからなぁ………。」

「何はともあれ、君達8人が熱いガンプラバトルを見せてくれた事に間違いは無い。」

 

拍手の音に横を見てみれば、ずっとバトルを見学していた美城専務が、同じく付き添いをしていた北条加蓮や喜多見柚と一緒にいた。

 

「チーム「和装の美少女」の諸君。君達が良ければ、この場でチームを正式に登録しよう。765プロや283プロにも話を付けておく。」

「ほ、本当ですか?」

「それは………有り難いことです。」

「それだけ私の心を動かすバトルだったという事だ。チーム「クロックワークメモリー」の諸君も御苦労だった。」

「ありがとうございます。でも、こんなバトルができる事が分かると、もっと追及したくなりますね。」

 

泰葉の言葉に他のアイドル達も頷く。

只、バトルを楽しむだけでなく、反省点を考え次のバトルで活かす事ができれば、更に面白さは増すだろう。

 

「あーあ、柚も早くチーム作りたいなぁ………。チームを結成する事でできる事も増えるし。」

「4人で色々研究できるもんね。色々な戦局に対応したガンプラの作成やバトルの腕の向上、連携の確認………本当にやる事が多いや。」

「それも踏まえて考えてみたが………近々アイドル活動の合間にガンプラバトルの「講習」も開いてみようと思う。チームそれぞれの弱点に応じたガンプラバトルの訓練をしてみるのも楽しみの1つだろう。」

「へぇ………。」

 

専務の言葉に、加蓮が真っ先に興味を示した。シミュレーターに登録されているガンプラを使って臨機応変に戦えるようになれば腕は上がる。何より自分の中に秘めた新しい可能性を発見する事もできるはずだ。

 

「その講習、私達のチーム………「フォーティチュード・アップル」が最初に受けてもいいですか?」

「チームメンバー全員にその意志があるのならば、予約してもいいが………。」

「ピポパ………OK!忍もネネもあかりもお願いしますだって。」

「………行動が早いな。」

「じゃあ、その次はあずき達が!あ、加蓮さん達の講習も見学してみたい!」

「私達も宜しいでしょうか?負けたままだと悔しさもありますし。」

 

ワイワイと専務の言う講習に対し、予約が殺到していく。みんな、それだけガンプラバトルを愛している事が分かった。

 

「嬉しい事だね、専務。柚も本当に早くチーム作りたーい!」

「焦るな、喜多見柚。時間はまだたっぷりある。だから………ちょっと待て。」

 

専務は携帯端末を取り出して何かやりとりをする。

そして、会話を終えてしまうと加蓮に問う。

 

「北条加蓮。明日の朝から君達のチームの中で予定が空いている人物はいるか?」

「えーっと、ネネがオフですけれど………。」

「では、彼女に「案内」を頼むか。………「あのアイドル」1人だと、舞い上がりそうだからな。」

 

専務の言葉に首を傾げる一同。その後、詳細な説明を受け、その場にいた全員が驚愕する事になる………特に765プロの白石紬が。

 

 

――――――――――

 

 

「こんな朝早くからネネちゃんと人の待ち合わせをして欲しいなんて、専務はいきなり何を考えてるんでしょうね?」

「仕方ないですよ、春菜さん。専務含め、みんな暇じゃないんですから。時間の空いている人達で色々やりくりしませんと。」

「私はレッスンキャンセルしてるんですよ?ネネちゃんは貴重なオフなのに、時間を潰す事になって………。」

「いえ、私は大丈夫です。妹にお土産話ができると考えれば、こういうオフも悪くはありません。」

 

翌日の朝、栗原ネネは黒髪のボブの少女と346プロの入口で会話を繰り広げていた。

少女の名は上条春菜。眼鏡と猫を心の底から愛するアイドルであり、特に前者に関する広報活動は、346プロだけでなく、様々なプロダクションに広まる程。一部のファンからはそれ故に「眼鏡スト」と呼ばれているのも特徴であった。

 

「只、待っているのも暇ですよね。折角ですし、ネネちゃん、眼鏡かけてみます?良いデザインの物、見つけたんですよ!」

「えーっと、ちょっと今日はそういう気分じゃないので………また気が向いた時にお願いします♪」

 

笑顔で流しながらネネはニコニコとしている。

それもそのはず。ネネは昨日、専務からこの後やってくる「来訪者」の事を聞いているのだ。その人物の名を聞いた時はネネも驚かされたが、実際に会えると思うと心が躍った。

尤も、専務からはその人物の事を春菜には伝えないで欲しいと言われている。その理由は実はかなり複雑で………。

 

「しかし、遅いですね。そろそろ待ち合わせ時間になりますよ?」

「そうですね………案外、今日の「髪型」に悩んでいるのかもしれませんね。」

「髪型?………待って下さい、ネネちゃん。まさか、来訪者の事知ってるのでは?というか、よく考えれば私が知らないんだから、案内人として知っているはずですよね?」

「え?いや、その………あ!ほら、来ましたよ!」

 

ネネの言葉に問い詰めようとした春菜は正門の方を振り返る。

見れば、急いでやってきたのか、一生懸命走りながら手を振っている人物が1人。彼女は春菜達の前まで走ってくると息を吐きながら頭を下げる。

 

「栗原ネネさんと上条春菜さんですね!ごめんなさい!色々準備をしてたら遅くなってしまって………!」

「あ、いえ、時間には間に合ってるんで大丈夫ですよ。頭を上げて下さい。」

「そうですか。では、お言葉に甘えて………。」

 

思わず近づいた春菜は見る。

その女性は自分と同じく眼鏡を掛けていた。そして、髪型はエビフライを思わせるような三つ編みお下げ。スーツを着ていたが、春菜はその人物を知っていた。

 

「え、え………?」

「ほら、春菜さん。ちゃんと挨拶をしませんと。この方が困っちゃいますよ。」

 

体が固まり呂律が回らなくなる春菜の姿に苦笑しながらネネは彼女に変わって、来訪者に対して挨拶をした。

 

「改めて………栗原ネネです。こちらのアイドルは上条春菜。今回、346プロの案内を務めさせて貰います。若輩者ですが、宜しくお願いします、「秋月律子」さん。」

「こちらこそ、案内、宜しくお願いしますね、栗原ネネさん。上条春菜さんも………眼鏡アイドルの1人として誇りに思っていますから。」

 

秋月律子。

765プロの中でも弱小プロダクション時代に輝かしい経歴を作り上げた、13人の先輩アイドル「765PRO ALLSTARS」の1人である伝説級のアイドル。

忙しい765プロを救う為、プロデューサー業にも勤しんでいるスペシャルなアイドル。

何より、上条春菜にとっては自分が「眼鏡アイドル」としての憧れになった原点であるアイドル。

その偉大なる存在を前に、春菜は………。

 

「り、律子さんッ!お会いできて嬉しいですッ!!」

 

思わず彼女の手を両手でがっしりと掴んで叫んでしまっていた。



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第26話 憧れを前にして

「私!律子さんに憧れて!眼鏡アイドルになって!!」

「あ、そ、そう!?あ、ありがとう………でも、ちょっと落ち着いて貰えますか!?」

「ご、ごめんなさい………。」

 

憧れの秋月律子との出会いに、彼女の両手を派手にぶんぶんと上下に振ってしまった上条春菜が思わず手を離し、何度も頭を下げる。

そのリアクションは大袈裟に思えたが、世界で一番憧れている人物に出会えたと考えれば、ある程度妥当だとも栗原ネネは見守りながら思った。

 

「とりあえず、中に入りましょうか。まずは………。」

「346プロの歴史からですね!案内頑張りますよ、ネネちゃん!」

「は、はい………。律子さん、改めて宜しくお願いしますね。」

「よ、宜しくお願いしますね………。」

 

それからしばらくは上条春菜の熱い熱いトークが始まった。

律子をカフェやテラスやレッスン室等、様々な場所に案内し、その度に解説していく。

 

「………春菜さんは熱心なんですね。」

「はい!律子さんに会えたから尚更です!今日は私に任せて下さい!」

「ありがとうございます。」

 

あくまで丁寧に受け答えする律子に、春菜はどんどん色々な言葉を投げかけていく。その様子を少し後ろで見守りながらネネは………しかし、少し渋い表情であった。

 

(このままだと………いけないですよね………。)

 

今の状況ではいけない。今の関係ではいけない。これはどうした物かとネネが考えた所で………。

 

「よう、ネネ。何してるんだ?………ん、そっちの顔は。」

「ネネちゃんこんにちは。何か楽しい事やってる?」

 

声に振り向いてみれば、そこには長いブロンドヘアのギャルっぽい女子高生と黒い髪の毛を束ねた女性が立っていた。2人共身長が高めなネネよりも更に高い。

 

「秋月律子です。宜しくお願いします。………貴女達は?」

「桐生つかさです。社長やってるので、こちらこそ宜しくお願いします。」

「えっと、藤居朋です。趣味は占いなので、宜しくお願いします。」

 

つかさと朋。丁度レッスンを終えたばかりの2人の346プロのアイドル達が立っていた。

 

 

――――――――――

 

 

346プロの屋上とも言える展望台には噴水があり、その周りにはベンチと花壇がある。

色々と346プロ内を回った春菜は、律子と共にベンチに座りながら、長々と話をしていた。

 

「しかし、あの秋月律子が346プロの視察に来るなんてな。マジの大物じゃないか。」

「占いによると今日は一時雷雨の予報と聞くから、この出会いに天気もびっくりしたのかも。」

「………朋、その占い当たるのか?」

「えー、つかさちゃん占い信じないの?」

「信じないな。お前の信念は信じるが。」

 

少し離れた所で何気ない世間話をするつかさと朋の横で、ネネは若干俯いていた。何かを悩んでいるのは確かであった。

 

「………話してみろよ。」

「え?」

「アタシ達との出会いは「偶然」だ。なら秘密を話しても影響はないんじゃないのか?」

「……………実は。」

 

長い沈黙の後、ネネは思い切って自分が隠している事をつかさと朋に話す。

その内容を聞いた朋は頭の上で指を回転させながら考え込み、つかさは腕を組み納得する。

 

「成程な………確かに今のままじゃダメだ。」

「でも、この問題は私がどうにかできる事では無いですし………。」

「あたし達でどうにかできないかな?つかさちゃん。」

「そうだな。チャンスが全く無いのはハード過ぎるし………よし、任せろ。」

 

つかさはそうネネの肩を叩き小指を立てて言うと、春菜と律子の所に歩いて行く。

 

「律子さん。765プロが誇るシミュレーター室には行きましたか?」

「まだです。流石にあの部屋にはいきなり入ったらいけないかなと思って………。」

「ガンプラは持っていますか?」

「持ってます。バトルの経験もありますし………。」

「じゃあ、アタシと朋と春菜と4人で2対2のガンプラバトルをしましょうよ。その大義名分があれば、あの部屋にも気軽に入っていいはずです。」

「それ、素晴らしい考えです!早速、私と律子さんの連携を見せて………。」

「悪い、春菜。………それだけれど、特別ルール採用させてくれ。」

「え?」

 

疑問符を抱いた春菜につかさはルール内容を説明した。

 

 

――――――――――

 

 

「ど、どうして私と律子さんが別チームなんですか!?」

『何だよ、春菜。アタシと組むのがそんな不満か?』

「そ、そういうわけでは無いですけれど………でも、折角律子さんが戦ってくれるのに………。」

 

シミュレーター室の機械を作動させた春菜、つかさ、律子、朋の4人はそれぞれガンプラバトルのセッティングに入る。

つかさの提示した条件。それは、春菜&つかさVS律子&朋という固定チームにする事だった。

何故そうしないといけないのか分からない春菜だったが、結局つかさの話術に言いくるめられてこうしてガンプラをセットする。

 

『不安か?』

「そりゃ、だって………。」

『じゃあ、春菜。アタシから1つアドバイスだ。「負ける為のバトルは楽しくない」。』

「え?」

 

言っている言葉を理解する前に電子的なカタパルトに空間が変わり、出撃準備が整う。

春菜の機体はオレンジ色のゴーグルアイの砲戦機。

「ジムIIIビームマスター」と呼ばれるアニメ「ガンダムビルドダイバーズ」の機体だった。パイロットが眼鏡の少年である事が、彼女がこの機体に惹かれる要素になっていた。

 

『ステージは「夜の岩石地帯」。辺り中に遮蔽物になる岩があるのが特徴です。』

 

ネネの通信を聞き、春菜は恐る恐る操縦桿を握り、ペダルを踏む。発進は待ってくれなかった。

 

『それじゃ………桐生つかさ、Dガンダム・サード!マジで行く!』

『藤居朋!ゴールドスモーで幸運を!!』

『秋月律子、ヴェルデバスターでやり遂げるわよ!』

「か、上条春菜でジムIIIビームマスター!輝かしい戦果を!」

 

4機のモビルスーツは出撃していった。

 

 

――――――――――

 

 

夜の岩石地帯に降り立ったつかさの「Dガンダム・サード」は春菜のジムIIIビームマスターに指示を出すと近くの岩に隠れた。

つかさの機体は漫画「ダブルフェイク アンダー・ザ・ガンダム」で登場したガンダム顔の主人公機だ。

ナックルガードで殴りつける「Gブラストナックル」という個性的な武装を持っており、破壊力もパンチとしては破格であった。

 

「朋機と律子機の情報は頭に入れてるな?」

『は、はい………。』

 

朋の「ゴールドスモー」はアニメ「∀ガンダム」に登場するモビルスーツ。

金ぴかの塗装が幸運をもたらしそうというのが、朋の選んだ理由であったが、実際「IFBD (Iフィールドビームドライブ)」と呼ばれるビーム兵器を無効化する装甲である為、かなり強敵であった。

一方で律子の「ヴェルデバスター」はアニメ「機動戦士ガンダムSEED C.E.73 STARGAZER」で登場したオレンジと緑のカラーが特徴的な砲戦機。

原型機となった「バスターガンダム」の取り回しを良くした機体であり、パイロットは伊達だが眼鏡を掛けているのも特徴だった。

 

『私、どうすれば………。』

「律子機を狙ってくれ。」

『ええッ!?』

 

動揺する春菜に対し、つかさは淡々と説明をする。朋のゴールドスモーはビームを無効化する上に、「IFR効果 (Iフィールドリストリクション)」によってミサイル等のホーミング兵器も無効化するのだ。だから、ジムIIIビームマスターはヴェルデバスターを牽制するのが、一番効果が高かった。

 

『……………。』

「というわけだ。とにかくヴェルデバスターさえ抑えれば………。」

『………ッ!?来ます!?』

 

強化されたセンサーが反応したのか春菜の警告につかさのDガンダムはその場を転がるように移動する。

すると、収束したビームがつかさの隠れていた岩を貫通していく。

ヴェルデバスターが両手に装備している「複合バヨネット装備型ビームライフル」を結合させ、「ビームキャノン」を放って来たのだ。更に、「ハンドビームガン」を撃ちながらゴールドスモーも突進してくる。

 

「頼むぞ、春菜!」

 

つかさはそう言うと、Dガンダムを駆り、ゴールドスモーに向かって行った。



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第27話 それぞれの秘めた想い

桐生つかさのDガンダムの主な遠距離武装は「バズーカ」だ。ビーム兵器も持ってはいるが、Iフィールドビームドライブを持っている藤居朋のゴールドスモーには意味が無かった。だから、効果のある武装で牽制してタイミングを計るしかない。しかし………。

 

「ッ!?おい、春菜!?」

 

ここで厄介な事が起きた。後方で援護射撃を行う上条春菜のジムIIIビームマスターが秋月律子のヴェルデバスターではなくゴールドスモーを狙いだしたのだ。その狙いは正確だが、そもそも通用しなければ牽制にはならない。むしろヴェルデバスターを自由にしてしまうので、前線を張るDガンダムの負担が増える。

 

(そう簡単にいけば苦労しないよな………!)

 

コンソールで律子のヴェルデバスターを狙うように指示を出しながら、つかさのDガンダムは朋のゴールドスモーに狙いを付ける。だが、上手く岩に隠れながらハンドビームガンを連射してくる朋機にはなかなかバズーカは当たってくれなかった。

 

(ならば、多少強引にでも………!)

 

右手で「ビームサーベル」を取り出すが、そこに何と、ビームが飛来し、サーベルが吹き飛ばされる。律子機が左肩の「94mm高エネルギービーム砲」を撃って来たのだ。

 

「狙撃もできるのか!?あの人は………ッ!?」

 

更に足元に複合バヨネット装備型ビームライフルが飛んできてバランスが崩れる。春菜機は依然、朋機を必死に狙っていたが効果が無いビームでは意味が無い。そのままゴールドスモーは「ヒートファン」を展開し、回転するようにDガンダムに炸裂させてくる。

 

「ヤバッ!?」

 

咄嗟に左腕のシールドで防御するが、搭載武器である「シールドライフル」ごと破壊されてしまう。

 

「一度引くぞ!とにかく地面や岩に向かって撃ちまくれ!」

 

バズーカの弾を全弾撃ち尽くし、目くらましの粉塵を巻き上がらせながら、つかさはDガンダムを後退させていった。

ゴールドスモー達は、深追いはしなかった。

 

 

――――――――――

 

 

「………美城専務の言っていた通り、やっぱりダメなのかな。」

『やっぱり悩んでいたんですね、律子さん。』

「あ、朋さん………。」

 

ヴェルデバスターに乗っていた律子はゴールドスモーの朋からの通信を聞いて、暗い顔をする。

 

『ネネちゃんから聞きました。専務から「試してほしい」って言われたんですよね?』

「そう………ですね。自分が「憧れ」になるって事は、そんなに経験無かったから、事態の深刻さを理解してなかったんです………。」

『あたしは何となく分かります。自分の天啓を与えたような人が目の前に現れれば、そりゃ狙いにくくもなりますよ。』

 

今回346プロを訪れた律子の目的は、実は別の所にあった。だが、今のままではそれは達成できそうに無い。どうすればいいのか、どうしたらいいのか。

 

「私、春菜さんに悪影響しか与えないのかも………。」

『その答えはこれから分かると思いますよ?』

「ものすごく軽く言いますね、朋さん………。」

『「仲間」ですから。信じてるのは同じでしょう、律子さん。』

「朋さん………。」

 

通信画面の向こうで笑顔を見せた朋の顔を見て律子は何とも言えない顔になる。そう楽観的になれるのは、このアイドルの長所だと思った。

 

『ごめんなさいね………気を使わせて。』

「じゃあ、1つだけお願いしてもいいですか?」

『え?』

「これでも同い年だから、ため口と呼び捨てでお願い、「律子」!」

『……………。』

 

ちゃっかり舌を出した朋を見てコラッ!と言うと律子は「いつものように」リラックスした顔を見せる。

 

「お客様に対して失礼よ、「朋」!このバトル終わったら説教だからね!」

『それは勘弁………。』

 

2人は少し笑い合っていた。

 

 

――――――――――

 

 

ステージの反対側の岩の影では、春菜のジムIIIビームマスターがしゃがみこんでいた。その傍の岩の影では、つかさのDガンダムが、状態を確認していた。

 

『……………。』

「ビームサーベル消失。バズーカ消失。シールド消失。」

『……………。』

「残るはこの右手………Gブラストナックルだけか。」

『……………。』

 

つかさは春菜に何も言わない。責める事も慰める事も。分かり切った事を言っても意味が無いからだ。その沈黙があったからか、春菜が口を開く。

 

『………分かっているんです。自分で自分が愚かだって事が。』

「……………。」

『でも、律子さんは私にとってレジェンドとかそういう以前の問題で、憧れで………あの人がいたから私のアイドル人生があるんです。』

「……………。」

『努力して努力して、ソロ曲である「春恋フレーム」を歌う事ができるようになったのも、あの人のお陰なんです。』

「……………。」

『だから、憧れのあの人の前ではしっかりしないといけないのに………、無様な姿しか見せられなくて………。』

「……………。」

『狙えないんですよ!憧れの人を撃つなんてできない!本当は一緒に戦いたかった!一緒に笑い合いたかったのに………!』

 

いっそ今の姿を笑って欲しいと言わんばかりに落ち込む春菜の姿を見て、つかさは息を吸い、落ち着かせるように少しだけ小さな声で語り始める。

 

「春菜………。正直に言うと、アタシも律子さんと組んでみたかったんだ。」

『え?』

「アタシが社長なの、知ってるだろ?そんなアタシにとって、アイドルとしてもプロデューサーとしても才覚があるあの人は憧れなんだよ。」

 

そう言うと、少しだけ照れ臭そうにつかさは笑う。

モビルスーツで頭をかこうとも思ったけれど、隙ができるので、それは止めておく。

 

『じゃあ、何で律子さんと………。』

「なあ、春菜。お前にとって「秋月律子」は「憧れ」で終わっていい存在か?」

『憧れ………。』

「アタシはな、そういう凄い人だからこそ、「超えてみたいんだ」。勝ってみたいんだよ、秋月律子に。」

『律子さんに………勝つ………?』

「笑っていいんだぜ?でも、もがかなければ始まらないだろ?」

『……………。』

「最後にもう1回言う。「負ける為のバトルは楽しくない」。だから、アタシは勝ちに行く!」

 

そう言うと、つかさのDガンダムは支援を頼むと告げながら飛び出す。

すぐさま律子のヴェルデバスターの砲撃が飛んでくるが、バーニアを最大まで吹かし一気に加速して右腕を引きGブラストナックルの構えを見せる。但し、狙いは敵機では無い。自機の前の地面を叩き、派手に岩石を前に………朋のゴールドスモーの方向に飛ばす。

 

(この隙に!)

 

すぐさま方向転換すると、律子のヴェルデバスターにもう一度Gブラストナックルを当てに行く。律子は両手の複合バヨネット装備型ビームライフルを撃ってくるが、左腕を前に出し、受け止める。腕は吹き飛んだが距離は詰められる。

 

「喰らえッ!!」

 

炸裂するナックルガード。だが………相手を砕くはずの一撃に、ヴェルデバスターはびくともしない。

 

「何………で?」

 

一瞬呆然としたつかさはすぐに自分の甘さに気付く。ヴェルデバスターは質量攻撃に強い「ヴァリアブルフェイズシフト装甲」を持っている。今のDガンダムの攻撃は最初から通用しなかったのだ。

 

(功を焦った………!)

 

すぐに距離を取ろうと後ろに飛ぶが、ヴェルデバスターの「220mm多目的ミサイル6連装ポッド」から放たれたミサイルがDガンダムを襲う。万事休すだった。が………。

 

『ッ!?』

 

そこに別方向からミサイルが飛来し、ぶつかり合う。更に、大型のビームがヴェルデバスターに飛来し、Dガンダムの後退の隙を作りだした。

 

「………春菜?」

『ごめんなさい、つかさちゃん。律子さん。朋さん。』

 

「ミサイルポッド」を放ち、「チェンジリングライフル」を構えたジムIIIビームマスターを操る春菜の通信が聞こえてくる。

 

『私、わざと負けようとしてました。そんなのみんなに対して失礼でしかないのに………負ける為に楽しんでるわけ無いのに。』

 

手持ちのチェンジリングライフルをサイドアーマーの「バスターバインダー」に連結させながら春菜は告げた。

 

『だから律子さん………貴女を倒して、貴女を超えます!!』

 

反撃の狼煙と言わんばかりに最大威力の「フュージョンビーム」を律子のヴェルデバスターへと放った。



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第28話 超えるべき壁

上条春菜のジムIIIビームマスターの放つフュージョンビームと秋月律子のヴェルデバスターの放つビームキャノンが戦場を飛び交う。

両機ともセンサーが強化されている為、岩に隠れたくらいでは意味をなさなかった。完全な遠距離砲撃の撃ちあい。それが続く。

 

『春菜さん。酷い人ですね。私、嫌いになりますよ?』

「嫌いになって貰っても結構です!これ以上の無様な真似は、私の為に全力で戦ってくれてるつかさちゃん、応じてくれている朋さん、何より貴女に失礼ですから!」

『………いい声してるわね、「春菜」。私、貴女を誤解してた。謝るわ。』

 

ここで初めて律子がため口と呼び捨てになったが、春菜はそれに疑問を抱いている余裕は無かった。砲撃を躱しながら如何に自分の砲撃を当てに行くか、それを模索する。何よりも………。

 

「今更こんな事言うのはおこがましいけれど、つかささん。何か援護する方法があれば………。」

『気にするなって。………Dガンダムはまだここに立ってるんだからよ。』

「………分かりました。」

 

つかさの言わんとする事を悟った春菜は覚悟を決めた。

 

 

――――――――――

 

 

「さて、いい所見せないとな!」

『その状態でやる気を見せるつかさちゃんの自信はどこにあるの?』

「ん~?朋のマヌケさ?」

『言ったな~~~!』

 

ほぼ武装を失ったDガンダムを操る桐生つかさの挑発に、ならば敢えて応えてやろうと藤居朋のゴールドスモーは右腕の「Iフィールド・ジェネレーター」の出力を最大まで上げ、槍状にして突撃する「IFバンカー」を放ってくる。

DガンダムはもうGブラストナックルしか使えない。IFバンカーには効果が無いだろう。それでも………。

 

「やってみなければ分からないだろ!」

『後悔しても知らないよ!どすこーーーいッ!!』

 

ぶつかり合う拳と槍。GブラストナックルはIFバンカーの前に粉々に砕け、コックピットを貫かれる。

 

『うし!勝ったのは………!』

「引き分けだな。」

 

しかし、次の瞬間、大型ミサイルが飛来し、Dガンダムごと、ゴールドスモーを呑み込む。何とジムIIIビームマスターが砲戦を繰り広げつつ、脚部側面の「大型ミサイルランチャー」を撃ってきたのだ。しかも、IFR効果 (Iフィールドリストリクション)でホーミングはできないので、誘導無しで直撃させてきた事になる。

 

『そんなのあり~!?律子も撃ち落としてよ!』

『無茶言わないで!春菜の射撃、想像以上に正確なのよ!』

『本当、ごめんなさい!つかささん!』

「だから気にするなって。………気にするなら勝ってくるのがエチケットだろ?」

『………はい!』

 

通信が飛び交う中、春菜と律子の戦いがより激化する事になった。

 

 

――――――――――

 

 

いつまでも遠距離戦をしていては埒があかないと思った春菜は、ジムIIIビームマスターのチェンジリングライフルとバスターバインダーを分離。近距離対応のパルスビームを放つ「ビームバルカン」と低威力ながら拡散ビームを放つ「フラッシュビーム」でヴェルデバスターに迫る。それに対しヴェルデバスターは岩を影にして動きながら、両手で複合バヨネット装備型ビームライフルを撃ち、右肩の「350mmガンランチャー」で広範囲攻撃を仕掛ける。

互いに距離が迫る分、被弾率は上がって行き、両機のダメージは上がって行く。それでも怯まずに武器を撃ちまくり、装甲がボロボロになる程の戦いを繰り広げた。

 

『遠慮が無くなってきたわね………!それが貴女の本性?』

「ガンプラバトルは全力で楽しむ………みんなが改めて教えてくれたことです!」

『それは同感ね!だからこそ………!』

「ッ!?」

 

近くの岩に94mm高エネルギービーム砲が炸裂し、飛び散った破片が春菜機のチェンジリングライフルとバスターバインダーを破壊する。

 

『私は!』

 

律子機の複合バヨネット装備型ビームライフルのバヨネット………銃剣部分でのX字に斬りつける攻撃を、素早く春菜機は「ビームサーベル」を2本抜いて斬り払う。

 

『貴女と!』

 

律子機は下がると共に350mmガンランチャーを地面に炸裂させ即席の煙幕を作り出す。一瞬だが、見失う春菜。

 

『組みたいのよ!!』

 

直感で春菜はビームサーベルを投げた。

前でも無い。横でも無い。「上」に向かって。

………それは、飛び上がった律子のヴェルデバスターのコックピットを貫いていた。

 

『………どうして分かったの?』

「アークエンジェルとミネルバの最終決戦を思い出しました………。弾幕からのバレルロールによる奇襲攻撃を。」

『迂闊だったわね………おめでとう、春菜。貴女の勝ちよ。』

 

律子のヴェルデバスターが爆発する。

春菜のジムIIIビームマスターは只、呆然と立っていた。

 

 

――――――――――

 

 

「ええッ!?律子さん、346プロの見学が目的だったんじゃなくて、私とガンプラバトルのチームを組みに来たんですか!?」

 

バトルを終えた後で、春菜は律子から今回の訪問の目的を聞かされ、驚く。

彼女の前では、律子と案内役を務めていた栗原ネネが頭を下げていた。

 

「最初は私と同じ眼鏡アイドルがいるって事で興味を持ったのよ。それで美城専務にお願いしたんだけれど、反対されちゃって………。何でも春菜にとって私は憧れだから、チームを組んでも腰巾着になるのが目に見えていると思ったんだって。」

「専務曰く、ガンプラバトルでも律子さん相手では全力を出せない。ガンプラバトルは仲間と「対等」で無ければ楽しむ事はできない………って話でしたから。………黙ってて、本当にごめんなさい!」

「いや、謝らなくても大丈夫ですし、専務の言う通りだと思いますけれど………確かに律子さんと出会った時は、私、完全に「憧れ」としか見てなかったですよね。」

 

律子やネネの謝罪を聞きながら春菜は納得する。

4人でチームを組む際は、リーダーが必要になる。だが、そのリーダーを盲目的に信奉しているようではチーム全体のガンプラバトルの上達には繋がらないだろう。

だから、専務は春菜と律子のタッグに反対していた。だが、実際に春菜が律子に対して「対等」に意見を言えるような立場になれるならばその限りでは無い。

その答えを確かめるために、今回こっそりネネに見極め役をお願いしていたのだ。

 

「そ、それでネネちゃん………私、律子さんと組むのは………。」

「実際にガンプラバトルで律子さんを倒しているから専務も納得しますよ。………それに、もう4人チームができているみたいですし。」

「ん?何!?」

 

その嬉しそうなネネの言葉に反応したのは、朋と共に状況を見守っていたつかさ。

いつの間にか自分達もチームを組まされる事になっている事に驚きの声を上げる。

 

「待て!アタシ達はまだ………。」

「つかさちゃんにとっても律子さんは憧れですよね?意見も真正面から言えますし、問題ないのでは?」

「待て待て待て!おい、朋、お前は………!?」

「あたし、律子とはもう呼び捨てで呼び合う関係になってるしねー。今更かも。」

「……………。」

 

どうやら納得していないのはつかさだけであるらしい。

彼女は参ったように頭をかくと律子を見て言う。

 

「えっと………やるからには追い抜く為に、色々と勉強させて貰う。それでもいいか、律子さん。」

「構わないわよ、「つかさ」。私も勉強するわ。」

「じゃあ、決まりだ!やるからにはこの4人でてっぺん目指す!それでいいな!」

『勿論!』

 

つかさの言葉に律子・春菜・朋の3人は笑う。

こうして後日、「765PRO ALLSTARS」のメンバーが入った最初のチームができる事になる。

秋月律子が「対等」な仲間と考えて付けて考えたチーム名は………「憧れと好敵手」。



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第29話 ガンプラバトルの講習

「まさか、こういう形で講習を受けるとは………。」

『………というか、専務がここまで私達の弱点を把握してる事に驚きんご。』

『真っ先に志願したのは私だけれど………やりにくい。』

『気を付けないとあっという間にゲームオーバーですね………。』

 

765プロの秋月律子達がチームを結成してから数日後、美城専務の計画していたガンプラバトルの講習が始まる事になった。

その内容は至って簡単。シミュレーションに登録されている指定された機体に搭乗し、対CPU戦を繰り広げる事だ。

そして今、一番目に予約をした、工藤忍・辻野あかり・北条加蓮・栗原ネネのチーム「フォーティチュード・アップル」の4人が宇宙の月面基地のステージでその講習を受けている。

やはり皆興味があるらしく、他のチームで予定の空いている者も、モニターで覗く事を許可して貰っていた。

 

「専務………。何でアタシは「ジム・キャノン」なんですか?せめて、武装が充実した「ホワイト・ディンゴ所属機」にして下さいよ………。」

『今までのデータを振り返ってみたが、工藤忍………君はフルアーマー・ストライカー・カスタムの遠距離武装をあまり活かせていない。すぐ妖刀システムと増加装甲のパージで接近戦にゴリ押しする傾向が見られる。たまには遠距離攻撃のみで戦ってみせろ。』

「そう来るか………。」

 

地球連邦軍の量産機「ジム」の右肩にロケット砲を乗せたジム・キャノンを操りながら忍は嘆息する。専務がこうして通信でアドバイスをくれるが、その言葉は厳しい物だ。レッスンだと考えれば、それも納得できるが、最初の内は操縦の違和感が大きすぎた。

 

『専務質問です!私が「ジム・ストライカー」なのは!?』

『辻野あかりは、クロスボーン・ガンダムX1フルクロスの武装を活かしきれていない。ジム・ストライカーは主に4つの武装を備えているから、それを状況に応じて使いこなしてみせろ。』

『んごごごごご………。』

 

ジム・ストライカーは緑色のウェラブル・アーマーを付けたジムで、ストライカー・カスタムの原型機である。接近戦に強い装備をしているが、複数の武装を備えていた。

 

『私はそりゃ、プロト・フィン・ファンネルを使うデルタカイが愛機だけれどさ………まさか、「ブラウ・ブロ」でぷかぷか浮かびながら戦うとは思わなかったよ。』

『ぷかぷか言っている場合ではないぞ、北条加蓮。機体の制御をしながらサイコミュ兵器を扱えなければ隙ができるだけだ。それはデルタカイでも活かされる。』

『まあ、妥当ですよねぇ。』

 

ブラウ・ブロはUFOのように浮かんでいる白い小型戦艦のようなモビルアーマーだ。機体の上下左右に有線でビーム砲が繋がっており、それが武装となっていた。

 

『あの………私が「ヅダ」なのは………。』

「セカンドVを最大出力で動かして空中分解を起こす事があるからな、栗原ネネは。その機体でどの程度まで機体限界を引き出せばいいか慣れて貰う。」

『ですよね………。』

 

ヅダはジオンの高機動型モビルスーツ。土星エンジンによる加速力が魅力だが、限界まで加速させると、機体がバラバラになってしまう危険性を持っていた。

4人はそれぞれ自分の課題克服の為にモビルスーツを駆っている。

 

「とにかくこれで………ボス戦までは行ったかな!」

 

既に何発か外している「肩部240mmロケット砲」を何とか当てながら忍は最後のモビルスーツを片付ける。これで、円形の基地エリアへと導かれる事になった。

 

『何が出るかな~?………って。』

 

加蓮が少し驚く中でCPU操作の巨大モビルアーマーが出てくる。

上部はゴーグルアイの灰色のモビルスーツだが、足が6本ある半人半虫の機体が出てきた。

 

『んごごッ!?「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」のゲルズゲーです!』

『気を付けて下さい、「陽電子リフレクタービームシールド」でビームに対するバリアを張ってきます。』

『どーする、「リーダー」?』

 

リーダーと言われ、少しだけ忍は戸惑う。

本当はチームを結成した加蓮がリーダーをやるのがいいのでないかという意見を忍は出したが、加蓮は少し色々と思い返した後、忍を支える立場をやりたいと進言したのだ。それで、今は忍がリーダーという事でまとめ役をやっている。

 

「数の利はこちらにあるから、敢えて「陽電子リフレクタービームシールド」を使わせて側面と背面に隙を作ろう!アタシが正面から「ビーム・スプレーガン」を叩きこむよ!」

 

忍はそう言うと、ジムの小型のビーム兵器を連射する。思惑通り、ゲルズゲーはバリアを張り、隙ができる。

 

「後ろからやっちゃって、ネネちゃん!」

『分かりました!………って、ああ!?』

 

だが、ここで背面に回り込もうとしたネネのヅダが火を噴き爆発。ゲルズゲーの周りを旋回しようとした所で土星エンジンが壊れてしまったのだ。

 

『タイミング悪ッ!?………って、うわッ!?』

 

続いて、モビルアーマーの操縦に慣れていなかったからか、加蓮のブラウ・ブロに前足2本の「ビーム砲」が飛来してきて、直撃してしまう。

 

『ゴメン………もっとデルタカイでモビルアーマー形態の動き、練習しておくべきだった。』

 

あっという間に2体を減らされた事であかりのジム・ストライカーが少々戸惑う。

 

『えっと、バリアがあるから「ツイン・ビーム・スピア」を「ロッドモード」にして………。』

「あかりちゃん、足止めないで!」

『んごッ!?』

 

3体目。両腕部の「ビームライフル」で狙われたあかり機も直撃を受けて爆発してしまう。残った忍機は、ビーム・スプレーガンを撃ち続けながら、肩部240mmロケット砲を撃つ。

 

「当たれぇぇぇ!!」

 

しかし、ビーム・スプレーガンを撃ちながらだったとはいえ、巨大モビルアーマー相手に、明後日の方向に飛んでいったそれを見て呆然。

ゲルズゲーは前足の「クロー」を振り上げながら忍機に迫った。

 

 

――――――――――

 

 

「うわ~~~ッ!もう一度、もう一度やりたい!!」

「ダメだ。今日の講習はここまでだ。………各自、課題は分かっただろう。それを練習すればガンプラバトルも自ずと上達する。」

 

ゲルズゲーに全滅させられ、悔しがる忍達に対し、専務は冷静に言葉を発する。

確かに有意義な講習ではあったが、ここまで見事にやられっぱなしだともう一度やりたくなる忍達の気持ちも分からないでは無い。

 

「………とまあ、こんな感じで各自の講習を行っていく予定だ。参考にはなったか?」

『はい。』

 

その場に集まっていた各チームのオフの人達が感心しながら答える。

自分達が望んだ結果とはいえ、何か見せ物になった気がして、忍達は落ち込んでいた。

 

「練習で大切なのは、如何に自分のガンプラに経験を還元させるかだ。あまり落ち込むな。」

「そうですね………絶対もっとうまくなってみせます!」

 

専務なりの優しさを受け、忍達4人は頷き合った。

 

 

――――――――――

 

 

このままではいけない。専務の言う通り、もっと経験を積まなければならない。

そう感じた忍は帰りにゲームセンターに寄ろうと考えていた。

しかし、その店の入り口の前では、人だかりができていた。

 

(何だろう………?)

 

そう思って人ごみをかき分けた忍は、何かを見つめる依田芳乃の姿を発見する。

 

「芳乃ちゃん?」

「忍さんー。愉快な催しが行われているのでー。」

「愉快な?」

 

芳乃の視線の先を忍は見てみる。そこには、2人の男女が何故かバク転をしながらストリートを行き来していた。



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第30話 アグレッシブな2人

「やるね!智香さん!流石、346のチアリーダー!」

「翔太君もナイスバク転!でも、こっちはまだまだ体力あるよー!」

 

工藤忍と依田芳乃が見つめる先でバク転合戦を繰り広げているのは、男のほうが薄緑の髪を持つ、若干小柄な人物。女のほうがオレンジの髪を腰まで下げた人物であった。

この内、忍達は女のほうをよく知っている。彼女は346プロでチアリーダーをやっている応援がモットーのアイドルである若林智香だ。今でこそシャツに長ズボンというラフな格好をしているが、場合によってはチアリーダーの恰好でスポーツの応援に行くほどのガチな応援好きである。

 

「智香さーん!何やってるんですかー!?」

「あ、ヤッホー!忍ちゃん、芳乃ちゃん!こんにちは!偶然、「Jupiter」の翔太君に会っちゃって。どっちがよりバク転できるか競争してたんだ!」

「ジュピターの翔太………御手洗翔太?」

「こんにちは、工藤忍さん、依田芳乃さん。いやー、つい盛り上がっちゃったよ。」

 

バク転合戦を終えた若林智香と御手洗翔太は忍達の所にやってくる。

「Jupiter(ジュピター)」というのは、元々961プロに所属していた3人ユニットだ。翔太はその中で14歳の国民的弟アイドルとして売り出されていた。しかし、765プロとアイドルとして戦った結果、黒井社長の工作や方針に嫌気がさし出奔。その後紆余屈折あって315プロで再デビューしたという経緯がある。

翔太自身の性格は賢く計算高く自信家というのが346プロで伝わっている情報である。立ち回りが上手く、自分の武器をしっかり理解しているのが特徴だった。

 

「苦労してるんだなぁ………。」

「忍さん?アイドル活動に同情は禁物だよ?」

「あ、ゴメン………。」

 

思わず出た独り言に対する翔太の反応に謝る忍。しかし、そこでふと疑問が生じたので聞いてみる。

 

「翔太君達は、ガンプラチーム作ってるの?」

「僕らはまだかなぁ。315プロもユニットの枠組みに拘らないでチームを組んでいいって言われたから3人自由に動いてるけれど、そう簡単には集まらなくて。でも、まだまだ時間はあるし、気軽にやってくつもり。」

「あ、じゃあ翔太君。アタシと試しにタッグ組んでみる?」

「智香さんと?………確かに機体同士の相性は良さそうだけれど。」

「相性?」

 

智香と翔太の言葉に考え込む忍。確かに機体同士の相性というのは時に相乗効果をもたらす。チームを組む前に北条加蓮のガンダムデルタカイと栗原ネネのセカンドVとバトルをした時は、攻守のチームプレイに苦戦した経験がある。そういう時の突破口として忍は妖刀システムに頼る傾向があったが………。

 

(妖刀システムばかりに頼らない戦い方も身に付けないといけないよね。)

 

朝の講習で聞いた専務の言葉を思い出しながら、忍はさっきから一歩引いた所で会話を眺めていた芳乃を見る。彼女は以前、ウイルスの影響もあったが、フェネクスとの相性が良すぎた為に暴走させてしまい、今は別の機体でガンプラの修練を積んでいる所だ。

 

「芳乃ちゃん、「あの機体」、今は持っている?」

「はいー。………もしや忍さんはがんぷらばとるを望んでいるのでー?」

「うん。アタシも「試してみたい機体」があるし、智香さんと翔太君が良ければ、即席タッグ同士でバトルしてみたいんだけれど………。」

「バトル?………そうだね、それも面白いかも!」

「僕も賛成!じゃあ、早速やろう!」

 

バトルに使用するお互いのガンプラを見せあいながら、4人はゲームセンターに入って行った。

 

 

――――――――――

 

 

「それじゃあ、早速始めよっか。ステージは「廃棄されたコロニー」で。」

『わたくしは準備できましたー。このがんぷらにも愛着が湧いてきたのでー。』

『応援が専門のアタシだけれど、今回は負けないよー!』

『それじゃあ、僕も宜しくね!楽しいバトルにしようよ!』

 

ゲームセンター内のシミュレーターに入ると、4人はガンプラバトルの準備をする。忍は今回、フルアーマー・ストライカー・カスタムを使わなかった。時間のある時にチームの4人で組み上げたガンプラを使う事にしたのだ。

今の所、「シンデレラとガンプラのロンド」では、サブ用のガンプラを使う事は禁止されていない。何故なら、ステージによっては動きが限定されるガンプラもある為だ。例を挙げれば、宇宙専用機は水中戦で使えないという感じである。

 

「さて、相手はどう来るかな………。」

 

そう考えながら忍は、赤いリンゴのような球体の、小柄なガンプラをセットする。ペダルを踏み操縦桿を握ると電子的なカタパルトへと周りの背景が変わった。

 

「工藤忍、りんごろう………じゃなくて!コレンカプル!行っきまーす!!」

『わたくし、依田芳乃がー、ふるあーまーがんだむ7号機で行きましてー。』

『若林智香!ライトニングストライクガンダムでレッツファイト!』

『御手洗翔太のガンダムフェニーチェリナーシタで、魅力を発揮するよ!』

 

各アイドル達が口上と共に機体を発進させていった。

 

 

――――――――――

 

 

廃棄コロニーは所々穴が開いている為か、比較的重力が軽く機動力をいつも以上に発揮できる場所だ。遮蔽物となるビル群がまばらにある他、所々窪地も存在しており、身を隠しながら戦うのにも向いていた。忍達は、その遮蔽物の1つに身を隠す。

 

「さて、芳乃ちゃん。改めて機体情報を整理しようか。」

 

忍が思わず「りんごろう」………と間違えそうになった赤い球体のモビルスーツは「∀ガンダム」に登場する「コレンカプル」だ。「コレン・ナンダー」の専用機であり、通常の「カプル」とは異なる武装を備えていた。特に右腕にはめた「ウォドム」と呼ばれるモビルアーマーの腕は「ロケットパンチ」として機能する切り札だ。

一方、芳乃の搭乗する「フルアーマーガンダム7号機」はゲーム作品「機動戦士ガンダム戦記」で登場するモビルスーツ。白・青・赤のトリコロールカラーは「ガンダム」らしさを見せているが、増加パーツにより砲撃能力が強化されていた。フルアーマー系としては背部に大型の「テールスタビライザー」を装備しており、加速力が改善されている。

 

「それで、智香さんの「ライトニングストライクガンダム」と翔太君の「ガンダムフェニーチェリナーシタ」は………。」

 

忍の記憶にある情報だと、ライトニングストライクガンダムは「機動戦士ガンダムSEED MSV」の機体。「ストライクガンダム」に「ライトニングストライカーパック」を装着した機体であったはずだ。

 

「智香さん、換装の1つに「エール」ストライカーがあるからこれを選んだって言ってたっけ………。でも、わざわざライトニングストライカーにしたのは………?」

 

一方で翔太の「ガンダムフェニーチェリナーシタ」はアニメ「ガンダムビルドファイターズ」で登場した「ガンダムフェニーチェ」の改修機。「リナーシタライフル」とも呼ばれる「バスターライフルカスタム」が特徴だったはずである。

 

「うーん………こういう時、知識量が少ないと状況把握がしにくいよね。」

『忍さんー、前に出ますかー?』

「下手に出るとフェニーチェのリナーシタライフルを受けるから相手が来るのを待ったほうがいい………。」

 

ピピピピピッ!

 

そこで、忍は狙撃が来るのを感じたので慌てて身を転がす。すると、今いた場所に、高速の実弾が飛来し、遮蔽物のビルを砕く。

 

「実弾!?………っていうか、何処から!?」

『忍さんー。窪地にー。』

 

更にアラートが鳴るのを見た忍は芳乃の案内を受け、溝のような窪地に機体を滑らせる。そこの縁に実弾が弾けるが、窪地は頑丈なのか、ビルのようには崩れなかった。

 

「実弾………って事はこの攻撃はフェニーチェじゃない?ライトニングストライクの攻撃?」

『れーだーで見当たりませぬよー。かなり遠くから一方的に「狙撃」してますねー。』

「つまり、ライトニングストライクは優れた実弾による超遠距離射撃とそれを可能にするセンサーがあるって事か。………アレ?って事は。」

 

もしもそのライトニングストライクの超遠距離用センサーによる補助を、フェニーチェが受けられたとしたら?

忍達が悪寒を感じるのとアラートが鳴るのは同時だった。

 

バシュゥウウウウウウン!!

 

「走って!」

 

超遠距離から今度は最大出力のリナーシタライフルのビームが飛来し、忍機と芳乃機がいた窪地を削っていく。見えない敵からの強力な射撃に忍達は恐怖した。



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第31話 超遠距離狙撃

危険を察知するアラートはその後も続いた。

御手洗翔太のフェニーチェによる強力な最大出力のリナーシタライフルがレーダーの範囲外から飛んできて、逃げる工藤忍のコレンカプルと依田芳乃のフルアーマー7号機が身を隠していた場所を次々と容赦なく破壊し、削り取って行く。

 

『どうしますー?「背部長距離びーむ・きゃのん」で牽制しますー?』

「足が止まるからダメ!………大丈夫、今3発撃ったからフェニーチェのほうは弾数が尽きたはず。」

『はてー?最大出力で3発しか撃てないのですかー?』

「元が「ウイングガンダム」の「バスターライフル」だからね。………だから、このタイミングで一気にジグザグに動いてライトニングストライクの攻撃を躱しながら攻め込もう。」

 

身を隠していた場所から飛び出すと、忍機と芳乃機は一気に飛び出す。せめて、こちらのレーダー範囲内………可能ならば目視範囲内に敵機を捉えられればまだ策は立てられるはずだった。だが………。

 

バシュゥウウウウウウン!!

 

『!?』

 

4発目のリナーシタライフルが飛来し、今度は芳乃のフルアーマー7号機が狙われた。身を屈める事で直撃は避けるが、背部長距離ビーム・キャノンの砲身を吹き飛ばす。

 

『4発目ー、来ましたよー?』

 

バランサーと共に砲身をパージして誘爆を避けた芳乃が訴えかけるような声をする。これには忍も予想外だった為に、結局下手に身動きが取れなくなってしまう。

 

「どういう事だろう?リナーシタライフル………というかフェニーチェってこんなにエネルギーあったっけ?」

『まだ来ますー。』

 

若干散発的ではあったが、リナーシタライフルは無尽蔵に撃てると言わんばかりに連射されてくる。何かがおかしかった。

 

「何か「カラクリ」がある………?多分、ライトニングストライク側に何かが………?」

『むー………。これではまるで、えねるぎーを補給して貰っているみたいですねー。』

「「補給」………あ!!」

 

忍はいきなり叫ぶ。

若林智香が操るライトニングストライクの持つ、もう1つの他の機体と違う個性を思い出したのだ。

 

「そうだ………確か腰部に大型のバッテリータンクを備えていて、友軍機のエネルギーを補給できるんだ!前に本でチラっとだけ見た事ある!」

『それはまた変わった機体ですねー。でも、だとしたら近づくのは困難なのではー?』

 

ライトニングストライクが超長距離センサーと実弾武器と補給装置を備えているのならば、フェニーチェにとっては最高の相棒になる。バトル前に智香と翔太が言っていた「機体の相性」というのは、この事だったのだ。

 

「だったら、補給のタイミングで隙ができるはず………!」

『どのたいみんぐで、どの程度補給するか分かりませぬよー?』

「………失敗したかなぁ。こんな時こそ妖刀システムだよね。」

 

機動力を爆発的に上げられる妖刀システムならば、強引に攻めていける。

だが、それでは朝の講習で美城専務の言っていた通り、その挙動に頼りっきりになってしまい、戦略がワンパターンになるのも事実だった。しかし、忍の射撃武器は勿論、砲戦使用の芳乃の射撃武器でもこの距離では相手に届くわけが無い。

 

「今のアタシが当てずっぽうで「ミサイル」撃ってもなー………。ん?待てよ?」

『何か策を閃いたのでー?』

「ねえ、芳乃ちゃん………沢山装備してる「ミサイル」と「フルアーマー」捨てる覚悟ある?」

 

 

――――――――――

 

 

『どう、智香さん?忍さんと芳乃さんはまだピンピンしてる?』

「動きに変わりは無いから問題は無いよ?でも、このまま一方的に撃ち続けるのもなー。」

『ガンプラバトルなんだからこういう戦い方もアリだよ。相手がサテライトキャノンとか持ってたら、こっちから仕掛けないといけないんだし。機体の相性が悪かったって思って貰わないと。』

 

ライトニングストライクを操る智香は、大型のレールガン………「70-31式電磁加農砲」を構えながらフェニーチェを駆る翔太に指示を出していた。

70-31式電磁加農砲は折り畳んで分割する事で両腕部にマウントができ、省スペース化を図る事ができるのが特徴だ。測距離センサーと合わせる事で、何と宇宙では1万キロ以上先から狙える。これは、自機だけでなく、遠距離武装を持つ友軍機にとっても役に立つ物であった。

 

『智香さん、本当にタッグ組んじゃう?想像以上にこの組み合わせ強力だよ。』

「そうだねー。ステージによってストライカーパックは交換できるし………え?」

『どうしたの………うわ?』

 

智香は思わず目を見開く。センサーに映る熱源が急に増えて扇状に拡散していくではないか。目視で対応できない為に、何が起こっているか2人は一瞬判断に迷う。

 

「どれが………本物!?」

『そうか、分かった!「ミサイル」だ!フルアーマー7号機もコレンカプルも積んでいるミサイルを全部適当な方向に撃って熱源を誤魔化してるんだ!』

 

言うや否や翔太はリナーシタライフルを最大出力で放つ。

翔太の予想通り、ビームに当たったミサイルが爆発を起こしていく。だが、それだけでも忍達にとっては十分な隙だった。智香と翔太の視界に採掘用の重機である「ミンチドリル」を担いだ忍のコレンカプルと、加速力を上げるテールスタビライザー以外のフルアーマーを捨てた芳乃の7号機が目に入ってくる。

 

「そう簡単には勝たせてはくれないね!」

『でも智香さん、内心喜んでるでしょ!』

「ごめんね☆」

 

智香のライトニングストライクは70-31式電磁加農砲を分解して折り畳み、近距離や中距離射撃用の「71式強化徹甲尖頭弾」に切り替える。

そして、翔太のフェニーチェはモビルアーマー形態に変形して、「ハンドガン」を連射し、突撃していった。

 

 

――――――――――

 

 

『距離を詰める作戦は成功なのでー。ふぇにーちぇが前に来ましたがどうしますー?』

「アタシが相手するよ!芳乃ちゃんはライトニングストライクをこれ以上暴れさせないで!」

 

忍はハンドガンを連射して来たフェニーチェに向かって飛び上がると、スタビライザーも捨てて完全にガンダムらしい姿になった7号機を駆る芳乃を行かせる。

 

『カプルでフェニーチェ相手に空中戦?お姉さん根性あるねぇ!』

「空中戦?………違うよ!」

『違う?ここは宇宙だから?』

 

ミンチドリルを構えて飛び上がってきたコレンカプルに対し、再度モビルスーツ形態に変形したフェニーチェは上から「リナーシタシールド」で強烈な破砕の一撃を防ぎ、ミンチドリルを弾き飛ばす。そのまま足でカプルを蹴り飛ばすが………。

 

「貰いッ!」

『ええッ!?』

 

コレンカプルはその瞬間に左指に絡めていた簡易ドッキング用の「ケーブル」を投げつけ、フェニーチェの右腕に引っ掛ける。

 

「これがホントのど根性ーーーッ!!」

『うわあああああッ!?』

 

そのまま落下の勢いも使い、遠心力でフェニーチェを逆に地面へと叩きつける。

勿論、それだけで破壊には至らない。だが、バランスを崩して叩きつけられたフェニーチェの左のウイングは破損していた。

 

『自分が空中に飛ぶんじゃなくて、こっちを地上に落とすって事か………やられたなぁ。』

 

「ビームサーベル」を抜きながら翔太はフェニーチェをコレンカプルに向ける。そのカプルを操る忍は落としたミンチドリルを拾いモーターの電源を入れる。

 

「この距離と地上戦でならそう簡単には負けないよ!」

『おっと、その大口もこれまでだよ!』

 

2機のパイロットはそう勝気な言葉を言うと、一直線に突進していった。

 

 

――――――――――

 

 

芳乃の7号機は「ビーム・ライフル」を連射しながら智香のライトニングストライクへと迫る。智香機も71式強化徹甲尖頭弾を撃ってきたが、フルアーマーを外しただけあり、芳乃の7号機は身軽であった。そのまま巧みなライフル捌きでレールガンを破壊する。

 

『あ、壊れちゃった………。』

「智香さんー。これであの強力な射撃武器は使えませぬー。お覚悟をー。」

『そうだね………じゃあ、外すね!』

「?」

 

芳乃の声に何故か嬉しそうな言葉で智香はライトニングストライカーをパージする。只のストライクガンダムになった彼女は、コンバットナイフである二振りの「アーマーシュナイダー」を取り出すと構える。

 

『やっぱりアグレッシブに行かないとアタシらしくないよね☆』

「何とー………。」

 

決してリーチが長いとは言えないそれを構えた智香のストライクは、芳乃の7号機に向かって突撃していった。



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第32話 追い込まれながらも

コレンカプルを操る工藤忍は頭部の「レーザービーム」、腹部の「ソニックブラスト」と呼ばれる2種類のビーム兵器を、前進しながら御手洗翔太のフェニーチェに向かって放つ。

フェニーチェはリナーシタシールドを使って防ぐが表面が溶解していくのを見て、回避行動を取りつつ、それを捨てる。

 

『カプルって何で設定だけのビーム兵器があるんだろうね!』

「アタシが知りたい!」

 

もう1発2種類のビーム兵器を放つ忍機であったが、翔太機は、今度は左肩から「ビームマント」を取り出し防ぐ。そして、そのまま、マントの防壁を張りながらビームサーベルを振りに来た。

 

「クッ!」

 

コレンカプルはビームを防ぐ武装を持っていない。仕方なく左手のミンチドリルで受け止めるが溶解していく。すかさず忍は右腕を引き、思いっきり突き出した。

 

「その股座に!ロケットパーンチッ!!」

『おっと!』

 

翔太はすかさず華麗にフェニーチェでバク転をする事で回避行動をする………が、途中で気づく。自分の上を通過するはずのブースター内蔵のマニュピレーターが飛んでこないのを。

 

『アレ!?フェイント!?』

「残念!!」

 

半ば溶解し折れ曲がったミンチドリルを捨てた忍機はその大きな右の拳を突き出したまま更に足を踏み込み前進。バク転で隙ができてしまった翔太機は慌ててビームマントで防御するが、無駄だった。

 

「そのガンプラに!アップルパーンチッ!!」

『語呂が良すぎーーーッ!?』

 

今度こそブースター付きの必殺の拳がフェニーチェに飛んでいき、ビームマントごと左腕を吹き飛ばしコックピットにめり込むと、そのまま近くの廃墟のビルに突っ込んでいき爆発を起こす。

 

「1機撃墜!芳乃ちゃんは………!?」

 

そこで忍は驚愕の光景を目の当たりにする事になる。

 

 

――――――――――

 

 

7号機を操る依田芳乃は不可解な現象を目の当たりにしていた。

アーマーシュナイダーと呼ばれる二振りのコンバットナイフを操る若林智香のストライクに攻撃が全く当たらないでいたのだ。それどころかビーム・ライフルを破壊され、打突武器にもなる「シールド」もボロボロにされてしまっている。

 

「むー、当たりませぬー。」

『チアリーディングで反射神経とかは鍛えてるんだよ!』

 

埒があかなくなった芳乃はボロボロのシールドを外し、「ビーム・サーベル」二刀流で対抗する。ストライクの「フェイズシフト装甲」はビーム兵器には効果が無いはずだ。なのに………。

 

「どうしてー、当たらないのでー?」

 

ぶんぶんと二振りのビームサーベルを振る芳乃であったが、ストライクはある時は横に避け、ある時は下に屈み、ある時は重力が軽い事を活かして前方宙返りをするようにして、芳乃機を翻弄する。

 

『GO☆GO☆ストライク!!』

「のりのりなのでー………でもー………。」

 

キラ・ヤマトもびっくりの身軽さを発揮するストライクに対し、芳乃は着地の隙を狙い右手のサーベルを突き出す。

しかし、逆に狙われていたのか、そのタイミングで急速にバーニアを吹かし、着地せずに浮いたストライクは、芳乃機の右腕の関節部分に上からアーマーシュナイダーを突き立てる。

 

「!?」

 

マニュピレーターの電子路をやられたのか、ビームサーベルを取り落とす7号機。思わず左腕のサーベルで振り払おうとしたが、相手はその前にもう動いており、今度は素早く背面に回られる。

背後からコックピットに突き刺さる二振りのアーマーシュナイダー。前に力なく倒れた7号機は爆発した。

 

 

――――――――――

 

 

「うそッ!?芳乃ちゃんがやられた!?」

 

丁度忍が翔太機を撃墜するのと智香が芳乃機を撃墜するのが同じタイミングであった為、爆発する7号機の姿を見て戦慄する忍。

智香のストライクはそのままアーマーシュナイダーを構えたままコレンカプルへと迫る。

 

「あ、当たれぇッ!」

 

翔太とのバトルで頼みのロケットパンチを使ってしまった忍はレーザービームとソニックブラストを撃ちまくる。

 

『ファイト☆ファイト☆ストライク!!』

 

しかし、最低限の動きで回避していくストライクは、射撃の隙を狙って左手のアーマーシュナイダーを投げつけ、コレンカプルのメインカメラを破壊する。これで忍は敵機を見失う。

 

「何処!?前、後ろ!?」

 

サブカメラに切り替えようとした所で忍が見たのは………まるでアニメの「ガンダムエクシア」のように空中からきりもみ回転しながら右手のアーマーシュナイダーを突き刺してきた智香のストライクの姿だった。

 

 

――――――――――

 

 

智香&翔太チームが対戦に勝った所でシミュレーターが開く。

気持ちの良さそうな汗をかいている智香は、そのプレイスタイルに唖然としている3人に、それぞれバトルをしてくれた事への感謝とそのバトル内での良かった点を挙げていく。

これは、決して嫌味とかではなく、何事も「応援」するのが大好きな智香の性格に基づいているからだ。

 

「智香さん………ライトニングストライカー付けている時も強かったけれど、素のストライクの時のほうが強くない?」

「そうかな?アタシ、やっぱり身軽に動ける機体好きかなって思って。」

「「えーるすとらいかー」が好きなのは、名前だけで決めたわけでは無いのですねー。」

「うん。人によっては「パーフェクトストライクガンダム」のほうがいいんじゃないかって言うけれど、重そうだし最終的には全部捨てちゃうかも。」

「いいなぁ、智香さん………大活躍して。僕もストライクガンダム組んでみよっかな?」

「アクロバットな動きができる翔太君のフェニーチェもカッコよかったよ?」

 

のんびりと語り合いながら外に出た4人はいつの間にか夕日が見える時間帯になっている事に気付く。ガンプラバトルはどうしても時間を取られてしまう。

 

「ありがとう、智香さん、翔太君。今日のバトルで、色々と学べる事があったよ。」

「わたくしもですー。まだまだ鍛えねばならぬと感じましたー。」

「それで、チームはどうするか考えたの?」

 

忍の言葉に智香と翔太の2人は少し悩んだ顔を見せる。

 

「翔太君と組むのはいいけれど、残りの2人をどうするか悩んじゃって。やっぱり接近戦が得意な人達がいいかな。応援しがいがあるし。」

「リナーシタライフルで味方を巻き込まないような戦い方も必要になるからね。格闘戦だけじゃなく、射撃戦も鍛えないといけないし。」

 

色々と考えている2人であったが、不思議と困っている様子は無かった。

その気持ちは忍にも分かる。専務の言葉で辻野あかりと組んだばかりの時の彼女は、新しいメンバーとの出会いにワクワクしていた。

勿論、今でもその気持ちは変わらないが、チームを募集している時が一番ドキドキ感を覚えるのも事実ではあった。

 

「また何かあったらアタシ達にも連絡してよ。協力できる事があったら何かするからさ。」

「ばとるの再戦も受け付けているのでしてー。今度はまた変わったたっぐで戦ってみましょうー。」

「ありがとう☆アタシ達も早くチーム結成できるように頑張るよ!」

「チームができたらお姉さん達のチームのメンバーも紹介してね………それじゃ、また!」

 

こうして4人は帰路に付く。楽しいガンプラバトルとの思い出と共に。



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第33話 清掃屋

『答えろ!トビア・アロナクス!この戦いに………貴様等7人にどんな大義があった!!』

 

『……………。』

 

とある日の昼下がり、工藤忍のアパートの自室にて、辻野あかり・北条加蓮・栗原ネネのチーム「フォーティチュード・アップル」の4人はアニメ鑑賞会を行っていた。

最近アニメ化したばかりの「機動戦士クロスボーン・ガンダム 鋼鉄の7人」に登場するX1フルクロスの戦闘シーンをもっと研究したいと、そのガンプラを所持するあかりが言った為だ。

やがて、彼女達が何度も見返している通り、物語は激しい戦闘シーンからエンディングへと繋がって終わりを迎える。

 

「どうだった、あかりちゃん。改めて自分の機体のオリジナルのパイロットの動きを見て。」

「……………正直、挙動が滅茶苦茶過ぎて参考になりません。」

 

忍が皮をむいた山形リンゴを、のんびりと頬張りながら訪ねてくる加蓮に対し、あかりは渋い顔。

それもそのはず、正規パイロットである「トビア・アロナクス」の戦法はトリッキーというか普通に真似するのが困難な動きだったからだ。

 

「相手を引き寄せる「シザー・アンカー」を使って千切れた左腕ごと自機のムラマサ・ブラスターを振り回していますよね………。」

「あの反射神経はニュータイプとかいう以前の問題です………。」

「よく話題になる最後のラスボスとの攻防も、考えられてるよね………。」

「何かバトルの参考になるかと思って改めて見てみたけれどこれじゃあ………。」

 

あかりは肩を落としながら、自家製リンゴを口にする。

美城専務が前に講習で言った通り、自分はX1フルクロスの武器を活かしきれていない。というか、よくよく考えればピーコックスマッシャーとムラマサブラスターの2つにばかり頼っている気がする。

フルクロスはその2つが失われても十分他のモビルスーツ並に戦える武装が備えられているのだ。だが、多すぎて即座に選択できないのが今のあかりの弱点であった。

 

「どーするー?りんごろう………コレンカプル、しばらくあかりが使う?」

「地上戦とかだと忍さんのフルアーマー・ストライカー・カスタムのほうが、挙動が悪くなる時があるからそちらに任せるんご。」

「アタシは最悪フルアーマー外して「100mmマシンガン」持って出撃するという手段はあるよ?」

「でも私、X1フルクロスには何だかんだで愛着湧いてるし………。」

「………とりあえず、リンゴ食べちゃいませんか?」

「そうします………。」

 

ネネの言葉に悩んでいたあかりは故郷の味を食べる事にする。そこで忍のアパートのインターホンが鳴る。

 

「誰だろう?」

「気を付けてね。変な勧誘とか受けちゃダメだよー。ヤバいと思ったら「東京でも通用するし」パンチね。」

「アタシを何だと思ってるの!もう!」

 

加蓮の冗談交じりの言葉を受けながら忍が玄関へと向かうと………。

 

「うわわわわわわわ!?」

「ッ!?忍!?」

 

尻もちをついて下がってきた忍の姿を見て思わず身構える加蓮達。しかし、そこに出てきたのは、清掃用具を持ったサイドテールの少女。

 

「………って、響子じゃん。どうしたの?」

「皆さん、こんにちは!今日は忍さんの部屋をお掃除しに来ました!」

 

そう言って、ほうき等を構えるのは五十嵐響子。346プロのアイドルで、掃除を始め、料理や洗濯など家事が大得意な15歳である。こう見えて4人の弟と妹のお姉ちゃんであり、肝っ玉でもあった。その為か、遊園地の絶叫マシンですら楽しめるという特技を持っている。

とまあ、そう言った特徴があるわけで………。

 

「さあ、徹底的に掃除しますよ!」

「きょ、響子ちゃん!アタシは部屋をちゃんと掃除してるってば!」

「でも見えない所に塵は積もる物です!大丈夫、お代は取りませんから!」

「ちょ、ちょっと………みんな、助けてええええええええ!!」

 

こうなった響子を止めるのは不可能に近い。

そう思った忍以外の3人は苦笑しながら素直に手伝いを始めた。

 

 

――――――――――

 

 

「き、綺麗になってる………部屋が輝いている………凄い………!」

「これが掃除の力です!ニュータイプだって真似できません!」

 

1時間後、響子の非常に効率の良い清掃作業によって忍の部屋はピカピカになった。

まさか、ここまで綺麗になるとは思ってなかったらしく、忍自身は驚くばかりである。

 

「ありがとう、響子ちゃん!何か色々生まれ変わった気がする!」

「良かったです!………ところで質問なんですが、皆さんガンダムを見てたんですか?」

「あ、うん。あかりちゃんが自分のガンプラの研究をしたいって言ってたから………。」

「響子ちゃんは家族とアニメを見る事はあるんですか?」

「はい。………と言っても、あんまり怖いアニメは見せられませんけれどね。」

 

ネネの質問に色々と考える響子。これは年下の兄弟姉妹がいるからこその悩みと言えるだろう。例えば「Vガンダム」を一緒に見ようとすると大抵、途中で幼子が泣き出してしまうのは目に見えていた。

 

「そう言えば、響子も最近は沙紀の所によく行ってるって聞くけれど、ガンプラの塗装とかして貰ってるの?」

「そうですよ。それまではシミュレーターは登録されている機体で練習してたんですけれど、私もガンプラを持ってみたいって思ったんです。」

「見てもいい?」

「どうぞ!」

 

響子は加蓮達に自分のガンプラを見せる。

それは赤いモノアイの機体だ。どこかシャープな姿と同じくシャープでありながら若干大型である盾が特徴的に思えた。

 

「「リバウ」じゃん!「機動戦士ガンダム U.C.0094 アクロス・ザ・スカイ」とかで登場する!?」

「加蓮さん、知ってるんご?」

「「バウ」の改良機で、私のデルタカイのライバル機みたいな物!カッコいいの作ったね。」

「ありがとうございます!そう言って貰えると、「ピンクチェックスクール」のみんなに自慢できます!」

 

素直に喜ぶ響子の姿を見て同じ作品のモビルスーツを駆る加蓮はうんうんと納得する。

これで響子もまた自分のチームを作成しようと動き出すのだろう。どんなチームができるか、今から楽しみであった。

 

「じゃあ、失礼しますね!この後も予定ありますから!」

「程々にねー。」

 

あかりの実家の山形リンゴを分ける事も考えたが、荷物が重くなりそうだったので止めておく。響子は上機嫌のまま、また次の家へと向かって行った。

 

「まだまだ面白い機体はいっぱいあるんだなぁ………。」

「対戦が楽しみんご。」

 

忍やあかりはそんな事をのんびりと考えていた。

 

 

――――――――――

 

 

翌日、あかりは346プロでレッスンを終えるとシミュレーター室へと向かっていた。

前に美城専務に適材適所で武装をもっと扱えるようにならないといけないと言われ、その時からジム・ストライカー等の登録されている機体でのバトルも行っている。

今日もそう言った多様な武装の機体を扱い、X1フルクロスを活かすための糧にしようと考えていた。

 

(みんなの足は引っ張りたくないし………。)

 

しかし、シミュレーター室の前であかりは2人のアイドル達の顔を見る事になる。

1人は栗色の髪を後ろで束ねたスプーンを持った少女。もう1人は長い黒髪の大人っぽい姿の少女。

 

「………ですから保奈美ちゃん、手っ取り早くチームを集めるにはこの方法ですよ!」

「裕子ちゃん………貴女の方法は色々とマズい気がするんだけれど………。」

「裕子さんと保奈美さんじゃないですか。どうしたんですか?こんな所で。」

 

あかりの問いかけに2人が反応する。

堀裕子はサイキック………超能力が自慢のアイドルだ。実際にその力を持っているかは疑わしかったが、彼女の前向きな性格も有り、ファンやアイドルの仲間達からは好評である。

西川保奈美はオペラ鑑賞が好きなアイドル。大人っぽく見られがちだが内面は列記とした16歳であり、裕子と同年齢である。喜びで感情が高まると歌ってしまう所が可愛らしかった。

勿論、あかりにしてみれば、どちらも346プロの尊敬するべき先輩である。そんな2人がやろうとしていた事は………。

 

「あかりちゃんじゃないですか!あかりちゃんも協力してくれませんか!?」

「んご?………協力?何をやるんですか?」

「裕子ちゃん………ガンプラバトルのチームを集める為に、強硬手段に出る気なのよ。」

「強硬手段とは………。」

 

首を傾げるあかりに保奈美は冷静に告げた。

 

「「道場破り」。………アポ無しで他の事務所にガンプラバトルを申し込みに行くんですって。」

「だって、「サイキック番長」のお芝居で学びましたもん!バトルをする事でダチが増えるって!」

 

裕子の考えに、あかりは開いた口が塞がらなかった。



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第34話 283プロへの訪問

「ごめんなさい、今西部長………。こんな事を頼む事になりまして………。」

「いや、構わないよ。むしろ自分の足でチームメンバーを集めに行くのは良い事だ。」

 

会社用のワンボックスカーの中で、助手席に座る西川保奈美は、車を運転する今西部長と呼ばれた初老の小柄な男性に頭を下げる。

結局、あの後、アポ無しで訪問していくのは346プロの立場的にマズいと辻野あかりが説得する形になり、事務員である千川ちひろに懇願して美城専務に許可を貰う形になった。

但し、何の事情も無しに訪問………というわけにもいかない為、こうして今西部長に付き添って見学に行くという名目になったのだ。………まあ、専務の事だから、堀裕子の性格上、先方に失礼があったらいけないと思っているのだろうが。

 

「あの~、私って、そんな信頼されてません?」

「アポ無し道場破り考えてる時点で察しなさい………。」

「えっと、そこまではいいのですが………。」

「オフだったとはいえ、何でアタシ達まで行く事になってるんですか!?」

 

そう言うのは説得者であるあかりと、チーム「クロックワークメモリー」の一員である神谷奈緒である。

 

「専務曰く、君達のチームは346プロ内部のメンバーで構成されているから、この機会に外の見学もしてみると良いと思ったそうだ。………興味は持たないかね?外のプロダクションの姿に。」

「そ、そう言われると………確かに泰葉達に土産話は必要だよな、あかり。」

「は、はい………。でも、正直ちょっと緊張します。」

「ハハハ、もっと肩の力を抜くといい。………何事も自然体が一番だ。」

 

こうして今西部長の元、4人のアイドル達はまず283プロへと向かう事になる。そこでの出会いを楽しみにしながら………。

 

 

――――――――――

 

 

「ここが………?」

「283プロ………。」

 

283プロの前に着いた4人のアイドル達は、唖然とした。

新鋭のアイドル達を次々と生みだしている事務所だと聞いていたが、実際にその建物は………失礼ながらハッキリ言うと、想像よりも遥かに小さい物だった。

3階立てのビルのような建物で、1階部分はペットショップ・クリーニング店・靴屋・書店が並んでいる。

 

「こらこら。外見で判断しちゃいかんよ?あの765プロも昔はもっと小さかったと聞くのだから。」

「そ、そうなんですか?それを大きくしたという765PRO ALLSTARSの13人の方々って一体………。」

「というか、そう考えると346プロが特別という事ですか………。」

 

あくまで表情を崩さない今西部長に連れられてアイドル達は2階の事務所入り口へと登って行く。

部長がノックをして開くと、若干緑がかった髪の事務員の方が案内で出てきた。

 

「お久しぶりです、今西部長。そして、初めまして、346プロのアイドルの皆さん。事務員のアルバイトをしている七草はづきです。宜しくお願いしますね。」

『よ、宜しくお願いします!』

 

はづきに連れられて事務所の中を見て回る一同。何でも彼女は非常にマルチな才能を持っており、283プロのボイストレーニングやダンスレッスン、果てはメイクやラジオ放送まで様々な役職を兼任しているらしい。

 

「はづきさん、社長の天井努殿は元気にしておられますかね?プロデューサー殿も。」

「はい。今は仕事で2人もアイドル達も大半が外に出ていますが、中にいる子達もいますよ?」

「あ、あの………その子達はガンプラバトルはやっているでしょうか?」

「あら?………ふふっ、やっぱりチームのスカウトに来たのですね。」

 

裕子の質問に笑顔で答えるはづき。恐らく放課後クライマックスガールズの1人である社野凛世が事務所を超えたチームを組んでいる事は283プロ内で知れ渡っているのだろう。

 

「その日以来、ガンプラを作ってみたいと言うアイドル達も出てきました。オフや休憩時間にシミュレーターを起動する子達もいます。」

「あの………少し失礼な質問になって申し訳ないのですが、シミュレーター室は何処に置いたのでしょうか?」

「倉庫で使っていた部屋があったのでそこに。………只、皆さんが考えている通り、この会社の規模だと2台置くのが限度で………1対1のバトルしか楽しめないのが難点ですね。」

 

保奈美の申し訳なさそうな問いにも笑顔で回答するはづきだったが、やはり4対4の本格的なバトルを体験させたいという想いはあるらしく、少し残念そうな顔も見せる。

そもそも池袋晶葉や八神マキノ、大石泉と言った機械やプログラムに強いアイドルがいる346プロが異常なのだ。

 

「すまないね………。この近くのゲームセンターに増設するという案もあったが、管理の問題とかがあるからね。」

「部長が謝る事ではありませんよ。2台しかなくてもアイドル達の息抜きになりますもの。只………やっぱり「シンデレラとガンプラのロンド」に興味を示している子達の事を考えると、何かこちらでも気軽に後押ししてあげたい所です。」

『……………。』

 

はづきは思わず沈黙してしまった一同をそれぞれ見る。

 

「裕子ちゃんに保奈美ちゃん、それに、奈緒ちゃんにあかりちゃんですね。………チームを集めているのなら、ちょっと協力して欲しい事があるんです。」

「協力………ですか?」

「はい。………ガンプラの扱いに悩んでいる子を………助けてほしいんです。」

 

はづきの真剣な言葉に、裕子達は思わず息を飲んだ。

 

 

――――――――――

 

 

283プロの元倉庫で2台のシミュレーターが起動していた。

ステージは宇宙が選ばれており、2機のモビルスーツが相対している。

1機はジム・キャノンであり、右肩の肩部240mmロケット砲を相手に向けていた。

そして、そのもう1機は白い大きなモノアイのモビルスーツ。何処となく、「機動戦士Ζガンダム」に出てくる「ジ・O」に似ていた。

 

『………ロックオンしたよ、小糸。やってみて。』

「うん、分かった、円香ちゃん。………いくよ、「オーヴェロン」………装甲パージ!」

 

コンソールを操作し、機体の「増加装甲」を外そうとするモビルスーツ。だが………。

 

ピーッ!ピーッ!ピーッ!!

 

「ッ!?」

 

異常音と共にエラーという文字がコンソールに浮かび、装甲がパージされない。

小糸と呼ばれた少女はもう1度同じ操作を行うが、エラーの表示ばかりが出て上手くいかない。

 

『………一度終了しよう。そろそろレッスン再開の時間だし。』

「うん………ごめんね、円香ちゃん。」

 

 

――――――――――

 

 

シミュレーターから若干赤みがかったボブの髪の少女が出てくる。

更に、反対側から黒髪のツインテールの小柄な少女が組み立てたガンプラを持って出てきた。

 

「………どうする?浅倉や雛菜の言うように使うガンプラを変えるのも手だけれど。」

「うん、それが一番なんだと思う………でも、わたしはわたしの力でこのガンプラの「殻」を破ってみたいんだ。」

「小糸………。」

「ありがとう、円香ちゃん。わたし、もうちょっとがんばって………ぴゃっ!?」

 

そこで小糸と呼ばれた少女の驚きを見て、円香と呼ばれた少女が警戒する。そこにははづきに連れられてきた堀裕子、西川保奈美、神谷奈緒………そして、辻野あかりの姿があった。



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第35話 努力の少女

「あの人達は何ですか?はづきさん………。」

「いきなりごめんなさいね、円香ちゃん。彼女達は346プロの見学者達なの………。チームを募集しているらしくて、小糸ちゃんの悩みももしかしたら解決できるかもしれないって思って………。」

「……………。」

 

283プロの事務所のレッスン室で赤みがかった髪の少女………樋口円香が七草はづきに問い詰める。彼女は言動に厳しい部分はあるが、内面は優しい。同じユニット仲間………「noctchill(ノクチル)」の小糸がいきなり部外者と関わる事が心配であるのだ。

 

「厳しい事を言うけれど、私達だけじゃどうにもならない問題だから、少しでも外部の意見を取り入れたほうがいいと思ったのよ。」

「それで小糸の為になるならば、いいんですけれど………。」

 

円香の表情は晴れない。やはり彼女にとって色々と不安ではあった。

 

 

――――――――――

 

 

「えっと、わたし、福丸小糸です。宜しくお願いします。」

「宜しくね、小糸ちゃん。そんなに固くならないでいいから。」

「い、いえ、そんな固くなってませんから………。」

 

事務所の面接室のソファで、346プロの面々の後に自己紹介をした福丸小糸。彼女は代表して応じた西川保奈美の言葉にぶんぶんと手を振る。その姿は小動物のように思えた。

 

「それで、えーっと、悩みというのはこのガンプラなんですよね。」

「はい!漫画「機動戦士ガンダム ヴァルプルギス」の主人公機である「オーヴェロン」です。見た目は「ジ・O」に似てるんですけれど、何と装甲をパージするとガンダムタイプの姿になるんですよ!………本来は。」

「本来は………?」

 

堀裕子の言葉に自分のガンプラの紹介をした小糸は、少し俯く。彼女はオーヴェロンを持ちながら困ったように言う。

 

「わたしがシミュレーターでガンプラバトルをする時にパージをしようとすると「エラー」を起こすんです………。」

「それ、バグじゃないのか?一度シミュレーターの点検して貰ったほうが………。」

「いえ、「他の人」ならパージできるんです。ノクチルは4人ユニットなんですが、わたし以外の3人の友達はパージできたんですよ。………私だけがパージできなくて。」

 

神谷奈緒の疑問に更に落ち込んだように答える小糸。どうやら円香を始めとしたユニット仲間だと異常は起きないらしい。小糸だけがエラーを起こすのだ。

 

「えっと………失礼ですが、そのガンプラとの「適正」が無いって事では?前にウイルスの事件で346プロの仲間がガンプラを暴走させた事がありますが、その時、適性が関係していたって聞いた事があります。」

「やっぱり………そうでしょうか。でも、わたし………「だからこそ」、このオーヴェロンを使いこなせるようになりたいんです。」

「だからこそ………?」

 

顔を上げた小糸の言葉に辻野あかりは疑問を抱く。

それに対する回答は単純明快だった。

 

「このガンプラは、ユニット仲間の4人で組み上げたわたしの為のガンプラだからです。それまでの「努力」を無駄にしたくないんです。」

「……………。」

 

あかりは心の内で考える。

努力というのは結果が実ってこそだ。そして、残酷な話だが、努力は常に叶う物では無い。

あかりの実家はリンゴ農家故に、台風という天災には成す術が無い。だからこそ、頑張っても無駄な物があるという事を知っていた。

しかし、その一方で、工藤忍を始めとした仲間達のようにがむしゃらに努力をして求める物に手を掴もうとする人物達の姿も見ている。

その想いの熱さには何かを突き動かされる事もある。………小糸もそういうタイプの人間なのだろうか。

 

「小糸さんは………その、ノクチルの仲間の事、大切にしているんですね。」

「ぴゃ!?え、いきなり何を………。」

「あ、ごめんなさい。何となく気になっただけです。そのガンプラ、仲間との思い出だって言ってましたし。」

「そうですね、大切です。………みんな、わたしがいないとだめなんですから。」

 

想像以上の何かがこの子にはあるのかもしれないと思ったあかりは、意見を求めるように保奈美達を見る。これからどうしようかと。それに対して、保奈美が小糸に聞く。

 

「小糸ちゃん、その機体で実戦は何度かしたの?」

「はい。みんなに協力して貰いました。でも、戦闘中にピンチになってもパージができなくて、負けてばかりです。」

「そう………努力で何とかする気なら、色々と試してみるしか無いと思うけれど………。」

「団体戦とかはどうだ?ここだと対人戦は個人戦しかできないんだろ?」

「小糸ちゃん、経験ありますか?」

「いえ………無いです。」

 

小糸の返答に保奈美が考え込む。彼女は少し離れた所で様子を見ていた今西部長に問う。

 

「次に向かう予定の765プロには複数人で戦えるシミュレーターはありますか?」

「秋月律子君が機械に強いと聞くからね。此間、346プロの手助けもあって4対4のシミュレーターを実装した所だ。」

「そうですか………。ねえ、小糸ちゃん。貴女が知る通り、今裕子ちゃんはチームを募集しているの。………でも、貴女を無理に誘う真似はしないわ。けれど、貴女にそのガンプラを使いこなす意志があるなら、765プロに一緒に行かない?」

「な、765プロに………ですか?」

 

流石に有名プロダクションに行くと言われると、小糸は少し怖気づいた顔をする。しかし、何か考え込むとすぐ強気の顔を見せる。

 

「………行きます。今までの事、無駄にはしたくないので。それに、例えそこでオーヴェロンを使いこなす事ができなくても、経験が無駄になるわけじゃないですし!宜しくお願いします!」

「そう。今西部長………申し訳ないのですが………。」

「ふむ、はづきさん達に聞いてみようか。」

 

そう言って今西部長に続いて、一同は部屋を出ていく。

あかりは一連の流れを見て思った。この福丸小糸という子は強いアイドルだと。

 

 

――――――――――

 

 

はづきが社長とプロデューサーに電話をした事で、許可はすぐに出た。765プロへ向かう為に車に乗ろうと玄関に行った一同は見る。

小糸は3人のアイドルと会話をしていた。円香の他、紫から青へのグラデーションがかかった髪色の少女と栗色の長い髪を持つ背が高めの少女。多分、小糸の言うユニット仲間なのだろう。

 

「仲いいんだなぁ………。」

「………端末で調べて調べてみたけれど、ノクチルは最近結成されたばかりのユニットなの。何でもあの4人、幼馴染なんだって。」

「そうなのか。結成されたばかりだからアタシ達、小糸達の事、把握しきれてなかったんだな。」

 

保奈美の言葉にバツの悪い顔をする奈緒。そこに、円香が何か言いたそうにやってきたので、保奈美が前に出て代表して対応する。

 

「………小糸の事、宜しくお願いします。」

「分かりました。確約はできないけれど、………それでもできる限りの事はやってみます。大切な円香さん達と作り上げたガンプラですからね。」

「………はい。」

「だからその………ちょっとだけ協力して貰ってもいいですか?」

「え?」

 

ごにょごにょと円香と会話をする保奈美。そして、やり取りと終えた後、彼女は急いで今西部長のワンボックスカーへと走って行く。

そして、保奈美も乗せ、車が発進していく。ノクチルの3人は最後まではづきと共に小糸を見守っていた。

 

 

――――――――――

 

 

「ぴぇっ!?ここが765プロ!?」

 

765プロに着いた一同はそこで、765プロの事務所………「765PRO LIVE THE@TER」を見る。流石に346プロという異常な規模の建物ほどでは無いが、それでも事務所というよりは「劇場」と言える規模の大きさだ。

それ故に、283プロの大きさに慣れていた小糸は思わずビックリした声を上げてしまう。

 

「大丈夫ですか、小糸ちゃん!」

「だ、だいじょうぶですよ、裕子さん!こんなの、ぜんぜん、平気です!大きさが全てじゃないですからね!」

 

虚勢を張っているが、やはり動揺する所はあるらしい。そんな彼女を先導するように今西部長がいつもの笑顔で劇場に向かって歩いていく。

 

「高木社長は仕事でいないが、秋月律子君が待ってくれているそうだ。まずは中に入って………おや?」

 

入口付近で誰かが走っているのを部長達は見る。

その子は赤っぽいはねた髪を持っているのが特徴であり、小糸といい勝負の低身長だった。彼女はこっちに気付くと手を振る。

 

「あ!もしかして、噂の346プロと283プロのお客さん!こんにちは~!」

『こ、こんにちは………。』

「茜ちゃんはね、茜ちゃんって言うの!765プロでも可愛いアイドルだから宜し………ぷぎゃ!?」

「こ~ら!茜!お客さんに対して失礼でしょ!………申し訳ございません、今西部長。」

 

茜と呼ばれた少女の背中を掴むのは垂れ下がったエビフライの髪の女性………秋月律子。彼女は少女の頭を押さえつつ、共に部長達に頭を下げる。

 

「自己紹介が遅れましたね、私は秋月律子です。………こちらは野々原茜。ホント、ロクな事言わないんだから。」

「いや~、ゴメンゴメン。茜ちゃんの個性が滲み出ちゃって~。あ、頭なでなでしてもいいんだよ?」

 

一同が唖然としている中、新たな出会いがここに生まれた。



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第36話 ようこそ765プロへ

「いらっしゃいませ、ようこそ765プロへ!事務員の音無小鳥です。今日はゆっくりしていってね。」

『宜しくお願いします。』

 

765プロの入口に入った所で今西部長、堀裕子、西川保奈美、神谷奈緒、辻野あかり………そして283プロの福丸小糸を待っていたのは黒髪のボブの女性であった。

彼女は765プロが弱小時代の時から事務員をやっていた人物であり、言わばレジェンド事務員と言える存在であった。

彼女に案内されながら、「控え室」「エントランス」「事務所」「ドレスアップルーム」の4つのメインの場所に案内される。オフやレッスンのアイドルもいて彼女達から挨拶をされるので、それに346と283のアイドル達は礼儀正しく応えていく。

 

「………なあ、小糸大丈夫か?汗出てるけれど。」

「よ、よゆーですよ!こんなの!雰囲気に飲まれるわけ………。」

「いやー、飲まれる気分も分かるよー?茜ちゃん達も初めて入った時は心臓飛び出そうだったし。」

「まあ、私達も765プロがここまで大きくなった時は目を丸くしたけれどねぇ………。」

 

これも何かの縁という事で、入り口で出会った野々原茜と秋月律子も一緒に付いて回っている。尤も律子のほうは茜の監視役なのかもしれないが。

 

「じゃあ、新設されたシミュレーター室にも入ってみましょうか。あ、驚かないで下さいね?」

「んご?あの、小鳥さん、今更驚く事って一体………?」

 

部屋を開けた所で今西部長以外の一同はやはり驚く事になった。

そこには………。

 

「遅いですよ、律子さん!………って、保奈美ちゃん達が何で?」

「よ、みんな元気にしてるか?」

「何か楽しそうだね。」

「ふふっ、皆さんも765プロのシミュレーターを使いにきたんですか?」

「は、春菜さん!?つかささん!?朋さん!?………それに、肇ちゃん!?」

 

保奈美は思わず叫んでしまった。そこには346プロの上条春菜と桐生つかさと藤居朋と藤原肇がいたからだ。

更に、876プロの桜井夢子、315プロの秋月涼、後、何故か961プロの詩花もいる。

 

「ち、チーム「憧れと好敵手」と「豊穣の色」が揃ってるんご………なして?」

「皆さん、765プロのシミュレーターを活用してたんですか!?」

 

裕子の言葉に代表してつかさが説明する。

346プロやその近くのゲームセンターだけでは順番待ちの関係で中々使えない事がある。その為、こうして時たま765プロに出張する事を美城専務や担当プロデューサーにお願いしているのだと。

 

「勿論、穂乃香達のチーム「ガンプラバレエ組曲」やあずき達のチーム「和装の美少女」が来る事もあるな。あ、ちなみに961の詩花が765プロ内を堂々と歩いていられるのは、黒井社長に「実力を見せつけて倒してこい」という「名目」があるからだとさ。」

「社長はそう言っていますけれど、私は765プロの皆さんや律子さん達のチームとガンプラバトルやお喋りができるのが楽しいです♪」

「自由過ぎるだろ、765プロ………。」

 

奈緒の言葉に思わず同調してしまうあかり達。成程、確かに当初部長が言った通り、これはチームメンバーへの土産話になると、奈緒とあかりは思った。

事務所という枠組みに囚われないチームだと、集まる機会が少なくなるかわりに、こうして外の事務所のメンバーと自由に戦いやすくなるという利点があるのだ。

 

「………それで、裕子達はチームメンバーを集めに来たのよね?」

「はい。………でも、その前に解決したい事があって。小糸ちゃんのガンプラなんですが。」

「あ、あの………実は………。」

 

そこで多少後ろで呆然としていた小糸は前に出て説明をする。

自分のガンプラであるオーヴェロンが何故か自分が操った時だけパージできないという事を。

 

「………本当に厄介な話ね。涼、聞いた事ある?」

「僕は無い。………ねえ、小糸さん。「トランザム」とかは試した事ある?」

「登録されていたエクシアで使った事は一応あります。本当にこの機体だけなんです。」

「そうなんだ。諦めろって意見は飲む気は無いんだよね?」

「はい。だからここに来てバトルのお願いをしに来ました。協力して貰えないでしょうか?」

 

しっかりした目で見つめる小糸の姿に一同は頷き合う。そういう力強い考え方は全員好きであった。

 

「じゃあ、やってみましょう。4対4のガンプラバトルを。私はデータ面で観測するから、肇達の「豊穣の色」が戦ってあげて。小糸のチームは………。」

「あ、じゃあ私戦います!」

「私もいいでしょうか?」

 

小糸のチームに入ってくれると言ったのは裕子と保奈美。2人共ガンプラを持っていた。最後の1人は………。

 

「えっとそれなら………。」

「ふふ~ん、じゃあ、茜ちゃんが入ってもいい?」

「え?ガンプラ持ってるのか!?」

 

挙手しようとしたあかりや奈緒を前に、はいはーいと手を上げたのは茜。彼女は自分のガンプラを出すとシミュレーターへと向かって行く。

 

「事務所混成チームのほうがいいじゃん。大丈夫、茜ちゃん、ちゃんと命令は聞くよ~?宜しくね、小糸ちゃん!」

「よ、宜しくお願いします、皆さん!」

 

こうして765プロで4対4のチームバトルが始まる事になった。

 

 

――――――――――

 

 

『それじゃあ、今回のステージは「月面基地」にしときましょうか。』

『んごッ………講習で使った場所ですね。………小糸さん、特別ルールとして、こちらには私と奈緒さんがアドバイザーで入る事になります。』

『何かデータ面で色々あったら報告するから宜しくな!』

「宜しくお願いします!」

 

小糸はオーヴェロンをセットすると軽く溜息を付く。

いつもは内弁慶な性格が特徴的である彼女であったが、流石に周りが他の事務所の偉大なる先輩方であると中々本来の長所を発揮できないでいた。それでも………。

 

「いつものように「みんな」に追いつくために「頑張っているわたし」を認める事はできるから………。」

 

プロデューサーが教えてくれた言葉を胸に、小糸はオーヴェロンをセットする。

電子的なカタパルトへと移行し、発進準備が整う。

 

「福丸小糸!オーヴェロン、力を貸して!」

『堀裕子!Ξガンダムでサイキックパワー全開!!』

『リ・ガズィ・カスタム、西川保奈美機、出撃します!』

『野々原茜ちゃんのベアッガイが暴れるよ~!』

 

『藤原肇、ヅダF!参ります!』

『桜井夢子!ザンスパインで勝ちに行くわよ!』

『秋月涼、ガンダムエクシアリペアIIで男らしく行くよ!』

『詩花がνガンダム ダブル・フィン・ファンネル装備型で出ます!』

 

8体のガンプラはそれぞれ発進していった。

 

 

――――――――――

 

 

月面基地へと降り立った小糸達は飛び出した岩の影に身を隠すと皆の搭乗機体の確認をする。相手のチーム「豊穣の色」は涼の機体が変わっていた。

 

『トラップに頼らない機体も作っていたみたいですね。「ガンダムエクシアリペアII」。「機動戦士ガンダム00」に登場する最終決戦用の機体です。』

『武装の豊富な『ダブルオー』じゃなくて、敢えて近接戦闘主体のエクシアリペアIIって所が涼らしいよなぁ………。』

 

あかりと奈緒の解説を受けながら、小糸達は情報を纏めていく。

次は小糸以外の3人の機体だが、どの機体も独特だった。

裕子の機体は巨大な飛行機のようなトリコロールカラーのガンダム。

保奈美の機体は背中に青いバックパックのような物を背負ったZ顔のガンダム。

茜の機体は小柄なランドセルを背負った熊だった。

 

『私の機体は小説「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」に登場する「Ξガンダム」です!サイコミュ無線誘導ミサイルである「ファンネル・ミサイル」でイチコロです!』

『私のガンプラは「CCA-MSV」の「リ・ガズィ・カスタム」よ。「リ・ガズィ」の問題点であった変形機構を改善してモビルスーツ形態とモビルアーマー形態を自由に行き来できるようにしたの。』

『茜ちゃんの熊ちゃんはアニメ「模型戦士ガンプラビルダーズ ビギニングG」に登場する「ベアッガイ」だよ~。これでも「アッガイ」を強化してるから戦闘では頼りにしてね~。』

「は、はい………。皆さん、個性的なガンプラ使ってるんですね。」

 

思った以上に個性的な作品からガンプラを選んでいた一同にビックリする小糸。初めての団体戦による緊張をほぐそうとしてくれているのか、裕子達が笑顔を見せてくれる。

 

『ガンプラは自由ですから!………ってなワケで作戦どうしましょうか?』

『バトルの経験は相手のほうが多いから、まともに挑むのは危険ね。私と裕子ちゃんが前線に出てかく乱するわ。茜ちゃんは後方支援。小糸ちゃんもそうだけれど、オーヴェロンをパージできるような気がしたら試してみて。エラーが発生した時は茜ちゃんにバックアップ入って貰うから。』

『何か茜ちゃんの負荷大きい気がするけれど了解~。………早速お客様が来たみたいだよ~?』

 

茜の言葉に一同は見る。

当然、ガンプラバトルである以上、相手は手加減してくれるわけが無い。

ザンスパインのティンクル・ビットの援護を受けたエクシアリペアIIと、νガンダムのフィン・ファンネルの援護を受けたヅダFが突撃して来た。

 

『行くわよ、みんな!』

 

保奈美の号令で一同は戦闘態勢に入った。



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第37話 特別な背中

「さあ!行きますよ!」

 

堀裕子の操るΞガンダムはいきなりファンネル・ミサイルを放つ真似はしなかった。

この機体は音速飛行が可能である為、他の機体とは機動力が違う。その為、敵のビット兵器による射撃もそう簡単には当たらなかった。

 

「まずは邪魔なビットから!」

 

手始めに秋月涼のエクシアリペアIIの「GNソード改」の「ライフルモード」から放たれるビームを躱しつつ、周りを展開している桜井夢子の操るザンスパインのティンクル・ビット4基を「ビーム・サーベル」二刀流で手早く斬り払う。

そのまま藤原肇の操るヅダFのザク・マシンガンの射撃を「シールド」で弾きながら今度は散弾である「サンド・バレル」を連射。囲っていた詩花のνガンダムのフィン・ファンネルを4基破壊してみせる。

 

『速い!?』

『追いかけても間に合いません!』

 

詩花が残りのフィン・ファンネルでΞガンダムを後ろから射撃していくが、届かない。代わりに反転したΞガンダムにまた2基のフィン・ファンネルを破壊される。

 

『ちょっと、涼!肇!何してるの!?』

『こちら涼!保奈美さんと交戦中!』

『肇です。………茜さん達に狙われていますね。』

 

涼のエクシアリペアIIは徹底的に西川保奈美のリ・ガズィの「ビーム・アサルト・ライフル」の射撃を受けていた。一応、球体のフィールドで自機を覆う「GNフィールド」を張る事で射撃は無効化できるが、攻撃もできないでいる。

一方で肇のヅダFはベアッガイの背中のランドセルから取り出した「ビーム縦笛」の連射を受けていた。更に月面からは小糸のオーヴェロンの「ビーム・ショットライフル」が飛来する。肇の操縦技術もあり、ヅダFが被弾する事は無かったが、射撃能力の低さ故に、反撃のザク・マシンガンも当たらなかった。

 

『すみません、夢子さん、詩花さん。Ξガンダムをお願いできますか?』

『分かったわ、行くわよ!詩花!』

『了解です♪』

 

敢えて通信を流す事でΞガンダムの注意を引こうとしたのだろう。ザンスパインとνガンダムも姿を現す。そして、νガンダムが4基の「ミサイル」を撃つと共に、ザンスパインが突っ込んで来た。

 

「連携が甘いですよ!切り札のファンネル・ミサイル!!」

 

ミサイルを華麗に回避した裕子のΞガンダムはフロントスカートから6基のファンネル・ミサイルを出した。それはザンスパインを全方位から囲う。

 

「チェックメイト!」

『ところがギッチョンってヤツよ!!』

「へ?」

 

しかし、ザンスパインは赤い光の翼を放出し、回転する事でファンネル・ミサイルを全部破壊する。そして、そのまま両肩からビーム・ストリングスを放出。Ξガンダムは慌てて動こうとしたが、その巨体が災いし、動きを止められてしまう。

 

「わわわ!?機体が思うように………!?」

『詩花!』

『撃墜数頂きます!』

 

残りのフィン・ファンネルを一斉射しΞガンダムを逆に四方八方から砲撃するνガンダム。この連携には耐えられず、裕子機は爆発してしまう。これで1機減ってしまった。

 

 

――――――――――

 

 

「裕子ちゃん!?Ξガンダムが電撃武装にやられるなんてシャレにならないわよ!?」

『ご、ごめんなさい………。』

 

リ・ガズィを操る保奈美は正直内心慌てた。オーヴェロンが完全な状態じゃない以上、戦力的には今はもう2対4くらいであった。厄介なビット兵器は裕子がある程度は撃ち落としたとはいえ、まだ6基残っている。そして、その危惧の通り、それは全て保奈美機を狙ってきた。

 

「モビルアーマー形態で………!」

 

とにかくかく乱しなければ意味が無いと思った保奈美はモビルアーマー形態になると、腰部の「ビーム・ガン」を背面に向け、フィン・ファンネルを破壊していく。その奇襲で2基、立て続けに撃ちまくってまた2基。

 

(残り2基………!)

『ぴゃ!?保奈美さん前方!』

「!?」

 

しかし、背後に視線を集中した事で、前方にザンスパインが回り込んでいた事に気付かなかった保奈美。慌ててモビルスーツ状態に変形して上に飛び、ビーム・ストリングスを回避するが、更に後ろから涼のエクシアリペアIIが迫ってくる。左腕に「シールド」を持ち、右手に「ハイパー・ビーム・サーベル」を構えて振り被ったが、相手の武装の硬度が違った。「ソードモード」にした「GNソード改」はその2つの武装を打ち破り、保奈美機のコックピットを突き破る。これで残り2機になってしまった。

 

 

――――――――――

 

 

「ど、どうしよう………!」

 

小糸は迷う。自分があまり戦力にならない事もあり、裕子機と保奈美機が撃墜されてしまった。こうなった以上、もう切り札を使うしかない。

思わず目を閉じて祈りながらオーヴェロンの外装をパージするようにコンソールに指示を出す。しかし………。

 

ピーッ!ピーッ!ピーッ!!

 

「ッ!?」

『小糸機にエラー発生だ!………ダメなのか、この状況でも!?』

 

願い空しくエラー音と機体の制御が効かなくなる音。思わず、やっぱりダメなのかと思った小糸であったが、その手を力強く引っ張られる。茜機のベアッガイが、動かなくなったオーヴェロンを基地の建物の影まで連れていったのだ。

 

 

――――――――――

 

 

『うーん………こりゃ、しばらく動けそうにないね~。』

「ごめんなさい………。」

『気にする事ないよ~。元々このリスクを了承してのバトルだし。』

 

建物の影にオーヴェロンを隠した茜のベアッガイはいつもの口調で語る。そして、射線が通って無い事を確認すると、反転する。

 

「あの、茜さん………?」

『しばらく茜ちゃんが相手の気を引いてるからそれまでどうするか考えておいてね~。』

「え!?そんな………!」

『ガンプラバトルはどんな状況でも楽しむ物だしね!』

 

何としばらくの間、1対4で戦おうというのだ。

思わず止めようとしたが、茜のベアッガイは軽く手を振ると勢いよく飛び出していく。小糸は1人で取り残されてしまった。

 

「……………。」

『………裕子ちゃんと奈緒さんは、茜ちゃんのバックアップをお願い。』

『わ、分かりました!』

『何とか持ちこたえさせてみせる!』

『私とあかりちゃんは、小糸ちゃんのサポート。………あかりちゃん、エラーが回復したら教えて。』

『はい………。』

 

保奈美はそれだけ指示を出すと通信画面越しに小糸の様子を伺いつつ何を言おうか悩む顔を見せる。それもそうだろう。今の小糸自身の顔は間違いなく落ち込んでいるだろうから。

 

「ごめんなさい、戦力になれなくて………。」

『茜ちゃんも言っていたけれど、貴女が謝る事じゃないわ。………ねえ、聞いてもいい?』

「はい?」

『何をそんなに焦っているの?』

「!?」

 

保奈美の言葉に思わず小糸は固まる。そんな自分を怖がらせないようにか、保奈美は優しい声で語っていく。

 

『頑なにオーヴェロンの殻を破ろうとする姿勢………その姿には力強さがあるけれど、その反面焦りが見える気がしたわ。貴女のその拘りは………。』

「………置いて行かれたくないんです。」

『置いて行かれたくない?』

 

真摯に自分に向き合ってくれる保奈美の姿に温かい物を感じた小糸は意を決して告げる。

 

「ノクチルの………私の幼馴染の3人は「特別」なんです。透ちゃんも、円香ちゃんも、雛菜ちゃんも、私が頑張ってようやく「背中が見える」存在なんです。それはガンプラバトルにも言えて………オーヴェロンも特別な3人には応えてくれました。」

『……………。』

 

小糸だけ何をしても3人に遅れる形になってしまう。

いつも見えるのは彼女達の背中ばかりで………覚えるのは「孤独感」。

 

「わたし、3人と中学校が違ったんです。それで一緒の高校に行ったんですけれど………今度はみんなアイドルになっちゃって………。」

『追いかけたのね、貴女も………。』

「はい。色々迷惑を掛けたけれど、プロデューサーさんはわたしをアイドルとして導いてくれて………その中で「どんなアイドルになりたいか?」って追求していって答えを出したんです。」

『………聞いてもいいかしら、その答え。』

 

聞かれなくても話したかった。もうここまで喋り出すと不思議と小糸も止まらなかった。だから、息を吸い込み告げる。

 

「わたしと同じように居場所を感じられないファンのみんなと寄り添うようにして………そして、みんなとわたしの居場所になれるようになりたいんです。それが283プロのアイドル、福丸小糸の信念………。」

『いいアイドル像ね。本当に。』

 

笑みを浮かべて応えてくれる保奈美に小糸はにこりと笑う。

そこで、あかりがなるべく表情に出さないように………もしかしたら話を聞いていて泣きそうになったのかもしれない………とにかく、機体のエラーが回復した事を告げてくる。

 

「じゃあ、わたしも行ってきますね、皆さん。」

『………ちょっといいかしら、小糸ちゃん。』

「ぴゃ?」

 

建物の影から身を乗り出そうとした小糸に保奈美が語りかけた。



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第38話 ツバサ広げて

堀裕子や神谷奈緒のアドバイスがあったとはいえ、野々原茜が駆るベアッガイの活躍は目覚ましい物があった。襲い来る詩花の残りの2基のフィン・ファンネルを両腕の「腕部6連ミサイルランチャー」でそれぞれ撃ち落とすと勝つ事を諦めずに戦っていく。小柄な体型は回避能力に長けており、ある時は上手く月面の窪地に身を隠し、ある時はアクロバットに身を動かしながら戦っていった。

 

(それでもそろそろ限界かな~?)

 

立て続けに迫る波状攻撃で左膝から下と右腕から上はもう無い。ビーム縦笛も消失しており、ランドセルの中にある「6連ミサイルランチャー」も撃ち尽くしていた。

 

「小糸ちゃんに任せるとしても、1機くらいは落としておきたいけれど。」

 

両目から発せられる「頭部メガ粒子砲」を藤原肇のヅダFに当てようとするが、秋月涼が駆るエクシアリペアIIのGNフィールドに阻まれてしまう。その隙を狙って後ろから桜井夢子のザンスパインが、光の翼で迫る。

 

「うわっととと!?」

 

飛び上がる事で避けようとしたが、片足である分、上昇力が足りなかった。右膝から下も斬り飛ばされ、バランスを失って回転する。制御が間に合わない。

 

「まずいかも!?」

 

肇のヅダFがシールド・ピックを構えて迫ってくる。ベアッガイはもう機動力を失っていた。万事休すだな~と茜が思った所で、影が割り込み、その一撃を受け流す。それは、福丸小糸のオーヴェロンだった。

 

「………お、小糸ちゃん復活?でもオーヴェロンのパージはまだ………。」

『茜さん………お願いがあります。』

「なになに?囲まれてるから早くお願いね。」

『わたし、皆さんを「特別」な存在に見てないです。………それでも、一緒に戦ってくれますか?』

「な~んだ。そんな事か。別にいいよ?茜ちゃん達ガンプラバトルの仲間でしょ?年齢も一緒だし、そんな敬語なんて使わないで、保奈美ちゃんも裕子ちゃんも、みんな「対等」な関係でいこうよ!………ってアレ?」

 

 

――――――――――

 

 

茜は気付かなかったかもしれない。

その言葉が小糸にとって、どんなに有り難い物であったか。

 

「私は「みんな」を見ていなかった………。」

 

物陰から出ようとした小糸に西川保奈美が告げた事はごく単純だった。

 

(小糸ちゃんが追いかける3人のように、「私達3人は特別じゃない」。だから、このバトルの内は、その3人を追いかける為に使ってきた頑張りを、「私達の為に使って欲しい」。)

 

「保奈美ちゃんも、裕子ちゃんも、茜ちゃんも………みんな見えてなかった。」

 

浅倉透、樋口円香、市川雛菜。みんな自分が追いかける特別な背中。でも、今この瞬間、自分が共に立っているのは西川保奈美、堀裕子、野々原茜の3人なのだ。

彼女達は特別じゃない。ガンプラバトルという舞台で並んで立っている存在。前を向く事に専念するあまり、横を見渡していなかった。

 

「ねえ、オーヴェロン………今更遅いかもしれないけれど………。」

 

小糸はコンソールを弄る。今度パージに失敗したら敗北は確実だ。でも、今までのように不思議と焦りは感じていなかった。

肇機のヅダFが反転してシールド・ピックを構えて突撃してくる。小糸機のオーヴェロンはベアッガイを庇うようにして立つと、パージのボタンを押した。

 

「わたしの「対等」な仲間の為に………この居場所を守る為に、力を貸して!」

 

 

――――――――――

 

 

ヅダFで突撃した肇は何が起こったか分からなかった。

気が付けば、ベアッガイの周りにジ・Oのようなパーツが散乱し、敵機が消えていた。そして、ヅダFは「ビーム・サーベル」によって真っ二つに斬られていた。

 

『何が………!?………ッ!?』

 

そこで振り返り、ようやく敵の姿を捉える。増加装甲をパージしたオーヴェロンが、その下にトリコロールカラーのガンダムタイプの真の姿を見せていたのだ。

 

『これが、オーヴェロンの真の姿………!?』

「当たって!」

 

小糸の動きは止まらない。そのまま左腕の「シールド」から「拡散メガ粒子砲」を放つ。名前こそその通りの物だが、ガンダムタイプだと威力が上がっており、「ハイ・メガ・キャノン」並の威力を発揮する。それは距離を取っていた詩花のνガンダムを構えた「シールド」ごと呑み込んで消失させる。

 

『そんな………!?』

『このッ!』

「まだッ!」

 

「ビーム・ファン」を両手に携え夢子のザンスパインが迫る。しかし、ビーム・サーベルでそれを受け止めると、オーヴェロンの両膝から何と「隠し腕」が飛び出し、同じビーム・サーベルを掴み、ザンスパインを斬り裂く。

 

『ウソでしょッ!?』

「あと1機………!」

『凄い力だね………でも!』

 

GNソード改のライフルモードで涼のエクシアリペアIIが射撃をしてくる。狙いは厄介な隠し腕。ビーム・サーベルごと全て撃ち落とすが、オーヴェロンはその隙に距離を詰める。

 

『はああッ!』

「えーいッ!」

 

そのままエクシアリペアIIはGNソード改をソードモードにして迫る。対してオーヴェロンは「シールド」が割り、先端のクロー部分からビームを発生させられる「ヒート・シザース」が出現させると、GNソード改をそのまま挟み込む。

 

『この………!』

「お願い………!」

 

ヒート・シザースが貫かれていき、GNソード改にヒビが入っていく。そして限界まで達した途端、両者の主力武器が爆発を起こす。すかさずエクシアリペアIIは「GNビームサーベル」を左手に、オーヴェロンはビーム・サーベルを右手に持ち突き出す。それは、お互いのコックピットを貫き………両機は爆発を起こした。

 

『……………相打ち?アレ?この場合、もしかして………戦場に残ってる茜ちゃんのベアッガイの勝ち?』

『そういう事。………小糸&裕子&保奈美&茜連合チームの勝ちよ。』

 

秋月律子のアナウンスを受け、試合が終了した。

 

 

――――――――――

 

 

試合が終わってシミュレーターから出てきた一同は小糸を見ていた。それもそのはず、武器や機体の性能が奇襲として成立したとはいえ、ほぼ1人で戦局を打開したからだ。

その目を受け、小糸は思わず申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「ご、ごめんなさい………。何かわたしの身勝手の為のバトルになって………。」

「何謝ってるのよ。アンタの実力での勝利でしょ。誇りなさい。」

「え?」

 

腰に手を当てた夢子の強気な声にチーム「豊穣の色」の色のメンバーが笑顔で頷く。

 

「強かったよ、小糸さん。また対戦したいな。」

「私もです♪勿論、裕子さんや保奈美さん、茜ちゃんも凄かったですよ!」

「色々な戦い方があるのだなって勉強させられました。ありがとうございます。」

 

呆然とする小糸に茜が肘でつつき、うんうんと頷きながら言う。

 

「ま、今回はあれだね~。オーヴェロンの真の姿を開放できた小糸ちゃんの執念が勝ったんだろうね~。」

「茜ちゃん………ごめんね、辛い役目強いちゃって。」

「いや~、茜ちゃんは楽しめたから良かったよ~?あ、でも褒めてくれるなら頭なでなでして~♪」

「えっと………こう?」

「うーーーん!もっともっと~~~♪」

 

小糸に頭を撫でられご機嫌になる茜の顔を見て、笑みを浮かべる一同。それは一緒に戦った裕子や保奈美。アドバイスをした奈緒やあかりもそうだった。

調子に乗ったのか、周りのアイドル達にも頭を撫でる事を要求する茜。何故か茜の頭をみんなで、なでなでする時間がしばらく続いた。

その隙を見計らって、保奈美は少し離れた所で携帯端末を弄る。

 

(……………小糸ちゃんはオーヴェロンを使いこなせるようになりましたっと。)

「やっぱり………。」

「!?」

 

声に振り返れば、保奈美の姿を周りから隠すように律子が立っていた。

彼女は保奈美にだけ聞こえる声で言う。

 

「アドバイス貰ってたのね。ノクチルの3人から………。」

「そんな大した物じゃないです。只、3人の小糸ちゃんへの印象をバトルで戦闘不能になった際に聞いたんです………。」

 

多分、小糸には3人に対して何かしらの感情があると思った保奈美は、円香に頼んでノクチルの3人が小糸に対して思っている事をラインで羅列して貰った。

その情報で中学校が1人だけ違っていた事を知った保奈美は、小糸は3人と同じ立場になりたいのではないかと勘付いたのだ。勿論、彼女の詳細な過去までは分からないし、何が彼女をそうさせるのかまでは把握できなかった。

それでも、その僅かな情報を元に、彼女がその幼馴染たちを「特別」だと思っている事を教えてくれたため、ならば、今は特別でない自分達の為にその努力できる自分の力を発揮して欲しいとお願いしたのだ。そして、その事で「特別」にならないといけないという重圧から脱却できた彼女はオーヴェロンを開放する事ができたのだろう。

 

「他に何か掴んだ事はあったの?」

「………無いです。少なくとも私達が言える事は。」

 

本当はもう1つ話したかった事がある。

それは、円香や雛菜等は小糸の努力を認めているという事だ。つまり、彼女の努力する姿勢は他のメンバーに影響を与えているという事。だが、これは保奈美達が話す事ではなく、透を始めとしたノクチルメンバーで今後分かち合っていかないといけない議題だ。

 

「だから、私達が彼女に言える事は、今はここまでです。」

「そうね。後は彼女達に任せましょうか………。」

「大変です、保奈美ちゃん!小糸ちゃんが!?」

「え?どうしたの、裕子ちゃん。」

 

笑顔で小糸(とついでに彼女が手を繋いでいる茜)を引っ張ってきた裕子は手を上げて喜ぶ。

 

「小糸ちゃんが私達のチームに入ってくれるって!」

「私達って………あら?私、裕子ちゃんと組んでたかしら?」

「もう今更ですねー!折角ですから茜ちゃんも含めた4人でチーム結成しちゃいましょうよ!」

「チームって………名前どうするの?共通点無いわよ、私達。」

「うーん………そこは「サイキックお色気16歳」で………。」

「16歳しか合ってる要素無いじゃない!後「ビビッドカラーエイジ」とかのお株を奪うじゃないの!とりあえず肇ちゃんとかに謝りなさい!」

「あ、あのケンカしないで!………もう、このチーム、わたしがいないとダメなんですから!」

 

ぷんすかと怒る小糸の姿に笑いが出るチーム「豊穣の色」を始めとした一同。

結局妥協案として後日リーダーとなった保奈美が付けたのは………「青春の16歳」。

 

小糸は目指す。いつかこのチームのように背中を追いかける3人に並べるように。

 

後日、保奈美の携帯端末にはノクチルの3人からラインが届いていた。

 

「ありがとう」………と。

 

そして、その小糸を見たあかりは………。



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第39話 悩めるリンゴ娘

「んご~~~~~………。」

「何でそんな深い溜息ついてるの、あかり?」

 

西川保奈美達からチームを結成してから数日後、346プロのカフェでは辻野あかりが北条加蓮の前で落ち込んだ顔をしていた。

 

「何か人には言えない悩みでもある?何なら、この加蓮お姉さんが聞いてあげるよ?」

「本当ですか………?」

 

あかりは先日の出来事を話す。

保奈美達に付いて283プロ、346プロを訪問した際、福丸小糸という少女に出会った。彼女は特別な幼馴染3人の背中を追いかける為に努力し続けるアイドルであるのだ。

 

「努力ね~。私は最初の頃は身体弱いから無理だーって言ってたけれど、アイドルを続けている内にそんな事言ってられなくなったね。」

「私もそれは同じです。努力すれば全部が叶うなんて夢物語だけれど、都会で輝きを見せる山形リンゴのように、努力の全てが無駄だとは思えなくなりました。だからこそ………。」

「だからこそ?」

「ガンプラバトルで忍さんや加蓮さん、ネネさんに後れを取りたく無いんです。」

「成程ね~。………じゃあ、今から鍛えちゃう?」

 

意地の悪い笑みを浮かべた加蓮にあかりは首を傾げる。加蓮と戦って鍛えようって事だろうか?

しかし、実はチーム内でのバトルは何回も行っている。その中で最近一番勝率が悪いのがあかりであった。

 

「チームを組む前に忍と戦ってた時は五分五分だったんでしょ?だから今、勝率が落ち込んできていて、余計焦っちゃって悪循環を生んでる………違う?」

「多分、大当たりです………。更に小糸さんのように努力する子を見てきていると、余計に………。」

「じゃあ、折角だし気晴らしも兼ねて何処かのチームと戦おうよ。えーっと………。」

「その話!私達が受けてもいいですか!」

『ん?』

 

別方向から掛かった言葉に振り向けばそこにはサイドテールの少女とおかっぱ頭の少女。五十嵐響子と喜多見柚であった。更に、その奥には腰まで届くポニーテールの若林智香と315プロの薄緑の短髪の御手洗翔太もいた。

 

「へー、響子ちゃん達4人でチーム組んだんだ。」

「はい!名付けてチーム「ロータリー・クリーナー(回転掃除屋)」です!さっき、美城専務に頼んで翔太君の315プロにも許可を取って貰った所です!」

「お姉さん達、面白いガンプラ使うからね。何か楽しそう。」

「柚も!やっとこれで、フリルドスクエア全員チーム結成だね!」

「アタシ達と4対4で戦って貰ってもいいですか?」

 

「ロータリー・クリーナー」の4人の言葉に加蓮が素早く端末を弄る。他2人の予定を確認しているのだ。

 

「ネネは大丈夫だけれど、忍が今日はレコーディングだ………。仕方ない、リーダー不在だけれど、ネネに誰かオフの子連れてきてもらおう。」

「響子さん、柚さん、智香さん、翔太君、宜しくお願います。私も頑張るんご!」

 

こうして一行は346プロ内のシミュレーター室へと向かった。

 

 

――――――――――

 

 

「んで、ネネ。連れてきたのが、美羽なのね。」

「チーム「ダジャレンジャーズ」のリーダーですし………。」

「アレ?私じゃ不満ですか!?」

「いや、フェネクス暴走事件じゃ活躍したって聞くから頼りにするよ。………一応。」

 

栗原ネネが連れてきたのは、矢口美羽。これでも、輿水幸子、黒川千秋、依田芳乃のチームのリーダーを務めているので、忍の代役をお願いしたという話だ。

機転は利くが、普段は何処となく頼りない………というか抜けている印象があるのが正直な美羽のイメージだった。

 

「バトルは真面目にやります!………それに、晶葉ちゃん達とメンテナンスした時に、面白そうな「追加ステージ」をやってみたんですよ。」

「追加ステージですか!?もしかして絶叫マシン!?」

「響子さん、そこから離れて下さい。あの一年戦争の舞台である「ソロモン」です。外の宇宙空間だけじゃなく、中の迷路のような通路でも戦いを繰り広げる事が可能なんです。」

「へー、じゃあやってみようか。智香さん、今日はどのストライクで行く?」

「そうだなー。色々使ってみたいし………。」

 

美羽の説明で楽しみになる一同。こうして、「ソロモン」でガンプラバトルを繰り広げる事になった。

 

 

――――――――――

 

 

ガンプラをセットすると、あかりは椅子に座りペダルを踏み操縦桿を握る。今回はいつものメンバーと違う戦いだ。特に智香は忍のりんごろう………でなくコレンカプルを倒したという事も聞いている。強敵なのは確かだった。

 

「使いこなしてみせる………絶対に………!」

『あかりちゃん、準備はいい?』

「OKんご!」

 

発進準備が整う。各チームそれぞれ8体のガンプラが稼働する。

 

『矢口美羽!ガンダムAGE-1 タイタス!マッシブにゴー!』

『北条加蓮のガンダムデルタカイで、アクロス・ザ・スカイ!!』

『栗原ネネ!セカンドVで宇宙(そら)に羽ばたきます!』

「辻野あかり!クロスボーン・ガンダムX1フルクロス、発進するんご!!」

 

『五十嵐響子お手製のリバウが戦場を駆け巡ります♪』

『喜多見柚!アドヴァンスドジンクスでグサァーッ!とね♪』

『若林智香!パーフェクトストライクガンダムでレッツファイト!』

『御手洗翔太のガンダムフェニーチェリナーシタで、魅力を発揮するよ!』

 

それぞれの機体が正常に起動し、ソロモンへと飛び出して行った。

 

 

――――――――――

 

 

ソロモン宙域へと飛び出したあかり達一同は、目の前の宇宙空間にそびえ立つ巨大な岩石を見る。反対側では、チーム「ロータリー・クリーナー」も同じように見ているのだろう。

 

『超長距離狙撃に向いてない戦場だと判断したからか、相手チームは、智香さんのストライカーパックを変えてきましたね。』

『「パーフェクトストライクガンダム」………。「機動戦士ガンダムSEED HDリマスター」で登場した装備だね。エール、ソード、ランチャーの3つの混合パックだったっけ。』

 

パーフェクトの名の通り、様々なストライカーパックの良い所取りのパック………なのだが、エネルギーの消費や武装の使い分けに思考を割く為、中々扱いは難しかった。その強化処置として追加バッテリーを備えているが、機動性までは改善しきれず、最終決戦では使われなかった。

 

「パーフェクトストライクが外に来るか中に来るか………。」

『さて、突入しますよ!あかりさん!』

「んご!?って、美羽さん、中で戦うんですか!?」

『相手がどちらから攻めて来るか分からない以上、2組に分かれたほうが効率的です!………クロスボーン・ガンダムは接近戦に強いんでしょう?』

「た、確かに………。」

『じゃあ、私とネネは外周を周って攻めるよ。………ネネ、モビルアーマー形態になるから乗って。』

『了解です。』

 

作戦が決まると加蓮のデルタカイは変形し、ネネのセカンドVを乗せて飛んでいく。あかりのX1フルクロスは、美羽のタイタスと一緒に通路の中に入って行った。

 

 

――――――――――

 

 

「あかりちゃん、随分悩んでいる感じでしたが、大丈夫でしょうか?」

『まー、ここら辺は徐々に慣れていくしかないね。』

 

ソロモン外周を周っているセカンドVを操るネネはデルタカイを操る加蓮に聞く。実はガンプラバトルをする時のメールでの連絡で、あかりが色々と悩みを抱えている事は情報として仕入れていた。その為、彼女の事を考えるといささか不安ではあった。

 

『ま、とりあえずは楽しもう。美羽がいるし、案外何とかなるかもしれないし。』

「そうですね。………さて、相手の機動力を考えたらそろそろ遭遇します。」

『相手4機の内、長距離砲撃のできる機体は?』

「リバウ以外の3機ですね。多分、外にいるのは………。」

 

ピピピピピッ!

 

ネネの言葉と同時にアラートが鳴り、長距離ビームが2つ飛んでくる。

それは、モビルアーマー形態の翔太のフェニーチェの「リナーシタライフル」と、その上に乗った智香が駆るパーフェクトストライクの左腰に据えた「320mm超高インパルス砲「アグニ」」であった。

 

『邪気が来たか!』

 

講習等で訓練した成果か、セカンドVを乗せたままモビルアーマー形態で華麗に回避する加蓮のデルタカイ。

すぐさま、デルタカイはそのまま「ハイ・メガ・キャノン」を撃ち、セカンドVは「メガビーム・キャノン」で応戦する。

一足先にソロモンの外で熱いガンプラ同士のバトルが始まった。



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第40話 ソロモン内外の攻防

ソロモン外周部での戦闘は遠距離戦ではケリが付かず、お互いの機体の距離があっという間に詰まる。栗原ネネの操るセカンドVと若林智香の操るパーフェクトストライクは、それぞれ単独で飛び上がり、北条加蓮のデルタカイと御手洗翔太のフェニーチェはモビルスーツ形態へと変形する。

 

『ネネ、最大出力で戦う時は気を付けてよ!………n_i_t_r_o(ナイトロ)起動!プロト・フィン・ファンネル!』

 

デルタカイは2基のプロト・フィン・ファンネルを放出すると翔太のフェニーチェをビーム散弾で狙う。更に、ビーム・マグナムを取り出し勢いよくぶっ放す。

 

『ビーム・マグナムは反則だよ。………でも!』

 

翔太機は再びモビルアーマーに変形するとファンネルとビーム弾を躱しつつ逃げに徹する。

 

(………何か狙っている?)

 

パーフェクトストライクは相変わらず320mm超高インパルス砲「アグニ」を撃ってくるので、回避しつつセカンドVのメガ・ビームキャノンを撃つネネ。

何となくだが、距離を詰めたほうがいいと思い近づくが、パーフェクトストライクは左肩の「ビームブーメラン「マイダスメッサー」」を投げつけてきたので弧を描くように動きつつ「バルカン砲」で破壊していく。………その瞬間であった。

 

『貰うね☆』

『え!?』

 

パーフェクトストライクは左腕の「ロケットアンカー「パンツァーアイゼン」」をデルタカイに向けて撃つ。狙いは機体では無く………丁度カートリッジの交換作業を終えたビーム・マグナムの砲身。完全に虚を突かれた加蓮はメイン武装を取られてしまう。

 

『ちょ!?そんなの有り!?』

「加蓮さん、気を抜かないで下さい!」

『今度はこう!』

 

ビーム・マグナムを手に持つと、逃げ回るフェニーチェを追いかけるデルタカイのプロト・フィン・ファンネルに向け、もう1度ロケットアンカー「パンツァーアイゼン」を発射。その内の1基を掴むともう1基に向けて振り回すようにぶつけて破壊してしまう。

この智香の行動を最初から予測していたのだろう。モビルスーツ形態に戻った翔太のフェニーチェはすかさずリナーシタウイングシールドをデルタカイに投げつけてくる。

 

『舐めるな!』

 

右膝のニークラッシャーで反射的にシールドを破壊する加蓮だったが、そこに隙が生まれる。フェニーチェがリナーシタライフルを、パーフェクトストライクが奪ったビーム・マグナムを構えた。

 

「加蓮さん!避けて!」

『!?』

 

ビーム・マグナムは咄嗟にネネがビーム・ライフル下部に装備された「マルチプル・ランチャー」で破壊するが、もう片方はどうしようもなかった。

高威力のリナーシタライフルがデルタカイを貫き、爆発させる。

 

『ゴメン、ネネ………やられた。』

「大丈夫です!加蓮さんのお陰で推進剤は沢山あります!」

 

今度はネネのセカンドVにパーフェクトストライクの右肩に備え付けられた「120mm対艦バルカン砲」と「350mmガンランチャー」が集中する。

セカンドVはメガ・ビームキャノンをパージすると、最大出力状態になりこれらの攻撃を回避。光の翼を出しつつフェニーチェに迫る。

しかし、フェニーチェは機動力を活かし回避。

 

「当たって!」

 

反転したネネはビーム・ライフルを撃つが、翔太機は左肩のビームマントでそれを防ぐ。

 

『セカンドVがビーム兵器主体の機体だって事は知ってるよ!光の翼さえ気を付ければ………。』

「では、こうします。」

 

パーフェクトストライクの320mm超高インパルス砲「アグニ」を回避したネネは一度最大出力状態を解除。しかし、フェニーチェにビーム・ライフルを撃ちながら真っ直ぐ迫る。

 

『ちょっとお姉さん、最大出力の空中分解を恐れてたら………。』

 

ビームマントで弾きながらリナーシタライフルを構える翔太。しかし、ネネの行動は異常だった。ビーム・ライフルが通用しないと分かると何とそれを直接投げつけてきたのだ。フェニーチェは勿論膝で蹴とばすが、何とその隙に展開しているビームマントに向かって右の拳で殴りつけてきた。

 

『ええ!?』

 

いや、正確には殴ったわけではない。右腕の「ビーム・シールド」を展開し、ビームマントにぶつけたのだ。それはネネの強引な殴り方の影響もあり、ビーム同士が過剰に干渉しあい、爆発。

フェニーチェのビームマントが破け、セカンドVのビーム・シールド展開装置が破壊される。

 

『翔太君!』

 

咄嗟に智香のパーフェクトストライクがロケットアンカー「パンツァーアイゼン」を放ってきたのでセカンドVが離れ、距離ができる2機。

 

『助かったよ、お陰で………。』

 

そこで翔太は気づく。目の前のセカンドVが「リナーシタライフル」の銃口を翔太機に向けていたのを。

 

『い、いつの間に!?』

「爆発の瞬間に奪いました。」

『お姉さん、それヒドくない!?』

「確か、後1発は撃てますよね。」

 

ネネは自分からぶつかりに行った事で、爆発の瞬間に操作に手間取った翔太のフェニーチェから、素早くリナーシタライフルを奪い取ったのだ。

そして、勿論その威力はバスターライフル級。

 

「目には目を、歯には歯を、泥棒には泥棒を、ですね♪」

『ぼ、防御………!』

「無駄ですよ!」

 

残った右肩のビームマントを展開するフェニーチェだったが、セカンドVが撃ったリナーシタライフルの威力を抑えきれるはずもなく、光に呑まれ爆発。

更に、そのままエネルギーを使いつくしたリナーシタライフルを捨てるとセカンドVはもう1度最大出力状態になり、光の翼を展開。

パーフェクトストライクは慌ててストライカーの右側に備えられていた残りの武装である「15.78m対艦刀「シュベルトゲベール」」を構えるが、取り回しの悪い巨剣がセカンドVに当たるはずもなく、機体が巨大な翼により真っ二つにされる。

 

『これなら、別のストライカーパックにすればよかったかも………。』

『みんな、ゴメン………後宜しく。』

『……………ネネ、たまに凄い一面出るよね、アンタ。』

「ありがとうございます♪………さて、ソロモンの中に私も入りましょうか。」

 

自分のビーム・ライフルを回収したネネのセカンドVは入り口を探しにソロモンへと向かった。

 

 

――――――――――

 

 

結果的にネネが無双をする少し前、ソロモン内部では、辻野あかりのX1フルクロスと矢口美羽のタイタスが、五十嵐響子のリバウと喜多見柚のアドヴァンスドジンクスを探していた。

ソロモン内は狭い通路が迷路のように入り組んでおり、所々広い部屋がある。その為、一度潜り込むと迷ってしまう。

 

「どうしますか、美羽さん。相手と出くわす事を考えると………。」

『防御能力の高いX1フルクロスが前に出るべきでしょうね。………後、申し訳ありませんが、1つお願いを聞いて貰えますか?』

「何ですか?」

『ピーコック・スマッシャーとムラマサ・ブラスターを置いていって下さい。』

「ええッ!?」

 

メイン装備を捨てろという言葉に思わず動揺するあかり。しかし、美羽はその理由を説明する。

 

『通路は勿論、部屋の中だと、大型の装備じゃ取り回しが悪くて戦えません。恐らく遭遇するのは、突撃用のGNプロトランスを構えたアドヴァンスドジンクスと接近戦用の「ビーム・アックス」を備えたリバウです。この2機に対応するには、こちらも軽量化をしませんと。』

「X1フルクロスの装備が無くなると………。」

『他にも有用な装備が沢山あるじゃないですか!そういうのはこういう時に色々試してみませんと!』

「わ、分かったんご………!」

 

こうして大型の武器を入口に置いていき、通路内を奥に向かって進んで行く2機。

基本、X1フルクロスが顔を覗かせて通路の奥を確認した所でタイタスが一気に出ていく形だった。

 

「レーダーが頼りにならないのが痛いんご………。」

『ストップ!!』

「ッ!?」

 

美羽の言葉と同時に通路の奥を覗いていたX1フルクロスが引っ張られる。

それと同時に粒子が収束するような音がして、さっきまで覗き込んでいた壁にオレンジ色の極太ビームが飛来し、削り取って行く。

 

「アドヴァンスドジンクスの「GNメガランチャー」!?あっちは大型武器捨ててないの!?」

『ピーコックスマッシャーより持ち運びに優れているんでしょう。どうやら待ち伏せをされてましたね、これ。』

「こっちよりも向こうのほうが、機動力があるって事ですか?」

『多分、リバウがアドヴァンスドジンクスを運んできたんだと思います。』

 

美羽は説明する。

リバウはモビルアーマー形態に分離する事で、上半身の「リバウ・アタッカー」と下半身の「リバウ・ナッター」になれると。

そして、リバウ・ナッターは「サブ・フライト・システム」としても運用可能で、僚機をぶら下げてくる事が可能であるのだ。

 

「美羽さん、漫画とか読んでるんですね………。」

『ダジャレのネタは常に手に入れませんと!………って言ってる場合じゃないですね。』

 

GNメガランチャーの第二射が更に壁を削っていく。

後ろを見せると危ない以上、発射の隙を狙って一気に進むのが妥当であったが、それでも一発は受けてしまう。それに対する美羽の意見はまた大胆だった。

 

『増加装甲のフルクロスを犠牲にしましょう。』

「んごッ!?対ビーム装甲ですよ!?」

『だから今使うんです!………大丈夫、パージすれば機体バランスはどうにかなりますし、むしろ身軽に動けます。』

「簡単に言ってくれるんご………。」

 

第三射。擬似太陽炉により、無尽蔵にエネルギーは供給される為、何発でも撃ってくる。美羽の通り、突撃するしか無かった。

 

「後は、通路と部屋の構造とリバウがどう出るか………!」

 

あかりは一気にバーニアを吹かし飛び出す。通路は射線が通っているだけあって、一本道になっており、真ん中に部屋があった。部屋の奥の通路からアドヴァンスドジンクスはGNメガランチャーを撃ってきた。

 

「持って欲しいんご!私のフルクロス!!」

 

フルクロスの装甲表面が蒸発し、エネルギーが相殺されダメージを軽減してくれる。しかし、その分フルクロスは削れる。何とか耐えきった所で一気に部屋を突破しようとしたが、そこに死角から響子のリバウのビーム・アックスが振りかぶられた。

 

「んごッ!?」

『ここから先は通行止めだよ!』

 

左肩の「スカルヘッドユニット」にぶつかり、破壊される。しかも、動きを止められた事で柚のアドヴァンスドジンクスがもう1度GNメガランチャーを撃とうとする。

 

『チェックメイト♪』

 

思わずあかりは目を見開いた。



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第41話 密室での戦い

部屋の入り口でGNメガランチャーに狙われ撃墜を覚悟した辻野あかりのX1フルクロスであったが、後ろから続いて来た矢口美羽のタイタスが行動を起こす。

彼女は五十嵐響子のリバウに拳を打ちこみ引かせると、フルクロスも敢えて蹴り飛ばし、通路の隅へと移動させる。発射された喜多見柚が駆るアドバンスドジンクスのGNメガランチャーのビームは部屋の入口に引っ掛かる形になり、あかり機へ当たる事は避けられる。

 

「ちょ、ちょっと、強引です………。」

『ごめんなさい!でも、この距離ならアドヴァンスドジンクスはお任せ!』

 

タイタスはそのままアドヴァンスドジンクスに迫ると、蹴りを喰らわす。柚機はGNメガランチャーでそれを受けるが、圧し折れて爆発する。

 

『タイタスってマッチョマンだよ………!』

『お褒めに預かり光栄です!』

 

通路の奥でタイマンが始まる。

一方、部屋の中のあかりはもうほとんどなくなったフルクロスをパージ。「ザンバスター」を取り出すと分離し、右手に斬馬刀の「ビーム・ザンバー」を、左手にビームピストルの「バスターガン」を構える。

リバウは左手の「シールド」からビーム・アックスを出し、右手で「ビーム・ライフル」を構えた。

 

『勝負です、あかりちゃん!』

「使ってみるしかないんご………!何でも!」

 

あかりはバスターガンを撃ちながらビーム・ザンバーを振りかぶった。

 

 

――――――――――

 

 

『美羽チャン!接近戦用のグサァーッ!なジンクス舐めないでよね!』

「タイタスも同じですよ、柚さん!」

 

美羽は通路に攻め込むと強引に格闘戦に入る。

元々タイタスは遠距離武装を一切持たない代わりにこういう場面で有利な機体だ。とにかく、柚のアドヴァンスドジンクスに拳や蹴りをぶつけようとする。

勿論、それは柚のほうも分かっているのか、うまく通路の奥へ奥へと逃げながら頭部の「GNバルカン」で牽制しつつ、ビーム銃である「アドヴァンスドGNビームライフル」で狙う隙を見計らう。

 

『当たらなければどうという事は………ってアレ!?』

 

しかし、目測を誤ったのか、背後の壁にぶつかってしまう。無論、その隙を美羽機が逃すはずもなく、右肩から「ビームスパイク」を4本出し、「ビームショルダータックル」で狙っていく。

 

「ヤグチショルダータックル!!」

『うわわ!?………なんてね!』

「!?」

 

しかし、それは柚のフェイント。彼女は「GNディフェンスロッド」を展開し右肩の一撃を受け止めるとプロトGNランスをその左肩に突き刺し、そのままバーニアを全開。逆に反対側の通路に貼りつけにする。

 

「う、動けない!?」

『接近戦は柚の勝ちで♪』

 

そのままアドヴァンスドGNビームライフル内に仕込まれた「GNビームサーベル」を取り出して振りかぶる。それはコックピットを………外した。

 

『アレ!?』

 

見れば、タイタスの左肩が外れてるでは無いか。

 

『「Gウェア」による換装を利用した強制パージ!?』

「最終手段ってヤツです!」

『うわぁッ!?』

 

慌てて振り向いたが、時既に遅く、アドヴァンスドジンクスの頭部はタイタスの右拳を受けめり込む。そのまま、3本のビームスパイクを発生させる「ビームニーキック」を受け、吹き飛び爆発した。

 

「こうなると左肩の再換装は無理かな………。仕方ないよね………。」

 

美羽のタイタスはアドヴァンスドジンクスの残したプロトGNランスを引き抜く。

 

「「コレ」、借りてきます。」

 

 

――――――――――

 

 

一方、部屋の中で響子のリバウと対峙していたあかりのX1フルクロスは苦戦していた。ビーム・ザンバーの威力は高いのだが、相手のビーム・アックスの威力も同じように高く、ぶつかり合うと鍔迫り合いになる。

そうなると距離を取った時の戦い方が重要になるが、響子の射撃能力は中々正確だった。ビーム・ライフルを回避しながらバスターガンを当てるのは苦労する。

 

「ガトリング砲で………!」

『じゃあ、こっちは「ビーム・バルカン」です!』

 

胸部のドクロからの実弾をシールドで防御されると、お返しに胸部の内側からビーム・バルカンを撃たれ、結局は残った右肩のスカルヘッドユニットで防御するしかなくなり埒があかない。

 

(何か使えそうな武器………!)

 

リバウの弱点を付けそうな武装を見出だそうとしたあかりは、右腰のサイドスカートから移出式のアンカーである「シザー・アンカー」を発射する。狙いは厄介な武装を備えたシールド。しかし、それを察知していたリバウは突如分離し、2機の戦闘機になって襲ってくる。

 

「んごッ!?動きがまるで………!?」

『「サイコフレーム」搭載です!「バウ」と違ってリバウ・ナッターも自由に動かせます!』

 

リバウ・アタッカーはビーム・ライフルを、リバウ・ナッターは「フレキシブル・ビーム・ガン」をそれぞれ三次元の部屋の隅を上手く使って、四方八方から撃ってくる。

流石にこれでは狙いが中々付けられず、X1フルクロスは防戦一方になってしまう。「ビーム・シールド」を展開するが、防ぎきれずダメージが溜まっていく。

 

「響子さん、想像以上に戦闘技術磨いてるんご!?」

『それだけガンプラ作る前に練習しましたから!それッ!』

 

上半身だけをモビルスーツ形態に戻したリバウはシールドの中のビーム・アックスで斬りつけてくる。ビーム・ザンバーで受け止めるX1フルクロスだったが、背後に隙を見せてしまった。

 

「ッ!?」

 

リバウ・ナッターがフレキシブル・ビーム・ガンを撃ってくる。万事休すの所で………プロトGNランスが飛来し、爆発を起こす。

 

「アレは美羽さん!?」

『加勢します!』

 

左肩は外れていたがまだまだ健在だった美羽のタイタスはリバウへと突撃する。X1フルクロスとの距離を離すと響子のリバウはシールドの裏に搭載されていた「グレネード・ランチャー」をタイタスへと撃つ。しかし、タイタスは右膝で受け止め、そのまま破損したそれをパージ。強引に突っ込むとリバウの左手に装備されたビーム・アックス付きのシールドに向けて右拳を叩き込み凹ませる。

 

『クッ!?』

 

反射的にシールドを外し、「ビーム・サーベル」を取り出してタイタスをX字に斬り、爆発させる響子のリバウであったが、代償に一番の武器を失ってしまう。

 

『一度撤退ですね………!』

 

そのままリバウ・アタッカーに戻ると、リバウ・ナッターと共に通路を飛んで行った。

 

「美羽さん………。」

『すみません、もうちょっとフェイントを入れるべきでしたね。』

「いえ、お陰で何とかなるかもしれません。ありがとうございます。」

 

あかりは感謝の言葉を述べると、自分の機体の状態を確認する。

かなり集中砲火を受けた際にダメージを受けており、特にIフィールドの効果があるスカルヘッドユニットの無い、左半身が酷かった。左腰にマウントされている「スクリュー・ウェッブ」はボロボロになっており、左足の状態も酷かったので、ビーム・ザンバーでその部分を斬り捨て軽くする。左腕のビーム・シールド発生装置も故障していたので、強引にパーツを引き抜き、誘爆を防ぐ。

そこまで確認した所で、あかりは機体の影を感じた。一瞬リバウが戻ってきたのかと思ったが、それは栗原ネネのセカンドV。どうやら外の戦闘で唯一生き残ったらしかった。

 

「2対1ならまだ勝機はあるかもしれません。」

『結構ダメージを受けてますね………。恐らくリバウはもっと自由に動けるソロモンの外に逃げたと思いますが大丈夫ですか?』

「………やってみます。まだ、使える武装はありますし。ネネさんのほうは?」

『ビーム・ライフルと「ビーム・サーベル」は使えます。………でも、最大出力のオンオフを使いすぎたので、そろそろ機体が限界かもしれませんね。』

 

向こうの武装はタイタスが削ってくれたとはいえ、こちらのほうがボロボロだという事だ。

それでもまだ勝負は続いている。続けられる。

 

「行きましょう。決着を付けに。」

『そうですね。………でも、あかりちゃん。バトルを楽しまないといけませんよ?』

「え?あ………。」

『真剣になるのもいいですが、ガンプラバトルは楽しむ事が前提です。………後少し、「楽しみましょう」?』

「そうですね………。そうですよね!」

 

確かにガンプラバトルを楽しまないのは自分らしくない。思えば最近は真剣になり過ぎていた気もする。美羽のタイタスのような自由な戦法を見ていると、もっと楽しむ事は大事な気がした。

 

「分かりました!………辻野あかり、奇跡を見せてやりますんご!」

 

あかりのX1フルクロスとネネのセカンドVはソロモンの外へと向かって行った。



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第42話 直伝の拳

ソロモンの外への出口へと到達した辻野あかりのX1フルクロスと栗原ネネのセカンドVは、敵の影が無い事を確認すると、躊躇う事無く並んで一気に飛び出す。

その瞬間、ソロモンの岩の影にいた五十嵐響子のリバウ・アタッカーとリバウ・ナッターがビーム・ライフルとフレキシブル・ビーム・ガンを撃ち、挟み込むように同時攻撃をしてくるが、それは予測済み。X1フルクロスは右腕のビーム・シールドを、セカンドVは左腕のそれで奇襲を防ぐ。

 

「勝負です、響子さん!」

『まだ終わりませんよ!』

 

リバウは合体すると両腕から各4連装の「腕部グレネードランチャー」をセカンドVに集中して発射する。ビーム・シールドで防げる実弾の量じゃなかったので、最大出力状態になり、光の翼で回転するようにして防ぐ。

 

ピーッ!ピーッ!ピーッ!

 

『ここで………!?』

 

しかし、アラートが鳴った事で、ネネは咄嗟に背部に2基装備されているミノフスキー・ドライブ・ユニットを強制パージ。機体を酷使しすぎた為に、不完全なユニットが爆発を起こしてしまう。

 

「大丈夫ですか!?」

『自爆は避けられましたが………、もうこれで、只のVガンダムです。』

 

左半身のダメージが大きくバランスの悪いX1フルクロスと機動力を奪われたVガンダム。数では勝っていてもリバウの方が優勢であった。

 

『1機でも落とせば………!』

 

響子のリバウは再び分離し、Vガンダムにビームの集中砲火を浴びせる。ネネは対応しようとするが、セカンドVの機動力に慣れてしまっている為か、反応が鈍い。

 

「んごーーーッ!!」

 

そこに救援をしようと残った右脚に収納されている「ヒート・ダガー」でリバウ・ナッターに蹴りを入れようとするX1フルクロス。しかし、サイコフレームで遠隔コントロールされているリバウ・ナッターはひらりと回避する。

 

『甘いです!』

「まだまだ!」

 

諦めずにヒート・ダガーを蹴り飛ばし追撃をかけるが、それでも当たらない。「ザンバスター」を使う事も考えたが、あかりの射撃は確実じゃない。何か相手の意表を突ける有効な武装は………。

 

『あかりちゃん!使って下さい!』

「!?」

 

そこでネネのVガンダムが動く。下半身………「ボトムリム」を分離したのだ。その意図を察したあかりはシザー・アンカーを伸ばし、ボトムリムを掴む。

 

「山形リンゴパワーーーッ!!」

『ええッ!?』

 

そして、簡易式のハンマーを作ったX1フルクロスは回転し、遠心力に任せてボトムリムを振り回す。それは流石の響子も予想できず、リバウ・ナッターに激突し、爆発させる。

 

「これで!」

『まだ………まだです!』

 

それでも残ったリバウ・アタッカーをモビルスーツの上半身に変形させてあかり機に突っ込んで来る響子機。両手に構えるのはビーム・サーベル。

あかりは試してみた。右肩に残っていたスカルヘッドユニットを右腕に包んで殴るという「技」を。

 

『それは!?「スカルヘッドナックルガード」!?』

「忍さん、直伝!東京でも山形リンゴが通用するパーンチッ!!」

 

響子が気付いた時には遅かった。

ビーム・サーベルを突き刺した事でスカルヘッドユニットが壊れ、中からナックル状のビーム刃を形成する「ブランド・マーカー」が飛び出し、リバウのコックピットを貫く。派手な爆発が起き、勝負は決した。

 

「……………や、やったんご?」

『勝負付いたよ。チーム「臨時フォーティチュード・アップル」の勝利だね。』

「え?その声は、忍さん!?いつから見てたんですか!?」

『ついさっきから………というかアタシ、そのパンチ伝承した覚え無いんだけれど。何でGガンダムのフィンガー技みたいになってるの?』

「………何となく?」

『ちょっとーーーッ!』

 

工藤忍のアナウンスと共にソロモンの攻防戦は幕を閉じる事になった。

 

 

――――――――――

 

 

シミュレーターから出てきた8人はレコーディングを終えた忍に迎えられる。見れば、忍だけでなく美城専務も立っていた。

 

「相変わらず専務って神出鬼没だよね。」

「北条加蓮、撮影現場に潜り込みながらガンプラを作成する者の意見では無いな。………それはともかくチーム「ロータリー・クリーナー」は結成おめでとう。敗北したとはいえ、見事なバトルだった。」

「い、いえ………みんなで協力した結果ですし………。」

「チーム「フォーティチュード・アップル」と矢口美羽の混成チームも徐々にではあるが課題を克服しつつあるな。………特に辻野あかり。X1フルクロスに適応してきていると見た。」

「ほ、本当ですか!?いや~照れるんご~~~!」

 

喜ぶあかりの心情を示すように頭の双葉の髪がピョコピョコ動く。

このギミックに関しては、池袋晶葉達が首を傾げるくらい謎であった。

 

「それだけ喜んでいるのならば、バトルを楽しめたかどうか聞くのは野暮だろう。」

「はい。………何か新鮮な気分でした。今回はたまたま上手くいっただけだと思いますけれど、曲がりなりにも原作の再現ができた事で、自信になった………って言ったらおこがましいですかね?」

「きっかけは人それぞれだ。但し、そこで満足しない者だけが、次のステップへ進める。それだけは覚えておけ。」

「分かりました!」

 

あかりは自分のガンプラ………X1フルクロスを見る。実は元々は忍への対抗心から決めた機体であったが、搭乗者であるトビア・アロナクスのカッコよさやバトルし続ける事での過程で随分と愛着が湧いた。

この先どうなるかは分からないけれど、しばらくはX1フルクロスと付き合っていく事になるだろう。

 

「これからも宜しくんご。」

「いいなー、あかりはカッコよく決められて。私はデルタカイで今回は活躍できなかったからなー。」

「あ、それならアタシもストライカーパック交換して挑みたいです!色々試してみるのも勉強ですし!」

「じゃあ、忍さんも混ぜてまたバトルしてみない?美羽さん。まだまだ新しいステージあるんでしょ?僕興味あるんだ。」

「柚もー!折角だから、この機会に色々バトルしちゃおうよ!」

「忍さん、ガンプラは持ってきていますか?」

「あるよ!フルアーマー・ストライカー・カスタムもコレンカプルも!アタシも今度から参加するからね!」

「絶叫マシンみたいなステージ!期待したいです!」

「それじゃあ、みんなでもっとバトルしましょう!!」

 

9人のアイドル達がワイワイと騒ぐ中で専務は一息付く。しかし、何かに気付き、携帯端末を取り出すと会話を行う。

 

「283プロからか………。福丸小糸の件もあってか、346プロへの訪問を密かに希望している者も増えたな。次に自前のガンプラを作ったアイドルは………成程。」

 

専務は窓の外を見て考える。

「シンデレラとガンプラのロンド」という一大プロジェクト。いよいよもって現実的になってきたかもしれないと。

 

 

――――――――――

 

 

別のとある日、346プロの入口に栗色のボブの髪の毛の女性が現れていた。

彼女は相葉夕美。ガーデニングが趣味の花が大好きなアイドルだ。そんな彼女も最近ガンプラ作成とバトルにハマっている。

 

(今日はシミュレーター使えるかな………。誰かチーム探しをするのも面白いかも………。ん?)

 

しかし、そこで気づく。

入口の前で建物を見上げて立っている少女がいる事に。

 

「どうしたんですか?346プロに用ですか?」

「あ………。すみません。あまりに大きい建物なので、ちょっとビックリしてしまって。」

 

その姿を見た夕美は妙な印象を受けた。

ツインテールの銀髪に儚げな印象の姿。ここまではいいのだが、何故か全身に包帯や絆創膏を巻いている。ケガをしているのだろうか………?

 

「え、えっと………その絆創膏とかは………。」

「あ、ケガをしているわけじゃ無いんです………。」

 

少女はそう言うと、夕美に頭を下げて、自己紹介をする。

 

「わたしの名前は幽谷霧子………。346プロのアイドルです。宜しくお願いします。」

 

少女………幽谷霧子は夕美に対して笑みを浮かべた。



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第43話 グレードアップ

「へー、霧子ちゃんってお花好きだったんだ。」

「はい。夕美さんはお花さんが好きなアイドルだって聞きますから、こうして会えて非常に嬉しいです。」

 

346プロ内を歩きながら、相葉夕美は283プロからの訪問者である幽谷霧子を案内する。

幽谷霧子は「L'Antica(アンティーカ)」というブレイク中の5人ユニットの1人だ。放課後クライマックスガールズとは違った意味で別ベクトルのメンバーが集まったユニットであるのが特徴で、霧子はその最年少であった。

 

「それで………283プロから車で連れてきてくれた美世さん達を入口で待っていたんだね。」

「晶葉ちゃん達がシミュレーター室に忘れ物をしたって言うから待ってたんですけれど………いいのかな、勝手に346プロのを見ちゃって。」

「大丈夫だよ、そんなやましい物無いし。」

 

 

――――――――――

 

 

霧子がこの346プロに着た理由を語るには少し時間を遡る事になる。

社野凛世や福丸小糸の影響で、283プロ内でも「シンデレラとガンプラのロンド」に向けた越境チーム作りに興味を持ち始めた者達が増えており、霧子もその1人であった。

儚げな印象通り心配性な彼女ではあるが、実は割とポジティブな所はある。器用さを活かし、ユニットの仲間と話し合ってガンプラを作ってみた彼女はオフの日の朝方に、283プロ内のシミュレーターでガンプラバトルを経験していた。

 

「ガンプラバトルって楽しいな………。対CPU戦でも自分の腕を磨けるし。」

「む、283プロの者か。346プロの者だが、システムのグレードアップを行っていいか?」

「………あ、どうぞ。」

 

すると、そこで丁度、事務員の七草はづきに連れられて、システムのグレードアップ………主に追加ステージのインストールをしに、346プロの池袋晶葉、八神マキノ、大石泉が現れたのだ。それに加えて、後ろから黒いボブの背の高めな女性が出てくる。

 

「えっと、池袋晶葉ちゃんに八神マキノさんに大石泉ちゃんに………貴女は?」

「あたしは原田美世!車の運転が大好きなアイドルだよ!みんなの手伝いと運転係を兼ねてきたんだ。宜しくね。」

「宜しくお願いします。追加ステージ………色々と戦術の幅が広がりそうです。」

「あ、もしかして自前のガンプラ持ってる?」

「はい………。」

 

美世の言葉に霧子は青いシャープな姿のガンプラを見せる。何処となく戦闘機のようなイメージがあった。

 

「「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」の「ブレイヴ指揮官用試験機」さんです。………わたしが左利きなので興味を持って。」

「ブレイヴ!?いいセンスしてるね!チームとか組んだの!?」

「まだです………。わたしと組んでくれる人いるかなって思って………。」

「じゃあ、あたし達と一緒に行こうよ!会社のワンボックスカーだからまだまだ乗れるし、この後、346プロと876プロと765プロにも寄るんだ!きっとチームメンバーが見つかると思うよ!」

「本当………ですか?」

 

その言葉に実は密かに346プロに興味を持っていた霧子は付いて行ってみる事になった。

 

 

――――――――――

 

 

そういうわけで今、彼女はその346プロにいる。

と言っても、建物が広すぎてどこに何があるのか分からないので、こうして夕美に案内して貰ってるのだが。

 

「チームかー………。じゃあさ、霧子ちゃん。私とタッグ組まない?お花好きの子が1人でも欲しかったんだけれど、346プロ内のそういう子とは大抵ユニット組んじゃっててさ。美城専務の提示したタブーに引っ掛かっちゃうんだよね………。」

「本当ですか………?わたしで良ければ、喜んで組みます。………あ、作ったガンプラさんも聞いてもいいですか?」

「「機動戦士ガンダムAGE」の「フォーンファルシア」だよ。お花をモチーフにした機体だからガンプラを作ってみたんだけれど………。」

 

そう言って薄いピンクの妖精のようなガンプラを見せる。ブレイヴが戦闘機なら、フォーンファルシアは魔法少女というイメージが似合うかもしれなかった。

 

「似合うと思いますよ。お花さんを愛する夕美さんなら、フォーンファルシアさんも応えてくれます。」

「ありがとう!………よーし!この調子で後2人も集めちゃおう!」

 

エイエイオーと手を上げる夕美。くすりとにこやかに笑う霧子と共にシミュレーター室へと入って行った。

 

「あ、ゴメン………霧子ちゃん!って何だ、もう組むことができたんだね。夕美ちゃんとならいいコンビになれそう!」

 

部屋の中では忘れ物を探している美世達に出会う。どうやら定期的なメンテナンスとか色々あるお陰で探すのに手間取ったらしい。

 

「346プロのシミュレーターさん達は凄いですね………。」

「色々あったからねぇ。でも、数こそ少ないけれど、283プロのシミュレーターも最新の物にグレードアップしてあるから大丈夫だよ!」

 

笑顔で応える美世に対し、夕美は少し疑問に思ったので聞いてみる。

 

「ねえ、美世さん。ガンプラは持って無いの?」

「あー………。あたしは、こうやってみんなのガンプラやシミュレーターのメンテやってるから、まだ自前のは作ってないかな。………でも大丈夫!あたしのガンプラ魂は巴ちゃんに託したから!!」

「?」

 

美世の言葉に対し疑問を抱いた霧子に、夕美は説明する。

村上巴………彼女は赤い髪が印象的な演歌が命の少女だ。

和が大好きで、実は工藤忍が太刀「フカサク」を持つフルアーマー・ストライカー・カスタムを選んだのは、元々巴が趣味である漫画の「機動戦士ガンダム カタナ」を勧めたという理由があるからだ。

そんな彼女に美世は何を伝授したのだろうか………?

 

「まあ、多分巴ちゃんもチーム集めをしていると思うから、きっと後で分かるよ。」

「は、はい………。」

「………あったわよ、晶葉!これで、876プロに行けるわ。」

 

マキノの声に一同が振り向く。どうやら、データ拡張用のハードディスク類らしい。晶葉が説明するには、876プロは283プロ並に小さいプロダクションなので、色々とグレードアップをするには道具がいるらしい。

こうして一同は、876プロへと車を走らせる事になった。

 

 

――――――――――

 

 

876プロの事務所は雑居ビルの2階に位置し、1階には写真店がある。そのオフィスの部屋で、今日オフのアイドルであるアホ毛で茶髪の小柄な少女………日高愛は社長である石川実に頼まれて、人を待っていた。

今の876プロは315プロとの兼任である秋月涼も含めれば、5人のアイドルがいる。みんな実力はあるが、数の少なさ故か、外装は弱小事務所であった。

そして、そんな彼女のプロダクションにも「シンデレラとガンプラのロンド」の話は伝わっており、また、涼と桜井夢子が他の事務所のアイドル達とチームを組んだという情報ももう広まっていた。

 

「いいなー、アタシもガンプラやっと組むことができたしチーム組みたいなー。でも、そう簡単にガンプラのチームなんて………。」

 

愛は何かモヤモヤとした想いを抱く。

もっと色んな事務所の色んなアイドル達と関わってみたかった。

オフの日くらい、楽しくガンプラバトルをしてみたかった。

 

「よし!決めた!探しに行こう!アタシと組んでくれる人!自分から行動しないと!!」

 

一度決めたら突撃するのが豆タンクと呼ばれる彼女。すっかり社長との約束を忘れて事務所の扉に向けてダッシュしてしまった為に………。

 

バチーーーン!!

 

「いたーーーッ!?」

「す、すまない!?大丈夫か………?」

 

晶葉が開けた扉に勢いよくぶつかって昏倒してしまう。

慌てて謝る彼女であったが、その後ろに愛は見た。

奇妙な顔でこちらを見るマキノと泉と美世の姿を。

そして、更にその後ろにガンプラを持っていた夕美と霧子の姿を。

 

「おい、しっかり………。」

「そこのガンプラを持っている人!一緒にチームを組んで下さい!!」

 

勢いよく起き上がると晶葉達の横を猛ダッシュで駆け抜け、夕美と霧子の手を握り、持ち前の大声で叫んだ。



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第44話 アイドルヒーローズVSデストルドー

「愛ちゃんもチーム募集してたんだね。」

「はい!アタシも涼さんや夢子さんみたいに色んな人達と組んでみたいんです!」

 

346プロからやってきた池袋晶葉、八神マキノ、大石泉、原田美世達が876プロのシミュレーターのグレードアップを行っている間、オフィスで相葉夕美と幽谷霧子にお茶を出しながら会話をする日高愛。

丁度チームを組もうと思ってた所で、ガンプラチームを募集している人達に出会えたのは彼女にとっては運命すら感じた。

勿論、それは夕美や霧子にとっても同じですぐに意気投合する事になる。

 

「愛ちゃん。お母さん………日高舞さんは元気にしていられる?」

「ママは相変わらずです。大人げ無いから今回の「シンデレラとガンプラのロンド」にも参加したいって言うんじゃないのかな?」

「あはは………。」

 

ズケズケと自分の母の事を言う愛に苦笑する夕美。

日高舞とは過去に伝説を色々作りだしたアイドル………なのだが、性格が破天荒で色々ととんでもないイベントをやって愛達を困らせる事もある女性だ。

その圧倒的な存在感故に愛にとってはアイドル活動を始めた当初はトラウマともなっており、それを乗り越えるのが彼女にとっての試練だったとも言われている。

………とはいう物の、母として娘を溺愛しており、愛情をたっぷり持っているのも事実であるのだから、憎めないのが娘である愛を始めとしたアイドル達の総評だ。

 

「チーム戦だから、きっと他のプロダクションのスケールの大きなアイドル達を引き連れて大暴れしそうです。」

「そこまで来ると笑えないね、それ………。」

 

話を聞いている内に苦笑が乾いた笑みへと変わる夕美。そこで、霧子がこの雰囲気を変えようとしたのか愛に聞いて来た。

 

「愛ちゃんは………どんなガンプラさんを使うの?」

「ママは強さだけで考えれば「赤い彗星」です。だから、まずは敢えてこの機体を選びました!」

 

見せてくれたのはファイアーレッドのモノアイの機体だ。「ゲルググ」と呼ばれる種類の機体だという事は分かったが、赤い彗星の「シャア専用ゲルググ」とは少し違う。

 

「………赤い彗星とよく間違えられたと言われている「真紅の稲妻」の「ジョニー・ライデン」?」

「はい!漫画「機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還」に登場する「ジョニー・ライデン専用高機動型ゲルググ」です!」

「カッコいいガンプラさんを選んだんだね、愛ちゃん。」

 

成程、確かにこのガンプラで日高舞を打ち破る事ができれば凄い話だろう。ここら辺、愛の拘りを感じさせられた。

 

「ママはその気になればどんなガンプラでも使いこなせます!アタシも早く乗りこなせるようにしないと!」

「………話はまとまったみたいね。最後の1人を求めて765プロに行きましょう。」

 

愛が立ち上がりガッツポーズを取った所で泉がシミュレーター室から出てくる。どうやらグレードアップが終わったらしい。こうして、愛を加えた一行は書置きを残し(愛曰く876プロはアイドルの自主性に任せているのでこれでいいらしい)、765プロへと向かった。

 

 

――――――――――

 

 

765プロの前に着いた一行は妙な光景を目にした。

劇場風の建物の前ではカメラなどの撮影セットが並んでいて、その中心で青髪のセミロングの女性と赤み掛かった茶髪のロングの女性が相対していたのだ。前者は素手、後者はレイピアのような物を持っていた。そして衣装は、何故かセーラー服を基調としたものだった。

 

「なんだろう?………コレ、何かの撮影かな?」

「あ、あの服装見覚えがあります!「出撃!アイドルヒーローズ」ですよ!」

「わたしも思い出しました………。765プロが誇る大人気のヒーロー特撮番組ですね。」

「そーいう事。」

『ん?』

 

別の声に振り向いてみれば、そこには北条加蓮が何故かマイクを持って立っていた。

 

「加蓮ちゃん、どうしてここに………?」

「インタビュアーの仕事をしてたの。素手で構えている正義側が「マイティセーラー」こと、七尾百合子。レイピアを構えている悪側が「デストルドー総帥」こと、田中琴葉さん。」

 

丁度、加蓮の説明に合わせて、2人が会話をし互いに位置を入れ替えながら、派手な演劇を繰り広げる。やがて、集まっていた観衆が大熱狂のままに撮影は終わる事になった。

 

「346プロの蒸機公演のスチーム=テのシーンを思い出すね。」

「感覚としては、それに近いと思うよ、夕美さん。」

 

そして、一段落するとその演劇を演じた2人がこちらにやってきた。夕美達にも気づいたのか、ぺこりと挨拶をしあう。

 

「そうですか、皆さんがシミュレーターのグレードアップをしに来てくれたんですね。」

「うむ。早速だが取り掛からせて貰おうか。行くぞ、マキノ、泉、美世。」

 

琴葉に挨拶を済ませ劇場内のシミュレーター室へと向かう晶葉達。

夕美、霧子、愛の3人は2人にガンプラチームを作ったのかを聞いた。

 

「私は実はもう4人チーム作っていて、これから同じチームのジュリアちゃんと一緒に346プロに行く所なんです。加蓮さん、向こうでネネさんが待ってくれているんですよね?」

「そうそう。こっちからもう色々話してあるから、リラックスして行って来ればいいよ。」

「ありがとうございます、それじゃあ、お先に失礼しますね!」

 

もう一度丁寧に挨拶をして去って行く琴葉。どんなチームを作ったのだろうかと疑問に思う夕美達だったが、残った百合子がもじもじとしながら何かを言いたそうな顔をしている事に気付く。

 

「あ!百合子さんってもしかしてまだ1人なんですか!?」

「う………ガンプラはあるんですけれど、中々組めなくて………杏奈ちゃんとのチームは、今回は避けたほうがいいって言われてるし………。」

「じゃあ、百合子ちゃん。わたし達とチームを組みませんか?これで丁度4人ですし。」

「本当ですか!やった!………あ、じゃあ、4対4のチーム戦しません?撮影前にシミュレーター使っている人達がいましたし、その人達に頼めば!」

「そうだね。………ちなみに百合子ちゃんの機体は?」

「風の戦士である私はこれです!」

 

百合子がバッグから取り出したのは白いゴーグルアイの機体。283プロの社野凛世の操った「トールギス」の系統に似ていたが、青いラインが入っていた。

 

「「火消しのウインド」が操る「トールギスIII」です!「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz」の機体になります!それでチーム名はどうします?」

「そうだね………色とりどりの花が揃ってるし、「カラフル・フラワーズ」でどうかな?」

「いいですね!アタシは賛成です!」

 

愛の言葉に全員が納得し、チームが出来上がる。何気にガンダムタイプが1機もいないチームであったが、これはこれで面白い気もした。

 

「じゃあ、765のシミュレーターを使っているチームの人々に挨拶をしよう!」

 

こうして、チーム「カラフル・フラワーズ」の面々は劇場の中に入って行った。

 

 

――――――――――

 

 

「それで、使っていたのが穂乃香ちゃん達のチームである「ガンダムバレエ組曲」の4人だったんだね。」

「夕美さん達もチームの結成おめでとうございます。」

 

シミュレーター室で会話をしてきたのは、綾瀬穂乃香を始め、羽田リサ、涼宮星花、梅木音葉のチーム「ガンプラバレエ組曲」の面々だ。

最初の頃こそ、バトル初心者である音葉が苦戦を強いられていたが、徐々に操作も慣れてきてチームとして仕上がりを見せてきているらしい。バトルが楽しみだった。

 

「346、283、876、765の有名アイドル達が来るなんて………。」

「本当に重厚な曲を聞かせてくれそうですわ。」

「私達も………、それに応えるような音色を響かせないと。」

「よし、グレードアップ終了!………いいよ、何処で戦ってみる?」

 

美世の言葉に一同は頭を悩ませる。どういうステージが面白そうか………。

迷う一同は「コロニー攻防戦」というステージに注目した。

 

「これ、どういうステージなの?」

「見る目があるな。これは「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」の最終決戦のステージだ。普通は単に背景でコロニーが地球に落下していくだけのステージだが………ステージギミックでその場にいた戦艦やモビルスーツ………果てには「デンドロビウム」や「ノイエ・ジール」を介入させる事も可能だぞ。」

 

晶葉のその言葉を聞いた一同は思わず身を引かせる。大型モビルアーマー同士がぶつかり合う戦場で戦うというのか?

 

「あの………その2機とかが、わたし達を攻撃してくるというのは………。」

「普通は無いな。只、流れ弾に巻き込まれる可能性はあるし、「大きく戦況を変えてしまった時はその限りでは無い」。」

「戦況を変えた場合?………こ、怖いけど面白そうですね………やってみます?」

 

愛の言葉に試してみようと頷いた8人は怖い物見たさでシミュレーターに入った。

 

 

――――――――――

 

 

夕美はフォーンファルシアをセットすると椅子に座りペダルを踏み操縦桿を握る。

ステージもそうだが、別々のプロダクションの仲間と混合チームを試してみるのもワクワク感があった。

 

(みんなこうやってチーム作っていったんだな………。)

 

そんな感慨深さを覚えている内に背景がカタパルトに移り、発進準備が整う。それぞれ、自慢の口上を言う時が来た。

 

「相葉夕美!フォーンファルシアで戦場に花を咲かせます!」

『幽谷霧子………ブレイヴ指揮官用試験機さん、宜しくね。』

『日高愛!ジョニー・ライデン専用高機動型ゲルググ!!発進ですッ!!』

『風の戦士、七尾百合子のトールギスIIIが火消しします!』

 

『綾瀬穂乃香、ル・シーニュ!発進お願いします!』

『羽田リサ!インプルース・コルニグスが行くわよ!』

『アーマディロ装備ガンダムサンドロック………涼宮星花が奏でます!』

『梅木音葉のゲルググキャノン1A型………戦場に音を響かせます。』

 

こうして8体のガンプラは戦場へと飛び出して行った。



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第45話 乱戦

『うわぁ………。』

 

戦場に飛び出した8人のパイロット達は目の前の光景に思わず驚く。

ステージ背景には落下ポイントまで向かおうとするコロニーがあり、至る所で戦闘が繰り広げられている。

「ジム改」が「ドラッツェ」を「ハイパー・バズーカ」で射抜けば、「リック・ドムII」が「ゲルググM」を「ヒート・サーベル」で両断する。

「サラミス級」と「ムサイ級」が砲撃戦を繰り広げており、果てにはデンドロビウムとノイエ・ジールが熱い戦いを繰り広げていた。

正に彼女達の目の前で、機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORYの最終決戦………「星の屑作戦」が成就されようとしていた。

 

「グレードアップとは聞いたけれど、こんな事もできるんだね………。ビックリしちゃうよ。………みんなは大丈夫?」

『霧子です、大丈夫ですよ。でも、晶葉ちゃんの言っていた通り、モビルスーツや戦艦の流れ弾には気を付けましょうね………。ところで、バトル前に確認しましたけれど、穂乃香ちゃんが宇宙のステージであるからか、ウィンダムから「ル・シーニュ」って機体に変えてますね。』

『愛です!………確か、「機動戦士ガンダム エコール・デュ・シエル」って漫画の主人公機でしたね。大きな盾と持ったシャープな青と白の機体でした!』

『百合子です。換装能力を持っているらしくて、このバトルの前では大きなカッコいいビーム砲みたいな装備を右肩に付けてました。音葉さんのゲルググキャノンと合わせて遠距離狙撃に注意ですね。』

 

チーム「カラフル・フラワーズ」は、全員平常心である事を、リーダーである(という事に今はしている)フォーンファルシアを駆る相葉夕美が確認する。

機動力の関係か、幽谷霧子のブレイヴ、日高愛のゲルググ、七尾百合子のトールギスIIIが夕美機を囲うように前に出る形になる。夕美は5基備えられている「フォーンファルシアビット」を展開した。

 

「関係ない機体も多いからレーダーに惑わせられないでね。一応、自機は緑、味方は青、敵は赤、その他は黄色で表示されてるみたいだけれど………。」

『インプルース・コルニグスがフェザーファンネルを展開したらワケが分からないですからね………。』

 

相手の羽田リサのインプルース・コルニグスはフェザーファンネルを28基備えている。一度に何個まで展開できるか分からないが、まずはこれに対処しないといけないだろう。

そう言っている内に相手の姿が見えてきた。先頭に涼宮星花のアーマディロ装備のサンドロック、その後ろにインプルース・コルニグスだ。リサはまずはフェザーファンネルを6基飛ばしてきた。

 

「サンドロックのシールドフラッシュに気を付けて!フォーメーション行くよ!」

『了解です!援護お願いしまーす!日高愛!突撃ーーーッ!!』

 

大声と共に「ビーム・ナギナタ」をS字に展開し、回転させながらサンドロックに突っ込んでいく。その愛機に夕美はフォーンファルシアビットを追従させる。

 

『リサちゃん!ゲルググにフェザー………いえ、ブレイヴに!』

 

サンドロックを駆る涼宮星花が対象を変えるように指示したのは、愛機の横を「クルーズポジション」に変形した霧子のブレイヴが通過して行ったから。

ブレイヴはモビルスーツ形態の「スタンドポジション」とモビルアーマー形態のクルーズポジションを使い分ける事ができるので、抜群の機動力を発揮するのだ。

リサは一度ゲルググに狙いを定めたフェザーファンネルを後ろから追うようにブレイヴに追従させる。しかし、CPUのモビルスーツの群れや戦艦の合間を縫うように移動していくので、フェザーファンネルがコントロールしきれず後方迎撃用の「GNビームマシンガン」で撃ち落とされる。

 

『ゴメンなさい!星花さん!ブレイヴ追いかけます!』

『お願いします!』

 

腕と足を入れ替える独特な変形でスラスターの塊とかしたインプルース・コルニグスがブレイヴを追いかけていく。

星花のサンドロックはフォーンファルシアビットから放たれるビームを耐ビームコーティングマントで防ぎながら、後方に下がって愛機のビーム・ナギナタを回避していく。

 

『私を忘れないで下さいよ!』

 

そこに横合いから今度は百合子のトールギスIIIが右腕に備え付けられた「メガキャノン」を展開する。最大出力なら、「ツインバスターライフル」にも匹敵する強力兵器。

 

『撃ちます!』

『シールドフラッシュ!』

 

咄嗟にサンドロックはシールドから閃光を辺りに放つが、予め愛と百合子は片目を閉じていた。これにより光が放たれても、もう片方の目で目標をロックオンできる。

 

『風の戦士がまずは1体仕留めて………!』

 

だが、ここで思わぬ事態が発生する。

目を閉じたほう………死角からCPUのジム改が激突して来たのだ。これにより、メガキャノンの砲身がずれてしまう。

 

『しまッ!?』

「えぇッ!?」

 

不運にも向いた先はフォーンファルシア。巨大なビームが発射されてしまい、夕美機を呑み込む。

 

「た、耐えて………!」

 

「ドッズライフル」さえ無効化する「電磁装甲」と咄嗟に取り出した「フォーンファルシアバトン」から発生させたリボン状のビームによる「ビームバリア」でビームを凌ぐ夕美機。

幸いにも、撃墜は免れるが、大半の武装が使用できなくなり、ビットのコントロールも失ってしまう。

 

「あ、愛ちゃん、後退………!」

『この状態じゃ、できません!それにあのジム、「誰かが投げつけてきてます」!』

 

一瞬の隙を突かれ、ビーム・ナギナタの柄部分をクロスクラッシャーで破壊された愛のゲルググは「ロケット・バズーカ」をサンドロックに撃ちながら、サラミス級の上に隠れた敵機をサーチする。見れば、それは梅木音葉のゲルググキャノン。

彼女は近間のCPU機を「ビーム・ナギナタ」でコックピットだけを破壊して隠れ蓑にしていたのだ。

 

「偶然じゃなかったんだ!?百合子ちゃん、見失わない内に追いかけて!」

『すみません!分かりました!』

 

トールギスIIIが追いかけて行くのを見た夕美機は、動く部位を確認する。どうやら左右の掌の「ビーム・バルカン」と「ビーム・サーベル」しか機能しないらしい。それでも………。

 

「盾くらいには………ならないと!」

 

ロケット・バズーカを撃ちこみ続ける愛のゲルググの所へフォーンファルシアを前進させた。

 

 

――――――――――

 

 

『どうですか、音葉さん?』

「自滅してくれたのは運が良かったです。でも、トールギスIIIは私にとっては相手が悪いですね………。」

 

穂乃香と通信をしながら状況を確認する音葉。今はリック・ドムIIを盾にしているが、メガキャノンを撃ちこまれたら意味が無いだろう。だからこそ………。

 

「使える物は何でも使います。………ガンプラバトルですから。」

 

音葉はリック・ドムII を百合子に投げつける。百合子のトールギスIIIは「シールド」から「ビームサーベル」を取り出して斬り払い、隙だらけのゲルググキャノンに狙いを付ける。そこに………。

 

『狙い撃ちます!』

『ッ!?』

 

丁度、音葉のゲルググキャノンが乗っていたサラミスを反対側から貫く形で「メガ・ビーム・ランチャー」の閃光が………綾瀬穂乃香のル・シーニュの砲撃が百合子のトールギスIIIを呑み込み爆散させた。

 

 

――――――――――

 

 

「メガ・ビーム・ランチャー!?穂乃香さんの装備はそんな強力な物だったの!?」

『ごめんなさい、皆さん………風の戦士が真っ先に風になりました………。』

「お、落ち着いて百合子ちゃん!初陣はこんな物だよ!」

 

星花のサンドロックに対してビームサーベルを振るう夕美のフォーンファルシアは、愛のゲルググのロケット・ランチャーによる援護もあり、サンドロックの対ビームコーティングマントやシールドを何とか破壊していた。

ゲルググキャノンとル・シーニュが来る前に決着を付けないといけない。ビーム兵器の有利さを使い、ヒートショーテルまで破壊していく夕美機だったが、ここで何とサンドロックが組みついた。

 

『夕美さん!?』

「しまった!?愛ちゃん、離れて!」

『只では終わりませんわ!役割は果たします!』

 

星花のサンドロックが最後に使ったのは「自爆」。これで、フォーンファルシアを道連れに爆散する。

驚く手段を取った相手に一時呆然としたが、愛は首を振って気を入れ直す。ル・シーニュがこちらに向かってきてたのだ。

 

『霧子さん!そちらの状況は!?』

『フェザーファンネルは全部使わせたけれど決定打が………。』

『ゲルググキャノンも行きましたので気を付けて下さい!』

 

そう言うと、愛のゲルググは穂乃香のル・シーニュと対峙した。



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第46話 豆タンクとはくちょう座

日高愛のゲルググは、綾瀬穂乃香のル・シーニュ相手に、作戦も無しに突撃するような真似はしなかった。

敵はメガ・ビーム・ランチャーを備えている上に、愛のゲルググに負けないくらいに高機動型の機体だ。「シールド」も備えてある以上、闇雲に戦っても無理だという事は分かった。

 

(だったら………。)

 

こういう時に大事な事は周りを見渡すという意識。

ステージの時間が経過している為か、辺りにはモビルスーツや戦艦の残骸が増えて来ていた。偶然にも自機の近くに壊れたジム改の「ビーム・サーベル」を発見した愛は、それを掴み、接近戦用の装備とする。

 

(ゲルググにビーム・サーベルは似合わないけれど………。)

 

右手にはビーム・サーベル。左手には「耐ビームコーティング」付きの「シールド」。これだけあれば、まだまだ戦う事ができる。

穂乃香のル・シーニュは「ビーム・サーベル」を「ツイン・ビーム・トラインデント」として迫ってきた。

 

「勝ちますよ!穂乃香さん!!」

『勝負です、愛ちゃん!』

 

乱戦が進む戦場で、2つのビーム刃がぶつかり合った。

 

 

――――――――――

 

 

(みんなが脱落していっている………。早く愛ちゃんの援護に向かわないと………。)

 

背後から追いかけてくる、羽田リサの操るインプルース・コルニグスの頭部メガ粒子砲を回避しながら、ブレイヴを駆る幽谷霧子は策を考える。

相手と機動力が同じ位なので下手にクルーズポジションを解除するのは得策では無かった。だが、フェザーファンネルはともかく、インプルース・コルニグスが何かに引っかかってくれるほどリサの操縦技術は甘く無かった。

 

(何か使えそうな物………あ。)

 

霧子は急旋回する。

同じようにリサ機が追いかけてくるのを確認した霧子はムサイ級を下から「GNビームライフル「ドレイクハウリング」」と2門の「GNキャノン」の混合兵器である「トライパニッシャー」で破壊し、煙の中から飛び出す。そこには………。

 

『なッ!?』

 

思わずリサから驚愕の通信が伝わってきた。正面にノイエ・ジールを追いかけるデンドロビウムの姿が迫っていたのだ。更に、霧子達の方向に「マイクロミサイルコンテナ」を射出してきた。それは108発もの小型ミサイルを周囲にばらまき、敵モビルスーツ集団を蹴散らすという、とんでもない武装であった。

 

『ま、待って!?それは流石に!?』

「「トランザム(TRANS-AM)」………。」

 

霧子はすかさずブレイヴの切り札のトランザムを使う。

一時的に3倍以上の性能に引き上げるその効果のお陰で、マイクロミサイルが撒き散らされる前にその包囲から逃げ出す事に成功する。

 

『そんなの………アリーーーッ!?』

 

リサの悲鳴と共に爆発の嵐に呑まれるインプルース・コルニグス。

これで愛の援護に迎えると思った霧子であったが、問題が発生する。

 

(は、速い………?)

 

トランザムを使ったはいいが、あまりの速さに機体をコントロールしきれずに、咄嗟にスタンドモードに切り替え、トランザムを途中解除する。

 

(た、助かっ………。)

 

だが、そこにビームが飛来し、霧子のブレイヴが爆発。

どうやら運悪く音葉のゲルググキャノンのビーム・キャノンの効果範囲に入ってしまったらしい。

 

「ごめんね、愛ちゃん………。わたし、ブレイヴさんをまだまだ使いこなせてないみたい。」

 

戦闘不能になった霧子は少し溜息を付いた。

 

 

――――――――――

 

 

『愛ちゃん、後は貴女1人です!』

「この機体は真紅の稲妻ですが、格言は赤い彗星!………まだです!まだ終わりませんよ!」

 

1人になった愛は高機動型であるゲルググの機動力を活かし、ツイン・ビーム・トラインデントの刃を屈むように避けると、ラグビーボール型のシールドを穂乃香のル・シーニュの顎の下からたたき上げて隙を作る。そして、ビーム・サーベルを薙ぎ払った。

 

『危ないッ!?』

 

ル・シーニュは咄嗟にシールドを犠牲にして爆発した煙の中からメガ・ビーム・ランチャーを撃つ………と見せかけ、ツイン・ビーム・トライデントを投げつける。

 

「わわッ!?」

 

それはゲルググのメインカメラを貫く事になり、愛にサブカメラに切り替える手間を増やしてしまう。

 

『トドメです!』

「ええい!」

『!?』

 

離れるのではなく、敢えて一直線に突撃する事でル・シーニュの「ビーム・ライフル」を回避する愛。サブカメラを起動させた彼女は何とかビーム・サーベルでル・シーニュのメガ・ビーム・ランチャーを破壊し、右腕を誘爆させる。

 

『やりますね!』

 

咄嗟にビーム・ライフルを左手に持ち変えたル・シーニュは下がりながら撃ち、愛のゲルググのシールドを弾き飛ばす。

しかし、突撃豆タンクの異名は伊達では無かった。愛はビーム・サーベルを腰に真っ直ぐに構えて一直線に突撃し、ル・シーニュのコックピットを一気に貫く。

同時に、背後から丁度、援護に駆け付けた音葉のゲルググキャノンのビーム・キャノンが愛機を撃ち抜いた。

 

「勝負に勝って試合に負けた………って言ったらカッコ悪いでしょうか?」

『この場合はカッコいいと思いますよ。見事でした。また勝負しましょう。』

 

ル・シーニュとゲルググは共に爆発した。

 

 

――――――――――

 

 

チーム「ガンプラバレエ組曲」が勝利を収めた事で、勝負は決した。

それを観戦していた北条加蓮を始めとした人物達からは拍手が起こった。

 

「お互いのチームの作戦も面白かったけれどさ、ステージ設定1つでここまでバトルに影響を及ぼすんだなって思わせられたね。」

「こういうタイプのステージにはまだギミックがあるのだが………まあ、またいずれ見る機会はあるかもしれないな。」

 

池袋晶葉が色々と考えていた所で、8基のシミュレーターが開き、それぞれのアイドルが出てくる。

やはり、乱戦は疲労感が溜まるのか、それぞれのアイドル達は汗を拭っていた。そんなアイドル達1人1人にタオルを渡しながら八神マキノは言う。

 

「今回のバトルのデータはまた参考にさせてもらうわ。………それにしても、一番驚かされたのは音葉さんね。上達が早くて驚いたわ。」

「そうでしょうか………?そう言って貰えると嬉しいですね。」

「え!?音葉さんって少し前まで初心者だったんですか!?」

 

驚かされたのは音葉の戦術にまんまとやられた百合子。

彼女が言うには、最初の頃の自分はその下手さ故にバトルを楽しむ事すら知らず拒絶していたとの事。

 

「でも、ネネさんや星花さん達のお陰で楽しむ喜びを知る事ができました。後は、私の楽しさに応じて身体が音楽のようについてきてくれたみたいなんです。」

「そうなんですか………。すごいなぁ………私も頑張ろう!」

 

拳を握る百合子を見て笑みを浮かべた加蓮は、携帯端末を弄り………えっ!?と叫ぶ。

 

「ど、どうしたの!?随分ビックリしてるみたいだけれど………。」

「今、ネネと連絡を取って、琴葉さん達が結成したチームの様子を確認して貰ったんだけれど………。」

 

ビックリしたような顔で夕美達に加蓮は言う。

 

「346プロのシミュレーターで次々と先に結成したチームを打ち破ってるんだって………。」

 

その言葉に一同は驚愕した。



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第47話 フラッシュシステムの罠

「無事に終わりましたね、撮影。」

「疲れたし、スパに行こうよ、スパに!」

「洋子さん、すぐスパに行きたがるよな。」

「その前にシミュレーターで鍛えませんか?」

 

蒸機公演関連の撮影会を終えたチーム「クロックワークメモリー」の岡崎泰葉、斉藤洋子、神谷奈緒、中野有香はいつものようにシミュレーター室へと向かっていた。

最近、システムのグレードアップが行われたという事もあり、泰葉達もその過程で導入されたと言われている新しいステージを体感してみたかった。

しかし………。

 

「何かシミュレーター室が騒がしいですね………?」

 

入ってみると、そこには色々なチームのアイドル達がモニターを見ていた。藤原肇率いる「豊穣の色」、西川保奈美率いる「青春の16歳」、桃井あずき率いる「和装の美少女」………チームカラーもアイドルの所属事務所も様々だ。

 

「あ、泰葉さん達も挑戦しに来たんですか?」

「ネネちゃん?挑戦って一体………?」

 

少し離れた所で、1人携帯端末を弄っていた栗原ネネに話しかけられた泰葉は首を傾げる。そのタイミングでシミュレーターが開いた。

 

「うわーん、負けましたー!」

「初見でアレは辛すぎませんか!?」

「本当に貴女達、結成したばかりなの?」

「熟練の香りがするのでー。」

 

4対4のガンプラバトルに敗北したのだろう。矢口美羽、輿水幸子、黒川千秋、依田芳乃のチーム「ダジャレンジャーズ」が出てきた。

その反対側から、勝利チームである4人のアイドルが出てくる。その娘達を見て、泰葉達は少し驚く事になる。何と全員が「赤」系の髪をしていたのだ。

その内3人はボブくらいの長さの赤髪の少女達で、残り1人の若干茶髪っぽい髪のロングの少女に連れられて出てきた。代表して、そのロングの少女が挨拶をする。

 

「美羽ちゃん達、対戦ありがとうございました。色々学ぶことがありましたね。………あ、貴女達も対戦希望ですか?」

「あ、こんにちは。………あの、まさかとは思いますが。」

 

モニターを見ていたチームを合わせた4チームの顔を見て泰葉は気づく。この様々な特徴を持つチーム達に勝ったというのだろうか?しかも、美羽達の話が確かなら、結成したばかりだと言うが………。

 

「まずは自己紹介しますね。私は田中琴葉。こちらの同じ765プロダクションのアイドルはジュリア。」

「ギターを弾くのが趣味なんだ。パンクロック系のアイドルだから宜しくな。後は、同じ346プロのアイドルだから改めて挨拶は必要ないかもしれないけれど………。」

「おう、村上巴じゃ。どうじゃ、うちらのチーム「紅蓮の魂」は?中々の結束力じゃろ?」

「安斎都です!皆さんの協力のお陰でただいま4連勝です!」

 

どうやら765プロ&346プロの混合チームであるらしい。しかしよくもこんな赤い光沢を放つ髪の乙女達を集めた物だと泰葉達は密かに感心する。

とりあえず、彼女達4人も自己紹介を行っていく。

 

「蒸機公演クロックワークメモリーは私も見ました。恥ずかしながら涙を流してしまいました。お仕事応援しています。」

「ありがとうございます。………あの、宜しければ私達ともガンプラバトルをして貰っていいですか?」

「いいですけれど………興味あるんですか?」

「はい。私達も力のあるチームとのバトルはやってみたいんです。」

 

元々シミュレーターを使う予定だったのだ。どうせならば、新しいチームと戦ってみたい。それが泰葉達4人の想いだった。

そんな新たな挑戦者の出現に、周りのアイドル達はどうなるだろうと色々会話をする。

泰葉達と琴葉達の8人はネネにナビを頼みながら、ステージを選択する。

選ばれたのは、偶然にも少し前まで765プロのシミュレーターでバトルを繰り広げられていた機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORYの最終決戦の舞台である「コロニー攻防戦」。

彼女達もステージギミックに興味があったので周りの戦艦やモビルアーマーが入り混じる乱戦にする。

 

「素敵なバトルにしましょうね。」

「お姉さん達は負けないよ。ね!」

「ああ!相手が765プロでもな!」

「押忍!宜しくお願いします!」

 

「不束者ですが、全力で取り組みます!」

「さて、実力見せて貰おうか!」

「相手にとって不足無しじゃな!」

「バトルの真実を見極めますよ!」

 

こうして8人のアイドル達はシミュレーターを起動させた。

 

 

――――――――――

 

 

泰葉はシミュレーターにガンダムX3号機と12基のGXビットをセットする。

フラッシュシステムによるGXビットの操作は、ルール上は自由だったが、相手の実力に不気味な物を感じたので、今回は全機投入する事にした。

 

「これが吉と出るか凶と出るか………くすっ、私やっぱり、負けず嫌いかな。」

 

やがて発進準備が整う事を知らせる文章がコンソールに表示され、背景が電子的なカタパルトへと変わる。泰葉は集中した。

 

「岡崎泰葉流ガンダムX3号機………咲かせてみせます!」

『斉藤洋子でフルアーマー百式改!………師匠の意地、見せますか!!』

『神谷奈緒!ジェスタ・キャノン、行きます!』

『押忍!カラ=テの使い手である中野有香が、マスターガンダムで出ます!』

 

『田中琴葉のナイチンゲール、発進………みんな付いてきて!』

『ジュリア!インフィニティットジャスティスでロックに弾かせるぜ!』

『村上巴!アリオスガンダム アスカロンで魂見せたる!!』

『レッド・ゼータを駆る安斎都が真実を見出します!』

 

こうして8体のガンプラは星の屑作戦の最終段階の舞台へと飛び出して行った。

 

 

――――――――――

 

 

CPUのモビルスーツや戦艦………そして、デンドロビウムとノイエ・ジールの砲火が飛び交う中で泰葉達のチーム「クロックワークメモリー」は事前に仕入れた情報を纏めていく。

 

「確か、琴葉さんの扱う「ナイチンゲール」は「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン」の「シャア・アズナブル」専用のモビルスーツですね。赤い大型のモノアイ機で「ファンネル」が使えたはず………だったと。」

『ジュリアちゃんの「インフィニットジャスティスガンダム」は「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」の「アスラン・ザラ」のガンダムだね。赤い機体で接近戦用の装備を備えてるよ。』

『巴の「アリオスガンダム アスカロン」は「機動戦士ガンダム00V」とかに登場するモビルスーツだ。「アリオスガンダム」を赤くした感じで、変形もできたはずだよな。』

『都ちゃんの「レッド・ゼータ」は「GUNDAM EVOLVE」に登場する「Zガンダム」の赤いバリエーション機ですね。こちらも変形できると思います。』

 

『……………機体まで全部赤い?』

 

ここまで徹底して赤いチームを作ろうと考えたのは誰なのだろうか?

とりあえず、注意しながら進んで行こうと4人は話し合う。

 

「何を仕掛けてくるか分からない以上、12基のGXビットを先行させます。」

『ヤスハの言う通り、それが妥当だろうな………。』

 

フラッシュシステムを扱うのは大変だが、色々な用途に使えるGXビットを進める泰葉。やがて、反対側の戦場から4機のモビルスーツが登場する。

 

『アレ?何か作戦練ってくるかと思ったけれど、真っ向勝負?』

『おかしいですね、ヨーコ先生?ナイチンゲールがファンネルを展開していません。出し惜しみでしょうか?』

 

奇妙な顔をしている一同だったが、ここで戦場に変化が起こった。

先行していたGXビットが12基ともいきなり加速してチーム「紅蓮の魂」に突撃し始めたのだ。

 

「え!?」

『おい!ヤスハ!?何やってるんだよ!?いくら相手が単純戦法だからって………!?』

「私の指示じゃないです!?」

『何!?』

 

泰葉は慌ててコンソールを弄るが何故か画面には「制御不能」の文字が出てくる。

そうこうしている内に12基のGXビットは………レッド・ゼータの周りに集まり、「反転する」。

 

「………都ちゃん?」

『すみません、泰葉ちゃん。この12基のGXビット「借ります」ね?』

 

その言葉通りGXビット達はフォーメーションを作る。

6基が前に出てシールドを構え、その後ろに6基が隠れるように並ぶと「サテライトシステム」の「リフレクターパネル」を展開し………サテライトキャノンの準備に入る。

 

「ま、待って下さい………何がどうなって………?」

『マイナーな機体なので知識は無いと思いますが、このレッド・ゼータは「サイコミュ・ジャック」を備えていて相手のサイコミュ兵器を自分の制御下に置けるのです。』

「い、一度に6発のサテライトキャノンを操作できるのは何故?私、同時発射は自機含め2発が限度なんですが………。」

『「サイコ・ニュートライザー」で思考や動きがダイレクトに機体に反映されるようになってるんですよ。あ、ご心配なく。フェネクスのようなデメリットは有りません!』

 

楽しそうに発言する都の言葉に、背筋に寒い物を覚える泰葉。他のチームが「初見殺し」でやられた理由が分かった気がした。

サイコミュ………ビット系の兵器は全て都のレッド・ゼータ制御を奪われてしまう。琴葉のナイチンゲールがファンネルを展開していなかったのは、サイコミュ・ジャックの邪魔にならないようにする為なのだ。

 

「あ、あの、サテライトキャノンの破壊力はコロニーすら吹き飛ばしますよ?星の屑作戦も………。」

『それ面白いですね!一度は地球に住む民の為、星の屑作戦阻止してみたかったんですよ!』

「そんな歴史を変える事をしていいのですか!?」

『ガンプラバトルですからアリです!………というわけで、言わせて貰いますね!マイクロウェーブ来る!』

 

都の言葉と共に6本の光がGXビットに降り注ぐ。

不味いと泰葉は思った。彼女は本気で泰葉達や落下するコロニーを吹き飛ばす気でいた。

 

「各機、散開!出来る限り各機、離れて!」

『サテライトキャノン………発射ーーーッ!!』

 

泰葉達4人が分散する。そして、それと同時に都は発射命令を出す。

6機のGXビットから殲滅級の光が放たれた。



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