がっこうぐらし!RTA『オヤシロモード』覚醒素材生存ルート (シグアルト)
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1.けんげん

 

 

 

 

 雛見沢とは何一つ関係ないRTAはーじまーるよー!! 

 

 

 今回やるゲームは「がっこうぐらし!」はい、説明終わり! 

 概要についてはもはや語ることは何もない程の覇権ゲームですね。知らない人は数多くの先駆者達のRTAを見てくるンダゾ! もしくは原作を買いなさい(唐突なダイマ)

 

 と公式もその再ブーム到来により、更なる追加のアップデートを持ってきました。

 

 それがこの『オヤシロモード』です。

 オヤシロといっても被害妄想にかかるやばい病気にはなりません、既にもっとやべぇものが蔓延してるので。まぁもしも蔓延したらエイ○アンvsプ○デターを凌ぐ人類の絶望が見えますが、流石に生存確率0確定モードは私もやりたくありません。

 

 

 話が逸れてしまったので本筋に戻しますと、

『オヤシロモード』はいわゆる神様ルートです。ゆきちゃんやめぐねえ達のいる学校のグラウンド脇の小道から入る学校裏。ここに御社が追加され、そこに住まう土着神がキャラクターとして操作出来るんですね。

 数日前に追加されたばかりのアップデートですが、何回か試走した所これまでのルート知識が反映できそうだったので早々にRTAを目指したいと思います。これで私がいっちばーん! です。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 では早速キャラクリに入ります。が、その前に皆様のためにご説明をば。

 

『オヤシロモード』は通常のキャラクリと違い、決められるのは名前だけです。

 能力値はランダムですが、このタイミングであれば再走もラクチンなのでRTA走者の為に作られたような仕様ですね。公式ありがとう! 

 

 そして良い能力値が出るまでリセマラを倍速で流してますが、画面を見て気付いた察しの良い方もいるでしょう。

 そう、オヤシロモードでは人間ではないので設定する能力値が若干変わります。

 

 通常のキャラクリであれば能力値は【体力】【筋力】【持久力】【知力】【直感】【魅力】となりますが、このオヤシロモードのキャラは【体力】がなく、【魅力】が【神格】へと変わっています。

 

 つまり【筋力】【持久力】【知力】【直感】【神格】の5種となっている訳ですね。

 この中で最も重要なのが【神格】。理由は後述しますがとにかくこれが高い値が出るまでリセマラです。

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

 よーし、デタゾー! デッデッデーン!! (変なテンション) ←(1079回目)

 

 

【筋力】 →いいんじゃない? 

 

【持久力】→うーん……

 

【知力】 →だめかも

 

【直感】 →ニュータイプ

 

【神格】 →やばすぎっしょ? JK

 

 

 口調が砕けるほどの神格、これは大当たりですね。

 中途半端に神格が高いと大仰な言い回しになり、よさそうに思えますがこれは罠です。他のキャラから崇拝されますが庇護という名の監禁に合い、全く身動きが取れなくなります。(3敗)

 すごい人っぽいけど実感沸かないし、絡みやすい奴だから軽いノリでいいや~と思わせちゃえば勝利です。何で神様側の方がこんなとこに気使ってやらないといけないんですかねぇ(大仰なため息)

 

 

 という訳で能力値決めが終わった後は信仰ガチャです。

 何といっても神様は信仰心が命です。多くの信仰を集めている神様程、力を持っているのはラノベ界の常識ですね。

 このオープニング開始前の暗転で原作キャラの声が聞こえれば『そのキャラが自分を信仰している』と判定され能力値が追加されます。

 

 先程お見せした能力値は追加された後のものになるので、ここまで良ステの場合は少なくとも2人は信仰心を持っていると期待していいでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも、ありがとうございます……

 

 

 

 

 

 微かに優しげな声が聞こえます。

 恐らくめぐねえかりーさんですね。よし、汝等の介護をしてやろうではないか。(唐突な神様ロール)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 がっこうのかみさま~! おはようございまーす!! 

 

 

 

 

 このアh……いえ、元気ハツラツとした声は間違いなくゆきちゃんですね。

 御社まで毎朝挨拶に来るとは殊勝な心がけですね。だが私は学校の神様ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お願いします、神様。どうか先輩と……、いや先輩を……あ~心の中でも言えない! 

 

 

 

 

 

 

 おぉゴr……いや、くるみ(ゴリラ)じゃないか。

 ここは縁結びの神社じゃないんだが、まぁその願い聞いてやらん事もないぞぉ? 

 

 

 

 ……という訳で3人分の信仰心を得た神様はそれなりの力を得る事が出来ました。

 これによりアウトブレイク直後からの行動が可能になります。正直、私がやりたかった事は2人以上の信仰がないといけないのでホッとしました。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 では早速はじまるオープニングを全カットします。

 オヤシロスタートの場合、アウトブレイクが発生し世界が異常事態に見舞われてからの開始になるので、唐突に“かれら”が目の前にいる事も頻繁にあります。

 ですが通常ルートを飽きるほど回した走者にとってこれが日常、慌てる事はありません。

 

 

 さてさて、ゲームが始まりました。開始地点は校庭の脇から進む学校裏の御社固定となります。

 目の前には……やっぱり“かれら”がいましたね。傍にはくるみと……よし!! 我等が覚醒素材先輩がいます、しかも噛まれる前です。(ガッツポーズ)

 

 

 そう、これが今回のオヤシロモードにおける最大の要素。

 

 

【覚醒素材先輩の救済ルート追加】です!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、【覚醒素材先輩の救済ルート追加】です!! (大事な事なので(略))

 

 

 

 

 

 

 

 そう、【覚醒素材先輩の救済ルート追加】です!!! (大事な事なので(略))

 

 

 皆様そんな馬鹿な、って思いますよね? 私も当初そう思ってました。

 何度も救おうと奮闘しましたが、無事に屋上に連れて行ったと思ったら伏兵に噛まれ、アウトブレイク発生時の位置を調整しても強制イベントがその場所で起こり噛まれます。もう運営の時報としか思えなかった先輩が救えるんですよ! 

 

 そんなの救済RTAやるしかないじゃない! と私の心のマミさんが吼えたので目指したいと思います。

 

 まずは“かれら”を何とかしましょうか。手ごろな武器は……おっ、シャベルが目の前にあるやん。もーらい! 

 

 そして真横にフルスイング! かれらの()()が切断され、地面に崩れ落ちます。

続けてくるみを襲っている《かれら》も潰しますよ。彼女が襲われてるとか覚醒前しか見れない貴重シーンですね。

 

 

 牙突!! (ただの突き)

 

《かれら》の()()()()が消滅します。

 ……ん~? 何で毎回そんな下に当たるんだ? っていうか視線が少し低いような気がするな。“かれら”にトドメを刺しつつ自分の身体を調べます。

 

 

 ……うーむ、これは

 

 シャベルに反射する自分の姿。

 どうみても金髪幼女です。本当にありがとうございました。

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 ────「先輩、早くこっちに!」

 

 

 一体どうしてこんな事になってしまったのか。

 

 私、恵飛須沢 胡桃(えびすざわくるみ)は混乱した頭の中陸上部OBの先輩の手を取って《かれら》から逃げ出していた。

 

 始まりは校庭から起こる悲鳴。今朝学校に祀ってある御社に願掛けをして学校裏に先輩を呼び出し思いを告げる直前だった。先輩と一緒に様子を見に行ったら、映ったのは地面に広がる一面の赤、赤、赤。

 

 さっきまで笑いあっていた陸上部の仲間達が、虚ろな眼をした《かれら》に食べられていた。

 

 

「…………ッ!!」

 

 

 今まで感じた事がない程の強烈な吐き気を催す。身体はこの異常事態を受け止めきれずにいたようだが、必死の想いでそれを抑え込む。

 

 気付けば私は先輩の手を取り、もといた学校裏へと戻ろうとしていた。

 

 

「クッ、こっちにも!?」

 

 

 だが学校裏には既に《かれら》がいた、それも何人も。何十人も。

 

 来た道を戻ろうとするも、校庭から私達を追いかけてきた《かれら》も現れ囲まれてしまう。私と先輩は近くにあったもので必死に《かれら》を振り払おうとするも、抵抗できたのは僅かな時間だった。

 

 いや、あるいは何も考えず真っ先に逃げだしていれば間に合ったのかもしれない。でも先輩がスコップを《かれら》に向け、私も先輩にならい『迎撃』を選んだ時点で、それは無駄な考えなのかもしれないが。

 

 

 

《かれら》に壁に抑え付けられる私と、馬乗りにされる先輩。

 

 あぁ、私と先輩はきっとここで二人ともここで仲間達と同じ様にもの言わぬ屍か、《かれら》と同じになってしまうんだろう。と理解してしまった私の頬に雫が流れる。

 

 まだ生きていたい、まだ先輩に何も伝えられていない。死ぬにしてもお別れすら言えていない。そんなの────

 

 

 

「……嫌だよ。助けてよ、『神様』」

 

 

 

 声にならない声で呟く、誰も聞いていない呟きはむなしく消────

 

 

 

 

「よかろう! お主、妾に願い事とは見る目があるぞ!!」

 

 

 場違いな明るい声に上書きされた。

 

 

 学校裏の脇にある御社、それが光り輝き中からなにかが飛び出したかと思うと私の拘束がゆるんだ。先輩の方を見れば、馬乗りされた《かれら》は全員遠くに吹き飛ばされ動きを止めている。

 

 何が起きたかわからず周囲を観察すると、さっきまでいなかった人物がそこにいた。

 

 小学生くらいの身長、膝まで伸びている柔らかな金髪、昔の豪族のようなきらびやかな衣装。だがそれは動きやすい様に改造されているように感じる。

 

 そして私に背を向けていた少女は、こちらを振り向き────

 

 

「妾こそは神。清き少女の願いにより顕現したぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 こんな状況ですらイラッとさせられる程のドヤ顔を決めていた。

 




 
顕現(けんげん)→ 神仏などがはっきりした形をとって現れること



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2.しんめい

 

 

 

 

 金髪幼女のドヤ顔からはじまるRTA、いっくよー! (ぷよぷよ感)

 

 

 あっ(唐突)

 そういえば前回お伝え忘れしていましたが、今回のRTAクリアは『学校からの卒業』までのタイムとしたいと思います。(目標を設定し忘れる走者の屑)

 この神様は土地に根付いています。学校から離れる事ができないので必然的に学園生活部に同行できるのはそこまでになるんですね。よろし? 

 

 

 では現場に戻りましょう。場所は学校裏、襲い掛かる《かれら》を処理し先輩(覚醒素材)くるみ(ゴリラ)を救い出した所です。

 ですが、アウトブレイク発生直後なので周囲にはまだ大勢の《かれら》がいます。神様の力(物理)を持ってすれば全員一撃で仕留める事も可能ですが《かれら》の数は無限、(それをやる意味が)ないです。

 

 という訳で二人を安定の屋上へ連れて行くことにしましょうか。くるみは膝をついているだけですが、先輩はかれらに首を絞められていたのか軽く気絶しています。

 しょうがないにゃあ、と先輩を抱えて校舎へ戻ろうとしますが、小学生幼女が高校OBの男子を背負ってるので下半身が地面についたまま引きずる形になっています。新手の拷問かな? 

 

 

「な、なぁアンタ。いいよ、私が先輩を背負うから」

 

 

 あまりにも先輩が不憫なのか、くるみが代わりに背負ってくれましたね。あら~、仲がいいのねぇ(謎のオバちゃん感)

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 はい、校舎内に戻ってきました。

 途中《かれら》に絡まれましたが、神の歩みを阻む事など出来ぬゥ!! とばかりにスコップで一撃です。神の裁き(物理)に滅せよ。

 余談ですが神様の服や髪には《かれら》の血は一切ついていません。《血》や《汚れ》などの物理的な穢れは全て『神格パワー』(通称SP)でシャットアウト可能です。金髪も未だに光り輝かんばかりですね。神々しい

 

 

 ピキュイーン(ガンダム風のSE)

 

 

 ……と、ここで神様の直感力が発動しました。直感の従うまま2階の女子トイレへと向かいましょう。おぉう、《かれら》が群がっています。

 汚物は消毒だぁ~、とばかりに一掃。なんという事でしょう、《かれら》が群がっていたトイレ前が誰一人いない閑散とした空間へ……

 

 

「お、おい。誰かいるのか?!」

 

 

 くるみが流れをぶったぎって扉の向こうへ話しかけています。

 一見、空気を読まない発言ですがRTA的にはさっさと進めたほうが正解です。くるみまでタイムに協力してくれるとは、さすゴリですね。(さすがくるみの意)

 

 そして出てくるのは、皆さんおなじみチョーカー先……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あなたは恵飛須沢さん? と、あなたは……」

「……めぐねえ、誰?」

 

 

 ふぁっ!? めぐねえとゆきちゃん!? 

 もう屋上に向かってる筈の二人がトイレに引き篭ってるパターンなんてありませんよ! 

 

 

 なっとる、やろがい!! (セルフツッコミ)

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 はい、屋上に着きました。

《かれら》を片手間で処理しつつ、めぐねえ達が何故あんな場所にいたのかを調べた所『プレイヤーがめぐねえ達を誘導しない場合、補習場所によっては屋上へ辿り着けない場合がある』との記述を見つけました。まぁ他RTAの方の動画ですが。(他者調べを掲載する走者の屑)

 

 自分でプレイしてた時は、常にめぐねえと一緒のスタートだったので気付きませんでしたよ。もし直感が低くてめぐねえをスルーしてた場合、ゆきちゃんもろともDEAD ENDだった訳ですね。あ、アブネェ……(滝汗)

 

 

 という訳で状況を全く把握せず、たゆんたゆんのアレを見せ付けながらかけよってくる聖母りーさんと合流します。

 あっ、神様がすげぇ恐い顔してりーさんの一部を凝視してる。目の毒なのでさっさとバリケード作っちゃいますね。

 

 

「ありがとう、神様。私、私っ……!」

 

 

 おっと、安全が確保されて感極まったゆきちゃんが抱きついて来ましたね。あ~、幼女の抱擁は癒されるんじゃぁ(高校生)

 

 

「神様、本当にありがとうございます。私からもお礼を言わせてください」

 

 

 めぐねえも礼儀正しく頭を下げてお礼をしてくれます。小学生幼女の姿へのツッコミはないんですね。

 因みに皆、素直に感謝してくれてるのは神様が綺麗な姿のままだからです。一般人キャラだと《かれら》を一人で屠り続けた場合、格好が血塗れのスプラッタ状態なので全員のSAN値が急下降し、それどころではありません。普通にイージーモードですね、これ。

 

 

「あっ、神様。神様。私、丈槍 由紀(たけや ゆき)。神様のおなまえは?」

 

 

 落ち着いたのか神様に抱きついたまま上目遣いでこちらを見るゆきちゃん。女神はアンタだよ。(真顔)

 

 ん~、しかし名前かぁ。名前はなぁ……

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────「今」という状況が未来に続くかは誰にもわからない、だからこそ人は「今」を精一杯に生きるべきだ。

 

 

 私の好きな小説の一節、それに私も共感し教師として常に「今」を大切にして過ごしてきた。

 

 でも……私は本当の意味で理解していなかったのだろう。

 

 何でもない日常である「今」が、次の瞬間には脆く崩れ去ってしまう事など考えもせずに。

 

 

 

「丈槍さん、大丈夫?!」

「う、うん」

 

 

 私は補修を行っていた生徒、丈槍 由紀(たけや ゆき)さんの手を引きながら校舎内をひた走る。

 始まりは多くの悲鳴と、ガラスが割れ物が倒れる騒音。教室の扉を開け広がったあまりの状況に理解できなかった私の頭は、考える事を止め放心してしまっていた。

 

 

「……ねぇ! めぐねえ!」

 

 

 一分だったろうか、それとも十分経ったのだろうか。

 私が次に意識を取り戻し目にしたのは、丈槍さんが必死に私に話しかける姿だった。

 

 

「ご、ごめんなさい。少しぼーっとしていて、とにかく避難を……、!?」

 

 

 だが私が放心していた僅かな時間は、あまりにも致命的だったようだ。外でも悲鳴が上がり続けている現状避難場所として考えられるのは屋上。

 だが先程まで他の生徒を貪っていた《かれら》は私達に狙いを定め、屋上への道を全て塞いでいた。先程まで《被害者》であった生徒達もいまや《加害者》として私達に襲いかかろうと起き上がり私達を包囲していく。

 

 

 

 ────結果、私達は教室の脇にあったトイレに逃げ込むしかなかった。

 清掃用具箱に入っていたモップで扉が開かないようにしたが、破られるのも時間の問題だった。

 

 

「……めぐねえ」

「大丈夫。それに、めぐねえじゃなくて佐倉先生でしょ?」

 

 

 不安そうにこちらを見て震える丈槍さんを精一杯の笑みでなだめる。今、私はちゃんと笑えているだろうか? 

 

 扉を塞いでいるモップに亀裂が入りミシミシと音を立てる、そろそろ限界が近いらしい。あぁ、神様。願うならばせめて丈槍さんだけでも、どうか助けてあげて……

 

 

「ええぃ、お主等邪魔じゃ! 中の様子がわからんではないか!!」

 

 

 場違いな女の子の声が聞こえたかと思うと扉を破ろうとしていた圧力が消え、静寂が戻る。

 

 一体、何が起きたのだろう。今の女の子の声は一体? 様々な疑問が頭の中に沸くが答えが何も浮かばない。

 

 

「お、おい。誰かいるのか?!」

 

 

 聞き覚えのある声がした。

 

 ついさっき相談を受けた生徒、恵飛須沢さんの声だ。精一杯の勇気を持ってモップを外し、そっと扉を開ける。そこにいたのは……

 

 

「全く。妾の邪魔をするとはの…、なっとらん奴等め。去れ去れぃ!」

 

 

 綺麗な金髪をなびかせながら《かれら》をスコップで斬り飛ばす女の子の姿だった。先程まであれ程、醜悪で気持ち悪く見えていた血しぶきがルビーの原石のように光り輝き、その女の子を照らし出す。

 

 生徒だったものを殺している筈の凄惨な行為が、彼女にかかれば神の儀式であるかのように見える。それを見て私は理解した。思わず首に下げた十字架のネックレスをぎゅっと掴む。

 

 

 あの人は、本当に神様なのだ。と

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「本当にありがとうございます。私からもお礼を言わせてください」

 

 

 神様の先導により無事屋上へ辿り着く。扉にバリケードも作りひとまずの安全地帯を作り出すことに成功した。神様の腰にしがみついている丈槍さんを横目に神様にお礼を述べる。丈槍さんの態度は失礼ではないかしら、そう考えたが神様も嬉しそうに丈槍さんの頭を撫でているのでほっとする。

 

 

 恵飛須沢さんはビニールシートを敷いた上に、背負っていた例の男子生徒を寝かせている。見た所どこにも怪我はないようだ。本当によかった。

 

 少しだけ灰色の青春を送っていた私にとって、恵飛須沢さんの相談事は他人事には思えず成功する事を願っていた。この異常事態のせいで、彼女の初恋が最悪な形で散ってしまえば彼女の中できっとなにかが壊れてしまう。その危惧していた事態が防げた嬉しさを、それをもたらしてくれた神様へのおじぎにこめた。

 

 

「よいよい、この学び舎に通うものは全て我が愛し子じゃからな。にょっほっほ!!」

 

 

 現状がうまく飲み込めていない若狭さんは目を丸くしているが、神様の明るさで皆調子が戻ってきたようだ。早速、若狭さんにも状況を伝えてこれからを考えないと……

 

 

「あっ、神様。神様。私、丈槍 由紀(たけや ゆき)。神様のおなまえは?」

 

 

 そうだ、まだ自己紹介もしていない。社会人として当たり前の礼儀を忘れていた事に赤面しつつ取り繕うように丈槍さんに続く。

 

 

「ご挨拶が遅れ申し訳ありません。私、国語教師をしています佐倉 慈(さくらめぐみ)と申します」

「そういや私もまだだったな。私、恵飛須沢胡桃。よろしくな」

「あっ、えっと……若狭悠里です」

 

「む、そうか。めぐみにくるみ、それにゆーりか……、うむ」

 

 

 神様が急に歯切れの悪い態度に変わる。一体、どうしたのだろうか? 

 

 

「どうしたの、神様?」

「うむ、実は妾は分体でな。本体の名前はあるのだが、妾自身の名前は別にあってな」

「うんうん。それで神様自身のお名前は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……、あ、あ……じゃ」

 

「え?」「へ?」「はい?」

 

 

 

「じゃから! 『ああああ』じゃ!!」

 

 




 
神名(しんめい)→神様の名前

1079回も名前設定だけのリセマラしてれば名付けも適当になってくよね



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3.しんいき

 

 

 

 

 

 ────「名前が『ああああ』って……マジで?」

 

「嘘は言ってないようだけど、でもああああってさすがに……ぷふっ」

 

「若狭さん、気持ちはわかるけど駄目よ! いくら笑いたくなりそうでも人の名前を笑うなんて失礼ですよ!」

 

「いや、めぐねえの言葉も結構容赦ない罵倒になってると思うぞ」

 

「えっ!? いや、でも一見してひどい名前ですがきっと何か崇高な由来がある筈で……」

 

「でも神様さっき『適当な名じゃ、気軽に呼べ』って言ってたよ?」

 

「丈槍さん、本当ですか?! 適当にも程があるでしょう!」

 

 

 

 名前を言った途端、円陣を組んでヒソヒソ話を始めた一行を見守る神様プレイはーじまーるよー! 

 

 まぁ神様の聴力なら全て聞き取れるんですけどね。めぐねえがテンパりすぎて失礼発言連発してる気がします。国語教師として『神の名』に思う所があるんでしょうか。

 

 まぁここまでの流れを見るからにゲーム開始時の信仰ガチャでは()()()()()()()()()()()()()》が選ばれたんでしょうね。信仰を受けたキャラの初期好感度はMAX10からスタートしていますので、神様に対してイエスマンになります。

 

 その為3人から否定意見は一切出ませんでしたが、めぐねえ的にはやっぱり幼女が神様なんて信じられないんでしょうね。今後は特にめぐねえの動向に気をつけることにしましょう。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 さてさて、やってきました3階制圧のお時間です。

 本来ならば初日は屋上にて「アウトブレイク発生を理解した一同の心の整理」「覚醒素材先輩殺害によるくるみ覚醒」の2大イベントで終わります。

 

 ですが今回は我等が覚醒素材先輩は無傷です。故にくるみ覚醒イベントも起こりません。更に神様の鉄壁ガードにより全員のSAN値減少もかなり抑えられていますので、場は比較的落ち着いています。

 その為、僅かな時間ではありますが再行動が可能になるんですね。RTA的にここ重要ポイントです。

 

 因みに生徒や教師操作ならば必ず起こる

 

「今、校舎内に入るのは危険です!」

 

 いわゆる『めぐねえガード』も神様相手では機能しません。『オヤシロモード』の特権を初日からフル活用して校舎内の《かれら》を倒していきましょう。

 

 

 

 

 L E V E L  U P ! 

 

 

 

 

 はい、バリケードの傍にいた《かれら》を撲殺するとレベルが上がりました。これで本日()()()()レベルアップになります。

 1回目はどうしたって? 屋上へめぐねえ達を誘導してた時に上がってました。調べ事してて余所見してましたよ (見せ所を撮り逃す実況者の屑)

 

 しかしレベルアップによる能力やスキル取得をしなかったのには理由があります。(後付け)

『オヤシロモード』には神様だけが使える専用のスキルがあり、どれもチート級の性能を誇っています。ですが、そのスキル取得には2レベル分の成長ポイントが必要になるので1回目のレベルアップでもらえたポイントは保留しておいたんですね。

 

 

 そして、ここで取得するスキルはオヤシロモード専用スキル『神域化』。これは『安全が確保された場所で使用する事で、その場所が神域となる』効果です。

 神域内では《かれら》に継続ダメージを与え、奇襲が強制失敗となるチート効果が発揮されます。また『神格パワー』(通称SP)がある限り、この効果は続くのでかけ忘れの心配もありません。

 

 これにより“あめのひ”イベントでのかれらが無力化されるんですね。バリアのダメージ床をひたすら踏み続ける事になるので、引き篭っていれば勝手に倒れていく珍事が発生します。

 更に追加効果の奇襲無効、これによりロッカーに《かれら》が新たにポップしてもそのまま浄化され、襲われる事はありません。クリアリングの手間はフヨウラ! 

 

 

 フハハハハ、最強ではないか我が神は! 

 どこぞ近場の研究室から逃げ出した、コミュ力マックスの狂戦士君にも負けませんね!! 

 

 

 とまぁそんな事を考えながら3階制圧を行っていきます。

 撲殺! 撲殺!! もいっちょ撲殺!!! からの『神域化』! スキルの範囲は部屋1つ分なので順番に部屋を回っていきます。()()()()()も忘れずに神域化しますよ。

 

 ……………………

 ………………………………

 

 ひとまず放送室、生徒会室など主要な場所は神域化し安全を確保しました。

 ではでは、屋上に待機している原作組+パイセンを呼ぶ事にしますかね、ひとつ頼みたい事もありますし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ────若狭悠里は考えていた。自らを『神』と名乗る少女の事を。

 

 最初はただの冗談かと思っていた。しかし日常が壊れ、《かれら》が人々を襲い、たくさんの生徒や教師がもはや帰らぬ人になってしまった今もなお、少女はその有り様を崩す事はなかった。

 

 それと同時に屋上から地上の光景を眺め、大人である佐倉慈から詳しい状況を聞いた時、彼女の心の中で何かにヒビが入ったような感覚に陥る。

 

 今、彼女達は屋上で身を寄せ合い、男子生徒の介抱をしながら出て行った一人の少女を待つ。

 

 

「とんでもない事になっちまったな……」

「うん、そうだね」

「大丈夫よ。先生がついていますからね」

 

 

「あなた達ね……! 何でこの状況でそんな呑気にしていられるのよ!!」

 

 

 思わず口から出てしまう不満の言葉、だがそれも仕方ない。現実離れした今の状況下、いつ死ぬかもわからない不安の中、彼女等の不安は口だけであまりにもいつも通りだった。

 

 

「あー、若狭だっけ? 悪い。そうだよな、本当なら泣き叫んで当然の状況だよな」

「大丈夫だよ。私たちには神様がついてるんだもん!」

「そうね。焦っても仕方ないわ、校舎内の事は今はあの子に任せて、とにかく落ち着きましょう」

 

「佐倉先生……。本気で言ってるんですか?」

 

 

 佐倉先生は優しく、誰かの事を考えて行動できる人格者だと思っていた。

 

 その彼女が「小さな女の子に任せて、自分達は安全な所で待ってましょう」と言ったのだ。あんまりな言動に信じられないといった眼で彼女を見る。

 

 

「そうね。他人の眼から見たら私は教師失格どころか、一人の大人として軽蔑されて当然だと思うわ。でも……」

 

 そう言いながら、佐倉慈は先程の女の子とのやりとりを話し出す

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

《「校舎内の制圧?! 今出て行っては危険です!」》

 

《「にょっほっほ、お主は心配性じゃな。安心せい、3階の一部を確保するだけじゃ」》

 

《「でも……、皆混乱していますし明日まで待ってからでも」》

 

《「こんな雨風すら凌げぬ場所で夜を越してか? 余計に心労が溜まるだけじゃ、あの男も目を覚まさぬしの」》

 

《「……ではせめて私だけでもついていきます」》

 

《「いらぬわ、たわけが。それぞれが行うべき役目を見失うでない」》

 

《「…………私の役目?」》

 

《「階下で蠢く者共を誅するのが教師なのか? 己の本分をゆめゆめ見誤るでないぞ」》

 

《「…………はい」》

 

《「では行って来る!」(ドヤ顔)》

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 話を終えためぐねえは、悠里に近寄りそっと抱き寄せる。

 

 

「私はあなた達を絶対に守って見せる。それが《教師》の私が出来る精一杯。あの子の事は、きっと大丈夫」

 

「佐倉……、先生」

 

 佐倉慈の身体は僅かに震えていた。きっと大丈夫、それは誰よりも自分自身にかけている言葉に思えた。

 

 そこまで話を終えた所でバリケード越しにノックの音と共に快活な笑い声が聞こえる。

 現れたのは先程の金髪の女の子、服にも身体にも傷どころか汚れ一つない。地獄の入り口の様に思えた校舎内から生還してきたとはとても思えない状態だった。

 

 その姿に、佐倉慈はほっと安堵の息を漏らす。

 

 

 

「今、戻ったぞ! ひとまず下の安全は確保した。ここよりは快適な筈じゃ!」

 

「『あーちゃん』! おかえりー!」

 

「む? 丈槍由紀よ。その『あーちゃん』とはなんじゃ?」

 

「神様のお名前だよ、呼びやすいしかわいいでしょ?」

 

「ふむ、呼称の供物とは珍しいの。よい、これからは妾を『あーちゃん』と呼ぶが良い!! にょっほっほ!」

 

「はーい、あーちゃん! 私も『ゆき』って呼んでね」

 

「我に呼び名をねだるか! よいぞよいぞ。ではゆきよ、3階にいこうではないか!」

 

 

「あんた等本当に仲がいいというか、波長が合うよな。めぐねえ、若狭。行こうぜ。先輩は私が背負っていくよ」

 

「あー、ダメだよくるみちゃん。りーさんもちゃんと名前で呼んであげないと!」

 

「……りーさん?」

 

「ゆーりさんだから、りーさんだよ。……そう呼んじゃダメかな?」

 

「……フフ、別に構わないわよ。“ゆきちゃん”」

 

「若狭さん」

 

「すみません、先生。八つ当たりみたいな真似をして。ひとまず落ち着いて明日からの事をゆっくり考えたいと思います」

 

「えぇ、ありがとう。行きましょうか」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 晴れ晴れとは行かないまでも、各々の顔から憂いは消えた。ひとまずゆっくり休もうと各々は校舎内に入っていく。

 

 

「……あら?」

 

 その途中、少女をつい横目に見ていた悠里だけは気付いた。

 

 

 

 

 

 

(あの子、つけ爪なんてしてたかしら? 今、指から先が真っ黒に見えたけど)

 

 

 

 




 
神域(しんいき)→ 神社の境内、または神の宿るとされる一帯の事

一番のほほんとしているのは筆者


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4.りょうや(前)

 

 

 

 

 

 ────「なんじゃ、これは」

 

「何って、あーちゃん。夕ごはんだよ? あっ、もしかしてカップネードルはシーフード派だった? ごめんね、謎肉増量版しかなくて」

 

「妾は欧風……いや違うわ! 妾は神じゃと言うたろうに、食事は不要ぞ」

 

「オイ、じゃあ何で割り箸持ちながら3分待ってんだよ」

 

「これは妾の為に用意された供物じゃ。やらぬぞ」

 

「喜んで頂けてよかったです。神様でも栄養は取った方がいいと思いまして」

 

「めぐねえよ、次からは用意せずともよいぞ。まぁ出されれば残さず喰うがな」

 

「喰うのかよ!」

 

「当然じゃ。出された食事に文句をいう輩なぞ顔も見たくないわ」

 

「随分と庶民的な神様なのね……」

 

「悠里よ、食べ物への感謝の心を忘れてはならぬぞ。妾ならば出されれば例え吐瀉物でも食べ……」

 

「食事時に汚い例えを持ってくんな!」

 

 

「いったーい!? 何するんじゃ、この類人猿!!」

 

「誰が類人猿だ! 私は純粋な人類だ!」

 

 

「神様からもめぐねえ……でも生徒じゃないし別にいいのかしら」

 

「佐倉先生、そこ真剣に悩むところです?」

 

 

 

 

 和気藹々とした食事風景を流している所から、オヤシロRTAはーじまーるよー!! 

 

 現在、一行は3階生徒会室で遅めの夕食を取っている所ですね。隣の部屋のソファーに先輩を寝かせ未開拓領域に簡単なバリケードを作ったら安全確保完了です。『神域』の効果でバリケードにはりついたが最後、即☆浄☆化しますからね。

 

 という訳で生徒会室に隠されていた非常用食料(という名目)のカップ麺を美味しく頂く一行です。

 暖かい飲み物、食べ物は無条件にHP/SAN値の回復に補正がかかります。初日から屋内で暖かいもの摂取出来るとか、他ルートでの皆の扱いがかわいそうになってくるレベルです。

 逆にいうと、ここまでイージーモードにしないと助けられない覚醒素材先輩とは一体……

 

 

「…………」

「どうしたの、()()()()()()? 恐い顔して」

「いや……、状況の変化に頭がついていけなくってさ」

 

 

 誰やお前!!? 

 はい、という訳でチョーカーさんこと柚村 貴依(ゆずむら たかえ)さんです。無事彼女を救出しました。(無慈悲なカット)

 彼女はアウトブレイク発生直後、校内のどこかのトイレに引き篭もる事で一旦は難を逃れます。ですがプレイヤーが救出に向かわない場合、大体2~3日で《かれら》に襲われてしまうんですね。

 一階のトイレに篭っていた場合、助けに行くのはまず味なのでもう少し引き篭もりライフを行ってもらうつもりでしたが、幸い彼女は3階の女子トイレにいたので《神域化》でエリアを広げてる最中発見しました。

 とはいえ初見の幼女にホイホイついていく子ではないので、彼女の友人であるゆきちゃんを迎えによこし引き上げて貰いました。先程まではお互い涙を流しながら生きてる事を喜び合っていましたが、引き篭もり期間が短かった分もうすっかり立ち直ってますね。えがったえがった。

 

 ん?りーさんが神様のお手手をじーっと見てますね。なんや、白いお肌が羨ましいんか? 

 

 

「しかし葛城くん。目を覚まさないわね」

 

 

 ふと、めぐねえが憂い顔で隣の部屋に眠る先輩を想い壁を見つめています。

 このルートを通るまで走者は知りませんでしたが、覚醒素材先輩は「葛城くん」とちゃんと名前があったらしいです。みんな、覚醒素材覚醒素材いうから知りませんでしたわ。

 

 

「先輩、昨日は徹夜だったらしいんだ。それもあるんだと思う」

「それなら無理に起こさない方がいいかしらね。……今日はあまりに色々な事があったから」

「そうね。もう休みましょうか、先生は廊下で見張りをするから皆さんは安心して寝て下さいね」

 

 

 安心できないんだよナァ……

 アウトブレイク発生数日はまだバリケードも不十分、校舎内のクリアリングも完璧でないので、あまり夜に出歩かない《かれら》もここにやってくる事があります。

 そこで見張りを誰かが担当するイベントがありますが、めぐねえは先生という事で積極的に立候補します。ところが彼女一人だけに任せると一定確率で居眠りをしやがります。

 そのタイミングで《かれら》がやって来た場合、あえなく全滅ENDとなるんですね。さすが要介護キャラの名は伊達じゃないっすね。(皮肉)

 

 

 ですがそれは通常ルートのお話。

 3階の行動領域内は『神域』となっており《かれら》に襲われる心配は0なので、(見張りなんていら)ないです。

 

 とまぁそんなニュアンスをめぐねえ達に伝え、神様改めあーちゃんは一人用の個室に行きますよ。資料室で一緒に寝ようとゆきちゃんに誘われましたが、そういう訳にはいきません。

 何故なら────

 

 

「……ぅぁ~、疲れたのじゃぁ~~~、だりぃ~~」

 

 

 個室に入った途端、用意された寝袋に頭からダイブし、ごろごろ回り始めカリスマブレイクしたあーちゃんを見ればおわかりかと思います。

 

 キャラクリ時、プレイヤーには【体力】がないと言いました。では永遠に動き続けられるかというと否です。

『オヤシロモード』では【持久力(やる気)】が行動力となります。本来、走ったり組み付きなどの判定に使われる値ですが神様のスタミナは無限なので。(ただしやる気は有限)

 

 

「やっぱごろごろするなら屋内じゃなぁ、外でおちおち寝てられるかっての」

 

 

 はい、既におわかりかと思いますがあーちゃんの【持久力】はかなり低めです。にも関わらず今日はソロプレイで張り切りすぎた為、明日は行動に制限がかかる事でしょう。

 では焦って校内解放しなければと思いますでしょうが、彼女は相当わがままで、屋外で一夜を明かすとやる気が0を突き破ってマイナスに突入します。そうなった場合、3日はニート生活を続けるので多少の無茶は承知で校内解放を行ったんですね。スタートダッシュ終わるの早すぎぃ! 

 まぁ明日はくるみ(ゴリラ)達と協力して、3階の安全を確保して行きたい所ですね。期待の男手もいる事だしなぁ!!

 

 

 と、いう訳でおやすみなさい~~。暗転して翌朝に…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれっ? 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 ────「なぁ、起きてるか?」

 

 

 私達が横になって数時間が経過し私は呟く。

 

 

 

 ……よし、起きてるのは私だけみたいだ。

 

 今日はあまりに色々な事があり最初はみんな寝る事が出来なかった。ゆきは柚村の寝袋に入るし若狭……いや、りーさんがそれを真似して私を自分の寝袋に引きずり込もうとしてきた。

 

 そんな状況でお互い他愛のない話をしていたが、疲労も濃かったせいか今は全員寝息をたてている。でも私は、どうしても熟睡する事が出来ずにいた。

 

 

「先輩…………」

 

 

 隣の部屋で寝ている先輩の事が気になり落ち着かない。こんな事なら先輩の部屋で看病でもしていた方がいいんじゃないかと思ってしまう。でも────

 

 

 

《「えぇっ!? ダ、ダメです。絶対に! 恵飛須沢さん、もっと自分を大切にしなきゃダメよ!!」》

 

 

 

 ────顔を真っ赤にしためぐねえに猛烈に反対された。何想像してるんだか、おかげでこっちまで恥ずかしくなってしまった。

 

 結局、見張りと並行してめぐねえが先輩の様子を見るという事で落ち着いた。だから心配する事はない筈だけど……

 

 

 

「……めぐねえの様子でも、見てくるかな」

 

 

 誰も聞いていないのに言い訳を口にしつつ、音を立てないように部屋を出る。

 

 

 外に出ると月の明かりが廊下を照らし出していた。窓の外でいつも眩しく見ていた明かり達は自動的についたと思われる僅かな光量が残るだけだった。どれもまばらで異世界にでも来てしまったかのような気分に陥る。

 

 でも、これが現実……、ならこれからどうやって、何を目的に生きていけばいいんだろうか。

 

 

 

「すぅ……、すぅ…………」

 

 

 ふと横を見ると、めぐねえが寝息を立てていた。

 

 見張りが何やってんだか、と苦笑するが唯一の大人という事で心労も人一倍だったんだろうと部屋から毛布を持ってくる。

 

 

 

《「ここには結界を貼っている。バリケードの中にいる限り、奴らが襲い掛かることはない! と思って頂こうなのじゃ!」》

 

 

 

 ここまで私達を導いてくれたちんちくりんの言葉を思い出す。

 

 私は知っている、アイツが御社から現れ私の願いを叶えてくれた神様である事を。

 

 ドヤ顔がいちいちウザいし、話す言葉にもツッコミどころが多いがアイツに任せておけば全てうまくいく。

 

 アイツが大丈夫だと言っている。ならめぐねえをここで寝かせておいても問題ないだろ、と毛布をかけ先輩の寝ている部屋に向かう。

 

 

「先輩? 起きてますか」

 

 

 もしかしたら目を覚ましてるかもしれないので軽いノックの後、声をかけながら部屋に入る。今日は色々あった、出来るなら今夜は先輩と少しでも話を……

 

 

 

 

「…………ッ?!」

 

 

 

 その願いは、もぬけの殻となったソファを見て儚く散っていったのだった────。

 

 

 




 
良夜(りょうや)→月の明るい夜。綺麗な夜。


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5.りょうや(後)

 

 

 

 

 ────体が動かない。

 

 扉の向こうで必死に助けを求める男子生徒の叫び声が聞こえる。

 

 

 

 ────体が動かない。

 

 扉の向こうで瀕死の友人を支えながら逃げ惑う女子生徒の助けを懇願する声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 ────体が動かない。

 

 だから仕方ない、あたしが助けに行くことが出来なくても仕方がないんだ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ぅん」

 

 

 カーテンの隙間から差し込む月の光により意識が覚醒する。本来ならば何でもないこんなものでさえ睡眠の阻害をされてしまう程に気が滅入っていたらしい。

 

 だが同時に、多少なりとも休めた頭が冷静に状況を分析してしまう。あたしは首元のチョーカーへと手を這わせ、心を落ち着かせようとする。

 

 

「助かったんだな、あたし」

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 ────はじまりは突然だった。

 

 廊下が騒がしくなり、様子を見に行った生徒達が次々と赤く染まりながら倒れていった。

 

 周囲の生徒達が呆然と立ち尽くしている中、あたしの行動は早かった。普段からゾンビパニックものの映画を好んで見ていたからか、他の奴等より状況を飲み込む為の時間が短くすんだ。

 

 

 だけど、現実は映画の様に都合よくは行かなかった。

 

 安全な場所を探して右往左往するも、どこにいっても《やつら》がいる。どんどん逃げ場が減っていく焦りの中、あたしが逃げ場所に選んだのは女子トイレ。袋小路の密室だった。

 

 そこであたしに出来る事は、個室の隅でうずくまりただこの状況が変わるのをじっと待つだけだった。

 

 ……未だに助けを求めている多くの人々の声に、応えてしまわないよう体を抑えつけながら

 

 

 

 

 

 

 

《「そこにいるのはわかっておるぞ。もう安全じゃ、出て来てもよいぞ」》

 

 

 時間の流れを思考が忘れようとした頃、場違いな小さな女の子の声が聞こえる。

 

 あたしの友達にも小さな子供としか思えない様な同級生がいるが、明らかにそれより下……小学生位の子供の声だ

 

 

 

《「全く……。引き篭もるのは神のやる事ぞ、思うままに動こうとするのが人間の美徳じゃぞ。まぁよいわ」》

 

 

 よくわからない事を言った後、少女の声は離れていく。

 

 状況も言われた言葉も理解できないまま硬直したあたしが次に正気を取り戻したのは、その子供に連れられた友達(ゆき)の声が聞こえた時だった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

「むにゃむにゃ……、おむすび食べたい」

 

 

 あたしの寝袋に潜り込んだゆきの寝言が聞こえる。何も考えてないように思えるコイツだが、人の心の機微には聡いやつだ。

 

 きっとあたしを心配して寄り添ってくれたんだろう、お陰で悪夢を見る事はなかった、良い夢を見る事も出来なかったが。

 

 

(あたしは────、たくさんの人を見殺しにしたんだな)

 

 

 夢で見たあの時の記憶が蘇る。

 

 一人トイレに篭ったあたしに聞こえた多くの助けを呼ぶ声、すぐに飛び出していればもしかしたら助けられる命もあったかもしれない。

 

 だがあたしは見殺しにした

 

 どうせ手遅れだ、見つかったら終わりだ、道連れにされるだけだ。際限なく沸きあがる言い訳に体が縛られ、あたしはその動かない体すら言い訳に利用した。

 

 

 ……どうせこんなのは「たられば」の話だなんて事はわかってる。でもあたしは、その罪悪感をどうしても心から拭えないでいた。

 

 

 

 

 

「……さ……! 起……く……さ……!!」

 

 

 少し離れた場所で大きな声と叩くような音が聞こえる。方向は……確か、ゆきが「あーちゃん」とか呼んでた自称神様の寝室だ。

 

 その音に気付いたのか若狭も驚いたように体を起こし、不安そうに自身の体を抱きしめる。

 

 

「な、何かあったのかしら……?」

 

「わからない。あたし、様子を見てくるよ。ゆきの事頼んだ」

 

「え、えぇ。わかったわ、気をつけてね」

 

 

 警戒しながら廊下に出て通路を進む。アイツはあたし達とは反対側のバリケード前の部屋にいる筈だ。そちらへ向かう度に聞こえる声は大きくなり……、それがめぐねえの声だとわかった。

 

 

「どうしたのさ、めぐねえ。そんなに大声出して」

 

「柚村さん! 大変です! 私のせいで、私のせいで!!」

 

「わ、わかったわかった。ひとまず落ち着きなって。一体何があったのさ」

 

「葛城くんが、葛城くんがいなくなってしまったんです!」

 

「アイツが!?」

 

 

 葛城 紡(かつらぎ つむぐ)───恵飛須沢と同じ陸上部だったOBの先輩らしい。

 

 どういう関係なのかは……恵飛須沢の様子を見ればバレバレだった。気付いていないのはゆき位だ(いや、気付いてはいるが察してないだけか)

 

 

 話を詳しく聞けばめぐねえが居眠りしてる隙に葛城先輩が目を覚まし部屋を抜け出し、それを恵飛須沢が見つけめぐねえを起こして知らせたらしい。

 

 

「マズいな……、恵飛須沢はどうしたんだ?」

 

「恵飛須沢さんは葛城くんを探しにいくって飛び出して、私は神様に手伝って貰おうと思って……」

 

「それで何度も部屋を叩いてるんだが、返事がないんだな」

 

「…………はい」

 

 

 状況は予想以上に逼迫しているようだ。

 

 あの子供に何が出来るのかは正直疑問だが、今は猫の手も借りたい状況だ。あいつがただの子供でも、安全地帯内を一緒に探す位は問題ないだろう。

 

 

「めぐねえは資料室に戻って若狭とゆきにも手伝ってもらう様言ってくれ。ここはあたしがやる」

 

「柚村さん…………、お願いしますね」

 

 

 そう言ってめぐねえは走り去る。正直、先生にこれからやる事はあまり見せたくないからな。

 

 アイツが篭っている場所は簡易倉庫、扉は1つしかないし鍵もかかっている。だが扉の前には、アイツが持っていたであろうシャベルがたてかけてあった。

 

 

「緊急事態だ、弁償とかは簡便してくれよ……なっ!!」

 

 

 そのシャベルで扉を壊しにかかる。2度、3度とシャベルを振り下ろし続けた。

 

 だが、その扉はまるで不思議な力に守られているように傷1つ付かない。最終手段と扉についている曇りガラスを殴ってみるもシャベルの方が弾かれてしまう始末だった。

 

 

「チッ……、全く強情な────」

 

「先輩──────!!」

 

 

「!!!」

 

 

 恵飛須沢の声が響いてきた。明らかに切迫した声、即座にあたしは声のほうへと駆け出していった。

 

 

 

 

 

「恵飛須沢!!」

 

 

 来た道を戻り、更に廊下を進み机を並べただけのバリケードを乗り越える。その階段を下りた先に────二人はいた。

 

 地面に倒れ付す葛城、頭からはうっすらと血が見えるが《やつら》にやられた訳でなく頭をうっただけのようだ。そして、その葛城の体に覆いかぶさるように庇っている恵飛須沢と……迫りくる《やつら》

 

 めぐねえや若狭達はモップをもって、同じく自分達と床に座り込むゆきに迫ろうとしている《やつら》を追い払うので精一杯のようだった。

 

《やつら》の手が恵飛須沢に迫る状況がまるでスローモーションの映像の様に流れていく。

 

 

 

 

 

 ────また、あたしは見殺しにするのか? 

 

 

 

 

 

 ────あたしはこんな事を続ける為に生き残ったのか? 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ゆきや恵飛須沢に対してすら、言い訳を続けるだけで何もしないのか? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《「思うままに動こうとするのが人間の美徳じゃぞ」》

 

 

 

 ────手に持っていたシャベルの持ち主の言葉が、不思議と心の奥底に響いた気がした。

 

 

 

「あたしの友達に手出すんじゃ────ねぇ!!」

 

 

《やつら》の手を両断し、そのまま返す刀で体ごと吹き飛ばす。人だったモノを殺めてしまった事に対する嫌悪や罪悪感がのしかかろうとするが構う事はない。

 

 あたしが友達を見殺しにする時に感じる“それ”と比べれば何てことはないから。

 

 

 

「恵飛須沢、葛城先輩を抱えて走れ! めぐねえはゆきを。若狭、こっちに来い。逃げるぞ!」

 

 

 めぐねえ達に近寄る《やつら》も切り飛ばして声をあげる。

 

 体と心を休めたお陰かあたしの言葉に全員素早く反応し、3階へと駆け上がる。

 

 

 

 

 

 あたしはようやく……、他人を助けに動ける()()になったんだ! 

 

 

 

 

 

 

「柚村さん、危ない!!」

 

「えっ?」

 

 

 気付いた時には既に詰んでいた。

 

 皆が3階にあがっていったのを確認し、その光景を見て安堵していた僅かな隙。その間に、シャベルを持つ手が捕まり《やつら》への攻撃が鈍った隙に、更に足を掴まれてしまった。この状況では《やつら》を振り払う事も逃げ出す事も出来ない。

 

 

 

「たかえちゃん!!?」

 

(これで終わり……、か)

 

 

 思ったよりもすんなりと状況を受け入れる。心にのしかかっていた一番の澱みが解消できたからだろうか、それとも助けに行くと決めた時点で全員助かるなんてゆきが好きなアニメみたいな展開を期待していなかったからだろうか。

 

 

 恵飛須沢、悪いけどあたしの分までゆきの事を────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戯けめ。人間というものは生き汚さや諦めの悪さも美徳のひとつだと知るのじゃ」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 目の前に広がる光景に驚愕する。

 

 一瞬のうちに目の前に現れたあの子供、そいつは私と《やつら》の間に割り込むように体を滑り込ませる。その衝撃で、あたしは拘束が解かれ後ろにしりもちを付くが……

 

 

「あ、アンタ。一体どうして……!!?」

 

 

 頭、腕、足……体中を《やつら》に噛まれていた。あたしの身代わりに。

 

 

「あーちゃん!?」

「神様!?」

「オイ、嘘だろ……!?」

「そんな、どうして……!!」

 

 

 各々が叫び、嘆き、戸惑う。当然だ、《やつら》に噛まれてしまったらそれで終わ……

 

 

 

 

 

 

 

「戯けめ。妾は神ぞ。人の業ごときで妾を染める事など到底叶わぬとしれ」

 

 

 何でもない事の様にそいつは言い放った。

 

 

「……ゥ…………グ」

「グガ…………ァ」

「…………ゥゥ……」

 

 

「血が……、出ていない?」

 

 

 よく見ると《やつら》が噛み付いている場所からは血の一滴も流れていない。いや、よく見ると()()()()()()()()()()()()()()。その自称神様から漏れ出す光の膜のようなものに包まれ《やつら》は体に触れる事が出来ないでいた。

 

 

「いつまで妾に寄っているか。痴れ者め」

 

 

 何でもない事のようにあたしが落としたシャベルを拾い直し《やつら》を一掃する。こいつ、もしかして本当に…………? 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「さて、ひとまずは戻るとするか。妾はもう寝るぞ、介抱はお主等に任せる」

 

 

 資料室に戻り葛城の介抱を行っているあたし達にそう告げ、神様は部屋を出て行った。

 

 

 

「なぁ、アイツ……いや、あの人って本当に」

 

「うん、神様だよ!」「そうだな」「そうね」 「……やっぱりそうなのかしら」

 

 

 若狭だけが半信半疑のようだったが他の3人は口を揃えて答える。

 

 

 

 あいつはやっぱり神様なんだと。

 

 それを理解したあたしは、あの人が去っていった方向に頭を下げる。

 

 

 

「ありがとう、ございました。神様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 ────はい。走者は今、全力でたかえちゃんに頭をこすり付けて感謝しています。

 

 

 ありがとう、ございました。たかえちゃん様!!

 

 

 

 危ねェェェェェェェェェェェ!!!! セーフセーフ!! 

 

 まさかここで『先輩放浪癖』イベントを引くとは思えませんでしたよ! 

 はい、これはアウトブレイク発生後『先輩が状況を理解せず一人にしている』と確率で発生するイベントです。確率というのは、目が覚めてから行動に至るまでに《かれら》以外のNPC含めたいずれかのキャラクターに出会えばイベントがキャンセルされるからです。

 

 その上、先輩は『看病』の名目で原作キャラ達が頻繁に様子見に来ますし日中なら神様も見ていられるので安心していました。それがこの始末ですよ。

 寝たのに暗転せず、イベントの発生を感知した神様はすぐに先輩の下へと向かいました。行動可能になる前に部屋の前から何か聞こえた気もしますが《かれら》が近寄っていただけでしょう。薄い扉なので何かあればすぐ聞こえますしね。

 

 という訳で資料室横の資料倉庫室をガチャ。うん、いねェ!! 

 知ってたよ、途中でくるみの叫び声聞こえてたしな!! 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 という訳で無事救出完了です。

 途中、神様が噛まれましたが《神格パワー》(通称SP)に阻まれ《かれら》が神様に触れる事は出来ません。感染耐性じゃなくて噛み付き無効ってつくづくチートキャラやな。

 

 

 なんだかんだありましたが、これにて無事一日目終了です。

 そろそろ本気で寝ないと明日何も出来なくなるのでさっさと寝ますゾイ! 

 

 

 おやすみなさい~~~~

 

 

 




投稿日付設定が一日ずれていました(ガバ)

これにて一日目終了です。他者視点で話を進めようとするとどうしても文字数が増えてしまいますね。
次の話のUPは、少し日が空くと想います。


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6.いきゃく(前)

 

 

 

 

 世界が大幅に変容した日から一晩明け、自身の通う高校の資料室で目覚めた悠里は周囲を確認しため息を付く。

 

 

「……やっぱり夢じゃないのよね」

 

 

 突如起こった惨劇。自我を失った《かれら》が周囲の人々を襲い、道路のあちこちで交通事故が発生しクラクションが遠く鳴り響き、視界の彼方では爆発や火事の発生が見えた。アウトブレイクが発生した時、屋上で園芸部として畑の世話をしていた悠里は校内での様子に気づく事がなかった。

 

 だがそれは幸運と呼べるかどうかはわからない、目の前に迫る【死】を意識する前に、屋上から見える世界が崩壊していく様をまざまざと見せ付けられていたのだから……

 

 

「うぅん、あーちゃ……むにゃむにゃ……」

 

 

 しばしの間、放心していた悠里だったがすぐ脇で眠っている少女、由紀の寝言で我に還った。そして子供のように眠る幸せそうな顔を見て思わず頬をゆるませる。

 

 

「かわいい寝顔ね、まるで……、え?」

 

 

()()()、なんだろう? 今自分は何を言おうとしたのか。何か『大切な事』を忘れていないか、僅かばかりの冷静さを取り戻した悠里は心の奥底に何か違和感を感じた。それが何なのか考えようとするが、沸きあがる不快感に屈し、悠里はそれ以上考えるのを止めた。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「おーっす。おはよう、りーさん」

 

「おはようさん。由紀はまだ居眠り中かい?」

 

「えぇ、ぐっすりよ。めぐねえは?」

 

「先輩の所。見てるから朝食くらい取って来いって怒られちゃってさ」

 

「そりゃそうだろうさ。あれから今まで葛城先輩の脇にひっついてテコでも動きそうになかったからね」

 

「そ、そんな事ねーよ!」

 

 

 生徒会室へ向かった悠里を迎える柚村とくるみ。二人は中央の机を囲む椅子にそれぞれ腰掛けており、非常用食料として戸棚の隅に保管されていた乾パンをつまんでいた。初日と比べお互いに打ち解けており、名前で軽口を交わし合う仲になっていた。

 

 昨晩の騒動、一歩遅ければ葛城は《かれら》と同じ存在になっていた。それを誰よりも理解しているくるみは、夜が明けてからも彼の見張りを続けていた。目にはうっすらと隈ができている。

 

 

 

「昨日の夜は本当に大変だったわね。葛城先輩、無事でよかったわ」

 

「それなんだけどさ。あいつら、夜は数が少なくなってないか?」

 

「あー、言われてみればそうかもな。私大分騒いでたけど、アイツ等が集まるまでかなり時間があったな」

 

「夜は活動が鈍くなるのかしら。生活リズムは生前と変わらないのかも」

 

 

 昨晩の事件で気付いた事をお互い共有していく。

 

 お互いに情報を出しつくしたと感じた頃、その情報を共有すべきだと感じたくるみは入り口の扉を見つめる。

 

 

「まだ来てないのはゆきと……、あーさんか」

 

「胡桃、神様ってあたし達が起こしてもいいモンなのか? あの人が寝てる部屋のドア、スコップで叩いてもビクともしなかったぞ」

 

「じゃあ、私達にはどうしようもないな。あーさんが自然に起きるのを待つしかないか」

 

「あーちゃんはまだ小さいんだもの、そっとしておいてあげましょう」

 

 

 くるみは神様の事を『あーさん』と呼んでいた。

 大切な人(先輩)を助けてくれた恩人、それも神様に対して由紀のように「ちゃん」付けはハードルが高いと考えた彼女なりの結論だった。尚めぐねえと柚村は未だに神様呼びであるが、悠里はすんなりと『あーちゃん』呼びを受け入れていた。

 

 

 それから他愛もない雑談をしながら時間が過ぎていく。

 時刻はいつもなら一時限目の授業が開始している時間。お互い口には出さないが、自分達が非日常な状況へと叩き込まれた事実をどうしても意識してしまい、自然と口数は減っていく。

 

 そんな時、重くなった空気を払拭するかのような大きな音を立て扉が開く。

 一瞬身構える一同だが、現れた輝く金色の髪をした少女を見て安堵の息をつき…………、その息を飲んだ。

 

 

「な……なぁ、あーさん」

 

「何じゃ」

 

「いや神様さ、何だよその格好……」

 

 

 3人の目の前に現れた少女は、昨日着ていた豪族衣装ではなく白いTシャツと短パンというラフな格好をしていた。だが、Tシャツは大人用サイズだったのかぶかぶかで少女の膝まで隠れてしまっている。絹糸のようなストレートの髪は簡素なゴムで両脇を縛っており、非常にラフなスタイルとなっていた。

 

 

「あー、今日はオフだからお休みじゃ。明日から本気出す」

 

 

 呆気に取られる一同の下に近寄り机の上の乾パンを数個掴むと、彼女はバリバリと音を立てながら生徒会室を後にした。その姿に昨日感じた神聖な雰囲気はなく、ただの小学生の女の子にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「るー……ちゃん…………?」

 

 

 故にその後ろ姿を沈痛な面持ちで見つめる悠里の姿は、誰も気付く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

(人生を)働いたら負けになるオヤシロRTAはーじまーるよー! 

 

 

 

 前回は深夜徘徊していた覚醒素材先輩をひっつかまえてベッドに強制送還させた所でしたね。皆、無事でえがったえがった! 

 

 ですがこの世の原理は等価交換。変わりに失ったものもあります。そう、神様の持久力(やる気)です。

 初日のオーバーワークで限界ギリギリだったのですが、昨晩のイベントで持久力はマイナスに振り切ってしまいました。これにより《神様オフモード》が発動してしまいます。

 

 この状態になると神域パワー(通称SP)が失われてしまい、神様としての権能のほぼ全てが使用不能になってしまいます。発動中の《神域》に影響はないのでセーフエリア内では安心ですが、エリアを広げるどころか《かれら》との戦闘すら危うい状態です。

 

 またオフモードでは常時発していた神様のカリスマのようなものが失われ、学園生活部の面々のSAN値減少を緩和する事が出来なくなります。いままでは『神様がいるから何とかなる』という考えが自然とあったので仕方ないと言えば仕方ない現象ですね。

 

 ですが、この状況で特にひどいのは誰かが神様に依存していた場合です。絶対的な存在として憧れだった神様が弱体化した事により、自身を守ってくれないという恐怖から疑心暗鬼に陥ります。最終的には神様に襲い掛かり、船の船首の女神像のようにバリケードに貼り付けられ魔除けグッズ扱いされます。(4敗)

 本当無茶苦茶しやがりますね。一つ覚えておくといい。憧れは理解から最も遠い感情だよ……? 

 

 

 そんな訳で大事な局面で発動すると、どんなにチャートが上手く進んでいても即崩壊の危険がある《神様オフモード》ですが、一同の精神に大きく影響を与えるのは『初回』のみです。2回目からは段々と慣れますし、雲の上の存在を身近に感じるのか親密度も上昇します。更に『神様ばかりに頼ってられない』と自立心が芽生え、神様への依存が起きにくくなります。

 

 

 なので《神様オフモード》は後半になればなるほど見せた時のデメリットが大きい上、早出しのメリットもありますので『すぐに見せる』か『絶対に見せない』の二択しかありません。

 あーちゃんの場合は持久力(やる気)が低く、オフモードに非常になりやすいので『すぐに見せる』方法を選択しました。あまりの変わりように呆気に取られている面々でしたが、悲観的な様子の人物はいませんでした。りーさんが生き別れの家族と会ったんじゃないか位のビックリ顔をしているのが面白かったです。

 

 

 

 

 これは早々に生活基盤を確保した事による、精神的余裕が要因として大きいと思われます。本日は特別なイベントも起こりませんし、初日に3階を解放するとボーナスとして少量の食料が、生徒会室の備蓄として追加されています。屋上の菜園もあるし今日明日は問題ないでしょう。

 なので、本日はめぐねえやゆきちゃんにもこの姿を見せてオフモードの姿に慣れてもらえば終わりです。

 

 

 

 

 

 資料室をガラッ。ゆきちゃん発見! ハイサヨナラ! 

 

 

 

 

 

 

 横の教室へ移動、ガラッ。めぐねえ発見! ハイサヨナ……

 

 

 

 

 

 

 

「神様、待ってください! 葛城君が目を覚ました様なんです」

 

 

 おっ、デジマ? 折角なので覚醒素材先輩にも神様のオフモードを一目見てもらいましょう。

 神様的には今回が覚醒素材先輩との初邂逅ですね。それまでは戦闘中しか顔を合わせてないので話をする余裕もない状態でしたからね。

 

 おっすおっす! 神様だよ!! 

 

 

 

「…………………………」

 

 

 

 

 

 軽やかなスルー、何気ない無言がオヤシロ様を傷つけた。

 

 

「……まだ意識がはっきりしていないみたいですね。申し訳ありません」

 

 

 ショーガナイネ。

 覚醒素材先輩のステータスを確認した所《かれら》に襲われた時に頭部をぶつけ、意識混濁のステータス異常がついているようです。後遺症に関連するバッドステータス表記はないので、全快ではないだけですね。大丈夫だ、問題ない。

 

 この調子なら夕方には完全回復しそうですね。その旨を伝えてめぐねえを安心させます。(こんな姿でもしっかり神様やってんだよ、というアピール)

 

 

「本当ですか! よかった。私、恵飛須沢さんを呼んできますね」

 

 

 そう言いながらめぐねえは去っていきます。程なくしてゴリラ(くるみ)が扉を蹴破らん勢いで入ってきました。

 ここにいてもお邪魔虫のようだし、あーちゃんはクールに去るぜぇ……

 

 

「……()()。少しいいですか?」

 

 

 おっと、廊下に出たらりーさんに呼び止められました。いつになく真剣な表情をしていますがどうしたんでしょう? 

 まさか《オフモード》のあーちゃんに見切りをつけて『私が天に立つわ』なんて言って来ませんよね? 

 

 

「この学校以外の場所に避難した人達は、まだ生きていると思いますか?」

 

 

 よかった、普通の質問でした。

 しかし2日目にしてもう外部の避難民にまで意識が向けられるとは、かなりSAN値に余裕がある証拠です。SAN値が最大値を維持していると、確率やイベントで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので《ゆきちゃん化》や《めぐねえ化》を元に戻す事も出来ます。出来ればこの状態を維持したい所ですね。

 

 

 質問の答えは当然【YES】! ショッピングモールには2年生コンビである圭&みーくんがいますし、将来的に救助に向かいたい所です。ここで外部を示唆すれば生きる活力にも繋がりますよ。

 

 

「そう……、そうですよね」

 

 

 おぉ、りーさんの目に見た事がない程の力が宿っている。

 りーさんはどのルートでも最大SAN値の低さから(悪い意味で)ストッパーになる事が多かったですが、オヤシロモードでのりーさんは頼れるお姉さんになりそうです。

 

 

 そして、りーさんと別れた神様ですが。今日やる事は一つだけです。

 持久力(やる気)回復の為────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝る!! 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 おはようございます!! 3日目に突入ですよ! 

 さぁ、今日も朝日が眩し────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[満月]<ハーイ

 

 

 

 あれっ? まだ2日目の夜じゃないですか

 おかしいな、何かイベントありましたっけ? とりあえず部屋から出て皆の様子を見に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーさん、大変だ! りーさんが先輩と一緒に外に!!」

 

 

 あるええぇぇぇぇぇぇぇ!!!? 

 

 

 




 

遺却(いきゃく)→忘れ去ること


 お待ちしていた方は大変申し訳ありませんでした。
続きを求める感想を頂きテンションマックスになったので、急ぎ書き上げました。こちらの作品も疎かにしない様、頑張ります。

 なお主人公の容姿ですが









神様モード→恋姫無双『袁術』
オフモード→アイドルマスターシンデレラガールズ『双葉杏』
がモデルとなっています。


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7.いきゃく(後)

 

 

 

 

 ────「おい、どうするんだよ! 先輩が、先輩が!!」

 

「お、落ち着いて恵飛須沢さん!」

 

「めぐねえも落ち着いて、落ち着いてったら!!」

 

「あんた等全員焦り過ぎだって!」

 

 

「……なんじゃ、このカオスは」

 

 

 

 メンバー全員が狼狽状態のオヤシロRTAはーじまーるよー! 

 

 

 ひとまず全員を聖域から飛び出さない程度になだめた後、一番冷静(マシ)だったチョーカーネキに状況を聞きました。

 りーさんは『小学校の様子を見てきます』と書置きを残し出て行った事に夕食時になって気が付いたとの事。更に正気を取り戻した覚醒素材先輩も、くるみが離れた僅かな間に一緒にいなくなっていたという事らしいです。起き抜けでナチュラルにトラブルに混ざる先輩なんなん? ハーレム主人公? 

 

 しかし小学校かぁ……、これは『るーちゃん救出イベント』が強制発生したみたいですねぇ。

 りーさんには、隠された設定として小学生の妹がいるんですね。(隠すな)

 ルートによっては幼少期に不運な事故で命を落としているパティーンもあるようですが、多くの場合存命で元気に小学校ライフを送っています。

 

 ですが、りーさんはアウトブレイク時に発生した精神的ストレスにより、妹の事を忘れてしまいます。元々他の面々の半分くらいしかSAN値ない上に、屋上から見えるあらゆる建物が崩壊していく様を見せられているので、しょうがないです。誰も生きていないと絶望を抱え込み、闇堕ちするよりはマシと思いましょう。

 

 

 そんなりーさんですが、高SAN値を維持してると、この事実を思い出す場合があります。

 ですが試走では“あめのひ”みたいな大きなイベントの時しか起こらなかったので、完全に「気にしないでええやろHAHAHA☆」とか思ってました。

 まずいですよ、クォレハ! (盛大なガバ)

 

 とにかく救助隊を編成しましょう。NPCの独自行動は残SAN値に影響するので、りーさん一人じゃ(先輩)がいても無事に戻れる確率は低いです。

 

 

「……よし。とにかく助けに行くしかないか、まだ間に合う筈だ」

 

「大丈夫なの? たかえちゃん」

 

「心配しなさんなって。ゆきはいい子でお留守番してるんだね」

 

「むぅぅ。私、子供じゃないんだから」

 

「あはは、悪い悪い」

 

「妾の権能は校内限定じゃが陰りはせぬ。ゆきの安全は妾が保障するぞ」

 

「……お願いね、神様」

 

「うむ。主も妾の加護があらん事を」

 

 

 

「たかえ。私も行くから」

 

「くるみ。大丈夫なのか? 無理しなくてもいいんだぞ」

 

「大丈夫。少し怖いけど、先輩がいるなら待ってなんてらんない」

 

「……小学校は少し遠いんだ。へばるなよ、陸上部」

 

「ヘッ、そっちこそ!」

 

「わかりました。柚村さん、恵飛須沢さん。では先生も……」

 

 

「「「ダメ(じゃ)」」」

 

 

 

 

 

 

 

「何で?!」(泣)

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ────私、若狭悠里には妹がいる。

 

 名前は若狭瑠璃、愛称は「るーちゃん」。とても素直で賢い子だけれど少しだけお転婆で、私が作ったお菓子を冷ます為に机の上に置いていると、手を伸ばして取っていってしまう困った子だ。

 

 

 そして今、私はその子を迎えに小学校へ来た────私が犯してしまった罪と、犯してしまっている罪を自覚しながら。

 

 

 

「ハァ……、ハァ……、ハァ……」

 

 

 扉を閉め鍵をかける。

 

 胸が苦しい、胃の中のモノが逆流しようとするのを必死に抑える。こんなになるまで体を動かしたのは一体いつぶりだろう。

 

 だが私は、無事にるーちゃんの通う小学校へと潜入出来た。大通りを避け、瓦礫や沈下していない火で塞がれた道を迂回しながら進んだ為に、辺りはすっかり暗くなってしまったが。

 

 ふと、横を見る。今回の身勝手に付き合わせてしまった男性、葛城先輩。彼がいなければ今頃、私は外を徘徊する《かれら》の仲間になっていたかもしれない。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 発端は今朝。ゆきちゃんの寝顔や神様の自由奔放な様子を見て、私の中の何かが騒ぎ立てた。《決して忘れたままにしてはいけない》と

 

 そして私は大切な家族の存在を忘れ去ろうとしていた事に気づいた。

 

 

 ……それからは地獄だった、何をしてもどんなに気を紛らわせようとしても駄目だった。

 

 

『大切な妹の事を見捨てたのね』

『忘れれば助けなくてもいいもの』

『なんて薄情な人なのかしら』

 

 

 頭の中で(だれか)を責め続けるだれか()。いても経ってもいられず、神様からるーちゃんの生存について聞いて見る事にした。

 

 るーちゃんが生きている! その可能性を示された私はもう自分を止める事は出来なかった。きっとこのまま何もしなければ、私は自分で自分自身を殺してしまう。そう思い、るーちゃんの通っている小学校へ向かう事にした。普段はバスを利用するが、徒歩でいけない距離じゃない事も後押ししたのかもしれない。

 

 でもそこで想定外の事態が起きた。簡易バリケードを出て行く所を葛城先輩に見られてしまった。更に押し問答の末、仕方なく理由を説明したせいで彼までついてきてしまった。彼は私とは違う、大切な人はすぐ傍にいるはずなのに……

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「よいしょ、っと。先輩、運びますね」

 

 

 私が逃げ込んだ先は用務員室だったらしい。葛城先輩を背負って部屋の奥へと運ぶ。垂れ下がった彼の手が私の体のあちこちに触れるが、気にしている場合ではなかった。

 

 

 ……そう、葛城先輩は気絶している。

 

 学校に到着するまでは、身を隠しながら進む事が出来た。しかし学校の入り口にたむろしていた小さな《かれら》は強行突破するしかなかった。学校から持ってきていたモップや先輩のシャベルで《かれら》を押し出し無事に校内に入ったかと思うと、先輩は糸が切れたかの様に気絶してしまった。

 

 考えてみれば先輩はほとんど食べておらず、体力も回復しきらないうちに私に付き合ってここまで来てくれた。むしろ、倒れない方がおかしかった。

 

 そんな先輩を引きずるように入り口のすぐ脇にあった用務員室にかけこみ、今の状況となっている。

 

 

 

 

「ふぅ、ようやく寝かせられたわ。男の人って本当に重いのね」

 

 

 部屋の中には布団が備え付けられており、なんとか葛城先輩を寝かせる事が出来た。その苦労を噛み締めていた時、ふと今朝のくるみと柚村さんとの会話を思い出す。

 

 

《「くるみは校舎裏で襲われたのか。助かってよかったよ」》

 

《「あぁ。私の場合は神様がいなきゃダメだったかもしれないな」》

 

《「でも、くるみの足なら奴等をふりきれるんじゃないか?」》

 

《「無理に決まってるよ。先輩だっていたんだぜ」》

 

《「くるみなら、いざとなったら先輩背負って屋上まで駆け上がったり位、出来るだろ」》

 

《「で、できるわけないだろ!? 先輩ってスリムだけど、足だけじゃなく腕やお腹まで筋肉があってすごく重いんだぞ!」》

 

《「ハイハイ、何で知ってるんだか。ごちそうさま~」》

 

《「た、たかえ~~~!!」》

 

 

「……フフフ」

 

 

 今朝の何気ない会話が私の疲れきった体に力を取り戻させてくれる。ここまで一緒に来てくれた先輩の為にも、そして先輩を一途に思う友人の為にも、私はるーちゃんを助け先輩を無事に送り届けなければならない。

 

 

 

 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………見つけた?! 

 

 

 先輩のいる用務員室の扉の鍵をかけ、私は一人るーちゃんを探す。

 

 この学校の一階は不審者が入らぬ様、全ての窓に格子がついている。あの部屋はある程度の防音性もあるので、葛城先輩の安全は確保されている。

 

 私は学校を徘徊する《かれら》の目をかいくぐり、るーちゃんが隠れそうな場所を探し回った。あの子はかくれんぼや怒られる様な事をした際に、戸棚の下によく隠れる。彼女の癖を良く知る私は目星をつけ探し回っていると一階の昇降口を挟んで奥の部屋、職員室の戸棚のひとつが僅かに空いており隙間からこの学校指定の上履きを履いた足がチラリと見えた。

 

 急かす心臓の鼓動を必死に抑えて職員室に一人いる、元は教師であろう《かれら》の様子を伺う。どうやら《かれら》はその子に気付いていない様だ。少し経つと生前の習慣によるものか、見回りへと出て行ってしまった。

 

 私はなるべく音を立てずに扉を開け、素早く体を滑り込ませ閉める。

 

 

(るーちゃん……、るーちゃんなの?)

 

 

 体勢を低くして慎重に一歩一歩戸棚へ近付いていく。

 

 

(まだ生きているの? いえ、そもそも別の子じゃないの?)

 

 

 あまりにも都合のいい妄想だ、と合理的な考えを紡ごうとする思考を必死に抑える。

 

 

(でも、もしかしたら……もしかしたら本当に)

 

 

 戸棚の前までやってくる、戸棚の隙間に手をかける。心臓の音が《かれら》に聞こえてしまうんじゃないかと思う程にうるさい。

 

 

 

(お願い、神様……!!)

 

 

 そして、悠里は戸棚を開き────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ぁ)

 

 

()()()()()()()()、小柄な少女が眠っているのを見た。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 ────みんな、いなくなっちゃった。

 

 

 きのう、いつものようにみんなでべんきょうしていたら先生がきゅうにやってきたこわい人にかまれた。

 

 そしたら、先生が先生じゃなくなっちゃった……。

 

 いっしょにべんきょうしていたみんなも、こわい人たちにかまれたらいなくなっちゃった。

 

 わたしの手をひいて教室からつれだしてくれた『せーちゃん』も、ここまでいっしょにいてくれた『まりー』も、『みんな』《みんな》いなくなっちゃった。

 

 

 もう、いいや……つかれちゃった。

 

 だってもう、みんないないんだもん。

 

 

 きっと、このままここにかくれていればこわい人に見つからないで『みんな』にあえるから────

 

 

 

 

「……ちゃん」

 

 

 

 んぅ? だれ? ……だれかの声がする

 

 

 

 

「……ーちゃん」

 

 

 だれだろう。だかれているのはわかるけど、なんだかすごく懐かしい気がする。

 

 

 

 

「……るーちゃん」

 

 

 だれなの? わたしをそうよぶのはいなくなっちゃった『みんな』だけなのに…………あれ、そうだったっけ? 

 

 たしか……だいすきな、とってもだいすきな人がいたような……

 

 

 

 

 

 

 

「るーちゃん!!」

 

 

 ……そうだ、おもいだした。

 

 わたしは、この人にあいたいからまりーやみんながたすけてくれたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、()()()()

 

「ううん、るーちゃん。私の方こそごめんね」

 

 

 なんでりーねえがあやまるんだろう。悪いのはりーねえのことをわすれていたわたしなのに。

 

 ……あぁ、そっか。わたしがまちがっちゃったからだ。

 

 そうだよね、まずなによりも言わないといけないことばは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たすけてくれてありがとう、りーねえ」

 

「無事でいてくれてありがとう、るーちゃん」

 

 

 なみだがいっぱいでりーねえのかおが見れないや、わたしのほっぺにかかるお水のかんじからりーねえもいっしょだ。

 

 でも、見えなくてもべつにいいや。

 

 

 

 

 りーねえもわたしも、きっと今わらっているんだってわかってるから。

 

 

 




 


今回のるーちゃんパートでは『水色クッション』様と『木端妖精』様の

がっこうぐらし! 称号『しょうがっこうぐらし!』獲得ルート
【完結】がっこうぐらし!モールスタートめぐねえエンドSランク縛り【MGNEND】

に出てくるキャラを一部表現でお借りしています。問題あったらすぐさま作者様に土下座&修正を行う予定です。

追記:
お二方より使用許可を頂きました。ありがてぇ、ありがてぇ・・


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8.かんぎょ

 

 

 

 

 

 

 ─────悠里は妹と奇跡ともいえる再会を果たした。

 

 

 悠里の妹である若狭瑠璃の生存は、薄氷を渡るかのようなものだった。

 

 学校の授業中、突如学校に侵入した『かれら』。不審者として対処にあたった警備員や事務員、教員へと瞬く間に感染し、まともに抗う力も持たない児童達へ襲い掛かった。

 

 たまたま若狭瑠璃の周囲には精神的に成長した友人が多く、彼女たちの助けを借りて瑠璃は『かれら』の手から逃れていた。

 

 

 だが、それはほんの数日の僅かな抵抗となった。

 

 運の巡りあわせが悪かったのか、些細な歯車のかみ合わせが上手くいかなかったのか……瑠璃の友人達は全て還らぬ事となり、瑠璃は一人空腹に耐えつつ戸棚の奥へ隠れるしかなかった。

 

 

 

 

 そんな経緯をたどたどしい言葉で話す瑠璃を、悠里は彼女を抱きしめながらただ頷いて聞いていた。

 

 二人は葛城 紡(覚醒素材先輩)の眠る用務員室に戻り、彼が目覚めるまでの間、離れていた時間を埋める様にひたすら会話を続けていた。

 

 瑠璃が説明に疲れたら悠里が高校にいる仲間たちの近況を話し、瑠璃が喋る元気が出てくると自分を守ってくれたかつての友人達の話をまたはじめる。二人の会話は何回昼夜を繰り返しても止まる事がないのではないかと思わせるほどに、ゆっくりとひたすらに言葉が紡がれていっていた。

 

 

 

 

 だが、そんな二人の会話も聞きなれた……今はもう聞きなれない音が遠くからやって来た事により終わる。

 

 

「……!」

 

「─────それでね、りーねえ。その時まりーったらね……りーねえ?」

 

「ごめんね、るーちゃん。静かにね」

 

「う、うん」

 

 

 

 断続的に聞こえる静かながらも重く低く響く駆動音。土が何かに踏みしめられる音。だがそれは足音ではなく、何かが滑っていくような音。

 

 

 

 

 

 

 

 

「この音は……車?」

 

 

 そう、聞こえていた音は自動車の走行音だった。

 

 悠里が瑠璃を胸に抱き抱えたまま、大きな格子で塞がれた窓から校庭を見ると一台の自動車が校舎に近づいてくるのが見えた。

 

 昨今の環境に配慮した型なのか、ガソリン車ではあるがエンジン音は控えめで『かれら』を必要以上に引き寄せる事はない。視界に車を捉える事が出来た数人の『かれら』だけが、その車へと近寄っていく。

 

 

 そして、車から人型の影が二つ…………運転席と助手席から現れたかと思うと、『かれら』に向け助手席の影が何かを振り下ろした。月の光に反射し三角の形をした鉄のような鋭さからシャベルだと悠里は判断した。

 

 

 

(─────神様!?)

 

 

 その人影が持つ獲物から、悠里は即座にある人物に結び付ける。

 

 突如襲われた絶望を全て吹き飛ばしてしまうような、太陽の様な眩しさと愛おしさを持った幼女。彼女がいれば何だってうまくいく、そう思わずにはいられない希望の象徴。

 

 どうやって幼い瑠璃と、未だ目覚めない葛城を連れて戻ろうか思案していた悠里は、思わず破顔してしまう。だが、その胸中を瑠璃も理解できたのか彼女の胸元を掴む力が緩んでいった。

 

 

 

「るーちゃん。私達の仲間が助けに来てくれたわ。先輩を起こしてもらえるかしら?」

 

「う、うん。わかった」

 

 

 悠里はすぐにでも飛び出して車の持ち主たちと合流したい気持ちを抑える。自分が声を出し『かれら』を引き寄せてしまっては目も当てられない。

 

 ゆっくりと、だが着実に正面玄関へと進み、影の主たちと合流を果たした。

 

 

 

「神……様……?」

 

「! その声、若狭か?」

「まじか! やったな、たかえ!」

「声を抑えろよ。まだ校舎内にいるかもしれないんだぞ」

「あ……わ、悪い」

 

「その声……、くるみと柚村さん?」

「そっちもりーさんで間違いないな。先輩は?」

「この先の用務員室よ。私のせいで無理させちゃったから、休んでもらってる。るーちゃんが見ててくれてるわ」

「そっか……って事は!」

「えぇ、私の家族よ。何とか助ける事が出来たの」

「やったな、若狭! 外にめぐねえから借りた車が止めてある。早く準備して行こうぜ」

 

 

 

 声を潜めながらも情報交換を行う。

 

 私が無事るーちゃんを保護できた事を知り、我が事の様に喜ぶくるみとたかえ。

 

 すぐに二人を連れ用務員室へ戻ると、葛城の眠る布団の上に馬乗りになり、彼の頬や鼻を必死に引っ張り目覚めさせようとしている瑠璃と合流した。

 

 結局、葛城は目覚める事がなかったのでくるみと悠里が協力して運び、たかえが僅かに現れる『かれら』を一手に引き受けていた。

 

 そして、一同は無事に校庭に止めた車に乗り込み帰路に就く。

 

 

 彼女達を心配する仲間と、自分達を守護してくれる神の下へ

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「ところで、神様は一緒に来なかったの?」

 

 

 

 ふと、帰りの車内で疑問に思った事を聞いてみた。

 

 結果的に問題なかったとはいえ学校外は危険だ。二人が助けに来るくらいならば神様が直接来た方が確実で安全に思える。

 

 

 

「あぁ、あーさんは学校を守る為に残って貰ってる。ゆきやめぐねえを連れて来る訳にもいかないしな」

 

「あと神様が言ってたぞ。まだ権能は私達の学校内でしか効果がないって」

 

「たかえ。“権能”ってなんだ?」

 

「権利を主張・行使し得る能力……まぁ、あの神様の力はまだ校内限定って事だよ」

 

「なるほどな。なら留守番でも仕方ないよな」

 

「そういう事だ」

 

「…………そう」

 

 

 

 その言葉に納得しようとする。が、何か腑に落ちない。

 

 根拠はない、理由はない、そもそも私の勝手な行動が原因なのだから異を唱える資格すらない。

 

 でも何か、私達は見落としてしまっているのではないかという不安が心の隅に残っている。

 

 

 

(そういえば……)

 

 

 悠里は屋上で《かれら》を倒し戻ってきた際の、神様の姿を思い浮かべる。

 

 その時一瞬だけ見えた彼女の指の先…………、マニキュアか何かだろうと結論付けていたが言い知れぬ不安感が襲ってくる。次に神様の指を見た時は綺麗な白い手だったので聞くタイミングを逃した事も、それを引き立てる要因となっていた。

 

 しかし、その思考は運転席にいるくるみの言葉で中断される。

 

 

「しかし先輩、大丈夫なのか?」

 

「……ぁ。噛まれた場所はないわ、そこは安心して」

 

 

 くるみの言葉に即座に返す。

 

 今回の事態は明らかに自分が原因である。ならば、そこから起因する不安や懸念は自身が晴らさねばならない。そう考えた悠里は、先程までの考えを漠然としたものとして、それ以上思考を続けることを止めた。

 

 

「本当なのか? それならいいんだけど」

 

「えぇ。車に運ぶ前にるーちゃんと私で体の隅々まで確認したから、傷一つないのは確実よ」

 

「ひぇー、やるじゃん若狭。先輩の()()()()までだってよ、くるみ」

 

「な、何─────!?」

 

 

 

「ちょ、前! 前見てくるみ!!!」

 

「ぶつかる、ぶつかるって!? 落ち着けくるみ! 冗談、冗談だって!!」

 

「せ、せせ先輩の……かっ、体の……すすすすみ、すみず……!」

 

 

「こ、言葉のあやよ! それ以上何もありません!! 柚村さんもからかわないで!」

 

「……悪ぃ。マジで反省した。命の危機に直結するとは思わなかったわ」

 

 

 

 喧々諤々とした車内は、外の静寂を吹き飛ばすように努めて明るく帰路への道を進む。

 

 ちなみに、もう一人の救出者。若狭瑠璃は、そんなやかましい車内でも関係ないとばかりに眠り続けていた。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 あい──ーん(ザシュ)

 

 

 

 つヴぁ────い(ドシュッ)

 

 

 

 

 

 どら────ーい(ズバッシュ) L E V E L  U P ! 

 

 

 

 

 

 神様の学校開放RTAは──じま──ーるよ────!! (ガシュッ)

 

 はい、現在2日目夜が終わり3日目の早朝となっています。

 神様やる気ダウンによるニート化は深夜を過ぎた辺りで終わり、無事神気を纏いなおした状態となっています。深夜~朝方に更新はいるとかスマホゲーかな? 

 

 そして現在、りーさんが覚醒素材先輩を連れて家出したことによりチョーカーさんとゴリみが迎えに言っている状態です。(ザクッ)

 神様はそんな外出組を迎える準備をしているという訳ですね。

 

 

 

「神様、正面玄関は隠れる場所はもうなさそうです」

 

「あーちゃん。2階の階段近くもバリケードができたよ──!」

 

 

 うむうむ、素晴らしきはRTAよ! 現在神様部隊は()()()()の安全化を図っています。

 

 本来であれば、学校の開放は少しづつ段階をかけて安全地帯を広げるつもりでした。あまり急ぎすぎると、皆に油断が生まれ不意打ちにやられたりSAN値の下降が早すぎて不和が生まれたりするからなんですね。

 ですが今回は『緊急事態』の名のもとに、平常時以上の働きを許容してくれます。

 神様が一気に学校内を走り回り《かれら》を倒し続けても、「危険です」と止める言葉(めぐねえガード)もないんですね。だって開放しておかないと外出組が戻ってくる時、危険じゃないですか! (言い訳)

 

 

 めぼしい《かれら》だけ倒してしまえば、神様にはスキル《神域》があるので校内への侵入口全てを《神域化》。こうすれば外部からの攻撃はシャットアウトできます。天才かな? 

 こうなってしまえば、後は神域化してない区画への侵入時だけ注意すれば大丈夫です。その危険区画も今後どんどん狭めていける事でしょう。

 

 そんな訳で神様は校舎内を走り回り、要所要所で《神域化》を図っているところなんですね。おかげで経験値がウマー

 めぐねえとゆきちゃんには、神域化してる場所としてない場所の境界に簡易バリケードを作って見やすいようにして貰いました。皆が生活できる安全地帯は中央3分の1くらいの区画ですが、校内はほぼ安全といって差し支えないでしょう。

 

 では、後は車で出ている外出組が帰ってきやすいようにグラウンドのお掃除を適当にしておきましょうか。ざっしゅざっしゅとな

 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 

 

 L E V E L  U P ! 

 

 

 

 お、太陽が昇り始めて間もなく車の音が聞こえてきましたね。

 グラウンドの《かれら》を一旦潰し終えたタイミングので丁度よいですね。《神域》は建物内限定なので外から来る《かれら》を防げないのだけ難点です。

 

 

 

「うむうむ。よくぞ戻った、妾は嬉しいぞ」

 

「よー、神様。無事に連れて帰って来たよ」

 

「あ、りーさん。先輩は私が……ただいま、神様」

 

 

「あ、ぁの……はじめまして、かみさま」

 

 

 フレンドリーなチョーカーさん。家族の出迎えを受けるかのような笑みをうかべるくるみ。るーちゃんは、私の事を皆から聞いたのかおっかなびっくりで挨拶してきますね、かわいい。

 

 そして最後に車から出てきたりーさんが、ばつの悪そうにこちらに頭を下げてきます。

 

 

 

「神様……その、すみませんでした。ご迷惑をお掛けしたみたいで、その─────!!?」

 

 

 ……ん? 

 頭を上げた途端、固まったよこの人。何か発作でも起こしたんでしょうか(タイヘンシツレイ)

 

 もうちょっと突っ込みたい気持ちはありますが、グラウンド内は《神域化》はされていない場所。今は《かれら》を全滅させてますが、またやってくるのは時間の問題です。さっさと校内へ入るように促しましょう。

 

 ほら、りーさんもはよ来るんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「神様……。何で、手全体が真っ黒に黒ずんでいるんですか……?」

 

 

 

 

 ん? 何か言った? 

 

 

 




 



還御(かんぎょ)→貴人が出先から帰ってくること


追記:
執筆途中のまま、保存せず投稿してしまいました。最後の700文字程が反映されていなかったようです。
確認不足申し訳ございません。


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9.かいげん

 

 

「“学園生活部”じゃと?」

 

「はい。“学校の中の環境を利用した合宿生活を通じて自主独立の精神を育むこと”を目的とした部活動、それが学園生活部です。部長は私、顧問はめぐねえにお任せしたいと思ってます」

 

「若狭さん、こういう時位は『佐倉先生』って呼んでくれないかしら?」

 

「いいえ、学園生活部では自主性と共に協調性も育みたいと思います。大仰な呼び名は壁を作る事にも繋がってしまいますので」

 

 

「……で、本音は?」

 

 

「もう“めぐねえ”で定着しているのでいいかなと思って……ちょ、ちょっと柚村さん!」

 

「おいおい、大仰な呼び名は禁止なんだろ? ()()()()

 

「も、もう……わかったわよ。貴依さん」

 

 

「しょぼーん……先生の立場って」

 

「せんせー、いーこいーこ」

 

「る、瑠璃ちゃ~~ん」

 

「うっわ、めぐねえがとうとう幼女に癒しを求め始めたぞ」

 

「しょうがないよくるみちゃん。るーちゃんは可愛いから、めぐねえが夢中になるのも仕方ないよね」

 

「ふ、二人共! 誤解を招くような言い回しをしないでください!」

 

 

 

 

 

 過剰介護によるパニックホラー(笑)のRTAは──じま──ーるよ────! 

 

 はい。

 という訳で無事るーちゃんと覚醒素材先輩を連れ帰って来た一行は、朝食に集まった席でりーさんとめぐねえの発表を聞く事になりました。そう、待望の【学園生活部発足イベント】です。

 このイベントは「メンバーの誰かがゆきちゃん化」などの起因するイベントがおこらない場合、一定確率で発生するイベントになります。本当に確率なので、14日目に発生してその日の午後に学校脱出の即落ち2コマになる喜劇の可能性もあったので、早々に発生したのは嬉しい限りです。

 初日から校舎内で寝泊まりし、惨劇らしい惨劇を経験していない一行だったのでこんなほのぼの空間で大丈夫なのか心配してたので、ようやく来たか! (ガタッ)という気分ですね。

 

 

()()()にしてようやくのがっこうぐらし! の開始です。えぇ、そう。本日は【4日目】です。

 2日目深夜にるーちゃん救出に向かった一行は3日目朝方に帰宅。そのまま全員でスヤァ……となって4日目に突入した訳ですね。一日潰れてしまいましたが進捗具合を見ればロスでも何でもありません。

 

 アウトブレイク初日で既に3階居住スペース確保。

 2日目夜から朝にかけて各階の階段付近と1階侵入口を全て占拠済みです。コレナンテムリゲ(《かれら》談)

 

 3階の安全区域も広げておいたので、普通に生活する分には危険はもうありません。なお地下室はまだフラグが立ってなかったので放置、ショーガナイネ。

 というわけであーちゃんこと神様は存分に─────

 

 

 

 

 

 

「明日から本気出す」

 

 

 オフモードでgdgdタイムでも問題ない状態です。さすがに徹夜作業は、丸一日休んでも治らなかったようです。

 因みに覚醒素材先輩は、戻って来た瞬間に拘束されました。あまりにも放浪癖が過ぎるという事で、紐を首に引っ掛け反対側を柱にぐるぐる巻きに固定し部屋から出れない様、処置がされました。

 プレイヤーが勝手な行動をするとお腹にロープを巻いて、いわゆる“お散歩状態”になるのは他の方の実況でもよく見ましたが、それとは比べ物にならない厳重具合です。

 もはや危険人物扱いですね。取扱い注意(実体験)

 

 まぁこれも一種のコラテラルダメージです。

 ここまでの処置をして、ようやく我等がくるみ(ゴリラ)は納得して部屋から離れてくれました。やべぇよ、アイツ絶対ヤンデレの素質あるわ。

 翌日、首の紐がキュッ(優しい表現)ってなってないかなと心配していましたが、アウトブレイク4日目も覚醒素材先輩は元気でーす! (昏睡)

 

 

 

 

「ねー、りーさん。私達は部員でいいけどあーちゃんは?」

 

「りーねー、あーちゃんはー?」

 

「フフ、大丈夫よ。ゆきちゃんもるーちゃんも安心して」

 

「神様には私達の部活の“客員部員”となって頂きたいと思っています」

 

「“客員部員”? なんだそれ」

 

「大学には『客員研究員』という非常勤の研究員を指す言葉があります。それの部員版という事ですね」

 

「おー、すげー。めぐねえが教師っぽい」

 

「柚村さん、『っぽい』は余計です!」

 

「まぁいーんじゃないか? 神様がお客なのは間違いないんだし。先輩の事含めてお世話になりっぱなしだけどさ」

 

「るーちゃん、かみさまおもてなしするー」

 

 

 

 客員部員ですか、この響きは初めて聞きますね。

 生徒でも教師でも、外部の人間でも狂戦士でも、異世界から来た掃除人でも傭兵でもない神様はオヤシロモード専用の新しい役職を手に入れたようです。地味ながらこういう微細な変化は大切です。謹んで拝命しましょう。

 

 

 そして朝食後。りーさん主導による学園生活部初日の分担が決まりました。

 

 

 ゆきちゃん・チョーカーさんペア→食料調達

 

 くるみ・めぐねえペア→使える物資の捜索

 

 りーさん・るーちゃんペア→生活スペースの清掃

 

 

 

 初日なので色々やる事が多そうです。大変だなぁ(他人事)

 因みに神様の分担が決まってないのはりーさんの意向のようです。自由に動いてくださいって事ですね、コレデヨイ。

 プレイヤーが部長になれなかった場合、分担が決められて行動が制限される場合があるのでこれはラッキーと言えるでしょう。まぁオフモードの状態では『自由=何もしない』の公式が当てはめられてしまいますが。

 また《神域》のおかげでバリケードは突破どころか触れる事すら難しいので、修繕などの時間が必要ない分時間がだだ余ってしまいます。通常モードでは、ここは生命線なので当たり前ではありますが。

 

 

 そして各々が仕事へ向かう中、神様はソファーで横になりその様子を見つめているのでした。

 まぁ覚醒素材先輩がまた出歩かない様、彼が寝てる部屋のソファーでゴロゴロして皆の作業を邪魔しない様にしましょうねー

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「あ、あーちゃんだ。ただいまー!」

 

「うむ、よくぞ戻った。こちらに来るがよい、頭を撫でてやろう」

 

「えへへへ。りーさんも、ただいま!」

 

「おかえりなさい、ゆきちゃん。これで全員揃ったわね」

 

 

 ごろごろしていたら、無事夜になりました。(ダメ人間感)

 イベントも特にありませんでしたし、スキップで一瞬ですね。きょうは なにもない すばらしい いちにちだった。

 そんなソファーにいるぐだぐだ神様をよそに、テーブルを囲む一行は今日の成果を話し合っています。

 

 

「ひとまず購買で食料品を中心に取って来たよ。《あいつ等》もいなかったし楽なもんさ」

 

「うんうん。クレヨンや画用紙なんかも持ってきたから、学園生活部の部室っぽくここも『れくりえーしょん』できるよ!」

 

「『デコレーション』な」

 

 

「私とめぐねえは3階の教室や資料室、倉庫を中心に探してみたんだ」

 

「はい。簡易テントや携帯食料、ランタン等の非常用品が見つかりました」

 

「教室から筆記用具やノートも持ってきた。スマホもいくつか見つけたけど、今は充電して電源を切ってある。電波は全部圏外だしロック解除も出来ないからほぼ充電ライト代わりだな」

 

 

「るーはね、りーねーとおそうじがんばったよ!」

 

「えぇ、もう見て貰ったと思うけれど3階の生活スペース内の清掃はもう終わったわ。これで落ち着けるわね」

 

 

 

 各々の成果を報告してますが、問題もなく順調に進んでいますね。【がっこうぐらし! オヤシロモード】はただのサバゲーだった? 

 食料も潤沢に揃い、電気ガス水道も自家発電可能な学校。全員SAN値が全く減っておらず和気あいあいとした空間。パニックホラー的要素が皆無ですね。

 トラブルの原因になりがちな「あめのひ」イベントも、《神域》に守られている校内であれば何も問題はありません。

 

 ただこのままズルズルと流されてはいけません。

 安全な拠点に加え、インフラも食料も万端。14日以上外出しない事で手に入る称号『校内警備員』を狙うならこのままでよいですが、撮れ高さんの霊圧が……消えた? になってしまいます。

 学園生活部員たちにはこのままニート入りせず、何かアクティブに生きて貰いたい所です。撮れ高的に

 

 

 

「しかし食料品は大体似たようなものばかりだな。ステーキとか喰いたくなるよなー。そういうのはなかったのか、たかえ?」

 

「くるみ、校内の購買にあまり期待しなさんなって。外は電気も止まってるだろうし、生の肉や野菜はもうすぐ全滅だろうね」

 

「まじかよ……着る物も制服と体操着くらいしかないしキツいよなー」

 

「恵飛須沢さんの言う事もわかりますが、制服や体操着は服飾室に行けばまだ代えはあるので暫くは大丈夫だと思います」

 

 

 

「…………先生、外に調達にいきませんか?」

 

 

 おぉっ。まじか、でもりーさんナイス提案! 

 校内の安全を確保出来た場合、次の段階として通常プレイでは状況により『このまま現状維持』か『外に目を向ける』か変わってきます。部員のSAN値が低い場合、やる気不足でひきこもるパティーンが多いのですが、例えSAN値が確保されてても「外に出なくても生活できるからよくない?」的な考えで現状維持になる流れもあります。

 神様が速攻で校内環境を整理したのも学園生活部が『現状維持』を選んだ場合、本RTAの目標である【そつぎょう】イベントを故意に起こす為、奔走する必要があったためです。

 

 具体的に言うと、14日目の襲撃時《神域》のせいで《かれら》は校内に入ってこれないので、ヘリを貯水槽に落とす事で火災を発生させ、学校のインフラを崩壊させた後に「実はあそこにさぁ、ランダル社の跡地があるんだどさぁ、行かない?」と言って送り出す綿密な(その場しのぎな)計画を行う必要がありました。

 

 そんな思案の最中、学園生活部内で一番の現状維持派だと思われたりーさんがまさかのアクティブ発言です。

 これには皆も驚いたのか、りーさんに皆が注目しています。よくわからないまま、一緒にりーさんを見てるるーちゃんは除きますが。

 

 

「な、何。どうしたの、皆?」

 

「い、いや。アンタがそういう事を言うのはちょっと意外だったからさ」

 

「だなー。私は『生活には問題ないし保存食も色々あるわ。工夫すれば何とかなるんじゃないかしら』とか言うかと思ってた」

 

「うっわ、くるみがそういう言葉遣いするのすごい違和感」

 

「い、いいだろ! 私の事は別に。今はりーさんの事で……」

 

「そうです、危険です! 瑠璃ちゃんの事は仕方がなかったとしても、今すぐに外に出る必要なんてありません!」

 

 

 りーさんは非常に珍しく、RTAに非常に協力的な積極性を見せています。

 他の方の実況でもおわかりの通り、りーさんが積極的になる時は大体SAN値が風前の灯火なので走者の妨害がほとんど、逆に不安になります。(スゴイシツレイ)

 当然の如く発動した『めぐねえガード』ですが、りーさんはキリッとした顔でめぐねえを見据えます。やだ、格好いい……

 

 

「ですが先生。今の時期なら痛む前の食材を集める事も可能ですし、神様のおかげで余裕のある今だからこそ動くべきです」

 

「若狭さん……」

 

「それに昨日お借りした車なら運搬や移動も安全ですし、今後も見据えるのであれば冬季の備えも必要になります」

 

「そ、それは……そうですけど」

 

「この拠点は神様の力で安全が保障されてます。だからこそより盤石な備えにしたいんです」

 

 

 

 おぉ、さすが部長。感情ではなく損得にかけて説得してますね。

 大人として、そして教師として危険な事を避けて欲しいめぐねえですが、感情論ではどうにもならないんだよナァ。

 そんなめぐねえに、くる(ゴリ)み達からの援護射撃も入ります。

 

 

「いいんじゃないか? もしかしたら生存者がまだいるかもしれないぜ」

 

「リバーシティトロンだったら洋服もお菓子も食べ物も沢山残ってる筈だよね、学園生活部発足記念に『えんそく』にいこうよ♪」

 

「おっ、悪くないな。ゆきもたまにはいい事言うじゃん」

 

「“たまに”は余計だよっ!」

 

「るーちゃんも、るーちゃんもおかしほしー!」

 

 

「皆さん……」

 

「諦めなよ、先生。こんな状況だ。『危険のないように』なんて求めてたら私達、一歩も動けなくなるぜ。何でもかんでも神様任せにする訳にもいかないだろ?」

 

「柚村さん……」

 

「じゃあ決まりだ。早速明日いこうぜ。神様は留守番でいいんだよな? 先輩を任せたいんだ」

 

「うむ」

 

 

 

 ソファーでトドのようになって答える神様ですが、明日にはオフモードが解除されている筈です。

 前回の『がっこうぐらし無双』のおかげで、スキルポイントは十分に溜まっています。明日、見送りの前に新たなスキルを取得すれば大丈夫そうですね。

 という訳で、明日は『えんそく』パートに入る予定です。

 

 待て、しかして期待せよ! (何か格好いい引き)

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────「……ふぅ」

 

 

 

 生徒の心配をするめぐねえを説き伏せ、翌日『えんそく』(ゆき命名)に向かう事を決めた一行。場所はリバーシティトロン、車で行けばそれ程距離がなく学園生活部の面々にとって慣れ親しんだ場所で、物資がまだ数多く残されているだろうという事で決まった場所だった。

 その夜、若狭悠里は寝袋で横になりながら、不安を籠めた息を吐いた。

 

 

(物資の運搬や、現地で救助者を見つけられるかもしれない事を考えると行けるのは3人程度)

 

 

 学園生活部の部長として、そして今回のえんそくの発案者として自分が行かない選択肢はない。

 元来責任感の強い悠里は、未知の不安や恐怖を必死に抑え込みながら、そう決意していた。

 

 そう決心させたのは3日目の早朝。

 若狭瑠璃を救出し、学校に戻って来た一行を迎えた“神”を名乗る少女。その黒ずんだ手を見て感じた不安感からだった。

 

 少女の手は次に見た時には、最初と同じ染み一つない綺麗な手をしていたし、アウトブレイク初日に屋上で彼女の指先の黒ずみを見た時も同じだった。

 だが彼女には、それが見間違いや気のせいだとはどうしても思う事は出来なかった。

 

 

 この学校は神様により、ほぼ確実な安全が保障されている。

 本来であればめぐねえの言う通り、多大なリスクを払って学校を離れる理由などない。だが、このまま神様任せで全てなあなあで過ごしていては、何か致命的な間違いが起きてしまうのではと言う漠然とした不安が彼女の胸中にはこみ上げてきていた。

 

 

 

《「何でもかんでも神様任せにする訳にもいかないだろ?」》

 

 

 柚村貴依がめぐねえの説得のために放った一言。

 だが彼女も多くの窮地にあい、自分と同じ考えに至ったからこそ自然と出た言葉なのだろうと悠里は推測する。

 

 

 人の歴史には神仏の存在に依存し、間違いを起こした事例は数多くある。

 決して自分たちはそうなってはならない、そうさせてはならないのだと、夜のまどろみの中悠里は一人決意するのだった。

 

 





開元(かいげん)→基礎や、国を築く事


執筆スキルが落ちてないか不安で、筆がちょいちょい止まりました。


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