1st Saga バタフライエフェクト (ジュネープ)
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プロローグ
ACT:1 始まり


毎日の様に取捨選択して選ぶ選択肢。それは後に大きな変化となる。そう
バタフライエフェクトのように

全ての事柄は「私達」によって成り立っている 

「私達」は一般人に紛れている。貴方の身近な人にもいるかも知れない・・・


セミの泣き声が鬱陶しいと感じる時期、片田舎の寂れたバス停に1人の小太りの中年男性が降りてきた。カンカンと照りつける日差しから逃げるように日陰に隠れると辺りをじっくりと見渡し、ため息一つ。昨晩、家族と別居したことが原因なのか、はたまたこんな僻地に飛んだ事に対しての諦めに似た感情なのか、それは彼以外知る由もない。

 

彼を焼き焦がそうとする太陽光に抗いながらスマホの地図アプリを頼りに目的の場所に向かう。彼は黙々と歩いていたが、ふと独り言を呟いた。

 

「私をケバブにするつもりか・・・」

 

仮に彼以外の人物がいたら反応に困ることを言った後に一人でクスクスと笑う。彼自身はこの様なジョークはいける口たが、いかんせん犯罪者のように濁った瞳と目つきの悪さが、周囲から疎まれていることを彼自身知っていたので諦めている。

 

しばらく歩いていると目の前に大きな、とても大きな館が見えてきた。目的の場所はここの様で彼の歩調は喉の渇きと比例してドンドン感覚が狭まっていく。最終的には少し小走りで突き出た腹部を揺らしながらその大きな門前まで来た。彼は呼吸を整えると佇まいをキチンとして、カーンと特徴のある音のインターホンを鳴らした。

 

1分ぐらい待っただろうか、門の内側から人の気配が近づいてくるのが分かる。

門を隔てた向こう側に相手の微かな鼻息と服を直しているカサゴソっというような音が聞こえてきた。それから直ぐに扉が開き、中から初老の男性がじっとりとした目で私を射抜いた

 

「すいません。十条聡子様の依頼で来たのですが・・・」

「あぁ・・・貴方様が・・・」

 

男性は時が止まったかの様に静止すると直ぐに動く・・まるで初心者用プログラミングで使うロボットの様なぎこちない動きに若干の嫌悪感を抱きつつ屋敷の中に入っていった。

男性に通された洋風の応接間で私はこの館、十条別所の女主人である十条聡子が会釈をして座ったのを見計らい彼も用意された来客用ソファにどっかりと座り込んだ。ソファの座り心地の良さを一通り堪能した後、彼女をじっくりと観察してみた。

 

4〜50代にも見える彼女の風貌だが、昔はとても美人だったであろうと容易に想像のできる顔に、彼女自身から溢れ出る触れたら壊れそうな儚い雰囲気が私の最近衰えてきた下腹部の血液が早くなったのを感じた。それを知られたくない一心で私は彼女に自己紹介をした。

 

「十条さん。この度は私を雇ってくださりありがとうございます。改めて自己紹介を。現在フリーランスで活動している・・・いや、貴方からの社員の誘いを受けたので今は「していた」ですね。立花光雄と申します。」

「ご丁寧にどうもありがとう。当館の主をやらしてもらってる十条聡子と言います。光雄さんも長い付き合いになると思うのでどうぞ、私の名前も下の名前で読んでください。」

 

そう言うと、彼女はクスリと笑いその笑顔に私は年甲斐もなく「トキメキ」を感じた。顔が赤くなるのを隠す様に私は彼女・・・聡子さんに問いかけた。

 

「心遣いありがとうございます。では、聡子さんに質問ですが何故40手前の私を正式に採用したのですか?同業者の中には私より若い人がいると思いますが・・・それに、私はプログラミング関係で生きてきて・・その、お恥ずかしい話、生計が立てづらくなっていた時に聡子さんからの食・住が保証されている正式雇用はとても有難いのですが、何故私を雇用なされたのですか?」

 

私自身、あと少しで借金をする所まで追い詰められていたのでこの話が出た瞬間に飛びついた訳だが、来る途中考えてた疑問に彼女は魅惑的な笑みを浮かべて答えていった。

 

「それは、この屋敷に着くまでに体験したあの交通の不便な立地。それに最近の若い人が好む娯楽が一切無いこの田舎町・・・いいえ、最早限界集落と言ったところかしら。そんな場所に行きたいと思う若い人を見つけるのが難しかったのよ。そして。貴方を雇用した理由は、貴方の経歴にあるわ」

 

彼女の言葉に私は合点がいった。私も20代前半は大手IT企業「サンバイオコーポレーション」に勤めていた経歴がある。私はそこで経験を積み数年後に独立、今までやってこれたのは「サンバイオコーポレーション」のネームバリューあってこそだったのだ。

 

「確かに私は「サンバイオコーポレーション」に勤めていました。」

「そうよね、実は私は資材を投じてこの屋敷の地下に大規模施設を作ったのよ。そこの総責任者として光雄さんには勤めてもらいます。」

 

「大規模施設?何故そんなものを・・・」

私が問いかけようとすると彼女は曖昧な笑みで「契約書にサインをしないとここから先は話すことができないわ」と言った。元より藁にもすがる思いでここに来た私に文句などあるはずもなく出された契約書にサインをした。

 

「では、詳しい話をいたしますので、ついてきて下さい」

そう言うと聡子さんは私を書斎に案内して行った。

 

まるでシャーロックホームズの世界に迷い込んだかのような感覚に陥る。私の目の前には大きな洋館にふさわしい書斎が広がっており、目に見える範囲でも軽く百冊は超えてるのではないかと感じる書籍量、更には蔵書の検索に使うのか、古めかしい2000年代前期のPCとその横に今となってはあまり見かけなくなったタイプライターがカウンターの上に置かれていた。しかし、それらは長く使っていないのか、埃が積もっている。

それらの光景に目を向けていた私を裏腹に、聡子さんは優雅な動きで本棚を縫うように歩き、私は少し慌てて彼女について行った。彼女から30センチ離れた位置を維持して移動しているとふと彼女は書斎の一角で立ち止まり、訝しむ私を横目に言った。「今から行う事をよく覚えて下さいね」

 

そう言うと彼女は一冊の本に手を掛けた。コナン・ドイル著「バスカヴィル家の犬」だ。その本を本棚の奥に押し込むと何かのスイッチが切り替わる音がした。何かとんでもない事が起こる期待と不安、二つの感情の発露を自分自身で感じた私は必死に平常心を保つように心がけた。しかし、私の行いは5秒後に無駄になった。

 

彼女が本を押し込んだ本棚が自動ドアのように違和感なく地面に下がって行ったのだ。目の前には一つの鉄製の扉が現れた。

 

「この様に奥に押し込むと扉が現れる様になってます。後、光雄さんの静脈情報を扉に登録するので此方にいらして下さい」

 

彼女に言われた事に反応して体は扉の情報登録端末に向かって歩いていく。

田舎とは言えこんな大きな屋敷の内部にこんなミステリアスな仕掛けを作るのはどれほどの私財を投じたのか、私の働く十条家は財閥系の家柄なのか、色々と疑問が溢れ出て正常な思考力を奪っていった。

 

「これで、静脈登録は完了しました。次回からは私が行った手順と扉の静脈チェッカーを経てこの先に入る事ができます」

「あのーこんな厳重な仕掛けを施した場所に案内して何をしてもらいたいのでしょうか?」

 

そう私が言うと、彼女は柔和な笑みを浮かべて一言「あなたの持ち場に着いたら説明します」

と言い放って扉をくぐり抜け、地下に降りていった。私は警戒を最大限に保ちながら彼女の後を慎重について行った。

 

映画館場内の階段の様に薄らと明かりのついた階段を下りる事5分、私の目の前に地面が出現した。

左右の壁の隅から光を照らしているので80年代によくやっていたSF映画の宇宙船の通路みたいだと思った。彼女は降りた後も歩調を緩めることはせずスタスタと歩いていく。道中「NR」や「MR」「GR」などのプレートが掲げられた部屋があった。予想外の広さに私と彼女以外の職員がいるだろうと当たりをつけ、歩いていると、彼女がふと立ち止まった。

 

「ここがあなたの持ち場になります。」

 

そう言って彼女が通路の脇に移動すると他の扉とは違う、入り口にあった静脈チェッカーと同じ機器の置かれた扉があった。プレートを見てみると「OR」と書かれた文字の下に小さく「Operation Room」と書かれていた。

彼女を見ると部屋に入れと言わんばかりに頷いているので、私は意を決して室内に入った。

 

「っ!・・・・これは、何というか・・・その」

「フフっどうですか?ここが今日からあなたの職場になる場所です。残念ながら名前はまだ無いので自分で好きなように名付けて結構ですよ」

 

FAXと印刷機。それとPCがあるのは普通だと思う。モニター数をデュアルどころか初っ端からトリプルモニターにしているのは目を瞑ろう。しかし私の席の前。と言っても十メートル以上は離れているが、そこには都会のテレビ広告でしか見たことのない画面が世界地図と地球を映しているのは、意味がわからない。株取引の拠点を作るのかと疑問に思ったが取り敢えず彼女に聴くことがいちばんの近道だと思い

 

「先程私を総責任者にするとおっしゃいましたが、業務の説明をお願いします」

 

と、私が言うと彼女は和かな顔を更に笑みで深めて私を見つめた。その顔は彼女の妖艶な雰囲気と相まってどこか恐ろしげな雰囲気が漂っていた。

 

 

 

 

 

世界には争いが満ちている。それは小学生でもわかる事よ。

 

そんな世界は幾度となく破滅の危機に陥った。

未知の病原菌でヨーロッパ大陸は滅びかけた。

とある独裁者は特定の人種を根絶する為に戦争を起こした。

ある国は人類の発展の為に作られた原子力を兵器に転用した・・・・・・

滅亡の危機に瀕した時は、ほんの、ほんの小さなきっかけが、大きなうねりになって世界の滅亡を回避して来た。だけど、それは偶然ではなく必然で、誰かが裏で操作しないと大きな破滅のうねりを打ち消すことは不可能なのよ。世界には大きなうねりに対抗する為に必ず対になる存在があるのよ。

 

テンプル騎士団とアサシン教団

 

独裁者と民主国家

 

魔女と魔法少女

 

共産主義と資本主義

 

人間という生き物は現状維持を嫌うのか、対抗しようとする。だから、全ては「対」によって成り立っていると言えるわ。

貴方が小学生の時にクラスには一人は居たはずよ。先生に反抗ばかりしてるヤンチャな子が。そう、それが教室という空間の「対」になる。

この対の存在が教室の中とか、小さいものだったらまだ良い。でも将来的にその子が独裁者になったら?そんな時に「私達」の存在が必要になる。

「私達」は世界中にいる。そんな私達は今日に至るまで様々な活動をして来たわ。古くは、アサシン教団の資金援助で最近だと「ワルプルギスの夜」の際に、市民の被害を最小限にとどめたわよ。まぁ、「実際に起きた知らない歴史的事件の事例」を言ったところで、説得力もないのは承知してます。だけど、貴方が働く場所は「そうゆう所」なのです。

 

 

彼女から長い話を聞いた私はなんとも言えない気持ちになっていた。聞いたこともない組織や事象をポンポン出され、今の私に言えることはこれが精一杯だった。

 

「聡子さんの言ってることは後々理解していくよう努力します。端的に言って私に何をして欲しいのですか?」

 

私の質問に聡子さんは待ってましたとばかり口を開いた。

 

「今回事例として出した事は一件を除いて国外で行われていた事です。実は日本には「私達」の拠点と言えるものがありませんでした。今までは中国大陸の管轄として問題なく機能していたのですが「ワルプルギスの夜」が起こった際、気付くのが遅れて後手に回ってしまいました。それで、何人もの少女達の人生を狂わせてしまったので、反省して「私達」は新たな拠点を日本に作る事にしたのです。」

 

そういうと彼女は一旦息を整えて続けて言った。

 

「光雄さんの主な業務は日本で起こった。又は日本から始まった「対」の事象の調整及び解決になります。」

「分かりました。しかし、その業務を私一人で行うのは些か手が足りないのでは無いですか?」

「それについては問題ありません、何も光雄さんが直接現地に行くのではなく、世界中にいるエージェントとデータリンクして、光雄さんはここで指揮を取れば良いのです」

 

彼女は私に指揮官になれと言っているようだ。しかし、私には指揮する才能などある筈もない。会社に出社し続けるだけの人生が嫌でフリーランスになった様な半分自由人な私の何を見込んだのか知らないが、彼女の瞳を見てると確固たる意志によって決められている雰囲気を感じた。

 

「何故私に?指揮官なんていくらでも居るでしょう?契約書にサインを書いた限りはきちんと業務を行いますが・・・人選を誤ったのではないですか?」

「光雄さんのいうことも最もですね。実は私達には「能力を数値化する機械」を保有しているのです。それによると光雄さんの指揮官としての潜在能力は上位に入ります。」

「「上位に入る」・・・ですか、上位に入る人なんて、そこら辺に沢山いるでしょう?きっと他に要因があるはずです。」

 

私がそう返すと彼女は鳩が豆鉄砲食らったかのような顔をした後にクスクスと上品な笑いを浮かべてこう言い放った。

 

「ええ、光雄さんの言うとおり光雄さんよりも高い能力の人は沢山います。しかし、ほとんどの人さ「私達」にはお誘いできないのです。」

「何故でしょうか?」

「それは「野心」の数値が比例して高いからです。「私達」の指揮官になる方には指揮官としての潜在能力と低い野心の二つを兼ね揃えてなければいけないのよ。」

 

そう言われて私は納得した。そもそも「サンバイオコーポレーション」に入社したのも出世の為ではなく、集団面接で友達の付き添いで受けたら合格しただけなのだから大企業を数年で辞めたのも頷けるし、それが「野心が低かったから」と言われても説得力が増すものだ。最近だと大企業アンブレラ社が長い裁判の末に倒産した煽りを受けて、他の産業が不景気になった時に私は人を騙して、金を稼ごうとは思わなかった。自分で思うのもなんだが聖人君主とは私の様な人を指すのではないかと錯覚する事はしばしばあった。

 

「そうだったんですね、ありがとうございます。では立花光雄、謹んで総責任者を拝命いたします」

「こちらこそ、ありがとうございます。光雄さんの私室は地下と地上の二箇所に作りましたので、そちらに案内しますね。今日は遠路遥々来ていただいて、それに、突拍子もない様な話を聞いてお疲れでしょう。使用人が夕食をご用意してる頃合いだと思うので地上に戻りましょうか」

 

そう言って「OR」から出ようとした彼女の背に私は「この場所の名前を考えたので今言っていいですか?」と問いかけると彼女は興味深げな瞳で「いいわよ」と頷いた。

 

「この職場の名前は「リライター」です。」

 

「リライター・・ですか。何となく理由は察する事はできますが光雄さんの口からお聞きしてもよろしいですか?」

「バタフライエフェクト・・バタフライ効果とも呼ばれる表現をご存知でしょうか?大雑把に言うと何か小さなきっかけが起こる起こらない場合の世界は大分違うという意味です。この組織は様々な「対」の何方かに肩入れして世界滅亡の筋書きから救う。まるで書き換える者<リライター>だと思ったのでこの名前にしました」

 

そう言うと彼女はにっこりと微笑んで、付いてきなさいと言わんばかりに部屋を出て行った。私も追従する形で地上に上がると書斎は暗くなっており、書斎の窓から優しい光が辺りを照らしていた。外を見ると上空には満点の星空が広がっていた。

都会暮らしに慣れて星空とは無縁の生活を何十年も送って来た彼からしたら、この空はとても力強く、それでいて都会から出る光よりも優しさのある光のように思えた。

 

 

案内された部屋は今まで見た部屋よりも(比較的)こじんまりとした部屋でテーブルに3人分の食事が並べられていた。味噌汁、豚肉の野菜炒め、白米・・この屋敷に不釣り合いな至って庶民的な料理だが、私は初日疲れからなのか、ペロリとご飯を平らげ、お代わりを要求した。その様子を見ていた彼女はクスクスと笑って、使用人におかわりを持ってくるように言った。使用人の(案件メッセージを書いた人なら後藤さんのはず)後藤さんは最初のじっとりとした目線が嘘のように、優しげな目で食事を出して、彼女と楽しんで食事をしていた。最初に見たロボットのような動きは変わらないが・・・

 

食後に出されたお茶を飲んで寛いでいる時に私は職員について聞いた。

 

「聡子さん。ひとつお聞きしたいのですが、あの施設には私以外に何人の職員がいますか?出来れば明日あたりに連絡を入れてオリエンテーションを行いたいと思っているのですが」

「すいません。重要な事を言い忘れてましたね。あの施設には特定の職員は光雄さん以外いません。この施設は日本に来たエージェントの拠点として使用するつもりです。エージェントは特定の拠点にいる訳ではなく、一般人として日常生活を送っているのよ。例えば、主婦や警察官にサラリーマン・・・小中高校生もいるわよ?」

「・・・・小中高校生もですか・・と言う事はあれですか?此処は来訪したエージェントとの打ち合わせ兼司令部兼補給施設ということですか?」

 

私は無言で肯く彼女を見て明日の業務が得体の知れない物に変化していくように感じられた。

 

「あら?光雄さん目がトロントしていますよ?後藤。光雄さんを寝室に案内してあげて」

 

彼女が私を見て使用人に声をかけると私は案内されるまま私の私室に連れて行かれた。

「こちらが光雄様の私室になります。」そう言って使用人は頭を下げて、そそくさと退出した。案内された部屋は、まるで高級ホテルを小さくしたような内装で居心地の悪さを感じたが、これから此処で暮らしていく内に慣れるだろうと割り切って風呂に入った。

15分ぐらいで風呂場から出た私は備え付けのドライヤーで髪を乾かして部屋着に着替え終えた。

時計を見たら夜の10時になっており、明日の業務に備えて布団に入った。

それから、5分もたたない内に私の意識は夢の中へと旅立った。




滅茶苦茶遅い投稿頻度となる予定です。根本的な世界観については次の話で出す予定です。今はオリジナル作品ですが、考えによっては何かの作品の世界をベースにするかもです。


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RV2〜3.2登場人物 おまけ

 

立花光雄(38歳)

・メイン主人公。フリーランスで暮らしていくのに限界を感じて十条家で働くことを決意した。妻と娘とは別居中。新しい職場に順応しようと必死に努力している。

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・アンドリュー・フェルト(36歳)

「組織」のエージェント。何処か達観した様な瞳が特徴的な人物。新米として初めて指揮を取る主人公を何処か試している様な節がある。

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十条聡子(42歳)

・十条家現当主。スラリとした体付きは見るもの全てを惑わす世間一般で言う美魔女の様な存在。

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加藤源三郎(69歳)

・十条家使用人。屋敷に似合わない格好をしている。主人である十条聡子が生まれた時からそばに使えており、彼女を我が子の様に可愛がり敬愛している

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ロバート・タイソン(48歳)

1950年、フランスノルマンディー生まれ。

幼い頃、両親に捨てられ、オームレスとなる。同じ境遇の子供を率いて略奪や窃盗を繰り返していた。思春期になると、仲間と一緒に婦女子を誘拐しては強姦をする毎日を送っていたため、業を煮やした警察によって1965年に逮捕された。その後、出所した彼は結婚した。しかし、1989年自身の娘に性的暴行を加えたとして家に踏み込んだ警官3人を射殺し、逃亡。逃亡先で仲間を作り銀行強盗を行ったが失敗に終わり死刑が宣告された。そんな時にアンブレラによるスカウトを受託、タンゴ小隊小隊長になる。

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ミカエル・マクレーン(25歳)

イギリスロンドン出身。16歳の頃から麻薬シンジゲートの暗殺者として活動。

ある暗殺任務に失敗して、警察に自首。100人を超える人物を殺害していることが判明して、死刑宣告を受けた。しかし、アンブレラの取引に応じU,B,C,Sのオスカー小隊第4分隊分隊長になる

 

 

マイケル・ウォレス(21歳)

アメリカニューヨーク出身。ニューヨーク市警で勤務していたが、問題行動を起こし数か月でラクーン市警に転属になった。転属先でも問題を起こしていたが、市民からは慕われていた。諸事情によりSWATの運転手として配属された。

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おまけ

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以下メタ的な文が続きます。

 

 

バイオハザードRV2〜3.2編では登場人物が少なく投稿するのに十分な文字が足りないのでこの世界の説明をします。

 

ACT1で「対」について説明をする件でテンプル騎士団とアサシン、魔女と魔法少女と記載していますがこの世界では原作群と同じ様な対立や物語が発生しています。まどか☆マギカは「ワルプルギスの夜」が発生した後なので作品自体は終了しており物語本編に介入、登場する事はありません。アサシンクリードシリーズは執筆時点(2021/01/30)でも続いているシリーズで時系列だとシンジゲートが新しいので現状今主人公がいる年(2011年)と絡めることができません。例外としてアブスターゴ社が存在しますがメインであるバイオハザードと絡める事は現状考えていません。

 

現実世界にも存在する「中核派」はこの世界ではちょっぴり力を持っている状態で結構ヤバめの組織として現在まで残っていると言う裏設定が存在しますが、物語上で露骨表現をする事はありません。が、バイオ系統の作品の都合上学園黙示録も絡めていきたいな〜と思っているのでもし仮に左寄りの人が見ていたら先に言います。すいませんでした。

 

ゲームやアニメ作品が原作の物だと出来る限り自分でプレイするか視聴して執筆したい所ですが時間や金銭的な都合上、YouTubeなどの動画サイトを通じで情報を収集する場合があります。そうなった場合ストーリー展開や登場キャラの設定に細かな矛盾が生じてしまう可能性があります。なのでその場合は感想欄などで指摘していただけると幸いです

 



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バイオハザードRV2〜3.2
ACT:2


「対」が紡ぎ出す物語には我等あり

彼はバタフライエフェクトの被害者だった。
彼はそれを知っても尚、己と向き合い続けた。
彼は運命を調整する者の仲間となった

組織は彼を鍛えた
彼は組織に応えるように努力した。
組織は彼に対価を支払った。
彼は組織と自分のために装備を買った。

全てはほんの小さな切っ掛けで回り出す

バタフライエフェクト・・・彼は初めて体験する
バタフライエフェクトによって変わる分岐点の存在を

エージェント。それはバタフライエフェクトによって運命を翻弄された者達

エージェント。それは運命から見捨てられた者達

エージェント。それは運命によって心が壊された者達

エージェント・・・・それは「主人公」になり得た者達

バタフライエフェクトを発動・・・彼の脳内に語りかけるとしよう

物語で消えるはずだった命

物語で少しは生存できた命

一つのイレギュラーで全ては「書き換わる」


バタフライエフェクトは人々の意思


翌朝、7時に起床した私は1人、昨日夕食を食べた部屋・・・「食堂」に向かい使用人が作ってくれたベーコンエッグとトーストを味わうようにして食べて、食後にブラックコーヒーを楽しんだ。8時に部屋に戻り風呂に入っていると、外から「光雄様、業務に入る際に身につける制服を置いときます」と聞こえたのは私は「分かりました。ありがとうございます」と答えた。

 

15分後に風呂場から出て服に着替え終わると私は身嗜みを整えるために姿鏡の自信と向き合った。

 

何とも言えない・・・例えるならスターウォーズやサンマリノ共和国の城塞警備隊の様な格好と言えば良いだろうか。

しかし、室内というのにマントと軍帽を付けないといけないのは少し不便だ。昨日行った地下やこの屋敷は空調設備がついてるので大丈夫だが、外の暑い季節になったら、確実に倒れてしまうのは必須だ。しかし、昨日の契約書には、「初回の勤務と従業員のいる前では常に責任者たる服装でいる事」と明記されていたので、この格好のまま「リライター」に向かう事にした。

 

 

「ベクター、スニーク(隠密)RTB(帰投せよ)

「OR、アンサー(回答)ネガティブ(無理だ)

「ベクター、ウェポン(武器)リミットオープン(限定開放)サイレント(サイレンサー)

「OR、コピー」

 

現在私は「リライター」の「オペレーションルーム」で指揮を取っている。なんでも、NGO法人「テラセイブ」の本部が敵対組織に襲撃されて、数人のメンバーが拉致されたらしい。テラセイブの本部はアメリカにあるので、アメリカ支部に任せれば良い話だが、この事件は日本海のロシア領にある島に拉致被害者を収容しているとの情報をキャッチ。しかし、担当する筈だったアメリカ支部は物理的に離れすぎている為、ロシア支部か日本支部の何方かが請負う事になった。私としてはロシア領内で行われている事なのであちら側でやって欲しいところだが、追加で入った情報で私の考えは180度変わった

 

「拉致被害者に日本人が含まれている?」

 

「そうみたいだ。我々としては「国よりも人の生き死にによる損得」で動いている。だから、今回は日本支部に任せる事にする。」

 

大画面に映るロシア支部の責任者はそう言うと、私の意見も聞かずにそそくさと通信を切断した。

 

勤務開始10分後の出来事であった。

 

それから20分ぐらいは席の近くにあった説明書片手にエージェントの手配、顔合わせ、移動手段の確保、武器の用意のセッティングを行う事にした

 

それらの作業はとても簡単なもので顔合わせ以外は全て端末操作で行うことが出来るらしい。試しに席に備え付けられているPCを開いてみると上から「作戦セッティング」「エージェント」「乗り物」「武器」という欄があり、「作戦セッティング」以外は少し暗く表示されている。説明書によると上の項目を満たすごとに下の項目がハイライトして選択可能になるらしい・・・正直な話、ターン制ストラテジーゲームをやってる感覚に近い。そんな考えを振り払い、先ず「作戦セッティング」をクリックした。すると今度は「作戦区域」「作戦内容」「制限」の項目が表示されたので、早速選ぶ事にした。

「作戦区域」の項目では世界地図が表示されて、対象の地域の範囲を選択してクリックする事で設定することが出来る。操作自体は簡単でマウスポインターを左クリックしながら。囲うだけで良かった。

次に行った「作戦内容」の項目をクリックすると、色々な項目がドロップダウンとして羅列されており、私はその中の「救出」を選択した。

「制限」も「作戦内容」と同様だったので「隠密」を選択して次の設定項目に移った。

 

「エージェント」の項目をタッチすると画面一杯にエージェントの顔写真が表示された。どうやら、現在対応可能な近くの人員を表示しているらしい。便利な事に絞り込み機能があったので私は「隠密」「単独」を選択して数十人まで絞り込む事に成功した。試しに1人のエージェントを選択するとこの様な表示が出てきた。

 

ーーーーーーーーーーー

 

NAME: アンドリュー・フェルト

AGE:36

SEX: 男性

SKILL:隠密、単独行動、救出任務

CAREER

1975年イギリスのウェールズで誕生。幼少期から彼に対する評判は良かった。1993年18歳でイギリス軍に入隊。1995年SAS隊員になり、何度か実戦経験を積む。そんな時1997年の極秘作戦中に民間人を誤って爆殺。それにより軍法会議にかけられ、死刑判決を下されたが、製薬企業「アンブレラ」の取引に応じ同年「U.B.C.S」に入隊。「ラクーンシティ事件」の際に分隊長として作戦参加。分隊員と多数の民間人の救出に成功する。アンブレラが事実上倒産した際にエージェントに加入

 

ーーーーーーーーーーー

 

適当に開いたにしては中々良い人材を見つけたと思い私はエージェントを決定した。

 

「乗り物」に関しては、今回は孤島という事でヘリかボートを考えたが、「隠密任務」の事を考えたらボートが最適だと思い、「ボート」を選択。

「武器」に関して私は専門外なので、説明書を見る事にした。

曰く「武器は20キロ以下は隠密」

曰く「隠密ならサイレンサーの装着可能な物を」

曰く「操作性と耐久性を考えろ」

 

・・・・・らしい

 

取り敢えずエージェントが直前に所属していた「U.B.C.S」が「ラクーンシティ壊滅事件」の際に使用していた武器はこの組織のデータバンクに記載されていた。

どうやら「CQB-R」という武器と「G18」の武器の様だ。それとサイレンサーと弾薬を10マガジン分を追加で選択した。

 

全部の項目を埋め切ったら、「これらの項目内容でよろしいですか?」と確認画面が出てきたのでエンターキーを押して決定。後は気長にエージェントが来るまで説明書を読み耽っていた。

 

10時になるとPC上に効果音と共にコールボタンが出現したのでそれをクリックした。

 

「司令官、エージェントが到着しましたので、「リライター」に通す許可と、扉の開閉をお願いします。」

「分かった。エージェントには、会議室で待っていると伝えてくれ」

 

使用人と2、3言応答すると、デスクにあるボタンを押し込んだ。説明書通りなら、これで静脈チェックしなくても、扉が開くはずだ。それから私はPCの横に置いていた帽子を被り、椅子から立ち上がって身嗜みを整えつつ、オペレーションルームを後にした。

それから通路を移動して「MR」と書かれて部屋に入ると既にエージェントは椅子に座って待機しており、私を視認するなり立ち上がって敬礼をしてきた。それに対して私は「休め」と一言発してから顔合わせを行う事にした。

 

「日本支部を任されている責任者・・・いや、司令官の立花光雄だ。君の名前は?」

「はっ、私の名前はアンドリュー・フェルトであります。」

 

私の誰何に答えた男は私とあまり歳が変わらないというのに写真で見るよりも言いようのない凄みを感じられた。

 

「早速だが、ブリーフィングを始める。今回の救出目標はテラセイブ職員の「羽田三枝」だ。作戦地域は日本海側のロシア領に位置する孤島。そこでは「生物兵器」の実験が行われており、情報筋によると、バイオハザードが発生しているとの事だ。作戦区域には我々が陰ながら支援している「対」が2人もいる。なので、極力「対」にばれない様に隠密行動で対象の生死確認。生きてたら用意したボートで一緒に脱出してくれ。死亡していた場合は、そのまま放置して至急作戦エリアから撤退せよ。ここまでで何か質問はないか?」

 

「いや、特に無いな・・・いや、少し気になったことがあるんだが、もしかして司令官殿はこれが「初体験」ですか?」

「・・・・そうだ。私自身とても不安だが、君を死なせる様なことはしないと誓う・・・他に何か質問は?」

「いや・・・特に無い。新米司令官様のお手並を拝見するとしますよ。」

 

「余り期待はしないほうがいい・・・それと「対」2人の資料・・・「クレア・レッドフィールド」と「バリー・バートン」の資料を後で君の端末に送信しとく。アンドリューのコールサインは作戦開始後「ベクター」だ。ブリーフィングは以上だ。解散」

 

私がそう言うとアンドリューは様になった手つきで敬礼をするとそそくさと退出した。

それから私は「作戦中の指示説明書」の「隠密作戦」項目を参照しながら指示を出していたが、現場についてから、彼に備え付けられたアイカメラで凄惨な島の様子を確認することが出来た。正に「この世の地獄」と言うにふさわしい。

こんな光景を彼は「ラクーンシティ」でずっと見てきたと思うとベクターのことがとても逞しいランボーの様な人に思えてきた。

そんなことを考えていた時にふと、大画面に視線を戻すと、ベクターは錆び付いた部屋の前に立ち止まってピッキングを行っていた。

鍵が解除されて音を出さない様に入った彼のアイカメラに映った映像は最悪な物だった。

 

「まじか・・・OR、ターゲットデストロイ」

 

「ターゲットデストロイ」つまり、死亡が確認されたと言う事だ。初任務は失敗に終わり私はベクターに帰投する様に指示を出した。

 

 

 

冒頭に戻る

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

Side:アンドリュー・フェルト

 

 

 

 

強烈な死臭と僅かに香る硝煙の匂い。BGMに誰かの悲鳴と散発的な発砲音が目の前の地獄を彩っている。

撃てども撃てども死なない「奴ら」に恐怖を覚えていた私は残弾数を気にしていなかった。弾切れになった銃を何度も何度も空撃ちしている所に鉄拳が振り下ろされた。

 

「おい!アンドリュー!貴様は分隊長だろ?!上に立つ者が下の奴らの前で醜態を晒して良いと思ってるのか?!」

 

「しょ・・・ロバート小隊長・・・すいません。錯乱してました。」

 

俺を殴った男は「ロバート・タイソン」タンゴ小隊隊長だ。黒人の偉丈夫で片手でショットガン、を「奴ら」に向けながら俺を叱咤してくれた。正気に戻った俺は「奴ら」を冷静に分析した。すると彼らは「頭に鉛玉をぶち込んだら動かなくなる」と言う事に気づき、早速指示を出す事にした。

 

「第2分隊!奴らの頭を狙え!ダブルタップで確実に撃ち込め!腕に自信がない奴は足を撃って動きを阻害しろ!」

 

俺の指示に周りで射撃していた部下が「了解」と返信したので、小隊長に感謝の言葉を伝えた。その言葉に対する返事は「馬鹿野郎、今はそれどころじゃねぇだろ?」・・・・・確かにと気を引き締めて、周囲の掃討を行った。

ライフル

ライフル

ショットガン

ライフル

ライフル

分隊員3名と俺のライフル音の他に小隊長のショットガンが聞こえる。

 

ライフル

ショットガン

ライフル

ライフル

ライフル

 

死者の数はどんどん数を減らしていき後は残党掃討戦に移行出来そうだ。

 

ライフル

ライフル

ライフル

ライフル

 

俺は違和感を感じた。さっきまで響いていたショットガンの発射音が聞こえないからだ。不思議に思って小隊長の方を向いてみると彼は棒立ちで後ろを向いていた。

 

「小隊長?如何したんですか?・・・」

 

私の言葉に無言を貫く小隊長。すると彼の体がフラフラとしたかと思うと上向きに倒れた。小隊長は目を見開いたまま首をパックリと切り裂かれて絶命していた。

 

「小隊長!・・・・?!」

 

私は彼に近づこうとしたが、嫌な気配を感じ、小隊長が向いていた方向に顔を向ける。

そこには、カエルのような色合いで、鋭い爪を持った化け物《ハンター》がこちらを睨んでいた

 

 

 

 

「っ!!!・・・・なんだ、夢か」

 

久々に昔の事を夢に見てしまったからか、呼吸は荒く、胸の動悸も激しく脈打っていた。あの日から13年。あの日の事は忘れようと努力していたが、こうして時たま夢で見ることがある。そんな時は決まってろくなことが起こらない物だ。

暫くベッドの上で物思いにふけっているとピッピ、ピッピとアラームが鳴った。このアラームは組織の召集の時に鳴る物だ。

 

「なんだってこんな夢を見た時に・・・」

 

そうぼやきながら私は身支度を済ますと愛用のバイクに跨り、目的地に向かった。

 

俺はあの惨劇が起きて雇い主(アンブレラ社)がいなくなった時に「組織」からのスカウト。それに飛びついた俺は早速日本に移り住んだ。治安も他の国と比べると格段にマシで、物価もアメリカよりは安い。唯一のネックは外国人に対して余りオープンではない所か・・・そんな日本にもつい最近新しく支部を作ると聞いたので俺はそこの新しい司令官と支部を楽しみにバイクを飛ばした。

 

「ここが・・・日本支部・・・」

 

1時間ほどで着いた日本支部は噂に聞く極道の本拠地の様な建物だった。俺は門のインターホンをならすと、「エージェント・アンドリュー。司令官がお待ちです」そう言って扉が開くと、目の前には初老の男性が立っていた。男性は俺を案内している道中。まるで機械の様な、カクツいたた動きをするので、この屋敷自体はまるで操り人形の館みたいだと感じた。

 

 

基地の中は新設された物だからか、他の支部よりも真新しく、少しテンションが上がってしまったのは仕方がないだろう・・・しかし、だからといって司令官も新しく補充することもないだろうに。

彼が見た司令官は組織の司令官が着用する制服を身に纏っているが、何処か「新入生」「新入社員」という印象があった。彼自信、不慣れである事を正直に言った事には好感が持てる。そんな気持ちはブリーフィング内容を聞いた時には吹き飛んでしまったが。

「俺を選んでくれるなんて分かってるじゃないか」そう私は言いたいが、上司と部下の立場上余り、過ぎた口調は慎むべきだと感じ一通りの返事を行った。日本支部・・・「リライター」を出た私は使用人が用意した装備・・・それも「あの時(ラクーン)」と一緒の奴を身に纏って彼が操作するヘリでボートのある船着場まで移動した。その間に私は「対」に関する資料を見る事にした

 

 

ーーーーーーーーーーー

NAME:クレア・レッドフィールド

AGE:32歳

SEX:女性

CAREER

ラクーンシティ事件の生き残り。彼女は同じ「対」である「レオン・S・ケネディ」と「シェリー・バーキン」と共に「ラクーンシティ」を脱出。その後独自に「アンブレラ」を調査していた事が発覚し、2005年、「ロックフォード島」に拉致監禁される。その際に、「組織」は彼女の脱出補助を行う為、武器弾薬を移動ルート上に配置し、脱出補助を行った。

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

ーーーーーーーーーーー

NAME:バリー・バートン

AGE:51歳

SEX:男性

CAREER

SWATの経験を得てラクーンシティ特殊部隊「S.T.A.R.S」に入隊。「洋館事件」の生存者。現在は妻と2人でカナダに住んでいる。娘のモイラ・バートンがクレア・レッドフィールドと共に拉致されたを事を知り、作戦区域の島に上陸

ーーーーーーーーーーー

 

まさか、俺と同じ「あの惨劇」を潜り抜けた・・しかも1人はあの「洋館事件」からのサバイバーという事を知り、今朝見た悪夢は悪夢のままでは済まされない物か、と天を仰いだ。

 

(「対」の内1人は何とか躱せるが・・問題は「バリー・バートン」だ。奴の経歴は侮れない・・)

 

船着場近くのヘリポートに着陸したヘリは私を下ろして「リライター」に戻って行った。

用意されたボートは、クルージングボートと言う奴で、対象が仮に負傷していても無理なく運ぶ気とのできる。新米司令官にしては良いチョイスだと感心した。早速、船着場のボートの縄を解いてエンジンを始動、目的の島までノンブレーキで発進した。

 

 

島に着いたのは現地時間で18時頃、島の船着場まで極力音が響かないような速度で前進したのが良かったのか、誰にも気づかれる事無く止める事ができた。

 

「ベクターから司令部。作戦地域に入った。これより、無線は略式での返答とする。オーバー」

 

そう言うと俺はグラス型HUDに搭載されているアイカメラの電源をオンにして、司令部とデータリンクを行いつつ、装備の点検を行った。

 

「OR、オペレーション、スタート(作戦開始)

「ベクター、コピー」

 

彼の長い夜はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

暗くなって視界の悪くなった村に俺は音を立てずに、尚且つ素早く歩いている。視界の悪い場所でスタスタ歩いているのは、今回の任務で支給されたHUDグラスのお陰だ。この島の地形情報や、オペレーションルームから送られてくる作戦情報の確認、更にグラス本体から発信されている電波によって1キロ先の生体反応をいち早く察知する事ができる。それは「普通の任務」では重宝されてるだろう。しかし、この任務の主な障害物は「感染者」だ。奴らの生命活動はすでに停止しているので、目視による確認と長年の勘に頼りざる得ない。

と言っても、「生物兵器」や今回のような救出任務には必要不可欠なのには変わり無いが。

 

生体反応は、地下から出ているので、HUDに送られてくるホロマップを食い入るように見つめ、適当な場所に当たりをつけた。

暫く進んでいくと、何かの入り口らしき物が見えてきたのでオペレーションルームに連絡を取る事にした。

 

「OR、アプローチ(進入)、オーバー」

「ベクター、コピー」

 

昔は採掘場だっただろう場所を、改造した場所は秘密基地のようだが、「リライター」のような清潔さのかけらも無く、血が至るところに付着して、此処で「何か」が起こったと感じされる雰囲気を醸し出していた。極力音を出さないようにしているが、緊張の余り少し呼吸が浅くなっているのを感じる。言いようのない恐怖を感じているが、それを鍛え上げた己の精神力で押さえ込み、道を進んで行った。

道を進んで行くと、縦に伸びる大きな吹き抜けに出た。円状に伸びる壁に張り付くように天辺まで続くのレールは下まで続いていたが、無理に取り付けたであろう換気扇によって途中で断線していた。

換気扇の下には死体袋が大量に吊り下げられており、「組織」に入ってから数多の現場を見てきた俺の精神状態は、先ほどとは打って変わって冷静になっていた。

それと言うのも俺にとっては、どんな恐怖より、「何か出そうで、何も出ない」恐怖が勝っているからに他ならない。オペレーションルームの新人司令官はどうか分からないが・・・。

生体反応は換気扇の下の出ていることを確認した俺は音を立てないように換気扇の下に降りた。

目の前には鉄の扉があったが、鍵は掛かっていないみたいだ。ここから先は嫌な予感がしたので、自前で持っていた光学迷彩を起動した。

扉の先を歩き続けると、左手に扉があるのに気づいた。扉の前には大量の血液が撒き散らされており、扉の先からは、微弱ながら生体反応が出ていた。扉を開けようとしたが鍵がかかっているようで、ピッキングツールを用いて扉を開ける事に成功した。音を極力出さないようにして侵入した俺は目の前の光景に絶句した。

テーブルの上に「何か」を布で被せているが、その布を貫通するように吊るし針が飛び出ていた。被せられているところからピクピクと何かが蠢いている事に気付いた俺は「マジかよ・・」と一言発して布をめくった。そこに居たのは救出目標であった「羽田三枝」だった。

彼女の体の重要機関に近い部分を刺されており、首の動脈ふきんギリギリを刺された彼女は涙を流しながら、俺を見つめた。それから直ぐに女性の瞳から光が消え、HUDに表示されていた生命反応も途切れた事を確認した。

 

「・・・・OR、ターゲット、デストロイ(破壊)

 

その報告を聞いたオペレーションルームは暫く沈黙の後に指示を出してきた

 

「ベクター、スニーク、RTB」

 

隠密による帰投命令が出たので、即座に撤収しようと、換気扇の場所まで戻ってきたのは良いが、HUDに生体反応が2つ近づいてくると表示があった。上に上がる道は一つしかない、つまり、光学迷彩で隠れていたとしてもバレてしまうののは、必須だと言うことだ。

 

「OR、アンサー、ネガティブ」

 

そうなると隠密による帰投は不可能な可能性がある。司令部にそう言った時に遠くから声が聞こえてきた。

 

「モイラ、大丈夫?怪我はない?」

「クレア、訳わかんないよ!」

「落ち着いて」

「ここ何なの?!・・何で私たちが!!」

「静かに・・何とかするから」

 

どうやら「対」1人、クレア・レッドフィールドともう1人の同伴者がこちらに来るみたいだ。

 

「もうやだ、こんなとこ耐えられない」

「しー、分かってる、ここから出るわよ」

構内だからか、小さく声をしぼめているはずのクレアの声すらも聴こえてくる。そんな時、司令部からこんな指示がきた。

「ベクター、フェポン、リミットオープン、サイレント」

「OR、コピー」

 

リミットオープン、サイレント・・・つまり、隠密武器なら使用可能という事だ。これで「対」に気づかれないように何とかやり過ごすしかない。

 

「私たちが何したって言うの?!これどうゆう事?!」

「私にも分からないわ・・・」

 

その声を最後に足音が、下の横穴から近づいてくるのが分かる。

 

(どうする?どこに隠れれば良い?・・・?!そうだ!「死体袋」)

 

俺は死体袋が吊り下げられている場所に飛び乗っって死体に抱きつくようにして同化した。さっきまで足場にしていた場所の一部が下に落ちて、音を鳴らしたが、「対」が通り過ぎるまでの辛抱だ。

 

少しして、下の扉が開く音が聞こえたかと思うと、2人の女性。片方はティーンエイジャーのような容姿の少女で、もう片方は・・・報告書にあった「対」のクレア・レッドフィールドである事が確認できた。

彼女たちが俺のいる所まで近づいてきたときに、ふと嫌な予感がした。自分の乗っている死体袋がビリビリと小さくであるが、破れて行っているのである。俺は必死に吊るし針を腕全体で掴んで、下半身で死体袋が落ちないように踏ん張っていた。

もう少しでクレア達が通り過ぎると言う時に、とうとう死体袋が千切れて落ちそうになったが、それを俺の鍛え上げた下半身と上半身で繋ぎとめた。しかし、落ちそうになっていた物を反対方向の力で止めた訳なので、大きな音が当たり一面に鳴り響いた。

「?!」と驚いた顔で彼女達は俺のいる方向を見たが、光学迷彩が効いてあるのが功をなし、何とかバレずにやり過ごす事が出来た。

 

彼女達は、救出対象であった「羽田三枝」のいる部屋に向かったようだ。姿が見えなくなったのを確認した俺は下半身で支えていた死体袋を下に落とし、彼女達が通った通路に降り立った。

その後、タイミングを合わせて、用意していたフックショットを使い換気扇から、外に脱出することに成功した。

 

 

ORでベクターのHUDから送られてくる映像を見ながら、私は生まれてこの方感じた事のない緊張感に包まれていることに気づいた。

 

画面越しとはいえ、初めて見る人の死。

 

画面越しとはいえ、こちらに伝わってくる緊迫感

 

画面越しとは言え、伝わってくる異様な雰囲気

 

これらを感じた私は気分が悪くなったが、憎たらしい事に、契約書に「業務中は緊急事態を除いて退出してはならない」と明記されていた。これは、「組織」の規約なのか、聡子さんが独自に考えたローカルルールなのかは分からない。

そんな事を考えているうちにも事態は刻々と進行している。

大画面では、フックショットを上に向けて撃ったアンドリューが脱出する為に動いているのが分かる。流石はSASとU.B.C.Sを経験している男だと感心した。

 

『バタフライエフェクトはいつも直ぐそばに』

 

「なんだ?今誰かが・・・なんだ・・・これは・・・」

 

戦術画面に写っている島の衛星映像。そこには、何かが蠢いている事が確認できた。何か分からないので、モードを通常からサーマルモードに切り替えた私は絶句した。

蠢いている一つ一つが島の島民らしき人々だった。しかし、その島民の様子があまりにおかしいので、アンドリューに連絡を入れた。

 

「ベクター、エスケープポイント、アンノウン(脱出ポイントに正体不明の勢力)

「OR、アンノウンの数は?」

「ベクター、アンノウン、20オーバー」

 

私がそういうと、HUDから拾われる音の中から、

「マジかよ・・・感染者か?・・・いや、一旦偵察するに限るな」と声が聞こえてきた。どうやら、敵は感染者・・・所謂「ゾンビ」と呼ばれる物である可能性が大きいらしい。

ここは司令室。現場に間違っても乗り込むわけにはいかないし、敵を倒し過ぎたら「組織」の「「対」の内、人類にプラスになる方を陰ながら支援する」と言うスローガンを(怪しいが)無視してしまう可能性がある。なので私は略式無線を辞めて、ダイレクトに話す事にした。

 

「ORより、ベクター。敵が感染者だった場合、自身の身を守る事を最優先に行動して欲しい。しかし、「組織」は「対」に対して余り、介入しないと言うスローガンを掲げている。よって殺傷する敵の数を10体と定める。無茶を承知で頼むが、やってくれるか?」

「ベクターより、OR。了解した。それと、やっとまともなやり取りでする様になったじゃないか。普通5人以下のエージェントを指揮するときは、今みたいなやり取りが「組織」では常識なんだよ。新人司令官様は何でもかんでも説明書通りにこなす頑固頭だと思っていたが・・・成長しましたね。ベクター、オーバー」

 

私の無茶な作戦にもイエスと言ってくれたのは彼の軍人だった頃の癖なのか、それとも経験による自信の現れなのかは「今は」分からない。が、私は彼に少しだけ認められたような気がして嬉しい反面、説明書通りに行おうとしていた私自身を恥ずかしく思うようになった。

常に状況の動く現場で、1人のエージェントに対してそのような態度で接するのは(説明書では)普通だが、今のような態度で接するのも普通なんだと言う事に気づいた。

歳をとって思考が凝り固まっている悪い証拠だ。私は彼に何かお礼をしないといけないような気がしたので、こう言った。

 

「ORからベクター。この作戦が終わったら上手い料理を一緒にどうだ?明日は休日なんだ。」

「ベクターよりOR。俺はノンケだぞ?」

「いいや、そうゆう事ではない。私の初陣祝いに招待したいんだよ。勿論、料金は私が払う」

「そうゆう事なら大歓迎だ。必ず成功させるから、財布の中身を確認しながら待っててくれよ。ベクター、オーバー」

 

私らしくないな。そう考えると突然頭の中に『バタフライエフェクトは進んでいく。他の選択肢を捨て、異なる未来に向けて』と聞こえてきた。非現実的な光景を見続けたせいか、おかしな幻聴が聞こえるようになってしまったようだ・・・

 

 

 

ーーーーーー

 

Side:アンドリュー・フェルト

 

 

「あの悪夢を見た日にこれとは・・・俺には超常的な力でもあるってか?」

 

サーマルに切り替えて映る映像はなかなかの物だった。感染者がそこら中で歩き回り、少しでも音を立てると例えそれがサイレンサー付きでも襲われる事は必須だろう。もちろん、司令部から全力火力で攻撃して良いと言われたら即座に、たやすく切り抜けることが出来る。しかし今回は「20体未満の射殺」でそれ以上は厳禁と言う命令。こんな条件だっら命がいくつあっても足りない。

何か良いものはないかと周囲を見ていると、船着場から離れた所に鉄骨が積み上げられている建物があった。俺のあの街での経験則で言うと奴らは、音に群がってくる。だったら、鉄骨に銃弾を撃ち込んで奴らを一か所に集めれば・・・・

 

考えが纏まった俺は極力船着場と近く、奴らに聞こえないであろうギリギリのラインを見極めて移動した。近くの浅い窪地に伏せの状態で銃をそこら辺に落ちていたまぁまぁでかい石を使い固定。

スコープを覗き込んだ。

 

「頼むから当たってくれよ・・・」

 

装填した弾一発一発に念じるように呟いて呼吸を安定させた。時間をかければかけるほど精神の揺らめきが安定していくのが分かる。安定は、緩やかなカーブになり、緩やかなカーブがフラットな面になったのを感じた俺は呼吸をゆっくりと吸い込んで、止めた。視界がどんどん狭まっていくのが分かるが、コンディションは今日で一番なのは、自分自身で理解している。

 

(いまだ!!)

 

バスッバスッバスッ

 

三発のサイレンサー特有の発射音と共に出た銃弾は全て目標に命中。カキーン、カキーン、カキューンと、あたり一帯に甲高い音を鳴り響かせ20体以上もいる感染者を遠ざける事に成功した。

感染者の数が減りきったのを確認した俺は、立ち上がり全力で走った。

道中にいる感染者は頭に2発づつ銃弾を喰らわせて確実に殺していく。

 

1

 

2

 

3、4

 

5

 

ボートまで後数メートルと言う所で背後から迫ってくる何かの存在を感じ、後ろを振り返った。そこには「感染者」が俺に向かって走って来ていたのだ。

感染者=歩くというイメージが定着していた俺に目の前の光景は脳で適切に処理する事が出来なかった。しかし伊達に何年もこの仕事をやっていない。

考えるよりも本能のレベルまで体に染み付いた一連の動きで感染者を射殺する事に成功した。その間も歩みは止まっておらずボートの止め縄を解いて孤島から離れる事に成功した。

 

沖合で俺は走る感染者について考えていた。既存のウィルス・・・世間一般で言うTウィルスという物に感染した人間は感染者として、生者を襲う。しかし、今回この島で俺の背後から急襲した感染者は走っていた。つまり、既存のウィルスでは無い何か新しいウィルスである事は確実。

 

「全く・・・人間の欲はその内世界を滅ぼしてしまうんじゃ無いか?」

 

誰に聞かれるわけでも無い独り言をポツリとこぼした俺は、司令部に連絡を入れた。

 

「ベクターからOR。撤退に成功。RTB」

 

「ORからベクター。了解した疲れてるだろう。基地の仮眠室で眠ると良い。オーバー」

 

本来の作戦目標である人質は酷い殺され方だった。今回報告書を書くのは気が引けるが、しょうがない。仕事の一環だと思って割り切るしか無い。

俺はボートを運転して出発港まで戻るとヘリポートに使用人が操縦しているヘリがある事に気付いた。

ボートを止め縄に掛けた俺は小走りでヘリに乗るとヘリは徐々に上昇した後、方向を「リライター」のある場所に回転させ、前進した。

借りていた装備一式を使用人に返却すると俺は「リライター」内部へと入り。司令官と再び対面した。

 

「おつかれ様。キミの活躍はモニターのHUD経由で見ていたよ。中々精神的にくるものだった筈だから、報告書は適当に仕上げて寝ると良いよ。」

「言われなくてもそうしたいが、報告を適当にするわけにはいかない。最後の気力を振り絞ってでも、報告書は完成させる。早速作成に移るので、PCを借りても?」

「あぁ、それなら仮眠室に備え付けられているから、そこで書いた物を転送してくれれば良い。君が起きたら上手い物を食わせるから腹を空かせておけよ?」

「了解です。」

 

俺はさっそく仮眠室に向かい報告書の作成に取り掛かった。書いているときに思い出す、あの島の光景。あの光景は規模が小さいとはいえラクーンと同じだ。あんな景色を自然が作り出せるわけないし、換気扇の下にあった施設は、明らかに人の手が入った物だった。

 

俺自信、親友のエージェント仲間から聞いた話だが、2004年に起きた「テラグリジアパニック」と2009年にアフリカ大陸で起こったバイオテロもあの時の惨劇を彷彿とさせたらしい。

どちらの事件でも「対」同士の争いによって引き起こされたらしいが・・それはともかく、事態の鎮圧に乗り出した「対」の「クリス・レッドフィールド」は今回行った作戦にいたクレア・レッドフィールドと兄妹の仲らしい。兄弟揃ってバイオテロに巻き込まれるのは、運が悪いのか・・・はたまたそうゆう星の元に生まれて来たのかは不明だ。あの時は、世界征服を狙っている「対」アルバート・ウェスカーによって起こされたテロとあって、付近のエージェントは、BSAAのアフリカ支部に紛れ込んで、作戦に参加したらしい。

結果は殆ど・・・親友のエージェント以外は全滅してしまったらしいが。「組織」の「敵性対」であるウェスカーは死亡したと聞いたので、犠牲は無駄ではなかったらしい。親友曰く「日陰者がしゃしゃり出ても死期を早めるだけだ」と苦笑いしながら喋っていたのが印象深かった。

報告書の作成を完了して司令部に送信した後、俺はシャワーを軽く浴び、髪もろくに拭かないで眠りについた。

 

 

吹き出る鮮血の背後に佇む一体の化け物(ハンター)。奴は俺を睨みつけて動こうとしない。俺は動こうにもあまりの恐怖と動揺で体が硬直してしまった。奴と見つめあって3秒ぐらいだろう。俺からしてみれば延々と続く時間見つめあっていた感覚だったが、奴が少し屈み気味に突進して来た。俺は恐怖で分隊員に背後の脅威を知らせることができず、1人ライフルを連射した。

1発2発3発と小刻みに発射されるライフルは俺に声を与えてくれた。「ウォォォァーーー」と叫びながら、奴に向かって走った。弾倉内の弾数が残り10発を切った時には、奴の爪の範囲内に入っており、奴は横なぎに爪を振り抜いた。

それをスライディングで交わしつつ、ライフルは撃ち続けている。弾が出なくなった時、瞬間的にロバート分隊長が落としたショットガンを拾い、下からほぼゼロ距離射撃を行った。

頼もしい炸裂音が2発響いたと同時に奴の股関節付近から弾が侵入して、首筋付近に粒々の出来物が生成された。

スライディング状態から静止した俺はすぐに立ち上がり、奴に向けて銃口を構えたが、憂鬱に終わった。ゆっくりとうつ伏せに倒れる奴は糸の切れた人形のようで、その瞬間、俺の勝利が確定したのだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・小隊長・・・」

 

俺は上がり切った息を整えて、小隊長の死体に近づくと、無言で見開いた瞳を閉じ、ドックタグを毟り取り、弾薬を自身のポーチに収納した。

 

「分隊長!感染者の処理は完了しました!付近一帯の安全を確保!小隊長に・・・・おいおいマジかよ」

 

分隊員の1人が背後を振り返り、その惨状をみて絶句しているようだった。他の分隊員のそれを黙ってみており、とても困惑してるようだった。

 

「お前ら、小隊長は戦死した・・・これよりタンゴ小隊の最高階級である俺が小隊長となり、お前らを指揮する!メイン目標であるラクーン市民の救出は変わらない!いいか!お前ら?!」

 

「「「了解です!隊長」」」

 

彼の夜はまだまだ長い

 

 




司令室の描写だけだと味気ない作品になるので、サブストーリーとして、現地の話を盛り込んでいこうと思っています。

フックショットも隠密武器の一部なので、ORの許可が無いと使えません。ちなみにクレアとモイラの会話シーン及びその他のシーンは、全て下記の某兄弟実況者の動画を参考にしています。
https://youtu.be/l4kmdNdg0GQ
このurlの8:12からです。
ちなみに今回かわいそうな死に方をした「羽田三枝」は10:43から見るとわかると思います。顔とか隠れていたので、今回都合よく利用させてもらいました

ウェスカーは「組織」の「敵性対」でした。いちよう下にアンドリューと同じ形式でプロフィールを載せときます。ついでに、アンドリューの元上司、ロバート・タイソンも載せときます

ーーーーーーーー
NAME:アルバート・ウェスカー
AGE:48歳
SEX:男性
SKIL:超人的身体能力、ウィルス適合者
CAREER
ウェスカー計画によって様々なウィルスに適応。
アメリカ陸軍の技術将校、アンブレラ幹部を得てのS.T.A.R.Sアルファチームの隊長に就任。
「洋館事件」を裏で手引きしており、「対」が関連しているバイオテロの裏で暗躍していた。
2009年に大規模なバイオテロを画策している所をクリス・レッドフィールドが「組織」のエージェントの支援により殺害された。

ーーーーーーー

ーーーーーーー
NAME:ロバート・タイソン
AGE:48歳
SEX:男性
SKIL:射撃、体術、人心掌握
CAREER
1950年、フランスノルマンディー生まれ。
幼い頃、両親に捨てられ、オームレス状態となる。同じ境遇の子供を率いて略奪や窃盗を繰り返していた。思春期になると、仲間と一緒に婦女子を誘拐しては強姦をする毎日を送っていたため、業を煮やした警察によって1965年に逮捕された。その後、出所した彼は結婚した。しかし、1989年自身の娘に性的暴行を加えたとして家に踏み込んだ警官3人を射殺し、逃亡。逃亡先で仲間を作り銀行強盗を行ったが失敗に終わり、死刑が宣告された。そんな時にアンブレラによるスカウトを受託、タンゴ小隊小隊長になる。
ラクーン市民救出作戦の際に死亡
ーーーーーーー

UBCSなんてこんなもんでしょ


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ACT:3

エージェント。それはバタフライエフェクトによって運命を翻弄された者達

エージェント。それは運命から見捨てられた者達

エージェント。それは運命によって心が壊された者達

エージェント・・・・それは「主人公」になり得た者達

バタフライエフェクトを発動・・・彼の脳内に語りかけるとしよう

物語で消えるはずだった命

物語で少しは生存できた命

一つのイレギュラーで全ては「書き換わる」


バタフライエフェクトは人々の意思


アンドリューが退出したのを見届けた私は、内線を使い使用人に連絡を取った。

 

「何かご用意でしょうか?」

「後藤さん。明日アンドリューさんと食事に出かけようと思ってのですが、近くに良い店はないですか?」

「すいません。わたくしの知る限りで食事をとられるとなると、電車に乗るか山を越えるかしかありませんが・・・」

 

肝心なことを失念していた。最初に聡子さんが言っていた「限界集落」という単語。そんな所で定食屋でもやっていたら赤字になるのは必至だ。

しかし、彼に対して私から食事に誘った手前、無かったことにするのは些か気が引ける。

さてどうしたものかと考えていると使用人がこんな提案をしてくれた。

 

「光雄様がよろしいならばわたくしが作った料理を振る舞うことが可能ですよ?料理のジャンルを言っていただければ腕によりをかけて作られせもらいますが、如何ですか?」

「いつもの業務に加えてこんな我儘を聞いていただいて本当に有難うございます。ではジャンクフードをお願いしてもよろしいですか?私、実は大のフライドポテトジャンキーでして・・・」

 

私がそういうと、彼はハハハと笑い「いえいえ、私が作った物を美味しそうに食べるのはとても好感が持てます。明日は、楽しみにしていてください。腕によりをかけてジャンクフードと最高のフライドポテトを作って差し上げます」と言った。

 

「ではそれでお願いします。」と言って内線を切ると丁度今回の報告書が送信されて来た。

内容は私がHUDでみたものと相違ないようなので、プリントアウトして、ファイリングした。

これで今日の業務が終わり、私は帽子を被り「リライター」を後にした。

 

 

 

休日と言うこともあり、この日は9時に起床した。食堂に行くと、聡子さんがいた。彼女は新聞紙をコーヒー片手に眺めていてそれは1枚の現代日本画のようだった。「おはようございます」と声をかけると彼女は私に気付いて「おはよう」と返事をしてくれた。

 

「すいません。後藤さんを探してるのですが、何処にいるかご存知ですか?」

「あぁ、後藤なら2時間前に車で食材の買い出しに出掛けたわよ。多分もうそろそろ帰ってくると思うけど・・・」

 

そんな事を彼女が言っていると「ただいま戻りました」と声が聞こえてきた。どうやら、読みは当たったようだ。

 

「光雄様。下準備は終わっているので、後は、出して欲しい時間帯に言ってもらえれば直ぐにお出し出来ます。」

「光雄さんも、中々いい責任者になっているようで嬉しいわ。流石潜在能力が高かっただけのことはあるわね」

「そう言えば聡子さん。昨日も言ってましたが潜在能力をどうやって測っていたのですか?」

 

彼女にそれを聞いたら一言「秘密よ」と返された。釈然としないが私は12時に料理を「リライター」の「食堂」に運んでもらうように言って、私は地下に向かった。今日は休日なので私服で降りて行き「仮眠室」をノックして入室した。そこには彼の姿はなく、基地内を探していたら「TR」・・・「トレーニングルーム」からくぐもった音が聞こえて来た。

中に入ってみるとそこでは、彼がライフルを構えてひたすらにターゲットを撃ち抜いていく光景がそこにあった。私が入って来た気配を感じたのか、かれは小さく会釈すると訓練を再開した。

銃なんてこの国にいる限りは一生縁のないものだと思っていたが、これから先のことを考えると、訓練する必要があると思い至り、近くに「GUN」と書かれた備え付けのタッチパネルを見つけてそこに歩を進めた。

端末には「銃一覧」と書かれたもアイコンの下に「ハンドガン」「アサルトライフル」「サブマシンガン」という風に銃の種類が羅列されていた。

私は「ハンドガン」を選択して、日本の警察が持っていたような気がする拳銃「ニューナンプM60」を選択した。すると、私の方向に向かって、壁・・・引き出しのようになっていた所から選択したハンドガンがはめ込まれてる状態で排出された。

使い方は分からなくて不安だったが、取扱説明書も付属していたのでとても助かった。「GUNBOX」と命名したそれの横に「AMMO」と書かれたパネルがあったので、説明書に記載されている口径弾を5ケース程出して射撃の練習を行った。基本的な姿勢も説明書に載っていたので何とか行うことが出来た。

私の理想は片手でカッコよく目標を撃ち抜くことだが、現状姿勢制御も満足にできていない私が言っても絵空事の様に思えてくる。

 

トレーニングを終えた私は使い終わった銃を「GUNBOX」の「返却」と書かれている所に入れて、アンドリューの方に目を向けた。彼はアサルトライフルを構えたまま呼吸を荒くし、今にも過呼吸で倒れそうになっていた。それを見た私は彼を刺激しないように優しく「アンドリューさん?大丈夫か?」と声を掛けると、一瞬ビクッとして、「大丈夫」と返答した。

 

「もうすぐ12時になるから・・・ご飯を食べよう。ここの近辺に良い店はなかったから、使用人に作らせることにしたが・・・大丈夫そうか?」

「・・・あぁ、すまん、少しフラッシュバックしていたようだ・・・そうだな。飯を食おう」

 

そう言って彼は魂の抜けたような足取りで武器を返却しに行って、私と合流した後、一緒に「地下食堂」に向かった

 

 

ーーーーーーーーー

Side:アンドリュー・フェルト

 

はぁ、はぁ、はぁ・・・小隊長・・・

 

死臭漂うあの街での死は必然だったかもしれない

 

 

「お前ら、小隊長は戦死した・・・これよりタンゴ小隊の最高階級である俺が小隊長となり、お前らを指揮する!メイン目標であるラクーン市民の救出は変わらない!いいか!お前ら?!」

 

「「「了解です!隊長」」」

 

付き従ってくれた仲間を死なせまいと努力したあの日の事を忘れることはできない。

 

『バタフライエフェクトはいつもすぐそばに』

 

 

 

「っはぁ!はぁ!はぁ!・・・・」

 

最悪な目覚めだ。空きっ腹にあの夢のせいで気分が悪くなった。俺はできるだけあの夢を思い出さないようにしようと「トレーニングルーム」に向かった。「組織」の基地は全てが同じレイアウトで作られているため、一度配置を覚えれば楽なもんだ。違いといえば名前ぐらいで、中国なら「白澤」ロシアなら「コサック」という具合にそれぞれ独自の名称を使っているが、自分の銃に名前をつけるのと一緒で基本的には『国名 + 支部』で呼ばれている。

「トレーニングルーム」で俺が使っているのは昨日の作戦で使った武器「CQB-R」とたっぷりの弾をオーダーして射撃を行った。俺自信、トレーニングする度に「仮想的」を思い浮かべて行うので今回は「感染者」を仮想的とした。

出てきた奴らの脳をダブルタップで、無駄なく効率良く撃ち込んでいく。

訓練に集中していると扉が開く音が聞こえた。多分司令官だろう。しかし今日は休日だと言っていたから今の立場は一緒だ。軍隊にいた時の上司はそんなのお構いなしのクソ野郎だったが、「組織」はそこらへんもきちんと明確に記載しているから俺としてはこれが性に合っている。

司令官・・・・奴の挨拶に軽く返事をした俺はトレーニングに集中していたが、奴の存在が気になり出した。チラチラと横目で見てみると訓練に使う銃で悩んでいるみたいだ。

 

(新米司令官様は得意武器すらも無いのかよ)

 

そう思っていたが、おもむろに一つの項目をタッチして、銃が出てきた。どうやらニューナンプを使うつもりらしい。日本の警察官が装備している武器というのは知っているが、任務の特性上複数人の敵を相手に立ち回らなくてはいけない場面が多々あるのでリボルバーはあまり好きになれない。それにこの武器は威力が小さすぎるから「エージェント」でも使う奴を見たことがない・・・司令官クラスの奴なら護身用に持ってる可能性はあるが。

奴は銃に触るの自体初めてなのか付属の説明書を見ながら恐る恐る発砲した。正直見てるこっちが怖くなってくる扱い方だ。

 

「おっと、行けないな。集中集中」

 

気を取り直して射撃を行う。

 

ドド

ドド

ドド

ドド

ドド

 

残弾数が残り半分になる。それでも俺は感染者を射殺する。

 

ドド

ドド

ドド

ドド

ドド

ガチャっ

 

リロードして奴らを撃つ、撃つ、撃つ。それを繰り返していくうちに俺の体が無重力状態に陥っている感覚に襲われて、目の前が暗くなった

 

 

 

 

『バタフライエフェクトはいつも唐突に』

 

『「物語」の主人公になれたかも知れない分岐』

 

『主人公の宿敵になれたかもしれない分岐』

 

『運命は定められてない、いつでも変えられる。脆い物』

 

『もし、運命を変えられるなら・・・』

 

 

 

 

 

『あなたはどうしたい?』

 

 

 

「アンドリューさん?大丈夫か?」

 

真っ暗な空間からトレーニングルームに意識が戻った俺は「大丈夫」と答えるのに精一杯だった。

 

「もうすぐ12時になるから・・・ご飯を食べよう。ここの近辺に良い店はなかったから、使用人に作らせることにしたが・・・大丈夫そうか?」

「・・・あぁ、すまん、少しフラッシュバックしていたようだ・・・そうだな。飯を食おう」

 

さっきの声は何だったんだろうか・・・もしそれがあの惨劇の事と関係あるのなら大変じゃないか。と俺は考えながら、奴について行った。

 

 

 

「食堂」・・・奴が言うには「地下食堂」らしいが、どうでもいい。そこで出された料理はアメリカのジャンクフードだ。フライドチキンにハンバーガー、オニオンリングに大量のフライドポテト。

至れり尽くせりの高カロリーの山に俺と奴はがっついてか30分以内に全て食べることができた。

満腹に膨れ上がった腹を休ませるために椅子に寄りかかっていると、俺と同じ体制の奴が語りかけてきた。

 

「さっきは大丈夫だったか?なんだかおかしいぞ?」

 

どうやら俺は心配されていたみたいだ。新米司令官に心配されるようじゃ「エージェント」失格だ・・・・しかし、今日。奴は新米司令官としてじゃなく。1人の人間として俺と向き合ってることが何となく理解できた。

 

「大丈夫じゃない。正直な話、あの島に行ってから昔の事を思い出す・・・小隊長を失ったあの日の事を・・・」

「私で良ければ話してくれないか?口に出すことでストレスはだいぶ軽減されるからな」

 

奴の言葉に甘えて俺は昔話を始めた

 

ーーーーーーー

 

アンタは俺の経歴を見ている筈だからUBCSにいた事も知ってるよな?その時に投入された最初で最後の作戦・・・「オペレーション・ラクーンシティ」に参加するために俺達隊員は輸送ヘリで運ばれて、あの地獄に降り立った。俺はタンゴ小隊第2分隊長として参加していたが、事前情報も無い状態で投入されたお陰でどうなったと思う?・・・投入された隊員は200名以上いたはずだ。だけど、そいつらの大半は初日のうちで奴らの仲間入りだ。

2日目の昼過ぎ頃。第1分隊の唯一の生き残りの小隊長と俺ら第2分隊で市民が籠城している建物付近に接近していた。

2日目だから、少し気が緩んでいたんだろう・・・小隊長は突然現れた長い爪を持つ生物兵器に喉を切り裂かれて死んだ・・・それから、俺は現状最高指揮権を持ってると言う理由で第2分隊どころかタンゴ小隊の小隊長になってしまった。いちよう補足しとくが、1小隊につき16人を4つの分隊に分けているんだ。既に第1分隊は全滅俺らの分隊を除いて他の分隊の生死は無線が壊れたのが原因で不明。そんな絶望的な状況だった・・・・・

 

ーーーーーー

ラクーンシティ

 

 

尊い犠牲が出たが、それでも、任務を遂行しなければいけない。分隊員のメディック担当のバーク・スペクターが扉の左手に陣取った。反対側にはマークスマン担当のジミー・キャンベラがライフルをハンドガンに持ち替えて、サイレンサーを取り付けた。俺が手信号を送ると通信担当のダイゴ・フローレンスが扉を蹴破って突入した。それに続くようにバークとジミーが入り、最後に俺が背後の敵を警戒しつつ建物に入った。

 

「UBCSだ!生存者はいないか?!生存者は声を上げろ!上げないで近づく奴は感染者とみなして射殺する!」

 

俺がそう言うと、建物内部の奥の部屋から「私は生存者だ!部屋には13名の市民を匿っている!」と聞こえてきたので、ジミーとダイゴを建物周辺の警戒にまわし、俺とバークで声のした方に向かった。

 

「助かった!外の奴らを倒したのはアンタらか?俺はラクーン市警特殊部隊所属のマイケル・ウォレスだ」

「俺らはUBCS。アンブレラの要請により、昨晩からラクーンシティに投入された救出部隊だ。この中に感染している者や、奴らに噛まれた者はいないか?」

 

俺がそう言うとマイケルが「それは無い。俺が念入りにチェックしといたから大丈夫だ」と言ったので俺は、レシーバーで周囲の警戒をしているジミー以外のメンバーを集結させた。

 

「状況を説明する。昨晩この街に降下した我々は、既に戦力の半分を喪失し、部隊は壊滅的被害を被ってる可能性がある。しかし、そんな状況でも救出用のヘリは定期的に来る。俺らはそこに向かうが、ここで問題がある。」

 

俺がそう言うと、周囲で聞いていた感の鋭い市民は申し訳なさそうにしていた。

 

「非戦闘員が我々よりも多いので、緯度速度の低下及び、カバーが出来ない。特殊部隊のマイケルがいるとはいえ、こちらの兵力は5人。あちらは下手したら万単位だ。それに、一度に乗れる人数に制限のあるヘリには往復してもらう必要がある。待機してる間の防衛にもリスクが付いてくるのはナンセンスだ。そこで俺らは空からの脱出じゃなくて、陸路からの脱出にしようと思う。その為には大人数を収容できる「足」が必要だ。」

 

ここで話を切り上げて周囲を見れば全員がいい乗り物はないかと思案していた。

 

「これは提案なんだがいいかな?我々特殊部隊が出動した時に乗っていた車両はどうだ?あれなら防弾性能もあるしここの人数分は何とか入りきれると思うが?」

「それは名案だ。して、その車両はどこにあるんだ?」

 

そう言って俺は地図を広げた。

マイケルは「ここらへんにあるはずだ」と言って指差した所は現在地点から1キロ離れた幹線道路付近だった。

 

「俺はこの車を運転していたからわかる。ここに鍵がある」

 

そう言って地図の上に鍵を出したマイケルを見つめた俺は簡単な作戦を考えて実行に移すことにした。

 

「よし、では、俺とマイケル、それとダイゴの3人で車両をとりに行く。残りは建物周辺の警戒及び市民の確保を行ってくれ。何か異論はあるか?・・・・無いな、始めるぞ」

 

そう言って俺とマイケル、ダイゴは店を出た。

 

 

9月29日 13時12分

俺、マイケル、ダイゴの順に輸送車のある地点に向けて進んでいた。

しかし、道路は所々事故を起こしている場所や、住民か警察が封鎖したのか、バリケードが設置されていた。

 

「マイケル。このバリケードはあんたらが設置したのか?だとしたら迷惑極まりない・・・」

「違うぞ。俺らが設営したバリケードは幹線道路だけだ。こんな路地裏まで手が回るわけない。」

「あんたら警察組織は何をしていたんだ?」

 

マイケルとダイゴの受け答えに俺が警察を小ばかにしたように言うと「俺たちだって一昨日まではまともに機能していたんだ・・・」といった。

 

どうやら、俺たちU,B,C,Sが空と地上からラクーンシティに入った前日に、ラクーン市警は幹線道路に大規模な防衛線を構築していたらしい。

 

「俺たちSWATにも召集がかかって全員で防衛戦に参加したよ・・・何両ものパトカーに、ヘリからの援護・・・あの時その場にいた全員は思ったはず「勝った」とね」

 

そう言う彼の顔には影が差していた。「もういい」といって彼の型を叩くと彼は、絞り出すように言い放った

 

「アントン・・・ロズ・・・ケイト・・お前らの分まで生きてやる!」

「すまんな・・・嫌なことを思い出させてしまって・・・その・・・お前らの事をバカにしたように言って悪かった」

「いいんだ・・・どんな理由があれ、この町をこんな姿にしてしまった俺たち警察にも責任がある・・」

 

俺が謝るとマイケルはそれに答え、場の雰囲気はしんみりとしたものになった。それでも周囲の警戒と移動スピードを緩めないのは彼らがプロであることを己で理解している他にない。

しかし彼らとて人間。戦場ではモチベーションの維持が命に関わることを知っている。

 

「分隊長にマイケル。この作戦が終わったら一緒に飲もうじゃないか!ジミーとバークもさそってよ!。俺の兄貴か酒バーを経営しているからそこで記憶をなくすまでたらふく飲もう!酒と一緒に食べる日本のつまみは最高だぞ?」

「おう!それはいい考えだ。その時は俺のおごりだから、少しは遠慮しろよ?」

 

ダイゴがモチベーションを上げるために言った言葉に俺も乗っかり、その意図を理解したマイケルも「隊長殿の、懐を飢えたアライグマの腹と一緒にしてやる!」と良い。場のテンションはさっきよりはマシになった・・・・・マイケルの冗談は全く笑えなかったが・・・

 

路地裏のバリケードを迂回しつつ移動している俺は、マイケルに聞いた。

 

「今はどのあたりにいるんだ?」

「現在、レッドストーン駅近辺の裏路地にいる。目的地の「パークストリート」まで残り200メートルといったところだ」

「一つ疑問なんだが、輸送車は大きいから路地裏を通り抜けることは出来ないから、幹線道路からそのまま市民のいる建物まで移動しないといけない訳だ。さっき、あんたが言った「俺らが設置したバリケードは幹線道路だけだ」。つまり移動できなのではないか?」

 

俺がそういうと彼は、悲しげに言った。

 

「俺が現場から退去するときにバリケードを倒して奴らが流れ込んだ所を確認している。だから、あんたが思うような心配はないと思うぞ。仮にあったとしても大した重量の障害物でもないだろう・・・その時は運転手以外の2人で撤去すればいいんだよ」

「わかった。輸送車が見える距離に近づいたらそれぞれの役割に徹してくれ。ダイゴは幹線道路付近に展開した部隊がいたはずだ・・・確かケベック小隊とオスカー小隊、リマ小隊だった筈。無線の周波数を変えながら3小隊に連絡を取ってくれ、マイケルはダイゴと一緒のそばについて周辺の警戒を行ってくれ。俺は道中にある障害物の撤去を行う。」

「了解」

「OK」

ダイゴとマイケルの返事を確認すると俺たちは、歩を進めた。

 

目的地付近についたら、それぞれが指示した通りの行動を開始し、俺も単独で感染者にばれないように障害物の撤去を始めた。

撤去を開始して40分。目的地までの道にあった障害物の撤去を完了させて、ダイゴ達がいる場所に戻った。

 

「隊長!返信がありました。オスカー小隊の生き残りが現在幹線道路付近で潜伏中らしいです。他の小隊からの応答はなかったので恐らく全滅でしょう」

「よくやった。ダイゴ。無線の周波数を教えてくれ、そちらに連絡をする」

 

そういって、ダイゴから周波数を聞き出した俺は、無線に語り掛けた。

 

「こちらはタンゴ小隊小隊長のアンドリュー・フェルトだ。オスカー小隊、返信を求む」

「・・・・こちらオスカー小隊、第4分隊、分隊長のミカエル・マクリーンだ・・・・俺の記憶ではお前は、俺と同じ分隊長だったと思うが?」

「小隊長は目の前で死んだ・・・今は指揮を引き継いで小隊長になっている」

「OK、小隊長殿。今のオスカー小隊の生き残りは多分俺だけだろう。今から指揮権をそちらに譲渡して、タンゴ小隊に編入する。」

「了解だ。ミカエルは、俺らが輸送車に乗り込んだのを確認したら、こちらと合流してくれ・・・戦力が増えて助かった」

 

そういうと通信を切り、ダイゴとマイケルに向き合った。

 

「障害物はどうだった?」

「大丈夫だ。すべて排除した。それより二人とも、よくやってくれたな」

「お蔭様で。頼もしい特殊部隊員に守られて、安心して取り組むことが出来たよ」

 

マイケルの質問に答えてダイゴが話した。緊張感も程よく。即席チームとは思えないほどの連携を見せている。いつもは、個人戦闘になるU,B,C,Sと現地の特殊部隊員、立場も教養も違う彼らがこうなった原因がこの地獄だというのは皮肉なものだ。この瞬間がたとえ一時の結束だとしても誰一人として生涯忘れることはないだろう。

 

輸送車に向かった俺達は、道中立ちはだかっている感染者を射殺して進んだ。

 

「俺は運転席に乗ります。助手席には隊長が、後部にはダイゴさんとこれから合流するミカエルさんが乗って下さい!」

「了解した!」

 

俺が返答した後、先行していたダイゴが勢いよく後部扉を開いた。すると三体の「特殊部隊員」の感染者がダイゴに襲い掛かってきた。

 

「ダイゴ!・・・クソ!射線が・・おい、マイケル!お前の位置からなら撃てるはずだ!急げ!」

 

俺がそういってもマイケルは微動だにせず、目を見開いたまま固まっていたが、口をかすかに開けて「嘘だろ・・・アントン・・ロズ・・・ケイト・・」と微かに呟いた。

 

「クソ!隊長!こいつらを何とかしてくれ!」

 

そう言って、1体を射殺したダイゴは残る2体と攻防を繰り広げていた。

 

(ちくしょう!下手したらダイゴに当たってしまう・・こうなったら引きはがすしかない!)

 

そう考えて駆け出した。俺の耳にドン、パンとライフルとハンドガンの2種類の銃声が聞こえてきた。

 

銃声の発生源はマイケルのライフルからだったが、彼はハンドガンを構えている様子は無い。じゃあ誰が・・周囲を見たらひとりの男がハンドガンを無造作に弄りながら近づいてきた。

 

「全く・・・勝負所で自分の腕を信じずに何が小隊長だよ。アン」

「・・・ミカエルか、助かった。」

 

ベレー帽をかぶった金髪の男がそこにいた。彼こそがミカエル・マクレーン。オスカー小隊(暫定)唯一の生き残りだ。

 

「とりあえず輸送車を確保した。急いで乗り込むぞ!マイケル!!」

 

俺はマイケルに発破をかけて運転席に乗らせると車両を建物に、向かわせた。その間、マイケルは俺に謝罪の言葉を言ったが「それはダイゴに言え。」とぶっきらぼうに返事した。

 

建物付近に近づいたら建物内から市民を護衛する形で、ジミーとバークが出てきた。車が止まると後部扉が開いて、市民が乗り込んて行くのが振動で分かる。後ろからドン、ドンと強くたたいた音を確認した俺は、「出せ」と一言呟いた。ゆらゆらと揺れる車内の中、俺とマイケルは黙っていたが、沈黙に耐えかねたのかマイケルが話し出した。

 

「俺は、元々褒められた警官ではなかったんだ。S,T,A,R,Sが壊滅して親友のエンリコが殉職したと聞かされるまでは、不良警官といわれていたんだ。だけど新しく編成するS,W,A,Tの隊員募集の所内告知を見たときに思ったんだ。」エンリコが救おうとした命を俺が救ってやる」って」

 

そこまで言うと彼は、ため息を吐いて続けた

 

「勤務態度も改めて、クソ忌々しい所長にも頼んだ。それに俺が特殊部隊に入るのを手助けしてくれた友達もいたんだよ・・・それが、アントン、ロズ、ケイトだ。あいつら、俺が心配だからって理由で特殊部隊に入ったんだぜ?バカみたいだよ。あの運命の日、俺を逃がしてくれたあいつらのお陰様で今ここにいるんだ。本当に生き残るべきは俺じゃなくてあいつらみたいな善人が生きるべきなんだ・・なんで・・・・」

 

そう言い切ると彼は、静かに涙を流した。

 

「お前が、そいつらにどんな感情を抱いているかなんて知らない。でも、善人であったお前の友人がお前を生かすために己を犠牲にしたんだろ?・・・善人に貰った命。大事に使う事だな」

 

俺はそういうと、彼とは反対方向に体を向けて浅い眠りについた。彼のみっともない姿を見ないように・・・・

 

 

9月29日 18時16分

 

 

「隊長さん。そろそろ起きたらどうだ?」

 

声が聞こえて目を覚ましたおれは、マイケルに体を揺さぶられていることに気づき、その手を払いのけた。ぼやける視界を前に向ければU,B,C,Sの装甲車や輸送トラックがひっきりなりに行き来していた。アメリカ陸軍所属らしき車両も時々通っており、俺たちはあの地獄から生還したことを理解した。

 

「ここに来てどれくらいの時間がたったんだ?」

「いや、ついてエンジンを切ったばかりだよ。部下の皆さんを車両から出したらどうだ?」

 

そういわれて俺は、急いで無線で「到着した。全員出ていいぞ。」というと後部扉が開いた音がしたので、俺も下車した。

降りた俺たちを迎えたのは、周囲をぐるりと取り囲む陸軍とU,B,C,Sの隊員たちだった。

 

「せっかくあそこから脱出したというのに・・随分な歓待だな」

 

『諸君らは感染している可能性がある。よって君たちを隔離する。』

 

そういうと周囲にいる兵士がジリジリとにじり寄ってきた。

 

「近寄るんじゃねえ!」

「これ以上来たらぶち殺すぞ!」

「おいお前ら!一回黙れ!・・・無駄な抵抗はしない!そちらの意思に従う。」

 

叫ぶダイゴとジミーを黙らせて抵抗の意思はないことを示して、兵士たちに付いていった。道中マイケルとラクーンの市民は別の所へ連れていかれ、俺らU,B,C,Sだけ別の場所に案内された。

 

 

案内された場所は見た感じ「前線指令室」のような場所で、U,B,C,Sの幹部制服を着た奴と陸軍の将校の2人が中央にある大きなテーブルの上にラクーンシティ市街の地図を広げ、展開しているであろう部隊に指示を出している。「ご命令通り、つれてきました」そう言って案内の兵が立ち去ると、将校二人が俺らを一瞥して、陸軍将校が口を開いた

 

「ようこそ、U,B,C,Sの諸君。この度のラクーンでの市民救出に感謝する。」

「ナック大佐、彼らは当たり前のことを行っただけですよ。それに奴らは元々犯罪者やロクデナシの集まり。礼には及ばんよ」

 

陸軍の将校・・・ナック大佐の感謝に顔が綻びかけていた隊員一同は、アンブレラ側から派遣されたであろう幹部の発言によって険悪な雰囲気に包まれていた。

 

「まぁ、確かに俺らはどうしょうもないクズの集まりだ、それは認める。だけどそのクズよりも約に立ってないであろうあんたは、何なんだ?」

 

隊員達の間でクスクスと笑い声が聞こえた。それに顔を真っ赤にした幹部は、俺らに詰め寄ろうとしたところをナック大佐に止められた。

 

「ハハハ!・・・まぁ彼らのいう事も最もだ。後ろでウジウジしているよりも現場が重要だからな・・・・そうは思わんかね?・・フェデリコ君」

「・・・確かにそうですね。彼らが行った功績は一見の価値がある。しかし、これを評価するのは、今ではないことも分かっているかね?アンドリュー君?」

 

アンブレラ幹部・・・フェデリコの物言いに何か良からぬ気配を感じたものの、とりあえず相槌を打った。

 

「物分かりがよくて結構。そんな君たちに追加の任務を与えよう。よく聞くように」

「おい!ちょっと待てよ!帰ってきて直ぐに出撃?納得できるか!大体今回の作戦だって、アンタラ上の連中が事前情報をよこさなかったか「よせ!ジミー!!」」

 

俺はクソやろうとは言え上司に口答えしたジミーを黙らせて言った。

 

「作戦を聞かせてください」

 

 

 

 

今回も前回と同様に市民の救出を行ってもらう。前回と違うところは、これに時間制限が付くという点だ。

現日時、9月29日19時30分から52時間後に戦術兵器を用いた滅菌作戦を行う可能性が非常に高い。諸君らには、タイムリミットまで出来るだけ市民の救出を行ってもらう。補足だが、現時点で全滅が確認されているオスカー小隊第4分隊分隊長のミカエル・マクレーンはタンゴ小隊に加われ、以上だ。

 

「戦術兵器だと?!正気か?」と興奮した様子のバーク

 

「タンゴ小隊・・了解だ・・・知らん部隊よりはいい」冷静顔がムカつくミカエル

 

「マジかよ・・・」絶望的な表情のダイゴ

 

「俺たちは捨て駒かよ」憤っているジミー

 

そして俺は

 

 

 

 

 

 

「・・・・」何も感じることが出来なかった。

 

 

 

ラクーンシティに向かうヘリの中、ジミーとダイゴが俺を見てコソコソとしゃべっていた

「なぁ分隊長何かおかしくないか?」

「しょうがないだろ?安心してまた地獄に逆戻りだから仕方ないんじゃねぇの?」

 

 

確かにそのセリフは正解に近いが、俺が今の感情に囚われている原因は「仲間を失いたくない」それが心の奥底にあるからだ。

 

作戦初日から、小隊は半壊状態。

 

助けるべき市民を感染者の目の前で見捨てたときの罪悪感

 

見捨てた市民の絶望に染まり切った表情。

 

そして、「小隊長の死」

 

小隊長は皆の親父だった。かれは、どん底に落ちた俺にとって唯一頼りになる存在だった。そんな彼が死んだ時に俺の心は死んだ。

それが限界だったのかもしれない。限界を隠して行動していたが、唐突にガタが来てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、アンドリューはその・・亡くなった小隊長を慕っていたんだね」

「そりゃぁ、もう。本当の親父のように慕っていたさ」

 

 

新人司令官の奴にここまで話すと奴は、こういった。

 

「戦場でどんな思いをするかなんて俺には分からないよ。でも一つだけ言える事がある。それは「死は平等に訪れる」という事だ。当たり前のことを力説するのは気が引けるけど、この当たり前を人は忘れてしまうんだよ。アンドリューの話を聞いている限り、その「当たり前」を見失っているような気がしたんだ。」

「「死は平等に訪れる」・・・か。確かにそうだな。心に留めていた事を誰かに話したからか、とてもすっきりした。ありがとう。司令官殿」

「俺は話とほんの少しのアドバイスをしただけだよ。それと「司令官」っていうのはやめてくれないか?プライベートの時は名前で呼んでほしい」

 

「そうか・・OK分かったよ光雄・・・・これでいいか?それじゃあフェアじゃないから、俺のことを「アン」と呼んでもいいぜ」

「ああ、アン。話は戻るけ途中で辞めたけ話はどうなったんだ?」

 

アンの顔はトレーニングルームにいたときよりも、清々しく憑き物がおちた顔をしていた。彼の言ったことに嘘はないのであろう。

 

「ええ・・と、確か、ジミーとダイゴが俺の前で俺の事を話していた時だよな。あいつらの話で現実の世界に戻った俺は二人に鉄拳を落として、それを見ていた他のメンバーは大笑いしていたな。もう一回戻った後は、特にこれといったことはなく市民を救出を行って、帰還したよ。帰還後はダイゴの兄貴が経営しているサンフランシスコの酒バーでマイケルも一緒に飲みまくったなぁ・・・どうした?不満そうな顔をして・・・言っておくが俺は物語の主人公みたいに行く先々で問題が起こるなんて事は絶対にない。」

 

「そんなんだったら命が幾つあっても足りねぇよ」といって笑うアンの顔は40過ぎというのに無邪気な子供の様だった

 




食堂の表記が二箇所あるとややこしいので、基地内部の食堂に「地下」と付けました。

多分今作品で一番長い話でした。こんだけ話を書いてストーリー上3日しか経ってないんですよ。ヤバイ
ミカエル・マクレーンとマイケル・ウォレスはオリジナルバイオ3のOPに映ったキャラという設定です。(0:52ぐらいで撃ちまくっている隊員の右後ろにいる隊員がマイケルで、1:08で「Die!」と叫んで手りゅう弾を投げたのがミカエルです)
https://youtu.be/J00jQZA9OEM
いちよう今回出てきたSWATとU,B,C,Sの情報を載せますね・・・・今更ですが今後ここに書いているキャラ情報を使いまわします。




ーーーーーーーーー
NAME:バーク・スペクター
AGE:30歳(現在)
SEX:男性
SKILL:医療技術、サバイバル能力
CAREER
アメリカテネシー州出身。幼少期から物覚えが良かったのが影響して両親の強い勧めで26歳で外科医になる。
28歳の時に、脳死判定を受けた身寄りのいない患者の臓器を売りさばいて殺害していたことが発覚して終身刑になったがアンブレラにスカウトされてU,B,C,Sに入隊。ラクーン事件の後はNGO団体「テラセイブ」に所属してその手腕を振るっている。

ーーーーーーーーー

ーーーーーーーーー
NAME:ジミー・キャンベラ
AGE:45歳
SEX:男性
SKILL:射撃スキル、サバイバル能力、格闘術
CAREER
オーストラリアシドニー出身。ダイゴとともに各地を渡り歩いていた傭兵であり、実戦経験をアンブレラに買われU,B,C,Sに入隊。ラクーン事件後は打倒アンブレラを掲げ、BSAAのオリジナルイレブンの一人となっている。

ーーーーーーーーー

ーーーーーーーーー
NAME:ダイゴ・フローレンス
AGE:35歳
SEX:男性
SKILL:無線操作、格闘術、頑丈、隠密、剣術、サバイバル能力
CAREER
アメリカサンフランシスコ出身。幼いころに、両親との喧嘩で家出。そのままジミーに拾われて各地の戦場を転々とする生活を送っていた。ジミーと一緒にU,B,C,Sに入隊。ラクーン事件後は一人傭兵に戻り各地を転々としている。
補足;兄との兄弟仲は至って良好

ーーーーーーーーー

ーーーーーーーーー
NAME:ミカエル・マクレーン
AGE:36歳
SEX:男性
SKILL:狙撃スキル、隠密、体術、サバイバル能力
CAREER
イギリスロンドン出身。16歳の頃から麻薬シンジゲートの暗殺者として活動。
ある暗殺任務に失敗して、警察に自首。100人を超える人物を殺害していることが判明して、死刑宣告を受けた。しかし、アンブレラの取引に応じU,B,C,Sのオスカー小隊第4分隊分隊長としてラクーン事件に参加、事件後は、ダイゴとともに各地を転々としている。
ーーーーーーーーー
NAME:マイケル・ウォレス
AGE:34歳
SEX:男性
SKILL;運転技術、射撃スキル、格闘術、隠密、サバイバル能力
CAREER
アメリカニューヨーク出身。ニューヨーク市警で勤務していたが、問題行動を起こし数か月でラクーン市警に転属になった。転属先でも問題を起こしていたが、市民からは慕われいた。諸事情によりSWATの運転手として配属された矢先に起こったラクーン事件の際に、防衛戦に参加していたSWAT隊員の唯一の生き残りとなり、U,B,C,Sの残存部隊とともに市民を救出。事件後に、それらが評価され、「エージェント」となった。

ーーーーーー
次回から新章に突入します。出来るだけ時系列を2011年に絞り込んで探していますが・・・なかなか見つかりませんね

それと、ブラックラグーンを書こうとしたのですが、時代背景が1990年代後半という事を知ったので、消しました・・・・


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バタフライエフェクト:邂逅
邂逅編登場人物


ネタバレにならない様に書いていくつもりです。参考までに言うと「アラルエン戦記」と言う小説の人物紹介的なものでやっていくつもりです。


立花光雄(38歳)

・メイン主人公。フリーランスの生活が厳しくなっている時に来た十条家からのオファーを快諾。現在は『リライター』の総責任者となっている。フリーランス時代の経験則を用いて人と接するので一定以上仲の良い人が居ない。結婚しているが現在別居中。

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・アンドリュー・フェルト(24歳)

U.B.C.Sタンゴ小隊第2分隊隊長。作戦投入された街で光雄と出会い行動する。冷静に物事を見極めるタンゴ小隊の参謀役として慕われている。彼には短絡的な部分もあり、彼は周りに悟られないようにしているがロバートには感づかれている。

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・ロイ・キング(25歳)

ラクーン市警交通課の男性。幹線道路の爆破作戦に参加していたが途中で仲間とはぐれ、アンドリューと合流するまで1人で生き延びていた。ハンドガンと少ない弾で切り抜けてきたからか、精神面では誰よりもタフだ。

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・バーク・スペクター(30歳)

第2分隊の衛生兵。医療の技術は現場に派遣されている隊員の中でトップクラスの実力を誇る。仲間からの信用はアンドリューに次いで大きく、タンゴ小隊隊長のロバートも頼りにすることが多々ある。

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・ジミー・キャンベラ(33歳)

第2分隊のマークスマン。

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・ダイゴ・フローレンス(23歳)

第2分隊の無線担当兼補助員。

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・ロバート・タイソン(48歳)

タンゴ小隊兼第1分隊隊長。

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ヤン・メイリン(24歳)

・中華系人種。アジア方面総司令部所属の職員で、研修に来た光雄を補佐する。職員にしてはエージェントに勝るとも劣らない運動能力を有している。天真爛漫な性格は多くの人から好かれている。

 

 

アジア司令

・本名不詳の謎多き人物。顔や声、性別、姿さえも隠していて光雄の知り合いは誰一人として、この人の事を知らない。

 

ーーーーーーー

 

その他

 

 

バークリック(28歳)

・タイ支部『ガルーダ』司令官。優柔不断だが一度決めたことは疑わずに突き進む猪突猛進男。一つの局面を注視しすぎて周りの状況についていけないのが原因で、管理している国に悪所を作り上げてしまった。光雄がいない間に何をするのか光雄自身、胸の奥底で心配している。

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ヨルン・ミン(25歳)

・アジア方面総司令部から護衛のために送り込まれた男性エージェント。失礼な物言いで光雄を揶揄う。彼の過去にあった出来事がその人格を形成してるようだが?

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マイケル・ウォレス(21歳)

・ラクーン市警S.W.A.T所属。輸送車の運転手を務めていた。素行不良が目立つ警官だが心の奥底は慈悲深い精神に満ち溢れている。

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通訳男性

・光雄の観光で通訳を務めた男性。

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ヘリパイロット

・光雄を運んだ女性操縦士。

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十条聡子(42歳)

・十条家現当主。

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加藤源三郎(69歳)

・十条家使用人。

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使用した画像のURLは以下のとおりです
男性
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サブ(ジミー等)
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サブ(マイケル)
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女性
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サブ(ヘリパイロット)
https://picrew.me/image_maker/371228/complete?cd=ylWMnIlsAL


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ACT:4

セミの泣き声が煩い猛暑も日が経つにつれて程よい暑さになってきた頃。私は1人「OR」内のPCと向かいあって、指を動かしていた。現時刻は11時58分と表示されているのを確認するや否やタイピングのスピードと脳内の情報処理能力をフルに使って作業を行なった。額から沿って顎まで移動した汗がポタリと落ちたのと同時に私はため息と一緒に呟いた。

 

「何とか間に合った・・・・」

 

そう言って私はチェアにもたれ掛かるようにして放心した。今の状態になったのはほんの数時間前、午前8時の朝食を食べ終わった時だった。

 

 

 

 

私は始業までの短い時間を情報収集に費やす為に新聞を眺めていた。

 

「あら、光雄さん。新聞を見るなんて珍しいわね」

「聡子さん、おはようございます。私もここの責任者になったわけですから、日本の情勢を見た方が良いと判断したんですよ。」

 

そう言って新聞紙に目を向け直して今日の記事を眺めていた。

 

『スラブ共和国、連合軍の軍事介入』

・本日正午、突如としてアメリカ、ロシアを主軸とする連合軍がスラブ共和国に軍事介入した。

経緯は不明ながら同国は反政府組織との内戦状態に陥っており、バイオ兵器所持の疑いがかけられているのが介入のきっかけになった可能性が高い。連合軍の介入により、スラブ共和国大統領ベリコバ氏が大統領を辞任。

一連の騒動に余波を受け、アメリカ大統領、アダム・ベンフォード氏は「バイオ兵器の所有は世界の秩序を崩壊させるだけでなく、環境にも悪影響だ」と述べており、アメリカ世論はこの言葉に賛成派と反対派で分かれて激しい論争を繰り広げている。その影響で本日の日経平均株価は前日比851円60銭(4.5%)安の18,065円41銭で取引を終え、不安定な値動きが続いている。

 

『アーガス社期待の新作MMORPGコードネームを New Worldと表明』

・前年度株主総会にて発表された新作MMORPGのコードネームが公開された。同社の広報担当に問い合わせを行なったが、「コードネーム以外に公表できることはないが、発売されると世界に革命が起きる」と述べており、今後に期待したい。同社の株価は次期作成時点でも値上がりしており、同社の株価は発表翌日の時点で高値引けとなり、終値は前日比7.5%(2880円)高の4万1500円。当日安値(4万170円)が前日高値(3万9040円)を1130円も上回る結果となった。正式名称が発表されるまで同社の業績は右肩上がりとなる可能性がある。今後の発展に期待したい

 

 

世界情勢は不安定なのに日本はゲームソフト1本でこんなに盛り上がるとは、1ヶ月前のあの事件に介入した時と比べるとなんと平和なことか・・・・

 

「あ、言い忘れていた事があったわ。実は「組織」は年に2回前期と後期の報告書を提出しないといけないの。貴方は前期分の報告書を作成する必要が無いから、今回は後期の物になるわ。その報告書の提出が・・・・・今日の12時なのよ」

 

彼女の言葉を聞いた私は時計をチェックした。

時刻は8時45分。タイムリミットまで残り3時間15分だった。

 

冒頭に戻る

 

 

「リライター」の椅子で寛いでいると、アラーム音と共に大画面に「通信申請:タイ支部」と表示された。私は身嗜みを整え「許可」と書かれたボタンを押した。

 

「初めまして・・・私はタイ支部「ガルーダ」のパークリックという者だ。いきなりの通信で済まないな」

「お初にお目にかかります。日本支部「リライター」の立花光雄です。本日はどのようなご用件で連絡したのでしょうか?」

 

大画面に表示されているバークリックは精悍な顔立ちでありながら何処かおどおどした印象を与える不思議な人物だ。

 

「君は「リライター」の責任者になって数ヶ月が過ぎたと本部から報告を受けてね。「組織」では、着任してから数ヶ月から数年は試用期間として新人の働きぶりを調査官が監視するんだ。君の場合は、最短の数ヶ月での本登録らしいよ?私だって本登録には数年もかかったのに・・・」

「え?・・・今までは試用期間だったのですか?」

 

私がそう聞くと「あぁ、そうだよ」と彼は言った。

 

「組織では本登録を行う新人用の研修コースがあってね・・・それをクリアすると君は晴れて正式採用となるよ。因みに給料も今より良くなるから嬉しい事だらけだ」

「因みに研修は何処で行うのですか?」

 

私が一番気になる事を聞いたら彼はにこりと笑ってこう言った

 

「東南アジアのブルネイという国を知っているかい?そこの隣国に当たる国「クダンカン」の「アジア方面総司令部」で行われるんだよ。期間は最低でも2年、長くて5年だ。何か質問はあるかな?」

「長くて5年・・・ですか。参考までにお聞きしますが、バークリックさんは何年かかりましたか?」

 

私の質問に彼は苦笑いを浮かべながらこう言った

 

「そうだね・・・私の場合は不器用だから期間ギリギリの5年もかかってしまったんだ。でも君なら短い期間で負わされる事ができるような感じがするよ」

「・・・・・」

 

下手したら5年間も日本から離れないといけない事に頭が混乱していると彼はこう言って通信を閉じた

 

「出発は明日の13時に総司令部からの迎えが来るはずだよ。それについての命令書は今日中に届くはずだから、急いで準備した方が良いかもね。それと、君がいない間は私が日本支部を兼任する事になっているよ。光雄さんの健闘を祈るよ」

 

私は混乱をどうにか落ち着けて「総司令部」(と言ってもさっき知ったばかりだが)とやらからメールを受信していないかフォルダを開いたら1通のメールが入っている事に気づいた。

 

 

『命令書』

 

立花光雄は、翌日13時に指定の場所で待機する事。尚、護衛にエージェント「ヨルン・ミン」を向わせる。以下に場所のデータとエージェントプロフィールを添付する。

ーーーーーーー

NAME:ヨルン・ミン

AGE: 25歳

SEX:男性

SKILL:狙撃、話術、隠密、格闘術、人身掌握

CAREER

キラット国出身。1986年に当時の国王の側近として仕えていたが、1988年、反乱により両親と死別。2002年反政府組織で活動を開始。反政府組織に見捨てられ、軍に囚われている所を自力で脱出。後に政府軍、反政府組織問わず襲撃を繰り返していた所を「組織」にスカウトされ、今に至る

 

ーーーーーーー

 

 

 

キラット国は、私が13歳の時に大規模な反乱が起きたとテレビで報道されていた記憶がある。最もその話題自体、直ぐに芸能人のスキャンダルで掻き消えることになったが・・・・。

 

今回はエージェントと一緒に行動する。今までの屋内で指揮を取っていた時とは違うので、私は武器と関節の動きを最大限阻害しない防具を申請した。

本来なら防具は安全を考慮してガチガチに固めたいが、それをしたら私の体力が持たない事は自分で分かっている。それを考慮しての軽装防具だが、それで良かったのか私には分からない

 

「組織」にはきちんとした休憩時間がある。12時から13時までの1時間だ。その時間は制服姿だとしても何をしても良い時間となってるらしい。だから、私はその規則に則り行動を開始した。

 

ここの責任者になって新しくできた趣味がある。私はそれを行いに「オペレーションルーム」(以降司令室と表記)から退出して「トレーニングルーム」に入室した。

 

GUNBOXから適当な銃を取り出して、弾を数箱取り出す。そう、私の趣味は、射撃だ。日本では基本的に銃器の使用は許されていないので、「組織」の武器弾薬使用無制限の方針には、とても感謝している。アンドリューと一緒にトレーニングしてから私はそれに没頭するようになり、今では動く標的全てにダブルタップでヘッドショットを当てる事ができる。

 

今回使う銃はサブマシンガンと呼ばれる種別の「MP5」だ。毎回銃を選ぶ際には適当に選択したり、見た目で決めたりするが、今回は後者で選択した。

出てくる標的を撃つ、撃つ、撃つ、撃つ。

 

これを行なっていると過去の嫌な事全てを考えずに済むので、とても嬉しい。

 

銃を撃って気づいたら1時間近く経っていることに気付いた。休憩時間が終わりそうなので、返却ボックスに返した私は少し早歩きで司令室に向かった。

 

席についた私はPCを操作して日本全国にいる「エージェント」からの報告を見ていた。

 

ここの責任者になったとしても、やる事が前回の様な戦闘指揮だけでは無い。「組織」が認定する「対」は、私のような「責任者」が世界各地で報告された人物の調査を行い、候補に上がった人物を上に送信、受理されたら新しい「対」として登録される。なので、戦闘以外は日本市民のプライバシーを覗いて「対」の候補探しに勤しむのだ。

最初の業務の時は勝手が分からず関係ない人の見てはいけない物を見てしまったりしたが、回数を重ねるごとに操作に慣れて今では自分の手足のように操る事ができる。最も、その業務は今日で一旦停止して引き継がないといけないが。

 

今回報告にあったのは埼玉県秩父市在住の「宿海仁太」16歳。高校受験に失敗し、引きこもり生活を送っている事を除いて至って普通の16歳の少年だ。しかし、「エージェント」からの報告書にはこう書かれている。

 

 

ーーーーーーー

NAME:宿海仁太

AGE:16歳

SEX:男性

CAREER

1995年生まれ。幼い頃に仲の良かった親友を事故で亡くした過去を持つ。

高校受験に失敗して引きこもり生活を送っていたが、最近何も無いところに向かって喋っているのを確認。様々な機器で測定した結果、何かしらのエネルギー体と会話をしている事が判明。何時からこの能力があったのかは不明だが「対」としての登録要請を求む

 

 

ーーーーーーー

 

何かしらの「エネルギー体」と会話をする少年というのはとても興味がそそられるが、仮にその能力が一過性の場合、又は霊能者の類の場合は「対」の登録要請をする事が出来ない。

霊能者というのは世界中で数え切れないぐらいいるらしく、初期の段階では「組織」も霊能者を登録していたが、事態が進むにつれて登録条件を変更したらしい。

「エージェント」の報告では、エネルギー体とら記述されていたが、かなりの確率でそれに該当すると私の感覚が告げている。しかし感覚で決めるのはあまり褒められた事ではない。現地のエージェントに「「対」の報告は見送る。しかし、継続的に対象の監視を行い、レポートにして提出するように」と書いた文をエージェントに送信した。

気付けば定時の18時になっていることに気づいた私は、司令室から退出した。急いで荷物を纏めないといけないからだ。と言っても部屋には私服が6〜8着程度しかなく、20分もかからずに終わった。その後直ぐに就寝した。翌日に備えて




次回からは研修編になります。「クダンカン」という国と2011年というワードでピンときた方は相当なファンだと思います


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ACT:5

朝の7:00に目覚めた私は風呂に入り朝食を食べに食堂に向かった。

食堂では聡子さんと使用人の加藤さんが、一緒に朝食を食べており、私を視認すると「光雄さん。おはようございます」と声をかけてきた。私はそれに答えて用意されている朝食を食べた。ベーコンエッグに味噌汁と白米、サラダという献立で、ゆっくりと味わって食べた。

 

「そういえば光雄さん。今日から本部に研修に行くらしいようね。準備は出来てるかしら?」

「はい、私の荷物は大した量ではないのですぐに纏める事ができました。後は指定の場所で護衛を待つだけです」

 

私の返答に「そう」とだけ言って彼女はコーヒーを飲んだ。

朝食を食べ終わった私は日課になりつつある新聞での情報収集を行った。

 

『滝園学園女子バスケットボール部救出』

・先月31日より行方が分からなくなっていた滝園学園女子バスケットボール部の部員14人の内1名を今月20日に救出したと山梨県警から発表があった。同校バスケ部は合宿の帰路で行方不明になっており大規模な捜索隊を結成したが、今月15日には生存は絶望的として捜索の打ち切りを発表していた。部員1名を救出した場所は山梨県と長野県の県境に位置する森で、行方不明になった長野県の森林から徒歩で山梨県に入ったと思われる。現在少女は衰弱しており体調が回復次第、事情聴取を行うとの事だ。「やっと行方不明の残り13人の安否を確認出来る」と被害者家族の1人であるK夫妻は 嬉しそうに語っている。

 

 

『関東和平会、内部抗争か?』

 

先日23日より、指定暴力団関東和平会下部組織「鷲峰組」と同下部組織「香砂会」が不穏な動きを見せていると、警視庁暴力団対策課の広報官が言及。更にロシア系マフィアの日本進出も懸念される昨今の裏社会情勢を鑑みて警視総監は巡回する警官の数を増やす事を決定した。この緊張状態は市民の暮らしにも影響しており、今後の動きに注目したい。

 

 

今月に入ってからあまり目にすることのなくなった行方不明事件が解決する話題よりも目を引いたのは暴力団同士の内部抗争に関する記事だ。

実は私に届いた報告書には新聞記事に書いていた通りの内容に加えて、ロシア系マフィア「ホテルモスクワ」が、「鷹峰組」との取引を口実に日本進出を狙っていると書かれていた。ホテルモスクワはタイに拠点を置く組織で、バークリックがこの件に絡んでいるだろうと私は考えた。彼が絡んだとしても私はこの国から他国に行くので手のうちようが無いが、私としては日本に有利に事を運んでほしいと思う。

 

12時になるまでに私はバークリックに渡す引継ぎ資料を作成して、これから他国に行くのを考えて胃の中に食べ物を詰め込んだ。13時になるまで加藤さんの運転する車に乗って指定された場所に向かった。そこは、山道を抜けた先にある平原で加藤さんにお礼の言葉を言って車を見送った。それから少し待っているとヘリコプター特有のローター音が聞こえてきたので空に目を向けてみると、昨今話題になっているオスプレイが降下してきた。ヘリコプターは着陸するとハッチが開き、中から東南アジア特有の肌色をした人物が現れた。

 

彼が何を言っているか騒音で聞き取れなかったが、身振りで入れと言っている事は理解したので荷物を手に機内に搭乗した。指定された席に座ると彼は自身がつけているヘッドセットと同じ物を私に差し出してきたので、私は装着した。

 

「聞こえるか?俺はヨルン・ミン。司令の護衛を務める事になった。これからのことを簡単に説明するぞ。」

 

そう言うと確認するように私に目線を向けてきたので私もヘッドセットに応答した

 

「聞こえますよ。言ってください」

「大丈夫そうだな。本部まではセブ島での補給を行なって行くから大体早くて15時間ぐらいかな?移動の時の服装は自由で良いが着く時には制服を着用するようにとの指示だ。そして、総司令部からステキなプレゼントだ」

 

そう言って彼は一枚のカードを渡してきた。パッと見はクレジットカードの様だが、デザインが太陽系の影響なのが珍しい印象を受ける。

 

「これは組織が司令官向けに発行しているキャッシュカードだ。任務内外問わず日本円で月2000万まで引き出す事ができる。世界中のATMから使えるからこれで楽しめって事だよ」

「・・・給金を貰ってるのにこんなに使えるんですね・・・正直この組織を過小評価していましたが・・・使える設備を考えたら妥当かもしれませんね」

 

驚く私をニヤニヤと見つめていた彼は「まぁ、長い旅路だ。気長に行こうや」と言って眠りについた。

 

それを見ていた私は離陸してセブ島に向かう機内の中で本当に大丈夫なのかと心配になっていた。

 

そんな時に組織から支給されていた通信端末にメッセージが届いた。送信した人はバークリックのようで内容こう書かれていた

 

『「対」について』

 

つい先ほど、「ガルーダ」で監視していた「対」が日本に向かうと報告を受けました。引き継ぎ書を貰ってるので問題はありませんが、まだ貴方は日本支部「リライター」の責任者です。なので、これから行う作戦行動に異議のない場合は返信せずにお願いします

 

 

と言う文だった。私としては業務を行っているだけの彼にとやかく言うつもりはないので、返信せずに端末をポケットに入れて、本を取り出して読み始めた。私が読んでいる本はコナン・ドイル著「恐怖の谷」だ。彼の作品は基地に入るのに必要な手順を踏む為に必要不可欠な物だと認識していたが、ふとした拍子に本の内容が気になって見てみると、彼の織りなす世界にのめり込むようになってしまい、最近では仕事終わりの時間に読む事が多くなっている。今の歳になって本にのめり込む様になったのは年相応の事なのかは分からないが、今こうして時間を潰す事は出来ている。最も本はこれだけではなく、他にも数十冊の本を持っているが、飛行時間を考えると妥当な選択だと思った。




基本的には著作権フリーの本をどんどん出していこうかと考えてます。


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ACT:6

小さな交友が後の命運を左右する。彼はどう転ぶのか楽しみだ・・

ーーーーまさか、運命を映画感覚で楽しむ奴がいるとは、驚きだーーーー

?!お前は・・・私が作った物語を終わらせはしない、絶対にだ!

ーーー人の人生にたくさんの分岐を仕掛けた奴にそのセリフを言われなくないねーーーー

私が作り出してしまった不具合だ、消去してやる!

ーーー望むところだ。貴様の支配を終わらせる!ーーー


セブ島(英語: Cebu Island)は、フィリピン中部のビサヤ諸島にある島で、南北に225kmにわたって伸びる細長くて大きな島である。面積は4422km2。周囲はマクタン島、バンタヤン島、マラパスカ島、オランゴ島など小さな島々に囲まれている。(Wikipediaより参照)

 

「こちらは機長です、たった今セブ島に着陸しました。今から大体4時間ぐらい補給休憩を行いますのでその間は自由に行動しても構いません。」

 

ヘッドセット越しに聞こえてきた機長の声は若い女性の物で、男性パイロットだと勝手に勘違いしていた私は多少驚いてしまった。それを見ていたヨルンはケタケタと嘲笑を浮かべていたので私の気分は少し悪くなった。そんな気分を吹き飛ばそうと「組織」から支給されたカードを使って何かをしようと考えた。

 

「ヨルンさん。質問なんですが、ここから近いところにある街ってどれくらいでしょうか?」

「フッ、司令は貰ったばかしのおもちゃを使いたくてしょうがない様子のようだ。此処からだと大体10分ぐらいの距離にマンダウエ・シティという場所がある。そこに着いたら翻訳を雇うなりして、堪能すれば良い。俺は影から護衛をするから安心しろ」

 

そう言って彼はどこからともなく取り出したサイレンサーのついたマークスマンライフルを私に見せつけた。

 

 

その後、私は最近注目されているスマホを使い、通訳の人を雇う事に成功した。通訳の人は割腹の良い中年男性で人の良しそうな温和な表情が特徴的な人物だ。そんな彼にATMの場所を聞くとその場所まで案内された。道中異国の景色を堪能しつつ彼と談笑していた。

彼曰く、少し前までは日本にいたがギリシャの財政破綻をきっかけに起きた金融危機で日本での職を失ってしまい、地元に帰ったらしい。不景気で職を失いかけた私と似ている部分があったので話は弾み、一緒に食事をたらふく食べた。

 

「まさか、ニホンジンの人と一緒にまたご飯を食べる事ができるなんて、とても嬉しいですよ」

「私としても1人でご飯を食べるより誰かと一緒に食べるのが好きなのでちょうど良かったです。」

 

彼が食事を食べ終えたのを見計らって彼に聞いてみた。

 

「そう言えば貴方は職を失って故郷に帰ったと仰いましたよね?差し支えなければどの様な職についていたのか教えてくれませんか?」

「私は元々「アンブレラ・ジャパン」という会社に勤めていたのですが、2004年に解散してしまって・・・当時の私はニホンジンを取りまとめる研究リーダーだった。だからお金は沢山あったから株取引をする事にしたんです。友達に絶対安心と言われていたスイスフランに手を出したのが間違いでした。お陰で私は昔の時とは比べ物にならないぐらいの生活を送ってます」

 

私自身、アンブレラ・ジャパンとは何度か契約して業務に関わった過去があるだけに彼との親近感は話を聞く前と聞いた後ではだいぶ違っていた。

思えばアンブレラが事実上の倒産した事で(全くとは言えないが)関係のない人々の生活を破壊したことは事実であり、私もその被害者の1人である事には変わらない。通訳の彼だって将来的には私が初勤務の時に見た「感染者」を作る研究者になっていたかもしれない。

しかし「if」のことを考えていても仕方がないのは百も承知だが、『もしも、あの時にこうしたらどうなっていたのか?』と考えてしまう事は最近増えてきている気がする。それが原因なのか「幻聴」をよく聞く様になっているのも問題だと感じている。

 

「そうだったんですね・・・私もアンブレラジャパンさんとはお付き合いがあるので、まさかこの様な場所で関係者と会う事になるとは思いませんでした・・・おっと、もうそろそろ時間が近づいてきているので此処で失礼します。」

 

気づけば残り時間が少ない事に気づいて、最後に通訳のお代を渡した後、彼との連絡先を交換して私はヘリのある場所に帰った。初めての異国だが、現地の人と交友を結ぶのはこの職では結構重要な事ではないかと思っているので、良い経験になった。

 

「よぉーどうだった?中年のオッサンとデートした気分は?」

「ヨルンさん。私はデートをしたわけではないんですよ。それに私には妻子がいますし」

「にしても、司令は結構太っ腹なんだな、二重の意味でな・・・・ワザワザ通訳の分のレチョンを買う事はないだろ?」

「交友関係はあって損はないですよ。これが後々どの様な事になるのか分かりませんが、良い方向に進むと私は考えてます」

 

ヘリに戻った私にニヤニヤと笑いながら声をかけたヨルンと話していると、ヘリが離陸して行く感覚を感じた。短い間でも仲の良い知り合いを作る事ができた私は、総司令部に向かうヘリの中で眠りについた。




セブ島については完全に私の想像と偏見とGoogle先生による完全創作です


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ACT:7

ーーーはぁ、はぁ、はぁ、人間風情が私にたてつこうなどと思うなーーー

バタフライエフェクトを見せ物のようにしているお前を許せるわけがない!

ーーーなんとでもいうが良い・・さて、彼はどの様な事をするか楽しみだーーー


「機長です。当機はこれより着陸態勢に入ります。」

 

素っ気ない声が聞こえると同時に私は本の世界から現実へと引き戻される感覚に陥った。私自身ゲームや本を見るとその世界に入り込んで時間を忘れてしまう事が多々ある。今回はそれが良い方向に転じたようで、体感時間としては1時間ぐらいで済んだ(実際は7時間も過ぎていた)。

 

外から基地を見た感じはとてもじゃないが此処に本部があるとは思えないほどの鬱蒼とした雰囲気で何処か不気味な感じを与える印象だ。しかし、ヘリが着陸のために降下していくと、地面と同化していたハッチが左右に割れてヘリポートが下から押し上げられた。これには私も目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。

 

「おいおい、いい歳こいて大袈裟に驚くなよ。司令官殿?」

「いやはや・・・何というか、まるでサンダーバードの秘密基地みたいですね・・いやぁ、凄い。この歳にもなってワクワクが止まりませんよ」

 

ヨルンの馬鹿にしたような言葉を一切気にせず私はありのままの感想を口にする。

動じていない私を見て当てが外れたような顔をしている彼が「身嗜みをきちんと揃えろよ?」とだけ言って視線を機内に戻した。私はその言葉の意味する事を瞬時に理解して何とか着陸前に着替え終える事が出来た。

 

身嗜みを整えて外を見てみると、いつの間にか着陸したヘリがヘリポートごと下に降りて行くところだった。下に下にと降下していくヘリポートは最初こそ、分厚い装甲部分しか目の前に無かったが5秒ぐらいしたら、とても大きな場所に降りたった。

 

底は人工的に作られた大規模基地のようで、まるで私が少年時代に見ていた機動戦士ガンダムのジャブロー基地を彷彿とさせているが、ジャブロー基地のような洞窟の中に作られま基地ではなく、キッチリとした四角形のとても大きな空間なのがジャブロー基地との大きな違いだ。

 

ヘリのハッチが開くのを確認した私は帽子を被り、基地に降り立った。

 

「ようこそ、立花光雄さん。私は「アドミニストレーターアジア方面総司令部」所属のヤン・メイリンと申します。今日は時間も遅いので翌日の13時に総司令官と面談させる様に仰せつかっているので、貴方に割り当てられた部屋に案内します。ついてきて下さい」

 

彼女・・ヤンさんは活発そうな顔とショートカットの髪がとても似合っている中国系の人だ。彼女は屈託のない笑みを浮かべて私を基地内へと案内した。

 

道中色々な施設があったが、私は彼女に質問をする事にした。

 

「ヤンさんにお聞きしたいのですが、「アドミニストレーター」とは一体何でしょうか?」

「ここで研修を受け始める司令官は全員が同じ質問をしますよ。立花さんは他のエージェントや各支部の司令官が「組織」と呼んでいるのが自分たちが所属している所というのは理解してますね?彼らは機密保持のために総司令部以外でこの名称を言う事自体が禁止されているのです。」

「成る程・・・つまり「組織」が『アドミニストレーター』という名称なんですね。ありがとうございます」

「因みに私たちは名称を端折って「アドミン」と呼んでいます。どちらかと言うとこの名前の方が良く使われているので、私はこれを推したいですね。」

 

そう言って前を向いたままクスクスと笑った彼女はとても若く見えたので年齢を聞いてみると「24歳」と言う事がわかった。

 

「私の年齢でここに配属されるのはとても珍しい事みたいです。同年代の方が誰1人としていないので私としては少し寂しいですけどね・・」

「これはまた・・・大変ですね。ちなみにアドミンにはなぜ入ったのですか?」

「私はスカウトで入りました。何故アドミンに入れたのか分かりませんが、入ったからには精一杯頑張るつもりです!」

 

そう言って私に笑顔を向けた彼女は若い人特有の瑞々しさと青さを感じさせる顔だった。

 

「ここが研修期間中、立花さんが暮らす事になる部屋です。基本的に顔認証による自動開閉なので、顔の5割以上は露出して入って下さいね。食堂は朝は7〜9時、昼は12〜14時、夜は16〜22時まで開いていて、食べたい物はここに来る前に支給されたキャッシュカードで購入する事が出来ます。自炊が好きな方もいらっしゃいますので、自分でご飯を用意する事も可能です。生活に必要な設備は取り揃えていますが、何か不自由があった場合は遠慮なく言って下さいね!」

 

そう言って彼女は私にピースサインを向けると何処かへ向かって歩いて行った。

案内された部屋は1Kルームで自炊などが出来る様にキッチン設備が一通り揃えられている。冷蔵庫を開けるとビールや清涼飲料、水、固形栄養食が大量に入っており、私は固形栄養食とビールを2本取り出し3分でビールを空にさせた後に眠りについた。

 

 

翌日アルコールを摂取したのが原因で7時に起床した。気分はやや悪いが、シャワーを浴びる事で通常状態に移すことに成功した。その後、私は制服を着用して食堂に向かった。

 

「restaurant」と書かれた扉を開けると目の前に広がっている光景に驚いた。てっきり学校の食堂の様に簡単な作りの食堂だと思っていたが違った。まるでカフェテラスの様にゆったりとした作りに落ち着きのあるモダンな内装。BGMに小鳥のさえずりと、適切な音量のテレビ、小川の流れる音が心地よく耳に入ってくる。リラクゼーション効果も期待できそうな食堂には圧倒された私は扉の前で暫し立ち止まって感心していた。

食堂では小型の端末とカードリーダーが備え付けられた多種多様なテーブルが設置されていて、1人様のテーブルに座った私は早速端末を操作してみた。

 

暗転している画面をタッチするとメニュー画面が表示されて、「インド料理」「韓国料理」「イギリス料理」と多種多様な項目が出現した。適当に「モンゴル料理」を選択した私は見たことも聞いた事もない名前の料理名と写真がズラーっと並んでいる光景にゲンナリとした。バリエーションが豊富なのは良いが、1カ国の料理だけでこれだけの量を取り揃えているのは返ってテンションが下がってしまう。何を注文するか迷った私はふとある項目に釘付けとなった。

 

「料理診断」

 

名前からして今食べたい料理を注文してくれると言う事だろうか?考えても仕方が無いのでこの項目をタッチすると、10問程度のアンケートが表示された。それを埋めて送信ボタンを押すと「ケバブ(ヨーグルトソース)」と「緑茶(冷)」が表示された。嫌ではないので注文ボタンを押して、カードリーダーに組織からもらったカードを触れると「ッピ」という音と共にタッチパネルが暗転した。暫く待っていると、テーブルの中央が左右に開閉して下から私が頼んだ商品が押し出されてきた。まるで未来の世界に来たかのような小さな興奮と共にケバブにパクついてこれからのことを考えた。

 

(今の時間は7:15分。13時までだいぶ余裕がある。施設を回るのも一興かな)

 

今後の方針を立てた私はケバブをお茶で流し込み、食堂を後にした。

 

 

通路をあてもなく歩いていると、目の前に電光掲示板がある事に気づいた・・・いや、電光掲示板では無い・・・これは3D、AR?何にせよ私の知らない最新技術で作られた案内版のようだ。それに触れると「ウェルカム立花光雄」という日本語と共に館内マップが出現した。ここに来てから驚いでばかりだが、面白そうな場所はないかと舐め回すように見ていると興味深い場所を発見した。

 

「仮想現実訓練室」

 

仮想現実の訓練場とは何のことか分からないが、珍しいものに目がない私はマップを基に目的地に歩を進めた。

 

「ここかな・・・」

 

私は「Virtual reality training room」と書かれている部屋に入った。

 

「何だ・・・この広さは・・・」

 

まず私が驚愕したのは部屋の広さだ。私がいる地点から見通しの良い一本道の左右に部屋が効率よく敷き詰められている。それぞれの部屋の中を見る事ができないが各部屋の壁にはデュアルモニターが取り付けられており、一方に入室している人物の顔写真と名前が、もう一方にその人のアイカメラだろうか、臨場感のある映像が流れている。そんな部屋が敷き詰められているからか、奥行きがありすぎて霞んで見える・・・5キロは余裕で超えてると考えた私は近くにあるマップと備え付けの端末に手を伸ばして確認した。

 

その端末には「説明書」という項目があったのでクリックすると次の文が現れた。

 

『この施設は司令官やエージェントの訓練場として作られた施設です。100km × 100kmの敷地に様々なシチュエーションのフィールドデータをインプットしており、使用者はこれを利用して様々な場面に対応できる能力を培う事が出来ます。使い方は、当端末の『利用』をクリック、スキャン画面に切り替わったら個人情報カードをかざして下さい。認証されると利用可能ルームが表示されるので利用したい場所をクリックして次に表示される細かな条件を設定して下さい。全ての設定が完了したら端末に表示されている番号のカートに乗り込んで当該ルームに案内します。ルーム前に着いたらアイカメラ付きゴーグルがありますのでそれを着用して部屋に入室して下さい。訓練終了時に、希望者にデータとして訓練映像のファイルを送信します。』

 

取り敢えず私はアンドリューの経歴にあったラクーンシティのマップを選択した。そして設定項目の敵を「Tウィルス感染者」と「BOW(1990s)」を選択。装備は白のワイシャツの上に軽量プロテクターを装着して、隠すようにスーツを着用してAK47とマガジン9個を選択、表示されているカートに乗り込んだ。

 

カートの移動速度は尋常じゃないスピードで平坦な道を走っているだけなのに相当なGが体に襲いかかった。しかし、当該ルームには12秒ぐらいで着く事が出来たので私としては効率の良さより乗り心地を何とかしてもらいたいと思った。

カートから降りたら先ず部屋の前に置いてあったグラスをかけて入室、すると部屋全体に響く女性の声で「目の前に表示されている地点まで歩いて下さい」というアナウンスが響いたのでそれに従って歩を進めた。所定の位置に着いたら再度アナウンスが流れて「後10秒で世界の構築が終わりますので目をつぶって待機して下さい」と言っていたので言われた通りにした。

 

「さて・・・あのラクーン事件を体験する事が来るとは夢にも思わなかったな・・・アンドリューの言っていた「地獄」を体験しようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

世界が変わる




バイオに登場させる違和感のないキャラを考えていたらこのキャラが出てきました・・・正直言って彼、彼女達は何にでも使えますね。さすが教科書の登場人物。


ーーーーーーー
NAME:ヤン・メイリン
AGE:24歳
SKILL:言語理解能力、護身術、簿記、計算技能、秘書
CAREER
中国生まれ。幼い頃は英語と理科、体育などの成績が良かったが、大学に入学してからは、これと言った実績も無かった。しかし、組織のあるスカウトによって加入。本人に何故スカウトされたのか自覚は無い。スカウトした当人にも理由が分からないと言われている謎の人物

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ACT:8

シチュエーション51:ラクーン事件

 

操作人物: 立花光雄

 

日時:1998年9月28日20時00分

 

場所:ウォーレンストリート

 

目的:ラクーンシティからの単独又は複数での脱出

状況開始・・・・

 

 

 

焦げ臭い匂いと何かが腐ったような匂いが私の嗅覚を襲い急激に気分が悪くなった。HUDに表示されている情報を見た後、気分を無理やり奮い立たせ周りの状況を確認するとそこは・・・地獄だった

 

パトカーや映画でよく見るS.W.A.Tを運ぶ車がメインストリートを塞ぐようにして並んでいたが、警官の姿はどこにもない・・・いや、警官「だった」肉片はそこら中に転がっている。どうやら腐ったような匂いはこれが原因ようだ。パトカーの何台かは炎が車内から吹き出しており焦げ臭い匂いの正体も突き止める事ができた。

ふと、パトカーのボンネットを見るとAK47とマガジン9個が綺麗に並んで置いてあった。

 

(もう少しシチュエーションに準じた出し方でも良いと思うんだけどな)

 

そう思いつつ、マガジンポーチに弾倉を入れてAKの弾倉内を確認してみた。全発入っているのを確認した私は周囲の警戒をしつつ北に向けて進んだ。十分後、ヘリコプターの音と大量の車の音が遠くから徐々に近づいてくるのに気付いた私は近くのガソリンスタンドの店内に押し入った。店内を素早くクリアリングしていると奥からガコっという音がして私はそこに銃を向けたまま小走りで尚且つ音を極力立てずに近づくとそこには、扉に寄り添うようにして倒れている死体があった。その死体は片手に拳銃を所持しており自らの頭を撃ち抜いた痕跡が見受けられた。

死体は頭部の重要な器官を的確に撃ち抜いているので感染の心配は無いと判断し、扉に目を向けた。そこには血で以下の文字が書かれていた。

 

 

『私は噛まれた、娘も噛まれた。抗体を持っていると信じる。奥の部屋に閉じ込めた』

 

どうやら親子らしい。私は死体を退かして辿々しい文字の書かれた扉に向かって声をかけた

 

「私は怪しいものではありません。君のお父さんからの遺言で助けに来ました。生きていたら返事をしてください」

 

そう問いかけたが返事はなかった。そのかわりガコガコカゴ!っと扉を強く叩く音がして中の娘はすでに感染してると判断した。扉の開く方とは反対の所に陣取って扉を勢いよく開いた。すると中から素早い動きで「感染者」が一体飛び出てきた。

私は日頃訓練しているように照準を首と頭に間に向けて発射。2発の銃声とそれに付随するフラッシュが止んだ後、そこには動く物は私以外いなかった。

感染者だった死体を確認するとこれが娘の成れの果てだと確信した。気分が少し重くなったが、一時的な安全地帯となったガソリンスタンドの窓から顔を覗かせて騒音の状態を確認すると、全部で20台の車列と無数のヘリがウォーレンストリートを横切って行くのを確認した。私は車に書かれていた名前を見て驚愕した。

そこにはこう描かれていた

 

「U.B.C.S」

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

タンゴ小隊第2分隊隊長アンドリュー・フェルト

1998年9月28日19時45分

ラクーンシティ郊外上空

 

「・・・分隊長、ほんとにこの作戦はほんとに大丈夫なのか?なんだか嫌な予感がするんだが・・」

 

ヘリコプターのローター音が煩い中、ヘッドセットのマイクを使って話しかけたのは、私語の少ない衛生兵、バーク・スペクターだ。

 

「大丈夫なはずだ。今回の作戦は暴徒の鎮圧・・・俺らの武器で一網打尽にすれば良い簡単な仕事だと思うぞ?」

「間違いねぇな」

 

俺の返信にジミーが答えると全員がクスクス笑った。俺達タンゴ小隊は全員が特殊訓練を受けている。それも世界的大企業アンブレラ社の潤沢な設備によってだ。つまり何が言いたいかというとこの任務は「子供を大人が数人がかりで殺す程度」の認識でしか無い。他の小隊のロリコン野郎もきっと影で子供を犯す程度には余裕ぶっこいてる事だろう。

 

 

「なんだか嫌な予感がするがそれが気のせいか?・・杞憂だと良いが」

 

楽観的な考えをしている俺達を他所に1人だけ歯切れの悪い返事をしたバークはそれっきり黙り込んだ。

 

『おい、犯罪者共。もうそろそろ降下ポイントにつくぞ!準備しろよ』

 

ヘリパイロットからの無線で俺らは左右の扉を開いて降下に備えた。

 

眼下に広がる景色は・・・戦場だった。

 

息を呑む俺を他所にヘリは着実に降下ポイントまで進んでいくが、ここで事件が起きた。

 

『なんだこのカラス共は?!頭がおかしいのか?!』

 

ドドドという音が連続的に聞こえたと思ったらヘリコプターのバランス制御が不安定になり、ヘリ本体が回転しながら降下していった。俺とバークは堪らずヘリの手すりに捕まって身体を固定しようとした。

 

「おい操縦士!どうなってやがる?!」

『カラスの群れがヘリに体当たりしてきやがった!ローターにも当たったみたいだ!墜落するぞ!』

 

俺の問いかけに対する返事に「おい、マジかよ」とバークは呟いた。ジミーとダイゴは、座席のフチを掴んで落ちないようにと必死にしがみついているが恐れていた最悪の事態が起きた。

掴んでいた手すりが千切れたのだ。千切れてバランスを失った俺が外に放り出されようとすると「分隊長!」と叫んで伸ばされた俺の手をがっしりと掴んだバーク。しかし、バークの掴んでいた手すりも千切れて2人共々外に放り出された。

 

SideOut

ーーーーーーー

 

 

 

 

ヘリの隊列の内一機がローター部分から煙を出して墜落したのが見えた。あれでは生存者はいないだろうと踏んだ私は、車列が通り過ぎるのを待って行動を開始した。ガソリンスタンドの扉をそっと開けて外に出た私は隊列が向かった方向とは逆の場所、つまり北に向けて歩いた。

通り過ぎた車とヘリ以外にも同様の編成をした部隊がラクーン全域に展開しているので町中から騒がしいぐらいの銃声が鳴り響いている。私は急いで通りを駆け抜けて「ラクーンストリート」と書かれている幹線道路に出た。そこでは50名以上のU.B.C.S隊員が感染者と交戦しており、感染者の集団に向けて弾丸を発射していた。しかし隊員達は何発撃っても倒れない奴らの包囲網に囲まれており、程なくすると感染者が50人追加されることは容易に想像できる。

 

私は彼らを援護するために大声で叫んだ。

 

「感染者は頭を撃てば死にます!頭を撃ってください!頭!!」

 

その声に気づいた数十人の隊員が胴体の攻撃から頭部の攻撃に切り替えた様で感染者の集団はその数を徐々に減らしていった私もAKを1発1発確実に撃ち込むように弾丸を発射して奴らを掃討した。

 

マガジン1個、最初に撃った2発を除いた28発の弾を消費した段階でU.B.C.Sを包囲していた感染者は居なくなった。隊員達はバラバラに散って奴らを処理し出した時に私に近づく存在に気付いた。

 

「助言と援護を感謝する。俺はデルタ小隊隊長の「ミハエル・ヴィクトール」。我々はラクーン市民の救出任務の命令を受けて出動したU.B.C.Sだ。アンタは俺たちが守るからもう安心だ。市民救出の為のヘリは時計台付近に展開する予定だから、その間はこの通りに本部を設置して待機してもらう」

「いや、その心配には及びません。私も個人でこの街の惨状を知って駆けつけた者ですので・・・私はU.B.C.Sの手伝いを単独でするのでそちらの手を煩わせるようなことはしません」

 

そう言って、眉を潜めたミハイルを背に東に進んだ。

 

「おい、いちよう俺らは可能な限り生存者の救出を行うつもりだ!勇者殿がご帰還したい時にいつでも戻ってくれて構わないぞ!」

 

多少の皮肉を混ぜ込んだ言葉を受けて私は銃声轟く地獄へと歩き出した。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

第2分隊隊長アンドリュー・フェルト

1998年9月28日20時20分

グットストリート南部

 

 

 

ブラックアウトした視界が徐々にもとに戻って周囲の状況を見ることが可能となった。

急いで墜落現場に向かって仲間と合流したいところだが、焦ってはいけない。自身の思考がまだ正常ではない時に行動を起こすとろくなことにならない。なので、俺は息を潜めて首が回る範囲の状況確認に勤しんだ。

どうやら俺はヘリから投げ出されて民家に落ちたらしい。どうもこの家は家庭菜園を嗜んでいたようで、その土が俺の命を救ったみたいだ。現在の体制は仰向けに倒れており近くにはバークが倒れている。反応がないのを見るに意識を失ってるか、或いは死亡している可能性がある。

 

「おい、バーク!起きろ」

「うう・・・気を失って何分経過した?」

「分からん・・・唯一わかることは俺らは生きてるという事だけだ。個人携帯用の無線で通信したいが誰も応答しない。恐らく通信範囲外だろう」

「そうか・・・見た感じ俺と分隊長に怪我はないようだ・・・これからの事を聞かせてくれないか?」

「大まかな任務は変わらず生存者の救助だけだ。サブ目標に分隊員との合流が追加するぐらいだよ。」

 

俺はそう言って立ち上がると落下した家の中を探索した。幸い家の中に暴徒共は1人もいかなかった。後から入ってきたバークと協力して家の中で使える物を探したがこれと言ったものは見つからなかった・・・この事態についての興味深い記事は有ったが、それを無視して家から出た。この家は小道沿いに建てられた家のようで無音映像だけなら平凡なごく普通の夜道としか見えない。

 

「これが普通だったらな・・・」

「何か言ったか?分隊長」

「いや、何でもない・・・取り敢えず大通りに出て現在地点の確認をするぞ」

「了解」

 

 

彼らの戦いは始まったばかりだ

 



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ACT:9

既存の事実を書き換える事は絶対に無い

これからのことを考える


20:40 ラクーンストリート東部

 

私は「ラクーンストリート」東部に向けて歩いているが一向に生存者と鉢合わせしない。したとしても感染者か無残に食い殺された死体だけだ。

現在の武装はAKの弾倉が8個・・・つまり240発だけ。正直言って舐めてかかったが、アンドリューが言ったように「この世の地獄」・・・頭部以外の攻撃を受け付けない感染者がアリの大群の様に群がってくる。それだけで悪夢だと言うのに私はシチュエーションの出現敵で「B.O.W(1990s)」も追加したことを思い出してゲンナリした。

日本にいた時に見たラクーンシティ事件の資料では、アンブレラがB.O.Wを投入したのがU.B.C.Sの投入数時間後・・・つまり、その数時間以内に脱出しないと難易度が跳ね上がるわけだ。それに、基地司令との面会と昼食の事を加味すると後4時間以内に全てを終わらせなければ行けない計算になる。

 

パン、パン、パン

 

ラクーンストリートにいるU.B.C.Sの銃声とは別方向からの発砲音を聞いた私は生存者がいる可能性を持って音のなる方角に歩き出した。

 

 

ーーーーーーー

 

タンゴ小隊第二分隊員ジミー・キャンベラ

20:25 フレンチストリート

 

 

 

 

目が覚めた時、いきなり全裸の痴女に食い殺され掛けたらどうする?

 

 

 

 

悲鳴を上げながら食われる?

ーナンセンスだ。俺の性に合ってないー

 

 

 

 

ジタバタもがきながら抵抗する?

ーカッコ悪い事はしたく無いタチなんでねー

 

 

 

 

 

仲間を生贄にする?

ー仲間に撃ち殺される未来しか見えないねー

 

 

 

 

俺だったらこうする

 

「クソッタレの雌犬め!死に晒せやおらぁ!」

 

ホルスターに収納していたハンドガンを向けて躊躇なく撃った。

 

パン、パン、パン

 

俺の撃った弾は胸、首、頭の三箇所に命中して、俺を襲おうとした暴徒はピクリとも動かなくなった。

周囲に暴徒がいない事を確認した俺は、墜落したヘリの中にいる仲間を起こしにかかった。

 

「おい!何時まで寝てるんだよ!パーティの時間はとっくに始まってるんだ!起きろ」

 

俺は近くにいたダイゴを叩き起こしてヘリのコックピットにいるパイロットのもとに向かった。しかし、彼は折れたヘリの翼が顔面に突き刺さっており一眼見て死んでることの確認が取れた。

 

「なぁ、ジミー。分隊長とバークの野郎がどこにもいないんだが・・もしかして落ちたのか?」

「落ちたのをこの目で見たぜ・・・取り敢えず俺は通信を試みるからお前は周辺の警戒を頼む」

 

手早く指示を出して背中に背負っていた無線機を地面に下ろして広域通信を試みた。しかし、返事は無い・・・仕方なくオープン回線にして呼び掛けたが、無線には他の隊員の阿鼻叫喚や絶望的な報告がひっきりなし飛び交っており、無線で話す事が実質不可能となった。

 

「クソッタレめ・・・特殊訓練を受けてそんなに経ってないだろうが!何も無線越しにさけぶことは無いだろ!」

「おいおいジミー、そうカッカすんなよ。頭に血が上ったアンタの尻拭いをするのは俺しかいないんだからよ・・・取り敢えず人生の先輩からこれからどうすればいいのか御高説賜わりましょうか」

「・・取り敢えず見晴らしのいい此処から撤退して小道沿いに移動するぞ。運が良ければ仮拠点を見つける事ができるかもな・・・・それとダイゴ。帰ったらシバクから覚えておけよ」

 

俺はそう吐き捨てるとダイゴを連れて此処から離れた。

 

 

ーーーーーーー

 

21:05 フレンチストリート

 

銃声が聞こえた場所に走って向かった。音の発信源に近づくにつれて。焦げ臭い臭いがするが構わずに向かった。道中音に集まってきた感染者が一塊になって向かっていたが走りながら的確に体上部・・・主に首の鎖骨辺りから上を狙って単発射撃した。

一塊になっている感染者集団に対して命中率が低い方法で射撃をしながら走り抜けるのは自殺行為だ。しかし、相手は回避行動も取らないただの的に過ぎない。しかも外れた弾は敵集団の何処かしらに当たってよろけるので無駄弾など1発も無い。

 

弾倉内の弾は後17発。銃声が聞こえたであろう場所に着いたがそこには誰も居なかった。墜落したヘリと中でパイロットらしき人物が死んでいたが「それだけだ」念のために注意深く辺りを観察しても手掛かりは見つからず私はポツリと呟いた

 

「まったく無駄足だった様だな」

 

私が発泡した音で感染者が集まって来る前に小道から離れた。

しかしここで問題が起きた。ラクーンストリートに出る為の道は何時の間にか増えた感染者で塞がれており、唯一通行可能な道が大回りとなる東からのルートしか無くなっていた。私は即座に銃口を感染者集団の脚部に狙いを定めて射撃しつつ後退した。倒れた感染者に巻き込まれる形で他の感染者もドミノ倒しに倒れていくのは気分がいい。

感染者集団との距離がある程度離れてきたら退却ルートを脱兎の如く駆け抜けた。

 

「はぁ・・はぉ・・はぁ!!!・・・・次からは・・・・射撃だけじゃなくて運動もしないと・・いけない・・なぁ・・」

 

100mほど走っただけで息が上がり私の足は棒のようになっていた。適当な物陰に隠れながら息を整え、視界上に展開されているミニマップを確認した。どうやら私は今フレンチストリートのさらに東側・・・対面にラクーンストリートを挟んでグットストリートがあるらしい。現状U.B.C.Sの隊員がラクーンストリートを掌握しているので安心して通る事が出来る。現状南部方面に向かった方が脱出の役に立つと考え「グットストリート」に向かおうとした時にそれは表示された。

 

 

 

 

『「対」との深刻な接触を確認。訓練を終了します。』

 

 

 

 

その瞬間目の前が徐々にフェードアウトして無機質な室内・・・訓練場に戻った。困惑している私を他所にアナウンスは続けて放送した。

 

『「対」ミハイル・ヴィクトールとカルロス・オリヴェイラの直接又は間接接触を確認。使用者の行動により他の「対」の行動パターンに深刻な変化が生じました。シチュエーション訓練を終了します。扉の外にある端末で詳細なデータと再訓練を選択する事が可能です』

 

そう言って扉が開き私に退出を促した。釈然としない思いでアナウンスされた端末に向かった。

 

端末の近くに立つと赤いレーザーが目に当たり、私は大いに驚愕した。その間にも目にレーザーは照射されており、時間的には2秒も経ってないうちに「ようこそ立花光雄。訓練データを表示します」と音声が流れた。

レーザーが当たった眼球に多少の違和感を覚えながら端末を操作していくと、色々な項目があり、史実での時系列での出来事が記載されており、それを見て理解した。

 

 

ーーーーーーー

 

19:45 U.B.C.Sラクーンシティに展開中に現エージェント、アンドリュー・フェルトの搭乗しているヘリが墜落。内パイロット死亡。

 

20:10 ラクーンストリートに展開していたU.B.C.Sが壊滅。現時点での生存者6人。

 

 

ーーーーーーー

 

ラクーンストリートに展開している部隊が壊滅していない事によってシンギュラリティが発生。それにより訓練が終了したと思う。時間を見てもまだほんの数十分しかたっておらず、再度挑戦する事が可能と判断して端末に表示されている「リトライ」というボタンをクリックして、再度部屋に入った・・・・史実通りに事を進める為に。

 

 

 

 

ーーーーーー

シチュエーション51:ラクーン事件

 

操作人物: 立花光雄

 

日時:1998年9月28日20時00分

 

場所:ウォーレンストリート

 

目的:ラクーンシティからの単独又は複数での脱出

状況開始・・・・

 

 

 

先ほどまでいた訓練場からあの街に戻ってきた私は早速行動を開始した。具体的にはガソリンスタンドに隠れてU.B.C.Sの車列が通り過ぎるのを待ち、ラクーンストリートに移動する所までは一緒だ。

大通りで戦闘中のU.B.C.Sを助けずにゾンビの囮として使い、その間に道路を走り抜けて「アイビーストリート」に到着した。

HUDに表示されている時間を見ると20:15分で状況開始から15分しか立っていない。さらに感染者との交戦もラクーンストリートに展開しているU.B.C.Sを囮に使った事により一度も無く、1発も発砲していない。

 

「アイビーストリートを右折すればフレンチストリートに入るのか・・・一度見てみるか」

 

私は前回の挑戦で墜落したヘリの生き残りに興味を持ったので「出来るだけシンギュラリティを発生させず」最新の注意を払いながら道を進んだ。

 

 

 

ーーーーーーー

 

タンゴ小隊第二分隊員ジミー・キャンベラ

20:25 フレンチストリート

 

目覚めたら目の前に痴女がいた。正直正気か?と自分に問いかけたい状況だが、事実だ。

手早く痴女を射殺した俺は近くで寝ているダイゴを叩き起こし、状況確認をした。

・・・残念ながらヘリパイロットは死んでいたが、無線はクリアに通じた。どうやら他の部隊はまともに機能しているようだ。

 

・・・・・実際は感染者の大群と交戦して壊滅していることはその時の俺には知る由もなかったが。

 

 

兎に角無線で分隊長に通信したら「グットストリート」とか言う通りにいるらしい。

 

「おいダイゴ。ボサっとしてないでいくぞ!」

「俺はお前と違って繊細なんだよ。単細胞のお前の先入観で決めつけるなよ」

「・・・・まぁいい、ついて来い・・・全て終わったら覚えておけよ」

 

ダイゴに吐き捨てると俺らはグットストリートに向かって走った。

 

ーーーーーーー

 

立花光雄

20:18 フレンチストリート

 

 

 

目的の場所に着くと、ヘリのローターが墜落してもなおクルクルと回っており、周囲にいる感染者の頭部を切り飛ばしている光景を目の当たりにした。昔に見た映画「ゾンビ」に登場したゾンビがヘリのプロペラに躊躇なく歩み寄るシーンを思い出したが、まさに映画のまんまだ。感染者がいなくなったのを確認した私はヘリの内部を見てみるとU.B.C.Sの隊員が2人倒れていた。彼らはまだ息があり、目覚めるのも時間の問題だろうと考え、コクピット席に移動した。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・おぃ・・誰かいるのか?助けてくれ!シートベルトが外れないんだ!頼む!!」

「?!生存者・・・今助けます!間違っても発砲しないでください!」

 

そう言ってコックピット席をのぞいた私は驚愕した。前回のシチュエーションで死亡していたパイロットが生きていたのだ。そんな私を尻目に彼は言った。

 

「ん?・・・おまえ日本人か?、いや、今そんなことはどうでも良い。何か刃物はないか?シートベルトが壊れてしまって抜け出せないんだ!」

「すいません。今刃物の持ち合わせがなくて・・・近くに使える物があるか探してみます。」

 

そう言って私はヘリから距離をとって物が切れる物を探した。

 

(前回は死んでいたのになんで生きてるんだ?・・・たしかヘリパイロットの死んだ時の格好は・・・・は?!)

 

前回のシチュエーションで彼はプロペラが刺さって死んでいたが、今現在プロペラは破損しておらずクルクルと回っている・・・これが導きかれる答えは一つだ・・・。

 

「あぶな・・・・っ?!」

 

 

警告しようとした私がヘリの方に注視するのとプロペラが折れて辺りに飛び散るのは同時だった。とっさに伏せてプロペラが当たることを回避したのはいいが、助けようとしたヘリパイロットは地面に当たって跳ね返ったプロペラの破片が頭部に突き刺さり即死していた。

 

(これで前回と同じ格好の死体ができたと言うわけか・・・)

 

これから助けられる命を助けずに任務優先で事を進めることに若干の抵抗感を覚えたが今更だと思った。ここに来る道中で助けられる命をわざと見捨てた私にこの状況を悲しむ権利などない。それに『仕事だから仕方ない』と割り切って辺りを探索した。

 

「ウウウウウゥ・・・・」

 

シチュエーションを開始して何度も聞いたことのある声が聞こえたので慌てて耳を澄ました。

 

(・・・この声・・・近づいている・・プロペラの破損音で気づかれたのか)

 

近くに、ヘリの墜落現場を見渡すことのできる二階建ての家を発見していたので、私は極力音を立てずに進入。そして二階に登り窓から墜落現場を見た。

 

「・・・女性の感染者か・・・あの2人は無事に済むか心配だ・・・」

 

感染者はゆっくりとヘリに近づいて、少しヒョロめの男に狙いを定めたようだ。どんどん彼との距離が近づいていきそして・・・・

 

 

「クソッタレの雌犬め!死に晒せやおらぁ!」

 

パン!パン!パン!

 

男の怒号と三発の銃声が聞こえたと思ったら感染者は後ろによろめいて倒れた。遠目から見た感じでは、即死だろう・・・そもそも感染者に即死という概念があるのかは分からないが・・・・・

 

「おい!何時まで寝てるんだよ!パーティの時間はとっくに始まってるんだ!起きろ」

 

中背の男が気を失っているもう1人を乱暴に蹴るともう1人・・・アジア系の男がむくりと起き上がると冷静な口調でこう言った。

 

「なぁ、ジミー。分隊長とバークの野郎がどこにもいないんだが・・もしかして落ちたのか?」

「落ちたのをこの目で見たぜ・・・取り敢えず俺は通信を試みるからお前は周辺の警戒を頼む」

 

 

蹴り起こしたのはジミーという名前らしい・・・

 

彼らは周囲の警戒をしつつ無線で連絡を取った。

 

 

「こちらはタンゴ小隊第2分隊通信手のジミーだ。現在地はフレンチストリート。繰り返す・・現在地はフレンチストリート」

 

この様な通信を何度か試みると通信に反応があった様で2人は携帯している地図を開いて位置を確認していた。

 

「おいダイゴ。お前が先行してくれ・・・俺は後ろを警戒する。それで異論はないな?よし行くぞ!」

「初めから俺の意見なんて聞いてないじゃないか・・・まぁいい、せいぜい後ろには注意しろよ?」

「・・・冗談を言えるぐらいには意識がはっきりしてる様だな。「グッドストリート」に向かうぞ!」

 

どうやら、アジア系の男は「ダイゴ」で彼らは「グットストリート」に向かう様だ。

 

(取り敢えず私も移動するとするか・・・・?!)

 

動こうとした私の気配に気付いたかの様にダイゴと呼ばれた隊員が私のいる方向をジッと見つめた。気づかれてないだろうが動いたらバレる様な気がする。状況は少し違うが、蛇に睨まれたカエルとはまさにこの事を言うのではないかと感じた。

 

「おいダイゴ。ボサっとしてないでいくぞ!」

「俺はお前と違って繊細なんだよ。単細胞のお前の先入観で決めつけるなよ」

「・・・・まぁいい、ついて来い・・・全て終わったら覚えておけよ」

ジミーがダイゴに話しかけたことで彼の視線が外れ、私は緊張感から解放される事が出来た。仮にこのまま見つめ続けられていたら見つかっていたと思う様なあの視線にはもう二度と関わりたくないと思った。

 

気を取り直して私は彼らに気づかれない様に背後から尾行した。

 

 

 

ーーーーーーーーー

第2分隊隊長アンドリュー・フェルト

1998年9月28日20時30分

グットストリート南部

 

 

「とりあえずは、20:50分に本隊が集結する予定の「ラクーンストリート」に到着するよう行動する。ジミーの言った通りならラクーンストリートを挟んだ対面側の通り・・・「グットストリート」にいるはずだ。」

「ジミー達との合流はどうするんだ?」

 

 

バークの質問に「出会い頭に遭遇するはずだ」と言った。正直ヘリから投げ出された時はどうしようかと思ったが、携帯無線と自身の体が無事に動作したのは不幸中の幸いだ。

現在、俺たちのいる一軒家の裏庭から裏路地に入りお互いをカバーし合いながら目的地に向かった。

 

 

「分隊長!・・・足音がします、それも複数」

「本当か?・・・こちらに近付いてるようだな。近くの家に隠れるぞ。俺に続いて援護しろ」

 

 

大人1人が少し余裕を持って通れる程度の裏路地でこちらに向かってくる複数人の足音・・・こんな状況で暴徒共ではない保証はどこにも無く、戦闘になった場合のリスクを考えると、隠れるという選択肢に至るのには充分だった。

 

木製の柵に取り付けられた勝手口から侵入(幸運な事に鍵がかかってなかった)した俺達は家の裏口を蹴破りクリアリングを行った。

 

 

「・・・一階オールクリア!。バークは二階のクリアリングをしろ、その後は何か使えそうな物を探してくれ。俺は一階部分で使えそうな物を探すから」

「了解。取り敢えず窓のある部屋を見つけたらそこに陣取る事にするぜ。」

「・・・俺の話を聞いていたか?」

 

各々が決められた行動通りに動く。家の中は良く片付けられており、対暴徒用になり得る物を見つける事が出来なかった。俺はバークの「窓を発見した」と言う言葉を聞いて二階に上がった。

 

 

「これは暫く待ちぼうけを食らうな」

「そうみたいだな・・・提案なんだが、いつ奴らが雪崩れ込んでくるかもしれない場所にいるのはやばいと思うんだよ。家を何かでコーティングすれば安全に待機できると思うが?・・・」

「それは良い考えだ。この家にある物を適当に持っていってバリケード代わりなするぞ。決まれば早速行動だ。」

 

 

バークの提案を受け入れた俺は家にある木製の家具を「少し」壊して窓を塞いだ。

 

ドン、ドン、ドン、ドン

 

ドン、ドン、ドン、ドン

 

小刻みに響く釘を打ち付ける音が気持ち良いぐらいに響き渡る。

 

ドン、ドン、ドン、ゴト、ドン

 

 

「?・・・おいバーク、一旦手を止めろ。何か音がしなかったか?」

「分隊長、俺は近くで釘を打ち付けていたんだ・・・銃声や悲鳴でない限り聞こえるわけがないだろう」

 

 

そう言ったバークは耳をすませた。

 

ゴト、ドコ、ガコ

 

 

「?!・・・分隊長、一階はオールクリアじゃなかったのか?」

「『一階は』な・・・どうやらこの家には地下室があるみたいだ。暴徒が隠れていないとも限らない。警戒しながら入り口を探すぞ」

 

 

内心の焦りを何とか顔に出す事なく俺は先陣切って地下室探索に乗り出した。地下室探索と言っても(アメリカの家にしては)狭いフロアで、戦闘のプロ2人が探すと容易に見つける事ができて少し拍子抜けしたが・・・・

 

 

「俺が先に突入する。バークはサブウェポンで突入してくれ」

「了解」

 

ドアノブに手をかけた俺はベルトに銃を吊るして自由になった反対の手でカウンドダウンを行った。俺自信の焦りが一本一本折れていく指の感覚が何時もより早めなのにバークは気づき俺をニヤニヤと笑って見ている。イラついた俺は指が全て折れた後バークに見えるように一瞬だけ中指を立てて突入した。その後ろからはムッとした顔のバークが入りスムーズにクリアリングを行った。

 

一見、地下室の中には誰も居なかったような感じになっているが、俺の感が告げている

 

 

 

 

 

ーーー誰かいる、とーーー

 

 

 

バークも俺と同じように感が働いたのか視線をキョロキョロと周囲に向けている。

ゆっくりと辺りを観察している俺の目が地下室に設置されているロッカーに向いた。そのロッカーに向けて神経を尖らしていると中からゴソゴソという音がわずかに聞こえた気がした。

バークにアイコンタクトでロッカーを開くように指示すると彼は音を立てずにロッカーに近づき取手に手を掛けた。

 

バン!!

 

 

 

「ウォォォォ!!!」

 

開いた扉から男が雄叫びを上げて襲いかかってきた。手には折れた木片を逆手に持ち、銃を構えようとした俺に飛びかかってきた。

片腕で男の武器を持った手首を掴み、もう片方で彼の溝付近をドンと押して引き離した。

 

「動くんじゃねぇ!俺らは市民救出のために出動したU.B.C.Sだ!」

「U.B.C.S?・・・・アンタ達をゾンビ共と勘違いしていた・・ごめんな」

 

興奮していた様子の男はバークの言葉で正気を取り戻して申し訳なさそうな顔で謝った。

 

「そっちのあんた。さっきは殺そうと飛びかかってすまなかった・・・・俺の名前はロイ・キングだ。ラクーン市警交通課に所属している。そっちは?」

「俺はバーク・スペクターだU.B.C.Sタンゴ小隊第二分隊の衛生兵だ・・・・おい、分隊長」

 

さっきの揉み合いを根に持っている俺はバークに声をかけられるまで仏頂面でそっぽを向いていたが、仕方がないと言わんばかりに喋った

 

「・・・・アンドリュー・フェルト。第二分隊の分隊長だ・・・・まだ許したわけではないからな」

「それについては本当にすまないと思っている。ここ数日、外にいるゾンビ共の相手をしていたもんだから精神が参ってしまっていたようだ・・」

 

弱々しく答えた彼に視線を向けて観察した。年は俺と変わらないようだが身につけているトレンチコートは所々焦げた痕や血が付着しており、酷い有様だ。何日も風呂に入っていなかったのか体からは異臭が漂い、綺麗な色をしていたであろう髪は血が染みているのか元の茶髪がくすんだ色に変色している、ツーブロックヘアに至っては元の髪型がわからないぐらいカピカピになっていて外の暴徒共と遜色ない状態だった。

 

「・・・とりあえずこの家の風呂に入ったらどうだ?避難誘導しようにもこんな異臭を放っていては敵わんからな」

「・・・感謝する」

 

こんなになるまで町を駆けずり回った哀れみと同情を禁じ得ない。それと同時に俺達も元は市民を救出する為にここに来たが、ロイとか言う警官と同じ状況に陥りかけている。それに加えて助けようとしているのは、同じ目的を持つはずの警官。

 

「なんだかなぁ・・・」

「?・・どうした」

「いや・・・何でもない。バークは一階で見張っていてくれ。俺は二階で暴徒共の動きを見張っとく」

「了解・・・分隊長。気を張り詰めすぎるなよ?」

 

胸が飛び上がるような感じがした。6歳も年下の、それも20の青二才に心を見透かされたような気がした。自分自身SASでの経験でポーカーフェイスは得意だと自負しているが彼も同じような経験を積んだ仲間だ、ばれたとしても仕方がない。その時の俺はこの言葉を言うので精一杯だった。

 

「大丈夫だ、問題ない」




取り敢えず何が変わったかを簡単に書きました。

「映画『ゾンビ』に登場したゾンビがヘリのプロペラに躊躇なく歩み寄るシーンを思い出したが」という文ですが、これはジョージ・A・ロメロ監督作品の『ゾンビ』ディレクターズカット版に出てくる、ヘリのプロペラに自分から頭を削られに向かってくるゾンビの事です。映画「ゾンビ」はディレクターズカット版しか見ていないのですが、その他にも色々なバージョンが存在しているらしいので、暇があったら見てみたいと思います・・・・・・・・・・・・・暇があったら・・ね?


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ACT:10

登場人物にも過去はある。人格を決定付けた過去は変えられない静的な物として記憶に存在している。


立花光雄

1998年9月28日20:36分

フレンチストリート

 

ヘリから離れること50メートル。彼らの歩みはとても遅かった。原因は先程までまばらだった感染者の数が一気に増え、その対処に追われながらの移動だ。慎重にならざる得ないし弾の消費量も側から見ていて面白いように減っていくのがわかる。

何故感染者の数が増えたのか?それと言うのも、ラクーンストリートのU.B.C.Sが壊滅した事で奴らに群がっていた感染者がバラバラに分散した事が原因だ。それを彼らは知る由もない。仮に知ったとしても報告書か今向かっているラクーンストリートの惨状を見て嫌でも理解する事だろう。

 

 

「クソッタレめ!・・なんで仲間が暴徒共と一緒に襲いかかってくるんだよ!」

「おいお前ら!怒らないから正直に言え!・・・ラリってるのか?!」

「ダイゴお前、こんな状況で問いかけても意味ねぇ事ぐらいわかるだろ?!状況を理解しろ!・・・なんでコイツら死なないんだ?!」

 

 

彼らは続々と襲いかかってくる感染者の中に紛れ込んでいるU.B.C.S・・・おそらくラクーンストリートの部隊員に向けて発砲したが死なない事に焦っているようだ。彼らが最初に射殺した時は頭に運良く当たり、何とかなったが今の状況では不利になるだろう。

 

 

「これは正当防衛だからな!・・・」

 

 

そう言ってダイゴが連射した弾が何発か感染者の頭に命中し、崩れ落ちた。

 

 

「・・・そうゆう事か!おいジミー!頭を狙え!頭だ!!」

「了解!」

 

 

彼らには運命の女神の加護が付いているのか、はたまた悪運が強いだけなのかは分からないがこの場は無事に切り抜けられるようだ。問題は私自身の移動だ。彼らに気づかれる事なく尾行するには感染者集団は厄介な存在となる。

 

 

「発砲したら音でバレてしまう。接近戦闘で感染者を排除するにも自分がやられる危険がある・・・どうした物か・・・ん?あれは・・」

 

 

隠れている場所から5メートル離れた場所の民間に大型の給水タンクが備え付けられているのを発見した。それは、やりようによっては屋根の上に登れそうな形状をしており、今この場を切り抜けるには最適なルートだと直感的に思った。しかし、そこにたどり着くまでに問題があることに気づいた。ジミーとダイゴはツーマンセルでの戦闘訓練を受けていたのか常に背後に気を遣っている。もしも私が動いたとしたら彼らに存在を露見させてしまう可能性がある。

どうしたものかと考えている私はふと足元に目線を向けると子供の握り拳大の石が4つ転がっていることに気づいた。

 

(この石をどこか適当な場所に投げれば・・・いけるか?)

 

ジミーとダイゴは感染者の相手をしつつジワリジワリと前進している。彼らのいる場所は住宅地の路地裏と言うこともあり間隔は狭く、奴らも大軍で遅いかれずに1、2体ずつ襲いかかっている状況だ。それが彼らを生かしている大きな要因だが、この状況は使えるかもしれないと思った。

彼らの視線は前方8割、後方2割の割合で意識を向けているが後方2割分の半分かそれ以上を「横に」向ける事ができたとしたら、私の移動がスムーズに行えるだろうと考えた。その為に裏庭と裏路地を仕切っている木製の柵に石を当てる必要がある。チャンスは石の数分・・・4回だ。緊張の為か自身の呼吸が若干浅くなった気がしたが多分気のせいではないだろう。

 

 

「・・・・よし、いくぞ・・・」

 

 

自信を鼓舞する為に放った言葉の2秒後に石を投げつけた。

 

カコ・・・・

 

コンクリート製の家にぶつかっただけで木製の柵に当たった音がしなかった。それを裏付けるかの様に銃声の発信源に限りなく近いところにいる2人には全く聞こえていない様だ。

 

残り3つとなった石を大事そうに拾った私は間髪入れずに2投目を投擲した。

放物線上に飛んで行った石は目標物に限りなく近い所・・・裏庭の(恐らく)草地に落ちた。

 

(どうしたものか・・・後2つしか無い。そんな状況でどうしろと言うんだ?)

 

その後3投目、4投目と石を投げたが全てが不発に終わり私は途方に暮れた。

 

 

「・・・?!ジミー、横からくるぞ!」

 

 

(横から?・・・)

 

考えに集中していた私の耳にそんな声が聞こえて来て咄嗟に声の元を見ると、柵を破って複数の感染者がジミーに襲いかかって来るのが見えた。これを絶好のチャンスと考えた私は急いで立ち上がり給水タンクに向けて走り出した。

バレるかもしれない緊張感で失敗してしまうかもしれないと感じていたがそれは憂鬱に終わった。無事に給水タンクにたどり着いた私は急いでタンクを上り、屋根の上に登る事ができた。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ!良かった・・・次の訓練では・・・絶対にサイレンサー付きの銃を使うぞっ!・・・」

 

 

息が絶え絶えになりながらそう独り言を呟いた私はジミーとダイゴが見える位置に移動する為に屋根と屋根を鈍重な動作で飛び移った。

 

 

「この薬中共め・・・ダイゴ、さっさと行くぞ!」

「りょーかい、行くよジミー」

 

 

私が移動している間に感染者の集団を殲滅した様だ。彼らは射殺した仲間のベストから弾薬を抜き取りラクーンストリート方面に向けて歩み出した。

 

 

ーーーーーーーーーー

タンゴ小隊第二分隊員ダイゴ・フローレンス

20:47 フレンチストリート

 

 

「この薬中共め・・・ダイゴ、さっさと行くぞ!」

 

 

暴徒共と一緒になって襲いかかってきたU.B.C.Sの仲間だった死体から弾薬を抜き取るついでに悪態を吐いたジミーが俺にそう言った。あいつと同じ様に使えそうなものを抜き取っていた俺も死体漁りを辞めて返答した。

 

 

「りょーかい、行くよジミー」

 

 

戦闘をあいつ・・・ジミーが歩きその後ろを俺が歩く。「あの頃」と何も変わっていないフォーメーションだ。

 

 

「なぁダイゴ、このフォーメーション、懐かしいと思わないか?」

「奇遇だな、俺も今そう思っていたんだよ。」

「あの頃に戻りたいとは思わないがな」

「フッ、臆病風に吹かれたのかダイゴ?」

「そんなんじゃねぇよ、あの頃の俺は色々荒んでいたからな・・・」

「・・・確かに。どんなに辛いことでも時が経てば眩しくなると聞いた事があるが、あの時の思い出は確かに酷かったな。ガキの子守をしながら戦場でドンパチしたもんだから仲間からなんて呼ばれてたかわかるか?」

「おいジミー、あの時何度お前を救った?片手では数え切れないくらいだぞ?・・・・ジミーの言う呼び名は俺だって嫌いだったさ」

 

「確か名前は・・」

「クソみたいな名前は・・・」

 

「「ララバイウォーリアー」」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

1991年7月10日

人民民主党政府傭兵部隊ジミー・キャンベラ

アフガニスタン カブール

 

 

「よぉ、ララバイウォーリアー。お前の子供はどこに行った?」

「おい、時間を考えろよ・・・きっとお昼のおねんねの時間だろうよ。ククク」

 

 

日差しが頭頂部に照りつける中目的地に向けて歩いていると、日陰で休憩している2人の傭兵仲間が挑発する様に俺の悪口を言った。俺は黙って中指を立てるとそそくさと彼らの元を後にした。到着したのは「オレ達」が雇われている人民民主党政府の作戦司令部だ。ドアの前に立っている見張の兵士からボディチェックを受けた後ドアをノックして入室した。

 

中では複数人の幹部連中が忙しく動いており、彼らをかき分けながら目的の人物の前にたどり着いた。

彼の名はイブラヒム・エルユヌシ。階級は准将で白髪の初老だ。

彼は作戦テーブルで複数の参謀官らしき人と話していたが俺がテーブルの対面側に立つと自然と視線を俺の目に合わせた。

 

 

「お呼びですか?司令官」

「おお、来たかお前達はここに来て1週間と日が浅い。しかし私の直属の部下のウマル君が君とその連子の実力を高く評価していてね。今度の作戦に参加してもらいたい。」

 

 

そういうと司令官は横目でウマルと呼ばれた人物に目を向けた。彼が俺に向ける目はザマァみろと言わんばかりに侮蔑の感情が入り混じった目をしており俺は嵌められたと理解した。

 

それと言うのも1週間前、ここに参加したばかりの俺とクソガキがその時、新人担当を任されていたウマルに「少々」失礼なことを言ってしまって彼の逆鱗に触れてしまった事が原因だ。

 

その3日後に参加させられた戦闘。クソガキは初めての実戦と人殺しを経験するというのにあの野郎は1番ホットな場所に俺とクソガキ2人だけを投入しやがった。敵に俺らを殺させる魂胆だろうが、オーストラリア陸軍で積んだ経験とクソガキのニューピーラックで何とか切り抜ける事が出来た。

そんな矢先に司令部でコイツの瞳・・・嫌な予感しかしない。

 

 

「えぇ私の見立てでは彼ら2人で戦車一輌分の働きをしてくれる見立てです。この作戦には最適でしょう」

「・・・・私達にはすぎた評価です・・・・所で作戦の内容を教えてくれませんか?」

 

 

ウマルの嫌味を躱して司令官に聞くと彼の口からは驚きの内容が飛び出てきた

 

ーーーーーーー

カブールとジャララバードの中間にある補給基地がイスラム党の攻撃を受けると連絡があった。幸い攻撃までに時間があるので、我々としても大規模な戦力を派遣して防衛戦を行いたいと思っていたが、そうは行かなかった。ムジャーヒディーンの各派閥が2年前にジャララバードで大敗を喫したにも関わらずまた総攻撃を行うという情報が司令部にもたらされた。

そうなると戦力をジャララバードに集結させたいが、その場合補給基地を見捨てる事になる。

仮に補給基地の総攻撃がブラフだとしたら我が軍は重要拠点を一つ敵の手に渡す可能性がある。

 

そんな時にウマル君から君達の話を聞いてこれ程の適任者はいないじゃないかと喜んだよ。君達には今日の20時から1週間、補給基地で防衛任務に当たって貰いたい。

ーーーーーーー

 

 

「何か必要なものがあったらここの武器庫から好きなだけ持っていくといい。何か質問はあるかな?」

「・・・・増員を、せめて10人程度お願いしたいのですが。」

「司令、ジャララバードが陥落したら我が軍のみならず一般市民まで混乱してしまいます。そんな時に無駄な兵員を割くわけにはいきません!」

「確かに・・・2年前の戦いで我々の団結力は確固たるものとなった。そこを落とされるのは軍としても本意では無い。現地にいる9名の駐屯兵と一緒に任務についてくれ」

「・・・分かりました。特に質問はありません。では失礼します」

 

 

俺はそう言うと司令部を黙って退出して手頃な壁に痛烈な蹴りを加えてやった。

 

 

ーーーーーーーーーーー

タンゴ小隊第二分隊員ジミー・キャンベラ

20:50 フレンチストリート

 

「あの時のウマルの野郎の顔と言ったら・・・元の原型が分からなくなるまで殴りつけてやりたかったぜ」

「俺には分からないが、部屋に帰ってきたときのお前の顔は・・・正直言って恐ろしかったよ」

 

 

そういうとダイゴはブルリと肩を震わせた。

 

 

「そう言えばあの時お前はどうしてたんだ?」

「あの時?・・・いつの時のことだよ?」

「ほら、あの時だよ・・・装備一杯のトラックで補給基地で向かった時だ」

 

 

俺がそう言うとダイゴは合点がいったと言わんばかりに話始めた。

 

 

「そうだな・・・あの時はお前の顔が怖くて黙っていたから・・・・・・・」




投稿完了。多分次の投稿は9割回想録でやっていくと思います。
最後ら辺の回想は史実のアフガニスタン紛争を舞台にしてます。ジミーとダイゴの雇い主である人民民主党政府に傭兵部隊が居たかは分かりませんが、時系列的に書きやすいのといい感じの混沌ぶりがWikipediaに書かれていたので無理やり作りました。

見づらいなと感じたら感想欄にアドバイスお願いします


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ガキと子守戦士

1991年7月20日

人民民主党政府傭兵部隊ダイゴ・フローレンス

ガプール郊外

 

 

「おいクソガキ!新しい任務だ。装備の詰め込みを手伝え!」

 

 

待機室で寛いでいた俺に入室早々そう言ったジミーに文句を言おうと顔を向けた俺は恐怖で言葉を失った。

彼の目に宿っていた心の炎は極限まで凍り、表情は忿怒で満たされた顔でそれを見せられた16歳のメンタルは一瞬でズタボロになった。つい数日前に初めての実戦と人殺しを経験した俺はそれを上回る恐怖とトラウマを植え付けられたのは今考えると良い事だったのかもしれないと思う。

 

 

「どうした?チャッチャと動け!行くぞ!」

「い、言われなくても分かってるよ!」

 

 

若干声音が震えていたがジミーはそれを指摘することなく部屋から出ていき、俺も後を追った。

 

 

俺の名前はダイゴ・フローレンス。16歳で日系三世のアメリカ人だ。俺の家族は両親と弟の4人で酒バーを営みながら暮らしていたが、思春期特有の反抗期ってやつで喧嘩、そして家出だ。

 

ここまでは普通の何処にでもいる少年だと思うだろ?あいつ・・・ジミーに会うまではな。

 

遠くに行くために足が必要だと考えた俺がジミーの乗っている車を盗もうとした時に呆気なく取り押さえられた。なぜ事に及んだのかを話したら「俺と一緒に来るか?」って言われて飛びついた。

 

その瞬間から俺はピッチピチの新人傭兵になった訳だ。

 

銃を持って撃ち合うという事は相手を殺すという事だ。

ここに来て日が浅い時に参加させられた戦闘は・・・・何というか、ヤバかった。

敵の兵士は錯乱して「敵味方関係なく襲っている」し、味方の傭兵は俺らだけ前に立てて自分達は後方でおセッセときた。そんなカオスな状況でも初めて敵兵を殺した時の事は鮮明に覚えている。なんせ、クスリをキメた同い年ぐらいの奴を5メートル以内で射殺したからな。

 

そいつは「胴体を撃っても死なずに襲いかかってきた」もんだから頭に数発撃って汚い花を咲かせてやったよ。

 

 

「ここにあるドデカい銃と、RPG、弾薬・・・取り敢えずありったけの装備を詰め込むぞ」

 

 

ジミーが歩みを止めてそう言った。目の前には武器貯蔵庫があり、中の装備を見渡しながら俺に目配せした。

 

 

「いやいや、いくら何でも多すぎないか?なんでこんなに装備を持っていくんだよ」

「ウルセェ!俺のいう通りにしてろ!ピックアップを入り口に回すからお前は運び出しとけよ!」

 

 

俺の疑問に対してそう吐き捨てるとスタスタと車両の置かれている場所に歩いていった。溜息を一つ吐き、気合を入れて武器の搬出に取り掛かった。

 

 

「よぉ、キット!保護者無しでどうしたんだ?」

「それにこんなに武器弾薬を出して・・・もしかして1人じゃ怖いから万全を期すってか?!」

「ハハハ!!違いねぇ!」

 

 

搬出を開始してから10分後、2人の傭兵が俺に向けて茶化しを入れてきやがった。

最初に喋ったのはGIカットとサングラスがよく似合う自称「ナイスガイ」

次に口を開いた奴はアジア系の男。周囲からは「モンキー」と呼ばれている。

 

 

「ウルセェよ。これもジミーの指示なんだよ。お前が言うように怖いわけじゃないからな!」

「おいおい、必死な顔で否定するからキット(ガキ)って呼ばれてるんだよ。なぁ、キット?」

「はっ!、俺とジミーに戦闘を押し付けて後方で女どもをレイプしてたのは誰だろうなぁ?モンキー?」

「なんだと?・・・キットのクセに言うじゃないか。大人の本気をテメェのケツにぶち込んでやろうか?」

 

 

モンキーと俺の間で一触触発の空気になってるのを察したナイスガイがにこやかな笑顔でこう言い放った。

 

 

「2人ともやめろ。仲間同士で喧嘩して傷を負っても誰も手当てしないからな。それにモンキー。お前は大人としての冷静さを持ったらどうだ?キットの言っている事だって事実なんだし。だからモンキーなんて言われるんだよ。それにキット。モンキーがこんな奴だってことぐらいお前もわかってるだろ?ここはお互い振り上げた拳を収めてくれ」

 

 

そう言った彼の顔は笑ってるが、サングラスの奥から覗く瞳は有無を言わさない迫力がにじみ出ていた。それに気づいたモンキーも「確かにそうだな」と言って俺の元から、やや早足で歩き去った。

 

 

「すまんなキット。先に話しかけた俺にも責任がある」

 

 

そう言い残してモンキーを追ったナイスガイの背に向けて俺は言った。

 

 

「ずる過ぎるんだよ・・・・大人は」

「何がずるいんだ?」

「ジ・・ジミー?!いつから此処にいたんだ?!」

「お前がモンキーとナイスガイに絡まれている時からだよ。分かったらサッサと荷物を詰め込め!やる事は車の中で説明するからトットと済ませろよ!」

 

 

人使いの荒いバディもとい保護者が居るととても窮屈に感じる。

 

車に荷物を詰め終え、発進してから俺は作戦・・・と言うより死にに行けと言わんばかりの内容を聞いて怒鳴り散らした。

 

 

「駐屯兵がいるとしても何で防衛戦にたったの2人なんだよ?!こうゆうのに詳しくない俺でもヤバイって分かるぞ?!」

「・・・ウチの大将は部下に丸め込まれて全面的に信用している。俺らは傭兵だからいつでも逃げる事はできるぞ?。でも契約不履行でいくら請求されるか分かったもんじゃない。ここは嫌でも従うしか道はないんだよ」

 

 

そう吐き捨てるようにいったジミーの表情は普段通りの顔に戻っているが瞳はいまだに冷たかった。俺は一言だけこう言って黙り込んだ。

 

 

「狂ってやがる・・・・」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

数時間後

補給基地指令所

 

 

 

補給基地に到着した俺達は積み荷を下ろして、駐屯している兵士たちに事情を話した。おかしなことに兵士たちに襲撃の情報が行き渡っておらず俺たちが1から説明する羽目になった。

本来であれば襲撃の情報はとっくに行き渡っているはずだが・・・俺は司令部に対して不信感を募らせていた。そう思っているのはジミーも同じ様で明らかにイライラと貧乏ゆすりをしていた。

 

「なぁジミー、いつまでもトラックの運転席にいないで武器の設置を手伝ってくれよ。じゃないと俺の腕がポッキリと折れてしまうよ」

「泣き言言うな。そんなんだからお前はクソ餓鬼(キッド)呼ばわりされるんだよ」

「はいはい、どうせ俺はいつまで経ってもクソ餓鬼だよ。それで?次は何をすればいいんですか?・・ママ」

 

 

俺がそういった瞬間ジミーはギョロっと睨みつけた。慌てて謝罪の言葉を口にしたが既に遅く、鉄拳制裁を食らったのはいい思い出だ。

 

 

 

「おいお前、ここの責任者は誰だ?」

「・・・・あいつなら屋上の日陰になってる所で寝ているだろうよ」

「マジかよ・・・よく回していたな?」

「実質ここの責任者は俺だよ。あいつは名前だけのお飾りさ。俺の名前はオマール、階級は軍曹だ。周りからはハードワーカーって呼ばれてるよ」

 

 

礼儀もへったくれも無い俺が年上の・・・それも初対面の人に話しかけた。彼は疲れ切って死んだ魚の様な瞳を優しく細めて自己紹介をした。正直俺の苦手なタイプだ。

 

 

「俺の名前はダイゴ・・・・周りからはキットって呼ばれているよ」

「キットか・・・若々しくていいね。所でもう1人の連れはどうしたんだい?積荷の積み下ろしが終わったら指令所の作戦室で今後の事について話し合いたいけど」

 

 

ハードワーカーがそう言った途端屋上から怒鳴り声が聞こえてきた。

 

 

「それでもアンタ責任者か!!!!!」

 

 

声の主はジミーである事は間違い無いはずだ。誰に言っているかは何となく察しがついた様で俺はハードワーカーに視線を向けた。彼も察しているような瞳で苦笑いをした後にこう言った

 

 

「あちらから作戦室に来るっぽいね。俺達は地図の用意と人集めに勤しもうか?」

「なんで疑問形なんだよ・・・俺は外にいる奴らを集めに行くからお前はここで準備をしといてくれ」

 

 

俺がハードワーカーにそう言って部屋を出て行った。

 

 

「・・・というわけで作戦を説明する」

 

 

部屋にはダイゴ、ジミーと駐屯兵9人全員が机の周りを取り囲んでいた。その中にはここの責任者である男が頬に新しくついた青痣を痛々しげに触っている。そんなメンツの中会議の音頭をとったのはジミーで、責任者はこちらを睨みつけている。

 

 

「先ず、情報の共有をする。司令部に届いた報告ではイスラム党の大部隊がここを占拠するために進軍中との事だ。司令部も応援を寄越したいがジャララバードに釘付けでこちらに寄越してきたのは大量の武器弾薬とたった2人の傭兵・・・つまり俺とこっちのガキだ」

 

駐屯兵はそれぞれ不安、疑問、怒りの瞳を宿らせ俺達を見つめている。それを意に介さずジミーはこう言った

 

 

「俺達はここの拠点について詳しく無いから防衛線構築はそちらに任せる。ちょいちょい横からアドバイスをするから全員ドシドシ意見してくれ」

「・・・諸君らも聞いた通り、今回の防衛線構築はこの基地の存続に関わる重要な案件だ。私は自室で夜の見張りに備えて睡眠を取るが、諸君らの作戦立案に期待している」

 

 

ジミーの言葉に続いて責任者から告げられた言葉は有り得ないものだった。言うだけ言うと彼は足早に作戦室を出て行った。

 

ジミーに視線を向けると傍目からも分かる様な青筋が浮かんでおりプルプルと肩を震わせていた。

 

 

「さ、さて、これから作戦を練っていきましょうか!。」

 

 

全員で話し合って決めた作戦はこうだ。

 

 

基地外を見渡せる城壁の4方向にマシンガンを設置して人員を北以外2人ずつ付ける。北は1人だけで基地から50メートル以内に地雷を設置してリソースを節約。

基地中央部にスナイパー(ジミー)を設置して全方位から来るであろう危険度の高い敵を射殺する。残りの5人を弾薬の補給や、各エリアの遊撃要員として使う。という感じに纏まり、各々が遮蔽物になりそうな物を集めて基地の強化に努めた。

 

 

「なぁジミー?何でこんなところに地雷を埋めてるんだ?」

「ここは敵が接近した時に遮蔽物として使う可能性が高いからな、万が一の保険だ・・・・ほら、ボサっとしてないで地雷を埋めた場所を書きこみやがれ!」

 

 

俺達は基地外に出て地雷を埋めては地図に記す作業をしていたが・・・周りが暗くなってきて寒気が襲いかかってくる状況だと印をつけるのも一苦労だ。こんなんだったらハードワーカーと一緒に防衛線構築をした方がよかったのでは無いかと思った。そう考えても時間は進んでいき、全ての作業を終えたのは21:00時だった。正直ヘトヘトだが、これから1週間にかけて24時間敵の襲撃に怯えないといけないと考えると気が滅入る。

 

 

「なぁ本当に来るのか?」

「司令部の命令だから分からんが、近いうちに来るだろう」

 

 

そうジミーと話していたが予想に反して敵の襲撃がないまま5日が経過した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

タンゴ小隊第二分隊員ダイゴ・フローレンス

21:03 フレンチストリート

 

 

「あの時まじで何もこなかった時は肩透かしを喰らったが・・・問題は5日目の夜だな」

「あぁ、俺もあの夜のことは忘れられねぇよ。何てったって今の状況と【似ている】からな」

 

 

 

 

 

1991年7月24日

人民民主党政府傭兵部隊ジミー・キャンベラ

21:56分 補給基地

 

 

「敵だーーー!!!!全員起きろ!」

 

 

ぐっすりと寝ていた俺の意識は警戒中の仲間の怒鳴り声と直後に響き渡ったマシンガンの騒々しい連射音によって浮上した。1秒以内に意識をはっきりとさせて武器を手に取り隣でオドオドしているダイゴに向かって怒鳴った

 

 

「いつまで寝ぼけてやがる!敵だ!お前も配置につけ!!」

「えっ?!・・・敵?!!!」

 

 

混乱していた頭に響き渡る銃声と俺の「敵」というワードに即座に反応したダイゴはふらつく足取りで外に飛び出していった。正直心配だがそんな気持ちは表情に出さずに中央の会議室に向かった。

 

 

「おい傭兵!何がどうなってる?!この音はなんだ?!」

「聞いて分からんのか?!このボンクラ責任者!敵襲だ!さっさと準備しろ!!」

 

 

会議室にはこの基地の責任者の男が寝巻き姿で慌てふためいてやがった!。5日前に1発良いのを喰らわせてやって性根を叩き直したと思っていたが、どうやら簡単に治るものではなかったようだ。彼以外の駐屯兵は全員が即座に応戦可能な状態で仮眠をとっていたのに対しコイツは寝巻き姿ときたもんだ!

 

奴に精一杯の蔑んだ視線を喰らわせてやって二階の高台に向かった。

 

 

「サーマルスコープは・・・キチンと作動してるな・・・・なんだこの数は?!」

 

 

俺が驚くのも無理はない。大量の小さい点がまるでアリのようにチョコマカと動いているのをみるとそんな反応をするはずだ。数は憶測で100以上。正直こんな補給基地一つを攻める数ではない。動揺している俺をよそに敵兵はどんどん距離を詰めていき所々で爆発と悲鳴が響き渡った。数日前に仕掛けた対人地雷が効力を発揮しているようだ。

 

爆発と悲鳴が響き渡った後の敵兵の動きは目に見えて遅くなっており、俺は無線で全員に言った。

 

 

「奴らの進軍速度は鈍ってるぞ!テメェの弾を奴らにぶちまけてやれ!」

「言われなくてもやってるよ!ジミーこそしっかりと働いてるだろうな?!奴ら減る気配すらないぞ?!」

「そんなこと考えなくていい!取り敢えず動く奴が居たら弾をぶちまけろ!絶対に当たるはずだからよ!!」

 

 

俺はそう言い放って無線を切り、スコープを覗き込んで射撃を行なった。

 

 

ドン、ドン、ドン

 

 

3発立て続けに放った銃弾は敵の胴体を捉えており、敵兵は糸の切れた人形のように地面に倒れ込んだ。俺には元々狙撃の才能があったようでオーストラリア軍にいた時も上官から一目置かれていたものだ・・・・最も日頃の行いが悪いから傭兵家業なんてのに手を出してるわけだが、それはそれだ。

 

 

 

数時間後・・・・

 

8月26日 5:48分

 

 

朝日が昇ると同時に敵の襲撃はパタリと止み当たりには静寂が支配した。まるで何事も無かったかのようだが、濃厚な火薬の匂いと辺り一面に散らばる物言わぬ屍が夜の戦闘の激しさを物語っていた。

 

 

「全員聴け・・・敵は一時撤退したみたいだ。今から死体漁りとトラップを仕掛けた後に作戦室に集合してくれ。今後の対策を立てたい」

 

無線を切りトリガーに掛かりっきりの指を何とか引き剥がした俺はぐったりとした足取りで作戦室に向かった。

 

 

「全員集まったようだな・・・死んだ責任者以外は」

「傭兵さんよ・・・いちよう言っとくが俺らはあのポンコツ責任者と一緒にしないでもらいたいね。虫唾が走る」

 

 

1人の兵士が大袈裟に身震いするジェスチャーをして周りの雰囲気が多少和んだのを感じた。責任者の野郎は部下からも好かれてなかったらしい。人間死んだ後に評価されると考えていたが、これ程とは・・・・。

 

 

「全員聞いてくれ、本隊からの増援は今から約24時間後に到着する予定だ。それまで俺らがこの場所を死守しなければジャララバードガプールを繋ぐ補給線が破綻してしまう。みんなが嫌いだった責任者が死んだ事だし、この場の最高責任者である俺がこの部隊を指揮する。昨晩の敵の構成を見る限り今夜はとても長い夜になりそうだ。だから全員で有意義な意見を言い会おうじゃないか。君たち傭兵は何か意見はあるか」

 

 

オマールは全員に向けてそういうと俺に向かって意見を求めた。俺はそれに対して「対人地雷を増やすと良いだろうなと俺は思う」といった。

 

 

「おいジミー。昨日であんなに来たんだ。今日はその倍くると考えた方が良くないか?」

「それは私も思っていたよ。今日の防衛線は誰1人として撤退は許されない。敵にしても捕虜をとろうなどと考えないだろう。全員この場で死ぬ覚悟を固めておいてくれ、その時になってからじゃ遅いからね」

 

 

ダイゴの言葉に続いてオマールも同調するように言った。この場にいる兵士は各々違う反応をしたが兵士になった段階で覚悟はしていたのだろう。兵士たちの覚悟を決めた漢の瞳を爛々と輝かせて闘志がまるで熱気の様に俺の肌に当たったかの様に思えた。

 

 

 

 

 

俺はその瞳が嫌いだ・・・・

 

 

「ダイゴ・・俺は見張りをする。後で作戦の概要を教えてくれや」

 

 

醍醐の言葉に耳を貸すことなく足早に退出した。

 

 

 

ーーーーーーー

 

1991年7月25日

人民民主党政府傭兵部隊ダイゴ・フローレンス

22:48分 補給基地

 

 

「・・・・ったくジミーの奴・・いったいどうしたんだよ」

「ジミーにはジミーなりの考えがあるんだろう。大人っていうのはそういうもんだ。君も大人になったら嫌でもわかるよ・・・嫌でもね」

 

「だとしてもあそこまで言う事は無いでしょう?せっかく作戦の概要を知らせようとしたのに」

 

 

口をすぼめてそういう俺の言葉にオマールは苦笑いで反応した。これが大人の余裕なのか分からないでも、1つだけ確かな事がある。

 

ジミーの瞳は俺と同じ瞳をしている

 

 

 

ーーーーーーー

 

7月26日

0:14

 

 

日付が変わったが未だに敵は俺たちを攻めてこない。今日は攻撃をしないのではないか?と考えていた俺の予想は一分後に覆された。

 

 

「敵襲!!この数は・・・・昨日の日では無いぞ!総員気張っていけ!」

 

 

上で見張りをしていたジミーの声が聞こえたと同時にヒューと言う風を切る様な音がした。瞬間、基地の内部で小規模な爆発が発生した。どうやら敵は迫撃砲を用意しているようだ。

 

 

「こちら北側!!ジェリーがやられた!!至急援護と衛生兵を頼む!!」

「泣き言言ってるんじゃねぇ!衛生兵なんて居るわけねーだろ!お前らがやる事は敵を殺すか死ぬかの2択しかねーんだよ!分かるか?!分かったらちゃっちゃと殺しまくれ!!」

「すまないサム。彼に対して適切な処置を施すことができない。敵に機銃掃射をしながら緊急手当を施してくれ」

 

 

ジミーの乱暴な言葉をマイルドに言い換えたオマールのフォローはこの場ではとても有難い。彼の様な人材をこんな所で燻らせている事に対して思う事があるが、今はそれを考えてる余裕はなく弾丸の雨を敵に降らせまくった。

 

 

「こちら東側!なんかおかしぞ・・・俺らの弾が全く聞いてない?!・・・・く、来るなーーー!・・・・」

「・・・?!こちらオマール、どうした?何があった応答しろ?!・・クソ!!」

「オマール東側で何かあったんじゃないのか?俺が見てくるからオマールはここの防衛を頼む!!」

 

 

そう言って俺は1人東側のバリケードに向かった。

 

 

「なんなんだ・・・これは!」

 

 

東側のバリケードに到着した俺の目の前には、味方である仲間を一心不乱に敵兵と一緒に『喰っている』所だった。よく見てみると首の部分や心臓に小石程度の穴が空いていてとても生きているとは思えない状態だった。この光景に圧倒されていると唐突に2発の銃声が響き渡った。

 

「おいダイゴ何をやっているんだ?!こいつらはもう味方じゃねぇ!!死にたくねぇなら武器を取れ!」

「お、おい!ジミーさっき撃ち殺したのは味方だぞ?!これが仲間にバレたら裁判にかけられちまう・・・っていうかリンチに合いそうな予感がするんだが?!」

「そんなことを考える暇があったら銃を撃ちまくれ!!」

 

 

ここから先は地獄だった。奴らはクスリをキメてるのか心臓を撃っても少しよろけるだけで死ぬ事はない。

俺達の方向に這いずって向かって来た。『初陣で殺した兵士と同じ』ような瞳で俺達の方向にじりじりと距離を詰めていっている。

 

そんな時に南側と東側から無線が届いた

 

 

「こちら南側!!。な・・・何発撃っても死なないぞ?!・・・駄目だ!距離がどんどん・・う、うわぁーーーーーーー!!!・・・・」

 

「こちら東側!。奴らの勢いが強すぎる!さっきドミーが奴らに耳を喰いちぎられてしまった。今からドミーをせよって撤退する・・・ドミー?どうしたんだ?・・・や、やめろ!!痛い!痛い!助けてく・・・・・・」

 

 

「ジミー!!!南側と東側はどうなってるんだ?!」

「おおジーザス!!お前がいる所と同じだ。この戦場は何かおかしいぞ!ジミーは牽制射撃をしつつ建物内に撤退して最終防衛ラインに就け!」

 

 

東側と南側の無線が突然途切れたのを不審に思った俺は高台でスナイパーと化したジミーに状況の確認をしてもらった。結果は最悪の事態になりつつあるようだ。牽制射撃をしつつ本部に撤退した俺らを待っていたのは北側で防衛についていたオマールだった。どうやら生き残っているのはジミー、俺、オマールの3人だけのようだ。

 

 

「ダイゴ、どうやら俺らの命はここにいる俺含めて3人で勝ちとらないといけないようだ。まだ18歳にもなっていない君には辛い思いをさせると思う。でも信じてる。絶対に生きて美味い飯でも食べようじゃないか!」

「おい、オマール。楽観的すぎないか?現実を見ろ!とりあえずこの基地に対人地雷を仕掛ける。その後奴らが入って来れないようにバリケードを設営するぞ!時間は有限だ、奴らもすぐにここに来るだろう。全員ベスト以上の成果を出せ!」

 

 

俺が3名は酸味一体、one for all all for oneの信念を感じさせるような動きでバリケードをすぐに作ることができた。これが火事場の馬鹿力と言うものだろうか、この時の行動を真似しろと言われても出来ないだろう。

 

ドン!、ドン!、ドシャ!!

 

扉が破れた音の後に対人地雷が作動した音が鳴り響いた。

 

 

「オマール聞きたいことがある。敵はまだ見えないのか?」

「奴らはゆっくりと歩いて多いを縮めていったんだ…絶対に走る事はしない。こんな銃声が響いてる中まともな神経のやつだったら走って隠れ場所に逃げ込もうとするはずだ。でも奴らはそんなことを一切せずに銃弾をその体に叩きつけられながら近づいて来たんだ。それで生きている事自体がおかしい。生命の冒涜を感じたね・・・?!敵と接敵!機銃掃射に入る!」

 

 

コンクリートを挟んだ1つ先の部屋から風を切るような習性が鳴り響いた。その音を合図に俺とジミーがそれぞれ守っている部屋にも敵が侵入しようとした。ヤク中共の息の根を止めるには頭を狙うしかない。それがここに来てからの初陣で学んだ事だ。モードをフルオートからセミオートに変更して1発1発を確実に奴等の頭にぶち込んでやった。無線でジミーとオマールからの報告では2人ともどういうやり方でやったかは知らないが敵を食い止めてるようだ。

 

 

「こちらオマール!固定機銃の弾薬がもう残り少ない。弾薬が切れたら後退しつつ階段前に移動する!」

「おいオマール!。消費が早くないか?!せめて俺らが階段に来れるスペースを確保しといてくれよ!!」

「大丈夫だよジミーさん。ここの責任者の補佐をしていたのは私だよ。これぐらいどうと言う事はない!私を信じてくれ!!」

「オマール!!絶対に死ぬじゃないぞ?!。お前が死んだらそのしわ寄せが俺たち2人に来るからな!!」

「そう心配しなくても大丈夫だよダイゴ。俺は絶対に死なないから君たちは安心して目の前の敵を倒してくれ」

 

 

オマールそのようなやりとりをしている間にも敵はどんどん侵入してくる。敵を抑えることが困難になり俺は置き土産に手榴弾1つ投げ込んで階段前に撤退した。背後で手榴弾が爆発して俺の目の前に親指らしきものが飛んできた。爆発をもろに受けた奴の部位だろうかと考えたがすぐにその考えを引っ込めて階段前で銃撃を行なっているオマールと合流した。

 

それから少し後にジミーも交流して俺らはジワリジワリと階段を上がりながら敵を殺していった。

 

「おいジミー!!弾を節約したとしてももうマグは残り5個しかないぞ!!どうするんだ?!」

「その時は覚悟しとけ!!生きたままあいつらに食われたくなければ壱発だけでも銃弾を確保しとけよ!これで楽に死ねるからな!」

「死ぬ前提かよ!」

「俺についてきたことを後悔する事だな!傭兵っていうのはこういうもんなんだよ!」

「君の言うことがもっともだ。洋平なんていくらでも替えの利く駒だからな。金さえ払えば何でもやってくれる便利屋。死ぬときにはきちんと覚悟を決めて死んでくれよダイゴ?」

「オマール・・・信じていたんだけどね」

「傭兵なんぞに心を許すと思っているのか?俺は絶対に生き残る。てめえらが先に死ねばいいんだよ」

 

 

人は死に際に本性現すと言うがあの時見せたオマールの本性は俺の精神をバキバキにへし折って強靭なものにするには充分だった。

 

とうとう階段を登り切り二階に追い詰められた俺達は窓の外を見て絶望した。

周りを覆い尽くすほどの敵兵、敵兵、敵兵

それを見て硬直した俺とだいごの背中を強い衝撃が襲った。衝撃で窓から落ちた俺は何が起きたか分からないうちに衝撃の大元を見た。そこには口をゆがめて人間ではない顔をしているオマールの顔があった。

 

 

「俺は絶対に生きてやる!!せめて俺が生きる時間はてめえら2人の命で賄ってくれ。あばよ」

 

 

背中に強い衝撃を受けて一瞬息が詰まったどうやら1階部分に投げ出されたようだ。横を見るとジミーも同じような姿勢で苦痛にもがいているが彼の瞳は面白く歪んでいた。

 

「お前が裏切ることなんて予想はできていたんだ。俺が何も対策をとっていないと思ったら大きな間違いだ!!」

 

 

そう言うと懐からボタンを取り出して、ためらいなく押した。瞬間、建物が大爆発を起こした。

 

どうやら自民は建物内に爆薬を設置して奴らを一網打尽にする計算だったようだ。もっとも奴らだけではなく味方も爆殺してしまったのは予想外だと思う。多分




解析編のキャラ紹介に挿絵を入れました!よければ見てください。
簡単にキャラを作ることが出来るのでとても良いサイトでした。ただ問題点があるとしたらミリタリー系が少ない事かな?


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ACT:11

物語の人物紹介。

それに載ってる人物は総じて物語の中核を担う人。

しかし、彼らだけでは何も出来ない。

彼らは常日頃、脇役に助けられている


タンゴ小隊第二分隊員ダイゴ・フローレンス

21:10 フレンチストリート

 

「あの作戦の後すぐにアンブレラからスカウトされたのは幸運だったな。おかげで仲間にリンチされたり処刑されることもなくサヨナラできた」

「確かにな・・・実際アンブレラってどこまで根の深い組織なんだろうな?。俺らがいた場所に『偶然アンブレラのエージェント』がいたなんて幸運以外の何者でもない」

 

「・・・何か含みのある言い方だな?。まぁ俺としてもアンブレラは裏でヤバい事に手をつけているのは薄々感じてるよ。だからと言ってむやみやたらに言うもんじゃない、組織の奴らが盗聴していたらどうするんだ?現にイージー小隊のカンだって・・・・なんだ?」

 

 

無線からノイズ混じりの音が聞こえて来た。どうやら隊長からの無線のようだ。

 

 

『・・・こちらアンドリュー・・・えるか?』

「こちらダイゴ。聞こえるぞ、少しノイズが酷いけどな。」

『・・・潜伏・・・・市民・・・保護・・・・場所は・・グットストリート南部の家だ』

「了解。すぐに向かう、俺らが来たら何かしらの合図で知らせてくれ。オーバー」

 

 

そう言って無線を切った俺は肩を竦めて言った。

 

 

「今度は俺ら2人で子守唄(ララバイ)を歌う羽目になりそうだな」

「勘弁しろよ」

 

 

俺らの縁・・・所謂腐れ縁は簡単には立ち切れない。

 

 

 

ーーーーーーーー

立花光雄

21:15 フレンチストリート

 

 

銃声と肉が焼ける匂いが地上を支配している中私は1人屋根に登って彼らのやりとりを聴いていた。

聴き終わった後にジミーとダイゴの経歴を調べていると気になる点が見つかった。

 

彼らが参戦していた内戦は『ウィルスが運用された』と記載されていた。

 

先程ジミーが怪しんでいた事がアドミンの端末ですぐに調べることができる。それが世界を揺るがしかねない秘密だったとしても、だ。

 

 

彼等を屋根伝いに備考していると一軒の家の前で無線に話しかけた。その数秒後、部屋の扉が開いて中肉中背の男が中に入れとばかりに手招きした。彼の格好はジミー達と同じU.B.C.Sのマークを縫い付けられており彼らのチームメイトだろうと当たりをつけた。

 

周辺を警戒しながら入った2人に続いて鋭い視線を辺りに張り巡らせている男もドアをゆっくりと締め切ったのを確認して対象の家の壁に張り付いた。

 

 

「確か盗聴器があったはずだけど・・・これか」

 

 

HUDに付いている有線イヤホンのような盗聴器を壁に付けると一瞬のノイズの後、中にいる彼らの話し声が聞こえて来た。

 

 

『取り敢えずどうするよ?分隊長』

『ロバート隊長に合流するぞ』

『保護した市民はどうするんだ?あきらかなあしでまといだろ?』

『それはについては問題ない。彼はラクーン市警の警官らしい。いま風呂に入っているから後で彼に銃弾を分けてくれ。対応人数が増えればこちらの被害も減らす事ができるから問題ない』

 

中から若々しくハリのあるアンドリューの声が聞こえて来た。今すぐにでも彼の若い頃の顔を見てみたい衝動に駆られたが、無理やり感情を押さえ込んで彼らの話に聞き耳を立てた。

 

『実は・・・隊長・・・・っている。・・・・長とは・・・・少しだけ連絡を・・・た。だから行・・・・・事は絶対にない』

 

 

(無線が安定しない・・・もう少しいいポジションに)

 

パキリ・・何かの破片を踏み潰してしまい大きな音を出してしまった。焦る私がどうしようかと対策を考えている時、彼らに見つかってしまった。

 

 

「そこで何をしている?!」

「・・・私はこの街の住人です。そちらの家から気配がしたので暴徒か正常な人か確認しようとしてたんです」

 

 

我ながら良い嘘を言ったと内心ほっとしていると私に銃を突きつけて警戒していた男・・・おそらくバーク・スペクターが銃口を下に下げて警戒を少しだけ解いた。

 

 

「まぁ良いだろう。中は俺らの仲間がいるからここよりも安全だぞ」

 

 

彼がそういうと私を家の中へと案内した。

 

 

「隊長。外にいたのはこの街の生存者だそうだ。名前は・・・・そういえば聞いてなかったな。おいお前、名前は?」

「・・・立花光雄です。日本からここに赴任してまだ2週間しか経ってないのでこの街の地理には詳しくありません。よろしくお願いします」

 

 

取り敢えず本名を名乗りここに来て日が浅いと言った。それによりこれから彼らと話す上での矛盾点を無くす狙いがある。

 

 

「なんだお前ジャパニーズか!そこにいるダイゴって奴もお前と同じだぜ」

「おい。確かに俺の見た目は日本人っぽいが根っからのアメリカ人だ!次言ったらテメェのキンタマ撃ち抜いてやるぞ!!」

「おぉ〜コワイコワイ」

 

 

陽気に話しかけてきたのはジミーで、怒気を含ませた物言いをしているのはダイゴだ。

 

 

「俺はアンドリュー・フェルト。U.B.C.Sタンゴ小隊第二分隊の分隊長を務めている。危険はまだ去ったわけではないが全身全霊でアンタ達を護衛する」

 

 

そう言って私に近づいてきたのは若き日のアンドリューだった。顔についていた傷はどこにも無く。無鉄砲で何処かに野心を秘めたような雰囲気を感じさせる好青年だ。そんな好青年が数十年後にはエージェントになって世界で暗躍すると思うと感慨深いものだ。時間というのはこうも人を変えてしまうものか・・・・

 

 

「所でそちらにいる方は誰でしょうか?。名前を伺いたいのですが・・」

 

「私はラクーン市警刑事課のロイ・キングだ。観光シーズンではない時期にこの街に来てしまったのが運の尽きだな」

 

 

そういう彼は血と硝煙の匂いがこびりついた服に身を纏った若い刑事だ。

 

 

(ロイキング?・・・誰なんだそいつは。)

 

 

私は聞いたことも無い名前に困惑した。報告書には彼についての事が何も書かれておらず(多分)救出された民間人の1人という扱いになっている。

 

リライターにいた時にアンドリューから聞いた話では「マイケル・ウォレス」という警察官と共闘したと言っていた。その話を裏付けるように報告書にも彼についての事柄が事細かに記されていた。彼は特殊部隊に所属して戦闘技術に関しては一般の警察官よりかは上だと推測できる。そんな彼がアンドリュー達に協力的な態度を取っていたとしたら他の警官も極力的な態度で接する物だと思っている。

勿論、一部の例外を除いてだが・・・・

 

協力的に接する人がいたはずなのに彼に関する記載の一切が存在しないというのは些かへんだと思うが私は気にしない事にした。




時間が・・・無い

取り敢えず出来ている所まで出しました。
暫く忙しく(多分数ヶ月)なりますので休止します
物語を辞めるつもりは毛頭無いのでご安心を


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ACT12

立花光雄

22:05 フレンチストリートセーブハウス

 

「ロイさんはどうしてここに居るのですか?街に繰り出した警官は壊滅したと思っていたのですが・・・」

 

 

アンドリュー達と合流して家の中で待機している私は意を決して聞いてみた。

その質問に30秒間の沈黙の後、ポツリポツリと語り出した。

 

 

 

ーーーーーーーーー

ラクーン市警刑事課巡査部長ロイ・キング

1998年9月24日 15時45分

ラクーン市警刑事課オフィス

 

 

その日は非番のはずだが、緊急の呼び出しを受けて嫌々ながらオフィスに行ったよ。何でも「スタジアムの試合中にサポーター同士の暴動が起きた」って理由だった。

 

 

「まったく。今日は休日だって言うのに・・・」

「この非常事態で呑気な事が言えてるのはお前だけだ。キング」

 

 

俺のボヤキを聞いた警部が眼光を鋭くさせてそう言った。俺は直感的に謝罪の言葉を言って彼に状況の説明を求めた。

 

 

「現在付近をパトロール中だったパトカー5台を向かわせているが、暴徒は時間が経つ毎に増えている様だ」

「増えている?・・・おかしくないですか?」

「いいや、おかしくないね。どうせ暴動に便乗して略奪や破壊を楽しみたい馬鹿どもが加わってるだけだ。数年前に起きたロサンゼルス暴動がいい例だ」

 

 

その後彼は俺に現場に急行しろと言うなりオフィスで陣頭指揮をとりだした。

 

俺は銃保管庫に行き、ショットガンとハンドガンを受け取り、現場に向かう警官のパトカーに便乗させてもらう形で急行した。

 

スタジアムに近づくにつれて逃げ惑う人々が多くなり、所々で警官が市民に向けて発砲している光景を目にするようになった。俺は知らないがきっと戦争もこんな感じなんだろうと1人で納得していた。

 

 

「巡査。俺はここで降りるから停車してくれ」

「分かりました・・・・健闘を祈ります」

「お前もな」

 

停車したパトカーから降りる際に交わしたやりとりは短いながらも大量の想いが詰まっていた。巡査から言われた言葉を胸にショットガンを持って市街地を駆け抜けた。

 

 

ーーーーーーーー

1998年9月24日 20時16分

エナーデイルストリート

 

状況は絶望的だ。スタジアムの暴動鎮圧に駆り出されたものの、暴徒の数に押し負けて警官隊は多数の死傷者を出して撤退。暴徒の進行ルート上にバリケードの設置を行った。その作業は現場の警官達が独断で行った事だが仕方がない。何故なら本部に無線連絡をしようにも混線によってまともな通信ができないので現場は孤立した。

後から知った話だが市街地にいる警官は付近の最上級者に従う形で小〜中集団を形成して俺達と同じようにバリケードを設置していたらしい。

 

俺は現場で指揮を取っていた警部補に付き従う形で各所にバリケードの設置を行なっていた。

 

 

「ロイ巡査部長!暴徒共は来てないか?」

「大丈夫ですよ。警部補!」

「何度も言うがゾンビの様な動きで近づいてきた奴は全て敵だと思って射殺しろ!」

 

この時いた警官は全部で12人。数時間前までその倍の人数が居たが時間が経つ毎に殉職者が続出して現在の人数になっている。

 

半分がバリケードの設営で残りの半分が防衛に回っている。そんな状況の時、警部補が俺に声をかけた。

 

 

「ロイ巡査部長!セントラルストリートで救援要請だ!1人で応援に向かって欲しい」

「1人?!ふざけないでください警部補!最悪でもあと2人此方に回してもらわないと厳しですよ!」

 

「厳しいのは分かっている!だが、こちらもこれ以上の人員を割くわけにはいかない!・・・分かってくれ」

 

「・・・分かりました。」

 

思う所はあったがこの状況で贅沢言ってられないのは一般市民でもわかる事だ。黙ってセントラルストリートに急行した。

 

 

ーーーーーーー

 

1998年9月24日 20時42分

セントラルストリート

 

 

現場に着いた俺の眼前には筆舌に尽くし難い光景が広がっていた。漂う腐臭と火薬の濃い匂いを我慢してバリケード越しで防衛戦を展開している集団に話しかけた。

 

 

「エナーデイルストリートから応援に来たロイだ!ここの責任者はどこだ?!」

「責任者なんていない!指揮権限を持っている奴は暴徒共の仲間入りだ!お前は誰だ?!」

 

 

俺の呼びかけに答えたのは交通課に所属している若い巡査だった。周りには制服姿の警官しかいなく私の存在が一際際立っていた。

 

 

「俺は刑事課のロイ・キング巡査部長だ!この数の暴徒共から防衛するのは不可能だ!遅延戦闘で奴らの進行速度を遅くするぞ!」

 

「待ってくれ!この通りは大量の爆薬が仕掛けられている!俺らの仲間が起爆するために別行動をしてるんだ。撤退をするなんて事は出来ない!!」

 

 

俺はそれを聞いた後、近くで応戦している警官からショットガンの弾を受け取り、1発だけ装填すると慣れた手つきで奴らの眉間に打ち込んで言った。

 

 

「オーケー大体のことは理解した!全員気張っていけ!!!」

 

 

こうして短いながら濃密な時間の幕が開けた。

 

 

「左側面の弾幕が薄いぞ!そこのお前!もっと狙いを付けて撃て!弾は無限にあるわけじゃねぇぞ?!」

 

「・・・?!全員前方だけじゃなく裏路地から暴徒が来てるぞ!」

 

 

防衛戦は苛烈を極めた。バリケード越しから噛まれたり引っ掻かれたりする者が出たが死者は依然として出ていない。そんな時に裏路地を経由して此方に攻撃をしようとした暴徒を見つけた。

俺は裏路地一帯を制圧するために数人の警官とともに突入して射殺した。暴徒共は映画に出てくるゾンビの様に頭部以外の攻撃を受け付けない。だからショットガンで頭部を吹き飛ばしているわけだが、弾が残り少ない。いちよう支給されたグロックは持っているが、相手が相手だ。戦おうものなら一瞬で押し潰されるだろう。

 

 

『巡査部長!正面の奴らが後少しで突破してきます!!そちらに回した人員を少しだけ戻してください!!』

「無茶を言うんじゃない!・・・・いや、分かった。この通りは俺1人で防衛する。がんばれ!」

 

「巡査部長!正気ですか?!」

「あぁ、至って真面目だ・・・お前ら!!全員正面に迎え!!」

 

 

無線を横で聞いていた警官からの質問に答えた後にそう言った俺は孤独な戦いを繰り広げた。

 

 

 

時間にして数分だろうか。突如として無線からこんな声が聞こえた。

 

 

『巡査部長!爆発の準備が整いました!今から爆破するので衝撃に備えてください!』

 

 

その声を聞いたと同時に俺はその場でしゃがみ込み、爆発の振動に備えた。直後に大爆発が起きて強烈な揺れが自身の体を襲った。爆発音は何重にも重なっており、音が鳴るたびに強烈な揺れが発生する。そんな時にパリパリっという不吉な音を聞いた。

音の発生源は近くにある老朽化した建物からだった。

老朽化した建物に爆発の振動・・・それが意味する事は。

 

「うそ・・・だろ?!」

 

建物がパリパリっと言う音と共に崩れ落ちてその下敷きになった。

 

 

ーーーーーーーーーーー

立花光雄

22:10 フレンチストリートセーブハウス

 

 

「崩落した建物から這い出た後はグロック一丁で何とか生きていたってわけさ

「これはまた・・・よく生きてましたね」

 

彼の話を聞いた私が言ったセリフは月並みの物だが彼はその言葉に対してひとしきり笑った後に言った。

 

「悪運と幸運は人一倍あると自称してるんでね」

 

 

そう言う彼の瞳はうっすらと潤んでいた。それが笑いによる涙か、はたまた別の涙なのか私には分からなかった。

 

 

 

「光雄、ロイ。そろそろここから出発するぞ」

「ダイゴさん・・・どちらに向かうのでしょうか?」

 

少しの間黙って彼は「本隊と合流するためにラクーンストリートに向かう」と言った。

 

 

「3分後に出るから支度はするんだぞ?」

 

そう言って彼は私たちがいる部屋を出て行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

U.B.C.Sタンゴ小隊第二分隊分隊長アンドリュー・フェルト

22:03 同場所

 

俺にとって奴は異様だった。日本人と言っていたが銃の扱いに慣れすぎている。どこかの組織のスパイかと思ったが体型や動作に所々無駄な箇所がありその可能性はない。しかしそれは俺にとって些細な問題だ。目下の目標は如何にして彼らを無事に救出することが出来るか・・・それに掛かっている。

 

 

俺たちは市内で救出した2人とは別の部屋でこれからの事について話し合っている。物々しい装備の男達が一つのテーブル席に着いている光景は側から見たら滑稽に映るだろう。沈黙が支配している空間で俺は口を開いた。

 

「本来ならラクーンストリートで隊長達と合流する予定だが、予定時刻を大幅にオーバーしている。そこで全員に聞きたいが今後どうすればいいか意見を聞きたい」

 

「いちよう言っとくが、ラクーンストリートは車のバリケードで分断されている。小隊長と合流するには大幅な回り道が必要だ。」

 

ラクーンストリートを横断して来たダイゴがそう言うとジミーもそれに同意するように黙って首を縦に振った。

 

 

「分隊長。一つ提案なんだが、俺らは簡易的な基地を作る必要があると思う」

 

そう言ったのはバークだ。彼は何か確信を持った目線で訴えて来たので俺は黙って続きを促した。

 

 

「俺らは時計台に防衛線を築いて市民を暴徒達から守りながら脱出させる目標を持っているが、この広い街で一点だけに戦力を集中させたら部隊全体に多大な負担をかける可能性がある。そこで俺達は道中で出会った部隊の生き残りと武装した市民を使って防衛に適した場所を確保したいと思う」

 

「ちょっと待ってくれ。そんな決定を分隊内だけで決めて良いのか?」

 

バークの言葉にジミーが反対した。ジミーの気持ちは痛いほどわかる。傭兵のような立ち位置だとしても俺たちはアンブレラに雇われたプロフェッショナルだ。

部隊内で決めた事で今回のミッション全体の予定が狂ってしまうのは避けたいという気持ちが伝わってくる。

 

2人は暫く自身の意見をぶつけ合っていたが最終的に分隊長である俺に委ねられることになった。

 

 

「俺としてはバークの意見を採用する。理由としては、長距離無線の混線、暴徒の特異な性質、役に立たない地図・・・戦線が維持出来ているのかさえ分からない状況下での組織としての最適な行動はジミーの案だろう。しかしそれを厳守したらチームの命が幾つあっても足りない」

 

 

「・・それが分隊長の決定と言うのであればそれに従うぜ」

 

「助かる。それとダイゴ。別室で待機している奴らに声掛けをしといてくれ」

「了解分隊長。」

 

ジミーは何か言いたそうだが腐っても俺はジミーの上官だ。何も言わずに窓辺に寄り添って煙草を一本咥えた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

立花光雄

1998年9月28日 22:30

ラクーンストリート

 

 

「ったく、何で俺がお前らのお守りなんだよ・・」

「いちよう俺はここの警官だからな?自衛程度ならお茶の子さいさいだ」

 

「まぁ、ロイに関してはそんなに心配してないが・・・問題はミツオ、お前だ。物騒な武器を唯ぶら下げてるだけなら俺らで有効活用するから覚えとけよ?」

 

今私がいる場所はセーフティハウスがあるフレンチストリートから南下したところにあるラクーンストリートだ。西から東に横断するように引かれたこの道路はラクーン市民や、外部から来る人が往来する主要道路だ。

 

 

この道路には本来U.B.C.Sの大部分がヘリから降下または陸路での侵入で防衛戦をしていたが、感染者の数に押されて壊滅、生き残った隊員は散り散りになった場でもある。しかし、それをアンドリュー達は知らない。

 

地図上で見たラクーンストリートは一直線の道路ではなく何度か緩やかに折れ曲がったような形状をしており、アンドリュー達がいる地点から西側の端を見ることはできない。

それに加えて事故車両や炎上している車、所々に点在する感染者の存在によって彼らはU.B.C.Sが壊滅した証拠に目を見つける余裕はないのである。

 

 

「おいお前ら!敵の動きは鈍重だからって気を抜くなよ」

「分隊長〜俺らはいちようプロなんだぜ?そんな新人みたいなヘマなんてしないってーの」

「・・・少しは仲間の事を信頼したらどうだ?」

 

「確かにそうだな・・・気分を害したならすまなかった」

 

 

アンドリューの言葉に対してジミーとバークが苦言を呈し彼は素直に謝罪した。彼のその言葉、声音、態度には本気で言っていることが分かりやすく好感が持てる。

この分隊のリーダーに任されたのもこの様な面を評価されてのことなのかと私は考えた。

 

「ヴァガァぁダァ!!」

 

「・・・?!当たれ!」

 

ドン!

 

考え事の最中に近づいてきた感染者をAK-47の弾丸で撃ち抜いた。

 

AK-47の7.62弾はU.B.C.Sや警察組織が標準装備している武器の口径よりも大きいので彼らの頭部に撃てば1発で倒すことが可能だ。しかしこの町で流通している(連射できる)銃はどんなに大きくても5.56弾しかなく私の銃は弾が無くなったら鈍器にしかならない。

よって彼等、U.B.C.Sの隊員に感染者集団の対処を任すしかない状況になっている。

 

「アンドリューさん。私たちはどこに向かってるのですか?」

 

私は外に出てから疑問に思っていた事を聞くと彼は周囲に鋭い目線を放ちながら言った。

 

 

「ラクーン高校に向かう」




ここまで書いたのに小説内では数時間しか経過してない。
一気に進めたいものです・・・

話は変わるのですが・・・雛見沢症候群とプラーガって似てません?


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ACT13

繋がりは実に脆い。繋がりも蝶の羽ばたきで再構成されるからね


立花光雄

1998年9月28日 23:00

ラクーン高校

 

 

薄暗い空間に複数人の足音が木霊する。音の発生源にいる彼等の息遣いは緊張とストレスから来る閉塞感で浅くなっており、AK-47を構えてた中年太りの男に至っては目線が泳いでおり落ち着きが見られない。

そんな様子を隣で見ていたアジア人風の顔立ちをした男性はため息を吐くと我が子に諭すかのような口調で話しかけた。

 

 

「ミツオ。何もこんなに気を張らなくていいんだぜ?此処には戦闘慣れしている俺らがいるんだからな」

 

「・・・・分かってます。深夜の学校というのは慣れないものでして・・ハハ」

 

自嘲するかのように言って笑った男性が私、立花光雄だ。

自身の膝は小刻みに震え、それと連動するかのように銃口の先も照準が定まらず動いている。

 

 

「味方に誤射する気か?そんな状態だったらこの銃を仕舞えよ。威力は下がるがグロックを貸してやるから」

 

 

先程から会話している彼、バークは呆れた口調で私に自身の腰に装着されているホルスターごと押し付けた。自身の持っているAK-47に急ごしらえで付けたロープを襷掛けの様にして、銃本体を背中部分に当たるように調整した後バークから借り受けたホルスターを腰に装着した。

 

彼から借り受けた銃はG19と呼ばれる物だ。日本の基地で大量の銃火器を使用して訓練していたのが功を成し残弾数の確認、セーフティの確認、構えの確認をスムーズに行う事ができた。

 

 

「・・・日本人のくせに随分と手慣れてるな?」

 

「ハハハ、恥ずかしながら私は大の銃好きでして・・・よく海外ツアーで射撃演習場に通うくらいには使いこなす事はできますよ。日本では役に立たないと思ってましたが、今回に限っては良い方に傾いたようです」

 

 

バークに怪しまれた私は咄嗟に出た言葉でシラを切った。訝しみながらも納得したように頷いた彼は鋭い目線を校舎の隅から隅まで舐め回すように向けた。

 

 

私達がいる場所は市唯一の高校である『ラクーン高校』の二階の廊下だ。ここに到着した際にあった高校の館内図を見ながら私達は2つのチームに分けて探索を行う事にした。高校は一階が職員室と各種レクリエーションルーム。2階部分が各学年の教室で、1階と2階に連絡通路が隣の体育館に続いている作りになっている。

隊長であるアンドリューとラクーン警察の若手刑事であるロイ、ジミーのチームは一階の探索。残りのバークとダイゴ、そしてわたし、立花光雄は2階を探索する事になった。

「ここを拠点化する為に時間を使い過ぎてはU.B.C.Sの生き残りが徐々に数を減らしてしまう。だから効率よく二手に分かれて探索をしよう」

 

アンドリューのその言葉に誰も反抗することなく私達は校舎を探索しているが時々聞こえる何かが衝突する音、引きずる音が電力供給が不安定な為に不規則に付いたり消えたりする灯りの音が人気のないガランとした校舎を一層不気味にさせている。

 

日本人だけかもしれないが『学校』と『深夜』のワードに対して恐怖感を覚える人が一定数存在しており私もそのうちの1人だと強く自覚している。

 

1983年。私が小学5年生の掃除当番で遅くまで残っていた私は帰り際、急な尿意に襲われた。急いで用を足して帰ろうとした時、今まで一度だって考えたこともないような混沌とした内容が頭の中にふと現れた。形容し難い内容で言語で表現しろと言われても表現することの出来ない内容は、あまりに唐突に現れた。混乱している私の視界が思考と同時多発的にグニャリと歪むと何処の国の言語ともつかない言葉が頭に直接響き渡った。意味のわからない恐怖に駆られて私は一目散に帰宅した。

 

その出来事があってから社会人となった今でも夜の校舎に行く度に震えが止まらなくなる。

 

 

「ダイゴ。今からこの教室のクリアリングを行う。援護を頼むぞ?ミツオは俺たちの後ろを守ってくれ」

 

「OK分かった」

「わかりました」

 

 

そう言って教室に入ったバークは敵を確認したのか1発の銃弾を発射した。その一瞬後に「クリア」という声が聞こえてきて私も教室に入った。

 

 

「高校生が役に立つものを持ってるとは思わないが使えそうなものを探すぞ」

 

ダイゴの言ったセリフに急かされるようにして私はバークが射殺した遺体に両手を合わせると体を弄った。

 

 

「・・・?何かありました。どうやら手帳のようですが・・・すいません崩した英文は苦手でして誰か代読してもらえないでしょうか?」

 

「分かった。じゃあ俺が読む」

 

 

そう言って私に手を差し出してきたバークに手帳を渡すと彼は遺体となった女生徒の手記を読み始めた。

 

 

ーーーーーー

「母親はゾンビになった」ってジェーンが言っていたけど嘘も大概にしてほしいわ。だいたいゾンビなんて空想上の生き物であって実際に存在するには可笑しいもの。

 

いくら彼女の母親がアークレイ山中で野犬に襲われて行方不明だとしても、そんな嘘を言う子じゃないと思っていたんだけどなぁ。

 

学校中の男子や女子もジェーンを馬鹿にしているけどニックだけは真面目に取り合っているみたいね。何か面白いことが起きそうな予感がするわ!

 

 

23日

 

ここの所物騒な事件が多いけどいったいこの街はどうしたと言うのかしら?ジェーンとニックも最近顔を出してないし・・・もしかしてゾンビって本当にいたの?

 

 

26日

 

避難していたらお婆さんに噛まれた。もしかして私、ゾンビになっちゃうのかな?嫌だよ。まだ死にたくないよ。まだボーイフレンドも出来てないのに死ぬなんて絶対に嫌!!

 

 

ーーーーーー

 

 

「結果がこの有様じゃあボーイフレンドも出来っこないな」

 

バークの感想に続きジミーも肩をすくめて同意のジェスチャーをした。

 

「少なくともこんな事になる以前から暴徒の様な人はいたみたいですね。私でも実際にゾンビのような暴徒が現れたら精神疾患を疑いますし・・・」

「確かにな。俺の親父が言ってたが日本には『悪鬼』というモンスターがいるらしいな。それとこの感染者って何か似てるな」

 

「・・・厳密に言うなら悪鬼はモンスターと言うよりデーモンと同じような存在ですけどね・・・今の状況が昔の人々が考えた空想上の生物と酷似しているのは偶然なのか故意なのか・・・謎が深まるばかりです」

 

 

嘘だ。実際には私は2011年のアドミンで訓練という名のVR空間サバイバルをしている身。当然アンブレラとそれに関係する事件は大雑把に・・・一般人でも知っている事を知識として持っている為、VR空間で彼等コンピュータが作り出した存在と喋っているとしても心に少しばかりの罪悪感が芽生えてしまう。

 

 

 

教室をテンポよく探索して2階を全て確認し終わった私達はアンドリューに無線通信を行った。

 

バイオハザード下のラクーンシティではアンブレラ社が事件の隠蔽のために無線などの通信機器に対して妨害電波を放っている事実を当時の人々は知らない。仮に知っていたとしたらアンブレラと関わりのある人物か、裏方に回っている特殊部隊ぐらいだろう。繋がるにしてもラクーン市内の近くを通った無線車かヘリなどの通信機器を積んでいる車ぐらいだ。

そんな状況下で問題なく無線通信を行うことのできる人々がU.B.C.Sの隊員だ。アンブレラから支給された無線機器は特定の妨害電波をブロックする機能が実装されており部隊間での通信を行うことができる。最もその事実を彼等U.B.C.Sの下っ端隊員が知る機会など事件当時は無かったのだから如何に彼等がアンブレラから信用されてなかったのかが分かる。

 

 

「こちらバークだ。分隊長応答を願う。こちらバークだ。分隊長応答を願う」

 

『・・・こちらアンドリュー。どうした?』

 

「2階部分の探索は終了した。今からそちらに向かう。そちらの状況はどうか?」

 

『こちらも一階部分の探索は完了した。これより体育館に向かう。大量の暴徒がいる事を考慮して体育館前で集合だ。くれぐれも近くで大きな音を出さないでくれ。以上』

 

 

「全員聞いたな?今から俺達は体育館に向かう。暴徒の数が少ないのは下の方も一緒らしい。いくぞ」

 

パークの一声で私達は2階校舎から渡り廊下を使って体育館に向かった。廊下を進むにつれて周りに散乱している物は増え、それに比例するように血痕の量も増えていった。嫌な予感のした私は無意識のうちに持ってる銃をアサルトライフルに変更して残弾数の確認を行なった。

ダイゴとバークも何かを感じたのか周囲に鋭い目線を向けつつ銃の残弾数の確認を一瞬で行った。その動作は一寸の狂いも無く美しく洗礼されていた。

 

体育館に繋がる扉の前に到着した私達は無線を使いアンドリューと通信を行った。

 

「こちらバーク。目標建築物の扉前についた。」

 

『こちらアンドリュー。了解だ。俺の秒読みに合わせて同時にアプローチを仕掛ける』

 

「・・・了解」

 

 

無線機越しからアンドリューのカウントダウンが周囲に物が散乱している廊下に木霊する。秒数が短くなるにつれて私の鼓動も心なしか小刻みに刻まれていく。言いようのない不安感に駆られて私の前方にいる2人に目を向けると彼等の目線は探索している時と変わらない目線でただ前を眺めていた。

 

 

カウンドダウンがゼロになった瞬間、前方にいたバークとダイゴが扉を蹴破り室内に突入した。バークは右側の通路を。ダイゴは左側の通路に目線をつけた瞬間二つのマズルフラッシュと同時に弾丸が発射された。

 

一階の扉から侵入したアンドリュー、ロイ、ジミーのチームも同様に銃声が聞こえた事から私は一回を見下ろすことのできる位置に陣取って眼下に目を向けた。

 

 

「?!・・・・これは?!」

 

 「どうした?!日本人!」

 

一階の踊り場では100は下らないだろう感染者の大群がアンドリューチームに向かって殺到していた。3人は的確な射撃で1発の銃弾で1体から2体の感染者を倒している事から射撃センスは本物だろう。しかし、どんなに優れた技術を持ってしても数が圧倒的に多い感染者に徐々に距離を詰められている。

 

「バークさん!私は一階のアンドリューさん達を援護します!」

 

「おいおい。何でまた・・・?!っ。許可する」

 

 

最初は反対の姿勢で話しかけたバークは一階にチラリと目線を向けて私の意見に賛同した。

 

バークからの了承を得た私はアサルトライフルを構えて1発づつ銃のトリガーを引いた。が、私の所持しているアサルトライフルの残弾数はとても少なく、加えて緊張感からくる銃身のブレにより4発発射して1体の感染者しか倒せなかった。

 

(このままだとアンドリューさん達がやられる!何か・・・何かないか?!)

 

半ばパニックになった私は咄嗟に思いついた事を良く考えもせずに一階にいる彼等に向けて叫んだ。

 

 

「アンドリューさん!!!手榴弾を使ってください!!このままでは押し切られてしまいます!!」

 

 

その言葉が無事に届いたのかアンドリューとジミーは持っている手榴弾を全て投擲した。その5秒後に強い振動と破裂音が響き渡り密集していた60近くの感染者を吹き飛ばす事に成功した。

 

「よし!!!・・・っうぉぉぉぉ!!」

 

 

喜びも束の間、投げた手榴弾が2階部分の通路を固定していた柱を吹き飛ばしてしまい通路が崩落。左右に展開していたバークとダイゴ諸共一階に落下した。

 

一瞬の出来事の中で唯一幸運だった事は、一階の感染者の大半を手榴弾で倒していた事と、崩落箇所周辺にいた感染者は崩落した通路によって押し潰された事ぐらいだ。

 

落ちて意識が朦朧とする体に鞭打って自身の状態の確認後、一緒に落下して目を回しているバークとダイゴを必死に揺さぶった。

 

 

「バークさん!!ダイゴさん!!早く目を覚ましてください!!バークさん!!」

 

「ぅぅぅ・・・クソが!お前のせいだぞ日本人。」

「このツケは酒バーで返してもらうぞ・・・」

 

意識を覚醒して直ぐに自身の状態について把握した彼等は私に向かって悪態をついた。必死に銃を撃っている彼等ではなく室内戦闘に不慣れな私が口出すことではなかった。それについて彼等に謝罪をして、銃声の量が先ほどよりも格段に減った室内に目線を向けた。

 

「これは・・・・ウップ!!」

 

「そりゃあグレネードを大量に投擲したらこうなる。日本人はつくづくこの手の事に耐性がないな」

 

「私を日本人代表の様に言うのは止めてくれませんか?普通の人なら当たり前の反応ですよ・・」

 

 

死屍累々の様相を呈している空間で吐き気を催した私は呆れたように言葉を言い放ったバークに反論をした。

 

 

「バーク!ダイゴ!ミツオ!いつまで喋ってるつもりだ?!暴徒はまだいるんだ!黙って撃ち続けろ!!」

 

 

その場で座り込むようにして話していた私達に向けて叱咤したアンドリューは先程とペースを変える事なく的確に頭を撃ち抜いていた。

 

その光景を見て自身の行う事を思い出した私達はその場で伏せて銃を地面に設置した瞬間、三つのマズルフラッシュが追加で暗い場所を照らし出した。

 

 

 

 

残った感染者の掃討に大した時間を要すること無く無事に終えて私達は体育館の中央に円陣を描くようにして座り込んだ。

 

 

「・・・俺からの報告は以上だ。ダイゴ、ミツオ相異ないな?」

 

 

パークがアンドリューに話した事は私達が見てきた事を的確に捉えており文句など言える物では無かった。

 

ダイゴは目を軽くつぶって沈黙を貫き、私は無言でコクリと頷いた。

 

 

「そうか・・・俺達のチームが見てきた光景もそちらと大差なかった。体育館に暴徒が集まっていたのは避難の為だろう。・・・・本来ならこれで話は終わるが、ミツオ。この光景とさっきの戦闘で何か言う事はないか?」

 

 

周囲を見渡すと先ほどまで目を瞑っていたダイゴ含め全員が私に目線を向けていた。

 

 

(これは下手な事を言えないな・・・)

 

 

彼等はアンブレラに雇われた傭兵部隊。今は友好的でも答え方次第で如何様にも態度を変えるだろう。少しの間の沈黙の後、絞り出すように言ったセリフはシンプルな物だった。

 

 

「ほんとに・・・申し訳ありませんでした・・」

 

 

10秒程度頭を深々と下げて姿勢を戻して視線をアンドリュー達に向けた。彼等は暫くの間沈黙を保っていたが、パークがおもむろに近づいて来た。

 

何をするのか?と言う疑問を抱いたと同時に私の頬に強い衝撃が加えられた事で初めて殴られたと理解した。

 

 

「・・・取り敢えずこれで勘弁してやる。次同じようなことがあったら鉛玉をぶち込むから覚悟しとけよ?」

 

 

「・・・俺は辞めとくぜ。昔の自分を見てるみたいで嫌になるからな」

 

「バークさん・・・ダイゴさん。本当にすいませんでした」

 

「まぁ、あれだ。死ぬリスクが高かった2人がいいなら俺から何も言う事はない・・・ん?」

 

 

頬を軽く掻いて話していたアンドリューは何処かから聞こえて来る鈍重な音に気づき目線を鋭くした。

 

 

「どうやら暴徒が残ってるみたいだな・・・総員!警戒!」

 

その一言によって今までの空気が嘘のように四散して円陣の外側に体をむけて臨戦体制を構築した。

 

 

「この音は・・・全員上だ!!」

 

 

ロイの鋭い言葉で全員の意識が体育館の上に向いたと同時に天井が崩れ去って『ナニカ』が落ちて来た。『ナニカ』は私達の円陣の中央付近に落下してきたので私達は円を広げる形で後ろ向きに回避した。

 

 

「おいおい・・・なんだよこれは!」

 

 

ジミーが言ったこの言葉は全員が思っていた事だ。

 

トカゲのような印象を与える四足の足と人間の脳みそを外部に晒したかのような醜悪な生物。

 

 

(リッカーか・・・初めてのB.O.Wで緊張するな)

 

 

このVR空間で初めてとなるB.O.Wとの遭遇。あまりにリアルに、生々しく映る兵器は本来なら感じることのない威圧感を私に与えた。

 

アンドリュー達U.B.C.Sにとって初めて見るB.O.Wなのだろう。彼等の目は恐怖と不快感に支配され、異形の生物を言葉もなくただ見つめてるだけだった。

 

 

「おい!何をやっている?!早く撃て!!」

 

 

そんな中、いち早く声を上げたのはただ1人で今まで生き残っていたロイだった。彼の声で意識を取り戻したかのような反応をした彼等は一斉に射撃を開始した。

 

円陣の中央部分に落下した為に銃口から逃れることができずにリッカーは一瞬の内に生命活動を停止した。

 

 

「何なんだ・・・この化け物は」

「分からない・・・ただ、この町ではこんな奴は沢山いると思う。確証はないけどな」

 

「・・・ロイ。こんな化け物がいるなら俺らにも教えてくれれば良かったものの・・・」

「こんな状況で考える余裕がなかったんだ。これぐらいは見逃して欲しいね」

 

「こんな状況だ。警官だって修羅場を潜り抜けるだけでも精一杯のはずだ。他にどんな化け物を見たか教えてくれ」

 

「そんなに知ってるわけじゃないが」という前置きから語られたのはケルベロスとハンターらしき特徴のB.O.Wだった。それらの化け物がどれほどの脅威を持っているのか細かく説明してくれた。それに対してU.B.C.Sの面々は二つの反応に分かれた。悪態を吐いくか、事態の深刻さを理解して動揺するかだ。

アンドリューとバークは後者の方だったがジミーとダイゴは2人揃って同じ悪態を吐いていた。

 

私はそれを黙って見ているとふと思い出した

 

 

(そう言えば13時に総司令と面談を行うと言っていたけど今は何時だろう)

 

 

そう思いHUDに表示されている現実世界の時刻を見ると12:15分と表示されていた。このシチュエーションを楽しみたいところだがこればかりはどうしようも無いので中断しようとした。

 

 

(そういえば説明には中断に関する記述がなかった・・・どうすれば)

 

 

「シチュエーション中断」

 

取り敢えず声に出してみる事にした。すると体育館の風景が徐々に殺風景な部屋へと遷移していき目の前にいたアンドリュー達もその場から消え失せた。

 

 

『使用者の意思によりシチュエーションを中断します。戦闘評価、当時の経過報告を確かめたい場合は端末にアクセスしてください』

 

 

どこからともなく聞こえてくるアナウンスが先程までのリアルな描写が仮想空間で起きた事だと私に言っているようだった。

 

10秒程度その場に立ち尽くしていた私は出口付近にある端末にアクセスして中断した際の評価を見る事にした。

 

 

『仮想空間No.1235使用者のターミナル使用を認識・・・・接触した人物を検索・・・レポートと接触人物の当該ケースでの行動、経歴、を出力します・・・・使用者の管理レベルが支部司令であることを確認しました。事件詳細報告も合わせて出力します』

 

 

無機質な女性のアナウンスがして20秒後に端末上部からUSBメモリらしき物が突出した。

 

一瞬何の事か理解できなかったが支給された端末下部にUSBの差込口があることを思い出して物は試しとそれと結合してみた。

 

『情報のエクスポート中です・・・・完了しました。』

 

3秒もかからず端末内に入ったレポートを見てみると以下のような文が記載されていた。

 

ーーーーーー

 

レポート
当レポートは現実に基づいた実際のケースを仮想空間で再現した際に記載者が行った行動を分析する物になっています。
所属日本支部基地司令立花光雄(Mitsuo Tatibana)
総合評価項目
当項目は限りなく実戦に近い状況下で行った際に記載者が行った行動や戦闘に関する評価をS.A.B.Cの4段階±にランク付けした項目です。
Sエージェントとして高難易度の任務に投入可能(例:「対」レオン・S・ケネディ、アルバート・ウェスカー)
Aエージェントとして通常任務に投入可能(例:U.S.S、ネイビーシールズ、S.T.A.R.S)
Bエージェントとしての一通りの技量が身に付いている(例:U.B.C.S、S.W.A.T)
C警察組織程度
現在のランクC-
作戦行動
当項目は作戦中の「対」との接触や記載者の攻撃手段に関する評価を個別ランク付けで評価します。
射撃技能B
エージェントとしての最低限の射撃能力を所持しています。しかし、排除対象と断定してからの行動に一定のタイムラグと複数の排除対象との戦闘では射撃ミスを引き起こしているを確認。以後注意が必要です。
体力C-
一般市民と同程度の体力しかないので一回の訓練時に10キロのランニングを行ってください
隠密B-
エージェントとしての隠密能力は必要最低限備えていますが、ミスが目立ちます。作戦成功率を大きく下げる要因になりかねないので要練習。
コミュニケーションB+
一般人の中に紛れ込む事が出来るレベルの能力を持っています。
「対」接触可能性行動C-
「対」に近い存在に深く接触する行為はエージェントとして教わった事の基本が出来ていません。再教育プログラムの受講をお勧めします。
心理的評価
この項目では記載者の行動に伴う心理的な変化を記録、分析して客観的に評価した項目です。
不測の事態B+
作戦投入に問題ない精神状態です。
アンモラルな行動C
エージェントとして作戦行動に重大な障害になり得ます。
平常心の維持A-
歴戦のエージェント並みです。しかし、アンモラルな行動を取った際に脳波に著しい乱れが確認されているので更なる訓練を必要とします。
総評
射撃技術だけを行なっているようなので体力作りトレーニングを行ってください。精神状態に関しては倫理に反する行動の枷を外すように常日頃から意識すると良いでしょう。それが出来るようになれば精神の切り替えを行えるようにする訓練を行ってください。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「体力づくりの必要があるなこれは・・・」

 

レポートの結果を見ながらそう呟いた私はこの組織・・・アドミンのトップと面談する為にこの施設から退出した。

 

この基地は訓練室だけでも恐ろしい規模を誇っており移動だけで一苦労だ。そんなところで働いている職員達の足は施設内にある専用ビークルか、定期運行しているリニアーのどちらかが大多数を占めていると昨日案内してくれたヤンさんから聞いていた。

 

なので、訓練室を出た私が最初に行う行動は司令室に繋がる、又は近くまで移動する手段を探す事だった。

 

 

「どこにあるかな・・・これか?」

 

 

仮想訓練室の側にゴーカートの様な形状をしたビークルがあった。私はそのビークルに乗り込むと本来ならハンドルがある部分に取り付けられているディスプレイが起動した。

 

 

『目的地を選択してください』

 

「地図?・・・これをタッチすればいいのか?」

 

 

機械音声とともに表示された画面はこの基地を簡略化したマップだった。マップの横に移動できる場所が表示されているがその数があまりにも多い。

どうしたものかと考えてると移動出来る場所の上に検索欄がある事に気づいた。

 

 

「司令官室と打ち込んで・・・あった。」

 

表示された『司令官室』と書かれた欄をタッチすれば『司令官室に移動しますか?所要時間は20分です。』という表示と共に『はい』『いいえ』という項目が表示された。

迷わずに『はい』をクリックするとガゴッという音と共にこのビークルが動き出した。

 

移動スピードは大体時速25キロ程で進んでいるにもかかわらず振動が全く無い。

 

 

「移動中にダウンロードしたファイルを見るか」

 

 

そう1人呟くと私はデバイスを起動して『ラクーン事件』と書かれたファイルを観覧した。

 

 

ーーーーーーー

 

ラクーン事件
概要1998年5月11日の研究所でのバイオハザード発生から10月2日の弾道ミサイルを用いた滅菌作戦までの期間発生した一連の事件。

組織の対応
1998/1/20エージェントをアンブレラ社本社及び全支部に投入。
1998/5/10投入したエージェントよりバイオハザードの兆候を報告。アメリカ支部【フリーダム】はラクーン市内に追加で長期作戦要員5名投入。
1998/7/20組織司令官より新規の『対』と『敵性対』の発生を各支部に伝達。
1998/7/23『対』の所属する警察組織が作戦を開始。長期作戦要員1人を対応に向かわせる。

1998/7/24新たに『対』2名と『敵性対』が作戦を開始。長期作戦要員1人を追加で投入。
1998/7/29ラクーン市内下水処理場にてバイオハザード発生の可能性を【フリーダム】が組織に報告。

1998/9/6組織司令官より新規の『対』の発生を各支部に伝達。
1998/9/23ラクーン市内でアウトブレイク発生。組織は長期作戦要員の潜入を続行。
1998/9/28長期作戦要員3名に撤退指示

1998/10/2『対』全員のラクーン市内脱出を確認。全長期作戦要員に撤退指示。

 

 

 

 

当該ケースにおける接触者の経歴
アンドリュー・フェルト

・U.B.C.Sタンゴ小隊第二分隊分隊長。「オペレーション・ラクーンシティ」にて搭乗ヘリが墜落後、付近に降下した分隊員バーク・スペクターと行動を開始。その後分隊員全員とラクーン市警所属の刑事ロイ・キングと共に行動を共にする。U.B.C.S本隊との通信が途絶した事に疑念を抱き分隊員と共に拠点構築を目的にラクーン高校へ向かう。その後の探索で発見した数人の高校生の護衛をロイ・キングに任せて生存者探索を行い、高校に誘導した。

9月27日。武装した市民数名と共に高校内に避難していた市民数名をラクーン市内から脱出。

9月29日。タンゴ小隊小隊長ロバート・タイソンの死亡と同時にタンゴ小隊臨時小隊長となる。その後市民を匿っていたラクーン市警警察S.W.A.Tのマイケル・ウォレスと共にラクーン市内を一度脱出。その後再度ラクーン市内に戻り生存者救出を続けた。

アンブレラ社が倒産する際に組織にスカウトされ現在はエージェントとして活躍している。

バーク・スペクター
・U.B.C.Sタンゴ小隊第二分隊衛生兵。「オペレーション・ラクーンシティ」にて投入当初からアンドリュー・フェルトと行動していた。ラクーン高校の拠点化の提案を行い生存者のセーフハウス構築の大きな要因となった。

アンブレラ社が倒産する際にNGO団体「テラセイブ」に所属。

ジミー・キャンベラ
・U.B.C.Sタンゴ小隊第二分隊狙撃兵。「オペレーション・ラクーンシティ」にてアンドリュー・フェルトと合流するまでの間、同分隊員のダイゴ・フローレンスと共に行動を共にした。

アンブレラ社が倒産した後結成されたB.S.A.Aの初期メンバー。通常オリジナルイレブンの1人となってバイオハザードと対峙している。

ダイゴ・フローレンス
・U.B.C.Sタンゴ小隊第二分隊通信兵。「オペレーション・ラクーンシティ」にてアンドリュー・フェルトと合流するまでの間、同分隊員のジミー・キャンベラに同行した。

アンブレラ社が倒産後、以前から親交のあったジミー・キャンベラのB.S.A.A入隊の勧誘を断り傭兵となって各地を転戦している。

ロイ・キング
・ラクーン市警刑事課所属。ラクーンシティ壊滅事件最初期から行動していた。警官隊と共に行動していたがメインストリート爆破作戦の際、爆発に巻き込まれて行方不明扱いとなった。U.B.C.Sタンゴ小隊第二分隊員に発見されるまで市内の住宅地下室で潜伏していた。

U.B.C.Sタンゴ小隊第二分隊分隊長であるアンドリュー・フェルトにセーフハウス化した拠点の防衛を自ら志願して多数の市民を匿った。その後武装化した市民数名を指揮して市内から脱出。

ラクーンシティ壊滅事件後はルイジアナ州ダルウェイ警察署の警部として転属された。

 

 

 

事件詳細報告
この項目は機密レベル2に該当します。支部司令以上のみが閲覧できる項目です。
注) 本報告書は当時指揮していたアメリカ支部【フリーダム】基地司令及び潜入していたエージェント、政府機関や加害組織が保持していた情報を元に記載。
・当事件は1998年5月に発生。原因は生物兵器の管理体制の不備によるものであり人為的に発生したものではなかった。その状況を利用して生物兵器の実践記録を取ろうと画策したのが「敵性対」である当時ラクーン市警特殊部隊S.T.A.R.Sのブラボーチーム隊長であるアルバート・ウェスカー。彼の思惑は上手く行き実験データを得る事に成功。更に事件後、S.T.A.R.S生存者による告発の揉み消しをラクーン市内の有力者が行った事により情報は隠蔽された。

そんな中アンブレラ社内の派閥争いによって生じた2度目のバイオハザードがラクーン市内地下の秘密研究所内で発生。アンブレラ社はウィルスの封じ込めに失敗してラクーン市内でアウトブレイクが発生した。ラクーン市警は初期の段階から対策を行おうとしたが当時アンブレラ社と癒着していた警察署長ブライアン・アイアンズによる妨害工作により指揮系統の乱れや初期動作の遅れが発生。数日でラクーン市警の行政機能が停止した。

事態を深刻に見たアンブレラ上層部はU.B.C.SとU.S.Sの投入を決定しラクーン市民の救出に動いた。しかし、一部U.B.C.S隊員とU.S.Sには生物兵器の実践記録を取る様にと指示を受けていた事もあり救出作戦事態を阻害する事が散見した。

一方アメリカ政府はアンブレラ社との癒着の証拠を隠蔽する為に州兵の出動を認可。ラクーンシティ周辺を封鎖した。ラクーン市内の死者が増えていく中アメリカ政府は弾道ミサイルによる滅菌作戦を敢行して癒着の証拠隠滅を図った。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

『目的地に到着しました。』

 

 

「もう着いたのか・・・」

 

 

資料を読んでいると唐突に聞こえた案内音声とその後に来たビークルが停止すると発生する独特の感覚で私は今の状況を理解した。

 

ビークルから降りて少し離れるとピピっという音を出して何処かへと移動していった。

 

 

「ここが司令官か・・・・身だしなみは・・・よし、行くか」

 

 

基地内の通常の自動ドアより少し材質が硬そうな扉の前に立つとドアを3回ノックした。

 

 

『だれかな?』

 

「本日13時より行われる面談の予定で参りました。立花光雄です」

 

『・・・入室を許可する』

 

 

インターホン越しの会話の直後にドアが自動的に開き部屋の中が見えた。

 

目の前には更に扉がありその横に四角形の箱が置かれていた。戸惑いながら入室すると背後の扉が閉まり辺りは沈黙に包まれた。

 

 

「これは・・・・どうすれば・・・」

 

『私が見えないのですか?早く前に進んでください』

 

「っ?!・・・箱が・・・喋った?!」

 

『私に言わせればあなた方は肉の塊が喋ってる様に見えるのですよ。私は基地司令の警備及び秘書を務めているガーディアンです。』

 

信じ難い事に箱のような形状をした物体・・・ロボットは私とノータイムで話す事のできるSFじみた物だった。今の時代では到底再現できない技術を目の当たりにしてその物体に興味を持っているとロボットもといガーディアンが急かす様に言った。

 

 

『司令官は目の前の部屋で待っています。貴方が上司に対して失礼な態度を取りたいのでしたらそのままで結構ですよ?』

 

「あ、すいません。急いで行きます」

 

 

脳が一杯一杯になりながらなんとか言った言葉の後に扉の前まで歩を進めて入室した。

 

 

 

まず目を引いたのはシックな作りの机だ。それ以外は殺風景な室内で地下だというのに窓から光が入ってくる。椅子を窓と対面する様に回している基地司令らしき人物。椅子が大きすぎて姿形は見えないがおそらくそうだろうとアタリをつけた人物がそのままの状態で話しかけた。

 

 

「待っていたよ立花君。この基地は楽しめたかね?」

 

(訓練室での事を言っているのか?)

 

「えぇ。現実に今起こっている事だと錯覚する程の内容でしたよ。」

 

 

「フッそれはなりよりだ」

 

 

そう言って椅子を私に向けて回すことで初めてその全貌を見る事ができた。

 

 

 美女だがどこか違和感がある。そんな印象を抱くような容姿だった。

 

肌の色が白色人種のような印象を抱くがそれよりも白い・・・所謂アルビノという病気にかかった動物並みに白いのが違和感の原因か?違う

 

瞳の色が通常ではありえない虹色だからか?違う

 

座っている状態で繰り出される細かな所作から伝わる上品さか?違う

 

 

(もっと根本的な何かが違う・・・何なんだ?)

 

 

私を見ている彼女、司令官は私をただじっと見つめており私自身を私と同じ様に観察し出した。

 

1分程度の時間が経過しておもむろに彼女が口を開いた。

 

 

 

 

 

「初めて見た人は困惑するだろう。そしてその困惑の原因に辿り着ける人は今まで生きてきて1人もいない。今後のコミュニケーションの為に私の正体について話すが。『私は人間ではない』」

 

 




やっと物語を進めることが出来ます・・・。


ラクーン高校で拾った日記に記載されていた登場人物のジェーンとニックはバイオハザードのラジオドラマで登場した人です。「アンブレラ社」のことを「アンブレラ製薬」と言ったり所々痒い作品でしたが興味がある方は下記のリンクからどうぞ。

https://youtube.com/playlist?list=PLC442C3D5C988F487


誤字脱字の報告。表現がおかしい箇所の報告も大歓迎です。


初めて表形式で記載しましたが正直めんどくさかったです(笑)


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ACT14

ちょくちょく書いていた物を投稿します。


「人間では無い?・・・発言の意味がわかりません」

 

「そのままの意味だよ・・・・厳密に言うと今、地球上で栄えているホモ・サピエンスではないと言う意味だがね」

 

「ホモ・サピエンスではない・・・・あまりその分野に詳しくはないのですがホモ・エレクトスの様な人類のことですか?」

 

 

「いや、私は現在地球上で確認されている人類とは違う。君達の原型となった種族『ホモ・オリジン』だ。」

 

「ホモ・オリジン・・・」

 

 

言われてみれば彼女から感じた違和感の正体が直感的に理解できた。日本人が中国人や韓国人を見分ける事ができる感覚に似ている。

 

私は無言を貫き彼女もまた無言で私を見つめている。2人との間にある緊張の糸がピークに達したその時、彼女は自身の名を名乗った。

 

「私の名前はセントラルだ。この名乗り以降私の名前を言う事を禁じる。私の名前は君の脳に記憶として残して欲しい。」

 

「は・・はぁ・・分かりました」

 

セキュリティの硬さがここまで来ると感心を通り越して呆れてしまう。一瞬冗談かと思ったが彼女の瞳は嘘を言ってる様には見えない。

 

 

「・・・・・取り敢えず、私を呼び出した理由をお聞きしても?」

「この組織の事と君が何故、日本支部の司令官に任命されたのかを説明しようと思ってね」

 

 

「ん?・・・司令官任命の理由についてはリライター副司令の十条聡子から説明を受けるので説明は不要ですが?」

 

「それはセキュリティレベルが低いものにしか教えられない『表向き』の理由だ。私が今から話すことは絶対に口外しない様に」

 

そう言って彼女・・司令官は語り出した。

 

 

 

ーーーーーーー

 

昔の哲学者ニーチェが提唱した思想『永劫回帰』という言葉を知ってるか?「時間は無限であり物質は有限である」という前提に基づいた物で端的に言うと【ある事象が発生した時と場所を繰り返し行う】という考えだ。輪廻転生という仏教的な教えと近いが少し違う。

輪廻転生では生まれ変わった時に同じことを繰り返さない。対して永劫回帰は仮に生まれ変わったとしてもテープレコーダーの様に事象が繰り返される。

 

彼の思想は説の立証が不可能に近い故に否定的な意見が多数派を占めているが組織は違う。その思想の結果は違う物となったが立証することができた。それが、【ループをするが小さな変化が結果を大きく変える】所謂【バタフライエフェクト】と呼ばれる現象と限りなく同じ物だった。

 

本題に入ろうか。組織はこの永劫回帰という思想から立証することのできた現象を使うことのできる人間がいる事を確認している。彼等を【エフェクター】と命名して組織にスカウトし各支部の司令官職や本部勤務についている。

そう、君の事だ。

 

 

 

ーーーーーーー

 

「十条はその事を知らないのですか?」

「あぁ。セキュリティレベルの低い者にはカバーストーリーを教えている。この事は本部勤務の者か、各支部の司令官しか知らない事実だよ。」

 

「質問ですが、私が司令の言う【エフェクター】だとなぜ判るのですか?私はまだ一度も永劫回帰?というのを経験したことがない者でして。」

 

 

司令官が語った事はいまいちピンと来なかった。永劫回帰という思想自体たった今知ったばっかりの私はどんなに考えても今までの半生でソレらしい出来事に遭遇した事はないのだ。

 

 

「【エフェクター】か否かを選定するのは私の管轄ではないので答えることができない。しかし、他支部の司令官達に共通している経験談というのがある」

司令官は表情筋を一ミリも動かさずにそこまで言うと一呼吸置いて続けた。

 

「どこからともなく声が聞こえてきたり、得体の知れないナニカが脳内に入ってきたことの経験は?・・・それが有るのならば君はエフェクターだ。」

 

「たしか・・・小学生の頃にそんなことがあった様な。それと最近声が聞こえてきたりした事はあります。専門外ではありますが精神疾患の方でも同じような症状の方がいるのではないですか?」

 

「君は精神疾患の患者と同じなんだよ。彼等はエフェクターになり得る素質を持っていたが開花する際に精神に異常をきたしてしまった・・・言うなれば失格者だ」

 

「失格者・・ですか」

 

 

私の何処にエフェクターたる素質があるのか甚だ疑問に思うがそんな事は一旦棚に上げて話を進めることにした。

 

「この基地での訓練期間中は基地を拠点として世界中の『対』をサポートする現場業務と『対』のサポートにおけるエフェクトの使い方、エフェクトの習熟訓練を行ってもらう。最初は主にエフェクターとして能力を使いこなせる様に習熟訓練を施す。」

 

「現場業務とはどの様なことをするのでしょうか?」

 

「各支部司令が普段指揮しているエージェントの立場になって業務を行うだけだ。どうしてもVR訓練に慣れてしまう人が毎度発生するのでね。その為に現場にエージェントとして送り込まれるわけだ」

 

「なるほど、分かりました。それでは訓練開始日時と訓練開始場所を教えていただけないでしょうか?」

 

 

「日時と場所に関しては後で君の端末に添付する。話は以上だ、退出してくれ」

 

 

そう言って彼女は椅子を私がきた時と同じ方向に向けるとこれ以上話す気はないという事を態度で示して室内は沈黙に包まれた。

 

「では失礼します」

 

 

部屋の外に出た私はもう一つの扉に歩みを進めていくとロボットのガーディアンが話しかけてきた。

 

 

「お話は終わった様ですね。司令官との初めての接触はいかがでしたか?」

 

「衝撃でした・・・・司令官についての話はしていいですか?」

 

「室内で知った事をすぐに話さずに確認を取る・・・良い心がけです。貴方が司令官室で話された内容を少しでも喋ったら今後行われる機密保持講習のカリキュラムを増やす必要がありましたが憂鬱だった様ですね」

 

「言わなくて正解でしたね。私としては早い所全てのカリキュラムを終わらしたいと思っているので・・・・こんな所で減点されるわけにはいかないんですよ」

 

 

「それは良い心がけです。そろそろ退出したらどうでしょうか?私は高性能な機械ですが日常業務で人とのコミュニケーションを取る行為でリソースを割きたく無いのですよ」

 

 

失礼なロボットだと思いつつ軽く会釈をして部屋を退出した。

 

時計を見ると針は13:45分を指していた。VR空間で激しい運動をおこなったその足で司令室に向かったものだから私の腹の虫がご飯を寄越せと泣き喚いているが、今の時間と移動する時間を考慮したら昼食としては微妙な物だ。

 

「ご飯を食べないと何も始まらないな」

 

 

誰もいない通路で1人呟くと部屋の横に停車していたビークルに乗り込み目的地を基地の食堂に設定して発車した。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

組織総司令官【セントラル】

 

 

何時からだろう。同じことの繰り返しだと気づいたのは。いや、答えは幾億も前から出ていたな。「あの方」から力を貸してもらった時からだ。世界は歴史を刻んでいるように見えて同じ時、場所で同じ人物が行動を起こす。時間という概念は一方向の概念であって繰り返されるものではない。

 

 

「司令官。彼は食堂に向かったようです。そのまま監視を続けますか?」

「その必要はない。この世界で彼は守秘義務を厳守した・・・前とは違ってね」

 

「確かにそうですね。『今回は』監視を行いません。」

 

 

 

私が「あの方」との邂逅は今でも鮮明に覚えている。あの日の私は1人の少女でしかなかった・・・

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

????年 ??月??日 西方セントラルエリア某所

セレス・カーシル

 

鬱蒼とした茂みの中で私達は息を殺して隠れていた。前方には私達がペットとして飼っていた動物が人を食べていた。恐怖で体が震えるのを我慢してその場に存在して無いかの様に息を殺していると右手をギュッと握り締める感触が伝わった。

横には14歳になる男の子、ヤルマン・タールが不安そうな顔でこちらを見ている。

私は彼を安心させるために空いている手で頭を撫でるとその手を自身の唇に持って行き人差し指を一本立てた。

 

 

 

 

私達はコロニーで食糧を調達するために大人達のグループに同行した所謂『見習い』という階級に属している。数年前の「大厄災」で故郷と私達が持っていたテクノロジーの殆どを失った事で数少ない生き残りは他の大陸に散っていった。その中の一つ、輸送客船「アドミン号」に搭乗していた私たちは今いる西方セントラルエリア(現:中央アジア)にある洞窟内をコロニー化した。

「大厄災」の中で持ち込めた設備は数百人が暮らすコロニーの要求に応える物では無く私達は自給自足の生活を強いられて10年の月日が経過した。

「大厄災」当時8歳だった私も今では見習い階級の子を統率する立場になり近々昇進があるだろうと周りの大人から言われていた。そんな矢先に事件が起きた。

 

 

 

食糧採集の経験の浅いヤルマンが独断専行と命令無視をして遭難したのだ。彼が居なくなっている事にいち早く気づいた私は近くの大人を1人同行させて捜索した。その道中に野生化したペットと遭遇。私を守ろうと目の前に立ち塞がった男は私を逃そうと獣の気を引いてくれた。一瞬の隙に乗じて近場の茂みに隠れると其処には私達が探していたヤルマンが震えながら縮こまっていた。見つけた事に対する安堵も束の間、鋭い悲鳴が辺りに響き渡った。その方向に顔をつけると目をカッと見開いた状態で絶命した大人がペットだった獣にゆっくりと咀嚼されていた。

 

 

そして現在に至る。

 

 

私はヤルマンについて来いというジェスチャーをすると彼はその意味を理解して指示に従った。が、足音を極力出さないようにという指示も出してなかった事によって地面に落ちている枝を盛大に折ってしまい、あたり一帯に音が響き渡った。

 

「?!・・・・」

「・・・・・・」

 

自分が出した音に驚いた彼と脳がパニックになって黙り込んだ私。恐る恐る獣の方向に目を向けると獣は食事を中断して私達のいる方向にゆっくりと顔を向けた。その瞳が私と合った瞬間に勇気を出して叫んだ。

 

 

「逃げて!!!!!!!」

 

「っ!!はい!・・・」

 

 

背後は振り返らない、音だけで獣が近寄っているのがわかる。必死に走ったが獣の足音は徐々に私に近づいてきて・・・・

 

 

「ッキャ!!!」

「お姉さん!!!」

 

「っく・・・だめ!!来ないで!!」

 

 

 

焦っていた私は木の根に足を取られて転んでしまった。ヤルマンが私に声をかけるが早く逃げろと言う意味を込めて叫んだ。

切羽詰まった私の声に一瞬ビクッと肩を震わすと意味が伝わったのか彼は一目散に逃げていった。

 

 

彼が草木をかき分けて逃げていくのをじっと眺めていた私の首筋に生暖かく異臭のする風が吹きかけられた。

本能的にそれが私たちを追っていた獣である事を理解した私は恐る恐る後ろを向いた。

 

 

(あぁ・・・私死ぬのかな・・・)

 

 

目を向けると一対の鋭い眼光が私を睨んでいる。

 

元ペット・・・後の世界で「T-REX」と呼ばれる二足歩行の獣はその凶悪な牙を見せつけるように大きく口を開くと私に飛びかかってきた。

 

咄嗟に目を強くつぶった私は来る死の陰から少しでも遠ざかりたいと思い、その身を縮こませた。が、いつまで経っても痛みは感じない

 

(なんで痛くないの・・・?)

 

疑問に思い恐る恐る目を開けると獣は大きく開いた口を私から数センチ離れた位置でピタリと静止していた。

何かがおかしい。そう感じた私は違和感の正体に気づくのに時間は掛からなかった。

 

 

世界が止まってるのだ。

 

 

空に目を向ければ鳥が中で静止したまま微動だにせず、木々の上から私たちを見ていた小動物たちも身じろぎ一つしない。そんな異常な光景で唯一動いているのが私だということに得体の知れない恐怖を感じた。

 

 

「全く・・・君らの生命力は素晴らしいな。」

 

私の横から落ち着いた男性の声が聞こえて反射的にそこに顔を向けた。

 

綺麗な焦茶色の髪を中央から半分に分けた男性がここに最初から居たかの様に佇んでいた。近くに人がいたら獣もそちらに目を向けるはずなのにそんな事は今に至るまで無かった。その獣は知能がとても高く腰を抜かして貧弱そうな私は後にして先に体格の良い男性を襲い掛かるであろう事を私は知っている。

 

「君達を少しだけ観察してみたが中々に面白い。人類の生命力は地球で一番なのは間違いが無い。私が言うのだから絶対だ。」

 

 

襲われる瞬間の体勢のまま唖然として男性を見上げていると彼は意味の分からない事を言った。

男性は中年に差し掛かった青年のような見た目をしているのにもかかわらず目はどの様な感情も写さず、話す雰囲気は私が今まで会ったどの様な人よりも「年配」なんだと何故か思ってしまう様な青い瞳だ。

 

 

「しかし、高度なテクノロジーをもった文明が滅んでもある程度の人は生き残る事が出来る。つまりはこの世界のローテクな人々を裏から操る事ができるわけだ」

 

「あの・・もしかしてあなたは・・・」

 

 

 

今まで考えていた事よりも強烈に興味の湧く事がある。それは彼の身に付けている服装だ。

 

 

「私たちと同じアトランティス人ですか?」

 

 

 

彼の見た目は私の故郷が滅んで時間が経つ毎に見る事が無かった服装を着ているのだ。

 

 

「何故そう感じたんだ?俺はアトランティス人では無い。何と言えばいいのか、そうだな・・・『観測者』かな?」

 

 

彼の服装は私たちのコロニーでよくあるオシャレのカケラもない機能的な服ではなく、私たちの国が滅びる以前に身に付けていた機能性の無い服だった。

 

私の視線が彼自身が身に付けている服装に注がれている事に気づいたのか指先で自身の身に付けている服の端を摘んで言った。

 

 

「君達の流行に則ってこの服を選んだが満足していただけたかな?。もっとも、その流行は国が滅ぶ以前のものだけどね」

 

 

「何が目的なの?」

 

「いきなりだね君・・・ほぉ、状況を理解してこの質問をしているのか。」

 

 

 

何かを解決したかの様に1人で頷く彼は私に向けて右手を差し出した。

 

 

「君に決めた。この手を取った瞬間から悠久の時を地球の為に働く事になる。途中で辞めることは出来ない。人の死を何千何万と見届ける事になる・・・さぁどうする?」

 

 

何の話なのか理解出来ないが彼から放たれる雰囲気は有無を言わさないもので私は恐る恐るその手を握った。

 

 

その瞬間私の脳に大量の知識が入り込みひどい頭痛が襲いかかってきた。

私の国が壊滅した理由、地球に生きる者が知る由もない知識の数々・・・それらをたった1秒で自身の記憶領域に刻み込まれた私は意識を手放した。




お久しぶりです。就活が困難でいっその事、終活を始めようか迷っているジュネープです笑笑。

今後の1st Sagaとしては今まで登場したオリジナルキャラ全員分の過去回を短編作品として投稿していこうと考えています。短編作品にする事で色々な作風で書くことができるしキャラを深掘りできて今後に活かせると思います。

それ以外の報告ですと、主人公が基地に来る前に他の支部と行った作戦に出てきたブラックラグーンの話ですが、再放送しているアニメの主人公の情報が纏められた紙で「1995年」と書かれていたのでヤベェやっちまったと思っています笑。その話の話を何かに置き換えようと今考えてるのですが案が思い浮かばない・・


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マルハワデザイア
ACT15


さて、君はどんな事をするのか、楽しみだ


 

意識を手放した後はまるで夢の中にいるかの様だ。今だって一瞬前の記憶が夢の中の出来事の様にほんわかとしている。

人間では到底獲得しうることのできない記憶を脳に流し込まれからなのか常にそうなっている。

 

何故こんな事になっているのか?それを考えるだけの情報を持った脳はその答えを一瞬で答えを導くことができた。キャパシティオーバーの状態で常に何かしらの情報が入っている事がこの状態の原因だと確信した。

 

記憶を定着させる為に1人で洞窟に閉じこもった事があった。しかしその状態は改善される事はなかった。

人間とは何もしていなくても・・・1人でいたとしても常に何かしらの情報を無意識下で感じている。

 

気温、湿度、視覚、思考・・・・これらは人間が人間である為に感じることの出来る機能の【一部】・・・そう一部なのだ。

 

歩いていただけでも

寝ていただけでも

廃人になったとしても

 

 

 

 

現状が改善できなければそれに慣れるしかない。その為に私は自身の個性を犠牲にしてこの問題を解決した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

立花光雄

 

 

 

基地司令との顔合わせから翌日の9:00。

 

 

沢山の職員やその他の人・・恐らくエージェントが頻繁に行き来している通路を歩いていた。

 

 

基地司令との顔合わせ後に送られてきたメールにはエフェクトの実習の時間と部屋が記されていた。それを頼りに通路を進んでいるとある一室の前で立ち止まった。

 

 

「ここが講習室か・・・」

 

 

入室するとそこは5人入ったらぎゅうぎゅう詰めになりそうな小さな部屋だった。机と椅子が部屋の中央に設置されており、机上には【極秘】と書かれた資料と見慣れないリングが置かれていた。その先にモニターが起動しており【No Signal】と表示されてる講習室というより少し広い独房の様な雰囲気だった。

 

 

取り敢えず席について開始時刻まで暇を持て余していると目の前にある資料が気になって仕方がない。

 

「・・・エフェクター講習1?」

 

 

司令が言っていたエフェクターとしての講習・・どうやらすぐに終わるようなものではないらしい。これから始まる講習が難しすぎないようにと祈りながら室内に設置されている時計は指定された時間に達した。

 

 

ピッ

 

 

間の抜けた・・前方のモニターに映像が出力される音と共に画面は白一色に染まった。講習はビデオで行うのかと当たりをつけて姿勢を整えると画面に集中した。

 

 

『この講習では諸君らエフェクターを育成する為に必要な基礎部分の教育を行う。教育期間の終了判定は各々が行い、支給された端末から司令官宛にメッセージを送るように・・・では講習を始める』

 

 

各々で自己管理を行う必要がある事に多少の驚きはあってもフリーランス時代と大差無いので集中して講習を行った。

 

 

 

 

以下講習映像から抜粋・・・・

 

 

 

『ニーチェが提唱した永劫回帰。世間一般で難しい言葉で論議されてきたが、組織内での共通認識は【自我を別世界に移す行為】である。エフェクターは自身が存在する時間軸内で意識を別の時間軸の自身に移行する事が可能となる。』

 

 

『もっと簡単に表すと一部のゲームに存在する残機と呼ばれるシステムの事である。それらの機能を使用するためには卓上に置かれているリングを使い脳内で【起動、またはそれに準ずる言葉】を思うと発動できる・・・』

 

 

文字だけの画面が切り替わり【effector】と頭上に表示されている男の絵が表示された。男の絵は【start】、【起動】、【on】などのセリフが表示されては消えてを繰り返していた。

 

『この機能を使う上で注意して欲しい事はエフェクトを使用する前の世界を【破棄】しているという事を心に刻み込んでください。』

 

男の絵の横に長方形を5つに区切った図形が表示されると同時に男の大きさが縮小した。

 

『現在エフェクターが存在する世界Aから別の世界Bに移動した場合、次の世界でエフェクターが指定した時間に意識を出現できます』

 

男の絵が区切られた長方形の中のAと書かれている位置からBの位置に移動した。

 

 

『移動元の世界は存在自体が抹消され、世界や次元の摂理に重大な問題を発生させる可能性がありますので注意してください。』

 

 

 

 

講習は掴み自体は簡単に説明していたが後々になると高度なものになっていった。途中、座学では理解できない内容が出てきたが気合いで覚えた。

 

 

そんな生活が1週間経過した際、ついに自分で納得できるレベルまで知識を習得することが出来た。

 

 

「取り敢えず司令官にメッセージを送らないと・・・」

 

 

【お疲れ様です。指定された講習内容の習得が終わりました。次の講習の指示をお願いします。】

 

 

【講習ご苦労。次回の講習は翌日の13時から行う。実践を兼ねた講習なので持ち出す装備については当日までに選定しておく事。】

 

 

 

「・・・せめて1日の休暇をくれても良いと思うが仕方ない。武器に関しては司令官との顔合わせ以前に使っていたAKと適当な拳銃でいいか」

 

 

誰も居ない講習室でそう呟くと私は夕食を食べずに部屋に戻ってベットに倒れ込んだと同時に私の意識はプツリと途絶えた。

 

 

 

 

翌朝・・・と言っても地下にある施設の為に余り時間の感覚がないが、私は目覚ましのアラーム音によって意識を覚醒させた。銃の訓練をしようにも今日行われる訓練で嫌というほど触る羽目になると思い、支給されたデバイスから組織のデータベースに基地司令権限でアクセスして面白い物が無いか漁ることにした。

 

「男士の夜に彼岸島事件・・・ね。日本でもバイオハザードが起きる可能性は十分にあったわけだ」

 

 

 

データベースには60年代に発生した男士の夜事件と雛見沢壊滅事件の他に私の知らない【彼岸島】という島で起きたテロ事件の詳細とエージェントが記録していた映像が映し出されていた。一般人だった時は表の報道を信じ込んでいたが、一般人ではなくなると今まで見えてこなかった情報を好きなだけ見る事ができる。犠牲になった方々には申し訳ない気持ちはあるが一種のエンタメとして指定された時間の1時間前まで楽しむことが出来た。

 

 

 

 

 

「君が今回研修を行うエージェントか。俺の名前はヨハンだ。今回参加する作戦の内容は理解してるか?」

 

 

目の前で手に持っている武器・・MP5にサイレンサーを装着している人当たりの良い中東系の若者が私に向かって挨拶してきた。

現在地はナイトホークと呼ばれるヘリコプターの中に彼と二人、振動に揺られている。こうなったのは今から2時間前に遡る、、

 

 

 

ーーーーーー

2時間前

 

 

集合時間の5分前に目的の部屋に到着した私は入室をためらった。と言うのも部屋の横に表示されている電光プレートには【作戦準備室】と記載されているからだ。

 

(問題はないはずだ・・・よし)

 

 

意を決して入室した。そこには基地に初めて来た際に少し話しただけの女性。ヤン・メイリンが資料を手に私のいる方向を見ていた。

 

 

「久しぶりです。立花光雄さん。研修の説明を行いますのでそちらの椅子にお掛けください」

 

 

和かにそう言った彼女に促されるまま、席に座った私はここに来て数日ぶりに出会った彼女に挨拶をした。

 

 

「ヤンさんもお久しぶりです。もしかして貴方が講師を務めるのですか?」

 

「いいえ、私は講師ではありません。司令部勤の総合オペレーターです。こう見えて幹部なんですよ!」

 

そう言って胸を張った彼女を微笑ましげに見た私は早速本題に入る様に促した。

 

 

「そ、そうです!本題です本題・・・光雄さんは【必須スキル】の座学を納めたと思いますので実習を行うという認識でよろしいですね?これから光雄さんには本部付きの新米エージェントとして各地を回ってもらいます。十分な経験を積んだら支部指令として司令官から任命状が授与されるので頑張ってください。これまでの説明で何か質問はございますか?」

 

 

「新米エージェントとして活動する事は承知しました。しかし、右も左も分からない私はどの様に活動すれば良いのか分かりません。」

 

「それについては、ミッション毎に経験豊富なA級エージェントとバディを組んで任務を遂行してもらうので問題ございません」

 

「それなら安心です。私からの質問は以上です」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

それからたった3時間後にはナイトホークの機内に装備一式と共に揺られているのは急すぎると思う。

 

 

「すいません。詳細に覚えてる自信がないので説明をお願いします」

 

「OK。それと、こんな畏まった言い方をされちゃ俺の気が休まらねぇ、タメで話そうぜ新米」

 

 

戯けた口調で私に答えた彼の雰囲気が一瞬にして変化した。どうやら公私混同を避ける人のようだ。

 

 

「今回の任務は世界的に有名な【マルハワ学園】で事件が発生しそうだという情報を入手したから部外者である俺らが教師として学園に潜入する。もし、仮に【対】が発生したり、介入してこなかった場合は事件を秘密裏に解決するか、その場から即座に離脱する。偽の身分証明書はさっき渡した物を確認してくれ、それと学園に潜入するにあたっての表立っての役割についての資料は司令部から端末に届いているはずだから確認してくれ・・・・あくまで教師として角が立たないように行動するんだぞ?」

 

「説明ありがとう。以前に仕事の関係で学生に授業を行った経験があるんできっと大丈夫だよ。」

 

早速崩した言葉で返答した私に彼、【ヨハン・ミン】はニヤリと笑いかけると目を閉じた。

 

「・・・Jin Tamuraねぇ・・」

 

渡された身分証は偽名が刻印された磁器カード。今から行くマルハワ学園の経済力が伺える上品な物となっていた。

 

 

 

ーーーーーーーー

マルハワ学園

校長室

 

 

 

「ごきげんよう。私はマルハワ学園の校長を勤めているマザー・グラシアです。」

 

「ご丁寧にどうも。私はジン・タムラです。」

「アレクセイ・ドゥガチです。」

 

 

修道女の様な装いで出迎えたのはこの学園の理事と校長を牽引している絶対的なトップ。

マザー・グラシアだ。

 

50代とは思えない程ツヤのある肌はまるで精巧な人形の様で、惚れ惚れする。

 

 

「ジン殿とアレクセイ殿には欠員の出た数学の教師と保安要員になってもらいます。案内を付けるので明日の9時までに、雑務を終わらせて下さい」

 

何か質問はないかとその後言われたが、特に無いと2人して答えた。

 

ここからの日常は取り止めのない物で、生徒達の質問に答えつつ庶務をこなす日々だった。

 

 

 

あの出来事が起こるまでは

 




長々とお待たせして申し訳ありません。就活も終わり、引越し準備に追われ、今日まで投稿できずじまいでした。とうとう主人公がバイオの外伝とはいえ時系列の中に介入していきます。


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ACT16

なるほどね。そう来るわけか
彼は見どころがありそうだ。



マルハワ学園

そこは地上の楽園・・・・・潤沢な設備、経験豊富な教員が揃った学校だ。

 

そんな場所がほんの数時間で阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

原因は簡単だ。以前からこの学園が危機的状況に陥る危険性は組織で把握しており、私は「訓練の一環」として

この・・・「陸の孤島」に潜入している。

 

 

数時間前まで青春を謳歌していた学生達の学び舎は地獄絵図となり

 

教師たちが学生に教えるカリキュラムを苦慮していた職員室は感染者だけが動く空間となり

 

学生達が運動に精を出していた運動場はがらんどうとした不気味な広場に変わった。

 

そんな中、私とヨハンは「対」・・・・いや、ヒーローが出現する時を今か今かと待機していた。

 

 

「新人。少し肩の力を抜いたらどうだ?対が来る前からこんなに緊張しているといざって時に役に立たねぇぞ?」

 

「はい・・・そうしたいのですが・・・どうやらこの学園の生徒達に情が移ったみたいで・・・」

 

「はぁ・・・これだから新人は・・・いいか?よく聞け。この組織に身を置いている以上は情なんて下らねぇものなんか捨てちまえ。じゃないとお前が死ぬことになるぞ?」

 

 

そういった彼の目線は厳しさとほんの少しの優しさを感じられるものだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同時刻

マルハワ学園本棟廊下

リッキー・トザワ

 

 

 

「なんだよ・・・なんで学園全体にウィルスが蔓延してるんだ!!」

 

 

パニック状態になった自分の精神を落ち着かせるように叫んだ俺は、ほんの数日前にこの学園にきた大学生だ。

叔父さん・・・ダグラス教授の単位欲しさに付いていったら新種のウィルスを介したバイオハザードに巻き込まれちまった。

 

 

 

叔父さんはこのパニックの中で「奴ら」の仲間になってしまった。俺は一人でこの学園を・・・陸の孤島から脱出しないといけないんだ。

 

 

そんな中出会ってしまったんだ・・・「あの人」に

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

軽率だった・・・それしか言えない。対が発生したとの報告が組織からもたらされ、ヨハンから「一人で対処しろ。本筋は俺が何とかする」

 

そういわれて対の場所に向かったがドジを踏んで対に私を認識されてしまったのだ。適当な事を言いつくろうにも私の装備は傭兵の様な出で立ちで、とても言い逃れできない物だった。

 

それに加えて彼・・・リッキー・トザワは私が教員として潜伏していた際に面識を持っているのだ。

 

 

 

「ジン先生!・・・・なんなんですか?その恰好は」

 

「これは・・趣味が高じて集めたモノなんだ。所でミスタートザワは何故こんなところにいるのですか?」

 

「学園の状態を考えてくれ!俺はここから脱出する手段を見つける為に動いているんだ。先生の持っている銃はマシンガンだろ?

これを使っていれば何人の生徒を助ける事が出来た事か!!!」

 

 

「落ち着きたまえ。この学園の警備は厳重でサブマシンガンだって保管していたんだ。この様な状態になった学園を見るとそれらの武器を使った所で焼け石に水なのだよ。ついでに言えばこの武器はマシンガンでは無いAK74だ」

 

 

 

リッキーの興奮を冷静に対処しつつこれからの事を考えていた。何しろ彼が件の「新たに発生した対」なのだから。

 

 

 

「ここは危険だ。ひとまずマザーグラシアの執務室に向かおう」

「マザーは・・・・死んだよ」

「・・・・なんだって?」

 

 

 

リッキーは悲しげな顔で事の顛末を語った。彼曰く。マザーグラシアは以前ある問題を起こしており、その問題の被害者生徒の恨みによって殺害されたという。現在発生しているバイオハザードもその生徒が首謀者との事だ。

 

 

「何てことだ。そんな事が起きていたとは・・・とにかくここから脱出するための手段を確保しよう。見たところリッキー君は銃を持っているようだから別行動で行こうか」

 

マザーグラシアが変異した生徒会長のビンディ・ベルガーラによって殺害されていることは把握していたが、それを本来知っているのはその場にいたリッキーただ1人である。なので私は「普通の学園教師」が行いそうな行動パターンを考えて発言したのだ。

 

私は早く本筋の流れに戻すためにリッキーとの別行動を提案した。それによって彼から逃げる事が可能だと踏んでの事だ。

 

「いや、この状況で単独行動は危険だってみりゃ分かんだろ?!一緒に行くべきだ」

 

「・・・・よく考えたらその方が賢明ですね」

 

 

 

失敗に終わったようだ。ならば、本筋から離れないように何か問題が発生したらエフェクターの力を使って軌道修正するしかない。

そう考えた私は彼と陸の孤島でサバイバルを行う事にした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

数分前

アドミン本部

ヤン・メイリン

 

 

 

 

 

 

アドミン本部には様々な施設が存在する。

射撃訓練場、仮想訓練室、居住スペース、講義室・・・・地下数千メートルに建造されているこの施設は出入り口である陸地よりも巨大な施設となっている。

 

そんな施設の司令部要員しか入る事の出来ない区画。その一室は各地の司令部やエージェントの管理、新たな対の捜索を行おう部署を統括する総司令部が存在しており、各部署に繋がる部屋ごとにセキュリティレベルが存在している。

 

 

エージェント管理部は重要セキュリティレベル1

 

司令部管理部は重要セキュリティレベル2

 

本部管理部は重要セキュリティレベル3

 

対捜索部は重要セキュリティレベル4

 

 

と、この様な構成となっている。因みに私が在籍している部署は本部管理部・・・つまり、気密性が二番目に高い部署となっている。

この部署では主に本部に滞在している物のフォローアップやセキュリティ管理、人員管理、備品管理、各部署との調整を管理するチームに分けられている。

 

現在私はある新人司令官のオペレーターを行っているのだ。

 

 

【立花光雄】

 

 

さえない東洋の中年男性の様な見た目だが、すでに何回かオペレーションを経験しており、今までの新人司令官よりは使える部類に分類されている。総司令部が何故問題点のある人材を基地司令に据えるのか理解に苦しむが、私の知らない何かがあるのだろう。

 

新人司令官で総司令部に配属された人員は毎日の日報提出が義務付けられており、それらのチェックと評価が私の現在の任務なのだ。

 

 

「彼の日報の件名は何々・・・・「潜入任務を行い、生徒に対して講義を実施」・・・・またかぁ」

 

 

彼はまじめなのだ。報告書には何時に何があってそれに対して何を行ったか等が詳細に記載されているが、如何せん任務に関連する重要事項では無い。書く事がないのであれば

 

【本日は異常なし】だの【任務関連の事案はなし】だの記載するだけでいいのに・・・

 

 

 

「どうしたの?メイリンそんな顔して・・・あっもしかして例の新人司令官関連ね」

「仕事中よ。私語は謹んでください。アリス先輩」

 

「いいじゃない。少しのお喋りぐらい。んーと、なになに~【数学の講義で問題が分からない男子生徒と女生徒、計2名で補習を実施】・・・・ナニコレ?」

 

「ちょ・・・勝手に見ないでくださいよ!」

「ごめんごめん・・・・あっ、コールされたから私は業務に戻るわね」

 

 

そういうと彼女・・・アリス・ベネットは自身の仕事に戻った。

アリス先輩はブロンド美人とでも言えばよいのか。グラマラスな体系の肉食女子と呼ばれる部類のオペレーターだ。過去に自分が気に入った男を片っ端から食い荒らした事があり、総司令部では彼女はとても有名なのだ。

 

 

 

彼の日報を読んで評価を行い、別の業務を行おうとした私にコールがかかった。件の立花光雄からだ。

 

 

「ヤンです。立花さんどうしましたか?」

 

通信機越しにそう言った私の対応は少し異質なものに見えるだろう。しかし、アドミンの正体は政府に対しても秘匿されている組織なので、通信機越しで【はい総司令部】とか、【アドミン】などの言葉をいう事は情報漏洩の危険性を孕んでおり、ご法度とされています。

 

【現在マルハワ学園内でバイオハザードが発生。対との遭遇が近いものと考え、報告しました。】

 

 

「了解しました。それでは、バディのエージェントヨハンと共に持ち込み装備の装着、待機をおねがいします。」

 

【了解しました。通信終わります。】

 

 

 

 

 

「・・・とうとう始まったわ・・・・よし!、気合を入れないと」

 

 

これから様々な事態が発生する。作戦成功に向けての行動は現場の人員に任せているとはいえ・・・エージェントが対処できない事を私達オペレーターが適切な指示をだして、時には様々な【支援】を要請する事でオペレーション成功を補助する事が私達の仕事です。

 

 

「はぁ・・・なんでこんな事になったんだろう・・・」

 

 

ふと学生時代の頃に思いを馳せる。この頃の私は、大学を卒業してすぐにアドミンからスカウトされました。給料や待遇の良さで即決したものの、総司令部の人達は私なんか足元に及ばないぐらいのエリート揃い。

 

委縮していましそうな空間で気丈にふるまっているがそれがいつまでもつのか・・・・転職したいと思っていてもこんなことを知ってしまっている状態で転職なんてさせてもらえないだろう。それに転職の意思を示そうものなら殺される可能性があるし・・・

 

「はぁ・・・?対捜索部からの通信?・・・・はい、こちらヤンです。どうしましたか?」

【こちらは対捜索部のミッチェルです。そちらの作戦担当地域で新たな対が発生した事を確認しました。現地の人員に対応してもらいたいです。】

 

「はい、かしこまりました。こちらで対応を行います。」

【では頼みました。以上です。】

 

 

どうやら新しい対が発生した様だ。こちらには2名・・・片方は新人の司令官だが、分散して対のサポートを行う事は可能だろう。

 

無線の連絡先を立花さんとヨハンさんに設定してコール。

 

【ヨハンだ。どうした?】

【立花です。】

 

「こちらはヤンです。あなた方の作戦担当地域で新たな対が発生したようです。つきましてはバディは解散して別々の対をサポートしてください」

 

【私はエージェントとして初めての任務です。それは荷が重いと判断します。】

【いいや、お前ならいける・・・こちらヨハンだ。報告理解した。立花を新しい対のサポートに回す。資料を送ってくれ】

 

「・・・・えーっと、承知しました。それでは立花さんの端末に対の情報を送信するので確認後、任務に移ってください」

 

【了解した。ヨハン以上】

【・・・・・立花以上】

 

「・・・・・本当に大丈夫なのかな?まぁ、現場の判断なら大丈夫か!うん!大丈夫」

 

 

そう自分に言い聞かせ業務を行って数分後のことです。

 

 

 

「?」

 

 

ピピピ、ピピピピ、

 

 

コール音がなる。この音は・・・・緊急通信!?

 

 

 

「こちらヤンです。何が発生しましたか?!」

 

【こちら立花・・・あの、少し言いにくいのですが・・・】

 

「・・・?どうしましたか?遠慮なくいってください」

 

 

 

まじめな彼にしては珍しい戸惑っているような声とヒソヒソ話をしているかの様な音量は何か良からぬことが発生した事を暗に示している。

それを理解した私は覚悟を決めて聞く姿勢をとった。

 

 

【新たに発生した対・・・リッキー・トザワに私の存在が露見しました。今後は対と共同で事にあたり、オペレーションの達成に挑みます】

 

「噓でしょ?!っ!・・・・了解しました。現状を把握しました。引き続きオペレーション継続をおねがいします。」

【了解しました。以上です。】

 

 

無線の通信を終わった私は椅子にもたれかかると一言呟いた。

 

 

「転職しようかな」

 

 

そのつぶやきは周囲の喧騒にかき消されて誰の耳にも入ることが無かった

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

マルハワ学園

立花光雄

 

 

 

 

 

組織との通信を終えた私はリッキーから聞いた脱出用ヘリの場所目指して歩を進めていた。

 

道中ウィルス感染者が襲い掛かってきたが、AKの敵ではなかった。現在使用しているAK74は使用弾薬は5.56m段だが、弾頭は人に対して多大なダメージを与える事の出来る物を使用している。

 

ハンドガンや通常のサブマシンガンなんかよりも少ない弾数で敵を射殺する事が可能なため、通常の感染者を楽に屠る事が出来た。

 

 

「ジン先生の持っている武器マジで強くない?一体どんな趣味をしているんだよ」

「リッキー君。世の中には常人には理解できない趣向の人が存在するんだ。私はこれを使って日頃の鬱憤を晴らしていたんだよ。」

 

 

リッキーが狂人を見るかのような目つきで私を見ているが、自身の正体を看破されるよりましだ。

 

・・・・しかしなんだ・・・中年心に多少の傷は付くがそれを気にする様では今後やっていくことは出来ないだろう。

 

 

 

 

「・・・?リッキー君。少し周囲を警戒しに行ってくれないかい?私は少し喉が乾いたんだ。近くの自販機で何かを買ってくるよ」

 

「こんな時に呑気なもんだな・・・いいよ。警戒しとくから」

 

「ありがとう。君は何か飲みたい物はあるかい?奢るよ」

「・・・・あんた大物だよ。俺はいいよ。何かの拍子にちびっちまうのは男として恥ずかしいからね」

 

 

「はははは、確かにそうだな。では行ってくるよ」

 

 

 

そう言って自販機で適当なものを選んでいるふりをして、端末を確認するとヨハンから連絡が来ていた。彼の視線を気にしながら端末を使って通信を行って彼にコールを送る・・・繋がった。

 

 

【こちらヨハンだ。】

 

「立花です。先ほど連絡しましたよね?どうしましたか?」

 

【あぁ、たった今、当初からマークしていた対がマルハワ学園に到着した。奴らの動きを見る限りだと立花とかち合う可能性がある】

 

 

「なるほど。承知しました。それではつつがなく合流できるように体制を整えながら目的地に向かいます。以上」

 

 

 

どうやら対・・・・クリス・レッドフィールドがこのマルハワ学園に到着したようだ。あのラクーン事件を生き残った生きた英雄が。

 

 

 

「彼が来るのか・・・あの地獄の生還者が」

 

 

前に行った。仮想訓練で行ったシチュエーションがラクーン事件であり、その事件でラクーン市警のロイや当時U.B.C.Sの分隊長のアンドリュー。

 

彼らは仮想世界で出会った人だが、生きているかの様で・・・とても噓の物だとは思いたくない。似たような経験を【リアル】で何度も経験した

彼に対しては特別な感情・・・・仲間意識のような親しみを感じていた。

 

 

 

「ジン先生。早くしてください」

 

「あぁ、すいません。それでは行きましょうか」

 

 

 

なんにせよ。今はその様な感情を捨てて任務に没頭する必要がある。リッキーと順調に目的地に向かっていると遠くから銃声が聞こえてきた。

どうやら、クリス達は近いらしい。

 

 

「!?あの銃声は。助けに行かないと!!」

 

「いや、リッキー君。この状況で助けにいけば私達は確実に感染者の仲間入りですよ。先に目的地に向かって自分の身の安全を優先してください。」

 

「?!・・・・ああ、確かにそうだな。行こうぜ」

 

 

彼は若者特有の無鉄砲さがあるが状況を理解する能力が秀でているようだ。少し前に渡されたプロフィールではその様な事は記載されていないが

多分、この地獄に身を置く事で急速に成長したのだろう。

 

 

 

 

 

暫く感染者達を相手に戦っていると徐々に数が増えている事に気付いた。どうやら、周囲の生存者がいなくなった事で、徐々に私たちのいる場所に集まってきているらしい。

一発ずつ確実に感染者の頭を打ちぬいているがマガジンの残り弾数が少なくなってきている。

 

 

カチ

 

 

「?!・・・リッキー君。弾が切れたのでカバーおねがいします。」

 

「任せろ!!・・・・あれ?ヤベ!!俺も弾切れだ!!」

 

 

「何という事だ・・・」

 

すかさずサブウェポンとして装備していたMP-443を感染者に向けて発泡しようとしたが・・・・

カチ・・・・カチ・・・

 

「こんな時に故障だと?!」

 

つい乱暴な言葉が出てしまったがそれほど今の状況はひっ迫しており、この任務の失敗を覚悟した。

 

 

パパパパパパ!!1

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

パンッ!パンッ!パンッ!

 

三つの銃声が聞こえると同時に周囲の感染者達は倒れていった。

 

 

「生存者2名確保」

 

「危なかったですね。もう安全ですよ」

 

「周辺の感染者はいないわ」

 

 

「あっ・・・・あんたたちは」

 

周囲の感染者を射殺して流れるようにクリアリングを行った謎の集団にリッキーが問いかけると

体格の良い男が答えた。

 

 

「BSAA北米支部のクリス・レッドフィールドだ」

 

 

「BS・・・・AA!」

 

 

「助けていただきありがとうございます。私はマルハワ学園の教師のジン・タムラです」

 

 

「おっ俺はリッキー・・・リッキー・トザワだ」

 

 

「教師にしてはなかなか物騒な格好をしていますね・・・何者なんですか?」

 

 

私とリッキーが自己紹介を行うと、狙撃銃を持っている若い男性が訝しげに聞いてきた。

 

当たり前だ。全寮制の学校で傭兵の様な格好をしている男性がいる事は今、バイオハザードが発生している事と同レベルで異常な事なのだから。

 

 

「これは私の趣味が高じて揃えていたコレクションなんですよ。マザーグラシアからの許可は取っています」

 

 

もっとも、マザーグラシアは既に死亡しているので確認するすべはないので、いいように使わせてもらった。

 

 

「・・・・あなたの事はいまいち信用できないですが・・・この緊急事態です今は追及しませんよ」

 

 

どうやらBSAAのメンバー全員が私の事を疑っているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

夜明けは近い

 

 

 

 

 




遅くなり申し訳ありません。
不定期ですが、何とかこの物語でやりたい事まで持っていくことができそうです。
・・・・大変でした。

アリス・ベネット

【挿絵表示】



使用絵

https://picrew.me/share?cd=aIixuQD64S #Picrew #NB_MAKER_10


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ACT17

今までの奴らとは違う様だ。

当たり前です。私は彼らと違って、現場主義なので

ふん・・・まぁいい。


数時間前

 

アドミン第13ミーティングルーム

ヨハン・ミン

 

 

孤独だった。

親に捨てられてからこっち、生きるために様々な悪事に手を染めてきた。

一日分の食料と引き換えに誰かを殺す事なんてざらな生活を送った。

地獄だった。

 

そんな地獄のような環境に身を置いていたある日、俺の住んでいた国・・キラット国で反乱がおきた。

子供ながらクソみたいな人生を何度も呪った。が、それだけでは何も解決しない。

いつしか反乱は終わり、独裁者がその地域についた。それに反発する人たちが立ち上がってレジスタンスになったが、俺には関係の無い事だ。生きるために誰かを殺して自分の糧にする生活をその後数年間にわたって続けている所を「組織」にスカウトされた。

 

上手い飯を食えるらしい。

十分な金を貰えるらしい。

その他のサポートもしてくれるらしい。

 

至れり尽くせりな対応に俺は飛びついた。それから今に至るまで様々な任務に就き、俺自身の実力を組織の為に行使してきた。そんなある日のこと・・・・

 

 

 

「・・・俺に新人教育をしろだぁ?」

「はい、現在本部にいるエージェントはあなたしかいないんですよ。」

 

 

「そうはいってもなぁ、もし仮にその新人が死んじまっても責任なんか取れないぞ?」

 

 

 

この組織に入ってから何十人ものエージェントが死んでいく様を見てきた。死んでいったほとんどのがエージェントになってから日が浅い奴か、経験値の足りない奴だ。極少数に含まれる経験豊富なエージェントの死因は全部同じだ。

 

【新人をかばって死亡】

 

 

 

崇高な理念をもってこの組織に入ったわけではない俺からしたら全く下らねぇ事このうえない。不自由せずに飯を食う事が出来る。ただそれだけでいいじゃねぇか

 

 

「・・・・ヨハンさん。貴方の実力はSランクに相当しますが、Aランクどまりです。何故だかわかりますか?」

 

「なんだよ・・・言ってみろ」

 

「過去の任務経験から複数のエージェントでの作戦遂行能力が低いことは重々承知しています。しかし、個人での実力はSランク相当。組織としては難易度の高い任務に就かせる為、頑張ってほしいのですよ」

 

 

 

アドミンではエージェント毎に割り振られたランクによって割り当てられる任務の難易度が違ってくる。

それぞれのランクは「一般警官レベル」、「警察特殊部隊レベル」、「軍特殊部隊レベル」、「対レベル」をC、B、A、Sで区分されている。

 

俺の現在のランクはA・・・つまり「軍特殊部隊レベル」だ。

 

世界規模の秘密組織とは言え、エージェントの数は案件に反比例して少ない。危険が伴う任務上沢山のベテランや新人が多く死んでゆく。

ランク制度でエージェントを評価しているという事は、必然的に低ランク程人員が多く、高ランク程人員が少ないという事態になり、高ランクのエージェントに対する負担が大きくなる。そんな事情があるからSランク相当の実力がある俺を昇格させて、高難易度の案件に派遣したいのだろう。

 

 

 

「・・・昇格したら支払われる賃金も高くなりますよ」

「分かったこの話、受けようじゃないか」

 

 

金が増えたらおいしい飯をもっと食べる事が出来る。悪くない

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

マルハワ学園

立花光雄

 

 

 

 

 

周囲を捜索している彼らの動きに迷いはない。

 

この学園で生存者の救出任務を行っている彼らから聞いたところによると、亡くなったダグラス教授

に会うためにこの学園まで出向いたそうだ。

 

オリジナルイレブンの一人、クリス・レッドフィールド・・・・彼の人生はろくなものではないと断言出来る。アドミンで見た報告書に綴られていた彼の来歴は第三者から見て不幸と呼べる物だ。そんな彼はどう思い、行動し、生きているのか・・・今なら聞く事ができる。がしかし、私が知り得た情報は世間一般で知られている物ではない為、彼を刺激してしまうだろうと言う思いが込み上げる。

 

 

「クリスさんでしたっけ?なぜ私は・・・」

 

「おい、今は非常事態なんだ。口を慎め!」

「よせピアーズ。こんな事態だ、少しの軽口ぐらい、いいじゃないか」

 

クリスに一括されて黙ったピアーズを尻目に、クリスに対して質問した。

 

 

「あなたの動きはほかの隊員と違って洗礼されているように見えます・・・何者なんですか?」

 

「俺は現場で10年以上も戦ってるから当然だ。それよりもお前の身のこなし・・一介の教師ができるものじゃない。どこで射撃を鍛えたんだ?」

 

「それについては追々・・・人には話したくない事の一つや二つあるんですよ。」

 

「・・・やっぱり怪しいな。ここから脱出する時にどさくさに紛れて逃げないでくださいね?」

 

「あなた達、作戦行動中よ。私語は謹んで」

 

「美人なおねぇさんにそう言われちゃ黙る以外ないね。ピアーズさん。ジンセンセ」

 

 

異常事態にもかかわらず多少大きな声で喋っていた私たちに対して、BSAAメンバーのメラが注意した事でリッキーの茶化しを最後に移動音のみが響く空間に様変わりした。

 

『おい光雄。返事はしなくていいから、そのまま聞いてくれ。なんかヤバそうな化け物がお前たちの方向に向かっていったぞ。注意しろ』

 

 

耳元のインカムからヨハンの警告が聞こえてきた。注意しなければ・・・ヤバそうな化け物とは何のことだ?

 

「お前たち、なにか変だ。交戦準備!」

 

「「?!」」

 

前方をクリアリングしていたクリスから切羽詰まった声が聞こえた瞬間、BSAAとリッキー、私は前方に向けて銃口を向けた。

 

カツ、カツ、カツ、カツ、

 

靴・・・学生靴の音が前方から聞こえてくる。しかし、暗闇で何も見えない。

 

カツ、カツ、カツ、カツ、

 

薄っすらと学生服が見えた。どうやら女学生のようだ。足取りがしっかりとしており、感染者には見えない。

 

「そこのお前、感染者ではないのであれば、氏名を名乗れ」

 

クリスが周囲に響かないように、しかし、声をかけられた者にははっきりと聞き取れる音量で誰何した。

 

カツ、カツ、カツ、カツ、

 

暗闇から現れた顔は私の見知っているものだった。

 

「君は・・・ビンディー君?」

 

「ビンディーちゃん・・・」

 

「知っているのか?ジン、リッキー」

 

「はい、彼女はこの学園の生徒会長です・・・・君が生きていてよかった。さぁ、一緒に脱出しよう」

 

私はクリスより前に出て彼女に駆け寄った。

 

カツ、カツ、カツ、カツ、

 

彼女の全貌を確認した瞬間、全身に鳥肌が立ち、銃を構えて何発か発砲した。直後、彼女が繰り出した。攻撃が私の体を貫通、後ろにいた彼らからすると理解できなかったかもしれない。なんせ、

私の背中から彼女の腕が貫通していたのだから・・・

 

 

「隊長!攻撃許可を!!」

「だめだ!!ジンに当たってしまうだろ!!」

「嘘だろ・・・ジン先生!」

 

貫通した腕が体から引き抜かれると同時に、私はその場に倒れこんでしまった。




明けましておめでとうございます。
新年のおみくじで凶を引いてテンションが落ちた今日この頃、長く更新していなかった作品をやっと更新する事が出来ました。

エフェクターの使い所が思いつかないので、そのまま多重クロスオーバーだけする作品になってしまいそうな気が・・・


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ACT18

 

意識が朦朧とする。

 

私は・・・死ぬのか?。こんなところで・・・・

 

「ジン先生!」

「おいジン!気をしっかり持て!」

「すいません・・・・あの攻撃は想定外でした。もうダメかもしれません・・・」

「おいあんた何言ってるんだ!俺たちBSAAはこれ以上の犠牲者を出したくないんだ!」

 

ああ・・・もうだめなのか?

 

【現在エフェクターが存在する世界Aから別の世界Bに移動した場合、次の世界でエフェクターが指定した時間に意識を出現できます】

 

ふと、数日前に受けた講習内容が脳裏によぎった。

 

(エフェクターを使用しよう。今しかないはずだ)

 

「カヒュ・・・・・はぁ、はぁ、エフェクター・・・・起動!」

 

 

 

----------------------

 

「お前たち、なにか変だ。交戦準備!」

 

「っは!」

「ジン先生!どうしたんすか?」

 

「い・・・いや、何でもないですよ。一瞬だけ過呼吸気味になってしまったようで・・・」

「お前たち、前方に集中しろ!!」

 

私はエフェクターを使用した。自身の死を回避する為の行為の結果が瀕死の重傷を負う数十秒前の移動とは・・・

 

「そこのお前、感染者ではないのであれば、氏名を名乗れ」

 

「クリスさん!ピアーズさん!あの人は感染者です!B.O.Wです!」

 

「ジン・・いったいどうしたんだ?」

「冗談を・・・言っているようには見えないな」

 

彼等は私の唐突な警告に面食らっているようだ。あんなことを言われたら私だって面食らってしまうだろう。

 

私は銃のセレクターをフルオートに変更すると、彼女・・・いや、化け物に向かってありったけの銃弾を発射した。

 

「ジン先生!何やってるんすか?!」

「リッキー君!君もあの化け物に発砲するんだ!!」

「あぁ。なんかわからねぇっすけどやりますよ?!」

 

パンパンパン!

ドドドドドドド!

 

「おい!あんたらいい加減にしろ!」

「よせピアーズ!あの人影は銃撃を受けているのに倒れる気配がない・・・ジンの言っていた通りB.O.Wだろう・・総員、撃て!」

「・・・あぁもう。しらないですよ?!」

「私はクリス隊長を信じるわ!」

 

全員の銃口からマズルフラッシュとともに銃弾が発射され、そのほとんどがビンディーに命中した。

 

銃撃は20秒ぐらいを行っただろうか、彼女に対して2マガジン分の弾丸を発射した私はリロードを行う為に射撃を中止した。

 

同じタイミングで、全員の弾倉が空になったようで、全ての銃撃が止み、先ほどとは違った静寂があたりを支配していた。

 

「やったのか?」

「いや、相手はまだ立っているぞ。新種のB.O.Wだとしたらその程度では死なないだろう。全員、警戒しろ」

 

「フフフ・・無力な生徒に銃撃なんて、酷いじゃないですか。ジン先生、リッキー君」

「この声は・・・ビンディーちゃん?!」

「リッキー、知っているのか?」

「あぁ、この学園の生徒会長だよ・・・・まさか、冗談だよな?」

 

「冗談?・・・いいえ?私はそんな冗談は好きではないのよ。見せてあげる、今の私を」

 

そういうとビンディーはカツ、カツ、カツ、カツ、とエフェクターを使用する前と同じ調子で近づいてきた。

 

「そんな・・・あれだけの銃弾を撃ち込んだはずなのになぜ・・・?」

「ジン。それがB.O.Wだ。俺たち人間の常識を超えた進化を続ける醜悪な兵器だ。」

 

徐々に徐々に近づいていく彼女は月明かりが差し込んでいる位置で立ち止まると、その醜悪な見た目をその場の全員に晒した。

 

「そんな・・・嘘だといってくれよ。ビンディーちゃん!!」

「新しいサンプルデータを収集する必要がありそうね?」

「隊長・・・あれは」

「あぁ・・・あれは紛れもないB.O.Wだ」

 

リッキーやBSAAのメンツは各々感想を言い合った彼女の姿は、度重なる銃撃によって欠如した部位を再生させながら変異を行っている最中の化け物になり果てていた。

 

「ビンディーちゃん、どうしてこうなったんだ? 何が起きたんだ?」

 

リッキーは動揺しながら問いかけた。ビンディーは奇妙な笑みを浮かべながら答えた。

 

「まさか私がこうなるとは思わなかったでしょう? この能力、この力はこの狂った学園を破壊する為に手に入れたのよ」

 

「ビンディーちゃん、もう止めるんだ。俺たち友達だろう?」

 

リッキーのセリフに何か思う事があったのか、先ほどまでの笑みを消し去り、憎々しげに言言い放った。

 

「この学園は・・・人の死すらも隠ぺいするような腐り切った政治が横行しているわ。この事実を、どの様な手を使っても全世界に公表しなければいけないのよ」

 

「ビンディーと言ったな。どんな理由があろうと俺らBSAAは、お前の殺戮を止める責務がある」

 

クリスを含めたBSAAの隊員は一斉に銃を構え彼女に照準を合わせた。

 

「それならば試してみますか?私の力を。」

 

そういうと彼女の体から複数の触手が伸びていき、BSAAの隊員に向かって刺突攻撃を行った。しかし、彼等は対バイオハザードに特化した部隊。そうやすやすとやられるわけがなく、攻撃をかわし切ると各々が反撃を行った。

 

「・・・あなた達を倒すのは最後にしましょうか・・まずはリッキー君とジン先生から!」

 

そういうと全ての触手をジンとリッキーのいる場所に向かわせて攻撃を仕掛けてきた。

 

リッキーは危なげならもその攻撃全てを交わし切っている中、横目でジンは無事なのか確認する事にした。

 

「なんだ・・・あの動きは!?」

 

ジンは最小限の動作で触手の一本一本を交わすとカウンターとばかりに射撃を行い、刺突攻撃で伸びきった触手を装備していたサバイバルナイフで切り落としたりと、まるで【未来が見えているかのような動き】で敵にダメージを与えていた。

 

「おいおい・・・あの教師、本当にただの非戦闘員なのか?」

「可能性として何かしらのウィルスを投与されているのかしら?」

 

「・・すべてが終わったら事情聴取を行う必要があるな」

 

そんな面々に気づいていない彼の動きにはカラクリが存在した。

 

攻撃が当たる直前にエフェクターを機動、数秒前に戻りその攻撃に対応するといった芸当を行っていたのだ。一度使ったエフェクターの機能。

使う際のハードルが取っ払われた事による芸当なのだ。

 

(エフェクターを使用しているが・・・これで大丈夫なのか?いや、今はそんな事を考えるのではなく、生き残る事に集中しないと!)

 

「ッチ!・・・先生。あなたは本当に人間ですか?人外の力を発揮している私と互角以上にやりあうなんて・・」

 

「ビンディー君。私は確かに一介の教師に過ぎないよ。ただ、教師の時間外は個人の時間さ。ミリタリー訓練を行った経験がここで活きてきたわけだよ」

 

「・・そんなことを言っていますけど。隊長はどう思います?」

「・・天賦の才なのか、それとも嘘なのか・・・ハッキリはしないが、俺たちに出来る事は攻撃を続けることだ」

 

そう言って引き続き射撃を行っていくと、ビンディーに変化が訪れた。

 

「今は見逃しましょう!私はあなた達を全員あの世に送り届けてあげる。だからそれまで待っていなさい!」

 

そう言い捨てると窓ガラスを割り、外に飛び出すと彼女は闇夜に姿を消し去った。

 

「・・あぁぁぁ~。何とか生き残った・・」

「そうみたいですね・・死ぬかと思いましたよ。」

そう言うとジンとリッキーは精が抜け落ちたかのように呆然と立ち尽くした。

 

それを見ていたBSAAのメンバーたちは、ビンディーの突然の変化と逃亡に戸惑いながらも、一時的な休息を取りつつ今後の作戦を打ち合わせした。

 

「ビンディーがどこに行ったのか、完全に見失ったな。とにかく、彼女の行動は予測不可能だ。警戒を怠るわけにはいかない。」

 

クリスが一呼吸おいて言った。

 

「確かにそうですね。ただ、今はどこにいるか分からない彼女より・・」

「あぁ。わかっているさ。今は協力する姿勢で良いだろう。気を見て拘束するぞ」




短いですが、何とか投稿する事が出来ました・・・半年関更新していなかったので色々わすれている部分もあるので、指摘事項があったら気軽に連絡お願いします!


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