Cの陰謀 (ワタリ3@活動停止中)
しおりを挟む

EP1 転生するC/目標を定める R

リメイク版です。
最新話更新の前に、より話のクオリティを上げる為、順次リメイク版を投稿します!
不要な部分を削除する関係で、一部話の展開の変更や、設定変更が有りますが、根本的なストーリーは変わらないので、見直さなくてもOKです。



「流牙おにーちゃん!こっち!」

 

「あまり走るなよ来人!」

 

 

心地良い風が吹くのどかな公園

巨大な風車の建造物を背景に、俺は愛弟である()()と2人で鬼ごっこをして遊んでいた。

 

俺の名前は園咲流牙……園崎来人_後のフィリップの兄にして

 

園咲家第三子の長男で……転生者だ。

 

前世で事故死してしまった俺は何故か仮面ライダーWの世界…つまり風都に転生してしまい園咲家の一員として生を受けた。

 

園咲家……すなわち悪の組織『ミュージアム』

まさかの悪役からのスタートである。

 

確定はしてないが……。

 

平成ライダーで一番好きな作品『仮面ライダーW』の世界に転生したのは嬉しいが_まさか原作で存在しないフィリップの兄という立場で産まれてくるとは思わなかった。

 

このままで行くと、敵幹部としてWの怪人である『ドーパント』になり暗躍する事になる。

 

俺としては普通の風都市民に生まれ、警察官辺りに就職し、クウガでいう一条薫ポジになってWの2人を支えたかったなーと思っていたが、仕方がない。

 

今の俺にできる事を考え、今後の目標を定めよう。

 

まず一つ目の目標……生き残る事。

これは絶対だ。せっかく転生したのにまた死ぬなんてごめんだ。

園咲家の未来は暗く、生き残るのはフィリップと飼い猫のミックだけである。

 

父はダブルに倒され、燃える屋敷に残り。

母は娘の腕の中で力尽き。

長女は妹を守るために散り。

次女も弟を生き返らせる為にこの世をさった。

 

つまり俺も最終回近くのエピソードで、何かしらの理由で死ぬ可能性は高いという事だ。

 

どう回避するかは今後の様子を見て考えよう……。

 

 

 

 

そして二つ目……これが()()()()()()というか計画になるな…。

 

 

 

 

尻彦……またの名を園咲霧彦さんを仮面ライダーにする事!!

 

 

名付けて()()()()()()()()()()()

 

 

 

仮面ライダーWファンなら誰しも妄想したであろう(偏見)IFライダー『仮面ライダーナスカ』を誕生させる計画である。

 

Wの中盤あたりで、照井と交代という形で退場する事になった彼は、初め誰もが“二号ライダー”になるのでは無いかと考察、期待されていた。

 

実際、風都愛を持っている点で、翔太郎とは意気投合していた。

 

だが妻の冴子のDVによって命を落とし、仮面ライダーになる事もなく命を散らしてしまい、仮面ライダーナスカは妄想の中の幻の存在となってしまった。

上手く彼を生存させ、“仮面ライダー”になるように俺が裏で舞台を整えれば

 

『仮面ライダーナスカ』誕生も夢では無い!!

 

その為にも、ダブルやアクセルのガイアメモリ、ガジェットの開発者である『シュラウド』こと園咲文音……つまりは自分の母親とは親密な関係を築き、仮面ライダーを開発できるほどの技術力を習得しなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

数年後

原作通りに歴史は進んだ。

 

フィリップは地球の記憶に繋がる例の泉に落ち、データ人間として帰還し、園咲琉兵衛は彼を利用したガイアメモリ開発、売買する裏組織『ミュージアム』を立ち上げた。

 

そこからガイアメモリ開発本格的にスタートした。

 

まだ子供だった俺は、ミュージアムとはあまり関わりを持たせてくれなかったが、母や父に何度か頭を下げ、幼いながらも母の助手として開発を手伝わせてくれた。

 

 

「お母様見てください!」

 

『スネーク』

 

蛇のイラストが入った擬似メモリを腕時計型のガジェットに挿し、蛇の機械人形へと変形した。

 

そう、これは俺が初めて開発した、オリジナルのメモリガジェットシリーズ_名付けて『スネークウォッチ』だ。

 

おいおいその技術は役に立つだろうと、俺は母の研究データや設計図を盗み来て、学習し、自力で開発出来る様になるまでになった。

 

母に自慢しようと見せびらかすが…彼女はどこか上の空だった。

 

「お母様?」

「え?あぁ…ごめんなさい流牙…少し考え事をね。」

 

何か悩んでる様だった…まぁ言われなくてもわかる。

多分来人の事だろう。

 

ミュージアム……園咲琉兵衛は彼を道具の様に扱いガイアメモリ開発に力を入れていた。

原作通りに母は、来人の解放を望んでいるのであろう。

 

 

「やぁ、流牙…調子はどうかな?」

 

母の研究室に園咲琉兵衛が現れた。

 

「お父様」

 

「あなた!」

 

母は父を睨みつけた。

 

「流牙…少しお父さんと話があるから今日はお家に帰りなさい。」

 

そうだ、この場面はよく覚えている。

 

「わ、分かりましたお母様。」

 

俺は研究室を出ると見せかけて、扉の前に立ち会話を盗み聞きする。

やはり琉兵衛と母は来人の事で言い争いをしていた。

 

「あなた!いい加減来人を道具扱いするのはやめてちょうだい!」

 

『テラー』

 

園咲琉兵衛に対して深い恨みを抱くことになる、シュラウド誕生の場面だ。

研究室に彼女の悲鳴がこだました。

 

 

 

 

 

 

 

次の日俺は母の元を訪れた。

 

「お母様…その顔。」

 

「見ちゃダメ」

 

母の顔はミイラの様に、包帯でぐるぐる巻きになっていた。

誰もが知るシュラウドの姿になっていた。

 

母はキャリーケースに研究データの書類や、衣類などを入れ、身支度をしていた。

 

「…父様に何かされたの?」

 

「……。」

母さんは答えない。

それはそうだ、子供に父親にDVされたとは言えるわけない。

重い空気の中無言で身支度を進める母……いやもうシュラウドと呼ぶべきか。

 

「母様、どっか行っちゃうの?」

 

「……。」

 

図星を突かれ動きを止める……。

彼女がいつかこの園咲家をを出ていく事はわかっていた……

 

そうだ!

 

シュラウドと一緒に行けばもしかしたら敵側ではなく

仮面ライダーWのサポートキャラとして立ち回れるかもしれない。

 

そうしたらロストドライバーやアクセルドライバーの開発データが手に入る可能性があり、仮面ライダーの活躍も近くで見る事ができるかもしれない。

 

さっそく行動に……。

 

「母様が行くなら僕も一緒に……」

 

「ダメよ流牙!貴方もあの人に狙われる。辛いけど……来ちゃダメ。」

 

ダメだった。そりゃそうだ。

俺もミュージアムの事は知り尽くしている、狙われるのも無理はない。

 

 

「母様……。」

 

「大丈夫、私はいつだって流牙の事を想っている……全てが終わったら絶対に貴方を迎えに行くわ……だから……だからそれまで。」

 

俺はシュラウドを止めるつもりはない、彼女無くして仮面ライダーWは始まらない。

 

 

 

「母様……気をつけて」

 

俺は出ていくシュラウドを窓から見送った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP2 Cのピンチ/ビギンズナイトは波乱万丈 R

 

 

「新しいメモリは出来てるか?」

 

俺は仕事で“運命の子”に話しかけた。

 

「……そこ。」

 

運命の子…園咲来人は琉兵衛の傀儡として、ひたすらガイアメモリの開発に着手していた。

作業する手を止める事なく、俺の方を見向きもしないで返事を返す来人。

 

短すぎる会話。

 

「……。」

「そうか……。」

 

兄弟の会話とは思えない。

 

記憶を操作され、全てを失った彼の中に、弟の面影を感じられない。

かつて自分の後ろをヨチヨチと追いかけてた、可愛い愛弟はもう何処にも居ないのかと、俺は軽くショックを受けた。

 

 

母が家を飛び出し、もう数年はたった……

 

俺が居るのは無人島にあるミュージアム研究施設、そうビギンズナイトの舞台となるあのビルだ。

俺は高校を卒業後、大学には行かずに直ぐにガイアメモリの研究者としてミュージアムに入り、この施設で次世代型のメモリの研究を進めていた。

 

シュラウドが開発していた物を俺が引き継いだ。

 

 

「はぁ……どうしたものか。」

 

 

俺は懐から自分のドーパントメモリを取り出した。

 

Cのメモリ_これは高校の卒業祝いとして父がくれた、園咲家の者しか使えない特別なガイアメモリ_即ちゴールドメモリだ。

 

園咲家に生まれたんだ。

いつかは敵幹部としてのガイアメモリを手に入れると覚悟はしていたが、()()()このイニシャルとは……。

 

 

 

ウウウウウ――――――――――!!!

 

 

 

「警報……。」

 

 

自分のメモリを眺めている時に施設全体に警報が鳴り響いた。

 

施設内の連絡用無線機に応答が入る。

 

「なんの警報ですか冴子姉様?」

『どうやらコソ泥が入ったみたい』

 

 

連絡の相手は偶然施設にいた冴子姉様だ。

 

時刻は夜中、時期的に鳴海荘吉と左翔太郎が、依頼で来人を救出の為に施設に潜入したビギンズナイトで間違いないだろう。

 

『ふふ、産業スパイかしら……運が悪いこと……私がいるときに忍び込むなんて。』

 

ついに始まる……仮面ライダーWが!

 

『どこの誰かは知らないけど無謀な事よ……貴方も現場に来なさい流牙。お父様からメモリは貰った筈よね?』

 

「ええ、冴子姉様。僕もすぐに向かいます。」

 

無線を切り、俺はガイアドライバーを装着し、父から貰ったガイアメモリを起動する。

 

 

俺が貰ったのは『C』メモリ  そのメモリの名は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コブラ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

毒蛇の記憶を宿したガイアメモリ……コブラメモリをガイアドライバーに挿し、コブラドーパントへと変身する。

 

まさか俺がコブラ男になるとは……。

仮面ライダー王蛇しかりブラッドスターク(エボルト)しかり……完全に敵側のモチーフだ。

 

体色は青紫、姿は映画仮面ライダーTHE Firstに出てきたコブラに近い。

蛇革の襟を立て、独自に開発した武装、メタルシャフトをリデコした様な武器『コブラロッド』を構え、俺は現場へと向かった。

 

 

 

 

 

襲撃の連絡を受けた現場に行くと、すでに鳴海荘吉が黒服の戦闘員と激しいバトルを繰り広げていた。

 

冴子姉様_タブー・ドーパントも居る。

 

一対多数にも関わらず鳴海荘吉の洗練された格闘によって黒服達は手も足も出なかった。

 

俺も思わず釘付けになってしまう。翔太郎が憧れるのも頷ける。

 

『マスカレイド』

 

最終手段として黒服達はガイアメモリを使用しマスカレイド・ドーパントに変身する。

 

「ガイアメモリを仕事で使わないのは俺のポリシーだったが……やむを得ん」

 

荘吉はロストドライバーを装着し黒いメモリを取り出す。

タブー・ドーパントは思わず声を漏らす。

 

『ロストドライバー、なぜ彼奴が?!』

 

 

『スカル!』「変身」

 

帽子を取り、スカルメモリをドライバーに装填し展開。

仮面ライダースカルになった荘吉は帽子を被り直すとマスカレイドドーパント達に向けて指を差した。

 

 

 

『さぁ……お前の罪を……数えろ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っち、私はもう一人の方を探すわ…貴方はソイツを始末しなさい。』

『分かった。』

 

 

……っん?一緒に戦わないのか冴子姉さん?!

 

『頼んだわよ。』

 

そう言い残し、タブードーパントは何処かへ飛び去った。

_いや、初戦闘が仮面ライダースカルって……なんて言う無理ゲー?

 

『おい、隠れてないで()()も出てきたらどうだ?』

 

気がつけばマスカレイド・ドーパントは全滅し、この場に残ったのは仮面ライダースカルと物陰から見ていた俺、『コブラ・ドーパント』…。

 

 

 

荘吉が言ってた「お前」とは多分……いや、絶対俺のことだ。

 

 

 

 

 

悲報:俺氏初戦で死亡決定

 

 

 

 

 

_______________________________

 

 

『おい、隠れてないで出てきたらどうだ?』

 

 

鳴海荘吉こと仮面ライダースカルは、妙な視線を感じ、その正体に話しかける。

 

 

『……。』

 

 

物陰から現れたのはコブラの様なドーパント……コブラ・ドーパントだった。

ガイアドライバーを装着している事から、おそらく幹部クラスのドーパント。彼はロッドを構え、警戒している様だったが、妙な事に敵意を感じ取れない。

 

『お前……戦う気ないな?』

 

コブラ・ドーパントはハッと顔を上げる。

どうやら本当に彼に敵意はない様だった。

 

『あぁそうだ……こんな事は時間の無駄だからさ。連れて行きたければ連れていくといいさ。』

 

連れていく……自分が施設に潜入した目的を知っているコブラ・ドーパントに驚くスカル。

荘吉がこの施設に乗り込んだ理由…それはこの施設に囚われた『運命の子』の救出だった。

 

『俺の狙いを知っていたのか?』

『まぁ……な。』

 

無駄な戦闘しなくて済むのはありがたい。

しかし、組織の幹部であろう者が、自分を見逃すというのは、腑に落ちないスカル。

運命の子は奴らにとってかなり重要な人物のはず……。

 

『彼奴は重要な存在のはずだ…なぜ逃す?』

『なぜ逃す…か。』

 

コブラ・ドーパントはスカルを見ると、肩を竦めた。

 

『貴方を見逃すのは組織ではなく俺の意思だ……そういう運命だからな。』

『運命?』

『来人と翔太郎は二人で一人だから……ね。』

『……!?』

 

(コイツ翔太郎の事を知って……!?それに運命……。)

 

スカルに戦慄が走る。

 

『鳴海荘吉……貴方に会えて良かった。さよなら。』

『待て!』

 

スカルはコブラ・ドーパントの後を追いかけるが、既に姿は消えていた。

 

 

_______________________________

 

俺の巧妙な話術(?)によってなんとかスカル戦を免れた。

 

『ふぅ……何とかダブルの初変身には間に合いそうだ。』

 

 

 

 

展開は原作通りに進む。

翔太郎のミスにより、ガイアタワーに閉じ込められた来人。

鳴海荘吉はスカルメモリを犠牲にする事で、ガイアタワーから来人を救い出す事に成功するも、逃げる途中で敵の凶弾に倒れ、自分の帽子を翔太郎に託した。

 

「俺に帽子は早い……まだ早ええよぉぉ――――!!!」

「似合う……男になれ。」

 

 

「おやぁっさぁーーーーーーーん!!!」

 

自分の判断ミスによって師である鳴海荘吉が死んだ……これは左翔太郎が一生背負う事になる罪だ。

 

名シーンをじっくり見ていたいのは山々だが、

この場面で俺にはやる事があった。

 

 

 

床が膨れ上がり、下の階からタブードーパントが現れた。

 

翔太郎とフィリップが吹き飛ばされたその隙に

俺はタブードーパントが開けた大穴から下の階に落ちていく鳴海荘吉の遺体をキャッチする。

俺の目的は鳴海荘吉のロストドライバーの回収だ。

あわよくばスカルメモリも回収したいところだが…来人救出の際に消滅している。

 

 

つまりこれは風都探偵版のビギンズナイト。

テレビ版では鳴海荘吉のロストドライバーとスカルメモリの行方は語られていないが、続編の風都探偵ではビギンズナイトについて詳しく語られており、前半のタブー戦にてロストドライバーは破壊され、スカルメモリはフィリップをガイアタワーから救い出すときに使い消滅したとされている。

 

タブー戦が俺との戦闘(戦っていない)に変わったことでロストドライバーは健在。

シュラウドが家を出る際に、ご丁寧にロストドライバーの設計図を消去していたから、ドライバーを回収できたのは嬉しい。

本来だったら純正メモリである『スカルメモリ』が欲しかった所だが、無い物は仕方がない

 

さて、遺体をどうするか。取り敢えず遺体を担く。

 

『サイクロン!ジョーカー!』

 

 

 

どうやら、初変身見逃してしまったようだ。

 

 

 

突風が巻き起こり、あたり一面を吹き飛ばす仮面ライダーW

突風に煽られた組織の戦闘ヘリは、操縦不能となりこのビルに激突。

その衝撃によりビルが大きく崩れ始め、あたりは瓦礫の山と化す。

俺も、早く脱出しないと。

 

そう考えてると、上の階からダブルと来人…を咥えたファングメモリが落下し、思わず俺は身を隠す。

 

ダブルは変身を解除し、フィリップは意識を取り戻す。

原作通りだと此処からはファングジョーカーのお披露目シーン。

これはマズイかも知れない。

 

『何しているの流牙!早く奴を捕まえなさい!!』

 

上から降りてきたタブードーパントに見つかり、俺は仕方なく遺体を担ぎながら二人の前に立ちはだかる。

 

 

「コブラ…男?」

 

翔太郎と目が合う。

 

「お前!おやっさんをどうするつもりだ!!!」

 

あ、しまった。

師の遺体を担いでいる謎の敵幹部_強キャラ感が強いが、完全に翔太郎から敵とみなされてしまった。

…主人公から敵意向けられるとか…少しだが傷つく。

 

「これで行こう。二人で此処を脱出する。」

 

 

来人はそんな翔太郎を無視してファングジョーカーに変身する。

 

 

「変身!」

 

 

 

 

 

『ファング!ジョーカー!』

 

 

 

おう…これはスカル以上の無理ゲー。

悲報『二回戦目がファングジョーカーである件』



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP3 Cが始動/新たなライダー(??)登場? R

 

ビギンズナイトの一件ではファングジョーカーにカラダヲボドボドにされながらも何とか施設を脱出した。

 

さすが暴走フォーム……今のレベルでは手も足も出なかった。

 

回収した鳴海荘吉の遺体はミュージアムで保管している。

今後の為の利用方法はまだ思いつかないが、持っていて損はないだろう。

 

あぁ、ダメだ…俺も人を物扱いしている。これでは琉兵衛と同じ穴のムジナだ。……これもドーパントになった影響か?

 

ドーパントに変身すると言うのは案外気持ちが良いものだった。

お酒を飲んだ感覚と似ている。

ドライバーで毒素を抑制しているため、まだ理性を保つことが出来るが……少しだけ、ガイアメモリを強く求める人間の思考が理解できた。

 

 

 

 

 

ビギンズナイトからかれこれ一年経過した。

 

だが、俺の人生目標に1つだけ訂正したい事がある。

園咲霧彦を“仮面ライダーナスカ”にしたいという計画を練ってきたが…

 

 

それを改めたいと思う……何故なら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ流牙君、調子はどうかな?今度冴子さんをディナーに誘いたくてね、彼女の好みとか教えてくれると嬉しいな。最近できたビルの最上階のレストランに予約を入れようと思うんだがどうだろうか?あそこから見る風都タワーは絶景でね彼女にも見せてやりたいんだ。今度君も足を運んでみるといいよ…何だったら今度僕と一緒に行くかい?あ、これは差し入れだ風都名物『風都饅頭』だ、きっと君も気にいるよ。部下の皆んなと一緒に食べてくれ。…そう言えば最近研究室に篭ってるそうじゃ無いか…駄目だよそんなんじゃ、たまには外に出て風都の風に当たりなさい。風都の風の心地よさはきっと君を癒してくれる。…あぁそうだ!今度君に会ったらプレゼントしようとしてたものがあって…はい限定品のふうと君ストラップだ。なにお礼は要らない、君はいずれ僕の義弟になるからね、もっと義兄に甘えて良いんだよ。そういえば若菜ちゃんにもプレゼントしなくては…今度予定を……。」

「あーはいはい、うんうんそうねー(棒読み)」

 

 

未来の義兄がめちゃくちゃ媚びを売ってウザい件について。

 

 

いや、まさかここまで絡んでくるなんて思わなかった。

男友達として立ち回ろうとしたが、どうも彼のお兄ちゃん属性が発動してしまい、ウザいほどに俺に絡んでくる。

毎日の様に俺の研究所に立ち寄っては、僕に気に入れられようと馴れ馴れしく接してくる。

彼を仮面ライダーにする為、脳をフル回転させてして研究に打ち込んでいるが、彼がウザ絡みして集中できない……

 

まさか本人が計画の一番の障害になるなんて…。

 

「あぁ…疲れた。」

 

霧彦の一方的な長話が終わり、自分の机に塞ぎ込む。

 

「変な人に目を付けられましたな?」

 

昆布茶を啜る部下の研究員に肩を叩かれた。

 

「ええ…まぁ悪い人では無いのですが。」

「ディガル・コーポレーションの幹部ですよね確か?何でもガイアメモリの販売業績が社1位だとか…。」

 

ちょっと頼りない顔の研究員も会話に入ってくる。

 

そうこの二人…あのネット版に出てくるガイアメモリ研究所の2人

なまくらな刑事のそっくりさん『真倉助手』と

なだぎのような刑事のそっくりさん『刃野博士』

刑事の方とは同姓同名の別人だと確認は取れている。

まさかネット版の2人が、本編の世界でも存在しているなんて、思ってもいなかった。

二人は俺の部下で、俺は次世代ガイアメモリ開発研究部の主任を務めており、差し詰め風都署における照井の様な立ち位置だ。

 

「実はここだけの話、近日にも園咲家に婿入りするんだよ彼。」

「えぇ!?マジっすか!」

「冴子姉様が気に入ってね…で、それで霧彦さん舞い上がっちゃって姉様に気に入られるために僕や若菜姉様にああやって媚を売ってるんだ。」

「へぇー。」

「唯のセールスマンが名家に婿入りを果たす…なかなか出来ることじゃないよ努力の結果かな。」

「そこは認めていますよ。ただあの人露骨なんだよなー。」

 

 

ため息を吐くと研究室の扉が再び開く

 

 

「そう言えば流牙君、話忘れた事が有るんだけ…」

「ちょっと黙っててケツ!!」

 

「け…ケツ?」

 

おっと、思わず悪態をついてしまった……いけない、いけない。

 

だがまぁ、当初の予定通り、彼を仮面ライダーにする事を目標に、

今後の立ち振る舞いを考えようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

ある実験をしようと、特殊な装置のセッティングをしている時

真倉助手が思い出した様に喋りだす。

 

「そう言えば知ってますか?最近噂されているドーパントを倒す謎の戦士の事。」

「んあぁ…都市伝説になってるアレか…一部じゃぁ『仮面ライダー』と呼ばれているとか何とか。」

 

「主任は知ってますか?」

 

そうか…その都市伝説が出始めたと言う事はもう翔太郎と来人がバディを組んで、探偵業の傍らダブルとして戦い始めた頃か。

 

「あぁ良く知ってるよ…俺が研究してる物の完成形と呼べる物を、その人達が持ってる。」

 

「え!?そうなんですか!!」

「詳しい話はまた今度だ。実験を開始するぞ。」

 

装置のセッティングを終え、装置にデバイスを繋げる。

 

「これより第6回ガイアメモリ浄化実験を開始する。」

 

Wドライバーの様な黒い特殊な装置には二つのメモリが刺さっており

正面から見て左側にはドーパントメモリ、右側にはWが持つメモリと同型の無色透明の『ブランクメモリ』と呼ばれる物が刺さっている。

『ブランクメモリ』は俺が開発した『記憶』が入っていない白紙(ブランク)のメモリだ。

 

この装置はガイアメモリの毒素を抜く浄化装置で

ドーパントメモリから記憶だけをコピーし抽出、片側のブランクメモリに保存する事によって次世代メモリを生成する事ができる仕組みだ。

 

まだ試作段階だが。

 

装置のボタンを押しイニシャル『A』のドーパントメモリの『記憶』が抽出されブランクメモリに保存される。

メモリに内包された『記憶』の量は膨大で、保存するだけでもかなり時間を食う事になった。

 

地球上に存在しえる細かな情報が全部入っている訳だ、そりゃ時間かかる。

 

無色透明な“ブランクメモリ”は徐々に色を変え青紫のガイアメモリに変色…そして一時間程経つと”ブランクメモリ“は新たなガイアメモリとして生まれ変わり、装置から完成のアラームが鳴る。

 

「おぉ!今回はうまく行きましたね!!」

 

完成に喜ぶ真倉助手…いやまだだ。

 

「…問題は性能だ。」

 

装置から青紫のガイアメモリを引き抜き観察する。

 

Wが使うガイアメモリと同型だが多少異なる部分があり

本体は不透明で端子が赤くなっている。

これは俺が差別化出来る様にデザインしたからだ。

 前回前々回の実験で上手く保存出来なかったのか、イニシャルが薄くなった例があったが、今回はハッキリとイニシャルが浮かび上がってる。

 

あとはメモリの性能、変身した時のスペックだ。

 

「よし、真倉助手…ちょっと手伝え」

 

「え?」

 

俺は返答を待たず、真倉助手にビギンズナイトで手に入れた”ロストドライバー“を巻きつける。

 

『アノマロカリス』

 

「レッツメモリトライ!!!」

 

ネット版の如く、俺は無理やりメモリをドライバーに装填し展開させる。

 

 

『アノマロカリス』

 

 

不協和音と共に真倉助手が仮面ライダー(?)へと変身する。

 

 

 

 

 

「なんじゃこりゃぁあーーーーー!!」

 

 

「んー…これは。」

 

 

 

 

…控えめで言って、すごくグロテスクなデザインのライダーだった。

 

いやライダーと呼べるのか?

 

一応ドライバーを使っている事からライダーの定義に入るのか…。

100歩譲って擬似ライダーに近い感じ…

 

いや、今はそこを考察している場合じゃない。

 

背中からヒレが無数に生えており頭部はダブルに似ているが、アンテナが無く口元から二本のアノマロカリス特有の触手が伸び、複眼は赤く飛び出ている。

 

 

見れば見るほど、不細工でアンバランスな姿だ。

 

同じ生物的なデザインでも”仮面ライダーギルス“はあんなにかっこいいのに…どうしてこうなった。

 

 

「ふーむ通常のアノマロカリスドーパントとは見た目が全然違いますな。」

 

刃野博士が興味深そうに仮面ライダーアノマロカリス(?)を観察する。

 

俺はデンデンと同じスコープ型のガジェットを用いてライダー(?)のスペックを測るが、期待していた数値よりかなり低かった。メモリと使用者の相性を差し引いても、これは実用化は難しい。

 

「やはりスペックが落ちてる…これだったら通常のドーパント体の方が強いか…やはり原因は保存不足か…あるいは。」

 

()()()()()()()()()()()()

かの”井坂深紅郎“の考えも理解は出来るが、俺の求めている仮面ライダーの力ではない。

 

さらなる改良が必要だ。

 

俺は仮面ライダー擬きのドライバーからアノマロカリスメモリを引き抜き、真倉助手の変身を解除させる。

 

「あ、戻った。」

 

「今回も失敗だ。」

 

俺が作ったこのメモリは差し詰め『劣化メモリ』と呼べるべき物だ。

対して価値のないゴミメモリ。

 

俺は劣化メモリを握り潰し、それをゴミ箱へ捨てる。

 

「あぁ!勿体ない。」

「今日は此処までにしよう。後片付けを頼んでいいですか?」

「もう終わりで宜しいのかな?」

 

「はい、この後実家で晩餐会があるので早めに帰宅します。遅れると冴子姉様がうるさいし。」

 

俺は後片付けを部下の二人に任せ、身支度を済ませると実験室を後にする。

 

やはり、細かな調整をしようにもデータ不足している。部下2人を相手に人体実験をし続けても、出来上がるにはいつになる事やら。

 

……まぁ、命を落とす可能性がある人体実験を繰り返し行えば、一気に計画は前進するが……、一応大切な部下にそんな危険な目に合わせる訳には行かない。

 

()()()()使()()()……いや、俺はまだそこまで外道に落ちたくはないな……。

 

 

 

 

 

______________________________

 

風都でも1位2位を争うほどの、豪華な豪邸である園咲家。

現在此処では家族が集う晩餐会が開かれていた。

 

食堂には3人と一匹

園咲家の家長にして、ミュージアムの支配者である『園咲琉兵衛』

その愛猫である『ミック』

 

琉兵衛と談笑しているIT企業ディガル・コーポレーションの若き女社長。長女である『園咲冴子』

 

そして二人の会話に入らず、出される料理を黙々と平らげる、若くしてミュージアム内で一目置かれる研究員 長男の『園咲流牙』

 

晩餐会が始まって一時間後、最後の一人である園咲家の次女である『園咲若菜』が到着し、ようやく一家が揃った。

 

「遅刻者はクビよ若菜、私の会社なら。」

 

長女である園咲冴子が遅れてきた若菜を咎める。

 

「…っ。だって渋滞でしたのよ。本当に腹立たしかったわ久々の晩餐会でしたのに。」

 

若菜は影で舌打をし、心の中で冴子に対して悪態をつきながら、自分の席に座る。

彼女は風都で高い知名度を有する人気アイドル。風都のラジオ局で『園咲若菜のヒーリングプリンセス』という冠番組を持っており若者からは『若菜姫』という愛称で親しまれている。

今回遅刻してきたのはラジオの収録後に起きた事故による渋滞。

自分は悪くないと言い訳をする。

 

「ビルが溶け人が死ぬ、この町ではよくあることだ。まぁ、我々の仕事のせいだがな。」

 

園咲琉兵衛は抱き抱えている愛猫のミックに餌を上げながら薄ら笑いをする。

 

「あれはマグマのメモリでしょ?一体誰が売ったのかしら。」

「最近非常に販売業績の良い若手が居ると聞いたが、何か知っているか流牙?」

 

琉兵衛はずっと黙っていた流牙に話をふる。

流牙はフォークとナイフを置き、ナプキンで口元を拭きながらその男の顔を思い浮かべる。

 

「あぁ、あの人。よく知ってますよ…最近仲良くなりましたし。」

「ほぉ。」

 

「お父様?」

 

冴子は席を立ち、メモリを取り出す。

「何だね冴子?」

「実は私…_」

 

『タブー』

 

『_結婚したい人が見つかったの。』

 

タブードーパントに変身し例の男と婚姻の許可を求める。

琉兵衛はその問いに対し、高笑いで答える。

 

そんなシリアスな雰囲気の中、流牙は…

 

 

 

 

 

 

(何で変身したんだろう冴子姉様…て、言うかこれ第一話のシーンじゃん)

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP4 Tの恐怖/仮面ライダーを作ると言う事は… R

「どうかな流牙くん。」

「お似合いです霧彦義兄さん。」

 

今日はついに冴子姉様と霧彦さんの結婚式。

霧彦は白いお洒落なタキシードに着替え、待機室で冴子の準備を待っていた。

 

丁度部屋には霧彦と俺の二人だけ、俺は危惧していたあることを聞く。

 

「体の具合はどうですか?」

 

霧彦は既に琉兵衛からナスカメモリを貰っている。

そう、霧彦の死因は確かに冴子のDVだが、それよりも前からメモリの毒素に体を蝕まれていた。

『ナスカメモリ』はゴールドメモリの中でも危険レベルで強力なガイアメモリで『ガイアドライバー』のフィルターの効果をしても、その毒素を完全に取り除く事ができない、かなり有毒なガイアメモリであった。

 

冴子姉様が直接手を下さなくても、彼が死ぬのは時間の問題であった。

 

「あぁ大丈夫だ。しかしコレは凄まじいメモリだ。マスカレイドとは比べ物にならない。」

 

元セールスマンの下っ端と言うのもあって、彼は今までは『マスカレイド』を使っていた。

 

ナスカとマスカレイドなんて天と地程に差がある、驚くのも当然。

 

「変身出来たのは奇跡ですね。強力なメモリな為、使える人間がなかなか居ませんでした。」

「自慢の義兄だと誇って良いんだよ?」

「あはは!!…変身できただけで天狗にならないで下さい。ナスカメモリは甘くは無い。」

 

俺は椅子から立ち上がり真剣な眼差しで霧彦を見る。

 

元々ナスカメモリと霧彦との相性は、変身出来るか出来ないかギリギリの数値しか持っていなかったと考えている。

 

実際レベル2の能力『超高速』を使用するたびに、霧彦の肉体は悲鳴を上げ、それ以上のレベルに覚醒する事は無かった。

メモリの力に体がついて行けていない…

 

直刺しでレベル3まで到達した、冴子の方がメモリとの相性は上だ。

 

「ナスカメモリは文字通り『ナスカ』の記憶を内包しています。その能力は何だと思いますか?」

 

「……ナスカと言えば地上絵が有名。と言う事は!」

「…『絵を描く能力』だなんて言わないでくださいよ。」

「い、いやそんな事は思ってないぞ!ただナスカメモリ自体、データバンクに記録が無かったから、詳しく知らないんだ。その能力とは一体?」

 

本編ではあまり語られていない能力、今から言うのは俺が独自で調査し、考察した事だ。

 

「『ナスカの地上絵』自体まだ謎が多い物ですから無理もありません。ナスカには『ハチドリ』『ペリカン』『クモ』『サル』『トカゲ』『宇宙飛行士』…など約300種類以上の地上絵が存在します。…つまりは『ナスカメモリ』は地上絵で描かれた『モノ』や『動物』の力を使う事が出来るメモリでは無いかと思うんです。」

 

ペリカン、コンドルなどの鳥類から『飛行能力』

『超高速』は恐らく『ハチドリ』

仮説があっていればナスカメモリに内包されている『記憶』の量は膨大で、ガイアドライバーでも毒素が抜け切れないのも頷ける。

 

だが、詳しい性能を調査するには、やりレベルを上げてもらわないといけない。

 

…しかし…どうする。『アレ』を渡すべきか否か。

 

「つまり300種以上の力がこのメモリにはあると言うことか!」

 

霧彦はナスカメモリを興奮気味に掲げる。

 

毒素が強いと言うのもあって、ガイアドライバーのフィルターを強化した『改良型』を俺は開発していた。

 

従来のガイアドライバーを使うよりかは遥かにマシだ。

 

では、なぜ俺は躊躇しているか…それは霧彦の成長に関係する。

 

毒素があると無いとでは成長速度が段違いなのだ。変態医師の説はある意味正しい。

彼の成長の遅れが、冴子に見限られるまでの期間を早めるのではないかと危惧している。

 

さて、どうするか…。

 

「冴子お姉様が貴方に何を期待したか知りませんが、ナスカメモリは強力だ…最悪、身を滅ぼすことになるかもしれない。」

 

「ふ…安心してくれ流牙君。僕はいずれ風都の闇を支配する男だ。この程度の力で屈するほど柔ではない。」

 

いや、実際屈しちゃうけど……。どっからくるのその自信は…。

 

「使いこなして冴子やお義父様の期待に応える…

勿論君もだ(ドヤ顔)。」

「……。」

 

そのドヤ顔が逆に心配だよ。

 

「旦那様…奥様の準備が整いました。」

「よし、では式場に向かうか。」

 

スタッフが冴子の準備が終わった事を告げると、この先の地獄を知らない霧彦は張り切りながら部屋を出ようとする。

 

「霧彦()()さん。」

 

俺はそんな霧彦を呼び止めた。

 

 

「僕はこう見えてもガイアメモリの研究者だ。義兄さんがそのメモリを使いこなせるようサポートしますよ…それが義弟の役目です。」

 

懐から改良型の黒いガイアドライバーを取り出し霧彦に差し出す。

見た目は通常のガイアドライバ一とは一変し、黒い成形色でできた無駄の少ないフォルムだ。

 

「これは?」

「結婚祝いです。俺が開発した改良型のメモリドライバー『ガイアドライバー2』です。きっと貴方の助けになります。」

 

「流牙君…ありがたく受け取っておくよ。」

 

霧彦は満面の笑みでそのドライバーを受け取る。

 

成長が遅れる可能性が有るかもしれないが、毒素に犯され本調子を出せない状態でいられるのも問題がある。

それに彼を生かすために色々と学習してきたんだ…俺が彼の成長を促せば問題ない。

 

 

 

「園咲家を失望させないでくださいね…。」

 

 

 

 

渡す間際、忠告する。

園咲の失望は彼の死を意味する。

 

 

 

霧彦と部屋を出て、会場に向かうと庭園で園咲琉兵衛が待っていた。

 

「霧彦君。」

「お義父様。」

 

「婚礼を上げる前に、君を一発殴らせてくれぬかな?」

「…ふ、まるでホームドラマ見たいですね。下っ端の私が娘さんを奪っていくからですか?」

 

笑みを浮かべながら霧彦の肩に手を置く琉兵衛。

霧彦の言うように王道なホームドラマのワンシーンみたいな雰囲気だが

琉兵衛のある行動で空気が変わる。

 

 

『テラー』

 

 

琉兵衛は懐からテラーメモリを取り出したのだ。

それを見た霧彦は眉を顰める。

そう一発は一発でも恐ろしいくらいに強力な一発。

霧彦が本当に『園咲』を名乗るのに相応しいかどうか見定める、いわば試験のようなものを行うとしていた。

 

「園咲家の者は皆、我らミュージアムの中枢。この町の…いや、全人類の統率者だ。君が『ナスカメモリ』の能力を極めているかどうか、それを確かめれば式を上げさせられる。」

 

琉兵衛の威圧に後退りをする霧彦。

二人の間に一触即発な空気が流れると、ベランダから園咲若菜が顔を出す。

 

「お父様…私が変わりますわ。」

『クレイドール』

 

クレイドールメモリを起動した若菜姉様。

ガイアドライバーを取り出し前ではなく後ろ側の腰に装着すると『クレイドールメモリ』がドライバーに吸い込まれる様に刺さり若菜は『クレイドール・ドーパント』に変身する。

 

『気取った男のメッキを剥ぐの、私大好き。』

 

ベランダから飛び降り、霧彦と対峙するクレイドール・ドーパント

試験を若菜が変わる事に琉兵衛は微笑みながら認める。

 

『さぁ、いくわよ…霧彦お義兄様?』

 

 

霧彦は覚悟を決め、軽く服装を整る。

そして何故かナスカドーパントに変身せず戦闘態勢に入る。

 

自分をナメて変身しない霧彦に対し、舌打ちをした若菜姉様は腕を霧彦に向け、エネルギー弾を放った。

 

 

 

二人の戦闘を原作どうりだなーと眺めている俺。

すると琉兵衛は俺の肩に手を置き微笑みを浮かべた。

 

父性溢れる優しい笑み…

 

 

しかし、それを見た途端寒気が身体中を走る。

 

 

 

「そう言えば流牙。」

「…な、なんですかお父様。」

 

肩に重くのしかかる()()()

あぁ、これがテラーメモリから来る『恐怖心』かと俺は理解する。

 

「次世代ガイアメモリの研究データが失われてから、君にその研究の全てを託していたが……最近目ぼしい成果を上げられていないそうじゃないか?()()()()()()()()()()()。」

 

 

ゾッッッ!!

 

 

恐怖心がより一層強くなり、体は勝手に震え、胸が重りで押さえつけられたかのように息苦しくなる。

 

 

 

これが“テラーの力”か。

実の息子でさえも、平気でその力の一端を使うとは、それだけで園咲琉兵衛の非人道性がうかがえる。

 

 

 

 

「お前の技術力には光るものがある。流石文音の元で学んだだけの事はあるな…しかし、成果を上げられないようじゃあミュージアムに居ても意味がない。それに()()X()も君の研究に大きな関心を持っている、お前の研究はミュージアム存続に関わる大切なものだ()()()()()()()是非とも成果を上げてくれ。もしできなければ…」

 

『テラー』

 

テラーメモリを俺に見せつけた。

悲鳴が込み上げそうになるが、俺はグッと抑える。

 

「家族が減るのは寂しい…父にその様な思いをさせたくないだろう?」

「…は、はい、お父様。」

 

 

 

 

『ナスカ』

 

 

気がつくと霧彦はナスカ・ドーパントに変身しクレイドール・ドーパントの拳を胸で難なく受け止める。

 

その様子を見た琉兵衛は満足そうに拍手を送った。

 

「合格と言わざるを得ないようだ。」

 

琉兵衛の言葉に嬉しそうに変身を解いた霧彦が、綺麗にお辞儀をする。

 

若菜は悔しみの舌打ちをすると、変身を解きその場を立ち去った。

琉兵衛も「この調子で精進する様に」と霧彦に言いながら式場に向かった。

 

二人が去った事を確認した霧彦は少し乱れた衣装を正しながら苦笑いを浮かべる。

 

「ふぅ、若菜ちゃんも中々きついね…ってどうしたんだい?顔色が悪いよ?」

 

霧彦は僕の顔を覗き込んだ。

 

「い、いえ。大丈夫です。先に式場に行ってください…新郎が遅れたら不味いですし。」

「具合が悪かったら無理に参加しなくていいんだよ?」

「いえ、少し外の空気を吸ったら会場に行きます」

「そうか…無理はしないように」

 

彼が去り、中庭には俺だけが残される。

近くにあったベンチに座り、呼吸を整え、震える自分の掌を見る。

 

 

あれがテラーメモリの力…「恐怖」の記憶を持った最恐のメモリか。

 

 

今でも震えが収まっていない。翔太郎もその力によって戦闘不能にまで陥っていたが、ドーパント体にならなくてもこれ程の力が有るとは…。

 

 

 

それにあの『警告』

 

 

 

何が「園咲家を失望させないでくださいね」だ…俺も似たような状況ではないか。

 

これ以上研究を長引かせれば、俺も霧彦のように始末される。

 

あの研究に着手してから一年以上経っているのに未だに次世代メモリの完成の目星が立っていない…そりゃミュージアムも痺れを切らす。

 

 

なぜここまで開発が停滞しているか…その原因に心当たりがある

 

 

 

「俺が躊躇しているからだな」

 

 

 

 

Wのデータ収集が無くとも、やろうと思えば次世代メモリ開発に必要なデータは揃えられる。なぜそれをやらないのか。

 

…それは非人道的な人体実験を経由するからだ。

 

琉兵衛の『躊躇』という発言も恐らくこの事を指している。

 

俺は仮面ライダー…つまり正義のヒーローが好きだ。

故にどうしても外道に落ちる事に抵抗がある。

 

その俺の倫理観が研究に歯止めをかけてた。

劣化メモリなどと言う無意味な物も…俺の躊躇からでき上がった物

 

 

…完全に俺は悪の研究者に向かない感性をしている。

 

 

この調子じゃあいつまで経っても『仮面ライダー』なんて作れやしない。

 

今更ミュージアムに入った事を後悔している。

 

メモリの性能調査実験は被験者が死ぬことが多い、非常に危険で、非人道的な実験だ。

強力なメモリほど毒素が強く、制御が難しい。

膨大な毒素によってそのまま死亡する者。

暴走によって制御を失い、そのまま殺処分され、解剖の分析に回される者。

 

など、被験者には想像を絶する末路が待っている。

 

ガイアメモリができるまで様々な犠牲者が生まれたが、今でもその実験は行なわれ犠牲者が減る事はない。

 

商品用とそうでない用にメモリを別ける為。

メモリ自体謎が多いためそれを調査、分析する為。理由は様々。

 

でもまぁ被験者の殆どが借金などによって自爆した自業自得な者が多く同情はできないが…それでも俺は躊躇してしまう。

 

自分の手を汚さず、他人が行った実験データを手に入れる事もできるが。本当に必要なデータは…やはり自分で行わなければ手に入らない。

 

 

ガイアメモリの開発は生温いものではないと分かっていたのに。

仮面ライダーナスカを作るなど豪語し、結局は人を踏み外す覚悟がなかった自分を恥じる。

 

“悪の研究者”としては大失格だ。俺はまるで悪者ぶる唯の子供。

 

本当の罪を背負うことを嫌い、ただ足踏みしているだけの愚者

 

なにも出来やしない。

 

いっそのこと全てを投げ出したい気分だが、『園咲』という血は、それを許さない。

逃げようと思えば…待っているのは死だ。

園咲琉兵衛はたとえ家族であろうと葬る。後の冴子がその良い例だ。

 

 

 

 

俺は一体どうすれば…どうしたいんだ。

 

 

 

 

俺は腕に付けたスネークウォッチを見つめる

これは俺がこの世界初めて作った物で、思い出深いものだ。

 

 

 

 

そして俺は前世の憧れを思い出す。

 

 

 

 

幼い頃、仮面ライダーになるよりも()()()()()()()()()()()という気持ちが強かった。

オリジナルライダーのイラストを描いては妄想を膨らませ…いつかはライダーのデザイナーになりたいなと儚い夢を抱いていた程だ。

 

 

…今はそのチャンスがある、術がある。

 

 

そうだ……仮面ライダーは()()()()()()()()()()()()

 

多くのライダーの力は怪人と同じ力を有している。

仮面ライダーWも元はドーパントと同じ、ガイアメモリという悪魔の道具を使った超人だ…唯一違うのは正義か悪か…。

 

変身ベルトも様々な犠牲を経て出来上がったものが多い。

犠牲なくして発明はできない。

 

 

()()()()()()()

 

 

「…俺は仮面ライダーを作りたい。」

 

 

 今後の俺に待ち受けているのは地獄であろう。

 

だが俺はやり遂げたい。

 

仮面ライダーを作りたいという強い『欲望』が生まれた。

 

《罪》を背負う事で正義のヒーローが産めるなら俺は喜んで背負う。

悪事に手を染める。

 

 

 

覚悟はできた。

 

 

 

いずれ作ったライダーが俺を倒すかもしれない。

だがそれは喜びであり俺の罪の()()だ。

 

 

 

精算の時まで…俺はもう止まらない。

 

 

俺はコブラメモリを起動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP5 Lが予告/夜風の如く怪盗ライダー Part1

ごめんなさい!超久々の投稿です!


 

風の町『風都』

この町で起こる様々な怪事件には人間を怪物(ドーパント)に変える悪魔の小箱『ガイアメモリ』と呼ばれる物が大きく関わっている。

闇の商人はそれらをばら撒き、手に入れた者は己を解放し、欲望のまま悪行に手を染める…この町ではよくある事だ。

 

 

 

雲が月を隠し、月明かりが届かないある日の夜。

 

長い残業を終え、夜遅く帰宅しようとした若いOL

彼女は今、暗い夜の風都を素足で走り回っていた。

 

その表情は恐怖に歪み、裸足である理由は

『怪人』から逃げる為、履いていたヒールを脱ぎ捨てたからである

 

「い、行き止まり!?」

 

地面に落ちていた小石や破片を踏んでしまったことによる痛みと闘いながら、ドーパントからなんとか逃げ回るも、不幸なことにフェンスが彼女の行手を阻んでしまう。

 

…追いつかれる。

女性は恐怖で震えながらゆっくり振り向く…

そこには醜い化け物がいた。

 

『追いついたよ美空…へへへ』

 

ジャラジャラと身体中に巻かれているチェーンの音を鳴らし近づいてくるドーパント。

黒い拘束具を彷彿とさせるそのドーパントは手錠の様なものを取り出しじりじりと女性との距離を詰めていく。

 

『君を監禁したい…僕だけのものになってよ美空ぁ』

 

人間ではない口元から涎をたらす化け物。

 

「いやだ…誰か…」

 

ガイアメモリによって強化された人間から逃げ切るなど不可能に近い。

女性の名前を呼んだ事でドーパントの正体は彼女を知る者だと分かるが女性には心当たりがない。

 

 

絶対絶命…まさにその時

 

 

一枚の赤いカードが風を切った。

 

 

『な、なんだ!?』

 

ドーパントと女性の間にその赤いカードが地面に突き刺さる。

 

『あぁ?これは?』

 

ドーパントはそれを拾い上げカードを見ると、その赤いカードには大きくLのイニシャルが入っており『お前のお宝をいただきに参上』とメッセージが書かれていた。

 

瞬間、カードが閃光弾のように爆発する。

 

『ぐお!?』

 

突然の閃光で目が眩んだドーパント

その隙を付き空から落ちてきた影がドーパントを蹴り飛ばし、女性から引き離すと、守る様に彼女の正面に華麗に着地した。

 

「あ、貴方は?」

 

まず目に入ったのは風都の夜風によって静かに靡く漆黒のマント。

そしてシルクハットを被った紳士のようなシルエット

そして赤い複眼の仮面

 

それはまるで都市伝説で有名な『仮面ライダー』のような存在だった。

 

「仮面…ライダー?」

 

女性は思わず呟く。

 

『仮面ライダー…良い響きだ。それいただき!』

 

強風が吹き、厚い雲に隠れていた月が姿を現し、仮面の戦士を照らす。

 

上品なワインレッドの体、全身には様々な宝石が付いた金色の装飾。

シルクハットとカイゼル髭のような意匠を凝らしたその仮面は、マントと右手に持つステッキと合わせることで『怪盗アルセーヌ・ルパン』を彷彿とさせる姿をしていた。

 

『では名乗らせてもらおう。 俺は闇を翔ける風都の夜風…仮面ライダールパン』

 

シルクハットのつばに手を当て、ポーズを決める仮面ライダールパン。

彼の腰には黄金のロストドライバーが巻かれており、そのスロットにはファングメモリを彷彿とさせる変形機構を持つ、ワインレッドのガイアメモリ『LUPIN』が挿入されている。

 

『可憐なお嬢様、今のうちにお家に帰りさないな。』

 

「ありがとう仮面ライダー!」

 

『行かせるか!!』

 

ドーパントは体のチェーンを女性に向けて飛ばすが、ルパンが割って入りステッキでチェーンを弾く。

 

『チェーンを使うドーパントか。便利そうだな』

 

ルパンは横目で女性が逃げた事を確認すると右手に持っていたステッキ型の武器『ルパンステッキ』をドーパントに向ける

 

『さぁ、君のお宝を貰い受ける。』

 

『邪魔をするなぁーーーーー!!!』

 

ドーパントは叫びながらチェーンを投げルパンを拘束。

ギチギチと音を立てながらチェーンの拘束は徐々に強くなっていく。

人間だったらすぐに骨が粉々になるだろう。しかしルパンは仮面の下で余裕の笑みを浮かべた。

 

『俺に拘束は無意味さ。俺は怪盗だぜ?』

 

ルパンはルパンメモリのレバーを一回倒す。

 

『ルパンイリュージョン!』

 

音声が鳴るとルパンの姿が闇に消え、拘束していたチェーンが地面に落ちる。

 

『なに!?…ぐお!?』

 

いつのまにかドーパントの背後に回っていたルパンは彼の膝裏を蹴り、体制を崩したとことで首にステッキの取手を引っかけ、顔面に膝蹴りを喰らわせた。

その後、次々とルパンから繰り出される華麗なステッキ捌きによってドーパントは劣勢に追い詰められていく。

 

『舐めるな!!!』

 

ドーパントはチェーンを増やし、それを両手で持つと鞭のように攻撃をする。

 

『はぁ!!』

 

ルパンはマントを広げながら後方にジャンプし避ける。

がむしゃらにチェーンを振り回すドーパント…。

ルパンに攻撃は当たらないが重い金属製のチェーンは周りのコンクリートや建物を手当たりしだい破壊する。

 

『なんて野蛮な…。俺が美しい戦いを見せてあげようか!』

 

ルパンはルパンメモリのレバーを二回倒した。

 

『ルパンマジック!』

 

体のあちこちにある様々な色の宝石が輝くと、大量の宝石ががルパンの周りに漂う。

ドーパントにステッキを向ける。

すると漂う宝石は機関銃の様に次々とドーパントを襲った。

 

『がぁあああ!!!』

 

大量の宝石に体を貫かれ、膝をつくドーパント。

 

『クライマックス…メモリキャッチだ!』

 

ルパンメモリのレバーを4回倒す。

 

『ルパン!マキシマムドライブ!』

 

ルパンメモリから映像フレームが飛び出し右足にエネルギーとして蓄えられる。そして漆黒のマントを靡かせながら助走をつけ、飛び蹴りの要領で右足に溜まったルパンメモリのエネルギーを一気にドーパント叩きつけた。

 

『ぐぉおおおお!?』

 

ドーパントは吹っ飛びビルの壁にめり込む。

マキシマムドライブを食らった場所から噴水のように大量の宝石が噴き出すと、ドーパントは火花を散らしながら爆発した。

 

 

「が、がぁ。」

 

『お前のお宝…たしかに頂いた。』

 

ドーパントは男性の姿に戻り地面に倒れる。

体内から噴き出た宝石の中で一際大きい宝石がルパンの左手に収まると、宝石は姿を変え、彼が使っていたガイアメモリになる。

 

「か、返せ…っぐ!?がぁ…ぎが…ぐ…が…か、が、がらだが!!」

 

メモリを取り返そうと地面を這いつくばる男性、しかし突如胸を押さえながらもがき苦しむ。

 

『おっと、残った毒素が暴走しているな。悪いな…メモリを強引に抜き取ったりすると、たまーにそうなる。運がなかったな。』

 

「ぐ、っが、お、俺は、ど、どうなる?!」

 

『多分死ぬよ…まぁ当然だな?』

 

「そ、そんな、だ、だずげで!!」

 

助けを乞いながらルパンの足にしがみつく男、しかしルパンはそれを雑に振り払う。

 

『申し訳ないけど…か弱いレディを襲ったんだ。因果応報ってやつだ…じゃ来世でまた会おう…アデュー』

 

「い、いやだ!ぐ、ぐぁーーーーー!!」

 

全身に黒い発疹が現れ、男は絶叫しながら粒子となって消滅する。

ルパンは何事も無かった様に回収したガイアメモリを見つめた。

 

『Bのメモリか。さて君にはどんな力が眠ってるのかな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いい仕上がりだな』

 

その一部始終を高台から観察していた一体の毒蛇。

その腰には、かつて仮面ライダースカルが使用していた物と同じ、赤いロストドライバーが巻かれていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________

 

 

『園咲若菜のヒーリングプリンセス!』

「おっしゃきたー!」

 

鳴海探偵事務所に所属する探偵『左翔太郎』は

以前、園咲家の屋敷で起きたスイーツドーパントの誘拐事件についての報告書を、ラジオを聴きながら纏めていたが…推しであるアイドル『園咲若菜』の冠番組である『園咲若菜のヒーリングプリンセス』が始まると作業していた手が止る

 

彼女の熱狂的なファンである相棒『フィリップ』も彼女のブロマイドを抱きしめながらラジオに釘付けになる。

 

 

『さてお待ちかね”風都ミステリーツアー“今回は凄いですよ!

ここ最近目撃情報が増えてきた『仮面ライダー』に関する投稿が沢山届いています!特に女性の投稿者が多いですね…モテモテですね仮面ライダー。」

 

「いやー、あはは。」

 

仮面ライダーが女性にモテてると聴いた翔太郎は頭をかきながら「まいったなー」と呟く。

 

ポン!と鳴海探偵事務所の所長である『鳴海亜樹子』のスリッパが翔太郎の頭に炸裂する。

 

「なに照れてんねん。モテてるのは仮面ライダーであって翔太郎君ではありませんよー」

「わ、分かってるよそんくらい!」

 

図星を付かれ、叩かれた部分をさすりながら、目線をキョロキョロとさせる翔太郎。

 

「本当かな〜?」

 

そんな翔太郎をジト目で睨む亜樹子。

 

しかし彼らは勘違いしていた。

ラジオで言っていた“仮面ライダー”とは、翔太郎とフィリップが変身する『仮面ライダーW』を指す言葉ではない事を…。

 

 

『夜風と共に颯爽と現れる漆黒のマント。乙女たちのハートを根こそぎ奪っていく大怪盗…その名も()()()()()()()()()

 

「「「仮面ライダールパン!?」」」

 

3人が同時に驚く。

 

「しょ、翔太郎君達以外にも仮面ライダーがいたんだ…。」

「いや、俺は知らねーぞ!」

 

「僕たち以外の仮面ライダー…ね、興味深い。」

 

自分達の知らない仮面ライダーの存在に、翔太郎は困惑し、フィリップは興味深そうに自分の顎を撫でた。

 

 

『しかしこの仮面ライダールパン、大怪盗という事もあって、彼に貴重な宝石やお宝が奪われるという被害に遭われた方もいるようで、果たして彼は正義の味方なのか、それとも悪党なのか…とってもミステリアスな仮面ライダーですね〜。」

 

「っふ何を言っている若菜姫…そんな奴、仮面ライダーじゃねー。」

 

翔太郎は机に置いてあったコーヒーを一気に飲み干した。

仮面ライダールパンの存在に納得がいかない。

 

「俺は認めねーぞ。」

 

そんな翔太郎の様子を興味深そうに観察するフィリップ。

一言何か言おうとした瞬間、事務所のチャイムがなり、人目を避けているフィリップは出しかけた言葉を戻しガレージにもどる。

 

「あ、依頼人かしら?」

 

亜樹子は出迎えの為、入口のドアを開けると特徴的な紫色のネクタイを巻いたスーツ姿の青年が立っていた。

 

「ごめんください。ここが鳴海探偵事務所であってますか?」

「あ、貴方は確か…。」

 

亜樹子は彼に見覚えがあった。

以前、園咲家に潜入した際に一回だけ彼とすれ違っていたのだ。

園咲家の関係者である事は確かだが、彼自身、屋敷への出入りが少なく詳しい事はなにも分からなかった。

 

「あの…?」

「あ、はい!ここであってますよ!ささ、どうぞー」

 

亜樹子はとりあえず彼を接客用の席に座らせると翔太郎と一緒に彼の話を聞くことにした。

 

「初めまして、私はこういう者です。父…館長は多忙なため、代理の私が来ました。」

 

彼は名刺を取り出し翔太郎と亜樹子にそれぞれ手渡す。

名刺には『風都博物館 館長代理 園咲流牙』と書かれていた。

 

 

「園咲流牙さん…園咲?!」

「も、もしかして…。」

 

「はい、若菜姉さんは私の実の姉です。(^U^)」

 

にっこりと微笑む流牙

 

 

「「えぇーーー!?」」

 

 

いつもラジオで聴いているアイドルの弟である事に、思わず声を上げて驚く二人

 

 

「ご、ごほん!! それで若菜姫の弟さん。うちにどう言ったご要件で?」

 

急に格好をつけ、渋い声で接客し始めた翔太郎。

「なにカッコつけとるねん!」とスリッパでツッコミたい気持ちを抑えながら亜樹子は翔太郎に冷ややかな目線を向ける。

 

「それが…一昨日、当館にこの様なものが届いたんです。」

 

流牙が取り出したのは一枚の赤いカード。

そこには予告状と書かれておりメッセージが添えられている。

 

二人が1番に目を引いたのは予告状を送った者の名前だった。

 

「予告状…仮面ライダールパン!?」

 

_予告状

13日の深夜0時 風都博物館に展示されているお宝『セルメダル』を全て貰い受ける。 風都を翔ける夜風 仮面ライダールパンより_

 

日付は明後日、紛うことなき仮面ライダールパンの犯行予告である。

 

「セルメダルって?」

 

ルパンが狙っているお宝について質問をする亜樹子

流牙は軽く頷くとバッグからタブレットPCを取り出し、保存されている写真を二人に見せる。

 

「これは約800年前に滅んだとされる王国の跡地から発見されました。

伝承によると かつてその国の王が錬金術師に作らせた”未知の力“を秘めたメダルだそうです。未だに謎が多くて現在も研究が続いています。」

 

写真に映ってるのは数枚の銀色のメダル

裏面は共通して十字が彫られ、表面は一枚一枚別々の動物が彫られているなんとも奇妙な遺物であった。

写真からでもその不思議なオーラが感じとれ、素人の目にもこれが相当なお宝だと理解できる。

 

「ほぉ、そんな物が。」

 

翔太郎が興味深そうに写真を見つめる。

 

「当館が研究資金を一部援助した事により実物を数枚だけ展示することが許されてまして…これを盗まれてしまうと当館の信用が大きく落ちてしまいます…。この予告が届いてからすぐに警察と相談して、防犯セキュリティをより一層強化しましたが…。以前彼の被害に遭われた人の話のよると、世界一の防犯システムを持ってしてもなお、仮面ライダールパンの前では意味をなさないと言われました。」

 

「まさに世紀の大泥棒ね。」

 

「なんでも彼は多くの()()()()()()を所有しており、様々な力を利用して盗み出す…との事でした。」

 

「…なんだと?」

 

”ガイアメモリ“という単語に翔太郎が反応する。

 

「ここがガイアメモリ関連の事件の駆け込み寺という話を耳にしたもので。どうか我々に力を貸してください。」

 

二人に深々と頭を下げた流牙。

翔太郎は亜樹子と目を合わせ、軽く頷くと流牙の肩に手を置いた。

 

「ああ…まかせろ。個人的にルパンって野郎は気に食わない。喜んで力を貸すぜ。」

 

ルパンはもしかしたらドーパントかもしれない。だったら尚更仮面ライダーの名を語ることが許せない。翔太郎の中に怒りが沸き起こる。

 

「ありがとうございます!」

 

「亜樹子は先に博物館に向かってくれ。俺はフィリップと話をする。」

「フィリップ?」

 

流牙が名前を聞き返す。

 

「あぁ、俺の相棒だ、少し出不精でね。」

 

 

 

 

 

 

流牙が去った後、事務所のガレージで鉄骨に寄りかかりながらルパンに対する不満が爆発する翔太郎。

 

 

「園咲流牙…若菜姫の弟か興味深いね。」

 

「あ、いや、弟のことはいい。今はルパンとかいう野郎のことだ。」

 

「仮面ライダー『ルパン』… フランスの作家モーリス・ルブランの推理小説に出てくる怪盗『アルセーヌ・ルパン』が由来か。アルセーヌ・ルパンは善良な義賊として書かれている…情報が正しければ仮面ライダールパンもそれに準えて一般人を助けているようだね。」

 

そんなフィリップの話に首を振る翔太郎。

 

「それでも盗人、犯罪者だ。そんな奴が仮面ライダーの名を使うことは…俺が許せねぇ。”仮面ライダー“は風都市民が付けてくれた大切な称号だ…それをルパンなんてふざけた野郎に盗まれてたまるか…」

 

帽子を整え、フィリップがメンテナンスしていたメモリガジェットを回収すると足速にガレージを出ようとする翔太郎

 

「俺が絶対捕まえてやる。ルパンについて情報を集めてくる。」

 

「感情的になってる。ハーフボイルド」

 

フィリップの正論が翔太郎に刺さる。

 

「ば、うるせぇ」

 

そんな事は自分が一番よくわかってる。

 

 

 

 

 

 




実際ルパンメモリはファングメモリよりもズーメモリに造形や構造が近いかも(小説版に登場したガイアメモリ)

なんと仮面ライダールパンが登場!
探偵、警察ときたらやっぱ怪盗でしょ!
見た目はドライブのルパンをWライダーに頑張って変換してください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP6 Lが予告/夜風の如く怪盗ライダー Part2

めちゃ伸びてびっくりした!評価と誤字報告ありがとうございます!
今回はオリキャラが登場します!苦手な方はバックをお願いしましょう!


園咲家の一室。

あまり使われていない流牙の部屋に上半身を脱いだ霧彦と、呆れ顔の流牙がいた。

 

「これでよし」

「痛い!?」

 

霧彦の怪我の処置を終え、流牙はあえて怪我の箇所を平手打ちする。

タブードーパントの攻撃(妻のDV)でできた傷を、まともに治療していなかった霧彦に対し、半強引に治療を施した流牙。

包帯や湿布を片づけ、ため息をつきながら自分のベットに座る。

 

「冴子姉様も酷いよね。自分だって逃したくせに、旦那に当たるとは。」

「い、いや。私が不甲斐ないせいだ…冴子は悪くない。」

 

霧彦は叩かれた箇所をさすりながら、脱いでいた上着を着る。

 

暴力を振るわれてもなお(冴子)を庇う霧彦

そんな彼のお人好しさに流牙は再び呆れ「一途だね」と言いながらナスカメモリを見る。

 

「まぁ…確かに、義兄さんはナスカメモリを完全に使いこなせていないのが現状だ。ドライバーの調子はどう?」

 

「いや、全く問題ない。以前のドライバーと比べて体が軽くなる。」

 

「その軽さが問題だけどね。」

 

「え?」

 

「正直、義兄さんとナスカメモリの相性はそんなに高くない。このまま使い続けても精々レベル2止まりだろ。」

 

「な、まさか。そんな事はない!私なら上手く使え…っく」

 

霧彦が咄嗟に反論するも、急に体を動かした事により怪我が痛む。

 

「安心してください。それを何とかするのが僕の役割です。」

 

ナスカメモリを霧彦に投げ渡し、自分の荷物からタブレットPCを取り出す。

 

「ガイアメモリには記憶が内包されているのは知っていますか?」

「あぁ、そんなのは常識だ。」

「その記憶を直接刻むんですよ…脳に」

 

タブレットに保存しているあるデータを霧彦に見せる。

そこに書かれていたのはガイアメモリの記憶を人間の脳に移植するというものだった。

 

「記憶を刻む?」

「人間の脳にメモリの記憶を直接埋め込む事によって、相性とは関係なしに、これまで以上の力を発揮させるというものです。通常の変身方法では比べ物にならないスピードでレベル1レベル2、レベル3…いやそれ以上のレベルまで到達し、ドーパントを超える存在を生み出すことができる…と言う仮説です。」

 

流牙の瞳が霧彦の顔を捉える。

 

「ただドーピングするのでは無い。メモリに内包されている記憶を巡り、感じ、真に理解する事で、ガイアメモリ本来の力が引き出せるのでは無いかと僕は信じてるのです。」

 

「そ、それは危険ではないか?肉体が持たない。」

 

霧彦の反応は最もだ。

つまりはドーパントとは違う、ガイアメモリとの一体化。

膨大なデータ量を生身の人間の脳に刻むのは、どんな悪影響が出るのか分からない。

 

「確かに通常のドーパントメモリだったらそのデータ量と毒素で耐えられないでしょう……この研究で()()()()()は生まれましたが、専用のガイアメモリとガジェットのプロトタイプは完成済み、今は生きのいいモルモット1号が順調にデータを採ってくれてます。」

 

 

流牙の口角が上がる。その表情は新しいおもちゃが手に入った子供の様な無邪気さを感じる。

 

「流牙君?」

 

どこか()()()()()()()()彼に対し、霧彦は心配そうに彼の名前を呼ぶ。

 

「おっとそうでした。今から博物館に行かなければ。」

 

急いでタブレットPCをカバンに戻し、ハンガーにかけていたお気に入りの青紫のネクタイを巻き始める。

 

「あぁ、そういえば風都を賑わせている怪盗から犯行予告が来たんだって?手伝おうか?」

 

「大丈夫ですよ、怪我人は大人しくしてなさいってね。でもありがとうございます。」

「この程度擦り傷てい…おっとと!!」

 

さぁ怪我人は帰った帰ったと言い、そのまま霧彦を部屋から追い出す流牙。

そして完全に霧彦の気配がなくなった事を確認すると、カバンからある物を取り出す。

 

(俺が初めて作った仮面ライダー…君はどこまで戦ってくれるかな?)

 

その手に持っているのは、以前ルパンが手に入れた物と同じBのイニシャルのガイアメモリ。紫色の端子をしているが見た目はWが持つT 1メモリと同じ外見をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

左翔太郎は町中を駆け巡っていた。

仮面ライダールパンに助けられた、もしくは被害に遭ったという人物を伝を頼りに1人ずつ聞き込みを行っていた。

 

そして話を聞けば聞くほど、ルパンに対し嫌な感情が湧いてくる。

 

 

「怪物に襲われたところを助けてくれたのよ!お姫様抱っこされちゃったしかっこよかったなぁ」

 

「とても紳士的だったわぁ、中身は絶対ナイスガイね。」

 

「大きくなったらルパンと結婚するんだー。」

 

「真っ赤な薔薇貰ったの…とても情熱的な夜だった。」

 

「私は彼以上のヒーローを知らないわ!エレガントでゴージャス!私だけのヒーローにしたい!」

 

 

 

 

 

 

「なんてキザったらしい野郎なんだ!」

 

ルパンが現れるのは殆ど夜であり、助けられたという人物は男性に比べ女性の方が圧倒位的に多い。

ついでにその殆どがルパンにハートを奪われていた。

 

園咲若菜が言っていたように乙女のハートも奪っていく罪深い大怪盗だ。

 

彼に対する不満がより一層強くなる。

 

逆に盗難被害に関する情報は少ない。

被害が少ない…と言うよりかは、あまり目立ちたくない裏世界の人間がターゲットにされている事が多く、なかなかに情報が集まらない。

 

そしてようやく1人、ルパンの被害にあったという人物とコンタクトを取る事に成功し、最近オープンした喫茶店で待ち合わせをする事になった。

 

予定より1時間早く到着した翔太郎は、空いた時間を使い、新しくできた喫茶店を知る為にメニューを開く。

 

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

 

背の高い青年店員がオーダーをとりにくる。

 

「コーヒー1つ」

「かしこまりました…って翔太郎?」

 

店員は翔太郎の顔を見て驚いた表情をする。

 

「あ?」

「お前、左翔太郎だよな?」

 

タメ口で話している事から自分の知り合いだと考えるが、翔太郎は彼の顔を思い出せないでいた。

 

「悪いが…どちら様で?」

「俺だ。小中一緒だった。海戸透(かいととおる)だよ!」

「海戸…え、あの海戸透か!!?」

 

海戸透…名前を聞いて小、中学校が一緒だった友人と彼の顔が重なり

ようやく思い出すことが出来た翔太郎。

 

「久しぶりだな…マスター、知り合いと話したいから休憩とります!」

 

「いいよぉ。」

 

黒服を来た若い喫茶店の店長は短く承諾する。

 

翔太郎が注文したコーヒーと自分用のカフェオレを置きながら、翔太郎の正面に座った透は翔太郎との再会を喜んだ。

 

「いやーまさかこんな所で再会できるなんて。」

「お前が風都を出て以来だな…いつ帰ってきた?」

「2ヶ月ほど前、本当に最近さぁ」

 

爽やかな笑顔を浮かべたままカフェオレを飲む透。

翔太郎はそんな透を不思議そうに見ていた。

 

「最初見た時全然分からなかったぜ。こう言っちゃ悪いが…昔のお前はもっと暗いイメージがあったが…。」

 

翔太郎が思い浮かべるのは、前髪が長く猫背、いつもおどおどとしていた弱気な少年。しかし目の前にいるには背がすらっと高く、清潔感のある爽やかな好青年であり、昔とは比べ物にもならない程別人になっていた。

 

「あぁ、あの頃の俺は…色々と余裕がなかった。」

昔を思い出し。何処か遠くを見る透

その反応を見て翔太郎は「やべっ」っと言いながら口元を抑える。

 

「わりぃ…そうだったな。」

 

翔太郎は彼の友人だったからこそ、彼の暗い過去を知っている。

父親は死亡し、母親もそれで病んでしまい、透は夢見町に住む親戚に引き取らた。

 

だが透はそんな過去を軽く流せる程に成長している。

 

「なぁにもう昔の事だ気にするな。今は十分充実してる。風都にも帰ってこれたし。友人とも再会できた…今は何をやってんだ翔太郎?」

 

俺は見ての通り喫茶店の店員さ。と付け加えながら翔太郎に質問をする。

 

「あぁ、今は私立探偵だ…っといけね、仕事中だったわ。」

 

翔太郎は店内を見渡し、目的の人物が来ていないかを確認する。

まだ来ていない様だ。

 

「探偵か、そう言えば将来の夢は探偵って言ってた気が…叶ったじゃねーか。調べごとか?」

 

「巷で有名なルパンっつう怪盗ついて、色々聞き込みをしている。」

 

ルパン…その言葉に透は反応する。

 

「ルパン…あぁ仮面ライダールパンね。」

「あぁ、そうだ。何か知ってるか?」

 

透はカフェオレを置き、一呼吸する。

 

「…よく知ってるよ。僕を変えてくれた存在さ。」

「会った事が?」

 

少し間を置いて いいや、と首を振る。

 

「……直接会ったことは無い。なんて言うか…そう、間接的に助けられた。」

「お前もか…全く、そいつのどこが良いんだか。盗人だぞ。」

「そうか?色んな人を助けているみたいだし、正義のアウトローって感じでカッコイイじゃん。」

 

翔太郎は鼻で笑う。

 

「奴のせいで困っている人がいるんだぞ。そんな奴認められるか。」

 

依頼してきた園咲流牙もその1人だ。

仮面ライダーとは人々を助ける存在であり、私利私欲の為に人を困らせるような存在ではない。

翔太郎がルパンを認められない要因の一つである。

 

「そうだ!兄ちゃんの言う通りだ!」

 

突如、一人の強面の大男が翔太郎の背中を叩きながら、翔太郎の意見に同調する。

 

「がははすまんな。話が聞こえてしまって。君が私立探偵の左翔太郎君か!」

「あ、どうも わざわざ来てもらって。」

「なに、ルパンの野郎を捕まえるんだろ?なら喜んで協力するぜ!!」

 

翔太郎が帽子を取り頭を下げる。

 

大男の名は鹿島平助(しかじまへいすけ)。自称不動産業を営んでいる何かと黒い噂が絶えない人物である。あまり表立って行動するような人物ではないが、数日前ルパンの盗難被害にあった事で、逮捕に協力できるなら、と伝を介して翔太郎と会う事になった。

 

透は翔太郎に何か言いたげだったが、仕事の邪魔をしてはいけないと思い休憩を終わらせカウンターに戻る。

 

「問題なければ当時の詳しい状況をお伺いしても?」

 

「詳しいことって言っても、気がついていたら取られてたんだ。」

 

鹿島は当時の事を話す。

 

 

 

 

 

ルパンから予告状が届いてから直ぐに、ターゲットになっている宝を頑丈な隠し金庫に入れ、警備員を倍に増やし、常に厳戒態勢で24時間屋敷を見張った。

 

しかし、犯行当日、世にも奇妙な事が起こった。

 

犯行時刻丁度、奴は屋敷の屋根に現れ

粋にマントを靡かせながら『仮面ライダールパン参上』と高笑いをしていた。

 

警備員が多かった事もあって15分そこらで簡単に捕まえた。

しかし、どうも奴の様子がおかしかった…。

逃げてる最中あんなにおしゃべりだった奴が、捕まった途端一言も喋らなくなったんだ。

 

「何か可笑しい」…そう思った瞬間

ルパンが輝き始め一瞬でウチの警備員に変わったんだ。

まるで初めからそこに居たかのように、一瞬でだ!

 

捕まった警備員の口にはロープが縛られており、それで喋れない状態になっていた。

 

ルパンの正体が警備員?そんなはずがない。

嫌な予感がし、俺は急いで宝がある隠し金庫に向かった。

 

そこにあったのは気絶した見張りと、開けられた金庫。

 

そして宝があった所には「お宝確かに頂いた」というルパンからのメッセージが入った赤いカード。

 

 

 

 

 

 

 

「完全にしてやられたよ。監視カメラはデータごと破壊されていたし、金庫は物理的に開けられた跡はなく、俺しか知らないはずのパスワードで開けられていた…。結局トリックはわからないまま、俺は奴に負けたんだ。」

 

鹿島はぐったりとし目元に涙を浮かべる。

 

「ちなみに…何を盗まれたんですか?」

「詳しいことは言えないが珍しい石さ…綺麗な石だった…あぁ…アレはママに送る予定だった大切なプレゼントだったのにぃ…ごめんよママァ!!!」

 

「…ご、ご協力に感謝します。」

 

うおんうおんと男泣きを始める鹿島。

一人にしてやろう。そう思った翔太郎は足早に会計を済ませる。

 

「じゃ、俺はもういくわ。もし困った事があったらうちを頼りな」

「あぁ、また会おうぜ翔太郎。」

 

透に鳴海探偵事務所の名刺を渡し、店を出る翔太郎。

そんな後ろ姿を透はじっと見えなくなるまで見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴海探偵事務所のガレージ

フィリップの精神は無限のデータベースである『地球の本棚』にあった。

 

「キーワード…『怪盗』『仮面ライダールパン』『正体』」

 

地球上にある様々な記憶が本となっている空間。

フィリップは仮面ライダールパンに関する情報を探ろうとキーワードを口にし検索をする。

 

無数の本棚が高速で移動をし、1つの厚い本がフィリップの前に現れる。

 

「ビンゴ」

 

表紙には『KAMEN RIDER LUPIN』と書かれており、仮面ライダールパン関する情報が載っているだろうとフィリップは期待した。

 

…しかし

 

「これは…。」

 

いざ手に取ってみると、本には頑丈な錠前が付いており閲覧する事ができない。

 

「フィリップ戻った…ってもう調べているのか。」

 

翔太郎がガレージに戻ってくる。

 

「あぁ、僕の方でもルパンの正体を調べようとはしたが…。」

「どした?」

「ヘブンズトルネードの時と同じように閲覧不能になっている。」

“ヘブンズトルネード”とは二人のダンサーが生み出した技であり

ある事情でその技を封印した事により、地球の本棚でも閲覧不能となった事例があった。

 

正にそれと同じ事が起きている。

 

「怪盗の正体は…地球の本棚でも秘密って事か。」

「おそらく、彼が使っているガイアメモリの影響だろう。これでは奴の能力を探る事ができない。」

 

怪盗の正体は秘密。

ごく単純な理由だが、理にかなっている。

 

「仕方がない…ルパンの正体や能力はこの際いい…知りたいのは奴の手口だ。」

 

「分かった…再び検索しよう。」

 

フィリップは地球の本棚に入る。

 

「キーワードを」

 

「『仮面ライダールパン』『トリック』『変わり身』」

 

再び大量の本棚が移動し、『LUPIN TRICK』と書かれた本が現れるが…。

 

「だめだ翔太郎…これも閲覧ができない。」

 

その本にも鍵がかかっていた。

 

「仮面ライダールパン関連の記憶はどれも閲覧不能になっているのか…これは思ったより強敵だ翔太郎。」

 

閲覧ができない状況に頭を悩ます2人

翔太郎は鹿島半助の話を思い返す。

 

「どうやってルパンは隠し倉庫の場所が分かったんだ?」

 

屋敷に居ないはずのルパンが、たった数分で隠し倉庫を見つけ出し

宝を盗んでいった。

 

翔太郎は違和感を感じ、ある推測を立てる。

 

「キーワードを変える。「鹿島平助」「警備」…そして「変装」だ」

 

フィリップは翔太郎のキーワード通りに検索し直すと一冊の本が現れる。

 

「ビンゴだ翔太郎。成程…ルパンではなく鹿島平助の盗難事件にアプローチを変えたんだね。」

 

「あぁ、盗難事件の全貌が分かれば、自ずとルパンの能力について目星がつけられる。」

 

フィリップは白紙の本を開き、事件の真相をホワイトボードに書き連ねる。

そして数時間後、フィリップは勢い良く本を閉じた。

 

 

「事件の全てを閲覧した。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぇー、これがセルメダルかぁ。」

「あぁ、なんでも大層なお宝だからな。しっかり守らないとな』

 

 

風都警察署の刑事『刃野幹夫』と『真倉俊』は風都博物館に展示されているセルメダルを眺めていた。

風都署は現在、様々な盗難事件を起こす仮面ライダールパンの逮捕に躍起になっており、今回の風都博物館への犯行予告を受けてから多くの警官が博物館やその周辺の警備に当たっている。

 

そして今日は予告していた日の当日。

ルパンが現れるのは深夜0時…23時を切った現在、警官達の間に緊張が走る。

 

「しっかし、警備は厳重ですけど…こんなに堂々と置いていいんですかね?」

 

セルメダルの展示場所は移しておらず、見通しの良い部屋の真ん中にゲージがぽつんと置かれている状態だった。

 

「安心してください。それは偽物です。」

 

真倉の質問に答えながら、いつもの紫色のネクタイを巻いた流牙と彼に付いていた亜樹子が現れる。

「流牙君!現場に来たら危ないよー」

 

「大丈夫です亜樹子さん…父に館を任されている以上、私も現場でコレを守る責任がありますから。本物は地下倉庫に厳重に保管してあります。」

 

「って言うか、亜樹子ちゃんがいるって事は、探偵も来るのか?」

 

うげーと嫌な顔をする真倉。

 

「そうなんだけど、犯行当日なのに連絡が着かなくて…。」

 

翔太郎は犯行当日にも関わらず昼間から連絡がつかないでいた。

 

「翔太郎…そいつは心強いな。」

 

トレードマークであるツボ押し器を肩に掛けながら腕時計を見る刃野。

 

「何言ってんですか!こんな大事なこと一般人に任せて…刑事としてプライドが。」

「まぁいいじゃないか。人手は多い方がいい。」

 

翔太郎とは何かと不仲な真倉。

彼が関わることに猛反対するも刃野が宥める。

 

「でも翔太郎君いつ来るんだろう…。もう時間だよ…。」

 

犯行時間まであと3分。

警官達の警戒度が一気に上がり部屋が緊張に包まれる。

 

博物館の振り子時計、その音が響き渡るほど辺りは静かになる。

 

 

そして深夜0時を知らせる鐘の音。

 

 

「ルパンは見えるか?」

 

一人が外を見張る警官に無線連絡をする。

 

『いえ、見えま…ザザザ』

 

無線にノイズが走る。

 

「おい、どうした。」

 

無線に不具合が発生したその瞬間。

シューと空気が抜けるような音と共に辺り一面、白い煙に包まれる

 

「な、煙幕!?」

「あぁ!目がぁ!!」

「マズイ!窓を開けろ!!」

 

警官達は急いで部屋の窓を開け空気を入れる。

風が入りようやく白い煙が晴れるも…。

 

 

「あぁ!!メダルがない!!」

 

亜樹子がメダルがない事に気く。

メダルがあった場所には赤いカードが置かれており

 

『セルメダルは確かに()()。』というルパンからのメッセージが添えられている。

 

『ルパンを敷地内で発見!現在逃走中!』

 

無線が復活し、ルパンが現れたという連絡を受信すると刃野は窓の外を見た。

そこには複数人の警官に追いかけられている仮面ライダールパンの姿があった。

 

「ルパンだ!奴を追え!」

 

「「「はい!!」」

 

声を荒げ部屋にいる警官に指示をする刃野

外に向かう警官を追いかけるように真倉、亜樹子、流牙も部屋から出るが

 

「あれ刃野刑事!何処へ?!」

 

別方向に向かう刃野に気づく流牙。

 

「俺は本物を見てくる、お前達はルパンを追ってくれ!」

 

「あ、はい!倉庫は突き当たりの階段を右に下ってください!」

返事をし、再び外へ向かう流牙

亜樹子は現れない翔太郎に再び連絡を入れようと携帯電話を取り出すと

 

「翔太郎君何処いっちゃたのよぉーもー…お?」

 

携帯電話に着信が入る。しかし相手は翔太郎ではなく

 

「フィリップ君?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「刃野刑事!」

「ルパンが現れた!お前達も早く追うんだ!」

「はい!」

 

刃野は博物館に残っている警官に外に向かうよう声を掛けながら、急足で地下に向かっていた。

 

階段を下り、倉庫近くまで来た刃野の目の前にある人物が現れる。

 

「…翔太郎?」

 

そこには帽子の鍔に手を当てる、左翔太郎の姿があった。

 

「こんな所で何をやってるんだ刃さん」

「翔太郎…ここにいたのか!ルパンが現れたんだ!お前も早く外に。」

 

 

 

 

 

「安心しろ…ルパンはいる。    俺の目の前にな。」

 

 

 

そう言うと翔太郎は刃野を指差す。

 

 

「お、おいおい翔太郎。何言ってんだ?!ルパンならさっき外に…。」

 

「アレは囮だ。警備を引きつけた後にゆっくりお宝を盗む為のな。

鹿島平助の事件も囮を用意して、警備を手薄にした状態で宝を盗みだした。そしてその宝のありかを知る為に…お前は予め被害者と最も接触する人物に変装し、情報を仕入れた後に犯行に及んだ。鹿島の件も警備員辺りに化けてたんだろ?」

 

「は、なにを言って…。」

 

「俺は大勢がいる前で、あえて宝の隠し場所を言うように園咲に頼んでおいた…ここで張り込んでいたら、お前が現れると思ったからな…まさか刃さんに化けていたのか。」

 

刃野は焦った表情をし、弁解する。

 

「違う俺はルパンじゃない!信じてくれ翔太郎!!」

 

「本物の刃さんだったらなぁ、ルパンが現れた瞬間真っ先に追いかけてんだよ!」

 

 

「翔太郎君!連れてきたよ!」

 

亜樹子が真倉を含めた複数の警官を連れて現れる。

先程のフィリップの電話は翔太郎の罠を教える為であり、警官を連れてくるよう頼んでいた。

 

警官は銃を構えながら刃野の周りを包囲する。

 

「!?」

 

「大人しく投降しろ!刃野刑事の偽物野郎!!本物は何処だ!」

 

真倉が本物の刃野刑事の居場所を問いただす。

 

銃を向けられ焦っていた刃野の表情は一変、余裕の笑みを浮かべた。

 

「ふん、バレたら仕方がない。安心しろ、本物は今頃自宅でぐっすりさ。朝まで起きんよ。」

 

刃野はツボ押し器を投げ捨てると、懐から黄金のロストドライバーを取り出し腰に巻く。

 

「そのドライバーは!?」

 

黄金のドライバーを見た翔太郎はかつて鳴海荘吉が使っていたロストドライバーに似ている事に気がつき目を見開く。

 

刃野は手を広げる。

 

「ショータイムだルパン!」

 

 

『ふははははは!!』

 

 

辺りに男性の高笑いがこだまし 小さな影が、一瞬にして警官達が持っていた銃を叩き落とす。

 

「な、なんだ!?」

 

その正体は人型で動くガイアメモリ、ライブモード状態のルパンメモリだった。

ルパンメモリが刃野の手の平に乗っかると、刃野は素早くルパンメモリをメモリモードに変形させ、スイッチを押し起動する。

 

『ルパン』

 

「変身」

 

メモリをドライバーに刺し展開した瞬間、ジャズ調な音楽と共に黄金の竜巻が吹き荒れる。

 

そして『ルパン』という音声と共に刃野刑事の偽物は仮面ライダールパンへと姿を変えた。

 

『仮面ライダールパンここに参上。』

 

マントを靡かせ、ルパンステッキを召喚するルパン

それを抵抗とみなした警官は急いで銃を拾う。

 

「撃て!」

 

ルパンに銃弾の雨が降り注ぐも、仮面ライダーに変身した彼に一般的な武装が攻撃は効くはずもない。

 

「至急応援を!現在怪盗ルパンと交戦中!」

 

「と、投降するんだ怪盗!応援が博物館全体を包囲している…逃げ場は無いぞ!」

 

ぞろぞろと人が増え、辺りは警官だらけになる。

逃げ場は無い。

しかし彼は怪盗…逃げ道は作る物だ。

 

『ショーはまだ始まったばかり。今から素敵なマジックを見せよう。』

 

ルパンはメモリのレバーを引く。

その動作を見た翔太郎は直感的にそれが危険なものと分かり

急いで柱の影に隠れた。

 

『ルパンマジック!』

 

ルパンを中心に白い煙が発生し、一瞬にして視界が奪われる。

 

『げほっひまた煙幕!?』

『くっそぉ!逃すか!!』

 

しかし、先ほどの煙幕とは違い、白い煙は直ぐに晴れる。

翔太郎は直ぐにルパンを追いかけようと柱の影から身を乗り出すと…信じられない光景を目にする。

 

『いたぞルパン!捕まえた!』

『きゃぁ!何処触ってるのよ!』

『イッタ!!』

『な、なんだこれは!?』

『俺がルパンに…。』

『何が…。』

 

 

辺り一面ルパン、ルパン、ルパン、ルパン、ルパン

その場にいた翔太郎以外全員が、仮面ライダールパンに変身していた。

 

「なんじゃこりゃぁーーーーーー!」

 




次回 VS仮面ライダールパン


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP7 Lが予告/LとCとZ

風都探偵のアニメ楽しみだなぁー。


 

 

 

 

 

 

 

『ど、どどどどどう言う事だ…ルパンがいっぱい居るぞ!?』

『ほ、本物はどれだ!!』

『お前か!!』

『いや違うぞ!?』

『まるで分からん!』

 

現場は大混乱。

仮面ライダールパンの大群が互いを睨み合い、本物を見つけ出そうと必死だった。

翔太郎は鹿島の話に出た、ルパンが警備員になっていたという話を思い出す。

 

「警備員がルパンになっていたのは、奴の能力のせいって訳か!」

 

 

『翔太郎君!!』

 

亜樹子の声が聞こえ振り向くと、そこには少し小柄なルパンが居た。

 

「お前亜樹子か!?」

『ど、どうしよう。私ルパンなっちゃった!!これ重いし、取れないし…私聞いてない!!』

 

何とかスーツを脱ごうと、仮面やマントを引っ張るがびくともしない。

しかも、仮面ライダールパンの姿になっても見てくれだけで、着てみれば唯の重い鎧だった。

 

「お前は警官達と一緒にここにいろ。今の状態で奴を追いかけても、本物がどれか分からなくなっちまうからな。」

 

翔太郎は混乱に紛れ倉庫に向かっただろうと推測し、ルパンの大群の間を縫うように抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『厳重そうな扉だ…でもこれの前では無意味だ。』

 

翔太郎の推測通り、本物のルパンは既に厚い倉庫扉の前まで来ていた。

 

『キー!』

 

ルパンは紫の端子をした黄色いガイアメモリ『キーメモリ』を取り出しスマートフォン型のガジェット『ヘラクレスフォン』に指す。

 

『アンロック』

 

ヘラクレスフォンの画面をタップし、ガイアメモリの能力を発動させると、倉庫の電子ロックパネル部分にそれをかざす。

“キーメモリ”の力により自動的にパスワードが入力され、いとも簡単に頑丈な扉が開かれる。

 

ルパンは倉庫内に入り、並べられた遺物や化石、美術品を眺めながら目的の物を見つける。

 

『素晴らしい!』

 

目的の物_セルメダルが入ったゲージを叩き割り、備え付けられていた防犯システムによる警報が館内に鳴り響くも、ルパンは全く気にせず

9()()のセルメダルを用意していたケースの中に全て入れる。

 

後は逃げるだけ。

 

ケースを施錠し急足で倉庫から出ると、その行手を阻むように翔太郎が立っていた。

 

「待て怪盗野郎」

 

『やぁ名探偵…そこを退いた方が身のためだ。』

 

ルパンステッキを構え、忠告するルパン

 

「悪いが、今宵のマジックショーはお開きにしてもらうぞ……フィリップ!」 

 

懐からダブルドライバーを取り出し腰に装着。

さらにジョーカーメモリを取り出すと、スイッチを鳴らし、メモリを起動させる。

 

   『ジョーカー!』

 

『ガイアメモリ…しかもそれは!?』

 

同時刻、鳴海探偵事務所にいるフィリップの腰にもダブルドライバーが出現し、それを合図にサイクロンメモリを取り出す。

 

 

 『サイクロン!』

 

「「変身!」」

 

フィリップがドライバーにサイクロンメモリを挿し、フィリップの意識と共に翔太郎のドライバーにメモリが送られ、翔太郎もジョーカーメモリを挿しドライバーを展開する。

 

『サイクロン!ジョーカー!』

 

風を纏い翔太郎の姿は『仮面ライダーW』へと変化した.

 

『なに!?……そうか、お前が仮面ライダーWだったのか!』

 

ダブルを見たルパンは、かつて女性が言っていた仮面ライダーの正体が、左翔太郎である事に驚き 理解する。

 

『『さぁ、お前の罪を数えろ!』』

 

ルパンに指を刺しポーズを決めるダブル。

 

『あははははは…面白い!!』

 

ルパンも対抗する様に、帽子の鍔の様なアンテナを撫でながらステッキをダブルに向ける。

 

『さぁ、君のお宝を貰い受ける…

 

 

 

 

 

         ()()()()()

 

 

『バインド!』

 

 

ルパンは不意打ちの如く、ルパンステッキに紫色の端子を持つ『B』のガイアメモリ『バインド』を挿し能力を発動させる。

 

『な!?』

 

ルパンステッキを振りかざすと、金属製のチェーンが飛び出す。

不意をつかれたダブルは全身をチェーンを巻き付けられ、さらに追い討ちをかけるようにライブモードに変形したヘラクレスフォンが飛び出し、ダブルに巻きついているチェーンに止まる。

 

『ロック』

 

キーメモリの能力が発動し、チェーンは完全に固定されダブルは拘束される。

 

『あ、おい卑怯だぞ!!』

『奴もメモリガジェットを使うのか?!』

 

動きを封じられたダブル。

ルパンは手元に戻ったヘラクレスフォンをスマートフォン型に変形させ画面をタップし、ある物を呼び出す。

 

『俺は()()()()()()()()()()()でも有るが、引き際は心得ている。君たちのお宝(ガイアメモリ)も魅力的だ……が、またいずれ貰い受けよう。』

 

(ドゴーン!)と天井を突き抜けて現れたのは一台のワインレッドのビークル。

屋根が無いクラシックカーを彷彿とさせるルパン専用ビークル

『ライドロンL』にルパンは飛び乗ると、「アデュー」と言いながら車体をホッピングさせ穴の空いた天井から逃走する。

 

『あ、待て!!』

 

必死に外そうと力を入れるも、超人の怪力を持ってしてもなお壊れないチェーン。

闇雲にやってはダメだとフィリップはある事を思いつく。

 

『翔太郎“ヒートメタル’だ!』

『成程、そう言う事か!』

 

フィリップの意図を理解し、腕を何とか動かしメモリを入れ替える。

 

『ヒート!メタル!』

 

赤と銀に変化したダブルは、体を一気に発熱させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の風都を高速で走行するライドロンL。

鼻歌を歌い風を感じながら気持ちよくドライブするルパンは

背後から迫ってくるダブルの姿をバックミラーで確認する。

 

ヒートの熱でチェーンを溶かし、メタルの怪力で拘束を破ったダブルは

自分達の専用バイク『ハードボイルダー』でルパンを追跡する。

 

『来るか…なら、夜のカーチェイスと参ろうか!!』

 

アクセルを踏み、さらに加速したライドロンL。

ダブルも逃がさないと言わんばかりに さらにスピードを上げる。

 

『逃すか!!』

 

夜の街並みを二台のスーパービークルが走り回る。

深夜という事で交通量は少なく、ルパンは遠慮なしにスピードを上げる。

 

ダブルは”ルナトリガー“にフォームチェンジし、『トリガーマグナム』の追尾弾を利用してライドロンLを止めようとするが、後ろにも目が有るように巧みに避けられてしまう。

 

ルパンも反撃する為、黄金の射撃武器『ルパンガンナー』を取り出し、腕だけを後方に向け乱射し、弾幕を貼る。

 

『やろー!!』

 

なんとか弾幕を避けるダブル、このままでは埒があかない。

 

『フィリップ挟み撃ちだ!』

『あぁ、分かった。』

 

フィリップサイドでスタッグフォンを操作

 

『何をする気だ?』

 

追撃が無くなって違和感を覚えたルパンは後方を確認する…

その一瞬の隙を突いて横から大型トレーラー『リボルギャリー』がライドロンLに突進する。

 

『っくそ!!』

 

デカ物にぶつかった車体は勢いよく吹き飛び、ルパンとメダルが入ったケースは車外に投げ出される。

宙を舞う中、ルパンはケースに手を伸ばすもダブルはそれをさせまいとトリガーマグナの追尾弾でケースを撃ち抜いた。

 

『しまった!!』

 

バラバラに飛び散った9枚のメダルのうち4枚をルパンがキャッチし、そのまま華麗に着地する。

そして残りのメダルを回収しようと振り向くと、腕を伸ばしたダブル”ルナジョーカー‘によって残りのメダル5枚が回収されてしまう。

 

『お前…!』

 

宝を奪われた事に、今まで見せなかった感情が露わになるルパン。

 

『さぁ、残りを返して貰うぜ?』

『それはこっちの台詞だ!!』

 

 

 

戦いの場は人気の無い深夜の港に移り、2人の仮面ライダーが激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダブルがルパンを追ってしばらく経った風都博物館

 

「ふぅ、やっと戻れたぁー」

 

ルパンの変身が解除され、クタクタになった亜樹子は博物館のベンチに座る。

 

「大変でしたね亜樹子さん。」

 

亜樹子にお茶の入った紙コップを差し出す流牙。

 

「ありがとうー!すぅー…あぁ〜沁みるわぁ〜。流牙君は大丈夫だったの?」

「はい、あの場所には居なかったですから……ただぁ……。」

 

流牙はライドロンLが開けた床の大穴を見る。

 

「しばらくは休業ですね……。」

「ご、ご愁傷様です。」

 

亜樹子は手を合わせる。

 

「畜生、ルパンを取り逃した…刃野刑事の自宅に行って直ぐに安否を確認してください!」

「はい!」

 

真倉刑事が警官に指示を出しながら流牙の元まで行き、頭を下げる。

 

「すいません、こんな不甲斐ない結果で。」

「いえ、頭を上げてください……こちらこそ、お忙しい中ご協力ありがとうございました。」

「大丈夫だよ流牙君!きっと翔太郎君達が取り戻してきてくれるって!」

「亜樹子さん…そうですね。彼を信じます。」

 

 

 

 

流牙は2人と別れ、後の事を博物館の警備員に任せると地下駐車場に停めてある灰色のバイクにまたがる。

流牙が乗ってるのは、ディケイドのバイク『マシンディケイダー』の改造元『DN-01』をベースに開発した自分専用のバイクだ。

 

「…ここか。」

 

腕時計型のガジェット『スネークウォッチ』でルパンの居場所を把握すると、エンジンを入れ、懐から()()()()()()()()を取り出し腰に巻く

 

「コブラ!」

 

流牙が叫ぶとシュルシュルと音を立てながら、足元から腕に掛けて這うコブラ型のガジェット…ライブモード状態の『コブラメモリ』が手に収まりメモリモードに変形させ、そのままドライバーに指す。

 

 

 

「変身」

 

 

 

『コブラ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『サイクロン!メタル!』

 

『ソード!』

 

ダブルは“サイクロンメタル”にフォームチェンジ。

ルパンはルパンガンナーに『キーメモリ』『バインドメモリ』と同じ紫色の端子を持った銀色のメモリ『ソードメモリ』を指すとルパンガンナーから刃が生成される。

 

メタルシャフトとルパンガンナー…お互いの武器がぶつかり合い、戦闘能力、技術に関してはほぼ互角であった。

 

『残りのメダルを返せルパン…お前は風都の人々を救ってるんだろ?何故こんな悪事を働く?!』

 

『弱き者を救い、強き者を下す…それが俺の生き方だ。宝集めが趣味であることは否定できないが…貴重で美しいお宝達は、悪人の手元に置いておくべきでは無い!』

 

『悪人だと…園咲流牙が悪人だと言いたいのか?』

 

『園咲家だけじゃない。そもそも…この町の富裕層は悪意に染まっている輩が多い!目も当てられない程にな!!』

 

『何だと?!』

 

『俺はこの町(風都)にいる悪から全てを奪い尽くす。それが仮面ライダールパンさ!』

 

ルパンはルパンメモリのレバーを引く。

 

『ルパンイリュージョン』

 

音声共にルパンの分身が8体現れ ダブルを囲む。

 

『囮の正体はこれか!』

 

ルパンガンナーを構え、8体のルパンは交互にダブルの体を切り裂いていく。

 

『っぐぁ!』

『唯の分身ではなく実体を持っている…ルナでいくよ翔太郎』

 

『ルナ!メタル!』

 

フィリップは『ルナメモリ』を挿し“ルナメタル”にフォームチェンジする。

鞭状態になったメタルシャフトを生かしながら、8人のルパンを相手取り、複数体同時にダメージを入れる。

 

『『『っが!!!』』』

 

 

 

 

『っぐ!!』

 

 

 

攻撃をくらい膝をついたルパン。分身が1人に収束すると分身のダメージ分も本体が負い、その痛みにルパンは声を漏らした。

 

『やるじゃないかダブル…だが、複数メモリを持っている特権はお前だけじゃない。』

 

ルパンガンナーからソードメモリを抜き、新たに紫色の端子を持つオレンジ色のガイアメモリを指す。

 

『ファイター』

 

『うぉおーーーー!!』

 

ルパンはトレードマークであるマントを投げ捨て、オレンジ色のオーラを身に纏う。

 

ルパンガンナーをナックルダスターの様に構えファイティングポーズをとると、強化された肉体を使い一気に接近戦に持ち込んだ。

 

『園咲流牙の言っていた通り、奴も複数のガイアメモリを所持しているようだ。』

 

『お前…何処でそれを手に入れた!!』

 

ルパンの攻撃を受け流しながら問い詰める翔太郎。

ダブルが使っているダブルドライバーとガイアメモリはかつて鳴海荘吉が持っていた物だ。それと似た物を使っていると言うことはダブルドライバーを作った人物と繋がっているのではないかと考える。

 

『ぐぁああ!!』

 

ルパンの拳がボディに入り、その衝撃で吹き飛んだダブル

 

『協力者からだよ。』

 

『っぐ…協力者?』

 

『言えるのはそこまでだ。プライベートを言い合えるほど、俺たちの仲は良くないだろ?』

 

『言えてるぜ……だったら聞き出してやるよ!』

 

『サイクロンジョーカー!』

 

ダブルは“サイクロンジョーカー”にフォームチェンジし、ルパンの接近戦に対抗する。

 

激しい格闘戦の末…お互いは距離を置き

ダブルはジョーカーメモリを腰のスロットに、

ルパンはルパンメモリのレバーを4回倒し、お互いマキシマムドライブを発動させる。

 

『ジョーカー!マキシマムドライブ!

『ルパン!マキシマムドライブ!』

 

 

『『ジョーカーエクストリーム!!』』

 

『シューーーーーーーーート!!』

 

2つのライダーキックが激突。

深夜の静かな港に強い衝撃波が発生し、辺りの物を全て吹き飛ばす。

 

『『ぐぁ!!』』

 

互いのマキシマムドライブのエネルギーによって大爆発が起き

爆風によってルパンはコンテナの山に、ダブルはコンテナクレーンの柱に身体を叩きつけられる。

 

『はぁ…はぁ…やるな…仮面ライダーW』

 

コンテナの山から抜け出し瓦礫をかき分けながら 覚束無い足取りでダブルの元に向かうルパン

ダブルもすぐに意識を取り戻し、痛む体に鞭を入れながら立ち上がる。

 

『はぁ、はぁ…お前もな。』

 

お互いボロボロな状態…それでも互いが持つプライドと気力で何とか戦いを続行しようとする。

 

『無茶だ翔太郎!』

 

流石に体が持たないと止めるフィリップ。

 

『いいや…まだだ、残りのメダルを取り戻せてねぇ。』

 

『俺は完全無欠の怪盗…仮面ライダールパンだ!絶対に宝は手に入れる!』

 

ゆっくりと歩みを進め、2人の距離が少しずつ短くなる…。

 

 

しかし

 

 

 

『うっっが!!』

 

突如ルパンメモリがスパークし、ルパンは頭を抑え膝を突く。

 

『お、おいどうした!?』

 

『が、ぎ…が…がぁあーーーーー!!』

 

叫びと共にルパンメモリから膨大なエネルギーが放出され、ルパンの体が真っ赤に染まる。

 

『一体何が起きてた!?』

『メモリの力が暴走している…?』

 

 

『ふっははは。感じる…ルパンメモリの力が。』

 

 

ルパンは再び立ち上がり、湧き上がる力に興奮しながらダブルにルパンガンナーを向ける。

 

『お宝はぁ…必ず手にする!!それが私…()()()()()()だぁ!!』

 

『っく!』

 

万事休すか、ダブルが防御姿勢をとる。

 

 

 

『もうそこまでだ、ルパン。』

 

 

 

 

刹那、青紫色の影が、持っていたロッドでルパンガンナーを叩き落とし、そのままドライバーに刺さっているルパンメモリを強制的に引き抜いた。

 

「っがぁ!!」

 

ルパンメモリを抜かれたことによりエネルギーが分散し、力が抜けたルパンは膝から崩れ落ちる。

 

変身が解かれ、刃野刑事の姿をしたルパンはメモリを抜いた者を睨む。

 

「な、何をする()()()!!ショーはまだ終わっちゃ…っぐ、っが!!』

 

痛みで頭を抑えるルパン

 

『コブラ?』

 

 

『これ以上の変身は命に関わる…死なれたら困る。』

 

痛みで苦しむルパンに対し、コブラと呼ばれた青紫色の男は彼の頭に手をかざす。

すると痛みで苦しんでいた彼の表情は安らぎ、眠る様に気絶しその場に倒れる。

 

 

『何者だ、ルパンの仲間か?』

 

 

翔太郎の声に反応しコブラは振り向く。

そしてその姿を見たフィリップと翔太郎の2人は目を見開いた。

 

『仮面ライダーW…久しぶりだな。まぁ俺は彼の協力者って所だ。

名前は…こんな俺が仮面ライダーと名乗るのは烏滸がましいな…唯の『コブラ』と呼んでくれ。』

 

立てた襟と長いローブ、Wとよく似た頭部にコブラ型のバイザーが付いたその戦士はメタルシャフトの様な武器を肩にかけながらダブルを見る。

 

そして2人が一番驚いたのは、コブラの横顔をした大型ガイアメモリが刺さっている()()()()()()()()()()

翔太郎はビギンズナイトで見たコブラのドーパントを思い出す。

 

『お前は…お前はあの時のコブラ男か!!!そのドライバーはおやっさんのか!?』

 

あの夜、鳴海荘吉の遺体を持って行ったドーパントがロストドライバーを持っていてもおかしくない。あの施設にいたという事は、目の前にいる奴は組織の人間であり、仇とも言える存在が恩師である鳴海荘吉の形見を使っている…その事に怒りが湧き上がる翔太郎。

 

『あーすまない。少しばかし借りてるよ。今研究しているやつに必要だからな。まぁいずれ返す。』

 

『ふざけんな!おやっさんの形見を返せ!』

『落ち着くんだ翔太郎!』

 

問答無用で攻撃をしようとするダブル、しかしコブラは手のひらを突き出し、攻撃の意思は無いと示す。

 

『戦うつもりは無い。…むしろ俺は君たちの大ファンだ。』

 

『…何だと?』

『それは一体どう言う意味だい?…君は組織の人間では無いのか?』

 

『組織の人間と言えばそうなんだが……俺は奴らを利用しているに過ぎない。』

 

『…君の目的はなんだ?』

 

フィリップが質問する。

 

『ヒーローの手助け、世界平和…なんて言っても信じないだろ?いずれ分かる……また会うだろう仮面ライダーW』

 

『待て!!』

 

ダブルがコブラを追いかけようとすると、コブラロッドから放たれたエネルギー弾により行手を阻まれ、気がつくとルパンとコブラの姿は無かった。

 

『っクソ!何なんだアイツらは!!』

 

次々と現れる謎の勢力に、頭が追いつかず苛立ちを覚える翔太郎。

 

『彼らが使っていたガイアメモリは僕たちのと似ていた。組織以外の勢力なのか?』

『分からねぇ…でも奴らがこの風都を泣かせる存在だったら俺は許さねぇ…それにルパン、次こそは絶対に捕まえてやる。』

 

ドライバーを閉じ変身を解いた翔太郎。

メダルは5枚取り戻す事はできたが、残りはルパンに持って行かれた。

今回 依頼達成とは言い難く、自分の実力不足を痛感する翔太郎。

こんな時、おやっさんならどうしたのだろうか…。

かつての恩師の後ろ姿を思い浮かべながら、静かになった港で朝日が登るのを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

「っくそ!なんて体たらく…完全無欠の()()()()()()が、宝を盗み損ねるとは!!」

 

ルパンは自宅で目を覚ますと、今回の失敗を思い出し、怒りで手当たり次第物を投げる。

 

「仮面ライダーダブル…左翔太郎。アイツはこの私、ルパンの敵だ。次は容赦はしないぞ!!」

 

そしてダブルに変身した男の名を叫び、握り拳を作る。

 

「私は()()()()()()…狙ったお宝は必ず手に入れる…」

 

部屋に置いてある鏡を覗き、自分の顔を睨み付けるルパン。

 

「いや、何を言ってるんだ俺は…」

 

しかし今までの怒りが嘘のように、頭が冷え、冷静になるルパン。

 

「違う、私、いや俺…、俺はルパン…俺は()()()()()()()()()。…弱き者を救い、強者を下す。悪人から全てを奪い尽くす…。』

 

頭を抱えながら鏡を再び見るルパン、自分がまだ変装している事に気がついた彼は被っていた刃野刑事のマスクを脱ぎ捨てるとそのまま上半身裸になりベットに横になる。

 

「もう陰で怯えるだけの無力な子供、

 

 

   海戸透じゃないんだ…そうだろルパン」

 

 

ルパンこと海戸透は静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

透を自宅へ送り届けた後、流牙は風都を一望できるビルの屋上で、ルパンメモリの調整を行なっていた。

 

「大怪盗の記憶と海戸透としての記憶が混同している。ライダーの性能は大幅に上がるが、脳がオーバーヒートするのが先だな。」

 

最後にルパンが見せた暴走、それは流牙が開発したシステムの副作用であり課題であった。

 

「こればかしは本人の意思次第だな。ガイアメモリの記憶を脳に刻み続ければ、どうしても記憶の矛盾が生じる。その矛盾を受け入れ覚醒してくれれば良いが…最悪自我崩壊を起こしかねない。少しルパンメモリの出力を下げよう。」

 

大きな独り言を呟きながら、ルパンメモリを繋いだタブレットPCを操作する流牙。

 

『……』

 

そんな流牙の独り言や作業を気にせず、風都タワーを見つめる1人の白い仮面ライダー。

流牙は調整を終え、ルパンメモリをライブモードにして野に離すと、彼の横に並び立ち、彼の目線の先を見つめる。

 

朝日が風都タワーをオレンジ色に照らし、風都ならではの絶景が広がっていた。

 

「朝日が照らす風都タワー…綺麗ですね?」

 

『……ぁあ』

 

白いライダーは短く返事をする。

 

「何か思い出しましたか?」

 

『いや……。』

 

「まだ目覚めたばかりですから…ゆっくり思い出していきましょう。」

 

そのライダーの腰には仮面ライダーWと全く同じダブルドライバーが巻かれ、髑髏マークを彷彿させる『S』と『Z』のガイアメモリが刺さっている。

 

『あぁ…だが……この景色は…好きなようだ。』

 

「それはそうですよ、貴方が愛した町ですから…

 

 

 

 

 

 

 

             …荘吉さん。」

 

 

髑髏顔の仮面ライダー…()()()()()()()()()()()は包帯のようなマフラーを靡かせながら、風都の風を浴びる。

 




ライダーの数が令和ライダー並みに…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP8 Zが目覚める/コブラの暗躍

 

 

 

ルパン襲撃の一週間前…

 

風都から離れた山奥にある廃トンネル。

10年前に工事が中断され、誰も近寄らなくなったその廃トンネルの中に流牙の研究所が存在している。

 

流牙はミュージアムからある物を極秘に運び出しそれを使い以前から計画していたことを実施する。

 

 

 

それは鳴海荘吉の蘇生である。

 

 

 

 

偽装用の木箱を開け、中から最新鋭の冷凍カプセルに入れられた鳴海荘吉の遺体を取り出し装置に繋ぐ。

 

流牙はミュージアムに入ってからガイアメモリを活かした蘇生方法を模索し、とあるガイアメモリの存在を知った。

 

『ゾンビメモリ』

 

“生ける死体”の記憶を内包した特別なガイアメモリだ。

 

死体に刺すことにより、死者を蘇らせる事ができる。

しかし、怪人態は持たず。死体である為戦闘力も極めて低くその上、“知能”を持たない。

 

ガイアメモリを詳しく調査しようにも、能力を行使する程の知力を持っていないのだ。

 

情報収集もままならない謎が多いガイアメモリ。

 

死者蘇生とは言いつつも、生まれるのは魂が全く無い、ただの傀儡であった。

 

 

 

だが、流牙はこのメモリを使った完全な死者蘇生方法を思いつく。

 

それは鳴海荘吉でしかできない…『スカルメモリ』を使った方法だ。

 

 

スカルメモリは魂を繋ぎ止め“生きながらも死者”になることができる。

その力を応用しダブルドライバーを用いてゾンビメモリと合わせれば、魂を呼び戻す完全な死者蘇生が可能になるのでは無いと考えた。

 

鳴海荘吉は何度もスカルメモリを使用しており、相性も良い為成功率は高いだろう…。

 

ただし一つ危惧がある。

 

「鳴海荘吉の遺体を解凍開始、死後1年以上経っている為、蘇生が成功したとしても障害が残る可能性大。」

 

あまりにも時間が経ち過ぎていた…

 

ゾンビ兵士…NEVERが使っている『人体蘇生酵素』を使う事も検討したが、人間性が欠落する事や、そもそも流牙の専門外である為使用を断念した。

仮に使おうにも研究している所は競合先であり、財団Xからの投資をガイアメモリが勝ち取った過去もある事から、頼んだとしても非協力的だと考える。

 

「『スカルメモリ』と『ゾンビメモリ』の相性は91%…良いね。」

 

機械に刺さっている紫色の端子を持った二つのガイアメモリ

復元した『スカルメモリ』と流牙が開発した『ゾンビメモリ』

 

流牙はスカルメモリを機械から取り外し、それを眺めた。

 

 

 

誰もが認める、完璧な男として称される鳴海荘吉。

本編を見ていた当時の流牙もその渋さに魅了されていた。

 

大人になり荘吉に対して一つの憐れみが生まれていた。

 

(一人娘の晴れ舞台を見る前に、死ぬなよ。)

 

一人娘のウエディングドレスを見ないまま死んでしまった彼を流牙は憐れんだ。

 

 

 

何より一番可哀想なのは、彼の帰りを待っていた鳴海亜樹子だ。

ひとりの父親として彼は彼女の元へ帰らなければならない。

 

鳴海荘吉とはいえど失敗はする。

 

「Nobody's Perfect…誰も完全じゃ無いね。」

 

彼が尾藤勇へ残した言葉を思い出す。

 

「解凍完了…これより鳴海荘吉の蘇生実験を始める。」

 

データがほぼ無く、あくまでも仮説。成功するかは未知数だ。

 

患者服を着た鳴海荘吉の遺体を台に移し拘束具を装着した後、立たせる様に台を動かす。

そして彼の腰に、改良したダブルドライバーを装着させ、

流牙は二つのガイアメモリを鳴らす。

 

『スカル』 『ゾンビ』

 

蘇れ、鳴海荘吉

そう願いを込めてガイアメモリをドライバーに刺し、展開させる。

 

『スカル!ゾンビ!』

 

風と共に鳴海荘吉の肉体は仮面ライダースカルへと変身する。

しかし通常のスカルではない。

 

体色はより骨っぽくマットなホワイト

シルバーだった部分は黒く変色し、頭部はより一層白く、髑髏より頭蓋骨を彷彿とさせる見た目に変わっている。

複眼は右目は黒く、左目は血の様に赤い…。

そしてSにもZにも見えるキズが額に刻まれると、スカルはゆっくりと顔を上げる。

 

『ぐ…ぅ…。こ…ここ…は?』

 

言葉を発しようにも目覚めたばかりで、うまく声が出せないようだ。

流牙は「成功か?」と期待に胸を膨らませながら機械を操作し、スカルの頭部だけ変身を解かせる。

 

「こんにちは。僕は園咲流牙…自分の名前が言えますか?」

 

荘吉の前に立ち、目を見ながらゆっくりと話しかける。

彼の顔はまだ遺体の様に青く、嫌な予感が流牙の頭をよぎる。

 

「俺は……誰だ?」

 

その言葉に眉をひそめる流牙。

 

「何も思い出せない?」

 

「俺は…誰だ、ここは…何処だ?。お前は…お、れに、何をした?」

 

荘吉の反応を見た流牙は心の中で思いっきり舌打ちをする。

 

(やっぱり蘇生が遅すぎたか?)

 

「貴方の名前は鳴海荘吉。1年ほど前、園咲文音の依頼でミュージアムに囚われた運命の子『園咲来人(フィリップ)』を救出した際に敵の凶弾に倒れ命を落とした。僕は貴方の遺体を回収し、ガイアメモリの力を使って貴方を蘇生しました。」

 

「……鳴海荘吉…それが俺か?」

「そうです、何か思い出しましたか?」

 

荘吉は目を閉じ、しばらく考えると

 

「いや…俺の中に…あるのは…髑髏だけだ。」

「髑髏?」

 

流牙はドライバーのスカルメモリを見る。

 

(まさか、鳴海荘吉の魂を呼び出すつもりが、ガイアメモリの記憶が彼の身体に乗り移った?)

 

メモリの力を100%出す為、ルパンと同じライダーシステムで動いているスカル、その可能性は十分にあり得る

 

(蘇生は失敗か?いやしかし、スカルメモリではないと、彼の魂を呼び戻すことはできない。)

 

どうすれば彼を完全に蘇生できるか 頭を悩ませる流牙。

 

(記憶を刺激し、スカルメモリに彼の魂を呼び戻してもらうしかない。)

 

「……。」

 

「…わかりました。記憶はゆっくり思い出せば良いですよ」

 

幸い、彼は自分がガイアメモリの記憶である事に気づいていない。

鳴海荘吉の記憶を呼び起こすために、流牙は彼を荘吉として接する事にする。

 

流牙は台のスイッチを操作しスカルの拘束を外す。

身体が自由になったスカルは、初めて立ち上がった赤子の様に慣れない足つきで歩み始める。

 

「そのドライバーが貴方を生かしている。下手にいじらないでくださいね。」

 

「…お前は、何故…俺を、目覚めさせた。」

 

「娘さんが可愛そうだからと、貴方が仮面ライダーだからです。」

 

「仮面…ライダー?」

 

「そう、風都を守るヒーローの名前だ。」

 

 

 

 

「風都……なんだか…懐かしい…響だ。」

 

 

 

 

風都…その単語に反応を見せるスカル。

少なからず肉体にある荘吉の記憶を感じ取ることはできている様だ。

 

「お、良い傾向です…そうだ、今から風都の景色でも観ましょうか。もしかしたら何か思い出すか…」

『(ブー!!)』

 

流牙の言葉を来客を知らせるブザーが遮る。

監視カメラを見ると、入り口にアタッシュケースを持った海戸透の姿があった。

 

「誰だ?」

 

監視カメラを見たスカルが質問をする。

 

「僕の力を貸している人です。彼も仮面ライダーです…一応。」

 

流牙は素顔が分からないよう紫色のフルフェイスマスクを被り、扉を開けるスイッチを押す。

 

スカルも流牙につられる様にスカルフェイスに戻る。

 

透は開かれた入り口を通り、流牙達がいる研究室にずかずかと入る。

 

「コブラ、新しいメモリを手に入れた。()()()()()()()()()を頼む。」

 

机の上にアタッシュケースを乗せ、中身を流牙に見せる。

そこには10本程のドーパントメモリが並べられており中には『BIND』のメモリも入っている。

 

『随分と集めたな…どれを使いたい。』

 

変声器で声を低くし、本来の口調で喋る。

 

「バインドを頼む、使い勝手良さそうだし……お、新人か?」

 

透の目にスカルが映る。

 

『大先輩だ、敬意を払え。』

 

「へぇー…スカルフェイスのライダーね。かっこいいんじゃーないの?」

 

スカルの真正面に立ち、舐める様に観察する透。

 

『……。』

「お、無口なタイプか?」

 

馴れ馴れしい態度をとる透に対し少し苛立ちを感じる流牙

 

対してスカルは興味無さそうに、壁に寄りかかる。

 

「付き合い悪いなー。」

『死から蘇ったばかりだ。』

「へぇーじゃ見た目通りゾンビってことか?…お、コレは持っていっていいやつ?」

 

透は机の上に置かれた二つのメモリと金色の武器に気づく。

 

『以前持ってきたメモリの中から『ソード』と『ファイター』を

V()2()()()()にした。新武装のルパンガンナーと合わせて使え。』

 

流牙が完成させたガイアメモリ

ドーパントメモリから記憶だけを抜き取り新型メモリに移した、新たなガイアメモリ『V2メモリ』は毒素を気にせずガジェットを用いて様々な能力を引き出す事ができる画期的なアイテムだ。

 

ダブルが持つガイアメモリとの違いは、ドーパントメモリがあればいくらでも生成可能という点だろう。

 

透はドーパントからガイアメモリを奪うたび、こうして自分が使用したいドーパントメモリをV2メモリにしているのだ。

 

「メルシー。」

 

透は新しいメモリと武器を受け取ると ふと思ったことを口にする。

 

「なぁコブラ…お前はどうして俺に力を貸してくれるんだ?」

 

自分のやりたい事(怪盗業)に対し、コブラはメモリや装備を提供してくれている。

 

初めてドライバーを受け取った際に自分をモルモットと称していた彼が、ここまでしてくれている事に疑問を抱く。

 

『言っただろう、お前はモルモットにはちょうど良い人材だと。』

 

新たなV2メモリの生成作業をしながら答える。

 

「にしては俺…かーなり大事にされている気がするけど?」

 

流牙の作業する手が止まった。

 

『…自惚れるな海戸透。ルパンメモリがお前を選んだ。俺はただ()()()()()()()()()のサポートをしているに過ぎない。初期型ライダーシステムで変身を続け、未だに生き残っていると言う事は…それだけお前の人生が空っぽだったて事だ。』

 

ガイアメモリの記憶を脳に取り込み変身する 流牙のライダーシステム。その初期型を搭載したルパンメモリは、変身者の自我や意思が弱ければ弱いほどより強い力を与えることができ、逆に自我が強い人は副作用で自我崩壊を起こしやすいという危険な代物だ。

 

「ひゅー…おいおい、随分きっちーこと言うなぁコブラさんよ。」

 

『そのキザな性格も、果たしてお前の本来の性格なのかな?ルパンメモリに自我が()()()()()()のではないか?』

 

「……。」

 

流牙の言葉が透の地雷を踏み抜く。

透の性格が変わったのはメモリの影響であり、彼の自我が弱いことを表していた。

 

弱気な自分にコンプレックスを抱いていた透は逆上し、流牙の胸倉を掴もうとするが寸前で止める。

 

数秒睨み合った後、流牙はポケットからライドロンLのキーを取り出し、透に突きつける。

 

『お前が死なないよう努力はしてやる。その力を完全に物にしたいんだったら…全てを受け入れる事だな。』

 

キーを受け取り、小さな舌打ちをしながらガレージに向かう透。

 

「…物にしてやる…もう、奪われるのは懲り懲りだ。」

 

そう言い残し研究室を後にした。

 

『……。』

 

興味は無いが2人の会話が耳に入っていたスカル。

特に彼について感心がある訳では無いが、スカルは流牙を見る。

目線に気づいた流牙は肩をすくめながらスカルに対して透の事をこう言い表した。

 

『風都の悪意に全てを奪われた男ですよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在

ルパン襲撃から数週間が経ち、風都はクリスマスシーズンという事で賑わいを見せていた。

 

園咲家でも、夜に開催されるクリスマスパーティーの準備で使用人達が忙しくしている中、流牙は博物館の一件と姉の若菜が世話になったバイオレンス・ドーパント事件の御礼をする為、予め屋敷のパティシエに頼んでいたケーキを片手に鳴海探偵事務所に向かおうとしていた。

 

 

 

 

「おや、流牙…随分と慌ただしいじゃないか。」

 

 

 

玄関先で園咲琉兵衛と鉢合わせる。

自分の研究所とミュージアムの施設を行き来し、多忙だったため自分の父親と会うのは数週間ぶりとなる。

 

「お久しぶりですお父様。以前の博物館の件、自分が不甲斐ないばかりに博物館に被害が及んでしまい、申し訳ございませんでした。」

 

「いや、いいさ。流牙に怪我が無くてよかった。」

 

琉兵衛は愛猫ミックを撫でながら、流牙の失態を許した。

 

「ところで次世代型ガイアメモリの開発状況は…今はどうなっているのかね?」

「はい、計画していたガイアメモリの開発は順調に進んでいます。このままでいけば来月には完成しそうです。」

 

「ほぉ、流石は文音の息子だな。」

 

嘘である。もうV2メモリの実用モデルは既に完成している。

流牙が使う自律思考型コブラメモリがその例だ。

 

「ありがとうございます。」

 

「うむ、このまま精進してほしい…と言いたいところだがここ最近家族との時間が少なくなっている気がするな。」

 

「どうしても研究に熱中してしまうので。」

 

「それはいけないな。家族が揃わないのは寂しい。」

 

「はい…この後、用事を済ませたら直ぐに家に戻ります。今夜開催されるクリスマスパーティには参加いたしますので、どうか」

 

それはよかった。と笑みを浮かべる琉兵衛

しかしその目はまったく笑っていなかった。

 

「ところで流牙…何か私に隠している事は無いかね?」

 

心当たりが多過ぎる…と流牙は内心で自嘲する。

しかし予め言い訳を用意していた。

 

「…ふふ、僕は大人ですよお父様?プライベートな隠し事の1つや2つありますよ?」

 

その言葉を聞いた琉兵衛は大層愉快そうに笑う。

 

「はははは。そうだな、いつまでも子供では無かったな。」

「ええ、ではまた後ほど。」

 

頭を下げ足早に外に出る流牙

今回は乗り切ったが次はどうなるか分からない。

振り向いて園咲家の立派なお屋敷を見ながら流牙は次の一手を考える。

 

 

 

 

___________________________

 

おまけ

コブラ(ロストドライバー使用状態)

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 




コブラの設定画描きました 姿のイメージができない人の参考になれば…

次回からは劇場版ビギンズナイト編です(現代パートだから正確にはビギンズナイトでは無いけど…)
ただしムービー対戦はカットするのでディケイドは出ません!悪しからず!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP9 劇場版編 仮面ライダーW リビングデッド Part1

アルティメットリバイ&バイスかっこよくね?


 

深夜の風都_

冬の冷たい風が吹き荒れている中、一台の中型トラックが郊外にある人気のない工場から出てくる。

 

それに合流する様に二台の黒い車がトラックの前後に付く。

 

「なぁ…本当に来るのかな兄貴?」

 

トラックの助手席に座る気弱な男が震えながら、兄である運転手に聞く。

 

「ああ、奴はくる。」

 

冬にも関わらず、その運転手の額には汗が滲んでおり、緊張感が伝わる。

 

トンネルを抜け、交通量の少ない深夜の道路を走るトラック。

 

 

 

『ふははははは!』

 

 

 

瞬間、眩い閃光と共に爆発音が運転手の鼓膜を揺らす。

炎を纏って宙を舞う後方車両がバックミラーに映る。

次に正面の車も爆発し、運転手は咄嗟にハンドルを切ると火だるまになった黒い車両を避けた。

 

「来たぞ!!」

 

トラックのアクセルを踏み込み猛スピードで何かから逃げるトラック。

 

その後ろをワインレッドのビークルが追いかけてくる。

 

『メリークリスマース!!!』

 

そのビークルは仮面ライダールパンが操る“ライドロンL”

彼の右手にはルパンガンナーが握られており、恐らくその武器で前後の車両を吹き飛ばしたのだろうと

運転手は冷や汗をかく。

 

「本当に予告通りに来た?!」

「アイツはそういう奴だ、それで多くの同業者がやられた!」

「やっぱり今日の輸送を中止すればよかったんじゃ…」

「ただでさえ納期が遅れてるんだ、そんな事したらウチの工場は終わりだ!!」

 

運転手の正体は数あるガイアメモリ製造工場の責任者の一人であり、秘密裏に製造したガイアメモリをディガル・コーポレーション(ミュージアム)に納品する予定だった。

しかし、何処でその情報を手に入れたのか、仮面ライダールパンが製造したガイアメモリを狙い、犯行予告を送ってきた。

納品先は無能な町工場とは直ぐに縁を切り、証拠隠滅を計る事で有名な秘密結社…ただでさえ納品が遅れていた彼らには後がなく、強行するしかなかった。

 

「今日はアレも開発できたんだ!絶対に送り届けないと。」

 

運転手は家庭を持っており、それを養うため工場を無くすわけにはいかない…

だが彼らは悪魔の道具を作る悪党。

そんな思いは知ったこっちゃないルパンは容赦なく襲いかかる。

 

『ルパンサンタからのプレゼントだ』

『フローズン』

 

トラックの横に並んだルパンはルパンガンナーにフローズンメモリを刺し、トラックの前方に向けてエネルギー弾を放つ。

 

「「うわぁーーーーーーー!!!」」

 

エネルギー弾が当たった地面は一瞬にして凍り、その上を通ったトラックは勢いよくスリップ、コントロールを失い電信柱に激突する。

 

 

『おっと、少し華麗さに欠けたかな?』

 

ルパンはライドロンLから降り、煙が出ているトラックから荷物を物色しようとするが、3台の黒い車が彼の前に止まり行手を阻む。

 

『『『『『マスカレイド』』』』』

 

車から降りたのは黒いスーツ姿の男たち。

彼らはガイアメモリ『masquerade』を起動すると、一斉にマスカレイド・ドーパントに変身する。

 

現れた組織のドーパントに対しルパンは軽く鼻で笑うと、彼らを数え始める。

 

『ざっと15体ね…レアリティ低いマスカレイドは要らねーけど、まぁ楽しいショーの始まりだ!』

 

右手にはルパンステッキ、左手にはルパンガンナーを持ち、ポーズを決めるルパン

 

『さぁ、君達のお宝を貰い受ける。』

 

決め台詞と共に大乱闘を始める。

 

 

 

 

 

 

「あぁ…いたいー」

「畜生」

 

柱にぶつかった衝撃で体を痛めた運転手とその弟。

予め呼んでおいた組織のドーパントが戦闘を始めると、その隙を突き二人はゆっくりとトラックから降りる。

 

運転手はある人物に電話をかけた。

 

「俺だ、やっぱり奴が来た…頼む手伝ってくれ。お礼はなんでもする!」

 

電話で会話をしながら荷台からアタッシュケースを下ろすと弟にそれを渡す

 

「お前だけでもコレを送り届けてくれ。」

「え、でも。」

「必ず届けてくれ!俺が命をかけて時間を稼ぐ!」

「兄貴…でも、兄貴には家族が。」

「大丈夫だ。それより家族を養う為に工場の存在は必要不可欠!俺たちはどんな苦難も乗り越えてきた。きっと今回も上手く。」

「そうだな、分かったよ兄貴!必ずコレを送り届けるよ!」

 

兄の覚悟を感じ、決心した弟はアタッシュケースを受け取る。

 

 

「……届けたら、必ず兄貴を助け」『なぁんだコレ?』「え?」

 

ルパンがひょいと弟からアタッシュケースを取り上げる。

 

「っげ、ル、ルパン!?アイツらはどうした?!」

 

『あんたらがもたもたやっているうちに倒したけど?』

 

「「え!?」」

 

二人はルパンの後を見ると既にマスカレイド・ドーパントの姿はなかった。

 

「それを返せ!」

 

弟はルパンからケースを取り返そうと飛びつくが。

 

『おっと!』

「痛い!?」

 

ルパンのデコピンを喰らい悶絶する。

 

「畜生!これ以上好きにさせてたまるか!!」

 

ケースが奪われ、弟が傷ついた事に激怒した運転手は白いドーパントメモリを取り出す。

 

「兄貴、使うのか!?」

 

メモリを取り出した事に驚愕する弟。

 

「他に手はない!!」

 

『ラビット!』

 

ガイアメモリを起動し、右耳の裏に出現した生体コネクタにラビットメモリ刺した運転手。長い耳と赤い目を持った白いウサギ型のドーパント“ラビット・ドーパント”に変身すると、ぴょんぴょん跳ねながらファイティンポーズをとる。

 

『お前も手伝ってくれ!』

「う、うん」

 

『マスカレイド』

 

弟はマスカレイド・ドーパントに変身する。

 

『力を合わせていくぞ!』

『よ、よし! うおーーーーーーー!!』

『うぉりゃーーーーーー!!』

 

 

 

『素晴らしい兄弟愛…でーも』

 

『ソード』

 

ルパンガンナーにソードメモリを刺し刃を生成する。

 

『俺はお宝の為に容赦はしない。ドーパント相手なら尚更!』

 

ラビットドーパントの拳を容易に躱し、腹部に強烈な蹴りを入れ距離を離すと、飛びかかってきたマスカレイドドーパントの攻撃を体を逸らす事で避け、そのままルパンガンナーで切り付ける。

 

『ぐぁ!!』

 

鋭い刃で体を切りつけたマスカレイドドーパントは痛みに苦しむが、追い討ちをかける様にルパンガンナーの銃弾で攻撃する。

 

『ソード!マキシマムドライブ!』

 

ルパンガンナーのスイッチを押し、マキシマムドライブを発動せると、銃弾が刃に変化。

ルパンは容赦なくそれを撃ち、無数の刃がマスカレイドドーパントの体を貫き、弟は言葉を発する事なく爆散する。

 

 

『アキオーーーーー!!』

 

マスカレイドドーパントには自爆機能がついている為、例えガイアメモリを回収するルパンのマキシマムドライブでも、彼が爆死するのは必然であった。

 

『己れぇーーーーーー!!』

 

弟を殺され、怒り狂ったラビットドーパントは、強化された脚部で飛び蹴りを喰らわせる。

 

『お前ら脳筋すぎるだろ?』

『ルパンイリュージョン』

 

姿を消し攻撃を回避すると、そのまま背後に回りラビット・ドーパントの背中を切り付ける

 

『がぁ!!』

 

何度も何度も切り裂き、ラビット・ドーパントの膝が地面に付くのを合図にルパンメモリのレバーを4回倒す。

 

『ルパン!マキシマムドライブ!』

 

右足にエネルギーを溜めながらゆっくり近づくルパン。

死が近づいていると錯覚したラビット・ドーパントは尻餅を付き、彼から逃げる様に後ずさる。

 

『や、やめ…!!』

 

何とか立ち上がり、無様に背中を見せながら逃走するラビット・ドーパント。

 

『まるで猛獣に狙われた野うさぎのようだ。』

 

逃がさないとルパンは空高くジャンプする。

 

『シューーーーーート!!』

 

ライダーキックがラビットドーパントを襲い、彼の体は宝石が散らばる様に砕け散る。

 

「がぁ…!!」

 

元の姿に戻った運転手はそのまま気絶し、ルパンの手にはラビットメモリが握られていた。

 

幸い運転手に毒素の暴走はなく無事な様だ。

 

『よし、ラビットメモリ頂きっと。』

 

ラビットメモリを仕舞い、本命のトラックに積んである大量のガイアメモリを頂こうとするルパン…。

 

 

 

_しかし、5m程近づいた瞬間トラックが大爆発を起こす。

 

 

 

『な!?』

 

 

咄嗟にトラックから距離を離すと、何が起きたか一瞬理解できず混乱するルパン。

 

「へへへ、来てくれたか。遅いんだよ。」

『あ?』

 

意識を取り戻した運転手が、ルパンに対し小さく嘲笑う。

「俺たちは、そもそも戦闘向きじゃない…ただの…時間稼ぎさ。」

 

『なに?………っぐお!?』

 

自分の目の前が爆発し、咄嗟に駐車してあった車両の影に隠れる。

 

『っち、何処から。』

 

敵の正体を探る為顔を出すも、盾にした車両が爆散。

ルパンは爆風で吹き飛ばされ、地面を転がりながらも直ぐさま体を起こし辺りを見渡した。

 

するとドン!という音と共にシュルシュルとまるで大砲の弾が飛んでくるような音が耳に入る。

 

『まさか!!』

 

咄嗟に後ろに飛ぶと自分がいた場所に弾が着弾し大爆発。ルパンは敵が遠くから砲撃しているのだと判断し、音を頼りに目を凝らす。

 

すると300mほど離れた建物の屋上に自分を攻撃したであろうモスグリーンのドーパントの姿が見えた

 

『アイツか!!』

 

 

 

 

 

 

『疲れた所を一気に叩く!』

 

胸に大きな火砲の付いたドーパント”タンク・ドーパント“は自慢の火砲に弾を詰めルパンに狙いを定める。

 

 

 

 

『ドーパント…応援を呼んでたか』

 

 

ルパンガンナーをタンクドーパント目掛けて撃つも流石に距離があり弾が届かない。

物陰に隠れ、ルパンは思考を巡らせる

 

『さてどうしたもんか!』

 

 

 

 

『がははは…さぁ、出てこい仮面ライダールパン。今日がお前の命日だ。』

 

物陰から出てきた瞬間いつでも撃てるように構えるタンク・ドーパント。

 

 

 

 

『…それはどうかな?』

 

 

 

しかし、背筋が凍る様な声が彼の耳に入る。

 

『え……あいた!?』

 

振り向いた瞬間、何かに殴られたタンクドーパントは咄嗟に両腕を機関銃を変形させる。

 

『だ、誰だ!?』

 

 

 

『グルァ……。』

 

 

 

ゆっくりゆっくりと冷たい風を吹かせながら近づいてくる白い髑髏

血の様に赤い左目がドーパントを捉えると仮面ライダースカル_スカルゾンビはドライバーからスカルメモリを引き抜き、左手に持つ白い専用武器“スカルマグナムW(ホワイト)”にメモリを装填し、ドーパントに向ける。

 

『スカル!マキシマムドライブ!』

 

スカルマグナムWにエネルギーを溜め、ゆっくりと近づいてくる屍。

 

『うぉーーーーーー!!!』

 

恐怖に煽られたタンク・ドーパントは両腕の機関銃を撃つも、スカルゾンビに物理攻撃は無意味だった。

銃弾の雨をもろともせず髑髏を模した巨大なエネルギー弾が発射され、それが命中したタンクドーパントは衝撃によって屋上から落下する。

 

『っぐ!クソ!!』

 

『…仕留め損なったか。』

 

厚い装甲のお陰でメモリブレイクを免れたタンク・ドーパント。

追撃しようとスカルも屋上から飛び降りる。

 

前にはスカル、後ろからは自分を追っているルパン。

 

『ここは撤退!撤退!!』

 

2人の仮面ライダーを相手に分が悪いと判断したタンク・ドーパントは脚部をキャタピラに変形させ猛スピードで逃走する。

 

『おい、待て!!』

 

ようやくドーパントの元に辿り着いたルパンが追いかけるも、目の前に火砲の弾が着弾し行手を阻まれる。

 

『っくそ!』

 

狙っていたガイアメモリの山は破壊され、せめて自分を襲ったドーパントのガイアメモリは手に入れようとするも逃げられてしまう。

 

『おいスカル、逃してんじゃねーぞ!?』

『……。』

 

トドメを差しきれなかったスカルに対し文句の一つや二つ言うとするルパン、しかし結果的に助けられた為、出かけた文句を引っ込める。

 

『すぅ…相変わらず無口だなお前。なんで助けた?』

 

そもそも、コブラの研究所にいるはずのスカルが何故自分を助けたのか疑問が生まれる。

 

『コブラに()()()()()。お前が無茶しない様に見張れと。』

『っは、相変わらず過保護なこった…さてと。』

 

所詮は大事な実験対象ですか、と愚痴を言いながら、唯一手に入れたアタッシュケースを開く。

 

『なんだ、コレは?』

 

中には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の様な物が三つ入っており、その一つをルパンが手にする。

 

『ガイアメモリに取り付ける物か?何か知ってる?』

『…いや。』

『コブラに聞くしかねーか。』

 

 

コブラならガイアメモリ関係の事は詳しいだろう…

そう思いアダプターを戻そうとした瞬間、アタッシュケースに粘着性のある太い糸が付着する。

 

『『!?』』

 

糸が引っ張られ、残りのアダプターが入ったケースが何者かに奪い取られる。

糸が伸びていた方角にルパンガンナーを撃つも、ただ電灯を撃っただけで、そこには誰もいなかった…。

 

『はははははは!』

 

濃い霧が立ち込め、殺意を感じ取った二人の仮面ライダーは背中合わせになり、(ルパンガンナーとスカルマグナムW)を構える。

 

 

『嫌な気配がするな。』

『…。』

 

 

 

 

『あっはははは!!』

 

笑い声が聞こえ、二人は一斉に声の方向に銃口を向ける。

霧で先が見えないが、気配は感じ取れる。

スカルは目を凝らす。

 

『…何だ?』

 

 

 

 

 

 

 

『久しぶりだな荘吉?』

 

 

霧の奥から現れたのは蜘蛛の怪人であった。

 

『…蜘蛛男?』

『なに?…まさか蜘蛛のドーパントか!?』

 

蜘蛛の怪人“スパイダー・ドーパント”

かつて鳴海荘吉の相棒であった松井誠一郎が変身したドーパント一号であり、10年前にスカル(鳴海荘吉)に倒された存在であった。

 

『俺を…知っているのか?』

『あぁ、相棒であるはずの俺の命と…大切な人を奪った化け物だ。』

 

しかし、今のスカルにとっては覚えていない記憶である。

過去の自分を知っているドーパントに興味が湧くスカル…

 

対してルパンは両手を震わせながら今にも破壊しそうな力でルパンガンナーを握りしめていた。

 

 

『おい、おいおいおい。蜘蛛のドーパント…お前は10年前に蜘蛛爆弾を撒いたやつか?』

 

『あぁ懐かしいなぁ…そうさ。大切な人と結ばれない絶望を与える為に…俺がばら撒いた。』

 

『……。』

 

それを聞いたルパンは過去を思い出す。

 

蜘蛛の影、糸が巻きつき爆発した父親、母親の悲鳴。

そして泣きじゃくる自分。

 

 

『見つけたぞ…見つけたぞ!親父の仇!!』

『あー、お前の父親も爆死したのか?それはご愁傷様』

『ふざけるなぁー!』

 

『バインド』

 

バインドメモリをルパンステッキに刺しチェーンを生成、鞭の様にスパイダー•ドーパントを攻撃する。

 

『おっと、危ない』

 

しかしそれをひらりと躱すと、建物の屋根に飛び移る。

『二人相手はキツイな。まぁ目的の物も手に入れたし此処は引くとするか…じゃあな元相棒とどこかの誰かさん。』

 

『おいまて!待ちやがれ!!逃げん……っが!』

 

追いかけようとした瞬間、ルパンメモリがスパークする。

 

『こんな所で!』

 

強い頭痛が襲いながらも、何とか追いかけようとするルパン。しかしそれをスカルが止める。

『よせ、時間切れだ』

『俺は…まだ!』

 

『…確か、こうだったか?』

 

スカルはルパンのドライバーを閉じ、ルパンメモリを強制的に引き抜いた。

 

「っが!?」

 

変身が解かれたルパンこと透は、頭を押さえながらスカルを睨む。

 

「お前まで…急にメモリを抜くな!」

『コブラにそうしろと言われた。』

「っち、アイツめ。」

 

霧が晴れるも、ドーパントを完全に見失った透。

余計な事を吹き込んだコブラを恨みながら、近くのベンチに座ると痛む頭を我慢し どうしても気になった事をスカルに聞く。

 

「なぁ、あいつと知り合いなのか?」

『分からない。』

「だよなぁー。」

 

スカルに記憶が無いのはコブラから聞いていた。

奪われた謎のアダプタよりも、今になって父親の仇が現れたのか、それだけが気掛かりだった。

 

『だが。』

「あ?」

『後悔は感じる。』

 

「後悔だって?」

 

記憶が無いのに後悔を感じる?

スカルの言葉に疑問が生まれる

 

「……っておい、何処いくんだよ?!」

 

そんな透の疑問をよそに、スカルは呼び出した自分専用の白いバイク“スカルボイルダーZ”に跨る。

 

『調べる』

「調べるって言ったって、その格好でか?!」

 

スカルは変身を解くことができない。そんな状態で町に出てしまえばい目立ってしょうがない。咄嗟にバイクの前に立つ透。

 

『コブラから渡されたガジェットがある。それを使う。』

 

そう言うとスカルはヘラクレスフォンと()()()()()()()()()()()()を取り出す。

「だ、だとしてもよぉ?」

『そこをどけ』

 

「…はぁ、わかった。ただし情報は俺と共有しろ。あの蜘蛛ドーパントは親父の仇だ。アイツは俺が倒す…いいな?」

 

『……わかった。』

 

 

 

透が退くと、スカルは風都の町中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラ同士の関係を深めるため透の父親の死因を変更しました!
今書き溜めています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP10 劇場版編 仮面ライダーW リビングデッド Part2

 

風都風花町

 

“かもめビリヤード場”の前に停めてあるハードボイルダーに並ぶように一台の灰色のバイクが停まる。

フルフェイスのヘルメットを取りバイクから降りた流牙は、大きなシートバックからお礼の品のケーキと、ある人物から預かったプレゼントを取り出し、2階にある鳴海探偵事務所へと向かう。

 

今日は私用のため彼はビジネスカジュアルな服装していた。

 

 

「あー流牙君いらっしゃい!」

「こんにちは亜樹子さん」

 

扉のブザーを鳴らすと中から鳴海亜樹子が出迎え流牙を招き入れる。

事務所は現在、クリスマスパーティーの準備の真っ最中であり賑わいをみせていた。

 

「お、よぉ!」

 

流牙に気づいた翔太郎は軽く挨拶をする。

 

事務所には読書に夢中になっているフィリップの他、チキンは胸か足かと言い争っている看板持ち“サンタちゃん“と”ブロガーの“ウォッチャマン”

クリスマスツリーの飾り付けに夢中になっている現役女子高生の“クイーン”と“エリザベス”の風都イレギュラーズの面々が揃っていた。

 

「お久しぶりです左さん。随分と賑わってますね?」

「ねぇ、ちみは胸派、足派?」

 

ウォッチャマンが流牙の腕に抱きつき、クリスマスチキンのメニューをみせながら謎の威圧感を出す。

 

「え、胸派ですが…。」

「だよねー!わかってるぅー」

 

ほれみろーとサンタちゃんに何かを訴えかけるウォッチャマン。

”クリスマスチキンをどっちで頼むか“と言うどうでもいい論争に巻き込まれた流牙は苦笑いをするしかなかった。

 

「あ、リューガ先輩じゃん!!。」

「おひさじゃーん、最近連絡くれないから寂しかったぞー」

 

クイーンとエリザベスが流牙に気がつくとキャッキャと黄色い声を上げる。

 

「クイーン、エリザベス…お久しぶりですね。」

 

対し流牙は苦手な女子高生特有のテンションに引き気味になる。

 

「え、知り合いなの?」

 

亜樹子が質問する。

 

「そーなのーそーなの!」

「リューガ先輩在学中ちょーちょー人気者だったんだよねー。女の子にはモテモテだし、取り巻きもいっぱいいたしね。」

 

「あー…どうでしょうか?」

 

嫌な事を思い出すなーと呟きながら目線を逸らす流牙。

学生時代は有名な『園咲家』の長男と言う事もあって、色々と複雑な思いをした時代であった。

 

「モテモテと言っても、優しくしてくれる女の子はみーんなお金目当てでしたし。それで一部の男子生徒からは変な嫉妬で嫌がらせを受けるし。唯一仲良くしてくれたグループだって、結局若菜姉さんに近づきたいからって、分かりやすく機嫌とって持て囃されていただけだし。本当の意味での友達は一人もいなかったな。」

 

「「……」」

 

テンションが下がり何処か遠くを見つめる流牙…。

事務所内はクリスマスの賑やかムードが一変、暗い雰囲気になってしまう。

 

「そ、そんなことないよー!」

「少なくともウチらはリューガ先輩のこと、マジでリスペクトしてるから。」

「そうそう、それに顔もイケメンだし!きっと中には本当に好きだった子もいたんじゃないかなー?」

 

咄嗟にフォローするエリザベスとクイーンと亜樹子

 

「ご、ごほん、それで流牙…今日はどうした?」

 

そして話題変えた翔太郎。

流牙は「ああ!」と用事を思い出し、過去の記憶を吹き飛ばしながら手に持つケーキの袋を翔太郎に渡す。

 

 

「遅くなりましたがこの前の博物館の件と若菜姉さんの件の御礼です。せっかくのクリスマスなのでどうぞ皆さん召し上がってください。」

 

「おお!?」

 

翔太郎は袋からケーキの箱を取り出し中を開けると、そこには様々な種類の上品なケーキが並べられていた。

 

「園咲家のパティシエに作らせました。」

「ええ!?いいの貰って?」

 

雑誌に載るレベルのパティシエが園咲家で働いている事は、以前依頼された調査で翔太郎と亜樹子は知っており、今回流牙が持ってきたケーキがかなり高級な物だと知り涎が垂れそうになる。

 

「悪いな…その、いいのか?博物館のメダルは完全に取り戻せなかった…。」

 

流牙は首を振る。

 

「大丈夫ですよ。セルメダルを提供してくださった会長さんにこの事を話したら、凄く喜ばれて。」

 

「「え!?」」

 

両手を広げ、セルメダルを提供した会長のモノマネをする。

 

「『怪盗仮面ライダールパン…全てを奪い取るという強い執念を感じさせる…まさに強欲!まさに欲望の化身!素晴らしい!!ハッピーバースデー!!!!!』とか言って、でっかいケーキと色々な()()()()()まで貰っちゃいました。』

 

「す、すごい会長さんね。」

「変わった人だな…。」

 

懐が深い?会長に感心する亜樹子と翔太郎。

 

 

 

「あ、彼がフィリップ?」

 

流牙の目に読書に夢中になっているフィリップが映る。

 

「え、あぁ…そうだ。」

「…。」

フィリップと目があい、彼の所へ行く流牙。

 

「若菜姉さんがお世話になりました。相当ご活躍されたようで、帰ってからも四六時中貴方のことを話してましたよ?」

「え、ああ、どうも…。」

 

若菜さんが自分の事を話題にしてくれている。

ファンであるフィリップは嬉しさのあまり頭をかく。

 

「弟の僕からもお礼が言いたいです。姉を助けて頂きありがとうございました。これ若菜姉さんからプレゼントです。」

 

流牙はもう一つの手荷物をフィリップに渡す。

 

「え、若菜さんから!?」

「はい、姉は多忙ですから僕が代わりに。」

 

プレゼントを受け取ると子供のように喜ぶフィリップ。

そんな様子を微笑ましそうに見つめる流牙は、良かったねと彼の肩を叩きその場を後にする。

 

…しかし

 

流牙の手がフィリップの肩に触れた瞬間、フィリップの脳内に電撃が走る。

 

(『お兄ちゃん!待って!』)

(『こっちだよ!気をつけてね××ト!!』)

 

(『メリークリスマス×イ×!プレゼントだよ!』)

(『ありがとうお兄ちゃん!』)

 

(『どうだ!凄いだろコレ!』)

(『お兄ちゃんは何でも作れるんだね!』)

 

(『ダメだ××ト!!ライ×!!』)

(『お兄ちゃーーーん!!』)

 

 

「っ!?」(何だ今の記憶は!?)

 

ほんの一瞬の出来事だが、フィリップにとっては長い動画を早送りで見せられた感覚だった。

 

身に覚えの無い記憶。

 

シーンは途切れ途切れではっきりと状況がわからない…。

額に滲んだ冷汗を拭い、一瞬見えた記憶を整理するフィリップ。

 

“お兄ちゃん”と呼ばれた記憶の少年は、目の前にいる園咲流牙に何処か似ていた。

彼の記憶なのか?しかし視点は明らかに自分だった。

 

もしかして…

 

「…では、この後用事が控えているのでこれで。」

 

流牙は事務所にいる面々に挨拶をし、扉に向かおうとする。

 

「後で電話してよー?」

「気が向いたら。」

「絶対しないやつだー。」

 

エリザベスの冗談を軽く流し、扉の取手に手をかける。

 

「あの!」

 

フィリップは思わず流牙を呼び止めてしまう。

 

「っん?」

「あ、あの…僕達、何処かであった事は?」

 

フィリップは妙な気持ちになっていた。

恋しかった人物にようやく会えた感覚。

…だが彼に対して何故この様な感情が湧くのか、全く理解できず困惑し、同時に恐怖を感じる。

 

流牙は少し考える素振りを見せるも直ぐに回答を出す。

 

「…んー、()()()()()()()()()()()今日が初めてだよ?」

 

では自分に流れた記憶はなんなのか。

 

…気になる。

 

気になった事はとことん調べ尽くすフィリップ…だが、脳を駆け巡った謎の記憶を追及する事に…酷く()()()を抱いてしまう。

 

 

そしてある憶測を立てた。

 

 

(今見えた記憶は僕の忘れた記憶…まさか園咲流牙は僕の兄なのか?)

 

だが、流牙本人はフィリップと会っても特に特別な反応は見せなかった。

実の兄弟であったら、なにかしらのリアクションはあるはず…。

 

「どうしたフィリップ?」

 

思考の海に飛び込んでいたフィリップを翔太郎が呼び戻す。

 

「…あ、いや、何でもない…気のせいだ。」

 

いくら考えても答えは出ない。胸に引っかかりが残るも、きっと気のせいだと自分に言い聞かせる。

 

「…では。」

 

何か考え事をしているフィリップ対し微笑む流牙。

 

(何回かミュージアムで会ったことがあるが、忘れている様だな。)

 

当の流牙はしっかりと覚えていた。あえて他人のふりをしている。

軽く会釈をし流牙は事務所の扉を開けると…

 

「あ、」

「おっと!?」

 

扉の前で事務所のブザーを押そうとした女性が立っており、驚いた流牙は思わず後退りをする。

 

「あ、ごめんなさい…、ここが鳴海探偵事務所であってますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人を探して欲しいんです」

 

鳴海探偵事務所を訪れた女性…彼女の名前は“睦月安紗美”

姉妹デュオ「「エリカ&アサミ」として活躍していた歌手だった。

 

接客用の席に座り、彼女が最初に言い放った言葉は人探しであった。

 

 

「お任せください。人探しが得意な人がウチにはいますから。ね、翔太郎君?」

 

自身ありげに答える亜樹子に対し安紗美は首を振った。

 

「それが、普通の人では無いんです…()()探して欲しいんです。」

 

翔太郎が眉を顰める。

 

「お姉さんって確か海難事故で亡くなった…。」

 

そう、姉の“睦月恵里香”は既に故人になっており

その影響で彼女はソロで活動をしている事で有名であった。

 

「ええ、その姉が5日前に…。」

 

安紗美は屋外で姉の姿を見たという事を二人に話す。

 

「幽霊を探せって…ことなのか?」

「姉の遺体はまだ見つかっていません。死んだと思いたく無いんです!」

 

「…遺体。」

 

まだ見つかってない遺体…翔太郎はふとビギンズナイトでの出来事を思い出す。

 

恩師の遺体を持ち去るコブラ男(コブラ・ドーパント)の姿

 

あれ以降、破壊された施設の跡からは何も見つからず、鳴海荘吉の遺体も行方不明のまま。

 

「姉を探してください…お願いします!」

 

翔太郎は彼女の気持ちが痛いほど分かる。

亜樹子も翔太郎の気持ちを察し、クリスマスチキンのチラシを隠れて見ていたサンタちゃんから取り上げる。

 

「パーティー…今日は無しね。」

 

「「「「ええーーーーーー!!」」」

 

事務所に風都イレギュラーズの悲鳴がこだまする。

 

「せっかく今日はフィリップ君と仲良くなれるチャンスだったのにー!」

 

フィリップの腕に抱きつき駄々をこねるエリザベス。

 

「“死者が蘇る”そんな事はあり得ない…これは調べてみる必要がある!」

 

対しフィリップは死者が蘇る(リビングデッド)という未知に興味津々で若干興奮気味みになる。

 

「この町は俺の庭だ。安心して待ってな。」

 

お気に入りのハットを被りながら安紗美を安心させる様に頷く翔太郎。

 

「今日屋敷でクリスマスパーティーが開かれるので、僕の方でも色々と聞いてみますよ?」

 

帰るタイミングを見失い、流れで風都イレギュラーズと共に聞き耳を立てていた流牙も、情報収集に協力すると申し出た。

 

「ああ、頼む。」

 

翔太郎と流牙はお互いに連絡先を交換し、事務所に居た面々は情報集めの為この日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 






『クレイドール(ねっとり)』cv立木文彦
『タブー(ねっとり)』cv立木文彦
『ナスカ(ねっとり)』cv立木文彦
『コブラ(ねっとり)』cvネビュラスチームガン

V2『コブラ!(エボルト)』cv金尾哲夫
V2『rrrルパァーン』cvクリス・ペプラー

※あくまでもイメージです、本編とは関係なしw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP11 劇場版編 仮面ライダーW リビングデッド Part3

流牙はコブラですけどエボルトでは無いですよw


『死人帰り?』

 

翔太郎は聞き込みした情報をまとめ、ガレージにいるフィリップに報告する。

 

 

「あぁ、死んだ人間が遺族と会っていた話があちこちで噂になっている。」

 

 “死人帰り” 現在、風都のあちこちで噂になっている都市伝説の一つだ。

 

『睦月安紗美の姉もそうって事かい?馬鹿を言っては困る。当時の事故を検索したが、生存者がいる確率はほぼゼロだ。死者が生き返る事なんてない。』

 

ガレージのホワイトボードには海難事故に関する情報がびっしりと書かれており、無限のデータベースでも安紗美の姉が生きている事は絶望的だと示している。

 

「それはそうだが…どうしても気になるんだよ。」

 

ハットのつばを撫でる翔太郎。

もしかするとドーパントの仕業か…と彼の直感が訴える。

 

『君特有の直感か…』

 

「死人帰りは故人と縁がある場所で起こりやすいって噂だ。ちょっと調べてくる。…行くぞ亜樹子。」

 

翔太郎は亜樹子を連れてある場所に向かう。

 

 

 

 

『タカー』

 

 

 

そのやりとりを一匹の()()()()()()()()が見ていると知らずに。

 

 

 

 

 

 

「遺体はありませんがご遺族が作られた墓です。」

 

神父が二人を墓地に案内をする。

 

翔太郎達が訪れたのは睦月恵里香のお墓がある教会。

彼女の墓には多くの花束と彼女達のCDが供えられており、翔太郎と亜樹子もそれぞれ一輪の花を彼女の墓に供える。

 

「遺体が入っていなきゃ、ここから生き返る訳ないよね?」

 

神父の話を聞いた亜樹子は小声で翔太郎に話しかける。

 

「“死人帰り”…その噂知ってます。」

 

しかし地獄耳か、神父の耳にも話し声が聞こえてしまい、不快そうな表情をする。

 

「非常に不愉快ですね。死とは人間にとって厳粛な絶対の瞬間なのに…。」

「ですよねー、すいません失礼しました。」

 

神父を怒らせてしまったかと 咄嗟に亜樹子の頭を下げさせその場を後にする翔太郎達。

 

「…。」

 

その後ろ姿をじっと睨んでいた神父は、彼らを追おうと歩き出すも背後に気配を感じ、ゆっくりと振り向く。

 

「ごきげんよう神父様」

 

そこには上品な日傘をさした若いドレス姿の女性が立っており、怪しげな笑みを浮かべる。

 

「これはこれは。ようこそおいで下さいました…風神(かざかみ)様」

()()()を手に入れたと聞いて参りましたの。」

「ええ確かに手に入れました。ですが…残りの一つは本当に私が使ってもよろしいので?」

 

「報酬と一緒に差し上げてますわ。どうか上手く使ってくださいね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教会を後にし次の馴染みの場所向かう翔太郎と亜樹子。

すると亜樹子の携帯電話に着信が入り彼女は急いで電話に出る。

 

「はいもしもしー。あ、安紗美さん…え…え!?」

 

電話の相手は安紗美。しかし数秒後…亜樹子が声を荒げる。

 

 

 

「依頼を取り止めたい!?」

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい亜樹子!?」

 

亜樹子は激怒しながら翔太郎の静止を振り切る。

 

「納得いかない!安紗美さんと話してくる。」

「ちょっとまてって!」

 

腕を掴み物理的に止めるも、彼女の足は止まらない。

どうしたもんかと悩む翔太郎…ふと隣の建物の窓を見ると建物内に顔色が悪いそうな人物が映る。

 

 

 

 

 

「見つけた…。」

 

翔太郎は亜樹子の頭を強引に動かし、自分が見たものを見せる。

 

「え、あれって…幽霊!?」

 

そう、二人が見たのは探していた睦月安紗美の姉、睦月恵里香の姿だった。

二人は急いで彼女の追いかけるも、ゆらゆらとまるで幽霊の様に姿を消しながら、逃げ続ける。

 

完全に姿を見失った二人。

突如辺りが暗くなり、空中に靄がかかると…そこから鎌を持ち、髑髏が幾つも並んだ怪人が現れる。

 

「な、なんだ!?」

 

宙に浮いている怪人は翔太郎達を嘲笑いながら自分の名前を名乗る。

 

『我が名は“デス”死の世界の支配者…愛する者を失った人々の悲しみを埋めてやる事のできる、唯一にして最高の救世主だ。』

 

翔太郎の直感は確信に変わった。

 

「やっぱりドーパント絡みだったって事か。」

 

ダブルドライバーを装着し、それを通してフィリップに呼びかける。

 

「いくぜフィリップ!」

 

『ああ!』『サイクロン!』

 

ガレージにいるフィリップはサイクロンメモリを起動する。

 

『ジョーカー!』

 

「「変身」」

 

メモリをドライバーに刺し展開すると強風を吹かせながら翔太郎の姿は仮面ライダーWへと変わる。

 

『仮面ライダーだったのかー…ぐわ!?』

 

風を操り、宙に浮いていたデスを地面に落としたダブルは接近戦に持ち込む。

デスはどうやら格闘戦は不得意でありダブルの優勢になるも再び宙を飛び、逃げようとする。

 

『逃すか!』『トリガー!』

 

『サイクロン!トリガー!』

 

飛んだ敵を撃ち抜くため“サイクロントリガー”にハーフチェンジしたダブルは、デス目掛けてトリガーマグナムを撃ち込むが、彼の姿は一瞬にして消えてしまう。

 

『…どこ行った?』

 

逃したか?とダブルは周りを見渡す。

 

 

 

『翔太郎…アレは…。』

 

 

フィリップの目にはある人物が映る。

 

振り向くと、そこには白いスーツを着た男が()()()()()()()()()()()()()()で目元を隠し、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

その姿に酷く動揺するダブル。

 

『……おやっさん?』

 

ハットを取り、男の顔が明らかになる。

 

その正体はビギンズナイトで死んだはずの鳴海荘吉だった。

 

「あれって、もしかして…お父さん?」

 

亜樹子は突然現れた自分の父親に驚くが、それに動揺しているダブルの姿にも同じくらい驚く。

 

『おやっさん!』

『落ち着け翔太郎。そんな事はあり得ない。』

『あ、ああ…ありえねぇ』

 

死者が蘇るはずがない、きっとドーパントの能力に違いない…そう思った瞬間、鳴海荘吉はあるガイアメモリを取り出す。

 

『スカル!』

 

スカルメモリ…鳴海荘吉しか持っていない筈のガイアメモリを取り出した彼は腰に出現したロストドライバーにスカルメモリを刺した。

 

「変身」

 

ドライバーを展開し彼の姿が仮面ライダースカルへと変わる。

 

『な!?』

(スカルに変身した…本当におやっさん!?)

 

生きていたのかと喜びが湧く次の瞬間

 

『とぉ!!』

 

スカルはダブルに襲いかかる。

 

『っぐ、おやっさん!!』

『っと!』

『ぐあ!』

 

呼びかけを無視し問答無用に攻撃をするスカル。

なぜ自分に襲いかかるのか全く理解できないダブル(翔太郎)

 

『っぐ、やめろ!…やめてくれ!!おやっさん!』

 

スカルはスカルマグナムを取り出し、銃口をダブルに向ける。

フィリップは反撃をしないダブル(翔太郎)の体を咄嗟に動かし、銃弾の雨を避ける。

 

「お父さんが仮面ライダー…なんで?私聞いてない。」

 

仮面ライダーに変身してダブルを襲う父親の姿に動揺し、その場を動けないでいた亜樹子。

このままだと彼女を戦闘に巻き込んでしまう。彼女を守るためフィリップはルナメモリを取り出し“ルナトリガー”にフォームチェンジをする。

 

『ルナ!トリガー!』

 

スカルマグナムから打ち出される弾丸をトリガーマグナムの追尾弾で撃ち落とすフィリップ。そのまま反撃しようとスカルに銃口を向けるとダブル(翔太郎)がそれを止める。

 

『やめろフィリップ!』

『冷静になれ、あれは鳴海荘吉ではない。』

 

死んだと思われた恩師が生きている…その確信のない情報に翔太郎は惑わされていた。

 

『スカルになったんだぞ!本物だ!』

『本物のはずが無い。』

 

フィリップは彼の目を覚まさせるために叫ぶ。

スカルは言い争っている二人に対し容赦なくスカルマグナムにメモリを装填する。

 

『スカル!マキシマムドライブ!』

 

『なぜなら彼は…鳴海荘吉は!』

『やめろ!言うなフィリップ!!』

 

後ろには亜樹子がいる、ひた隠しにしていた真実が明らかになってしまう。

 

 

『鳴海荘吉は死んだんだ!』

 

 

「え?」

 

衝撃的な告白に呆然とする亜樹子。

スカルのマキシマムドライブが放たれ、背後に彼女がいる為避ける事ができないダブル。

 

『亜樹子!!!』

 

 

 

 

『タカー!』

 

 

 

すると一匹の()()()()()()()()が割って入り、エネルギー弾の威力を弱める。

だがそれでもマキシマムドライブを打ち消すことはできず、そのまま機械仕掛けのタカを貫きダブルに命中する。

 

『うぁーーーーー!!』

 

ダブルは吹き飛び、変身が強制解除される。

 

「翔太郎君!!」

「がは…!」

 

地面に思いっきり体を打ち付け、マキシマムドライブのダメージと相まって意識が朦朧とする翔太郎。

 

その情けない姿にスカルは冷たい視線を送る。

 

『“半熟に帽子は似合わねぇ“って言ったよな翔太郎?』

「が…お、おやっさん!」

『お前は進歩がねぇ、がっかりだ…』

「…!」

 

容赦ない言葉が翔太郎の心を引き裂く。

憧れの師匠に失望される…翔太郎の戦意を喪失させるには十分だった。

 

そしてトドメと言わんばかしに銃口を向けるスカル。

 

「やめてお父さん!!」

「あ、亜樹子!」

 

動けない翔太郎の前に立ち父親を止めようとする亜樹子。

それでもスカルは引き金を引こうとする。

 

「…っ!」

 

やられる…そう思い目を閉じた亜樹子。

 

 

 

だがそこに一人の白い戦士が割って入り、銃撃を逸らす。

 

『ぐらぁ!』

 

獣の様な掛け声を上げ、白い戦士はスカルに突進し、二人から距離を離すとそのまま持っていた銃で追い討ちをかける。

 

『ぐ!?』

 

銃弾をまともに受けて火花を散らすスカル。

そして突如現れた存在に対し、皆に悟られないように舌打ちをする。

 

「え?」

「なん…だと!?」

 

亜樹子と翔太郎は自分達を助けた白い戦士の姿を見て驚く。

 

「白い…仮面ライダースカル!?」

 

鳴海荘吉が変身したスカルとは違う白い仮面ライダースカル(スカルゾンビ)

翔太郎達と同じダブルドライバーを腰に装着し、赤い左目は黒いスカルを睨みつけスカルマグナムWを向ける。

 

『成程、死から蘇った…ね。だったら俺とお揃いだな?』

『っく!!』

 

二人のスカルが激突し、互い銃を近距離で撃ち合いながらガン=カタの様な戦闘を繰り広げる。

 

『そこだ!』

 

『…っふん』

『何!?』

 

至近距離で白いスカルに銃弾が命中するも致命的なダメージにはならず、それを鼻で嘲笑いながら黒いスカルから白いハットを取り上げると、そのまま頭部を鷲掴みにし壁に打ち付ける。

 

『っが!?』

 

『いい帽子だ、俺が貰ってやる。』

 

取り上げたハットを被った白いスカルは、スカルメモリをドライバーから引き抜きスカルマグナムWに装填しようとする。

 

『厄介だ!』

 

しかし黒いスカルはスカルマグナムWを撃ち落としてマキシマムドライブを防ぐと、そのまま消えるように背景に溶けていった。

 

『…逃したか。』

 

敵の姿を完全に見失った白いスカルは、その場を後にしようと歩き出すも痛みを堪えた翔太郎が呼び止める。

 

「ま、まて…お、お前は一体。」

 

歩みを止め赤い左目が翔太郎を捉える。

 

『俺もアイツを追っている。奴は死を操る能力なんかじゃない。』

 

「な、に?」

 

それは当然であった。

死者を蘇らせる能力なら自分がいるのに何故仮面ライダースカル(鳴海荘吉)が現れたのか。

 

答えは簡単。偽物だからだ。

 

しかし白いスカルの正体を知らない翔太郎にはそれを知る手段がない。

 

「待ってくれ…あ、あんた一体、何なんだよ…お、やっさん…なのか?」

 

今にも気絶しそうな翔太郎。

 

『俺は過去を失った、ただの髑髏だ…』

 

鳴海荘吉としての自分は知らない。

今の彼にはこう答えるしか無かった。

 

彼らの調査を()()()()()()()()を通して見ていた白いスカル。

先ほどのダブルと黒いスカルの戦闘をみた感想が自然と声に出た。

 

『情けない姿だ。あの鳴海荘吉が言ってた事は俺も同意見だ…何をしたいのか、何を優先するのか…それが分からないんだったら()()()()()()()()。』

 

「…な!?」

 

『あばよ…。』

 

「ま、まって…くれ…っぐ」

 

限界を迎え気絶する翔太郎。

亜樹子も父親かもしれない人物に声をかけようとするも言葉が出ず、白いスカルの冷風に当てられ心が冷たくなるのを感じた。

 

 

 

 

 

(左翔太郎と鳴海亜樹子か…二人を見ると不思議な気持ちになるな。)

 

対し白いスカルは記憶を思い出せていないが二人を見ると心が温かくなるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白い仮面ライダーに助けられた?」

 

なんとか翔太郎を鳴海探偵事務所に運び、ベットに眠らせた亜樹子は先程起きた事をフィリップに告げる。

 

「うん、ルパンじゃない。翔太郎君が白い仮面ライダースカルって言ってた。」

 

「白いスカル」

 

ダブルの変身が解けフィリップは白いスカルの姿を見ていたなかった。

 

「お父さんがもう一人…。」

 

黒いスカルがなぜ自分達を襲ったのかわからない…

だがもし黒いスカルの変身者が本当に鳴海荘吉(父親)だとしたら、もしかすると自分達を助けた白いスカルこそが本物なのではないかと考える亜樹子。

 

しかしフィリップを直ぐにそれを否定する。

 

「それはあり得ない。鳴海荘吉はすでに死亡している、恐らくスカルメモリを使って誰かが変身しているのだろう。」

 

死者は蘇らない…それを前提として1番に考えられるのは別の誰かが白いスカルに変身してると言う事だ。

 

「また僕達の知らない仮面ライダーか。」

 

ルパン、コブラに続き白いスカル。

今回の白いスカルもルパンの協力者であるコブラが関わっているのではないかと、フィリップは推測する。

 

 

鳴海荘吉の遺体をコブラが持って行ったなら尚更考えられる。

 

 

(…もしかして本当に死者が蘇って(リビングデッド))

 

 

いやそれはあり得ないと、一瞬出た考えを否定するフィリップ。

 

「こ、ここは…。」

「翔太郎君!?」

「気がついたかい?」

「…おやっさんは!?」

 

意識を取り戻した翔太郎は最後の記憶を思い出し飛び起きる。

 

「だから、鳴海荘吉ではないと…」「それよりお父さんが死んだって…どう言う事?」

 

フィリップの言葉を遮り、翔太郎に言い寄る亜樹子。

 

「…っ!」

 

亜樹子の顔を見た瞬間、二人のスカルに言われた台詞を思い出す。

 

(『半熟には帽子は似合わねぇって言ったよな翔太郎?』)

(『情けない姿だ…探偵辞めちまいな。』)

 

「…すまねぇ」

 

憧れの人に全否定されメンタルがボロボロになった翔太郎はベットから降りる。

 

「ちょっと、どこいくの!?話はまだ…。」

「…」

 

話はまだ終わっていないと、翔太郎を止めた亜樹子だが、翔太郎の辛そうな表情を見ると何も言えなくなってしまう。

 

「何処だっていいだろ。俺は…」

 

言いかけた言葉を押し殺し、事務所を飛び出そうとする翔太郎。

 

「おっと、どこ行くんだと翔太郎。」

 

偶然入り口で刃野刑事と真倉刑事とすれ違う。

 

「刃さん…。」

「お前が調べてくれって言われた資料だ。」

 

封筒を翔太郎に渡す刃野、しかし彼はそれを受け取らなかった。

 

「俺は…今日限りで…探偵を辞める。」

「え?」

 

そう刃野に告げ翔太郎は事務所を飛び出した。

 

 

 

「聞きましたか刃野さん、あの男はいい加減なんですよ」

 

 

もともと翔太郎が嫌いな真倉刑事は、ニヤニヤしながら事務所に飾られているクリスマスツリーを眺める。

 

「翔太郎君…。」

「まぁなんだ、気にするな。アイツは此処しか帰るところが無いからさ。」

 

不安になっている亜樹子を励ます刃野。

彼女に封筒を渡し、二人の刑事は事務所を後にした。

 

「刃野刑事にも情報を頼んでいたんだね。」

 

フィリップが情報を見ようと封筒を渡すように促す。

しかし亜樹子はその封筒を力強く抱きしめ、決心した表情を浮かべる。

 

「調査再開…調査再開よフィリップ君!」

「え…良いのかい、鳴海荘吉は」「ストップ!」

 

「言わなくて良いよフィリップ君。聞く時は…あの馬鹿の口から直接聞くから!」

 

翔太郎が復活することを信じ調査を再開することを決心した亜樹子。

フィリップにも聞きたいことが山ほどあったが、依頼主の事を第一に考え、解決に動ことするその姿勢は彼女が鳴海荘吉の娘である事の証明でもあった。

 

 

 

 

 

 





『スカル!』『ゾンビ!』
『〜♪♪』『アガッチャ デンジャ〜!デンジャ〜!デス・ザ・クライシス!デンジャラスゾンビ!』

※本編とは関係なし

一瞬新キャラ出ました。
本編でも思ったけど依頼主を第一に考える亜樹子ちゃんはやっぱり鳴海荘吉の娘だなーって思うよね。
次回は園咲家パート


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP12 劇場版編 仮面ライダーW リビングデッド Part4

暴走する大二がもはや令和のミッチ状態…。
誰が止める事が出来るのか…。


 

『これは…ガイアメモリ用の強化アダプター!?何処で手に入れた?』

 

透はコブラの研究所で例のアダプターをコブラ(流牙)に渡すと彼は驚いた声を上げる。

 

「昨晩襲ったガイアメモリ製造工場のトラックからだ。」

 

『……そうか、完成してしまったのだな。』

(俺がミュージアムに関わったばかりに、こんなに早く完成してしまうとは。)

 

原作では外伝作品に出るアイテムであり、本編序盤で登場するような代物では無かった。自分がミュージアムに関わってしまった影響で、開発時期が早まったと流牙は考える。

 

こうなると、原作にはない事態が発生することはほぼ確実であり、

この先自分の知らない展開が繰り広げられると思うと楽しみ半分、不安半分であった。

(()()()の件もそうだ。この先原作の知識だけでは役に立たないかもしれない。)

 

コブラが思い浮かべるのは一人の若い女性。

この女性の所為で自分が窮地に陥ることは今の彼には知る由もなかった。

 

『これはガイアメモリの能力を3倍に強化するものだ…他に三つ有ると言ってたな?』

「あぁ、一個はそれ。残りは全部蜘蛛男(スパイダー・ドーパント)に取られた…。スカルに因縁があったようだが。」

親の仇を見つけ復讐心を燃やす透。

しかし次の言葉でそれは無意味だと知らしめられる。

 

『そのスパイダー・ドーパントは偽物だ。』

 

「は?」

 

『ダミー・ドーパントだ。いま噂になってる死人帰りの正体は奴だ。お前の父親を殺したスパイダー・ドーパントは過去に仮面ライダースカルに倒され死亡している。』

 

そのスパイダードーパントが“鳴海荘吉”を知っていたのなら十中八九ダミードーパントだ。スカル自身は覚えていなくても鳴海荘吉の脳にはしっかりと過去の記憶が刻まれており、それを読み取ったダミー・ドーパントがスパイダードーパントに姿を変えたのだろう。

 

「……そうなのか。なんなんだよ!!」

 

それを聞いた透は、コンクリートの壁を殴りつけ舌打ちをする。

 

「っち、気に入らねぇ…アイツのせいで嫌な記憶を思い出しちまった。」

 

過去のトラウマを刺激したダミー・ドーパントに再び怒りが込み上げた透。バージョンアップの済んだV2ラビットメモリを装置から外し、そのまま出口に向かった。

 

『行くのか?』

「あぁ、そのトミーだがダニーだか知らないが。俺を怒らせたことを後悔させてやる。」

『ダミーだ。』

 

流牙は透が研究所から出た事を監視カメラで確認すると

正体を隠すために被っていたヘルメットを外し、ハンガーにかかっているタキシードに手を伸ばす。

 

「さて俺も行こうかな。悪役達のパーティーへ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

同日の19時…園咲家では様々な風都の名家や権力者、著名人(殆どはガイアメモリ関係者)などを招待し、聖なる夜を祝っていた。

 

「風都を震撼させる死者蘇生の噂か。私がプレゼントしたメモリの所為で面白い事になってるなぁ」

「(にゃご〜)」

 

ダミー・ドーパントが活躍していると知った琉兵衛は上機嫌にミックを撫でながら家族との団欒を楽しんでいた(霧彦をはぶいて)

 

「今度様子を見に行こうと思いますわ。」

「私も行こうかなー。興味ありますわそのメモリ。流牙もそう思わない…ってあら?」

「?」

 

自分達の側にいた流牙がいつの間に居なくなり、辺りを見渡す若菜と冴子。

 

すると窓際で複数の女性に囲まれながら会話を楽しんでいる流牙を発見する。

皆それぞれ色目を使い、一種のハーレム状態になっていた。

爽やかな笑顔を振り撒いている流牙…だが内心はかなり面倒臭そうにしている。

 

「あらあら、随分モテモテですわね?」

「ふん、園咲家に相応しい人間がそう簡単に見つかるわけないわ。」

 

流牙を口説いている女性はどいつもこいつも玉の輿狙い。

地球に選ばれた家族の一員になる資格を持つ者はそうはいない。

 

「ははは、その心配はない。」

 

琉兵衛は若菜の方に手を置く。

 

「え?」

「もう既に、流牙に相応しい女性は決めてある。お互い了承済みだ。」

 

衝撃の事実に二人は驚く。

 

「流牙の婚約者!?それは初耳ですわお父様?!」

「私からの二人へのサプライズだ。今宵のパーティーに呼んである。」

 

父が嫁入りを認めた女性とは一体何者なのか、冴子と若菜は興味が湧く。

 

 

 

 

「ねぇ、流牙様、今度私と一緒にディナーでもいかがですか…勿論二人きりで。」

「いえいえ、私と行きましょう。いいお店知っているの!」

「っちょっとやめてくださる?私が口説いてるのよ?」

「やめなさいアンタ達、流牙が困ってるでしょう?」

 

「あ、あはは。」

 

風都を裏で牛耳り、表でも名家として知られている『園咲家』の長男“園咲流牙”

資産目当てか、コネ目当てか、こうして彼を口説いてくる女性は後を立たない。

前世ではモテなかった流牙…立場が違うとこうも女性の態度が変わるのかと、女性不信に陥ってしまう。

 

それが風都の女なら尚更だ。

 

「もう、貴方はもっとハッキリ言わないと、いろいろ後悔するわよ?」

「肝に銘じておきます美咲」

 

母親の様に説教する彼女は幼馴染の鹿()()美咲。

 

彼女の父親は数多くのガイアメモリ製造工場を牛耳っており、ミュージアム内でもそれなりの地位を持っている人物だ。

彼女自身も幼稚園からの付き合いであり、流牙もそれなりに信頼を置いている人物である。

 

かなり強気な性格で、小学生の時から流牙の露払いを自発的に行っていた。

だが、流牙も立派な大人となり、玉の輿を狙ってくる女性は日に日に増えていく。今日のクリスマスパーティーも大勢の女性が彼を口説くため、美咲を無視しながら婚活に勤しむ。

 

 

 

 

 

「あらあらあら…ワタクシの未来の旦那様(フィアンセ)を口説いてらっしゃる泥棒猫がこんなにたくさん。」

 

 

 

 

会場に圧倒的な存在感を放つ女性が入場する。

 

その女性の登場に会場はざわめき始める。

 

「彼女は確か。」

「ああ、園咲家に並ぶ名家“風神家”現風都市長の一人娘である“風神蜜葉(かざがみみつは)”様だ。」

「おお、なんともお美しい。」

 

 

「へー。風神家の…お父様、あの人が?」

「ああそうだ。」

「あら、見た目は可愛らしいわね。」

 

ウェーブのかかった綺麗な金髪を靡かせ、高価な黒いドレスを纏った彼女は黒服で強靭な肉体を持つボディーガードを連れ、笑顔を崩さないまま流牙の周りにいる女性達に強い殺気を向ける。

 

彼女の殺気を感じ取った女性達は顔色青くし流牙の側を離れる。

 

「蜜葉様…お久しぶりです。」

 

彼女と目が合い丁寧に頭を下げる流牙。

彼を見た蜜葉は殺気立った雰囲気が嘘のように、明るい笑顔で彼の元へ駆け寄る。

 

「流牙様!すーごくお久しぶりですわね。最近会いに来てくださらないからとーても寂しかったですわ。」

「研究が忙しかったので。」

「研究熱心の貴方も素敵ですけど、たまには婚約者であるワタクシに構ってくださらないと、イジケテしまいますわ。」

 

とても親しそうに会話する2人。それを面白くなさそうに見つめる美咲は

 

「…風神蜜葉」

 

思わず殺意を蜜葉に向けてしまう。

二人は同級生で親友と呼べる仲だったが…。

 

「あら、美咲さん。まだいらっしゃったの?夫婦の時間を邪魔するなんて、躾がなってませんこと?」

 

「夫婦って…貴女いつの間に流牙と…!!」

「ずっと前からですわ。ワタクシが今年で18になったので正式に婚約を認めてくださいましたわ。」

「なんですって!?…私の気持ちを知っていながら…どう言うつもりで私と!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…流牙は渡さない!」

 

美咲は白いガイアメモリを取り出す。

 

『キャット』

「流牙と私は幼馴染よ!貴女なんかには渡さない!」

 

メモリを起動すると首筋に生体コネクタが現れ、そこにキャットメモリを挿す。

美咲の体はみるみる怪人の姿となり、三毛猫模様が特徴的なキャット・ドーパントに変身する。

 

会場にいた招待客はドーパントの登場に一瞬どよめくも、何かのエンターテイメントだと思い、それぞれ観戦し始める。

 

開催主の園咲琉兵衛も特に止めようとはしなかった。

 

キャット・ドーパントは爪を立て、殺気を放ちながら蜜葉を睨み付ける。背後に控えていたボディーガードが蜜葉を守るため前に出るが蜜葉は「手出し無用」と彼を引かせる。彼女は怯えるどころか、そんな強硬手段をとった美咲を憐れむ。

 

「貴女はた・だ・の・幼馴染ですわよね?身の程知らずにも程がありますわー?わたくしは園咲琉兵衛様から直々に園咲家の嫁入りに指名されましたの。貴女とは違い、認められた存在ですのよ?……加賀?」

 

名前を呼ばれたボディーガードは懐からガイアドライバーとガイアメモリ、そして()()()()()()()()を取り出し、蜜葉に手渡す。

 

流牙は、蜜葉が受け取ったガイアメモリとアダプターを見て眉を顰めた。

 

(あのガイアメモリは…それに()()()()()()()だと!?何故彼女が!?)

 

ドライバーを腰に巻き、ガイアメモリに強化アダプターを装着する。

 

()()()()()()、アップグレード!』

 

 

ドライバーにガイアメモリを挿すと、蜜葉の体は電撃を走らせながら黄色いハニカム構造のドレスを着た蜂女_クイーンビードーパントに変身する。

 

(小説版に登場したクイーンビーのメモリ…それに加えただのドーパントメモリではなくランクの高い()()()()()()()…。園咲琉兵衛から渡されたのか!?)

 

通常のドーパントとは比べ物にならない圧倒的なエネルギーとオーラを放ち、その場にいる誰もが彼女の力を肌で感じた。

 

「ほぉ、もう既にレベル3に覚醒していたか…。」

 

その圧倒的な力の前に園咲琉兵衛は愉快そうに感心する。

 

『はい、お義父様。流牙様に相応しい妻になれる様、花嫁修行は欠かせませんでしたわ。』

 

「ははははは、流牙は幸せ者だな。」

 

 

 

『っち、なんなのアンタは!!』

 

キャット・ドーパントはテーブルに置かれた料理を撒き散らしながらクイーンビー・ドーパントに飛びかかる。

 

『シャァーーーーーーーーー!!』

 

鋭い爪を使い、黄色のドレスを引き裂かんばかりに切りつける。

 

『無駄よ?今のワタクシは誰にも傷つける事はできない。」

 

しかしハニカム構造より強固になった彼女の体を傷つける事はできない…握り拳を作りクイーン・ビードーパントは反撃を始める。

お淑やかさの欠片もない強烈なエルボーを繰り出し、顔面に強烈な一撃を喰らったキャット・ドーパント。

それに追い討ちをかける様に腰につけられた蜂の巣から無数の小蜂が飛び出しキャット・ドーパント襲う。

 

『っく、がぁーーーーーー!!』

 

小蜂は鋭い針で彼女の全身を無残に突き刺し、最後は小型爆弾のように自爆し、衝撃によってキャット・ドーパントは会場の窓ガラスを突き破り一階の中庭まで吹き飛ばされる。

 

『っぐ、っが!!』

 

小蜂の針は毒針であり全身に毒が回ったキャット・ドーパントは苦しみ出す。

それを嘲笑いながら、クイーンビードーパントは彼女の目の前に降り立った。

 

『さぁ、これで止めですわね?』

 

左腕に備え付けられた巨大な針に禍々しいエネルギーを蓄えながら、キャット・ドーパントに止めを刺そうとするクイーンビー・ドーパント。

 

 

「これはこれは…なんとも賑やかなクリスマスパーティーですこと。」

「あの娘結構強いわね。私、ちょっとだけ気にいっちゃたかも。」

 

「でも、これはいくらなんでもやりすぎですよ!」

 

冴子は皮肉を込め鼻で笑い、若菜は面白そうに観戦する。

対し争いの原因となった流牙は、風都の女達が繰り広げる乱闘にドン引きしながらも「戦いを止めなければ」と、ベランダに出る。

 

「…修羅場だね?まさか君に婚約者がいたとは。」

 

すれ違いざま流牙を少し揶揄う霧彦。

 

「やめてくださいよ義兄さん…まったく。」

 

ガイアドライバー2を装着しコブラメモリ(ドーパントメモリ)を取り出す。

 

『コブラ』

 

ドライバーにメモリを刺し、中庭までジャンプした流牙は

姿をコブラ・ドーパントに変え、クイーンビー・ドーパントの必殺の一撃をコブラロッドで受け止める。

 

『流牙様!?』

『…流牙?』

 

『今宵は折角のクリスマスパーティー…皆が楽しむ祝いの場で乱闘騒動とは、いささか品性に欠けませんか?』

 

『……そうですわね。すみませんでした流牙様…ワタクシ少しばかりはしたなかったですわ。』

 

(いや結構はしたないぞ!?)

 

ロッドで針をいなすと、クイーンビー・ドーパントは元の蜜葉の姿に戻る。

そして流牙は毒に犯されている、キャット・ドーパントの額に手をかざしコブラメモリの能力で毒を中和させ、キャット・ドーパントも元の姿に戻る。

 

『美咲。僕には婚約者がいます…だから君の気持ちに答える事はできない。』

むしろ自分を嫌って、闇深い園咲家とは今後一切関わらないで欲しい。

その思いを込め、流牙は美咲の思いを突き放す。

 

「…っ!そう…」

 

力無く立ち上がり、目元に涙を浮かべながら走り去ってしまう美咲。

幼馴染を泣かせてしまい少し胸を痛める流牙を他所に、蜜葉は彼の腕に抱きつく。

 

「さぁ、流牙様!せっかくの聖夜、今夜はずーっと私と一緒にいてくださいな。」

 

「あ、あぁ…そうだな。」

 

(きっとこれで終わりではないだろう。風都の女に関わるとロクな事はない。)

 

避ける事ができない現実に頭を悩ませ、そして、原作にはない展開に危機感を覚える流牙だった。

 

 

 

 

 




ヒロインにしてこの作品のメインヴィラン登場

作者イメージCV
園咲流牙(コブラ)…福山潤
海戸透(仮面ライダールパン)…三木眞一郎


翔太郎の幼馴染といい 荘吉幼馴染といい
風都の幼馴染って何かと厄介よね。

描き溜め終了…次回の投稿は遅めです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP13 劇場版編 仮面ライダーW リビングデッド Part5

映画見返してたけど神父腹立つ。


お気に入り1000件突破!
本当にありがとうございます!非常に励みになります!!!
誤字脱字修正いつもありがとうございます!


 

かつて組織の施設があった小島…

今は瓦礫の山しかない寂れた場所に翔太郎の姿があった。

 

この場所は初めて翔太郎とフィリップがダブルになった場所であり。鳴海荘吉が亡くなった場所でもあった。

 

彼の遺体はなく、墓もない。

翔太郎はここを訪れば必ず花束を手向け、あの日の失態を呪いながら恩師の死を嘆く。今の彼は、蘇った鳴海荘吉に自分を否定され、全てを失ったような感覚に陥り途方に暮れてた。

 

この場所に来れば気が晴れると思った翔太郎であったが、思い出すのは鳴海荘吉の死の瞬間だけであった。

 

「墓参りのつもりかい?鳴海荘吉の…。」

 

事務所にいるはずのフィリップが現れ、驚く翔太郎。

 

「お前…どうして?」

 

翔太郎の問いに答える様、海岸に停めてある“ハードスプラッシャー”に視線を誘導させる。

 

「死体も見つからないのに気休めだな。」

 

事務所を飛び出す際に被っていなかった翔太郎の帽子を、片手で回しながら、懐かしそうに施設があった瓦礫の山を眺めるフィリップ。

 

そして小馬鹿にするように翔太郎を煽った。

 

「ハーフボイルドな君らしい。」

「なんだと!」

 

激怒した翔太郎に胸ぐらを掴まれたフィリップは何処か懐かしそうな表情をする。

 

「ここで初めて出会った時も、こうやって胸ぐらを掴まれたっけ。思い出したまえよ翔太郎。僕たちが初めて仮面ライダーになった、あの始まりの夜…ビギンズナイトであったことを。」

 

ぱっとフィリップの胸ぐらを離した翔太郎は、あの夜を思い返す。

 

「…俺がちゃんと、言われた通りにやっていたら…あの日おやっさんは死んでなかった。」

 

ダブルに初めて変身し、全てが始まった夜_ビギンズナイト。

 

鳴海荘吉が受けた運命の子(フィリップ)の救出依頼…

未熟だった翔太郎は自分勝手な行動をし、運命の子をガイアタワーに閉じ込め救出を困難にしてしまうという失態を犯した。

それが仇となり鳴海荘吉は逃げる際、敵の凶弾に倒れ死亡した…。

 

全て自分の勝手な決断が招いたこと。

 

「あの日の罪を償いたい一心でここまで戦ってきた…。」

 

街を守ることで、ダブルとして戦うことで償いたかった翔太郎。

だが償いたい人に全てを否定され、戦う意味を、探偵を続ける意味を見失う。

 

「まだ、君の知らないビギンズナイトが一つだけある。」

 

親指をたて、翔太郎の記憶に補足をするように。フィリップは自分の罪を告白した。

 

 

_

 

ガイアタワーに閉じ込められた後、地球の本棚でフィリップは鳴海荘吉と会っていた。

 

『お前は今まで一つでも、自分で決めて何かをした事があるか?』

 

そう問われたフィリップは、操り人形のように生き、自分の意志で決断をした事がないことに気が付く。

 

『じゃあ今日が最初だ。自分自身の決断でこの暗闇の牢獄を出ろ。そして自由になってから…

 

 

     ”お前の罪を数えろ”』

 

 

 

僕の…罪

 

閉じ込められる前自称ハードボイルド(左翔太郎)が“自分のせいで街が泣いている”と言っていたことを思い出す。

 

『お前さん、名前は?…無いか。じゃあこう呼ぼう。”フィリップ”_フィリップ・マーロウ、俺の大好きな男の中の男の名前さ。奴は自分の決断で全てを解決する。』

 

 

…決断。

 

 

 

その後、鳴海荘吉が目の前で死に、翔太郎が泣き叫ぶ姿を見て、“決断”しなかった事で生まれた自分の罪を初めて感じたフィリップ。

翔太郎が言う”街を泣かせる”と言う事はこういう事だと翔太郎を見て理解した。

 

 

 

_

 

「君の罪は勝手な決断をした事。僕の罪は決断をせずに生きてきた事だ。」

「…フィリップ。」

「僕たちは一つになって二人の罪を償い続ける義務がある。…だからダブルになったんだろう?」

「お前、俺にそれを思い出させる為に、此処へ。」

「君が居なければ続けられない。…あの日と同じ事を今もう一度聞くよ翔太郎?」

 

あの夜の問いをもう一度、翔太郎に。

 

「これからも、“悪魔と相乗り”する勇気…有るかな?」

 

翔太郎の帽子を差し出す。

 

 

「…!」

 

決意を込め、力強く帽子を受け取った翔太郎は深くそれを被った。

 

 

 

 

 

 

 

 

調査を再開した亜樹子は、睦月安紗美が依頼を取りやめた理由を探るために、彼女の後を追いかけていた。

道中、フィリップからドーパントの正体があの墓地で会った神父だと連絡が入り、その数分後、その神父が安紗美と接触している場面に出くわし亜樹子は不穏な空気を察知する。

 

依頼者を守らなければ。

 

危険を顧みず、彼女達が入ったであろう教会に足を踏み入れる。

 

「一人では危険ですよ。」

 

聞き覚えがある声が彼女を呼び止め、亜樹子は振り向くと

そこにはスーツ姿の園咲流牙がいた。

「流牙君?!」

「こんにちは亜樹子さん。貴女もここに辿り着きましたか。」

「ど、どうしてここに?!」

「『闇と静寂の会』会長…あの人がドーパントの正体らしいです。」

 

流牙も依頼を聞いたあの後に、独自で調査していたと亜樹子に告げる。

 

「うん、翔太郎君達も分かったみたい。」

「彼らは?」

「今ここに向かっているよ。」

「彼女を追うんでしょ?お供しますよ。」

 

流牙と共に忍び足で教会に潜入する亜樹子。

すぐに神父と安紗美の姿を確認する事ができた。

 

 

「ここでお待ちください。」

 

 

神父がその場を後にし、その隙をついて二人は安紗美と接触した。

 

「亜樹子さん!っと確か事務所に居た。」

 

二人の突然の登場に驚く安紗美。

 

「園咲流牙です。」

「安紗美さん!なんで連絡くれなかったの?アイツはねドーパントなのよ?」

 

安紗美は首を横に振る。

 

「…良いんです。」

「え?」

「あの人が普通の人間では無いって知っています。…それでもお姉ちゃんと一緒に暮らしたいです!」

 

「…死んだ人は、もう帰ってこないよ!」

 

故人を思う気持ちは痛いほど分かる亜樹子。

しかし怪しげな怪人の力を頼りにするのは危険だと、彼女の目を覚まさせようとする。

 

「知ったな?私の正体を」

「二人とも!!」

 

戻ってきた神父が安紗美と亜樹子を襲おうとした瞬間、流牙が二人を庇うように乱入し神父を殴り飛ばす。

 

「っぶほ!?」

 

「え!?」

「りゅ、流牙君!?」

 

綺麗な曲線を描きながら床に転がり落ちる神父。

強烈な一撃を放った青年に対し、二人は信じられない物を見たかのような視線を向ける。

 

 

「鍛えてますから…ッシュ…てね。オラァ立て!」

 

 

倒れた神父の胸ぐらを掴み、これでもかと顔面を殴りつける流牙。

 

「ひぇーーーーー!!」

 

神父は棺桶が並ぶ会場へ逃げ込み扉を閉めるも、流牙はその扉を超人的な力で蹴り破り、再び神父の胸ぐらを掴み殴り飛ばす。

 

もはや暴力団員である。

何故流牙はこうも神父に対し暴力的なのかは…シンプルに彼が“ロベルト志島”の事が大嫌いだからである。

 

「し、神父を殴るとは、な、なんとも罰当たりな。」

「罰当たり上等。」

 

顔はアザだらけ。

口内を切り、口元に血を滴らせながら流牙を睨む神父。

 

しかし彼の顔をはっきりと見た途端、顔色を悪くする。

 

「っひ、貴方は…!?」

 

神父とは特に面識が無いハズの流牙。

自分を知ってそうな態度をとる神父に疑問を抱きながらも、悪趣味な会場を眺めた。

 

「へぇ。ここが『闇と静寂の会』の会場ね?」

 

会場には数多くの棺桶が並んでおり、中には行方不明となっている人物の遺体が多く眠っていた。

 

「こうなったらお前達もここで眠れ!」

 

ガイアメモリを取り出した神父。

 

『@;<>>“\!!!!』

『(/「/)@「!!』

 

「な、なんだ!?」

 

メモリを刺そうとするも、飛んできたバットショットとスタッグフォンに妨害される。

 

 

「そこまでだ『闇と静寂の会』の会長”ロベルト志島”!!

 

 

いや……”ダミー・ドーパント”」

 

 

翔太郎とフィリップが会場に現れ神父を睨んだ。

 

「な!?」

「え、デス・ドーパントじゃないの!?」

 

フィリップが本を開き、神父の正体を明かす。

「白いスカルがヒントをくれた。『デス』はミスリード。ダミーは死者を蘇らせるのではなく、他人に成りすます能力だ。『闇と静寂の会』とは愛する者の死を利用し、相手を誘き寄せる為の罠。要人になりすまして人生を謳歌するためのね。」

 

本来ならまだデス・ドーパントと勘違いしていた場面であるが、白いスカルが残した『奴は死を操る能力なんかじゃない。』という言葉を受け、彼の正体とガイアメモリの能力を地球の本棚で検索することができた。

 

「そ、そんな!?」

「な、なんてクズ野郎なの!!」

 

このまま彼の言いなりになっていたら命が危なかったと戦慄する亜紗美と、その悪行に激怒する亜樹子。

 

 

「くそ、バレたなら仕方がない!」『ダミー』

 

追い詰められた神父はダミーメモリを刺し、能力を使って鳴海荘吉に変身する。

 

「俺の能力は成りすましだけじゃない。その人が持つ能力もコピーできる。」

 

『スカル』

 

そして仮面ライダースカルに変身すると、翔太郎とフィリップを睨んだ。

 

『お前に師匠である俺が倒せるかな?』

 

以前、ダブルを完膚なきまでに倒した黒いスカルこと偽スカル。

しかし今の翔太郎は以前と違う。

 

「所詮は偽物だ。本当の…本物のおやっさんは俺の胸の中で生きている。…例え相手がおやっさん本人でも、俺は教えを守り、依頼人の為に…おやっさんと戦う!」

 

本物であっても、鳴海荘吉の生き様を思い出した翔太郎は依頼主のために戦えただろう。ダブルドライバーを装着しジョーカーメモリを取り出す

 

『…!!なんなんだお前は?!』

 

「俺は、いや俺達は…」

 

フィリップは翔太郎の右側に立ち、二人は目を合わせ頷く。

 

「鳴海荘吉の忘れ形見。二人で一人の探偵で…仮面ライダーだ!!!」

 

「いくぜフィリップ!」 『ジョーカー!』

「ああ!」 『サイクロン!』

 

メモリを起動し二人でWの文字を描く。

 

「「変身!」」

 

『サイクロン!ジョーカー!』

 

ドライバーにメモリを挿し展開、翔太郎の姿は仮面ライダーWへと変わり、鳴海荘吉から受け継いだ決め台詞を言う。

 

 

 

 

 

 

『『さぁ、お前の罪を数えろ!!』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダブルと偽スカルが戦闘を始め、彼らが屋外に出た隙を狙い蚊帳の外のいた流牙は安紗美を安全なところに避難させる。

 

「やっぱかっこいいな二人は。…安紗美さんは任せて。」

「お願い流牙君、どっこいしょ!!」

 

精神の抜けたフィリップの体を背負い、ダブルの後を追いかける亜樹子

流牙も安紗美を連れ教会を脱出するもある人物達が偶然目に入り、身を屈める。

 

「アレは…姉さん達。」

 

 

 

『タブー』

『ナスカ』

『クレイドール』

 

映画本編では三人が乱入してたなと思い出す流牙。

どういうわけか幹部3人相手に一人で撃退できたダブルだが、不測の事態を想定し流牙はある人物に連絡を入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヒート!ジョーカー!』

 

『ぐぉ!!』

 

ヒートジョーカーの熱い拳で偽スカルを殴り飛ばすダブル。

もう彼に迷いはなかった。

 

『何故だ。俺はお前の師匠だぞ、何故お前に勝てない!』

『当然だ!能力は同じでも、そこにおやっさんの意思はない。…そんなんじゃ本物以下だ!!』

『ぐぁあーーーー!』

 

怒りの炎を込め偽スカルを殴りつけるダブル。

全身に火が回り、燃える偽スカルの姿は次第に映像にノイズがかかったようにブレ初め、ついに正体を表す。

 

『畜生…ってアレ?』

 

『あ?』

 

その正体はのっぺらぼうで特徴が無い地味なドーパント。

 

「うわ、アレが正体!?うーわしょっぼ。二人ともやっちゃって!!」

 

変身した者の能力を使うダミー・ドーパント。だが、今の状態ではただの能無しであった。

 

止めを刺そうと握り拳を作るダブル。

 

『言われるまでもねぇ……ってうぉ!?』

 

すると別方向からエネルギー弾が放たれ、ダブルの攻撃が妨害されてしまう。

 

 

「あなた方は!?」

 

『貴方の能力なかなか使えそうだし、特別に助けてあげるわ。」

『感謝したまえ。』

『決着をつけてあげるわ。仮面ライダー。』

 

ダミー・ドーパントの前に並んだのはクレイドール・ドーパント、ナスカ・ドーパント、タブードーパントの幹部級のドーパント達。

先程のエネルギー弾はタブー・ドーパントの攻撃であった。

 

『幹部級のドーパントがこんなに!?』

『やるしかねぇ。亜樹子は下がってろ!』 『メタル!』

 

『ヒート!メタル!』

 

多数相手に対処できる”ヒートメタル“にフォームチェンジしたダブルは、メタルシャフトで熱風を放ちながら牽制し、なんとか攻防を繰り広げるも、三体の幹部級ドーパント相手に苦戦を強いられる。

 

『っく!』

 

3体のドーパントから放たれるエネルギー弾をメタルシャフトで弾き返すダブル。しかし、跳ね返った流れ弾が、フィリップの体を背負い無防備な状態の亜樹子へ向かっていく。

 

『亜樹子!!!』

 

「うわーーーー!!」

 

全力で逃げる亜樹子、しかし段差に躓きフィリップの体重もあいまって転んでしまう。

 

もうだめだ…そう思ったその時。

 

『っと!!』

 

白い影が身体を盾にし、流れ弾から亜樹子を守る。

 

『…大丈夫か?』

「あ、貴方は…あの時の」

 

包帯の様なマフラーとつばの裂かれた白いハット。

目の前に立ってたのは偽スカルと戦っていた白い仮面ライダースカル。

 

 

『彼が白いスカルか。』

『お前…助かったぜ!』

 

初めて白いスカルを見たフィリップは興味深そうに彼を見つめ、翔太郎は亜樹子が助かった事に安堵し白いスカルに礼を言う。

 

『白いスカルですって!?』

『まさかもう一人仮面ライダーが出てくるとは…面白い!』

 

タブー・ドーパントはかつて葬った相手が現れた事に驚き

ナスカ・ドーパントは別の仮面ライダーの登場に闘争心が湧き立つ。

 

『お前は下がってな』

 

白いスカルは亜樹子の頭を撫でるとドーパント達を睨み、銃弾を放ちながらダブルの元へ駆け寄る。

 

「……お父さん?」

 

頭を撫でられた亜樹子は幼い頃、同じように父親に撫でてもらったことを思い出し、白いスカルの背中に父親の面影を感じた。

 

 

 

 

 

 

『…マシな面構えになったじゃねーか?』

 

ダブルの右側に並んだ白いスカルは、以前と比べ格段に雰囲気が良くなった翔太郎に感心する。

『…ああ、すまねーな無様な姿を見せちまって。俺はおやっさんの教えを守って戦う…もう迷わねぇ。」

『ほう。』

 

返事は短いが。翔太郎の決意に何故か嬉しくなるスカル。

 

『…なぁ、あんたは…おやっさんなのか?』

翔太郎はずっと思っていた疑問を投げかける。

『翔太郎。だから鳴海荘吉は…。』

『言っただろう。俺はただの髑髏だ…今は戦いに集中しろ。』

『まぁいい、正体はいずれ暴くさ。今は力を貸してくれ。』『トリガー』

『そのつもりだ。』

 

『ヒート!トリガー!』

 

白いスカルはスカルマグナムWを、”ヒートトリガー“に形態を変えたダブルはトリガーマグナムを構え同時に攻撃を放ち、三体のドーパントを分断する。

 

 

 

 

 

『髑髏の仮面ライダー!お手合わせ願おうか!』

 

スカルはナスカ・ドーパントを誘き寄せ、一対一に持ち込む。

ナスカ・ドーパントの斬撃を喰らいながらも、その高い耐久性を活かし強引に接近、近距離でスカルマグナムWを撃ち込む。

 

『っく。やるな!これなら!』

 

空を飛びスカルの銃弾を避けつつエネルギー弾を浴びせるナスカ・ドーパント。

 

『甘いな若造。』

 

白いスカルは鼻で笑いエネルギー弾を回避すると、白いマフラーを伸ばしナスカ・ドーパントの足に巻き付かせる。

 

『なに!?』

 

巻きついたマフラーを切り落とそうと剣を振るうが、剣にもマフラーが巻きつきミイラ状態になったナスカ・ドーパントは地面に引き摺り下ろされる。

 

『スカル!マキシマムドライブ』

 

チャンスを逃さないようマキシマムドライブを発動させるスカル。

 

なんとかマフラーの呪縛を解き、スカルマグナムWから放たれた巨大なエネルギー弾を剣で受け止めたナスカ・ドーパントであったが、耐えきれず、タブードーパントの元まで吹き飛んでしまう。

 

『ぐぁ!!』

 

『まぁ。』

『アナタ…なんて役ただずなの!?』

 

ダブルと戦っていたタブー・ドーパントとクレイドール・ドーパントは、ナスカ・ドーパントの男気のない、情けない姿に失望する。

 

『す、すまない!』

 

剣を杖になんとか立ち上がるナスカ・ドーパント。

 

『トリガー!マキシマムドライブ!』

 

『『トリガーエクスプロージョン!』』

 

だがそこに追い討ちをかけるように、トリガーマグナムから放たれる超高温の火炎放射が三体のドーパントに襲いかかる。

 

『『っく!!』』

 

クレイドール・ドーパントとタブー・ドーパントは後ろに飛び、なんとか回避するも、ダメージが蓄積しているナスカ・ドーパントは動けないでいた。

 

『しま…。』

 

 

 

 

『義兄さん!!』

 

 

突如、地面から巨大化な”コブラの怪獣“が現れナスカ・ドーパントのマフラーを咥えると、そのまま穴の奥へと引き摺り込み火炎放射を回避する。

 

 

 

『あっち!!』

 

攻撃はそのままダミー・ドーパントに当たる。

しかしダミー・ドーパントはしぶとく、その場から逃げ出し、目の前にあったトラックから着想を得てタイヤに変身すると、そのまま逃走した。

 

 

『あの恩知らず!逃げ出したわ!!』

 

ダミー・ドーパントに激怒するクレイドール・ドーパント。

 

 

『追うぞ!』

『ああ、逃さねぇぞ地の果てまでも追ってやるぜ!』

 

『サイクロン!ジョーカー!』

 

幹部級のドーパントよりもダミー・ドーパントを優先したダブルとスカル。

それぞれ専用バイクを呼び出し、ダミー・ドーパントを追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫ですか義兄さん。』

「流牙君…助かったよ。」

 

ナスカ・ドーパントこと霧彦を助けたのは巨大蛇に変身したコブラ・ドーパントであった。流牙はスカルの攻撃をまともに受けボロボロになった霧彦をベンチに休ませる。

 

「…情けない姿を見せてしまったね。…冴子にも失望されたかな。」

『あんな冴子姉様(DV女)の事は気にしないでください。今迎えが来ますから、それまで体を休めて。』

「じ、実の姉にな、なんと言うことを言うんだ流牙君…いっつ」

『はいはい、治療は帰ってからしますから。今は大人しくしてください。』

 

流牙は立ち上がり、いつに間にか停めてあった自分のバイクに跨る。

するとバイクはコブラメモリの力に反応し灰色から紫に変色、アッパーカウルがコブラを彷彿とさせる造形に変化しコブラ専用バイク『コブラチェイサー』が完成する。

 

「ど、何処へ?」

 

『クライマックスを見にね。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い逃走の末、スカルマグナムWの銃弾が命中したダミー・ドーパントは風都の郊外にある採石場跡地に飛ばされる。

 

 

『グアぁ!!!!!」

 

変身が解け、神父の姿に戻った彼は右腕を押さえながら不気味な笑顔を浮かべてゆっくり立ち上がる。

 

『追い詰めたぜ、さぁ大人しく投降しろ。』

 

「…っくふふ…あーはははははははは!」

 

『なにがおかしい!?』

 

「手加減してやったのに、調子に乗るなよ仮面ライダー共…今から…真の恐怖を味合わせてやる。」

 

懐から銀色のアダプターを取り出す神父。

アダプターの正体を知っているスカルは眉間に皺を寄せた。

 

『アレは強化アダプター』

『強化アダプター?』

 

フィリップが聞き返す。

 

『ガイアメモリの能力を上げるアイテムだ…使う気だ、気を引き締めろ!』

 

 

『ダミー、アップグレード』

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!!」

 

強化アダプタを付けたダミーメモリを刺した神父。

空が厚い雲に覆われ、採石場跡地のあちこちに雷が落ちる。

 

 

 

 

 

『これが、ダミーの…真の力だぁーーーーー!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ムービー大戦キャンセル!!

クライマックスはいつもの採石場!

次で映画編最終回です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP14 劇場版編 仮面ライダーW リビングデッド Part6

デモンズ軍団だと!?


 

 

『ふははははは…!!』

 

アダプターによって強化されたダミー・ドーパント。

姿は相変わらずののっぺらぼうだが、先程とは比べ物にもならない殺気がダブル達に降り注ぐ。

 

 

『いでよ…我が死の(しもべ)達よ!!』

 

 

ダミー・ドーパントは右腕を天にかざすと彼の周りに7つの稲妻が落ち、その中から見覚えのある”ドーパント達”が現れる。

 

 

『マグマ』『Tレックス』『コックローチ』『アノマロカリス』『バット』『スパイダー』『アントライオン』

 

 

どれも過去にダブルとスカルが対峙した事のあるドーパント達であり、強化されたダミー・ドーパントは7体の模造品達(ダミーズ・ドーパント)を操る事ができる。

 

『僕達が倒してきたドーパントと…。』

『恐らく、鳴海荘吉が倒したドーパントだ。』

『その偽物を召喚した…って事か?』

 

しかし召喚されたドーパント達は、過去に戦った個体と比べ、()()()()()()がかなり異なっており。また体内から発せられるエネルギー量も段違いであった。

 

『…いや、ただの偽物じゃない。ガイアメモリの力を100%引き出している。僕達と戦った本物以上に手強そうだ。』

 

ガイアメモリの力は、使用者の相性や意思によって大きく左右される。

しかし、ダミーズ・ドーパントは、本来ガイアメモリが持つ能力を完全に引き出している、本物以上の模造品…()()()()()()()()()()()()

 

『その通り…そして俺も!』

 

ダミー・ドーパントは腰に手をかざすと、サイクロンメモリとジョーカーメモリが挿さっているダブルドライバーが出現する。

 

『サイクロン!ジョーカー!』

 

 

風が吹き荒れ、ダミー・ドーパントは仮面ライダーWサイクロンジョーカーへと変身してしまう。

 

 

『な!?あの野郎『ダブル』になりやがった!!』

 

 

対峙する二人のダブル。

声も雰囲気もスペックも完全にコピーした偽物のダブルは、本物と比べても違いを見出せない程、瓜二つの姿をしていた。

 

 

『さぁ、行きなぁ!』

 

 

「「「「グルァーーーーーー!!!」」」」

 

偽ダブルが翔太郎の声でダミーズ・ドーパントに指示を出すと、雄叫びを上げながらそれぞれガイアメモリの能力を発動させる。

 

マグマ・ドーパントは火山を背負ったゴーレムの様な巨人に…

Tレックス・ドーパントは瓦礫や岩を集めながらより巨大な大怪獣に…

コックローチ・ドーパントは、身の毛もよだつ程の分身を数百体召喚し…

アノマロカリス・ドーパントは空を海のように泳ぐ巨大生物に…

バット・ドーパントは恐ろしい牙と翼を生やした巨大蝙蝠に…

スパイダー・ドーパントは鋭く巨大な8本足を地面に突き立てアラクネーの様な魔物に…

アントライオン・ドーパントは凶悪な顎を生やした醜い巨大モンスターに…

 

偽ダブルはTレックス・ドーパントの上に乗ると、翔太郎の声で高笑いしながらダブルとスカルに襲いかかる。

 

『おいおいおいおい!!』

 

巨大生物の大群に二人の仮面ライダーはバイクを走らせ逃げる事しかできなかった。

かつてのTレックス戦やアノマロカリス戦と違い、ここまで大型ドーパントが集まると、流石のダブルでも対処ができない。

 

『っく!このまま町に出たら、被害尋常じゃないぞ!』

 

幸い、人気のない場所で戦っているが、最悪なパターンを想定する。

 

『リボルギャリーだけでは戦力不足だ。』

 

大型マシンでも一体抑えるのがやっとだろう。

 

『おいスカル、何かいい案はないか?!』

『…っく、既に援軍は呼んで、ある!』

 

敵の攻撃を避けながら既に、スカルはある人物達に連絡を取っていた。

 

『援軍だと?!…!』

『翔太郎!!』

 

マグマ・ドーパントから放たれた火山弾がハードボイルダーに当たり、バイクから投げ出されるダブル。

 

『『うあぁーーーー!!|』』

『ダブル!?』

 

スカルが援護に回ろうとUターンするも、数百をも超えるコックローチの大群が彼の周りを取り囲み妨害する。

 

『ぐぉーーーーー!!』

『まずい!』

 

『サイクロン!メタル!』

 

マグマ・ドーパントは巨大な足を振りかざし、咄嗟に”サイクロンメタル”に形態を変えたダブルはメタルシャフトでそれを受け止める。

しかし、真横からバット・ドーパントが現れ、超音波を放つとダブルの鼓膜や脳に激痛が走り力が緩んでしまう。マグマ・ドーパントが踏み抜くと、高熱を帯びた足裏の下敷きになってしまったダブル。メタルの防御力でもそう長くは持たない。

 

 

『っがぁ……!!!』

 

 

胸が押し潰される感覚に苦しむダブル。

 

 

 

絶体絶命、だがその時。

 

 

 

 

『クリスマスプレゼントだ!』

 

 

 

 

3発のロケットミサイルがマグマ・ドーパントの胸に命中し、衝撃によって足が浮き上がる。その隙にダブルは”ルナジョーカー”に形態を変え、腕を伸ばすことで高熱の足裏からなんとか脱出をする。

 

 

『お前…まさかルパンか!?』

 

『そのまさかさダブル。』

 

ダブル(翔太郎)は信じられないと言う眼差しで彼を見る。

以前博物館を襲撃し敵対した”風都の夜風”こと『仮面ライダールパン』が自分達(ダブル)を助けたのだ。

カスタマイズされたライドロンLを走らせ、車体後方に装備されたロケットランチャーを次々と巨大ドーパント達に向けて発射し牽制する。

 

さらにスカル側でも地面から()()()()()が現れ、コックローチの集団を巨大な尻尾で薙ぎ払うと、スカルはまるで来るのがわかっていたように大蛇に向けて頷き、大蛇の頭に乗っかり脱出する。

 

 

『ダブル』『スカル』『ルパン』がそれぞれ集合すると、紫色の大蛇も姿を人型の『コブラ』に戻し、彼らの元に並ぶ。

 

『君たちが、スカルの言っていた“援軍”』

『まさか、お前達だったとはな…。』

 

怪盗ルパン。

敵か味方か解らないコブラ。

そして謎の戦士スカル。

 

まさかの援軍に驚くダブル(二人)だったが、今の状況を打破するには一人でも戦力が欲しかった。

 

『個人的にアイツ(ダミー・ドーパント)には借りがある。今回は共闘といこうぜ仮面ライダーWさんよ?』

『これ程の脅威は俺も看過できない。力を貸そう。』

 

昨日の敵は今日の友と言うべきか。

少なからず今回に関しては彼らの協力に感謝を述べるダブル。

 

『しかし、今回は敵は強大だ。僕達の力では苦戦は免れない。』

 

以前戦った時よりも、巨大で強力になったドーパント達。スカル、ルパン、コブラ、三人の戦闘力は未知数で決め手にかける。

 

『その通り…ダミーズ・ドーパントは模造品とはいえど、ガイアメモリが持っていた本来の力をフルに活かす。勝ちたいのならば、今の自分を越えるしかない。…これを使え。』

 

コブラはあるアイテムをダブルに見せる。

 

『なんだそれ?』

 

彼が持っていたのは『E』『V』『L』の3文字の造形が入った特殊な形状のアイテムだった。

 

『俺が開発した純正メモリ用強化アイテム。”エボリューションアダプター“だ…ただまぁ、まだこれは試作品で短い時間しかつかえないが、圧倒的な力を君たちに与える事が出来るだろう。』

 

『エボリューション…進化という意味か。』

『…っと!?』

 

コブラが投げ渡しダブルは咄嗟にキャッチする。

クリアブラックをベースに金色のラインが入ってるそのアイテムには2本のガイアメモリがセットできる挿入口がある。

 

『…試作機と言ったね?僕達で性能を試すつもりかい?』

『そうだ。俺は研究者だからな。だが今の状況を打破するにはそれを使うしか道はない。』

 

コブラの一番の目的はエボリューション・アダプターを使ったダブルの詳細なデータ。

未知のアイテムを使うことに抵抗のあるフィリップだったが、翔太郎は「望むところだ」と使うことを決断する。

 

『大丈夫だフィリップ。多少のリスクを負ってでもアイツを倒さねーと、風都が危険だ。…これ以上町を泣かせてたまるか!』

『まったく…君ってやつは。』

『ダミー・ドーパントを倒せば他のドーパントも消える。俺たち(スカル・ルパン)で押さえ込むから思う存分戦え。』

『言われるまでもねぇ。』

 

ジョーカーメモリとサイクロンメモリを取り出すと、それぞれアダプターに挿入する。

 

『サイクロン!ジョーカー!エボリューション!』

 

アダプターから渋いジャズ調な待機音が流れ、それをドライバーにセットし、そのままVの文字を割るように展開する。

 

 

 

『エボリューション!!!』

 

 

 

アダプターのEが緑に、Lが紫に発光し、ダブルは通常のサイクロンジョーカーに形態を変える。

しかし両サイドのガイアメモリから膨大なエネルギーが溢れ出し、ダブルの体が緑と紫に輝き出すと、彼らの周りに灰色の制御装甲が現れる。

押さえつけるように腕、足、胸の順番で装甲が装着され、最後にV文字のアンテナが付いた装甲が頭部に装着されると、複眼が緑と紫のオッドアイに変化し、装甲も灰色からサイクロンジョーカーカラーに色が浮き上がる。

 

全体的なシルエットがマッシブになり、スペックが格段に強化された進化した仮面ライダーW。”サイクロンジョーカー・エヴォリューション”が誕生する。

 

 

ダブルを中心に整列する風都の仮面ライダー達

その光景にダミー・ドーパントは一瞬たじろぐも、強化されたダミーの力を過信しダミーズ達に命令を下す。

 

『いけぇ!!』

 

一斉に襲いかかってくるダミーズ・ドーパント。

一番槍の如くルパンがライドロンLを遠隔操作し、ロケットランチャーでドーパント達の猛進を妨害。その隙を突いてコブラが駆け出しコブラメモリのレバーを2回引く。

 

『ジャイアント・コブラ!』

 

『ファイナルフォームライド…コ・コ・コ・コブラ!…ってね!』

 

体が変形し大蛇の姿になったコブラ。

ディケイドが使うファイナルフォームライドを彷彿とさせる巨大な影はコックローチの大群を押し潰しながら巨大な尻尾や口から出すエネルギーブレスによってドーパント達をそれぞれライダーの元へ弾き飛ばす。

 

それを止めるようにマグマ・ドーパントがコブラを掴み、怪力を生かしその長い胴体を引きちぎろうとする。

コブラも負けじと高温に耐えながら腕に巻きつき、顔面めがけてエネルギーブレスを放つと、マグマ・ドーパントは怯み、その隙に腕から抜け出しそのまま突進する。

体制を崩したマグマ・ドーパントは近くにいたダブルに標的を変えると、ゆっくり立ち上がり、ダブル目がけて火山弾を放った。

 

『『は!!』』

 

しかしダブルは瞬時にそれを避け、重そうな見た目とは裏腹に、風を纏いながらマグマ・ドーパントの腕に乗ると、そのまま目にも止まらない速さで体を駆け上がっていき、巨大な顔面を殴り抜ける。

強化されたサイクロンメモリの力で、マグマドーパントの周りに巨大な竜巻を発生させたダブルは、周りにいたコックローチ・ドーパントの大群を大量に巻き上げながら、アダプターのEの部分を押し込む。

 

『サイクロン!マキシマムドライブ』

 

『『サイクロンストライク』』

 

竜巻の風に乗りながら、渦の中を漂うコックローチ・ドーパント達を次々とエネルギーを纏った手刀で撃破していき、最後に上空まで運ばれたダブルは真下にいるマグマドーパントに向けサイクロンメモリの力を宿したライダーキックを叩き込む。

 

『ぐぁあああーーーーー!!』

 

頭から貫かれたマグマドーパント。

ダブルは地面に着地すると、ゆっくりと歩み出し、その背景でマグマ・ドーパントは大爆発を起こしながら消滅する。

 

 

 

 

 

コブラは空中にいるアノマロカリス・ドーパントに飛びつき、その長い胴体を全身に巻き付けた。

 

大蛇の締め付けは、人の骨を容易に砕くほどの力を持つと言われている。

 

それが何十倍にもなっている大蛇に締め付けられたアノマロカリス・ドーパントはギチギチと殻が砕ける音を響かせながら、圧力によって口から汁やグロテスクな物を吐き出しながら地面に墜落する。

 

 

『うーわ、えっぐいな…』

 

それを見たルパンはドン引きするしか無かった。

 

『こっちもやるかな!』『バインド』

 

ハンドル部分にバインドメモリを挿すとライドロンLの先端からチェーンが発射され、空中にいるバット・ドーパントに巻きつく。

 

『ギェーーーーーーーーー!!!!』

『っち、うるせーな!!』

 

バット・ドーパントが超音波で抵抗するも、ルパンは最後のロケットミサイルを撃ち込み黙らせる。

そしてロケットランチャーをパージする事で車体を軽くし、アクセルを思いっきり踏み抜くと、猛スピードでバット・ドーパントを引きずりまわす。

最後にドリフトをかまし、遠心力でドーパントを石壁に叩きつけたルパン。

トドメを刺そうと身を乗り上げると、車体が砂に沈み、何かに引き摺り込まれるように、地面に吸い込まれる。

 

『うっそだろ!?』

 

背後を見るといつのまにか巨大な蟻地獄ができており、アクセルを入れるも柔らかい土でタイヤがはまり動けない。

 

ルパンに噛みつこうと襲いかかる巨大なアントライオン・ドーパント。

だがルパンはあるメモリを運転席に付いているマキシマムスロットに入れる。

 

『ロケット!マキシマムドライブ!』

『こんがりジューシーに焼けな!!』

 

“V2ロケットメモリ”のマキシマムドライブが発動したライドロンL。

車体後方に巨大なロケットブースターが出現すると一気に火を噴かせ、後ろにいたアントライオン・ドーパントを燃やしながら、車体は蟻地獄から勢いよく飛び出し脱出する。

 

 

 

 

 

 

『スパイダー・ドーパントか。』

 

巨大な足を地面に突き立てスカルに襲かかってくるスパイダードーパント。

鳴海荘吉と深い関係があるドーパントであったが、コブラから聞いていた話以上のことは何も分からなかった。

 

 

もはや用済み。

 

 

『ゾンビ!マキシマムドライブ』

 

ゾンビメモリを腰についているマキシマムスロットに挿れたスカル。

 

『『『ぐらぁあああああ!!!』』』

 

彼の周りにスカルに似たゾンビが6体現れ、不気味なオーラと雄叫びを上げながらスパイダー・ドーパントの足に喰らい付く。

スパイダードーパントも蜘蛛爆弾で反撃し、ゾンビ達を攻撃するが、彼らは不死の存在。再び立ち上がると再び飛びつき、食い始める。

 

足を食い尽くされ動けなくなったスパイダー・ドーパント。

スカルはジャンプし、禍々しいエネルギーを纏ったライダーキックをゾンビ達を巻き込んで放った。

 

 

 

 

 

『くるなぁ!!』

『残りはお前だけだ!』

 

残るはTレックスとそれに乗ったダミー。

Tレックス・ドーパントを操り、ダブルを攻撃するが、風の力で吹き飛ばされ偽ダブルは落下。

そのままTレックス・ドーパントに一瞬で接近したダブルは、頭部を蹴り上げ一撃で再起不能にする。

 

 

『っくそ!!』

 

本物に襲いかかる偽物。

偽ダブルは正確に、翔太郎とフィリップの動きや能力をコピーしているが、進化したダブルの前には手も足も出なかった。

攻撃を繰り出すたびに、風で弾かれ、仰け反った隙に瞬時にカウンターを打ち込まれる。

 

『ぐぉは!!』

 

腹部にダブルの拳が沈み込み、胃のものを吐き出しそうになる偽ダブル。

“サイクロン”のスピードに加え“ジョーカー”の性能も向上しており、正確に急所を突く事ができる。偽ダブルに蓄積されたダメージは既に限界を迎えていた。

 

追い詰められた偽ダブルはジョーカーメモリをマキシマムスロットに挿れ、対する本物のダブルもL側のアダプターを押し込む。

 

 

『『ジョーカー!マキシマムドライブ!』』

 

お互いのマキシマムドライブが発動し、2人のダブルは風を纏いながら宙に浮く。

 

睨み合い、待機音が鳴り響く中、同時にボタンを押す。

 

『はあーーーーーーー!!』

『『エボリューション・エクストリーム!!』』

 

辺りを吹き飛ばしながら、ぶつかり合う二つのライダーキック。

 

 

 

『『『はーーーーーーーー!!!』』』

 

 

湧き出るマキシマムドライブのパワーに耐えきれずヒビが入るエボリューション・アダプター。

ダミー・ドーパントも強化されたガイアメモリの力に肉体が耐えきれず徐々に悲鳴を上げていく。

 

魂と魂のぶつかり合い。

 

長いぶつかり合いの末、耐えきれなくなったダミー・ドーパントは元ののっぺらぼうな姿に戻ると、そのままエボリューションエクストリームに体を貫かれ、悲鳴を上げながら爆発する。

 

 

『ぐあぁあああーーーーーーーー!!』

 

 

タッチの差でエボリューション・アダプターが壊れ、通常のサイクロンジョーカーに戻ったダブル。

 

 

勝者は本物のダブルであった。

 

 

「がっ!!」

 

ガイアメモリが砕け、元の姿に戻った神父。

全てのダミーズ・ドーパントが消滅し、激戦が嘘だったかのように静けさを取り戻した採石場跡。

 

 

完全に倒したと判断したスカル、コブラ、ルパンの三人は目を合わせ互いに頷き、ルパンが一足先にその場を後にする。

 

スカルとコブラは合流し、バイクに跨り去ろうとした瞬間、変身を解いた翔太郎が呼び止める。

 

「待てコブラ!!」

『…なんだ、左翔太郎。敵は倒した、もう用はない筈だが?』

「いやあるぜ……お前、おやっさんの遺体を何処にやった。」

 

ずっと気がかりだった遺体の行方。

あの日、遺体を担いでいたコブラなら確実に知っていると感が訴える。

 

『……知ってどうする?』

 

知っているような反応を返すコブラ。

フィリップと亜樹子もその場に到着し、翔太郎とコブラの間から一触即発の雰囲気を感じ取る。

 

「もしお前が持っていると言うなら…取り返す。」

 

激闘を終えた後でも、戦う姿勢を見せる翔太郎。

コブラはここで言うべきかどうか悩んでいると、ふとスカルと目があう。

 

『…スカル。』

 

『……俺は構わない。』

 

『任せるよ。』

 

そう言い残しコブラはバイクを走らせ、その場を後にした

翔太郎は咄嗟にコブラを呼び止めようとするも、スカルがそれを止める。

 

 

 

スカルはゆっくりと帽子を取り、頭部の変身を解いた。

 

 

「お…おやっさん!?」

「お父さん!!」

「そんな馬鹿な、あり得ない!!」

 

 

そこには真っ白な顔色をした鳴海荘吉がいた。

目に光は無く、まるで死体が動いているような不気味さを感じる。

 

「コブラから与えられたゾンビメモリの力で蘇った。だが、今の俺はただの髑髏。もう俺の中に鳴海荘吉は居ない。」

 

「何言ってるんだおやっさん!戻ろうぜ…俺達の探偵事務所に!」

 

恩師と再会し涙目になる翔太郎だったが、フィリップはある違和感を感じる。

 

「…君は本当に鳴海荘吉かい?」

「はぁ!?何言ってんだ!?」

 

彼の発言に翔太郎は驚く。

目の前にいる鳴海荘吉からはまったく生気を感じ取れず、まるでロボットと会話しているような感覚だった。

言い回しもどこか妙だ。

『ゾンビ』というメモリの力で復活したと言っていたが、死者蘇生を信じてないフィリップは彼を疑うしかなかった。

 

「さあな。俺は鳴海荘吉の記憶は覚えていない。」

 

「記憶喪失って事かい?」

「お前達のことは記憶にない…ただそれだけだ。」

 

バイクをふかせ、その場を後にしようとするスカル。

 

「ま、待ってくれおやっさん!俺はまだ貴方に教えてもらいたい事が沢山ある!俺は半人前で、本当は帽子を被る資格なんて…!」

「俺はお前に教える事なんてない。」

「…!!」

 

 

 

「だが、…少なくとも、帽子は様になっていると思うぜ?一人前って証拠だ。」

 

「え?」

 

「…ふん、じゃあな。」

 

呆気に取られる翔太郎に少し微笑んだスカルは、帽子を再び被るとバイクを走らせた。

 

 

 

「…おやっさん」

 

 

 

翔太郎の気持ちは複雑であった。

帽子が様になっていると褒められた事に、喜ぶべきか。

自分達のことを覚えていない事に、悲しむべきか。

 

「翔太郎君?」

 

心配そうに翔太郎の顔を覗き込んだ亜樹子。

彼女も父親が生き返ったと知り複雑な心境だろう。

表情を見られないように、しばらく帽子で顔を隠した翔太郎。

そしてある決意を固め、様になっていると言われた帽子をかぶる。

 

「…風都の為に戦い続ければ、おやっさんにまた会える筈だ。その時に思い出させようぜ、俺たちの事。」

「…うん、そうだね。」

 

翔太郎と亜樹子はお互いに決心をし、スカルが走り去った方角を眺めていた。

 

対してフィリップは眉を顰めながら思考していた。

 

(コブラは何故鳴海荘吉を生き返らせた…。組織の幹部であればそんな不利益な事はしない筈。…コブラ個人の別の目的があるのか?さっきのエボリューション・アダプターといい、以前の仮面ライダールパンのサポートといい…彼の目的は一体なんなんだ。)

 

フィリップは目的が分からないコブラに対し警戒するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

後日、流牙はエボリューション・アダプターを使ったダブルの戦闘データを元に新たなアイテムの開発に勤しんでいた。

 

『それは、新型のドライバーとメモリか?』

 

スカルは興味深そうにモニターを眺める。

そこには二つの設計図のデータがあり、片方は特殊な形状をした新型メモリ。もう片方はダブルドライバーとは全く異なる2本のガイアメモリの力を引き出す事ができる新型のドライバーであった。

 

「はい。ダブルがエボリューション・アダプターを使ってくれたおかげで貴重なデータが採れました。」

 

翔太郎達が持つ純正メモリに流牙の“ライダーシステム”を加える事ができる強化アダプターをさらに改造し『進化の記憶』を植え込んだエボリューション・アダプター。その機能を一体化した新型ドライバーの開発には2本のガイアメモリを使う仮面ライダーWのデータが必要不可欠であった。

 

「ドライバーの方はまだ時間が掛かるかもしれませんが…メモリは実物があればすぐに完成しそうです…貸してくれるかな義兄さん」

 

 

 

設計図には『V3ナスカメモリ&エボリューション・ドライバー』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

仮面ライダーW サイクロンジョーカー・エボリューション

イメージイラスト:

【挿絵表示】

 

 

 




劇場限定フォーム枠登場

マンガは完結してから全巻買うタイプですが、我慢できず12巻まで風都探偵を買いました。(序盤は漫画雑誌で読んでいる。)
じっくりと読んでダブルの知識を補完したいので、次の投稿は遅めかもしれません!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP15 C達の日常/霧と流

風都探偵の全てを閲覧した!(まだ12巻しか出てないが)
翔太郎とときめのカップリングが可愛すぎて砂糖吐きそうになったわ!! 漫画でもいつものダブル展開で凄いなと思った…。面白すぎる。
風都探偵編やって欲しいとありましたが、原作完結してないから無理ですね…。
アニメの内容次第では少しやるかも…


 

 

風都は思っていた以上に、犯罪者の巣窟みたいな場所だった。

本筋のストーリー以外でも、様々なドーパントが犯罪を犯し、人知れず命を落とす者も居れば、仮面ライダーが介入し救われる者もいる。

 

本編以外の仮面ライダーWの活躍が観れるのは嬉しいが…

そんなドーパントに変身できる“悪魔の小箱”を開発し、研究の材料としている自分に、呆れてしまう事もある。

 

だが、不思議と()()()()()()()()…。

 

何度もコブラドーパントに変身し、

開発の為、自分の体で人体実験を実施したこともある。

ガイアメモリの毒素に、精神や肉体が犯されている自覚はある。

幸い、中毒症状は無いが、徐々に人間性が欠けているのを感じる。

 

 

いずれは俺の心も怪物になってしまうのだろうか…。

 

 

そんな俺の唯一の罪償いは“仮面ライダー(愛と平和の味方)”を生み出すこと。

多くの血が流れて生まれたこの“ライダーシステム”は俺の最高傑作であり、俺が暴走した時の抑止力となる。

 

 

 

そう信じ、俺は仮面ライダーの開発に勤しんでいた。

 

 

 

 

 

 

ここで、俺が作った仮面ライダー達の日常を語ろう。

 

 

仮面ライダールパンこと海戸透は、昼間はカフェの店員、夜は仮面ライダールパンとして活躍している。

 

まぁ、怪盗らしい生活だな。いつ寝ているかは知らない。

 

博物館の事件以降、ダミードーパントの一件を除けばダブルとは殆どエンカウントしていない。

その理由は二つあり、彼が仮面ライダーとして活動する時間帯が深夜に限られていることと、ターゲットの殆どが悪党である事だ。

 

ルパンメモリの性質上、太陽が出ていない夜〜朝方にかけての時間帯がメモリの力を大きく引き出す事ができ、その効力が続くかぎり彼は皆寝静まった夜の風都を駆け巡っている。

 

昼間の活動が多いダブルと出くわさない理由はそれだけ。

 

 

そして彼が狙う『宝』や『ガイアメモリ』は悪党の所有物に限定されている。

 

 

因みに風都博物館を襲ったのは、既に園咲家がガイアメモリの開発に関与していると知っているからだ。

 

 

警察に頼る訳にもいかない彼等は、面子の為に自分達で宝を守らなければならない、見知らぬ探偵事務所に依頼するなんてもっての外だ。

だが、その多くは見事にルパンに宝を取られ、多大な被害を生み出している。

 

 

現在、透は風都の隣町にいる。

何でも“とある会長”からお宝の情報を手に入れたらしく、それを盗むらしい。

 

詳しい事はまた後日、彼の口から聞こう。

 

 

 

 

 

次に仮面ライダースカルは、俺が”とある会長“から貰ったカンドロイドシリーズを使いながら昼夜問わず、陰ながら風都の人々を守っている。

 

カンドロイドを介して、あちこちに目と耳を張り巡らし、人の悲鳴を聞いた瞬間颯爽と登場し悪を倒す。まさにヒーローらしい生き方だ(まだ死んでるけど)

 

鳴海荘吉の生き方を参考にしているのかは、本人のみぞ知る。

 

この前、風都の都市伝説にも見事仲間入りを果たし、ピンチの時に必ず駆けつける”髑髏の仮面ライダー“と呼ばれるようになった。

 

”記憶“に関しては少々複雑な事になっている。

彼はある程度記憶を思い出しつつあるが、それは”鳴海荘吉の記憶“として認識しており、自分の記憶だとは思っていない…つまり「他者の記憶を持った別人」という状態だ。

 

やはり彼の肉体には鳴海荘吉の魂は存在せず、スカルメモリの意識が肉体に宿っていると見て間違いないようだ。

 

『魂』という非科学的な物は俺も専門外だ。

鳴海荘吉魂をどうやって呼び戻すかは今後の課題になるだろう。

 

ゴーストアイコンの研究でもしてみようかな…まだ本編始まってすら無いけど…。

 

 

ちなみに彼は人を助けた後はすぐに姿を消す為、ダミー事件以降翔太郎達とは再会していない。

 

 

 

 

 

 

最後に仮面ライダーではないが、俺の日常。

俺は次世代ガイアメモリ研究の為、ミュージアムの施設に居れば

仮面ライダー開発の為、自分の研究所にも居る。

 

あっちこっちだ。

 

ルパンがメモリを使えば、現場に赴きコブラの顔に装備しているデータ分析装置『メモリバイザー』を使ってデータ収集を行う毎日。

 

そして今日もルパンのデータ収集に赴いたが、想定外の出来事が起きる。

 

 

 

 

「ルパンを追ってきたが、まさか別のライダーに出くわすとは…」

『ナスカ』

 

 

 

 

まさかの霧彦と対面である。

 

ガイアメモリ製造工場から出たトラックを襲っているルパンを観察しようと、近くの建物の屋上にいた俺だったが、偶然にもルパンを抑えようと動いていた義兄さんとばったり出くわしてしまった。

 

恐らく、ミュージアムがルパン対策に乗り出したのであろう。

これは想定外だ。

 

『は!!』

 

義兄さんはナスカ・ドーパントに変身すると直ぐにナスカブレードを取り出し俺に襲いかかる。

 

コブラロッドで剣を受け止め、鍔迫り合いになると、ナスカ・ドーパントは俺のドライバーについたメモリのイニシャルに気がつく。

 

『気に食わないな、私の義弟と同じ『コブラ』のメモリを使っているとは…はっ!』

 

コブラロッドを弾き、俺の体を斬りつけるナスカ・ドーパント。

さすが幹部までのし上がった義兄さん…手強い。

研究室に篭ってる事が多い俺と比べ、義兄さんの方が、ダブルと何度も対峙した事もあり、戦闘経験は上だ。

 

『っぐ!』

 

『私が成敗してあげよう。蛇の仮面ライダー君?』

 

余裕を表すように刃を撫で、今度は飛行した状態で襲いかかってくる。

 

『俺は仮面ライダーじゃない、そこは勘違いしないでくれ。っく!!』

『じゃあ何だと言うんだね?仮面ライダーと似たドライバーをつけているではないか!』

『…っが!』

 

コブロッドの先端からエネルギー弾を発射し牽制するが、見抜かれ、俺の体は再び切り裂かれる。

 

『…“仮面ライダー”とは己の正義の為に戦う者の総称だ。俺は別に正義の為に戦っている訳ではないさ!』

 

コブラロッドの先端を蛇の様に伸ばし。ナスカドーパントの足に巻き付かせるとそのまま彼を地面に引き摺り下ろす。

 

 

『…っぐ! 成程。それでは私も“仮面ライダー”と言うことになるのかな? この町の正義である”組織“に仇なす風都のゴミは…この私が排除する。』

 

『お前が仮面ライダー?…くく』

 

仮面ライダーにしたい男の口から出た言葉に…俺は思わず笑みが溢れる。

本当、素質はあるよな。

 

『そうですね…貴方も…いずれ、仮面ライダーになりますよ』

『何を訳の分からないことを…超高速!』

 

ナスカ・ドーパントの姿がブレた瞬間、俺の体が切り裂かれる。

 

『…っが!』

 

そうだった…もう既に義兄さんは『超高速』に目覚めている時期だ。

 

『喜ぶがいい。この超高速の力を味あわせるのは、君が初めてだ!』

 

超高速で翻弄し、死角に入り一気に斬りつけると言う、いやらしいヒットアンドアウェイ戦法を繰り出すナスカ・ドーパント。

視覚だけでは音速を超える『超高速』を捉える事はできないだろう。

 

だが、蛇は視覚だけで獲物は捕らえない。

 

息を整えて、身体中に刻まれている()()()()()を発光させ、ある能力を発動させる。

 

空気の流れを細胞装甲で感じ、熱を追う…。

 

そして背後から近づいてくるナスカ・ドーパントの気配をキャッチすると、素早くコブラロッドでナスカブレードを受け止めた。

 

『なに!?』

 

蛇には動物が動いた時に発生する、空気の僅かな振動を感じ取る事ができる優れた『皮膚感覚』と、軍用機器並みの熱感知機能を持つ『ピット器官』が存在する。

 

このドーパントレベルまでに進化した二つの能力を、合わせ、俺は『超感覚』と呼んでおり、この能力が発動している間は、相手の動きが手に取るよう分かる様になる。

 

 

彼が驚いている隙に、俺はナスカブレードをいなすとそのままコブラロッドの棒術でナスカ・ドーパントを殴りつける。

 

『ぐぁ!!な、何故だ?!』

 

『切り札は最後まで取っておくものだ。』

 

『っく、超高速!!』

 

超高速を破られたのが認められないのか、再び音速を超えたナスカ・ドーパント。

しかし、どう動こうとも俺には見えるし、()()も熟知している。

 

 

義兄さんと会ってしまったのは想定外ではあったが、そろそろ彼には園咲家に対して不信感を抱いてもらおう。

 

 

『…っぐ、なんだ!?』

 

 

6回目の超高速を発動した後、苦しそうに胸を押さえ、膝をつくナスカ・ドーパント。

連続で使うと起きる毒素の進行…これがナスカ・ドーパントの弱点だ。

俺の開発した“ガイアドライバー2”の強化された濾過機能を持ってしてもなお、類を見ないほどに強力なガイアメモリである『NASCA』の毒素を完全に防ぎきれない様だ。

 

『どうした?調子が悪そうだな』

 

『ま、まだだ!』

 

無理して再び“超高速”を使おうとするナスカ・ドーパント。

これ以上連続して使うのは、彼の命に関わる…メモリブレイクしない程度に加減をしよう。

 

コブラメモリのレバーを3回引く

 

『コブラ!マキシマムドライブ!』

 

マキシマムドライブが発動し、背後に紫の巨大なコブラのビジョンが出現し、そのままジャンプをし右足を突き出すと、巨大コブラがエネルギーブレスを吐き出し、その勢いに乗ってナスカドーパントにライダーキックを食らわせる。

 

一連のプロセスは仮面ライダークローズのライダーキックと同じだ。

 

 

『ぐぁーーーー!!』

 

ライダーキックを食らったナスカ・ドーパントは壁に激突し、そのまま変身が解かれる。

 

メモリブレイク機能をオフにしたため、ガイアメモリが強制排出されただけであったが、彼の腰に巻いてあるガイアドライバー2からは火花が飛び散っていた。

 

 

「か…馬鹿な、レベル2に覚醒した私が、負けるなど。」

 

悔しそうに握り拳をコンクリートに打ち付ける義兄さん。

少し申し訳ない事をしたが、今のナスカメモリとの相性では、長期戦は不利だ。

 

『メモリとの適性がない以上、それがお前の限界だ。それに“NASCA”という強力なメモリ故に、お前の肉体は徐々に…メモリの毒素に蝕まれていく。このまま使い続ければ死ぬぞ?』

 

メモリバイザーを起動し、彼の肉体を分析すると相当毒素に侵されている事がわかった。

数値にして43%。80%越えれば命が危ないレベルだ。

 

「な、何だと?」

 

さて、ここで警告してみるか。

 

『お前は園咲家の婿の様だな?園咲家の真の目的について知らない様だな。』

 

真の目的…それは人類を地球が存在する限り滅びることのない種族に強制進化させる計画『ガイアインパクト』の事だ。

一見良い計画に見えるが、適応ができない人間は()()()()()()()()()()()()()()()危険性がある。

そんな事は、きっと風都を愛する義兄さんは認めないであろう。

 

「真の目的?…お前は一体何を!?」

 

『その目的達成の為なら、罪の無い人々まで犠牲にする…そう、お前も含めて園咲琉兵衛の餌食になっているんだよ。精々気をつけるんだな。』

 

「まて、そこまで知って…お前は何者だ!!」

 

『いずれ分かるさ、また会おう霧彦』

 

そう言うと俺は建物から飛び降りその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

路地裏に入り、俺は人知れず変身を解く。

ルパンを見失ったが、スネークウォッチに映し出されている彼のバイタルからは、異常が見られないから大丈夫だろう。

 

義兄さんとの戦闘は想定外だが、俺の警告で少しは園咲家へ不信感を抱いてくれる筈だ。

彼はガイアメモリを“人類の進化や発展に貢献する物”と考えている。

 

()()()()()()()()()()

 

園咲琉兵衛も同じような考え方をし、ガイアインパクトを計画しているが、数多くの犠牲者が生まれる上に、それでは風都のためにならないと、彼の狂気に触れ理解して欲しいものだ。

 

そう考えながら路地裏に隠していたバイクに跨ると、コブラメモリが腕に巻きつき、何故か人気のない非常階段の方をじっと睨みつけ威嚇をしていた。

 

『シャーーーーー!』

 

「この反応…またか。」

 

彼がこの様な行動をするの初めてではない。…俺はコブラが睨む方に目を向ける

非常階段の取手部分に恐竜型のメカ…いやガイアメモリがいた。

 

()()()()ファングメモリ。」

 

ファングメモリは何かを訴えてるように、俺を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふぅ、ここまで来ればもう追っては来ないだろう。』

 

組織とのカーチェイスを終えたルパンは、人気のない廃工場でライドロンLを降り、手に入れた物を眺めてた。

 

『おぉ、どれも良さそうなメモリだなぁ〜。使うのが楽しみだ。』

 

今回奪った12本のメモリを手に取り、どんな力が有るか期待に胸を膨らませていると、工場内に車が入ってくる音が聞こえる。

 

彼がいる廃工場はコブラの持っている隠れ蓑の一つであり、誰も近寄らない場所だ。

ルパンはルパンガンナーを構え、警戒しながら車に近寄る。

白いオープンカーであり、運転席には鮮やかなスーツを着た1人の女性がいた。

 

『おっと、こんな廃工場までわざわざ俺を捕まえに来たのかい?生憎、俺は誰にも捕まえる事のできない大怪盗だぜ?…まぁ、君の様な可憐なお姫様なら、俺のハートを捕まえる事ができるかも知れないが…。』

 

ルパンガンナーを下ろし、女性を口説くルパン

彼女の美しい容姿は、透のドストライクであった。

 

しかし彼女は面倒臭そうに車から降りると、手に持っていたモニターをルパンに向ける。

 

「会長が貴方と話をしたいそうです。」

 

『会長?』

 

そうルパンが疑問に思った瞬間「デン!」という効果音と共にモニターがつき、そこに真っ赤なスーツを着た1人の中年男性が映し出される。

 

『初めましてだな仮面ライダールパン。私は鴻上ファウンデーションの会長『鴻上光生』だ。君の活躍はかねがね、コブラ君から聞いているよ。』

 

『…コブラの協力者か?そんな奴が俺に何か用か?』

 

 

ルパンはつまらなそうに柱に背を預け、モニターに映る男を睨みつける。

 

 

『君のその素晴らしい力と欲望を鑑みて、一つ盗み出して欲しい物がある。』

 

 

彼が持ってきた盗みの依頼が、自分にとって大きなターニングポイントになるとは、この時の透には微塵も思わなかっただろう。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP16 C達の日常/牙との記憶

今回は短めです!

意外にもルパンメインの話を望む人がいてびっくりした。
まだアンケート募集してますが、ファング回中心に執筆しようかな


 

ファングメモリ_フィリップの護衛用として開発され、彼の身体で変身する中間フォーム“ファングジョーカー“へと変身を可能にする、強力なガイアメモリの一つだ。

 

そんなファングメモリが、度々俺の前に現れる事がある。

 

ミュージアムの研究室で”()()()()()()()“の調整をしながら昨日の晩の事も思い返す。

 

 

 

 

『いつ来ても答えは同じだよファング。いくら適合率が来人より高くても、君を使う事はほぼ無い。』

 

『ガウ……。』

 

実は、ある程度の意思疎通が出来るほどに、俺とファングの適合率は非常に高い事が分かった。

 

俺の流()という名前の伏線がここで回収されるとは……。

 

ロストドライバーを使えば、恐らく俺は”仮面ライダーファング“に変身し、高い適合率によって、暴走する事なく力を振るう事が出来るだろう。

 

しかし、俺にはファングの次に適合率が高いコブラメモリを持っているし、(コブラメモリ)は意外と嫉妬深く(だからファングに対して威嚇をしている)使ったら使ったで、いじけて暫く言う事を聞かなくなるかもしれない…。それは困る。

 

それに…

 

『見え透いているんだよ……。お母様(シュラウド)が来人を守る為に、親不孝な俺を利用しようとしていることなんて。生憎あっちには左翔太郎がいる。君はプログラム通りに来人を守ってればいいさ。』

 

シュラウドの最終目標は園咲琉兵衛への復讐。

地球の記憶と繋がっている来人(フィリップ)の存在は必要不可欠であり、それを守る為なら、ミュージアムに力を貸してしまった俺を徹底的に利用するのでは無いかと考えている。

マザコンを演じ、ある程度の信頼度を得たと思っていたが、父親に手を貸した俺も同罪と言うことか…。

 

ファングメモリを通じ、ある程度彼女の意思を知る事が出来た……。息子の1人である俺の前に、なかなか姿を現さないのは、ルパンやスカルゾンビを作った俺が敵か味方か分からないからであろう…。

 

少なくとも俺自身は、彼女と敵対する気はない。

 

『ガオガー!』

 

『なに?左翔太郎では力不足?』

 

ファングお前……頭シュラウドだったのかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっといいかしら流牙?」

 

冴子に呼ばれ、俺はハッとする。

 

「冴子姉様……珍しいですね研究室に来るなんて。」

 

「ええ。この前資料で見せてもらった”新型ドライバー“と”次世代ガイアメモリ“を使わせて欲しいの。……そろそろ出来ている頃よね?」

 

ミュージアム用に開発していた次世代ガイアメモリとドライバーは既に完成しており、今は量産化計画まで話が進んでいる。

 

「はい。ですが実戦データが乏しく、量産化にはまだ。」

 

「構わないわ。データが欲しいなら丁度いい……被験者を紹介してあげる。」

 

「被験者?」

 

「お父様から急かされてね。新しいガイアメモリを作らなければならないの……。貴方も分かっていると思うけど、その為にはまず、来人を取り戻さなければならないわ。」

「相手は仮面ライダー…確実に彼を取り戻すには、僕の新型ドライバーとメモリが必要…と言う事ですね?」

 

冴子姉様が、本格的に来人奪還に動くと言う事は……ファング・ジョーカー登場回が始まりつつある。

しかし、アバレッド(アームズ・ドーパント)にドライバーを使わせるとなると、本編以上に翔太郎とフィリップ(ついでに亜樹子)が危険に晒される。

 

「その通り。かなり野蛮な人だけど、手段を選ばない人物に依頼をしたわ…これ、彼の資料とガイアメモリ。彼用にドライバーを調整しなさい。」

 

冴子姉様からメモリーカードとガイアメモリを受け取る。

 

「アームズですか…しかしミュージアムの所有物を一般人に使わせても良いのですか?」

 

「来人奪還の為よ……。」

 

まぁ、難易度が上がってもダブルの2人ならきっと上手くやれるだろう…。

ここで下手に疑われるのも不味いし、無責任ながら俺は彼等を見守る事にする。

 

 

…俺自身、新ライダー(モルモット)の研究成果も見てみたいし、ダブルと戦うとなるといいデータが取れそうだ。

 

「分かりました、すぐ調整します。」

「家で待ってるわ。」

 

 

彼女が去ってしばらく経ち、俺は()()()なロストドライバーとバージョンアップした()()()な端子を持つアームズ・メモリをアタッシュケースに入れ、事後処理を部下に任せ研究室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




量産型ライダーいいですよね…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP17 Fの残光/凶悪ライダー Part1

風都探偵の主題歌最高すぎるだろ!!!!!
ちなみに、この作品は風都探偵並みに残酷な描写が有りますので、注意です!!



 

19時30分 風都都市銀行

多くの人が利用し、昼間は賑わいを見せていた店内は今、地獄と化している。

 

『ハハハハ!』

 

警報音が鳴り響く店内。

狂気的な笑い声と共に、金庫の中にある現金を鞄に詰める”髑髏顔の怪人“

辺りに血の臭いが充満し、彼が背負っている巨大な大剣の刃は、人間の血液で赤黒く染まっていた。

 

『さぁ、俺の名前を言ってみな?』

 

腕をマシンガンに変え、人質である男性職員の頬に銃口を当てる。

 

「か、かかか、仮面ライダー……?」

 

銃口の冷たい感触が、死への恐怖をさらに加速させ、男性の顔は真っ青になる。

 

『ん〜Exactly!この名前を覚えてくれれば、お前は生かしてやるよ…他の奴は……。』

 

怯える男性職員の頭を撫でながら、紐で縛られている、残りの3人の職員達を見る。

 

「「「ひぃ……!」」」

 

生かす人間を決めた髑髏顔は、彼らに銃口を向けた。

 

『あばよ!!』

 

『待て!!』

 

仮面ライダースカルが店内に現れ、すぐさまスカルマグナムWでマシンガンを撃ち、射線を逸らす。

 

銀行内の状況に思わず息を飲んだスカル。

 

あちこちに他の職員や警備員達の無残な死体が転がっており、床には赤黒い血の海が広がっていた。

この悲惨な現場を目の当たりしたスカルは、胸にグツグツと怒りが沸き起こるのを感じながら、強い眼差しを髑髏顔に向ける。

 

『…貴様!』

『ふん、待てと言って……待つかよ!』

『な、よせ!!』

 

しかし髑髏顔は、縛られた職員達に再び銃口を向けると、今回は躊躇なく無慈悲に引き金を引いた。

 

 

彼らは悲鳴を上げる暇もなく、銃弾の雨の餌食となってしまい、彼らはぐしゃりと倒れる。

 

 

あちこちに返り血が付着し、スカルの白い顔にも鮮血が付く。

 

『……なんてことを!!』

 

『あぁ〜……スッキリした。』

 

ゴキゴキと音を鳴らしながら、首を回す髑髏顔。

 

“髑髏”と“生きる屍”の記憶を持ったスカルでも、人を惨たらしく殺した相手には素直に怒りを感じる。

そして、それを止められなかった自分に対しても、同様の感情が込み上げてくる。

 

(鳴海荘吉だったら止められてただろうか…)

 

そんな疑問を抱えつつ、スカルマグナムWを持つ手をさらに力強く握りしめ、自分と似た髑髏顔の怪人に銃口を向ける。

 

『悪いが、あんたはお呼びではないんだよ。』

 

腕を元に戻し、髑髏顔は血に染まった大剣を取り出し構えた。

 

スカルは弱点を探るために、彼の容姿をくまなく観察すると、腰に装着されている黒いロストドライバーの存在に気がつく。

 

『そのドライバー…お前は何者だ?』

 

スカルの脳裏に自分のドライバーを開発した、流牙の顔がよぎる。

 

___嫌な予感がする。

 

『さぁ?俺の名前を言い当てな?』

 

『なに?』

 

『ひゃっはー!』

 

質問の意図を理解する前に、髑髏顔は素早く左腕をライフルに変形させると、特殊な弾丸をスカル目掛けて撃つ。

 

『っが!!』

 

 

炸裂音と共に、弾丸が命中したスカルは勢いよく体が吹き飛び、テーブルの上に転がり落ちる。

高い防御力を持つスカルゾンビであっても、彼の放った“大口径弾“をモロに受ければダメージは入る。

 

『正解は仮面ライダーでした!』

 

髑髏顔の怪人……”ドーパントライダー・アームズ“は再び大口径弾をスカルに向けて撃つ。

スカルは転がってテーブルから降り、弾丸を躱すとそのままテーブルをアームズ目掛けて投げつけた。

 

アームズはそれを大剣で真っ二つに切り裂き、スカルに再び狙いを定めるが、スカルの早打ちでアームズは大きくたじろぐ。

 

『……っぐ。はは、まずいまずい。まぁ目的は達成したし、ここは逃げるか!』

 

アームズは腰から手榴弾を取り出し、ピンを抜くと生き残った男性職員の近くにそれを放り投げる。

 

『まずい!!』

 

スカルは咄嗟に、男性職員に覆いかぶさると、自らの体を盾とし、手榴弾の爆発から彼を守った。

 

『奴は!?』

 

アームズがいた場所を見るも、もう既に奴の姿はない。

ひとまず腕の中で震えている男性職員に声をかける。

 

『おい、大丈夫か。しっかりしろ』

 

 

「うわぁーーー!!来るな!化け物!!」

 

スカルもアームズと同様、髑髏の顔。

目を合わせた途端、職員はスカルを突き飛ばし、恐怖に歪んだ表情で、スカルを見た。

 

『……。』

 

助けたいが、下手に彼を刺激するわけにもいかない……。

丁度よく、パトカーのサイレンが聞こえると、後のことを警察に任せ、スカルは消えたアームズの足取りを追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

 

「コレも該当なし……か。」

 

鳴海探偵事務所のガレージ

 

そこでフィリップは『地球の本棚』を使い、ある人物について検索をかけていた。

 

(彼が組織の人間であるのかはあの夜(ビギンズナイト)現場に居たことから証明されている。しかし、鳴海荘吉の蘇生にルパンのサポートと、彼の行動は全体的に組織の意思から逸脱しており、独自の勢力として力を付けつつある。……目的が分からない。)

 

それは、未だに謎が多い戦士『コブラ』についてだった。

 

_戦うつもりは無い仮面ライダーW。…むしろ俺は君たちの大ファンだ。_

_ヒーローの手助け、世界平和…なんて言っても信じないだろ?_

 

胡散臭い言葉を思い返し、あくまでも彼は裏方であると語っている。

 

(世界平和…もしかして本当に?)

 

組織と繋がっている時点で警戒するべき人物で間違いないが、もしかしたら信用していい人物かもしれない。

 

実際、彼が開発したルパンやスカルは、見事に組織の脅威になっており、風都の平和に貢献している。

 

 

__それに不思議と、自分の()が彼が敵ではないと囁いている。

 

(勘……か、まるで翔太郎だな。)

 

信用できる要素は少ない。

だが、以前からコブラについて考察していると、心の何処かで引っ掛かりを感じ、それが検索意欲へと繋がった。

唯一分かった事は、コブラメモリに関することだけで、変身者を特定するには決定的なキーワードが無い。

 

何かヒントは無いかと、再び考え始めるフィリップ。

 

「まーだコブラについて検索していたのか。」

 

相棒の左翔太郎が現れ、ずっとガレージに篭っていたフィリップを心配する。

 

「ああ。どうしても気になって。」

 

「知識の暴走特急だな……それに飯、まだ手をつけてねえじゃねーか。食わないと、そのうち死んじまうぞ。」

 

翔太郎は隠し扉の前に置いてあった亜樹子の手料理をフィリップに渡す。

 

「そんで……何か分かったか?」

 

「コブラメモリの性質だけだ。彼の正体や目的を探るには、まだキーワードが足りない。」

 

「直接会ったのはたったの3回……分かってるのは組織の人間で、ルパンの協力者で、おやっさんを生き返らせた事。世界平和のためだって奴は言ってたけど、どうも胡散臭いんだよなー。組織と繋がってるなら尚更だ……。それにルパンやおやっさんの噂は度々耳に入ってくるが、コブラについてはなーんも無しだ。」

 

翔太郎が持つ情報網でも、コブラについての噂や情報は何一つ引っかかってない。

 

2人で悩んでいると、事務所のチャイムが鳴り響く。

 

「そう言えば今日依頼主が来るんだった……ちゃんと飯食えよフィリップ!!」

 

そう言い残すと翔太郎は足早にガレージから出るのだった。

 

「コブラ……君は一体何者なんだ。」

 

1人ガレージに残されたフィリップ。

ホワイトボード書き込んだ、動物のコブラに関する情報を見つめながら、そう呟くと……。

 

『ガウー!』

 

(!?)

 

ホワイトボードの上にファングメモリの姿が見える。

 

(まさか、そんな……。)

 

思わず目線を逸らしたフィリップ。

そしてもう一度ホワイトボードの上を確認すると、既にファングメモリの姿は無くなっていた。

 

(きっと空腹のせいだ……そうに違いない。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風都都市銀行窓口勤務の麻生冬美さん」

 

亜樹子は依頼主の情報を確認する。

 

「はい」

「で、ご依頼は?」

 

事務所を訪れたのは1人の若い女性であった。

翔太郎と亜樹子の2人は彼女を接客席に座らせ、依頼内容を聞く。

 

「仮面ライダーを探して欲しいんです!」

 

「「仮面ライダーを?」」

 

その依頼は人探し……しかも相手は仮面ライダーであった。

 

「((ふふ))」

 

すぐ解決出来そうな依頼に2人は密かにニヤける。

 

「(ちょー簡単な依頼だね。だってここに居るんだもん!)」

「(結構有名になったもんだよなー……俺たちも)」

 

依頼主の冬美に聞こえないよう小声で話す2人。

どうやって仮面ライダーと引き合わせるのか、段取りを考えようとするも冬美の口から衝撃的な言葉が発せられる。

 

 

 

「仮面ライダーはこの街の敵!憎むべき犯罪者です!!」

 

 

 

「「えぇ!!?」」

 

 

 

2人は思わず声を上げる。

 

 

 

より詳しい内容を冬美に聞く。

 

昨夜、都市銀行にバイクに乗った強盗が押し入り、現金を盗み出した後、銀行員を殺害し、生き残った者に自らを”仮面ライダー“と名乗った。自分は幸運にも生き残り、この事実を明るみにしたく、探偵に依頼したとのこと。

 

「……あのクソ野郎。」

 

小声で仮面ライダーを罵倒する冬美。

亜樹子はその様子を不思議そうに見ていた。

 

「私告発したいんです……悪の権化『仮面ライダー』を!」

 

「俺たちの……偽物」

 

もちろん自分達では無い。

 

まず初めに怪盗ライダー”ルパン“を思い浮かべるが。

彼はそもそも現金に興味はなく、盗むのは貴重な宝かガイアメモリだけ。何より一般人を殺害するなど彼の行動理念に反する。

 

 

 

 

その日、翔太郎は直ぐに調査を開始した。

こういった強盗殺人は風都署の刑事である刃野幹夫に聞くのが1番であった。

 

連絡を入れ、偶然にも今日、銀行強盗があったと言う事で翔太郎もその現場に足を踏み入れることが出来た。

 

そして実際の犯行現場を目の当たりにした翔太郎は驚愕するしかなかった。

 

「これが……仮面ライダーの仕業ってのか?!」

 

支店の銀行だった場所が、もはやそこが銀行だと解らないぐらいにボロボロに破壊されており、もう既に遺体は片付けられているが辺りには血痕などが色濃く残っていた。

 

「三件だ。生き残ったのは今回もたったの1人。髑髏の仮面ライダーが職員を皆殺しにしたんだとよ。」

 

髑髏の仮面ライダー……思い当たる人物は1人しかいない。

 

(おやっさん?!……いや絶対に違う。)

 

翔太郎はすぐに仮面ライダースカルを容疑者から外す。

 

「正義の味方気取りがとうとう本性を表したな。髑髏の仮面ライダーがこんなんだから他の仮面ライダーもきっと……」

 

「犯人は仮面ライダーなんかじゃねー。」

 

「なに?いいか翔太郎!知り合いだからって隠し立てするなよ。今度あったらタダじゃおかねー。俺がギッタンギッタンにしてからな、逮捕だ!!」

 

「いや、俺が無実を晴らしてやる……。」

 

仮面ライダーの名をこんな形で汚した犯人は絶対に許せない。

ぐつぐつと怒りが込み上げ、いち早く犯人を捕まえようと現場を後にしようとする翔太郎。

 

すると偶然、立入禁止のテープの前で揉めている2人を見つける。

 

「これはこれは……やはりこの町は刺激に満ち溢れている。」

「ここからは立ち入り禁止ですって!」

「分かっている!だからここからスケッチさせて貰うぞ。あと取材もさせてくれ!」

「いえ、だから困りますよ!」

 

それは真倉刑事と、初めて見る、スケッチブックを持ったハンチング帽の男だった。

 

「おいおい、またお前か!不謹慎にも程があるぞ!」

 

刃野刑事は男の存在に気づくと、呆れながら彼を説得する。

 

「それは重々理解しているさ。だがこの胸から湧き上がる創作意欲を、自分でも抑えることが出来ないんだよ!」

 

「刃さん、彼は?」

「あぁ、最近風都に引っ越してきた自称漫画家の……。」

「自称ではない!正真正銘の漫画家『岸野一誠』だ。それにしても流石は風都。少し出歩くだけで、何かしらの事件に遭遇する……ここはネタの宝庫だ、ゾクゾクするね」

 

年齢は自分と同い年か上くらい、なんだかフィリップみたいな性格だなと翔太郎は素直に思う。

確実に変人であるが事件には関係なさそうだと考え、彼の横を通ろうとすると、岸野は振り向き翔太郎を呼び止めた。

 

「左翔太郎」

 

「え、どうして俺の名前を?」

 

彼とは初対面で、名乗った覚えはない。

だが知ってて当然みたいな態度をとった岸野はスケッチブックを閉じ、それをショルダーバッグにしまうと、胸ポケットから革の手帳を取り出した。

 

「そんな事はどうでもいい。奴を追うなら工場地帯辺りを調べてみるといい。奴が次現れるとしたらその付近さ。」

 

「……何故そう言い切れる?」

 

何にも知らない筈の男から語られる敵の情報。

翔太郎の警戒心が一気に上がる。

 

「簡単な推測さ。奴の真の目的は金じゃない……前回、前々回と、人殺の快楽に浸りながらも1人は必ず見逃し、自分の名前を覚えさせる。何故そうするか……答えは簡単、『仮面ライダー』の悪評を広め、彼らを誘き出す為さ。」

 

「何だって?」

 

「そして次襲うとしたらまた別の銀行……とはならず、これだけ騒がれては警察の巡回も増え、銀行も警備を固めるだろう……次襲うとしたらまだ襲っていない銀行の現金輸送車。……もうすぐその車は工場地帯付近を通る予定だから、狙うとしたらそこの可能性が高い。」

 

手帳に書かれているのかスラスラと自分の推測を語る岸野。

 

 

「……!」

 

 

怪しさ満点の男だが、いち早く偽物を捕まえたかった翔太郎は、駆け足でバイクに跨り、工場地帯へ向かう。

 

それを見送った岸野は自分の手帳に目線を向ける。

 

 

(左翔太郎……鳴海探偵事務所に所属する私立探偵。そして風の町『風都』を守る仮面ライダーWの片割れか。)

 

「やはりこの町は面白い……スケッチはまぁいいだろう。刑事さんまた来ます」

 

「お、おう……って、もう二度と来るな!!次は公務執行妨害で逮捕だぞ!!」

 

真倉刑事の騒がしい声を背に、岸野は()()()()()を閉じた。

 

 

 

 

 

 

____________

 

おまけ

ドーパントライダー・アームズ イメージイラスト

 

【挿絵表示】

 

 

 

 




岸野のモチーフは分かる人には分かります!

アンケート結果でファング編突入!!
ついでにアームズ描きました!
何故、仮面ライダー名じゃないのか、それは後半で!

だいぶライダーや設定が増えてきました。
設定集(ネタバレ無し)的なものが欲しいかどうか一週間ほど(7/14まで)アンケート取ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP18 Fの残光/凶悪ライダー Part2

いやー、大二どうなるんだろうね……。


現金輸送車は岸田の言う通り工場地帯を走行していた。

アームズはバイクを走らせながら、現金輸送車を発見すると並走し、腕をマシンガンに変え、タイヤをパンクさせ車をクラッシュさせる。

 

「うわ!?」

 

運転手は急ブレーキを踏んで車を止めるが、その判断は間違いだった。

アームズは不気味な笑い声を漏らしながら、バイクから降りると、運転席のドアを腕力だけで外し、そのまま助手席に座っている警備員を容赦なく射殺する。

 

「あぁああああ!!!」

 

車内は鮮血で真っ赤に染まり、運転手は悲鳴を上げながら、相方の返り血を全身に浴びる。

アームズは手が汚れる事をお構いなしに、血まみれの運転手の胸ぐらを掴むと、運転席から引きずり下ろし、そのまま車体に彼を押さえつける。

 

『さぁ、俺の名前を当ててみな?』

 

相方を殺した銃口が、今度は自分に向けられる。

 

「し、知らないよ!」

 

『ぶぶー。正解は“仮面ライダー”……忘れんなよ?』

 

 

 

 

 

『おいコラ!出鱈目吹き込んでんじゃねー、この偽物!!』

 

 

運転手のピンチに仮面ライダーW“ルナメタル”がハードボルダーで駆けつけ、鞭状態のメタルシャフトをアームズに巻き付けると、運転手から引き離す。

 

『今すぐ逃げろ!』

 

ダブルに助けられた運転手は素早く頷くと、その場から全速力で逃げ出す。

 

しかし、助手席に座っていた男性警備員はアームズの攻撃で即死であり、もう手遅れだった。

血まみれの被害者の姿が目に入った瞬間、ダブル(翔太郎)の怒りが最高潮に達し、メタルシャフトを握る手が強くなる。

 

『いってて……ようやく会えたな……でも、偽物とは酷いなぁー。俺もれっきとした“仮面ライダー”だ。』

 

メタルシャフトから解放されたアームズは、首を回しながら腰の黒いロストドライバーに手を当てる。

 

『そ、そのベルトは!?』

『黒いロストドライバー!?』

 

ダブル(翔太郎)とフィリップはアームズが装着しているドライバーに驚く。

 

『正解、お前達と同じ種類のドライバーを使ってるってことは、俺も仮面ライダーって事だぜ?』

 

『ふざけるな!!仮面ライダーってのはなぁ、町の人たちが付けてくれた大切な名だ!お前みたいな極悪人に名乗られてたまるか!!』

 

『あぁ?そうなのか?……まぁ()()()()()()()。……あばよ!』

 

前置き無しに腕のマシンガンを、容赦なくダブルに撃ち込むアームズ。

 

『ぐわぁ!!!』

 

『ハハハハ!』

 

その怯んだ隙に、アームズは不気味な笑い声と共にバイクに跨ると、一目散にその場から逃走した。

 

『野郎逃すか!!』

 

ダブルもアクセルを入れ、アームズを追跡する。

 

 

『それ!それ!それ!』

 

 

マシンガンで弾幕を張り、ダブルとの距離を離すアームズ。

ダブルは巧みにそれを避け、逃すまいとリボルギャリーを呼び出し

ハードボイルダーを格納すると、六基の大型ジェットノズル『ダッシュブーストユニット』を装着し、爆音と共に発進する。

 

『おーうおう、やべーやべー!』

 

ブーストによってアームズとの距離が一気に縮まる。

 

だが、口では焦っても、内心はこの状況を楽しんでいるアームズ。

ドライバーからアームズメモリを抜くと、マシンガンのマキシマムスロットにメモリを挿す。

 

『アームズ!マキシマムドライブ!』

 

『あーらよっと!!』

 

マシンガンがグレネードランチャーに変化し、アームズメモリの力を宿したグレネード弾をダブル目掛けて放った。

 

『っっく!!』

 

 

ダブルは急ブレーキをかけることで、寸前で回避することができたが、マキシマムドライブによる強烈な一撃によって、道路に大穴が空き、追跡が不可能になる。

 

 

『ああ!!……アイツもマキシマムドライブが使えんのかよ!』

 

 

アームズの姿を見失い、悔しがるダブル。

 

『機能的にも、僕たちと同じ様だ。』

『まさか……コブラが関わってるって事、無いよな?!』

『それは……わからない。』

 

ルパンやスカルのドライバーを開発したと思われるコブラ。

彼が組織と繋がっている以上、否定できない可能性だ。

 

ふと、フィリップは破壊されたアスファルトの中に、キラリと光るものを見つけ、手に取る。

 

『コレは……奴が落としたのか?』

 

それは歪な形をした金属製の破片だった。

キーホルダーの断片にも見えるものが、この場にあるのは違和感がある。

 

『手掛かりになりそうだ。』

 

 

 

 

_______

 

 

 

コブラの研究所にある一室。

流牙は自分が持つロストドライバーとは()()ドライバーの調整を行っていた。

 

『黒いロストドライバーについて何か知らないか?』

 

バン!と部屋のドアを勢いよく開けるスカル。

仮面で表情は見えないが、その声に怒りが滲み出ていた。

 

「……そう言えば奴と戦っていましたね?」

 

『知っている様だな?』

 

「ええ。僕の発明品の一つです。」

 

あっけらかんと答える流牙。

 

『お前が奴に渡したのか。』

 

「まぁ……そうですね。(冴子)に頼まれて、試作の量産型ドライバーの一つを渡しました。彼は少しやり過ぎな気がしますが、ちょうどいいモルモットですよ、お陰でいいデータが採れそうです。」

 

机の上にあったタブレットを操作し、映し出されたのはアームズの詳細なデータとハッキングした銀行の監視カメラの映像。

 

『データだと?お前がそのドライバーを渡したせいで、罪なき命が多く失われた!!!』

 

怒鳴りながら流牙に詰め寄るスカル。

突然の怒号に驚きながらも、流牙は態度を崩さず、淡々と言い訳を口にする。

 

「あの男は、数多くあるメモリの中から()()()()()である『武器の記憶(アームズ)』を選んだ。ガイアメモリは()()()()()()()()()()()()()()性質がある以上。アームズを選んだ本人の人間性はたかが知れてる。……彼に殺されてしまった人には悪いですが……この町ではよくある事です。」

 

ついにスカルの堪忍袋の緒が切れ、生身である流牙に対して、容赦なく首を締め上げながら、壁に打ち付ける。

 

『っが!!』

 

『!!』

 

衝撃によって肺の空気が抜け、苦しむ流牙。

流牙を守る様にプログラムされているコブラメモリは流牙の懐から飛び出し、スカルに飛びかかろうとすも、流牙は手を突き出しそれを止める。

 

「コ、コブラ……だ、大丈夫だ。」

 

苦しいにも関わらず、その表情は何処か()()()()だった。

 

死者であるがゾッと背筋が凍るのを感じたスカル、彼の言い分を聞くため、少しだけ腕の力を緩める。

 

『全部は研究の為か?……お前が殺したのも同然だ。』

 

「はは……そうですよ。僕、いや()はガイアメモリに関わっている時点で罪深い人間なんです…亡くなった人には、申し訳ない無い気持ちはありますが、……その罪は、正義の仮面ライダーを助ける事で還元しますよ。」

 

『人の命はお前の道具では無い!』

 

「っが、その…通りです、です。だが……引き金を引いたのは俺じゃ無い。変身した奴が持つ、本来の人間、性だ……!俺は、ただ、銃を、作っただけ……。」

 

_拳銃を作っている工場の人間は犯罪者か?

 

フィリップがビギンズナイトで、初めて翔太郎と出会った時に言った台詞と似た様な事を呟く流牙。

 

『……。』

 

失望の眼差しを向け、スカルは腕に力を強める。

 

「っぐ、この、まま……俺、を始末するん、ですか?それも、良いかも、知れませんね。」

 

しかし、流牙は恐れるどころかそれを受け入れようとしている。

彼も十分自分の罪を理解しているのであろう。

 

『……。』

 

「げっほ!…げほ!」

 

雑に腕を離し、流牙に背を向けるスカル。

 

『お前の精神はガイアメモリの毒素にやられている。歪んでしまったな。』

 

「……っげほ……そんなこと、研究者である自分が1番知ってますよ」

 

『奴を止めろ。開発者のお前なら出来るだろ?』

 

()()()()()()()()無理ですよ。コブラと比べてスペックは断然にあっちの方が上です。」

 

『……俺が止めるしかないのか。』

 

「武器をお貸ししましょうか?」

 

『もう、お前を頼らない。』

 

2人の仲間関係もここまで。明らかな拒絶だった。

スカルは足早に研究室を出ようとするも、流牙が呼び止める。

 

「では、一つ忠告です……彼の肉体はより強い毒素を摂取しようと、ガイアメモリの力を極限まで引き出している状態です。しかし俺の作った『B1メモリ』には肉体が満足できるほどの毒素は無い。このまま使い続けると、彼の精神がもたなくなり暴走する危険性があります。そうなってはもうお終いです。」

 

『……貴様は!何処まで人の命を弄ぶ!』

 

流牙にとって極悪人の生死などどうでも良く、彼がここまで早くライダーシステムを仕上げられたのも()()()()()()()()()()()()()()()()()()為であり、もはやスカルの言い分は今更であった。

 

 

他にも言いたいことがあったスカルだが、今は時間がないと分かると、急いで研究室を出た。

 

「前と比べて感情的になってるな……いい傾向だ。」

 

そんな様子を興味深そうに観る流牙。

生き返った時と比べ、より人間らしくなっているスカルに、素直に喜びを見せる。

 

『ガウー』

 

そんな流牙を見て若干引き気味のファングメモリ。

いつの間にか机の上に現れていた。

 

「何見てんだよファング?」

 

『ガウガウガー!』

 

「ん?このままでは来人が危険だって?…まぁ確かにそうかも知れないな。アームズの特性を甘くみすぎた。それに毒素も。」

 

元ドーパントがライダーに変身するのは、暴走を誘発させる危険性があった。

 

「ガイアメモリの毒素は麻薬みたいなものだ。ドーパントに変身すればするほど肉体は毒素を欲する様になる。B1メモリはコスト削減で完全に毒素は抜け切れてないが、理論上人体に影響のないレベルだ。しかし、その少量の毒素によって依存症の様なものを誘発させ、変身者もより凶暴な性格に変えてしまう。」

 

ハッキングした銀行の監視カメラの映像を見返す。

 

「彼は以前までドーパントになっていた。その時に蓄えられた毒素によって依存症を発症し、こんな凶暴な仮面ライダーになった……」

 

映し出されるのは、愉快に、無惨に、人を殺し続けるアームズの姿。

 

今まで普通に食べられていた食べ物の量が、急に少量に減ったら、満足できなくなるのと同じ……。

より強い毒素を求めて、メモリの力を極限に引き出す代わりに、満たされない肉体ばかりでなく、精神をより凶暴にさせる。

 

彼はまだ理性を保っている方だが……。

 

「……これは、仮面ライダーなんかじゃ無い。寧ろ擬似ライダーの類、ドーパントの延長線……名付けるなら『ドーパントライダー』だな。」

 

映像は切り替わり、別角度でアームズ殺戮ショーが映し出される。

普通の人なら目を背けるショッキングなシーンを観ても、これを引き起こした原因が自分にあっても、罪悪感は生まれない

 

(あぁ、ダメだな……俺のせいで人が死んでも、何も感じない。)

 

仮面ライダーナスカを作ろうとして、落ちる所まで落ちたと実感する流牙

__お兄ちゃんは優しくて、頼もしくて大好き!

 

(すまんな来人……俺はとんだ怪物になってしまったよ。でもまぁ、いずれは精算するさ。)

 

ふと思い出す、幼い頃の来人との記憶。

生まれ変わっても、来人との兄弟の絆は、流牙にとってかけがえのない物だと思い出す。

 

「行くぞファング。気が変わった。」

 

 

 

 

 

 

 

_______

 

 

 翔太郎は亜樹子と合流し、風都市内にあるクライミングジムに足を運んだ。

亜樹子はどうしても気になることがあり、翔太郎とは別口で調査をしていたのだ。

 

ジムを見渡し、ボルダリングをしていた()()()()()を見つけると、亜樹子はロープを装着し、スイスイと彼女の元まで登っていく。

 

「どうも冬美さん!」

 

「亜樹子さん!?」

 

目的の人物は依頼者である麻生冬美であった。

 

「犯人は見つけたけど、逃走しました。」

 

「……経過報告なら電話でもよかったのに。」

 

「そうはいかないの。」

 

そう言うと亜樹子は真剣な眼差を彼女に向ける。

 

「……あなた銀行員じゃないよね?」

 

「……。」

 

「妙に汚い言葉を呟いてことが気になって、調べてみたのよね。銀行強盗で生き残っていたのは男性1人だけて聞いたけど、どう言うことかしら?」

 

窓口勤務の割には汚い言葉を使った彼女。

その小さな違和感が確信に変わったのは、刃野刑事に渡された、都市銀行の強盗殺人に関しての資料で、生存者は男性1人だけであることが書かれていたのだ。

 

冬美の話と矛盾している。

 

「ふん、バレちまったなら仕方がないね。」

 

先ほどのお淑やかな雰囲気が豹変し、素の自分を見せる冬美。

 

「うわぁ!?突然悪っぽい……正体表したわねー!」

 

亜樹子が問い詰めようと近づくも、彼女は慣れた手つきで、壁を下り、亜樹子も追いかけようとするも……。

 

「こら!まち!あーーーーあーーーー!!!!助けてー!!!!」

 

やったことのないスポーツの為か、降り方が分からず、ロープで宙吊りになってしまう。

その隙に逃亡しようとする冬美だったが、出入り口を塞ぐように翔太郎が立っていた。

 

「冬美さん……俺たちにも絶対に偽仮面ライダーを捕まえなきゃならない理由があるんだ。……あんたも隠し事はやめて協力してくれ。」

 

もう逃げられない……と諦めたのか、彼女は一つため息をすると、口を開く。

 

「……アンタ、ツインローズって知ってるかい?」

 

「確かコンビで活動していた怪盗の名前だろ?ワイドショーになるぐらいに有名だったが、|()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、めっきり姿を現さなくなったって聞いた。」

 

「そのツインローズの片割れが……アタシだ」

 

「ええ!?じゃあ指名手配犯じゃん!!」

 

予想外の正体に驚く、宙吊りの亜樹子。

 

「相棒の名前は『倉田剣児』……予告状を出し、一滴の血も流さずに目当てのものを手に入れる。それが私と剣児のスタイルだった。」

 

目を輝かせ思い出に耽る冬美、彼との冒険は彼女にとってかけがえの無い記憶だとわかる。

しかし話が進むにつれ、彼女の表情が曇り始める。

 

「でも……たまたま()()()()()()()()、目的のものを奴に奪われてから、剣児は『力』に固執するようになった。そして、彼はガイアメモリ(禁断の果実)を手にすると、まるで人が変わったかのように手段を選ばなくなり、人殺しも厭わなくなった……あれはもう、私の知っている剣児じゃない!」

 

全ての始まりは、圧倒的な力を持った“仮面ライダールパン”と出会ってしまったことだ。

 

ガイアメモリの圧倒的な力を見れば、承認欲求を埋める為に怪盗をやっている彼が、ガイアメモリに手を出すことは当然のことだ。

 

自分が指名手配の怪盗である以上、警察に頼るわけにもいかず、彼を止めるには私立探偵に頼むしか無い。

 

「それで嘘をついて、私達に依頼してきたのね。」

 

「剣児を見つけ出して止めたかった……どうしても。」

 

「それがアンタの”本当の依頼”か。」

 

相棒であり、思い人でもある彼を救いたい。

それは彼女の揺るぎない本心だった。

 

翔太郎は彼女の思いを理解すると、腕を組む。

 

「はぁ……今回の仕事はここまでかー。指名手配犯の頼みなんて聞けないもん。」

 

宙吊りから解放され、報酬は無しかとがっかりする亜樹子。

しかし翔太郎は首を横に振る。

 

「いや……その依頼受けよう。」

 

「「え?」」

 

「ただし俺が欲しい報酬は一つ……奴を捕らえたら”二人で自首すること”」

 

「アンタ……。」

 

翔太郎は帽子の鍔を撫で、見習い探偵時代のことを思い出す。

 

「依頼人は皆訳ありだ。そんなの気にしてたら、探偵なんて出来やしねー」

 

多くの訳ありの依頼を請け負ってきた、自分の師匠である鳴海荘吉。

罪を憎み、人を憎まず……そんなスタンスを取った彼を見てきた翔太郎は、どんな人物であろうと、自分達を頼りに事務所のドアを叩いたのなら、その依頼を最後までやり遂げる強い意志を持っていた。

 

そんな翔太郎の優しさを受け、冬美は嬉しそうに頷く。

 

「ハーフボイルドのくせに妙に決めたわね……それもお父さんの真似(まねぇ↑)?」

 

「(ギクッ!)」

 

全くもってその通りである。

 

 




長くなってしまったので分けます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP19 Fの残光/凶悪ライダー Part3

続きです!


 

 

_______

 

 

 

 翔太郎と亜樹子は事務所に戻り、倉田剣児の居場所を突き止めるため、フィリップに『地球の本棚』での検索を頼んだ。

 

「キーワードは『倉田剣児』『ツインローズ』」

 

いつも通りガレージで、フィリップは検索を始める。

 

「早いとこ頼むぜ相棒!」

 

人名で検索しても、本棚の数は一向に減らない。

それだけ彼らは、怪盗としての活躍期間が長かったのだろう。

 

「あまり減らないな……。」

 

「クソ……!」

 

一冊一冊読み漁っても丸一日はかかる量の本だ。

敵を探れない状況が続き、あまり時間をかけたく無い翔太郎は、苛立ち始める。

 

「少しは落ち着きなよ翔太郎君。イライラしすぎ!」

 

「当然だろ!!……早く見つけて止めねーと、奴にまた仮面ライダー気取りで暴れられたら、たまらねーからな!!」

 

怒りに任せ、ドン!と壁に拳を打ち付ける。

 

「『仮面ライダー』って名を、遊び半分で汚すやつは許さねー!絶対にな!!」

 

翔太郎の脳裏に浮かぶのは倉田剣児が引き起こした、悲惨な事件現場と救えなかった命。

一刻も早く(倉田剣児)を捕らえたいという翔太郎の焦りは、フィリップも分かっていた。

 

「あと一つ、何か決定的なキーワードがあればね。」

 

「この証拠品はどうよ?」

 

亜樹子は、フィリップが回収した歪な金属の破片を見せる。

 

「なんの部品か、まだ判明してない。」

 

「うーん……」

 

じーっと破片を見つめ観察していると

 

「この形はねー……あ!リンゴのお尻だぁ」

 

二つの曲線がりんごの下側に見えた。

 

「そんな訳あるか!!」

 

「キーワードは『りんご』」

 

フィリップもなんとなくキーワードを入れる。

すると……。

 

 

「ビンゴだ!」

 

 

一冊の本が目の前に現れた。

 

「「え!?」」

 

本を開き、内容を確認するフィリップ。

 

「その金属片はロッカーキーのプレートの一部だ……倉田の活動エリアと符合し、りんごをシンボルマークとする場所は一つ。」

 

意識を戻し、ホワイトボードに倉田剣児が現れるであろう場所の名前を書く。

 

「西鈴鳴地区北東『シャーウッドビル』」

 

 

「うっそ……マジで!?」

 

今回も亜樹子の()()が、事件解決に一歩近づき、そんなのまかり通るのかと頭を抱える翔太郎。

 

そんな翔太郎を、亜樹子は憎たらしい表情で煽り散らかす。

 

「ヒャッホー!ほらほらほらぁ〜感心なさい!インスピレーションの女王様とお呼び!おーほほほほほほ。」

「てめー………!!」

 

「おっほほほほーーー!」

 

握り拳を作った翔太郎から逃げる亜樹子、それでも彼女の表情は彼を煽っている。

とりあえず彼女への苛立ちを抑え、スタッグフォンで冬美に連絡を入れると

 

「あー冬美さん、奴の居場所が解った……じゃあ後で。」

 

上着を持って、足早にガレージを出ようとする。

 

「あ、ちょっとどうするの?」

 

「冬美さんを呼んだ。奴と決着をつけてくる。」

 

「待て、翔太郎!……君が事件現場であったと言う(岸田一誠)が『仮面ライダーを誘き出す為に悪評を広めてた』と言っていただろ?その推理が正しければ、何故僕たちを誘き出す必要があるのか、もう少し調査し、対策を立ててからの方が良い!」

 

翔太郎が事件現場で会った妙な男(岸田一誠)の言葉が気掛かりなフィリップは翔太郎に忠告する。

 

「もたもたしている場合かよ!……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

だが居ても立っても居られなかった翔太郎は、上着を着るとそのままガレージを出るのであった。

 

 

 

 

 

_______

 

 

 

 

西鈴鳴地区のシャーウッドビル

フィリップの情報通り、アームズはバイクに乗って地下駐車場に現れた。

 

翔太郎、亜樹子そして冬美は先回りし、彼の前に立ち塞がる。

 

 

『冬美か?』

 

 

アームズはバイクから降りながらドライバーを閉じ、メモリを抜いて変身を解く。

 

「剣児!」

 

首を回す長髪の男『倉田剣児』

冬美の反応から察するに彼本人で間違いない。

 

「やっぱり彼が犯人だったのね。」

 

そんな極悪非道の殺人者の素顔を見た亜樹子は、素直に彼を軽蔑する。

 

「お願いだよ剣児!もうやめてくれ!昔のアンタに戻ってくれよ!!」

 

冬美は涙を浮かべながら、彼の両腕を掴み、必死に説得を試みる。

しかし、掛け替えの無い相棒の涙を前にしても、彼の心は動かなかった。

 

「昔の俺ね……アハハハハハ!……無理だな!!」

 

冷たい眼差をしながら、冬美を突き飛ばす剣児。

亜樹子はすぐさま、彼女の元へ駆けつくと、彼女を守るように立つ。

 

「もう俺自身も、自分を止めることができないんだよ。『ガイアメモリ』という“禁断の果実”を食っちまった今となってはなぁ……アハハハハ!」

 

「もう……剣児の目じゃない!」

 

「倉田!!……そのメモリとドライバーを捨てろ!!」

 

「アハッハ!!これを捨てるくらいだったらな……人間を捨てるね。」

 

剣児は再びアームズメモリを取り出す。

 

「俺たちのメモリと似てる?。」

 

そのメモリは通常のドーパントメモリとは違い、翔太郎たちが持つガイアメモリと似ていたが、内部の基盤が見えない、黒い成形色のパーツで構成されてる。

 

『アームズ』

 

「あぁ〜……変身。」

 

量産型ロストドライバーにアームズメモリを挿すと、首を回しながら展開し、ドーパントライダー・アームズに姿を変える。

 

「フィリップ!」

 

 

「「変身!」」

 

 

『サイクロン!ジョーカー!』

 

 

翔太郎達もダブルへと変わり、2人のライダーが激突する。

 

 

 

『本物さんよ……()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

 

 

 

圧倒的な戦闘力を持つアームズ。

あらゆる武器を使いこなす彼に、ダブルは苦戦を強いられていた。

 

 

 

『おらおら!どうした!』

 

サイクロンジョーカー程度の格闘では怯まない、アームズ。

腕をマシンガンに変えると、接近してくるダブル目掛けて撃つ。

 

『っが!?』

 

銃弾を受け、怯むダブル。

そして追い討ちをかけるようにグレネード弾を発射する。

 

『サイクロン!メタル!』

 

しかし()()()()()()()()()()、その頑丈な装甲でグレネード弾を防ぐと、ダブルは形態を”サイクロン・メタル”に変えると接近戦に持ち込む。

 

振り翳したメタルシャフトをアームズは大剣で受け止め、マシンガンだった腕をロングソードに変化させると、そのまま二刀流でダブルに襲い掛かる。

 

長距離、中距離、近距離、どのような戦闘でも武装を変えることで対応できるアームズは、今までのドーパントには無い、手数の多さに加え『武器(人殺しの道具)の記憶』をライダーシステムで引き出し、あらゆる武器のプロフェッショナルになった彼を止めるのは、今のダブルでは難しい。

 

『こいつ!手強いぞ!!』

 

『おら!!』

 

『『が!?』』

 

メタルの装甲を容易に切り裂く、アームズの大剣。

余りの威力に思わずメタルシャフトが手を離れ、ダブルの胸に()()()()()()()が右斜めに入る。

 

もはや絶体絶命だった。

 

『おいおい、この程度じゃ無いよな?本物さんよ?』

 

 

 

そして止めと言わんばかりにアームズは腕をマシンガンに変える。

 

 

 

『とう!』

 

 

だが、掛け声と共に白い影が乱入し、マシンガンを掴むと、銃口を天井に向かせ、そのまま近距離で銃弾を撃ち込んだ。

 

『おやっさん!?』

 

その正体は仮面ライダースカル”スカルゾンビ”

まさかの恩師の登場に驚くダブル(翔太郎)

 

『奴は、俺の仲間が生み出してしまった罪だ……尻拭いはさせてもらう!』

 

スカルはダブルの方を向かず、じっとアームズを睨む。

 

『仲間……やはりあのドライバーはコブラが?』

 

『野郎、なんて物を生み出したんだ!』

 

剣児にライダーの力を与えたのがコブラであったとわかると。

コブラに対し怒りが湧く翔太郎。

 

『おおう、またあったな白い方の仮面ライダーさんよ。お前も満たしてくれるのか?』

 

『奴の肉体はガイアメモリの毒素を多く得ようと力を最大限に引き出している状態だ。……だが、このままだと奴の精神は持たないだろう。』

『なんだって!?』

 

『自我を失えば、ただの殺戮マシーンと化す。俺たちで止めるぞ左翔太郎!』

 

『あぁ……頼むぜおやっさん!!』『ヒート!ジョーカー!』

ダブルは形態をヒート・ジョーカーに変える。

胸の傷はまだ消えていないが、それでも翔太郎は気合と根性……そして怒りを糧としてアームズに戦いを挑む。

 

『倉田!!』

 

怒りの炎を宿った腕でアームズを殴りつけたダブル。

アームズは、反撃しようと大剣を振りかざすも、スカルのアシストによって、大剣はスカルマグナムWの弾丸によって弾かれる。

 

『よくも!仮面ライダーの名を!汚したな!!』

 

()()()()()()()()()()で翔太郎の強い怒りを高火力な炎に変えると、ダブルの体は炎に包まれる。

 

そして髑髏顔が砕ける程の威力でアームズの顔面を再び殴り抜けると、アームズは勢いよく吹き飛び、地面を転がる。

 

『ぐあぁ……アハハハハ。たまんねぇな?本物二人はやっぱきちーわ!』

 

しばらく、地面に寝ていたアームズ。

しかし無線の着信音が鳴り響くと彼は立ち上がり、無線機を取り出す。

 

『あぁ?』

 

『倉田……遊んでないでそろそろ本気を出しなさい。』

 

無線の相手は女性だった。

 

『アハハ……了解。』

 

アームズは無線を投げ捨てると、肩をすくめた。

 

『俺のクライアントに釘刺されたわ。……じゃあここから本番。」

 

指を鳴らすと、ダブルとスカルの周りに三十は超えるマスカレイド・ドーパントの集団が現れ、隠れていた亜樹子と冬美も彼らに捕らえられる。

 

「きゃーーーーー!!!ちょっと何すんのよーーーー!!」

 

『亜樹子!』

『!!!』

 

猫の様に捕まれ、叫び散らかす亜樹子。

ダブルは彼女の名前を叫び、スカルは()()する。

 

『まさか、組織の罠!?』

 

マスカレイド・ドーパントは組織の戦闘員。

フィリップは剣児の目的を理解する。

 

『そういうことだわ。俺の落としたヒントをちゃーんと嗅ぎつけてくれるとは……噂通りの鼻の良さだぜ。』

 

『あのプレートはワザと……』

 

 

「ちょっと、やめなさ……っひ!?」

 

暴れる亜樹子を黙らせる様に、アームズはマシンガンの銃口を亜樹子に向ける。

 

『このクズやろう!!』

 

アームズの極悪非道を知ってるダブル(翔太郎)は下手に動けない。

 

「やめて剣児!お願いだからやめてくれ!!」

 

もはやかつての面影が無くなってしまった相棒の剣児。

それでも彼女は諦めきれなかった。

 

 

『クズの次の要求も大体解っているよな?………変身を解け、さもないと!』

 

亜樹子の頬に思いっきり銃口を付ける。

 

 

なんとか助け出さないと……。

 

(フィリップ……変身を解除すると見せかけてルナを挿す。ルナジョーカーで逆転するんだ。)

(……解った)

 

 

ダブルドライバーを通し、頭の中で作戦を伝えた翔太郎。

ドライバーを閉じ、変身解除と見せかけ、ヒートメモリを抜くと、そのままルナメモリを挿そうとする。だが……

 

『そうは行くか!!』

 

アームズは粘着弾を撃ち、ダブルドライバーのソウルサイドの投入口を塞いだ。

 

『何!?』

 

『アハハハハハ!!』

 

 

そして無防備になったダブル目掛けて、マシンガンを連射すると、そのダメージによってダブルの変身が強制的に解かれ、翔太郎は硬いアスファルトの上を転がる。

 

『うあぁーーーーーー!!!!」

 

胸に大剣による切り傷と、変身解除時に負った左腕の骨折と擦り傷で、翔太郎の体は満身創痍であった。

 

「翔太郎君!!」

 

亜樹子の悲鳴が地下に響く。

 

『油断も隙もねーな?……さぁ、お前も変身を解くんだ。』

 

今度はスカルに視線をむけ、再び亜樹子の頬に銃口を付けるアームズ。

翔太郎の作戦が失敗した以上、下手に反撃すれば彼女の命はない。

 

亜樹子と目が合うスカル。

彼女の目には涙が流れていた。

 

「……お父さん。」

 

__変身を解け。

 

スカルの中で()()()()()()()()

 

『分かった、彼女には手を出すな。』

 

そしてその声の導くままに、スカルはドライバーを閉じ、2本のメモリを抜く。

 

『……!!』

 

 

風と共に患者服を着た鳴海荘吉の姿に戻ると、そのまま力が抜ける様に地面へ倒れ込む。

 

「お、おやっさん!おやっさん!」

「お父さん!!」

 

気を失ったと思い、翔太郎と亜樹子は必死に声を掛けるも、宗吉はピクリとも動かない。

 

『あれ?気絶しちゃった?』

 

アームズはつま先で彼の頭を突くも反応は無い。

 

『まぁいいや…さてと、お目当ては車の中に居るのかな?』

 

「まさか、最初からフィリップ君が目当てだったの?」

 

『んん〜〜Exactly!』

 

不幸にも、その場にはリボルギャリーが駐車しており、ガレージにあったフィップの体もリボルギャリーと共に運ばれていた。

 

そして様子を見ようと、車内から出てしまったフィリップ。

 

『フィリップ!逃げろ!!!』

 

『居たぞ!捕まえろ!!』

 

フィリップは翔太郎に言われるがまま、マスカレイド・ドーパントの集団から逃走する。

 

 

 

 

 

 

「どうしよう……僕はどうすれば良い!」

 

 

追っ手を撒き、公園の噴水広場まで逃げ込んだフィリップ。

息を切らせながら今後どうするべきかと頭を悩ます。

 

 

 

 

「だったら、私に着いて来ればいいのよ」

 

その場に、妖しくも美しい女性がフィリップに優しく声をかける。

園咲冴子だ。

 

「誰だ貴女は?……まさか、今回の事件の首謀者!」

 

「そうよ……全ては私が目論んだこと。もう一度アナタを手にするために。」

 

笑みを浮かべ、まるで子供をあやす様な優しい口調で、フィリップを誘う。

 

「さぁ、いらっしゃい来人」

 

冴子は彼の本名を口にする。

 

「……来人?」

「そう、アナタの名前よ。一緒に家に帰りましょう」

 

腕を広げ歩み寄ってくる冴子。

 

「僕は物じゃない!」

 

フィリップは後退りをしながら彼女に向かって怒鳴る。

 

「私を誰だと思ってるの?私は……」「貴女が誰だかはわからない!!」

 

「でも、その冷たい目で、人を判断するのは十分だ!」

 

いくら優しい口調でも、彼女から湧き出るドス黒いオーラはフィリップも感じ取ることができた。

 

「生意気に育ったわね……まぁ、いいわ。どうせ要らない記憶はまた消える。」

 

笑みが消えると、冴子はガイアドライバーを取り出し、腰に巻く。

 

『タブー』

 

そしてダブー・ドーパントに変身すると、フィリップに襲い掛かる。

 

「ビギンズナイトの幹部!?」

 

『力ずくで連れて帰るわよ!』

 

駆け出し、障害物が多い森林へ逃げるフィリップ。

しかし、タブー・ドーバントのエネルギー弾によって行手を阻まれ、その爆発によって地面に倒れ込む。

 

(ど、どうすれば!)

 

このままでは敵に捕まってしまう。

タブー・ドーパントの方を見るとアームズの元にいたマスカレイド・ドーパントの集団が合流し、自分を捕らえようとしている。

 

地面を這いずりながら、逃げるフィリップ。

すると目の前に白い物体が現れる。

 

『ガウーーー!!』

 

(ファング!?)

 

それはライブモードのファングメモリだった。

 

ファングを見た瞬間、脳裏にはビギンズナイトで自我を失った自分が映し出される。

 

「来るな!僕に近づくな!!」

 

落ち葉や石を投げ、ファングを拒絶するフィリップ

 

「お前の力なんか必要ない!!」

 

そして大きめの石を投げると、ファングはそれを飛んで避け、どこかへ行ってしまう。

 

『捕まえなさい!』

 

ジリジリと近づいてくるマスカレイド・ドーパントの集団。

 

もうだめだ、とそう思ったその時……。

 

『そうファングを拒絶してあげるな()()。彼も傷つくんだ。』

『ガウ!ガウ!』

 

フィリップの前に、ファングメモリを手のひらに乗せたコブラが現れる。

 

 

 

『もう1人の仮面ライダーですって!?』

 

『生憎俺は仮面ライダーでは無い……なっちゃいけないんだ。』

 

コブラはファングメモリをメモリ状態に変形させ、スイッチを押す。

 

『ファング!』

 

背負っていたコブラロッドを構え、中央にあるスロットにファングメモリを挿すと、ロッドの先端から()()()()()()()の様な巨大な刃が形成され、ファングメモリのエネルギーを纏った。

 

 




最近のリバイスってどう思いますか?
自分は好きですけど、批判的な意見も理解できます!
まぁ、こういったもんは楽しんだもん勝ちですよ!

ファング編が終わったら日常回を少しやりたいな!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP20 Fの残光/相棒をとりもどせ! Part1

おもたせしました!
通信制限食らってなかなかなに作業が進まなかったです!


 

都心から離れた山奥、誰も立ち入る事のない険しい森の中にある鍛錬場で、園咲霧彦は時間の合間を縫い、鍛錬の日々を送っていた。

 

日に日に冷たくなっていく愛妻の視線。

幾度なく仮面ライダーに敗れ、彼女の期待を裏切ってしまった自分を恥じ、名誉を挽回するべく、自分を追い込んでいた。

 

道中様々な障害物やトラップを設置した10キロ程の険しいコース。

静かな風が吹くなか、霧彦はスタートラインに立ち、ナスカ・ドーパントに変身し、本日10回目の道のりを走る。

 

『はぁ…はぁ…超高速!!』

 

森を抜け、より多くのトラップが設置された地点へ近づくと、ナスカ・ドーパントは『超高速』を発動し、疾風のごとくトラップや障害物を巧みに躱す。

 

襲ってくる丸太をブレードで切り裂き、水面を歩き、滝を駆け上がる。

 

謎の戦士『コブラ』によって見破られしまったこの『超高速』

園咲家の一員として。冴子の夫として、より高みを目指さなければならない。

 

全ては最愛の妻のため……と()()()()()()()()()

 

『warning!warning!』

 

しかし、霧彦の思いとは裏腹に、ガイアドライバーから警告音が鳴り響く。

 

『っく!!』

 

流牙が開発したガイアドライバー2には変身者を守るセーフティ機能が搭載されており、この警告音はメモリによる肉体への負荷が、限界値まで達した事を意味する。

 

『うっ!』

 

ちょうどコースの中間地点。

身体に激痛が駆け巡り、思わず足を止めてしまったナスカ・ドーパント。根性で前へ進もうと歩み出すも、変身者を守るべく、ドライバーはナスカメモリを強制排出した。

 

「っが!!」

 

運悪く罠が発動し、ロープが括り付けられた大きな丸太がブランコの様に降ってくると、霧彦の体に激突し、彼は数メートル吹き飛んでしまう。

 

幸い、落ち葉がクッションとなり軽傷で済むも、悔しさで腕を振り上げ、落ち葉を巻き上げる。

 

(超高速を使うたびに時間が短くなっていく。あの仮面ライダー(コブラ)が言ってた様に、私の体もメモリの毒素に蝕まれているのか!?)

 

最初は容易に完走できたコースも、今では中間地点を超えると体が動かなくなる。

コブラの警告が徐々に信憑性を帯びてきている事に、霧彦は顔を顰める。

 

ーーーそう、お前も含めて園咲琉兵衛の餌食になっているんだよ。

 

(私も所詮、園咲家のモルモットに過ぎないのか?)

 

身体中の痛みに耐えながら起き上がると、排出されたナスカメモリを拾い上げ、じっとメモリのイニシャルを眺める。

 

(園咲家に婿入りし、自分の実力がついに認められたと思っていたが……全てはこのナスカメモリの実験の為だったのか?)

 

だが、その証拠は現段階では無い。

むしろ自分を惑わす為にコブラが吐いた嘘では無いのか?

 

蛇は人を惑わすと言う。

 

ここまでくると誰を信じて良いか分からなくなる…。

園咲家で1番仲が良い義理の弟の流牙さえも、疑いの目で見てしまう。

 

(そろそろ冴子が帰る時間だ。せめて私生活は良い夫である様に心がけよう。)

 

ナスカメモリを懐にしまい、帰路に着こうとした時、一匹の()()()()()()が現れ、霧彦の周囲を飛ぶ。

 

見慣れないその小鳥は、妙にも人懐っこく、数秒間飛ぶと休憩する様に彼の肩に止まった。

 

何度も通っているこの鍛錬場だが、一度も見たことのない種類の鳥だった。

 

「やぁ、見ない顔だね?新入りかい?」

 

なんとなく話しかけ、親指で小鳥の頭を撫でようとする霧彦。

しかし、触れた瞬間、親指が小鳥の体をすり抜ける。

 

「!?」

 

霧彦は驚愕し、肩をびくつかせると、小鳥も驚いたのか飛び立ち、光の粒子となって風の中に消えていった。

 

「今のは……いや、疲れているのかな」

 

鍛錬による疲労が見せた幻か、はたまたガイアメモリの毒素の影響か。

 

霧彦は考えるのをやめ、愛する妻の元へ向かう。

 

 

_

___________

 

 

 

ロッドを通してファングメモリの力を全身に宿したコブラ。

 

『うぉぉぉおおお!!』

 

雄叫びと共に、紫だった体色が()()変色し、顔のバイザーには『F』の文字が浮かび上がると赤く発光した。

 

本来はルパン同様、メモリの能力だけを発動するシステムだったが、強力なガイアメモリである『ファング』と流牙の高い適性によってコブラの体にも『牙の記憶』が宿る。

 

 

 

『行きなさい!』

 

 

タブー・ドーパントの号令で襲いかかるマスカレイド・ドーパントの集団。

コブラロッド改め、大鎌のコブラシザースを構えたコブラは、フィリップを守る様に次々とマスカレイド・ドーパントを切り裂いていく。

 

(あのファングを使いこなしている!?)

 

多少気性は荒くなっているが、ビギンズナイトでの自分の様に暴走している様子は無い。

 

『なにぼーっとしてる?時間を稼いでいるから来人は早くリボルギャリーを呼べ!』

 

「……!!」

 

コブラの言葉にハッとしたフィリップは急いで懐からスタッグフォンを取り出し、地下駐車場に停車しているリボルギャリーを操作する。

 

『させないわ!』

 

タブードーパントが妨害しようとエネルギー弾を放つもコブラが壁となりエネルギー刃でタブー・ドーパントの攻撃を相殺する。

 

マスカレイド・ドーパントはまだ数体残っている…。

横目でフィリップの安否を確認しながらコブラはファングメモリのレバーを3回倒した。

 

『ファング!マキシマムドライブ!』

 

『来人……君がファングメモリを使わないのは勝手だ……。だが、そうした場合、誰が犠牲になると思う?』

 

「……」

 

『左翔太郎と鳴海亜樹子だ。君の相棒は逃げろと言ったが……彼らを仲間と思うのなら助け出して見せろ!!ファングならそれが可能だ。』

 

「き、君は知らないんだ!ファングの恐ろしさを!!」

 

『そうか?俺はこうして使いこなしている!!!』

 

エネルギーの蓄えられたコブラシザースを勢いよく横に振るうと、巨大なエネルギー刃が発生し残りのマスカレイド・ドーパントをまとめて切り裂く。

 

『暴走など恐れるな!!何も君1人で変身する訳ではない。何の為のダブルドライバーだと思っている?』

 

「…でも、僕は!!」

 

未だにファングのトラウマを乗り越えられないフィリップ。

その様子にため息をつきながらも、リボルギャリーが向かって来ているのを目視すると、タブー・ドーパントを腕から放つエネルギー弾で牽制し、一本のガイアメモリを取り出す。

 

『世話の掛かる子だ!』『ゾーン!』

 

V2メモリ仕様のゾーンメモリを起動し、腰のマキシマムスロットに挿す。

 

『ゾーン!マキシマムドライブ』

『さて、鳴海荘吉は……見つけた!』

 

 

鳴海荘吉が使用しているダブルドライバーとガイアメモリには発信機が付いており、コブラバイザーでその位置を確認すると、ゾーンメモリの力で、彼の遺体をリボルギャリーの車内へ転送する。

 

 

「お父さんが消えた!?」

 

荘吉の体が消え、それを目撃した亜樹子が驚きの声を上げる。

 

 

 

『いくぞ来人!』

 

『待ちなさい!!』

 

未だに怯えているフィリップを無理やり担いだ瞬間、タブー・エネルギー弾が襲いかかる。

 

しかしその攻撃は、タイミング良く現れたリボルギャリーによって防がれ、2人は乗り込むと急発進し、その場を離脱した

 

目的の人物を取り逃したタブー・ドーパントは変身を解き、悔しそうな声を漏らしながらも、冷静に状況を見極める。

 

「まぁ良いわ。こっちには人質もいる……シャワーでも浴びて待ってましょう。」

 

(さっきの仮面ライダーのドライバーにはコブラメモリが挿さっていた。……これは後で問い詰める必要があるみたいね……()())

 

 

 

 

 

 

 

 

リボルギャリーに揺られ、ロッドからファングメモリを抜き取ると、通常状態に戻ったコブラ。

鳴海荘吉の状態を確認し、目立った損傷が無い事を確認するも、自分の研究室で精密検査しない事には蘇生出来ない。

 

フィリップはコブラがファングを使用した影響か、ビギンズナイトで暴走した記憶が呼び起こされ、相変わらず怯えながら、隅っこで縮こまっていた。

 

 

 

『……。』

「……」

 

 

 

しばらく沈黙が続くも、意を決したのかフィリップが震えた声で言葉を発する。

 

「さっき、君は……僕のことを来人と呼んだ。」

 

女幹部が言っていた自分の本名『来人』

組織と繋がっているコブラが知っていてもおかしくは無いが、彼女とは違い、何処か親しみを込めて名を呼んでいた気がした。

 

「一体君は何者なんだ!!あんな物を作って!君は何がしたいんだ!!」

 

それでもコブラがアームズを強化したことが原因で、翔太郎達に危険が及んだ事に怒り、彼に怒鳴る。

 

コブラは肩をすくめ、申し訳なさそうな声で答えた。

 

『……全ては研究の為だ。』

 

「君も所詮、組織と同じか。」

 

失望という感想が真っ先に思い浮かぶ。

もしかして本当に味方ではないかと、特別な感情を抱いていたフィリップだが、今回の件で落胆する。

 

しかし、コブラは首を振りながら否定し、自分と目線を合わせると、両肩を掴んだ。

 

『違う、俺はいずれ、その罪を精算する覚悟がある。最高の物を作り上げる為に……。』

 

「君のせいで翔太郎達が捕まった!」

 

『それは君達の実力不足だと言わせてもらおう。普通のドーパントであろうとなかろうと、左翔太郎は怒りの感情で冷静さを失っていた。罠である事は、少し考えれば分かる事……どっちにしろ結末は同じだ。……君もそう思うだろ?』

 

確かに自分は相棒(翔太郎)に対し忠告はしていた。

それでも彼は“仮面ライダー”に付けられた汚名を晴らそうと、焦り、敵の魔の手に落ちた。

 

コブラの言い分も分かる。

 

「……。」

 

『武器のエキスパートである『アームズ』に勝つには、巧みな戦略か、()()()()()()()だけ……もう一度言うが、君が迷わずファングを使えていれば今頃彼らを救えてただろう。』

 

そう言いながらコブラは手のひらにライブモードになったファングメモリ乗せる。

 

『……僕には、無理だ。』

 

『君1人ではな……君はもう少し相棒を信じるべきだ。』

 

「……。」

 

(翔太郎を信じろ……という事か?)

 

まだ腰に巻かれているダブルドライバーを通し、意識を送るも、気絶しているだろうか、翔太郎からの返事は無い。

 

『仲間達の“記憶”を思い出せ、自分を見失っても、それが道標になる。』

 

コブラは優しい声をかけながら、フィリップの頭を撫でた。

 

(なんだろう…とても懐かしく思えてくる。)

 

『疲れただろう……今は休め』

 

記憶は無いはずなのに、何処か安心感を覚えるコブラの手のひら。

いつもガレージに篭り、体力があまり無かったフィリップは、ついに力尽き、眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

フィリップが眠りから覚めると、既にリボルギャリーは事務所のガレージに収容されていた。

 

コブラ達の姿は既に無く、恐らく道中に降りただろうと考えた。

立ちあがろうとすると、スタッグフォンに着信が入る。

 

相手の名は『鳴海亜樹子』

 

「亜樹ちゃん無事かい!?」

 

急いで電話に出ると、彼女は震えた声でフィリップの名を呼んだ。

 

『フィリップ君……全然無事じゃないよー』

『戻ってきなボウヤ』

 

聞き覚えのある男性に変わり、眉を顰める。

 

「……倉田剣児!」

 

『場所は翼町の廃工場……急いだ方がいいぜ?もうすぐお前のお仲間が参加の特別残酷なゲームを始め……『く、来るな!!』』

 

翔太郎の声が割って入る。

 

「翔太郎!!」

 

『絶対に……来るなよフィリップ……俺の事は忘れろ……これも、相棒の忠告を聞かなかった罰だ……っぐ、もし来やがったら、俺たちの仲もそこまでだと……『うるせえな!!!』

 

剣児の声が聞こえた瞬間、翔太郎の痛みにもがく悲鳴がスピーカーから流れる。

 

「翔太郎!!」

 

『死んだら絶交もクソもねーよな?ハハハ……じゃ、あ・と・で♡』

 

さらに強くなる翔太郎の悲鳴。

 

「翔太郎!!翔太郎!!!」

 

フィリップの呼びかけも虚しく、通話は一方的に切られる。

息切れや声の具合から、翔太郎はかなり重症だと分かる。

 

時間がない……だがこれは明らかに罠だ。確実に助け出す有効手段が思いつかないフィリップは途方に暮れるしか無かった。

 

 

 




原作と比べて、翔太郎がかなり重症です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP21 Fの残光/相棒をとりもどせ! Part2

お待たせしました21話です!
いやー、例のウイルスの陽性になったり、別の趣味に時間を費やしたりとなかなか進められませんでした。
これからもスローペースになるかも知れませんが、どうぞ最後までお付き合いください!

リメイク版も更新しましたが大筋は変わっていません。


 

冴子は来人を助けた“謎の仮面ライダー”の正体に目星がついていた。

 

青紫で蛇の様な姿。ベルトに挿さっていた『C』のガイアメモリ。

 

そしてそのイニシャルのデザインは、流牙が持っているゴールドメモリ『コブラメモリ』と全く同じものであった。

 

ミュージアムの中でも『コブラ』のガイアメモリは特別な存在である。

 

ランクの高いゴールドメモリと言うのも有るが、古代生物ではない一般的な()()()()()でありながら、市場には()()()()()()()()()幻のガイアメモリであり、流牙が持つ一本しか製造は成功していない。

 

自分が知らない2本目が存在するということは、その所有者である流牙が複製したに違いない。

 

次世代ガイアメモリの研究をし、ドーパントライダーと言うものを生み出した実績を持っている彼なら、2本目を、そして忌まわしき『仮面ライダー』と似た技術を生み出すなど容易いだろう。

 

冴子はシャワーを浴び終え、濡れた体をバスタオルで拭きながら、ローブを巻いくと、控えていたメイドに話しかける。

 

「流牙は帰ってきてるかしら?」

 

「いえ、お昼頃にお出かけになられてからまだ……。」

 

「そう……」

 

(何のつもりかしら?)

 

まさか、逃げているのか。

その可能性は歪めないが、風都で園咲家もといミュージアムから逃げ切れない事は本人が1番分かっている筈。

 

「お帰り冴子。」

「ええ、アナタ。」

 

倉田が用意していると言うショーまで、まだ時間はある。

冴子は優雅に紅茶を飲みながら、会社からの書類に目を通す。

 

「ここ最近、品がない男と行動しているようだけど……何をしているのかな?私で良ければ力になる。」

 

何やら夫の霧彦がご機嫌を取ろうと画策しているが、肝心の妻は見向きもしない。

 

「必要無いわ。もう直ぐ私が欲しいものを彼が持ってきてくれるから。」

 

「そ、そんな…私だったら「ここ最近」」

 

冴子は冷たい眼差しを霧彦に向ける。

 

「あまり成果を上げられていない様ね……サボタージュかしら?」

 

「違う!」

 

霧彦は全力で否定する。

 

「聴いてくれ冴子。私はナスカの“超高速“を身につけた。コレを使いこなせばきっと君の役に立つことができる!」

「そうなの……流石私の夫ね。」

 

確かに、ナスカのレベル2に覚醒するのは凄い事である。

少しだけ関心を向ける。

 

()()()調()()()()()()()()()

 

「!?…あ、ああ。この通り元気さ。」

 

「そう?今回の件は私1人で大丈夫よ。アナタはこの調子で”ナスカ“の力を身につけてちょうだい……そろそろ時間ね。」

 

腕時計を確認し、足早にその場を後にした冴子。

 

そんな彼女を見送りながら、霧彦は彼女のセリフに違和感を感じた。

 

(身体の不調を知っている……馬鹿な、誰にも言っていない筈だ)

 

この事は信頼を寄せている流牙にも言っていないこと。

思い返すのは以前対立したコブラのセリフ

 

__その目的達成の為なら、罪の無い人々まで犠牲にする…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()精々気をつけるんだね__

 

霧彦の中で園咲家に対する不信感がより一層強くなった。

 

 

 

 

 

 

_______

 

 

翔太郎の容体を考えると残された時間は少ない。

倉田剣児の弱点を探ろうにも、彼と親しい仲である麻生冬美も彼に捕まっている。

 

「打つ手なしか」

 

残される選択肢はファング……。

 

__武器のエキスパートである『アームズ』に勝つには、巧みな戦略か、()()()()()()()()()__

 

コブラの言う通り、ファングなら解決できるが……フィリップの脳裏にはビギンズナイトでの暴走によるトラウマが未だにこびり付いている。

 

 

事務所を歩き回り、他に手段はないか頭を働せている時、事務所にある人物が訪れた。

 

「こんにちは!園咲です!」

 

それは以前風都博物館の館長代理を勤めていた園崎流牙だった。

今日は休みなのか、動きやすい青紫のジャージを着ている。

 

「園咲流牙…さん」

 

しかし、今のフィリップには彼に対応する余裕はなかった。

 

「あれ?亜樹子さん達は?」

「今はいない。」

「そうですか、残念です……せっかく近くまで来て、手土産まで用意したのに。」

 

事務所を見渡しながら、手に持っていた紙袋を机に置く。

風都では手に入らない、県外のお菓子の類だった。

 

「どうした?何か困り事かい?」

 

顔色が悪く。落ち着きがないフィリップの様子に、流牙は心配そうに顔を覗かせる。

 

「あ、いや……。」

「遠慮しないでくれ。おにーさんにも出来る事があるかもしれない。」

「……お兄さん。」

 

両肩を掴み、翔太郎より少し背が高い彼は背中を曲げながら自分と目を合わせる。

 

その青紫の瞳に少しだけ安らぎを感じたフィリップは、自然と今の悩みを打ち明けてしまう。

 

「園咲さんは……」

「流牙で良いよフィリップ君。なんだか君に他人行儀になられると違和感を覚えてね。もっと砕けた感じでいいよ。…()もそうするから。」

 

より親しみやすい様に本来の一人称に変えた流牙。

 

「じゃあ、流牙さん。……例え話ですが、もし大切な人が囚われた時、貴方ならどうしますか?」

 

「事務所に2人がいない事に関係しているのかな?」

「……」

 

流牙の鋭い指摘に無言で頷くフィリップ。

一応彼も、ダミー・ドーパントの一件で自分達がダブルである事は知っていた。

 

「考えるまでもないね。助け出す。どんな手段を使ってでも」

 

「それが危険な力でも?」

 

「救う為ならどんな手段も選ばない。それが大切な人なら尚更じゃないかな?……俺にも特別仲が良い義理の兄がいてね。もし彼が捕らえられるという事態が起こったのなら、例え悪魔の小箱を使っても助け出すと思う。」

 

「……!」

 

ガイアメモリの使用は犯罪だ。

だが思いが強いほど、犯罪行為に手を染めまでも助けたいと思うのが人の心だと付け加える流牙。

 

「その様子だと、助け出す方法はある様だね。詳しい事は聞かないが、救える手段が目の前にあるのに手をださないのは馬鹿だ」

 

「……無茶だ。対策も何も無いんだ。」

 

「無茶上等。それに翔太郎さんなら、「対策なんて後から考えれば良い!」って言うんじゃないかな?彼アドリブ力は強い方だからフィリップ君もそうすれば良いさ、相棒なら尚更ね?」

 

「!」

 

___対策なんざ、動いてから立てれば良いんだ!__

 

翔太郎もそう言って飛び出した。

そして僕達は2人で1人の仮面ライダー…

 

__暴走など恐れるな!!何も君1人で変身する訳ではない。何の為のダブルドライバーだと思っている?__

 

相棒を信じないでどうする。

 

「悩みは解決したかな?」

 

フィリップの決意に満ちた表情を見て、満足そうに微笑む流牙。

 

「ああ、僕も翔太郎の様にやってみるよ」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

翔太郎、亜樹子、冬美が捕らえられた廃工場。

現在、フィリップを誘き寄せる為のショーが開催していた。

 

 

「あ、亜樹子!」

「ぐぅ……」

 

翔太郎はロープで吊るされており、亜樹子はそのロープを全力で握りしめていた。

翔太郎の下には鉄パイプでできたパンジ・スティックが敷き詰められており、一瞬でも気を緩めれば、彼の肉体は串刺しになってしまう。

 

成人男性の体重を華奢な女性の腕力だけでどこまで持つか。

亜樹子は既に限界を超えており、彼女の両手はロープの摩擦で皮が剥がれ、血まみれになっていた

 

「素敵な趣味だこと」

 

愛車の車内で遠くから見ていた冴子でさえも、その悪趣味さに皮肉を漏らす。

 

「結構持つなぁ」

 

「やめて剣児!」

 

柱に繋がれた冬美も辞めさせる様に彼に呼びかける。

しかし、剣児は愉快そうに手を叩く。

 

「なぁ冬美、お前も見てみなよ。なかなか手に汗握る展開だろぉ?」

 

 

 

 

 

「亜樹子……もういい、はなせ」

 

「え?」

 

翔太郎も怪我が悪化し、意識が朦朧としていた。

お互い体力は限界に近い。

 

「ありがとな…俺、お前に会えて、よかった。」

 

「言うな!そんなこと!それ死ぬ人のセリフだから!!」

 

亜樹子は目元に涙を浮かべながら、全力でロープを握りしめる。

しかし、ロープは彼女の血によって滑り初め、翔太郎の体は落下し始める。

 

「wow!」

 

剣児はふざけながら自分の両目を手で隠す。

 

 

 

しかし、いつまで経っても落下音が聞こえない。

不審に思い、再び翔太郎に目を向けると。白いメカが亜樹子の代わりにロープを咥えていた。

 

 

「ファング!?」

 

翔太郎はそのメカに見覚えがあった。

 

そして廃工場内にバイクの走行音が響くと、ハードボイルダーに乗ったフィリップが現れた。

 

「フィリップ!?」

 

「絶交でもなんでもしたまえ。させないけど」

 

バイクから降り、ヘルメットを取ると、力強く剣児を睨みつけた。

 

「後悔するなよ倉田剣児……もうどうなっても知らないよ。」

 

「は?何を言って……まぁいい」

 

剣児が指示を出すと、ゾロゾロとマスカレイド・ドーパントが現れ、フィリップを取り囲む。

 

 

 

「来いファング!!」

 

 

フィリップは左腕を突き出すと、ファングは亜樹子の元へ飛ぶように、翔太郎を投げ、そのままジャンプしフィリップの左手のひら収まる。

 

「まさか、何か…策があるんだろうな?」

 

「対策なんて動いてから立てれば良い」

 

事務所を出る前に自分が入った台詞を、フィリップが口にする。

 

「僕も翔太郎の様に理屈でなく動いてみることにした。地獄の底まで…悪魔と相乗りしてくれ翔太郎!」

 

「よせ……フィリップ!」

 

彼はもうすでに覚悟を決めている。

もう止まることは無い。

 

ファングをメモリモードに変形させ、スイッチを押し起動させる。

 

『ファング!』

 

ファングメモリが起動したのを合図に、フィリップの腰にダブルドライバーが出現し、翔太郎のジョーカーメモリが彼のドライバーに転送される。

 

「変身!!」

 

勢いよくファングメモリを挿入し、ドライバーを力強く展開する。

 

 

『ファング!ジョーカー!』

 

 

「うあぁーーーーー!!!」

 

肉体が白と黒のダブルに変化すると同時に、フィリップの理性は燃え上がった。

 




風都探偵が思った以上のクオリティで興奮しっぱなしでした。
ときめ出したいけど、原作でもまだ謎が多い……

宜しければこちらの作品もどうぞhttps://syosetu.org/novel/295997/1.html


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EP22 Fの残光/相棒をとりもどせ! Part3

お気に入り、評価ありがとうございます!!
風都探偵の影響か結構伸びた気がする。


 

『うあああああああああああああ!!』

『アームファング!』

 

白と黒のダブル。

荒れ狂った仮面の戦士は、右腕に白い刃を生やし、襲いかかってくるマスカレイド・ドーパントの集団を次々と切り裂いていく。

 

『おい!落ち着けフィリップ!』

 

その姿は正に“暴走”

理性を失い、目に入ったモノ全てに襲いかかる。

 

『これがフィリップの恐れていた状態!!』

 

ビギンズナイトでもファングジョーカーに変身していたフィリップ。

だが、ここまで荒れ狂う姿は初めてだった。

 

ブレーキの壊れた暴走列車の様に、フィリップは暴れ続ける。

 

「な、なんだアレは!」

 

今回の計画を練る際、組織からある程度“仮面ライダー”についての情報を仕入れていた剣児。

翔太郎を封じれば変身できないと高を括っていたが、フィリップをベースに変身するファングジョーカーの存在は聞かされていない。

 

想定外の事態。そして通常よりも圧倒的な力を見せ付けるダブルに対し、剣児は戦慄した。

 

数十体はいた下っ端のマスカレイド・ドーパントも気がつけば残りわずか。

当初高みの見物を決めようとしていた剣児だったが、想定外の事態に対処すべく、量産型ロストドライバーを取り出し腰に装着した。

 

『アームズ!』

 

「あぁ……変身!」

 

軽く首を回しながらドーパントライダー・アームズに姿を変えると、背中の大剣を掴み戦闘に参加する。

 

 

…だが、ドーパントの何倍もの性能を持つアームズが参戦しても、形勢は変わらなかった。

マスカレイド・ドーパントを殲滅を終え、アームズに標的を変えたダブルは雄叫びを上げながら襲いかかる。

 

振りかざされたアームファングを大剣で受け止めたアームズだったが、ダブルは力の限り腕を振り上げると、大剣は手元を離れ、無防備になった所に攻撃を仕掛けられる。

アームズは咄嗟に躱しそのまま距離を置くと、両腕をマシンガンに変え、ダブルに向けて弾丸の雨を降らせる。

しかし、暴走するダブルは痛みなどものともせず、弾丸を全身に受けながらアームズに切り掛かり、ダメージを与えた。

 

『がぁ!!』

 

何度も切り裂かれ、次の攻撃を繰り出しても暴走列車は止められない。

 

(っち、このままではやられる!!)

 

アームズは何か手は無いか辺りを見回すと、偶然物陰に隠れていた亜樹子と目が合い、咄嗟に彼女の腕を引っ張ると、こめかみ銃口を突き付ける彼女を人質にする。

 

『亜樹子!!』

 

翔太郎は叫ぶ。

 

『止まれ!止まるんだ!!』

 

『フィリップやめろ!』

 

剣児と翔太郎の制止はダブルの耳には届かず、ダブルはアームファングで亜樹子ごと斬ろうとする。

 

「フィリップ君ストップ!!」

 

フィリップを呼ぶ亜樹子の声が廃工場内に響く。

 

 

『この!止まれーーーーー!!!止まれって相棒ーーーー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あつい…あつい…あついあつい。

 

 

精神は燃え上がり、理性は埋もれ…フィリップ自身、自分を止める事ができない。

燃え盛る地球の本棚……自分の精神を反映したその空間でフィリップはは本の山に押しつぶされ、身動きが取れないでいた。

 

やはり、ファングの制御は無理であったか。

 

いや、まだ諦めない。

 

諦められない。

 

フィリップは翔太郎を最後まで信じると決めていた。

 

「……フィ…リップ!!」

 

燃え盛る空間で、微かに、翔太郎の声が聞こえる。

そしてその声はドンドンと近づいてくる。

 

 

「フィリップ!!」

 

「…しょ…翔太郎」

 

 

上手く声が出ない。

ファングの力はフィリップを守る為だけに暴れる。

そこに理性など不要。

 

「しょ…うたろ…」

 

必死に腕を伸ばし、自分を探す翔太郎に自分の居場所を知らせようとする。

しかし燃える空間で、フィリップの姿を見つけ出すことは過酷を極めていた。

 

何か、何か自分の居場所を知らせる方法は無いか?

フィリップはコブラの言葉を思い出した。

 

_仲間達の“記憶”を思い出せ、自分を見失っても、それが道標になる

 

「記憶」

 

フィリップは散乱していた自分の(記憶)を手に取り、記憶を巡らせる。

翔太郎、亜樹子、風都の仲間達の思い出。

記憶を遡っていく内に。燃え盛る炎は徐々に鎮火を始め、一冊の本が開かれ、光を出す。

 

「アレは……フィリップ!!!」

 

光る本を目印に、翔太郎は埋もれるフィリップの意識を見つけ出す。

 

「信じていたよ翔太郎。僕を見つけてくれるって。」

 

「あったりまえだろ?俺たち何だ?」

 

「そうだね…僕達は」

 

 

 

 

「「2人で1人の仮面ライダーだ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『亜樹ちゃん、もう大丈夫だよ』

 

「フィリップ君!」

 

先程の暴走が嘘の様に、意識と理性を取り戻したダブル。

亜樹子の腕を引っ張り、人質から解放すると、そのままアームファングでアームズを斬りつけた。

 

『ぐわ!?』

 

吹き飛ぶアームズ。

そしてフィリップと翔太郎は、街を泣かせた悪党に、いつもの台詞を投げかけ続ける。

 

 

『『さぁ、お前の罪を数えろ!』』

 

 

『何なんだよ!!』

 

アームズは両腕をマシンガンに変え、一心不乱に乱射した。

ダブルは亜樹子を抱えながら障害物の影に隠れると、ファングメモリのレバーを2回倒し、右肩に刃を生成する。

 

『ショルダーファング』

 

そしてそれを引き抜くと、ブーメランの様に投げつけ

銃弾の雨を擦り抜けるように軌道を描き、アームズの両腕を切り裂いた。

 

『が!!』

 

腕が斬撃によって破壊され、得意の武器の生成ができなくなったアームズ。

 

『麻生冬美の依頼を今、達成しよう!』

 

『メモリブレイクするには左右の呼吸を合わせないとな。ファングの必殺技なら…“ファングストライザー”でどうだ?』

 

『名前は君に好きにしたまえ。』

 

物陰から現れたダブルは、そのままファングメモリのレバーを3回倒し、マキシマムドライブを発動させる。

 

『ファングマキシマムドライブ!』

 

『っち!!』

 

それに負けじと、アームズも大剣を回収しながら、ドライバーからアームズメモリを引き抜くと、腰のマキシマムスロットにそれを挿す。

 

『アームズマキシマムドライブ!』

 

ダブルの左足に白い刃“マキシマムセイバー”が生成され、ダブルはアームズに向けて、回転飛び蹴りを繰り出した。

 

アームズも大剣にマキシマムドライブのエネルギーを集めエネルギー刃をダブル目掛けて放つ。

 

『『ファングストライザー!!』』

 

『うおーーーーーーーーー!!!』

 

激突する二つのマキシマムドライブ。

激しい押し合いの末、ダブルはもう一度ファングのレバーを3回倒しさらにマキシマムドライブを上乗せする事で、エネルギー刃を突破し、そのままアームズを蹴り上げた。

 

 

 

 

『うわああーーー!!』

 

 

 

ファングストライザーを食らったアームズは、大爆発を起こし、変身が強制的に解除される。

元の姿に戻った剣児は、地面を激しく転がり、その衝撃でドライバーとガイアメモリが外れ、地面に落ちた。

 

「っが!!」

 

「剣児!!」

 

ボロボロになった剣児の元に、亜樹子によって縄を解かれた冬美が駆け寄る。

 

剣児は胸元を押さえながら、苦しそうにアームズメモリに手を伸ばす。

 

「ま、まだだぁ!!足りねぇ……足りねぇ!!」

 

彼の目元には真っ黒なクマができており、顔色も酷い。

もう既に戦う程の力が無いにも関わらず、剣児はメモリを求めた。

 

『メモリブレイクされていない?やはり、ただのメモリでは無さそうだ。』

 

使用していたメモリが破壊されれば、多少衝動は落ち着く…しかし、ダブルのメモリブレイクを持ってしてもなお、謎のガイアメモリの破壊には至らなかった。

 

「もうやめて剣児!元に戻って!」

「うるせえ!!」

 

止めようとしがみつく冬美を振り払い、メモリとドライバーを回収した剣児。

 

『よせ倉田剣児!これ以上の変身は、君の体がもたない!』

 

「うる…せぇ……うるせえうるせぇ!!まだ足りないんだよぉぉぉおおお!()()()!!()()()!!!」

 

冷汗を流し、頭を抱え叫ぶ剣児

息も途切れ途切れで、もはや普通の状態では無い、体力が尽きているにも関わらず、まるで()()()()()()()()()()()腰にドライバーを装着し、震える手で再びアームズメモリを起動する。

 

『アームズ』

 

「剣児!!やめて!!」

 

 

『変……しん!』

 

メモリをドライバーに挿し、乱暴に展開すると剣児の姿は再びドーパントライダーに変わる。

 

『うぉぉおおおお!!』

 

ドライバーに挿さったアームズメモリがスパークし、彼の肉体により強い力を与える。

 

『あははは……最高だぁ……殺してやる……殺してやる!!!!』

 

もはや今のアームズは武器のプロフェッショナルではない。

ただ力に暴走する狂人であった。

 

『っち、次はそっちが暴走かよ!!』

『あの状態……かつてのルパンと似ている』

 

フィリップの脳裏に、ルパンと戦った記憶が映し出される。

(あの時も使用していたガイアメモリがスパークし、気性が荒くなった……)

 

原因は不明だが、このままでは危険なのは確か。

 

『もう一回やるぞフィリップ!』

『しかし、今の状態でもう一度メモリブレイクしてしまえば、彼の命は無い!』

『じゃあどうすれば!!』

 

一度倒し疲労している状態の相手に、追い討ちをかける行為は危険だ。

 

何か他の方法は無いかと思考を巡らせているダブルだったが、そんな事はお構いなしに、大剣を握りしめ、襲いかかるアームズ。

 

 

 

しかし彼のドライバーから妙なブザー音が鳴る。

 

 

『(ビー!ビー!)』

 

 

それはまるで警告音の様だ。

 

『……っが!!』

 

すると突如、暴走していた筈のアームズが苦しみだし、大剣を地面に落とすと、そのまま膝をついた。

 

『っが、うう!……があああ!!」

 

バチバチとドライバーから火花が出ると、突如爆音と共にドライバーとアームズメモリが爆散し、強制的にアームズは元の姿に戻ってしまう。

 

 

『一体何が?!』

『ドライバーが破壊された?』

 

驚くダブル

 

 

 

 

 

「剣児!」

 

「な、なぜだ……っ!まだ……おれは!!ころし……。」

 

ドライバーの爆発によって腹部に大火傷負ってしまった剣児。

地べたを這いずりながら、それでもアームズメモリの残骸に手を伸ばし力を求める。

 

 

 

 

 

 

『キルプロセス……なんてね。』

 

 

 

 

 

『お前!』

 

声の主……“ロストドライバー”を装着したコブラがコンテナの物陰から現れると、右手に持つ手のひらサイズの“リモコン”を見せびらかした。

それを操作しドライバーを破壊したのだと、この場にいる誰もが理解した。

恐らくドライバーとガイアメモリを調べられないように、仕掛けられた秘密保持の機能であろうとダブルの2人は考える。

 

 

 

『残念ながら彼は()()()()()に陥った。……もう元の彼には戻らないだろう。……さて、実験の協力に感謝するよ倉田剣児、君の犠牲のおかげで、この街により良い風が吹く様になるだろう』

 

 




リバイス終わってしまいました……。
なんやかんや1年間楽しめました!ギーツ楽しみやわ〜〜。

外伝を計画しており、目安としてアンケートをとってます!
ご協力をお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。