ラクーンシティを好奇心で進む狩人様 (さや)
しおりを挟む

獣狩りの夜…じゃなくてナニコレ?

さあ、今日も楽しい遺跡漁り。

ヤーナムの地下にある、神の墓を荒して荒して、荒しまくろう。

 

 

 

 

「……地下遺跡に空が……?」

 

今日も今日とて、聖杯儀式により潜り込んだはずの地下。

 

どう見ても人間にはあり得ない、苗床頭のクリーチャーと化した異常者ルックの狩人が、心底不思議そうな声で上方を振り仰ぎ、茫然と呟いた。

本来ならそこは、見慣れて、見慣れすぎて吐き気を催しそうな天井は高い癖に鬱屈とした地下の筈なのに、どういう訳か本当に空が有った。

 

「何言ってるんですか。思考が前時代に戻りましたか?」

 

同行者である一見聖歌隊の様な恰好だが、その実神秘何それ美味しいの?とばかりに筋力で全てをすり潰す系狩人が飽きれた声を上げ、つられた様に空を見た。

 

「……空があるぅう!?」

 

そして頭の悪い声を上げた。

 

何せここ地下遺跡ではない。現在ゾンビパンデミックに震えるラクーンシティである。

開けた空が有って当然なのだ。残念ながら、周囲に光が多すぎて星は良く見えないが。

ついでに地上はヤーナムとどっこいの素敵な地獄の様相を呈して居る。

 

「なにここ、なんなのここ、怖いんだけど?」

 

苗床頭の面妖な狩人は、妙にピカピカと明るくヤーナムの立派な建造物よりも更に巨大な建物が立ち並び、珍妙な恰好の人々が駆けまわる様に狼狽する。

因みに冒涜的カリフラワーとなった狩人を見て叫ぶ人間も多い上に、この場では狩人二人の方が珍妙な格好だ。

 

「おおおっ、落ち着きましょう。ただの獣狩りの夜が巡って来た的なやつですよ。狩ってればなんとかなりますよ。何とか成りますよね!?取り敢えず襲ってくるものは全部狩りましょう!腸ぶちまけておけば何とか成る筈です!」

 

流石脳味噌と神秘を筋肉に浸食された狩人だ。

トンでもな事態に恐れ戦き、ぐにょぐにょと頭を震わせながらしがみ付いて来る苗床狩人を励まし、狩人らしく取り敢えず狩っておこう。殺しておこう精神を発揮して居る。

 

実際、ヤーナムで獣の病が蔓延してるのと大差ない事態だ。

ちょっと権力と立ち位置がデカすぎる企業が、生物兵器作ろうとして、下手こいて厄介なウイルスばら撒いただけだ。そして隠蔽に生物兵器放ったり、街を封鎖して市民を見殺しにしようとしているだけだ。

誤用ではなく確信犯で血の医療にじゃぶじゃぶ浸かり、獣の病が蔓延すればしれっと狩人を募った医療教会となかなかいい勝負だろう。

あとちょっと別のアプローチを初めた派閥とかが出てきて、全体的にしっちゃかめっちゃかの名状し難き悪夢の魔窟となったヤーナムと大差ない。

 

むしろ一つのどでかい企業の権力と利益、人間の欲に寄って招かれた事態というすっきりした根源な分、随分と分かりやすくていい。

叡智とかいう目に見えないもの求め始めるよりずっと理解できる。

そのどでかい企業こと、アンブレラ社にも己の探求心のみに突き進んだ研究者が居るかも知れないが、変な檻を被ってゴキゲンに駆け回る変態性が無ければヤーナムの探求者とは並べない。まずは自分の肉体を捨てて、悪夢を呼び寄せてからだ。

 

まあどちらにしろ、遺跡から持ち帰ったなんちゃらをごにょごにょするのはアカンという事だろう。最初の目的がどうであれ、人体実験始めたら終わりである。

 

だがそんな事、聖杯に潜りに来た狩人二人は知る由もない。

獣の病とはまた違った風体でよろよろと、逃げ惑うに人間に襲い掛かる奴らがあふれかえって居ると言うのが見て分る事だ。

 

しかも、まるで御伽噺よろしく異世界染みた奇妙な街で。

 

人間性をどっかに置いて来たらしき連中は、獣の病の罹患者たち程凶暴でも頑健でも素早くも無いが、恐ろしい程人の形を残している。

誰かが何も言わなくとも、彼らがほんの少し前までは人間だったと突きつけられる。

 

まあ、だからと言って狩人共が何か思う事もないが。

 

優し過ぎた古狩人ならいざ知らず。残念ながらここに居るのはうごうごする肉塊をポケットにないないしちゃったり、殺した娼婦の靴を何となくで剥いで自分の物にしちゃう、ナチュラルボーンサイコパスと囁かれてる狩人共だ。

それぞれの時空によって、些細な差異はあるかも知れないが、皆獣狩りの夜を数度巡る頃には立派なサイコで頭おかしい自分本位なヤーナム野郎に成っている。或いは地底人。或いは上位者。

 

なので余りにも肌の露出が高く破廉恥で、正気を疑う恰好の人間だったらしきものがふらふらとにじり寄ってくれば当然とばかりに迎撃する。

市街の半獣市民の殺意の1/10というのも盛りすぎ感漂う、弱々しい害意でも向けられたからにはぶっ殺すしかない。

 

あと単純に巡る悪夢の中で、すっかり『わからされて』しまったのだ。

集団は怖い、と。それはもう身に染みている。散々ヒィンヒィン言わされた。

どんな雑魚でも四方八方取り囲んで袋叩きにされれば死ぬ。数の暴力は恐ろしい。

 

それと犬。

 

ともかく、囲まれる事を恐れた狩人共は向かってくるモノも、目に着いたモノもぶっ殺しにかかった。

 

とあるやんごとなき理由により、聖歌隊装束で固めた狩人は、それらしく仕込み杖を振り回して居るが、なにやら勝手が違う。

獣はどんなに頑健で屈強でも、刻んで弾丸ぶち込んで、内臓なり脳味噌なりを引きずり出せば仕留められる。

むしろ血が出るなら獣でも、幽霊でも、上位者でも殺せる。殴り続ければそのうち死ぬ。

だが目の前に集る奴らはそうはいかない。どんなに刻んでも『生きている』のだ。もちろん足や体の大部分を損なえば、物理的に動く事は無いようだが生きている。

 

寄生虫を握ってドュルンドリュンとのたうちつつ、触手を振り回したりナメクジをぶちまけたり、神秘汁を吐き散らしている変態的な狩人の方も勝手が違う事に戸惑って居た。

序に逃げ惑う段階で、偶然狩人を見てしまった市民はあまりの悍ましさに腰を抜かしゾンビに集られてしまったが、運が無かったのだろう。仕方がない。

医療教会の最盛期ならまだしも、よそからやって来た狩人共に市民を救うという概念はない。むしろ奴らが手を出したら悪化する可能性の方が高い。

 

全く意図しない形でラクーンシティの民を巻き込みつつも、一区画分の静寂を手に入れた狩人二人は息を吐く。

カリフラワーが呼吸をしているのか、疑問の余地があるが。

 

「分かりました。こいつらアレですね。頭吹っ飛ばさなければいけない奴ですね。むしろ頭だけ吹っ飛ばせば終わりですよ。……どうかしましたか?」

 

シュッと一つ仕込み杖を振り、妙に粘つくどす黒い血を振り払いながらそう結論づける。気づいてしまえば、実に呆気ない相手で、狩人の腕力で殴ればそれで終わる。

水銀弾をぶち込むのも勿体ない程の脆さだった。

 

そんな事を反芻する横で、苗床頭がしおしおと項垂れてる。人間らしい顔面はどこかに行ってしまって居るので、表情は伺えないが、取り敢えず悲しそうだ。

心の瞳ならぬ、脳に得た瞳で見れば分るかも知れない。

 

「……自分、役立たず説が出て来た」

 

掴み掛かって来るよろめく死体に、逆に掴み掛かり至近距離から毒性の有る嘔吐物……もとい、神秘汁をブッカケるというどっちがクリーチャーか分からない行動を取った。

とったのだが……、吐き散らす汁の毒に侵される事も、まき散らすナメクジに異常を来す様子もない。

残念ながら、Tウイルスにより肉体が死に活性化した脳だけで本能のままに動く死体には崇高なる神秘は届かなった様だ。既に体が死んでいては毒の意味も成さない。

寄生虫を握って神秘で殴る系狩人は、頭ぱっぱらぱーの死体には優位を取れなかった様だ。悲しい。

 

それでも触手を振り回し、叩きつければ腐れた肉は粉みじんに砕ける。狂おしくもかっこいい正気を疑うポーズと共に放たれる衝撃波を受ければ、歩く屍も逃げ惑う人間も皆等しく体を弾けさせる。

 

どちらかと言えば生者に対しての殺傷能力が高いが気にしてはいけない。

たださえゾンビパンデミックで削られた正気度に追い打ちを掛けてるかも知れないが、そんな所まで責任を持てない。苗床頭だって、狩の最中誰も怯まなかった。むしろこの頭部の方がフレンドリーに接してくれる、なんて事もある。漁村とか。

 

なので決して役立たずではない。

 

「君は性癖が冒涜的だけど優しいよな。お姉さん惚れそうだよ……」

 

「外見が冒涜的な人が何言ってるんですか。私に惚れる位なら女の子に惚れて濃密に絡んでください」

 

よしよしと慰められ、元気をなくして居たカリフラワーの鮮度が戻る。に聖歌隊(ニセイカタイ)の性癖については本当に業が深いので触れずに、よし、と気を取り直す。

 

「灯りもないし、どんな奴が居るかも分からないから慎重にいくか。……空砲撃って、君だけ帰ってもいいけど」

 

そうは言いつつも、暗にこんな意味の分からない場所で一人にしないで欲しい……と、青白く燐光でも放ちそうなヌルつく頭部が物語って居る。

読み取れる様になったら人間的に何かが駄目かも知れないが……。

 

「帰りませんよ。面白そうですし」

 

目に映る全てが物珍しいものばかり。

やはり時空により差は有るが好奇心の塊的狩人様だから仕方がない。伊達に良く分からない物を拾い集めたり、へその緒食ったりしていない。

 

せっかくの未知なので、狩人様らは荒らし回る事にしたのだった。最早そういう習性なので仕方がない。

 

「それにしてもコレ、何なんでしょうね」

 

こてりと、首を傾げ頬に張り付き既に黒ずんで乾いた血液を指先でぽりぽりと削る。狩装束は血を浴びる前提だと言っても、こんなに早く乾き凝固する血では困る。

異常者ルックで不審度が天元突破の苗床頭はまだしも、全体的に白い聖歌隊装束は目も当てられない。

 

「んー……変な血ですね」

 

無理矢理引っ掻くように落とした血が付着した指先を口へ運び、ぺろりと舐めとり逆側に首を傾げる。

散々大腿部に輸血液をぶっさしまくり、返り血をじゃばじゃば浴びまくった上に冒涜的頭部なくせに、経口で血を舐めている同行者に、苗床頭が心底引いた顔をする。

もう、何度目に成るか分からないが、当然人面はない。

 

ズガン!

 

 

「う゛っ!?」

 

その自分の外観を棚に上げたカリフラワーが、何かを言う前に鈍い発砲音に合わせて濁った声を上げて前のめりに倒れる。

 

「どうしたんですか急に」

 

めちょぉっと、どう考えても人の倒れた音とは思えない音声ですっ転ぶ同行者へ疑問を投げかけるが、その答えを聞く前に第三者の怒声が届く。

 

「手を上げなさい!」

 

恐らくどう見てもクリーチャーでしかない苗床頭に発砲したらしき女性が、ショットガンを構えつつ、凄まじい目つきでにじり寄って来る。

薄っぺらな手術着に白衣のみという、狩人以外が見たらなんともクレイジーにクールな格好だ。

今は凄まじい形相だが、中々の美人だ。

美人な女性だったので、大人しく要求通りに手を上げる。仕込み杖は離せと言われて居ないので、ちゃっかり握ったままだ。

いまの所唐突に襲い掛かって来る事は無いが、元気なヤーナム野郎共に囲まれて来た為に油断はしない。

 

「あなたは何者なの……? このバケモノは一体なに?」

 

残り数歩の位置で止まり、油断なくショットガンを構えた美女は警戒を緩める事なく厳しい声で問い詰めるする。

 

さて困った。

何者か、などヤーナムにて血の医療を施された際にすっかり忘れてしまった。狩人しか言いようがないのだ。

足元のバケモノに見える何かも狩人だ。

そしてその当人は現在、下の装備がすかすかの女性に近くに立たれ気まずく、恥をかかせない為に身動き取れずに居た堪れない気分になって居る。彼女は良心的なのだ。外見以外は。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アリス・アバーナシー

バイオ側の人視点だと比較的真面目です(当社比)


 

アリス・アバーナシーが目覚めた時、アンブレラ社の附属病院は無人になって居た。

誰も居ない。薄気味悪いほどに静まり返っている。

ハイブを出た際に聞いた、ロクデナシ共の『ハイブを開ける』という言葉を思い出す。いくら何でも奴らもそこまで間抜けでは無いだろう……という考えは早々に捨て、誰かの白衣を拝借し、無人の病院を抜け出した。

 

今何が起こっているのか確認しなければ。

 

ハイブから脱出し、気を失った時までの記憶に比べて妙に明るく鮮明に、より遠くまで見渡せるようになった己の視力でラクーンシティの通りを徘徊する。

 

外に出て見れば、地獄絵図が広がって居た、

あのロクデナシ共、本当にハイブを開けやがった。

 

視力だけではなく、その他の五感まで驚くほど良くなったようで何ブロックか離れた所まで、目に映らなくとも活動する者等の気配を探る事ができる。

凄く便利ではないか。こんな屍が歩き周り、無法地帯の地獄の権化となった今なら尚更好都合。

 

なんていう訳ない。

 

急に、目や耳が良くなればそう思うのかも知れないが、彼女は怒りしか沸いてこなかった。

アンブレラ社の連中の仕業だ。この惨状を作り出した奴等だ。絶対にロクでもない事だ。

 

ふつふつと苦い怒りがこみ上げてくるのだが、兎も角今は状況の把握をしなくてはならない。そしてこの街を見て回るには武器が要る。

 

見つけたのは無人のパトカー。相当派手な事故を起こした様で、本来の用途での使用は不可能だ。ガソリンが残って居れば、爆発物にジョブチェンジ出来るだろう。

運転席に警官の姿は無い。使えなくなった足を捨てて逃げだしたか、或いは死んだ後に起き上がり、生者を捜してさ迷いだしたかだ。

半分が押しつぶれて、本来のサイズより幾らか小さくなったパトカーからアリスはショットガンを見つけ出した。

幸な事に、弾もたっぷりと残っていた。

 

ふ、と妙な気配を感じ顔を上げる。

 

先程から、歩く屍達の位置や気配を何故か把握できていたのだが、それとは別の気配を見つけた。

そうっと姿勢を低くしパトカーの陰から、気配のする方へ向ってショットガンを構える。そして見つけた。

常人では到底把握できないような距離に、二つの人影を見た。

 

そして強化されたその視界は異相の者を認識する。

二つの人影のうち、片方は確かに人だ。あちこちで上がる火災の炎で、くっきりと浮き上がる重そうな白い衣装。いったいどこの宗派のお偉いさんかと思う様な祭服姿。場違いにも程がある。ラクーンシティにも教会は有るが、あんな恰好の人間見た事もない。

そもそも奇妙な被り物で、口元しか伺えない。このアメリカで、あんな顔を隠した様相では強盗と判断され銃を向けられても文句は言えまい。

 

問題はもう一つの影だ。

ソレを視界に入れた瞬間、形容しがたい怖気が沸き上がった。

元、アンブレラ社の特殊部隊員であり、あの地獄を煮詰めた様な地下施設を越えて来たアリスが、確かな恐怖を認識した。

歪に膨れ上がり、うねる星の光を閉じ込めた様な蒼白い、顔も何も存在しない頭部。ぼろ布と区別の付かない薄汚れた黒い布を身に纏っている。ぼろぼろの裾から覗く、汚らしい包帯を巻いた素足はまだ、人の皮膚の色をして居るが腕は青白く触手に濡れている。

静止している筈なのに、ぬらぬらと触手や頭部が揺れ、その動きに合わせ沸騰する不安が心臓を圧迫する。

 

あれは、なに……?

 

アンブレラ社のロクデナシ共のせいで真っ当な人間であるとは言えなく成ってしまっても、それでも『この世の理』の内にあり『ヒトの知覚出来る世界』に存在するアリスにはソレを理解するのは難しかった。

 

それでも凄まじい精神力でもって沸き上がる怖気を押し込める。

一度強く目を閉じて、意識を切り替えた。

 

異形の物体は隣に立つ人間へ襲い掛かる素振りはない。会話でもして居るかの様に、顔の見えない人物の口元が動いている。

足元には、ここに来るまで出会わなかった筈の歩く屍が、本物の死体と成って転がっている。

一体どうやって仕留めたのか、辺りには夥しい肉片と血のりが撒き散らされて居た。

 

息を殺し、パトカーの影がから歩み出る。

距離を詰めるたびに妙な気配、動く死体の腐臭とも違う、悍ましく冷え切った血の池に浸かった気分になる気配。

こんな格好でも肌寒さなんて感じなかったのに、近づくにつれ鳥肌が立つ。

 

ショットガンでも十分に打ち抜ける距離まで接近した瞬間、湿った音を立って悍ましい人型が動く。

 

半ば反射で引き金を引くが、過たず不気味な人型の頭部へ銃弾は届く。異形はその場に倒れるが、共に居たもう一人にも気づかれただろう。

あのバケモノと無関係とは思えず、銃口は下げずに声を張り上げる。

 

「手を上げなさい!」

 

何かする隙を与えない様に接近する。

当の顔の見えない人影は、怯んだ風もなく両腕を気だるげに上げて見せる。銃を抜くような素振りもなく、古風な杖を握ったままアリスの接近を大人しく待っている。

そのこの状況で異様な程の余裕を見える相手に、不審感は増す。

 

直ぐ目の前、ショットガンを打てば頭蓋骨を粉砕するであろう距離で向かい合う。

 

「あなたは何者なの……? このバケモノは一体なに?」

 

ちらりと足元に転がり、身動きしない物体へ目をやりすぐに相対する人物へ視線を向ける。

細かな文様が刻まれ、それで前が見えているのか疑わしい目隠しを付けた相手では睨み合う事もできない。

 

「貴女の害に成る様な事はしませんよ」

 

銃口の前で大人しく手を上げた妙な恰好の人物は肩を竦めて、落ち着き払っている。

変に気取った、かび臭い発音だが確かに英語で答える。

口元しか見えないせいでどんな顔をしているのかは分からないが、口調のせいか小馬鹿にされているような気がしないでもない。

 

「私達はただの狩人です」

 

ゆるりと黒い手袋の腕に握られたままの杖を揺らし、穏やかに言う。

確かに今すぐ敵対する様子は無いが、あまりにも不審すぎる風体に、今足元に転がる化け物と何かコミュニケーションを取って居たのは確かだ。

あのロクデナシ共と無関係だとは判断出来ない。

 

いや、あからさまに宗教色の強い服装で、それらしい武装もない。むしろまた別の厄介な連中かも知れない。

Tウィルスを持ちだし、莫大な財を得ようとした阿呆のせいでハイブはああ成った。純粋な利益ではなく、例えば胡散臭いカルト宗教の連中が信仰を集める為に求めたらどうだろう? 自我や記憶、人間的な理性は兎も角死者を蘇らす事が出来る。頭のおかしいカルトとしては、うってつけのパフォーマンスではないだろうか。

 

「……待って。私達? 他に誰か居るの?」

 

目の前の怪しい人物を品定めしつつ、引っ掛かった言葉をそのまま投げ返す。対面している相手に集中させ、背後から奇襲されては面白くない。のだが……アリスの異様に鋭敏成った感覚に引っ掛かるモノはない。

 

「ええ。その足元に転がって、貴女の生足を視姦して居る冒頭的な変態頭部も狩人で、私のツレです」

 

「誤解を招く言い方ぁあ!!」

 

「っ!?」

 

ショットガンを頭部……なのか分からない部位へ叩き込み、身動き無く地面に転がって居たのですっかり仕留めた気でいた。そんな物から絶叫が上がり、反射でショットガンの銃口を押し付ける。

 

「いいですよ! その調子です! 美女が女の子を素足で足蹴にしつつ銃を向けてるとか最高です! 続けてっ!!」

 

襤褸切れの様な服と呼称するにも烏滸がましい布越し、足の裏には体温と人間らしい弾力を感じるなか、目前の不審者は突然喜色満面な歓声を上げる。

 

「悪い! 起きるタイミングが無かった! 別にイヤラシイ気分で寝っ転がってたわけじゃないんだ! あと出来れば散弾銃は目の前の糞野郎にぶっ放して内臓を引きずり出してくれ!」

 

奇怪な事に、足元から上がる声は女のものでごく当たり前に意味のある言葉を喋っている。

ただ謝罪と悪態を吐くのと同調し、ぼこぼこと歪に泡立った頭部が蠢き右腕の甲から飛び出た触手がびちびちと跳ねまわっている。これを正常な人間……いや生き物と定義して良いのかは定かではない。

ただ、これまでに見たゾンビ共が辛うじて生前の記憶を残している段階、と言うのとは明らかに違う。あまりにもはっきりとそこに『個』が存在している。

 

そしてアリスも、『正直目の前の聖職者ぶった人間の形をしている奴』の発言の方が気色悪い。

そう思った。




苗床頭
女性狩人
当人は良心的だが100年くらい未来のアメリカ人のSAN値を意図せず削る

ニセイカタイ
欲望に忠実
性別は不明聖歌隊装備に男女差はないので


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

そこに獣が居るなら狩ろうぜ!糞共も狩る。

真面目にできない。ゆるゆる具合。


狩人様はいつだって疎外感に晒されているものだ。

ただ本当によそ者なので、そう強く反発もできやしない。『失せろ!』や『よそ者め!』やら『死ね!』等々の罵倒と共に殺しに掛かられても、精々返り討ちにぶち転がす程度の反応しか返せない。異邦からやって来た狩人様の立場は弱い。

 

なので現在冒涜的カリフラワーの頭部に鉛玉めり込ませた美女ことアリス。彼女に性犯罪者を見る様な厳しい視線を向けられてもめげない。

そして血の含まれない、唯の鉛玉の散弾程度ならカリフラワーはしょげない。カリフラワーでなくてもしょげないが。

なんせ普段、獣にぶち込む水銀弾をしれっと対人でも叩きこむ人種が狩人だ。なんなら大砲を一個人に向けるとか言う、意味わからない事をする種族が狩人だ。

残念な事に、一世紀程未来の性能のが上がった銃では屁でもない。

 

「それで? あなた達の言う狩人って?」

 

警戒心も露わだが、銃口を下げたアリスの胡乱な目に晒されながら狩人共もどう言ったものかと戸惑うしかない。

取り敢えずの害は無いと判断はされたが、自分達も状況が分っていない。気づいたらここに居訳で、説明をするのが難しい。

 

良く覚えて無いが、何らかの病を治したくて訪れたヤーナムで輸血をしたら勝手に狩人に成って居た、という有様だ。ほぼ不可抗力で成ってしまった上に、何の説明もなく『獣を狩れ』と言われた。ついでに自身の筆跡で『青ざめた血を求めよ』と言う、混乱しかし産まないメモ付き。それでもありとあらゆるモノを狩って居たら立派な狩人に成って居た。

現代っ子アメリカ在住アリスにそんな話をしたなら、怪しい契約書に気軽にサインをするなんて、と飽きれられそうである。だが仕方ないのだ、当時は血の医療に縋ってでも生き永らえたかったのだ。病名は忘れたので知らんが。

 

正直ヤーナムは善良な民間人からしたら、クソな組織のクソな所業が絡み合い過ぎて、クソ塗れの据えた臭気立ち込める混沌だったので何も知らない真っ当な思考の人間に説明するのは途轍もない難問なのだ。

狂人の叡智にアイアンクローを最低60回決めて、赤子の声が聞こえる様に成ってからでなければ理解して貰えそうにない。上位者の叡智なら30回でもいい。

獣性も抑えられて一石二鳥で、素晴らしい。

 

しかしそんなに手持ちが有る訳なく、ましてや狩人共も『全て』を知っている訳ではない。

なのでさっくりと、とある山間部にある医療の進んだ古都では『獣の病』という物が蔓延し、その罹患者を『処理』する人間たちが狩人だと説明する。

序に獣の病はその土地の『医療』が原因である。教会の下の方は、何も知らない純粋な医療者だったかも知れないが、上の方はもうお察しである。知って居て『聖血』をじゃんじゃんか使って居た。言い逃れの余地はなくギルティである。そうして蔓延った獣を狩る為に狩人もその医療を手段にして居ると伝える。

ちなみにミイラ取りがミイラ案件も割と発生するし、そんな狩人を狩る狩人まで用意されているのだから業が深い。

ビルゲンワースや、血族、医療教会の発足に、古い時代の人々。上位者に、檻の変態おじさんに関してまで話していてはらちが明かない。複雑にすぎる。

 

話を聞きながら、物凄く不快そうな顔でアリスは眉間に皺を寄せる。

 

「どこの世界にもロクデナシって居るのね」

 

吐き捨てる様な言葉に、狩人達も頷く。基本的に古都ヤーナムは人間性を無くした獣と、狂人の巣窟だ。そうでない者も死ぬか狂うので、最終的に獣と頭おかしい狩人と上位者を悪夢で煮詰めた闇鍋になる。むしろロクデナシしか残って居ない。

そして同意を示した狩人共も、繰り返す悪夢に残って居るので頭のおかしい輩だ。

 

「二人も獣……? に成る可能性が有る訳ね。と言うかそっちは獣とは違うの?」

 

手持ちぶたさに脳を震わせる苗床頭をジト目で見つめる。

 

「この人は別方向に突き抜けた結果で、獣ではないです。吐き気を催す外観ですが間違いなく狩人で、協力できる人間です」

 

「黙れ。吐き気を催す変態」

 

「確かに、人間らしさは有るわね。アンブレラ社とも関りは無いようだし……」

 

幾ら倫理観をかなぐり捨てた邪悪なブラック企業でも、こんなふざけた連中までは抱え込まないだろう。あの会社だって、裏の顔を知らない善良な市民も勤務して居る。目前のこれ等は目立ちすぎる。

頭の悪そうな会話をする、物理的にも頭部装備がおかしい……前言撤回。全身おかしい二人を見ながら息を吐く。

 

それにその心配は無用だ。大丈夫。もし血に酔い獣のに堕ちても、人としての尊厳を守るためしっかりと殺してくれる。悪夢を巡り続けた狩人の覚悟だ。

それはそれとして、何も無くても血の遺志とか穢れた血目当てに殺し合うのも狩人だ。あとはただ楽しいから殺し合うのも狩人だ。断じて血に溺れている訳では無く、しっかり保持した人間性から『よし殺すかー』と思い立つのだ。頭は大丈夫だろうか。

 

「自分達も聞いていいかな? この死んでるのに動くこれはなに? 亡霊とも違う。この妙な街は何が起きて居るんだ」

 

足元に散らばる腐肉を指、だか触手だか判別つきずらい手で指し示す。その微細な挙動でさえ全身の触手は震え、なんともファンシーな光景。いい夢が見れる。

 

「アンブレラ社、も知らないのよね?」

 

残念ながら、一世紀程過去の田舎街で記憶もないまま臓物と血のりを巻き散らしている奴らなので、そんなハイカラな製薬会社など知る由もない。

ついでにガソリンで走る車も知らないし、便利な通信機器も知らないし、空飛ぶ火葬サービス付き棺桶(パニックホラーのヘリ)なんてもっての他。

ウイルスなんて言葉もピンと来ないし、生物兵器という概念も違いすぎる。精々ペスト患者の死体でも放り込む位の認識だ。

聖職者の獣みたいな奴を戦場に放り込もうだなんてキチガイの発想である。……教会が脳の麻痺した大男に頭悪そうな銃を持たせようとした気がしないでもないが。成る程そういう事か。基本的にキチガイしか居なかった。

 

獣の病以上に伝播しやすく、殆どの確率で狩人の様に人間性を保持し続け内なる獣性を抑え込み力のみを利用する事が出来ず、もれなく獣になる。何という害悪。

現在Tウイルスにより狩人となったのはアリスだけの様だ。

 

火災に暴動、破壊跡。ついでに人の死体の転がるヤーナム染みて実家の様な安心感を覚える通りを、ざっくりと説明しつつ先導するアリスの後に続きながら狩人共はぼんやりと理解する。

 

何でそんな所に放り出されたのかさっぱり分からないが。

この次元のラクーンシティでは時計塔の鐘も鳴っていない。鳴って居ないというか落とされて居ない。

 

「あなた達はどうするつもり?」

 

アットホームな通りを抜けて訪れた銃砲店で、最新のちっぽけで面白みのない銃器を興味深々と物色する狩人を振り返りアリスは尋ねる。

 

古風な祭服の不審者と、最新鋭の火器。実にミスマッチ。

歩く屍が余りにも脆いので、獣狩りに使う銃はしまいっぱなし。アリスは似非聖職者が銃を握って居る場面を見て居ないので、そのちぐはぐさに違和感を抱いた。

ヤーナムでは、聖職者の格好をした血気盛んな狩人が、あっちこっちでぶっ放して居るので狩人共は一切共感は出来ない。

 

歩く屍()が溢れてるなら狩るだけだな」

 

悪夢の苗床頭は寄生虫を握って殴る派なので、銃よりもヘッドライトを弄りながら答える。残念ながら苗床カレルを刻んだ顧客を想定した商品はない。

それに熱を発しないLEDでは獣も怯まない。

 

「私達は狩人ですからね。人を襲う獣は狩ります。その方が、獣に成ってしまった人にもいい筈です」

 

旧市街の古狩人達はそうは思わなかったかも知れないが。

死んだ体と麻痺した脳で飢餓に這いまわるよりはきっと良いに違いない。

封鎖された旧市街ならまだしも、ここにはまだ正常な人間も居るはずだ。

それと、単純に聖杯を荒す予定だったので血の遺志とか欲しいし、内臓に腕を突っ込みたいというフラストレーションの解消だ。異邦の狩人様は好奇心のままに走る、欲望に忠実な奴らだ。流石にワンタッチ世界崩壊まではしないが。いや、機会が有ればやらかす狩人様が出て来るかも知れない。

 

本音は兎も角、狩人達の言葉にアリスは思い出す。

地下で共に戦った仲間も言っていた。『魂を無くして彷徨うだけの者になんか成りたくない』と。

 

そして察する。狩人を名乗る怪しい風体の二人も、延命を望んだとは言え記憶を無くし、拒否権も無いままに人では無い悍ましきモノに変えられてしまったのだ。その医療がどういう物か知らずに、たった一つの希望として縋ったのだ。

それでもこれが使命なのだと、獣を狩っていたのだろう。自分達と同じように、医療に救いを求めたのだろう人間を。せめてもと人の尊厳を失わせない為に酷く醜悪な絡繰りを全て知った後も。自我を保ち、縁も所縁もないであろうこの街でも『人間』を守ろうとしているのだ。

 

なんて、酷く人間性と善性満ちた事をアリスは考えて居るが基本的に狩人様は複雑な事は考えていない。

悪夢に飲まれた当初は、精神を軋ませながら獣狩りの夜を駆けて居たかもしれないが、ここまで来ると一回転して狩を愉しんで居る。

苗床頭など、好き好んで人でない者の姿をとって居るのだ。

 

「そういう君はどうするんだ?」

 

大型のハンドライトで自身の頭部を下から照らすなんて言う、こてこてホラー演出に興じながら、件の好き好んで異形に成ってる苗床頭が逆に聞く。

何もしないで存在するだけなら、この冒涜的カリフラワーにも慣れて来たアリスは装備を確認しながら、一つ深呼吸をする。

 

「私は……アンブレラ社の不正を暴くわ」

 

その言葉に狩人共は目から鱗の気分だった。

不正を暴く。

ヤーナムでは絶対に出来ない、というか既に手遅れ、無意味、人間の愚行なんて上位者の掌の上。そんな上位者までも利用するやべーやつ。誰が悪いか、何が悪いかと言うより、最早回帰不可能、不可逆的瓦解。糾弾されるべき人々も、人として存在しない。ただしミコおじさんは除く。そんな中ではあり得なかった発想。

 

そんな面白そうなもの、好奇心の権化たる狩人様が首を突っ込まない訳が無かった。

縁も所縁もないし、すっかり悪夢に漬かり過ぎて義憤もクソも無いけれど。胡散臭い契約書にサインした訳でも無いのに一人で狩を成そうとするアリスに協力したいと思ったのは本心だ。

 

 




聖歌隊の格好の狩人を使ってる、リアル友人が「聖歌隊とヤハグル狩人の百合が見たい。百合を出せ。殺伐血みどろ百合百合させるんだ」と謎の要求をしてきました。
これが完結出来たら考えます。多分その注文は無理ですが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラクーンシティの人々前

え、ちょっと、待ってくださいお気に入りがが三桁!?いつの間に何が起きたんですか!?
正直数字にびっくりしています。途轍もなく嬉しいのですが、脳味噌サクサクにスナック菓子の様な軽さで書いて居たので、戸惑いも大きいのです…。
本当にお気に入りと評価ありがとうございます…あのこれ、私死ぬんですかね…?

そしてこのお話は相変わらずスナック菓子の様にスカスカでサクサクです。


アシュフォード博士は何よりも大切な娘を捜すべく、ラクーンシティの防犯カメラへハッキングを行っていた。

本来ならハッキングなどしなくても、アンブレラ社から与えられた権限でアクセス出来た筈なのだが、その接続は全て蹴りだされていた。

 

だが幸いな事に、と言うのも微妙だが子供頃から障害を抱えコンピューターの前に居る事が多かった彼には造作もなく、街中に設置された防犯カメラとデータベースを使いアンジェラ・アシュフォードを見つけ出す。

賢い彼の娘は、学校に隠れていいる。

無事とは言い難いかも知れないが生きている!

 

そして生存者を捜す。アンジェラを無事に地獄の様な街から連れ出す事のできる人物を。

 

その中で奇妙な映像が飛び込む。

ありのままを言葉にするのなら、『UMAと大型バイクに二人乗りし暴走した挙句に店舗へ突っ込み大炎上する大仰な衣装の聖職者』である。

 

意味が分からない。

彼の優秀な頭脳で理解出来ないのならば、誰だってその映し出された物の真理など判別付く筈がない。

むしろ理解してはいけない類のものだ。

 

画像の荒い防犯カメラの映像だが、明らかに人間ではない形であり、世界最大の巨大企業のお膝元で十全に発展した都市で目にする事のない様な世紀単位で古臭い姿の人間。どちらも人物認証が一致するデータは、当然の様に見つからない。というか双方顔が確認出来ない、または顔がない。

 

一瞬呆けた様に画面を見つめるが、そんな場合ではないとすぐさま生存者の検索に戻った。

 

━━・・・

 

目的は定まった。

それはいつも通り、獣を狩り続ける、だ。

 

アリスの言う『不正を暴く』と言うのは非常に楽しそうだが、具体的に何をしていいのか分からない。秘密を暴くのは大好きだが、『不正を』と付くと首を傾げてしまう。

クソ野郎共を並べて順番に腹の内を曝け出せばいいのだろうか? もちろん狩人共の言う腹の内とは臓物のことだが。

だがそれではクソ共が漏れなく挽肉になるだけなので、何も変わらない。

必要なのは、行った事への糾弾と民衆による制裁だろうか?

呪詛溜まりとか投げつけるのだろうか。

 

ああでも悲しい事に、糾弾される組織の中には何も知らない善心でもって働いていた善良な人々も居るのだ。

英雄と呼ばれた狩人とか。

 

そういった、内部の人間の証言や証拠が欲しい。とアリスは言う。

この地獄の様な騒ぎに成って自分達が加担させられていた事に気づいた社員も居るはずだ、と。

もし狩人達が獣を狩る際に、そういった人間、この事態に成れば生存者全てが証人だ。この街に安全な場所などそうそう無いだろうが、獣は全て狩るなどと言う気概が有るなら保護して欲しい。

 

という事らしい。要約すれば。

 

成る程、オドン教会とヨセフカの診療所的な。と狩人共は納得した。

後者は保護では無いだろうとか、むしろアンブレラ系列のクソだろうとかは言ってはいけない。一応命はあるし『獣には』成らない。それを言ってはオドン教会にはステルス状態で絶対孕ませるマンな上位者がいる。偽医者の様に獣に成って居ない人間なら誰でもOKな無節操では無いが、どちらにしろ正気の人間削減活動を行う。

 

ただ、やはりラクーンシティに安全地帯は存在しないので、狩人共が狩って狩って狩りまくるのが一番手っ取り早いだろう。もしかしたら、この街の市民皆殺しレベルの獣を狩る必要に迫られる可能性が有る訳だ。それはそれでこの街はとても清潔になるかも知れない。

やはりいつもと変わらない。

 

効率を考えて、狩人共は狩人で行動することにしたし、アリスもそれに異存は示さなかった。協力するとは言われても、明らかに何処かオカシイ連中とオトモダチに成る気はこれっぽっちもないのだ。

あくまで、ただの協力関係。

その為幾つかの注意事項、Tウイルスから発生した獣には噛まれても、引っ掛かれてもいけない。数時間もしないうちに奴らと同じものに成る、等を言い含められて別れた。

 

先程聖歌隊の皮を被った脳筋がしれっと血を舐めて居た事は黙っておくことにした。

普段から良くわからない血液だとか、汁だとか、毒だとか、色々浴びている上に、片方はへその緒3本分が含有されたボディだ。今さら変な成分がもう一つ添加されても大した問題ではない。はず。

もし脳筋に何かあれば、神秘カリフラワーが美味しく遺志とか頂いておくだけだ。悪夢は巡り続けるので、また鐘を鳴らせば会えるだろう。お礼参りとして殴り殺される可能性もあるが。

 

「貴女に血の加護が有りますように」

 

銃砲店からの別れ際、別段教会の関係者では無いけれど何か、一人で狩へ赴くアリスへ声を掛けられればと思ったカリフラワーは、まだ好青年風味に常識人ぽかった頃の友人の言葉を真似てみた。

 

「……それって呪い?」

 

当のアリスの反応はよろしく無かったが。

実際アリスは血によって狩人となり血によって狩りをする訳では無いので、血の加護も何もないから当たり前だ。

それでも激励の心算だった事は伝わった様で、あなたたちも気を付けて、と言葉を添えてくれた。

 

しかし狩人共は、どこまで行っても狩人だった。ナチュラルボーンサイコとの評判は伊達では無い。

ゾンビには気を付けたが、未知が沢山ある新しい面白い街で狩人共が色んな物に手を出し、爆破させたり、発狂させたり、本性現したに聖歌隊(ニセイカタイ)がネメシスの武器を強奪しようとしたりと、やりたい放題やって居た事は、再会した後もアリスが知る事は無かった。

 

 

確かに信心深い類の人間ではなかった。天国も地獄も信じては居なかった。そんな死後の世界何かよりも、日々どうよりよく生きるかの方が重要だった。如何に同期たちよりイイ服を着て、イイ車に乗り、イイ女を連れて歩くか。

そんな風に生きて居たのが、いけなかったのだろうか?

 

それは動く死体に追い回せれ、生きたまま食い殺される程の悪徳だっただろうか?

 

既に権力と実行力()を持った人間は何もしてくれないと、烏門で証明されてしまった今、虫がいいとは思いつつも今まで疎かにしていた神様とやらに縋ってしまう。

 

神様、どうかこのクソなゾンビ共をどうにかしてください。

本当に虫のいい事に、天に祈りながら門の前からパニックに陥り、まともに進めない逃げ惑う人並みを掻き分け進む。

誰かの足を踏んで、誰かに突き飛ばされながら逃げ惑う。自分と身内の事しか考えられなく成った、パニックの群衆なんて危険物以外のナニモノでもない。

何とか、人の波を掻き分け脱し、安全な場所を求めて駆けだした。

 

人間の形は神に似ているという。では、天使とはどうだろうか?

突然そんな思考が巡ったのは、今にも死者の群れに取り込まれそうな自身の前に踊り出た姿が、あまりにも人間離れしていたから。

 

蒼白く冷たく気味の悪い光を内包した様な、菌類にもにたナニカ。

神々しさの欠片も無い、黒の襤褸切れから巨大な茸がにょきりと生え、それに人のような足が生え、二足歩行をし、触腕を振り回して居る。

うねる触手が薙ぎ払うのが群がるゾンビ共でなければ、間違いなくその茸人間を化け物とみなして居ただろう。

 

だが今は違う。

目の前の『天使』は間違いなく、自分をゾンビ共から守って居る! 何て素晴らしい! 神は間違いなく存在し、彼の贖罪を受け入れ、許し、こうして使いを送ってくださった!

そう思って見詰めれば、蒼白くくゆる光を内包したその姿は酷く神秘的で、空に輝く星々を思わせる。なんて美しい!

 

━━・・・

 

感動に打ち震える彼には今、冒涜カリフラワーの撒き散らすナメクジだって神聖なモノに映る。

そして手遅れな事に、悪夢の苗床頭にすっかり心酔してしまった。誰か鎮静剤を持ってきてやってくれ。出来ればラクーンシティの市民が飲んでも平気な奴を、だ。

 

効かないと分かりつつも、ある程度動きの癖がついてしまってるのでどうしても神秘汁をゲロってしまう。

名状し難き嘔吐現場にとうとう、ラクーンシティの善良でも悪辣でもない一般的な市民は感涙し拝み始めた。

 

恐らく発狂状態なのだろう。

 

すっかり周囲のゾンビが殲滅され、『神様』と足元で咽び泣く男に冒涜的カリフラワーは普通に恐怖した。

頭が、物理的にオカシイとは言え狩人様はヤーナムを訪れる前は一般人だ。モツ抜き職人(プロフェッショナル)だったかも知れないが、ただの病人だ。

 

ましてや、能動的に助けようと思って狩って居ない。生きた人間が多い所には、匂い立つ血の酒を撒いた時のように、死者が群れるからそれに釣られて狩人様が寄ってきてるだけだ。安全地帯が無いのだから仕方がない。獣を狩れば、少し人間が生き延びる時間がまして、運が良ければこの街から出れるかもしれない。その程度。

そんなにありがたがれては、バツが悪い。

バツが悪いし、キモイので全力で逃げだした。苗床頭の異常者ルックと言えど、彼女は歴とした女性だ。体力も持久力もタカが知れている(神秘99の弊害で貧弱な)女性なのだ。

ヌルッとした、若干もたつく挙動だが頭部と触手濡れの全身をふゆふゆさせながら逃げ出した。

 

背後で誰とも知れない男が空を仰ぎ、そこに見失った『天使』の光を捜し始めていたが知ったこっちゃない。

 

 

交通事故を、正しいシートベルトの着用により生還したアンジェラは、どうして良いのか分からずに学校へ戻って居た。

きっと、先生たちならこんな時どうすれば良いのか知っているに違いない。

 

でもそれどころでは無くなってしまった。

アンジェラが学校へ戻るのに、何処からともなく現れた顔色の悪い人たちが着いて来るのだ。いや、着いてきている訳でもないのかも知れない。

パパのお陰ですっかり他の子達と同じく歩けるようになったアンジェラを追い越して、ぞろぞろと学校内へ入って行ってしまうのだ。

その人たちは、当然の様に部外者へ注意しに来た先生たちに噛みついてしまった。驚いた彼女が慌てて先生へ話しかけても、先生は無視して、酷い顔色で立ち上がりふらふらと何処かへ行ってしまった。

 

それからはあっと言う間で、ふらふらと歩む彼らは次々と先生や生徒へ噛みつき、噛まれた人も皆酷い顔色で彷徨いだした。

お昼を過ぎるぐらいには、先生たちも、アンジェラの友達も嫌いな子も、知らない子も皆『お化け』に成ってしまった。

 

それでも『お化け』達は誰一人彼女に興味を示さなかった。

そして誰に教えられた訳でもなく、漠然と彼女理解出来てしまった。自分は最初からあの『お化け』達と同じモノなのだ、と。

 

それでも恐ろしいものは恐ろしくて、アンジェラは独りぼっちで学校に隠れ続けて居るのだ。

 

『でも、私、ずっとここにいていいのかな?』そんな考えがふと浮かぶ。そうすれば、どうするべきかも降って来る『私が迎えに行った方がいいのかな?』と。

彼女のそれは自問自答でしかなく、偶然やって来た窓の外に居る誰かへの問いかけではない。

 

パパが自分を置いていくなんて事は、これっぽっちも考えて居ない。

だってパパはアンジェラの事を何よりも愛しているし、アンジェラも父を何よりも愛して居る。

だからこんなに真っ暗に成るまで自分が一人で不安になっているのは、きっとパパに何かが有って迎えに来れないからだ。

 

彼女を連れ出した男たちが事故に遭ったように、父の方でも何か重大な問題が起きて居るのかもしれない。

 

よし。と一つ自分の答えを肯定する様に頷き、大切な『お弁当箱』をぎゅっと抱きしめて立ち上がる。

 

パパを迎えに行こう。

そう決意して、アンジェラ・アシュフォードは隠れていた学校を抜け出した。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラクーンシティの人々中

無駄に長く成ってしまいました。もっとすっきり雑にサクサクすすめたいです。
そしてブックマークに感想、本当にありがとうございます…!とても励みなるし、何度でも見返してしまいます。

若干、原作と時間が前後しています。


事故や暴動の跡も賑やかに、乗り捨てられた自動車や割れたガラスに、火災が点在した街中で、一際派手に燃える元店舗の残骸から人影、の様なモノが這い出て来る。

狩人の皆さまにはすっかりお馴染み、業火の中だっていつでもフレッシュ悪夢のカリフラワー。

多少の煤がついて居ようがぬらぬらと揺れる奇怪な頭部は瑞々しい。

 

「……あの変態、合流した暁には口に寄生虫突っ込んでゴニュゴニュしてやる」

 

爆心地の中心にぶち込まれる原因に成った、仕込み杖でお上品ぶった脳筋への呪詛を吐く。

が、すぐに思い直す。

あの恰好のあいつに寄生虫突っ込んだ所で、悦ぶだけだ。気持ち悪いし不愉快なので却下。

大腿部に輸血液をぶっ刺しながらどう報復してやろうか考える。

 

そもそも何故、こんな神秘カリフラワーの蒸し焼き染みた、爆発の只中から這いだす羽目に成ったかと言えば、姿の見えない例の脳筋狩人のせいだ。

 

アリスと別れて早々に、狩人共はある問題に直面していた。それはつまり、この街は広すぎる上に特徴がない。という事に尽きる。

ヤーナムだって、かなり広いし聖杯まで含めれば阿保ほど広い。だが特徴的な場所があり、殺す気概しか感じない位置に出待ちする輩のお陰で道に迷う事はない。禁域の森は除く。

だがこの奇妙な街は変に整い過ぎており、道もまっ平に広い。背の高い建造物も四角く風情も何も無い。チカチカ光る灯は品が無くてどうも認識しずらい。

こんな場所を『灯り』もなく移動し続けるのは面倒くさい。心底使者が恋しい。

 

そんな折に見つけたのが、とても素敵な二輪車。

ラクーンシティがまだ辛うじて日常を続けていた午前中にまかれた号外の一部。死者が歩く! などと愉快な記事に、その時点で散見された事態の発生地として示された地図を見つけた所だ。

狩人二人の前に猛スピードで突っ込んで来た大型バイク。二人の前を通り過ぎ、既に廃車と成った車に突っ込み停止する。どうやら操縦者は死んでいた様で、その衝撃にずるりと転がった。

しばし唐突な物体の登場に二人も一瞬静止し、直ぐに脳筋が反応する。

 

「なんですか! この楽しそうな物は!」

 

いそいそとバイクに駆け寄り、振り落とされ最低な顔色で唸り這い寄って来る持ち主の頭をぐしゃりと踏みつけ蹴り飛ばし、素晴らしい早さでバイクにまたがる。

とんでもない大胆な窃盗現場だが、ヤーナムではよくある事だ。死体は漁るし、死体から服は剥ぐし、欲しい物の為に死体を作る。デブとかだ。

ただ今日はちょっと死体が動くだけだ。

 

「え!? やめろよ……それ君の格好じゃ危ないだろ」

 

大型バイクに跨る聖歌隊。何と言うアンバランス。それでもまだ人型なだけましだ。苗床頭が跨りブイブイ言わせているよりまだ見れる。

そんな事は置いておいて、気に成るのは背で重そうに揺れる聖布だ。優しい苗床はツレが怪我をしないか心配なのだ。

 

狩人共は知る由も無いが、極東の島国、恐らくきっとヤマムラの故郷ではボウズがバイクに袈裟を引っかける事故がある。

つまり、ラクーンシティ版医療教会エディションな事故が起きる。勿論交通事故だ。バイオハザード的事故までコラボされてはもうお終いだ。

 

「そうですね。では後ろに座って巻き込まれない様に押さえておいてください」

 

何という事でしょう。まだ見れていた光景に、冒涜的カリフラワーが添えられ更に意味の分からない光景が出来上がった。こんな二人乗りに浪漫も何もない。

更に言えば異常者的センスを発揮したその襤褸切れファッションも非常に危ない。

 

「先程確かこの辺りをあ゛ーっ!?」

 

頭を踏みつぶした持ち主が、どこをどう触って居たかを脳液絞り出す勢いで思い出しながら、適当に弄れば案の定前触れ無しに急発進する。

汚い断末魔染みた叫びを上げながら、何とか車体を支えようと奮闘する。狩人でなければこんな大型バイクの重量と馬力に悲惨な事故を起こしていただろう。幸い見様見真似でハンドルを握るのは筋力大好きな狩人だ。技術もクソも無いが必死で真っすぐ走らせる。

進行方向に居るゾンビは轢き潰す。『きゃーっ』と存外可愛い悲鳴を上げる同乗者だが、残念ながら腰に回される手は触手だし、寄せられる頭は苗床だ。ロマンスも何も産まれない。

 

当の操縦者はとても楽しく成って居た。力強く駆ける機体は元人間を吹っ飛ばし、ごしゅっとひき潰す。その感覚が走行の振動に埋もれずに身体に響くのだ。実に心地よい。

これで市街のキャンプファイヤー通りを爆走したい。あいつ等全部轢き殺したい。心底。それが出来ればどんな爽快感を得られるだろうか。

 

しかし現実は非情である。ろくにバイクどころかエンジンで動く乗り物なんて動かす機会の無い奴が正しく運転出来る訳もない。全力で捻ったアクセルのままに突っ込んでいく。

そして先程の停止方法と同じ。何かに真正面から突っ込む、とっても原始的な方法。普段仕掛け武器を扱う事で人であるのだと示す奴らとは思えない。

更に上乗せで酷い事に、何も考えず全力でアクセルを捻って居た奴は衝突を察し、善良な狩の仲間を振りほどき一人で離脱しやがった。

そして前記の通り、苗床は香ばしく焼かれかけ、呪詛りながら輸血液を注入する羽目に成ったとさ。

 

苛立ちのままに空になった輸血液の瓶を投げ捨てて、立ち上がる。残念ながらあの変態は何をしようとも喜びそうなので報復方法が思いつかなかい。

余りにも無益で虚しい思考を続けるよりも、獣を狩ろう……。そしてこの街の教会を目指そう。

 

とても善良な苗床頭の狩人は溜息をついて歩き出す。息がどこから吐かれたか考えると正気が削られるので考えてはいけない。

 

━━・・・

 

ごうごうと燃える通りに、轢殺されたゾンビの死体が転がる。その只中を四つん這いで嗅ぎまわる存在が有る。

露出した脊椎は人間の名残を残しているのに、それはどこをどう切り取っても人間とは形容しがたい。全身に皮膚のない姿。頭部に眼球は無く、裂けた口からだらりと舌を垂らし、脳は皮膚どころか頭蓋も無く曝け出している。

 

獣の様に四足で進む手足の爪は鋭く、舗装された道路を軽く削り取る。そうして進んでいたクリーチャーは有る物に反応した様に突然立ち止まる。

前へ溢れるる前頭葉に鼻も削げ落ちた顔を、ゆらゆらと揺すり何かを探る。だらりと垂れていた舌がうねる。

そしてナニカを見つける。

それはポタリと落ちた、暗赤色の一点。

狩人の傷から滴り落ちたモノか、乱雑に打ち込んだ輸血の名残か。

 

蛇の様にうねる舌は、地面毎こそぎ取る様に血を舐める。

 

次の瞬間、剥き出しの筋繊維が泡立つ様に蠢き膨張し収縮し骨格が軋む。急速に歪み変形する筋肉に、血管が対応できずに爆ぜる。千切れ跳ぶ血管からは当然とばかりに血が噴き出た。

バケモノの口からは断末魔の染みた叫びが上がる。無茶苦茶に手足を振り回し鋭い爪が、周辺の物を無差別に抉っていく。

そうして、のたうちながらもナニカを求める様に蠢く。苗床頭の狩人の血を舐めとる。剥き出し、脈動する筋繊維が焼け爛れるのも気にせず炎の中にまで、血の跡を追いすがって求める。

 

数十秒程後、のたうち回り、炎に炙ら暴れながらも血に追い縋って居たクリーチャーは全く別の姿になって居た。

その異形の獣は一度得てしまった甘い血を求めて彷徨いだした。

 

 

 

 

アンブレラ社、セキュリティ部門チーフでありながら少佐という地位を持ち越した、ティモシー・ケインは思わず顔を歪めた。

今見せられたモノの意味が理解できず、あまりにも想定外過ぎる事象にストレスが蓄積する。

同じテント内で、それぞれのモニターを観察し続ける研究員も揃いもそろって呆けた様に成っている。異国の言葉で例えるなら、狐につままれたような顔、だ。

 

なんとか、自身を納得させる為につい先ほど起きた事を分析しようと思い起こす。

先ずはそう、目が合ったのだ。

 

正確には合って居ない。

問題無く機動したネメシスの視界に写り込んだ、男とも女とも判別の付かない妙な仮装姿の人間の顔は見えない。面と帽子が一体に成った被り物で、視線を追う事は出来ないが顔を見て居ない事は明らか。どちらを見て居るかと言えば、ネメシスがたった今装備したロケットランチャーとガトリングガンだ。

顔面で唯一見えるパーツの口が、ポカンとしている。

 

それは当然だ。

 

突然、非常識な程に発達した筋肉と怪物としか形容出来ない顔面の大男と、人間が持つには過ぎた武装を下げたネメシスと出くわせば、どんな人間だって怯むだろう。

怯んだ後にパニックを起こし、敵う筈もないのに無駄な攻撃を加えてしまう。それは分る。現に、珍妙な仮装姿の人物も一瞬硬直した後に右手に握って居た杖を振り被り殴りかかって来た。

 

未だ何の指示も与えられて居ないネメシスは棒立ちでソレを見据えている。例え鉄パイプやバールの様な物で殴られようが、たかだか人間が全力で殴った所で何てことはない。個人携行の火器でさえそうそうダメージを与えられはしない。

 

「そんな馬鹿な」

 

専門以外の社会的機能が著しく低い技術者共の一人が呟く。

パニックにより咄嗟に杖を振り被った様に見えたが殴る、という動作ではなく明確に急所を狙って飛び掛かる勢いをつけて、不自然に鋭利な先端の杖を突き出す。

軍属でも何でもないであろう、珍妙な恰好の人間には無反応であったネメシスを当然の様に穿つ。

そのダメージはしっかりとモニターに表示される。そう。ダメージを受けている。それは到底ありない事だ。まさに『そんな馬鹿な』という事態だ。

 

『ッチ』

 

明らかに不服そうに、舌打ちで口元を歪めながら不審人物は重い衣装を揺らし距離を取る。

ヒュン、と杖を一振りすると滑らかな直線で在った杖に物騒極まりない刃が並ぶ。

全くもって意味が分からない。

ネメシスも攻撃され、ダメージを受けたことにより相手を敵と認識し攻撃を開始する。それに怯む事無く、淡々と形を変え、刃を並べた鞭の様にしなりながら肉を削ぎ落そうと振るわれる。

剛力で叩き潰そうと殴りかかる、スピードの乗ったネメシスの拳もするりと避ける。

全くもって意味不明。

終いにはガトリングガンの掃射さえ、どう見ても弾道に居ただろうにするりと掻い潜り距離を詰め、床や壁の設備ばかりを穿つ。

そして背後を取る様に回った標的を追い、振り返った瞬間にあの目立つ人影は消えて居た。

 

唐突に現れた愉快な仮装野郎は、効率もクソも投げ捨てた珍妙な変形する仕込み杖を振り回し大立ち回りを演じていた。

何一つ理解できないのだ。

それ程の戦闘力、それこそ生体兵器を前に引くことなく突っ込んで来る類のナニカ。無駄な機構を備えた白兵戦にしか使えない、一体誰が何を意図して考案したのか不明な得物。刃物を振り回し接近戦のみを行うなど馬鹿げている。阿呆の様な重そうな癖に、防具としての働きなど持たそうな権威ばかりの衣装。

アリス同様、形を損なわいままに人類のその先へと進化を遂げている。だと言うのに、能率的な運用など投げ捨てた有様。

あんな、頭の悪い物体の存在意義が分らない。

 

その意味の分からないモノが、最終段階に至ったネメシス・プロジェクトに大きな影を落としている。

 

あんなモノの存在は本社から聞いてはいない。

あれがどこから湧いて出た異物かは分からないが、決して放置出来る物ではない。

 

しかしあの存在に対して思考するのは酷く苦痛だ。あんな無駄な要素ばかりで、一体どんな間抜けが産み出したのだろうか。

 

 

━━・・・

 

 

「ここまで来ればいいでしょう」

 

神秘ゲロの餌食に成る事を嫌い、先程ツレを爆発の中に置き去りにした、控え目に言って屑な脳筋狩人は病院の前で足を止めた。

何を隠そう、件のアンブレラ社の附属病院だったりする。自己顕示欲の塊の様にエンブレムが掲げられている。

辺り一帯、熱された鉄と、血と、肉の焼ける芳しい臭気に満ちて居る。もちろんその病院だって例外なく臭う。詰まるところ、ここでも地獄絵図のお祭り騒ぎが有ったのだ。

 

何というか、教会上層スメルを感じる。特に実験棟的なあれだ。頭部の肥大した罹患者や失敗作が闊歩しているかも知れない。

我欲のままに歩む狩人様は、わくわくしながら病院へ乗り込んでいく。ただ、残念な事に実験棟的なのは上では無く地下に在ったハイブだ。ついでに超人的なパワーを持つ生物兵器を作ろうとした結果、意図しない形に成ったのがその辺に居るゾンビで、狩人様がわくわくする様な失敗作は居ない。

 

失敗作は居なかった。

異星の使者が居た訳でもないけれど、アンブレラ的成功例と出くわした。

 

血痕や備品が散乱して居るが、つるりと綺麗な建物だ。ヤーナムの悍ましく黴臭い淀んだ医療機関しか記憶にない狩人様にしてみたら、綺麗過ぎてゾワゾワした。薄気味悪さを感じながら見慣れぬ物をあっちこっち突きまわし、前転で破壊し、針の細さと清潔さに感動した注射器をしこたまがめる。ついでにパンデミック騒ぎで放棄された検体もポケットないないした。病巣でも胎児でも背骨でも何でも拾っちゃう性質だから仕方がない。

 

そんな、一世紀強未来の病院を満喫した際に『ネメシス』というアンブレラ的成功例と曲がり角で運命の出会いを果たした。

 

ときめいた。

 

頭おかしいとか、精神面に異常が出てると称される狩人様だって、トゥクン、とときめく瞬間がある。人間だもの。一応。

 

それはや血の女王だったり、星の娘だったり、時計塔のマリアだったり、庇護欲そそるコマドリちゃんだったり、それぞれだ。

人形ちゃんはトキメク以上の想い抱えた狩人多数。稀に試し切りしたり、ナニカを急ぐあまり喋らせない為に斬りかかる外道も居るが。

 

そしてこの聖歌隊の皮を被った脳筋狩人がときめいたのは、馬鹿デカイ火器だ。重火器はいい。頭の悪い火力はいい。派手な爆破はいい。実用性?知るか。大事なのは熱量だ。物理的にも、胸に沸き上がるものでも。

 

自分の性癖に正直に成る為に、今現在聖歌隊に扮する為ここしばらく仕込み杖にロスマリヌス。

時々教会砲。『聖歌隊とは……?』とでも言いたそうな目で、ツレが見てくるがあれは教会の工房が作ったものなのでセーフだ。あれをぶち当てる快感を知ってしまったのだから仕方ない。

若干欲望を染み出せつつも、火力方面に関しては禁欲中だった狩人様。禁欲中にめちゃくそに好みの、黒光りする大きな、如何にも火力の有りそうなモノを見たら堪えきれなかった。

 

「……その武器置いていけぇえ!」

 

一時停止した後に、叫びと共に襲いかかった。

 

デブ、と言うには逞し過ぎる体躯だが、口の悪い狩人共は大抵大きな体格のいいおひとを、怨嗟と親しみを込めてデブと呼ぶ。だからこの狩人もネメシスをデブと認識した。

 

デブは殺さなければならぬ。

何も分かたず放り込まれたヤーナムで、何度レンガで殴殺されたか。そして何度モツを抜き、後に血晶を求め三人セットのデブを屠り続けただろうか。ヤーナムの血にはデブを殺したくなるDANでも含まれているに違いない。

 

それに、あんな銃器は流石に使者も扱って居ないだろう。むしろ使者がロケットランチャーやヘリに取り付けるレールガンなど揃え始めたら、狂える狩人共によってヤーナムは火の海に沈む。

まあ、つまり、今目の前のデブを殺して奪わなければ二度と手に入らない武器だ。己の興味に真っすぐな、狩人は欲が命じるままにネメシスを殺して武器を剥ぐ事にしたのだ。

 

そしてその一部始終を見せられた、セキュリティ部門のチーフの胃と頭に鈍痛を与えた。

 

目と目が合う瞬間、殺しに走って来ないので、先手必勝とばかり頸部ぶち抜いてやる心算で飛び掛かる。

この街に居る獣は大抵頭を落とせば良いと学んだ狩人様の行動は早い。早くそのステキな銃器で試し撃ちがしたいのだ。

だが残念な事に、ネメシスのボディはヤーナムの獣よろしく頑健で仕込み杖では火力不足だったようだ。

ファッション感覚で持っている慣れない仕掛け武器はアカンらしい。相手の動きもわかりゃしないので、バックステップで蛇腹剣へ変形させる。

よし、後退と甘えた輸血に厳しいデブでは無いようだ。

転がっても来ない。よきかな。殴りかかる速度もそこまでえげつさはない。重畳。

ただただ硬い。クソほど硬い。腹立たしい事に、輸血液をぶっ刺す事もせずに削いだ傷が行動中も修復され続ける。怯んでくれ無ければ腸をぶっこぬく事も出来ない。

 

ヤーナム狩人特有の世界の法則を無視したステップで、随分人間的な肉体言語を避ける。

旧市街やら悪夢の狩人、水銀弾補給ポイントもとい、親切な車椅子のおじちゃんなどが扱うガトリングよりも弾数も弾速も格段に優れて居る。ただそれだって謎の摂理が働くヤーナムステップで躱してしまう。

地味な硬さと、慣れない得物に自業自得な苛立ちを覚える。膝をつかせては居ないが、ケツ位掘れないかと背後に回った狩人の視界にあるものが入る。

 

それは少女。

 

病院にそっと入り込み、狩人とネメシスのじゃれ合いに身を竦ませた女の子。

 

ヤーナムの自己中心的好奇心で可動する狩人様達だが、大体が皆本能の様に少女を助けたがる。中には生粋のロリコンや、『幼女の輸血液が欲しい』という邪念を抱く者もいるかもしれないが。

悪夢を巡り続け、サイコなヤーナム野郎に成ろうが、豚の腹から出て来る赤リボンに歯噛みする。何度でも。

救いの無いあの家族を想い遣る瀬無さに沈む。

 

だから、獣狩りの夜に一人怯えた顔をする少女を見つければ何を置いてでも駆けつける。ゲロ不味い不気味な青い液体をイッキに流し込んででも離脱する。性癖に突き刺さる武器を諦めてでも『彼女を親の元に届けなければ』と動き出す。




狩人様はリアル友人の狩人が元と書いてありますが、聖歌隊の格好の人は百合推してきたり爆発が大好きだったりでやってますが、苗床頭の方は完全に見た目とまだ常識人ぽい所だけです。
苗床の本当の中の人は、アルフレート君にヤンデレ拗らせてるアデーラちゃん二号機見たいな人です。何も知らない内にアルフレート君殺してアルフレート君の血を全部自分に入れたいとか言い出す狩人です。
このお話では唯の親切なカリフラワーなだけで、変な欲望を叫びだしたりしませんのでご安心ください。
うちの狩人さんは面白みのない普通の人ですが、私が犬大好きなので犬は謝りながら殺す位です。
でも小さな頃、お父さんの初代プレステでやったバイオの犬は怖くて泣きました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。