善セフィロスを目指したら三兄弟と戦う羽目になった (ハイキューw)
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0話 はた迷惑な3兄弟

 

 

 

 

 

 

 

【ライフストリーム】

 

 

それは、星を巡る命の流れ。――星と星に生きる全ての命の源。

星に生きる者たちの命が尽きたその時、再びライフストリームに、星へと戻り 新たな生命としてまた生まれ続ける。

 

神羅カンパニーは そんなライフストリームを資源として使う方法を見つけ、その技術を応用し 世界は一気に発展の一路を辿った。……それは即ち人々の生活も変わっていった。恩恵を得る事が出来る者たちは等しく皆豊になっていった。

 

だが、それは星の命を削る事。そう考える人間も大勢いた。その中核を成す組織の名は反神羅組織 アバランチ。

神羅はそのアバランチを、自分達に反対する勢力を、力で押さえつけようとし続けた。

 

そう――神羅には戦闘に特化した部隊が存在していた。

その名を【ソルジャー】。

ソルジャーとは遥か昔に、宇宙から降ってきてこの星を滅ぼそうとした厄災【ジェノバ】の遺伝子を埋め込まれた者たちである。

 

 

その中に【セフィロス】と言う特別なソルジャーがいた―――――。

 

 

 

 

 

そして、そのセフィロスには他の誰にも知らないある秘密があった。

 

 

その秘密とは セフィロスは、彼であっても、彼ではない。

誰が聞いた所で理解できる者など1人も居ないだろう。そう、本人1人を除いて。

 

 

誰も知らず、誰も判らないままでセフィロスは行動を続けていた。

 

 

 

何故なら―――彼には守りたい者たちがいるから。誰一人として悲しい思いをさせず、ライフストリームに戻さない為に、彼は本来辿る筈の世界の結末を変える為に戦う。

 

全てはその為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空が青い。

 

大地に大の字で倒れたまま、空をじっと見つづけてみると本当にそれがよく判る。

何処までも透き通った空。この空の灯りが消えると、そこには光り輝く満天の空が広がるのだろう、と容易に想像がつく。こんなに空を見上げ続けた事なんて今までにあっただろうか。……ここ、ニブルヘイムの村の空を。

 

 

「――――何ぶつぶつ独り言いってんの……?」

 

 

そして、倒れているのは1人だけじゃない。直ぐ隣に男がもう1人いた。……そして、離れた場所にも無数の兵士たちが倒れ伏していた。

 

「……いや、ただ疲れただけだって。連戦に次ぐ連戦……そして最後のコレ。流石に100人斬りは、な。達成賞品でも貰いたい気分だ」

「はは………っ、そりゃそうか。英雄セフィロスでも疲れる事あるんだな。良い事聞いた」

「……張り合ってくるかと思ったが、早々にペースが落ちたよな? ザックス。もっと腕を磨かなきゃじゃないのか?」

「無茶言うなよ。……やっぱ、アンタには敵わないさ」

 

彼らは所々血が流れ、怪我をしているのが判る。

 

 

そう―――彼らは戦ったのだ。

 

 

攻め入る神羅カンパニーの兵士たちと複数のソルジャーたちと。

そして たった2人で大軍隊相手に勝つことが出来た。

 

―――このニブルヘイムと言う村を守り通す事が出来た。

 

 

 

「はぁ……、まさか神羅相手にこんな戦うなんて入ったばっかの時は思いもしなかったなぁ……。 英雄に憧れて神羅に入ったってのに。世の中どうなるか判らないもんだ」

「英雄なんてそんなもん虚構だってよくわかっただろ? 実際にオレがそうだ。オレは、お前らに言った通り。ただ目的(・・)があって神羅に入っただけ。……そして、目的は達成できつつある。今は満足だ」

「………英雄は虚構、って言うより、常にクール、カッコつけながらスマートに戦果を挙げてくセフィロスがこんな熱い男だったって事に驚いてるよ。まっ、オレはそっちの方がイイぜ。断然」

「そうか? …………ふふ」

 

 

血と汗をぐいっ、と拭った後に セフィロスは半身を起こした。今 動く影は一切見えない。

でも、自分自身の怪我の程度も簡単なモノじゃない。一般兵なら兎も角 ここに集ってきたのは、兵士は兵士でも かなりの戦闘訓練を積み上げた猛者たちばかりだった。その誰もが3rdクラスのソルジャーになら全く引けを取らない程。こんな連中が居た事なんて知らなかった。お偉いさん方のお抱え兵士、隠してた部隊と言った所だろうか。

 

でも、自分達の討伐が任務だとするのなら仕方ない。

 

何故なら――攻め入ったここには、1stソルジャー……最上級クラスのソルジャーが揃っているからだ。此処で大の字でぶっ倒れている2人もそう。そして、離れた場所にいる2人も同じく。現存する最高戦力が一斉蜂起ともなれば 相応の戦線を組まなければならないのだろう。

 

 

「……だがまぁ、ザックスがそう思ってしまうのも無理ないか。最初の頃は演じていたからな。セフィロスを。この時まで」

「……は? そりゃどういう―――っ」

 

 

ザックスが疑問符を浮かべてた時だ。

 

 

突如、大地が大きく大きく震えた。

 

巨大地震? 否、これは違う。規模が全く違うもの。村の様々な所が崩れ、壊されていく。一極集中型の大地震。こんなのを起こせるのは1つしか知らない。

 

 

「召喚マテリア【タイタン】。大地の怒りか!」

 

 

セフィロスは即座に跳躍。

ザックスも遅れたが大地が裂けていくその割れ目に飲み込まれる事はなかった。

攻撃を理解し、跳躍したほぼ同時に、避難している住民たちの建物が崩落していくのが目に入った。

この異常事態に気付き、入り口まで駆けつけてきた男と女の姿も同時に目に入る。

 

 

「ティファ! クラウド!! そのまま中に入ってろ!! 出てくるな!!!」

「だが! セフィロス!」

「最初に言っただろ! お前は村の人たちを守れと。早く入れ! 魔法が撃てん」

 

 

腕に集中し、魔法を放とうとしているのが目に入ったクラウドとティファ。ティファは、クラウドの腕を取って直に建物の中へと連れ戻した。

 

「クラウド! こっち!!」

「ティファ!?」

「ナイス判断だ。そのまま走れ! クエイガ! クエイガ! クエイガ!!!」

 

だいちマテリア 最上位魔法 クエイガ。

 

生成した大地の槍が敵を穿ち殲滅する魔法だ。今回に限っては敵を攻撃するのではなく建物に放った。クエイガの大地の槍は建物を支える柱の代わりを務め、完全崩落を防いだ。緊急的な対応なので安全とは言い難いが、そのまま崩落し、全滅してしまうよりははるかにましだろう。

何とか崩落を食い止め、地震も収まったので この元凶を探し出そうと力を入れ直したその時だ。

 

「セフィロス! 倒れてた兵士たちが立ってきやがったぞ!」

「はぁっ!? なんだそりゃ!?」

 

 

驚いた事に、倒れてた無数の兵士たちが立ち上がったのだ。

命は大丈夫だったかもしれないが、それでも立ち上がれるような生易しい怪我ではない筈。四肢の骨と言う骨が砕けたモノも居る。腕を斬り飛ばした者もいる。

だが、兵士たちはまるでゾンビの様にフラフラと立ち上がってきたのだ。

ザックスが剣を再び構え、臨戦態勢に入ってるのが判る。あの男も連戦に次ぐ連戦で身体はボロボロの筈だ。魔法でいくらかは癒しはしたものの焼け石に水の満身創痍。

原因、そして対応策を練ろうと集中したその時。

 

 

「―――簡単な事だよ。兄さん」

 

 

1人の陰が宙に浮いた。

セフィロスと同じ視線の高さにまで跳躍してきた。

 

 

「僕のこのマテリアを使えば……兵士たちは幾らでも頑張れる。……まぁ、頑張り過ぎて死んじゃうんだけどね」

「……カダージュ。てめぇ、まだ居やがったのか。ちょっと前に星の底の底にまで突き落としたってのに。しつこいぞ」

「そう、酷いよね。僕たちは兄弟なのに。……家族よりもそっちの奴らを取るなんて。まぁ、落とされたおかげでこんな力を持つ事が出来たけどね」

 

薄ら笑みを浮かべるカダージュ。

その手に握られていたのは 黄金に光る球―――マテリア。

 

「【あやつる】のマテリア」

「そうだよ。それに母さんの力。星の中でも母さんは頑張ってるんだ。すごいんだ。凄く強くなった。ほら、証拠にあんな奴らでも凄い戦力になる。神羅も役に立つって事だね」

 

両手を広げて、空を仰ぐカダージュ。それと同時に1人、もう1人と姿を現した。

 

「ヤズー…… ロッズ……」

「さぁ、兄さん。母さんのトコに行こう。いつまでも遊んでないでさ」

「それとも、オレ達とまた……遊ぶ? いや 遊ぼう。兄さん」

 

完全に囲まれた形になった。

セフィロスを兄さん、と呼ぶ3人は 数日前突如この村に現れた襲撃者だ。

 

セフィロスは彼らの事を知っている―――が、ここに居る事はあり得ない(・・・・・)と驚愕していた。セフィロスが知る彼らは、実体のない存在―――思念体、と呼ばれる身体だったから。その思念の根源が……セフィロス。つまり、彼らは自分が生み出さなければ居ない筈、と思っていた。

それでも、現れた事実は変えられない。襲ってくる事態は変わらない。

 

 

「はた迷惑な3兄弟が……」

「今対面してるのは4人兄弟だよ。兄さん」

「オレに んな暴れる兄弟はいねぇよ。つか、いらねぇ。何べんも言わすな」

「酷いな、兄さん。―――もっともっと楽しまなきゃ 笑ってくれないのかな? ふはっぁっ!」

 

満面の笑みで銃をぶっ放してくるヤズー。

それを大太刀 正宗で切り落とすセフィロス。

その隙に高速移動で背後に瞬時に回り、パイルバンカーで攻撃してくるのがロッズ。

身体を捻りながら空中ジャンプで躱し突き出された腕をつかんでヤズーに投げ飛ばした。その頭上から今度はカダージュが双刃を突き立ててくる。

三位一体の攻撃。一撃一撃の破壊力は言うまでも無く強力無比。その上に複数ともなれば厄介を通り越している。あの100人斬りと何ら遜色はない程だ。

 

「兄さん。帰ってきてよ。母さんも呼んでる。……一緒に星に復讐をしよう」

「遠慮する。それにいい加減 親離れしろ! このマザコンどもが!!」

「母さんを愛して何が悪いの? 親は子を愛し、子は親を愛するものだよ」

 

 

続けざまに連撃を放ってくる。セフィロスは応戦し、捌き続ける。先ほどの連戦が無ければ、とも思うが泣き言を言ってられない。……眼下ではザックスが奮闘し続けてくれる。此処で崩れたら、背後に居る者たちにまで及ぶ。

 

 

「そうだ。……兄さんの大切にしてる奴らを奪えば、僕たちの母さんのトコに戻ってきてくれるのかな?」

「あ?」

 

カダージュの挑発の最中、脳裏に過ったのは下で戦ってるザックス。そして 背後にも居る仲間……親友たち。

 

「ああ。あそこにも僕たちの兄たちがいるよね? えっと……アンジール、それにジェネシスかな。母さんの力が怖くて逃げたって聞いてたけど、兄さんが隠してたんだ? 皆にも来てもらおうか。……劣化が続いてるみたいだけど、母さんならきっと直してくれるよ」

「ちょっと口を塞げ、クソガキが」

 

大太刀の正宗を思いっきり横に振るう一撃。星を割るとも称された飛来する斬撃を放つセフィロス。カダージュも流石にその一撃は簡単に受けきれる物じゃない、と判断。ヤズーとロッズの助けを借りつつ、回避する事に成功した。

 

 

アンジールにジェネシス。

彼らはセフィロスの親友だ。……彼らは神羅のせいで苦しんでいる。身体が劣化……老化し、最後には化け物になってしまう。

それを止める為に、セフィロスは行動をした。そして、漸く実を結んだ。また3人で語り合う為に。そんな日を待ち望んでいた。

だが、目の前の奴等はそれを奪おうとしているのだ。

―――セフィロスの目が強く強く輝く。

 

「空っぽの人形風情のてめえらが、オレから何かを奪えると思うなよ!」

 

セフィロスは、背中から片翼の翼がはえた。それは セフィロスの本気。本当の本気で戦う時の形態である。

 

 

「……なんでかなぁ。母さんの力をそこまで使ってる癖に。何でこの星の奴等に肩入れするんだい? 兄さん」

「あの気色悪いジェノバの姿見て 母さん母さんって愛せる精神力がオレには備わってないからだろうよ」

「っ!! 母さんをそんな風にいうな!」

「幾ら兄さんでも母さんを悪く言うのは許さねぇぞ!」

 

「お前らに許されようとも思ってねぇし、お前らを許すとも思ってねぇよ」

 

 

セフィロスは、次に思いっきり眼下に剣を振るった。

丁度ザックスが戦っている所。……ザックスと無数の骸兵士たちの境目に深い深い切れ込みを入れたのだ。

 

 

「あぶねっ! セフィロス!? 何すんだ!?」

 

抗議するザックスは無視し、急降下した。

 

「ザックス。プランSだ。……判ってるな?」

「プランSって……、おいコラ ふざけんな馬鹿!!! オレはまだまだ戦える!! それ最終手段だって言ってただろうが! お前ひとり置いて撤退なんて絶対しないぞ!」

 

ザックス、再び抗議。

その熱は先ほどの比ではない。本気で怒っていた。……プランSのSはセフィロスのS。

しんがりにセフィロスが立ち、ザックス、動ける者たちで村人達を撤退させるプランだ。

 

ザックスの抗議の間もセフィロスは正宗を振るい続け、真空の刃で敵をけん制している。

 

 

「馬鹿はどっちだ。お前動けなくなるまで戦うつもりだろ。そんな事したらアイツら助けられないだろうが。さっきまでは十分オレ達で対処できるって思ってたが、あのクソガキどもに加えてこのゾンビ兵士を相手にし続けるのは無理だ」

「なら全部をお前1人でなら何とかなる、ってのか!? 自殺する気なら絶対止めるぞ!」

「勝算はある、が 巻き込んじまうかもしれない。だから、とっととプランSしろってんだ。先輩の言う事聞け!」

「聞けねぇ!」

 

剣を振るっても振るっても歩みを止めない兵士たち。……死しても尚 戦い続ける姿にはザックスも恐怖を覚える。でも、それでもセフィロスだけを置いて自分だけ逃げるなんて選択は取れそうに無かった。

 

 

「ザックス。夢を持て。どんな時もソルジャーとしての誇りを忘れるな。これはアンジールの言葉だ。お前も知ってるだろ? あいつらにもお前にも夢がある。 動けないアイツらを、オレの親友を助けてやってくれ。仲間を守る。それがソルジャーの誇りだろ」

「っ」

 

その一瞬 セフィロスは、止まったザックスの隙をついて胸倉を掴み上げて、思い切り放り投げた。

そこは丁度クラウドたちが居る場所へ。

 

どわっ!! と悲鳴を上げながら飛び込んでくるザックスに、巻き込まれる形でクラウドも衝突。ティファに連れられて中へと退避していたのだが、やはり我慢できなかった様だ。クラウドも男だと言う事。

 

 

「それに、会わなきゃならない相手が居るんだろ? ……皆で会いに行け。手紙の返事を答えてやれ。それに当初の予定通りだ。皆もそこで匿って貰え。……全部終わったら、オレもそこへ行く」

「うぐっ、せ、セフィロ――」

 

ザックスが身体を起こしたその時だ。

地面から再びあの大地の槍が出てきたのは。

 

クエイガ。

だいちのマテリアの最上位の魔法。習得するのは勿論、こんな連発して撃てるような魔法でもない。なのに、通常じゃ考えられない程、連続でセフィロスは唱え続けていた。

凄まじい音が響き渡る中、漸く止んだと思えば……、その建物は完全に岩山へと変化していた。

 

ザックスは駆け寄って、クエイガにより生み出された大地を思い切り叩く。

 

「っざけんな! ふざけんな!! オレは了解って言った覚えはねぇ!! 知ってんだ!お前が嘘つく時露骨に目ぇ逸らせるの! 会いにいく! それはお前も一緒だって、ずっと言ってきたじゃねぇか!! 一緒にいって、そこで仕事を、ソルジャー以外の仕事をやろうって……、なんでも屋でも始めようかって一緒に言ったじゃねぇか!!」

 

血が出ても、殴るのをやめない。

あまりにも分厚い大地の壁はビクともしなかった。恐らく、幾ら殴っても音さえ届いてないだろう。

 

 

「……ザックス。セフィロスは?」

「ぐぅ……、ぐっ……」

 

どん、どん、と殴り続けるザックスを見て、セフィロスの安否を聞くのはクラウド。

例え聞かなくても事情を把握するのはそう難しい事では無かった。……様々な状況を想定したプランについてはクラウドも兵士の1人として聞いていたから。

 

 

 

「終わったらオレに、剣を教えてくれるって……約束、したのに」

「っ……っっ……、セフィ……ロスさん……っ」

 

 

唖然とするクラウド。

涙を流すティファ。

壁を殴り続けるザックス。

 

指示された通りのプランならば、この建物にある地下への扉を開けて、そこの地下空洞を通って離脱する手筈になっている。

 

だが、暫く誰も動く事が出来なかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん。やっぱり凄いよ。マテリアの力の限界を超えてる。だいちのマテリアの力でそんな事出来るなんてあり得ない」

 

 

大きな岩山を見て今まで表情が変わらない、薄ら笑みしか浮かべてなかったカダージュ達の顔色も変わっていた。一個人が放てる様な魔法じゃない。新たな大地を1つ生成してしまったと思える程の規模だったから。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……。アイツらを巻き込んでくるって簡単に想像出来たからな。させねぇよ」

「なんで? なんでそこまでするの? この星の奴らが憎くないの? 自分の事を知って尚 なんでそんな風に居られるのか僕には理解できないよ。兄さん。それに、守ろうとしてるのも不思議だ。あっちの兄さんたちは今守ったとしても、もう直に崩壊するって母さんから聞いた。無意味じゃない?」

 

向けられた剣がおろされていた。純粋な疑問であると言う事は重々承知している。彼らにとっては 母さんが……ジェノバが全てなのだ。遥か昔に宇宙よりやって来た厄災のジェノバの意思が、カダージュ達を恐らく作った。ジェノバに染まらないセフィロスを引き込む為に。

 

 

「単純な事だろ。成人した子は親から離れる。……テメェの道はテメェで決める。大切なもんも全部自分で決める。親の思想を押し付けんなって事だ。それにアンジールやジェネシスが崩壊する? 母さんに聞いた? なら言っといてくれよ。そりゃ的外れだ」

「?」

 

 

セフィロスは懐から金色のマテリアを取り出した。

 

「アイツらを苦しめてる細胞は、もうこれ(・・)で止めた」

「………それは、じかんのマテリア? そんなもので母さんの力を? そんなの無理だ」

「それはどうかな。……まぁ、テメェらにアイツらが無事かどうかなんて確認させねぇけどな。……それに決めてんだよ」

 

 

セフィロスは大太刀を上段の構えで構えた。そして、剣に全ての意思を集中させる。

 

 

 

オレ(・・)がこの世界に、セフィロスとして(・・・・・・・・)生まれた瞬間から、大切なモンは決まってんだよ。それを守る為に戦い続ける」

「!」

 

カダージュはその瞬間、全てを察した。

 

 

【オレ、そして セフィロス】

 

 

その言い方の違和感。

自分の事なのにまるで他人の事を言っているかの様に聞こえる。そう、カダージュの耳に聞こえた瞬間にとある仮説が頭を過ったのだ。

 

目の前にいるセフィロス。それは身体と精神が別々の存在なのではないか? と。

 

母―――ジェノバの呪縛から逃れられてる事。出生の秘密をしった事。

どれも通常なら耐え難い筈だが、精神と身体が別なのなら話は変わってくる。セフィロスであってセフィロスじゃないのなら、幾ら呼び掛けても無駄だ。

 

 

そして、そのカダージュの違和感による硬直は同じくヤズーやロッズにも影響する。……それが彼らにとって致命的な隙となる。

 

 

 

「あんまり好んじゃいない力だが、今なら存分に振るえる。………似た様な力でもう一度 地の底へ落ちろ。オレも付き合ってやる」

 

 

 

長い刀身が漆黒に染まっていく。まるで黒雷を帯びたかの様に、セフィロスの闘気が放たれる。更に空が叫んだかの様に辺り一帯に雷が轟く。

 

 

セフィロスから放たれた渾身の一撃。それは絶対破壊の力。

 

 

 

【スーパーノヴァ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――某日 とある花咲く家にて。

 

 

 

2階の自室にて 1人の少女が目を覚ました。 

少女は目を覚ました後 ぐっ、と背伸びを1つした後に足早に階段を駆け下りていった。

 

「お母さぁんっ おはよーっ!」

「おはよう。エアリス。ん? 何だか今朝は随分機嫌が良い様だねえ」

「うんっ、とっても良い夢を見たんだ」

「へぇ。どんな夢だったんだい?」

 

花咲くような満面の笑顔で少女は答えた。

それは とても小さな願い。ただ――会いたいと言う願い。

 

 

 

「ずっと会いたいって思ってた人たちが、会いに来てくれる夢!」

 

 

 

そう母親に告げると足取り軽やかに家の外にまで走っていった。

そして――その先には。

 

 

 

【えぇ~ ほんとにその髪切るの? トレードマークじゃなかったっけ?】

【ここまで長いと手入れとか大変なんだぞ? シャンプーとかの消費凄いし。この際バッサリとな】

【そんな事より、オレに剣を教えてくれって】

 

 

 

夢が叶う。そんな瞬間が少女に訪れていたのだった。

 

 

 



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1話 スラムのセロス

沢山評価・感想・登録ありがとうございます。
頑張ってみます。


《ミッドガル七番街スラム セブンスヘブン》

 

 

 

スラム、と言う名を聞けば何を連想するだろうか。

 

極貧層が居住している極めて劣悪な環境?

安全・安心は皆無であり、暴力で支配し、されている場所?

荒廃した塵山に息をひそめる様に暮らしている人々?

 

色々と思い浮かべる事は数多くあるだろう。ただ――実際もそうか? と聞かれたなら、自分自身は首を縦には振らない。大きく横に振る。

確かに環境が良いか? と聞かれれば頷けないが、それでも此処は活気で溢れてると言っていい。毎日を一生懸命生きている、と言えば良いか。助け、助けられ、人間と言うのは決して悪いモノではないな、と思わせてくれる場所だ。

 

無論、反対側の人種もある程度は存在する。例えどんな所でも光と闇があるのは当たり前と言う訳だ。

 

 

 

 

そんな場所にあるセブンスヘブンと言う名のバーで一杯ひっかけてる男が1人いた。

その男1人であり、店主が居ないのに 勝手に一杯やってる様である。

 

「ふぅ……」

 

タンブラーに残された酒を全部飲み干すと、クキッと首をならしていた。

随分とお疲れの様な気がするのは気のせいだろうか。その背を見るだけで大分判る。哀愁漂ってる様に見えるから。

 

 

そんな閑散としてる店の扉が開かれた。

 

それと同時に掛け声と共に突進していくのは1人の女性。男は振り向かずただただのんびりと余韻に浸っている。

 

 

「やぁぁぁぁ!!」

 

構う事なく勢いのままに跳躍して、男に向かって拳を振り下ろす。

思いっきり背後を狙った奇襲攻撃である。

男は攻撃の瞬間まで全く微動だにしていなかったのだが、触れるか触れないかの刹那の瞬間に動いた。それは残像が見える程の速度。当たった、と錯覚してもおかしくない程だった。

 

いつの間にか、男は躱していて、その突き出されてた拳を受け止めていたのだ。

 

 

「んん~~~っ、もうちょっとだったかな? 後ほんのちょっと」

 

見事、背後から当てれなかったので悔しそうにそう言っていたが、表情は全くそんな気配はない。

何処となく楽しそうな感じだった。

 

その女性の名はティファ。

 

あのニブルヘイム事件もあって、このスラムに家族で引っ越してきたのである。

そして、その拳を見事ノールックで受け止めた男は……。

 

「いやさ、確かに あの爺さんにも頼まれてるし オレも了解していつでも相手してやるとは言った。それに オレに一発当てれたら次のステップな? とも言ったんだけどさぁ、流石に飲んでる時はゆっくりさせてよなティファ」

「えへへ。最初はドロボーか酔っ払いのどっちかが勝手に飲んでるのかな、って思ったから成敗! だったんだけど、ちょっと力入っちゃっててさ。セロスだ、って気付いたんだけど、勢いに任せてGO! って感じになっちゃったんだ」

「それはそれは。随分と楽しそうだな。元々 今日ここに来るって事前に連絡してたし。っつーか、水道のフィルター交換でいないと思うから勝手にやってて、って言ったのはティファだろうに」

「え? そーだったっけ??」

 

何だかお転婆に磨きがかかった様子のティファ。

前のティファ(・・・・・・)を知っている以前の彼からすれば違和感がかなりあるが、長らく同じ場所で暮らしもすれば、その違和感も霧散する。

 

「それでさ! セロス。前に貰った【かくとう】のマテリアなんだけど、十分に慣れたし、次に行っても良いと思うんだ! 【チャクラ】のマテリアとかどうかな!?」

「……まだ2日だろ? そうやって先々行こうとして ゲ〇吐きそうになってトイレに駆け込んだのは何処のどいつだったっけ? せめて定めた最低日数は慣らせてからってその度に約束させてんのにもう忘れたのか? 【マテリア初心者は原則1個ずつ】はい、復唱」

「えー! あ、あの時の私とは違うよ! 大丈夫だもんっ!」

 

 

【やれやれ、この巨乳娘は 栄養が全部胸に行って頭に回ってないんじゃないか?】 と思ってしまうのはセロスだ。

 

 

―――もう、言うまでも無い事だろうが、セロス、と言うのは セフィロスの超簡単な偽名である。

 

セフィロスと言う名は物凄く有名。神羅カンパニーの伝説的な英雄。

そんな男がこんな所に居たら ビックリを通り越して大騒動になってしまうのは言うまでも無い事だから、偽名を使っていて、更に腰程まであった長髪を肩付近までバッサリと切ってポニーテールで纏めている。

 

本当は もっと切りたかったのだが、スラムの女性陣達に最後まで反対されてしまったので、間をとってこのヘアースタイルに落ち着いた。……また伸びてきたら今度こそ、こそっ、と切っちゃおうと画策したりしている。出来るかどうかは疑問だが……。

 

 

何はともあれ、このスラム街に来て 日々楽しくを頑張っていた。

セブンスヘブンで日々頑張って働いていて その仕事の合間に鍛えてくれと頼まれたので、ティファの指導をたまに行ってる。当初は弟子を取るつもりは無かったのだが、よくよく考えてみると、クラウドにも剣を教える約束をして、それもティファと同時進行で行ってるので、もう弟子を取ってる様なものなのである。

 

 

「むぅ…… セロス、セクハラだよ それ……っ」

 

ティファの視線に気づいたのはその直ぐ後の事。胸をぎゅっ、と抱えている彼女を見て セロスは悟った。どうやら、考えていた事がちゃっかり口に出ちゃってたと言う事が。別に気にした様子は見せないが、ただただ苦笑いをしていた。

 

「そう言われたくなかったらしっかり頭働かせなさい、っての。どーせ後で後悔すんだから」

「ぶー」

「はいはい。ぶー垂れないで。ほら、これ今月言われてたやつ」

 

ひょいっ、と取り出した袋に入っていたのは生活必需品だったり、ポーション等の高価な消耗品。頼まれていたものだ。

 

因みにティファもたまに身体を鍛える一環として、街に出没するモンスターを狩ったりしているのだ。その報酬分だったり 剥ぎ取れる色んな素材だったりを売って得たモノから購入している。

 

「あっ、ありがとう」

「おう。それと ザックスとクラウドはどうだ? 帰ってきたか?」

「え? クラウドたち? まだみたいだよ。戻ってきてたら街も賑やかになると思うけど、そんな感じなかったし」

 

セロスは、ふんふん と頷きつつ、自然と笑ってしまっていた。あの2人がどこに何しに行ってるのか判ってるからだ。

 

「あの2人が花屋で色々やってる姿想像したら笑えるわなぁ、やっぱ」

「えぇ~ それ、セロスにも言える事だよね? だって スゴク可愛らしかったよ? お花に囲まれてたあの時さ」

「うっ…… 藪蛇だったか……。ま、まぁ それは兎も角 クラウド帰ってきたら、またいつもの場所に来いって伝えといて。オレの方の用事は全部終わってるし」

「んっ! りょーかい」

 

 

セロスは荷物を肩に担ぐとティファの頭を軽く撫でて、外へと出た。

 

ティファは撫でられた事が嬉しいのだろうか、頭に手を当てて笑っていたのだった。

 

 

 

 

 

ガラッ、と外に出るといつも通りの光景が目に入る。

 

人が行き交い、子供は走り回り、スラム全体に活気がある。

スラムはプレートの下にある街だから、空を見上げる事が出来ないのが少々さみしい所ではあるが、外へ出ればそれは解消されるので特に問題視はしてない。

 

セロスは、んっ と背伸びを1つした後に、セブンスヘブンの扉の直ぐ横に立て掛けてた刀を手に取って、腰に据えた。

 

こんな長い武器持って飲食するのはあまりにも不便なので店の外に置いてたりする。……因みに盗られるかな? と危惧していたのだが、この刀は 見た目に反してかなり重たい。マテリアの力を存分に吸収し尽しているからだろうか ザックスたちが扱ってる大型の剣 バスターソードよりも遥かに重たい。

 

なので、相応の実力持ちでもなければ 手に持った瞬間に挫折するだろ、と言われて納得した。それに加えてこの武器を使ってるのは、1人だけで、街の誰もが知ってるから、少なくとも住人でそんな男に盗みを働こうとするものは皆無だ、と言う訳もあったりした。

 

でも 流石に 武器を自分の傍から離すのはここセブンスヘブンか、自身が借りている部屋くらいだろうが。

 

「さて……と」

 

セロスは 店の前の階段を降り切った所で、ひょいっ、と身体を横にスライドさせた。

何故なら……

 

「つかまえたっっ! って ああっ」

 

物凄く上から気配を感じられたから。頭上危険な信号が頭の中で発生したから。非常に解りやすく。

 

「はぁ、いつもどこでもゲンキいっぱいなんだな。お前さんは」

 

頭に手を当てて、やれやれ と首を振るセロス。

見事、奇襲に失敗したのは女性。……因みに、この街の女性たちはセロスによく不意打ちを狙っているようなので 基本要注意、なのである。

 

「えぇ、そのお前さんは止めてよねー。もうっ、優しさや女の子に対する気遣いが足りんなぁ! イケメンが台無しだなぁ!」

「背後から襲ってくるヤツに 気遣いやら優しさやらが、必要なのか。ほうほう 成程。勉強になったわ。スラムの心得その30くらいか?」

「にっしっし。と言うより私の心得その1.不動のNo.1! 良い男を見つけたら迷わずGO! が信条なのよねん! なーんつって!」

「節操のないヤツ……」

 

 

セロスは改めて正面から彼女を見て苦笑いとため息を同時進行させた。

 

彼女の名はジェシー。明るき前向き正義の味方! ………らしい。

 

「らしいって何よぉ。ほんとよ? 私だって 星の為に戦ってるんだからねぇ!」

「OKOK。ナニに対して抗議してんのか判らんけど、今日はどうしたんだ? ジェシー」

「にひっ♪ やーっと名前で呼んでくれたね」

「わかったから キモチワルイ顔してないで さっさと要件言う」

「キモチワルイって ひどっ!」

 

グサッ、と何かに刺されたような見事なリアクション芸を見せてくれるジェシー。

今日はクラウドとの約束がある日でもあるので、当然 先客順なのである。

 

「へいへい。えっとね、前にセロスから渡されたマテリアの件なんだけどさ。その感想? みたいなのを伝えとこうと思ってね……」

「おう。オレの特別な新型だ。調子はどんなだ? 上手くいけてるか?」

「うぅ~ん……、正直初めて使った時 真っ青になった。セロスが来る前は 自力で侵入して内部から壊すか、外部を爆弾とかで景気よくドーンっ! ってぶっ壊すってばっかり思ってたのに、こんなのあったら反則じゃん」

「そりゃオレの特別な上に新型だし。ハンパなヤツ渡す訳ないじゃん。それに こうでもしねーとバレットのアホは強硬爆破! とかして汚ぇ花火あげそうだろ? 魔晄炉ぶっ壊すのは別に良いとして、後々の事考えてもっとスマートにヤれってなもんだ」

 

セロスはめんどくさそうに言うが、それでも目は真剣そのもの。

 

バレットと言うのは、この街に住む隻腕の大男で、恨み募る反神羅組織アバランチのリーダーだ。

星の為、と銘打っているがその根幹は家族を奪われてしまった事の復讐。と言う本当の理由もセロスは勿論 知っている。

神羅を憎む気持ちは判るし、曲がりなりにも自身が神羅側だったから思う所もある。――でも、だからと言って神羅の被害者(バレット自身)を増やすような行為は反対。―――そして この先(・・・)どうなるかを知っているからこそ、セロスはアプローチを変えている。アバランチとは違った方法で、それでいて自分の中では効果は抜群であろう方法で色々と暗躍していたりする。仕事の合間合間にちまちまと。まるで内職。

 

 

「んっん~ セロスなら正面突破でも余裕! って思うんだけどねー。前に外でモンスターと戦った時を見たらさ? あんなの見せられたら惚れちゃうよ? 惚れちゃっても当然よ?? なんちってなんちって♪」

 

頬に手を当てて身体をくねらせるジェシー。

確かにジェシーの言う通り 武力全開正面突破、幾らでもかかって来い! は有効手段のひとつだろう。セロス――セフィロスなら(・・・・・・・)それも造作ない筈だ。

知る世界では、神羅カンパニーを壊滅させた本人みたいなものだから。

 

だが、此処にいるのは非情になりきれない甘々なセロスなのでその選択は取らない。

 

「んー、正面衝突か。考えてなかったって言ったらウソになるけど、文字通り総力戦になっちまったら 街も何個か壊れる可能性が高いだろ? 自棄になったヤツが最後どんな行動取るかも判らねぇし」

「惚れた~の部分は華麗にスルーなんだね……。まっ そういうトコも良いけどさ♪」

 

ジェシーはマテリアを取り出して、差し出した。

 

「うん? どうしたんだ?」

「や。終わったし。返しに来たんだよ?」

「いや別に返さなくて良いぞ。ジェシーが持ってろよ、それ」

「………へ?」

 

ジェシーは目をまんまるにさせていた。

このマテリアは、セロスから【これを使え】と渡されたもの。確かに【後で返せよ】とか【貸してるだけだ】とかは聞いてないが、それでもこんな強力なマテリアをホイホイ寄越されるとは思いもしなかったのである。

 

「……マジ? このマテリアくれてたの?? マジで??」

「はぁ? 逆に作戦の度に渡すような面倒臭い事させるつもりだったのか? それ(・・)も他のマテリア同様に成長する。使っていかなきゃ宝の持ち腐れだ。つーか、仕組みははっきりわかってないが、使用する本人の素質とか技量に比例するみたいだから、機械いろいろ弄ってるジェシーが一番成長させれるんじゃないか」

 

セロスはそのままジェシーにマテリアを押し付ける。

 

「うわぁ……、大切にするね! セロスからのプレゼント、大事に大事に保管しとかないとっ! 綺麗にラッピングしてお花とか飾っちゃって! 一生ものの宝だねっ! うんうん」

「……だから ちゃんと使ってくれ」

「うわー、これ指輪とかにつけたら、アレじゃんっ!! 最早アレじゃんっっ!!! なんちてなんちてっ♪」

「………【どく】のマテリア付きの指輪か。ゾッとするなぁ」

 

マテリアを両手で上に持ち上げてクルクル踊るジェシー。

何でも女優目指してる、と言う表の顔? もあるらしいので、それなりにキレがある動きみたいだ。

 

因みに、ジェシーに渡してるマテリアはセロスが言う様に【どく】。

 

本来は、生物を毒で蝕む状態異常魔法のバイオ・バイオガが込められているマテリアなのだが、セロスの特製マテリアは少しばかり違う。

生物に効くだけではなく、なんと 機械にも効く毒なのだ。……即ち、現代風に言えばコンピューターウイルス。

なので、機械系担当のジェシーとの相性抜群、なのだが 当のジェシーは明後日の方へトリップしてる。

 

見てて別に飽きないが、そろそろ行こうか、と思ってたそんな時。

 

「あー、また始まってたっスか。ジェシー」

「そりゃ、そうだよ。セロスの旦那の前じゃしょーがねぇ」

 

ぞろぞろと現れたのは男2人組。ジェシーも合わせてお揃いな装備。

トレードマークは頭に巻いてる赤いハチマキ。ジェシーとは幼馴染の間柄のウェッジとビッグスである。

 

「その辺は男であり、馴染みでもあるお前らがもっと頑張れよ……。ポッと出のオレなんか余裕、って言えるぐらい」

「いやいやいや、そりゃ無茶な話っスよ! 何百年あったって勝てる気がしないっス!!」

「あぁ~ オレも同感だな。勝ち目が一切ない片道特攻ツアーにはオレら参加しないんで、その辺宜しく。幼馴染として盛大に祝福してやるほうに回るわ」

「……情けない事をすっげぇ饒舌に語ってんなお前ら。一体何を祝福すんのか分かんねぇけど、どうやら ジェシーも含めてお前ら疲れてるみたいだから、さっさとこれ使って休憩しとけ」

 

 

ぽんぽんっ、と取り出したのは、エメラルドグリーンに輝く【ちりょう】のマテリア。

 

「いやいや、オレら別に怪我とかしてねーから」

「そうっス! めっちゃ ぴんぴんしてるっスよ! あ、でも腹は減ってるっス」

「そーか? 性質が悪そうなの貰ってね? ほら、例えば モルボルのくさい息とか」

 

 

「んなの喰らったら死ぬわ!」「そんなの喰らったら死んじまうっス!」

 

 

元気いっぱいである事を確認した後、セロスは背向けた。

 

 

「これから用があるから。またな。とりあえずマテリアは貰っとけよ」

 

 

そう一言だけ添えて。

手を軽くあげ、離れてく背を眺めるビッグスとウェッジ。

 

何だか、ただ歩いていく。たったそれだけなのだが十分だ。十分絵になるシーン。

おまけに神羅最強のソルジャーの肩書。

堅物かと思いきや、スラムへの順応もハンパ無く 色々としてくれてる間にあっという間に支持率急向上。現在進行形。

馬鹿な話にも付き合ってくれる協調性。さらっと助けてくれる感じ。

貴重で希少なマテリアもポンッと、小遣いあげるのりで渡してくる器のでかさ。

 

 

あげ出したらキリがない。なので……。

 

 

 

――いやいや 絶対勝てるワケねーわ。色んな意味で。男でも惚れてまうわ。

 

 

 

と同時に思ったりするのだった。

 



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2話 特製のVRバトルシミュレーター

この辺りからリメイク版を絡めていこうかな、と思います。


 

 

【運命の流れ】

 

それは この星が生まれて、そして消えるまでの大いなる流れ。

 

この星は生まれたその瞬間から、大いなる運命の流れによって全ては定められている。

その流れは時に大小枝分かれをし 其々の運命を彩っていく。それがこの星に生まれた1つ1つの命の運命。

 

時には流れ逸れて、時には流れに戻り、それらを繰り返しながら星と共に生きていく。

 

自分自身の考えで行動したと思っていても、それは全ては最初から 決まっている事。

その大いなる流れ、運命の流れによる星の意思から逃れる事は困難。

黒き衣を纏いし番人が全てが修正するからだ。

 

……最後に 大きな流れに戻してしまうから。

 

 

 

大きく、大きく 伸びる大河の様な運命の流れ。 

 

星は 例えその流れの先が星自身の破滅であったとしても、流れを変える事なくその場所(終わり)へと向かうだろう。例え破滅してしまったとしても、それが運命なのだと受け入れる。

 

 

だが、今―――その運命が大きく変わりつつある。番人たちが修正するも追いつくことが出来ない程に。

 

 

ただの1本の大きな流れだった筈なのだが、いつの間にか 1つが2つに変わってしまったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【伍番街 教会前】

 

 

「ふぃ~。今日も売れたなぁ! ミッドガルはお花でいっぱい! オレの財布はお金でいっぱい! 全てうぃんうぃん作戦大成功!」

 

 

ぐっ、と空に拳を突き上げつつ、大きな声を発しながらスラムの道を歩いているのはザックス。その隣では花売りの少女……エアリスがクスクス、と小さく笑っていた。

 

「お給料は 歩合制ですからね? ザックスの売上はまだまだ少ししかないから お財布いっぱい! とは言えないんじゃないかな??」

「うえっ!?」

「………こういうのはザックスは得意だって思ってたんだけど。ほら色々と口八丁だし」

「んなっ!! 口八丁とはなんだよクラウド!! おめーこそ 変にクールぶりやがって! 知ってるんだぞ。実は内気で小心者だった~って。つーか、クラウド本人から聞いたし!」

 

色々と大抗議してるザックス。そんなザックスの横で笑い合うエアリスとクラウド。今はザックスをからかって遊ぶのがブームなのだ。(実は 別料金でそうエアリスがクラウドに依頼した、と言う事実があったりするがザックスは知らない)

 

「そんな事ないね」

「かーー、無理にクールぶるんじゃないよ。この子は! せふぃ……セロスを見てみろよ! ほらほら思い出してみ? 幻滅しただろ?? クールぶっても 最後に行きつく先はあのお気楽どってんな性格だぞ!」

「ふふふふっ」

 

そして、3人の話題の中には必ずと言っていい程、セロスの名が出てくる。

楽しい時も、しんどい時も、極々自然に 常にその場にいるかの様に、セロスの名が出てくる。――――依存しちゃったりしてる? と思ってしまうが、御愛嬌である。

 

「あ、セロスで思い出した。今日は訓練付き合ってくれるって話だったんだ」

「コラっ! 話題そらさない!」

「いた、いたたっ」

 

ザックスは、クラウドの首に腕を回してぐいぐいと絞り上げる。

そんな2人を笑ながら見ていたエアリスだったが、約束の事は仕事をする前にクラウドから聞いていて、自身も思い出したので しっかりとその辺りは背を押さないと、と言う責任感が出てきていた。

 

「約束すっぽかしたら、怒られちゃうかもしれないしね♪ それにザックスもまだまだ修行するんでしょ? ぜーんぜん セロスに追いついてねー!! って言ってたし」

「うぐっ……。そ、そりゃ仕方ないじゃん! アイツ、本物の英雄だったんだぞ。簡単に追いつけるなんて思ってねーよ。……簡単には、な」

「いつか追いつこう! って感じ好きだな。……でも、ザックス忘れてない?」

 

エアリスの言葉を聞いて、ザックスはクラウドを解放しつつ、エアリスの方へと向き直した。

 

英雄(・・)って言葉の意味。何をもって英雄と称するのか、称されるのか。そこに意味はあるのか、そして何より 自分自身が本当にそんなもんで嬉しいって思えるのかー! って。確かセロスに口酸っぱく言われたって聞いてるんだけど?」

「…………」

「ソルジャーの誇りも言ってたよね。夢、誇り。とっても良い事だと思う。……私は その中でセロス……、英雄セフィロスが言っていた言葉が一番好きだな」

 

エアリスはゆっくりと歩いて、空を眺めた。プレートに遮られ、本当の空は見えないけれど、その先を見据える様に。かつては空が怖かったのに……、今は胸を張ってみる事が出来る。

 

 

「【戦争で上げた戦果を称賛されて、大勢に英雄扱いされるより、たった1人でも救って ひとりひとりにお礼を言われる方が好きだ】って。そんなのサラっていえちゃうのって かっくいーよねっ? 照れちゃう所もなんか可愛いっ♪」

 

エアリスのウインクを見て、つられてザックスも片眼を閉じて答える。

 

「………だな。その辺はオレも同感だよ。ただ、漠然としてたんだオレも。セフィロスみたいになりたい。英雄になりたい。――夢を抱きしめて、ソルジャーの誇りを忘れない。……夢っていうのは英雄になる事でいいんだけど、誇りってなんだろ? って考えたら上手く言えなくて……、それを教えてくれたのが まさに英雄セフィロスだったんだよなぁ」

 

ザックスも同じく空を見た。

あの時セフィロスと共に見上げた空を思い返しながら。

 

任務を全うし、戦果を挙げて 評価され そして クラスを上げていくのも誇らしかった。

でも、それ以上に誇らしいと思ったのは あの時のコト(・・・・・・)

 

動けない友を、慕ってくれていた村の人たちを。自分の命を懸けて守り通す事。

【敵を倒す為に戦う、のではなく、大切なものを守る為に戦う】

結局同じ事だろ? と思っていたんだけれど、言い方ひとつで全然違った。入る力も全然違った。不思議な力が湧いて出てきた。何でもできる、やってやるって想えた。

 

心残りがあるとすれば――あの時は………………。

 

 

「ぶーぶー。そこはちょっと嫉妬くらいして欲しいかな? 私はセロスの事、かっくいー! って言ったのに。ちょっとはザックスも強がってくれても良いじゃん。オレも負けてねーー! って。なーんか つまんないなー」

「………ははっ、それもそっか」

「ねぇ? クラウド。クラウドもティファがセロスかっこいい! 素敵~~♪ って言ってたら嫉妬くらいして、負けねーパワー! とか出るよね??」

「………べ、べつに」

「あはははっ♪ 目が泳いでるよー??」

「うるさいな……。セロスは、色々と凄すぎて、なかなか難しい所が多いんだよ」

 

ぷいっ、とそっぽ向くクラウド。

あぁ、それも解るなぁ と頷くのはザックス。

 

其々に、互いに想い人がいるのは周知の事実であり、大なり小なり様々な人達が同じ様に寄り添い合い、時には競い合って遂げようと頑張るだろう。

 

そんな中で、もしも――――あんな完璧超人な上に色々と、大体に好感度がまんべんなく高いバケモノ(笑)と競い合う様な羽目になれば、正直絶望である。ほんと片翼の悪魔である。

絶望を与えられつつも、一番厄介なのは【しょうがねぇな】って諦めちゃうかもしれないトコにも会った。【あいつなら構わない】とも思っちゃうかもしれない所が。

 

色々と厄介極まりない存在なのである。

 

「ふふっ、じゃあ、そのヤバい人の所へ皆でいこうっ! 今日のお給金で買った人気のパンでも届けてあげよっと」

「ああ! それオレも欲しかったヤツ!!」

「いつの間に買ってたんだ?」

「えへへ。いいでしょ? 今日の訓練でセロスに勝った方に分けてしんぜよー!」

 

エアリスがそういうと同時に、その手に持たれてるパンが途端に超高級で入手難易度がとてつもなく上がっていくのを感じ取れるのだった。

 

そんな他愛もない話をしあいながら、約束の場所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【七番街スラム】

 

 

色々と騒動はあったもののセロスは無事? 約束の場所へと歩を進める事が出来た。運が悪かったら、あの場に借りているアパートの大家さんまで現れて色々と話が長引いてしまったりするのだ。街中のエンカウント、と言えば良いのだろうか。今回はいつものアバランチ3人組だけで済んで軽傷と言った所だ。

 

などなど、考えている最中。ふと忘れてたことを思い出す。

 

「っとと、忘れてた。ガレキ通りに行く前にまずはチャドリーのトコに行かないと」

 

チャドリーとは神羅カンパニー 科学部門の研修生。

言わば敵側と言っていい所に所属しているのだが、ここスラムに毎日の様に現れては 協力要請を受けたり、新たなマテリアの開発を報告・売却までしてくれてるので、最早敵側とは言えない相手である。

 

その辺りは、アバランチ所属のバレットも解っていて、神羅だからと毛嫌いする様子はなく、極たまに開発の協力をしたりしてたりもするのだ。……勿論、アバランチの強化の為、と言うのが大部分ではあるが。

 

七番街スラムの居住区に戻って来たセロス。

チャドリーもセロスに気付いたようで、駆け足で寄って来た。

 

「お疲れ様です。セロスさん。目的のモノは出来てますよ」

「ああ。サンキュ。悪いな 携帯バトルシミュレート借りちゃって」

「いえいえ。僕としてもセロスさんには沢山協力して頂けているので その位はお安い御用です。いつもいつもありがとうございます」

 

セロスはチャドリーから眼鏡型の機械を受け取る。これで様々な状況での戦闘が疑似体感出来る。技術とは本当に凄いもので仮想空間と言えど 現実世界の身体能力を全てトレースしてくれてるので、身体には何の違和感もない。マテリアとその訓練は何故だか連動しているので、身体能力の強化などは 実際のトレーニングに比べたら殆ど上がらないが、マテリアの強化・成長は著しく促進させる事が出来るのが利点だ。……そして、体験者の不安や苦手意識を克服する事にも使える。

 

例えば、乗り物が苦手、と公言してるクラウドに 飛行船内で戦闘をする訓練プログラムを組み込んだVRミッションをさせれば…… 実際は飛んでる訳でもないのに非常に酔ってしまう。これを重ねて重ねて、積み重ねていけば、仮想空間でまずは克服し、その福音は現実世界にも帰ってくるだろう。―――勿論、克服できるか否かは、本人の精神力、やる気云々で天地の差が現れるから一概に 便利だ、とは言えないが。

 

「仮想空間での訓練プログラムは僕が組み込まなくても宜しかったのですか?」

「ん? ああ。その辺は大丈夫だ。オレの方が準備してるよ。ちょいと特殊なんで詮索しないでくれると助かる。と言うか、これはチャドリーの所には置いといて欲しくない、ってのも本心の1つだ。……色々と難しいし、精神的にもやばめだから犠牲者が出る」

「そ、それは凄そうですね……。と言うより、僕はセロスさんが訓練プログラムまで構築できる事に驚きを覚えます。本当に素晴らしいです。セロスさん」

「いやいや。これは元々 連れと一緒にやってた時があってな。その時の名残だよ。色々と自分達で作れた方が都合がいいんだ。作ってもらうの待ってたらメチャクチャ時間がかかるし」

 

セロスは苦笑いしつつ、昔のことを思い返していた。

 

あの時、連れ―― 仲間と戦闘訓練を行っていた。

仮想空間だから思う存分暴れて良いだろ? と言う事で 本当の本気で暴れるヤツらと付き合うのは本当に骨が折れたのを覚えている。

神羅ビルの屋上で 戦い ビルを細切れ、輪切りにしていったのはもう今じゃ良い思い出だ。

 

因みに、当時のビルの惨状を上層部の連中が視たら……例え仮想空間だったとしても、青い顔して叱責してくるのが目に見えてるので、あの場の仲間達だけの秘密にしているが。

 

自分が働いてるビルを粉々にされるのを見て驚かないヤツはいないだろう。

 

仮想空間で発揮できる力は、十分現実世界ででも再現できるので、平たく言えば 気が1つ変われば、ビル壊されるのでは? とも思われてしまいかねないので、見せるのを止めさせてた、と言う理由もあったりする。

 

「セロスさん?」

 

心此処に非ず、な状態だったセロスを見て、チャドリーは首を傾げるがセロスは直ぐに軽く笑って手を振った。

 

「今日はサンキューな。後でこれ、ちゃんと返すから」

「いえ。大丈夫ですよ。セロスさんが預かってください。時間が空いた時、いつでもできる様に持っている方が都合が良いかと思われますので。代金の方も大丈夫です。今までのレポートの成果で十分すぎる程頂いてますから」

「ん、そうか。ならありがたく受け取っておくよ。じゃあ、またな」

「はい。今後とも宜しくお願い致します」

 

セロスは、チャドリーに挨拶を交わし、そしてその場を後にした。

 

……チャドリーに関しては、セロスは 何れ色々と話をするつもりだ。彼が神羅カンパニー内ではどういう存在なのかは、セロスももう判っている。

 

何故なら―――。

 

 

ライブラ(みやぶる)。結構便利だよな。……まぁ アイツもアイツで頑張ってるみたいだし、口出しする必要もないと思うが……ほんと世話になってるし。特にマテリアに関しては」

 

セロスは頭を軽く掻いた。

チャドリーに関しては出会った時から既に協力関係にあり、表向きかもしれないが友好的な関係を築けていると想える。 悪いヤツではない、と言うのも解っている。

 

「それにしても、なんであんな素直な子が アイツ(・・・)から生まれたんだか……。いや、直接的には違うか? ……んでも、その辺はオレも同じみたいなもんだし、言っても仕様がない、ってか」

 

そのまま、セロスはガレキ通りへ。

 

 

 

 

【ガレキ通り】

 

その名の通り、此処は瓦礫の山が無数にある廃棄所の様な場所だ。

様々な所に死角があり、人もあまり寄り付かない事から、時折モンスターが出現する場所としても有名である。

駆除しても駆除しても湧いて出てくるので、訓練場所としては絶好の場所だったりもするのだ。

 

―――が、セロスたちが来た瞬間からモンスターは速攻で逃げだしてるので、絶好の訓練場所だったのは、もう昔の話だが。

 

 

「おーぅ セロス~~!」

「セロス~~!」

「ただいまっ!!」

 

 

瓦礫の山の一部を片付けて(吹き飛ばして?)造ったちょっとした広場。

そこが集合場所だ。

 

セロスが来た数分後、クラウド・ザックス・エアリスが到着した。

……クラウド達は兎も角、なんでエアリス? と首を傾げるのはセロス。

 

「あー、なんで私までいるんだ? って顔してる!」

「おう。その通りだ。相変わらず絶好調だな。エアリスの読心術。色んなのと会話出来たとしても、プライバシーの侵害にはならないでくれよ?」

「もうっ! そんなの使ってないよ! と言うか、セロスは顔見たら大体判るの!!」

 

両手を振って、ぷんぷん怒るエアリスをとりあえず宥めつつ、ザックス達を見た。

 

「今日は繁盛したのか? 3人組の花屋さん」

「もっちろんだぜ! 完璧すぎてウハウハだ」

「今日のは中の下、って所かな。訓練の一環だって思って頑張ってるよ」

 

ザックスとクラウドの反応を見比べて、セロスは頷いた。

 

「成る程。エアリスが6・クラウドが3.5・ザックスが0.5ってトコか。比率的に」

「んなっ!!」

「ぷっ」

「大々々せいかーーい! おめでとーー! 正解したあなたに、もれなくデート一回タダでプレゼント!」

 

どうやら当たったらしい。と言うより、ザックスが調子に乗った時の物言いには絶対に裏があるのが常なので、非常に予想が付きやすい。クラウドに関しては結構素直な面がある。戦闘訓練面では意固地になったりするが、売上の良し悪しに関しては別にそこまでの負けず嫌いは発揮しないので、これまた解りやすい。

 

「さて、そろそろ始めるか?」

「ああ」

「ちょっと待て! すんなり訓練始めようとすんな! ちょっとは否定とかさせろよ!!」

「と言うより、私がデートって言ってるのに、そこもスルーしないでよ!!」

 

ぷんぷん怒ってる2人はとりあえず置いといて、熱心な生徒クラウドに今日の訓練についての説明を始めたセロス。

 

勿論、先ほどチャドリーから貰った仮想空間での訓練だ。

 

それをする、と言う事も事前に予告しているし、効果については説明しているので割愛する。因みに元ソルジャーのザックスは、仮想空間の体験は幾度もしているので言われるまでもない。だが、クラウドは一般兵卒なのでこの訓練はあまりした事が無かったのでその説明も結構骨が折れた。

 

でも、効果が見込める事。本人のやる気次第でいくらでも成長の機会はある、と言う事でやる気向上につながったのは言うまでもない事だ。

 

「さて、今回の訓練プログラムだが……、最上級をぶち込んでるから、思う存分やって散ってこい」

「へ?」

「は??」

 

セロスがにやっ、と笑いながら爆弾宣告する。

因みに、これまでも訓練でも(訓練と称したいじめ??)セロスが笑う時が、何よりもきつい、と言う事は判ってきているのだ。

ザックスでさえ、悲鳴を上げる程のモノだったので、クラウドに関してはトラウマだって言っていい。

 

「ま、マジ……?」

「おう。おおマジだ。最初にきついのやってれば、後のヤツなんか軽いもんだ。仮想空間だし、体感は出来ても実際に現実で ずばっ! っとまっぷたつにされる訳じゃないから大丈夫だろ」

「ちょいちょい待て待て! 心に傷でも負わせる気かよ。その辺は初級からとかにしとけよ! あれだろ?? アンジールと昔一緒にやったヤツだろ?? そんなもん初めてのクラウドにさせるとか鬼か!」

「いや、アレよりヤバいかもしれないな。アレは確かザックスに仕掛けたヤツだろ? アンジールとの一戦。アンジールはプログラムもなんか優しかったから、そんな事にならない様に、値は消してあるから」

「もっとひでぇ!!」

 

ザックスが前面に出てきて抗議。

確かに自分がバッサリやられる所なんか、正直トラウマものだと言っていい。でも、強靭な精神を鍛えるには、恐怖を克服するには、やっぱり【死】に直面するのが一番効果的だ。廃人になる可能性は否めないが、その最後の一線はしっかり守ってるつもりなので、セロスは首を横に振る。

 

「仕方ないだろ。クラウドに魔晄を浴びせるわけにはいかねーし、妙な細胞を身体にぶち込むのは論外中の論外だし。それでもオレに、オレ達に追いつこう、追いつきたいっていうんならこれくらいはしないと話にならんって事だぞ? サード辺りのソルジャーならなれると思うがな。……勿論 やるやらないはクラウドに任せるよ。オレが道を示せるのは最短ルートのみ」

「ッ……んでもよぉ」

「ザックス。決めるのはクラウドだ。……お前も解ってるだろ? 今黙ってるが、神羅の奴らが今後どう出てくるかまだ分からんし。クラウド自身が足手まといになりたくない、って言うからオレは最大限協力する。戦力は多い方が良いのは間違いないからな」

 

ザックスは、それでもまだ納得しかねていたが、その肩を握るのはクラウドだった。

 

「……オレはソルジャーになれなかったんだ。精神面でも肉体面でも未熟だって。セロスはそれが幸運な事だって、って言ってくれたし、魔晄が危険な事も教えてくれた。だから、追いつける程は絶対強くなれないのか、と思った。でも、……セロスは道を示してくれたんだ。だから、オレは行くよ」

「クラウド……」

「だから、ヤバくなったら助けてくれよ。ザックス」

「っ……。ったくよぉ。セロスに関わったヤツ、ってなーんか皆もれなくいい意味でも悪い意味でも前向きになっちまうんだよな! この残念イケメンが!」

「ふふっ、それはザックスの事じゃない? 残念イケメンって」

「エアリスは黙ってなさーい!」

 

 

クラウドやザックス、そしてついでにエアリスも納得してくれた所で、今回の訓練に入る事になった。

勿論戦うのはクラウドであり、ザックスも一緒に仮想空間に入る事は出来るが、観戦のみで、クラウド側からは認知出来ない様になっている。

 

 

そして気になるその戦闘訓練の内容が発表された。 物凄く性質の悪い内容が。

 

 

 

【クラウドvs 悪セフィロス。星をかけての大決戦】

 

 

 

戦う相手は英雄と称されるセフィロス。世界最高峰とも呼ばれる相手と全力・情け無用の勝負。クラウドも特訓を重ねていて、身体能力・マテリアの扱い共々に 以前よりは比べ物にならないくらいに成長は出来ているのだが 相手が…………、である。

 

 

 

それはヤバい内容だと、そしてこの男はやっぱり鬼教官だ、とこの場の誰もが感じたのだった。

 

 

 



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3話 原作世界?

 

――声が聞こえてくる。これは……ザックスかな?

 

 

【そういやぁさ。オレ達、何処に行くんだ?】

 

 

――ザックス、だけじゃない。こっちはセフィロス?

 

 

【ニブルヘイムだ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声が聞こえるだけでなく、目の前の真っ黒な世界に光が、色が生まれた。彩られたその場所は神羅ビル。整列し 2人のソルジャーを待っていて、そして同行メンバーの皆が揃った。

 

「おいクラウド。どうしたんだ? ぼーっとして」

「あ、いや……。あれ? ここは……」

「うん? やっぱ寝惚けてんのか?? 今から任務開始~! なんだぜ。寝惚けてないで頼むぞ。行先 お前の故郷、なんだろ?」

 

それは 身に覚えのある光景だった。

既視感(デジャヴュ)を感じたのは初めての事だった。

だが、何かが違う。決定的に何かが違うと異質さを感じられた。

 

……その異質さの正体は直ぐに判明した。

 

「ニブルヘイム。……そこで ジェネシスの襲撃が十分に有り得る。……その時は 覚悟をしておけ」

「あったり前だ。そのくらいはしっかり頭ん中に入ってるよ。……アンジールの事もある。絶対、絶対にジェネシスを止めて見せる」

「…………」

 

ジェネシス、そして アンジールの2人の事だ。

 

話の内容から推測すると、ジェネシスは敵としてまだ何処かに潜伏していて、アンジールは死亡している様だった。

だが、自身の持っている記憶が正しいのなら、この2人はセロス……セフィロスが治療をする為に 神羅には内密で匿っていた筈だった。

 

表向きは2人とも死亡報告を済ませていた。神羅カンパニーを裏切った為 同じく1stソルジャーであるセフィロスが対処をしたと。

 

それを知るのはザックスと自分自身だけだった。

 

なぜかセフィロスが信頼してくれて、打ち明けてくれた。勿論、誰にもその事は漏らしていない。寧ろ一兵卒程度の自分の話をそう信じられるとは思われないだろう。

相手が英雄セフィロスなら尚更だ。

 

でも、何処からかそれが漏れてしまった。その為 神羅から軍を寄こされ、それに自分の故郷の村が巻き込まれたのだ。あの時――誰も自分を疑ったりしなかった。弁解する必要など無いかの様だった。その時のセフィロス……セロスの顔は今でも覚えている。

でも、今のセフィロスは何処かが違った。姿形は間違いなくセフィロスそのもの。だが、違和感がどうしても拭えなかった。

 

 

 

――いったい、これはどういう事だ?

 

 

 

今の自分でさえよく判らなくなる。

まだ、色々と理解しきれていないが、それでも任務は始まってしまった。

 

自身の故郷へと向かう任務。確かに経験がある筈だ。その記憶の中のメンバーと今のメンバーは全く違うが……。

 

記憶が混濁し、身体と心が分断されていく様な感覚がしつつも……、身体は動いてくれる。奇妙な感覚だった。

 

 

 

 

 

 

そしてその後、程なくして故郷のニブルヘイムへと到着した。

 

 

 

 

 

その移動中のザックスとの何気ないやり取り。

そこに違和感はなかった。ザックスはザックスだった。

メンバーがおかしい事もとりあえずはそういうものなのだと 無視する事が出来た。ただ――どうしても違和感が拭えないのはセフィロスだった。

彼は会話に全くと言っていい程入ってこないのだ。

 

当初から自分が憧れた英雄セフィロス。

 

確かに彼のイメージは 孤高の存在であり、常に冷静沈着。最も秀でた能力を持っている存在がゆえに、周りからは疎遠されるイメージを持ちがちだった。……が、ふたを開けてみたら そんな気配は全くなかった。

少なくとも、自分自身が彼と知り合った時は 気さくであり 色々と話も聞いてくれたりもした。故郷の話も沢山した。

 

だが、今のセフィロスはやっぱり違った。

 

 

 

そう――言うならば、かつての自分が勝手にイメージ(・・・・・・・)していた英雄像(セフィロス)そのものを具現化したと言っていい。

 

 

 

「……ここは久しぶりの故郷なんだろう? どんな気分がするものなんだ? オレには故郷が無いからわからないんだ」

「そうだったんだな。ええっと、両親とかはいないのか?」

「―――母の名は■■■■」

 

 

セフィロスが母親の名を語ろうとしていたその時だった。強烈なノイズが頭の中を走り、全く話が聞き取る事が出来なかった。

 

 

強烈なノイズ。それは故郷の景色を掻き消した。

 

軈て周囲はおろか、大地が そして時の流れさえもが 出鱈目に動いている様な感覚が走る。それでも、周りは問題ない、と言った様子で進んでいく。

 

 

次に目の前に広がったのは―――紅蓮の炎が故郷を蹂躙している場面だった。

 

 

 

「なん……だ、なんだ、コレ……っ」

 

錯乱するのが解る。

こんなのは知らない。こんな光景は知らない。でも、目の前に広がってる炎の熱気は、息をする度に身体の内から焼かれるようなこの感覚は、本物そのものだった。目の前で、間違いなく村が焼かれている。ティファの家も――自分の家も。

 

「母さん!!」

 

家に駆けこもうとするが、炎が行く手を阻む。玄関部分は完全に崩落しており、家の全ての窓から炎が噴き出している。この中で誰かが生存しているなどありえない。だが、それでも理解したくない。いつの間にか 傍に落ちていた剣を拾って思いっきり振り上げる。

それはザックスがいつも使うバスターソード程は大きくないが、それでも十分に炎を吹き飛ばすだけの威力は出た。

この時の自分は、此処までの力は無かった筈、と一瞬だけ頭の中を過ぎったが、直ぐに振り払い、家の中へと入ろうとした所で 何かが横から押し倒してきた。

 

「よせっ!! クラウド!!」

「っ…… ざ、っくす?」

 

炎の中に入ろうとしている自分を止めたのはザックスだった。彼もまた身体中が煤だらけで汚れ切っていた。

 

「な、なかで母さんが、かあさんが……っ」

「っ……もう 無理だ」

「っっ!!」

 

判っていた。判っていても認めたくなかった。こんなのありえないから。

 

そんな時だ。身体を凍てつかせ、そして貫かれるような感覚が身体を襲ったのは。

その気配の先を本能的に振り返ってみると、そこには何かがいた。

 

炎に包まれながらも……佇む白い影。長身長髪……そして長い長い刀。

 

目を疑った。でも、間違いなかった。炎の中に立っているのはセフィロス。

 

丁度、その長い刀で村の人を切りつけていた。炎の中でせせら笑うと、そのまま村にある神羅の屋敷がある方へと向かっていった。そして 屋敷を横切り、山へと入っていったのだ

 

「ッ……!! クラウド。悪い。お前を止めてる暇はなくなった。オレはセフィロスを……アイツを追いかける」

 

ぎりっ、と歯を食いしばるザックス。いったい何があった? と聞く間もなくザックスは走っていった。それに必死に追いすがる。家の事もあるが、それ以上にあの光景が信じられなかったから。

 

走って走って走って――――たどり着いたのは ニブル山の頂上にあるニブル魔晄炉。

 

更に走って走って走って走って――――そこに見たものは再び目を疑いたくなる光景だった。

 

「っ!! ティファ!?」

 

血を流し、倒れているティファの姿だった。

右肩口から左の脇腹にかけての刀傷。かなりの重症だったのが一目でわかった。

 

「大丈夫かティファ! セフィロスにやられたのか!?」

 

ザックスが傍にいた。ティファは何も言わず、痛むであろう身体を懸命に動かして、ザックスを見ない様に身体を背けていた。

 

「しんらも、そるじゃーも、あなたも…… みんな、みんなだいっきらい……っ」

 

ザックスはそれを聞くと、拳を握りしめ、そして剣を握りしめて駆け出して行った。上にいるであろうセフィロスの元へ。

だが、クラウドはティファを放っておく事など出来なかった。備蓄している緊急用セットを広げ、ティファを介抱する為に。

 

「しっかりしろ! 頼むっ ティファ!」

「……っ、くら……うど? なん、で ここに……」

「っ。オレはずっと居る。いつだって、いつだって傍に……ッ!!」

 

自分は、あの時(・・・)セロス(・・・)に諭されてティファに打ち明けていた筈だった。

 

【剣を教えてやるよ。それに 鍛えてやる。まだまだお前は強くなる。ズルなんかしなくてもな?】

 

セロスの言葉は今でも耳に残っている。

だから約束を交わして、そしてティファとも正面から再会を果たした。

 

でも、ここにいるティファはそれを知らないらしい。恥ずかしいから、情けないから黙っていたままだったらしい。

 

でも今はそんなのは関係ない。回復マテリアも使いつつ、手当をしていく。その時ティファが手を強く握って来た。

 

「おね、がい……。上に、アイツが…… パパや、みんなの仇が……。おねがい、くらうど……」

 

自身も握り返し、落ち着かせようとした時だ。

 

「ぐああああああ!!」

 

悲鳴と共に、ザックスが吹き飛んできた。ザックスの剣も同じく飛ばされ、自身の足元へと突き刺さる。

 

「ザックス!?」

「う、が……。く、くそ、が……!」

 

ザックスもまた、刀傷を全身に浴びており、致命傷とまではいかないが 遠目で見てわかる程重症だった。

 

「クラウド……! セフィロスを、止めてくれ……!」

 

血に染まりながらも、ザックスは指をさした。

壊された扉の先が見える。黒く、黒く塗りつぶされている世界が見える。

 

 

【母さん。一緒にこの星を取り戻そうよ。オレ、いいことを考えたんだ。――■■■■へ行こう】

 

 

姿が見えてもいないのに、頭に響いてくるのはセフィロスの声。

 

「クラウド……! たのむ!」

 

ザックスの声に弾かれる様にクラウドは動いた。

持っていた剣を投げ捨てて、ザックスが使っていたバスターソードを手に取る。手持ちのマテリアを全て剣に込めて、駆け出す。

 

 

【オレは選ばれし者。この星の支配者として選ばれし存在】

 

 

声だけが届く。

その声の方へと駆け出し、そして飛び込んだ。

 

その場所は、おかしな空間だった。建物の中のハズだったのに、開けており周囲には光輝く岩が連なって山の様なものを形成している。それがその場を取り囲んでいる。

 

この光景も……見覚えがあった。色は全く違うが、あの日…… あの時の村で襲撃が合った時。セロスが助けてくれた時だ。岩を使って山を作り、皆を護ってくれた。

でも、目の前のセフィロスは違った。

 

「セフィロス!! よくも、よくも皆を! よくも村を!! どうして、どうしてなんだよ! 信頼……していたのに!」

 

力の限り、叫んだ。

セフィロスは、それに何かを言う訳でもなく、ただただ佇んでいた。奇妙な物体を抱きかかえながら。

 

 

「―――来たか、クラウド。……これが()だ。お前が見てきたものは、全てまやかし。これこそが本当の運命の流れなのだよ」

「何を、言っている!」

 

セフィロスはゆっくりと振り返った。

そして、抱いているものをゆっくりと下へとおろすと、刀を握りしめる。

 

「俺、―――いや ()の望みはなクラウド。……母と共に■■■■へと行き、そして この星を取り戻す事だ。……母から この星を奪った者達への罰を」

 

セフィロスが刀を振るうと、それは真空の刃となり、迫って来た。

それを剣で受け止める……が、あまりの威力に身体ごと吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐ、おっ……!」

「さぁ、忘れられない痛みをその身体に刻もう。罪の数だけ刃を、お前が代わりにその身に受けるが良い」

 

それはまさに神速の剣撃。

あの長い長い刀をどうやったらそんなに軽々と振るえるのか。

 

懸命に弾き、時には躱し、捌き……繰り返すがどうしても2手対処すればその倍の4つの傷を受ける。

軽傷で済んでいるが、なぶり殺しにでもしようと言うのか、わざと手を抜いている様にも見えた。

 

 

時間にして、ほんの一瞬の戦いの出来事なのか、それとも長く戦っているのか、それさえ判らない。永遠に続くのか……? と思えてしまう感覚だった。

 

 

だが――終わりは訪れた。

 

 

 

「う、おおお!!」

 

最後の一撃。

その神速の剣撃をかいくぐり、宙に浮いて叩き下ろすが、それは読まれていた。

 

先ほどまで目にもとまらぬ速さだった筈なのに、動きがゆっくりに見えた。自身に迫るのがはっきりとわかった。……そして、その刀で腹部を串刺しにされたのだ。

 

「ぐ、がぁ……」

「どうだ? 消えぬ痛みだろう……? これが本来の私なのだクラウド。……どういう訳か 運命の流れ(・・・・・)が変化し、今お前が知る私と言うのは、最早ありえない存在(・・・・・・・)なのだ」

「ぐ、く……ッ!」

 

一体何のことを言っているのか、全ては判らなかった。

だが、判る事はある。……この男はあのセロス(・・・・・)ではない。

 

そう思った瞬間から、身体の奥から力が湧いてきた。

貫かれた身体の事など忘れ、その刀を思い切り握ってセフィロスを持ち上げた。

 

「ふざけ……るな!!」

「っ!」

 

思い切り、セフィロスを投げ飛ばす。勢いのままにセフィロスは光輝く岩にたたきつけられた。

 

ありえない(・・・・・)? ふざけるな!! セフィロス……セロスは、俺たちを救ってくれたんだ。お前こそがありえない存在だ!」

「……ふん。何処までも甘く、何処までも愚かだ。敵である筈のこいつら(・・・・)が生きているのが何よりの証だろう」

 

セフィロスが手を上げると、空から何かが降って来た。轟音と共に着地しあの形成されていた岩を吹き飛ばす。……そこに立っていたのは3人。

 

「――やぁ」

「!!」

 

見た事がある男たちだった。何処となくセフィロスに似ている雰囲気を持っている3人組。

 

「これで、家族が揃った。母さんも傍にいる。……たのしぃなぁ? おい」

「嬉しすぎて泣くなよヤズー。こっからが楽しい遊びなんだ。……なぁ? おい」

 

3人組の内の2人が前に出てきた。手には其々の武器、銃・パイルバンカーが構えれている。

そして、その3人組のリーダー格であろう男も剣を構えた。

 

「母さんは、僕と兄さん(セフィロス)のどっちを選ぶのか……、それはこの後はっきりさせようと思う。……良いよね? 兄さん」

「……ああ。家族でゆっくり考えよう。……私はどちらを選ぶかなどは考えていないさ。……私達は家族だ。等しく母を愛し……そして、我ら兄弟は その愛を等しく成就しよう。母は私達を受け入れ、愛してくれる」

「本当……?」

「ああ。本当だ。……私はお前たちの兄だ。嘘は言わないよ」

 

おぞましささえ思える会話が続く。

前に出てきてる2人も気味が悪い笑みを浮かべながら迫ってくる。

 

剣を思い切り握りなおした。

 

「……俺が、お前たちを倒せるなんて思ってない。だが、限界を超えて、抗ってやる!」

「ほう」

「へぇ」

 

剣に気迫を、漲る闘気を宿らせる。

 

それはマテリアを用いて使う力ではなく純粋な人間の、自分自身の力。

魔晄や細胞? などは必要な。人間の可能性に限度は無い。あるとするなら、自分自身がそれを決めてしまっているのだ。

 

「おおおおッ!!」

 

全力で、自身の全てを剣に込めて【凶】の文字を刻む。

 

 

「っ、うおっ!! く、くふふ!」

「くっ……! ふはっ!!」

 

 

その技の勢いは、少しだけあの2人を上回る事が出来た。

だが、それだけだった。後ろに控えている2人の内の1人…… カダージュの一撃には反応する事が出来なかった。

 

「ぐあァっっ!」

 

そして、続けざまにセフィロスの真空の刃が飛んでくる。咄嗟に剣で防御をしたが、あまりの勢いで壁に叩きつけられてしまった。肺の空気が全て吐き出され、内臓が持ち上がり、息もできない。でも、気を失う事はなかった。

 

「ふふふ。ビックリしたよ。まさか君がこんな事出来るなんてね。折角新調した武器だったのに」

 

ちらりと後ろを見るカダージュ。ヤズーやロッズの持っていた武器があの一撃で破損していた。もし、武器を出して構えてなければ これだけでは済まされなかっただろう。

その2人も武器を捨てて、歪な笑みを浮かべながら迫って来た。

 

「でも、所詮はその程度。……人の領域だね。母さんの力を貰ってないんだからさ」

「―――く、くっくっく……。さて。戯れはこの辺りで終わりか。もう、眠らせてやろう。ライフストリームとなり、星を巡ると良い。……軈て、母がこの星を取り戻すその時まで、な」

 

 

――ここ、までか。いったい、なにがどうなったら こんな……。なにもかも、わからないままだ。……ごめん、な。ティファ……、ザックス……。

 

 

目を閉じようとしたその時だ。

 

「「「!?」」」

「ふん……きたか」

 

空から一筋の光が差し込んだ。

その光は軈て大きくなり、一人の男を生み出した。

 

 

「ったく。まさかこっちにまで(・・・・・・)干渉してくるとは思っても無かった」

 

 

自身の前に立っているのは、紛れもなく―――。

 

「スパルタ過ぎだろ。こんなもん。普通にトレーニングルームみたいな所で1対1させるだけだったのに、何の冗談だこれ。あのニブルヘイム(・・・・・・・・)を再現した上にクソガキどもが出てくるとか。つーか プログラムにまで干渉してきて どんだけだよ。どんなバリエーションだよ。あのボロキレ共(・・・・・)は」

「せろ……すっ」

「とりあえず、今回の件は俺が悪かった。それによく頑張ったな。……1回寝とけ。全部後はやっておくから」

 

たった少しだけ。それだけで目の前の人物が自分のよく知るセフィロス……セロスなのだと理解出来た。理解出来たの当時に、強烈な眠気に襲われる。

 

セロスの手に握られていたのは【ふうじる】のマテリア。使用する魔法は【スリプル】

先ほどまでは、どんな痛みでも衝撃でも絶対に負けない、例え死んだとしても、死ぬその瞬間まで戦う、と言う強い意思があった。だから、決して気を失う事は無かった。……が、これには抗う事が出来なかった。いや、抗う必要が無いと感じたのかもしれない。

軈て、意識が遠のき 完全に闇に包まれた。

 

 

最後に、届いたセロスの言葉は【んで、回復マテリアを……いや、フルケアの方が良いか】だった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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4話 作り物の世界

 

 

―――随分長く夢を見ていた気がする。……それもとんでもない悪夢を。

 

 

 

 

クラウドは、悪夢が去り、仮想世界から現実世界へと意識が覚醒していくのがわかった。

 

恐ろしくて身が竦み、声も出ない。そんな悪夢を長く長く見続けていた気がしていた。

 

なかなか身体が言うことを聞かないが、それでも起こそうとし続ける。

そして、漸く身体が動く、動かせると感じた瞬間に、上半身を起こした。……直ぐ眼前にザックスがいるのも気付かず。

 

「うおっ、っと! あぶねーな」

 

ザックスも驚いてどうにか飛びのいて頭突きを回避。

 

そして、跳び起きたクラウドだったが、その頭をがっちりとホールドして、自身の膝へと置きなおすのはティファ。

 

「落ち着いてクラウド。さっきまで凄くうなされてたんだよ? 起きるのは もうちょっと落ち着いてからにしなさい」

「っ……、あ、あれ? オレは一体……」

 

クラウドは、とりあえず ティファが居る事(勿論 膝枕されてる事も判った)、ザックスが居る事、その隣でエアリスが居る事も理解した。何故、こんな風になっているのかはまだわからない。頭の中で整理がつけられてなかったからだ。

ザックスはザックスで、エアリスと何やら話している。

 

「てゆーか、ザックスが起こしちゃったんじゃない? 覗き込んで何かしたんでしょ」

「いやいや、クラウドくんは 彼女さんのお膝を枕にしてお眠とか役得ですなぁ~、羨ましいですなぁ~、まさにご褒美ですなぁ~ とか思ってただけで、なーんもしてないって」

「ふぅ~ん……、ティファの膝枕が羨ましいんだ~……。ふぅぅぅ~~~ん。そぉぉ~なんだぁぁ」

「あ、いや、それは言葉の綾ってヤツですよ。エアリスさん? それ以上の他意はありませんですよ??」

 

2人が何だか楽しそうに言い合ってる。

それはいつもの事なので 一先ず置いといてクラウドは現状整理を頭の中でしだした。ティファの膝枕は なかなか解放してくれないので、する事と言えばそれくらいしかない。

後頭部に柔らかい感触が合って、少なからず煩悩を刺激してくるが、邪念退散、頑張って現状理解。

 

 

 

まず――今日は、ザックス・エアリス・自分自身の3人でプレートの上まで行き、花屋を手伝う依頼を受けた。

 

 

出足は好調で、エアリスが持ってきていた花も完売。それに自分自身に掲げていた目標(ノルマ)も何とかクリアして帰路についた。

今日はもっと大事な用事があったから、いつもエアリス主催の打ち上げ等はせず、真っすぐに帰ってきてガレキ通りにある広場にまで行って……それで―――。

 

「っ!? セロスは!?」

 

色々と思い出せた所で、目を見開いてクラウドはティファに聞いた。

突然の大きな声に開ききった目、眼光に少々気圧されそうになったティファだが軽くため息を1つした後に、クラウドの頭をもって ぐいっ! と右側に捻じった。 グキッ!! と鳴ってしまう手前だったりするが、その辺りは格闘家でもあるティファ。万全である。

 

クラウドは少々痛む首を気にしつつ、向けられた方向を見てみる。

そこには、セロスと―――もう1……人?

 

 

 

「あのなぁ。毎度毎度 お前らやってくるみたいだけど、そろそろ迷惑してるんだ、って親玉にいっといてくれないか? 結構メンドクサイんだぞ。お前ら相手にすんの」

「――? ―――??」

「わからん! 何か喋れ! ……っつっても無理だよなぁ。とりあえず、お前が【アンタ何言ってんの?】って感じなのは判ったわ。ほれ、もう戻っていいぞ。さっさといけ」

 

 

セロスが何やら話しかけている相手は、何と言えば良いのだろうか、ボロボロのローブ姿の人物。……いや、人かどうかは疑わしい。何故なら宙に浮いてるから。座り込んでるセロスと正面に向き合ってて、ゆらりゆらりと宙に揺れている姿は中々に恐怖を覚えるものだった。

 

そして、セロスはどっか行け、と言わんばかりに 手をパタパタさせてるが……、何処かに行く気配はなかった。寧ろまとわりついてる様に見える。

 

「おいコラっ! 来るな寄るな引っ付くな!」

 

何となく、あちらもなく楽しそうに絡んでいる……とも見えなくはない。

楽しそうに絡んでいる対象……片方が正体不明の物体でなければよかったのだが、気にならない筈はなかった。

 

「……ナニあれ?」

「さぁ? クラウドが倒れてる間、ずーっとセロスが相手してたみたい。相手にされてたりもするかも??」

 

当然ながらクラウドは疑問を浮かべ、後からやって来たティファも同じく判ってなかった様だった。

 

そんな2人を見た、ザックスは 未だにご立腹気味なエアリスにそっと耳打ちをしていた。

 

「――あいつら(・・・・)も見えてきた様だ。なんでか最初は俺らしか見えてなかったのにな」

「え? あー……そう言えば。うん。見えてるみたいだね。これが良い事なのか悪い事なのか、判らないケド。でもま、良い感じになってくるのかもしれないよ」

「そうか?? クラウドの仮想訓練するって時、イキナリ俺達襲ってきたじゃん。良い風には思えねぇけどねぇ……。それに、セロスが言うには、あの訓練機械にまで干渉してきたって話だし。何でもありなのかい? あいつらは」

 

ザックスは、やれやれ と言わんばかりに首を左右に振りつつ 地面に突き刺してた剣を引き戻して自身の背中に仕舞った。

 

そう―――クラウドが仮想空間で、襲われてた? 時。現実世界ででも襲撃があったのだ。それこそが、今セロスと面白おかしくナニカをしているボロきれ。

 

今はあの1体だけだが、ついさっきまでは無尽蔵にやってきていて、黒い竜巻かと思った程である。

 

突然の襲撃だった。でも、セロスとザックスが丁度2人揃っていた為、撃退する事は容易かったりする。……が、如何せん数が多すぎるので時間はかかった。

何処からか異変を感じたティファもやってきて合流し、4人で対応に追われて……漸く終わる事が出来たのだ。嵐の様に現れて、去っていった正体不明の物体。

つまり、あれは訳が分からない存在、とザックスの中では自己完結していた。何より脅威はとりあえず去ったし、判らない事を考えていても判らないままである事はザックスがよく知っている。ザックスの中で一番? の物知りなセロスも【わけわからん】とぼやいていたので、これ以上知りようがないから、と言う訳でもあった。

 

 

そんな中で―――エアリスだけは違った。

 

 

 

 

「……フィーラー」

 

 

 

 

ボソリ、と小さく消え入りそうな声でそう呟いていたから。

ほんの少しだけ、ザックスの耳に届いた様で、ん? と振り返った。

 

「何か言ったか? エアリス」

「……んーん。何でもないよ。この辺りにも出てくるみたいだし、ザックスやセロスはこれから大変だなーー、って思っただけで」

「うへぇ……。って、なんで俺らだけが大変なんだよ」

「そりゃ、見える人と見えない人がいるんだし、仕方ないじゃん? それに2人ともなんでも屋所属なんでしょ? ほーら頑張れ男の子! 目の前のでっかい背、追いつけ追い越せ引っこ抜け~~~」

「……へいへい。あー、ハードルたけーな、目の前の背」

 

エアリスは、笑顔でザックスの背を叩いた。

そして、向ける方向は決まっている。……セロスだ。

 

 

エアリスは、正体を知っている。でも、それを打ち明けて良いものかどうか、今迷っているのだ。

 

「(運命の番人……。流れを変えようとする者の前に現れる存在―――。なら、あの時(・・・)、セロス……セフィロスの前に現れた時も……きっと、そう。流れを変えようとしているから現れた……つまり)」

 

エアリスは、セロスの方を見た。

まだ、そこにはフィーラーが存在している。でも、先ほどと違って攻撃をしようとしたり、邪魔をしようとしたりとはしていない。ただただ、セロスと遊んでいる風にしか見えない。

 

 

それはまるで 運命の番人を懐柔してしまったかの様に見えた。

 

 

「………最近、悪い夢見る事があったんだけど、大丈夫かもね」

「あん? 悪い夢?」

「そう。………足元から崩れちゃう様なそんな夢。でも、なんでかな。皆が居れば大丈夫なんだって、スゴク思える様になってきたんだ」

「………そりゃそうだ。揃えば出来ない事なんかなーんも無いってな。だから、安心しろよ」

 

ザックスは、そういうとエアリスの頭をそっと撫でた。

二度、三度と撫でられた後 ぽんぽんっ、と優しく叩かれて終い。

 

それを受けて、エアリスはニコッ、とザックスからは見えない様に笑ったが、直ぐに表情をもとに戻すと、ザックスに振り返りながら不満を言った。

 

「そこは抱きしめてくれるんじゃないの~? ふあんでふあんでしょーがない彼女を優しく抱きしめて、とかさぁ?」

「へっ。そりゃ高いぜ? デート一回よりよっぽど高い」

「うわっ! お金取るんだ。なら良いもん! セロスのとこ、行くから」

「ちょ~~っとそれは待って。わかったわかった」

 

ザックスは慌ててエアリスにハグをしようとするが、スルッと華麗に躱され、迫っては躱されるの繰り返しだった。エアリス的には何だか投げやり気味のザックスハグはムードに欠けるし、色々と情けないし、と言うのがあり。ザックス的には少々選択肢を間違えた事は認めつつも、エアリスが選んだ相手がやば過ぎるから仕方がないだろ、と言うのがあった。

 

エアリスにはまだ少々不安に思う所があるにはあるのだが、何だかんだ思いつつも2人ともが楽しそうなのだった。

 

 

 

 

そして、暫くしての事。

 

「……セロス」

「ん? おうクラウド。もう良いのか? ティファの膝枕」

「茶化さないでくれって……。それよりも、何だったんだ? アレ(・・)

「それは、オレに付きまとってくるコイツ(・・・)の事か? それともさっきの仮想空間内での事か?」

「……出来れば両方教えてもらいたいけど」

 

ふよふよ~ と宙に漂いながらもセロスとの距離は付かず離れずの位置にいる物体を見て、クラウドは苦笑いした。変なのに好かれているセロスを見て、更に笑う。元々人望はトンデモナイくらいある男なので、こういうモンスター? に懐かれたとしても正直驚きはしない。

セロスは、手をまたパタパタ振って向こうへ行け、と促しつつ、クラウドに向き直った。

 

「ま、そりゃそーか。……それに謝っとかないとな。クラウド」

「謝る?」

「ああ。勿論仮想空間での訓練の内容だ。いくらオレでもあそこまで無茶な内容は要れてなかったよ。単純に、オレとマンツーマンでやり合うだけで。戦闘範囲は1㎞²。魔法は大規模なものあり。ガチンコとことんまで」

 

セロスの説明を聞いて、サァ……と背中が冷たくなったのは言うまでもない。

十分すぎる程鬼訓練だから。精神面は兎も角。

 

「とまぁ、それはまた今度って事にしといて。……問題はコイツら(・・・・)なんだよなぁ」

 

またふわふわやって来た物体の丁度頭部分をぎゅむっ! と掴んで引っ張って前に出してきた。

丁度、ローブの中、顔でも見えそうになったが………、中は空洞で何にも無い様だ。余計に気味が悪く、幽霊と称した方が良いような気がする。

 

「丁度クラウドの仮想訓練開始! ってなった時、コイツが、あぁ、いや厳密には他の奴らがわらわら出てきてな。その辺はティファに聞いたと思うけど。マジでいきなりだったんだよ。クラウドは意識無いから、とりあえず無防備のお前は守る形で陣形取って撃退したんだけど……、なーんか、ちゃっかり仮想世界にまで行ったらしくて。勝手にプログラム書き換えててさぁ。……コイツ、ハッカーにもなれるみたいなんだよ。人間業じゃねぇ精度で。ほんと厄介っていうか何て言うか」

「―――! ―――!!」

「【どんなもんだい!】って感じになんなよボケ。褒めてねーぞ。胸張んな」

 

 

丁度セロスが頭の部分を引っ叩いて、ぱすっ! と乾いた音が響いたが、それでも胸を張っている様にクラウドにも見えたので、苦笑いをしていた。

 

「訓練プログラムを変えたのは判った。……判っちゃいけないような気もするけど、とりあえず無理矢理に。でも、オレが一番気になってるのはあの内容。……どんな状況も生み出せる仮想世界とはいえ、何だか…… その、現実味ってヤツを感じたと言うか、芯に来たと言うか……。あの時の3人組がいた事もそうだけど、その―――」

「悪セフィロスが、なかなか堂に入ってた。って感じたか?」

 

クラウドが言いにくそうにしてた事をズバッ! と言い当てたセロス。

少しびっくりしたが、決して誤魔化す事などはせず、クラウドは頷いた。

 

「ああ。……誤魔化さない。あのセフィロスは作り物だって事は判る。実際に終わったんだから、尚更。……でも、何か引っかかるんだ。……あれも、勿論セロスも……実際にいる本物(・・・・・・・)なんじゃないかって」

 

クラウドの言葉を聞いて、セロスは考えた。これこそが真に来る、と言うものではないか? と思えたのだ。本物、と言う言葉を使っている所も結構堪える。何故ならいわば向こうが本物であり、自分自身は偽物だと言っても良いかもしれないからだ。

だからと言って、交代してやるつもりは毛頭ない。

 

「んーー…… ま、オレもそんな感じはしたな。仮想世界っつっても、会話とか普通に出来たし、憎悪ッポイのも感じ取れたし。……ま、あれだな。ありえたかもしれない未来(・・・・・・・・・・・・)を具現化した、ってオレは感じたかな」

「ありえた? 未来?」

「ああ。ひょっとした切っ掛けで、オレがグレにグレて、頭がヤバイ男になって、この星を全部ぶっ潰してやる! ってなってって感じ? 寧ろあのニブルヘイムもオレが攻撃しまくって、とかさ。歪みに歪んだオレがアイツ(・・・)みたいな? ……言ってて訳わからんけど、――もしも、オレが悪い男だったら? あんな風になってたってのが一番しっくりくるんだよ」

 

セロスの説明を聞いて、クラウドは考えた。

……セロスが言う様に もしも……、昔の様々な事件でセロスが、セフィロスが別の行動をとっていればあんな風になっていたのでは? と聞かれれば完全否定は中々難しい。 歴史に たら、れば は無いとは思うが……、この得体の知れない幽霊みたいな存在が、そういうのを具現化する事が出来るのであれば、更に悪意剥き出しで都合の良い人物像で仕上げたとするなら、……無いとは言えないだろう。

 

でも――

 

 

「今のセロスも結構ヤバイ所あるって思うのは変か?」

「……あん?」

「だってそうじゃん。無茶な事平気でやったり、信じられない事も平気でやり切ったり、この辺りの住民に大体慕われて、挙句の果てには幽霊を懐柔して……。十分ヤバイって思うんだけど」

「やかましいわ! 余計な事言うと訓練内容のグレード3段階くらい上げんぞ」

「げっ!」

 

クラウドの言葉にセロスは一瞬目を丸くしていて、次には怒った様に言っていた、でも、何だか笑っている様にも見えたのは気のせいじゃないだろう。

 

その後、ザックスやエアリス、勿論ティファも話を聞いてたみたいで、皆笑いながらクラウドの言っていた事を肯定。

 

そして何より、今のセロスがセロスであり、クラウドが体験し、そして戦った悪セフィロスが、もしかしたら、あり得たかもしれない存在(セロス) な訳ない! と一蹴するのだった。

 



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5話 魔晄炉爆破計画

すみません。遅くなりました。


 

セブンスヘブンにて。

 

「……壱番魔晄炉を爆破する?」

「うん」

 

セロスはジェシーの言葉を聞いて、【とうとう来たか……】と思うと同時に【なんで爆破なんだよ】と呆れもした。これまでは 魔晄炉関係のアバランチの活動は幾度となくあった。侵入・逃走経路の確保。警備システムの再確認。偽装ID作成……、全てがこの魔晄炉に繋がっているのは勿論ながら知っている。

魔晄炉を止めて、星の命も同然の魔晄……ライフストリームの消費を抑える為に、必要である事も理解できる。……だが、勿論理解できてない部分はある。

 

「それで? オレから【攻撃用マテリア】の買い出しにジェシーが選ばれたって訳か。バレットが直でオレに来るなんて無いしなぁ。アイツ論破すると発狂するし」

「その通~り。……って、発狂は言い過ぎじゃない?」

「辺り構わず銃乱射する様なヤツはそれで良いだろ」

「あ~……、それはそれは」

 

バレットに対する評価は実に辛辣なセロスだが、勿論ながら理由はあるのである。

あれだけバレる容姿、特徴(片腕)をもってながら隠そうとする気ゼロなのも呆れるポイントだ。

 

「あはは。ま、だからさ、主に セロスの【ほのお】のマテリアと【じかん】が必要になってくるんだ。爆弾に関しては私がきっちりかっちり作れちゃうんだけど、どうしても性能はセロスのヤツには圧倒的に負けてるし。魔晄炉壊すってなったら……今回のは失敗出来ないから」

 

ジェシーの本気度は目を見ればよく判る。いつものおちゃらけモードが全く姿を見せていない事からもよく判る。……が、まだまだ判らない事が沢山だ。

 

「【どく】のマテリア……、コンピューターウイルスで大体処理できてた筈だろ? それとも神羅の科学班。アレをもう解析してワクチンソフトみたいなのでも作っちまったのか? ……もう?」

 

セロスは、科学班の進化速度についても考えを巡らせていた。

マテリアは古代種の知識の集合体であり、ライフストリームの結晶体。それを最大級に引き出し、使用しているのがセロス式:マテリア。現段階でそれを超えるのは考えにくい。

 

だが 人間の可能性と言うものの大きさは知っているつもりなので、精度と威力を上回るような科学力はあり得ない! とまでは言えないが、幾ら何でも早すぎるとは思っていた。

 

そして、セロスの考えは杞憂に終わる。ジェシーの顔を見れば。

 

「あー、いやー…… そのー………」

 

ジェシーの顔が変わっていた。

まだまだ表情に余裕があったのだが、不安・心配・悲痛、それらの色々な負の感情がその顔に現れているのが判る。ジェシーにはあるまじき顔だ。

 

「多分、アレ(どく)が強力過ぎたんだと思う」

 

ジェシーの返答を聞いて、大体察するセロス。

 

「何せ、使った時あたりから、かな? 徐々にだけど神羅カンパニーの警戒レベルが上がってきてて、今じゃ尋常じゃないくらいに上がってるんだ。今までは機械制御できる所や、警備機械に任せていたのに、そこにも完全に人員で配備されててさ。それも ソルジャーも2ndクラスが何人もいて……。気付いたのがつい最近でほんと幸運だったよ。気付かずに、当日に一気に【どく】のマテリア使って、全部止めてから行動開始って してたら 囲まれてやられちゃってた可能性が高いから」

「…………ふむ」

 

ジェシーの言葉を聞いて、セロスは考える。

 

確かに、魔晄炉を壊そうとする輩が居れば、警戒するだろう。資源燃料の供給が止まれば損害は大きいだろうから。……だが、内情を少なからず知っているセロスからすれば、大体の予想は付けた。

 

「オレのマテリアを使う前は、盛大に内部外部諸共すっ飛ばす作戦ばっかだったからな……。お手製ジェシー爆弾で。それが一転、スマートな中身のみの破壊になった故に、警戒されたって事か……」

「うん。でも、何だか妙なんだよね。物理的に壊して回ってた時と大してする事は変わらない筈なのに。思いっきり爆破して壊してしまうのとセロスのウイルスで壊しちゃうのって大差ない気がするんだ。……なのに、爆破の時は警備強化なんて なかったのに。ウータイとまた戦争でも再開するの? って思ってしまう程配備されてたから」

「…………」

 

神羅の上層部の考えは大体判っている。

 

破壊して回る以前までのアバランチのままであったなら、それを思いっきり利用する。アバランチの破壊活動に便乗して、あえて規模を大きくする。……何も知らない民衆にまで被害を及ばせ、民衆の怒りを煽り、反アバランチの名目で 自分達を正当化し、一気に本拠地諸共破壊する。

 

 

結果、七番街崩壊 (あの悲劇)に繋がる行動をとるだろう。

 

 

それは アバランチの本拠地があるスラムだけには留まらない。

プレート上の街も全てが崩壊する胸糞の悪い光景。

そして今は 下だけでなく上も知っている身からすると、是が非でもその展開は回避したいと思っているセロス。

 

あの場所(・・・・)があるから幾ら資財であるミッドガルを破壊しても問題ない、と妄信している相手だからこそ躊躇しないので 性質が悪いにも程がある相手ではある……が、だからと言って全部滅する! みたいな手を取るのも正直考え物だ。

 

作られた英雄、会社が勝手に英雄と祀り上げてテキトーに合わせるだけではなく、本当の意味で民衆を率いて立ち上がり、一騎当千を果たす男セロス! みたいなのをやれば行けそうな気もするのだが、生憎そこまで大々的にやってやろう、と言う気も起きない。性分ではない。どちらかと言えば、今のポジションの様ななんでも屋の仕事で手を貸すのが一番性に合っていると思っている。

はっきり言って あまりに大きなものを動かそうとか率いるのは自分のキャパシティーオーバーだ。

 

 

 

 

「だから、お願い出来ないかな? 流石に今回に限っては どう作戦を練っても無理難題が多くてさ。人手不足ってのもある感じ? 陽動作戦とか派手にしないといけないし、そうなってきたら どうしても強力な火力が必要になってくるんだ。あ~ん、もっといい方法とかないかな~~」

「…………はぁ」

 

セロスはため息を吐いた。

ジェシーは言葉の要所要所でセロスの事をチラッ、チラッ、と伺う様に見てくる。

それは、【マテリア、どうか私たちにください!】 と言う感じではなく、【セロス本人が手伝ってくれたらなぁ】的なオーラが出てるのが丸解りだった。

 

そして、ジェシーも馬鹿っぽいが、素で馬鹿っていうワケではない。

セロスが それに気づいているのも判ったようだ。今まで断られているのも判っている。

 

アバランチは 星の為、と言う大義名分を翳しただけのただのテロリストになっている事。無知は罪、無自覚の共犯者、と一刀両断。一般市民を巻き込むようなやり方をしている事。

内情を知っているからこそ判る事があり、それは神羅カンパニーは 確かにアバランチ側から見れば悪の巣窟。でも、そこで働く大部分の社員たちは、生活の為、そして何よりも家族の為に働いているだけだと言う事。

 

それらを知っているからこそ、特に長く付き合いがある同じくメンバーの1人のティファも強硬手段の類には反対の色を見せているのだ。

 

ジェシーはそれらを思い返しつつ、それでも今回に限っては 退くワケにもいかないので、どうにかしないといけない、と表情をきつくさせながら俯いていたその時だった。

 

「わかったわかった。なんでも屋のエース、セロスさんが手ぇ貸してやる」

「!」

 

ジェシーは思わず二度見してしまっていた。

この手の話、この手の依頼に関しては間接的に手伝ってくれてはいたものの(主にマテリア供給)、実際に現場で手を貸してくれた事は無かったから。大規模な作戦は此処の所あまりなかったからよりそう感じるだけかもしれないが。

 

「ソルジャーの連中が動いてる、って言うなら 一応元ソルジャーとしてどれ程の腕前になったか見てやらないとだしな」

 

ひょい、と立ち上がって肩を回すセロス。

それを見たジェシーは、満面の笑みを浮かべた。

 

「くぅ~~、やっぱ 染みるね~。後輩ソルジャーに手解きしてやる、って言うのが特に! わー、とっても有難いよ! やっぱセロスかっくいぃ~!」

「っとと。引っ付くなって。暑苦しい」

「暑苦しいはヒドイじゃんっ! こ~んなかわいい子が引っ付いてるんだよ?? もっとこー、無いの??」

「その堅い装備はなかなか凶器だな。くっつかれてる腕が痛い」

「ほ? んじゃ、脱いじゃおっかなぁ~」

 

するっ、と胸当てを外そうとしてるジェシー。ビックスやらウェッジたちの装備と基本お揃い。赤いバンダナといい、アバランチの公式ユニフォームだろうか。……と言うより幼馴染3人組のユニフォームだろう。

 

ジェシーは、いつもなら 脱ごうとしてる辺りでツッコミが入ってくる筈? と思ってたのに何にも言ってこなくて、胸当てを外しかけてて、若干慌てる。色々と引っ付いたり、面食いである事を公表したりと色々としてる彼女だったが、流石に羞恥心の類は残ってるので、やっぱり恥ずかしい様子。

そこまで大体読んでいて、ある程度焦らして遊んだ後に、セロスはジェシーの額を指先で弾いた。

 

「あんまし はっちゃけ過ぎんなよ? ウォールマーケット辺りに攫われても知らんぞ」

「っ~~~。か、からかったのかー!」

「いんや? 事実言っただけだし、それにお前……実際のソレの堅さ判って無いだろ……。素材がミスリルだぞ? 前に鉱物提供した時に新調したって自分で言ってたの忘れたのかよ。堅さは一級品。つまり普通にマジで痛い」

 

あ、と思い出したのはジェシー。

確かに、以前ミッドガルの外へと赴いていたザックス、クラウド、セロスの三人は、色々と回ってこれまた沢山の素材やら鉱物やらを持って帰ってきてくれた。

街中ではなかなかお目にかからない代物ばかり。掘り出し物としてたまに見かけるくらいの代物。(その掘り出し物~云々も、出元はセロスたち)

それを使って新装備に更新したのだった。

 

確かに思い出したんだけど……。

 

「………いや、セロスぜーーったいからかってるデショ! 確かに硬いのは判るけど、そ、そんな強くやってないーーっ!」

「おお、普段のジェシーからは考えられないなぁ、羞恥心ってヤツ持ってたのか。こりゃ意外だ」

「あたしだって、ちゃんとした イケメン大好きなだけの乙女(・・)だーーー!!」

「………なんつって」

「っ!!? って、わたしの口癖盗るなーーーっ!!」

 

 

普段いろいろと振り回されている、と言うのもあってかセロスは暫くジェシーをからかって遊んでいた。……勿論、今回の任務の重要性やそれに関する不安もあるだろうから、その辺りも考えて気持ちをリラックスさせる目的でもあったりする。

手伝う、と言った以上すべき事はするつもりだから。

 

誰一人として、ライフストリームへと戻させない(・・・・・)為に。

 

 

 

「あ、ところで、一緒に来てくれるのはすごーーくありがたいんだけど、顔バレとか大丈夫なの?」

「うん? ああ、その辺は大丈夫。【へんしん】マテリア使うつもりだから」

 

ひょいっ、と懐から取り出したマテリアを見せるセロス。

セロスが言う通り、このマテリアは【へんしん】の知識が備えられている。へんしん、と言えばセロスの中では【ミニマム】と【トード】の二種しか知らなかったのだが、色々と(・・・)試してみたら、簡単な変装の類は余裕で応用が効くマテリアだった。

考えてみれば、かなりの質量を変えるミニマムと、種族すらも一瞬で変えるトード。この2つだけでも物凄い難易度が高そうな魔法だが、バレない様に変装する程度なら超簡単みたいだった。更に精神力……即ち、魔力の消費も圧倒的に変装系のへんしんの方が少ないので、長時間向き。

以前、顔バレしているザックスとセロスは、へんしんのマテリアの力を使ってプレート上、更には神羅カンパニーの見学ツアーにもぐりこんだ事があったりする。顔を知っている相手が何人も居たが誰一人として気付かれる事は無かった。

 

「へぇ、そんな事も出来るんだね。へんしん、ってちっさくなったりカエルになったりするのしか知らなかった」

「おう。研究の成果ってヤツだな。チャドリーもビビってたっけか」

「ふぇぇ~ 研究者の上を行く! さっすがだね~。しみる~、しびれる~~!」

 

クネクネと身体をくねらせるジェシー。

マテリア関係に関しては、とある事情もあり、セロスの右に出る者は恐らく神羅には居ないだろう。せいぜい流通しているマテリアの効能をしる程度。だからこそ、どくのマテリアによる攻撃にてんてこ舞いになっているのだ。

 

 

そして、その後――。

 

爆破? 計画の詳細について詳しく聞こうとしたその時だった。

 

「ジェシー!! どーだったんだ? あのスカした野郎の反応はよ! 」

 

狙ってたかの様なタイミングでドカッ! と乱暴にセブンスヘブンの扉を開いて入ってきた大男バレットが現れたのは。

そして その肩にはマリンが乗ってる。

 

マリンは、バレットの肩から降りたいのか、腕をふるふると揺すっていた。

そして、降りるや否やダッシュでセロスの方へと向かっていって、抱き着いた。

 

「セロスおにーちゃん! おかえり~~!」

「おう。ただいま」

 

満面の笑顔をセロスに向けるマリン。セロスもマリンの頭をわしゃわしゃ、と撫でてやる。

 

 

その後 バレットは、何だか複雑な想いをしつつも、マリンが喜んでるので最終的には頑張って頑張って頑張って……我慢。

でも、【もっとマリンを丁重にしろ!!】と強引に割り込んできたのだった。

 

 

 

 

 



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6話 魔晄炉爆破作戦スタート

すみません。遅くなりました。


 

 

壱番魔晄炉爆破大作戦、当日。

 

「と言うワケでだ。オレ達なんでも屋は、アイツらが魔晄炉にまで行く間、敵の目を惹きつけておくド派手な陽動担当。……って事は、事前に伝えたよな?」

「おうよ! 勿論だ! 久しぶりの大仕事だな!」

「よしよし判ってるみたいだし、気合も十分。……だけなら良いんだが……」

 

セロスは、ザックスに粗方の作戦を前日に伝えてたので、その再チェックを行っていた。

陽動が成功するか否かで、バレットたちがいる言わば本体の作戦が成功するかどうかが掛かっているのだ。

敵地のど真ん中で派手に暴れるのだから、当然こちらも本隊と負けずとも劣らない程重要な位置にある。―――と言うのにも関わらず、だ。

 

 

「なんでエアリスまで此処にいる?」

「うん? 私??」

 

 

今回の陽動作戦チームは、少数精鋭で攻める予定だった。

 

この程度の規模なら、セロスとザックスの2人なら十分お釣りがくる。

流石にイカれた3兄弟がカムバックしてきたり、沢山のソルジャーのファーストクラスがやってきたり、以前みたいに100人斬り! でもするかの様に敵兵士やモンスターで埋め尽くされるともなれば、大変なので 相応に考えなければいけないだろう。

 

だが、今回は事前情報で暴れる場所での敵の情報等を持っているので大丈夫だ。

 

陽動とはいえ 暴れれば暴れる程、厄介な敵が集中してくると考えられる、それはそれで潮時を見極めれば問題ないし、脱出方法も考えてるから問題視は特にしてない。

 

 

今、問題なのは、前日には作戦メンバーに上がってなかったエアリス参戦の話である。

 

 

頭を少々悩ませてるセロスとは対照的に、エアリスは物凄く良い笑顔だ。

キラキラと輝いてた。

 

「えへへ。私も来ちゃった?」

「んな笑顔で言われてもなぁ。つーか、ザックスよ。自分の彼女をこれから行く場所……、戦場って言える場所に連れてくるって、お前、ソレどーなんよ? どんな趣味? なんか危ない趣味にでも目覚めた?」

「違わい!!」

 

ジト目でザックスを見てるセロスに対し、ザックスは抗議の声を荒げた。

因みにエアリスは何だか楽しそうにロッドを構えてる。

物凄くやる気満々である。

 

「今回の事、それなりに話したら、連れてけ付いてくって聞かなくてよぉー……それで……」

「ほほう。そのまま エアリスに押し切られた、と?」

 

エアリスに話したらどうなるのか、まだまだ付き合いが浅いとはいえ、セロスもよく判っている。なので、そのシーンが目に浮かぶ様だ。ザックスは何度か説得しようとしているが、最終的にはどうにもならなくなって……。

 

「……そのとーりです」

「うわっ、よっわっ」

「だーーー! うっせーーー!!」

 

図星を突かれた、と言う事もあり、自分が気にしてる所を的確についてくるセロスに憤慨するザックス。でも、彼にも言いたい事はあるのだ。

 

「セロスだって解ってるだろうが! こーなったエアリスは言う事ひとっつも聞いちゃくれねーってよ!! 動かざること山の如しなんだってよ!」

「ふんすっ! ふんすっ!」

「いや、擬音を口にしてどーすんの」

 

エアリスは胸を張ってそのとーりです! と言った顔をして鼻息荒くさせてた。

確かに、それもその通りだ。

 

「いやまあ、最初から判っていた事ではあるが」

「判ってたんなら言うなよ聞くなよっ!!」

「それは まぁ、ネタだって思って諦めてくれ。なんでも屋兼花屋の旦那さん」

 

エアリスは幼少期より、過酷な運命を辿ってきてる少女だ。なので、今更何が危ないとか言った所で聞く筈もない。何なら先陣切って飛び込んでいく胆力も持ち合わせている程。

 

でも、一応 ザックスとエアリスは、彼氏彼女の関係になっちゃってるのを知ってるので、セロスはそれとなくネタっぽく心配をしてあげたに過ぎない。―――そもそも、自分たちが傍に居る以上、心配は無用だ。

 

「向こうも、クラウドとティファっつーカップルが作戦に加わってるし。寧ろ本隊に参加な状況だしなぁ。……だから ま、こっちも似た様なもんだって思ってたよ。エアリスが言い出したら聞かないのは最初から分かってた事でもある」

「なら尚更言うなよ! ネタだったとしても、でもしんどいわ!」

「えへへ~ そりゃそーだよね! と言うか、【アバランチ】の【セブンスヘブン隊】に所属する女の子はもれなく み~んな同じだけどねー。みんなみんな強い女の子! 戦う女の子ですっ!」

「そんな名前 初めて聞いたと思うケド。……まぁ、確かにその通りだな」

 

女の子、と言ってもティファを筆頭に、エアリス、ジェシーの3人しかいない。

 

10年以上したら、マリンも入る! とか言いそうだが、その辺までには平和な世の中になっていてもらいたい、って柄にもなく思ったりもしてる。そもそもバレットが反対するだろうが。

 

「さてさて、お遊びはこの辺にして……こっからが本番だ。一応考えてた事話すから」

 

セロスは、ひょいっ、と手に持ったマテリアを掲げながら話を始めた。

 

「うん? 何だこりゃ? 映像??」

「おう。【じかん】のマテリアの派生版【きおく】のマテリアだな。扱いが結構難しいし、精神力も結構持ってかれるから、使うのは正直おすすめはしないが」

「へー、あ、て事は これはセロスの記憶の中の映像? 此処って壱番街の駅?」

「すごーい……、テレビみたい!」

 

 

映像に映された場面を興味津々で眺めてるエアリス。

 

 

それに肯定する様に頷きながら話を進めた。

映像が進むにつれて、その場面場面で一時停止をかけて説明。

 

 

 

「んで、このタイミングでスキャンが3度来る。今はジェシー曰く、【もっとハイテクになってて、1回パスした偽造IDとかでも、余裕で見抜かれる】らしい。んで、見抜かれたらここと、こっちから、わんさか機械兵とか監視機械やらが沸いて出てくるから、そっから列車の外に脱出だな。【バレた!? やべぇ脱出だぁ!!】 っていうのを演出しつつ」

「お! つまり、そこが大暴れポイントか!?」

 

ザックスは、ばちんっ! と拳と拳を合わせてセロスに確認。

セロスは、ボケたりはせず頷いた。

 

「おう。ここの監視は神羅の作戦室全部に届いてる。ハイデッカーのデブに思いっきりやって見せてやりゃ、良い宣伝になるだろうな。ジェシーが言うには、アバランチ(バレットたち)が最近使ってるオレのマテリアで暴れてから 警備がやばくなったらしい。……マテリア使って盛大に暴れりゃ思いっきり目を引けるだろう」

「ぅおう! そりゃ燃える!! 暴れがいがあるってもんだ!」

「おーー! 私も私も! 私にもお任せあれっ! 思いっきりやっちゃうよーー!」

 

陽動が良い具合にハマれば、向こう側も動きやすくなる筈。そして、セロスが言うハイデッカーは神羅の中でも重鎮。その男に目をつけられた、ともなれば他が手薄になる可能性が非常に高い。単純な馬鹿だから、少し煽ってやれば簡単だとセロスは考えてる。

 

「とまぁ、簡単な作戦の概要はこの辺で、ここ、結構重要だからな」

 

セロスは、もう1つマテリアを取り出した。

いや、2つのマテリアを取り出した。

 

「オレ達が面割れれば、色々と今後困る事が多いだろ? 拠点にしてるこのスラムも狙われる。……特にエアリス。作戦に参加するっつーなら、このマテリアは使いこなせる様になってもらわないと、連れて行かないからな」

「えー。ナニそれ?」

「あ、わかった。【へんしん】マテリアだな?」

 

ザックスの答えにセロスは頷いた。

 

「どうしたんだザックス。今日は結構冴えてるな? ああ、作戦前とかはいっつもこんな感じだったか。テンション上がりまくってる癖に、似合わず頭も働いてたっけ」

「おうよ! 似合わずは余計だが、小難しい事考えるのは苦手ってのは間違ってない! んでも、作戦の肝を考えりゃ自ずと解るってなもんなんだよ。前にそのマテリアについてはセロスに説明受けてるしな。ちっと面倒だが 直ぐに慣れた!」

 

【へんしん】マテリアを受け取るザックス。

へんしんのマテリアは、一般的には状態異常の魔法【ミニマム】や【トード】の魔法を発動させる為の媒体となるマテリアだ。

 

でも、セロス特性マテリアは少し違う。

【へんしん】じゃなく【へんそう】出来るのだ。

 

「本人のイメージ力に依存するから、難しい顔の造形は難しいし、キープすんのが大変だけど、ちょっとしたのなら余裕で出来る。髪型とか色とかは勿論な。顔バレたらヤバいのってオレらまんまな問題だし?」

「そうそう。エアリスに関してもそうだ。タークス連中が嗅ぎまわってくる可能性だって十分ある。ほれ、ツォンとか来たら面倒だろ?」

「う~……確かに面倒だよね。バレたら色々と画策してきそうな気もするしー。……レノとかも要注意だよ」

「そっ。だからこそ、そんな時の為の保険を掛けとこうってワケ。行きたいのなら、しっかり変装出来るようになんなさい。じゃなきゃ マリンと一緒にお留守番です」

「ふぇぇ!! が、頑張る! マリンと遊ぶのも好きだけど、私だって皆と戦いたいから!」

 

 

 

 

 

その後――作戦開始時間まで、マテリア使用の練習に励むエアリス。

 

 

元々、マテリア使用に欠かせない精神力(MP)は、ソルジャー出身でベテランといって良いザックスやセロスを除いた他のメンバーと比べても何ら遜色なく、色んなマテリアを修行で使ってるティファ・クラウドにも十分迫っているといって良い。

向き不向きと言うのがあるが、主に魔法で戦うエアリスにとって、マテリアの使用は得意な分類に入る。彼女が古代種(セトラ)の生き残りだから、と言う理由もあるだろう。……精神力(MP)に関しては、本人の力に依存する為、しっかりと訓練しないといけないが、へんしんのマテリアくらいなら多分大丈夫だ。

 

セロスも、【マテリア使えなきゃ連れてかない】とは言ってるものの、十中八九直ぐに覚えて使えるんだろうなぁ、と思うのだった。

 

 

「えっへへ~ どう? どう??」

 

 

――そして、案の定だ。さらっと使える様になったエアリス。 ブラウンだった髪は金きら金な金髪となって、ショート気味、更にパイナップルみたいに上で縛ってて……。

 

「リュ〇ク?」

 

 

セロスは、某機械弄り大好き、水中戦大好き、テキトーに調合したら凄くなっちゃった別の世界の少女を頭に思い浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某日某場所。

 

 

そこは何処か薄暗い場所。

電源のスイッチを1つ、いれると――― 一気に機械たちが起動し、周囲が明るくなった。

 

「今日こそ、特殊マテリアをしっかり回収すんのよ! あんなの見た事無いんだから!! 見逃したらお仕置きだからそのつもりで気ぃ引き締めてやんなさい!」

 

そして、その中で一際デカい声で騒ぐ女の声が響いた。

せわしなく動き回る男たちも居る。

 

お仕置き、と言うワードを聞いた途端、動きが機敏になったのは恐らく気のせいではないだろう。

 

「がはははは。このオレが指揮を執るんだ。余裕で出来るに決まってるだろうが」

「信用なんて0よ。アンタ、一体どんだけのシステム止められてると思ってんの?」

「それはオレの部下が無能過ぎたからだ。だから、こうやってオレ自ら此処に足を運んだんだろうが! なんならお前も要らん。大人しく良い報告待っとけ」

「信用度0どころかマイナス振り切ってるわ」

 

 

醜い言い合いを続ける2人を他所に、無能呼ばわりしてる部下たちは、本当に必死に働いていた。レーダーのチェック、監視モニター増設による確認項目増大したが、それらも秒単位でチェックして回り……、完全にオーバーワーク状態だったが、それでも手は止めない。

 

それ程までに、切羽詰まっていたのだから。……あまりにも、上からの圧力が強すぎて。

 

そんな部下の苦労、上司知らず。

 

2人のやり取りは続いていて――漸く、少し静かになった。

 

 

「……どうせ、今回一発でイケるなんて思ってないケド、少なくともターゲットは絞っときたいのよ」

 

女が監視モニターのひとつに焦点を合わせた。

一般客が乗っている列車の内部の場面だ。丁度、駅に到着したのだろう、乗り降りする為に人が流れていた。

 

「見た事も無い力を持つマテリア。……あれは誰が? 新たなマテリアが発掘された? ……いや、マテリアの潜在能力の全てを引き出した? ……絶対に暴いてやるわ。最大限まで引き出せるんなら、もっともっと面白い事が出来そうだからねぇ」

 

ニタっ、と薄気味の悪い笑みを浮かべる女。―――赤く派手なドレスを身に纏う非常にケバイ女 スカーレット。

兵器開発部門のトップでもある。

 

 

「ふん、貴様は好きな様にすれば良い。……ただ気に入らん連中を潰すだけだ」

 

 

そしてもう1人の大柄な男。

プレジデント神羅の側近であり、その性格は冷酷非道。いつも部下を無碍に扱い会社内では評判最悪の男 ハイデッカー。

 

 

 

この2人は、いつも何故か判らないが、絶対的な自信に満ちていた。

 

だが、昨今では 手に余る状況が起きつつあった。いつもなら補足していた筈の、反神羅 アバランチの動向が見えなくなった。アバランチが来てくれないと、彼らにとっては困るのだ。

 

そして、単純極まりないアバランチに知恵(・・)が備わったのだと判断した。

 

その知恵を捕える、若しくは潰す為に躍起になっているのだが……彼らは知る由もない。

 

 

 

―――自分達の事を知り尽くしている者たちが、今回の相手だという事を。

 



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7話 まさかの遭遇

気付けば1年以上も更新ストップ…………( ゚Д゚)
ゲームを二次小説にするのは、私には少々難しく……、後、他の小説優先してたので………。


もう、見ていないかもですが、結構前に実は1話分は出来てたのを思い出して更新致します。

遅れてすみません……。


 

 

「がっはっはっはっは! さぁさぁ、来てみろ!」

 

 

舌なめずりをし、今か今かと待ち構えるハイデッカー。

厳密に言えば、動いているのは部下たちなので、彼はモニター室でふんぞり返っているだけなのだが。

 

スカーレットは、ある程度の発破(殆ど脅し)をかける事は出来たので、後はハイデッカーと同じ空気を吸いたくない、とでも言わんばかりに……。いやいや、実際に毒を吐いた後に退席した。

 

少々部下たちがホッとしたのは言うまでもない。

 

 

そして、警報システム・モニターの再チェックを行っていたその時だ。

 

 

「邪魔するぞ、と」

 

 

赤毛のツンツン頭、額にはゴーグル型のサングラス、指をビっ! と振る所作。

一体どこのチンピラだ? と思える様な横暴な態度で部屋に入ってくる男が居た。

 

 

「レノ、貴様。何をしに来た? ツォンからは何も聞いておらんぞ」

 

 

大笑いをして、今か今かと待ち構えていたハイデッカーだったが、気分を害されたのだろうか、少々不機嫌そうな顔で赤毛の男――レノの方を睨みつける。

立場的には、ハイデッカーの方が上なのだが……。

 

 

「報告にきただけだぞ、と」

 

 

太々しい態度を変えはしない。

ニヤリと笑って見せるレノの姿に、またしても青筋が立ちそうになったが、レノと言う人物については良く知っているので、軽くため息をしてハイデッカーは向き直った。

 

 

「さっさと話せ」

「へっ」

 

 

最初はどうでも良い。

今は、未知数のマテリア回収、その製作の謎を解明する事以上のモノは無いだろう、と高をくくっていたのだが……、レノの報告内容を聞いて、驚き目を見開く事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壱番魔晄炉爆破作戦。

先行しているのは、バレット・クラウド・ティファ・ジェシー・ビッグス・ウェッジ。

 

 

彼らが速やかに奥まで侵入出来る様に、派手に踊るのが。

セロス、エックス、エリスの偽名トリオ。

 

暴れるだけなら余裕なのだが、後々の事を考えたらしっかりと隠す必要は出てくるだろう。

何せ、エリスことエアリスは、母親―――義理の母は平和に暮らしてる。タークスからも目を着けられている、と言う点では、既に今更な気もしなくもないが、それでも一応は気にしていた方が良いだろう。

 

続いて、エックスことザックス。

彼はニブルヘイムで死んだ、と言う事になってる幽霊人間。ソルジャー1stクラスなので、当然ながら超有名。顔バレでもしたら、【なんでいるんだってばよ!?】となりかねないので、念入りに。

 

武器もバスターソードの様な大柄なモノから、カタナと呼ばれる細身のモノに変えている。

何だかんだ、英雄に憧れがあった様で、同じ形状の武器を使えて嬉しいと楽しそうだ。

 

 

そしてそして、言わずもがな超が幾つもつく……一体幾つ付くのか解らない程超有名人なのが英雄セフィロスことセロス。中身が違うセロス。

彼も表向きでは、ニブルヘイムの北に位置するニブル山にて消息不明、又は死んだとされている。

表向きでは死んだ、と言う事なのだが、死ぬわけないだろ、と言う考えの連中が沢山居て結果消息不明、と言う形で落ち着いた訳だ。

 

何でも超大規模な戦いを複数と行い、山の形を変えた程の死闘の果てに―――星の底にまで落ちていった、と言われている。

 

そんな男の獲物は正宗―――ではなく、魔法・体術主体のスタイルに変更している。

愛刀正宗は、あまりにも目立つので置いてきている。

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、そろそろやるぞ? 心と身体の準備は?」

「問題なし!」

「もっちろん!」

 

 

名前だけでなく、容姿も変わってる3人は電車の座席から腰を浮かせた。

周囲は一体何事か? とジロジロ見てくる。今日もお勤めお疲れ様です。サラリーマンの皆さん、とか色々思いながら軽く手を振って―――。

 

 

 

「「「ええええ!!??」」」

 

 

 

高速で動く列車から飛び降りた。

セキュリティ・スキャンが来る前に飛び降りてるから、明かに不審人物、アバランチの類……と思うだろうけれど、それ以上に高速で移動する電車から飛び降りると言う自殺行為とも言える場面を目撃して、驚く以上の行動をとれなかったのである。

 

 

 

常人であれば確かによくて重症、普通に死ぬ事だってあり得るが、この3人であれば何ら問題なし。

 

 

 

「D分岐点に到着、っと」

 

 

強靭な脚力や身体にモノを言わせて余裕の着地から目的地へと到着していたのである。

機械兵、無人警備システムの格納庫の傍。ここで暴れれば当然目立つ。一気に警報の嵐だろう。

 

敵さんが集中的に来るまでの時間シミュレーションは、VRゴーグルで再確認済みだ。数字に強いジェシーが一緒に居るから、その辺りは安心して良いだろう。

 

 

 

「んじゃ、機械連中には起きててもらうかね。―――3秒後に跳べよ、お前ら」

「おう!!」

「任せて!」

 

 

 

頭の中でカウントをするエックスとエリス。

丁度3秒立った所で、エックスがエリスをお姫様抱っこして跳躍。

一瞬、エリスはギョッ! としたが、直ぐにエックスの身体に抱き着いた。

 

そもそも、単純な脚力はどう足掻いても、どう頑張ってもエリスじゃエックスには勝てない。

何よりも、彼女・彼氏の関係になった以上、守るのは男の役目。―――一緒に戦場に来ているのもどうかと思うが、来た以上はエックスにも男としての矜持がある、と言う事だろう。

 

 

空中に言ったのを確認するや否や、セロスは手に持ったマテリアを全力全開で放つ。

 

マテリアは【いかずち】。

 

雷の魔法を操るマテリアである。

勿論、最大クラスにまで覚醒させている上にセロスお手製の代物。他のマテリアがこれ(・・)を放ったとしてもここまではならないだろう。

 

 

サンダガが、辺り一面に飛来し、その雷は鉄骨や壁面を伝って警備システムへと雪崩れ込む。

警備システムは、人間でいう叩き起こされたも同然な状態で、ビリビリと痙攣? しながらも一斉にやってきた。

 

 

「ひゅ~~、機械はかみなりに弱いって言うケド、こりゃ、想像以上だ。……つーか、あぶねぇな! 喰らったら、あの世じゃねーか!」

「大丈夫だ。お前は殺しても死なん。エリスもいるしな」

「そーそー! あのくらいで慌てちゃうなんて、男らしくないぞ、ざ~じゃなく、……エックスっ!」

 

 

エックスの腕の中で、グーを作り、頬に軽く当てるエリス。

エックスはエックスで、何だか納得がいかない部分はあるものの、あまり時間をかけてられなくなってきたのを自覚する。

 

何故なら、わらわらと出てきたからだ。

 

セロスが決めたサンダガが、全てに伝わり、物理的にぶっ飛ばした入り口から。

スイーパー、プロトスイーパー、カッターマシン、スタンテイザー、スタンレイ……etc

 

 

「やっぱ、随分儲かってるんだなぁ、神羅カンパニー」

「そりゃ、ちょっと前までオレらが務めてた会社だしな! 何だかんだ給料は良かったと思うぜ!」

 

 

バシッ! と拳を当てて笑うセロス。

憧れのカタナを構えるエックス。

 

 

「うーん、花屋はそんなにお金稼ぎ出来ないから」

 

 

エリスは……普通に主要武器であるロッドを持っている。

杖に魔力を込めて攻撃するのが彼女のスタイル。治癒術士(ヒーラー)かと思えば……、まさに侮る事無かれ、だ。

 

 

「えいっ! はいっ! っと」

 

 

クルクル、ぶんぶん、と振るってはドンドン出てくる魔力球が、敵を吹き飛ばす。

本当に見た通りブットバス。

可憐な腕、踊っている様な振舞だと言うのに、その実、物凄く凶悪なのである。

可愛くて、美人な容姿に騙される事の無いように。

 

 

「あっ、なんかエックス! 失礼な事考えてない!?」

「お、オレじゃねーーよ!!」

「……オレじゃねー、とか。そもそも誰もしゃべってなかったんだが」

 

 

 

 

 

陽気な声が響く。

鈍い戦闘音も響く。

 

エックスとエリスが競い合う様に倒しまくる。

結構珍しい後方支援を楽しみながら、セロスも魔法攻撃の手を緩める気配は無し。

 

近接戦闘でメチャクチャ圧倒してくるエックスに加えて遠距離攻撃で殲滅してくるエリスも大概だが、何よりMP(マジックポイント)の底が全く見えないセロスがやはり凶悪過ぎる。

 

支援に回っているから、削る事なんて出来ないし、かと言って攻撃に回られたら、壊れる間隔が倍増しで短くなるだけだから。

 

 

出てきては直ぐにスクラップにされる機械たちの残骸が積み上がっていく。

 

 

 

 

そして、軽く腕を回した後セロスが天井部分に向かってファイガを放った。

 

 

「公開すんのはこの辺にしとこうか。後は現地で直接見に来てねっ、と」

 

 

盛大に暴れてる場面は発信出来た。

敢えてサンダガの影響が及ばない様に力を調節して、残した監視カメラ。

 

どくのマテリアを使った、コンピューターウイルスで、カメラの位置は全て把握済みだ。後はセロスの魔法も加わって、これくらいは余裕なのである。

 

 

機械兵たちの残骸の山が2~3個、数にして100を超えるだろうか。

相当な損害が出た所で、ポップされる間隔が遅くなってきた。

 

 

「そろそろアイツらも深部に行けてる時間帯だ。脱出方法と経路、確認しとくぞ」

「おう! Fの分岐点の点検口から出るんだったよな?」

「ちゃんと頭に入れてるよ! 大丈夫!」

 

 

拳を振り上げる2人組。

どうやら、特に問題なく、安全? に終われる様だ。少々安堵感と言うものが生まれてくる。……まだまだ戦闘中なのだが。

 

 

「ん。オッケーだ。後、ヘイストはかけておくから。走り過ぎて、通り越すなよ? 特にエリス」

「ぶー! 私そんなお転婆じゃないよ!」

「我が身を一度見つめなおす事をお勧めする。彼氏からの助言だ」

 

 

ブーブー文句を言っていたが、エックスからも言われてエリスは沈んだ。……直ぐに浮上したが。

 

 

 

 

そんな和気藹々、余裕な様子の一行だった……が。

 

 

 

 

「おいおい、こりゃ……やり過ぎだぞ、と」

【!!】

 

 

 

主に機械の敵しかいない場所で、人間の声が聞こえてきた。

それもよく知る人物のモノ。

 

そして、一番驚くのはセロスだ。

この時、このタイミングでこの男が出てくるとは想定してなかった。

 

 

「(エアリスがスラムに居なかったから……か? いや、それより)」

 

 

がしゃん!! と山々が崩される。

そこから現れたのは、警棒を持ってるレノと、スキンヘッド・グラサン、ハードボイルドの一言なおっさん。

 

 

「至急、確認しないとな。……ウチにどれ程の損害が出たのか。上司に報告だ」

 

 

ルード。

拳を鳴らしながら近づいてくる。

 

 

 

そして、驚きが更新された。

 

 

「―――――――」

 

 

コインを手の中に持ち、全身白のコーディネイトに金髪オールバック。

傍らには、自慢の愛犬だろう。あの黒い犬ダークネイションが控えている。涎を垂らしながら今にも飛び掛かってきそうな勢いだ。

 

射貫く様な視線を、真っ直ぐ向けてきて、薄く笑いながら言った。

 

 

 

 

 

「久しぶりだな。―――セフィロス」

 

 

 

 

 

次期社長、ここにタークスを引き連れて降臨、である。

ツォンの姿は見えないが。

 

 

 

―――あれ? 確か、今は左遷されてたんじゃなかったっけ? 

 

 

 

とセロスは首を傾げるのだった。

 




レノ事

藤原啓治様


もう1年以上になりますか……。

大好きな声優の1人です。今でも大好きです。

心からご冥福をお祈り致します。


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8話 戦う副社長たち

………超無視していてすみません・・・・・

色々あってこっちの執筆殆ど進んでませんでした……。

リバース出た記念! に何とか1話投稿致します。


 

「こいつは驚いた———が(派手にやればやる程好都合ってなモンか……?)」

 

 

突然のタークスの登場……は、別にそこまで驚きはしない。

小競り合いならこれまで何度かあった。

正直、エックス&セロス、ザックス&セフィロス(善)が生き延びてミッドガルに戻ってきてるのバレてるだろ、と思えるくらいには有ったが……。

タークスのレノとルードの2人だけ。通信でツォンと話をしているのは確認しているので、タークス上層部にも漏れてると思っている。

 

それでも、全面戦争仕掛けてこないのは、敵側(向こう)にも色々と都合が有るのだろう。ニブルヘイムでの戦いの結果も有り、英雄セフィロス(笑)とclass 1.stであるザックスと正面からやり合うのは避けているのか……、或いは他の思惑があるのかは解らないし、ムリに調べようとはしなかった。

 

あくまで、バレット率いるアバランチメンバーの活動範囲内で、極力目立たない様にしていた。そうこうしている内にこの場面だ。

 

驚く事に副社長ルーファウス神羅の登場。

 

記憶が正しければ、この男は現社長であるプレジデントを引きずり下ろす為に画策。

果ては我らがアバランチまでも利用しようとしていた。あまりにも敵意むき出しで思わず笑ってしまったが、少なくともプレジデントよりは有能だと思っているので、さっさと引退して譲った方が良い老後を迎えれるのに、と幾度思った事か。

 

勿論、プレジデントが黙って引退する訳もなくその目論見はバレてしまいジェノン支社の方へと左遷されていた筈。

 

 

「副社長さんが、こんな薄暗い場所で族狩りでもしようって言うのかな……? そーいうのは、下っ端に任せるって思ってたんだが」

 

 

ひょい、と刀の峰部分を肩に二度、三度と当ててルーファウスの方を見るセロス。

ただ、ルーファウスは何も言わない。ただただ、ジッとこちら側を見ている。出方を窺っているのか、或いは言葉の真意? でも探ろうと言うのか……。

 

ただ、1つ言える事はルーファウスは恐ろしく有能だと言う事。

タークスもツォンがルーファウスの片腕になれる程の人材で優秀である。

 

その部下であるルードやレノも……まぁ、クセが強いのが玉に瑕ではあるが、一般人的な視点から見れば十分過ぎる程真面目に働いていて腕も立つ。舐められたら終わり! を常々言い続けているだけのモノを備えている。

 

ただ、それはあくまでも一般人の視点(・・・・・・)からだが。

 

 

「く くふふふ………」

 

 

そんな時だ。

突然、ルーファウスが口元に手を当てて笑い始めたのは。

 

 

「もー、エックスの演技が雑過ぎて笑われちゃってるよ?」

「何でだよ! つーか演技言うな」

 

 

エリスとエックスの2人は、こんな場面でも夫婦漫才やっているが……、生憎この場面はシリアスだ。相手の出方が読めない以上、2人に乗る気はない、とセロスはルーファウスを見据えて居た。

 

 

「なるほどなるほど……、この目で見るまでは信じられなかった――――が、どうやら間違いではなかった、と言う事だろう」

「あん?」

 

 

ルーファウスはそう言って一頻り笑うと、己の腰に備えていた武器可変式ショットガンを手に持つ。銃口を向けられてはいない……が、臨戦態勢に入るのは当然だ。

ピリッ、とした空気を感じ取ったのだろう、漸く後ろの2人も緊張感を持ち、身構える。

 

 

「確認できたからこそ―――だ」

 

 

ルーファウスは前髪をかき上げる仕草をすると同時に、ショットガンを後方地面に向かって背面撃ち。その反動を利用して高速接近。恐ろしい事にいつの間に持ち直したのか、と言いたく成る程の神速で、2丁目のショットガンを取り出しており、特殊加工を施された硬質な銃身で殴りかかってくる。

 

 

「―――ッと!」

 

 

咄嗟に刀を使ってその一撃を滑らす様に往なした。

最前線で戦う次期社長。側近からの信頼も厚いのがよく解る。

 

 

「少し、遊んでみたくなった」

 

 

ルーファウスはそう言うと再び2丁ショットガンを構えた。今度は銃口をこちら側に向けて。

 

戦端をルーファウスが開いた時点で、レノ・ルードも動き始める。

 

 

「さぁ、お相手願おうか。損害賠償も覚悟すると良い」

「お仕事の時間だぞ、と」

 

 

己の武器を最大限に利用した体術でエックス・セリアに迫る。

 

 

「へっ、副社長の指示待ちじゃなくて良いのか?」

「出来る部下は、上司の思惑をしっかり把握し、応えると言うモノだ。ここへきて指示待ちなど二流以下」

 

 

徒手空拳で攻めるルードをエックスが対応。

拳をバスタードソードの腹の部分で受ける。鉄の塊に向かって全力パンチ! をしたのにも関わらず、拳は無事な所を見ると、相変わらず骨密度がヤバい身体をしている様だ。

 

 

「その割に、上司さんの方が先に出ちゃってるけど? 出来る部下さんで把握出来ちゃってるなら、まず先に動くと思うな~~」

「好戦的な上司持つと、結構苦労するんだぞ、と!」

 

 

特殊警棒を武器にするレノは、エリスの放つ魔弾を幾度も幾度も弾き、往なし、躱してゆく。

身体能力、敏捷性がえげつない。魔法と言うモノは基本避ける事も弾く事も難しい。それが使い手が魔力・威力共に豊富なエリスなら猶更難しい筈なんだが、当たり前の様にやっている。

 

 

「へぇ、腕上げてきてんな、おたくンとこの社員は!」

「そう言うキミもソルジャー。私の社員。私は雇い主だ」

「ご生憎。100人単位で兵寄越して、村ごと破壊しようとする会社なんざ、とっくに見限ってんのよ」

 

 

振るう刃から放たれる真空刃。

二度、三度、四度、と接近戦も仕掛けてきたが、基本ショットガンと言う性質状、中間・遠距離戦が主戦場。散弾・スラッグ弾と使い分けてきて、それもリロードも何処の職人芸だ、と言いたいくらい隙なくやってきて厄介な事極まりない。

 

 

「百発百中な訓練は見せて貰ってたが、まさかの接近戦も鍛えてたとはな。知らなかったよ副社長」

「そうだな。私の撃つ弾を百発百中で弾いてくる元部下が居たから方向転換をせざるを得なかった、と言うべきだろう」

「つまりオレのせい、ってか? 何も最前線で戦わなくて良いんだぜ? 戦う副社長さん」

 

 

軽口を飛ばしながらも、2人の攻防は周囲には衝撃波が飛び、地面が揺れ、目的の通りの大惨事(損害額的な意味でも)な状態になりつつある。

レノ&ルードVSエックス&エリスの攻防も激しさを増して来ていて、これまた狙い通り。

後は壱番魔晄炉爆破作戦の主役であるバレット・クラウド・ティファ・ビッグス・ウェッジ・ジェシーが上手く出来るか……に掛かっている。

 

因みに、爆弾の威力もセロスが人知れずジェシーに再確認する様に、と何度か言っているからセロスが知るレベルの爆弾テロには通常なりえない。……敵側が多く爆弾を仕込まない限り(・・・・・・・・・・・・)

だから、必要以上にジェシーが自分を責めたりはしない筈だ、とも思っている。

 

 

「全ての弾丸は処理されてしまうな。このままでは経費の無駄遣いだ」

「なら撃つの止めたら無駄遣い無くなるぜ?」

「いや、もう少し遊んでみたい。……これが良いだろ?」

 

 

ルーファウスがそう言って懐から取り出したのはコイン2枚。

華麗にコインロールをかまして見せつけてくる……が、アレが何の変哲もないただのコインだとは思えない。

此処は買い物する場所じゃないのだから。

 

 

ピィン――――。

 

 

コインロールで往復させた後、ルーファウスは2枚とも上に飛ばす。

くるくると回転しながらある程度の距離まで来たら勢いを失って重力に従い戻ってくる。

 

コイントス2枚か? と一瞬思った―――が、それは当然ながら間違い。

 

 

「うおっっ!!?」

 

 

2丁ショットガンを構えて落下してくるコインが丁度水平になるタイミングで撃つ。

すると、稲光でも鳴ったのか? と思える音と共に赤く発光したコインがまるでレーザービームの様に迫ってきた。

 

 

実体のある弾丸なら弾くのは問題ない―――が、レーザー(アレ)は駄目だ。武器が壊れてしまう。サイドに転がる様に躱すと、レーザーを撃った軌道上にある壁が綺麗に貫通している。無駄な破壊をしない、壁にヒビさえ入ってない。

 

 

「新しい兵器(玩具)を仕込んでいたか」

「楽しいだろう? これでもっと遊べるな」

 

 

懐から更にコインを取り出すルーファウス。

 

 

コイン(そっち)の方が弾より高くつきそうだ」

 

 

中間距離は駄目だ、とセロスは接近戦を選び、ルーファウスに迫るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方壱番魔晄炉に到着した一行はと言うと……。

 

 

「ほいっと、一丁上がり!」

 

 

ジェシーの攻撃が、敵兵の鳩尾に突き刺さった。

 

 

「ジェシー、腕あげたね?」

「そりゃまぁ、今の時代。もっともっと強くならないと、でしょ? ティファ(そっち)も強さに磨きがかかってるわよ」

 

 

少し離れた位置で、2人を手玉に取り、文字通り見た通り一蹴してみせたティファが合流を果たす。

 

 

「一応、オレがソルジャーで戦い専門なんだが……な」

 

 

やる仕事を奪われた、と言わんばかりに苦笑いをしながらやってくるクラウド。

 

 

「仕事量が減ったからって、報酬減額にするなよバレット」

「しねーよ。そこまでケツの穴ァ小さくねぇ」

 

 

巨漢・片手武器な男バレットも同じく。

このメンバーは女性陣が強い。

 

 

「オレ達の仕事(出番)も無いかもな」

「戦いは別! 他の分野で活躍するっスよ」

 

 

ビッグスとウェッジ。

主に作戦立案と情報収集がメイン。武力方面はからっきし……と言う訳じゃないが、武器は一通り扱える。接近戦で暴れる2人の女の真似は出来ないが……、それでも出来る事をしっかりしよう、と自分で自分を戒めている。

 

そう強く思う切っ掛けは当然……ここに居るクラウドや違う場所で戦ってくれているセフィロス、ザックス達だ。

 

本当に格好良くて男でも惚れそうになる。

ただの営利目的、利害関係で一致している様に見えて、それでいてちゃんとアバランチの思想、星の事を考えてくれている所も最高に格好良い。

 

 

「ジェシーも元々は整備担当だったんスけどねぇ~……いつの間にか超武闘派っス」

「今は女も肉弾戦! って張り切り出したんだよ。……色々察しろ」

「わーってるっスよ。何年付き合ってると思ってんス? つか、同じでしょーに」

 

 

ビッグスとウェッジはそう言って互いに苦笑いをする。

そうこうしている内に、主だった見張りを片付けてくれた様だ。仕事が本当に早い。

 

 

「おうお前ら! こっからだぞ、集中しろ」

「もち!」

「やるっスよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

関係者以外は閉鎖された扉も意味を成さない。

ものの数秒でシステムを突破し、解放を続ける。

 

 

「ん~~、脳筋だけじゃない、ってね?」

「ちょっと、誰に言ってるの」

「さぁ? でも、こんな事出来るのは私くらい、って主張はしとこうと思ってね」

 

 

元々整備担当。

偽装IDやらシステムのハッキングやらはお手の物。そのおかげで列車での道中のセキュリティを突破出来たのだ。

 

 

「はいはい。随分最近気合入ってるけど、何か良い事あったの?」

「さぁね~♪ ま、私に無いモノ(・・・・)持ってるティファに対して、負けん気が出たのかも?」

 

 

そう言って取り出すのは緑色に輝く宝玉―――マテリア。

それは《どく》の古代種の知識が蓄積されている。通常なら、相手に対して毒を盛るえげつないだけのマテリアなのだが……コイツは一味違う。

 

 

そっと口づけをして、ほいっ! と良い掛け声と共にそのマテリアを押し付けた。

 

 

すると、紫色の稲光が機器類に縦横無尽に走り―――軈て目に見える範囲の赤く発光しているロックを表す警告色が消失。

 

 

「痺れる~~」

 

 

良い笑顔を浮かべて、仲間たちに向かって親指を立てる。

時間短縮―――考えていた以上に達成できそうだ。

 

 

「なるほど。……でもま、セロスは鈍感な所あるから、強く責める事を御勧めしておくね?」

「あーーー、そーですかー! 彼氏持ちの余裕ですかーー! そんなん最初っからわかってます~~!! ラスボス級なのわかってますーーー! あーもう! 何で私だけ!!」

 

 

敵陣ど真ん中、と言っても過言ではない場所で響く陽気な声。

 

 

「お前ら真面目にやれ!」

「「ごめーん!!」」

 

 

流石に緊張感無さすぎだろ、とバレットは叱責をした。

でも、敵兵が集まってくる様子は今のところは無い。

 

 

「あっちも上手くやってくれてるって事か。ジェシー。そっち側のモニターはどうだ?」

「もち。最初っから確認してるよ」

 

 

ジェシーは端末を操作して、陽動作戦をしてくれている側周辺の監視カメラの状況を確認。

漏れなく全てが消失。所々復帰している様だが、もう一瞬でプツリ、と消えている。

 

現場確認をするには、現地に行かなければならない状況にある、と言う訳だ。

 

 

「必要最低限の警備で、他は全部向こうに流れる~って手筈。さっすが優秀!」

「元英雄+元ソルジャー組だ。それくらいやって貰わねぇとな!」

「ちょいちょい、花屋を忘れずに。エアリス拗ねちゃうよ?」

「忘れてねーよ! この場にそぐわないから口に出してねぇだけだ」

 

 

セロス側の事は信じて疑ってない。

この場の誰も。

 

バレット達の会話に参加していないが、当然クラウドも。

 

 

 

ただ――――この後起こる(・・・)ことだけは……想定も想像も出来なかったんだ。

 



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9話 迷惑な影

【神羅ビル70階 プレジデントルーム】

 

 

 

「ハイデッカー。……説明を」

 

社長室には2人。

息を切らせたハイデッカー、そしてハイデッカーを椅子に腰かけたまま問いかけるプレジデント。

語尾が多少強くなっているのは今回の報告がいつも以上に遅いから、と言うのもあるがそれ以上に想定していなかった事態の報告が上がってきたからだ。

 

 

「申し訳ありません。ただ、ツォンとの確認が取れました。間違いなく副社長が忍び込んだ族、ドブネズミを抑え・捕縛に向かっているとの事です」

「ふむ………」

 

 

プレジデントは椅子から立ち上がる事なく、ハイデッカーの報告を聞いて少し思考に耽る。

副社長は息子であるルーファウス。

 

とある事情で、ジェノン支社へと回していた筈だが……。

 

 

「利用できるものは全て利用。野心無くして向上はなし……、だが、その利用しようとしていた者達を捕縛に……抑えにかかると言うのが解せんな」

 

 

脳裏に掠めるのはハイデッカーの言う今回の侵入者同様のドブネズミ。

プレジデントの命を狙ったアバランチ(ドブネズミ)の存在の事だ。

 

そのアバランチに情報をリークする等して、魔晄炉を含めて幾つかの損害を被った。その責任を追及し、社長の座を早々に狙おうと言う魂胆だった筈。

 

息子は極めて優秀だ。だが、少し――――ほんの少しだけ、父親である自身を軽く見ていた節があった。そこに隙が生まれ、そして破綻した。

能力の高さは当然買っているし、事を起こしたとはいえゆくゆくは継がせる事も吝かでは無かったのだが……、それは事前に伝えてある。カリスマ性もあり、今後の神羅発展には欠かせない存在となっているから、仮に心情的に否定しようにも完全に排斥させるにはデメリットがあまりにも大きすぎる。

恐ろしい存在になったモノだ、と思っていた矢先での今回の件。

 

 

「愚行を悔い改め―――……と言う訳でもあるまい。あ奴を性格を考えれば、尚更」

 

 

以前事を起こした責任は既にジェノンへの左遷と言う形で果たしている。

それでも尚、自身の命を狙った連中捕縛に自らが動くのかは解らない。絶対に何かがある、と睨んだ。

 

 

「ルーファウス……息子の動向を探らせよ。無論、可能な範囲で構わん。内部抗争なぞ誰も望んでおらんからな。……だが、無論その牙がドブネズミ側に向いている限りだ」

「はっ」

「して、監視の復旧はどうなっている?」

「………それが」

 

 

現在、確認出来ているのは壱番魔晄炉に侵入してきた6名、

そして路線D分岐点に3名。

 

全て目視での確認及び報告だ。監視カメラの全てを駄目にされている。

物理的に悉く破壊されたかと思えばシステムERRORが頻発して早急な復旧が不可能になってしまっている。

 

今日こそはと、舌なめずりし、意気揚々と構えていたスカーレットがギャンギャンと耳障りに叫んだり、一兵卒に八つ当たりしたりと色々と大変だった。……一番ある意味大変になるのは、プレジデントに報告をしなければならないハイデッカーなのかもしれないが。

 

 

 

「聊か骨の折れる案件となりそうだ。……早急に対処せよ」

「はッ!」

 

 

双方にとっても、長い長い夜はまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【壱番魔晄炉】

 

 

セロス特製《どくマテリア》で、警備システムの殆どをdownさせている事、加えて陽動作戦を派手に行っている事もあって人員的にも大分削れている。

 

 

「拍子抜け、ってもんだなぁおい! てめぇらがわちゃわちゃしてる間に、星の悲鳴の借りってヤツを返してやるぜぇ!!」

 

 

普段より倍増しで喧しい事になっているバレットは、右腕に愛銃を振り回しながら前進中。他の面子もかつてないくらいに楽な仕事だったので警戒心が揺らいでいた……が。

 

 

「気を抜き過ぎるな」

 

 

クラウドの【破晄撃】の一閃が飛ぶ。

剣士は近距離専門~とは限らない。強烈な剣圧・剣気を纏い振るった一撃は、高速で向けられた対象に放たれる。

 

丁度、バレットやビックス、ウェッジの頭上に有る警備兵器を切り裂いた。

 

 

「うぇぇ!? 何で何でっスか!? セロスの兄貴が全部やっちゃってくれてたんじゃないんスか!?」

 

 

がしゃんっ!!

 

ウェッジの丁度前に落ちてきたから、思わず飛びのいた。そのふくよかな腹部の割には機敏な動きをしていて、クラウドは思わず目を丸くさせた。

 

 

「セフィロ……、セロスをあまり頼りにしすぎると、いざと言う時自分で戦えなくなるぞ。立ち方も忘れてしまいかねない。最後の最後でモノを言うのは自分自身だと言う事を忘れるな」

「ぅぅぅ……、すまねっス、クラウドさん……」

 

 

クラウドはウェッジに手を伸ばして引っ張り上げる。

 

 

「おいおい、そりゃ反省文提出案件だが、実際どーいうこったよジェシー。ここらの警備システムは全部落ちたんじゃねーのか?」

「うーん……、あ、賢いかも?」

 

 

ジェシーが切り裂かれた警備兵器をマジマジと見ながら確信していた。

 

 

「これ、オンラインで繋がってないタイプだ。個々で独立して勝手に動くタイプの中距離連射型の警備兵器。回線で全部繋がってるヤツなら、セロスのウイルスで一網打尽に出来た筈なんだけど。独立してるからそもそも感染(・・)しないってことか。―――――まぁ、こんな旧型兵器がまだ使われてるなんて思っても無かった。供給とかその他諸々の運用費がかかりそうだし、そもそもメチャクチャ不便だし」

 

 

ジェシーは、バレットの胸をこつんっ! と叩く。

 

 

「でも見逃してたのは事実。クラウド居なかったら大変だったかも? こりゃ~私も反省文書かなきゃだね。バレットと一緒。誰に提出する? やっぱセロスかな?」

「うーん……セロスはそんなの貰っても嬉しくないって思うかなぁ。何なら『邪魔。いらん。燃やす。つーか、ゴミ焼却担当にするな』とか言って、即処分しそう。リーダーとして、最善のけじめのつけ方も、色々考え解かないとね? バレット。私だったら《コスモキャニオン》を奢るけどなー」

「ぐぬぬぬぬ」

 

 

先頭に居たのはバレットやビックス、ウェッジだ。その後ろにジェシーとティファ、クラウドが続く。クラウド程は反応が早く無かったが、ティファはしっかりと気付けていて、何ならクラウドの次に反応しているくらいだ。

 

 

「報酬倍増し? くらいか。なぁ? バレット」

「これ以上あげたらマリンの将来の積み立てが……」

「あー、それセロスの兄貴に言っちゃうっスか? マリンちゃん可愛がってるセロスの兄貴には大ダメージっスね」

 

 

マリンとセロスはもう大の仲良しだ。

基本臨時でしか入らないアバランチの活動。それ以外はスラムでのなんでも屋。遊べる時間が作れるのはティファの次にセロスなのだ。

そんなマリンが将来貧困に~と考えたら報酬倍増しと言うのは、セロス自身の良心が痛むだろう……。

 

 

「とにもかくにも!! 全部終わらせてからだ! それから考え―――る!!」

「あ、逃げた」

「逃げたっス」

 

 

だだだだーーー! と巨漢に似合わずスピーディにバレットは先へと駆けていく。しっかりと動ける警備兵器らを無力化はして言ってるので、反省は十分している様だ。

 

 

「ふふふ。知らない所で色々やられてるセロス。今頃クシャミしてたりして」

 

 

想像して笑うジェシーは、改めてクラウドの方を見て言った。

 

 

「それにしても中距離連射型の警備兵器を剣で仕留めるなんて凄いね? もしも動いてたら? って想定してなかったわけじゃないけど、近接戦主体な私やティファ、クラウドの剣も苦戦は必至。バレットに頼る場面だな~って認識だった。拳銃程度じゃ壊せないし。まーた腕あげたんじゃない?」

 

 

ぐりぐり~~と、脇腹辺りを肘で付く。

クラウドは、そんなジェシーを鼻で笑う。

 

 

「鍛え方が違うんでね」

「まーた、格好つけちゃって~。……でもまっ、師匠があまりにも凄すぎるし? あのくらいやんないと格好がつかない、って感じかな? うんうん。理解できるっ!」

「…………ふんっ」

 

 

軽く拗ねた様にそっぽ向くクラウド。

ジェシーの指摘は正しい。クラウドの剣の師はセロスだ。セロスの元で鍛えて鍛えて頑張ってきている。

 

でも鍛えて鍛えて鍛えて―――――その度にセロスやエックスが遠のいていく様な気がしてならない。

 

2人は魔晄を浴びた結果だと言っていた。人体に極めて有害であり、更にちょっとしたズルをした結果だとも言っていた。だからクラウド自身もその力を頼りたい、願いたい気持ちでいっぱいだった。

 

でも、首を縦に振ってはくれなかった。

宝条の様な人体実験をするなんてゴメンだし、何よりクラウド自身の問題だってある、と。

魔晄を浴びるのは……そして2人がしている様なズル(・・)をするのは極めて危険だから。

 

「――――っと」

 

だから、長い年月を共に老いるまで、老いた後も大切な人を守れる様に素のまま強くなる事が良い。どうしても、同じ様な力を求める。手に染めたい、と言うのならその時点でもう教える事は何もない、とまで言われた。

 

 

「――――ょっと!」

 

 

大切な人を守りたい。いつまでも傍に居たい。だからこそ強さを欲しているのに……そう言われてしまえばクラウド自身も納得するしかない。

 

 

「ちょっと!! もう、クラウドっ! 聞いてるの!?」

「ッッ!!?」

 

 

ここで漸くクラウドはティファの存在に気付く。

直ぐ横で名を呼んでいたのに、クラウドの耳には届いてなかった様だ。傍から見たらクラウドが無視している様にも映る。

そして、ティファにはクラウドが考えている事なんてお見通しの様だ。

所謂恰好付けの延長みたいな感じだと。ジェシーもそのくらいなら解る、と笑っていた。

 

でも、やっぱり妬けてしまうのは仕方がない事で……。

 

 

「はぁ~~~、やっぱ、現時点で私にトキメキをくれる男の子はセロスだけかぁ~~。他は皆相手いるし。――――それに、こいつらじゃねぇ??」

「悪かったな」

「悪かったっスね」

 

 

ティファとクラウド(若い2人)を見て、何処か青く甘酸っぱい気分になる。

そんな事を興じている様な暇は、星が滅ぶかもしれないこの世界には無い、今の時代には無い……筈なんだけれど、それでも未来は安泰だと思いたくなる光景でもあった。

 

 

「えー? そこは【オレらも頑張るぜ! 負けないぜ!】くらいは言って欲しい場面なんですけどー? 幼馴染な男の子たちに望む乙女な女の子の意見よ? 所謂ティファがクラウドに求める意見? みたいなもんよ~?」

 

 

少々男らしさが出てない幼馴染2人に辛辣な意見を告げるジェシー。

でも、当の2人はと言うと、何処か遠い目をしている。

 

 

「そりゃ比べられようとしてる相手が……」

「あまりにも悪過ぎるっスよ。もう範疇外っス。やる前に降参っス。だから出来る事を最善にっス! それが一番良いっスから! いい具合に肩の力抜けるし、飯も捗るっス!」

「だからってお前は飯食いすぎ。太り過ぎ。セロスにも言われてたろ? もっと痩せて力も付けたらマテリアの効率運用も出来る~って。基本身体が重要なんだからよ」

「うう~~~~、それ言われたらキツイっス……」

 

 

今でも時折腹の虫が鳴くウェッジに苦笑いするビックス。

 

 

「ただ、たまにの息抜きに俺らみたいなのが居ても良いだろ? そりゃ、星を救う過程で昔っからの馴染みの幸せ1つ願う気持ちだってある。……が、如何せんジェシーが共に並び、共に有ろうと願ってるステージは高すぎる」

 

 

人が英雄であるとバケモノであると呼ばれる様な、そんな猛者たちが鎬を削るそんな領域。

一般人で辿り着けるなんて思えない領域。

 

時にすり減って摩耗して、疲れてしまうかもしれない。そんな時に一休み出来る場所くらいは用意して上げれる。

 

 

「へへーん。ざーんねんでした! 私は止まるくらいなら前のめり~が心情なのっ! それが気になってるイケメン相手であれば尚更ね」

 

 

そんなジェシーの返答がコレ。ウインクまでしている。

でも、その眼は優しい光を放っていた。

 

 

「でもま、ありがとね。一応覚えとく」

 

 

 

 

だだだ~~~! っと先に行った筈のバレットがなぜか同じ勢いで戻ってきた。

 

 

「魔晄だまりのブリッジに案内するのはクラウドの仕事だったろ!? 早く案内してくれ!」

「いや、バレットが勝手に突入していったから、てっきり知ってるモンだと」

「そんな訳ねーだろ! 何で神羅内部構造知ってるって思ったよ!」

「いやだから、勢いよく――――」

 

 

ここぞとばかりに解ってる筈だから明らかに意図的に弄る弄るのはクラウド。

格好着けモードから弄りモードへと切替たのか? と周囲は笑みを浮かべる。

 

でも、そんなお気楽ムードはここまで、と気を新たにした。

ここから更に内部内部へと入ってく。セロス達の陽動でかなり削げている筈だが、ここから先は違う。

 

 

「取り合えずここの扉は解除しとく。色々無効化してくれてっけど、こういうのは現場で直接触らなきゃだから――――なっ!」

 

 

ビックスが扉を解放した。

 

 

「―――作戦前にも言ったが、魔晄炉は建造された時期によって構造が違うし、オレ達は専ら外だ。ビッグスじゃないが現地で確認するのが最適」

「つまり、どーいうことだ?」

「この型式は始めて視る構造だが、何とかなるだろ、って事だ」

「よっしゃ! ぶっ潰しに行くぜぇぇぇ!! 星の悲鳴を止める為にもな!」

 

 

バレットが興奮気味に入っていくが、クラウドが手を伸ばして止めた。

 

 

「何か……居る?」

 

 

ティファも警戒を露にする。

確かに警備は手薄になっているが……、人員の代わりに配置されたモノがあった。

 

 

「スイーパーだ。……でも、こんなに居るの全然報告に無いんだけど??」

「多分、セロス達の影響だろうな。警報兵器、監視系、全てダメにされた。そして動向の監視は出来ずともオレ達が此処に乗り込んでいるのも恐らくバレてる。……物量で始末する為にって所か」

 

 

ぶんっ、とクラウドは剣を抜いた。

スイーパーが所彼処も動き回っていて隠密に潜入~なんて真似は出来ない。普通に警備兵士よりも多く配置されているのだから。

 

 

「ただの鉄屑だろ! ぶっ潰してやる」

「ああ、同感だ。スクラップにしてやる、と言いたい所だが、攻撃力と防御力は当然一般兵の装備とは桁が違う。舐めてかかるなよ」

 

 

クラウドとバレットが飛び出した。

 

 

「こいつに接近戦はオレ達がやる。ジェシー」

「はいよ! お待ちかね~~~マテリア!」

 

 

ジェシーは、器用にくるくるとマテリアで遊ぶと最後にキスをした。

 

 

「セロス特製だぞ☆」

 

 

金色に輝きを見せると同時に、幾重の稲光が場を包む。

いかずちのマテリアだ。

 

 

「どっわ!! あぶねえなオイ!」

「これくらい避けれないでどうするの、バレット!」

「いやいや、ティファ! 最近お前脳筋になってねぇか!? 普通雷避けれねぇからな!?」

 

 

クラウドと共に有ろうとするティファも同じく接近戦で挑んでいる。鉄をも粉砕するグローブを身に纏い、こちらもセロス特製のマテリアで存分に打ち込む。

 

 

「やるな」

「ふふ。ひょっとしてクラウドは守られる、守ってもらうお姫様みたいな子が御望みだったかな?」

「いいや。背中を守れて、守られてで良い。ティファはそれが良い」

「了解!」

 

 

息の合った連携攻撃。

ジェシーの雷をものともせずに突っ込んでいく。

 

 

「何だあいつら!! バケモノかよっ!?」

「撃て!! 撃て撃て!! 数じゃこっちが勝ってんだ!!」

 

 

兵士たちもその光景に度肝を抜かれるが、ここを突破される訳にはいかない、と銃を打ちまくる。

……が。

 

 

「オレ達から目を離しちゃ……」

「駄目っスよ! びりびりの刑っス!」

 

 

ビッグスとウェッジが示し合わせて投擲する。

プラズマグレネード。サンダーの効果がある投擲武器だ。マテリアの様な派手さはないし、範囲も決して広いとは言えないが、その分使い手によっては攻撃に移る初動が読みにくく、扱えば誰でも必殺の武器になりうる。必殺にする為の武器に。

 

 

「「「「「ぐおおお!!!」」」」」

 

 

「スイーパー相手にゃちょっと火力不足だが、人体相手なら効くだろ?」

「あの4人にボコボコにされるよりはマシっスよ」

 

 

こうして苦戦らしい苦戦をせず問題なく突破していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別の場所にて。

 

 

 

陽動作戦チーム VS 神羅副社長チーム

 

 

 

 

 

「ったく、ここら一帯を穴だらけにする気かよ。線路崩落してもオレぁ一切弁償しないぞ」

 

 

レーザーコインをさっきからルーファウスは惜しげもなく使ってくる。

流石は副社長。資金は山の様にある、と言う事なのだろう。それが魔晄を吸い上げた結果だと言うのなら、バレットではないがちょっとイラっとしてしまった。

 

 

「いや、それはおかしな話だ。君が対処をしてくれているから穴だらけになる心配は無いではないか」

「何でオレが対処前提の攻撃になってんだよ」

 

 

コインの攻撃は正しく光線(レーザー)。鋼鉄の壁をも一瞬で貫く防御不能の攻撃だ。避けるだけなら問題ないが、時折エアリスやザックスを狙ってくる。更に散弾の様にばら撒いてきたりもする。

だから、対処せざるを得ないのだ。

 

 

「結構神経使うんだよ、マテリア(コレ)

 

 

【しょうめつ】のマテリア。

そこから発動するは【デジョン】

確か、遠い昔の記憶を辿ってみたら、別の名前のマテリアだった気がするが……使えるのだから問題ない。

 

ルーファウスの撃つレーザーを悉く極小の黒い穴の様なモノに吸い込まれていく。

 

 

「それで私を直接転送させれば良いのではないか? 何処に行くのかは解らんのが恐ろしい所ではあるが」

 

 

デジョンの特性を見抜いたルーファウスは恐ろしい、と言いつつも笑っている。

そんなルーファウスを見てセロスも笑った。

 

 

「いや解ってて言ってね? このくらいのサイズなら問題ねぇが人間大を別次元に放り込もうとすりゃ話は別。色々と半端無ぇの。そんなんでケリつくなら、とっくの昔に どっかのはた迷惑な3兄弟連中に使ってる。星の底じゃなくて宇宙の果てに送ってやってるよ」

 

 

確かに一撃問答無用系の魔法は本当に強力だ。

基本的に即死体勢を持つ者は少ない。……自分が知る世界(・・・・・・・)とまったく同じなのであれば、耐性を持つモノはそれなりには居たが、少なくとも見た事は無いし、使ってる者も見た事がない。

 

つまり、自分が実践で使用した第一人者、と言う事なのだろう。だから、報告はしていない。

 

 

何より、この手の魔法は相応のリスクが有……と言うかデメリットしかない。

 

 

例えば一撃必殺の【デス】も【デジョン】同様に問答無用で勝敗を決するが、その代わりに(代償に)疲労困憊所じゃない。向こう数週間は全身疲労全身筋肉痛に加えて吐き気、熱などが増し増し。動けなくなる。

 

野生のドラゴン相手に使ってみた結果、遠征先で大変な目に遭ったので二度と使わない事に決めている。この秘密を知っているのは同僚の2人だけだ。

 

それにマテリア技術については神羅は他の何処よりも精通している為、そんな殺戮兵器を気軽に使えるようになってしまったら、小競り合いの歴史や戦争などをすっ飛ばしてとっくの昔に神羅カンパニーは世界の覇権をにぎり、アバランチらも潰して跡形もなくされているだろう。

 

 

「く、くくく。……成る程。三兄弟(・・・)、か」

 

 

ここでルーファウスは銃を降ろし、携帯型通信端末を起動させた。

 

 

「もう良い。大体わかった。―――退くぞ」

『『はッ』』

 

 

それは、レノやルードに対する指示。セロスにも聞こえてきた通り、この場から撤退するとの事だ。

 

 

 

「次会う時まで、もうちょい鍛えとけよぉ! ぜんっぜん物足りねぇからな」

「へ。減らず口に加えてやせ我慢は格好悪いぞ、と。彼女の前で格好つけたいのも解らなくもないがな、と」

「そんなんじゃねーし!!」

 

「次あっても変な邪魔しないでよね、ルードも」

「それは難しい相談だ。こっちは仕事だ。……そもそもお前達のしようとしている事を邪魔するな、とは。……エアリス。ひょっとしてお前、周りに毒されて頭悪くなってないか?」

「そんなことありませんーーー! って言うか、私はエリスですーーー! エアリス~~なんて、可憐で素敵な花売りの美少女じゃありません~~」

 

 

一先ずエックスにもエリスにもケガは無さそうなので安心した。

 

 

 

 

「もう満足したのか? なら、次いでに話してけよ。信じられなかった、ってのはいったい何の事だ?」

 

 

セロスも武器を仕舞った。

ルーファウスの出方を見極める為に、警戒を解くまではしていないが。

敵側の増援が来るのももう少し先になるだろう。ルーファウスがそれを狙っているとも思えない。そもそも、戦いの最中それなりに神羅兵士たちが集まってきていたが、皆等しくルーファウスの姿を見て驚いていた為、まず間違いなくこの戦いたい副社長の単独行動だと言う事が解る。

 

 

「私の知るキミとは随分違った、と言う事だ。……セフィロス」

「セフィロスは可哀想に、オタクの会社が地の底にまで落としちゃっただろ? だから、ここに居るのはスラムのなんでも屋のセロス兄さんだよ。違って当然だ」

 

 

そうこう話をしている内に、レノとルードが、そしてエックスとエリスが戻ってきた。

 

 

「じゃあもう1つ。大体わかった、ってのは?」

「ふむ。答える義理は無いと思うがな。無条件で1つは答えてやっただろう? これ以上は強欲と言うモノではないか」

「神羅の次期トップが、他でもないお前が他人の事強欲とか。笑えるな」

 

 

その飽くなき欲、野心故に実の父親を引きずり降ろそうとした男の言葉ではない、と一頻り笑った後、セロスは眼つきを鋭くさせて言った。

 

 

 

ルーファウスの周囲にさっきから飛んでいる(・・・・・)影の件もあって、何となく……嫌な予感はしていた。

 

 

 

 

 

「何となく察したたんだがな、ルーファウス。……まさか、お前んトコにも出たり(・・・)してねぇか? あのはた迷惑なガキ共(・・・)が」

 



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