砕蜂から迫られて困っています (柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定)
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Evening&Bee

君は変わった。

良いことか、悪いことか。

ただ変わってしまった。

それを僕は受け止め切れない。


「なぁ、チャド。あの屋台でラーメン食ったことあるか?」

 

「むっ……?」

 

 空座高校一年、黒崎一護はその特徴的なオレンジの髪を掻きながら友人の茶渡泰虎に問いかけた。

 二人とも、お世辞にも制服は清潔とは言えなかった。

 高校生としては長身の一護も、日本人離れした長身のチャドもどちらも土で汚れていて、袖口にはまだ乾ききっていない血が滲んでいる。

 髪が目立つ一護も巨体が目立つチャドも喧嘩は珍しいことではない。二人とも根は好青年なのだが喧嘩を売られれば買うし、二人ともめっぽう強かった。

 つい十数分前も隣町から一護とチャドの噂を聞きつけた不良グループが三十人ほどで殴り込みに来たので、返り討ちにしたばかりだ。

 流石に無傷とはいかず、それぞれ口元やこめかみあたりから血を流しているが、それでも軽傷なのだから二人の強度が窺えるし、そんな喧嘩をした後、何事もなかったように二人で帰宅しようとしているのだから驚きだ。

 

「いや、ないな。よく見かけるが、あの手の屋台には行ったことない。高校生には入りにくいだろう」

 

 一護が口にしたラーメン屋の屋台。

 それをチャドは知っていた。彼がこの街の中学に来た頃から既にある店だ。入ったことはないし、入ったことがあるという人間も聞いたことがないので評判も知らないし、碌に意識したこともなかったのだ。

 

「だよなぁ。俺もだけど、前から結構気になってたんだ。ちょっと動いて小腹も空いたし、寄っていかね?」

 

「むっ……まぁ、構わんが」

 

 答えを聞いた一護がホイホイ進んでいく。

 高架下、日光がギリギリ入らない所に止まっている屋台に人の気配はない。客もいないが店員もいるのかが怪しい。

 荷車を改造したであろう漫画や古いドラマで見かける屋台には、これまたいかにもな暖簾があり、カウンターと席はその中。

 

「すんませーん……あれ?」

 

 暖簾をくぐった先、そこには誰もいなかった。

 

「やってないのか?」

 

「みたいだな。完全に放置してんのか」

 

「放置ではない」

 

「うおっ!?」

 

 その声は背後からだった。

 暖簾の外、一護とチャドの背後にいたのは一人の女だった。

 女、といっても身長はかなり小柄だ。チャドは勿論、一護よりも頭数個分低い。150センチくらいだろうか。身長だけ見れば中学生にも見える。

 だが、なんというべきか。

 一護には彼女が子供には見えなかった。

 立ち振る舞いか、雰囲気か、とにかくそういうものが一護の目には自分たちよりも年上に見えたのだ。

 

「えっと……店員さんすか?」

 

「あぁ。そうだ。客か、高校生は珍しい」

 

 セミロングの黒髪に黒のデニム、黒のタートルネックに黒い瞳。全身黒づくめの上にさらにそこに真っ黒なエプロン。ワンポイントで胸のあたりに猫の肉球のワッペンだけが彼女に彩りを加えていた。

 

「……あの、貴女、どこに?」

 

「ん? 普通にこの屋台の横にいたぞ。気づかなかったか?」

 

「はぁ……」

 

 怪訝そうな顔で問うチャドだが、一護も同感だった。この屋台の横にいると言っていたが、しかしまるで気づくことはない。真っ黒だから影に紛れていたのだろうか。

 そんな二人の考えを彼女は無視し、軽く溜息を吐きながら肩口で切り流した髪を掻く。

 

「来てもらって悪いが、店主はいま買い出し中でな。アレがおらんと料理は出んのだ」

 

「ありゃあ、そうなんすか。おねーさんは、じゃー手伝い?」

 

 問われ、彼女はその平坦な胸を張り、

 

「ん? あぁ―――――妻だ」

 

「妻ァ!?」

 

 年上には見えた。

 だが、まさかの人妻とは。

 一体いくつなんだこの人は。

 

「ふっ……驚くのは無理もない。私は見た目は若いからな。合法ロリというやつだ」

 

「一護、何故この人はこんなにもドヤ顔なんだ……!?」

 

「わか……らん……!」

 

「何を言うか。合法ロリは需要が高いとネットでいくらでも見るぞ?」

 

 何言ってんだこいつという顔で見られたが、この女が何を言っているのか。

 ネットとかサブカルにはあまり詳しくない一護とチャドにはまるで理解できなかった。

 

「ふっ……まぁ10年そこらしか生きてない小僧には解らんだろう」

 

 謎の上から目線である。

 このあたりでちょっと一護もチャドも帰りたくなってきた。

 というか、帰ろうとして、

 

「何やってんだシャオ」

 

「ぐあっ!」

 

 ごつんと、拳骨が少女の小さな頭に落ちてきた。

 

「高校生にあることないこと吹き込むんじゃあない」

 

「ぐおおおお……舌噛んだではないか……!」

 

 口元を押さえる少女の背後、これまたいつの間にか青年が立っていた。

 一護よりも身長の高い、細身の青年だった。紫色の髪を首あたりで括っており、背の中まで伸びている。目を引く琥珀色の瞳と褐色の肌。

 シャオと呼ばれた少女とサイズ感は違うが服装は同じく黒尽くめ。左手には買い物してきたであろうビニール袋が。

 

「悪いな、少年たち。こいつが変な絡みを……うん?」

 

 青年は苦笑しながら一護とチャドを見て、何故か一護に視線を向けて軽く目を見開いた。

 

「ど、ども」

 

 そういう視線に一護は慣れていた。

 何しろ髪の色がオレンジだ。地毛なのだが、しかし初見には関係ないだろう。この髪のせいで悪目立ちして、不良に絡まれているのも現実なのだから。

 

「……ふむ。あぁ悪い、ぶしつけな視線だったな。客だろう? シャオが絡んだ詫びに、ラーメン一杯はおごるよ」

 

「え!? まじすか!」

 

 帰ろうと思った気分は一瞬で消えた。

 高校生にはラーメン奢りというのはとても大きい。

 青年は屋台を回り込んで調理側に入り、少女と同じエプロンを身に着け笑う。

 猫のような、人懐っこい笑みで。

 

「ようこそ俺の店、『くろねこ』に。俺は四楓院宵丸だ。味わって行けよ、少年たち」

 

 

 

 

 

 

「あぁ、あれが一心殿の息子か。なるほど、思い返せば顔立ちが似ているな。母親とは似ておらんが」

 

「気づいてなかったのか」

 

 一護とチャドにラーメンを出し、軽く雑談をして見送った後。

 残された二人は向き合い、先ほどの少年、黒崎一護について口にしていた。

 呆れたような宵丸にシャオ―――砕蜂は唇を窄め、

 

「二回くらいしか会ったことないだろう。生まれた時と真咲の葬式の時。その葬式の方は遠目から見ただけだ。覚えられるものか。お前と違って、私は浦原とあれこれ話し合ってないのだからなダーリン」

 

「ダーリン言うな」

 

 後半から投げキッスをかましてきたが、身体を逸らして避ける。

 文句を言われるが、無視し、

 

「一心殿はちょいちょい飯食いに来るが息子は初めてだったな。偶然だろうが、一応一心殿と喜助の兄貴に報告はいれておかないと」

 

「なぁなぁダーリン、私の前であの男の名前を出すなと何回言えば解るのだ」

 

「そろそろ仲良くしてくれ。この100年どんだけ世話になったと思ってるんだ」

 

 100年。

 凡そ人としての一生を超える年数だが―――宵丸と砕蜂は人間ではない。

 この現世とは違う死者の世界、尸魂界に生きていた死神だ。

 100年ほど前にその尸魂界で起きた一件より、現世に追われた。今は義骸という現世で生きる為の仮の姿で二人とも過ごしており、この空座町でラーメン屋をやっているのはここ20年程のこと。

 

「むかつく男だ」

 

「だけど、頼りになる。シャオのあの超絶使いにくい卍解をどうにかしてくれたのも喜助さんだ」

 

「それは、そうだ。そうだが……この100年間の逃亡生活において、宵丸と婚前旅行を現世で世界中でできたのは喜ばしいことだが、問題はその婚前旅行が浦原の力を借りなければならなかったということだ」

 

「仕方ないだろ。最近はもう慣れたけどさ。あと婚前旅行のつもりはない」

 

「なん、だと……!?」

 

 砕蜂がまるで自分の斬魄刀の能力がまるで効かない時みたいな顔をした。

 婚前旅行などと宵丸は一度も言った覚えはない。

 

「尸魂界に戻ったら結婚してくれるのではなかったのか!?」

 

「そんなことを言った覚えはないよ!」

 

 幼いころからの友人。かつては四楓院家の長男の傍付きとして宵丸の護衛となった砕蜂とは文字通り生まれた時からの付き合いだ。最初は砕蜂は非常にへりくだっていたが、年が近いこともあり、立場を超えた対等な友達になった。

 それからともに切磋琢磨した日々が懐かしい。

 始解も卍解も、それぞれが得意とする奥義も互いに習得し、この100年絶えず共にいた。

 なのだが、何時からか砕蜂の頭の螺子が大分緩みだし、ここ数年はずっとこんな感じだ。

 困る。

 非常に困る。

 浦原喜助は笑ってた。

 黒崎一心は笑ってた。

 石田竜弦は笑ってた。

 平子シンジとその仲間たちも笑ってた。

 宵丸の師である握菱鉄裁だけは苦笑気味だがやっぱり笑ってた。

 味方がいない。

 

「姉上が見たらなんと言うか…………というか、年々姉上に似てきてるな」

 

「なんと。それは最高だ。流石はダーリン、私の喜ばせ方を心得ているな。そんな感じで閨も頼むぞ」

 

「お前マジで布団潜り込んでくるのやめて。やめて」

 

 二人が住んでいる浦原商店にはまだ子供の雨とジン太もいるのだ。

 この頭の螺子が虚圏まで飛んでる砕蜂はとても教育に悪い。

 無論、宵丸の精神的にも。

 

「そも、姉上が結婚する前に俺がするわけにもいかないよ」

 

「は? 夜一様は結婚とかしないんだが?」

 

「一昔前のアイドルかよ……」

 

 砕蜂との会話には姉である夜一の名前は頻繁に出てくる。

 それがどんな下らない話だとしても、その度に懐かしい思いがよみがえる。

 

「尸魂界に戻れば私は二番隊隊長である夜一様の副官、副隊長に返り咲くぞ。宵丸はどうする? 次は鬼道衆の長にでもなるか?」

 

「あー……別に、階級はあんま興味ないからなぁ。総帥補佐も地味に大変だったし。適当に隠密機動に混ぜてもらえばいいさ」

 

「権力や立場に囚われないところは、夜一様によく似ている」

 

 くすっと彼女は柔らかく微笑む。

 かつて、尸魂界にいた時はあまり見られなかった表情だ。

 

「……ま、それも帰ってからの話だけどな」

 

 肩をすくめ、いつかの話を切り上げる。

 いくらこんな会話をしても、昔のように尸魂界に帰る目途は立っていない。宵丸も、砕蜂も彼の地では罪人で、戻りたくても戻れない。

 何より―――あそこには敵がいる。

 100年前、宵丸や砕蜂、喜助たちを陥れた敵が。

 100年より前からずっと準備していた敵が。

 今なお、牙を潜め、闇で笑う敵が。

 

「……ま、それも帰ることが出来たらの話さ」

 

「確かに。……現世の生活も、存外悪く無かったがな」

 

「シャオは大分……というか馴染み過ぎたよな」

 

「あぁ」

 

 ふっ、と砕蜂はアンニュイに笑みを浮かべ、

 

「――――剛腕WALKの放送が終わるまでは現世にいたいものだ」

 

 

 

 

 

 




四楓院宵丸
100年前:鬼道衆総帥補佐、四楓院家長男
現在:ラーメン屋

砕蜂
100年前:二番隊副隊長
主人公とめっちゃ切磋琢磨してたので早めに副隊長に。
現在:夜一様も大好きだし、夜一様の弟も大好きだし、宵丸も大好き。
大分現世の文化に染まった。合法ロリ。おかっぱやめてセミロングに。

1話は原作開始前。
結構ぽんぽん時間飛ばす予定。


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Enclose Rainbow,Seven days

君と共に巡る空は

こんなにも色付いている


 世界が動き出す。

 

 朽木ルキアが現世に訪れ、黒崎一護が死神となった。

 それに伴い井上織姫と茶渡泰虎が特異な力に目覚め、滅却師である石田雨竜と共に戦い、ホロウから街を護る為に戦い――――そして尸魂界から朽木白哉と阿散井恋次が現れた。

 ルキアは二人に連れ戻され、一護は死神の力を失った。

 

 そして――――それでも彼は諦めない。

 

 尸魂界にて人間に死神の力を譲渡するのは重罪であり死刑だ。

 故に彼女を救う為に一護は再び歩き始める。

 浦原喜助の力を借りて、死神の力を取り戻す。

 レッスン1で魂魄の力を強化し、レッスン2で虚となる危険を冒し死神となり、レッスン3で喜助との殺し合いを経て始解に至る。

 これで、尸魂界へ赴く最低限。

 で、あれば。

 

「レッスン4―――ここからは俺が相手をしよう、一護」

 

 宵丸はさらなる高みに導くために、一護の前に立つ。

 

 

 

 

 

 

「宵丸さん!? アンタも死神かよ!?」

 

 浦原商店の地下、20年ほど前、宵丸と砕蜂が空座町に定住した後に、夜な夜な喜助が近所迷惑にならないように音を立てずに掘り進めた通称勉強部屋。勿論宵丸も手伝ったし、砕蜂も文句を言いながら手伝っていた。

 レッスン3を経て、始解に至った一護の霊圧はそこそこ大きいと、宵丸は判断する。この段階でも護廷十三隊の三席くらいまでなら相手になるだろう。

 が、それでは足りない。

 

「まぁな。シャオもな。ずっと義骸入ってたから気づかなかっただろうが」

 

「無論、我々は最初から気づいていたがな」

 

「おわぁ!? 砕蜂さん!? 背後から忍び寄るのやめてくれよ!」

 

「甘い甘い」

 

 死神となる前に二人の店に初めて訪れた一護だが、その後もちょくちょく通っていた。無論味がいいのも確かだが、

 

「って……宵丸さんとこのラーメン食った後、やたら体の調子がよかったのは……?」

 

「あぁ、お前に出すラーメンは霊力回復する特別仕様だからな。それのおかげだろう」

 

「マジかよ!? 道理で! ……って二人とも、その恰好は……」

 

「ん」

 

 一護が指した二人の死覇装。

 一護自身や阿散井が着ているベーシックなものや白哉の羽織付きとはまた少し違う。

 背中と肩が大きく露出した形状の上から、揃いの黒の半袖、短い裾の羽織を腰の位置で帯で結んでいる。

 刑戦装束と呼ばれるものの、ちょっとしたアレンジだ。

 

「死神は基本死覇装着てるけど自分で弄ってるのは珍しくないからな。戦闘スタイルに合わせてだ。俺もシャオも本気で動き時は上着も脱ぐし」

 

「ん? なんだダーリン、脱いでほしいのか。それなら死覇装と言わずに全部……」

 

「はい! レッスン4始めるよー!」

 

「このノリはいつも通りか……」

 

 げんなりする一護だが、

 

「いいぜ! さっさとやろう! こっから先はアンタってわけか!?」

 

「あぁ。元々は喜助さんがやる予定だったんだが……」

 

 横目でこちらを眺めていた喜助に視線を送る。

 先ほど、一護の斬撃により帽子に傷が入った彼はにんまりと笑い、

 

「あたしはどうも、ほら。――――人をイライラさせる天才らしいっすからねぇ」

 

「ほんとだよ!!」

 

「殺した方がよくないか?」

 

「やめとけやめとけ。……まぁ、そういうことだから、お前さんの精神衛生上を鑑みて、俺がやることになった」

 

「ありがてぇ……!」

 

 涙を浮かべながらの感謝である。

 この三日間、多大なストレスを抱えていたのだろう。

 宵丸は喜助のことを兄のように尊敬しているし、義理の兄になってほしいと思うが、それはそれとして彼の人格に問題があるのは否めない。

 

「さて」

 

 視線を一護に戻し、軽く首を鳴らす。

 

「レッスン4の説明を先にしよう」

 

 手を伸ばすのは腰の後ろに刷いた小太刀サイズの斬魄刀だ。

 

「レッスン3で始解に至った。なら後はそれを用いる戦闘経験の蓄積。勉強会のあと5日、ひたすら俺と戦ってもらおう」

 

「つまり……さっきまでの浦原さんとやってたことと同じってことっすか?」

 

「ま、そうだな」

 

「はぁ……砕蜂さんは見学?」

 

「まぁ私がやってもいいのだが」

 

 どうでもよさげに、砕蜂が言葉を零す。

 

「私の始解は暗殺特化だから、1日も持たずに一護が死ぬだろう」

 

「よぉし!!! よろしくお願いします宵丸さん!!!!」

 

「はいはい」

 

 焦り顔で巨大な出刃包丁染みた斬魄刀を構える一護に宵丸が改めて向き合う。

 そして、抜刀。

 右の逆手で握った小太刀を顔の前で緩く掲げ、左手は腰に添えながら掌を相手に向け、

 

「――――気を抜くなよ、一護」

 

 霊圧を解放する。

 

「っ……!」

 

 目に見えて一護の顔色が変わった。解放した霊圧はせいぜいが副隊長レベルであるが、それは今まで一護が出会ったことがないものだ。

 

「怖いか?」

 

「はっ! 誰が!」

 

 冷や汗を流しながら一護が吠える。

 

「それでいい。霊圧は段階的に上げていく。最終的に隊長格にも慣れてもらうぞ。じゃないと白哉を斃すなんて夢のまた夢だ」

 

「……? あんた、あいつのこと知ってるのかよ」

 

「友達さ、昔のな」

 

 一瞬過ぎるのは尸魂界で過ごした日々。

 だがそれはもう終わった過去で、

 

「行くぜ」

 

 斬魄刀を握る手に力を込める。

 そして、名前を呼ぶ。

 

「虹を巡れ―――七曜」

 

 四楓院宵丸の斬魄刀――七曜から七色の光が放たれ、霊圧が解放される。

 刀の形状に変化はなかった。変わったのは色。刀身が真紅に染まっている。

 

「おぉ―――!」

 

 解放と同時に一護が突進してきた。

 速度も勢いも悪く無い。だが、繰り出される斬撃を当然のように紅い刃で受け止め、

 

「鬼道解放―――赤火砲」

 

 一護が赤い爆炎に包まれて吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

「……」

 

「ご機嫌斜めっすかー砕蜂さん」

 

 大きな岩に腰かけつまらなそうにレッスンを眺める砕蜂に喜助が話しかける。

 しかし、彼女は一瞥すら向けず、レッスンを――宵丸だけを見ていて、

 

「そういえば尸魂界でも現世の番組が見れるテレビが完成しまして」

 

「何が聞きたい?」

 

 尋常ではない熱い掌返しだった。

 恐るべきは喜助の技術力か砕蜂のテレビへの愛か。

 

「つまんなそうっすね」

 

「面白いわけあるか」

 

 嘆息し、

 

「この訓練のせいで五日間はダーリンと二人きりになれないんだぞ? 常にあのオレンジがいるんだぞ? 私のダーリン成分が枯渇したらどうしてくれる」

 

「マジでキャラ変わりすぎっすよね!」

 

「……いや、待てよ? 一護に隠れながらイチャイチャするのはそれはそれで興奮するのでは……?」

 

「うわー、この人無敵っすか?」

 

 喜助が乾いた笑いを上げると同時。

 今度は一護が半身を凍らせながら地面を転がりまわる。

 かと思えば、雷撃が飛来し、慌てて飛び退くが避けきれない。

 

「宵丸さんの始解見るの久々っすね」

 

「それはそうだ」

 

 喜助の言葉に砕蜂が頷く。

 

「ダーリンは、始解してもしなくてもさほど戦闘力変わらんしな」

 

 

 

 

 

 

「シャオぉ! 余計なこと言うな! 七曜が泣くだろ!」

 

 手の中、斬魄刀がしくしく泣きだしたのに宵丸は焦った。

 それはもう焦った。

 ただでさえ十数年振りのまともな始解なのだ。

 砕蜂の言葉は事実なのだが、見たくない事実だってあるのだ。

 宵丸にとって始解があんまり意味がないこととか。

 砕蜂が完全に現世に染まって色ボケしているとことか。

 頭痛がしながら、

 

「おらぁ!」

 

「おっと」

 

 一護の斬撃を軽い動きで避ける。

 そして、切先を彼に向け、

 

「鬼道解放―――旋風枯らし」

 

 緑に染まった刃から、竜巻が吹きすさび一護をぶっ飛ばす。

 広い勉強部屋を二十メートルほど飛ばされて地面に転がった。

 

「がはっ! っ……なんだってんだよ……!?」

 

「鬼道ってんだ」

 

「っ―――!」

 

 背後、死神の高速歩法瞬歩で二十メートルの距離を一瞬で駆け抜け、一護の背後から語り掛ける。

 

「死神の戦い方は主に4つあって、これはそのうちの一つ。斬魄刀の能力はそれぞれ固有だが、鬼道は誰でも使える。得手不得手があるがな」

 

 だから、

 

「お前さんが慣れるまで俺は鬼道ぶっ放すだけのお仕事だ。頑張れよ。7種類しかないから」

 

 斬魄刀――――七曜。

 その能力は始解時に指定した自分が使える鬼道7種を完全詠唱の威力で、詠唱破棄して使用可能というものだ。

 今回装填しているのは炎熱系の赤火砲、流水系の雨垂れ、疾風系の旋風枯らし、氷雪系の雪下狼、雷電系の震雷衝、縛道の這縄と断空。

 七つの内六つは三十番台より前の、一番高くても三十一番の赤火砲と威力が比較的低いもの。

 断空だけは八十一と高位だが、如何せん便利過ぎるので基本オート装填である。

 本来詠唱をしないと威力や強度が著しく下がる鬼道だが、七曜の能力であればノータイムで完全詠唱の威力を使用することができる。

 状況に応じて使えば実際かなり便利な鬼道系斬魄刀なのだが、

 

「俺、基本50番台未満なら詠唱してもしなくても変わんないからなぁ」

 

「あぁ……?」

 

「いや別に」

 

 ぼやきながら一護の斬魄刀を捌き、合間に蒼く染まった七曜から高圧水流によるレーザー、雨垂れを放ち、ギリギリ防御が間に合った一護を吹き飛ばす。

 あまりこういうことを宵丸が言うと七曜が泣く。

 滅茶苦茶泣くし拗ねる。

 今の宵丸は50番台未満の鬼道は詠唱破棄だろうと完全詠唱の威力で使えるし、使用頻度の高い縛道の八十一番の断空と六十六番の六杖光牢も高位ながら詠唱要らず。

 逆に言えば50番台以上は詠唱した方がいいのだが、しかし完全詠唱が必要になるほどの相手はそれこそ護廷十三隊の隊長クラスでここ100年出会ってない。

 そもそもそんなのが相手なら卍解するのだから。

 

「ふっ……! やはり宵丸に必要なのはその七曜ではない! この砕蜂だァー!」

 

「シャオー! 余計なこと言うなぁー!」

 

 手の中で七曜がまた泣いた。

 そんなことないよ。俺には必要だよ。60番台からは詠唱あった方がいいし。卍解やその先には七曜は必要不可欠だし。

 鬼道を放ちながら割と必死で七曜に語り掛ける。

 その間に一護が燃えたり凍ったりずぶ濡れになったり感電したりしてるが、気にしてる余裕はなかった。

 

「シャオ! お前レッスン終わったら部屋いれねーからな!」

 

「なっ!?」

 

 砕蜂が絵にかいたように狼狽え、岩から転げ落ちた。

 

「な! なんてことを! ダーリンは私を殺す気か!? それじゃあ―――――どうやってダーリンの服や布団に枕をクンカクンカすればいいんだ!?」

 

「なにやってんの!?」

 

「こっちの台詞だよ! 真面目に戦えぶぼはぁ!?」

 

 ツッコミを入れた一護がまた吹き飛んだ。

 だが、砕蜂はそれを全く見ておらず、

 

「―――――これが、DV……?」

 

「んなわけねーだろ!」

 

「ダーリン、お前は結論を急ぎ過ぎる」

 

 急な真顔だった。

 痴話喧嘩をしながら片手間で一護が吹き飛ばされる。

 有体にいって滅茶苦茶だった。

 そんな光景を眺めながら、喜助はとりあえずデジカメを構え、

 

「うーん、夜一さんに見せたら笑い死にしそうですねぇ」




斬魄刀:七曜
解号:虹を巡れ
事前装填する鬼道7種類を詠唱破棄ながら威力劣化を起さずに発動可能。
装填する鬼道は宵丸が使用できる鬼道に限られる。

砕蜂が嫌い。とても嫌い。
具象化するとすぐに砕蜂と喧嘩する。
砕蜂も煽る。
要らない子扱いされる。


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Homecoming

ここより始め

ここを去り

ここに戻り

ここから征く


 修行と準備を終えた一護とその仲間たちが尸魂界に、志波家の力を借りて瀞霊廷に侵入する。

 全ては朽木ルキアを極刑から救うため。

 志波家の岩鷲を加えたたった五人で瀞霊廷、護廷十三隊へと喧嘩を売っていく。

 そして彼らを現世で鍛え、尸魂界にて導いた四楓院宵丸と砕蜂の二人がどうしているかといえば、

 

「おっ、茶柱」

 

「おお、縁起がいいなぁダーリン」

 

「ダーリン言うな」

 

 流魂街のある茶屋でお茶を飲み、団子と饅頭を味わっていた。

 

 

 

 

 100年前、宵丸は鬼道衆の総帥補佐、砕蜂は二番隊副隊長。

 それぞれに確かな地位についていたが、当時流魂街で起きた魂魄の消失事件の調査に当たっていた。九番隊が赴き、されど成果は出ず追加で平子シンジを始めとした隊長格が続いた。宵丸と砕蜂がそこに加わったのは彼の姉であり、彼女の上官である四楓院夜一によるもの。

 経験を積ませたいと思ったのだろう。

 総隊長の山本元柳斎重國には咎められたが、話を聞く彼女ではなかった。

 弟と妹分に手柄を取らせるために、彼の反対には聞く耳持たずに行けと快活に笑ったし、宵丸も砕蜂も当然のように従った。寧ろ感謝だってしていた。

 夜一の奔放さを元柳斎も理解していたし、同じように隊長である京楽春水が自分の副官である矢動丸リサを行かせたというのもあったから。

 

 そして、シンジたちも、宵丸も砕蜂も、敵に陥れられた。

 

 現在公的に二人は死亡扱いであり、夜一や家族も、当時の友人たちもそう思っていることだろう。

 無論、顔を見たいという思いはある。

 だが、それはできないのだ。

 一護たちと一緒に最初から瀞霊廷に殴り込みに行けば――――かつて彼らを嵌めた敵に気づかれる。

 大事なのはタイミングだ。

 一護たちは鍛えたが、それでも副隊長レベル。

 隊長格には勝てない。

 精々卍解使わずに舐めプしてくれたらなんとかというレベル。

 だから、宵丸と砕蜂が瀞霊廷内で、自分たちの存在を明かし、彼らを手助けするというのなら状況に即したタイミングでなければならない。

 そしてそのための選択肢は浦原喜助に与えられている。

 彼が考えた起りうる全ての可能性と、それに対する手の打ち方。

 そして現状は彼の予測からは外れておらず、静観する時間。

 だから、

 

「いやー、100年経ってもここはお茶も団子も美味い。100年間ずっとここに来たかったんだよ」

 

「確かに。かつては修行の合間によく来ていたものだな」

 

 二人でのんびりお茶をしているのは、一護たちを見捨てているわけでもさぼっているわけでもないのだ。

 流魂街には多くの魂魄が生活しているから、当然のように茶屋など山のようにある。地区に応じて治安の良し悪しの差が激しいが今二人がいるのは前半の治安が比較的良い場所。

 その上で、かつて瀞霊廷を抜け出した夜一が厳選した最も味が良い店だ。

 

「どうだダーリン。店に菓子を置くのは。タピオカとかいいと思うぞタピオカ」

 

「うーん、ドリンクならいいけどなぁ。菓子の類は難しい、ラーメンと一緒に出すと匂いが付くし」

 

「しかし、あの店も碌に客こないだろう。何か新しいこと始めた方がいいと思うんだがな」

 

「道楽でやってる店だかんなぁ。採算度外視だし」

 

 まったりとした空気がそこにある。

 瀞霊廷では絶賛命を懸けた殺し合いが行われているとは思えない。

 宵丸は隣で団子を頬張る砕蜂に視線を送る。

 頬の中に団子を貯めこんだ彼女はリスのようであり、肩まで伸びる髪が揺れている。

 尸魂界にいたころは襟足が外跳ねしたおかっぱ頭で、ずっとその髪型だったが数年前から何を思ったかおかっぱもやめて、髪を伸ばし始めた。

 

「そいやぁ」

 

「うん?」

 

「なんで髪型変えたんだっけ」

 

「可愛くないか?」

 

「……似合ってるけど」

 

「ふふん」

 

 宵丸の言葉に嬉しそうに砕蜂は息を漏らし、

 

「いつだったかな、何年か前に空座町を歩いている時のことだった。中学生らしい餓鬼にナンパされてな」

 

「ごほっごほっ!」

 

「はっはっは、勿論相手にしなかったとも。すぐに自分が人妻であると言った。NTRとかは全く興味がないしな」

 

 それで、

 

「向こうもすぐに引き下がったし、よくよく話してみると子供ながら中々男女の機微に敏いやつでな。ダーリンが中々素直になってくれないとあれこれ相談したものだ。何と言ったか……青色だか水色だか、そんなやつ。その時会った以来なんだ」

 

「じゃあお前の螺子が外れたのは……!」

 

「あぁうん。アレがきっかけといえばきっかけだな」

 

「野郎そいつ見つけたらぶっ殺してやる!」

 

「おっ? 嫉妬か? ふふふ、いいものだなこれは!」

 

「違う!」

 

 宵丸は激怒した。

 その青系の色の名前のせいで砕蜂の螺子がイカれたのだ。

 絶対に見つけ出して断罪する。

 

「で、その時に言われたんだがおかっぱは今時流行らんらしい。前髪ぱっつんは長身がやるといいが私のように小柄だと子供っぽく見えるとな。髪型を変えたのはそれからだ」

 

 彼女は髪を弄りながらくしゃりと笑い、

 

「似合っているだろう?」

 

「……まぁ、ね」

 

 目を逸らし、誤魔化すようにお茶を飲む。

 言動は狂っているが、100年前とは違い緊張がなく険が取れ、常に余裕を持った彼女は間違いなく魅力的なのだ。

 そんな彼女に愛されていて、悪い気は勿論しない。

 

「ま、私は流行を追う女だ。現世がいいのは短いスパンで流行り廃れがあるということだな、刺激的だった。尸魂界ではこうはいかん」

 

「んん、昔のシャオはそういうの興味なさそうだったな」

 

「昔の話だ。無論、今は違うとも。流行には敏感だ。あれだ浦原の嫌いな所は腐るほどあるがあのダサい帽子は時代遅れも著しい」

 

「本人には言うなよ。喜助さんは好きで使ってるんだし」

 

「いやもうとっくに言った」

 

「言ったのか……」

 

「そうしたらあいつはむしろ頷いたよ。『たしかにあたしの帽子は古い』と」

 

 だが、

 

「あいつはこうも言った。『でも砕蜂サン。古き良きものは、それを愛する者が引き継いでいかないといけないと思わないすか? それが他人に笑われようとも』とな。私は思ったよ」

 

 彼女は遠い目で空を見上げ、

 

「―――――確かに。良いこと言うなこいつ」

 

「仲良しか」

 

「奴は人格が肥溜めの糞だが、評価するべきところは評価すべきだな。ダーリンのエロ本を生真面目貧乳委員長ものに変えたのも奴だしな。まぁその奴が持っていた褐色猫耳姉御肌巨乳本燃やしたら血涙流してたが」

 

「ほんと何やってんの!?」

 

 道理で見覚えのないエロ本があった。

 ほんとそういうことは止めて欲しい。

 砕蜂の喜助への評価は正鵠を射ているのだが。

 

「あぁもう……姉上や白哉が今の砕蜂を見たらなんていうか」

 

「ふむ……夜一様なら爆笑してとっとと結婚しろとか言ってくれるだろう」

 

「言いそうなんだよなぁ……それならまず姉上が結婚してくれないと。喜助さんと」

 

「は? 夜一様は結婚とかしないんだが?」

 

「その話は前もした」

 

 砕蜂は肩をすくめ、

 

「朽木白哉は随分と雰囲気が変わっていたな」

 

「お前だけはそれを言うな。……まぁそりゃ100年も経ってるし、朽木も継いだだろうしな。3人で修行したのが懐かしい。姉上にからかわれ、いっつもマッハで血が上っていたのになぁ」

 

 宵丸と白哉は同い年で大貴族の長男同士というのもあり、宵丸のお付きだった砕蜂も交えて鍛錬を重ねた。

 宵丸は鬼道、白哉は斬術、砕蜂は白打と歩法。

 それぞれの得意分野を互いに学び合ったものだ。

 

「懐かしい」

 

 尸魂界に戻り、郷愁に駆られずにはいられない。

 タイミング故に、今は古巣には戻れないがしかしここは二人にとっては生まれ故郷。

 かつての戦いは長引き、終わりは遠い。

 

「あぁ、懐かしい。だが、停滞していた状況は動き出した」

 

 砕蜂もまた空を見上げ、静かに言葉を紡ぐ。

 

「この100年は雌伏の時だった。奴は強く、賢く、魔の手が長い。私も宵丸も強い。夜一様を始めとした護廷十三隊の隊長たちも。……だが、それでもまだ足りない。足りなかった。彼らは未だやつの掌の上」

 

 水面に映る月の影のように。

 実体は捉えられず、届かない。

 彼女は一度目を伏せ、宵丸を見つめる。

 

「だが、チャンスはある。我々は奴の計画の外にある。そういう風に浦原喜助が配置したのだ。だから、私と宵丸ならば勝てる」

 

「……シャオ」

 

「だから」

 

 彼女はふっと優しく微笑み、

 

「―――――この戦いが終わったら結婚しよう」

 

「…………………………………………それって、現世でいう死亡フラグじゃないのか」

 

 宵丸が半目になった。

 良い話してたのにと顔で叫んでいる。

 

「何を言うか。それは流石に古い。昔の死亡フラグは最近じゃあ生存フラグだ。生き残る希望だからな」

 

「ちょっとそれっぽいことを……」

 

「フラグは置いといて私は本気だ」

 

「……」

 

 二の句が継げなくなる

 何度も求婚されるたびに冗談と受け流してきたが、本気なのが伝わってくる。

 彼女のことが嫌いなわけではない。

 寧ろ好きだ。

 だがこの100年、自分と砕蜂の状況は色恋を許さないものだった。元々貴族同士である自分たちにとって結婚は重いものだ。自分も彼女も家の名に誇りを持っている。 

 そんな状況で人生の伴侶を決定したくなかった。

 姉のこともあるし。

 

「うぅむ」

 

 お茶を飲む。

 冷静に考える。これからのことを。

 

「…………」

 

 宵丸は首を傾げた。

 あれ、別に断る理由なくね?

 今更砕蜂以外と人生を共にするなんて考えられない。

 誰と結婚すると聞かれたらノータイムで宵丸は砕蜂と考えるだろう。

 結婚生活に不安はない。100年間一緒に生活してきたのだ。良い所も悪い所も知っている。

 だったら、

 

「結婚するか」

 

「……………………」

 

 砕蜂が手にしていた団子の串を落とした。

 彼女は無言でそれを拾い、ついた砂に構わず最後に残っていた団子を口に放り込み、

 

「まじか」

 

「なんで驚いてるんだ」

 

「何のかんの流されるのかと」

 

「冷静に考えて、今回の一件が上手く行けばしない理由がないしなぁ。喜助さんの冤罪が晴れれば姉上も嫁の貰い手が見つかるし」

 

「は?」

 

「もういいからそれ」

 

「うぅむ」

 

 頭を抱えた彼女が頬を赤く染める。

 

「びっくり」

 

「小学生並みの感想」

 

「シャオ、驚愕しちゃった」

 

「ぶりっこ?」

 

「別に宵丸と結婚したいだけなんだからね!」

 

「ツンデレ……?」

 

「これは違った。私はクーデレだ」

 

「アホな、が頭に付くが」

 

「で、マジか? 本気と書いてマジと読むのか?」

 

「マジだ。本気と書いてマジと読もう」

 

「ふおおおおおおおおおお」

 

 顔を真っ赤に染めてくねくねしだす。

 興奮してただでさえどうかしている頭が沸騰している。

 

「宵丸」

 

「おう」

 

 すっ、と彼女は背筋を伸ばし、半身でこちらを向く。

 頬は赤いが、視線は真っ直ぐに。

 

「不束者ですが、よろしくお願いします」

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

「愛してるぞ、ダーリン」

 

「俺もだよ、ハニー」

 

 かくして。

 瀞霊廷で一護たちと護廷十三隊が殺し合いをしている中。

 さっくりと四楓院宵丸と砕蜂の結婚が決まった。

 砕蜂に迫られても、もう困らない。

 

「姉上も喜んでくれるといいが」

 

「当然だろう。あのお方のことだ。今回の処刑だって疑問に思って何かしらの手を打っているはずだ」

 

 

 

 

 

 

「白哉」

 

「……」

 

「ルキアの、妹の処刑は―――本当に良いんじゃな?」

 

「無論、掟に従うまで。それが貴族としての責務だ」

 

「………………あぁ、そうだな。その通りじゃ」

 

「私はもう、掟は破れない」

 

「そうじゃ。その通りじゃ。――――儂も、同じじゃ。二度と違えない。朽木ルキアの処刑にはお主の意思に従おう」

 




3話にしてタイトル詐欺。
うーんこの。
OSRなタイトルに変更します。

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Call,Call and Call

何度でも、その名を呼ぶよ。


 黒崎一護と朽木白哉が懺罪宮にて向き合う。

 現世においてこの対峙は、一護の完敗だった。白哉が何をしたのかも分からないほどの力量の差が、彼らには確かにあった。

 だが、今この時においては現世で瞬殺された攻撃を一護は見切った上で向き合う。

 白哉から放たれる霊圧にも顔色を変えない。

 捕らわれの身であるルキアとたまたま一護に協力する四番隊隊員の山田花太郎は思わず膝をついたというのに。それだけで一護の成長が窺える。

 尸魂界における戦いが、彼をそこまで強くしたのだ。

 居合わせた十三番隊隊長の浮竹十四郎も驚くほどに。

 だがそれすらも朽木白哉にとっては、黒崎一護が戦えるだけの力量があるということが分かっただけだ。対峙できるほどに、別人のように強くなった。それは結構。

 しかし所詮その程度。

 祈るように、誓いを立てるように白哉は斬魄刀を構え、厳かに告げる。

 黒崎一護と朽木白哉の格の差を。

 そして己が斬魄刀の名を。

 

「―――――散れ」

 

 斬魄刀の始解が行われ、

 

「――――その名前を聞くと現世でちょっと前に流行った楽曲思い出すから笑えるんだなこれが」

 

 飛来した砕蜂が一瞬にして包帯を刀に巻き付けてせき止めた。

 

 

 

 

 

 

「あぁ!?」

 

「――――」

 

 突如現れた彼女に浮竹が声を上げて驚き、白哉もまたらしくもなく両目を見開く。

 彼らにとっては100年前に死んだと思っていた人間だったから。

 

「―――砕蜂」

 

「久しいな白哉。随分とキャラが変わった。眉間の皺が寄り過ぎだぞ? 堅苦しそうなのは相変わらずだが」

 

 微かに硬直する白哉へと気安く砕蜂が語り掛ける。

 その名をルキアや花太郎は知らなかったが、

 

「……先代隠密機動総司令官補佐及び同第一分隊『刑軍』副軍団長及び、先代護廷十三隊二番隊副隊長―――砕蜂」

 

「自己紹介ありがとう。我ながら舌を噛みそうな役職だったな」

 

 肩をすくめ、白哉と視線が交わる。

 

「……100年前の一件で、死んだはずだ」

 

「では幽霊か? 死神である私が。色々あって生きていたんだなこれが」

 

「…………では」

 

「さて」

 

 白哉の目が細まる。

 その目は同じく死んだはずの四楓院宵丸が生きていたのかと問うていたのだろう。 

 だが、砕蜂は応えない。元々砕蜂はこの時点で彼らの前に顔を出すつもりはなかったのだ。だが、

 

「……砕蜂さん」

 

「お前のせいだこの阿呆」

 

「えっ」

 

 更木剣八と戦い深手を負っていた一護を回収したまではよかったのだが、その一護が白哉の霊圧を感じてすっ飛んでいったのだ。浦原喜助作の霊圧遮断用及び飛翔用外套を奪って。そのせいで砕蜂は此処まで走って来たのである。

 

「砕蜂さん、助けに来てくれたのは感謝するけど退いてくれ。俺は、こいつを斃さなきゃいけねーんだ」

 

「はぁ? お前が、こいつを?」

 

「あぁ!」

 

「―――戯け」

 

 吐き捨てた直後、砕蜂は一護の背後へと移動していた。

 そして、彼がそのことに気づくよりも速く、人差し指が一護のこめかみに添えられ、

 

「縛道の10―――絶気」

 

 指先から放たれた白い光が一護の意識を刈り取った。

 一瞬でぐったりとなった一護を肩に担ぎ、砕蜂は息を吐く。

 

「重いなこいつ」

 

「……縛道の10・絶気」

 

 口を開いたのは少し離れた位置で眺めていた十四郎だった。

 

「相手を休眠状態にする麻酔代わりの縛道だ。鬼道としては初歩だが、霊圧の大きな相手には高位鬼道の発動以上に難易度が高い。……腕を上げたな砕蜂」

 

「えぇ浮竹隊長。100年間何もしていなかったわけではないので」

 

「彼を治す気か?」

 

「させぬ」

 

 白哉は静かに、そして冷たさを以て告げる。

 

「兄が生きていたことは喜ぼう。だが―――その少年を助けるということは護廷十三隊に弓を引く行為だ。それを、解っているのか」

 

「無論。悪いがこちらにも事情があってな」

 

「――――夜一が泣くぞ?」

 

「お前は妹を泣かせていないとでも?」

 

 視線が交差する。

 そして、

 

「!」

 

 一瞬前まで砕蜂が立っていた場を白哉が斬魄刀で薙ぎ払い、

 

「お前に歩法を教えたのは誰だったかな?」

 

 その背後に、一護を担いだ状態の砕蜂が移動を完了していた。

 砕蜂は口端を歪め、

 

「っ!」

 

 顔を貫く刃を顔を逸らすことで咄嗟に回避した。

 

「兄は私が教えた斬術を終ぞ碌に学ばなかった」

 

「はん! 私は刀なんぞまともに使わんから何の問題もないな!」

 

 砕蜂の頬に一滴、冷や汗が流れ――――二人の姿が霞む。

 次に砕蜂が出現したのは懺罪宮を繋ぐ橋の先。一瞬にて数十メートルを移動し、

 

「兄の瞬歩はその程度だったか?」

 

 その背後に既に白哉が一刀を振りかぶっていた。

 振り下ろす。

 斬撃は砕蜂ごと一護を袈裟に斬り裂き、白哉が、十四郎が、ルキアが、花太郎が、その光景を目撃する。

 しかし、その次に彼らが見た光景は、

 

「―――!」

 

「お前の瞬歩はその程度だったか」

 

 振りかぶった白哉の背後で不敵に笑う砕蜂の姿だった。

 

「――隠密歩法四楓の参『空蝉』」

 

「隠密歩法四楓の参『空蝉』か!?」

 

「隠密歩法四楓の参『空蝉』だと!?」

 

「隠密歩法四楓の参『空蝉』ですか!?」

 

「そう! 隠密歩法四楓の参『空蝉』!」

 

 瞬歩で次の瞬間には、十数メートル上の建物の屋根の上に。

 

「口に出して言ってみたい歩法第一位! 皆が好きな隠密歩法第一位! 隠密歩法四楓の参『空蝉』だ!」

 

「……兄はそんな女だったか?」

 

「お前に言われたくないわ。生真面目が加速しおって。あーまったくお前の顔を見ると全く肩が凝る」

 

 嘆息する砕蜂に、白哉は――――小さく鼻で笑った。

 

「―――凝るような身体には見えんが」

 

「兄様!?」

 

 あからさまな白哉の挑発にルキアが驚愕した。

 厳格さが擬人化したような兄が、そのようなことを言うと思わなかったから。

 

「ぶっ殺すぞ!」

 

 そして案の定砕蜂はキレた。

 中指を立てて白哉に向け、

 

「――――こいつがな!」

 

 そのまま一護を中指で刺した。

 えっ、そいつ? とその場の全員が思った。

 

「3日だ、白哉」

 

 眉間に皺を寄せる白哉に、不敵に笑い告げる。

 

「3日でこいつをお前より強くしよう。それまでは休戦にさせてもらうぞ? ―――何やら瀞霊廷も忙しいようじゃないか。そっちを調べることをおすすめする」

 

 一瞬、白哉と浮竹にそれぞれ視線を移し、

 

「100年待っただろう? 後3日くらい待てばいい。あぁ、追ってきても構わんが」

 

 砕蜂の姿が霞み、消える。 

 同時に白哉と十四郎の霊圧感知からも消失した。

 それはただの歩法によるものではなく、鬼道も併用した高度な隠形であることを、一度消失されては再捕捉が難しいことを二人は気づいていた。

 

「別に倒してしまっても構わんのだろう?」

 

 

 

 

 

 

「うーむ、参ったな」

 

 懺罪宮から離脱し、安全な所まで来た砕蜂は一護を下ろして首を傾げた。

 

「予想よりも白哉の腕が上がっていたではないか。あやつめ……」

 

 対峙し、霊圧を感じただけで分かる。

 朽木白哉は強い。

 100年前は夜一がちょっと煽っただけでキレ散らかしていた白哉だが砕蜂がふざけても全く揺らがなかった。

 対峙し、霊圧を感じれば分かる。

 おそらく、砕蜂の持つ奥の手2つのどちらかを切れば倒せるだろうがそのうちの一つは使いどころが決まっている。もう一つは使えなくもないが、

 

「あの場で戦ってたらルキアとあの汎用モブ隊員も死んでただろうしなぁ……」

 

 それは困ってしまう。

 その上、敵にもこちらの手の内が晒されていただろう。それはまだ早い。

 砕蜂と宵丸には段取りがあるのだから。

 戦力が足りない。

 おそらく、ルキア救出の為なら浮竹十四郎は力を貸してくれるだろう。十四郎がいればその親友の京楽春水の力も当てにできる。

 だが、それだけ。宵丸と砕蜂は護廷十三隊隊長格の力があるが、十四郎と春水以外を相手取れと言われれば流石に困る。

 特に総隊長の山本元柳斎重國にはダメだ。

 あの爺はちょっと次元が違う。

 状況を整え、完璧な準備をし、後先考えずに宵丸と砕蜂が手の内全て晒してやっと勝ち目が見えるというレベル。

 何が困るって、今回の一件で彼が敵に回るのは絶対に避けられないということだ。

 

「うぅむ、どうにか浮竹と京楽を引き入れて相手を押し付けなければならん」

 

 二人が聞けばガチ切れしそうなことをつぶやく。

 戦力が足りない。

 そもそも敵は護廷十三隊ではない。

 そのうちに潜む者。

 だが、十三隊はその存在に気づいておらず戦いは避けられないのだ。

 

「……癪だが、お前の力も当てにするぞ」

 

 意識を失った一護を見下ろす。

 浦原喜助の、四楓院宵丸の弟子とも言える男を。

 潜在能力は十分。既に霊圧は隊長格に匹敵しているのだから、斬魄刀の秘奥を体得すれば白哉とも渡り合えるだろう。

 準備は進んでいる。

 宵丸との別行動もその為だ。

 新妻を放っておいて、とは思わなくはないが必要なことだから。

 

「……あ、私と宵丸が結婚することを伝えれば流石に動揺したか?」

 

 再び首を傾げ、

 

「いや、私とダーリンは100年前からラブラブだったから驚くこともないか!」

 

 

 

 

 

 

 

「砕蜂が生きていた」

 

「―――――」

 

 突然二番隊の隊首室に押しかけた白哉は四楓院夜一へと言い放った。

 褐色の肌。隊長のみが着ることを許される隊長羽織。紫がかった黒髪は肩まで無造作に伸ばされている。猫科の動物を思わせる琥珀の目は美しく、しかし驚きに見開き震えていた。

 

「――――なん、じゃと?」

 

「砕蜂が生きていた。五体満足でな。おまけに腕も随分と上げていた」

 

 一度鼻を慣らし、

 

「随分と昔の兄(・・・)に雰囲気が似ていたな」

 

 夜一の目に一瞬歓喜が交じる。

 100年前死んだはずの妹分が生きていた、それは喜ばしいことだし、彼女が生きているのならば、

 

「宵丸も、おそらく一緒だろう」

 

「!」

 

 琥珀の瞳に涙が滲む。

 だが―――次の白哉の言葉に彼女は硬直した。

 

「アレは旅禍の味方をしていた」

 

「――――」

 

「黒崎一護、私が現世で斬り捨て死神の力を失ったはずだが、アレが力を貸して死神の力を取り戻したのだろう。死人が生きていたのだ。もう私は驚かん。砕蜂の鬼道の腕も上がっていた所、宵丸もいるはずだ」

 

 だからと、朽木白哉は四楓院夜一を真っすぐに見据えた。

 

「兄はどうする?」

 

「―――」

 

「かつての弟が、妹分が護廷十三隊に、我々が護るべき掟に弓を引いている」

 

 ――――その時兄は二人を殺せるか? 

 それだけ言って白哉は隊首室を去った。

 言いたいことはそれだけだと。

 自分はもう決めていると言わんばかりに。

 実際白哉はもう覚悟を決めている。

 例え相手がかつて共に研鑽を重ね、武芸を教え合った親友たちが相手だろうとも。

 彼は殺すだろう。

 朽木白哉は妹を死なせるために、親友だって殺す。

 彼にはそれだけの覚悟があるから。

 

「――――」

 

 では、四楓院夜一は? 

 白哉が去り、一人だけになった隊首室。彼女は自身の椅子に深く座り込む。

 その表情は髪に隠れて見えない。

 

「……宵丸、砕蜂」

 

 呟くのは失ったと思っていた名前。

 これから己の立場としては手を下さねばならない相手。

 この100年間一度も忘れなかった二人。

 

「――――」

 

 答えが出ることはなく―――処刑の日は迫る。

 

 




BLEACHssでやたら良く見る空蝉。
かっこいいですよね。


砕蜂のキャラ崩壊が著しいということでタグを色々追加しました。
作者は勝手に電波砕蜂と呼んでいます。

夜一さんがメンタルやばそうなのは仕様です。
日刊1位いただきました、ありがとうございます。

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She is gone,But.

例え死しても

その魂はこの手足に宿る。

私はそれを振るって天を衝く。


「どういうことじゃ!?」

 

 夜一は一番隊副隊長である長次郎に腕を掴まれながら、護廷十三隊総隊長・一番隊隊長山本元柳斎重國へと吼えた。

 普段飄々と笑みを浮かべ、活発ないたずら猫染みた彼女はどこにもいない。

 余裕はなく、焦りと恐れ、そして怒りだけが今の彼女を動かしていた。

 

「謹慎じゃと!? 宵丸と砕蜂が死んだというのに! 喜助と鉄裁が捕らえられたというのにか!? この儂に! 動かず大人しくしとれというのか!」

 

 その知らせを聞いたのはつい先ほどのことだった。

 流魂街における魂魄消失事件に赴いた隊長副隊長たちは虚となり、その下手人は浦原喜助。握菱鉄裁はその協力を行い、禁術を使用した。そして―――四楓院宵丸と砕蜂は虚化に耐え切れず死亡し、魂魄ごと消失した。

 意味が解らない。

 虚化? それを為したのが浦原喜助? 

 何よりも、弟と妹分の弟子が死んだなんて。

 

「元柳斎!」

 

「その現状が、全ての理由じゃ」

 

「っ―――」

 

 元柳斎は狼狽える夜一を見据える。

 

「肉親と副官を失い、その上自身が隊長に推薦した男がその実行者であるなど平静を保っておられるものか。この一件は既に中央四十六室では最重要案件として扱われておる。そして、決は既に下された」

 

「まだじゃ! 儂が喜助と話す!」

 

「ならん」

 

 夜一が食い下がっても、元柳斎は揺らがない。

 その眼は静かに、されど確かに燃えている。

 全てを焼き尽くすような静かな炎。 

 ただ、そこにはほんの僅かに夜一を気遣うものがあり、

 

「動くな、夜一よ。お主は浦原喜助との親交があった。下手に動けば―――主にも嫌疑が掛けられるぞ」

 

「知ったことか!」

 

 それでも夜一は吼える。

 

「儂が、宵丸と砕蜂を行かせたのじゃ!」

 

「左様」

 

 叫びと共に吐き出されるのは後悔と慚愧。

 流魂街消失の解決部隊に彼女は宵丸と砕蜂を半ば無理やりねじ込んだ。

 二人ならば大丈夫だろうという信頼と楽観があった。

 仲睦まじい二人に経験を積ませたいと、関係が深まればいいという老婆心があった。

 そして――二人は死んだ。

 

「っ……儂の、せいで……!」

 

「……否定しても、主は受け取らんだろう。で、あれば今は動くな。四十六室の沙汰を待て」

 

「いいや! 儂のせいだからこそ……!」

 

「―――長次郎」

 

「御意」

 

「!?」

 

 元柳斎の呟きに振り向いた時、自身の腕を掴んでいた長次郎は開いた手で既に始解を済ませた斬魄刀の柄を夜一に向けていた。

 名前を呼ばない斬魄刀の始解。

 即ちそれは彼が卍解に至っているということ。

 人伝手には聞いたことがあった。一番隊副隊長である彼が卍解を習得しており、かつて元柳斎の顔に傷をつけた張本人であるということを。本来であれば副隊長に収まらない力量の持ち主であるということを。

 けれど、それを本当の意味で彼女は信じていなかった。

 疑っていたわけではないが、それでも慢心していた。舐めていた。

 その間隙を見逃す元柳斎と長次郎ではなかった。

 

「恨んでいい」

 

 雷撃が走り、意識が強制的に遮断される。

 消える意識の中、最後に聞こえたのは長次郎の優しい声だった。

 恨んでいいだなんて。

 恨むべきは彼ではない。

 四楓院夜一が許せないのは――――自分だけだ。

 あの時の我がままを、彼女はずっと後悔している。

 100年間、後悔し続けている。

 そして意識を取り戻した時、全てが終わっていた。

 浦原喜助と握菱鉄裁、虚となった隊長たちは正体不明の謎の人物により逃亡を果たしていた。

 

 

 

 

 

「―――――」

 

 そんな100年前のことを、双極の丘を落下しながら夜一は思い出した。

 朽木ルキアの処刑は実行されなかった。

 処刑の直前黒崎一護が現れ、止めたのだから。

 双極は十四郎と春水が、何故か持っていた四楓院家の封印された秘具により破壊された。三日ほど前に屋敷から盗難されたものだ。

 ルキアは遅れて現れた恋次に連れていかれ、副隊長たちは一護に瞬殺された。

 夜一は白哉に助太刀しようとして――――突如現れた外套で全身を隠した小柄な影に双極の丘から突き落とされた。

 不意打ちされた自分の間抜けさに憤りつつ、その影をにらみつけ、

 

「お久しぶりです、夜一様」

 

「――――」

 

 その声に、外套の下の顔に夜一の時が止まった。

 かつて失ったはずの妹分。 

 生きていたと聞いたばかりの弟子。

 

「――――砕蜂」

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きて……おったのか」

 

「はい、お義姉(夜一)様」

 

 開口一番ニュアンスが夜一の想定しているものと違うが、しかしそんなことに気づく余裕はなかった。

 双極から離れた雑木林で二人はおよそ100年振りに対峙する。

 砕蜂は静かに柔らかく微笑み、夜一は信じられないと言わんばかりに目を見開いている。

 

「お主は、生きていた」

 

「はい。色々ありましたが、この通り生きております」

 

「宵丸は」

 

「無論、元気ですよ。今は、今だけ、今回限りの別行動ですが。えぇ、今後一秒たりとも離れる余地はないですし、逃げようとしても離しません。首輪とか付け合いたいですねお互いに」

 

「生きて……生きて、おったか……!」

 

 夜一は感涙のあまり砕蜂の言葉の最初しか聞いてなかった。

 目頭を押さえ、滲む涙を止められない。

 

「……」

 

 ツッコミ待ちだった砕蜂は、思った以上の義理の姉の様子に思わず照れてしまい頬を掻く。

 

「あー……夜一様。感動の再会は私が望む所なんですが、というか100年振りに私も夜一様成分補給したいんですが。今は状況が状況でして」

 

「んっ ……む、そうだったな。状況が状況じゃ」

 

 今度は最後の言葉しか聞いていなかった。

 夜一は濡れた目元を拭い、一度息を吐く。

 

「―――――砕蜂」

 

「はい」

 

「主と宵丸が生きていたことは嬉しい。これは本当じゃ。心の底から」

 

 だが、

 

「――――今、お主は護廷十三隊の敵か?」

 

 琥珀の目を細め、問う。

 鋭いが、しかしその頬には一筋の汗。

 そうであってほしくないと、彼女の心は叫んでいた。

 

「……ふむ、難しい問いです」

 

 しかし夜一の剣呑さはとは対照的に砕蜂は軽い動きで首を傾げた。

 

「心としては護廷の矜持を忘れていないつもりです。――――ですが、行動を見れば、敵と言われても否定はできないでしょう」

 

「――――砕蜂」

 

「はい」

 

「今すぐに、投降しろ」

 

「できません」

 

 信じられないと、夜一は目を見開く。

 どうしてと、彼女の表情は告げていた。

 

「いえ、別に夜一様と敵対したいわけではないですが、この処刑は止めなければならないんですよ。夜一様とて朽木ルキアの極刑には疑問もあったでしょう?」

 

「――――それは」

 

 それは、その通りだ。

 朽木家の娘相手に重い刑、重なる執行日の短縮。

 確かにおかしいと思った。

 だが、

 

「それは、それが、護廷十三隊の決定じゃ」

 

 夜一は吐き捨てる。

 

「儂はもう、掟を違えん。己の意思で、我儘で公人として判断を過つことはせん。尸魂界の貴族として、護廷十三隊の意思に従うと」

 

「変わられましたね、誰よりも奔放であった貴方が」

 

「その主の言う奔放さが!」

 

 割れるような叫び。

 

「儂が……お主らを殺した……っ!」

 

「生きてます。超生きてます。現世エンジョイしてました。ピースピース」

 

 慟哭を上げる夜一とは対照的に両手でピースして砕蜂が元気さをアピールしていた。

 だが夜一の反応はなく、砕蜂は居心地の悪さにすぐに下した。

 はぁ、と一度息を吐き、

 

「夜一様」

 

 真っ直ぐに見つめる。

 

「私は、この極刑を止めます。護廷十三隊の意思に背くとしても、そもそもそれは歪められたものですから」

 

「――――ならぬっ!」

 

 夜一の息は荒く、目元にはぬぐったはずの涙が。

 彼女自身、頭の中はぐちゃぐちゃだ。

 自身の判断で殺したと思っていた、だから掟を違えぬと誓った、なのに二人は生きていて、その片割れは十三隊の意思は歪められたものという。

 解らない。何が正しくて何が間違っているのか。

 あの100年前から彼女は自分で考えることを禁じていた為。

 そして、解らなくなって、どうすればいいか答えは見つからなくて、

 

「――――!」

 

 双極から二つの大きな霊圧を感じた。

 片割れは覚えのないものだが、もう一つは知っている。

 朽木白哉。

 しかもその霊圧の波動は卍解したもの。

 誇りの為に、己の誓いの為に、妹すら殺そうと決めた男の者。

 何もかも解らなくて――――しかし、それだけは今の四楓院夜一の中で確かなものだった。

 そして、その瞬間、彼女の意思は決まった。

 

「―――――――――瞬閧」

 

 霊圧が雷鳴と共に弾けた。

 背と肩より霊圧が放出され、隊長羽織と死覇装が吹き飛び、露出の多い刑戦装束のみが晒される。

 

「……夜一様」

 

 その様に砕蜂は目を細めた。

 それは夜一の本気。

 卍解を用いるよりもこの技を使った方が強いという、死神にあるまじき四楓院夜一の戦闘形態だ。

 

「――――儂が」

 

 雷鳴と霊圧を纏いながら、琥珀の瞳から涙を流す夜一は最早揺れていない。

 

「儂が揺らいで……白哉坊が揺らがんとは。全く笑える話じゃ。……あぁ、そうじゃ。砕蜂、宵丸が生きていたことは嬉しい。だが……それで、主らに迎合すれば――――誇りと矜持の為に妹を殺さんとする白哉坊になんと言えばいい?」

 

「……」

 

 弟と妹分が帰ってきて妹がマジ妹になっておった! じゃ駄目ですかねお義姉様! と言いたかったが流石に砕蜂も空気を読んだ。

 その霊圧が本気であると悟っていたからだ。

 

「お前が何をしようとしているのか儂には解らん。だが、止めるぞ砕蜂」

 

 それが、

 

「護廷十三隊二番隊隊長、四楓院夜一の責務じゃ」

 

「―――なるほど」

 

 それは砕蜂の知らない夜一だった。

 きっと自分たちが変えてしまった夜一なのだろう。

 彼女の決意を咎める気はない。

 寧ろ、この対峙に、夜一の本気に場違いな嬉しさを覚えていた。

 知らず知らずのうちに口端が歪む。

 彼女の本気と戦えることが。

 100年を経て、自分がどれだけ成長したのかを師匠に見せられるから。

 

「で、あれば! 私の意思と夜一様の誇りをぶつけあうことに迷いなどありませんとも!」

 

「―――無駄じゃ、この姿の儂を主は知らんだろう。これは」

 

「高密度の鬼道を手足に纏い、白打と共に打ち込む高等技法。隠密機動の長に伝わる文字通り必殺技。刑戦装束がこんなドスケベ衣装の由縁ですよね」

 

「どす……? ……あぁ、宵丸から聞いてたか」

 

「えぇ―――そうです、当然私も知っています」

 

「! まさかお主も――――!」

 

いいえ(・・・)

 

 驚く夜一に、しかし砕蜂は否定する。

 

「生憎――――その先です」

 

 斬魄刀に手を添え、

 

「―――――――卍解」

 

 霊圧を解き放った。

 

「っ! 砕蜂、お主卍解まで……!」

 

 霊圧と共に暴風が轟く。

 そして、

 

「雀蜂雷公鞭改メ(・・)

 

 その名を告げる。

 

「―――――瞬閧纏装・無窮轟嵐」

 

 それは両手両足に装備された手甲と脚甲だった。

 始解時点の雀蜂は片手に嵌められる爪と手甲だ。それが両手足に備わり、肘と膝から先を完全に覆う形。始解のそれより装甲は厚みを得て、流線を描き、肘や踵の位置からは短い管が伸びていた。

 卍解と同時に砕蜂の短裾の羽織も吹き飛び刑戦装束へ。

 そしてその背に、霊圧でできた翼を背負う。

 

「……なんじゃ、それは。卍解、か?」

 

 砕蜂の卍解を目にし、夜一は何度目か解らない驚愕に襲われた。

 斬魄刀の卍解は総じて巨大を誇る。

 それは純粋なサイズであることが大きいが、同時に規模の話でもある。

 卍解後の斬魄刀のサイズが小さくとも、それから生じる規模は超広範囲、という卍解は儘あるものだ。

 だが、砕蜂のそれはそうは見えなかった。

 シンプルな具足にしか見えないのだから。

 いや、そもそも、

 

「改メ、じゃと」

 

 その名には聞き覚えがあった。

 それは、

 

「えぇ、浦原喜助の卍解。『観音開紅姫改メ』、あれで元々の卍解を作り替えさせました。前はクソデカミサイル射出とかいう私の長所を全部消すちょっとアレだったので」

 

 その時には雀蜂と盛大な喧嘩をしたのだが、しかし有用性において雀蜂も納得させた。

 

「喜助じゃと……! アイツまで噛んでおるのか!」

 

「えぇ! 相変わらずの糞野郎です!」

 

 文句を言いだすと尽きないので、早々に一言で終わらせ、

 

「『瞬閧纏装』は、言ってしまえば瞬閧を前提とした卍解です。私がたどり着いた瞬閧は風の形になったために戦闘力よりも継戦能力に長けていたんですが」

 

 肘先と踵から延びる管が光った。

 そう思った瞬間、

 

「――――――――――!?」

 

 気づいた時には腹部を殴られ、暴風に飲み込まれながら数十メートル吹き飛んでた。

 

「がはっ、ごほっ……! っ、今、のは……!?」

 

「オリジナルの雀蜂雷公鞭は街一つ吹き飛ばしかねないミサイル砲。それを―――具足の推進力として利用し、その加速と共に瞬閧の白打を叩き込む。それが『雀蜂雷公鞭改メ・瞬閧纏装・無窮轟嵐』」

 

 口から血を吐き、砕けた地面に埋もれた夜一の前に瞬歩で現れた彼女は腕を組み、

 

「雀蜂雷公鞭は死んだ! もういない!」

 

 吠える。

 

「だけどこの手足に! 一つになって生き続ける――――うるさい、なんだ雀蜂。死んでない? イメチェンしただけ? 黙れ、今私が人生で言いたいセリフ第3位を言っているのだ……!」

 

「っ、何をふざけておる!」

 

「私はいつだって大真面目ですとも!」

 

 そして雷と風がぶつかり合う。

 100年振りの師弟対決がここに始まった。

 

 




宵丸の霊圧が消えた……?


くそ雑魚メンタル夜一さん。
許して。

全部終わったあとにしおらしい夜一さんが出てくるので許して。

『雀蜂雷公鞭改メ・瞬閧纏装・無窮轟嵐』
元々ミサイル発射だった卍解を浦原喜助の卍解により作り替えたもの。
両手足の具足で、肘と踵にブースターが備わっている。そこから本来ミサイルとして打ち出す霊圧を加速器として用い、その速度に乗せて瞬閧の白打を行う卍解。

暗殺には適さないが、しかし砕蜂の白打と歩法を活かした姿。
砕蜂の奥の手その1.
弱砲雷公鞭は死んだ。
僕は手足アイアンマンと呼んでます。
まぁアイアンマンには管状加速器ないけど。


日刊1位とルーキー1位を二日間くらい乗せていただいたようでありがとうございます。
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Time to first show

姿なきものは闇に紛れ、夜に踊る。

誰も知らない舞いは光に当たり闇を深める。


歓喜せよ、舞台の幕は上がる。


「――――!」

 

 拳と拳が激突する。

 瞬閧を纏う夜一の拳と瞬閧を纏った上で、卍解によりさらなる加速を乗せた拳。

 ぶつかり合い、

 

「っ……!」

 

 夜一の拳が押し負け、大きくのけぞった。

 瞬閧そのものの質や威力としては夜一の方が高い。それは研鑽に費やした時間によるものであり、雷という攻撃的な性質によるものだ。

 だが砕蜂の瞬閧卍解・雀蜂雷公鞭・瞬閧纏装による加速がそれらを上回る。

 夜一の姿勢が大きく崩れるが、同時に砕蜂もまた超加速による白打の技後硬直は小さくない。肘と踵から生じる超加速。そこから繰り出される拳撃の威力は尋常ならざるが、その代償として大きな隙が生じてしまう。

 されど、その隙を埋めるのもまた瞬閧卍解によるものだ。

 

「―――ふっ」

 

 夜一の目には砕蜂の肘と踵が光り、彼女が短い呼気を吐いたように見えた。

 そして―――次の瞬間、技後硬直をすっ飛ばした回し蹴りが夜一に叩き込まれていた。

 

「ぐっ……ぅっ―――!」

 

 咄嗟に右腕のガードが間に合ったのは偏に運と経験による直感だ。

 だがその右腕は蹴撃に砕かれ、ガードの上からあばら骨が数本砕かれた上で吹き飛んだ。

 

「ごほっ!」

 

 十数メートル地面を削りながらめり込み、血の塊を吐く。

 骨身に染みるダメージに体が痙攣し、即座に起き上がることが出来ないほどの威力だった。

 荒い息を抑えながらなんとか見据えた先には、両腕を下げて自然体で佇む砕蜂の姿。

 完全に砕蜂の速度は夜一の反応限界を超えていた。

 四楓院夜一にとってそれはここ100年以上、隊長となってから初めての経験だった。

 『瞬神』夜一。 

 その名は尸魂界最速の死神であるが故に呼ばれる名であったのだから。

 

「っ……砕蜂、ここまでとはな……!」

 

「これまでです」

 

 かつての師を超え、砕蜂は言い放つ。

 

「100年前、私は貴女に守られるだけだった。ですが、もう違う。―――私はもう、夜一様に守られるほど弱くありません」

 

「はっ……言ってくれおる。素直に超えたと言えばいいものを」

 

 ふら付きながら体を起こすが、膝立ちで止まる。

 右腕は痛々しく垂れ、左手で脇腹を押さえずにはいられなかった。

 夜一は思わず笑ってしまう。

 在りし日、いつか超えられると思っていた。いつか超えて欲しいとも。

 だが死んだと思って、生きていたかと思えば既に超えられていたなんて。

 

「まったく……人生何が起きるか解らんもんじゃ」

 

「えぇ。そしてこれからも人生は驚きに満ちています」

 

 夜一の心臓を止めかねない爆弾発言を控えている砕蜂がしたり顔で頷いた。

 その顔に、夜一はもう一度笑い、

 

「―――だが、まだじゃ砕蜂。護廷十三隊二番隊隊長として、かつての弟子に超えられたからと言って、為す術もなく敗北などできるか」

 

 一度、目を伏せ――――腰の後ろに隠し持っていた斬魄刀を引き抜いた。

 

「!?」

 

 その斬魄刀に砕蜂も驚き目を見張る。

 形状はいわゆるドス、鍔もない短刀だった。

 そしてそれは初めて見る夜一の斬魄刀だ。彼女も十三隊の隊長であるなら卍解を習得しているのは当然だが、しかしこの女傑、卍解するより瞬閧状態で殴った方が強いというとんでも理論の持ち主なのだから。

 無論、砕蜂はそして弟の宵丸でさえも卍解どころか始解さえ見たことなかった。

 それが今、解き放たれる。

 

『卍解―――――』

 

 滲み出るように夜一から霊圧が解き放たれる。

 瞬閧のように弾けるのではなく、太陽が落ちるかのように静かに。

 

『――――――――夜舞夜天魔帳(やまいやてんまとばり)

 

 刹那、砕蜂の視界が漆黒に染まり――――その卍解の名は背後、耳元から囁かれた。

 

「っ――!?」

 

 意識は逸らさなかった。

 寧ろ神経の全てを注いでいた。それにも関わらず、砕蜂の近くを超えて、いつの間にか背後から夜一が抱きしめるように現れていたのだ。

 耳への声に反射的に肘を叩き込むが、空振りする。 

 確かに一瞬前まで自分に触れていたはずの夜一はどこにもいない。

 いや、その上先ほどまで林の中で戦っていたのに視界一面漆黒に染まっている。

 光がほとんどない。

 砕蜂から放たれる霊圧が光を放っているが、それだけだ。

 そして、声はどこからともなく聞こえてくる。

 

「儂の卍解は正直言って儂にあっておらん」

 

「えぇ!? 卍解なのに!?」

 

「儂の卍解は結界系にあたるものじゃ」

 

 砕蜂の渾身のボケはスルーされた。

 ついでに身に纏う雀蜂が喚きだしたが、それはそれでスルーして夜一の言葉に耳を傾ける。

 

「卍解と同時に展開する影の結界内における任意の影渡り。始解時点で影間の移動を行うものの上位版なんじゃが……まあ、儂にとっては瞬歩移動した方が速いから使うことがまぁないんじゃなこれが」

 

 だが、

 

「―――主は儂より速い」

 

 それまで誰よりも速かった死神は、そのことを認める。

 

「この卍解は自分よりも速い相手に使わねば意味がない。意味がないというか、それよりも瞬閧で殴った方が楽じゃ。じゃが―――主相手であれば、使う意味がある」

 

「―――がっ!?」

 

 言い切ったと同時に、砕蜂の首に夜一の両手が伸び、首を極められる。

 死神では使う者が少ない締め技だ。

 自分の首を極めている夜一の腕を掴み、ズラそうとするが流石と言うべきかその締め技は完璧の一言だった。

 首と腕の隙間に、指を喰いこませるように差し込もうとするがまるで入らない。

 筋肉で抵抗するが、大した効果がないのは砕蜂自身が認識していた。そして、この接触距離では瞬閧纏装の効果も薄い。莫大な加速を生むが、同時にそれはある程度の距離を必要とするからだ。

 そして首だけではなく、砕蜂よりも長い脚を巧みに使うことで足の動きも制限される。

 瞬閧の要領で霊圧を背から発するが、

 

「甘いわ……!」

 

 同じく瞬閧により鬼道を全身から発することで相殺し、締めは緩まない。

 

「っ……ぎっ……!」

 

「主は儂より速い――だが、負けるわけにはいかん! このまま締め落として牢に放り込み、全てが終わった後に宵丸共々話を聞いてやろう!」

 

 零距離において、人間の構造的に思った以上に力が出ない。それは死神だろうとそれは同じことだ。どれだけ鍛錬を重ねたとしても、完璧に決まった締め技というのはどうしようもないのだ。

 

「100年前何があったのか! この100年間何をして、何故今になって顔を出したかを―――!」

 

「―――っ」

 

 落ちたと、夜一は思った。 

 実際、夜一の腕を握りしめていた砕蜂の手から力が抜けた。

 そして、その手は彼女の顔。右頬へ。

 左の中指が頬に触れ、静かに滑らし、

 

「――――――――」

 

 ――――――――――閃光と共に夜の帳が消し飛んだ。

 

 

 

 

 

 

「――――なんじゃ、今のは」

 

 卍解を無理やりに消し飛ばされ、原形を残せなかった林にあお向けに倒れた夜一は静かに問いかけた。

 その隣、膝を立てて座る砕蜂は苦虫を噛み潰した顔で応えない。

 それは彼女にとって奥の手であり、本当はこんなところで使うつもりもなかった。だが、まさかの夜一の卍解で使わざるを得なかったのだ。

 

「……まぁ、良い。それが顔を出さなかった理由なわけか」

 

「えぇ、まぁ。それが全てではないですけど」

 

「そうか」

 

 夜一は息を吐き、目を閉じる。

 そして目を開けた時、彼女は自分でも不思議になるが、口元には笑みが浮かんでいた。

 

「儂の負けじゃ。……強くなったな、砕蜂」

 

「…………」

 

 思わず、砕蜂は泣きそうになった。

 かつて憧れ、目標として追い続けた人にそう言ってもらえたから。

 思っていた道のりとは随分と変わってしまったけれど、それでも一つ夢が叶ったのだ。

 

「……あの旅禍を鍛えたのは主と宵丸じゃろう。四楓院の家に封印してた転神体と双極破壊の秘具が消えていた」

 

「はい。宵丸が三日前くらいに四楓院家に忍び込んで回収していました」

 

「生家に盗みに入るとはのぅ」

 

「生家なので盗みではないでしょう」

 

「かっかっか、言いよる」

 

 声を上げて笑う。

 そんなことは100年振りだった。

 

「白哉坊は強いぞ。主が知る100年前よりもずっと」

 

「えぇ。……ですがまぁ、一護も捨てたものじゃないです。私と宵丸の弟子ですから」

 

「ほうほう、なんとまぁ……確かに大した霊圧じゃった」

 

 息を吐き、身体の力を抜く。

 肩の荷が下りたようだった。状況はまるで好転していないが、何故だか安心してしまったのだ。ずっと宵丸と砕蜂の死を引きずって生きてきた。だけど二人は生きていて、自分を超えていたのだから。

 引退時かと素直に思った。

 夜一には解らないが、砕蜂たちには考えがある。

 であれば、どうにかこうにか上手くいって、二番隊隊長も彼女に譲りたい所だ。

 

「それで? この後はどうするつもりじゃ?」

 

「そうですね……」

 

 砕蜂は顔を上げ、双極の方を眺める。

 まだそこには白哉と一護の霊圧がぶつかり合っていた。

 感じる規模から既に互いに卍解している。

 決着はそう遠くないだろう。

 尸魂界各地からも大きな霊圧がぶつかりあっており、戦いが佳境を迎えていることが分かった。

 

「……今は一度体を休めます。浦原喜助の想定通りなら、ここからが正念場ですから」

 

「―――――――喜助は」

 

「なんですかその―――は。え? 夜一様はあのくそ野郎と結婚とかしませんよね?」

 

「どういう飛躍じゃ!? そんなわけあるかっ!」

 

 否定するが、しかし一瞬で夜一の顔が真っ赤に染まった。

 うっそんと、砕蜂は思わず頭を抱える。

 あんな男のどこが良いんだろうか。

 確かに頭は良いし強いし、何でも作れるが如何せん性格というか性根が最悪だ。

 

「あんな男を義兄と呼びたくない……」

 

「いやだからそういうのでは―――――――ん? 義兄?」

 

「あっ。そうです。落ち着いたので言いますが、私と宵丸はこの一件が片付いたら結婚しますお義姉様」

 

「…………………………」

 

 夜一の目が点になった。

 数秒、沈黙。

 風が吹き、

 

「えっ?」

 

「だから、私と宵丸は結婚します。この前プロポーズを……ええと、婚約を済ませました。後はもう式を挙げるだけですね」

 

「えっ?」

 

「この100年現世でいちゃこら婚前旅行と長かったですがようやくです。子供は頑張って作るので期待しててくださいね」

 

「えっ?」

 

「夜一様」

 

「えっ?」

 

「おや、キャラ崩壊……?」

 

「いや、お主だけには言われたくない。拾わんかったがお主なんか言動おかしくないか?」

 

「いえ、現世ではこれが普通です」

 

「現世マジか……」

 

 現世出身の旅禍組が聞けばブチギレそうなことを当たり前のように砕蜂は言った。

 こんな女三界のどこにもいない。

 

「というわけで夜一様はこれからお義姉様というわけです」

 

 にっこりと、100年前は絶対浮かべなかったどや顔と笑顔を混ぜたような顔に、夜一思わず思ったことが口に出た。

 

「今のお主はなんか妹にはしたくないのぅ」

 

「えぇ!?」

 

 




『夜舞夜天魔帳/やまいやてんまとばり』
四楓院夜一の卍解
発動と同時に結界を展開し、その中において任意の場所タイミングで移動を可能。結界内限定の瞬間移動―――なのだが、尸魂界に夜一よりも速い死神も虚もいないので瞬歩で背後取って殴った方が速いせいではっきり言ってあまり使い道もない。使い方を工夫すればそれなりに有用なのだが、やっぱり殴った方が速い。
微妙に東仙要の卍解と被ってるしなぁ、というのが本人の弁。

折角なのでねつ造卍解。
名前のオサレ度全振り。
夜一さんの卍解じゃなかったら結構強い。


砕蜂の斬魄刀についての私見ですが、
始解は良いと思うんですよね。
破面編で愛染に打ち込んだシーンの砕蜂が美しすぎるし、刑戦装束エロいし。まぁ二撃決殺もよかろう。

卍解の弱砲は悪く無いんですが、如何せん砕蜂との相性が駄目。
あとあれ使ってる時刑戦装束にならないのでマイナス5000兆点。
二撃決殺からの一撃必殺はいいんですけど、にしたって三日に一回が基本とかいまいちすぎますよね。

まぁハゲの卍解よりましだけど。

このss書くために一応原作読んでるんですが、砕蜂がマジでまともな勝利がバラガンの手下くらいしかなくて草。
ほんと可愛さに全振りした子ですよ。
好き。

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The Treasure

富める者よ、その財を確かに抱えるべし。
あなたが実らせた果実は夢に等しい。

貧しき者よ、確かに胸を張り前へ進むべし。
あなたには無限の地平が待っている。

そこに優劣はなく、されど優劣をつけるが故に、
我らはみな等しく奴隷なのだ。


 

 中央四十六室。

 尸魂界における最高司法機関。朽木ルキアの処刑もここで行われ、護廷十三隊もまた彼らの決定に従うことが掟とされている。 

 その言わば裁判所の玄関口。

 全身を黒の外套で覆った人影が歩みを進めていた。

 急ぐ様子もなく、悠々とした足取りは隠れる様子もない。

 それは当然、その人影――――四楓院宵丸はいくつかの要素で他人に認識されない状況だったから。まず外套は浦原喜助による霊圧を完全に遮断するもの。それにより霊圧探知を逃れ、その上で視覚的、聴覚的な隠ぺいを鬼道によって施している。

 仮にこの場にどれだけ人がいたとしても、誰も今の宵丸に気づきはしないだろう。

 欠点はあまり速く動き過ぎると隠形鬼道が解けてしまうので移動に時間がかかること。

 だがその分精度は折り紙付きで、この数日間宵丸は尸魂界内を暗躍していたわけだが、

 

「――――ここから先は通行止めやで」

 

 突如瞬歩にて宵丸の前に男が現れた。

 白髪糸目、死覇装の上に隊長羽織。背に冠したのは三の文字。

 護廷十三隊三番隊隊長であるその男は、

 

「ギンか」

 

「おひさしゅう、宵丸さん」

 

 完璧だったはずの隠形に、しかし宵丸は然程驚かずに外套のフードを外して息を吐く。およそ100年振り近い再会。

 宵丸からすれば―――ついに見えた敵の一人だ。

 しかし、動揺も激昂もなく、

 

「なんで分かった?」

 

「その外套、浦原喜助のもんでしょ。それとおんなじもんを置いていったからなぁ。僕らも随分便利させてもらったんよ。だから、その探り方くらい解るわけ」

 

「あぁ、なるほど」

 

 肩をすくめて納得する。

 宵丸の隠形は彼の鬼道と喜助製の霊圧遮断によるものだから、どちらかが看破されていたのなら見破るのもわけないだろう。

 視線がぶつかる。

 目を細めにらみつける宵丸に、元々糸目なギン。

 面識はあった、どころではない。

 かつて鬼道衆に身を置いていた宵丸だが、夜一や砕蜂、白哉、喜助と十三隊に親交が深い者が多くいたので顔を出すことは少なくなかった。 

 だから当時まだ幼いながら十三隊に席官として入隊したギンとは何度か顔を合わせていたのだ。白哉や砕蜂とはあまり馬が合わなかったが、宵丸とは何故か不思議と仲が良かった。

 兄弟のようと、砕蜂が呼ぶくらいには。

 だがそれも昔の話。

 四楓院宵丸にとって市丸ギンは自分たちを陥れた一味の一人だ。

 

「その奥に」

 

 区切るように、噛みしめるように宵丸が言葉を吐く。

 

「――――藍染がいるな?」

 

 藍染惣右介。

 護廷十三隊五番隊隊長。

 一癖も二癖もある隊長格において最も人格者と言われた男は、しかして宵丸たちを尸魂界から追いやった張本人だ。

 その男を倒すために宵丸は、砕蜂は、喜助は、シンジたちは、100年間準備してきた。

 故にそれは質問ではなく確認だ。

 

「うん、おるで」

 

 ことも何気にギンは頷く。

 ギンはどこまでも自然体だ。

 友人と世間話をしている風合いで宵丸と向き合う。しかし同時に彼には隙はまるでなかった。

 四十六室が愛染の手に落ちているのは想像できていた。さらに他にやることがあったから後回しにしてた。

 ここに来たのは最後の確認だった。

 

「んでも今ちょっと取り込み中なんで、宵丸さんの相手は僕にさせてほしいんよ。な? ええやろ。僕も宵丸さんに聞きたいことあったし、久しぶりなわけやし」

 

「聞きたいこと?」

 

「100年前」

 

 にへらと、ギンは笑う。

 

「あの時、僕らは宵丸さんと砕蜂さんが死んだと思うてたんよ。あの時平子隊長さんらが居たとこにはちゃーんと二人の衣服もあった。やから、虚化に耐え切れずに死んだ思うてたんよね」

 

 だけど、

 

「その直後四十六室で審議受けていた浦原喜助と握菱鉄裁がなにもんかに助けられた。ずっと不思議やったんよな。助けそうな四楓院夜一さんは手を回して謹慎させてた。他に候補はおらんくて、僕も藍染隊長もそこだけは解らんかった。……まぁ、藍染隊長は砕蜂ちゃんが瀞霊廷に現れてピンと来てたみたいやけど、僕には教えてくれんかったんよなぁ」

 

「あぁ、そんなことか」

 

 問いかけに対して、肩をすくめる。

 

「確かにあの時、俺と砕蜂も虚化に巻き込まれた。シンジさんたちと同じような症状も出たさ。さて、ここで問題。俺の鬼道の師は?」

 

「握菱鉄裁さんやろ? あの人も元気ぃ?」

 

「エプロンが似合うようになってしまった……元気だ。続いての問題。師は何の容疑で尸魂界を追われた?」

 

「そらぁ、禁術の―――――あぁ」

 

 ギンが微かに目を開いた。

 

時間停止(・・・・)空間転移(・・・・)

 

 かつて虚化により死にかけた平子シンジたちを喜助が助けるには時間があまりにもなかったし、あの時は流魂街の何もない所だった。故に鉄裁は禁術を用い時間を止め虚化の進行を抑え、空間転移で喜助の研究室に運んだのだ。

 

「おっどろいたぁ。そんなことまでできたんか宵丸さん。言ってくれへんかったやん」

 

「言うかよ。当時は姉上も喜助さんも、シャオだって知らなかった。鉄裁師との約束で誰にも言わなかったし……そも、俺のは不完全だった」

 

 思わず顔が歪む。

 それは100年前の後悔だ。

 あの時、宵丸が鉄裁のように大人数の時間停止を可能としていたのならシンジたちの顛末はもっと違うものになっていただろうし、長距離の転移が可能であれば助けを借りに行けたのに。

 結果的にシンジたちを見捨てる形になってしまったこともまた悔いても悔やみきれない。

 

「俺の時間停止は二人が限界で、転移距離もたかが知れてる。あの場からある程度離脱するのが精いっぱいだった。おかげで虚化は最初期段階で抑えられて、シンジさんみたいにはならなかったけどな」

 

「あら? じゃー虚化してないん?」

 

「あぁ」

 

「なーんだ。でもあれ、服があったのは?」

 

「あ? 転移する時に脱いだに決まってるだろ」

 

「なんでまた」

 

「なんでって」

 

 問われたことに、首を傾げる。

 

「―――あれは罠だった」

 

「せやな。藍染隊長の罠って解ってたん?」

 

「いや全く。正直びっくりしたよ。俺も全然疑ってなかった。隠れて見てたけど正直信じられなかったさ。鉄裁師の破道が全然効いてなかったりしたしな」

 

 ただ、

 

「あれが誰かの罠なのは明確だった。そして俺たちはそれに嵌った。―――だったら、そいつらを欺くために死んだと思わせるのは当然だろう」

 

 材料は揃っていたのだ。

 敵がいる。罠だった。そして死亡すれば体が融けたかのように衣服だけが残る。

 時間停止で自分と砕蜂の虚化を止めて、服を残せば死んだと思わせられる。

 ただ、それだけの状況判断だ。

 

「後は簡単だ。時間止めたまま瀞霊廷戻って、四十六室から喜助さんと鉄裁師を救出して、俺と砕蜂の治療もしてもらって現世に逃げた。それだけだよ」

 

 ことも何気に宵丸は肩をすくめる。 

 

「――――怖いなぁ」

 

 けれど、ギンの様子は違った。

 微かに開いた薄い灰色交じりの水色の瞳が宵丸を貫く。

 

「藍染隊長は」

 

 瞳は開いたまま、口元に笑みを張りつけながらギンは言葉を紡ぐ。

 

「別に宵丸さんや砕蜂ちゃんを危険視してなかった。あの人が警戒してるのは浦原喜助と山本総隊長くらいやろな。実際、それだけの力が藍染隊長にはある。んだけどね、宵丸さん。―――僕が一番怖いのは宵丸さんなんよな」

 

「……なんでまた」

 

「んー、藍染隊長は強いし、頭もいい。今やって全部藍染隊長の計画通りや。何もかも、あの人の掌の上で踊ってる。浦原喜助も山本総隊長もな。やけど、宵丸さんと砕蜂ちゃんはちゃうやん? 例えそれが偶然であってもや」

 

「なるほど、そりゃあ光栄だ」

 

 ギンの言葉を宵丸は適当に受け流す。

 正直警戒されていいことはない。おまけにその警戒に至った原因がほとんど偶然であり、宵丸自身に忸怩たるものがあったのだから。

 

「んで、僕は聞きたいこと聞けたから良いんやけど、やっぱ宵丸さんはここ通りたいん?」

 

「いや、別に」

 

「あら?」

 

 意外そうにギンは首を傾げる。

 

「俺がここに来たのは藍染に会いに来たわけじゃないよ。いや、遭遇するための準備はしてきたけどな。ただ、ここに藍染がいる。だったら、お前もいるだろうと思ったんだ」

 

「ん」

 

「俺はなギン、お前にどうしても聞きたいことがあったんだ」

 

 今度は宵丸の琥珀の目がギンを貫く番だった。

 ギンもまた笑みを消した。

 

「なぁ、おい。ギン。なんでお前は藍染の下に付いてるんだ?」

 

 それがずっと宵丸には解らなかった。

 

「藍染の動機はもうどうでもいい。東仙もな。あんまアイツのこと知らないし、だけどギン。お前は違う。100年前、俺はお前のことを友達だと思ってたんだぜ」

 

「――――あぁ」

 

 問いかけにギンは息を吐いた。

 困ったように笑みを浮かべ、

 

「んー、僕の理由か。まぁそりゃああるけど。ちなみに、それ聞いたらどうするつもりなん? 僕のこと許してくれたり?」

 

「それは別だろ。理由を聞きたいのは俺の納得の為だ。聞いたら聞いたでぶっ倒す。捕縛できるなら十三隊に引き渡すし、無理なら殺す。それが俺のせめてもの友情だ」

 

「あはは、なるほどなぁ」

 

 ぽんと、ギンは手を叩いた。

 

「ほなら、秘密ということで。僕を捕まえるなり殺すなりしたら、教えたげる」

 

「殺したら聞けねーじゃねーか」

 

「ほら、あれ。最後の言葉的に。雰囲気あるやん」

 

「相変わらず緊張感ないやつめ」

 

 息を吐く。

 解っていたことだ。言ったように理由は聞きたかったが戦うつもりだ。心はそう望まないけれど、もう決めたことなのだから。戦って、聞きだすしかない。

 ギンの始解は知っている。卍解は知らないが向こうも同じ。

 

「あぁでも一言言うのなら」

 

 斬魄刀を引き抜き、構えは取らずギンはつぶやく。

 

「僕はその理由の為に、死神になったんよ」

 

「そうかい。なら、余計に聞きたくなった」

 

 宵丸もまた斬魄刀を腰から引き抜く。

 本当は嫌だ。

 ギンのことを宵丸は好きだったから。

 戦うよりも砕蜂に会いたいと素直に思う。

 そもそもこの3日ほどまるで砕蜂との時間を過ごせていない。姿を消して四楓院家に忍び込んで双極破壊の為の秘具を持ち出し、封印を時間かけて解放し、それを十四郎に渡して、味方になってくれる春水にも説明して、さらには四番隊に侵入し藍染の死体を調べ、その藍染の死体に疑問視を持っていた卯ノ花烈に事情を話した。宵丸に信頼できるのはこの3人だけ。元柳斎は説得できないだろうし、他の隊長は誰が敵なのか解らない。夜一を説得したかったが、事情を話せばすぐさま藍染を探し始めかねないから説得は砕蜂に任せることになった。

 砕蜂は砕蜂で一護の卍解習得に付き合っていたから余裕もなかった。

 新妻を放っておいて何してるんだろう。

 深刻なシャオ成分が欠乏症だ。

 砕蜂が宵丸成分がどうこう言っていたが、今は気持ちが滅茶苦茶解る。今すぐハグしてキスしてその先もしたい。姉に改めて結婚報告して式もしたいし、現世でいう欧風式の結婚式もして砕蜂にウェディングドレスも着て欲しい。

 絶対可愛い。

 可愛いし強い。俺の嫁は最強か?

 等と思うがそれは押し殺す。

 言葉は最早なく、霊圧が高まり、緊張が張り詰め、

 

「あ、もう一個聞きたいことあったわ」

 

「……緊張感ないなほんと! なんだ!」

 

「砕蜂ちゃんとはちゃんと結ばれたん?」

 

「結婚するよ! お前ら斃したらな! 早く会ってイチャイチャしたいわ!」

 

「あらぁ。それはおめっとさん」

 

 ぱちぱちと斬魄刀を握ったままに手を叩く。

 

「いやぁよかった。それはちょいと気になってたんよ。宵丸さん、100年前から砕蜂ちゃんのこと好きやったろ?」

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

 二人の時が止まった。

 そしてギンはらしくもなく汗を流し、

 

「…………あれ? 自分の気持ち気づいてなかったん?」

 

「いや、待て。え? 俺そんな感じだった? 別に昔はそう思ってなかったと思うんだけど」

 

「いやぁそれは厳しいで。基本二人一緒だったし。お堅い砕蜂ちゃん揶揄っていい笑顔だったし。シャオシャオって一人だけ呼んでたし」

 

「まじかー」

 

 100年間越しに気づく事実に思わず頭を抱えたくなった。

 いやでも、その100年で砕蜂は完全に別人になったし。

 

「僕と貧乳がいいか巨乳がいいかめっちゃ喧嘩したやん」

 

「それは! 別にシャオは関係……関係なくもないと今となっては思うが! 懐かしいな! まだ巨乳派かお前は!」

 

「いやー、やって貧乳好きとか完全ロリコンやん。僕そういうのはちょっと」

 

「はぁ? 巨乳とかただの脂肪の塊だろ」

 

 視線がぶつかった。

 

「なぁなぁ宵さん。100年経っても寝ぼけてるん? 脂肪の塊て。そういう話やないやろ? 男は皆おっきいおっぱい大好きや。大は小を兼ねる言うやろ?」

 

「おいおいギン坊。巨乳好きで知能が脂肪に行ったのか? あんなん無駄でしかないだろ。機能美の欠片もない。空気抵抗も凄そうだし、絶対頭に行くべきものが、乳に無駄に溜まってるぜ」

 

「おー」

 

 ギンの額に青筋が浮かんだ。

 

「今全世界の巨乳の子を敵に回したで?」

 

「はー? お前がそんなん気にするタマかぁ? ……あぁなんかいたよな。お前を追いかけて死神になった子。あの子胸大きかったもんな。んん? ははぁ、なんだよお前はそういうことか?」

 

「ややなぁ宵さん。下品な顔や。そういう宵さんこそ今の砕蜂ちゃん惚れてるとか性癖ねじ曲がってるんちゃう? あの子大分頭おかしくなってんのに。あ、ぺちゃんこは相変わらずやったね。貧しくて見てるこっちが泣きそうやわ」

 

「あっはっはっは!」

 

「あははははははは」

 

 笑って。

 

「――――――卍解ッッッ!」

 

 両者共に、霊圧を解放し卍解を行使した。

 

『―――――――神殺鎗』

 

 その卍解の基本性能は刀身が伸びる。ただそれだけのもの。だが脅威はその速度。凡そ熟練の死神だろうと認識不可能な伸縮速度であり、さらにその強度も損なわれない。

 シンプルを極めたが故にどうしようもない、最速の斬魄刀だ。

 卍解自体に刀身の変化や武装の追加もない故に、卍解と同時に攻撃できるのまた脅威。

 刀身の伸縮は文字通り神速。

 それを宵丸にも認識できず、

 

「――――――」

 

 しかして、ギンは目を見開いた。

 超神速で伸ばした神殺鎗。それが――――9枚の薄い壁に突き刺さり、止まっていたから。

 いや、突き刺さっているのではない。刀身を阻むように、その壁が止めているのだ。

 それをギンは知っていた。

 縛道の八十一、断空。

 それは解る。だが、おかしいことが一点。

 四楓院宵丸は断空を使う時間などなかったはず。鬼道の発動において効力は下がるが詠唱破棄を行うことはできる。だが、使う鬼道の宣言無しに発動はできない。

 それが鬼道の大原則だ。

 

『――――――七曜輪廻』

 

 だが、宵丸の卍解はそれを無視していた。

 卍解の発動に際して、死覇装もまた変化している。それまでの死覇装の上から現世でいう黒のロングコート。そして小太刀だった斬魄刀も大きく形が変わっている。

 二刀が柄でくっついたような両刃剣であり、その柄の部分では円環状の刃が刃同士を繋いでいる。刀というよりは祭具のようにも見える斬魄刀だった。

 

「伸びる速度が速くなる卍解か。怖いな。何されるか解らんなくて展開した断空が9枚貫通されるとは」

 

「いやぁその9枚に止められてるやん」

 

「止めなきゃ死ぬわ」

 

 言って、宵丸は指と手首の動きで環刃をくるりと回し、

 

「―――――あらぁ?」

 

 宵丸の背後、大きな光の矢が無数に展開された。

 そもギンは知っている。

 破道の九十一、千手皎天汰炮。

 

「俺の卍解も、まぁシンプルだ」

 

 環刃を眼前に構え、紡ぐのは宵丸の卍解『七曜輪廻』。

 その能力は、

 

「俺の使用可能な鬼道を発動宣言破棄(・・・・・・)で使用可能だ(・・・・・・)。勿論、完全詠唱の威力で」

 

「……宵さんってどこまで使えたっけ?」

 

「破道も縛道も九十九まで使えるぞ、回道は普通だけど」

 

「―――――やっぱ怖いわぁ」

 

 光の矢が、ギンへと殺到する。

 

 




男はみんなおっぱいの奴隷。
ギンさん絶対巨乳派ですよね。

『七曜輪廻』
衣服が変わるタイプの卍解。
使用可能な鬼道の完全詠唱効果での発動宣言破棄。
発動の度に環刃を一度回す必要あり。
これを知った喜助と鉄裁曰く、鬼道系斬魄刀の極北。
ただし犠牲鬼道や霊脈が必要なものはちゃんと条件が必要。

超強いと思うんですけど、名前叫ばないのでオサレ度が低いから致命的だと思う。
ビジュアルイメージ的にはP4のイザナギオオカミのあれ。

砕蜂が出てこないのでいまいち難産でした。
主人公よりも砕蜂書きたい~~

週刊1位頂きました、ありがとうございます。

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Snake eye

君が鳥のように空を飛び、僕は蛇のように地を這っているのなら

人を喰らうこの口で、空を飛びたいと言ったとしたら

君は手を指し伸ばしてくれるだろう。

ただ僕はその時、その手を取れるだろうか。


 四十六室の地上部建物が一瞬で消し飛んだ。

 はじけ飛ぶ瓦礫と閃光は瀞霊廷中からも確認できるほどの規模だった。

 

「くっ……!」

 

 立ち上る土煙から飛び出したギンの死覇装の左腕の袖が焼けこげ、腕にも傷を負っている。

 破道の九十一、千手皎天汰炮を正面から受けてそれで済んだのだからむしろ僥倖と言えるだろう。

 地面を削りながら着地し、行き着く暇もなく見上げた先に、

 

「うおっ!」

 

 直径十数メートルはある巨大な氷柱が迫っていた。破道の六十二・氷世啼(こよなき)

 そしてそれだけはない。

 今だ土煙が離れない視界の中、しかし発せられる霊圧がその存在を教える。

 環刃を回した四楓院宵丸。そして、もう一度。

 

「!」

 

 ギンの体を光の帯が六つ、突き刺さり上半身の動きを拘束する。

 縛道の六十一・六杖光牢。

 汎用性の高い高位の縛道で使い手も多いもの。

 動けず、頭上には巨大な氷。

 何もしなければギンは氷柱に打ちのめされ、氷漬けだ。

 だから、ギンは拘束されながらも動きを止めなかった。六杖光牢の拘束は肘の位置。勿論同時に肉体の動きすらも阻害するが、霊圧によりある程度抵抗はできる。故に霊圧を刀を握る左手に集中し、脇指しを振るい―――――超伸縮した刃が氷柱を両断した。

 同じ要領で六杖光牢の帯も貫き断つ。

 それらの一連の行動に必要としたのはコンマ数秒以下の一瞬の出来事だった。

 そして霊圧感知に従い、切先を宵丸に向ける。

 ――――神速。

 音さえ置き去りにして神殺槍が宵丸へと延びる。

 その速度は宵丸でさえ認識できないものであり、文字通りの必殺だ。

 

「おっ?」

 

 だが、その神速を抜いたギンは予想外のことに目を微かに開いた。

 神殺槍が伸びた軌道上、宵丸の三メートルほど手前で何もない空間が小さく爆発した。その爆発が軌道をわずかにずらし、

 

「っと!」

 

 環刃で受け流し、右肩をわずかに切り裂くのみでダメージを抑える。

 

「あれま、驚いた。まさか二度目で対応されるとは」

 

「見えないほどの攻撃って、シャオだって同じだから。あいつの本気の速度は俺にも目視できない。こいつぁその対策でくみ上げたもんだ」

 

「んー、伏火と曲光?」

 

「惜しい。伏火を周囲に張り巡らして、曲光で隠してるのは正解だ。その上で灰縄を自分の体に繋いで、伏火に何かが触れて爆発したと同時に自分の体を自動で動かしてるわけだ」

 

「はえー、ほんま宵さんは鬼道の組み合わせが凄すぎてきもいわぁ。頭どーなってるん? 貧乳拗らせるとそうなるんか?」

 

「巨乳で窒息して死ね!」

 

 罵倒と共に環刃で回転。

 同時、ギンを囲むように漆黒の壁が空間を歪めながら覆っていく。

 展開した鬼道は破道の九十・黒棺。生み出した直方体の中を超重力子の氾濫で押しつぶす極めて破壊力の高い鬼道。扱いが難しく、発動に代償や条件が必要となる九十番台ではまだ使いやすい類であり、相手を黒棺が囲むので逃げ場を無くせる。

 

「―――――舞踊旋刃」

 

 黒棺が一瞬で細切れにされた。

 砕け散る黒片の中、にへらと笑みを浮かべたギンの手に斬魄刀はない。手から鬼道でできた紐が伸び、それが斬魄刀に結び付いている。その紐を振り回しながら神殺槍の刃を伸ばして黒棺を微塵に断ったのだ。

 

「……お前、そんなことできたのか」

 

「ただ使うんやなくて頭使うて使えゆうたのは宵さんやろ。僕の頭は巨乳のように知識が詰まっとるでのぅ」

 

「詰まってるのは無駄だ」

 

「舞踏連刃!」

 

 向けられた切先から超神速の伸縮が連続した。

 言葉にすればただそれだけが、しかしその殺傷能力の高さは異常だ。黒棺をも断つ威力と強度。それが連続する殺意の暴力。

 少なくとも本来軽口の応酬に繰り出す技ではないがギンには特に躊躇いはなかった。

 同時に宵丸も動いていた。ギンに斬魄刀の切先を向けられるよりも速く。

 

「縛道の八十一、断空!」

 

 卍解の能力を用いない鬼道の発動。断空が出現したと同時に神殺槍の刃が到達する。断空が持ったのは一瞬にも満たない刹那だった。だがその刹那の間に環刃を回し宣告無視発動の準備を完了させる。

 宵丸の卍解は宣告無視の詠唱破棄も強力だが、しかし環刃の回転を必要とする。

 故にこの動きだけは鍛錬に鍛錬を重ねたのだ。

 そして、

 

「二位一道――――断空雷吼」

 

 舞踏の刃に砕かれた防護壁が―――雷撃となって爆発する。

 

「ぬっわ!?」

 

 驚きながら瞬歩で思わず大きく飛び退く。

 断空も雷吼砲も知っている。だが今のは知らない。 

 警戒し、攻撃の手を控え宵丸を見据える。

 

「――――鬼道の融合?」

 

 鬼道の技術は様々だ。詠唱破棄や後述詠唱、平行詠唱等々。だが、一つ一つの鬼道を融合させ、一つのものとするなんてことをギンをしても聞いたことはない。

 いや、それに挑戦しようという話は聞いたことある。

 護廷十三隊とは別枠の鬼道衆という組織がある。

 かつては鬼道を用いた十三隊に並ぶ組織だったが、100年前総帥と副総帥、総帥補佐を失ってからは戦闘集団ではなく研究機関に様変わりしていた。

 そこでは様々な鬼道の使い方や簡易化をその道のスペシャリストが日々研究をしているのだが、

 

「あかんなぁ。鬼道衆はぼんくらやん。雁首揃えて机に向こうても、宵さん一人にも及ばん」

 

「いや、喜助さんや鉄裁師もいたからなー」

 

 ぼやきながら環刃を一度回し、

 

「三位一道―――斬嵐蒼火輪」

 

 蒼い炎が竜巻となって吹き荒れ、その中に霊圧の斬撃が織り込まれる。

 蒼火墜、闐嵐、斬華輪の融合鬼道。

 四楓院宵丸が編み出した鬼道融合、『複位一道』。

 二つ以上の鬼道を組み合わせるそれは本来であれば尸魂界史上誰も為したことのないもの。宵丸もかつて鬼道衆に在籍していた時は研究していたが実現できず、しかして卍解の習得と練度の上昇により実現したものだ。

 

「あっついあっつい!」

 

 疎まし気にギンが斬魄刀を三度振るい、融合鬼道をぶった切る。

 

「―――はっ、底が見えたぞギン坊」

 

 神殺槍。

 宵丸からすれば恐ろしいのはその手軽さだ。

 あまりにも伸縮が速いが故に軽く振るだけで広範囲への殲滅攻撃になる。恐ろしいのはどれだけ伸ばしても強度が劣化していない。おそらく卍解として派手さがない分リソースが強度に注がれているのだろう。完全発動前とはいえ黒棺をみじん切りにするだけの強度は恐ろしい。

 圧倒的な無駄の無さ。

 必要なもの以外をそぎ落とした無頼武骨の機能美。

 即ち、

 

「お前のその機能美こそ、貧乳を認めている発露……!」

 

「はぁー?」

 

 やれやれとギンが両手を広げ、空を仰いだ。

 

「宵さんこそなんやその盛り過ぎ卍解は。宣告無視に自作の融合鬼道て。おまけに九十番台をぽんぽんと。僕の考えた最強斬魄刀かいな。――――巨乳のように盛りまくりや」

 

「はっはっは」

 

「あっはっは」

 

 宵丸が飛び退くよりも先に、ギンの全力の瞬歩が刃を届かせた。 

 脇指しと環刃が鍔迫り合う。

 

「宵さんの卍解、近接はあかんなぁ。斬術がいまいちなのも相変わらずや」

 

「はっ……! 瞬歩の腕が随分と上がったな!」

 

「宵さんがコツを教えてくれたやん?」

 

 至近距離、互いの卍解の能力が意味をなさない間合いで刃を交え合う。

 宵丸は鬼道の発動に環刃の回転を伴うが、それを既にギンは見抜いている。脇差しサイズという振り回しやすい形状を活かして環刃を回させず、距離を取らせないように絶妙に誘導しながら切り結ぶ。

 宵丸の斬術の腕ははっきり言ってまるでダメだ。

 これは砕蜂が生暖かい笑顔で慰め、喜助も目をそらし、鉄裁が鬼道があるからいいじゃんと励ますレベル。並みの隊士よりはましというレベルで隊長格には相手にならない。

 対してギンは斬拳走鬼、オールマイティに高い。

 至近距離で斬術のみで戦えば、当然のように宵丸は押されてしまう。

 

「舐めるなよ……!」

 

 だが、斬術の拙さの対策を宵丸がしてないわけがないのだ。

 ギンの斬撃に弾かれたまま、逆らわず―――七曜から手首のスナップを効かせて環刃を放る。

 死神にとって半身である斬魄刀から手放すという場合によっては勝負を投げた行為に、反射的にギンの視線が宵丸から離れた。

 

「だらっしゃ!」

 

「あぼっ!?」

 

 視線がズレた一瞬に、宵丸の拳がギンの頬に突き刺さる。

 突き上げるような一撃にギンの視界を半分潰し、死覇装の襟を掴む。

 掴まれたと、ギンが認識した瞬間には、

 

「ッ―――」

 

 視界が回転し、地面に叩きつけられていた。

 背中から無防備に地面に落ちたが、経験による反射がギンの体を突き動かす。腕だけは動き、斬魄刀の切先を向けようとし、

 

「詰みだ、ギン坊」

 

 キャッチした七曜でギンの死覇装を大地に繋ぎとめる。

 

「…………参ったなぁ。鬼道だけじゃなくて白打もそんな強いとか反則ちゃう」

 

「おいおいギン坊。巨乳に脳みそやられてるのか」

 

 宵丸は一度嘆息し、

 

「―――俺の嫁を誰だと思ってる。蜂梢綾。尸魂界始まって以来、白打と歩法の天才だぞ」

 

 誇らしげに胸を張る。

 

「――――」

 

 その顔を見上げながら、ギンは細い目を微かに見開いた。

 まるで憧れるように。

 好きなものを好きと、愛する者を愛していると、胸を張って言える彼のことを眩しげに見上げていた。

 市丸ギンは嘘つきだ。

 本当のことは言わない狂言回し。

 蛇のように、定めた獲物を丸呑みする獣。

 そんな自分が本当のことを言ってもいいのかとさえ思う。

 誰かを飲み込んだ口で、誰かを愛しているだなんて言っても誰が信じてくれるだろうか。

 自分はそんな口で、愛を囁けるだろうか。

 四楓院宵丸のように――――誰かを愛していると誇りを以て口にできるだろうか。

 

「……敵わんなぁ、宵さん」

 

 だから、ギンは宵丸が好きだったのだ。

 ギンの言葉に本当はない。だけど宵丸はいつだって思ったことしか言わない。100年前だって自分では気づいていなかっただろうけど、ギンには彼がどれだけ砕蜂を想っていたのか知っていたのだ。

 ギンは思う。それはそうであってほしいという願望かもしれないけれど。

 もしも宵丸が、自分と同じ立場だったとしたら。

 きっと宵丸だって同じことをしただろうと。

 宵丸は胸を張って愛に生きるけれど、ギンは誰にも告げられないのだ。

 

「でもなぁ、宵さん。藍染隊長は強いで。僕を倒したとしても、藍染隊長には勝てんと思うで?」

 

「あー? ……まぁ、確かにアイツは強いよな」

 

 だけどと、憮然とした顔で彼はギンを見下ろした。

 

「俺が、何の勝算もなく戦いに来たと思ったか? あいつも、あいつの鏡花水月も対策してるに決まってるだろ」

 

「―――――――ほなら」

 

 宵丸の言葉にギンは静かに返した。

 

「僕くらい倒してくれんと、ダメやで?」

 

 灰の瞳が、琥珀を貫き、

 

「――――――死せ、神殺槍」

 

 

 

 

 

 

「―――――――あ?」

 

 その解号を聞いた瞬間、斬魄刀を握る感触が消失した。

 違和感に従い、自分の腕を見れば――――――右肩の一部が消滅していた。

 

「僕の斬魄刀はね、宵さん。伸びるだけやないんよ。縮む瞬間に刀身が崩れるんやけど、その時に刀の欠片を相手の体に遺すんや。そいで、その欠片は―――猛毒になるんよ。今、それを活性化させた」

 

「がっ……ぁ……!?」

 

 腕を押さえ、膝から崩れ落ちる宵丸の避けるように起き上がりながら嘆息し、改めて刀を向ける。

 

「刺さったんやなくて斬っただけやから効き目がいまいちやなぁ。――――ま、もっかい刺すけど」

 

 言いながら斬魄刀を伸ばして宵丸の胸の中央に突き刺す。

 当然、戻すと同時に刃の欠片を彼の中に残しておく。

 

「っ……ギン……!」

 

「これにてお仕舞い―――かどうか、見せてくれるかなぁ?」

 

 息も絶え絶えな宵丸へ指を指し、神殺槍の毒を起動させて、

 

 

「――――――■■」

 

  

 声にならない言葉で、宵丸が何かをつぶやいた。

 それをギンは聞こえなかった。

 言葉が耳に届くよりも速く、衝撃がギンをぶち抜き意識を刈り取っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

「―――――参った。僕の負けや」

 

 意識を失っていたのはおそらく一瞬だった。

 気づいた時には自分は倒れ、まともに体を動かせず、すぐそばの瓦礫に宵丸が腰かけ息を整えていたからだ。

 卍解を解いたのかコートは消えているが、どういうわけか死覇装も吹き飛んだようで背中と肩がむき出しになった刑戦装束だ。

 神殺槍で消滅したはずの右肩も、何故か回復している。

 

「……死ぬかと思ったわ」

 

「いやぁ、なんで死んでないん?」

 

「そりゃあお前、新妻をいきなり未亡人にはできんだろ」

 

「…………敵わんなぁ」

 

 思わず笑ってしまう。

 脳裏に過ぎる一人の女性。

 自分は、彼女に向かってそんなことは言えない。 

 瀞霊廷を裏切った自分が言えるのは、

 

「ごめんね、くらいか」

 

「あー? それで? なんで藍染についてるんだよ」

 

「あー?」

 

「あー、じゃない」

 

「んー」

 

「おい」

 

「……」

 

「……」

 

「………………返してほしいもんがあるんよ」

 

 嘆息しつつ、ギンは応えた。

 

「藍染隊長は僕が返してほしいもん持っとる。だからそれを返してほしいだけや」

 

「その為なら十三隊を裏切れるって?」

 

「せやね」

 

「そっか」

 

 宵丸は小さく頷いた。

 それで満足だった。

 

「それならそれでいいよ。お前のそれが理由になり得るなら。それはそれとして藍染とはケリを付けるし」

 

「――――――ほう、面白いことを言うね四楓院宵丸」

 

 瞬間、莫大な霊圧が宵丸に圧し掛かった。

 その霊圧を忘れない。

 この100年忘れたことはなかった。

 振り返り、その男をにらみつける。

 茶髪に眼鏡、整った優し気な顔立ちの隊長羽織。

 

「――――藍染惣右介」

 

「やぁ、宵丸君。元気そうだね?」

 




ギン、ヒロインの風格。
ちょっとギン強くね?とか思ったけど僕が好きなので仕様です。

感想が巨乳とおっぱいで埋め尽くされたのでやっぱり我らはおっぱいの奴隷。

宵丸を公式の隊長ステに合わせると
攻撃力:90
防御力:70
機動力:95
鬼道霊圧:100
知力:100
体力80
みたいな感じです。

前話感想返信が少し遅れると思いますが、更新するモチベーションになっております。いつもありがとうございます。

今話も感想評価いただければ幸いです


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The Nightmare Butterfly

一体どうして君たちは

自分たちの現が、羽搏く胡蝶でないと信じているのだろうか。


 その顔をこの100年忘れたことはない。

 この男に全ては歪められ、多くの人が命を落とし、人生を歪められた。偽りの仮面で尸魂界を、瀞霊廷を、護廷十三隊を謀った張本人。

 

「藍染……!」

 

「100年振りか、生きていたようで何よりだ宵丸君」

 

 藍染惣右介。

 その男はかつての優しい笑みで宵丸に語り掛ける。

 

「派手にやったものだね。それに」

 

 彼は瓦礫だらけになった周囲を見渡した後、倒れたギンに視線を向け苦笑する。

 

「まさかギンを倒すとは。正直想像以上だよ」

 

「いやー、えろうすいません。愛染隊長。宵丸さん、思った以上に大分強かったですわ」

 

「うん、まぁこれは仕方ない。ギンで倒せないとなると、要でも無理だったろうしね」

 

 仰向けに倒れてまともに動けないままに、右腕だけをひらひら藍染へと手を振る。

 敗北したというのにまるで気負いのない姿に彼は一度嘆息し、

 

「さて」

 

「っ……!」

 

 宵丸へと視線だけではなく、霊圧が圧し掛かる。

 それはただの感覚による受信ではなく、物理的なプレッシャーとして襲ってくる。鬼道や斬魄刀の能力ではない。純粋に大きすぎる霊圧が、ただ発しているだけで周囲を圧倒しているのだ。

 改めて、感じる。

 宵丸はかつてこの男と実際に対峙したわけではない。

 敵であることは知っていたが、しかして藍染本人は宵丸を死んだと思っていた。

 だから、初めてなのだ。

 四楓院宵丸と藍染惣右介が敵同士として向き合うのは。

 

「宵丸君。砕蜂君と共々、生きていたのは聊か驚いたが、同時に納得したよ。100年前、浦原喜助を助けられる者の候補はそういなかったからね。握菱鉄裁よろしく時間停止や空間転移で虚化を逃れたのかな?」

 

「……さてな」

 

「ま、それくらいしかここに君がいられる経緯は存在しないんだがね」

 

「……」

 

 藍染のそれは問いかけではなく確信からの確認だ。

 彼は全て把握しているのだろう。起こり得る可能性と過程、そして今の状況から逆算し、宵丸と砕蜂の経緯を確信している。

 

「浦原喜助は息災かな?」

 

「あぁ勿論。そりゃあ元気だぜ」

 

「だろうね。君や砕蜂君、それに旅禍の少年たちもアレの手によるものだろう。いやはや、彼は楽しませてくれる。流石は唯一、私の頭脳を上回る男だ」

 

「喜助さんが聞いても嬉しくないだろうな」

 

 会話をしながら、体内で霊圧を練り上げる。

 卍解は解けており、宣告破棄はできない。だがそれでも四楓院宵丸は鬼道の腕では尸魂界において他の追随を許さない。歩法も白打も上から数えた方が早い。 

 斬術は置いておく。

 藍染がどう動こうと、対応できるように腰を落とし、

 

「――――――」

 

 肩を斬り裂かれた。

 

「君は賢いし、強い。だが、迂闊だったな」

 

 刀を振るい、血を払う背中だけが崩れ落ちる宵丸に見える。

 

「―――君も、僕の鏡花水月を見ている。故に、完全催眠は掛かっているのだよ。どう対策しようと、全ては無意味だ」

 

「っ……藍染……!」

 

「おや、とっさに体をずらしたかな? ま、いい」

 

 興味なさげに肩をすくめる藍染だが、宵丸の傷は浅くはない。右肩がざっくり斬り裂かれている。反射により致命傷ではないが、右肩が動かせないだけのダメージを受けていた。

 

「ギン? 彼の能力は解ったかな?」

 

「あー、はいはい。鬼道系卍解による宣告破棄と融合鬼道」

 

 それにと、彼は目を開き、

 

「夜一隊長と同じ瞬閧―――――そしてそれを伴う虚化」

 

「――――ギン坊」

 

「あはは、ごめんねぇ宵さん」

 

「なるほど。砕蜂君と同じか」

 

「―――!」

 

「隠し玉のつもりだったかな? 彼女は四楓院夜一との戦いで一瞬だが虚の霊圧を放っている。で、あれば把握は容易だ。所詮、失敗作だがそれが奥の手ならもういい」

 

 藍染が宵丸から視線を外す。

 興味はもう薄れたと言わんばかりに、周囲を見回す。

 

「もうここに用はない。そろそろ時間だ、行こうかギン」

 

「はーい」

 

 よいしょ、とふらつきながら立ち上がったギンがたたまれた帯らしきものを取り出し、中空に放り投げる。それは音を立てて伸び広がり、ギンと藍染を包み込んだ。

 

「っ―――ギン坊!」

 

「ごめんなぁ、宵さん」

 

 にへらとギンが笑う。

 

「僕はもう坊と呼ばれるほど子供やないんやで」

 

 

 

 

 

 

「ふぅっ――ふぅっ――――」

 

 一人残された中、宵丸は呼吸を整える。

 流血と痛みを無視しつつ、体内の霊圧を練り上げ得手ではない回道を組む。宵丸の回道では精々が止血程度の応急処置だ。戦力の大きな軽減は否めない。

 だから、励起した回道に――――虚の霊圧を織り交ぜる。

 虚化をしてないとギンに言ったが、あれは嘘だ。

 悪いとは思わない。虚化は宵丸と砕蜂の奥の手の一つ。

 できるだけ隠しておきたいものだったから。

 そもそも嘘をついたのは向こうが先だから問題もない。

 元々虚が持つ超速再生を回道をきっかけとして発動する。虚化を掌握すると再生能力が消えるのだが、それはその再現だ。

 傷口の肉が膨らんだ後にしぼみくっつく。一瞬後には傷一つなかった。

 

「それが、虚化ですか」

 

 声の主は四番隊隊長卯ノ花烈。そしてその傍には副隊長の虎徹勇音も控えている。

 卯ノ花には既に事情を話しており、こちらの味方と言える存在だ。暗躍し、準備をしていた宵丸よりも先に四十六室に侵入していたのだが、

 

「そいつは……日番谷冬獅郎ですか」

 

 質問に答えない宵丸に嘆息し、自身の斬魄刀肉雫唼――エイのような半透明の生物の中に銀髪の少年が収まっている。

 

「えぇ。致命傷を受けていたので応急処置をしましたが、後は彼の生命力次第でしょう。そちらは」

 

「おおむね計画通り(・・・・)ですよ。――――いや、想定してた最悪よりは、大分いい」

 

「結構です。次は?」

 

「手筈通りに。先にポイントに向かってください、その時が来たら卯ノ花隊長からも言伝をお願いします」

 

「解りました。貴方は」

 

「―――藍染を追います」

 

 両手を合わせ、霊圧を練り上げる。

 

「あいつはやはり双極だ。時間はない、止めないと」

 

「って、あの! 四楓院さん! ここから双極までは瞬歩でも追いつけないと思うんですが!」

 

「あぁ」

 

 それは間違いない。

 瞬歩では間に合わない。

 だから、

 

「禁術使って空間転移するので、内緒でお願いします」

 

「えっ」

 

「どうぞ」

 

「えぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 そして宵丸が双極へ転移した時――――役者は揃っていた。

 四、十、十一、十二番隊の隊長格はいないがそれ以外、護廷十三隊の総力が結集している。

 その内三、五、七の隊長が裏切っており、この場にいる副隊長は七番隊の檜佐木修兵だけ。

 藍染を夜一が、ギンを乱菊が、要を修兵が拘束している。

 最も十三隊の方も万全ではない。狛村左陣は藍染の黒棺を受け倒れ伏し、白哉、恋次、一護もまた重傷だ。

 それでも、この戦力差はあまりにも大きい。

 当然ながら砕蜂と、そして宵丸もいる。

 凡そ100年振りに見る顔もいれば、副隊長は初見の者が多い。

 それらを見渡し、

 

「姉上」

 

「―――宵丸」

 

 姉の姿に思わず涙が滲むのを実感する。

 100年間ずっと会いたかった、誰よりも敬愛する姉。彼女が藍染を拘束していなければ今すぐにでも抱きしめたかった。

 が、今は状況が許さない。

 全てが終わってから。

 そう、姉弟が視線を交わしただけで互いに理解し、

 

「ダァアアアアアアアアアアアリィイインン!!」

 

 小柄な影が宙を舞った。

 張り詰められていた緊張の中、全員が思考停止してその影を追い、

 

「んちゅ」

 

 影―――砕蜂が宵丸に抱き着き、思いっきりキスした。

 

「んん」

 

 舌も入った。

 宵丸も別に抵抗せずに受け入れた。

 凡そ約15秒、十三隊の前で濃厚なキスシーンが繰り広げられた。

 反応はそれぞれ。

 目が点になる者、顔を真っ赤にする者、おほーと声を上げてガン見する者、思わず吹き出しちゃう者。

 大半が前者二つで、ガン見は春水、吹き出したのがギンだった。

 

「ふっ……ん」

 

 唇を離し、唾液の糸が伸びる。

 ふうと、砕蜂は息を吐き、

 

「よし! ダーリン成分補給! これで後5時間は戦える!」

 

 アホなのかこいつ? とその場の全員が思った。

 対し、宵丸は真顔で首を振り、

 

「いいやハニー。この三日の欠乏分を忘れるな――――もって三時間だ」

 

「確かに」

 

 アホかこいつら、と全員が思った。

 それから視線をずらして――藍染さえも――夜一に向けた。

 四楓院夜一。彼女は尸魂界でも最速と謳われた白打と歩法の達人である。

 その彼女が、

 

「……! ……!」

 

 顔を真っ赤にしていた。

 弟と義妹のキスシーンってだけでなく、状況を選ばない空気の読まなさに、会話のアホ度合いに。

 

「やれやれ。緊張感がないね、砕蜂君」

 

 顔を真っ赤にしながらも拘束自体に緩みはない夜一へ、哀れみの目を向けてから砕蜂へ苦笑する。

 

「随分と奔放になったものだ」

 

「は! お前に言われたくないわ韓流スターもどきが!」

 

 韓流スター? と全員は首を傾げ、ギンだけが堪えきれずにお腹を抱えた。

 

「よくもまぁ好き勝手やってくれたな! そもそもなんだ完全催眠って! どうせそれを使ってエロいことをしていたのだろう! 薄い本みたいに! 薄い本みたいに!」

 

 ごみを見る目が藍染へと向けられた。

 だが、それを受けても涼しい顔で彼は口を開く。

 

「下品だね。程度が知れる」

 

「貴様! 夜一様を侮辱するか!?」

 

「!?」

 

 え!? 儂!? 

 という顔で全力で夜一が砕蜂を見た。

 スルーされた。

 藍染はもう一度可哀想なものを見る目で夜一を一瞥し、

 

「失礼なことを言うものだね、僕はそんな浅ましい理由で鏡花水月を用いたことはない」

 

 そもそもと、藍染は笑う。

 

「――――女性に対し、催眠を用いる理由なんぞ僕は持ち合わせていない」

 

「――――」

 

 藍染の言葉に砕蜂は一度目を細め、宵丸の耳へと口を近づけた。

 

「どうしようダーリン、あのヨン様私の精神攻撃がまるで通じんぞ」

 

「もうやめとけ」

 

「うぅむ、仕方ない」

 

「あぁ、茶番は終わらせよう―――時間だ」

 

「っ!」

 

 刹那、夜一が何かを察知し、大きく飛び退いた。

 それは天から藍染へ降り注ぐ光。

 そして―――――空が割れた。

 

「大虚……!」

 

 誰かが空の亀裂の中に蠢くものの名を叫ぶ。

 ギリアンと呼ばれる虚の集合体。それが数十体。さらに、その奥にもまた巨大な瞳らしき光が潜んでいる。

 次いで光がギンと要へ。要を抑えていた修兵はとっさに飛び退き、ギンを抑えていた乱菊は、

 

「もうちょいこうしててもよかったのになぁ」

 

 ギン自身が振り払うことで光から逃れた。

 目を細めた彼は笑いかける。

 

「さぁ―――どうなるやろなぁ」

 

 乱菊を見つめ、視線は藍染と宵丸へ。

 藍染たちの足元の岩場が浮く。

 その光の名は『反膜(ネガシオン)』。

 大虚が同族を助ける際に用いる空間断絶。これにより分けられた内外は、どうあっても互いを干渉できない。

 故に、最早死神たちに為す術はなく―――――、

 

 

 

「細工は流々、茶番は終了――――本番は此処からだ」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、双極を中心とした半径2キロほど先から8本の光の柱が起立した。

 

『―――鏡が水面、映る花と月』

 

 双極にいる全員が、それぞれの光の柱に目を奪われる中、四楓院宵丸だけは動いていた。

 両手で連続して印を結び、詠唱を謳いあげる。

 

『見つめる眼に曇りはなく、額に開く唯眼に惑い無し。六神通じて天耳を澄ませ。水面は水面。鏡は鏡。花月は夢のまま、夢に沈め!』

 

 両腕を大きく広げ―――手を鳴らした。

 

『結べ――――花天月地!』

 

 パァン、と済んだ音が鳴り響いた。

 

「――――」

 

 双極にいる中で理解したのは術者である宵丸と事前に知っていた砕蜂。

 そして、声も漏らさず驚愕する藍染だけだ。

 その上で尚、さらに宵丸は5指を躍らせる。

 この双極へ転移するよりも前、事前に詠唱を終わらせ発動待機していた術を解放する。

 

『禁道の弐―――神足天威!』

 

 この場に6人を残し、それ以外の全員がこの場から消失した。

 

 

 

 

 

 

「――――え!? なに!?」

 

 気づいた時、目の前には雑木林の中に松本乱菊はいた。

 目前、地面に突き刺さり、天へ光を放つ杭。

 それが膨大な霊圧を放っていることは解る。

 だが、その霊圧は、

 

「……これ、虚の……?」

 

『四番隊副隊長、虎徹勇音より通達します!』

 

「!」

 

『現在、四楓院宵丸が設置した反『反膜』発生装置の前に皆さんはいます! 詳細は省きますが、これにより藍染惣右介らを回収する『反膜』を無効化させられます! さらに、大規模結界としての強度を高める為に転移された者は目前の杭に触れ、可能な限りの霊圧を注ぎ込んでください!』

 

「天挺空羅……? って、結界を強化? 逃さないならみんなで囲んで叩いた方が――」

 

『本行為は卯ノ花隊長、京楽隊長、浮竹隊長も承認済みです! 迅速な対応をお願いします! ――――いやほんとマジで早くしてください! 宵丸さんの狙いは――――』

 

 続く言葉に、

 

「―――!」

 

 乱菊だけで無く、各地の全員が杭へと飛びついた。

 

 

 

 

 

 

「これの結界は……虚の霊圧かい?」

 

「仮面の軍勢、8人の霊圧の凝縮体だ」

 

 平子真子。

 猿柿ひよ里。

 愛川羅武。

 六車拳西。

 久南白。

 鳳橋楼十郎。

 矢胴丸リサ。

 有昭田鉢玄。

 かつて護廷十三隊と鬼道衆の主戦力だった者らが虚化した上で、その霊圧を蓄積凝縮させて作成した8本の結界起点杭。

 大虚の『反膜』は同族を救う為に発せられる虚の霊圧で作られたものだ。そしてそれを破壊するのはほぼ不可能。虚化という手段にあたり、藍染が虚と手を組む―――虚を制圧下に置くのは想定できる。

 だから尸魂界で崩玉を手にした彼が、『反膜』を使って安全に逃れることも。

 そうなると、どうやってそれを阻むか。

 前提として藍染が崩玉を手中に収めるという目的を達成されると打倒が非常に難しい。死神と虚の境界を崩すそれを用いられて死神の力を手に入れた虚、破面を量産されたら尸魂界壊滅の危機だ。

 故にそれを止めるために、喜助は、宵丸は、鉄裁は考えた。

 考えて、考えて―――出た結果が反膜を壊すのではなく、広げて静止させるということ。

 

「仮面の軍勢の霊圧が反膜を拡大し、死神の隊長格の霊圧がそれを留める――――これで、お前は逃げられない」

 

 それこそがこの三日間、砕蜂との時間さえも犠牲にしてまで準備していたものだ。

 

「なるほど。それだけではないね? 先ほどの鬼道も」

 

 藍染の眼鏡の奥の瞳が細まる。

 笑みはもう、消えていた。

 

「――――()()()()()()()()()()()()?」

 

「あぁ」

 

 にやりと宵丸が笑う。

 

「アンタの鏡花水月の完全催眠は本当にどうしようもない。催眠されてるかも気づかないんだからな。だけど幸いなことに、アンタが俺らを追放したから時間だけはあった。――――鏡花水月の対策鬼道を作る時間が」

 

 他人の感覚を100%支配する鏡花水月。

 それに対して先ほど宵丸の放った鬼道『花天月地』は掛かった人間の感覚をリセットし、100%正常な感覚を受信させるもの。

 無論、簡単なものではなかったがヒントは平子真子の斬魄刀『逆撫』だ。あれも嗅覚をトリガーとする感覚支配の力だから。

 

「これで逃亡と完全催眠を封じた」

 

 で、あれば。

 

「後は、ここでお前を倒すだけだ藍染惣右介」

 

「――――ふむ」

 

 藍染は頷き、そして口端が歪む。

 

「認識を改めよう、四楓院宵丸。―――君は私の敵に相応しい」

 

 滲み出る霊圧が宵丸に圧し掛かる。

 それは威圧ではなく、純粋に漏れ出した藍染の興味から生まれたもの。

 

「―――――それで、どうするつもりかのぅ」

 

 藍染の霊圧に耐えていた宵丸に、声が届いた。

 重く静かな、押しつぶすような藍染の霊圧とは違う、静かに燃える灼熱のような声。

 髭を抑えた老人――――十三隊総隊長山本元柳斎重國。

 十三隊で唯一この場に残っている彼は宵丸を見据え問う。

 

「四楓院宵丸。儂を残したという意味を解っておるのかの」

 

「……えぇ勿論」

 

 敵意は向けられていないのに灼熱であぶられた気分を味わう。

 元柳斎の背後、砕蜂がダブルピースと口パクで『がんばれがんばれ』してた。

 それで精神を保ちつつ、

 

「俺が総隊長殿に伝えるべきは一つです。この結界は元隊長格8人と、先ほどあの場にいた隊長陣らで作られたもの」

 

 だから、

 

「――――総隊長殿の炎は一時、結界内に封じられます」

 

「――――――――カッ」

 

 宵丸の言葉に元柳斎は笑った。

 

「面白いのぅ。儂を利用しおうたか」

 

「えぇ。尸魂界を護る為に、護廷の為に、藍染を倒すためには貴方の力が必要でしたから。……事前に話したとしても四十六室を藍染に押さえられた以上は貴方は四十六室の指示を優先したでしょう」

 

「ふん。十四郎や春水がそちらについたのも道理というわけか」

 

 髭を一撫でし、宵丸と砕蜂をそれぞれ見やる。

 

「主らも転移しとけばよかったものを」

 

「いやー、それがこの結界起点になってる俺が中心点からあんまり外れるわけにはいかないんで」

 

「それに私もダーリンもあのヨン様の顔面を張り倒さないと気が済まん。あ、総隊長殿。終わった後に私たち結婚式するので、その時は瀞霊廷貸し切りお願いします」

 

「うんむ。宵丸よ、嫁は選んだ方がいいのぅ」

 

「ま、選んだのがシャオだったので」

 

「きゅーん!」

 

 そして四楓院宵丸、砕蜂、山本元柳斎重國が並び立つ。

 

「儂と並ぶなら気張れ、小童ども。気を抜けば死ぬぞ」

 

「えぇ、準備はしています」

 

「やるぞ、ダーリン」

 

 3人の霊圧が高まる。

 元柳斎の杖が太刀となり、宵丸は右手を眼前に緩く開いて掲げ、砕蜂が左手の中指を右頬に添え、

 

『卍解』

 

 太陽が生まれ、拳を作り、指を左に滑らした。

 

『――――残火の太刀』

 

『七曜輪廻―――!』

 

『雀蜂雷公鞭改メ―――瞬閧纏装・無窮轟嵐ッッ!!』

 

 尸魂界を焼き尽くし得る炎が太刀の切先に収束。環刃やロングコート、加速具足を宵丸と砕蜂を纏い、それだけではない。

 宵丸に鉢巻が伸びる武人のような仮面が。

 砕蜂に蜂を模した仮面が、それぞれ被り霊圧が飛躍的に上昇する。

 尸魂界最強の死神にして最強最古の斬魄刀。

 尸魂界最速にして白打と歩法の達人。

 尸魂界最巧の鬼道の担い手。

 斬拳走鬼。死神の戦闘術において各種の最高峰たる3人が一堂に並び立った。

 

「―――面白い」

 

「藍染様!」

 

「いいよ、要。君は結界ギリギリまで逃げるなり霊圧を張っていたまえ。彼ら相手では、余波だけで死ぬよ」

 

「うわおっかなー。そうさせてもらいますー」

 

「ギン!? 貴様――」

 

「はいはい、逃げるでー」

 

 ギンが要を捕まえて瞬歩で逃亡する。結界内は外に出られないので、どこかで結界を張らないと藍染の言葉通り、元柳斎の卍解の余波だけで死ねるだろう。

 だが、藍染は揺らがない。

 笑みを深め、冷や汗一つ流さない。

 

「高みで散々見下ろしてくれたな、藍染。――――お前はもう大地に引きずり下ろした」

 

「傲慢だな、四楓院宵丸。君も私も、神すらも天に立っていない」

 

 だが、と藍染は言葉と共に眼鏡を外し、髪を掻き上げる。

 そして、手にした眼鏡を握り砕き、

 

「これからは――――私が天に立つ」

 

 次いで手にするのは斬魄刀。

 鏡花水月は封じられた。

 で、あれば、

 

「あまり使いたいものではないんだが、君たちが相手では仕方あるまい。崩玉が使えないこの現状、私としてもそれなりに必死でやらざるを得ないからね」

 

 眼鏡が無くなり鋭くなった目が3人を貫く。

 握る斬魄刀を刃を下に向けて構え、

 

『卍解―――――鏡花水月・邯鄲夢枕(かんたんゆめまくら)

 

 ―――――そして、次の瞬間には山本元柳斎重國は即死した。

 




宵丸裏でこそこそめっちゃ仕事してましさ。
真面目なバトルはあと1話だけ。

藍染との決戦をこんなにも早くしたのは
さくっと終わらせて、砕蜂との結婚式とかしたかったからです。
シリアスしているようでしない。
速くバトルとか終わらせて砕蜂といちゃいちゃさせたい私です。



やる予定がなかった藍染様の卍解である。

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Love One

この世界で最も強いもの


 残火の太刀・北――――天地灰尽。

 藍染が卍解するよりも速く、刀を構えた瞬間には元柳斎は己が卍解、その必殺を放っていた。

 尸魂界最強最古の炎熱系斬魄刀、それより放たれる決殺の一撃。太陽の如き卍解の炎熱を一閃に放つもの。隊長格の霊圧が十数人集って作られた結界にも亀裂をいれかねないだけの、死神としての次元違いの威力を秘めている。

 藍染が卍解を使うよりも早く、何かさせる前に殺す。

 そういう意思が込められた故の初手にて放たれる奥義。

 だが、それでも遅かった。

 

『卍解―――――鏡花水月・邯鄲夢枕』

 

 卍解は発動し――――尸魂界すら焼き尽くす一閃が、ただ掲げた斬魄刀で受け止められた。

 

「―――――」

 

 驚愕は漏れなく三人分。

 これで決着がついて万事解決、とは思っていなかったが手傷は受けるはずだった。無傷でただ受け止めるなんてありえない。

 山本元柳斎重國という死神はそこまで甘くない。

 なのに、藍染は薄く嗤って。

 軽い動きで刀を振った。

 そして、山本元柳斎重國は縦に体を両断されて即死した。

 

「先に言っておこう。総隊長殿は死んでいないよ、まだね」

 

 剣圧だけで尸魂界最強の死神をいともたやすく殺した男は、肩をすくめながら言う。

 想定外の総隊長の即死に一瞬動きを止めた宵丸と砕蜂へ語り掛ける。

 

「私の卍解『鏡花水月・邯鄲夢枕』は、聊か特殊な卍解でね。発動には条件がいくつかあるんだ」

 

 次の瞬間、二人が気づいた時には背後に藍染が移動していた。

 瞬歩ではない。瞬間移動としか考えられない、宵丸と砕蜂が認識すらできないほどの速度。

 

「まず、鏡花水月に掛かっていないこと。……ふっ、これがそもそも難題だ。私の鏡花水月に掛からない人間は盲目な者くらいだし、掛かってしまえば誰であろうとどうとでもなる。鏡花水月無しでも私が追い詰められることもそうないしね」

 

 驚愕を押し殺して宵丸が拳を、砕蜂が蹴りを叩き込む。

 虚化により高まった霊圧はそれだけでも並みの死神の頭蓋なら容易く消し飛ばすだけの威力がある。

 なのにそれを藍染はただ手を添えることだけで受け止めた。

 

「次に、発動対象者の全能力を把握すること。斬拳走鬼の技量、始解、卍解の能力。隠し持っている奥の手、その全て。これは少々手間だったが旅禍の滅却師の少年が涅隊長を倒してくれたおかげで助かったよ。彼の持つ全斬魄刀の情報を見ることができたし、君たち二人も夜一隊長とギンとの戦いで底は知れたからね」

 

 追撃に砕蜂が超加速を乗せた拳を連続で叩き込み、宵丸が後ろに飛び退きながら環刃を回す。

 音を超える速度の拳を全て片手で捌きつつ、

 

「卍解発動時点で、対象と私へ同時に催眠を掛ける。そう、()()()()()()()()()()。同じ催眠世界へ誘われ戦っているんだ。現世の学者が語ったという集合無意識というのは知っているかな? あれの中に今いると思えばいい」

 

 顔面に入る軌道だった拳を寸前で、手首を掴むことで止める。そしてそれを重さなど感じさせない軽い動きで振り回し、鬼道を放とうとしていた宵丸へと投げつけた。

 藍染の動きからは到底想定できない豪音が発生し、受け止めた宵丸ごと二人が吹っ飛んだ。

 

「私の卍解の能力。それは――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 地面へ転がって土煙の中に埋もれた二人へ、諭すように藍染は己の卍解を語り掛ける。

 

「総隊長の卍解を受け止められる私。彼を一閃で殺せる剣圧。瞬間移動、君たちの動きが止まって見え、受け止められるほどの身体能力。そう、想像すればそれが実現する。なにせこれは催眠世界―――夢のようなものだ。夢であれば想像すればその通りになるだろう」

 

 土煙の中から閃光が放たれた。

 黄色と紫のそれは死神ではなく虚の力による虚閃。

 並みの虚なんぞ比べ物にならないだけの威力があるそれが直撃しても、

 

「そしてこの夢は、私の卍解解除後に催眠世界で生じたダメージが現実に反映されることで完了する」

 

 虚閃が通じない自分を想像する藍染には効果はまるでない。

 

「無論、欠点もあってね。隊長格の倍の霊圧を持つ私でさえも消費が極めて激しい。この催眠世界で思い通りにするのは持って数分。それだけあれば私の霊圧が尽きる。そうなれば無防備だ。そして、もしも事前に収集した催眠対象の情報に齟齬があった場合、催眠世界が解除されても現実には反映されない。ただ私が都合のいい夢を見て、霊圧を使いきって終わるだけということさ」

 

 肩をすくめる藍染に、無数の光の矢が突き刺さった。

 宵丸が放った破道の九十一・千手皎天汰炮。虚化により威力が高まっているはずのそれも、藍染が想像する己には意味をなさない。

 

「人選を誤ったね、宵丸君。私に対する切り札として総隊長を選んだんだろうが、彼の強さはよく知っている。私を相手取るならば更木剣八をぶつけるべきだった。相手に応じて霊圧を調整する彼は私としても未知数であり、危険な相手だ。崩玉を手に入れるまでは戦わないつもりでいるくらいにはね」

 

 攻撃は当たる。それは藍染が避けるまでもないと想像したから。

 攻撃が当たらない。それは藍染が避けてみようかと思いついたから。

 

「無駄だよ、と言って諦める君たちではないだろう」

 

 だが、と藍染が息を吐き―――刀を振るった。

 あらゆる認識が追い付かない領域で、砕蜂の体が腹を境に切断される。

 霊圧が爆破した。

 血の涙すら流した宵丸の背と肩から霊圧が弾け、ロングコートがはじけ飛ぶ。

 虚化した上での瞬閧。

 鬼道の達人である宵丸がそれを使えば、白打の威力は計り知れない。

 拳を打ち込み、鬼道を放ち、

 

「それも知っているよ」

 

 まるで意味をなさず、宵丸の首を藍染が鷲掴む。

 

「どうだい、宵丸君。私の卍解は」

 

 ただの握力のみで宵丸は呼吸もままならない。

 蹴りつけるが藍染は身じろぎ一つすらしない。

 

「――――――()()()()()()()()()

 

 茶の瞳が琥珀を貫き、彼は吐き捨てた。

 

「こんなもの、私が想像しうるだけのことしかできない。こんなものは進化ではない。ただの停滞だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に、何の価値がある? 使い勝手の問題ではなく、私は私の卍解を嫌悪する。君たちが相手でなければ使うことすら選択肢に入れなかっただろう」

 

 そういう意味では、してやられたねと藍染は嘆息する。

 

「だが」

 

 その上で、彼は酷薄に嗤った。

 

「―――崩玉を手に入れれば、最早この卍解(停滞)とも訣別できよう」

 

 それこそが藍染の望み。

 支配を打ち砕き、境界を崩壊させるもの。

 

「崩玉には意思が眠っている。それを起し、私と融合すれば今の私には見えない世界が訪れる。この唾棄すべき世界を崩す力を手にし、支配から抜け出し―――私は、天に立つのだ」

 

 ぎりっ、と藍染の手に力が籠る。

 

「君には楽しませてもらったよ、四楓院宵丸。かつて私の手から逃れ、今この時私の想定を超えた者よ。感謝しよう。君という存在は、私をより高みへと駆け上がらせる。――――さらばだ」

 

 そのまま握る手に力を込める。

 ごきりと、首が折れる音。

 宵丸の体から力が抜け、手から離れて崩れ落ちた。

 縦に両断された元柳斎、横に両断された砕蜂、そして首折られた宵丸。

 それをつまらないといわんばかりに周囲を見回し、

 

「―――――そして、夢は現実となる」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、これがお前の現実だ」

 

 現実に帰還すると共に―――――藍染は殴り飛ばされた。

 

「!?」

 

 驚愕と痛み。

 顔面に突き刺さる膨大な霊圧と衝撃に双極の丘を十数メートル吹っ飛んだ。

 意味が解らない。

 地面を転がり、殴られた頬を押さえ、それを見た。

 

「――――――なんだ、それは」

 

 そこにいたのは四楓院宵丸だった。

 正確に言えば四楓院宵丸の姿を取ったエネルギー体のような何かだった。

 虚の仮面と刑戦装束はそのままだが肉体が実体を失い、指先から髪までが黄色い力で構成されている。普段結われていた後ろ髪は紐が切れて肩へと流れ落ち、周囲にはスパークがはじけている。環刃は手から離れ、背中に翼のように自立浮遊していた。

 

「――――輪道・雷吼炮哮」

 

 その名を告げる。

 

「っ……なんだ、それは! 瞬閧ではないのか……!?」

 

「違う」

 

 バチリと、スパークが弾けた。

 

「瞬閧は自身の白打に鬼道を乗せて、自分の身体を射出機として放出する技だ。鬼道と白打の高等合成技法で、隠密機動の長に大体伝わるものだけど割合的に言えば鬼道4、白打6くらいの割合で構成されている。こいつは、その逆……というか鬼道8、白打2で構成したもんだ」

 

 瞬閧に対する輪道。

 隠密機動秘伝の技ではなく、四楓院宵丸が編み出した固有技法。

 鬼道を極めた彼だけが辿り着いたそれは、

 

「―――――()()()()()()()()()()()()

 

 発動、放出する直前状態の鬼道を体に取り込んで、その取り込んだ鬼道の性質に肉体を変質させていた。通常の霊子で構成された肉体ではなく鬼道というより攻撃的、指向性を持ったエネルギー体に変貌することで戦闘能力を飛躍的に高める。さらに卍解の詠唱宣告破棄の性質を応用させることで、不安定なエネルギーを安定維持させることでこの『輪道』は成り立っていた。

 今現在宵丸のことを構成するのは破道の六十三・雷吼炮。

 それにより今の宵丸は人の形をした稲妻となっていた。

 

「そんなことが、可能というのか……!」

 

「現実を見ろよ、藍染。可能だったからお前は今地を這っているんだ」

 

 言って、宵丸は苦笑する。

 

「いや、それも違うか。本来だったらお前の卍解で俺もやられていた。誰のおかげかって言うなら」

 

「―――――――ギン……!」

 

 

 

 

 

 

「すみません、藍染隊長」

 

 双極から離れた森の中、東仙要の鎖結と魄睡を貫いたギンは笑みと共に呟いた。

 

「宵さんに負けた理由が虚化と瞬閧は嘘ですわぁ。……まぁ、悪いと思わんでくださいよ、僕だってアレが何なんか解らんかったし。しょうがないでしょ」

 

 ギンの卍解神殺槍による毒を放った瞬間、宵丸が炎になった。そういう風にしか見えなかった。肉体が炎になって、その炎に毒が焼却されたのだ。まるっきり、意味が解らない。

 なので、とりあえず適当なことを言っておいた。

 そして今、ギンも知らない藍染の卍解が使用され、数分棒立ちになったと思ったら藍染の霊圧が大きく削がれ、宵丸が殴り飛ばしていた。

 

「頼むで、宵さん。ここで負けたら結婚式だって挙げられんよ?」

 

 

 

 

 

 

「裏切るつもりなのは解っていたが……まさか、そんな嘘を……!」

 

「あいつはよく言ってたぜ、自分は嘘つきだって。怖いよなぁ、いつだって怖いのは目に見えない裏切りなんだろ?」

 

 かつて藍染が平子真二に告げた通りに。

 市丸ギンの何気ない些細な嘘が今、藍染に地を這わせる猛毒となっていた。

 藍染にとって、今この段階でギンが裏切るとは思っていなかった。彼は藍染の鏡花水月について最も知り、その対処方法も知っているのだから。確実にギンが藍染を殺せると確信するような瞬間でなければ動かないと。

 藍染の霊圧は通常よりも大きく削られていた。その状態でも並みの死神よりは多いが、それでも通常時からすれば見る影もない。

 

「これで終わりだ、藍染惣右介」

 

 宵丸が仮面の口元に手を当て、光を生む。

 虚閃が球状に留まり、放出させない。右手の中に収めたままに掌を下に向けて真横に付きだした。

 

「重奏――――」

 

「――――共鳴」

 

 パシッと、瞬歩で出現した砕蜂が同じく球状の虚閃を宵丸の虚閃に重ねる。

 宵丸は砕蜂が現れることを疑っていなかった。

 それが当然であるかのように動き、そして砕蜂も応える。

 下から合わさる砕蜂の手と上から覆う宵丸の手の中で二つの虚閃がぶつかり合い―――まじりあって、一つの光となった。

 

「虚閃の融合……! ……先ほどの痴態はその為の前準備か!?」

 

「阿呆! あれはただダーリン成分を摂取したかっただけだ!」

 

 五指を絡めるように手を繋ぎ、虚閃を握り潰した。

 二人の腕を閃光が駆け巡る。

 自身をエネルギーの塊とした宵丸の右手に全ての光が収束し、自身のエネルギーを加速として用いる砕蜂の左手に全ての光が収束する。

 漏れ出した余剰の霊圧が逆側に逃げ、それぞれの左と右に放出されることで片翼を背負うかのように。

 どちらかだけでは飛べない比翼の鳥。

 この100年、そういう風に寄り添って生きてきた。

 けれど、二人合わさればどこまでだって征けると信じている。

 繋いだ手を共に振りかぶり、

 

「決めるぜハニー」

 

「応ともダーリン」

 

 比翼を羽搏かせ、飛翔するかのように飛び出した。

 エネルギー体となった宵丸と繋いだ手から直接雀蜂雷公鞭に取り込み推進力とし、噴出した霊子を宵丸が背にする七曜輪廻が回転と共に回収。輪道維持の霊圧として再利用することでさらなるエネルギーを生み出していく。

 

『契偶鴛鴦――――!』

 

 霊圧が互いを巡り、相乗効果で一瞬のうちにエネルギーが加速度的に上昇していく。

 その威力は天地灰尽にさえも劣らない程。

 

「――――まだだ! まだ、私はこんなところで!」

 

 それでもまだ藍染は刀を双翼にぶつけ、終われないと吼える。

 

「やかましい! 知ったことか!」

 

 即座に砕蜂も吼える。

 

「お前がこれからあれやこれや計画があったとしても! 私とダーリンはこれから夜一様と一緒に暮らし、護廷十三隊の総力を挙げた超盛大な結婚式をするのだ! 勿論和式と洋式と両方でやってその後は二人と夜一様とでいちゃこらしながら平和な日々を過ごしダーリンの子を孕む!」

 

「はっはっは! そういうことだ藍染! 俺たちの平和の為に!」

 

 握り合う拳が―――一際強く光り輝き、二人は同時に叫んだ。

 

「お前はここで終わっていけ――――!」

 

 双翼が藍染を双極の丘ごと打ち抜く。

 そして、ただ二人の未来の為に――――藍染惣右介は敗北した。 

 




『卍解―――――鏡花水月・邯鄲夢枕』
始解が効いていない相手のみ発動可能。
自身と対象を同じ催眠空間へと誘い、その空間内では藍染は自分の想像する限りの力を自由無制限に振るうことができる。
膨大な霊圧を消費するが、解除時に催眠空間でのダメージが現実に反映される。

ただし、催眠対象の保有する能力を全て把握していない場合、現実に反映されるただ霊圧を消費するだけに終わる。

想定された夢の中でただできて当然のことをするだけの卍解。
藍染ポイントー5000兆点。


前話で藍染ホモ疑惑が出てましたが、女相手には自前の顔と話術だけで十分ですよってことです!!

宵丸の輪道は、ようはネギまの闇の魔法。

石破ラブラブ双翼拳でバトル編は終わり。
あとはもーいちゃこらさせるだけですね。
ちなみに山爺は藍染の霊圧が減った時点で卍解を解除して眺めてました。


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Happy Ending

一体いつからエタっていたと錯覚していた?


「長かったっすねぇ」

 

 浦原商店の店先、喜助は軽く体を伸ばしながら息を吐いた。

 尸魂界での藍染との闘い。

 100年にも及ぶ男の陰謀がついに終わったのだ。

 そのために喜助や宵丸、砕蜂、一護、シンジ、多くの仲間たちが多くの時間を費やし、十三隊も巻き込み総力を挙げて打倒した。

 結局、トドメを刺したのが宵丸と砕蜂なあたり流石だなと苦笑する。

 100年というのは死神の尺度から見ても長い時間だ。

 変わらなかったものはあって、変わったものもある。

 世界の全ての問題が解決したわけでもない。

 それでも、確かな区切りにはなったのだ。

 

「はぁぁ~~~~~」

 

 空を見上げながら長く、万感の思いを込めて息を吐き、

 

「――――――喜助」

 

「ぁぶはぁっふぁひぃ!?」

 

 呼ばれた声に、思い切りむせ込んだ。

 視線を下げ、目の前にいたのは、

 

「よ、夜一さん!?」

 

 100年振りに会う四楓院夜一だった。

 死覇装ではなく、現代的な黒のスキニーとタートルネックのサマーセーター。宵丸や砕蜂がよく着ているのと同じデザインだ。

 髪が伸びたのだろうか。

 宵丸と同じ紫の髪を纏めず、そのままに流している。

 顔立ちは少し大人びたなと、率直に思った。

 

「……」

 

「…………え、えーと」

 

 琥珀の瞳が揺れている。

 それはかつての夜一では考えられなかった雰囲気で、

 

「――――っ」

 

「う、うわぁ!?」

 

 目にもとまらぬ速さで、彼女は喜助の胸の中に飛び込んだ。

 転ばなかったのは奇跡だったと、自分でも思う。

 いや、いくら100年ぶりの再会だとしてもこんな感動的なシーンになると誰が予想しただろうかちょっと良いにおいがするしなんだかんだ柔らかいな何も言わずしがみ付いてくるのちょっとかわいいけどこんなとこ砕蜂に見られたら殺されそう―――、

 

「…………」

 

「…………」

 

 自分たちから少し離れた場所、電柱の影から無表情の砕蜂が半分だけ顔を出していた。

 

(砕蜂サン―――――ちゃうねん!)

 

(何がちゃうねん)

 

 一瞬のアイコンタクトと肘から先のジェスチャーで意思疎通。

 なぜか関西弁だった。

 

(殺さないで!)

 

(もう死んでるだろ私たちは)

 

(ウオオオオオ死神の鉄板ジョーク!)

 

(黙れ! 今はお前のやるべきことをする時だ!)

 

(なんかいいセリフですけどやるべきこととは!?)

 

(抱きしめ返すんだそして死ね!!!)

 

(もう死んでますよ私ら!)

 

 全ての会話はアイコンタクトと肘から先のジェスチャーのみある。

 宵丸がいれば、実は仲がいいだろうと突っ込んでいたところだ。

 なにはともあれ。

 喜助は砕蜂を意識の外に追いやった。

 とりあえず、見守ってくれているらしい。

 そして、自分を抱きしめて震える夜一を見る。

 見て、少しだけ迷って、

 

「……っ」

 

 壊れものを触るみたいに、彼女の背に手を回した。

 触れた瞬間、びくりと震えたのが猫みたいに思えて思わず苦笑してしまった。 

 何を言うか、色々迷って、

 

「……すみません、夜一サン」

 

 出て来たのはそんな、陳腐にも程がある言葉だった。

 100年前、何も言わずに尸魂界から離れ、夜一との関係を断ち切った男の言葉としては最低が過ぎる言葉だっただろう。

 

「……」

 

 夜一はしばらく何も言わなかった。

 喜助の胸に顔を押し当てて、絶対に顔を見せようとしなかった。

 そして、

 

「………………次は許さん」

 

 それだけをぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよっ、快適かい?」

 

 宵丸は持参した土産が入った紙袋を掲げつつ、牢の中に声を掛ける。

 簡易ベッドと備え付けのトイレ、小さな机。 

 差し入れだったのだろうか、精霊通信を読んでいた彼は視線をこちらに向き、

 

「やぁ、宵さん。しばらくぶり」

 

 牢の中から、にへらと市丸ギンは笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 牢の格子を挟んで、地べたに座りこんで向き合う。

 差し入れのお菓子とお茶をそれぞれ広げ、

 

「いやほんま助かりましたわ、宵さんいなかったら処刑されてたかも僕」

 

「いや俺は別に助命を願ったわけじゃないけどな」

 

「えっ?」

 

 牢屋越しにギンの細めがさらに点になった。

 

「俺がしたことはお前の貢献度だからな。まぁ死んだら死んだらでしゃーないかと……」

 

「うっわひっどい! これしばらくはフェードアウトされて次の次の事件の時に助っ人として解放されて助けに入る展開ですやん!」

 

「予測が具体的すぎる!」

 

 けらけらと笑っているギンは随分とリラックスした様子だった。

 100年間藍染の側近をしていたとして捕縛された男とは思えない。もっともそれは藍染もそうだったのだが。全身を拘束され、無間に投獄されて尚、あの男は余裕の自然体だった。

 肝が太すぎる。

 

「……ま、大人しくしておけば100年くらいで出れるんじゃないか?」

 

「だといいですけどねぇ」

 

 実際、ギンの功績は結果論であれば大きかった。

 宵丸の奥の手である『輪道』、その存在を藍染に語られていたのなら、あの男の卍解で宵丸も、砕蜂も、元柳斎でさえ敗北し、殺されていたのだろうから。

 加え、藍染が制圧した虚圏についての情報、破面という存在についても多くの情報があり、尸魂界の虚に関する知識は数世紀分進んただろう。

 涅マユリが狂喜乱舞である。

 

「……でさ、ギン坊」

 

「はい?」

 

「お前は、満足できたのか?」

 

 市丸ギンが藍染に従っていた理由。

 それはまだ宵丸は聞いていない。彼も決して口を開こうとしない。

 だけど、それだけは確かめたかったのだ。

 

「うーん、どうでしょ?」

 

「おい」

 

「あはは。ま、ひとまず納得はしたということで。はい。それで十分ですわ」

 

「……ふぅん」

 

 まぁそれならそれでと、思う。

 元から何考えているかよく分らないし、なにも言わない男だ。

 本人が納得しているのならそれでいい。

 どうせ松本乱菊が関わっているのだろうが。

 精霊通信を差し入れしたのもきっと彼女なのだろう。

 なら、宵丸も満足だ。

 

「それじゃ、行くわギン坊」

 

「ありゃりゃ、連れないですわぁ。もうちょっといてくれてもいいんちゃいます?」

 

「残念ながらそこそこ忙しいんだよ俺は」

 

 無駄話をしたいのは山々だが、宵丸もあまり遊んでいられない。

 藍染の闘いを経て、尸魂界、護廷十三隊に変化があった。

 隊長格の3人が謀反を起こしたのだ、当然代わりが必要になる。

 そこはそれぞれこの事件を機に復隊した仮面の軍勢のうち3人が収まっている。

 そして宵丸は、

 

「鬼道衆総帥・大鬼道長就任、遅れながらおめでとうございます、宵さん」

 

「さんきゅ」

 

 かつて師が担っていた役職をそのまま引き継いでいた。

 四楓院宵丸は鬼道においては尸魂界きっての天才だ。技術革新において彼の存在は極めて大きく、ここ100年機能停止状態だった鬼道衆の再興の為に就任したのである。

 この場には持ってこなかったが、普段着も改造隠密装束の死覇装に加え鉄裁がかつて着ていた青のロングコートが追加されている。襟がやたら大きかったのが気になったので改造してもっとスマートにしたけれど。

 本当を言えば、現世でだらだらするのもそれはそれでよかった。

 

「シャオも念願の二番隊隊長だしなぁ」

 

 二番隊隊長兼隠密機動隊隊長。

 それが今の砕蜂の肩書だ。

 宵丸と同じく、師であった夜一のものをそのまま引き継いだ形である。

 砕蜂自身は夜一の下に就こうと思っていたが、夜一自身が引き継ぎを強く望んだ故でもある。完全に砕蜂に完敗したからという理由もあるだろうが、

 

「現世に行く時間もいるだろうし―――時間掛かったもんだ」

 

 結局尸魂界に戻らなかった喜助との時間を作るためでもあるのだろう。

 かつて快活で男勝りだった姉は随分としおらしくなってしまった。

 

「あ、せやせや宵さん。それはそれとして」

 

「うん?」

 

「―――――ご結婚、おめっとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんだかなぁー、なんだかなー!」

 

「もういいだろうシャオ」

 

 流魂街の外れ、100年前から行きつけ、プロポーズをした茶屋。

 互いの仕事をこなし、砕蜂は隊長羽織を、宵丸は総帥コートを着たままだ。

 砕蜂が文句を言っているのは、

 

「結婚式をちゃんと挙げられたのは良かった」

 

 二人の左手の薬指にはシンプルなデザインの結婚指輪が。

 藍染との戦いから一月後に二人は式を挙げた。 

 大規模な戦いと混乱の後だからこそ皆で迎えた明るい話題だったが、

 

「瀞霊廷貸し切りできなかった……」

 

「無理に決まってるだろそんなん」

 

 最終決戦で元柳斎に言っていたことだがそこそこ本気だったらしく、式当日まで、終わってからもまだぐちぐち言っていた。瀞霊廷貸し切りこそできなかったが、それでも尸魂界式の通常の式に加え、いわゆる洋風の式も現世からウェディングドレスやタキシードを取り寄せて盛大にやったものだ。

 

「俺は満足したけどなぁ」

 

「むっ、別に不満があったわけではないぞダーリン。ただこう、もっと上を目指せたのでは? という飽くなき向上心がだな……」

 

「そんな向上心は要らんよ」

 

 嘆息しつつ、温かいお茶を啜る。

 ほう、と息を吐き。

 

「―――俺は、これでいいよ」

 

「むっ」

 

「世界が救われたとか、そういう終わり方じゃないけれど。それでも俺や俺の周りの人は報われた。そしてシャオとこうして結ばれた。だったら俺はこれでいい、これがいい。この終わりで、俺は満足だ」

 

 この先、長い人生きっと色々あるのだろう。

 死神の一生は長い。

 敵はまだまだいる。

 だけど、区切りはついて、その区切りは宵丸と砕蜂の結婚だ。

 なら、それは宵丸にとっては最高の終わり方に他ならない。

 

「むぅ……そう言われると文句を言いにくいではないか」

 

「ははは」

 

「なんか否定してくれ」

 

 砕蜂は短く息を吐き、そのまま宵丸の肩に体を預けた。

 

「……うん、ま、私も満足だ」

 

 時間がゆっくりと流れている。

 実際の所仕事は明日からもあるのだが、それはそれ。

 今はやっと手に入れたこの瞬間を味わいたくて―――――

 

 

「―――――よし、ダーリン次だ!!!!」

 

 

「えぇ……?」

 

 ゆっくりとした時間もどこへ行ったのやら、砕蜂が思い切り立ち上がった。

 

「シャオ? シャオさん? 今凄い良い雰囲気だったじゃん」

 

「私と宵丸がいればいつだって凄い良い雰囲気だ」

 

「それはそう」

 

「うむ!!!」

 

 力強く頷き、

 

「―――――次だ」

 

 重く、もったいぶって言った。

 次とは、

 

「―――――子作りだな!」

 

「大きい声で言うんじゃないよ!」

 

 いや確かにそれは結婚の後のステップとしては間違っていないが、

 

「ほら、こう、順序があるだろ? 新婚を楽しむとかさぁ」

 

「いや、ほら我々貴族だし子作りは大事だろう」

 

「急に正論を言うんじゃないよ」

 

 それはそうなんですが。

 宵丸はもっと雰囲気を大事にしたいのだ。

 具体的には3年くらいは新婚でいちゃいちゃしたい。

 

「さぁ! ラブラブしてからちょめちょめしよう、愛しているぞダーリン!」

 

「愛してはいるけどハニー!」

 

 ―――――砕蜂から迫られて困っています。

 




めでたしめでたし。


これにて完結です。
長いことお待たせしました。

ご愛読ありがとうございました。


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