ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 (HAY)
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プロローグ
第1話 “鏡”


とある世界のとある時代―――

そこはかつて海賊王と呼ばれた男“ゴールド・ロジャー”が残した宝、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)をめぐり、多くの海賊たちが海を行く“大海賊時代”を迎えていた。

 

そしてここにも海賊王を目指す男と、その仲間たちがいた。

 

「にしし!楽しみだな~“魚人島”!」

 

船長“麦わら”モンキー・D・ルフィ 懸賞金3億ベリー

 

「ぐこー」

 

剣士“海賊狩り”ロロノア・ゾロ 懸賞金1億2000万ベリー

 

記録指針(ログポース)もだいぶ下を向いてきたわね」

 

航海士“泥棒猫”ナミ 懸賞金 1600万ベリー

 

「けど海底なんて、どうやって行くんだろうな?」

 

狙撃手“狙撃の王様そげキング”ウソップ 懸賞金3000万ベリー

 

「んナミすあ~ん♡ロビンちゅわ~ん♡スリラーバークにあったファントムアップルでパフェを作ったよ~♡」

 

コック“黒足”サンジ 懸賞金7700万ベリー

 

「おやつか?ウマそうだな~」

 

船医“綿あめ大好き”チョッパー 懸賞金50ベリー

 

「あら、ありがとう」

 

考古学者“悪魔の子”ニコ・ロビン 懸賞金8000万ベリー

 

「お~し、メンテナンスも済んだし休憩すっか」

 

船大工“鉄人(サイボーグ)”フランキー 懸賞金4400万ベリー

 

「ヨホホホ~。おや?皆さん、海に何か浮いていますよ?」

 

音楽家“鼻唄”ブルック 懸賞金3300万ベリー

 

 

 

 

 

 

ブルックに言われ、ゾロとフランキーが海に飛び込み、拾ってきたものを見てみると…

 

「木箱?」

 

「積み荷の際か戦闘中に落としたのかしら?」

 

「よーし!開けてみようぜ!」

 

…と、ルフィがさっそく箱を開けようとするが…

 

「待て待て待てィ!少し前に流し樽を開けて、エライ目にあったのを忘れたのか⁉」

 

相変わらずのネガティブ思考でウソップがそれを制止する。

 

「スリラーバークにはもう何もねェだろ…」

 

「あんなタチ悪ィことする奴が、何人もいてたまるか…」

 

「でも、危険なものである可能性は十分あるわよ」

 

「そうだぞ。ナミの言う通り慎重に…」

 

「この木箱、けっこう厳重に密閉してあるわね。かなりの値打ちものが入っているのかしら?」

 

「何してるの⁉さっさと開けなさい!」

 

「変わり身早ェー!」

 

ガコッ

 

「開いたぞ!」

 

「中身は…」

 

ルフィ、ゾロ、サンジ、ロビン、フランキーが中を覗いてみると…

 

「鏡?」

 

1枚の丸い鏡が入っていた。

 

「かなり古い鏡ね…でもこの模様見たことがないわ。どこの文明の物かしら?」

 

「ロビンちゃんが分からねェなんて、よっぽど珍しいものか?」

 

「どれどれ、私にも見せて下さい。……ギャアアアアア‼」

 

「ギャー⁉」

 

「どうしたブルック⁉」

 

「鏡にコワイものが―――ってよく見たら私の顔でした」

 

「まぎらわしいわ!」

 

「イヤ~すいません、鏡に顔が映ったの久しぶりでしたから」

 

「そういやずっと影が無かったんだもんな」

 

その時だった。

 

カッ!

 

「ん?」

 

「鏡が…?」

 

「光りだした…?」

 

カァァァァァ…

 

「えっ?何々⁉」

 

「ギャー!呪われるー!死ぬーっ!」

 

「えーっ⁉死ぬのかー⁉」

 

「ナミさん!ロビンちゃん!早く俺の腕の中へ♡」

 

カァァァァァ…!

 

「何だコリャ…?」

 

「わっ!眩しい!目が眩みそうです!私、眩む目ないんですけどー!」

 

「おおおおおっ⁉」

 

カァァァァァッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

光が止み、気が付くとルフィは1人、山の中にいた。

 

「アレ?ここどこだ?サニー号は?

おーーーーーい、ゾローーーーー!

ナミーーーーー!

ウソップーーーーー!

サンジーーーーー!

チョッパーーーーー!

ロビーーーーーン!

フランキーーーーー!

ブルックーーーーー!

みんなどこだーーーーー⁉」

 

大声で名前を呼んでみるも、返事はない。

 

ザッ…

 

「ん?」

 

代わりに武器を持った、見るからにタチの悪そうな男たちが10人ほど現れた。

 

「何だお前ら?」

 

「見ての通り山賊だ」

 

「山賊か…久しぶりに見たな」

 

「久しぶり…?まあいい。持ってるモン、身に着けてるモン、全部おいてけ。下着も、草履も、帽子もな」

 

「帽子も?イヤだね」

 

「へッ!おとなしく身ぐるみおいてきゃ、命だけはとらないでやろうと思ったのによ!やっちまえ!」

 

「「「「「「「「「「オオオオオッ!」」」」」」」」」」

 

そう言って男たちは武器を手に襲いかかる!

 

ドカッ!バキッ!ドガッ!

 

「…弱ェなお前ら」

 

―――が、いとも簡単にやられてしまった。

 

「なんとお強い……」

 

「ん?」

 

後ろから声が聞こえ、振り向くと1人の女が近づいてきた。

手には鉈のような武器、“青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)”を持っている。

 

「誰だお前?」

 

「我が名は“関羽(かんう)”、(あざな)を“雲長(うんちょう)”と申します。

天の御使(みつか)い様、お会いできて光栄です」

 

「てんのみつかい?」

 

関羽と名乗る女の言葉にルフィは首をかしげるのだった。

 



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第2話 “出会い”

今回は、愛紗視点での第一話の内容になっています。


とある世界のとある時代―――

そこは私利私欲に溺れた権力者たちが暴政を行い、国家は事実上崩壊、各地に散らばる豪族たちが民をおさめ力をもつ“群雄割拠の時代”を迎えていた。

 

そんな時代に1人女の武芸者がある山中を歩いていた。

1枚の布をマントのように羽織り、偃月刀を肩に担いでいる。

 

「もう桃の花が咲く季節か…」

 

目の前を舞う花びらを見て、女はそう呟く。

 

「うわあァァァァァ!」

 

「⁉」

 

突如誰かの悲鳴が響き、女は聞こえた方角へ走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、3人組の旅人が5人ほどの山賊に襲われているところに出くわした。

 

「やめろ!」

 

女は武器を手にし、山賊たちに怒鳴りつける。

 

「おお、こりゃついてる。獲物が1人増えたぜ。しかも女のようだ」

 

しかし、山賊たちは慌てる様子もなく、女の方に向き直る。

 

「その外套(がいとう)とれよ。場合によっちゃイイコトしてやるぜ」

 

「……世も末だな」

 

女はまとっていた布を脱ぎ捨てる。

すると服の上からでもわかる美しい身体、整った顔、そしてサイドテールにした長く美しい黒髪があらわになる。

 

その黒髪を見て山賊の1人が声を上げる。

 

「!兄貴、コイツもしかして噂の“黒髪の山賊狩り”じゃないですかね?」

 

「何だそりゃ?」

 

「知らないんですか?最近あちこちで賊を退治して回っている、黒髪の美しい女の武芸者のことですよ」

 

「知ったこっちゃねェ!やっちまえ!」

 

そう言って得物を構える山賊たちに対して、女の方も改めて自身の得物、“青龍偃月刀”を構える。

 

「我が名は“関羽”!乱世に乗じて無辜(むこ)の民草を傷つける悪党ども!これまでの悪行をあの世で詫びたくば、かかってくるがよい!」

 

「「「「「オラアアアアアッ!」」」」」

 

山賊たちは勢いよく襲い掛かる!

 

ドカッ!ビシッ!ドシュッ!

 

「ふう…」

 

―――が、関羽はいとも簡単に倒してしまった。

 

「あの…ありがとうございました」

 

「おかげさまで無事に村まで帰れそうです」

 

「本当に助かりました」

 

「いえ、当然のことをしたまでです」

 

「この賊どもは、今のうちに縛ってしまいましょう。あとは我々が村のお役人様に引き渡しておきますので」

 

「役人か…」

 

役人という言葉が出たとたん、旅人のうち2人が嫌な顔をし、残りの1人も顔をしかめる。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「いや、おれたちの村の役人があんたみたいな人だったら、って思ってよ…」

 

「あいつら賊が襲ってきてもほとんど戦わないくせによ、こういうすでに退治された賊を罰してはデカい顔してやがるんだ」

 

「しかも軍備費だのなんだの言って、税はたっぷり取りやがるし…」

 

「…………」

 

3人の言葉に関羽も表情を曇らせる。

 

「もっとしっかりした役人が欲しいよ…」

 

「いや、もう役人なんかアテになんねェよ。“天の御使い様”に祈るしかねェさ」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人と別れた後、関羽は近くの河原で休んでいた。

 

(天の御使い様か……)

 

天の御使い、それは関羽も幼い頃からよく聞かされていた、御伽(おとぎ)話のような伝説だった。

 

(この空のはるか上に、蒼天を下に敷く天の国がある。天下が乱れ世に怨嗟の声が満ちるとき、九つの流星に乗り九人の天の御使いが地上に降り立ち、世に太平をもたらす……)

 

伝説を思い出しながら、関羽は空を見上げる。

 

(本当に…そのような人たちがいるのだろうか?もし、いるならば…どうか……)

 

キラン!

 

(ん?)

 

キラキラン!

 

(流れ星?昼間から?)

 

キラキラキラン!キラン!キラキラン!

 

(九つの…流星……まさか⁉)

 

ドゴォォォォォン!

 

(!近くに一つ落ちた!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(確かこの辺りに落ちたはずだが……)

 

関羽は流星が落ちたと思われる山で、流星を探していた。

 

「何だお前ら?」

 

(!誰かいる…⁉)

 

誰かの声が聞こえ、関羽は茂みに身を隠し、声がした方を覗いてみた。

 

「見ての通り山賊だ」

 

「山賊か…久しぶりに見たな」

 

すると、1人の男が10人程の山賊に囲まれているのが見えた。

 

「久しぶり…?まあいい。持ってるモン、身に着けてるモン、全部おいてけ。下着も、草履も、帽子もな」

 

「帽子も…?イヤだね」

 

帽子を渡せと言われたことが気に障ったのか、男の雰囲気が変わる

 

「へッ!おとなしく身ぐるみおいてきゃ、命だけはとらないでやろうと思ったのによ!やっちまえ!」

 

「「「「「「「「「「オオオオオッ!」」」」」」」」」」

 

そう言って山賊たちが武器を手に襲いかかる!

 

ドカッ!バキッ!ドガッ!

 

「…弱ェなお前ら」

 

―――が、男はいとも簡単に倒してしまった。

しかも男の方は丸腰だった。

 

「なんとお強い……」

 

関羽は思わず声を出して、その男に近づいて行った。

 

「ん?誰だお前?」

 

男が振り返る。

 

わらで編んだ帽子をかぶり、左目の下に傷がある。

その顔立ちはどこか間が抜けており、お世辞にも威厳や神聖さは感じられない。

しかし、男の強さを見た関羽は“この男に違いない”と信じて疑わなかった。

 

「我が名は“関羽”、字を“雲長”と申します。

天の御使い様、お会いできて光栄です」

 

「てんのみつかい?」

 

関羽の言葉にその男は首をかしげるのだった。

 



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第3話 “関羽雲長”

3話目です。


「今、朝廷は私利私欲に汚れた卑劣な悪漢どもの巣窟と化しています」

 

「ふーん」

 

「奴らが自分勝手な政治を行うため、国は衰え統治力を失い、世の中はすっかり乱れてしまいました」

 

「そうなのか」

 

「その結果、いたる所で賊がはびこり略奪を働き、罪のない大勢の民が飢え、なすすべなく苦しめられているのです」

 

「そりゃ大変だ」

 

「…………あの…話を理解していますか?」

 

関羽はルフィに自分の国の現状を説明していたが、なんとなくルフィが頭の悪い人間であることを察し、不安そうに訊ねた。

 

「偉い奴がダメなせいで、みんなひどい目に遭ってる、ってことだろ?」

 

「まあ、だいたいそんな感じではありますが…」

 

一応、根本的なところは理解しているようだった。

 

「それで、“天の御使い”って何だよ?」

 

「はい、伝説の中に存在する人物で、この世界に平和をもたらす存在だと言われています」

 

「ふーん…」

 

「私もあまり信じてはいませんでしたが、あなたが流星とともに現れた時、伝説は本当だったのだと確信しました」

 

「おれが?流れ星で?」

 

「はい!よろしければお名前をお聞かせください」

 

「おれはルフィ!海賊王になる男だ‼」

 

「⁉………海賊?キサマ……賊なのか?」

 

「ああ」

 

「―――っ!」

 

ブンッ!

 

「うおっ⁉」

 

途端に関羽は表情を変え、ルフィに斬りかかる!

 

「わっ!おいっ!やめろっ!」

 

「くっ!このっ!」

 

ブン!ブォン!

 

「ヤメロつってんだろ!」

 

ドゴッ!

 

「がっ……!」

 

しかし、ルフィは器用に攻撃を避け、関羽の腹に蹴りをくらわせる。

 

「何なんだよいきなり!」

 

「黙れ!賊が天の御使いを騙っているのを許せるものか!」

 

「お前が勝手にそう思っただけじゃねェか!

おれは変な鏡を拾って、鏡が光って、気が付いたらここにいただけ……」

 

…と、そこでルフィの視線が関羽の後ろにある何かに向く。

 

「何だあれ?」

 

「?」

 

関羽も気になり後ろを向くと、少し離れたところで黒い煙が大量に上っているのが見えた。

 

「あれは…まさか⁉」

 

関羽は煙の方角へと走り出す。

 

「あっ!おい!」

 

ルフィは思わず関羽の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい…何だコレ?」

 

2人は煙が出ている場所を見つけ、立ち尽くしていた。

 

「村が……燃えてるのか?」

 

そこにあったのは、火の海と化した1つの村だった。

 

「…山賊どもの仕業だ」

 

「山賊って、さっきの奴らか?」

 

「アイツらとは別の集団だ」

 

「ここってそんなに山賊がいるのか?」

 

「ああ、何十人、何百人もの人数で構成された山賊たちがいくつもある。

そしてこのようなことが毎日のように到る所で起こり、何百人、何千人という民が苦しめられている」

 

「…………」

 

「これも全て…国の悪政が原因なのだ。このような事態を招き、見て見ぬフリをする国の重臣どもがな…」

 

「…………」

 

「私は…この世界を変えたいと、苦しめられている人々を助けたいと思った…そのための手段を探して旅を続けていた…。

たとえそれが御伽話のような伝説でも、少しでも可能性があるのなら…私はそれを信じたかった…」

 

「…………」

 

「そして…それが本当にただの御伽話だったとしても…私は戦う!苦しむ民を救うために!

立ち止まったり、諦めたりはせん!」

 

関羽はそう言うと、村の中へ走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、ルフィも村の中へ入っていった。

 

「…………」

 

一面の火の海、それは彼の幼い頃の記憶を連想させた。

 

―――――うわ!!熱ィ!熱くねェ!

 

―――――ハァ…外はもう火の海だ!!

 

「…………」

 

「うわァァァァァ!」

 

「?」

 

叫び声が聞こえ、ルフィが振り向くと…

 

「へへへ、丁度いい。おれはガキを殺すのが好きなんだよな」

 

「うわァァァァァ!」

 

1人の男の子が賊に襲われていた。

 

「死ねェ!」

 

ドゴォッ!

 

「⁉」

 

「……か…は………」

 

ドサッ…

 

賊が得物を振り上げた瞬間、ルフィは距離を詰め、賊の腹に拳を叩き込み気絶させた。

 

「…あ、ありがと……」

 

「早く逃げろ」

 

「う、うん……」

 

男の子が走り去るのを見届けて、ルフィはその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァァァッ!」

 

「ギャアッ!」

 

「グアァッ!」

 

その頃、関羽は村の一角で数人の山賊と戦っていた。

 

「くっ!こいつ強ェ!」

 

「当然だ!キサマらのような外道に負ける筋合いはない!」

 

「確かに強いな…だが―――」

 

「うわあああああん!」

 

「なッ⁉」

 

山賊の1人が小さい女の子を捕らえ人質にしてきた。

 

「おっと、動くんじゃねえぞ。動いたら…」

 

「くっ!卑怯な…」

 

「へッ!俺たちは自分らがいい思いできりゃそれでいいんだよ!」

 

「そうだそうだ!」

 

「「「「「「「「「「ハハハハハハハッ!」」」」」」」」」」

 

(クソッ!)

 

「おい!」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

不意に第三者の声が聞こえ、全員が声の方を見る。

 

「お前は……」

 

「そいつを放せ!」

 

そこにいたのはルフィだった。

 

「何だお前?誰だか知らねえが、それ以上近づくんじゃねェぞ!近づいたら…」

 

「わあああああん!」

 

「コイツがどうなるかわかるよな?」

 

「……わかった」

 

「…?」

 

()()()()()

 

「おお、物分かりがいいじゃ…」

 

ドゴォォォォォンッ!

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

一瞬、関羽も山賊たちも人質にされていた女の子も、何が起きたのかわからなかった。

なぜならルフィは、その場から動かずに()()()()()()、女の子を捕まえていた山賊を殴り飛ばしたからである。

 

「…近づいてねェぞ」

 

そして伸ばした腕で女の子をつかみ、自分のもとへと引き寄せる。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん…」

 

「な、なんだ今の⁉」

 

「う、腕が伸びたぞ⁉」

 

「よ、妖術使いかコイツ⁉」

 

「ば、化物だ!」

 

「び、ビビってんじゃねェ!化物だとしても、どうせ腕を伸ばすことしかできねェんだろ⁉」

 

「うん、そう」

 

「言うな!」

 

思わずツッコむ関羽だった。

 

「ほら見ろ!大した事ねェ!やっちまえ!」

 

「「「「「「「「「「オオオオオッ!」」」」」」」」」」

 

そして山賊たちはルフィに一斉に襲い掛かる!

 

「“ゴムゴムの” ……」

 

それに対してルフィは慌てる様子もなく―――

 

「“鞭”ィ!」

 

ドゴォォォォォン!

 

「「「「「「「「「「ギャアアアアア!」」」」」」」」」」

 

今度は足を伸ばし、全員を一撃で吹っ飛ばした。

 

「でもちゃんと鍛えてあんだぞ、にししし!」

 

「お、お主は一体…?」

 

関羽はルフィに訊ねた。

 

「おれはルフィ。海賊で…“ゴムゴムの実”を食った“ゴム人間”だ」

 

「……“ごむ”?」

 

ルフィの言葉に今度は関羽が首をかしげた。

 

 




ここで、少々解説を。

三国志の登場人物の名前についてですが、三国志の登場人物の名前は、“姓”、“名”、“字”の3つがあります。
関羽で例えると、“姓”が関、“名”が羽、“字”が雲長、となります。

三国志の時代の中国では、“名”を呼ぶのは親や上司だけであり、気安く呼ぶのは失礼なことでした。
恋姫の世界で言う真名のようなものだったのです。

ですから自ら名乗るときも、敵などに対しては“名”を省略して“関雲長”、上司や主に当たる人物に対しては“関羽雲長”、といった風に使い分けていました。

また他者の名を呼ぶときは、姓に官職をつけて“関将軍”などと呼んでいたそうです。

今作では、真名という恋姫ならではの名前があるので、基本的に“名”を省略することはなしにします。
作者が雰囲気的に、『“名”がない方があってるかな』と思った時だけ省略する方針で行きます。

どうでもいいことかもしれませんが、一応お伝えしておきます。



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第4話 “外史の出界への冒険の夜明け”

今回、戦闘描写があるのですが、上手く書けているか不安です。
もし何かアドバイスがあれば、感想等に書いていただけると、ありがたいです。



「ホントに知らねェのか?“偉大なる航路(グランドライン)”も“悪魔の実”も?」

 

「ああ、初めて聞いた。何なのだソレは?」

 

「ふーん、そんなトコもあんのか…。

偉大なる航路(グランドライン)”ってのは海の名前だ。

すごく危険な海で、そのどこかに“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”っていう宝がある。

それを見つけた奴が海賊王になれるんだ。

“悪魔の実”ってのは食うと一生泳げなくなる代わりに、すげェ能力(チカラ)が手に入る果物だ」

 

「必ず身体が伸びるようになるわけではないのか?」

 

「うん、身体がバラバラになったり、動物に変身したり、煙になったり、色々あるんだ」

 

「何とも不思議な…」

 

「―――で、これからどうすんだ?」

 

「そ、そうだな。とりあえずこの子の親を探さねば」

 

関羽は先ほどまで人質にされていた女の子を見てそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸いにも、近くに村の住民が避難している場所があり、そこに行くとすぐに女の子の両親は見つかった。

 

「本当にありがとうございます」

 

「なんとお礼を言っていいか…」

 

「いえ、礼には及びません」

 

「そーそー、ついでに助かっただけだって」

 

「…………(この者、本当に賊なのか?)」

 

「放せよ!」

 

「ダメだ!落ち着け!」

 

「「?」」

 

騒ぎ声が聞こえ、2人が振り向くと…

 

「あ!あいつ…」

 

「知っているのか?」

 

「ああ」

 

先ほどルフィが助けた男の子が泣き叫び、大人に羽交い絞めにされていた。

 

「いったいどうしたのだ?」

 

関羽が周りにいた大人に尋ねた。

 

「あの子のお姉ちゃんが賊にさらわれちまったんだよ」

 

「「!」」

 

「可哀想だけどなァ…」

 

「…ちくしょう……!」

 

「「?」」

 

見ると、他の村人も悔しそうに歯を食いしばり、涙を流している。

 

「一体、どうなさったのですか?」

 

「おれたちは…役人に売られたんだよ……」

 

「え?」

 

「この村は、行商人や旅人が訪れることが多くてね、村人のほとんどが商人同士の仲介や、旅人の宿屋なんかで生計を立てていたのさ…」

 

「けどある日…この村に目を付けた山賊が、村の役人を買収したんだ…」

 

「ある程度村に金品が貯まると襲ってきて、何もかも奪っちまう。

そして役人に賄賂を渡しているのさ…」

 

「村から逃げたくても…この村から出るためには、必ずあいつらが根城にしている、古城の前を通らなくちゃいけねェんだ…」

 

「だからみんな…今日は襲われねェか、次は殺されるんじゃねェかって、ビクビクしながら暮らしてるのさ」

 

「そんな…」

 

「うわあああああん!」

 

「……なァ」

 

「?」

 

今度はルフィが村人に尋ねた。

 

「その古城ってどこにあんだ?」

 

「…?そこの道を歩いていけば、そのうち見えてくるけど…」

 

「そうか、わかった」

 

ルフィは村人が指し示した道を歩き出した。

 

「お、おい!何する気だアンタ⁉」

 

「バカな事考えんじゃねェ!相手は何十人もいるんだぞ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!待て!」

 

「ん?ああ、お前か」

 

山道に入ってからしばらくして、ルフィは追いかけてきた関羽に呼び止められた。

 

「キサマ何をする気だ?」

 

「あいつらをブッ飛ばす」

 

「⁉なぜだ?キサマも賊なのだろう?

(コイツ、何を企んでいる?盗品を横取りする気か?山賊団を乗っ取る気か?)」

 

「ああ、そうだ」

 

「…………」

 

「おれは海賊だからな」

 

「…………?」

 

「だから…誰と戦ったっていいんだ」

 

「⁉」

 

「おれは…あいつらが嫌いだ!()()()()()()()()()()()()()()()な」

 

(コイツ…あの子供のために…?)

 

「だから…あいつらをブッ飛ばす!」

 

「……なァ」

 

「?」

 

「私も一緒に行って良いか?」

 

「!」

 

「私も…奴らは嫌いだ!奴らを倒したい!」

 

「………よし!じゃあ行くか!2人で!」

 

「ああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、山賊が根城にしている古城が見えてきた。

 

「アレかな?」

 

「ああ。見張りもいるし、間違いないだろう。

しかし、どうしたものか?

あの城門は簡単には開きそうにないし、やはり見つからないように城壁を登るしか…」

 

「なァ」

 

「?」

 

「アレって、屋根の上に登れば中に入れんのか?」

 

「あ、ああ。そうだが…」

 

「そうか、よし!」

 

「へ?キャッ⁉」

 

何かを思いついたのか、ルフィは関羽を背負って腕を伸ばし、近くの木のてっぺんをつかむ。

 

「しっかり掴まってろ!」

 

「あ、あの…何を…?」

 

「“ゴムゴムの” ……“ロケット”ォッ!」

 

ビュン!

 

「なあああああァッ⁉」

 

 

 

 

 

 

~その古城の城壁~

 

「ん?」

 

「おい、どうした?」

 

「ほら、あそこ…何か飛んでくるぞ?」

 

「鳥じゃねェか?」

 

「いや…人みたいなんだが…?」

 

「…は?…人⁉」

 

「―――――オォォォォォッ!」

 

「―――――アァァァァァッ⁉」

 

「「何だァ!?」」

 

ドッゴオオオォォォォォン!

 

「「ギャーーーーーッ⁉」」

 

「ついたーーーーー!」

 

「フザけるなァ!死ぬかと思ったぞ!」

 

「な、何だコイツら!?どうやって!?」

 

「と、とにかくみんなに知らせろ!侵入者だ!」

 

「何者だお前ら!?」

 

「おれはルフィ!海賊王になる男だ!」

 

「我が名は関羽!

乱世に乗じて弱き者を苦しめる悪党ども!

キサマらの地獄への旅立ち、手伝ってやろう!」

 

「生意気な…やっちまえ!」

 

「「「「「「「「「「オオオオオッ!」」」」」」」」」」

 

そして乱闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~古城、城内~

 

やがてルフィと関羽は、城壁にいた見張りの兵を全て倒し、場内へと侵入した。

 

「このォッ!」

 

賊の一人がルフィに斧を振り下ろすが―――

 

「フンッ!」

 

ドゴッ!

 

「がッ⁉」

 

ルフィはそれよりも早く相手を殴り飛ばす!

 

「隙あり!」

 

次は背後から1人が槍で突き刺すが―――

 

「んっ!」

 

「ハァッ!」

 

ドシュッ!

 

「ぐあっ⁉」

 

ルフィはしゃがんで槍を躱し、隣にいた関羽が敵を薙ぎ払う!

 

「もらったァ!」

 

今度は関羽を狙った敵が、剣を手に跳びかかる!

 

「っ!」

 

すると関羽は頭を下げる。

次の瞬間―――

 

バキッ!

 

「ガハッ⁉」

 

関羽の背後からルフィの腕が飛び出し、敵を吹き飛ばした!

 

「やるじゃねェか!」

 

「お主もな!(不思議だ…コイツに背中を預けていると―――負ける気がしない!)」

 

「おいテメェら‼」

 

「「⁉」」

 

「お、お頭!」

 

「随分と暴れてくれたようだな!」

 

「頭領か…ルフィ殿!コイツは私がやる!お主は他の奴らを頼む!」

 

「わかった!」

 

そう言うと関羽は、山賊の頭領と一対一で向き合う。

 

「ほう、姉ちゃん一人で俺を倒すだと?

しかも、残りの連中をあいつ一人で相手にするのか?」

 

「その通りだ」

 

「舐めたこと言うじゃねェか!いくぜ!」

 

そう言うと山賊の頭領は鉄の大槌を関羽に向かって振り下ろす!

 

ガキィン!

 

「何⁉」

 

「…中々の力だな」

 

しかし、関羽は青龍偃月刀で軽々とその一撃を受け止めた!

 

「な、舐めるなァァァァァ!」

 

逆上した頭領は大槌を滅茶苦茶に振り回し、関羽に襲い掛かる!

 

ガン!ガン!ガキン!

 

「…しかし技量はこの程度か…ハァッ!」

 

―――が、関羽は全ての攻撃を受け切り、そして―――

 

「“青龍(せいりゅう)”……“逆鱗(げきりん)太刀(たち)”‼」

 

ドシュッ!

 

「がっ…!」

 

ドサァ……

 

必殺技を決め、頭領を倒した。

 

「倒したのか」

 

「ああ」

 

背後からルフィに声を掛けられ、振り返るとルフィの後ろには、気絶した山賊が大量に倒れていた。

 

「お主も終わったようだな」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数分後―――先ほどの村~

 

「…あの二人、どうなったのかな?」

 

「…さァな」

 

「……⁉……おい、あれ……!」

 

「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」

 

山道の方を見ていた村人が上げた声に反応して、他の村人たちも山道の方を見る。

 

すると攫われたはずの娘たちが走ってくるのが見えた。

 

たちまち村は歓喜に包まれた。

村人たちはみな、涙を流し、抱き合って喜んだ。

 

「お姉ちゃん!」

 

「本当に…本当に良かった!」

 

「でも…どうして…?」

 

「それは…あっ!あの人たちが助けてくれたの!」

 

そう言われて再び山道の方を見ると…

 

「お~い!盗られたのってどれだ~?わかんねェから全部持ってきた!」

 

山のように金品、食料を積んだ荷車を引く、ルフィと関羽の姿が見えた。

 

村がさらなる歓喜に包まれようとした、その時だった。

 

「待ちたまえ!」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

突如、声が響き振り向くと…

 

「役人!…様……」

 

いつの間にか30人ほどの役人が立っていた。

 

「あー、いいかね?これは山賊たちの盗品なのだろ?

ならばこれらは我々が押収するのが筋というものだ」

 

「何だと!」

 

「ぬけぬけと…!」

 

「ん?我々の処置に不満があるのかね?

役人への反逆は村の治安を乱しかねない、よって重罪となるぞ」

 

「治安だと…?」

 

「どの口が…」

 

「反逆するのか?」

 

「ぐっ…」

 

「よろしい!では諸君、この金や食料を運ぶ……」

 

ドゴォン!

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

次の瞬間、その役人はルフィによってブッ飛ばされた。

 

「き、キサマ!これは反逆行為!重罪だぞ!犯罪者になるのだぞ!それでいいのか⁉」

 

「ああいいぞ。おれは海賊だからな」

 

 

 

 

 

 

そして…

 

「いいか!アレは全部コイツらの金とメシだ!お前らのもんじゃねェ!」

 

「あ…あい(はい)…わはりまひた(わかりました)……」

 

役人たちは1人残らずルフィにボコボコにされ、盗品に手を付けないことを約束させられたのだった。

 

さらに村人の1人が、ことの一部始終をより偉い役人に訴えたため、山賊たちは牢屋にぶち込まれ、数日後には役人たちも処罰されたのであった。

 

 

 

 

 

 

その後、村人たちは取り返した盗品を分け合っていた。

 

「しかし、すごい量だな」

 

「今まで盗られた分が、全部まとめて帰ってきからね」

 

「あの二人にも少し、お礼として持って行ってもらいたかったけどな…」

 

「『持ちきれない』だの『重い』だの言って、一つも受け取らなかったね…」

 

「それにしても、あの二人って誰だったんだ?」

 

「確かに、何十人もの賊を二人で退治するなんて、ただものじゃないよな」

 

「もしかして、女の方は噂の“黒髪の山賊狩り”なんじゃないか?」

 

「そういえば綺麗な黒髪だったね」

 

「じゃあ男の方は?」

 

「わかんねェな…」

 

「そういえばあの人『自分も賊だ』みたいなこと言ってたけど…」

 

「ああいう賊だったら、むしろ大歓迎だけどね…」

 

「悪徳な役人より、よっぽどいて欲しいぜ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その頃―――村を後にしたルフィ~

 

「さ~て、とにかくアイツら探さねェと……」

 

「あの!」

 

「ん?ああ、お前か」

 

背後から声を掛けられ振り向くと、関羽がいた。

 

「その…先ほどは本当にすまなかった!」

 

「ん?」

 

「お主のことをよく知らず…賊というだけで、悪党と決めつけ…殺そうとした…。

心から詫びを申し上げる!」

 

そう言って深々と頭を下げる関羽。

 

「いいよ、死んでねェし。悪者扱いされるの慣れてるから」

 

「いや…今の世の中では、職や家を失いやむを得ず賊となった者や、先ほどの村のように賊と大差ない役人や官軍も多い。

頭ではわかっていたはずなのに私は…本当に申し訳なかった!」

 

「……そうか」

 

「ところで…少し訊きたいことがあるのだが、いいか?」

 

「何だ?」

 

「お主の世界にある海は、青くて広いのか?」

 

「ああ、そうだぞ」

 

「陸地より海の方が広いのか?」

 

「ああ、たぶん海の方が何倍も大きいぞ」

 

「そうか…やはり、そういうことなのか?」

 

「どうした?」

 

「天の御使いの話を覚えているか?」

 

「ああ」

 

「実は天の御使いの伝説の中に『蒼天を下に敷く天の国』という一文があるのだが、もしその言葉が『空のように青い海が広がっている』という意味だとしたら、やはりお主がいた世界は“天の国”だと考えられる」

 

「ん?」

 

「えっと、つまりだな…ここはお主がいた世界とは違う世界“異世界”というわけで…」

 

「異世界⁉ここ異世界なのか⁉」

 

「は、はい、おそらくは…。

その…こんなことを言われては困惑するでしょうが…」

 

「スゲーーーーーッ!」

 

「⁉」

 

「すげェ!異世界に来たのかおれ!

偉大なる航路(グランドライン)よりすげェ冒険じゃねェか!」

 

「…………」

 

予想と違い、目を輝かせ大喜びするルフィに困惑する関羽だった。

 

「と、ところでお主はこれからどうするつもりだ?」

 

「とりあえず、逸れた仲間を探す。たぶんみんな、こっちに来てるはずだ」

 

「あの…よければ、私も同行させてもらえないか?」

 

「え?一緒に来んのか?」

 

「ああ。私はやはりお主が天の御使いだと思う。

もしそうならば、お主とともに行動することで、この世界を変えるための、何かが手に入るかもしれない。

それに…許してもらえたとは言え、命を奪おうとした詫びもしたいからな…。

良いだろうか?」

 

「おう、いいぞ!おれ1人だとダメなこと多いから助かるよ!」

 

「では改めて自己紹介を…我が名は“関羽”字を“雲長”と申す。

これからは関羽と呼んで下され」

 

「おれは“モンキー・D・ルフィ”!ルフィって呼んでくれ!」

 

「では、よろしくお願いします。“ルフィ”殿」

 

「おう!よろしくな“関羽”!」

 

かくして、“後に海賊王となる男”と “後世で英雄と呼ばれる女”が ―――本来、出会うはずのない2人が出会い、新たな外史の物語が幕を開けたのだった。

 

 

 




次回から、アニメ恋姫無双 1話に入ります。


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恋姫†無双編
第5話 “記憶”


今回から、本編に突入します。



ルフィと関羽が一緒に旅を始めてから、十日ほどが経過した。

 

「ふんっ!」

 

「ぐあっ!」

 

2人は稽古として、毎日組手をしていた。

 

「今日もおれの勝ちだな」

 

「くっ…」

 

ルールは“先に相手に一撃入れた方が勝ち”というシンプルなもので、今日までルフィが全勝していた。

 

「武術には自信があったのですが、ここまで差があるとは…」

 

「まァ、おれも相当鍛えてるからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

組手を終え、2人はまた歩いていた。

 

「おい関羽、なんかデケェ門があるぞ」

 

「なかなか大きい村のようですな。今夜はあそこに泊まりましょう」

 

「よし!行くか!」

 

「―――と、その前に…」

 

「ん?」

 

関羽はどこからか縄を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~村の入り口~

 

「なあ関羽…………何でおれのこと縛るんだ?」

 

「この前、村に入った瞬間に行方不明になり、騒動を起こしたからです!」

 

そう、関羽はルフィを縄でぐるぐる巻きにしてから村に入ったのだった。

 

「まァいいや。メシにしようぜ」

 

「その前に宿を探さねば」

 

2人がそんなことを言いながら歩いていると…

 

「で、出たーーー!」

 

「何だ⁉」

 

「賊か⁉」

 

突然悲鳴が聞こえ、2人は身構える!

すると…

 

鈴々(りんりん)山賊団のお通りなのだーーー!」

 

「どいたどいたーーー!」

 

「あははははっ!」

 

前方から豚に乗り、赤い短髪に虎の髪飾りを着けた女の子を先頭に、6人の子供たちがものすごい勢いで走ってきた。

子供のうち1人が“鈴”と書かれた旗を持っている。

ちなみに年齢は、全員10歳前後に見える。

 

「何だ?」

 

「子供?」

 

2人はあっけにとられて、その様子を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数分後―――村の飲食店~

 

「ああ、アレは名前の通り“鈴々”って子が頭領をやっている、悪ガキの集団だよ」

 

ルフィと関羽は食事をとりながら、先ほどの子供たちについて、店の女将から話を聞いていた。

 

「やっていることは、畑荒らしたり、家畜にいたずらしたり、食べ物盗んだり、って感じだね。

そういえば、この間は庄屋さんのお屋敷の壁に、でっかい庄屋さんの似顔絵を落書きしていってね。

あれは傑作だったね。大人たちにも大ウケだったよ」

 

「へー、楽しそうだな」

 

「何を呑気な!子供が山賊の真似事など…親は何をしているのだ!」

 

関羽が声を荒げると、女将は悲しそうな顔をして話し出した。

 

「あの子…親はいないんだよ」

 

「え?」

 

「?」

 

「数年前に賊がこの村を襲った時に、両親は殺されちゃってね…。

その後、母方の祖父さんに引き取られて、山奥の小屋で暮らしてたんだけど、去年その祖父さんも亡くなってね…。

今はあの子一人でその山小屋で暮らしてるんだ…」

 

「「…………」」

 

「あの子だって根はいい子なんだよ。

いまは、ちょっとハメを外しているだけなんだ。

だから村のみんなも、目を瞑ってやっているのさ」

 

「そうだったのですか」

 

「アイツも色々あったんだな…」

 

「ところで女将、少々お願いがあるのですが…」

 

「何だい?」

 

「私達は旅の者なのですが、今日の宿が見つからず…寝床だけでも貸していただけないでしょうか?」

 

「ん~、納屋でよければ貸してあげられるよ。

ただし、宿代の代わりに働いてもらうけどいいかい?」

 

「はい、構いません。ルフィ殿も良いな?」

 

「おう、いいぞ」

 

「 “るひい”?ずいぶん珍しい名前だね。

アンタよっぽど遠くから旅してきたのかい?」

 

「ああ」

 

「何でまた、そんな遠くから旅を?」

 

「海賊王になるためだ!」

 

「海賊?」

 

「!る、ルフィ殿、それは―――」

 

「あっはっは!馬鹿言ってんじゃないよ!

海賊は海で暴れるモンだろ?山ん中にいてどうすんのさ?」

 

「ん?そういえばそうだな?」

 

(ほっ…)

 

どうやら女将は冗談だと思ったらしく、胸をなでおろす関羽だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~夕方―――鈴々山賊団アジトの山小屋~

 

頭領の鈴々と手下の子供たちが、今日の戦利品であるいくつかのゆで卵を山分けして食べていた。

 

「親びん、今日も大成功でしたね!」

 

「うん!大成功なのだー!」

 

「そういえば、この間の落書き消されちゃっていたね」

 

「ケッサクだったのにね」

 

「ね~」

 

「なァに、今度はもっとすごいことしてやるのだー!」

 

「おお!」

 

「さっすが親びん!」

 

「鈴々山賊団、最高ー!」

 

「「「「最高ー!」」」」

 

そう言って子供たちはまた笑いだすが…

 

「あ、もう夕方だから帰るね」

 

「僕も」

 

「あたしも」

 

「…………」

 

夕暮れになり、手下の子たちは帰り支度をはじめ、小屋の中は静かになる。

 

手下の子供たちが家に帰るのを、鈴々は山小屋の外に出て見送った。

 

「じゃあ親びん!また明日ー!」

 

「「「「また明日ー!」」」」

 

「うん!また明日なのだー!」

 

別れの挨拶をして鈴々は1人、山小屋に戻る。

 

「…明日になれば、またみんな来るのだ…明日になれば……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~夜―――村のとある納屋~

 

「屋根の下で寝るの久しぶりだな」

 

「そうですな。花が咲き始めたとはいえ、まだまだ冷えますからな。

屋根と壁があるのはありがたいです」

 

「ぐ~っ」

 

「…もう寝てしまいましたか……」

 

宿代代わりに働いたルフィと関羽は、女将に案内された納屋で寝ようとしていた。

納屋の窓からは、すでに月が高く登っているのが見える。

 

関羽は横になるなりすぐに眠ったルフィの隣で、寝そべりながら顔をのぞく。

 

(壁と屋根があるのもありがたいが…隣に誰かがいるというのも、ありがたいな……)

 

そんなことを思いながら、関羽も眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~とある野原~

 

『お兄ちゃ~ん、早く~』

 

『お~い、待て愛紗(あいしゃ)

 

兄妹(きょうだい)らしき2人が遊んでいた。

 

『キャッ!』

 

『愛紗!』

 

あまりに急いだせいか、少女が転んでしまう。

急いで少女に駆け寄る兄。

 

『愛紗、大丈夫か?』

 

『だい…じょうぶ…わたし…つよいもん……!』

 

目に涙を浮かべつつも、少女は泣かないように歯を食いしばる。

 

『そうか、愛紗は強いな。―――でもな愛紗、本当に辛かったら、いつでもおれを頼っていいんだぞ。

おれは愛紗のお兄ちゃんなんだからな』

 

『……うん!』

 

 

 

次の瞬間、周りの風景が野原から建物の中に変わった。

 

『愛紗!』

 

『⁉兄者⁉』

 

『愛紗、戦だ!村が襲われた!お前は寝台の下に隠れていろ!絶対に声を上げるんじゃないぞ!』

 

『!う、うん……!』

 

兄に言われ、少女は急いで寝台の下に潜り込み、恐ろしさのあまり目を閉じる。

 

⦅兄者…兄者……!⦆

 

『ぐああっ!』

 

『⁉』

 

悲鳴が聞こえ、少女が目を開けると―――

 

『!兄者ァァァァァ‼』

 

兄の亡骸が目の前にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

ここで関羽は目を覚ました。

 

窓からはわずかに朝日が差し込んでいる。

 

「……夢か……」

 

そう、一連の出来事は関羽の夢。

夢の中で“愛紗”と呼ばれていた少女は幼い頃の関羽、その兄は関羽の実の兄であり、夢の内容は過去に実際に起きた関羽の記憶だった。

 

子供の頃、戦で両親と兄が死んでから、関羽は1人で生きてきた。

武芸を身に付け学問を学び、それを世の中の役に立てようと旅に出た。

そして、その後もずっと1人だった。

 

「ぐ~っ」

 

「…………」

 

隣で寝ているこの男に出会うまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!」

 

掛け声とともに、関羽は空中に高く放り投げられたソレに向かって刃物を振るう!

 

スパパパパパン!

ストトトトトン!

 

そして空中で見事に切り刻まれたソレ…1本の大根はまな板の上に落下した。

ちなみに先ほどの“刃物”というのは、無論包丁である。

 

「大したモンだけど…もうちょっと普通に切れないかい?」

 

「ちゃんとした料理は、あまり経験がなくて…」

 

関羽は女将に言われ、店の仕込みを手伝っていた。

ちなみにルフィは山に柴刈りに行っている。

 

「まァいいさ。その調子でどんどん切ってくれ。

それが終わったら、店の掃除を頼むよ。」

 

「はい」

 

「ただいまーっ!」

 

店の外からルフィの声が聞こえ、女将が迎えに行く。

 

「お帰り、ご苦労さ―――!」

 

「?」

 

女将の声が途中で止まり、気になった関羽は様子を見に行く。

 

「どうされましたか―――!」

 

そこには山のように薪を背負い、気絶した大きな猪を引きずるルフィの姿があった。

 

「…?どうした?」

 

「えっと…ルフィ殿、その猪は?」

 

「ああ、山歩いてたら襲ってきたからブッ飛ばしたんだよ。

んで、食おうと思って持って帰ってきた!」

 

「…猪を素手で仕留めるなんて、アンタ強いんだね…。

官軍に入ればド偉い将軍になれるんじゃないかい?」

 

「ん~、おれ偉くなるの好きじゃねェからな。

柴刈りってこれくらいでいいか?」

 

「あ、ああ…十分すぎるよ。じゃあ次はまき割を頼むね」

 

「わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶへェ~、食った食った」

 

「まさか、あの猪を一頭丸ごと食べるとは…」

 

仕事を終え、ルフィが獲ってきた猪で昼食を済ました2人は、村を散歩していた。

 

「そういえばルフィ殿」

 

「何だ関羽?」

 

「その…ルフィ殿が海賊だということや、海賊王を目指しているとうことは、喋らないようにして欲しいのですが」

 

「ん、そうか?」

 

「はい。やはり賊だというのは、バレない方がいいですから」

 

「わかった!言わないようにする!」

 

「わかっていただけましか…おや?」

 

ふと、前方にある大きな屋敷の門前に、人だかりがあるのが目に入る。

2人が気になって覗いてみると…

 

「いいですか!相手は大人でも手を付けられない暴れ者!子供とはいえ…」

 

屋敷の主人と思われる男が、数十人の役人と門内で話をしていた。

 

「どうかしたのですか?」

 

「今からお役人様に、鈴々ちゃんを捕まえてもらうんですって」

 

関羽が尋ねると、近くにいた女の人が教えてくれた。

 

「役人って…子供相手に大げさな…」

 

「庄屋様、この前の落書きが相当頭にきたらしくてねェ…。

今度ばかりは堪忍袋の緒が切れたんだってよ」

 

「しかしお役人様も、本物の山賊相手にはビビッて手を出さないくせに、どうしてこういうときだけ…」

 

「鈴々ちゃん…捕まったら、どうなるかねェ…」

 

「さすがに殺したりはしないと思うけど…鞭で打たれたりはするかもねェ…」

 

「…………あの!少々よろしいでしょうか?」

 

関羽はしばらく黙っていたが、庄屋と役人たちの話に割って入っていった。

 

「ん?何だいアンタ?」

 

「私は旅の武芸者で、名は“関羽”、字は“雲長”と申す者。

村の住民から、お話は伺いました。

子供相手に、お役人様の手を煩わせるのも何ですし、ここは一つ、私にお任せいただけないでしょうか?」

 

「確かにアンタ、中々物騒なモン持ってるが…腕は確かなのかい?」

 

「はい!いかに山賊を名乗ろうとも、所詮は子供。

本物の山賊に比べれば大したことないでしょう」

 

「あ…アンタもしかして最近噂の“黒髪の山賊狩り”かい⁉」

 

役人のリーダーらしき人物が思い出したように尋ねた。

 

「いや…まァ、自分から名乗っているわけではありませんが…そう呼ぶ者もいるようで…」

 

関羽はまんざらでもなさそうに言う。

 

「「「「「「「「「「ええっ!?」」」」」」」」」」

 

それに対して庄屋と役人たちは、明らかにがっかりしたように驚いた。

 

「美しい黒髪をなびかせた絶世の美女だって噂だったのに…」

 

「噂ってのはアテになんねェな…」

 

「……あのう、それはどういう意味でしょうか?」

 

関羽は若干目つきを鋭くし、こめかみをピクピクさせながら尋ねた。

 

「ところで、アンタの後ろにいるその男も武芸者か何かかい?」

 

庄屋が関羽の後ろにいたルフィを指さして尋ねた。

 

「ああ、おれはルフィ!海…」

 

「コラーーーッ!」

 

いきなり約束を忘れるルフィの頭を、思いっきり殴る関羽だった。

 

そして、その時近くの茂みで1人の子供が盗み聞きしていたことに、誰も気が付かなかった。

 




今作はプロローグ、恋姫無双編、真・恋姫無双編、真・恋姫無双 乙女大乱編、エピローグの5章編成となる予定です。

恋姫無双編は主にルフィ、ゾロ、ナミ、ウソップの話となり、中でもルフィの話が一番多くなると思います。

ご了承ください。


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第6話 “鈴々山賊団頭領 張飛翼徳”

~鈴々山賊団がアジトにしている山小屋へ続く山道~

 

「一本杉を左だったな」

 

『鈴々山賊団を退治したら、その後の処罰は関羽たちに任せる』という条件で、庄屋たちと話を付けたルフィと関羽は、さっそく山賊団のアジトである山小屋へ向かっていた。

 

「あとは真っ直ぐだったな」

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「いえ…先ほどの庄屋たちが…」

 

「?」

 

「『絶世の美女という噂だったのに』と言っていたのが…ハァ…」

 

「十分美女だと思うけどな…」

 

「ルフィ殿…鼻をほじりながら言われても、うれしくありません…」

 

ビュン!

 

「うおっ⁉」

 

「⁉」

 

突如、前方から小石が1つルフィに向かって飛んできた。

とっさに躱したルフィが関羽と一緒に前を見ると、近くの木の上に男の子が1人、大量の小石を抱えて立っていた。

 

「ここから先は鈴々山賊団の縄張りだ!役人の手先はとっとと帰れ!」

 

そう言って2人に石を投げつける!

 

「わっ!コラッ!止めろ!危ないだろ!」

 

「よっ!はっ!」

 

関羽は青龍偃月刀で石を防ぐ。

ルフィの方はゴム人間であるため、石くらい当たっても何ともないが、わざわざ当たってやる理由もないため避ける。

 

「このォ!親びんのところへは行かせないぞ!」

 

「ええい!面倒だ!」

 

関羽はそう叫ぶと石を避けつつ走り、その子が登っている木を切り倒す!

 

ザン!

 

「うわァ!」

 

「よっ!」

 

そして、ルフィは落ちてきた子をキャッチする。

 

ズシーン…

 

「……助かった…」

 

男の子は地面に落ちずに済んだことに胸をなでおろす。

が…

 

「それはどうかな?」

 

「にしししし!捕まえたぞ!」

 

「!」

 

背後で自分の首根っこをつかむルフィと、目の前で仁王立ちしている関羽に気付き、青ざめるのであった。

特に関羽はどす黒い笑顔をしていたそうな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なァ関羽、アイツついてきてるぞ」

 

「わかっています。無視しましょう」

 

先ほどの子供に軽くお仕置きをした後、2人はまた山道を歩き出した。

 

2人の会話からもわかるように、その子は後をつけて来ていた。

 

ガサッ

 

「「ん?」」

 

「や~い、ば~か!」

 

「サ~ル!」

 

「間抜け~っ!」

 

「アホ~っ!」

 

すると今度は女の子が4人現れ、悪口を言いだした。

 

「何だ?」

 

「おそらく我らを挑発しようとしているのでしょう。まァ、こういうのは気にせず、落ち着いて…」

 

「年増~!」

 

「おばさ~ん!」

 

「何だとォ⁉」

 

「お前今、“落ち着け”って言ったよな⁉」

 

自分で言っておきながら、関羽はあっさり挑発に乗り、ずかずかと前に出る。

 

「ガキどもォ…ん?」

 

ふと地面を見ると、何かを隠すように葉っぱが敷かれている。

 

「成程、落とし穴か。子供にしてはよく考えたな…。

だが、そのような罠に引っかかる関雲長ではない!トウッ!」

 

そう言うと関羽は、葉っぱが敷かれていた地面を、軽々と飛び越え…

 

ズボッ

 

「な~~~~~⁉」

 

その先に巧妙に隠されていた、もう1つの落とし穴に落ちた。

そう、関羽が気付いた方は、その後ろの落とし穴に気付かせないための囮だったのだ。

 

「引っかかった~」

 

「親びんの言ったとおりだ~」

 

「でも、もう一人いるよ…」

 

「あ…」

 

「ど、どうしよう…」

 

「お~い、関羽~。だいじょ…」

 

ズボッ

 

「うお~~~~~⁉」

 

「「「「え~~~⁉おとり用に、わざとわかりやすく作った方に落ちた~~~⁉」」」」

 

相手が想像以上に間抜けだったことに、驚く子供たち。

 

「と、とにかく二人ともやっつけたぞ!」

 

「どうする?埋めちゃう?」

 

「その前におしっことかかけちゃう?」

 

自分たちの勝利を確信し、そんなことを話し合うが…

 

「あ~ビックリした」

 

「くっ…関雲長、一生の不覚…」

 

「え…?」

 

「うそ…もう出てきた…」

 

あっさり脱出されてしまった。

 

「さてと…じゃあ…」

 

「お仕置きだな…」

 

「「「「ヒィィィィィ⁉︎」」」」

 

山に悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

そして、2人に拳骨や雑巾絞りなどのお仕置きをされ、子供たちはすっかりおとなしくなった。

 

「お、親びんは…お前らなんかに負けたりしないからな!」

 

そのうちの1人が、負けじと叫んできた。

 

「わかったわかった。鈴々のことは悪いようにはしないから、お前たちは村に帰れ」

 

「ほんとに?」

 

「親びんを役人に渡したりしない?」

 

「しない?」

 

「ああ、しねェよ」

 

心配そうに尋ねる子供たちに対し、ルフィは腰を下ろし笑いながら答えた。

 

「……ねェ、帰ろう?」

 

「……うん、そうだね」

 

「帰ろ帰ろ」

 

嘘ではないと分かったのか、子供たちは村の方へ帰っていった。

 

そして、帰り際に振り返り…

 

「「「「「デ~ブ!ブ~ス!バ~カ!サ~ル!間抜け~!ババア~!お前らなんか親びんにやられちゃえ~!」」」」」

 

そう言い残すと一目散に村へと走っていった。

 

「「…………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2人は再び歩き出した。

 

「まったく…あの悪ガキどもは…」

 

「いい奴らだな~」

 

「はァ⁉」

 

「親分のために、あんなに一生懸命になってよ。親分もいい奴なんだろうな~。

おれ達がアイツらやっつけたって知ったら、きっとスゲー怒るぞ」

 

「………まァ…そうかもしれませんが…」

 

「?」

 

「けど、ババアというのは…!

確かにあの子らよりは年上かもしれませんが、まだそこまでの年齢では…!」

 

「お前、さっきからソレばっかり気にしてるよな…」

 

関羽の年齢へのこだわりに呆れ気味になるルフィだった。

 

「あ」

 

「!」

 

そんなことを話しているうちに、ついに山賊団のアジトである山小屋に着いた。

山小屋の前には以前、子豚に乗っていた少女がいる。

 

「ルフィ殿、ここは私に任せてもらえませぬか?」

 

「わかった」

 

ルフィから許可を得ると、関羽は一歩前に出て、少女に話しかけた。

 

「お主が鈴々か?」

 

すると少女が怒ったように話す。

 

「“鈴々”は真名なのだ!お前なんかに呼ばれる筋合いはないのだ!」

 

「“マナ”?」

 

聞きなれない言葉にルフィは首をかしげるが、関羽と少女は構わず話を続ける。

 

「そうか…では改めて問おう。お主、名は何と申す?」

 

「我が名は“張飛(ちょうひ)”!字は“翼徳(よくとく)”!

泣く子も泣き出す鈴々山賊団の親びんなのだ!」

 

「張飛とやら、お主の手下は全員村に追い返したぞ」

 

「⁉︎鈴々の友達に何をしたのだ⁉︎」

 

「な~に、ちょっとしたお仕置きをな」

 

「おのれ~!仲間のかたき!十倍返しなのだ~!」

 

そう言うと張飛は自分の身長の倍は長さがある武器、“丈八蛇矛(じょうはちだぼう)”を構える!

対して関羽も青龍偃月刀を構える!

そして両者はほぼ同時に走り出す!

 

「おりゃーーーーーっ!」

 

「ハァーーーーーッ!」

 

ギィィィィィン!

 

両者の得物がぶつかり合い、重々しい金属音が響き渡る!

 

「(…なんて力だ!力押しでは不利だな!)ハァ!」

 

張飛の一撃は外見からは想像できないほど重く、関羽は正面から受け止めず受け流すように攻撃をかわし、偃月刀を振り下ろす!

 

「うおりゃーーーーー!」

 

しかし張飛は関羽の攻撃を受け止めて上に跳ね除け、横に蛇矛を振るう!

その一撃を関羽は背後に飛び退いて躱し、距離を詰めて連続で刺突を繰り出す!

 

キン!カン!ガン!ガキン!

 

張飛はその全てを受けきり、反撃に出る!

 

そして2人は何合、何十合と打ち合うが勝負はつかない。

いつの間にか日は沈み、月が高く昇っていた。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「ハァ…ハァ…」

 

両者とも肩で息をしている。

 

「うおおおおお!」

 

「てりゃあああああ!」

 

2人は距離をとった後、再び互いに向かって突っ込み―――

 

「“戦塵(せんじん)”……“颶風(ぐふう)”‼」

 

「“蛇矛(じゃぼう)”……“槍打(そうだ)”‼」

 

必殺の一撃を放つ!

 

ガキィィィィィン!!

 

しかし、それでも決着はつかない。

 

両者はしばらく武器を交えたまま動かなかった。

 

「………惜しいな」

 

数秒の沈黙の後、関羽が口を開いた。

 

「…?何がなのだ?」

 

「これほどの強さを持ちながら、やっているのが山賊の真似事とはな…」

 

「…!よ、余計なお世話なのだ!」

 

「…張飛よ。お主、幼い頃に賊に両親を殺されたそうだな」

 

「…⁉そ、それがどうしたのだ⁉」

 

「…私も、幼い頃に家族を失った…村が戦に巻き込まれ、父も母も、そして兄者も…」

 

「…!」

 

「…………」

 

その言葉に張飛だけでなく、ルフィも関羽の話を真剣に聞き始めた。

 

「私は思った…『こんな悲しみを他の誰かに味合わせたくない』『こんなことが起きない世の中にしたい』とな…」

 

「そ、それが鈴々と何の関係があるのだ⁉」

 

「お主は変えたいと思わぬのか⁉

何の罪もない人々が戦に巻き込まれ、賊に襲われ、飢えや病に苦しめられる、この世の中を‼」

 

「う…………そ、そんなの…わかんないのだァーーー‼」

 

「!」

 

そう叫ぶと張飛は無茶苦茶に蛇矛を振り回し始めた。

まるで癇癪を起した子供のように。

 

「鈴々は…鈴々は…!淋しくて…!でもどうしていいか…わからなくて…!誰もいなくて…!何も…わからなくて…!」

 

(くっ…!)

 

関羽は必死に張飛の攻撃を受け止めるが、それまで押さえつけられていた張飛の様々な感情が込められた一撃は、今までよりもずっと重く、そして…

 

ガキン!

 

(しまっ…!)

 

とうとう耐え切れず、偃月刀を落としてしまった。

 

(クッ…!)

 

とっさに関羽は、素手で防御を取る。

 

「うっ…!ぐっ…!」

 

「………?」

 

しかし、張飛はそれ以上攻撃をせず…

 

「うわあああああん!」

 

その場に泣き崩れてしまった。

 

「お、おい!どうした⁉」

 

「泣かせてやれよ」

 

「…え?」

 

あわてて泣き止ませようとする関羽を、ルフィが止めた。

 

「涙が出るならよ…泣かせてやれよ」

 

「……はい」

 

「うわあああああん!」

 

そうして2人は張飛が自然に泣き止むのをただ待つことにした。

 

 



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第7話 “兄妹(きょうだい)(さかずき)

「勝負の途中で泣いちゃったから…勝負は鈴々の負けなのだ。

だから…煮るなり焼くなり好きにすればいいのだ」

 

泣き止んだ張飛はそう言って武器を捨て、2人の前に胡坐をかいて座り込んだ。

 

「“好きにしろ”と言われてもだな…私はお主が庄屋殿や村の者達に、今までの悪行を詫びて、行いを改めてくれれば良い。そうしてくれるか?」

 

「………わかったのだ」

 

「よし!謝るときは私達も一緒に行くからな。ルフィ殿もそれで良いな?」

 

「ああ」

 

「それでは、明日の明朝、村の入り口で落ち合おう。では、私達は帰る」

 

「!……ま、待つのだ!」

 

「「?」」

 

山を下りようとする2人を張飛が呼び止めた。

 

「よ、夜の山道は危ないのだ!だ、だから今夜は鈴々の家に…と、泊っていくといいのだ!」

 

「いや、私達は野宿には慣れているから…」

 

そう言って関羽は断ろうとするが…

 

「泊ってこうぜ」

 

「え?」

 

ルフィは泊ろうとする。

 

「泊っていってやろうぜ」

 

「え?……あ」

 

ルフィに言われ関羽は張飛の顔を見た。

そしてその顔が“行かないで”と訴えていることに気が付いた。

 

「……そうだな。一晩、厄介になるとしよう」

 

「!」

 

「にしし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして2人は張飛の山小屋に泊まることになった。

そして関羽は今、山小屋の風呂に入っている。

 

「妙なことになったな…」

 

「湯加減はどうなのだ~?」

 

扉越しに張飛が話しかけてきた。

 

「ちょうどいいぞ」

 

「なら鈴々も入るのだ!」

 

「…え?」

 

「突撃なのだ~!」

 

…と、叫びながら扉を開け、張飛が湯船の中に飛び込んできた。

 

どっぽ~~~ん

 

「な~~~⁉」

 

「にゃはは~」

 

「コラー!飛び込むんじゃない!」

 

「ううっ!」

 

関羽に叱られ小さくなる張飛。

 

「まったく…風呂の入り方も…」

 

「…すごく大きいのだ…」

 

「は?……っ⁉」

 

関羽は自分が腰に手を当てて仁王立ちしていたため、丸見えだったことに気付き、慌てて胸を隠し湯船の中に座り込んだ。

 

「関羽は、何でそんなに大きくなったのだ?」

 

「え⁉こ、これはだな…その…そうだ、志だ!

大志を胸に抱いたから、その分大きくなったのだ!…………たぶん」

 

とりあえず、それっぽいことを言ってごまかす関羽。

 

「本当にそれで、バインバインになれるのだ⁉」

 

「ま、まァ…そういう話もあったり、なかったり…」

 

「よーし!じゃあ鈴々も、今日から大志を抱くのだー!」

 

「……そうだな、大志を抱くのは悪いことではないからな…そうすると良い…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂から出た後、関羽と張飛から借りた寝間着に着替えた。

今は、ルフィと居間で布団を取りに行った張飛を待っている。

 

「…そういえばよォ関羽」

 

「何でしょうか?」

 

「お前にも兄ちゃんがいたんだな」

 

「…と言うとルフィ殿にも?」

 

「ああ、2人な」

 

「そのお二人は、今はどうしているのですか?」

 

「1人は海賊やってる。おれよりも3年早く海に出たんだ」

 

「そうですか。もう一人は?」

 

「……昔、死んだ」

 

「⁉」

 

「殺されたんだ…“国”に」

 

「な、なぜです⁉昔ということは、まだ子供…」

 

「偉い奴の前を横切ったから…殺されたんだってよ…」

 

「…………それだけで?」

 

関羽はとても他人事とは思えなかった。

 

この村の庄屋の言いなりになり、張飛を役人が捕えようとしたように、権力者の横暴はこの国のいたるところで起こっていた。

賊による反乱など、民が苦しむ原因の氷山の一角に過ぎない。

それどころか賊が跋扈していることすら、権力者が原因だと言える。

権力者を不快にさせること、それが今のこの国では最も重い罪になっているのである。

 

関羽が何も言えずにいると、ルフィが口を開いた。

 

「関羽…おれ決めたよ」

 

「…え?」

 

「帰る前に、おれもこの国を何とかする」

 

「!」

 

「おれは海賊だし、天の御使いなんかじゃねェかもしれねェ。でも、おれもお前と一緒に戦う!いいか?」

 

「…はい、ありがとうございます!」

 

「お布団持ってきたのだ~」

 

丁度、2人の話が終わったとき、張飛が布団を抱えて戻ってきた。

3人は張飛を真ん中に川の字になって、布団に入る。

 

「しかし、すまぬな。風呂や布団まで貸してもらって」

 

「別に構わないのだ!勝負に負けたのだから、一晩一緒に寝るくらい仕方がないのだ!」

 

「…なんか、誤解を招きそうな言い方だな」

 

「誤解って?」

 

「あ、いえっ!何でもありません!」

 

なんとなく予想はできていたが、ルフィがそのテのことに疎かったため、慌ててごまかす関羽だった。

 

「それに…」

 

「「?」」

 

「誰かと一緒に寝るのは、すごく久しぶりで…なんだか、お父さんとお母さんができたみたいで…すごくうれしいのだ…」

 

「…そっか、よかったな」

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

「「?」」

 

「私とルフィ殿はそのような関係ではない!それに妹ならともかく、お主のような娘がいる年齢でもない!」

 

無論、張飛が言ったのはただのたとえなのだが、関羽はどうも気になるらしい。

 

「……妹、ってことはお姉ちゃんだったら良いのか?」

 

うれしそうに訊ねる張飛。

 

「…まァ、それならいいが…」

 

「だったら、関羽は今日から鈴々のお姉ちゃんなのだ!」

 

「はァ⁉い、いや待て!姉ならいいといったのは、そう意味ではなくて…」

 

「…ダメなのか?」

 

「うっ…」

 

悲しそうな顔をする張飛。

 

「おれは別にいいぞ。父ちゃんでも兄ちゃんでも」

 

「う…わ、わかった…お主の姉になってやる」

 

「わ~い!鈴々にお兄ちゃんとお姉ちゃんができたのだ~!」

 

嬉しそうに関羽に抱き着く張飛。

 

「こ、こら!抱き着くな!」

 

「これで…」

 

「?」

 

「これで…もう夜になっても淋しくないのだ…」

 

「…ああ、今日から私達三人は兄妹だ。ルフィ殿も良いですな」

 

「ああ」

 

「…それならば張飛、私たちと一緒に旅に出てくれるか?」

 

「旅?」

 

「ああ、私は世の中を変えるため…世の中を変える方法を探すために、ルフィどのは逸れてしまった仲間を探すために旅をしている」

 

「仲間って、何の仲間なのだ?」

 

「その…ルフィ殿は天の国から来た…海賊でな…」

 

関羽は少し迷ったが、これから行動を共にする以上、隠すことはできないと判断し、正直に話した。

 

「海賊⁉鈴々も山賊だから似た者同士なのだ!」

 

「ああ、そうだな!」

 

(ほっ…)

 

思いのほか、険悪な状態ならなかったため、胸をなでおろす関羽。

 

「…それで、どうだ張飛?一緒に来るか?」

 

「当然なのだ!鈴々達は兄妹だから、ずっと一緒なのだ!」

 

「うむ!」

 

「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌朝~

 

ルフィと関羽は張飛を連れて、庄屋の屋敷を訪れた。

張飛はしっかりと謝り、庄屋もこれ以上は咎めないということで解決した。

その後、村の人々にも謝り、張飛がこれから2人と一緒に旅に出ることも告げた。

 

そして、大勢の村人たちが3人を見送りに、村の門まで来てくれた。

その時、ルフィと関羽が部屋を借りた店の女将が前に出てきた。

 

「あんた達…」

 

「「「?」」」

 

「これ…餞別に持っていきなさい」

 

そう言って、1本の酒瓶とお猪口を3つ差し出した。

 

「くれんのか、コレ?」

 

「ああ。ここから少し行ったら、村人がいつも花見に行く場所があってね。

今ならちょうど花も咲いているだろうから、そこで飲むといいよ」

 

「おお!ちょうど良かったよ!ありがとう!」

 

「?“ちょうど良い”?」

 

「はにゃ?」

 

関羽と張飛はルフィの言っている意味が分からず、首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、3人は村を後にした。

 

しかし、少しずつ張飛の顔が暗くなっていき、関羽は心配そうに訊ねた。

 

「どうした?もう村が恋しくなったのか?」

 

「そうじゃないのだ…。ただ、山賊団のみんなが見送りに来てくれなかったから…。

きっと鈴々がいい親びんじゃなかったから…だから…」

 

「…いや、そうでもないみたいだぞ」

 

「ああ、ホラ」

 

「…?」

 

そう言われて張飛が2人が示した方向を見ると…

 

「「「「「親びーーーーーん!」」」」」

 

「!」

 

「武者修行、頑張ってくださーーーーーい!」

 

「強くなって帰ってきてねーーーーー!」

 

「みんな親びんが帰って来るの、待ってますからーーーーー!」

 

アジトだった山小屋から、子分の子供たちが大腕を振って、呼び掛けてくるのが見えた。

 

「みんな…!」

 

「泣くな張飛、旅立ちに涙は不吉だぞ」

 

「な、泣いてなんかいないのだ!」

 

張飛はそう強がるが、目は大粒の涙が今にもこぼれそうになっていた。

 

「人は次に会う時まで、別れ際の顔を覚えているものだ。

子分たちに、そんな情けない顔を覚えてもらいたくはないだろう?笑顔で応えてやれ」

 

「!」

 

関羽に言われ、張飛は涙をぬぐい…

 

「みんなーーーーー!行ってくるのだーーーーー!」

 

とびっきりの笑顔で応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人が村を出てしばらくすると…

 

「おお!」

 

「キレーだな~!」

 

「鈴々もここでよくお花見したのだ!」

 

一面に桃の花が広がる桃園に辿り着いた。

 

「よし!じゃあここでするか!」

 

そう言うとルフィは近くの切株にお猪口を乗せ、中に酒を注ぐ。

 

「ルフィ殿、一体何をするつもりなのですか?」

 

(さかずき)だよ!盃!」

 

「“さかずき”って何なのだ?」

 

「おれたち兄妹になるんだろ?だったら盃を交わそうぜ!」

 

「盃を交わすと兄妹になれるのか?」

 

「ああ!おれもこうやって兄ちゃんたちと兄弟になったんだ」

 

(そうか、実の兄ではなかったのか…)

 

「だったら、鈴々たちも盃を交わすのだ!」

 

「ええ、いいでしょう」

 

盃を交わす意味を知ると、張飛は嬉しそうに賛成し、関羽も同意する。

 

「そうだ!二人にお願いがあるのだ!」

 

「「?」」

 

「兄妹になるなら、鈴々のことは真名で“鈴々”って呼んでほしいのだ!

あと、二人のことを真名で呼びたいから、真名を教えて欲しいのだ!」

 

「ええ⁉しかし、私達は出会ったばっかりで…」

 

「なァ、“マナ”って何だ?」

 

「え?」

 

「知らないのか?」

 

「ああ。初めて聞いた」

 

「天の国には真名がないのですか?

“真名”というのは、“(まこと)の名前”と書きます。

持ち主にとっての命も同然の大切なもので、許可なく呼べば殺されてしまうこともあります」

 

「名前を呼んだだけでか⁉」

 

「はい。真名を呼ぶこと許すということは、親愛や忠義、信頼の証でもあるのです」

 

「そうなのだ!だから鈴々は兄妹で、家族で、ずっと一緒にいる二人と真名で呼び合いたいのだ」

 

「そうか。おれは真名はねェけど呼んでいいのか?」

 

「もちろんなのだ!」

 

「わかった、じゃあ呼ぶ!これからよろしくな“鈴々”!

おれのことは“ルフィ”って呼んでくれ」

 

「うん!よろしくなのだ“ルフィ”!」

 

「仕方ないな…では私も…。

我が名は“関羽”、字は“雲長”、真名は“愛紗(あいしゃ)”という。この真名をお主に預けよう。

これでいいか“鈴々”?」

 

「うん!」

 

「ルフィ殿にも真名を預けます。これからは“愛紗”と呼んでください」

 

「わかった。よろしくな“愛紗”」

 

「ところで…私もルフィ殿にお願いがあるのですが…」

 

「何だ?」

 

「兄妹になるのでしたら…ルフィ殿には……その…私の…兄上になってもらえないでしょうか?」

 

「おういいぞ。じゃあ3人の中で、おれが一番上で次が愛紗、一番下が鈴々でいいな」

 

「はい」

 

「わかったのだ」

 

そして3人はそれぞれお猪口を手にし…

 

「これで今日からおれ達は―――兄妹だ!」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

盃を交わしたのだった。

 

 




今回で第一席ぶんは終わりです。
次回から、第二席に入ります。


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第8話 “群雄の国の冒険”

ワンピースの世界に三国志はないため、ルフィ達に三国志についての知識はありません。
そのため今作では、恋姫無双のキャラ達がルフィ達に対して、後漢・三国時代の時代背景や社会について、説明するシーンがけっこうあります。

あらかじめ、ご了承下さい。



ルフィ、愛紗、鈴々の3人が義兄妹となり、旅を始めてから数日が経過した。

 

「“(ピストル)”!」

 

ドンッ!

 

「うあっ!」

 

稽古の組手は3人の総当たり戦とすることにした。

 

「今日もルフィ殿が全勝、私と鈴々は引き分けか」

 

「やっぱりルフィは強いのだ~」

 

「ししし!」

 

ちなみに鈴々はルフィの体が伸びることや、泳げないことはすでに知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく行くと、道の先に壁のようなものが見えてきた。

壁には門のようなものがあり、見張りの兵もいる。

 

「あ、お城が見えてきたのだ」

 

「よし、今日はあそこで宿を探すとするか」

 

「城?城がどこにあんだよ?」

 

「はにゃ?目の前に見えているのだ」

 

「城ってあの壁のことか?」

 

「もちろんなのだ」

 

「あの、ルフィ殿…」

 

「なんだ?」

 

「ルフィ殿が思っている城というは、どのようなものなのですか?」

 

「王様とか偉い奴が住んでる、でかい建物のことだぞ?」

 

「つまり王族などの住居のことなのですね。

こちらの世界では城というのは、あのように一つの街を囲んでいる城壁のこと指すのです。

一応、戦などに備えて生活用の部屋もありますが、基本的に住居や職場として使うことはありません。

屋敷や庁舎などは、城内にある街の中心に建てられているのです」

 

「ふ~ん、そうなのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~城門~

 

「失礼、少々よろしいか?」

 

ルフィたち3人が城門から入ろうとしたとき、門番の兵に呼び止められた。

 

「何か?」

 

「違っていたらすまないが、お主はもしや巷で噂の“黒髪の山賊狩り”ではないか?」

 

「まァ…そう呼ぶ者もいるようで…」

 

まんざらでもなさそうに答える愛紗。

 

「おお!そうでしたか!

近くの村に現れたと聞いたので、それらしき人物を見かけたら声をかけていたのですが、黒髪の綺麗な絶世の美女という噂でしたので…

 

 

 

 

 

危うく見過ごすところでした」

 

グサッ!

 

愛紗に見えない何かが突き刺さった。

 

「では、少々お待ちを。主に報告してまいります」

 

そう言うと兵士は街へと走っていった。

 

「愛紗はキレイで有名なのだ!」

 

「ああ…黒髪はな…」

 

「まァ、元気出せよ…」

 

気の利いた言葉は出てこないが、とりあえず慰めるルフィだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして兵が戻り、3人はある屋敷の庭にある円卓で待たされていた。

 

それからまたしばらくすると、2人の女性が現れた。

 

1人は鈴々よりも濃い赤い髪をポニーテールにし、同じような赤い服を着た女性。

もう1人は白く袖の長い着物を着た水色の髪の女性。

目つきは鋭く、明らかにただものではない風格を漂わせている。

どちらも年齢はルフィや愛紗と同じくらいである。

 

「お待たせして済まない。

私は“公孫瓚(こうそんさん)”、字は“伯珪(はくけい)”と申す。太守(たいしゅ)としてこの辺りを治めている」

 

「“タイシュ”って…偉い奴なのか?」

 

「え?」

 

ルフィの質問に、公孫瓚は驚いたような顔をする。

 

「ああ、失礼!この方は異国の者でして、この辺りの文化や習慣に疎いのです」

 

「ああ、そうだったのか。では、後で説明しよう。そして、こちらは…」

 

「“趙雲(ちょううん)子龍(しりゅう)”と申す。お主達と同じ、旅の武芸者だ」

 

「趙雲殿には客将として、我が軍に滞在してもらっている」

 

「お招きにあずかり、光栄です。私は“関羽”字は“雲長”です」

 

「おれは“モンキー・D・ルフィ”」

 

「鈴々なのだ!」

 

「こら!真名ではなく、ちゃんと名乗って挨拶せぬか!」

 

「関羽殿…」

 

愛紗が鈴々を注意していると、趙雲が口を開いた。

 

「まだお若いのに旦那様との間に、ずいぶんと大きな子供をお持ちなのですな」

 

「⁉ち、違います!私達三人は親子ではなく、義兄妹でありまして…」

 

「ほう、血の繫がっていない兄妹ですか…。では、夜はさぞかし仲が良いのでしょうな」

 

「⁉そ、そんなわけないでしょう!」

 

「そうなのだ!鈴々たちが仲良しなのは、夜だけじゃないのだ!」

 

「ああ!おれたちはいつでも仲良しだぞ!」

 

「ほほう…」

 

「二人とも!よく意味も分かってないのに、話に入ってくるな!」

 

「?」

 

「じゃあどういう意味なのだ?」

 

「えっ⁉あ、いや…それは…」

 

「ま、まァ…そういう話は後にしてもらうとして…」

 

「二度としません!」

 

「そちらのルフィ殿でしたな。ついでですから、この辺りの地理や政治について、簡単に説明しましょう。

その方が私の話も理解しやすいでしょうし」

 

 

 

 

 

 

そして公孫瓚は数枚の地図を用意した。

 

「―――まず、この地図の線で囲まれている部分が、我々の暮らす国“漢王朝(かんおうちょう)”だ。

漢王朝は十三の“(しゅう)”に分けられている。

ここがこの国で最も偉い方、皇帝陛下がいる“司隷(しれい)”だ。

そこから見て北に隣接しているのが“并州(へいしゅう)”、北西に隣接しているのが“涼州(りょうしゅう)”、北東に隣接しているのが“冀州(きしゅう)”、東に隣接しているのが“兗州(えんしゅう)”と“豫州(よしゅう)”、南に隣接している“荊州(けいしゅう)”、南西に隣接している“益州(えきしゅう)”。

冀州のさらに北東にあるのが、私達がいるここ“幽州(ゆうしゅう)”。

兗州と豫州のさらに東にあるのが“青州(せいしゅう)”と“徐州(じょしゅう)”。

荊州の東隣にあるのが“揚州(ようしゅう)”、南側にあるのが“交州(こうしゅう)”。

それぞれの州は“州牧(しゅうぼく)”または“州刺史(しゅうしし)”という役人によって治められている。

ついでに言っておくと、“牧”というのは軍権を持った“刺史”のことだ」

 

そこまで説明すると公孫瓚は、幽州について描かれた別の地図を取り出す。

 

「それぞれの州はいくつかの“(ぐん)”に分けられており、その郡を治めているのが太守だ。

またそれぞれの郡はいくつかの“(けん)”に分けられ、“県令(けんれい)”、“県長(けんちょう)”によって治められている。

“県長”と“県令”は治める県の人口によって区分される。

私はここ“幽州北平郡(ほくへいぐん)の太守”というわけだ」

 

「じゃあこのお姉ちゃんは、州牧って人の部下なのか?」

 

鈴々が訊ねる。

 

「いや、州牧、州刺史、太守、県長、県令はすべて皇帝陛下の配下でな、確かに立場は下だが上下関係があるわけではなくて…なんというか…」

 

「『命令を聞く必要はないが、何かをするなら報告しなければならない』ということだ」

 

公孫瓚が説明に困っていると、趙雲が代わって説明した。

 

「なるほどなのだ」

 

「なんとなくわかった」

 

「ちなみにこの地図で言うと、私たちがいるこの街がココ、鈴々がいた村はココだな」

 

「ええ⁉あんなに歩いたのにこんなに近いのか?」

 

「お前の領土ってこんなに広いのか!それにこの国、ホント大きいんだな!」

 

愛紗の説明に驚く2人だった。

 

「ふむ、では本題に入ろう」

 

と、公孫瓚の表情や声色に真剣さが増す。

 

「お主たちも知っての通り、漢王朝の混乱は、極限に達しているといっても過言ではない」

 

「偉い奴がダメなせいで、みんな苦しんでるんだよな」

 

「ああそうだ。しかし、最大の原因は皇帝陛下ではなく、その周りの臣下たちなのだ」

 

「ん?」

 

「どういうことなのだ?」

 

「この国では皇帝が亡くなると、その子供や最も近い親族から次の皇帝が選ばれる。しかし、皇帝の一族が全員賢明だとは限らない。

また、先帝が早死にした場合、幼い年齢で皇帝となることになる。それでは政治ができるわけがない。

そのため、皇帝陛下を補佐し、助言をする人間が必要なのだが、そいつらが問題だったのだ」

 

「奴らはどれだけ戦や飢饉などが起きたとしても、皇帝に『国は平和で、何も問題はない』と嘘の報告をし、問題解決に使うはずの金品で贅沢をしているのだ」

 

「何だそれ⁉」

 

「許せないのだ!」

 

公孫瓚と趙雲の説明を聞き、ルフィと鈴々は怒りだす。

 

「問題の解決は我々に丸投げして、自分達は何もしない。

私たちは皇帝陛下の部下である以上、当然命令されれば行動するが、何をするにしても金や食料、人手など様々なものが必要になる。

しかし、奴らは命令だけを出し、増援や必要物資を送ることもせず、報告を待つだけ。何が原因で何が起こり、どう解決したのかもまったく興味がないのだ」

 

「この国の偉い奴らって、本当にダメなんだな」

 

「―――だが、これは好機でもある」

 

「「「?」」」

 

公孫瓚の言葉にルフィと鈴々だけでなく、愛紗も疑問符を浮かべる。

 

「中央の連中は自分たちの贅沢に夢中で、外のことに全く興味がないため、我々が()()()()()まず咎めることはない。

暴政や賄賂、誅殺はもちろん、他の州や郡への侵略や徴兵、交易などもそうだ。何をしても、適当な理由をつけ、国と陛下のためにやったことだと言えば、まかり通るようになっている。

―――たとえそれが、謀反を起こすための準備だとしてもな」

 

「「「⁉」」」

 

「すでに漢王朝に国家としての威厳はない。

名門“袁家(えんけ)”の血筋である“袁紹(えんしょう)”と“袁術(えんじゅつ)”、先日“孫堅(そんけん)”から家督を譲り受けた“孫策(そんさく)”、最近都の方で頭角を現してきた“曹操(そうそう)”をはじめ、多くの群雄たちは朝廷を()()()()()()()()()

臣下としての称号や官職よりも、自らの力で領土、さらには天下を治めるための富や兵力、そして人材を求めている。無論この私もだ」

 

「で、ですが…仮にも臣下たるものが国に刃を向けるなど…」

 

「違ェよ愛紗」

 

「え?」

 

「“国”ってのは、()()()()()()じゃねェよ。な、そうだろ?」

 

「…あ、ああ……」

 

(…ほう……)

 

「…………」

 

「?」

 

鈴々はよくわからないようだが、他の3人はルフィの言葉に驚いたような反応をした。

 

「…話を戻すが、そういった豪族の中には、民を救うべく立ち上がろうとする者もいる。

だが、ただ単に自分達で朝廷を牛耳って、贅沢をしたいだけの者もいる。

私は辺境の一領主ではあるが、今の世を憂いる気持ちは人一倍あるつもりだ。

そこで、乱れた世を救うため、是非、お主の力を私に貸してほしいのだ!」

 

「公孫瓚殿」

 

…と、そこで趙雲が話に割って入ってきた。

 

「話の途中で済まないが、それはいささか早計ではないか?」

 

「と言うと?」

 

「“黒髪の山賊狩り”についての噂は、私も旅の途中で何度か耳にしました。しかし、噂という物は得てして尾ひれがつきやすいもの」

 

―――――黒髪の綺麗な絶世の美女という噂でしたので

 

「……確かに」

 

自分の噂(と人々の反応)を思い出し、また少し悲しくなる愛紗だった。

 

「ですから、まずは関羽殿の実力を確かめてみてはいかがでしょう?」

 

「成程、確かにそうだな」

 

「差し支えなければ、その役目、私が引き受けましょう」

 

「おお、それは良いな!いかがかな関羽殿、趙雲どのと手合わせしてみては?」

 

「いや…しかし私は…」

 

「臆されましたかな?」

 

「!」

 

趙雲の挑発的な言い方に、愛紗は表情を険しくする。

 

「そんなわけないのだ!」

 

が、鈴々がそれよりも早く挑発に乗った。

 

「愛紗はすっご~~~く強いのだ!お前なんかに絶対に負けたりしないのだ!

―――っていうか、お前なんか愛紗が出るまでもないのだ!鈴々がちょちょいのぷ~でコテンパンにしてやるのだ!」

 

「ほほう、かなりの自信だな」

 

そう言うと趙雲は立ち上がる。

 

「ではその自信のほどを、確かめさせてもらおう」

 

「望むところなのだ!」

 

こうして、鈴々と趙雲が勝負することになった。

 

 




今作の公孫瓚さんは、北平郡の太守という設定になりました。



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第9話 “潜入作戦”

鈴々と趙雲が手合わせをすることになり、鈴々は丈八蛇矛を、趙雲は“龍牙(りゅうが)”という槍を構え、対峙する。

 

「始め!」

 

公孫瓚がそう叫ぶと同時に、鈴々は仕掛ける!

 

「うおりゃーーーーー!」

 

ガキン!

 

振り下ろされた鈴々の一撃を趙雲は正面から受け止める。

 

「―――ほう…!」

 

そして、蛇矛を受け流すように振り払う!

 

「うりゃりゃーーーーー!」

 

躱された鈴々は次々と攻撃を放つ!

 

「―――っ!」

 

「!」

 

しかし、趙雲はそれらを全て、必要最低限の動きで躱す!

その動きに愛紗は驚く。

 

「ヒラヒラ逃げてばかりなのだ!」

 

「どうした?もう降参か?」

 

「そんなわけないのだー!」

 

そう叫び鈴々は蛇矛を振り上げるが―――

 

「鈴々!そこまでだ!」

 

「⁉」

 

愛紗に止められる。

 

「どうしてなのだ愛紗!鈴々はまだやれるのだ!」

 

「わかっている。だが…私も戦ってみたくなったのだ」

 

「?」

 

「ほう…」

 

 

 

 

 

 

そして、鈴々に代わり愛紗が趙雲と対峙する。

 

「…………」

 

「…………」

 

両者は互いに動かず、しばらくにらみ合い…

 

「…成程、よくわかった」

 

「「「「!」」」」

 

趙雲が構えを解いた。

 

「本当に強い相手なら、戦わずともわかるものだ。

公孫瓚どの関羽どのの実力、しかと見届けました」

 

「うむ」

 

「ふう…」

 

「ししし!」

 

「はにゃ?」

 

 

 

 

 

 

手合わせを終え、5人は再び席に着いたが…

 

「む~~…」

 

鈴々が不機嫌そうにしていた。

 

「どうした鈴々?」

 

「そんなふくれっ面して?」

 

「…さっきのだと、なんだか鈴々だけ強くないみたいなのだ…」

 

「いや張飛とやら、お主の強さは本物だ。ただ、その強さをうまく使えていないだけだ」

 

「?」

 

趙雲が説明するが、鈴々はよくわからなかった。

 

(…………ん?)

 

その直後、趙雲は鈴々の言葉のあることに気が付く。

 

(“鈴々()()”…?あの男は…?)

 

そんなことを考え、ルフィを見るが…

 

(荷物持ちか何かだから、比べる相手に入れてないだけか…)

 

そんなふうに考え、口にはしなかった。

 

「?何だ?」

 

「…いや何でもない。そういえば公孫瓚殿、この間お話した例の件ですが…」

 

「ああ、あれか…」

 

「例の件?」

 

「何かあったのか?」

 

「実は山賊退治に少々手こずっていてな…。

これまでの状況からみて、連中の根城は赤銅山(しゃくどうざん)にあるようなのだが、いくら山を探しても、それらしき砦が見つからなくてな…。

討伐隊を出すこともできんのだ…」

 

「そこで私が一計を案じてみたのだ」

 

「その作戦とは?」

 

「偽の隊商をしたてて、その荷物に中に潜り込み、わざと荷物を賊に奪わせる。

そのまま、賊に直接隠れ家に連れて行ってもらう、というわけだ」

 

「おおー!頭いいなお前!」

 

「しかし、賊の巣窟に単身で乗り込むなど…」

 

公孫瓚はその作戦に反対しているようだった。

 

「“虎穴に入らずんば虎子を得ず”です。

そもそも武器を手にし、戦に身を投じた時点で、危険は覚悟しておかねばならぬもの」

 

そう言うと、趙雲は愛紗の方に向き直る。

 

「どうですか関羽殿、私と一緒に賊の隠れ家を訪ねてみませぬか?」

 

「引き受けた」

 

愛紗がそう言い…

 

「よし!おれも行くぞ!」

 

「鈴々も行くのだ!」

 

ルフィと鈴々も協力を申し出るが…

 

「お主達はダメだ!」

 

趙雲にきっぱりと断られてしまう。

 

「え~⁉」

 

「どうしてなのだ⁉」

 

「よいか?荷物の中に潜み、賊の隠れ家に着くまでは、ずっと息を殺し、じっとしていなければいけないのだぞ。

お主達のように根が騒がしくできている人間には無理だ。

きっと半刻もじっとしていられまい」

 

「ああ、そりゃムリだな」

 

じっとしているのが苦手、というより嫌いな自覚があるルフィは引き下がるが…

 

「そんなことないのだ~~~!鈴々はやればできる子なのだ~~~!」

 

鈴々は大声で叫び、猛抗議する。

 

「ほう…では今ここでやってもらおうか」

 

若干、ニヤニヤしながら趙雲がそう言い…

 

「お安い御用なのだ!こうやって、じっとしているだけでいいんだから簡単なのだ!」

 

そう言って鈴々は腕を組み、胡坐をかいて座り込む。

 

 

 

 

 

 

~1分後~

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

~5分後~

 

「…………っ」

 

 

 

 

 

 

~10分後~

 

「~~~~っ!」

 

「……おい、鈴り…」

 

ボカァァァァァン!

 

「はにゃ~~~~~⁉」

 

「鈴り~~~ん⁉」

 

「爆発したァ⁉」

 

じっとしていたことにより、体内にため込みすぎた何かが爆発した鈴々は、真っ黒コゲになり倒れこんだ…。

 

「おい鈴々!しっかりし―――熱ィッ!スゲェ熱だ!」

 

「公孫瓚殿!医者を!早く!医者を!」

 

ルフィと愛紗は慌てふためき、趙雲は気にすることなく茶をすすり、公孫瓚はその様子を苦笑いして見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、愛紗と趙雲で作戦を決行することになったが…

 

「この中に隠れるのか…」

 

「少々窮屈だろうが、仕方あるまい」

 

賊が荷車を運搬した際に怪しまれないためには、愛紗達が隠れる(ひつ)の他にも積み荷を乗せ、荷車全体をある程度の重くする必要があった。

そのため、2人が隠れる櫃は2人がギリギリ入れる大きさになってしまった。

さらに万が一、中身を見られた場合に備え、衣服や反物を一緒に入れたため、かなり狭くなった。

 

「これではそうとう身体を密着させねばならないな」

 

「なァに問題ない。私はそのケがなくもないのでな。むしろ大歓迎だ」

 

「そうか。なら安し……⁉」

 

全く安心できない愛紗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして、公孫瓚の兵が変装した商人に運ばれ、2人は出発した。

 

~その道中~

 

「ちょ、趙雲殿…」

 

「しっ!いつ賊が現れるか分からぬのですから、静かに」

 

「で、ですがその…先ほどから…」

 

「…何ですか」

 

「趙雲殿の…膝が…」

 

「膝がどうかしましたか?」

 

「あ、当たって…」

 

「おお、失礼。ではこうして…」

 

「ひゃんっ!こ、今度は手が…」

 

「おお、いけない。では手をこっちにやって…」

 

「ふぁっ…!ちょ、趙雲殿…わざとやっておりませぬか?」

 

「ハテサテ何ノコトヤラ…」

 

「ぼ、棒読みではないですか!や、やはり…あっ!あんっ!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

後に、その時商隊に扮していた兵士たちは口を揃えてこう言った。

『ある意味これ以上に大変な任務はなかった』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数分後―――公孫瓚の執務室~

 

「公孫瓚様、報告です」

 

「何だ?」

 

「例の商隊が賊に襲われました」

 

「そうか、して首尾は?」

 

「はい、同行していた者に怪我はなく、荷物の方は全て賊の手に渡ったとのことです」

 

「そうか、ご苦労だった。あとは二人が上手くやってくれると良いのだが…」

 

ちなみにその頃、ルフィと鈴々は…

 

「…ヒマだな」

 

「…ヒマなのだ」

 

公孫瓚の屋敷の庭で寝転がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~同刻―――赤銅山のとある場所~

 

「今回の戦利品はこれで全部だな」

 

「あ~重て~…」

 

そして、賊は最後の荷物を少々乱暴に床に置く。

 

「キャッ!」

 

「ん?」

 

「どうしました頭?」

 

「今、女の声がしなかったか?」

 

「何言ってんですか?」

 

「あまりに女に飢えてるから、幻聴が聞こえたんじゃないですか?」

 

「そうかもな。じゃあ今日も村の娘に酌させるか」

 

そう言って賊は倉庫を出て行った。

 

ガタッ

 

「……よし、大丈夫だな」

 

櫃の蓋を少し開け、外の様子を確認した後、趙雲は外に出てきた。

その後から愛紗が少しのぼせた様子で外に出る。

 

……一体何があったのか?

 

「………どうやらここは地下のようだな」

 

少し周りを見渡して、趙雲がそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倉庫らしき部屋から通路に出た2人は、周囲の様子を見渡す。

 

「どうやらここは昔、鉱山だったようだな」

 

「その時の坑道を、そのまま隠れ家にしていたというワケか。

道理でいくら砦を探しても、見つからないはずだ」

 

そして2人は、隠れ家の場所を公孫瓚に知らせるために、少し探索してみるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思っていたより広いな…それに道も複雑だ。これでは出口を探すのも、一苦労だな」

 

「しかし、敵陣の中で得物がコレだけとは…少々心細いな…」

 

懐から取り出した短剣を見て、愛紗がつぶやく。

 

「しかたあるまい。お主の乳が邪魔で、それ以上の大きな武器は入らなかったのだから」

 

「⁉な、なにも邪魔だったのは私の乳だけではあるまい!」

 

「…そうだな。乳だけではなく、お主の尻も邪魔だったかもしれんな」

 

「なっ⁉」

 

「!しっ!」

 

「?」

 

趙雲に言われ、愛紗は口を閉じる。

 

すると、そう離れていない場所から大勢の笑い声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人が声をたよりに少し歩くと、広いところに出た。

 

そこでは大勢の賊が宴会をしていた。

頭領らしき男は1人の娘を侍らせている。

 

「や…やめて下さい!これ以上は…!」

 

「いいじゃねェか、減るもんじゃねェし」

 

「い、いやァ!」

 

頭領は強引に娘を抱き寄せ、身体を触る。

 

「おのれ無体(むたい)な…!成敗してくれる!」

 

その様子を見て愛紗は怒り、身を隠していた岩陰から今にも飛び出そうとする。

 

「関羽!何をするつもりだ?」

 

「決まっているだろう!あの娘を助けに行く!」

 

「しかし、相手はあの数。それに我らの役目はこの隠れ家の場所を…」

 

趙雲が言いきらないうちに、愛紗は飛び出し―――

 

「ハァッ!」

 

バキッ!

 

「ぐあっ⁉」

 

頭領の頭に蹴りをくらわせ気絶させる!

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい…ありがとうございます…」

 

「何だテメェは⁉」

 

「我が名は関羽!地下に巣くう外道ども!まとめて青龍偃月刀の……⁉」

 

そこまで言って、関羽は自身の手に青龍偃月刀がないことを思い出す。

 

「まとめて……どうする気だ?」

 

「き、キサマらなどこれで十分だ!命が惜しくないやつはかかってこい!」

 

そう言って愛紗は自身の後ろに娘を隠し、短刀を抜いて構える。

 

「その台詞…そっくりそのまま返すぜ」

 

しかし山賊たちは自分たちの有利を確信し、愛紗たちを取り囲む。

 

(くっ…!)

 

愛紗の方も強がっているものの、自分が不利であることはわかっていた。

 

後ろに守らなければならない娘がいるため、あまり大きく動くことができず、手にしている得物も普段の武器とは形が大きく異なるため、使い慣れていない。

いくら愛紗が強くても、この状況で数十人の相手をするのは分が悪かった。

そのため、ジリジリと距離を詰めてくる賊の大群を前に、身動きが取れなかった。

 

その時―――

 

ガタンッ

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

何かが倒れる音が響き、辺りが真っ暗になった。

 

「な、何だ⁉」

 

「明かりをつけろ!」

 

突然のことに賊たちが混乱する中―――

 

「関羽殿、こっちだ!」

 

「趙雲殿⁉」

 

趙雲が愛紗に駆け寄り、声をかけた。

 

愛紗が飛び出した後、趙雲はしばらく様子を見ていた。

そして賊が愛紗に気を取られているすきに、小石を投げつけて篝火(かがりび)を倒し、明かりを消したのである。

 

趙雲に案内され、愛紗は娘を連れてその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうやら追ってきてはいないようだな。

全く…猪武者なのは義妹だけかと思っていたが、お主もかなりのものだな」

 

「はは…申し訳ない。…ただ、どうしてもな…」

 

「?」

 

「自分で救えるものなら、必ず救うとそう決めていたもので、つい…」

 

「…そうか」

 

「あ、あの…」

 

「「?」」

 

「助けていただき、ありがとうございます…」

 

2人が話していると、先ほど賊につかまっていた娘が礼を言った。

 

「いえ、当然のことをしたまでです」

 

そして娘は、賊につかまった経緯を話し始めた。

 

「私はこの山の付近の村に住んでいたのですが、子供達と山菜採りに山に入ったとき、偶然ここへの出入り口を見つけてしまい…」

 

「それで捕まってしまったのか」

 

「はい。その時一緒にいた子供達も、捕まってここの地下牢にいるのです。

もし私が逃げ出したら、あの子達がどんな目に遭うか…」

 

「…どうする気だ?」

 

少女の話を聞き、趙雲が愛紗に訪ねた。

 

「無論、助ける」

 

「…だろうな」

 

愛紗の言葉に趙雲は、困ったような顔をするのだった。

 

 




ワンピース原作では、手配書が出回ってるからこそ、ルフィは警戒されていますけど、何も知らないで外見だけ見ると、やっぱり強そうに見えませんよね。


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第10話 “解決”

今回で第二席編は終わりです。



愛紗と趙雲が坑道内を探索していた頃―――

 

いつでも出陣できるように、準備をしていた公孫瓚のところに、1人の文官が報告をしていた。

 

「ルフィ殿と張飛殿が?」

 

「はい…『あまりにヒマだから自分たちも、赤銅山に行って賊の隠れ家を探す』と…」

 

「我々が何日かけて探しても、見つからなかったのだぞ。

それによく道を知らないまま行けば、間違いなく迷子になるぞ」

 

「私もそう言ったのですが、『いいから、場所を教えろ』と…」

 

「…それで、教えたのか?」

 

「はい…そしたら、あっと言う間に飛び出していきまして…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~同刻―――赤銅山、山中~

 

「う~ん…」

 

「道がわからないのだ…」

 

飛び出していった2人は、案の定迷子になっていた。

 

「隠れ家があるはずなのに、全然建物がないのだ…」

 

「う~ん、もしかしたら木の上とかにあんのかな?」

 

「木の上に隠れ家があるのか?」

 

「ああ、おれも昔木の上に家作ったりしてたからな」

 

「でも木はたくさんあるのだ…」

 

「そうだよな~…」

 

「そうだ!ルフィが首を伸ばして、上から探せばいいのだ!」

 

「おお!そうだよ!頭いいな鈴々!」

 

「にゃはは」

 

「よォし!“ゴムゴムの”…“展望台”!」

 

そう言うとルフィは真上に首を伸ばす。

そして、周りを見渡した後(頭が)降りてきた。

 

「どうだったのだ?」

 

「家はなかったけど、あっちに洞窟があったぞ!あれが隠れ家かもしれねェ!」

 

「じゃあ、行ってみるのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~坑道の隠れ家~

 

隠れ家の最も奥まった場所に牢屋はあった。

 

その中には4人の子供達が閉じ込められており、1人の賊が見張りをしていた。

 

「―――ったく、宴の時に見張り番なんてついてねェな…」

 

カタン

 

「?」

 

不意に物音がし、見張りの賊は音がした方を見る。

 

すると壁際から形の整った脚が現れた。しかも裸足である。

 

(おおっ⁉)

 

さらにほっそりとした腕が現れ、誘惑するように手招きをする。

 

(へへへ~♡)

 

すっかり色香に惑わされた賊は、警戒することなくのこのこと壁の向こうへとおびき寄せられ…

 

ゴン!

 

「フゲッ⁉」

 

その美脚の持ち主、趙雲に仕留められた。

 

「これで鍵は手に入った…ついでにコレも貰っておこう」

 

そう言って趙雲は賊が持っていた牢の鍵と槍、剣を拝借するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供達を助け出した愛紗達は、趙雲を先頭に坑道の中を走っていた。

 

「娘よ、出口の検討はつかないのか⁉」

 

「すみません!私達も捕まった後すぐに目隠しをされて、牢屋に連れていかれたので…!」

 

「そうか…!マズイ!」

 

趙雲達は前方の横道から歩いてきた、賊の1人に出くわしてしまった。

 

「いたぞー!こっちだー!」

 

愛紗達は慌てて引き返す!

 

しばらく走ると前方に光が見えてきた!

 

「!出口だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~同じ頃―――赤銅山、山中~

 

「洞窟はあったけど…」

 

「これじゃあ中に入れないのだ…」

 

ルフィが上から見たときはわからなかったが、その洞窟の入り口は断崖絶壁のど真ん中にあり、ルフィと鈴々は近くの崖からそれを見ていた。

入り口付近には、数人が乗れそうな足場があるだけで、辿り着くのはまず不可能だった。

 

「どうするのだ?」

 

「よし、おれが飛んで中見てくる」

 

そう言うとルフィは近くの岩に捕まる。

 

「“ゴムゴムの”…」

 

「しまった!行き止まりだ!」

 

「「⁉」」

 

ルフィが飛ぼうとする寸前、洞窟から何人かの人が出てきた。

その内の2人は見覚えがあった。

 

「愛紗!」

 

「そんな所で何してるのだ?」

 

「!ルフィ殿!鈴々も!」

 

それは坑道で出口を探していた愛紗達だった。

愛紗達が見つけた光は、この入り口に通じていたのだった。

 

愛紗達も向かいの崖にルフィと鈴々がいることに気付き、大声で呼びかける。

 

「ルフィ殿!あなたの能力(チカラ)でこの者達をそっちに…」

 

「追い詰めたぞ!」

 

「「「「「「「「!」」」」」」」」

 

しかし、それよりも早く賊が追い付いてきた。

 

「観念しやがれ!」

 

「クッ…!」

 

「「愛紗!」」

 

まず3人の賊が坑道内から、崖に突き出た足場へと出てくる。

 

愛紗と趙雲は応戦しようと、先ほど賊から奪った武器を構える。

ルフィと鈴々も愛紗達が危ないことを知り、何とか援護しようと考えるが…

 

ピシッ!

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

突然嫌な音が響き―――

 

バキィッ!

 

愛紗達が乗っていた足場が崩れた!

 

「「「きゃァァァァァ⁉」」」

 

「「「うわァァァァァ⁉」」」

 

愛紗に趙雲、村の娘や子供達も皆真っ逆さまに落ちていく!

 

「うわァァァァァ⁉」

 

「た、助けてくれー!」

 

愛紗達と同じ足場に乗っていた賊達は必死に、坑道内に残っていた仲間の足に捕まり、助けを求めるが…

 

「うわっ!やめろ!」

 

「手を放せ!」

 

「俺達まで巻き込まれるだろ!」

 

「ええっ⁉」

 

「そんなァ⁉」

 

無慈悲にも手を叩き落される。

 

その様子を見ていたルフィは―――

 

「鈴々!おれの足しっかり持ってろ!」

 

「わかったのだ!」

 

そう叫び、崖に身を投じた。

 

 

 

 

 

 

(くそっ!この高さでは助からん!)

 

落下していく中、趙雲は自分の命運が尽きたことを悟り、思わず目を閉じる。

 

すると―――

 

ガクン!

 

「⁉」

 

不意に落下が止まり、目を開けてみると…

 

「なっ⁉」

 

「んぎぎぎぎぎ……!」

 

ルフィが胴体と首を伸ばし、趙雲の服を口にくわえていた。

同じように落下していた愛紗や娘達も、ルフィが伸ばした腕でぐるぐる巻きにされ、しっかり掴まれていた。

 

「こ、これは…?」

 

「おおおおおっ!」

 

そのままルフィは全員を引き上げた。

 

「ふ~…間に合った…」

 

「た、助かりましたルフィ殿…」

 

「な、何今の…?」

 

「体が…伸びた…?」

 

「お、お主は一体…?」

 

趙雲達はルフィの身体が、人間とは思えないほど伸びていたことについて驚いている。

 

「た、助かったのか…?」

 

「い、生きてるよな…おれ達?」

 

「⁉」

 

大人の男の声が聞こえ、趙雲が見てみると、一緒に落下していた賊達がそこにいた。

 

「お、お主賊まで助けたのか⁉」

 

「だって、ほっといたら死んじまうだろ」

 

「そ、それはそうだが……」

 

ルフィの行動に趙雲は驚いたような、呆れたような顔をした。

 

「さて…」

 

「「「⁉」」」

 

愛紗はその3人の賊に武器を向ける。

 

「形勢逆転だな。どうする、まだやるか?」

 

「う…」

 

愛紗と趙雲は落下しつつも武器を放さなかったが、賊の方は武器を放り投げ丸腰となっていた。

 

「わ、わかった、降参するよ…」

 

「これじゃあ勝ち目ねェし…」

 

「助けてもらった恩もあるしな…」

 

「…なら良い」

 

「おい!あいつら生きてるぞ!」

 

「!」

 

声の方を見ると、洞窟の中から数人の賊がこっちの様子を見ていた。

 

「あいつらまさか、官軍の間者か何かか?」

 

「マズイ!隠れ家のことがばれるぞ!」

 

「お頭に報告だ!」

 

「…どうやら、急いで公孫瓚殿に報告する必要がありそうだな」

 

「しかし、間に合うか?」

 

「よし!お前ら先に行ってろ!」

 

「ルフィ殿は?」

 

「あいつらブッ飛ばしてくる!“ゴムゴムの”…“ロケット”!」

 

そう言うとルフィは洞窟へ飛んで行った。

 

その様子を見た後、愛紗は賊に向き直る。

 

「おいキサマら」

 

「は、はい!」

 

「坑道の出入り口がどこに通じているか、わかるな?」

 

「は、はい。一応、出入り口の場所は全部把握しています」

 

「では、この辺りの太守の屋敷まで道案内してもらうぞ。いいな?」

 

「はい」

 

「なァ…二人とも…」

 

愛紗が賊と話をつけると、趙雲が訊ねてきた。

 

「あの男は…一体?」

 

「ルフィは―――天の国から来た人間なのだ!」

 

「…“天の国”…⁉」

 

鈴々の答えに趙雲は、またもや驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~坑道~

 

ルフィは大勢の賊に囲まれていた。

 

「間者を送るとは生意気なマネしてくれるじゃねェか」

 

「お前一人…丸腰で戻ってくるとは、いい度胸だな」

 

「こっちには百人以上の兵がいるが、お前一人で相手するつもりか?」

 

「ああ。そのつもりだぞ」

 

賊の問いかけに、ルフィは拳を握りながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~赤銅山、山道~

 

愛紗達は賊に案内をさせ、公孫瓚の屋敷へと急いでいた。

 

「あとは道なりに進めば、太守様の治める街の南門に出るはずです!」

 

「そうか!」

 

「なァ、本当に良かったのか?」

 

走りながら趙雲が愛紗に訊いてきた。

 

「何がだ?」

 

「あの男を一人で賊の隠れ家に置いてきてだ!」

 

「心配ない!」

 

「ルフィは鈴々達の中で一番強いのだ!あんな奴ら何人いたってちょちょいのぷ~なのだ!」

 

「だが、何の武器も持たないで…」

 

「もともとルフィ殿は武器を使わん!だから問題ない!」

 

「なんと…!」

 

またしても驚く趙雲だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~坑道~

 

「―――“槍”ィ!」

 

ドスッ!

 

「ぐああっ!」

 

「この野郎!」

 

「一斉にかかれ!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおっ!」」」」」」」」」」

 

「“ゴムゴムの”…“花火”!」

 

ドガガガガガガァン!

 

「「「「「「「「「「うぎゃァァァァァ!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~公孫瓚の屋敷~

 

「なるほど、坑道を…。おい、そこの賊ども!」

 

「「「は、はい!」」」

 

「坑道の出入り口と、内部構造を詳しく教えろ!

そうすれば多少は罰を軽くしてやる」

 

「「「は、はい!」」」

 

「公孫瓚殿、可能な限り早くお願いします!」

 

「なァに心配するな、出兵の準備はすでにできている。あとは道がわかればいいだけだ!」

 

「そうですか」

 

「どうした関羽殿?あの男は強いのだから問題ないのだろう?」

 

「ええ、確かにルフィ殿は私達の中で一番強いのですが…一番頭が悪いのも彼なので…」

 

「なるほど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~坑道~

 

「う~ん、困ったな…」

 

賊を全て片付けた後、ルフィは坑道で迷子になっていた。

 

「誰かに訊きてェけど、みんなブッ飛ばしちまったからな~…。

あ、そうだ!壁ブッ壊して出りゃいいんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~赤銅山、山道~

 

愛紗達は公孫瓚の軍勢と一緒に、進んでいた。

 

「すごい数の白馬ですな」

 

「公孫瓚殿の白馬軍…実際に行軍を見るのは初めてだな…」

 

愛紗と趙雲がそんなことを話している隣で…

 

「『我が名は白馬将軍、公孫瓚!我が白馬軍の強さ、思い知るがいい!』…いや『我が白馬軍の恐ろしさ、とくと味わえ!』の方がいいか?」

 

「愛紗、あのお姉ちゃん何をやっているのだ?」

 

「鈴々、アレは気にしては駄目だ…」

 

「?」

 

ボコォォォォォン!

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

その時、突然近くの岩壁が吹き飛んだ。

 

「な、何だ!?」

 

皆が警戒していると、少しずつ砂煙が晴れ…

 

「よっしゃー!出られたー!」

 

ルフィが姿を現した。

 

「る、ルフィ殿⁉」

 

「おお、お前ら!何やってんだこんな所で?」

 

「それはこっちの台詞です!いったい何を⁉」

 

「いや~賊は全員ブッ飛ばしたんだけどよ、出口がわかんなくて壁ぶっ壊して出てきたんだ」

 

「お、おい…ちょっと待て」

 

「?」

 

公孫瓚が話に入ってきた。

 

「賊を全て倒したのか?」

 

「ああ、全員中でのびてるぞ」

 

「じゃあ私が戦う必要は…?私の出番は…?」

 

「ねェぞ」

 

「はは、そうか…まァ、賊が成敗されたから、良しとするか…」

 

「?」

 

白馬にまたがり、ガックリと肩を落とす公孫瓚。

そして白馬も溜め息をつくのだった。

 

その後、賊は全員逮捕。

その坑道はいざという時の避難所として再利用されることになり、公孫瓚が管理することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝―――

 

ルフィ達は公孫瓚のもとに一泊し、再び旅に出た。

が…

 

「お前、ホントに良かったのか?おれ達と一緒に来て?」

 

「私達は仕官するつもりはなかったが、趙雲殿は公孫瓚殿のもとにいれば、一角の将として名をあげることもできただろうに…」

 

そう。趙雲がルフィ達について来たのである。

 

「確かに公孫瓚殿は良い太守だ。だがそれだけだ。

天下に覇を唱えられるような人物ではないし、影も薄い」

 

「か、影って…それはちょっとひどくないか?」

 

「この広い蒼天の下…私が仕えるべき主となる人物は、きっと他にいる。

…それに天の上の人間にも興味が湧いたし、何よりお主達といた方が、この先面白そうだ」

 

「…そうか」

 

「ふふ…」

 

「にゃはは」

 

「せっかくだから、私の真名を預けよう。

これから私のことは“(せい)”と呼んでくれ」

 

「いいのか?」

 

「しばらくともに旅をする仲だ。それに…お主達ほどの武人なら、真名を預けることに不満はない」

 

「では私のこともこれからは“愛紗”で構わん」

 

「鈴々のことも“鈴々”でいいのだ」

 

「おれは真名はねェから“ルフィ”でいい」

 

「わかった。―――では、私が仕えるべき主が見つかるまで、よろしく頼むぞ」

 

こうして、ルフィ達は新たに“趙雲子龍”こと“星”を仲間に加え、旅に出たのであった。

 

 



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第11話 “袁紹と曹操”

今回から第三席編に入ります。



ルフィ達に星が加わってから十数日―――

 

一行は山中で仕留めたイノシシで、食事をしていた。

 

「しかし、ルフィ殿の強さには本当に驚かされるな」

 

肉を食べながら、星がそう言う。

 

「私と鈴々も出会ってから何度も組手をしているが、一度も勝てずにいるからな。

伸縮自在の身体を除いても、ルフィ殿はかなりの実力者だ」

 

「天の国の人間は、みんなそんなに強いのか?」

 

「いや、愛紗達だっておれのいた世界でも強い方だと思うぞ。

まーあそこには、おれより強い奴もいっぱいいるし、剣だったらゾロやブルックの方がスゲェけどな」

 

「その二人はルフィの仲間なのか?」

 

「ああ」

 

「ルフィ殿のお仲間…早く見つかるといいですね」

 

「お主達、こんな話を知っているか?」

 

「「「?」」」

 

「昔、()の王だった夫差(ふさ)は戦で父を失ったとき、薪の上で寝ることで、その痛みから復讐の誓いを新たにし、父の仇である(えつ)の王勾践(こうせん)を破った。

その後、夫差に降伏した勾践も苦い肝を()めることで、敗北の悔しさを忘れないようにすることで、後に夫差への復讐を果たしたという」

 

「成程…それで星、それは今の話と何の関係があるんだ?」

 

「いや、特に関係ないが」

 

「だあああああっ⁉」

 

愛紗は思わずズッコケた。

ルフィと鈴々は無視して肉をかじっている。

 

「―――しかし天の国の剣士か…是非とも一度手合わせを願いたいものだな…」

 

星はそう呟きながら、空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくし!…さすがに野宿続きで体が冷えたか?」

 

その頃、ある森の中を天の国の剣士、“ロロノア・ゾロ”は歩いていた。

 

「…にしても、あいつらどこ行きやがったんだ。いつもいつも、すぐ迷子になりやがって…」

 

実際はいつも迷子になっているのはコイツの方なのだが…そんなことを言いながら、しばらく歩き、ゾロは森を抜けた。

 

「……あれは…街か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冀州(きしゅう)渤海(ぼっかい)郡~

 

1軒の大きな屋敷で、1人の女性が風呂に入っていた。

風呂はとても広く、浴槽や周囲の装飾も精巧に作りこまれており、見るからに大金持ちの屋敷であることがわかる。

そもそもこの時代では風呂を沸かすのはとても重労働で、水や薪を大量に使用するため、入浴自体かなり贅沢である。

 

やがて女性は風呂から上がり、使用人の女性たちに服やタオルを持ってこさせる。

入浴中、頭に巻いていたタオルをとると、腰にまで届く長い金髪の縦ロールがあらわになる。

 

彼女は“袁紹(えんしょう)本初(ほんしょ)”。渤海郡の太守である。

 

袁紹がそのままくつろいでいると、3人の女性が部屋に入ってきた。

 

「“文醜(ぶんしゅう)”さん、“顔良(がんりょう)”さん、“田豊(でんほう)”さん、三人揃ってどうなさいましたの?」

 

袁紹が3人に訊ねる。

 

「袁紹様、“曹操(そうそう)”殿がお目通りしたいと出向いております」

 

白っぽい長髪で、一部を左右に黒い布でお団子にした、眼鏡をかけた女性、“田豊(でんほう)元皓(げんこう)”が答えた。

 

「お風呂に入ってようやく目が覚めたというのに…朝からあんないけ好かない小娘と顔を会わせなきゃならないなんて…」

 

「…って、もうお昼じゃないですか」

 

緑の短髪で、頭にハチマキのように青い布を巻いた女性、“文醜”が呆れたように言う。

 

「睡眠不足はお肌に悪いんですわよ」

 

「「「…………」」」

 

袁紹の言葉に苦笑いする3人。

 

「と、とにかく…我が領内に逃げ込んだ賊を成敗するために、わざわざ出向いて来たのですから、お会いしないわけには…」

 

「わかっていますわよ…!」

 

青いボブカットの女性、“顔良”に急かされ、袁紹は服を着て支度を整えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~袁紹の屋敷、謁見の間~

 

そこで金髪を縦ロールのツインテールにした少女、“曹操(そうそう)孟徳(もうとく)”が待っていた。

身体は小柄だが目つきは鋭く、かなりの威風を備えている。

 

ようやく出てきた袁紹は台座の上の椅子に座り、曹操に話しかける。

 

「朝廷の命令とはいえ、わざわざ“陳留(ちんりゅう)”からご苦労なことですわね、曹操さん」

 

「ええ、本来な私が出る必要はないけれど、賊どもが逃げ込んだのが、あなたの領地だというなら、話は別」

 

「…!」

 

「放っておいたら、賊が逃げてしまうものね」

 

「ちょっとそれはどういう意味ですの?」

 

「袁紹…あなたが賊退治もロクにできない、無能な領主だと言っているのよ」

 

「なっ…!」

 

「キサマ!袁紹様に対して無礼であろう!」

 

主を侮辱する発言に、文醜が怒り出す。

 

「いくら()()()()()でも言って良いことと、悪いことが…」

 

…が、口を滑らせてさらに主を侮辱してしまう。

 

「ちょっとそれはどういうことですの⁉」

 

「あっ!スミマセン…勢いあまってつい本音が…」

 

「何ですってェ⁉」

 

弁明しようとするも、かえって火に油を注いでしまう。

 

「無能な主に間抜けな家臣とはいい組み合わせね。恐れ入ったわ」

 

曹操はさらに皮肉を言うが…

 

「どうだ!参ったか!」

 

バカにされていることがわからない文醜は、得意げに胸を張る。

 

「ちょっと!文ちゃん!」

 

「私達今、馬鹿にされたのよ!」

 

「へ?そうなの?」

 

「ぷぷっ…!」

 

「~~~っ!」

 

曹操はとうとう笑いをこらえきれなくなり、袁紹は恥ずかしさと悔しさでものすごく不機嫌になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく!あなた達のせいで大恥かいたじゃありませんの!」

 

謁見が終わった後も、袁紹はご機嫌斜めだった。

 

「『あなた達』って…」

 

「私達は何も…」

 

「でもいいんですか“麗羽(れいは)”様?」

 

「何がですの“猪々子(いいしぇ)”さん」

 

周りにいるのが親しい者だけになったため、“袁紹”こと“麗羽”と“文醜”こと“猪々子”は互いを真名で呼び合う。

 

「賊退治ですよ。全部曹操にやらせちゃって…」

 

「そんな汚れ仕事、あの小娘に任せておきましょう。

それより“斗詩(とし)”さん、“真直(まぁち)”さん、武闘大会の方はどうなっていますの?」

 

「はい。出場者は大勢集まり、会場設営の方も滞りなく進んでおります」

 

「まだ、飛び入り参加者の募集は行っていますが、予定通りに開催できるかと」

 

麗羽に言われ、“顔良”こと“斗詩”と“田豊”こと“真直”は答える。

 

「ふふふ…大会の優勝者をわが軍に将として迎え入れ、軍を強化すれば私の天下への大きな前進となりますわ!おーほっほっほ!

さあ、猪々子さん!斗詩さん!真直さん!私たちも大会開催に向けて、準備いたしますわよ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~街の大通り~

 

先ほど麗羽と謁見していた曹操が部下達と馬に乗り、城外に設営した自軍の陣に向かっていた。

 

連れているのは3人。

赤い服を着て下半身まで届く長い黒髪、前髪をオールバックにし、1本のアホ毛が生えた女性“夏侯惇(かこうとん)元譲(げんじょう)”。

水色の服に水色の短髪で、左半分の前髪をバックにしている女性“夏侯淵(かこうえん)妙才(みょうさい)”。

顎まで届く長さの茶髪に、猫耳が付いた緑のフードを被った小柄な女性“荀彧(じゅんいく)文若(ぶんじゃく)”である。

 

「“華琳(かりん)”様、袁紹殿の様子はいかがでしたか?」

 

夏侯惇が曹操の真名を呼び訊ねる。

 

「相変わらずよ…。名門の出であることに胡坐をかいて、自分の無能さに気付きもしない…。

あんな者が太守としてふんぞり返っているなんて、この国の最後はいよいよ迫りつつあるわね…」

 

「しかし華琳様…いくら朝廷の命令とはいえ、わざわざ他人の領土まで賊退治に赴くなど、少々やりすぎではありませんか?」

 

「確かにそうね…。でもね“秋蘭(しゅうらん)”、私が天下を取った暁には、ここも私の領土となるのだもの。

それを思えば、仕方のないことでしょ?」

 

「…確かに」

 

華琳の言葉に“夏侯淵”こと“秋蘭”はうなずくのだった。

 

「“春蘭(しゅんらん)”、兵の方はどうしている?」

 

「到着直後に準備をしておくよう伝えておきました。すでに出陣の支度は整っているかと」

 

華琳に訊かれ、“夏侯惇”こと“春蘭”は答える。

 

「そう。“桂花(けいふぁ)”、陣に戻ったらすぐに軍議を始めるわよ」

 

「はい。すでに斥候(せっこう)も出しておきましたから、すぐに情報を整理し、妙策を考えて見せます!」

 

華琳に言われ、“荀彧”こと“桂花”は自信満々に答える。

 

「期待しているわ。時間も物資も惜しいしすぐに……⁉」

 

そう言いながら城門を出ようとした瞬間、華琳は口を閉ざし、後ろを振り返ったまま、動かなくなった。

 

「…華琳様?」

 

気になって家来の3人も後ろを振り返る。

すると華琳の視線の先には、自分達と入れ違いに入っていった1人の男がいた。

 

緑の髪で腹巻をし、何より特徴的なのが…

 

「刀を三本も持っているとは珍しいな。一本は口にでもくわえて使うのか?」

 

「…そんな馬鹿みたいな発想するの、アンタぐらいよ」

 

「なんだとォ⁉」

 

「姉者、桂花もやめんか」

 

秋蘭に諌められ、2人は口を閉じる。

 

「おそらく一本は誰かの形見とか、家宝だとかそういう理由で持ち歩いているだけだろう。

しかし華琳様…確かに珍しいものではありますが、そこまで気にすることはないのでは…」

 

「もしや、あの男が何か無礼を?」

 

「いいえ、そういうわけではないわ。……ただ…何故かしらね?気になるのよ」

 

 

 

 

 

 

華琳たちと入れ違いに街に入ってきた男、ゾロは…

 

「さてと…とりあえず街に入ったものの…金はねェし、どうしたもんか…ん?」

 

そんなことを言いながら歩いていると、前方に人だかりがあるのが見えた。

よく見ると1本の立て札があり、それを見に人が集まっているようだった。

 

ゾロも近くに行き、立て札を見てみるが…

 

「……何て書いてあんだ?」

 

文章が全く読めない。

文法が知っているものと全く異なり、ただ漢字が並んでいるだけである。

そして漢字も、見たことがない字が半分ほどある。

 

「『武闘大会、本日開催。飛び入り参加歓迎。優勝者および準優勝者には賞金・豪華副賞あり』だってさ」

 

「?」

 

困り果てていると、背後にいた誰かが声に出して読んでくれた。

 

振り向くと、茶色い髪を長いポニーテールにした眉の太い女性がいた。

身長や年齢はゾロと同じくらいで、なんとなく男勝りな雰囲気がある。

 

「…ってことは、これで優勝すれば、金が手に入んだな」

 

「そうだけど…あんた本気で優勝する気か?」

 

「当然だ」

 

「残念だけど、そりゃあ無理だな」

 

「……何でだ?」

 

「優勝するのは、このアタシだからさ!」

 

「へえ…」

 

ゾロは面白そうな笑みを浮かべ、その女性が持つ十字の槍を見た。

 

 




…と、いうワケで今回はゾロの話となりました。
今作では、序盤は麦わらの一味は別々に行動するので、ゾロがルフィ達と合流するのは、だいぶ先になります。




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第12話 “ゾロVS馬超”

~武闘大会会場~

 

『只今より、武闘大会を開始します!大陸全土から集った猛者たちが、最強の座をかけて競い合います!

司会進行は私、“陳琳(ちんりん)”が務めさせていただきます!

それでは、大会開催に先立って、今大会の主催者からご挨拶いただきましょう!

冀州渤海郡太守にして、超名門!袁家の現当主!袁紹様です!』

 

眼鏡をかけた女性の司会者、陳琳の言葉とともに試合用のステージであろう台座、その後方にある壇上に麗羽が現れる。

同時に、ステージの前方、左右にそれぞれ待機している猪々子、斗詩、真直が、“歓呼声(歓呼の声)”“鼓掌(拍手)”と書かれた看板を掲げ、観客に場を盛り上げるよう促す。

 

「名門?“えんけ”?」

 

「袁家は三代連続で“三公(さんこう)”を輩出した名門なんだ」

 

知らない言葉にゾロが首をかしげていると、先ほど立て札の前で会った女性が教えてくれた。

 

「何だその“サンコウ”ってのは?」

 

「この国で常設されている官職のなかで、最高位の三つの官職ことさ。

軍事の最高権力である“太尉(たいい)”、民生を司る“司徒(しと)”、治水や土木関係の最高責任者“司空(しくう)”の三つだ。

あそこにいる袁紹の一族は、あいつの親を含めた三代前の親族、さらにはその兄妹も三公をを務めた名門なんだ」

 

「なるほど…で、あいつ自身はどうなんだ?」

 

「ああ、それは…」

 

「お~ほっほっほ!」

 

「「⁉」」

 

その時突然、妖艶な高笑いが響き渡った。

 

「みなさァ~ん!今日はこのわ・た・く・し、袁本初が主催の武闘大会にようこそおいで下さいました!

大陸各地から集まった武芸者たちの中で最強を決める、言わば大陸最強の武芸者を決定する大会が、必然かもしれませんが、このわ・た・く・し、袁本初の治める街で開催されることを、心から光栄に思いますわ!

お~ほっほっほ!」

 

「…………」

 

「まァその…無能だとか暴君だってワケじゃないらしいけど…」

 

「もういい…なんとなく分かった…」

 

2人がそんなことを話している間も、麗羽の挨拶は続いている。

 

「今日は大陸中から集まった武芸者たちの対決を、心行くまで楽しんでいってくださいね。

我が名族、袁家は代々……」

 

『袁紹様!ありがとうございました!

さァ!袁紹様からありがたいお言葉を賜ったところで、さっそく試合に参りましょう!』

 

「…………」

 

明らかに長い無駄話が始まる前に、陳琳が次のプログラムへと進める。

この人、司会進行としてなかなか優秀である。

 

袁紹本人は不機嫌そうであったが…。

 

「おれは第一試合だな。さっそく行ってくるか」

 

「あ、ちょっと待った」

 

「?」

 

「自己紹介、まだだったよな。あたしは“馬超(ばちょう)”、字は“孟起(もうき)”ってんだ。お前は?」

 

「“ロロノア・ゾロ”だ。おれとお前が戦うとしたら、決勝戦だな。楽しみにしてるぜ」

 

「こっちこそな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~第一試合~

 

『では第一試合の前に、試合形式について説明します。

今大会は一対一の勝ち抜け戦で、舞台上から落下する、舞台上で倒れる、気を失う、降参を宣言する、このいずれかで負けとなります。

それでは第一試合の選手に入場してもらいましょう!』

 

その声とともに、2人の選手が舞台上に上がる。

 

『第一試合は優勝候補の一人でもある、身の丈十尺!重量十斤の大鉞を使う“鉄牛(てつぎゅう)”選手!』

 

「「「「「「「「「「おおおっ!」」」」」」」」」」

 

その筋肉隆々の巨体に観客は驚き、声をあげる。

 

『対するは、海の向こうの異国の地よりやって来た“ロロノア・ゾロ”選手!

異国の剣術がどのようなものか、是非見てみたいところですが、これではその機会があるかどうか…』

 

そして、試合開始の銅鑼が鳴る。

 

ジャーン!

 

「おらァァァァァ!」

 

『あーっと!鉄牛選手が先手を取ったー!早くも勝負あったかー!?』

 

陳琳をはじめ、観戦者の多くが鉄牛の勝利を確信する。

しかし、ゾロは慌てる様子もなく1本の刀“秋水(しゅうすい)”を抜き―――

 

ガキン!

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

『あーっと受け止めたーっ!ゾロ選手!

常人では持ち上げることができない、大鉞の一撃を!剣一本で!受け止めましたー!』

 

「こ、こいつ…」

 

「なかなかの力だが…その程度じゃおれには勝てねェ!」

 

そう言うとゾロはさらに1本の刀“鬼徹(きてつ)”を抜き、構える。

そして―――

 

「“二刀流”……“(サイ)”……“(クル)”!」

 

ドゴォォォォォン!

 

「ぐあああああ⁉」

 

そのまま、相手の巨体を場外に吹き飛ばした。

 

ドスゥゥゥン…!

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

『………あ…しょ、勝利ーーー!ゾロ選手、優勝候補の一人、鉄牛選手を破りましたーーー!』

 

「「「「「「「「「「……お、オオオーーーッ!」」」」」」」」」」

 

一瞬、その場にいた全員が呆然としていたが、すぐに歓声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

~第十二試合~

 

『さァ第十二試合は荊州の槍の名手、“陳応(ちんおう)”選手に対するは、西涼出身の馬超選手の試合となっております!

それでは早速、試合開始!』

 

ジャーン!

 

「はあああああっ!」

 

銅鑼が鳴ると同時に、陳応と呼ばれた女性は凄まじい速さで槍を振るい、馬超に襲い掛かる!

 

「―――っ!」

 

対して馬超は守備に徹する。

 

『おーっと、もの凄い槍の猛攻!馬超選手は防戦一方か⁉』

 

陳琳の言う通り、一見馬超が不利なように見える。

 

しかし、ゾロの考えは違った。

 

(あの馬超って女、必要最低限の動きで避けてやがる。息も全く乱れてねェ。

それに対して陳応って奴は、少しずつ息が上がっている。

この勝負、馬超の勝ちだな)

 

「ハァ…ハァ…」

 

しばらくして、陳応が攻撃の手を止めると…

 

「…終わりか?じゃあ、こっちから行くぜ!」

 

「⁉」

 

「ハァァーーーッ!」

 

馬超は陳応よりも速いスピードで攻撃を繰り出す!

 

「ぐっ!…うっ!」

 

最初に攻撃を仕掛けすぎたため、疲弊していた陳応はその攻撃を受け切れず…

 

ガキィィィン!

 

「ぐあっ!」

 

吹き飛ばされ、気を失ってしまった。

 

「急所は外しておいたぜ」

 

『決まったーーー!第十二試合、勝者は馬超選手ーーー!』

 

 

 

 

 

 

その後も………

 

「オラァァァァァッ!」

 

『ゾロ選手!圧勝です!』

 

 

 

 

 

 

ゾロと馬超は………

 

「でりゃァァァァァ!」

 

『馬超選手!秒殺です!』

 

 

 

 

 

 

順調に………

 

「“鷹波(たかなみ)”!」

 

『ゾロ選手!またもや一撃で決めました!』

 

 

 

 

 

 

勝ち進み………

 

「“白銀乱舞(はくぎんらんぶ)”!」

 

『馬超選手!ついに優勝に王手をかけたー!』

 

ついに決勝で対決する。

 

 

 

 

 

 

~決勝戦~

 

『さァ、今武闘大会も、いよいよ最終決戦です!

異国の剣豪、ゾロ選手対、西涼の暴れ馬、馬超選手!

これまでの試合で圧倒的な強さを見せてきた二人がついに対決します!』

 

「「「「「「「「「「おおおおおっ!」」」」」」」」」」

 

両選手が桁違いの強さを見せてきたため、観客の盛り上がりも最高潮を迎えている。

 

「おめェと勝負するの、楽しみにしてたぜ」

 

「あたしもだよ。…っていうか、正直に言うと、あんた以外は眼中になかったしな!」

 

『それでは早速、試合開始ー!』

 

ジャーン!

 

銅鑼の音と同時にゾロは2本の刀を、馬超は十字の槍“銀閃(ぎんせん)”を構える。

 

「「…………っ!」」

 

しばらくにらみ合った後、両者は走り出し―――

 

ガキィィィィィン!

 

ステージの真ん中でぶつかる!

 

「「―――っ!」」

 

そのまま少し押し合った後、両者は距離を取り再びぶつかる!

 

「オラァッ!」

 

ゾロが先手を取り、左右から刀を振るう!

 

ギキィン!

 

「ハァッ!」

 

ゾロの二刀を馬超は(やじり)石突(いしづ)きで受け流しつつ、刺突を繰り出す!

 

ガキン!キィン!

 

ゾロは刺突を受けつつ、今度は二刀を縦に振り下ろす!

馬超は槍で受けながら横に跳び、槍でなぎ払う!

その一撃を、ゾロは後ろに飛び退いて躱し、距離をとった後斬りかかる!

 

ときに躱し、ときに距離を取り、ときに押し合いながら2人は激戦を繰り広げる!

 

『これはすごい!両者一歩も譲らない!この決勝戦にふさわしい激戦に、私目が離せません!』

 

陳琳だけでなく、観客たちも瞬き一つせず見入っている。

 

ゾロと馬超はしばらく打ち合い、また距離をとった。

 

「なかなかやるな!」

 

「てめェもな!」

 

そう言うとゾロは、左腕に着けていた黒い手拭いを被る。

さらに3本目の刀“和道一文字(わどういちもんじ)”を抜き…

 

『あーっと、ゾロ選手!三本目の刀を抜き、なんと口にくわえました!

三刀流です!私、このような剣術初めて見ました!』

 

観客たちや馬超も見たことのない剣術に驚く。

 

「…少しばかり本気で行くぜ」

 

「来い!(さっきまでと様子が違う…)」

 

「“三刀流”…」

 

(来る…!)

 

「“鬼”…」

 

(―――っ!)

 

「“斬り”!」

 

ドン!

 

「…………」

 

「…………」

 

『…………』

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一瞬、空気が静まり返り…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ウゥッ……」

 

ガクッ

 

馬超が膝をついた。

 

「安心しろ、峰打ちだ」

 

「はは…参った…」

 

『馬超選手降参!よって冀州一武闘大会、優勝はロロノア・ゾロ選手です!』

 

「「「「「「「「「「おおおおおっ!」」」」」」」」」」

 

陳琳の宣言と同時に会場は大歓声に包まれた。

 

「優勝したゾロ選手と準優勝者の馬超選手は、副賞として我が屋敷での夕食にご招待しますわ!

それでは皆さん、閉会の言葉を名族たる……」

 

袁紹の明らかに無駄に長そうな話が始まる前に、観客はもちろんのこと、出場選手、陳琳をはじめとした大会運営スタッフも会場から消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その日の夜―――麗羽の屋敷~

 

「はぐっ…むぐ…んぐ…」

 

「あむっ…ん~んんっ…」

 

「二人ともすごい食べっぷりだな~」

 

「文ちゃんも顔負けだね」

 

「異国の殿方の方は、お酒の方もすごいわね…」

 

ゾロと馬超は麗羽の屋敷で夕食をとっていた。

 

「あ~まともなメシなんて久しぶりだ~」

 

「は~美味かった~」

 

「ご満足いただけたようで何よりですわ。

それにしても、今日のあなたたちの戦い、他の方々とは比べ物にならないほど、素晴らしかったですわ」

 

「そりゃどうも」

 

「へへへ!」

 

「ところで、お二人に相談なのですけど…」

 

「「?」」

 

「今、天下は大きく揺らぎ、各地の諸侯が覇を競い合う世の中になっております。

私はこの乱れた世を終わらせ、天下太平のために、強い軍を、そして強い将を求めておりますわ。

そこで、お二人に我が軍で将として働いていただいてもらいたいのです。

なんなら、客将(かくしょう)としてでも構いませんわ」

 

「“カクショウ”?」

 

「お客として招かれている将のことだよ」

 

ゾロが首を傾げていると、また馬超が解説してくれた。

 

「いかがでしょう?もちろん衣食住はこちらで保証しますし、お給金は…」

 

「悪いがおれは断る」

 

「「「「「え?」」」」」

 

麗羽が条件を言い終わらないうちに、ゾロが断ったため、麗羽はもちろん、猪々子、斗詩、真直、馬超も驚いた。

 

「それはどうしてですの?」

 

「簡単だ。おれの上に立つ人間はすでに決まっているからだ。

ワケあって逸れちまったが、今はそいつを探して旅している途中なんだ。

客扱いとはいえ、同時に2人の人間の下につく気はしねェ」

 

「…なら仕方がないですわね。馬超さん、あなたはどうですの?」

 

「う~ん…あたしもやめておこうかな…」

 

「わかりましたわ。田豊さん!二人に賞金を」

 

「あっ、はい!」

 

麗羽に言われ、真直がゾロたちに賞金を渡した。

 

「ありがとう。じゃあ失礼する」

 

そう言ってゾロは立ち去る。

 

「あの…玄関はあっちですけど…」

 

((((さっき入って来たばっかりなのに、何で間違える⁉))))

 

全員が驚いた。

 

「ま、まァ今日はもう遅いですし、部屋をご用意しましたので泊って行かれるといいですわ」

 

麗羽がそう言うので、ゾロと馬超は泊っていくことにした。

 

 

 

 

 

 

~その後~

 

「麗羽様、本当にいいんですか?」

 

「何がですの?」

 

「あの二人…ゾロと馬超のことですよ。

『千兵は得やすく一将は求め難し』と言いますし、いかに天下が広く人材が豊富といえど、あれほどの剛の者はなかなかいませんよ」

 

「二人ともそのつもりがないのですから、仕方がないでしょう」

 

「そこはもう少し、お給金の話でもすれば…」

 

「その程度で考えを変えるような人間、ましてや主を変えるような人間なんて、手元に置いておきたくありませんもの」

 

「…………」

 

麗羽の言葉に真直は何も言えなくなった。

 

「麗羽様、こういうところはしっかりしているよな」

 

「ホントにね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌朝~

 

「こんだけありゃ、しばらくは食っていけるか…?」

 

麗羽の屋敷を後にしたゾロが、貰った賞金を確認していると…

 

「お~い」

 

「ん?お前は…」

 

馬超が後を追いかけてきた。

 

「よかった、見つかって」

 

「どうしたんだお前?」

 

「あのさ…その…」

 

「?」

 

「頼む!あんたの旅に同行させてくれないか⁉」

 

「は?」

 

「あたし…武者修行の途中でさ…あんたすごく強いから、あんたの胸を借りたいんだ。

それに、あんた余所者だから知らないこと多いだろ?きっと役に立つから…頼む!」

 

「(確かにコイツがいなかったら、武闘大会のことも分からなかったな…)おれとしてはありがてェが、一つ断っておく」

 

「何だ?」

 

「おれは海賊だ」

 

「え?」

 

「おれと一緒にいりゃお前にも悪評が付きかねねェし、お前だって海賊にいい印象はねェだろ。

それでも良けりゃ歓迎するが…」

 

「…ああ。良いよ」

 

「そうか?」

 

「あたしの母ちゃんがいつも言ってたんだ。

『武術というのは正直なものだ。心に嘘や偽り、やましいもや悪いもの、(よこしま)なものがあれば、対峙したときに気の濁りとなって現れる』ってな。

昨日勝負したとき、あんたの気は清らかだった。だから、あんたは信用できる!」

 

「そうか…なら、よろしく頼む」

 

「おう!じゃあ改めて…あたしの名前は“馬超”字は“孟起”、真名は“(すい)”だ。

これからは“翠”って呼んでくれ」

 

「“ロロノア・ゾロ”だ。“マナ”ってのはよく分からねェが、よろしく頼むぜ、“翠”」

 

「そうか…ま、とにかく…よろしくな“ゾロ”。

じゃあまずこの国ことについて、もう少し説明するか」

 

こうして、ゾロは“馬超孟起”こと“翠”と共に行動することになった。

 

 




第三席編完結です。

猪々子、斗詩との対決は省略させていただきました。
楽しみにしていた皆さん、申し訳ありません。

あと、馬騰については最後まで悩んだのですが、今作では母親にしました。


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第13話 “仇討ち”

今回もゾロと翠の話です。



ゾロと翠が出会った、武闘大会があったその日―――

 

麗羽が治める街の外に、曹操軍は陣を構えていた。

華琳たちは麗羽と謁見した、その日のうちに出兵した。

 

そして、その翌日―――

 

~曹操軍の陣、華琳の天幕~

 

「ふう…」

 

「華琳様!おかえりなさいませ」

 

華琳が天幕に戻ってくると、留守番をしていた桂花が出迎えた。

 

「私が留守の間、変りなかった?」

 

「はい、戦況の方はいかがでしたか?」

 

「圧倒的よ。もう私が出向く必要はないから、戻って来たわ」

 

「随分と汗をおかきになっていますね。今、手拭いをお持ちします」

 

そう言って桂花は天幕を出ようとするが…

 

「待ちなさい桂花」

 

華琳に引き留められる。

 

「華琳様?」

 

「手拭いなんていらないわ。あなたの舌で舐めとって頂戴」

 

「⁉か、華琳様…」

 

顔を赤らめる桂花。

 

「どうしたの桂花?もしかして…私の身体を舐めるのは…イヤ?」

 

「そ、そんなことありません!」

 

何となく察しが付くかもしれないが、この桂花という少女は華琳に対して、恋慕同然の感情を抱いている。

それは桂花だけでなく春蘭、秋蘭など曹操軍の女性はほとんどがそうであった。

そして華琳自身も、彼女たちのような美女、美少女と交わることを至福としていた。

 

「それじゃあ…お願いね」

 

そう言って椅子に座る華琳。

 

「は、はい…♡」

 

そして桂花は華琳の身体を舐め始める。

最初は腕、そして脇、つま先を舐め、さらにはあんなトコロやこんなトコロまでも…。

 

どこかはご想像にお任せします。

 

「華琳様!ご報告が………⁉」

 

…と、そこへ春蘭がやって来た。

 

春蘭と桂花の華琳に対する気持ちは、曹操軍トップクラスのモノであり、互いにそれを知っていた。

元々、この2人はどこか相容れないところがあり、それもあって互いをライバル、というよりも不俱戴天の仇のように考えている。

 

そして今、華琳と桂花の行為を目撃した春蘭は、思考が驚愕と羨望と嫉妬で支配され、固まってしまった。

桂花の方は、せっかくの幸せな時間にジャマが入ったため、もの凄い目つきで春蘭をにらんでいる。

 

「桂花、続けなさい」

 

「は、はァい♡」

 

「…………」

 

「春蘭」

 

「は、はい!」

 

「報告とは?」

 

「え、えーとですね、敵の首領は討ち取り、賊はほぼ壊滅。今は秋蘭の部隊が残党のせん滅に入っております」

 

「そう、わかったわ。ご苦労様、下がっていいわよ」

 

「は、はい…」

 

春蘭は残念そうな顔をして、天幕を出て行った。

 

桂花はひそかに勝ち誇ったような顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数分後―――街の茶店~

 

「“ゴコ”?」

 

「ああ、漢王朝に隣接する“匈奴(きょうど)”、“鮮卑(せんぴ)”、“(きょう)”、“(てい)”、“(けつ)”っていう五つの異民族の国を総称して“五胡(ごこ)”って呼んでいるんだ」

 

ゾロは翠に、この国と翠の事情について教えてもらっていた。

 

「あたしの故郷、涼州は北を鮮卑、南を羌に挟まれてるから、あたしの一族は必然的に異民族と戦い続けてきたんだ。

あたしの母ちゃん、馬騰(ばとう)は武勇と人徳の両方で、涼州だけでなく鮮卑や羌でも有名で、領民にも慕われていたんだ。

そこから、他の五胡にも馬騰の名が広まって、それがきっかけで、対等な立場で交易ができるようになったんだ。

けど、母ちゃんが亡くなって、また五胡が漢と敵対する可能性が出てきた。

五胡だけじゃない。益州からさらに南西に行った場所には、“南蛮族(なんばんぞく)”と呼ばれる異民族がいるし、幽州の“烏桓族(うがんぞく)”や交州の“山越族(さんえつぞく)”みたいに、国内にも異民族はいる。

国力が衰えつつある今、そいつらが叛旗を翻すかもしれない

あたしも母ちゃんのように、武勇をとどろかせて国を守りたい。

だけど、まだそこまでの強さがないから、こうして武者修行の旅に出たってワケさ」

 

「なるほど…」

 

「ただ、どこ行くかとかは、あまりよく考えてなかったんだけど…」

 

「構わねェ。おれもどこに行けばいいのか、全く見当がつかねェしな。行先はお前に任せる」

 

「そうか、わかった。じゃあそろそろ出発するか。おじさ~ん、お勘定」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

ゾロたちが店を出ると、大通りの方で檻車を引いた軍が進んでいくのが見えた。

 

「おい、何だありゃ?」

 

ゾロが近くにいた人に訊ねた。

 

「陳留郡太守の曹操様の軍勢らしいよ」

 

「曹操⁉」

 

「誰だそりゃ?」

 

「先頭にいる金髪のあの人だよ」

 

「あれが………!」

 

「なるほど…」

 

翠は曹操の名を聞くと驚愕し、その姿を見ると歯を強くかみしめ、拳を震わせ始めた。

ゾロの方は華琳と近くにいる春蘭たちの姿を見て、並大抵の奴ではないと感じた。

 

「最近、都の方で頭角を現してきた有力者で、この辺りの賊を退治するために、派遣されてきたんだってよ」

 

「へェ…」

 

その時ゾロは、いつの間にか翠がいなくなっていることに全く気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

賊退治を終えた華琳たちの軍は、報告のために麗羽の屋敷に向かって行軍していた。

 

道中、春蘭は不機嫌そうにしていた。

 

「どうしたの春蘭?まだ拗ねているの?」

 

「……別に拗ねてなどおりません……」

 

「ふふ…わかったわ。今夜は桂花ではなく、あなたを閨に招いてあげる。だから機嫌を直しなさい」

 

「ええ⁉ほ、本当ですか⁉………あ、い、いえ!わ、私は別にそういう…」

 

「ふふふ…」

 

「しゅ、秋蘭!なぜ笑う⁉」

 

「いや、別に」

 

「曹操ォ!」

 

「「「⁉」」」

 

突然、何者かが槍を振りかざして襲い掛かってきた!

 

キィン!

 

すかさず春蘭が剣を抜き迎え撃つ!

 

「クッ!」

 

「キサマ、何者だ⁉」

 

「西涼の馬騰が一子、馬超!母の仇、討たせてもらう!」

 

「!馬騰の…」

 

翠の名乗りを聞いた瞬間、華琳はわずかに動揺した。

 

「ぬああああ!」

 

そして、その隙を逃さず翠は襲い掛かる!

 

「させるか!」

 

しかし、翠の前に春蘭が立ち塞がる。

 

「どけェ!」

 

翠は春蘭と数回打ち合ったが…

 

「取り押さえろ!」

 

「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」

 

「⁉」

 

その場には華琳や春蘭だけでなく、多数の兵がいたため、多勢に無勢で捕えられてしまった。

 

「くそォ…」

 

その様子を、ゾロは人混みの向こうから見ていた。

 

「………何やってんだあいつは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その夜―――曹操軍の陣~

 

翠は檻に入れられ、ある天幕の中にいた。

 

「………やっちまったな…」

 

「―――ったく、何やってんだおめェは」

 

「⁉ゾロ⁉」

 

いきなり天幕にゾロが入ってきた。

 

「お前、どうやってここに⁉見張りの兵とかいたんじゃ…」

 

「気絶させてきた」

 

「そ、そうか…」

 

予想の斜め上を行くゾロの行動に、困惑する翠だった。

 

「しかし、ご丁寧に鉄の檻に入れられるとは…見事に極悪人扱いされてるな…」

 

「ああ、悪ィ…。こんな所で曹操に会うなんて思ってなかったから、つい頭に血が上って…」

 

「…あの女と何かあったのか?」

 

「……あいつは…曹操はあたしの母ちゃんを…母様を殺したんだ…。それも卑劣極まりないやり方で…」

 

「親の仇ってわけか…」

 

「…………」

 

「……今は頭は冷えたのか?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~曹操軍の陣、華琳の天幕~

 

「失礼します!」

 

「何事か?」

 

華琳、春蘭、秋蘭、桂花が話していると、兵士が1人やって来た。

 

「妙な男が一人、お目通りを願っております」

 

「妙な男?」

 

「はい、その…刀を三本も腰にしておりまして…」

 

「「「「!」」」」

 

「いかがいたしましょう?」

 

「わかったわ、通してちょうだい」

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

やって来たのは、華琳たちが予想した通り、昨日の昼間に華琳が気にかけていた男、ゾロだった。

 

「…お前が曹操か?」

 

「キサマ!無礼だぞ!」

 

「曹操様と呼ばんか!」

 

「構わないわ。その通りよ。それで、私に何の用かしら?」

 

「昼間、お前を襲った女がいただろ?」

 

「馬超のこと?あなた、彼女の仲間なのかしら?」

 

「まァ何つーか、知った顔でな…できれば引き取りてェんだが……無論、あんなマネは二度とさせねェと約束する」

 

「残念だけど、それは無理よ」

 

「その通りだ」

 

「罪を犯したものを罰するのは当然だ」

 

「そうよ。官軍の将の首を狙ったんだもの、本来なら首をはねて当然よ。それを返せだなんて、あんた馬鹿じゃないの?」

 

「…その罰ってのは、本当はテメェが受けるべきモノなんじゃねェのか?」

 

「…何が言いたいの?」

 

「あいつより、テメェの首をはねた方が、世のため人のためになるんじゃねェのか、って言ってんだ」

 

「キサマ、曹操様を愚弄する気か⁉」

 

「あいにくおれはソイツとは初対面だ。ソイツの(さが)については何も知らねェ。

それに正規の軍ってのに、あまりいい印象もねェんでな」

 

「キサマ…!」

 

「曹操様をそんな輩と一緒に…!」

 

「静まりなさい!」

 

「そ、曹操様…!」

 

「ですが…!」

 

「あなた達も今の官軍の有り様は知っているでしょう。この男の言い分はもっともよ」

 

「「「…………」」」

 

華琳に言われ、春蘭たちはおとなしくなった。

 

「…さて、馬超の件だけど。あなたが今言った通り、私とあなたは初対面。私もあなたの性はよく知らないわ。

あなたの『私の命を狙うようなことはさせない』という言葉を、信用できる根拠は何かあるのかしら?」

 

「約束は守る。二言はねェ」

 

「何に誓って?」

 

「おれの剣に誓ってだ」

 

「…なかなか面白いことを言うわね。………夏侯惇!」

 

「はっ!」

 

「あなた…この男と手合わせしなさい」

 

「は?」

 

「あなたの剣にそれほどの価値があるかどうか、見定めさせてもらうわよ」

 

「望むところだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陣内に設けられた広場で、ゾロと春蘭の一騎打ちが行われることになった。

 

周囲には篝火が焚かれ、30人ほどの兵士が円形に2人を囲っている。

その円周の一ヶ所に華琳は鎮座し、隣には秋蘭と桂花が控えている。

 

ゾロはすでに刀を3本抜き、春蘭も自身の刀“七星餓狼(しちせいがろう)”を構える。

 

「三刀流…見ものね」

 

「………まさか本当に口にくわえて使うなんてね…」

 

「言っておくが、勝負である以上手加減は無しだぞ!」

 

「当たり前ェだ…!」

 

「始め!」

 

ダッ!

 

秋蘭の合図と同時に、両者は走り出し、正面からぶつかる!

 

ガキィン!

 

「「………っ!」」

 

そのまましばらく押し合った後、両者とも一度距離をとり、再び接近して斬り合う!

 

「でえェェい!」

 

「っ!」

 

真っ直ぐに振り下ろされた春蘭の一撃を、ゾロは両手の刀で跳ね除けると同時に距離を詰め、口の刀で斬りかかる!

 

「くっ⁈」

 

春蘭は横に飛び退いて躱し、ゾロの真横から剣を振るう!

その一撃をゾロは刀で受けながら後ろに退がり、勢いをつけて再び斬りかかる!

春蘭もゾロを迎え撃とうと、連続で刀を振り回しながら斬りかかる!

 

「「おおおおおっ!」」

 

キン!キン!キィン!ガキン!

 

両者の刀が連続でぶつかり合い、金属音が何重にもなって響き渡る!

 

「………二人ともどう思う?」

 

華琳はしばらく黙って勝負を見ていたが、やがて小声で秋蘭と桂花に話しかけた。

 

「正直言って驚きました。姉者に劣らない程の力、さらに剣を三本とも使いこなす技術もあります」

 

「春蘭は全力ではありませんが、決して手を抜いているワケではありません。そしてそれは、あの男も同じかと…」

 

「…そうね」

 

いつしか戦っているゾロと春蘭は、馬超のことを忘れ、勝負に夢中になっていた。

観戦していた華琳たちや周囲の兵士も、同じように馬超のことを忘れ、勝負に見入っていた。

 

ギィィン!

 

ゾロと春蘭は再び剣を交えたまま押し合い、力比べに入った。

 

「……キサマ!中々やるな!」

 

「てめェもな!―――!」

 

ブン!

 

「うおっ⁉」

 

突然、ゾロが春蘭をいなし―――

 

「⁉」

 

華琳の方へ、剣を振りかざしながら走りだす!

 

「なっ⁉」

 

「キ、キサマ⁉」

 

「華琳様!」

 

突然のことに秋蘭たちも反応が遅れ、ゾロはそのまま華琳に接近し―――

 

 

 

 

 

ズバッ!

 

「ギャア!」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

華琳の後ろにいた1人の兵士を斬った。

同時に兵士の手から、鞘から抜かれた剣が転がり落る。

 

何と周囲にいた兵士の1人が、戦いの途中で持ち場を離れ、華琳を殺そうと背後に忍び寄っていたのだった。

ゾロはそれに気づいたが、その時兵士はすでに、華琳のほぼ真後ろにいたため、斬撃を飛ばすこともできず、大急ぎで走り、斬ったのだった。

 

「夏侯淵!この男を取り調べなさい!」

 

「はっ!」

 

勝負はそこで中止となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~曹操の天幕~

 

華琳と春蘭と桂花、そしてゾロが天幕で待機していた。

 

「曹操様!」

 

しばらくすると、秋蘭が戻ってきた。

 

「取り調べの結果、あの男は金で雇われただけの殺し屋でした。

賊退治の乱戦中に、我が軍の死んだ兵士から、鎧を奪い変装し、紛れ込んだそうです。

ただ、雇った相手については、本当に何も知らないようです」

 

「そう…ご苦労様」

 

華琳は秋蘭をねぎらうと、ゾロの方を向く。

 

「それにしてもアナタ、あの戦いの真最中で、よく気が付いたわね」

 

「勝負の前から、1人だけ妙に殺気立ってたんでな。気にはなっていた」

 

「成程…」

 

「それにしても、1日に2度も命を狙われるとは…お前、相当恨まれてんだな」

 

「出る杭は打たれるもの。

良くも悪くも何かをしようとすれば、よく思わない者が現れるのは当然よ。

ところで…馬超のことだけど…」

 

「…………」

 

「無罪放免としましょう。連れて帰って構わないわよ」

 

「!」

 

「曹操様!」

 

「よろしいのですか?」

 

「先ほどの勝負、決着はつかなかったけど、あなたの剣はちゃんと見定めさせてもらったわ。

あなたの剣からは、とても気高いものを感じた。

『自分の剣に誓って約束を守る』というあなたの言葉、信用しましょう。

私の命を守った功績もあるしね」

 

「そうか。ありがとう」

 

「夏侯惇、馬超のところに案内してあげなさい」

 

「はっ!」

 

ゾロは春蘭に連れられて、天幕を出て行った。

 

 



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第14話 “節穴”

ゾロと春蘭が天幕を出た後―――

 

「華琳様、本当にあの男を馬超と一緒に行かせてよろしいのですか?」

 

「あら、桂花は私の人を見る目が信用できない?私の目が節穴だとでも言うのかしら?」

 

「そういう意味ではありません」

 

「じゃあどういう意味かしら?」

 

「華琳様に仕官することを交換条件に馬超を釈放すれば、あの男を手に入れることができました。

さらにこの方法なら、あの男は人質も同然となり、馬超が華琳様を狙うことをほぼ確実に防げるかと」

 

「…桂花、あなたは私にそんな下賤な策をとれというの?」

 

「まさか…軍師という立場上、進言したまでです」

 

「ふふふ…よくわかってるじゃない。ま、確かにこのまま放っておくのは、もったいないけれど…」

 

「そうですな…姉者と互角に戦えるのは、我が軍では私と華琳様しかおりませぬから」

 

「はい、街の警備隊長にでもすれば…」

 

「何を言っているの桂花?」

 

「え?」

 

「私や春蘭に匹敵する武人なのよ。私の直属の武将にするに決まっているでしょう」

 

「は⁉」

 

「それとも私の身辺警護にしようかしら?」

 

「なあァァァ⁉」

 

その言葉を聞いた瞬間、桂花は天地がひっくり返ったかのように驚いた。

 

「いけません華琳様!

それでは華琳様のお身体が、常に男の視線にさらされてしまいます!

ましてや身辺警護などにすれば、四六時中あの男が傍に居ることになってしまいます!

そんなことをしては華琳様が汚れてしまいます!

万が一妊娠なんてしたら、どうするおつもりですか⁉」

 

桂花は男という生き物が心底嫌いだった。

それ故、華琳に男が近づくことは、桂花にとって悲劇以外の何でもなかった。

そのため、桂花はそれはもう必死になって華琳を説得した。

 

「あれほどの剛の者との間にできた子供なら、さぞかし腕がたつでしょうね。跡取りにふさわしいと思わない?」

 

「か、華琳様ァ~‼」

 

今にも泣きだしそうになる桂花をみて、華琳は心底楽しそうだった。

…どうも彼女はSの気があるようだ…。

 

(姉者がいなくて良かった…)

 

男が嫌いというワケではないが、華琳への気持ちは桂花に勝るとも劣らない春蘭。

もし彼女がこの話を聞けば、自分より華琳に近付く者が現れるというだけで、桂花と同じようになっていただろう。

 

そのため秋蘭は、今彼女がこの場にいないことを、心の底から安堵するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ゾロと春蘭は馬超が幽閉されている檻がある天幕へ向かっていた。

 

「さっきの勝負、決着がつかなかったのは本当に残念だ。いつか必ず再戦しよう」

 

「ああ、望むところだ。ところで…」

 

「何だ?」

 

「お前らの主と、あいつの母親との間に何があった?」

 

「…………」

 

「おれとお前の勝負は、馬超を釈放する前提で行われたものだ。

それにあの猫耳女が『()()()()首をはねて当然』と言っていた。

つまり、あいつは特別に打ち首を免れることが、すでにあの時点で決まっていたってことだろ?

てめェの首を狙った奴に対する処罰としては、あまりにも寛容すぎるし、話が進むのも速すぎる」

 

「…おいお前」

 

「?」

 

「私は今から独り言を言うぞ」

 

「…………」

 

「数年前、洛陽で大きな宴が開かれた。

中央で働いている身分の高い武官や文官、天子様の一族、大陸各地の州刺史、州牧、太守、貴族が招かれていた。

その中には我が主、曹操様と馬超の母、馬騰様がいた。

 

 

 

 

 

きっかけは天子様の直属の武官、何進(かしん)大将軍の一言だった。

 

『曹操』

 

『何でしょう?』

 

『私は貴様のことを智謀の師と思っていたが、聞けば剣の腕も中々たつそうだな』

 

『恐れ入ります』

 

すると、その話を聞いていた皇帝陛下が…

 

『へえ…ちょっと見てみたいわね』

 

そして、傍に控えていた天子様の侍中が…

 

『曹操殿、良ければこの中の誰かと立ち合って、その腕を披露していただけませんか?』

 

『皇帝陛下の頼みとあらば。では、相手は…』

 

『曹操殿』

 

韓遂(かんすい)殿。お相手してくださいますか?』

 

『いえいえ、私では曹操殿の相手は務まりますまい。しかし、馬騰殿なら相応しいかと思いまして、推薦しようと…』

 

『成程、確かに馬騰なら丁度いい相手であろう。いかがかな?』

 

『お望みとあらば』

 

『お待ちください。馬騰殿はすでに、かなりの酒を飲んでおられる様子。座興とはいえ剣をお取りになるのは…』

 

『なァにこれくらい―――ととと…』

 

『ははは、確かにかなり酔われているようだな』

 

『くくく、剣を取るどころか、まとも立つこともできていないではないか』

 

『曹操の言う通り、無理はせぬ方がよかろう』

 

『そうね、なら止めましょう』

 

『主上様もこう仰っておりますし、馬騰どのもお下がりください』

 

『はい…お恥ずかしいところをお見せしました』

 

『しかし馬騰、その程度の酒で立てぬほど酔うとは、さすがに情けないぞ』

 

『やはりもう年のだろうよ』

 

『馬騰どのもそろそろ家督を譲って、引退するべきでしょうね』

 

『クッ…』

 

満座の中で恥をかいたのを紛らわすためか、馬騰殿はその後かなりの酒をお飲みになった…。

 

そして宴が終わり、馬騰殿は供もつけずに一人で宿に帰ろうとしていた。

その途中で、強く酔っていた馬騰どのは馬から落ち、頭を強打してしまったのだ。

 

そこをたまたま夜間の警備として、見回りをしていた私の隊が見つけた。

その時、馬騰殿はすでに虫の息だった。

 

馬騰殿は死に際に一言…

 

『…酔って馬から…落ちて死んだなどとは…一族の恥……どうかこのことは…皆に…娘達には…言わないで…下さ…い…』

 

そう言って、息を引き取られた。

 

 

 

 

 

その場にいた者には固く口止めしたのだが、しばらくすると妙な噂が広がり始めた」

 

「噂?」

 

「『曹操が馬騰を酔わせ、そこを部下に襲わせた』とな…」

 

「真相を話せばいいじゃねェか?」

 

「我が主は敵が多くてな…。おそらくこの噂は曹操様を陥れようと、誰かが流したものだろう。だから、真相を話しても無駄だ。

何より曹操様がそれを許さぬ」

 

「何でだ?」

 

「『西涼にその人ありと言われた馬騰殿の最後の頼み、聞かぬわけにはいかない』と言ってな。

それに、母親の武勇を誇りと思っている娘達に、無様な死にざまを聴かせたくないのかもしれぬ。

…っと、これは私の独り言だったな」

 

「そうか。

 

 

 

 

 

―――だ、そうだが?」

 

「⁉」

 

ゾロの声に春蘭が振り向くと、檻に閉じ込められているはずの翠が膝をついてそこにいた。

 

「キサマ⁉」

 

「悪ィ、勝手に出しちまった」

 

「そんな…母様が…そんなの―――そんなの嘘だ!」

 

「こいつは独り言を言っていただけだ。お前に聴かせるつもりは微塵もなかった。ウソをつく理由はねェぞ」

 

「うるさい!」

 

「…………」

 

「曹操の配下の言うことなんか信用できるか!お前だって―――曹操から褒美を貰えるとかで―――芝居うってるだけだろ‼」

 

「―――キサマ、私が嘘つきだと…」

 

「てめェ!もう一回言ってみろコラァ‼」

 

「「⁉」」

 

ゾロの強大な怒喝に、翠も春蘭も黙ってしまった。

 

「てめェ…おれが芝居うってるだと⁉

さっきの…おれとこいつの勝負も、あれも芝居だって言うのか⁉あァ⁉」

 

「―――っ!」

 

自身の真剣な勝負を芝居呼ばわりされる―――それが武人にとってどれほどの侮辱なのかは、翠にもよくわかっていた。

先ほどゾロが言ったように、春蘭にウソをつく理由がないことも、ゾロが褒美につられて自分を丸め込むような男でないことも、よくわかっていた。

 

だが、それでも翠は信じられなかった。信じたくなかった。

それ故、黙ってしまった。

 

見かねたゾロは、春蘭に自分の刀を1本差し出す。

 

「悪ィが、もう一戦交えてくれるか?」

 

「?」

 

春蘭はゾロの意図はよくわからなかったが、とりあえず刀を受け取る。

そしてゾロは、今度は翠に刀を差し出した。

 

「まだ納得できねェなら、お前が納得できるやり方で確かめろ」

 

「……わかった」

 

翠は刀を受け取り、立ち上がった。

 

ゾロは再び春蘭の方を向き、耳元で話しかけた。

 

「おい、お前」

 

「何だ?」

 

「あいつが仕掛けてくるまで、待っててくれ」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾロと翠と春蘭は陣の外へ移動した。

 

「始めろ」

 

ゾロがそう言うと、翠と春蘭はそれぞれ刀を構え向き合う。

翠は得物が使い慣れているものでないため、うかつに仕掛けず春蘭の様子を見る。

春蘭はゾロに言われた通り、翠が仕掛けるまで構えて待つ。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………(何なんだ、こいつ?全然隙がない…。まるで深い林の木立のように、静かな構えで…それに…)」

 

両者はしばらく睨み合うが…

 

(こいつの気…水のように…清らかで…)

 

やがて翠の体が震えだし…

 

(乱れや…濁りが…少しもない…)

 

翠は静かに涙を流し…

 

「うっ…くうう……」

 

その場に静かに膝をついた。

 

―――――あたしの母ちゃんがいつも言ってたんだ。『武術というのは正直なものだ。心に嘘や偽り、やましいもや悪いもの、邪なものがあれば、対峙したときに気の濁りとなって現れる』ってな

 

「…本当…なんだなっ…!」

 

「納得したか?」

 

「?」

 

「こいつはお前の構えを見て、お前がウソをついていないことが分かったんだ」

 

「母ちゃん…チクショウ…!」

 

「そうだろ?」

 

膝をつき涙を流す翠に、ゾロは歩み寄る。

 

「ゾロォ‼」

 

翠は思わず、泣きながらゾロの腰に抱き着いた。

 

「うわあああァァァァァ……!」

 

「…………」

 

ゾロは翠が泣き止むのを黙って待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ゾロと翠は迷惑を掛けたお詫びとして、春蘭に武闘大会の賞金をいくらか渡して、曹操の陣を後にした。

また騒ぎになると厄介なので、2人は夜通し歩いて、陣から離れることにした。

 

そして明け方―――

 

「西涼に帰る?」

 

「ああ、ちょっと頭を冷やしたいし、母様のこと…妹達と話し合いたいから…」

 

「そうか…じゃあそこまでの道案内、頼むぜ」

 

「ああ、じゃあそろそろ寝るか…さすがに眠くなってきた…」

 

「ぐこ~…」

 

「ええ⁉寝るの早っ!」

 

「ぐこ~…」

 

(…それにしても…コイツ、どこまで強いんだ?)

 

翠はゾロがやった()()()()を思い出し、そんなこと考えながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少々遡り、ゾロたちが去った直後の曹操陣―――

 

「夏侯惇様ー!」

 

ゾロと翠を見送った春蘭が、華琳のもとへ向かう途中、数名の兵士が慌てた様子で声をかけてきた。

 

「どうした?」

 

「大変です!昼間、曹操様を襲った女が…」

 

「ああ、そのことならもう済んだ。あの女は釈放したから、追わなくて良いぞ」

 

「そ、そうですか…。では、檻の方はいかがいたしましょう?」

 

「檻?檻がどうかしたのか?」

 

「えっと、その…来ていただけますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~華琳の天幕~

 

「華琳様ァ~~~~~‼」

 

「どうしたの春蘭⁉」

 

「た、大変です!ば、馬超の…」

 

「馬超がどうかしたの⁉」

 

「まさか、また襲ってきたとか⁉」

 

「い、いえ、そうではなくてですね…その檻があの男の芝居で信じられない…!」

 

「姉者落ち着け、一体何があったのだ?」

 

「そうよ。普段から言ってることが滅茶苦茶なのに、そんなに慌てたら余計訳が分からないでしょ」

 

「春蘭、まず何があったのかだけ教えなさい」

 

「えっと、その…多分言っても信じてもらえないでしょうし…っていうか、私もまだ信じられないので…とにかく来てください!」

 

「「「?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…つまり、あの男は私達に会いに来た時、すでに馬超を檻から出していた。そして、馬騰殿の死の真相を調べ、馬超に伝えるために、あのような芝居をうったと」

 

「はい」

 

「…それで、春蘭は馬超に本当のことを話してしまったのね?」

 

「…はい」

 

「まったく…馬騰殿に何と詫びれば良いのかしら?」

 

「…申し訳ありません…」

 

「…そして……()()があの男の仕業だというのね…?」

 

「…はい」

 

華琳達の目の前には……真っ二つになった鉄の檻が転がっていた。

 

「華琳様…調べてみましたが、やはり刃物で切断されたとしか思えません。

それも…たった一太刀で…」

 

「まさか⁉これは特注で作らせた鉄の檻よ⁉

それにあの男が使っていたのは、普通の剣だったじゃない!」

 

「しかし、鉄格子が歪んでおらぬし、断面も滑らかで無駄な力が加わった形跡もない…。

そうとしか思えん…」

 

「………どうやら私の目は節穴だったようね…」

 

「華琳様?」

 

「あの男、私や春蘭に匹敵する武人なんかじゃない……私や春蘭を遥かに凌ぐ実力を持った武人よ…!」

 

(…も、もしあの男が…)

 

(…本気で…我らを殺そうとしていたら…)

 

(…私達は…間違いなく…)

 

(…殺されていたわね…)

 

そんなことを思いながら、4人は冷や汗をかいて、斬られた鉄の檻を見つめるのだった。

 

 




第四席編、完結です。

書いていて思ったんですが、やっぱり桂花は、男がいた方が面白くなりますね。




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第15話 “トントン”

第五席編です。
今回もルフィ達の出番はありません。




ゾロと翠が涼州を目指すことを決めたその日の昼間、その涼州のとある山中で、1人の少女が数人の山賊に襲われていた。

 

少女は少し紫がかった白髪で、ウェーブがかかった髪をしており、白い着物を着ている。

 

「酷い…私を騙したんですね…。村に案内すると言って…」

 

「別に騙しちゃいねェよ。ちゃんと道案内はしてやるさ…。ただし、村じゃなくて天国にな…」

 

「天国…やはり私を殺すつもりなのですね…」

 

「違う違う、天国って言ってもあの世じゃねェよ。とっても気持ちいい…」

 

「おい、お前ら」

 

「あ?誰だよ、邪魔すんじゃね…え…」

 

不意に後ろから声を掛けられ、山賊達が振り返ると…

 

「その子に何をする気だ?」

 

全身を茶色い毛で覆われた、図体のデカい、どう見ても人間ではない何かがそこにいた。

 

「「「ば、化物ォ~~~っ⁉」」」

 

山賊達は大慌てで逃げて行った。

 

「あ…ああ…!」

 

山賊達は逃げ去ったが、今度は目の前の化物に恐怖し、少女はその場に座り込んでしまう。

 

「…よし」

 

「―――っ!」

 

化物がこちらに歩み寄ってくるのを見て、少女は思わず目をつむる。

 

すると…

 

「大丈夫かお前?」

 

「……?」

 

思いのほか優しく声を掛けられ、少女が恐る恐る目を開けてみると…

 

「…え?」

 

「良かった、どこもケガしてないみたいだな」

 

何とも可愛らしい二頭身の動物が、少女の身体を触って調べていた。

 

「……(たぬき)?」

 

「トナカイだおれはっ!ホラッ、角っ!」

 

急に怒りだして、頭の角を主張する謎の動物。

 

(あれ?あの帽子…)

 

その時、その動物がかぶっている、白いバツ印がついたピンク色の帽子が目に入り、さっきの化物も同じようなものを被っていたことを思い出す。

 

「あの…もしかして、山賊を追い払ってくれたのは…」

 

「ああ、おれだぞ。ほらっ」

 

「ええっ⁉」

 

その動物はそう言うと、一瞬で先ほどの化物の姿に変わって見せる。

 

「おれは“トニートニー・チョッパー”。お前は何ていうんだ?」

 

「私はと……“トントン”といいます…」

 

「そうか、よろしくな。トントンはこんな所で、何やってるんだ?」

 

「あ…はい。実は、この辺りに化物が出る村があると聞きまして、その村に向かう途中だったんです」

 

「ああ、おれのいる村に来る途中だったのか」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、その山からさほど離れていない街。

そこの大きなお屋敷の廊下を、1人の女性が歩いていた。

 

緑の髪で眼鏡をかけた、知的な雰囲気がある女性である。

 

「あの子ってば…また抜け出して…」

 

「おや?“賈駆(かく)”ではないか」

 

廊下の角で鉢合わせた、銀色短髪の豪快そうな雰囲気がある女性が声をかけてきた。

 

「“華雄(かゆう)”将軍」

 

「どうしたのだ?何やら浮かない顔だが?」

 

「実は“(ゆえ)”が…“董卓(とうたく)”様がまた屋敷を抜け出して…」

 

「いつものアレか?お忍びで庶民の暮らしの様子を見行くという…」

 

「おそらくね…」

 

「まったく…太守たる者が、仕事を放りだしてふらふら出歩くとは…」

 

「領民とじかに触れあって声を聞くことは、決して悪いことではないわ!

立派な政務の内だし、むしろ見習うべきところよ!」

 

「なら別に良いではないか?何をそんなに苛立っている?」

 

「だって、ここんとこ地方の賊退治に人手を取られて、逆にこの辺りの治安が悪くなってきているのよ!

それなのに供もつけずに一人で出歩いて…。

おまけに近くの山には、凶暴な熊とかが出るとかいう訴えもあるし…物価の上昇で民の不満は募っているし…。

はやり病や飢饉で、病人が絶えない村もあるし、戦やら土砂災害やらで、怪我人は絶えないし…!」

 

話しながら、思わず髪をぐしゃぐしゃとかきまわす賈駆。

 

「賈駆よ、そんなに悩んでばかりいては寿命が縮まるぞ」

 

「……華雄将軍、あなたは悩みがない分、さぞかし寿命が長いのでしょうね」

 

「ああ!私は長生きするタチだからな!」

 

「………はァ…」

 

皮肉が通じず、ため息をつく賈駆であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、チョッパーとトントンは一緒に村に向かっていた。

すでに村の近くまで来ており、周囲には畑が広がっている。

 

ちなみに今、チョッパーは二頭身の獣人型になっている。

 

「それじゃあチョッパーさんは、その“ヒトヒトの実”っていう果物を食べて、変身したり、人間の言葉を喋れるようになったのですね」

 

「ああ」

 

「そういえば…あの、さっきは本当にごめんなさい…。助けてくれたのに、怖がったりして…」

 

「いいよ、慣れてるから」

 

「おや、チョッパーさん」

 

近くで畑を耕していた男性が声をかけてきた。

 

「薬草集めはいかがでしたか?」

 

「まァ、ぼちぼちかな?ところで、脚はもう大丈夫なのか?」

 

「はい。おかげさまで仕事に戻れました」

 

「そうか。けど、再発するかもしれないから、今はまだ無理をしたらダメだぞ」

 

「はい」

 

「……チョッパーさんってお医者さんなんですか?」

 

「ああ、おれは船医なんだ」

 

「船医ってことは船乗り…!」

 

そこまで言いかけて、トントンは急に黙ってしまった。

村の入り口から見える大きな屋敷、その門前に巨大な岩が置かれているのが目に入ったからだ。

 

「……あれは…」

 

「…この村を襲っている、化物の仕業なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~庄屋屋敷~

 

トントンは村の庄屋様から、話を聞くことにした。

チョッパーも同席している。

 

「では庄屋様、化物が出るというのは本当なのですね」

 

「はい。事の始まりは三ヶ月ほど前でした。

ある日、この屋敷の門に白羽の矢が撃ち込まれ、それに結び付けられていた矢文に『今宵、村のはずれにあるお堂に食べ物を供えよ。さもなくば、村に災いが降りかかるであろう』と書かれていたのです。

その時はただの悪戯(いたずら)だと思い、放っておいたのですが…翌朝、門前にあの大岩が置かれていたのです。

とても人の力で持ち上げられるものではなく、化物の仕業に違いないと考え、その夜慌ててお堂に食べ物を供えました。

それから、七日から十日おきに、催促の矢文が撃ち込まれるようになりまして…」

 

「そうだったのですか…」

 

「何度か旅の武芸者や力自慢の若者に、化物を退治してもらおうとしたのですが…皆歯が立たず、()()うの体で逃げ帰ってくる始末でした…。

お役人様にも訴えてみたのですが…『そのような不確かなことに、手を煩わせるな』と、逆にお叱りを受けまして…」

 

「そんなひどいことを…!」

 

「⁉」

 

役人の対応を聞き、声を荒げ立ち上がるトントン。

その様子を見てチョッパーが驚いていると、トントンは冷静になり、席に座りなおした。

 

「化物が現れるのは必ず真夜中であるため、しかと姿を見た者はいないのですが…。

ある者は『身の丈は三(じょう)で、赤く光る眼をしていた』と言い、またある者は『鋭い牙と爪を持ち、全身毛むくじゃらで恐ろしい唸り声をあげていた』とか…」

 

「なんと恐ろしい…」

 

「あの…庄屋さん」

 

チョッパーが申し訳なさそうに話を遮った。

 

「おれ、そろそろ往診に行かないといけないんだけど…」

 

「ああ、もうそんな時間でしたか…。わかりました。村人達をよろしくお願いします」

 

「うん。じゃあ行ってくる」

 

そう言ってチョッパーは部屋を出て行った。

 

「あの…チョッパーさんは一体?」

 

「はい…前に化物から催促があった日のことでした。

その夜も、村人達が何人かで化物退治に向かいましたが、やはり歯が立たずやられてしまいまして…。

その時、お堂の前で倒れていたところを、通りかかったチョッパーさんが手当てをして、村まで運んでくれたのです。

最初は化物の仲間ではないかと、我々も警戒していたのですが…助けられた者に言われ、話を聞いてみると、高度な医学をお持ちの心優しい方でして…。

この村に医者がいないことを知ると『患者の面倒は最後まで診たい』と言い、この村で医者として働いてくれているのです」

 

「そうだったのですか」

 

「どうやらチョッパーさんは、仲間と船旅の途中で気が付くと、この辺りの山中に一人でいたらしく…。

仲間を探して彷徨っていたところ、例のお堂の前で倒れていた村人達を見つけたそうです。

逸れたお仲間のことも、心配でしょうに…」

 

「……本当に優しい方なんですね」

 

「実は…今朝、また化物から催促の手紙が届きまして…そしたら、チョッパーさんが、自分が戦ってみると仰いまして…」

 

「えっ⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その夜~

 

山賊を追い払った時の姿、人型になったチョッパーと幾人かの村人達は、食料を積んだ荷車を引いて例のお堂へ向かった。

 

「…ではチョッパーさん、くれぐれもお気をつけて」

 

「大丈夫だ。おれだってバケモノだ」

 

食べ物を供えると、村人達は帰って行った。

 

 

 

 

 

 

それから数分後―――

チョッパーが近くの木の陰に隠れて、様子を見ていると…

 

(あ…!)

 

そいつは現れた。

全身が白い毛で覆われ、虎の頭、赤い目をしており、手には槍か鉈と思われる武器を持っている。

 

(ほ、本当にバケモノ…!あれ?でも…)

 

「…そこのお前」

 

(⁉気づかれた⁉)

 

「隠れ方……逆」

 

「⁉」

 

化物の言う通りであった。

 

身体を木の後ろに隠し、頭をちょっとだけ出す。

これが、木の後ろに隠れる時の正しい隠れ方である。

しかし、チョッパーは頭をちょっとだけ後ろに隠し、身体のほとんどを出していたため、全く隠れられていなかった。

 

言われたチョッパーは、慌てて正しく隠れなおすが…

 

「遅い。それに隠れきれてない」

 

すでにバレているうえ、身体が完全にはみ出しているため、無意味だった。

 

観念したチョッパーは化物と正面から対峙する。

 

「お前…人間だな?」

 

「!」

 

「その頭や毛からは匂いが全然しねェ。ただの被り物だろ」

 

「…バレた?」

 

「何でこんな事するのか知らねェけど、これ以上食べ物は持って行かせねェぞ!」

 

「食べ物は貰っていく…!」

 

そう言うなり、相手は得物を構え走り出す!

 

(⁉速い!)

 

ブン!

 

横に薙ぎ払われた一撃を、チョッパーはトナカイ本来の姿、獣型に変形してかわす。

しかし、相手も避けられたと察した瞬間構えなおし、続けざまに数回得物を振るう!

 

「うおっ⁉」

 

徐々に避け切れなくなったチョッパーは、人型に変身し得物を受け止める。

 

(ぐっ…!すごい力だ…)

 

しかし、相手の想像以上の腕力に耐え切れず…

 

「…ハァッ!」

 

「!しまっ…」

 

相手が得物を振り上げた瞬間、抑えきれず腕を高く上げてしまい…

 

ドゴォッ!

 

「がっ…!」

 

無防備となった鳩尾に一撃をくらい、チョッパーは気絶してしまった。

 

「…貰ってく」

 

相手は、食べ物を持ち去っていった。

 

 



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第16話 “化物VS化物”

~翌朝―――庄屋屋敷~

 

「何ですと⁉相手は人間⁉」

 

「うん。バケモノみたいな強さだったけど、バケモノのふりをしているだけで、アレは間違いなく人間だった」

 

チョッパーは庄屋様とトントンに、昨晩の一部始終を話した。

 

「それより、本当にごめんな…。結局、食べ物盗られちゃって…」

 

「いえいえ、チョッパーさんが無事で何よりですよ!」

 

「あのチョッパーさん」

 

「何だトントン?」

 

「その化物…のふりをしていた人がいる場所って、わからないでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、チョッパーとトントンは再びお堂を訪れた。

 

「…間違いないな。足跡に荷車の後、匂いも残っている。アイツはこの先にいる」

 

犯人の痕跡を見つけた2人は、追跡することにした。

 

「でもトントン、本当に一緒に来るのか?危ねェぞ?」

 

「相手が人間なのなら、こんな事をするのには、きっと理由があるはずです。それなら、話し合いで解決できるかもしれませんから」

 

「そうか…あっ!」

 

そんなことを言いながら2人がしばらく歩くと、小川の近くにある洞窟の入り口を見つけた。

入り口の前には、焚火の後のようなものがある。

 

「あそこが犯人の住処でしょうか?」

 

「ああ、たぶん…!」

 

「どうしました?」

 

「いや…洞窟の中から声がたくさん聞こえて…」

 

「声?」

 

チョッパーに言われて耳を澄ましてみるが、何も聞こえない。

トントンが不思議に思っていると…

 

ザッ…

 

「「!」」

 

背後に何者かの気配を感じ、2人が振り向くと1人の女が立っていた。

 

ボーっとしたような顔つきで、赤い髪、頭頂から触角のように2本の毛が伸びており、露出した腰や肩に刺青(いれずみ)のようなものが見える。

手に持った方天画戟(ほうてんがげき)の石突には、犬のストラップが付いている。

 

「この匂い…!お前…昨日、食べ物を持って行った奴だな?」

 

「…………(コクリ)」

 

女はうなずくと武器を構える。

 

「トントンは下がってろ!」

 

「は、はい!」

 

その様子を見たチョッパーはトントンを避難させ、自分は戦闘時に使用する薬、“ランブルボール”を取り出し飲み込む。

 

「ランブル!」

 

「…っ!」

 

チョッパーが薬を飲むのとほぼ同時に、女は走り出し画戟を振り下ろす!

 

ビュッ!

 

「“飛力強化(ジャンピングポイント)”!」

 

シュバッ!

 

「⁉」

 

急いで変身したチョッパーは、強化された跳躍力でジャンプし、間一髪で攻撃を躱す。

 

「ハァッ!」

 

しかし、女もすぐに同じ高さまで飛び上がる!

 

「なっ⁉」

 

「っ!」

 

ブン!

 

「“重量強化(ヘビーポイント)”!」

 

振り下ろされた一撃を、チョッパーは人型に変身して体重を重くすることで、落下して躱す!

 

「“腕力強化(アームポイント)”!」

 

先に着地したチョッパーは腕力を強化し、攻撃態勢をとる!

 

「(空中なら避けられないハズ!)“刻蹄(こくてい)”……“(ロゼオ)”‼」

 

「ぐっ!」

 

ガキィン!

 

しかし、女は画戟を両手で持ち攻撃を防ぐ!

 

「ハァッ!」

 

そして、着地と同時にチョッパーに突っ込み、画戟で薙ぎ払う!

 

ブン!

 

「“毛皮強化(ガードポイント)”!」

 

ボフッ!

 

「⁉」

 

分厚い毛皮に覆われ、毬のようになったチョッパーの身体は、攻撃を受け吹っ飛ばされるが、ダメージはほとんど受けなかった。

 

「お前…何?」

 

「本物の…バケモノだよ…!」

 

両者は距離を取り、しばらくにらみ合う。

 

(コイツ…もしかしたら、おれが戦ったCP9(シーピーナイン)と同じくらい強いかもしれねェ…!

マズイな…こんな所で暴走するわけにはいかねェし…)

 

相手の強さに焦り始めるチョッパーだったが、実は女の方も内心焦り始めていた。

 

(コイツ…強い…!こんなの初めて…!攻撃、くらうとまずい…!)

 

チョッパーの攻撃を受け止めたときの威力。

一対一の戦いで、ここまで手こずるのは初めてだったこと。

さらに相手が変身し、どのような攻撃をしてくるか、わからないことも厄介だった。

 

「(このまま睨み合っていても、ランブルボールの効果が切れるだけだ!)“脚力強化(ウォークポイント)”!」

 

意を決したチョッパーは、獣型に変身し向かって行く!

 

「“角強化(ホーンポイント)”!」

 

そのまま角を巨大化させて突っ込む!

 

「―――ぐっ!」

 

ガキン!

 

女は再び画戟で攻撃を受け止める!

 

「ぐっ…うゥ……!」

 

「くっ……!」

 

そのまま押し合い…

 

「…っ!……ああっ!」

 

ブオン!

 

「うおっ!?」

 

やがて女はチョッパーを力任せに放り投げる!

 

「うああっ!」

 

「!“頭脳強化(ブレーンポイント)”!」

 

そのまま次々と繰り出される攻撃を、チョッパー獣人型に変形して何とかかわす!

チョッパーが躱した攻撃は後ろの大木に当たり、木を切り倒した。

 

その時だった。

 

「ワン!」

 

「「「⁉︎」」」

 

近くの茂みから、首に赤い布を巻いたウェルシュコーギーらしき子犬が飛び出してきた。

 

そして切り倒された大木が、子犬に向かって倒れていく!

 

「危ない!」

 

とっさにトントンが子犬をかばい抱きしめる!

 

「セキト!」

 

「ヤベェ!」

 

女が叫んだのと同時に、チョッパーも急いで飛び出し―――

 

「“腕力強化(アームポイント)”!“刻蹄(こくてい)”……“十字架(クロス)”‼」

 

ドゴォォォン!

 

大木を吹き飛ばした。

 

「トントン大丈夫か⁉」

 

「う、うん…」

 

「そっちの子犬は⁉」

 

「大丈夫だよ」

 

トントンの腕に抱かれた子犬は楽しそうにしっぽを振り、トントンの顔を舐める。

 

「あはは、くすぐったい♪」

 

「…よかった」

 

チョッパーが安心すると、女の方も武器を下ろす。

 

「お前ら良い奴…良い奴とは戦わない…」

 

それの言葉を聞いてチョッパーも、人獣型に戻る。

 

「あの…あなたお名前は?」

 

トントンが女に問いかけた。

 

「“呂布(りょふ)”…“奉先(ほうせん)”」

 

「呂布さんは、近くの村に時々食べ物を持ってこさせるように、催促していたんですね?」

 

「…………(コクリ)」

 

「どうしてそんなことを?」

 

「餌のため…」

 

「餌?」

 

「もしかして、こいつや()()()()()()()()()()()のか?」

 

「…………(コクリ)」

 

呂布がうなずき指笛を吹くと、洞窟の中から大小、種類も様々な犬が大量に出てきた。

 

「すごい数ですね…」

 

「聞こえてきたのは、こいつらの声だったんだな…」

 

「みんな怪我したり、捨てられたりしていた…。

(れん)”も小さい頃、親に捨てられて…丁原(ていげん)様に拾ってもらった…。

だから放っておけなかった…」

 

「そうか…」

 

親に捨てられる。

里親に拾われる。

それはチョッパー自身も経験したことがあった。

そのためチョッパーも、呂布の気持ちがとてもよく分かった。

 

「ちゃんと働いて稼ごうともしたけど…

 

 

 

 

 

~その1~

 

1人の客が店に入ると、制服に身を包んだ無表情の呂布が立っている。

 

『…………』

 

『…えっと、あの…』

 

『…いらっしゃいませ』

 

少しの沈黙の後、無表情のまま、感情がこもってない挨拶をした。

 

 

 

 

 

 

~その2~

 

『え~っと、おれ炒飯(チャーハン)餃子(ギョウザ)

 

『おれも同じの。炒飯は大盛で』

 

『担々麺、あと春巻き』

 

『白飯と回鍋肉(ホイコーロー)、それから(たまご)(スープ)

 

『かしこまりました』

 

注文を受け、呂布は厨房にオーダーを報告する。

 

拉麺(ラーメン)四つ』

 

『『『『オイッ!』』』』ビシッ

 

客のツッコミが炸裂した。

 

 

 

 

 

 

~その3~

 

『お待たせしまし…』

 

つるっ!

 

ガッシャーン!

 

 

 

 

 

 

~その4~

 

『お茶お注ぎしま…』

 

コケッ!

 

ドガッシャーン!

 

 

 

 

 

…上手くいかなかった…」

 

「そっか、大変だったんだなお前…」

 

「悪いことだとは思った…でも、他に方法が思いつかなかった…」

 

「う~ん、確かに…どうすればいいかな?」

 

「あの、それでしたら…」

 

「かかれーーーっ!」

 

「「「「「「「「「「おーーーっ!」」」」」」」」」」

 

「「「⁉」」」

 

トントンが何か言おうとした瞬間、何者かの号令とともに武装した兵士が現れ、チョッパーを取り囲んだ。

 

「え⁉えっ⁉」

 

(ゆえ)っ!大丈夫⁉」

 

「え、“(えい)”ちゃん⁉どうしてここに⁉」

 

号令をかけたと思われる人物、緑の髪で眼鏡をかけた女性が、トントンに駆け寄ってきた。

2人は互いを、真名と思われる名前で呼び合う。

 

詠と呼ばれた女性は、トントンの問いに答えずにチョッパーを睨みつける。

 

「あんたね!最近、この辺りの村を襲っている化物ってのは!」

 

「え、詠ちゃん違うの!その人は…」

 

「ホント気味が悪い生物ね…!

どっから迷い込んだのか知らないけど、ボクたちの領土を荒らしたうえ、月まで危険な目に遭わせて、タダじゃおかな…」

 

「止めなさい‼賈文和(かぶんわ)‼」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

突然、トントンの怒鳴り声が響き渡った。

それまでの振舞からは、想像もできないような声だったため、怒られた詠本人はもちろん、チョッパーや呂布、兵士達までも怖気ついている。

 

「その方は化物から村を守ろうとした英雄であり、私の命の恩人でもあります!

無礼なまねは許しません!今すぐ武器を下げさせなさい!

これは命令です!」

 

「は、はい!ぶ、武器を下ろせ!」

 

「「「「「「「「「「は、はい!」」」」」」」」」」

 

兵士たちが武器を下ろすのを見て、トントンは安心し息をつく。

 

「トントン…お前、もしかして偉い奴なのか?」

 

チョッパーが訊ねた。

 

「この方は、ここ涼州武威(ぶい)郡の太守、“董卓(とうたく)仲穎(ちゅうえい)”様です」

 

トントンに代わって詠が答えた。

 

「ええっ⁉太守⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~董卓の屋敷、謁見の間~

 

チョッパーと呂布とその飼い犬達、そして村の庄屋は、トントンこと董卓の屋敷に呼ばれた。

 

「皆さん、お待たせしました」

 

「わあ…」

 

壇上に現れた正装に着替えた董卓の姿に、チョッパーは思わず感嘆の声を漏らす。

 

董卓の左右にはそれぞれ、賈駆と華雄が控えている。

 

そして董卓は、庄屋に事件の真相を説明した。

 

「そういうことだったのですか…」

 

「確かに、呂布さんのしたことは、許されることではありません。

しかしそれは傷つき、捨てられた犬達を助けるためにやったこと。

門前の岩もすぐに片付けさせますし、できる限りの償いもさせます。

盗られた食料の方は、私達で弁償しますので、どうか穏便に済ませていただけないでしょうか?」

 

「いえ、実は…」

 

「?」

 

「以前、私達の村をはじめ、その周辺の村々で増えすぎた猟犬を、大量に山に捨てたことがありまして…。

おそらくこの犬達は…」

 

「成程、身から出た錆だったところもあるというワケか…」

 

「村人達には、私の方から伝えておきます。

すでに本人からも謝罪してもらいましたし、私達の方からはもう何も申しません」

 

「わかりました。ところで賈駆!」

 

「は、はい!」

 

董卓に呼びつけられ、賈駆は身体をこわばらせる。

 

「役所では、化物による被害の訴えを、取り合わなかったと聞きましたが?」

 

「え、ええと…」

 

「董卓様、それはもう済んだことです。

それに今回の件は、我々の方にも非があったわけですし…」

 

「いいえ、そういうワケにはいきせん。

民からの訴えを疎かにして、政を行うなどあってはなりません」

 

「わかりました。二度とそのようなことがないよう、全ての役人に徹底的に言い聞かせておきます!」

 

「いいでしょう。それから…!」

 

「は、はい!まだ何か⁉」

 

「あなた…先ほどチョッパーさんに武器を向けたことを、まだ詫びていないと思うのですが?」

 

「!」

 

董卓に言われ、賈駆は慌ててチョッパーに頭を下げた。

 

「さ、先ほどはとんだご無礼を致しました…。

主の恩人に武器をむけてしまうとは…。まことに申し訳ありませんでした」

 

「チョッパーさん、私からも詫びを申し上げます。私の部下が失礼をいたしました」

 

そう言って董卓も頭を下げる。

 

「いいよ。よくあることだし」

 

「寛大な心遣い、感謝します。ところでチョッパーさん…」

 

「何だ?」

 

「庄屋さんから聞いたのですが、チョッパーさんは逸れた仲間を探しているそうですね」

 

「うん。どこにいるのかは、全然わからないんだけど…」

 

「それで…もしよろしければ、お仲間が見つかるまで、私達のところに滞在していただけないでしょうか?」

 

「ちょ、月?」

 

「実は、このところ我が領内では、病人や怪我人が絶えなくて、一人でも多くのお医者様を必要としているのです。

チョッパーさんのお仲間の行方は、私達の方でも調べます。

ですから、お仲間が見つかるまでの間で構いませんので、私達のところで、医者として働いていただけないでしょうか?」

 

「え?医者?この喋る狸が?」

 

「トナカイだ!」

 

(化物扱いは良くても、狸扱いは嫌なのか?)

 

不思議に思う華雄だった。

 

「どうでしょうか?」

 

「もちろんいいぞ!

村の患者も、最後まで面倒見たかったし、行く当てもないから、おれからお願いしたいぐらいだよ。

それに、医者として病人や怪我人がいるのなら、治療してやりたいからな!」

 

「ありがとうございます!―――それから呂布さん」

 

「?」

 

「もしよろしければ、私達のところで、武官として働いていただけないでしょうか?

犬達の世話も、私たちでお手伝いしますので」

 

「いいの?」

 

「ちょ、ちょっと月!?何言ってるの⁉」

 

「詠ちゃん、『このところ警備の人手が足りなくなって、街の治安が悪化してる』って言ってたでしょ。

呂布さんの武術の腕はすごいし、あの犬達を躾ければ、街の警備の手助けになると思うの」

 

「そ、そりゃちゃんと躾けることができれば、警備の役には立つでしょうけど…ちゃんと躾けられるの?」

 

「それなら大丈夫だと思うぞ」

 

「「?」」

 

董卓に代わって、チョッパーが答えた。

 

「こいつらみんな『自分達の面倒を見てくれるなら、一生懸命働く』って言ってるぞ」

 

「「「「「「「「「「ワン!」」」」」」」」」」

 

「…チョッパーさん、そういえば先ほども『声が聞こえる』と言ってましたが…。

もしかして、その子達の言葉が解るのですか?」

 

「ああ。おれは元々動物だから、大抵の動物とは話せるんだ」

 

「そんなこともできるなんて…!チョッパーさんって本当に凄いんですね!」

 

「う、うるせーな!ホメられたって、嬉しくなんかねーぞ!コノヤローが!」

 

…と、チョッパーは口ではそう言うが、顔は思いっきりにやけて、小踊りまでしている。

 

「嬉しそうだな…」

 

「あんた…嘘つくの下手ね…」

 

「可愛い…」

 

チョッパーに見惚れる呂布。

 

「詠ちゃん、チョッパーさんもこう言ってるし、大丈夫でしょ?」

 

「で、でも…」

 

「駄目?」

 

目を潤ませ、上目遣いで懇願する董卓。

 

「ううっ…」

 

「詠ちゃん…お願い…」

 

「…わ、わかったわよ……」

 

「ありがとう!詠ちゃん大好き!」

 

そう言って満面の笑顔で、賈駆に抱き着く董卓。

 

ある意味タチの悪い、卑劣な君主かもしれない。

 

「い、言っとくけど!こんなお願い聴くのは、今回だけだからね!」

 

そっぽを向き、顔をやや赤らめてそう言う賈駆。

 

どうやら彼女は、所謂ツンデレのようである。

 

がばっ

 

…と、そこへさらに呂布が抱き着いてきた。

 

「え⁉ちょ、アンタまで何⁉」

 

「多分、感謝の気持ちを表してるんだと思うぞ」

 

チョッパーの言葉にうなずく呂布。

 

「だったら口で言いなさいよ!抱き着くな!懐くな~!」

 

「では、これからよろしくお願いしますね。チョッパーさん。呂布さん」

 

「“恋”でいい」

 

「真名で呼んでいいのですか?」

 

「一緒に暮らすなら、家族。…だから、良い」

 

「わかりました。よろしくお願いします。“恋”さん」

 

「―――とりあえず、離れろォ~~~!」

 

こうして、チョッパーは“董卓仲穎”こと“月”のもとで、“賈駆文和”こと“詠”、“華雄”、“呂布奉先”こと“恋”とともに、働くことになったのだった。

 

 




チョッパーVS恋
流石にチョッパーが恋に勝つのは無理でしたが、かなり互角に戦いました。

次回から、少しオリジナルの話に入ります。




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第17話 “有難(ありがた)い”

予告の通り、今回はオリジナル話です。




~とある山中~

 

山道を進む一行がいた。

 

「「や~まがあるから山なのだ~♪か~わがあっても気にしない~♪」」

 

仲良く歌いながら、先頭を進むルフィと鈴々。

 

「こら鈴々、ルフィ殿も…変な歌を大声で歌うな。恥ずかしいだろ…」

 

その後からついて来る愛紗、さらに後からは星もついて来る。

 

「何言ってるのだ愛紗。山を歩くときは、クマ避けに歌を歌った方がいいのだ。じっちゃんがそう言っていたのだ」

 

「そうだぞ、鈴々の言う通りだ。こんな山の中で、いきなり愛紗に出くわしたら、熊がビックリするだろう」

 

「そうそう、こんな山の中で私に出くわしたら、熊が可哀想……って何でだ⁉」

 

星のボケにノリツッコミをする愛紗。

すると星ニヤニヤしながら愛紗を見る。

 

「どうした星?私の顔に何かついているか?」

 

「いや、公孫瓚殿より、やはりお主の方が面白いと思ってな」

 

「…………」

 

「あ~…なんかくまの話してたら、腹減ってきたな~」

 

先頭を歩いていたルフィがそんなことを言い出す。

 

「「「え?」」」

 

「久しぶりにくま鍋食いてェな~。くま~!出てこ~い!」

 

「やはり熊避けに歌った方が良いな…」

 

「腹を空かせたルフィ殿に…熊が出くわしたら…」

 

「クマがかわいそうなのだ…」

 

ザッ…

 

「ん?」

 

突然前方に、武器を手にした男達が現れた。

よく見ると前だけでなく、左右後方の木陰、岩陰、茂みからも何十人という男が現れる。

 

「…どうやら熊の代わりに、山賊が現れたようだな」

 

「熊の方が、まだ可愛げがあるかもしれんな」

 

「でも、クマの方が強そうなのだ」

 

「まー何でもいいじゃねェか……行くぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

そして乱闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その頃―――その山の(ふもと)

 

1万を超える軍が、そこに陣取っていた。

 

「…この山でいいのね」

 

「はい、付近の住民から聞いた話から考えて、この山で間違いないかと」

 

「荀彧、斥候を…」

 

「すでに向かわせました」

 

「そう、さすがね。夏侯惇、夏侯淵!」

 

「「はっ!」」

 

「いつでも出陣できるように準備を!」

 

「「はっ!」」

 

「申し上げます!」

 

「何事か?」

 

「山中で賊を確認!何者かと戦闘中とのこと!」

 

「わかったわ!直ちに出陣するわよ!」

 

「「「はっ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~山中~

 

「ハァーーーーーッ!」

 

「ぎゃあ!」

 

「ぐああっ!」

 

ルフィ達の戦闘は続いていた。

 

「何だこいつら!?」

 

「ひるむな!たかが四人!叩き潰せ!」

 

山賊達は、ルフィ達の強さに驚きつつも、次々に襲い掛かる。

 

「コイツら何人いるのだ⁉」

 

「随分と大規模な賊のようだな!」

 

ルフィ達の方も、相手の異様な数に驚愕していた。

すでにそれぞれ十人以上倒しているが、敵の数は一向に減る様子がない。

 

「何人でもかかってこォーい!」

 

ルフィはそう言って賊の群れに突っ込み、一気に吹き飛ばす!

 

ドガァァァン

 

「「「「「「「「「「ギャァァァァァ!」」」」」」」」」」

 

しかし、いくつかの間の悪さが重なり、問題が起こった。

 

1つ目はルフィが飛び込んでいった先が、崖だったこと。

2つ目はその崖の先が川、それも結構深く、流れが急だったこと。

3つ目はその崖付近の足場が、ルフィが飛び込んだ丁度そのタイミングで崩れたこと。

 

バキッ

 

「あ~~~~~⁉」

 

ドボ~~~ン

 

「ルフィ殿ォ~~~⁉」

 

ルフィは真っ逆さまに川に落ち、そのまま流されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「曹操様!賊を発見しました!これより戦闘を開始します!」

 

「ええ!好きなだけ暴れなさい!」

 

「はっ!よォし!突撃ィーーー!」

 

「「「「「「「「「「おーーーっ!」」」」」」」」」」

 

「ふふ、頼もしいわね春蘭は」

 

「曹操様」

 

「どうしたの夏侯淵?」

 

「兵士から報告がありまして、近くの川で上流から男が一人、流されてきたそうです」

 

「…賊の仲間かしら?」

 

「今のところは何とも」

 

「ま、とりあえず介抱してあげなさい」

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおりゃあーーーっ!」

 

ドカッ!

 

「ガフッ…!」

 

「くそっ!きりがない…!」

 

「早くルフィ殿を助けねばならんというのに…」

 

愛紗達はルフィを助けようにも、大量の賊に囲まれ身動きが取れず、焦り始めていた。

また、ルフィがいなくなったことで戦力が下がり、苦戦し始めていた。

 

その時…

 

「うわぁ!」

 

「ギャー!」

 

突然、少し離れた場所から賊の悲鳴が聞こえてきた。

 

「⁉何だ⁉」

 

「大変だ!官軍が現れた!」

 

「何だと⁉どこの軍だ⁉」

 

「曹操軍だ!」

 

「まずい!ずらか…」

 

「遅い!」

 

ズバッ!

 

「がっ…!」

 

逃げようとした賊の1人が、官軍の将らしき女に斬られた。

 

「うわァ!もうここまで来やがった!」

 

「行けェ!一人も逃がすなァ!」

 

「「「「「「「「「「おーーーっ!」」」」」」」」」」

 

官軍の加勢により、賊はあっという間に退治された。

 

 

 

 

 

 

賊を退治し終えた愛紗達の前に、官軍の指揮官と思われる女性が現れた。

 

「部下からの報告で聞いたわ。あなた達がここの賊と戦っていたのね」

 

「は、はい」

 

「うわ~…このお姉ちゃん、すっごい頭クルクルなのだ~」

 

「こ、コラ鈴々!」

 

慌てて鈴々の口を塞ぐ愛紗。

 

「し、失礼した!この者は髪型を言ったのであって、頭の中身がどうこうという意味では…!」

 

「愛紗よ。それは逆に失礼ではないか?」

 

「子供言うことだもの、別に気にしてないわよ」

 

「は、はあ…」

 

「子供って…」

 

「さてと…あなた達から少し話を聞きたいのだけれど、麓にある我が軍の陣まで同行願えるかしら?」

 

「あの…申し訳ないのですが…」

 

「どうかしたの?」

 

「先ほど、戦闘中に仲間が一人、川に落ちてしまいまして…急いで探さねば…」

 

「…それってひょっとして、(わら)で編んだ帽子を被った、目の下に傷がある男?」

 

「⁉ご存じなのですか⁉」

 

「ええ、先ほど我が軍の者が拾って、今は陣にいるはずよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方―――

 

「ん?」

 

ルフィが目を覚ますと、そこは天幕の中だった。

 

「気が付いたか?」

 

周囲にいた兵士が声をかけてきた。

 

「誰だお前ら?」

 

「我々は曹操軍の兵士だ」

 

「“ソウソウ”?」

 

「入るぞ。おお、目が覚めたか」

 

水色の髪の女性が天幕に入ってきた。

 

「夏侯淵様!」

 

「誰だ?」

 

「私は“夏侯淵”。一応聞くが、お主が“ルフィ”だな?」

 

「ああ。何で知ってんだ?」

 

「“関羽”と言う女から聞いた」

 

「愛紗達を知ってんのか?」

 

「ああ、真名は知らぬがな。その者達が我が主と一緒にお待ちだ。来てくれるか?」

 

「うん、わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛紗~!鈴り~ん!星~!」

 

「ルフィ~!」

 

「ルフィ殿!」

 

「ご無事で何より」

 

ルフィが天幕に入ると、鈴々はルフィに抱き着き、他の2人も駆け寄ってきた。

 

「ああ!お前らも無事だったんだな!」

 

「再会を喜んでいるところ悪いけど、さっそく話を聞かせてもらえるかしら?」

 

ルフィが秋蘭に案内された天幕には、愛紗達3人のほかに、華琳、春蘭、桂花がいた。

 

「うわ~…すげェ頭クルクルだなお前」

 

「る、ルフィ殿!」

 

「ふふ…親子そろって同じことを言うのね」

 

「親子?」

 

「あら?てっきりその張飛って子は、あなたと関羽の子供だと思っていたのだけれど…違うの?」

 

「ち、違います!私達は義兄妹でして…!」

 

「そう…それじゃあ、関羽はまだキレイな身体のままなのね?」

 

「⁉」

 

華琳の言葉と頬を赤らめた表情に、思わず身震いする愛紗。

 

「そ、曹操様!そのような話をするために、この者達を呼んだのではないでしょう⁉」

 

ライバルが増える予感がしたのか、桂花は必死で話題を変えようとする。

 

「そうだったわね。では、本題に入りましょう」

 

華琳のその言葉で、全員落ち着きを取り戻し、天幕内に真剣な空気が満ちる。

 

「まずは自己紹介から、私がこの軍の総大将、“曹操”よ」

 

(この者が“曹操”…。最近都で頭角を現してきたという…)

 

華琳の実力を確かめるように、凝視する星。

 

「こちらにいるのが我が軍の主将、“夏侯惇”、“夏侯淵”。そして筆頭軍師の“荀彧”よ」

 

「お初にお目にかかります。我が名は“関羽”。こちらが私の義兄の“ルフィ”殿、義妹の“張飛”、旅の同行者の“趙雲”殿です」

 

「まず状況を整理するけど…あなた達四人はあの山で山賊と戦っていた。

そしてその途中で、そこのルフィという男が川に落ちてしまった。

残りの三人で戦っていたところに、夏侯惇が加勢して賊を征伐した。

同じ頃、流されてきたその男を私達が拾った。

間違いないわね?」

 

「ああ、そうだ。水色の奴から聞いたよ、助けてくれてありがとう」

 

「お礼なんていいわ。私達もあなた達のおかげで、いくらか賊討伐が楽になったもの。お互い様よ」

 

ルフィと華琳は互いに感謝を表す。

 

「曹操様!別にこやつらの助けがなくとも、賊討伐などできました!」

 

「何をー!鈴々達だって、お前らの助けなんかなくても、あんな奴らやっつけられたのだ!」

 

しかし、空気を読まずに売り言葉に買い言葉で、言い争う鈴々と春蘭。

 

「姉者、止めぬか…」

 

「こら鈴々…」

 

互いの姉妹を止める愛紗と秋蘭。

 

「お互い、脳筋の馬鹿には手を焼いているようね…」

 

「まったくだな…」

 

その様子を見て、思わずため息をつく星と桂花だった。

 

「それで…話を戻すけど、あなた達があの山賊達と戦っていたのは何故?」

 

華琳がルフィ達に真剣な顔で訊ねる。

 

「何故と訊かれましても…」

 

「向こうが襲ってきたから、戦っただけだ」

 

「つまり、ただ迎撃しただけという訳ね」

 

少々残念そうな顔をする華琳。

愛紗はその表情が気になり、訊ねてみた。

 

「あの山賊達がどうかしたのですか?」

 

黒山賊(こくざんぞく)というのを聞いたことはない?」

 

「聞いたことがある。元々は司隷、河内(かだい)郡の黒山を拠点にしていた、大規模な盗賊団のことだろう?

張燕(ちょうえん)という者が仕切っており、構成人数は一万人を超えているとか」

 

華琳の質問に、星が答えた。

 

「その通りよ。ただ、その情報は少し古いわね。今、黒山賊の構成人数は十万を超えているわ」

 

「十万だと⁉」

 

「いくつもの賊を吸収し、規模を拡大していると聞いていたが、そこまでとは…」

 

華琳の言葉に愛紗と星は驚く。

 

「一つの郡や州にも匹敵する兵力を持った奴らは、軍をいくつかの隊に分け、大陸の各地に分散。そして、さらなる勢力の拡大を謀っているらしいわ」

 

「我々は朝廷からの命を受け、この山に潜んでいる黒山賊の一隊を討伐、さらには黒山賊全体について、情報を得るべく出陣してきたという訳だ」

 

「黒山賊については正確な情報が少ないし、頭領の張燕については完全に正体不明といっても過言ではないわ。

だから、あなた達が何か情報を持っていれば、と思ったのだけど…」

 

「そういうことだったのですか…お役に立てず、申し訳ありません」

 

「構わないわ。ところで、私達はこれからこの辺りを治めている張繍(ちょうしゅう)殿のもとへ向かうのだけれど、一緒に来てもらえるかしら?」

 

「え?」

 

華琳からの思わぬ誘いに、愛紗は思わず声をあげた。

 

「今回の賊討伐はあなた達にも功績があるわ。そのことはちゃんと報告して、相応の報酬を渡すべきだもの」

 

「いえ、私達はそんな…」

 

「他者の手柄を横取りするような下賤なマネはしたくないの。私の名誉のためと思って、来てくれないかしら?」

 

「……わかりました」

 

華琳の言葉に、愛紗だけでなく星や鈴々、ルフィも内心敬意を抱いたのだった。

 

こうして、ルフィ達は華琳達に同行することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~夜―――曹操軍の陣~

 

昼間の勝利を祝い、宴が開かれた。

 

「いいらろくれ!(いいだろこれ!)」

 

その宴席のど真ん中で、ルフィは鼻に割りばしを入れ、ザルを持って踊っていた。

 

「はっはっは!最高だなその踊り!」

 

「鈴々もやるのだ~!」

 

「おう!やれやれ~!」

 

「…何て品のない…」

 

「くくっ…まァ、面白くて良いではないか」

 

「ああ!このような愉快な踊りは初めて見ましたぞ!はっはっは!」

 

一部の者を除き、踊りは大ウケしていた。

 

「賑やかでいいわね。…少し夜風に当たってくるわ」

 

そう言って天幕を出る華琳を見て、愛紗も天幕を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「曹操殿」

 

「あら関羽」

 

「ルフィ殿のことといい、同行を許してくれたことといい…ありがとうございました」

 

「昼間言ったでしょう?別に構わないわよ」

 

「いえ、私は嬉しいのです。今の世の中に、曹操殿のような方がいて」

 

「…………」

 

その言葉から華琳は何となく、愛紗の今の世の中を嘆く気持ちを感じた。

能力ではなく、渡せる賄賂の量で人を評価する世の中を。

それ故に、正当に評価されない人物が大勢いる世の中を。

 

「確かに、今の世の中では有難(ありがた)いことかもしれないわね…。でも、私にとっては当たり前のことよ。礼を言う必要はないわ」

 

華琳は少しだけ、優しそうな笑みを浮かべてそう答えた。

 

「曹操殿…」

 

「ただ…」

 

…と、そこで急に華琳は愛紗と距離を詰め、愛紗のあごに手を添える。

その表情は、先ほどの()()()な笑みではなく、不敵でどこか()()()()笑みになっている。

 

「どうしてもお礼が言いたいのなら…(ねや)でたっぷり聞かせて貰うけど?」

 

「⁉」

 

愛紗は華琳と距離をとろうとするが、いつの間にか腰に手を回されており、離れることができない。

華琳は愛紗に熱い視線を向け、口説くような口調で語りかける。

 

「あなたのその髪、なかなか美しいわね…」

 

「い、いえ…これは人に自慢できるような物では…!」

 

「きっと下の方も…しっとりツヤツヤなのでしょうね…」

 

「⁉」

 

同性同士なので気付きにくいが、この発言立派なセクハラではないだろうか?

 

「是非…味わってみたいわ…♡」

 

愛紗は武術の腕は立つが、こういうことには全く慣れていないため、思考回路がショート寸前になり、微動だに出来なかった。

 

「…あ…いえ……あの…」

 

ドゴォン!

 

「「⁉」」

 

その時、天幕の中から轟音が響き、2人は急いで天幕に戻った。

すると…

 

「…………」

 

ピクピク

 

気絶した春蘭が地面にめり込んでいた。

 

「……これはどういう状況なのかしら?」

 

「うむ。話せば長くなりますが、ルフィ殿が宴席に出ていた肉を全部食べてしまいまして…」

 

「姉者がそれに腹を立てて、襲い掛かったのだ」

 

「―――で、ルフィが赤いお姉ちゃんを返り討ちにして、こうなったのだ」

 

「この気絶している馬鹿が襲い掛かった瞬間、一撃沈められてしまい、止める暇もありませんでした」

 

「……そう」

 

「…………」

 

想像以上にくだらない理由だったため、呆れる2人。

 

「キサマァァァァァ!」

 

「…復活したか」

 

「よくもォォォォォ!」

 

「何言ってんだ、襲ってきたのお前じゃねェか」

 

「キサマが私の分まで肉を食うからだろうが!」

 

「静まりなさい‼」

 

「ひっ⁉華琳様⁉」

 

「彼らは客人なのよ?無礼なマネは止めなさい!」

 

「で、ですが華琳様ァ~…!」

 

「お肉ならまだあったでしょう?もう少し料理してかまわないから止めなさい」

 

「はァい…」

 

「ハァ…興が冷めたわ…。関羽、続きはまた今度にしましょう…」

 

「はい。……へっ⁉続き⁉今度⁉」

 

「か、華琳様⁉」

 

「そ、それはどういう意味ですか⁉」

 

華琳の言葉に愛紗だけでなく、春蘭と桂花も取り乱す。

 

「関羽、私はあなたを諦めるつもりはないわよ?必ず私のモノにして見せるわ」

 

そう言うと華琳は天幕を出て行った。

 

「き、キサマァ~!」

 

「よ、よくも華琳様を誑かして―――!」

 

「ご、誤解です!私はそういった趣味は―――曹操殿に対して、そのような気持ちは微塵も―――」

 

「キサマ、華琳様が魅力的ではないというのかァ‼」

 

「華琳様の魅力が分からないなんて、万死に値するわ‼」

 

「えええ⁉」

 

「まったく…姉者も桂花も華琳様のことになると人が変わるな…」

 

「夏侯淵殿…気のせいか手にしている杯が、メキメキと音を立てているような…?」

 

こうして、夜は更けていくのであった。

 

 




今回の話は、ルフィ達が華琳達と出会う話でした。
できるだけ早いうちに、面識を持たせたかったんですよね。



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第18話 “罠”

翌日―――

 

一行は夕刻前に張繍がいる宛城(えんじょう)に到着した。

 

「そういえば曹操殿、一つ訊いてもよろしいでしょうか?」

 

行軍中、星が華琳に訊ねた。

 

「何かしら?」

 

「張繍が治めているということは、ここは荊州、南陽(なんよう)郡ということ。曹操殿は確か兗州、陳留郡の太守。あまりにも遠くありませんか?」

 

「張繍本人から頼んだらしいわ。『黒山賊は自分の手に負えないため、精鋭兵が多い曹操軍の力をお借りしたい』ってね」

 

「成程…」

 

「しかし、これだけの兵を連れて陳留からとなると、相当の負担が掛かるのでは…?」

 

「仕方ないわよ。これも将来のためだもの」

 

「将来?」

 

「…あなた達には話してあげましょう」

 

そう言って華琳はルフィ、愛紗、鈴々、星を見渡す。

 

「私は漢王朝を滅ぼす。そして私が王になり、新しい私の国を作るわ」

 

「「「「⁉」」」」

 

「この地もいずれ私の領土となる。だから私はこの地の治安のために、遠征してきたのよ。

それにこうして我が軍の力を見せつけておけば、平定もしやすくなるしね」

 

「「「「…………」」」」

 

大胆不敵なその発言に、ルフィ達は全員黙ってしまった。

 

華琳は話し続ける。

 

「ついでに言っておくわ。―――あなた達全員、我が軍に下りなさい」

 

「「「!」」」

 

「…………」

 

「私ならあなた達の理想を叶えることが…あなた達が望む世の中を作ることができるわ。あなた達ほどの剛の者なら、歓迎するわよ」

 

「愛紗達は知らねェけど、おれは行かねェ」

 

「「「「「「「!」」」」」」」

 

即答するルフィに、今度は愛紗達だけでな、く華琳達も驚く。

 

「どうして?」

 

「お前の部下になるのはイヤだ」

 

「…そう」

 

ルフィと華琳は、互いに面白いものを見るような目で、視線を交わす。

 

「まァ、返事は今でなくてもいいわ。関羽、張飛、趙雲、いい返事を期待しているわよ」

 

「「「…………」」」

 

一行は話を切り上げ、城に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~宛城、謁見の間~

 

華琳は張繍と会見していた。

 

「曹操殿、此度の遠征、誠にありがとうございました」

 

「構わないわ」

 

「朝廷には私の方から、上奏(じょうそう)しておきます。私からのお礼の品はすでに曹操殿の陣へ運ぶよう、申しつけております」

 

「そう。それじゃあ、此度の戦で手柄を立てた者が数名いるから、その者達についても上奏してもらえる?」

 

「はい、お任せ下さい。しかし、今日はもう日が暮れますから、細かいことは明日にしましょう」

 

「…できれば急いで済ませたいのだけれど…」

 

「まあまあ、そう言わずに…」

 

張繍は華琳の耳元に寄り…

 

「曹操殿の趣味に合わせたお屋敷もご用意してありますので…」

 

「!…そう…気が利くわね…

 

結局、その日はそれで終わりとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜―――

 

「…これは…悪くないわね」

 

華琳は部下達に、見張りの兵を残して今日はもう休むように伝え、自分は桂花と一緒に張繍が用意した屋敷に案内してもらっていた。

 

入ってみると、室内のつくりはもちろん、家具や調度品は全て華琳の趣味にぴったりで、お香まで用意されていた。

 

奥の部屋には、身体を密着させれば5人は一緒に寝れそうな天蓋付きの寝台があった。

その部屋は全体的にどこか艶かしい雰囲気が漂い、壁が厚く、大声をあげても他の部屋には聞こえないようになっている。

 

「気に入ったわ。今晩はここで過ごすとしましょう」

 

「わかりました。では、酒と食事を用意させます」

 

部屋まで案内した張繍の従者は、そう言って出て行った。

 

(はあ~…♡)

 

華琳の隣で、桂花は顔を赤らめながらうっとりと寝台を見ていた。

 

(今宵はあの寝台で、華琳様と…♡ウフフフフフ…♡)

 

「桂花」

 

「(きたっ!)は、はい!」

 

「関羽を呼んできてもらえるかしら?」

 

「…………」

 

一瞬、桂花は完全に固まった。

 

「関羽のような者と戯れるなんて、滅多にない機会だもの。今夜は彼女と二人で過ごしたいの。呼んできてくれる?」

 

「……は、はい…」

 

桂花は返事をして屋敷を出る。

 

(キィィィィィ~~~~~‼)

 

そして声にならない叫びをあげ、血の涙を流しながら、愛紗を探しに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃―――

 

「うわ~、たくさんあるのだ~!」

 

「張繍殿の方から頼んだとはいえ、ここまでするとはな…」

 

鈴々と星は、曹操軍の陣に荷物が運ばれる様子を見ていた。

その荷物は張繍が遠征のお礼として渡したものであり、武器や食料などの軍需物資はもちろん、金銀や真珠、絹などの高価なものもあった。

 

ちなみに曹操軍は、春蘭などの一部の将兵が城内に宿泊用の部屋を用意してもらっており、愛紗達もそこで寝ることになった。

城外の陣に待機している兵にもご馳走、見張りや職務がある兵以外には酒も振る舞われた。

 

「…はにゃ?」

 

「どうした鈴々?」

 

「何かあの荷物から変な臭いがしたのだ」

 

「変な臭い?」

 

「お~い!鈴り~ん!星~!」

 

「愛紗!」

 

「どうした?」

 

「ルフィ殿を見なかったか?」

 

「見てないのだ」

 

「いなくなってしまったのか?」

 

「ああ。私としたことが、縛っておくのを忘れてしまってな…」

 

「陣の中にはいないようだが、騒ぎ起こす前に捕まえた方が良いだろうな」

 

「ああ。最悪、曹操殿にまで迷惑を掛けてしまう」

 

「よし、三人で探すとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~???~

 

「手筈の方は?」

 

「今のところ、支障はありません」

 

「最後まで気を抜くでないぞ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「曹操様、お食事をお持ちいたしました」

 

「ありがとう」

 

華琳が張繍の用意した屋敷でくつろいでいると、張繍の従者が数人分の酒と肴、食事を持ってきた。

 

「彼らにも何か用意してもらえるかしら?勿論、お酒は駄目だけどね」

 

華琳は、屋敷の外に待機させた自軍の兵士たちを差してそう言う。

 

「畏まりました」

 

従者達は出て行った。

 

「さてと…」

 

従者達がいなくなると、華琳は懐から銀でできた箸を取り出し、それで用意された酒や料理を調べ始めた。

 

「…毒は入っていないようね」

 

銀は人体に毒となる物質に反応し、変色する性質がある。

そのため、華琳は常に銀の箸を持ち歩き、自分が口にするものは必ずそれで調べていた。

 

「さてと…この沢山の酒と食事はどうしようかしら…。

張繍は私が複数の女と戯れると思って、これだけの食事を用意したのでしょうけど、あいにく今日は関羽と二人きりで過ごしたいし…」

 

「美味そうだな~それ」

 

「!」

 

不意に声を掛けられ、華琳が窓の方を見ると、窓から逆さになったルフィが部屋を覗いていた。

 

「あなた…何でそんな所に?」

 

「ヒマだから屋根に登ってた。―――で、美味そうな匂いがしたから、覗いてみた」

 

「そう…。よかったら食べる?」

 

この男は自分と愛紗の濃密なひと時を、少なくとも故意に邪魔することはない。

そう判断したのか、ルフィを屋敷に招き入れる華琳。

 

「いいのか⁉」

 

「ええ。私じゃ食べきれないし、誰か呼ぼうかと思っていたところなの」

 

そう言うと華琳は酒瓶と肴が盛り付けられた皿を1つずつ手に取る。

 

「私は奥の部屋にいるから、ここにあるのは食べていいわよ。

但し、この部屋からは出ないでもらえるかしら?

それと関羽が来たら、奥の部屋に来るように伝えてくれる?」

 

「うん、わかった!お前、ホントいい奴だな~!」

 

「(単純ね…)それじゃあ」

 

そう言って華琳は奥の、例の寝台がある部屋に向かった。

 

「いっただきまーす!」

 

残されたルフィは、ひたすら食事を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして奥の部屋に入った華琳は、用心のため持ってきた自身の得物である大鎌、“(ぜつ)”を近くの壁に立てかけると、香を焚き、1人で酒をたしなみ始めた。

 

「良い酒ね…ふふ」

 

これから部屋で愛紗と過ごす時間を考えると、自然と笑みがこぼれた。

 

(関羽だけでなく、あの趙雲という者もなかなかいい女だったわね。

張飛も数年すればいい女になるでしょうし、是非手に入れたいわね。

……あのルフィという男は…不思議な男ね)

 

華琳は行軍の時、自分の勧誘をきっぱりと断ったルフィの様子を思い出す。

 

(あの時の彼…只者じゃない雰囲気だったわ。

昨夜の宴やさっきと同一人物とは思えないほどにね…。

そいえば、昨夜彼は春蘭を一撃で仕留めたって…見かけによらず相当の実力者のようね…興味が尽きな……っ!?)

 

突然、華琳は強力な眠気に襲われた。

必死に抗おうとするが、意識はどんどん薄れていく。

 

(な…何故…?…酒にも…料理…にも…毒は…なかった…筈…)

 

意識がもうろうとする中、華琳の目に先ほど自分が焚いたお香が映る。

 

(ま…さか……お香…に…?……っ)

 

華琳の意識はそこで途絶え…

 

「………すう…」

 

深い眠りに落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~ごちそうさま~!」

 

その頃、ルフィは食事を終えていた。

 

「ん?」

 

ふと、どこからか良い匂いがしてくることに気が付く。

 

「いい匂いだな~。まだどっかに美味ェモンあんのかな~?」

 

そう言ってクンクンと強く匂いを嗅ぎ…

 

「ぐ~…」

 

たちまち眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルフィ殿~!」

 

「ルフィ~!」

 

「お~い!」

 

その頃、愛紗、鈴々、星の3人は城内でルフィを探していた。

 

「…この辺りにもいないようだな」

 

「いったいどこに行ったのだ?」

 

「…………?(それにしても…妙に人通りが少ないな?夜とはいえ、これほど大きな街の中心街のような場所で…まるで建物の中にも人がいないような…?)」

 

星がそんなことを考えていた時だった。

 

「でえェェェェェい!」

 

ガキィィィン!

 

「「「⁉」」」

 

突然、誰かの叫び声と金属同士がぶつかるような音が響き、3人は驚く。

 

「な、何なのだ⁉」

 

「あっちの方からだ!」

 

「行ってみよう!」

 

3人が声と音がする方に向かうと…

 

「でりゃァァァァァ!」

 

ギィィィン!

 

城壁付近の裏路地で、羊くらいの大きさの鉄の塊に向かって、剣を振る春蘭の姿があった。

 

「「「…………」」」

 

「ぜェェェェェい!」

 

ゴキィィィン!

 

「あ、アレは…」

 

「愛紗、あのお姉ちゃん何をしているのだ?」

 

「さ、さあ…?」

 

「だあァァァァァっ!」

 

ガキィィィン!

 

「やれやれ…姉者、またやっているのか…」

 

「夏侯淵殿!」

 

秋蘭がやって来た。

 

「お主達…ああ、あの声と音を聴いて来たのか」

 

「は、はい…」

 

「どりゃァァァァァ!」

 

ギィィィン!

 

「あの…夏侯惇殿は一体何を…?」

 

「お主達…鉄を斬ることはできると思うか?」

 

「鉄を?」

 

「それは…刃物で切断するということですか?」

 

「そうだ」

 

「いくら何でもそれは…」

 

「刃物が鉄でできている以上、鉄以上に硬いものを斬るなど不可能でしょう」

 

「私達もそう思っていた。…だが、それをやった男がいるのだ」

 

「え⁉」

 

「本当ですか⁉」

 

「本当だ。私達も斬るところを見たワケではないが、そうとしか思えなくてな。

それでその男と会った日から、姉者は毎日、ああやって鉄を斬る特訓をしているのだ」

 

「どりゃァァァ!」

 

ガァァァン!

 

「なるほどなのだ」

 

「しかしそれは…何か特別な得物を使ったのでは?」

 

「いや、そいつが持っていたのは、鉄でできた普通の刀だけだった」

 

「にわかには信じ難いですな…一体誰が?」

 

「それが…その者が去った後で、名前を聞いてなかったことに気付いてな…。

まァ目立つ格好だったから、また会えばすぐにわかると思うが…」

 

「どんな格好なのだ?」

 

「髪が緑で腹に腹巻をしていた。そして何よりの特徴が、刀を三本も腰にしていたことだ」

 

「確かに、会えばすぐにわかりそうだな」

 

「あんた達ここにいたのね…」

 

「荀彧殿」

 

今度は桂花が姿を現す。

 

「…あの馬鹿、またやってんの?」

 

「ハアァァァァァッ!」

 

ガギィィィン!

 

「そういえば桂花よ、華琳様を見なかったか?」

 

「…っ!か、華琳様なら…」

 

「?」

 

秋蘭が訊ねると、桂花は愛紗を見ながら、苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 

(くっ!この女に華琳様が屋敷で待っていることを伝えれば、華琳様はこの女の毒牙に…!

駄目よ!華琳様の一番の愛人として、こんなどこの馬の骨とも分からない奴に、華琳様を汚させるなんて…!

…けど、華琳様の命に背くわけには…!

ああ…!私は一体どうすれば…⁉)

 

「火事だァ!」

 

「「「「「「⁉」」」」」」

 

桂花が勝手に苦悩していると、どこからかそんな声が聞こえた。

春蘭も手を止め、声がした方を向く。

 

「火事?」

 

「台所で火の不始末でもあったのか?」

 

ドーン!

 

「「「「「「⁉」」」」」」

 

大きな爆発音が聞こえ、愛紗達はただ事でないことを察し、表通りの方へ向かう。

すると…

 

「なっ⁉」

 

「これは…⁉」

 

辺り一面が火の海と化していた。

 

「何なのだ⁉」

 

「分からぬが…早く!住民の避難を…!」

 

「…その必要はなさそうだ」

 

愛紗達が慌てる中、近くの民家の中を覗いていた星がそう言い放つ。

 

「どういうことだ星⁉」

 

「周りをよく見てみろ」

 

星に言われ愛紗と鈴々、春蘭たちも周囲を見渡す。

そして、ある違和感に気が付く。

 

「人が…いない?」

 

火は通りのほとんどの建物に広がっているにもかかわらず、消火、避難、慌てふためく人の姿は全く見えず、声も聞こえなかった。

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()かのように。

 

「さっきそこの民家を見てみたが、住人はおろか生活の痕跡も見当たらなかった。

おそらくこの火事は、張繍の火計だ!」

 

「まさか、この城ごと私達を焼き殺すつもり⁉」

 

「何ィ⁉」

 

「でも、そんなことをしたら、街の人も死んじゃうのだ!」

 

「だからあらかじめ、住民は避難させておいたのだろう。あるいはこの城は、この時のために作らせた偽の宛城なのかもしれん」

 

「おそらくここにいたのは、領民に扮した兵士だったのだろう。どうも人通りが少ないと思っていたが、そういうことだったのか」

 

「!いけない!ということは華琳様も!」

 

「桂花!華琳様に何かあったのか⁉」

 

「華琳様は今、張繍が用意した屋敷にいるわ!これが張繍の罠だとしたら…!」

 

「その屋敷にも罠が…!」

 

「だとしたら、曹操殿が危ない!」

 

「ルフィ殿も…!」

 

「早く助けに行くのだ!」

 

「桂花!その屋敷はどこだ⁉」

 

「こっちよ!」

 

愛紗達は桂花を先頭に、華琳がいる屋敷に向かおうとするが…

 

「ああっ⁉」

 

屋敷に続く道が岩やガレキ、さらには火のついた丸太や柴草の塊で、ふさがれてしまっている。

 

「張繍め!いつの間に⁉」

 

「どうやら、相当念入りに計画を立てていたようだな…!」

 

「いたぞ!かかれェ!」

 

「「「「「「⁉」」」」」」

 

背後から何者かの声が聞こえ、愛紗達が振り向くと、張繍の兵が襲い掛かってきた。

 

「このォ!」

 

すかさず迎撃する愛紗達!

 

「ええい!早く華琳様を助けねばならぬというのに!」

 

「愛紗!鈴々!夏侯惇殿達も聞いて下され!」

 

「「「「「⁉」」」」」

 

戦いながら、星が話しかける。

 

「燃え盛る障害物を超えるよりは、敵兵をなぎ倒して進む方が楽!

おそらくこやつらは、塞がれている道と、そうでない道を把握しているはず!

こやつらを倒しつつ、ルフィ殿と曹操殿を探しましょう!」

 

「成程…!」

 

「確かに…それがいいかもしれないわね…!」

 

「わかったのだ!」

 

「ではそうするか…!」

 

「行くぞォ!」

 

そして6人は敵に向かっていった。

 

 



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第19話 “王になる”

今回はちょっと短いです。




愛紗達が張繍の火計に気付いた頃―――

 

「………はっ!―――これは⁉」

 

香に仕込まれた眠り薬によって、眠っていた華琳が目を覚ますと、すでに屋敷全体に火が広がっていた。

部屋の中を見渡すが、持ち込んだはずの絶が見当たらない。

 

「―――おのれ、張繍!」

 

仕方なく華琳は丸腰のまま、屋敷を脱出する。

 

「なっ⁉」

 

玄関から飛び出した華琳の目に映ったのは、見張りとして待機させた自軍の兵士の亡骸と、20人ほどの張繍の兵士だった。

 

「曹操が出てきたぞ!」

 

「あいつの首をとれば、今日一番の手柄だぞ!」

 

「やっちまえ!」

 

「「「「「「「「「「オォッ!」」」」」」」」」」

 

「くっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~再び、屋敷の中~

 

「ぐ~……ん~…何だァ…暑ィな~」

 

屋敷の中で眠っていたルフィも目を覚ました。

 

「ん?」

 

…と、同時に一面の火の海が目に飛び込んできた。

 

「何じゃコリャ~~~⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃―――

 

「でりゃァァァ!」

 

「ぐああっ!」

 

「せやァァァ!」

 

「ギャア」

 

愛紗達は、次から次へと湧いて来る張繍軍の兵士達と戦いつつ、華琳がいる屋敷へと向かっていた。

 

「桂花!屋敷にはまだ着かないのか⁉」

 

「まだまだ掛かるわよ!ただでさえ遠回りになるうえ、敵が邪魔してくるんだから!」

 

「!おい!あれを見ろ!」

 

「あれは⁉」

 

「我が軍の兵士達だ!」

 

「苦戦しているようだな…」

 

「見捨てるわけにはいかん!助けるぞ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

 

 

 

 

「うわあ!」

 

「行けェ!曹操軍を追い込めェ!全滅させろォ!」

 

「させるかァ!」

 

ズバッ!

 

「ギャア!」

 

「夏侯惇将軍!夏侯淵将軍!荀彧様も!」

 

「お前達、状況はどうなっている⁉」

 

「はい…!

どうやら、張繍からの献上品の中に硫黄や煙硝、油が仕込まれていたようです!

それに火を点けられ、陣は瞬く間に全焼し、多くの兵が火傷を負いました!

さらに奇襲を受け、兵の大半がやられてしまいました!」

 

「成程、鈴々が言っていた変な臭いとはそのことか…!」

 

「お前達、この者達が連れていた、藁で編んだ帽子を被った男のことは、何か知らないか?」

 

「それでしたら…火事が起こる前に、曹操様が招かれた屋敷に入って行ったとか…」

 

「本当か⁉」

 

「はい!ですから、おそらく曹操様と一緒に屋敷にいるかと…」

 

「な…」

 

その言葉を聞いた瞬間、桂花は震えだし…

 

「荀彧殿?」

 

「なんですってェ~~~⁉」

 

先ほどの爆発音や、春蘭が鉄に斬りこんでいた時の音よりも、断然大きい絶叫を響かせた。

 

「え、えーと…?」

 

「おい桂花、どうしたのだ?」

 

「どうしたもこうしたもないわよ!あの屋敷は、華琳様が私達と愛し合うための造りになっていたのよ!」

 

「は?…愛し合う?」

 

「そんな所に、華琳様が男と二人だけでいたら…華琳様が汚されてしまうわ!」

 

「何だとォ⁉」

 

その言葉を聞き、春蘭も絶叫する。

 

「あの…お二人とも…?」

 

「いやあァァァァァ!」

 

「華琳様のお身体があァァァァァ!」

 

「「「「…………」」」」

 

「がり゛ん゛ざま゛ァァァァァ!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

ゴゴン!

 

ドサドサ…

 

鈴々の正拳が炸裂した。

 

「うるさかったから気絶させたのだ」

 

「うむ、良い判断だな」

 

「よくやったぞ鈴々」

 

「すまぬな、手間を掛けさせて…」

 

「さてと…とりあえずルフィ殿と曹操殿が一緒にいるなら、しばらくは大丈夫だと思うが…」

 

「そうだな。華琳様の武芸の腕は、私や姉者にも劣らん。あの男も、相当の実力者なのだろう?」

 

「ああ。ルフィ殿は我々の中で一番の実力者だ」

 

「ふむ、なら一度体勢を立て直して、それから二人を探すとしよう」

 

「しかし、立て直すといってもどうやって…」

 

「出陣の際、華琳様は非常時の集合場所を、あらかじめ決めていたのだ。

張繍軍の奇襲で散り散りなった我が軍の兵は、皆そこへ向かっている。

おそらく華琳様も、そこへ向かおうとする筈」

 

「成程、ではまずそこへ向かうとしよう。気絶しているこの二人も、そこで介抱した方が良いだろうしな」

 

「ああ」

 

「そうだな」

 

「わかったのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~華琳side~

 

「ハァーーーッ!」

 

ズバッ!

 

「ぐあっ!」

 

華琳は敵から剣を奪い取り、応戦していた。

 

(体が…思うように動かない…!)

 

しかし、まだ眠り薬の効き目が残っており、実力を発揮できていなかった。

そのうえ、手にしている武器が使い慣れた物と大きく違うため、苦戦していた。

 

ヒュン!

 

ドスッ!

 

「うっ…!」

 

その時、後方から飛んできた矢が肩に刺さり、一瞬動きが完全に止まってしまう。

 

「隙あり!」

 

すかさず、1人の敵兵が槍を構えて突っ込んで来る!

 

「―――ったァ!」

 

ザン!

 

「がっ…」

 

華琳も負けずに迎撃し、返り討ちにするが…

 

(しまっ…!)

 

薬の後遺症と痛みでひるんでしまったうえ、武器のリーチは相手の方が上だったため、華琳の方も腹に傷を負い、膝をついてしまう。

 

(ここまで…なの…⁉)

 

いまだに10人以上いる敵兵を睨みながら、華琳がそう思った。

 

その時だった。

 

「熱ィ!」

 

ガシャーン!

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

屋敷の窓を突き破って、何者かが飛び出してきた。

 

「何だ⁉屋敷の中に、まだ誰かいたのか⁉」

 

「討ちとれェ!」

 

張繍の兵士達は剣を振りかざし、向かっていくが…

 

「どけェ!」

 

ドゴォォン!

 

「「「「「「「「「「ギャアアア⁉」」」」」」」」」」

 

飛び出してきた男、ルフィは一瞬でそいつらを吹っ飛ばした。

 

「あなた…」

 

「あ!お前!」

 

華琳はその男がルフィであることに気付き、声をかける。

ルフィの方も華琳に気付き、駆け寄る。

 

「お前、ケガしてんのか⁉大丈夫か⁉」

 

「…命に別状はないわ」

 

「そうか。ところで、どうなってんだコレ?」

 

屋敷だけでなく、街全体が燃えている様子を見て、ルフィは訊ねる。

 

「張繍が私を殺そうとして、火を点けたようね…。おそらく私の部下や、関羽たちも危ないわ…」

 

「やべェじゃねェか!おい、急いで逃げるぞ!」

 

危険な状況であることを理解したルフィは華琳を急かすが…

 

「逃げる…?」

 

華琳はその場から動こうとせず、ルフィを睨むような目で見る。

 

「馬鹿なこと言わないで頂戴!私が逃げるなんて、あってはならないわ!」

 

「⁉」

 

「私が敵に背を向ける⁉敗北する⁉冗談じゃないわ!

そんなことをして無様に生きるくらいなら、誇り高く死んだほうがマシよ!

そうよ、ただ炎に焼かれて死んだり、そこいらの雑兵に討たれるくらいなら、いっそ自分で…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォン!

 

「⁉」

 

そこまで言ったところで、華琳はルフィに殴り飛ばされた。

 

「…………」

 

「……⁉」

 

ルフィは明らかに怒った様子で、華琳に近づき胸倉をつかむ。

 

「フザけんなァ‼」

 

「⁉」

 

「お前―――王になるんじゃなかったのかよ⁉

王になるために戦って―――あいつらを戦わせてきたんだろ⁉

お前が生きていれば、何度だって戦える‼まだ王になれる‼

それなのにお前が、今ここで死ぬなんて―――死のうとするなんて、最低じゃねェか‼」

 

「…………」

 

「フー…フー…」

 

しばらくして呼吸を整えると、ルフィは手を放す。

放された華琳は呆然として、そのままその場に座り込む。

 

「…………最…低?」

 

「いたぞ!曹操だ!」

 

その時、新手の敵兵が現れた。

今度は何十人もの人数がいる。

 

するとルフィは華琳を庇うように―――否、華琳に自分の背中を見せつけるかのように、敵兵達の前に立ちはだかる。

 

「おい見ろ!曹操の守りはたった一人だ!」

 

「やっちまえ!」

 

そう叫び、先頭にいた2人が斬りかかる。

 

ドゴゴン!

 

「⁉」

 

しかし、ルフィは一瞬で2人を叩き伏せる。

 

「な、何だコイツ⁉」

 

「曹操軍にこんな奴がいるなんて聞いてねェぞ⁉」

 

「何者だ⁉」

 

「―――おれは……海賊王になる男だ‼」

 

「…!」

 

ルフィのその言葉に、華琳はわずかに目を見開く。

 

「…は?」

 

「「「「「「「「「「はははははははっ!」」」」」」」」」」

 

それに対し、張繍軍の兵士達は、ルフィの言葉に笑い出す。

 

「は?賊の分際で王?何言ってんだコイツ?」

 

「曹操軍の隠れた名将かと思ったが、ただの馬鹿みたいだな!」

 

「一斉に掛かれ!」

 

「賊は賊らしく成敗されろ!」

 

「「「「「「「「「「おおーーーっ!」」」」」」」」」」

 

一斉に襲い掛かってくる張繍軍の兵士。

 

ドガガガガァン!

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

しかしルフィはひるむことなく、迎え撃つ。

 

「おれは……死なねェ!―――こんな所で死んでたまるかァーーーっ!」

 

そのまま、敵の大群に向かっていくルフィ。

 

「…………」

 

華琳は呆然として、その姿を見ていた。

 

その時…

 

(何やってんだアイツらは?そんなどこの馬の骨か分からない奴、相手にしないで曹操の首をとった方が良いに決まってるだろ!)

 

敵兵の1人が、ひそかに華琳の背後に回っていた。

 

(今の曹操は隙だらけだ!死ねェ曹操!)

 

そして槍を振るい、華琳に襲い掛かる!

 

「…っ!」

 

ドシュッ!

 

「がっ⁉」

 

しかし華琳は振り向きざまに切り裂く。

そして相手の槍を奪い、立ち上がる。

 

「我が名は曹孟徳!いずれこの大陸に覇を唱える者!この首は―――お前らにくれてやるほど安いものではない!

ハァーーーッ!」

 

勢いよく石突で地面をつき、そう叫ぶと華琳は槍を振りかざし、敵をなぎ倒しながら突き進む!

 

ズバッ!ドスッ!ビシッ!

 

「「「ギャアアア!」」」

 

ルフィに追いつくと、2人は背中を合わせて並び立つ。

 

「お前、戦えるか⁉」

 

「ええ!さっきはどうかしていたわ!」

 

「よし!じゃあ一緒に逃げるぞ!」

 

「……“華琳”よ」

 

「ん?」

 

「私の真名。背中を預けて戦うんだもの、それくらいの信頼は当然でしょ?」

 

「そうか。おれは真名はねェから、“ルフィ”でいい!」

 

「そう。じゃあ…行くわよ“ルフィ”!」

 

「おう!行くぞ“華琳”!」

 

そして、2人の“王を目指す者”の共闘が始まったのだった!

 

 




まずは生きること!それが大事!



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第20話 “手中”

「“ゴムゴムの”…“銃乱打(ガトリング)”~~~!」

 

ドガガガガガ!

 

「「「「「「「「「「ギャアアアアア!」」」」」」」」」」

 

「ハアッ!」

 

ドス!

 

「うっ!」

 

ビシッ!

 

「ぐあっ!」

 

バシッ!

 

「がっ…」

 

ルフィと華琳は無数の敵兵の中を突き進んでいた。

 

「くそォ!きりがねェな!全然進めねェ!」

 

「でも、炎を避けて進むには、敵兵がいる場所を進むしか…」

 

「あ、そうだ!こっち来い!」

 

「え?キャッ⁉」

 

ルフィは華琳を抱え…

 

「よっと!」

 

近くの民家の屋根に跳び乗った。

 

「何⁉」

 

「何だあの身の軽さ⁉」

 

「よし!このまま行くぞ!」

 

ルフィは華琳を抱えたまま屋根の上を飛び回り、城壁へと近づき…

 

「フン!」

 

腕を伸ばし、城壁の上へと飛び移る。

 

 

 

 

 

 

 

「…さっきから気になってたけど、あなたのその身体一体何なの?」

 

「おれは“ゴムゴムの実”を食った“ゴム人間”だ!」

 

「…“ごむ”?」

 

「愛紗達はおれのこと『天の国の人間』って呼んでる」

 

「…天の国…?」

 

「おい!あれ…」

 

「曹操だ!何故ここに⁉」

 

「!見つかった!」

 

「こっちだ!」

 

「えっ⁉ちょっ…」

 

ルフィは華琳を抱え、城壁から城の外へ飛び下りた。

 

 

 

 

 

 

「“ゴムゴムの”…“風船”!」

 

ぼん!

 

「キャッ⁉」

 

そして、両名ともケガすることなく無事着地した。

 

「…あなたのその身体、伸びるだけじゃなくて膨らむこともできるのね…」

 

「ああ。これで助かったか?」

 

「いえ、急いで城から離れましょう。

あらかじめ非常事態の場合の集合場所を決めておいたから、私の兵はそこにいるはず。そこへ向かいましょう」

 

「そうか、わかった」

 

「…関羽達も無事だといいけれど…」

 

「心配すんな。あいつらなら大丈夫だ」

 

「随分信頼しているのね」

 

「もちろんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛紗、鈴々、星、春蘭、秋蘭、桂花は曹操軍の集合場所にいた。

散り散りになった兵士達も、少しずつ集合していた。

しかし、どの兵士達も傷だらけで、疲労困憊だった。

 

その一角で…

 

「こんな所でぐずぐずしている場合ではない!

華琳様の命と純潔がかかっているのだぞ!」

 

「だからそのために体制を整えるべきでしょう!

確実に張繍軍とあの猿の魔の手から、華琳様を救い出さないといけないんだから!」

 

「…夏侯淵殿、なんだか目的と敵に、余計なものが増えているような気がするのですが?」

 

「いつものことだ。気にしないでくれ」

 

「はァ…(こ、これがいつものことなのですか…?)」

 

愛紗達6人は、この後の行動について話し合っていた。

しかし、春蘭と桂花の口論が始まってしまい、収拾がつかなくなってしまっていた。

 

「報告します!」

 

そこへ、1人の兵士が報告に来た。

 

「どうした⁉」

 

「曹操様が戻ってこられました!関羽殿達のお連れの方も一緒です!」

 

「おお!」

 

「本当か⁉」

 

「華琳様が⁉」

 

愛紗達は急いで2人を迎えに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルフィ殿!」

 

「やっと会えたのだ!」

 

「おう!お前らも大丈夫だったか!」

 

「華琳様‼」

 

「よくぞご無事で‼」

 

「ええ、あなた達も無事で何よりだわ。被害の方は?」

 

「はい。残ったものは三千強。まともに動けるものは、千人足らずです」

 

「そう…一万の我が軍がここまでやられるとわね…。

でも、我が軍の主将と筆頭軍師が無事だったのは、不幸中の幸いかもしれないわね」

 

「はい。何より華琳様が無事でしたなら、また再起を謀ることは可能です」

 

「本当…ご無事で何よりです…」

 

「うゥ…」

 

そして春蘭や桂花、近くにいた兵士たちも嬉し涙を流し始める。

 

「あなた達…」

 

その様子を見て、華琳は先ほど死を選ぼうとした自分を思い出す。

 

(本当に、どうかしていたわね…。

私が死ねば…彼女達や私の部下、領民をどれだけ悲しませたことか…。

私は簡単に死んではいけない…)

 

そして、その時の自分を心の底から恥じるのだった。

 

「華琳様、張繍軍が追撃してくる可能性もあります。ここは急いで陳留に戻るべきかと」

 

まだ涙を流しつつも、桂花は軍師としての顔に戻り、進言する。

 

「そうね、急ぎましょう!…でも、その前に…」

 

華琳はルフィ達の傍に寄り。

 

「ルフィ、関羽、張飛、趙雲、本当にごめんなさい」

 

深々と頭を下げた。

 

「そ、曹操様⁉」

 

「曹操殿!頭をあげて下さい!」

 

「あなた達の功績を称えるために同行させたはずが、このようなことに巻き込んでしまった…。

本当にごめんなさい」

 

「曹操殿…」

 

「いいよ。死んでねェし。メシも食わせてもらったから、許す!」

 

「そうです。乱世に身を投じた時点で、命を懸けることは覚悟の上です」

 

「悪いのはチョウシュウって奴なのだ!お姉ちゃんが謝る必要なんてないのだ!」

 

「そもそも曹操殿に同行することは、我々が決めたこと。自業自得です」

 

「そう言ってもらえると助かるわ…」

 

そう言って顔をあげると華琳の顔は、すぐに一軍の将の顔に戻った。

 

「これより急いで兵を引く!直ちに行動を開始せよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日―――

 

華琳達は夜通し移動を続け、宛城から距離をとった。

 

「曹操様、張繍軍の追撃の様子はありません!」

 

「そう。ご苦労様。下がっていいわよ」

 

幸いにも、曹操軍は張繍軍から追撃を受けることなく済んだ。

 

「しかし、張繍の奴は何故追撃してこないのでしょう?」

 

「…もしかしたら、張繍は宛城から離れられなかった。

だから、逆に私達を宛城に呼び寄せて殺そうとしたのかしら?」

 

「確かに…荊州牧の劉表(りゅうひょう)殿はあまり有能とは言えない方。

それ故、荊州内では内部での睨み合いが絶えないとか…。

そんな状態で城を空ければ、すぐに襲われるでしょう」

 

(敵を倒すために手中に呼び寄せる、城ごと敵を燃やす、眠り薬を食事ではなく香に仕込む…どれも盲点を突いた見事な策。

それに眠った私を手にかけず、武器を奪うだけにしたのも、万が一にも私が起きて、失敗するのを避けるため。

一体誰が考えたのかしら?)

 

「華琳様、どうかなさいましたか?」

 

「いえ、何でもないわ…。春蘭、ルフィ達を呼んできてもらえる?」

 

 

 

 

 

 

「何だ話って?」

 

「これから私達は、行軍速度を上げて本格的に陳留へ撤退するわ。

それで、出来ればあなた達も陳留へ招きたいのだけれど…残念ながら今の我が軍には、あなた達を同行させる余裕がないの…。

だから…申し訳ないけど、あなた達とはここでお別れしたいの…」

 

「ああ、別にいいよ。な?」

 

「はい、ここまで同行させてもらえただけでも感謝しています」

 

「ご飯、ありがとうなのだ!」

 

「我々はまだ曹操殿に仕官するか決めかねておりますし、これ以上世話になるも悪いですからな」

 

「そう…。もし機会があれば、陳留に来てちょうだい。歓迎するわ」

 

「うん、今度はお前達とも手合わせしてみたいしな」

 

「ああ。是非ともまた会おう」

 

「ま、縁があったらまた会いましょう(できれば、あまり来てほしくないけど…)」

 

「おう!それじゃな()()!」

 

「ぬァ⁉キサマァァァァァ‼」

 

「ちょっとアンタ‼」

 

「何だ?」

 

「『何だ』ではない‼よくも華琳様の真名を口にしたなァ‼」

 

「よ、よりによってアンタみたいな猿が…!

覚悟しなさい‼生まれてきたことを、後悔させてから殺してやるわ‼」

 

「姉者、桂花も落ち着け」

 

「止めるな秋蘭!コイツは華琳様の真名を呼んだのだぞ!」

 

「そうよ!ただの死刑じゃ足りないぐらいよ!あんたは何で平然としているのよ⁉」

 

「私だけではない。華琳様も平然としているだろう」

 

「へ?」

 

秋蘭に言われ、春蘭と桂花が華琳を見ると、確かに華琳は怒る様子もなく、平然としている。

 

「か、華琳様…まさかとは思いますがコイツに真名を…⁉」

 

「預けたわよ」

 

「…………」

 

その一言を聞いた瞬間、桂花は…

 

バタン

 

「泡を吹いて倒れたのだ」

 

「…か…華琳様が…お…男に…真名を…おぼぼ……」

 

「か、華琳様…ほ、本当に…男に真名を?」

 

「何よ春蘭。私が男に真名を預けることに何か問題でも?」

 

「だ、だって今までそんなことなかったじゃないですか…」

 

「別に私は男が嫌いなワケじゃないわよ。ただ預けるに値する男が、周りにいなかっただけ」

 

「え?曹操殿は男に真名を預けたことがないのですか?」

 

「華琳様はどちらかと言うと、女性と交流を持つ方が好きでな」

 

「やはりそういう嗜好をお持ちでしたか」

 

「き、気付いてたのか星⁉」

 

「何となくそんな気はしていた」

 

「ね~、そんなことよりこの気絶したお姉ちゃんどうするのだ?」

 

「まあこういうのは()()()()しておくのが一番いいだろうな」

 

「そうか」

 

「わかったのだ」

 

「では華琳様、桂花は私が荷車に寝かせてきます」

 

「ええ、そうしてちょうだい」

 

「…………」

 

せっかくのダジャレに反応してもらえず、ひそかにがっかりする星であった。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、ここでお別れね」

 

「また会おう!」

 

「旅の安全を祈っている」

 

「おう!またな!」

 

「曹操殿達もお元気で!」

 

「バイバイなのだー!」

 

「いつかまた!」

 

改めて別れの挨拶をし、別々の道を行くルフィ達と華琳達。

 

「……ルフィ‼」

 

「!」

 

しばらく行くと、華琳がまた声をかけてきた。

 

「あなたには大きな借り、いえ恩ができたわ!本当にありがとう!また必ず会いましょう!」

 

「おう!またな~!」

 

そして、ルフィ達は華琳達と別れた。

 

 

 

 

 

 

~その後―――曹操軍~

 

「華琳様、残念でしたな」

 

「何が?秋蘭?」

 

「あれほどの剛の者達を四人も手に入れる好機を逃してしまったことです」

 

「…ええ、確かに残念だわ」

 

「大丈夫です華琳様!」

 

「「?」」

 

「私が必ず、鉄を斬れるようになり、あの四人分に匹敵する将になって見せます!」

 

「…そう、期待しているわよ春蘭」

 

「はい!」

 

(でも…一番残念だったのは…あの男…)

 

―――――おれは……海賊王になる男だ‼

 

(欲しい物は必ず手に入れる私だけど…何故かしらね…あの男は手に入る気がしない…。

それどころか、逆に私が彼の手中に収められてしまいそうな気さえするわ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~宛城~

 

「張繍様、申し訳ありません。此度の曹操を討つための策。曹操を討てなかった以上、失敗でございます」

 

「まあ良い。一万の曹操軍を壊滅できただけでも、私は嬉しいぞ」

 

「さようでございますか」

 

張繍は自分の腹心である1人の男と話していた。

 

長髪で三日月のような、歪な形の目をしている。

 

「しかし、あの自尊心が高い曹操が逃げるとはな…」

 

「はい、それに曹操と共に脱出したあの男も、謎ですな…」

 

「その男についても、もう少し情報を集めよう」

 

「もちろんでございます」

 

胡車児(こしゃじ)よ、そなたの武勇、知略はまことに頼もしいぞ。お前さえいれば、必ず私は天下をとれるだろう」

 

「身に余るお言葉、感謝いたします(せいぜい今のうちに、いい気分を味わっておくことだな。準備が整えば、お前も用済みだ…)」

 

 




オリジナル話第一弾、完結です。

次回は、順番を入れ替えて、ゾロと翠の話になります。



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第21話 “大食い大会”

~涼州~

 

その州境にある、少し大きな村にゾロと翠はいた。

 

「腹減ったな…」

 

「路銀は底をついちまったし…どうしたもんかな~?」

 

2人がそう言いながら村を歩いていると、人だかりが目に入った。

その前には1つの立て札がある。

 

「何て書いてある?」

 

「『大食い大会、本日開催。飛び入り参加歓迎。優勝者には賞金と豪華副賞あり』だってさ」

 

「なるほど、じゃあこいつに優勝して、路銀を稼ぐとするか」

 

「そうだな。あたしとゾロなら、どっちかは優勝できるだろ。ついでに腹いっぱいになるしな」

 

「言っとくが、やるからには手加減はしねェぞ」

 

「こっちだってそのつもりさ。お前なら相手にとって不足なし!勝負だゾロ!」

 

「望むところだ!」

 

そう言って火花を散らす2人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

『皆さん!大変長らくお待たせいたしました!只今より毎年恒例の大食い大会を開始します!』

 

ゾロと翠が出会った武闘大会と同じ司会者、陳琳の進行のもと、大食い大会が始まった。

 

『試合は全部で四回。

制限時間、四半刻以内にどれだけ食べられるか競ってもらいます。

お腹がいっぱいになった人は、辞退しても構いません。

一回戦から三回戦までは、食べた量が一番少ない人が失格となります。

そして残った選手で最終戦を行い、最終戦で一番多く食べた方が優勝となります。

なお、今大会で使用される食品は、大陸各地に支店を構えます大規模飲食店、“九々堂(くくどう)”から提供していただいております。

残ったのは大会関係者の方で、美味しくいたただきますのでご安心を』

 

こんな時代である。

食べ物を無駄にしない考えは、当然強い。

 

『それでは早速、第一回戦の方に参りましょう!第一試合の食品は麻婆豆腐(マーボードウフ)でございます!

それでは早速、試合開始!』

 

ジャーン!

 

合図の銅鑼が鳴ると同時に、出場者達はいっせいに食べ始める。

 

そして、四半刻後…

 

『そこまでー!』

 

ジャーン!

 

再び銅鑼が鳴り、選手たちは手を止める。

 

『第一回戦、結果を発表します!

まず一位通過は、今大会最小…もとい最年少の出場者“許緒(きょちょ)”選手!何と十四皿も平らげました!』

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

陳琳の発表に観戦客だけでなく、出場選手達も驚き、許緒と呼ばれた選手を見る。

 

ゾロや翠よりだいぶ年下で、ピンク色の髪を串団子のように縦長の二つ縛りにして立たせた、小柄な少女である。

 

『二位通過はゾロ選手と馬超選手が同着で七皿!三位は…』

 

「すげェなあの小さい子…」

 

「あの子、小さいのによく食べるな…」

 

陳琳は発表を続けるが、人々は体格からは想像できない食欲を持つ許緒に注目し、発表内容は全く耳に届かなかった。

 

「……小さいって言うな…」

 

そして人々の反応に、許緒は小声でつぶやくのだった。

 

その後、二回戦の焼売(しゅうまい)、三回戦の餃子(ぎょうざ)と、大食い大会は進み、いよいよ最終戦を迎えた。

 

『さァ、大食い大会もいよいよ大詰め!最終戦に残ったのはこちらの三名!

まずは、ここ西涼出身の豪傑、馬超選手!

二人目は、はるばる異国より訪れた剣豪、ゾロ選手!

そして最後は、小さい身体からは想像できない驚異の胃袋の持ち主、許緒選手!』

 

「……小さいって言うな…」

 

『最終決戦は、美味過ぎなくて、不味過ぎない程々の味が売り込み文句の“十万斤饅頭(じゅうまんきんまんじゅう)”!

これをどれだけ食べられるかを競っていただきます!

それでは、準備が整ったところで試合開始!』

 

ジャーン!

 

合図と同時に、ゾロ、翠、許緒は饅頭を手に取り、次々と口へ運ぶ。

 

『さすが最終戦!三人とも怒涛の勢いで食べまくるー!』

 

試合が進む中、ゾロと翠は横目で許緒の様子をうかがう。

 

「あむあむ…もぐもぐ…」

 

(アイツ…全くペースが乱れてねェ…相変わらずスゲェ勢いだ…!)

 

(アイツ…今までもあたし達より沢山食べているはずなのに…!

あの体のどこにそんなに入るんだ?……グッ⁉)

 

…と、翠の顔が青くなり、手の動きが遅くなる。

 

(まずい…さすがにそろそろ限界が……。

ああ…この大会で食べてきた物が走馬灯のように…目の前を……。

あ、あたしはここまでなのか…?

だがたとえ…!敗北するとしても…!あたしは…前を向いて…た…お…れ……)

 

 

 

 

 

ドサッ…

 

そして翠は前を向き、皿に残っていた饅頭の山に突っ伏して倒れた。

 

(…翠が脱落したか…。あとはあの許緒とかいうチビとの一騎打ち…)

 

…と、そこでゾロは再び許緒の様子を覗う。

 

(!アイツ…残り3つで手が止まってる⁉)

 

そして自分の皿を見ると、同じく3つの饅頭がある。

 

(この3つを食えば逆転…)

 

そう思いゾロは饅頭に手を伸ばす。

 

しかし…!

 

「あむ」

 

「⁉」

 

そんな声が聞こえ、許緒を見ると…

 

「もぐもぐ…」

 

(なっ⁉)

 

残りの3つの饅頭を一気に平らげていた。

そして…

 

「おかわり♪」

 

ガタン!

 

その言葉を聞いた瞬間、ゾロの心は完全に折れ、椅子ごと地面に倒れこんだ。

 

(ちくしょう…やっぱ…ルフィみてェには…いかねェか…)

 

そんなことを思いながら、ゾロは自分の敗北を思い知るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大会終了後―――

 

「…路銀は手に入らなかったな…」

 

「…ま、腹は一杯になったし、よしとするか…」

 

ゾロと翠は通りにあったベンチで休んでいた。

 

「あ!いた!お~い!」

 

「「?」」

 

何者かに呼びかけられ、振り向くと先ほどの許緒という少女が駆け寄ってきた。

 

「お前は…」

 

「さっきの…」

 

「ボクの名前は“許緒(きょちょ)”、字は“仲康(ちゅうこう)”。大陸中を回って、大食い修行をしているんだ」

 

「あたしは“馬超”、字は“孟起”。武者修行者だ」

 

「“ロロノア・ゾロ”だ。こいつと同じ武者修行者だ」

 

「お前達中々やるじゃないか。大食いでボクにあそこまで張り合った奴は初めてだよ」

 

「あたしも、あんたみたいな化物じみた大食いは初めて見たぜ…」

 

「いや~それほどでも~」

 

翠の言葉に許緒は、どこかの5歳児のような照れ方をする。

 

「いや、褒めてないから」

 

「え、そうなの?」

 

「―――で、どうしたんだよ?わざわざ追いかけてきて」

 

「いやァ~こうして会ったのも何かの縁!これから三人で何か美味い物でも食べて、親睦を深めたいな~、と思ってさ」

 

「ってお前、まだ食べる気なのかよ…?」

 

「ウチの船長にも劣らねェ大食漢だなコリャ…」

 

「ああ、お金のことなら心配しなくていいよ。大食い大会の賞金で、ボクが奢るから」

 

「いや、そうじゃなくて…」

 

「何言ってんだ!」

 

「「「?」」」

 

ふと、子供の怒鳴り声らしきものが聞こえ、三人は会話を止める。

 

気になって声がした方に向かうと…

 

「借りた分はちゃんと返しただろ⁉」

 

「何言ってんだ?借金に利子が付くのはとうぜんだろ?」

 

裏路地の方で、許緒と同い年ぐらいの少年が1人、3人の大人と口論していた。

 

会話の内容から察するに、大人の方は借金取りのようだ。

 

「ほ~ら証文だってちゃんとあるぜ」

 

そう言って親玉らしき男が、懐から証文を取り出す。

 

「このっ!よこせっ!」

 

少年は証文を奪い取ろうとするが…

 

「お~っと、そうはさせねェぜ」

 

「くそっ!」

 

逆に捕まってしまう。

 

「おい、ちょっと痛い目に遭わせてやれ」

 

「おい、やめろ!」

 

「「「「⁉」」」」

 

さすがに見過ごせなくなり、ゾロ達は止めに入る。

 

「子供相手に大人気無ェマネしてんじゃねェよ!」

 

「そうだ!そういうのは親に直接言えよ!」

 

「弱い者イジメする奴は許さなぞ!」

 

「何だてめェら?」

 

「通りすがりの大食い修行者だ!」

 

「いや、それは…」

 

「お前だけだろ…」

 

「へん!大食いだが何だか知らねェが、余計なことに首突っ込むと怪我するぞ!」

 

「そうだ!とっとと帰れチビ!」

 

「…チビ?」

 

その瞬間、許緒の雰囲気が変わる。

 

「そうだチ~ビ!」

 

「…チビって…誰のこと?」

 

「あ?そこの桃色の髪の奴、お前に決まってんだろ!」

 

「…そうか…ボクのことか」

 

許緒の身体から、どす黒いオーラのようなものが溢れ出す。

 

「お前以外に誰がいるんだよチ~ビ!」

 

「…ボクのこと…チビって言ったな?」

 

「「「?」」」

 

借金取りの方も、ようやく許緒の様子がおかしいことに気付く。

 

「チビって…言ったな…⁉」

 

「い、言ったら何だよ⁉」

 

「ぶっ潰す!だあァァーーーっ!」

 

そう叫ぶと許緒はどこからか、(とげ)付きの巨大な鉄球とハンマーが鎖でつながった、けん玉のような武器、ガンダ…ではなく“岩打武反魔(いわだむはんま)”を取り出し、放り投げる!

 

「そ、そんなのどっから出したァーーー⁉」

 

「でえェェーーーい!」

 

ドゴォン!

 

借金取りたちの目の前に叩きつけられた鉄球は、地面に大きくめり込む。

さらに衝撃で周囲の建物が崩れた。

 

「…………」

 

「「「ひっ…」」」

 

許緒は邪悪なオーラを出したまま、無言で借金取り達を睨みつける。

その目は口よりも雄弁に語っていた。

『次は当てる』と。

 

「に、逃げろーーーっ!」

 

親玉がそう叫ぶと同時に、借金取り達は少年をその場に放り投げ、逃げて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツら本当にずるいんだ…」

 

その後、ゾロ達は歩きながら少年から事情を聞いた。

 

「いつの間にかヘンな証文を作って、借りた金額が何倍も大きくなってたり、『返すのに時間がかかった分だ』とか言って、もっと金を返させたり…皆困ってるんだ。

今回だって、借りたときは『今回は利子はいらない。借りた分だけ返せばいい』って、言ってたはずなのに…。

それで…『返せないなら、代わりに姉ちゃんをよこせ』って…」

 

「ひどい連中だな!」

 

「くそォ、そうと知ってたらマジでぶっ潰してやったのに…!」

 

話を聞いて、翠と許緒は怒り出す。

 

「ゆ…許せねェ…!」

 

ゾロにいたっては拳を握り、全身を震わせて怒りを表している。

 

「な、なんか…随分怒ってるな、ゾロ」

 

「他人事とは思えねェんだよ…!」

 

―――――貸すわよ。利子3倍ね

 

―――――あんた“約束”の一つも守れないの?

 

「ああ…!今思い出しても腹が立つ…!」

 

(な…何があったんだ?)

 

気にはなったが、翠はそれ以上聞かないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく行くとゾロ達は、1本の大きな杉の木の下にある、少年の家にたどり着いた。

 

「姉ちゃんただいま」

 

「おかえりなさい。あら?」

 

家の中で仕事をしていた、少年の姉が出迎えた。

 

「その人達は?」

 

 

 

 

 

 

「そうだったのですか。弟の危ないところを助けていただき、本当にありがとうございます」

 

少年から話を聞いた姉は、お礼を言ってゾロ達に頭を下げる。

 

どうやら両親はすでに他界し、この姉弟は2人だけで暮らしているらしい。

 

「姉ちゃん、この人達、旅の途中なんだって。

まだ宿は決まっていないみたいだから、お礼に今晩、ウチに泊まってもらおうと思うんだけど」

 

「そうね。是非、泊って行ってください」

 

「そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

 

「ありがとうな」

 

「じゃあ、宿代としてこれ…」

 

そう言って許緒は、大食い大会の賞金を取り出す。

 

「いいえ!そんなことをしていただく訳には…」

 

しかし、姉はそう言って断る。

 

「え~、何でだよ姉ちゃん。このお金があれば、借金ももう少し返せるのに」

 

「何言ってるんですか!

この人達に泊まってもらうのは、あなたを助けてもらったお礼としてなのですよ!

それなのに宿代などを貰っては、お礼にならないでしょう!

そもそも、あなたが軽はずみなことをしなければ…」

 

「…………」

 

姉が弟に説教する様子を、翠は食い入るように見つめていた。

 

「どうした翠?」

 

「あ、いや…ちょっと妹達のこと思い出して…(あいつら、今頃どうしてるのかな?)」

 

もうすぐ会える、自分の妹達を想う翠だった。

 

 

 




今作では、許緒と張遼が初登場する話と、愛紗と鈴々がケンカする話は、別々にすることにしました。



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第22話 “ゾロVS張遼”

暁釜さん、誤字報告ありがとうございました!
ずっと間違えて書いていたと思うと、本当に恥ずかしいです…。




大食い大会の翌日―――

 

「よっと!」

 

翠は泊めてもらった家の前で、薪割をしていた。

 

「すいません。手伝っていただいて」

 

少年の姉が声をかけてきた。

 

「いいんだよ。世話になりっぱなしより、何かやらせてもらった方が、こっちも気分がいいし。

何より身体を動かした方が、飯も美味いからな」

 

「まあ」

 

「姉ちゃん、ただいま!」

 

そこへ山に行っていた、少年と許緒が帰ってきた。

少年の背負った竹籠は、キノコや山菜でいっぱいになっている。

 

「まあ凄い!こんなに沢山採れたの⁉」

 

「この人凄いんだよ!初めて入った山なのに、茸や山菜を次々見つけて!」

 

「山で食料を確保するのは、大食い修行者にとって基本中の基本だからね!」

 

「そ、そうなのか…?」

 

得意げに胸を張る許緒に、苦笑いする翠だった。

 

「あれ?そういえばゾロは一緒じゃないのか?」

 

「え?あの兄ちゃん、馬超さんと一緒じゃないの?」

 

「あのお兄さんでしたら、散歩に行くと言って出ていきましたが…」

 

「ま、まさか一人で行ったのか⁉」

 

姉の言葉を聞き、慌てふためく翠。

 

「え、ええ」

 

「なんてこった…」

 

「あのう…そこまで気にすることはないのでは?」

 

「この辺は、そこまで道が複雑なワケじゃないし…」

 

「あの兄ちゃんも子供じゃないんだし、大丈夫じゃない?」

 

ガックリと肩を落とす翠の様子を、不思議そうに見る3人。

 

「いや駄目だ…あいつは本物の方向音痴なんだ…。

今までだって…目の前に橋が見えて『橋を渡るぞ』って言って、返事をしたはずなのに素通りしたり…。

宿で厠に行くと言って部屋を出たら、何故か城門の外に出たり…。

少し茶店で休んで出発しようとしたら、来た道を引き返そうとしたり…。

道なりに進めるはずが、目を話した途端、林の中に逸れて行ったり…」

 

「え…?」

 

「う、嘘…」

 

「じょ、冗談ですよね…?」

 

「あたしだって冗談だって言いたいよ…。けど…全部本当なんだ…」

 

「「「…………」」」

 

ゾロのノンフィクション迷子伝を聞き、3人は黙ってしまった。

 

「おう!てめェらァ!」

 

「「「「⁉」」」」

 

その時、外から怒鳴り声が聞こえ、4人が外の様子を見ると、昨日の借金取りがいた。

 

「お前ら!」

 

翠と許緒が表に出て、姉弟は戸口から様子を見る。

 

「やっぱりお前らもここにいたか!」

 

「何だ?またぶちのめされに来たのか?言っとくけど、今度は容赦しないぞ!」

 

「おっと、今日の相手はおれ達じゃねェぜ?先生!お願いしやす!」

 

そう言うと借金取りたちの後ろから、1人の女が現れた。

 

翠と同じぐらいの年齢で、紫の髪を刺のついた輪で後ろにまとめ、袴をはき、胸にさらしを巻いて羽織を羽織っている。

 

その女は手にした酒瓶から、少し酒を飲むと翠達の前に出る。

 

「…何や?めっちゃ強い三人が相手や言うから来たのに、一人おらんし一人はガキやないか」

 

「ガキって何だ!ガキって⁉」

 

「ふん!まァ、ええわ!おい、これまだ残っとるから預かっとき」

 

そう言うと女は、酒瓶を借金取りの1人に預け、“飛竜偃月刀(ひりゅうえんげつとう)”を構える。

 

「ウチの名は“張遼(ちょうりょう)”、字は“文遠(ぶんえん)”。日銭稼ぎの用心棒や。

アンタらに恨みはないけど、これも仕事や。ちょっと痛い目に遭うてもらうで」

 

「へっ!言うじゃねェか!」

 

「痛い目をみるのはそっちだ!」

 

「そうやな。それぐらいの意気やないと、おもろうないわ!

一匹ずつ相手にすんのは面倒や!二人同時にかかって来ィ!」

 

「うおりゃァーーー!」

 

張遼がそう言うと同時に、許緒は鉄球をぶん投げる!

 

「うお⁉」

 

ドゴォン!

 

それを後ろに跳んで躱す張遼。

 

「ちょ、んなモンどっから…」

 

「だあァーーーっ!」

 

許緒は間髪入れずに、二撃目を放つ!

 

「ツッコミぐらい入れさせろやァ!」

 

張遼はそう叫び、偃月刀で鉄球をはじく!

 

ガァン!

 

「ハァーーーッ!」

 

すかさず翠が斬りかかる!

 

「てりゃァーーーっ!」

 

キン!ガキン!ガキキン!キン!

 

そのまま2人は数回打ち合う!

 

(コイツ…強い!)

 

「でりゃァーーーっ!」

 

「!」

 

そこへ許緒が鉄球を投げつけると、張遼は馬超をいなし、またもや後ろに跳び躱す!

 

ドゴォン!

 

「へェ…アンタら二人とも中々ええ腕しとるやないか!(酒代目当てに引き受けたけど、思ったより楽しめそうやわ…!)」

 

「コイツ…二対一なのに…」

 

「戦いを楽しんでやがる…!」

 

「ほな…いくでェ!」

 

そう叫び、張遼は翠達に斬りかかる!

 

サッ

 

キィン!

 

「⁉」

 

突然、何者かが翠達の前に現れ、張遼の攻撃を剣で受け止めた。

 

「ゾロ⁉」

 

「兄ちゃん⁉」

 

「ほう…アンタが三人目か…!」

 

「人が少し散歩に行ってる間に…随分と楽しそうなことになってるじゃねェか!」

 

ギィィン!

 

「⁉」

 

そう言いながら、ゾロは張遼を偃月刀ごと刀で押し返す!

 

(…ウチが押し負けた…?)

 

「翠!許緒!悪いがコイツはおれがもらう。少しは楽しめそうだ」

 

「へェ…言うやないか」

 

そう言って、ゾロと張遼は改めて武器を構えるが…

 

「きゃー!」

 

「「「「⁉」」」」

 

突如悲鳴が聞こえ、ゾロ達が振り向くと…

 

「おっと、勝負はそこまでだぜ!」

 

借金取り達が姉弟を人質にし、家の前に立っていた。

 

「くっ…卑怯な…!」

 

「ちょと待ちや!これからおもろうなりそうな時に水差すなや!」

 

「悪いな先生。こっちも商売なんでね」

 

「チッ!」

 

張遼も文句を言うが、借金取り達は聞こうとしない。

 

「おめェら全員武器を捨てな。さもなくば、このガキがどうなっても知らねェぞ」

 

そう言って1人が少年ののどに刃物を突き立てる。

 

「ど、どうするの?」

 

「どうするって…」

 

翠も許緒もどうすることもできなくなるが…

 

「“一刀流”…」

 

そんな中、ゾロだけが静かに刀を構え…

 

「“三十六煩悩(ポンド)(ほう)”‼」

 

ドン!

 

「「「「「「「「⁉」」」」」」」」

 

一瞬で刀を振るい斬撃を飛ばす!

斬撃は近くにあった杉の木を切り倒し、木の幹は姉弟と借金取りのすぐ後ろに倒れた。

 

ドスゥゥゥン!

 

「うわあああ⁉」

 

「きゃあああ⁉」

 

「「「ぎゃーーー⁉」」」

 

衝撃で5人とも倒れこみ、姉弟は借金取り達の手から離れ、さらに親玉の懐から一枚の紙が落ちた。

 

「今だ!」

 

「!そうか!」

 

すかさずゾロと翠が駆け出し、姉弟を助けだした。

 

「大丈夫だったか?」

 

「うん」

 

「悪ィな。手荒なことしちまって」

 

「いいえ、おかげで助かりました」

 

「ね、ねえ兄ちゃん今の何⁉どうやったの⁉」

 

許緒が驚いた様子で訊いてくる。

 

「斬ったんだよ。鎌風を起こして、斬撃を飛ばしてな」

 

「そんなことできるの⁉」

 

「理屈上は可能だけど…実際にやるには、相当の筋力と技術が必要だぞ…!」

 

ゾロの答えに、翠も驚く。

 

「い、いてて…」

 

「ちくしょう…!」

 

…と、そんなことをしている間に、借金取り達も起き上がった。

 

そこへ張遼が近づき、親玉の懐から落ちた紙を拾う。

 

「何やこの紙切れは?」

 

「あ!それはこいつらの借金の証文!」

 

「ほ~そうか…」

 

そう言うと張遼は、その証文をビリビリに破いてしまった。

 

「ああ~⁉何すんですか先生⁉」

 

「人質獲るようなド汚いマネして、ウチの楽しみを台無しにした罰や!二度とあの姉弟に近づくなや!」

 

「「「ひィーーーっ!」」」

 

借金取り達は張遼が預けていた酒瓶を投げ捨て、逃げてしまった。

 

「あ~あ…全部零れちまっとるわ…。勿体ない…」

 

張遼は落ちた酒瓶を拾うと、中身を見て肩を落とし、そのまま立ち去ろうとする。

 

「おい、勝負はどうすんだ?」

 

「興が冷めた。止めや止め」

 

ゾロが呼び止めるが、張遼は振り返らずに返事をし、立ち去ろうとする。

 

「なるほど…どおりで軽いワケだ…」

 

その様子を見てゾロもそんなことを呟き、刀を収める。

 

「…ちょい待ち」

 

ふと、張遼が歩くのを止める。

 

「あ?」

 

「“軽い”ってのは何のことや?」

 

「てめェの武術が軽いって言ったんだよ」

 

「……ウチが舐められとるちゅうのは、ようわかったわ」

 

そう言うと張遼は戻ってきて、再び偃月刀を構える。

 

「気が変わったで…キッチリ決着(ケリ)着けようやないか!ほんで、ウチの武術が軽いちゅうたの、撤回させたるわ!」

 

「…上等だ」

 

そう言うとゾロは3本の刀を腰から外し…

 

「おい、ちょっとこれ持ってろ」

 

「へ?」

 

翠に預ける。

 

そして、ゾロは素手のまま張遼と対峙する。

 

「いつでもいいぜ」

 

「…おい、それは一体何のつもりや?舐めるのも大概にせェや!」

 

「別に舐めてるわけじゃねェよ。ただ、てめェと()るなら、これぐらいはやらなねェとな」

 

「はっ!要は負けたときの言い訳ちゅうことか!」

 

そう言うと張遼は駆け出し、偃月刀をゾロめがけて振り下ろす!

 

しかし…

 

「バァカ…逆だよ」

 

ドン!

 

「なっ…⁉」

 

()()()()()()()()で、てめェなんかに負けるワケにはいかねェってことだ…!」

 

ゾロは白刃取りでその一撃を受け止めた。

 

(な…何や⁉ウチの偃月刀が…ピクリとも動かへん…⁉それにコイツの…この迫力は何や⁉)

 

「オラァ!」

 

「うおォ⁉」

 

そしてゾロは偃月刀ごと、張遼を投げ飛ばす!

 

「く…な、何やっちゅうんねん⁉」

 

そう叫び張遼はめちゃくちゃに偃月刀を振るい、ゾロに斬りかかる!

対してゾロも全ての攻撃を素手で捌く!

ゾロの手や腕には次々と傷がつき、血が流れるが、ゾロは微塵も気にせず受け続ける。

 

「う、嘘…?」

 

「に、兄ちゃんすげェ…」

 

「「…………」」

 

翠や許緒、姉弟も2人の勝負を、固唾をのんで見守っている。

 

「おいっ!お前っ!」

 

偃月刀を振りかざしながら、張遼が話しかける。

 

「何だっ⁉」

 

ゾロも攻撃を捌きながら応える。

 

「軽いっ―――ちゅうのはっ―――どういう意味や⁉

アンタとウチでっ―――何がちゃうっちゅうねん⁉」

 

「じゃあ聞くがっ―――お前は何のためにっ―――戦ってる⁉」

 

「んなモンっ―――決まっとるやろっ!

強い奴と戦ってっ―――ウチが一番やってっ―――証明するためやっ!」

 

「本気でっ―――そう思ってんのか⁉」

 

「⁉」

 

「てめェはっ―――その野望のためにっ―――命を懸けてんのか⁉」

 

「!」

 

「おれもっ―――世界一の大剣豪をっ―――目指す者だ!

実力を証明することっ―――を悪いとはっ―――言わねェ!

だがさっきっ―――てめェの攻撃を受けたときっ―――お前が背負ってるものをっ―――何も感じなかった!

威力だけはあったがっ―――覚悟もっ―――必死さもっ―――何もなかった!

負けることもっ―――逃げることもっ―――許されねェっ―――そんな覚悟でっ―――てめェは戦ってんのか⁉」

 

「……っ!」

 

張遼はゾロの問いに答えず、一度距離をとり、構える。

その様子をみて、張遼が必殺の一撃を放つことを察したゾロも、一撃のための構えをとる。

 

「“雲蒸(うんじょう)”…」

 

「“無刀流”…“(たつ)”…」

 

「“竜変(りゅへん)”‼」

 

「“巻き”‼」

 

ドゴォォン!

 

ドサッ…

 

「…………」

 

張遼はゾロの放った一撃で吹き飛ばされ、背中から地面に倒れた。

 

「おれは約束をしている」

 

―――――おれ、あいつのぶんも強くなるから‼天国までおれの名前が届くように、世界一強い大剣豪になるからさ‼

 

―――――おれはもう‼二度と敗けねェから‼

 

「おれの武術は、おれ1人のもんじゃねェ。

だからおれは、おれの勝手な都合で負けることも、逃げることも許されねェんだよ」

 

「……成程…ウチの完敗や」

 

張遼は寝そべったまま、呟く。

 

「アンタの言う通りや。

一番を目指しとったのは…取り敢えず目指していただけで、命かけてまで目指す気は…たぶんなかったわ…。

心のどっかで武術を商売道具とか、見世物みたいに考とったんかな…?

何も背負うてへん。そりゃあ軽いに決まっとるわ。

あ~…何やろなァ…負けたっちゅうのに、今までの勝負で一番気分がええわ」

 

そこまで言うと、張遼は起き上がった。

その顔はとても晴れ晴れとしていた。

 

「―――ったく、見ててヒヤヒヤしたぞ」

 

「兄ちゃんってホントに強いんだね~!それにカッコよかった!」

 

「あの…手は大丈夫ですか?」

 

「早く手当した方が良いよ。おれ傷薬持ってくる」

 

翠達もゾロのところへ集まり、少年が家に戻ろうとしたとき…

 

「おいてめェら!」

 

「「「「「「?」」」」」」

 

何者かの声が聞こえ、一同が振り向くと…

 

「さっきはよくもやってくれたな!てめェら四人ともぶっ潰してやらァ!」

 

さっきの借金取り達が、50人ほどの用心棒を連れ戻ってきた。

 

「四人って、ウチも入っとるんか?」

 

「…みたいだな」

 

「証文、破いちゃったからね…」

 

「おい、お前ら。家の中に入ってろ。手当は後でいい」

 

「は、はい」

 

ゾロに言われ、姉弟は家の中に隠れる。

 

「ほい。今度は刀使うよな?」

 

「ああ」

 

「ボクもちょっと暴れたりなかったところだし…張遼さんはどうするの?」

 

「金で雇われただけとはいえ、一応身内みたいなもんやしな。

身内の不祥事は身内で片付けなァあかんやろ。

なにより、ウチも標的に入っとるみたいやしな…」

 

「旦那。金の方は大丈夫なんでしょうな?」

 

「おうよ。アイツら叩き潰してくれりゃァ、欲しいだけくれてやる!」

 

「了解!やっちまえてめェら!」

 

「「「「「「「「「「おおーーーっ!」」」」」」」」」」

 

「止めときゃいいのに」

 

「さてと…」

 

「それじゃあ…」

 

「やったるかァ!」

 

そして、4人は瞬く間に用心棒たちを片付けたあげく、借金取り達の店に殴り込み、捏造された証文をすべて処分し、店を(経済的な意味だけでなく、物理的にも)潰したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日―――

 

悪徳金融企業退治に一日費やしたゾロ達は、姉弟の家に張遼も加えてもう一泊したのだった。

 

「なんか、ウチまで世話になって悪かったな…」

 

「いえ。色々と本当にありがとうございました」

 

「また、遊びに来てよ。兄ちゃん達ならいつでも歓迎するから」

 

「おう、達者でな」

 

「元気でな」

 

「じゃあね~!」

 

「ほんじゃあな~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~村の入り口~

 

「あたし達はこれから隴西(ろうせい)郡の方へ行くんだけど、あんた達はどうするんだ?」

 

「ボクは南下して、益州に行こうと思うんだ」

 

「ウチはとりあえず、都の方へ行こうと思うとる」

 

「じゃあ、ここでお別れか」

 

「あ、せや。ちょっと頼みがあるんやけど…」

 

「何だ?」

 

「アンタら…ウチと真名を交換してくれへんか?」

 

「え?どうしたんだよ急に?」

 

「いや…昨日そいつに負けて、何か目が覚めたような気がしてな。

それで…今度は遊び半分やない、負けられへん理由を持って、立派なモン背負うて、戦う武人になろうと思う。

アンタらが真名を預けて、恥ずかしくない武人になる!…そんな決意表明みたいなモンとして、交換したいんやけど…」

 

「そうか」

 

「そういうことならいいぜ!」

 

「ボクも!ついでに兄ちゃんたちにも真名を預けるよ!」

 

「ほんまか⁉

ほな早速ウチから…ウチの名は“張遼”、字は“文遠”、真名は“(しあ)”や!

この真名、アンタらに預けるで!」

 

「ボクは“許緒”、字は“仲康”、真名は“季衣(きい)”っていうんだ。

改めてよろしくね!」

 

「あたしは“馬超”、字は“孟起”、真名は“翠”ってんだ!この真名、二人に預ける!」

 

「“ロロノア・ゾロ”だ。異国の出身で真名はねェ」

 

「そうか。じゃあ今度会う時は、立派なモンを背負った、気高い武人になっとるから!

ほんじゃあ、“ゾロ”~!“翠”~!“季衣”~!またな~!」

 

「“ゾロ”の兄ちゃ~ん!“翠”さ~ん!“霞”さ~ん!縁があったらまたどこかでね~」

 

「“季衣”~!“霞”~!元気でな~!」

 

「“季衣”!“霞”!達者でな~!」

 

そして4人はそれぞれの道へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして―――

 

「…………」

 

「ん?どうした翠?」

 

どことなく元気がなさそうな翠に、ゾロが声をかけた。

 

「あ、いや…その…」

 

「?」

 

「あたしは…霞と互角だったんだ。

それで…ゾロがあいつの武術を“軽い”って言って…だから『あたしの武術も同じ程度なのかな?』って…」

 

「あれはあくまでも武術にかける覚悟や信念の話だ。実力とは関係ねェ。

遊び半分で強い奴もいりゃあ、真剣にやっていても弱ェ奴だっている」

 

「…そうなのか?」

 

「それに、おれの経験から言わせてもらえば…」

 

―――――こんな…わけもわからねェうちに…‼みんなを殺されてたまるかよ……‼

 

―――――止めるわよ………‼こんな無意味な暴動…‼

 

「強いだけで何も背負ってねェ奴より、弱くてもデケェもん背負ってる奴の方が、敵に回すとおっかねェぞ」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その頃―――涼州、隴西郡、牢獄~

 

「…“蒲公英(たんぽぽ)”…大丈夫かな?」

 

「…今は信じるしかないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~涼州、隴西郡、とある山中~

 

「…待ってて“(るお)”、“(そう)”…必ず翠姉さまを…助けを呼んでくるから…!」

 

 

 

 



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第23話 “はわわ”

タイトルの通り、あの子が登場する回です。




山道を歩いていくルフィ、愛紗、鈴々。

その後ろから、少し距離を置いて歩いて来る星。

4人の間には気まずい空気が流れ、星の顔は明らかに不機嫌だった。

 

「なァ、星…まだ怒っているのか?」

 

「…怒っているのではない。ひどく不機嫌なだけだ」

 

「…やっぱり怒っているではないか…」

 

何故このようなことになっているのか?

ことの始まりは少し前、昼食時のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食時―――

 

ルフィ達一行は、一軒のラーメン屋で食事をしていた。

 

『美味かった~!』

 

『ごちそうさま~なのだ~!』

 

『あ~美味しかった!』

 

ルフィは満腹ではないが、路銀の都合上、1人1杯までと強く言われているため、1杯で食事を止める。

 

『あれ?』

 

…と、ここで鈴々が(かわや)に行った星のラーメンのどんぶりを見る。

 

『星、メンマ残しているのだ』

 

『ここのメンマ美味しいのにもったいない…』

 

『じゃあ、おれが食う!』

 

『鈴々も食べるのだ!』

 

『では私も』

 

そう言って3人は星が残したメンマを全て食べた。

 

しかし、これがいけなかった。

 

少しして、厠から星が戻ってきた。

 

『ぬあァ~~~~~⁉』

 

空っぽになった自分のどんぶりを見て、星は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

『むゥ………!』

 

『『『⁉』』』

 

そしてメンマを食べた犯人3名を、無言で睨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、星はずっとご機嫌斜めなのである。

 

「星!お主が厠に言っている間に、お主のメンマを食べてしまったことは謝る!この通り!」

 

「…………」

 

愛紗は手を合わせて謝るが、星は何も言わない。

 

「残っていたから、てっきり嫌いなんだと思って…!な!」

 

「あ、ああ…」

 

「うんうん!」

 

「…逆だ」

 

「「「…!」」」

 

「…大好物だったから、最後に食べようと思って…大事にとっておいたのだ…」

 

「「「…………」」」

 

食べ物の恨みは恐ろしい…。

 

「ルフィ殿が食い意地張ったことするからですぞ!」

 

「そうなのだ!」

 

「お前らだって食ったじゃねェか!」

 

「だからそれは…」

 

「メンマ…」

 

「「「⁉」」」

 

3人で罪の擦り付け合いをするが、星の嘆きと恨みが混ざったような呟きと、冷たい視線から理解する。

全員同罪だと。

 

「そ、そうだ!夕食にまた拉麺を食べよう!次は私のメンマをやるから!」

 

「り、鈴々のも食べていいのだ!」

 

「おれのもやるから!おれの肉も食っていいから!…1個だけ…」

 

何とか機嫌を直してもらうとする3人。

ルフィにいたっては、自分も好物を横取りされることで、痛み分けにしようと提案する。

 

「…人とメンマは一期一会…。どうやったところで、すでに失われたメンマは…もう戻ってこない…」

 

「「「…………」」」

 

しかし星はそれでよしとせず、嘆くようにそんなことを呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして―――

 

「分かれ道か~」

 

一行の前には2本に分かれた道があった。

 

「どっちに行ったものかな~…?」

 

「…………」

 

…と、愛紗は星に話しかけるが、星はそっぽを向いて返事をしない。

 

「こういう時は鈴々にお任せなのだ!」

 

そう言うと鈴々は、道の真ん中に蛇矛を突き立て、手を合わせる。

 

「むう~~~…!」

 

カタン

 

蛇矛が右の方に倒れた。

 

「こっちなのだ!」

 

「は~い!じゃあそっちにくぞ~…!」

 

愛紗はわざとらしく声を出して、星の方を見るが…

 

「…………」

 

やはり、無反応だった。

 

「…はァ…」

 

そして一行は気まずい空気のまま、右の道を進むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メンマ…」

 

「「「…………」」」

 

3人と星が少し距離を置いて進む。

しばらく行くと霧が出てきた。

 

「霧だな」

 

「どんどん濃くなってくるのだ」

 

「まったく()()がないな。…な~んちゃって~♪」

 

「…………」

 

愛紗は何とか空気を換えようとするが、星は全く反応しない。

 

「…はァ…」

 

「「…………」」

 

また少し進むと、霧はますます濃くなり、辺りは木や茂みが多くなってきた。

 

「…マズイな。ここまで霧が濃いと、道を外れても分からんぞ」

 

「お化けとかでるかな~?」

 

同じ様に霧に包まれていた、スリラーバークを思い出し、ルフィはそんなことを呟く。

 

「ひっ…⁉」

 

「る、ルフィ殿!変なことを言わないでください!

鈴々!離れるなよ!しっかり固まって歩くぞ!」

 

「わ、わかったのだ!……あれ?星はどこにいるのだ?」

 

「「え?」」

 

鈴々に言われ、ルフィと愛紗が後ろを振り返ると、星の姿が見えない。

 

「お~い!せ~い!」

 

「星!そこにいるのか?」

 

「星!いい加減、機嫌を直して、返事をしてくれ!」

 

しかし、何も聞こえない。

さらには、気配すら感じない。

 

「いかん!本当に逸れたようだ!」

 

「急いで探すぞ!」

 

「了解なのだ!」

 

そう言って3人は星に呼びかけながら、来た道を引き返す。

 

「お~い!せ~い⁉」

 

「どこだ~⁉」

 

「返事をするのだ~!」

 

しかし返事は返ってこない。

 

「星!聞こえていたら…きゃあ⁉」

 

「愛紗⁉」

 

「どうしたのだ⁉」

 

「ルフィ殿!鈴々!小さい崖になっているようです!気を付けて!」

 

どうやら愛紗は、足を滑らせて小さい崖に落ちてしまったようだ。

ルフィと鈴々は慎重に崖を下り、愛紗と合流する。

 

「愛紗!」

 

「大丈夫なのか⁉」

 

「なァに、これくらい…っ!」

 

「どうしたのだ⁉」

 

「おい!しっかりしろ!」

 

「ど、どうやら足を挫いたようです」

 

「ええ⁉」

 

「どうする?」

 

「下手に動くより、霧が止むのを待った方が良いでしょう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃星はというと…

 

「メンマ…」

 

いまだにメンマのことで頭が一杯だったため、ルフィ達の気配がないことにも気づかず、1人で歩いていたが…

 

「……あれ?」

 

徐々に霧が晴れ、視界が開けてくると同時に、3人と逸れてしまったことに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフィ達の方も、少しずつ霧が晴れてきた。

 

「だいぶ霧が晴れてきたな…」

 

「あ!あそこに家があるのだ!」

 

鈴々が指さした方を見ると、近くの小高い丘の上に一軒の屋敷があった。

 

「助かった…あそこで少し休ませてもらお…っ!」

 

愛紗は歩き出そうとするが、足の痛みでうずくまってしまう。

 

「愛紗!」

 

「おれがおぶってくよ」

 

「すみませんルフィ殿…」

 

ルフィは愛紗を背負い、鈴々が愛紗の偃月刀を持ち、家を目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人は鈴々が見つけた屋敷の門前に着いた。

 

「たのも~!たのも~なのだ~!」

 

「は~い」

 

鈴々が呼びかけると返事が聞こえ、少し門が開く。

 

ギィ…

 

すると中から、鈴々と同い年くらいの、ベレー帽のようなものを被った少女が現れた。

 

「はわわ⁉」

 

「“はわわ”?」

 

少女はそう叫ぶと、慌てて屋敷の奥へと走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はわわ~!“水鏡(すいきょう)”先生大変です~!」

 

少女は奥で、屋敷の主人らしき女性に事情を伝える。

 

「どうしたのですか“朱里(しゅり)”?」

 

「旅の方が訪ねて来られたのですが、怪我をしているようなんです!」

 

「え⁉それは大変ね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷の客室に案内されたルフィ達は、愛紗を寝台に寝かせ、屋敷の住人である2人に事情を説明した。

 

「そうですか。それは災難でしたね。この辺りでは、急に濃い霧が出ることがよくありまして…」

 

屋敷の主である、愛紗より少し年上の髪を結った女性が、そう言いながら愛紗の足に薬を塗った。

 

隣には、先ほど門を開けてくれた少女が、乳鉢を持って立っている。

 

「これでいいでしょう。怪我が治るまで、ここで休んでいくといいでしょう。

その間に、逸れた方が見つかるかもしれませんし」

 

「かたじけない…」

 

「私は“司馬徽(しばき)”、“水鏡”と号しております。この子は…」

 

「“諸葛亮(しょかつりょう)”、字を“孔明(こうめい)”といいます」

 

「朱里、後はお願いしていいかしら?」

 

「はい」

 

返事をすると孔明は、愛紗の足に包帯を巻き始める。

 

“朱里”というのは孔明の真名のようだ。

 

「…世話をかけるな…」

 

「いえ……はい、出来ましたよ」

 

「あら、上手に巻けたわね」

 

「はい!いっぱい練習しましたから」

 

「そう、偉いわね」

 

そう言って、朱里の頭をなでる水鏡。

 

「えへへ」

 

「…………」

 

その様子をじっと見る鈴々。

 

「ん?どうした鈴々?」

 

「べ、別に何でもないのだ!」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

「あの、水鏡殿…手当てをしていただけるのはありがたいですが…ここまでしなくても…」

 

包帯を巻いた後、愛紗は寝間着に着替え、上から足をつるして固定させられた。

 

「何を言っているのですか。骨が折れていなかったのが、幸運なくらいなのですよ。足を動かさないようにしないと…」

 

「医者がそう言うんだから、そうしないとダメだろ」

 

「ルフィ殿まで…しかし、これでは…その…厠にも…」

 

「その時は、おれがおぶってくよ」

 

「⁉さ、さすがにルフィ殿には…!」

 

「?」

 

「だったら鈴々がおぶっていくのだ」

 

「そんなことをしなくても大丈夫ですよ」

 

そう言うと、孔明は寝台の下から何かを取り出す。

 

「こ、孔明殿…それは…」

 

孔明が取り出したのは、いわゆる尿瓶(しびん)というやつだった。

ちなみに材質は陶器製である。

 

「大きい方のときは、こちらもありますから」

 

そう言って、さらにアヒルの頭が付いたオマルというものを取り出す。

 

「もよおされたら、遠慮なく言ってくださいね」

 

「え、ええ…?」

 

純真とは時に恐ろしいものである…。

 

「………むう」

 

「?」

 

その時ルフィは、鈴々が頬を膨らませているのを見て、不思議に思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜―――

 

ルフィ達は水鏡先生、朱里と一緒に食堂で食事をとることになった。

 

「すげ~!」

 

「これは美味そうだ!」

 

「美味しそうなのだ!」

 

円卓に並べられたたくさんの料理を見て、ルフィ達は驚く。

 

「今日の夕食は朱里が作ったんですよ」

 

「ほう、孔明殿は料理も作れるのか」

 

「すげェな、お前」

 

「お口に合うと良いのですが…」

 

「さァ、冷めないうちにいただきましょう」

 

「「「「「いただきまーす(なのだー!)」」」」」

 

「あむ…うめえ~!」

 

「うん!美味い!」

 

「美味しいのだ!」

 

「よかったです、気に入っていただけて」

 

「その年で、ここまでちゃんとした料理が作れるとは…。それに比べて鈴々は食べるばっかりで…」

 

「!り、鈴々だって料理ぐらい作れるのだ!」

 

「ほう、じゃあ何が作れるんだ?」

 

「う…おにぎりとか…おむすびとか…」

 

「ふふっ」

 

思わず朱里は笑い出した。

 

「それ、同じものじゃないですか…ふふふ」

 

「ふふふふふ…」

 

「ははははは…」

 

つられて皆も笑い出す。

 

「な、何でみんな笑うのだ~⁉」

 

「いいじゃねェか、それだけできりゃ。おれなんてもっとダメだぞ」

 

「ルフィ殿は作れるとしたら何ですか?」

 

「生肉」

 

「……できると思ってはいませんでしたが…ほ、本当に駄目なのですな…」

 

今度は思わず苦笑いをしてしまう愛紗だった。

 

「ああ。おれなんか本当にダメダメだぞ~。はっはっはっ」

 

「あははははは!」

 

「あむあむ…」

 

「…………」

 

ルフィと朱里は楽しそうに笑い、鈴々はいまだに不機嫌そうに食事をとり、水鏡はじっとルフィを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食後―――

 

(星の奴…無事だといいが…)

 

愛紗は星のことを心配し、寝台で寝ていた。

 

「あ~久しぶりのお風呂、気持ちよかったのだ~」

 

…と、そこへ鈴々が風呂から戻ってきた。

 

「なっ⁉」

 

風呂場から直接戻ってきたため、さすがに全裸ではないが、下着姿のままである。

 

「コラ!そんな格好でいては風邪をひくぞ!」

 

保護者らしく叱る愛紗。

 

「関羽さ~ん、お身体お拭きしますね~」

 

そこへぬるま湯を入れた、たらいと手拭いを持って朱里がやって来た。

 

「何から何まですまないな」

 

「良いですよこれくらい。困ったときはお互い様です。さ、服を脱いでください」

 

「あ…そ、その前に…」

 

「?」

 

「いや、その…所謂(いわゆる)一つの…生理現象が…」

 

「ああ、これですね」

 

そう言って朱里は先ほどの尿瓶を取り出す。

 

「あの…お気遣いは嬉しいのですが、それは…ちょっと…」

 

「あ!大きい方でしたか!」

 

何のためらいもなく大声で言、オマルを取り出そうとする朱里。

やはり純真とは時に恐ろしい…。

 

「あ、いえ…その…り、鈴々頼めるか?」

 

「!わかったのだ!」

 

鈴々は愛紗を背負おうとする。

 

「あの、それでしたら…ちょっと待ってて下さい」

 

そう言って部屋を出ていく朱里。

 

「「?」」

 

 

 

 

 

 

しばらくすると…

 

「おお!これは…!」

 

朱里が持ってきたのは、木製の車いすだった。

 

「足を怪我していても、移動できるように私が作ったんです」

 

「成程、これは便利ですな」

 

そして愛紗は車いすに乗り、朱里に連れられて厠へ行った。

 

「む~…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む~…」

 

「ん?お~い、どうした鈴々?」

 

鈴々が膨れながら屋敷の中庭を歩いていると、同じように中庭を歩いていたルフィが声をかけてきた。

 

「…くやしいのだ…!」

 

「ん?」

 

「孔明ばっかり…愛紗に…」

 

「できねェことはできねェんだから、しょうがねェだろ」

 

「でも…鈴々だって…愛紗に…!」

 

「だったらよ…孔明を助けてやればいいじゃねェか」

 

「どうしてそうなるのだ⁉」

 

「孔明が愛紗を助けるのを、鈴々が助けてやれば、鈴々も愛紗を助けてやれるだろ?」

 

「え…?」

 

「できることしかできねェんだから、できることで助けてやればいいんだよ」

 

「…………」

 

「じゃ、がんばれよ~!」

 

そう言ってルフィは去って行った。

 

「…愛紗を助ける」

 

実のところ、鈴々は愛紗を助けることより、自分が愛紗に褒められることで頭がいっぱいだった。

 

その夜、鈴々はその言葉がずっと頭から離れなかった。

 

「…………」

 

その様子を近くの物陰から、水鏡が見ていたことに、2人とも気付いていなかった。

 

 




今作の執筆にあたって、真・恋姫夢想 革命とアニメ版恋姫無双を何回か見直しているのですが、朱里の声があまりにも違うので、どうしても違和感がありますね…。



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第24話 “伏龍飛び立つ”

翌日―――

 

屋敷の庭にある円卓で、孔明は勉強をしていた。

 

「子曰く、学びて時に之を習う…」

 

その近くの建物の屋根で、鈴々は寝っ転がっていた。

最初は昼寝をするつもりだったのだが、昨夜のルフィとのやり取りが頭から離れず、眠れなかった。

 

(愛紗を助ける…)

 

 

 

 

 

 

「水鏡殿、孔明殿は本当にいい子ですね」

 

孔明が勉強している様子を、水鏡先生に塗り薬と包帯を変えてもらいながら、愛紗は見ていた。

 

「素直で賢くて、学問に熱心で、ちゃんとお手伝いもする」

 

「張飛ちゃんだっていい子じゃないですか」

 

「いやァ…鈴々は全然…」

 

「元気で明るくて、とってもお母さん思いで…」

 

「は?お母さん?」

 

「え?違うのですか?私はてっきり、張飛ちゃんは関羽さんとルフィさんの子供なのかと…」

 

「ち、違います!私達三人は義兄妹の契りを結んだものでして!

鈴々は子供ではありませんし、私とルフィ殿もそんな関係ではありませんし!

何でそんな勘違いを⁉

そもそも私は、あんな大きな子供がいる年齢ではないですし、子供を作るような行為はまだ一度も…!」

 

「ああ…!わかりました!わかりましたから落ち着いて!」

 

手をばたばたさせ、必死に否定する愛紗。

このままでは何かの拍子に足が悪化しかねないと思い、水鏡は懸命に愛紗をなだめた。

 

「でも…だとしたら、私は皆さんが羨ましいです」

 

「え?」

 

「あの子…朱里は、幼い頃に両親を失い、姉妹と一緒に、親戚の間をたらい回しにされていたんです。

その内に、姉妹とは離れ離れになり…その後、しばらくは私の師匠に当たる人のところに預けられていたのですが…。

師匠も亡くなって、こうして私と一緒に暮らしているんです」

 

「そうだったのですか…」

 

「関羽さんの言う通り、あの子は本当にいい子です。

聞き分けがよくて、我儘も言いません。

でも私には、それがあの子が辛い境遇の中で、自然と身についてしまった、悲しい性に思えるんです…」

 

「水鏡殿…」

 

「張飛ちゃん、とても二人に甘えてるでしょう?」

 

「!」

 

「血の繫がっていない義兄妹(きょうだい)で、そこまで心を開いているのが、私にはとても羨ましいの…」

 

「…………」

 

「愛紗~!」

 

「「!」」

 

ルフィが部屋に入って来た。

 

「足、大丈夫か?」

 

「今、薬を変え終わったところよ」

 

「そうか…本当にありがとうな。愛紗の足が治ったら、何か礼させてくれよ」

 

「お礼なんていいですよ。困ったときはお互い様ですから」

 

「いいえ、ルフィ殿の言う通りです。何かお礼をさせて下さい。でないと、私の気が済みません」

 

「そうですか…。では、怪我が治ったら、あの子…朱里を一緒に旅に、連れて行ってあげてもらえないでしょうか?」

 

「え?」

 

「あの子はとても学問に興味があり、それを世の中の役に立てたいと思っております。そのために旅をして、見聞を広めたいとも思っております。

私もあの子ぐらいの時に、見聞を広めるために旅をしていたので、あの子にも同じ様にさせてあげたいと思っているのです。

けれど、最近の世の中は物騒で、いくらあの子がしっかりしていても、あの年で一人旅というのは、あまりにも危ないので…。

本当は、私が一緒に旅に出られればいいのですが、私にはここでの仕事もあります。

だから、あの子も遠慮して言い出せずにいるんです…。

どうか、連れて行ってあげてもらえないでしょうか?」

 

「…水鏡殿はよろしいのですか?」

 

「…確かに、あの子が出ていけば、ここは寂しくなります。

でも、『旅に出たい』というのは、あの子が私に言った唯一の我儘。

家族として、その願いを叶えてあげたいのです」

 

「でも、それは無理だぞ」

 

「え?」

 

「ルフィ殿?」

 

「そういうのは、アイツが自分で行くって言わねえと…オバハンが…」

 

 

 

 

 

 

「…おまえがふれへいっへほひくても、おれはひはつれてけねェほ(お前が連れ行てって欲しくても、おれ達は連れてけねェぞ)…」

 

「…確かに、その通りです。あの子も皆さんに遠慮して、残るかもしれませんしね…」

 

(私ハ何モ見テイナイ私ハ何モ見テイナイ私ハ何モ見テイナイ私ハ何モ…)

 

何故かボロボロになったルフィの横で、青ざめ、ガタガタと震えながら、必死に現実逃避をする愛紗の姿があった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜―――

 

「ほう…水鏡殿が作る薬は、そんなによく効くのか」

 

「はい。ですから麓の村の人に頼まれて、薬を届けに行くこともあるんですよ」

 

愛紗は身体を拭きに来た、朱里と話していた。

 

「私、先生みたいに沢山の人の役に立てるようになりたいんです。でも、そのためにはもっと色々なことを学ばないと、って思って…」

 

「そうなのですか。孔明殿は本当にいい子ですな」

 

そう言って朱里の頭をなでる愛紗。

 

「ああっ!失礼!水鏡殿がしていたものだからつい…」

 

「いえ。私、なでなでされるの好きですから」

 

「そうですか…」

 

「実は…水鏡先生は私ぐらいの年の頃から、旅に出て見聞を広めていたそうなんです」

 

「!」

 

その言葉を聞いて、愛紗は昼間の話を思い出した。

 

「それで…先生みたいになるために、私もいつか旅に出て見聞を広めたいと思っているんです」

 

「そうなのですか…良ければ、私達と一緒に来ませんか?」

 

さりげなく誘ってみる愛紗。

 

「いいえ。私には先生のお手伝いがありますし、関羽さん達にご迷惑を掛けるワケにはいきませんから…。

それに、今は何かと物騒ですし、世の中が平和になって、私がもっと大きくなって、先生にお世話になった恩返しをして…私が旅に出るのはそれからです…」

 

「…そうですか…(ルフィ殿の言う通り…孔明殿が一緒に行きたいと言う、きっかけが必要だな…)」

 

愛紗と朱里がそんなやり取りをしている様子を、扉の隙間から鈴々が見ていた。

 

「…………」

 

しかしその表情は、昨日のようなふくれっ面ではなく、様々な感情が入り混じった複雑なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフィ達が水鏡先生の屋敷を訪ねてから、3日が経った。

 

「湿布をしてからもう三日になるのに、なかなか腫れが引かないわね…」

 

ルフィ達4人は愛紗の足の様子を診ていた。

 

「こんな時、サロンパ草があればいいのだけれど…」

 

「“さろんぱそう”って何なのだ?」

 

「こうした腫れに、とても良く効く薬草よ。白い小さな花が咲く草で、その葉をすりつぶして使うの」

 

「でしたら先生!私がサロンパ草を採ってきます!」

 

「でも、サロンパ草が生えているのは随分と山の奥よ」

 

「大丈夫です!何度か先生と行ったところだから、場所は覚えていますし…」

 

「そうね…私が一緒に行ければいいのだけど、今日は麓の村に薬を届けに行かないといけないし…」

 

「じゃあ、おれが一緒に行くよ」

 

「いえ、ルフィ殿が一緒だと却って足を引っ張ります」

 

ハッキリと言い切る愛紗だった。

 

「お願いします先生!行かせてください!」

 

「…わかったわ。それじゃあ朱里、お願いできるかしら?」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷を出発し、山道を進む朱里。

その後を、小さな人影がつけていた。

鈴々である。

 

(あいつにだけいいカッコはさせないのだ。

こうやって後をつけて、あいつが採った薬草を横取り…じゃなくて!

薬草が生えている場所に着いたら、鈴々が先に摘んで、一足早く持って帰るのだ。

そうすれば愛紗に…

 

 

 

 

 

『愛紗!サロンパ草なのだ!』

 

『おお!偉いぞ鈴々!さすが私の妹だ!』

 

 

 

 

 

…えへへ♪)

 

愛紗に褒められる自分の姿を想像し、思わず顔がにやける鈴々。

 

「はわっ⁉」

 

「⁉」

 

前方で朱里の悲鳴が聞こえ、前を見てみると朱里が転んでいた。

 

「あう~…どうして何もないところで、転んでしまうのでしょう…」

 

全くもって不思議である。

 

(何もないところで転ぶなんて、とんだドジなのだ。

あいつ足も遅いし、これならあいつが薬草を摘んだ後からでも、余裕で先回りできるのだ)

 

自身の勝利を確信し、にやける鈴々。

 

しかし…

 

―――――孔明が愛紗を助けるのを、鈴々が助けてやれば、鈴々も愛紗を助けてやれるだろ?

 

「!」

 

不意にルフィの言葉を思い出し、うつむくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく行くと、吊り橋がかかっている谷川についた。

 

「うう…」

 

下を見て思わず足がすくんでしまう朱里。

 

(何をぐずぐずしているのだ?

そうか!あいつきっと高いところが苦手なのだ。だから怖くて吊り橋が渡れないのだ)

 

「先生と一緒に来たときは、いつも手を引いてもらっていたけど…。でも、関羽さんのためだもの!頑張らなくちゃ!」

 

そう言って朱里は吊り橋を渡り始める。

 

「うう…頑張らなくちゃ…」

 

橋をかけている縄に捕まりながら、少しずつ進んでいく朱里。

 

(…吊り橋を渡るのにいつまでかかっているのだ…?)

 

「あっ!」

 

(?あいつ急に立ち止まってどうしたのだ?…あっ!)

 

よく見ると、吊り橋の真ん中あたりで、踏み板の一部が抜け落ちていた。

 

「怖くない…怖くない…」

 

(ああ~…!)

 

朱里は必死に足を伸ばして、板が抜けた部分を渡る。

 

「はふ~…」

 

時間はかかったが、朱里は無事吊り橋を渡り終わった。

 

(はァ~よかった…。やっと終わったのだ~…)

 

この時、鈴々は自分でも気づかぬうちに朱里を心配し、無事渡り切ったことに安堵していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~…」

 

それから朱里は、またしばらく山道を進み…

 

「あ!あった!」

 

ついにサロンパ草を見つけた。

 

「でも…」

 

しかし、サロンパ草があったのはそそり立つ絶壁の中腹だった。

 

(あいつ高いところが怖いし、体力もないから、あそこまで登るのは無理なのだ。

あいつがあきらめて帰ったら、鈴々がサロンパ草を摘んで帰るのだ)

 

隠れて様子を見ていた鈴々はそう思う。

 

確かに、サロンパ草が生えているところまで登るのは、朱里には厳しいだろう。

 

しかし…

 

「よいしょっ…!」

 

(あ!)

 

朱里は崖を登り始めた。

 

「よいしょっ…んしょ…はわっ⁉」

 

足を滑らせて、落ちそうになる朱里。

 

(ど、どうせ途中で怖くなって、帰るに決まっているのだ…)

 

「よい…しょっ!…あ!はわわ~⁉」

 

思わず下を見て怖くなり、大きくよろめいてしまう朱里。

 

(あ!危ないのだ!)

 

「はァ…はァ…よいしょ…」

 

何とか体勢を整え、再び登りだす。

 

(な、何でなのだ?何であいつ、あんなに頑張るのだ?高いところ怖いくせに…どうしてあんなに…一生懸命…)

 

―――――私、先生みたいにいろんな人の役に立てるようになりたいんです

 

(愛紗の…役に立ちたいから?…愛紗のために…)

 

―――――孔明を助けてやればいいじゃねェか

 

「…………」

 

「もう…少し…」

 

朱里がサロンパ草に手を伸ばし、つかもうとしたその時―――

 

バキッ

 

「あっ⁉」

 

「あっ!」

 

朱里が足場にしていた岩が崩れた。

 

「はわ~~~っ⁉」

 

まっさかさまに落ちていく朱里!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ!

 

「はわわ~~~……あれ?」

 

急に落下が止まり、朱里が下を見ると…

 

「んぎぎぎ~~~…」

 

「張飛ちゃん⁉」

 

鈴々が朱里を受け止めていた。

 

 

 

 

 

 

鈴々は朱里を地面に下ろした。

 

「どうしてここに?」

 

「ど、どうしてって…た、たまたま通りかかったのだ!」

 

そっぽを向きながらそう答える鈴々。

 

「こんな山の中をたまたま?…もしかして私の後を…」

 

「そ、そんなことより早くサロンパ草を摘むのだ!」

 

必死でごまかす鈴々。

 

「鈴々が採ってくるから、お前はここで待ってるのだ!」

 

そう言って崖を登る鈴々。

 

「よっ…ほっ…はっ…」

 

「…………」

 

その様子を朱里は、心配そうに見上げる。

 

しかし、鈴々は軽々と崖を登り、サロンパ草を採って降りてきた。

 

「ほらなのだ」

 

「え?」

 

鈴々はサロンパ草を朱里に差し出した。

 

「でもこれは張飛ちゃんが…」

 

「鈴々は手伝っただけなのだ!お前の方が頑張ったんだから、これはお前が愛紗に持っていくのだ!」

 

またもやそっぽを向いてそう言う鈴々。

 

(それにコレは…愛紗を助けるためにやったことで、鈴々がほめられるためにやったことじゃないから…だからコレでいいのだ…)

 

「…張飛ちゃん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、2人は一緒に山を下りて行った。

吊り橋のところまで戻ったとき、朱里がまた怖がって、立ち止まるの見た鈴々は…

 

「ほら…一緒に渡ってあげるから、さっさと来るのだ」

 

手をつないで、一緒に渡ってあげた。

 

吊り橋を渡り終わってからしばらくして…

 

「張飛ちゃんって優しいんですね」

 

「な、何を言っているのだ!お前が…あ」

 

…と、そこで鈴々は吊り橋から、ずっと朱里と手を繋いでいたことに気付き、慌て手を放した。

 

「お前がぐずぐずしているから、仕方がなかっただけで…鈴々は別に優しくなんかないのだ!」

 

またまた、そっぽを向きながらそう言う鈴々。

 

「あの…張飛ちゃん!」

 

「?」

 

「私…張飛ちゃんのこと、真名で“鈴々ちゃん”って呼んでもいいですか?」

 

「なっ⁉………お、お前がそうしたければ、好きにすればいいのだ!

でも、鈴々はお前のこと、真名で呼んだりなんかしないのだ!

それでもいいなら、勝手にすればいいのだ!」

 

「はい!鈴々ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい朱里」

 

屋敷に帰ってきた2人を、先に戻っていた水鏡が出迎えた。

 

「水鏡先生!サロンパ草です!」

 

「まあ!一人で採ってこれたのね!」

 

「いいえ!」

 

「え?」

 

そこで朱里は、鈴々の手を取り…

 

「鈴々ちゃんが手伝ってくれたんです!」

 

「まァ、そうだったの…」

 

「………っ」

 

鈴々は照れ臭そうに、俯くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その夜~

 

「これで良し」

 

2人が採ってきたサロンパ草で早速薬を作り、愛紗の足に塗った。

 

「たぶん、明日のお昼にはもう歩けるようになっていますよ」

 

「そんなに良く効くのですか?」

 

「ええ」

 

「そうですか。孔明殿、わざわざ採ってきてくれて、ありがとうございます」

 

「いいえ」

 

「それから…鈴々も」

 

「!」

 

「孔明殿から聞いたぞ。よくやったな」

 

「……り、鈴々は愛紗の妹なのだから当然なのだ!」

 

「ふふ…」

 

「あはは…」

 

「にしし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

「すっかり腫れが引きましたね。もう歩いても大丈夫でしょう」

 

「よかったな愛紗」

 

「でも、大事をとって今日一日はまだ休んだ方が良いでしょうね」

 

「そうですか。それではルフィ殿、鈴々。明日には出発するから、今日の内に支度を終えておくのだぞ」

 

「ああ」

 

「わかったのだ」

 

「…………」

 

その時、一緒にいた朱里の顔が少し曇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴々ちゃん…明日出て行っちゃうんですね…」

 

鈴々が支度をしていると、部屋の入り口から様子を見ていた朱里が、話しかけてきた。

 

「うん!愛紗の足が治ったから、もうここにいる理由はないのだ」

 

「そうですよね…」

 

「?(孔明?)」

 

(せっかく、仲良くなれたと思ったのに…)

 

「…………」

 

「…………」

 

朱里が淋しそうな顔をしているのに気付いた鈴々は、しばらく黙っていたが、やがて顔をあげ…

 

「…孔明、一緒に来るか?」

 

「え?」

 

「こ、孔明には、愛紗を助けてもらったから…孔明が一緒に来たいっていうなら、鈴々が愛紗達に頼んであげるのだ!」

 

「…いいんですか?」

 

「鈴々は別に構わないのだ!“旅は道ずれ世は”…“世は情けない”って言うし!」

 

「…ふふっ…!“世は情け”ですよ。…ありがとう鈴々ちゃん。私、鈴々ちゃん達と一緒に行きたい!」

 

「!わかったのだ!じゃあすぐに鈴々が…」

 

「ううん。私が自分でお願いするよ」

 

「そ、そうなのか?…で、でも孔明一人だと心配だから、やっぱり鈴々も一緒にお願いするのだ!」

 

「鈴々ちゃん…うん!一緒にお願いしよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いします!私も旅のお供にくわえて下さい!」

 

「鈴々からもお願いするのだ!」

 

「……関羽さん。朱里のこと、お願いしてもいいでしょうか?」

 

「……わかりました。孔明殿、一緒に行きましょう」

 

「水鏡先生!関羽さん!ありがとうございます!」

 

「よかったのだ!孔明!」

 

「うん!鈴々ちゃんもありがとう!」

 

そう言って、手を取って喜ぶ二人。

 

(まさか、鈴々が孔明殿に言わせてしまうとはな…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その夜~

 

「では水鏡殿、本当によろしいのですね」

 

「ええ。朱里のこと、どうぞよろしくお願いします」

 

「わかりました。この関雲長、諸葛孔明殿を責任もってお預かりします!」

 

「はい、ありがとうございます。…それにしても、あの子は恵まれていますね」

 

「え?」

 

「ここ数日、関羽さん達の様子を見て、私は朱里には是非とも、あなた達と一緒に行って欲しいと、そう思っていました」

 

「それは…どうして?」

 

「関羽さん、あなたと張飛ちゃんも、まだ気が付いていないのでしょうけど…ルフィさんと出会えたことは、本当に幸運なことだと、私は思いますよ」

 

「ルフィ殿が?」

 

管仲(かんちゅう)の聖と隰朋(しゅうほう)の智とをもってして、その知らざるところに至りては、老馬と蟻とを師とするを(かたし)とせず」

 

「え?」

 

「彼は自分の力不足を知り、優れた者の力を頼り、自分は自分で、可能な限りの力を尽くそうとすることができる人物だと、私は感じました」

 

「しかし水鏡殿、彼はそれを書物で学んだわけでは…」

 

「ええ、だからこそです」

 

「?」

 

「彼は書物を読むような人ではないでしょうから、別の方法で学んだのでしょう。

他者から直接聞いたのか、自分自身で考えたのか。

どちらにせよ書で学ぶことより、難しいことです」

 

「!」

 

「ましてや彼は、それを覚え披露するための知識ではなく、自身が生きるための知恵として使っています。

これほどのことができる人物は、そうそういません」

 

「…………」

 

「今はまだ、彼はその器を生かすための、人員や力が足りないようですが、一度それを手に入れれば、たちまち世界を大きく揺るがす人物になる。

私はそう考えています」

 

「水鏡殿…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌朝~

 

別れの挨拶を済ませ、ルフィ、愛紗、鈴々、そして朱里は出発した。

すでに水鏡の屋敷は、かなり小さくなっている。

 

「水鏡先せ~い!お元気で~!」

 

「孔明、ここからじゃ聞こえないのだ」

 

「…でも、もう当分会えないから…」

 

「じゃ、じゃあやっぱり…帰るのか?」

 

少しだけ悲しそうな顔をする鈴々。

 

「ううん。皆と一緒に行くよ」

 

「そ、そうか」

 

安心したように、鈴々の顔が明るくなる。

 

同時に、悲しげだった朱里の顔も明るくなり…

 

(水鏡先生、今まで本当にお世話になりました!私…頑張ります!)

 

そんな思いを胸に、朱里は仲間と共に道を進むのだった。

 

 




今作では、鈴々と朱里をもう少し友達みたいな感じにしたいと思い、こんな感じになりました。



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第25話 “仲違い”

今回、革命シリーズのキャラが登場します。




星と逸れたルフィ、愛紗、鈴々が朱里を仲間に加えてから、数日後―――

 

「そういえば、前に霧の中で逸れてしまったお仲間の…」

 

「趙雲だ」

 

「その趙雲さんとは、結局逸れたままですけど大丈夫でしょうか?」

 

「なァに、あやつも子供ではない。きっとどこかの空の下で、元気にやっているさ」

 

「あと、ルフィさんも逸れてしまった、天の国の仲間を探しているって…」

 

「ああ。だがルフィ殿が言うには、皆頼りになる奴らだから、そんなに心配しなくても大丈夫だそうだ」

 

「…信頼しているんですね」

 

「その通りだ」

 

「あ」

 

愛紗と朱里がそんなことを話していると、先頭を歩いていたルフィが声をあげた。

 

見るとまたしても道が2本に分かれていた。

 

「分かれ道ですね」

 

「なあ、どっちに行く?」

 

「鈴々に任せるのだ!」

 

そう言うと鈴々はまた、分岐点の真ん中に蛇矛を突き立て、手を合わせる。

 

「むむむむむ~…」

 

カタン

 

蛇矛は右に倒れた。

 

「こっちなのだ!」

 

「よし、ではこっちの道を行くとしよう」

 

そう言って、愛紗は左の道へ行こうとする。

 

「何でなのだ⁉」

 

「当たり前だ!この前、お前の占いの通りに行ったら、霧にまかれ、足を滑らせて怪我をし、星とも離れ離れになったのだぞ!」

 

「で、でも…占いではこっちって…」

 

気まずそうにしながらも、鈴々は反論する。

 

「だ~か~ら~!その占いがアテにならんというのだ!」

 

愛紗の方も、わざわざ逆撫でするような言い方で反論する。

 

「むぎ~~~!」

 

「ぬ~~~!」

 

「はわわ~…」

 

案の定鈴々は頭にきて、2人は完全に険悪なムードになってしまう。

 

「でもよー愛紗、鈴々の占いの通りに行かなかったら、孔明に会えなかったぞ」

 

「それに、鈴々ちゃんの占いがアテにならないなら、占いの通りに行っても、必ず悪いことが起こるワケではないでしょうし…」

 

「む…ま、まァ確かに…」

 

ルフィと朱里に反論されて、愛紗が折れかける。

 

しかし…

 

「余計なことは言わなくていいのだ!」

 

「「「⁉」」」

 

何故か鈴々がさらに不機嫌になってしまった。

 

「これは鈴々と愛紗の問題なのだ!二人は関係ないんだから黙ってるのだ!」

 

「え…」

 

「…………」

 

「コラ鈴々!何てことを言うのだ!二人はお前を庇って…」

 

「それが余計なことなのだ!」

 

そう言うと鈴々は蛇矛を拾う。

 

「とにかく鈴々は占い通りこっちに行くのだ!」

 

「っ!勝手にしろ!」

 

「勝手にするのだ!」

 

そして鈴々は、右の道を進んで行った。

 

「鈴々ちゃん!…良いんですか、一人で行かせて?」

 

「構わんさ。どうせすぐに淋しくなって『やっぱりみんなと一緒の方が良いから、一緒に行くのだ~!』とか言って、追いかけてくるに決まってる。

さ、お二人とも、我らも行きましょう」

 

そう言って、愛紗も左の道を進み始めるが…

 

「行かねェ」

 

「「え?」」

 

そう言うとルフィはその場で横になる。

 

「ここで寝てる」

 

「―――っ!か、勝手して下され!」

 

「え…?えええ~~~⁉」

 

鈴々は右、愛紗は左に進み、ルフィはそのまま眠り、残された朱里は完全にパニックになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(愛紗ってば、ルフィと孔明ばっかり…)

 

1人になった鈴々がしばらく歩いていくと…

 

…キン!…ガキン!

 

「…?」

 

前方から太刀音が聞こえてきた。

 

「何なのだ?」

 

気になった鈴々は駆け足で先に進む。

 

すると…

 

「何すんのさ~⁉」

 

「ていて~い!」

 

「ハッ!」

 

3人ほどの女が、数十人の集団と戦っているのが見えた。

女達の方は、一台の荷車を守るように戦っている。

 

「ちくしょう…こいつら案外手ごわいぞ!」

 

「ひるむんじゃねェ!数はこっちの方が上なんだ!かかれ!」

 

「ハァ…ハァ…しつこいなあ…」

 

「無駄な抵抗すんじゃねェよ!別に殺しはしねぇぜ!」

 

「おめェら三人とも中々上玉だからな!とっ捕まえてイイコトしてやるぜ!」

 

「そんなの絶対にイヤダもんね!」

 

どうやら数が多い方は山賊のようだ。

 

「オラァ!観念しやがれ!」

 

「観念するのはそっちなのだー!」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

その叫び声と共に、鈴々が賊に突撃する。

 

「うおりゃァーーー!」

 

ドカーーーン!

 

「「「「「「「「「「ギャーーーーーッ⁉」」」」」」」」」」

 

鈴々の桁違いの強さに加え、背後から不意を突かれて襲われたため、一気に大量の賊が吹き飛ばされた。

 

「な、なんだこのガキ⁉」

 

「こいつらの比じゃねェぞ⁉」

 

「に、逃げろーーーっ!」

 

山賊達は慌てて逃げだした。

 

「すご~い!君強いんだね~!」

 

電々(でんでん)達と同じくらいなのにすごいね~!」

 

賊が撤退した後、襲われていた3人のうち2人が声をかけてきた。

 

2人とも年齢は鈴々と同じくらいで、白を基調とした服を着て、オレンジ色の髪をしている。

片方は髪が短くつり目で、もう片方は髪が長く丸い目をしている。

 

「危ないところを助けていただき、ありがとうございました」

 

もう1人の女もお礼を言う。

 

メイドのような恰好をしており、ピンクと紫の中間のような髪の色をしている。

年齢は愛紗と同じくらいだ。

 

「紹介が遅れました。私は“孫乾(そんけん)”、字を“公祐(こうゆう)”といいます」

 

メイド服の女性が自己紹介をする。

 

「私は“雷々(らいらい)”だよ~」

 

「私は“電々(でんでん)”~」

 

「鈴々の名前に似ていて、良い名前なのだ!」

 

「えへへ~」

 

「そうでしょ~」

 

「あの皆さん、こういう時は真名ではなく、ちゃんと姓と名と字で…」

 

「あ、いけな~い!」

 

「そうだった!」

 

孫乾に言われ、2人は改めて自己紹介をする。

 

「雷々は“糜竺(びじく)”、字は“子仲(しちゅう)”だよ」

 

髪の短い方が言う。

 

「電々は“糜芳(びほう)”、字は“子芳(しほう)”っていうんだ~」

 

髪の長い方が言った。

 

「鈴々は“張飛”、字は“翼徳”なのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴々はとりあえず、3人と一緒に行くことにした。

 

「雷々達はね~徐州の豪商の一族なんだ。

でも、ご先祖様から受け継いだ財産に頼らないで、自分達の力でご先祖様みたいに、どかーんって大きなことやりたくて、家を出て旅をしているの」

 

「この荷車の荷物は徐州を出たときに、電々達が持っていたお金で買った物や、それと交換して手に入れた物、道中自分達で採ったものなんだよ。

これを売ったり、物々交換したりして生計を立てて、いつか自分達のお店を作ろうと思ってるの」

 

「私は徐州刺史の陶謙(とうけん)様にお仕えしていた者だったのですが、お二人が旅に出るにあたって、従者としてついていくように言われたのです。

糜家は陶謙様をはじめ、徐州の多くの太守や県令に援助をしている財産家なので、お礼として、せめてものお力添えをしようとしたのです」

 

「なるほどなのだ」

 

「“美花(みーふぁ)”ちゃん戦っても強いし、炊事も洗濯もできるから、雷々達もすごく助かってるんだ~」

 

「電々達も美花ちゃんに稽古つけてもらっているから、少しは強いんだけどね…」

 

どうやら美花というのは、孫乾の真名のようだ。

 

「ねえ、張飛ちゃんはどうして旅をしているの?」

 

「えっ⁉そ、それは…」

 

電々に訊かれ、鈴々の脳裏に愛紗、ルフィと初めて出会った日のことが浮かぶ。

 

―――――世の中を変えるため…世の中を変える方法を探すために、ルフィどのは逸れてしまった仲間を探すために旅をしている

 

「り、鈴々は…」

 

「あの…言いたくないなら、無理して言わなくてもいいよ?」

 

「うん…なんだかごめんね…」

 

「べ、別に二人が謝ることなんてないのだ…!」

 

「?」

 

「…そういえば、糜竺と糜芳はよく似ているけど、姉妹なのか?」

 

「うん、雷々がお姉ちゃんだけど…」

 

「そんなに似てないよね?」

 

「鈴々から見たら、二人ともそっくりで、あまり見分けがつかないのだ」

 

「「え~?こんなに違うのに~?」」

 

(徐州でも結構間違われていましたけどね…)

 

ひそかにそう思う美花だった。

 

「…あ、あの…」

 

「何?張飛ちゃん?」

 

「糜竺と糜芳は…ケンカしたことって…あるのか?」

 

「「え?」」

 

鈴々の質問に、2人は少し考えていたが…

 

「何回かはあるよね」

 

「うん。数えていないけど、けっこうあると思う」

 

「そ、そういう時って、どうやって仲直りしているのだ?」

 

「「う~ん…」」

 

2人はまたしばらく考えていたが…

 

「やっぱり『ごめんなさい』って謝ってるよね?」

 

「うん。どっちからってワケではないけど…いつもだいたい二人同時に謝ってるよね?」

 

「…そうなのか?」

 

「うん。だってそれまでずっと一緒にいたんだもん」

 

「それからもずっと一緒にいたいもんね~」

 

「…ずっと…一緒にいたい…」

 

―――――鈴々達は兄妹だから、ずっと一緒なのだ!

 

2人の答えを聞き、考え込んでしまう鈴々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜―――

 

「さ、できましたよ」

 

美花が携帯用の調理道具で、夕食を用意した。

 

「わ~い!美花ちゃんありがと~!」

 

「張飛ちゃんも食べよ~!」

 

雷々と電々は鈴々に呼びかけるが…

 

「…………」

 

鈴々は体育座りのまま、うつむいて動かない。

 

「張飛ちゃん?」

 

「食べないの?」

 

「!た、食べるのだ!」

 

2人が下から顔をのぞきこみながら呼びかけると、鈴々はようやく反応して、食事に手を付ける。

 

しかし…

 

「…………」

 

表情は沈んだままで、いつものような食欲もなく、結局ほとんど残してしまった。

 

(ルフィ…愛紗…孔明…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~同じ頃―――ルフィside~

 

「あむあむ…」

 

ルフィは分かれ道のところで、焚火を起こし、獲ってきた鹿の肉を食べていた。

 

「あのう…ルフィさん…」

 

「ん?」

 

隣に座っていた朱里がルフィに話しかけてきた。

 

あの後、結局朱里はルフィと一緒にそこに残ったのだった。

 

「本当にこのままでいいんですか?」

 

「何が?」

 

「関羽さんと鈴々ちゃんのことです!二手に分かれるか、せめてどっちかだけでも追いかけた方が…」

 

「いいんだよコレで」

 

「でも…」

 

「おれはこのまま待つ」

 

「“待つ”?」

 

「じゃ、おやすみ~」

 

そう言ってルフィは眠ってしまった。

 

「…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~同じ頃―――愛紗side~

 

「…………」

 

日が暮れて愛紗は焚火を起こしたものの、夕食も摂らずに横になっていた。

 

(ルフィ殿…孔明殿…鈴々……)

 

愛紗はしばらく横になったまま、何やら考え込んでいたが…

 

「…………」

 

やがて起き上がり、焚火を消すと歩き始めた。

 

 

 

 




…と、いうワケで、愛紗と鈴々のケンカ回、雷々、電々、美花の初登場回でした。
私はいまだに、雷々と電々、どっちがどっちだか分からなくなります…。



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第26話 “華蝶見参”

タイトルの通り、()()()が登場します。




愛紗と鈴々がケンカをした次の日―――

 

「ぐ~…」

 

「…すう…んん?…朝ですか?」

 

ルフィと一緒に寝ていた朱里が目を覚ました。

 

「ふあ~…あれ?」

 

大きくあくびをした後、朱里は何者かがこちらに歩いて来ることに気付く。

 

歩いてきたのは…

 

「…関羽さん?」

 

「…孔明殿…」

 

「んんっ~…!」

 

ルフィも目を覚ます。

 

「お、愛紗」

 

「ルフィ殿…えっと…その…」

 

愛紗は表情を曇らせたまま口ごもる。

そんな愛紗を見てルフィは、笑いながら立ち上がり。

 

「じゃ、追いかけるか」

 

「…はい…」

 

(ルフィさん…最初からこうなると…?)

 

朱里はそう思うが、真相を確かめる術はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の昼頃、鈴々達は崖道を進んでいた。

 

「うんしょ…」

 

「よいしょっと…」

 

「皆さん、落ちないように気を付けて」

 

道幅は狭く、荷車がギリギリ通れるほどしかないため、一行は一列になって進んでいた。

先頭を美花が進み、その後ろから雷々が荷車を引き、電々は荷車を押しながら付いて行く。

鈴々は一番後ろを歩いていた。

 

(ルフィ…愛紗…孔明…)

 

その表情は暗く、頭の中は3人のことでいっぱいだった。

 

「ああっ⁉」

 

「きゃー⁉」

 

「⁉」

 

前方から美花と雷々の悲鳴が聞こえ、鈴々が荷車に飛乗って前を見ると、大きな岩がこちらへ転がってくるのが見えた。

荷物が邪魔になって、電々には見えていないようだ。

 

「鈴々に任せるのだ!」

 

そう言うと鈴々は荷車を飛び越えて先頭に飛び出し、蛇矛を構え岩を受け止める!

 

ガキン!

 

「ふぬぬぬぬぬ~…!」

 

「張飛さん!私も手伝います!」

 

美花もそう言って、走り出そうとするが…

 

「動くな!」

 

「「「「⁉」」」」

 

後方から声が聞こえ、振り返ると…

 

「あなた達は…!」

 

「昨日はよくもやってくれたな!」

 

昨日の山賊達が、崖の上から降りてきて、電々に武器を向けていた。

 

「まさかこの岩はあなた達が…⁉」

 

「その通りだ。ついでに教えておくと、もう一つ用意してあるぜ」

 

「…っ!」

 

賊の言葉に鈴々が岩の向こうを見ると、山賊達が同じくらい大きな岩を、いつでも転がせるようにして待機している。

 

「ああっ!」

 

さらに、上を見ていた雷々が声をあげる。

鈴々達が上を見ると、数人の山賊達が下に向かって弓矢を構えていた。

 

「おとなしく武器を捨てな!」

 

「あ、ああ…」

 

「うう…」

 

「くっ…」

 

「ううう~…!(ど、どうすればいいのだ?鈴々が動けば、みんな岩に潰されてしまうのだ…。

でも、糜竺と糜芳と孫乾は上から矢で狙われてるから、動けないのだ…)」

 

絶体絶命の状況で、鈴々は必死に助かる方法を考えようとするが、思いつかない。

さらに、鈴々も岩を支えるのに、限界が近づいていた。

 

(鈴々も…腕が…もう限界…)

 

「ちっ!往生際が悪いな!お前ら、大岩をもう一つお見舞いしてやれ!」

 

「了解!」

 

頭領らしき男の合図で、前方にいた集団がもう1つの岩を転がす!

 

(あんなのが来たら…!もう、ダメなのだ!)

 

そう思い、鈴々は思わず目をつぶる!

 

その時…

 

「おおおおおっ!」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

雄たけびと共に何者かが現れた!

その者は後方の山賊達や雷々、電々、美花を飛び越え―――

 

ドゴゴォン!

 

鈴々が抑えていた岩と、新たに転がってきた岩を砕いた!

 

「あ…」

 

「大丈夫か⁉鈴々!」

 

「ルフィ⁉」

 

「ギャアー!」

 

「ぐあー!」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

さらに、後方から賊の悲鳴が聞こえ始める!

 

「ハァーーーッ!」

 

愛紗が後ろから山賊達に斬りかかったのだ!

愛紗の背後には朱里もいる。

 

「な、何だコイツ⁉」

 

「てーい!」

 

バキッ!

 

「ぐあっ!」

 

すかさず、電々も反撃に出る!

 

「ハァッ!」

 

ヒュン!ヒュン!ヒュン!

 

「うわっ!」

 

「がっ!」

 

「うあっ!」

 

美花も崖の上に待機していた山賊達に、ナイフを投げつけ討ち取る!

 

そしてもちろん前方では…

 

「おおおおおっ!」

 

「おりゃーっ!」

 

「ていやーっ!」

 

「「「「「「「「「「ギャアアアアア!」」」」」」」」」」

 

ルフィ、鈴々、雷々が山賊達を蹴散らしていた。

こうなると山賊達はなすすべもなく、次々とブッ飛ばされたちまち賊は撃退された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かと思われたが…

 

「きゃあ!」

 

「「「「「「⁉」」」」」」

 

後方から悲鳴が聞こえ、ルフィ達が振り返ると…

 

「てめェら全員おとなしくしやがれ!」

 

「はわわ~⁉」

 

「しまった!孔明殿!」

 

山賊の1人が朱里を捕まえ、人質にしていた。

 

「さァ、全員武器を捨てろ!」

 

またもや不利な状況に追い込まれるルフィ達。

 

その時だった。

 

ビュッ

バキッ

 

「ぐあっ⁉」

 

「「「「「「⁉」」」」」」

 

朱里を捕まえていた山賊の頭に、どこからともなく飛んできた石がぶつかった。

賊がひるんだすきに、朱里は逃げ出す。

 

「今のは一体…?」

 

「危ないところだったな!」

 

「「「「「「⁉」」」」」」

 

崖の上から声が聞こえ、全員が上を見ると一人の人影が見える。

 

「あの…あなたは?」

 

朱里がその人物に問いかけると…

 

「ある時は影の薄い太守の客将…またある時はメンマを求める風来坊…。

しかして、その正体は―――

乱世を正すため、地上に舞い降りた一匹の蝶!美と正義の使者!華蝶仮面!ここに見参!」

 

…と、黄色い蝶の仮面をつけた、どう見ても星にしか見えない女性は、高らかに名乗りを上げるのだった。

 

(……な、何をやっているのだアイツは?)

 

正体に気付いた愛紗は、開いた口がふさがらなくなる。

 

「誰なんでしょう?関羽さん達の知っている人ですか?」

 

「あ、いやその…何というか…」

 

朱里に訊かれ、返答に困る愛紗。

 

すると…

 

「全然知らない奴なのだ!」

 

鈴々がはっきりと言い切った。

 

「こんな変態仮面が、鈴々達と知り合いなワケないのだ!」

 

「…………」

 

変態呼ばわりされ、静かに怒気をまとうせ…ではなく華蝶仮面。

 

(あ、明らかに怒っているな…。確かにあの仮面は悪趣味だとは思うが…。というより、鈴々の奴、本当に気付いていないのか?)

 

「何言ってんだ鈴々?」

 

(おお!ルフィ殿は気付かれましたか!

てっきりルフィ殿も分からないかと思っていましたが、野生の勘か何かで気付かれましたか⁉

何にせよ、ルフィ殿が説明してくだされば…)

 

「カッコイイじゃねェかあの仮面!お~い!誰か知らねェけど、孔明助けてくれてありがとうな!」

 

そう言って手を振るルフィ。

 

「…………♪」

 

(…やはり気付いていないのか…まァ、アイツの機嫌がよくなっただけ良しとするか…)

 

「え~?あの仮面はないと思うな~…」

 

「電々も…」

 

「美的概念を疑いますね…」

 

「み、皆さんそんな本当のこと言っちゃだめですよ!いくら残念な人とはいえ、私を助けてくれたんですから!」

 

「こ、孔明殿…その言い方は…」

 

「…………」

 

雷々、電々、美花、朱里にもさんざん言われ、また機嫌が悪くなる華蝶仮面。

 

「諸君…さらばだ!」

 

そう言って、華蝶仮面は去って行った。

 

「一体何者なのだ?」

 

「まーでも、良い奴だと思うぞおれは」

 

(二人とも…本当に気付いていないのですか?)

 

その後は、何の問題もなく、賊は撃退された。

ほとんどの山賊達は崖から落ち、残った者達も命からがら逃げて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここならもう大丈夫でしょう…」

 

戦いが終わった後、一行は急いで崖路を抜け出し、しばらくして、平野に出たところで、一息入れることにした。

 

「……愛紗」

 

そこで、鈴々がポツリと口を開いた。

 

「…愛紗はどうして、こっちに来たのだ?」

 

「どうしてって……お前を探すために決まっているだろう…」

 

互いに目を合わせず、うつむいたまま会話をする2人。

 

「だから……どうして、鈴々を探しに来たのだ?何で……鈴々を置いて行かなかったのだ?」

 

「だ、だから……それは…その…」

 

「兄妹だからに決まってるだろ」

 

「!」

 

「っ!」

 

口ごもる愛紗に代わって、ルフィが答えた。

 

「おれ達は兄妹で、仲間なんだから、いつも一緒だ!そうだろ⁉」

 

「……はい」

 

「……うん。…うっ…」

 

その途端、鈴々の目に大粒の涙が溢れ出す。

 

「うわ~ん!」

 

「ど、どうした鈴々⁉」

 

「ごめんなさいなのだ~!」

 

そう言って、大泣きしながら愛紗に抱き着く鈴々。

 

「鈴々は…愛紗がっ…鈴々の話は…全然聞いてぐれないのにっ…ルフィや…孔明の話ばっかり聞ぐから…悔じぐて…う゛う゛っ…ごめんなさいなのだ~…」

 

「(鈴々、そんな風に思って…)…いや…私も悪かった。少々大人気なかったし、お前の気持ちも考えず、勝手に怒ったりして悪かった…」

 

「愛紗…」

 

「だが鈴々、ルフィ殿達にも謝らねばならんぞ」

 

「あ!」

 

愛紗に言われ、鈴々はルフィと朱里に向き合い。

 

「ルフィ、孔明、ごめんなさいなのだ…」

 

「いいよ」

 

「私も気にしてませんから」

 

2人に許してもらい、鈴々は一気に顔が明るくなる。

 

「ねえねえ、張飛ちゃん」

 

「その人達、張飛ちゃんのお友達なの?」

 

訪ねてきた雷々達に、鈴々は…

 

「この人達は…鈴々のお兄ちゃんとお姉ちゃんとお友達なのだ!」

 

とてもうれしそうに、3人を紹介するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにその日の夕方、とある川辺にて…

 

「…理解してくれたのは、ルフィ殿だけか…カッコイイと思うのだが…」

 

黄色い蝶の仮面を手に取り、そんなことを呟く女性がいたそうな…。

 

 




アニメでは、ケンカの原因がうやむやになってましたけど、今作ではしっかりケジメをつけさせました。



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第27話 “怖くなんかない”

お気に入り登録者数、100人突破しました!
すごく嬉しいです!
登録してくれた方も、してない方も、この作品を読んで楽しんでもらえたらな~と思います!



ルフィ、愛紗、朱里は、鈴々と合流した後、雷々、電々、美花と一緒に行くことにした。

 

「そんなことがあったんだ」

 

「でも、張飛ちゃんの占いの通りに来てくれなかったら、電々達は危なかったよ~」

 

「張飛さんの占いは、安全な道や近道ではなく、運命(さだめ)として進むべき道を示すのかもしれませんね」

 

愛紗と鈴々がケンカをしたいきさつを聞き、雷々達はそんなことを言うのだった。

 

「あのう、皆さんは占いとかを信じているのですか?」

 

朱里が雷々達に訊ねる。

 

「うん。信じてはいるよ」

 

「全部占い任せってワケじゃないけどね」

 

「どうしても判断を下せない場合には、頼らせていただきますね」

 

「孔明ちゃんは信じていないの?」

 

「私はあまり…。占いとか妖術とか、化物とかの類はあまり信じないことにしてます。

まるっきり出鱈目だとも、言い切れないですけどね」

 

「おれは信じてるぞ。占いも妖術も化物も、あった方が面白ェからな」

 

「お、面白くなどありません!」

 

「そ、そうなのだ!化物なんて、いない方がいいに決まっているのだ!」

 

ルフィの言葉に、過剰に反応する愛紗と鈴々。

 

「「「「「?」」」」」

 

「あ…そ、そういえば糜竺殿達は随分大荷物ですが、何をそんなに持っているのですか?」

 

そんな2人をルフィ達が不思議そうに見ていると、愛紗が露骨にごまかそうとする。

 

「色々あるんだよ。保存のできる食べ物とかお酒とか…」

 

「食器とか武器とか馬具とか、あとその材料の木とか石とか、獣の毛皮に鉄塊に漆でしょ…」

 

「あと、少しではありますが紙や絹、真珠や宝石など高価なものもあります」

 

「皆さんはそれらを使って、生計を立てているんですね」

 

そんなことを話しながら歩いていると、前方に城壁が見えてきた。

 

「お、街か?」

 

「いえ、アレはおそらく関所でしょう」

 

愛紗の言う通り、見えてきた城門は関所だった。

 

ルフィ達が関所を通ろうとすると…

 

「あ、お待ちください」

 

守備兵に呼び止められた。

 

「申し訳ないのですが、ここの門はもう閉めますので…」

 

「え、閉めるって…」

 

「まだお日様は沈んでいないのだ」

 

「ですが、今からここを通るとなると、山中で日が暮れてしまい…」

 

「別に野宿には慣れていますから、問題ありません」

 

「いえ、実は…」

 

「何かあったのですか?」

 

「この先には…化物が出るんです」

 

「「「「「「「化物⁉」」」」」」」

 

「はい。ですから今日は、そこの小道を行った先にある集落に泊まっていただいて、明日の明朝に出発された方が…」

 

「………いかがいたしましょう?」

 

「とりあえず、そこの集落に行ってみましょう。そこでもう少し詳しく話を聞いてから、考えた方がいいかと…」

 

「孔明殿の言う通りですな。そうしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関所の兵士に言われた通り、小道を進むと民家の集落があった。

ルフィ達は、そこで見つけたお寺に泊めてもらうことになった。

 

「ようこそおいで下さいました。私はこの寺の和尚で、“普浄(ふじょう)”と申します」

 

「突然押しかけて、申し訳ありません」

 

「それで和尚様。化物が出るというのは?」

 

「はい。事の始まりは、今から数か月前のことでした。

ある隊商が沢山のお荷物と護衛の兵士を連れ、ここの関所を通ろうとしました。

その時、日はすでにだいぶ傾いていたのですが、皆様はお急ぎだったようで、夜通し歩いて山を超えると言い、ここを通りました。

すると次の日の朝、護衛兵の一人がひどく混乱した様子で、お役人様に助けを求めてきたのです。

お役人様が行ってみると、隊商と護衛兵達が皆深手を負って倒れており、積荷は全てなくなっておりました。

話を聞いてみると、夜中に歩いていたところを、化物に襲われたと言うのです。

それから、夜に山道を通ると化物に襲われ、身ぐるみ剥がされてしまうため、今では『日が出ているうちに山を越えられそうにない者は、関所を通さない』と決められているのです」

 

「しかし、それは化物ではなく、ただの山賊の仕業だとも考えられるのでは?」

 

一通り話を聞いて、美花が訊ねる。

 

「最初はこの辺りの住民や、お役人様もそう考えていたのですが、最初に隊商が襲われた次の晩に調べたところ…しかとこの目で見まして…」

 

「和尚様は見たのですか?」

 

「は、はい。

『死者の怨念が原因かもしれぬので、もしそうなら成仏させてやって欲しい』と言われ、討伐隊と共に向かったのですが…。

闇夜の中で怪しく光る眼、鋭い爪と(くちばし)、大きな翼を広げて闇夜を舞い、物音ひとつ立てずに次々と人を襲うその姿は、正真正銘の化物でした…」

 

「あ…あああ…」

 

「うにゃ~…」

 

普浄の話を聞き、顔を引きつらせ、震えだす愛紗と鈴々。

 

「ねえ、雷々達で化物を退治しよう!」

 

「賛成!」

 

「ええ。こういう時こそ、私達の出番ですね」

 

「よし!おれ達も手伝うぞ!」

 

「はい!」

 

「「ええっ⁉」」

 

雷々の提案にルフィ達が賛同する中、愛紗と鈴々が明らかに嫌そうな反応をする。

 

「ん?やらねェのかお前ら?」

 

「てっきり関羽さん達も、そのつもりだと思っていたんですけど…」

 

「私も…」

 

「雷々も…」

 

「電々も…」

 

ルフィ達5人が不思議そうに2人を見る。

 

「い、いえその…び、糜竺殿達はど、どうしてそのような事をしようと?」

 

「だってこの道、洛陽(らくよう)河北(かほく)へ行くのに、すっごく大事な道だよ」

 

「この道を通れなかったら、すごく遠回りしなくちゃいけないから、商人はすごく困るよ。そうでしょ、和尚さん?」

 

「はい。確かに、あそこは洛陽や河北に向かう、多くの商人が利用しておりましたため、困っている方は大勢います」

 

「ほらね。同じ商人として放っておけないもん」

 

「それに物流が悪くなると、みんなの生活やお役人様の(まつりごと)にも影響が出るよ」

 

「そ、それはそうですが…」

 

「で、でも鈴々達にも、いろいろと都合があるのだ!」

 

「どうしたんだよお前ら?」

 

「お二人とも、本当に変ですよ?」

 

「はい。私もそう思います」

 

ルフィ、朱里、美花が不思議そうに2人を見ている中、雷々と電々の顔がにやけだす。

 

「あれ~?もしかして張飛ちゃん達~…」

 

「怖いの~?」

 

「こ、怖くなどない!」

 

「そ、そうなのだ!鈴々達にかかれば、化物なんてあっという間にやっつけられるのだ!」

 

正直に言えばいいのに、見栄を張ってしまう2人。

 

「じゃあ大丈夫だね♪」

 

「みんなで化物退治、頑張ろ~♪」

 

「「あ…」」

 

2人は露骨に“しまった”といった感じの顔をするが、すでに後の祭りだった。

 

「あの…本当に化物を退治していただけるのですか?」

 

「おう!任せとけ!」

 

「ありがとうございます!では、早速…」

 

「普浄殿、どうかなさいましたか?」

 

…と、そこへ誰かがやって来た。

 

「おや、皆さんは…」

 

「あれ?さっきの関所にいた守備兵の…」

 

「“胡班(こはん)”と申します。こちらの普浄殿と私の父がお知り合いでして、時々様子を見に来ているのです」

 

「そうだったのですか」

 

「胡班よ、この方々が化物を退治してくださるそうだ」

 

「え、本当ですか⁉」

 

「うん!本当だよ」

 

「電々達、それなりに武術には自信があるからね」

 

「それは助かります!今、丁度役所の方で、その話し合いをしているので、ぜひ来てください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~役所~

 

「始めまして。私がここの関所を管理しております“王植(おうしょく)”といいます」

 

「我々は化物の話を聞き、近辺の県から派遣されてきた将兵で、私は“孔秀(こうしゅう)”」

 

「私が“韓福(かんふく)”」

 

「“孟坦(もうたん)”です」

 

「“卞喜(べんき)”」

 

「“秦琪(しんき)”と申します」

 

「は、初めまして。私は“関羽”。こちらが旅の同行者の“張飛”、“孔明”殿、“糜竺”殿、“糜芳”殿、“孫乾”殿。異国の出身の“ルフィ”殿です」

 

「ん?その黒い髪…もしやあなたは例の“黒髪の山賊狩り”では⁉」

 

「えっ⁉関羽さんが⁉」

 

「そうなの⁉」

 

王植の言葉に朱里や雷々達、孔秀達も驚く。

 

「えっと…自分からそう名乗っているワケではないのですが、そう呼ぶ者もいるようで…」

 

「そうだったんだ~!」

 

「すご~い!」

 

ますます驚く雷々達に対して…

 

「黒髪の綺麗な絶世の美女だって噂だったのに…」

 

「ま、噂なんてそんなもんだろ…」

 

露骨にがっかりしたような王植達だった。

 

「愛紗」

 

「ルフィ殿、何も言わなくていいです…」

 

「えっと…それで、皆さまが化物退治に協力してくださるということですが…」

 

「え、ええ…」

 

「協力していただけるのはありがたいですが、一つだけ条件があります」

 

「条件とは?」

 

「化物をおびき寄せるための餌は、あなた方で用意してください」

 

「餌?」

 

「その化物はどういうワケか、金目の物を持った人が通らないと、現れないのです」

 

「以前、武装した兵士だけで向かいましたが、現れなかったことがありまして」

 

「それで仕方がなく、討伐隊に金銭や食料などを餌として持たせ、化物おびき寄せているのですが、その度に奪われてしまう始末で…」

 

「金目の物を…」

 

話を聞いて、考え込む朱里。

 

「討伐の度にお金がかかってしまうものですから、我々も困り果てていたのです」

 

「ですから、我々としてもこれ以上の無駄使いは避けたいワケでして…」

 

「わかった。雷々達が持ってきたものがあるから、餌はそれを使うね」

 

「それならばいいです。よろしくお願いします」

 

「糜竺ちゃん、糜芳ちゃん」

 

「何、孔明ちゃん?」

 

「ちょっとお願いがあるのですが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜―――

 

「餌にする宝石準備できたよ~」

 

「孔明ちゃんに言われたことも、やっておいたよ」

 

「ありがとうございます」

 

「孔明殿、お二人に何を?」

 

「秘密です」

 

「これで、準備は整いましたね」

 

「よし!じゃあ行くか!」

 

「では、お願いします」

 

「皆さん、くれぐれもお気をつけて」

 

そして、ルフィ達は化物を退治するべく、夜中に関所を越え、山へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

松明を持ったルフィを先頭に、その背中にぴったりとくっついて行く愛紗と鈴々。

その後に、宝石を入れた袋を持った朱里、そして松明を持った雷々と電々がつづき、最後尾が美花である。

 

「これは…いかにも化物が出そうな雰囲気ですね」

 

「そ、孫乾殿!変なことを言わないでください!」

 

「早く出て来ねェかな~。どんな奴なんだろうな~?」

 

「る、ルフィはどうして楽しそうなのだ⁉」

 

「ね~関羽さん達~。やっぱり怖いんじゃないの~?」

 

「うん。さっきから身体が震えているよ~?」

 

「ば、馬鹿なことを言うな!怖くなんかない!」

 

「そ、そうなのだ!こ、これは武者震いなのだ…!」

 

雷々と電々に言われ、必死に強がる愛紗と鈴々。

 

「それはちょっと無理があるかと…」

 

「じゃあ、そんなにルフィさんにくっついてるのは何でかな~?」

 

「る、ルフィ殿が逸れないようにするためだ!」

 

「ま、また星みたいに逸れたら、大変なのだ!」

 

「あ!」

 

「「ひっ⁉」」

 

突然、雷々が声を上げた。

 

「な、何ですか⁉」

 

「あそこに綺麗な花がさいているな~って」

 

「お、脅かさないでください」

 

「はっ!」

 

「「ヒィッ⁉」」

 

今度は電々が声を上げた。

 

「な、何なのだ⁉」

 

「いや~電々の顔に虫が止まって…」

 

「な、ならいいのだ…」

 

「………もう、お二人とも、少し悪戯が過ぎますよ」

 

見かねた朱里が2人を注意する。

 

「ごめんごめん」

 

「二人が面白かったから、つい…」

 

(確かに面白いですけど…)

 

 

 

 

 

 

「出て来ねェな~…」

 

一行はだいぶ歩いたが、何かが現れる気配は全くなかった。

 

「それにしても、今夜は雲が多いですね…」

 

「はい。おかげで月も全然見えませんね…」

 

朱里と美花がそんな会話をすると…

 

「そういえばさ~電々」

 

「あ~、()()もこんな雲の多い夜だったね~」

 

雷々と電々がそんなことを言い出す。

 

「お、お二人とも…」

 

「あ、アレって一体何なのだ?」

 

止めておけばいいのに、愛紗と鈴々が詳しく聞こうとする。

 

「あれは数年前のことだったね~」

 

「家のお手伝いで隊商を率いていた時だったね~」

 

「「「「「…………」」」」」

 

思わず全員が2人の話に聞き入る。

 

「その夜、雷々達は川の近くで、野宿をすることにしたんだ。そしたら夜中に、水音がして…」

 

「『誰か川で溺れているのかも』そう思って、電々達は馬だけを残して、音のする方へ向かったんだ…」

 

「けど川には誰もいなくて、いつの間にか水音も聞こえなくなって…」

 

「すると突然、馬の悲鳴みたいな鳴き声が聞こえて、電々達は急いで戻ったんだ…」

 

「「「「「…………」」」」」

 

「「そしたら……」」

 

「「「「「…そしたら…?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「アァーーーーーッ‼」」

 

「「ぎやあァーーーーーっ⁉」」

 

バタン…

 

突然、雷々と電々が上げた大声に驚き、愛紗と鈴々は気絶してしまった。

 

「ありゃ~…」

 

「ちょっとやりすぎたかな~…?」

 

「ちょっとじゃないと思います…」

 

「お二人とも、怪談を話すの結構お上手ですね」

 

「え、ホント?」

 

「えへへ~、そうかな~?」

 

「孫乾さん、今はそれを褒める時ではないかと…」

 

「おい、どうすんだコレ?」

 

「もしも~し、関羽さ~ん」

 

「張飛ちゃんってば~」

 

ルフィに言われ、2人をゆすり起こす雷々と電々。

 

「う、う~ん…?」

 

「は、はにゃ~…?」

 

そして…

 

「お~き~ろ~」

 

「め~を~さ~ま~せ~」

 

「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~~っ⁉」」

 

ダーーーーーッ!

 

目を覚ますと同時に、松明を顔に近づけて雰囲気を作り脅かしたため、愛紗と鈴々は完全にパニックになり、走って先へ行ってしまった。

 

「…行っちまったぞ」

 

「…二人とも、少しは反省してください」

 

「…あ、うん」

 

「…ご、ごめんなさい」

 

朱里に言われ、素直に反省する二人。

 

「とにかく、急いで追いかけ…」

 

「化物ォ~~~‼」

 

「なのだ~~~‼」

 

「「「「「⁉」」」」」

 

美花が言いかけたとき、前方から2人の悲鳴が聞こえ、ルフィ達は走り出した。

 

 

 

 

 

 

「愛紗!鈴々!」

 

「はわわ⁉二人ともしっかりしてください!」

 

しばらく行くと、道の真ん中で倒れている2人を見つけた。

 

「…気絶しているだけみたいですね」

 

「それより、二人がここで倒れているってことは…」

 

「うん、きっとこの辺りに化物が…」

 

電々がそう言うと同時に、ルフィ達4人は朱里、愛紗、鈴々を真ん中に囲い、周囲を警戒する。

 

「…どこだ?」

 

ルフィは拳を構え、雷々は円い金属板が円周上に大量についた円盤型の武器“鍛武輪(たんぶりん)”を、電々は鈴が付いたトンファーのような武器“反怒兵流(はんどべる)”を一対ずつ持ち、美花は懐から数本のナイフのセット“冥土禍兵(めいどかへい)”を取り出す。

 

「「「「「…………」」」」」

 

そのまま動かず、周囲を警戒していると…

 

バッ!

ズギャッ!

 

「うあっ⁉」

 

「電々⁉」

 

突然、電々が何かに吹っ飛ばされた!

 

「糜竺さん!後ろ!」

 

「⁉」

 

朱里が叫び、雷々が振り返った瞬間―――

 

ドカッ!

 

「きゃあ⁉」

 

後ろに迫っていた化物に、雷々もやられてしまう!

 

「にゃろっ!」

 

すかさずルフィが飛び出し、化物を真横に蹴り飛ばそうとするが―――

 

バサッ

 

「ありっ⁉」

 

「なっ⁉」

 

「はわわっ⁉」

 

「今、空中で―――」

 

「上に移動した⁉」

 

その化物は翼を広げ空中を飛び、ルフィの攻撃を躱した。

 

暗闇でよく姿は見えないが、翼には羽毛が生えており、一見すると巨大な鳥のようだが、人間のような胴体がある。

 

ギュン!

 

「きゃあ⁉」

 

「孔明!」

 

ルフィ達が驚いていると、化物は急降下して朱里を襲い、宝石が入った袋を奪った。

 

「おのれっ!」

 

すかさず美花がナイフを投げつける!

 

ズバッ!

 

相手のスピードは速かったが、背後から上昇中に投げたため、ナイフが右の羽をかすった。

 

「ちっ…!」

 

全員を相手にすると不利と悟ったのか、化物はそのまま翼を広げて逃げようとする。

 

「おい待てェ!」

 

「ルフィさん!今は愛紗さん達の方が先です!」

 

「!わかった…!」

 

追いかけようとするルフィを、朱里が止めた。

 

「どうしよう…」

 

「うん、本当に化物だったよ…」

 

「いえ、おそらくアレは人間です」

 

「はい、私も孫乾さんと同じ考えです。

とりあえず、今夜は引き上げましょう。仕込みもしてありますから、上手くいけば明日、退治できるかもしれません」

 

「⁉…これは?」

 

先ほど投げたナイフを拾った、美花が呟いた。

 

「どうしたんですか?」

 

「これを見て下さい」

 

「それって…」

 

美花が差し出したナイフには、血が付いておらず、代わりに何かが突き刺さっていた。

それは本物の鳥の羽だった。

 

「…………」

 

「あの、ルフィさん?」

 

「さっきから何か考え込んで、どうしたの?」

 

「いや…あの化物、何かに似てるような気がして…。何だったかな~…?」

 

 




雷々、電々、美花の武器の名前は、オリジナルで考えました。



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第28話 “探偵 諸葛亮孔明”

翌朝―――

 

ルフィ達は寺で朝食を食べながら、昨晩のことを話していた。

 

「何⁉アレは人間⁉」

 

「はい。間違いありません」

 

「おのれ謀りおって~!しかし、そうと分かれば、もう怖くないぞ!」

 

「…ということは、やはりそうと分かるまでは怖かったのですね」

 

「あ…」

 

美花に言われ、墓穴を掘ってしまったことに気付く愛紗だった。

 

「そもそもよく考えれば、人の仕業だとわかると思いますよ」

 

「孔明、どういうことなのだ?」

 

「いいですか?通行人を無差別に襲うのではなく、金目の物を持った人だけを襲う。これは明らかに、金目当ての人間の仕業です」

 

「なるほど~!言われてみればその通りだね~!」

 

「孔明ちゃん頭いいね~!」

 

「ただ…」

 

そこで朱里は周りを見渡して、自分達以外に人がいないことを確認すると、顔を近づけて小声で話す。

 

「私は、これはただの賊の仕業ではないと思います」

 

「どういうことですか?」

 

「化物が出たことで、あの関所は開ける時間を短くして、夜中に通る人を減らそうとしています。こうなると賊の獲物は少なくなってしまいますから…」

 

「確かに…それでは、ここに居座る意味がなくなってしまいますね」

 

「はい。ですからおそらく犯人は、通行人から物を奪うのではなく、物流を混乱させることが目的なのかと…」

 

「それで得するのは…」

 

「はい…何かしらの権力者に通じている人物です」

 

「なんと…!」

 

「でも…それなら夜だけじゃなくて、昼も通れなくした方がいいと思うのだ」

 

「あ、そういえばそうだよね~」

 

「何で夜だけなんだろ~?」

 

「考えられる理由としては…犯人は昼間は別のこと、それも多くの人の目に付くことをしているため、夜にしかできないからではないかと…」

 

「ということは…!」

 

「はい、犯人は昼間に人目に付く仕事をしている人物、それもこの集落か近隣の町村の人物である可能性が高いです…!」

 

「「「「「!」」」」」

 

「ですから、まずこの集落に怪しい人がいないか調べます。基本的には私が調べますから、皆さんは一緒に来て、私を護衛してください」

 

「よーし!」

 

「わかったよ」

 

「わかりました」

 

「了解なのだ」

 

「了解です」

 

朱里の言葉に5()()は気合を入れなおして、返事をするが…

 

「あれ?ルフィ殿は…」

 

愛紗がルフィの返事が聞こえないことに気付き、全員が視線を向けると…

 

「ぐー…」

 

「「「「「「だああああっ!」」」」」」

 

いつの間にか眠っていたルフィに、思わず全員ズッコケるのだった。

 

「さっきから、会話に入ってこないと思っていたら…」

 

「どこまで話を聞いていたでしょうか?」

 

「いや、ルフィ殿は隠し事とかが苦手だから、知らない方が動きやすいかもしれないな…」

 

「確かにそうかもしれませんね…」

 

「ま、とりあえず朝食を終わらせ…あれ?」

 

愛紗の言葉に全員が納得し、朝食を再開しようと食卓の上を見ると…

 

「ない⁉全部食べられている!」

 

「お皿に取っていた分もなくなってるよ!」

 

そして全員の視線が1人の男に集中し、同じ結論に至る。

『こいつが全部食ったな』と。

 

「おのれ~!食べ物の恨み~!百倍返しなのだ~!」

 

「雷々も~!」

 

「電々もやるぞ~!」

 

…と、怒りのままに得物を手に取る3人。

 

「り、鈴々止めろ!」

 

「三人とも武器を下ろしてください!」

 

「はわわ~!皆さん屋内で、そんな物騒なもの振り回しちゃ駄目ですよ~!」

 

そんなこんなで朝食は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食後、一行が早速調査に行こうとすると、玄関で掃き掃除をしている普浄にあった。

 

「おや、皆さん。お出かけですか?」

 

「はい。化物の件で少し調べ物を…」

 

「そうですか。いたた…」

 

「どうかしたのですか?」

 

普浄が痛がって右腕をなでる様子を見て、愛紗が心配そうに訊ねる。

 

「いえ。今朝、厠に行くときに転んで、ぶつけてしまいましてね」

 

「そうですか、お大事に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寺を出てしばらく行くと、私服姿の胡班にあった。

 

「胡班殿、おはようございます」

 

「あ、皆さん。おはようございます。ふわあァ…ああ、失礼…」

 

「いえ、お気になさらず」

 

「胡班さん、夜更かしでもしてたんですか?」

 

胡班の眠たそうな様子を見て、朱里が訊ねる。

 

「ええ。今日は非番でしたので、昨夜は遅くまで読み物をしていたんです」

 

「あれ?胡班さん、その足の怪我どうしたの?」

 

胡班の足に擦り傷があることに気付いた、電々が訊ねた。

 

「ああ、さっきそこで転んで、擦りむいてしまったんです」

 

「へー」

 

「おお、胡班。関羽殿達も」

 

…と、そこへ王植がやって来た。

 

「皆さん、昨夜は大変だったようで…ふわあァ…ああ、失礼しました」

 

「お気になさらず。王植殿も夜更かしを?」

 

今度は愛紗が訊ねる。

 

「いえ、私は不眠症で…。そのせいで朝はいつもこうなんです」

 

「その分、不寝番(ねずばん)のときは頼りになりますが」

 

「ははは、確かにな。ああ、(かゆ)い…」

 

「どうかされましたか?」

 

王植が左右の手をかいているのを見て、美花が訊ねた。

 

「あ、いえ。どうも今朝から手が痒くて…」

 

「虫にでも刺されましたか?」

 

「さあ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ルフィ達は孔秀に頼んで、役所の物置を見せてもらっていた。

 

「本当にここにあるものは、自由に使っていいんですか?」

 

「ええ。ここにあるのは、普段はあまり使わない物ばかりのようですし、化物退治の役に立つならどうぞ好きに使ってくださ…へっくし!」

 

「風邪でもひきましたか?」

 

孔秀のくしゃみを見て、美花が訊ねた。

 

「いえ、私は…へっくし!こういう埃っぽい場所が苦手で…へっくし!」

 

「そうだったのですか!では、あとは我々がやりますから、孔秀殿は外へ…」

 

「そうさせていただきます…」

 

「おや、皆さん!そこで何を?」

 

物置の外から声が聞こえ、見てみると韓福と孟坦がいた。

 

「韓福殿、孟坦殿」

 

「関羽殿達が化物退治に使う道具を必要としていたから、物置に案内していたのだ」

 

「しかし孔秀、お前はこういう埃っぽいところは…」

 

「ああ、その通り。だから今出てきたところさ」

 

「あーあ、顔すごいことになってるぞ…」

 

「そういう韓福殿も手が赤いようですが?」

 

韓福の両手を見て、孔秀が訊く。

 

「ああ、昨夜から妙に痒くてな…」

 

「あれ?孟坦さん、その右腕の怪我どうしたの?」

 

孟坦の右腕に布が巻かれ、血がにじんでいることに、雷々が気付いた。

 

「ああ、これか。昨日、鍛錬中に相手の使っていた木刀が割れて、その先端で怪我をしてしまってな」

 

「それは痛そうなのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物置で蓋つきの竹籠を見つけたルフィ達は、それを借りることにした。

 

その途中で卞喜と秦琪にあった。

 

「おや、皆さん」

 

「そんな大きな竹籠をもってどうしたんですか?」

 

「今夜、化物退治の餌を入れるのに使おうと思って、物置から持ってきたんです」

 

「そうでしたか」

 

「あの、お二人とも右腕に布を巻いていますが、どうかしましたか?」

 

愛紗が訊ねる。

 

「ああ。私は今朝、荷物を運んでいた時に、少し痛めてしまいまして。秦琪は今朝から、少し腕がしびれるようで…」

 

「ええ。おまけに私は寝冷えしたらしく、ちょっと寒気がしまして…へっくしょん!」

 

「それは大変だね」

 

「お大事にしてくださいね」

 

「はい」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方―――

 

「孔明殿、これでいいですか?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

朱里は美花に頼んで、昼間見つけた竹籠にある細工をしてもらった。

 

「孔明ちゃんに言われた通り、獣皮や絹、反物なんかを用意したよ」

 

「これくらいあれば足りるかな?」

 

「はい、充分です」

 

「それで孔明殿、犯人の目星はつきましたか?」

 

「はい!昨日の仕込みが役に立ちました!」

 

「よし!じゃあ今度こそアイツをブッ飛ばすぞ!」

 

「あ、ちょっと待ってください」

 

ルフィが意気込むと、朱里が一回止める。

 

「ちょっと気になる事があるので、今夜皆さんは私の作戦の通りに動いて下さい。絶対に勝手な行動はしないでくださいね」

 

「ああ、わかった」

 

(ルフィ殿は縛っておいた方がいいか?)

 

密かに、そんなことを考える愛紗だった。

 

「その作戦通りにやれば、化物を退治できるのか?」

 

「はい!十中八九、成功すると思います!」

 

「だったら、孔明を信じるのだ!」

 

「ありがとう鈴々ちゃん!ただ…」

 

「どうされました孔明殿?」

 

「はい…」

 

愛紗に訊かれ、朱里は懐から1本の羽を取り出す。

昨晩、美花のナイフに刺さっていたものだ。

 

「化物の仕組みが…どうやってあの化物を演じていたのかが、どうしてもわからなくて…」

 

朱里はそうは呟き、考え込むのだった

 

 




果たして、犯人は一体誰?



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第29話 “化物の正体”

今作で、麦わらの一味が本格的に合流するのは、真・恋姫無双編からになります。
また、ルフィ達は基本的には無双して、強敵らしい強敵と戦うのは乙女大乱編の終盤になります。
そういうのを期待している方は、かなりお待たせしてしまうと思います。
申し訳ありません。




夜―――

 

昼間用意した竹籠を荷車に乗せ、ルフィ達は出発した。

 

雷々が荷車を引き、電々が荷車を押す。

その後からルフィ、愛紗、鈴々、朱里、美花が付いて行く。

 

愛紗と鈴々はルフィにしっかりくっついている。

 

そして…

 

バッ!

 

「きゃっ⁉」

 

「「「「「「!」」」」」」

 

化物が現れ、先頭を歩いていた雷々が襲われた。

 

ドガッ!

 

「ぐあっ!」

 

「うわっ!」

 

「うおっ⁉」

 

続けて愛紗と鈴々をなぎ倒し、2人に巻き込まれてルフィも倒れる。

 

ドン!

 

「はわうっ!」

 

「きゃあっ!」

 

「ああっ!」

 

そして朱里、電々、美花もやられ、地面に倒れる。

 

(ふふ…)

 

その様子を見た化物は、竹籠を奪い、飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~???~

 

「…………」

 

とある場所で1人の男が待っていた。

 

「おい!戻ったぞ」

 

「今夜も成功だな」

 

しばらくして、化物が奪っていった竹籠を持った、1人の男がやって来た。

 

「じゃあ早速山分けに…」

 

「そこまでです!」

 

「「⁉」」

 

2人が竹籠を開けようとすると、突然何者かの声が響いた。

 

周囲を見渡すと、いつの間にか十数人の人影に囲まれている。

 

その内の1人が松明に火を点け、近づいてきた。

 

「やっぱりあなた達だったんですね…王植さんと韓福さん!」

 

「「!」」

 

前に出てきた人物、朱里の松明に照らされ、2人の顔が明らかになる。

その2人は確かに王植と韓福だった。

 

周囲にいた他の人物、ルフィ、愛紗、鈴々、雷々、電々、美花、さらには胡班、孔秀、孟坦、卞喜、秦琪らも松明に火を点け、2人の顔を確かめる。

 

「な、何を言っているのですか孔明殿」

 

「そ、そうですぞ。我々は偶然ここでこの竹籠を見つけ、開けようとしていただけで…」

 

「そんなことを言っても無駄ですよ。普浄さん!」

 

「はい」

 

「なっ⁉」

 

朱里が呼びかけると同時に、なんと竹籠の中から普浄が現れた。

 

「籠の中から全て聞いていましたぞ。化物騒動はこの二人の仕業です!」

 

「…くっ!何故だ⁉何故おれたちの仕業だと分かった⁉」

 

「昨晩の餌に使った宝石とそれを入れていた袋の内側に、漆を仕込んでおいたんです。

そして今朝、手が漆にかぶれて痒くなっていた人を探しました。

だから分かったんでしゅ」

 

((((((((((かんだ…))))))))))

 

「こほん!ただ、かぶれた人が二人いて、共犯者がいることが分かりました。」

 

一瞬、緊張感がなくなるが、朱里は気を取り直して説明する。

 

「もし共犯者が嘘をついて、犯人を庇うと、流浪者である私達の証言は不利になります。

だから、盗品を山分けするところを抑えようと思い、竹籠に紐を結び付けておきました。

あとはやられたフリをして、籠ごと荷物を盗ませて、紐を頼りに犯人を追跡するだけです」

 

「ルフィ殿が起き上がらないように、私と鈴々でしっかり押さえつけたかいがあったな」

 

「大変だったのだ」

 

「あと、先ほどのように犯人がしらばっくれた時に備えて、普浄さんに竹籠の中に待機していただきました」

 

「普浄殿、本当にありがとうございました」

 

「いいえ。化物退治のためなら、これくらい何てことありませんよ」

 

「王植殿…いや王植、韓福!観念しろ!」

 

そう言いながら愛紗は偃月刀を構え、他の者達も戦闘態勢をとり、2人を包囲する。

 

 

 

が…

 

「ふふふふふ…」

 

突然、王植が笑い出した。

 

「何がおかしいのだ!」

 

「孔明殿、あなたのその頭脳は見事なものだ。

しかし、その頭脳をもってしても、どうやってあの化物を作り出していたのかは、分かっていないのではありませんか?」

 

「!」

 

「冥土の土産に教えてあげましょう。あの化物はですね…」

 

そう言うと同時に、王植の身体が大きくなっていく。

 

「え?」

 

「な?」

 

「わああああっ⁉」

 

「私が()()()()()()()()()のですよ」

 

松明の明かりで照らされている中、王植の身体はみるみるうちに変化し、巨大な一羽のフクロウになった。

 

「は、はわわ…!」

 

「ば、化物になったのだ…」

 

「よ、妖術…?」

 

「この能力(チカラ)は非常に便利でしてね。

空を飛ぶのはもちろん、闇夜の中、明かりがなくとも周囲がよく見え、物音ひとつ立てずに移動ができます。

そのうえ、身体能力も高くなるのですよ。

唯一の欠点は、夜行性のため、昼間眠たくなってしまうことですね」

 

「り、鈴々!わかっているな⁉」

 

「も、もちろんなのだ!正体が人間なら、怖くなんてないのだ!」

 

そう言って、愛紗と鈴々は斬りかかる!

 

「ふん!」

 

しかし、王植は飛び上がり、闇夜に姿を隠す。

 

「逃げた⁉」

 

「どこへ行ったのだ⁉」

 

ビュウ!

 

「⁉ぐあっ!」

 

ドシュッ!

 

「愛紗!」

 

どこからともなく襲い掛かってきた、王植の攻撃で愛紗は右腕を負傷し、偃月刀を落としてしまう。

 

「胴体を大きく切り裂くつもりだったのですが、とっさに避けるとは…。驚くべき反射神経ですね…」

 

「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」

 

王植の声が聞こえ、全員が見上げると、腕が翼に、足が鳥類のものに変化した王植が、宙に浮いていた。

足には短剣が1本ずつ握られている。

 

「はっ!」

 

すかさず美花がナイフを投げつけるが―――

 

「おっと」

 

王植は容易に躱し、また夜の闇に姿を消してしまう。

 

「手荷物を全て置いて行って下されば、命だけは助けてあげても良かったのですが…。

私の正体に気付かれては仕方ありません。ここで死んでもらいます!」

 

ズババッ!

 

「うわあっ!」

 

「きゃあっ!」

 

またどこからともなく、王植の声が聞こえたかと思うと、次の瞬間、雷々と電々が背中を切り裂かれた!

 

「くっ…」

 

「このォ…!」

 

鈴々と美花は背中合わせに立ち、他の者達も2、3人でかたまり、なんとか対抗しようとするが…

 

ビュッ!

ドシュッ!

 

「ぐあっ!」

 

「張飛さん!」

 

鈴々が右肩をやられ…

 

ズバッ!

 

「あうっ!」

 

美花も脇腹をやられてしまう。

 

「がっ!」

 

「ぐああっ!」

 

他の者達も次々と深手を負い、動けなくなってしまう。

 

「さ~て、次にやられるのは誰でしょうかな?」

 

王植はそう言い、1人の男に狙いをつけて襲い掛かる。

 

ビュッ!

 

しかし…

 

「ふん!」

 

ドゴォン!

 

「⁉」

 

その男、ルフィはとっさに横に避け、そのまま王植を殴り飛ばした!

 

「な、なんだと…?」

 

自分の奇襲が破られたことに驚く王植。

 

「おのれ!」

 

しかし、すぐに冷静になり、闇夜に紛れようと飛び立つ。

 

 

 

が…

 

「逃がすかァ!」

 

びよーん!

ガシッ

 

ルフィは右腕を伸ばし、王植の足をつかむ。

 

「なっ⁉」

 

「え⁉」

 

「な、何あれ⁉」

 

「腕が⁉」

 

ルフィの腕が伸びたことに、王植だけでなく、雷々達も驚く。

 

「くっ!放せ!」

 

「うおっ⁉」

 

王植はルフィを引き離そうと、辺りを低空飛行してルフィを引きずりまわす。

 

「うぐ…こんにゃろォ!“ゴムゴムの”…」

 

しかし、ルフィは引きずられながらも、左手を捻じりながら後方に伸ばし…

 

「“回転弾(ライフル)”‼」

 

ドゴォォォン!

 

王植をブッ飛ばした。

 

「…ふー」

 

王植が倒れたまま動かなくなったのを確認し、ルフィは右腕を放す。

 

「ルフィ殿」

 

「やっつけたのか?」

 

「ね、ねえお兄ちゃん!今の何⁉」

 

「お兄ちゃんも妖術使いなの⁉」

 

「あなたは一体?」

 

愛紗や雷々達も駆け寄ってくる。

 

「クソッ!」

 

「「「「「「「⁉」」」」」」」

 

その時、上の方から声が聞こえ、上を見ると…

 

「危なかった…」

 

王植が両手を翼に変化させ、空を飛んでいた。

 

「あいつまだ…!」

 

「効いてねェのか⁉」

 

()()()がいなかったら、やられていた…」

 

「「「「「「「⁉」」」」」」」

 

王植の言葉に、さっきまで王植が倒れていた場所を見ると…

 

「!韓福⁉」

 

韓福が倒れていた。

 

「そうか!さっきの低空飛行の時に、韓福を捕まえていたのだな!盾にするために!」

 

「その通りだ!その男が相手では、勝ち目がなさそうなんでな!撤退させてもらう!さらばだ!」

 

そう言うと、王植は飛び去っていく。

 

「待てェ!」

 

ルフィは捕まえようと腕を伸ばすが、虚しくも手は空をつかみ、逃げられてしまった。

 

「くっそー…」

 

「逃げられたのだ…」

 

「仕方ありません、韓福さんだけでも捕まえておきましょう」

 

「ねえねえ、それでお兄ちゃんのその身体、一体何なの?」

 

「教えて!」

 

「それについては明日、説明します」

 

「そうですね。今夜は怪我の手当をして、もう休みましょう」

 

こうして一行は、韓福を縛り上げ、集落に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日―――集落の寺~

 

「お兄ちゃんが…!」

 

「天の御使い様…!」

 

「あくまでもその可能性がある、というだけの話ですが…」

 

ルフィ達は雷々達に、ルフィが別の世界から来たことや悪魔の実のことを説明した。

 

「お話は何度かお聞きしましたが、まさか実在するとは…」

 

「鈴々達も最初はビックリしたのだ」

 

「私もこの目で見るまで、天の国も御使い様も信じていませんでした」

 

「それで、天の国にはお兄ちゃんみたいな、不思議な力を持つ人がたくさんいるだね」

 

「そんな場所があるなんて、信じられないね」

 

「まァ、王植のような妖術使いがいるのですから、天の国や天の御使いが実在しても、不思議ではないかもしれませんが…」

 

「あ!そうだ!」

 

話していると、ルフィが突然手を叩き、声を上げた。

 

「どうされましたルフィ殿?」

 

「思い出した!悪魔の実に似てるんだよ!アイツの妖術!鳥に変身する能力に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~同刻―――???~

 

「王植がしくじっただと?」

 

〈はい。ただ、重要なのはそれではなくてですね…〉

 

「何だ?」

 

 

 

 

 

 

「…それはまことか?」

 

〈間違いないとのことです〉

 

「ついに天の御使いが現れたか…」

 

〈いかがいたしましょう?〉

 

「とりあえず今は、より多くの情報を集めることだな。

王植が会った御使いだけでなく、他の八人についてもだ。

お前は今まで通りに動き、可能な限りの情報を手に入れろ。

今はまだ、余計な動きはするな。

他の幹部達にはおれから連絡しておく」

 

〈了解しました。王植の処罰は?〉

 

「しくじったのは痛いが、成果としては十分だ。

それに、天の御使いの情報を持ち帰ったのは大きい。

今回はお咎めなしでいいだろ。

ただ、もう表の活動には参加できないから、今後は裏方に回せ」

 

〈はっ!〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

化物騒動から数日後―――

 

「皆さん、本当にありがとうございました」

 

「韓福は牢にぶち込まれ、王植も官職を剥がされ、人相書を手配したとのことです」

 

「今後はもう大丈夫でしょう」

 

「皆様の旅の安全をお祈りしております」

 

ルフィ達は、王植にやられた時の怪我が治るまで、集落で寝泊まりした。

 

そして今、普浄や胡班らに見送られ、出発しようとしていた。

 

「こちらこそ、お世話になりました」

 

「ありがとうなのだ」

 

「元気でな~!」

 

別れの挨拶をし、ルフィ達は関所を通り、出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、ルフィ達は3本の分かれ道に着いた。

 

「分かれ道か…鈴々、どの道を行けばいい?」

 

「!任せるのだ!」

 

愛紗に言われ、鈴々は分岐点に蛇矛を突き立て、手を合わせる。

 

「むむむむむ~…」

 

カタン

 

蛇矛は一番左の道に倒れた。

 

「こっちなのだ!」

 

「よし!では、そうするとしよう」

 

そう言って、鈴々と愛紗は一番左の道へ行き、ルフィと朱里も後に続くが…

 

「?どうしたお前ら?」

 

雷々、電々、美花はその場に立ち止まり、ついてこようとしない。

 

「…あのさ、張飛ちゃん達にお願いがあるんだけど…」

 

「どうしましたか?」

 

「…電々達とは、ここでお別れして欲しいの」

 

「え⁉」

 

「な、何でなのだ⁉」

 

「別に、張飛ちゃん達のことが、嫌いになったワケじゃないんだよ…」

 

「ただ、お兄ちゃんは天の御使い様かもしれないんだよね?」

 

「それがどうかしたのか?」

 

「前にもお話ししたけど、雷々達は自分達の力で大きなことがやりたくて、旅にでたんだ…」

 

「それで、天の御使い様かもしれない人が一緒にいれば、電々達の商売にもいい影響が出ると思うの…」

 

「しかしそれでは、人々からはこう評価されてしまうでしょう。『天の御使いの加護があったからこそ成功したのだ』と」

 

「「「「…………」」」」

 

「もしそうなったら雷々達、それが自分達の力だ、って胸を張って言えなくなっちゃうから」

 

「だから、電々達だけでやりたいんだ…」

 

「言っていることはわかりますが…三人だけで行って、また以前のように賊に襲われたりしたら…」

 

雷々達のことを心配し、愛紗は反対する。

 

すると朱里が…

 

「あの…でしたら、鈴々ちゃんに決めてもらいませんか?」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

「鈴々ちゃんに、今度は糜竺さん達が行く道を占ってもらうんです。

それで私達と違う道が出たら、別々に行くとうのはどうでしょう?」

 

「おお!良いなそれ!」

 

「雷々はそれでいいよ!」

 

「電々も!」

 

「私も意義はありません」

 

「……そうだな。そうするか」

 

「よし!それじゃあ、鈴々に任せるのだ!」

 

全員が同意すると鈴々は、また分岐点に蛇矛を突き立て、手を合わせる。

 

「むむむむむ~…」

 

カタン

 

そして、蛇矛は真ん中の道に倒れた。

 

「真ん中…」

 

「じゃあ…電々達はこっちに行くね」

 

「ああ。わかった」

 

そして、ルフィ、愛紗、鈴々、朱里は左の道を、雷々、電々、美花は真ん中の道を歩き出す。

 

「またな~!お前ら~!」

 

「いずれまたどこかで~!」

 

「元気でなのだ~!」

 

「商売!頑張ってくださいね~!」

 

「いつか雷々達がお店開いたら、来てね~!」

 

「たくさんおまけするから~!」

 

「皆さんもお気をつけて~!」

 

こうしてルフィ達と雷々達は、別々の道を行くのだった。

 

 




書き溜めていた物がなくなったので、ここから先更新ペースが遅くなります。
ご了承ください。



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第30話 “無銭飲食と泥棒”

第八席分が完成したので、投稿します。
今作では孫尚香の話と黄忠の話は別々になります。




~とある町の飲食店~

 

「ちょっと~放しなさいよ~!」

 

「何言ってやがる!金を払え!」

 

1人の少女が店主に捕まっていた。

 

少女は薄い桃色の髪で、左右に大きなわっかを作るように結んでいる。

 

「そっちが食べさせてやるって言ったんじゃない!」

 

「そりゃ金を払ってもらう前提でだ!」

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

「「?」」

 

そこへ、1人の女が話に割り込んできた。

 

オレンジの短い髪で、肩に刺青を入れている。

 

「何があったのか、一番最初から話してちょうだい。悪いようにはしないから」

 

 

 

 

 

 

「…でシャオがお腹を空かせて歩いていたら、このおじさんが『おれの店で食っていけ』って言ったのよ」

 

「ところがこのガキ、食い終わった後で金がないって言いやがって…」

 

「あんたねえ、こんな小さな子がお金持って1人で歩いているワケないでしょう?

それにそんな言い方したら、奢ってくれると勘違いされてもしょうがないわよ!」

 

「そうよ!お金があったら、声に出すほどお腹が減る前に、ちゃんとお店で食べてるわよ!」

 

「うう…」

 

仲裁に入った女にも言われ、さすがに店主は分が悪くなった。

 

「これに懲りたら、強引な客引きはやらないこと、ましてや子供相手なんて論外よ!」

 

「へ、へい…気を付けやす…」

 

「…で、いくらなの?」

 

「へ?」

 

「この子のお代、私が払うわ。それなら文句ないでしょう?」

 

「ま、まァ…お金さえもらえれば…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女が金を支払い、女と少女は店を出た。

 

「あんたも、不用意に知らない大人について行ったりしたらダメだからね。

あと、無銭飲食やるならもっと上手くやんなさい。それじゃあね」

 

そう言うと女は立ち去ろうとするが…

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

少女に呼び止められた。

 

「?」

 

「あんた名前は?」

 

「え?“ナミ”だけど…」

 

「そう。ナミ!あんた中々見込みがあるじゃない!

気に入ったわ。シャオの家来にしてあげる!」

 

「は?」

 

いきなりそんなことを言い出す少女に、戸惑うナミ。

 

「えっと…シャオちゃんだっけ?話がサッパリ理解できないんだけど…」

 

「ちょっと!“シャオ”は真名なんだから、初対面で気安く呼ばないでよ!」

 

「自分でそう名乗ったくせに…。じゃあ、何て呼べばいいの?」

 

「そりゃあもちろん、家来なんだから“尚香(しょうこう)様”って呼びなさい」

 

「……じゃあ尚香ちゃん。家来になれっていうのはどういう意味?」

 

「そのまんまの意味よ!

ナミ!あんたは“江東(こうとう)”に覇を唱える“孫家(そんけ)”の末娘、“孫尚香(そんしょうこう)”様の家来になるの!

わかった⁉」

 

「はァ⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放っておくわけにもいかないので、仕方がなくナミは尚香と一緒に行動することにした。

 

「さ~て、晩御飯はどこで食べようかしら?」

 

「その前に宿を見つけないとダメでしょう」

 

「え~いいじゃない。シャオお腹すいた~!」

 

「……しょうがないわねェ…」

 

とりあえず、近くの茶店に入って、軽食をとることにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさま~!」

 

「ところで尚香ちゃん」

 

点心をたいらげた後、ナミは尚香に問いかけた。

 

「私はよその国の生まれだから、よくわからないんだけど…尚香ちゃんはどこかの大金持ちの娘なの?」

 

「あら、そうだったの。じゃあ教えてあげるわ。

“江東”っていうのはこの国、漢の南東にある“長江(ちょうこう)”っていう大きな川より東の地域を言うの。

シャオの母様はそこの“呉郡(ごぐん)”を治める太守様だったんだけど、その後も力を強くして、周囲の地域をどんどん配下にしていったの。

今は母様は隠居して、姉さまが太守になったんだけど、その後姉様は武力で周囲の領土を次々と制圧していったわ。

今じゃ揚州全域が、実質シャオ達の支配下になったと言っても過言じゃないのよ」

 

「その太守様の一族がさっき言ってた孫家で、尚香ちゃんはその末娘なの?」

 

「その通りよ!

それにシャオ達のご先祖様は孫武(そんぶ)っていう名前で、戦の達人だったのよ。

その人が書いた兵法書は、今でも多くの軍師が参考にしているわ。

つまり、シャオは由緒正しく、今もなお強大な力を持つ名家の令嬢、立派なお姫さまってワケ!」

 

「お姫さまねえ…(ビビとはだいぶ違うわね…)」

 

かつて仲間であったとある国の姫君と比較し、そう思うナミ。

 

「…その顔、信じてないわね…」

 

「じゃあ聞くけど、あんたがその孫家のお姫様だって証明できるものは何かあるの?」

 

「証明も何も、こうして本人がそうだって言ってるんだから、そうに決まってるじゃない」

 

「…なるほど、そこまでいくと逆に信用できるわ…」

 

「“逆に”ってどういう意味よ⁉“逆に”って⁉」

 

「でもそれなら、何でこんな所をお供もつけずに1人でウロウロしているのよ?」

 

「え?そ、それは…いろいろあるのよいろいろ…」

 

急に目をそらし、冷や汗をかき始める尚香。

 

「色々って?」

 

「い、いろいろはいろいろよ…。

い、一応言っておくけど『堅苦しいお城暮らしが嫌になって、家出同然に飛び出してきた』とかじゃないからね!絶対に違うからね!」

 

「…へ~そう、よく分かったわ」

 

「な、何よその目は⁉」

 

身勝手なことこの上ない理由に、呆れるナミだった。

 

「けど、尚香ちゃん。旅に出るんだったら、お金ぐらいちゃんと用意しなさいよ」

 

「そりゃあそれなりの路銀はもっていわよ。でも、前の街でコレを買ったから、無くなっちゃったの」

 

そう言って尚香は、頭に着けている金細工の髪飾りを指さす。

 

「―――って、路銀全部はたいてソレ買ったの⁉」

 

「だって、欲しかったんだもん。キラキラして綺麗でしょ?」

 

「はァ…こんな物のためにお金を使いきっちゃうなんて…なんて計画性のなさ…」

 

その髪飾りを手にとり、呟くナミ。

 

「お店でこれ見つけたときから『これはもう運命だ!買うしかない!』って一目ぼれしちゃって…って、えっ⁉」

 

自分の頭に着けていたはずの髪飾りが、いつの間にかナミの手にあったことに驚く尚香。

 

「ちょっと!返しなさいよ!」

 

慌ててひったくるように取り返す。

 

「尚香ちゃん、悪いけどそれパチもんよ」

 

「?何よ“ぱちもん”って」

 

「ちょっと貸して」

 

そう言ってナミは再び、髪飾りを手に取り…

 

「見てて」

 

それを爪でひっかく

 

ガリ

 

すると、金と宝石の表面の塗装が剥がれ、ただの木が現れた。

 

「ええっ⁉」

 

「ただの木に色を塗っただけ。そんなに価値はないガラクタよ」

 

「それじゃあシャオ騙されたってこと⁉」

 

「そう言う事ね」

 

「き~~~!くやし~~~っ!」

 

ドンと机を叩いて悔しがる尚香。

 

「さてと…じゃあ話は済んだし、一仕事も終えたし、騒ぎになる前に店を出ましょうか」

 

「?“仕事”?」

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

ナミと尚香が店をでた、まさにその瞬間だった。

 

「あれ⁉財布がない!」

 

「私もだわ⁉」

 

「あれ?おれもだ!」

 

尚香ちゃん、急いで離れるわよ

 

「え⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、人気のないところへ行くと…

 

「さてと、本日の成果はいかほどか?」

 

そう言ってナミは懐からいくつもの財布を取り出す。

 

「…………」

 

ナミがいくつも財布を持っていること。

さっきのお店での出来事。

気付かれぬ間に自分の頭から、髪飾りを取ったこと。

髪飾りが安物だということを、簡単に見抜いたこと。

そして、自分の食事代を立て替えてくれた後に、ナミが言っていた言葉。

 

―――――無銭飲食やるなら、もっと上手くやんなさい

 

それら一つ一つを踏まえ冷静に考えた結果、尚香はある結論にたどり着く。

 

「ナミ…アンタってもしかして…」

 

「私?海賊で泥棒よ」

 

尚香の予想通りの答えが返ってきた。

 

「ところで尚香ちゃん」

 

「な、何?」

 

「あんたの家来になるって話だけど…引き受けましょう!」

 

「本当⁉」

 

「ただし!行き先はアンタの家!そこにアンタを送り届けるからね!」

 

「ええ~⁉何よそれ⁉」

 

「尚香ちゃん?」

 

「⁉」

 

急にナミが尚香の両ほほに手を添え、顔を近づけてきた。

 

手にはすごい力が込められており、振り払うことができない。

そして表情は笑顔だが目が笑っておらず、それがものすごく怖い。

 

「あなた…私を家来として雇いたいんでしょ?」

 

「え、ええ…そうよ…」

 

「けどあなた、私にお給料として払うお金、持ってないでしょう?」

 

「う、うん…」

 

「でも、お姫様ならお家に帰れば、お金はたくさんあるわよね?」

 

「も、もちろんそうだけど…」

 

「だ・か・ら、家に送り届けるの。わかった?」

 

「は、はい…」

 

その時のナミは、それはそれは恐ろしい笑顔をしていたという。

 

(シャオもしかして…絶対に声をかけちゃいけない人に、話しかけちゃった…?)

 

後悔するような感情が沸き起こったが、すでに後の祭りだった。

 

 




今回はナミの話でした。
子供には優しいナミさん。
お金にはうるさいナミさん。



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第31話 “お金”

ナミと尚香が一緒に行動するようになってから数日―――

 

「ねえ、ナミ~…シャオお腹すいた~!」

 

「お腹すいたって、さっきお昼食べたばっかりじゃない!」

 

「あれだけじゃ足りないわよ~!もっと美味しい物たくさん食べたい~!」

 

「贅沢言わないの!お金は大切に使わないとダメなんだから!」

 

「何よ!ナミは泥棒なんだから、すぐにいくらでも稼げるじゃない!」

 

「ちょっ…⁉」

 

慌ててナミは尚香の口を押さえ、キョロキョロと辺りを見渡した後、小声で言い聞かせる。

 

「ちょっと…私が泥棒だって大声で言っちゃダメでしょう⁉」

 

「シャオには関係ないも~ん。言ってほしくなかったらシャオの言うこと聞きなさいよ」

 

「あんたねェ、立場わかってるの?」

 

「どういう意味よ?」

 

「私が泥棒だってバレたら、あんたも泥棒だと思われるに決まってるでしょう?」

 

「何言ってるのよ、シャオは孫家の末娘何だから、泥棒だなんて思われないわよ」

 

「…あのねえ、あんたお城にいたとき、街で泥棒なんてしていたの?」

 

「するわけないでしょう。欲しいものは買えば手に入るもの」

 

「でしょう?お姫様は普通、泥棒なんてしないの。『泥棒の仲間がお姫様なわけない』って皆そう考えるわよ」

 

「……それってつまり…」

 

「私が泥棒だってバレたら、あんたがお姫様だなんて、誰も信じないってこと」

 

「…じゃあナミが泥棒だってバレたら…」

 

「あんたも捕まって、牢に入れられて、鞭で打たれるわね」

 

「ひっ…!」

 

「わかった?」

 

「…は~い…」

 

「それから…」

 

「?」

 

「盗んだ財布にどれだけお金があるか分からないんだから、あまり儲からないのよ、泥棒は」

 

「あ、なるほど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その夜~

 

「ごちそうさま~」

 

「あ~美味しかった~!」

 

ナミと尚香は、飲食店で夕食を済ませた。

 

「一目見たときから、このお店はイケるって思ってたのよ!やっぱりシャオの目に狂いはなかったわね」

 

「髪飾りは安物だったけどね」

 

「う、うるさいわね!」

 

「でも、あんたの目利き、悪くはないわよ。

良いものに囲まれて育ったから、良いものを見極める目はあるみたいだし、私が物の見方教えてあげようか?

尚香ちゃん、きっと上達するわよ」

 

「本当⁉」

 

「ええ、ついでに物を盗むコツとか、人を出し抜いたり、上手く踊らせるコツも教えてあげるわよ」

 

「何それ面白そう!教えて!」

 

なんだかんだで2人は仲良くなっていた。

 

「私、厠に行ってくるわ。ついでに一仕事してくるから」

 

「は~い」

 

そう言うとナミは店の奥に姿を消した。

 

(ナミって結構話せる奴ね。ますます気に入ったわ!これでシャオを家に帰らせるなんて言わなければ、文句ないのにな~…)

 

尚香は不機嫌そうな顔になる。

 

(あ~あ、このまま家に帰るなんて、絶対にヤダ!

でも、ナミから逃げられそうにないし、お金は欲しいし、ナミをクビにしようとしたら…たぶんコワイだろうし…)

 

「あの…失礼」

 

「?」

 

3人ほどの男が、声をかけてきた。

 

「お前…いや、あなた様は孫家の末娘、孫尚香様ではありませんか?」

 

「そうだけど?」

 

「おお!やはりそうでしたか!」

 

 

 

 

 

 

「母様に?」

 

「はい。私共は一年ほど前、孫堅(そんけん)様にお世話になったことがあり、いずれそのお返しをさせていただきたいと思っていたのです」

 

「ここでその娘である尚香様に出会えたのは、まさに天が我らに与えて下さった、またとない好機!」

 

「どうか、私達を尚香様のお供に加えていただけないでしょうか?」

 

「もちろんいいわよ!ちょうど、今いるお供はクビにしようと思っていたところだし、シャオの家来にしてあげる!」

 

「ありがとうございます!では、宿をご用意いたしますので、ご一緒に!」

 

「わかったわ!けど、シャオの言うことはちゃんと聞きなさいよ!」

 

「もちろんでございます!」

 

(悪いわねナミ、あんたとの旅は中々良かったけど、やっぱり家に帰りたくないの。あんたはもうクビよ)

 

そして尚香は、ナミへの解雇通知を書き、食卓に残して男達と店を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして―――

 

「ね~…宿はまだ~?」

 

「もう少々、辛抱ください」

 

シャオは男達と街を歩いていた。

 

「シャオもう疲れたんだけど…」

 

「…では、一休みしましょう。さ、お茶でもどうぞ」

 

「ありがとう。いただくわ」

 

そう言って尚香は、男が差し出したヒョウタンに口をつけた。

 

(あれ…?なんだか…急に…ねむ…く…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん…あれ?」

 

「気が付いたか?」

 

「あら?あんた…っ⁉」

 

目が覚めたとき、尚香はイスに縛り付けられていた。

周りには先ほどの男達が刃物を持って立っている。

そして男達の様子が、明らかにさっきまでとは違った。

 

「ちょっと!あんた達!これはどういうことよ⁉」

 

「まだわかんねェのか?アンタの家来なるなんてのは大嘘だよ!」

 

「え⁉で、でも母様の世話になったって…」

 

「ああ、世話にはなったぜ。

アンタの母親のせいで、おれ達の盗賊家業は大失敗。いつかその復讐(お返し)をしてやろうと、好機を覗っていたところさ!」

 

「⁉」

 

「あの女のことは、念入りに調べていたからな。娘がいることは知っていた。

まさかこんな所で、出会えるとは思なかったぜ」

 

「実の娘が人質とならば、あの女もうかつには動けねェだろ。

どっかの敵対勢力にアンタを売り渡して、協力を得れば、孫家丸ごと滅亡させられるぜ!」

 

「そ、そんな…」

 

「だが、その前に…」

 

そう言うと男達は尚香に近づく。

 

「な、何よ…⁉」

 

「やっぱあの女の娘なだけあって、なかなか上玉じゃねェか。ちょっと遊んでもらうぜ」

 

「い、いや…」

 

何をするつもりなのかを察し、尚香は必死に抵抗しようとするも、身動きが取れない。

 

「へへへ…」

 

「こ、来ないで…!」

 

「じゃあおれから…」

 

1人が服を脱ぎ始める。

 

「だ、誰かァーーーっ⁉」

 

ガン!

 

「「「⁉」」」

 

突然大きな音が響き、服を脱いでいた男が気を失い倒れた。

 

「な、何だ⁉」

 

「だ、誰かいるのか⁉」

 

ゴン!

 

「フゲッ⁉」

 

バキッ!

 

「ウゴッ⁉」

 

そして残りの2人も、轟音と共に気絶する。

しかし、辺りには誰もいない。

 

「な…何?」

 

「まったく…()って(たか)って子供イジメてんじゃないわよ!」

 

「え、今の声って…」

 

「“蜃気楼(ミラージュ)”解除」

 

「え⁉な、ナミ⁉」

 

突然、何もないところからナミが現れた。

 

「な、何今の⁉ナミって妖術使いなの⁉」

 

「まァそんな所かしら…。で、尚香!」

 

「っ!」

 

「知らない大人について行っちゃダメだって、前にも言ったでしょう⁉」

 

「…はい…」

 

ナミに叱られ、素直に反省する尚香。

 

「私が間に合ったから良かったようなものの…少しでも何か違っていたら、大変なことになってたんだからね!」

 

「ごめんなさい…」

 

「…ま、いいわ。とりあえず、さっさと逃げましょう」

 

そして、ナミと尚香は男達を縛って逃げだすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、宿を見つけて2人で宿泊した。

 

「…ねえナミ」

 

「ん?」

 

別々の寝台に潜り込んだまま、尚香が訊ねた。

 

「どうして私の居場所が分かったの?」

 

「あんたとあの男達が話しているのを、あのお店で見ていたのよ。それで、後をつけてきただけ」

 

「…何で、助けに来てくれたの?」

 

「私は尚香ちゃんの家来なんだから、尚香ちゃんを守るのは当然でしょ」

 

「でも…クビだって書置き残していたのに…」

 

「お給金も退職金も貰ってないのに、やすやすとクビにされるわけないでしょう」

 

「そう…。ナミ…」

 

「何?」

 

「ありがとう…助けてくれて…」

 

「…どういたしまして」

 

「あんたをクビにするって話、やっぱりなしだから…」

 

「当たり前でしょ」

 

「うん…」

 

「……ねえ」

 

「な、何よ?」

 

「尚香ちゃん、そんなに家に帰るの嫌なの?」

 

「そりゃあ、やっぱりいやよ。

…っていうか、ナミだって泥棒やるような人なんだから、家出ぐらいしたことあるんじゃないの?」

 

「……ええ、あるわよ。尚香ちゃんと同じくらいの年の頃だったかしら?

くだらないことでお母さん、お姉ちゃんとケンカしちゃって、家を飛び出したわ…」

 

「ほら、やっぱり…」

 

「そしたらその日…お母さんが死んだわ」

 

「え…」

 

「村を襲って来た海賊にね、殺されたの」

 

そしてナミは、静かに語りだした。

 

「その日まで、村はいたって平和だった。それにお母さんは軍で働いていたことがあって、強い人だった。

死んじゃうなんて…思わなかった。

村を襲った海賊は、村の住民達からお金を奪っていったわ。

『子供1人につき5万、大人はその倍。家族の人数分だけお金を出せ。足りない分は殺す』ってね。

私の家は貧しくて、お母さんの分しか払えなかった。

私とお姉ちゃんは拾われっ子で、お母さんに子供がいる証拠はなかった。

だから、私とお姉ちゃんがいないことにすれば、お母さんは殺されなかった。

でも、お母さんは娘がいるって、私達が家族だって言い張って、殺された」

 

そこまで言うとナミは左肩にある刺青と、その下に傷跡を握りさらに語る。

 

「その日から、私は海賊に捕まって働かされた。

大好きなお母さんを殺した、大嫌いな奴らの仲間として、大好きなお姉ちゃんにも会えないで…」

 

「…………」

 

「尚香ちゃんはお母さん達のこと、嫌い?」

 

「そんなわけないよ…!母様も、雪蓮(しぇれん)姉様も蓮華(れんふぁ)姉様も、(さい)粋怜(すいれい)雷火(らいか)や…家来のみんなのことも、大好きだよ…!」

 

「だったら、ちゃんと一緒にいなさい。いつかお別れしなきゃいけなくなる時までね。でないと、後悔するわよ」

 

「はい…」

 

「それから、お金は大切にしなさい。お金があれば、それだけで解決することもあるんだから」

 

「はい…」

 

「それじゃあ、また明日から尚香ちゃんの家に向かうから。良いわね?」

 

「はい…」

 

「じゃあ、おやすみなさい」

 

「…あのね、ナミ…」

 

「なあに?」

 

「シャオの真名はね“小蓮(しゃおれん)”っていうの」

 

(そっか…“しゃおれん”だから“シャオ”なのね)

 

「今日、シャオのことを助けてくれた褒美として、シャオのこと真名で呼ぶことを許してあげる…」

 

「そう…ありがとう“シャオ”」

 

「うん…それでね、ナミ…!」

 

「?」

 

急にシャオは寝台から身体を起こし、喋りだした。

 

「シャオにとってはね、家来のみんなも家族みたいなものなの…。

だから、その…真名も預けたし…ナミももう、シャオの家族みたいなものだから…!だから…!」

 

「………あはははははっ!」

 

突然ナミは楽しそうに笑いだした。

 

「な、何よ⁉」

 

「ごめんごめん…!」

 

ナミも上体を起こして、シャオに話しかける。

 

「ありがとうシャオ。でも大丈夫よ。私にはもう、家族みたいな仲間がちゃんといるから」

 

「え?」

 

「少し前にね、別の海賊が私の村を襲った海賊を倒してくれたの。それで、私は今そいつらの仲間になったの」

 

「そうだったの?」

 

「うん。今は訳あって、バラバラになっちゃっているけど、そいつらを探している途中なの」

 

「ふーん…。ねえ、ナミの仲間ってどんな奴らなの?教えて」

 

「良いわよ。仲間は8人いて、そのうち7人がバカよ」

 

「そ、そうなんだ…」

 

バカと言い切るナミに、若干戸惑うシャオ。

 

そしてその夜、2人は遅くまで楽しそうに話し合ったのだった。

 

 




連載前に今作の構想を考えていた時、「シャオはナミと行動させるしかない」と真っ先に思いました。



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第32話 “暗殺阻止”

今回、麦わらの一味が新たに1人登場します。




とある一軒の茶店で、1人の男が会計を済ましていた。

 

「はいよ、確かに受け取ったぜ」

 

立派なアゴひげを生やした店主が金を受け取る。

 

「あ、そうだ。ちょっと聞きてェんだけど」

 

客である、鼻の長い男が店主に訊ねる。

 

「何だ?」

 

「この辺で、行商が出来そうな場所ってあるか?」

 

「アンタ行商人なのか?そうだな…この道をもう少し行けばけっこう大きい街があるから、そこに行ってみたらどうだ?」

 

「そうか、じゃあ行ってみる。ありがとう」

 

男は店を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…だいぶ路銀が乏しくなってきたな…次の街でも上手くいくといいんだが…)

 

鼻の長い男、ウソップはルフィ達と逸れた後、自分の持ち物と得意の舌先三寸嘘八百で物々交換や売却を行い、日銭を稼いでいた。

 

(…にしてもホントどうなってんだココは?字は読めねェし、通貨は違うし、海軍も全然見ねェし…)

 

そんなことを考えながら歩いて行くと、街の門が見えてきた。

 

(あれが茶店のオヤジが言っていた街かな?結構デカいな…)

 

ウソップが門を通ろうとすると…

 

「止まれ!」

 

「⁉」

 

門番に呼び止められた。

 

「キサマ、随分珍しい恰好をしているが…異国の者か?」

 

「は、はい!そうですが何か…?」

 

「……どう思う?」

 

「怪しいが、あまりにも目立ち過ぎないか?特にあの鼻」

 

「確かに…いくら何でも、あんなに目立つ奴なワケないか」

 

(…………?)

 

内心ビクビクしているウソップをよそに、2人組の門番は何やら相談し…

 

「あー…失礼したな。通っていいぞ」

 

「あ…そ、そうですか…」

 

とりあえず許可を得られたので、ウソップは街に入った。

 

(何だったんだ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その夜~

 

「ふ~食った食った!」

 

ウソップは一軒の飲食店で、食事を済ませた。

 

「あらまあ。綺麗に平らげてくれたね」

 

店の女将が1人、急須を持ってやって来た。

 

「お茶のお替りはいかが?」

 

「ああ、もらうよ。ありがとう」

 

「アンタ見慣れない格好してるけど、旅人かい?」

 

「まァ、そんなところだ」

 

お茶を注ぎながら、女将は話しかける。

 

「ひょっとして、アンタも明日の行列を見に来たのかい?」

 

「行列?」

 

「違うのかい?」

 

「何なんだ?その行列って?」

 

「実はね、ここの領主様の娘さんが、近くの町の領主様の三男と結婚するんだよ。

それで明日の昼過ぎに、婿入りしてくる息子さんの行列が、この店の前の大通りを通るのさ。

その行列がとても豪華なうえ、そのお婿さんがかなりの美形らしくてね。

噂を聞いて『それはぜひ見てみたい』って近隣の村からも人が集まって来てるんだよ」

 

「へ~結婚か、そりゃめでたいな!」

 

「ただねェ…」

 

「?」

 

突然、女将の表情と口調が暗くなる。

 

少し辺りを見渡した後、女将は顔を近づけて小声で話し出した。

 

「最近、妙な噂があるんだよ…」

 

「噂?」

 

「領主様の身内だか側近だかに、結婚に反対している者がいるらしいんだよ…。

それでそいつらが婿入りしてくる息子さんを、暗殺しようとしてるらしいんだ…」

 

「そ、そりゃ物騒だな…」

 

「せっかくの晴れ舞台に、いやになっちゃうよ…」

 

「あ!それでこの街に入ろうとした時、門番がおれを呼び止めたのか」

 

「ああ。その噂が流れ始めてから、領主様達も相当警戒してね。明日も十分な警備をつけるらしいよ」

 

「う~む…事前に計画を漏らすような奴らの暗殺が、成功するとは思えないが…。嫌な予感が拭い切れねェな…」

 

「まったくだよ…殺したり、殺されたり…もっと平穏に暮らせる日々が欲しいよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌朝~

 

「ん~いい天気だな~」

 

ウソップは朝早くに、宿泊した宿を出た。

 

(こりゃ結婚にはもってこいの日だな。さてと、おれもどっかで路銀稼ぎを…)

 

そんなことを考え、辺りをキョロキョロ見渡していると…

 

「あーっ!返せーっ!」

 

「⁉」

 

そんな声が聞こえ、見てみると髪飾りを売っている店の店主らしき人物が、空に向かって叫んでいた。

視線の先には、光るものをくわえたカラスが飛んでいる。

 

どうやらカラスに商品を盗られてしまったらしい。

 

(そういうことか!)

 

状況を理解したウソップは、自身の武器である特性パチンコ“カブト”と鉛球を取り出し、狙いを定める。

 

「(当てて殺しちまったら、後味悪ィな…。ここは頭スレスレを狙って、風圧で気絶させる!)必殺“鉛星”!」

 

そして鉛球を放つ!

鉛球は一直線に飛び、狙い通りカラスの頭の近くを通過する!

 

が…

 

「…え?」

 

その時、空に放たれたのは、ウソップの鉛球だけではなかった。

1本の矢が同時に、カラスの頭の近くを通過していったのだ。

 

ウソップの狙い通り、カラスは風圧によって気絶し、地面に落ちてきた。

 

「おっと!」

 

すかさずキャッチしたウソップは、同時に辺りを見渡す。

 

(あ!)

 

すると、近くの宿屋の2階の一室で、1人の女が窓を閉じるのが見えた。

そしてその女の傍らには、弓あった。

 

 

 

 

 

 

「ほらよ」

 

「ありがとうございます」

 

ウソップは、カラスから取り返した髪飾りを店主に返すと、改めて矢を放ったと思われる女がいる宿屋の方を向く。

 

(矢が飛んできた方向から考えても、やっぱりあの女が撃ったよな…。

カラスを狙って狙いがそれたのか、それともおれと同じように風圧で気絶させることを狙ったのか…………!)

 

…と、そこでウソップの頭にある考えが浮かんだ。

 

(き、昨日女将が言っていた…)

 

―――――それで明日の昼過ぎに、その息子さんの行列が、この店の前の大通りを通るのさ

 

例の行列が通る大通りと、女がいる宿屋を交互に見る。

 

大通りと直角に交わるように、一本の通りがある。

そしてその通りは、例の女がいる宿屋の真正面に伸びていた。

しかも、その女がいた部屋は、丁度通りに面している。

 

無論、宿屋から大通りまではかなりの距離がある。

しかし、ウソップは思った。

 

(おれなら…当てられる…!)

 

そして、先ほどの女が自分と同じように、カラスの頭スレスレを狙って撃ち、それを成功させたのだとすれば…

 

(あの女も…同じことが…!)

 

確信があるわけではないが、彼の勘は『間違いない』と言っていた。

 

(よ、よォし…!)

 

その結論に至ったウソップは…

 

 

 

 

 

(おれは何も知らな~い…何も気付いていな~い…知らぬ存ぜぬ~知らぬ存ぜぬ~…)

 

“見て見ぬフリ大作戦”を決行し、街から出て行こうとする。

 

が…

 

(だーっ!ダメだダメだ!ここまで色々気付いて、見て見ぬフリはやっぱりできねェ!)

 

頭を左右に激しく振り、逃げたい気持ちを振り払うと、ウソップは宿屋の方を向く。

 

(ま、まだそうと決まったワケじゃねェんだ!とりあえず話だけ聞いてみよう!)

 

そして、例の女を訪ねてみることにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~宿屋の一室~

 

「私に客?」

 

「はい…どうしましょう?」

 

「…わかりました。連れてきてください」

 

 

 

 

 

 

「…さっき、私が弓を撃ったのを見てたんですか?」

 

「ああ。それで、同じ狙撃を得意とする者として、ぜひ話してみたいと思って」

 

「そうだったんですか」

 

ウソップが訪ねてみると、女は会うことを承諾してくれた。

 

ウソップよりもやや年上で、紫色の腰まで届く長い髪をしており、まさに大人の女性という雰囲気がある女だった。

 

部屋の中には弓が一つと、数本の矢が入った矢筒がある。

 

「おれは“ウソップ”。旅人だ」

 

「私は“黄忠(こうちゅう)”、字を“漢升(かんしょう)”といいます。

何だかさすまたのような物を持っていますが、それがウソップさんの得物ですか?」

 

「ああ。こいつは“パチンコ”っていって、ここに石とかを乗せて、それを…こう飛ばして撃つ武器なんだ。

こいつは、さらにおれが特別な改造を施した物で“カブト”って名前だ」

 

ウソップは実際にカブトを手に取り、狙撃の動作をやって見せる。

 

「そんな武器があるんですか…。あ!失礼しました。今、お茶を入れますね」

 

「あ…いや、いいよ。おれが無理やり押し掛けたのに…」

 

「いえ、遠慮なさらず」

 

「…じゃあ、お言葉に甘えて」

 

黄忠が台所に立つと、ウソップは窓を開けて話し出した。

 

「それにしても今日はいい天気だな~。大通りの方までよく見える」

 

「!」

 

「黄忠さんは知ってるか?今日の昼過ぎにあの大通りを、ここの領主様の娘に婿入りしてくる、息子さんの行列が通るんだってよ」

 

「…噂で聞きましたわ」

 

「けど、そのお婿さんの命を、狙っている連中がいるらしいぜ」

 

「…物騒ですね」

 

「まァ、しっかり警備もされているらしいから、大丈夫だとは思うけどな」

 

「…そうなんですか」

 

「しかしこっからじゃ、大通りを通る人の頭は、豆粒みてェだな」

 

「…遠いですからね」

 

「多分警備の連中も、こんなに離れた所から、動く人間の頭を狙い撃ちするのは、不可能だと思ってるだろうな」

 

「…そうですね」

 

「まァ確かに、それは飛んでいる鳥の頭の近くを、当てないように狙って撃つくらい、難しいだろうな」

 

(……バレてる)

 

そう考えた黄忠は、包丁を手に取り、素早く振り返る!

 

が…

 

ボン!

 

「⁉ゲホゲホ…」

 

小さな破裂音と共に、辺り一面に白い煙が広がり、前が見えなくなる。

 

「ゲホゲホッ……こ、これは⁉」

 

「このパチンコの一番の利点はな…ある程度の大きさの物なら、何でも撃つことができるってことだ…」

 

「!」

 

「だからこんなふうに、弾に色々な細工をすることができるんだよ!」

 

煙幕が晴れ、視界が戻った黄忠の目に映ったのは、パチンコで自分の頭に狙いを定めているウソップの姿だった。

 

「今構えているのは、当たり所によっては一発で致命傷を与える弾だ!脅しじゃねェぞ!」

 

「……っ!」

 

観念した黄忠は、包丁を床に置いた。

 

 

 

 

 

 

その後、ウソップが黄忠から事情を聞くと、とんでもないことが分かった。

 

「ええっ⁉娘さんが誘拐⁉」

 

「はい。数年前に主人を亡くした私は、幼い娘の“璃々(りり)”と近くの村で暮らしていました。

ある日、私が用事で隣の村へ出かけて、家に帰ると璃々の姿がなく、代わりに一通の置手紙があったんです。

手紙には『娘を返してほしければ、我々の言う通りにしろ。変な考えを起こせば、娘の命はない』と書かれていました。

それで、私が手紙に書かれていた、待ち合わせの場所に行くと…

 

 

 

 

 

『…娘は無事なんですか?』

 

『今のところはな。キサマが我々の言う事を聞かなければ、すぐに死んでしまうがな…』

 

仮面をつけて、妙に立派な剣を腰に付けた男が一人いました。

 

『私に何をしろと…?』

 

『仕事一つ頼みたいのだ』

 

 

 

 

 

そして、今日ここの行列で、婿入りしてくる男を殺せと…」

 

「ひでェな…」

 

「どんな理由であれ、何の罪もない人の命を、こんな卑劣なやり方で奪うなんて…許されることではないかもしれません…。

でも、璃々は…私のたった一人の…大切な家族なんです…!

あの子を助けるには…こうするしか…!」

 

「…………」

 

涙を浮かべて訴える黄忠を見て、ウソップは何も言えなくなってしまう。

 

その時…

 

「……ん?」

 

部屋の隅にある棚の上に置かれた、数枚の紙がウソップの目に入った。

紙には、子供が描いたような絵が描かれている。

 

「なァ、これ何なんだ?」

 

「それは昨日、誘拐犯の仲間が持って来た絵です。娘が生きている証拠として、描かせた物のようで…」

 

「ふーん…」

 

何となくその絵を手に持って見てみるウソップ。

 

(花と木それに猫…この髪が長い女の人の絵は、黄忠を描いたのか。

じゃあこっちの髪を結んでいる女の子の絵は、自分を描いたのか?………ん?)

 

ウソップはその内の一枚の絵が気になり、黄忠に訊ねた。

 

「これは誰をかいたんだ?」

 

ウソップ見せた紙には、アゴひげを生やした男が描かれていた。

 

「それはわかりません…」

 

「わからないって…知ってる人じゃないのか?村の近所の人とか…」

 

「いえ、そのような男性は全く記憶になくて…」

 

「う~む…」

 

黄忠の言葉を聞き、ウソップは絵を凝視して考え込む。

 

「あの…その絵がどうかしましたか?」

 

「あんたの娘さんて、まだ幼いんだろ?」

 

「はい…」

 

「そんな小さい子が、ここまでちゃんとした絵を…ましてや、会ったこともない男の顔を描けるもんなのか…?

心なしか、あんたの絵や自画像よりも、上手に描けてる気がするし…」

 

「どういうことです?」

 

「もしかしてその子、監禁されている場所で、この男を見ながら描いたんじゃねェのか?」

 

「え?じゃあまさか、この男が誘拐犯⁉」

 

「いや、さすがに誘拐犯の仲間の顔を描いたものなら、渡したりはしねェだろうから…多分監禁場所の近くにこの男が…。

それにこの絵の男、どっかで見たような………。

あ!思い出した!おれが昨日寄った、茶店の店主だ!」

 

「え⁉」

 

「そういえばあの茶店、向かいに廃屋があったような…まさかそこに…」

 

「娘の居場所に心当たりがあるんですか⁉」

 

「⁉」

 

ウソップの言葉を聞き、黄忠は興奮した様子でウソップの両肩をつかみ、問いかける。

 

「どこですか⁉教えてください!すぐに私が行って娘を…!」

 

「落ち着け!誘拐犯に顔が知られているあんたが行ったら、それこそ娘さんが危ねェだろ!」

 

勢いに押されそうになりつつも、ウソップはなんとか黄忠を制止させる。

 

「そ、そんな…!」

 

「おれが代わりに行ってくるから、あんたはここで待ってろ!」

 

「え…?」

 

「幸いここからあの茶店まで、そんなに距離はねェ!上手くいけば、行列が始まる前に間に合うはずだ!」

 

そう言うなりウソップはパチンコを手に取り、急いで戸口へ向かう。

 

「あ、あの…!」

 

「何だよ⁉」

 

「ど、どうして…?」

 

「?」

 

「今、会ったばかりの…私のために…?」

 

当然のように、自分の代わりに娘を助けに行くと言った、ウソップの言動が信じられないらしく、黄忠は訊ねる。

 

「…おれの…誇りのためだ!」

 

「え?」

 

「あんたみたいな心優しい母親が、娘を人質に取られて、人殺しをさせられそうになってる…。

こんな状況を見て見ぬフリなんてしたら…おれはもう胸を張って生きられねェ!

故郷の友達にも、おれの仲間にも顔向けできねェ!

だからやるんだ!おれ自身のために!」

 

そう言って、ウソップは部屋を飛び出していった。

 

 




今回は黄忠とウソップの話でした。
ウソップ海賊団のことがあるからか、ウソップって子共の面倒見が良さそうなイメージがあるんですよね。



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第33話 “救出作戦”

ウソップを書くときは、カッコよさと面白さの両方を大事にしたいと思っていますが、上手く書けてると良いな…。




「………誇りのため…」

 

ウソップが出て行ったあと、黄忠はしばらく呆然としていたが…

 

「入るぞ」

 

「!」

 

1人の男が部屋に入ってくると同時に、我に返る。

 

「……何の用ですか?」

 

「頭から、首尾を見届けて来いって言われてな」

 

「…そうですか」

 

どうやら、誘拐犯の仲間のようである。

 

(危なかった…。もし私が飛び出して行ったら、この男に…)

 

黄忠は、娘のことをウソップに託し、自分はただひたすら待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~???~

 

数人の男が話をしていた。

 

「何も異常は無いか?」

 

「全く。なさ過ぎて退屈なぐらいだ」

 

「コトが上手くいったら、コイツはどうすんだ?」

 

男の1人が、部屋の隅でうずくまっている、幼い少女を指してそう言う。

 

「『とにかくトンズラすることを優先しろ。ガキはどうでもいい』だってさ」

 

「頭は今頃何をやってんのかね~?」

 

「な~んか上手いことを考えたから、それの準備をしてるそうだが…」

 

 

 

 

 

 

(…ビンゴだ!)

 

その男達のやりとりを、ウソップが壁に張り付き、壁の穴から覗き見ていた。

 

彼の予想通り、昨日彼が立ち寄った茶店の向かいにある廃屋、その2階に短い紫色の髪を、左右で2つ縛りにした少女が監禁されていた。

 

(あの絵の女の子に髪型が似てるし、髪の色が黄忠と同じだ。あの子が娘の璃々ちゃんだな…!

にしても、“オクトパクツ”があってよかったぜ…。

まさかあいつらも2階の壁に張り付いて、覗いている奴がいるとは思うまい…!)

 

そう、ウソップは彼の発明品である、“オクトパクツ”という吸盤付きの靴を使い、壁に張り付いていたのだった。

 

(しかし、どうしたもんか?相手は1階に5人、2階に3人。

行列が始まるまで時間がねェ…かといって失敗すれば、あの子が………ん⁉)

 

悩んでいたウソップの目に、反対側の壁にある1つの窓が映った。

人1人が出入りするには、十分な大きさがある。

 

そして、誘拐された少女は、窓の近くにいた。

 

(…よし!これで行くしかねェ!覚悟を決めろ男ウソップ!)

 

ウソップはそう自分に言い聞かせると、弾を一つ取り出し…

 

(必殺“煙星”!)

 

部屋の中に投げ込む!

 

ボン!

 

「⁉ゲホゲホっ!」

 

「な、何だァ⁉」

 

(今だ!)

 

誘拐犯たちが混乱しているすきに、ウソップは部屋に飛び込み…

 

「こっちだ!」

 

「え?」

 

少女を連れ出し…

 

「トウッ!」

 

窓から飛び出す!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゲゴッ⁉」

 

ゴシャァ!

 

そして見事に、頭から着地した。

 

それでも、少女にはケガをさせずに守り切った。

 

「……お兄ちゃんだいじょうぶ?」

 

「……あ…ああ…ダイ…ジョーブだ…」

 

どう見ても大丈夫ではない様子でウソップは答える。

 

「どうした⁉何があった⁉」

 

「おい!ガキがいねェぞ!」

 

(!気付かれた!)

 

廃屋の中からそんな声が聞こえ、ウソップは急いで立ち上がる。

 

「見ろ!アイツだ!」

 

「あいつがガキを連れ出しやがった!」

 

「急げ!」

 

誘拐犯達もウソップに気付き、追いかけようとする!

 

「捕えろーーーっ!」

 

「「「「「「「おーーーっ!」」」」」」」

 

勢いよく廃屋の入り口から飛び出してくる誘拐犯達!

 

(もう来やがった!……だが、入り口はすでに―――まきびし地獄だ!)

 

「「「「「「「「痛だだだだだーーーっ!」」」」」」」」

 

飛び出してきた誘拐犯達は、思いっきりまきびしを踏ん付けてしまい、その場で足を抱え跳びあがっていた。

 

「今だ!くらえ必殺“火の鳥星”!」

 

そして鳥の形をした炎の弾を打ち出すウソップ!

 

「ぎゃーっ!」

 

「な、何だ今の⁉」

 

「よ、妖術か⁉」

 

「化物だ!」

 

「絶対そうだ!アイツの顔、どう見ても人間のモノじゃねェ!」

 

「うるせーーーっ!」

 

思わずツッコむウソップ。

 

しかし、その顔のこともあってか、誘拐犯達は大慌てで逃げて行った。

 

「ふー…なんにせよ救出は成功…」

 

深呼吸を一つするとウソップは立ち上がる。

 

「君が璃々ちゃんだな?」

 

「う、うん」

 

「急いで帰ろう。お母さんが待ってるぞ」

 

「…お母さんが!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~宿屋~

 

「そろそろだな」

 

「…はい」

 

男に言われて、黄忠は弓を用意する。

 

(ウソップさん…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(頼む!間に合ってくれ!)

 

璃々を抱きかかえ、村へ急ぐウソップ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「構えろ」

 

「…はい」

 

狙いを定める黄忠。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走りながら、ウソップは考えていた。

 

(マズイな…!もし行列がまだだとしても、見物人はもうかなり集まってるだろうし…!

宿屋まで行ってたら間に合わなねェぞ、どうする?……そうだ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

婿らしき、傘のついた馬車に乗った人物が、宿屋の窓から見えた。

 

「来たな。頼むぞ」

 

「は、はい…」

 

矢を(つが)え、弦を引く黄忠。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウソップが街に着いた頃には、彼の予想通り、見物人による人混みが出来ていた。

警備の人間もおり、大通りを横切ろうとすれば、不審者として取り押さえられてしまうだろう。

 

(あそこから狙ってるなら…あの辺りからなら…!)

 

街に着いたウソップは、行列が通る大通りと平行に走り出す!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!何をやっている!」

 

黄忠は、できるだけ矢を撃たず、待っていたが…

 

(これ以上は…もう無理…)

 

あきらめて、再び狙いを定めようとしたその時…

 

「!」

 

 

 

 

 

鼻の長い青年に抱きかかえられ、こちらに手を振る自分の娘の姿が、目に映った。

 

(あ…ああ…!)

 

「おい!どうし…」

 

「っ!」

 

バキィッ!

 

「がっ⁉」

 

黄忠に振り返りざまに殴り飛ばされ、誘拐犯の一味の男は気を失った。

 

その後、結婚式は無事に終わった。

 

誘拐犯の大半は逃げてしまったが、黄忠が捕まえた1人の男は役人に引き渡された。

その男の口から、今回の暗殺を企てた、領主の側近のこともバレ、逮捕されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、街の外にて―――

 

「ウソップさん…本当に何とお礼を言ったら良いのか…」

 

「お兄ちゃん、ありがとう!」

 

「いいよ、お礼はもう十分すぎるほど、言ってもらったし。

それに言っただろ、おれは自分のためにやっただけだって」

 

「あの…ウソップさんはこれから、どうするつもりなのですか?」

 

「また、旅を続ける。逸れちまった仲間がいるから、まずそいつらを探さねェと」

 

「よろしければ、私達も同行させてもらえないでしょうか?」

 

「え?」

 

「実は、私達が暮らしている村も、治安が悪くなってきて、離れる住民が増えていたのです。

だから、私と璃々も近いうちに村を離る予定だったのです。

どこに行くか、行き先も決まっていませんでしたし、ウソップさんが他国から来た方なら、この辺りのことに詳しい私は、きっと力になれると思います。

どうでしょうか?」

 

「気持ちは嬉しいんだけど…一つ問題があってな…」

 

「問題?」

 

「おれは…海賊なんだ」

 

「え⁉」

 

「いくら何でも、賊なんかと一緒にいたら迷惑がかかるし、あんた達だって嫌だろう?だから…」

 

「…いいえ、私は構いません」

 

「え⁉」

 

「たとえ海賊でも、ウソップさんは私達を助けてくれました。

自分の誇りのためだと、自分の仲間に顔向けできないと言って。

それに今の世の中では、賊だとか役人だとかいうのは、あまりアテになりませんから…。

だから、私はウソップさんとその仲間を信じます。

璃々もそれで良い?」

 

「うん!お兄ちゃんわるい人じゃないもん!」

 

「…そういうわけですから、同行させてもらえないでしょうか?」

 

「…そうか、ありがとうな。それじゃあ、よろしく頼む」

 

「はい、では改めて自己紹介を…。私は“黄忠漢升”、真名は“紫苑(しおん)”といいます。

これからはどうぞ、紫苑とお呼びください」

 

「璃々は“璃々”でーす!」

 

「おれは“ウソップ”。“紫苑”、“璃々”ちゃん、これからよろしくな!」

 

こうして、ウソップ、紫苑、璃々の3人旅が始まったのだった。

 

 




麦わらの一味で子供の相手が上手くできそうなのって、ナミ、ウソップ、ロビンだと思うんです。
あとは、チョッパーとブルックが出来なくもないかなといった感じです。
そのため、紫苑、璃々と行動させるのは、この3人の誰かにしようと思っていました。



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第34話 “ぽけ~”

1話だけ投稿します。




ウソップが紫苑、璃々と一緒に旅を始めた頃―――

ルフィ達4人は荒野にいた。

 

「腹減ったな~…」

 

「お腹すいたのだ~…」

 

「しかし、こんな荒野では、茶店などもないだろうな…」

 

「動物とかもいませんしね…」

 

一行は腹を空かせ、休んでいた。

 

「あ、鳥なのだ…」

 

「大きいですね…」

 

「いいよな~空飛べるの…」

 

「確かに空を飛べれば、もう少し移動は楽でしょうな…」

 

「「「「…………」」」」

 

「そうだ!あの鳥食おう!」

 

しばらく黙って空を見ていたが、ルフィが突然立ち上がった。

 

「鳥を?」

 

「でもどうやって捕まえるんですか?」

 

「結構高いのだ」

 

「おれに任せろ!鈴々、槍を地面に突き刺せ!」

 

「?」

 

ルフィに言われ、とりあえず鈴々は蛇矛を地面に少し深めに突き刺す。

 

するとルフィは、腕を伸ばして蛇矛の捕まり…

 

「“ゴムゴムの”…“ロケット”!」

 

鳥めがけて一直線に飛んで行った。

 

「なるほどなのだ!」

 

「ルフィ殿、意外と頭が回るのだな!」

 

「あ、あの~…」

 

愛紗と鈴々が感心する中、朱里が不安そうに声をあげる。

 

「どうしました孔明殿?」

 

「ルフィさん…どうやって戻ってくるつもりなんでしょうか?」

 

「「…………」」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴々!孔明殿!急いで追いかけるぞ!」

 

「了解なのだ!」

 

「はわわ~!」

 

3人は全速力で走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方…

 

「待て~~~!肉~~~!」

 

「ピッ⁉」

 

鳥に追いついたルフィは、早速鳥を捕まえようとするが…

 

「ピイ~!」

 

スカッ

 

「あーーーっ⁉」

 

やはり空中での動きは鳥の方が一枚上手であり、避けられてしまう。

 

「ピエ~~~」

 

「チクショ~~~!待て~~~!」

 

鳥は方向を変えて飛び去って行き、ルフィの身体はだんだん落下し始める。

 

「くそ~~~!メシに逃げられた~~~!」

 

悔しがりながら、真っ逆さまに落ちていくルフィ。

 

「ん?」

 

その時、地面に1人の人影が見えた。

丁度、ルフィが落下していく地点に立っており、じっとして動こうとしない。

 

「お~い!そこどけェ~!危ねェぞ~!」

 

「ぽけ~~~…」

 

ルフィは呼びかけるが、人影は動こうとせず…

 

ドゴーーーン!

 

2人は激突した。

 

「おいお前!大丈夫か⁉」

 

すぐに起き上がったルフィは、地面に倒れている先ほど自分とぶつかった少女を、慌ててゆすり起こす。

 

「う~…頭痛い」

 

少女は頭を押さえながら起き上がる。

 

薄い紫色の髪、前髪の一部をドクロの髪飾りで持ち上げまとめており、マフラーを巻いている。

年齢は鈴々と同じくらいだ。

 

「大丈夫みてェだな」

 

「お兄ちゃんは誰?」

 

「おれは“モンキー・D・ルフィ”、海賊王になる男だ」

 

「海賊?じゃあお兄ちゃん悪い人?」

 

「ん~わかんねェ。それはお前が決めてくれ。お前は誰だ?」

 

「シャンは“香風(しゃんふー)”」

 

「ん?それ真名なんじゃねェのか?」

 

「シャンはそういうのよく解らないから…」

 

「そうか」

 

「お兄ちゃん、今空を飛んでいた人?」

 

「ん?ああ、そうだぞ」

 

「どうやって飛んでたの?」

 

「こうやって、棒に捕まって、ビュン!って」

 

身振り手振りで説明するルフィ。

 

「…もしかして、落ちていただけだった?」

 

「ん~、たぶんそうだな」

 

「がっかり…」

 

「どうした?」

 

「空の飛び方、教えて欲しかった…」

 

「お前、空飛びてェのか?」

 

「うん。鳥みたいに、空を飛んでみたい」

 

「…そうか。まーでも空飛んでる奴、けっこう会ったことあるから、頑張れば飛べるんじゃねェか?」

 

「本当⁉頑張れば空を飛べる⁉」

 

「ルフィ殿~!」

 

「「!」」

 

そんな会話をしていると、愛紗達がやって来た。

 

「やっと追いつきましたぞ…そちらの方は?」

 

「シャンは香風」

 

「あの…できれば真名ではなく名乗って欲しいのですが…」

 

「わかった。シャン…じゃなくて、わたくしは“徐晃(じょこう)”、字は“公明(こうめい)”」

 

「“徐晃”殿ですか。私は“関羽雲長”」

 

「鈴々は“張飛翼徳”」

 

「私は“諸葛亮孔明”といいます」

 

「よろしく」

 

「あの…それで徐晃殿はどうしてルフィ殿と一緒に?」

 

「ん~とね…空を見てたら、鳥が飛んでいて、鳥に何かが近づいて来て…。

『何だろう?』って思って見てたら、落ちてきてぶつかった」

 

「は、はァ…」

 

香風の説明に、わかったようなわからないような顔をする愛紗。

 

その時…

 

「ん?何だあれ?」

 

「「「「?」」」」

 

遠くの方から、砂煙が上がっているのが見えた。

どうやら騎馬隊のようで、少しずつこちらに近づいて来ている。

 

しばらくすると旗印が見えるようになり…

 

「あの旗印は…“曹”…」

 

「曹操殿の⁉」

 

「華琳のか!」

 

またしばらくすると、行軍している人物がはっきりと見えるようになり…

 

「ルフィ!関羽!やっぱりあなた達だったのね!」

 

「曹操殿!」

 

「華琳!久しぶりだな~!」

 

先頭を進んでいた華琳が声をかけてきた、後ろには春蘭と秋蘭もいる。

 

 

 

 

 

 

「…それで、都の方に呼ばれて帰る途中で、見覚えのある風貌が見えたから、もしかしたらと思って来たのよ」

 

「そうだったのですか」

 

「ところで、趙雲の姿が見えないようだけれど?それに、見慣れない顔が二人いるわね…」

 

「あ、はい。趙雲とは、数日前に逸れてしまいまして。こちらの方は、入れ替わりに仲間になった…」

 

「“諸葛亮孔明”と言います」

 

「こちらの方は、ついさっきルフィ殿が知り合った…」

 

「“徐晃公明”」

 

「“徐晃”?…もしや、長安(ちょうあん)の方で役人を務めていた、徐晃殿か?

確か、山賊退治で名をあげたという…」

 

「うん。それシャンのこと」

 

秋蘭の質問に頷く香風。

 

「そのような人物が、どういった経緯でルフィと知り合いになったの?」

 

「頭がぶつかった」

 

「頭をごつーんした」

 

「……まァ、こんな所で立ち話も何だし、よかったら一緒に来ない?いつかのお礼もしたいしね」

 

「でしたら、お言葉に甘えて…」

 

こうして、ルフィ達は香風、再会した華琳達と一緒に、華琳の治める街へ向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことがあったんですか…」

 

「それがきかっけで、私はルフィに真名を預けたのよ。着いたわよ」

 

しばらく行くと、一行は立派な城門に囲まれた大きな街にたどり着いた。

 

城門が開き、何人かの家来が出迎えにきた。

 

「お姉様!お帰りなさいませ!」

 

その先頭にいた女の子が声をかけてきた。

 

華琳と同じ金髪で、左右で大きく渦を巻いたツインテールになっており、ウサギのぬいぐるみを抱えている。

お姉さまと呼ぶところを見ると、華琳の姉妹か親類のようだ。

 

「わざわざ出迎えありがとう“栄華(えいか)”。それで、伝令で伝えておいた通り、急に客人ができたのだけれど…」

 

「構いませんわ。それで、どのような方達ですの?」

 

「ええ、紹介するわ」

 

華琳はルフィ達5人を示す。

 

「あらまあ!」

 

その瞬間、栄華の目が輝きだした。

そのまま鈴々、朱里、香風の3人に熱い視線を向ける栄華。

 

「可愛らしい方達ですわね!お名前は何て言いますの?」

 

「鈴々は“張飛”、字は“翼徳”なのだ」

 

「張飛さんですね!お部屋を用意しておりますわ!お風呂も準備させますので、ゆっくりしていってくださいね!」

 

「ありがとうなのだ!」

 

「私は“諸葛亮”、字は“孔明”といいます。しばらくお世話になりましゅ…はわわ、噛んじゃいました」

 

「気にしなくていいですわ!孔明さんにもお部屋とお風呂を用意しますから、ゆっくりしていって下さいまし!」

 

「ありがとうございます」

 

「シャンは“徐晃”、字は“公明”」

 

「徐晃さんですわね!お部屋とお風呂を用意いたしますわ!ゆっくりしていってくださいね!」

 

「わ~い!」

 

鈴々達3人が挨拶を終え、続いて愛紗も挨拶する。

 

「お初にお目にかかります。我が名は“関羽”、字を“雲長”と申します。お世話になります」

 

「はい、部屋をご用意いたしますわ」

 

(………ん?)

 

栄華に挨拶をした愛紗は、なぜか違和感を覚えた。

 

「…あの、あなたは?」

 

「あ、失礼いたしました。私はお姉様、曹操様の従妹で“曹洪(そうこう)”、字を“子廉(しれん)”と申します」

 

「よろしくお願いします」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

(………???)

 

やはり何か違和感がある。

 

(何というか…鈴々達に比べて素気ないような?)

 

絶対に気のせいなどではないが、愛紗はとりあえず黙っていることにした。

 

そして…

 

「おれは“モンキー・D・ルフィ”。よろしく」

 

最後にルフィが挨拶する。

 

「…………」

 

すると栄華はまるで汚い物を見るような表情をし、明らかに視線を逸らす。

やがてしぶしぶ口を開き…

 

「…馬小屋の隅に藁を用意しておきますから、好きに使って下さいまし。

使った藁は他の物と混ざらないよう、分けておいて下さいね」

 

「わかった」

 

「「わかるな!」」

 

明らかに客人に対するモノではない栄華の扱いを、あっさり承諾するルフィに、愛紗と華琳がツッコんだ。

 

「栄華?」

 

「で、ですがお姉様!こんなどこの馬の骨ともわからないような、ましてや男に…!」

 

「言っとくけど、ルフィは私の恩人で、この中で一番大事な客人なの!」

 

「え、ええっ⁉」

 

「間違っても他の四人より粗末な扱いをしないように!いいわね⁉」

 

「わ、わかりましたわ…。部屋を用意します…。それとお風呂も…」

 

「あ、あの曹操殿…曹洪殿は…?」

 

失礼な気もしたが、愛紗はどうしても気になり華琳に訊ねた。

 

「ええ。かなりの男嫌いで女性と、特に小さい女の子と親しむのが好きなの」

 

「それで鈴々達を…」

 

「ええ、そうとう嬉しかったようね」

 

「当たり前です!ああ…三人とも可愛らしくて、その方向性も全然違いますわ♡

張飛さんは今までの服とは違う新しい感じで…孔明さんにはアレを…徐晃さんはこの間注文したのが似合いそうですわ…♡」

 

「…………」

 

妄想の世界に入り、イッちゃった顔になる栄華。

 

「…栄華」

 

「はっ!申し訳ありません!つい、いつもの癖で!さ、張飛さん達!お風呂にご案内しますわ!」

 

そう言って手招きするが…

 

「お、お兄ちゃん…」

 

「はわわ~…」

 

「なのだ~…」

 

先ほどの栄華の様子を見て萎縮してしまい、ルフィの後ろに隠れて出てこようとしない3人。

 

「大丈夫だって。な?」

 

「ええ。栄華も無理やり手を出したりはしないから、安心しなさい」

 

「う、うん…」

 

「はい…」

 

「わかったのだ…」

 

ルフィと華琳に言われ、3人はルフィの後ろから出てきた。

 

「それじゃあ行きましょう。改めて歓迎するわ」

 

「おう!ありがとうな()()!」

 

「⁉ちょっとあなた‼」

 

いきなり栄華がルフィの正面に立ちふさがり、正面から睨みつけた。

 

「何だ?」

 

「『何だ』じゃありません‼どうしてあなたのような下賤な輩が、お姉様の真名を呼んでいるんですの⁉

あなたのせいでお姉様の大切な真名が、汚れてしまったではないですか‼

この汚れは、あなたの口を切り裂いて、その血で清めさせていただきますわよ‼」

 

「呼んでいいって言われたぞ?」

 

「よくもまあそんな嘘をおめおめと‼お姉様があなたのような下賤な輩に、大切な真名を…」

 

「預けたわよ」

 

「…………っ!」

 

「はわわっ⁉私絶句した人って初めて見ました!」

 

「ああ…これほど絶句という表現が似合う状態は、中々ないだろうな…」

 

朱里と愛紗がそう言ってしばらくした後、栄華が我に返るのを待って、一行は街へと入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陳留郡のとある大きな屋敷の一室、そこで桂花は拳を構えていた。

彼女の前には、どことなくルフィに似た人形がある。

 

「あああああーーーーーっ!」

 

ドン!

 

桂花は雄叫びをあげると、その人形の顔面に右ストレートを叩き込む!

 

「憎い!」

 

続いて左ストレート!

 

「あの猿がァ!」

 

そのままパンチの連打!

 

「憎いィ!」

 

顎に右アッパー!

 

「男のォ!」

 

脳天チョップ!

 

「くせにィ!」

 

左わき腹への回し蹴り!

 

「猿のォ!」

 

かかと落とし!

 

「くせにィ!」

 

肘鉄!

 

「華琳様にィ!」

 

ドロップキック!

 

「真名をォ!」

 

バックドロップ!

 

「許されるなんてェ!」

 

一本背負い!

 

「ああ!憎い憎い憎いィ!見てなさいよ!

今度会ったら絶対に泣いて許しを請うような、ひっどい目に遭わせてやるんだからァ!」

 

そのままチョークスリーパーで人形の首を絞める桂花。

華琳がルフィに真名を預けて以来、桂花はほぼ毎日のようにコレを行っていた。

 

ちなみに今の一連の技については、桂花はその動きをしているだけで、技名は知らない。

 

「ふー…ふー…ふー…」

 

しばらくして技を解くと、桂花は般若のような顔をして呼吸を整える。

 

「荀彧様」

 

部屋の外から文官が呼びかけた。

桂花が男嫌いであるため、無論声の主は女性である。

 

「何?」

 

「曹操様がお戻りになられました」

 

「!分かったわ!すぐ迎えに行くわ!」

 

桂花はたちまち上機嫌になり、華琳を迎えに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげ~」

 

「大きいお屋敷なのだ~」

 

「ふふん!そうだろう!そうだろう!」

 

「…どうして夏侯惇さんが偉そうにしているのでしょう?」

 

「訊かないでくれ…」

 

ルフィ達一行は華琳の屋敷に着いた。

同行していた兵士達は皆兵舎や家に戻り、今はルフィ、愛紗、鈴々、朱里、華琳、春蘭、秋蘭、栄華、香風の9人だけである。

 

「華琳様!お帰りなさいませ!」

 

…と、そこへ桂花がやって来た。

 

「ただいま桂花。私の留守中、変わりはなかった?」

 

「もちろんでございます!」

 

「そう。ところで、今夜は急遽酒宴を開くことになったのだけれど、あなたも出席するわよね?」

 

「もちろんでございます!私は常に華琳様のおそばにおりますゆえ!

それにしても酒宴とは…客人でも参られたのですか?」

 

「ええ、彼らよ」

 

そう言って華琳が示したのは…

 

「っ!」

 

桂花が憎くてたまらない男と、その仲間達だった。

 

ちなみに桂花は、華琳を誑かした(と、桂花は思い込んでいる)愛紗のことも、ルフィ程ではないが憎んでいる。

 

「お~!久しぶりだな~猫耳~!」

 

ルフィ達も桂花に気付き、声をかける。

 

「こ、これは荀彧殿…」

 

愛紗は、以前桂花に凄まれたことがあるため、少々気まずそうに声をかける。

 

「あ、あんた達…」

 

「この前のお礼とお詫びがしたかったから、招待したのよ」

 

「…確かに世話にはなりましたね、迷惑もかけてしまいましたし…。

歓迎はするからゆっくりしていきなさい…」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

やや敵意のこもった挨拶をして、桂花は去って行った。

 

「…何だか、悪かったわね」

 

「い、いえ。お気になさらず…」

 

「そーそー、気にすんなって」

 

本当に気にしていない様子で、返すルフィ。

 

「お姉様!お帰りなさいなさいませ!」

 

…と、そこへ別の女の子が声をかけてきた。

 

金髪で長い髪を後ろの方でまとめ、先端を縦ロールにしている

 

「ただいま“柳琳(るーりん)”」

 

「伝令の方からお話は伺いました。そちらの方々が?」

 

「ええそうよ。自己紹介なさい」

 

「はい」

 

華琳に言われ、柳琳と呼ばれた少女は愛紗達の前に来る。

 

「お初にお目にかかります。私は“曹純(そうじゅん)”、字を“子和(しわ)”と申します」

 

「初めまして。“関羽雲長”と申します。

こちらが私の義兄妹で兄にあたる“ルフィ”、妹の“張飛”、旅の同行者の“孔明”殿、“徐晃”殿でございます」

 

「よろしくお願いします。あの…」

 

「ん?」

 

突然、柳琳は申し訳なさそうな顔をして、ルフィ、鈴々、朱里、香風の顔を見る。

 

「先ほど、城門の方で…きっと栄華ちゃんが、ご無礼をしてしまったと思うのですが…。

栄華ちゃん、根はいい子なのでどうか気を悪くしないでくださいね…」

 

「ああ、いいよ。気にすんな」

 

「ちょっと、びっくりしただけなのだ…」

 

「悪気がないことはわかっていますから…」

 

「歓迎してくれたのはうれしかった…」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

「…………」

 

「?関羽さん?私の顔に何かついていますか?」

 

「い、いえ!何でもありませぬ!」

 

華琳をはじめ、今までの曹軍の人物は強烈な者ばかりだったため、大人しく優しそうな柳琳に驚きを隠せない愛紗だった。

 

「ところで柳琳、“華侖(かろん)”は一緒じゃないの?」

 

「それが…姉さんはまたどこかへ行ってしまって…」

 

「はァ…あの子は相変わらずね…」

 

「全く…華侖さんには困ったものですわ…」

 

「曹純にはお姉ちゃんがいるのか?」

 

姉という言葉を聞いて興味が湧いたのか、鈴々が訊ねる。

 

「ええ。“曹仁子孝(そうじんしこう)”といって、私の従妹で柳琳の姉よ」

 

「曹仁殿とは、どういった方なのですか?」

 

「そうね…」

 

「「「「…………」」」」

 

愛紗に訊かれ、考え込む華琳。

春蘭や秋蘭、栄華と柳琳も考え込んでいる

 

「……変わっているとしか言いようがないわね」

 

「は?」

 

華琳の返答に、愛紗が何となく嫌な予感を覚えたとき…

 

「あー!華琳姉ェ、お帰りっすー!」

 

「「「「「⁉」」」」」

 

どこからか声が聞こえた。

ルフィ達は周囲を見渡すが、誰の姿も見えない。

 

「…噂をすれば何とやらね。上よ」

 

「上?」

 

華琳に言われ、ルフィ達が上を見ると…

 

「華琳姉ェ~!その人達誰っすか~?」

 

近くの建物の屋根の上に、金髪を縦ロールのサイドテールにした女の子がいた。

活発そうな印象があり、服装はほとんど裸同然である。

 

「あの~あなたが曹仁殿ですか~?」

 

愛紗も声を張り上げて訊ねる。

 

「そうっすよ~!」

 

「曹仁殿はそこでなにを?」

 

「日向ぼっこっす~!」

 

そう返事をすると、華侖は自分の服に手をかけ…

 

「そ、曹仁殿⁉」

 

「ふえ?」

 

「い、今何をしようとしたのですか⁉」

 

「脱ごうとしたっすよ?」

 

愛紗の問いに平然と答える華侖。

 

「何故脱ぐのです⁉」

 

「脱いだ方が、お日様がいっぱい体に当たって、暖かそうだからっす!」

 

「暖かそうって…」

 

「姉さん!」

 

愛紗の声を柳琳の声が遮った。

 

「もう!またそんな所に登って!危ないから早く降りてきて!」

 

「え~⁉今、登ったばっかりっすよ~?」

 

「華侖!客人が来ているの、降りてきて挨拶しなさい」

 

「うう…わかったっす…」

 

華琳に言われ、華侖はしぶしぶ返事をすると立ち上がり…

 

「…って曹仁殿⁉」

 

「何すか?」

 

「今、そこから飛び降りようとしませんでしたか⁉」

 

「だって降りろって言われたっすよ?」

 

「飛び下りるのはいくら何でも危ないでしょう⁉」

 

「平気っすよ~」

 

「華侖!その近くに窓があるでしょうから、そこから降りてきなさい!」

 

「は~い…」

 

華琳に言われ、華侖は屋内に姿を消した。

 

「…中々、個性的な方ですな」

 

「まあね」

 

濃すぎる曹一族の女性達を見て、華琳、秋蘭、柳琳の苦労を知った愛紗だった。

 

 




オリジナルストーリー、曹一門と香風の話でした。
香風、魏ルートで一番好きなキャラです。



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第35話 “男”

お待たせしました!
また、一話だけ投稿します。




ルフィ達が華琳の屋敷に招待された、その日の夜―――

 

「らからおめーらくーだよ!くー!(だからお前らこうだよ!こう!)」

 

歓迎の宴が開かれ、ルフィはその真ん中でざるを持ち、鼻に棒を入れ踊っていた。

 

「くーなのだ!」

 

「くーか⁉」

 

「くーっすか⁉」

 

鈴々、春蘭、華侖も一緒になって踊っている。

 

「り、鈴々ちゃん…ぷぷぷっ!」

 

「ね、姉さん…ぷっ!は、はしたな…ぷくくっ!」

 

「お兄ちゃん面白~い!」

 

「あの…申し訳ありません…ルフィ殿が変なことを…」

 

「…本人達が楽しそうですから、別にいいですわ…」

 

「ああ。姉者達も楽しそうだし、私もこういうのは嫌いではないぞ」

 

「相変わらず楽しい男ね」

 

「あっはっはっは!あの春蘭が!鼻の穴に木の棒を!あっはっはっは!」

 

華琳をはじめ、曹軍の武官や文官達も大勢交え、宴はとても盛り上がっていた。

 

 

 

 

 

 

~???~

 

〈宛城で曹操と一緒に逃げた男が?〉

 

「はい。話を聞いてみたところ、間違いないかと」

 

〈それでその男が、王植が言っていた天の御使いだというのか?〉

 

「容姿、服装の情報は一致しており、同行者も同じです。例の伸びる身体については、まだ確認できていませんが」

 

〈ふむ…一波乱起こして、探りを入れてみるか〉

 

「よろしいのですか?」

 

〈情報は少しでも正確な方がいいからな。

それに曹操は遅かれ早かれ、我々の邪魔になる存在だ。定期的に痛めつけておいた方が良い〉

 

「了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

「わ~こんなに本が⁉」

 

「すごい!」

 

「当然よ!」

 

朱里と香風は、桂花に書庫を案内してもらっていた。

 

(空の飛び方が書いてあるのもあるかな?)

 

「戦はもちろん、医学や土木作業、料理や芸能にかかわる物もあるわ。中には華琳様が自分で書いた物もあるのよ」

 

「私も曹操さんが書いた“孟徳新書(もうとくしんしょ)”の噂は聞いたことがあります!一度読んでみたいと思っていたんです!」

 

「ぜひ読んでみるといいわ。華琳様の素晴らしがとてもよくわかるわよ。

ああ、本当に…強くて聡明で…気高く美しく…!

褒められても叱責されても、美しさのあまり思わず悶えてしまう…!

ともに閨で過ごしたときなんかそれはもう…!ああ~♡華琳様~♡」

 

妄想の世界に入り、身体をくねらせる桂花。

 

「…………」

 

「荀彧さ~ん」

 

「はっ!んんっ!…何、徐晃殿?」

 

「この本は何?」

 

そう言って香風が持ってきた本は…

 

「“歓乳好奮編(かんちちこうふんへん)~おっぱい好きたちの歓びの歌~”…?」

 

タイトルから察するに、いわゆるエロ本、この時代で言う艶本、官能小説のようである。

何故、このような本が書庫にあるのか?

 

「華琳様に仕えるのであれば、必ず読まなければならない本よ」

 

「「…………」」

 

何となく2人は曹操軍の雰囲気を理解したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、愛紗は秋蘭に兵の訓練場に案内してもらっていた。

 

「それでは曹操殿は、元々は夏侯淵殿達の?」

 

「ああ。華琳様の父である“夏侯嵩(かこうすう)”殿が、宦官の“曹騰(そうとう)”殿の養子になり、“曹嵩(そうすう)”と名を改めたのだ」

 

「成程」

 

「「「「「「「「「「おおーーーっ!」」」」」」」」」」

 

「!」

 

そんな話をしていると、もの凄い咆哮が聞こえてきた。

 

「着いたぞ。ここが訓練場だ」

 

「これは…」

 

筋肉隆々で身長も2メートル近くある男達が訓練をしていた。

その迫力はすさまじいもので、だいぶ距離が離れている愛紗にも熱気が伝わってくる。

 

「今、訓練を行っているのは“虎豹騎(こひょうき)”といって、華琳様の身辺警護を司る精鋭部隊だ。

そして、この隊の指揮をしているのが…」

 

そう言う秋蘭の視線の先には…

 

「前進!」

 

「「「「「「「「「「はーーーっ!」」」」」」」」」」

 

「突けーーーっ!」

 

「「「「「「「「「「はーーーっ!」」」」」」」」」」

 

「曹純殿?」

 

指示を出す柳琳の姿があった。

 

「ああ。彼女自身の武術は、私や姉者に比べれば劣るが、部隊での戦闘となれば我が軍でも飛びぬけているぞ」

 

「そうなのですか」

 

「今日はここまで!」

 

「「「「「「「「「「はい!曹純様!」」」」」」」」」」

 

「あとは皆さん、よく身体を休めるように!」

 

「「「「「「「「「「はい!曹純様!」」」」」」」」」」

 

「兵士でなくても、人は健康管理が何よりも大事ですからね。気を付けて下さいね」

 

「「「「「「「「「「はい!曹純様!」」」」」」」」」」

 

「……あの、夏侯淵殿」

 

「何だ?」

 

「アレは本当に曹操殿の護衛部隊なのですか?曹純殿の親衛隊ではなくて?」

 

「…言いたいことはわかる。華琳様の親衛隊のハズが、いつの間にかあのようになっていてな…。

新しく入隊した者には、あの空気に付いて行けず辞めていく者も多いのだ…」

 

「秋蘭さん、関羽さんも」

 

訓練を終えた柳琳がやって来た。

 

「ご苦労だったな柳琳」

 

「お疲れさまでした、曹純殿。その…すごいですね、虎豹騎というのは…」

 

「ええ。皆さんとても強くて元気で、頼もしい方達なんですよ」

 

「…………」

 

「彼女はあの雰囲気を何とも思っていないのだ」

 

こっそりと愛紗に耳打ちする秋蘭だった。

 

「お~い!」

 

「「「?」」」

 

…と、どこからか春蘭の声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

「あら、あんた達」

 

「荀彧殿、孔明殿に徐晃殿も」

 

愛紗達が声のする方へ向かうと、途中で朱里達に会った。

 

「お前達もあの声を聴いて?」

 

「ええ」

 

「お~い!」

 

見てみると、春蘭が近くの建物の屋根に向かって呼びかけていた。

 

「姉者、どうしたのだ?」

 

「おお、秋蘭。お前達も」

 

「もしかして、また姉さんが?」

 

「いや、華侖だけではなくてな…」

 

そう言って春蘭が指した屋根の上には…

 

「いい天気だな~」

 

「はにゃ~」

 

「気持ちいいっす~」

 

「姉さん!それにルフィさんと張飛さんまで⁉」

 

「三人ともそんな所で寝ては風邪をひくぞ」

 

「そんなこと言ったって、なんとかと煙は高い所が好きだから仕方ないのだ~」

 

「そーそー、仕方ねェよ」

 

「その通りっす~」

 

「“何とか”って…」

 

「自分で言っていれば世話ないわね…」

 

「全く、自分からそんなことを言うとは…バカが考えることは理解できん…」

 

…と、春蘭。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

「な、なぜみんな黙って私を見るのだ…?」

 

「あなた達、ここにいたの!」

 

そこへ華琳と栄華がやって来た。

2人は何やら険しい表情をしている。

 

「華琳様!どうかしたのですか?」

 

「領内に黒山賊が現れたのです!」

 

「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」

 

「大至急軍議を開くわ!それで…ルフィ、関羽、できればあなた達にも、客将として協力してもらいたいのだけれど…」

 

「おういいぞ」

 

「賊退治とならば、協力は惜しみません!」

 

ルフィと愛紗が承諾し、残りの3人もうなずく。

 

「ありがとう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~大広間~

 

「黒山賊の兵力は総勢一万、現在はこの山の麓に陣を築き、山中で砦を建築しているようです」

 

栄華がテーブルに敷かれた地図を指して説明する。

 

「その砦を拠点に勢力を増し、陳留を占拠するつもりでしょうか?」

 

「何にせよ、この山に堅固な砦を築かれると厄介ね…」

 

「火事も小火(ぼや)程度なら消しやすい物、ここは今すぐ叩くべきかと」

 

「そうね…夏侯惇!夏侯淵!荀彧!」

 

「「「はっ!」」」

 

「すぐに出陣の支度を整えてちょうだい!」

 

「「「はっ!」」」

 

「それから、関羽と張飛も来てもらえるかしら?」

 

「わかりました」

 

「曹洪、曹仁、曹純、それにルフィに、孔明殿、徐晃殿は私達が留守の間、ここを守って」

 

「「「「「「はい!/わかったっす!/わかった!」」」」」」

 

そして、愛紗、華琳達は7千の兵を引き連れ、出陣したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛紗、華琳達が出陣してから数日後―――

 

~陳留、華琳の城~

 

「ふう…」

 

1つの竹簡を見ながら、栄華が渡り廊下を歩いていた。

 

「栄華ちゃん」

 

「柳琳」

 

「何を見ていたの?」

 

「東門の修繕の見積書です。これはかなりの金額ですわ」

 

「どれどれ…これはかなりの出費ね…」

 

「ええ。でも仕方ありませんわ。門の修繕は最優先事項。お金を惜しんで、修繕を怠ったら、敵は入り放題…」

 

「うお~⁉」

 

「あ~れ~⁉」

 

「「⁉」」

 

不意に外、それも上の方から悲鳴のようなものが聞こえ、2人が見てみると…

 

「「きゃあああああ⁉」」

 

ルフィとルフィの腰にしがみついた状態の香風が空から降ってきた。

 

ドガッシャーン!

 

「うげー⁉」

 

「あたっ⁉」

 

「ルフィさんに⁉徐晃さん⁉」

 

「一体何をしていたんですの⁉」

 

「はわわ~⁉大丈夫ですか~⁉」

 

そこへ朱里も走ってきた。

 

「孔明さん!一体何があったの⁉」

 

「話せば長くなるんですけど、徐晃ちゃんは空を飛んでみたいらしいんです」

 

「空を?」

 

「それで、話を聞いたルフィさんが“たけとんぼ”という玩具のことを思い出して…」

 

「“たけとんぼ”?」

 

「竹で作った板に竹串を刺した玩具で、こう…回転させて、飛ばして遊ぶ玩具だそうです」

 

身振り手振りを交えて説明する朱里。

 

「それでその動きをマネして、腕を勢いよく回せば飛べるんじゃないかってルフィさんが…」

 

「それで徐晃さんがしがみついた状態で、ルフィさんがやってみて失敗したと…」

 

「いえ、空を飛ぶことはできたんですけど…」

 

「できたんですの⁉」

 

「着地のことを全く考えていなくて、回転が遅くなった途端、落ちてしまったんです…」

 

「そう言う事だったんですね…」

 

「でも、ちょっとだけ飛べた!お兄ちゃんさっきの…え~と…」

 

「“ゴムゴムの竹とんぼ”だ」

 

「うん!それまたやって!」

 

「おう!良いぞ!」

 

「やめて下さい!徐晃さんが怪我でもしたらどうするんですか⁉これだから男は…!

ああ…お姉様もどうせなら、この汚らわしい男を連れて行って討ち死にさせ、張飛さんを残してくだされば良かったのに…」

 

「あの…ルフィさん、栄華ちゃんが本当にごめんなさい…」

 

「いいよ。嫌われるの慣れてるから」

 

「…さらりと悲しいことを言いますね…」

 

…と、そんなことを話していると…

 

「あ~!栄華!柳琳!やっと見つけたっす~!」

 

「姉さん!」

 

「華侖さん!」

 

「華侖!」

 

「あ!ルフィっち達も!」

 

「あの…姉さん」

 

「何すか?」

 

「今、ルフィさんが姉さんのこと真名で呼んでいたけど…許したの?」

 

「華琳姉ェが真名預けたみたいだから、良いかな~って」

 

「そう」

 

「ところで華侖さん、私達に何か用ですか?」

 

「あ!そうだったっす!大変っすよ!」

 

「どうしたの?」

 

「さっき城壁に登ったら、たくさんの兵隊が見えたっす!華琳姉ェの兵じゃないっす!」

 

「「「「「!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~西門、城壁~

 

華侖の話を聞いた、ルフィ、朱里、柳琳、栄華、香風は様子を見てみることにした。

 

「あれか?」

 

「西門に向かって突っ込んで来る…」

 

「はわわっ!五千人はいますよ!」

 

「あの旗印は“滎陽(けいよう)太守”の“徐栄(じょえい)”ですわね…」

 

「どうしてわざわざこんな所に攻撃を?」

 

「そんなことより、どうするっすか⁉」

 

「そうね…こちらの兵力は三千…。けど、全ての兵士を西門に回すわけにはいかないですし…」

 

「とにかく急いで兵の招集を!ルフィさんと孔明さんと徐晃さんは、兵士と一緒にここを守ってください!」

 

「よし!任せろ!」

 

ルフィの返事を聞くと華侖達3人は城壁を下りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、華琳達は黒山賊を相手に、有利に戦いを進めていた。

 

~曹操軍の陣、華琳の天幕~

 

「しかし、この山はまさに天然の要害。一筋縄ではいきませんね」

 

「はい。もしここに砦を築かれれば、さらに攻めにくくなります」

 

「ええ。時間はかかるでしょうけど、今回の出陣で確実に攻め落とすわよ」

 

「そう言えば曹操様」

 

「どうしたの秋蘭?」

 

「実は今日の出陣の途中、賊軍が妙な会話をしているのを聞きまして」

 

「妙な会話?」

 

「はい。『今日もあの男はいないか?』『ああ、やはり来ていないようだ』と」

 

「“あの男”?」

 

「少々気になったもので、一応報告しておこうかと…」

 

「う~む…我が軍にそこまで名が知れている男はいないと思うが…」

 

「敵の間者か、増援の話でしょうか?」

 

「…とりあえず、頭の隅には置いておきましょう。軍議を続けるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~華侖、柳琳、栄華side~

 

「よりによって春蘭さんも秋蘭さんもいないときに…」

 

「急いでお姉様に連絡を!守備に徹すれば、十日は持ちこたえられるはずですわ!」

 

「そうね。幸いにも徐晃さんがいてくれたし、孔明さんも頑張ってくれそうですし…」

 

「あの男は全く期待できませんどね…」

 

「え、栄華ちゃん…ルフィさんだってやる気はあるみたいだったし、きっと頑張って…」

 

「努力はしてくれても、結果が伴わなくては意味がありませんわ!」

 

「…………」

 

「あれ?でもそう言えば華琳姉ェ、出陣前に…

 

 

 

 

 

『お姉様、今回の出陣にあの二人を連れて行って、大丈夫なのですか?』

 

『ええ。部隊指揮はともかく、個人の武ならあの二人は私や春蘭に匹敵するらしいわ。

いい機会だし、その腕を直接見ておきたいもの』

 

『へーっ!そんなに強いんすか、あの二人⁉』

 

『共闘した春蘭達がそう言うんだから、間違いないわ』

 

『お姉様がいつも言っているように、野に埋もれた人材はまだまだいるのですね』

 

『そうね。特にルフィを見たときは驚いたわ』

 

『あの男が?』

 

『ええ、彼は私や春蘭より断然強いもの。おそらく我が軍の主将全員と、虎豹騎でかかっても勝てないでしょうね』

 

『『『え?』』』

 

 

 

 

 

…って言ってなかったすか?」

 

「た、確かに…」

 

「…お姉様を疑うワケではありませんけど、あの男がお姉様より強いなんて…にわかには信じがたいですわね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ルフィ、朱里、香風side~

 

「はわわ~もうすぐ敵が城門に着きますよ~!」

 

「シャン、頑張る…!」

 

そう言って自身の武器である大斧、“開山大斧(かいざんたいふ)”を構える香風。

 

「よし、お前らはここにいろ」

 

「え?」

 

そう言ってルフィは1人城壁から下り、城門の前に立つ。

 

 

 

 

 

 

「よーし!一斉に掛かれーっ!」

 

「「「「「「「「「「おーーーっ!」」」」」」」」」」

 

一方、徐栄軍は怒涛の勢いで、西門に向けて進軍していた。

 

「将軍!門前に男が一人立っております!」

 

「ん⁉」

 

兵士の言う通り、帽子を被った男がたった1人で、門の真ん前に立っている。

 

「はっ!気にすることはない!一気に踏みつぶしてしまえ!」

 

「「「「「「「「「「おおーーーっ!」」」」」」」」」」

 

そのまま勢いよく向かってくる、徐栄軍に対し…

 

「よォし…来い!」

 

男は静かに拳を構えた。

 

 




“ゴムゴムの竹とんぼ”:“ゴムゴムのUFO”の回転部分を、足ではなく腕にしたバージョンの技



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第36話 “華蝶降臨”

タイトルでネタバレしていますが、あの人が登場します。




~華琳side~

 

(秋蘭の報告にあった敵の会話、どうも気になるわね…)

 

愛紗、春蘭らが黒山賊と交戦している間、華琳は軍の後方で考えごとをしていた。

 

「(我が軍の男…それも名の知れた男…今までの戦で目立った男といえば…?

私が張繍の罠から脱出した時に共闘したルフィぐらいだけど…それを知っているのは張繍だけ…。

張繍…?黒山賊…?…まさか⁉)誰か!」

 

「は!いかがなさいました曹操様⁉」

 

「前方に伝令を!今日中に砦を攻め落とすわよ!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~華侖、柳琳、栄華side~

 

「これで兵の配置は完了ね」

 

「あたし達も西門に急ぐっす!」

 

「まだ門が破られたという報告はないけど、気がかりですわね…」

 

そして華侖達3人も武装を済ませ、西門へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~西門、城壁~

 

「皆さん!」

 

「曹純様!曹洪様に曹仁様も!」

 

「戦況はどうなっていますか⁉」

 

「あ…それがその…」

 

「「「?」」」

 

答えに困っている様子の兵士。

不利か有利かの2択で答えるだけなのだが、どうも様子がおかしい。

 

状況的に有利ではないだろうが、追い詰められているという様子でもない。

よく見ると周りの兵士達も、そこまで切羽詰まっている様子ではなく、城壁の下を見て驚愕しているようだ。

 

「はわわ~…」

 

「手が…」

 

朱里と香風も下を見て呆気に取られている。

 

「「「?」」」

 

気になって華侖達3人も下を覗いてみる。

 

すると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“暴風雨(ストーム)”‼」

 

「「「「「「「「「「ぎやあああああァァァァァ‼」」」」」」」」」」

 

1人の男が無双していた。

城壁に近づく敵兵を次々と吹き飛ばし、時には一度に百人近い人数が吹っ飛ぶ。

 

「な、何なんだアイツは⁉」

 

「知るか!あんなのに構ってないで、さっさと門を開けろ!」

 

そう言って何人かは、かろうじて城壁にたどり着き登りだすが…

 

「逃がすかァ!“ゴムゴムの”…“花火”‼」

 

「「「「「「「「「「ぎやあああああァァァァァ‼」」」」」」」」」」

 

下からの攻撃をくらい、次々と落ちていく。

 

くらわずに残った者は十人足らずであり、それらも城壁にいる兵士達によって仕留められてしまう。

 

「え…えええっ⁉」

 

「な、なんか手が伸びてるように見えるっすよ⁉」

 

「な、何なんですのアレは?」

 

「いやァ…ずっと一人で戦い続けていまして、もう一人で千人以上討ちとっていますよ…」

 

「あの…曹洪さん、曹純さん、曹仁さんも」

 

「!孔明さん」

 

驚愕している3人に、いち早く我に返った朱里が声をかけてきた。

 

「この様子なら、ここの守備はひとまずは大丈夫かと思います。

他の場所の守備か、別の策を考えませんか?」

 

「そ、そうですわね。

華侖さん、柳琳、あなた達は部隊を連れて、城内に待機していて下さい。

私は手勢を連れて、東門から打って出て、敵の背後をつきますわ」

 

「わかったっす!」

 

「気を付けてね、栄華ちゃん」

 

「はい!」

 

そして3人は部隊の準備のため、再び城壁を下りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~華琳side~

 

「ひるむなー!突撃だー!」

 

その頃、華琳の率いる遠征部隊は、黒山賊の砦に総攻撃を仕掛けていた。

華琳自身も最前線に出ている。

 

山中に築かれていた砦は未完成ではあるものの、城壁は十分な強固さを持っており、山道の進みにくさもあって、簡単には落とせなかった。

 

「華琳様、やはりこの攻撃は無謀かと思います」

 

攻撃命令を出した華琳を咎める秋蘭。

 

「ええ、わかっているわ。でも万が一、私の考えが正しければ、急がないと最悪の展開になってしまうわ!」

 

「最悪の展開?」

 

「頑張るのだー!降ってくる矢や岩は、気合でなんとかして突き進むのだー!」

 

「うむ!その通りだ張飛よ!気合でなんとかして突き進めー!」

 

「…こういう時はあの脳筋さが頼もしいわね…」

 

「…その通りですな…」

 

愛紗と桂花がそう呟いた、その時…

 

「ぎゃー!」

 

「ぐあっ!」

 

「な、何だァ⁉」

 

「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」

 

急に賊軍の動きが乱れ始めた。

 

「おいどうした⁉」

 

「突然後方から、何者かが斬りこんできたようです!」

 

「何⁉新手の敵か⁉裏切りか⁉」

 

「よ、よく解りませんが…」

 

突然の事態に賊は混乱し、裏切りという声に惑わされ、一部では同士討ちが始まる。

当然、曹操軍を防いでいた防衛戦も乱れ…

 

「よくわからないが、好機だ!」

 

「この機を逃すな!全軍突撃―!」

 

「「「「「「「「「「おーーーっ!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~栄華side~

 

「皆さん!行きますわよ!」

 

「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」

 

その頃、栄華は部隊を整え、東門から出撃したところだった。

 

「このままの行軍速度で一気に敵の背後をつきますわ!遅れないように!」

 

「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」

 

そのまま疾風のごとく突き進む部隊!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし…

 

ドスッ!

 

「ぐあっ⁉」

 

「…え?」

 

突如、矢が刺さる音と兵士の悲鳴が聞こえ、思わず周囲を見渡す。

 

すると…

 

「まさかここで曹の一門と出くわすとは思わなかったぞ。標的は変更だ!コイツらを叩け!」

 

「「「「「「「「「「おーーーっ!」」」」」」」」」」

 

「なっ⁉」

 

5千人近い敵兵が突っ込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「曹仁様!曹純様!一大事です!」

 

「「⁉」」

 

部隊を整え、待機していた華侖と柳琳のもとへ、兵士が1人走ってきた。

 

「何があったの⁉」

 

「先ほど曹洪様が部隊を連れて、東門から出撃したのですが、突如現れた敵の別動隊に包囲されてしまいました!

その数はおよそ五千!」

 

「ええっ⁉どういう事っすか⁉何で東に敵がいるんすか⁉」

 

「もしかして、敵は初めから東門を破るつもりだった⁉

東門が修理中だったのを知っていたから⁉

だから西門に守備を集中させて、東門を手薄にしようとしていた!

そして東門を攻めようとしていた敵部隊と、栄華ちゃんが鉢合わせしてしまったんだわ!」

 

「ええっ⁉どうするっすか柳琳⁉」

 

「そうね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~華琳side~

 

「…ようやく片付いたわね」

 

焼け崩れていく賊軍の砦と、累々たる屍を見て華琳は呟いた。

 

あの後、乱れた黒山賊は曹操軍の猛攻を受け、壊滅したのだった。

 

「それにしても、敵が突然あそこまで乱れるとは…」

 

「敵の様子から察するに、後方から何者かが斬りかかったようですが…」

 

「うむ…同士討ちをしている死体や、我が軍の方を向いているにもかかわらず、背後から斬られている者がいる点から見ても、間違いないだろうな…」

 

「我が軍の者ではないことだけは確かだな…」

 

「誰が鈴々達の味方をしてくれたのだ?」

 

「別にお前達の味方をしたわけではない、ただ邪悪な賊どもに天誅をくらわせただけだ」

 

「「「「「「⁉」」」」」」

 

当然何者かの声が聞こえ、愛紗達は身を寄せ合い、周囲を見渡す。

 

「華琳様!あそこに!」

 

春蘭に言われ、一同が目を向けると、近くの木の枝に何者かが立っていた。

 

「キサマ、何者だ⁉」

 

「ある時は酒とメンマを愛する美人武芸者…またある時は男どもの心に癒しを与える謎の美女…。

しかしてその実態は、乱世に舞い降りた一匹の蝶、美と正義の使者―――」

 

「変態仮面なのだ!」

 

「華蝶仮面だーーーっ!」

 

「…ねえ関羽、アレって…」

 

「言わないでください」

 

「…さっさと合流すればいいものを…何故わざわざ…」

 

「言わないでください!」

 

「…何がしたいのよアイツ…?」

 

「だから言わないでください!」

 

「華琳様…?秋蘭に桂花も…アイツを知っているのか?」

 

「…………」

 

「春蘭…」

 

「姉者…」

 

「…ま、アンタの筋肉しかない脳みそじゃ、わかるワケないわよね…」

 

「何だとォ⁉」

 

「コホン!…それで華蝶仮面とやら、この賊の成敗に手を貸してくれたのはアナタなのね?」

 

気を取り直してせ…ではなく華蝶仮面と会話を始める華琳。

 

「そういうことになるな」

 

「そう。結果として我が軍に助太刀してくれたのだから、お礼は言わせてもらうわ。ありがとう」

 

「構わん。正義の使者として当然のことをしたまでだ」

 

「もしよろしければ、我が軍に帰順しない?」

 

「華琳様!あんな悪趣味な仮面をつけるような輩など、召し抱えてはなりません!

華琳様の評判に傷が付きます!」

 

「何を言う桂花。強いならば仮面がヘンテコリンだろうと関係ないだろう?」

 

「姉者の言う通りだ。変な仮面であろうと、才があるものならば迎え入れるべきだ」

 

「ええ。多少の悪趣味さは妥協しましょう」

 

「…………」

 

(ああ…また機嫌が悪くなっているな…)

 

「諸君…さらばだ!」

 

せ…華蝶仮面は去って行った。

 

「行ってしまいましたな…」

 

「まァいいわ。それより急いで引き返すわよ!」

 

「はっ!しかし華琳様、何故そこまで急ぐのですか?」

 

「私の予想が正しければ…ルフィ達の身に危険が迫っているわ!」

 

「「「「「⁉」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~栄華side~

 

(くっ…なんてこと…!)

 

栄華は敵軍に包囲されていた。

栄華もそれなりの人数を連れていたが…

 

「はっはっは!どうだ我が軍の新兵器“連弩(れんど)”の威力は!」

 

「一度に十の矢を放つ(いしゆみ)が五台!五十の矢を一度に放たれては、ひとたまりもあるまい!」

 

「もう一度、撃てーっ!」

 

ザーッ!

 

「「「「「「「「「「ぐあァっ!」」」」」」」」」」

 

強力な敵の兵器の前に、部隊はほぼ全滅。

それに対し、敵の部隊はほぼ無傷だった。

 

「ううっ…!」

 

「これだけやれば充分だろ!曹洪を生け捕りにしろ!」

 

「「「「「「「「「「おおーーーっ!」」」」」」」」」」

 

四方から一斉に押し寄せる敵軍。

 

「曹洪様!お逃げ下さい!…ぐあっ!」

 

「お早く…がっ!」

 

残った者達は必死に抵抗するが、多勢に無勢で次々と討たれてしまい、とうとう栄華以外全滅してしまった。

 

「捕えろォーーー!」

 

「「「「「「「「「「おーーーっ!」」」」」」」」」」

 

(ここまでですのっ…⁉)

 

そう思い目を閉じる栄華。

 

その時…

 

「“ゴムゴムの”ォ…」

 

「⁉」

 

何者かの声が聞こえ目を開けると…

 

「“銃乱打(ガトリング)”~‼」

 

「「「「「「「「「「ギャアアア~~~!」」」」」」」」」」

 

一人の男が敵を蹴散らすのが目に入った。

 

「あなた!」

 

「おい!お前!大丈夫か⁉」

 

「何だあの男⁉」

 

「この大群の中、どうやって⁉」

 

「そんな話は後だ!さっさとアイツを仕留めろ!連弩だ!」

 

「はっ!撃てーっ!」

 

ザーッ!

 

「危ねェ!」

 

「キャッ⁉」

 

とっさに栄華を抱えて飛び退くルフィ。

 

「何だあれ⁉」

 

「わかりませんけど、アレを何とかしないと退くことも、簡単には…」

 

「そうか。よし!捕まってろ!」

 

「へっ⁉」

 

そう言うとルフィは栄華を背負い、連弩を構える敵部隊に突っ込んでいく。

 

「ええっ⁉ちょっとあなた⁉何を…⁉」

 

「心配すんな!お前にケガはさせねェから!」

 

「何だアイツ⁉真っ直ぐこっちに突っ込んで来るぞ⁉」

 

「馬鹿め!格好の的だ!撃てーっ!」

 

ザーッ!

 

目の前に迫る矢の雨に対し、ルフィは臆することなく突っ込み…

 

「よっ!」

 

飛び上がって矢を避ける。

 

ルフィの背後にいる栄華に矢が当たることはなかったが、ルフィは避けきることができず、足や腰に数本突き刺さる。

 

「“ゴムゴムの”~…」

 

しかしルフィはひるむことなく…

 

「“スタンプ銃乱打(ガトリング)”~‼」

 

ドガガガガガァン!

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

連弩を5台全て破壊する!

 

「よし!これで大丈夫か⁉」

 

「え、ええ…まァ、少しは…」

 

「よし!じゃあ逃げるぞ!」

 

栄華を背負ったまま、走り出すルフィ。

 

「逃がすなァ!連弩を失ったとはいえ、我々の有利に変わりはない!」

 

「「「「「「「「「「おーーーっ!」」」」」」」」」」

 

「どけェーーーっ!」

 

ドガァン!

 

「「「「「「「「「「ギャーーーッ!」」」」」」」」」」

 

襲い掛かる敵兵を足だけでブッ飛ばしながら、突き進むルフィ!

 

「ちょ、ちょっとあなた怪我は…⁉」

 

「ん⁉どっかやられたのかお前⁉」

 

「いえ、私ではなくてあなたの…!」

 

「おれは大丈夫だ!お前が無事ならとりあえずいいから、早く逃げるぞ!」

 

「…っ!…わかりましたわ…。で、でも逃げるって言ったって…」

 

「栄華ちゃーん!ルフィさーん!」

 

「あーっ!無事だったすねー!」

 

「!華侖さん⁉柳琳⁉」

 

前方から華侖と柳琳が部隊を引き連れ、敵の包囲を破って現れた。

 

「栄華ちゃん、良かった…!」

 

「どうしてお二人がここに⁉」

 

「栄華ちゃんが敵に包囲されたって情報が入ったから、まず急いで西門を守っていたルフィさんを呼び戻したの。

それから、ルフィさんには単独で敵の包囲の中に入って、栄華ちゃんを保護するようにお願いして、私と姉さんは虎豹騎を引き連れて、二人の逃げ道を確保していたの」

 

「ところで…助かったのって、栄華だけっすか?」

 

「ええ…恥ずかしながら、私の隊は全滅してしまいましたわ…」

 

「そうっすか…悲しいっす…」

 

「でも、栄華ちゃんだけでも無事でよかったわ。早く引き上げましょう!皆さん!お願いします!」

 

「「「「「「「「「「お任せ下さい!曹純様!」」」」」」」」」」

 

「よーし!もうひと頑張り行くっすよー!」

 

そう言って華侖と柳琳もそれぞれ“青釭剣(せいこうけん)”、“倚天剣(いてんけん)”を構える。

 

「よし!行くぞォ!」

 

その後、ルフィ達は敵の包囲網を抜け、なんとか城まで戻った。

戻った後は、あらかじめ柳琳が東門に待機させておいた香風や兵士達と協力し、守備に入った。

 

徐栄軍はしばらく攻め続けたが、やがて引き揚げて行った。

 

 




オマケ

その他の魏・呉ルートのキャラを作者のイメージで、華蝶仮面の正体に気付きそうな人と、気付かなそうな人に分けてみました。

気付く人

季衣、流琉、凪、真桜、香風、炎蓮、雪蓮、小蓮、粋怜、祭、明命、梨妟、傾、霞、七乃、地和(どっちかというと頭がいい、少なくともバカではないと思うから)
華侖(カンが鋭そうだから)
栄華、風、稟、蓮華、冥琳、穏、亜莎、包、瑞姫、燈、喜雨、黄祖、人和(頭がいいから)
沙和(オシャレにうるさいので、身に着けているもので誰か分からなくなることは、ないと思うから)


気付かない人

柳琳、天和(どこか抜けてそうだから)
雷火、思春(頭が固くて、逆に気付かなそうだから)
華雄、美羽(バカだから)



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第37話 “罰”

これからしばらくは、週一投稿で行こうと思います。




徐栄軍との攻防があった翌日―――

 

「よくこんな状態で、あれだけ走り回ることができましたわね…しかも私を背負って…」

 

「平気だよあれくらい」

 

ルフィは用意された部屋のベッドで横になり、栄華に足の包帯を変えてもらっていた。

 

「…はい、終わりましたわ。とにかく、今日一日はおとなしく寝ていてくださいね。食事は後で持ってこさせますから」

 

「ああ、わかった」

 

栄華は部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

「あら栄華ちゃん」

 

「柳琳」

 

ルフィの部屋を出てすぐ、栄華は廊下で柳琳と出くわした。

 

「あれから変わりはありませんか?」

 

「ええ、何もないわ。それにしても…栄華ちゃんがルフィさんの看病を買って出るなんて、どういう風の吹きまわし?」

 

「あ、あの怪我は私を守るために負ったようなものですもの…その借りは返しませんと…。

それにしても、あの男を一人で行かせるなんて、無謀な策だとは思いませんでしたの?」

 

「確かに無謀だとは思ったけど、あの状況じゃルフィさんの強さに賭けるしかなかったから…」

 

「まァ確かに…」

 

「あー!柳り~ん!栄華~!」

 

「華侖さん」

 

「どうしたの姉さん?」

 

「華琳姉ェの所に行っていた伝令が戻ってきたっす!華琳姉ェ、黒山賊はとっくに退治したから、すぐに戻ってくるみたいっすよ!」

 

「ホントに⁉」

 

「良かった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから3日後―――

 

「お~い!愛紗~!鈴り~ん!華り~ん!」

 

「ルフィ殿!」

 

「ただいまなのだ~!」

 

華琳達が城に帰ってきた。

 

「伝令から大方の事情は聞いたわ。ルフィ、あなたにはまた恩が出来てしまったようね。孔明殿に徐晃殿もありがとう」

 

「いいえ、私達はあまり…」

 

「お兄ちゃんに比べたら何も…」

 

「いいえ、そんなことありませんわ。お二人も十分頑張ってくださいました」

 

「栄華、事の顛末は聞いたわ」

 

「…はい」

 

「部隊を全滅させた罪は重いから、何らかの罰は受けてもらうけど、まずはあなたが無事でよかったわ」

 

「勿体なきお言葉、感謝します」

 

「さてと…悪いけど、大至急軍議を始めるわ。この事態、とんでもない裏があるようなの」

 

「裏?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~軍議の間~

 

軍議が始まり、華琳が今回の一件について、述べた見解は…

 

「今回の事件はルフィ殿を狙っていた⁉」

 

「ええ。私達が黒山賊と対峙した時、夏侯淵が賊軍の会話を聞いていたの」

 

「確か内容は…『あの男はいないのか?』『ああ、やはり来ていないようだ』…といった感じでしたね?」

 

確認する桂花。

 

「ええ。でも我が軍でそこまで活躍した男はいない。

ならば、賊軍が言っていた男とは誰を指すのか?」

 

「成程…以前、曹操さん達と共闘したことがある、ルフィさんのことを指している可能性は十分ありますね…」

 

頷く朱里。

 

「ええ。そして、私達が出陣している間に、城が襲われた。

張繍の時も今回の件も、罠として黒山賊が用意されていた。

偶然にしては出来過ぎていると思わない?」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

誰も華琳の言葉に異論は唱えない。

 

「しかし、そうだとすると張繍軍、徐栄軍、黒山賊の全てに関りがある何者かが、黒幕として存在することになります。

そんなことがあるのでしょうか?それに、その黒幕は何故ルフィ殿を殺そうと?」

 

「ねえ、それって…」

 

秋蘭のそんな疑問に対し、香風が口を開いた。

 

「お兄ちゃんが天の御使い様だから?」

 

「「「⁉」」」

 

香風の言葉に春蘭、秋蘭、桂花が驚く。

 

「徐晃殿⁉何故それを⁉」

 

愛紗も驚いた様子で聞き返す。

 

「昔、都で天の御使い様について書かれた書を読んだことがあった。

あまり覚えていないけど、御使い様の一人が身体を伸ばすことができるって書いてあった気がする…」

 

「あ!そう言えば、あなたの身体のこと、ずっと聞きそびれていましたけど、一体何なんですの⁉」

 

「そうっすよ!ルフィっちの身体が伸びるアレって何なんすか⁉」

 

「体が…?」

 

「伸びる…?」

 

「そう言えば私も詳しく聞いたことはなかったわね」

 

香風の話を聞き、華琳達も全員興味津々の様子でルフィを見る。

 

「…私が説明しましょう」

 

そして愛紗が、ルフィがこことは違う世界から来たこと、流星とともに現れたことなどを全て話した。

 

「成程…」

 

「まさか、そんな御伽話のようなものが実在したなんてね」

 

「それに徐晃さんの話と合わせてみると、やはりルフィさんは天の御使いで間違いなさそうね…」

 

「…仮にルフィが天の御使いだったとして、奴らがルフィの命を狙う理由がそれだとしたら、とんでもないことになるわね…」

 

「どういうことです華琳様?」

 

「天の御使いは、大陸に平和をもたらす存在と言い伝えられている。

そのような者の命を狙うは、大陸の平和望まない輩だけよ。

そして今回、ルフィが私達と一緒にいることを連中が知っていたということは…」

 

「曹操さんの軍の中にその黒幕、あるいは密告した間者がいるということになりますね…」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

朱里の言葉に皆が驚く中、華琳は静かに首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜―――

 

「踊るのだ~!」

 

「秋ら~ん!一緒にやろうぞ!」

 

「柳琳も一緒にやるっす~!」

 

「いや…私は遠慮しておく…」

 

「わ、私もちょっと…」

 

何はともあれ曹操軍が戦に勝利したことの祝いと、戦った者達をねぎらうことを兼ねて、宴会が行われた。

 

「さ、どうぞ」

 

「おう、ありがとう」

 

その中で、栄華はルフィにお酌をしていた。

 

「でもお前、大丈夫なのか?男嫌いなんだろ?」

 

「お姉様に罰として、今晩あなたのお相手をするように言われましたので…」

 

「そっか、大変だな」

 

「ま、お姉様らしい罰ですから、仕方ないですわ…。

ただ!言っておきますけど!」

 

「?」

 

「相手をすると言っても…げ、限度はありますからね!な、何でもしてあげるワケではありませんからね!

む、無理やり…ら、乱暴にしたりは…」

 

「しねェよ。乱暴なんて」

 

「……そ、そうですの?」

 

「うん。酒ももういいから、お前も食おうぜ!」

 

「……い、いただきます」

 

ちなみに、その隣では…

 

「関羽…アナタって本当に綺麗な髪ね…ふふふ…」

 

「そ、曹操殿…!か、顔が近いです…!」

 

「華琳様~!そんな女より私を~!」

 

(は、はわわっ!こ、これが百合…!ほ、本で読んだことはありましたけど…!実際に見るのは初めて…!)

 

(噂には聞いていたけど、曹操軍って本当に百合百合しい…)

 

愛紗がある意味絶体絶命の危機に瀕していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~???~

 

「成程、やはり張繍との戦で曹操と一緒にいた男と、王植の報告にあった男は同一人物で間違いなさそうだな」

 

〈はい。それともう一つ報告したいことが…〉

 

「何だ?」

 

〈曹操の奴が間者の存在に気が付きました〉

 

「…勘の鋭い女め。やはり後々、我々の邪魔になるだろうな」

 

〈まだ、誰かまでは特定できていないようですが、いかがいたしましょう?〉

 

「ふむ…しばらく曹操に仕掛けるのは止めよう。お前らもしばらくは行動を慎め」

 

〈それだけでよろしいのですか?〉

 

「今最も避けるべきなのは、我々の存在が表沙汰になることだ。

お前らのことは、現場を直接押さえられない限り、バレることはない。

故に何もしないのが一番だ」

 

〈了解しました〉

 

(九人の天の御使い…可能ならば抹殺したいが、目立つことは避けねばならん。

少なくとも()()が手に入るまではな…。

とにかく、残りの八人についても早く情報を集めねば…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数日後~

 

ルフィ達は陳留を去ることにした。

 

「それでは曹操殿、縁があればいずれまた」

 

「ええ。ところであなた達、これからどこへ行くつもりなの?」

 

「いえ、特に決めておりませんが…」

 

「それなら、今回の件で徐栄があなた達に目をつけているかもしれないから、西の方には行かない方が良いと思うわ。

あと張繍のこともあるから、荊州もしばらくは避けた方が良いでしょうね」

 

「成程…では揚州にでも向かうことにします」

 

「ええ、そうしなさい」

 

愛紗と華琳がそんな会話をしている隣では…

 

「香風、お前本当にここに残るのか?」

 

「うん。前々から曹操様の噂は聞いていたから、興味はあった。

それに曹操様が作る世界、見てみたいと思ったから」

 

「そっか」

 

そして、華琳、春蘭、秋蘭、桂花、華侖、柳琳、栄華、香風に見送られ、ルフィ、愛紗、鈴々、朱里は出発する。

 

「旅の安全を祈っているわ~!」

 

「次は手合わせしような~!」

 

「お主達ならいつでも歓迎するぞ~!」

 

「また来るっすよ~!」

 

「お身体にお気をつけて~!」

 

「お元気で~!」

 

「お兄ちゃ~ん!またね~!」

 

「またな~!」

 

「お世話になりました~!」

 

「元気でなのだ~!」

 

「いずれまた!」

 

一行は南へ下り、揚州を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その後―――華琳の屋敷、謁見の間~

 

「徐晃殿、正式に我が軍に加わることを機に、私の真名を預けるわ。これからは“華琳”と呼んで構わないわ」

 

「わかりました“華琳様”。華琳様と皆も、シャンのことは“香風”でいい」

 

「わかったわ“香風”。

さて皆、今回の一件はよくわからないことが多いけど、それでもハッキリしていることが三つあるわ。

一つ目、我が軍に裏切り者がいること。

二つ目、その裏切り者は黒山賊や張繍をはじめ、この大陸の多くの力と結びついていること。

そして三つ目、この大陸で、何かとんでもないことが起ころうとしていること」

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

「まずはとにかく情報を得ること。

裏切り者を洗い出すわよ!我が軍で不審な動きをしている者がいなかったか、徹底的に調べなさい!」

 

「「「「「「「はっ!/はいっす!」」」」」」」

 

「それから、天の御使いについても探ってちょうだい。この件に無関係ではないハズよ」

 

「華琳様、天の御使い様のことで思い出したことがある」

 

「何、徐晃?」

 

「うーんとね、天の御使い様のうち一人は、鉄を斬ることができる剣士だって書いてあった」

 

「「「「なっ⁉」」」」

 

香風の言葉を聞き、その人物に心当たりのある4人は、驚愕の声をあげるのだった。

 

 




物語の展開を知っていると、魏ルートは拠点フェイズで一刀とみんなが仲良くなると同時に、切なくなってしまうんですよね。
呉ルートも炎蓮、雪蓮、冥琳のパートを進めるたびに切なくなってしまって。
その点、蜀ルートは安心して楽しむことができますね。



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第38話 “馬小屋”

今回と次回はゾロと翠のオリジナルストーリーです。




~涼州、隴西郡~

 

その森の中の少し開けた場所で、ゾロは焚火の番をしていた。

翠は用事があると言って、席を外していた。

 

「おい、お前!」

 

「あ?」

 

2人の兵士が声をかけてきた。

 

「今この辺りでは二人の罪人を探している。容貌はこの人相書に書いてある」

 

そう言って役人は、小さく折りたたんだ紙を2枚渡してきた。

 

(手配書みたいなモンか?)

 

「連行してきた物には莫大な褒美を与えるそうだ。

情報だけでもいい。何か手掛かりがあったら、役所に通達するように。良いな?」

 

「ああ、わかった」

 

「それでは」

 

役人は去って行った。

 

「罪人か…いったいどんな奴だ?」

 

ゾロはその人相書を広げてみた。

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その頃―――近くの河原~

 

「でりゃァっ!」

 

ガキン!

 

翠は、小さめの岩に槍を突き立てていた。

 

「くっそ~!ダメだ、全然刺さんねェ…」

 

息を整えながら、翠は以前、自分が華琳に捕まった時のことを思い出す。

 

(あの時…

 

 

 

 

 

『……今は頭は冷えたのか?』

 

『え?』

 

『どうなんだ?』

 

『まあ、だいぶ落ち着いたけど…』

 

『そうか、ちょっと伏せていろ』

 

『へ?』

 

『いいから伏せろ』

 

『?』

 

翠が言われた通り伏せると、ゾロは刀を1本抜き…

 

スパン!

 

『えっ⁉』

 

翠が閉じ込められていた鉄の檻を切り裂いた。

 

『他の奴にバレねェようについて来い。勝手なことはするな』

 

『…あ、ああ』

 

そしてゾロと翠は一緒に天幕を出ていった。

 

 

 

 

 

…鉄の檻を野菜みたいに斬ってみせた…あれができれば…)

 

それから翠は、その特訓として手ごろな岩を見つけては突き刺していた。

 

無論、ゾロ本人にもコツは訊いてみたが…

 

―――――鉄を斬るためには、()()()()()()()()ができるようになることだ

 

…としか答えなかった。

 

(ゾロが言っていたアレ…一体どういう意味なんだ?)

 

翠は特訓を止め、ゾロの所に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

「おう」

 

「ん?ゾロ、何だその紙?どうしたんだ?」

 

「ああ、実はさっき…」

 

ガサッ

 

「「!」」

 

物音が聞こえ、2人は会話を止める。

 

「「…………」」

 

得物を手に取り、周囲を警戒する2人。

 

ガサガサ…

 

「…誰だ?」

 

「…どこにいる?」

 

翠がそう言ったその時…

 

「ここにいるぞ~っ♪」

 

「「⁉」」

 

手を高く上げ、何者かが近くの茂みから飛び出してきた。

 

「何だコイツは⁉」

 

「…おま…“たんぽぽ”ォ⁉」

 

「は?タンポポ?」

 

「翠姉様ァーっ!やっと見つけたァーっ!」

 

飛び出してきた何者かは、そう叫び翠に抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

「…で翠、何なんだコイツは?」

 

飛び出してきた少女は、翠に比べて明るい茶髪をサイドテールにしており、年齢は翠より年下である。

眉毛が太めで、顔立ちが何となく翠に似ている。

 

「こいつはあたしの従妹の“馬岱(ばたい)”、“蒲公英(たんぽぽ)”っていうのはこいつの真名だよ」

 

「お姉様、この人誰?」

 

「こいつは“ゾロ”って言って、あたしと一緒に旅している異国の武芸者さ」

 

「へー…」

 

「?」

 

じろじろとゾロを見る蒲公英。

 

「…で、たんぽぽ。何でお前がこんな所にいるんだ?」

 

「そうだった!姉様、大変なの!」

 

「「⁉」」

 

 

 

 

 

 

「隴西郡が占領された⁉」

 

「うん、一ヶ月くらい前に“金城(きんじょう)郡”太守の韓遂が攻めてきたの…。

次々と城を落とされて、“(るお)”と“(そう)”も捕まっちゃって…」

 

「誰だその2人は?」

 

「あたしの妹だよ。“鶸”は“馬休(ばきゅう)”っていって次女。“蒼”は“馬鉄(ばてつ)”で三女だ」

 

「たんぽぽは何とか逃げられたんだけど、その後もあちこちに監視の目があるから、見つからないようにするの大変だったんだよ…」

 

(そのワリには、派手に出てきたような気もするが…ん?)

 

…と、そこでゾロは先ほど役人から渡された人相書を思い出す。

 

「じゃあこれはそう言う事だったのか」

 

「それって…」

 

「さっきゾロが見ていた紙だよな?」

 

「お前がどっか行っている間に、役人が渡してきた人相書だ。お前ら2人の名前が書いてあったぞ」

 

「何だって⁉」

 

思わずゾロの手から、人相書をひったくり見てみる翠。

次の瞬間…

 

「…………」

 

翠は人相書を見ながら震えだした。

 

「…ゾロォ…」

 

その声と表情には悲しみが満ち溢れている。

 

蒲公英も人相書を見てみると…

 

「うわ…コレ…似せる気あるの…?」

 

その人相書には、次のような文が書かれていた。

 

『罪人“馬超孟起”並びにその従妹“馬岱”、この二名を捕えよ。

捕えた者には黄金千斤を与える。情報を提供した者にも報酬を与える。

特徴は“太い眉”と“茶色く長い髪”。馬超はその髪をうしろで、馬岱は本人から見て左側で結っている』

 

そしてその隣には2人の似顔絵がそれぞれ描かれているのだが…

 

「これが…あたしか?あたしって…こんなもんなのか?」

 

「…まァ確かに…こんなもんかもな…」

 

「□×∀◆$&#*@▲㊙〒※◎☆~~~…」

 

「言葉にしろ…わからねェ…」

 

その似顔絵がとにかくひどかった。

無論ゾロ達の世界と違い、写真があるわけではないので、完全に同じというワケにはいかないが、それでもひどかった。

まるで落書きのような人相書だった。

 

「そりゃあさァ~…あたしは醜い方だけどさァ~…コレはないだろォ~…せめてもっと人間の顔に見えるようにしてくれよォ~…」

 

そう嘆きながら地面に倒れ込む翠。

 

「いや、そこまで醜くはねェから立てよ」

 

「は…?」

 

悲しみの海に沈む翠に声をかけるゾロ。

 

「何言ってんだよ…ゾロだってさっきあたしの顔はこんなもんだって…」

 

「そりゃこの文に書いてある特徴だけ聞いたら、こんなもんだろうって話だ。

むしろお前は、十分美女に入る顔立ちしている方だと思うぞ?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「◎※□■〒%$♂♀☆〇×◇~~~っ!」

 

「だから言葉にしろっつってんだろ!わかんねェ!」

 

(へ~~~…♪)

 

顔を真っ赤にして慌てふためく翠とゾロのやりとりを見て、ニヤニヤする蒲公英だった。

 

「んんっ!…で、話を戻すけど、鶸と蒼は韓遂に捕まってるんだな?」

 

「うん。たんぽぽとお姉様を捕まえてから、まとめて処刑しようとしているみたい」

 

「つまりまだ殺されてはいねェんだな?馬岱」

 

「その通りだよ。

あ、ゾロさんもたんぽぽのことは“蒲公英”でいいよ。翠姉様が真名を預けているみたいだし」

 

「そうか、わかった。…で、“蒲公英”どこに捕まっているかはわかるのか?」

 

「うん、ここからそんなに離れていないよ。あと、韓遂もそこにいるよ」

 

「まずはそこまで行ってみるか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安故城(あんこじょう)付近~

 

「あの城にいるのか…」

 

3人は一つの城の近くまで来て、木陰に隠れて様子を見ていた。

 

「城にいる兵士たちは皆韓遂に寝返っているよ。金城郡、隴西郡の他の城も全部そう。

だからこの城を取り戻したとしても、韓遂を逃がしたらまた大軍を連れて戻ってくるよ」

 

「鶸と蒼がまだ生きてるって聞いたときは喜んだけど、実際は人質として生かしてあるだけなんだろうな…」

 

「斬りこむか?」

 

「「いやちょっと!」」

 

ゾロの提案に2人はツッコんだ。

 

「話聞いてたのか⁉明らかにこっちに不利過ぎる状況だろ!色々と!」

 

「普通に斬り込むとかバカなの⁉翠姉様以上の脳筋なの⁉」

 

「誰が脳筋だたんぽぽ!」

 

「…………」

 

「とにかく、まず何か作戦を考えないと!あたしが何か考えるから、もう少し待て!」

 

「お姉様に考える脳みそなんてあるの?」

 

「それでも考えるから待てって!…ってどういう意味だたんぽぽ!」

 

「……そのまんまの意味?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~安故城、城内~

 

謁見の間の玉座にナマズのような髭を生やした男、韓遂は座っていた。

 

「馬岱と馬超はまだ見つからないか?」

 

「はい。申し訳ありません」

 

「まァいい。人相書も手配した。あとは時間の問題だ。

我々は後々、他の郡への攻撃も開始する。同時進行で準備を整えておけ。ぬかるなよ、“旗本八旗(はたもとはっき)”!」

 

「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」

 

韓遂の言葉に、旗本八旗と呼ばれた8人の男達、“侯選(こうせん)”、“程銀(ていぎん)”、“成宜(せいぎ)”、“張横(ちょうおう)”、“梁興(りょうこう)”、“李堪(りかん)”、“楊秋(ようしゅう)”、“馬玩(ばがん)”、は返事をする。

 

いずれの者も筋肉隆々、背丈は2メートル近くあり、とても強そうである。

 

「韓遂様!」

 

1人の兵士がやって来た。

 

「何だ?」

 

「馬超と馬岱が捕まりました!」

 

「まことか⁉」

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、1人の男が縛られた翠と蒲公英を連れてきた。

 

「うむ!まさしく馬超と馬岱だ!」

 

「この野郎!だましたな!」

 

「馬超軍の残党だからかくまってやるとか言って!」

 

「馬超様…」

 

「馬岱様…」

 

元々は馬超達の家来だったのか、周囲の家来達が何人か悲し気な表情をする。

 

「良いざまだな馬超、馬岱!明日の正午に馬休、馬鉄と共に公開処刑だ!

せめてもの情けだ、今夜は同じ牢獄で、最後の時を過ごすがいい!

お前には後で報酬をやろう。それから明日の処刑後の宴にも招待しよう」

 

「そりゃありがてェ」

 

「二人を牢へ連れていけ!それからこの男に部屋を用意しろ」

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今夜はここをお使いください」

 

「悪ィな。ついでにちょっと訊きてェんだが…」

 

「何でしょうか?」

 

「ついでだから、あの馬超って女の妹のツラを見ておきてェんだが、あいつらを入れた牢屋ってのはどこにあるんだ?」

 

「それでしたら、この城の南東の一番端っこにあります」

 

「そうか、わかった」

 

「では、ごゆっくり」

 

そう言って部屋に案内した従者がいなくなるの見ると、翠と蒲公英を捕まえてきた男、ゾロは部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~牢獄~

 

そこに2人の少女が捕まっていた。

 

「「…………」」

 

どちらも翠にと同じ太い眉、髪型も同じポニーテールだが1人は翠よりもやや低め、もう1人はやや高めの位置で結っている。

 

前者が馬休こと鶸で、後者が馬鉄こと蒼である。

 

「おいキサマら、今日この牢獄に囚人が二名追加されることになった」

 

「え?」

 

「連れて来い!」

 

そして連行されてきたのは…

 

「お姉ちゃん⁉蒲公英⁉」

 

「明日の正午、キサマら四人は処刑される。せいぜい今夜は、悔いのないように過ごすのだな」

 

兵士達は見張りを残して去って行った。

 

「姉さん…蒲公英…どうして…」

 

「鶸、今は何も聞かないでくれ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~安故城、とある馬小屋~

 

「ほれ、たんとお食べ」

 

1人の男が馬に餌をやっていた。

 

「お前達も残念だろうな…あんなにお前達を大切にしてくださった、馬超様達が処刑されてしまうなんて…。おれも悲しいよ…」

 

「おい、そこのお前」

 

「ん?」

 

いつの間にか、戸口に一人の男が立っていた。

 

「この城の南東にある牢獄に行きてェんだが、どう行けばいい?」

 

「南東の牢獄?だったら、ココを出て左にずーっといった後、突当りを右に真っ直ぐ行けば着くぞ」

 

「そうか、ありがとう」

 

男は出て行った。

 

「誰だったんだ一体?」

 

馬の飼育係は仕事に戻るが、ふと手を止める。

 

「…おれ左に行けって言ったのに、あの男、今右に行かなかったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~牢獄~

 

「ねェお姉様…」

 

「何だよたんぽぽ?」

 

「ずっと聞きたかったんだけどさ…お姉様とあの男の人ってどういう関係なの?」

 

「どういう関係って…」

 

「え⁉男⁉」

 

途端に目を輝かせ、話に食いつく蒼。

 

「何⁉ついにお姉ちゃん恋人ができたの⁉」

 

「は、はあァ⁉」

 

顔を赤らめ、慌てふためく翠。

 

「ばっ…な、何言ってんだ⁉そ、そんなわけないだろ⁉」

 

「え~違うの⁉お姉様が男と一緒にいるなんて、今まで考えられなかったから、たんぽぽてっきり…」

 

「あたしは武者修行してるんだっての!」

 

「え~でも結構いい男だったじゃんあの人。それに年頃の男女が二人っきりで旅してるのに何もないなんて…」

 

「へ~かっこいい人なんだ…」

 

「そういうんじゃないっての!そ、それに…あたしがそんな風に見られるわけないだろ⁉」

 

「でもあの人、翠姉様は十分美人に入るって…」

 

「あ、あんなの冗談に決まってるだろ!る、鶸もなんとか言ってくれよ!」

 

「…私としては、姉さんにはこうなる前に身を固めて欲しかったんだけど…」

 

「~~~っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~馬小屋~

 

「おい!ちょっと道を訊きてェんだが、南東にある牢獄ってのにはどう行けば…」

 

「ああ、それなら…ってアンタさっきの…」

 

「あ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~牢獄~

 

「年頃の男女が二人っきりで旅…♪」

 

「もう逢引っていうか、駆落ちだよね~♪」

 

「だから違うっつってんだろ!」

 

ちなみに馬家の女子達による恋バナが続いている間、牢番達はというと…

 

「おい、あんな好きに会話させておいていいのか?」

 

「いや、でも…もうちょっと続き聞きたくねェか?」

 

「確かに…」

 

どうやらこの牢番達、結構恋バナ好きのようである。

 

「え~?じゃあ子作りとかも一度もしていないの?」

 

「するかァ!」

 

「混浴とか裸の付き合いは?」

 

「してない!」

 

「接吻も?」

 

「してない!」

 

「抱きしめたりとかは?」

 

「してな……」

 

そう言いかけて翠は、華琳の陣でゾロに泣きながら抱き着いたことを思い出す。

 

「…………っ!」

 

「「したんだ…♪」」

 

「ち、違う違う違う!アレはその…そういうのじゃなくてこう…アレなやつで…!

そもそもあたしとあいつはそういう関係じゃなくて…!」

 

「でもそれって今の話でしょ?」

 

「そうそう♪これからどうなっていくかなんて、わからないワケだし~」

 

「ただの師弟関係だったのが、いつの間にか恋愛感情が芽生えて…」

 

「『おれ…いつの間にか師匠のこと、武人ではなく一人の異性として好きになっていました』的な…」

 

「だからちっが~う!それに…」

 

「それに?」

 

「師弟関係っていうんだったら…あたしの方があいつの弟子だ」

 

「「「…え?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~馬小屋~

 

「おい!この城どんだけ馬小屋があんだよ⁉」

 

「そんなにたくさんねェよ!アンタが何度も戻って来てるだけだろ⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は流れ…

 

~安故城、謁見の間~

 

「韓遂様、そろそろ…」

 

「ああ、馬超達の処刑の準備を始める!四人を連れて来い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~馬小屋~

 

「…………」

 

「…………」

 

「…またアンタか」

 

「…おいお前」

 

「悪いけど、おれはもう行くよ。そろそろ馬超様達の処刑が始まるんだ。西涼の民として、ちゃんと見届けておきたいから…」

 

「何⁉もう始まんのか⁉」

 

「え?」

 

「もう()()方が早ェな…。おい、その処刑場所におれを連れてけ!すぐにだ!」

 

「あ、ああ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~安故城、中央広場~

 

そこに処刑台が用意され、韓遂と旗本八旗をはじめとしたその部下達がいた。

 

そして縄で縛られた翠達が連行されてきた。

 

「馬超様…馬休様…馬鉄様…馬岱様…」

 

「何てことだ…」

 

「これも乱世の定めなのかね…」

 

処刑台を囲う領民、兵士達にも悲し気な空気が漂う。

 

「ねェ翠姉様…本当に大丈夫なの?たんぽぽ今更だけど不安になって来たよ…」

 

「あたしも心配だけど、もうどうにもなんないだろ⁉覚悟を決めろ!」

 

「姉さん?蒲公英?」

 

 

 

 

 

 

「ほら、あそこだよ」

 

「助かった!よォし!」

 

 

 

 

 

 

「ではこれより、処刑を開始する!」

 

そして処刑人が剣を構える。

 

その時…

 

「どけェ!」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

何者かの声が響き…

 

「“百八煩悩(ポンド)(ほう)”‼」

 

ドッゴォォォォォン!

 

斬撃が飛び、処刑台を切り崩す!

 

「「「「「「「「「「ぐわァ⁉」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「キャーッ⁉」」」」」」」」」」

 

「間に合ったか⁉」

 

「遅いんだよゾロ!」

 

そして斬撃を放った張本人、ゾロは翠達に駆け寄り縄を斬る。

 

「え?どういうこと?」

 

「こういう作戦だったんだよ」

 

疑問符を浮かべる鶸に蒲公英が説明する。

 

「鶸と蒼が人質に取られているうえ、韓遂に逃げられたら大変なことになるからさ。

姉様とたんぽぽがわざと捕まって、あの人が四人まとめて助けて、それから韓遂を捕える作戦だったの。

本当なら処刑が始まるずっと前に助けるハズだったんだけど…」

 

「この城が複雑すぎるんだよ!全然牢屋にたどり着かなかったぞ!」

 

「やっぱり迷ってたのかお前!」

 

「あの男、馬超達を連れてきた奴じゃあ⁉」

 

「最初からこのつもりだったのか⁉」

 

「ひっとらえろ!相手はたかが五人!あの男もまとめて処刑だ!」

 

「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」

 

そして韓遂の兵士達が一斉に襲い掛かる!

 

「まァとりあえず…」

 

「反撃開始だな!」

 

「鶸!蒼!戦える⁉」

 

「当然!」

 

「行っくよー!」

 

 




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第39話 “生き様”

今回はゾロが無双します!




ズバッ!

 

「ギャア!」

 

「フン!」

 

次々と襲い来る韓遂の兵を切り倒すゾロ。

 

「ハァーーーッ!」

 

「ぐあっ!」

 

「とりゃーーーっ!」

 

「がっ…」

 

「せいっ!」

 

「うあっ!」

 

「たあっ!」

 

「ガフッ…」

 

翠、蒲公英、鶸、蒼も、敵から奪った槍を振るい、戦う。

 

すでに住民や文官は遠ざけられ、周囲にいるのは兵士だけである。

 

「韓遂様!()()の用意が出来ました!」

 

「よし!すぐに繰り出せ!」

 

「はっ!」

 

ガラガラガラ…

 

「ん?」

 

「行けーっ!鉄車隊!」

 

「突撃ーっ!」

 

その掛け声とともに、鉄製の馬車が十数台飛び出してきた!

 

馬車はそれぞれ3頭の馬がつながれており、手綱を握る者が2名、その後ろに3名の兵士が乗っている。

 

「な、何だアレは⁉」

 

「お姉ちゃん!気を付けて!」

 

「やれェ!」

 

そのまま翠をひき殺そうと突っ込んで来る鉄車!

 

「うおっ⁉」

 

「撃てーっ!」

 

とっさに避けた翠に対して、車上の兵士が矢を射かける!

 

「くっ!このっ!」

 

翠は何とか矢を防ぎ、槍を振るうが…

 

ガキン!

 

「くそっ!」

 

鉄車の壁に阻まれて届かない。

 

「何なんだこの乗り物⁉」

 

「私達もよくわからないんです!製造方法も謎だし、そもそもこれだけの鉄をどうやって…⁉」

 

「たんぽぽ達もこれにやられたの!」

 

「まるで小さな砦がいくつも移動しているみたいだった!お姉ちゃん達も気を付けて!」

 

そして鉄車はゾロ達5人を包囲するように走り回る。

 

「はっはっは!勝負あったな馬超!いくらお前でもこの鉄車隊の前には何もできまい!」

 

勝利を確信し、大笑いする韓遂。

 

「韓遂!」

 

「西涼の馬一族もこれで終わりだ!今日より涼州はこの韓遂の手に落ちる!」

 

「お前…なぜこんなことをする⁉」

 

「あ?」

 

「母様と…馬騰と一緒に漢に仕え、この地を守って来たんじゃなかったのか⁉

あたしは母様亡き後、アンタの力になれるように、強さを求めて旅に出たのに!」

 

「確かに馬騰とは長年共闘していたが、ただの邪魔者だ!

アイツさえいなければ、おれは涼州の全てを手中に収めていた!

そのうえ、アイツはおれの女になる事も拒んだ!

全くおれの思い通りにならない、不愉快極まりない奴だったよ!」

 

「お前…!」

 

「世の中の連中はどいつもこいつも馬騰のことばかり!何故あんな()()()()()()()()()()()()の肩を持つのか理解できんよ!」

 

「⁉ちょっと待て!」

 

「?」

 

韓遂の言葉に翠は今までにない驚愕の声をあげた。

 

「お前…何でそのことを知っているんだ⁉

世間では曹操が母様を殺したって噂が広がっていて、そのことを知っているのは曹操軍の一部の者だけのハズ…!」

 

「……いかんいかん、つい口が滑ってしまった。まァいい、冥土の土産に教えてやるか」

 

「お前…まさか…」

 

「ああ、馬騰が死んだのはおれの仕業だ」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

その言葉に、翠や蒲公英達だけでなく、周囲の韓遂の兵士達も驚いたようだった。

 

「都で宴会があった日、おれは偶然にも馬騰の隣の席に座った。

そして隙を見てアイツの酒に眠り薬を混ぜてやったのさ!

曹操の剣舞の相手になろうとした時には、すでにまともに立てないほど薬が効いたよ。

最初は意識が朦朧としているところを襲う予定だったのだが、勝手に落馬して死んでくれるとは思わなかったぞ。

その後、曹操軍の奴がその場に駆け付けたのを見て、曹操の仕業にすることを考えた。

お前がその噂を真に受けて曹操に挑み、討ち死にしてくれれば、なお良かったんだがな」

 

「キサマァーーーッ!」

 

完全にキレた翠は、怒りのまま韓遂に槍を振りかざし襲い掛かる!

 

ガキン!

 

「ぐあっ!」

 

しかし、韓遂の傍に居た旗本八旗達に防がれ、吹き飛ばされてしまう。

 

「翠姉様!後ろ!」

 

「⁉」

 

蒲公英の声に振り向くと、鉄車が一台目の前に迫っていた!

 

(しまっ…!)

 

「姉さん!」

 

「お姉ちゃん!」

 

「死ねェ!馬超!」

 

鉄車上の兵が持つ槍が翠に振り下ろされようとした、まさにその時…!

 

ダッ!

 

1人の男が飛び出し…

 

「“獅子(しし)歌々(ソンソン)”‼」

 

ザン!

 

「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」

 

「「「え?」」」

 

ガラァン…

 

鉄車を切り裂いた。

 

「…ゾロ…」

 

「ねェ…あの馬車、鉄でできていたよね?」

 

「うん…」

 

「何で斬れてるの…?」

 

予想外の事態に蒲公英達も困惑する。

 

「な、何をやっている⁉馬超もろともあの男を仕留めろ!」

 

「は、はいっ!」

 

韓遂の命令で、残りの鉄車全てが四方からゾロと翠に向かっていく!

 

「“三刀流”…」

 

しかしゾロは慌てることなく刀を構え…

 

「“(カラス)魔狩(まが)り”‼」

 

スパパパパパン!

 

鉄車を全て斬った。

 

「「「…………」」」

 

目の前の光景が信じられず、蒲公英達は目をこすって再度確認するが、やはり鉄車が斬れている。

 

「な……⁉」

 

韓遂とその兵士達も驚愕するが…

 

「成程、刀だけはかなり良いものを使っているようだな」

 

旗本八旗の1人、程銀が双剣を構え対峙する。

 

「…………」

 

「だが、刀を口にくわえるような、そんな曲芸まがいの剣で我らに敵うと思うな!」

 

そして、高速で剣を振るい斬りかかる!

 

「キサマの刀は我々が有効に使ってやるとしよう!死ねェ!」

 

しかし…

 

キィン!

 

「⁉」

 

ゾロはいともたやすく剣を見切り、はじく。

 

「“三刀流”…」

 

「⁉」

 

「“鬼斬り”‼」

 

ドン!

 

「…がっ…!」

 

ドサッ…

 

そして一撃で仕留めた。

 

「おれの剣が曲芸なら、おれに負けてるてめェのソレは一体何だ?」

 

「程銀!」

 

「おのれ!」

 

「キサマァ!」

 

怒り狂った李堪、張横、梁興の三人がそれぞれ、戟、槍、大剣を振りかざし襲い掛かる!

 

「ヘン!」

 

キン!カン!ガキン!

 

「お、おい!アイツ全て受け切っているぞ!」

 

「さ、三人を同時に…⁉」

 

周囲の者達が思わず見とれる中、ゾロは剣を振るい…

 

「“三刀流”…」

 

「ぐっ⁉」

 

「“虎狩り”‼」

 

ドン!

 

「ううっ…」

 

「“(カザミ)”…」

 

「ひっ!」

 

「“()り”‼」

 

ドシュッ!

 

「…ガフッ…!」

 

「“牛”…」

 

「う、うおお…!」

 

「“針”‼」

 

ズバババババン!

 

「…………っ!」

 

ドサドサドサァ…

 

「うそ…」

 

「す、すごい…」

 

「な、なんと…!」

 

「旗本八旗の四人が…あっという間に…!」

 

あまりゾロの強さに蒲公英達をはじめ、周囲の者達は圧倒される。

 

「成宣!馬玩!」

 

「はっ!」

 

「!」

 

キィン!

 

韓遂の掛け声とともに、馬玩は短刀型の手裏剣を投げつける!

 

「おおおっ!」

 

「!」

 

ドスウゥゥゥン!

 

そして成宣は巨大な鉄槌を振りかざし、ゾロに襲い掛かる!

 

「力自慢か…」

 

振り下ろされた一撃を躱したゾロは手拭いを被る。

 

「“(いち)剛力羅(ゴリラ)”‼“()剛力羅(ゴリラ)”‼」

 

「うおおおっ!」

 

「“三刀流”…」

 

真横に鉄槌を振り回してくる成宣に対して、ゾロは刀を構え…

 

「“二剛力(ニゴリ)(ザケ)”‼」

 

ドン!

 

真正面から受け止め…

 

「…オオオッ!」

 

「⁉」

 

ドッゴォォォン!

 

鉄槌ごと吹き飛ばした!

 

「…………」

 

城壁に鉄槌ごと叩きつけられた成宣は、そのまま気を失い倒れた。

 

「…………」

 

「ひっ!」

 

続いて馬玩に狙いを定めるゾロ。

 

「う、うわあああっ!」

 

自棄になった馬玩は、滅茶苦茶に手裏剣を投げつけるが…

 

「“三刀流”…」

 

ゾロは全て受け切り…

 

「“刀狼流(とうろうなが)し”‼」

 

ドシュッ

 

「ガフッ…!」

 

馬玩を切り裂いた。

 

「…翠姉様が自分の方が弟子だっていうのも頷けるね…」

 

「くそっ!侯選!楊秋!」

 

韓遂は慌てて残り2人の旗本八旗の名を呼ぶ。

 

しかし…

 

「あれ…?」

 

「い、いない⁉」

 

いつの間にか2人はその場から消えていた。

 

「…翠」

 

「!」

 

邪魔者がいなくなったことを確認したゾロは、翠に呼びかける。

 

「あとはてめェの仕事だ」

 

「…ああ」

 

ゾロに言われ、翠は槍を構える。

 

「韓遂!母様の仇だ!」

 

「ぐゥっ!」

 

ギィィン!

 

突き出される翠の槍を剣で受ける韓遂。

 

「何故だ⁉」

 

「⁉」

 

「何故こうもおれの思い通りにならない⁉」

 

得物を交えながら韓遂は翠に語り掛ける。

 

「おれは地位、爵位、兵力、武芸全てに優れていた!

なのに何故、民はあいつを、馬騰を選ぶ⁉

おれではなく馬騰の名がとどろく⁉

挙句の果てに馬騰までも、おれのモノにならない⁉何故だ⁉

どいつもこいつも、何故おれの素晴らしさが理解できない⁉」

 

「あんた…馬に乗るときどうしてる?」

 

「あ?」

 

「馬は戦の道具じゃないんだ、だから無理やり言う事を聞かせようとしてもダメなんだよ…!

大切にして、歩み寄っていたから、力を貸してくれるようになるんだ!

それと同じだ!あんたは力ずくで、他人に言う事を聞かせることばかり考えていただろ⁉

そんな奴、誰が協力しようとする⁉

誰がついて行こうとする⁉

だから母様もみんなも、あんたを見限ったんだ!」

 

「ほざけ!奴の死にざまは、武人の恥そのものだ!

キサマは何故、いまだにそんな奴の肩を持つ⁉事実を知ったとき、幻滅しただろう⁉

そんな奴よりもおれにつく方が賢い選択だろう⁉」

 

「…確かに本当のことを知ったときは悲しかったよ…でもな…」

 

「?」

 

「母様の教えは…武勇は、生き様は本物だ!

死ぬときのたった一瞬だけで、それはなくなったりしない!

アンタの生き様と母様の生き様なら、あたしは迷わず母様の方を選ぶ!」

 

そう叫び、翠は距離をとった後呼吸を整え…

 

「ハァァァァァッ!」

 

「⁉」

 

「“旋廻槍撃(せんかいそうげき)”‼」

 

ズバァン!

 

「……っ!」

 

ドサッ…

 

韓遂を仕留めた。

 

「……あ…ああ…」

 

「…韓遂様…」

 

「さあ!次は誰が相手だ⁉」

 

そう言って翠が周囲の兵士達に槍を向けると…

 

「……降伏します」

 

1人がそう言い、その場にいた兵士達は全員武器を捨てた。

 

「……え?」

 

「まさか…馬騰殿を殺したのが韓遂様だったとは…」

 

「もうこれ以上、韓遂様に…韓遂に味方する気にはなれません…」

 

「「「「「…………」」」」」

 

こうして安故城は翠達の手に落ちた。

 

その後、この話は韓遂が馬騰を殺したという事実と共に広がった。

すると他の城の韓遂の手勢も次々と降伏し、隴西郡の城は全て翠達の手に戻った。

金城郡の韓遂軍も全て翠達に帰順したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

韓遂を討ちとってから数日―――

 

「ねェ、お姉様」

 

「何だたんぽぽ?」

 

「何か…思っていたより簡単に取り戻せたね」

 

「…そうだな。けど、それは全部母様のおかげだ。

韓遂が母様を殺したって知って、みんな韓遂から離れていった。

母様の威厳が、名声が…あたし達を助けてくれたんだ」

 

「母様には敵わないね」

 

「そうだな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬超様!」

 

「おかえりなさいませ!馬超様!」

 

「ただいま…みんな…!」

 

韓遂達を討ちとり、ある程度の事後処理が済んだ後、翠は領民達に改めて挨拶をした。

 

領民達は声をあげて翠を歓迎した。

その様子からも翠達、馬一族がとても慕われていることがよくわかった。

 

「ごめんなみんな…あたしが留守にしている間にこんなことになるなんて…」

 

「いえ、むしろそのおかげで馬超様は逃れられていたのですから…」

 

「馬超様、馬休様、馬鉄様、馬岱様、みな無事で何よりです」

 

「みんな…」

 

「あの、ところで馬超様」

 

「何だ?」

 

「馬超様と一緒に来た、あの男は何者なんですか?

韓遂の旗本八旗のうち、六人をたった一人で瞬く間に倒されるなんて、並大抵の武人では…」

 

「なんと…⁉」

 

ゾロ達の戦いを見ていたと思われる兵士の言葉に、周囲にいた人々は驚きざわつく。

 

「う~ん、アイツは何ていうか…(どうしようかな、賊だってことは隠しておいた方が良いよな?)」

 

「あ、もしかして…」

 

「いや、もしかしなくても…!」

 

「そうだな~…」

 

「馬超様の旦那様ですか!」

 

「「「「「「「「「「おおーーーっ!」」」」」」」」」」

 

「………へ?」

 

「皆の者!馬超様が旦那様を連れて戻られたぞ!」

 

「「「「「「「「「「おおーーーっ!」」」」」」」」」」

 

「……え、いや…ちょ…!」

 

「いや~以前よりも美しくなられたような気がしていましたけど…」

 

「そう言う事だったのですね~」

 

「想い人ができると、必然的に女性は美しくなるものですもの~」

 

「馬超様のような方を伴侶にできるとは、羨ましい男だ…」

 

「おれも願わくば馬超様と…」

 

「馬鹿言ってんじゃないわよ。アンタなんかが馬超様と釣り合うわけないでしょう?」

 

「そうよ!やはりあれくらいの武人でないと…」

 

そんな会話をする町民たち。

 

「いや…ちょっ…!ちが…!」

 

「あれほどの御武人が馬家の婿になるとは、まさに虎が翼を得たようなもの!」

 

「馬騰様も泣いて喜ぶでしょうな!」

 

「隴西郡、いや涼州の未来は安泰ですな!」

 

「うむ!鮮卑に羌、都の曹操や袁紹なんぞ恐るるに足らずというものだ!」

 

「だからその…!あたしの話を…!」

 

兵士達も盛り上がっている。

 

「ああ…こんな状況でなければ、すぐにでも祝言の支度をなさいますのに…」

 

「いや、こんな状況だからこそ、明るい話題を持ち帰ってくださったのだろうよ」

 

「そうか…武者修行中も、馬超様はそこまで我らを気に掛けて下さっていたのか」

 

「た、確かにあんた達のことは常に考えていたけど…それとこれとは…!」

 

対して翠は完全にパニックになっている。

 

「あ、ああ…姉さん…」

 

「いや~戦っている時もホント息ぴったりだったよね~あの二人~♪」

 

「もう長年連れ添った夫婦みたいだったよね~♪」

 

「もう!蒲公英も蒼も混ぜ返さないの!」

 

「だって本当のことだし~♪」

 

「こういう時のお姉ちゃんはこうした方が面白いも~ん♪」

 

「あーもう!ゾロもなんとか言ってくれよ!…ってあれ?ゾロは?」

 

「さっき厠に行くって言って行きましたけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~馬小屋~

 

「…なァ、ここどこだ?」

 

「…はァ…またアンタか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後―――

 

「じゃあ行ってくる」

 

「それじゃあ悪いけど…後のことは頼むな…」

 

事後処理が一段落済んだ後、ゾロと翠は再び西涼を離れ、武者修行とゾロの仲間を探すための旅に出ることにした。

 

「しょうがないよ。ゾロさんはたんぽぽ達にとっても恩人だもん」

 

「そのゾロさんのお手伝いのためなら、止める理由はありません」

 

「お姉ちゃんもまだ武者修行終わってないんだし、こっちは蒼達に任せて」

 

「…そうか、ありがとう」

 

「…で、どこに行くんだ翠?」

 

「そうだな…ずーっと東に進んで、青州とか幽州の方にでも行くかな」

 

「あ、そうだ!お姉様…」

 

「ん?」

 

…と、蒲公英達が翠に近寄り…

 

「花嫁修業の方も頑張ってね♪」

 

「私達、応援してるから♪」

 

「これを機に、少しは家事も覚えて下さいね」

 

「っ⁉」

 

「おい、どうした翠?」

 

「な、何でもない!行くぞ!ゾロ!」

 

「?」

 

頬を赤く染め、逃げるように翠は出発するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出発してしばらく―――

 

「……なァ、ゾロ」

 

「何だ?」

 

「アレって…冗談だよな?」

 

「?何がだ?」

 

「だからその…あたしが美人に入る顔してるって…」

 

「あ?アホかお前は」

 

「そ、そうだよな…あたしが美人とか…冗談に決まって…」

 

「何でんな冗談言って、てめェの機嫌を取らなきゃいけねェんだよ?

あれはおれの基準で、お前が整った顔かどうか判断した正直な感想だ」

 

「~~~っ!(な、何だよもう!い、意識したらなんか急に恥ずかしくなってきた…!

あ~もう頭の中がグチャグチャだァ!全部たんぽぽ達のせいだ!)」

 

そうして、また2人の旅は始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~???~

 

「そうか、韓遂がしくじったか…剣士の御使いによって」

 

〈どうしましょう?あの御使いが去った後なら、一部を奪い返すことも可能ですが…〉

 

「いや、韓遂という隠れみのを失ったお前達が動くのはまずい。我々の()()が人目につきかねんしな。

他の七人の内、誰かが涼州にいる可能性も否定できんしな」

 

〈では、表舞台から姿を消して動きますか?〉

 

「ああ、そうしろ」

 

〈了解しました〉

 

「二人目の御使いが見つかりましたか…」

 

「ああ。しかも西涼の馬家とつながっているらしい」

 

「一人目の曹操との縁といい、厄介ですね」

 

「どうやら奴らは大陸中に散らばっているようだ。合流する前に叩き潰せればいいのだが…」

 

「あまり派手に動くことはできません。それに話から察するに、確実に消すためには、我々幹部が動く必要があるでしょう」

 

「表の仕事をしている奴らも多い。おれ達も今の仕事を疎かにすることはできない」

 

「今はとにかく情報を集めること、そして力を蓄えることですな。天の御使いを確実に消し去れるほどの力を…」

 

 




乙女になった翠は可愛い(確信)。



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第40話 “温泉”

アニメ第九席編、投稿します。




~ある日の夜―――冀州渤海郡、袁紹の館~

 

「ん~っ…やっぱりお風呂は最高ですわ」

 

麗羽は風呂に入っていた。

 

「こうして一人、広い湯船にゆっくり浸かっていると、一日の疲れが癒えますわ」

 

一応、太守としての仕事はちゃんとやっているので、『この人、疲れるほど働いているの?』などと思ってはいけない。

 

バタン!

 

「麗羽様!大変です!」

 

「きゃああ⁉」

 

いきなり大声をあげ、浴室に入って来た猪々子に驚き、麗羽は湯船の中でひっくり返り、溺れそうになる。

 

「いきなりどうしたんですの猪々子⁉もしかして敵襲⁉」

 

「いえ、そうじゃなくて、見て欲しいものがあるんです!」

 

「?見て欲しいもの?」

 

「とにかく、早く来てください!」

 

「きゃあ⁉」

 

そう言って、麗羽を湯船の中から引っ張り出す猪々子。

 

「ちょっと、私裸のままなんですのよ⁉」

 

「良いじゃないですか!見られたって減るわけじゃないですし!」

 

「きゃあ⁉ちょっと!」

 

そして浴室、脱衣所から、生まれたままの姿の麗羽を引っ張って行く猪々子。

 

その結果…

 

「いいかげんにしなさい!」

 

ガン!

 

「あだっ⁉」

 

鉄拳制裁をくらうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~麗羽の私室~

 

「…で、私の憩いの時間を邪魔してまで、見せたいものというのは何ですの?」

 

明らかに不機嫌そうな顔をした麗羽はイスに座り、斗詩、真直、そして頭に大きなこぶができた猪々子から、話を聞いていた。

 

「はい。昼間、蔵の片づけをしていた時に、これを見つけまして…」

 

そう言う斗詩の手には、一枚の古い地図が握られていた。

 

「何ですのその汚い地図は?色あせていますし、虫食いだらけじゃない」

 

「それはそうですけど、ココを見て下さい!」

 

そう言って真直は地図の隅っこを指さす。

そこには…

 

「『地図に記せし場所に我らの生涯をかけて貯えし宝有り』…ですって⁉それではこの地図は…!」

 

「はい!宝の地図です!」

 

「地図の場所を掘れば、きっと金銀財宝がザックザク!」

 

「これがあれば、麗羽様の無駄使いで火の車になっている、袁家の台所も…」

 

「誰の無駄遣いが原因ですって…?」

 

「あ、いえ…その…」

 

麗羽に睨まれ、縮こまる猪々子。

 

(麗羽様の無駄遣いで困っているのは、ホントだけどね…)

 

密かにため息をつく真直。

 

「まーまー、お金はあって困るものではないですし…」

 

「ま、確かに斗詩さんの言う通りですわね」

 

「それじゃあ…」

 

「ええ。明日の明朝、宝探しに出発しますわよ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日―――とある山中~

 

華琳、春蘭、桂花、華侖、柳琳、栄華、香風の7人が馬に乗って進んでいた。

 

「しかし、よろしいのでしょうか?こんな時に私達だけで、温泉に慰安旅行など…」

 

「栄華、仕事熱心なのはいいけど、たまには息抜きが必要よ。もし誰かが過労で倒れでもしたら、それこそ大変だもの」

 

「華琳様の言う通りよ。しっかり働き、しっかり休む。何事も緩急をつけるのは大事だもの」

 

「そういうこと」

 

「シャン、温泉すごく楽しみ」

 

「ええ。(つう)しか知らない本物の穴場で、お湯には美肌効果があるとか…」

 

「ゆっくり浸かって、玉のお肌をスベスベに磨き上げて…その後は華琳様と…♡」

 

「ふふふ…」

 

「香風さん、私が身体を丁寧に、隅々まで洗って差し上げますわね♡」

 

「ひっ…!」

 

華琳、桂花、栄華、香風がそんな会話をする中…

 

「う~…」

 

「あの…姉さん?なんだか元気がないようだけど…具合でも悪いの?」

 

暗い表情をしている華侖に柳琳が話しかける。

 

「ねー柳琳、あたし達お風呂に行くんすよね?」

 

「ええ、そうだけど…」

 

「何で服を脱いで行っちゃダメなんすか?」

 

「姉さん…服は温泉に着いてから、脱衣所で脱ぐから…」

 

「脱いでから温泉に行っても、温泉に着いてから脱いでもいっしょじゃないっすか」

 

「いっしょじゃないから!」

 

「え~…?」

 

どうも華侖は早く服を脱ぎたくて仕方ないらしい。

 

「そういえば、春蘭様も元気ない?」

 

「いや、その…」

 

「ひょっとして、秋蘭さんのことを気にしているのですか?」

 

「ああ…一人だけ留守番だなんて、可哀想だと思って…」

 

「確かに悪いとは思うわよ。

でも、さすがに我が軍の首脳部が全員が、同時に休暇をとるワケにはいかないでしょ?

誰か一人くらいは残っていないと…」

 

「その通りですが…(秋蘭、拗ねたりしていないといいが…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その頃―――陳留~

 

「『あ~温泉は気持ちいな~』

 

『ええ、気持ちがゆったりするわね』

 

『本当に来てよかったですね』

 

『あったかくって気持ちいいっす~』

 

『日々の疲れがとれていきますわね』

 

『ぽかぽか~』

 

『心も体もサッパリしますね』

 

『ほら秋蘭、あなたもそんな所に一人でいないで、こっちにいらっしゃい』

 

『はい、直ちに』」

 

秋蘭?は元気よく返事をすると、華琳?の隣にいた桂花?を押し退け、華琳?に身体を密着させて温泉に浸かる。

邪魔された桂花?は、秋蘭?を嫉妬に満ちた目で見る。

 

「……ハァ」

 

…と、そこで秋蘭は華琳達の指人形を外し、机に向かう。

 

「……仕事するか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらにその頃―――

 

ナミとシャオの2人が、山道を歩いていた。

 

「ん?」

 

突如、ナミがくんくんと臭いを嗅ぎだす。

 

「どうしたのよナミ?」

 

「何か匂うわ…」

 

「えっ⁉しゃ、シャオじゃないわよ⁉」

 

「?」

 

顔を赤らめ、尻を抑えるシャオ。

 

「た、確かにさっき食べた焼き芋で、お腹が張っているような気はしていたけど…!ぜ、絶対違うからね!」

 

「ああ、違うわよシャオ。硫黄の匂いがするな~って話よ」

 

「“いおう”?」

 

「ええ。きっと近くに温泉があるんじゃないかしら?」

 

「温泉⁉シャオ行きたい!」

 

「そうね~私も久しぶりにお風呂に入りたいし…行きましょうか!」

 

「やった~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、温泉街に着いた2人は早速公用の浴場に向かった。

 

「おっ風呂~おっ風呂~♪」

 

「シャオ!お風呂場で走ると危ないわよ!」

 

「それ~っ!」

 

ナミの言葉に全く耳を貸さず、浴槽に飛び込むシャオ。

 

次の瞬間…

 

ドッス~ン!

 

「いった~!」

 

「シャオ⁉」

 

浴槽に飛び込んだ音とは思えない音が響き、ナミが急いで中を覗いてみると…

 

「何これ⁉お湯がないじゃない⁉」

 

「どうなってんのよも~!」

 

浴槽の中は空っぽだった。

 

「お風呂っす~♪」

 

「お風呂~♪」

 

…と、そこへさらに何者かが2人現れ、同じように浴槽に飛び込み…

 

ドスス~ン!

 

「「痛~っ!」」

 

尻もちをついた。

 

「姉さん!はしたないわよ!」

 

「香風さん!浴場で走ってはいけません!」

 

さらに5人の女性が入ってくる。

 

「華琳様~!たいへ~ん!」

 

「お湯がないっす~!」

 

「「「「「えェっ⁉」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナミ達2人と華琳達7人は、一緒に近くの休憩所でお茶を飲んでいた。

 

「どういう事よ!温泉にお湯がないって⁉」

 

「お尻に痣が出来ちゃったっす…」

 

「まだちょっと痛い…」

 

「香風さん、大丈夫ですの?」

 

「さっき地元の人に訊いてみたら、半月前の大きな地震の後、お湯が出なくなったらしいわ」

 

「せっかくの慰安旅行が台無しね…」

 

「そうだな~せっかく休みを取って遠出してきたのに…」

 

「ホント…残念だわ」

 

「あの~皆さん、でしたら新しい温泉を探してみませんか?」

 

「「「「「「「「え?」」」」」」」」

 

柳琳の提案に全員が目を丸くする。

 

「柳琳、それって温泉がありそうな場所を探して掘るってことっすか?」

 

「そうよ、確実に見つかるとは限らないけど、やってみる価値あると思うの」

 

「桂花はどう思う?」

 

「私も可能性はあると思います」

 

「確かに…地震で水路が塞がっただけなら、源泉は無事かもしれないし…」

 

桂花とナミもうなずく。

 

「よーし!じゃあ早速温泉探しに行くっす!」

 

…と、張り切って華侖が立ち上がるが…

 

「ちょォっと待ったァ!」

 

「「「「「「「?」」」」」」」

 

「どうしたのよシャオ?」

 

「せっかくだし、シャオ達とあんた達、どっちが先に温泉を見つけるか勝負しない?」

 

「勝負?」

 

「ちょっとシャオ、あんた何を企んでいるの?」

 

「面白そうね」

 

「お姉様⁉」

 

「言っとくけど、これは遊びじゃないわよ。シャオ達が勝ったら、あんた達はこの孫尚香様の家来になるの!」

 

「ええっ⁉」

 

「キサマァ!」

 

「ちょっとシャオ⁉」

 

「いいわよ」

 

「ええっ⁉」

 

「華琳様⁉」

 

「孫尚香とやら、あなた達が勝ったら私達はあなたの家来になる。

逆に私達が勝ったら、あなた達が私の家来になる。そういう事でいいのね?」

 

「ええそうよ」

 

「ちょっとシャオ!あんた勝手に…」

 

「そうと決まれば早速出陣よ!」

 

「は、はい…」

 

「華琳様…」

 

「またお姉様の悪い癖が…」

 

(どうしてこう、ルフィみたいに勝手な奴ばかりなのよ…)

 

そんなこんなで、温泉探し勝負が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~華琳チームside~

 

2本の直角に曲がった金属棒を手にした桂花を先頭に、華侖、柳琳、栄華、華琳、そして温泉街で購入したシャベルやツルハシを担いだ春蘭、香風の順で並び、一行は山道を進んでいた。

 

「ね~桂花、それ何すか?」

 

「これは疑似科学の粋を集めた秘密兵器よ」

 

桂花が行っているのは、いわゆる“ダウジング”というやつである。

 

「本当にそれで温泉が見つかるんですの?」

 

「もちろんよ。この方法なら温泉はもちろん、土中に埋まった土管だって見つけられるわ」

 

「それにしても華琳様、よろしいのですか?負けたらあんな素性の知れない輩の家臣になるなど…」

 

不満そうに訊ねる春蘭。

 

「私達が勝てば問題ないでしょう?」

 

「それはそうですが…」

 

「そんなに勝つ自信がないの?」

 

「そ、そんなことは…!」

 

「ひょっとして…ヤキモチ?」

 

「⁉」

 

「心配しなくてもいいわよ。あの二人が家来になっても、あなたのことはこれまでと同様に可愛がってあげるわ」

 

「か、華琳様…♡」

 

「でもお姉様…あの条件じゃあまりにも、私達に利がないんじゃ…」

 

「あら柳琳、私が何の益もない勝負を受けたと思っているの?」

 

「といいますと?」

 

華琳の言葉に思わず全員が足を止め、華琳の方を向く。

 

「孫尚香と一緒にいたあの女、どことなくルフィや、いつかの三刀流の剣士と似た感じがしなかった?」

 

「!そ、そう言えば…」

 

「それではあの人も…」

 

「ええ、天の御使いである可能性が高いわ」

 

「なるほど、もしそうなら虎穴に入る価値がありますな!」

 

「ええ。それにもし違っていたとしても、孫尚香さんが手に入るのならば…!

ああ…どんな服を着せて可愛がってあげましょうかしら?」

 

(シャン達…わざと負けた方がいいかな…?)

 

目を輝かせる栄華を見て、シャオの身を案じる香風だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃―――

 

「⁉」

 

「どうしたのよシャオ?」

 

「な、何か分からないけど寒気がした…」

 

「?さっき裸でいたせいかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらにその頃―――

 

「…真直さん。さっきからずっと同じ所を歩いているような気がするんですけど…まさか道に迷ったりしていませんわよね?」

 

麗羽達はお宝探しに来ていた。

 

地図を持った真直が先頭を歩き、その後にツルハシとシャベルを持った、猪々子と斗詩、最後にすでにだいぶ疲弊し猫背になった麗羽が歩いている。

 

「迷ってはいない…ハズですけど…。この地図、虫に食われているところが多すぎて、道がよくわからないところがあって…」

 

「ちょっと真直ちゃん!それじゃあ宝の場所に行けないんじゃ⁉」

 

「でも、地形から考えて、この辺なのは間違いないはずだから…」

 

「あ!麗羽様アレ!」

 

「どうしました猪々子さん?」

 

一行が、猪々子が指した方を見ると…

 

「げっ⁉華琳さん⁉」

 

少し離れた崖沿いの道を、華琳達が歩いているのが見えた。

 

そう、麗羽達が宝探しに来た場所は、華琳達、ナミ達が来ていた温泉街の近くだったのだ。

 

「どうしてあの金髪クルクル小娘がここに⁉」

 

「あの~麗羽様…」

 

「何ですの猪々子さん?」

 

「麗羽様、曹操の悪口を言う時、よく“金髪クルクル”っていいますけど、それ麗羽様も同じなんじゃ…?」

 

「私と被っているから余計腹が立つのですわ!」

 

「そーゆーことですか…」

 

(確かに袁家も曹家も多いわね…金髪クルクル…)

 

前方にいる華琳とその親戚を見て、さらにこの場にいない袁家の親族を思い出し、そう考える真直だった。

 

「あ、麗羽様!後ろにいる夏侯惇達が持っている物を見て下さい!」

 

猪々子の言葉に、春蘭と香風の持ち物を見ると…

 

「!鶴嘴(ツルハシ)踏み鋤(ふみすき)⁉」

 

「まさか、曹操さん達も宝を探しに⁉」

 

「あの金髪クルクル小娘ェ~っ!またしても私の邪魔を~っ!」

 

「麗羽様落ち着いて下さい!これは好機ですよ!」

 

真直は何か思いついたらしい。

 

「何が好機なのですか?」

 

「曹操さん達が宝を見つけたら、それを横取りするんです。

そうすれば宝が手に入りますし、ついでに曹操さんに一矢報いることができるじゃないですか!」

 

「成程!それはいい考えですわね!」

 

「すごいな真直!普段あんまり活躍してないけど、やっぱり軍師だな!」

 

「…普段活躍できないのは、アンタと麗羽様が私の話を全然聞かないからでしょうが…!」

 

「…ごめんね、真直ちゃん…」

 

「そうと決まれば、早速尾行を開始しましょう!」

 

「ええ!あの金髪クルクル小娘の泣き顔を拝むために、ついでに宝も手に入れてやりますわ!」

 

「…そっちがついでなんですか?」

 

思わず呆れる3人。

 

この人、そこまで華琳が気に食わないのか…?

 

ともかく、麗羽達は華琳達の尾行を開始するのだった。

 

 




アニメの内容に沿った話を投稿するの、久しぶりですね。



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第41話 “熊”

なんか第八席編は、書いていると勝手に話が出来上がっていく感じがすごくします。




~華琳チームside~

 

「あっ!」

 

小さい岩の上で、桂花が持っていた棒が反応した。

 

「この下に何かあります!」

 

「温泉っすか⁉」

 

「それはまだわからないわ、掘ってみないと」

 

「それじゃあこの岩をどかして、掘ってみましょう」

 

「あ、その前に…」

 

「華琳様?」

 

「ちょっとのどが渇いたから、さっき通り過ぎた小川で水を飲んでからにしましょう」

 

そう言って来た道を引き返す華琳。

 

「私ものどが渇きましたわ~」

 

「私も…」

 

「シャンもお水飲む~」

 

「あたしも行くっす~」

 

「私もお供します」

 

「それじゃあ私も…」

 

そして、華琳達は全員その場を離れた。

 

「どうやら見つけたようですわね」

 

華琳達がいなくなったのを見て、麗羽達は近くの茂みから姿を現した。

 

「それにしても曹操さん達、行っちゃいましたね」

 

「ぞろぞろと連れ立って、どこへ行ったのかしら?」

 

「きっと厠ですよ。あたい達も良く連れ立って行くじゃないですか」

 

「とにかく、今のうちに宝をいただきますわよ!」

 

そして麗羽達は岩をどけようとする。

 

「いきますわよ!」

 

「「「「せーのっ!」」」」

 

ゴロン!

 

「よっしゃーじゃあ早速お宝を…」

 

そう言って岩があった場所に目を向ける。

 

すると…

 

「「「「…ひっ!」」」」

 

ワラジムシやムカデなどの虫が大量に這っていた。

隠れ家にしていた岩がなくなった虫たちは、麗羽達の足元を這いずり回る。

 

「「「「いやあァァァーーーっ⁉」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ナミ、シャオside~

 

「?」

 

「どうしたのよナミ?」

 

「なんか悲鳴が聞こえたような気がして…」

 

「気のせいじゃない?」

 

「そうかもしれないわね」

 

ナミは購入したツルハシと、一枚の地図を手に歩き、シャオはその後に付いて行く。

 

「ね~ナミ~…さっきから地図と周りを見てばっかりで、全然地面を掘ってないじゃない。

温泉探さないの?」

 

「いいシャオ?温泉っていうのは、適当に掘って見つかるようなものじゃないの。

溶岩ってわかる?」

 

「火山とかから出てくる、赤くて熱いドロドロしたやつのこと?」

 

「そう!それが地下にある水を、温めてできるのが温泉なの。

だから地下水と溶岩の両方が地面の近くにある場所でないと、温泉は出てこないの。

溶岩や地下水があるかどうかは、地形や山の形を見れば、ある程度予想することができるから…」

 

「それで地面と山の形を見ているの?」

 

「そういうこと」

 

「じゃあさっき、街で地元の人から色々聞いて、地図に書いていたのは?」

 

「温泉って湯気が出ているでしょ?

だから温泉がある場所は、その湯気が原因で、変な雲がずっとあったり、湯気に反射して光の柱が出来ていたり、自然現象がよく起きるのよ。

それで地元に人に、そういうのを見たことがある場所を訊いて、地図に記していたってワケ」

 

「ふ~ん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~麗羽チームside~

 

「全く…何だったんですのさっきのアレは⁉」

 

「曹操達が仕掛けた罠だったんじゃないですか?」

 

「あの金髪クルクル小娘ェ~…いつか絶対あの金髪を、元に戻らなくなるくらい引っ張ってやりますわ!」

 

「あと、腰が抜けるほど烏賊(いか)と玉葱食わしてやりましょう!」

 

(あわび)の肝も良いですわね!」

 

「それから目の前で、蜜柑の皮の汁を跳ばしてやるのも効きますよ!」

 

「衣服の中に(どじょう)蛞蝓(なめくじ)も入れてやりますわ!」

 

「あとは…」

 

「あ!麗羽様、文ちゃん、真直ちゃんも、あれを!」

 

麗羽と猪々子が話していると、先頭を歩いていた斗詩が何かを見つけた。

 

3人が見てみてみると…

 

「あれは…」

 

オレンジの髪の女と、ピンクの髪の少女が歩いているのが見えた。

 

「…どうやらあの者達も宝探しに来たようですわね」

 

女が持っている地図とツルハシを見て、麗羽が呟く。

 

「麗羽様、あの女が持っている地図、私が持っている物より保存状態が良さそうです」

 

「あれなら宝の場所がハッキリわかるかもしれません!」

 

「じゃあ隙をみて奪いましょう!」

 

「そうですわね!」

 

こうして、再び尾行を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

~ナミ、シャオside~

 

「ね~ナミ~…まだ見つかんないの~?シャオ退屈~…。

あ、(ウサギ)!」

 

野生のウサギを見つけ、思わず追いかけるシャオ。

 

「待ちなさーい!」

 

「あ、コラ!シャオ!」

 

ナミが呼び止めるのも聞かず、林の奥へと消えていき…

 

「きゃ~⁉」

 

すぐに戻ってきた。

シャオが追いかけて行ったウサギも一緒に戻ってきた。

 

そして、その後ろには…

 

「クマ~⁉」

 

「グアァァァーーーッ!」

 

「「きゃ~っ⁉」」

 

慌てて逃げだす2人。

 

 

 

 

 

 

一方、麗羽達も尾行をしていた相手がクマに出くわし、困惑していた。

 

「ちょ…ま、真直さん!どうするんですの⁉」

 

「ど、どうするって…猪々子!斗詩!な、なんとかしてあの熊を…」

 

「いや、得物があるならともかく…」

 

「こんな状態ではさすがに…」

 

「残念ですけど…あの女の地図はあきらめましょう…」

 

「し、仕方がないですわね…」

 

「アレ?…あの…麗羽様?」

 

「「「?」」」

 

猪々子に言われ、再び熊の方を見ると…

 

「「「え?」」」

 

熊が立ち止まり、鼻をクンクンさせながらこっちの方に近づいてくる。

 

「な、何かあの熊、こっちに来てませんか?」

 

「な、何で?」

 

「……あのう、麗羽様…」

 

「何ですの真直さん?」

 

「ひょっとして昨夜から今朝にかけて、お香とか焚いていましたか?」

 

「ええ、宝探しですから気合を入れようと、甘い香りのするお香をたくさん焚いてきましたわ」

 

その言葉を聞いて3人は確信した。

『それが原因だ』と。

 

「グルアァァァーーーッ!」

 

「「「「ひィィィーーーっ!」」」」

 

そして麗羽達を見つけ、襲い掛かる熊。

必死に逃げる麗羽達。

 

無我夢中で逃げていると…

 

「「「「?」」」」

 

不意に足元から地面の感覚がなくなる。

 

「「「「いやァァァーーーっ!」」」」

 

そして4人は崖から真っ逆さまに落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃―――

 

「おい桂花。全く湧いてこないぞ」

 

ツルハシで地面を掘りながらつぶやく春蘭。

 

華琳達は先ほど岩があった場所を掘り進めていた。

 

「仕方ないでしょ。

これは場所がわかるだけで、深さまではわからないんだから。

とにかく、何かが埋まっているのは間違いないんだから、何か出てくるまで黙って掘りなさい!」

 

「少しぐらいお前も掘れ!」

 

「いやよ。何でそんな脳筋の専業を、頭脳派である私がやらなきゃいけないのよ?」

 

「なんだとォ!」

 

「春姉ェ!ケンカしてないで早く掘るっす!」

 

「春蘭様、桂花も止めて…」

 

「フン!」

 

「むう…」

 

同じ様に地面を掘っている、華侖と香風に言われ、とりあえず黙る2人。

 

「ああ…香風さんすっかり泥だらけになって…私手拭いを濡らしてきますわ」

 

そう言って、先ほど水を飲んだ小川の方へ行く栄華。

 

「そういえば…尚香ちゃん達の方はどうなっているかしら?」

 

「さあね?」

 

柳琳と華琳がそんな会話をしたときだった。

 

「キャーッ!」

 

「「「「「「⁉」」」」」」

 

栄華の悲鳴が聞こえ、華琳達が振り向くと…

 

「ガアァァァーーーッ!」

 

「「「「「「く、熊ァーーーっ⁉」」」」」」

 

「ひィィィーーーっ!」

 

「ちょ、ちょっと春蘭!何とかしなさいよ!」

 

「む、無茶言うな!武器も何もない状態で!」

 

「なによ役立たず!」

 

「お前が言うな貧弱貧乳猫耳頭巾!」

 

「何ですってェ⁉」

 

「二人ともケンカしている場合じゃないっすよ!」

 

「早く逃げた方が良い!」

 

「お、お姉様!」

 

「ええ!大至急全員撤退!」

 

「グアァァァーーーっ!」

 

「「「「「「「わあああァァァーーーっ!」」」」」」」

 

一目散に逃げだす華琳達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらにその頃―――

 

「ハァ…ハァ…もう追って来てないみたいね…」

 

「ナミ~…ここどこ~…?」

 

「ちょっと待って…地図で確認するから…」

 

そう言ってナミが地図を取り出そうとした時…

 

「「「「「「「あああァァァーーーっ!」」」」」」」

 

「「?」」

 

何者かの悲鳴が聞こえ、振り向くと…

 

「な、ナミ…あれって…!」

 

「げっ!」

 

「グルアアアァァァーーーっ!」

 

「「さっきの熊ァーーーっ⁉」」

 

「あ!あんた達!」

 

「は、早く逃げるっすよー!」

 

「ちょ、こっち来ないでよ!」

 

「いやーーーっ!」

 

そして9人になって、熊から必死に逃げ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらにさらにその頃―――

 

「?ここは…?」

 

麗羽が目を覚ますと、そこにはとても綺麗な川と花畑が広がっていた。

そう、まるで()()()()()()()()()()()()()綺麗な川と花畑が―――

 

「あら?」

 

そして麗羽は川の対岸にいる、1人の人影に気付く。

 

「あれは、私が幼い頃に亡くなった御婆様?

私を呼んでいるのですか?わかりました、今そちらに…」

 

そして川をわた…

 

『『『麗羽様ァーーーっ!』』』

 

「⁉」

 

…ろうとした瞬間、3つの呼び声が聞こえると同時に、見えない力で引っ張り戻される。

 

「か、川を…!川を渡っておばあ様にっ…」

 

 

 

 

 

 

「!」

 

そして、麗羽は本当に目を覚ました。

 

「あ!麗羽様!」

 

「気が付いたんですね⁉」

 

「よかったァ!」

 

目を覚ました瞬間、泣いて喜ぶ猪々子、斗詩、真直の3人の顔が、麗羽の目に飛び込んできた。

 

「麗羽様ァ!本当に死んじゃったかと思ったじゃないですか!」

 

「猪々子…」

 

「本当によかったですよォ!」

 

「斗詩…」

 

「ほんっっとうに心配かけて!いい加減にして下さいよォ!」

 

「真直…」

 

麗羽に抱き着いて泣きじゃくる3人。

 

(三人とも、こんなに私のことを心配して…)

 

その時だった。

 

「「「「「「「「「あああァァァーーーっ!」」」」」」」」」

 

「「「「?」」」」

 

大勢の悲鳴が聞こえ、4人が振り向くと…

 

「麗羽⁉」

 

「な、何でアンタ達がここに⁉」

 

「あんたらこのクマなんとかしてー!」

 

「華琳さん⁉」

 

「さっきの二人⁉」

 

「それに…」

 

「さっきの熊ーっ⁉」

 

「ガアァァァーーーッ!」

 

「「「「「「「「「「いやァーーーっ!」」」」」」」」」」

 

そして麗羽達も混ざり、13人で走る。

 

「ナミ~…シャオ…もう限界…」

 

「華琳様…私も…」

 

「お姉様…恥ずかしながら…私も…」

 

「あーもう!どいつもこいつも役に立たないわね!

あいつらだったらこんな熊、素手でも瞬殺できるのにィ!」

 

半ばヤケクソになったナミは武器である“天候棒(クリマ・タクト)”を取り出し…

 

「“電気泡(サンダーボール)”‼」

 

バリバリバリッ!

 

「グアァァァーーーッ⁉」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

ドスゥゥゥン…

 

ナミの攻撃をくらった熊は、しばらく倒れていたが、やがて静かに起き上がり…

 

「グウゥゥ~…」

 

恐れをなしたのか、去って行った。

 

「は~…助かった…」

 

安堵のあまり、膝をつくナミ。

 

「…ちょっとナミ…」

 

「「「「あなたねェ…」」」」

 

「アンタ…」

 

「キサマ…」

 

「?」

 

「「「「「「「「「「そんなコトできるなら最初から やんなさいよ!/やりなさいよ!/やれェ!/やってよ!」」」」」」」」」」

 

華侖、香風以外の全員が心の底からナミを怒鳴りつけた。

 

「何言ってんのよ⁉私はこの中で一番かわいくて、体つきもいいんだから一番戦うべきじゃない人でしょう⁉」

 

よく解らない理屈で当然のように反論するナミ。

 

それにしても本当に何を言っているのだろうか?

 

「何言ってるのよ⁉その理屈で言えば一番戦うべきではないのは華琳様でしょう⁉」

 

「その通りだ!華琳様こそ至高の美だろ!」

 

少々論点がずれた反論をする桂花と春蘭。

 

気にするのはソコですか?

 

「ちょっと!

どうしてそんな金髪クルクル貧乳チンチクリンの成り上がり小娘が、この名門袁家の現当主であり、容姿端麗才色兼備である私よりも優遇されるのですか⁉」

 

「相変わらず好き勝手言ってくれるじゃない麗羽…!」

 

「いいえ!一番優遇されるのは、香風さんや尚香ちゃんのような少女です!この幼げで愛らしい体形こそ守るべきです!」

 

「あんた良いこと言うじゃない!理由がちょっと気になるけど…」

 

一方…

 

「柳琳、止めなくていいんすか?」

 

「姉さん、こういう時は自然に収まるまで待つのが一番いいのよ…」

 

「下手に止めようとしたら、逆効果…」

 

「じゃ、あたい達はしばらく高みの見物といくか」

 

「“触らぬ神に祟りなし”だね…」

 

「…論点がおかしいし、あんな不毛な争い、関わらないのが一番よ…」

 

華侖、柳琳、香風、猪々子、斗詩、真直は、少し距離をとって、様子を見るのだった。

 

 




可愛いは正義というけれど、自分で言う奴には腹が立つ。



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第42話 “変な形”

ナミ、華琳、麗羽達がひとしきりケンカした後―――

 

「ナミ~…シャオもう疲れた~…温泉はもういいから、寝たい~…」

 

「そうね…もう宿に帰って休みましょう…」

 

「華琳様、私達も…」

 

「そうね…慰安旅行に来たはずなのに、何故かいつもより疲れた気がするわ…」

 

「もう…温泉はあきらめましょう…」

 

「猪々子さん、斗詩さん、真直さん、私達もお宝はあきらめて帰りましょう…」

 

「確かに…もう色々と疲れました…」

 

「「「「「「「「「「………ん?」」」」」」」」」」

 

…と、そこで一同は初めて互いの目的について話した。

 

「な~んだ。じゃあ曹操達は宝のことは知らなかったのか」

 

「へ~…こんな所に財宝ね…」

 

「ねえ、袁紹さんだったかしら?その地図、見せてくれないかしら?」

 

「え?まァ、構いませんけど…」

 

「ちょ、ナミ⁉今日はもう帰ろうって…」

 

「まァまァシャオ、ついでよ、つ・い・で♪」

 

(ナミの目…変な形になってる…)

 

そしてナミは、麗羽から受け取った地図と自分が持っている地図、そして周囲の地形を見比べて…

 

「あれ?この地図が指している場所、このすぐ近くよ!それに地形的に温泉が湧くかもしれない!」

 

「「「「「「「「「「ええっ⁉」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナミの言葉を聞いた一同は、もう少し一緒に探索することにした。

 

そして…

 

「地図が示しているのは、間違いなくここだけど…」

 

そう言うナミ達の前には、明らかに人の手によって掘り返され、大きな穴が開いた地面があった。

 

穴の底を調べてみると、数粒の砂金や真珠が見つかった。

 

「どうやら宝は、すでに何者かに発見された後だったみたいね…」

 

「ま、この地図相当古いし、不思議ではないけど…」

 

「仕方がないですわね、猪々子さん、斗詩さん、真直さん、私達は帰りましょう」

 

「は~い」

 

「あ~あ…残念ですね…」

 

「まさに骨折り損のくたびれ儲けですね…」

 

「ま、そういうこともあり