菊月の今に至るまでの物語 (ao猫)
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新たな司令官との出会い
「…………」
ある雨が降る日、私はびしょ濡れになりながらもさまよっていた。
楼弥が轟沈した事により蓮菊鎮守府は閉鎖された。他の艦娘達は各鎮守府に転属になったが、私には転属先が無かった。私が深海棲艦ではないかと疑われていたからだ。
深海棲艦による大規模な待ち伏せの中、私だけが生き残ったから…
「…っ……」
私は楼弥を助けれなかった事を悔やんでいた。あの時わずかだが私は動けた、だが見ているだけしか出来なかった。死という恐怖の前に打ち勝つことが出来なかったのだ。
そうして俯いて色々考えていると
「君…1人なの…?」
声がして顔をあげると1人の男が私の目の前に立っていた。
気配が全くしなかった。いつからそこにいたのだろうか。
「大丈夫…?」
大丈夫なわけないだろう、なんなのさこいつは…
と思いつつも答えた。
「…あぁ…」
そう答えると男は。
「そっか…こんな雨の中傘も指さずに1人で歩いてたから…心配しちゃった…」
何故名も知らぬ者に心配されなければならぬのだ…
と内心思っていたら。
「君…帰るところは…?」
「…っ……」
私は言葉を詰まらせた。帰る場所などない、今の私には居場所などないのだから。
「…私に帰る場所など…無い……」
「そっか…」
さっきからなんなのさ一体。この男は一体何がしたいか。
「なら…俺のところに来る…?」
「…なっ……!?」
つい言葉に出して驚いてしまった。私は艦娘。見た目は幼い子だが、深海棲艦とやり合うために見かけによらずかなりの戦闘能力がある。一般人にとっては近寄り難い存在だ。なのにこの男は声をかけてきただけでなく共に暮らさぬかと申し出てきたのだ。驚かない方が可笑しい。
「…何故…見ず知らずの者の所で世話にならねばならぬのだ…」
「まぁ…だよね…」
分かっていたのなら何故申し出たのだ…
と呆れ顔で思っていたら。
「君…艦娘だよね…?」
「…あぁ…そうだが…」
艦娘だからなんだというのか。さっきから何がしたいのか分からぬ男。その男の口から更に驚く言葉が出された。
「なら…俺が提督になれば…いいんじゃないかな…」
「…な…何を言っているのだ…!?」
確かに、提督がいればそこは艦娘の居場所となる。しかしそれには様々な試験やらが必要なわけで、簡単になれるものでは無い。なのに何故この男はこのような事を言っているのか。
「…本気で言っているのか…?」
「うん…」
「…簡単になれるものでは無いぞ…!?」
「それは知ってるけど…」
「…なら何故…!」
「何でって…君を助けたかったから…?」
「…はぁ…」
意味がわからない。謎が多い男。
「それに…行く宛がないでしょ…?」
「…宛が無いのはそうだが…」
痛い所をつかれた。確かに行く宛はない。だとしたらもうこの男の元に行くしか無いのだろうか。
「…少し時間をくれ…決まったら伝えに行く…」
「それは構わないけど…俺がいる所まで来れる…?」
「…と言うと…?」
ここからかなり遠い場所に家があるのだろうか。だとしたら確かに行くのは難しい。
「いや…俺の家…冥界にあるから…」
「……????」
冥界?いや待て何を言っているのだこいつは。
「まぁ…そうなるよね…」
「…どういう事だ…冥界とは…」
冥界。何かの本で聞いた事はある、亡霊やら何やらがいる場所。
だとしたらこいつはその亡霊とでも言うのか。
「まぁ…俺は人間じゃないんだ…半霊…って言うんだけど…」
「…半霊…?」
「うん…だから俺が提督になっても…バレたりはしないと思うよ…」
確かにそれはバレはしない。だが冥界…私、いや私以外の者でも未知の所。そこにいわゆる現世の者である私が暮らしていけるのだろうか。
「不安がる必要は無いよ…現に現世に俺がいるんだから…」
「…そうなら…別に構わぬが……」
「なら決まりだね…」
そういうと男は優しく微笑んだ。この者なら…信用出来るかもしれない…。そう考え、ふと思い出した。
「…そういえば…自己紹介がまだだったな…私は睦月型駆逐艦の菊月だ…よろしく頼む」
「菊月…だね…俺は詠海…こちらこそよろしく…」
そうして私と詠海が出会い、私の2人目の司令官となった。今の司令官と出会うのはまだ先の話だ。IAと共になる前にもいろいろ出来事があったが、それはまた次の機会に話をするとしよう。
今回はここまでだ。最後まで読んでくれてありがとう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。菊月と詠海の出会い編、いかがでしたでしょうか?初の試みなのでいろいろ不自然なところなどあると思いますがご了承ください。さて、次はIAを出そうと思っています。かつてはIAと一緒に行動して垢を運営していましたが、その前の物語です。この次も読んでいただければ嬉しいです。いつ投稿するか分かりませんが…。ではまた。
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