オーバーロード-妖魔の君を添えて- (雪月-dox-)
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終了とはじまり

こんばんは、雪月です。唐突にこんなオーバーロードが読みたいと考えて書いてみました。半妖であり、妖魔の君である。そんな至高の御方を入れてみました。指摘や感想、よろしくお願いします。

11/6 加筆修正


「はぁ…」

 

鬱蒼とした天気の下に聳え立つ白い建物、その事務室の様な場所に彼女は居た。と言うのも突然飛び込んで来た仕事の量に眩暈を起こし乍ら溜息を零し、資料を纏めては提出する。この動作を繰り返していた

 

「間に合うかな、ううん。間に合わせなきゃ」

 

時計を見れば時刻は22時30分、まだ時間はある。息を吸い込み気合を入れ直す、仕事を!終わらせる!

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「お、終わった!は、早く帰らないと!」

 

 

どうにかこうにか仕事を終わらせ、鞄引っ掴む。今日の0時00分、サービス終了を迎えるDMMO-RPG『ユグドラシル』長い間遊び続け、現実の嫌な事も忘れられる程に熱中していた。そのゲームには数え切れない程の思い出がある。サービス終了の瞬間に立ち会いたいと言う思いもある、だが、それ以上に待っている人が居る

 

 

「後、30分…うん、間に合う。…凄い雨」

 

 

会社の玄関にある、傘立てから赤色の傘を取り。広げては土砂降りのなか全力で駆け出す。サービス開始の頃からプレイしていたと言う事もあって色々なトラブルにも巻き込まれたりもしたけど、やはりそれも思い出なのだ。何よりも『彼』と『彼ら』に…最後にお別れを言いたい、ううん。『彼』なら連絡先を交換して別のゲームを探すのも良いかも知れない。そんな事を考えていると自然と笑みが零れた。赤信号の十字交差点、横断歩道の前で足を止めて息を整える。ここで少し休んだら家まで一気に…そう考えていると信号が青になる。勢い良く飛び出すと同時に大音量のクラクションが聞こえる

 

 

「…ぁ…」

 

 

右に顔を向けた瞬間、間抜けな声が自然と漏れた。赤信号を無視したトラックが猛スピードで迫って来るのが見え…強い衝撃が身体を襲い意識を手放した

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「アセルスさん、今日は遅いな…仕事、かな?」

 

 

その部屋は中心に巨大な円卓が置かれ、それを囲う様に豪華な椅子が配置されていた。よく見れば二席ほど特に凝った装飾が施されており、内一つに腰を掛ける骸骨が悲しそうな声音で呟いた。彼はギルド名『アインズ・ウール・ゴウン』の団長であり、最後まで『ユグドラシル』をプレイして来たAoGのメンバー、名をモモンガと言う。昨日まで一緒にプレイしていたメンバーが一人居たのだ、彼女は最後の日も知っていたし、明日も来ると言っていた。そこでモモンガは最後ぐらい…と、一縷の望みを掛けて「最後に日に集まりませんか?」と、残る41人のギルドメンバー宛にメッセージを送っていた。結果はたった一人だけ…スライム系異形種でプレイしていたヘロヘロさんが来ていたのだが、明日が早いという事で会話を少しした後にログアウトしていった

 

 

「まさか、日を間違えていたりして…」

 

 

残念に思いながらもまだ来ていない一人のメンバーを思いながら時計を眺め、いや、それは無い。と、首を横に振り昨日の会話も思い出す。…お互いにクエストをこなし『明日が最後だから…もう少し』と言い一人で高難易度のクエストを処理しているのを見ていた、最後まで『ユグドラシル』を楽しんでいたのだから

 

 

「…やっぱり、仕事かな」

 

 

重い溜息と共にゆっくりと席を立つ、リアルの用事で来れないと言うのであれば仕方がない…部屋を出ては玉座へと向かう。手にはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン…ギルドの皆で作り上げた至宝にして切り札それを装備する。最初は無くてもいいかとも考えたが、アクティブメンバーが二人だけになってから年中装備する様に強請って来た彼女を思い出し、笑みを零した

 

 

「連絡先、聞いておけばよかった」

 

 

そう、呟きながら水晶で作られた玉座にたどり着く。玉座の横には布の面積が絶妙なバランスの純白のドレスに身を包み、漆黒の翼を持つ淫魔(サキュバス)が美しい笑みを浮かべていた

 

 

「そう言えば…アルベドの設定はどうなってたっけ?」

 

 

ウィンドウを操作し、設定を見ては思わず目柱を揉む。余りの文字の多さに読むのが面倒になり、最後のまで飛ばすと…

 

 

「因みにビッチである。最初の良妻系の印象が…あ、タブラさんはそんな人だった」

 

 

ギャップ萌えが至高!そう叫ぶ彼の姿を思い浮かべては苦笑いし、彼には申し訳ないが独断と偏見で最後の『因みにビッチ』これを『アセルスを愛している』に変えた後、少し悩み『溺愛』と付け加えては満足そうに頷く

 

 

「って、今日が最後なのに…意味無いじゃないか」

 

 

これを見た時の彼女の顔はもう見れない。時刻は23時58分を表示しており、もう間に合わないだろう。ふとアセルスさんが壁に飾った美しい月の様な輝きを灯す赤い薔薇と太陽の様に優しく温かい淡い光を宿す黄色い花の装飾が目に入る。カンストプレイヤーが作戦とパーティーバランスにボスの行動を完全に把握した上で神器級、伝説級の装備で固めていないと攻略が不可能なクエストでのみドロップする唯の装飾品。しかも、ドロップ率は0.5%と何故か異様に低くある意味勲章的な位置にあった物だ。…アセルスさんは一人で取って来たけど。まじまじとそれを眺めて居ると輝いている花弁が四枚…ひらひらと地面に落ち空気に溶ける様に消えて行く

 

 

「こんなエフェクト、あったんだ」

 

 

次々と散り行く花を玉座に座り眺めながら、最後を締め括るロールプレイを考え始める

だが、彼は知らない。これから起きる異変を、苦悩を…

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ん…此処は…?」

 

 

目を開けば暗い空が視界一面に広がっていた、雲も無く雨も降っていない。透き通る様な宝石と言える程に美しい夜空だ。それに、息をする度に花の良い香りを感じる、ゆっくりと身体を起こせば周りの光景に目を見開く

 

 

「綺麗…あれ?私、こんな声だったっけ…?」

 

 

真っ白な純白のバラに囲まれながら眠っていたらしい。そして、同時に自分の声に違和感を覚える。ここまで綺麗な声ではなかった、私の声はもう少し低かったはずだ

 

 

「んんっ。あー…ま、いっか」

 

 

此処は天国かな?病院…じゃないよね。と、考えながら立ち上がる。トラックに轢かれた後の記憶は無い、痛みも感じないしここが天国と言われれば簡単に信じる、喉の渇きを覚えて周りを見渡してはリアルには無い綺麗な水で満たされた湖を見つけた。早速飲もうと思い湖の畔で身を屈めた瞬間、衝撃が走る

 

 

「え…?この姿…アセルス?」

 

 

水面に反射する自身の姿に困惑の声を漏らす。当たり前である、そこに映るのは慣れ親しんだ『ユグドラシル』での姿『アセルス・S・フロンティア』の姿なのだから。肩から胸元まで大きく開かれた深紅のドレス姿、昨日装備してログアウトした記憶がある。このキャラクターは随分と昔に販売されたゲームに登場する女性キャラクターを模して、独自の好みに寄せた物だ。本来は緑色のショートヘアーなのだが、今は腰まで届く程に後ろ髪を伸ばしている。瞳の色は緑色のまま身体つきは変えており、特に胸の大きさを豊満に変えていた。余談だがアインズ・ウール・ゴウンのメンバーからは『何時かレシピを聞きたい』と言われる程、絶妙な大きさである

 

 

「ここは…ユグドラシル…?」

 

 

しかし、あのゲームは匂いは感じないはず。試しに近くに生えていた草を毟り口の放り込み、数回咀嚼する

 

 

「…ぺっ」

 

 

青臭く苦い味に顔を顰め、吐き出してはやはり可笑しいと頭を抱える。味も匂いも感じるのだ、となればこれは現実なのだろうか?後ろを振り向き白薔薇を一輪摘もうと手を伸ばす、何となく特に理由の無い行動だった

 

 

「…っ」

 

 

指先に走る小さな痛みに手を引くと人差し指から赤色では無く紫色の血が流れていた

 

 

「そっか…本当に、アセルスになったんだ」

 

 

自身のテキストボックスに事細かく設定を書き込んで居たのを思い出す。思えばこのキャラを完成させる為だけにワールド・チャンピオンにもなっていた

 

 

「私はアセルス。アインズ・ウール・ゴウンに君臨する妖魔の君」

 

 

そう小さく呟いては手の平を握り、当てもなく歩き出す。もし夢なら覚めないで欲しい…そう思いながら




始まりの第一話でした、今はまだ現地人と出会っていませんが。次回は会います。どうなるのか…期待してお待ちください。


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妖魔の君、村を救う

何が起きた?0時00分になった瞬間、湧き上がる玉座。無数に存在する無表情かつ機械的なはずの、NPC達が歓喜し、その声は轟音となり響き渡っていた

 

 

(な、何が!?え、ぇぇ?!)

 

 

困惑しながら玉座に凭れ掛かる骸骨、異形種ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の団長:モモンガである。金と紫の糸で装飾された豪華なアカデミックガウンを深く被り、成るべく目立たぬように努めるも視界に入って来た純白はそれを許さなかった

 

 

「モモンガ様。如何なさいましたか?」

 

 

自分の前で跪き、顔色を窺う様に姿勢を低くする彼女、アルベドだった。

 

 

「んんっ!いや、何でも無い。だが…いや、まさか」

 

 

NPC達が意思を持ち、声を発しながら表情を変えている。まるで、生きているかの様に…

 

 

「どうなっているんだ?」

 

 

GMコール、強制ログアウト、試せる手段全てを行ったがリアルへと戻る事は叶わなかった。まずい、何がどうなっているのか混乱して来た、不安が胸に広がり何とも言えぬ感情が噴き出すが、突如としてその感情は消え失せた。まるで何かに抑圧されたかの様に感情の炎が鎮まったのだ

 

 

「モモンガ様…?」

 

「ごめ…すまない、アルベド。守護者達よ!己の守護階層及び、領域内に異常が無いか確認せよ、手段は問わぬ!速やかに確認し、アルベドに報告せよ!」

 

 

支配者ロールを行いながら取りあえずは、ナザリックの安全…現状を確認する為に指示を出す。今は情報が少しでも必要だ。…それに、一人で考える時間も欲しい。いや、寧ろ一人になる為に命令を出す

 

 

「セバス、お前はナザリックを中心に1km範囲内を捜索、索敵を行え。敵対的な生命体に会った場合は即座に離脱しろ交戦は愚策と知れ」

 

「畏まりました。モモンガ様」

 

セバスの言葉が終わると同時に各階層の守護者達は次々と姿を消し、残るのはアルベドだけになった

 

「私は円卓の間に居る。報告は…アルベド、お前が代表して来い」

 

「はっ!…モモンガ様、一つだけお聞きしてよろしいでしょうか?」

 

「何だ?」

 

「あ、アセルス様は…いらっしゃらないのでしょうか?」

 

 

その言葉を聞いて、モモンガの中で再び不安が渦巻く。実を言うとサービスが終わると思われた0時00分…23時59分57秒にギルドメンバーがログインした時に鳴る通知音が聞こえた気がしたのだ

 

 

(まさか、アセルスさんも…?)

 

「アルベド、アセルスさんは今現在行方不明だ…彼女を見つけ出す為にも今は警戒と捜索に力を入れてくれ」

 

「っ…!御意…」

 

 

それだけ伝え、歩き始めるモモンガ。しかし、彼は気が付いて居なかった。『アセルスが行方不明』と聞いたアルベドの瞳から溢れ出す涙に

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「よっと、ん。いい感じだ」

 

 

幻想的な場所からしばらく歩き、今は森の中をさまよっていた。ドレス姿には違和感でしかない一振りの刀を鞘に収め、切り開いた蔦を掻き分けて行く。身体が変わったと言うのに全く違和感はなった、強いて言うのであればやはり、胸の重さと声音が違う事だろうか?…いや、正直な所、激しく動くと胸がとても痛かったりする

 

 

「それにしても、アイテムボックスが使えるのは助かった…武器も持ってなかったから」

 

 

そう言いながら、鞘に収まる刀…名を『月下美人』と言う。クラフト職を此れや他の装備を作る為だけに育てた甲斐があった。まぁ…運営さんのお気に入りに私が居ただけなんだけどね…そう思うと何だか他のプレイヤーに申し訳ないが、今となってはどうでもいいかな?

 

 

「ここはゲームの世界じゃない。間違いなくリアルなのだから」

 

 

刀を振るった時の感覚も物を切る時の感覚もゲームでは感じた事が無い程に生々しい

 

 

「…剣技は使えるのかな…?」

 

 

剣技と言っても流石に『切り返し』に関しては只振るだけだし、『なぎ払い』も同じだ。気になるのは単純な剣技では無く複雑な剣技…例えば『無月散水』や『ディフレクト』と言った、分身したり音速を超える攻撃であろうと物理であるなら防ぐ事の出来る剣技などだ

 

 

「後で試そっと、うん?」

 

 

焦げ臭い、そう感じて鼻をスンスン…と匂いを嗅ぐ。焦げた匂いに鉄の匂い、血の匂いが混じっている

 

 

「こっちだ」

 

 

小さく呟いて匂いが濃くなる方向に向けて速度を上げて走り出す。自然と月下美人を抜き放ち脚に更に力を込める

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「はぁっ!はぁっ!」

 

 

普段であれば夜の静けさに包まれているはずの夜の森を一人の少女が息を切らせながら全力で走っていた。その瞳には恐怖と絶望の色で染められていた。自然と抱えている自分よりも小さく幼い命を強く抱いてしまう。その二人の髪色は似ている、恐らく姉妹なのであろう。姉と思われる少女は息を切らしながら走り続けるも背中からは鋭い物で切り付けられたのか深い傷を負っている。この分では長くは走れない

 

 

(苦しい…走るのも、もう…)

 

 

そこまで考えて、頭を振りながら不安と絶望を振り払う。だが、現実は残酷である。意識はハッキリしているはずなのに突如身体が動かなくなり足が縺れ転倒してしまう。妹を庇う様に咄嗟に背中で受け身を取るも地面に叩きつけられ肺の空気を吐きながら呻く。幸運か不幸か背中から襲って来る焼け付く様な痛みが気絶を許してくれなかった

 

自分達が走って来た後ろを見れば直ぐに恐怖と絶望の化身達が迫って来る。硬い、金属が擦れる音を立てながら三人の男が現れる、息を切らし狂気が滲み出る笑みを浮かべて

 

 

「逃げ足が速くて困った嬢ちゃんだ」

 

「あぁ、全くだ。俺は大きい方を貰うぞ?」

 

「じゃ、俺は小さい方だ」

 

 

そう言って剣を抜き放ったまま、迫る男達から少しでも距離を取ろうと地面を這う様に動き始める少女。涙を流しなら必死に身体をバタつかせる。「助けて、助けて…」と、囁く様に零れる少女の声に男達の狂気は更に膨れあがる。先頭の男が剣を振り上げ逃げられない様に足を狙う一振りが降ろされ様とした瞬間

 

 

「助けを呼ぶ時は大きな声で言わないと、ダメだよ?」

 

 

視界を覆う真紅のドレス、鮮やかな緑色の髪、余りの美しさに恐怖すらも忘れる程の美貌。そして、優しい声で少しお茶目な言動…それがあの方との出会いでした…

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

念の為にとディフレクトを発動させながら少女と男の間に割って入る、が…まさか、ディフレクトが反応しない程に弱い斬撃だったようだ。男の顔が驚きに変わるが直ぐに下品な表情へと戻る。しかし、その男は表情を浮かべたまま力が抜けたかの如く倒れる。よく見れば、背中から死人の様に真っ白な手が突き出ていた

 

 

「後二つ」

 

 

そう呟けば背後にいた仲間と思われる人間が悲鳴を上げなら逃げ始める。無論、逃がすつもりも無い。刀を無造作に二振りすれば、目には見えない刃…真空の刃が放たれ、背後を見せて走る二人の男の首を刎ねた。頭部を失った身体はふらふらと数歩、歩きどさりと身体が草原に沈み、ぴくぴくと小刻みに跳ねている

 

 

「大丈夫かい?」

 

 

月下美人を鞘に納め後ろ振り向けば、怯えた様子の少女に声を掛ける

 

 

「は、はい。ありがとうございます…わ、私はエンリ、エンリ・エモットと言います。この子は私の妹でネムと言います。貴女のお名前は…?」

 

 

はっ!と、我に返った少女は慌てて言葉を紡ぐ、震えながら立ち上がろうとする彼女をそっと、手で制する。妹のネムは此方を見つめながら姉の代わりなのか、ちょこんと頭を下げていた

 

 

「私はアセルス。ほら、無理はダメだよ。ちょっと待っててね」

 

 

エンリの背中にある傷に手をかざし、スキル名を思い浮かべ実行する為に手の平に意識を集中すれば金色の光が溢れ出す。光が消えた時、傷は跡形も無く消えて居るのを確認しては、うまく行った事に安心する

 

 

「ち、治癒魔法…そ、その。私持ち合わせが…」

 

「お金なんて要らないよ、気分はどう?気持ち悪いとかない?」

 

「は、はい。大丈夫です」

 

 

弱々しくもハッキリと受け答え出来る事に嬉しく思いながら立ち上がる

 

 

「ネム、お姉さんをしっかり見ているんだよ?何かあったらこの指輪を使って」

 

 

手招きしてネムを呼んでは優しく頭を撫でながら指輪を渡す。『幻夢の指輪』本当は魔法として『幻夢の一撃』魔法で再現したかったのだが、できない故にアイテムとして再現を果たした。簡単に言うと、攻撃スキルが発動出来る指輪だ

 

(さてっと、この匂いの濃さだと村か町がさっきの奴らに襲われているのかもしれない)

 

「あ、あの…アセルス様。村を…村を救っていただけませんか…?」

 

「ふふ、安心して。最初からそのつもりだから…君は此処にいるんだ。静かになったら出てきなよ?」

 

 

そう言い残し、先程と同じ速度で村がある方角へと走り出す。少女達の生まれ育った村を救う為に

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ナザリックの現状の報告を受けた後、各守護者達、更にはプレアデスとの面接…好感度チェックを終えたばかりのモモンガ。その雰囲気から表情には出ない疲労の色が見えた

 

(好感度は正直、俺が引くぐらいに良好だ。寧ろ…忠誠心が重い、重すぎる)

 

はぁ…っと、重圧から来る溜息をゆっくりと吐き出す。だが、それには悲しみも含まれていた

 

「…アセルスさん。貴女は人気者ですよ」

 

そう、一番気持ちを落ち込ませているのはナザリックに居る全てのNPC達がアセルスの安否を気にしている事だ。デミウルゴス、コキュートスは静かに沈痛に震え。アウラ、マーレ、シャルティアは今にも泣き出しそうになり。それは、一般メイドやプレアデスにも広がっていた。特に酷かったのはアルベドだった

 

(アルベド、大丈夫だろうか)

 

そう思いながらも、何処か安心していた。行き成りアセルスさんに切りかかるようなNPCは此処にはいないが…だが、早く見つけなければ。最悪、真実を話さなければならいな…

 

「…そう言えば、便利な鏡があったな。使えないだろうか?」

 

そう思い立ち、急ぎ足で目的の部屋へと向かう

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

速度を落とす事無く木々を縫う様に走り抜ける。やがて木の数が減り、草原が見える。其処まで近づけば村が見えて来る、焼け落ちる家屋、逃げ惑う人間達を追い掛け回し切り殺す鎧を着た人間達、既に事が切れ地面に伏した肉塊。アセルスはその美貌を惜しげも無く振りまく様に村の中心に向けて歩き始める。その姿は逃げる者、襲い掛かる者すら動きを止めて見惚れる程だ

 

一人の兵士が我に返りアセルスに向けて剣を向けようとした瞬間、顔が消し飛んだ。首から鮮血を噴き出しながら倒れ、血吹雪の様に霧散する頭部。それを目の当たりにした兵士達に動揺が走る

 

逃げようと背を向ける兵士の首は刎ねられ、切り掛かる者は上半身と下半身が別れを告げる。地面に滲み込む血の上を優雅に歩きながら次々と死体を作り上げていく

 

生まれて初めての殺人に何の感情も湧かず、只淡々と無表情のまま生命を刈り取る為に刀を振るう

 

「ひ、ぃぃぃ!た、たす、たずげでっ!」

 

最後の一人と思われる兵士が必死に喚き乍ら地面を這う、表情は表現出来ない程に恐怖に歪んでおり声も喧しい。

 

「それ、貴方は何回言われた?あぁ、答えなくてもいいよ。自分の手を汚した事も無いって、答えられても不愉快だ…今度はもっと、生命の役に立てる形で生まれておいで?」

 

そう言われた男の顔が歪み、顔が上下にゆっくりと割れ左右に分かれ落ちた

刀に着いた血を振り払う様に振った後、鞘に納めて息を吐く。考えて居たよりもこの世界の人間は脆い様だ、そう考えながら村の様子を見る為に振り返り。再び刀を抜き放つ

 

「これは…転移門(ゲート)?」

 

漆黒の渦が出現し、ゆっくりと空間に広がって行く。さっきの兵士達の仲間だとするとかなり不味い。流石にうかつ過ぎたか?そう考えながら下唇を噛みしめ、渦を睨み付けると…

 

「あ、アセルスさん!」

 

「アセルス様!」

 




最後に出て来たのは何処の骸骨なのでしょう?

感想やお気に入り登録を見て、急いで書いてしまいました。アセルスが目覚めた場所を見て『ある人物』を思い浮かべる方が多いかも知れませんが、少々お待ちください。

アセルスは二人、NPCがおります。一人は既にバレていますね。もう一人は個人的に好きなキャラクターを出しますのでご了承ください。

アセルスは基本的にはサガフロンティアの技を使用します。『剣技、体術、印術等』
銃技に関しては今は悩んでいます。銃…出しても良いのかなぁ…っと、言った具合に

それでは、またお会いしましょう。


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骸骨との再会

「あ、アセルスさん!」

 

「アセルス様!」

 

「ふぇ…?」

 

警戒していた渦から我先に飛び出して来る二つの人影、それの一つが目にも止まらぬ速度で突撃して来る。間抜けな声を漏らしながら衝突する

 

 

「アセルス様、アセルス様!アセルス様!」

 

 

何度も名を叫ぶように呼びながら抱き着いて来るその人物は…

 

 

「アルベド…?」

 

 

完全重武装の上からだと、判断に一瞬迷ったが。間違い無くこの装備はアルベドの物である。昨日まで全ての階層守護者の為と只ですら最強に近い装備を更に洗練させる為に素材集めて装備を作り、送っていたのだから。その証拠に持っているカイトシールドの裏に小さく『アセルス』の名が彫られている

 

 

「はい!アルベドでございます!」

 

 

更に力を籠めて抱き着くアルベド、あ、やばい。潰れる、何が?私とアルベドの重装甲に挟まれている物がだよ!後、背骨もやばいの!

 

 

「あ、アルベド。落ち着くのだ、まずは離れよ。アセルスさんの顔が青い」

 

 

そう言って、フォローしてくれるのは慣れ親しんだ声音…が、悲しみとも、怒りとも、恨めしいとも言えるマスク越しに聞こえる。その両手は厳ついガントレットに覆われていた

 

 

「も、申し訳ありません。嬉しさの余り…つい」

 

「だ、大丈夫だよ。それよりも…モモンガさん、それは無い!」

 

 

何度も申し訳なさそうに頭を下げる彼女を手で制する。それから、骸骨事モモンガに向けて、ビシィッ!!と指を差しながらそう告げる

 

 

「え、ダメですか?」

 

 

選ぶ時間が無くて…と、少し落ち込むモモンガの頭を軽くぺしぺしっと、叩きながら苦笑いする

 

 

「悪くは無いけど、アルベドが居なかった私が笑い死んでたよ?嫉妬マスクさん」

 

「そんなに変ですか!?」

 

 

モモンガショックと、言わんばかりに落ち込む骸骨を可笑しそうに見る。あぁ、このやり取りがこの世界でも出来るんだ…そう思うと、とても心が満たされた。すると、モモンガさんから伝言(メッセージ)が飛んで来る

 

 

(それよりも怪我は無いですか?)

 

(うん、大丈夫。よく私がここにいるってわかったね?)

 

(えぇ、実はアセルスさんを探すのに遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を使い、それでこの村を、貴女を見つけまして)

 

(そっか…ありがと。モモン君)

 

 

にこりっと、微笑みながら感謝を述べるとモモンガの身体が緑色に一瞬だけ発光する。余りに突然の事で声も出なかったけど本人は咳払いをした後、何事も無かったかのように

 

 

「アセルス、念の為に此れを持って来た。扱えるな?」

 

「あ、これって…」

 

 

支配者ロールになったモモンガから渡されたのは一振りの深紅の剣。普段は私の部屋に飾っており、ワールドチャンピオンの順位が上がった際、運営にお願いして作って貰った物…世界級装備『幻魔』

 

 

「これ、持って来ちゃったの?」

 

「うむ、この世界は未知が多い。備えあれば憂い無しだ」

 

 

頷くモモンガさんから幻魔を受け取り、鞘から少しだけ引き抜けば私の顔が刀身に映し出される

持ち主の私でも息を呑む程に美しく禍々しい剣、まじまじと眺めて居ると腰の辺りにぽふんっと、衝撃が走る。下を向けば先程助けた姉妹の妹、ネムが抱き着いていた

 

 

「っと、大丈夫だよ。怖い怖い人はやっつけちゃったから」

 

 

そう言って、ネムを抱え上げ優しく抱くと大慌てで姉のエンリがその後ろにガタイの良い老人が此方に近寄って来る。少し不安に思いアルベドを見れば、ご機嫌そうにしている

 

 

「も、申し訳ありません!アセルス様!」

 

「大丈夫大丈夫、それよりも…村を汚しちゃって…」

 

「その事は気にしないで下され。我々の村をお救い下さり、誠にありがとうございます」

 

 

抱き抱えているネムを優しく撫でながら、モモンガさんを見れば

 

 

「いえ、私達も旅をしている途中でして…姫の姿を探していただけですので」

 

「おぉ…!やはり、お姫様でしたか…私は此処、カルネ村の村長でございます。御名前をお聞きしても宜しいですか?」

 

 

体格以上に紳士的な村長の問い掛けにモモンガは咳払いをし

 

 

「私はアインズ・ウール・ゴウン。アセルス姫の護衛をしている魔法詠唱者(マジック・キャスター)でございます」

 

「私はアセルス・S・フロンティア。ある理由で旅をしてる途中で、偶々通り掛かった所よ。後、早く死者の弔いはした方が良い。アレは一カ所に集めて燃やしちゃって」

 

 

突然のアドリブを投げられたが、冷静に対処することに成功。モモンガさんには後で悪戯しようっと、心で決めながらネムに微笑みかけた後、おろおろしているエンリに優しく返した。因みにアレと言うのは派手にやり過ぎて後処理が大変に事になっている遺体だ。今後は注意しよう

 

 

「出来れば、話し合える場所を案内して欲しいわ。地図なんかもあれば貰いたいんだけど…」

 

「でしたら、私の家に案内しましょう。焼け落ちていないので」

 

 

そう言って、村長は「此方でございます」と言って。歩き始めた、後を追うモモンガ、いやアインズの後ろを付いて行きながらアルベドに村人の手伝いをするように囁き声で伝える。『畏まりました、アセルス様。くふぅ~~!!』と、返って来たので慌てて離れた

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

村長宅にて様々な情報の交換と確認が行われ、地図も無事入手した。今は葬儀に村長も出席しており、此処に居るのは私とモモンガ、そして抱き着いて離れないアルベドの三人だ

 

 

「何で、名前を変えたの?」

 

「それは、…最初に此処は私達の世界ではない。これは良いな?」

 

 

一瞬、素が出るも直ぐに支配者…いや、アインズの口調で喋り始めるモモンガ。違和感を感じるも大人しく頷く

 

 

「村長の話とこの地図、間違いなく此処は異世界であると確認出来た。であれば、他のプレイヤーが此処に居る可能性もあると考えられる、故に個人の名前よりもギルドの名前の方が襲撃される可能性が減ると考えたのだ。アセルスの側にはアインズ・ウール・ゴウンと名乗る謎の人物。もしか、すれば42人全員が居る可能性があると考えれば簡単には手は出せまい。それに、完全に我々の情報を隠蔽するのは不可能だ」

 

「成る程、ね。本当にそれだけ?」

 

「うむ、それだけだが?」

 

「そっか」

 

そう言い終わると部屋に沈黙が広がる。耐え切れずに再び口を開く事に

 

 

「も、アインズは何か違和感とか無かった?主に身体に」

 

「…アセルスさん、実は違和感がありまくり何ですよ」

 

「アンデットになって?」

 

「はい」

 

 

敢えて、アインズと呼んだのに話題によってはモモンガに戻るらしい。うん、面白い

 

 

「私は特に変化は無いかな…あ、強いて言うなら胸が痛いからブラが欲しい、かな?」

 

「アセルスさん、その話題は別の時にしましょう。アルベドから危ない気配がします」

 

はっ!と、じゃれついていたアルベドを見れば、息を荒らげなら身体をくねらせている。うん、まだ大丈夫みたい

 

「本当に骸骨に…あ、じゃあさ。私が作ったあのコスプレ装備…着てみない?」

 

「コスプレ装備…?ああ!あの、カッコいい騎士の格好ですか?」

 

「そうそう!斉王って、名前の骨モンスターの格好を模して作った装備!」

 

「良いですね…!あ、でも…剣装備出来るかな?」

 

「んー…持つだけでもいいんじゃないかな」

 

 

暫く、昔私が作った装備の話題で盛り上がる私とモモンガさん。隣で引っ付いているアルベドもその話を聞いており楽しそうに微笑んでいた。話題は装備から身体の事に戻り、今は悩みを聞いている最中

 

 

「んんっ!それで、モモンガさんはどこがどう?」

 

「えっと、まず。私、骨なので三大欲求が無い、もしくは減少しています」

 

 

生命あるモノが持つ三大欲求、内二つの食欲と睡眠欲が無くなり性欲に関しても滾る事が無くなってしまったらしい。それでも、動揺もするし、恥ずかしがりもする。不思議なものだ

 

 

「どんどん、感覚がズレて行くようで…正直怖いですよ」

 

「そっか…うん?」

 

 

会話をしていると、外が騒がしくなっている事に気が付き。モモンガと視線を合わせる。お互いに頷きアルベドを立たせは扉を開け放ち外へと向かった

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「何事か!」

 

 

アインズが外に出れば騒ぎなら怯え始める村人に焦った様子で此方へと走って来る村長の姿があった

 

 

「む、村に向かって、先程の者達と同じ鎧を着た者達が向かって来てます」

 

「ここに来るって事で良いのかしら?」

 

 

村長が指を差す方向には確かに馬に乗る人間の姿見える。これは…

 

 

「アインズ、私は村の入り口に向かう。念の為に村人達を守って欲しい」

 

「うむ、では…護衛にアルベドを…」

 

「いや、私一人で向かうわ。貴方は魔法詠唱者(マジック・キャスター)、接近戦が出来るアルベドが必要でしょ?」

 

「で、ですが!アセルス様にもしもの事があったら!」

 

「ふふ、大丈夫だよ。アルベド、私が強いのは知ってるよね?」

 

「で、でも!」

 

「お願い、アルベド。モモンガさんを守ってあげて」

 

そこまで言うと、アルベドは渋々と頷き。モモンガへと走って行く

 

アインズも『幻魔』もあるのだ。もしも、が起きても今のアセルスならば戦闘から離脱する事も容易い、はず。と考え直しアセルス一人で向かう事を許可する

 

 

「さてっと。さっきの人達の仲間だったら…容赦はしないよ」

 

 

村の門まで来ては迫る騎馬隊を射抜く様に緑色の瞳で睨み付けながら、『幻魔』の紅い柄頭を撫でる。その表情は先程の穏やかなモノでは無く、無慈悲な妖魔の君としての顔だった




はい、本日二度目の投稿になります。
まずは、感想を書いて下さり。ありがとうございます。
御読み頂き、ありがとうございます。

感想を読んでいたら早く次を書きたい。と、落ち着かないので早々に出してしまいました。

今回はカルネ村の後処理と、あの方登場の前触れです。

武具に関しては原作の方で強力な物を多く登場させる予定です。
感想は返信はしませんが、しっかりと読んでおります。代わりと言っては何ですが此方で回答する場合もございます。

アルベドはアセルスにメロメロです。はい。

それでは、次回またお会いしましょう


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法国と王国

迫り来る馬に跨る鎧姿の集団を睨み付ける。徐々にその姿は大きくなり、その集団は横一列に整列した

 

 

「ごきげんよう。この村に何の用でしょう?」

 

 

警戒を解く事も無く、声を発する。先発隊なのか人数は五人、其々の表情には焦りが浮かんでおり。装備もめちゃくちゃであった、手元にある装備を手当たり次第に身に着けて駆け付けて来たと言わんばかりに

 

 

「失礼、私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。貴女の名を聞いても宜しいか?」

 

 

短く刈られた黒い頭髪に顎髭を生やした、一際存在感のある男が名乗りを上げる。周りの人間と比べて群を抜いて強者の位置する者。そう、一目で理解出来る。だが、あくまでこの世界では…と言う、肩書が付くが

 

 

「私はアセルス。もう一度、質問するわ。王国戦士長ガゼフ…この村に何の用なのかしら?まさか、今更村を救いに来たなんて…言わないわよね?」

 

 

敢えて挑発する様に言葉を選ぶ。ガゼフは目を見開き、周りの男達から怒りの感情を感じる。一人のガゼフの部下であろう人間が口を開くがガゼフにより制され押し黙る

 

 

「申し訳ない。報告を受け、即座に出発したのだが…村を救って頂き感謝する」

 

 

村の様子と雰囲気から即座に判断したガゼフは最初に感謝を述べた。この対応にはアセルスが驚いた。この男は少なくても真面な考えを有しているようだ

 

 

「謝罪を送る相手は私では無いわ。来なさい、貴方達が謝るべき人々はこっちよ」

 

 

ガゼフ達を案内する様に踵を返しては、モモンガが居る場所へと足を向ける。兵士達は互いに顔を合わせ、悔しさに顔を歪ませ。先頭を歩くガゼフを追い掛ける

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「…ならば、死者達に安らかに眠れる様、祈って下され」

 

 

そう言葉を発する村長。ガゼフ達兵士は村人一人一人に、声を掛けて歩き。謝罪を行い終えた、俯き反応しない者、静かに涙を流す者…反応は様々だが、不思議と罵倒や八つ当たりをする村人は誰一人と居なかった。恐らく、ガゼフの普段からの行いが認められているのだろう

 

 

「アセルス殿、ゴウン殿。改めて、この村を守って下さり感謝いたします」

 

「構いません、私としても偶然この村を見つけた所なのです。アセルス姫は少々きつい性格でして、此方こそ申し訳ない」

 

「いえ、アセルス殿の言い分は正しい。村を救うべき私達が行ってはならない失態だ」

 

 

アインズとガゼフが言葉を交わして行く、徐々に明らかになる事に目を閉じて深く考えてから重く、ガゼフが口を開く

 

 

「恐らく、相手は法国か、帝国…どちらかでしょうな」

 

「ふむ…この村はごく普通の農村…」

 

「襲われる理由が考えつかないかな、戦士長は心当たりは?」

 

「ガゼフで結構。私は…法国と睨んでいる」

 

 

ガゼフの言葉に「ふむ…」と、相槌を打つアインズ。何故、法国と?そう聞こうとした時、ガゼフの部下の兵士が一人駆け寄って来る。兵士とガゼフが一言、二言、言葉を交わすと焦った様子で此方へ戻って来る。私とアインズの顔を交互に見た後

 

 

「何者かが部隊を率いてこの村に接近している」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「どう考えますか?アセルス姫」

 

「…この村が目当てじゃないと私は思ってる。まず、この村を占領しても休憩地にしかならない。新しい村を作る為に、態々襲うのも…そうなると、別の目的。村を焼いた後に残るモノ、又は…出て来るモノ」

 

 

そう言葉を切ってはガゼフを見る。その表情は険しく、既に見当が付ていると物語っている

 

 

「私が、目的でしょう。法国とは何度か争っています。暗殺部隊が私に向けられるには十分に理由がありますな」

 

 

そう詰まらなそうに笑いながら『一つ。頼みがある』と、告げる

 

 

「アセルス殿、我々にゴウン殿と戦士殿を雇わせてくれまいか?」

 

 

先程の話を聞く限り、この村を襲って居た敵はかなりの数。だが、それを姫と村人の両方を守り抜いたのはアインズ・ウール・ゴウンと言う魔法詠唱者(マジック・キャスター)と、重武装の一人の戦士であると考えたのだ。

アインズが断ろうと口を開くのをアセルスが止め、近くに居たアルベドの手を握りアインズの後ろへと引く

 

 

「申し訳ないけど、それは出来ないわ。それに、先程の言葉を忘れたのかしら?この村を守るのは私達の役目では無い。この村を死を覚悟して守るのは貴方達の役目だ」

 

 

アセルスの静かに淡々とした口調にガゼフは表情を強張らせる。いや、何とも言い表せない迫力があるのだ

 

 

「この村は貴方達が遅れた所為で荒らされ、村人達が殺された。だけど、完全に滅ぼされる前に『偶然』、私達が現れた。貴方は自分の民の前で『偶然』に頼るの?」

 

 

アセルスの言葉に愕然とするガゼフ、それを尻目に言葉を紡ぎ続ける

 

 

「王国戦士長であるのであれば、村人を安心させる為に自力で敵を排除しなければならない。『偶然』に頼るのであれば、王国戦士長は不要になってしまう。自分が狙いだと分かって居るのであれば、決着を付けて来なさい。貴方には勝利しか許されない」

 

 

ガゼフは気が付かされたのだ。戦士長しての役目を、唯々命令に従い。苦汁を飲み込み耐えるのではなく。民を安心させる存在に成らなければならないと…英雄にならなければならないのだと

 

 

「此れは、手厳しい。死すらも許されないとは…ははっ!成る程。ゴウン殿…貴方の姫は素晴らしいお方だ。ならば、せめての頼みを…死ぬ気は無い。だが、もしもの時は村を頼みますぞ!」

 

そう言って、笑みを浮かべてガゼフは部下を連れ、馬に跨る。進軍する敵部隊を迎え撃つ為に村の外へと向かう。その背には覚悟が満ちていた

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「村長、戦が始まる。村人を安全な場所に集めて。私は彼らの行方を見守るよ」

 

「アセルス姫。そこまでする必要があるか?」

 

「ん、何の事?」

 

 

惚けてみせると、アインズは溜息を洩らし「何か企んでるな?」と、言いたそうな雰囲気を纏う。それを、苦笑いしながら眺め

 

 

「私の予想だと、あの人は死ぬよ。このままだとね…何処まで粘れるか、それだけ見てみようかなって。もしかしたら、私達の知らないスキルを使うかも知れないし…」

 

 

そう言うと、渋々と言った様子で頷くアインズ。近くに居たアルベドは優しく撫でて置く『よく我慢したね』と

 

 

「申し訳ありません、アセルス様が止めて下さなければ…殺していました」

 

「あ、あはは…間に合って良かったよ。私は此処で観察してる、モモンガさんの所で待機して」

 

 

こくりと頷き、離れて行くアルベドを見送りながらアイテムボックスから取り出した双眼鏡を覗き込む。ガゼフ達王国軍が矢の形に陣形を取り、突撃するのが見える。それを迎え撃つのは…天使の姿をしたモンスターと魔法を放つ人間達だった




こんばんは、今回はカルネ村第二の危機、ガゼフの運命は?

と、言った感じでございます。

アルベドの心情は後々に描くと思います。ご機嫌な理由?アルベドですよ?

試行錯誤した結果、どうにか鼓舞する方向に持って行けないかとやや、無茶苦茶になって居るかも知れません。ご了承ください

思えば、剣で魔法も弾けるんですよね。。。あっ

突然の『幻魔』の登場に困惑する方もいるかも知れませんが。最初から出す予定でしたので…許して((

それでは、また次回お会いしましょう


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半妖

放たれる魔法、迫り来る絶望(てんし)。ガゼフの視界は死で溢れ返っていた

 

 

スレイン法国 陽光聖典

 

 

カルネ村を襲い。暗殺対象である王国戦士長ガゼフをこの場に呼び寄せた部隊の名である

 

その、昔。スレイン法国に六人の神が降臨したとされている。その六神から六つの宗教へと別れ六色聖典と呼ばれている組織が存在する

 

陽光聖典はその六色聖典の一つ、最も戦闘行為が多いとされる秘密部隊で法国の非合法な任務を行う事が大半である。それ故に、法国民ですら存在を噂程度にしか認識していない。情報が漏洩して居ない理由として、所属する人間の隠蔽能力の高さと、人数の少なさの両方が上げられる

 

入隊するには信仰系の第三位階魔法の修得が必要とされ。更に肉体能力、精神能力に秀でている事も求められている

 

つまり、ガゼフが相手にしているのはこの世界では特殊な人間であり、並大抵な国の騎士団、戦士団では歯が立たない可能性すらある。残酷に言えば、ガゼフの率いる部隊に全滅以外の選択肢は残されていない。何よりも陽光聖典の上空には炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)と呼ばれる天使型のモンスターがダメ押しとばかりに準備されていた

 

炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)、下位に位置するモンスターであるが。そもそも、人間の手に負える代物ではない。それが、数十体と空を埋めていたのだ

 

 

「くっ…」

 

 

倒れて行く仲間の姿に、ギリッ!と奥歯を嚙み締める。上には炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)、正面には魔法による弾幕。もはや、戦う事すら許されない状態だ

 

 

「どうした!仲間の死体がそんなに珍しいか!?」

 

 

陽光聖典隊長、ニグン・グリッド・ルーインは挑発する様に膝を突くガゼフに向かって叫ぶ。その顔は弱者をいたぶる喜びが浮かんでいた。ガゼフに止めを刺すべく部下に命令を下す

 

ガゼフの視界は魔法で埋め尽くされる。だが、彼の瞳にはまだ諦めていなかった、ゆっくりと立ち上がり、腰を低くし己の『武技』を発動させる

 

『能力向上』『流水加速』

 

二つのスキルにも似た技『武技』これこそが、ガゼフの切り札であり。最後の足掻き、底上げされた身体能力に加えて、認識速度と攻撃速度を加速させる。道を切り開く様に迫る魔法の嵐に向け

 

『四光連斬』

 

一度に四回の剣閃が放たれる。掻き消される魔法の嵐、更にニグンへと狙いを付け

 

『即応反射』『流水加速』『急所感知』

 

「六光連斬ッッッ!!!!!」

 

 

更に放たれる六回の剣閃、だが。ニグンには届く事は無い。炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)が壁の様に立ち塞がり、六回の剣閃は炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)を光の粒子に還すだけに終わってしまう

 

 

「お前達!私に付き合う必要はない!逃げれる者は離脱しろ!」

 

 

まだ、息のある部下に叫びニグンへ剣を構えるガゼフ。だが、返って来た答えは

 

 

「王国に必要なのは戦士長!貴方です!」

 

「俺は構わない!逃げてください!」

 

 

そう言って、ガゼフの両脇に飛び出す二人の兵士。怪我を負ったもう一人の兵士は剣を握り締め立ち上がろうと藻掻いていた。その表情は恐怖でも怯えでも無く、死の覚悟を持ってガゼフに付いて行くと決めた表情だ

 

 

「お前達…此れではアセルス殿に怒られてしまうな…行くぞ!」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「どうですか?アセルスさん」

 

「ん、もう少しかな。モモンガさんは?」

 

 

『私の方は特に何も起きてませんよ』と、言いながらアルベドを連れて私の隣に腰を下ろす嫉妬マスク

 

 

「…やはり、彼らを助けるのですか?」

 

「そのつもり、王国とのパイプとして、ね?」

 

「そうですか…手伝いはいります?」

 

「ううん、目立つのは私一人でいい。私の我が儘だしね?」

 

 

そう言うとモモンガさんはマスクの顎を撫でながら、何か考えているようだ。先程まで見ていた状況だとガゼフは何かしらのスキルを使ったはずだ、身体の動きが急に変わり攻勢に出た。今は仲間の兵士と連携を取り、技を使い持ちこたえている様だ

 

 

「ん、そろそろかな。あの浮かんでいるのを見ても其処まで脅威じゃないから…大丈夫、心配しないで」

 

 

軽口を叩きながらアルベドとモモンガさんの方を見れば二人揃って、顔に『心』『配』と分けて文字が張り付いているのが、簡単に幻視出来る程の雰囲気を出していた

 

 

「先に言って置きます。何かあればぶっぱしますから、良いですね?」

 

「う、うん」

 

ずいっと、顔を近付けながら言われては反射的に頷いていた

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「はぁ…!はぁ…!まだだ、まだ私は生きているぞ!それとも、私を殺すのが恐いか!」

 

 

何体もの天使を切り伏せ、光の粒子へと還らせる。だが、直ぐにその数を補う様に再召喚される炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)達に、ニグンへと雄叫びを上げる。最早、生きる事は叶わぬ。せめて、一人でも部下を逃がす為に…その迫力に一瞬だが、ニグンは怯み。一歩後ずさりしてしまう

 

 

「ぐっ…貴様ぁ!ふん、全ての炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)を奴に集中させろ!奴を殺せ!」

 

 

恐れてしまった自分とプライドを傷付けたガゼフに激昂し共に出される命令。天使がガゼフへと迫り、攻撃を始める

 

 

(申し訳ない…アセルス殿、ゴウン殿。村を…)

 

 

迫る魔法の嵐に瞳を閉じ顔を伏せる。もはや、声を出す事すら出来ない程、身体は傷付いていた…響き渡る爆音、身体を打ち付ける衝撃…だが、痛みが来ない

 

 

「言ったはずよ。貴方には勝利しか許されない、この場合は生き残る事ね」

 

 

凛とした美しき声に顔を上げ、目を見開く。深紅のドレスに身を包んだ女性。アセルスと名乗った彼女が刀と言われる珍しい武器と、禍々しさを振りまく深紅の剣を十字に交差させながら構えていた

 

 

「でも、貴方は国の守護者として胸を張って良い。貴方の戦いは間違いなく村人達を勇気付ける物だったわ」

 

「な、何だ貴様!?」

 

「大人しく待っててよ。ちゃんと相手してあげるからさ」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

只睨み付けるだけで怯むスレイン法国の部隊。天使ですら動きを止めて怯えているかの様に微動だにしない

 

 

「立てる?立てないなら、少しでも離れてて」

 

 

後ろに居るガゼフに優しく言いながら、スキルの実験へと移る。正しく動作するのであれば…そう考えながら、武器を地面に突き立て。あるスキルを発動させる、何も持っていない右手をまるで何かを掴む様に握り、腕を振るう

 

それだけの動作にアセルスに最も近い炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)が掻き消え、光の粒子へと還る。その場に居た人間は驚愕する。何が起きた?と…だが、驚きはそれで止まらない。アセルスが眩い光に包まれたのだ、やがて光は収まり全ての人間の視線がアセルスに注がれる。そこには…

 

美しい緑色の髪は青色へと変化し、深紅のドレスは紫色に。緑色の瞳は赤色へと変わり蛇を思わせる瞳孔へと変化していた

 

 

「妖魔の…君…」

 

 

誰が呟いたのかも分からない声が、沈黙する戦場に響き渡った




そんな訳で、妖魔化を使用した回です。
ナザリック勢、「プレイヤー」以外は知らないはずの呼び名が聞こえましたね

サガフロのキャラクターはアセルスを含まず二人までになります。アセルスとオバロキャラクター達の絡みを楽しんで頂けたら…と、思います。

感想、お気に入り登録等、ありがとうございます。応援に応えられる様に書いて行きたいと思います


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妖魔の君

「妖魔の…君…」

 

 

確かにそう聞こえた。何故?ここは異世界であり、『ユグドラシル』では無い

『妖魔の君』とは、私のクラスで代名詞だ。クラス:ワールド・チャンピオンに就いた際、それを返還し代わりに私だけの私の為のクラスの作成をお願いした結果。特別に作成されたクラスだ(開発と入念な会議を行い、ある程度の資金を提供した)

 

ワールド・チャンピオンを返還した事と、私だけの『クラス』それだけで、ユグドラシル中を騒がした。お陰で運営と勘違いされるなど色々とあったけど…

 

だが、ユグドラシル史に残る理由は此れではない。一つは、ユグドラシル全体で三位にランクインしている、たっち・みーさんと非公式であるが大勢の観客が居る前で互角の死闘を繰り広げたからである。この時の映像は録画されており、ナザリックに保管されている。公式チートvs公式のお気に入り、後に『公式』が名付けた名勝負である

 

それを機に『妖魔の君』と言うクラスはワールド・チャンピオンにも引けを取らないクラスと認識され。私の代名詞となり、私に対しての認識は『公式チート』と渡り合える実力者となった

 

 

もう一つは、異形種狩りを促進しているギルドを潰し歩き。オープンチャットで『妖魔の君に連絡したぞ!』と、言われる度に助けて歩き、何時しかGMコールの様に使われる様になった。それを聞いた、ペロロンが「俺が言っても来てくれるの?何時でも言うんだけど!」と、言っていたので優しく微笑み掛けたのは良い思い出

 

 

けど、それはユグドラシルでの話であり。此処は異世界、となると私の名を姿を伝えた人物がこの世界に居る事を意味する

 

 

「…何故、私の名を知っている?」

 

 

低い声で、問い掛けた瞬間。陽光聖典に動揺が走る、次々と手から武器を落とし。命乞いをするかの如く跪く、隊長と思われる人間が震えながら口を開いた

 

 

「よ、妖魔の君…わ、我ら法国に伝わる伝承に…貴女様の名が、姿が残っております」

 

 

「法国…スレイン法国で間違い無いわね?」

 

 

静かに頷く男を見て、頭を悩ませる。法国の伝承に?…法国にプレイヤーが居ると言う事?

 

 

「そう…じゃ、どんな風に伝わっているのかしら?この姿だけが、伝わっているの?」

 

 

問い掛けられた隊長の男…ニグン・グリッド・ルーインは伝承を語る

 

 

-この世界に六大神と呼ばれる六人の神が降臨した。神々は他種族との生存戦争により、滅亡しかけた人類を救済し法国の基礎を作り上げたとされる。その内の一神である、スルシャーナ様は何時までも慈愛を人間に向け続けた、やがてこの世界に醜く愚かな八人が現れる。名を八欲王…愚かな王は誰にでも扱える『位階魔法』を広めた、その事を切っ掛けに愚かな人間種は平和を破棄し、魔法による戦争を始めたのです。スルシャーナ様はそのことに心を痛め、八欲王に話を持ち掛けました。だが、返って来た答えは攻撃であった。スルシャーナ様は何度も復活したが、やがて消えてしまわれた。スルシャーナ様の死を感じ取り、スルシャーナ様に仕えていた従属神様が怒り狂い魔神となり果ててしまわれた。その時、現れたのは一人の女王でした。『妖魔の君』…神にも匹敵する力を振るい、愚かな人間を裁き。八欲王を一人、一人と倒していきました。だが、平和は訪れなかった…愚かな人間は『妖魔の君』を騙し、力を八欲王からもたらされた方法で奪い捕らえて殺してしまった。しかし、妖魔の君の魂は魔神として、転生を果たし。異形種を引き連れて愚かな人間を八欲王を皆殺しにしたのです。だが、それ境に妖魔の君は姿を消しました。後に現れる十三英雄が最後の魔神である彼女と対峙した時、唯一戦いは起きませんでした。彼女は悲しそうに笑い『ありがとう。スルシャーナの子供達が心配だったんだ。これで、逝けるよ。そして、ごめんね。君達にこんな事させて』慈愛と慈悲に満ちた表情で十三英雄に感謝を送り彼女は自ら命を絶った-

 

ニグンが口を閉ざし、再び沈黙する。正直言って、頭が痛くなっていた…つまり、私の名前は英雄として広まってる?

 

溜息を洩らせば、ニグンの肩が震える。既に戦意は無くなっており、只怯えている…このまま帰れって言えば帰るだろうな…と、思ったが。彼らはエンリやネムの両親を殺し、カルネ村を焼いた人間だ。このまま、帰せば彼らの怒りや悲しみは何処に行くのだろうか…?

 

 

「…この村を襲った理由を聞いてもいいかしら?」

 

「そ、それは…」

 

 

ニグンの表情は恐怖へと変わる。好き勝手暴れ攻め込んだ土地には自分らが信仰している神々の友が目の前に敵として現れたのだ。この瞬間から、狩られる立場が変わったのは言うまでもない

 

 

「わ、わが…我が法国の命にて、ガゼフ・ストロノーフを殺害する為です」

 

「そう、貴方達の国は六大神に救われた…法国が目指しているのは。『人間種の守護』だったわね。じゃ、村を襲う事やガゼフを亡き者にする事は『人間種の守護』に『救い』になるのかしら?」

 

 

誰も口を開く事は無い。確かに他種族狩りを行っている法国である、それは、人間種を守護する目的で行われている…だが、陽光聖典…ニグンが今行っている事は他国に攻め込み。村を焼き、王国戦士長を殺害しようとしていた、人間種を脅かす存在では無い者を害していた

 

 

「はぁ…。裁きを下す、一回死になさい。蘇生はしてあげるわ」

 

 

そう言うが早いか、陽術を発動させる

 

『超風』

 

ニグン達陽光聖典を強烈な熱波が襲う、その突風を受けた者は次々とバラバラに切断され、燃え尽きる。その光景に後ろに居たガゼフは圧倒的な力を目の当たりにし、恐怖により気を失いかけた。ニグン達が言った事は間違いないのだと。彼女は、アセルスは伝承に語られる王なのだと確信したのだった

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

吹き止んだ熱波の後には人間であったものが地面に転がっていた。アイテムボックスから適当な数の蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)を取り出し、振り翳す。短杖は光を放ち粉々に砕け散る。すると、人間だったモノが集まり光を放つ。ニグンを含めた少数の陽光聖典が復活を遂げたのだ。その瞬間、ガラスが砕ける音が頭上で響いたと同時にアインズから伝言が飛んで来る

 

 

(アセルスさん!)

 

(どうかしたの?アインズ?)

 

(あ、ごほん。アセルス姫。我々は監視されています)

 

 

慌てた様子のモモンガに人前なのでアインズと呼ぶと、慌てて姫を付けて来るモモンガに笑みを零す。

 

 

(監視?あ、空が割れているのがそうなの?)

 

(はい、私が張った対情報系魔法が発動した証です)

 

(分かったわ、ありがと)

 

 

伝言を切り、暗い雰囲気を漂わせる復活したばかりのニグンに近寄り目線を合わせる様に屈み込む

 

 

「ほら、しゃっきっとしなさい。貴方達は生き返れた、あの村で殺された人は生き返れないのだから。…それとも、もう一度死ぬ?」

 

 

そう呟くと、勢い良く跪く。中には嗚咽を漏らす者もいたが、気にする必要も無い

 

 

「さて、貴方達には役に立ってもらうわ。国に信用もされていないのだから、問題も無いでしょう」

 

「…!?よ、妖魔の君…我々が法国に信用されていない、とは?」

 

 

砕けた空を指差し、説明を行う。アレは監視する魔法に対して防御を行った証拠。そして、監視対象は間違いなく陽光聖典であると。私は此処に来たばかりであり、そもそも存在は知られていない。となれば、残るは二つ、法国がガゼフを監視すると言う線があるが、陽光聖典を向わせたのに監視する意味は薄い。となれば、残るのは陽光聖典の監視…任務の失敗、ガゼフの生死の有無。脱走した兵士の追跡等、用途は色々ある

 

 

「わ、我々は…最初から信用されていなかった、と…?」

 

「そうなるのじゃないかしら?」

 

 

与えられる情報にニグンは絶望し、情けない声を漏らし始める。六大神を信仰し、六大神が望む世界を作る為と言われ。外道に落ちても作戦を遂行し続けた…その結果、法国は彼を信用していないと言う事実であったのだ

 

 

「は、はは…ははは…私は、私は…」

 

「…罪の意識があるのなら、信仰する前に償う事ね。貴方には後で法国に案内して貰うから」

 

 

人間に戻ったアセルスはニグンがあまりにも哀れと思い、声を掛ける。『奪って来た命の数だけ善行を成せ』と、ニグンはむせび泣く…罪を償う事を許す慈悲に、外道に落ちた己に再起の機会を与えてくれる慈愛に…伝承に語られる『妖魔の君』で間違いないと確信する。圧倒的な力、友の死に心を痛め、平和を願い力を振るい。裏切られ、魔神に落ちても慈悲と慈愛に満ちた王…それが『妖魔の君』なのだと

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それでは、一旦帰りましょう」

 

「うん、賛成!」

 

 

モモンガの声に思わず、元気良く返す。現在、カルネ村に拘束した陽光聖典を連行し、ガゼフに頼んで一つの小屋に詰め込んでもらった。後日、用がある為である。村人達が報復に出ると思っていたが、誰一人としてそのような事はしなかった。圧倒的な理不尽に肉塊にされ、絶望に打ちひしがれる彼らにはこれ以上は必要ないと考えたらしい

 

 

「アセルスさん、覚悟してください。全てのNPCは貴女の帰還を望んでいました。つまり、かなり凄い事になります。間違いなく」

 

「え、そんなに…?」

 

 

ゲートを使い、一旦カルネ村からナザリックの外に移動する。そこで、モモンガに切り替えた骸骨が震えた声で警告を発する。何やら訳ありな様子

 

 

「いや、もう、本当に…取り敢えず、誰かに見つかる前に円卓の間に行きましょう。皆を集めて玉座で帰還した事を報告します。アルベド、お前は準備を頼む。2時間後に玉座に集まる様に伝えよ。アセルスさんの帰還を知らせる」

 

「畏まりました、モモンガ様」

 

 

モモンガの言葉に嬉しさを隠しきれない様子ではきはきと返事をし、小走りでナザリックへと入って行くアルベドを見送った




本来はあり得ない事ですが、アセルスは全ての資質を獲得している事にしてます。
『妖魔の剣』『妖魔の小手』『妖魔の具足』は全て所持しており、剣にはグリフォン(大)を小手には麒麟を具足にはデュラハンを憑けております

次回は漸くの帰還になります!


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妖魔と淫魔とおーばーろーど

一般的な執事服を身に纏った白髪の老人がせっせと、部屋の掃除を行っていた。綺麗な形に揃えられている髭に髪、顔立ちは彫りが深く白人の様にも見える。眼光は猛禽類の如く鋭い、が…その表情には緊張が浮かんでいた。部屋は西洋を思わせる作りになっている、揃えられている家具は全てが最高級の素材で作られており、作りや装飾にも並みならぬ技術がふんだんに使用されているのが分かる程だ。慎重に丁寧に清掃を行う。何故か?それは、これらの家具は買い揃えられた物ではないからだ、この部屋の主が自分で制作した物…故に替えは利かないのだ。一秒を一分、一分を一時間に感じる程集中しながら清掃を行っていると不意に声を掛けられる

 

 

「セバス様、其処まで緊張しなくても大丈夫ですわ」

 

 

不意に掛けられた言葉に思はず肩を跳ねさせ掛けるセバスと呼ばれた老執事は、そっと家具から離れては声の主へと向き直る

 

 

「申し訳ありません、白薔薇姫様」

 

「いえ、良いのです。アセルス様の御作りになった家具ですから…緊張するのも理解できますわ」

 

 

セバスに声を掛けた女性、白薔薇姫はくすくすと優雅に笑う。白で統一されたアセルスと同じドレスに身を包み。普段は被っている白い薔薇の頭飾りを取っていた。黒い髪も縦ロールでは無く今はストレートになっている

 

 

「どれも素晴らしい物でございます」

 

「ふふ、アセルス様にも…そう言って下さい。きっと喜びますわ」

 

 

そこで二人の会話は止まってしまう、石造りの窓枠に腰を掛けていた白薔薇姫は外を眺める。その顔は哀しそうな表情が浮かんでいた、そんな白薔薇姫を気遣いセバスは再び清掃へと戻る。その手の運びは先程の緊張は無く、自身の清掃スキルをふんだんに発揮していた

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ナザリック大墳墓第九階層:ショットバーに一人の男がカウンター席で酒を煽っていた。カウンターの向こう側にはメイド服を着た人間大の直立歩行する犬が居た。名をペストーニャ・S・ワンコ…メイド長であり、治癒魔法の使い手である

 

 

「飲み過ぎですわん。どうせ今は酔えないのに飲む必要はあるのですわん?」

 

「酔えねぇから飲むんだ、好きなだけ飲めるぞ?」

 

 

ペストーニャの心配する言葉に軽口で返す男。浅黒い肌に黒い無精髭、髪色も黒く短く刈り揃えられていた。青のジーンズに真っ白なTシャツを腕捲りし頭には捩じり鉢巻きと良く言えば渋い親父。悪く言えば場に合わせない親父…名をゲンと言う

 

 

「全く…皆様は警戒に当たっていると言うのにですわん」

 

「無理に『わん』を付けるな。ワンコ」

 

 

やれやれと、肩を竦めるペストーニャとグラスを煽るゲン。ペストーニャの言う通り、ゲンは全く酔えて居なかった。その理由はナザリックにいる全てのNPCは理解していたし、自分達の調子が上がらないのも同じ理由だからだ

 

 

「…アセルス様は何処に居るのでしょうか。わん」

 

「さぁ、な。アイツの事だ…待っていれば出て来るさ」

 

 

そう言って、自分でグラスに酒を注ぎ飲み干す。そんな様子を見てペストーニャは口を開く

 

 

「心配のし過ぎで酔えてないのに言いますね、わん」

 

「…ワンを無理に付けるな」

 

 

ふいっと、顔を背けて酒を煽る手を止める。チラリと隣の席を見れば黒い髪をオールバックで固め、丸眼鏡を掛けた男が座っていた。宝石をカットしたような眼をゲンに向ける悪魔、名はデミウルゴス

 

 

「声ぐらい掛けたらどうだ?」

 

「いえ、それを言うのでしたら…まずは、己の雰囲気を考えてください。負のオーラ、撒き過ぎですよ?」

 

 

そう言われて、ゲンは首を傾げた後。深呼吸…ふっと、重々しい雰囲気が霧散した

 

 

「全く…心配なのは分かりますがシモベを怖がらせないで下さい」

 

「それはすまなかった。…何か進展は?」

 

 

問い掛けられたデミウルゴスは顔を左右に振る。それを見たゲンは「そうか」っと、短く答えてグラスを揺らす。カラン…と、グラスの中で氷が音を立てる。今現在、アインズ・ウール・ゴウンはモモンガの指示によりアセルスの捜索を行っている。だが、全くと言って良い程に情報は少なく難航していた

 

 

「…まぁ」

 

「そのうち出て来るさ。ですか?…そうなる様に祈りましょう」

 

 

少しだけ嫌みが込められたデミウルゴスの言葉を鼻で笑うと、壁に立て掛けた二振りの刀を見る。お節介な創造主が態々拵えたものだ。「何処に行ってるんだか」と、静かに呟いた言葉にペストーニャもデミウルゴスも答えられなかった

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「では、この予定で進めます。というより、これをしないと守護者達が納得しないのでお願いします」

 

「え、えぇ…政府じゃないんだから…」

 

 

円卓の間、二つの豪華な席に一つの骸骨と美しき姫君が座り此れからの帰還報告について打ち合わせを行っていた

 

 

「そう言わないで下さい。アルベドを見たでしょ?」

 

「ぅ…モモン君、思い出させないで。恥ずかし過ぎて無月散水をぶっぱなしちゃうよ?」

 

「ごめんなさい」

 

 

そう言われると震えた声で謝罪をする骸骨。実は既にアルベドから帰還の激励を受けており、抱き着かれた上にお尻を撫で回され、モモンガの前で恥ずかしい声を漏らしながらアルベドに襲われると言う事件を起こしていた。恥ずかしさとある種の恐怖を感じ『せめて、人目の無い所で!』と、言ってアルベドを引き剥がした事により事態は終息した。…何か大きな地雷を踏んだ気はするが気にしない事にする。因みに、その騒動をモモンガは割とノリノリで眺めており、先程のアセルスの対応はそれが原因である

 

 

「はぁ…全く、アルベドどうしちゃったのよ…何かした?」

 

 

アルベド暴走事件を思い出し、頬を染めながら溜息を吐く。何となくモモンガに問い掛けると、明らかに動揺した様子で肩を跳ねさせては緑色に発光する。此奴、ナニシタ

 

 

「ナニモシテナイヨ」

 

「ふふ…何本要らない?取り合えず、頭部は要らないよね?」

 

 

凄みを利かした脅しにモモンガは悲鳴を上げながら白状した。アルベドが、ああ成ってしまったのは、ユグドラシルのサービスが終了するちょっと前にアルベドの設定…タブラ考案の『因みにビッチである』を『アセルスを溺愛している』に突発的な悪戯で変えたのが原因じゃないかと…

 

 

「何してくれてるんじゃい!馬鹿骸骨ゥゥ!!!」

 

「ごめんなさいぃぃぃぃ!?だから、幻魔振り回さないで!ここが崩壊しちゃう!!」

 

 

円卓の間にて追いかけっこを始める『妖魔の君』と『死の支配者』。その様子は微笑ましくとも当人達は本気で粛清を行おうとし、本気で逃げ回っていた。すると、モモンガが不意に躓いて地面に身体を打ち付けてしまう、好機と睨み飛び掛かるアセルス。起きる為に慌てて、うつ伏せから反転し仰向けになるモモンガの上に跨る様に着地するアセルス、咄嗟に幻魔をアセルスの手から叩き落とすモモンガ。幻魔は丁度テーブルの下へと滑って行く、と同時に

 

 

「モモンガ様、アセルス様。お時間の方が迫って…」

 

「「あ…」」

 

 

とても申し訳なさそうに円卓の間へと入ってきたアルベドが硬直する。先程の追いかけっこで息を荒くさせているアセルスがモモンガの上に跨っている。これを第三者が見れば?何よりも淫魔(アルベド)が見れば?

 

 

「アセルス様!アセルス様!!アセルス様!!!そういう時期なのでしたら、ぜひ!ぜひ!このアルベドが!!」

 

 

暴走アルベドが金色の目を見開き、涎を垂らしながらアセルスの背面にトップスピードで回り込む。両手を広げて、わしぃ!と豊満なソレを鷲掴みし、揉みしだき始める

 

 

「あ、アルベド!?何して、ひゃう!?」

 

「お、ぉぉ!?」

 

 

アセルスの下に居るモモンガはアルベドの乱入とアセルスに消され掛けた恐怖と目の前で広がるとんでもない光景に混乱し訳の分からない声を上げながら緑色の発光を何度も繰り返す。つまり、アセルスもモモンガもテンパっていた、結果

 

 

「タイガーランページ(威力調整済み)」

 

 

妖魔化したアセルスの拳が炸裂する、混乱していたのでスキルの選択も適当である。HPの半分を一瞬で失い気絶するモモンガと表現NGな表情を浮かべ、満足そうに痙攣する淫魔(アルベド)を鎮圧した、モモンガはおまけである




という訳で、白薔薇姫とゲンが登場しました。みんなアセルスの事を心配していますが、アルベドが一人大暴れし、モモンガは殴られ損ですね。(ある意味御褒美?)

それでは、次回お会いしましょう。


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妖魔の君の帰還

「と、言うわけで。こんな感じで進めようと思います」

 

「わかったわ。時間も無いし…」

 

 

貞操の危機を乗り越えたアセルスが落ち着きを取り戻し、気絶する骸骨を叩き起こしたのが5分前。完全に持ち直せて居ないのか僅かに頬を染めつつも、真剣に頷く。気絶したアルベドは近くの床に寝かせて布を被せている。が…そろそろ、起こさないとやばいので先程の事を考えて、モモンガ起こす事に

 

 

「起きるのだ、アルベド。時間が無いのであろう?」

 

 

モモンガの威厳ある声による。目覚ましに一気に覚醒し飛び起きるアルベドにモモンガは緑色に発光しながら『うそぉ…』と、少しだけ引くのであった

 

 

「も、申し訳ありません!円卓の間で気を失うなど…」

 

「良い、その事は許す。さぁ、向かうぞ」

 

 

若干の記憶喪失になっているアルベドに少しの憐れみを込めて告げるモモンガの隣にアセルスが並び立つ

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫よ。…ちょっと、楽しみ」

 

 

『皆、良い子ですよ』と、モモンガの言葉に頷いては服装をチェックして歩き出す

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

アルベドから『重要な報告が二時間後にある』と聞いて、気分が落ち着かず何度も入浴をしてしまった。お陰でシャンプーを切らしてしまった…後で用意しなければ、と思うもやはり気分が落ち着かず部屋の中をソワソワと歩き回る少女…普段は漆黒のボールガウンにフリルとリボンの付いたボレロカーディガンを羽織り、レース付きのフィンガーレスグローブを付けているのだが、その服装は滅茶苦茶になっていた。その少女の名はシャルティア・ブラッドフォールン…至高の存在、ペロロンチーノが創造したNPCにて守護者の一人である

 

 

「重要な報告…まさか、アセルス様が…見つかったでありんすか?」

 

 

アセルス様が見つかったのであれば、最高の衣装で無ければ!そう考えて鏡の前に立ち次々とクローゼットから服を引っ張り出す。頭の片隅に起きる嫌な可能性を閉じ込める様に没頭した、けど

 

 

「もしも、もしも…見つかったのが遺体なんて事、ないでありんすよね」

 

 

ふるふると、震える手で鏡に触れながら最悪な重要な報告の可能性を考えてしまう。其処からは良く分からないまま、ぼーっと、時計の針を眺めて居た、気が付けば玉座の間に集まる時間が迫って来ており。慌てて普段の服装を用意し身に着けて部屋から飛び出した

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「シャルティア、遅いわね」

 

 

玉座の間に各階層守護者にセバスやソリュシャン、プレアデスや一般メイド達が集まり始めた頃。シャルティアの姿が見えない事に金色の髪を肩口で切り揃え、緑と青のオッドアイを持つ男装服に身を包んだダークエルフの少女、アウラ・ベラ・フィオーラはまだ見えないシャルティアの姿を探す

 

 

「お、遅れちゃうのかな?」

 

 

その隣でおろおろした様子でアウラを見上げるおかっぱ頭の女性物服を着たダークエルフの男の子、マーレが姉であるアウラに不安そうに問い掛ける

 

 

「大丈夫よ、きっと。ギリギリに来るわ、それよりもゲンがバーから出て来ないのよ?全く…」

 

 

やれやれと、肩を竦めて呆れるアウラと真っ青になるマーレ。いつもの事と流すアウラが凄いのか、心配するマーレが当たり前なのか。どちらにしてもゲンは此処に居ないらしい

 

 

「ゲンハ急ニ酔イ始メタ。酔ッタママ来ルノハ失礼ト言ッテイタ」

 

「何でお酒飲んでるのさ。あのおっさん…」

 

 

巨大なライトブルーの身体を揺らし困った雰囲気を出しながら蟲の王、コキュートスは口の牙を鳴らした

 

 

「モモンガ様ハ慈悲深イ、…許シテクレルダロウカ」

 

「あ、あはは…」

 

 

苦笑いしか出せないアウラ…と言うのも。守護者達が何処か普段と違って可笑しいのはナザリック地下大墳墓にアセルス様がいらっしゃらないから。と、気が付いている故に強く言えないのである

 

 

「…今回の報告どう思う?」

 

「…我々ノ今後ヲ左右スル、重大ナ事ダト考エテ居ル」

 

「そ、そんな。やっぱり…」

 

「そう悪い物では無いかもしれませんよ?」

 

 

考えられる最悪な報告にやはり雰囲気を暗くしてしまう、アウラ、マーレ、コキュートスの背後からデミウルゴスが声を掛ける

 

 

「ム、ソレハ。ドウ言ウ事ダ?」

 

「よく考えてみてください。ゲンが急に酔い始め普段の様に此処に居ません。白薔薇姫様も先程見かけましたが中庭の白薔薇の手入れをしていました。二人とも急に普段と変わらなくなりました」

 

「そ、それって!あ、アセルス様が!」

 

「えぇ、その可能性は高いと思われます。ですが、報告を聞くまでは分かりません」

 

 

そう言って、デミウルゴスは離れて行く。すると、丁度シャルティアが現れ息を切らせながら配置へと付いて居た

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「皆、揃っているな」

 

「はっ、守護者全員揃っております。指示通りプレアデス、一般メイドも含め集まっております。が、ゲンと白薔薇姫様は…」

 

「良い、彼等はそうなる様に創られている」

 

 

そう言って、モモンガはセバスから離れ玉座に腰を下ろす。セバスは礼をしたのち下がるとモモンガの隣にアルベドが立つ

 

 

「さて、皆に集まってもらったのは他でも無い。今後のナザリックに関わる重大な報告が私からある」

 

 

支配者としてモモンガはゆっくりと言葉を紡ぐ。守護者達を見渡しては首を傾げる。と言うのも、シャルティアが異様なまでに沈み込んでいるのだ。え、俺…何かしたか?と、一瞬考えるも直ぐに理由に見当が付いたので内心でほっとしながら口を開く

 

 

「そう構えるな。これは喜ばしい事なのだから…」

 

 

そこで言葉を切る、この場に居る全ての者の視線がモモンガに集中する

 

 

「我らがナザリックに君臨する『妖魔の君』が帰還を果たした!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

モモンガの声が聞こえたと同時にゆっくりと足音を立てながら姿を晒す。深紅のドレスに赤い薔薇の花飾りを付け、優雅にモモンガの隣に立つ

 

 

「…ただいま、皆」

 

 

にこりっと、微笑み掛けながらそう言った瞬間…玉座の間は罅が入るのかと思う程に膨大な歓喜に包まれる。声を上げて泣く者、静かにハンカチを目元に当てる者、声すら出せずに歓喜に震える者

 

 

「ふっ…アセルスさん。貴女の帰還は皆が望んでいました。…お帰りなさい」

 

「…ただいま、モモンガさん」

 

 

聞こえる様に配慮したモモンガからの伝言に顔を背けながら改めて伝える。たった一日だけ来なかっただけ、そう言われるかも知れないけど…それでも行方不明になった私を必死に探し。帰って来れた事をこうやって喜んでくれる事が嬉しかったのだ、気が付けば頬を涙で濡らし笑っていた

 

 

「あーもう、嬉し過ぎて涙出て来ちゃったよ」




一日、たった一日でも感動はします。お気に入り数が増える度に恐々としているこの頃です。御読み頂き本当にありがとうございます。

ゲンの種族は亡霊ですが職業はガッチガチの剣使いになっております。カルマ値は善50の中立寄りです。

アセルスの技はモンスター、メカを除く技を使用出来ます。何かと便利なので凝視系は使える様にしています。


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ナザリックでの一日

「お部屋には最後に来ると思っていましたわ」

 

「ん、そう?…最後の方が良かった?」

 

「ふふ…。アセルス様の好きな様に振舞って下さい」

 

 

玉座の間での歓迎を終えて自室に行けば白薔薇が柔らかな笑みと共に出迎えてくれた。今はベッドに二人で腰を掛け白薔薇に髪を梳かして貰っている。リアルの私は髪が長くないから…凄く助かってる

 

 

「じゃ、今は此処に居るよ」

 

 

そう伝えると何と無く嬉しそうな雰囲気で髪の手入れを続けてくれる白薔薇、しばらく髪を梳かす音だけが聞こえた。心が安らぐような…そんな時間だった

 

 

「終わりましたわ」

 

「ありがと、白薔薇。さてっと、皆に会って来るよ…あ、ゲンは?」

 

「ゲン様…ゲンさんはショットバーで酔っていると思います」

 

 

ゲン様と言った後に小首を傾げ少し考え、ゲンさんと言い直す白薔薇に思わず笑ってしまう。不思議そうに見つめて来る白薔薇を優しく撫でては『何でもないよ』と、伝えつつ部屋を後にする。仕草が可愛かった、そんな事言えない

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

取り合えず、お目当ての人物に会う為に第二層…屍蝋玄室に来た、が。ドアをノックしても反応は無く首を傾げる

 

 

「シャルティア―?あれ、居ない…んー…警備の時間表を見てくればよかった」

 

 

その人物はシャルティア。あの玉座の間で大泣きをしており、泣き止むまで抱き上げていた。アルベドやプレアデス達から羨ましい…と、言う視線を集めていたの思い出す

 

 

「泣いてばかりで、心配だったけど…大丈夫そうかな?」

 

 

そう考えて、シャルティアの部屋を後にしようと振り返ると見知った顔が此方を見ていた

 

 

「エントマ…?どうしたの?」

 

「アセルス様!?私は恐怖公におやつをもらいに行く所でして…」

 

「そ、そうなんだ」

 

 

プレアデスの末っ子、エントマの言葉に苦笑いで返してしまう。恐怖公は正直苦手だったりする

 

 

「あ、そうだ。エントマ、シャルティアを見つけたら私の部屋においでって伝えて置いて」

 

「畏まりました」

 

「ありがと、余り恐怖公に迷惑かけちゃだめだよ?」

 

 

エントマにお願いをして側を通ろうとする時に優しく撫でては次の守護者に会いに行く。この事をエントマがプレアデスの姉達に話し『アセルス様の手はとても柔らかく、心地良かった』と言った事が小さな騒動になり、セバスが頭を抱える事になったのは別の話。次に向かう場所は第五階層にある『大白球』

 

 

「相変わらず綺麗な場所だなぁ…えっと、コキュートスはこっちかな?」

 

 

蜂の巣をひっくり返したような形をしている建物。此処にコキュートスが居るはず…

 

 

「コキュートスー?」

 

「オ呼ビデゴザイマスカ?アセルス様」

 

 

一瞬で現れたコキュートスにぎょっとしながらも、跪こうとするのを制す。巨体に似合わず足音を立てずに現れたの凄いと思う

 

 

「入っても大丈夫?」

 

「オォ…態々、コノ様ナ場所ニ足ヲオ運ビ頂キ感謝シマス」

 

「そんな大げさだよ。皆の顔を見て歩いてるんだよ」

 

 

コキュートスの言葉に苦笑いしながら建物の中へと入る。少し歩いてみればかなり広い作りになっているのが分かる、コキュートスの身体だと確かにこのぐらい必要かもしれない。壁に飾ってある武器に目が留まりよく見れば、二振りの大剣が大切そうに保管してある

 

 

「あ、これって。私がプレゼントした剣…」

 

「私ニハ勿体無イ程ノ名剣デゴザイマス」

 

「気にしなくてもいいのに…でも、ありがと。…機会があれば使ってね?」

 

「ハッ!」

 

 

コキュートスは種族の特徴故に鎧を身に着ける事は出来ない。だから、あの二振りの剣にはそれを補う為に秘術『盾』に加えて印術『壁のルーン』を付与してある。因みに発動させるのでは無く装備するだけで効果は発揮する。無論、神器級装備である

 

 

「相変わらず、此処は良い所ね。あ、今度コキュートスに服を作ってあげるよ」

 

「ナッ!ソレハ恐レ多ク受ケ取ル事ハ出来マセン!」

 

「ふふ、恐れ多くて受け取れないなんて意見は聞かないよっ。感謝しながらしっかりと着てくれると嬉しいかな?」

 

「ム、ムゥ…心遣イ感謝イタシマス」

 

「ふふ…♪」

 

 

その後、コキュートスに別れを告げて次の守護者に会いに行く。階層を移動している最中にプレアデスの三女、ナーベラル・ガンマと出会ったので姉妹達と仲良く分けてね?と伝えながら、クッキーの包みを渡したら。何故か、涙を流しながら何度も感謝されてしまい泣き止むまで一緒に居たり…と、余談があったりする。次に向かうは第六階層『円形闘技場』

 

 

「やっほ、モモンガさん。間に合ったかな?」

 

「ああ、良い所に。はい、丁度始める所ですから。問題ありませんよ」

 

 

闘技場に行けば、見慣れた後ろ姿の隣に立ち声を掛ける。穏やかに返すのはモモンガ、その隣には第六階層守護者であるアウラとマーレ、第七階層守護者のデミウルゴスだ。それぞれがお辞儀をして来るのに笑いながら手を振れば、其々異なった反応をしていた。アウラは嬉しそうに笑い、マーレは頬を染めながらもじもじ、デミウルゴスは目元をハンカチで拭っていた

 

 

「さて、アセルスさんが到着した。これよりこの杖の実験を始める、人形を用意してくれるか?」

 

 

そう命じられたアウラは木製のダミー人形を闘技場の中心に配置する。アウラが下がるのを確認しては、その人形にモモンガは火球(ファイヤーボール)を放つ。簡単に焼き払われ周りから「おぉ…」と、声が聞こえる

 

 

「何の問題も無さそうだね」

 

「えぇ…それにしても、この杖はやはり強力です」

 

「カッコいいよ?」

 

「え、いや、はい。ありがとうございます」

 

 

悪戯が成功し笑みを浮かべてモモンガさんを見れば緑色に発光していた。最近分かった事だが緑色に発光する時は恥ずかしがったり緊張したり、感情が高ぶると光ると分かって来た

 

 

「こほん、それじゃ…アセルスさんも試してみます?」

 

「そうだね、私も試してみようかな」

 

 

剣技で試したいモノがある。それを使ってみようと感覚を研ぎ澄ませる…うん、きっと出来る

 

 

「アセルス様の剣技が見れるなんて…!」

 

「コキュートスを呼んでおくべきでした…」

 

「じゃ、此れで撮ってあげて。デミウルゴス」

 

「こ、これは!」

 

アウラ、マーレが期待した表情でアセルスを見つめ。デミウルゴスの呟きを聞いてはその手に録画機能のある水晶を手渡す

 

 

「準備は良いですか?いざとなれば止めますので心配しないで下さい」

 

「大丈夫だよ、ありがと」

 

 

そう伝えるとモモンガは頷き、杖の能力の一つを使用する。瞬間、熱風が頬を撫で闘技場に巨大な火精霊が現れる。そのレベル八十七、炎が巨大な人の形をしたモンスターだ。その姿を確認し幻魔を抜き放ち、走り出す

 

 

「根源の火精霊!攻撃を始めよ!」

 

 

モモンガの命令に従い火精霊はアセルスに向けて業火を放つがその場にアセルスは居ない。瞬間移動の様な速度で火精霊に接近したアセルスの姿がブレる。その瞬間四体の幻体が現れ、火精霊に切りかかる。無数の斬撃が剣閃が四方向から放たれる。火精霊は周りに業火を撒き散らそうとするが、それを読んでいた四体の幻体は同時に火精霊を打ち上げる。打ち上げられ、火精霊は天高く浮き上がる。その上空には本物のアセルスが待ち構えており、幻魔で突きを放ち地面に叩き付ける。火精霊は霧散する様に消滅し、私は肩の埃を払いながら立ち上がる

 

 

「無月散水…アセルスさんとゲンが扱う最強の剣技。ですね」

 

「そ、これが試したかった技の一つ。次は…」

 

 

アイテムボックスに幻魔を仕舞っては今度は月下美人を取り出す。鞘に納めたまま、モモンガが再召喚した火精霊と向き合い走り出す

 

 

「————————————!」

 

 

刹那の瞬間に繰り出される三種類の刀技『風雪即位付け』『月影の太刀』『三花仙』。それらを組み合わせたアセルスとゲンが扱える最強の刀技『乱れ雪月花』

 

冷気を纏った一太刀で相手を凍結させ、一点の曇りも歪みも無い美しい剣閃を放つ。砕ける氷が空に広がり舞い落ちる、桜を連想させる光を刀身に纏い最後の一太刀を火精霊に放つ。火精霊は何が起きているのかすら分からぬまま消滅を果たした

 

 

「綺麗…」

 

「す、凄い…」

 

「これは…素晴らしい」

 

 

血を払う様に月下美人を一振りしては鞘へと戻し。後ろを向けば見ていた全員が感嘆の声を漏らしながら桜の花弁の様に舞い散る氷の欠片に魅入っていた

 

 

「えっと、終わった、よ?」

 

「あ、す、すみません。何か違和感はありましたか?」

 

「ううん、大丈夫だよ。寧ろ好調かな?」

 

 

「それは良かった」と、言ったモモンガさんと一緒に闘技場を後にする。去り際にアウラとマーレの二人を撫で、デミウルゴスには撫でる訳にも行かないのでナーベラルに渡したクッキーを差し入れに持たせた

 

 

「…皆さんもどうですか?」

 

「い、良いのかな?アセルス様はデミウルゴスさんに渡したから」

 

「いえ、この量は私一人では余ってしまいます。紅茶も出しますよ?」

 

「マーレが行かないなら私一人で…」

 

「行く!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「アセルスさん!さっきの技凄いじゃないですか!初めて見ましたよ!?」

 

「ちょ、ちょっと!?モモン君!?」

 

 

足早に先を歩くモモンガを不思議そうに見ていると突然立ち止まり、ふるふると震え始めたかと思えば緑色に発光しながら肩をがっしりと掴まれた

 

 

「あ、あはは…ゲンも使えるから。余り私は使わなかったんだよ…嬉しいのは分かったから、手を離そうね?」

 

「す、すみません…」

 

 

慌てて離れるモモンガさんを可笑しそうに笑う、確かにモモンガさんに見せたのは初めてかも知れない

 

 

「あ、そう言えば…これ、忘れてる?」

 

「…?あ!それって!」

 

 

アイテムボックスから取り出したのは何の変哲もない指輪。効果は人になれる以上。今のモモンガさんには必要なアイテムだ。身体はほぼ無限に活動出来たとしても心は擦り減り続ける。少しでも気分転換と言うか、人間だった事忘れて欲しくなかったから部屋中を探して見つけて来たのだ

 

 

「そう、人化の指輪。人間限定の街なんかに入る時に必要になる装備品だね。はい、どうぞ♪」

 

「あ、アセルスさん…!ありがとうございます!!」

 

「それを付ける時は自室でね?もしかしたら、一気に反動が来るかもしれないから…はい、これ」

 

 

更にアイテムボックスから取り出すのは白薔薇と一緒に作ったサンドイッチを詰めた弁当箱と紅茶の入った保温瓶をセットで渡しては後押しする様に「ほら、行っておいで」と、言いながら背中を押してモモンガさんとは別の方向に歩き始める

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

第九階層、ショットバーに向かえば相変わらずの席で飲んだくれて居るおっさんを簡単に発見した。全く、このおっさんは…と、苦笑いしながら近寄り隣の席に座る

 

 

「遅かったじゃねぇか。挨拶回りは終わったか?」

 

「遅れてごめんね。相変わらず酔ってるね」

 

 

お前の所為で酔えなかったからな、と軽口で返事をする渋い親父。私が白薔薇の他に創ったNPCのゲンだ、日本酒が入った一升瓶からグラスに酒を注いでは一気に煽る

 

 

「創造主に軽過ぎない?」

 

「ん?…ご機嫌如何ですか?アセルス様」

 

「ごめん、やめて」

 

「俺も死にたくなったわ」

 

 

突発的にセバスの真似をしたゲンに割と本気でドン引きした。本人も「酒がまずくなる…」と、嘆いていた。すると丁度現れたペストーニャが不思議そうに首を傾げなら私の前に綺麗な赤いカクテルを置いてくれた

 

 

「ありがと。ペストーニャ」

 

「勿体無きお言葉です…わん」

 

 

そのまま下がろうとするペストーニャの手を取っては「一緒に飲もうよ」と誘うと最初は「恐れ多いです。わん」と言っていたが、最後はおずおずと隣に座ってくれた

 

 

「やれやれ、気を遣いすぎだろ…」

 

「貴方が特殊過ぎるだけですわん」

 

「まぁ、ゲンだし」

 

 

「俺が可笑しいのか…?」と、頭を抱えるゲンを放置してペストーニャが作ってくれたカクテルを一口頂く。爽やかで口当たりが良く甘酸っぱい…けど、しっかりとアルコールを感じる。リアルじゃ絶対に飲めない代物だった

 

 

「美味しい…」

 

「ありがとうございます…わん」

 

 

嬉しそうに尻尾を振るペストーニャをよしよし~♪と撫でてあげる。毛並みが凄くよかった

 

 

「で、何処に行ってたんだ?」

 

「ん?私?」

 

「お前以外に誰が居るんだ…」

 

 

呆れ顔のゲンを放置して此処に来た時は別の場所で目を覚ました事、村を救った事、この異世界の伝承に私が居る事。不思議な事ばかりだったよ?と、言い終わるとゲンは難しそうな顔をしており。ペストーニャも何か考えている様子

 

 

「お前が伝承に、ねぇ…また、面倒な事になりそうだな」

 

「つまり、この世界ではアセルス様は英雄なのでしょうか…わん?」

 

「うん、多分そうなんだと思う。法国には伝承、他国には御伽話になってるかも知れない」

 

 

「成る程な」と、短く答えて酒を煽るゲンとペストーニャはソワソワしながら口を開いた

 

 

「アセルス様、その事は私達が聞いてもよかったのでしょうか…わん」

 

「んー…此処だけの秘密にしておいて」

 

 

ウィンクを交えて少しお茶目にペストーニャに言えば「はうっ!」と、声を漏らしながら目線を逸らした後に小さく頷いてくれた

 

 

「さてっと、私は部屋に戻るね。ほどほどにしておきなよ?」

 

「心配されるような鍛え方してないぞ?」

 

「いや、それは鍛えられないでしょ…」

 

 

飲み過ぎた時を考えてペストーニャにゲンを頼んでバーを後にする。一直線に向かうは自室。扉を開けて中に入れば白薔薇がベッドに座ったまま、此方に向かって唇の前で人差し指を添えて「しー…」と、見つめて来たので足を止めてよく見れば。白薔薇がシャルティアを膝枕していた

 

 

「あら、来るのが遅かったかな?」

 

「ふふ…泣き疲れている様子でしたので」

 

 

「そっか」と、小さく呟いては白薔薇の隣に腰を下ろし、シャルティアの寝顔を覗き込む。相手が白薔薇だからだろうか。とても気持ち良さそうに寝息を漏らしていた

 

 

「起こすのは可哀そうだし、このままにしておこうか。辛かったら変わるよ?」

 

「いえ、アセルス様もお疲れでしょう?先にお休みになった方がいいですわ」

 

「んー…もう少しだけ、見てたいかな」

 

 

優しくシャルティアの頬を指でなぞり乍ら微笑む、いつまでもこんな風に過ごせたらいいな…そう思いながら




御読み頂き有難うございます。ナザリックに帰還し、その日を書いてみました。アルベドは一人良い思いをしたので今回は未登場でございます


誤字報告+間違えの指摘等ありがとうございます。
白薔薇姫のカルマ値は極善です。ゲンはコキュートスと同じですね。ですが、基本的にはモモンガよりもアセルス優先に行動する可能性はあります。


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妖魔の君、法国へ

「ん…んぅ…」

 

 

寝惚け眼でもぞもぞと寝返りを打つ少女。鼻腔を擽る良い香りを吸い込んでは香りがより強くする方向に近寄り、無意識に抱き着く。ぎゅぅ…と、柔らかな感触に安心を覚えながら顔を埋め視線を何と無く上に向ければ

 

 

「おはよ…?」

 

「…………!!!!!」

 

 

綺麗な緑色の瞳と目が合い、一瞬で誰に抱き着いて。何処に顔を埋めて居るのか理解しては林檎の様に顔を真っ赤にする

 

 

「も、もうしっ!」

 

「良いよ、嫌じゃないしね?」

 

 

起きたシャルティアと目が合うと慌てて離れようとするので、彼女を抱き締めては綺麗な銀髪を指先で梳く様に撫でていると

 

 

「えへ、えへへぇ…」

 

「んー…?」

 

 

謎の声を上げるシャルティアに首を傾げ乍ら撫で続けていると、扉がノックされる

 

 

「アセルスさん。今大丈夫ですか?」

 

「ちょっと待ってー。ごめんね、シャルティアまた後でね」

 

 

そう言ってシャルティアを白薔薇に任せて、扉を開ければ。幾分明るい雰囲気になったモモンガさんが立っていた

 

 

「どう?うまくいった?」

 

「はい、久しぶりに睡眠と食事が取れました…リアルじゃ絶対食べられないぐらい美味しかったです」

 

 

明るい口調で喋るモモンガさんを見て、ほっとする。やっぱりこうじゃないとね

 

 

「本当にありがとうございます。っと、実はこれからの事を話そうと思いまして。円卓の間に行きませんか?」

 

「了解、私も伝えないといけない事がるから」

 

「それじゃ、行きましょう」

 

こくりとお互いに頷いて円卓の間へとモモンガさんのゲートで向かう

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それで、どんな風に動くの?」

 

「はい、取りあえずは情報収集と私達の事がどれ程知られているのかを調査する為に…この、リ・エスティーゼ王国にセバス、ソリュシャン、ゲンと転移ゲートを繋げる目的で一回だけシャルティアを向わせます」

 

「確か、ガゼフが所属している国ね」

 

 

カルネ村の村長から貰った地図を広げ、山脈に近い都市を指差しながらモモンガさんの説明に相槌を打つ

 

 

「そうです。ガゼフの性格と身分を考えればある程度…私達の情報は漏れているはずです」

 

「成る程、人選は比較的に人間に近い者を選んだのね。それにカルマ値は善寄りっと…ゲンは少し問題あるけど、大丈夫かな…」

 

「え?でも、彼…人間嫌いじゃないですよね?」

 

「その辺は無問題なんだけど、酒場に直行しそうで…」

 

「…その辺は良く言っておいてください」

 

 

流石のモモンガさんも予想していなかったのか顎が下がったままぽかんっとしていた

 

 

「それで、アセルスさんからは何が…?」

 

「えっと、ニグンから聞いた事なんだけど…」

 

 

スレイン法国では伝承に『妖魔の君』の名が出て来る事。法国の伝承に出て来るのであれば、他国にも似たような伝承または御伽話として『妖魔の君』の名が登場する可能性が考えられる事。また一部の者は妖魔化した時の姿を知っている事を順を追って説明する

 

 

「え、アセルスさん。最後は死んじゃうんですか?」

 

「えぇ…其処を突っ込むの?」

 

「いえ、気になったので。…やはり、私達以外のプレイヤーがこの世界に来ているのでしょうね。生きているかは不明ですが」

 

 

そうなれば、アインズ・ウール・ゴウンはかなり面倒な事になる。悪名高き極悪PKギルドとして知られており、モモンガは公式から裏ボスの称号を貰っている程に有名だ

 

 

「となると、無害な人間や種族を手当たり次第に攻撃するのは良くないわね。出来るだけ友好的にこちら側に引き込みたいけど…問題はカルマ値が極悪の子達ね」

 

「敵対者と戦う時も大義名分が欲しい所です」

 

 

そこで会話は止まり、お互いに黙ってしまう。そう言えば、法国は異形種狩りを進めているとニグンが言っていたのを思い出す。アインズ・ウール・ゴウンに所属する子達は全員が異形種であり、スレイン法国に見つかれば攻め込まれる可能性もある。戦争になり無事に勝てたとしても他の国が黙っては居ないはずだ、そうなれば人間達は国を越えて手を取り合うだろう、その結果。未知のプレイヤーが敵対した場合最悪な事態になる

 

 

「あ、私。法国に行って来る」

 

「わかりました、お気を付けて…はい?」

 

「ん?法国に行って来る。異形種狩りを辞めさせて、本当の救済を教えて来るよ」

 

「何を言ってるんですか!幾らアセルスさんでも許可できませんよ!」

 

 

珍しく声を荒らげながら席から立ちあがるモモンガを真っ直ぐ見つめる

 

 

「もしも、法国が此処を見つけたら戦争になるよ。勝てたとしてもこの世界全てと敵対する事になる…大丈夫だよ。いくら私でも一日で変えるつもりはないからさ、デミウルゴス風に言うなら根幹に楔を打ち込んで来るだけ、必ず戻るから安心してよ」

 

「ですが…!」

 

「私を信じて、モモン君。約束を破った事ないでしょ?」

 

 

そう言うとモモンガは椅子に座り直し「はぁ…」と、重い溜息を吐き出す。どうせ、何を言っても行くんでしょ?と言わんばかりに腕を組み

 

 

「わかりました、ですが。何かあったら直ぐに戻って来て下さい、一時間毎に連絡を。五分遅れたら法国に乗り込むます」

 

「ありがと、それじゃ行ってくるね」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ナザリックから転移のスクロールを使い、一日ぶりにカルネ村へと向かった。村に着いて一番最初に気が付いたのは村を囲う様に柵が立っており。その周りを武装した男が三人巡回していた

 

 

「へぇ…復興が早いね?」

 

「此れは、妖魔の君…!」

 

 

声を掛けるとその場で男達は跪いた。「ほへ?」と、間抜けな声を出し掛けたがよく見れば彼らはスレイン法国、陽光聖典の兵士達だった

 

 

「良いよ、そんな事しなくても。後、私の事はアセルスって呼んでね?あ、ニグンは何処に?」

 

「あり難きお言葉、ニグン殿は村長殿の小屋でルプスレギナ殿と防衛網を練っておられます」

 

「わかった、ありがとね。ほどほどに休憩もしなよ?」

 

 

そう言って彼らから離れると歓喜にも似た声を上げなら張り切って仕事に戻って行った。余りにも騒がしいのでエンリに怒鳴られて粛々と警備を再開する姿に思わず苦笑いを零す、周りの村人も何が起きたのか分からない様子だったが

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「入るよー」

 

「ノックはちゃんとしないとダメっすよー」

 

 

軽い調子で声を掛け乍ら扉を押し開けると軽快な調子の声がした、顔を向ければぎょっと驚いた顔をしたルプスレギナがおり、冷や汗を滝の様に流しながら跪く

 

 

「あ、アセルス様!申し訳ないです!」

 

「あはは…いいよ、このぐらい。私もノックしないのが良くなかったし」

 

 

死にそうな勢いのルプスレギナを立たせながら優しく微笑み掛けると隣で村長とニグンも跪いていた

 

 

「二人も立っていいよ。後、妖魔の君は無し。アセルスと呼んで」

 

「ハッ!…では、アセルス様とお呼びしても宜しいですか…?」

 

 

ルプスレギナがニグン達を睨んでいたのでわしわしと撫でながら頷くとニグンは緊張した面持ちでアセルス様と呼び始める

 

 

「あ、ルプスレギナ。これ上げる」

 

「!い、いいい!良いのですか!?」

 

「うん、カルネ村をよろしくね?」

 

 

アイテムボックスから当たり前のように物を取り出す。ゴールデン芋のチップスの袋と揚げた物を詰めた弁当箱を手渡すと申し訳なさと嬉しさの両方が混じった表情で抱えていた。ニグンや村長が驚いているがこの村で隠す必要は無いと思っている。と言うか、モモンガさんがデス・ナイトを潜伏させてるし…

 

 

「さてっと、ニグン。貴方にお願いがあるんだけど…頼めるかしら?」

 

「ハッ!何なりとお申し付けください」

 

「ありがと、貴方には法国に戻って私達の為に情報を集めて欲しいの。後はそうね…私の名を法国内で広めて、私を信仰する派閥を作って欲しいのだけど…出来るかしら?」

 

「可能でございます、ですが…お耳汚し失礼致します。何かしら、…威光を示して貰えれば確実になります」

 

 

ニグンの言葉に深く考え込む、大方予想通りだ。ルプスレギナが不機嫌になっているが今は手で制しておく。この辺の意識も変えて行かなければならない…と考えながら

 

 

「問題無いわ。行き成り貴方を送って信仰が出来るとは思っていないし、何か手があるのかしら?」

 

 

そう問い掛けると、ニグンは重々しく口を開く。不敬と取られる可能性が大きかったからだ

 

 

「戦力としても法国に対する意思表示としても役に立つ者が幽閉されております。法国の地下、聖域と呼ばれる場所に一人の少女が…その者を説き伏せ、アセルス様の配下に出来れば…」

 

「成る程ね、どんな子なのかしら?」

 

 

ニグンの説明によるとその少女は神人と言われる力を持っており、法国において絶対的強者に位置している。法国にとっては切り札…それも、かなり強力な切り札となっているらしい

 

 

「用が無い時は地下に閉じ込めて飼い慣らす。…まるで奴隷ね。分かったわ、その子の場所に案内して頂戴」

 

 

ニグンの説明を聞いてはアイテムボックスから転移のスクロールを取り出し、差し出す。ニグンはそれを受け取ると

 

 

「アセルス様、もしもの時は私を置き去りにして頂きたい。三秒は持ちこたえて見せます」

 

「ふふ、大丈夫。そうならないわ」

 

 

ニグンの行っていた仕事をルプスレギナに継いで貰い、ニグンの展開したゲートへと飛び込む。ニグンの説明を聞いて不思議と怒気を帯びた瞳を光らせて




最近は感想を読み返すのが楽しいです。
こんばんは、お読み頂き有難うございます

アセルスのカルマ値は善寄りと考えております。次回辺りは捏造のオンパレード、かも


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混血は罪ではない

※捏造過多、許せない方はブラウザバック推奨


「んー…つまんなーい」

 

 

そう呟いてごろんっと、石段に横になる少女がいた。その肌は雪を思わせる程に白く染み一つ無い透き通る様な美しさをしていた。十代前半だろうか?見た目の幼さもあり、無邪気な印象を感じる。腰まで伸びた長い髪は左右の色が違う、染めているのか生まれつきなのか不明だが。右側は銀の髪を左側は漆黒の髪を持っていた、しかし、服装は拘束衣にも見える…見た目の可愛らしさを無にする物であった

 

少女の側には何度も読み返したのか手垢で表紙が汚れた一冊の本が置いてあった。その本の上には六色の色を持つ正四角形の玩具が置いてある。六面に其々の色を揃えるパズルの玩具。だが、少女の持つソレは一面だけが揃えられていた

 

 

「何か楽しい事…起きないかな」

 

 

少女は虚空を見つめる、その瞳には光も希望も無い。だが、絶望している訳でも無い。ただ、この退屈な時間が無くなればいい。そう思いながら本を手に取り、表紙を撫でてはゆっくりと捲る…其処で手を止め、違和感を覚える。視線を上げれば何も無い空間に小さな渦が出来ていた。少女は立ち上がり、立て掛けてあった十字槍の様な戦鎌を手にした

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ゲートを通れば、左右も床も天井も石の壁で囲まれた地下に出る。冷たい空間だ。そう思いながら後を追って来たニグンを背後に下がらせる。瞬間、ガラン…と重い鉄の棒を落とした様な金属音が響く。反射的に幻魔を抜き放ち音のした前方を睨み付ける

 

 

「妖魔の、君…?」

 

 

か細くも美しい声が鼓膜を刺激した、ゆっくりと影から現れた少女は呆然とふらり、ふらりっと覚束無い足取りでアセルスに近寄って来る

 

 

「あの子…?」

 

「はい、間違いなく…しかし、様子が…」

 

「そうね、ニグン下がっていなさい。他の人間が来た場合は教えて」

 

「ハッ!」

 

 

ニグンがアセルスから離れ、入り口の方向と思われる場所に移動するのを確認しては近付いて来る少女に向き直る。その服装を見て思わず舌打ちをしたくなるのを堪える

 

 

「妖魔の君…あせるす…?」

 

「っ!…名前も分かるの?」

 

 

そう問い掛けるも少女の耳には届いていない。それ程までにこの子にとって私の存在は大きいの?そう思いながら目の前まで来た少女の目線を合わせる様に屈み優しくゆっくりと話しかける

 

 

「私はアセルス、貴女の名前を聞いても良いかい?」

 

「妖魔の君…あせるす…」

 

 

何度も同じ事を繰り返す少女の頬を優しく撫でる。何故こんな風になってしまったのだろうか…?様々な可能性を弾き出す無駄に回転の良くなった脳に嫌気を感じながら少女を抱き上げる

 

 

「今はお眠り、きっと目を覚ましたら何時もの貴女に戻っているから」

 

 

優しく包み込みながら少女に囁き掛ける。安心させるような笑みを向けながら少女を見つめれば、気を失ったのか抱き上げる少女の身体から力が抜けたの感じた

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「アセルス様」

 

「ん、お帰り。何か変化はあったかしら?」

 

「いえ、特に何もございません。此処は聖域…その者が居るこの階層に訪れる者は殆んど居ない為かと」

 

 

「そう…」と、ニグンの報告に相槌を打ちながらモモンガさんに無事だよっと、報告を送る。少女の呼吸は安定しており心配は無さそうだ

 

 

「精神的にダメージを負わせちゃったみたいね」

 

「どうなさいますか…?」

 

「どうもしないわ。目を覚ましたらもう一度ちゃんと会話をしたいけど、ね」

 

 

視線を落とせば見た目はシャルティアと変わらない幼い少女の額に指を添えなぞる様にゆっくりと動かして行く、頬に掛かる髪を払ってあげると不意に長い耳が見える。しかし、その形は半分も無く鋭い物で切り取られた様に見える、それを隣で跪いていたニグンも見たのか暗い顔を見せた

 

 

「耳が切り取られている…」

 

「…アセルス様、今この世界は殆んどの国家がエルフを含む亜人を奴隷として売買しております。その者はハーフエルフ…法国の最高神官達は彼女の力を欲しこの聖域に幽閉しているのです。ハーフエルフである事を恥じている彼女も大人しく此処で鎖に繋がれています」

 

 

静かにニグンは言葉を続ける

 

 

「エルフにとって耳を切り落とされる事は…奴隷にされる事でございます」

 

 

ニグンの言葉に反応したのか、パチッと目を覚ました少女は両耳を押さえながら過呼吸を起こし蹲ろうとする。それをアセルスは優しく止め、抱き締める。その姿は人間の姿では無く。妖魔の姿となり少女を見つめる

 

 

「大丈夫、もう。大丈夫だよ。貴女を虐める人も蔑む人も誰も居ない。貴女が恐れて隠れて生きる必要はもうない。だって『妖魔の君』も人間と妖魔の間で生まれたんだから」

 

 

アセルスは右手の人差し指の皮を噛み切る、溢れ出て来る紫色の血液を見せ少女に告げる

 

 

「半妖の血に誓って。貴女を守る、だから…笑って生きて行こう。此処から出よう」

 

 

それを見ていた少女は抱き締められたまま、大人しくなって行く。呼吸も落ち着き始めては甘える様にアセルスに擦り付いていた。その表情は今までに無い程に輝かしく、希望に満ちていた




予想していた通り捏造が多くなってしまいました。申し訳ありません


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裁定

ガラガラと音を立てながら車輪が回る。ガッチリとした力強い印象を与える四頭の馬が大型の豪華な馬車を引く。その馬車には凛々しい老執事と華麗なドレスに身を包んだ女性、妖艶な雰囲気を漂わせる少女と一人場違いな格好をした男が乗っていた

 

 

「少しは格好を合わせるとか考えられないんでありんすか?」

 

「ほっとけ、堅苦しい格好はごめんだ」

 

 

むすっとした表情でシャルティアは正面に座る親父。ゲンに非難の声を上げる、言われた当人は全く気にしていない様子で軽口で応じる

 

 

「人の服装は待ち合わせの時間をしっかりと守ってから言った方が良いぞ?」

 

「うぐ!むぐぐ…そ、それは、その…仕方が無いでありんす!」

 

 

実はモモンガがアセルスの部屋を訪れた際に目を覚ましたのだが、その後に白薔薇姫の膝枕にて熟睡していたのだ。仕事がある事は白薔薇姫も知っていたが『起こすのが可哀そうになる程、幸せそうな顔をしていたので』と、言って起こしてもらえなかったのである。

モモンガは特に気にしていないと言いつつ、内心では『アセルスさんが作った白薔薇姫は癒しと天然が超反応して降臨した天使だから仕方ない』と、考えていたりする。悔しさからなのか、恥ずかしさからなのか頬を染めながらぎゃいぎゃい、と騒ぐシャルティアを見て噴き出すゲン。それを見ていたセバスやソリュシャンからも笑みが零れた

 

 

「な、何なんでありんすか!?」

 

「いえ、申し訳ありません。シャルティア、アセルス様が居なくなって一番酷い状態だったのは貴女だったのですから…元気になられて、つい」

 

「酷い落ち込み方をしていましたしね」

 

「ま、余り浮かれない様にな」

 

 

次々と言われる最近の自身に対する評価と暖かい目線に顔を隠しながら悶える珍しいシャルティアが見れたと、後にゲンは他の守護者達に語っていた

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「お口を開けて、うん。そう」

 

 

まずは不名誉な切られた耳を治癒するのに少女を座らせては強力なポーションを取り出す。血の様に赤く輝く液体を少女の口元に近づけてはゆっくりと流し込む。少女は躊躇いも無く、こく…こく…と、喉を鳴らしながら飲み干した。痛々しい耳は無くなり、綺麗な尖った耳が髪から覗かせた

 

 

「ふふ、よしよし」

 

 

しっかりと作用した事に満足そうに微笑んでは質問に移る。そっと立ち上がるとまだふら付く少女は懸命に立とうとするので、慌てて屈み込む

 

 

「っと、無理はしなくていいよ。貴女の名前を教えて?」

 

「…漆黒聖典、番外席次。絶死絶命…?」

 

 

「ふぇ…?」と、声を漏らしながら少女を見つめる。見つめられた彼女も小首を傾げて見つめ返してくる、見つめ合いながら頭を回転させる

 

 

(漆黒聖典?番外席次って、名前じゃないよね。となると…絶死絶命が名前?いや、どちらかと言うと異名と言われた方がしっくり来る)

 

 

そんな風に呼ぼうか必死に考えている間も、少女はアセルスにじゃれ付き幸せそうに笑みを零していた

 

 

「よし、じゃ…絶ちゃん。私は…知ってるだろうけど、アセルス。よろしくね?」

 

「アセルス様…♪」

 

 

そう呟きながら引っ付く絶ちゃんの頭を撫でながらニグンを呼ぶ

 

 

「お呼びですか、アセルス様」

 

「最高神官長は何処に居る?」

 

 

アセルスの質問にニグンは首を傾げる。何故、最高神官長を探すのか?と

 

 

「は、はぁ…恐らく今は執務を行っていると思いますが…」

 

「そう…其処まで案内頼める?」

 

「畏まりました。…しかし、何用で…?」

 

 

そうニグンに問われると、口角を上げ笑みを浮かべるアセルス。ニグンはそれを見て恐怖を思い出す。あの時、アセルスと出会ったあの日を

 

 

「妖魔の君として裁定を下しに行くよ」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ニグンを先頭にスレイン法国の奥へと向かう、目指すは最高神官長。番外席次はアセルスの隣を歩きその手をしっかりと握ったまま離れようとしない。その事をアセルスも許している様子で時折微笑み掛けていた。やがて一行の前には一つの部屋が現れる。応接室にも見えるその部屋にニグンが入ると、アセルスと番外席次の為に二席を引いては礼をし『少々お待ちください』と、言い残して立ち去って行った

 

 

ニグンが戻るまで暇なので番外席次が持っていた、ルビクキュー(どう見てもルービックキューブ)を六面揃えて見せたり、揃え方を教えたりと時間を潰していると不意に扉が開き、入って来る人物に視線が集まる。番外席次はその人物を見た瞬間、冷酷な笑みを浮かべ。アセルスは気に入らなそうに睨み付ける

 

ニグンが連れて来た人物、最高神官長である。彼は最初に番外席次を見ては疑問を浮かべ、妖魔化したアセルスを見ては電撃が走ったかの様な衝撃を受け表情を強張らせる

 

 

「連れて参りました。妖魔の君」

 

「ありがと、下がって良いよ」

 

 

ニグンはアセルスの後ろに立ち、神官長を見つめる。見つめられる神官長は既視感を感じていた、この状況はまるで…裁かれるのを待つ囚人。そして、ニグンが自身を連れて来たのは『妖魔の君』の命だと確信したのだ

 

 

「スレイン法国、最高神官長…私の事は知っているかしら?」

 

「も、勿論でございます。妖魔の君、貴女の事は…」

 

「確認をしてるの、私の事はどうでもいい。罪を自白するか、私に吐かされるか…選びなさい。愚か者」

 

 

怒気を滲ませ最高神官長に問い掛ける、彼はガチガチと歯を鳴らしながら頭を床に擦り付け思考に浸る。何故自分はこんな事になっているのだ?妖魔の君の格好しているだけの女では無いのか?そう思い込む事は簡単には出来なかった。この威圧感は今までに感じた事の無い程に全神経が警鐘を鳴らした。

息を切らせながら口を開く。陽光聖典に指示したガゼフの暗殺。その為に焼いた村の数。罪無き異形種の討伐等、様々な内容が語られた。その表情は恐怖から信仰していた神に懺悔を行う信者に変わっていた

 

 

「私は友の為に奴らを屠った。その友が愛した人間種を守る為に…スレイン法国は人類の救済を目指しているそうね?けど、貴方のやっている事は救済でも何でも無いわ。内政干渉に虐殺、神にでもなったつもり?六大神の名を借りて好き勝手している愚か者よ。…最後の質問よ、彼女を此処に閉じ込めていたのは何故?」

 

「あ、あの者は…我がスレイン法国の最強にして不敗の人類の守り手。この国で幽閉する事で竜王(ドラゴン・ロード)からこの国を守っております」

 

「…国は人間を守るモノよ。一人の少女に全てを背負わせ、道具の様に扱うのが法国という国。そういう事でいいかしら?」

 

 

最高神官長はアセルスを見つめる。「妖魔の君は…まさか、まさか。番外席次を連れ出すのか?」と問い掛ける様に

 

 

「少女一人に命運を預ける国など滅びればいい」

 

 

冷たく言い放つアセルスは用は済んだと言わんばかりに席を立ち幻魔を抜く。そのまま無造作に振り下ろせば最高神官長の右腕が床に落ち鮮血でアセルスの頬が濡れる

 

 

「ぎゃあああっ!!」

 

 

悲鳴を上げながら転げ回る最高神官長を踏み付け、頬を拭いながら言い放つ

 

 

「此れで終わらせてあげる。異形種の狩りを止め、燃やした村の再建を誓いなさい。私の事は機密として扱い外部に漏らさない様に…安心しなさい、優秀な治癒の使い手が居れば直ぐに治るわ」

 

 

そう言って、幻魔を鞘に納め部屋を出て行く。その背に番外席次とニグンが追従する。アセルスが出て行った後に最高神官長は己の右腕を左手で触り愕然とする、既に血は流れておらず傷口も塞がり掛けていたのだ…失血により死ぬ事は無い。そう思った時、最高神官長の言葉は自然と零れ出した

 

 

「深い慈悲に感謝いたします…妖魔の君」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ニグンを法国に連絡と情報収集の為に残し、番外席次を連れてカルネ村長宅にてある人物の到着を待つ

 

 

「お待たせしました。まずはお帰りなさい」

 

 

絶ちゃんと戯れていると目的の人物が静かに入って来る。見慣れたアカデミックガウンに身を包み、奇妙なマスクを着けた人物…モモンガである。よく見ればガントレットでは無く左手の人差し指に人化の指輪がしてあり指も骨では無く人の指だ

 

 

「ただいま、法国にはちゃんと言ってきたよ」

 

「無事で何よりです…所で、アセルスさん。その子は…?」

 

「ん?私の子」

 

「…はぃ!?」

 

「冗談、養子だよ」

 

「え、いや。そうですか…いやいや!」

 

 

モモンガと会話しながら絶ちゃんを撫で回すと仔猫の様に擦り寄って来てとても可愛い。目の前のモモンガはそれを見ては毒気が抜けたのか、机に突っ伏した

 

 

「はぁ、分かりました。アセルスさんの養子として紹介してみましょう。…何かされる事も無いと思いますし。ですが、念の為にアセルスさんのお部屋で生活して下さい」

 

「ありがと、モモン君。絶ちゃん、私のお友達の…」

 

「モモンガで大丈夫です。味方にはそう呼んでもらう事にしましたので」

 

 

そう言われると、絶ちゃんは私とモモンガさんを交互に見た後にモモンガに頭を下げた

 

 

「よろしくお願いします。…モモンガ様?」

 

「うん、それでいいよ」

 

 

よしよし、と撫でながら笑い掛ければ目を閉じながら再び擦り付く絶ちゃん。そんな私達の様子を見ていたモモンガもマスクの下で自然と笑みを零していた




名前は絶ちゃん。ゼツです。(無理矢理出した。後悔は少ししてる)

王国潜入組はしばらく出て来ません(白目)

次回、冒険者モモン(君)大地に立つ

それではお読み頂き有難うございます。


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冒険へ

ある日の昼下がり、赤いフレームの眼鏡を掛けたアセルスが興味深そうにニグンとセバスから送られて来た資料を読んでいた。ベッドテーブルの上には二つの紙の塔が出来ており、今は必要な情報と今は必要じゃない情報を分けているのである。

 

ちらりと視線を正面に向けるアセルス、その視線の先にはぷるぷると震えるモモンガいた。何故震えてるのか?首を傾げ乍ら声を掛ける

 

 

「モモンガさん、どうしたの?」

 

 

そう声を掛けると目の前の黒髪に黒目の青年は顔を上げる。優しそうな瞳には涙を溜め乍らアセルスを見つめ。その手に持つ高級そうなティーカップを持ち上げる

 

 

「めちゃめちゃ美味しいです」

 

 

と、呟いたかと思うとクッキーを頬張り再び震える

 

 

「全く…定期的に人化すればいいのに」

 

「そう言われましても、この姿で歩き回るのは気が引けますよ」

 

 

アセルスの言葉に苦笑いで返してはそう呟き、ティーカップの中を見て「あ…」と小さく声を漏らす。すると奥のキッチンから現れた白薔薇がモモンガに近づき軽くお辞儀をした後。モモンガの持っていたティーカップに紅茶を注ぎ始める

 

 

「すまない、白薔薇姫。ありがとう」

 

「礼には及びませんわ。…モモンガ様はお優しい顔をしているのですね」

 

 

やんわりと微笑みながら感想を伝える白薔薇姫に頬を掻きながらなんて答えたらいいのか分からないでいるモモンガ、その様子を楽しそうに眺めては茶々を入れる

 

 

「白薔薇、モモン君は恥ずかしがり屋だから余りストレートに褒めると固まっちゃうよ」

 

「ちょ、何言ってるんですか貴女は!?」

 

「ふふっ、私にも貰えるかな?」

 

 

そう言うと紅茶の入ったティーカップを差し出して来る白薔薇にお礼を言いながら受け取る。ラベンダーと言う花の香りを楽しみながら口を付ける

 

 

「うん、美味しい」

 

 

小さく呟いてはティーカップから視線を外すとモモンガさんが此方を眺めていた

 

 

「どうかしたの?」

 

「あ、いえ…絵になるなぁ…っと」

 

「何、仕返し?褒めてもケーキしか出せないよ?」

 

 

そう言うと「率直な感想だったんですけど」と、言いながらちびちびとティーカップに口を付け始めるモモンガさんをクスリと笑う

 

 

「そう言えば、あの子は…絶?でしたっけ」

 

「絶ちゃんなら奥の部屋で寝てるわ。昨日は遅くまで昔の話を聞かせてたから…断れなくて」

 

 

「成る程」と、納得するモモンガさんから視線を外し資料を再び読み始める。隣に白薔薇が座り今は要らない情報の塔から数枚の用紙を取り、時折首を傾げなら読んでいた。のだが、左腕に寄り添う様に静かに寝入り始めたので、どうしようかな?と考えていると

 

 

「アセルスさん、冒険がしたいです」

 

「ほへ…?」

 

 

と、突然言い始めたので間抜けな声で聞き返す

 

 

「ですから、冒険がしたいんです!」

 

「あー、うん。分かるよ、五日間も籠ってばかりだもんね。外でPvPする?」

 

「そうじゃなくてですね!」

 

 

あ、ダメだこの人と思いながら一枚の紙をモモンガさんに差し出す

 

 

「仕方が無いなぁ…何でも、冒険者って名前の職業があるらしいよ?でも…んー…私達のイメージとは」

 

「冒険者ですか!?流石異世界!」

 

 

話聞いてないなこの骸骨。人化すると素の性格になるのかぁ…と、呆れるも。いい事か、と思い直し

 

 

「じゃ…なってみる?」

 

「…!いや、でも…」

 

「守護者達を納得させる事が出来ればなれるよ?多分」

 

 

そう言うと人化の指輪を外し、死の支配者に早変わりするモモンガ。鼻息を荒く?させながら

 

 

「納得させましょう!行きますよ、アセルスさん!」

 

「わ、私も!?」

 

 

部屋を勢い良く飛び出すモモンガの音に目を覚ましたのか白薔薇がゆっくりと目を開け

 

 

「アセルス様、お供しますね」

 

 

と、静かに呟いたのだった。この娘…起きてたのかな?

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「なりません!絶対になりません!」

 

 

息荒く外の世界に情報収集のていで出て行こうとする私とモモンガさんを必死の形相で止めるのは意外な伏兵。アルベドだった

 

 

「何をそんなに頑なに止めるのだ。アルベド」

 

「最低でも一人から二人の護衛を付けて下さい!防御が高く状況判断が的確に出来て可愛い護衛を!そう、私の様な!」

 

 

と、言いながら豊満な胸に手を置き。身体をくねらせてはキラキラと光る視線をアセルスに向けるアルベド。要は自分が付いて行きたいのだ。額に汗マークを幻視出来る程に困り果てたモモンガは助けて、と言いたそうにアセルスを見る

 

 

(アセルスさん、どうにかなりませんか?)

 

(設定をいじるから…)

 

(本当に申し訳ありません)

 

 

短いアイコンタクトで会話を終えてはアルベドを抱き寄せ。唇触れそうな程に顔を近付け

 

 

「アルベド、貴女を連れて行く事は出来ない。守護者統括の貴女には私達の帰る場所を守って欲しいの、お願い出来る?」

 

「あ、アセルス様…お任せください!アルベドはモモンガ様とアセルス様の帰る場所をしっかりとお守りいたします!」

 

 

よしっと、内心でガッツポーズを取る。が例の表情をしながら倒れるアルベドに若干危機を覚えながらも床に転がしておく

 

 

「よし、誰を連れて行きましょうか」

 

「あ、うん。私は白薔薇と…絶ちゃんを連れて行くよ。ああ見えて、Lv90オーバーの前衛職だから。装備も渡すしね?」

 

 

そう言うと頷くモモンガ、対するモモンガは…

 

ユリ・アルファ、ルプスレギナ・ベータ、シズ・デルタ、ナーベラル・ガンマ。この中から選ぼうとしていた、が…一番、安心できるユリは首がポロリすると大変な事になる為、除外。シズはナザリックの全てのギミック及び解除方法を熟知している為、安全性を考えて除外。残るは二人なのだが…

 

 

「二人ともド級の危険物なのよね…」

 

「そうなんですよ…」

 

 

因みに、モモンガ様とアセルス様の御二人だけで出て行かない様に。と、デミえもんの納得条件にあるので適当な言い訳で切り抜けるのは至難の業である。例え切り抜けてもデミえもんに不信感を抱かせる訳には行かないのでやらないのだが

 

 

「よし!私にいい考えがある…!」

 

「すごく嫌な予感がするんですが…」

 

 

アセルスの言葉に肩を震わせる骸骨は己のパートナーに不安を覚えるのであった

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「私はモモンと名乗る。いいな?モモンガとは口を裂けても呼ぶなよ!」

 

「お任せください!モモンガ様!この、パンドラズ・アクター…名に恥じぬ働きをして見せましょう!」

 

「だぁぁぁ!モモンガと呼ぶな!」

 

Entschuldigung, Schöpfer(申し訳ありません、創造主)

 

「ドイツ語もやめろおぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

ナザリックの玄関…地表に出ている神殿の様な作りになっている広場で怒鳴る漆黒のフルプレートの男、モモンガことモモンである。そして、ドイツ語を流暢にしゃべったモモンガよりも派手で厳ついフルプレートの鎧を着込んでいるのはモモンガ自身が丹精込めて作った。宝物殿領域守護者のパンドラズ・アクターである

 

 

「あっはははは!面白い!すっごく面白いよ!」

 

「お気に召されたようでなによりでございます。妖魔の姫君」

 

 

大げさな身振りを加えて臭いセリフを息をする様に行うパンドラズ・アクター…にキレるモモンガを見て大笑いをする

 

 

「はぁ…はぁ…お腹がよじれる…」

 

「アセルス様も趣味が悪いですわ…」

 

「アセルス様、お腹痛いの?」

 

 

お腹を撫でて来る番外席次をわしゃわしゃと撫で返すアセルスの意地悪な人選にモモンガが頭を痛めたのは言うまでもない。何を言っても的確に返されてしまい、渋々、本当に渋々連れて来たのだ。パンドラズ・アクターを

 

 

「本当に。本当に此奴じゃないとダメ?」

 

「自分の黒歴史が活躍するのを見れば気が変わるよ」

 

 

げっそりしたモモンガに笑いながら返し、パンドラズ・アクターを見つめる

 

 

「どうなさいましたか?アセルス様?」

 

「ううん、モモンガさんをよろしくね?パンドラズ・アクター」

 

「おまっかせ下さい!!このパンドラズ・アクター…妖魔の姫君が用意した舞台で最高の演者として踊りましょう!」

 

「本当にお前大丈夫なんだろうな!?」

 

 

モモンガさんはとても不安に思っているが性格的にも戦闘能力的にも無問題であり。その能力はこれからの事にかなり役に立つ。それに隠されたナザリックの知恵者である

 

 

「はぁ…もういいや。絶の装備は…大丈夫そうですね」

 

「うん、見た目は可愛く。性能は高く。私のクラフト理念だからね」

 

「…?」

 

 

こてん?と首を傾げる番外席次の服装は全て変えてある。長い髪はそのままだが、白のTシャツに黒のショートライダースレザージャケット、青いショートデニム。身長が足りない関係でTシャツの裾がデニムを覆っているが可愛いから問題無し。黒のニーハイソックスに茶色い革靴を履いている。ニーハイソックスとTシャツが良い感じに絶対領域を作り出していた、白のTシャツには目が黒い白兎が描かれている

 

 

「アセルスさん、力作ですね。かなり現代風ですけど」

 

「クリエイターアセルス、あの異名は消えちゃったからね…」

 

「因みに伝説級ですか?」

 

「いいえ、神器です」

 

 

モモンガが黙ったまま動かなくなる。この人、当たり前のように神器級を作るけどどうなってるんだろう?と。では、絶が背負う黒い布で覆われた。その戦鎌も?と、アイコンタクトを取るとサムズアップで応じた

 

 

「むしろ布も防御面は神器」

 

「何やってるんだアンタは!」

 

 

「親バカなの!?」「うん!」という会話をしながらも、着々と二台の馬車が用意されている。片方はアセルス組、もう片方はモモンガ組の馬車である。用意したのはデミウルゴスとユリであり、アルベドは放置されているが問題無いだろう

 

 

「準備が整いました。馬車の方にお乗りください。パンドラズ・アクター、白薔薇姫様。モモンガ様とアセルス様をよろしくお願いします」

 

 

アセルスとモモンガに深々とお辞儀をした後、二人の名を呼び念を押す様に呼びかけるデミウルゴス

 

 

「デミウルゴス様もアルベド様をお願いしますね」

 

「私が居る限り、モモンガ様は危険と無縁でございます!」

 

 

そう言いながらそれぞれの馬車へと乗り込む。窓から顔を出してはデミウルゴスとユリに向かって手を振ると、二人は再びお辞儀をしていた。よく見れば二人から少し離れた後方にアルベドが立っており同様にお辞儀をしていた

 

 

「楽しそうですね、アセルス様」

 

「うん、久しぶりにワクワクしてるかな?」

 

「そう言えば…何処に向かってるの?」

 

 

対面の白薔薇に微笑み掛けながら、絶ちゃんの質問に答える

 

 

「バハルス帝国に冒険者になりに行くんだよ」




モモンガとアセルスの冒険は今始まる。

番外席次の性格はかなりマイルドに変えてます、時々戻るよ

服装は何かあれば変えます(


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死の騎士

※捏造回になります


馬車に揺られる事数時間。馬車の中は穏やかな時間が流れていた、アセルスは本を静かに捲りながら時々外を観察する。リアルには無い自然豊かな森の中を走る馬車、その揺れに白薔薇姫は舟を漕ぎ始め、隣の絶ちゃんはルービックキューブを弄っている。森林浴って、こう言う場所でやるんだろうな…と思い。ブルー・プラネットさんが居たら、ずっと此処に居そう。と考えつつ手元の本に視線を落とす

 

絶ちゃんが大切そうに抱えていた本を貸してもらっているのだ。その本はこの世界では一般的に販売されている、六大神、十三英雄、八欲王が登場する御伽話。無論、妖魔の君の名も登場した。驚いたのは私の姿が明確に描かれており色も着いていた。ただ、どうやら絶ちゃんが持っているのは初版の絶盤らしいので、持っている人は少ないらしい

 

 

「んー…変装した方が良いかな、偽名も必要?」

 

「多分、知ってる人が見たら直ぐに気が付くと思う。けど、見てもそっくりな人程度の認識だと思うよ?」

 

「ふむふむ…一応変装はしておこうかな」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「どう、かな?」

 

「とてもお似合いですよ」

 

「カッコいい…!」

 

 

アイテムボックスからセバスと同じ執事服を取り出しては深紅のドレスを仕舞う。起きた白薔薇姫に手伝われながら、素早く着替える。両手に白い手袋を着け、長い髪は後ろで纏め紐で縛ればポニーテイルの出来上がり。軽い男装だが、かなり美形の良い感じの男子になったので満足する。白薔薇姫と絶ちゃんの執事と説明すれば関係を怪しまれる事は無いだろう

 

 

「意外と苦しくないんだね…」

 

「名前はどうするの?」

 

 

胸元の締め付けを確認しては少し驚きの声を漏らす、きついかと思ったがそうでも無い。更に言うと思いの外隠せており違和感が無かったのだ。隣で見上げて来る絶ちゃんの質問に首を傾げ…名前か、んー…名前…あっ!

 

 

「ルージュって名乗るよ。男でも女でも使えそうな名前でしょ?」

 

「はーい!ルージュ様!」

 

「様は付けちゃだめだよ?」

 

 

苦笑いしながら絶ちゃんを撫でる。ふと、破裂音と金属を激しく打ち合わせるが聞こえて来る。こんな所で戦闘が起きているのだろうか?と、思いながら馬車を引くゴーレムに停車の命令を出せばゆっくりと止まる馬車。私、白薔薇、絶ちゃんの順番に降りては音のする方向に耳を澄ませる…間違いない、かすかに香る血の匂いと音を頼りに歩き始める。眠気を誘うのどかな雰囲気は消え深い霧がアセルス達を包み込んだ

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

振り抜かれる赤黒い光を纏うフランベルジュ。それを二振りの剣が金属を響かせながら弾く…だが、それは予想していたと言わんばかりにタワーシールドが迫り来る。寸前の所で横に転がる様に回避を行うがタワーシールドが起こした風圧に身体が煽られてしまい予定よりも強く身体を地面に打ち付けてしまう

 

 

「ヘッケラン!」

 

 

体勢を崩したヘッケランと呼ばれた男に2mを超える巨大な騎士がボロボロのマントを靡かせながらゆっくりと歩み寄る。その騎士の背後には無数の亡者達が地面から現れ始めていた…それを見た四人の人間種達は表情を恐怖に歪める、ヘッケランに接近する騎士に向かって矢が放たれる。だが、騎士は気にする素振りも見せずにヘッケランへと歩み寄る、目の前の生者を屠る。それだけを目的として

 

 

「へ、へへ…震えてやがる」

 

 

そう呟きながら愛剣である二本のショートソードを握り締め、どうにか起き上がる。血が額を伝い赤く染まる視界に映るのは死の具現。伝説で語られている死の騎士(デス・ナイト)が迫っている。ハッキリ言って奴が出て来ただけで逃げ出したいと言うのに奴の能力なのかアンデッドが湧き始めているのだ。逃げる事も出来ない、だが、奴を倒す事も出来ない。たとえ倒す事が出来たとしても周りのスケルトンやゾンビの群れから逃げられる程の余力があるだろうか?

 

 

「ヘッケラン!まだ、戦える?」

 

「問題ねぇよ、イミーナ!けど…こいつは」

 

「万事休す、ですか」

 

「神が居りゃ…助けてもらいたいね」

 

「何故、私を見ながらそれを言うのですか?」

 

 

軽口を言いながら笑い合う。そんな三人に対し一人の少女は恐怖で震え戦闘が出来ない程に怯えたまま動けずにいた。今にも泣き出しそうになるのを必死に堪え乍ら逃げ出す為の道を探す。しかし、何処を見てもあるのは亡者の壁だ

 

 

「アルシェ!飛行(フライ)で逃げろ!イミーナ!ロバー!援護しろ!奴を止めるぞ!」

 

「っ!! で、でも!」

 

「良いから行きなさい!貴女には、妹達が居るんでしょ?」

 

「…宿に預けてあるお金は好きに使って下さい。それと、私達の分まで幸せになるのですよ?」

 

 

三人は己を鼓舞する。泣き虫で弱い少女の幸せを願い、伝説と対峙する。定められた死を食い止める為に…少女は逃げ出す、仲間に謝りながら。感謝しながら。情けない自分に腹を立てながら

 

 

「うおぉぉぉぉ!!!」

 

 

雄叫びを上げならヘッケランは走り出す、前線を張れるのは自分のみ。死の騎士(デス・ナイト)の足止めを行えるのも己のみと考え

 

 

『肉体向上』『双剣斬撃』

 

 

渾身の二撃が死の騎士(デス・ナイト)に放たれる。タワーシールドでヘッケランを迎撃しようとすれば、左肘に矢が突き刺さり動きを鈍らす

 

 

「くぅ…!これでもダメなのか…!」

 

 

死の騎士(デス・ナイト)の鎧に斬撃は直撃した。だが、鎧には傷一つ付いていない…次元が違う。その言葉が脳裏を過ぎる。その一瞬が油断だった死の騎士(デス・ナイト)のフランベルジュが薙ぎる様に振るわれる

 

 

「げふっ!が、あぁっ」

 

 

砕ける骨、飛び散る血液。ぼとりっと吹き飛んだ左腕が地面に落ちる。ゴムボールの様に跳ねながら転がるヘッケランにイミーナが悲鳴を上げる。だが、死の騎士(デス・ナイト)は止まらない、転がり虫の息のヘッケランに近寄って行く。ロバーと呼ばれた男がヘッケランを助け出そうと動くが亡者の壁はそれを許さない

 

 

「ごほっ…はぁ、はぁ…伝説に殺されるんなら、悔いはねぇな」

 

 

そう言ってヘッケランは瞼を重くなるのを感じる。うっすらと映る死の騎士(デス・ナイト)の影がフランベルジュを振り上げるのを睨み付けながら…だが、その剣は振り下ろされる事は無かった

 

 

「白薔薇、彼の手当てを!絶は周りを頼む!アイツは私がやる!」




どうにもキャラクター名を間違えてしまいます。本当に申し訳ないです。

今後ありましたら、そっと。教えてください…><

お気に入り登録、感想等ありがとうございます!


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撃破

ヘッケランの視界に飛び込んで来る執事姿の男。間一髪、振り下ろされるフランベルジュを見た事も無い深紅の剣で弾けば隙が生まれた胸部に蹴りを放つ。だが、タワーシールドがそれを遮る様に割り込んで来る。地面に轍の様な跡を作りながら後方に下がる死の騎士(デス・ナイト)を見れば呆然としてしまう。邪魔された事に苛立っているのか、それとも生者が増えた事に苛立っているのか死の騎士(デス・ナイト)は咆哮を上げながら標的を変える

 

 

「お、お前ら…なんだ?」

 

「通りすがりの冒険者見習い?ですわ」

 

 

ヘッケランの疑問に小走りで近寄って来た白いドレス姿の女性はやんわりと答える。暖かく安らぐ光がヘッケランを包み込めば痛みが引き傷が癒えて行く。それを見ていたロバーデイクの表情が変わり、ヘッケランは信じられない物を見る様な眼で白薔薇姫を見つめる。

 

頭は混乱していた、死の騎士(デス・ナイト)を蹴りで怯ませる執事。あれだけの傷を一瞬で治してしまう治癒魔法の使い手の出鱈目な強さに笑いが込み上げて来る。そんなヘッケラン、イミーナ、ロバーデイクの間を一陣の風が通り抜ける。その風に思わず目を閉じ…ゆっくりと瞼を開けば更に驚愕する事になる

 

 

「アンデッドが…消えた…?」

 

 

そんな呟きを他所に新たに表れた不思議な格好をした少女は手に持つ戦鎌を一回転させながら次々と現れるアンデッドに向けて笑みを浮かべる

 

 

「白薔薇姫様、周りは気にしなくていいよ?」

 

 

先程の風を巻き起こしアンデッドの群れを蹂躙した番外席次は白薔薇姫を見てはにこりと、笑い掛けて次の標的へと切り掛かる

 

 

「な、待て!死の騎士(デス・ナイト)が居るんだぞ!早く逃げろ!」

 

 

我に返ったヘッケランは白薔薇姫の腕を掴み、必死に訴え掛けるが白薔薇姫は首を傾げた後に何事も無いかの様に

 

 

「もう、大丈夫ですわ。…ルージュが片付けますから」

 

 

安心させる様な柔らかな笑みヘッケランに向けたのだった

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

咆哮を上げる死の騎士(デス・ナイト)を見据えながら幻魔を構える。飛行(フライ)を使って助けを求めて来た少女の情報通り人間種が三人、内一人は絶ちゃんと同じかな?…一目見ただけで相手の種族が分かるスキル何て持っていたかな…?

 

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛――!!!」

 

「…まずは処理が先か」

 

 

その言葉に反応する様に突撃して来る死の騎士(デス・ナイト)、胴に目掛けて突き出される剣先を掬い上げる様に軌道を逸らしてはフランベルジュを持つ右腕の外側に身体を移動させ、肘を切り上げる。切断は出来ないが確かに刃は通り振り払う様に振われる腕の動きは鈍くなっている。

 

バックステップを踏みながら距離を取れば、タワーシールドを構えながら再び突撃して来る死の騎士(デス・ナイト)を見つめ、空高く飛び上がる

 

 

『ロザリオ・インペール』

 

 

上空から同時に四体の幻体を召喚し、死の騎士(デス・ナイト)を中心に十字に囲う様に紅い光を纏いながら着地する。一体の幻体が着地する度に光が死の騎士(デス・ナイト)に向かって地面を割る様に放たれ、それは亡者を焼き尽くす光の柱となりその場に縫い付ける

 

 

「⬛、⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛――――――!!!!!!」

 

 

フランベルジュをタワーシールドを振り回しながら光から逃れようと暴れる死の騎士(デス・ナイト)。だが、その光からは逃げる事が出来ない。亡者に対して致命的なまでの熱量に包まれ、咆哮を上げ乍ら上空を見上げる…其処には己の消滅を確定させる一撃を放たんと落下して来る人間の姿があった

 

 

死の騎士(デス・ナイト)を穿つ刺突を頭上から落下と同時に放てば、光はより強烈な輝きとなり周囲を照らす。ヘッケラン達はその光景を眺めながら思う、伝説のアンデッドを僅かな時間で討伐した彼は英雄ではないか?と、そう…例えば、十三英雄の様な…

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ヘッケラン!イミーナ!ロバー!」

 

「アルシェ!?」

 

 

死の騎士(デス・ナイト)の消滅を確認したと同時に息を切らせながら金髪の少女が仲間達の元へ掛けて来る。その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた、そんなアルシェを見てイミーナは溜息を洩らしながらも優しく抱き締める

 

 

「逃げなさいって言ったじゃない。でも、ありがと」

 

「だって、だってっ…!」

 

 

泣きじゃくるアルシェに苦笑いを浮かべながらロバーデイクがアセルスに近寄り頭を下げる

 

 

「助けて頂き感謝します。私達だけでは…恐らく全滅していたでしょう」

 

「構いませんよ。礼は白薔薇姫に」

 

 

そんな彼の態度に好感を覚えながらアセルスは笑み浮かべながら幻魔を鞘に戻す。其処に白薔薇姫に肩を借りながらヘッケランがやって来た

 

 

「本当に助かったぜ。お姫様とは思えないぐらいのすげぇ治癒魔法だ」

 

「いえ、腕の再生は出来ませんでしたから…申し訳ありません」

 

「いや、そんな事無いぞ!腕は無くなっちまったが…生きてるしな?」

 

 

そう言って、白薔薇姫から離れロバーデイクの肩を借りるヘッケランはアセルスを見つめ。にかっと笑う

 

 

「本当に助かった、俺達はフォーサイトって名前のワーカーだ。俺はヘッケラン、こいつがロバーデイクで…」

 

「私はイミーナ。助けてくれてありがとうね」

 

「本当に、本当に!ありがとうございます!」

 

「あー、此奴はアルシェだ」

 

 

苦笑いを浮かべながら何処か恥ずかしそうにするヘッケランを見て、ロバーデイクが笑う

 

 

「私は白薔薇、此方は絶様と執事のルージュ様です」

 

 

白薔薇の紹介に合わせてお辞儀で返し、絶ちゃんは手を振って笑いながら挨拶を済ませる

 

 

「今は休憩も必要でしょう。馬車がありますから帝国まで送りましょう」

 

 

そう言って、アセルスがフォーサイトメンバーに提案するとヘッケランは頷き

 

 

「助かる。代金は宿に着いてから…」

 

「大丈夫ですよ。私達は冒険者でもワーカー?でも、ありませんから」

 

 

やんわりと断る白薔薇にヘッケラン達は困った顔でお互いに見つめ合い

 

 

「わかった。じゃ…俺達の感謝として受け取って貰えないか?」

 

「ですが…」

 

「白薔薇様…」

 

 

どうしようか迷う白薔薇に優しく耳打ちすればこくりと頷き「わかりました、お受け取りしますわ」と返した事で話が進んだ。道中、馬車の大きさや内装の豪華さにヘッケラン達は度肝を抜かれ何故か小声で会話をしながら帝国へ向かった




そんな訳でフォーサイトメンバ―と出会いました。剣技の表現が難しい…

次回は冒険者になれるよ!


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新たな人員

フォーサイトを加えて七人を乗せた馬車は帝国に向けて走り出す。揺れが少なく快適な道中、時間も余っているので帝国の話を四人から聞いていると不意にアルシェが手を上げてルージュに声を掛ける

 

 

「あの、ルージュさんはとてもお強い方なのでしょうか…?その、アダマンタイト級の冒険者とか…」

 

「…?いえ、私は只の執事ですが?」

 

「そう、ですか?」

 

 

アルシェの質問に執事である事以外は本当の事で返すと彼女は首を傾げた。そもそも、普通の執事が死の騎士(デス・ナイト)を瞬殺するのも可笑しな話なのだが…しかし、彼女はより正確にルージュ達の強さを感じ取るモノを持っていた

 

 

「その、実は私はタレントを持ってるんです。それで…そのタレントは見たモノの魔力を色や光として見る事が出来るんです」

 

「…!成る程、貴女の視界では私は異様に見えますか…?」

 

「い、いえ!そう言う訳じゃ!」

 

「言葉の綾ですよ。…私はどのように見えますか?」

 

 

私の言葉を聞いて慌て始めるフォーサイトに謝罪しながらアルシェに質問してみる。正直、油断していた。そう言うタレントを持つ者には気を付けないと…一目で相手の正体を暴く様なタレントだった場合、最悪戦闘になってしまう

 

 

「え、えっと…二つの色、青と赤…?が混じっていて優しい光です。その、見ているだけで温まる様な」

 

「…それは、嬉しいですね」

 

 

アルシェの言葉に驚き思わず苦笑いが零れてしまう。面と向かって言われるとこそばゆい物がある

 

 

「すいません、行き成り変な事を言ってしまい」

 

「いえ、問題ありませんよ。白薔薇様と絶様はどの様に見えるのですか?」

 

「え?えっと…」

 

 

そう言われると二人を見つめるアルシェ、白薔薇は相変わらずのふわふわとした笑みを浮かべ。絶ちゃんは見つめられる事に余り慣れて居ないのかちょっと居心地を悪そうにしていた。後で謝って置こう

 

 

「白薔薇様はルージュさんをもっと柔らかくしたような白い光で、絶様は…透き通る様な黒い光、です」

 

 

ふぅ…と、息を吐くアルシェ。無駄な緊張を与えてしまったようだ、こっそりアイテムボックスから飴玉を取り出しては四人に配る。ユグドラシルでは只のMP回復のアイテムだが、この前食べたらすっきりとした甘みのある飴玉だったのでそれなりにお気に入りだ。材料もこの世界で簡単に手に入るので製作が可能なのも嬉しい所

 

 

「…先程の戦闘を見なかったとして、そのタレントで見た時…私達は一般的な色や光とは異なっているのでしょうか?」

 

「えっ。は、はい…皆さん光がとても強いのでフールーダと言う帝国宮殿魔術師も私と同じタレントを持っているので…見たら悪い癖が出てしまうかと」

 

「悪い癖…?」

 

 

首を傾げては問い掛け直すと、とても言い難そうに視線を逸らしつつ

 

 

「魔術に対する熱意が強過ぎて…ちょっと変な人なんです。特にルージュさんを見たら襲い掛かる勢いで質問攻めされます」

 

「あ、あはは…そうですか。気を付けておきます」

 

 

それは嫌だな…と、考えながらアイテムボックスから魔力感知阻害の指輪を三つ取り出す。後で白薔薇と絶ちゃんの二人に渡しておこう。そう考えて居ると自然と今後のフォーサイトの話へと変わって行く。

 

 

「…わりぃな。皆、腕も無くなっちまったし…俺はこの仕事でワーカーを辞めようと思う」

 

「謝る必要はないですよ。利き腕を失くした状態で続けるの自殺行為だと言う事は皆知っていますから…相手が悪かったのです」

 

 

ヘッケランの言葉に重く頷くロバーデイク、イミーナもヘッケランの面倒を見るという理由で引退を決めていた。正直な所、逃げる様に促されたアルシェ以外はあそこを死地と決めていたようで助かる事を考えて居なかった様だ

 

 

「暗い顔するなよ、アルシェ!お前のお陰で死なずに済んだんだ。ありがとよ…」

 

「そうよ。本当ならあそこでゾンビになってたんだから」

 

「泣く必要はありませんよ。アルシェ、何時かは来る時が今日だっただけです」

 

 

ヘッケランとイミーナの言葉に涙を流すアルシェ、そんな彼女を慰めるロバーデイク。うん、良いチームだ。昔の記憶を思い出しながら彼等にちょっとした提案をしてみる

 

 

「…もし良ければ。二つだけ条件がありますが、住む場所を提供出来ますよ?」

 

 

その言葉にフォーサイトの視線はルージュに集まる

 

 

「王国領に移動する事になりますが、開拓村のカルネ村と言う場所があります。今は数人の兵士達が在住していますが自己防衛力が低いのです。そこで傭兵として雇わせて貰えないでしょうか?」

 

「それは嬉しいんだが…俺は戦えないぞ?」

 

「持っている知識を村人、これから来る人達に指導して貰えれば十分です。それなりに大きな農業も行ってますし。モンスターや野盗から身を守る術をお教え頂きたい。それに、カルネ村に行けば腕を治す事が出来るかも知れません」

 

 

ペストーニャにお願いすれば治して貰えるはず、そう考えながらヘッケランを見つめれば

 

 

「本当か!?…悪い話じゃないな。どう思う?」

 

「私は…問題無いけど。アルシェとロバーは…」

 

 

どうやら彼等も帝国領から移動する予定だったらしく、次の拠点となる場所を探していたようだ。深く考え込むロバーデイクはルージュを見つめながら慎重に言葉を紡ぐ

 

 

「私は孤児院を運営しています、その子供達を連れて行っても構わないでしょうか?」

 

「問題ありませんよ。貴方の様な人格者なら此方も安心して村を任せられる。大きな家が数軒あるはずですので其処を使って下さい」

 

 

それを聞くとロバーデイクは安心した様子で吐息を漏らした。一方、アルシェはおろおろとした雰囲気で俯いていた

 

 

「…実は、アルシェは」

 

「だ、大丈夫。ヘッケラン、私の事だから…自分で話す」

 

 

ヘッケランの言葉を遮りアルシェは自分の事情を話し始める。昔、自分は貴族の娘だったと言う。しかし、帝国の政策により家から貴族の地位を奪われ没落してしまったのだと言う。だが、両親は豪華な生活を止める事が出来ずに質の悪い場所から借金をしては遊び回り。二人いる双子の妹達を売り払ってまでもその生活を続けていると言う。アルシェがワーカーになったのも第三位階魔法まで使える才能を活かし、妹達を取り戻す為にお金を稼いでいた。だが、ある日妹達を取り戻す為の資金を屋敷の使用人が見つけてしまい。両親はそれを使い込んでしまったと言う

 

 

「此れで涙を拭きなさい。よく頑張りましたね」

 

「っ!ご、ごめんなさい…」

 

 

俯き嗚咽を漏らすアルシェにハンカチを手渡し、深く考え込む。隣に居る絶ちゃんはそんなルージュを見つめてはニヤニヤっと笑みを浮かべ、反対側に座る白薔薇は何かしてあげられませんか…?と言った表情だ

 

 

「…念の為に確認をして置きます。ご両親と別れる覚悟は出来ていますか?どんなに屑な親であろうと血の繋がった肉親です。その親を捨てる覚悟は出来ていますか?」

 

「…はい、妹達の為なら…捨てられます」

 

ぐっと、涙を堪え乍らルージュの問い掛けにきっぱりと答える。その言葉にルージュは満足した様子で頷き

 

 

「ふふ…その覚悟。しっかりと持って妹達を守ってね」

 

「えっ…?」

 

 

急に口調を変えたルージュ…いや、アセルスにフォーサイトは驚きの声を漏らす。その覚悟を確認し笑みを零し乍ら、髪を纏めている紐を解く

 

 

「私はアセルス。君達をカルネ村に歓迎しよう、アルシェの妹達は私が責任を持って連れて来るから安心すると良い」

 

 

そう言うと白薔薇の表情が明るくなり、絶ちゃんは楽しそうに笑っていた。「ルージュは偽名、この服は…まぁ、男装かな?」と、ウィンクをしては姿を明かす。彼らの意思は帝国から離れているしその覚悟は目を見ればわかる。そうなれば隠しておく方が面倒になる、村には既にナザリックの労働力(スケルトンとか)も当たり前のようにいるし

 

 

「じょ、女性…ん?アセルス…?アセルスって!?」

 

「御伽話で出て来る…」

 

「まさか、妖魔の君ですか?」

 

 

驚きで声を上げるヘッケランとイミーナ、ロバー。アルシェは驚いてはいたが、やはりタレントで先に見ていたおかげか大声を上げる事は無かった。それでも目を見開いて驚いていたが…

 

 

「あはは…やっぱり、御伽話で知ってるんだ」

 

「は、はい。八欲王を滅ぼした英雄…魔神に堕ちても理性を手放さず、最後は…」

 

 

と、言い掛けたヘッケランの脇腹を突いて止めるイミーナ。ロバーも微妙な顔をしていたが気にする必要はないのだけど…

 

 

「良いよ気にしてないから」

 

「す、すみません…」

 

 

苦笑いしながらヘッケランを突くイミーナを止めてはアルシェに向き直る

 

 

「貴女の妹達は私が助け出すよ。幾らか持ち合わせがあるから」

 

「で、ですが…それだと、アセルス様にご迷惑が…」

 

「アセルス様は一回言い出したら曲げないから無理だよ?」

 

 

言い淀むアルシェに絶ちゃんがやれやれっと肩を竦めながら苦笑いする。って、まるで人の話を聞かない迷惑者って聞こえるんだけど?と、アイコンタクトを絶ちゃんに送ると全力で顔を左右に振られたのでぽふぽふと撫でながら止める

 

 

「ま、そう言う訳だから。安心してよ」

 

「は、はい…」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

帝国の検問を抜けては漸く入国する事が出来た。初めて見る街と言う物に感嘆の声を漏らしながらぐるりと周りを見回していた、歩きやすい様にレンガや石で道は舗装されており、街全体に活気が満ちている。人通りも多く直ぐに迷子になりそうだ。何処か良い場所があればシャルティアにゲートの紐付けをしてもらおうと考え歩き始める

 

 

「凄い街並みだね」

 

「はい、とても綺麗な作りになっています」

 

 

隣を歩く白薔薇と絶ちゃんが逸れない様にしながら、ヘッケラン達を先頭にしてまずは『歌う林檎亭』と言う名前の宿に向かう。が、その前に換金が出来そうな店に立ち寄っては手持ちのクズアイテム…と、言ってしまうと悪い気もするが適当な宝石や金属を売却する。店主が驚きで目を白黒していたが最後には大声で感謝された。取り合えず、確保出来たのは金貨が八十枚とニグンが送って来た白金貨が一枚、こっちの白金はアルシェの妹達に使う為大切に保管しておこう。…後でニグンにもご褒美を上げようかな?

 

 

「ありがとって、言うだけで泣いて喜びそうだよ?」

 

「え?そうなの…?」

 

 

左隣を歩く絶ちゃんの言葉に驚きつつ、あれ?何で考えてた事が伝わってるの…?と後で驚いたのは別の話

 

 

「ここが俺達が拠点として使ってる宿です」

 

「案内ありがと、先に私達の用事を済ませて来るね。…一時間後に此処に戻って来るから移動の準備をしておいてね?」

 

 

その言葉に頷くヘッケラン達を置いて、取り合えず目的である冒険者組合に行く事に。アルシェの事を考えるとのびのびと見て回るのは良くないので早めに済ませてしまおう




「ロバーデイクは孤児院の運営の為にワーカーになっている」と言う設定にしております。白薔薇姫の治癒魔法はアセルス以上ペストーニャ以下で、魔法戦闘&補助に寄っております。(後、ナザリックNPC屈指の良心の塊)


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帝国観光

バハルス帝国の冒険者組合の建物の扉を開け中に入ると。幾つもの視線が此方に向くのが分かる。好奇心による視線や怪しむような視線、中には下品な視線が後ろに居る二人に向けられるのを感じるが何もしないのなら気にする必要は無いだろう。目もくれずに真っ直ぐに受付カウンターへと向かう

 

 

「すまない。此方は冒険者組合で間違いはありませんか?」

 

「はい、そうでぇぇぇ!?!?」

 

 

受付の女性が私の顔を見た瞬間に手に持つ資料を落とし、慌てた様子で質問に頷くその様子に思わず苦笑いを浮かべてしまう

 

 

「そ、そうですか。…お手伝いしましょうか?」

 

「い、いえ!大丈夫です!私こそ申し訳ありません!」

 

 

忙しなく資料を纏め終わるのを見守る様に待つ事に、後ろを見れば物珍しそうに辺りを見回す白薔薇と絶ちゃん。予想通りと言えば予想通りなのだが…浮いているのは仕方ない、よね?何と無く大量のメモ用紙が張り付けてある看板の方を向けば前に居る綺麗な女性と目が合う。重装鎧を着込み長く美しい金髪で顔の右側を隠す様に覆って居るのが分かる、当たり障りの無い笑顔を向ければ顔を逸らされてしまった。流石に不審過ぎたかな…?

 

 

「お待たせしました!えっと、冒険者組合に何の御用でしょうか?」

 

「大した用事ではありませんよ。冒険者になりたいだけなのですが…」

 

 

そう言うと、受付の女性はペンと羊皮紙をカウンターの下から取り出し。三枚の銅のプレートを羊皮紙の隣に並べた

 

 

「畏まりました。此方の方に必要事項を記入して下さい。代筆も出来ますが…」

 

「いえ、問題ありませんよ」

 

 

代筆を申し出る彼女をやんわりと断れば赤いフレームの眼鏡を掛け、サラサラと文字を書いて行く。読み書きはニグンからの報告を読む際に無駄にハイスペックな頭に叩き込んだのだ。眼鏡は念の為の解読アイテムである

 

 

「ルージュさんに白薔薇さん、絶さん…ですね。チーム名は…ブリューナク。ありがとうございます。此方は冒険者のランクを表すプレートになります。無くさない様に注意して下さい」

 

 

そう言われて渡される銅色に光るプレートを三枚貰い白薔薇と絶ちゃんに手渡す。その後に軽い講習を受ければ三十分程経過していた、…と言うか、二人とも講習をちゃんと受けようね?教えてくれる人に失礼だからさ

 

そんな事があったけど今は依頼が乱雑に張り付けてある掲示板の前にいる。先程の女性は何を見て居たのか?と、少し気になったのだ。一枚一枚適当に眺めればどれもこれも雑用に近い物ばかりだった。時折モンスター討伐の依頼もあるが今は受ける訳には行かないので見るだけ。この程度のモンスターであれば一日に十件以上片手間に処理出来る、それにしても白金級以上の冒険者チームを対象にアンデッド討伐の依頼が多い…場所はカッツェ平野?よく見れば銅級冒険者にも依頼がある、内容は現地での負傷者の手当てや負傷した兵士や冒険者の救助も入っている様だ

 

 

「帝国政府、ね」

 

 

呟きながら依頼主を確認する。先程の女性は此れを張りに来たのだろうか?依頼の金額もそれなりに良い、時間がある時にでも受けてみよう。そう考えながらヘッケラン達の待つ宿へと急ぐ

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「戻ったかレイナース、冒険者達はどうだった?」

 

「ダメですね。誰もあそこに行く冒険者は居なそうです…フォーサイトと言うワーカーチームがカッツェ平野の周辺の森で無数のアンデッドに囲まれたそうです。リーダーの男は利き腕を失ったがチームは全員生存。何でも死の騎士に出会ったとか」

 

「おいおい、冗談だろ?あれが出て来たら…今頃大騒ぎだ」

 

「私もそう思います。…気になる事があるとすれば見掛けない三人組が組合に居ました」

 

 

帝国の中心に位置する皇城に戻って来たのは帝国四騎士の一人。重爆 レイナース・ロックブルズ。そして、彼女に軽口で声を掛けたのは帝国四騎士の雷光 バジウッド・ペシュメルである。レイナースはジルクニフ陛下の命で冒険者組合に依頼を提出した帰りに少しだけ情報を集めればこの冗談にも取れる噂を耳にしたと言う

 

 

「ほう?どんな奴らだ?」

 

「多分、貴族の方だと思います。…思うのですが、何処か不自然な雰囲気がありました」

 

「お前がそう言うのか面白いな、階級は分かるか?」

 

「まだ冒険者にもなっていない様子でしたので。銅級になっているかと」

 

「そうか…さてっと。俺も平野の方に向かう、お前も後で来いよ?」

 

 

そう言ってバジウットはレイナースに背を向けて皇城から出て行った、一人残されたレイナースは髪に隠れた右側に触れれば溜息を漏らし

 

 

「…カッコよかったな」

 

 

ぽつりと呟いた言葉は誰にも聞こえる事も無く消えて行った

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「畜生…!」

 

 

歌う林檎亭に入ると怒声が聞こえて来る。喧嘩でも起きてるのかと思えば声の主はヘッケランだった。フォーサイトで囲っているテーブルを叩き怒りを露わにしている、それを慌てた様子でロバーデイクが宥めて居るのが分かる

 

 

「どうかしたのですか?」

 

 

近付いて声を掛ければ荒れていたヘッケランが一瞬で冷静を取り戻しばつの悪そうな顔をした。ヘッケランの前にはアルシェが俯いたまま動かず、イミーナの雰囲気も暗い

 

 

「実はですね…」

 

 

ロバーデイクが代表して、何故こんな事になっているのか。その原因を話し始める

 

 

「時間があったのでアルシェの妹達が居る奴隷館に様子を見に行って来たのです。ですが、アルシェを見た商人が『あの二人なら売る気は無い、もしも買いたいなら白金貨を2枚以上出せ』と言い出したのです」

 

「アルシェ…」

 

「だ、大丈夫。ルージュさん…他の皆をお願いします。私は妹達を助けるのに…」

 

 

白金貨2枚以上、確かに異様な値段だ。その商人に呆れながらそれ以上先の言葉を続けさせない為に言葉を遮る

 

 

「成る程…わかりました。穏便なプランAはやめて強行手段のプランBで行きますので安心して下さい」

 

「え?あ、は、はい…?」

 

 

笑みと一緒にそう伝えれば引き攣った表情に変わるヘッケラン達に首を傾げなら奴隷市場の地理を確認する為に外へと向かう。実行は今日の深夜でいいだろう



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脱走のお手伝い

街の活気が静まった深夜。街灯と夜空に輝く星の光のみが照らす時間、フード付きのローブで全身を覆った二つの人影が奴隷市場にある一つの奴隷館の屋根に着地する。明かりは点いておらず人の気配は外には無い

 

 

「絶ちゃん、奴隷達の誘導と護衛は頼んだよ」

 

「はーい。アセルス様も気を付けてね?」

 

 

その言葉ににこりと笑いながら飛び降りる。商人を片した後に伝言で合図を送り。スクロールで奴隷達をカルネ村に飛ばす予定だ。因みにカルネ村には既に白薔薇とフォーサイトが待機しており、ペストーニャも手配済みだ

 

目的の館に着けば軽く扉をノックをする。耳を澄ませれば人が起き出す音と複数の息を呑む音が聞こえる

 

 

「今日の商売はもう終わってるぞ?何て時間に来やがる…」

 

 

ぶつぶつと文句を言いながら男が扉を開けた瞬間、胸倉を掴み引き寄せる

 

 

「開けてくれて、ありがと」

 

 

くすりと、笑い掛ける様に囁いては相手の目を覗き込む様に見つめ魅了のバッドステータスを掛ける。男が座り込むのを確認して絶ちゃんに伝言を送る。絶ちゃんが降りて来たのを確認しては男の懐から鍵を奪って通路の様に配置されている檻を一つ一つ確認しては開放して行く、虫唾が走る事にその全てがエルフだった

 

 

「居た…ほら、大丈夫だよ」

 

 

一番奥の檻にアルシェによく似た少女達は居た、二人で身を寄せ合い酷く怯えながら此方を見つめている。檻の扉を開けては優しく微笑み手を差し伸べる。じっと、手を見つめて来る少女達にぽんっと、コミカルな音を立てながら小さな黄色い花を出して見せて

 

 

「安心して、君達を迎えに来たんだ。一緒にアルシェお姉さんの所に帰ろう」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「まずは一つ、それじゃ。後は虱潰しに開放して行くよ」

 

「んー…そんなに一気に開放して大丈夫かな?」

 

「大丈夫、大丈夫。一応お金を置いて行ってるから、格安で販売したって言う確約書も書かせてるし。本人の意思でね?」

 

 

魅了した商人全員に書かせた事を笑いながら何事も無い様に言うアセルスに冷や汗を流す番外席次、魔眼も使えるなんて知らなかっただけに余計に恐ろしい

 

 

「えっと、其処も心配だったけど。カルネ村の方に全部送って大丈夫…?」

 

「村から町に変わるかも?でも、何時までもスケルトンや死の騎士を置いて置くのも不安だし、理想なのはカルネ村に住み着いて貰ってエンリ達と協力して復興してくれると嬉しい…かな」

 

「でも、王国の領地なんでしょ?」

 

「一応ね、でも…あそこはもうナザリックの物だよ。此処に居る子達も売られるよりはマシな生活が出来ると思う、私のエゴだけどね」

 

 

自嘲気味に笑って見せると、絶ちゃんは首を横に振る

 

 

「私はアセルス様に助けられたから、エゴなんて言わせない」

 

「…ありがと、絶ちゃん」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

周りの奴隷館から全てのエルフ達を解放しカルネ村に送った後、アセルスと番外席次もカルネ村へと向かった。村の中心では白薔薇とペストーニャが忙しそうに走り回っていたので声を掛けずにエルフの人数を確認する事に。解放したエルフは全員で二十人…ちょっと、多かったかも

 

 

「これとこれと、後これも…」

 

 

ぽいぽいっと、彼女達の生活の手伝いになるアイテムを取り出して行く。何処かの狸の様だが致し方が無い。時々、記憶にないクズアイテムを出しては隅の方に押し込み。際どい下着等も出て来るけど気にしない、使う目的では無くクラフトクエストで作製した物だ。その辺厳しい運営だったはずだけど、衣装はかなり攻めている物を実装してたなぁ…と、考えながら手を止め顔を上げると二人の妹を抱えながら走って来るアルシェが見えた

 

 

「アセルス様!ありがとうございます…!本当に、本当にありがとうございます!」

 

「ふふ、ちゃんと会えたみたいだね」

 

「はい!」

 

 

優しく三人を撫でてはにこりと微笑む、これでフォーサイトを抜ける必要も無いしカルネ村に滞在してもらえるだろう。アイテムボックスから飴玉を取り出すと三人に上げて空き家を紹介する。これからの事を話し合いながら離れて行く彼女達を眺めていると

 

 

「あ、アセルス様ー…助けて」

 

「どうしたの?絶、ちゃん?」

 

 

情けない絶ちゃんの声が聞こえたので振り向くと解放されたエルフ達が治療を受けて動ける様になったのか絶ちゃんに跪き、肩を揉んだり、髪型を整えられたりと…なんか凄い事になってる

 

 

「えっと…どういう状態?」

 

「わ、わからない」

 

 

お互いに冷や汗を流しながらアセルスと番外席次は見つめ合ったまま硬直していると、白薔薇とペストーニャが近付いて来る。二人の様子を交互に眺めた後に

 

 

「まぁ…絶様を王族と勘違いしているのでしょうか?」

 

「もしかしたら、アセルス様と気兼ね無くお話し出来るエルフと言う事で族長と考えているのかもしれないですわん」

 

 

冷静な二人の言葉に納得しては絶ちゃんに試しに此処で好きに生活する様に言ってみたら?と伝えるとこくりと頷いた

 

 

「えっと…アセルス様が此処で好きに生活して良いよって家も好きに建てていいし、村の人と仲良くして。だって」

 

 

絶ちゃんがそう言うと首を傾げ、今度はアセルスを見つめるエルフ達

 

 

「…?…いいよ、好きに暮らしても。貴女達はもう自由だから…何か困った事があったら遠慮無く言って欲しいかな」

 

 

優しく語り掛ける様に彼女達に話すと、一人一人少しずつ不安を感じながらも用意した家に入って行った。その様子を優しく眺める白薔薇とエルフ達から解放され疲れた様子で絶ちゃんは溜息を吐いていた

 

 

「彼女達の心はどうだった?」

 

「大部ひどい仕打ちをされて来ている様で心を完全に砕かれてましたわん。アセルス様のアイテムで多少は持ち直しましたが…普通の生活を送るには時間が掛かりますわん」

 

 

そう…と、短く答えながら目を瞑る。取り合えず、此処には帝国も手は出せないはずだし…問題無いと思う。何か聞かれたら集落が移動して来た、とでも言えばいいや

 

 

「所で、アセルス様…その御姿はどうしたのですわん?」

 

「ん?あぁ、執事服だよ。ちょっと目立つから男装してみたの…どう、似合う?」

 

 

ペストーニャの前で、ふふん♪と胸を張りながら一回転した後にセバスの様にきっちりとしたお辞儀をしてみると

 

 

「大変お似合いなのですが、私に頭を下げるのはダメでございます!」

 

「ふぇ!?わんの語尾を忘れる程必死にならなくても…」

 

「ダメな物はダメです!わん!」

 

「あ、ちゃんと付けた」

 

 

そんな風にペストーニャと戯れているとエンリが走って来るのが見える「久しぶり」と、声を掛けようとした瞬間

 

 

「まずは、お話をしましょう。私の家が空いてます」

 

 

凄く良い笑顔で言われ「あ、これは怒ってる」と確信しながらエンリを見れば背後で鬼の顔が浮かんで見えた。エンリに引きずられながらペストーニャに帰って良い様に伝える事を忘れない

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「良いですか?行き成り渦が出来て真っ白な女性が出て来た、と思ったらエルフの方が続々から出て来るんですよ?深夜ですよ?ホラーですよ?」

 

「待って、ホラーなんて言葉こっちにもあるの?」

 

「話を変えようとしてもダメです」

 

「はい、ごめんなさい」

 

 

番外席次はぽかんっと、しながらその様子を眺めていた。アセルスがエンリに頭を下げなら申し訳なさそうに肩を落とし説教されているのだ。彼女にとってはとても不思議な光景である

 

 

「今度からは気を付けて下さい、良いですね?」

 

「はい、気を付けます…」

 

 

しょぼん…としながら、アセルスの中でエンリは恐い、と新しく記録されたのは言うまでもない。殺気とは別の物を感じたのだ

 

 

「所で…その方は?」

 

 

説教が終わると今度は絶ちゃんの方を見ながら首を傾げるエンリ、一緒に付いて来てはそのまま側に居たので気になっていたのだ

 

 

「ん?絶ちゃん。…私の養子?」

 

「…えぇ!?アセルスさんお母さんになったんですか?!」

 

「えっと、そうなるのかな…?」

 

 

絶ちゃんの方を見れば、何やら怪しい笑みを浮かべていた。え…?と、思った瞬間。爆弾が投下された

 

 

「お母さん…♪」

 

「――――――!?」

 

 

見た目相応の可愛らしい上目遣いからのクリティカルワード。一気に顔が熱くなって行くのを感じながら慌ててそっぽを向く

 

 

「んんっ!ちょっと、暑くなって来たから外に行ってくるね」

 

「あ、逃げた!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「っ!!!何を、何を言ったの!?アセルス様が真っ赤になって、その御姿を近くで見れるなんて…何てうらやま…んん!絶死絶命と後でお話しないといけないわね…それにしても、くふぅぅぅ―――!恥ずかしがるアセルス様、執事服で…ぐふっ!ぐふふ!」

 

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)が置いてある一室に変態(アルベド)が翼を小刻みに痙攣させながら身体をくねらせては偵察と言う名の覗きを行っていた

 

 

「アルベド、それは覗き見と言うのではないかね?いや、寧ろそうとしか見えないのだが…」

 

「さっきから、ずっとあの調子なのよ?いい加減引き離さない?喘ぎ声まで上げ始めるし発情してるの隠す気も無いし…」

 

「守護者統括ノ仕事ハ、ドウシテイルノダロウカ?モモンガ様ニオ叱リヲ受ケナケレバ良イガ」

 

 

その部屋にはアルベドだけでは無く呆れ顔でデミウルゴスやコキュートスにアウラも居た、いや。正確にはコキュートスは呆れた雰囲気を漂わせているのだが。最初は皆揃って遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を覗いていたのだが仕事もあるのでずっとは居なかったのだ。だが、アルベドの声が聞こえ入ってみればこの状態だったのだ

 

 

「はぁ、はぁ…アセルス様ぁ。その御姿でぜひこのアルベドを…くふ、くふふ…くふぅぅぅ!!」

 

 

再び翼を痙攣させ悶える変態(アルベド)にドン引きする守護者達。しかし、此処に居る守護者達には目的があった。アセルスを変態の目から逃すと言う重大な目的が

 

 

「コキュートス!右を!デミウルゴスは腰!」

 

 

そう言って、走り出すアウラを合図に一斉に覗き魔(アルベド)に飛び掛かる三人の守護者達、今ここにアセルスのプライベートを守る戦いが始まった

 

 

「アセルス様ぁぁぁぁあぁ!!!!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「っ!!!?」

 

「どうしたのですか?」

 

 

エンリの家に泊まるのも申し訳ないのでグリーンシークレットハウスを建てて白薔薇と絶ちゃんと寛いでいると凄まじい悪寒が走り、思はず声を漏らしてしまった。ハウス内はカスタムされており、ナザリックにある西洋風の部屋に温かみのあるウッドハウスの内装を追加した物だ

 

 

「凄い悪寒がして…」

 

「ん…こうすれば寒くありませんわ」

 

「あ、いや…そう言うのじゃなくて。まぁ、いっか」

 

 

そう言うと、首を傾げた後にふにゃりと笑いながら抱き着いて来る白薔薇を抱き止めつつ、ベッドに寝転がる。朝日は見えないがかなり遅い時間なのは間違いない。絶ちゃんは既に夢の中ですやすやと寝息を立てていた

 

 

「冒険者になったのに冒険者らしい事出来なくてごめんね」

 

「ふふ、気にしていませんわ。アセルス様と新しい街や場所を見れただけでも私は満足していますから」

 

「…そっか。ありがと、白薔薇。ねよっか」

 

 

そう言って、目を瞑る。今日だけで色々あったけど…うん、楽しい一日だった。そう思いながら少しきつく抱き付いて来る白薔薇に驚きながら眠りに着いた




カルネ村の人数が増えたので農業が発展するよ!

漆黒はどうなってるのでしょうかね…


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エ・ランテルへ

ジルクニフは何時ものように執務室で上がって来る報告書を処理していた。その表情は報告書を見る度に変わり、喜怒哀楽に表情筋を動かしていた

 

 

「はぁ…くだらない。あの貴族共は何故乞うまで…仕方ない。もう少し釘を打つか」

 

 

『‛元'貴族共が不穏な動きをしている』という報告を読みながら次の報告書を手に取る。カッツェ平野周辺にデスナイトが出現したという噂があると言う報告書を鼻で笑い、捨てようとし手を止める

 

 

「…確かにあそこはアンデッドが湧く場所だ。いや、まさかな…」

 

 

もしも、本当に居るとすればアンデッドの掃討に出ている部隊やワーカー、冒険者に被害が出ているはずだ。そう言った報告は今は無い

 

 

「…気にはしておこう。楽観的に捉えて水面下で手遅れになっていては目も当てられん」

 

 

偵察部隊の派遣を決定し、溜息を吐きながら背凭れに寄り掛かる。すると

 

 

「陛下!緊急のご報告があります!」

 

「む?どうした?そんなに息を切らせて」

 

「実は、奴隷市場で事件が起きてまして」

 

「事件?奴隷の公開処刑をして楽しんでる奴でも出たか?」

 

 

緊張している兵士に冗談を投げかけながら笑うジルクニフ。冗談にしては笑えない内容なのを本人が気が付いていない為、兵士はより緊張するのだった

 

 

「奴隷市場の全ての奴隷達が格安で買い取られました。商人達の直筆の確約書もあるのですが、皆記憶にないと…」

 

「は…?」

 

 

報告を聞いたジルクニフは固まる。いや、奴隷が居なくなること自体は問題では無いのだが、報告を聞く限りだと商人達は何かしらの力で記憶を無くしているか操られて確約書を書いた事になる

 

 

「…下がって良いぞ」

 

「はっ!」

 

 

兵士が下がるのを確認してジルクニフは机に突っ伏した

 

 

「胃が、いたい」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

心地良い朝日が窓から差し込み、部屋を照らす。三つの寝息のみが聞こえる部屋の扉が静かに鳴らされた。部屋に響く音にベッドで眠っていたアセルスがもぞもぞと動き出す。やがて、寝惚けた様子で起き上がりとても眠たそうに欠伸を一つ

 

 

「はーい…」

 

 

もぞもぞと、白薔薇と絶ちゃん二人の手を解いてはいつの間にか抱き枕にされてた…と思いつつ扉に近づいてゆっくりと開ける

 

 

「おはようござ…!?」

 

「…?」

 

 

扉を開ければ漆黒のフルプレートに身を包んだ人間が居た。言葉を途中で止めて何かに慌てている様だ

 

 

「あれ、モモン君。どうしたの?」

 

「あ、いえ…その、服!服を着てください!」

 

 

そう叫ぶモモンガことモモンは扉をバタン!と閉める。何をそんなに慌ててるの?と自分の服装を見てアセルスは理解した

 

 

「あ、下着のままだった。…ま、いっか」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

扉を勢い良く閉めたモモンにトブの大森林から戻って来た漆黒の剣は驚いていた。何事も無いかのように戻って来るが深い溜息を吐いているから何かあったんだと予想

 

 

「それにしても、何が起きたんだ?俺達が来た時はこんなに…エルフ達は居なかったよな?てか、何件…家が増えてんだ?」

 

 

軽い調子の金髪の青年、ルクルット・ボルブは困惑しながら周りを見る。視界に映るのは昨日来た時には一人もいなかったエルフ達が村人と協力し、畑や田んぼ、果樹園まで作っていた

 

 

「偶々、居なかっただけであるか?」

 

「いや、それは…ないだろ?」

 

 

真面目そうな金髪碧眼の青年、ペテル・モークは隣で妥協案?を出すガッチリとした身体を持つドワーフにも見える仲間のダイン・ウッドワンダーに苦笑いする

 

 

「良く分かりませんけど…とても活気のある村になりましたね」

 

 

中性的な顔立ちをした少年、ニニャは村を眺めながらそう呟く。その言葉に隣に居たモモンとは別のフルプレートの男が腕を組みながら頷く

 

 

「此れだけの活気があれば復興も早まるだろう。エルフ達にはドルイドのクラスも居る様に見える、冬が来る前に食料の備蓄も間に合うかもしれんな」

 

「アクターさん、物知りなんですね」

 

「貴公程ではないさ、私は魔法とは程遠い場所に位置しているからな」

 

「そ、そんな事ないと思いますよ!?」

 

 

魔法が使えなくともアクターとモモンの強さが凄い事はトブの大森林でも確認済みだ。と言うより、殆ど自分達漆黒の剣はお荷物になっていた

 

 

「ハハッ!そんなに必死にならなくて良いぞ?さて、モモンが戻って来たようだ」

 

「はぁ…ホント、あの人は態となの?と言うか寝るとき下着なのね」

 

 

謎の言葉を呟きながら戻って来るモモンに漆黒の剣は首を傾げ、察しているアクターはそっとモモンの肩を叩いた

 

 

「おはよー、お待たせ。モモン君も此処に居たんだ」

 

 

モモンの姿に隠れて見えなかったのか深紅のドレスに身を包んだアセルスがモモンの背後から出て来る。それと同時にニニャのモモンを見る目が鋭くなり、敏感に感じ取ったモモンは慌てて弁明をする

 

 

「待て!違うぞ!?決して見ていない!」

 

「見てない?」

 

「何をであるか?」

 

「さぁ…?」

 

「ふんっ!」

 

 

ニニャだけが何かを察しているらしくその様子をニヤニヤと楽しそうに眺めるアセルス。アクターはどうしたものかと悩んだのは言うまでも無い、が。自身の創造主とその仲間が楽しそうにしているので良い事にする

 

 

「ま、ちょっとしたサービスとしておいて。事故だから気にしないし」

 

「アンタはもう少し恥じらいをもてぇぇぇ!!」

 

「はーい。ふぁ…」

 

「こ、この人は本当にもう…」

 

 

モモンとふざけ合うアセルスに固まる漆黒の剣にアセルスは首を傾げる、そう言えばこの人達は?とアイコンタクトを送るとモモンは咳払いをして紹介を始めた

 

 

「此方は冒険者チームの漆黒の剣だ」

 

「り、リーダーのペテル・モークです!」

 

「ルクルット・ボルブです!お美しいお姉さま、この後俺とお茶でもどうですか?」

 

「んー…今は無理かな?」

 

「ごふ…」

 

 

跪き手を差し出して来るルクルットに少し引きながらそう答えると彼は吐血しながらその場で崩れ落ち瀕死の重傷を負った。芸達者なんだね?と、言うと周りは苦笑いしていたけど何でだろう…?

 

 

「ニニャです!」

 

「ダイン・ウッドワンダーである!」

 

「ペテルにルクルット、ニニャにダインね。私はルージュ…よろしくね?」

 

 

そう言うと元気良く返事が返って来る、うん。フォーサイトとは違う良いチームだと思っていると

 

 

「殿―!!置いて行くなんて酷いでござるよぉぉ!」

 

 

トブの大森林から飛び出して来るのは大きなハムスター。え?と思っているとモモンが咳払いをして

 

 

「ルージュ、これはハムスケだ。まぁ、気にしないでくれ」

 

「ふぁぁぁ…もふもふ」

 

「ぬぉぉ?!」

 

 

勢い良く走り込んで来るハムスケと言われたジャンガリアンハムスターを抱き締めてはもふり始める。ジャンガリアンハムスターは最初こそ声を上げていたが大人しくなった

 

 

「と、殿。この女子は誰でござる?」

 

「あー…それは俺の仲間のルージュさんだ。気にしなくていいぞ」

 

 

取り合えず、満足したの離れた後頭を撫でておく。つぶらな瞳が細められるのがまた可愛い

 

 

「っと、それで…何で私を起こした?」

 

「ああ!そうでした!今度は何をしたんですか?!」

 

 

モモンの質問に首を傾げ乍ら周りとみる。ぽんっと手を叩いて

 

 

「奴隷解放と新戦力を此処に持って来た」

 

「アンタ帝国で何して来たんだぁぁぁぁ!!!!」

 

 

完全にキャラ崩壊を起こすモモンにドン引きする漆黒の剣と「ルージュ殿が相手になるとああ成ってしまうのだ」と、小声でフォローするアクター

 

 

「だから、奴隷解放。…エルフを生命として見ない人間と一緒に何てさせられないよ」

 

「…」

 

「ん、ごめん。今のは反則だったね。彼女達は長生きだから、私達が知らない情報も知ってるかもしれないし…果樹園の運営も出来る。カルネ村を大きくしたいんだけど…」

 

「はぁ…わかりました。でも、今後こう言う事をする時は事前に連絡を下さい、もしもの事があったら…」

 

「ふふ、ありがと」

 

 

くすりと笑うルージュに溜息を吐くモモン、どうやら話は終わったようだ

 

 

「あ、そうそう。新戦力って言うのはミスリル級のワーカーチームを連れて来たんだ」

 

「ミスリル級?かなり冒険者で言うと強いじゃないですか」

 

「ふふん、デスナイトに襲われている所を助けたの。その後、引き抜かせてもらったわ」

 

 

ふむふむ、と頷くモモン。ミスリル級と言えば上に残るのはオリハルコンとアダマンタイトの二つ。この世界では強者の分類だ

 

 

「成る程…では、此処の警護を頼んだんですね?」

 

「そ、何時までもアレに頼るは良くないしね?」

 

「そ、そうですね…」

 

 

アレと言われた苦笑いを零すモモンにルージュは頷く、すると

 

 

「そう言えば、バレアレさんは何処に…?」

 

 

ペテルが周りを見回しながら護衛を頼んで来た人物を探す。さっきから姿を見ていないのだ

 

 

「ん?バレアレさんなエンリって言う可愛い娘の所に行っていたぞ?その内戻って来るだろ?」

 

「いつの間にである…結果を残すであるよ!」

 

「上手く行くと良いですね…」

 

 

ルクルットの言葉に応援を送るニニャとダイン、そうすると笑顔のエンリと頬を染めたンフィーレアが姿を現した

 

 

「もう移動しても大丈夫ですか?」

 

「あ、うん。ごめんなさい。時間を取らせてしまって」

 

「いえ、気にしてませんよ」

 

 

ペテルが気を遣い声を掛けては依頼の達成を報告する為にエ・ランテルに戻ると言う

 

 

「ルージュ殿はどうなされる?」

 

「私?んー…白薔薇と絶ちゃんも起きて来たし付いて行こうかな。ほら、ちゃんとプレートもあるんだよ?」

 

 

声を掛けて来たアクターにプレートを見せるとアクターは満足そうに頷く

 

 

「二人とも―!エ・ランテルに行くよー!」

 

「はーい!お母さーん!」

 

 

勢い良くルージュに飛び込んで来る美少女の爆弾発言に言葉を失う一同。ルクルットに関してもう手遅れだった『俺、子供を持つ母親を口説こうとしていたのか…最低な奴だ。俺』と、一人で懺悔を始めてしまい慌てるペテルとダイン、ニニャだけはルクルットを睨んでいたが。モモンとアクターは理由を知っているが何時からそう呼ぶようになったのか?と首を傾げていた

 

 

「遅れて申し訳ありません」

 

「大丈夫だよ。白薔薇、昨日は疲れたでしょ?馬車で移動するからそこで寝てもいいよ?」

 

 

深く眠ってしまった二人の抱き枕になっていた為、寝返りが打てなかったのは黙っておく。結構つらいよね

 

 

「モモン!私は別の馬車で行くから、後でね!」

 

「わかりました。それじゃ、行きましょうか。ハムスケ、お前は走ってこい!」

 

 

既に六人乗っているモモンの馬車は満員の為、別の馬車を用意する事を伝える。モモン達はンフィーレアを連れてカルネ村に来た時と同じ馬車に乗り込む、最後にペテルが乗り込む時に小さな紙を渡して来た

 

 

「一応これを渡しておきますね。バレアレさんの薬屋の位置です。俺達はお店までが護衛なので」

 

「ありがと、頑張ってね?」

 

 

「はい!」と、元気良く返事をするペテルに手を振り見送る。さてっと、出発の準備をしようか




モモンガはラッキースケベ(アセルスのみ)

アクターは彼です(口調のモデルはダークなソウルの騎士より)

アセルスは絶ちゃんの母親、白薔薇は…?


お気に入り登録、感想等。ありがとうございます


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外伝:強化計画

本編では語られないカルネ村が舞台の回です※ギャグ回


ある日のナザリック。モモンガは一人部屋に籠り魔王ロールの練習を鏡の前で行っていた。ある時は威厳ある声で、ある時はその威厳ある声のまま冗談を言う、それと同時に顎に手を当てる等ポージングも決める

 

 

「いや、このポーズは無いだろ。と言うか、冗談という物はその場に合う物を言わなければならない、つまりだ。これはハードルが高すぎるだろ!」

 

 

そう言いながら手にしているメモ帳にペンを走らせては文字を書き、そして×マークを付ける

 

 

「はぁ…支配者何てなるんじゃなかった…」

 

 

そう言って肩を落とす骸骨、するとその部屋の扉が激しくノックされ肩を跳ね上げる。慌ててメモを箱に詰めてアイテムボックスに放り込む

 

 

「誰だ?」

 

「アセルスだけど、今大丈夫?」

 

 

何だ、アセルスさんか。と、思いながら扉を開けるといつもの格好をしたアセルスが笑顔で立っていた

 

 

「どうかしたんですか?」

 

「ちょっと、相談をね」

 

 

そう言いながら部屋に入って来る彼女に椅子を引いて座るように促すと「ありがと」と、言いながら席に腰を下ろした

 

 

「それで、相談とは?正直カルネ村にエルフやフォーサイトを送る前にもして欲しかったんですけど」

 

「あはは…それはごめんね。えっと、今回はモモン君にも手伝って欲しくて」

 

「ほぅ、手伝いが欲しい時は相談しに来るんですね」

 

「うぅ…モモン君が虐める。チーズケーキと珈琲は要らないね?」

 

「ちょ!?ごめんなさい!嘘です!」

 

 

慌てて謝るとすくすくと笑うアセルスさん。はぁー…もういいや…なんか浄化されている気がするのは気のせいか…?

 

 

「冗談冗談、はいどうぞ」

 

「甘味は大事ですからね。えぇ…それでどうしたんですか?」

 

 

配膳を行う彼女に問い掛けながら人化の指輪を嵌めて人間に変わる。目の前のチーズケーキを見ては唾液が溢れてくるのが分かる

 

 

「えっと、カルネ村の戦力を更に強化したくて。ついでに実験かな」

 

「カルネ村で実験ですか?」

 

 

礼を言いながらフォークで小さくケーキを切り分け、ぱくりと一口。まろやかな舌触りとくどくない甘みに頬を緩めながら聞き返す

 

 

「そ、まぁ…いわゆるパワーレベリング?」

 

「レベリングですか…確かに興味があります」

 

 

そう答えながらケーキを食べて行く。うん、美味い。リアルの彼女も料理が上手だったのだろうか?

 

 

「それで、レベリングはどうやるんですか?」

 

「一番良いのはやっぱり、モンスターと戦う事だよね?そこで、モモン君に30、60、90レベルのスケルトンを召喚してもらいたいの」

 

「ちょ、ちょっと。アセルスさん、彼等を殺す気ですか?」

 

「人聞きの悪い事言わないでよ…安全に考慮して防御力を高める指輪を量産したからそれを配る予定。最初は30レベルのスケルトンでレベル上げして、その後に60レベルにしていくの、念の為にペストーニャとシズに監守して貰うわ。デミウルゴスにはデータ集めをお願いしたし」

 

「成る程…神器じゃないですよね?」

 

「流石に神器は用意できなかったわ。伝説が良い所かな?」

 

「…十分過ぎる事知ってます?」

 

「え?そう?」

 

 

こてん?と可愛らしく首を傾げる彼女に呆れて何も言えない。気が付けば此処ナザリックの守護者は全員が神器を装備していた、正確にはフル装備だ。創造主から贈られた物とアセルスさんのお手製の物を身に付けている、その他にも服装や装飾品等も神器級のカッコいい、可愛いアイテムを上げているのだから自分を超える廃人であるのは間違いない、と言うか運営のお気に入りと言うのは間違い無いだろう。自分達が作ったゲームをここまでやり込んでくれるのだから

 

 

「はぁ…まぁ、良いです。それじゃ行きますか?」

 

「もう一個あるからそれを食べてからでもいいよー?」

 

 

そう言ってテーブルに置かれるのは…

 

 

「ぷ、プリン!」

 

「そっ、試しに作ったら出来たの」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それで…アセルス様。何故、急にお呼びになられたのですか?」

 

 

法国からゲートで飛んで来たニグン・グリッド・ルーインは困惑していた。急に妖魔の君であるアセルスが執務室に現れ手を握られながら連れて来られたのだ。周りの兵達の視線が痛かったが、役得である

 

 

「何故って、鍛錬?」

 

「はぁ…?」

 

 

いまいちよく分からないので周りを見れば、ワーカーチームらしき集まりと元陽光聖典の兵士が素振りを行っている。他には多数のエルフ達が杖や弓を準備しているのが分かる

 

 

「はーい!みんな!これを付けてね!」

 

 

そう言ったアセルスは周りに居るエルフやワーカーチーム、兵士に指輪を配り始める。勿論、ニグンの手にもそれは送られ、新品の剣を渡された。本当に訓練を行う様だ、だが自分は鎧すらつけていないのだが…と、一人青くなったのだった

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

よし、防御のエンチャントを施した指輪は全員に行き届いた様だ。それを確認してモモンガに合図を送ると無数のスケルトンが地面から召喚される。召喚されたスケルトンの一体が前に出て来ると舞い始める。きっちりと見得を切りながら舞うその姿は不気味である。その光景にフォーサイトは若干青くなり、会議が始まる

 

 

「へ、ヘッケラン…これ、本当に大丈夫かな?」

 

「わ、分からない。けど、アセルス様がああ言ってるんだし…多分大丈夫なんだろう!」

 

「…私達の知ってるスケルトンじゃないんだけど…」

 

「少なくてもあの様に踊る事は無いでしょう…」

 

 

こくこくっと、ロバーデイクの言葉に頷くフォーサイトメンバー。今はまだ号令が下りていない為スケルトンが攻撃して来る事は無いが、この訓練。不安である

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

よく見るとニグンが一人真っ青になり乍ら逃げ腰になっているのが見える。行き成り連れて来たのはまずかったかな?と、思いながら声を掛ける事に

 

 

「ほら、ニグンも頑張って!」

 

 

声援と一緒にウィンクを送るとニグンが硬直した。そして、次の瞬間

 

 

「元陽光聖典!此処に集まれ!我らの連携をアセルス様に見せる時だ!」

 

「「「「「押忍!!!」」」」」

 

 

あ、あれ?急にやる気に満ちてる…どうして?と、モモンガの方を見ると同感する様に人化したままの姿で頷いていた。…後で聞いてみようと思いながらスケルトンに号令を出す。威嚇する様に剣を振り回しながらスケルトンが走り出す

 

 

「あいつ等がやる気を出してるんだ!フォーサイト!底力を見せるぞ!」

 

「イミーナ、アルシェ!ニグンさん達とヘッケランを援護しますよ!」

 

「張り切るのは良いけど腕を切り飛ばされないで、ねっ!」

 

「私は上から支援します!」

 

 

フォーサイトは元々の連携を活かし、ヘッケランがニグン達と一緒にスケルトンを翻弄しながら切り込んでいく、ニグンもやはり元隊長。五人の元陽光聖典兵士と後方支援に徹しているエルフ達に的確な指示を飛ばす。指輪の効果があるとは言え三つの勢力は果敢にスケルトンを攻め立ていた、デミウルゴスも驚きの表情でデータを取り、なんちゃって棒立ちの100レベルスケルトンをフライパンで叩いてるエンリ達村人も居たりする

 

 

そんな訳でカルネ村ではパワーレベリングが数日に渡り行われた結果、平均50レベルの村が出来上がり。これ以上は戦闘メンバーのみでレベリングが行われるようになった




パワーレベリング(力技)でカルネ村の方は強化されました(真顔

フォーサイトや兵士達も強くなっています、登場する時はお楽しみに


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クレマンティーヌ

馬車に揺られるモモン達、その会話はンフィーレアの恋バナに花を咲かせていた。と言っても、ルクルットがンフィーレアをひたすら弄っているだけだが

 

 

「ルクルット、その辺でやめて置け。バレアレさんが困ってるだろ?」

 

「えー!此処から良い所じゃないか…しゃーない、今日は見逃してやろう」

 

「ペテルさん…ありがとうございます…」

 

 

顔を真っ赤にさせたンフィーレアは助け舟を出してくれたペテルに感謝しながら。疲れ様子で溜息を吐いていた

 

 

「あの、モモンさん。聞きたい事があるんですけど、良いですか?」

 

「ん?聞きたい事ですか?」

 

 

後方を走る一般の馬車に見える様に偽装されたアセルスの馬車を確認していたモモンはペテルの言葉に振り返る

 

 

「はい!その、変な事言う様で申し訳ないんですけど。ルージュさんって、妖魔の君とよく間違えられたりしませんか?」

 

 

ペテルの言葉に漆黒の剣の視線はモモンに集まる。聞かれたモモンは背筋に冷たい汗を流しながらどうするべきが必死に考えて居たりする

 

 

「彼女とはこの地方に来た時初めて会ったんだ。あまり身の回りの事は聞いていないが…その、妖魔の君と言うのはどういったものなのでしょうか?」

 

「あ、すいません。えっと、これです」

 

 

モモンの言葉に慌てて謝るペテルは革製の鞄から一冊の本を取り出し。ページを捲ってモモンに差し出す。それを受け取ったモモンは息を飲み、隣に居座るアクターも驚いている様子だ

 

そのページには一つの色の付いた挿絵と文字が描かれていた、一人の女性がぼろぼろに砕かれた骸骨を抱えながら泣き叫んでいる。そんな挿絵だ

 

(細部は違うけど、妖魔化した時のアセルスさんじゃないか!いや、待て。この抱えられている骸骨は…俺?)

 

 

挿絵を見つめながら沈黙するモモンにペテルは困惑した様子でどうするべきか悩んでいた。ページを見せた瞬間モモンさんが固まったのだ

 

 

「モモンさん…?」

 

「っ!失礼、余りにも似ていたから驚いてしまった…そのページはどういった場面何でしょうか?」

 

「あ、えっとですね。これは六大神の一人、スルシャーナ様が八欲王に倒されてしまい。その亡骸を妖魔の君が抱えながら嘆いている場面です」

 

「ペテルはその御伽話好きが大好きなのである。一時はスレイン法国の信者かと思ったのである」

 

「いつも読んでますもんね。まぁ、其処から十三英雄の話に繋がるから仕方が無いですよ」

 

 

そう言って、ダインとニニャは笑い。ペテルは恥ずかしそうに頭を掻いていた

 

 

「すいません、こんな御伽話に出て来る人物と似てるなんて騒いでしまい」

 

「いえ、私も驚きましたから。それにしても…よく似てますね」

 

 

ペテルの事は馬鹿には出来ない。リアルで言う所のアニメやライトノベルが好きな人と同じなのだから

 

 

「やっぱり、モモンさんもそう思います?」

 

「えぇ…ですが。本人にはあまり聞かない方が良いかも知れません、気にしているかもしれませんし」

 

「あ、そうですね…」

 

 

モモンにそう言われると確かに失礼な事を聞く事になってしまうかも知れないと、考えて本を鞄に戻すペテル

 

 

「それにしても移動中は暇だよなぁ…」

 

 

と、ルクルットは暇そうに欠伸をしては外を眺める。それは対照的にペテルとダインは武器の手入れをはじめ、ニニャは分厚い本を膝に上に乗せ読んでいた。モモンも特にやる事が無いので伝言を使いアセルスと話でもしようと考えていた

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

日が傾き始めた頃、馬車はエ・ランテルに到着した。モモンとアクターはハムスケの魔獣登録の為に冒険者組合へ行っている為分かれて行動する事に。ルージュさん達はまだ後ろの方を走っていたので先にンフィーレアさんを送り届けてから合流しようと考えて居た

 

 

「いやぁ、今日は助かったなぁ!モモンさん達が強いから仕事が捗ったぜ」

 

「そうだな、俺も何時かあんな風に強くなりたいな」

 

「そうなるにはまずは強くなるしかないであるな」

 

「桁違いでしたからね、モモンさんとアクターさん」

 

「そうですね…本当に助かりました。あ、お茶でもどうですか?ご馳走しますよ」

 

「いいんですか?」

 

「はい、いつもお世話になっていますから」

 

 

雑談をしながら薬屋の前までくればンフィーレアが扉を開けて中に入り漆黒の剣も後を付いて行く様に店へと入って行く。最後尾のニニャが扉を閉めた瞬間ルクルットが声を上げる

 

 

「ペテル!!」

 

「!?」

 

 

叫ばれたペテルはンフィーレアを庇う様に前へと出る、間一髪暗闇から迫る鋭い突きを剣で弾く、金属音が室内に響くと同時に濃厚な殺気が覆い尽くす

 

 

「へぇ~、鉄級に防がれちゃうなんてお姉さん悲しいなぁ」

 

 

店の奥から現れるのは蛇を思わせる笑みを浮かべた女だった。露出の高い軽装の鎧、所謂ビキニアーマー姿の女は舌なめずりし乍ら両手に持つスティレットを揺らし近付いて来る。よく見れば、鎧の至る所に冒険者のプレートらしきものが打ち付けられており鎧がうろこの様に見える程だ

 

 

「…ニニャ!バレアレさんを連れて逃げろ!」

 

「いけ!モモンさんを呼んで来い!こいつは…俺達じゃかなわねぇ!!」

 

「行くのである!」

 

 

ペテル、ルクルット、ダインが武器を取り出し。構える、扉に一番近いニニャがその言葉に殺気に飲まれながらもンフィーレアの手を取り扉に手を掛けようとした瞬間

 

 

「逃がす訳ないじゃん、目的はンフィーレアだけどさ。目撃者は全員殺す事にしてるんだぁ…♪」

 

 

ぎちぎち…と、嫌な音を立てながら肩を掴まれ痛みで腕が動かない。後ろを振り返ればあの女の顔が歪み笑って居るのが分かる

 

 

「すこーし、遊ぼうと思ったらもう死んじゃった。あ、そうだ…お前で遊べばいいよね」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

急所のみを貫かれ絶命した三人の死体と壁に吊るされ、身体中から夥しい血を流しズタズタに裂かれた少女の死体を見て女、クレマンティーヌは満足そうにスティレットを仕舞う。苦し泣き叫ぶ声が聞きたかったが外に聞こえてしまうとバレてしまう為、最初に舌を切り落としたのだが。やはり、少しだけ欲求不満だった

 

 

「おい、クレマンティーヌ…楽しむのは良いが儂は此奴を貰って行くぞ?」

 

「はいはい、私はもう少しこれで遊んでから行くよ~」

 

 

影から聞こえる男の声に軽口でクレマンティーヌは返事する、男の気配が消えてから腰にあるモーニングスターに手を掛けて、先程まで涙を流していた少女に目掛けて振り下ろそうとした瞬間だった

 

 

「お前、何してるの?」

 

 

その声と同時にクレマンティーヌの持っていたモーニングスターは弾かれ、石畳の上を転がる。クレマンティーヌの武器を弾いた少女は戦鎌を突き付けたまま殺意を帯びた目で睨み付け一歩前に出る。それに対しクレマンティーヌは自分の記憶の中で最も会いたくない少女を見つめ先程の余裕は消え失せ狼狽え始める

 

 

「な、なんで…何でテメェが此処に…!!!」

 

 

慌てて距離を取り両手にスティレットを構え腰を深く落とす彼女に少女、番外席次は無表情のまま告げる

 

 

「雑魚が喋らないでよ」

 

「がっ!?」

 

 

恐ろしい速度で距離を詰めた番外席次の蹴りが腹部に突き刺さりに声すら上げられずに石床をのた打ち回る、呼吸を辛うじて行いながら視線を上げれば

 

 

「絶ちゃん、そいつをお願い。出来れば殺さないで」

 

 

凛々しくも冷たい声が響く、その声に腹を立てながらクレマンティーヌを入り口を睨み付ける。其処には赤い双眸があった

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

モモン達が先にエ・ランテルに到着しているのを入り口の守衛から聞いてはペテルが教えてくれた薬屋に向かう。馬車の速度を調整して走らせていた為、数分遅れてしまったのだ。メモの道順で町を歩いて行けば目的のバレアレの薬屋が簡単に見つけられた。が、人通りが此処だけ異様に少ない

 

 

「お母さん、何か変」

 

 

隣を歩く絶ちゃんの言葉に軽く頷き薬屋を注意深く観察する。五人の人間が居るにしては物音が静か過ぎる、ルクルットの性格を考えると此処まで静かなのも不自然だ

 

 

「行こう」

 

 

小さくそう告げては扉の前まで気配を殺して近付く、周辺に人が居ないのも不思議である。扉に手を掛けて隙間を開けると同時に絶ちゃんが薬屋に飛び込んで行く。金属音が響くの確認しに突入すれば絶ちゃんが一人の女を蹴り飛ばしている所だった。周りを見れば既に事切れたペテル、ルクルット、ダインが床に倒れており、ニニャが壁に吊るされ裸にされた上でズタズタに切り裂かれているのが目に入る

 

 

「…絶ちゃん、そいつをお願い。出来れば殺さないで」

 

 

自分でも驚く程、冷たい声で伝えながらアイテムボックスを漁り蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)を取り出す。失敗すれば、肉体を埋葬する事すら出来なくなる…一瞬戸惑うが短杖を振り翳し成功を祈る

 

ゆっくりとペテル、ルクルット、ダインの三人の遺体は光に包まれ時間を巻き戻す様に損傷した身体が治って行く。正常な呼吸をしながら横たわる三人にほっとしながら次はニニャを蘇生する為に白薔薇が降ろしてくれた彼女に近付く

 

 

「酷いですわ…」

 

 

遺体の状態を見た白薔薇が静かに呟く、確かに酷い状態だ。綺麗な肌はズタズタに裂かれ舌も切り取られている、手足も砕かれ指を折り曲げられた上で捩じ切られている

 

 

「…大丈夫、直ぐに治るよ」

 

 

短杖をニニャの胸に押し付けると先程の様に光が包み込み、傷一つ残さずに蘇生を完了した。男装していた理由は分からないが、取り合えずアイテムボックスからローブを取り出し彼女を包んでおく

 

 

「アセルスさん!みんな!」

 

「ご無事か!」

 

 

丁度タイミング良くモモンとアクターが乗り込んで来る。室内を見たモモンは息を飲みアクターは腰に差してある剣を引き抜き番外席次の隣に並ぶ

 

 

「犯人は奴か?」

 

「そ、…元漆黒聖典第九席次、クレマンティーヌ。お母さんが殺すなって言うからこうしてる」

 

 

番外席次に徹底的にいたぶられたクレマンティーヌは血反吐を吐きながら内心で震えていた、あの時会った時よりも番外席次が強くなっていたからだ、見た事も無い戦鎌に服装…逃げる事すら叶わなかった。そして何よりも後から入って来た漆黒のフルプレートを来た男から聞こえた名前が信じられなかった

 

 

「妖魔の、君?」

 

 

そう呟いた瞬間、番外席次の脚が顔に迫る。が、その足に顔面を砕かれる事は無かった

 

 

「もういいよ、絶ちゃん。そいつを裁くのは彼等だから」

 

 

優しく番外席次を背後から抱き締めながら止めたアセルスはクレマンティーヌを睨み付け、蘇生を終えて気絶している漆黒の剣を指差した




期待の新星、クレマンティーヌ。彼女の運命は如何に

漆黒の剣は一応生存です。

感想お待ちしてまーす!


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エ・ランテル

エ・ランテルは過去に無い危機に見舞われていた。無数のアンデッドがエ・ランテル外周にある共同墓地から溢れ出し街を破壊し始めたのだ。今は滞在していた冒険者、王国兵士が中心への侵入を喰い止めているが此処が破壊されるのは時間の問題だった。現在、アセルス達は宿で二部屋借り。一部屋にペテル、ルクルット、ダインをもう一部屋にニニャを寝かせた。部屋から出て来たアセルスにモモンとアクターは立ち上がり近付いて行く

 

 

「彼女はどうでしたか?」

 

「静かに眠ってるよ。でも、酷い拷問を受けたみたいだから…目を覚ました時の彼女は別人かも知れない。肉体や魂は元に戻せても…心の傷は治せないから」

 

「そうですか…絶からの情報ですがカジットと言う男がンフィーレアを攫って行ったみたいです」

 

 

すると、宿の前に複数の人間がゲートから現れ始める。モモンとアクターは首傾げるがアセルスは「早いわね、流石」と、喜んでいる。やがて宿の扉がノックされ一人の男が静かに入って来る

 

 

「カルネ村防衛部隊、ニグン・グリッド。ただいま参上しました。フォーサイト並びに攻撃部隊は外で待機しております。それと、これがクレマンティーヌの情報になります」

 

「ありがと、ニグン。エ・ランテルはカルネ村に一番近い街。此処がアンデッドに破壊されたらカルネ村にも被害が出てしまうわ。だから、貴方達の力を貸して」

 

「ハッ!」

 

 

モモンはぽかんとし、アクターは静かに拍手をアセルスに送る。そう、カルネ村からニグンを隊長にした防衛兼攻撃部隊を呼んだのだ、ついでに法国に居るニグンにはクレマンティーヌの情報を少し集めてもらった

 

クレマンティーヌを死なない程度に尋問した絶ちゃんが吐かせた情報とニグンからの情報を整理する。クレマンティーヌはスレイン法国から逃亡する際、叡者の額冠と言われるマジックアイテムを奪取。脱走者の殺害と叡者の額冠の奪還の為、スレイン法国から風花聖典と呼ばれる部隊が追跡を始めた、それを振り切る為にカルトテロ組織ズーラーノーンの一人、カジットと呼ばれる男に協力し、ンフィーレアを狙ったと言う。しかし、既に風花聖典は最高神官長補佐になったニグンにより周辺地域の奉仕部隊になっていた。日々、モンスターから村や町を守り、必要と判断した地域の偵察や犯罪集団『八本指』の調査を行う優秀な部隊になっていたりする、ニグンからの情報では漆黒聖典のみが法国に帰還して居ない為、命令がしっかりと通っていない可能性があるので注意して欲しいと言った報告もあった

 

 

「つまり、彼女は意味の無い逃走劇に漆黒の剣を巻き込んだのね…」

 

「そう言う事ですね。ですが、一番の犯人は…」

 

「そのカジットと言う奴ね。上手い事クレマンティーヌを引き込んだ」

 

 

そこで言葉を切ってモモンガを見つめる。どう言うべきか悩んでいると

 

 

「わかってますよ、助けましょう。もし俺がやらないと言っても彼らと救うのでしょ?…確かにナザリックには関係ないかも知れませんけど、英雄はこういう時に生まれるんだと思うんです。それに…たっちさんならきっと「助けましょう!」って、言いますよ」

 

 

モモンガは胸を叩いてそう言った。モモンの言葉に緊張した様子のアクターは嬉しそうに頷いていた

 

 

「流石だモモン。この量のアンデッドを壊滅するとなれば銅級から直ぐに脱出出来る」

 

「…お前にそう言われるとなんか…こう、違う…」

 

「…??」

 

 

アクターの言葉に何故かげんなりするモモンの額を軽く指先で突いては、くすりと笑い

 

 

「アクターが称賛してくれたんだから大人しく受け取りなよ。…ありがと、モモン君。いこっか」

 

 

宿を出ればフォーサイトとニグン達が待機していた。既にニグンの作戦が組み上がっており、フォーサイトは遊撃、ニグン達は負傷した王国兵や冒険者達の救助に当たるとの事

 

 

「ごめんなさい。本当は一緒に行きたいけど…多分、私じゃ足手纏い」

 

「空から魔法を撃ってくれるだけで充分助かるよ。アルシェ」

 

 

申し訳なさそうにするアルシェを優しく撫でるアセルス、若干頬を頬を染めて居るのをヘッケランは見逃さなかった

 

 

「なぁ、ロバー…アルシェの奴」

 

「ヘッケラン、無神経な事を言ってはいけませんよ」

 

「そうよ?恋に壁は無いんだから」

 

 

ロバーデイクとイミーナの言葉に慌てて口を紡ぎ、そう言う意味で言おうとしたんじゃねぇ!と言いつつ

 

 

「…静かに応援しようぜ」

 

 

ヘッケランの言葉に頷くロバーデイクとイミーナ。既に混乱が広がっており、周辺の住民達は階級の低い冒険者の指示に従い避難を始めていた。門がある方を見れば激しい戦闘音が聞こえて来る

 

 

「白薔薇はニグンと救助を!絶ちゃんはフォーサイトと一緒に行ってあげて!」

 

「奴は外周の共同墓地の奥に居ます。隠れるには打って付けでしょう。恐らくそこでアンデッドを作成しているはずです」

 

「あの門の奥にあるのね。飛ぶよ!」

 

 

走り出すアセルス達とフォーサイト。アセルスはモモンとアクターを掴み最初にモモンをぶん投げる。ユグドラシル時代に使っていた連携の一つ。後方支援のモモンガを強制的に後方や前方にぶん投げて広範囲の魔法で一網打尽にする、只モモンガを筋力に任せて投げるだけなのだが突然飛んで来るモモンガがばら撒く魔法は正直恐怖である。魔法の範囲外で戦うプレイヤーは油断している為、良く使って居たのだ

 

 

「その二!」

 

「全く無理を為される!」

 

 

苦笑いが混じったアクターに謝りながら同じ様にぶん投げては速度を落とさずに門を飛び越える。アルシェは周りに居る兵士が声を上げる中飛行(フライ)を使いフォーサイトを運び、番外席次も門を飛び越えて行く

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

二人のフルプレートを着た人間を軽々と持ち上げ、門のその先へと投げるドレス姿の女性と飛行(フライ)で飛んで行く冒険者チーム?最後尾を走っていた少女も軽々と門を飛び越えて行き。兵士達は呆然と眺めて居た

 

 

「隊長…彼らはいったい…」

 

「分からない、だが…恐ろしい強さだ」

 

 

門を破壊する為に集まっていた、アンデッド達は瞬く間に冒険者チームに壊滅されていた

 

 

「申し訳ない、貴方はこの部隊の隊長だろうか?出来れば門を開けて頂きたい、生存者の救助に当たる」

 

 

隊長と呼ばれた兵士は目の前に現れた金髪の男にぎょっと、驚きながらも慌てて門を開ける指示を飛ばす。先程、門を飛び越えて行った冒険者達よりは常識的な事に安心しながらもアンデッドの残党を見事な連携で撃破し次々と生存者を救助して行く様に周りの王国兵士も次々と支援を始める

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「何で、何でこんな事になっちまったんだ?」

 

 

目の前に迫る死の騎士(デス・ナイト)の隊列にミスリルのプレートを首から下げた男は剣を構えながら震えていた。エ・ランテルが大量のアンデッドに襲われ始めた頃、彼らミスリルチームのクラルグラが事態収拾に向かった。だが、向かった時には既に地獄になっていた…両断される住人、貪り食われる冒険者。その中には白金の冒険者も居た、それでも己を鼓舞し少しで多くの人を守ろうとした。だが、目の前に現れたソレは伝説で語られるアンデッドだった

 

 

「イグヴァルジ!立ち止まるな!死ぬぞ!」

 

 

仲間の叫ぶ声が聞こえる、慌てて剣を握り締めた瞬間、死の騎士(デス・ナイト)の剣が振るわれる。吹き飛ぶ自分に気が付いた時には後ろに居る仲間の上に落ちた後だった。震えて動けなくなる身体を動かし剣を取ろうとするが握れない。何故だ?俺は此処で死ぬのか?俺も、アンデッドになるのか?

 

 

「いやだ、お、俺は…英雄になるんだ…こんな、こんなっ…!」

 

 

助けを求める為に後ろを見れば気絶し動けなくなった仲間の神官。それを見た彼は我に返る。英雄はこんな時逃げ出すのか?こんな時に泣き言を言うのか?いや、言わない。俺の知っている英雄譚にそんな英雄は居なかった

 

 

「逃げて何になる、どうせ逃げられやしない。なら、一体でも倒せれば…!足手纏いじゃない!俺は…」

 

 

俺は英雄だ…!!そう叫びながら突撃する。動かない右腕を引きずりながら左腕で剣を構え狙うは死の騎士(デス・ナイト)の顔…剣が迫る中真っ直ぐに見つめる

 

 

「貴公!動けるのであれば今は逃げろ!」

 

「な!?」

 

 

声を上げ乍ら驚く。振り下ろされるはずだった死の騎士(デス・ナイト)の剣を盾で弾き、隙の生まれた顔面に剣を突き立てるフルプレートの戦士が居た

 

 

「貴公は英雄なのであろう?英雄が戦いに赴いたのであれば、必ず生還しろ!強き者から技術を学び己の糧とする。足手纏いなどと思い込む事は無い、貴公が此処に来た事で救われた者にとって貴公が英雄なのだ!」

 

 

そう言い放つ戦士は三体の死の騎士(デス・ナイト)に囲まれながらも弾き、躱し、いなし続ける。勇ましい戦いを背中で語る

 

 

「行け!貴公の戦いはこれからだ!」

 

「っ!あ、ああ!」

 

 

名前も知らない戦士に頭を下げならイグヴァルジは仲間を抱えて走り出す。俺は英雄に認めてもらえたのだ。何故かそう感じた、いつもなら腹を立てて突っかかるだろう。だが、あの戦士は…俺の知っている英雄譚に出て来る英雄に見えたのだ。門の入り口でイグヴァルジの生還を祈りながら守り続けて居たチームメンバーに感謝しながら少しでも多くのアンデッドを殲滅するべく再び剣を取る

 

 

「イグヴァルジ、何か良い事でもあったの?」

 

「いや…俺は、本当の英雄を思い出したんだ。今までの俺は馬鹿みたいだったな」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「何でこんなに死の騎士(デス・ナイト)が…伝説のアンデッドじゃなかったの?」

 

「わかりません、ただ…この世界では伝説扱いのこれが大量に出て来たら、絶望でしかないでしょうね」

 

 

そう言いながら二振りのグレートソードで壊滅して行くモモン、途中アクターが合流し霊廟へと走り続ける。続々と溢れ出す死の騎士(デス・ナイト)を含めたアンデッドを視界に収め

 

集団標的(マス・ターゲティング)』『魔法位階上昇化(ブーステッドマジック)』『(ソード)

 

無数のトランプの様なカードが空間に現れては何本もの刀がアンデッドに降り注ぐ

 

 

「アセルスさん。張り切り過ぎです…」

 

「大丈夫、全部タレントと言えばどうにかなるよ!」

 

 

霊廟に辿り着けばモモンは立ち止まる。立ち止まったモモンにアセルスとアクターは首を傾げていると

 

 

「ここまで来たら楽しません?誰も見てないでしょうし」

 

「ん…?うん?」

 

 

そう言っていそいそとグレートソードをアイテムボックスに仕舞い込み適当な杖を取り出すモモンガに困惑していると。姿が消えてしまった

 

 

「あ、奇襲するのね」

 

 

アセルスは苦笑いしながら入り口で待つ事数分後、何重にも麻痺を重ね掛けされたカジットと半裸のンフィーレアを抱えてモモンは戻って来たのだった

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「お母さんは押しに弱いから、抱き着いたりキスしたり…舐めたりしても意外と許してくれるよ」

 

「な、なめっ?!…舐めたんですか!?」

 

「うん♪お風呂に入った時に…こう、胸元を…」

 

「はぅぅぅ…」

 

 

冒険者組合に入って行ったモモンとアクターと宿に戻ったアセルスを待つ間、暇なのでフォーサイトはエ・ランテルを散策していた。と言っても、散策しているのは三人でアルシェは近くのベンチで番外席次とアセルスの事を話していた

 

 

「あ、お母さんって呼んでるけど諦めた訳じゃないよ」

 

「何をですか?」

 

「それはね…アセルス様の子供を産む事」

 

 

ちょっと、目に前に居る絶と呼ばれている娘はやばいかも知れないと思い始めたアルシェだが。一番アセルスの近くに居て話しやすいのは彼女しかいないので諦めている

 

 

「そ、そうなんだ…でも、難しくない…?」

 

「んー…今はまだ無理かもー」

 

 

乾いた笑いを零し乍らアルシェは考える、先程の事は目の前の絶ちゃんだから出来る事なのでは…?と思いながらもやってみようか…いやでも、と悶々としていると

 

 

「迷ったら、やってみると良いよ。私も手伝うよ?」

 

「い、良いの…?」

 

「勿論♪」

 

「…凄く不安なんだけど」

 

 

ノリノリな番外席次に間違えた選択をしたかな…と、少し後悔したアルシェの予想は後々当たる事になる

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「っ!!」

 

 

何だろう…凄い寒気がした気がする。ま、良いか…そう考えてはベッドに腰を掛けて眠り続けるニニャの頬を撫でる。ペテル、ルクルット、ダインは既に目を覚まし。だるさが残る物の意識はハッキリとしていた。『ニニャが目を覚ましたら、よろしくお願いします。…俺達よりも助けてくれたルージュさんの方が良いと思うんです』ペテルは辛そうにそう言い残して、今は冒険者組合に報告しに行っている

 

 

「…ん…」

 

「あ、目を覚ました…?」

 

 

声を漏らしながら目を開けるニニャを覗き込みながらにこりと笑うアセルス。上半身を起こしぼーっと周りを見てゆっくりとアセルスを見つめる

 

 

「あれ…私…」

 

 

ぐらっと、目眩を起こしてフラッシュバックする記憶。蛇の様な笑みと嬉々として自身の身体を破壊する女の笑い声、気を失っても痛みで起こされ続けられる破壊。腕を脚を指を目を、少しづつ破壊され泣き叫びながら冷たくなって行く自分

 

 

「うぐ、っ…」

 

 

込み上げて来る胃液を抑える程の体力が無く吐き出してしまう。予想されていたのか吐き出した物はベッドでは無くルージュさんが用意してくれた容器に収まって行く

 

どのぐらい時間が経ったのだろうか?あの後も何回か嘔吐し、怪我をして居ないのに感じる痛みでまともに会話すら出来なかった、その間ずっとルージュさんは私の側で撫で続けてくれた。一人だったらきっと泣き叫んでいたと思う、会った時からずっと思っていたけど。この人は不思議な人だ

 

 

「…ルージュさんが、蘇生してくれたんですか?」

 

「うん、私がもう少し早く行けばこんな事にならなかったのに…ごめん」

 

「い、いえ!そんな事………私、攫われた姉を取り返す為に冒険者になったんです。強くなって攫って行った貴族を見つけて復讐して、奪い返す為に」

 

 

ニニャの言葉を静かに聞き続ける、姉妹の絆。か…フォーサイトの可愛い姉を思い出しながら撫でる手を止める

 

 

「ルージュさんの事も最初は貴族の令嬢だと思って、勝手に恨んで…ごめんなさい」

 

「気にしないよ。…冒険者は続けられる?」

 

 

そう問い掛けるとニニャは身体をびくりと、身体を震わせながら沈黙してしまった

 

 

「ペテル達とはしっかりと話をした方が良い。…もしも、冒険者をやめてもお姉さんを見付けたいなら、私に付いて来なさい。一緒に探してあげるから」

 

 

そっと、立ち上がると部屋の扉を開ける。廊下を覗き込めばペテル、ルクルット、ダインの三人が静かに立っていた

 

 

「…後はお願いね」

 

「…はい」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

冒険者組合の一室に机を挟んでモモンは屈強な身体付きの男と会話をしていた。正直、一旦ナザリックに戻って休憩したかったのでカジットを丸投げして帰ろうとしていた、のだが。目の前の男はこのエ・ランテルの冒険者組合長のプルトン・アインザックだったので渋々、アクターと二人で話を聞いていた

 

 

「今回の事件の解決に尽力してくれて本当に助かった。此処に居た冒険者だけではとてもじゃないが抑え込めなかっただろう」

 

「いえ、私も冒険者の一人だ。この街が守れた事は誇りに思う」

 

「私もだ。弱き者の為に剣を振るったに過ぎない」

 

 

アインザックはモモンとアクターの言葉に嬉しそうに頷くと急に顔色を真面目な物に変える

 

 

「此処からは事件の状況を聞きたい。あのアンデッドを群れを壊滅した時、何人かエ・ランテルの冒険者では無い者が戦っていたと聞いている。君達から見てそう言った者は居なかったか?」

 

 

アクターは下手に口を挟まずにモモンに説明を任せる。何かあればフォローすればいいと考えて居たのだ。モモンは腕を組み少し考える仕草をした後に

 

 

「そう言った者は見て居ませんね。と行っても私はここに来て日が浅い…申し訳ないが全ての冒険者を記憶出来てません…それに私とアクターの二人だけで事足りましたので」

 

「そうか…もしも居るのであればぜひエ・ランテルの冒険者になって欲しいのだが…ははっ!そうか、頼もしいなモモン君にアクター君は!」

 

 

そう言うアインザックは本当に惜しそうに顔を顰めた後に豪快に笑う。恐らくこのような事が今後も起きると危惧し、戦力が欲しいのだろう。そして、エ・ランテルの冒険者以外、と言うのはフォーサイトやニグン達にアセルスさん達の事を言って居るのだとすぐに理解出来る。ニグン達とフォーサイトはアルシェを除いて既にここにはいないし、アセルスさんは「何か、組合に行ったら階級を上げて縛られそう」と、言って逃げてたりする…あれ、俺は身代わり?

 

 

「それともう一つ、死の騎士(デス・ナイト)が大量に居たと聞いていたのだが…実際はどうなんだ?」

 

死の騎士(デス・ナイト)?御冗談をそんなものは居なかったですよ。ただ、スケリトル・ドラゴンが五体居ましたが…」

 

「な、なんだと!?」

 

 

死の騎士(デス・ナイト)の群れを正直に壊滅させたと言えば騒ぎになると思い事前に言わない事を決めていた、その代わりにカジットが防衛用に置いていたスケリトル・ドラゴンは正確に伝える。いや、そもそも、戦ってないのだが…だって、麻痺させて珍しいだけの謎玉と冠は破壊してしまったし。破壊した瞬間、スケリトル・ドラゴンは消えてしまったのだ

 

 

「よく無事だったな…二人とも」

 

「ありがとうございます」

 

 

そして、アインザックは机の引き出しから二枚のプレートをモモンとアクターに差し出した、そのプレートの色は鋼色を放っていた

 

 

「本来であれば直ぐにアダマンタイトにしてやりたい所なのだが、周りの冒険者の事を考えると出来ないのだ。申し訳ない」

 

 

うわ、本当に来た…と、げんなりするモモンガは断ろうと考えた。ぶっちゃけ、冒険者って派遣社員じゃね?と言うのがモモンガの出した答えだった

 

 

「モモン、ここは大人しく受け取ろう。あれだけの事をしたのに銅級のままでは冒険者組合の立場が危なくなってしまう」

 

 

差し出して来る手をそっと、押し返そうとするモモンにアクターは動いた

 

 

(おい!パンドラ!何考えてるんだ!?)

 

(モモンガ様、我が儘をお許し頂きたい。ですが、ここでミスリル級に上がり名声を得れば王国での動きが楽になると私は考えて居ます。英雄モモンになれば…今の冒険者の在り方も変えられるかもしれません)

 

 

むぅ…と、考える。英雄モモン良い響き…じゃない、確かに王国で動き易くなるのは良い事だ。アダマンタイト級にまでなればかなりの発言権も得られるのでは?と考える。もしも、英雄モモンが未知の土地を調査するような行動をしていれば冒険者は対モンスター用の傭兵では無く、未知を探求する者に調査部隊に変わるのでは…それ、楽しそう

 

 

「いや、ミスリルで十分だ。アダマンタイトに上がれなくとも。…直ぐになりますから」

 

 

そう言って、アインザックにサムズアップしてプレートを受け取る。アクターに手渡してはそのまま部屋を後にした。一人残されたアインザックは一人ガッツポーズを取り、彼等ならば直ぐにアダマンタイト級になると考え始める、無論モモンの中にある考え迄は見抜けて居ないが




若干、捏造入っています※無理矢理な部分もありますがご了承ください

モモンガは冒険者モモンの時は鈴木悟になっています


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断ち切る勇気とデート?

リ・エスティーゼ王国、ロ・レンテ城にあるヴァランシア宮殿にて緊急の宮廷会議が開かれていた。本来であれば厳粛な会議が行われなければならないはずだが、数年前から会議内容は王派閥と貴族派閥の嫌みの言い合いにしかなっていない。今日の宮殿会議も本来であればエ・ランテルの被害を調査し兵や物資を送るなどの処置を行わなければならないはずだが

 

 

「昨晩エ・ランテルで大量のアンデッドが発生したらしいじゃないか」

 

「おぉ、それは私も聞いたぞ?美しい女性と銅級の新米冒険者二人に鎮圧されたとか」

 

「ふん、何がアンデッドの大量発生だ。女一人と銅級冒険者二人に片付けられる程度だったのだろう?そもそも、そんな事が起きて居ないのかもしれん」

 

 

三人の貴族の話に周りの貴族共が声を上げながら笑う、何処に笑う要素があったのか全く理解できないガゼフは一人静かに耳を傾ける。貴族派閥の奴らが愉快そうにしている理由それは

 

 

「何を言うか、その女性が大変美しいらしい。緑色の髪に深紅のドレス姿…ぜひとも見てみたい物だ」

 

「ならば、招集すればいいじゃないか。ついでにその事件についても詳しく聞けばいい。もしも、嘘であるならその女に罪を償わせなければな」

 

 

再び宮殿は笑いに包まれる、先程の笑いと違い下品な笑みを浮かべる貴族派閥にガゼフは顔を伏せながら擦り減った奥歯を噛みしめ堪える。その女性には心当たりがあった。カルネ村を救った妖魔の君 アセルス殿だと。であるのであれば冒険者の一人はアインズ殿と確信する。戦士長である自分が本来ならば動かなければならないはずの事件だった。しかし、それには役職が邪魔になっていた

 

 

「失礼を承知で申し上げる。そのような事を話題にするのでは無く、被害の出たエ・ランテルに至急の調査と物資を届ける為の部隊の派遣を…」

 

「くだらん」

 

「…は?」

 

 

言葉を遮られ思はず顔を上げ、ガゼフは言葉を失う。何故この会議に貴族派閥の人間しかいないのだ?と

 

 

「…申し訳ない、もう一度…」

 

「くだらんといったのだ、ガゼフ。お前は何故此処に居る?早く帰って武器の手入れでもしていたらどうだ?」

 

 

ギリィ…と、奥歯を嚙み締めるガゼフを愉快そうに笑う男達、此処に王派閥の人間は居ない。心を痛めながらも疲弊し切っているランポッサ三世を見つめる、その目にランポッサ三世は頷き

 

 

「調査部隊の人員はお前に任せる、エ・ランテルを任せたぞ」

 

「ハッ!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

高級住宅街の一部屋で一人の美しい女性は憂鬱そうに溜息を吐き窓を眺める。王国に入ってから情報収集に当たっているが一つだけ、不満があるのだ。下等生物を手当たり次第に殺す事が出来ないのも不満だったが一番は…

 

 

「朝から酒ばかり飲んでるなぁぁぁ!!!」

 

「あん?」

 

 

そう、此奴である。折角モモンガ様やアセルス様に褒めてもらう為に尽力していると言うのにこの親父はここに来てから酒しか飲んでいないのだ。いや、正確には情報もちゃんと集めているのだが、朝から酒臭いのは我慢ならない

 

 

「ちゃんと、情報は持って来てるだろうよ」

 

「そうなのよね、そこがまた頭が痛いのよね…あー、本当にポンコツなら消すのに」

 

「…やるか?」

 

「言葉の綾よ、アンタに勝てるわけないでしょ」

 

 

ソリュシャンの言葉に顎を撫でた後、背後から先端が凶悪に曲がった鉄パイプを取り出すゲン。茶色い錆が血痕に見える時があるのは彼の使い方の所為だと信じたい

 

 

「大丈夫だ、手加減する為に此奴を使ってるんだ。痛覚ないだろ?」

 

「あるに決まっているでしょう!」

 

 

割とマジでソリュシャンは先程の失言に後悔しながらそう叫ぶと、冗談だ。と言って鉄パイプを仕舞うゲンにほっと、胸を撫で下ろす

 

 

「ただいま戻りました…何時も飲んでいますが無くならないのですか?」

 

「無くなるぞ?毎晩補充してる」

 

 

帰って来たセバスは成る程、と納得し紙袋をテーブルに置くとスクロールを取り出し、集めた情報をアルベドに直接送り終えるとゲンが立ち上り背伸びをする

 

 

「さて、俺も行くかな」

 

「酒場が開くにはまだ早いようですが?」

 

「まぁ…別の用事もあるんだよ」

 

 

そう言って、鉄パイプを腰に差し出て行ったゲンに首を傾げるソリュシャン

 

 

「ねぇ、セバス。腰に鉄パイプを差して歩くのは人間だと普通なの?」

 

「…かなり目立つと思われます」

 

 

沈黙しながら二人で並んで窓を覗き込み、外を歩くゲンから距離を置く人間を見ては揃って溜息を吐いたのであった。めっちゃ目立ってるやん、あの親父…と

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

朝早くルージュさんに呼び出され、エ・ランテルの入り口に向かうと。見慣れた紅いドレスの彼女が待っていた

 

 

「すいません!遅れました!」

 

「ううん、大丈夫だよ。ペテル、私も今来たところだから」

 

 

そう言って、くすくすと笑うルージュさんにもう一度謝る。昨日はメンバーと遅い時間まで話し合っていた為寝坊してしまったのだ。ルージュさんに呼ばれたので行ってくると言った時にルクルットが血涙を流しながら怨み言を言っていたが気にしない

 

 

「よし、それじゃ少し目を閉じて。…場所を聞かないで貰えると嬉しいかな」

 

「は、はい?」

 

 

ルージュさんの言う通りに目を閉じると手を握られる。ドキリとしながら次に来る浮遊感に焦り声を上げかけるも直ぐに脚は地面に着いた

 

 

「良いよ、目を開けて」

 

 

そう言われて目を開けると薄暗い地下室の様な場所だった

 

 

「今から見る物は余り良い物じゃない。けど、リーダーである貴方には見る権利と決める権利がある。付いて来て」

 

 

先を歩き始めるルージュさんを追う様に歩き出す。奥に行くにつれて泣き声の様な声が聞こえて来る、やがてその声はハッキリと聞き取れる様になりルージュさんが一つの鉄格子の前で止まる、隣に立って恐る恐る覗き込むと

 

 

「っ…これは!」

 

 

鉄格子の向こうには一体のスケルトンが棒立ちになっており、そのスケルトンから傷だらけの身体を守る様に両肩を抱き震えている見覚えのある女が居た

 

 

「…君達、漆黒の剣を殺した女、クレマンティーヌだよ。魔法で幻術を見せてるから…あのスケルトンは彼女の記憶の中で最もトラウマになっている人間かモンスターに見えてるんじゃないかな?」

 

 

他にもあのスケルトンには絶望のオーラⅡを模した魔法を付与している為、只其処に居るだけでクレマンティーヌの精神を破壊し尽くし廃人にしていた

 

 

「な、何でこんな…酷い事を?」

 

「…?君を殺し、ニニャを快楽の為に拷問し殺した彼女に心を痛めるの?」

 

 

そう言われて、俺は唇を噛みしめる。確かに…確かにそうだ。ルージュさんの言っている事は理解出来る。怒りもある、憎しみもある。彼女さえいなければニニャはあんな思いをせずに済んだはずだ

 

 

「決めるのは貴方、この場で殺すのも放置して発狂も出来ずに苦しみながら朽ちて行くのを眺めるのも…許して助けるのも」

 

 

ルージュさんの言葉に腰にある剣に手が触れる、引き抜こうとするのを正常な人間の心が止める

 

 

本当に此処で殺す事が自分の憧れる英雄がするの事なのか?

 

 

このまま放置する事が仲間達が笑顔で喜ぶ事なのか?

 

 

「ルージュさん…彼女を助けて下さい」

 

「優しんだね、君は。分かった、彼女は解放するよ」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ペテルに再び目を閉じる様に告げたはエ・ランテルの入り口に転移する。既にクレマンティーヌはナザリックからカルネ村のグリーンシークレットハウスにユリに頼んで移動させて貰って居る、目を覚ますまで時間が掛かるだろう

 

 

「あ、そうだ。ルージュさん」

 

「ん?どうかしたの?」

 

 

ペテルが思い出したように声を上げる、首を傾げなら彼を見ると頭を下げながら

 

 

「ニニャをお願いします!」

 

 

どうやら、昨日話し合った結果。ニニャは一旦漆黒の剣を抜けて姉を探す事に専念する事になったらしい、そして姉を見つけた時、再び漆黒の剣として生活と夢を実現させる為に活動すると言う

 

 

「分かった、君達もしっかりと強くなるんだよ?帰ってきたニニャに馬鹿にされちゃうからね」

 

「はい!」

 

 

そう言ってペテルは今後の方針を話し合うと言う事でエ・ランテルに入って行った。さて、私もニニャや絶ちゃん達を迎えに行かないと…と、考えて居ると

 

 

「る、ルージュさん!」

 

「はい?」

 

 

大声で呼ばれて肩を跳ねさせながら振り向くと絶ちゃんと一緒にアルシェが立っていた

 

 

「どうしたの?アルシェ…あれ?昨日帰らなかったの?」

 

「は、はい…昨日は絶ちゃんと別の場所で泊まったで」

 

「そうなの?言ってくれれば一緒の部屋で泊まれたのに」

 

 

そう言うと、絶ちゃんがにやにやと笑いながら

 

 

「でも、アセルス様も偶には白薔薇様と二人っきりになりたいでしょ?」

 

「ふぇ!?あ、えっと、うん…」

 

 

絶ちゃんにそう言われると確かに久しぶりに白薔薇とは二人っきりで過ごした気がする。と思っていると

 

 

「でしょ?あ、白薔薇様とニニャは私に任せて」

 

 

そう言ってアルシェの背中を押して走り去る絶ちゃんに首を傾げる、どうしたんだろう?一人残されたアルシェを見れば、おろおろとしていた。その様子に思わず笑いながら手を取って街に向かって歩き出す

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

事前の予定よりも早くいなくなってしまった絶ちゃんに慌てているとアセルス様に手を握られてゆっくりと復興を始めるエ・ランテルを歩き始める。顔が熱いのできっと赤くなってる。そう思い顔を伏せて歩いていると

 

 

「ねぇ、アルシェ。これ可愛いよ?」

 

「は、はい!…?」

 

 

そう言って差し出されたのは小さく真っ白な小鳥のぬいぐるみだった。黒い小さな目にふわふわとした小鳥で確かに可愛い

 

 

「お!嬢ちゃん達それが気になるかい?」

 

「うん、可愛い。いくらするの?」

 

 

アセルス様とぬいぐるみを見ていると露店を開いていた人の良さそうな男性が自慢げに声を掛けて来た

 

 

「そいつは貴重な素材で縫われてるらしくてな…銀で30だが、嬢ちゃん達は可愛いから15でどうだ?」

 

「ふふ、ありがと」

 

 

慌てて銀貨を取り出そうとする前にアセルス様は金貨一枚で購入を終えていた。何処から取り出したんだろう…?

 

 

「す、すいません…」

 

「良いよ。このぐらい、…それで絶ちゃんとどんな話をしてたの?」

 

「!?」

 

 

ぬいぐるみが詰められた紙袋をこっそりアイテムボックスに仕舞うアセルス様を見つめてはぎょっとしてしまう

 

 

「ふふ…流石に気が付くよ。あ、でも言いたくない事なら言わなくても大丈夫だよ?」

 

「い、いえ、その…」

 

 

昨日、絶ちゃんに教えて貰った事をエ・ランテルの中心に向かいながらぽつぽつと話す。押しに弱いだとか、な、舐めたとか…私は、もう少し攻めても良い、とか…白薔薇様は最強だからダメ。とか…そんな事を言っている内に恥ずかしくなり少しずつ俯いてしまい

 

 

「…あの、さ。アルシェ、前半が私の恥ずかしい事で後半が告白になってるの気付いてる?」

 

「…え?」

 

 

はっと、視線を上げると頬を染めているアセルス様が頬を掻きながら歩いていた。そして、余計な事まで言っている事に気が付いて声を上げ乍ら走り出したくなるけど手を振り解くのは失礼なのでどうにか堪える

 

 

「よし!次は私の買いたい物を買いに行くよ!」

 

 

話を切り替える様にそう言っては手を繋いだまま走り出すアセルス様に半分引きずられる様に色々な物を見て回っては購入して行った

 

 

「あの、これ…何に使うんですか?」

 

「ん?んー…クラフト材料?」

 

 

全てのお店を回った時には太陽は頭上に、もうお昼みたいだ。ベンチに座っては製錬前の鉱石の原石を指差しながら聞くと、聞きなれない単語が返って来た。首を傾げながら頷いて置く、くらふとって何だろう?アセルス様が満足そうに黒い穴に紙袋を放り込んで行くのを眺めながら後で聞いてみようと決める

 

 

「ふぅ…仕舞い終わった。何か食べて行こうか?」

 

 

そう言って、再び立ち上がるアセルス様に連れられて歩き始める

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「…何で、隠れる必要があるんですか?」

 

「しっ、バレちゃうから黙る」

 

 

アセルスとアルシェが二人で居るのを物陰からこっそりと覗いて居るのは番外席次と白薔薇姫、連れて来られたニニャである。旅の準備をしている所を突然訪れた番外席次からルージュは妖魔の君でアセルスだと、伝えられ。訳が分からないままこの状態になっていたのでニニャはドン引きしていたりする

 

 

「意外と良い感じだね」

 

「アセルス様も楽しんでいらっしゃいますし…そろそろ戻っても…」

 

「白薔薇様は何処まで行くか見たくないの?」

 

「…」

 

 

宿に戻る事を提案する白薔薇様に絶さんがそう言うと固まったまま考え始める。其処は即答しましょうよ!

 

 

「ニニャはどう?」

 

「私は戻った方が…というより、いけませんよこう言うのは」

 

「そう?じゃ、私はこのまま続けよっと」

 

 

そう言って尾行を続ける絶ちゃんに白薔薇様もついて行ってしまう。一人で待つのも嫌なので見つかったらどう言い訳しようと考えながらついて行く事に

 

その後、しっかりと見つかり結局五人で昼食を取った事は言わなくてもいいよね?

 

 

 

 

 

 

「アセルスさん、何処に行ったんですか…」

 

「アセルス様ぁぁぁぁ…」

 

 

久しぶりにぼっちなった骸骨と淫魔も嘆いていたとか




無理矢理に感じる?百合イチャっぽいのが掛けたから満足です。

王国の背景的な部分を書くのはとても難しい


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王国での過ごし方

多くの人間が行き交う大通りを一人歩く親父。腰に鉄パイプを差し白のタンクトップに青のジーパン、頭には赤いハチマキに茶色の腹巻と渋い雰囲気を醸し出す顔にはとても勿体ない格好であるが本人は全く気にしていない。その異色な親父、ゲンに周りの人間はモーゼの海の様に避けていく

 

 

「…?そんなに変か?」

 

 

んー、参ったな。と、頭を掻きながら主人の言葉を思い出す。「絶対!目立っちゃダメ!酒は程々に!普段は鉄パイプ!アレはちょっと仕舞っておいてね!セバスとソリュシャンを困らせない!…何かあった時は全力で剣を振って」と、口うるさく言われている為に、この状況がばれた時を考えると…やばいな

 

 

(つっても、服なんざ持って来てねぇしな。昼間を歩くには目立つんだな)

 

 

少しだけ気にするも結局は今のスタンスを貫く事にする。目的である王国戦士団の詰め所は…この辺だったよな?流石にそろそろしっかりと覚えないとまずいな…聞くか

 

 

「そこのアンタ。王国戦士団の詰め所って何処だ?」

 

「ん…?」

 

 

偶々通りかかった、女四人と大男一人の集団に声を掛ける。先に反応したのは厳つい大男だった、良く見ればかなり奇抜な集団であり偶然とは言え声を掛ける相手を間違えたな、と少しだけ後悔した

 

 

「それなら、城の近くよ。行けばすぐにわかると思うけど?」

 

 

場所を教えてくれたのは育ちの良さそうな縦ロール金髪の女性だった、首から下げている紫色のプレートが目に付くな…と思いながら頷き片手を上げて

 

 

「呼び止めて悪かったな。ありがとよ」

 

「待て、お前…人間か?」

 

 

礼を言って通り過ぎようとしピタリと動きを止めて振り返る。赤いフードを被った少女が険しい表情で睨み付けて来るのを涼しそうな顔で流しながら

 

 

「どう見ても人間だろう。失礼な奴だな」

 

「そうよ!イビルアイ!いきなりどうしたの?」

 

 

先程の女性にイビルアイと呼ばれた赤ずきんが何かを耳打ちすると此方を見ながら目を見開く、何だ何だ?俺の格好はそんなに変か?そんな事を考えている間にこちらに近付いて来る金髪。左右に分かれる見た目がそっくりな忍者娘に後ろの男は武器に手を掛け乍ら睨んできている。服を替えておけばよかったか…?

 

 

「ごめんなさい。私はラキュース、蒼の薔薇のリーダーよ」

 

「なんだ、いきなり…ゲンだが?」

 

 

自己紹介をされて頭を傾げる。この世界の人間は道を尋ねた人間に名を名乗るのか?生き難い世界だな

 

 

「悪いが時間が無いんだ。歩きながらでもいいか?…道案内でもしてくれるのか?」

 

「…単刀直入に聞くわね。貴方は異形種なの?」

 

「あん?」

 

 

ラキュースにそう問われ、後ろで杖を構える赤ずきんを見る。成る程、奴が見抜いたのか…冒険者って言うのは優秀なんだな

 

 

「…そうだな、俺は異形種だ。それがどうかしたのか?」

 

「え?えっと、隠そうとしないの?」

 

「隠してどうするんだ…見た目が人間なら普通に街でも村でも生活はするだろ?」

 

 

ぽかんとするラキュースに呆れながらもいい加減時間が押しているので取り敢えず歩き出す事に

 

 

「ちょ、何処に行く気だ!」

 

「詰め所って言ったよな?あ、こっちか」

 

 

声を上げる赤ずきんを無視して城を正面にして右に行く。後ろを振り返ると先程の蒼薔薇と名乗った集団が付いて来ている。なんなんだ、そんなに珍しいか?

 

 

「よ、やってるか?」

 

「ゲンさん!と、蒼の薔薇の皆様!?」

 

 

戦士団の受付を顔パスし、修練場に直行する。すると若い戦士が剣を構えて木人にがむしゃらに剣を振っており声を掛ければ驚きで固まっている。ちなみに顔パスした事に後ろの集団は困惑していた

 

 

「おう、クライム。時間がぎりぎりだったのはわりぃなぁ、変なのに捕まったんだ。ほれ、此奴らだ」

 

「ゲンさん!ダメですって!彼女達は蒼の薔薇なんですよ!?」

 

「んな事言われたってな。俺は知らん」

 

 

ゲンの言葉に慌ててラキュース達に頭を下げるクライムにラキュース達は目を点にしていた

 

 

「此れはゲン殿、今日も来て下さったのか」

 

「暇だからな、今日は一段と疲れてそうだな」

 

「はは、少し色々とありましてな…今は戦士達を集めエ・ランテルの調査と物資を準備している所だ」

 

 

詰所から出て来たのは王国戦士団長のガゼフだった。その顔には疲労が見えるも元気に会話をしていた

 

 

「イビルアイの心配は無意味だった」

 

「謝罪を要求する」

 

「う、うるさい!」

 

 

後ろを向けば申し訳なさそうに頭を下げるラキュースとイビルアイが忍者な娘達にからかわれていた

 

 

「うちのおちびさんが悪い事をしたな。俺はガガーランだ」

 

「ティア」

 

「ティナ」

 

「お、おう…」

 

 

そして、急に名を名乗る三人に小さく頷く。さっさと済ませるか…そう考えて鉄パイプを修練場の脇に置いて、代わりに木刀を持つ。それに気が付いたクライムが駆けて行きゲンの正面で木刀を構える

 

 

「あの、ガゼフさん。あのゲンという方は?」

 

「…私も良くは分かっていないのだ。ただ、こうして時折来てはクライムに稽古を付けてくれてな…私よりも彼は強いぞ」

 

 

その言葉に再び驚く蒼の薔薇、ラキュース達の視線はゲンに集まる。やり難さを感じながら溜息を零すと

 

 

「すいません、無理に稽古をお願いしてしまって…」

 

「いや、そっちじゃない。アイツらが見て来るのに慣れてないだけだ。よし、始めるぞ。打ち込んで来い」

 

 

その言葉を合図にクライムはゲンに向かって木刀を振り下ろす。それは紙一重で避けては軽く脇腹を叩く、痛みに顔を歪めながらもクライムの手は止まらずに袈裟切りを行う。それを軽く弾いてはデコピンをクライムの額に撃ち込み、隙だらけの胴体に防具の上から軽い突きを入れる

 

 

「うぐっ…!」

 

 

呻きながらも木刀を構えるクライムは再びゲンに切り掛かって行く

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ぜぇーはぁー…ぜぇ…」

 

「早く起きて休んだ方が良いぞ?いつもより長かったしな」

 

 

地面に倒れ込み荒い呼吸を繰り返すクライムに苦笑いしながら声を掛ける。意気込みは良いんだがな、どうにも相手の攻撃を恐れない節がある、それはいけない。命が幾つ有っても足りないだろう

 

 

「す、すみません…」

 

「気にすんな。ほれ」

 

 

そう言って、クライムを起き上がらせ連れて行くと

 

 

「ゲンって、言ったわね。改めてごめんなさい、勘違いをしていたわ」

 

「イビルアイ、謝罪」

 

「わ、分かってる!…すまない」

 

 

何故か蒼薔薇に謝られたので適当に相槌を打っておく。正直、どうでも良いのだが

 

 

「わかりゃいい、んで。態々付いて来たのは何でだ?」

 

「王都で堂々と異形種が歩いていたら警戒もするだろ!」

 

「そうか?俺は気にしないが」

 

 

と、言うかお前が言うのか。と、言わなかった俺は偉いな…と思いながら縦ロールの姉ちゃんが興味津々と言った様子で近付いて来る

 

 

「あの、もし時間があったら私とも手合わせをお願いしたいのだけど…」

 

「お前はバトルジャンキーなのか?…まぁ、いいが」

 

 

酒場が開くにはまだ時間がある。そう言うとラキュースは目を輝かせながら意気揚々と修練場に向かっていく、その背中を溜息を吐きながら眺めては仕方なく相手をしてやる事に

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「鬼ボス死す」

 

「鬼リーダー、惨敗」

 

「こいつぁ…予想外だな」

 

 

ラキュースが一方的にボコられ、後半は只の稽古になった事に蒼の薔薇は驚きを隠せずにいた。重い剣を振り慣れているせいか木刀を力強く振り過ぎだ、とか。大上段振り下ろしは格下にやれ、とか。色々と言われながらラキュースは扱かれた

 

 

「つ、強過ぎる…」

 

「ま、成長が見込めるんだ。クライムと一緒に初歩から鍛えるんだな」

 

 

モンスターと人間では相手にした時の戦い方は変わる。この縦ロールの姉ちゃんは人間を相手にした事が少ないのではないだろうか?もしくは相手になる人間が居ないと予想する。まぁ、この世界基準だが

 

 

「さて、そろそろ帰らせてもらうぞ」

 

「あ、えぇ!ありがとうございました」

 

 

右手を上げ乍らスタスタと去って行く、何か疲れたわ…

 

 

(異形種でありながら人間に技術を教えて行く!見た目はどう見てもダメ親父なのに剣を握れば人が変わったかの様な強さを誇る!くぅぅ!カッコいい!あの鉄パイプは武器なのかしら?もしかして振ると武器になる!?)

 

猛烈な速度でメモ帳に何かを書き始めるラキュースに呆れ果てる蒼薔薇メンバー、何が起きているのか理解していないガゼフとクライムが残されたとか

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ん…んん…」

 

 

昼を過ぎた頃、ベッドの中で寝返りを打ち仰向けになっては瞼を上げる。んー…この起きそうで寝そうな瞬間が好き。そう思いつつ、再び身体を横に向けば昨日から此処に住み始めたニニャがすやすやと寝ていた。時折見せる、泥の様な瞳が無ければ可愛いのに…どのタイミングでクレマンティーヌと会わせようか考えていると後ろから腕を回され抱き締められる。首を傾げなら後ろを見れば

 

 

「むにゃぁ…」

 

「どうしたの絶ちゃん?」

 

 

寝惚けた番外席次が背中に引っ付いていた。ゆっくりとなぞる様に上がって来る手を感じてはぺしっと、叩いてそのまま握ると

 

 

「むぅ…ダメぇ?」

 

「何がダメなのかは聞かないけど、胸を触ろうとするのはどうかと思うよ?」

 

 

実は起きていた番外席次に呆れながら抵抗する手を握って離さないで置く、手で触る事を諦めたのか今度は身体を擦り付け乍ら右耳に甘噛みをして来るので驚いて跳ね上がる。こ、この子何処でそんな事を覚えたの!?

 

 

「…昼間から何してるんですか」

 

 

いつの間にか起きたニニャが苦笑いしながらアセルスと番外席次を見ては少し考えた後に、にやっと笑う

 

 

「お邪魔します…」

 

 

そう言って、番外席次の手の上からアセルスに抱き着くニニャに番外席次が「えぇ!?」と声を上げる

 

 

「あ、うん。良いけど…もうお昼だよ?」

 

「朝方まで起きていたんですから良いんです」

 

 

そう言って、離れるそぶりを見せないニニャに番外席次がより強く抱き着いて来る。間に挟まれたアセルスは何時も抱き枕にされる…と、少しだけ嘆いた




御読み頂き有難うございます。蒼の薔薇と親父が接触したのでどうなることやら…次回は再び帝国へ


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マッチポンプは程々が丁度いいと思う

「んー…」

 

 

ナザリックの一室に腕を組みながら机の前で悩む骸骨が居た。親友で割と気の許せる彼女から貰った香蝋に火を点けて香りを楽しんで居た時だった。ふと、この前の冒険を思い出していたのだ

 

 

「結局アセルスさん達は銅級のままなんだよな。ミスリル級と銅級が一緒にパーティーを組む事は可能だけど…」

 

 

どうせなら同じ階級で冒険をしたい。そんな思いが脳裏を過ぎり。やはり、あの時無理矢理にでも居させるべきだったか?と、思いつつも本人が「んー、折角帝国で冒険者になったんだし、帝国で上げたいな」っと、言っていたので無理強いは出来なかったし階級を上げる気はある様だった

 

 

「確か…カッツェ平野だったか?」

 

 

帝国と王国の争いの場となる平野。普段は霧に包まれておりアンデッドが徘徊している場所と聞いている

 

 

「ふむ…これは、使えるか?」

 

 

彼女の性格を考えれば何か問題が起きれば助けに入る事が多い。であるならば、バレない程度のマッチポンプを用意すれば簡単に階級が上がるのでは?

 

 

「…適当なアンデッドでも召喚すればいいだろう」

 

 

そう考えて、本当に適当なスクロールを取り出す。魔法で出した場合、時間が経つと消えてしまうので意味が無い

 

 

「よし、魂喰らい(ソウルイーター)ぐらい…普通だよな?後は適当に周辺国を煽って…」

 

 

鼻歌を歌いながらスクロールを確認してはデミウルゴスを呼び出す。適当な理由を付けて指示を出せば「直ぐに配置してまいります」と、言い残して居なくなったのを確認し

 

 

「さて、俺もエ・ランテルに行くか。…後でデミウルゴスに褒美を出そう」

 

 

自分の我が儘を手伝わせてしまったのを悪く思いながら今日も骸骨は冒険に出かける

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

帝国の皇城にある執務室にて今日も報告書を読みながらジルクニフは溜息を吐く。王国領にあるエ・ランテルで起きた謎のアンデッド大量発生事件、これを解決したのは銅級の冒険者二人と一般人が一人と言う報告が書かれた紙をもう一度読む

 

 

「一般人も気になるが…規模を見ても銅級のみでの解決は不可能だ。何か協力者が居たのか…階級が低いだけなのか…もしくは偽装か」

 

 

どちらにしても王国の戦力が上がった事には変わりはない。この帝国に来てくれれば引き抜く為に手を尽くすのだが…

 

 

「男ならレイナースに相手をする様に指示すればいいが。女だったら考えなければな」

 

 

そう呟いて背凭れに寄り掛り再び溜息を吐いた瞬間、勢い良く扉が開かれ思わず跳ね上がる

 

 

「し、失礼しました。緊急のご報告があります!」

 

「今度はなんだ…?」

 

 

申し訳なさそうに頭を下げる兵士に苦笑いしながら用件を聞く

 

 

「か、カッツェ平野にて未確認アンデッドと遭遇した部隊が消息を絶ちました。…その部隊にはバジウット殿とレイナース殿が合流していたそうですがいずれも消息不明です…依然アンデッドの進軍は続いており、視認出来る距離まで来ております。未確認アンデッドは姿を消したとの事です…」

 

「何だと!?くっ…至急迎撃部隊を配備しろ。冒険者、ワーカーも余さず使え!帝国の門を潜らせるな!…隠密には消息を絶った部隊とそのアンデッドを探索をさせろ。だが、戦闘は行うな被害が増える可能性がある」

 

 

敬礼をして走り去る兵士を確認し、席から立ち上がる。窓から街を眺めては忌々しそうに表情を歪めた

 

 

(首都にアンデッドが進軍して来るなど今までになかった…王国の事件と言い…奴らが、ズーラーノーンが絡んでいるのか?)

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

霧が立ち込める平野に一人の悪魔が降り立つ。召喚した骨の獣の様な姿を取り淡い緑と濁った黄色に点滅するモンスター。魂喰らい(ソウルイーター)を眺めては満足げに頷き、効率良く周囲に居る人間から生命を吸い取りスクロースに溜め込んで行く。此処から一番近いバハルス帝国には支配下に置いたアンデッドで部隊を組み上げ隊長として偶然発見した死の騎士(デスナイト)を配置。本来はあり得ない連携を取らせて進軍させている

 

 

「さてさて、魔力量は少ないですがそれなりの数の人間がこの場所に居る様ですね。使い物にもならないアンデッドですが…それは魂喰らい(ソウルイーター)に食べてもらいましょうか」

 

 

状況を確認しながらこの分なら放って置くだけで良さそうだ。と判断し気絶した人間は指示通り一カ所に集め、魂喰らい(ソウルイーター)に守らせる。モモンガ様の考えは分からないがアセルス様の為だと言っていた、ならば命に代えてでもこの作戦は遂行しなければならない

 

 

「しかし、殺しは許可しないと言うのは妙ですね。何か深いお考えがあるのでしょうか?」

 

 

モモンガ様の考えがまだ理解出来ていない己に恥じ入りながらも命令通りに殺害は行っていない。少なくても生きて行動不能な状態にさせているだろう。…あくまでも支配下に置いたアンデッドに限るが

 

 

「このぐらいで良いでしょう。やり過ぎて失敗してしまったら笑えませんからね」

 

 

意識の無い人間達を眺めては笑みを浮かべて黒い渦にデミウルゴスは姿を消して行った

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「本当に付いて来て大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です!…多分」

 

 

割と奇抜な集団が帝国の大通りを歩いていた。先程、偽名を使ってアルシェも冒険者になり組合を出た所で適当に宿を探す。何故かクエストは全て受ける事が出来ず、代わりに緊急性の高いクエストの準備が整うまで待って欲しいと言われたのだ。因みにこの集団、淡い赤色の執事服に身を包んだ中性的な顔の男性に全身をすっぽりと覆い隠すフード付きのローブを来た人物、現代風衣装の少女と魔女っ娘に白い薔薇を連想させる様なお嬢様一人と、中々に目立つ組み合わせである。クレマンティーヌはカルネ村に置いて来ている

 

 

「アルシェさんも何か事情が…?」

 

「あー…うん」

 

 

ニニャの質問にどう返したら良いのか分からないのでアルシェを見ると、こくりと頷き

 

 

「実は…」

 

 

[せつめいちゅう]

 

 

「成る程…だから、あの時カルネ村にエルフ達が居たんですね」

 

 

アルシェの話を例の瞳で聞き終えたニニャは納得した様子で頷く。終始アルシェは怯えながら話していたのが少し気の毒だったけど、ニニャなりに理解を示したようで安心した

 

 

「…?なんか騒がしいね?」

 

 

脚を止め周りを見れば…城に向かって住民が集まり出している。誘導しているのは銅級の冒険者や装備が貧弱なワーカーだろうか?その時だった、後ろの方から動揺が広がる声が聞こえる。振り返ってみれば隊列を組んでいた騎士達から悲鳴が上がっていた

 

 

「…行こう。ニニャは白薔薇と一緒に居て、いいね?」

 

「は、はいっ!」

 

「お任せください」

 

 

緊張した様子で返事をするニニャと優雅に一礼する白薔薇に頷いては駆け出す

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

伝言にてデミウルゴスから首尾を聞いて冷や汗を垂らしたのは数分前。確かに帝国をちょっと脅かして、アンデッドを出して来て。と頼んだけど…まさか、アンデッドで部隊を作って進軍させるとは思っても居なかったのだ

 

 

「や、やばぁ…」

 

「どうかしたんですか?モモンさん」

 

「んん!?いや、何でも無いぞ」

 

 

一緒に昼食を取っていたペテル、ルクルット、ダインに心配されながら慌てて笑顔で返す。パンドラも心配そうに見つめて来ているので少々居心地が悪いが

 

 

「ミスリル級のクエストは少ないと思っていてな、どうせなら未知の土地に行ってみたい物だ」

 

「未知の土地ですか、確かに行ってみたいですけど」

 

「開拓されていない土地には強力なモンスターが多いのである」

 

「流石に二回も死にたくねぇな…」

 

 

モモンの言葉に苦笑いしながら答えるペテル達にやはり自分の知ってる冒険とは違うと確信し、ある提案を持ちかけてみる

 

 

「なら、行ってみませんか?勿論、私が護衛しますから」

 

「え、行くって…未開拓の地にですか?」

 

「はい、珍しい薬草や鉱石を発見する事が出来れば、一攫千金も狙えますよ」

 

 

そう言うとペテル達は難しそうな顔をするも自分達の見た事の無い土地に行く事には興味がある様子だ

 

 

「…わかりました。モモンさんが其処まで言うのなら付いて行きます」

 

「ありがとうございます!私とアクターからは離れないで下さいね?」

 

 

そう言ってさっそく馬車を手配する為に冒険者組合に行く。少しの間、漆黒の剣と漆黒の二英雄はエ・ランテルを離れると伝えて置く。地図を広げては詳しく記されていない地へと馬車を走らせるのだった

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「嘘だろ…」

 

 

誰が呟いたのかは分からない。だが、目の前の光景を見ればそう言いたくなる気持ちは分かる、視界に映るのはカッツェ平野に居るはずのアンデッド達が凄まじい速度で帝国へと迫っているのだ。その先頭には死の騎士(デスナイト)が何体もおり、とてもじゃ無いが戦うなんて無理だ…この場から逃げ出したい、逃げて家に帰りたい…

 

 

「…これ程の死の騎士(デスナイト)にこの軍勢…自然に起きた現象とは考えられぬな」

 

 

そう呟くのは帝国が誇る、大魔法詠唱者フールーダ・パラダイン。周りには三十人の弟子を従え側面の門に目もくれずに正門に迫るアンデッド達を見据える。死の騎士(デスナイト)…本来であれば嬉々として捕縛し研究するのだが、今回ばかりはそれは叶わない。最悪の場合この国が滅ぶか自身が死ぬ可能性すらあるのだ

 

 

「未知のアンデッド…死の騎士(デスナイト)では無いのか…まさか、それ以上の存在が?」

 

 

つい、深く考え込み掛けるのは騎士団長の声が我に返らせる

 

 

「いかんな、そんな場合ではない。飛べるものは空から攻撃を始めるのだ!此処が突破されれば帝国は地獄へと成り果てるぞ!」

 

 

帝国の全戦力、冒険者、ワーカーが武器構え迫り来るアンデッドを喰い止める為に前進を始めた




モモンガの思い付きとやり過ぎたデミウルゴスで禿げ上がるジルクニフ君

ロマサガRSのアセルス可愛いんじゃ^~

御読み頂き有難うございます。次回は…戦闘?です


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帝国防衛戦

死の騎士(デス・ナイト)が剣を振るう度に騎士達が倒れる。一人や二人では無く、五人や六人と大人数が倒れて行く。唯一死の騎士(デス・ナイト)を抑えられるのは闘技場の王者、トロールのゴ・ギンだけだった

 

 

「ぐぅ…!死の騎士(デス・ナイト)、伝説に偽りのない強さ!」

 

 

自身の敵は居ないという自負はあった、強靭な肉体に分厚い皮膚さらには再生能力を備えている自分は最強だと。だが、目の前のアンデッドは違った…アンデッドでありながら今まで戦って来たどの騎士よりも卓越した技に強固なタワーシールドを軽々と振り回す腕力。どれを取っても最強だ

 

 

「だが!俺も負けてはいない!」

 

 

そう吠えたゴ・ギンは死の騎士(デス・ナイト)に挑む。周りの雑魚アンデッドを蹴散らし再び死の騎士(デス・ナイト)と全力で鍔迫りを行い進軍を防ぐ

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「聞いていませんよ!死の騎士(デス・ナイト)が居るなど!くっ、お前たちは此処でアンデッドを倒し続けなさい、それで依頼は完了するでしょう!」

 

 

アンデッドと人間の乱戦状態になった戦場で男は吠える。奴隷のエルフ達を残し一人街へと逃げ込む様に走り去ってしまう。残された彼女達はただ命令通りにアンデッドに向かって矢を魔法を放ち続ける、目の前の騎士がアンデッドに噛み付かれ悲鳴を上げながら悶えるのを見て必死になるが命令を無視する事は出来ない。逃げ出す事すら許されていないのだ

 

やがて、悶える騎士をタワーシールドで弾き飛ばしながら現れる死の騎士(デス・ナイト)に周りの人間達は距離を取る様に逃げ始める。だが、奴隷の彼女達は逃げる事は許されていない、絶望を眺めながら立ち尽くす。迫る盾の殴打を喰らって生きて居られるだろうか?そんな事を考えながら振り抜かれる盾を眺める

 

 

「君達のご主人は何処にいるのか。興味あるなぁ」

 

 

迫る盾を弾き死の騎士(デス・ナイト)を両断するは番外席次。その後ろ姿に私達は呆然とした、私達と同じエルフの様だが強さも雰囲気も違って感じたのだ

 

 

「ほら、逃げるなら今の内だよ。大丈夫、君達の主人が許さなくても…妖魔の君が許してくれるから逃げなよ」

 

 

最後の方は小さな声で彼女はそう言った、私達は身体を跳ねさせ急ぎ足で前線から離れ主人から隠れる様に建物へと入った

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

絶ちゃんが間に合ってよかった。そう思いながら飛行(フライ)で上空を飛ぶ、フールーダを含めた弟子達の姿が見えるが今は気にしない

 

 

「すぅ…『集団標的(マス・ターゲティング)』、『魔法位階上昇化(ブーステッドマジック)』、『火球(ファイヤーボール)』!」

 

 

アセルス様が用意してくれた大杖を振り上げ、カルネ村での訓練で使える様になった魔法を複数展開する。首飾りの効果だとアセルス様は言っていたから、多分…使用出来る位階魔法を増やしてくれる。そんなマジックアイテム何だと思う

 

今までの数倍以上の大きさと数を展開してはそれを一斉にアンデッドに放つ、一つ着弾する度にアンデッドは燃え尽き。数を大きく減らしていく、続け様に火球(ファイヤーボール)を放ち更に数を減らしていく

 

 

「よし…!これなら、私も役に立てれる…!」

 

 

そう思いながら次々と魔法を放ち、前線を押し上げて行く絶ちゃんを支援して行く。すると、紅い閃光がアンデッドの間を走り抜けていき中心で大きな輝きを放つ。擦れ違ったアンデッドも輝き飲まれたアンデッドも瞬時に滅んで行く

 

 

「…アセルス様の戦い方は派手だと思う」

 

 

苦笑いしながらその輝きを眺めては消え去って行くアンデッドに少しだけ合掌した

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あの、白薔薇姫様…その、ずっと握って居なくても大丈夫ですよ…?」

 

「申し訳ございません、つい…」

 

 

ルージュさん…じゃなかった、アセルス様が離れてからずっと白薔薇姫様に手を握られて違う意味でドキドキとして居たりする。…この人は本当に不思議な人だと思う

 

 

「い、いえ。大丈夫です。それよりも避難して来る人を助けましょう!少なからずアンデッドも入って来てますから!」

 

「はい、ニニャ様は離れないで下さい。もしもの事があればアセルス様が悲しみますから」

 

「は、はい!」

 

 

そう言って、白薔薇姫様を先頭に街の中を走り始める。指輪の力なのか幾ら走っても息も上がらない。王国の国宝に似た装備があると聞いた事があるけど…まさか、指輪サイズの物がアセルス様から渡されるとは思っていなかったです

 

 

「っ!火球(ファイヤーボール)

 

 

子供を抱えた女性がスケルトンに襲われているのを見付け、慌てて魔法を放つ。燃え盛るスケルトンはその場に崩れ灰になるのを見て思わず声が漏れてしまう

 

 

「流石ですわ」

 

 

嬉しそうに笑う白薔薇姫様を見れば、既に数体のアンデッドを片付けていた。手には何も持っていないのに鋭い物で切り裂いた様な傷がアンデッドに見えるから、何かしらの魔法を使ったのかな…?

 

 

「あ、ありがとうございます!私達が逃げて来た場所からもモンスターが入って来ていて…」

 

「わかりました、早く城へ!」

 

 

私がそう言うともう一度お礼を言って走り去って行く親子を見て息を吐く。どうしよう…確かに以前の私よりも強くなってる、でも…二人で行っても大丈夫なのかな

 

 

「すまない!貴女達は冒険者だな!?こっちのアンデッドを抑えるのを手伝ってくれないか!」

 

 

血相を変えて声を掛けて来たのはフルプレートに身を包んだ騎士だった。金髪に濃い青い瞳、典型的な騎士と言った雰囲気を感じさせられる

 

 

「ど、どうしましょう…?」

 

「大丈夫ですわ、ニニャ様。えっと…」

 

 

私が戸惑っているとクスリと白薔薇姫様は笑ってそっと手を握られる、もう片方の手を騎士の男性に差し出し。名前を呼ぼうとして首を傾げていた

 

 

「此れは失礼を…私の名はニンブル・アーク・デイル・アノックと申します」

 

「白薔薇です、此方はニニャ様。ニンブル様もお手を」

 

 

そう言われたニンブルと名乗った騎士は困惑しながらそっと、白薔薇の手を握ると、ふわりと身体が浮き一直線にアンデッドの方へ飛んで行く。驚くニンブルにニニャは苦笑いしつつ、真っ直ぐに群がるアンデッドを目を向ける

 

 

「申し訳ございません。驚かせてしまいましたか?」

 

「い、いえ。飛行(フライ)が扱えるとは思っていなかったもので」

 

 

そう言いながらも着地すると同時に騎士達の指揮を執るニンブル。白薔薇は周りを見ては傷付いている騎士が多い事を確認し

 

 

「『大治療(ヒール)』、『聖域加護(サンクチュアリプロテクション)』、『(シールド)』」

 

 

全ての騎士を対象に癒しと守りの魔法を掛ける。白き聖なる光は守りの加護となり、トランプから現れる盾は害成すモノを弾き防ぐ壁となる

 

 

「こ、これは…!?」

 

 

白薔薇姫様の補助魔法にその場に居た全ての人間が声を上げて驚く、急に傷が消えアンデッドの攻撃が効かなくなったのだから。と言うより、私も驚いてる。不思議と恐怖が湧いてこないのだ

 

 

「一度私が薙ぎ払います。その間に態勢を立て直してください」

 

「なっ!?貴女が優秀な魔法詠唱者(マジック・キャスター)なのは分かりますが。お一人で前線に出るのは危険でございます!」

 

「ふふ…お優しいのですね。それでは、少しの間お願いします」

 

 

ふんわりと微笑む白薔薇姫様はそう言って、アンデッドの群れの前に立ち魔法を唱え始める。ニニャとニンブルにその周りに居た騎士達は飛び込んで来るアンデッドの迎撃を始める

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

アセルス達がモモンガの起こした騒動の鎮圧に勤しんでいる間、一人の少女は洞窟を守る二人組の男を観察していた。その洞窟はエ・ランテルの北門からある程度離れた森の奥にあり、偶然人攫いをしている所を少女、シャルティアが発見したのだ

 

 

「見た目だけだと…分からないでありんすねぇ。顔とかに書いてあると助かるんでありんすが…」

 

 

シャルティアが何故此処に居るのかと言うとモモンガから武技を持つ人間を捕獲せよ、と命令されていたからだ。人を襲う様な犯罪者なら消えても大事にはならないだろうという考えもあるのだが

 

 

「捕まっている人間を助ければアセルス様から褒められるでありんす!」

 

 

つまりこれである。武技を持つ人間はどうせ居ないと踏み、捕まっている人間を助け出すと言う事が重要なのである。もしも、武技を持つ人間が居たのなら捕まえる事でモモンガ様からも褒められる、まさに完璧な計画である

 

 

「そうと決まればさっさと掃除を始めるでありんす」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「なぁ、さっきの女はもう使っちまったのかな?」

 

「知るか、どうせ俺達は一番最初に使う事は出来ねぇんだ」

 

 

見張りをやっている男達は溜息を吐きながら岩から腰を上げて周りを見ると

 

 

「…おい、何だアイツ」

 

「あ?アイツって…?」

 

 

見張りをしていた相方が指差した方向を見れば人形の様に整った恐ろし程に美しい少女が歩いて来ていた。格好を見る限り何処かの貴族だろうか?男達は顔を見合わせてニヤリと笑う。貴族の令嬢を攫えば身代金が貰える、くれないのであれば使うだけ使って売り払ってしまえば良いと考えたのだ

 

 

「お…」

 

 

男が声を発しようとした瞬間、視界が暗転する。何が起きた?と考えた時には意識を失っていた

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「んー、やっぱり弱いでありんすねぇ」

 

 

声を掛けて来た人間の頭を消し飛ばし、横で倒れ込むもう一人を見れば怯えた様子で此方を見上げていた

 

 

「あ、生きてた。ブギが使える人間は何処にいるんでありんす?」

 

「は、は?武技?ぶ、武技なら、この洞窟の奥に居る。ぶ、ブレイン・アングラウスが使える!」

 

 

そうでありんすか、と心から嬉しそうな表情を浮かべながら言葉を返し。その男の顔も肉塊に変える。特に警戒もせずに洞窟に入れば

 

 

「ブレイン・アングラウス!ブレイン・アングラウスは何処でありんすか~?」

 

 

嬉々として名前を呼びながら足を進める。捕まっている人間を救助して、武技を持つ人間を捕まえる。この二つが出来れば至高の御二人に褒められる。それだけを考えながら先程から現れる醜い人間をバラバラにして行く

 

 

「…よぉ、大分派手に暴れてるからどんな大男が来るのかと思えば。随分と小さいお嬢ちゃんじゃねぇか」

 

 

洞窟の奥、少しだけ広い部屋に男が座って待っていた。今までの肉と比べれば雰囲気も違うし確かに強いのかもしれない?程度の感覚はする

 

 

「ブレイン・アングラウスでありんすか?」

 

「あぁ、そうだ。俺一人を探す為に此処迄したのか?」

 

「何の事でありんす?私は此処に散歩しに来ただけでありんすよ?」

 

 

その返答にブレイン・アングラウスは冷や汗を垂らす。冒険者でも手を焼く傭兵集団を散歩のついでの感覚で壊滅させた目の前の存在は今までに見た事の無い程の強者だろう、と考える

 

 

「…そうか、俺に何の用だ?」

 

「私と一緒に付いて来て欲しいでありんす」

 

「成る程、雇うって雰囲気じゃねぇな…」

 

 

そう言うとブレインは腰を落とし構えに入る。それを見たシャルティアは口元を歪めながら期待する様に眺め、スタスタとブレインに近寄って行く

 

 

(此奴は何も警戒していない。どんな強い奴だろうか、神速の斬撃は防げまい…!領域に入った時が終わりだ!)

 

 

「…!!」

 

「?」

 

 

間合いに入ったシャルティアにブレインの剣閃が迫る。が、パシっと軽い音が洞窟に響く

 

 

「遅い剣でありんすねぇ…ゲンやコキュートスに比べたら子供遊びでありんす」

 

「な、ぁ…!?」

 

 

可愛らしく首を傾げ期待外れ、と告げながら剣先を人差し指で受け止めたまま、ブレインを見つめるシャルティア。ブレインの目は前髪で隠れて良く見えず、更には震え始めたのだ

 

 

「…どうしたんでありんす?」

 

 

アセルス様からのもう一つの命令を思い出しては慌て始める。『出来れば、善良な人間なら怪我をさせずに連れて来てね?』と、言われていたのだ。剣を受け止めるだけで人間は怪我をするんでありんすかぁぁ!?と内心では焦っていたりする

 

 

「う…」

 

「う…?」

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

叫び声を上げ乍ら、全力で走り去ってしまうブレインにぽかんっと、してしまうシャルティア。はっと我に返ると慌てて追いかけようとした瞬間だった

 

 

「おい!誰か居ないのか!冒険者だ!生きている奴が居るなら返事をしてくれ!!」

 

 

入り口の方が聞こえる声に更に焦る。救いなのは吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)を召喚して居なかった事だろう

 

 

「冒険者を殺すのはダメでありんす!でも、アイツを追い掛けないと…はっ!見つかる方がやばいでありんすか!?」

 

 

近付いて来る足音に慌てながら何かないかと周りを見ながらポケットに手を入れて、一つの腕輪が指に触れいい考えを思いつく

 

 

「アセルス様には感謝でありんす…」

 

 

そう言って、人化の魔法が掛かっている腕輪を付けて人間に化ける。そのまま目の前にある女性達が閉じ込められている檻に手を掛けてガチャガチャと懸命に開ける演技を始める

 

 

「っ!大丈夫か!?」

 

「はぇ!?だ、大丈夫でありんす。でも、この方達が…」

 

「任せろ!君は下がっているんだ!」

 

 

複数の冒険者達が現れては檻を開けようとするシャルティアを保護する様に下がらせる。大人しく従うシャルティアを警戒する事も無く次々と檻を開けては囚われていた人間を連れだしていく冒険者達

 

 

「此処に居た盗賊達は誰にやられたのか…見ていたかい?」

 

 

温厚そうな男の冒険者がシャルティアの前で屈み込み優しく質問をする。言葉を良く選んでいるように感じたシャルティアは首を傾げ乍ら、嘘を思い付く

 

 

「ブレイン・アングラウスと言う男が暴れていたでありんす」

 

「っ!?それは本当かい?…そうか、分かった。街まで送ろう歩けるかい?」

 

 

そう言って手を差し出す男に頷いては自分で立ち上り、洞窟の入り口まで歩く。入り口には馬車が止まっており、その馬車を指差す男の視線が外れたと同時に森の奥へと姿を消す

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「っ…凄い風だな。大丈夫…」

 

 

後ろを振り向いて先程の貴族の少女に声を掛けようとして言葉を失う。少女の姿は何処にも無く周りを見ても見つからないのだ

 

 

「どうした?イグヴァルジ?」

 

「いや、さっき。女の子を見なかったか?貴族っぽい」

 

「…?いや、見てないが…それよりも衰弱している女性が多い。早く戻ろう」

 

「…そうだな、これを使え。多少楽になるはずだ」

 

 

ポーチから複数のポーションを仲間に手渡すと笑い掛けられた、何を笑っているのか首を傾げると

 

 

「ほんと、変わったなお前」

 

「何だそんな事か。今までの俺が変だっただけだ。死人は出さない、それだけでいいんだ」

 

 

仲間と馬車に乗り込みエ・ランテルへと向かう。ブレイン・アングラウスが何故傭兵団を裏切り切り殺したのか…あの少女は何だったのか?謎が残ったが今は放って置こう

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

しとしとと雨の降る中一人の男がリ・エスティーゼ王国の街中をふらふらと歩いていた。その男の表情は何も無くただ絶望した目をしていた。己を鍛える為とひたすらに剣を磨き上げていた、武技を扱える様になりガゼフとの再戦を望み始めた矢先だった

 

 

「俺の剣技が…子供遊び、か」

 

 

人間ではない少女。それは一生の内には絶対に辿り着く事の出来ない底知れない強さを持つ者だったのだ。奴は武技を持つ人間を探していた、俺は偶々運良く生き残れたのだろう…ふと目に入ったのは深夜だと言うのにまだ開店している酒場だった。雨に濡れて身体も寒い、これからを見つめ直す為にも一旦休憩しようと店に入る

 

店内は珍しい作りをしていた、店の中央には円状のステージがあり。四人の人間が楽器を演奏していた、そのステージから左の角に位置する場所にテーブル席があるのだが、その席にはまた珍しい格好をした親父がグラスを煽っていた。一目見ただけでもわかる、この親父…普通じゃない。何が?と言われると言い表す事は出来ないが、俺は気が付いたのだ

 

 

「…席なら空いてるぞ?」

 

「あ、…すまない」

 

 

酒を飲んでいた親父が此方気が付いたのか目の前の席に視線を移しながら言う。慌てて頭を下げながら大人しく席に着く

 

 

「…変な奴だな、何も頼まないのか?」

 

「いや、酒を飲むというよりは休憩しに来たんだ」

 

「そいつは勿体ねぇ…マスター、此奴にも同じいのをくれ。俺の奢りでいい」

 

 

あいよ。と返事をするマスターと目の前の親父に申し訳なく思いながら座っていると一つのグラスが置かれた。礼を言って口を付けるとかなり強烈なアルコールを感じる

 

 

「っ!?ごほ、ごほ!」

 

「ん?悪いな、強過ぎたか?」

 

「い、いや。一気飲みしていたから弱い酒だと思っていた」

 

 

酒でむせると辛いぞ。と笑いながらグラスを煽る親父に苦笑いを零すと水の入ったグラスが追加された。この酒場のサービスは大したものだと思う

 

 

「それで、今にも死にそうな顔をしてどうした?俺に用があるのか?」

 

「…そんなにひどい顔をしていたか?」

 

「あぁ、自分の信じていた物を無くしたような顔だ。…ん?刀か…珍しいな」

 

「っ!?」

 

 

目の前の親父は俺の武器を知っている?いや、博識な奴なら知っているか…そう思いながらおもむろに刀をテーブルに置く

 

 

「中々良い刀じゃねぇか。手入れも行き届いてる…が、擦り減り過ぎてるな。ん?剣先が欠けてるじゃねぇか」

 

 

置いた刀を慣れた手付きで鞘から抜いては刃を見て呟く親父。やはり、普通じゃない刀を見る目が先程までの暢気な物では無いからだ

 

 

「実は…」

 

 

今日の出来事を親父にぽつぽつと話して行く。親父は目を閉じながら大人しく話を聞いており、話し終えると目を開く。苦笑いしながら

 

 

「成る程な…まぁ、余り悪く思わないでくれや。アイツなりに色々やってるみたいだしな…そいつが言っていたゲンって、言うのは俺だ」

 

「…!?」

 

 

アイツの仲間!?と思い思わず席を立ち掛けるのを手で制された。大人しく再び席に着くと少し悩んだ様子で

 

 

「アイツは…お前にとっては規格外の相手だ。気にするな、だが…剣を極めたいなら。手伝いぐらい出来るぞ?」

 

「アイツの仲間じゃないのか?」

 

「仲間と言えば仲間だ。だが、別に武技を持ってる人間を探している訳でも無いしな。…殺しも必要ならやるが無闇に殺したい訳じゃない」

 

 

そう言って、再びグラスを煽る。ゲンは俺を見ながら口を開く

 

 

「まだ、折れてねぇなら明日、王国戦士団の詰め所に来い。一度全力で相手をしてもらう」

 

「…あぁ!よろしく頼む!」

 

 

俺は力強く頷きながら返事を返した。ゲンとの出会いが今後の俺の人生を大きく左右するなんて思いもしていなかったが




御読み頂き有難うございます。久しぶりの登場、シャルティアと新キャラ ブレイン
でした。


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霧が晴れる時

5月24日:微修正&加筆


ゲンとブレインが出会う数時間前、帝国に攻め込んでいたアンデッドの群れはカッツェ平野に引き返していた。帝国騎士は負傷者多数、死者は数える程と死の騎士(デス・ナイト)が複数体居たにも拘わらず損害は少なかった。だが、今度はカッツェ平野に突如として出現した紫色に輝く巨大な結晶にジルクニフは頭を悩ませていた。更に言えば帝国四騎士の内二名は未だカッツェ平野で行方不明のままと、非常に帝国としては困難な状態に直面していた

 

 

「フールーダはまだか!」

 

「も、申し訳ありません。フールーダ様は…その、いつもの発作が起きてしまい…」

 

「あの、ポンコツ!…いや、それだけの力があの結晶にはあるのか…?」

 

 

帝国最大戦力であり魔法において逸脱者であるフールーダの意見を聞こうにも当の本人は調べに行こうと躍起になり騎士達の制止を振り切るのに必死で話が出来ないとの事。全く、使えない爺め…だが、一目見ただけでこの状態になる事は最近は全くなかったのだが

 

 

「アンデッドの群れもアレが出現してから平野に戻って行った。…まさか、アンデッドを操る上で重要な物なのか?」

 

 

そうなれば早急に破壊しなければならないが…今の状態ではそれは叶わない

 

 

「…今は情報を集める事しか出来ないか。フールーダが正気に戻り次第此処に来る様に伝えろ!」

 

「ハッ!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ふぅ…取りあえずは成功っと」

 

 

霧の掛かった平野でアセルスは巨大な紫の結晶を見上げなら満足そうに頷く。左手からは紫色の血が流れており多少感じる痛みに眉をひそめる。こっちの世界に来てからずっと不思議に思っていて事が一つだけあり、もしかしたらと思い実行。それに気が付いたのは調理のクラフト中に誤って指を切ってしまった時、私の血が付いた野菜が再生すると言った珍事が起きたのだ。あ、勿論隔離してその後に別のを使ったけどね?それから暇な時に実験した結果、私の血に触れた植物が急激な成長をしたり、枯れている物は元の元気な姿になったりと…分け与える事で生命活動が活発化するのだ

 

 

(まさかと思って、使ってみたけど。上手く行くとは思わなかったな)

 

 

アンデッドは生命を憎む存在。ならば、帝国から引き剥がすなら帝国にある生命よりも強い生命の輝きを用意すればいいでは?と考えて私の血を媒介に『生命波動』を上空に作り上げたのだ。結果は大成功、アンデッドは平野に引き返す様に迫りつつある。それにしても…アセルスのテキストにはそんな事は書いていないし、半妖と言う種族にもそんなテキストは無い。となれば、この能力は何なんだろうか?いや、正確には絶対に無い訳では無い、半妖とは言え妖魔の血…分け与えたモノを妖魔に変異させる事は可能だろう。けど、植物も妖魔化するの?いや、流石にないよね…それに、妖魔に出来たとしても治癒される訳じゃない

 

 

「…もしかして、この世界の妖魔の君の力?」

 

 

何と無く出した答えに自分で苦笑いする。そんな訳ないか…と、決めつけては周りを念の為に調べて置く。人間が居たら大変だしね。アンデッドが来たら纏めて超風で吹き飛ばす予定なので巻き込まれた人が居たら大変な事になる

 

 

「…?あれは魂喰らい(ソウルイーター)?この世界にもいるのか」

 

 

一際禍々しく感じる場所に向かえば、魂喰らい(ソウルイーター)が宙を舞っており、その下には無数の騎士達が気絶した状態で寝かされていた

 

 

「元凶は…君かい?」

 

 

首を傾げなら呟くと咆哮を上げながら突撃して来る魂喰らい(ソウルイーター)の攻撃をステップで避け、幻魔で素早く三回切り付ける。消費スタミナ無しで威力の高い優秀な剣技『切り返し』だ、直撃した魂喰らい(ソウルイーター)は悲鳴を上げ乍ら身体で薙ぎ払って来るが後方に回転しながら躱し、魂喰らい(ソウルイーター)の身体が止まった一瞬を狙い切り下げ切り上げの二撃を加える。たったそれだけで魂喰らい(ソウルイーター)は身体を震わせながら消滅を始め、残ったのは巨大な骨のみだった

 

 

「今思えば死の騎士(デス・ナイト)も幻魔で胴体を切り付ければ一撃だったのかも…」

 

 

張り切って剣技を使って居たのを思い出しては少しだけ後悔する。先程の様に技術です!って言えば誤魔化せる物じゃなくて思いっきり派手な奴を使っちゃってたなぁ…と

 

 

「気にしないで置こう…うん」

 

 

そう言いながら騎士達に近付いて行き、一人一人体調を確認して行く。意外な事に誰一人として命を落とす様な怪我はして居なかったのだ。益々怪しい、アンデッドが生かして置くとも思えないし…誰かの命令で動いていた可能性もある。…後でモモン君に報告しておこう

 

 

「…あ、これは呪い?」

 

 

他の騎士と比べると良い装備を身に付けている男女の二人組を見付けた。男性の方は特に外傷は無いが問題は女性の方だ、顔の右半分にべったりと呪いが張り付いている

のが分かる。膿が溢れ出し、何も知らない人が見れば間違い無く嫌悪する程に醜い状態だ

 

 

「この人は冒険者組合に居た人?…顔を膿ませる呪いって掛けた奴は余程性格が曲がってるのかな。…もしかして、さっきの魂喰らい(ソウルイーター)が掛けた?」

 

 

色々と考えながら取り敢えずデバフを肩代わりする事で治療する人形型のアイテムを取り出す。使うと消えちゃうのが残念だけど、即死攻撃ですら防ぐ優秀アイテム『肩代わり藁人形』を顔に近付けると淡い光を放ち呪いは人形が肩代わりした。彼女の顔を確認すれば膿は止まり醜く爛れていたが跡形も無く消えているのを見て満足そうに頷く

 

 

「これで良し。後は…」

 

 

後ろを振り返れば迫るアンデッドの壁、鼻歌を歌いながら『シャドウサーバント』を発動させる。背後の影が盛り上がり、私と全く同じ形を持つ影が現れた

 

 

「え、ふぇ?」

 

 

現れるまでは良かった。シャドウサーバントは私の前に立つと何故か抱き締めて来たのだ、長い間会えなかった相手に漸く会えた時にする様な力強い抱擁。呆気に取られ顔を見つめていると哀しそうに笑った気がしたので此方も軽く抱き締めると喜んでいるように感じる、と言うより。シャドウサーバントも意志を持ってる…?

 

 

(…私ってちょろインだったのかぁ)

 

 

そんな事を考えている間に私の影は離れて行き、迫るアンデッドに向き直る。どうやら、戦う気はある様だ

 

 

「ふふ、何だか良く分からないけど。派手に行くよ!」

 

 

同じタイミング同じ呼吸で詠唱を始める。最大威力で放つにはこれが無いと上手く行かない、AOGのメンバーは「それがカッコいいんじゃないか!」て、言っていたけど私としては無詠唱の方が好きだったりする。詠唱が完了に近付くつれ半径三メートル程の立体魔法陣が展開される。やがて魔法陣は太陽の日の光の様に明るく暖かい輝きを放ち始める

 

 

「「全てを飲み込め!超風!!」」

 

 

エコーの掛かった私の声が霧を覆う平野に響き渡る、吹き荒れる熱風が生命波動で作り上げた結晶を砕き飲み込み更に吹き荒れる。周りに居た数万のアンデッド達は荒ぶる熱風に飲み込まで跡形も無く消え去り、結晶は平野に突き刺さり負の魔力を浄化して行く

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

右頬に触れる暖かな光にゆっくりと目を開き見えた顔に思はず気絶した振りをする。何故こんな事をしているのだろうか?と、自分でも不思議に思うが仕方が無いとする。目の前に冒険者組合で会った執事が私の顔を覗き込む様に顔を近付けて居たのだ、何故このタイミングで目を覚ましたの?と、私の身体に聞きたい。…右側の顔を見られてしまっただろうか?

 

 

「え、ふぇ?」

 

 

気の抜けた声が聞こえて再び目を開けば黒い人影に彼は抱き締められていた。アレは人間なのだろうか?輪郭もぼやけている様にも見えるし人の形をした靄にも見える。だが、問題はそこからだった彼が魔法の詠唱を始めると同時に尋常じゃない濃度の魔力が彼に集まって行く。魔法に疎い私でもハッキリと感じられるのだフールーダ…いや、魔法狂いが居たら大変な事になっていただろう

 

 

「…っ!?」

 

 

そこからは声を漏らしてしまう様な光景だった、吹き荒れる風に目を再び閉じる。数分と長い間吹き荒れていた風は唐突に止み、再び目を開ければカッツェ平野を覆う霧が無くなり綺麗な太陽が空に現れたのだ。晴れる時期はあるがそれはまだ先のはず

 

 

「…目を覚ましたかい?」

 

 

そう言って近付いて来る執事姿の彼に小さく頷く。前に見た時は黒の執事服だったが今は赤い執事服を着ていた、赤い方が似合うと感じたのはそっと心に仕舞って置く。私は彼の手を取りゆっくりと立ち上がりいつも感じる右側の不快感が無い事に気が付きペタペタと触る

 

 

「大丈夫だよ。魂喰らい(ソウルイーター)に掛けられた呪いは解いておいたから」

 

 

綺麗な顔だね。と、にこやかに笑う彼に感謝と恥ずかしさで思わず泣いてしまった



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王国の裏側

リ・エスティーゼ王国 高級住宅街の一室で彼、セバスは溜息を吐いていた。その原因である『拾い物』は隣の部屋で静かに眠っている。彼は額に浮かび上がる汗をハンカチで拭っては再び考え込む、普段の彼からは微塵も感じる事の無い焦りと不安が漂っていた

 

 

「やはり、連絡を入れるべきでしょうか」

 

 

小さく呟きながら考え込む。連絡した時のデメリットとメリット、また、連絡を怠った時のデメリットとメリット…どちらが良いのか分からずに彼はグラスの水を飲み干し溜息を吐く

 

 

「俺達で終えられる事じゃねぇのは確かだろう。人間の保護は命令には無い」

 

 

その言葉に身体を跳ねさせながらセバスは振り返る。部屋にいつの間にか入って来たのは渋い親父。アルコールの匂いがしないと言う事は今は真面目な彼なのだろう、その言葉に直ぐに返す言葉が出て来ない。その様子を見たゲンは肩を竦めながら近くの椅子に腰を下ろす

 

 

「いや、別に気にしてないさ。お前ならいつかはやると思っていたしな…容体は安定しているぞ。…何があったのか話してくれるか?」

 

「…わかりました」

 

 

ゲンの言葉に頷くと事の始まりを話し始める。いつもの様に情報集めと『善行を成せ』と言う、命令に従いあるとあらゆる手助けを行っていた。買い物を行う老人の介護に迷子の子供を親の許へと返す、犯罪を行う人間を捕まえ、火事になった家の消火と人命救助等…そんなある時、二人組の男達が自分の前で麻袋を捨てたのだ、不審に思いつつもその横を通り過ぎようとした時見てしまった。麻袋に詰め込まれた、身体中に痣を作り、切り傷に火傷の跡…あるとあらゆる暴力を行われた少女を…その少女を助けようとした時先程の男達が戻って来たのだ、其処でセバスと男達は口論になりどうにか死者を出さずに保護したのだが、男達の後ろには『八本指』に力のある上層部の人間が控えて居た

 

 

「それで俺らの周りに見慣れない顔が湧き始めたのか」

 

「申し訳ありません…」

 

「気にするな、だが…ソリュシャンにはしっかりと話を付けて置けよ」

 

 

そう言って、ニッと笑うゲンは鉄パイプを腰に差し部屋を出て行く。去り際に「頼りになりそうな奴に聞いて来る。お前は…そうだな。アセルスに連絡しておけ、モモンガの旦那だとアルベドやデミウルゴスが何を言うかわからん。最悪、あの嬢ちゃんが死ぬぞ」我等が至高の存在であるモモンガ様に不敬と取れる言葉を言うゲンに今は不思議と心強く感じる

 

 

「わかりました。いつ戻られますか?」

 

「そんなに時間は掛からない、が。此処に人を呼ぶ可能性がある、人化の指輪は付けて置いてくれ」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「モモンさん。あれなんですか?」

 

「巨大な木の化け物ですね」

 

「木であるな、顔が付いているである」

 

「めっちゃでかいなぁ…」

 

「うむ、巨大な木だ」

 

 

漆黒の戦士と漆黒の剣は目の前で暴れ始めた巨木を見上げながら口々に感想を漏らす。「人の枝を切りやがってぇぇぇ!!!!」と怒ってる様にも見える、何故こうなったのか。この化け物が暴れ出す数分前に遡る

 

 

「トブの大森林の奥ですか。確かに行った事ないです」

 

 

モモンが提案した場所はハムスケの縄張りのさらに奥。ハムスケ曰く巨人と蛇の縄張りがありハムスケも人間も全く足を踏み入れた事は無いらしい

 

 

「えぇ、ハムスケも居ますし。此処を詳しく調べて見たいと思いまして…」

 

「でも、アソコ良い物があるとは思わねぇけどな…」

 

「未開拓の地を地図にすれば高価になる可能性もあるのである」

 

 

ルクルットの言葉にダインが答え「あ、そうか」と、手を叩いてた。そんなこんなで一行は森林の奥へ来ているのだが

 

 

「日も落ちてきたのでこの辺で野営の準備をしましょう。モモンさん木を切ってもらっても良いですか?」

 

「わかりました、少しだけ待っていて下さい」

 

 

実はワクワクしているモモンはペテルのお願いを快く引き受け、手頃な木を探そうとした時だった。その木は目の前にあった、他の木とは明らかに違う雰囲気を持つ巨木…明らかにやばい感じがするが今の彼は特に気にしなかったのだ

 

 

「…凄く気になるな、これを持って行くか」

 

 

グレートソードを一本持ち上げ、大きく振りかぶる。そして、全力で投げた。ギュオン!と大きな音を立てながら吸い込まれる様に大木の太い枝に命中しあっさりと切り落とした。枝はゴロゴロと転がりながら地面に落ちたのだが、ゴゴゴゴっと地響きが鳴り始めたのだ

 

 

「ん…?なんだ?」

 

 

首を傾げるモモンに後ろから異変に気が付いたペテル達とアクターが合流し、話は冒頭に戻る

 

 

「に、逃げろ!?アレはやべぇぞ?!」

 

「変なのを起こしてしまったようだ」

 

「何でそんなに呑気なんですか!?」

 

 

ルクルットの言葉にほぉ…大きいなぁ。と、言いながら返すモモン…そのやり取りに突っ込みを入れるペテルと締まりが全くないまま戦闘が始まり

 

 

「いやぁ…良く燃えるなこれ」

 

「…ホントである」

 

 

十分過ぎる程の薪木の山を眺めて現実逃避を決めるダインとルクルット、彼等の近くには何処か吹っ切れたペテルがモモンと幾らぐらいでこの薪が売れるか?と話し込んでいた、因みに苗木も見つけたのでモモンがアイテムボックスに箱に詰めて放り込んでいたりする

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「先ずは礼を言おう…この国を救って頂き誠に感謝する。…帝国の戦力だけでは恐ろしい程の死者が出ていたかもしれん」

 

 

そう言いながら頭を下げるのはバハルス帝国現国王ジルクニフ、その姿はカリスマ性に溢れており覇気に満ちていた。頭を下げるジルクニフを見て番外席次は目を細めながらつまらなそうに小さくため息を吐いては周りをキョロキョロと観察を始める。その様子にニニャが心の中で悲鳴を上げ慌てて番外席次に耳打ちで注意していた

 

 

「…申し訳ありません。この様な場は初めてでして」

 

「楽にしてくれて構わない…君達ブリューナクを呼んだのは先のアンデッドからこの国を守るのに大きく貢献してくれた事に国から褒美を用意したのだ、ぜひ受け取って欲しい」

 

 

そう言ってジルクニフは手を叩くと部屋の隅に控えていた兵士が一人、アセルスの前に立ち一礼した後に丁寧に麻袋と五枚の鋼色のプレートを手渡しくれた

 

 

「これは…良いのですか?私達はまだ銅級ですが?」

 

「気にする事は無い。ブリューナクの力は銅級どころかミスリル級でも収まらないだろう。本当ならアダマンタイト級にしてやりたいところだが…組合がうるさくてな。申し訳ない」

 

 

溜息を吐きながら呆れたように肩を竦めるジルクニフにアセルスは苦笑いしながら納得し、銅色のプレートと銀色のプレートを代わりに手渡す

 

 

「…お前達は旅をしていると聞いている。此処に寄ったのは何かあるのか?」

 

 

先程の温和な雰囲気を消しては真剣に問い掛けて来るジルクニフに小さく頷く、隣で控えている高齢そうな老人は魔法とローブで偽装しているアルシェを見ているのが気になるが…

 

 

「実はあるマジックアイテムを探しています。…そのマジックアイテムは強力なアンデッドを簡単に生み出し同時に大量のアンデッドも創造し使役する事を可能にするモノです」

 

「その様なマジックアイテムが…帝国を襲ったアンデッドはそのマジックアイテムで生み出された可能性があると?」

 

「はい、私はそう考えて駆け付けました。ですが、使われたと思われる場所には騎士達が気絶しているだけでしたので…犯人は逃げた後かと」

 

 

勿論でっち上げである。旅している目的は殆どないのだ、強いて言うのであれば観光と興味本位で依頼をしてみようと考えて居たのだけど…

 

 

「分かった、此方も犯人の特定を急ごう。そのマジックアイテムの特徴は分かるか?」

 

「骨で組まれた十字架です、ですが無闇に触れてしまうのは危険かと」

 

 

その言葉に静かに頷くジルクニフは隣の老人と何か相談している様だ

 

 

『アセルス様、少しお時間宜しいでしょうか?少々問題がおきまして』

 

『セバス…?分かった、ちょっと待ってね』

 

 

突然送られて来たセバスからの伝言に首を傾げてはジルクニフに声を掛ける

 

 

「申し訳ありません、この事を仲間に相談しなければなりませんのでこの辺で…」

 

「おぉ、そうか。まだ、仲間が居るのだな…」

 

「えぇ、とても腕の立つ戦士ですから。此処に来た時は一目見てみてください」

 

 

にこやかに笑いながら皆を引き連れて足早に謁見の間を後にする、レイナースがじー…と見て来るのが少し不安だけど

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「爺、彼等をどう思う?」

 

「今すぐにでも魔法に関して質問したいですな。あのローブの者と白薔薇姫様…でしたかな?」

 

「成る程、それ程の者達か」

 

「えぇ、出来れば髪の毛を…いや、体液を…」

 

「レイナース、この変態を投獄しておけ。私刑も許可する」

 

「ハッ!」

 

 

「おい!?何故じゃ!?貴重なサンプルを貰うだけじゃぞ?!あ、待って。おじいちゃんソレは耐えられ…」ぼきりっと、良い音と共に変態禿の断末魔が聞こえる。それを無視してはマジックアイテムの使用者の特定と彼等、ブリューナクをどうやって引き抜くかを考える為に王室に帰るのだった

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

王国戦士団詰め所にある修練場にてクライムとブレインの二人を相手にゲンは木刀を振るう。ブレインの鋭い斬撃、最近漸く実践でも活躍出来る様になって来たクライムの斬撃を涼しい顔で弾き、躱し。時には軽く膝蹴りやデコピンを入れて行く

 

 

「よし、今日は此処までだ。少しは上達して来たんじゃないか?」

 

「アンタにそう言われても。全く感じねぇよ…」

 

 

地面に大の字で転がるブレインはゲンの言葉にあきれた様に返す、対するクライムは嬉しそうに笑いながらぶっ倒れていた

 

 

「そうか?此処に連れて来た時よりも『領域』の範囲も『瞬閃』の速度も上がってる。短い間に此れだけ変われば相当なもんだろ?」

 

「鉄パイプで木を切り捨てるアンタに言われると小さく聞こえるんだが」

 

「そりゃ、鍛えて来た時間が違うからな」

 

 

そう言いながらも目当ての人物が来たので二人を放置して兵舎へと向かう。どうせ、しばらく動けないだろうしな

 

 

「よっ、また来たのか」

 

「えぇ、勝つまで続けるわ」

 

 

そう言って稽古する気満々なラキュースを見て苦笑いする。頑固な嬢ちゃんだ、と

 

 

「わりぃな、今日はそれは出来ない。少し聞きたい事がある」

 

「え、そうなの?聞きたい事って…?」

 

「八本指を潰したい。この国にある拠点全部だ。俺達が勝手にやるには横槍が多過ぎるからな…お前らの権力を借りたい」

 

「なっ!?…彼らに狙われたら貴方も危険よ?…確かにその依頼はあるけど…」

 

 

ゲンの言葉にぎょっと驚くラキュース、八本指を取り締まる依頼は既に蒼の薔薇が受けている。それも、第三王女のラナーから直接だ

 

 

「俺がそいつ等に後れを取ると思うか?…やるからには一気に決めたい、協力してくれないか?」

 

「…わかったわ。一度仲間達と相談させてもらえないかしら?」

 

「構わない。…そうだな、この宿に来てくれ」

 

 

ラキュースの言葉に頷いては地図をメモした紙を手渡し、手を振りながら足早に詰め所を出て行く。街に入った瞬間から複数の視線を感じ、溜息を吐きながら裏路地を通って宿に戻る事に…数時間後、ごみ溜めに気絶した男達が複数発見されたのだった




雑トルクワエ 完

久しぶりの投稿になります。今後ともよろしくお願いいたします!


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静かな決意

誤字報告ありがとうございます!


豪華なドレスに身を包んだ金髪の女性、ソリュシャンは非常に機嫌が悪かった。自身の上司に当たるセバスが傷付いたニンゲンを拾って来た事、更にはそのニンゲンを治療する様に指示された事に対しセバスを不審に思っていた。確かにニンゲン…いえ、傷付いたモノを助ける事や慈悲や慈愛を与える事はアセルス様を喜ばせるかも知れない…が、それがもしもナザリックに対し不利益になるのであればモモンガ様はお怒りになるだろう。セバスの罰に対してお優しいアセルス様は反対するのは目に見えている。そうなればギルド長であるモモンガ様はアセルス様をも罰するはずだ。そう考えれば早急に処理してしまう事が望ましいと考え

 

 

「…モモンガ様に伝えるべき、よね」

 

 

光の無いどす黒い瞳でニンゲンの眠る部屋の扉を見ては静かに呟く、恐らくモモンガ様はあのニンゲンを殺しセバスに何かしらの罰を与えるだろう。そう考えながら伝言を送ろうとした時

 

 

「ソリュシャン、今からアセルス様が此処に来られます。身支度と集めた情報の整理を」

 

 

伝言を使おうとしたニンゲンの部屋からセバスが現れ普段と変わらない表情と声音で私に指示を出す

 

 

「アセルス様が?…セバス、何故モモンガ様では無いのかしら?この命令を出したのはモモンガ様のはずですよ?」

 

「えぇ、確かにそうです。ですが、モモンガ様は冒険者モモンとして今はエ・ランテルで活動をしておられます。モモンガ様の計画を私達の問題で邪魔をする訳にいきません。それとも、貴女はアセルス様が此処に来られる事に不満があるのですか?」

 

「っ!…そんな事ありませんわ」

 

 

そんな事を問われれば否定等出来るはずが無い、セバスの言葉に先程までの雰囲気を霧散させては首に掛かるペンダントに触れる。そのペンダントは小さな楕円形の白金板に我が創造主であるヘロヘロ様の御姿が細かく彫られている。その御身体には『深淵のサファイヤ』と呼ばれる透き通る様な薄い蒼色の宝石が嵌め込まれ、宝石の中心にある闇の様に濃い蒼色が淡い光を灯していた。そのペンダントの裏にアセルス様のフルネームが小さく彫ってあるのを眺めては複雑な思いに溜息をついてしまう

 

 

「何故、アセルス様はニンゲンや弱者にお優しいのでしょうか?」

 

「…昔、白薔薇姫様が仰っておられました」

 

 

セバスは思い出す様に窓から外を眺めながら口を開く、ソリュシャンはセバスの横顔を眺めながら次の言葉を待つ

 

 

「『私はね。力も知識も持っているのに許可が無いと誰も助ける事は出来ないんだ。助けようとしても薬も道具も治療する場所も無い。出来るのは止血と延命だけ…助けようとしても周りから反対される事もあったんだよ?…だけど、こっちの世界なら誰かを助けるのに許可は要らない。だからさ…私は可能な限り仲間と呼べる生命は助けたい。弱い生命を助けたい』そう、話していたそうです。白薔薇姫様はリアルではアセルス様は生命を救えず、悔やんでいた…そうお考えのようです。私が思うにアセルス様は「ニンゲン」にお優しいのでは無く「弱き者」全てにお優しいのだと思います」

 

「アセルス様の意思を曲げて制限する存在がリアルには居るのですか?」

 

「恐らくは…」

 

 

その話に姿も形も分からない存在に怒りを覚える。慈愛を与えようとするアセルス様を止めるなど、万死に値する

 

 

「ソリュシャン、先程の指示は申し訳ありません。貴女の事を配慮していませんでした」

 

「…セバス、私は貴女がナザリックをニンゲンの為に裏切るのではないかと考えました。ですが…アセルス様はニンゲンを助けて歩いていると聞いています。なら、私は貴方を信じます。貴方とアセルス様にしか見えていない物があるのだと」

 

「…ありがとうございます。ソリュシャン」

 

 

静かに頭を下げるセバスにソリュシャンは慌てて止める。不審に思っているのは確かだが、流石に上司であり自身よりも強者であるセバスに頭を下げられると落ち着かない

 

 

「そんなに思い詰めていたならもう少し早く頼りなさい」

 

 

突然聞こえた女性の声に私もセバスも驚きながら振り向けば

 

 

「「アセルス様!?」」

 

 

背後にゲートを通って現れたアセルス様に慌てて跪こうとするが苦笑いしながら手で制されてしまった

 

 

「あの、アセルス様…?そ、その御姿は?」

 

「ん?あ…変装したままだった」

 

 

赤い執事服で現れたアセルス様は御自身の服装を確認した後に再び苦笑いを零していらっしゃいました。束ねられた艶やかな緑色の髪、ナーベラルと同じ髪型なのに全くの別人にも見える。その仕草も大変お美しく可愛らしい…こ、此れは!我慢できません!!

 

 

「あ、アセルス様ぁ!!」

 

「ふぇ?!ちょ、ソリュシャン!?」

 

 

ナザリック地下大墳墓でも全く会えなかった御方に思わず飛び込む。今ならアルベド様のお気持ちがとても理解できます。むぎゅぅ…と抱き着き、すぅぅ…とアセルス様の香りを吸い込む

 

 

「はぁ…良い香り。むにゅ…」

 

「え、えっと…久しぶり?」

 

 

困惑しながらもソリュシャンを抱き締め、優しく撫でているアセルスに大変申し訳ございません、と言いながら頭を下げるセバス。緊急事態ってソリュシャンの状態が?と困惑するアセルスだった

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「成る程ね、状況は良く分かったわ」

 

 

椅子に座り跪くセバスから状況の説明を聞いては組んでいた脚を解く。跪く必要はないと言ったけど頑なに拒んだのは彼なりに処分を受ける覚悟からなのだろう

 

 

「誠に申し訳ありません。この様な不祥事を起こしてしまい…」

 

「ふふ、良いよこのぐらい。…セバス、良くやった。やはり君の中には彼の魂が深く根づき生きている様だ」

 

「っ!!…勿体無きお言葉、感謝いたします」

 

 

私の言葉に震えながら感情を抑えるセバスを見て優しく微笑む。勿論、ソリュシャンへのフォローも忘れない

 

 

「ソリュシャン、良く我慢したね。彼女を救ってくれてありがとう」

 

「い、いえ!その様なお言葉を貰う様な事はしていません!…保護した時、私はあのニンゲンを殺そうとしました…ですから」

 

「良いんだよ。今は、ね?…千五百人の人間がナザリック地下大墳墓に攻め込んで来た事を考えるとその感情は正しい物だから。けど、此処はユグドラシルじゃない…だから。私はこの世界では人間と友好関係を結んでおこうと考えてる」

 

「お言葉ですがアセルス様。その事はモモンガ様は…?」

 

「勿論、知ってるよ。だから、今回の事を知っても怒らないよ」

 

 

私を心配そうに見つめるソリュシャンに応え乍ら、セバスとソリュシャンの二人を見つめる

 

 

「私が警戒してるのはこの世界に居る可能性のあるプレイヤーの存在だよ。もしくは…此れから百年、二百年後に現れる可能性のあるプレイヤーだ」

 

 

私の言葉に真剣な表情で聞き入る二人に笑みを零す

 

 

「でも、まずはこの世界にナザリックの名を…アインズ・ウール・ゴウンの名を広めたいかな。ユグドラシルの様に悪名高き集団では無く、ありとあらゆる種族を守る盾と剣として、ね?」

 

「ありとあらゆる…」

 

「種族、ですか?」

 

「そう、私は半妖。人間の血と妖魔の血がこの身体には流れてる。半分は妖魔だけど、貴方達階層守護者や僕達は私と言うもう半分の人間を受け入れてくれている。…だから、作れると思うんだ。人間も異形種もアンデッドだって手を取り合って生きて行ける国が世界が、さ」

 

 

セバス達に話し乍ら脳裏を過ぎるのはギルドメンバーがアカウントを消してユグドラシルから消えて行く度に落ち込み、泣き声を殺しながら宝物殿へと消えて行く親友の後ろ姿。彼が一人にならない為にも作り上げたい、勿論。それだけじゃないけどね?

 

 

「さ、お話は終わり。セバスの説明を聞く限りだと彼女はまだ話も出来ない状態の様だから今は此処で治療に専念させてあげて。私は…そうだ、手始めに此処の犯罪組織を根絶やしするのは良いかも知れないね」

 

 

「成功したらプレートも上がるかも」なんて呟いては椅子から立ち上がり、ぐぐっと背伸びする。私の言葉にセバスは素早く立ち上がり

 

 

「アセルス様、私も手伝わせてもらえませんか?」

 

「ん?…うん、良いよ。ソリュシャンはこの場所を護って頂戴。その八本指って名乗ってる連中が来るかもしれない」

 

「畏まりました」

 

 

セバスの気持ちを汲んでは参加を許可し、モモンガへと伝言を送る

 

 

『モモン君?今大丈夫?』

 

『アセルスさん?どうかしたんですか?』

 

『えっと…』

 

 

[かくかくしかじか、でゅらはんごたいへんせいはつらいよ。せつめいはひつようかな]

 

 

『っ!…そうですか、わかりました。セバスは大丈夫ですか?』

 

『大丈夫、放って置いたら自害する勢いだったから大変だったけど』

 

『な?!アセルスさんが間に合って良かったです。あ…。そうだ…アセルスさん、ごめんなさい。アダマンタイト級になっちゃいました…』

 

『!?…う、裏切り者ーーー!!』

 

『す、すいません!なんか…出て来た木のモンスターを倒したらスレイン法国の漆黒聖典って方々と出会いまして。ニグンの名前とアセルスさんの名前を出したら何か感動し始めちゃって…モンスターの木の実?をもってスレイン法国に行ったら冒険者組合が出来てまして…そのまま』

 

『はっ…!?私もニグンに言ってアダマンタイト級にしてもらえるかな!?』

 

『ど、どうなんでしょう?でも、八本指を壊滅させてからですよ?うちの関係者にケンカを売った事を後悔させてあげましょう』

 

『りょーかい、それじゃ。後でこっちに来てね』

 

『わかりました、それでは』

 

 

モモンと伝言を終えて振り返るとタイミング良く扉が叩かれた。その瞬間、セバスはソリュシャンに指輪を投げ渡す。ソリュシャンはその指輪を戸惑いながらも指に嵌めると扉はゆっくりと開かれる。見知った親父を先頭に入って来るのは五人の女性達。その胸元には紫色のプレートが掛けられていた

 

 

「ゲン、何処に行ってたの?」

 

「お?もう来ていたのか。いや、八本指を潰すのに助っ人を呼んで来た。大義名分を作るのに良い助けになる、な?」

 

 

その親父をジト目で皆が問い掛けると意外な答えが返って来た。意外と先読みが出来るゲンに少し感動しながらその助っ人であろう、彼女達を見ると

 

 

「あ、アセルス様…?」

 

 

そう消え入りそうな震える声で私の名前を呼ぶのは赤いローブをすっぽりと被り仮面を付けた少女だった。変装がばれた!?と、内心で驚きながらその子を見つめる。その子の仲間であろう彼女達も困惑した様子で少女見ていた

 

 

「本当に…本当に、お戻りになれたのですか…?」

 

 

震える手を伸ばしながら近付いて来る少女にセバスがソリュシャンが戦闘態勢になるがアイコンタクトで止めさせる。危ない、いきなり肉塊が出来上がる所だった。少女の手を優しく取りながらゆっくりと問い掛ける

 

 

「…私を知っているの?」

 

「忘れた事などありません。あの日の事を片時も…」

 

 

そう呟く少女の仮面からは涙の雫が落ちていた

 




イビルアイと姫君の出会い。親父機転が回る。モモン先駆けアダマンタイト。漆黒聖典回収等 


御読み頂きありがとうございます!


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少しの昔話

私達の前にそっとティーカップが置かれる。漂う紅茶の香りは場の混乱を少しだが和らげる事が出来るかも知れないと思い、セバスに紅茶を用意して貰った。全員に行き渡るのを確認してはティーカップに口を付ける。うん、私が淹れるより美味しい

 

 

「美味しい…」

 

 

どうやら彼女達にも好評の様だ。紅茶を飲んで落ち着いて来たので改めて自己紹介をする為に口を開く

 

 

「落ち着いたかな?…君が言ったように私はアセルス。確かに妖魔の君と呼ばれてるよ。そして、彼等は執事のセバス・チャンとソリュシャン。ゲンの事は知ってるよね?」

 

「はい、ゲンに呼ばれて私達も来たので。私達は冒険者チーム 蒼の薔薇です。私はリーダーのラキュース」

 

「ガガーランだ」

 

「ティア」

 

「ティナ」

 

「今はイビルアイと名乗ってます」

 

 

ラキュースから順番に大柄な女性、ガガーラン。服装からしてアサシンのティナとティア、写し絵の様にそっくりだから双子なのかな?…そして、こっちの妖魔の君を知っているイビルアイ…『今は』と言う事は昔は別の名を名乗っていたのかな?

 

 

「申し訳ありません。普段は冷静なのですけど…今は様子が少し…」

 

「気にしてないよ。私も驚いたしね…少し待ってて」

 

 

執事服で居る必要もないし…と思い。席を立っては奥の部屋と向かう。最近は良く来ている深紅のドレスに着替えて戻ると、蒼の薔薇メンバーはイビルアイ以外が驚いていた。ソリュシャンが少し残念そうな顔をして居たのが気になるけど

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それで、色々と聞きたいのだけど。私の事を知っているの?」

 

 

私の前にドレスを着たアセルス様が座り、優しく問い掛けて来る。感動の余り泣き出しそうになるのを堪えて静かに頷く。恐らくあの時言っていた様に今のアセルス様には記憶が無いのだろう

 

 

「そう…良ければ、どんな風に知り合ったのか。どんな関係だったのか…教えて貰えるかい?」

 

「はい…」

 

 

こくりと頷いてはそっと、仮面を取り。アセルス様を見つめる、震える唇をゆっくりと動かしながら私が十三英雄と共闘して居た頃の事を語る

 

 

「六大神と八欲王の戦いの話は知っていますか…?」

 

「えぇ、ちょっとした知り合いから聞いているわ。詳しくはないけど、ね?」

 

「あの話の最後っつったら…」

 

 

私の言葉にアセルス様は静かに頷きラキュースの隣に座るガガーランが渋い顔をしながら唸る

 

 

「大丈夫、気にしていないから」

 

 

そう言って笑みを零すアセルス様に私達、蒼の薔薇のメンバーは申し訳なさそうに眉を下げていた

 

 

「…あの伝承には人間に裏切られ殺害された妖魔の君は魔神として転生し、八欲王に加担する人間と八欲王を異形種の群れを率いて滅ぼした…しかし、魔神となってしまった妖魔の君はこの世界に災いを振りまく存在に成ってしまった。その魔神達を倒す為に十三英雄が立ち上り、最後に戦った魔神は妖魔の君と書かれています。恐らく世に広まっているのもその伝承が一般的でしょう」

 

 

アセルス様達とラキュース達は小さく頷く。転生を果たした妖魔の君は本来の姿では無く魔神化した姿だったと…八欲王を討ち果たすも魔神になってしまった結果、世界に散らばるスルシャーナの魔神に成り果てた従属神を討伐する部隊、十三英雄と戦った…そして最後は自ら命を絶ち長い戦いに幕を引いた

 

 

「あの話は最後に妖魔の君と戦ったと書いてありますが、戦いを挑んだ事が最後であり。魔神の中で一番最初に接触したのは…妖魔の君なのです」

 

 

十三英雄達は魔神を討伐する為に集まった種族混合の英雄達。その者達が最初の魔神に戦いを挑む前夜。突如として現れたのは妖魔の君だった。魔神化した精神を自身の魔法で抑え、魔神達の討伐を目指す彼らに協力し全ての魔神へと導いた。魔神に堕ち、八欲王を討ち滅ぼした後も彼女は友の子供達を見放す事はしなかった。妖魔の君と過ごす内に彼らは彼女の優しさに触れ、凛々しさに触れ、心の強さに惹かれた。最初こそ倒すべき魔神が間近にいる事に恐怖する者もいたが、やがて彼らは魔神を討伐して行く旅と同時に妖魔の君を元に戻す術を模索した、だが。それを見つけるには時間が無かった。妖魔の君と言えど、魔神化の破壊衝動を抑えられなくなったのだ

 

 

「…後は、伝承の通りです。自分の手で私達を傷付ける前に自身に施した魔法で命を絶ったのです」

 

 

そう語る内に無意識に俯き震えてしまう

 

『ありがとう、キーノ。でも、ダメなんだ…私は魔神になってしまった、彼の子供達が還った様に私も還らないといけない…そうじゃないとこの世界に災いを残す事になる』

 

彼女の最後の笑顔を紅い光となり消えて行くあの時の光景を今でも鮮明に思い出す。膝の上に置いた手に力が入り膝に食い込んで行く

 

 

「そう…十三英雄と妖魔の君にも深い繋がりがあったのね」

 

「はい…」

 

 

静かに頷けば『そっか…』と、アセルス様は呟き私を見つめる。ゆっくりとアセルス様は立ち上がり申し訳なさそうに眉を下げ

 

 

「…ごめんなさい、私にはその記憶が無い…だけど。…ただいま、そして、初めまして。ありがと、イビルアイ」

 

「…っ!」

 

 

そう言いながらフード越しに優しく撫でられては思わず肩を跳ねさせながら慌ててしまう。思えばアセルス様と出会った時もこんな感じに撫でられた気がする

 

 

「イビルアイに春が来た。きっとマグロ」

 

「イビルアイ、私も交ぜて。反撃は出来る、と思う」

 

「お前ら少し雰囲気を考えろ…」

 

「…私とガガーランにも春は来るわよね?」

 

「…お前も落ち着けって」

 

 

様々反応を見せる周りを少しは気にして欲しい…!と思いながら見つめれば少し後悔した。優しい笑顔に心臓が跳ねて変な声が出てしまい、其処にティアとティナの追撃が入る

 

 

「…二階に行くか」

 

 

肩を竦めてさっさと立ち去るゲン、その脇には暴れまくるソリュシャンさんが抱えられており首に見えない手刀が入ると大人しくなっていた。気が付けばセバスさんも奥の部屋へと消えてしまう。待て!止めてくれないのか!?せ、セバスさん!?

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「そう、八本指の構成は理解したわ」

 

再び落ち着きを戻した部屋で八本指についての情報を交換して行く。蒼の薔薇は此処に来る前に麻薬を栽培する畑を燃やして来たばかりだとか。そして、セバスやゲン、ソリュシャンの調査によって八本指とは八個の部門から成り立つ犯罪組織。その組織の根は深く、今や国王よりも八本指と仲良くした方が権力が持てると言うぐらいに彼らの影響力は強い

 

 

「どのようになされますか?」

 

 

セバスの言葉にくすりと微笑む、首にぶら下がる鋼色のプレートを触り

 

 

「蒼の薔薇が介入出来るなら、ミスリル級の私でも介入が出来るでしょ?…死人は出さないで全員捕まえるわ。特にこの幹部八人は確実にね。けど、まずは…私達に直接ケンカを売って来たのは…ここね。一番気に入らないし、潰してしまいましょう」

 

 

そう言って、アンペティフ・コッコドールと書かれた顔絵を取り。テーブルの中央に置く

 

 

「やり方は簡単だよ、奴隷館に夜襲を掛けてその場にいるクズ共全員に魔法を掛ける。裁判にて罪に正当な罰が下るまで己の罪を言い続ける様にね」

 

「そ、そんな魔法が?」

 

「あるよ、スクロールは使える?」

 

 

そう言って、同じスクロールを何百個とアイテムボックスから取り出しテーブルに置く。『支配の瞳』これは私のオリジナル魔法、凝視系スキルを組み合わせて作った魔法に広範囲化を掛けスクロールにした物だ

 

 

「は、はい!…す、凄い…」

 

 

ラキュースが目を輝かせながらスクロールを持ち喜んでいるのを見て首を傾げる、珍しいスクロールだからかな…?

 

 

メモ帳を取り出して何かを書いて居るのを見ているとイビルアイが「すいません、アセルス様」と非常に呆れた雰囲気をラキュースに漂わせながら頭を下げていた




クーン編でデュラハンを五体作るのはやり過ぎました(遠い目)

ちょっと、だけ伝承のお話と八本指に崩壊迫る

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