ありふれた無職が世界最強 (夏影)
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プロローグ
プロローグ~ぶっちゃけよくある異世界召喚の風景~


初投稿です。よろしくおねがいします。
初投稿はいます。


「ごめんミスって君死んじゃったわ詫び転生」

「おk把握チートあり?」

「詫びだし3つ願いを言うがいい」

「あれとこれとそれ、ギャルのパンティーおくれー!!」

「4つじゃないか最後のは無効な、それじゃいい転生ライフを」

「ちょ足元、うわぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 

 

 

 

「という夢を見たんだ」

「テンプレ乙」

「お前が杏ちゃんとか烏滸がましいにも程がある」

「うわぁ辛辣ぅ」

 

 とある月曜日の朝、欠伸を噛み殺しつつ、雑談しながら通学路を進む男子高校生が3人。

 優しげな顔をしながらテンプレ展開を容赦なくバッサリ叩き切った少年、南雲ハジメ。

 ネタを逃さずキッチリとツッコミを入れたソバカス顔の少年、清水幸利。

 そしてまんまテンプレな夢を見た事を話のネタにあげた、ツンツンと尖った茶髪の少年、蔵兎咲(くらうざ)(ばつ)、すなわち俺。

 ちなみにこの奇天烈な名字は、祖父のヴォルフガング・クラウザーが、日本好きの異母兄弟に影響を受けて日本国籍を得たときに考えた当て字らしい。

 

 そのままつらつらダラダラと無駄話をしつつ、始業チャイム5分前に教室へたどり着いた俺たち。

 三人揃って眠そうな顔を晒しながら教室へ入ると、いかにも不良です!と大声で叫んでるような4人組が絡んできた。

 

「よぉ、キモオタ共!また仲良く、徹夜でゲームか?どうせエロゲーでもしてたんだろ?」

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモいじゃん~」

 

 4人の不良はそう言って、何が面白いのかゲラゲラ笑っている。名前は…いいか、所詮三下の小物だ。

 その声に苦笑を浮かべつつ、自分の席に移動するハジメ、眉をしかめつつ、ロッカーへ移動するトシ(幸利の愛称)。

 そして俺は…

 

「えっ、なんで知ってんだ?」

 

 そう答えてやる。

 

「えっ」

「俺たちは先週、新発売のオンライン狩猟ゲームの話題一色だったし、週末もこれをやり込もうって話しかしていなかった。

 つまり、今日俺たちが寝不足で登校してきたとしても、普通に考えたら夜ふかししてコイツをやり込んでいたという発想になるはず。

 なのにお前たちは、何故か『徹夜で』『エロゲーを』やっていたと言い当ててみせた」

「えっ、は?」

「金、土は確かに狩猟ゲーをやり込んでいたのに、昨日に限ってエロゲーをやったのは間違いない、だがそれを知ってるのは誰もいないはず。なぜならあいつらにも言ってないからだ。

 なのにお前らがそれを知ってるってことは…まさか、俺の事ストーカーでもしてんのか?」

「は、ちょ、ふざけ」

「すまん、別に俺にそういう偏見はないが、俺自身がヤンホモストーカーに好かれるってのはちょっと勘弁願いたい。

 あと、俺はノーマルだから、お前らの気持ちには答えられない、すまん。

 というわけで、できれば以降そういう行為は控えてくれると助かる」

 

 それだけを一方的にまくしたてると、少々早足で、ぽかんとしている4人組から離れる俺。

 すると、一人の美少女が声をかけてきた。

 

「おはよう、南雲くん、バツくん。ねぇバツくん、今の話は本当なのかな?」

「あ、おはよう白崎さん」

「おう、おはよう香織。ありゃあいつらにヤンホモストーカーのレッテル貼るためのでまかせだよ」

 

 彼女の名前は白崎香織。二大女神とも言われるほどのほんわか美少女である。

 周りからの殺意混じりの視線がいっそ心地良いレベルで突き刺さる。いや待て、俺は別にドMじゃない。

 

「あ、バツくん。今日の放課後、時間あるかな?」

「あ?んー…ああ、問題ないぜ」

「良かった。じゃあ二人でお出かけしない?」

「二人か…ハジメやトシも一緒じゃだめか?」

「できれば二人がいいかな」

「そっか…おっけ、問題無いぜ」

 

 周りからの殺意のレベルが跳ね上がる。超絶美少女の香織は男子から非常にモテているため、こんな会話ができる俺への嫉妬が天元突破しているのだ。

 そう、香織は実は俺の彼女…というわけではない。彼女の想い人は実はハジメである。

 ではなぜ俺がこんな会話をしてるかというと…ハジメへヘイトを向けないためだ。

 

 高校一年の頃、香織の好意がハジメに向いてることに気づいた俺は、同時に男子の嫉妬がハジメに集中してることにも気づいた。

 これそのうち大事になるんじゃないかと思った俺は、ハジメと香織、ついでに香織の親友とトシ、トシの彼女(実は彼女持ちだ)を巻き込んでOHANASHIを敢行した。

 その時の話し合いの末、ハジメと香織がお付き合いする事になったり、香織の親友が中学進学で離れ離れになった俺の幼馴染だということが判明したり、勢いでその幼馴染に告白されて、俺もお付き合いするようになったりと色々あったが、それはまぁトシと彼女さんの馴れ初めと一緒に横においておく。

 

 そのときに決めたのが、自衛手段の乏しいハジメからヘイトをそらし、ある程度戦闘力のある俺が矢面に立つ方法、すなわちカエダーマ大作戦(杏Pのトシ命名)である。

 実はさっきの会話、香織は俺に喋ってるように見せかけて、その実後ろでボケっとしていたハジメに話しかけていたのだ。そして、俺は考えるフリをしながら、予め決めていたブロックサインをハジメから受け取り、それをそのまま香織に伝える事により、俺にヘイトを集めつつ二人のデートの約束を整えてやったのだ。

 

 ちなみに、傍から見ると、俺と香織が完全に彼氏彼女に見えることもあり、嫉妬に狂った男子から闇討ちされて返り討ちにした人数は、すでに両手の指では足りない回数である。

 プラス、()()のせいで、俺は何かと暴力に訴える最低男の異名を恣にしていたりする。

 

「おはよう、南雲くん、バツ。朝から大変ね」

「香織、また彼らの世話を焼いてるのか?本当に香織は優しいな」

「全くだぜ、こんなやる気のない奴らにゃ何言っても無駄だと思うけどなぁ」

 

 逆ハーっぽい3人組が近づいてきてこちらに話しかけてくる。話しかけてくる、だ。挨拶してるのは一人しかいない。

 唯一挨拶してきた逆ハーヒロインっぽいのは八重樫雫。ごめん嘘ついた、そんなふわふわした女の子じゃない。パッと見完全に女侍な凛とした少女、二大女神のもうひとりである。

 香織の親友であり、すなわち俺の幼馴染であり、現彼女。ただしカエダーマ大作戦のために一切公表はしていない。雫も納得済みだ。

 逆ハーの王子様枠っぽいキラキラした優男は天之河光輝。自分の中の正義こそが唯一絶対であり、彼の正義と違うものはすべて悪であるという思想に凝り固まった、ご都合解釈の権化である。

 ちなみに俺に暴力男のレッテルを貼った()()とはこいつのことである。

 逆ハーの脳筋騎士枠っぽい筋肉ダルマは坂上龍太郎。見たままの脳筋で光輝の腰巾着である。

 

「あ、うんおはよう三人とも」

「おうおはよう雫。大変って何の話だ?香織と話すのは大変だって言いたいのか?いくら親友とはいえそいつは言いすぎだと思うが」

 

 ハジメは律儀に3人に挨拶を返すが、俺はあえて雫のみに声をかける。周りの殺気が増した。いやぁごめんよ、ホントはコイツが俺の彼女なんだわHAHAHA!

 

「蔵兎咲、朝の挨拶くらいちゃんと返したらどうだい?人としての基本だろう。

 いつまでも香織の優しさに甘えてないで、ちゃんとしないと。香織だっていつまでも君にかまってはいられないんだから」

 

 いや、挨拶返せって俺お前に挨拶された覚えないんだが。

 

「だから挨拶してきた雫にはちゃんと挨拶返しただろ?お前ら二人、香織に話しかけただけで、俺らに挨拶なんて一言もしてないじゃないか。

 むしろお前ら、ちゃんと挨拶したハジメに挨拶返せよ、人としての基本なんだろ?

 それに、別に俺は香織に甘えてるわけじゃない。香織が俺に甘えてるんだ」

「そうだよ?私が話したいからバツくんと話してるの、むしろ私のわがままなんだよ?」

 

 ざわりと教室が騒がしくなる。まぁ嘘はいってない。ハジメに害意が行かないようにと風よけになっている俺の好意に甘えてる形ではあるからな。別に押し付けてるわけじゃないぞ、提案したときにお願いしますと頭を下げてきたのは香織の方だ。

 

「え?

 ……ああ、ほんと、香織は優しいよな」

 

 どうやら天之河の中では香織の発言は俺に気を使ったと解釈されたらしい。一度真面目にこいつの頭かち割って中身を見てみたい。

 

「ごめんなさいね?悪気はない…はず…なんだけど」

「いやこの場合悪気がないほうが厄介なパターンだと思うんだが」

「…まぁ、そうね」

「雫、そろそろお前もアレ、見限ったほうがいいんじゃないか?」

「……前向きに検討するわ」

 

 雫と言葉をかわしていると予鈴がなったので、各々席に戻っていく。ちなみにハジメはすでに夢の中、トシは我関せずと隣の席の彼女とお喋り中だ。

 ハジメは既に高校卒業後の進路が決まっており、俺に関しては色々あって既に高校レベルの課程は修了している。故に高校の授業を受ける理由はなかったりする。ハジメはともかく、俺がこの高校に通ってる理由に関してはそのうち話す機会もあるかもしれない。

 さて、俺も寝るか…。

 

 

 

 ~キンクリ~

 

 

 午前の授業が終わり昼休み、目を覚ました俺とハジメは、10秒チャージを済ませて再び夢の世界に旅立とうとしていた。

 が、そこに弁当を携え、女神が二柱御降臨あそばした。

 

「南雲くん、バツくん、お弁当一緒に食べない?」

「というかどうせ二人して10秒チャージで済ましてるでしょ?

 私達のお弁当分けてあげるからちゃんと食べなさい」

 

 まぁ、断る理由もないし、メインヘイトが俺ってだけでハジメも俺のおこぼれに与る形で香織や雫と親しい(と思われてる)以上、少々のヘイトはあるわけだ。この程度は甘んじて受けてもらおう。

 そう思ってハジメと目配せ、向こうもその程度の覚悟はあるらしく頷いたので返事をしようと口を開きかけた時。

 

「香織、雫。こっちで一緒に食べよう。南雲も蔵兎咲もまだ寝たりないみたいだしさ。

 せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

 天之河(「あ」た「ま」がはる「のかわ」)があらわれた!いやコイツの名字あまの「が」わだけどさ。

 大丈夫か?マジで頭湧いてんじゃないのかコイツ?

 俺が本気でそう心配していると。

 

「え?なんで光輝くんの許しがいるの?」

「香織の、って、私の手料理は美味しくないって言いたいわけ?」

 

 素で聞き返す香織と額に青筋を浮かべた雫。俺とハジメは思わず吹き出した。

 さて、とりあえず頭湧いてるキラキラ王子様を排除するかと腰を浮かして…

 

 凍りついた。

 

 俺の目の前、天之河の足元に輝く円環が現れている。中には幾何学模様が書かれている…これは魔法陣?

 隣のハジメも気づいたらしく、動きが止まっている。魔法陣らしきものはどんどん輝きを増していき…唐突に教室全体に広がった。

 その様子に、教室に残って女子生徒とお喋りをしていた先生が「皆!教室から出て!」と叫ぶ。同時に俺とハジメの金縛りも解けた。

 

「雫!」

「香織さん!」

 

 咄嗟の事にカエダーマ大作戦のことも忘れ、お互いの大事な人を守るように抱きしめる。と同時に、魔法陣の輝きが、爆発したかのように教室に広がり、俺の視界と意識がホワイトアウトしていった。




カエダーマ大作戦って歌詞に入るのかな?入らないよな


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第一章 無職の力とオルクス大迷宮
第一話 異世界召喚~誘拐と何が違うのか小一時間(ry~


できるだけ週一ペースを保ちたい


~南雲ハジメ~

 

 香織さんを抱きしめ、目を固く閉じていた僕は、光が収まり、周りがザワザワと騒がしくなったことに気が付き、ゆっくりと目を開いた。

 まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画、なにやら後光を背負った中性的な人物が書かれている。長い金髪を靡かせ、薄っすらと微笑んでる姿は、神々しくもどこか薄ら寒い物を覚える。

 次に周囲を見回す。大理石で作られたと思しき、巨大な広間のようだ。大聖堂、という言葉が浮かんでくるような作りをしている。

 どうやら僕たちは、その最奥にある台座のようなところにいるようだ。周りには、あの時教室にいた全員がいるようだった。

 僕は抱きしめていた香織さんの様子を確認する。どうやら異常なさそうだったので、そっと手を離す。

 

「ハジ…南雲くん、これって…」

「かお…白崎さん、おそらく予想通りだと思うよ…」

 

 そんな会話を交わしつつ、台座の周囲へと目を移す。そこには、何やら祈るようなポーズをする、法衣らしきものを着た集団が…30人ほどだろうか?存在していた。

 その中でも特に豪奢で煌びやかな衣装をまとった、やたらと覇気を纏った70代くらいの老人が進み出てきて、口を開いた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュ「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」!?」

 

 老人の自己紹介の最中、唐突に叫び声が聞こえてきた。しかもこの声は…聞き覚えのある、どころか僕の親友の声のようだ。

 

「バツ!?」

「バツくん!」

「どうしたのバツ、しっかりして!!」

 

「あぁぁぁあああっっぁぁぁぁ!!!!!頭が、頭が割れる!?!?!?」

 

 僕たちはバツの周りに集まって、声をかける。が、バツは頭を抑えて転げ回るだけだった。どうも激しい頭痛に襲われているらしい。

 

「ちょっと!あんたたち!バツに一体何したのよ!」

「い、いえ、我らは何も…」

 

 イシュなんとかという老人に詰め寄る八重樫さん。僕と香織さんはバツが台座から転がり落ちないように支えている。

 しばらくすると、少しづつバツの様子が落ち着いてきたようだった。

 

「っぐ、ハァ、畜生、こんなの聞いてねぇぞ…」

「バツ、大丈夫?」

「ハジメか…ああ、大丈夫、問題ないぜ。

 …やっぱ…りふれ…トシと…どうす…」

 

 頭痛は治まったらしいけど、小声で何やらブツブツつぶやいているバツ。八重樫さんが心配そうに声をかけ、僕に目配せしてきた香織さんに頷いて、香織さんにもバツのところへ行ってもらう。

 

「…さて、気を取り直しまして。私の名は、イシュタル・ランゴバルド。以後、宜しくお願い致しますぞ」

「宜しくするわけ無いだろド阿呆…」

 

 眉間に深いシワを刻んだバツの呟きが、やけに鮮明に耳に届いた。

 

 

 

~キンクリ~

 

 

 

 その後、僕たちは場所を移り、10メートル以上はありそうなテーブルがいくつも並んだ大広間に通されていた。

 上座から順に、畑山先生、天之河くん、坂上くんが座り、他の生徒も各々適当に座っていく。僕とバツは最後方へ。香織さんと八重樫さんも、こっちにおいでと視線で訴える天之河くんをフルシカトして僕らの近くに座っている。

 というか、僕、香織さん、バツ、八重樫さんの順だ。二人に挟まれてるバツに嫉妬の視線がすごい。僕なら既に胃に穴が開いてると思う。こぼれ落ちた嫉妬の視線でも割と胃が痛いのに…バツの胃は何で出来てるんだろう?

 

 全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押してメイドさんが入ってきた。生のメイドさん!クラスの男子の半数以上が本物の美女・美少女メイドさんに釘付けである。なお女子の視線は氷河期の模様。

 かく言う僕やバツも、思わずメイドさんに視線を送る。どうやら清水くんも僕たちと同じような目をメイドさんに向けているようだ。一瞬険しい顔を向けた香織さんたちが、僕らの目を見てキョトンとした顔になっている。

 

「南雲くんもバツも、メイドさんってだけで興奮しそうなものなんだけど…なんでそんなジト目向けてるのよ?」

「いや、完全にハニトラ要員じゃねぇかこんなの」

「うん、そうでなくても彼女持ちの僕たちがメイドさんに目を奪われるとか、可愛い彼女に申し訳ないよ」

「ハジメくん…」

 

 小声でそんな会話をしつつ、明らかに付け焼き刃な拙い給仕をジト目で眺めつつ、全員に飲み物が行き渡るのを待つ。

 全員に飲み物が行き渡ったタイミングで、イシュタル老が話し始めた。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱しておられることでしょう。一から説明させていただきますので、まずは私の話を最後までお聞きくだされ」

 

 そう前置きして、話し始めたイシュタル老の話は、実にファンタジー、実にテンプレ、そして実に自分勝手なものだった。

 今北産業。

 

 この世界は人間族、魔人族、亜人族の三種族が暮らすトータスって言うよ!

 人間族と魔人族は数百年単位で戦争してるよ!

 最近魔人族が魔物の使役をするようになったんで、数という人間族の優位性が崩れて滅亡のピンチだよ!

 

 …本当に三行にまとまるとは思わなかったよ。

 

「あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を作られた至高の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それゆえ、この世界より上位にあるあなた方の世界から、あなた方を喚ばれたのです。召喚が実行される前に、エヒト様から神託がありました。あなた方という救いを送る、と。あなた方はぜひその力を発揮し、エヒト様の御意志の元、魔人族を打倒し、我ら人間族を救っていただきたい」

 

 どことなく恍惚とした表情を浮かべるイシュタル(もう呼び捨てでいいだろう、この爺さん)。神託を聞いたときのことでも思い出してるのかな?

 とりあえずふざけたことを言ってる狂信者と、その同類しか存在しないであろうこの世界の歪さに危機感を抱いてると、先生がいきなり立ち上がって猛然と抗議を始めた。

 

「ふざけないでください!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!

 そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!

 私達を早く帰して下さい!きっとご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 御年二十五の社会科教師、畑山愛子先生。愛ちゃん先生とも呼ばれる彼女の抗議する姿に、周りの生徒はほっこりした表情をしている。いや、そんなほっこりしてる場合じゃないと思うよ?

 頭の中で色々と考えつつ、呆れた表情で周りを見ていると、次のイシュタルの言葉にほっこりしていた生徒たちが凍りついた。

 

「お気持ちはお察しします。しかし…あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。

 誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。

 

「ふ、不可能って…ど、どういうことですか!?

 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

 愛子先生が叫ぶ。

 

「先ほど言ったようにあなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな。

 あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな…」

 

 硬直する愛子先生。

 

「うそだろ?帰れないってなんだよ!」

「いやよ!なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで…」

 

 パニックを起こす皆。僕も平気というわけではないけど、今はそんなことより考えるときだ。

 現状は最悪一歩手前、だけど最悪じゃない。最悪は奴隷として強制的に戦場行きのパターンだ。

 ちらりとイシュタルを見やる。パニックを起こす様子を静かに眺めているだけだ。が、その奥にどことなく侮蔑の光が見える。

 エヒト様に選ばれておいて、なぜ喜べないのか、とでも言いたいんだろう。

 こんな時、頼れる親友はどうするのか…ちらりとバツを見ると、天之河くんの方を見て…?

 

 ガタッ!パァン!ゴンッ!

 

 おもむろに天之河くんが立ち上がり、テーブルを叩こうとした、その瞬間。

 バツが手を打ち、その音で驚いてテーブルを叩きそこなった天之河くんが頭をテーブルに叩きつけていた。

 

 パンパンパンパンパン…

 

 バツはそのまま拍手をしながらゆっくり立ち上がる。

 皆がバツに注目するのを確認すると、バツはおもむろに話し始めた。

 

「いやー、黙って聞いてりゃ随分と自分勝手言ってくれやがるなァオイ?

 勝手に呼んで?帰せないから?戦争に参加してくれ?

 おまけにパニックに陥る俺ら見て、あんた、俺らの事侮蔑の目で見てたろ?

 おおかた神のご意思で呼ばれたのになぜ喜ばないんだこのクソガキどもは、とでも思っていたんだろ?ん?」

「い、いえ、そんなことは…」

「ちなみにここで首を縦に振らなかった場合、唯一の宗教として、異端認定でもして居場所奪うくらいするつもりだったんじゃないか?

 ああいや、答えなくていいぜ?ぶっちゃけ俺はお前のことを一切信用してないからな。口でなんと言っても信じる気はない」

「蔵兎咲!お前イシュタルさんに…」

「お前は黙ってろ正義バカ。

 さてイシュタルさんよ、ぶっちゃけ戦争とかまっぴらごめんだが、帰れない以上俺らに選択肢はない。

 だが、俺らは元の世界じゃただの学生だったんだ、戦争どころか生き物殺したことないやつの方が多いくらいさ」

「そこは訓練などを受けていただきますが」

「オーケー、だったら俺は参加するのも吝かじゃない。

 ただし、これだけは認めてもらうぞ?

 明らかに戦えない、または戦いたくない、そういう奴らは後方支援に配置することを認めろ。

 敵と戦うだけが戦争じゃない。補給や作戦指揮、生産職なんかも戦争では重要だ、構わないよな?」

「…致し方ありませんな。ただ、全員が後方、なんてことは認められませんぞ?」

 

 バツが譲歩の条件を示し、イシュタルがそれを認める。そしてこういうときに黙っていないのが我らのカリスマリーダー(仮)だ。

 

「安心してください、イシュタルさん!俺は、戦う力があるのなら、戦います!」

「へっ、お前ならそういうと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。…俺もやるぜ?」

「龍太郎…」

 

 無駄に歯を光らせて宣誓する天之河くん、それに追従する坂上くん。

 更に何人かの生徒が、彼らに追従して戦う決意を固める。

 

「というわけで、全員が後方ってことはなさそうなんで、さっきの条件を認めてくれよ。

 お前の言葉は信用してないからな、今この場で『エヒト様』に誓ってくれ」

「いいでしょう。戦えないもの、戦いたくないものを戦場に出さないことをエヒト様に誓いましょう」

「グッド、その誓い、破ってくれるなよ?」

 

 最後にバツがそう締めて、話し合いは終了した。




清水くん、今は空気


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第二話 ステータスプレートと俺の過去~ギャルのパンティーを添えて~

予約投稿設定忘れてた


~蔵兎咲跋~

 

 イシュタルのクソジジイの話を聞いた翌日、俺達は訓練所でメルド団長から話を聞いていた。

 …天道?謁見?晩餐会?()()()()()()と変わりなかったからカットだそんなもの。ハジメたちとの話し合いは、今夜することになったしな。その時は、()()()俺が思い出したことも含めて、大暴露大会をする予定だ。

 

「よし、全員に配り終わったな?このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化してくれるものだ。最も信頼できる身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 などなど、お決まりの説明をするメルド団長の話を聞き流しつつ、俺は渡された針で指先を突き、血を魔法陣に擦り付ける。

 

「ステータスオープン」

 

===================================

 

 蔵兎咲跋 17歳 男 レベル:99

 

 天職:

 

 筋力:99

 

 体力:99

 

 耐性:99

 

 敏捷:99

 

 魔力:99

 

 耐魔:99

 

 技能:すっぴんマスター・最終幻想・言語理解

 

===================================

 

 これは…ある意味予想通り、ある意味予想外だな…

 

「全員見れたか?説明するぞ、まず最初にレベルがあるだろう?それは各ステータスの上昇とともに上がり、上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在地を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力をすべて発揮した極地ということだからな、そんな奴はそうそういない」

 

 俺、極地一歩手前ですが何か?

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

 正直俺はいらない。何なら最悪素手でもいい。

 

「次に、天職ってのがあるだろう?それは言うなれば才能だ。末尾にある技能と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少なく、戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

 俺、天職ないみたいですね。理由はわかってるけど。なぜなら俺は「すっぴんマスター」だからな。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

 単純計算でレベル1での全ステータス1だぞ俺…いや流石に毎レベル1づつ上昇とかないだろうけど。

 で、お決まりの流れでステータスオール100のチート(笑)勇者、天之川光輝がメルド団長に褒められ、全員が戦闘系天職を獲得している中、我らが()()()南雲ハジメの番になる。

 

「ん?…見間違いか?」

 

 いいえ見間違いではありません、彼は錬成師、生産職です。

 

「あぁーその…なんだ。錬成師というのは言ってみれば鍛冶職の事だ。鍛冶するときに便利だとか…」

 

 非常に歯切れ悪く、そう説明するメルド団長。その言葉に調子に乗るのはいつもの小悪党共。香織と仲がいい事に変わりのないハジメへの好感度は普通に低い。

 

「おいおい、南雲ってもしかして非戦系かぁ?鍛冶職でどうやって戦うんだよ?」

「いや戦う必要ないだろ」

 

 お決まりの流れになりそうだったのでサクッとインターセプト。

 

「ハジメが生産職で、戦う力がないなら、普通に後方支援に回せばいい。俺がなんのために志願制にしたと思ってんだ?これだけ人数がいて、全員が全員戦闘チートである保証があると思うか?

 知識チート系が戦場に引きずり出されないように、戦いたくないヤツが無理やり戦わせられないようにって事であの条件を認めさせたんだ、ハジメは後方配置でいいだろ」

「そうです、先生だって非戦系?とかいう天職ですし、ステータスもほぼ平均的ですからね、落ち込む必要はありませんよ!」

 

 そう言ってステータスプレートをハジメに見せる畑山先生。ハジメの目が死んだ!この人でなし!

 

「あー…先生?それガッツリ食料生産チートですからね?あとハジメも、お前の知識があれば最終的に銃くらい生産できるんじゃないか?」

「そういうお前のステータスはどうなんだ?あー、バツ、といったか」

 

 メルド団長に言われて、俺もステータスプレートを渡す。それからのメルド団長の百面相はなかなか面白いものがあったな。

 まず目に入ったであろうオール99のステータスを見て嬉しそうな顔をし、レベルを見て驚愕、のち怪訝な顔、天職欄を見てあからさまにがっかりした顔をした後、技能欄を見て顔中に疑問符を貼り付けていた。

 

「えー、あー、その、なんだ…ステータスは高い。高いが…お前なんでレベルが既に99なんだ?レベル99でこれは…正直低いぞ…?」

「高いけど低いって矛盾してませんかね?」

「で、天職なんだが…確かに、確かに天職なしは珍しいことではない。が、召喚されてきた者たちで天職なしは流石に予想外だったぞ」

「そんな事言われましても…まぁ俺は戦闘も生産もできない、地頭勝負の軍師でいくしかないってことですかねぇ?」

「で、この技能なんだが…何だこの技能?2つとも見たことがないぞ?すっぴんマスターと、最終幻想?」

 

 まぁこんな会話をしていたら黙っていないのが、おなじみ小悪党組である。

 

「ぎゃはははは!なんだよ蔵兎咲、お前さんざん偉そうなこと言っておきながら非戦系天職すら持ってねぇのかよ!」

「今はお前のほうがステータス高いらしいけど、お前もうレベル99で頭打ちらしいじゃねぇか、すぐに追い抜いてやるぜ」

「すっぴんマスターってなんだよ?化粧しなくても顔きれいってか?ぎゃはははは」

「おう、頑張ってくれ。ぶっちゃけ俺が前線参加するって明言しなかったのは、こういう可能性を見越してだからな」

「は?」

「俺は後方組に参加するってことだよ。逆に聞くが、これで前線について行けると思うか?今でこそ天之河と互角だが、レベル的に1週間もしないうちにハジメと先生以外の全員に抜かされるぞ?」

「バツ、今僕を引き合いに出す必要あった…?」

「流れでつい、反省も後悔もしていない」

「しろよ」

 

 まさか全肯定されるとは思っていなかったらしく、ぽかんとしている小悪党組をよそに、ハジメと漫才を始める俺。ちなみにこの間、勇者(笑)様はなにやらトリップしていた模様。おおかた自分が勇者として活躍する場面でも夢想していたのだろう。このイジメシーンで割り込みが発生しない理由ってこういうことだったんだな。

 

「あー、まぁ、とりあえず今日は解散ってことでいいか。明日から座学と訓練だ。後方組も一応自衛できるだけの戦闘力はほしいからな、訓練も参加してくれ。では解散!」

 

 

 

 その夜、俺達は俺の部屋に集まっていた。メンツは俺、ハジメ、香織、雫、清水幸利ことトシ、そして()()()()の6人である。

 

「さて、皆に集まってもらったのは他でもない。昨日伝えていた『俺の考え』がまとまったからだ」

「バツ、昨日もそうだったけど、なんかこっちに来てからあなた少し様子がおかしいわよ?」

 

 雫は俺の様子がおかしいことに気づいてたらしい。やっぱり彼女だからか?よく俺のことを見てくれているようだ。

 

「まぁそうだな、そのあたりも含めていまから説明しようと思う。時にお前ら、神様転生って知ってるか?」

 

 俺の質問に、全員が首をひねりながらも肯定する。

 

「それはまぁ、仮にも幸利くんの彼女やってるし、ボクでもそのくらい知ってるけど…」

「というか今朝、お前自身そんな夢見たって話してたじゃないか。それがどうした?」

「まぁそうだな。結論からいえば、今朝の話、あれ夢じゃない。俺は神様転生でこの世界に転生してきた転生者だ」

 

 恵理とトシの疑問に端的に答えると、全員がぽかんとした表情をしていた。いや、ハジメだけは何やら難しい顔をして考え込んでいる。

 

「まぁ、少しばかり長くなるが、ここに至るまでの話をしよう。あれは今から…」

「シャダイはいいから早く説明」

 

 雫に怒られたので普通に説明を開始する。

 

 

 俺は前世ではごく普通の高校生だった。名前?正直覚えてないな。まぁ、それは今は関係ないから端折るぞ。

 といっても、テンプレ通りに子供を助けてトラックに跳ねられ、本来死ぬ予定のなかった俺が死んでしまった、というよくあるパターンだったけどな。唯一の救いは、その子が無傷で助かる予定だったのが怪我をした、ってわけではなく、半身不随になる予定だったのがかすり傷ですんだ、ってことだったから完全な無駄死にではなかったってことくらいか。

 んで、白い部屋で神様とご対面、ってわけだ。前世の俺も重度のオタクだったから、順応は早かったと思う。

 以下、その時の俺と神様のやりとりだ。

 

「というわけで、お主は本来死ぬ予定のなかった魂であり、あの世での居場所が存在せんのじゃよ」

「見事にテンプレど真ん中ですね…で、転生と」

「そうじゃな。まぁ実はこういうケースは今までにも何度かあっての、ヒトがしばしば運命を覆すということを知っておきながら、未だに改善しようとしないこちらの落ち度でもあるし、そのてんぷら、とやらに沿って、ちーと?とか言うものを3つ与えて他の世界へ転生させることにしておるのじゃよ」

「その世界というのは、いわゆる剣と魔法の中世ファンタジー的な?」

「いや、基本的にはお主らの世界の並行世界的な場所じゃ。もちろんその世界で異世界召喚に巻き込まれた、なんてこともあり得るじゃろう。実はお主の周りも割とファンタジーしておったのじゃぞ?」

「なるほど、逆に言えばなんの事件もない普通な世界の可能性もあるってことですか」

「うむ。その場合、今の記憶は邪魔にしかならぬじゃろうから、封印することも選べるぞい。大きな事件に巻き込まれた時、自動で封印が解けるような措置じゃな」

「じゃあそれでお願いします」

「あいわかった、それではほしい能力を言うが良い」

「ではまずは、ファイナルファンタジーシリーズの全技能、魔法、アイテムを無制限に使える能力を。次に、それを十全に扱えるように、すっぴんマスターの能力を。最後に、すっぴんマスターの制限解除を」

「制限解除、とな?」

「すっぴんマスターだけでは、一度に使える技能、アビリティが2種類までですからね。前線で戦いながら様々な魔法を駆使するためには制限解除は必須です」

「なるほどのう…アイテム無制限に関しては、持ち運びはどうするつもりじゃ?」

「え?FFシリーズのアイテムの仕様を見る限り、PTメンバーで共有可能なアイテムボックス的技能が標準装備なのは明白じゃないですか?おそらく射出などはできずに手元に出すだけでしょうけど」

「ふむ…お主の想像しているシーンを見る限り、その通りのようじゃな。あいわかった、それで付与しておくぞ」

「ありがとうございます。あ、そうだ、最後に一ついいですか?」

「なんじゃ?既に転送は開始しておるのでな、手短に頼むぞい」

「では端的に。ギャルのパンティーおくれーっ!!」

「いいぞい」

「は?」

「例のアイテムボックスに入れておいてやるからの。まぁお主も男じゃな」

「え、ちょ、ただのネタ…」

「では、さらばじゃ」

「アッー!!!」

 

 とまぁこんな会話があり、俺はこの世界に転生、勇者召喚という大事件に巻き込まれた時点で俺の記憶の封印が解けたってわけだ。まぁ流石に一気に流れ込んできたせいでかなり頭が痛かったけどな。

 …ん?どうじた香織、雫?え、ギャルのパンティー?ボックスに入ってたぞ。お前らの想像とは全く別のものだろうけどな。ほれ。幻惑属性追加ダメージ付きの投擲武器、ギャルのパンティーだ。

 いや、なにそれって言われてもなぁ…ギャルのパンティーはギャルのパンティーとしか言いようがないぞ。こっちの世界には存在しないネタだし。

 

 

「…ねぇ、バツ」

 

 俺の前世のことを一通り話したあと、ずっと何かを考えながら聞いていたハジメが俺に声をかけてきた。

 

「おう、ハジメ、どうした?」

「バツの話を聞いたときからずっと疑問に思っていたことがあるんだ」

「おう、何だ?」

「バツ…」

 

 一瞬ためらった後、ハジメは真剣な目でこちらを見つめながら、こう問いかけてきた。

 

「この世界は、物語の中の世界なのか?」

 

 俺とハジメ以外の全員が、息を呑んだ。




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第三話 原作暴露と過去の話~メタ風な何かを添えて~

遅刻しました

今回、ちょっとメタっぽい表現が点在しています、が、別にバツ君は第4の壁を超えてるわけではありません
前世と今世、2つを俯瞰した結果、その可能性もあるかなと思ってるだけです


~蔵兎咲跋~

 

 

「この世界は、物語の中の世界なのか?」

 

 ハジメのこの質問は、まぁ予想していた質問でもある。故に答えも用意してある。

 

「その質問に関しては、まぁ是、とも言えるし否、とも言えるな」

「どういう事?」

「そうだな、俺が元々生きていた世界に、お前たちを題材にした物語があったことは事実だ。そういう意味ではその質問は是、と言える。

 だけど、今現在俺達がその物語通りに動いてるか?といえば、まぁ大筋は変わってないが、細かいところでは大なり小なり変わってる。そういう意味では断じて否、だな。

 とはいえ、実はこの流れはとある二次創作の一つの流れと一緒、と言われたらどうしようもないが。俺らに知覚できることでもないし、そこは考えるだけ無駄だろうよ」

「細かいところが変わってる?」

「おう。物語の大筋である、異世界召喚、戦争参加、王城での謁見、晩餐。そして今日のステータスプレート配布でのいざこざ。ここまではほぼ変わりない。

 だけど、俺が介入したことで、戦争の前線への強制全員参加から、希望者は後方支援組へ配属、ということに変わった。それによって、ステータスプレート確認時のいざこざがあっさりと収束したわけだな。

 本来だったら、ハジメがもっとボロックソにいじられてたからな、あのシーン」

 

 俺のセリフに心当たりでもあるのか、苦笑いで返すハジメ。あとの4人もそれぞれ苦笑いをしたり憤った顔をしたり、ハジメの肩に手をおいて生暖かい笑みを浮かべたり。

 

「まぁ、最大の違いは『俺』の存在だろうけどな。俺の知ってる物語、『ありふれた職業で世界最強』ってタイトルなんだが…」

「ありふれた職業?それって…」

 

 俺の言葉に反応してハジメの方をチラ見する雫。つられて他の3人もハジメの方を見る。

 

「ああ、本来の物語はハジメが主人公の物語だ」

「ということは…私がヒロインなのかな?」

「んにゃ、香織は残念系サブヒロインだ」

「残っ…!?」

「まぁそれは置いといて「置いておかないでほしいかな!?」じゃあ放り投げて二度と回収しない。それはともかくだ。

 その物語、まぁあえて『原作』と呼ぼうか。その原作には、蔵兎咲跋なんてキャラクターは存在しない」

「跋がいない?」

「ああ。つまり俺は、二次創作における『オリジナル主人公』、オリ主っぽい立ち位置ってことになるな。

 ちなみに現状では俺以外にそれっぽいやつは確認してない。まぁ原作のこと全部覚えてるかって言えばだいぶ怪しいけどな。

 んで、そのおかげというかそのせいというか、この先確実に原作崩壊する箇所がいくつかある」

「「「「「原作崩壊?」」」」」」

 

 全員の声がハモる。仲いいなお前ら。喋り続けてのどが渇いたので水を一口。仮にこれが二次創作とかだったら、説明回で会話ばかり、ってやつだな。だが現実なんてこんなもんだ。

 

「ああ、原作崩壊だ。時にトシ」

「お、おう、いきなりどうした?」

「お前、勇者になれなかったみたいだけど、ぶっちゃけた話、それについてどう思ったよ?」

「はぁ?いきなりなんなんだ?まぁいいけど…正直ホッとしてるさ。勇者とか旗印にされて面倒くさいことこの上ないからな。まぁだからといって天職が闇術師ってのは納得行かないけど。オレはそんな陰キャってわけじゃないぞ?」

「天職に関してはボクも不満かなぁ…なんだよ死霊術師って。ネクロマンサーとかボクのキャラじゃないよ」

「そうか、で、その天職が不満な恵理」

「今度はボク?」

「おう、お前さん、天之河についてどう思うよ?」

「偽善者にすらなりきれないご都合主義の最低野郎」

「お、おう、辛辣だな…まぁ、これで間違いなく原作崩壊が起こることは確定したな」

「「え?」」

 

 どういうことだ?という顔で見てくる二人…いやハジメたちも説明してほしそうな顔でこっちを見てるな。

 

「まぁ、これはハジメたちが知らない俺達の馴れ初めから説明するかね。あれはまだ俺らが小学校に入る前のことだったっけ」

 

 

 俺の家とトシの家は、実は隣同士でな。いわゆる幼馴染の腐れ縁ってやつだったんだが。

 昔からトシは、どちらかと言えばインドア派でな。ちょくちょく俺が引っ張って外に遊びに連れて行ってたんだ。おかげでトシの家族からは感謝されてたな。昔は。

 で、ある日のことだ。女の子が車道に飛び出して、そこに車が突っ込んでくるってことがあってな。トシがそれに気がついて、女の子を助けようと飛び出していったんだ。

 数瞬遅れて俺も気づいたんだが、向かい側からも女の子を助けようとしてたのか、おじさんが走ってくるのが見えてな。俺もダッシュしながら叫んだんだ。

 

「おじさん、そこでストップ!受け止めて!」

 

 で、恐怖で固まってる女の子と、その手を引いて逃げようとしていたトシ諸共、体当たりでふっとばして、そのままの勢いで俺も車を避けて九死に一生だ。

 幼稚園だった俺が、同い年とは言え二人を吹っ飛ばせたのは、当時は火事場の馬鹿力って事で納得してたが、今思えば転生特典のおかげだったんだろうな。

 まぁそれはともかく、その女の子とおじさんが、恵理と恵理の親父さんだったわけだ。俺とトシは、そりゃあもう感謝されてな。お礼だの何だので恵理の家に招待されて、結構ご近所だったこともあり、そのまま友達付き合いだ。まぁ、緊急事態だったとはいえ、女の子に思いっきりタックルぶちかました俺は、帰ってから親父にげんこつ一発もらったけどな。一応その後褒めてもくれたが。

 ちなみに恵理は、実際に命を助けたとは言え、全力でタックルかました俺より、真っ先に動いて手を引いて逃げようとしてくれたトシに好感を抱いて、そのまま成長とともに好意、愛情と育って、中学の頃に告白、めでたく付き合うことになったわけだ。

 

 まぁこれが俺とトシ、恵理の馴れ初め、というか付き合いはじめのエピソードだな。

 ちなみにトシの方も、俺に引っ張られて外に出ることは多いとはいえ、元がインドア派だ。割と早い段階でオタクに染まり始めてたんだが、実はトシの家って、割とそのへん厳しいというか、オタクに偏見持つ家庭でさ。結構肩身が狭かった時期があったらしいんだよ。

 んで、ある日俺が言ってみたのよ。消費ばかりじゃなくて、たまには供給側に回ってみたらどうだ?ってな。まぁ、気分転換になるかも以上のことは考えてなかったんだが。

 で、気分転換に好きな作品の二次創作を書いているうちに物足りなくなったのか、オリジナルの小説を書くようになってな。それを小説投稿サイトに投稿したら、割とヒット。書籍化の話が来たりして、中学生にして印税で自力で稼げるようになったわけだ。

 流石にトシの家族も、自力で金稼いでる息子の趣味をとやかく言えなくなってな。もう最近じゃ完全に黙認だよ。割と真面目に尊敬するぞ、俺は。

 

 とまぁ、恵理とトシの話はここまでなんだが、それが原作崩壊と何の関係があるんだ、って顔してるな?

 ところがどっこい、超関係があるんだな、これが。

 『原作』では俺がいない。つまりトシを引っ張り出す存在がいない。するとどうなる?

 恵理の交通事故未遂、このときに恵理を助けようとして恵理の親父さんが死亡。いいところの箱入りお嬢様だったが、駆け落ちするほどに夫を愛していた恵理のお袋さんは、現実を認めたくなかったのか、恵理を攻撃するようになり、やがてクズ男に引っかかり再婚。

 そのクズ男が成長した恵理を性的な目で見るようになり、ある日、強姦未遂事件が起こる。そして恵理のお袋さんは、それを恵理が誘惑したからだと決めつけて、さらに激しく恵理を虐待。

 とうとう恵理は耐えきれなくなり、橋の上から身を投げて入水自殺を図る。そこに現れるのが我らが勇者(笑)様、天之河だ。

 恵理の話を聞いた天之河は、君のことは俺が守る、とイケメンスマイルを炸裂、警察や児童相談所に話を持っていき、表面上だけ解決させる。

 その後、イケメンスマイルに惹かれた恵理、児相に連れて行かれたら転校しないといけなくなる、と思い、表面上だけ母親と仲良しを演じるんだが、それに怯えた母親が虐待行為をしなくなったことによって、本当に天之河が守ってくれた、と思い込み、無事ヤンデレ化。

 八方美人な天之河に自分のことだけを見てもらうにはどうすればいいかと考え、周りが皆いなくなればいいと結論を出す。どうも日本にいた頃から計画自体はしていたらしいが、トータスに召喚されたことによって箍が外れ、周りの人間を殺し、死霊術で操って手駒を作り、魔人族側に寝返って天之河を攫い、最悪の裏切り者として殺される。そんな立ち位置だったんだが…ぶっちゃけ現状、恵理が魔人族側に付く理由皆無だよな?…おう、そんな力いっぱい肯定しなくてもわかってるから。

 

 で、トシなんだが…まぁお前も俺がいなかった場合、超不健康オタクとして根暗な性格になり、中学でイジメられることになるんだよな。お前は俺が適度に連れ出してたからそこまで不健康な根暗じゃなくなってるけど。

 で、中学でイジメられたせいで高校ではオタク趣味を隠して日陰者として生活、俺のアドバイスがなかったから供給側に回ることもなく、承認欲求が満たされずにくすぶる毎日。

 そこに来て、勇者召喚だ。オタクとして読んできた異世界者の知識もあるし、自分が活躍する時が来たんだ、と、期待をする。が、実際はやっぱり勇者は天之河で。自分は闇術師とかいう、主人公とは思えない職業。

 詳細は後で話すが、とある事件があり、戦うのが怖くなった原作トシは、作農師として村や町を回る愛ちゃん先生の護衛につくことにする。

 そこで魔人族に、愛ちゃん先生を殺せば、魔人族側に勇者待遇で迎え入れると持ちかけられ、ようやく自分のことを評価してくれる人に会えたと思ったトシは、それを承認。護衛隊から抜けて、闇術でモンスターを洗脳し、軍団を作って愛ちゃん先生がいる街に攻め込むんだ。

 だがしかし、そこに我らが主人公様が現れて軍団を一蹴、トシは捕らえられて愛ちゃん先生の前へ。そこで愛ちゃん先生の説得を受けるも、魔人族側に承認欲求を満たされ、勇者にしてもらえると信じているトシは、愛ちゃん先生を人質にして逃走を図る。…え?ああ、そうだな。原作主人公、つまりハジメだな。その辺は後で詳しく話すよ、さっき言った事件の話にもつながるし。

 それでだ、魔人族としてはトシは手駒の一つでしかなかったわけで。愛ちゃん先生ごと撃ち抜くように魔法を撃たれ、胸に大穴が空き。最後の最後に愛ちゃん先生の慈悲で助かる道を示されるも、劣等感が拭いきれずに改心しきれず。そのまま殺されるっていう役回りだ…が。

 トシ、天之河に対して劣等感とか持ってないよな?…だよなぁ。一応自分で金稼いでるわけだし、親の庇護のもとで自己中心的な正義振り回してるだけのガキに劣等感抱く理由ないよなぁ。

 

 

 

「というわけで、だ。最低でもトシと恵理の死亡フラグは根本からへし折れてるわけだ。まぁ、これは物語じゃないんだし、別の要因であっさりおっ死ぬ可能性もゼロではないけどな。

 ついでに言えば、雫の虐めも未解決で放り出されるし、香織とハジメが今の段階で付き合ってるという事実もない。というか、さっきも言ったが、メインヒロインは別の子だしな。

 というわけで、今行ったとおり、『原作』の物語とは既に大幅にかけ離れている以上、この世界は物語の世界じゃない、そう断言してやろう」

 

 そう言って、水を一口。流石に長々話して喉がカラカラだわ。

 …ハジメ、まだ納得してない顔してるな。

 

「ハジメはまだ納得してないみたいだし、ついでに俺の前世の話をちょっとだけしてやろう」

「…へ?バツの前世に何の関係が?」

「前世の俺の家の近所に翠屋って喫茶店があった。そこの経営者は高町って家族で、末の娘の名前がなのは、だったな」

「!?」

「あと、俺が高校二年の頃に、飛び級で高校入学してきた小学生がいたな。確か名前は、美浜ちよ、だったっけか」

「ちょ、それって!?」

「おう、俺自身は普通の公立小に通ってたし、前者がとらハかリリなのかは知らんが、後者は確実にあずまんが、だろうな。もちろん前世世界にその2つ、ないしは3つの作品はなかった」

「……」

「まぁ、つまりそういうことなんだろうよ。

 とある世界での現実は、別の世界の物語であり、逆もまた然り。

 つまり、この世界では、これが現実であり、物語なんかじゃない、ってこった。

 だからこそ、俺は最善をつくすために、ここにいるメンバーに転生のことを話した。転生を隠し、原作知識をこっそり使って、失敗して大惨事、とかになったら俺は後悔してもしきれないからな」

 

 そこまで話して、俺は改めて皆に頭を下げる。

 

「そういうわけだ。故にお前らに頼みたい。俺と一緒に、原作をぶっ壊す手伝いをしてくれ」




いやぁ、説明会だから会話ばかりだ


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第四話 スキル確認、そしてイジメ…?~すまん、お前らじゃ俺は倒せんよ~

もう時間指定投稿はやめよう。


あ、誤字報告ありがとうございます。


~蔵兎咲跋~

 

 俺が転生者であることをカミングアウトした日から、二週間の時が過ぎた。

 あの後、協力してくれると約束してくれた皆に、これからの物語の流れや起こることへの対策などを話し、更にちょっとした道具をいくつか渡してある。

 その後は、各自訓練に勤しんだり、図書館で調べ物をしたりと、各自生き残るための活動を始めている。

 香織や雫は勇者パーティーとして訓練の日々、トシと恵理も一応戦闘班として魔法の訓練、俺とハジメは後方支援組として、最低限の自衛の訓練の後は、ハジメの錬成の訓練、図書室で図鑑を読み漁っての知識の収集等。

 その後、俺だけは夜中にすっぴんマスタースキルや最終幻想スキルに内包されてるものの確認をしたりしていた。

 その結果わかったことは、俺のステータスはFF準拠であり、オール99のステータスはこっちの世界の99とは全く違う、相当高いステータスだということが判明した。これは、レベルが上がり敏捷が100を超えた雫と短距離走をしてわかったことだ。端的に言えば、雫をぶっちぎってゴールした。

 後は、俺はこの世界の魔法の適性は皆無だということが判明した。これはハジメもだが、おかげで魔法を使うときは巨大な魔法陣が必要になるので、魔法系は現実的ではない、という結論に達した、のだが…FFの魔法なら普通に使えることもわかっている。

 何をどう解釈したのか、最終幻想の中にパーティーシステムとジョブチェンジシステムが内包されていたので、五人をパーティーとして認識、ジョブチェンジで転職させたら、何故か俺が所持してる魔法や技能を使うことができたのだ。ついでにステータス表示もFF準拠の一桁台に下がっていて、皆かなり凹んでいたようだが。もちろん、魔法使っても威力はお察しだった。

 なお、すっぴんに戻せばトータス準拠のステータスに戻るらしく、このことが他にバレることはなかった。

 ついでに、アイテムボックス機能もパーティー共有化ができた上に、FF由来アイテムは、いくら使っても消耗しないことも判明した。ラストエリクサー使いたい放題とか、神水いらないんじゃないかな?

 というわけで、なんとハジメが錬成で銃を作り出す意味がなくなってしまった。だって散弾銃とか普通に入ってるし。まぁ一応カモフラージュのために作れるように努力はしてもらっているけどな。FFの銃器ってなぜか筋力(攻撃力互換か?)依存で威力上がるからハジメが撃ってもカスダメしか出ないし。

 とまぁ、他にも色々内包してそうな最終幻想スキルであるが、主だった機能はこんなものである。すっぴんマスターに関しては、すっぴんマスターだったとしか言いようがなかったな。全武器種を十全に使えたり、全魔法等を十全に使えたり。

 

 それはともかく、二週間である。おそらくそろそろあのイベントが起こるはずだ。そう、小悪党組によるハジメリンチである。

 一応皆にも、そういう事が起こるかもしれないことは伝えてある。警戒していて損はないだろうからな。

 そんな事を考えつつ、訓練所に向かっていると、背中に何かが当たる感覚があった。疑問符を浮かべながら振り向くと、小悪党組がいた。ああ、こっちにちょっかい出す流れか。そう言えば香織と仲がいいのは俺ってことになってたな。

 

「よぉ、蔵兎咲。なにしてんの?お前が訓練に出ても意味ないだろが。マジ無職なんだしよぉ~」

「ちょっ、檜山言い過ぎ!いくら本当だからってさぁ、ギャハハハ!」

「なんで毎回訓練に出てくるわけ?俺なら恥ずかしくて無理だわ!ヒヒヒ!」

「なぁ、大介。コイツさぁ、なんかもう哀れだから、俺らで稽古つけてやんね?」

 

 なんでってそんなの、メルド団長から「自衛手段ぐらい身につけとけ」と出てくるように言われてるからだ。それがなけりゃこんな無意味な訓練、出る価値はないぞ。

 そんなことを思いながら、俺は奴らに聞こえないくらいの小声で、幾つかの単語をつぶやいた。

 

「あぁ?おいおい信治、お前マジ優しすぎじゃね?まぁ、俺も優しいし?稽古つけてやってもいいけどさ~」

「おお、いいじゃん。俺ら超優しいじゃん。無職のために時間使ってやるとかさ~。蔵兎咲~感謝しろよ~?」

 

 そんなことを言いながら馴れ馴れしく肩を組み人目につかない方へ連行していく檜山たち。肩組んでんじゃねぇ気持ちわりぃ。

 その様子に気づいたクラスメイトが何人かいたようだが、檜山たちが怖いのか、見て見ぬ振りをするようだ。まぁ原作ハジメほどじゃないが俺もわりとヘイト稼いでたからな、しゃーないな。

 

「いや、さすがにヤンホモストーカーに人目につかないところに連れ込まれるのは身の危険感じるんで遠慮したいんだが」

 

 肩に組まれた手を外しながら、そう言ってみる。ちなみにいままでも割とヤンホモストーカーネタをぶっこんだりしてるので、未だに噂は風化していない。

 

「はぁ!?だから俺はそんなんじゃねぇって言ってるだろうが!てめぇいい加減にしとけよコラァ!」

 

 そう言いながら、脇腹を殴ってくる檜山。コイツ暴力にためらいがなくなってきてやがるな。

 しかし、必中の距離で放たれた拳は、何故か俺に当たることなく空を切った。

 

「どうした?俺を殴るんじゃなかったのか?この距離で、しかもパンチを外すとか、むしろお前が稽古つけてもらうべきじゃないか?」

 

 そう煽れば、小悪党組4人が俺を囲むように散会した。

 

「あまり調子乗ってんじゃねぇぞ!」

 

 そう叫びながら、近藤が背後から剣の鞘で殴りかかる。しかし、俺は冷静に振り向き、両手で鞘を掴み取る。

 

「てめぇ、ざけんなよ!ここに焼撃を望む――――火球!」

「その状態じゃ避けることもできねぇだろ!ここに風撃を望む――――風球!」

 

 中野と斎藤が魔法を放つ、が、それも既に対策済みだ。

 

「な!?」

「反射された!?」

 

 俺の方に迫ってきた魔法二つは、俺に触れる直前で反射され、術者へと返っていく。弾速自体はそこまで速くない魔法のため、ギリギリでかわすことができたようだ。

 

「てめぇ、何したか知らねぇけどあまり調子に乗ってんじゃねぇぞ!おい、魔法は使うな!直接ぶん殴ってやれ!」

 

 そう言いながら殴ってくる檜山。他三人も直接殴りかかってきた。が、俺はそれをかわし、受け止め、一切ダメージを受けずにやり過ごしていく。

 そうやってしばらく檜山たちで遊んでいたが、流石に飽きてきた。そろそろ反撃するとしようか。

 

「なぁ、稽古ってことは、俺が反撃してもいいんだよな?」

「あぁ!?避けることしかできねぇお前が反撃だぁ!?おもしれぇ、やってみやがれ!」

「オーケー、言質は取った」

 

 そう言って俺は、一つの力を行使する。

 

「『ぜんぎり』」

 

 その瞬間、俺の拳から不可視の衝撃波が発生し、小悪党組をふっとばした。その瞬間…

 

「何をやっているんだ!」

 

 その声に、顔をしかめる俺。なぜなら…

 

「蔵兎咲!お前、なぜ檜山たちに暴力をふるったんだ!俺達は仲間だろう!仲間にそんなことをするやつは最低だ!しかも檜山たちはこの世界の人達のために努力しているんだ!それを後方に逃げたお前がこんなひどいことを…」

 

 ご都合主義の塊、こと天之河であった。ほんとコイツは一体何考えて生きてるんだろうか…

 

「おい馬鹿之河」

「な、誰が馬鹿だ!」

「失礼、噛みました」

「違う、わざとだ!」

「かみまみた。まぁそんなこたぁどうでもいいんだよ。まずこれを見ろ。それからもう一回さっきのセリフを言ってみろ」

 

 俺はポケットに仕込んでいたスマホを天之河に渡す。充電?充電器ごとポケットに突っ込んでたから問題はないな。流石にそろそろどちらも使えなくなりそうだが。

 ちなみにレンズが出るように仕込んで、動画を撮ってある。仕込んだのは最初に背中をド突かれた時だ。オタクのスマホ操作の速度をなめんなよ?

 

「これは…」

「まぁ、そういうことだ」

「檜山たちはお前に訓練をつけてくれようとしてただけじゃないか!だというのにお前はそんな四人の好意を無にして一方的にふっとばした!」

「は?」

「なぜこんなひどいことをしたんだ!納得の行く説明をするんだ!!」

「 」

 

 唖然とするとはこのことだろうな…ちなみにちゃんと最後(天之河の乱入)まで動画を再生しての発言である。こいつらの言動は明らかに訓練をつける人間のものではないし、1対4で対峙し、魔法まで放っている。しかもその後、4人がかりで俺へと攻撃し続けている上に、訓練という建前上で反撃した俺の言動まで映っているのだ。

 どう考えても、俺の反撃は訓練上でのことだと言い切れるだろう。

 

「まぁ、とりあえず、訓練だっていうから反撃しただけだが、それの何が問題なんだ?と返しておこうか」

「訓練!?ふざけるな!!檜山たちが完全に気を失っているじゃないか!やりすぎだ!」

「四人がかりで殴りかかってくるのはやりすぎじゃないのか?魔法なんて怪我じゃ済まない可能性もあるぞ?」

「訓練なんだからそのくらい普通だろう!厳しくない訓練なんて意味がない!」

 

 だれかたすけてぇー、こいつかいわがつうじないよー。

 俺が内心頭を抱えていると、救世主がやってきた。

 

「バツくん!」

「バツ!」

「バツ、光輝」

 

 香織と雫、それにメルド団長がこちらへやってきた。メルド団長は厳しい表情だ。

 

「香織、雫!それにメルド団長も!」

「光輝、何があったかは知らんが、この件は俺が預かる」

「メルド団長、でも!」

「気にするな、俺はお前らの保護者であり教育係だ。揉め事の仲裁も俺の義務の一つだ。

 バツと大介たちの件は俺が預かる。お前は訓練に戻れ、いいな?」

「…わかりました」

 

 そう言って、こちらを睨みながらもおとなしく訓練に戻る天之河…間違えた、馬鹿之河。

 メルド団長は厳しい顔をしながら俺に話しかけてきた。

 

「この二人に言われて、しばらく前からそこの影でお前らの会話を聞いていたが…俺にもその、どうが?とやらを見せてもらっても構わないか?」

 

 断る理由もないのでメルド団長にもその動画を見せる。こいつは今日明日で電池切れだろうなぁ…

 

「…これを見た上での、あいつのあの言動か…」

「天之河は昔から、自分の正義が絶対だと信じています。なので、現実を自分の正義に沿うように捻じ曲げて解釈する悪癖があります」

「それも、こっちに来てから悪化している節がありますね」

 

 俺と雫のセリフに唸るメルド団長。香織も苦笑いを浮かべてるだけで、否定はしない。

 

「わかった、この件は…」

「俺に実害はないので穏便に処理してもらっていいですよ」

「そうか。しかしお前、よく無傷で避けきれたな?」

「まぁ、後方組ってことで回避重点に訓練してますからね」

 

 嘘である。

 この超回避のタネは、これも最終幻想スキルにある。FFシリーズでは、装備が外見に影響を及ぼすシリーズは少ない。故に、鎧を着ようが盾を持とうが普段の服装のままに見えるのだ。

 そこで、背中をド突かれた段階で、マインゴーシュ、源氏の盾、エルフのマントを装備していたのだ。更にアビリティにて白刃取りを起動、これで物理攻撃を9割弱回避することが可能になる。

 ちなみに残り一割の命中した攻撃に関しては、あいつらが防御を抜けずに、ダメージはゼロだっただけである。少しくらいは怪我する覚悟はしてたんだがな。

 なお、魔法に関してはこっそりリフレクを唱えていただけである。ほら、小声でブツブツ言ってたあれだ。

 

「…まぁ、そういうことにしておこう。とりあえず訓練に戻るぞ。すまんがその四人を起こしてくれんか?」

 

 バレテーラ。まぁ当たり前だよな。

 メルド団長に頼まれた香織は、嫌そうに四人に回復魔法をかけていく。やがて、目を覚ました四人は、逃げるように訓練に戻っていき、俺も後方組用の訓練をこなして、その日の訓練は終了した。

 

 訓練終了後、メルド団長が皆を引き止めて、野太い声で告げた。

 

「明日から、実地訓練の一環として『オルクス大迷宮』へ遠征に行く」




天之河くん、ちょっと頭が春すぎるか?
でも自分の中ではこんなイメージだしなぁ…

FFシリーズ簡単解説

・マインゴーシュ(FFⅤ)
25%の確率で相手の物理攻撃を受け止める短剣

・源氏の盾(FFⅤ)
50%の確率で物理攻撃を回避する盾

・エルフのマント(FFⅤ)
33%の確率で相手の物理攻撃を回避できるようになるアクセサリ

・白刃取り(FFⅤ)
25%の確率で物理攻撃を回避するアビリティ

これらを同時に装備した時、物理回避率は実に87.3%という数値を叩き出す。
他シリーズだともっと物理回避高くなる組み合わせあるかもしれませんが、まともに覚えてるのがFFⅤだけだったのでこれを採用

・リフレク
呪文を反射するバリアを張る呪文。一部除いた回復呪文なども反射するようになってしまうので、運用時は気をつけましょう


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第五話 オルクス大迷宮~月下の語らい?あれは作戦会議だろ~

はい、大幅カットのホルアド~大迷宮です。崩壊させたいのになかなか崩壊しない…まぁここまではほぼ予定調和ですから

感想、評価ありがとうございます。嬉しいものですねやっぱり


~蔵兎咲跋~

 

 さてさてなんだかんだとありまして、現在ホルアドの宿である。そう、原作における月下の語らい、それが起きるタイミングだ。

 俺の目の前で、ハジメがウトウトと微睡んでいる。よくある二次創作のように、俺とハジメは相部屋である。まぁ、そうなるな、とだけ言っておこう。と、どうでもいいことをつらつら考えていると、ノックの音が響いた。

 

「ハジメくん、起きてる?私だけど、ちょっといいかな?」

 

 香織の声だ。ハジメは慌てて扉を開けに行く。そこにいたのは予想通り、ネグリジェカーディガンの香織の姿。ほんとこういうところ無防備だなこいつ…。

 

「なんでやねん…」

「えっ?」

「いいから、入って!誰かに見られたらどうするの?」

 

 原作と違い、ハジメと香織は既に彼氏彼女の関係だ。まだ一応一線は越えてないようだが、それもいつまで持つやら…。

 

「とりあえず座って。それで?何か用事?」

「うん、ちょっと…明日の迷宮のことなんだけど…」

「うん?」

「ハジメくんには、街で待っていてほしいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得するから、だからお願い!」

 

 鬼気迫る、とも言えるような表情でハジメに懇願する香織。

 

「えーっと、それはどうして?そりゃたしかに僕は足手まといかもしれないけど…」

「違うの、足手まといとかそういう話じゃなくて…」

 

 香織は自らを落ち着けるために深呼吸を一つ。静かに語りだした。

 

「なんだか、すごい嫌な予感がするの…さっきちょっとだけ寝たんだけど、そのときに夢を見たの…ハジメくんが、声をかけても気づいてくれなくて、追いかけても追いつけなくて…最後は…」

「最後は?」

「…消えて、しまうの…」

 

 あたりが静寂に包まれる。

 しばらくうつむいていた香織が、ハッとしたように顔を上げた。

 

「そういえば、バツくんは?」

「え?そういえば、()()()()()()()()()()()()()()()()な。()()()()()()()()()()はずなんだけど」

 

 そう言って、二人首を傾げ合う。その時、新たに部屋をノックする音が響いた。

 

「ごめんなさい、八重樫だけど、バツはいる?」

「おーいバツ、ちょっと早いけど来てやったぞ」

「バツ君、いる―?」

 

 雫とトシと恵理の声だ。ハジメが三人を迎え入れた。

 

「いらっしゃい、バツは…どこ行ったんだろう?僕が部屋に戻ったときにはいなかったんだよね」

「そうなの?私達、このくらいの時間に貴方達の部屋に来るように言われてたんだけれども」

「え、雫ちゃん、私聞いてないよ?」

「なんか、香織は言わなくても多分来てる、とも言ってたわね…恐らく、『原作』関連の知識じゃないかしら?」

「その通りだ」

 

 そう言って、俺はおもむろに『あらわれる』。部屋の隅、ハジメが転がっていたベッドの枕元付近だ。

 

「バツ!?どこにいたの?」

「ずっとここにいたぞ?ハジメが間抜け面でウトウトしてる時も」

「間抜け面って、ひどいなぁ…じゃなくて、どうやって!」

 

 ハジメがこちらに詰め寄ってくる。近い近い近い。俺にそっちのケはない、離れろ。

 全員を落ち着かせて、簡単にアビリティ『かくれる』の説明をする。

 

「なるほど、それが姿隠しの効果に昇華されたのか…」

「悔しいわね、全く気配が読めなかったわ」

 

 納得の声を上げるトシと、俺の気配がわからなかったことに悔しがる雫。そこに香織が疑問を挟む。

 

「でも、どうしてわざわざそんなことまでして隠れてたのかな?」

「そうだねぇ、なにか面白いことでもあったのかなぁ?」

 

 香織の疑問に恵理が続く。面白いことか、あのままだったらあったかもしれないんだがなぁ。

 

「そうだな、ハジメが香織に「守ってくれ」と伝える名シーンが展開されたかもしれなかったな。お前らがちょっと早く来たせいで見損ねたけど」

「なっ!?」

 

 ハジメがうろたえる。それはどっちだ?そんな事する気はなかったってことなのか、それとも図星だったのか?

 

「本来ならここで、不吉な夢をみて不安がる香織に、だったらその力で僕を守ってほしい、といって香織を勇気づけようとするハジメ、そしてそれを聞いて、初めてあったときから変わらないねと、土下座事件が初邂逅であって、その頃からハジメに好意を持っていたと語る香織というイベントが起きるはずだったんだが…」

「ちょ、何その恥ずかしいイベント!?」

「え、でもその辺の話ってすでにしてるよね?」

 

 俺の話に顔を真赤にするハジメ。野郎の赤面とか嬉しくねぇな。

 そして、すでに過去にその辺の話は伝えてあることを指摘する香織。そうなんだよなぁ。

 

「まぁ、この辺も既にブレイクしていた原作、ってことになるんだろうな。まぁそんなイベントはどうでもいい。いま大事なのは明日の迷宮探索の話だ」

「どうでもいいって…でも、その意見には賛成だね。主に僕の精神衛生のために」

 

 そして、俺達六人は、遅くまで明日の迷宮探索のことを話し合った。

 

 

 

 明けて翌日、俺達は大迷宮の中にいる。場所は二十階。そう、転移トラップの階層だ。ここまでの展開はほぼ変わらなかった…ということもないか。ラットマンがオーバーキルされたのは変わらなかったが、ハジメが錬成で作った(という建前で貸し出した)オートボウガンで活躍したり、それに対して殺気を込めた視線で睨む檜山がいたりと、幾つか変わっていることもあった。檜山はあれか、解散のときに香織がハジメにおやすみのキスしてたのを見て、からくりがバレたか…まぁ俺も雫にキスされて一瞬思考が止まって、檜山のこと忘れてたから仕方がないか。もちろん情報は共有済みだ。

 

「擬態してるぞ、よーく周りを注意しておけ!」

 

 メルド団長の声に我に返った。そうか、ここまで来たか。さぁて、原作ブレイクは成功するかな…?

 直後、壁と同化していたゴリラの魔物が、その擬態を解き、二本の足で立ち上がってドラミングを始めた。

 

「ロックマウント!擬態能力を持つゴリラ型の魔物!腕力がかなり強いためそこに注意!」

 

 その姿を認めた瞬間、俺が叫ぶ。無職ということで魔物図鑑的な仕事をしているのだ。

 

「その通りだ!重ねていうが二本の腕に注意するんだ!豪腕だぞ!!」

 

 メルド団長の注意と同時に、ロックマウントが飛びかかってくるが、それを坂上が拳で弾き返す。おいおい、素手であれを弾き返すって本当に人間か?俺もできるけど。その隙に天之河と雫が取り囲もうとしているが、足場が悪くうまく囲めないようだ。と思っていると、ロックマウントがバックステップで距離をとり、息を吸い込んだ。あれは…

 

「バインドボイスだ!食らえば動きを止められるぞ!気合い入れろ!」

「グゥガガガァァァァァァァァァ―――――――っ!!!!!」

 

 俺の警告の直後、部屋全体を振動させるような強烈な咆哮が発せられる。これが威圧の咆哮か…うるせぇだけだな、うん。

 

「ぐっ!」

「うわっ!?」

「…っ!」

 

 天之河と坂上は普通に食らったようだが、反射的に耳をふさぎ体に力を入れて麻痺をすることを回避した雫は、即座にロックマウントの方へと駆け出す、が、ロックマウントはこっちに突っ込んでは来ずにサイドステップをして、傍らにあった岩を持ち上げた。流石に岩を投げられるのは勘弁なのか、昨日の話を思い出したのか、雫の動きが一瞬鈍る。まぁ気持ちはわかる。

 

「ハジメ!」

「オーケー!」

 

 俺はハジメに声をかけ、ハジメはオートボウガンを構える。さてどうなるか…ロックマウントは持ち上げた岩を、こちらへと投げつけてきた。おお、見事な砲丸投げフォーム!

 その岩を迎撃しようと杖を構える後衛組…しかし、既に構えていたハジメの方が一瞬早い。オートボウガンの引き金を引き、飛んでくる岩…お、擬態解いた。ルパンダイブで飛び込んでくるロックマウントにボルトを叩き込む。衝撃で体勢が崩れたため、顔を直視しなかったらしく、後衛組はそのまま無事に魔法を発動。哀れロックマウントは爆発四散、死んだのだ。

 

「貴様、よくも香織たちを…許さない!」

 

 …わー、天之河くん、実は死の恐怖感じさせたとかそういうのじゃなくて、後衛の香織達に攻撃したことそのものをキレてたのかー。特に怯えてるわけでもなく、青ざめてるわけでもない顔をキョトンとさせ、キレてる天之河を見つめる後衛女子組。そういえばここまで後衛に攻撃が通ったのってこの一回だけだったなぁ…ということは最悪道中どっかで天翔閃ぶっぱの可能性もあったのかー。ってちょっとまてぃ!原作と違って雫が突っ込んでるんだぞ!巻き添えにする気かこの馬鹿!?

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ―――天しょ「やめんか馬鹿野郎!!」はぐぅっ!?」

 

 俺は拾った石を思いっきり馬鹿之河の後頭部に投げつけた。ぶっ放した天翔閃は上にそれて、壁を破壊して止まった。天翔閃の発動を察した雫は一度下がり、壁の崩落に巻き込まれて気を失っているロックマウントにとどめを刺したところで腰が抜けたのか、その場でへたり込んだ。香織が慌てて駆け寄り、回復魔法をかけている。

 

「っ―――!何をするんだ蔵兎咲!」

「何をするじゃないこの馬鹿者が!」

「へぶぅ!?」

 

 追撃のメルド団長の拳である。残念でもないし当然だな。

 

「殴られて当然だこの馬鹿之河。てめぇこんなところでそんな大技使って崩落でもしたらどうするんだ、俺達を生き埋めにする気か?」

「だが!」

「しかもだ、状況をよく見ろ。バインドボイス、えーと、正式名称は威圧の咆哮だったか?あれを回避した雫が既に突っ込んでいたんだぞ?巻き添えにして殺す気かこの考えナシの視野狭窄野郎」

「なっ!?雫が!?」

「バツの言うとおりだ。ほら、今戻ってきている。貴様は仲間を殺す気なのか?」

「お、俺は…」

 

 本気で落ち込む馬鹿之河。流石に雫を巻き込みそうになったせいか、香織も慰める気はないようだ。

 と、その時、香織が何かに気づいた…が、特に声は発しない。しかしやはり女の子、キラキラした『それ』から目は離せないようだ。

 

「どうしたのカオリン?…うわー、何だろあれ、キラキラしてる~」

 

 鈴が目ざとくそれを見つける…そういえばこいつが出てくるのって初めてだったか?まぁいいや。

 

「ほぉー、あれはグランツ鉱石だな。大きさもなかなかだ、珍しい」

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 お、待てぃ!展開早いなおい!

 檜山がさっさとグランツ鉱石に向かって行く。間のやり取りどこ行った。ったく仕方ねぇな…

 

「こら、勝手なことするな!安全確認もまだなんだぞ!」

 

 メルド団長の声を聞こえないふりして崖を登っていく檜山。そこへ…

 

「やめろと言ってるだろうが馬鹿野郎」

 

 アイテムボックスからこっそり取り出したギャルのパンティーを『なげる』。

 

「ぎゃっ!?」

 

 檜山に直撃したギャルのパンティーはその姿を消し、直撃した檜山は思わず壁から手を離し、下へ落ちてくる。

 

「ひ、やめ、ちが、俺、ひ、ひひ、ねうねう、ねうねう、キョキョキョ…」

 

 あ、不安定…いや、狂気まで行ってるっぽいか?まぁ仕方がないね、発狂死しなかっただけ御の字ってことで…

 

「団長、トラップです!」

「っ、やはりか。よし、全員とりあえずこの部屋から…」

 

 その時だった。グランツ鉱石の周りが不自然にひび割れ、鉱石が落ちてきた。それを…

 

「…はっ!?俺は一体…うぉっと!?」

 

 正気に戻った檜山がキャッチしてしまう。その瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。マジかよなんだよこの無理やりな原作沿い!?世界か!?世界の修正なのか!?

 そして魔法陣が広がり、メルド団長の撤退を促す声も虚しく、俺達は転移されてしまう。ハジメの運命である、あそこへ…

 巨大な石造りの橋、その下に広がる奈落、召喚陣から現れる大量の骨の魔物、そして…現れる巨大な魔物。

 すぐさま階段への撤退を指示していたメルド団長の呻くような声が、やけに明瞭に響いた。

 

―――まさか…ベヒモス…なのか…




超絶無理矢理ベヒモスの前へ。ちなみに何らかの方法で天翔閃発動を完璧に防いでも、別の要因で壁が崩落、檜山のせいで転移、までの流れは『絶対に』変わることがありません。何故か?世界の修正力という名の作者の都合です

FFシリーズ簡単解説

・かくれる、あらわれる(FFⅤ)
吟遊詩人のアビリティ。FFⅣのギルバートなんかも使える。戦闘中に姿を隠して、一切の戦闘行動の対象にならなくなる。ただしこちらもぼうぎょかあらわれることしかできない。が、DFFOOのギルバートがかくれる中に戦えるせいか、意識すればそっち仕様に切り替えることもできる。ただの無敵チート完成である。ただしバツは気づいていないしこの先気づくことも一切ない

・なげる(FFⅤ)
武器や手裏剣、術などを投げて攻撃する忍者のアビリティ。他のシリーズでもちょくちょく見かける。この作品では火遁水遁雷神風魔手裏剣にすす、エクスカリパーにラグナロクまで何でもかんでも投げ放題である。でも一番良くなげるのは多分そこらで拾った石ころ

・ギャルのパンティー(Elona)

☆美しきギャルのパンティー『止まらせない子犬』(1d43)
・それはシルクで作られている
・それは武器として扱うことができる(1d43 貫通 5%)
・それは幻惑属性の追加ダメージを与える[*****+]
・それは耐久を維持するそれは見切りの腕を上げる[*]
・それは罠の解体を容易にする[*]
・それは中装備の技術を上昇させる[**]
・それは幻惑への体勢を授ける[*]

Elona(正式名称:Eternal League of Nefia)というフリーゲームに出てくる『投擲武器』。FFシリーズとは関係ない。このゲームの中では、井戸やトイレなどの水を飲むと、『願い』というイベントが発生することがある。願いと言えば、そう、ウーロンの伝説のあの願い。「ギャルのパンティおくれ―っ!!」これを願うと、なんと本当にギャルのパンティーが降ってくる、というネタのために作られたらしい。確定で幻惑属性の追加ダメージがついているため、下手な武器よりよっぽど強いけど。ぶっちゃけ檜山に投げて発狂させるためだけに出した一発ネタなのでこれ以降パンツが乱れ飛ぶことはないと思います。あ、檜山にはまた投げるかも?
ちなみに上にあるのは、さっき作者が実際にElonaで願って降ってきたギャルパンの性能です


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第六話 ベヒんもス退治、そして…~ここまでは予定調和~

キングベヒんもス!!


~南雲ハジメ~

 

 橋の両サイドに、赤黒い魔法陣が現れて、そこから魔物が出てきた。一方は、無数の魔法陣から出てくる数百体に及ぶかとも思われる大量のガイコツ剣士、確か名前は、トラウムソルジャー。空洞の眼窩に赤黒い光を灯し、その数は未だに増え続けている。

 そしてもう一方。十メートル級の魔法陣から現れた、体長十メートル級の四足獣。頭部に兜のようなものを取り付けたそれは、メルド団長の、そしてあのときのバツの言葉が正しいのなら、ベヒモス。その怪物は大きく息を吸い…

 

「グルァァァァァァアアアアアア!!!」

 

 凄まじい咆哮を上げた。それにより正気を取り戻したのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン!生徒たちを率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル!全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前たちは早く階段へ向かえ!」

「待ってくださいメルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう!俺達も…」

「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ!」

「団長さんの言うとおりよ!私達がいても足を引っ張るだけ!まずは退路の確保が先決でしょう!」

 

 メルド団長の言葉に続くように八重樫さんが天之河くんに撤退を促す。しかし彼は「見捨ててなど行けない!」とその場に踏みとどまった。

 

「~~~~~~~~~~♪」

 

 そこに一小節ほどの歌が響き渡る。バツの声だった。しかし、何も起こらない。

 

「チィッ、やっぱりスケルトン系じゃなくてボーンゴーレム系かよ!『レクイエム』が効きやしねぇ!てめぇら、いつまでも呆けてねぇでさっさと立って戦え!!」

 

 バツがそう叫びつつ、両手で剣を持ちトラウムソルジャーの群れへと突っ込んでいく。後ろでは、咆哮と同時に突進してきたベヒモスが、騎士三人の聖絶によって止められていた。その衝撃波で再度転倒していた生徒たちも、その叫びを聞き慌てて立ち上がり、がむしゃらに階段へと走っていく。

 

「『ぜんぎり』」

 

 バツがつぶやき、剣を振るった瞬間、数百体はいたはずのトラウムソルジャーたちが全部吹っ飛んだ。しかし、魔法陣からは依然湧き出し続けている。それでも、数瞬の間で生徒たちはだいぶ階段に近づいていた。

 そのままもう一度ぜんぎりを発動したバツは、後方からオートボウガンを撃ち続ける僕に近づき話しかけてきた。

 

「じゃ、ハジメ、予定通りに」

「正直怖いけど、了解したよ」

 

 そんなやり取りをかわしつつ、僕とバツは天之河君達がいるベヒモスの方へ駆けていった。

 ホルアドの宿でのやり取りを思い出しつつ。

 

 

 

「トラップ?」

「ああ、二十階層、今回の目標地点の部屋の一つにある転移トラップ、これで俺達はベヒモスという化け物とトラウムソルジャーというガイコツの群れに挟まれる大橋、そこに転移してしまう。ちなみにやらかすのは檜山のバカだ」

「一応まずは転移自体を防ぐような動きをするけどな。そこにいるロックマウントというゴリラの化け物が岩投げをしてきたら、実はそれもロックマウントなんだが、それを見た香織たちが気持ち悪さで顔を青ざめるんだ。で、それをみた我らが馬鹿之河くんが洞窟崩落させる気かバカってレベルの攻撃をぶっぱする」

「つまりまずはその岩石投げを阻止するのが先決ね」

「そしてもし投げられたら、僕がオートボウガンで迎撃」

「そう。それでもぶっぱしようとしたら、俺が止めるかそらすかする」

「そして、それでもトラップが露出したとしても、私はその転移トラップの鉱石を欲しがる素振りを見せないようにするんだね?」

「おう、檜山は香織に惚れてるからな。お前の気を引くために取りに行くから、ほしそうな素振りがなければ行かないとは思う。それでも取りに行こうとしたらやっぱり俺が止める」

「なぁ、オレと恵理の仕事は?」

「ここまでの間で転移阻止に成功したらないかな」

「えー、ボクつまんない」

「まぁまぁ、転移してしまった場合、後を頼むぜ?」

 

「さて、転移してしまった後だが、まずは俺が『レクイエム』を試す。これはアンデッド特効の『うた』でな、トラウムソルジャーがスケルトン系アンデッドだった場合、これだけで撤退成功が約束される。が、まぁ恐らく骨を使ったゴーレム、アンデッドじゃないと思うから、そのときは俺が『ぜんぎり』でぶっ飛ばす。で、ある程度階段に近づいたところで、『原作』通りに光輝を呼んできて皆の統率を取り戻してもらう。そうしないと階段についた時点で全員そのまま撤退しかねないからな。ちなみに一応ベヒモスはぶち転がす予定だ」

「僕はその時に一緒に行って、錬成での援護をすればいいんだね?」

「おう、下手したら死にかねない危険な仕事だが、頼めるか?」

「正直怖い、けど、まぁやってみるよ」

「ありがとな」

 

 

 

 そんな会話を思い出しつつ、ベヒモスのもとへ向かう僕とバツ。むこうから天之河くん達とメルド団長のやり取りが聞こえてくる。

 

「えぇいくそ、もう持たんぞ!光輝、早く撤退しろ!お前達も早く行け!」

「嫌です!メルドさん達を置いていくわけには行きません!絶対皆で生き残るんです!」

「くっ、こんなときにわがままを…」

「光輝、いいから早く撤退するのよ!団長さんの足を引っ張ってるのがわからないの!?」

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ?付き合うぜ、光輝」

「龍太郎…ありがとな」

「状況に酔ってるんじゃないわよ、この馬鹿どもがぁぁぁぁ!!!」

「し、雫ちゃん…」

 

 …うわぁ、この先の流れがわかってるせいか、八重樫さんマジギレモードだぁ…そしてここに飛び込まなきゃいけない僕…あぁ、なんか流石にイライラしてきたぞ…

 

「馬鹿之河くん!」

「なっ、南雲!?お前もその呼び方をするのか!」

「うるさい!いいからさっさと撤退しろこの馬鹿野郎!」

「そうだよ、とっとと撤退して皆のパニックを収めてきてよ、それがリーダーのやくめでしょ!」

「蔵兎咲まで…ここはお前達がいていい場所じゃ」

「うるせぇとっとと行って来いドアホウ!!!」

 

 そう叫び、天之河くんの襟首を掴んで後方へ投げ飛ばす。と同時に…

 

「下がれぇーーーー!!!」

 

 メルド団長の叫びと同時に障壁が砕け、ベヒモスが突っ込んでくる!

 

「錬成っ!」

 

 僕はとっさに壁を錬成し、多少なりともベヒモスの勢いを殺すことに成功した。

 

「ナイスだハジメ!『まもり』!」

 

 そして…なんとバツが生身でベヒモスの突進を受け止めた。話には聞いていたけど、『まもり』…すごいな。

 

「ここは俺達がなんとかします、メルド団長はそこの馬鹿勇者様を連れて撤退支援を!」

「だが!」

「こいつの突進を無傷で受けきった俺が、できると断言します。さっさと退路確保して援護してくれたほうが楽でいいんですが?」

「…わかった、まさかお前達に命を預けることになるとは…頼んだぞ!」

 

 そう言って、渋る天之川くんを連れて後方に下がるメルド団長達。撤退の際、香織さんと目が合う。お互い無言で頷き、僕はバツとともに、化け物と対峙した。

 

「さぁて、ここまで来たら出し惜しみはナシだ。どうせこの後は高確率で離反ルート。全力で行かせてもらうぜ!」

「ははは、僕、必要なのかな?」

 

 冷や汗を垂らしつつ、僕は僕のできることをやる。すなわち。

 

「オラァ、伏せだ!!」

「錬成!!」

 

 バツが無理矢理ベヒモスの頭を地面に叩きつけ、僕がそれを拘束する。

 

「さぁて、いっちょ暴れさせてもらうか…魔法剣『フレア』」

 

 いつの間にか、両手で持っていた剣を片手で一本づつ持ち、二刀流のスタイルになっていたバツが、その剣に魔力を纏わせる。ベヒモスは拘束されて動けない。

 

「行くぜぇ、『みだれうち』!!」

 

 そう叫ぶと同時に、バツが高速の八連撃をベヒモスに叩き込む。結果…

 

「…あれ、死んだ?」

「死んだんじゃない?」

 

 ベヒモスはピクリとも動かなくなりました。いや、本気で僕がいた意味ないんじゃないかな?というかもうバツ一人でいいんじゃないか?

 

「まぁいいか、退路確保できたみたいだし、撤退しようぜ」

「うん…なんかあっさり過ぎて嫌な予感がするけど…」

 

 そう言いながら、二人でベヒモスに背を向け、階段の方に歩いていこうとすると…

 

「後ろだーーーーー!!」

「!?」

 

 メルド団長の叫び声に、慌てて振り向くと、確かに死んでいたはずのベヒモスが、兜の角を赤熱化させこちらに攻撃しようとしてくるところだった。恐怖で体が動かない。

 

「えぇい、Ⅵのキングかよ!ハジメ、避けろ!」

 

 バツがそう言って僕を突き飛ばす。次の瞬間、バツはベヒモスに吹き飛ばされて転がっていく。

 恐怖による硬直が解けた僕は、攻撃により頭が地面に埋まったベヒモスを、すぐさま錬成で拘束し、バツの元へと向かう。

 幸い、大したダメージはなかったらしく、バツはすぐさま起き上がって臨戦態勢を取っていた。

 

「…やっぱりアンデッドとして復活してるな…普通に倒せるだろうが…撤退したほうがいいかもしれないな、無限復活の可能性もある」

「でも、ベヒモスにそんな力は…」

「カミサマの介入の可能性もある。ここはおとなしく尻尾巻いて逃げようぜ」

 

 バツはそう言い、拘束を破壊し攻撃してきたベヒモスをカウンターで再度地面に埋める。僕はそれを錬成で拘束する。

 

「よし、撤退!」

「ラジャー!」

 

 二人同時に振り向き、ダッシュする。同時に、色とりどりの魔法がベヒモスの方へ飛んでいき、隣でバツが魔法を唱える声が聞こえる。そして、香織さんと八重樫さんがこっちに走ってくるのが見えた。ああ、やっぱりこの流れは変わらなかったのか…

 僕は軌道を曲げこっちに向かってくる火球を眺めながら、昨日の会話の続きを思い出していた。

 

 

 

「へぇ、檜山がねぇ…」

「流石にこっちでの殺人第一号候補がクラスメイトとか、ボクドン引きなんだけど」

「しかも、風の適性を持つ自分が疑われないように火球を飛ばしてくるという周到さだぜ」

「それで、バツは私と香織に一緒に奈落に落ちてほしい、と?」

「それ、運が悪かったら死ぬんじゃないかな?」

「まぁ、最悪そうなるが…すまん、ハジメと香織と雫の命を俺にくれ」

「んー、まぁ、僕はバツを信じてるから構わないけど」「私もよ」「私はハジメくんを信じてるから」

「ごめんな…で、トシと恵理だけど…」

 

 

 

 そんな会話を思い出しているうちに、目の前で火球が炸裂、僕とバツは衝撃で吹き飛ばされた。事前にバツが唱えていた防御魔法により、ダメージは最小限だが、それでも多少はふらつく。

 耳もやられたらしく、香織さんと八重樫さん、バツや団長たちがなにか言っているが、それも聞き取れない。そうこうしているうちに、背後から衝撃波が来て、バランスを崩して倒れてしまい、橋にヒビが入って…

 

「ハジメ!」

「ハジメくん!」

「南雲くん!」

 

 こちらに向かって飛び降りてくる三人の姿を見ながら、崩落した橋とともに、僕は奈落へと墜ちていった。




落下は回避できない、それが世界の修正力。

FFシリーズ簡単解説

・うたう(FFⅤ)
様々な効果を発揮する『うた』を歌うことができるアビリティ。基本的には歌っている間は他の行動ができず、その間それぞれの歌に対応した能力値が上がっていく。または歌うことにより様々な状態異常などを与えたり、味方にリジェネを付与したりすることもできる。こちらは発動ターンのみで、以降も普通に行動できる。

・レクイエム(FFⅤ)
アンデッドへ大ダメージを与える『うた』。魔力依存かつ高威力、全体攻撃のうえに防御魔法貫通のくせに消費MPは0とかいう、スペックだけ見ればただのぶっ壊れ。アンデッド以外には何の効果も発揮しないとは言え、対アンデッドでは文字通り無双の威力を発揮する。

・ぜんぎり(FFⅤ)
檜山たちにも叩き込んだ全体攻撃。そう、全体攻撃である。魔法剣が乗ったりするので割と強いが、今作はそんなことより、数百体の敵にも問題なく全体攻撃できるというバカみたいな強化が成されてしまった。正直ちょっとやりすぎた気もする。

・りょうてもち(FFⅤ)
一本の武器を両手で持ち、攻撃力を倍にする。盾が装備できなくなるので防御面は下がるが、正直縛りプレイでない限り盾はあまり使わないし気にするまでもない気はする。短剣などは両手持ち不可。別に武器を両手で握ったからと言ってさほど威力は変わらないとか言ったらダメ。後述の二刀流のせいで空気気味なアビリティでもある。

・まもり(FFⅤ)
ダメージは0じゃ(物理攻撃限定)

・にとうりゅう(FFⅤ)
武器を両手に一本づつ持つアビリティ。やろうと思えば二槍流でも二斧流でもできるし、なんだったら右手にベル、左手にロッドとかいう色物スタイルもできる。物理キャラなら必須レベルのアビリティの一つ。

・魔法剣(FFⅤ)
剣に魔法を付与し、様々な効果を発揮する魔法。属性魔法剣で弱点を突くも、状態異常魔法剣で敵を封殺するも自由自在。作中で出た『フレア』は、魔法剣では攻撃アップと敵防御減算という、純粋な物理特化の効果。

・みだれうち(FFⅤ)
威力半減の必中攻撃をランダムな相手に四回繰り出す攻撃。相手が一人なら単純な攻撃力は二倍。これだけだと少し強い攻撃でしかないが…

・魔法剣フレア二刀流みだれうち(FFⅤ)
防御減算超威力物理攻撃八回攻撃。後半だと大抵威力半減後で9999ダメージ、それが8回放たれる。個人的にはFFⅤを代表するぶっ壊れ攻撃の一つだと思っている。なお、魔法剣の部分を敵の弱点にすれば、古代の超戦闘兵器ですら2ターンキルである。

・Ⅵのキングかよ!(FFⅥ)
FFⅥのキングベヒーモスというボス敵は、倒したと思ったら同名のアンデッドモンスターにバックアタックされる。アンデッド化して蘇ったのか、元から二匹だったかは永遠の謎。


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第七話 脱出、糾弾~天之河が悪いよ、天之河が!~

このあたりから割とオリジナル展開へとシフトしていきます。


~清水幸利~

 

 四人が奈落に落ちていく。オレと恵理は檜山のクソ野郎を睨みつつ、未だ健在なベヒモスに魔法を撃ち続ける。昨日話を聞いたときは、正直半信半疑だったが、マジでハジメに向かって、しかもバツの言った通りの火魔法をぶっ放すとは思わなかったぞ。檜山の適性は風、つまりこの場で火を選択する理由はないはずだ。おまけにあの野郎、ハジメに向けて魔法撃った瞬間はニヤニヤしてやがったくせに、白崎と八重樫が一緒に落ちるのを見た瞬間あからさまに動揺してやがる。

 

「香織、雫っ!クソ、せめて一矢報いてやる!!」

 

 天之河が詠唱を始める。

 

「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!神の息吹よ!全ての暗雲を吹き払い、この世を清浄で満たしたまえ!神の慈悲よ!この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!」

 

 詠唱クッソなげぇなおい、この詠唱の間にオレ闇弾十発は叩き込んだぞ?

 

「神威!!」

 

 天之河の詠唱終了と同時に、ベヒモスに向かって極光が迸る。おいおい、足元崩して奈落に叩き落とすんじゃないのかよ。本当につっかえねえなこの勇者サマ。

 

「恵理」

「オッケ」

 

 恵理に呼びかけ、視線をベヒモスの足元に。それだけでオレの意図を察した恵理は、どこからともなくベルを取り出す。オレも同じものを取り出し、光の砲撃が直撃した、ベヒモスがいた場所を睨む。

 

「よし、やったか!?」

 

 ご丁寧に天之河の馬鹿が旗を立ててくれた。現れるのはもちろん、無傷(バツの攻撃で元々傷だらけだが)のベヒモス。それを見て、騒ぎ出すクラスメイト達。一度はおさまっていた色とりどりの魔法の流星が再び流れ出す。

 オレと恵理は、そんな阿鼻叫喚の中、手に持ったベルをベヒモスに向かって振る。周りはオレ達に注目する余裕もないようで、俺達がやってることに気づいてるやつはいない。と…

 

「な、何だ?」

「揺れ、てる?」

「じ、地震?」

 

 地面がかすかに、しかし徐々に大きく揺れている。成功か…昨日聞いたときは半信半疑通り越して絶対ウソだろと思ったものだが…恵理に目配せしてどこへともなくベルを収納する。

 

「嘘だろ、こんなところで地震だなんて!」

「ちょっと、橋が…」

「く、崩れる!?」

「皆、早く階段へ!」

 

 皆が慌てて階段の方へと避難する。と、同時に本格的に橋が揺れ、ヒビが広がり、止まっていた崩落が再開する。

 

「グオォォォォォォォォ!!!!」

 

 断末魔の悲鳴を上げながら、奈落へと墜ちていくベヒモス。オレと恵理が使っていたベルは、『だいちのベル』というらしい。これでも武器の一種で、一定確率で地震が起きるベル、だそうだ。実際に地震が起きてるから本当のことだったんだろう。

 皆が階段へ避難し終わり、橋がほとんど崩落してしまった頃、地震はおさまった。

 

「よし、揺れもおさまったし、脱出だ!」

「待ってくださいメルドさん、まだ香織と雫が!」

「馬鹿野郎!今は生き残った奴らの安全が最優先だ!それとも何か、お前、ここを飛び降りて探しに行く気か!?」

「うっ…すいません…」

 

 メルドさんの発破でクラスメイトたちはノロノロと動き出し、階段を登っていく。オレと恵理は最後尾で、殿の騎士の人に聞こえないようにヒソヒソと会話する。

 

「…気づいたか?」

「…うん、あのエセ勇者、南雲くんとバツくんのことには言及しなかったね」

「…ああ、南雲とバツは死んだ、だけど白崎と八重樫は生きている。そう言いたげな言い方だったな」

「…これ、本当に地上であれ、やるの?」

「…会話になる気がしないんだよなぁ」

「…ボクもそう思うよ」

「「…はぁ」」

 

 二人で揃ってため息を吐き、とりあえず会話を終わらせる。それから黙々と階段を登っていき、体感で三十階強か?登った頃、魔法陣の描かれた大きな壁が見えてきた。

 メルド団長がフェアスコープを使い、罠の有無を確認する。どうやら罠ではなかったようで、詳しく魔法陣を調べ、式通りに詠唱をして魔力を流し込む。すると、壁が回転扉のようにくるりと回り、奥の部屋への道を開いた。そこは、例の二十階の部屋だった。

 

「帰ってきたの?」

「戻ったのか!」

「帰れた…帰れたよぉ…」

 

 クラスメイトたちが安堵の吐息をもらす。泣き出す女子やへたり込む男子、天之河も壁によりかかり、今にも座り込んでしまいそうだ。ちなみにオレと恵理は割と余裕がある。バツとの訓練の賜物だろう。

 

「おらおまえら、ここで気ぃ抜いたら帰れねぇぞ。ここはまだダンジョンの中だ、魔物に襲われても知らねぇぞ?」

「そうだよ、あそこほどじゃないにしても、ここの魔物でもボクらを殺すには十分な力を持ってるんだ、死にたくないなら早く地上に戻ったほうがいいと思うよ?」

 

 オレと恵理のセリフに、なんでお前らはそんな元気なんだ、死んだのはお前らの親友だぞ?みたいな目をむけられるが無視だ。

 オレと恵理がスタスタと部屋の出口に歩いていく。慌ててメルド団長が発破をかけ、他の生徒達も渋々と立ち上がり、オレ達は最短距離でダンジョンを脱出した。

 ちなみに道中の敵は、オレと恵理と騎士の皆さんであらかた片付けた。自分がまともに動けないのに、普通に戦うことができているオレ達に、天之河が敵意の視線を向けているのがわかった。さて、こいつの脳内ではオレ達は何者にされてるのかねぇ?

 

 

 

ダンジョンを脱出した後は、メルド団長が受付へと諸々を報告し、皆精根尽き果てたようにそのあたりにへたり込んでいる。

 

「な、なんだと!?」

 

 その時、メルド団長の驚きの声が聞こえてきた。という事は…よし、はじめるか。

 

「さて、無事脱出できたし、ちょっと聞きたいことがあるんだがいいかな?…檜山」

 

 オレが名指しでそう問いかけると、あからさまにビクッとした檜山がこちらを睨んできた。

 

「な、何だよ清水。俺が何したっていうんだよ?」

「ん?オレは聞きたいことがあるといっただけで、お前が何かしただなんて言ってないぞ?」

「ッ!?」

「まぁ、語るに落ちるとはこのことだな。まさか初手でやらかしてくれるとは思ってなかったけど」

 

 オレがそんな話をしていると、メルド団長がこちらへやってきた。

 

「…?どうした幸利、何かあったのか?」

「いえ、ちょっとあの時、南雲に向かって飛んでいった魔法について聞きたいことがありまして」

 

 オレの言葉を聞いたクラスメイトたちが息を呑む。あれは誰がやったのかわかってないからな、自分だったらどうしようと考えてるんだろう。

 

「清水、皆は疲れているんだ。今この場でする話じゃあないだろう?」

「天之河は黙ってろ。安心しろよ、もう犯人はわかってるから。…なぁ?檜山?」

「…!お、俺がやったって証拠がどこにあるんだよ!あの時飛んでいった魔法は火、俺の適性は風、俺じゃねぇ!」

「オレは同意を求めただけで、お前が犯人とは一言も言ってないんだがな?」

 

 そんなオレの言葉に声をつまらせる檜山。そこに恵理の追撃が入る。

 

「ところで、あんな状況下で南雲くんに飛んでった魔法の属性把握できてた人なんているの?ボクはベヒモスじゃなくてバツくんと南雲くんの方見てたから把握してるけど」

「いや…」

「さすがに、なぁ?」

「魔法で吹き飛ばされたのはわかったけど、属性までは…」

「私達、ベヒモスの方しか見てなかったから…」

「うん、普通そうだよね?ベヒモスに魔法撃つんだもん、ベヒモスの方見てるはずだから、南雲くんの方へ飛んでった魔法の属性なんてわからないよね。

 …ねぇ檜山くん?なんで飛んでいった魔法が火属性ってわかったの?」

 

 オレと恵理、二人の追求に言葉を返せない檜山。そこに割り込むは我らがご都合正義バカ。

 

「待て、待ってくれ!清水と恵理は檜山がわざと南雲と蔵兎咲に魔法を撃ったと言いたいのか!?」

「ああ、その通りだ。実際オレと恵理は見てたからな。檜山が笑いながら、火属性魔法を撃つ瞬間を」

「ちなみにその魔法が南雲くんの方に軌道を変えるのも確認済みだよ。あとボクを名前で呼ばないでって何度も言ってるじゃん」

「ち、違う!わざとじゃ…そう、わざとじゃないんだ!そもそも俺は火のほうが好きで、かっこいいと思ってたから…だからあの時、火属性魔法を使って…適正じゃなかったから、制御をミスって…わざとじゃなかったんだ!許してくれ!頼む、このとおりだ!」

 

 そんな言い訳をしながら、皆の前で土下座をする檜山。

 

「…檜山も反省してるし、俺は許そうと思う。清水も恵理も、矛を収めてくれないか?友人が死んで、許せない気持ちはわかるけど…」

 

 そんな事を言いはじめたのはもちろん天之河。何いってんだこいつ?

 

「何いってんだお前。あいつを許す権利があるのは南雲だろ?なんでお前が勝手に許してるんだよ?」

「だが、南雲は死んだ。だったら、生き残った俺達が彼らの遺志を継いで、この世界に平和を取り戻すために一致団結するべきじゃないか?」

「あー、そのことなんだが…」

「メルド団長、ごめんなさい、これはボク達の問題ですから」

 

 何か言いたそうなメルド団長を恵理が華麗にインターセプト。うん、グッジョブ。

 

「遺志?遺志って言ったかお前?バツも南雲も戦争反対派だったのに、その遺志がこの世界の平和?なに寝言言ってんだ」

「それは…」

「それに、白崎と八重樫も一緒に落ちてるんだぞ?それでもお前は檜山を許せるっていうのか?」

「香織も雫も優しい女性だ。きっと檜山を許してくれるさ。それに、きっとあの二人は生きてる。俺の助けを待ってるはずさ」

「はぁ?バツと南雲は死んだのに、一緒に落ちた白崎と八重樫は生きてる?お前、どこをどう考えたらそういう思考に行き着くんだよ?」

「それに天之河くん?そもそも全ては天之河くんのせいなんだけど、その自覚はあるの?」

 

 オレに続いて、恵理のターンだ。

 

「なにを言ってるんだ恵理、俺が一体何をしたっていうんだ?」

「確かに檜山くんも悪い、というか実行犯は檜山くんだしね。あそこにワープさせられた直接の原因も、檜山くんが軽率な行動をとったからだ。これはそう簡単に許していいことじゃないと思うんだけど?」

「だが檜山は…」

「わざとじゃなくても、日本の法律ではアウトなんだよ?まぁ、ここは日本じゃない。だから日本の法律を適用すること自体がナンセンスだと思う。さてメルドさん?この場合檜山くんにふさわしい刑罰は?」

「…まぁ、普通に考えれば処刑だな。しかし…」

「という事で、トータスの法に照らし合わせても檜山くんは処刑らしいよ。それを、勇者様の威光で捻じ曲げるのかい?」

「俺は仲間を死なせない!」

「既に四人死なせてるよね?」

「香織と雫は死んじゃいない!」

「じゃあ南雲くんとバツくんは?あの二人は仲間じゃないっていうの?」

「それは…」

「それに、だよ。あの二人が落ちたのはベヒモスからの撤退時に檜山くん…もうくんはいらないかな?檜山に魔法を撃たれたからだ。本人がなんと言おうが、ボクも幸くんも檜山は故意的にやったと確信してるけどね。

 それはともかく、問題は『じゃあ、なぜあの二人があそこにいたか』だよ」

 

 恵理のセリフに続けるようにオレが言葉を引き継ぐ。

 

「なぜあの二人があそこにいたか、簡単な話だ。どっかの勇者様がメルド団長の指示を無視して、倒すどころか傷をつけることもできやしないベヒモスに、無駄な攻撃を繰り返していたからだ。八重樫も、撤退するように言ってたはずだけどな…この件については坂上、天之河に追従したお前も同罪だ」

「お、俺かぁ!?」

「当たり前だ。お前達がとっとと団長の指示を聞いて後退していれば、南雲もバツもお前らのところへ行く必要はなかった。つまり、指示を無視したお前らにも責任はあるってことだ。現状の最強技で傷一つついてなかった以上、メルド団長の言葉は正しかった、それが全てだ」

「い、言いがかりだ!」

「言いがかりじゃないじゃん。実際メルド団長の指示を無視したよね?それに、あの転移トラップ。あれも、天之河くんがあんな壁崩落するような技放たなければ転移トラップが露出することはなかったよね?まぁこれは結果論だけど、なんにしてもあんな技、崩落の危機がある洞窟で放つ技じゃないし、雫ちゃんが突っ込んでることにも気づいてなかった。注意力散漫にもほどがあるよね?」

「そ、それは…」

「そもそも論だが、なぜオレ達がここで訓練をすることになった?お前が戦争参加を表明したからだ。それがなければ、オレたちが命の危機に陥ることはなかった」

 

 これに関しては、戦争参加を表明していなかったら異端として粛清されてた可能性もあるし、どっちが良かったってわけじゃないけどな。まぁこんな事になった遠因の一つではある。

 

 

「もっと言ってしまえばさぁ…天之河くん、勇者じゃん?」

「あ、あぁ、そうだ。だから俺は…」

「今はそういうのいらないから。そう、天之河くんが勇者なんだよ。そして、教室でのことを思い出してみて?」

 

 恵理の問いかけにクラスメイトたちが考えはじめる。

 

「教室でのこと?」

「なんだっけ?」

「あ、そ、そういえば…」

「気づいた人もいるみたいだね?そう、あの魔法陣は天之河くんを中心に展開していた。つまり、ボク達は天之河くんの勇者召喚に巻き込まれた、ってことなんだよ」

 

ΣΩΩΩ<な、なんだってー!?

 

 なんかどっかのMMRみたいな驚愕っぷりだな皆。

 

「言ってみれば、ボクらは全員、君の召喚に巻き込まれた被害者なんだよ?それを扇動して、戦争に参加させて。愛ちゃん先生の反対も無視して。戦争に参加しないといったバツくんに噛み付いて。仲間を守るとか言いながら勝てもしない化け物に無謀な戦い挑んで。バツくんがいなかったらあの骨に何人か殺されてたんだよ?」

 

 オレと恵理の糾弾にぐうの音も出ない天之河。しかし、恵理の言葉に反応したのは周りの方だった。

 

「そ、そういえば、二回ほど骨の群れが吹き飛んだよな」

「あれ、バツがやったっていうのか?」

「そんな、無職のバツがそんなことできるはずが…」

「…そうか、蔵兎咲のやつ、魔人族側と繋がっていたんだな!南雲もだ!オタクの蔵兎咲や南雲が、あんな力を持っていたり、あんなものを作り出せるわけがない!香織と雫は洗脳されていたに違いない。清水、おまえもだ!魔人族側について恵理を洗脳してるんだ!そうだろう!!」

 

 天之河のご都合解釈が炸裂である。さすが馬鹿之河、こちらの期待を全く裏切ってくれない、というか…

 

「くくく、くはははは、はーっはっはっはっは!!!」

 

 流石に堪えきれなくなったのか、聞き覚えのある笑い声が聞こえてきた。というかなんで八神庵なんだよ…。




最後の笑い声の正体は…!?

今回の勇者様(笑)への糾弾は前々から作者が思っていたことです。ちゃけば全部馬鹿之河が悪くね?と。
召喚されたのは勇者天之川、周りは巻き込まれただけ。
戦争に積極参加を表明したのは勇者天之川、即賛成した筋肉は同罪。雫ちゃんは他に解決策がなかったので仕方ない、と消極賛成なので情状酌量の余地はあり。香織ちゃんは…もうちょっと自分で考えましょう。周りは煽動されただけ。
壁を崩して罠を露出させたのは勇者天之川。洞窟の中でバ火力ブッパしなかったら壁も崩れず罠の露出もなかった。檜山はギルティ。周りは(ry
ベヒモス戦で皆を危険に晒したのは勇者天之川。とっとと後退してクラスメイトをまとめて突破していれば悲劇はなかった。檜山はギルティ。周りは(ry

そりゃ公式で勇者(笑)言われますわ。

FFシリーズ簡単解説
・だいちのベル(FFⅤ)
伝説の12武器の一つ。装備すると地属性が強化され、攻撃時に確率で地震が発生。地震の威力は魔力依存。しかし、最速入手時点で地属性攻撃自体がほぼ空気と化している上、装備できるのは風水士とすっぴんのみ。風水士自体はそこまで使わないし、すっぴんが装備する場合は上位互換とも言える武器が存在する。などなど、原作で活用するには割と愛が必要。誰だ伝説の11武器と目覚ましのベル一個とか言ったやつ。


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第八話 決闘!?天之河!!~あいつベヒモスに勝った俺に決闘って何考えてんだ?~

※現在位置はダンジョン前広場です。


~蔵兎咲跋~

 

「くくく、くはははは、はーっはっはっはっは!!!」

 

 流石に予想通りすぎる馬鹿之河の理論展開に我慢できなかった俺は、思わず含み笑いを漏らしてしまい、我慢できずにそのまま大爆笑へと移行してしまった。これどっかの月を見るたび思い出す人の三段笑いみたいになっちまったな。

 

「え、蔵兎咲!?」

「嘘、なんで…」

「生きてたのか!?」

「他の三人は!?」

 

 クラスメイトが騒ぎ出す。そりゃ奈落に落ちて死んだって思われていた人間が、生きて普通に現れたら驚きもするだろう。

 

「跋、お前今どこから…」

「ずっとここにいましたよ?全員気づいてなかっただけで。ほら、他の三人もそこに」

 

 メルド団長の問いに答え、少し離れた場所を指差す。そこには馬鹿之河を睨む香織と雫、土下座の体勢を取る檜山を複雑そうに見るハジメの姿があった。そっちを見たクラスメイトたちは、再び驚きの声を上げた。ちなみにずっとこの場にいたのは本当だ。ただインビアで姿を隠していただけである。

 

「し、しかしさっきまでは確かに…」

「疲れていて見落としただけじゃないですか?死んだと思っていた人間がまさか普通にここにいるなんて思わなかったでしょうし」

「い、いや、しかしお前…」

「香織!雫!無事だったのか!」

 

 メルド団長のセリフを遮り、香織と雫の下へ駆け寄る馬鹿之河。次の瞬間、パァーン!と、すごくいい音が響いた。香織と雫が馬鹿之河の頬にビンタした音だ。え、二人でビンタしたのになぜ一回しか音がしなかったか?全く同時に左右の頬を挟むようにビンタしたからだよ。あれ衝撃逃げないから相当いてぇぞ。

 

「!?な、なにを…」

「すいません天之河さん。私に近寄らないでいただけませんか?」

「ごめんなさい天之河さん。気軽に名前を呼んでほしくはないかな?」

 

 動揺し、震える声で問いかける馬鹿之河…あれ、あいつの本当の名字って天之河なんだっけ?まぁいいや馬鹿之河で。馬鹿之河に、二人が拒絶の意思を伝える。おーおー、名前の呼び方まで変えちゃって。

 

「いや、ふたりとも、名字読みに変わった理由はわかるけどさ、なんでさん付け?」

「君付けや呼び捨てにするほど」

「親しみを持てない、かな?」

「うわぁ…」

 

 ハジメの問いに答える二人。哀れ馬鹿之河、扱いがミストさんと化す。いや、同列扱いは流石に失礼か、ミストさんに。

 

「…南雲ぉっ!二人に一体何をした!」

「別になにもしてないよ天之河くん。と言っても君は信じないんだろうけど」

「当たり前だ!二人が俺にこんな態度を取るはずがない!ならお前か蔵兎咲がなにかしたに決まってる!」

「うん、じゃあそれでいいよ」

「何?」

「僕が何もしていないと本当のことを言っても、君の中では既に僕やバツが何かをしたと確定していて、そしてそれを曲げる気がない。だったら僕が何を言ってももう無駄。意味がない。

 だから、君が想像通りのことを僕らがやった。そういうことでいいよ、ってことだよ。僕も、香織さんも、八重樫…いや、雫さんも、そしてもちろんバツも。もう君に何も期待はしていない、ってことだよ」

 

 ハジメに睨まれながら…いや、あれは憐れみか。哀れんだ目で見られながら、そんなことを言われる馬鹿之河。失礼な、俺はまだまだ期待してるぞ。楽しく踊ってくれる道化としてな。

 

「…そうか、やはりお前らは魔人族と繋がっていたんだな。そして雫や香織を洗脳して…奈落に落ちて生きていたのも魔人族が…」

「おーい、馬鹿之河」

「何だ蔵兎咲!お前も魔人族と…」

「レビテト。」

 

 馬鹿之河に声をかけ、噛み付いてくるヤツを無視してレビテトを唱える。俺の体がふわりと宙に浮く。

 

「な、な…」

「ほれ、後ろ」

「後ろ…?なぁっ!?」

 

 全体掛けを意識したので、ハジメや雫、香織も宙に浮いている。

 

「この魔法で適当に軟着陸、そのあとテレポっていう、まぁ脱出魔法か。それを使ってぱぱっと脱出。受付にダンジョン内で起こったことを軽く説明。詳細は後から脱出してくるであろうメルド団長に聞いてくれと伝え、皆が出てくるまで待っていた、と、まぁそういうことだが、どのへんに魔人族が介入する余地があったか教えてくれないか?」

「その魔法だ!この世界に空を飛ぶ魔法やダンジョンを脱出する魔法があるなんて聞いたことがない!」

「そりゃそうだ。これは俺の最終幻想スキルに内包されていた魔法の一つだし」

「嘘だ!」

「お前がそう思うならそうなんだろうよ、お前の中ではな」

 

 投げやりにそれだけ言って、ディスペルを使いレビテト状態を解除する。流石に永続浮遊状態はまだ慣れてない。

 

「さてさて、んじゃこっからは楽しい楽しいダンガンなんちゃらや逆転なんとかのお時間だぞ」

「何?」

 

 さぁこっからは舌戦のお時間だ。まーたセリフばっかりになるなぁ。まぁこれは小説じゃなくて現実だ。現実なんてそんなもんだ。

 

「まず最初の疑問だ。なんでお前は俺やハジメ、トシが魔人族側についた、と思ったんだ?俺達はずっと城で訓練していたんだ。接触する機会なんてなかったはずだぞ」

「それは…魔人族が忍び込んで」

「異議あり!城の警備をすり抜けて侵入できるなら、暗殺でもしたほうが早いし確実だ。それにわざわざ接触するのが、闇術士のトシならともかく、無職の俺と錬成師のハジメなのはおかしい」

「ぐっ…ならこの街で…」

「それはおかしいよ!この街で個人行動してたタイミングなんて宿の中だけだ。同じ理由で暗殺のほうが手っ取り早い」

「うっ…」

 

 はい論破。

 

「で、次の疑問だが。まぁ仮にだ。俺達三人が魔人族と接触して寝返ってたとしよう。なぜ雫達三人は俺らが洗脳したと思った?」

「やはりお前達は魔人族に!!」

「お前仮にの意味知らんのか?仮定だ仮定。で、なんで三人は洗脳だと?」

「香織たちが魔人族側につく理由がない!」

「理由は俺達にもないんだが。まぁいいや。その場合のムジュン点その1。洗脳するならまず勇者であるお前を最優先にするわ」

「なっ」

「ムジュン点その2。本当にこんな短時間で洗脳する力があるなら、もっと戦力高いやつを洗脳するよ。坂上とか遠藤とか。特に脳筋の坂上は洗脳に弱そうだし」

「俺!?」

「ムジュン点その3。そもそも洗脳なんて力どうやって手に入れるんだよ」

 

 トシの闇術でできるけどまぁそこは置いといて。

 

「魔人族にもらった力だろう!」

「はい、ここでさらなるおかしな点が出てきたな。仮定に仮定を重ねた結果、俺たち三人は魔人族と接触し、洗脳する手段をもらって女子三人を洗脳した、という設定になってる事がわかった、というかさっき声高に叫んでいたことだが」

「それがどうした!」

「ここで根本的な疑問だ。魔人族から洗脳の仕方を教わったなら、その魔人族は洗脳の方法を知っていた、ということになる」

「卑劣な魔人族ならおかしくはない!」

「んじゃ、なんで俺たち三人が、そもそも魔人族に洗脳されてる、って発想が出ないんだ?」

「っ!?」

「洗脳、という発想が出た時点で、普通なら俺達も裏切り、離反じゃなくて、洗脳されたんじゃないか?って発想が出てきてもおかしくはなさそうなもんだけどな?なんでその発想がなかったんだ?単純に思いつかなかっただけか?まだそこまで考えてなかっただけか?」

「そ、それは…」

「……」

「……」

「なぁ、天之河」

「な、なんだ?」

「お前、何をそんなに悩んでるんだ?」

「え?」

「普通、思いつかなかっただけとか考えがそこまで回ってなかったとまで言われたら、肯定するよな?冷静に考えたらその通りだと認めるよな?俺の言ってることが的外れだ、というならともかく、特に矛盾点もない、当然の話だったよな?」

「ぐっ…」

「なのにお前は必死に、俺の話を否定することを考えてる。なんでだ?」

「そ、それは…」

 

 一拍おいて、俺はこの馬鹿にとどめを刺す。

 

「…お前は、俺達三人に敵であって欲しいんだよ。

 南雲と蔵兎咲は奈落に落ちた。あんなところに落ちて生きてるわけがない。俺は仲間を死なせたのか?いいや、俺は仲間を死なせない。ならあの二人は?そう、あの二人は敵だったんだ。香織と雫が一緒に落ちた?いいや、彼女たちは生きている。だって、俺のヒロインの二人が死ぬわけないから。なぜ二人と一緒に落ちた?そうか、あの二人が何かをしたんだ。つまり、南雲と蔵兎咲は敵で、雫と香織は奴らに洗脳されただけ。俺はまだ仲間を失ってはいない!

 以上、お前が無意識のうちに脳内で組み上げたであろう物語だ」

「そんなことは!」

「無意識って言ったろ?お前は無自覚に全部自分が正しく、自分の思い通りになるシナリオを脳内で組み上げ、それを真実だと思いこんで行動するっつー悪癖があるんだよ。それもガキの頃から。いってみれば完治不可能なエターナル中二病、ご都合解釈の極み。だって自覚してないんだからな、他人から言われてもそんなことはない、としか思わない。治るわけがない」

 

 俺はため息をつき…

 

「お前は次に「「うるさい!俺は間違ってない!俺と戦え、蔵兎咲!」」と言う」

「なっ!?」

「本当に昔っから変わらねぇな。自分の間違いを指摘されたら逆ギレして、決闘という名の暴力で解決を図る。お前は剣道の才能があったし、素手の戦いも強かった。だからお前に勝てるようなやつは少なかった。勝てば官軍、いい言葉だな。まさにその通りだ。お前は最後は暴力に物を言わせて、勝ったほうが正義、ってやつを実践してきたよな?」

「っ…!」

「挙句の果てには、無職相手に勇者様が聖剣握って決闘要請。普通に考えて、俺に勝ち目あると思うか?」

 

 俺の言葉に、視線だけで人を殺せそうな目つきでこちらを睨む馬鹿之河。さて、最後の仕上げと行こうか。

 

「いいぜ、いつでも、どこからでもかかってこい」

「…なっ!?」

 

 俺の言葉に驚く馬鹿之河。おいおい、決闘挑んできたのはそっちだろ?

 

「勇者様のお前が、無職の俺をボコって、自分の我を通すんだろう?ほら、さっさとかかってこいよ。俺は武器も持っていないぞ?」

「…後悔するなよ、行くぞ!」

 

 勇者は聖剣を抜き、斬りかかってくる。そこそこ速いな。俺は動かない。そして勇者は、俺の体を袈裟斬りに…する直前で、剣を止めた。

 

「見ろ、反応すらできぐぺぺぺぺーっ!?」

「寸止めするのがわかってるのに動く必要がどこにあるんだ?」

 

 剣を寸止めし、勝ち誇る勇者の顔面を殴り、ぶっ飛ばす。なんかサハギンみたいな悲鳴を上げてぶっ飛んだな。

 

「ひ、卑怯な…勝負はついていたはずだ…」

「かってに俺の負けを決めるなよ。それが許されるなら今この場で俺の勝ちを宣言してやるぞ?」

「くそ、怪我しても文句は言うなよ!」

 

 そう言うと、馬鹿之河は再度俺に向かって斬りかかってきた。俺は魔法を唱え、軽くバックステップをする。

 

「もらった!なにっ!?」

「ブリンク。自分の分身を生み出し、物理攻撃を回避する魔法だ」

「卑怯な!正々堂々と勝負しろ!」

「お前術士相手に同じこと言えるの?」

「お前は術士じゃないだろう!」

「術が使える人間に術縛りを科すのがお前の言う正々堂々かよ?」

 

 超一流の剣士と超一流の魔法剣士の勝負で、魔法剣士側に魔法縛りをするようなものだ。剣一流、魔法一流、合わせて超一流の魔法剣士の魔法を縛れば、残るは一流の剣士。超一流の剣士に勝てる道理はない。いや別にそう決まってるわけでもないが。

 とにかく、魔法縛りを言い渡されたならおとなしく縛ってやろう。ぶっちゃけそれでも負ける気はしない。

 

 再び斬りかかってくる馬鹿之河。ホント馬鹿の一つ覚えだな。俺はあっさりと剣をかわし、カウンター気味に拳を叩き込む。

 

「ぐっ…卑怯者め!避けるな貴様っ!」

「え、俺棒立ちでお前の剣を受けない限り卑怯者扱いなん?」

 

 つうかどこのマシュマーさんだお前はよ。まぁいいけどさ。

 四度斬りかかってくる馬鹿之河。俺はあえて棒立ちでその袈裟斬りを受ける。なお防御を抜けなかったらしく微々たるダメージしか受けていない。そして今度こそ、正真正銘のカウンターが発動する。俺は馬鹿之河の顔面に、渾身のワンツーパンチを叩き込んだ。

 

「ぐ…卑怯…も…の…」

「勝手な寸止めに反撃しても魔法使っても普通に避けても棒立ちで剣戟受けても卑怯者って…え、何、攻撃すること自体が卑怯なの?それとも「俺に勝つなんて卑怯者」とでも言いたいのかこの馬鹿は?」

 

 結局最後まで俺を卑怯者呼ばわりしながら、馬鹿之河は気を失ったのであった。

 

「さて、まぁこんな事になってしまったわけだけど、クラスメイト諸君。そしてメルド団長殿。さっきまでのこの馬鹿を見てどう思った?端的な意見を聞きたいんだが」

 

 俺は、話の流れについて来れずに、呆然としていた皆を見回した。




※現在位置はダンジョン前広場です。大事なことなので二回言いました。
周りに迷惑にもほどがある。

普通に考えたら、六人まとめて洗脳されたって思うのが当たり前なんですけどね。だが天之河なら違和感ないと思ってしまうのがどうにもこうにも。

最初はバツ君は天之河に殺される予定でした。が、どう考えても防御抜けないよな、と思いこのような流れに。

FFシリーズ簡単解説
・インビア(FF)
初代FF、FFⅠなどと呼ばれるファイナルファンタジーシリーズ記念すべき第一作にのみ登場する魔法。インビジという姿を消す魔法の上位魔法。ゲーム内効果は姿を消して回避率+40。効果範囲が全体化されている。下位のインビジは他作品に出たこともあるが、インビアは初代だけにしか存在しない。

・レビテト
空中浮遊魔法。浮遊して地属性ダメージを無効化し、溶岩地帯などのダメージ床のダメージを無効にすることもできる。浮遊であって飛行ではないので、落下した場所に戻るのは不可能。というか原作中でも落とし穴は回避できない。割と低空しか飛べないようだ。…そんだけ低空なら普通に溶岩の熱でダメージ受けそうなものだが。

・テレポ
戦闘離脱やダンジョン脱出に使う魔法。使う機会はそこまで多くはない。Ⅴで言えば孤島の神殿や大海溝くらいでしか使った覚えがないし。

・ブリンク
分身を生み出し、相手の物理攻撃を完全回避する魔法。ただし出てくる分身の数は決まっており、一度攻撃されると一つ消える。最大数以下になれば重ねがけができる。らしいけど作者は使ったことほぼないので詳しくは知りません。

・カウンター(FFⅤ)
モンクのアビリティ。物理攻撃を受けた際、一定確率で反撃を行う。まもりと組み合わせたら、脳筋相手だと完封できる。

・サハギン(FFⅣ)
うっ ぐぺぺぺぺーっ!

・ミストさん(スパロボK)
ある意味伝説のスパロボ主人公。詳しくは二コニコ大百科やpixiv大辞典を参照。個人的には敵側に回ることのないミストさんのほうがマシかな、と思います。


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第九話 決別~勇者と主人公の童貞卒業~

クラスメイトの意識改革、最序盤でやっとけば少しはマシになるかなぁ?

童貞(意味深)は勇者はともかく跋くんは卒業済みですよ。あと清水くんとハジメくんも。爆発しろ


~蔵兎咲跋~

 

「おーい、お前ら生きてるか―?反応くらいしろ―?」

 

 全く反応がないので、再度声をかける。数人我に返ったように声をかけてくる。

 

「え、お前今…」

「斬られたよね?完全に」

「え、なんで生きてんだ?」

「なんでも何も、勇者(笑)の攻撃力が低すぎてダメージ通らなかっただけだ」

「いやそんなゲームみたいな…」

「どうもこの最終幻想スキル、そのゲームみたいな法則に従ってるっぽいんだよなぁ…最低でもこの世界の法則とは別に動いてるっぽいぞ?」

 

 まぁ、エヒトとかいう偽神じゃなくて正真正銘本物の神様からもらったスキルだしな、さもありなん。流石にそこはこの場で明かす気はないけどな。ぶっちゃけこいつらも信用できないし。

 

「まぁ、俺のことは今はいいんだよ。で?お前ら、格下…いや実際は俺のほうが強かったんだが、事実はともかくとして、だ。格下と認識していたはずの丸腰の相手に対して、自分だけ聖剣振りかざした挙句、決闘とほざいときながら勝手に勝ちを確信して寸止めして反撃をもらう、魔法が使えるヤツへの魔法縛りの強要、どころか回避行動の批判、最終的にはノーガードで攻撃を受けての反撃にまで卑怯のレッテルを貼る。

 つまり、実際やつがどう考えてたかまでは知らんが、客観的に見れば、自分より強い人間や自分に勝った人間には卑怯者のレッテルを貼り、正々堂々じゃないからこれは負けじゃないという自己弁護をする。お前ら、こんな勇者で満足か…?俺は…嫌だね…」

「ロックオンじゃねぇよ自重しろ」

「ツッコミありがとうトシ。冗談はともかく、お前ら、本当にこの勇者についていって大丈夫か?本来決闘ってのはどっちかが死ぬまでやり合うものだってのに、初手寸止めかますようなやつが、この先魔人族に対してまともに剣を振れると思えないんだが?」

 

 俺の言葉に生徒たちがざわめき出す。

 

「え、なんでだよ?」

「だって、魔人族って敵、なんだよね?」

「魔物の延長みたいんだやつなんだろ?」

「そんなの、倒せるに決まってるだろ!」

 

 などなど、次々とやれるに決まってるだろ的な雰囲気を出す生徒諸君。やっぱり解ってなかったかぁ…

 

「何いってんだお前ら?敵は魔人族、魔『人』族なんだぞ?人型してるに決まってるだろ?」

「それでもゴブリンなんかは…」

「ありゃ戦闘本能しかないような奴らばっかりだからな。魔人族は『戦争』の相手だ。戦争ってのは基本的には国と国の戦いであり、イシュタルのジジイも言ってたように魔人族は国を作っている」

「だからなんだってんだよ?」

「まだわかんねぇのかよ?最低でも国を作り、まとまるだけの知恵があるってことだ。そして、知恵があるなら言葉も話すだろうし、魔物と違って喜怒哀楽の感情も普通に出すような相手だろうよ」

「え、それってつまり…」

「相手もヒトってことだよ。言ってみれば俺らの世界で言う黒人と白人みたいなものじゃないか?おまえら、ヒトを殺せるのか?」

「…」

 

 俺の指摘に沈黙するクラスメイト諸君。やっぱり理解してなかったかー。まぁわかっちゃいたけどな。

 

「それでも…」

「あん?」

「それでも、魔人族を倒さなきゃ…殺さなきゃ帰れないなら…」

「そうだ、殺さないと帰れない…だったら俺は…」

「永山、坂上…」

「そうだよ、帰るためなら…」

「こんなところで死にたくない…!!」

「私は…無理かな…」

「俺も、ちょっと…」

「てめぇら、帰りたくないのかよ!」

「そうだ!今さら日和ってんじゃねぇぞ!!」

 

 永山と坂上の言葉を皮切りに、再燃する魔人族討伐の機運。そして、弱気な発言をする生徒と、それに噛み付く小悪党一味。

 

「はいちゅうもーく。お前らは勘違いしているぞー」

「はぁ?勘違い?」

「別に戦争に勝っても帰れるとは決まっていません」

「は!?ざけんな!何を根拠にそんな…」

「そもそもいつ、戦いに勝てば帰してくれるなんて言われたんだよ?」

 

 原作と違って、俺が横槍突っ込んだせいで、最初の話し合いのときにそのあたりは言及されていない。

 

「それは…」

「確か晩餐会のときに、天之河がイシュタルさんに聞いてたんだったか?」

「そうそう、戦えば帰してくれますか?って」

「ほーぅ、そんなことが…で、その時のイシュタルのジジイの返答を覚えてるか?」

「確か…『世界を救った英雄の願いでしたら、エヒト様も無下にはしますまい』って言ってたかな」

「そうだ、戦いに勝てば帰してくれるってことだろ!」

 

 おお、飛ばしたイベントの補完あったのか。ぶっちゃけ適当に飲み食いしてとっとと部屋に引っ込んだせいで知らなかったぜ。

 と、トシがくちばしを突っ込んできた。

 

「…なぁ、オレはその場にいなかったんだけど、イシュタル爺さんが言ったセリフに間違いはないのか?」

「う、うん、間違いないはずだよ」

「んじゃ、やっぱり帰還は保証されてないな」

「はぁぁ!?なんでそうなるんだよ!!」

「わからんのか!この戯けが!」

 

 トシもちょくちょくネタぶっこんでいくよなぁ…

 

「エヒト様も無下にはしますまい、って、完全にイシュタル爺さんの予想でしかないじゃないか。狂信者の一人が勝手に『英雄の言葉だったら神様も聞いてくれると思うよ、多分』って言ってるだけのセリフのどこに保証に値する信頼があるんだよ?」

 

 トシの言葉に絶句する一同。実はそうなんだよな。全く帰還の保証はされてない。実際原作でも元の世界に返す気ゼロだしなあの偽神。まぁ、流石に俺がそんな事知ってるのはおかしすぎるし、原作攻略メンバーくらいはカモフラージュのためにも戦ってもらわないと困るから、この場では何も言わないけどな。

 

「…それでも、可能性があるなら俺は戦いたい」

「永山…」

「俺にできるのは、多分そのくらいだからな…」

「…永山…俺も付き合うぜ」

「私も…」

 

 おぉ、永山パーティは全員脱落なしか。すごいな。

 

「まぁ、嫌になったら後方支援に回ればいい。俺は…まぁ勇者様が敵認定撤回したら、の話だが、そっちに回るしな」

「待てよ蔵兎咲」

「どうした坂上?」

「お前、戦争に参加するのも吝かではないとか言ってたのに、真っ先に逃げる気か?しかもお前、光輝より強いんだろう?」

「どれだけ強くても、この世界基準で俺に天職がないってのは事実だし、仮に戦闘職だったとしても俺は後方に行くつもりだったぞ?」

「はぁ!?だってお前…というか、そもそも、最初のステータスプレートのときに言ってた、戦えないっていうのが嘘だったんじゃねぇか!!」

「戦争参加は吝かではない。間違いはないぞ。だが前線を張って戦うのが吝かではないとは一言も言ってない。後方支援も立派な『戦争参加者』だ。むしろこっちのほうが重要まである。輜重隊の護衛とかな。

 それに俺は戦えないとは言ってない。そんなステータスで戦えるのかって問いに対して、逆に戦えると思ってるのか?と返しただけだ。戦えないとは言ってないだろ?戦えるとも言ってないってだけで」

 

 質問に対して質問で返せば、国語は0点だろうけど、舌戦とか相手を煙に巻いてなんぼだからな。現実は国語のテストじゃない。

 

「そんなの屁理屈だ!!」

「屁理屈。まるで筋の通らない理屈。道理に合わない理屈。どのへんが筋が通ってない?道理にあってないか?筋が通ってないなら筋が通った反論をしてこい。道理に合わないなら道理にあった反論をしろ。それをせずに言い放つ屁理屈って言葉は、論破されたやつの負け惜しみ、誹謗中傷でしかない」

「ぐっ…」

「もう少し頭も鍛えたほうがいいぞ脳筋」

 

 なお詭弁と言われたら何も反論はできない。だって言いくるめ目的だし。日本語は正しく使いましょう。

 

「まぁ今はそんなことはどうでもいいんだ、重要なことじゃない。俺が聞きたいのは、この先も頭勇者(笑)な馬鹿之河についていくのか?ってことだ」

「それは…」

「恐らく敵認定されて抜けることになる俺からの最後のアドバイスだが、旗印にするのはともかく、舵取りは別のやつがやったほうがいいぞ。こいつは多分、自分が命の危機に瀕しても、敵対した魔人族を殺すことに躊躇する。戦うことを選ぶなら、そういうときに躊躇わずに敵を、人を殺す覚悟を持った、そんなやつが指揮を取るべきだと思うしな」

「…」

「まぁ、今すぐそんな覚悟をもてと言われても無理だろうけどな。そのあたりはメルドさん。こいつらの命もかかってるので、教育しっかりお願いしますよ?」

「え、あ、ああ、そこは任せろ。そのうち偶然を装い盗賊でもけしかけようと思ってたんだが…」

「伸ばし伸ばしにせず、偶然を装わず、死刑囚なり何なりを使ってすぐにでも実行することをおすすめしますよ」

「…そうだな、わかった」

 

 原作では伸ばし伸ばしにしてきた殺人訓練、これだけ言えばすぐさま実行されるだろう。

 

「あ、そうそう。前線で戦いたくないやつは、愛ちゃん先生の護衛でもしたらどうだ?」

「愛ちゃん先生の?」

「おう。先生の天職は、ぶっちゃけた話勇者よりよほど重要だ。食糧問題ってのは戦争ではでかいファクターだからな。俺が魔人族なら確実にそこを狙いに行く。その辺りを指摘すれば、戦いから逃げた勇者の使徒、みたいなレッテルはられることもないだろうよ、多分きっと恐らくメイビー」

 

 これで愛ちゃん親衛隊フラグも立ったとは思うが。

 

「う、うぅ…」

 

 お、気絶していた馬鹿之河が起きたみたいだな。

 

「う、お、俺は…?」

「よう馬鹿之河、目は覚めたか?」

「…!蔵兎咲ぁぁぁぁぁ!!!」

 

 俺が声をかけた瞬間、馬鹿之河は聖剣を構え、こっちに突っ込んできた。マジかよコイツ。

 

「くらえぇぇぇぇっ!!」

 

 そのまま馬鹿之河は、聖剣を俺の腹に突き刺してきやがった。流石に全体重を乗せた刺突を弾けるほどの防御力は俺にはなかったらしい。クリティカルヒットってところか。

 流石に腹を貫かれて生きてられるほど俺も人間やめてはいない。段々と意識が遠のいて…ああ、俺はここで死ぬのか…短い…人生だった…

 

 

 

 

 

 なんてな。

 意識が完全にブラック・アウトした次の瞬間、俺の体が発光(後で聞いた話だが)して、意識が急浮上した。目の前では、坂上と永山に取り押さえられた馬鹿之河が暴れている。

 

「離せ二人共!俺はコイツを倒さないといけないんだ!」

「馬鹿野郎!不意打ちで斬りかかるやつがあるか!」

「腹をぶち抜かれたんだぞ!もう死んでるに決まってる!」

「俺は人を殺しはしない!!」

「今目の前で殺しただろうが!!」

「蔵兎咲は人じゃない!」

「お前本当に何いってんだ!」

「本当だよ、言うに事欠いて俺は人じゃないだって?」

 

 コイツ完全に錯乱してるなおい。

 

「え、蔵兎咲!?」

「お前、生きて…」

「いや、死んだよ。間違いなく」

「じゃあなんで生きて…」

「リレイズ。掛けた相手が戦闘不能、ないしは死亡したときに、一度だけ復活する魔法だ。念の為掛けといて正解だった」

 

 一応ちゃんと蘇生するか1階層のラットマンで実験してある。まさか首チョンパから蘇生するとまでは思わなかったが。

 

「死者…蘇生…?」

 

 メルドさんが呆然としてつぶやく。

 

「とりあえず、だ。どうやら俺は殺される程に勇者様から敵視されてるらしいからな。前線も後方もないよな。俺はここでお前らと別れる。お互い、死ななきゃいいな?」

「待て!逃がすか!お前はここで倒す!」

「囀るな雑魚が。不意打ちで腹をぶち抜いたからって調子に乗るなよ?」

 

 ぶっちゃけわざと食らった。こいつの認識を知るためにもな。俺を人として殺すつもりで、殺した自覚があるなら命張った甲斐も出るとは思ったが、どうも無駄死にだったっぽいな。こっそり源氏の鎧外した意味はなかったか…まぁ、本人の認識がどうあれ、奴は俺を殺したのには間違いない。童貞卒業おめでとう、だ。

 

「というか檜山、お前いつまで土下座決め込んでんだよ!」

「ん?そのクズなら死んでるぞ?」

「は?」

 

 俺はクズの体を蹴り転がす。白目をむいて息をしていない。完全に死体だった。こいつが今まで静かだったのはこのせい(おかげ?)だ。俺も童貞卒業おめでとう、だな。思ったよりなんともないのはなんでだろうか…蘇生手段があるせいでゲーム脳にでもなってるか?ちょっとまずいかもしれないな…

 

「なっ!」

「いつの間に…」

「貴様!人を、仲間を殺すなんて何を考えてるんだ!」

「いやお前、さっき俺の腹に聖剣ぶち込んでたし、俺は敵なんだろ?」

「うるさい!俺はお前を許さない!!」

「まぁ、お前はどうでもいいんだよ。メルドさん、死亡確認を」

 

 俺の言葉に檜山の死体を調べはじめるメルドさん。

 

「間違いなく死んでいる…外傷もないし、毒か何かか?」

「即死呪文の一つ、死の宣告。一定時間後の死が約束される。解除する方法は術者を倒すか、解呪系、かな?」

「それで、お前は一体何を…」

「まぁ見ててくださいな。レイズ」

 

 俺の魔法によって、檜山の体が光り、その光が消えて…

 

「うぅ…お、俺は…?」

「い、生き返った!?」

「マジで!?」

「本物の魔法…」

「これは…」

 

 檜山が立ち上がり、周りがざわめく。さっきまで暴れていた馬鹿之河も流石に呆然としている。

 

「まぁ、デモンストレーションですけどね。メルドさん、いや、メルド()()

「…なんだ?」

「勇者が敵対した俺のこと、ちゃんと国に伝えてくださいね?」

「お前は…一体…」

「すいませんね、()()()()()のことは信頼してるんですけど、()()()()()は信頼してないんですよ」

「…国か」

「いいえ、この世界です」

「そうか…」

「じゃあ、俺達は行きます。みんなのこと、頼みましたよ?」

「わかった…お前達も、生きてくれ」

「言われなくても。ヘイスガ!インビア!」

 

 皆が呆然としている間(こいつらいつも呆然としてるな)にメルドさんとの会話を終わらせ、俺達四人は文字通り姿を消し、クラスメイト達の前から去った。俺達がいない時の皆のフォローは頼んだぜ、トシ、恵理!!




檜山は二度死ぬ(ネタバレ)

さぁて、蘇生魔法の使い手と敵対したと国が知った時、勇者の扱いはどうなることやら?(ゲス顔)

ちなみに勇者の剣が普通に刺さった理由ですが、前回通らなかったのは源氏の鎧を装備していたからですね。外見が変わらない理由?第四話参照です。前回死ぬ予定だったのは、死者蘇生手段を認識させるため。割と重要だと思ったので、今回無理くりねじ込みました。ちょっと強引だったかもしれない。
なお当初の予定では檜山はホールドで麻痺、現実ってことで心臓も麻痺で死亡、わざとじゃないと謝るも勇者は許さない。なぜ檜山は許して俺は許さない?という舌戦に持ち込む予定でした。が、ノリで完全敵対ルートに進んでしまったので、死の宣告でお亡くなりになってもらいました。ノリで殺される男、檜山。

FFシリーズ簡単解説

・リレイズ
戦闘不能時にオートでレイズがかかる。リレイズが出た頃は死亡と戦闘不能が明確に差別化されているが…

・レイズ
戦闘不能を復帰させる。FF1~3の頃はDQ等と同じで戦闘不能=死亡だったので、この作品では死者蘇生も可能。故にリレイズで死亡者も蘇る

・死の宣告(FFⅤ)
青魔法の一つ。30カウント後(秒ではない)の死が約束される。檜山が土下座の体勢になった後こっそり掛けていた。つまり清水君と恵里ちゃんの舌戦の最序盤に密やかにお亡くなりになっている

・ヘイスガ
味方全体をヘイスト状態にする…ヘイストの解説してなかった。速くなります、以上


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第十話 オルクスへ再突入!~ラスダンを最初に攻略ってどうなんだ?~

原作知識がある=真オルクスがラスダンだと知ってる
普通に考えて現段階で突入する意味ないよなぁ…ユエのこと考えても、150層で回収、テレポ安定だろうしなぁ…

なんとかこねくり回して攻略させるか…


~蔵兎座跋~

 

 インビアで姿を消し、ヘイスガで素早く行動、少し離れた、他人がいない場所で魔法を解除。一息ついたところで俺は切り出した。

 

「さて、クラスから離れた…いっそ離反したわけだが、これからどうするよ?」

 

 という俺の問いに…

 

「「「え、オルクス攻略目指すんじゃないの?」」」」

 

 三人揃ってそう聞き返してくる。まぁ、軽くしか説明してないし、そう思うのも無理はないわなぁ…

 

「いやまぁ、『原作』じゃ『南雲ハジメ』に脱出する手段がなかったから、真オルクス攻略する以外の選択肢がなかったわけだけど、ぶっちゃけ、真オルクスのコンセプトって、ラスダンなんだよな」

「ラスダン?」

 

 ハジメが聞き返してくる。

 

「そ、ラスダン。オルクスの百層以降は、引き返せない、いろんな魔物が生息している、その強さも世界でトップクラス、加えてロクに食料もない、安全地帯もない、と、まるで対応力を測るような作りになってるんだよ。事実、コンセプトとしては、これまでの経験を活かして総仕上げをする場所、だったはず」

 

 俺の説明に、難しい顔をする三人。やっぱりいきなりラスダン突入は怖いよなぁ。と思っていると…

 

「…でも、確か百五十層に封印された女の子がいるんじゃなかったっけ?」

「ええ、確かにそう聞いたわね」

「ここでオルクス以外に行くってことは、その子は見捨てるのかな?」

 

 なんと、三人が悩んでたのは原作メインヒロインの女の子(この世界じゃまだ名前が決まってないのであえてぼかしてある)のことを考えていたらしい。さすが三人ともお人好しだ。

 

「ああ、そうだな、それもあってどうするか聞いたわけなんだが」

「どういう事?幾つか選択肢があるの?」

 

 雫が問いかけてくる。ふむ。

 

「そうだな、ちょいと選択肢の説明するか。

 先ずは選択肢その1。『原作』通りまずは真オルクスを攻略する。メリットとしては、多分めちゃくちゃ強くなれるし、ハジメの錬成が超強化される。いろんなアーティファクトが作れるようになる…けど、俺のアイテムがあるからこれはメリットとしては薄いか?デメリットとしては、腐ってもいない正真正銘のラスダンだ。いつ死んでもおかしくない」

「ふむふむ、僕としては足手まといは嫌だし、錬成の強化は嬉しいかな?」

「ハジメくんは別に足手まといじゃないよ?」

「うん、ありがとう香織さん」

「スキあらばいちゃつくなお前ら。俺らもいちゃつくか雫?おっとセイセイセイ、真っ赤な顔で剣を振り上げるな俺が悪かった。(ボソッ)これもある意味イチャつきだけどな。

 まぁ気を取り直して、選択肢その2。オルクスのコンセプトまるっとシカトして、女の子回収して地上に戻る。普通は不可能だが、俺はテレポが使えるからな。脱出も容易だ。メリットとしては、仲間が増える、が、真実を知らないためモチベが怪しくなる。デメリットは選択肢1と同じだ。これを選ぶぐらいなら正直そのまま攻略してしまったほうがいいとは思う」

「そうね、二百層の四分の三降りたなら普通はそのまま攻略が正解よね」

「んで、選択肢その3が、真オルクスのコンセプト通りラスダンとして扱う。ないしはある程度他を回ってから戻ってくる。メリットとしては死亡率が下がる…かな?デメリットとしては、各地のイベントに対応しづらくなるかな。あと女の子もしばらく放置することになるな。…あえて冷たい言い方するなら、これまで数百年封印されてたんだし、数ヶ月くらい誤差だとは思うし、『原作』のように封印されてる保証がないってのもある」

「別にそんなあえてひどい言い方しなくても、私達が心配だってのはわかってるから大丈夫だよ?」

「べ、別にあんたたちが心配なわけじゃないんだからねっ!」

「バツ、キモい」

「キモいわね」

「えっと、ちょっと気持ち悪いかな?」

「うっせぇよ畜生。

 まぁ、選択肢としてはこの3つか?一応第4の選択肢として、何食わぬ顔でみんなと再合流って選択肢もあるぞ?さっきの俺らは偽物だった的なゴリ押しで」

「ないね」

「ないわね」

「ないかなぁ」

「ないよなそりゃ。さて、そんじゃお前らでどうするか決めてくれ。俺はどれでもいいぞ」

 

 俺がそう言うと、三人は顔を見合わせて頷き、俺の方を見て迷わずこう答えた。

 

「「「1で」」」

「だよなぁ、お前らがヒロインちゃん見捨てるわけないしなぁ…香織さんよ、ハジメ寝取られるかもしれないけどいいのか?」

「大丈夫だよ、私負ける気ないし。それに、跋くんに行く可能性もあるよね?」

「まぁ、そうなっても私も負ける気ないからいいけどね。話を聞く限りいい子そうだし、絆されてシェアって未来もあるかもしれないけど…」

「あ、それはありそう。なんだかんだ、『原作』でも『二次創作』でもハーレムオチが多かったんだよね?」

「オチ言うなし。まぁお前らがいいなら俺は構わんが。なんだったら向こうに帰ったら日本国籍捨ててアフリカ国籍取るくらいの覚悟はあるぞ」

「…僕の意見は?」

 

 はっはっは、こういう話のときに、迎合する以外の野郎の意見が採用されるわけ無いだろ。女は強いんだぞ?

 などと雑談をかわしながら、俺達は町の外へと歩いていく。今日は町の外の適当なところで野宿だ。宿屋?あいつらに鉢合わせるだろ、却下だ。

 

 町の外に出て、少し街から離れたところまでやってきた。街道からも離れた林の中だ。

 

「うーし、んじゃ今日はここで休むかー」

「はぁ、これからはこういうことが増えるだろうとは言え、野宿は辛いわね…」

「仕方がないよ雫さん、少しでも慣れないと」

「んー?普通の野宿なんてしないぞー?」

「え、どういうことかな?」

 

 香織の疑問の声を聞いて、俺は笑いながらアイテムボックスを操作し、あるアイテムを取り出す。

 

「なにそれ、小さい…小屋?」

「そんな玩具出して何する気よ?」

「まぁ見てな…ちょっと離れてろ」

 

 全員を下がらせ、地面に小屋の置物を置き、俺も少し下がった。すると…

 

「!?」

「小屋が…」

「大きくなってる!」

 

 なんと、小さい小屋の模型が大きくなり、人が入れるサイズの普通の小屋になった。

 

「回復アイテム、コテージだ。一晩泊まってHP、MPを回復する、小さな魔法の小屋、って設定だな。まぁこのとおり、普通に小屋として使えるから、野宿には最適だろ」

 

 テント?いえ、知らない子ですね…

 実はなにげに内装は俺の想像通りになるとかいう謎仕様のおかげで、バスルーム完備なコテージに、女性二人が大はしゃぎしていた。そうやって、一晩が経ち…

 

「…」

「…」

「お、おはよう」

「ご、ごめんね?ちょっとはしゃぎすぎちゃった…」

 

 げっそりした俺とハジメ、逆につやつやした雫と香織…まぁ、何があったかはご想像におまかせする。ちなみに俺と雫、ハジメと香織が恋人同士、俺ら四人は割と遠慮のない関係、とだけ言っておこう。雫と香織が恋人のシェア、ハーレム状態に寛容なのもヒントかもな、ハハッ…

 

「よーし、んじゃ早速出発するか。準備はいいかー?」

「オーケー」

「大丈夫よ」

「ねぇ、このコテージ?はどうするのかな?」

「心配すんな、出ればわかる」

 

 そう言って、俺達は外に出ていく。と…

 

「あれ?コテージが消えてる?」

「使い捨てなんだよなこれ。しかし消滅するとは思ってなかったが」

「これ、忘れ物したらどうなるのかしら?」

「試してみたんだが、その場に落ちてたな。持ち込んだものは消えないらしい。ただし、ゴミ箱に入れてたゴミはなぜか一緒に消えてたな」

 

 ご都合主義バンザイ。

 

 

 

 

 そして、例のごとくインビアで姿を消し、街とダンジョン両方の入り口のチェックをスルーして、俺達は再び、オルクス迷宮へと足を踏み入れたのだった。

 もはやクラスメイトたちもおらず、隠す必要もないので、ハジメ達三人にもジョブチェンジをさせ、武器も普通に取り出して使用している。

 ちなみに各自のジョブは、ハジメが機工士、雫が侍、香織が賢者である。…導師じゃないのか。いやゲームと違って姿は変わらないんだが。

 装備してる武器は、ハジメがエクゼター、雫が陸奥守、香織がグローランス…待って。槍装備できる賢者って何?それ賢者は賢者でもセージって表記するほうじゃない?しかもFFシリーズじゃなくない?

 そう思った俺は、試しにハジメに斧、雫に竪琴をもたせてみたところ、問題なく装備できた。あ、これジョブによる装備制限撤廃されてるわ。こりゃいいことに気がついた。サンキュー香織。

 

 まぁ、新たな発見があってわちゃわちゃもしたが、もう一つ発見もあった。なんと、FFジョブに就いていると、敵を倒してレベルアップというゲーム方式レベルアップ法が採用されるようだ。しかもすっぴん(トータスの天職)に戻っても上がった能力などが反映されるっぽい。おまけに能力の上がり幅が勇者(笑)以上だこれ。これなら魔物肉法使わなくても十分チート能力値に至れそうだな。

 おまけに、どうも分配方式採用らしく、ハジメ達が倒しても、俺一人で無双しても、レベルの上がり方に違いがないっぽい。これなら真オルクスで俺が無双してパワーレベリング、って手も使えそうだな。時々戦闘してもらって上がった身体能力に慣れて貰う必要もありそうだが。

 

 そうこうしてるうちに、俺達は例のトラップがある二十階層に到着した。

 

「さて、どうするよ?」

「何が?」

「トラップ起動してショートカットか、地道に攻略か」

「地道に行きましょ、焦る理由もないわ」

「そうだね、焦って失敗したら元も子もないかな?」

「おし、じゃスルーして下に降りるか」

 

 ショートカットはせずにそのまま下を目指す。結局この日は、三十階層まで降りて休息を取ることにした。

 

「流石にここではコテージは無理だな…見張りもいるし」

「そうね、どう分ける?」

「最初の二時間がバツと雫さん、次の二時間が僕とバツ、最後の二時間が僕と香織さんの六時間休息、でどう?」

「それ、私達は四時間眠れるけど、貴方達は二時間しか眠れないじゃない」

「まぁ俺とハジメは徹夜も慣れてるからなぁ…それにほれ、こんなアイテムもある」

 

 俺は寝袋を取り出して見せる。本来セーブポイントでしか使えないが、ここは現実だ。セーブもへったくれもない。

 

「せめて貴方達二人の時間を一時間にしなさい。私達も三時間睡眠で我慢できるから。だいたい香織のせいで」

「ちょ、ひどいよ雫ちゃん。私がなにしたっていうのかな?」

「ちょくちょく深夜まで長電話して、私の睡眠時間を削ってくれたのはどこの誰かしら?」

「うっ…」

 

 女子二人がそんな漫才をしつつ、五時間の休息を取ることにし、最初にハジメと香織が寝袋に潜り込んだ。

 二人の寝息が聞こえ始め、30分くらい立った頃、不意に雫がこちらに話しかけてきた。

 

「ねぇ、バツ…」

「ん、どうした?」

 

 

「あなた、まだ私のこと、好き?」




というわけで、まぁ三人の良心任せに、名称未定のメインヒロインちゃん回収のために真オルクスへ、四分の三攻略したなら最後まで行こうぜ、的なノリでクリアを目指すことに。ついでにパワーレベリングもやります。仮に死んだとしてもレイズもフェニ尾もありますし。
ちなみに攻略はガンガンカットしていきますのであしからず。


やべぇ、完全オリジナル夜会話とかできる気がしねぇぞ…次回投稿がなかったら、夜会話に悩んで遅刻したと思っといてください。

FF簡単解説
・コテージ
フィールドやセーブポイントで使用できるアイテム。HPやMP、作品によっては様々な状態異常も回復する。設定上は作中であるように、使用すると大きくなる魔法の小屋、らしい。使い捨てってことは多分使用後には消えるんだと思います。

・機工士
FFTやFFⅫ、FFⅩⅣなどに出てくる職業。銃を扱ったりできる。

・侍
色んな作品に出てくる職業。刀の扱いに長けている。

・賢者
最も有名なのはFFⅢ、というかナンバリングで賢者があるのはⅢとⅫだけだったりする。一応Ⅳのテラの肩書も賢者。白黒魔法のエキスパート。合体召喚は…FCならつよいよ(震え声)

・導師
猫耳フードの香織ちゃん見てみたい。見てみたくない?

・エクゼター
Ⅷのアーヴァインの最強装備。

・陸奥守
リメイクⅤの隠しダンジョンにある追加武器の刀。

・グローランス
Ⅵの専用装備を除く槍の最強武器。

・寝袋
フィールドやセーブポイントで使用できるアイテム。コテージの下位互換だったり簡易エリクサーだったりするアイテム。

・槍装備できる賢者(セージ)
グラブルのセージは得意武器が杖・槍。しかも別に賢者(得意武器杖・杖)も存在している。なぜ分けたし。

・ここは現実だ、セーブもへったくれもない。
どこぞの宿屋の店主「セーブしますか?(大量の豆を用意しつつ)」


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第十一話 ダイジェスト攻略~真オルクスの敵とオメガどっちが強いって言われたら…ねぇ?~

いやぁ、夜会話は強敵でしたね…


~蔵兎座跋~

 

「あなた、まだ私のこと、好き?」

 

 この言葉に、俺はかなりドキッとさせられた。前向きな意味ではない、気づかれていたのか?と言う意味で、だ。

 俺はそれを悟らせないように、極めて明るく返す。大丈夫だ、きっと大丈夫。

 

「何いってんだよ?俺がお前を嫌うなんて、そんなことはありえないぜ」

「嘘ね」

 

 ノータイムで断言された。うん、ダメでした。

 

「いえ、正確にはその言葉『には』嘘はないと思う。けれど、貴方、こっちに来てから、微妙に私のこと避けてるわよね?」

「い、いや、そんなことは…」

「あるわよ。今だって」

「ちゃんと受け答えだってしてるじゃないか、何をもって俺が雫を避けてるなんて…」

「普段の貴方なら、迷わず隣りに座って肩を抱く、くらいはするじゃない。なのに今は焚き火の対面。疑問を抱かせないためなら、せめて隣に座るべきだったわね」

 

 ぐうの音も出ない。

 

「ねぇ、私、貴方になにかしちゃったかしら?」

「…雫は悪くないよ。全ては俺の…違うな、『――――』の問題だ」

「…その名前…もしかして?」

「ああ、俺の前世の名前だよ。…まぁ、記憶が復活したせいで、今の俺にも多少は影響が出た、のかもしれないな…ほら、以前は童貞だったんで女子に近づくのがちょっと恥ずかしくてな!」

「嘘ね」

 

 またノータイムで断言だよ…

 

「なぜわかるし」

「私は貴方の彼女なのよ?そのくらいわかるわ」

「グッ、イケメン女子め…」

「だから私はメンズじゃないと何度言えば…はぁ、で?なんで微妙に私を避けてたの?」

「…」

「どんな理由があろうと、私は貴方を嫌うことはないわ。それとも、私が信じられないかしら?」

「どっちかと言うと、俺自身が情けなくて隠してたんだけどな」

 

 俺は苦笑しながら両手を挙げる。降参だ、降参。情けないけど、いっそぶちまけたほうが俺も楽になれるかもしれん。

 

「まぁ、ものすごーく簡単な理由なんだけどな。前世の俺は、八重樫雫、というキャラクターが苦手…いや、下手なごまかしはやめるか。ぶっちゃけ嫌っていた」

「っ…私とその八重樫雫は別人だし、貴方も前世の貴方と違う、とわかっていても、やっぱりショックよね」

「そう思って、隠してきたんだけどな…やっぱ無意識に表に出るか…まぁあれだ、物語の中では、八重樫雫は本当に最後の最後まで天之河光輝を見捨てなかったんだよな」

「そうなの?」

「おう、ついでに『南雲ハジメ』に恋して、最終的にハーレムインしてたな。ちなみに途中まで、『白崎香織』に悪いって理由で気持ちに蓋をしてた」

「うーん…前までの私だったら普通にそういう事しそうね」

「まぁ、あくまでも前世の俺の所感であり、俺の考えじゃないんだけどな…お前もっと早く天之河を見捨てたほうが、あいつが成長するきっかけになってたんじゃないのか?とか、結局友情より男かよ?とか、そういう風に考えててな、八重樫雫ってキャラはどっちかというと嫌いなキャラだったんだよな…」

「それは…私も八重樫雫だから、彼女の気持ちもわかるわね…だって、跋がいなかったてことは…」

「そう、天之河光輝が八重樫雫の『王子様』候補だったんだよな。しかも高校時点で八重樫道場所属、かつ大会優勝常連」

「それは見捨てないわね…」

 

 実は現時点で、馬鹿之河は八重樫道場から破門されている。小学校の頃に所属していた俺のせいで、大会優勝みたいな記録がなかった上に、注意しても全く直らない問題行動が多かったせいで、中学進学と同時に破門されている。もちろん他の道場でもそんな問題児預かるはずもなく。この世界でのあいつの剣道の戦績は、中学一年の頃に別道場を破門される前に取った全国大会優勝だけである。俺はその大会出てなかったからな、というか、引っ越しと転校でそんな余裕がなかった。

 そして雫も原作ほど馬鹿之河のフォローはしていないらしい。それでも馬鹿之河は全く変わらなかった。つまり雫が見捨てようが見捨てるまいがあいつは変わらないってことであり、結果的に前世の俺の考えは的外れだったてことになる。なのにそこまで嫌われてないって、あいつのカリスマランクいくつだよ…洗脳レベルじゃねぇか。

 原作と違って、高校時点ですでに見限る検討をしてたのはそういうことだ。そして、ベヒモスへの対応とその後のアホな行動で完全に見限った、と。この雫は馬鹿之河の保護者やってないからな。

 香織とのこと?最大6人でくんずほぐれつを受け入れるってことは、原作雫にもそういう素養があったってことじゃないか?(風評被害)

 

「まぁ、そういう事があって、前世の記憶を思い出した俺は、すこしアタマがごっちゃになっててな。すまんが、俺自身はお前が好きだってことに変わりはない。整理がつくまではまだ無意識に避けることもあるかもしれないが…」

「…で、貴方は私がそれで納得すると思ってる?」

「納得するも何も、他に理由はないぞ?」

「…そっちじゃないわよ、バカ」

 

 そう言って立ち上がり、こちらに回り込んでくる雫。さすがに火くらい焚いてるぞ。

 そして俺の隣に…座らない?正面?えっ何を…

 

 

 

~キンクリ~

 

 

 

「…跋」

「…俺は悪くねぇ、俺は悪くねぇ…ッ!」

 

 俺は雫を愛してる。それをしっかり頭と体に刻みつけられた。前世の記憶?知ったことか。必要な知識だけよこせ、余計な感情なんていらん。俺は俺だ、蔵兎座跋だ。蔵兎座跋で充分だ。

 なお代償として一時間ハジメにジト目で睨まれました。心なしか俺の呼び方がカタカナじゃなくて漢字っぽい。なお香織はぐっすり寝てます。

 

 

 

 一時間後、香織と見張りを交代して、俺は二時間ぐっすり…眠れなかった。

 

「…ハジメ」

「…僕は悪くない。なぜなら、僕は悪くないから」

「あははは、ご、ごめんなさい」

「…うん、私達で見張りしてるから、一時間だけでも寝たら?」

 

 お言葉に甘えて、ハジメと二人、寝袋に潜り込んで仮眠を取り、一時間後に攻略を再開した。結局六時間の休憩になったな。

 

 検証はほぼ済んでいるため、ここからはサクサク攻略だ。地図を表示するサイトロの魔法を駆使して、最短で百階層まで潜ってきた。道中の敵も適当にぶっ飛ばしてきたからハジメたちも結構育ってきている。幾つかの職もマスターして、色々アビリティも手に入れた。ただし、どうもステータスプレートには反映されないようで、ハジメのステータスプレートの技能欄なんかはシンプルなままだ。

 あん?六十五層のベヒモス?イベントボスフラグが消えたあんな雑魚鎧袖一触だ。百層のボスもさっくり撃破した。なお三ツ首の竜だった。キングギドラかなんかか?こいつ確か原作には出ていないんだよなぁ…

 明日からは真オルクス攻略開始、というわけで、真オルクスへの転移陣と思われる魔方陣がある部屋で、テントを使い休んだ。うん、休んだぞ?俺とハジメがちょっぴりげっそりしてるけどちゃんと休んだぞ?疲れは取れてるからヨシ!

 

「さて、これから真オルクスだ。正直百一層から割と敵がぶっ壊れてるからな。気をつけろよ?」

 

 三人にそう声をかけ、俺達は真オルクスへと足を踏み入れた。

 

 

~キン☆クリ~

 

 

 結論から言おう。ヌルかった。

 蹴り兎、二尾狼、爪熊。普通に正面から殴り倒せた。ハジメの左腕が爪熊にふっとばされたりもしたが、レイズで首チョンパから復活する世界の魔法だ。ケアルガどころかケアルで欠損が治った。

 バジリスク。俺達は全員リボンを装備している。石化なんざ効きはしない。普通にフルボッコだ。

 タールザメ。確かに気配がないのは厄介だった。が、この階層の全面にあるフラム鉱石の融解温度は50℃だ。氷系の呪文でちょっと下げてやるだけで凝固する。タールザメもまとめて固めてやったら地面の下で窒息したらしい。

 毒階層。リボン装備に毒は効果ない。地形効果の方は防げなかったが、まぁ毒消しもポイゾナもあるんだ。ちょくちょく回復しながらさっさと攻略した。

 密林階層。ムカデは普通にボコって、原作ハジメや数多のオリ主がやったように、トレントを狩り尽くして大量の赤い果実を回収した。

 原作で描写のなかった他の階層もそこまで苦戦せずに、サクサクと百五十層までやってこれた。なんだろう、真オルクスの敵は裏ダン並みだと思ってたんだが…いや、カンストキャラなら裏ダンでも普通に戦えるか。

 ちなみに一応神結晶も回収済みだが…神水使わないんだよなぁ…まぁ一応何かに使えるだろうということで、アイテムボックスに放り込んである。

 

 ハジメたちのパワーレベリングも順調だ。急激に上がった身体能力との乖離は、二百階層攻略後にでも調整すればいいだろう。一応ある程度は戦ってもらってはいるが。

 現在のジョブと装備は、ハジメがガンブレード使いでライオンハート装備。近接の技術も磨きたいそうだ。Ⅷやらせてみたいな。

 雫はナイト。装備は変わらず。物理無効のまもりが欲しいらしい。守ってる間は動けないぞ?

 香織は時魔道士。装備変わらず。何だ、槍気に入ったのか?時魔選んだ理由聞いたら、メテオ使いたい、と返ってきた。いや黒魔法のメテオ使えるだろう既に。なんか香織が一番原作との乖離が激しい気がするな…ハジメと正式に付き合ってるせいで、順調にエリートオタクに成長してるわこれ。

 いやまぁ、ある意味一番乖離がでかいのは、魔王化していないハジメなんだが…それは置いといて。

 

 百五十層で簡易拠点を作った俺達は、でかい門の前にいる。そう、原作ヒロインのあの子が封印されている門だ。やはりそこは原作通りなのか…だとすると、アレもあるんだろうか…アレでどうにかできればいいんだが…うーん。

 とりあえず門を開けるとするか。

 

「よしハジメ、頼んだ」

「なんで僕なのさ。バツがやってよ」

「え、バチィするのやだ」

「僕もやなんだけど」

「とはいっても、俺この世界の錬成使えないし」

「…仕方がない…」

 

 そしてハジメが扉に錬成を使い、バチィッと弾かれて、香織がすぐさまケアルダで回復する。さすがにもうケアルやケアルラじゃ回復量が足りない。

 そして、左右のサイクロプス像が動きだし…

 

「ふっ!」

「オラァっ!」

 

 雫と俺の攻撃で、頭と胴体が泣き別れになる。問答無用で銃撃された原作とどっちが悲惨だろうか?二体揃って金剛使う間もなかったこっちだろうな、うん。

 とりあえず、サイクロプスを解体して、魔石を取り出す。そして、扉のくぼみに嵌める。魔力光が溢れ出し、扉の封印が解ける。同時に周りの壁が淡く光りだしている。割と明るいな。

 これでこの扉が開いて…ん?

 

「何か、忘れてるような…」

 

 そう、何か忘れてる。なんだろう、致命的なことではなかったと思うんだが…

 考えてるうちに、三人が扉を開こうとしている。止めようかとも思ったが、致命的ではないという直感を信じてそのまま扉を開けた。

 

「…だれ?」

 

 かすれた、弱々しい声が聞こえてきた。中央にある立方体からだ。やっぱり封印されて…あっ!?

 俺は思い出した、致命的ではない、だけど割とまずいことになりそうな『それ』を。ダメだ、このまま入ってはいけない!!

 テンパった俺は、思わず声を上げていた。

 

「すみません。間違えました」




夜会話と言いながら、ぶっちゃけ過去設定暴露しただけ。
ちなみに、別に作者が雫ちゃん嫌いだってわけじゃないですよ?夜会話の内容ひねり出すための設定です。

跋の前世の名前?(考えて)ないです。


FFシリーズ簡単解説
・ケアル、ケアルラ、ケアルダ、ケアルガ
回復呪文。ケアルから順に強力になっていく。複数掛けもできる。ケアルダは存在しないシリーズも多い。FFⅤではホワイトウィンドに押され気味。

・サイトロ
地図表示魔法。本来は世界地図の表示。ダンジョンの地図表示機能はFF14。

・リボン
装飾品。いろんな状態異常を防ぐことができる。

・ガンブレード使い
ジョブ…か?

・ライオンハート
SMAPの歌…ではなく、FFⅧの主人公スコール・レオンハートの最強装備。名前は偶然の一致らしい。

・ナイト
守りに特化した物理職。

・時魔道士
時や空間に干渉する『時空魔法』を操る魔法職。

・メテオ
隕石を降らせる。黒魔法だったり時空魔法だったりする。

・俺は悪くねぇ
親善大使はお帰りください。

・僕は悪くない
裸エプロン先輩はお帰りください。


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第十二話 封印されし少女を助けよう~ついでに誤解も解いとこう~

テンパったバツ君の致命的な一言。少女は誤解している。


~封印されている少女~

 

 私が封印されてから数百年間、光を閉ざし続けてた扉が開いた。誰かが入ってきたらしい。逆光でよく見えないけど…四人、だろうか?

 彼ら?彼女ら?は、キョロキョロと部屋の中を見回す。私は、僅かな希望が生まれたことを自覚しつつ、声をかけることにした。

 

「…だれ?」

 

 数百年間出さなかった声は、掠れきっていた。それでも、彼らには聞こえたらしく、一斉にこっちを向いた。

 目が光に慣れ、四人の姿も多少見えるようになってきた。男二人に女二人らしい。彼らは驚愕した表情でこちらを見て…男が一人、慌ててる…?

 

「すみません。間違えました」

 

 慌てていた方の男がそう言って、扉を閉めようとする。

 まって!ここで彼らに行かれてしまったら…私は必死に言葉を絞り出した。

 

「ま、まって…!…お願い、助けて…」

「え、あ、はい…」

「すいません、少々お待ち下さい」

 

 もう一人の男が私の言葉に肯定をするが、最初に言葉を発した男のほうは気にせずに扉を閉めようとする。少々お待ち下さいって、次は何百年待てばいいの!?

 

「い、いや…もう、何百年も…もう、一人はやだ…お願い、何でもするから…だから…」

 

 私の言葉が聞こえてないかのように閉まりゆく扉。他の三人も男を説得してるようだが、一貫して、いいからちょっとまっててくれとしか返さない男。

 

「待って、お願い…私は何も…私は…」

 

 もうわずかしか開いていない扉。私は今出せる全力の声で訴えかけた。

 

「裏切られただけ!!」

 

 …扉は、止まらなかった。

 

 一度抱いた希望があっさり消えた。再び真の暗闇に閉ざされた部屋の中で、私の心に絶望が広がっていく。もう、諦めよう。私はここで、朽ち果てるだけ…もう魔力も底をつきかけてる。この魔力がなくなった時、ようやく私は死ねる…

 そう、諦めかけたその時、再び扉が開いていく。先程閉じてから十分も経っていない。…本当に、少々お待ち下さい、だったの?

 扉を開いて入ってくるのは、さっきの四人。男二人が、女二人に手を引かれる格好で入って…あれ?男達の顔に、さっきはなかったものが…あれは…

 

 目隠し?

 

 

 

~蔵兎座跋~

 

 目の前で扉が閉じる。見捨てられると思ったのか、封印少女は悲痛な叫びを上げていた。少々お待ち下さいって言ったじゃないか…いや、一言目の間違えましたが原因か。助けた後謝ろう。

 

「ちょっとバツ、なんで助けないの!」

「そうだよ、彼女を助けるためにここまで来たんだろ?」

「慌てるな、ちょっと思い出したことがあったからな。とりあえずハジメはこれつけろ」

 

 目隠しを二つ取り出し、ハジメに手渡す。…なんで俺が目隠しをもっているのか?

FF14のヘッドバンテージだよ。

 

「なにこれ?」

「ヘッドバンテージって装備だ。端的に言えば目隠しだな」

「なんで目隠しなんて…」

「まぁ、したくないなら構わんが…あの子全裸だぞ?」

「今すぐその目隠しをしなさい」

「なんなら私達がつけてあげる」

「「アッハイ」」

 

 俺が一旦引いて、目隠しを取り出した理由を聞いた女子二人が、ぱぱっと俺達に目隠しをする。

 そしてそのまま、二人に誘導されながら、再び扉を開け、部屋の中に入る。そのまま中央付近に進んでいるようだ。

 封印の解き方は事前に伝えてある。まぁ、ハジメくん、錬成で頑張れ!である。

 そのまま待機していると、しばらくバチバチ言う音がして、静かになり、衣擦れの音がして…

 

「二人とも、いいわよ」

 

 雫の声でヘッドバンテージを外す俺とハジメ。目の前には黒のローブを身に着け、呆然としている少女…いやまぁ、実年齢は知ってるが…見た目少女がいた。

 

「…なん…で…?」

 

 彼女がボソリとつぶやく。なんで、ねぇ?

 

「それは、どれに対しての、なんで?かね」

「…全部」

「ふむ?ここにいる理由、助けた理由、くらいしか思い浮かばないぞ」

「一度…見捨てようとしたのに、戻ってきた理由…」

「そもそも見捨てようと思ってなかったからな。ああそうだ、ちょっとテンパってたせいで間違えましたとか言っちまってたな。誤解させて悪かった、すまん」

「そうよ、私達まで誤解したんだからね?」

「一瞬、せっかく来たのに見捨てるのかと思っちゃったよ…」

 

 俺の謝罪に雫と香織もぷりぷり怒ってる。ハジメは俺の気持ちもわかるのか複雑な表情だ。

 

「…誤解…じゃあ、目隠しの理由は…」

「お前さんが全裸なのを思い出したからな。野郎に裸見られたかないだろ。そのために一度引いて、目隠しして戻ってきたんだよ」

「…えっち」

 

 彼女がジト目でこっちを睨む。ちょっと頬が赤い気がする。

 

「いやまて流石に理不尽だろ」

「そういえばなんで全裸って知ってたのかしら?」

 

 雫がニヤニヤしながらこっちに問いかけてくる。原作知識だよ馬鹿野郎。

 

「やっぱり…えっち…」

 

 ちくしょう理不尽だ。この怒りは八つ当たりするまで晴れることはない!

 

「っつー訳で食らっとけ!身の盾なるは心の盾とならざるなり!油断大敵! 強甲破点突き!」

 

 上から降ってきたサソリモドキに強甲破点突きをぶちかます。これは胴装備、鎧などを破壊する技だ。つまり…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ハジメ!」

「錬成!!」

 

 続けてハジメが落下地点に岩石の錐を作り出す。するとどうなるか…

 

「ギィヤァァァァァァァ!?!?!?!?」

 

 まぁ、刺さる。哀れ、中ボスサソリモドキ君。毒液も針飛ばしもしないまま、出オチ気味に瞬殺される。ぶっちゃけ、原作知識プラスチート持ちで苦戦する相手ではない。

 少女はぽかんとしている。何が起こったかわかってないようだ。雫と香織は苦笑している。まぁ、少女の出番を奪ったに等しいからな…だがタネを知ってるのにわざわざ苦戦してやる気はない。

 

「さって、んじゃ移動して事情聞こうかな?彼女はこんなところに居たくないだろうしな。俺はこのサソリモドキをどうにかしてから行くから、先に拠点に戻っておいてくれ」

「了解、早く来なさいよ?」

「おう」

 

 少女に肩を貸して歩いていく雫と、反対側で少女を支える香織。後ろから警戒しつつ付いて行くハジメ。ハジメも成長したなぁ。

 

「さて…と」

 

俺は少女が封印された石があった場所を見た。うまくいくといいんだけどな…

 

 

~キンクリ~

 

 

 俺が拠点に戻るとちょうど少女が身の上話を終わらせたところだったらしい。香織が少女の頭をなでている。雫も「よく頑張ったわね」と少し涙ぐんでいる。ハジメが頭を抑えてるのは…多分300歳云々を口に出して、雫あたりに殴られたんだな。

 

「お~う、戻ったぞ」

「あら、おかえりなさい」

「ん…そういえば、名前、なに?」

「あぁ?お前ら、自己紹介してなかったのか?」

「そういえば忘れてたわね。私は雫。八重樫 雫よ。雫でいいわ」

「私は白崎 香織だよ、よろしくね」

「僕は南雲 ハジメ。よろしく」

「俺は跋。蔵兎座 跋だ」

 

 自己紹介を終えると、少女は刻み込むように俺達の名を呟いている。…気のせいか、ハジメの名前がいちばん大切そうだな。香織もそれに気づいたのか、少し笑顔がひきつってるようにも見えるな。フラグ乙、頑張れ香織。雫は少し安堵の表情を浮かべてるな。俺に来なかったからか。ハジメ?全く気づいてないよこの鈍感野郎は。

 

「…名前、つけて」

「ん?なんで?」

「前の名前、忘れちゃったのかな?」

「もう、前の名前はいらない…ハジ…皆のつけた名前がいい」

「そうはいっても…ん?今僕名指しかけた?」

 

 おおっと、出すならここかな。

 

「ちょいまちお姫様。その前にこれをプレゼントだ」

「…え?バツ、さっきいなかったのになんで…これは?」

「まぁ、使ってみな」

「ん…」

 

 俺は封印部屋で見つけたアーティファクト…彼女の叔父の残した記録用アーティファクトを彼女に手渡した。

 彼女がそれを使用すると、彼女の叔父らしき人物の姿が映された。

 

「おじ…さま…?」

 

 

~詳しくは原作を読んでね(手抜き)~

 

 

 彼女…いや、アレーティアは記録用アーティファクトを胸に抱いて号泣している。しばらくそっとしておこうという事で、ハジメだけを残してこっそり三人でその場を離れた。なお香織はフグみたいに膨れている。

 

「バツくん、フラグ強化なんてひどいかな?」

「はっはっは、シェア覚悟してたんじゃなかったのか?」

「そんなことより、アレどうしたのよ?メッセージの内容的に、他の大迷宮をクリアしていないと手に入らないものなんじゃないの?」

 

 雫が入手方法を聞いてくる。

 

「まぁ、俺もうまくいくとは思ってなかったんだけどな…これを使った」

 

 そう言って俺が取り出したのは一本の鍵。魔法の鍵と言われる、使い捨てのアイテムだ。

 鍵がかかった扉なら、特殊なもの以外全てを開けることのできる鍵であり、正直迷宮の証で封印されているギミックには使えないかな、と思っていたが…この世界の神代の魔法より、FFシリーズの魔法のほうが上だったらしい。

 というような答えを簡潔に二人に伝える。

 

「ふーん、じゃあバツがあの子の名前を教えてくれなかったのも…」

「もし、これがうまくいって、この時点で彼女が叔父の真意を知ったなら、名前を捨てない可能性もあるかな、と思ってな。実際幾つかの二次創作では、彼女はアレーティアを名乗っているし。それに、俺達四人いるのに原作と同じ名前をつけることになるとも限らんだろ?俺に話を振られた場合は原作通りの名前を提案する予定ではあったけど」

「なるほど…じゃあアレーティアちゃん、になるのかな?」

「どうだろうな…お、落ち着いたようだな。戻るか」

 

 ハジメが手招きしている。俺たちが戻ると…

 

「私は、私の名前は、ユエ。今日から、ユエ」

 

 そう、自己紹介をしてきた。そうか、アレーティアの名は名乗らないか。そしてハジメのネーミングは原作通り、と。

 

「前の名前は大事に胸にしまっておくんだって。三人が離れてたから僕がつけることになっちゃったけど…」

「ユエ…中国語で月、だったかしら?」

「確かに…えっと、ユエちゃん、月みたいで綺麗だったよね」

「…それでいいのか?」

 

 俺がそう聞くと、胸に手を当てて…違うな、記録用アーティファクトを胸に抱いてるのか。そうして、彼女は言った。

 

「アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール…この名前は…大事な人だけが知る名前。それでいい…それが、いい」

「真名みたいな感じか。俺達は知ってていいのか?」

「皆は私を助けてくれた、大事な人たち。だから、むしろ知っていてほしい」

「…そうか、改めてよろしくな、ユエ姫様」

「姫様はやめて…そういえば、バツは私の話の時、いなかった。なのになんで姫って…」

 

 そうだな、次は俺達の身の上話、そして俺の秘密を話す番かな?

 そして俺達は、新たな仲間に語った。理不尽に召喚されたこと。平和な世界に生きた俺達には過酷だった訓練。クラスメイトの裏切りで奈落に落ちかけ、生還したこと。勇者と決定的に敵対したこと。そして、このオルクス大迷宮を攻略する理由。

 

「ここに来た理由は…私を…助けるため?」

「ああ、そうだ」

「なんで…300年前の封印、しかもおじ…お父様は、私は死んだことにしていたはず…」

「それが俺の秘密だ。ユエは、輪廻転生って概念は知っているか?死んだ命が、別の命として蘇る、ということなんだが」

「…何となく、わかる」

 

 なんとなくでも、わかるなら好都合だな。

 

「なら話は簡単だ。俺は転生者だ。前世の記憶を持っている。そして、俺の前世の世界は、俺達の世界でも、ここトータスでもない」

「…じゃあ、どこ?」

「俺達の世界にある、物語の世界だ。そして…その世界では、このトータスでのハジメたちの冒険こそが、物語になっていたんだ」

「…じゃあ」

「ああ、完全に一致するとは流石に思ってないし、この世界は紛れもない現実だと思ってる。だけど、その物語通りのことも存在するだろう。そのうちの一つが、君の存在だよ、ユエ」

 

 俺のカミングアウトに、ユエは、しばらく言葉を発することができなかった…




というわけで、ユエちゃん、真名アレーティアが仲間になりました。原作知識持ちなら叔父さんのビデオレタースルーはありえないよなぁ?というわけで彼女の叔父への誤解は解けました。が、うちのユエちゃんはあえてその名は封印するようです。理由は…そのうち出す機会があれば。
叔父のビデオレターは全カット。だって文章そのままもってくるしかない上に無駄に長いし。

FF簡単解説
・ヘッドバンデージ
FF14にある頭装備。目隠しっぽいFF装備あるかなと検索してて見つけた。14はやってないので詳細はしりません。

・黒のローブ
いろんなFFシリーズにある黒いローブ。総じて黒魔が強化される性能であることが多い。白魔強化の『白のローブ』と対になってることが多い気がする。

・強甲破点突き
FFTバージョン。相手の胴装備を100%の確率で破壊する。モンスターに通るのはPSPバージョンだったかな?やったことないので覚えてません。

・魔法の鍵
FFⅢにある消耗品。鍵がかかった扉を開けることができる。これと光の四戦士のすべてのかぎどっちにしようか悩んだけど、どっちでもいいやと思って知名度高いこっちにしました。


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第十三話 オルクスの隠れ家~ヒュドラは強敵でしたね~

ボス戦です。


~蔵兎座跋~

 

 あの後、ハジメたちにも説明したようなことをユエに説明し、半信半疑な目でこちらを見てくるユエに、一つの予言を与えた。具体的にはオルクス最下層のオスカー・オルクスの遺言の概要だ。これが大体当たっていたら信じてくれ、と、そういう話だな。

 

 そんなこんなで真オルクス99階層、オルクス全体で見たら199階層。ラスボス前だ。一応不測の事態に備えて、準備を万全に整えている。

 …なんか、アルラウネもどきはどうした?って空耳が聞こえてきた気がするけど、逆に聞きたい。全状態異常防止装備をつけている、範囲攻撃が豊富な俺達に対して、あやつる特化のアルラウネもどきと恐竜の群れに、瞬殺以外の道があるのかと。

 

 

~以下ダイジェスト~

 

 

「なんか、この階層の敵、みんな頭にお花つけてるね?」

「…イジメ?」

「まぁ、あの花で洗脳してるからあながち間違いじゃないかもな」

「あ、そうなんだ。で?それが何か問題?」

「大丈夫だ、問題ない(波動弾ぶっぱ)」

 

「敵が多いわねぇ…」

「魔力が足りない…(カプッ、ちゅー)」

「ちょっとユエさん?あんまり吸わないでほしいんだけど…」

「ユエちゃん?少し、頭、冷やそうか?」

「香織~、白い魔王様になってるぞ~。とりあえず一掃するか(リヴァイアサン召喚)」

 

「こっち方面敵がやたら多かったし、多分ここの洞窟だな」

「なんか緑色の球がたくさん浮いてるね」

「あれ?なんか勝手に割れたよ?」

「…特に何も起きないわね?」

「…ん(カプッ、ちゅー)」

「ちょっとユエさん」

 

「なんか発狂してる植物がいたけど問題なく突破できたね」

「あいつが例のアルラウネもどきなんだが…寄生をリボンで防げたからなぁ」

「瞬殺だったね」

「弱かった」

「あの扱いにはちょっと同情するわね…」

 

 

~ダイジェスト終了~

 

 

 っつーかメタい話すれば、あいつって魔王化ハジメの容赦の無さを描写するためのカマセだろ?私は気にせず撃って!え、いいのか?助かるわ。のやり取りさせるためだけの。そりゃ対策すれば瞬殺だわな。

 そして次のヒュドラだが…まぁ、まともに相手する気はない。黒頭のデバフも多分リボンで防げるしな。銀頭の極光のブレスがちょっと怖いが…撃たれる前にやれば問題はないはず…ないと思う…ないよな?ちょっとは覚悟しとくか。

 

そんなこんなで200層。無数の柱に支えられた広大な空間が広がる。俺達はしばしその光景に見惚れていた。すると、柱が淡く輝きはじめた。奥の方へと順次輝きが広がっていく。

 光に導かれるように奥へと進む俺達。やがて、巨大な扉が見えてきた。

 

「すごい…」

「…これが…」

「…反逆者の住処?」

「まぁそうなんだが…反逆者呼ばわりはやめてやれよ…」

「ん…バツの言ってることが本当なら、やめる」

 

 ユエのセリフに苦笑しながら、最後の柱の間を抜ける。と、俺達と扉の間にバカでかい魔法陣が出現した。例の、ベヒモス召喚魔法陣と同じものだ。ただし、その大きさは比べ物にならない。

 

「さぁて、ラスボスのお出ましだぜぇ…」

「ちょ、ちょっと、こんなに大きいなんて聞いてないわよ!?」

「そりゃ言ってないからな」

「そういうことはちゃんと言っときなさいよバカぁ!?」

 

 ちょっと雫がテンパってるが、まぁ近接オンリーの雫じゃ厳しい相手なのは確かだな。

 

「まぁ気にすんな、予定は瞬殺だ」

「…予定は未定、とも言うよね?」

「おぉ、ハジメ、よく分かってるじゃないか」

「ちょっとぉぉぉぉぉ!?」

 

 などと漫才を繰り広げてる間に、6つの頭を持つ、ヒュドラっぽい化け物が姿を表した。

 

「「「「「「クルゥァァアアアアン!!!」」」」」」

 

 6つの首が同時に雄叫びを上げる。同時に、赤頭が炎のブレスを吐き出そうとしてくる。

 が、その瞬間、赤頭が吹き飛ばされた。ハジメの銃撃だ。流石に遠距離じゃないと厳しいだろうと銃に持ち替えている。

 白頭が赤頭を再生しようとしている、が、その白頭目掛けて一つの影が降ってきた。時魔をマスターして竜騎士にジョブチェンジしていた香織の『ジャンプ』攻撃だ。魔法陣が出現した時点ですでに飛び上がっていたらしい。道理で会話に参加してこなかったわけだ。最後尾にいたから気づかなかった。…なんか香織さんやたら好戦的になってません?ハジメの土下座に惚れた優しい君はどこへ行ったんだい?

 だがしかし、黄頭に阻まれて、香織の攻撃は白頭に届かなかった。

 

「クルゥァアン!」

 

 白頭の咆哮で、赤頭が再生する。その隙に、黒頭がユエを睨む。だが、俺達全員状態異常は効かない。ユエも平然として、道中で覚えた魔法を放っていく。

 

「クイック、ウォタジャ、サンダジャ、ブリザジャ、エアロジャ、ファイジャ」

 

 クイック連続魔によるジャ系魔法五連発だ。…ハブられたストンジャかわいそう。

 

「クルゥアァァン!?」

 

 さすがの黄頭もこの連続攻撃にはひとたまりもなく、断末魔を残して消し飛んだ。すかさず白頭が回復を試みる。そこに雫が斬撃を飛ばす。…斬撃を飛ばす!?え、何、なんなのその技!?…八刀一閃?ああ、ディシディアセフィロスのアレね。そういえばブレイド・マスターをマスターしてたっけね。…ジョブかあれ?

 まさかの飛ぶ斬撃で、白頭を潰せると思ったのもつかの間、デバフが効かないと悟った黒頭が、自身を犠牲に白頭をかばった。直後、白頭の回復で黒頭と黄頭が復活する。

 

「くっ、これじゃキリがない…」

「…ん。ちょっと、厳しい?」

「うーん、割と切り札だったんだけどな…」

「っていうかバツ、瞬殺するんじゃなかったの!?」

 

 ハジメとユエが零す。香織が残念そうにつぶやく。雫が俺にキレる。…香織さん、ちょっとマジで性格変わってません?

 

「いやまぁ、お前らがいきなり戦闘はじめたからタイミングがな…まぁ、準備はできたし、いくぜ!」

 

 俺は、異界にいる幻獣の王に呼びかける。

 

「始原の竜、闇の炎の子…汝の名は、『バハムート』!!」

 

 その瞬間、空間がひび割れた。空間のヒビは広がっていき、やがて、穴が空いた。そして、その穴から、偉大なる幻獣の王、竜王バハムートが顕現する。

 顕現したバハムートは、口を開き、エネルギーを収束していく。やがて、収束しきったエネルギーが臨界に達し…ヒュドラへと向かって射出した。撃ち出されたエネルギーがヒュドラへと直撃すると同時に、大規模な大爆発が巻き起こる(重複表現)。バハムートの必殺、メガフレアだ。なお敵対時にはリフレクで返せる模様。

 メガフレアが直撃したヒュドラの頭は、6本まとめて消し飛んでいた。まさに一撃必殺。役目を終えたバハムートは少しづつ薄くなっていき…ん?こっち向いた?

 

「我が主よ」

「うぉっ、喋れるのか!なんだ?」

「先程の呼びかけは、人違い、否、竜違いだ」

 

 バハムートはそれだけ言うと、ニヤリと笑いながら…?笑ってたよな、多分。消えていった。…ツッコミできるのか竜王。

 

「うわぁ、本当に瞬殺だったわね…」

「バハムート…竜まで呼び出せるんだ…」

「リヴァイアサンも竜なんだが…まぁいいや。漆黒の光閃き、大気の震えとなれ。斬鉄剣!オーディン!!」

「えっ!?」

 

 驚く皆をスルーして、俺はオーディンを呼び出す。そして、第7の頭、銀頭が胴体からせり上がり…

 

「研ぎ澄まされし白銀の刃は、魂の住み家を断ち切るため…

 反り返りし漆黒の峰は、魂の寄る辺を振り切るため…

 ヴァルハラに散華せよ

 斬・鉄・剣! 」

 

 一閃されて消えていきましたとさ。…まって、FFTの詠唱で呼び出したのに現れたのFFⅣ仕様なんだけど。ってかその詠唱FFⅪじゃないか。ツッコミが追いつかんぞ!

 

「ふふふ、わたしもたまにははっちゃけたくもなるさ」

「いや、自重してくださいバロン王」

「たまにはいいではないか。ではな、また会おうぞ」

 

 笑いながら消えていくオーディン(バロン王)。そういえば、召喚獣が来る法則ってどうなってるんだろうか?気が向いたら検証しよう。

 

「オーディンって…」

「北欧神話の主神、だよね…?」

「そんなのも召喚できるの…?」

「あー、あのオーディンはとある国の王様の霊、って設定だぞ」

「…よくわからない」

「詳しく聞きたきゃ後でいくらでも教えてやるよ。今はとにかく開放者の隠れ家へイクゾー!!」

 

 デッデッデデデデカーン!デデデデ

 

 

 そして、大扉を開いた俺達は、天に淡く輝く『月』を目にした。

 

「…ああ、今は夜なのか」

「わかるの?」

「あれ、昼間は太陽みたいになるらしいからな。あれ、明らかに月だろ?つまり今は夜、ってこったな」

 

 そんな話をしつつ、建築物の方へと歩いていく俺達。どうせ殆ど開かないことは分かってるので、最短で三階の奥の部屋へと向かう。ユエがいくつかの扉を調べて、開かない事を確認している。

 そのまま最奥の部屋へ行き、オスカー・オルクスの躯の前、神代魔法習得用の魔方陣がある場所へ。二度手間を嫌い、全員まとめて魔法陣の上へと立つ。

 

 

~オスカーさんの遺言はカットです~

 

 

 簡単にまとめたら、神はクソだって話だ。オスカーの話を聞いたユエは、何かを考えているようだ。俺はハジメへと話しかけた。

 

「どうだ、ハジメ。これで色々捗るんじゃないか?」

「そうだね、武器はまぁ、バツの特典武器が狂った性能してるからいいとして、便利アイテムや乗り物なんかは作れそうだね」

「そりゃよかった。チョコボホイッスルでチョコボが来てくれたらいいけど、ぶっちゃけ二輪や四輪のほうが多分早いからなぁ」

 

 などと雑談しつつ、今が『夜』であることだし、今日は一旦休もうという事になった。もちろん風呂も寝室も男女別だ。しばらくはここを拠点に色々と強化や作成をする予定だから、今日ぐらいはゆっくりしよう、という話になった。

 

 一晩明けて翌日。皆で朝飯を食べていると、ユエがポツリと呟いた。

 

「バツの話、本当だった…」

「おう、ようやく信じてくれたか」

「でも、もう、その物語の通りには…」

 

 ユエがそう言って不安そうな顔をこちらへ向ける。

 

「てい」

「いたっ」

 

 俺はその額に、デコピンをしてやった。

 

「俺は最初から、『原作』なんざよく当たる占い程度にしか思ってないぞ。常に外れたときのことを考えながら行動してる。そもそも、ここまで来るのに、原作とどれだけの乖離があると思ってんだ?

 『原作』なんて気にせず、ユエはユエの思う通りの人生を歩めばいいんだよ」

「…ん」

 

 額を抑えてうつむいていたユエは、俺の話を聞いて、顔を上げた。その瞳には、闘志が宿っている。

 

「香織、負けないから」

「…えっ、今のそういう話だったの!?」

「ん…物語と違って、私はハジメの特別にはなれない。でも、それがハジメを諦める理由にはなりえない」

「んー、まぁ、ユエちゃんならいかな?」

「…?」

「…なぁ、神と闘うとか、私の運命は神の依代とか、そういう方向で悩んでたんじゃないのか?」

「…ん。私はハジメ達についていくだけ。だからエヒトとかいうのはどうでも良かった。むしろハジメの恋人になれるかどうかだけが問題」

「お、おう。ストレートだな…」

 

 さすが原作でもハジメを逆レで落としたユエ姫だ。ハジメは真っ赤になって頭抱えてるな…香織のセリフの意味に気づいてるなありゃ。精力剤になりそうなポーションあったかね?

 

 そして、俺達はオスカー・オルクスの隠れ家を拠点に、大迷宮でのレベル上げと素材回収、装備作成、そして親睦を深めたり(意味深)しつつ、準備を万全に整えていった。

 オスカーの遺体を埋葬するときにうっかりもう一度魔法陣を踏んでしまって気づいたが、オスカーの指輪が再生成されていた。そりゃ、先着一名様、なわけないか。そこで俺達は、一応念のため、という事で、全員がオスカーの指輪を入手しておいた。

 そんなこんなで1ヶ月。原作より遥かに早いタイミングですべての準備が整った。レディ・パーフェクトリー。もはやこの先は、まず確実に原作通りにならない未知の物語だ。

 

 

 そう、これが俺の物語だ。俺の物語の、最初の一歩だ。…いや別に俺消えねぇぞ。




苦戦?なんですかそれ?知らない子ですね。
バツは神様転生の特典持ちなので、既に成長限界。この作品のタイトルは『ありふれた無職が世界最強』。つまり、召喚時点で既にバツは世界最強。はい、仮に現時点でエンカウントしたら、エヒト様でも瞬殺されます。流石にバツ自身はそこまで強いという自覚はありませんが。

後半めっちゃ巻きましたが、今回でオルクス迷宮突破、クラスメイトサイド(清水サイド)等を挟んで第二章になります。


FF簡単解説
・リヴァイアサン
水属性召喚獣。大海嘯で敵を押し流す。作品によっては幻獣王だったりもする。

・竜騎士
ガリで。

・ジャンプ
竜騎士系統や槍使いのキャラのアビリティ。天高く飛んですべての攻撃を無効化し、1ターン後に急降下して攻撃をする。たまにミサイルで迎撃される。

・クイック
時空魔法。2回行動ができる。

・連続魔
1ターンに二発の魔法を撃てる。つまりクイック連続魔で、クイックを含まず魔法を五連発できる。

・ジャ系魔法
ファイジャが炎、ブリザジャが氷、サンダジャが雷、ウォタジャが水、エアロジャが風、ストンジャが地の属性の最上級魔法。火属性ならファイア、ファイラ、ファイガ、ファイジャという感じに強くなっていく。

・八刀一閃
ディシディア系のセフィロスの技。割とかっこいい。

・セフィロス
片翼の天使

・ブレイド・マスター
ディシディアにおけるセフィロスのコンセプト。ジョブじゃない。

・バハムート
竜王だったり幻獣神だったりするドラゴン。得意技はメガフレア。たまにリフレクで返されるおちゃめさん。

・オーディン
斬鉄剣でぶった切る騎士様。斬鉄剣を返されて真っ二つになることもある。たまにグングニルの槍をぶん投げる。

・バロン王
FFⅣのオーディンの中の人。

・始原の竜、闇の炎の子
人(竜)違い。グランブルーファンタジーのプロトバハムート。

・これが俺の物語だ
…本当に消えないかな?(ゲス顔


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閑話 クラスメイトサイド~清水くんの近況報告~

閑話だからいつもより短いです。


~清水幸利~

 

 さて、バツ達が離反し、王宮に帰ってきた俺達だが…まぁ予想はしていたが、勇者君ってばバツとハジメが魔人族側に寝返ったと報告してくれやがりましたよ。メルド団長以下、騎士団員と天之河以外のクラスメイト全員がそれを否定したけどな。

 それでも、勇者の言葉、っていうことで、そっちを信じた奴らが一定数いたらしく、貴族間でのバツたちの扱いは、魔人族に寝返った裏切りの使徒と、それに洗脳され連れ去られた悲劇の使徒、って扱いになっている。言い出したのが天之河なせいで、原作にあったらしい、天之河が憤慨してその貴族が処罰される、というような流れもない。

 王族やその側近たちは、流石に天之河以外の全員が否定したことを無下にはできなかったようで、表向きには納得している。ちなみに一応メルド団長は、バツが蘇生魔法を使えることも報告したが、ありえないと一笑に付してその話は終わった。まぁ、オレと恵理も使えるんだが…教える理由はないな。オレは王宮の犬になる気はないし。

 

 そんなこんなで、王宮帰還後の最初の訓練だが…

 

「よぉし、それじゃあこれより訓練を始める」

 

 そう言って、メルドさんが用意したものは…

 

「あの、メルドさん、その人達は…?」

「ああ、こいつらか?なに、ただの死刑囚共だ」

「死刑囚!?一体何を…」

「なぁに、今から一人づつ、こいつらを殺してもらうだけだ」

「なっ…」

 

 勇者サマはバツとメルドさんが話をしている間、気絶していたからな…ああ、死んでた檜山も驚いた顔してるな。いやお前はハジメを殺そうとしたんだし普通にヤれるんじゃないか?

 まぁ、そこで黙ってられないのが我らが勇者サマが勇者サマたる所以なんだな。

 

「何を考えてるんですかメルドさん!?人を殺すだなんてそんな…」

「何を言っている?魔人族とて外見は俺らとそう変わらん。人も殺せずに魔人族との戦争はできんよ」

「外見が人みたいでも、魔人族は魔物みたいなものなんでしょう?だったら!」

「何を言ってるんだ?魔人族は国も作るし、感情もある。知恵も回る。魔物の延長線上とか思っていたら簡単に返り討ちだぞ?」

「なっ…いや、それでも、殺人は悪いことです!俺は、クラスの皆を悪人にしたくはない!」

 

 この中で唯一ガチの殺人犯したやつが何いってんだ?まぁ、コイツにその自覚はまったくないらしいけどな…いっそ羨ましいな、この能天気さ。能天気とは違うか。

 

「そうか、殺人を犯したものは悪人か…」

「そうです!」

「ならば、俺も悪人だな」

「えっ?」

「当たり前だろう?俺は騎士団長、騎士の仕事には賊の制圧などもあるのだぞ?俺もこれまでに何人の人を殺してきたか、覚えてはいない。

 殺人が悪、というならば、俺も間違いなく悪人ってことになる」

「そ、それは…悪人相手だから問題は…」

「こいつらだって死刑囚、間違いなく悪人だぞ。悪人相手なら問題はないな?」

「うっ…」

 

 なんだかんだ言っても、結局、自分が、人を殺したくないだけなんだろう。天之河の反論には、道理が通ってない。

 

「まぁ、別に構わん。光輝は不参加でいいな。他にやりたくない者は今のうちに言っておけよ?」

 

 天之河との話を切り上げ、こちらへ話しかけてくるメルドさん。その言葉に、女子を中心に、何名かが不参加を表明する。

 

「そうだ、こんな訓練はやる必要がない!みんな、こんなことはやめるんだ!」

 

 そう叫ぶ勇者を無視して、一人の男子が前に出てきた。190オーバーの巨漢、永山だ。

 

「メルドさん、方法は?」

「何でも構わんが…近接のほうがいいかもしれんな。遠隔だと殺した実感に乏しい」

「わかりました」

「永山!?なにを!」

 

 …その後のことは、あまり思い出したくはないな…

 

 結論だけ言えば、その日、殺人訓練を熟せたのは永山、俺、恵理の三人だけだった。そして、そこにいた全員が、胃の中身をぶち撒けることになった、とだけ言っておく。

 その後、一週間ほどこの殺人訓練を行い、最終的には全員が一度は人を殺した。…いや、勇者天之河だけは、最後の最後まで、頑なに殺そうとはしなかったな。腕を断つ、足の腱を斬る、など、絶対に致命傷にはならず、しかし確実に戦闘力を奪う攻撃しか行うことはなかった。

 

 一週間後、殺人訓練にて心が折れなかったメンツは、大迷宮攻略へと向かっていった。永山パーティーは、女子も含めて、全員が心折れなかったのはちょっと驚いた…が、これも例のベヒーモスみたいな『世界の修正力』みたいなものの結果、なのかもしれない。

 ちなみに俺と恵理は愛ちゃん先生の護衛組。自称愛ちゃん親衛隊の方へ参加だ。ぶっちゃけあの勇者のもとで戦ってたら早死にしそうだからな。

 愛ちゃん親衛隊は、殺人訓練で心折れた、バツ曰く『原作組』にプラスして、恵理と、恵理の親友の谷口が参加していた。なぜこっちに参加したのか聞いたところ…

 

「シズシズもカオリンもエリリンもいないのに、あっちにいく理由がないよ!」

 

 …だそうだ。『世界の修正力』なんて無いのかもな。

 ちなみに天之河と坂上は、永山のグループに入ることを拒否られて、仕方なく檜山グループとともに攻略しているらしい。勇者に拳士、軽戦士に槍術士、炎術師に風術士という、なんとも脳筋極まりないパーティーになっている。この世界の勇者は自己バフオンリーの脳筋だからなぁ…バフもなければ回復もない勇者パーティーとかゾッとしないな。

 ちなみにオレと恵理と谷口は、『折れた』訳じゃなかったが、『折れた』魔物要員だけだと、いざ魔人族が来たときに何もできない、として、こちらに参加することを承諾させた。王国としても神殿としても、愛ちゃん先生は大事だろうからな。まぁ勇者は逃げだの何だのグチグチやかましかったが。

 ちなみにメルドさんは既に天之河を見限っている。頑なに殺人を拒否した天之河は、いざというときに使い物にならないという判断だ。まぁ、『原作』だとそれは大当たりらしいが。

 

 その後は、オレ達『愛ちゃん親衛隊』はのんびりしたものだ。ハニトラのために送り込まれたイケメン神殿騎士はオレと恵理の二人で撃退、雑魚は足手まといにしかならない、という事で、デビットとかいう騎士のみ付いてくることを許した。

 あとはあちこちの村や町を回って、愛ちゃん先生の能力で農作物を育てるだけの簡単なお仕事だ。今のところは魔人族は接触はしてないな。

 大迷宮攻略組は、どうやら順調に迷宮を攻略しているようだ。どうやら迷宮攻略再開1週間で、55層までたどり着いたらしい。何?原作よりペースが遅い?そりゃ原作より四人も攻略組が少ない上に、回復役が一人ってのが致命的なんだと思うぞ?

 

 まぁ、とにかくこっちはそんな感じだ。そっちはどうだい?…そうか、例の子…名前はユエ?とりあえずその子も助けて、問題なく大迷宮攻略できたのか。そりゃ良かった。これからはどうする?日程は原作にあわせるのか?…あわせる気なし、巻いていく、ね。了解だ。合流地点はその時の流れ、だな。

 うさ耳はどうする?…すぐに会えなきゃ時間合わせて一旦戻る、か。二度手間じゃ?…なるほど、先に他の迷宮攻略を目指すのか。確かにハジメの錬成魔法以外って、ぶっちゃけ無いなら無いでも問題なさそうだよな…お前ら四人と、えー、ユエ、だっけ?彼女だけ全部確保しとけば帰る分には問題なさそうだしな。

 

 しかし、この…ひそひ草、だっけ?便利だな。まさか大迷宮の底から届くとは思わなかったわ。…ん?むしろ底だから届いたと思う?なるほど、攻略中も何度か通信試みていたのか。隠れ家にはジャミングがなかった、と。

 …じゃ、そろそろ通信終了するか。もう結構遅いからな。また何かあったら連絡くれ。こっちも何か動きがあったらそっちに連絡する。…定時連絡?またいつ通信不良になるかわからないし、定時はいらないんじゃないか?仮に送れなかったら互いにヤキモキするだろうし。

 …おう…おう。分かった、お前達も気をつけろよ?じゃあな、お休みだ。

 

 …ふぅ、とりあえずこいつが使えると分かって助かったな。これで最悪恵理と別れて動くのも選択肢に入る、か。

 

 …………覚悟、決めるか。




というわけで、クラスメイトサイドという名の、ひそひ草による清水くんの跋への近況報告でした。
原作より遥かに早く大迷宮攻略した上に、勇者組がごっそり抜けてるせいで上層組の攻略が全然進んでいません。
ちなみに、跋達が最下層に到着したのは、別れて大体二週間後です。レベリング無視して突っ切っていたならおそらく一週間弱で駆け抜けられたと思われます。

最後に清水くんが決めた覚悟とは…?

次回更新前のどこかのタイミングで、一章人物紹介を投稿します。


FF簡単解説
・ひそひ草
原理不明の携帯電話。たぶん植物。盗聴器の代わりにもなるスグレモノ。今回、全二百層のダンジョンの最下層から地上まで声が届くことが判明。ちなみにバツは、インビジ使ってあちこちに仕込んどきゃよかったとちょっと後悔中。


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第一章人物紹介~裏設定を添えて~

この先本編に出せない気がする裏設定を添えて、第一章の人物紹介です。


・蔵兎座 跋

 今作主人公。神様転生をした転生者。イメージキャラクターはFFⅤの主人公、バッツ・クラウザー。

 

 ツンツンした茶髪に碧眼、青系統の服を好む。つまりゲーム版バッツ準拠の容姿。銀髪ではないし真ん中分けでもない。あとディシディアバッツの瞳ってなんか茶色とか灰色系統に見える気がする。

 

 願った特典はFF…ファイナルファンタジーシリーズの全て、それを十全に使いこなせるためのすっぴんマスター、そしてアビリティシステムの制限を撤廃するための制限解除。あとオマケのギャルのパンティー(Elona)。

 

 ギャルパンに関しては、ラグナロク辺りを無限に投げられる以上、誤差の範囲と思って追加したらしい。割とノリの良い、洒落のわかる神様だったようだ。なお、なぜ神様がElonaを知ってたかは永遠の謎。

 

 性格はわりと軽く、少々子供っぽいところがある。現実に揉まれて少し黒くなったバッツをイメージしている。前世の記憶を思い出した際、少しだけ達観が入ったが、ぶっちゃけ前世でもそう変わらない性格してたので、あまり変わってない。それこそ、幼馴染組が違和感を覚えるかどうかってレベルである。なお違和感覚える前にぶっちゃけた。

 

 能力に関しては、現時点で世界最強。そりゃ描写的にエヒトより遥かに格上と思われるFFシリーズボス群をソロで撃破できるだけの能力与えられてますからねぇ…。ただしまだそこまで自覚はしていないし、大事な友人や恋人を死なせないように鍛えることを最優先にしている。

 

 小学校の頃に八重樫道場に所属していたが、中学進学と同時に後述の理由で辞めている。なお天之河の大会連覇などを阻止していた模様。

 

~ここから本編に出せそうにない裏設定~

 両親は蔵兎座 弗岩(ドルガン・クラウザー)と蔵兎座 ステラ(ステラ・クラウザー)。ステラ母さんは祖父のヴォルフガング・クラウザーの当て字の被害からは逃れた模様。ちなみに本人の当て字は暮流符玩具。暴走族かな?

 

 何気に父がドイツ人、母がアメリカ人のハーフ。日本人の血は実は欠片も入っていない。たまに両親がドイツ語や英語で会話するので、日本語・ドイツ語・英語のマルチリンガル。十四歳の頃には相当お世話になった模様。

 

 ちなみに本人も知らない事実ではあるが、役所への登録時の名前は蔵兎咲(クラウザー) (バッツ)となっており、正確な名前はバッツ・クラウザーだったりする。役所に提出する書類の読み仮名で弾かれたりしたときに真実に気づくと思われる。

 

 そのうち話す機会もあるかもしれないと言っときながら、ぶっちゃけ話す機会が永遠にこなさそうな、跋が高校に通っていた理由は、清水と中村両名とともに青春を過ごしたかったから。高校課程修了は、実は小学校卒業とともに、三年間母方の実家のあるアメリカへ行っており、そこで飛び級で高校課程を修了させている。え、現実にそんな事ありえるのか?この物語はフィクションです。

 

 結果的に、南雲ハジメという新たな親友との出会い、最愛の人となる八重樫雫との再会があったため、この高校進学は大正解と言えるだろう。…白崎さん?うん、まぁ、いい友人ではあるんじゃないかな?

 

 前世の名前の矛盾に関しては(最初のぶっちゃけで覚えてないと言いながら、大迷宮の中でその名前を雫に伝えたこと)、それまでの期間に思い出しただけっていう身も蓋もない理由である。別にいらないやと思ってボツにした初期設定は「倭 輝羅」。夜会話作成時に思いついたけど、いっそ読者には秘密にしたほうが楽しいかもと思ってボツにした名前は「青川 ケイン」。

 

 あと、月下回で、ハジメ達は一線超えてないとか言っときながら、後に明らかに乱れ交わってることに関しては、一線=生中だと思っているせい。基本が外国人だからか、元々の性格からか、性に関してのタガが日本人より緩かったりする。なお、そろそろゴムもなくなるので、彼準拠で一線超える日も近い。というか超えた。

 

 

・南雲 ハジメ

 原作主人公。我らが魔王様。今作では魔王化なし。

 

 原作と違い、跋や清水というオタク友達がいたり、サクッと香織さんとくっつけられたり、跋がヘイト受け持ってたりしてるおかげで、クラスで孤立はしていない。なので原作より引っ込み思案なところが多少マシになっている。

 

 戦闘では銃を使った中・遠距離メイン。接近された時用にガンブレードとガン・カタを練習中。魔法は少々苦手な模様。ただし錬成に関しては、とあるジョブをマスターしたおかげで原作よりも遥かに上達している。

 

~ここから本編に出せそうにない裏設定~

 原作では周知していなかった、将来の進路や両親の職業が、ある程度周知されている&普通に頭のいい跋に勉強を教わっているおかげで、原作よりもはるかに成績がいいおかげで、授業態度に関しては黙認されている状態。ただし勇者(笑)だけは真面目に勉強するべきだと言い続けている。ちなみにハジメも跋も勇者(笑)より成績が上である。知らぬは本人ばかりなり。

 

 

・清水 幸利

 原作では死ぬ人。厨二拗らせた裏切者。今作では跋の幼馴染の親友ポジ。

 

 原作と違い、幼い頃から跋に連れ出されて遊び回っていたり、跋のアドバイスで消費側から供給側に転職したり、それが書籍化してこの年で手に職状態だったりと、原作での陰キャっぷりは影も形もない。

 

 ついでに跋と一緒に中村恵理を助け、その時の縁で付き合っている。もげろ。

 

 跋やハジメと比べたら常識人寄りだが、ネタをぶっ込むときは思いっきりぶっ込むタイプ。ボケもツッコミもこなせるオールラウンダー。あと杏P。

 

 序盤は恵理とともにクラスメイトサイドの愛ちゃん親衛隊についているので影が薄い、というか、出番が少ない。なおシステム的に跋たちの獲得した経験値も入っているため、合流する頃には役立たず、なんてこともない。

 

 殺人訓練で『折れ』なかった。

 

~ここから本編に出せそうにない裏設定~

 ボクっ娘萌え。男を演じる理由がなくなった筈のエリリンがボクっ娘になった理由。

 

 

・八重樫 雫

 原作ではハジメハーレムの一員。ポニテ侍。今作ではオリ主である跋の彼女。つまりメインヒロインポジ。この娘オリ主ヒロイン率高くね?

 

 原作と違い、天之河より先に八重樫道場に入った跋に一目惚れしており、その頃から一途に想い続けている。もちろん天之河(笑)は気づいていない。

 

 戦闘スタイルは近接特化。原作と違って、初期装備から刀を使えていたので、八重樫流を思う存分発揮できていた。ジョブの恩恵もあり、現状で限界突破勇者を正面から力押しで破れる。

 

~ここから本編に出せそうにない裏設定~

 小学校の頃の天之河ファンからのイジメも、初動の段階で「私が好きなのは光輝じゃなくて跋だから、近づきたければ勝手にどうぞ。私は邪魔も何もしないわ」ときっぱり言い切っていたりする。

 

 それでも信じない一部過激派にイジメられていたが、天之河への相談→悪化を経て跋に相談、跋、清水、中村の三人で過激派を撃退、跋にさらに惚れ直すとともに、光輝見切りポイントが増えた。

 

 あと、実は本作の雫はポニテじゃない。跋がショートカット好きなのでショートカットにしてたりする。雫ちゃんの髪型のために道場破りした香織ちゃん涙目。

 

 

南雲白崎 香織

 原作ではハジメハーレムの一員。幽波紋系負けヒロイン。今作では普通にハジメの彼女。

 

 原作と違い、本編開始時点でハジメの彼女。高校一年の時点で、ハジメに対する香織の好意と周りの嫉妬に気づいた跋が、急遽イツメンを集めてOHANASHIをして、ちゃっちゃとくっつけた。同時に、自分の美貌と周りの視線を自覚させたので、原作ほどKYではない。ハジメを守るための偽装にも普通に同意する程度には暴走癖もおさまっている。

 

 戦闘スタイルは魔法戦士。魔法剣ではなく魔法と剣…ではなく槍を使って戦うタイプ。なお適正高いのはヒーラーであるが、ぶっちゃけ現状では跋がヒーラーやってるので、後回しでいいやと思っている。初手の賢者マスターで白魔法も不足なく使えるようになってる。

 

~ここから本編に出せそうにない裏設定~

 原作と違って、初期から地味に殺意が高いが、何のことはない。高校一年からハジメと付き合い、跋や清水含めたエリートオタクに混じってるうちに染まっただけである。

 

 具体的には、うっかり「正義なき力は暴力、力なき正義は無力」「気持ちだけで、一体何が守れるっていうんだ!」あたりの言葉に共感してしまい、「優しいだけでは守れないものもある。ハジメくんは優しい、つまり正義担当。じゃあ私が力を担当すれば、二人で一つ!」などと明後日の方向に暴走した結果である。力の1号技の2号じゃねぇんだぞ。

 

 

・中村 恵理

 原作では中ボス。ヤンデレサイコパス。今作では跋の幼馴染兼清水の彼女。

 

 原作と違い、跋と清水にお父さんごと救われたので、ちょっと愛は重めだけど、普通の女の子。重いといってもまぁ常識の範疇。

 

 今でこそ跋の行動の意味も理解できてるし、普通に感謝しているが、やはり当時は、普通に手を引いて逃げようとしてくれた清水のほうにキュンと来た。たとえ間に合ってなかったとしても。

 

 清水とともに、クラスメイトサイド・愛ちゃん親衛隊に居るので、現状ではものごっつ影が薄い。

 

 殺人訓練で『折れ』なかった。

 

~ここから本編に出せそうにない裏設定~

 実は清水がポニーテール萌えなので、エリリンのほうがポニテっ子だったりする。流石に原作八重樫ほど長くはない。ポニテ+メガネ+ボクっ娘とか属性過多だなぁ…

 

 

・ユエ

 原作ではメインヒロイン。魔王様の『特別』。今作ではハジメハーレムの一員。

 

 本名『アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール』。原作と違い、跋が裏技でサクッと叔父様の遺言を届けたため、既に叔父様に対する恨みもないし、エヒトへの殺意が7割増しくらい。ちなみに命名はハジメさん。

 

 いきなり誤解するような行動をとった跋よりも、実際に錬成で封印を解いてくれたハジメに惹かれるのはある意味当然のことだと思う。ちなみに誤解も解けたし嫌ってはいない…というか隠れ家でかなり『仲良く(意味深)』なった。

 

 戦闘スタイルは魔法特化。でもそのうち自衛用に前衛としての能力も獲得しようと思ってるらしい。

 

 流石に合流直後に裏設定もなにもない。

 

 

・天之河 光輝

 原作でも今作でも勇者(笑)

 

ここから本編に出せそうにない裏設定(こんな奴に長々解説したくない)

 実は幼少期から跋に色々敗北しまくっているので、原作よりも拗らせ方がひどかったりする。

 

 

・坂上 龍太郎

 原作ではただの脳筋。今作では…ちょっと考える脳筋に進化したかも?

 

 

・永山 重吾

 原作では永山パーティーのパーティーリーダー。今作では…実質全体リーダー。

 

 

・谷口 鈴

 原作では勇者パーティーの結界師。今作ではエリリンにくっついていったので勇者パーティーに入らず。

 

 

・その他のクラスメイトと愛ちゃん先生

 全員原作よりは覚悟が決まっている。

 

 

・メルド団長

 原作では不憫枠。今作でも割と不憫枠。

 

 いい人だけど貧乏くじをよく引く人。中村さんの裏切りイベント無いので生存は確定だよ、やったね!

 

 

・檜山 大輔

 原作ではただのクズ。今作ではヤンホモストーカーのレッテル(まだ誤解は解けてない)をはられたクズ。作者のオモチャ第一候補。

 

 ギャルパン投げられて発狂したり、土下座中に死の宣告で殺されたりとロクな目にあっていない。それでも蘇生してもらったり、恵理の手駒化回避確定してたりと、原作よりはよっぽどマシだと思われる。

 

~この先本編に出せそうにない裏設定~

 月下回で、跋とハジメに騙されていた(実際は跋じゃなくてハジメが香織と付き合っていた)ことに気づいたので、原作より恨みと殺意がマシマシで、中村さんいなくても暴走確定してたりする。

 

 

~この先本編に出せそうにない裏設定特別編~

 実はこの世界、ファイナルファンタジーがガチで最終幻想だった(=売れなかった)せいで、スクウェアが早々に潰れてたりする。なのでⅡ以降のFFシリーズやサガシリーズ、クロノ・トリガーシリーズなんかは存在すらしていなかったりする。

 

 オタクのはずのハジメや清水にFF関連の知識が皆無なのはこのせい。この世界はRPGといえばドラクエとテイルズなのです。

 

 なお、一部ゲームは、別会社に流れたスタッフが近いゲームを作ったりしたので存在してるというご都合設定。ミトコンドリアとかヨヨ死ねとか知力25とか。




何か知りたいことがありましたら追加するかもです。


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第二章 無職の育成とライセン大峡谷
第十四話 残念兎?との邂逅~普通に助けたら残念っぷりが消えたぞ?~


誰かを助けるのに、理由がいるかい?


~蔵兎咲跋~

 

オスカー・オルクスの住処にたどり着いてから一ヶ月。クラスメイトと離れてからは…一ヶ月半くらいか?そう考えると、俺達二週間でオルクス攻略したのか…確か、原作で約一ヶ月でオルクス攻略、そこから二ヶ月かけて準備、だったはずだから…ほぼ半分の時間で出発か。確か脱出後は割とジェットコースターしてたよな。逆算して色々考えないとな。

 

「さて、これよりここを出て、大迷宮巡りに出発するんだが…」

「ん?バツ、どうしたの?」

「原作じゃ、ハジメとユエの物騒なやり取りがあったはずなんで、再現しようと思ったんだが…」

「物騒って…そういえば原作ではハジメくんって結構荒んでたんだっけ?それで?」

「…うん、細かい内容忘れた」

「…しまらない」

「うぐっ…ユエさん、君の一言って結構辛辣だよね…まぁいいや、ぶっちゃけ負ける気はしないが、油断だけはしないようにしよう!」

「一番油断しそうなのは貴方よ、バツ」

「アーアーキコエナーイ。とにかく、イクゾー」

 

 デッデッデデデデ(カーン)デデデ(…カーン)

 

「…こないだも思ったんだけど、なんなのそれ?」

「この世界には存在しないゲームネタ」

 

 そんな事を話しながら、魔法陣を起動。全員が光に包まれていく。

 

「めがぁぁぁぁ!!!めぇぇぇがぁぁぁぁ!!!」

「…何やってんだハジメ?」

「いやー、お約束かなーって」

「うん、まぁ、そうだろうけどさ。崩壊じゃなくて脱出だし微妙に違わないか?」

 

 などとさらに無駄話をしつつ、光が収まるのを待つ。明らかに空気が変わり、少しづつ光が収まっていき、目を開けた俺達の視界に写ったものは…洞窟だった。

 

「なんでやねん」

 

 ハジメが突っ込む。魔王化しなくてもやっぱり無条件に外だと信じるのかコイツは。

 

「…秘密の通路…隠すのが普通」

「まぁ、そうよね。外の目につくところに堂々と設置してたら、現れた瞬間を目撃されたりするでしょうし」

「ちょっと考えたらわかるかな?」

「なんか僕フルボッコですねぇ!?」

「いやぁ、原作再現おつかれさん」

「知ってたなら言ってくれても良かったんじゃないかなぁ!?」

「え、やだよ。俺が楽しくないじゃん」

「何だとこの野郎!?」

 

 ハジメがキャラ崩壊してる。たーのしー(爆笑)

 

 ハジメいじりもそこそこに、真っ暗な洞窟を、明かりを灯して進んでいく。原作と違って俺達は暗視は持っていないからな。松明大事。

 トラップや封印された扉なんかも、オルクスの指輪の効果で完全スルーしつつ、ひたすら道なりに進んでいく。すると、前方に光が見えてきた。外の光だろう。

 俺たちは顔を見合わせ…ユエがハジメの手を引いて駆け出していった。香織も、一瞬遅れて二人を追いかけて走っていく。俺と雫は、もう一度顔を見合わせ…お互い苦笑を浮かべると、三人を追って駆け出した。

 なお、途中で余裕で三人を追い抜いたことをここに記しておく。速度特化の前衛と神様チート舐めんな。

 

 そして、俺、雫、ユエ、ハジメ、香織の順で外に飛び出し、とりあえず深呼吸をした。空気が旨い。

 

「いやー、苦節一ヶ月半、ようやく地上に戻ってこれたな!」

「戻ろうと思えばいつでも戻れたけどね」

「んっーー!!」

「ユエちゃん、力強くなったね…」

「はぁ、はぁ、うぅ、私ももうちょっとフィジカル面鍛えようかなぁ…」

 

 なおまともに喜んでるのはユエだけの模様。

 

 さて、俺達の出てきた場所は『ライセン大峡谷』。ここでは魔法が使えず、強力生物が跋扈している、とされている。まぁ俺達にとってはたぶん雑魚だ。

 ユエがハジメと香織に抱きついて、全身で喜びを表現している。俺と雫はそれを笑いながら見つめ…つつ、視線もむけずに近づいてくる魔物を屠り続けている。雫はひたすら斬撃飛ばし、俺はひたすら手裏剣投擲だ。途中試しにファイガを撃ってみたところ、何故か分解もされず、普段どおりに発動したところを見ると、魔力とMPは概念から別物らしい。そこからはひたすらデスを連発だ。素材美味しいです。

 その後、俺と雫だけで魔物を殲滅したことに気がついたユエは、自分も役に立ちたかった、と頬を膨らませて抗議してきた。次があったらユエでも分解されずにFF魔法を使えるかを検証すると伝えて、ようやく機嫌が戻った。

 

「さて、こっからどうしようかねぇ…」

「ライセン迷宮に行くんじゃないの?」

「先にブルックの街を目指すんじゃなかったっけ?」

「それなんだが、先にグリューエン…」

「「準備無しで砂漠は嫌」」

「ん!」

「お、おう…」

「…バツの負けだよ。先にブルックを目指そう」

 

 一月半も時間稼げたので、ハウリアが出てくるまでの間にグリューエンとメルジーネを攻略、戻ってきてからライセン攻略、4つの証と再生魔法を確保してからハルツィナ攻略、もありかなと思ったんだが…流石に準備無しで砂漠横断は女子メンバーは嫌らしい。そりゃそうか。

 

 そして俺達は、アイテムボックスの中から、ハジメが作った四輪駆動のジープを取り出し、皆で乗り込んだ。一応八人乗りで作っている。運転席、助手席、三人がけの後部シート二列だ。動力は時の歯車。大事なものですら無限に使えるチートっぷりに戦慄を通り越していっそ笑えてくる。実際に無限にある形見の袋を見て気が遠くなったのも今では笑い話だ。

 そんな事を考えつつ、魔物を殲滅しながら(どうやらユエもFF魔法なら通常効率で放てるらしい)ジープを走らせていると、前方に頭が二つあるティラノサウルスみたいな魔物が見えてきた。

 まさかと思い、その足元を見ると、痴女みたいな格好した青みかかった白髮のウサミミ少女が逃げ回っていた。

 

「ウッソだろおい!まだ一月半猶予あるはずだろ!?」

「え、あれが?」

「シア・ハウリアだ!恐らく間違いない!ちっ、原作通りに行くとは思ってなかったけど、まさかこんな前倒しまであるとはな!!」

 

 そう叫びつつ、ジープの速度を上げ、双頭ティラノとシアっぽいウサミミ少女の方へと急加速する。いくら残念兎だろうと、別に魔王化したわけじゃない俺らに、見捨てる理由はない。

 

「そこのウサミミ!そのまま走り抜けろ!!」

「っ!?」

 

 俺の叫び声が聞こえたのか、一瞬驚いたような顔をしたウサミミ少女は、言われたとおりそのまま真っすぐ走り抜けていく。

 

「というわけで死んどけ!サンダガ!!」

 

 手加減する理由はない。サンダガ一発で双頭ティラノ…双頭デ○ルドーみたいな仮名だな。確か正式名称はダイへドアだっけか?を消し炭に変える。しまった、素材がもったいなかった。

 

「きゃぁぁあああああ~!?」

 

 サンダガの衝撃でウサミミ少女がふっとばされた。彼女なら多分平気だろうけど…

 

「レビテト」

 

 自らにレビテトを掛け、空中で彼女をキャッチする。そのまま横抱きにしてジープのそばへと降りる。おっと雫さん、ちょっと目が怖いです。後でやってあげるから。…いてっ、照れ隠しに殴るなよ。

 

「うぅぅ…一体何が…!?そんな、ダイヘドアが…一撃で!?」

「おーい、とりあえず下ろして大丈夫か?」

「え?あ!?ひゃ、ひゃい!?大丈夫れす!!助けていただいてありがとうごじゃいましたぁ!!」

 

 噛みっ噛みやな。流石に横抱き…通称お姫様抱っこは刺激が強すぎたかもしれない。

 

「さて、まずは自己紹介からか、それとも事情説明からか?」

「え、あっ!いけない!のんびりしてる時間はないんでした!助けていただいたばかりで図々しいのは承知ですが、わたしの仲間も助けていただけませんか!?」

「かまわんよ」

「そうですよね、そちらにも事情はありますよね…でも、そこを曲げてお願いします!どうか助けてください!」

「だからかまわんよって」

「助けていただけるのでしたら、貴方のお願いを何でも一つ聞きますので!お願いですから助け…え?」

「ん?今なんでもするって…」

「え、あ、はい。私にできることでしたら…」

「まぁ、それは後にするとして、別に助けるのは構わんよ。事情は移動しながら聞くから、とりあえず乗ってくれ」

「あ、はい」

 

 そう言ってシアを後ろのシートに座らせる。雫、シア、俺の順だ。ちなみに中央座席に香織とユエ、運転がハジメだ。今は話を聞くことを優先して、助手席取り合いバトルは遠慮してもらった。

 

 ジープを走らせながら、自己紹介を済ませ、話の本題に入る。やはり彼女はシア・ハウリアだった。

 

「さて、自己紹介も済んだところで、シア、なぜ君はこんなところに?」

「…皆さんは、私が未来を見ることができると言ったら、信じてくれますか?」

「ん?未来予知で何かを見たから、予定より早く樹海を出たのか…?」

「えっ」

 

 シアのセリフから予想したことを思わず呟けば、シアが驚いたような顔でこちらを見た。

 

「どうした?」

「信じて、くれるんですか…?」

「まぁ、俺も似たようなことができるからな。ちなみに俺の予測では、シア、君が樹海から出るのは一ヶ月半後のことだった」

「ちなみに、魔力操作こそ持ってないけど、僕たちはみんな陣なしの魔法が使えるよ」

「私は、魔力操作も持ってる」

「…うっ…うぅっ」

 

 俺達が自分のような力を持ってると知り、一人じゃなかったことに安堵したのか、静かに泣き出すシア。雫がその頭を優しく撫でている。

 暫くして落ち着いたのか、泣き止んだ彼女は静かに語り始めた。

 彼女が語ったことは原作とそこまで変わりない。魔力を持たないはずの亜人なのに、シアは魔力を持って生まれた事。更に未来予知の固有魔法まで持っていた事。魔力持ちの亜人は忌み子として処刑される事。シアの部族は仲間同士の絆が強く、忌み子であるシアを隠して育てることにした事。ここまでは変わりがなかった。だが、ここからはちょっと変わってくる。どうも、ハウリアの一族が樹海を出たのはフェアベルゲンにバレたからではなく、このタイミングで出ないと一族が滅びかねないという予知をシアが見たかららしい。

 なるほど、バレてから樹海を出た場合、俺達とすれ違っていた可能性があったのか。しかも、シアの命が脅かされるレベルの高確率で。

 そして、樹海を出たのはいいが、予知によれば、俺達と出会うのはなんとこのライセン大峡谷らしいではないか。最初からそれがわかっていれば少数で来たものを、いずれフェアベルゲンにバレて追われるくらいなら、と一族総出で出てきてしまった。仕方なく、大多数は樹海の入口付近に隠れてもらって、少数精鋭で峽谷に入ったところ、即魔物に見つかり、命からがら逃げ出して現在に至る、と。

 

「私達を見つけた魔物はさっきのダイヘドアだけだったので、今はまだ他の家族は安全だと思いますけど…はやくしないとこのままでは全滅してしまいます。お願いします、家族を助けてください」

「了承(一秒)」

 

 そう答えつつ、俺は前方に見えてきた、何かに群がっているワイバーンっぽい魔物に、無造作に手裏剣を投げたのだった。




あの残念さが消えたのはちょっと寂しいですが…跋達がシアを助けない理由がないんですよねぇ…さっさと助けるせいであの残念さ滲む必死の懇願がなくなる、と。

今回から第二章です。よくもまぁここまで続いたもんですね我ながら…

FF簡単解説
・松明
ひかよんには普通にアイテムとして松明があるらしいですよ?やったこと無いんでよく知りませんけど。

・手裏剣
投擲武器。消耗品。FFⅢでは忍者の最強武器。もちろん消耗品。上位に風魔手裏剣等がある。

・時の歯車
永久機関と言われてる箱。反物質がどうのという説明がゲーム中にある。本当なら恐ろしすぎるアイテムである。

・形見の袋
たぶんバッツの親父さんの遺骨。ひそひ草は無限にあるのにこの辺のアイテムはないとかありえないと思った結果、大変残念な感じに…もちろん何の使い道もない第1~4の石版やネプトの目なんかも無限にあります。

・了承(一秒)
謎ジャムは許してください。


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第十五話 大峡谷脱出~時系列的に兵士はいないけど~

今回で大峡谷脱出です。


~シア・ハウリア~

 

「了承」

 

 そんな事を言いながら、バツさんが何かを投げる仕草をしました。ハッとして前方を見ると、空中に六匹ほどの、モーニングスターのような尻尾を持つ飛竜の姿が見えます。

 

「ハ、ハイベリア…」

 

 自分の声が震えているのがわかります。その時、一匹のハイベリアが、急降下していくのが見えました。

 それに気がついて耳を澄ませば、家族達のものと思われる悲鳴や怒号が聞こえてきます。恐らく、私がダイヘドアを引きつけて逃げ出した後に、見つかってしまったのだと思います。

 ハイベリアは、次から次へと急降下していきます。恐らく、私の家族達を襲っているのでしょう。地上に降りたハイベリアは再び飛び上がってきません。いつの間にか、家族の声も聞こえません。恐らく、地上で『餌』に喰らいついてるのでしょう。

 間に合わなかった。私は絶望して、俯いて、涙が止まりませんでした。

 

「ふぅ、セーフ…って、どうしたシア!?なんで泣いてるんだ!?」

 

 バツさんの声が聞こえてきます。なんで泣いてるかなんて、そんな分かりきったことを聞くなんて、少し、見損なってしまいます。

 

「シア!?」

 

 父様の声が聞こえます。絶望のあまり、幻聴が聞こえてきたのでしょうか?

 

「シア、無事だったのか!何故泣いて…」

「わかりません、気がついたら泣いていたんです。あ、私は八重樫雫。こっちが…」

「ユエ」

「私は白崎香織です」

「僕は南雲ハジメ」

「せっかく家族を助けてやったのに、何も泣く必要なんてないだろうに…あ、俺は蔵兎咲跋。ハイベリアを叩き落としたのは俺です。驚かせてしまって申し訳ありませんが、割と一刻を争いそうだったので、遠距離から仕留めさせていただきました」

「なるほど、娘だけではなく、我らハウリア族も助けていただき感謝いたします。

 私はカム。シアの父にして、ハウリアの族長をしております」

 

 …あれぇ?幻聴にしては、しっかりと会話をしている気がしますね?

 私が涙を拭い顔を上げると、この、ジープ?という乗り物から降りている香織さんとユエさん(幼く見えるが私より年上らしい)、ハジメさんと、ジープに乗ったまま私の背中を擦る雫さん、私の頭を撫でる跋さん…そして、心配そうに私を見つめる父様がいました。

 

「…父様?」

「どうした、シア?何をそんなに泣いているんだ?」

「父様、生きて…?」

「ん?それはもちろん生きているぞ?」

「だって、ハイベリアがあんなに…急降下して…」

「急降下?」

「あー、なるほど、そういう事か」

 

 私達の会話で何かに気がついたのか、跋さんが会話に入ってくる。

 

「つまり、シアはハイベリアが家族に向かって急降下して、みんなが餌になってしまったと思ったのか」

「は、はい。それで絶望して…」

「たしかにあの距離からならそう見えてもおかしくはないか。あのな、シア、あれは急降下じゃない、墜落だ」

「つい、らく…?」

「そ、墜落だ。俺が『手裏剣』を投げて空中のハイベリアを倒したからな。そのまま墜ちるのは自明の理さ」

「流石にいきなりハイベリアが落ちてきたときは肝が冷えましたがな、はっはっは」

「下敷きになった人もいなかったらしいし、結果オーライって事で」

 

 父様と跋さんの会話を聞きながら、頭が現実に追いついてきます。跋さんがあの時、何かを投げるような仕草をしていたのは、しゅりけん?を投げていて。そのしゅりけんは、ハイベリアを倒せる武器で。急降下と思っていたのは、絶命した故の墜落で。跋さんは、宣言通り、家族を助けてくれていて…

 

「…うわぁ~ん!!!」

 

 私は、思わず飛び出して、父様に抱きついて、再び号泣してしまいました。

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

 しばらく父様の胸の中で泣いて、ようやく落ち着いてから、私は跋さんに謝罪をしていました。

 

「ん?何の謝罪だ?」

「あの、実は…ジープ?の中で、なんで泣いているのか、って声かけられた時、分かりきったこと聞くなんて最低って、ちょっとだけ見損なっちゃいまして…勘違いでした、ごめんなさい」

「言わなきゃ分からないことなのに…割と律儀なんだな」

 

 別に律儀ってわけじゃなくて、なんか、このことを隠したままでは居たくないなって思ってしまって…この気持ち、なんなんでしょう?

 

「とりあえず、これからどうするか、それが問題だね」

「そうね…流石に60人超えのハウリア族を連れ回すわけにも…」

「そうだなぁ…一度樹海の大迷宮見に行くのもありかもな」

「でも、バツは今は入れないって言ってた」

「まぁ、ちゃんと『原作』通りか確認するのもありかなと思ってな。必要なもの揃えて、いざ行ってみたら、別なものが必要でした、なんてオチがあってもつまらないし」

 

 跋さん達が何事かを話しています。どうやら樹海に行きたいらしいです。まだ私のことはフェアベルゲンにはバレてないはずですけど…大丈夫でしょうか?

 

「よっし、とりあえず方針は決まった。『ハルツィナ樹海』の最深部、『大樹ウーア・アルト』に案内してくれ」

「それは構いませんが…それだけでいいのですかな?」

「ああ、とりあえずはそれでいい。安心してくれ、ちゃんと一族揃って安全な状態にするまで面倒見るから」

「分かりました、とにかくここから出ましょう」

 

 こうして跋さん達は、とりあえず峽谷へと入っていた、私含めて12名の家族とともに、峽谷の出口へと歩みを進めていくことになりました。

 道中、魔物たちが襲ってきましたが、ただの一匹も、私達に触れることすら叶わず、ある魔物は細切れになり、ある魔物は手裏剣の餌食になり、ある魔物は魔法で燃やされ凍らされ落雷に黒焦げに…待ってください、なんでこのライセン大峡谷で普通に魔法が使えるんですか!?

 

「いやぁ、皆様お強い。特にその…手裏剣、と言いましたか?投げるだけにしか見えないのに、凄まじい威力ですね」

「いや、父様、そんなことより、この地で普通に魔法を使ってることに驚きましょうよ」

「おっと、私達は魔法が使えんから、あまり気にならなかったよ」

 

 などと、無駄な話をしながらも、私達はライセン大峡谷の出口に当たる階段に差し掛かりました。

 跋さんを先頭に、雫さん、私達、ユエさん、香織さん、殿にハジメさんという隊列で階段を登っていきます。

 そして、崖の上を登りきった、そこには…

 

「族長!」

「シアちゃん!」

「みんな無事だったか!!」

 

 大峡谷に入らず、待機していた家族の皆がいました。

 

「…流石にここで帝国兵とのエンカウントはないか」

 

 跋さんが何かをぼそっとつぶやいてますが、なんなんでしょう?

 と、そこに聞き覚えのない声が聞こえてきました。

 

「おー、なんだ?兎人族がこんなにたくさん。まぁいいや、樹海に入る手間が省けた。おいお前ら、適当に捕まえろ」

「はいよ」

「了解」

 

 あれは奴隷商とその護衛の冒険者です!きっと亜人族を捕まえて奴隷として売るために来たんです!

 皆が怯えて、散り散りに逃げようとしたところで、跋さんが私達の前に出てきました。

 

「おーっとちょっと待てそこのデブ」

「あぁん?何だこのガキ?」

「こいつらは俺達が保護している一族だ。何勝手に捕まえようとしてんだ、あぁん?」

「保護ぉ?何だお前、この私に逆らうってのか?私が誰だか知らんのか?」

「てめぇみたいなデブは知らんし興味もない。いいからとっとと諦めて帰れ。じゃねぇと容赦しねぇぞ?」

 

 そう言って私達をかばう跋さん。ハジメさんや香織さんたちも前に出てきて、私達をかばうように展開します。

 すると、顰めっ面だった奴隷商の表情が、にやっとしたいやらしい笑いに変わりました。

 

「ほぉぅ、上玉ばかりじゃないか。ガキどももよく見たら割と整った顔をしているな。これなら男娼として売れるやもしれん。お前ら、気にする必要はない。このガキどもも纏めて捕まえてしまえ」

 

 奴隷商のその言葉に、下卑た笑みを浮かべた冒険者達が、各々武器を片手にジリジリと距離を詰めてきました。

 

「…ハジメ」

「…うん、皆は、乗り越えたんだよね?」

「…ああ、一部は折れたらしいけどな…どうする?」

「…私はやるわよ」

「…私も、がんばるよ」

「…僕も、一度くらいは…」

「…無理すんなよ?折れても、誰も責めはしない」

「…私、やる?」

「…いつかはやらなきゃいけないことだと思うから、一人づつは俺達で処理する」

「…ん」

 

 跋さんたちは、小声で何かを話し合っていたみたいですが、一体何の話だったんでしょう?

 と、気をそらしたことに気がついたのか、冒険者たちが一斉に襲いかかってきました。

 そこからは、一方的でした。

 

 雫さんにかかって行った剣士らしき冒険者は、一歩横にずれた雫さんの剣の一振りで胴体を輪切りにされ。

 香織さんに向かっていった斥候らしき冒険者は、真正面から心臓を香織さんの槍に串刺しにされ。

 遠距離からハジメさんに矢を射かけた弓使いは、ハジメさんが持っていた『じゅう』という武器に矢を撃ち落とされ、動揺している隙に距離を詰めたハジメさんに斬り捨てられ。

 魔法陣を展開して魔法を詠唱していた術師は、跋さんが投げた小石で魔法の展開を妨害され、そのまま駆け寄った跋さんに…素手で殴り飛ばされ、首が曲がってはいけない方向に曲がって。

 残りは全員、ユエさんの魔法で消し炭に。

 最後に残ったのは、太った奴隷商のみ。

 

 ここまで、数秒の出来事でした。

 

「な、な、な…」

「…どうだった?」

「意外と、なんとも思わなかったわね」

「なんだろう、魔物を倒したときとそんなに…」

「命を奪うことに、慣れ過ぎちゃったかな?」

「…悪人なんて、ゴブリンなんかと変わらない」

「悪人に人権はない、って事で、悪人を人と認識してないのかねぇ?」

「な、何だお前たちは…一体なんなんだ!?」

 

 奴隷商が叫びます。が、跋さんたちは平然と…

 

「あぁん?まだいたのか?今すぐ逃げ帰るなら追撃はしないでおいてやるぞ?」

「いやいやバツ、それ禍根残すやつじゃない?」

「だからといって無抵抗の人を殺すのもねぇ…」

「巻き込んで一緒に燃やせばよかった」

「まぁ、私達の主観では悪人でも、向こうの主観ではそれが常識だから…」

 

 と、どう考えても煽ってるだけな会話をかわしています。

 

「ふ、ふ、ふ…」

「ん?」

「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!」

 

 跋さんたちの態度にキレた奴隷商が、懐から何かを取り出して…あれは鉱石に刻んだ、攻撃用魔法陣!?

 

「死ねぇ!」

「リフレク」

「なっ!?げふぁっ!」

 

 跳ね返した!?魔法を!?

 跋さんたちって、まだまだ力を隠してるみたいです…

 

「反射した風刃だから急所に当たらなかったみたいね、まだ息があるわ」

「まぁ、敵対行為確認したし、トドメ刺す?」

「そうだな」

 

 そして、跋さんはあっさりと奴隷商の首を落として、武器をどこかへとしまいました。

 

「…」

 

 私を含めて、ハウリア族は跋さんたちに恐怖の宿った目を向けることを止められませんでした。

 

「…守られてるだけのあなた達が、そんな目をハジメたちに向けるなんて、お門違い」

「そう言うなってユエちゃんや、ハウリア族の皆は荒事が苦手なんだ。こういう事があれば恐怖くらい感じるさ」

「…ん、バツがそう言うなら…」

 

 跋さんは私達をフォローしてくれてますが、本来はユエさんの言うことが正しいです。

 

「バツ殿、申し訳ない。別にあなた方に含むところがあるわけではないが…バツ殿の言う通り、我らは荒事に慣れてはおらん。少々、驚いてしまったのだ」

「跋さん、皆さんも、すいません」

 

 父様と私が代表して謝罪すると、跋さんは気にしてないと言ってくれましたが、ちょっと考えて…

 

「それならそうだな、一つ、俺の願いを叶えてくれ」

「ふむ、私達にできることならなんなりと」

「そうか…何、できないことは言わんよ」

 

 そう言うと、跋さんはニヤリと笑って、私達にこう言いました。

 

「ハウリア族全員、俺の奴隷になってくれ」




時系列的に兵士はいませんでしたが、運悪くこのタイミングで商品の補充にやってきた奴隷商がいたようです。
大迷宮で精神的に鍛えられた跋達、初の能動的殺人でも特に動揺はナシ。悪人に人権はありませんからね。
あ、ちなみにジープはオープンカー仕様です。なぜなら、ハイベリアがいることを知ってたから。

さてさて、せっかく助けたハウリアを奴隷に、と望む跋の真意やいかに?

FF簡単解説
今回初出のFF 用語はなし。

・悪人に人権はない。
生まれながらにして悪い人間なんてこの世にはいないし、人間話せばわかってくれる。
つまり、生まれついての悪や、話してもわからないような奴は人間ではない。故に悪人に人権はない。Q.E.D.
作者の人生のバイブル、スレイヤーズの主人公、リナ=インバースの座右の銘。


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第十六話 樹海の中で~亜人?魔法耐性持って出直してこい~

仕事の関係で遅れました。


~蔵兎咲跋~

 

 俺達は、ハウリア族総勢63名と共に、ハルツィナ樹海を進んでいた。

 ハウリア族の首には、黒い首輪っぽいアクセサリーが付いている。

 

「しかし、跋殿のその、アビリティ、でしたかな?凄まじい効果ですな。ここまで一切魔物に会っておりませんぞ」

 

 カムがそう言って、周りを見渡す。樹海に入りしばらく経つが、こんな大所帯だというのに、まだ一度も魔物とエンカウントしていない。アビリティ『てきよけ』の効果だ。

 ちなみに『エンカウントなし』だと、下手したら目当ての連中にも会わなくなる可能性があるので、一応エンカウント自体はするこちらにしてある。強制エンカウントならどちらでも構わないんだが。

 

「まぁ、敵と出会うときは出会うんだがな…」

 

 と答えつつ、無造作に手裏剣を投げる。右奥の方で、こっちに向かってきていた猿っぽい魔物が即死した。

 

「こっちに近づかせなければ問題はない」

「…ハハハ、さすがですな」

 

 さすがのカムもドン引きしているようだ。

 

「そういえば、皆さんはなぜあそこにいたんですか?」

「ん?話して…なかったなそういえば」

 

 原作では出会った時点である程度会話してたけど、俺らノータイムでハウリア助けに行ったんだった。

 そういうわけで、簡単にこれまでの経緯を話しておいた。召喚、前世の記憶復活、訓練、大迷宮、裏切り、落下、脱出、糾弾、濡れ衣、決別、再突入、救出、攻略、訓練、旅立ち、出会い。『原作』についても触りだけ話しておいた。

 結果…

 

「ユエさんの境遇は同情しますし、私はすごく恵まれていたってことが分かりましたけど…跋さん達、正直な話、狙ってこの流れに持っていきませんでした?」

 

 原作のように号泣はせず、俺達の行動は狙ったんじゃないかと少しジト目だ。

 

「んやー、一応『原作』回避は狙ってたんだけどなぁ…普通に奈落に叩き落された挙句、生還したら裏切者扱い、までは予想できなかったぞ」

「ふむ、にわかには信じられない話ですが…事実、これまでは一応、その、前世の物語でしたかな、そのとおりにある程度流れてるわけですな」

「そうだな、間違いなく回避したと思ったハウリアとの邂逅があった辺り、世界の修正みたいなのもあながちありえない話じゃないのかもしれない、と思い始めてるところだ」

「…じゃあ、私を旅に連れて行ってくれますか?」

「ああ、旅に出たい理由も知ってるし、別に構わんよ。まぁ、今のままじゃ無理なんで、特訓はしてもらうけどな」

「え、あぁ、それはもちろんがんばりますが…『原作』じゃどんな特訓してたんですか?」

「内緒だし原作通りにする気もないぞ」

「ふむ、少々怖いですな」

 

などと話しながら数時間。魔物とは違う、無数の気配が俺達を取り囲んだ。どうやらおいでなすったようだ。

 カム達も忙しなくウサミミを動かして索敵し…相手に気づいたのか、苦虫を噛み潰したような顔になっている。

 

「お前達…なぜ人間といる!種族と族名を名乗れ!」

 

 トラ模様の耳と尻尾をつけた、筋骨隆々の亜人が誰何の声を上げる。

 

「あ、あの私達は…」

 

 カムがなんとか誤魔化そうと…ん?あの虎、シアをみて目をかっぴらいてるけど…

 

「白い髪の兎人族…だと?貴様ら、忌み子を隠し続け、我らに報告が来る前に一族揃って逃げ出したハウリア族か!亜人の面汚し共め…その首輪、外で人間族に奴隷にされて、樹海の案内をさせられてるのか…ならば!ここで全員消してくれるわ!総員かかれ!!」

「話が長い」

 

 既に目の前の虎以外はスリプルで爆睡中である。俺は魔法剣スリプルがかかったブロードソードで軽く目の前の敵をぶん殴った。FFⅤのブロードソードは片刃なんだよな。峰打ちでござる。

 俺達は眠った亜人達を縄で縛って、ひとまとめに転がした上で、リーダーの虎を叩き起こした。

 

「う、む…一体何が…?」

「俺の勝ち!なんで負けたか、明日まで考えといてください。そしたらなにかが見えてくるはずです」

「なん…!?皆はどうした!?」

「後ろで寝てるぞ、全員」

 

 慌てて後ろを確認する虎。縛られてるってのに器用だなコイツ。

 

「これは…」

「全員俺の魔法でおねむだな。あんただけ効果がなかったんで、同じ魔法の効果を付与した剣でぶん殴って眠らせた。死んでないだけありがたいと思え」

「…我らを奴隷にする気か」

「奴隷なんていらんよ」

「だが、貴様らはハウリア族を奴隷にしているではないか」

「そりゃー、ハウリア族から『奴隷になるので我らを守護してくれ』と懇願されたからな」

 

 もちろん嘘である。

 ハウリア達も頷いてるが、顔がひきつっていたり目が無駄に泳いでいたりする人が多い。腹芸向かないなこの種族。

 俺は、樹海に入る直前のやり取りを思い出していた。

 

 

 

「奴隷…ですかな?」

 

 ハウリアの族長、カム・ハウリアが訝しげな顔で

問いかけてくる。

 

「ああ、と言っても、本気で隷属させるって訳じゃない。ちょっとした小細工、ってやつだ」

「小細工…どういう小細工か聞いても?」

「簡単にいえば、フェアベルゲンに誤解させて敵対する為」

 

 俺がそう言うと、ハウリア族の皆は驚いたり困惑したりと、ざわざわしだした。

 

「それは…なぜそのようなことを、と聞いてもいいですかな?」

「構わんよ、何も言わずにそんなこと言っても納得はできんだろうし。

 簡単にいえば、俺は本来知り得ない事を知ることができる」

「本来知り得ないこと…?」

「未来のこととかだな」

「!?…それは、シアの力と似たような…?」

「ちょっと違うな。まぁその説明は後でもいいだろう。

 それで、この先確定でありそうな揉め事の対処のため、ハウリア族は俺、ないしは俺達の奴隷って扱いのほうが面白…ゲフンゲフン、スムーズに事が運びそうでな」

 

 あと、個人的にフェアベルゲンが嫌いだからってのが大きいな。角が立たないようにする気は皆無だ。

 

「…今、面白いと…」

「んで、俺達の庇護を得るために、俺達へ隷属した、という設定でお芝居をしてほしくてな」

 

 カムさんの鋭いツッコミを意図的に無視して、俺はそんなお願いをハウリア族に伝える。

 

「ふむ…しかし、隷属の首輪はどうするのですかな?」

「それは、これでごまかせるんじゃないかね?」

 

 そう言って俺は一つの装備を取り出す。首装備『黒のチョーカー』だ。これなら飾り気も少ないし、隷属の首輪と誤認してくれるかもしれん。

 

「なるほど…見せてもらっても?」

「ほい」

 

 俺から黒のチョーカーを受け取ったカムさんは、じっくりとそれを見回し、おもむろにそれを自らの首に装着した。

 

「族長!?」

「大丈夫なのですか!?」

「…うむ、心配いらん。これはたしかに、単なる首飾りらしい」

「いや、まぁ、いいけどさ…」

 

 族長自ら実験台になるかよ普通…

 

「はっはっは、私は跋殿達を信頼しておりますからな!そも、だまし討ちをする理由がないではありませんか。あれだけの戦闘能力を有しておるのです、本気で隷属させたいのなら、力づくで幾らでも可能でしょう」

「そうだけどさ、カムさん族長なんだから…」

「呼び捨てで構いませんぞ。跋殿達は我らの命の恩人。それに建前上、我らの主人となるのですからな」

「…それならカム、と呼ぶけど…主人になる、ということは…」

「跋殿がそういうのであれば、恐らく何らかの理由はあるのでしょう。建前上、我らは庇護を求めて、跋殿たちに隷属した、ということにすればいいのですな?皆、それでいいか?」

 

 カムさん、いや、カムがハウリア族にそう問いかければ、全員なんの迷いもなく頷いた。本当にお人好しというかなんというか…人格改造するのが申し訳なくなってくるな。

 だけど、この性格は多少どうにかしないと、この先生きのこることはできないだろうしなぁ…彼らのためということで、心を鬼にしよう。

 

「ありがとう。じゃあ建前上、皆は俺達に命を助けられて、庇護を得るために自ら奴隷になることを希望した、ということで」

「分かりましたぞ」

「んじゃこれ、人数分の黒のチョーカーな(どさどさー)」

「!?」

 

 

 

 まぁこんな感じで、建前上、ハウリア族は全員俺の奴隷、ってことになってる。雫やハジメ達は奴隷持つ演技なんてできそうにないと辞退した。あ、今回全く会話に入ってこないけどちゃんといるぞ?中間とか後方で別のハウリア族達を護衛しながら談笑してるけどな。60人超えだから、俺らが一塊じゃ漏れが出る。

 

「…奴隷を欲していないのが事実だとして…ならばなぜ、この地へやってきた?」

「樹海の深部、大樹のもとに、な」

「大樹のもとへ…?一体何のために?」

 

 原作ではここであっさり大迷宮の話ししてたけど、ワンチャンフェアベルゲンスルーできるかな?

 

「俺達は異世界から召喚された勇者でな。ぶっちゃけていえば観光だよ。だから別に亜人に偏見もなにもないし、奴隷だってどうしてもって言われて建前上主人やってるだけだ」

 

 さてさて、この虎さんの判断やいかに?

 

「…それが本当だとしたら、お前は国や同胞には危害を加える気はない、のだな?」

「んにゃ、さっきみたいに襲われた場合はわからんよ。俺達は既に敵対した人間族も殺している。敵対した亜人族を殺さないでおく理由はない。今回は初回サービスと思ってくれ、次はないぞ」

「…本国に指示を仰ぎたい。伝令を出すことを許して貰いたい」

 

 んー、スルー無理かなー?しかし、原作と違って全員完膚なきまでに無力化されてるからか、完全に下手だなこの虎さん。

 

「しゃーないなー、んじゃその伝令だけ起こして縄をといてやるか。どいつだ?」

 

 原作でザムと呼ばれていた獣人を起こし、今までの話を伝え、縄をといて伝令に行かせる。これでしばらくは待ちだな。

 しばらく待っていると、眠らせていた獣人達が次々に目を覚ましていく。が、完膚無きまでに縛られてるせいで、こっちへの敵対行動はできないでいる。やがて、全員が目を覚ましたタイミングで、虎さんが、自分たちの負けと敵対行動の禁止を伝えた。

 その後俺達は、普通に雑談をしながら時間を潰し、約1時間位経った頃だろうか?流石にそろそろ飽きてきた頃に、森の奥から数人の亜人族が現れた。

 中央には初老の男。耳が尖ってるということは森人族。やはり来たのはコイツか。

 一緒についてきた亜人族が、縛られている同胞を見て、こちらを睨んでくる。が、一方的に無力化された話はちゃんと伝わっているらしく、助けようとしたり、こちらへ攻撃したりしてくる奴らはいないようだ。

 

「ふむ、お前さん達が問題の人間族かね?名はなんと言う?」

「俺らの世界じゃ、人に名を尋ねるときはまず自分から、ってのが常識なんだが、こっちの世界じゃ違うのかね?」

 

 俺のセリフに、周りの亜人族が殺気立つ、が、それを片手で制して、森人族の男が名乗りを上げる。

 

「ふむ、たしかにの。私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。して、改めて、お主の名は?」

 

 ふむ、名乗られたなら名乗り返さなきゃ今度はこっちが礼儀知らずだ。

 

「蔵兎咲跋。蔵兎咲が家名で跋が名前。すっぴんマスターだ」




…古戦場?なんのこったよ?(すっとぼけ

はい、というわけでどうにもこうにも筆が進まなかった、樹海内部です。いやー、ワンチャンフェアベルゲンスルーも考えたんですけどね、そうしたら前回の引きが完全に無駄になる。というわけで無理くりエンカウントです。
ハウリア族の総人数?適当です。
今回ちょっと整合性に自信がありませんね。どうも夏バテ気味で頭が回ってません。
次の日曜日は、投稿なかったら一回休むかも?


FF簡単解説
・スリプル
相手を眠らせる呪文。実はFFⅠ ではデフォルトで全体魔法。

・ブロードソード
幅広剣。弱めの剣であることが多い。今回使ったのはⅤバージョン。片刃。

・黒のチョーカー
首装備。黒いチョーカー。シンプルなデザインのやつ。

・峰打ち
普通に考えて、1キロ超えの金属の棒で胸部を全力殴打したら、肋骨くらい余裕で折れて肺に刺さると思う。不殺とか言ってるけど普通に死ぬと思う。アビリティじゃなくて普通の峰打ちの話。


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閑話 一方その頃~永山パーティー~

先週一週間お休みをもらい、モチベが高い状態でさぁ執筆だ!と気合い入れておりましたが、台風影響で今週分の執筆時間と体力が軒並み消し飛びました。なので、超短い閑話でお茶を濁すことをお許しください。


~三人称~

 

 跋達一行がアルフレリックと邂逅していた頃。オルクス大迷宮を攻略中の勇者(笑)一行は、地下六十五階に差し掛かっていた。

 

「あ、あいつは…」

「ベヒモス…死んだんじゃねぇのかよ…?」

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と遭遇することもよくある話だ。気を引き締めろ!退路の確保を忘れるな!」

 

 驚愕する天之河光輝と坂上龍太郎、冷静に退路の確保を指示するメルド・ロギンス。

 その言葉に不満そうに言葉を返す天之河。

 

「メルドさん、俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ!もう…」

 

 そこまで言った時、天之河と坂上の横を何かが横切り、ベヒモスに向かっていった。

 

「グダグダ言ってる暇があれば、先手必勝!!おぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁ!!!」

 

 永山パーティーのリーダー、重格闘家の永山重吾である。ベヒモスへと突っ込み、打ち下ろしの右(チョッピングライト)でベヒモスの頭を地面にめり込ませる。

 

「錬成師にできたんだ、俺にできないはずがない!」

 

 土術師の野村健太郎が、ハジメがやったように、かつハジメより強固にベヒモスの頭を拘束する。

 

「永山、野村!?だがよくやってくれた、あとは俺が…」

 

 そういって、天之河が大技を準備しようとしたが…

 

「もう終わったよ」

 

 その背後から、いきなり声が聞こえてきた。暗殺者の遠藤浩介だった。

 

「終わったって、そんな訳は…!」

 

 そう言って、ベヒモスの方へ目をやるが、拘束されている割には身動き一つしていない。

 

「頭を拘束された時点で、首を切り離したよ。流石にそれで生きていられる魔物だったらお手上げだったけどね」

 

 付与術師の吉野真央の支援を受け、薄い気配を生かして真っ先にベヒモスに近づいていた遠藤が、拘束され動きが止まった頭を切り離していたのだ。流石に暗殺者の火力で一刀両断とは行かなかったが、何度も攻撃すればその程度はできるほどには、彼も成長していた。

 

「皆、お疲れ様、怪我は?」

 

 治癒師の辻綾子の質問に、永山が答える。

 

「流石に硬すぎてちょっと拳がいてぇ」

「そのくらい我慢しなさい」

 

 そのやり取りに吹き出し、笑い出す永山パーティーの面々。勇者パーティーは呆然とそのやり取りを見ているだけだった。

 

「よーし、ここから先は完全に未知の階層だ!万全を期すためにここは一度戻って再突入しようと思う!」

「そんな!メルドさん、俺はまだ…!」

「はい、わかりました」

「了解です」

 

 メルドの提案に天之河が反論しようとするが、永山パーティーは素直にそれを聞いて、帰還準備に入っていた。既に永山パーティーの面々は、勇者天之河をリーダーとして認めてはいなかった。かつ、自分たちがどれだけ強くなろうとも、死ぬのは一瞬だということを理解していたため、増長することもなく、年長者であるメルド団長の事をよく聞いていた。

 

「…俺がリーダー…俺が勇者なのに…なんで誰も俺を…」

 

 ぶつぶつと呟く勇者のことを気にかけるのは、親友のはずの拳士を含めて、誰もいなかった。

 

 

 

 

 ちなみに現勇者パーティーの一員となっている檜山達四人組は、展開の速さについていけず、一行の最後尾で硬直しているだけだった。




来週!来週こそは普通に続きを書きますのでお許しください!!

勇者が役立たずになったので、永山パーティーを強化しました。強化しすぎた気もしますが、まぁいいや。心を入れ替えて真面目にやってればこのくらいにはなってるでしょう、きっと恐らくメイビー。

…あっれぇ、吉野さんだけ喋ってないや。


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