錬金術師と心火を燃やしてみよっか? (神咲胡桃)
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単発回
燃える深紅の聖剣の騎士、仮面ライダーセイバー!


仮面ライダーセイバーの情報を見て、思いついたネタ。いわゆる単発回。

変身音声とか、違うところあるかもしれないけど、許して。




《セレナside》

 

「ふんふんふ~ん♪」

 

今私は夕飯の買い物に出ています。食材といったものは錬金術でも作れるらしいですけど、お姉ちゃんは基本外で買い物することにしてるらしいです。

今日は何にしましょうか。お肉が食べたい気分なので……トンカツ?でも、ただそれだけっていうのも……あ、そう言えば卵買わないといけませんね。卵とじにでもしましょうか!ふふっ!メニューを決められるのは、買い物に行く人の特権ですね!

なんて、人妻のようなことを考えながら歩いてると、目の前に何か落ちているのを見つけました。

…どうしてでしょう?いつもなら大して気にしないのに、なぜか目に留まってました。

 

「これは…本?いやでも、プラスチックですし…最近流行っている玩具でしょうか?」

 

拾ったのは、結構厚さがあって、ちょうどプログライズキーのような長方形の物体です。ただ、色がどこもかしくも白色で、なんの絵柄もありません。

まるで本のようだなと感想を抱きつつ、私がそれを見つめていると、その本?が急に光りだしました。

 

「えっ!?なにこれ――――」

 

私は光に呑み込まれ、意識を失いました。

 

 

 

 

「はっ!」

 

気が付くと、私はいつもと変わらない街並みに居ました。

手の中には先ほど拾った本も変わらず手元にあり、私は不可解な状況に困惑しました。

 

「きゃあああああ!」

「ッ!?悲鳴!?」

 

近くから悲鳴が上がり、私はその場所に向かうと、そこでは複数の人型のロボットが暴れていました。

無骨な姿に、一糸乱れぬ姿は、まるで軍隊の様です。

 

「なんですかあれ!」

「Seilien coffin airget-lamh tron」

「歌……?違う。これは、アガートラームの!?」

 

アガートラームの起動聖詠が聞こえると、私の目の前に1人の女性が降り立ちました。

20代ぐらいの身長に、ピンク色の髪。…その人物はおそらく、私がよく知る人でした。

 

「ねえ、さん……?」

「人型ロボット……たしか日本には、人型ロボットが登場するアニメがあるって聞いてたけど、そんな穏やかなものじゃないわよねぇ…。司令部?……ええ、分かってるわ。他の皆が来るまで耐えればッ!?」

 

アガートラームを纏ったマリア姉さんに、人型のロボットたちが手に持ったアサルトライフルを向け、一斉に発砲しました。

それを姉さんは跳躍して躱し、取り出した短剣を逆手に持ち斬りかかりました。

ロボットの中には、コンバットナイフを持ったロボットもいて、姉さんに斬りかかります。

 

「ハァ!」

 

姉さんはコンバットナイフを持ったロボットと切り結び、時には短剣を投擲してロボットの射撃を牽制したりして、防御に徹しています。

おそらく言っていた通り、響さんたちを待っているのでしょう。ですが……。

 

「くっ!?何よこいつら!数が多すぎだってば!」

 

敵の数が多すぎて、姉さん1人では厳しいようです。

仕方ありません。状況がいまいち飲み込めませんが、私も……ってあれ!?

 

「ない…ない、ない!?どうして!?」

「……なに司令部!ええッ!?まだ逃げ遅れた人がいるですって!?私の後ろ……って、セレナ!?どうしてここに!?定期報告にはついこないだ来てたはずだけど……」

「定期報告?…ッ!姉さん、後ろです!」

「なッ!?きゃあ!」

 

私に気を取られた姉さんの背後から、ロボットが斬りかかりました。

姉さんは防ぐことは出来たものの、弾き飛ばされてしまいます。

 

「姉さん!」

「セレナ…大丈夫よ。それより、アガートラームはどうしたの?」

「え、えっと……」

 

実はスラッシュライザーやプログライズキーともども、私のアガートラームまで無くなっていました。そんな私たちをよそに、ロボットたちはどんどん近づいてきます。

まさに絶体絶命。私の”物語”は、ここで終わりなのでしょうか……

 

―――ドクンッ

「(いやだ…こんなところで、終わりたくない)」

―――ドクンッ

「そうだ……私はまだ、何も果たしていない……」

「セレナ…?」

 

体が熱い。まるで燃えるよう。でも、この熱さは私を害するものじゃない。それだけは分かる。

私の熱と比例して、手に握っているさっき拾った本が輝き始めます。

 

―――ドクンッ

「私の夢は、信念は、こんなところで終わらない!こんな結末は、私が書き換えます!」

 

私の叫びと共に、手の中の本から赤い光が立ち上ります。

それと同時に私たちに、ロボットが撃った銃弾が襲い掛かり――――

 

 

 

《3人称side》

 

「セレナーッ!」

 

マリアがセレナに向かって手を伸ばす。しかし距離は離れており、その一瞬後には、銃弾に貫かれるセレナの姿がマリアの脳内を掠った。

 

ドォォォオオオオンッ!!

「なッ!?炎!?」

 

天から巨大な炎の柱が降り注ぎ、セレナに迫っていた銃弾を融解させた。

そして炎が晴れると、右手に細長い物を持っているセレナの姿が五体満足であった。

左手に持つ本も赤色に変わっていた(・・・・・・・・・)。全体的に赤のペイントがつき、表紙と思われる部分にはドラゴンの絵が描いてある。その上には「Brave Dragon」と書いてあった。

 

「貴方たちが誰かの笑顔を奪うと言うのなら……その結末は、私が変えます」

 

そう静かに告げるセレナの雰囲気は、マリアが知るセレナとは違う雰囲気だった。

セレナは、右手に持っている物を腰に当てる。するとベルトが腰に巻かれ、セレナに装着される。

 

「(分かります。これの使い方が……)」

《聖剣ソードライバー!》

 

ソードライバーを装着したセレナは、左手に持っていた本を掲げ、右手で本のように開いた(・・・)

中には、巨大な龍が火を噴いてる絵が描かれていた。

 

《かつて、全てを滅ぼすほどの偉大な力を手にした神獣がいた》

「(ワンダーライドブックと言うんですね…。そしてこれを開いたら、もう一回閉じて……ドライバーに差す!)」

 

ソードライバーの3つあるスロットの内、一番右側のスロットにワンダーライドブックを装填する。

そして右側についている取っ手を掴み、勢いよく引き抜いた。

 

《烈火・抜刀!》

「これって……剣!名前は……聖剣・火炎剣 烈火…」

 

頭に思い浮かんだ名を口にする。燃え盛るような炎を纏わせた剣に、相応しい名前だとセレナは思った。引き抜いた取っ手は聖剣・火炎剣 烈火の柄だったのだ。

さらにワンダーライドブックも、聖剣を引き抜くと同時に開かれており、今度は1人の人物の絵が描かれていた。

 

「行きましょう、聖剣さん……変身」

 

セレナの言葉に反応するように、周囲に残っていた篝火(かがりび)がセレナに集まる。その火は渦を巻き、中から斬撃によって霧散する。

 

《ブ・レ・イ・ブ ドラゴン!》

《烈火・一冊!》

《勇気の龍と火炎剣 烈火が交わる時、深紅の剣が悪を貫く!》

「これも、仮面ライダーなんですか……?」

 

中から現れたのは、1人の騎士。右肩には龍の顔を模した装飾が施され、右半身は紅く染まっている。顔には×の斬撃を模したと思われる装飾がついていた。

 

「名前…浮かんできません。無いんでしょうか?……名前、名前……剣、剣…セイバー……セイバー!うん……この姿の名は、仮面ライダーセイバーです!」

「仮面、ライダー……。セレナ…貴方、一体……」

「行きます!ハアアア!」

 

マリアの困惑に気付くことなく、火炎剣 烈火を手に、セレナはロボットに斬りかかる。

アサルトライフルを持つロボットたちは、躊躇うことなく引き金を引く。飛んでくる銃弾を、セレナは跳躍して回避すると同時に、戦闘にいたロボットに斬りかかる。

 

「セヤアア!」

 

斬り捨てたのとは別のロボットが、セレナ目がけてナイフを振り下ろす。セレナはそれを弾いて、返す刀で斬りつける。

その背後からも別のロボットが斬りかかるも、セレナは先ほど斬りつけたロボットを蹴り、バク宙で一回転するとともに背後に回り込み斬り捨てる。

 

「う~ん。やっぱり、飛べないのは残念です…。ハッ!」

 

ボソッと愚痴を漏らし、セレナは跳躍。

高さではなく速さを求めた跳躍のため、低い高さを速い速度で跳んでいく。その様子はまるで空を駆けているよう。

 

「セイッ!ヤァ!ハアアア!」

 

セレナが跳んだ先は、アサルトライフルを構えるロボットの群れ。その中を突っ切りながら、すれ違いざまにロボットたちを次々と切り裂いていく。

 

「…この”物語”の結末は、私が決めます!ハアアア…セイヤァ!」

 

セレナが火炎剣 烈火を振るうと、炎の龍が現れ周りのロボットを一掃した。

 

「これで…終わり、ですか?…はッ!光が……。帰れるんでしょうか…?」

「セレナ……!」

 

セレナの身体に、光が集まり始める。

これで帰れるのかと不安げなセレナは、自身を呼ぶ声に背後を振り向くと、セレナの意識は真っ白に染まった。

 

「くっ……」

 

眩しいほどの光が消えたことで、マリアは顔を覆っていた手を下ろす。

 

「セレナッ!……いない。(あれは確かにセレナだった。でも、あの装備は一体なんなの?)」

「マリアさーん!」

 

マリアが思考を張り巡らせていると、向こうから響が手を振りながら走ってきていた。…のだが、響はなぜか焦ったような表情をしていた。

 

「大丈夫ですかマリアさん!?」

「え、ええ……。でもどうしたの?そんなに慌てて…」

「何言ってるんですか!?師匠から、急に通信が繋がらなくなったって聞いて、心配したんですよ!?しかも、現場に到着したと同時に(・・・・・・・・・・・)繋がらなくなったって(・・・・・・・・・・・)

「……え?いやいや、何言ってるのよ。ばっちり戦闘中に通信きてたわよ……っと、司令室?」

『無事か、マリアくん!』

 

通信機から聞こえる弦十郎の声量に、思わず耳をふさぐマリア。

 

「ちょっと声大きいってば!」

『何を言ってるんだ!散々心配掛けさせやがって!お前はすぐにメディカルチェックだ。何があったかは、後で話してもらうからな!』

「…………」

 

弦十郎の言葉に、響の言葉は本当だったとマリアは確信する。

しかし、戦闘中に司令部からの通信で彼女(・・)を見つけたのだ。どういうことか、後でしっかりと話を聞こうと固く誓い、響とヘリの降りた場所に向かうのだった。

 

「(………あら?彼女(・・)って……誰だったかしら?)」

 

そして、それをビルの屋上から見下ろす女性がいた。

 

「ふむ……マギアの試作品は思っていた通りですね。異物がいたのは予想外でしたが、所詮はイレギュラー。気にする必要もないですね。しかし、あの異物がこの世界に来た理由は……おそらくあの聖遺物ですか。やれやれ、厄介なことですね」

 

それだけ言うと女性の周囲の空間が歪み、女性の姿は消えた。

 

 

 

「……はっ!?あ、あれ?」

 

セレナはきょろきょろと周囲を見渡すと、首を傾げる。

 

「なんで私は、こんなところでボーッとしてたのでしょうか…?あ、買い物行かないと!」

 

そう言って、近くのスーパーに向かって歩き出す。

その後ろでは、地面に落ちている龍が描かれた赤い本が、ボッと燃えあがり跡形もなく消えさった。

 

 




どうでしたでしょうか?

仮面ライダーセイバーを見た時から、うちのセレナに似合いそうだなと思ってたんですよ。
まあ、これは本編関係ないので、本編にセイバーが出てくることはありません。

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日常を過ごそっか?

本編関係なしの日常回です


≪七海side≫

 

「お姉ちゃん、今日は家にいましょう」

「……はい?」

 

ある日の朝、私が起きると、いつものように私のお腹に頭を擦り付ける様に寝ていたセレナが起きて、そんなことを言ってきた。

 

「どうしたの急に?」

「いえ、なんだか急にそう思ったんです」

 

なんじゃそりゃ。うーん、なんでセレナがそんなことを言い出したのか分からないけど、たまには良いかな?

思えばそんなに休みを取ったことなかった気がする。いや勿論、日々の中で休憩とかは取ってはいた。だけど丸一日を休みにしたことはなかったな。

……ん?もしかして休みが欲しいのかな?だけど1人だけ休むのは気が引けるから、私も休ませようとしてる?

 

「うん。セレナはいつも頑張ってるし、たまにはお休みしてもいいよ」

「? えっと、お姉ちゃんもですよ。それに先生やエルさんも」

 

……ますます意味が分からない。何故私やキャロルにエルもなんだ?

 

「お姉ちゃんも、たまには体を休めるべきです。ということで、今日はみんなでお休みしましょう」

「はぁ……」

 

まあたまには良いかな。

それから、セレナと一緒に朝ごはんを作り、キャロルとエルも起きてきたので、朝食を取った。因みに朝食は野菜ジュースを使ったおかゆと、ソーセージ、お漬物だ。

 

「……休み?」

「お休みですか?」

 

朝食後、キャロルとエルにも今日はお休みだという事を伝えたら、首を傾げられた。そんな2人にセレナが趣旨を説明する。

 

「……ということで、今日はみんなでお休みです!」

「だけどお休みといってもどうするんですか?」

「うーん。皆で外に出かける?」

「どうせなら家でゆっくりしませんか?」

 

家でゆっくりねぇ…。といっても何をするか。

頭を捻って考えていると、セレナがニコニコと笑顔を浮かべながら、何かを持ってきて私たちの前で広げた。

 

「何だそれ?」

「なんですかそれ?」

「もしかしてツイスターゲーム?」

 

ということで、特に思いつくこともなかったので、ツイスターゲームをやることに。

……なんだけど。

 

「お姉ちゃん、右足を赤です」

「はいはいっと。ってこれ結構きついなぁ」

「エルさん、右足を黄色に」

「と、届かない……」

 

現在の私の姿勢は、両手を後ろに足は少し開くような感じでブリッジしてる感じだ。ただエルの姿勢、というか位置が際どい。

エルの姿勢は私の両足の間に右手を置いて、左足が私の顔のすぐ左隣りに置いてあり、私の左半身に腕立て伏せのような姿勢で覆い被さっている状態。

そんでもって、さっきの指令で右足を黄色ね。黄色はどこだっけ……って黄色の位置私の顔の右隣りじゃん!ちょっ、それはまずいって!絵面的に!

 

「ぬ、ぬぬぬ……」

 

しかし悲しいかな。私は今の姿勢の維持でいっぱいいっぱい。そんな状態の私は声を上げることは出来ず、加えて心の声が届くはずもなく、エルは健気にも右足を黄色に向けて伸ばす。

 

「と、届いたぁ……」

 

そうして、エルの右足がなんとか黄色の位置に届く。あ、ああ!エ、エルの、その、か、下腹部がわた、私の顔のすぐ上に……

 

「くっ、くぅ……」

「ちょっ、エル。すごいプルプルしてるんだけど!いっ一端ストップ、ストップ!」

「ヒャァ!?ナ、ナナ姉えダメ、です、ふあぁあ。そこに息、吹き替けちゃ……も、もうダメ、です……ふみゃ!?」

「むぎゅ!?」

「お二人とも、大丈夫ですか!?」

「全く何やってるんだ」

 

遂にエルの耐久も限界に達し、脱力したように倒れ込む。もちろんその下にいた私も巻き込まれた。

……それだけならどれだけ良かったか。

 

「むぐ?」

「ひゃんっ!?」

 

「う、う〜ん」って言ったつもりだったけど、何かに口を塞がれてくぐもった声しか出せなかった。

……ま、まさか……もしかしてだけど〜♪もしかしてだけど〜♪ってやかましいわ!ああダメだ。動揺して変なこと考えちゃってる。で、でも今私の顔に乗っかってるのって!

 

「む、むぐぐむぐ!(訳 ちょっ、どいてどいて!)」

「ん、ひゃあああん!」

 

ダメだ声を出そうとしたらエルに息がかかってしまう。……っ!?こ、こんな時にかぎって鼻がムズムズする。ヤバイ……こんな状態でくしゃみなんてしたら……

 

「むぐぐ!む、むうー!」

「ひやっ!?あ、あ、あ、だめ、ナナ姉え。そんにゃとこりょ」

 

慌てて危険を伝えようとしたら、さらにエルが悶えるという悪循環。あ、ヤバイもうダメ……。

 

「ふ、ふぁ、ふえぇ……ふあっくしゅん!!」

「ふあああぁぁあああんんんんん!?!?!?」

 

その後、側で見てたセレナとキャロル(顔を赤くして惚けてた。助けてよ)によって、ツイスターゲームは中止となった。

ちなみにエルは現在セレナによって介抱されている。顔を火照らせてるのがなんとも艶めかsいやいや、何考えてるんだ私は・・・。

私はというと何故か拗ねているキャロルに抱きつかれている。解せぬ。

 

 




もしかしてだけど〜♪のネタ知ってる人いるのかな?

今回のEX編はコロナ騒動から思いついたネタ。いわゆる日常回。コロナも第2波が来てる地域もありますし、皆さんも気をつけてください。

好評ならたまにEX編書きます。こんなのが見たい!など送ってくださると書きやすいし、書こうというやる気が出ます。


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プロローグ
1 異世界行ってみよっか?


目を開けると、私は見知らぬ場所にいた。周りを見回すとあたり一面が真っ白である。その白さに汚すことすら禁忌だと思えてしまう。

 

「私は、どうしてここに・・・」

「どうやら気づいたようですね。という事は、意識の転移は成功したという事ですか」

 

背後からかけられた声、どこか温かみを感じさせるようなそんな声だった。・・・・・私が一番嫌いな声(・・・・・・・・)だ。

出来るだけ不快な表情を消して振り向く。そこにはきれいな女の人がいた。あ、なんか悪そうな顔で笑ってる。まるで私の心の声が聞こえているみたい。

 

「聞こえてますよ。貴方の心の声」

 

そんなことを考えてたらそう言われた。バツが悪くなって顔を伏せる、ふりをする(・・・・・)

 

(マジ?神様みたい・・・。)

「というか神様ですしね」

(・・・ほんとに神様だった。はっはっは、はは・・・私死んだのかな?)

「結構冷静ですね。もっと狼狽するかと思いましたが。これも、下界でラノベとやらが流行ってるから慣れているのでしょうか?」

 

神様なんて名乗った女性はそう言って複雑そうな顔をした。

 

(さあ?私はそこまで読み込んでるわけではないですし、私は転生よりも現実が舞台の方が好きです。)

「私はラノベ全般が好きですよ。というかあなた何故喋らないのですか?」

(神様も読んでるんですね。・・・神様は私の心の声が聞けるようなので、こっちの方が手っ取り早いです。)

「ふふっ。やはりあなたは面白いですね。貴方を選んだのは間違いではなかった」

(・・・そうですか。じゃあそろそろ本題に行きましょうか。)

「それもそうですね。まず自己紹介から。私は、まあ神様とでも」

(自己紹介になってない気がしますが・・・では私も。その様子だと知っていると思いますが、私は白黄(はくおう)七海(ななみ)です)

「それでは七海さん。貴方がここにいる理由をお教えしましょう。まず、現実世界では貴方は死んだことになっています」

 

何気ない雰囲気で神様からとんでもないことを言われた。普通ならここで動揺したりするんだろうけど、私にとって動揺することではない。それよりも気になる事がある。

 

(ふむ、死んだことになっている(・・・・・・・・)、ですか。つまり私は事故で死んだわけではないと)

「察しが良いですね。貴方は私が召喚したからここにいるのです」

 

召喚という一言はなかなか効いた。まさかこの自称神で巨乳の女は、まさか私に魔王を倒せとでも言うのだろうか?

自称神様を見ると、心の声を聞いたのだろうか苦笑いしていた。

 

「なかなかに口が悪くなりましたね。ああちなみに、魔王を倒せとは言いませんがあなたが倒したいならそれでもいいですよ?」

 

口というか心の声ね、などというツッコミが浮かんだがその後の言葉が理解できなかった。

 

(それはつまり、私が行きたい世界に行かせてくれると?)

「まあ、そういうことですね。因みに何か要望はありますか?」

 

行きたい世界・・・考えてみるがこれといって出てこない。そもそもこんな状況になるなんて思ってもみなかった。

すると、目の前の自称神はくじ引きが垂れている箱を取り出す。それを目の前に突きだしてきた。引けという事だろうか?とりあえず垂れているくじの内一本を引き抜く。

 

「これは・・・戦姫絶唱シンフォギアの世界ですね。・・・・・・・あの、七海さん」

 

「戦姫絶唱シンフォギア」ってたしかアニメだったかな。なんか歌いながら戦うんだっけ?名前は知ってても見たことないんだよなぁ。

どういう内容だったか思い出そうとしている時、私を見ていた自称が提案してきた。

 

「ついに神すら取られた・・・。ってそうではなく、もし良かったら見ていきます?原作のアニメ」

(いいの?というか見れるの?)

「はい、見れますよ。何も知らないというのは危険ですし」

 

私だって何も知らずに行くのは危険だというのは分かる。だからとりあえずは、その好意に甘えることにした。

 

 

 

 

 

それから私は自称神が出したテレビで「戦姫絶唱シンフォギア」を一気見した。そして惚れた。・・・・・・いや別に可笑しくなったわけではない。私は至って正気だ。あの自称神と一緒にするな。

ただこの作品のキャラクターの1人、キャロルという女の子が好きになった。恐らく、このキャラの過去を知ったから原因だろう。親を殺され、世界を恨み、そして父親の遺言の真意を考えた結果、世界を分解しようとした。しかし、それは主人公たちの手によって阻止された。

なんだろう、創作物のキャラだと分かっているのに助けてみたいと思った。きっと根は悪い子じゃないはずだ。そんな彼女が世界への復讐心を持たなかったら、どんな子になっただろう。

・・・うん、ただであの自称神につき合う(・・・・・・・・・・)のもおもしろくない(・・・・・・・・・)。それにこれくらいなら、あの自称神も面白いんじゃないかな?(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

キャロルが登場したGX編を見終わった後、私はすぐに神様の元に向かった。先が見えない空間を歩いていくと、ラノベを読んでる自称神がいた。

 

「おや、どうしました?」

「知ってるでしょ。いくよ。シンフォギアの世界に」

「何か細かい指定はありますか?」

 

自称神は読んでたラノベを開いたまま、背表紙を上にした置いた。ああ、そんなことをしたら本が傷んじゃう・・・。あ、栞挟んで閉じた。多分私の心の声が聞こえたんだろう。

 

「できるなら、キャロル・マールス・ディーンハイムというキャラが・・・・」

 

それから私は自称神にいくつか要望を伝え、特に未練もないので早速向かうことにする。

 

「それでは、神様ありがとうございました」

「はい。新たな生を楽しんでくださいね」

 

なんか珍しく神様みたいなことを言ってる。それじゃ、私も・・・

 

「ええ、精々神様を楽しませれるように(・・・・・・・・・・・・)、頑張りますよ」

 

ふふっ。鳩が豆鉄砲食らったような顔してる。最後の最後にしておいてよかった。

 

「・・・・それなら、頑張ってください。では送りますね」

 

言いたいことも最後に言えたし、神様にああ言っちゃったし頑張るか。

そんなことを考えながら、私の意識は暗くなっていった。

 

 

 

《神様side》

 

「ふう、まさか分かっていたなんて。・・・ますます私の楽しみが増えますね」

 

七海さんを送り出して1人になった空間に私の声が響く。ああ本当に彼女を選んで正解でした。・・・私が七海さんを召喚した理由、それは私の趣味です。私は自分が作った世界の人間が、別の世界にいったらどうするのかを見るのが楽しみなのです。事の発端はある日、人間たちの暮らしを100年ぶりに見た時、たまたま目に映ったラノベなる書物を読んだこと。

結果、見事にドハマリした私はいろんな人間を召喚し、私が作った彼らの望みの世界に転生させてあげました。そこで彼らがどのように生きていくかを見続けてきました。そしてつい最近、七海さんの前に転生させた人間が亡くなったことで、また面白そうな人間を探し七海さんを見つけました。彼女は今までで一番当たりな気がします。だって一目見た時から、彼女に目が行きましたからね。

・・・最近は刺激が乏しかったですからねぇ。何で世界を好きに改編できる能力とか誰も望まないんでしょうね?私は渡した力の使い道にそこまでとやかく言いません。別にいろんな人に催眠をかけて好きにしたり、いわゆる俺TUEEEE!とかしてもいいんですよ?他世界に影響を及ぼすことがなければ、好き勝手していいんです。数々のラノベに鍛えられた私を舐めないでください!

そういえば前に力を渡した途端に、私を自分のモノにするとか言いながら襲ってきた人がいましたね。まあその人はすぐに罰を与えましたが。今頃地獄よりもひどい目にあってるんじゃないんですか?どうでもいいですが。っと、話が脱線してしまいましたね。

 

「まったく、一体いつから気づいていたんでしょうかね。これが私の趣味であることに」

 

それから私は、あの子が「戦姫絶唱シンフォギア」を見ていた場所まで行きました。別に片付けようと思えば、さっきの場所から念じるだけで良いんですけど、私の趣味だと気付いた理由が分かるかなと思って。・・・あら?

 

「あの子3期までしか見てないみたいですね。渡したのは新品同様でビニールで梱包されていましたし。・・・・いつもなら、あまり気にかけないんですが、あの世界はこの作品が元になっているとは言っても、ちゃんとした現実ですし・・・。仕方ないですね。私の目的を見抜いたことを幸運と思ってくださいよー」

 

私は七海さんを飛ばした世界に手を加え、4期と5期の出来事が起きないようにした。そのためいくつかの歴史が自動的に修正されましたが、そのせいで予期しないことが起こるかも。

・・・・・・・まあそれも面白そうですね!

 

さて、私を楽しませてくださいね?過去最高で好き(・・)と思った、可愛い可愛い七海さん(おもちゃさん)

 

 




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2 初変身してみよっか?

「んんっ・・・んぅ」

 

窓から差し込む日差しに、私は目を覚ます。再び眠りに誘おうとするベッドの誘惑を何とか跳ね除け、体を起こそうとする。がそれは叶わなかった。

 

(ん?・・・ああ、そうだった)

「ふにゅ・・・むにゃ」

「ん~・・・はにゅ」

 

視線を下げると、そこには天使が・・・じゃなかったキャロルとエルフナインが抱き着いていた。可愛い寝顔に顔を綻ばせ、2人を起こさないように丁寧に彼女の腕をはがし、洗面所に向かう。

やがて洗面所についた私は顔を洗い眠気を飛ばす。水の冷たさが私の意識をしっかりと覚醒させる。そして顔を上げると、目の前の大きな鏡に私の顔が映る。青みがかかった銀色のショートヘア、均衡のとれた顔立ち、そして見切れるように映る小さな膨らみ・・・何でここだけ頼まなかったんだろ、私。

何回目かもわからない、あの自称神の愚痴を心の中でこぼす。しかしそんなことを言ってばかりではいられず、朝食の準備をするために厨房へ向かう。

 

「・・・もうすぐ原作が開始する。もうすぐだ。まあ、その前にすることはあるんだけど」

 

朝食を作りながら、いろいろあったことを思い出す。なぜだろう。急にあの人のことが頭に浮かんでくる。原作が始まるからって、緊張してるのかな?

今でも鮮明に覚えている。あの日の出来事、私がこの世界に降り立った日のことを。

 

「イザークさん・・・」

 

私のその呟きは、フライパンから鳴る音によって掻き消された。

 

 

 

 

 

「ん・・・う、ぐっ。ここは・・・?」

 

私が目覚めたのは、暗い暗い森の中だった。近くには小さなバッグが落ちていて、中には要望通りのものが入っていた。この場所がどこかは分からなかったけど、とりあえずはあの自称神が要望通りにしてくれたんだろう。

 

「明かりが見える。という事はあそこが・・・?」

 

私は明かりがある方向に歩くと、すぐに村と思わしき場所についた。だが、その村の雰囲気はどこか剣呑としていた。

小さな光が列をなして村のはずれにある1つの明かりに向かっていた。恐らくそこが目的の人物が住んでいる家。そこで私は確信した。もうすぐターニングポイントと呼べる出来事が起こると。

 

「なら急がないとね。手遅れに、私がこの世界に来た意味が無くなる前に」

 

私が自称神に頼んだことの1つが、イザーク・マールス・ディーンハイムが殺される直前に送ってほしいという事。確実に私の目的であるキャロル・マールス・ディーンハイムのこの先を決定づけるであろう出来事。イザークが救った村の人々が彼を火刑にすること。

幸い私の方があの村人たちより早く着けそうだったので、全力疾走で向かった。

 

「すいません!誰かいませんか?すいません!」

 

非常識だとは思うがドアを叩き、中にいる人を呼び出した。やがてドアが開き、キャロルちゃんと思わしき少女が顔を覗かせた。

 

「誰ですか?こんな時間に」

 

さすがに怪訝な表情をされたが、速くしないとその顔は悲しみ一色になってしまうので、イザークさんがいないか聞こうとした。

 

「どうした?誰かお客さんかい?」

 

その時優しそうな顔の男性、まさしくテレビで見たイザーク・マールス・ディーンハイムが出てきた。

 

「あの!あなたがイザークさんですよね?」

「ああ、確かに私はイザークだが・・・」

「早くここから逃げて!もうすぐあなたが救った村の人々が、貴方を殺しに来る!」

「何を言って・・・」

 

イザークさんは訳が分からないといった感じで、首をひねった。それもそうだ。いきなり来た人に、貴方を殺しに来るなんて言われても信じられるわけがない。

そうこうしていると、背後から足音が聞こえ振り返るとそこには農具を持った村人たちがいた。

 

「皆さん?いったいどうしたんで・・・」

「いたぞ!魔女だ!」

「ヒッ!」

「なっ!?私が魔女だって?いったいどういう事ですか!」

「うるさい!我らを油断させて、何を企んでいる!」

 

イザークさんが説明を求めるも、彼らは聞く耳を持たない。やれやれ、自分たちを救ってくれた人に向かって何を言ってんだか。恩を仇で返すとはこのことだね。見ろ、キャロルちゃんがすっかり怯えてしまっているではないか。

 

「そんな・・・」

「なんだ貴様は!貴様を魔女の仲間か!」

「イザークさんはあなた方を、流行病から救ってくれたんじゃないんですか?」

「村が救われたのは神による奇跡だ!1人の人間になど、治せるはずがない!」

「そんな・・・」

 

私の言葉に返した村人が、イザークさんの研鑚を『奇跡』と言った。あーあ、キャロルちゃんには聞かせたくなかったんだけど。

 

「仕方ない」

 

どうやら穏便に済ませることは出来ないらしいと判断した私は、バッグの中から自称神に頼んでおいた物を取り出し腰に装着した。

 

《スクラッシュドライバー!》

 

うん問題なく使えるみたい。

そう安堵した私は、『スクラッシュドライバー』に『ロボットスクラッシュゼリー』のキャップ口をひねりセットした。

 

《ロボットゼェェリィィー!》

 

「変身」

 

《潰れるぅ! 流れるぅ! 溢れ出るぅ!》

《ロボッットォイングゥゥリスゥゥゥ!》

《ブルァァァァァ!》

 

レンチ型のレバーを下ろすと、私を囲むように巨大なビーカーと装置『ケミカライドビルダー』が出現し、中を液体が満たしていった。液体によってスーツが形成され、頭部からビーカー内の液体が噴出され、頭部のパーツ等が形成された。

私の要望した1つ、仮面ライダーグリスに変身できるようにすること。それによって私は仮面ライダーグリスに変身した。

 

「な、なんだぁ!」

「やっぱり魔女の仲間だったんだ!」

 

騒ぎだてる村人たちに構わず、私はゆっくりと村人たちに近づいた。錯乱した村人の1人が私に鍬を振りかぶってきたが、私がそれを簡単に受け止めると腰を抜かした。

 

《ツインブレイカァ―!》

 

未だ騒ぎ立てる村人たちの足元に、左手のツインブレイカ―の銃弾を撃ち込むと、村人たちは悲鳴を上げながら逃げて行った。私は変身を解除してイザークさんを向いた。

 

「イザークさん。これが彼らの本心ですよ。どうしますか?私と共に来るか、それとも・・・」

「・・・・・分かった。君の提案を呑もう」

 

私の問いにイザークさんは、少し悩んでいたがキャロルのためを思ったのだろう。

翌朝、私たちは、私があらかじめ要望していた家(バッグの中に地図があったのですぐわかった)に、イザークさんたちの荷物を運びこんだ。ちなみにその日は、私は泊めてもらった。

よほど私が恐ろしかったんだろう。荷物の運び出し中は、あの村人たちは襲ってこなかった。

 




次回で回想は終わり。

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3 過去を、思い返してみよっか?

一話の部分にて、間違いのご指摘をいただきました。Koroking様ありがとうございました。

また、サブタイにて話数を書くこと、それから2話のサブタイを変更しました。


私がイザークさんとキャロルちゃんと出会ってから、1年ほどたった。

 

「イザークさん、気分はどうですか?」

「ああ、今日はだいぶいいみたいだ」

 

私が神様(自称神って言うの疲れるから神様でいいや)に用意してもらった家で、比較的平和な日々を過ごしていた。私はイザークさんから錬金術について習っていた。イザークさんは私の学習速度に驚いていたけど、それは当たり前だ。神様に頼んだ要望である学習能力、記憶能力の向上が働いているからだ。別に錬金術の知識、技術でも良かったけど、それだと私の目的から外れるからね(・・・・・・・・・・・・)

キャロルちゃんとも結構仲良くなった。最初は警戒されていたけど、少しずつ警戒を解いてくれて、ナナミさんって呼んでくれるようになった。いい進歩だ。

そうして1年足らずで、イザークさんから学べることの大半を学んだ私は、自分でいろんなことを研究しようかなと考えていた。その矢先、イザークさんが倒れた。医療に関する文献を読んだりもしたけど、それでもイザークさんが倒れた原因は分からなかった。

・・・いや、1つだけ心当たりがあった。世界による修正力だ。ラノベとかでもよく出てくる世界による歴史の修正。馬鹿な話だとは思う。でも、医療とか病気の詳しい知識がない私には、そう考えるしかなかった。

でも、これはまだマシなのかもしれない。魔女として、火刑という最期を迎えるより、こうして人間らしい死に方ができる方が・・・。回復の見込みがなく、そう考えてしまうほど、私の精神は追い詰められていた。初めて人が死ぬかもしれない現場にいた私は、知らず知らずのうちに精神をすり減らしていた。

そうして少しずつ、イザークさんの容体が悪化していった頃、私はイザークさんに呼び出された。

 

「なあ、ナナミちゃん。君に頼みたいことがあるんだ」

「・・・なんですか」

「もう僕は長くない。きっともうすぐ死んでしまうだろう。その時は、君に、キャロルを任せたいんだ」

 

きっとあんな状況じゃなきゃ、私は心の中で喜んでいただろう。でも、とてもそんな風には考えれなかった。

薄々気づいていた。きっともう助からないんじゃないかって。自分の体のことは自分がよく知っているとはよく言われるが、まさしくそうなのだろう。

だから私は・・・

 

「わかり・・・ました。あの子は、私に任せてください・・・」

「そうか。・・・・すまないな。君にばかり押し付けてしまって。今思えば、君があの時私たちの元に来たことは、運命の思し召しかもしれないね」

「グスッ。なんですか、それ」

 

まあ、確かにそうかもしれない。なんたって私をここに送り込んだのは、あの神様で、この世界に来るキッカケはくじ引きだ。

その時、部屋のドアが開きキャロルちゃんが顔を覗かせた。

 

「パパ?入ってもいい?」

「ああ、いいよ」

 

キャロルちゃんは笑顔でイザークさんに抱き着く。

 

「どうしたんだい?」

「あのね、前にパパに教えてもらった錬金術がうまくいったの!」

「へえ、すごいじゃないか!」

「えへへ!」

 

親子の仲睦まじい姿を見ながら、私はそっと部屋を出た。近いうちに来るであろう別れを予感しながら・・・。

 

 

数日たったある日、その予感は当たってしまった。

 

「パパ!パパぁ!」

「キャ、ロルか・・・」

「パパぁ!」

「ごめんな・・・パパ、もうだめみたいだ・・。もっと、いろんなことを、教えてあげた、かったんだけど、なぁ」

 

イザークさんの容体が急変した。キャロルちゃんはいやだいやだと泣きながら叫ぶ。イザークさんはそんなキャロルちゃんの頭を撫でて、なんとか泣き止んでもらおうとした。でも、キャロルちゃんの泣き声は、どんどん、どんどん・・・・大きく、なって、いっ、て。

 

「キャロル・・・。後のことはナナミちゃんに任せてある。彼女の言うことをちゃんと聞くんだよ」

「パバぁ・・・ぞんなごど言わないでよぉ」

「っ!?イザーク、さん・・・」

 

邪魔してはいけないと部屋の外で待っていた私も、涙をこらえきれなかった。

それでも泣き止むことのないキャロルちゃんに、イザークさんは最後の教えを残した。

 

「いいかいキャロル。生きて、もっと世界を識るんだ。世界の形を、姿を、自分の目で、耳で、手で、キャロル自身で。それがキャロルの・・・・」

 

その言葉に私はハッと、部屋に入りイザークさんを向いた。

 

「それがキャロルの・・・未来を・・・夢を・・・作って、い、く・・・」

「パパぁ!!!」

「イザークさん!!」

 

そしてイザークさんは、静かに、安らかに、目を閉じて・・・・・・亡くなった。キャロルちゃんの慟哭が、一人減った部屋に、悲しく空しく響き渡った。

 

 

その後、私は丁寧にイザークさんの遺体を埋葬した。お墓は本人の思い入れがある場所が良いんだろうけど、イザークさんたちが住んでいた家はあの村の近くだし、基本家で錬金術の研究ばっかしていた人だったから特に思いつかない。だから、今の家の近くにお墓を作った。

それからいろいろあった。私とキャロルは原作同様、ホムンクルスを作って記憶を転写・複製し、数百年を生きてきた。そしてもうすぐ―――

 

 

 

 

「・・・え・・・ねえ・・・・ナナ姉え(・・・・)!」

「ふぁいっ!?えっ、えっ!?・・・ああ、エルか」

「おはようございます!ナナ姉え!」

「うん、おはよう」

 

エル(エルフナインのことね)に横からかけられた声に驚いて変な声出ちゃった。というか結構回想に耽っていたらしい。朝ご飯つくら・・な・・きゃ?

 

「今日もおいしそうですね!早くキャロルも起こして、朝ご飯にしましょう!」

「う、うん」

 

エルと私の目の前には完成している朝ご飯があった。うそでしょ・・・。

まさかほぼ無意識に朝ご飯を作っているとは・・・数百年の経験は馬鹿にできないね。っと、エルがキャロルを起こしてきたね。

 

「おはようキャロル」

「むぅ・・・。おはよぉ、ナナ姉え(・・・・)

 

うん、可愛い。目を擦りながら舌足らずな声で「おはよぉ」なんて可愛すぎるよぉぉぉ!和やかな気持ちで、眠そうにしているキャロルの頭を撫でていると、エルが羨ましそうにしていたからエルも一緒に撫でてあげた

 

「「ふみゅ~」」

 

ああ、マジ天使。しばらく頭を撫でたら、2人に顔を洗わせテーブルに着く。

 

「それじゃ、いただきます」

「「いただきます」」

 

今日の朝ご飯は目玉焼き、チーズ、トマト、レタスのサンドイッチとコンソメスープ。サンドイッチの目玉焼きは完熟寄りの半熟、コンソメスープには玉ねぎと炒めた鶏肉を少しだけ入れている。

・・・・うん、いい出来だ。

 

「美味しいです、ナナ姉え!」

「うん、おいしい」

 

どうやら天使2人にも好評のようだ。サンドイッチを頬張る2人はなかなかに破壊力があるなぁ。

そうやって朝ご飯を食べていると、キャロルが私に聞いてきた。

 

「それでナナ姉え。今日はどうするの?」

「ん?ああ、今日は米国かな。米国の研究所の聖遺物を回収しにいく」

「気をつけてください。ナナ姉えが持ってたあの『ライダーシステム』というものがあるにせよ。危険なことには変わりないわけですから」

「うん、わかってる。キャロルもオペレートよろしく」

「うん!任せてナナ姉え!」

 

さあて、片付けが済んだら、いよいよ動き出すとしますかね。私の目的の為、この子たちの為にも・・・。

 




お次はF.I.S.に殴り込みでもしますか。

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4 セレナちゃんを救ってみよっか?

《???side》

 

「あ、ああ・・・」

 

私は目の前の脅威に、心の底から震え上がっていた。・・・最初は大丈夫だと思っていた。私にはアガートラームがあるのだから、なんとかなるかもしれないと。でも、その目論見は儚くも崩れ去ろうとしていた。

 

「GRUUUUUUU」

 

炎でできたような見た目、巨大な体躯。そして、響き渡る唸り声。姉さんたちは逃げ出せただろうか?博士たち(・・・・)がついてくれているだろうから、逃げ出せたと思う。

今から私がするのは、命と引き換えに暴走しているネフィリムを止めること。・・・・ああ、こんな時にさっきの会話を思い出すなんて。

 

『セレナ!だめよ、貴方も私たちと!』

『大丈夫だよ姉さん。私のアガートラームなら、なんとか・・・』

『セレナァ!』

 

今思えば、あれが最後の会話なんだなぁ。そんなことを思いながら、私は歌を口にする。きっと生きて帰ることは出来ない。でも、ここで止めなければたくさんの人が死n――――

 

「GUUUUUUUUUU!!!!」

「あ・・・・」

 

抵抗するかのように、ネフィリムの腕が私に向かって振り下ろされ、そして私は―――――――

 

 

 

《七海side》

 

「ここがF.I.S.か。いやまあ数年前に見に来てはいたけど」

 

朝食を食べ終わって後片付けもした私は、米国の研究所F.I.S.に来ていた。目的は、完全聖遺物ネフィリムの奪取・・・というのはキャロルたちに話している建前である。私の目的は、原作では若くして死んでしまう少女、セレナ・カデンツァヴナ・イブの死亡を回避すること。

でも詳しい日時とかよく知らなかったから、調べるのがめちゃくちゃ大変だった。F.I.S.並びに聖遺物の動向を毎日注意深く確かめ、なんとか今日、聖遺物ネフィリムの起動実験が行われることを突き止めた。

 

「さて、原作通りならそろそろ・・・」

どがああああああぁぁぁぁぁあああああんんんんんん!!!!

七海(・・)!研究所内から聖遺物の反応が出た!しかもこの熱量反応、暴走してるぞ!速く行け!』

 

うん、知ってる。なんか爆発したし、もっと言うなら初めから知ってた。しかしキャロルちゃんはお仕事モード。そんな時にこんなこと言ったら、大目玉だ。

 

「りょーかい。オペレートよろしくねキャロル」

 

さて、行きますか。気持ちを入れ直し、私はスクラッシュドライバーを腰に装着する。

 

《スクラッシュドライバー!》

 

左手でロボットスクラッシュゼリーのボトルキャップを捻り、お手玉のように軽く投げ右手で掴みスクラッシュドライバーにセットする。

 

《ロボットゼェリィィー!》

 

私は某ドルオタのように、左腕をネフィリムがいるであろう場所に伸ばす。

 

「変身」

 

《潰れるぅ! 流れるぅ! 溢れ出るぅ!》

《ロボッットォイングゥゥリスゥゥゥ!》

《ブルァァァァァ!》

 

右手でレバーを下ろすと、私を囲むように巨大なビーカーと装置『ケミカライドビルダー』が出現し、中を液体が満たしていく。液体によってスーツが形成され、頭部からビーカー内の液体が噴出、頭部のパーツ等が形成された。

仮面ライダーグリスに変身した私は、伸ばしていた左腕をゆっくりと胸元まで戻す。

 

「さあ、行ってみよっか?」

 

私は燃え盛る研究所の壁をぶち壊して、中に侵入する。

案の定、研究所内は火の海状態。私は変身してるから大丈夫だけど、これ生身の人間じゃ生きられないよね。

 

『そこを右。そしたら、そこの階段を降りろ。そしたら・・・ん?この反応は』

「どうしたの?」

 

キャロルのオペレートでネフィリムに向かっていると、キャロルが何かに気付いた。まあ、もしかしなくて・・・。

 

『この反応は、ネフィリムじゃない?識別名アガートラーム!?まさか誰か戦っているのか?』

 

やっぱりね。・・・いや、まずくない?早く行かないと絶唱使っちゃうんじゃ・・・。ヤバい!!得意げな顔でのんびりしてる場合じゃないでしょ!!

 

「キャロル!ネフィリムまであとどれくらい!?」

『一階下に降りて、北側の部屋だ!』

 

北っていうと・・・あっちか。私は焦る心を落ち着けながら近くの階段を飛び下りる。北側は壁になっており迂回しなければいけないが、そんなことしてる時間はない。私は小さなボトル「フルボトル」を取り出して、左手に装着しているツインブレイカ―のスロットに装填する。

 

《シィングルゥ!》

 

ツインブレイカ―の砲身「レイジングビーマー」を動かすと、パイルバンカーのような「アタックモード」に変形する。

そして私は腕を引き絞り、壁に向けて思い切りたたきつける!

 

「うらあああああ!!」

《シングルブゥレイクゥ!》

 

破砕音と共に空いた穴から高熱の熱気が溢れ出る。アッチ!熱いって!こんな熱かったのネフィリムって。

まあとにかく・・・

 

「あ、あなたは?」

 

そこには一体何が起きたのか分からないという様子の少女。そして魔人という言葉がぴったりな完全聖遺物ネフィリム。・・・どうやら間に合ったみたいだね。

 

「あ、貴方は一体・・・。いや今はそんな事を言ってる場合じゃ。あの、どなたか分かりませんが、ここは危険です。早く逃げてください!」

「じゃああなたはどうするの?」

「えっ?」

「いやだから、貴方はどうするの?」

 

そんなこと聞かれると思ってすらいなかったセレナは、ネフィリムがいるにも関わらず呆けてしまう。

 

「GRUAAAAAAA!!!!」

 

痺れを切らしたのかネフィリムが吠え、その剛腕を振り下ろす。・・・・・・私に。

私は横に跳び何とか回避が間に合う。

 

「ごめんね~。待たせちゃって」

「GAAAAAAAA!!!」

「さあ。心火を燃やして、撃破する。ハッ!」

 

再び振り下ろされる剛腕を跳躍して回避。そして振り下ろされた腕に着地し駆け上る。しかし、ネフィリムは私を振り落とそうと腕を振り回し、私は振り落とされる。

 

「うわわっ!?」

『七海!大丈夫か!』

「何とかね・・・」

「―――危ない!」

 

キャロル、ましてや私ではない声が聞こえると同時に、私は思いっきり跳ぶ。その直後私がいた場所に、ネフィリムが投げた巨大な瓦礫が飛来する。あっぶな~。

 

「ありがと」

「い、いえ。ではなくて、貴方は逃げてください!あれは私が止めm・・・」

「だめ。やらせないよ」

 

絶唱を使う気満々のセレナの肩を掴み、後ろに下がらせる。早く終わらせないと無理矢理絶唱使っちゃいそうだし、さっさとやっちゃいますか。あ、どうせならこれ使おう。

私は赤いスクラッシュゼリーを取り出しボトルキャップを捻る。そしてロボットスクラッシュゼリーと取り出し、赤いスクラッシュゼリーをセットする。

 

《ラビットゼェリィィ!》

 

「変身」

レバーを下ろし、巨大なビーカーと『ケミカライドビルダー』に囲まれた私の周囲を赤い液体が満たしていく。そして中の液体が爆発したように弾け外に溢れ出す。

 

《走るぅ! 跳ねるぅ! 駆け回るぅ!》

《ラァビットォイングゥリスチャァァァジ!》

《オラァァァァァ!!》

 

「心火を燃やして、駆け抜ける・・・!」

 




次回 ネフィリム死す!デュエルスタンバイ!

因みに壁を壊すのに使ったのは、ユニコーンフルボトル。


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5 オリジナルフォーム、お披露目してみよっか?

《七海side》

 

《走るぅ! 跳ねるぅ! 駆け回るぅ!》

《ラァビットォイングゥリスチャァァァジ!》

《オラァァァァァ!!》

 

金色の装甲は深紅に変わり、肩の装甲「マシンパックショルダー」は外され全体的にスタイリッシュになり、両足にはスクラッシュゼリーの形を模したパーツがついている。

 

「仮面ライダーグリス ラビットチャージ。心火を燃やして、駆け抜ける・・・!」

 

これが私の新たな力、ラビットチャージ。さてと、やっていきますか。

私は足に力を込め両足の装甲「スプリントキャプチャー」で脚力を強化し駆け出す。加えて跳躍し近くの壁を踏み台にしてさらに加速。

 

「ハッ!」

「GRAAAAAA!!!」

 

その勢いのままネフィリムにキックをお見舞いする。ネフィリムは腕を振り回すが、そんなもんじゃ私には当たらない。にしてもこいつタフだなぁ。原作じゃあ、セレナが絶唱を使ってエネルギーのベクトルを変えてどうにかしたんだっけ?

躱しては攻撃、躱しては攻撃をしながらそんなことを考えていると、キャロルちゃんの声が通信機から聞こえてくる。

 

『何をしている!早くそいつを倒せ!じゃないと建物自体が崩れるぞ!』

「うそ、マジで?おっと」

 

通信の間でもネフィリムは攻撃してくる。生き埋めにはなりたくないし、そろそろ決めようか。

私はツインブレイカ―にロックフルボトルと、ローズフルボトルを装填する。

 

《シングルゥ!ツゥイン!》

《ツインブゥレイクゥゥ!》

「ふん!」

 

私がツインブレイカ―を突き出すと、先端から鎖が伸びてネフィリムをぐるぐる巻きに拘束する。ネフィリムが拘束から逃れようと暴れるせいで、鎖はすぐに引き千切られそうだけど、少し時間を稼げれば良い。

私はレバーを下ろして、構えを取る。

 

「GAAAAAA!!」

 

鎖が引き千切られ、ネフィリムの拳が私を殴り飛ばそうとするけど、残念。私はもうそこにはいない。

 

《スプリングフィニッシュ!》

「ハアアアア!デヤァァ!」

 

スプリントキャプチャーで超強化された脚力で、視認するのが困難なほどのスピードでネフィリムの目の前に移動。そして両足の側面についている「ジャンプパックスパイク」で特殊なゲル「ヴァリアブルゼリー」を足に纏い、それを媒介にエネルギーを増幅、威力を高め後ろ回し蹴りを放つ。

もろに直撃したネフィリムは爆発し、暴走前の蛹状の基底状態に戻った。

 

「よし!撃破完了!」

『いそげ!建物が崩れるぞ!』

 

おお、こりゃ本気でヤバそう。ネフィリムは回収して、呆然としているセレナを脇に抱える。

 

「え?」

「ごめんね。ちょっとだけ我慢して」

 

持ってきていたクリスタル「テレポートジェム」を地面に叩きつけて割ると、魔方陣が展開され私たちは転移する。

 

 

《セレナside》

何が起こったのかまるで分らなかった。

絶唱を使う直前にネフィリムに叩き潰されそうになった時。突然壁が吹き飛ばされてそれにネフィリムも巻き込まれてなかったら、きっと私は絶唱を使う前に死んでいた。

そして壁を壊して現れたのは、金色のスーツ(?)で全身を覆っていた人だった。こんな人私の知る限り研究所に居なかった筈、そこまで考えて、ネフィリムが起き上がるのが見えた私は金色の人に逃げるように言った。そしたら・・・

 

「じゃああなたはどうするの?」

「えっ?」

「いやだから、貴方はどうするの?」

 

声が女の人のモノだったことにも驚いたけど、そんなこと聞かれるなんて思ってもいなかった。それからネフィリムは私よりも、後から現れた女の人を脅威だと判断したらしく、女の人に襲いかかった。女の人も応戦して、危険な場面があったけど、私が思わず「危ない!」って言ったら感謝された。

それから女の人が腰についてる機械を操作したら、巨大なビーカーが女の人を囲んで出てきたときには姿が変わっていた。

 

「心火を燃やして、駆け抜ける・・・!」

 

それからは、ネフィリムは一方的に押されていた。女の人の驚異的な速さについて行けず、最後は女の人のキックを食らって元の姿に戻った。

私は目の前のことが信じられずずっと呆けていた。それで気づいたら、ネフィリムを倒した女の人に抱えられていて、何か硬いものが砕ける音がすると視界を光が覆った。

そして今・・・。

 

「私は白黄七海。七海で良いよ。それであなたは?」

 

私は、助けてくれた女の人・・・じゃなかった。七海さんとお話している。

 

「えっと、私はセレナ・カデンツァヴナ・イブです」

 

私も自己紹介を返す。七海さんって言うんだ・・・。って私は何を・・・!?

 

「?本当はいろいろとお話ししておきたいんだけど・・・。今回はいろいろあったし疲れてるよね。部屋に案内してあげるから、とりあえず休んで貰おう」

「そ、そんな!そこまでお世話になるのは・・・」

「大丈夫だよ。貴方が休んでる間に、貴方のお姉さんの足取りも追っておくから、ね?」

 

確かに七海さんの言うとおりです。姉さんがどこにいるかもわかりませんし・・・。多分どこかのF.I.S.の施設だとは思うんですけど。ということで、七海さんのお誘いに乗ることにしました。

そして案内された部屋で私は仮眠を取るために、ベッドに横になった。

 




仮面ライダーグリス ラビットチャージ
オリジナルフォーム。早さを重視したフォームで、メインの攻撃は足技。足の装甲「スプリントキャプチャ―」は脚力を強化し、赤い残像を残しながら高速移動ができる。肩に付いていた「マシンパックショルダー」がない代わりに、両足の側面にマシンパックショルダーに似た形の「ジャンプパックスパイク」がついている。
ジャンプパックスパイクからは、特殊なゲル「ヴァリアブルゼリー」を噴出でき、様々な形にすることができる。そのためフルボトルを使った攻撃系の必殺技は、(ツインブレイカ―使用時を除いて)基本足で放つ。
必殺技はヴァリアブルゼリーを右足に纏い、強化された脚力で接近。ヴァリアブルゼリーを媒介に、エネルギーを増幅し威力を高めた後ろ回し蹴りを放つ「スプリングフィニッシュ」。モデルは仮面ライダーアクセルの必殺技。
応用で接近後、直立からの右足での上段蹴りを決める形もある。これは仮面ライダービルドハザードフォーム初登場時の必殺技がモデル。


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6 セレナちゃんと、お話ししてみよっか?

評価☆9 普通556Mさんありがとうございます!


《七海side》

セレナを部屋に案内し休ませた私は、そのままキャロルの元に向かう。え?キャロルにちゃんを付けないのかって?これはね、あの子からお願いしてきたんだよ~。他人行儀みたいだからってね。かぁわいいよねー!逆にセレナはまだそこまで仲良くないからちゃん付けはしないし、呼び捨てだけど話す時はちゃん付けするよ。

なんて考えてたらキャロルちゃんの工房に着いた。キャロルちゃんには回収したネフィリムを預けてある。今頃封印の作業に入っているんじゃないかな。

 

「キャロルちゃーん!」

「ん?ナナ姉え・・・!」

 

私が声をかけると、キャロルが駆け寄ってきてギュ~って抱き着いてきた。うんうん。お仕事モードのキャロルも好きだけど、今の甘々モードのキャロル(自然体)はやっぱり可愛い~。

 

「それでキャロル。ネフィリムはどう?」

「ふみゅ~。ネフィリムの封印作業は予定通り進行中だよ。ナナ姉えがネフィリムのエネルギーを消耗させてくれたから、予想以上の速さで進んでるけど。やっぱりナナ姉えはすごい」

 

キャロルの頭を撫でながら、作業の様子を聞くと嬉しいことを言ってくれた。ああ、疲れなんて吹っ飛んじゃうよ。

 

「・・・それでナナ姉え。あの連れ帰ってきた女の子」

「セレナのこと?」

「そのセレナって子。どうするの?」

 

恐る恐ると言った感じで、キャロルが尋ねてきた。セレナに関しては、私は未だ迷っていた。ここに住まわせるか、それとも記憶に処理を施して私たちのことを忘れさせたうえで、彼女の実の姉であるマリア・カデンツァヴナ・イブの元に帰すか。

本音を言うならここに住まわせておきたい。彼女は原作ではネフィリムの暴走時に彼女は死ぬ運命だった。でも私が介入したため彼女は生きており、そんな彼女を姉の元に引いてはF.I.S.の元に帰した結果、何が起こるか分からない。そもそも絶唱が諸刃の剣であることはF.I.S.も知っているはず。そんな中五体満足で彼女が戻れば、必ず彼女に対して何らかの実験、最悪絶唱を使わせることは目に見えている。

加えてこのまま彼女をここに住まわせれば、彼女は死んでいなくても向こうにとっては死んだことと同義になる(・・・・・・・・・・・)。なぜならセレナがいないのだから。あの火災と建物の崩落だ。死体が見つからなくてもおかしくはないとF.I.S.は思うだろうし。・・・あれ?これ彼女を住まわせた方が良いんじゃ?

 

「ナナ姉え?」

「セレナについては、ここに住まわせようかな。まあ詳しいことは彼女と話してからになるけど」

「・・・そう。むぅ」

 

んん?この様子・・・もしかして妬いてるのかな?だってなんか拗ねてるっぽいし。・・・・・よし、このままにしておこう。そうすればグッヘッヘッヘッヘ。夜が楽しみですなァ(・・・・・・・・・)

 

「そう言えばエルがどこいるか知らない?」

「エルフナインのこと?それなら工房だと思う」

「そっか。ありがと。」チュッ

「あっ・・・」

 

少し屈んで、キャロルの右手の甲に軽く口づけをしてキャロルの工房を出る。今ロリコンって思ったやつ、手を挙げなさい。いいのよ、少しは何かしてあげないとキャロルのストレスマッハで溜まりそうだったし。それにちょっと顔を赤らめる可愛いキャロルも拝めるしね。

そんなこんなで訪れたのはエルの工房。キャロルには回収した聖遺物の封印作業・・・つまり暴走を起こさないようにするために封印をしてもらっている。そんでもってエルにも勿論仕事を頼んでいるんだけど・・・・。

 

「エル―。いる―?」

「・・・あ!ナナ姉え!戻ってきてたんですね。お帰りなさい!」

「うんうん、ただいま」

 

部屋に入ると緑色の頭がぴょこぴょこ動いてた。声をかけたらこれまた愛くるしい笑みを浮かべて駆け寄ってくる。

 

「顛末については、キャロルから聞いてます。お疲れ様でしたナナ姉え!」

「うん、ありがとう。それで用事の方なんだけど・・・」

「それならかなり完成してますよ。ちょっと待っててください」

 

そう言って持ってきたのは、2つのアイテム。その完成度に私は満足する。

 

「うんうん。私が思ってた通りのものだね。さすがエル」

「あ、頭ナデナデ・・・。へへっ」

 

まあこの出来についてはほとんど当たり前だと思ってる。だってエルはキャロルを元に作られたホムンクルス。だからキャロルと同様の潜在能力を持ってるし、彼女の助手を務めることもあって、錬金術師としてはかなりの実力がある。

だからといって、それを当たり前と切り捨てず、出来たらちゃんと褒めるし失敗したら励ます。この子はキャロルであってキャロルではないからね。

その後いくつか話をして、工房を離れた私は昼食を作るために台所に向かった。そしてキャロルとエルを呼び、寝ているはずのセレナを起こして昼食をみんなで食べた。因みに作ったのはカルボナーラ。レモン果汁を加えてさっぱり目に仕上げた。3人とも大好評だったので何よりだ。

 

「さてそれじゃあ、セレナちゃんの今度について話そうか」

「私の今後、ですか」

 

そして昼食の片づけも終わり、今私はセレナと向かい合っている。セレナのこれからについて話し合うために。

 

 

《セレナside》

七海さんに用意してもらった部屋でぐっすりと眠った私は、扉をたたく音で目覚めました。来ていたのは七海さんで、昼食ができたから食べないかというお誘いでした。さすがにそこまでしてもらうにはと遠慮しようと思ったんですけど、私のお腹がクゥ~と鳴いてしまってとても恥ずかしかったです。

結局空腹には勝てず七海さんに連れられて訪れた部屋には美味しそうな料理と、私よりも小さな女の子が2人座っていました。

 

「紹介するね。2人は私の大切な家族で、こっちはキャロル、こっちはエルフナインだよ」

「エルフナインです。えっとセレナさんですよね?」

「・・・キャロル・マールス・ディーンハイムだ」

「セレナ・カデンツヴァナ・イブです」

 

緑色の髪の少女はエルフナインで、金髪の子はキャロルというらしい。この2人はまさしく瓜二つで、髪の違いが無かったら分からないです。

軽く自己紹介を済ませると、昼食を食べることになりました。昼食はカルボナーラで七海さんが作ったのだとか。うまく言えないけど、すごくおいしかったです!

そうしてご飯を食べ終わった後、私は七海さんと朝のように向かい合ってました。どうやら私のこれからについてだそうです。

 

「貴方には2つの選択肢があるわ。1つはここを出て貴方のお姉さんのところに戻ること。ただ、記憶処理を施させてもらうわ。・・・大丈夫よ。別に脳を弄ったりするわけじゃないから。ここでの記憶を思い出せなくするだけだから。だからそんな顔はしないで、ね?」

 

お、驚きました。記憶処理だって言われると、F.I.S.のことを思い出してしまいました。レセプターチルドレンとして集められ、実験動物のように扱われる日々。それを思い出して私の顔が強張ったのを見た七海さんがフォローしてくれました。

 

「大丈夫です。それで、2つ目は・・・」

「・・・2つ目は、ここで暮らすこと。もちろんここで暮らすからには、貴方にも何かしらしてもらうことになる」

「ここで、暮らす・・・」

 

それを聞いてちょっとだけ、放心してしまいました。だって、私は余所者で、あの時だって多分私を助けるためにネフィリムを倒したわけじゃないだろうし・・・。でも、なぜか心があったかくなったというか、なんというか・・・。

でも、その時私の頭をよぎったのは、大切なマリア姉さんの顔。それに仲良くしてくれた暁さんや月読さんの顔、そしてマムの顔でした。きっとここで暮らすことになれば、姉さんたちがどうなるのか。私にはわからないけれど、私だけがここで暮らすのはなんだかずるいと思ってしまった。

 

「・・・私は別にどちらでも構わない。あなたが選んで。ただ、貴方のお姉さんたちを連れてきて、みんなでここで暮らす・・・というのは了承できない」

 

私の迷いを読み取ったかのように、七海さんが告げる。動揺する私を七海さんはじっと見つめる。ここで今すぐ答えを出せ、という事だろうか?

 

「私は・・・姉さんの元に戻ります」

「・・・・・」

「だって、私がここにいる間も姉さんたちは、どこかのF.I.S.の研究所にいて、私だけがこんな・・・」

 

私は申し訳なさでいっぱいで、涙を流してしまう。申し訳なさ?いったい誰に?何に?七海さんに対して?マリア姉さんに対して?それとも暁さんたち?分からない分からない分からない。

 

「・・・分かった。貴方は戻る、という事で良いんだね。・・・・それでさ」

「・・・・・・」

「貴方――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――戻ってどうするの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近読んだ二次創作で、悲しくてすっごい泣いてしまいました。泣ける話を書ける方っていうのは尊敬します。まあ、私は書く分にはどんなに出来が良い悲劇よりも、出来が悪い喜劇の方が好きですけどね。

まあそれは置いといて、私はセレナを帰すか残すか、どうするか決めないと。


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7 ちょっと悪いこと、しちゃおっか?

誤字脱字報告ありがとうございました。

マリアとセレナのフルネームって間違えやすいですよね。


《セレナside》

 

「――――戻ってどうするの?」

「・・・・・・え?」

 

七海さんの口から告げられた問いの意味が分からず、私は固まってしまった。戻ってどうするのか?私はその問いに対する答えが見つからず、口を閉ざすしかなかった。

 

「貴方が戻ろうとする理由は、貴方のお姉さんたちに申し訳がつかないから。・・・どうやらそうみたいだね。でも、貴方が戻ったところで何も変わらない。貴方は再びF.I.S.のモルモット。貴方の大切な人たちの待遇が改善するわけもなし。・・・つまり貴方は、何もできない場所へ戻るだけ。ここに居れば、そんな必要もなくなるけど?」

 

その言葉と提案は、きっと魅力的なんだと思う。ここに居れば、美味しいご飯と温かい布団。でもそれを得られるのは私だけ。マリア姉さんたちは無理だと言われた。

もともと私とマリア姉さんは故郷で戦争に巻き込まれ、難民として過ごしていた時にF.I.S.に保護された。そこで少しはマシになったけど、それでも良い環境とは呼べなかった。だけど、私のシンフォギアへの適合係数が高いことで、少しは待遇が良くなった。だから私が戻れば、姉さんたちにはもう少しマシな暮らしを・・・!

 

「・・・・・私が戻れば、姉さんたちの待遇が少しは良くなるかもしれません。私が働きかければ何とか・・・!」

「大人の狡賢さを甘く見ない方が良いよ。特に人間を対象に、変な実験をしてるような奴らを」

 

何を言っても否定してくる七海さんに、私は我慢の限界だった。

 

「っ!・・・じゃあ、どうすればいいんですか!戻ったところで何も変わらなくても、悪くなることはないかもしれないじゃないですか!そもそもさっきから何なんですか!私に選ばせておいて何がしたいのかなんて聞いて!言ってることがめちゃくちゃですよ!戻るなって言いたいんですか!?私に出来ることはないからここに居ろと!?マリア姉さんたちは諦めろと!?そんなの嫌に決まってるじゃないですか!七海さんのばかぁ!あほ!へたれ!根性なし!・・・わだ、私は姉さんたちと、暁さんだぢと、一緒に、いっしょに・・・・」

「・・・ごめん。でも貴方が戻っても、意味はないんだよ」

 

目から涙が止まらない。ほんとは気付いてた。きっとあそこに居れば、また今回みたいなことが起きるかもしれない。でも私は、ネフィリムの件で”死の恐怖”を知ってしまった。絶唱を使うのはきっとためらう。だから、ここにいた方が良い。でも、マリア姉さんや暁さんたちを思うと・・・。

そこからは憶えてないです。ありったけの暴言を吐いた気はします。そして・・・・気付いたら七海さんに抱きしめられていました。

 

「あ・・・・」

「ごめんね。貴方を悲しませちゃって」

 

そう言って七海さんは、私を抱きしめながら頭を撫でてくれました。その手がとても優しくて、なんだかマリア姉さんみたいです。それが嬉しくて、グリグリと七海さんに頬ずりしちゃったけど、七海さんは気にしてないみたい。

でもよくよく考えたらとても失礼だ。私を助けてくれた上に美味しいご飯もご馳走してくれたのに、暴言ぶつけるなんて・・・。

 

「その、ごめんなさい・・・。失礼なこと言っちゃいましたよね・・・?」

「ううん。大丈夫だよ。セレナはまだ子供なんだから、気にしなくていいんだよ」

 

ああ、やっぱりなんだか、お姉ちゃんみたい・・・・。

 

 

《七海side》

 

「・・・セレナ。ついてきて」

 

セレナの考えを聞いた私は、”あれ”を渡すことを決めた。この子は優しい子だから、きっとお姉さんや友人のことを放っておけないだろう。

だから、理由(・・)を与える。私の元にいることが自身の為になるという理由。・・・悪い考えだよなぁ。

そんなこんなで、セレナを連れて訪れたのはエルの工房。中に入りエルを呼ぶ。

 

「ナナ姉えとセレナさん?どうしたんですか?」

「突然押しかけてごめんね?例のモノを持ってきてくれないかな?」

「分かりました。ちょっと待っててくださいね」

 

奥に引っ込んだエルが持ってきてくれたモノを受け取り、セレナに差し出す。セレナは・・・おお、おお。戸惑ってる戸惑ってる。

 

「あ、あのこれってなんですか?」

「”力”だよ。貴方が大切な人と一緒に居たいなら、シンフォギア以上の力を得る必要がある。でもこの”力”を得るという事は、ここに残ることを意味する。それでもこれを受け取る覚悟は、ある?」

「力・・・」

 

悩んでるね。この様子だとF.I.S.に戻る選択肢は頭から消えてるね。

まあ最初から私はこうするつもりだったんだけどね。最初に頭を混乱させ、混乱した頭は思考を短慮にし、疲弊させる。後はそこに付け込んで優しくすれば、あら不思議。思考の誘導ができるんだよね。

 

「これがあれば、マリア姉さんたちと一緒に居られるんですよね?」

「それはあなた次第だね。もちろん私だって協力はする。そのかわり私の方にも協力してもらうけど。だから、後は貴方の覚悟1つ」

「なら、やります。姉さんたちのために、私が・・・・・」

 

覚悟を決めてくれたようで、私が差し出していたものを受け取った。ん?私が何を渡したのかって?私が渡したのはね――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スラッシュライザーとバーニングファルコンプログライズキーだよ。

 

 

 




今更なんですけど、イザークが無くなったあとの七海たちの動向とかは番外編で出します(予定)。


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8 セレナを鍛えてみよっか?

《七海side》

 

「いいか?錬金術とは…――」

 

私の目の前では、キャロルとセレナのお勉強会が始まっていた。先生はキャロル。生徒はセレナ。勉強の内容は錬金術。

つまるところ、錬金術をセレナに憶えてもらっているのだ。彼女はここにいることを選んだ(まあそうするよう誘導したんだけど)。だが彼女の目的からして、ここに居れば今までよりも深く、否応にも聖遺物と関わることになる。なら、錬金術を憶えておいた方が何かと都合が良い。というわけでキャロルに教師として、セレナに錬金術について学んでもらっている。

因みに教師中のキャロルはお仕事モードだ。キャロルは基本的に、信頼している人以外にはお仕事モードで接する。だから初対面の時も、お仕事モードだったんだよね。まあ最近はセレナとも打ち解けたみたいで、お互いセレナ、先生と呼び合ってるとか。それでもセレナと接するときは、私と接するときの甘々モードじゃなくて、軽めのお仕事モードみたいな感じ。だから初めて甘々モードのキャロルを見た時は、セレナはびっくりしていた。

 

「よし、とりあえず今日はここまでだ。ちゃんと復習をしておけよ」

「はい、先生!ありがとうございました!」

「お疲れ様、2人とも」

 

どうやら今日の勉強会は終わりなようで、私は2人を労うために頭を撫でてあげる。キャロルは言わずもがな、セレナもまるで私の手に頭に擦りつけるようにグリグリ動かす。うーん。どうやら思考の誘導が効きすぎたみたいだけど、可愛いからいっか。

 

 

そんでもって今私はセレナと2人きりでトレーニングルームにいる。

 

「さて、今日も始めようか」

「はい!よろしくお願いします!」

 

うんうんいい返事だね!心の中で頷きながら、スクラッシュドライバーを装着しロボットスクラッシュゼリーを装填する。

 

《ロボットゼェリィィー!》

 

「変身」

 

レバーを倒すと、巨大なビーカーと「ケミカライドビルダー」が私を覆い、中を液体が満たしていく。

 

《潰れるぅ! 流れるぅ! 溢れ出るぅ!》

《ロボッットォイングゥゥリスゥゥゥ!》

《ブルァァァァァ!》

 

仮面ライダーグリスに変身した私に、セレナも変身(・・)しようとする。

私が彼女の”力”として渡した「スラッシュライザー」のバックルを腰に巻き、「バーニングファルコンプログライズキー」を起動する。

 

《インフェルノウィング!》

 

スラッシュライザーにプログライズキーを装填し、展開させることで専用の認証「バーンライズ」させる。

 

《バーンライズ!》

《Kamen Rider…Kamen Rider…》

 

「変身!」

 

《スラッシュライズ》

 

セレナの声に応じるように炎を纏った鳥、不死鳥型の「ライダモデル」が背後に現れ、紅い炎と共にその翼でセレナを包み込む。

 

《バーニングファルコン!》

 

炎が弾け、ライダモデルも一緒に消えるとそこには、セレナが変身した仮面ライダー迅バーニングファルコンが立っていた。

 

「それじゃあ、訓練を始めるよ」

「はい!」

 

訓練の開始を宣言して、ツインブレイカ―で攻撃する。セレナは落ち着いて私の攻撃を受け止める。しかし私はその腕を掴んで関節を決めようとするが、セレナは強引に離れる。

だが、手は緩めない。すぐさまツインブレイカ―をビームモードにし、セレナに向かって光弾を放つ。セレナは両手を広げると、背部に主翼「バーニングスクランブラー」が展開され、その翼がセレナを守り光弾を防ぐ。それだけでなく、翼から羽が分離され私に向けて射出してくる。

 

「ぐぅ…ハッ!フン!」

「なっ!?」

 

まあ私も鍛えていないわけじゃない。正面から飛んでくる羽をツインブレイカ―で叩き落とし、バク転で回避する。セレナを見るとすっごい悔しそうにしてる。

 

「確かに今のは意表を突かれたけど、ただ真っ直ぐ飛ばすなら初見殺しか、牽制ぐらいにしか使えないね。これを攻撃技として使いたいなら、もっといろんな角度から攻めれるようにした方が良いよ」

「わ、分かりました!」

 

私のアドバイスにセレナはいい返事を返す。今しているのは戦闘訓練。主にセレナがスラッシュライザーを使いこなすための。どうやらセレナには素質があったみたいで、私が教えたことをすぐに呑み込んで、少しずつだけど着実に強くなっている。

そうして、3時間ちょくちょく休憩を挿みながら訓練をした。

 

 

そして夜になり、そろそろ寝る時間になった。

 

「ふぁあ。そろそろ寝ようか」

「うん。ナナ姉え。」

「ボクも眠いです…」

「お姉ちゃん。一緒に寝ましょぉ…?」

 

私の声に追随して、3人の少女の眠たそーな声が聞こえる。そう、キャロルたちだ。基本私たちは同じベッドで寝る。いやまあ最初はバラバラだったんだよ?でもある時2人が同じベッドで寝たいって言うから、気付いたらこれが普通になってた。で、3人って言った通りセレナも交じってるんだけど、セレナとも随分仲良くなったからか「わ、私も、お姉ちゃんと一緒に寝たいです」って言われちゃって、断れなかったんだよね。でも可愛いからオッケーだよね。

だってセレナ、私と近くで寝たいって言って私とキャロルの間に入るんだよ?しかもキャロルの邪魔にならないようにって、セレナだけ少し下がってるから、抱き着いてきたら私のお腹に頭を擦りつけてくるんだよ?はい、天使が1人増えました。

ん?どうして「お姉ちゃん」って呼ばれてるかって?そりゃ時間がたったら仲良くなるよ。お姉ちゃんって呼ばれるようになるのは予想外だったけど。……え?それにしても早すぎるって?いやいや全然早くないよ?だって―――セレナを助けてから4年は経ってるからね。

そんでもって、明日は大変な日になる。明日行われるのは、とあるボーカルユニットの大型ライブ。そしてそのユニットっていうのが―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツヴァイウィング」

 

 

 

 

さあ、もうすぐ私は本格的に原作に片足を突っ込むことになる。まあ、せいぜいやってみるよ。

キャロルに違う道を歩ませるために転生した私の、戦い(原作破壊)

 




セレナの件は、原作に片足を突っ込んだことにはなりません。理由としては前の話にも書きましたが、原作ではセレナが死んでいる=F.I.S.にいないという状況になっています。しかし、当作ではセレナは生きているがF.I.S.(マリアたちを含める)は死んだと思っている=F.I.S.にいないということになっています。つまるところ、セレナが七海側の人間にしか知られていないという状況では、原作と同じように歴史が進んでいることになります。







………と、七海は思っているわけですが、実は全然そんなことはないんですねーこれが。


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9 コンサート会場に行ってみよっか?

熱気が会場を包む。

その熱気をものともせずに、声を上げる2人の歌姫に会場のボルテージはさらに高まる。

彼女たちは「ツヴァイウィング」。その歌唱力、カリスマ性を持って今を羽ばたくボーカルユニット。今夜はツヴァイウィングの大型コンサート。デビューしてから、月日も経たずにこのコンサートを開くことが、彼女たちの実力を示していた。今宵歌姫たちは奏でる。人々を魅了する歌を。そして、1人の少女を滅びへと送るレクイエムを。

その様子を観察する視線(・・・・・・)があることにも気づかずに……。

 

《七海side》

 

「ほぉ〜。あれがツヴァイウィングかー。生で見るのは初めてだけど、ホント綺麗だねぇ」

『……確かにコンサート会場の地下から、聖遺物の反応がある。七海の調べた通りだったな』

「あんなに人が大勢いる場所で、聖遺物の起動実験だなんて…。一体何を考えているの…」

 

私の隣にいるセレナの体が軽く震える。それも仕方ないよね。なんせネフィリムの起動実験の際、死にかけたんだもんね。

私はセレナを優しく抱きしめる。背中をポンポンってしてあげると、セレナの震えも治まった。

 

「ごめんなさいお姉ちゃん。こんな時に甘えてしまって」

「良いんだよ。貴方は私の"妹"なんだから」

 

そう、妹なのだ。といってもマリア・カデンツァヴナ・イブが亡くなった訳ではない。彼女が私を「お姉ちゃん」と慕ってくれるから、私もセレナを妹として接しているのである。でもちょっとどころか、かなり可愛い…。

 

『おい!少しは緊張感を持たんか!』

 

セレナとイチャイチャしてたら、キャロルに怒られてしまった。帰ったらエルと一緒に、イチャイチャしよーっと。

そんなことを考えていた時、コンサートで爆発が起こった。

 

「っ!?一体何が…」

「キャロル」

『調べている!……これは』

「どうしたの?」

『…爆発元はコンサート会場の地下。しかも、ただの爆発じゃないな。……くそっ!実験中の聖遺物を暴走させたのか!』

 

…遂に来たか…。そして原作通りならここからやつらが現れる。

 

『新たな反応!?』

「…どうしたのキャロル?」

『最悪な知らせだ。どうやらノイズが現れたらしい』

 

やっぱりか。ノイズ。それは生きた災害。特異災害として認定されており、触れたモノを瞬く間に灰にしてしまう。だが最も恐ろしいのは、灰化するのは人間のみで、ノイズもそれを分かっているかのように、人間しか狙わないこと。まるで人間を殺戮するためだけの兵器。それがさらに恐怖を根付かせる。

ノイズが本格的に姿を現し始めたのが13年前。それからは私も交戦することはあったけど、自分から戦いに向かっていったことはない。

まだ姿を現すわけにはいかなかったため、色々と隠蔽工作とかしないといけなかった。でもノイズは時間がたつと自壊するから、そんなことしてる間に灰になって出る暇ないんだよね。

 

「お姉ちゃん!」

「…うん。分かってるよ」

 

とりあえずは向かわないとね。私は知らず知らずのうちに緊張しながら、セレナと共にそれぞれのベルトを巻く。

 

《奏side》

 

「何でこんな数が…」

「奏!大丈夫!?」

「ああ!にしても、ホントに何だよこの数は。くそぉ!時限式じゃここまでかよ!」

 

今日は私たちにとって最高の日になるはずだった。ツヴァイウィングとしての大型コンサート。おっさんたちは聖遺物の起動実験なんてやってたけど、私たちにとっては自分たちの歌をたくさんの人に聞いてもらえる日だった。でも、そこにノイズどもが現れやがった。私と相方の翼でなんとか食い止めているけれど、私は結構ヤバい。

対ノイズの兵装「シンフォギア」。今もシンフォギアがあるから対抗できてるけど、私はシンフォギアとの適合係数が低い。それを補うために「LiNKER」なんて薬を打ってんのに、急なことだったからLiNKERを補充してない。…くそ。ギアが重く感じる。限界が近い。

 

「キャアアア!」

「なっ!?まだ逃げ遅れやつがいるのか!」

 

悲鳴が聞こえた方向を見ると、女の子が足を抑えていた。観客席の崩落に巻き込まれたんだろう。だが一番の問題はその女の子にノイズが向かっていることだった。

纏わりついてくるノイズを蹴散らせながら、どうにか女の子の元にたどり着く。

 

「うっ!足が…」

「おい!大丈夫か!…っ!?こんにゃろ…!」

 

女の子は足を怪我してるみたいだったが、歩けないほどではないらしい。時間を稼ぐために、ノイズが一斉に飛びかかってくるのを、槍を回して防ぐが……これ、きつ、い。

 

ガキンッ!!

「くぁ!」

「え………あ」

「嘘、だろ……」

 

私の槍が攻撃に耐えきれず穂先が砕け、その破片が……逃げていた少女を貫いた。飛び散る血、倒れる女の子。私はすぐに女の子の元に向かう。

 

「おい!しっかりしろ!目を開けてくれ!生きるのを諦めるな!」

 

頼む、頼む、頼む頼むタノムたのむたのむ!死なないでくれ!お前はこんなところで死んじゃいけない!もっと、もっとお前には未来があるだろ!

………どうやらまだ息はあるみたいだった。でも幾ら呼びかけても、願っても、揺すっても、女の子は目を開けてくれなかった。

私は拳を握りしめ、ノイズどもに目を向ける。やっぱりそうだ。あいつらは私から大切な者を奪っていく。あの時も、私から家族を奪い、そして今!私たちの歌を聞きに来てくれただけの人達をを殺し、この女の子も殺そうとした。

私は立ち上がり、穂先の掛けた槍を掲げる。ノイズの数はまだまだいる。こいつらをいちいち倒していたら、女の子は助からない。思い浮かべるのは、シンフォギア最大の力。使えばおそらく私は死ぬだろう。だけど私は死なない。あいつらを、ノイズを、潰し尽くすまではぁ!

意を決して、口を開く。その私に被る影。

 

「あ………」

 

私の目の前にノイズが迫り、気付いた時には遅かった。私の目の端に紅い何かが見え―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2羽の紅く燃え上がった鳥が、周囲のノイズを焼き払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっとした裏話
セレナは最初仮面ライダーバルキリーにしようと思っていました。ただ、シンフォギアでの使用武器が短剣なら、バーニングファルコンの方が似合うなと思い、急遽変更しました。
ただこの話を書いてる時に、奏にも似合ってるなと思ってちょっと悩んだ。
それと、前話でのセレナの訓練シーンでの攻撃方法が、オリジナルで考えたと思ってたんですけど、諸々の事情で10日に録画したゼロワンを今日見た時、なんか同じ攻撃やってて、えーとなってしまった。


さて、奏の方もフラグが立ちましたね。察しの良い方は、何のフラグか分かるはず。


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10 天羽奏を、救ってみよっか?

《キャロルside》

複数の画面に流れるデータに目を通しながら、オレは両手を忙しく動かす。

 

「こんな時に限って余計なことをしてくれる!ノイズは七海たちに任せて、私は聖遺物の方を………ん?全く違う反応が現れただと?」

 

送られてくるデータの内、目に留まった反応に違和感を持ち、調べることにする。その結果、新たな反応はノイズでも目的の聖遺物でもないことが分かった。

 

「この反応はノイズのものと酷似している。ということは、今いるノイズと何らかの関係があるという事か?」

 

ああくそ!今は時間が惜しい!気になることは多いが、とにかく今は情報収集と七海たちのサポートが先だ。

 

「一体何が起きている……?七海、セレナ。無事でいろ………」

 

オレはただ、そう願う事しかできなかった。

 

《七海side》

あっぶなかった~!まさか変身して突入しようとしたら、天羽奏が絶唱使う直前で、しかも死にかけてるなんて思わなかった。というか展開速くない?私の予想だともうチョイ遅いと思ったんだけど。

 

「おい!あんたら、いったい何もんだ?」

 

そんでまあ、ギリギリのところで天羽奏を助けてノイズに睨み聞かせてたら、なんか聞かれた。そりゃそうだよね。助けられたとはいえ、敵か味方か分かんないんだし。

 

「とりあえず貴方は、そこの女の子守っててよ」

「あっおい!」

 

天羽奏の後ろに倒れている少女を指差し、守るように言いつける。……あれが多分、立花響なんだろうね。

まずはノイズを片付けないといけない、ということでセレナと共にノイズと戦闘を開始する。

 

「ハアアア!」

 

まずは走りながらツインブレイカ―を連射。フュ~。数が多いから適当に撃っても余裕で当たるね。そんで接近したら、アタックモードに切り替えて近くにいるやつを殴り飛ばす!

次いで、3体のノイズが突撃してきた。一番前にいたノイズをツインブレイカ―を装着した左手で薙ぎ払い、2体目を返しの薙ぎ払いで吹き飛ばす。3体目は強引にアッパーで打ち上げる。

 

「っ!やらせるか!」

《スクラップフィニッシュ!》

 

背後から飛びかかってきたノイズ2体に気付いた私は、即座にスクラッシュドライバーのレバーを下ろし、オーバーヘッドキックの要領で蹴り飛ばす。蹴り飛ばしたノイズは巨大な芋虫みたいなノイズに激突、周囲を巻き込み爆発した。

 

「まったく、うじゃうじゃと出てきちゃって。………これでも使ってみますかね」

 

つい最近完成……というわけじゃないけど、今まで使うタイミングがなかったもう1つのスクラッシュゼリー(・・・・・・・・・・・・・・)を取り出す。殲滅戦にはちょうどいいしね。

 

《タンクゼェリィィ!》

 

「変身」

そう言いレバーを下ろすと、「ケミカライドビルダ―」と巨大なビーカーが私を覆うが、いつもと違う点が1つ。どこからともなく現れた2体の小型戦車「マウントキャタピライザー」の砲身を、私を覆っているビーカーに接続していること。

マウントキャタピライザーから供給されるように、青い液体がビーカー内に注がれていく。

 

《注ぐぅ!狙うぅ!撃ち放つぅ!》

《タンクゥイングゥリスチャァァァジ!》

《ドォッガアアアンン!!》

 

マウントキャタピライザーはビーカーを液体で満たすと、自身も分解しながらビーカーの中に入る。そして、中の液体が撃ちだされるように外に放出されビーカーも収納されていく。

そこに居たのは、青いスーツに、ついさっき分解したマウントキャタピライザーと思われる装甲。両肩には戦車の砲塔を思わせる装備が装着されている。

 

「仮面ライダーグリス タンクチャージ。……心火を燃やして、狙い撃つ」

 

私がそう名乗ると、足部に装着されている「ハードキャタピラ」を稼働させ、滑るように地面を走行する。ノイズもただ見てるだけじゃなく、巨大ノイズが粘液みたいなのを飛ばしてくる。

 

「ふっ……。これで、はっ!」

 

それをすべて避けつつ両肩の砲塔「ブレイクゲイザー」で砲撃する。

撃ちだした光弾は巨大ノイズに命中し、周囲のノイズも巻き込むほどの威力で爆発する。

 

「よし!次々行くよ!」

 

行けると確信した私は、ノイズの集団に向かって砲撃を開始していく。

 

《セレナside》

 

「たくさんの人が笑っていた。なのに貴方たちは恐怖を運んできた。そして罪もない人々を……絶対に許しません!」

 

私は怒っています。F.I.S.でレセプターチルドレンとして扱われていた私は、こんなにも人々が笑顔でいる場所を綺麗だと思っていました。……ついさっきまでは。しかしノイズが現れたことで、恐怖が飛び交う地獄へと変わってしまった。ゆえに私はノイズと戦うんです。

迫りくるノイズを近接武器にもなるスラッシュライザーで斬り捨て、主翼であるバーニングスクランブラ―を伸ばした左手に沿うように片翼だけ展開。左手を振るい、バーニングスクランブラ―から羽部分「バーニングフライヤー」を放射状に飛ばし、ノイズを一斉に切り刻む。

 

「よし。お姉ちゃんとの訓練の成果が出てる!…っ!?」

「はっ!」

「お姉ちゃん!?」

 

訓練の成果が出ていることに手ごたえを感じていると、死角から襲いかかってきたノイズに反応できませんでした。ダメージが来ると身構えましたが、お姉ちゃんが助けてくれました。やっぱりお姉ちゃんは頼りになります!

 

「油断しない!一気に決めるよ!」

「はい!」

 

お姉ちゃんがスクラッシュドライバーにフルボトルを装填するのを見て、私も必殺技を発動する。

 

《ディスチャァァジボトル! 潰れなぁぁい》

《インフェルノウィング! バーニングレイン!》

「「はあああああ!!」」

 

お姉ちゃんが2発のミサイルを撃ちだし、私はスラッシュライザーで炎の斬撃を飛ばす。

 

      バ ー ニ ン グ

              

              

  チャ―ジ クラッシュ    

   

一際大きな爆発が起こり、コンサート会場に現れたノイズは一掃されました。

 




仮面ライダーグリス タンクチャージ
第2のオリジナルフォーム。スーツは大部分が黒に青が少しある。変身時は巨大なビーカーに2台の装甲兼サポートの小型戦車「マウントキャタピライザー」が砲塔を接続、青色の液体を注ぐ。その後はマウントキャタピライザーが各装甲と武装に分離し、ビーカー内で装着される。
マウントキャタピライザーの装甲となる部位は顔、胸、上腕、太もも、足。武装は砲塔が肩に装着される。1台で半身の前述した部位に装着される。
主な攻撃は拳での打撃、もしくは両肩の砲塔での砲撃。
このフォームでも勿論「マシンパックショルダー」は装着されてなく、そのかわり両肩に載せるように砲塔「ブレイクゲイザー」が装備されている。ブレイクゲイザーの撃ちだす高威力の光弾は並のノイズなら一撃で撃破できる。また、マウントキャタピライザー時でも砲撃は可能。タンクチャージ変身時は変身者のサポートをし、変身を完了したときはビーカー内の液体を排出する役目も担っている。フルボトルを使用した攻撃(ツインブレイカ―時は除く)は、主にブレイクゲイザーを使用する。
足部に装着されているキャタピラ「ハードキャタピラ」を稼働させることで、地面を走行することが可能。マウントキャタピライザーに搭載されいているAIが砲撃の照準を補助しているため、変身者は装甲に集中できる。
必殺技は足元、砲身の後方部分からヴァリアブルゼリーを噴出してアンカーとし、超高威力の光弾を撃ちだす「バースティングフィニッシュ」。


因みに必殺技名の演出どうでしたか?ゼロワンのライダー出てくる二次創作だったら大体やってますよね。というわけで、n番煎じですが七海も混ぜてやってみました。でも結構大変でしたね。
不評だったらやめようかなと思いますが…。




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11 白黄七海の過去、少しだけ知ってみよっか?

《七海side》

どーしてこうなったかなぁー。セレナと一緒にノイズを倒して、そんで帰るだけだったのになぁ。あ、ちなみに聖遺物の方は諦めたよ。崩落が危険ってことと時間がかかり過ぎたことを建前にしたけど、今回の聖遺物については取ったら今後がまずいしね。

でもって今は、天羽奏に槍を向けられている。

 

「何の用かな?」

「悪いけど、私たちと来てもらうよ。あんた達のことと、シンフォギア以外にノイズを倒せる力。それについても話してもらう」

「貴方を助けてあげたからそれでチャラにしてくれない?」

「それについては感謝してる。だから、力づくなんてことはさせないでくれ」

「奏!」

 

当たり前だよね。ノイズをシンフォギア以外でも倒せる力なんて、彼女たちからしたらぜひとも欲しいだろうし。というか風鳴翼まで来ちゃったよ。めんどくさくなる前に退散するのが吉だね。

私は懐からテレポートジェムを取り出し、地面に叩きつける。

 

「なっ!?まて!」

「悪いけど、帰らせてもらうよ。可愛い子たちが待ってるしね」

「行かせるか!」

 

天羽奏が駆け寄ってくるけどもう遅い。ああ、それと――――

 

「1つ言っておくけど、これはノイズを倒すために作ったわけじゃないよ」

 

それだけ言うと、私とセレナは魔方陣からの光に包まれた。

 

《奏side》

 

「以上が、コンサート会場でのノイズ襲撃の顛末です」

 

顔が厳ついおっさんに、私の相方の翼が今回の事件の顛末を報告をする。今いる場所は特異災害対策機動2課の基地。んでもって、おっさん…風鳴弦十郎は司令官で、翼と私は2課で戦うシンフォギア奏者。

 

「なるほどな。謎の戦士、か」

「はい。しかもどうやら現れた2人とも、少女の声でした。これは奏が聞いたことですが」

「本当か奏くん?」

「ああ。それに片方がもう片方をお姉ちゃんって呼んでた」

 

私にも妹はいた。だが、あの時ノイズに…!あの金ぴか野郎は私にはもういない妹を連れていた。それが私の心を刺激する。

 

「しかし名前まで分からないか……」

「仮面ライダー。それが彼女たちの名前よ」

「何・・・?」

「了子さん。何か知ってるのか」

「ええ。知ってるわよ。櫻井了子としてではなく、フィーネとして(・・・・・・・)だけどね。もちろん会話もしたわ」

 

そう言って眼鏡をクイッとあげて聖遺物関連の研究者である了子さん、いやフィーネが語る。了子さんは2年前ぐらいのある日。何を思ったのか自身の正体を打ち明けた。証拠として超常的な力を使ったりしてな。理由はまだ何も教えてくれないけど、おっさんが容認したんで私たちも信用することにした。ホント、懐が広いと言うかなんというか……。

時々、フィーネとして助言をしてくれたりもするけど、私たちにとっては了子さんだからフィーネの時も了子さんって呼んでる。

 

「どっちでもいいよ。それより了子さんが知ってることを教えてくれ」

「あらあら。それじゃあまず、彼女たちの名前は仮面ライダー。だけどそれはあの姿のことを言っていて、ちゃんと変身者がいるわ。その変身者の名前は白黄七海。錬金術士よ」

 

思ってもみない言葉にその場にいた全員が呆気にとられる。だってそうだろ?錬金術士とか空想の類だと思ってた。………いやよく考えたら私たちの使ってるシンフォギアとかも、元を辿れば空想の類だったもんじゃねえか。

了子さんは説明を続ける。

 

「彼女は数百年前から生きていて存在していたわ。私の正体を皆に話した時、私がどうやって私の魂を生き長らえさせたかは教えたわよね?彼女もそれと同じことをしているわ。とはいっても、彼女は錬金術士らしく本人のホムンクルスを作って、そこに彼女の記憶を転写して新たな生を受けていたけどね」

「まさか了子さんと関係があったなんて…」

「確かにそうなんだけど、私が知っているのは金色の彼女だけよ。最後に会ったのは200年ぐらい前かしら。もっともそれが最初の出会いでもあるんだけど」

 

懐かしむように目を細め、了子さんは話をするが私が知りたいのはそっちじゃない。

 

「七海ちゃんが変身しているのは、仮面ライダーグリス。昔は何のことか分からなかったけど、ロボットがモチーフみたいね?強さはかなりのもので、昔は私が手も足も出なかったほど。小さなボトルを使って強力な技を使うことが可能。そしてノイズを倒すことができる。これは知らなかったわ」

「あの赤い仮面ライダーについては何も知らないのか?」

「ええ。あの時は見なかったし、彼女は何も話していなかった。おそらく私と戦ってから、彼女が作ったのでしょうね」

「ということは、奏が聞いたようにその仮面ライダーというのは、ノイズを倒すために作られたモノじゃない?」

「そうなるわ。もっとも真相は彼女しか知らないでしょうね」

 

その後も了子さんたちが話し合ってたけど、私の気はそっちにはもう向いてなかった。

仮面ライダー……。そいつがあれば、ノイズとも戦える。私にとってLiNKERを使わなきゃ戦えないシンフォギアよりも、仮面ライダーのほうが、よっぽど魅力的に見えた。仮面ライダー、それがあればやつらを、ノイズをぶっ潰せるんだ。次了子さんが言ってた七海ってやつが現れたら、絶対逃がさないようにしないとな。

 




ん?奏さんの様子がおかしいぞ?(すっとぼけ)
フィーネって、結構可愛いと思いません?調べた時に見た二次創作の絵で惚れました(浮気野郎)



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12 この”今”を、大切にしよっか?

《七海side》

 

「ふぃ~。疲れたぁ~」

 

コンサート会場から戻った私は今お風呂に入浴している。やっぱりお風呂は偉大、はっきり分かんだね。

 

「ナ、ナナ姉え…。くすぐったいですよ~」

 

ほっこりまったりしていると、私の腕の中から声が聞こえた。まあエルなんだけどね。私は基本妹たちと入浴してる。因みにローテーションはエル→キャロル→セレナ→全員で一巡。私と入らない日の2人の妹は一緒に入ってる。今日はエルの日で、キャロルとセレナが一緒に入る。

 

「ん~?エルが可愛いのがいけないんだよ~」

「か、かわっ!?」

「ふふ。真っ赤になって可愛い~」

「む~」プクプク

 

ほんっとに可愛いなぁ~ちくしょうめ!

それからもう少しだけお風呂を堪能し、のぼせない程度で上がる。エルの体を拭いてあげ、リビングに戻ると先にお風呂に入り終わっていたキャロルとセレナが、冷たい飲み物を用意してくれていた。

 

「お姉ちゃん、エルさんどうぞ」

「ありがと~セレナ」

「ありがとうございますセレナ姉さん」

 

そう言えばエルがセレナをさん付けから、姉さん呼びに変化させていた。仲良きことは良いことだね!

それはともかく、飲み物を飲みながら今回の一件で疑問に思ったことについて考える。それは原作との微妙な相違点だ。たとえばセレナの時。セレナは本来絶唱のバックファイアに耐え切れず、亡くなるはずだった。だが彼女から話を聞く限り、絶唱を使う直前でネフィリムの攻撃でやられそうになったらしい。つまり絶唱によってではなく、ネフィリムの攻撃で死にそうになったという事だ。それは結局、偶然私が近道の為に壁をぶち破ったことで防がれたらしいけど気になる。

そして今回の件。天羽奏の件も何かおかしい。私とセレナはコンサート会場で爆発が起きてすぐに会場に向かった。だけど着いたと思ったら、天羽奏は槍掲げてたしノイズの攻撃で死にそうになってたし。展開速すぎない?とは思ったよ?………やっぱり原作とは一部微妙にずれている。勿論ここは現実だ。全てがアニメと全く同じとはなるわけない。……今後は警戒しないといけないね。

3人の妹たちを見る。どうやらトランプで遊ぶらしい。

…………最初は惚れたキャロルに、原作とは違う運命を辿らせようとしてただけなんだけどね。やっぱり現実とアニメとじゃ勝手が違う。1人だけに決められない。今みたいな暮らしに愛着が湧きすぎてしまった。

 

「ナナ姉え!一緒にトランプしよ?」

「そうだね~。キャロルが寂しそうな顔するから、構ってあげないとね」

「べ、別に寂しいわけじゃ、ないもん…」

「だめですよ~先生?寂しいなら寂しいっていわないと」

「だ、だからそう言うわけじゃないといってるだろ!」

「はいはい。エルが準備してくれてるし、2人とも行こう?」

 

まさかこんなことになるとは思ってなかったけど、それでもこの暮らしを守り続けていこう。それがこの世界で、私が紡ぐ物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《???side》

 

「うーん。やっぱり何かおかしいんだよね。私が知ってる展開じゃないし。私も知らない何かが動いてるのかな?この存在もあるし…っていうかこれ私と同じだよね?だってこれ………」

薄暗い部屋で、複数の画面が文字の羅列を次々と流していく。それを一人の少女が、これまた複数のキーボードを使って操作する。

「おーい飯ができたぞ、ってまーたやってんのかよ」

「ん?ご飯出来たの?じゃあ今いくよ」

「ああ、早く来いよ?」

「ああー待ってよー」

白髪の少女が部屋から出ると、キーボードを操作していた黒髪の少女も席を立つ。

その席の正面の画面に映っていたのは、ノイズと戦っている仮面ライダーグリス。そして、キーボードの近くに置かれているのはレバーがついており、何かをはめ込むスロットが2つある物体。

 

 

 

 

物語は加速する。誰も知らない未来へと………。

 

 




最終回じゃありませんよ?

ということで、次回から無印編に本格的に突入していきます。

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無印編
13 ノイズの所、行ってみよっか?


《3人称side》

月明かりが照らす夜。本来それ以外が照らすことのない場所に、熱風を伴ってさらに明るく照らす光源が存在していた。

 

「ノイズ、第一防衛線突破しました!」

「ぐぬぅ。第2防衛線防衛部隊、攻撃開始!ノイズどもを近寄らせるな!」

 

司令官としてそれなりにベテランの男が、部下に対して命令を出す。

その命令を受けて、ノイズに向け相対する自衛隊が手に持った銃を発砲するが、ノイズの体をすり抜けていく。

 

「・・・やはり、通常の兵器ではノイズどもを倒せんか」

 

第2防衛線を受け持つ部隊長は、目の前の現状に歯噛みする。もはやここが死に場所か・・・。そう思い始めた瞬間、戦場に『歌』が響いた。

 

Croitzal ronzell Gungnir zizzl(人と死しても、戦士と生きる)

Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

 

「これは・・・?」

『第2防衛部隊、聞こえるか?第2防衛部隊、今すぐ撤退しろ。後は彼女たちに任せる。繰り返す。今すぐ撤退しろ』

「りょ、了解!」

 

部隊長が慌てて撤退命令を出すと、自衛隊員に迫っていたノイズが降り注いだ剣によって貫かれる。一拍遅れて降り立ったのは、2人の女性だった。

 

「おーおー。うじゃうじゃ居やがるなー」

「奏、油断してはいけない」

「分かってるって。そんじゃさっさと終わらせるぞ翼!」

『それでは作戦通り、奏は撤退する自衛隊員の援護を、翼はノイズの殲滅を・・・』

「いくぜっ!」

「奏!?」

『奏くん!役割変更だ。翼、君が自衛隊員の撤退の援護を!』

「分かりました!」

 

通信機から聞こえる声を無視し、奏と呼ばれた女性は巨大な戦槍を構えノイズがいる場所へと身を躍らせる。翼と呼ばれた少女が引き止めるも叶わず、自衛隊員の撤退の援護に向かう。

 

 

 

《七海side》

私はセレナと共に、ノイズの発生場所へと向かっていた。天羽奏の運命を変えてから、2年の月日が流れた。その間世間では、原作通りにあのコンサート会場で生き残った人たちへの、迫害が行われていた。

数百年の時を生きてきた私やキャロル、エルにとっては長い歴史の移り変わりの中で、迫害なんて飽きるほど見てきた。だから良くも悪くも精神は成熟しきっていたため、悲しいとか思ったりはしたが感情を爆発させたりはしなかった。だけど、そんな私たちとは違う子が一人いた。

セレナだ。彼女は普通の女の子で、私たちのように数百年を生きてきたわけではない。あの会場の悲劇を目の当たりにしていたこともあって、迫害のことを知った時には目に見えて憤慨していた。

それからは大変だった。迫害をやめさせるんです!なんて言って、何の考えもなしに飛び出ようとしたり。それを説得しようとする私たちにも噛みついてきて、キャロルがキレちゃったり。

最終的には、セレナも冷静になってくれた。理由としては、私たちの説得やキャロルの説教が効いたのもあるんだろうけど、迫害が半年未満で鳴りを潜めたことも大きいだろう。

実はあの事件後、ツヴァイウィングがテレビで迫害について会見を開いた。元々国民的スターとして人気だった2人が、迫害について追及をしたことは、その話題性で人々の間に広まっていった。初めは一部の人達(おそらく迫害を楽しんでたと思われるクズ)から批判されてたみたいだったけど、彼女たちを支持する人たちが多かったためか半年未満で迫害が収まる結果となった。

手のひら返しも甚だしいよ。無関係のくせに迫害していた人々も。終わらせた気でいる彼女たちツヴァイウィングとそれをサポートする特異災害対策機動部2課も。

 

「っと、着いたね。さて、キャロル」

『お前たちのいる場所から、少し進めばノイズと奏者が戦っている』

「りょーかい。行くよセレナ」

「はい」

 

セレナを連れ、目の前に見えるやけに明るい場所へと向かう。ノイズの姿が見えると、近くの木々に身を隠し戦場を覗き込む。

そこでは、2年前から成長した風鳴翼と天羽奏がノイズを蹴散らしていた。

 

「これでも食らえー!」

【LAST∞METEOR】

 

天羽奏の槍の穂先が高速で回転し、生み出された竜巻でノイズを吹き飛ばしている。風鳴翼の方も、刀を大量に生み出して広範囲にわたってノイズを串刺しにしている。この様子なら、私たちが間に入るまでもない。

そう考えていた時、私たちが来た方向とは反対の方向で爆発が起きた。

 

「なっ!?」

「司令!一体何が・・・!」

 

突然のことに奏者の2人も、困惑しているようだ。まあ、ノイズがそれを見逃すはずもなく、2人に攻撃を再開する。

 

「先生。何が起こったんですか?」

『・・・どうやら、別の場所でもノイズが現れたようだな。そこには装者が来るまで戦っていた自衛隊がいるはずだ』

「そんな・・・。お姉ちゃん!」

「・・・・分かった。キャロル、これから私たちはそのノイズの元に向かうよ」

『分かった。気をつけろ』

 

キャロルとの通信を切り、私はスクラッシュドライバーを、セレナはスラッシュライザーを装着する。

 

《ロボットゼェリィィ!》

《インフェルノウィング!》

 

「「変身!」」

 




基本的に一場面を2話構成にしていこうかなと思います。

あと弦十郎の装者たちへの呼称ってどうだっけ?全員に君って付けてたっけ?

ヤバいよヤバいよ。文字色の特殊タグが分かりにくいしすんごいめんどくさい。


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14 少しだけ、本気を出してみよっか?

少し間が空いてしまいました。すいません。
お詫びに今回は少し長め。


《三人称side》

装者2人が戦っている場所から離れた場所では、自衛隊員たちは未だ気を緩めずにいた。ノイズに対抗できるとはいえ、近くには街がある。最悪の場合、抜けてきたノイズを命を懸けて足止めをしなければならなかった。

そんな中、この場を任されている指揮官とその副官が、急遽設置されたテントで言葉を交わしていた。

 

「・・・あれが、例の対ノイズ兵装ですか」

「ああ、だが気を抜くなよ。もし突破されたら、我々が戦わなければならないのだからな」

「はい・・・。しかし、あの声どこかで聞いたような・・・?」

「おっと、それ以上考えるのはやめとけよ。お前にはまだまだ働いてもらいたいからな。心の内にしまっておけ」

「は、はっ!」

 

指揮官の言葉に、副官は狼狽する。その時テントの外、しかもかなり近くで爆発が起きた。

 

「ぬお!一体どうしたぁ!」

「大変です!先ほどとは別方向からノイズが出現しました!」

「なんだと!急いで2課に連絡を!」

 

突然のノイズの出現に、指揮官は驚きはするもすぐに命令を出す。再び、阿鼻叫喚の地獄が始まろうとしていた。

 

 

そしてこのことは特異災害対策機動部2課でも把握していた。

 

「自衛隊の近くにノイズ反応!」

「なんだとぉ!くっ。奏、翼、緊急事態だ!」

『知ってる!でもこっちもきつい!』

『今すぐには・・・』

「弦十郎くん・・・」

 

装者2人ともを動かすことは出来ない。選択肢は2つ。奏者のどちらかを無理矢理向かわせるか、それとも自衛隊員を見捨てるか。

2課の司令である風鳴弦十郎は、そばにいる櫻井了子の視線を受けながら歯噛みする。結果選んだのは後者。奏はシンフォギアを使うためにLINKERに頼っているので、LINKERが切れたらどうしようもなくなる。そんな彼女を一人にはできない。ノイズに対抗できるシンフォギアを扱える人間は、そう多くない。だからこそ前者は選べない。

 

「……奏者2人はこのまま―――」

「っ!?自衛隊周辺に現れたノイズ、数を減らしています!」

「何っ!?どういうことだ!」

「この反応は……弦十郎くん、どうやら彼女たちみたいよ」

 

オペレーターの報告に、了子が手元のコンソールを使って調べる。そして急に現れた反応の正体を弦十郎に告げる。

 

「・・・仮面ライダーよ」

 

《七海side》

 

《インフェルノウィング!バーニングレイン!》

      

 バ ー ニ ン グ

             

              

             

 

セレナがその場で一回転し、同時に振るったスラッシュライザーが炎の斬撃を生み出し、周囲のノイズを一掃する。やっぱり強くなってきたねセレナは。お姉ちゃんと呼ばれる身としては嬉しく思うよ。私も一応ついてきたけど成長を見るために、戦闘はほとんどセレナに任せていた。そしたらほぼすべてのノイズを倒したのだ。

まあ私を超えるのはまだ先だろうけどね!なんたって”お姉ちゃん”なんだから!

 

「お姉ちゃん、やりました!」  

「うん。すごいね。確かに強くなってるよ」 

「……えへへ!」

 

それじゃあ、帰りましょうかね……ん?

 

「おいあんたら!」

「天羽奏と風鳴翼か」

 

私たちの目の前に現れたのは、天羽奏と風鳴翼。さすがに向こうにも私たちが来てるのは知られてるか。「何かな?私たち帰りたいんだけど」

 

「そう言うわけにもいかねえな。大人しく私たちについてきてもらうぞ」

「奏…?」

 

急に現れたと思ったら、天羽奏が槍を向けて上から目線で命令してきた。なにあれ?彼女あんなに刺々しかったっけ?

 

「嫌だよ」

「そうかよ。じゃあ、大人しくしてもらうぞ!」

「奏!?」

 

断ったら私たちに向けて槍を振るってきた。私たちは左右に分かれその攻撃を避ける。まさかこんな強硬手段に出てくるとは思わなかった。

 

「奏!何をしてるの!」

「翼!お前も手伝え!こいつらを大人しくさせるぞ!」

「え・・・。う、うん」

 

えっちょっと翼さん!?あの原作一話の凛々しいあなたはどうしたんですか!?ってそういえば、天羽奏が亡くなったからああなったんだっけ。まさかこんなところで弊害が出てくるとは!

 

「と、とりあえず大人しくしてもらいます。はっ!」

「くっ。襲い掛かってきたのはそっちなんだけど、ね!」

 

くそっ!こっちはまだ彼女に躊躇があるからまだマシだけど、セレナの方はヤバい。あの天羽奏は私たちに攻撃することに躊躇いがない。セレナはまだ人間相手が慣れないはず。

 

「おらぁ!」

「あう。な、何で攻撃するんですか…」

「ああ?お前女か?なんで戦ってんだよ?」

「貴方だって女性ですよね。人のこと言えないじゃないですか。ぐぅ…」

「うるせぇ!私は、ノイズをぶっ潰すんだ!そのためにも、あんたらにはいろいろと話を聞かせてもらうぞ!」

「無茶苦茶です!だからって襲ってくるなんて!」

「あんたら、自分たちの力が私たちにとってどれだけ危険か分かるのかよ!」

「きゃあ!」

 

ほらやっぱり!セレナは防戦一方だし、反撃しようにも躊躇ってしまってる。

私は焦りながらも、風鳴つばさの振るう刀をツインブレイカ―で受け止め押し込む。

 

「貴方の相方ほっといていいの?」

「確かに今の奏は危険だと思う。だが敵かどうかも分からないお前たちの存在も、確かに危険だ!」

「だから力づくっていう事か!」

 

風鳴翼はバックステップで後ろに下がり、刀を大剣へと変形させ思い切り振りおろす。

 

【蒼ノ一閃】

「うわっ!」

 

放たれた斬撃を食らい、私は地面を転がる。しかし寝転がってはいられない。何とか両手をついて起き上がる。

 

『七海!大丈夫か!』

「何とかね……」

「キャァッ!」

「セレナ…!?」

 

その時、セレナが短い悲鳴を上げながら転がるのを見て、私は心の底から暗い何かが込み上げるのを感じた。

 

「こいつは預からせてもらうぞ」

「あ……だめ。それだけは…やめて。お願い、します。返してぇ……」

 

天羽奏が転がったスラッシュライザーを手に取り、セレナは返して欲しいと泣きそうな声で懇願する。その声を聞いた時――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――私の理性が焼き切れる音が聞こえた。

 

 

≪三人称side≫

 

「はああああ!」

 

翼が棒立ちの七海に刀を振るう。翼は奏と違い、七海たちを危険な存在と思いはすれど、積極的に叩き潰そうとはしない。ただ話を聞きたいのは確かなので、気絶させるぐらいにしか考えていなかった。

それが、七海の怒り(・・)に気づくのを遅らせる原因となった。

 

黙れ。邪魔だ(・・・・・・・)

「なにっ!?」

 

翼が振るった刀をノールック、しかも片手で掴む(・・・・・)。その人間離れした神業に、翼の動きが止まる。その隙を狙い翼を殴り飛ばす。

翼が殴り飛ばされた時に手を離した刀を投げ捨て、ツインブレイカーをビームモードにして奏に向けて撃つ。

奏はその場から飛び退いて避け、その間に未だ倒れ伏しているセレナの前に立つ。

 

「っと。次はあんたってか?」

「……それを返してもらおうか」

「そいつは出来ねえな。これはどういう訳かノイズを倒せる。やっぱあんたらには話を聞かせてもらわないとな」

「………」

「お姉ちゃん?」

「あんたらが大人しくついてきてくれるなら、返してやるけど?」

「あっそ」

 

七海の雰囲気が普段と違うことにセレナは気付くが、奏は気付く様子もなく挑発気味に言葉を投げかける。

しかし当の七海はただ短く返し、ラビットスクラッシュゼリーのボトルキャップを捻る。

 

《ラビットゼェリィィ!》

 

「ぶっ潰す……」

 

《走るぅ! 跳ねるぅ! 駆け回るぅ!》

《ラァビットォイングゥリスチャァァァジ!》

《オラァァァァァ!!》

 

ただただ無言でレバーを下ろし、ラビットチャージへと変身する。そして右手の握り拳を胸に当て、前に突き出す。

 

「……心火を燃やして、駆け抜ける……!うらぁああ!」

「ぐはぁ!」

 

瞬間、加速。スプリントキャプチャーによる加速したスピードで、奏に接近し上飛び蹴りを叩き込む。奏は槍で何とか防ぐも、その衝撃で後ろに飛ばされる。

 

「この…何しやがる…」

(なんだ、こいつ。さっきとまで雰囲気が全然違う)

「奏!」

「翼、合わせろ!」

 

七海に向かっていく翼を見て、奏も槍を振り上げる。

 

 LAST    

     

METEOR  一閃 

 

対する七海もスクラッシュドライバーにウルフフルボトルを装填する。

 

《チャァァジボトル!潰れなぁぁい》

《チャァァジクラッシュ!》

 

「ハアアア!」

「なんだと!?ぐああ!」

「こんな、ぐう!」

「まだだ!」

 

《タンクゼェリィィ!》

 

両足のジャンプパックスパイクから噴出されたヴァリアブルゼリーが、鋭い爪をもったオオカミの足の形を形成。その足を二度振り上げ、飛んできた斬撃と竜巻を切り裂く。さらに後ろ回し蹴りを放ち、翼と奏に半円状の斬撃を飛ばす。

更にタンクスクラッシュゼリーを装填しレバーを下ろす。2台のマウントキャタピライザーがどこからともなく現れ、翼と奏に砲撃する。

 

《注ぐぅ!狙うぅ!撃ち放つぅ!》

《タンクゥイングゥリスチャァァァジ!》

《ドォッガアアアンン!!》

 

タンクチャージへと変身した七海はもう一度レバーを下ろす。七海の足元、砲塔「ブレイクゲイザー」の後方部分からヴァリアブルゼリーが噴出され、アンカーとして設置される。

 

《バァァスティングフィニッシュ!》

 

ブレイクゲイザーにエネルギーが溜まっていき、とてつもない反動と共に超高威力の光弾が撃たれる。

 

「ハア!」

 

バ ー ス テ ィ ン グ 

         フィ ニ ッ シュ

さっきの攻撃のダメージが残っている2人は、躱すこともできずに命中する。………ことはなかった。

 

「ぬん!!」

「なっ!?」

「旦那!?」

「叔父様!?」

 

突如として装者2人の前に立ちふさがった熊のような男が、気合のこもった声と同時に掌底を放ち光弾を弾く。弾かれ奏たちの後方に着弾した光弾は、爆音と共に熱風をまき散らしながら大爆発した。

奏と翼は目の前にいる人物、風鳴弦十郎に問いかける。

 

「な、何で旦那がここにいるんだよ」

「決まってるだろう。こっちの命令を聞かないやつらの尻拭いをするためだよ」

 

弦十郎の言葉を聞き、2人は仮面ライダーと戦うのかと考え心の底から安堵した。彼女たちのようにシンフォギアと言った装備が無いものの、素手でさっきの攻撃を弾いたのだ。期待するのも無理はない。

しかし、弦十郎が取ったのは全く別の、それこそ七海ですら予想していなかった行動だった。

 

「俺は風鳴弦十郎。彼女らの上司だ。君が白黄七海でいいか?」

「………」

「申し訳なかった」

「……は?」

「「ええっ!?」」

 

頭を下げた。今攻撃すれば、防御が間に合わないほど無防備な状態で。

 

「今更言っても信用はないだろうが、こちらに君たちと交戦する意思はない」

「………」

「君たちもノイズと戦っていることは知っている。そして、対話による話し合いが可能であることも。だが今回はこんなことがあったばかりだ。対話をしたいなどとは言わない。ここら辺で手打ちにしてくれないか?もちろん奏が奪ったこいつは返却するし、アイツらにもしっかり言いつけておく。」

 

そう言うと、弦十郎は頭を上げ転がっていたスラッシュライザーを投げ渡す。それを受け取った七海は、未だに信用しきれていないのか弦十郎を注視したままでいる。その時、七海に声をかける人物がいた。

 

「彼の頼みでは聞けないかしら?私からもお願い」

「貴方は……」

「ああ。この姿じゃわからないか。……この姿ならわかるだろう」

 

そう言って現れた女性、櫻井了子がメガネを外すとその姿が変わる。七海は勿論原作でその正体を知っていたが、彼女がここに現れたことが驚きだった。七海からしてみれば、ちょっとした昔馴染みだったからだ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「フィーネか」

「憶えていたか。ここは私の顔を立てて、下がってもらえると嬉しいのだが?」

「分かった。何であなたがそこに居て、もう正体をばらしているのかは分からないけど」

 

フィーネの提案を了承した七海は、テレポートジェムを取り出し地面に叩きつける。立ち上がったセレナと七海の足元に魔方陣が現れる。

 

「最後に2つだけ。2年前のコンサート会場でノイズが現れた事件。あの時貴方は正体を既にばらしていたの?」

「ああ。なんだ、私がやったと考えていたのか?だが残念ながら、私ではないな」

「そう。それと、まだ未練はある?貴方が愛したという”あの方”への」

「…完全にないと言えば、そう言うわけではない。だがお前と出会ってから、少なくとも昔のような考えはないな。」

 

フィーネが答えたと同時に、魔方陣から光が放たれ2人の姿が消える。静寂が場を包み込んだ。

 

 

 

 




何か奏さんが悪い感じになってるけど、これ一応書き直したんですよ?最初のやつはセレナを必要以上に痛めつけたりして、もっと酷かったんで書き直しました。まあ、これも後々の為に必要なフラグなんですが。
それと弦十郎さんがスラッシュライザーを投げ渡したのは、不用意に近づいて七海を刺激しないようにするためです。態度が悪いわけじゃないですよ?ちゃんと謝ってるし。
弦十郎さんが上司だったら、仕事しやすいでしょうね。

Koroking様 風鳴弦十郎のメンバーへの呼称を教えてくださりありがとうございました。さっそく役に立ちました。

それ以外にも感想お待ちしております。
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15 みんなの様子、覗いてみよっか?

評価☆10 Koroking様ありがとうございました!

お気に入り数50件を超え、UA1万まであと少しとなりました!ありがとうございます!


《セレナside》

気が狂いそうだった。今私は地面に倒れている。

少し前に、私たちとは別でノイズと戦っているらしい装者という人物に襲われました。私も応戦したけど、相手が人間だという事で慣れていなかった私は、攻撃を受けて倒れてしまいました。

そして、天羽奏という人は私の手から転がり落ちたスラッシュライザーを拾いました。気が狂いそうになりました。スラッシュライザーはお姉ちゃんが私にくれた、大切な”力”。私が姉さん(・・・)たちと、また一緒に居られるようにするために必要な”力”なんです。

あのとき、泣き叫ぶ私を抱きしめてくれたお姉ちゃんを、姉さんと似ていると思った。温かくて、優しいのにそれを当たり前だと思ってるような。こうするのが当たり前だと確信しているように、私を抱きしめてくれた時決めたんです。

私と、お姉ちゃんと、先生と、エルさんと、そして姉さんたちと一緒に、みんなで暮らしたい!お姉ちゃんは話し合った時、それは出来ないと言いました。だからこそ、それを他ならない私自身の手で成し遂げる。

だから、お願い……返して。それは私とお姉ちゃんと姉さんたちを繋ぐために必要な……!

 

「……それを返してもらおうか」

 

――――ああ。やはりあなたは、お姉ちゃんは。………姉さんに似ている。

それからはお姉ちゃんの一方的な展開だった。ただ、大きな男の人がお姉ちゃんの攻撃を素手で弾いていたのは驚きました。その後私たちに頭を下げて、もっと驚いたのですが。

そうして無事家に戻った私に先生が鬼気迫る顔で迫ってきました。

 

「おいセレナ。怪我はないか!?身体に異常はないか!?」

「だ、大丈夫ですよ先生。ですから落ち着いてください!」

「……良かった」

 

先生はそれだけ言うと、ポスッと私のお腹の少し上のあたりに額をあて、すがってきました。

私は先生のそんな姿を初めて見て、それがとても嬉しくて、思い切り抱きしめました。先生もそれを嫌がることなく、私を抱きしめ帰してくれました。

私には足りないものが多すぎる。戦闘技術にしても、先生から教えられている錬金術にしても。もっともっと強くならなければならない。

この人たちは私のもう一つの家族と同じです。だから、姉さんたちと一緒に暮らせるように、家族を守れるように、尽力することを固く誓いました。

この時、私のポケットに入っていたバーニングファルコンプログライズキーが、ほんのりと熱を発していたことに気付くことはありませんでした。

 

 

《弦十郎side》

重苦しい雰囲気に包まれる司令部。そんな中佇む俺の目の前に2人の少女、姪である風鳴翼と天羽奏がいた。俺は今からこの2人に罰を下さないといけない。理由は命令違反。

俺は基本彼女らの行動を咎めることはそこまでしない。勿論何も言わないことはないが、きつく言うことはしていない。緊急事態において、一番周りを見渡せているのは現場の人間だ。だからこそ、彼女らの意見も尊重しながら、指示を下すようにしている。

だが今回のことはさすがに見過ごせない。

 

「今お前たちがこうして俺の前に立っている理由。分かっているな」

「…はい」

「……」

「なら良い。俺はこれでも司令であり、お前たちの上司だ。だからお前たちに罰を与えにゃならん」

「……なんでだよ……」

「何?」

「旦那だって言ってただろ。警戒するに越したことはないって」

 

確かに彼女たちのことを了子くんから聞いていたとはいえ、俺たちはまだよく知らない。そのため彼女たちが再び現れたとしても、警戒はしておけと言っていた。とはいえ奏のしたことを認めることにはならない。

 

「俺は積極的に交戦しろと言ったつもりはないぞ」

「……っ」

「それでは罰を言い渡す。奏は2週間謹慎だ。翼は天羽々斬を緒川に預けておけ」

 

命令違反の罰という割には軽めだが仕方ない。ノイズに対抗できるシンフォギアを使えるのは現状奏と翼だけであり、そのためノイズが発生した時の為に、シンフォギアを取り上げるといったことは簡単には出来ない。翼に至っては学生であり、歌手としての仕事もあるため奏のように謹慎とはいかない・一応緒川に預けるようにさせるが、アイツなら翼のマネージャーとして離れることはほとんどないため大丈夫だろう。

だが2人とも根は真面目だ。今回のことをきちんと受け止め、反省してくれるはずだと信じている。

しばらくして2人が部屋から出ると、俺は息をはいた。

 

「お疲れ様弦十郎くん。……やっぱり気になる?」

「ノイズと戦えない俺たちの代わりに戦っている彼女たちに、ここで指示を出すしか出来ない俺が説教を言うのも、結構くるものがあるな」

「でも、貴方は司令だもの。彼女たちも分かってくれるわ」

「ああ……。そうだ了子くん。あの時は助かった」

「別に気にしなくてもいいわ。貴方が彼女たちの元に向かったのは驚いたけど、私としても七海ちゃんと戦うのは気が引けたしね」

 

俺が七海くんと初めて対面した時、俺だけでは彼女に手を引いてもらうことは難しかった。彼女が了子くん、フィーネと昔馴染みだったから手を引いてもらえたのだろう。

彼女たちとは何とかして手を組みたいからな。さすがに2課を代表する立場である俺が手を出したら、いろいろと面倒だ。

 

「中々に大変だな」

 

これからのことを考えると不安が込み上げてきて、俺は大きなため息をつくのだった。

 

 

《キャロルside》

 

「ふぅ・・・」

 

湯気が立ち上る湯に入ると、身体に染み渡る心地良さに、思わず変な声がでる。なんとなく恥ずかしくて、さり気なくナナ姉えの方を見る。

 

「はにゃ〜」

 

心配は無用だった。なんだろ、はにゃ〜って。

 

「………」

 

水滴が水面を叩く音だけが浴室に響く。

()は迷っていた。装者と戦っていた時、ナナ姉えが倒れるセレナの救援に入る前後に、ナナ姉えの精神バイタルが大きく変動した。まるで別人のように(・・・・・・・・・)

そのことについて聞くべきか、聞かないべきか。私としては聞かなかったことで後悔はしたくない。でも聞いてしまったら、今のこの関係が変わってしまうのではないかとも考えてしまう。

 

「……キャロルは聞かないの?」

「ふえ!?」

「なんで分かったの?って顔してる。……キャロルはオペレートしてくれているから、私たちのバイタルチェックもしてるはずでしょ?」

「………」

 

内心を言い当てられ黙ってしまった私の頭を、ナナ姉えは優しく撫でる。

 

「私の目的はキャロル、貴方と一緒にいること。そして貴方の進む道を見届けること。だから私がキャロルから離れることはないよ」

「初めて会った時からそうだった。なんで?どうして私を……」

「強いて言うなら……一目惚れ?」

 

ナナ姉えがなんてことないように放った一言に、お風呂で既に赤く火照っていた私の顔は、さらに赤くなった。

 

「うう……そんな恥ずかしいこと、真顔で言わないでよぉ」

「ごめんごめん。でも今の私には貴方だけじゃない。エルやセレナもいる。今の暮らしを守りたいって思うのは、キャロルもでしょ?」

 

悪戯が成功したような顔でナナ姉えが謝る。……でも、ナナ姉えが言うことは確かだ。前の暮らし、パパと2人で暮らしていた頃やそこにナナ姉えも加わった頃、そしてパパが死んじゃってナナ姉えと2人で暮らした頃。その頃だって不満はなかった。当然悲しいことはたくさんあったけど、でもそれ以上に幸せだった。

ホムンクルスの技術でエルフナインをナナ姉えと一緒に完成させ、3人で暮らすようになってからはまた違う幸せがあった。最初は私の”記憶”を複製してエルフナインの”記憶”にするつもりだったが、ナナ姉えが別の方法を提案した。私がエルフナインに錬金術を教え、ナナ姉えがその他のことについて教えるというものだった。

最初は非効率的だと思っていた。ナナ姉えと2人で暮らすようになってから、私たちの錬金術師としての力も上がっていた。なのにわざわざ一から教えるなんてと、そう考えていた。でも言いくるめられる形で納得した私は、エルフナインに錬金術を教えていった。

予定を変更したことである程度の人格の形成の為に、私とナナ姉えの記憶をベースにしたためエルフナインは錬金術に興味を持っていた。だから私が教えたことをエルフナインはスポンジのごとく吸収していった。最初はいろいろと迷うこともあったが、徐々に人にものを教えることに楽しさを見出していった。ある程度教えると、自分で研究するように言い今に至る。手取り足取り教えるだけでは錬金術は極めることなどできないのだ!

そうしてエルはナナ姉えから相談を受けライダーシステムの研究に、私はナナ姉えが回収した聖遺物の封印作業を主に時間が出来ると自身の研究に耽ることになる。

そしてつい最近、セレナが家に来て昔のようにセレナに錬金術を教えることになった。セレナはやる気がある。先生と呼ばれるのも悪くないし……。

ただ今日みたいな目にセレナがあった時は、とても怖かった。ナナ姉えは聖遺物の回収に行ってもヘッチャラな顔で帰ってくるけど、セレナが傷つけられると不安が広がった。そのせいでセレナが帰ってきたら目に見えて狼狽してしまった。でも、何事もなくて本当に良かった。

 

「私はキャロルの傍にいるし、そこにはきっとみんながいるから……」

 

ナナ姉えは私を膝の上に乗せる。私はそんなナナ姉えの胸によりかかる。

 

「……ナナ姉え」

「んー?」

「私もナナ姉えを守れるように、もっと強くなる」

「そっか」

 

私は護られるだけじゃない。ナナ姉えも、エルフナインも、セレナも大切な”家族”は私の手で守りたい。そのためには……エルフナインに協力を仰がないと……。

だけど今は、せっかくのナナ姉えとの2人きりを、堪能しても罰は当たらない…よね?

 

 

《了子/フィーネside》

2課での仕事を終え、私は家へと変える。……昔は隠れ家としか呼んでなかったのに、家と呼ぶようになったのはあの子たちのおかげかしら?

 

「ただいま~」

「ん?ああ帰ったのか。もう少しで飯出来るから、待っててくれ」

「分かったわ」

 

リビングに入ると、クリスが夜ご飯を作っていた。クリスがここまで料理が上達するなんて、あの子のおかげね。

自室に戻り動きやすい格好に着替えた私は、地下にある部屋に向かう。

 

「入るわよ」

「ん?どうぞー」

 

扉を開けると、複数のパソコンの画面が光っておりキーボードを叩く音が絶え間なく鳴る。

 

「そろそろご飯だって、クリスが言ってたわよ」

「おーそっかそっか。それじゃ行きますかね」

 

そう言ってキーボードを叩いていた少女、宵姫(よいひめ)黒夜(こくよ)が立ち上がる。

 

「そんで私たちはいつまで2課に秘密にしてるの?」

「どうしたの?急に」

「ちょっとねー」

「まあ、そろそろ頃合いだとは思うわ。貴方が聞いてくるという事は、力を貸してくれるという事で良いのかしら?」

「そういうことだねー。なんせ、私の才能を発揮しすぎると世界の文明を急激に進めてしまうからね」

 

世界の文明を進めてしまう、ね。最初は半信半疑だった言葉も、いつの間にか慣れてしまった。彼女の才能は、確かにそれを成し得てしまうのだろう。本人にその気があれば、だけど。

 

「ま、とりあえずリビングに行こう。お腹減ったし」

「そうね」

 

さて今日の料理は何かしら?

 

 




今回はちょっとした寄り道。

セレナは自身の”夢”を果たすために決意を固める。
弦十郎は司令としての重責に耐えながら、仕事を果たす。
キャロルは七海によってもたらされた幸せのために、行動を開始しようとする。
フィーネこと了子サイドも、原作とは違う動きを見せ始める。

弦十郎のシーンは、実際にこう思ってそうだよなぁという感じで考えて書きました。他人よりも力があることを自覚しながらも、ノイズとの戦闘では現場に赴くことは出来ないもどかしさはあると思います。

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16 なんか見覚えある…思い出してみよっか?

《七海side》

 

『あれが立花響なのか……?』

 

耳に付けている通信機からキャロルの声が聞こえる。私がいるのはとあるビルの屋上。太陽はすでに沈み、あたり一面を夜が支配している。だが私が見下ろす先では、そんなのは関係ないとばかりに爆発が光を放つ。

その時立ち込める煙から、1人の少女が飛び出てきた。黄色のアーマーを身にまとい、まるで獣のように荒々しくノイズを掴み、破り、打ち砕いていく。

 

『なんだあの動き…?前見た時とは違う、理性の欠片も見られない動きだ』

 

そう呟くキャロルの声には、いくばくかの恐れが混じっているように思えた。きっと本人からしたら無意識なんだろう。でもそう思うのも無理はない。”前”に見た時とは全然違うもんね。

”前”というのは彼女がシンフォギアを覚醒した時と、風鳴翼と衝突一歩前までいった時。

実は今から数日前、私は彼女がシンフォギアの力に覚醒した時の様子を見ていた。原作通り女の子を抱えてノイズから逃げていた彼女を、私は何もせずに見ているだけだった。勿論もしもの場合は介入して助けるつもりだったけど、無事原作通りになったから手を出さずに帰った。そのせいかキャロルから少し問い詰められたけど、適当にごまかした。

後者の方もばっちり見ていた。風鳴弦十郎が風鳴翼の技を生身で砕いたのは、キャロルを含め唖然とした。さすがはOTONA……。

 

『…い……み……おい七海!』

「っ!?ごめん…」

『まったくしっかりしろ!それで、どうする?』

「ん。今回も何もないみたいだし、このまま帰るかな?」

『シンフォギアは回収しないのか?あれには聖遺物が使われているんだろ?』

「そうだけど、あれは欠片だけだからね。そこまで必死に狙う必要はないよ」

『……そうか。分かった』

「それじゃあこのままかえっ!?」

 

キャロルと会話しながら下に目を向けると、驚きのあまり硬直した。木々に囲われた場所にいるのは立花響と風鳴翼。おそらく立花響が逃したノイズを、風鳴翼が仕留めたところだと思う。天羽奏がいないのが気になるけど、原作通りな場面。

それは変じゃない。おかしいのは、ネフシュタンの鎧を着こんでいる(・・・・・・・・・・・・・・・)女性がいること(・・・・・・・)

おかしい。本来あれを着こんで現れるのは雪音クリスという少女のはずだ。だがあそこにいるのは雪音クリスじゃない。そもそもの前提として、フィーネは2課と敵対していないはずだ。本人に確認したわけではないが、私はこの前遭遇した際に風鳴弦十郎の前でフィーネと話した。姿を隠していたとしても、わざわざ敵対する存在に、正体をばらしてまで助けようとは思わないはずだ。

そしてもしそうならば、彼女はネフシュタンの鎧を持っているはずがない。2年前のコンサートで原作通り盗んだとしても、和解しているなら返すはずだし何より雪音クリスはすでに味方になっている。という事は、2年前のあの事件はフィーネの仕業ではない・・・?

 

「貴様……何者だ。何故それを持っている!」

「ふふっ。怖い怖い。ひとまずはこんばんは。そして……さようなら」

「っ!?」

 

私が頭を巡らせていると、ネフシュタンの鎧の女が鞭を振るい、風鳴翼も応戦し始めたことで戦闘が開始された。

……これはさすがに放っておくわけにはいかない。私はスクラッシュドライバーを装着しながら、キャロルに連絡を入れる。

 

「キャロル」

『分かっている。セレナは……』

「セレナはいい。サポートよろしく」

 

「翼さんやめてください!相手は人です!同じ人間です!」

「「戦場で何を馬鹿なことを!」」

 

おお、まさかあのハモリを聞くことができるとは。相手クリスじゃないけど。そして彼女は原作通りか。……はぁ。ちょっとは期待してみたんだけど(・・・・・・・・・・・・・・・)。やっぱりこうなってるよね。

 

《ロボットゼェリィィ!》

「変身」

 

ロボットスクラッシュゼリーをセットした私は、ビルから飛び降りレバーを下ろす。

 

《潰れるぅ! 流れるぅ! 溢れ出るぅ!》

《ロボッットォイングゥゥリスゥゥゥ!》

《ブルァァァァァ!》

 

「うわっ!」

「なんだっ!?」

「へぇ……」

 

落下しながら変身した私がとてつもない勢いで地面に着地すると、轟音と共に砂埃が舞い上がる。さすがにこれには3人の注意が私に向かう。

 

「ふぅ……。結構スリリングだった……」

「貴様は、白黄七海!」

「あれが、白黄七海さん……」

 

さすがに装者の2人は私のことをフィーネから聞いてるみたい。まあ今は……。

 

「はいはい。そっちは後ね。……で、私も聞きたいな。何であんたがその完全聖遺物を持っているのか」

「ふふ……。そうは言うけど、貴方はお呼びじゃないの。この子たちと遊んでなさい」

 

女がそう言った途端、女の背後の木々から2体の化け物が飛び出てきて、奇襲を食らう。

 

「なっ!?ぐっ……!」

 

私はその見た目に見覚えがあった。仮面ライダービルドに出てきたスマッシュと呼ばれる怪人だ。今現れたのはニードルスマッシュとストロングスマッシュ。それぞれの成分から、ハリネズミボトルとゴリラボトルが作れたはずだ。

しかし私はそのどちらも、すでに入手している。とはいえ、錬金術で作り上げた物なのでおそらく別の方法なのだろう。とにかく、見過ごすことは出来ない。

 

「心火を燃やして、一気に倒す!」

 

え?なんか違うって?私女の子なんだよ?「ぶっ潰す」なんて言わないよちょっと待って百歳超えてるだろって言わないで。

 

「ハアアア!」

 

ニードルスマッシュが腕部の刃で斬りつけてくるが、それをツインブレイカ―で弾いてそらす。そのまま反撃しようとしたら、ストロングスマッシュに邪魔をされたからバックステップで回避する。

それなりに動けるニードルスマッシュが私を足止め、隙をついてストロングスマッシュが重たい一撃を叩き込む、か。連携が取れすぎてる気がする。理由が分からないにせよ、気をつけた方が良いね。

私は試しにスマッシュを挑発するように、右手を動かす。すると挑発が効いたのか、ニードルスマッシュが攻撃を仕掛けてくる。

 

『七海!分かってるな!』

「うん!ほら甘いよ!ふっ、おりゃぁ!」

 

連携を取ってきてるにしてもやりようはある。ニードルスマッシュの攻撃を防ぎながら、ストロングスマッシュと私の間にニードルスマッシュを挟むように位置取りをする。これで連携を少しは妨害できる。

しばらく打ち合ってい、私のツインブレイカ―がニードルスマッシュの刃を砕く。

 

「……!?」

「逃がすかぁ!」

 

慌てて下がろうとしたニードルスマッシュを左手で掴み、右手でレバーを下ろす。

 

《スクラップフィニッシュ!!》

 

「オラァアア!!」

 

右腕から噴出されたヴァリアブルゼリーによって、ロボットのような巨大なアームが形成され、離れようともがくニードルスマッシュを思いっきりぶん殴る。吹き飛ばされたニードルスマッシュはあえなく爆発した。

よし、後はストロングスマッシュを「私も手伝います」っ!?

なんか立花響が急に現れたと思ったら、ストロングスマッシュに向かっていった。まあ、あっちよりは相手が人間じゃない方がやりやすいんだろう。

 

「でやあああ!」

 

ストロングスマッシュに向かって立花響が拳を放つが、全然なってない。シンフォギアの力に振り回されてる。正直セレナの方がもっと強い。

その証拠にストロングスマッシュには全然効いてない。

 

「きゃあ!」

 

おまけに反撃まで食らってるし……。仕方ない。私が行くかぁ……。

そう思って踏み出した時―――

 

《Ready Go!》

 

「……え?」

「なっ……」

 

《ボルテックフィニッシュ!!》

 

突然現れたグラフに挟まれるストロングスマッシュ。そしてそれをキックで貫く人影。その姿は私には、またもや見たことのある姿……いや、憧れていた姿だった。

 

「ふぅ~。やっと会えたね……って言っても、私が勝手に会いたがってただけなんだけど」

「その姿……」

「初めまして?仮面ライダーグリスさん?」

 




スクラップフィニッシュ、まさかの初披露。

そして新たに現れたのは!次回もお楽しみに!


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17 狼錬金術師、爆誕してみよっか?

今更ですが、UA10000越えありがとうございます!


《七海side》

「ふぅ~。やっと会えたね……って言っても、私が勝手に会いたがってただけなんだけど」

「その姿……」

「初めまして?仮面ライダーグリスさん?」

 

何で?何で?何で? 私の頭の中をぐるぐると疑問が回っていた。

赤と青の装甲、複眼にはウサギと戦車がモチーフとされた装飾、そして腰にはハンドルがついたベルト。

目の前の人物から発せられた声は女性のモノだったけど、その姿には見覚えしかない。

 

「………仮面ライダー、ビルド」

「やっぱり知ってるか。それもそうだよね~。ふっ!」

「なっ!」

 

何かを呟いていた仮面ライダービルドは、一足跳びで私の目の前まで跳躍し、右手に取り出したいかにもな形の武器「ドリルクラッシャー」を振り下ろしてきた。

慌ててガードしたけど、ビルドは初撃の勢いのままドリルクラッシャーを何度も振り下ろしてくる。最初は何とか防げていたけど、防御を崩されてイイのをもらってしまった。

 

「あぐっ!?」

「どうしたの~?貴方の力はこれくらいじゃないでしょ?……ん?」

「はあ、はあ……一体何者……?」

「そうだね~。さしずめ……」

「っ!?それ、私の…!」

貴方と同じ?(・・・・・・)

 

カシャカシャと小刻みの良い音に、ビルドに顔を向けると、2本のボトルを振っているビルドの姿があった。はっとして慌てて腰のあたりを確認すると、いくつかのフルボトルがなかった。おそらく先ほどの攻撃を食らった際に落ちたボトルを拾ったのだろう。というか今なんて言った。同じ?いったい何が同じだと言うのだ?……まさか!

そうこうしてる間に、ビルドは振っていたボトルを腰の「ビルドドライバー」にセットする。

 

《海賊!》

《列車!》

《ベストマッチ!》

 

ビルドがハンドルを回すと、ビルドの周囲にパイプが展開され、その中をマリンブルーと黄緑の液体が流れていく。

 

《Are You Ready?》

「……ビルドアップ」

《定刻の反逆者 カイゾクレッシャー! イェーイ!》

 

ビルドの前方と後方に形成された装甲が、ビルドを挟み込むように合わせられ、煙を吹きだしながら仮面ライダービルド カイゾクレッシャ―フォームへと姿を変える。

更に海賊ボトルをドリルクラッシャーに装填し、構えを取る。それに気づいた私も急いでツインブレイカ―に、消防車ボトルをセットする。

 

《Ready Go!》

《シングルッ!》

「ハアアア!」

「く、あああ!」

《ボルテックブレイク!》

《シングルブレイクゥ!》

 

ビルドの振り下ろす激流の如き水の刃と、私が振り上げた燃え盛る炎の球体がぶつかる。つばぜり合いの模様は拮抗しているように見えて、じりじりと私が押されていた。

 

「ぐううううう!」

「ははっ!この威力、ビルドドライバーと一緒に私が作ったんじゃ絶対に引き出せなかった!」

「答えて!なぜあなたがそれを知ってる!?」

「あいにくと、ここで答えることは出来ないかなぁ。でも――――――」

「っ!?何を!」

 

私はビルドの言葉に驚き、問い詰めようとしたけど、ビルドが強引にドリルクラッシャーを振り抜きツインブレイカ―が弾かれる。

 

「ハア!」

「ガハッ!」

 

そしてがら空きとなった私の胴に、水の刃の3連撃が入る。攻撃をまともに食らった私は吹っ飛ばされ、地面を転がる。何とか変身は解除されなかったみたいだけど、ダメージのせいか目の前が霞む。

このままではまずい。何とか状況を打破するために頭を働かせていると、私を守るように周囲で強い風が発生し思わず目を瞑る。

 

「無事か?」

「あ……」

 

目を開けるとそこには、大きなとんがり帽子をかぶり、仕事服だと言っていたコートを着て、腰に青い銃(・・・)をつけたベルトを巻いているキャロルがいた。

 

《キャロルside》

 

「くそ!なんだこいつは!」

 

七海が押されている。その普段は起こらない状況に、オレは焦りを感じていた。

突如現れた、オレが知らない仮面ライダー。七海はどうやら知っているらしく、「仮面ライダービルド」と呼んでいた。どういうことだ?仮面ライダーは「ライダーシステム」によって変身できる戦士。ライダーシステムのデータを持っているのは、オレたちだけのはずだ。

だが今重要なのはそこではない。七海が押されているという事実。”あの時”のような焦燥感がオレを追い詰める。セレナが天羽奏にやられた時のような、恐怖が私を包む。

……いやだ、いやだ、いやだいやだいやだ!!もう家族(・・)が傷つくのは嫌だ!あの時誓ったのだ。大切な”家族”を、オレの手で守ると!!

思い立ってからの行動は早かった。エルフナインに、急いで連絡を入れる。

 

「おいエルフナイン!」

『キャロル?一体どうしたんですか?今は確かナナ姉えのオペレー「オレは今から七海の援護に向かう。お前がオペレートを引き継げ!」っ!?分かりました!』

 

最初の不思議そうな声から一変、緊張感をもったエルフナインは理解の旨を述べると、すぐに連絡を切った。普段、七海の援護に向かうことはほとんどない。だからエルフナインもナナ姉えが危険だと、すぐに察してくれた。

オレは戦闘時に着ていくコートを羽織り、帽子をかぶる。この時間がもどかしいが、この衣装には様々な効果が付与されているため、着て行かないわけにはいかないのだ。

 

「よし、待っていろ七海!」

 

着替え終わり、そばに置いてあったモノを手に取り、テレポートジェムを使って転移する。

オレを包んでいた光が晴れると、目の前には倒れている七海とおそらく七海を攻撃したと思われるビルドがいた。急いで錬金術で暴風を発生させ、七海を守るようにビルドを遮る。さらに身体能力を強化して、七海の前に移動する。

 

「無事か?」

「あ……」

 

どうやら無事らしい。だが七海は私が腰に巻いているモノを見て、驚いた様子だった。とにかく無事という事が確認できた私は、安堵するとともに”敵”に目を向ける。

 

「ふ~ん。なるほど、ね。そうなってるんだ」

「お前が何者かは問わん。だが――――」

 

ビルドは何かをぶつぶつ呟いていたが、どうでも良い。なぜなら――――

 

「お前をぶっ潰す!」

バレット!(・・・・・)

 

エルフナインの協力を得て作成した「シューティングウルフプログライズキー」をキー状態に展開、腰に装着した「ショットライザー」に装填する。

 

《オーソライズ》

《Kamen Rider…Kamen Rider…》

 

バックルから、ショットライザーを外し銃口を真上に向ける。

 

「……変身!」

《ショットライズ》

 

引き金を引くと一発の銃弾が放たれる。それはまるで意志を持ったように曲がり、ビルドに向かっていく。しかしビルドは首を傾けただけで、銃弾を避ける。すると銃弾がカーブを描きながら、今度はオレへと向かってく「危ない!」…ええい余計なことをするな!

割り込んできた立花響を華麗に避けた銃弾が、私に命中する。……が、私にダメージはなく、逆に銃弾は弾けてスーツを形成する。

 

《シューティングウルフ!》

《The elevation increases as the bullet is fired》

 

「仮面ライダー……」

「……バルカン」

 

七海とビルドが呆然と呟く。ぐっ、ダメージがないとはいえ、やはり変身時の”これ”は慣れんな……。しかし―――

 

「知っていたのか?私がこれを作っていたこと」

「あ、いや…」

「まあ良い。まずはあいつを退けてからだ!」

 

手始めにショットライザーを数発撃ってみたが、躱されるか弾かれた。

 

「だったら!」

「おっと、接近戦?見たところ銃が主武装見たいだけ…っ!?」

 

オレが放った拳を受け止め、お返しとばかりにビルドも拳を放ってきたが、オレはそれを受け流していなす。ふふ……驚いているな。

 

「は!甘く見るなよ。これでもそれなりに鍛えてるからな」

「そうみたいだね~」

 

今度は武器で斬りかかってきたのを、半身にして避ける。と思ったら、今度は蹴りを放ってきたため、上半身を逸らして回避、反撃として蹴りを入れる。

 

「っ…とと」

「止めだ!」

 

《バレット!》

 

横一線にショットライザーを振りながら、4発の銃弾を放つ。オオカミ型のエネルギー弾が、ビルドに突進していく。その猛攻はビルドの武器を弾き飛ばし、体勢を崩させるほど。

それを尻目に、ショットライザーを両手で構えトリガーを引く。直後オレをとてつもない反動が襲い、強烈な一撃が撃ちだされる。

 

「ぐうぅう!」

「く、ぐううう、ああああああ!」

 

ビルドは、急いで両手をクロスさせるが、そんな防御は容易く貫通し突き刺さる。

 

                  

                  

                  

                  

シュ ー ティ ン グ ブ ラ ス ト

 

爆発が起こり煙が晴れると、そこには膝をついたビルドがいた。さすがにあれだけの威力の攻撃なら、当然だろう。

さて、こいつをどうするか……。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl――――」

 

歌が聞こえた。その瞬間、オレの体をゾワゾワとおぞましいほどの何かが駆け巡った。

急いでテレポートジェムを地面に叩きつけ、七海と俺を転移させる。魔方陣が展開されオレたちを光で包んだ次の瞬間―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無慈悲な光が、全てを覆った。

 




翼さんガン無視されたうえに、気づいたらいつの間にか絶唱使ってるという。

翼「解せぬ」

そしてまさかのバルカン変身者はキャロルちゃん!
でも変身ポーズとかいろいろ違う。この意味、分かるよなぁ(ニチャア)

気に入っていただけたら感想、高評価お願いします!

最近の悩み、新しい作品の構想は浮かぶのに手が出せない(さすがにこれ以上の同時連載は無理)こと。
同時連載中の「仮面ライダーディケイド 現実と幻想の狭間」もよろしくお願いします!



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18 何がどうなったんだっけ?とりあえず朝ご飯食べよっか?

一週間ほどお待たせしてすみません。


《黒夜side》

 

「く・・・」

 

光に覆われていた視力が回復し、最初に視界に飛び込んできたのは地面だった。起き上がり周囲を見渡すと、ひどい惨状だった。あたり一面の地面は、地表がはがれグチャグチャになっており、生えていた木に至っては根っこから消し飛んでる。わぉ、すっごい威力。

そして視線を向けた先には、棒立ちしている風鳴翼。その時派手にブレーキ音を響かせ、突っ込んできた一台の車が止まった。

 

「翼!」

「翼ちゃん!」

 

車から2人の男女が血相を変えて降りてくる。あ、フィーネじゃん。男の方は、確か弦十郎だったっけ?

 

「……私とて……人類守護の務めを果たす……防人……」

 

風鳴翼がこちらを向くと彼女の顔が見えた。壊れたように口角を歪ませ、穴という穴からおびただしいほどの量の血を垂れ流している。はっきり言ってその顔は醜い。……でも私は嫌いじゃない……かな?あ、倒れた。

……ふーむ。あのままじゃ確実に死ぬよね~。でも原作(・・)じゃぁ死ななかったけど……ん?……はぁ、見ちゃった(・・・・・)からには放っておくわけにはいかないか。ここら辺で信用でも得るかな。風鳴翼にもしものこともなくて一石二鳥だよね。

 

「フィーネ!」

「ちょっ!ちょっと何……?」

 

私が突然投げた物をフィーネが驚きつつ受け取る。その途端にフィーネの顔が、驚きから疑問の表情に変わる。それもそうだろう。だって私が投げたのは、落ちてたウォッチフルボトル(・・・・・・・・・・・・・・)と空のフルボトル(・・・・・・・・)なんだから。まあフィーネからしたら、グリスが持っているはずのフルボトルを、何で私が持っているのか気になったんだろうけど落ちてたからとしか言いようがない。

 

「とりあえず、それを風鳴翼に持たせて。絶対に離しちゃだめだよ」

「……分かったわ」

 

フィーネがボトルを握らせていると、風鳴弦十郎が私に近づいてきた。

 

「いきなりで申し訳ないが、正体を見せてくれると、こちらとしては安心できるんだがな。了子くんの知り合いと見受けするが」

「(フィーネって私が呼んでるのに、フィーネじゃなく了子くん、ね)それもそうだね」

 

それじゃ、そろそろ正体を明かしましょうかね。初対面だけど。私はビルドドライバーから、私が自作した擬似フルボトルと言うべきボトルを抜く。すると身にまとっていた装甲が粒子となって消え、私の姿が現れる。

 

「どうも。フィーネがまだ言ってなかったみたいだから自己紹介。宵姫黒夜(よいひめこくよ)っていうんだぁ」

 

 

《響side》

一体何が起こったんだろう……。

私の人生、というか運命が変わったのは先日、私がノイズから女の子を連れて逃げている時だった。なんだか歌が聞こえてきて、それを口ずさんだ時不思議な格好になった。その後、なぜか私の通っているリディアンの先輩である翼さんと奏さんがノイズを蹴散らして、気付いたら手錠をかけられてたのはびっくりした。

そしてリディアンの地下にある2課という場所で、シンフォギアというものについて教えてもらった。どうやらこれは、ノイズを倒せる力だって話だった。しかも、私のシンフォギアは形は違うけど、奏さんと同じものだというのだ。……この力が、私の力が誰かを守れるならそうしたいと思った。勿論私の憧れでもあるツヴァイウイングの、お2人と一緒に戦えるのが楽しみだったというのもあった。……きっと、それが間違いだったのかな。

ノイズが現れ、翼さんと奏さんが向かう中、私もついて行った。ノイズを無事に倒して、翼さんにこう言ったんだ。「私も、お二人と肩を並べて、戦えるようになります!」って。そしたら、翼さんに攻撃されちゃった。私は反応できなかったけど、ギリギリで弦十郎さんが間に入って拳1つで翼さんの攻撃を弾いた。それでね、その後の私はこうも言っちゃったんだ。「私、今は足手纏いかもしれないけど、もっともっと強くなります!お二人を助けられるように―――」なりますって言いきろうとしたら、涙を流した翼さんにはたかれちゃった。そしてこう言われた。「なんの覚悟もない人間が、気軽に戦場に立つな!ここはゲームじゃないんだ!」ってね。その時の私は、叩かれた頬の熱さがよく分からなくて、ただただ呆然としていた。

その後、奏さんと話をした。

 

「悪いな響、あの時助けに入ってやれないで」

「翼はな、お前に負い目があるんだよ。2年前のコンサートでのノイズ襲撃。お前にとっちゃ思い出したくないことだろうけど、翼にとってもそうなんだ。あの時の死人の数は、私たちが戦ってきた中でも特にひどくてな。その上、生き残ったやつらに対する強烈な世間からの迫害もあったからな」

「お前に伝えるのは酷かもしれないが、実はあの時匿名で情報が入ってな。それで迫害の件を知ったんだ。きっと、その情報がなければ私たちは見逃していたはずだ」

「翼はそのことをとても悩んでいた。だからお前を命の危機なんかに晒したくないんだよ。さっきあいつがお前を攻撃したのも、お前を戦いから遠ざけるためなんだろうな。まあ、やり過ぎだとは思ったけど」

「あ、言っとくけどあたしだって気にしてたんだからな?あの事件から、思うように歌えなくなって、歌手もやめちまったし。了子さんは心身のストレスによるものじゃないかって、言ってたけど」

 

奏さんの話を聞いて私は、なんて馬鹿なことを言ったんだろうって思った。翼さんの気持ちも知らず、身勝手なことばかり言っていた。……でも、やっぱり見て見ぬふりは出来ない。私の力で誰かを守れるなら、やっぱり守りたいのだ。それを奏さんに伝えたら、苦笑いされちゃったけど。

そして数日たって、またノイズが現れたという連絡が入った。奇しくもその日は、親友の未来と流星群を見に行こうと、約束していた日で……そこからはよく覚えていない。たしか、未来に連絡を送って、シンフォギアを纏って……気づいたら地下鉄の天井に空いた穴から、空を駆ける一筋の光を眺めていた。

どうやら翼さんが、私が取り逃がしたノイズを倒したらしく、地下鉄から出ると翼さん一人だった。どう声をかけていいか分からず、翼さんの背中を見つめていると、唐突に女性の声が聞こえた。真っ先に翼さんが周囲を警戒すると木々の間から、白い鎧を纏った大人の女性が出てきた。

 

「貴様……何者だ。何故それを持っている!」

「ふふっ。怖い怖い。ひとまずはこんばんは。そして……さようなら」

 

何故か怒っている様子の翼さんだったけど、相手は同じ人間。慌てて止めようとしたら翼さんと女性の人に、いっしょに怒鳴られた。どうすればいいのか分からずにいたその時、何かが空から降ってきて粉塵が舞い上がった。そこに目を向けると、全身に金色の鎧を纏った人がいた。どうやらその人の狙いも謎の女性らしかったけど、女性が操ってると思われる怪物が襲い掛かり応戦した。

そこからは、もう訳が分からなかった。怪物は思ったよりも強くて、なんだかまた別の人が出てきたり金色の鎧の人と、赤と青の鎧の人が戦い始めたり。挙句の果てには小さい女の子が銃を撃って、何故か女の子に向かっていった銃弾から守ろうとすれば銃弾に避けられたり、女の子もなんか鎧を纏ったり。というかなんか身長違うし。

そして翼さんの歌が聞こえたと思ったら、私の体をとてつもない衝撃が襲った。

 

「どうも。フィーネがまだ言ってなかったみたいだから自己紹介。宵姫黒夜(よいひめこくよ)っていうんだぁ」

 

気がついたら、弦十郎さんと良子さんが翼さんの下におり、黒髪の綺麗な女の子がいた。黒夜ちゃんって言うんだ。綺麗だなぁ……。

 

「響くん!無事だったか!……響くん!」

「響ちゃん!」

 

弦十郎さんが駆け寄ってくる。あれ?なんで…みんな…横向、き…に……―――。

 

 

 

《七海side》

重たい瞼を開ける。飛び込んできたのはいつもの寝室の天井…ではなく、違う天井だった。痛みを発する体を何とか起こし、周りを見渡す。ここは確か、病気になった時やけがをして、一緒に寝ることができない時用のベッドを置いてる部屋だ。傍らに置いてあった時計を見ると、朝7時だった。何でここで寝てたんだっけ?

……そうだ。たしかネフシュタンの鎧を着てる女が現れて、かと思ったらスマッシュが出てきて、そしたら今度は仮面ライダービルドが出てきて、これ以上ないだろうと思ってたら、なんかキャロルが仮面ライダーバルカンに変身して………うん、もうない。……ないよね?

 

トン、トン、トン

「? はい」

「え……!?し、失礼します!……ああ、お姉ちゃん!」

 

ノックの音に返事をすると、セレナが入ってきて私を見た途端、抱き着いてきた。きっと心配かけちゃったんだろぉなぁと思いながら、セレナの頭を撫でてやる。しばらく撫でていると、気持ちが落ち着いたのかセレナが離れる。

 

「そ、その、ごめんなさい」

「ううん。心配をかけたのは私だから」

「そんなことないです!私があの時、いっしょについて行けば……」

「ストップ。これ以上は平行線だよ。それより、お腹がすいちゃった。朝ご飯食べたいかな」

 

開けっ放しの扉から、すごくいい匂いがする。きっと朝ご飯を作ってたんだろう。そう考えたら、すごくお腹が減ってきた。

 

「分かりました。ただ、お姉ちゃんは病み上がりなので食べやすいモノの方が良いですね。少しだけ時間をください」

「うん。ごめんね。忙しくさせちゃって」

「いえ!そんなことないです!それではリビングに来てくださいね!」

 

そう言ってセレナが部屋から出ていく。さて、私も行こう。まだ疲労が残っているのか、おぼつかない足取りになりながらリビングに向かう。扉を開けると、テーブルにはキャロルとエルが座っていた。

 

「「ナナ姉え!」」

 

案の定というか、私に気付いた2人はやっぱり駆け寄ってきて抱き着いてくる。セレナもだけど、迷惑じゃないんだよね。ただ今回は心配をかけさせちゃったからなぁ……。

 

「ほら、2人とも。色々と積もる話はあるけど……まずは朝ご飯を食べよう?」

 

テーブルでは、お粥を作ってくれたセレナが運んでくれていた。とりあえず朝ご飯を食べよう。その後に状況を整理しないと……。

因みにセレナのお粥は絶品だった。

 

 

 

 

 




いろんな部分が原作とは違う方向に、少しずつ進み始めます。

そういえば、感想で黒夜のことをすっごく言われた方がいましたw とは言っても、あのように書いたのは自分ですし、仮面ライダービルドが好きなんだなというのがひしひしと伝わってきました。
しかし、黒夜の設定は個人的に私が好きな設定にしています。なので、黒夜の過去編的な話は必ず出します。
それと黒夜が渡したボトルについても結構考えました。ドクターボトルや、フェニックスボトルでも良かったんですが、他の方が結構やられてるのでウォッチボトルにしました。理由は次か、次の次の話で明かします。

あと出来れば明日と明後日に投稿します。


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19 迷える陽だまりに、助言をあげよっか?

《七海side》

朝ご飯を食べ、昨夜何があったのかをキャロルとエルから聞くことにした。

どうやら、キャロルが仮面ライダービルドを倒した後、風鳴翼が絶唱を使ったらしい。キャロルは絶唱のことを知らなかったみたいだけど、歌が聞こえた瞬間身の危険を感じて咄嗟に撤退したんだって。まさかそんな土壇場で賢明な判断ができたとは……さすがはキャロル。お礼もかねて、頭を撫でてあげたら顔を赤らめて、気持ちよさそうに目を細めた。何この可愛い生き物?

そして話はネフシュタンの鎧を纏った女性のことへと変わった。まず一つ、あの女性は人間じゃない。データを見るに生体反応が検知されなかった。つまり、あの女性は機械ということになる。そしてもう1つ、ネフシュタンの鎧は2年前のコンサートで、2課が起動実験してたものだと判明した。そしてこの前、フィーネと久しぶりに接触した時の会話から、あの時ノイズを出したのはあの女性だと予測できた。ソロモンの杖も向こうにあると考えた方がよさそう。

次にキャロルが変身した仮面ライダーバルカンについて。あれはキャロルがエルに声をかけて、共同で制作したものだって。ショットライザーは私がすでに制作案を出していたから、それを元に完成させたみたい。ちなみに、スラッシュライザーも私が制作案を考えた。

 

「ひとまず、昨日のことに関してはこれくらいかなぁ」

「あの…ナナ姉え」

「まだもう一個残っているぞナナ姉え」

「まだですよ、お姉ちゃん?」

 

……そうですよねはい。そして私は仮面ライダービルドに関して、徹底的に問い詰められた。何故名前を知っているのか、だとしたらあれはなんなのか。馬鹿正直に前世のこととか言っても信じて……いや、彼女たちなら信じてくれるだろう。でも言わない。言ったところで何かが変わることがないのなら、言う必要がない。

ということで、あれは過去に私が制作案を考えたけど、破棄したものと伝えると3人は完全には納得していないものの一応納得してくれた。

そして一旦お開きになり、私は街に出ていた。基本的には家にいるけど、私もたまには家から出かける。ずっと家にいたんじゃ、引きこもりだしね。

 

「やっぱり外に出るのは楽しいな~。……ん?あの子は……」

 

とある公園の傍を通った時、ベンチに座る女の子が目に入った。落ち込んでいるように顔を俯かせ、綺麗な青空とは対照的に暗い表情をしている女の子。…小日向未来がそこにいた。

 

「どうしたの、お姉さん?」

「……え?」

 

声をかけるかどうか迷っていたが、結局声をかけることにした。仕方がないでしょ?ほっとくわけにもいかないし、なんか落ち込み方がすっごいの。心なしか彼女の周囲に影がかかってる気がするもん。

 

「どうしたの?そんなに落ち込んで。何かつらいことでもあったの?」

「え、あ、いや、その……」

「話したら楽になるかもしれないよ?」

「……あのね」

 

小日向未来はポツリポツリと語り始める。まあ私にとっては予想してたことだった。曰く立花響…彼女の友達が、どうも自分に隠し事してるらしい。その友達は書く仕事が上手くなく、明らかに何か隠してると思われるが、逆に聞きにくいとのこと。

……うん。どうやらこの子も気づき始めているみたい。しっかしどうするかねぇ。聞いちゃった以上、何も言わないわけにはいかないし。

 

「そんなに気になるなら聞いちゃえばいいんじゃない?」

「で、でも……」

「良くないと思うよ。そうやって一人で抱えちゃうのはさ。その抱え込んだものはいつか爆発して、取り返しのつかないことになるよ」

 

私はそれを知っている。抱えて抱えて、ついには誰にも打ち明けることのなかった私には、それが危険だという事を知っている。

 

「そう、かな?」

「うん。だから思い切って聞いちゃいなよ。もしそれで後悔してしまったら、また私が話を聞いてあげる」

「……うん、そうだよね!ありがとう、なんだかすっきりしたよ!あ、そう言えばまだ名前知らなかったね。私は小日向未来って言うんだ!」

「それはよかった。私は…白黄七海」

「ありがとう、七海ちゃん!」

 

一瞬、立花響と関わりのある彼女に名前を伝えて大丈夫かと思ったけど、そんなに問題はないかと考え私の名前を教えた。

 

「それじゃあ、そのお友達と話してみると良いよ」

「うん、そうしてみる!」

「あ、ただ私のことは内緒にしてほしいなぁと」

「え?どうして?」

 

よくよく考えたら、彼女が立花響に私のことを話してそれを2課に伝えたら、彼女に監視がつきそうだという考えに至ったので、やっぱり口止めはしておく。多分ないだろうけど、彼女が私のことを伝えたところで、私に害はない。でも、彼女に監視がつくのはかわいそうだ。どっちみちフィーネが私のことを伝えているだろうし。

ただ目の前の少女は事情がよく分からず困惑しているけど、私はそれを無視してこの場を立ち去る。

……さて、私も目の前の問題に目を向けないとね。あの仮面ライダービルド、錬金術を使用してないことは分かってる。私には数百年ライダーシステムを使ってきたアドバンテージがあった。にもかかわらず私は負けた。

 

「……ッ!」

 

無意識に歯を食いしばる。自分が有利な状況で負けてしまった。なんて情けないんだろう。

おまけに向こうは、おそらく私のフルボトルを何本か持ってる。家を出る前に確認してみたら、何本かフルボトルがなかった。これだと次戦うときは、セレナやキャロルだときつくなるかもしれない。私でさえ勝つのが厳しくなるだろう。……それはダメだ。守ると誓った。大切な家族を、妹たちを、私は護ると決めているんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……よし、やろう。ここで立ち止まることは出来ない。あの子たちを守るためには力がいる。新たな力が――――

 




はい、小日向さん出てきました。

どうせなのでこの際言いますが、グリスブリザードやパーフェクトは本編では出ません。まあ、どちらも好きなフォームなので番外編で出します。ああ、番外編書きたいぃぃぃ!


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20 黒い科学者とパワー錬金術師、誕生してみよっか?

《3人称side》

 

《スプリングフィニッシュ!》

《バーニングレインラッシュ!》

「うらぁああああ!」

 

スクラッシュドライバーのレバーを下ろした七海が、スクエアスマッシュの懐に潜り込み勢いよく蹴り上げる。

 

「はああああ!」

 

 

バ ー ニ ン グ レ イ ン

                 

                 

                 

                 

 

空へと打ち上げられたスクエアスマッシュは、セレナのキックによって撃破される。

 

「やりましたねお姉ちゃん!」

「うん。後はキャロルの方を―――」

 

《Ready Go!》

《ボルテックフィニッシュ!》

 

その時、とてつもない勢いで一体のスマッシュが、七海たちのもとに飛ばされてきた。飛ばされてきたのはフライングスマッシュ。飛行能力を持ったスマッシュだが、フライングスマッシュはダメージからか粒子となって消えた。いきなりスマッシュが飛ばされてくるという不可解な状況に、咄嗟に2人は身構える。

そんな2人に空から声がかけられる。

 

「久しぶりだね~」

「っ!?貴方は……」

 

2人の目の前に降り立ったのは、昨夜とは姿は違うものの仮面ライダービルドだった。七海とセレナは知る由もないが、変身者は宵姫黒夜という少女である。半身は白の装甲。もう片方は水色の装甲を纏い、右手には巨大なクローを、左手にはロケットのようなアミュレットを装着している。そのフォームの名がロケットパンダフォームであることを、七海は知っている。使われている2つのボトルは、なくなっていたいくつかのボトルの内の2つだ。

七海の元からはラビット、タンク、ゴリラ、ダイヤモンド、ニンジャ、コミック、タカ、ガトリング、ライオン、パンダ、ロケット、海賊、電車、ウォッチ、潜水艦、マグネット、ヘリコプター、クジラのボトルが無くなっていた。無くなり過ぎだと思った人、考えてはいけない。

 

「まさかこんなにも早く出会えるなんてね」

「……ほんとうに、最悪だね」

「あの人が、仮面ライダービルド…」

「へぇ……」

 

黒夜はセレナを興味深そうに見る。セレナはその視線に、何かゾクゾクとする何かを感じる。その様子を見ていた黒夜は、右手のクローで器用に2つのボトルを振り、ベルトにセットする。

 

《ラビット! タンク!》

《ベストマッチ!》

 

黒夜がベルトのレバーを回すと、彼女の周辺にパイプと装置が展開され、赤と青の装甲が前方と後方に形成される。

 

《Are You Ready!》

「ビルドアップ!」

《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!》

 

装甲が黒夜を挟み込むように動き、彼女はその姿を変える。ラビットタンクフォームへと変わった黒夜は、ドリルクラッシャーを召喚し2人に斬りかかる。

 

「くっ……!」

「ははっ!」

 

黒夜が最初に狙ったのはセレナだった。思っていた以上の黒夜の移動速度に対応できず、攻撃を食らってしまう瞬間に七海が割り込み、ツインブレイカ―で受け止める。しかしすぐにツインブレイカ―を弾き、七海を斬り飛ばす。

 

「がっ!」

「お姉ちゃん!」

「よそ見してる暇はないんじゃない?」

 

黒夜がセレナに向かってドリルクラッシャーを振るうが、セレナもスラッシュライザーで応戦する。次々と斬りかかる黒夜とそれを防ぐセレナが切り結んでいく。

 

「はああ!」

「があ!」

 

振り下ろされたドリルクラッシャーを受け流したセレナが、返す刀で黒夜を捉えたセレナは次第に攻勢に出る。セレナの連撃が黒夜の装甲と当たり火花を散らせる。

 

「はは……やるね。でもこれなあぐっ!」

 

黒夜はそう言ってドリルクラッシャーにフルボトルをセットしようとすると、どこからか飛んできた砲弾によってドリルクラッシャーを手放してしまう。砲弾が飛んできた方向を見ると、2台の小さな戦車「マウントキャタピライザー」が、七海の周囲を旋回していた。

 

《注ぐぅ!狙うぅ!撃ち放つぅ!》

《タンクゥイングゥリスチャァァァジ!》

《ドォッガアアアンン!!》

 

「おおう。物騒なことで」

「はっ!」

 

七海の両肩の砲塔「ブレイクゲイザー」から砲撃が行われるが、黒夜はそれを跳躍して難なく躱す。しかし、跳躍した先には主翼「バーニングスクランブラ―」を広げ、飛行しているセレナが待ち構えていた。

 

「うそ!?」

「そこです!」

「がっ!」

 

袈裟切りに振るわれたスラッシュライザーは、黒夜を切り裂き、黒夜は地面に叩きつけられる。荒い息をつく黒夜は、ゆっくりと立ち上がり、七海とセレナに向き合う。

 

「ははっ……。想定以上だね」

「貴方の感想はどうでも良い。さっさとどいてもらうよ」

「やれやれ、せっかちだね。せっかくなら、私が”これ”を作れた理由を教えてあげる」

 

《マックスハザードオン!》

 

黒夜は赤いL字状の物体を取り出し、角にあるスイッチを押す。セレナは何をするつもりかと警戒するが、”それ”を知っている七海は体を強張らせてた。

黒夜は取り出したモノ「ハザードトリガー」を、ビルドドライバーにセットし再びボトルをセットする。

 

《ラビット!タンク!》

《スーパーベストマッチ!》

《ガタガタゴットン! ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン!》

 

黒夜がレバーを回すと、前後に鋳型のような専用のフレーム「ハザードライドビルダー」が形成される。

 

《Are You Ready?》

「……ビルドアップ」

《アンコントロールスイッチ!ブラックハザード! ヤベーイ!》

 

ハザードライドビルダーが黒夜を挟みこみ、収納されるとそこには、黒い仮面ライダービルドがいた。複眼はラビットタンクフォームと変わらないが、真っ黒で刺々しい姿は明らかに危険だという事を示唆している。さらには禍々しいオーラまで放っており、その威圧に七海とセレナの2人は思わず後ずさる。

 

「な、何あれ……」

「これは…まずいかな」

「さあ、少しは耐えて……私の好奇心をしっかりと満たしてよ」

(好奇心……?)

 

七海は黒夜の呟きが気になったが、黒夜が2人に向かって走ってくるのを見て、頭を切り替えた。

 

 

そして別の場所では……

 

「はあ!甘い!」

 

仮面ライダーバルカンに変身しているキャロルが、ショットライザーの銃撃をバーンスマッシュに叩き込む。バーンスマッシュはダメージと衝撃に押され、地面に倒れこむ。

そもそもなぜ戦っているのか。今日はいつも通り工房で研究にいそしんでいたら、唐突にスマッシュとノイズの反応が現れた。複数の場所でその出現が確認されたため、数が多い方に七海とセレナが向かい、少ない場所にキャロルが向かった。そしてその向かった先に居たバーンスマッシュと戦闘になったのだ。

 

「さっさと終わらせて、七海たちの方に行かないといけないな……」

「でやあああああ!」

 

キャロルがバーンスマッシュに追撃しようとすると、キャロルとバーンスマッシュの間を”何か”が横ぎった。ビルにぶつかって止まった”何か”を見ると、炭化しているノイズだった。

何故ノイズが飛んできたのか、キャロルは先ほどの声で誰の仕業か分かっていた。

 

「あ!あなたあの時の!」

「……やはり貴様か、立花響」

「お前は・・・!」

「司令たちが言っていた通り、貴方たちもいるのね」

 

キャロルの元に来たのは3人。キャロルが予想していた立花響と、キャロルにとっては(主にセレナと七海関係で)何かと因縁がある天羽奏と風鳴翼だった。おそらく彼女たちはノイズを倒しに来たのだろう。スマッシュはあのビルドとかいうやつが、戦っているのだろう。

 

(となると、七海たちと接触してる可能性があるな)

 

一刻も早く合流しなければと考えていると、バーンスマッシュが放った火球が迫っているのに気付いたキャロルは、バックステップで回避する。奏者たちもそれぞれ回避した様だった。

 

「ちっ、邪魔をするな!」

「ねえ!私たちも手伝うよ!」

「立花、彼女はまだ味方かどうかわからないんだぞ!」

「でも、スマッシュと戦ってますし、私たちとも戦おうとしてません!だったら、協力できるはずですよ!」

 

そんな奏者たちの会話をよそに、キャロルはショットライザーを撃ちながらバーンスマッシュに接近する。十分に接近すると拳打を浴びせていく。バーンスマッシュも負けじと右腕を振るうが、キャロルは左手で受け止める。そして受け止めた腕を振り払い、回し蹴りを叩き込む。

 

「せっかくだ。こいつで止めを刺してやろう」

 

《パワー!》

《オーソライズ》

《Kmen Ridar......Kmen Rider......》

 

シューティングウルフプログライズキーとは違うプログライズキーをショットライザーにセットし、キャロルが引き金を引くと一発の銃弾が撃ちだされる。

 

「ふん!」

《ショットライズ》

《パンチングコング!》

《Enough power to annihilate a mountain》

 

軌道を変え、キャロルに向かってくる銃弾を裏拳で弾く。弾かれた銃弾はアーマーへと変わり、キャロルの新たな姿を形成する。

 

「さあ……ぶっ潰すぞ!」

 



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21 敗北……してみよっか………?

TRANS-AMさん、ジョー. さん、感想ありがとうございます!
ジョー. さんにご指摘については、自分でも考えてタグを追加しました。ありがとうございました!


それにしても黒夜ちゃんへのヘイトがヤバいことに……。


《三人称side》

 

《ショットライズ》

《パンチングコング!》

《Enough power to annihilate a mountain》

「さあ、ぶっ潰すぞ!」

 

パンチングコングにフォームチェンジしたキャロルは、バーンスマッシュが放った火球を巨大な拳「ナックルデモリッション」を振るい、弾きながら接近する。

 

「はああああ!」

 

キャロルの振るう助走が付いただけのたった一発の拳が、バーンスマッシュの火球を打ち砕き、ドッパァアアアアアンッ!!と豪快な音を響かせながらバーンスマッシュを吹っ飛ばす。

 

「うひゃぁ~。いたそぉ~」

「でたらめだぞ、あの威力…」

 

響はその威力に思わず両手で、身体を抱きしめる。その間にもキャロルは止めを刺すために、必殺技を発動する。

 

「これで止めだ!」

《パワー!パンチングブラスト!》

 

両手でショットライザーを構え、引き金を引くと両腕のナックルデモリッションがロケットのように撃ちだされ、バーンスマッシュを貫く。

 

 

 パ ワ ー パ ン チ ン グ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胴体に大きな風穴を開けたバーンスマッシュは爆発。七海の元に合流するために、キャロルが移動しようとすると響が声をかける。

 

「ねえ!待ってよ!お話をしy――――」

「オレにそんなつもりはない!それに……ッ!」

 

振り向いた瞬間、キャロルが頭を押さえる。キャロルの頭の中にノイズが走る。しかしそれはすぐに収まる。それよりも今はあの奏者たちだ。キャロルとしては時間が惜しいが、このことに関してはしっかり言わなければならないと思い、奏と翼を指差す。

 

「そこの二人には、こちらとしても因縁があるのでな」

「ッ………」

 

指を刺された2人はその因縁に心残りがあるために、そろって顔を背ける。

 

「え?因縁って……あ!行っちゃった……」

 

何も知らないのか、響は2人の反応を不思議に思う。その隙にキャロルはテレポートジェムを使い離脱する。その時、3人の奏者に通信が届く。

 

『3人とも!急いで黒夜くんが向かったエリアに向かうんだ!』

「師匠?どうしたんですか?」

 

通信の主は弦十郎からなのだが、なぜか焦っているように感じられた。その弦十郎から告げられたことは、3人にとっては驚愕することだった。

 

「黒夜くんが先ほどとはまた別の仮面ライダーと戦闘している。至急彼女を止めてくれ!」

「「「ええええええッ!」」」

 

 

 

《黒夜side》

これがハザードか……。原作見てたからその強さは知ってるけど、これは確かに強いね。

 

「ははっ!どうしたの?こんなんじゃ私は満たされないよ!」

「きゃあ!」

「あああ!」

 

目の前にいる仮面ライダーグリスと赤い仮面ライダーが吹き飛ぶ。いや、私が吹き飛ばした(・・・・・・・・)。なんて言うんだろうね?こう、自分の体を動かしてるのが自分じゃないというか、まるで俯瞰して見ているような感じ。破壊衝動に飲まれているのって、こういう感じなんだ。

 

「はああ!」

「ふっ」

「なっ!?あああッ…!」

 

赤い仮面ライダーの攻撃を掴んだ私が、なんども拳を叩きつけ殴り飛ばす。

 

《ロボッットォイングゥゥリスゥゥゥ!》

《ブルァァァァァ!》

「らああああ!」

 

次はグリスか。でも今は、ハザードの私の方が強い。

 

「でやあああ!」

「その程度!」

 

グリスの拳を左腕で逸らし、続けて振るわれたツインブレイカ―を屈んで躱す。かと思ったら、振るった勢いのまま体を回転させて、後ろ回し蹴りを放ってきた。この攻撃は予想外だったから食らっちゃったけど、左手の防御が間に合ったからそんなにダメージはない。

 

「やっぱり強いね。やっぱり諸々のアドバンテージはそっちにあるよね」

「……なんで、暴走してないの?それを使えば、そろそろ暴走するはずなんだけど」

「そんなの簡単だよ。これを作ったのは私、何かしらの設定をすることは出来る。例えば、自らの理性を別の領域に逃がしておくことで、暴走を免れたりね」

 

今の私はハザードトリガーによる破壊衝動に、とっくに飲まれている。ただ、言ったように理性は逃がしているので、破壊衝動には抗っていないながらも、理性を保てている。だから会話をすることができる。そのかわり動きはどうにもできないけど。

なんて言ってたら、グリスが再び拳を放ってきたので受け止め、私たちは組み合う格好となる。

 

「そんなこと……!」

「できるんだよ!考えてもみてよ。このビルドも、ハザードトリガーも、全部私が作ったんだよ。ボトルは貴方のを使っているし、ノイズを倒せるようになったのも貴方のボトルを解析したから。それでも大半は私が作った。ならこのくらい手を加えることができる。そしてその理由、貴方ならわかっているでしょ?」

「……貴方も私と同じ、転生してきたということ?」

「せいか、いっ!」

「グハッ!」

 

グリスとの組み合いを強引に振りほどき、拳を振るう。が、彼女はそれを耐え、私の腕を掴んで離さない。

 

「だとしても、貴方のような人に……!」

「そうそう、風鳴翼だけど、命に別状はないみたいだよ。案外早く復帰して、今も別の場所でノイズを倒してる。何故か怪我の状態が安定していて、酷くなっていなかったみたい。貴方がワザと置いてった(・・・・・・・・)ウォッチボトルのおかげで」

「ッ……!」

「ウォッチボトルの効果で、怪我の悪化が止まっていた(・・・・・・・・・・・・)。そしてあなたもある程度、こうなることを予測していた。…結局は貴方も気になっているんでしょ?この世界はホントに私たちが知っている通り(・・・・・・・・・・・)なのか。それが分かれば、ある程度自分の好きなようにできるものね」

「違うッ!」

「違わない!貴方があのキャロルの運命を変えたのも、全ては自分の為!」

「チガウッ!」

 

グリスはそう叫ぶと、私を力づくで押しのけ、ベルトのレバーを下ろす。私もハザードトリガーのボタンを押し、レバーを回す。

 

《マックスハザードオン!》

《ガタガタゴットン! ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン!》

 

レバーを回すごとに私の体から、漆黒のオーラが立ち上っていく。

 

《スクラップフィニッシュ!》

「あああアアアアッ!」

《Ready Go! オーバーフロー!》

《ハザードフィニッシュ!》

 

グリスのキックと私の上段蹴りがぶつかり、競り勝ったのは……………私だった。

 

「ふん!」

「う、ぐ、うう、ああああああッ…!」

《ヤベーイ!》

 

私の蹴りが突き刺さり、グリスは吹っ飛んで地面を転がる。それでもまだ意識はあるみたい。

 

「ぐ、ぐううう!」

「さて、と。一応上があなたと話し合ってるみたいだし、連れて変え……ッ!?」

「はああああ!」

「グウウウ!」

 

急に横から現れた仮面ライダーに殴られる。…何この威力、尋常じゃないよ。

 

「キサマがァァアア!」

「あらあら、愛しの彼女をやられて怒ってるのかな?」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」

 

うわ~。すごい怒ってる。ヤバいな……これ以上は……。

 

「黒夜さん!」

「あ、響ちゃん。翼に奏も」

「宵姫、何をしている!」

「おいおい、なんかヤバそうなことになってやがんぞ」

「ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!」

「ウグッ!」

 

巨大な拳をもろに食らってしまった。こうなったら……

 

「先生!落ち着いてください!」

「離せッ!セレナァ!オレが、アイツをぉぉ!」

「ッ!ごめんなさい先生!」

 

セレナと呼ばれた赤い仮面ライダーが、乱入してきた仮面ライダーをグリスの方に投げ飛ばし、クリスタルのようなものを割る。3人の足元に魔方陣が現れ、強烈な光を放つ。光が消えた時には3人の姿は消えていた。

 

「あ……」

「黒夜さん!?」

 

変身を解いて、倒れこもうとしたら響ちゃんが支えてくれた。

ヤバ、気を抜いたら一気に疲労が……。でもまあ、データは取れたし…ちょっとだけ、休もう……。ああ、クリスに…どやされ、る、な…ぁ……。

そして私の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 




黒夜ちゃんの頭脳がすごいチートになってしまった。ハザードの破壊衝動から理性を守れるってヤバくね?

これでまた黒夜ちゃんへのヘイトが大変なことに……


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22 陽だまりと再会しよっか?

TRANS-AMさん、感想ありがとうございます!


あとがきに大事なお知らせがあります。


《2課side》

ノイズとスマッシュの同時発生から1日経ち、2課の司令室では弦十郎と了子、装者の3人、黒夜がいた。

 

「先日の襲撃では、皆ご苦労だった。ノイズとスマッシュ、この2体が同時に現れたことで、ネフシュタンの鎧を着た女性が黒幕とみていいだろう」

「おそらく相手はソロモンの杖を持っているはずよ。ソロモンの杖なら、ノイズを使役することが可能。スマッシュも、あの女性が操っているのでしょうね」

「了子くんの言うとおり、向こうはノイズとスマッシュのどちらも、操ることができる。悪く捉えるなら、どちらも相手にしないといけない。だが、ノイズとスマッシュが同じ陣営のモノならば、第三者の介入を警戒する必要はないという事でもある」

 

弦十郎と黒夜の言葉に、装者たちは浮かない顔をする。その理由を知っている2人は、話題を変えることにした。

 

「……それで、仮面ライダーの方だが……我々としては彼女たちと手を組みたいと思っている」

「まあ、そうよね。彼女たちはノイズとスマッシュのどちらとも戦える。協力し合う関係になれば、これからの戦いも楽になるわ」

 

2人の言葉が暗に誰に向けられているか、装者たちは分かっていた。しかし当の本人が声を上げる。

 

「でも向こうはそう思ってないんじゃないかな?」

「それはどういうことだ?」

「そのまんまの意味ですよ。こちらが手を組みたいと思っていることは、とっくに知られてるんでしょ?彼女たちにその気があるなら、とっくに提案を持ちかけてくるなりしてるはずだよ」

「そういえば、あの青い仮面ライダー……因縁がどうとかって」

 

響の疑問に、翼と奏が顔を伏せる。それを見た響はさらに気になり、弦十郎に目を向ける。その時、黒夜が立ち上がり部屋を出ようとする。

 

「どこに行くんだよ?」

「帰る」

「何を勝手な……」

「1つ言っておくけど、私は貴方たちに協力はしてるだけで、2課の一員なわけじゃない」

「そんな……そう言わずにもっと協力しましょうよ」

「響ちゃん、貴方のそれは良いとこなんだろうけど……ごめんね、私には合わない」

 

そう言って黒夜は、響が伸ばそうとする手を拒絶する。響はそのやんわりとしながらも、確かな拒絶に口を閉ざしてしまう。

 

「分かった。今日はここまでとしよう」

「そうそう、今日は帰れそうにないから夕飯はいらないって、クリスに言っておいてくれないかしら」

「ん。了解」

 

了子の伝言を受け取り、黒夜は部屋を出る。しばらくして、翼と奏も部屋を出る。

 

「それでは、私たちも」

「先に上がらせてもらうぜ」

「はい、お疲れ様でした……」

 

響は2人の背中を見送り、再び弦十郎の方を向く。

 

「あの、翼さんと奏さんどうしちゃったんですか?」

「ふむ、響くんには知ってもらっておいた方が良いか……。実はだな……」

 

そうして彼の口から語られるのは、奏と翼が七海たちと戦ったこと。そしてその際、七海を激怒させてしまったこと。

 

「そんなことがあったんですね……」

「響ちゃんは、七海ちゃんのことをどう思ってるの?」

「私ですか?……悪い人じゃないと思います!」

 

了子の問いに、響は迷うことなく答える。

 

「どうして?」

「だって、2年前のコンサートでの時、その七海さんが助けてくれましたもん。それにノイズとも戦ってくれているんですよね?」

「実に響くんらしいな」

「えへへ……。それになんていうんだろう。なんだか、信念みたいなものを感じるんです」

「信念?」

「誰かを守りたい。大切にしたいっていうような……うまく言えないんですけど……。あっ!今日未来と出かける約束してるんだった!すいません師匠、私も上がります!」

「おう!楽しんで来い!」

「はい!」

 

響は駆け足で部屋を退出し、それを見届けた弦十郎は了子に尋ねる。

 

「響くんが言ったこと、了子くんはどう思う?」

「………………」

「了子くん?どうした?」

「えっ?あ、ああ、ごめんなさい。……そうね。あの子らしいとは思うし、あの子が言ってたように七海ちゃんはノイズとも戦ってる。手を組むことは出来なくても、対立する必要はないし……。いっその事、そこらへんはあの子に任せてみる?」

「響くんなら確かに、翼や奏よりかは歩み寄りやすいだろうが……。とりあえず黒幕と思われる女性を探すことが先決だな」

 

これからの行動を決めた弦十郎は、オペレーターに向かって指示を出していく。

 

 

《キャロルside》

目が覚めた時、目に入ったのは寝室の天井だった。ここは一人で寝るための寝室、確か前回はナナ姉えが使ってたはず。

 

「……くそ。自分を取り乱すとはな」

 

右手を頭に載せ項垂れる。立花響を振り切り、ナナ姉えとセレナが戦っているはずの場所に向かったら、そこには仮面ライダービルドと倒れているナナ姉えがいた。その瞬間、オレの頭の中を怒りが埋め尽くした。そしてセレナに無理矢理撤退させられ、家に帰った時には気を失っていた。

 

「はぁ……」

 

溜め息が口から零れ、2つ置いてある枕の片方を胸に抱き寝返りを打つ。ナナ姉えを守るために作った仮面ライダーバルカンだったのに、また守ることは出来なかった。その事実がオレの心を刺激する。そうして悶々としていると、立花響と言葉を交わした時のように、頭にノイズが走る。

 

「ぐッ!?」

 

あまりの痛みに、思わず頭に手を当て痛みをこらえる。なんだ、なんなんだこれは。まるで何かを思い出そうとしているような……。だが思い出したくない。思い出してしまうと、全てが変わってしまいそうな気がする。いやだ、思い出したくない、嫌だ、いやだ、イヤだ……。

 

コンコンコン

「キャロル?起きてますか」

「ッ!……ああ、エルフナインか?どうした?」

「起きたんですね。セレナ姉さんがご飯を作ってくれたんですけど……食欲はありますか?」

「ああ、食べよう」

「それじゃあ、リビングで待ってますね!」

 

次第に足音が離れていき、オレはゆっくりと息を吐く。頭に走っていたノイズはいつの間にか消えていた。とりあえず、セレナが作ったご飯を食べに行くか……。

 

 

《七海side》

私は自責の念に駆られていた。

昨日の戦闘、私はまたもビルドに手が出なかった。フルボトルを取られ、しまいにはそれを解析されてハザードトリガーを作られた。そして私と同じ転生者。

なんとか”あれ”は完成させたけど、問題は私があれを使いこなせるか。今のメンタル状態では後ろ向きな考えしか浮かばず、セレナの作ったご飯を食べ、気分転換の為に外に出ることにした。

 

「ん?ここは……」

 

気付いたら私の足は、小日向未来と出会った公園に向かっていた。彼女に「一人で抱え込むのは、良くないと思うよ」なんて偉そうに言っておいて、私の方が抱え込んでるんだよなぁ。

ここに居てもどうしようもないし、移動しようとした時、私に声がかけられた。

 

「あれ?七海ちゃん!」

「……え?」

 

振り向いたその先には、私に声をかけた小日向未来がいた。……いやそれは良い。ただ、なんで、なんで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「七海?……って、ええ!?」

 

なんで立花響が一緒に居るの!?

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

前書きにも書いた通り、大事なお知らせ……というよりお願いです。
現在届いている感想に、特定のキャラについて言われているものがあります。感想を頂いている身としては心苦しいですが、特定のキャラについて言われる際には、他の方も見ることを考慮したものを書いてください。
そもそもこのお願いをしている理由は、現在頂いている感想を不快に思っているからというわけではなく、これから先の話を書く際、さらにヒートアップした感想が届くことを考慮したためです。
私だけが読むのならいいのですが、他の方にも見える仕様状、人によっては気にしてしまうかもしれません。これが自意識過剰なのは理解していますが、読者のみなさんに少しでも私の作品を楽しんでもらいたいので、今回こういったように書かせていただきました。よろしくお願いします。

この作品が面白かったら、お気に入り登録、高評価お願いします。


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23 装者と買い物、してみよっか?

中々終わりが見えないことに焦り。30話までには無印編を終わらせたい。厳しいかなぁ


《七海side》

 

「それで、まずはどこを見に行く?やっぱり服とかかな?」

「う、うん」

「……私も、それでいいよ」

 

………どうしてこうなった。

私が今いるのは、大型ショッピングセンター。そして私の右隣には、立花響と小日向未来がいる。なんでこうなったか?時は30分ほど前にさかのぼる。気分転換の為に外に出た私は、小日向未来と立花響と遭遇。まさかの出会いに立花響が我慢できるわけもなく、声を上げたことで、小日向未来は私が2課の関係者であると勘違い。せっかくなら買い物につき合わないと誘われた。……まさかの小日向未来に。

………いやいや貴方が誘うの!?百歩譲って、立花響が言い出したならまだ分かるよ?でも小日向未来から誘うなんて予想外にもほどがあるよ!

それで、誘い自体は断ろうとしたんだけど、何を血迷ったか立花響が賛成の意を示した。それでも断ろうとしたら、なんか小日向未来から視線を向けられた瞬間承諾してた。いや、だってあれは無理だよ。怖すぎる……。

 

「あ!これなんて響に似合いそう!」

「そうかな?」

 

そして適当に入った服屋で、私の目の前で2人はこれなんてどう?とか言いながら、服を取ったりしている。正直言って、私の場違い感が半端ない。あの2人の周囲だけなんか雰囲気が違うんだよなぁ。

 

「七海ちゃん七海ちゃん」

「うん?」

「この服なんてどうかな?」

 

いつの間にか私の元に来ていた2人は、そう言って一着の服を私に見せる。2人が見せた服は、淡い青色の涼しげな雰囲気のワンピースだった。私はファッションに特にこだわりがないので、そう言ったことがよく分からず、適当に返事をする。

 

「うん。まあ、良いんじゃない?」

「そうかな?それじゃあ、さっそく着てみてよ七海ちゃん!」

「え?」

「え?」

「七海ちゃんに似合うかと思って選んだけど……」

 

私?2人のどっちかじゃなくて?立花響が言ったまさかの理由に私は少しの間呆然としていた。というかなんだ七海ちゃんって。貴方にそう呼ばれる筋合いはないんだけど。なんて思っている間に私は試着室に押し込まれてしまった。仕方ない。ここは試着しなければ許してくれないだろう。

着替えること数分。着替え終わった私は、試着室のカーテンを開ける。

 

「「おお~!」」

「そんなに見ないで……。そんなに似合ってるわけでもないでしょ」

「そんなことないよ!すっごく似合ってる!」

「うん。七海ちゃんの髪の色と合わさって、すっごい幻想的……」

 

私が着替えた姿を見せた途端、2人は同時に声を上げる。なんだか恥ずかしくなって素っ気ない態度を取ったら、すっごい褒めちぎられてさらに恥ずかしくなった。

 

「も、もう着替える」

「え~。もう着替えちゃうの?」

 

立花響が何か言ってきたが、無視することにする。カーテンを閉めて、さっさと元の服に着替える。顔が未だに紅くなっているのを感じる。おまけになんだか心臓が、バクバクいってる。

どうにかして落ち着きを取り戻し、試着室から出る。しかしそこに居たのは立花響だけだった。

 

「小日向未来は?」

「未来なら試着するって」

「そう」

「……ねえ。その、さ。七海ちゃんって……」

 

2人で小日向未来が出てくるのを待っていると、立花響が何かを言いたそうに歯切れの悪い言葉で話しかけてきた。私には彼女が何を言いたいのか、薄々気づいていた。

 

「貴方が考えている通り、私は仮面ライダーグリスの変身者だよ」

「ッ!……やっぱり」

「それで、貴方はどうするの?私をつかまえる?」

「そ、そんなことしないよ!ただ、お話ができたらなって」

「そう。じゃあ先に言っておくよ。私は貴方たちと手を組むつもりはない」

「そんなつもりじゃ……」

 

そうだろう。おそらく彼女は、そう言った損得抜きで私と話したいと思っているのだろう。それを知っているうえで、私は仲間になるつもりはないという事を突きつける。ずるい奴だ、私は。

 

「じゃあ、なんで戦ってるのか聞いてもいい?」

「………守りたいものがあるからだよ」

「ふえ?」

「何、その反応」

「い、いや、まさか答えてくれるなんて思わなかったから……」

「別に……。仲間にならないとは言ったけど、話さないとは言ってないでしょ」

 

それに言葉にこそしないが、私も話してみたいとは思っていたのだ。だってそうでしょう?あの自称神の所で見たアニメの人物が、実際に自分の目の前にも居るのだ。話したいと思うのは当然ともいえる。

 

『…結局は貴方も気になっているんでしょ?この世界はホントに私たちが知っている通りなのか。それが分かれば、ある程度自分の好きなようにできるものね』

『貴方があのキャロルの運命を変えたのも、全ては自分の為!』

 

私の頭の中に、ビルドの言葉が思い出される。違う、私はそんなこと……!

 

「七海ちゃん?どうしたの?」

「……いや、なんでもない」

 

どうやら知らずの内に顔を顰めていたみたいで、立花響に心配された。ビルドの言葉に関しては、深く考えないようにしよう。

 

「それで、他には?」

「え?」

「話、したいんでしょう?」

「あ……うん!ええと、じゃあ次は……」

 

立花響が私に質問をしようとした時、タイミングよく目の前の試着室のカーテンが開かれる。中から出てきたのは紫色のパーカーを着た小日向未来だった。

 

「どうかな……?」

「うわ~、すっごい綺麗だよ未来!」

「うん、すごい似合ってる」

 

ありきたりな言葉しか出なかったが、本当に似合っていると思う。服だけじゃなくて、私たちが褒めたせいで赤くなった顔がとてもきれ、って何を言おうとしてるんだ私は!?私はキャロル一筋でしょ!

その後私たちは、ちょうどいい時間帯だという事で、昼食を取るためにフードコートに訪れた。

 

「お腹減った―!何にしよっかな~」

「私はうどんにしよっかな」

「私も」

「2人とも決めるの速いよ!?」

「響も早く決めなよ?」

「私たちは先に行ってる」

 

私と小日向未来はうどんの店の列に並ぶ。そこまで並んでいる訳じゃないから、すぐに順番は回ってくるだろう。それまで待っていると小日向未来が私に話しかけてきた。

 

「その服、買ったんだ」

「うん。気に入ったから」

 

そう言って頷く私は一つの袋を抱えていた。中身は2人が選んでくれたワンピースだ。試着した時は恥ずかしさでああ言ったが、何だかんだで気に入ったため、購入することにしたのだ。

 

「……あのね、実はお礼が言いたかったんだ」

「お礼?」

「うん。初めて会った時、相談に乗ってくれたでしょ?あの後、響に思い切って聞いてみたんだ。そしたらさ、話してくれたんだ。響が抱えているモノを、私も抱えたい、支えたいって。言い方はちょっとズルかったかもしれないけど、響は話してくれた。七海ちゃんがアドバイスしてくれたおかげだよ」

「そっか。良かったね。……あ、それでか」

「今日誘ったのも、お礼が言いたかったからなんだ。だから、ありがとう」

 

笑顔で面と向かって言われたお礼の言葉に、思わず顔を逸らしてしまう。だって眩しすぎるから。さすがは立花響の陽だまり。

その後もしばらく話していると、私たちの番が回ってきた。そしてお互い食べたいメニューを注文し、お金を払って出来上がるのを待つ。

 

「ゲームセンター!ゲームセンター行くデスよ!」

「まずはご飯食べようよ」

「ん?今の……」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

 

なんかすっごい特徴的な語尾の声が聞こえたような気がする。いや、気のせいか?あの2人はまだ日本に居ないはずだし……。

そうやってウンウン唸ってると、私たちの頼んだものができたらしく取りに行く。先ほど立花響と別れた場所に向かうと、そこにはオムライスを持った立花響と、銀髪の女の子がいた。……あれって雪音クリス?フィーネが仲間になっているから薄々分かってはいたけど、やはりすでに知り合いらしい。親しげな感じで、立花響と話してる。

 

「別にそんなんじゃねえからな!私はあいつとはそんなんじゃねえし……。ああもう!私は行くぞ。あいつを待たせてるしな」

「うん、わかったよ。じゃあね~」

 

私たちが近づくと、ちょうど雪音クリスが離れていくところだった。彼女が言ってた”あいつ”って誰だろ。風鳴翼かな?だったらアイツなんて呼ばないか……。うーん分からん。

 

「響」

「あ、未来、七海ちゃん。お帰り」

「ただいま。響はオムライスにしたんだ」

「うん!ちょうど空いてたんだ」

「それじゃ、食べよっか?」

「そうだね」

「「「いただきます!」」」

 

席に座った私たちは、各々の料理を食べるのだった。私はそこまで通ってるわけじゃないけど、フードコートの食べ物って、案外馬鹿に出来ないと思った。

 




今週と来週は忙しくなるので、投稿間隔が空きます。


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24 あの女の名前、聞いてみよっか?

やってしまった……(自己険悪中)
何が嫌かって、こうなることが想像できなかった私にだよ………(※投稿した話とは関係ありません)




《七海side》

ショッピングモールを楽しんだ私たちは、そろそろ良い時間だという事で帰ることになった。こんなことになるとは思ってもなかったけど、中々に楽しめた。……次はキャロルたちをつれて行こうかな。その未来を想像して、心が温かくなった。

……ああ、そのままの気持ちで帰ることができれば、どれだけよかっただろう。突然、私たちがいた場所から近い位置で爆発が起きた。それと同時にノイズの発生を知らせる警報が鳴り響く。周囲にいた人々は、少しの間呆然としていたけどすぐに悲鳴を上げ、我先にとシェルターへ向かっていく。

 

「何でこんな時に……。未来はシェルターに避難して!」

「響……行くの?」

「うん。私の力で、誰かを助けられるのなら、私はそうしたい!」

「……分かった。でも、絶対怪我しちゃだめだよ」

「分かってるよ、未来」

「あー。水を差すようで悪いんだけど。立花響、貴方は取り残されている人の救助をして」

「え?」

 

私の指示に立花響は、不思議そうな顔をしている。そりゃそうでしょうね。仲間でもない人間から指示を出されれば、誰でもそうなる。でもさ、今は私がアイツらはやりたいんだ。ほんっとうにアイツらは、間が悪い時に現れてくれるね……!

 

《ロボットゼェリィィ!》

 

警報のおかげで周囲に人影はない。残っているのは私と2課の関係者である立花響、そしてそれを知っている小日向未来だけ。正体はすでにばれているし、監視カメラに映像が残っていても問題はない。………ああでも、顔を知られたらキャロルたちを買い物に連れて行ってあげるのは、厳しくなるかなぁ。

 

「変身」

《潰れるぅ! 流れるぅ! 溢れ出るぅ!》

《ロボッットォイングゥゥリスゥゥゥ!》

《ブルァァァァァ!》

「な、七海ちゃん?」

「やっぱり、あの時の……」

「先行ってる」

《チャァァジボトル!》

《潰れな~い》

 

フェニックスボトルを装填しレバーを下ろすと、私の体を不死鳥を模した炎が包み爆発が起こった場所まで飛翔する。小日向未来は私の姿を知らなかったからか、それを呆然と見送る。でもなんで立花響も呆然としてるの?とりあえずノイズのとこに行こう。

そして飛んでいった先にノイズの集団を発見し、炎をまき散らして降り立った場所の周囲のノイズを蹴散らす。

 

「さ~て、全員蹴散らして……ッ!」

 

私を囲むノイズを蹴散らそうとした瞬間、強力なエネルギー弾が飛んできた。それを跳躍して避けた直後、ノイズを巻き込んで爆発した。

 

「あらあら。避けられてしまいましたね」

「ネフシュタンの女!」

「そんな風に呼んでもらいたくないですねぇ。私にはアウラネルという名前があるのですから」

 

エネルギー弾が飛んできた先を見ると、そこには風鳴翼が絶唱を使った時に居たネフシュタンを纏った女だった。しっかりとした名前があるらしく、アウラネルというらしい。

 

「へぇ。そんな名前だったんだ」

《天空の暴れん坊! ホークガトリング!》

 

手にしたガトリング…ていうかもろ「ホークガトリンガー」でノイズを撃ち払いつつ降りてきたのは、ホークガトリングフォームの仮面ライダービルドだった。

 

「めんどくさい時にめんどくさいのが来た……」

「ひどいなぁ〜」

「自分の行動を思い返してみなよ」

 

一言二言言葉を交わすが、やっぱ嫌なやつ。でもなんでだろう?敵なのに、こんなやりとりをしていると、何故だか懐かしい感じに囚われる。前もそうだ。「好奇心」という言葉をビルドの口からきいたとき、何か引っかかるものがあった。結局その違和感は分からずじまいだったけど。

 

「ふふ…。丁度いいです。邪魔者はここで始末してしまいましょう」

「邪魔者はあなたなんだよ」

「そうそう。さっさと退場しなよ」

 

私とビルドは仲間ではないけど、私たちの視線はアウラネルだけに向いていた。

 

「ネフシュタンの鎧、回収する」

「あ〜。ダメだよ。あれは私の物なんだから」

「そう簡単にやれると思わないことですね!」

 

 

《三人称side》

アウラネルが2本の鞭を七海と黒夜に向かって振るうと同時に、2人もアウラネルに向かって走り出す。眼前に迫る鞭を拳や蹴りで弾くが鞭は生き物のように蠢き、不規則にしなりながら再び振るわれる。

 

「邪魔!!」

「あぶな!?」

 

七海が力任せに払った鞭が勢いよく黒夜へと向かっていき、それに気づいた黒夜が頭を下げて飛んできた鞭を避ける。おまけに黒夜が避けた先で、元々黒夜に向けて振るわれていた鞭を巻き込んだ。

 

「ちょっと!危ないでしょ!」

「だったら離れて見てれば?はあああ!」

 

黒夜が七海に抗議するが、七海は気にすることなくアウラネルに拳を放つ。しかしアウラネルもジッとしていることはなく、七海の攻撃を逸らしたりすることでダメージを食らわない。

 

「ハッ!」

「ふふ、甘いですねぇ!」

「ガッ!」

 

七海の蹴りを弾いたアウラネルは、足を弾かれたことでバランスを崩した七海に拳打を叩き込み、拳から衝撃波を放ち七海を吹き飛ばす。追撃をかけようと踏み出したアウラネルは、自身に迫る何かに気付き、すぐさま横に跳ぶ。その一瞬後、アウラネルがいた地点に大量の弾丸が撃ち込まれる。

 

「……空ですか」

「避けられたか。じゃあもういっちょ!」

「ん?ってあいつまさか!」

 

黒夜はホークガトリンガーのリボルバー部分を回し、銃口にエネルギーを貯めていく。

 

 

《Ten!Twenty!Thirty!Forty!Fifty!Sixty!Seventy!Eighty!Ninety!One Hundred! FULL BULLET! 》

【ASGARD】

 

空からホークガトリンガーの大量の銃弾が、アウラネルに向かって放たれる。しかしアウラネルは避けることもせず、命中するかに思われたが、彼女の目の前にバリアが張られ銃弾をすべて防ぐ。そして近くにいた七海も巻き込まれそうになり、急いで物陰に隠れる。

 

「この程度ですか?だったら「このやろぉ!!」はっ?」

《シィングルブレイクゥ!》

「ぐぁ!」

 

アウラネルが攻撃に転じようとした時、怒りに満ちた声と共にアウラネルの横をネフシュタンの鎧のものとは違う、鞭のようなものが通り過ぎていく。それは黒夜の足に絡みつくと、思い切り地面に叩きつける。黒夜を地面に叩きつけたのは、まさかの七海だった。

 

「仲間割れ、という感じかしら?」

「仲間じゃないって!」

 

そう叫びながら、七海はアウラネルにツインブレイカ―の銃撃を放つ。それを躱したアウラネルは鞭を振るい、七海を吹き飛ばす。その時、数発のミサイルが飛来する。

 

「ミサイル!?この程度で……」

「デヤアアアアア!!」

 

アウラネルは不意を突かれながらも、ミサイルを迎撃し撃ち落とす。だが、その際の爆発音と大量の煙が視界を塞ぎ、彼女に接近する人影に気付けなかった。

 

「雷を、握りつぶすようにぃぃぃ!」

「グハァァアア!」

 

黒炎から飛び出た少女。オレンジの鎧を身に纏い、アウラネルを殴り飛ばしたのは立花響だった。そしてその後ろに降り立つのは、彼女の援護の為にミサイルを発射した赤い鎧の少女雪音クリス。

 

「ありがとうクリスちゃん!」

「べ、別にお前の為じゃ…ってそれより……ッ!?」

「クリスちゃん!」

 

クリスは黒夜がいるであろう場所に目を向ける。その瞬間、クリスに向けて鞭が飛んでくる。注意が逸れていたクリスは、響の声でそれに気付くも体が動かなかった。

 

《ハザードオン!》

「ビルドアップ!」

《アンコントロールスイッチ!ブラックハザード! ヤベーイ!》

「クリス!」

 

鞭がクリスを貫く直前に、ハザードフォームへとフォームチェンジした黒夜が鞭を叩き落とす。

 

「大丈夫?」

「あ、ああ……」

「もう装者が来てしまいましたか。少々時間をかけすぎたようですね」

 

鞭が飛んできた先から、無傷のアウラネルが悠然と歩いて出てくる。おそらく再生能力で回復したのだろうと、クリスは歯噛みする。

 

「まさか、貴方が誰かを庇うなんて。思っても見なかったよ」

「七海ちゃん!大丈夫!?」

「お前、あの金ぴか野郎と知り合いなのか!?」

「いや、えっと、ちょっといろいろあって」

「……今は時間が惜しい」

 

そう言って七海がアウラネルに向かって一歩踏み出すと、その横に黒夜も並び立つ。

 

「優先順位があるとは言っても、今回限りでどう?」

「いいよ。決着は次ね」

「え?え?」

「クリスと響ちゃん。援護よろしく」

「おい!何言ってんだ!」

 

響とクリスは意味が分からず混乱する。2人は仮面ライダーグリスのことを知ってはいるが、仲間だとは聞いていない。むしろ並び立っている2人は、戦っていたとすら聞いている。その2人が並んでいるのだ。まるで共通の敵を倒すために、手を取り合ったかのように。

 

「お話は終わりましたか?」

「ええ。まずは貴方を倒して……」

「……その後でゆっくりと決着をつけることにするよ」

 

今ここに、装者と敵対していた2人の、今回限りの共闘が始まる。

 




七海の新フォームがいつまで経っても出せない……。

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25 ”姉”としての覚悟、宣言しようか?

アニメ 戦姫絶唱シンフォギア第1期監督の伊藤達文さんがお亡くなりになられました。こんな場ではありますが、ご冥福をお祈り申し上げます。



《三人称side》

優雅に微笑むアウラネルの目の前には、七海と黒夜が並び立っていた。お互いのことは嫌いなのだが、だからと言って脅威の優先度を無視するという愚かなことはしない。よって、2人が出した答えは同じだった。アウラネルを倒してから決着をつける。そのために今回限りの共闘が組まれた。

その時、全員に通信が入る。

 

『3人とも!話は聞かせてもらった。翼と奏は別の場所でも発生したノイズとスマッシュを対応している。それまで、仮面ライダーグリスと協力してネフシュタンの鎧を奪取してくれ!』

『ナナ姉え!キャロルとセレナ姉さんは、別の場所でノイズとスマッシュと戦っています。大丈夫だとは思いますが、気をつけてください!』

 

黒夜にはエルフナインから、黒夜とクリス、響には弦十郎から同じような内容の通信が届く。響とクリスは了解の意を返すが、黒夜と七海はそれどころではなかった。

 

「足引っ張らないでよ」

「その言葉、ひっくり返してあげる」

 

などと言い争っていた。その様子に呆れながら響は2人に声をかける。

 

「お2人とも、よろしくお願いします!」

「ん?まあ、よろしく」

「じゃ、さっさと片付けますか」

「じゃあ、まずはアタシからだな!」

 

クリスが言うと、小型のミサイルをアウラネルに向けて発射する。しかしアウラネルの鞭ですべて撃ち落される。だがその隙に、七海がアウラネルに接近し飛びかかりながら拳を放つ。

 

「はああああ!」

 

初撃から次々と拳打を繰り出し、両手でガードするアウラネルを押していく。その防御を崩すように蹴りを放ち、アウラネルの胴ががら空きになると、横から2人の間に割って入った黒夜が引き継ぐように拳打を浴びせる。

 

「ふっ!はあ!」

「ぐぅぅ!ガハッ!」

「響ちゃん!」

「はい!でやあああ!」

「ただの拳に!」

【ASGARD】

 

2人の間を通り抜けて、アウラネルに一気に肉薄した響が左の拳の一撃を叩き込む。しかし直前でアウラネルが発生させたバリアで、拳は防がれる。拳とバリアで激しい火花が散る中、響はアウラネルに問いかける。

 

「ねえ!どうしてあなたは、私たちと戦うの!」

「こんな時に何を!」

「私たちは話し合える。だから話し合おうよ!」

「私はただ与えられた命令をこなすのみ!貴女方と話し合うことなど何もない!」

「……ッ!だったらまずは、私が守りたい人たちの為に、この拳を握る!」

「何を言って……!」

「その後で、貴方とその手を握ります!」

 

徐々に響の拳がバリアを押していき、ダメ押しとばかりに振りかざした右の拳をバリアに向けて振り抜く。バリアは砕け、アウラネルの姿が無防備になる。だが、アウラネルもただでは転ばない。とっさに鞭を地面に叩きつけ、その衝撃で響は吹き飛ばされる。吹き上げた大量の土砂と粉塵が、またもアウラネルの視界を塞ぐ。

同じような状況で、つい先ほど不意を突かれたアウラネルは、周囲を警戒する。

 

「……ッ!そこですよ!」

【NIRVANA GEDON】

 

前方から気配を感じたアウラネルは、鞭の先端に発生させたエネルギー弾を投げつける。煙の中に見えるのは2人の人影。投げられたエネルギー弾は、その人影に向かっていき―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――真正面から弾かれた。

 

「なんですって……!?」

「「はあああああ!!」」

《スクラップフィニッシュ!》

《ハザードフィニッシュ!》

 

両肩のマシンパックショルダーから、ヴァリアブルゼリーを噴射し勢いを増した七海のキックと、漆黒のオーラを纏い、まさしく死へと導く黒夜のキックが、同時にアウラネルを貫く。

 

「グッ…ガアアアアアアアアア!!!」

《ヤベーイ!》

 

アウラネルはなすすべなく吹き飛び、吹き飛んだ先でぶつかったであろう瓦礫が爆発した。地面に着地し、お互いに背中合わせになった2人は、爆発にもお互いにも目もくれず距離を取り離れる。

ある程度距離を取った2人は向かい合い、七海は左手を、黒夜は右手を胸の前に掲げる。一瞬の静寂。

 

「「おおおおお!!」」

 

同じタイミングで走りだし、振るった拳が相手の胴に同時に命中、助走によって勢いが増した拳に後ずさりのけ反る。

 

「えええええ!」

「なぁああ!?何やってんだお前ら!?」

 

いきなり戦い始めた2人に、響とクリスは盛大に驚く。だが七海と黒夜は意に介さず、拳を交わす。七海が左腕を振るうが、黒夜は右腕で防ぎ左の拳で殴り飛ばす。

 

「ぐぅ!」

「さあ…決着をつけようか!」

《ニンジャ!コミック!スーパーベストマッチ!》

《ガタガタゴットン! ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン!》

《Are You Ready?》

「ビルドアップ!ハア!」

《ブラックハザード!》

「……ッ!?いない……!」

 

ハザードライドビルダーが黒夜を挟み込み、開かれるとそこには黒夜の姿がなかった。七海は黒夜の姿が見えないことに驚き、周囲を見渡すがどこにも見えない。その時、七海の背後から煙と共に現れた黒夜が、漫画のような絵が描かれた刀「4コマ忍法刀」で背中を斬りつける。背後からの奇襲に直撃を食らった七海は、黒夜が振るう4コマ忍法刀で滅多切りにされる。

 

《火遁の術!火炎切り!》

「はああああ!」

「うわああああ!」

 

黒夜が炎を纏った4コマ忍法刀を切り上げ、七海は宙を舞い地面に叩きつけられる。灰の中の空気が全て排出され、息が詰まる。通信機からエルフナインの叫ぶ声が無ければ、気を失っていたかもしれない。

 

「ガハッ!」

『ナナ姉え!』

「ふ、ふふ…ふふふ」

「待ってください!」

「ん?」

 

笑みを浮かべながら七海に近づく黒夜の前に、両手を広げ庇うように響が立ちはだかる。

 

「七海ちゃんとは話し合えます!なにも戦う必要なんて……」

「……そこをどいて。立花響」

「……え?」

 

響の背後からかけられた声に、響が振り向くと七海がフラフラとしながらも立ち上がっていた。ダメージを受けたスーツやアーマーからは、所々スパークし火花を散らしていた。

 

「ここで決着をつける……」

「なんで、そこまで」

「どいててよ響ちゃん」

 

黒夜は響の肩を掴んで、押しのけてどかす。再び向かい合った七海と黒夜は、言葉を交わす。

 

「いいの?これ以上やっても勝つのは……」

「貴方は言った。私があの子たちを助けたのは、私の為だと。確かにそうかもしれない。突き詰めれば、結局は私の自己満足なんだろうね」

「ふ~ん。ようやく理解したんだ」

「……そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……でもそれでもいい」

「は?」

「たとえ自己満足でもいい。それでもあの子たちは、こんな私のことを”姉”と慕ってくれた。……だから、私はあの子たちの”姉”であり続ける。頼りになって、困った時には何が何でも助けてあげる。そんな”姉”であるって決めたの」

 

七海の言葉を聞いた黒夜は、唐突にその動きを止める。まるで、それが信じられないかのように。七海はその変化に気付かず、否、気づいたが気にすることなく言葉を続ける。

 

「だから、何度でも立ち上がる。私が死ぬときは………あの子たちの姉でいられなくなった時だ」

 

そう宣言した七海は、ベルトに付けてあるホルダーからアイテムを取り出す。スクラッシュゼリーではなくフルボトルを細長くしたような形のボトル、メーターが付いた長方形のパーツが上部にくっ付いたアイテム。その名は「クラッシュブースター」。七海は長方形のパーツの右側にあるダイヤルを回す。

 

《チャージ!》

《オーバーグリスゥ!》

 

ボトル部分を下にして、スクラッシュドライバーにセットすると、七海の体をスパークが駆け巡り体を鋭い痛みが走る。

 

「グッ、ウウウウ、アアアアアアアアアアア!!」

「七海ちゃん!」

 

全身を駆け巡る痛みに、七海は絶叫する。そのあまりにも痛々しい叫びに、響は思わず声をかけてしまう。だがそれすら聞こえないのか、絶叫が周囲に響き渡る。しかし、七海の右手は確かにスクラッシュドライバーのレバーに伸びていた。

 

「グウウウウウウ!」

《オーバーチャージィ!》

 

歯を食いしばり、レバーを下ろすとクラッシュブースターのメーターの針が、左から右へと振れる。すると七海を覆うようにガラスの筒「ケミカライドグラス」が形成され、スクラッシュドライバーのプレス部分を模した「クラッシュプレス」が、ケミカライドグラスを挟むように展開される。そして、ケミカライドグラスの中がマグマのような煮えたぎった液体で満たされる。

 

《限界ブレイクゥ!激熱突破ァ!オーバーグリス!》

《ウラアアアアアアア!》

 

クラッシュプレスがケミカライドグラスを勢いよく挟み込み、粉々に破壊する。中の液体が溢れだし、ぼこぼこと沸騰した液体が爆発し七海の姿が現れる。

全身を輝く金色のアーマーが包み、その鎧には赤色の線が走り、左手にはツインブレイカ―ではなく手甲。そして装甲の至る所から蒸気が噴き出ている。その様子はまるで、暴走機関車のよう。

 

「……ははっ。ほんとうに、さいっこうだよ」

 

変わり果てた七海の姿に、響とクリスは開いた口が塞がらず、黒夜は高揚感が抑えきれなかった。七海は静かに、ただ静かに右の拳を胸に当てる。

 

「………仮面ライダーオーバーグリス。心火を燃やして、ぶっ潰す(・・・・)……」

 

囁くような、呟くようなその言葉を遮るように、蒸気が大きく噴き出した。

 

 

 

 




ついに出せた新フォーム!次話で新フォームの解説出します。

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26 因縁の相手をついに撃破!してみよっか?

TRANS-AMさん、感想ありがとうございます!

あとがきの方で新フォームの解説を載せておきます。


《3人称side》

 

《限界ブレイクゥ!激熱突破ァ!オーバーグリス!》

《ウラアアアアアアア!》

 

「……心火を燃やして、ぶっ潰す……」

 

身体の至る所から蒸気を噴出し、オーバーグリスへと変身した七海はその場に佇む。黒夜は七海の新たな姿を見て、堪えきれないと言わんばかりに殴りかかる。

――――残り300秒

 

「…は、はは、ハハハ!」

「………」

 

黒夜の拳が七海に命中する。が、七海はその場から動くこともなく、大してダメージが入っているようにも見えなかった。それでも黒夜は何度も拳打を七海に浴びせる。そのすべてに、七海は反応を示さなかった。しかし、突然振るわれた拳を七海が掴み取る。

 

「ッ!?」

「……効かないよ」

「ガハッ!?」

 

左腕で黒夜の拳を掴んだまま、今度は七海が拳を振るう。振るわれた拳は黒夜に命中し、大きく吹き飛ばした。黒夜は地面を転がり、七海は追撃を掛けずただその場に佇む。まるで追撃を掛ける必要はないと言わんばかりに。

当の黒夜は、未だに笑い続けながら4コマ忍法刀のトリガーを引く。

 

《影分身の術!》

 

七海を囲むように、黒夜の分身体が2体現れる。3対1となり不利に思われた七海だったが、本人は冷静にクラッシュブースターのダイヤル「ロンダリングダイヤル」を回す。

―――――残り270秒

 

《ブースト!》

《オーバーブースト!》

 

《ブースト!》の音声と共に、七海はレバーを下ろす。クラッシュブースターのメーターの針が動く。分身体と同時に黒夜が攻撃を仕掛けようとした時、黒夜の姿が唐突に消えた。

 

《ブーストアタック!》

「どこに行っグハッ!」

 

その一瞬後、2体の分身体が攻撃を食らい、黒夜も何かに殴り飛ばされる。再び地面を転がり、顔を上げた時には背中を向けている七海の姿があった。それを視界に入れた時、黒夜はすぐさま理解した。消えたのではなく、超高速で移動し自分たちを攻撃したのだと。

―――――残り185秒

 

「まったく、なんて力……。頭でも冷やしてあげようか?」

《海賊!電車!スーパーベストマッチ!》

《ブラックハザード!》

 

海賊レッシャ―ハザードへとフォームチェンジした黒夜は、弓型武器「カイゾクハッシャー」で斬りかかる。七海はそれを左腕の手甲「スチームパンツァー」で防ぐ。黒夜は両手で強引に押し込もうとするが、全く動くことがない。

 

「グ、グウウウウ!」

「……足りない」

「何?」

「まだまだ足りない!」

「ガァ!」

 

カイゾクハッシャーを弾き、スチームパンツァーによる一撃が黒夜を襲う。黒夜はその威力に驚いたが、一番驚いたのは七海の荒々しさだった。しかし考える時間などなく、今まで自分から動かなかった七海が、自分から攻め始めた。

 

「最大!」

「グァ!」

 

スチームパンツァーを黒夜に叩きつける。黒夜は防御したにも関わらず、衝撃はその防御を貫通してダメージを与える。

 

「無限!」

「ガハッ!」

 

体勢を崩し上半身が前に折れた黒夜を、起き上がらせるように蹴り上げる。

 

「極地ィ!」

「アアアアア!」

 

蹴りによって強制的に体を起こされた黒夜に、スチームパンツァーでのアッパーが突き刺さり刈り上げる。弧を描きながら落下した黒夜は背中を強打し、肺の中の空気が絞り出さる。さらには脳震盪も起こしているのか、今にも気を失いそうだった。

―――――残り140秒

 

「まだまだ足りない……。誰が私を満たしてくれるのよぉおお!」

《バースト!》

《オーバーバースト!》

 

乱雑にレバーを下ろし、メーターは限界まで振り切れる。右足を下げ腰を落とし、構えを取る七海。明らかに決着をつけに来ていると分かるが、黒夜はダメージのせいで動けない。その時七海の前に立ちはだかる姿があった。

 

「チックショォ!やらせてたまるかよ!」

 

雪音クリスだった。クリスは七海に向けてシンフォギアの武装であるアームドギアをガトリング砲に変えて、発砲するがその全てが命中する前に蒸発した・・・・。七海の周囲は限界まで熱せられており、その熱量によって銃弾が蒸発させられたのだ。

 

「なんだと!?…ハッ!」

《バーストフィニッシュ!》

「ハアアアアアアア!!」

 

クリスが気付いた時には、すでに七海は飛び上がってキックを放っていた。背部から蒸気を噴出しながら、クリスに迫る。避けることは不可能。響も助けに入ろうとするが、間に合う距離じゃない。

 

(やられる!)

 

死を覚悟したクリスは目を瞑るが、後ろから肩を引かれる感覚・・・・・・・・・・・・に思わず目を開く。その時目に映ったのは、カイゾクハッシャーを引き絞る黒夜の背中・・・・・だった。その瞬間、自分の肩を引っ張り庇ったが誰なのかを理解したクリスは、目の前の背中に手を伸ばす。しかし時すでに遅し。

 

《海賊電車!》

「ハアアアアアア!」

 

カイゾクハッシャーから電車型のエネルギー弾が放たれるが、七海はそれを真正面から破壊してく。そして七海のキックは、一切の慈悲なく、破壊されたエネルギー弾の爆発を背景に黒夜の胸部に命中した。

――――残り30秒

 

「アアアアアアアア!」

 

爆発が晴れた場所には、膝を突き倒れる黒夜と無傷で立っている七海の姿だった。

 

「あ、ああ……」

 

爆発の余波に巻き込まれたクリスは、倒れる黒夜に手を伸ばそうとする。しかし、体が思うように動かず、遂にはクリスのシンフォギア「イチイバル」が解除される。

黒夜の方も、ダメージによるリミッターが発動したのか変身が解除される。七海が自分と同じ転生者の顔を拝もうと近づくと、ピクリと黒夜の手が動き、ゆっくりと起き上がろうとする。しかしちゃんと起き上がることができずに、膝をつくまでに留まる。それでも顔は上げたために、黒夜の顔を見ることは出来る。そして黒夜の顔を見た瞬間、七海の動きはぴたりと止まってしまう。

――――残り20秒

 

「く、クウ……」

「何で……どうして……?」

 

黒夜の顔を見た途端、七海は目に見えて動揺する。その動揺は動きにも表れ、無意識に七海は一歩後ずさる。クリスと響は、何故七海が動揺しているのかが分からず眉を顰める。

――――残り10秒

 

「嘘、だ。どうして、ここに…この世界にいる!」

「…その反応で、99.9%まで確証が持てたよ。なーちゃん(・・・・・)?」

「何を……」

 

黒夜の言葉に、七海は心臓が跳ね上がったのを感じた。そもそもなぜ七海がここまで動揺しているのか。それは七海が見た顔が、聞いた声が、自身の記憶のある人物と一致していたからだ。七海は何度も違うと否定したが、掛けられる声がその否定を一蹴する。

 

「何をって…。分かってるんでしょ?」

 

――――残り5秒,4,3,2,1

 

「嘘だ、嘘だ。だって、そんなはず……ガッ!?」

 

――――0

 

「ガアアアアアアアア!」

 

いきなり七海が絶叫を上げはじめ、同時に猛烈な勢いで蒸気が噴き出る。七海は両膝をつき、装甲は粒子へと変換され変身解除される。露わになった七海の顔を見た黒夜は、浮かんでいた笑みをさらに深いものにした。

 

「ああ…。これで100%になった。まさか、この世界で会えるなんて思いもしなかった」

 

七海に歩み寄った黒夜は、両腕を振り上げ七海を―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――優しく抱きしめた。

 

「―――は?」

「―――え?」

 

傍で事の次第を見ていたクリスと響は、その様子をポカンと眺めていた。しかし黒夜は気にすることなく、七海を抱きしめ続ける。そして七海はありえないはずの状態に混乱していた。そして無意識に、ポツリと言葉を零した。

 

「……………姉、さん」

「フフッ……」

 

姉さんと呼ばれた黒夜は、優しく微笑み抱きしめる腕に七海が苦しくない加減で力を込める。クリスと響はその光景が呑み込めず、通信機から聞こえる声に反応することは出来なかった。

 

「――――何をしている」

「………あ」

 

その時、七海でも黒夜でもない、響ともクリスとも違う声が響いた。しかし聞き覚えのある声に、七海はゆっくりと、別の場所で戦っているはずの人物に顔を向ける。その視線の先には、仕事服であるコートを羽織り、大きなとんがり帽子をかぶったキャロルがいた。ただし雰囲気が明らかに違う。いつものお仕事モードの凛々しさとは無縁の雰囲気。帽子のつばが影となっていて表情が見えにくいが、キャロルが一歩踏み出した際にその影から、一瞬だけ表情を窺うことができた。

 

「キャ、ロル……」

「…………」

 

――――無表情(・・・)だった。喜びも、悲しみも、怒りも、喜怒哀楽その全てが抜け落ちたような表情。否、1つだけあった。キャロルの視線は誰に向けられているのか?響やクリスにではない。さらに意外にも、七海にでもない。ならば残るは一人しかいない。

そこまで考えて、七海はようやく理解した。その表情に残っていた(・・・・・)感情とは、完全な憎悪。そしてキャロルが纏っているこの刺すような雰囲気……これは殺気であると。その行き先は黒夜であるということに。

 

「キサマが……」

「ヒッ……」

 

キャロルの口から放たれた言葉は、小さい声量ながらも他人を圧倒する迫力があった。少なくとも、あの立花響ですら軽く悲鳴を上げるほどには、圧倒していた。

キャロルはショットライザーを取り出し、銃口を黒夜に向け一歩、また一歩と七海と黒夜に向かって歩く。

 

「ナンデキサマガソイツヲダキシメテイルゥゥゥゥゥウウウウ!!!!」

「ッ!キャロル、ダメ!」

「ドケェエエエエ!!」

「キャッ!」

「ッ!?」

 

憎悪にまみれた言葉を吐きながら、ついには走り出したキャロルに、七海は黒夜から離れ、彼女を抱きしめて制止しようとする。しかし七海の言葉すら聞こえないほど、頭に血が上っているのか、七海の静止を振りほどき地面に突き飛ばしてしまう。そうしてようやく七海に気付いたキャロルは、目を見開き少しづつ後ずさる。

 

「オ、オレは…ち、違う!違う!そんなつもりじゃ……!」

「キャロル……」

「やめろ…そんな目で、そんな目で俺を見るなぁ!」

 

錯乱したように頭を振り、必死に叫ぶキャロルの姿は、怒られるのを怖がる子供のようだった。

 

「立花!雪音!大丈夫か!」

「おい……一体何がどうなってんだ?」

 

遅れて合流したのは、翼と奏だった。しかし自体が呑み込めない2人は、何がどうなっているのか分からない。しかし、キャロルと七海を見つけると2人は頷き合う。

 

「何があったかは知らないが、ひとまず錬金術師たちを拘束しよう」

「ああ、なんか戦意喪失している今がチャンスだしな」

「待ってください!七海ちゃんは敵じゃないんです!話し合うことができるんです!」

「しかし立花!今が絶好の機会なんだぞ!」

 

キャロルと七海を拘束しようとする2人に、響が待ったをかけた時、空から赤く燃える何かが飛来し、七海とキャロルを取り囲むように地面に突き刺さる。すると2人を周りから守るように炎の壁が噴きでる。炎の壁が消えた時には、七海とキャロルの姿はなかった。

 

「逃げられたか……」

「七海ちゃん……」

 

翼は悔しそうにつぶやき、響は七海の身を案じるように悲しげにその名を呼んだ。

 

 

 

 




仮面ライダーオーバーグリス
概要
宵姫黒夜が変身する仮面ライダービルドハザードフォームを倒すために、長いこと錬金術による開発を行っていなかった七海が、自ら一から作成した「クラッシュブースター」で変身するフォーム。
仮面ライダービルドハザードフォームを圧倒するほどのスペックを誇り、まともに戦えば大体の相手には普通に勝てる。しかし、それだけのスペックを得るために莫大なエネルギーを使用するため、制限時間を設ける必要があり、その制限時間も300秒(5分)と非常に短い。また変身時間をオーバーすると、変身者へとてつもないバックファイアが襲い掛かり、強制解除される。そのため常に残り時間を気にする必要があり、状況を見極めてから変身しないといけないので、扱いが非常に難しい。また、必殺技を使用すると、エネルギーを大量に使用するという特性上、残り時間が大幅に減少するという鬼畜仕様。(手甲型武器スチームバンカーでの必殺技も同様)
加えて普通に使用するだけでも負担が凄まじく、戦闘中にその負担で動きが鈍らないように、大量の興奮物質が分泌される。そのため変身者の言動がかなり荒々しくなる。

容姿
オーバーグリスの容姿は、仮面ライダーファイズとユニコーンガンダム(NT-D発動時)を足して2で割ったような姿。全身を金色の堅牢な装甲が覆い、そこに赤い色の線が走っている。この線には、ヴァリアブルゼリーを圧縮、凝縮することでエネルギーを高めた特殊強化ジェル「マグマニックジェル」が流れており、このマグマニックジェルによってスーツやアーマーが強化されている。しかし、無理に圧縮、凝縮したことでマグマニックジェルが秘めるエネルギーはとてつもなく、そのエネルギーを開放すると巨大な原動力ともなるが、同時に大量の熱エネルギーも解放されるため、まともに扱うことは難しく変身者に大きな負担を与え、最悪の場合自己を融解することもあり得るため、細心の注意が必要。七海はその熱エネルギーを錬金術によって蒸気に変換し、原動力としても可能な限り使用し、使いきれない分は排出することで、一度に使用するマグマニックジェルの量を抑え、大量使用による自壊のリスクを減らしている。
基本フォーム時、両肩にあった「マシンパックショルダー」は背部に移動されているとともに、大幅な強化がされ「マシンパックブースター」になっている。マグマニックジェルのエネルギーの解放、またその際発生した熱エネルギーを蒸気へと変換、原動力へと再利用する場所であり、必殺技時には蒸気を噴出してブースターとしての役割も持つ。
左手には、手甲型武器「スチームパンツァー」を装備している。

クラッシュブースター
ビルドとの初戦闘後から七海によって開発が開始された。この時のコンセプトは「グリスの限界突破」であり、ロボットスクラッシュゼリーを強化することで、グリスの性能を越えたグリスを開発する予定だった。しかし、安全マージンを十分取ったうえでの、ヴァリアブルゼリーの強化が上手くいかず作業は難航する。
そんな最中、宵姫黒夜が七海から奪ったフルボトルを解析し、「ハザードトリガー」を作成。それに伴い仮面ライダービルドハザードフォームへと強化されたことで七海は、立て続けに黒夜に辛酸を舐めさせられる。その力に対抗するために、そして大切な”家族”であるキャロルたちを守るために「ハザードを超えるハザード」というコンセプトが追加された。そのため、安全マージンの基準を下げることで、ようやく完成した。
名前に関しても「スクラッシュブースター」となる予定だったが、実際は「クラッシュブースター」という風になっているように、純粋に相手を倒すために作られたアイテムという事が分かる。
形はフルボトルを強化した「ブレイクボトル」に長方形型の部品「ブレイクチャージャー」がつけられ、T字の形になっている。ブレイクボトルにはマグマニックジェルが入っており、ブレイクチャージャーはマグマニックジェルによるブレイクボトルの自壊を防ぐ、また放出されたエネルギーの流れをコントロールする役割を持っている。ブレイクチャージャーの半円のメーターは、一度に引き出せるエネルギーの総量を表しており、それ以上のエネルギーの使用は出来ない。詰まる所リミッターである。
ブレイクチャージャーの上部にある「ロンダリングダイヤル」のメモリを切り替えることで、エネルギーの流れを切り替えることができる。デフォルトは空白。オーバーグリス変身時は「チャージ」のメモリに、「ブースト」は全体に行き渡らせることによる高速移動、「バースト」は特定の部分に集中させることで必殺技を発動する。また、各メモリにセットした際、そのメモリが発音され、レバーを下ろすと「オーバー○○!」のように、設定したメモリの頭にオーバーが付いて発音される。

武器 スチームパンツァー
オーバーグリスの武器で、ツインブレイカ―と同様に左手に装備されている。マグマニックジェルを開放した際に、内包されたエネルギーと共に放出される熱エネルギーを、錬金術によって変換された蒸気によって破壊力を増している。変換された蒸気のほぼすべてが、スチームパンツァーに使用される。
形はもろ手甲の形になっており、ツインブレイカ―のように遠距離攻撃は出来なくなった半面、近距離では絶大な破壊力を持っている。フルボトル及びスクラッシュゼリーの使用も可能で、1つしか使えないが、その1つのボトルの効果を限界まで高めることができるようになった。必殺技使用時は、「パンツァーブレイク」とスチームではなくパンツァーが名前に使用される。
またクラッシュブースターのようにメーターが付いており(こちらは円形だが)、攻撃が命中するごとにメーターの針が変動する。パンツァーブレイク発動時は、針が一周する。

変身時
オーバーグリスへの変身方法は、クラッシュブースターのロンダリングダイヤルをチャージに合わせ、ボトル部分を下にしてスクラッシュドライバーにセット。レバーを下ろすと、使用者を囲むようにガラスの筒が現れ、中にマグマニックジェルが注入されスーツを形成。その後スクラッシュドライバーのプレス部分を模した「クラッシュプレス」によってガラスが割れ、中のマグマニックジェルが溢れだし、ボコボコと鳴りながら爆発。飛び散るマグマニックジェルがアーマーを形成し変身完了となる。
短縮版は、ガラスが勢いよく割れるとアーマー形成済みで出てくる。

必殺技
・ブーストアタック
ロンダリングダイヤルを「ブースト」に合わせ、レバーを下ろすことで発動。全体にエネルギーを行き渡らせることで、仮面ライダーグリスラビットチャージ以上の高速移動が可能となり、その間に必殺技も発動可能。高速移動の時間は現実の時間で5秒。使用した際、オーバーグリスの制限時間を80秒消費する。しかし、高速移動で5秒消費してるので実質85秒。

・バーストフィニッシュ
ロンダリングダイヤルを「バースト」に合わせ、レバーを下ろすことで発動。特定の部分にエネルギーを集中させることで、高威力の攻撃を行う。基本的にはキックが多用される。キックの際は背部の「マシンパックブースター」から蒸気が噴出され勢いを増す。使用した際、オーバーグリスの制限時間を100秒消費する。しかしブーストアタックと同じ理由で、実質100秒ではない。

・パンツァーブレイク
スチームパンツァーに、任意のフルボトル及びスクラッシュゼリーをセットすることで使える必殺技。例のごとく、使用時オーバーグリスの制限時間を50秒消費する。しかし上記の必殺技と同じく(以下略)

・(ディス)チャージブレイク
基本は基本フォームと変わらないが、ヴァリアブルゼリーではなくマグマニックジェルを使用する。使うのはフルボトルなのに、使用時オーバーグリスの制限時間を70秒消費する。そのためか滅多に使われない(いちいちボトルを交換するなら、普通に必殺技使った方が速いから)。例によって例のごとく(以下略)



ということでオーバーグリスの解説でした。結構真面目に考えた結果すごい長くなっちゃいました。なんかファイズアクセルっぽくなりましたね。色々鬼畜だけど。しかも制限時間が5分というせいで、一話マルマル使っても5分しか時間が経ってないという、いろんな意味で扱いづらい……。そして考えていて思ったこと、錬金術って便利。
おかしいところとか矛盾している所があるかもしれませんが、見逃してください。

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幕間 もし次があるのなら…… 

評価☆10 トコロテンさん 
評価☆9 孤高の牛さん
感想 TRANS-AMさん
ありがとうございます!

今回の話は多少胸糞要素ありです。読まれる方は注意してください

追記 R-15タグ追加しました 


《???side》

ある日、私の父が再婚した。相手は父と同じくらいの年齢の人で、私より少し年上の娘さんがいた。だから彼女は私の義姉という事になるのだろうか。初めは仲は悪くなかったと思う。私は姉さんと呼んで慕い、姉も私のことを可愛がってくれた。でも少しづつ、それは壊れていった。

理由を上げるとするのなら、両親だろうか。姉は世間で言う天才の部類に入る人だった。何をやっても、何をやらせても一番は当たり前。そんな姉を、両親は甘やかした。それは理解できる。自分の娘が天才ならば、親としては誇らしいだろう。娘が天才だともてはやされれば、自分たちも良い思いができる。なんせ”天才”の親なのだから、何かを言うだけでも周りは褒め称える。

 

そうして蜜の味を知った両親は、その蜜をもっと求めた。そして蜜を啜るために向けられた矛先は、私だった。両親は私にも姉と同じことを求めた。しかし現実とは非常なモノ。1番がいれば、その下の2番、3番がいるのは当たり前。私がどれだけ努力をしようと、姉を追い越すどころか追いつくことすらできなかった。最初は私を励まし、応援してくれていた両親だったが、彼らにとって重要なのは結果であり、過程を褒めることはしなかった。

やがて両親は私に見向きもしなくなり、両親は姉にばかり目を向けていた。きっと私は家族とすら思われなくなったのだろう。最初は仲の良かった姉も、両親に言われたからか言葉を交わす機会も減り、ついに私は一人になった。

 

家の外でも同じだ。姉に追いつきたくて、褒めてもらいたくて、いろんなものを顧みず切り捨ててきた。姉とは違う学校だったため、私はその学校での成績は首位だったが、代わりに私に対するいじめが発生していた。姉に追いつくために、友達付き合いといったことは私にとっては邪魔にしかならなかった。そのため親しい人がいない私を庇う人もおらず教師は黙認、成績トップで自分たちを見下しているいけ好かない奴と認識された私に、味方などいるはずもなかった。

 

徐々に私の精神は弱っていき、気づいた時には目の前に吊り下げられたロープで作った輪っかがあった。そこで気づいた。私はもう限界なんだと。気付いたところで私は、抗うこともしなかった。

 

――――ああ、神様。もし次があるのなら、その時はどうか…………”家族”と、いっしょに幸せになれますように。

 

輪っかを首に掛け、せめてあまり苦しまずに逝きたいなぁと考えながら目を瞑った時、私の意識は闇に落ちた。

 

 

 

目を開けると、私は見知らぬ場所にいた。周りを見回すとあたり一面が真っ白である。その白さに汚すことすら禁忌だと思えてしまう。

 

「私は、どうしてここに・・・」

「どうやら気づいたようですね。という事は、意識の転移は成功したという事ですか―――――」

 

 

 

 

 

《???side》

ある日、私の母が再婚した。相手は母と同じくらいの年齢の人で、私より少し年下の娘さんがいた。だから彼女は私の義妹という事になるのかな?初めは仲は悪くなかったと思う。妹は私を姉さんと呼んで慕ってくれ、私も妹のことを可愛がった。初めての妹なのだ。過保護気味だったかもしれないけど、それも仕方のないことだ。でも少しづつ、それは壊れていった。

 

理由?それはきっと両親のせいじゃないかな~。少なくとも姉妹仲は良好だったし。ただ、自分で言うのもなんだけど、私は世間一般的に言う天才の部類の人間だったらしい。何をしても、すぐに一番になってしまう。非常につまんない、というかメンドクサイ。私が”天才”として少しばかり話題になれば、良い思いができると学んだ両親は、私にいろんなことをやらせてきた。芸術やスポーツ、他には家事といったことも。そのどれをも簡単にマスターし(とは言っても、その道のプロには勝てないけど)、私は通っていた学校でもちょっとした有名人だった。男女関係無しに告白されたことなんて星の数。全部断ったけど。テレビで取り上げられたこともある。

ただ、私は飽き性だった。何をしても簡単に出来てしまう故なのだろう。そういうわけで、私は日々に退屈していた。私を褒め称えては機嫌を取ろうとする両親、私を神聖化し何だかんだと騒ぎ立てる同級生。ホントめんどくさかった。

 

私が妹に興味を持ったのはそんな時だ。おそらく、もっとおいしい思いをしたい両親が妹に「お姉ちゃんのようになるよう努力するのよ」と言っていた。よく言うよ、私の努力を誉めたことなんて、一度たりともなかったくせに。しかしその言葉を真に受けた妹は、私に追いつくために努力をし始めた。驚いたことに妹は、だんだんと私に追いつき始めた。私は飽き性だが、妹は努力にかけては私を越えていたのだ。勿論私だって努力はする。幾ら天才だとしても、いきなり0の状態から完璧にこなすことなど無理な話だ。ただ私においては一定の努力でよかった。しかし妹は並以上に出来るようになっても、努力をやめなかった。それを知った時、何故だか私は心が躍った。初めて私を負かす相手になるかもしれない。それは私の退屈な日々を、急に賑やかにした。いつ私を越えてくれるのだろうか、毎日が楽しみで仕方なかった。

 

しかし、それを遮る馬鹿が現れた。私たちの両親だ。両親は結果を優先し、結果が伴わなければ過程の努力を認めることはない。いつまでたっても私に追いつくことすらしない妹を、だんだんと両親は罵倒するようになっていった。私は両親の行動が妹のやる気を削がないよう、私に目を向けるようにした。……今思えば、それが間違いだったのだろう。妹のやる気はその程度で削がれるほど、やわじゃなかった。

 

ある日、私が妹の部屋の前を通りかかった時、バタンッと何かが落ちた音がした。気になった私は、扉をノックするが反応がないことを不思議に思い部屋に入ると、そこには天井から吊り下げられたロープと地面に倒れた妹がいた。急いで駆け寄るも、妹は息をしておらずすでに死んだ後だった。そこで叫ぶことをせず動揺が比較的小さかったのは、最低な両親と接していたおかげで精神が早熟していたおかげか。

ともかく私が最初にしたことは、部屋の物色だった。妹が自殺したのだとしたら、おそらく遺書か何かを残していると思ったからだ。そして思った通り数分で遺書は見つかった。そしてすぐに両親に妹が自殺していることを伝えた。両親は慌てて部屋に行き、妹の死体を見て慌てふためいていた。私はすぐに警察に通報しようと言ったが、両親によって止められた。どういうことか聞き返すと両親は必死な顔で、公にすれば私たちの経歴に傷がつくと言い始めた。

………私は目の前の動物が何を言っているのか理解できなかった。自分の娘が自殺したというのに、何を言ってるんだ?というか私たち(・・・)?ナゼワタシガハイッテイルンダロウ?…………ふざけるな!!そう言ってやりたい気持ちだったが、ここで言ったところで効果は薄い。なんせ私の妹の死を蔑ろにしたのだ。簡単に終わらせてなるものか。

 

……きっとこの時から、私は狂い始めたのだろう

 

妹の遺体は、猿2匹が車に乗せて近くの山に運んで行った。おそらく山に埋めて隠すつもりなんだろう。私は最後ぐらい傍に居たいと言ってついて行った。そして着いた山で猿2匹は大きな穴を掘り、そこに妹の遺体を乱暴に落とし、土を被せて埋めた。私は車内でそれを眺めながら、妹が残した遺書を読んだ。内容としては、あの猿どもからの理不尽な期待、そして家族と思われなかったこと、学校でのいじめといったことに耐え切れなかったという内容だった。すべて読み終えた時、私は遺書を握る手に力が籠り、遺書はグシャグシャになっていた。その後、戻ってきた猿どもが決して口外しないように言ってきた。そんなに甘い蜜を啜っていたいのだろうか?私はどうでも良いけど。

 

それからの私の行動は早かった。今まで培ってきた人脈で妹の周囲を洗い、妹を虐めていたやつらにしっかりとお仕置きをした。あの猿どもによる虐待、あの時撮っておいた遺体遺棄の証拠等を警察に送りつけておいた。猿どもは妹の死を誤魔化す為に失踪届を出していたので、少なくとも悪戯とは思われないはずだ。

そうこうしていると、家のインターホンが鳴った。部屋の窓から外を窺うと、パトカーと数人の警察官がいた。予定通りになったことに満足し、私は最後の作業を済ませることにする。机の引き出しから取り出したのは、黒光りする拳銃。私が一から作ったものだ。こういう時に私の才能は役に立つ。

拳銃の銃口をこめかみに当てる。私の最後の作業、それは私の自殺である。そして私が残した遺書で猿どもは確実に罪に問われる。これを行う理由は2つ。1つは妹の遺書には私に関することが書いてなかったが、気づかなかった時点で私も同罪だから。

2つ目は私が死への好奇心に囚われたから。妹の自殺、いじめ加害者たちをお仕置きする際にやり過ぎて自殺する子が出ていた。それを知った時、狂っている私は死への好奇心に囚われた。やっぱ私っておかしい。

 

さて、さっさと終わらせましょうか。こめかみに当てた拳銃を握りなおして、特に何の感傷もなく引き金を引く。自作だからか、かなり大きな発砲音が鳴り、身体が倒れるのを感じる。意識が遠くなる中聞こえるのは、誰かが廊下を走る音。

 

―――ああ、神様。もし次があるのなら、今度は普通な人生を歩みたいよ。

 

そして私の意識は闇に落ちた。

 

 

目を開けると、私は見知らぬ場所にいた。周りを見回すとあたり一面が真っ白である。その白さに汚すことすら禁忌だと思えてしまう。

 

「なに、ここ・・・?」

「気づきましたか?初めまして、黒夜さん」

 

 




話が長くなったのって、この設定のせいだと思う。

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27 亀裂、走ってみよっか?

評価☆10 アカツキノソラさん
感想 皆を守るヒーローさん
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ありがとうございます!





《七海side》

――――どうしよう。今の私の心境はこの一言に尽きた。

 

「さて、お姉ちゃん?今回ばかりは言い逃れなんてさせませんよ?」

 

机を挟んで私の目の前にいるセレナが、笑顔で聞いてくる。怖い、すごい怖いよセレナ?笑顔だけどさ、なんか笑って無いもん顔が。私は優しく微笑むセレナが好きなんだよ?だからさ、もっとやさしめな笑顔をはいすいませんごめんなさい許してください。真面目にやりますのでその手に持ったスラッシュライザーは置いてね?

 

現在私たちは家のリビングで、絶賛家族会議中だ。議題は私と仮面ライダービルド…宵姫黒夜との関係性について

 

「それでお姉ちゃん?あの仮面ライダービルドの変身者について、教えてもらいましょうか?まずは名前を」

「……宵姫黒夜」

「お姉ちゃんとはどんな関係で」

「…………通信聞いてたんじゃ」

「ん?」

「いえ何でもないです言わせていただきます。……姉妹だよ。血は繋がってないけど」

「ナナ姉え。という事は、その黒夜さんという人も僕たちと同じという事ですか?」

「いいや」

 

エルの質問は当たり前だ。私とあの人が姉妹だと聞いたら、まずはそう思うだろうね。私とキャロルが出会ったのは数百年前。そこからホムンクルスに記憶を転写して生きてきた。実際姉さんなら学べば、私たちのように錬金術の奥義と呼ばれるホムンクルス錬成だってできると思う。でも、それは違うと否定できる材料が私にはあった。

 

「姉さんは錬金術士じゃないと思うし、何かしらの方法で永い時を生きてきたわけでもないと思う」

「え……?でも……」

「理由は2つ。1つ目は姉さんがわざわざ私のフルボトルを解析したってところだね。あの人ならそんなことする前に、自分で作ってるはずだよ。姉さんはそういう人だ」

「じゃあ、もう1つは……?」

「それは……」

 

2つ目の理由、それを言うには私は覚悟を決めなければならない。下手をすれば、私は彼女たちに嫌われるだろうから。でもここで言わなければ、彼女たちは納得しないだろう。だから、覚悟を決めた。

 

「……それは私が、この世界で生まれた人間じゃない、から……」

 

静寂が広がる。困惑、動揺、それらが感じ取れるほどエルとセレナは狼狽えていた。それもそうだろう。ずっと一緒に居た人が、この世界の人間じゃないなんて言い出したら、誰だって動揺する。私はちらりと視線だけを動かし、セレナの隣にいる人物を盗み見る。

 

「………………」

 

視線の先に居るキャロルは、借りてきた猫のようにおとなしかった。普段なら一番に私を問い詰めるであろうかキャロルだが、今はたいへんおとなしい。きっと理由はあれだろう。姉さんに向かったキャロルを制止した時に、私を振りほどいたことだろう。ただあれは私の自業自得だから、そんな気にしてない。でもキャロルのあの狼狽えようからして、やはりキャロルは責任を感じてるらしい。とはいえ、キャロルも話は聞いてただろう。この話において一番関係あるのはキャロルだ。

 

「ナナ姉え」

「何かな、キャロル?」

「ナナ姉えの話は本当なの?」

 

俯いていた顔を上げ、余程応えているのか甘々モードの話し方で問い掛けてくるキャロル。

 

「そうだよ」

「……前から気になってた。あの時、初めて会った時から気になってたんだ。ナナ姉えがパパと一緒に住んでた家を訪ねてきた時、私はナナ姉えを見たことなかったし、パパも知らなかった。パパを殺そうとしたあの村の人間たちも同じだ。なのにナナ姉えは、まるで分かってたかのように危機を伝えに来た」

「うん……」

「ナナ姉え―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――もしかしてナナ姉えは、知ってたんじゃないの?パパが殺されそうになることを。否、パパのことだけじゃない。セレナの一件も、下手したら2年前に起きたツヴァイウィングの事件、立花響というガングニールの装者の誕生も」

「………………」

 

キャロルの言葉に、私が返せるのは沈黙のみだった。そしてそれは、この状況において肯定の意味に他ならず。沈黙が場を支配し、やがてキャロルの体が何かを我慢するように震えだす。

 

「ナナ姉えの、ばか……」

「先生!?」

 

キャロルは席は立つと、リビングを走って出て行ってしまった。セレナが追いかけて行ったから、おそらく大丈夫だろう。というより、私が行ったところでどうするというんだ。

 

「ナナ姉え」

「うん?どうしたの、エル?」

「えっと、その………」

「ごめんね。今は、気分が優れないから」

「ナナ姉え!?」

 

私に声を掛けようと、しかし必死で掛ける言葉を探すエルを見ていると、なんだかとっても惨めな気がしてその場を離れる。きっと明日もいつものように幸せな日々が訪れると、無条件で信じていた。そんなことはないと、幸せとは容易く崩れ去るものだと学んでいたはずなのに。

これは報いなのだろう。自分に都合のいいことしか見てこなかった、浅はかで愚かな自分への。

 

《セレナside》

どうしてこうなってしまったんでしょう……。部屋を飛び出た先生を追った私は、先生が自身の工房にいることを確認し、ひとまず自分の工房に戻ることにしました。さすがに今回のことは、時間をかける必要がありそうです。

それにしても、やっぱりどうしてこうなったんでしょう。思い出されるのは先ほどの家族会議。お姉ちゃんがこの世界で生まれた人間じゃない、つまり別の世界の人間であるという事実。……ですが先生が堪えているのは、おそらく……。

そこまで考えたタイミングで、私の部屋の扉がノックされました。

 

「はい」

「セレナ姉さん。エルフナインです」

「どうぞ」

 

私の返事に反応して扉が開かれ、そこにはエルさんがいました。しかしその顔が暗く沈んでおり、その原因を察することは簡単でした。ひとまず部屋の中に招き、コーヒーを淹れます。

 

「あ、ありがとうございます」

「いいえ。それで、どうしたんですか?」

「その、なんというか寂しくなって……」

 

そう言って、先ほどからフーフーと冷ましていたコーヒーに口をつけ、少しづつ話し始めました。どうやら、昨日までとても仲の良かったお2人が喧嘩される様子を見て、”日常”が壊れてしまうのではないかと怖くなったそうです。私にも分かります。私の夢は、未だにF.I.S.にいるであろう姉さんたちと、お姉ちゃんや先生、エルさんと一緒に居られるようにすることです。もし、このままお姉ちゃんと先生の仲が、修復不可能なほどに徹底的に壊れてしまえばその夢は叶わなくなります。勿論、それを黙って見てることなどしません。ですが、一体どうすればいいんでしょうか……?

 

「あ、ああ!すいません、暗い空気にしてしまって」

「気にしないでください。う~ん。それにしてもお2人のこと、どうしましょうか」

「やっぱり、このままはよくないと思います」

「私もそう思います。でもこればっかりは時間を置くしかないかと」

「そうですよね……」

 

エルさんは顔を伏せ、しょんぼりと落ち込んでしまいました。その、幼い子供の姿で純情なエルさんが落ち込んでるのを見ると、罪悪感が浮かんできます。

 

「……なんで僕には、戦う力がないんでしょうか」

「え?」

「僕はいつも、戦いに出る3人を見送ることしかできません。オペレートもしてますが、それでも時々、自分の無力さに嫌気が差してしまいます」

 

メンタルが弱っているのか、自身の胸の内を吐露しだしたエルさんに、私は胸をキュゥと締め付けられるかのような錯覚に陥ります。私は我慢できず、エルさんを抱きしめます。

 

「セレナ姉さん?」

「良いですか?エル(・・)が家にいてくれるから、私たちは安心できるんですよ?エルの存在は、私たちを確実に助けてくれています。だから、もっと自信を持ってください」

「ぁ……」

 

誰かが家にいるという事は、とても大事なことです。エルが家で私たちの帰りを待っているから、何が何でも帰ろうと頑張れるんです。その大事な役目を引き受けてくれているエルは無力なんかじゃありません。そんな風に自分を卑下なんて、私が絶対させません。

 

 

それからしばらくの間、抱き合っていた私たちはどことなく恥ずかしさを憶え、そっと離れました。ただ、エルさんのぬくもりが離れた時に声を上げそうになったのはナイショです。

 

「そ、その、ごめんなさい」

「いえ、私もいきなり抱きついたりして、ごめんなさい」

 

よくよく考えたら恥ずかしいセリフを吐いていたことに気付いた私は、顔の火照りが引かずなかなかエルさんと顔を合わせられませんでした。

 

「あの、セレナ姉さん」

「ひゃい!ななな、なんでひょう!」

「あれってもしかして」

 

エルさんに声を掛けられたことに驚いて、変な声が出てしまいました。ですがエルさんは机に置いてあるものに夢中で、聞いてなかったようです。それはともかく、エルさんの視線の先にはアタッシュケースの形のアイテムが置いてあります。

 

「前々からエルさんの手を借りていたやつです。エルさんのおかげで何とか形に出来ました!」

「すごいですね。まさかここまで形にするなんて」

「いえ、エルさんに手伝ってもらわなかったら、きっと完成までこぎつけられなかったですから」

 

そう。これの完成は私一人では無理だった。エルさんの協力があって、やっと完成したのだ。

 

(やっぱり、エルさんは無力なんかじゃないです)

 

 

《クリスside》

 

「はあ……?この世界の人間じゃないって、どういうことだよ」

「そのまんまの意味だよ」

 

私は黒夜の言葉が受け入れられず、呆然としていた。どうやら私だけでないらしく、他の奴らもみんなポカーンてしてやがる。

私たちは現在2課の司令室に居て、黒夜を問い詰めていた。特にあの七海とかいう女と抱き合ってたから、こいつはあいつら錬金術師と繋がってんじゃねえのかって話が出てる。それを聞いた黒夜は、観念したのかいろんなことを話し出した。

ただ肝心の内容が意味不明だった。曰く、この世界の人間じゃない。曰く、あの白黄七海とは血は繋がっていないが、姉妹である。曰く、家族関係になったのは親の再婚がキッカケで、白黄は再婚前の名字だという事。

 

「はいはい!黒夜さんって錬金術士なんですか?」

「いいや?私はいたって普通の人間」

「だとしたらおかしくないか?あんたの妹さん、数百年生きてんだろ?なあ、了子さん」

「ええ。奏ちゃんの言うとおり、数百年前に私は彼女と会っている」

「それは知らないよ。というか、なーちゃんがこの世界にいると気付いたのも、2年前のことが原因だしね」

「そうだったのか……」

 

というかなーちゃんってなんだよ……。いや七海とかいうやつの渾名ってのは分かるけどさ。なんというか、すごく気に入らない。あいつ、あの白黄七海に会ってから、なんだかすっごく嬉しそう。あたしと一緒に居ても、そんな顔しねぇくせによ。

 

「叔父様、どうしましょう?」

「ふむ……。よし。時に黒夜くん」

「はい?」

「何故君が、仮面ライダーグリスが白黄七海という人物であることに気付きながらも、攻撃を仕掛けていたんだ?」

 

おっさんの言うことももっともだ。妹だっつってんのに、何で見かけるたびに攻撃してたんだろうな。

 

「なーちゃんは私を越えてくれそうだったから」

「「「「「「………………」」」」」」

 

はっ?こいつ今、なんて言いやがった?

 

「私はさ、自分で言うのもなんだけど、天才なんだ。そんな私を越えてくれそうなのは、なーちゃんだけなんだよ。毎日楽しみなんだよね~!いつになったら私を越えてくれるんだろうって。そしてそのために、私も同じ立ち位置に立った。それだけだよ」

「君は………」

「そんな……。でも、だったら何も戦う必要なんてないじゃないですか!」

「響ちゃん。それは無理なんだよ」

「え?」

「よく漫画とかであるでしょう?戦うことで分かり合うみたいな。あんな感じだよ。響ちゃんだってアウラネルに言ってたじゃん。守りたい人の為に拳を握って、次はその手を握るって」

 

そんなことを笑顔で言う黒夜に、アタシを含めて周りのやつらは何も言うことができなかった。きっと飲まれてんだ、アイツの異常性に。

 

「それじゃ、私はこれで~」

「……あ!おいちょっと待て!」

 

黒夜が部屋を出て行こうとしたので、慌ててアタシは追いかける。

 

「どうしたの、クリス?」

「どうしたのじゃねえだろ!?お前、あの錬金術師の野郎が出たらまた戦いに行くつもりだろ。……なんでだよ。どうして家族と戦えんだよ!」

 

小さいころに両親を亡くした私だからこそ、こいつを止めなきゃいけないと思った。家族と戦うなんて馬鹿げたこと、絶対にやらせ――――

 

 

「うーん、どうしてねぇ……。それはねクリス。私がどうしようもなく、狂ってる(・・・・)からだよ」

 

 

ゾワァと全身の鳥肌が立った。振り向いた黒夜の顔を見た途端、私の本能が一斉に拒絶した。それほどまでに狂ってる顔(・・・・・)だった。

黒夜はクルリッと体を回し、何も言わずに歩いていく。私はそれを見届けることしかできなかった。

 

「……く…しょ…。ち…しょ…う。ちくしょう、ちくしょう……」

 

大切なやつを止めることすらできねぇ自分が情けなくて、涙が止まらねぇ。本能が拒絶するのに、さっき見たアイツの顔が頭から離れねえ。すごく不気味な笑顔で、なのにどこか泣いているように見えて、救いを求めてるようで、どうしようもなく狂ってる顔が。

その後、心配してあたしを探しに来た翼先輩と奏先輩に発見されるまで、アタシはずっと泣いていた。

 




ここにきて広がる、両陣営ごとの溝……。次の話から無印編クライマックスに向かいます!

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28 陽だまりの意味、感じて見ようか?

評価☆8 立花オルガさんありがとうございます!

思わぬ休校で書けたので投稿。今回はクライマックスへの導入。


《七海side》

……私は今どこを歩いてるんだっけ?いや、まあ、どうでもいいか。えっと、何でここにいるんだっけ……。ああそうだ、よく分かんなくなって外に出たんだっけ?…って今外にいるんだから、当たり前じゃん。は、ハハ……。

よく回らない頭で考えながら、私はただ歩く。気付けば、またあの公園に足を向けていた。確かここで小日向未来と初めて出会って、その次もまた会って、なぜか立花響も入れて買い物に行ったんだ。そして、仮面ライダービルドを倒したと思ったら姉さんで、その後キャロルたちに私が転生者だって言ったんだ。いや転生の部分は言ってなかった。

買い物の件は一週間も前のことなのに、結構前のように感じる。あれ以来、キャロルは未だに部屋に閉じこもっているらしい。食事を持ってきてくれるセレナがそう言ってた。

 

「はあ……。それにしてもなんだか熱いな。はあ、はあ」

 

なんだか眩暈がするし、頭もガンガンする。ひとまず近くのベンチに座った私は、ただただボーっと目の前を眺めていた―――――

 

 

 

 

―――――なんだか頭に柔らかいものが乗っかっている気がする。その割には重さは感じない。……ああ、そうか。これは何かが乗っかってるんじゃなくて………

 

「う、ううん」

「ん?なんだ、起きたのか?」

 

………私が乗っかってるんだ。

 

「よー。ねぼすけ」

「雪音、クリス」

 

いつの間にか閉じていたらしい目を開けると、一番に飛び込んできたのは強烈なお日様の光。そして輝くような銀髪を持った雪音クリスだった。その雪音クリスが、私を見下ろしていた。という事は今の私ってもしかして。

 

「あんま無理しねえ方が良いぞ。結構ヤバそうだったしな」

「……じゃあ、お言葉に甘えるとするよ」

 

膝枕されてた。もう一度言う。膝 枕 さ れ て た 。なんで?なんで?なんで?全く状況が呑み込めないので、素直に聞いてみることにする。

 

「どうして私膝枕されてるの?」

「たまたま見つけたんだよ。お前が一人でいたの」

「ふ~ん。じゃあ私は拘束されるのかな?」

「安心しな。おっさんらには言ってねえし、とっつかまえたりもしねえよ」

 

ふむ、つまり2課には連絡していないということか。どういうつもりかは知らないけど。というかこの子って、誰かを介抱できるような子だったっけ?

 

「……なあ」

「んー?」

「黒夜…お前の姉ちゃんどこにいるか知らねえか?」

「知らない。というか聞いたんだ」

「そりゃあ、あんなことあったら聞くだろ。そんでまあ、お前があいつと家族だったとか、この世界の人間じゃないとか」

「それだけじゃないでしょ」

「……あいつって、狂ってんのか?」

 

なるほど。そこまで知ったのか。そう。この世界であの姉はなぜか狂ってる。何で狂ってるのかは知らない。何かあったとしたら、私が死んでからだろう。

 

「それを知ってるのは貴方だけ?」

「おそらくな。すげえ悲しそうで、苦しそうだった」

「………それで、姉さんがどうしたの?」

「ああ。しばらく帰ってこねえんだ、家に。」

「……それって―――」

「おーい!クリスー!」

 

遠くからクリスの名前を呼ぶ声が聞こえた。この声は聞き覚えがある。

 

「なんだよ。遅かったな」

「ごめんね。自販機が思ったより見つからなくて。あ!七海ちゃん起きたんだ!よかった~」

「小日向未来。貴方もいたんだってなにこれ?」

「スポーツドリンクだよ。心配したんだよ?七海ちゃんの顔すっごい熱かったし、たぶん熱中症になったんだとは思うけど…」

 

つまり私はここで軽めの熱中症になって、気を失っていたと。今日は結構気温も高いし、フラフラと外を歩いていたからなっちゃったんだろうね。私は起き上がって、小日向未来がくれたスポーツドリンクを飲む。冷たいドリンクが喉を通り、火照った体が冷えていくのを感じる。気分が落ち着くと、ふと聞いてみたいことが浮かんできた。

 

「……ねえ」

「うん?どうしたの?」

「あなたは、どうやって仲直りしたの?立花響と」

「響と?……う~ん。気付いたら仲直りしてた気がする。ほら、前に七海ちゃんが言ってくれたでしょ?気になるなら聞いちゃえばいいって」

「……ハハッ。そっかぁ」

 

立花響が彼女を陽だまりと言っている意味が、分かった気がする。それにしても結局のところ、あんまりいい答えは得られなかった。まあ、今回のは身から出たさびだ。仕方ない。

 

「そろそろ帰るよ。ありがとう。2人とも」

「体調は大丈夫なの?」

「ええ。雪音クリスの膝枕のおかげでね」

「けッ!さっさと行きやがれってんだ」

「はいはい」

 

背を向けてこの場を立ち去ろうとした時、甲高い音を響かせてサイレンが鳴りだした。

 

「ッ!これって……」

「ノイズか!小日向、シェルターに行ってろ!いいな!」

「クリス!?」

「お姉ちゃん!」

「セレナ!」

「ようやく見つけました。心配したんですよ!急に居なくなるから!」

「ごめん。でも今は」

「分かってます。行きましょう!」

 

私を探していたらしいセレナを伴い、ノイズが現れた場所に向かう。きっと今日は何かが変わる。そんな勘を感じながら。

 

 

 

《弦十郎side》

 

「急ぎ近隣住民の避難を進めろ!それから、装者たちにも出動要請だ」

 

ノイズ出現の連絡を受け、すぐさま指示を飛ばす。ここ一週間、ノイズの出現がなかったことが、ここにきて出てきたか。しかし、相変わらず妙だ。ノイズがこんなに間を開けずに出現することなど、今まで無かった。……それに例の件もある。考えすぎだと思うし、違ってほしいとも思うが、オレは2課の司令という立場だ。ならば、目を逸らすことだけはしてはいけない。

その時、ケータイの方に連絡が入った。相手は翼のマネージャーである2課のエージェントの緒川からだった。

 

「…………そうか」

 

緒川のメッセージに目を通した俺は、息を吐き覚悟を決める。どうやら、現実とは非常なものであるらしい。

 




クリスって、響を馬鹿1号って呼んだりするから、時々人を名前で呼ぶんだっけ?って戸惑うことがある。

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29 赤と青の機械人形、登場してみよっか?

《3人称side》

薄暗い廊下を、1人の女性が歩いていた。ヒールを履いているのか、歩くたびにコツコツコツと誰もいない廊下に鳴り響く。

 

「どこへ行くつもりだ?」

 

否、女性の他に一人だけいた。突如として立ちはだかった人影に、女性は足を止める。

 

「あ~ら。どうしてばれちゃったのかしら?色々と仕込んでいたはずなのに」

「あまり彼らを甘く見るなよ。あそこは紛れもなく実力主義だ。手こずりはしたが、確かに彼らは彼らの仕事を果たしてくれた。ならば、今度は我々の番だ」

「貴方に私を倒せるのかしら?弦十郎くん(・・・・・)?」

「女に手を上げたくはない。だから降伏してもらえると助かるな、了子くん(・・・・)

 

そう言って、弦十郎は構えを取る。女に手を上げたくないと言いながらも、弦十郎が臨戦態勢を取る理由。それは笑みを浮かべる了子から、黒い靄が立ち上っているからだった。

 

 

《3人称side》

 

「はあ、はあ、はあ…。いた、ノイズの群れ!セレナ!」

「はい!」

 

《ロボットゼェリィィ!》

《インフェルノウィング!》

《バーンライズ!》

《Kamen Rider…Kamen Rider…》

 

「「変身!」」

 

《潰れるぅ! 流れるぅ! 溢れ出るぅ!》

《ロボッットォイングゥゥリスゥゥゥ!》

《ブルァァァァァ!》

《スラッシュライズ》

《バーニングファルコン!》

《The strongest wings bearing the fire of hell》

 

仮面ライダーグリスと仮面ライダー迅に変身した七海とセレナは、目の前にいるノイズの群れと交戦を開始する。

 

「ハアアア!」

 

七海は次々と襲い来るノイズを殴り倒し、スクラッシュドライバーにカブトムシボトルをセットする。

 

《チャァァジボトル!》

《チャァァジクラッシュ!》

「つらぬけぇ!」

 

左腕を地面に叩きつけると、ノイズらの足元からカブトムシの角を模したヴァリアブルゼリーが突き出て、多くのノイズを串刺しにする。

セレナもスラッシュライザーを振るいノイズを切り捨てる。しかしノイズもやられっぱなしではなく、身体を鋭い槍の形に変え、突撃する。

 

「その程度の攻撃でッ!」

 

セレナは主翼「バーニングスクランブラ―」で自身を覆い、ノイズの攻撃から身を守る。翼にぶつかったノイズは、翼を保護する炎に焼かれ哀れに炭化していく。

 

「今こそあの武器の使い時です!」

 

そう言ってセレナが錬金術で取り出したのは、アタッシュケースのような物。セレナはその下部を持って開くと、剣の形状に変形する。そのまま剣を振り回し、次々とノイズを撃破していく。

 

「セレナ。それって……」

「エルさんと一緒に作っていたものです。その名もアタッシュウェポン!これはその中の一つ、アタッシュカリバーです!」

 

自信満々に説明するセレナだったが、そもそもライダーシステムに関する初期案をエルフナインに出していたのは七海であり、アタッシュウェポンもそのうちの一つであるため七海は知っているのだが、自分のおもちゃを自慢する子供の様な姿を見て、それは言わないでおこうと七海は黙っておくことにした。

そんな七海の心の内もつゆ知らず、セレナはアタッシュカリバーにバーニングファルコンプログライズキーを装填する。

 

《Progrise key comfirmed. Ready to utilize》

《バーニングカバンストラッシュ!》

 

「ハアアアア!」

 

バ ー ニ ン グ カ バ ン

               

               

               

               

               

               

 

セレナがアタッシュカリバーを一閃させると、斬撃は火の鳥へと姿を変え、セレナの間の前にいたノイズをすべて焼き払う。一通りノイズを倒したことを確認すると、セレナは七海の元に向かう。

 

「お姉ちゃん、ここら辺のノイズは全て片付いたみたいです」

「……うん」

「お姉ちゃん?どうしましたか?」

「おかしい。なんで装者が来ない?(・・・・・・・)

 

確かに警報が鳴ってからかなり早めに到着したとはいえ、私たちと同じ場所におり尚且つ先に向かっていたはずの雪音クリスがいないのはおかしい。つまり、ほんとうの警報の原因はここじゃない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)ということに……。

 

「ッ!セレナ避けて!」

「なっ!くぅ!」

 

七海が考えを巡らせていると、突然2人に向かって銃撃が放たれた。直前で七海が気付き、避けることは出来たが、奇襲を食らってしまったことに2人は怯む。その2人に笑い声と共に声がかけられる。

 

「アハハハ!残念残念!」

「ウフフフ…。避けないで頂けたらすぐに終わるのに」

「貴方たちは誰ですか!」

「アハハハ!私たちはね、ネリとネモっていうんだ!」

「ウフフフ…。私がモネでこっちがネリと言うんですよ」

「それで、何か用かな?」

 

高らかな笑い声を上げるネリと、お淑やかにしかし見下すように笑うモネ。この2人の存在は明らかに異質であり、七海とセレナに警戒心を滲ませるのに十分だった。その時、七海とセレナに通信が入る。その相手はエルフナインだった。

 

『お2人とも大丈夫ですか!』

「まあ、今はね」

『気をつけてください!ネリ、モネと名乗った者たちは生命反応がありません!』

「つまりはアンドロイド。アウラネルと一緒か」

「あら。お姉さまのことも、やっぱ知ってたのね!」

 

アウラネルが生体反応が一切ないアンドロイドというのは、前から分かっていた。そして目の前にいる2体もアンドロイド。アウラネルをお姉さまと呼んでいたことからも間違いない。一方ネリとモネは先ほど七海たちへの攻撃に使ったのであろう紫色の拳銃を取り出す。

 

「アハハハ!どうせだから見せてあげる!」

「ウフフフ…。我らがマスターから頂いたネビュラスチームガンとギアの力を……あら?マス、ター…?」

(? どうしたんだ?あの反応)

「モネ?私たちがこれを貰ったのは、お姉さまからじゃない」

「え、ええ。そうですわね……」

 

急に戸惑う様子を見せる2体に、七海とセレナはその様子を不思議に思うが、2体は気を取り直し、それぞれギアと呼んだフルボトルに似たアイテムをネビュラスチームガンのスロットに装填する。

 

《ギアリモコン!》

《ギアエンジン!》

「「カイザー」」

《 《ファンキー!》 》

 

2丁のネビュラスチームガンから出てきた煙が2体を包み、火花を散らしながらその姿を変える。共通しているのは機械的なフォルム。しかしモネは左半身が青い歯車のようなパーツに包まれており、逆にネリは右半身が赤い歯車のようなパーツに包まれている。

 

「アハハハ!すごい!すごい!これがカイザーリバース…」

「ウフフフ…。ああ…力が溢れてくる。これがカイザー…」

『そんな……。ナナ姉え達以外の仮面ライダーが……』

「仮面ライダー…とは言えないとは思うけどね。セレナ、気をつけて」

「はい……」

「さあ、壊してあげる!」

 

カイザーとカイザーリバース、七海とセレナの戦いが切って落とされた。

 

 

《装者side》

 

「でやぁあああああ!」

「こいつはおまけだぁ!」

【CUT IN CUT OUT】

 

響の拳がストロングスマッシュの外骨格を砕き、吹き飛んだストロングスマッシュにクリスが放った追撃のミサイルによって爆発する。

 

「こいつで終わりだ―!」

【LAST∞METEOR】

「ハアアア!」

【天ノ逆鱗】

 

少し離れた地点でも奏がアームドギアである大槍から発生させた竜巻でニードルスマッシュを打ち上げ、翼が巨大化させたアームドギアである刀を蹴り飛ばし貫く。ニードルスマッシュは空中で爆発、影も形も残らなかった。

それを見届けたクリスが、舌打ちと共に愚痴る。

 

「ちっ。一体どんだけ出てきやがったんだ!」

「まだまだノイズは残っていやがんな」

 

そう言って奏が空を見上げると、そこには巨大な空中要塞型ノイズが飛行型ノイズを、次々と出撃させているのが目に映った。それだけでなく、地上にもあらかた殲滅したはずのノイズが出現し始めていた。

 

「上を取られることが、こんなにも戦いにくいとは…」

「私たちが乗ってきたヘリも、落とされてしまいましたし……どうすれば…」

 

上空を飛行するノイズをどうするか、響たちが頭を悩ませているとクリスが声を上げる。

 

「……おい」

「ん?どうしたの、クリスちゃん?」

「空のやつはあたしに考えがある」

「ほんと!?」

「まさか、絶唱ってんじゃねえだろうな!」

「大丈夫だって奏先輩。アタシの命はそこまで安くねえよ」

「なら、どうするというのだ?」

 

クリスが絶唱を使うのではないのかと考えた奏は、クリスを止めようとするが。翼が絶唱を前に使い死にかけたのを思い出したゆえの奏の行動であり、その時傍にいなかったことを奏は後悔していた。が当の本人に否定され、ならばと翼が問いかけると、クリスは顔を少しだけ赤らめながら方法を伝える。

 

「私の大技で一気に殲滅する。ただ、準備をしている間は無防備になる。だから―――」

「分かった!その間、私たちがクリスちゃんを守ればいいんだね!」

「なるほど!なら任せな!しっかり守ってやるからよ」

「ええ、貴方に託すわ」

「……まったく。こっちは何も言ってないってのに…。(そんな風に言われちまったら、期待を裏切れねえだろうが…!)」

 

雪音は自分の言おうとしていたことを先に言われ、ぶっきらぼうな言葉で返すも、その顔には笑みが浮かんでいた。気合を入れるように頬を叩き、空中要塞型のノイズを向いたクリスは背中越しに返事をする。

 

「へっ!ご期待通り、デカイのぶっ放してやるよ。だから……背中は任せるからな!」

「うん!」

「ああ!」

「ええ!」

 

クリスの言葉に3人の装者は頷き、クリスを守るために迫りくるノイズを次々と撃破する。しかし、襲ってくるノイズの中にはスマッシュも混ざっていた。

 

「スマッシュ!?」

「また出てきやがったか!」

「私が出ます!」

「立花!?」

 

現れたスマッシュに響が向かっていく。スマッシュも勿論攻撃してくるが、響はそれらを躱し、弾き、スマッシュに拳打を浴びせる。

 

(ごめんね。君たちは作った人の言う事を聞いているだけなんだよね)

 

スマッシュに声を掛けようと返事はない。というか声を発せないので、意味がないと知っている響はそれでも心で語りかける。

 

(本当は、心を通わせることもできるかもしれない。でも、私にも守りたい人たちがいるんだ)

 

本当は戦いたくない。だけど戦わなければ、誰も守れない。矛盾した思いを持つがゆえに、その拳を握る。相容れない考えでも良い。ならばまずは戦って、その後に拳を開いて手を握る。その間にどんな壁があろうと、”へいき、へっちゃら”なのだ。……実はこの覚悟を最初から決めていた訳ではない。きっかけは偶然遭遇した七海と、買い物をした時だった。

 

『ねえねえ。七海ちゃん』

『何?』

『さっき、守りたいものがあるって言ってたよね。それってさ、辛かったりしないの?戦わなくてもいい人と戦う事とか…』

『………あなたが敵対者、とくにある程度知性を持っているか、人に近い姿形をしている相手と戦うことを忌避しているのは知ってる。現にノイズとかは迷わず倒してるしね』

『…………』

『別に私はそれを否定しない』

『ええ!?』

『答えが両極端なんて、一番つまらないでしょ?でも、貴方のは戦いから逃げているのと変わらない。それじゃあ、守りたいものは守れない。…逃げるなとは言わない。その代わり、自分が戦う理由というのを、しっかり見つめなおしてみて』

 

この会話のおかげで、響は自分が戦う理由を見つめなおすことができた。スマッシュとは話すことができない。そして彼らが人を襲う以上、自分たちは倒さないといけない。だからこそ、今の響に出来ることはこれ以上彼らを暴れさせず、スマッシュを作った製作者からの支配から解放してやるだけだった。たとえ偽善と言われようと、それが「敵とも味方とも手を繋ぐ」ことを胸に抱く立花響のやり方なのだ。

その決意を胸に、響は拳を握り”戦い”に臨む。

 

 

 

 




G編での響の鬱ポイントを克服しちゃった……。
七海の原作破壊という名の介入により、響にとっての戦いとは「手を繋ぐために、相手が握る拳を開かせること」になっています。当作品では、響はそれが独善的、偽善的だと理解していながらも、そのために戦うことになります。ただ七海陣営視点が多いし、協力関係というわけでもないから奏者たちの活躍が少ない……。

そして七海側に新キャラ登場!アウラネル陣営のネリとモネは、カイザーとカイザーリバースに変身するぞ!因みにカイザーとカイザーリバースを知らない人の為に説明すると、「仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL」に登場した敵キャラだ!気になる人は自分で調べてね。
快活系なネリと、静かに人を蔑む系のモネのような敵キャラって、個人的に好きなんだけど分かる人いる?

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30 仲直り、しよっか?

結局30話以内に終わらないという…。そして今回は結構長め。

それとツインブレイカ―の必殺技って、アタックモードとビームモードで名前違うんですね…(初知り)


《七海side》

 

「つゥ!こいつら、強い!」

「アハハハ!おねーさん弱ーい!」

 

目の前で無邪気に笑うネリを見据え、体勢を整える。カイザーリバースの力は、私が思っていたよりも強力だった。まあ、原作映画の方じゃラスボス(の一部)だしね……。セレナの方も手こずっているみたい。

 

「この……!いい加減にしろ!」

「へへえ~!やーだよ!」

 

ネリの戦い方は分かりやすい。攻めを念頭に置いた連続攻撃で、攻めて攻めまくる戦法。単純だが、それで実際苦戦しているため、ネリの戦闘能力の高さが窺える。しかし……。

 

「だからこそ、分かりやすい!」

「うきゃあ!」

 

ネリがスチームブレードを振り下ろした瞬間を狙って、カウンターを叩き込む。ネリと距離を話すことに成功し、私はクラッシュブースターを取り出しロンダリングダイヤルを回転させる。

 

《チャージ!》

「こんなところで時間を食っていられないんだ。一気に突破する!」

《オーバーグリスゥ!》

《オーバーチャージィ!》

 

私を巨大なガラスの筒が覆い、中身にマグマニックジェルが注入される。そしてクラッシュプレスによって筒が破壊され、マグマニックジェルが流れ出る。ボコボコと音を立て爆発し、飛び散るマグマニックジェルがアーマーを形成し、身体の至る所から蒸気が噴き出る。

 

《限界ブレイクゥ!激熱突破ァ!オーバーグリス!》

《ウラアアアアアアア!》

「心火を燃やして、ぶっ潰す…」

―――残り300秒

 

オーバーグリスへと変身した私は走り出し、ネリに拳を叩きつける。少し後ろに下がったネリはネビュラスチームガンを撃ってくるけど、それに構わず銃弾の中を突き進む。

 

「ちょっ!?」

「うらああああ!」

「ぐはっ!」

 

銃弾をものともしない私に怯んだネリに飛び蹴りを食らわせ、そのままスチームパンツァーを何度もたたきつける。止めにアッパーの要領で拳を振り上げ、ネリを吹き飛ばす。

―――残り250秒

 

「ハアアアア!」

「グアアア!」

「一気に終わらせてやる!」

 

《ブースト!》

 

ロンダリングダイヤルのメモリを「ブースト」に動かし、スクラッシュドライバーのレバーを下ろす。

 

《オーバーブースト!》

《ブーストアタック!》

「なっ!?消えたっ!ガッ!」

 

超高速でネリの背後に回り打ち上げ、そのまま数回打ち上げると地面に向かって殴り飛ばす。ネリは背中から地面に激突し、苦しそうに悶える。しかし油断はしない。続いてスチームパンツァーにロボットスクラッシュゼリーを装填する。

―――残り155秒

 

「はあ、はあ。これが、仮面ライダーグリスか。でも、あの赤い方は貴方ほどじゃないみたい。なら、まずはそっちから……」

「”家族”を、やらせるわけないでしょ!」

《スクラッシュゼリー!》

 

ネリを倒すために接近し、「パンツァーブレイク」をぶちかまそうとする。ダメージからか膝立ちのネリに向かって、スチームパンツァーを振り下ろそうとした瞬間、私の頭にある場面がよぎった。

 

『ナナ姉えの、ばか……』

「……ッ!」

「……?そこぉ!」

「しまっ!があああ!」

 

”家族”という言葉で頭をよぎった、キャロルが泣きそうな顔を背け私から離れていく場面に、私の動きは一瞬止まる。その隙を狙われ至近距離でネリのスチームガンの連射が、私に突き刺さりたまらず後退する。しかし、先ほど見たイメージが頭を離れず私は立ち尽くしてしまう。

……自分では決着をつけているつもりだったけど、思いのほか私の心の奥底にこびりついていたのだろう。私が思い描いてしまった、最悪のイメージが。

 

「アハハハ!なによ、急に動かなくなっちゃって。つまんないの」

《エレキスチーム》

「ハア!」

「ああああッ!」

 

ネリがスチームブレードのバルブを1回転させトリガーを引くと、刀身に電撃が発生する。ネリに電撃を纏ったスチームブレードを叩きつけられた私は、地面を転がる。体を走る電撃のせいで、身体が痙攣してうまく立ち上がれず、更には変身まで解除されてしまった。

 

「お姉ちゃん!くぅ…」

「ウフフフ…。よそ見している余裕があなたにあるんですか?」

「きゃあ!」

 

私が倒れたことに気を取られたセレナが、モネのスチームガンでの精密な銃撃を食らい、私同様変身解除に追い込まれてしまう。これまで、なのかな……?家族を守れず、泣かせてしまう私の限界なの?やっぱり、私に幸せな家族なんて勿体なさすぎたんだ。

 

…………そんなの嫌だ!!

 

「グ、グウウアアアア!!」

「アハハハ!まーだ立ち上がるの?」

「ウフフフ…。もう勝負はついていますのに、まだ無駄な努力をすると?」

 

当たり前だ!私は守れなかったことを悔いるために、家族が欲しかったんじゃない!私は前世で負けて(・・・)しまったけど、確かに愛を感じた時があった!だから、余計に私は絶望したんだ。

キャロルを助けたのも、原典で家族の愛を奪われたキャロルを自分に重ねていたからだ。家族の愛を失うことが、どれだけつらく苦しいことか知っているから!助けたいと思った!私がどれだけ絶望に叩き落とされようと構わない!でも、あの子たちにこの絶望を味わって欲しくない!

………はは。結局どれだけ姉だとか言っても、そうなんだ。キャロルを守りたいという事も、私のエゴに過ぎない。それでも……!

 

「それでも……私は大切な家族を守り抜いてやる!」

「ふーん。じゃあ、その大切な家族の目の前で、貴方を殺してあげる!」

「いーえ。どうせなら目の間で、大切な家族を殺してあげましょう」

「ガッ!ア、アア……」

「お姉ちゃん!」

 

ネリが私の首を掴み持ち上げる。喉が圧迫され、うまく呼吸ができずに苦しい。それでも意志は失わない。錬金術で突風を起こして、ネリを引きはがそうとするけど、それを察したネリにお腹を蹴り飛ばされる。

 

「アハハハ!もー。余計な悪あがきはしちゃだ・め~」

「ウフフフ…無様ですねぇ。ほんとうに」

 

ネリとモネが私を嘲笑いながら、スチームブレード片手に私に迫ってくる。きっと止めを刺すつもりなんだろう。酸欠からか目の前が霞む。くそ、こんなところで……。

 

「それじゃあね。おねーさん!」

 

ネリがスチームブレードを高く掲げ、勢いよく振り下ろし私は―――――

 

 

《3人称side(エルフナイン)》

 

「そんな、ナナ姉えが!………こうなったら」

 

七海たちとネリたちの戦いをモニタリングしていたエルフナインは、七海が地面に倒れる様子を見て何かを決心すると、近くに置いてあったプログライズキーを手にある場所へ向かった。

そして、キャロルの自室では、部屋の主がベッドに膝を抱えて転がっていた。

 

(…………………)

 

その心は無。何を考えるでもなく、行動するわけでもなく、ただただボーッとしているだけだった。何故かといえば、キャロルにも理由が分からないのだ。

自分の中でグルグルと渦巻いている感情が、自分たちを騙していた七海に対する本気の怒りかといえば、一概にそうとも言えない。ほんとうに分からないのだ、自分の気持ちが。

キャロルは七海家の中でも、一番に七海と同じ時間を過ごしてきた。幸か不幸か、その時間の長さがキャロルを迷わせた。

 

(ナナ姉え。私のこと、怒ってるかな?それもそうだよね。ナナ姉えにだって何か事情があるはずなのに、それを聞かずにナナ姉えを悪く言ったんだ。嫌われたって……嫌、われた、って……)

 

ここ一週間、何度目かも分からない同じ思考にハマったキャロル。しかし、今日は違った。ポロポロと涙を流し始めたのだ。いつもなら「嫌われても仕方ない」という答えにたどり着き、そして虚無の時間を過ごし、また同じ思考にループしている。ほんとうは理解しているのだ。七海が自分たちを騙し、何かに利用するような人間ではないことくらい。

だからこそ、今自分の中に渦巻くの感情がなんなのか、理解することができずに――――

 

(本 当 に そ う か ?)

 

何かがキャロルに語りかけた。

 

「ッ!?う、あ……。これは、なんだ。頭が、痛い………!」

(本当にあいつが騙していないと言えるのか?)

(よーく思い出せ)

(パパが流行病から救った村のやつらは、パパの研鑚を奇跡と一蹴しあまつさえ火刑に処したことを)

「パパが、火刑にかけられた…?そんなことはない!確かにあの時、パパはあの村の人達に殺されそうになったけど、ナナ姉えが助けてくれたんだ!お前は誰だ。私の中から出て行け!…ぐっ……う、あああ!」

 

今にも意識が飛びそうなほどの頭痛を耐え、頭の中に聞こえる声を必死に否定する。しかし、声はキャロルを侵食するかのように語りかける。

 

(本当にそうか?人間は他人を切り捨てても自分たちが生き残ることに執着し、自分たちの理解が及ばないことは必死に排除しようとするような愚か者ばかりだ!)

「だとしても、ナナ姉えは違う!」

ドンドン!

「キャロル!いますかキャロル!聞こえていたら開けてください!」

「ッ!?エルフナイン、か……?」

(ちっ。邪魔が入ったか。まあいい。せいぜい裏切られた時に後悔しないようにしないようにするんだな)

 

エルフナインが来たことに気付くと、頭に響いていた声はすーぅと消えていき、キャロルを蝕んでいた頭痛も収まった。今のは一体なんだったのか調べたかったが、エルフナインの声が切羽詰っているため、ただ事ではないと考え部屋のドアを開ける。

 

「キャロル!」

「なんだ、エルフナイン」

「ナナ姉えとセレナ姉さんがピンチなんです!お願いします、2人を助けてください!」

「なっ!?ちょっ、落ち着け!」

 

キャロルはエルフナインの言っていることがよく理解できず、いったん落ち着かせてから話を聞いた。

 

「ナナ姉えが……?」

「そうです。このままじゃあ、ナナ姉えが殺されてしまいます!僕たちが記憶の転写を行うホムンクルスは、まだ完成していません!もしそんな状況で死んでしまったら……!」

「……だが、オレは…」

「……キャロル?どうしたんですか?…ねえキャロル!」

 

キャロルの様子がおかしいことに、エルフナインは気づく。いつもなら、真っ先に飛び出すであろうはずのキャロルが、躊躇う様子を見せているのだ。明らかにおかしいと確信できるほどには、キャロルという人間をエルフナインはよく知っている。

 

「キャロル、お願いします。このままじゃ、2人が」

「しかし……」

(やはり、今のキャロルは……セレナ姉さん、お願いします。僕にほんのちょっとの勇気をください)

 

なんど声を掛けようと、キャロルは怯えた表情のまま動こうとしない。しかし、エルフナインとて退けないのだ。このままいけば、大切な家族を失うだけでなく、それによりキャロルが壊れてしまうかもしれないのだ。エルフナインはセレナの言葉を思い出し覚悟を決め、息を大きく吸う。

 

「キャロルッ!!」

「ッ!?」

 

普段のエルフナインからは考えられないほどの声量に、キャロルはビクリと体を跳ねさせる。こちらも普段のキャロルとは思えない反応に、エルフナインは彼女が余程精神的に弱っていると悟るが、遠慮せずにまくしたてる。

 

「何をウジウジしてるんですかキャロル!」

「な、何を……」

「こんなところでくすぶっている暇があったら、さっさとナナ姉え達を助けに行ってください!」

「い、一体どうしたというのだエルフナイン!」

「それはこちらのセリフです!」

 

急に憤慨しだしたエルフナインに、キャロルは困惑を隠せない。しかしエルフナインは、ズイッとキャロルに一歩詰め寄る。

 

「何を怖がっているんですかキャロル!白状しなさい!」

「こ、怖がってなどいない!」

「嘘です!ナナ姉えから拒絶されることを怖がってるくせに、何言ってるんですか!」

「は、白状しろと言っておいて、決めつけるのか!?」

「じゃあ、違うんですか!?」

「そ、それは……」

 

あまりのエルフナインの剣呑にキャロルが怯えるという、珍しい光景がそこに広がっていた。エルフナインはそっと、怯えるキャロルを優しく抱きしめる。

 

「エ、エルフナイン?」

「良いですかキャロル?知りたいことがあるなら、聞いてしまえばいいんですよ」

 

 

不思議なことに、キャロルの胸にその言葉はストンと落ちた。しかしエルフナインはキャロルの様子に気づかず、しゃべり続ける。

 

「キャロルが不安なら、僕が宣言します。ナナ姉えはキャロルを拒絶なんてしません」

「おまえ……」

「僕だって、”家族”の一員なんです。キャロルが苦しんでるなら、全力で支えます。応援します!でも、僕にはキャロルたちのように、戦闘になればできることはほとんどありません。だから……」

「……エルフナイン」

 

エルフナインの声が、キャロルの胸にじわじわと沁みるように入ってくる。もう、キャロルの不安は消えていた。エルフナインをギュッと短く抱きしめたキャロルは、壁に掛けていた仕事服のコートを素早く羽織り大きなとんがり帽子をかぶる。

 

「…キャロル」

「家族から応援されたんだ。いい加減立ち上がらなければな。……オレは、寂しかったんだろうな。ナナ姉えがオレを頼ってくれなかったことが。拒絶されることが怖かったが、オレも勇気を出してみるとしよう。」

「きっと、キャロルなら大丈夫ですよ。……これを」

「このプログライズキーは!だが、これは作業が難航していたはず。それに、このグリップは一体……?」

 

エルフナインがキャロルに渡したのは、1つのプログライズキー。プログライズキーはシューティングウルフに似ており、左側には片手で握れるぐらいの大きさのグリップが備え付けられている。

 

「僕がナナ姉えから任されていた仕事が何なのか、忘れたんですか?ボクの役目は、ライダーシステムの研究。戦闘になればできることは少ないですが、その前ならいくらでもあります。行きましょう、キャロル。ナナ姉えの”家族”として」

「ふっ…。そうだな。……ありがとう、エルフナイン」

「?、どうしましたか?」

「いや、なんでもない」

 

ぼそっとエルフナインへの感謝を呟き、キャロルはテレポートジェムを使い転移する。大切な家族を守るため、仲直りするために。

 

 

 

《3人称side(七海)》

 

「それじゃあね。おねーさん!」

 

逆手に持ち高く掲げられたネリのスチームブレードは、倒れている七海に勢いよく振り下ろされる――――

 

「うがッ!」

「何が…!」

 

―――ことはなかった。スチームブレードに銃弾が当てられ、ネリの手から弾かれる。さらに、突然のことに硬直したネリとモネに、大量の銃弾が浴びせられる。

 

「ふん!ボーッと立ち止まっていたら、いい的だぞ?」

「キャロ、ル……?」

 

後ろから聞こえた声に、七海は後ろを向く。そこには、ショットライザーを構えたキャロルが立っていた。そして離れた場所には、私と同じように倒れているセレナの元に向かうエルフナインがいた。

 

「無様な格好だな、七海」

「………キャロル、どうして」

「ん」

「え?」

 

七海の疑問に答えず、ぶっきらぼうに手を差し出すキャロル。七海は何の手か分からず、首を傾げるのみ。やがて痺れを切らしたのか、倒れる七海の手を取り、強引に体を起こさせる。

 

「あ……」

「七海が何を思い、何のために黙っていたのかは知らん。しっかり話したわけじゃないしな」

「…………」

「だから、決心がついた時で良い。ちゃんと話してくれ。それまで、しっかりと待っているから」

「キャロル…」

「なあに。ナナ姉え(・・・・)はオレの自慢の姉だからな。よほどの心配はしていない。それに何百年と生きているんだ。待つのは慣れている」

「ふふ…なにそれ。でも、ありがとう。キャロル」

「ッ……!?(な、何を生娘のような態度を取っているのだオレは!?)」

 

キャロルの言葉に七海が憑き物が晴れたように微笑むと、キャロルはボッ!と顔を赤くしそっぽを向いてしまう。

 

(な、何故胸がドキドキするんだ!?お、おおおお落ち着け!オレは数百の時を生きる錬金術師!胸の鼓動になどま、負けけけけることなど、あああありえん!な、ななな何するものぞ、胸の鼓動ぉー!?)

「キャロル?」

「ひゃい!?な、なんでもな…ッ!七海伏せろ!」

 

キャロルが前に飛び出て片手を突き出すと、2人を守るように魔方陣が展開されそこに多数の銃弾が突き刺さった。

 

「アハ、アハハハハ!……コケにしてんじゃねえぞぉ!」

「ウフ、ウフフフフ!ここからは一切の慈悲もなしですよぉ?」

 

壊れた人形のように狂った笑い声を上げるネリとモネ。しかしキャロルはその様子を見ても、不遜に鼻を鳴らすだけだった。

 

「ふんっ。その程度で脅しになると思っているのか?悪いがそんなものは、生きてきた中で飽きるほど見てきた!」

《バレット!》

《オーソライズ》

《Kamen Rider…Kamen Rider…》

「今度は後れを取らないよ!」

《ロボットゼェリィィ!》

 

2人のベルトから待機音声が鳴り、七海はネリとモネを左手で指差し、キャロルはショットライザーの銃口を真上に向ける。

 

「「変身!」」

《ショットライズ》

《潰れるぅ! 流れるぅ! 溢れ出るぅ!》

 

七海を覆ったビーカーに液体が注がれ、キャロルが撃ちだした一発の銃弾がキャロルの身体にぶつかり分解、アーマーを形成する。

 

《シューティングウルフ!》

《The elevation increases as the bullet is fired》

《ロボッットォイングゥゥリスゥゥゥ!》

《ブルァァァァァ!》

 

仮面ライダーグリスと仮面ライダーバルカンに変身した2人は、それぞれの武器を掲げる。

 

「心火を燃やして……」

「……ぶっ潰すぞ!」

「「ハアアアア!」」

 

2人は同時に駆けだし、ネリとモネも臨戦体勢を取る。

 

「アハハハ!今度は楽しませてよぉ!」

「うるさい!」

 

ネリがネビュラスチームガンを撃つが、七海は跳躍して避け、更にその勢いを利用し拳を放つがネリは半身になって回避。しかし七海は途切れることなく拳打を繰り出す。

勢いを載せた回し蹴りを放つもネリは身体を逸らしてスレスレで避ける。だがそれだけで終わらず、空振りの回転を利用し左手で裏拳を放つ。意表をついた攻撃に、ネリは両腕をクロスさせて受け止める。

 

「くっ…!この私が受けに回るなんて…!」

「私とあなた!どちらの攻めが苛烈か、決めようじゃない!」

「舐めるなぁ!」

 

ネリは強引に腕を振りほどき、スチームブレードのバルブを半回転させる。対する七海も、ツインブレイカ―にラビットスクラッシュゼリーとタンクスクラッシュゼリーを装填する。

 

《シングルゥ!ツゥイン!》

《アイススチーム》

「神経の先まで凍りつけぇ!」

 

タッチの差でネリの必殺技が発動。振るわれたスチームブレードから、振れたものを凍らせる冷気が噴射し、七海は直前でスクラッシュドライバーのレバーを下ろし、無謀にも逆に冷気に突っ込んでいく。そして冷気を浴びた七海は、すべてを死へと至らしめる絶対零度の氷に閉じ込めらる。

 

「アハハハ!カチンコチン!さあ、後はゆっくりと…ッ!?」

「…激情…激烈…撃破ぁ……」

「ま、まさか…そんな……!」

《スクラップフィニッシュ!》

 

勝利を確信したネリは、ビキビキッと亀裂が入る氷の塊に後ずさる。その一瞬後、氷が粉々に砕け七海の姿が現れる。

 

「な、なんなのよあんたはぁああ!!」

 

ネリは生まれて初めて、アンドロイド故に感じることのない恐怖を感じそのあまり錯乱し、叫びながらスチームブレードで斬りかかる。七海は冷静にツインブレイカ―を装着した左腕を引き絞り、振り下ろされたスチームブレードを躱し、カウンターの必殺技を叩き込む。

 

「…一撃ぃ、必殺ッ!」

《ツインブレイクゥ!》

「アアアアアッ!!」

 

ネリの腹部に直撃した必殺技は、その衝撃を全身に伝える。堪えきれなかったネリの身体は吹っ飛び、瓦礫の山に激突した。

 

 

一方キャロルとモネの方でも、戦闘は激化していた。

 

「ハッ!」

「ウフフフ…」

「何ッ!?」

 

キャロルがショットライザーで放つのと同時に、モネはスチームブレードを合体させるライフルモードのネビュラスチームガンを構える。ほぼ同時に銃弾が撃たれるが、なんと撃たれた銃弾全てが空中でぶつかったのだ。そのありえない現象にキャロルが驚きの声を上げる。しかし、すぐに気を取り直しショットライザーを発砲する。だがその全てを、またもやモネは撃ち落とす。

 

「貴様、味な真似を……」

「ウフフフ…。これが私とあなたの力の差ですよ」

「ほざけ!ならば接近すれば…!」

 

キャロルはショットライザーを連射しながら、モネに接近する。さすがのモネも近づかれると反応が間に合わなくなるのか、敢えて近づくことでキャロルの銃撃を躱そうとする。キャロルは接近されたにも関わらず、冷静に蹴りを放って迎え撃つ。モネは、両手で構えていたネビュラスチームガンで防ぎ、スチームガンを銃剣のように振るい斬撃で攻撃する。

この攻撃をキャロルは躱すことができず食らってしまい、さらには零距離での銃撃で吹き飛ばされる。

 

「うわっ!」

「私、銃が得意ですが接近が苦手というわけではないのですよ?まあ、ネリには負けてしまいますが…」

「だったら…。セレナ、借りるぞ!」

「えっ!?何で先生持ってるんですか!?ス、ストップです!それは――!」

「あとでちゃんと返してやる!こいつでも食らうわッ!?!?」

 

キャロルが取り出したのは、セレナが制作したアタッシュウェポンの一つ「アタッシュショットガン」。セレナが何かを言いかけたが、キャロルは聞く耳持たずアタッシュモードから展開し、ショットガンモードにしたアタッシュショットガンの銃口をモネに向けて引き金を引く。…と同時にキャロルを凄まじい反動が襲い、後ろに吹き飛ぶ。勿論銃口は思いっきりぶれたので、弾は見当違いの場所に飛んでった。威力はとてつもない反動があるだけに、着弾したビルの壁を粉々にしていた。

着弾時の爆音にモネが動きを一瞬止めたと言えば、凄まじさが分かるだろうか。

 

「……あちゃ~」

「おい、なんだこの反動はッ!」

「それは、威力をとことん突き詰めたせいで反動が凄まじいんですよ」

「それを早く言え!」

「言う前に使ったのは先生じゃないですか!」

「むぐっ…。ぬぉ!」

 

アタッシュショットガンの反動に文句をつけるが、セレナにものの見事に言い返される。その時キャロルの背中に銃弾が命中する。

 

「ウフフフ…。嫌ですよ。無視しちゃ」

「だったら構ってやる」

「フッ!」

 

モネがライフルモードのスチームガンで斬りかかる。キャロルはアタッシュショットガンをアタッシュモードに戻し、盾のように掲げ斬撃を防ぐ。

 

《チャージライズ!》

「どけ!」

「うぐぅ!」

 

モネはキャロルに蹴り飛ばされるも、スチームガンを素早く構えてキャロルを狙い撃つ。キャロルはそれを見越していたように、前転でモネの懐に跳び込み、アタッシュショットガンを素早く展開する。

 

《フルチャージ!》

「しまッ…!」

「この距離なら外さん!さっきのお返しだ……!」

《カバンショット!》

「アアアアッ!」

 

アタッシュショットガンの銃口をモネに押し当て、一切の慈悲なく引き金を引く。巨大な銃弾が撃ちだされ、モネは爆発と共に吹き飛ばされる。

 

「キャロル!」

「はあ、はあ、はあ…。七海か。やったのか?」

「く、くぅ。このぉ……」

 

アタッシュショットガンを肩に担ぎ周りを見渡すと、七海がキャロルと合流する。そしてネリとモネもボロボロになりながらも立ち上がる。

 

「アハ、アハハ…!まだ、まだよ……」

「ウフフ、ウフフフ…。まだ付き合ってもらいますよ…」

「ちっ、しぶとい奴らだ」

「こーんなに楽しいんだからぁ、もっとつき合いなさいよー…」

「しかし私たちが押されているのも事実…こうなったら奥の手ですねぇ」

「奥の手…?」

 

ネリとモネは再び、ギアをネビュラスチームガンのスロットに装填する。

 

《ギアリモコン!》

《ギアエンジン!》

《 《ファンキーマッチ!》 》

「「バイカイザー!」」

 

2体が口にしたのは「カイザー」ではなく、「バイカイザー」。ネリがモネにネビュラスチームガンを向け引き金を引くと、モネの姿が赤黒いスライムのようなものに変わり、ネリに吸収される。そしてネリの姿が煙に包まれる。

 

《フィーバー!》

 

弾ける火花と共に煙が晴れると、そこにはカイザーの左半身とカイザーリバースの右半身が合わさった姿があった。

 

《パーフェクト!》

『あぁ……。これがバイカイザー、帝王の力ぁ…』

 

うっとりとした声が七海たちの目の前にいるバイカイザーから発せられる。ネリとモネの声が合わさったような声だった。

 

『さあ、第2ラウンドを始めましょう?』

 

戦いはまだまだ終わらない―――

 




バイカイザー戦は、さっさと終わらせます。長すぎるから。

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31 危険な狼、強襲しよっか?

特殊タグが「|」につけようとしたら、変な感じになってしまう。理由知ってる人いたら教えてください。…私が下手なだけじゃないよね?

そしてアプリゲーム「シンフォギアXD」では超激唱ガチャが開催中!☆6キャロルが欲しすぎる。何でこういう時に石のお得パックを販売しないのか……。



《3人称side》

 

『さあ、第2ラウンドを始めましょう?』

「ふん。バイカイザーだかバカイザーだか知らないが、また倒してやる!」

 

キャロルはショットライザーで撃ちながら、バイカイザーとなったネリに接近する。キャロルの放った銃弾と拳は、命中するがネリは微動だにしない。

 

「なにッ!?」

『アハハハ…!そんな攻撃じゃぁ、痛くも痒くもないよ!』

「ぐあッ!」

 

ネリはキャロルに向けて、お返しと言わんばかりに拳を放つ。その拳はキャロルを捉え、大きく弾き飛ばした

 

「ガッ!?」

「ハアアア!」

「無駄無駄無駄!」

「グゥ…!」

 

今度は七海が接近し、ツインブレイカ―で激しい連続攻撃を繰り出すが、ネリはその全てを躱し、いなし続ける。そして一瞬の隙をつき反撃を食らわせ、ネビュラスチームガンの2丁拳銃を連射し、七海を吹き飛ばす。

更にネリが両手を掲げると、右手に赤色の、左手に青色の大きな歯車の形をしたエネルギー体を生み出し、2人に投げつける。

 

「「アアアアッ!」」

『アハハハ!これがバイカイザー!これが帝王の力!素晴らしい!アハハハ!』

「グ、ゥゥ。舐め、るなぁ!」

「ク、アアア!」

『まだ無駄なあがきを続けるの?』

 

ダメージを押して立ち上がる2人を、ネリは嘲笑う。しかし2人の心は折れない。なぜなら背中を預けることのできる、信頼する家族がともにいるのだから。

 

「お前がオレの家族を手に掛けようとした借りを、まだ返していないからな。おちおち、寝ていられるか」

『ウフフフ…。なんとでもほざけばいい。私たちの勝ちは揺るがない!』

「そいつはどうかな…?」

 

そう言ってキャロルが取り出したのは、出発前にエルフナインから渡されたプログライズキー。

 

「七海!まだ行けるだろう?」

「当たり前……。妹に守られてばかりじゃ……」

《チャージ!》

「姉なんて名乗っていられない!」

《オーバーグリスゥ!》

《オーバーチャージィ!》

《オーバーグリス!》

 

七海はクラッシュブースターをスクラッシュドライバーにセットし、オーバーグリスへとフォームチェンジする。それを見たキャロルも、新たな力「アサルトウルフプログライズキー」の「アサルトグリップ」を握り展開、ショットライザーに装填する

 

《アサルトバレット!》

《オーバーライズ!》

《Kmen Ridar......Kmen Rider......》

「ふん!」

 

銃口を真上に向け引き金を引いて撃ちだされた銃弾は、いつものように進行方向をキャロルに向けるがいつもと異なる部分があった。それは撃ちだされた銃弾が狼の幻影を纏っていること。オオカミの幻影はキャロルに噛みつき、その身体をアーマーへと変えていく。

 

《レディーゴー!アサルトウルフ!》

《No chance of surviving》

 

明るい青色と白色がベースのシューティングウルフと違い、深みのあるブルーとブラックがベースとなったボディスーツ。その色合いは危険を匂わせ、しかし変身者に危害を及ぼすことはない。この幼き体で悠久の時を生きてきた少女には、”頼りになる家族”がいるのだから。

 

「セーフティーリミッター稼働良好。パーソナルアラウンドにも不備はない…。エルフナインめ……いい仕事をしてくれる!」

「当たり前です!危険だと分かっている物を、キャロルに使わせるわけにはいきませんから!」

 

アサルトウルフの各システムがきちんと働いていることを確認し、キャロルは家族のありがたみを再確認する。

 

「さあ、一気にぶっ潰す!」

「「オオオオ!」」

『小癪な!』

 

七海とキャロルは同時に駆けだし、まずキャロルがネリに飛び蹴りを食らわせる。それは躱されるが、後から続く七海が拳打を浴びせキャロルも攻撃する。挟撃される形となったネリは、たまらず後退する。

 

『くぅ…!』

「逃がすか!」

 

七海の背部のマシンパックショルダーから蒸気が勢いよく噴射され、空いた距離を一瞬で詰めるとがら空きの胴に拳打を叩き込む。

 

「ハア!」

『ガァ…!野良犬如きが!』

「狂った人形が何をッ!」

 

ショットライザーの銃撃でネリを怯ませたキャロルが、攻撃を続けるも攻撃をいなしたネリに、後ろ向きで蹴りを入れられ地面を転がる。しかしキャロルは転がった状態で、振り向いたネリを狙いショットライザーを連射する。

 

『グァアア!』

「一気に決めてやる!」

「先生!これを使ってください!」

 

セレナが怪我を押してキャロルに投げ渡したのは、アタッシュショットガンよりも大き目の銃。その名を「オーソライズバスター」。セレナがエルフナインと協力して作っていたアタッシュウェポンとは、また別系統の武器である。

とにかく今重要なのは、オーソライズバスターはアタッシュウェポンよりも高出力な代わりに、その負担も凄まじいものになっておりアタッシュショットガンをも超える反動が発生する。そのためこれの使用は半ば諦めていたが、アサルトウルフならばと思い渡したのだ。

 

『このぉ!』

「はっ!」

『グハァ!』

 

ネリが背後からキャロルに襲い掛かるも、振り向きざまにオーソライズバスターを撃つ。反動がキャロルを襲うが、なんとか堪えることができた。そのままシューティングウルフプログライズキーを、オーソライズバスターのスロットに装填する。

 

《Progrise key comfirmed. Ready for buster》

《バスターダスト!》

「ハアアア…フン!」

 

オーソライズバスターの銃口から、オオカミの顔を模したエネルギー弾が撃ちだされる。ネリは赤と青の先ほどよりも巨大な歯車で、エネルギー弾を迎撃しようとする。

しかし、エネルギー弾は巨大な歯車をいとも簡単に食い破り、ネリを咥えて轟音と共に壁に縫い付ける。

 

『ぬ、ぬああああ!!』

「七海!」

「うん!」

《アサルトチャージ!》

《マグネティックストームブラストフィーバー!》

《ブースト!バースト!》

《オーバーバースト!》

《バーストフィニッシュ!》

 

同時に飛び上がった2人は、未だに壁に縫い付けられているネリ目がけて、必殺キックを発動する。

 

「「ハアアアアア!!」」

『グウウウアアアアアア!!』

 

 

          ブ ラ ス ト

                 

   バ ー ス ト      

    フィ ニ ッ シュ   

                 

                 

 ス ト ー ム

                       

 

七海とキャロルのキックを食らったネリは、壁を突き破り地面を転がる。さらに変身が解除され、所々破損しているネリとモネに分離した。

 

「ガハッ……」

「この…憶えておきなさい」

 

ネリが捨て台詞を残すと、ネビュラスチームガンから出てきた煙が2体を覆い、その姿を消す。

 

「はあ、はあ、はあ…。なんとか、退けることができた」

「七海!」

「お姉ちゃん!」

「ナナ姉え!」

 

ネリとモネが撤退したのを確認した途端、七海が膝から崩れ落ちる。キャロルやセレナ、エルフナインは、慌てて七海の元へ駆け寄る。目立った外傷はないので、おそらく疲労がたまっているのだろう。

 

「はあ、はあ、ごめん。セレナとエルフナインは大丈夫?」

「はい!私は少し休めたので…」

「ボクも怪我はしてません」

「……七海」

「…………キャロル。その…ッ!?」

 

七海とキャロルの間にぎこちない雰囲気が流れ、どうしたもんかと七海が考えていると、いきなりキャロルが七海に抱き着いた。

 

「ごめんなさい……グス……ごめんなさい…」

「あ……。あ、ああ…。わた、私も…ごめん、さない……。ごめんなさい…!」

 

七海の胸に顔をうずめたキャロルが嗚咽を漏らし、ごめんなさいと繰り返すのを聞いて、七海も零れる涙を抑えることは出来なかった。

結局の所、2人とも寂しかったのだろう。何百年という時を共に過ごし、家族としてお互いの傍にいたことで感じていた温もりは、いつの間にか”当たり前”として身に沁みこんでいたのだ。それが一時的とはいえ、感じられなくなっていたことは、2人にとってはまさしく身を引き裂かれる思いだったのだ。

それは時として、依存と思われるかもしれない。2人がそばに居られないだけで、心身に大きな異常をきたしてしまうのだから。しかし、皮肉にも今回の仲違いでこれは単なる依存ではないと、2人は悟ることになった。

 

(やっぱり七海の傍にいると安心する。だけど、胸がドクン、ドクンって高鳴る。でも悪い感じはしない。むしろもっと味わいたい。……ああ、そうか。オレは、私はナナ姉えのことが…)

(知らなかった。私がこんなに、キャロルを心の拠り所にしているなんて。キャロル、キャロル…。名前を呼ぶたびに愛おしくなる。……ああ、そっか。私は、キャロルのことが…)

((好きなんだ))

 

自分の気持ちに気付いた2人は、そっと身体を離す。このまま胸から溢れそうな気持ちに従って、衝動のままに動きたい。だが、今の現状を放っておくわけにもいかない。

 

「ネリとモネの最低限の目的は、私たちの陽動。そしてそれを指示したのはアウラネル」

「わざわざオレたちに陽動したという事は、装者側にも何らかの陽動ないし小細工を弄しているだろうな。エルフナイン、ここの他にノイズの反応はあるか?」

「は、はい!…えっと、あ!ありました!これは…東京スカイタワーにノイズとシンフォギアの反応があります!」

「ということは、そっちは装者たちの陽動か」

「よし。相手の目的が分からない以上、まずは奏者たちと合流しよう。戦力は多い方が良い」

「手を結ぶのか?」

「場合によるね。エルフナインは戻って、オペレートをお願い。セレナは……」

「行けます!」

「うん。それじゃあ、行こう!」

 

七海たちは立ち上がって、東京スカイタワーに向かって走り出す。七海の頭では、原作でのシーンが浮かんでいた。

 

(一期の終盤で、奏者たちが東京スカイタワーでノイズと戦っていたはず。原作と全く、とは言わないけれど、原作に似た状況。原作を知っている物が動いている?それとも世界の修正力?……とにかく今は急ごう)

 

一抹の不安を胸に、七海たちは東京スカイタワーへと走る。

 

 

 

 

 

 




七海はキャロルが好きですが、それはあくまでも好きなキャラクターに対しての”好き”でした(過去形)。分かりやすく言うなら、アイドルのファンみたいな感じ。
キャロルは言わずもがな、家族としての隙でした(過去形)。
恋愛表現とか恋愛パート難しくてよく分からんから、クオリティは見逃して(懇願)。

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32 それぞれの戦いのプロローグ、見てみよっか?

《3人称side》

 

「全部持ってけぇええええ!!」

 

クリスが展開した銃器が一斉に火を噴き、上空を飛行するノイズを一網打尽にする。ノイズの姿が消え去り安堵の息をついたクリスに、響が抱き着く。

 

「ふぅ……」

「やったよクリスちゃーん!」

「なっ!?おい抱き着くんじゃねえ!」

「はは!ホントは嬉しいくせに、そう照れんなよ。ほら、私も抱きしめてやるよ」

「奏先輩も悪乗りしないでくれよ!?つ、翼先輩!こいつらどうにかしてくれ!」

「ふふ…!お前は好意を素直に受け取った方が良いと思うぞ」

「なぁ……」

 

クリスは響と奏に揉みくちゃにされ翼はその様子を見て微笑み、ノイズを倒したことを喜び合う。

 

「ノイズの反応が消えたと思ったら……何してるの?」

「ッ!お前は白黄七海、そしてキャロルとかいう錬金術士か」

「やはり俺の名前は知られているか……」

「あっ!七海ちゃん!」

「ってお前なに無防備に近づこうとしてるんだよ!?」

 

クリスが響の襟を引っ掴み、それによって響の首が絞まり思わず咳き込む。その様子を見た七海は思わずうわぁという顔をしてしまうが、それに大して突っ込まず翼が七海に問いかける。

 

「貴方たち、一体何の用?」

「決まってるでしょ。ノイズの反応があったから来たんだよ。まあ、すでに殲滅してるみたいだけど」

「お前たちも、俺たちがもう一カ所で戦っていたから、この一か所に集中していたのだろう?」

 

ノイズの反応の検知速度、そして現場への急行する速さはどちらも七海たちが速い。何しろ転移という移動手段があるのだから。しかしそれ故に、他でのノイズ発生を見逃してしまうことがある。おそらく二課は、七海たちが先に発生したノイズを倒していることが分かったため、この場所に奏者全員を向かわせたのだろう。

 

「そっか!ありがとう!」

「……何故礼を言う」

「だって、私たちの代わりに他の場所のノイズを倒してくれたから!」

「……調子の狂うやつだ」

(むっ…)

 

響のお礼に、キャロルは毒気が抜かれたような表情を浮かべ、その顔を見た七海は知らぬ内にジェラシーを感じる。その時、シンフォギアを解除した響のポケットから、電話の着信音が鳴る。

 

「わわっ!えっと、ごめん」

「……なあ、アンタ」

「何かな?天羽奏」

「何で私らと手を組もうとしない?いやまあ、アタシが言えた義理じゃないってのは分かってるんだけどな。」

「奏……」

「……敢えて言うなら、確証がないからかな?」

「確証…?おいそれって「未来?ねえちょっと未来!?」ッ!どうした立花!」

 

言葉の真意を問い詰めようとするが、響の焦った声が奏の言葉を遮る。七海の言葉の意味は気になるが、響が口にした未来というのは、確か響の友達だ。響の慌てぶりからおそらく何かあったのだろうと考え、響に何があったのか聞く。

 

「大変です!リディアンが、リディアンがノイズに襲われているって!」

「リディアンがだと!」

「おい、不味いぞ!」

「司令室、応答してください司令室!……だめだ。通信が繋がらない。二課でも何かあったというのか」

 

響たちが通っているリディアン女学院がノイズに襲撃されているという報せは、奏者たちを動揺させた。しかし彼女たちを冷静にさせたのは、以外にも七海だった。

 

「落ち着きなよ。そんなんじゃ、何もできないよ」

「……何も知らない貴方が、偉そうなことを…ッ!」

「翼さん落ち着いてくださいってわわっ!?」

「それを使えば、リディアンまで行けるよ」

「本当…!」

 

七海が響に投げ渡した物は、リディアンを目的地に設定したテレポートジェムだった。それに響は顔を明るくするが、翼は疑惑の目を向ける。

 

「罠かもしれない物を、そう簡単に使う気か…!」

「でも……!」

「……ああ、もう!キャロル、セレナ。貴方たちも彼女たちと一緒にリディアンに行って」

「お姉ちゃんはどうするんですか?」

「私はケリをつけないといけないんだ……」

「え?」

「……分かった。おい、何してるんだお前たちは」

 

七海の言葉から何かを察したキャロルは、セレナを連れ響たちのもとに行く。

 

「あ、キャロルちゃん…」

「ちゃん付けするな!…いくぞ」

「おい、なにを……」

「…翼、こうしてる時間が惜しい。早く行けるなら、それに越したことはないだろう?」

「奏……分かった」

「よし、それなら行くぞ」

「よろしくお願いしますね」

「あ、ああ……」

(この少女、よく見れば髪の色に、温和な物腰……そしてセレナという名前。さんざん聞かされた少女の特徴と酷似している。これは、偶然か…?いや、まずは目の前の危機からだな)

 

響の手からテレポートジェムを奪い取ったキャロルが、地面に叩きつけると魔方陣が響たちの足元に展開され、光と共に転移が始まった。

それを見届けた七海は、背後に現れた人物に声をかける。

 

「いいの?行かなくて。クリスのこと、大事にしてるんじゃないの。姉さん?」

「あはは。意地悪なこと言うなぁ。なーちゃんは」

 

七海の背後に出てきたのは、クリスが家に帰ってこないと言っていた黒夜だった。

 

「やめてよ。そんな風に呼ぶような仲じゃなくなったでしょ」

「……そうだねぇ」

 

あくまでも姉であろうとする黒夜を、七海は突き放す。…そう、もうあのころには戻れない。七海が姉を慕い、黒夜が妹を可愛がっていたあの日々には。

それを理解しているからこそ、余計な言葉を交わすことはない。……そう思っていたのに。

 

「ねえ……。戻れないの?」

「何が?」

「…分かってるくせに」

「なははは……。無理だよ。だって………こんなにも狂っちゃったんだから」

《ラビット!タンク!ベストマッチ!》

「…装者たちの所には行かなくていいの?」

「声が、聞こえるんだよ」

 

唐突に意味不明なことを話し始めた黒夜に、七海は怪訝な目を向ける。それに構わず黒夜は、どこか呆けた表情で続きを続ける。

 

「声がさ、望んでるんだ。なーちゃんとの決着を。その声を聞いてるとさぁ、震えるんだよ。初めて私を越えてくれそうな相手と、なーちゃんと戦えって」

 

黒夜の体が震え始め、自分の体を抱くように腕を回す。

 

「……だからさ、もう我慢ができない。いいよね?イイヨネ?タクさんガマンしたから、イイヨネ?アア、好き。ハハ…イトオシイヨナーチャン。ダイスキ。ダイスキダヨナァァアァァアアチャアアアァァアアアンッ!!!」

「…そこまで堕ちたか」

 

七海は自身の姉が、狂気に落ちる瞬間を見た。きっとこれは呪い(・・)なのだろう。前世から引き継いでしまった、あの両親が姉にかけた呪い。今は、ノイズの方を優先するべきだ。しかし、七海に今決着をつけないという選択肢は浮かばなかった。

 

《ロボットゼェリィィ!》

「今ここで…貴方との因縁を終わらせる」

「ありがとう…なーちゃん。今回は、本気だからね」

 

黒夜がビルドドライバーのレバーを回すと、黒夜の周囲にパイプが展開される。

 

《Are you Ready?》

「「………変身」」

《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!》

《潰れるぅ! 流れるぅ! 溢れ出るぅ!》

《ロボッットォイングゥゥリスゥゥゥ!》

《ブルァァァァァ!》

 

仮面ライダーグリスに変身した七海と、仮面ライダービルドに変身した黒夜が向かい合う。もう、彼女たちは何も交わさない。

睨みあったまま時間が過ぎていき―――――別の場所で爆発が起こると同時に、2人は走り出した。

最初で最後の、本気の姉妹対決が始まる。

 

 

《装者side》

テレポートジェムによって、リディアンに転移した装者たちの目に飛び込んできたのは、巨大なノイズによって半壊した校舎だった。

 

「そんな…リディアンが……」

「ちぃ…!ノイズを片付けるぞ!」

「おいバカやろう!項垂れてる暇があるんだったら、さっさとこいつらをぶっ潰すぞ!」

「……うん!」

 

自分たちの学び舎が破壊されていることにショックを受けるも、なんとか持ち直した装者たちはシンフォギアを纏うべく、心に浮かぶ歌を奏でる。

 

Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

Croitzal ronzell Gungnir zizzl(人と死しても、戦士と生きる)

Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)

 

各々のシンフォギアを纏った装者たちは、ノイズを駆逐するために動き出す。

 

「先生!私たちも!」

「…このまま見捨てるのも、夢見が悪いしな」

「あの人たちが心配ならそう言えばいいのに……」

「う、うるさい!それにお前の時のこともあったんだ。そう簡単に許せるか」

 

キャロルにとって、セレナが天羽奏に痛めつけられたことは、そう簡単に許せることではない。しかしだからといって、無関係な人間を見殺しにするような人間ではないことを知っているセレナは、リディアンに蔓延るノイズを倒す為、スラッシュライザーのバックルを腰に巻く。

キャロルもセレナの予想通り、なんだかんだ言いながらもショットライザーのバックルを腰に巻く。

 

《パワー!》

《インフェルノウィング!》

《オーソライズ》

《バーンライズ!》

《 《Kamen Rider…Kamen Rider…》 》

「「変身!」」

 

キャロルは銃弾をショットライザーを掴む手の裏拳で弾き、セレナは不死鳥型のライダモデルに包まれる。バルカンと迅に変身した2人も、近くにいるノイズに攻撃を仕掛けていく。

 

 

リディアンにとって、長い1日は始まりを告げたばかりである。

 

 

 




装者のみの戦闘は、極力カットしていく方針です。話が進まなくなるからね。仕方ないね。

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33 自分の周りを、見つめなおしてみよっか?

ランプーさん、TRANS-AMさん、感想ありがとうございました!
UA20000を越えました。ありがとうございます!

装者側の回です。なお、ここからほぼほぼシーンを飛ばされる模様(悲しみ)

※セレナに関して、多分オリジナル設定が出てきます。


《3人称side(翼・奏)》

 

「ハアアアア!」

「オラァアア!」

【千ノ落涙】

【STARDUST∞FOTON】

 

翼と奏が大量に生成した刀と槍が、ノイズを刺し貫き掃討する。ノイズが周囲にいないことを確認した2人は、背後の瓦礫の陰に隠れていた女子生徒たちに駆け寄る。

 

「貴方たち、すぐにシェルターに避難を!」

「他の奴らが来ないうちに、早く行きな」

「は、はい!ありがとうございます!」

 

女子生徒は2人にお礼を言うと、シェルターに向かって避難する。その様子を見届けた翼は、気になっていたことを奏に問う。

 

「奏、LiNKERの残りは……」

「さっきの戦闘から、補充できてない」

「そんな!だったら奏は下がって!」

「そんなことできるか。またノイズは、あたしの大切なモノを壊そうとしてるんだぞ!そう簡単に引き下がれるか!」

「しかし……ッ!?新手か!」

 

言い争う2人は再び現れたノイズに気付くと、それぞれのアームドギアを構え、攻撃を開始する。

 

「たかがこれしき!」

【逆羅刹】

 

翼に群がるノイズが、翼の脚部ブレードによって切り刻まれる。彼女が言うとおり、この程度のノイズなら敵ではない。しかし、奏はLiNKERが無ければ戦えない。早くこのノイズを倒して、奏の援護にいかなければならない。

そして、巨人型のノイズを相手取っている奏は、窮地に追い込まれていた。

 

「くそっ!ギアが言うことを、聞かねえ……。ぐあああ!」

 

ノイズの太い腕が奏に叩きつけられ、奏は離れた地点まで吹き飛ばされる。

 

「ぐ、ああ……」

 

崩れたリディアンの校舎の壁に叩きつけられた奏は、自身のシンフォギア「ガングニール」も解除され呻き声を上げることしかできなかった。そんな奏に、先ほどのノイズが近づく。

 

「く、そ……。あたしは、こんなところで終わってられねえんだ。お前らのせいで、いろんなものを失った」

 

奏はノイズに家族を殺されている。2年前のコンサートでは、自身の歌手としての生き様すら奪われてしまった。そして今、相方と後輩が通い、つい最近まで自身も通っていたリディアンがノイズに襲われた。

 

「お前らを駆逐しない限り……なにも終われねえんだよぉおお!」

 

奏の正面に迫ったノイズは巨大な腕を振り上げ、奏は力のすべてを振り絞るかのように声を上げる。

しかし、現実は無情。奏に向かって腕が振り下ろされ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《バーニングレイン!》

《パンチングブラスト!》

 

――――ノイズの身体に大きな穴が開き、身体は切り刻まれた。

 

「はっ?」

「――ふん。随分と無様だな、天羽奏」

 

唐突に空いた穴からノイズは炭化。あまりの突然差に奏は呆然とする。そんな奏に声をかけたのは、キャロルとセレナだった。

 

「おまえ、ら…」

「ふん…。なるほど、LiNKERが切れかけているのか」

「間に合ってよかったです」

 

身体を動かすことのできない奏を見たキャロルは、奏の姿から追い詰められていた原因を言い当てる。しかし奏には、それよりも聞きたいことがあった。

 

「なんで……あたしを助けたんだ」

「…………」

「あたしは、あんたを傷つけたんだぞ……」

 

奏にそう問いかけられたセレナは、何も言わなかった。そのかわり、キャロルがショットライザーを奏に向けた。

 

「そう言えばそうだったな。貴様にはここらで、家族を傷つけられた借りを返しておくか」

「………」

 

キャロルは確かに、死にそうな人間を容赦なく見捨てる悪人ではない。しかしだからといって、どんな悪人だろうと死にそうなら助けようとするほど善人ではない。基本的に誰かを殺すことはしないが、あくまでもキャロルにとっての優先順位は、家族である七海たちが上なのだ。殺すべき時には殺すし、見捨てる時には見捨てる、家族と天秤にかければ迷うことなく家族を取る。それがキャロル・マールス・ディーンハイムという少女である。

そんなキャロルに銃口を向けられてなお、奏は言い訳も懇願も口にしない。LiNKERが切れダメージのせいで口が動かないからなのか、それとも、自分の仕出かしたことに対する罪悪感からなのだろうか。

その時、キャロルが向けていた銃口が、ゆっくりと下へと動いた。キャロルが奏を許したわけではない。いつの間にか変身を解除していたセレナがキャロルの腕を優しく掴み、そのまま下ろさせたのだ。

 

「……確かに私は、あの時貴方に叩きのめされました」

「……………」

 

セレナが静かに口を開く。そこに怒りや侮蔑といった感情は込められていなかった。あるのは、聖母のような慈悲のみ。

 

「これを……」

「こいつは…まさか!」

「はい、LiNKERです。といっても自分の為に作ったんですけど…」

 

セレナが奏に渡したのは、拳銃型の注射器。その中にはLiNKERがたっぷりと満ちていた。奏は勿論、キャロルにとっても寝耳に水な話だった。

 

「なんで、あんたがこいつを…」

「もしものための保険です。こういう用意は、いくつあっても足りませんから。奏さんが私を襲ったのって、ライダーシステムが欲しかったからじゃないんですか?…正確には、LiNKERといったものが必要なく、自身の力だけで扱える力が」

「……ッ!?」

 

自分の心の内を言い当てられ、奏は目を見開く。セレナは奏の目を見つめたまま、言葉を続ける。

 

「違いましたか?」

「……だったらなんだって言うんだよ。ああそうさ。あたしはあんたらのライダーシステムがあれば、体を蝕んでいくLiNKERがなくてもノイズをぶっ潰せる。あたしゃノイズが心の底から憎いんだ!」

「そうですか……。奏さんの気持ち、よく分かります」

 

セレナは奏の言葉に、目を伏せる。奏との会話の節々で感じるノイズへの憎しみ、LiNKERを使わなければ戦えないことによる自分への絶望。それを感じ取ったからこその表情だった。が、そのセレナの表情は、奏の心を刺激したらしい。

 

「なんだよ。同情なんかいらねえぞ!」

「……同情なんか、しませんよ。私も同じでしたから(・・・・・・・・・)

「……は?」

「私も、先生たちに出会うまでは、LiNKERを投与してシンフォギアを纏っていましたから。といっても、ほんの少し足りなかった適合率を上げるためだったので、ホント少量ですけど」

 

唐突に明かされたセレナの過去に、奏はポカンと呆ける。今のセレナの目は、奏にとっては見知ったものであった。

扱えるはずの力を振るう事の出来ない悲しみ。守りたいと思いながらも、自身の伸ばした手が届くことはない無力感。それは時々弦十郎が見せる、そして何より奏自身も何度もした目だった。

 

「私も昔は家族のための力が欲しくて、でも何もできなくて。全てを呪ったことがありました。でも今の私には、家族がいます。頼れる家族が」

「……じゃあ、家族のいない私にはどうしたらいいんだよ?みんな、ノイズに殺されて、一人ぼっちの私にはどうしたらいいんだよぉ……」

「貴方は一人ぼっちじゃありませんよ」

「え……?」

「奏ー!」

 

奏が呼ばれた方向を向くと、遠くから翼が走ってきているのが見えた。それを見たセレナも、奏から離れキャロルの元に戻る。

 

「それでは私たちは引き続き、ノイズを倒します。そのLiNKERを使うかは、貴方にお任せします。でも気をつけてください。そのLiNKERを使えば、とてつもない負担が貴方を襲います」

 

それだけ伝えると、セレナは再び変身しキャロルと共にノイズを探しに行く。そして入れ違いになる形で、翼が奏の元に駆け寄る。

 

「奏!大丈夫?」

「あ、ああ……」

「よかった…。それで彼女たちといたみたいだけど、一体何を…」

「ああ。助けて、くれたんだ。……なあ、翼」

「…?どうしたの、翼」

 

いつもよりどこか活力がない奏を、翼は訝しむ。やはりあの2人に何かされたのではないかと翼は考えるが、その考えを遮るように奏が話しかける。

 

「……その、さ…支えてくれちゃぁしねえか?」

「………………」

「翼?」

 

何も言わない翼に、奏は徐々に不安になる。何故何も答えてくれないのだろう?情けない自分を見下げ果てているのだろうか。普段なら浮かぶことのない不安が、次々と浮かんでは消える。

しかし、その不安を切り裂いたのは他ならぬ翼だった。

 

「当たり前だッ!」

 

「……ッ!?」

「奏はよく他の人を心配するくせに、自分のことは自分だけで抱え込んで、私には打ち明けようとしてくれない!それがどれだけ苦しかったか、分かっているのか!…奏。私は何をすればいい?どうすれば奏は自分を大切にしてくれる?何でも良い、言ってくれ!」

 

溜まりに溜まった心の内をぶちまける相方に、今日何度目か分からないが奏は呆けることとなった。しかし、奏の心はなぜだか温かくなり、セレナの言葉の意味を理解した。

 

(あたしには…こんなに心配してくれてる人がいる。……いや、違う。いたじゃないか!最初から、アタシのことを心配してくれている人たちが!)

 

家族をノイズに殺され、ノイズへ復讐するためにLiNKERを過剰に投与して装者となり、自分の歌で誰かに勇気を届けられるならと翼と共に歌手になった。その道のりには多くの人に助けられ、心配されていた。

だが奏は、無意識にその優しさから目を背けていた。完全適合者の翼と違い、LiNKERが無ければ戦えない出来損ないの装者。おそらく、心のどこかでそういった劣等感を持っていたのだろう。

だからこそ求めた。LiNKERなど必要ない、ライダーシステムを。その結果、ますます自分に向けられる優しさから、目を背けてしまった。

 

「ごめんな、翼」

「グスッ…。今更謝るなんて、ずるい」

「…参ったな。でも、支えてほしいんだ。これは、私自身でケリをつけるべきだけど。でも、私は翼に支えてほしいと思ってる」

「…そんな言い方は卑怯だぞ。奏は意地悪だ」

 

いつの間にか涙をこぼしていた相方の涙を拭い、奏は立ち上がる。こんなところで終わっていられない。

ノイズを駆逐するために、自分がたくさんの人から受けてきた恩を返すために。

 

(……ちゃんと、謝らないとな。あいつに)

 

そしてもう1つ、新たな理由ができた。

 

 

《3人称side(響・クリス)》

 

「でやあああ!」

「オラオラオラ!閻魔様のお通りだ!」

「……ふう。あらかたノイズは倒せたかな?」

「だろうな」

 

翼と奏と別の場所で戦っていた響とクリスは、ノイズを倒したことで一息つく。

その2人に第三者の声がかけられた。

 

「ああ、ノイズは倒せたぞ。ノイズはな」

「ッ!誰だ!…なっ!?」

「うそ……」

「フフフ…。どうした?」

 

声に素早く反応した2人の目に映ったのは、まだ崩れていないリディアンの屋上に立ち、身体から黒いオーラを放つネフシュタンの鎧を纏った了子…否、フィーネだった。

 

「なんで…何であんたがそこに居るんだよ。フィーネェエ!」

「フッ……。そんなことも分からないのか?クリス」

「どういう、ことですか?なんで、了子さんがネフシュタンの鎧を…」

 

2人は混乱の極みにあった。自分の正体を告げ仲間だったはずの了子が、何故フィーネの姿となり自分たちの前に現れたのか。しかもネフシュタンの鎧を纏ってである。ネフシュタンの鎧はアウラネルとは違い、その形状が変化していた。銀色から金色へと変わり、上半身を守っていた鎧は胸部から首までとなっている。

 

「このネフシュタンと私は融合を果たしている。後は私の目的を果たすだけだ」

「目的…?」

「そうだ、私はこの世界を破壊する!!”あのお方”に会うことが許されないのであれば、こんな世界など、滅ぼしてくれる!」

 

怒りに満ちた顔表情で、フィーネは自身の目的を語る。

 

「世界を…?そんなの、どうやってやるってんだ……」

「ふん、こいつさ」

 

フィーネが指を鳴らすと、どこからともなく飛来した一本の剣が、フィーネの前に突き刺さる。その剣の名前を、2人は知っていた。

 

「それはッ!?」

「サクリストD……デュランダルか!」

「そうだ!貴様らの歌によって目覚めたこいつを使い、この世界を焦土と返す!」

「そうは問屋が卸さないぜ!」

 

フィーネが高々とデュランダルを掲げていると、奏と翼が響たちに合流した。しかし、それを見てもフィーネの余裕の表情は崩れない。

 

「ふん。何も守れぬ剣と出来損ないの装者か」

「了子さん……。本当にアンタなんだな?」

「くどい。現実を直視できぬ貴様らが集まろうと、私の敵ではないな。所詮この世界(・・・・)の装者たちも、現実を見れない愚か者どもか

「―――なら、オレたちが相手してやる」

「…錬金術師か」

 

次に現れたのは、キャロルとセレナ。数々の聖遺物を見てきた2人は、フィーネが持っているデュランダルが危険なものだと分かっているため、フィーネの行動を警戒する。

 

「小賢しい……アウラネル、貴様は仮面ライダーの相手をしろ」

「はい、フィーネ様」

 

物陰から現れたアウラネルは、ネリとモネのモノと同じネビュラスチームガンに、白色のギアを装填する。

 

《ギアエンジン!》

《ファンキー!》

「…潤動」

《Engine running gear》

「その姿は…ッ!」

 

ネビュラスチームガンから噴き出た煙がアウラネルを包み、キャロルたちが戦ったカイザーリバースそっくりの姿を変える。赤色だった右半身の歯車は白色に変更されていた。

 

「すごいでしょう?エンジンブロスという姿です。ああ…そういえば、妹たちを退けたんでしたね。ならば、少しは楽しませてくださいよ!」

「こいつ、スマッシュをッ!?」

 

ネビュラスチームガンから3発の煙幕弾が放たれ、その煙幕弾はそれぞれスマッシュを形成する。

 

「さて、私たちも邪魔者を消すとするか」

 

そしてフィーネもまた、装者たちに牙をむく。

 




フィーネが初めから味方なら、カ・ディンギルが作られてるわけねえじゃん!と、この話を書いてる途中に思い至りました。(クソザコ)
そして考えた結果のデュランダル頼りという……。
それにセレナって原作でLiNKER使って無かったよね?(ガバガバ)

そういえば感想で言われてたんですが、オートスコアラー、そしてZENRAとかクソ爺の4期5期のキャラについては、どうしようか迷ってます。色々と他のシリーズの構想とか出てて、そっちも書きたいんですが、これ以上キャラを増やすと長くなりそうだし……。投稿間隔が少し長くなってもいいというなら、夏休み(コロ助騒動で休校になってはいましたが、結構夏休みあるみたい)に入ってから書き溜めして、投降しようとは思います。あ、F.I.S.組は出ますよ!

最後にもう1つ。活動報告にて、このシリーズで無印編が終わってからの番外編で書いてほしいことを募集したいと思います。今現在書こうと思っているのは、
・キャロルと七海のデート回
・○○と心火を燃やしてみよっか?(IF回)
・セレナの再会
・平行世界編(これについては無印編後の次章後に回すかも)
・黒夜の転生時の回
……といった感じですね。確か、これ以外にも考えていたはずだけど忘れまちゃいました。(鳥頭)
これ以外に、こういう感じのが見たい!という要望。この回のこの時のこれこれがどうだったのか、という掘り下げ回といったものでもOKです!
詳しくは活動報告の「心火を燃やす番外編アンケート」にて、ご確認ください。
皆様の意見、お待ちしております!

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34 本気の決着、つけてみよっか?

ランプーさん、感想ありがとうございました!

無印編についてですが、無印編で全てに決着がつくわけではありません。



《3人称side》

 

「グハァ!」

 

ドラム缶や木箱をなぎ倒しながら、人気のない工場に七海が吹き飛ばされる。

その後から悠然と歩いてくるのは、仮面ライダービルドゴリラモンドフォームにフォームチェンジした黒夜だった。

 

「このッ……!(ハザードトリガーを使ってくる様子は……まだないか)」

《ラビットゼェリィィ!》

《ラァビットォイングリスチャァァアアジ!》

「ハアア!」

 

ラビットチャージにフォームチェンジした七海は、足に力を込め「スプリントキャプチャー」による加速で、黒夜を攻撃する。

パワーが売りのゴリラモンドでは、その速さについて行けない。

 

「く…。ラビットチャージか。それはもう対策済み!」

《クジラ!ヘリコプター!》

《Are You Ready?》

「ビルドアップ」

 

黒夜の声で、前後に形成されていた装甲が黒夜を挟み込む。珍しいことに普段は色違いなその2つの装甲は、どちらも似た青色だった。

このフォームの名はトライアルフォーム。ベストマッチではない故に、スペックはベストマッチフォームに劣るものの、このトライアルフォームこそビルドの真骨頂である。

 

「それでも…!」

「言ったでしょ。対策済みだって!」

 

七海が再び高速で動き黒夜を攻撃しようとする。

それに対し黒夜は、背中に装備されている「バトローターブレード」と呼ばれるプロペラ状のブレードを取り外し、地面に突き立てる。

 

「ハッ!」

「なッ!?水を…!キャア!」

 

黒夜の周囲から水が吹きだし、黒夜に接近した七海は打ち上げられる。

そして重力に従い落ちてきた七海を、黒夜はバトローターブレードでぶっ飛ばす。

 

「ガハッ!」

「ボトルの組み合わせによる多彩なフォームこそ、ビルドの真骨頂」

「それくらい知ってるっての!」

《スプリングフィニッシュ!》

 

七海はレバーを下ろし、ヴァリアブルゼリーを纏った後ろ回し蹴りを放つ。

しかし黒夜も、必殺技の準備を終えていた。

 

《Ready Go!ボルテックアタック!》

「ふん!」

 

バトローターブレードの両端から、水で形成された刃が伸びる。

黒夜がバトローターブレードを振り回すと、鞭のように伸縮する水の刃は、縦横無尽な動きで七海を叩き落とした。

 

「ガッ…!くそ!次はこれだ!」

《タンクゼェリィィ!》

《タァンクイングリスチャァァアアジ!》

「ならこれだね」

《ライオン!マグネット!》

《Aer You Ready!》

「ビルドアップ」

 

七海はタンクチャージに、黒夜はライオンとマグネットのトライアルフォームへとフォームチェンジする。

 

「これでも…くらえ!」

 

七海が両肩のブレイクゲイザーから、光弾を発射する。

しかし黒夜が左手を掲げると、光弾が途中で停止し七海に向かって放たれる。

 

「なッ!?ぐあ!」

《Ready Go!》

「…ッ!しまっ――!」

《ボルテックアタック!》

「ハアアア!」

「ああああッ!」

 

マグネットの特性である磁力に捕まった七海に、右腕の「ゴルドライオガントレット」からライオン型のエネルギー弾が放たれ、七海を吹き飛ばす。

 

「ガ、ハ…」

「今までの戦闘データから、貴方のフォームは全て対策済み。これが私の本気だよ…なーちゃん」

「だから……どうしたぁ!」

《バースティングフィニッシュ!》

「……ッ!」

 

隙を見て起き上がった七海は、対反動用のアンカーを地面に打ち込み、ブレイクゲイザーから高威力の光弾を黒夜がいる場所の天井に向かって(・・・・・・・・・・・・・・・)発射する。

 

「…?どこに向かって……まさか!?」

「今だ!」

 

七海はアンカーを外し、バースティングフィニッシュの反動に逆らうことなく後ろに吹き飛ばされる。

次の瞬間、黒夜がいたあたりに、崩れた天井の瓦礫が降り注いだ―――。

 

「くッ!作戦、成功…」

 

工場から脱出した七海は、地面に背中から叩きつけられる。ダメージ超過のせいか、タンクチャージから通常状態のグリスへと姿が変わる。

痛みに呻きながら体を起こすと、目の前には崩壊した工場があった。

 

「これで、倒せれば御の字。ダメでもせめてハザードトリガーを使って……」

 

確認、というよりも望みを込めて呟いた言葉は、すぐに裏切られた。

 

 

 

 

 

 

―――――《マックスハザードオン!》

 

「……だよね(ハザードが来た!あの方法(・・・・)はタイミングが重要。しっかり見極めろ!)」

 

建物の瓦礫を吹き飛ばし、飛び出てきたのはハザードフォームの黒夜。

 

「まだまだぁああ!」

《ハザードフィニッシュ!》

「……上等。心火を燃やして―――」

《スクラップフィニッシュ!》

「―――ぶっ潰す!」

 

七海を跳躍し必殺技で黒夜のキックを迎え撃つ。互いの必殺技は拮抗し、爆発が起こったことにより2人は吹き飛ばされる。

 

「がぁ!」

「くあ!……く、う、ああ…」

 

よろめきながらも2人は立ち上がり、荒い息をつきながら向かい合う。

 

「はあ、はあ、はあ…。やっぱりすごいや。なーちゃんは」

「はあ…はあ…はあ…。強い…。これが本気の姉さん」

「そーゆーこと。この時の為に、はぁ、はぁ…ハザードトリガーによる暴走も、完全に除去したんだ。でもって、私には奥の手があるの」

「ハザードトリガーの暴走を除去した…?それに奥の手?」

 

黒夜が取り出したのは、2本のフルボトル。しかしその2本は、七海が作ったものではなかった。

 

「これはシンフォギアボトルとソングボトル。風鳴翼が絶唱を使った際、貴方が置いてったウォッチフルボトルと一緒に落ちてた空のボトルに溜まった成分を元に、私が制作したフルボトル」

 

翼が絶唱を使った時、黒夜はウォッチフルボトルと一緒に空のボトルも持たせるように言い、了子に2本のボトルを渡した。

ウォッチフルボトルは翼の怪我の悪化を止めた。では、空のフルボトルは?

 

「翼ちゃんが絶唱を使ったことで、空のボトルにシンフォギアの成分と呼ぶべきエネルギーが収集された。そしてそれ以降も持っていたことで、ボトルの成分は徐々に満たされた。あとは、頃合いを見てそれを回収して、解析したの」

「そして生まれたのが、その2本のボトル……」

「正確には、作ったのは3本なんだけど。それより、これ結構面白くてね」

 

黒夜はシンフォギアボトルとソングボトルを振り、キャップを捻ってビルドドライバーにセットする。

 

《ソング!シンフォギア!》

スーパーベストマッチ!(・・・・・・・・・・・)!》

 

「なッ!?」

「これ、ベストマッチらしいんだ~」

 

《ガタガタゴットン! ズッダンズッダン! ガタガタゴットン! ズッダンズッダン!》

《Aer You Ready?》

「……ビルドアップ」

《アンコントロールスイッチ!ブラックハザード!ヤベーイ!》

 

ハザードライドビルダーが黒夜を挟み込む。そして中から現れた姿は通常のハザードと特に変わらないが、右の複眼が細長い突起が突き出ており、左は音符のような形をしている。

 

「さあ…戦いはまだまだだよ!」

 

四コマ忍法刀とカイゾクハッシャーを持ち、黒夜は七海に斬りかかる。

七海は次々と振るわれる武器を回避しようとするも、先ほどまでのダメージで体が思うように動かない。そして黒夜の斬撃が七海を捉える。

 

「ぐッ!」

「ハァ!」

 

続いて黒夜は、ホークガトリンガーとドリルクラッシャー ガンモードを取り出し、七海に向けて連射する。

 

「ああああッ!」

 

立て続けに攻撃を食らった七海は、膝をついてしまう。

黒夜は七海に近づき、ドリルクラッシャーを振り上げる。

 

「残念だよ、なーちゃん。もっと頑張ってくれると思ってたのに」

「…………」

 

黒夜の言葉に、七海は何も答えない。

 

「でも、私の…勝ち……!」

 

ドリルクラッシャーは七海目がけて振り下ろされ―――

 

「(この時を―――)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(―――待ってた!)」

 

―――七海の掲げた右腕に阻まれた。

 

「なッ!?」

「うあああああ!!」

「ぐあ!」

 

もう動けないだろうと油断していた黒夜は、七海の防御に一瞬動揺し、七海がその隙をつき拳をハザードトリガー(・・・・・・・・)に叩きつけて、黒夜を下がらせる。

 

「なんで、動きが……」

「……姉さん。確かに今までの、前世のままの私なら、きっと今ので諦めてたと思う」

《チャージ!》

《オーバーグリスゥ!》

「うぐ、ああ……」

 

先ほどの七海の一撃は、ただ単に黒夜を下がらせる目的だけではない。

七海は黒夜の性格をよく理解していた。黒夜は良くも悪くも天才だ。しかしそれ故に、何かをモチーフにしようとすると、まずは必ずオリジナルと同じ物を無意識(・・・)に作りあげる。

ビルドの変身する際の装置や、ビルドドライバー、武器、挙句の果てには変身音声もだ。黒夜ほどの天才なら、これらをさらに改善したものを、最初から作れたはずなのだ。分かりやすく説明するならハザードトリガーの暴走も、わざわざ今回の為に取り除くんじゃなくて、最初から暴走しないようにすることもできたはずなのだ。

 

「……だけど、この世界で私は、大切なモノができた」

《オーバーチャージィ!》

「姉さんに追いつくことだけが全てだった私は、新しい生きる理由が見つかった」

 

しかし実際は、初めてハザードを使用した時も、理性はあったものの体は動かせない実質暴走状態だった。

だからこそ、七海はここに賭けた。初めはオリジナルと同じものを作ろうとする黒夜の性格ならば、あれ(・・)もそのまま作っているはずだ。

 

《限界ブレイクゥ!激熱突破!オーバーグリス!》

《ウラアアァァアアアア!》

 

……そう、ハザードトリガーがダメージを受けると、使用者の動きを鈍らせるという弱点を―――。

 

「私は、今日ここで、過去の因縁を断ち切る!」

《ブースト!バースト!》

《オーバーバースト!》

「ハッ!」

 

オーバーグリスにフォームチェンジした七海は跳びあがり、背中から蒸気を吹きだして勢いを増したキックを放つ。

 

《バーストフィニッシュ!》

「ハアアア!」

「ぐ、あ、アアアアアアッ!」

 

黒夜はハザードトリガーを攻撃されたせいで動きが鈍く、七海の必殺技を真正面からくらってしまう。吹っ飛んだ黒夜は地面を転がる。

 

「はあ、はあ、はあ…」

 

……賭けに勝ったといっても、実際危なかった。ハザードトリガーの暴走機構を解除したと聞いた時は、ハザードトリガーの弱点も改善されたのではないかと考えもした。

しかし、七海はその賭けに打ち勝ち、チャンスをもぎ取ったのだ。

 

「ッ!?今の音は……?」

 

着地した七海が息を整えていると、リディアンがある方向から轟音が響いた。

リディアンがある方向を見てみると、リディアン女学院があると思われる場所で、巨大な光弾が空に向かって撃ちだされているのが確認できた。

その光弾はある程度まで上がっていくと、その先の場所から何かによって放たれたビームと拮抗、やがて大爆発を起こした。

 

「あれは……(間違いない。カ・ディンギルは出てきてないけど、あれは多分原作でフィーネが最初に月を撃ったシーン。ということは、あのビームはクリスが?)」

「………まだだ」

「……まだ、立ち上がるの?」

 

七海が視線を戻すと、黒夜が手足を震わせながら立っていた。

あくまでも決着をつけようとする黒夜に、七海は呆れた視線を向ける。

 

「当たり前だよ。この一瞬を楽しみにしてたんだから。ふ、ふふふ…。ああ…やっぱりなーちゃんは、私を越えてくれる。そしてそれを越えた時、私は初めて勝利(・・)を体験することができる!」

「じゃあ、終わらせよう、全てを……」

 

黒夜はビルドドライバーのレバーを回し、七海はロボットスクラッシュゼリーをスチームパンツァーにセットする。

もう、交わす言葉はない。

 

《Ready Go!》

「「オオオオオオオオオ!!」」

 

2人は同時に走り出す。この攻撃ですべてが決まる。それを確信している2人は、この拳にすべてを込める。

 

《パンツァーブレイク!》

《ハザードフィニッシュ!》

 

「「はあああああ!!」」

 

2人の拳が交わり、そして―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒夜の拳は七海の顔のすぐ横を通り、七海の拳は

「「………………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私の、勝ちだ」

 

七海の拳は、黒夜の胸部に命中していた。

変身が解除され、グラリと黒夜の身体が七海に寄りかかる。

 

「………や~っと、終われたよ」

「……姉さん」

「おおっと、何も言わないでよ」

 

前世で黒夜は、天才であるが故に、同世代には一番であることを求められていた。

姉さんは負けたかったのだろうか?自分を超える誰かに負けて、前世から続く呪縛から抜け出したかったのではないか?前世の呪縛に縛られていたのは、姉さんもなのか?

そういった考えが頭の中に浮かんでくるが、本人から何も言うなと言われた以上、聞くことは出来ない。

 

「ねえ…。なーちゃん」

「どうしたの?」

「参考までにさ……。なーんで私は負けたんだろう?」

 

ダメージがひどいのか、黒夜がか細い声で七海に尋ねる。

偉そうなことが言えるわけではないが、七海に持ち合わせている答えは、これしかない。

 

「…私は大切な人の為に戦って、貴方は自分の為に戦った……。ただ、それだけだよ」

「そっか……。なーちゃんの大切な人って、あのキャロル?」

「うん。最近喧嘩してたんだけど、仲直りしたんだ。だから、そんなときに負けたくなかった。あの子の義姉として、ね」

「なーんか知らぬ内に妹出来てた~」

「変なことしたら許さないから」

「あはは。厳しーなー。………なーちゃん、これ。持って行きなよ」

「これは……。とりあえず移動させるよ」

 

七海は黒夜を、近くの崩れる可能性の少ない瓦礫まで連れて行き寄りかからせる。

 

「リディアンに行くなら、気をつけて。私たちが介入しまくったせいで、いろいろとおかしくなってる」

「知ってる。それじゃ、行ってくる」

 

七海がリディアンに転移するのを見届けた黒夜は、再び瓦礫に寄りかかりため息をつく。

 

「はあ~。これで私の戦いは終わりか~」

 

リディアンに目を向けると、七海が到着して戦闘に参戦したのか、爆発が所々起きている。

 

「………………はぁ」

 

今度は小さくため息をつくと、ゆっくりと立ち上がり、リディアンへの道を歩き始める。

その理由は、未だに前世の呪縛が彼女を縛っているからか、それとも………。

 

 

 

 




仮面ライダービルド シンフォギアフォーム/シンフォギアハザード
概要
仮面ライダービルド/宵姫黒夜が自身で製作したフルボトルである、ソングボトルとシンフォギアボトルで変身するオリジナルフォーム。
作中では、ハザードフォームで使用している。
ベストマッチフォームではあるが、名称がシンフォギアフォームとなっており、これはもう片方のボトルによってその特性が変わるからである。

シンフォギアボトル
風鳴翼が絶唱を使った際、黒夜が拾った空のボトルにシンフォギア由来のエネルギーが溜まり、それを解析した結果誕生したボトル。
シンフォギアボトルとのベストマッチに対応するボトルは、全部で8種類。その内黒夜が開発したのは2種類。
ベストマッチに対応するボトルと一緒に使用すると、そのボトルの特性を反映した姿になる。

ソングボトル
シンフォギアボトルから派生して作られたボトル。
シンフォギアボトルと使用することで、ベストマッチフォームになる。
ソングボトルはシンフォギアボトルを使用した組み合わせの中で、基本的な組み合わせであり、それ故に他のベストマッチフォームの武器が使用可能なため、オールマイティな戦い方ができる。


容姿
シンフォギアフォーム時では、黒をベースとした配色になっており、ソングボトルを使用している時は赤と青の装甲が追加される。
また、シンフォギアボトルとベストマッチする8種類の組み合わせそれぞれで、装甲の形、色は変化する。
右の複眼は待機状態のシンフォギアであるペンダントを模しており、左の複眼は音符を模している。
ハザードフォーム時では、複眼のみが変わりそれ以外の普段のハザードと変わりない。

黒夜ちゃんのオリジナルフォーム、シンフォギアフォームの紹介でした。
シンフォギアボトルとベストマッチする残りの7種類のボトルについても、どこかで出そうと思います。察しの良い人は、とっくに分かってると思いますが……。

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35 命を懸けた歌、聞いてみよっか?

今回は装者側……のほぼほぼダイジェスト


《響side》

 

どうしてこうなってしまったんだろう……。

朦朧とする頭で考えてみる。

 

「出来損ないどもめ、やってくれたな!しかし、デュランダルを探し時と時間を変え、再び計画を進めれば良い。装者も所詮はこの程度!私の力の前にはひれ伏すのみだ!ハハハ!」

 

私の目の前で了子さん…フィーネさん、だっけ?ともかくフィーネさんが笑ってる。でもあれは嬉しいから、とかそんな笑いじゃない。

あの笑い声を聞いてると思い出す。2年前、コンサートでの事件で生き残った私を虐める同級生を。私をよってたかって虐めて、悦に浸る声を。

そう考えたら、体が震えてきた。怖い…こわい…コワイ…。未来と家族に心配を掛けたくなくて、未来や家族の前だと無理矢理笑ってた。

でもほんとは怖かった。怖くて心細くて……周りはみんな敵で…。

 

(でも今は違う。…私のことを気にかけてくれる、カッコいい先輩たち(憧れの人たち)がいる。…なんだかんだ言って、最後は助けてくれる優しい先輩(照れ屋で意地っ張りな人)がいる。…こんなどんくさい私を支えてくれる頼りになる皆さん(優しい大人たち)がいる。…差し出した手は握ってもらえなかったけど、私を妹みたいに接してくれる頭のいい人(姉のような人)がいる。……どんな時でも私を照らしてくれる、大切な大切な親友(私の陽だまり)がいる。………そして、私の戦う理由を見出すキッカケをくれた友達になりたい人(2年前の命の恩人)がいる!)

「ぐ、うううう!」

「ん?…ふん!」

「ガハッ!」

 

手を立てて何とか立ち上がろうとしたら、それに気づいたフィーネさんにお腹を蹴飛ばされ、地面を転がる。

蹴られたお腹がジンジンと熱を持つ。痛い、いたい、イタイ……。

 

「…まったく、無駄なことをする。戦おうとしても、残ったのはもはや貴様1人だというのに」

 

フィーネさんの言葉に、誰もいないと分かっていても周りに目を向ける。やはり、誰もいなかった。奏さんも、翼さんも、クリスちゃんも、皆いない。

皆、フィーネさんと戦って、そして見えなくなった。

 

 

 

クリスちゃんは、命を懸けてデュランダルの攻撃を防いだ。

 

『ハハハッ!世界を壊す準備は整った!デュランダルよ!その力を、死の雨を私に見せて見ろ!』

『させるかよ!』

『煙幕代わりか…。だが、それはもう見ている(・・・・)!』

『なッ!?』

『ハハハッ!貴様が何をしようかなど、すでに分かっている。貴様の足となるミサイルが無ければ、貴様は何もできん!』

『なめるなぁ!!』

『何ッ!?ミサイルを装着したままブースター代わりに…!』

『パパ、ママ…。私に力を貸してくれ。歌で、世界を平和にすること。その夢を、引き継ぎたいから!』

『この旋律は……まさか絶唱か!だが、貴様程度でデュランダルを止められると思うのか!』

『絶唱だって!?おい、やめろクリス!』

『まさか死ぬ気なの!?』

『クリスちゃん!』

『~♪(悪いな。こうする方法しか浮かばねえんだ。……黒夜、何やってんだよ。道草食ってねえで早く来いよ。早く来て、アタシの時みたいにアイツらを救ってやってくれ…。頼んだからな。アタシの、ヒーロー………)』

【絶唱・イチイバル】

 

 

そしてクリスちゃんが放った特大のビームは、デュランダルが撃ちだした光弾を撃ち落とすも、クリスちゃんはその時の爆発に巻き込まれた。クリスちゃんが煙の尾を引いて付近の森に落下、その地点は爆発した。

 

 

翼さんと奏さんは、その命を燃やしてデュランダルの次弾の発射を防いだ。

 

『ふっ……。その命を犠牲に、デュランダルの攻撃を防いだか。しかし、デュランダルの持つエネルギーなら、連続の発射は可能。所詮は無駄死にだ』

『無駄、死に?……それが』

『取り消せよ、今の言葉』

『かな、で?』

『奏、さん…?』

『なんだ?出来損ない。お仲間を侮辱されてお怒りか?』

『てめえがあいつを罵っていい権利なんかねえんだよ。それに、アイツは死んでねえ』

『ふん。ついには現実を直視できなくなったか。貴様が何故未だにガングニールを纏っていられているか分からんが、もうLiNKERは切れかけているのだろう?スカイタワーでの陽動のノイズ、そしてリディアンに放ったノイズ…。途中でLiNKER補充していたとしても、貴様にシンフォギアを纏って戦う余裕など……』

『……さっそく、使わせてもらうぜ。ぐ、ううう…』バシュッ!

『私が作ったLiNKERではない、だと?』

『奏さん!』

『うううう!翼、響!あとは任せ…ッ!?』

『奏1人に背負わせはしない。さっき言ったばかりじゃないか』

『翼……そうか。響、先に謝っとくぞ』

『奏さん?何を、言って…』

『お前に全部背負わせちまうことになるが、お前を信じてる。誰とでも手を繋ごうとするお前なら、なんとかできるってな。だから、託すぞ、響!』

『何をする気だ?出来損ない』

『(分かってるな翼)』

『(ああ。やつがわざわざデュランダルを近くに持っておかず、リディアンの屋上に設置している(・・・・・・・・・・・・・・・)こと)』

『(そして、何故かそのあたりだけ被害が少ない(・・・・・・・・・・・・・・・・)ことを考えると、それはつまり……)』

『貴様ら…デュランダルを狙う気か!だが貴様らに破壊などできはしない!』

『だったら……ッ!』

『(バリアがリディアンを包んだ!これで確信したぞ!)』

『(ああ!おそらくデュランダルを使うために、置いてある場所周辺を何かしらの装置にしてるんだ!あれを破壊できれば……)』

『たかが装者2人ごときに、私の障壁が敗れるはずがない!』

『そいつはどうかな!』

『私たちは1人ではない!』

『『両翼がそろったツヴァイウィングに、出来ないことはない!うおおおおおお!!』』

【双星ノ鉄槌-DIASTER BLAST】

 

2人の連携技はリディアンに張られたバリアを破壊し、爆発と共にデュランダルを崩落したリディアンの下敷きにした。だけど、肝心の2人の姿が見えない。崩落に巻き込まれたか、それとも爆発に巻き込まれたか。どちらにしても無事ではないはずだと、直ぐに分かってしまった。

 

 

 

 

そして私は、皆がいなくなってしまったことにショックを受け、その隙にフィーネさんの鞭で吹き飛ばされて、こうして情けなく横たわっている。

クリスちゃんの覚悟を見て、翼さんと奏さんに託されたというのに、何もできなかった。

自分の情けなさが嫌になる。

 

「奴らはこいつに何を期待していたのやら。やつらの犠牲は無駄となったか」

「無駄……?」

「そうだ。貴様のせいでやつらの死は無駄となったのだ。手を繋ぐなどという、貴様の下らん夢のせいで…!」

「うああああああ!そんな、私の、私のせいで……」

 

フィーネさんの振り上げた足が、私の左腕を踏みつける。

私のせいで、3人の頑張りが無駄になった…?

アハハ、やっぱり私、呪われてるかも…。

 

「…………うう、グス。ごめん、なさい。ごめんなさいごめんなさい……」

「絶望したか。いくら泣きわめこうと、貴様を絶望から救うものはいない。どれだけ手を伸ばそうと、その手を掴むものなど―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ここにいるよ」

「キサマ……」

「あ………」

 

そこに居たのは七海ちゃんだった。何故か体はボロボロで、息も荒かったけど、そこに居たのは確かに七海ちゃんだった。

 

「彼女が手を伸ばすなら、私がその手を掴む。絶望に沈んでいるなら、そこから引き上げる」

「また貴様か…。お前は何者だ?貴様が出てきたせいで、私の計画は全て狂った」

「知るか」

《ロボットゼェリィィ!》

「変身」

《ロボットイングゥリスゥ!》

「おおおおお!」

 

仮面ライダーに変身した七海ちゃんは、フィーネさんに向かって走り出す。

戦っている。私も戦わなきゃいけないのに、腕や足が震える。

どうして!?どうして私がこの力を手に入れちゃったの!?もっと、私よりもうまくこの力でみんなを助けられた人がいたはずなのに!どうして……。

 

「うぐあ!」

「ふん。その怪我で私を倒そうなど。現実は見ることだな」

 

七海ちゃんが攻撃を立て続けに食らっていた。助けなきゃって思うのに、身体が動かない。

 

「はあ、はあ…。現実だけ見たって、何もなせやしない!夢を見たっていいんだ。理想を描いたって良い!その思い描いた未来の為に、力の限り戦うことに意味がある!」

 

でも七海ちゃんは諦めることなく、キレを欠いた動きで抗う。

 

「立花響はその夢を見たことで、絶望に沈んだ。顔も知らぬ者とも、敵対するものであろうと手を繋ぐ。そんなものはありはしない!痛みという現実こそが、人間を繋ぐ唯一のつながりだ!」

「だったら私が手を繋ぐ!誰かの手を繋ぐことは、彼女にしかできないことじゃない!彼女が誰かに手を差し伸べられてはならないなんて、そんな決まりはどこにもない!…だったら!彼女が伸ばした手を、私が掴んでやる!あいにくと、そういうのは得意なんだよ!」

「やかましいわ!」

「ぐあああああ!」

「七海ちゃん!」

「やはりキサマは、私の計画には邪魔だ。ここで排除……ん?」

 

フィーネが七海ちゃんに止めを刺そうとした時、歌が聞こえた。

 

「この歌は、なんだ?やめろ…やめろ!この歌は、私の心を刺激する!」

「リディアンの校歌……?」

 

生き残っていたらしいスピーカーから、学校の校歌が流れてくる。

……これ、CDとかじゃない。歌ってるんだ。シェルターに避難した人たちが。

 

「聞こえる…みんなの声が……。感じる…たくさんの人達の思いを……。……私は、1人じゃない!皆が唄ってるんだッ!だから、まだ唄える…ッ!頑張れるッ!戦えるッ……。へいき、へっちゃらだ―――ッ!」

 

その時、私の身体から大きな光の柱が上った。私だけじゃない。他の場所でも、赤、青、朱の光の柱が立ち上ってるのが見える。

 

「ええい!やはり私の邪魔をするのは貴様らか!させるもの…ッ!?貴様、離せ!」

「やらせない!ぐうっ!……立花響ぃ!声に出して叫べ!貴方の手が握るものを!貴方の夢をガッ!。はあ、はあ…!貴方が、纏うものをぉ!」

 

七海ちゃんがフィーネさんにしがみ付き、背中を殴られながらも時間を稼いでくれた。

私は心に浮かぶ歌を、心の命ずるままに口ずさむ。

 

Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

Croitzal ronzell Gungnir zizzl(人と死しても、戦士と生きる)

Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなる)

 

「あぐ!」

「ちぃ……!なんだというのだ。…なんだというのだ!それはなんだ!?意志1つで、何でもできるようなものではない!貴様らは、何を纏っているというのだ!何なのだあああ!」

 

七海ちゃんを振りほどいたフィーネさんが、取り乱して激昂しながら私たちに叫ぶ。それはなんだと、一体なんなんだと。なら、教えてやる……。

 

「これが、私の、私たちの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンフォギアァァァァァァッ!!」

 

 




というわけで、エクスドライブ登場。
お次はキャロル&セレナVSアウラネル、シェルター内での会話ですね。
おそらく今日中に、もう一話投稿できるかも

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36 できることを、やってみよっか?

本日2回目の投稿

前半、シェルター内での会話
後半、キャロル&セレナVSアウラネル

忘れてたら参考にどうぞ(33話終了の時点)
キャロル→パンチングコング
セレナ→バーニングファルコン
アウラネル→エンジンブロス


《3人称side》

 

「まさか、了子さんが……」

「今まで私たちを騙していた……という事かしら」

 

リディアンの地下にあるシェルターでは、避難した2課のスタッフたちが忙しなく動いていた。

なんせ襲われたのはリディアン音楽院なのだ。平日の昼間だったため、数多くの生徒がこのシェルターに避難しており、やることはたくさんあった。

そんな中、オペレーターである藤尭朔也と友里あおいは、持ち込んだパソコンで外の様子を見ていたのだが、了子が裏切ったことに呆然としていた。

 

「外の様子は、どうなっている……」

「「司令!?」」

 

弦十郎の声に振り返った2人は、腹に包帯を巻き緒川に肩を支えられている弦十郎の姿に、思わず狼狽えてしまう。

 

「その怪我は……」

「問題ない。了子くん、いやフィーネと戦った時に腹を貫かれただけだ。大したことではない」

「いや十分重症じゃないですか!」

「問題ないといっているだろう。それより、現場はどうなっている」

 

弦十郎を心配する2人を宥めつつ、外での様子を聞く。

そんな4人に声をかけるリディアンの生徒がいた。

リディアンの地下シェルターには、2課の職員のみが使用できる部屋がある。本来2課の施設等が使用不能になった時用の場所だが、避難した人数が予想以上だったために一部のブロックを民間人の避難場所にしている。ここに来れたのはそのためだろう。

未来は響から隠し事(2課関係)を聞き出す際の一悶着で、弦十郎たちと出会っていたため、無理に追い出されたりはしなかった。

 

「あの!私にも教えてください!響は、響はどうなってるんですか?」

「未来ちゃん…」

「未来君か。朔也…」

「分かりました」

 

そう言って朔也は、目の前のモニターにパソコンの画面を映す。

 

「…っ!そんな……」

「リディアンが…ボロボロに……」

「こんなのって……」

 

まず最初に映ったのは、全壊したリディアンだった。その悲惨な光景に、未来についてきた3人のリディアンの生徒たちは、絶句する。

 

「ッ!?高出力のエネルギー反応!これは、デュランダルからです!」

「なんだと!一体何をするつもりだ…」

 

やがて、デュランダルから一発の光弾が放たれ、クリスの命がけの絶唱によって防がれた。

 

「そんな、クリス……。もっと、話したいこともあったのに……」

「君の中には、まだ何かが残っていたのか……。(だとしたら我々は、なんと無力だ!)」

 

悪い流れは続く。奏が2課の物とは違うLiNKERを注射し、翼と共にデュランダルを狙いに行った。

 

「あいつら、狙いはデュランダルではない……?」

「司令!デュランダルが立てられている場所から、一定範囲のリディアンの校舎にわたり、謎のエネルギー反応が!」

「それらのエネルギーは全てデュランダルに蓄積されている模様!」

「まさか、リディアンの一部に何かしらの細工をしているのか」

「おそらく翼さんと奏さんはそれに、気づいたという事でしょう」

 

そして翼と奏の連携技は、リディアンに張られたバリアを破壊し、デュランダルが立てられていた校舎を倒壊させた。しかし、肝心の2人の反応が見つかることはなかった。

 

「天羽々斬及びガングニール、反応途絶しました……」

「身命を賭して、続く砲撃を止めたか……。命を燃やしたお前たちの歌声、世界に届いたぞ……世界を守ったぞ!」

 

遂に残る装者は、響一人となった。しかしその響は、3人がいなくなったことにショックを受け、呆気なくフィーネに吹き飛ばされる。

 

「響!」

「くっ…!」

「分かんないよッ!?どうしてみんな戦うのッ!?」

 

響がフィーネに蹴り飛ばされるのを見た未来が悲鳴を上げ、ついてきた生徒の1人が叫んだ。

 

「痛い思いして……怖い思いしてッ!?死ぬために戦っているのッ!?」

「………分からないの?」

「え……あッ!?」

「……分からないの?」

「あ…あぁ、うぅぅ……。うわあああああああああああッ!」

 

未来の問いかけに、叫んでいたツインテールの少女は呻き声を上げるだけだった。彼女も分かっているのだ。立花響が、自身の友人が、何のために戦っているのかなど。

 

「司令!周辺区画のシェルターにて、生存者を発見しました!」

「そうか…良かったッ!」

 

未来たちの会話に、自らの無力さを痛感し苦渋の表情で聞いていた弦十郎に、緒川が報告する。

その時、緒川についてきたのか母親に追いかけられている小さな子供が、モニターを指差しながら言った。

 

「……あッ!カッコいいお姉ちゃんだ!」

「ビッキーのこと、知ってるの?」

「うん!助けてもらったの!」

「……あの子の、人助け」

 

声を上げた小さな女の子は、響が初めてシンフォギアを纏った時に助けた女の子だった。

小さな女の子の言葉に、先ほど叫んでいた少女がポツリと呟いた。

 

『―――いくら泣きわめこうと、貴様を絶望から救うものはいない。どれだけ手を伸ばそうと、その手を掴むものなど―――』

『―――ここにいるよ』

「七海ちゃん……」

「七海くんか……」

 

響たちの方では、七海が現れ変身するとフィーネと戦い始める。

 

「ねえ、カッコいいお姉ちゃんと金ぴかのお姉ちゃん、助けられないの?」

「……助けようと思ってもどうしようもないんです。私たちには、何もできないですし……」

「じゃあ、一緒に応援しよ!ねえ、ここから話しかけられないの?」

「あ……うん、できないんだ……いや、まてよ?学校のシステムが生きていれば、リンクしてここから声を送れるかもしれません!」

 

長い金髪の少女が、諦めに似た感情と共に女の子の案に首を横に振る。

それでも折れない女の子は、次の案を出す。こんどは朔也がその案は無理だと言おうとした時、それでもできるかもしれないと考えを導き出す。

 

「何をすればいいですかッ!」

「待って、ヒナ」

「……止めても無駄だよ。私は響の為に―――」

 

未来をヒナと呼んだ黒鉄色のショートカットの少女が、未来を呼び止める。未来は確固たる意志を持って、呼び止めた少女を見る。

 

「ううん、私も手伝う」

「私もです」

「え……」

 

止められるとばかり思っていた未来は、思いもよらない言葉に驚く。そしてショートカットの少女だけでなく、金髪の少女も協力を申し出る。

 

『だったら私が手を繋ぐ!誰かの手を繋ぐことは、彼女にしかできないことじゃない!』

『彼女が伸ばした手を、私が掴んでやる!』

 

「……うん。あたしも……あたしにも手伝わせてッ!こんな時、大好きなアニメなら、友達の為にできることをやるんだッ!」

「……うんッ!皆で響を助けようッ!」

 

足がすくんでいたツインテールの少女も、七海の言葉で勇気を出して一歩踏み出した。

―――その後すぐに、4人によって学校の予備電源は復旧され、彼女たちの歌声は響たちに届くこととなり、それは奇跡を起こした。

 

 

 

《3人称side(キャロル・セレナ)》

 

「ちぃ!こいつらに構ってる暇はないというのに…!」

「さあ、スマッシュを追加してあげましょう」

「セレナ!一気に蹴散らすぞ!」

「分かりました先生!」

 

フィーネと装者たちが戦っている場所から、少し離れた場所ではキャロルとセレナが、アウラネルと戦闘を繰り広げていた。

 

《フルチャージ!》

《ウェアウルフズアビリティ!》

《カバンストラッシュ!》

《シューティングカバンショット!》

 

キャロルが撃ちだした青いオオカミ型のエネルギー弾と、セレナが放った黄色の斬撃が、アウラネルが新たに生み出したスマッシュを撃破する。

 

「今だッ!」

「ハアアア!」

 

キャロルとセレナがそれぞれのアタッシュウェポンを手に、アウラネルに向かって走り出す。

 

「セイッ!」

「フッ!」

「キャア!」

 

セレナがアタッシュカリバー振るうが、アウラネルのスチームブレードによって弾かれ、斬りつけられる。

 

「このぉ!」

「当たらなければ意味はないですよ」

「だったら!」

 

キャロルがアタッシュショットガンを撃つも、アウラネルにすべて躱される。

アタッシュショットガンを捨て、接近戦を挑むキャロル。パンチングコングのガントレット「ナックルデモリッション」が命中するも、アウラネルが交差した腕に受け止められる。

 

「こんなものですか」

「グアアア!」

 

パンチングコングのパワーを受け止められたことにより、キャロルに動揺が生まれその隙をついたアウラネルが、ネビュラスチームガンでキャロルを撃つ。

 

「私はネリとモネよりも、各種能力を強化されています。今までは完全聖遺物だったわけですが、もともと私はライダーシステムの運用を目的としていますからね。そう簡単にいくと思わないでください」

「……ということは、貴様のマスターとやらは、あのフィーネとかいうやつではないな?わざわざライダーシステム用の貴様に、ネフシュタンの鎧を使わせる意味はない。データが取りたかったならそれこそ誰かしらの人間に使わせれば良いし、戦闘力目的ならそれ専用の人形を作れば良い」

「へえ……」

「そしてライダーシステムは、オレたちとの戦闘データをもとに、その贋作を作ったんだろう?だが、フィーネはあの様子だと、聖遺物というところにこだわっているように見える。つまりバイカイザーやお前が使っているそいつも、そしてお前たちでさえ、フィーネ以外の誰かが作った。違うか?」

「ふむ…。まあ、ほぼ正解といったところですかね」

「ほぼ…?」

 

アウラネルの言い回しに、キャロルは疑問を憶える。しかしアウラネルは、それ以上問答する気はないと言わんばかりに、スチームブレードを分解、ネビュラスチームガンに取り付け、ライフルモードに強化すると、2人に構えて撃つ。

 

「させません!」

 

セレナが主翼「バーニングスクランブラ―」を展開して銃弾を防ぎ、翼から羽部分にあたる「バーニングフライヤー」を射出する。

セレナによって遠隔操作されたバーニングフライヤーが、綺麗な曲線を描きながらアウラネルに迫るも、全てアウラネルに撃ち落とされてしまう。

 

「そんなッ!」

「フフフ……」

『お2人とも聞こえますか!フィーネの方に、ナナ姉えが向かいました!』

「分かった。なら、ここをさっさと終わらせないとな」

《アサルトバレット!オーバーライズ!》

《Kamen Rider......Kamen Rider......》

「ふん!」

《ショットライズ!》

 

キャロルが撃ちだした銃弾が、青い狼の幻影を纏いアウラネルに襲い掛かる。アウラネルには避けられるも、オオカミの幻影はキャロルに食らいつく。

 

《レディーゴー!アサルトウルフ!》

《No chance of surviving》

 

狼の幻影はアーマーへと変化し、アサルトウルフへとフォームチェンジを完了する。

 

「セレナ、それを貸せ」

「え?え、ああ、はい、どうぞ」

「行くぞ!」

 

セレナからアタッシュカリバーをもらったキャロルは、アウラネルに斬りかかる。

アウラネルは振り下ろされたアタッシュカリバーを、ライフルモードのネビュラスチームガンで受け流し、続くセレナのスラッシュライザーの斬撃を防ぐ。

 

「ハアアア!」

「せやあああ!」

「くっ…」

 

2人の連続攻撃を防ぐも、アウラネルの表情は歪んでいく。

 

「「ハアアア!」」

「ぐっ……ガッ!」

 

2人が同時に横に振るった武器を、咄嗟に自身の武器を立てることで受け止める。

しかし2人は武器を上に勢いよく動かし、それによって腕を上に挙げられたアウラネルのがら空きの胴体に、2人の蹴りが突き刺さる。

 

「返すぞ「わっ!」…これで決める!」

《バスターオーソライズ!》

《アサルトチャージ!》

 

キャロルはアタッシュカリバーをセレナに投げ返し、オーソライズバスターのスキャンエリアに、シューティングウルフプログライズキーをスキャン、更にアサルトグリップの起動スイッチ「アサルトスターター」を押す。

 

「ハア!」

《プログライズダスト!》

《マグネティックストームブラスト!》

 

右手にショットライザー、左手にオーソライズバスターを構え、同時に引き金を引く。

ショットライザーから撃ちだされたオオカミ型のエネルギー弾が、オーソライズバスターから発射された光弾を咥え、アウラネルに炸裂する。

 

 

     ス ト ー ム

            

            

            

           

 

 

「グアアア!」

「私も行きます!」

《インフェルノウィング!》

《Progrise key comfirmed. Ready to utilize》

 

セレナはバーニングファルコンプログライズキーの起動スイッチを押し、スラッシュライザーから外してアタッシュカリバーに装填する。

 

「ハアア!」

《バーニングレイン!》

《バーニングカバンストラッシュ!》

「ウアアアッ!」

 

セレナはアウラネルに接近し、右手のスラッシュライザーと、左手のアタッシュカリバーで斬りつけ、背後に回り打ち上げる。

高く打ち上げられたアウラネルを、炎を纏ったバーニングフライヤーが切り刻む。

 

「ハァァァ……セイヤァ!」

 

真上のアウラネル目がけて飛ばされた2つの斬撃は、アウラネルに命中し爆発した。

 

バ ー ニ ン グ

レ       ス

        ト

イ       ラ

        ッ

ン       シ

          ュ

 

 

「グハッ!……これ以上は、厳しいですか。また会いましょう…」

 

そう言って、ネビュラスチームガンから噴出した煙で身を隠し、煙が晴れた時にはその姿はなかった。

 

「逃げたか……。エルフナイン、七海の方はどうなっている?……エルフナイン?」

「せ、先生。あれ……」

「あれ?……なッ!?」

 

キャロルがセレナが指差す方向に目を向けると、そこには空に向かってそびえ立つ4色の光の柱があった。

しかし、その柱からは危険な感じはしなかった。温かみを感じるというか、安心するというか……。

 

「何が起こっている。……行くぞセレナ!」

「はい!」

 

2人は光の柱に向かって走っていく。

 

 

 

さあ、役者はそろった

 




板場弓美の髪型って、あれツインテールだよね!?こういうの全然分かんないんだよなぁ……。

無印編あと1,2話で終われると思います。

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37 本物の奇跡

前回の最後のキャロルとセレナの技の解説忘れてたので一応。どうでも良い人は飛ばしてください。

プロブライズストームブラスト
プログライズダストとマグネティックストームブラストの同時発射。
作中では、オーソライズバスターにシューティングウルフプログライズキーを使用。
ショットライザーから発射されたオオカミ型のエネルギー弾が、オーソライズバスターから放たれた光弾を咥え、敵目がけて飛んでいく。
モデルは、ビルド本編25話でクローズチャージが放った必殺技。

バーニングレインストラッシュ
バーニングレインとバーニングストラッシュの同時使用技。
バーニングレイン発動後、外したバーニングファルコンプログライズキーを、アタッシュカリバーに装填という、結構メンドクサイ手順を踏んでいる。
攻撃方法としては、スラッシュライザーとアタッシュカリバーでの2刀流で攻撃、空中に打ち上げ羽根型パーツ「バーニングフライヤー」で追撃を掛け、止めに2つの斬撃を飛ばすというもの。

解説終わり

ランプーさん、感想ありがとうございました!
お気に入り登録100件行きました!ありがとうございます!


今回の話は、個人的に結構力作。



《3人称side》

 

「限定解除……だと……」

 

フィーネは空を見上げ、天使のような白いシンフォギアを纏った4人を見つめる。

 

「…みんなの歌声がくれたギアが、私に負けない力を与えてくれる。クリスちゃんたちに、もう一度立ち上がる力を与えてくれる」

 

希望を感じさせる黄色の翼を広げ、純白のギアを纏った響が言う。

 

「歌は戦う力だけじゃない。……命なんだ!」

「高レベルのフォニックゲイン。……力も持たぬ者たちに、何故ここまでのフォニックゲインが生み出せる……?」

「(んなこたぁ、どうでも良いんだよッ!)」

 

燃えるような赤色と輝く純白のギアを纏ったクリスの声が、フィーネの頭に響く。

 

「念話までもッ!限定解除されたギアを纏って、すっかりその気かッ!」

 

フィーネが手を掲げると、その手に特徴的な形の杖「ソロモンの杖」が現れる。それと同時に、次々とノイズが現れる。

 

「ノイズを生み出した!ということは、あれも聖遺物か!」

「そして今までのことから考えるに、あれはノイズを操ることもできるかもしれないぞ」

 

信念を表しているような朱色と、何者にも染まることのない純白のギアを纏う奏は、フィーネの杖が聖遺物であることを見抜く。

研ぎ澄まされた青色と、煌めく純白のギアを纏う翼は、ノイズを操っているのは、あの杖だと確信する。

 

「だとしても関係ねえ!ここでノイズなんざぁ、芸が乏しいんだよッ!」

「各自、ノイズを迎え撃つぞ!」

「はいッ!」

「こいつでも、持ってけぇ!」

【MEGA DETH PARTY】

 

クリスの飛行ユニットが巨大化、変形し、複数の砲身からレーザーが放たれる。それらはノイズを焼き払っていく。

 

「奏!」

「ああ、行くぞ翼!」

【蒼ノ一閃 滅破】

【LAST∞METEOR 烈火】

 

クリスの放つレーザーを掻い潜りながら、翼と奏の放った斬撃と竜巻が、ノイズを次々と刈り取っていく。

響は高度を上げ、上昇していく。そしてある程度の高度で止まり、視線を下に向けるそこには飛行がノイズを出撃させる、巨大なノイズの姿があった。

 

「でやああああああ!」

 

そのノイズ目がけ、響は一直線に降下。自身を弾丸とした響の拳はノイズを貫通し、爆散させる。その爆発に巻き込まれ、周囲のノイズも消し飛んだ。

 

「よしっ!」

「へっ!ノイズなんか相手じゃないぜ!」

「櫻井女史、世界に尽きぬノイズの災禍は、全て貴方の仕業なのか?」

 

翼がフィーネに尋ねる。フィーネは表情を変えることなく、言葉を紡ぐ。

 

「ノイズとは、『バラルの呪詛』にて相互理解を失った人類が、同じ人類の身を殺戮する為に造り上げた自立兵器……」

「人が、人を殺すために……」

「バビロニアの宝物庫は扉が開け放てたままでな。この、ソロモンの杖がなかろうと、ノイズはまた現れるのさ。私は10年に一度の偶然を、必然と見なし純粋な力として使役しているだけさ」

「まったわけのわかんねぇことを!……あいつ、何をする気だッ!」

「……怖じろぉッ!…あ……う……ッ!」

 

フィーネはソロモンの杖の切っ先を自身へと向け、腹に突き立てる。その瞬間、残っていたノイズが、フィーネを覆い尽くさんとばかりに群がる。

 

「何が起こっている!?」

「ノイズに取り込まれてる……?」

「そうじゃねえッ!あいつがノイズを取り込んでんだッ!」

「なんだとッ!」

 

フィーネの足が、腕が、身体が、顔がノイズに埋め尽くされていく。

 

「来たれ……。デュランダルッ!」

 

フィーネの呼びかけに応じるように、瓦礫から飛び出したデュランダルが、もはやフィーネの姿も見えなくなったノイズの塊に埋もれていく。

やがて、その姿は巨大な龍のような形を形成していく。

 

「『黙示録の赤き龍』…。この世界に滅びをもたらすものだ!」

「くっそ!まだこんな隠し玉を用意してたとはな!」

「それでもやることは変わらない。いくぞ、ここで決着をつける!」

「はいッ!」

 

 

 

 

 

 

「はあ!」

「こいつでも食らいな!」

 

翼と奏が生成した大量の剣と槍が、龍の体を傷つける。だが、その傷もすぐに修復されている。

 

「傷が修復されてんぞ!」

「ネフシュタンの特性を持っているのか!?」

「ふん。貴様らの攻撃で、私を倒せるものか!……ッ!?」

「私を忘れるなってのッ!」

「七海ちゃん」

 

タンクチャージにフォームチェンジした七海が、ブレイクゲイザーで砲撃する。龍はそれに構うことなく、無造作に手を振り瓦礫が猛スピードで撃ちだされる。

七海は脚部のハードキャタピラで走行しながら、砲撃で瓦礫を撃ち落としクリスに声をかける。

 

「クリス!合わせて!」

「分かったッ!」

 

ツインブレイカービームモードに、ガトリングフルボトルとハチフルボトルを装填。さらにスクラッシュドライバーのレバーを下ろす。

 

《シングルゥ!ツゥイン!》

「「はああああ!」」

《バースティングフィニッシュ!》

《ツインフィニッシュ!》

 

ブレイクゲイザーからビームが発射され、ツインブレイカ―からは蜂型の弾幕がばら撒かれる。

それと合わせて、クリスの飛行ユニットからもレーザーやミサイル、ガトリングが火を噴く。

その全てが龍に命中し、爆発が起こる。

 

「す、すごい」

「これならダメージだって通ったはず……」

 

その迫力に響は思わず感嘆し、奏はダメージが通っていることを祈る。

しかし、煙が晴れると無傷の龍が現れる。

 

「まじかよ……」

「回復速度が速すぎる……」

「ハハハハハ!これが完全聖遺物の力の最高峰!ハハハハ!」

『ナナ姉え!あの龍の解析が完了しました!』

 

七海にエルフナインから通信が届く。七海はあらかじめエルフナインの、黙示録の赤き龍について解析を頼んでいたのだ。

 

『あの龍の体組織はノイズで構成されています。ですが、本来ノイズにあの質量の形成、保持、そしていくらネフシュタンがあろうと、あの速度の自動修復できるほどのエネルギーはありません』

「つまりあの龍は、他からエネルギーを供給している……?」

『はいッ!そしてその供給源が……』

「3つの完全聖遺物……ソロモンの杖とネフシュタン、デュランダルか!」

『おそらく。現状でもその3つによる供給でギリギリのはずです。なのでどれかさえ破壊、もしくは奪取できれば……』

「エネルギーの供給は足りなくなって、自動修復も不可能になり弱体化する」

 

しかしそれは言うほど簡単ではない。なんせどこにあるかもわからない完全聖遺物を見つけ、更にはそれを取り出さないといけないのだ。

 

「狙うなら持っているエネルギーが多く、なおかつ取り出しやすいと思われるデュランダルか……。エル、どこにあるか分かる?」

『龍の胴体部分にあると思いますが……反応から、おそらくフィーネが持っているかと思います』

「やっぱそうだよなぁ」

 

体組織となっているノイズを操るためのソロモンの杖。そしてフィーネの身体と融合したネフシュタン、そして無尽蔵ともいえるエネルギーを持つデュランダル。

前者2つは、そもそも体を構成するために融合しているために無理。だとすればデュランダルのみとなる。

しかしそのデュランダルはフィーネが持っているという。

それもそうだ。役割としては3つの完全聖遺物の中では優先度は低いが、それでも必要ないわけではないのだ。

 

「分かった。何とかやってみるよ」

「七海!」

「お姉ちゃん!」

 

エルフナインとの通信を切ると、キャロルとセレナが合流する。

 

「2人とも、エルから聞いてるね?」

「ああ。それで、あれはどうするんだ?」

「手短に話すね。あの龍の体内にある完全聖遺物デュランダルを奪取もしく破壊する」

 

七海は作戦内容を話す。作戦を聞いた2人は頷くと、行動を開始する。

 

「さて…頼むよ、ヒーロー」

 

七海は龍が放つビームを回避している響を見て、自身もまた、行動を開始する。

 

 

「くそぉ!このままじゃジリ貧だぞ!」

「奏!危ない!」

「なっ!?」

 

ビームを回避した奏に、次のビームが飛んでくる。奏は焼石に水だとは分かっていても、回避は出来ないと判断し槍を掲げる。

その時、奏を横から飛んできたセレナが、直前で抱きかかえてビームの進行方向から回避する。

 

「大丈夫ですか!」

「あ、ああ……」

「貴方は……」

「風鳴翼さん、天羽奏さん。お願いがあります」

 

そしてセレナは、2人に七海の作戦を伝える。

 

「……おい、それ本気か?前半は良いとしてもよ……」

「……立花にデュランダルを使わせる(・・・・・・・・・・・・・・)。それでどうにかなるのか?」

「分かりません……。ですが、私は信じます。お姉ちゃんを、立花響さんを」

「……分かった。信じることにする」

「私も、貴方の言葉を信じることにする」

「あ……。ありがとうございます!」

 

セレナは2人に礼を言い頭を下げる。2人は頭を上げたセレナの両隣に並ぶ。

 

「そんじゃ、いっちょやってみますか!」

「ああ……!」

「はいッ!」

 

そしてクリスと響の方でも……。

 

「近づけないッ!」

「バカっ!接近戦オンリーのお前じゃ、このビームの嵐は抜けられねえ!無茶すんな!」

「でも…ッ!瓦礫!?」

「マズッ!」

《バスターダスト!》

「ボーっとするな!」

 

響とクリスを襲った巨大な瓦礫が、拳の形をしたエネルギー弾によって砕かれる。

2人を救ったのはキャロルだった。

 

「お前……なんで」

「そんなことはどうでも良い。とりあえず話を聞け」

 

クリスの疑問を無視し、キャロルは七海の作戦を伝える。

 

「私が、デュランダルを……」

「おい、どういうことだよ」

「七海は詳しくは言わなかったが……貴様らが使うアームドギアとやらは、使用者の思いによって形を成す。そうだな?」

「あ?なんだよ急に…まあそうだけど」

「というか、何でそのこと知ってるの?」

「貴様が風鳴翼に攻撃された時があっただろ。その時に言われていたではないか」

「えっ!?いたの!?」

「ああ」

 

ゴホンッと、キャロルは咳払いをし、脱線した話を元に戻す。

 

「おそらく立花響のアームドギアは武器ではない」

「え?それってどういう……」

「つまりあれだろ?誰とでも手を繋ごうとするお前が握るのは、武器じゃないってこった」

「あ……」

「雪音クリスの考えは間違っていないだろう。その結果、立花響のガングニールが持ったアームドギアとその特性は、おそらく『結び繋ぐ力』。それを応用すれば、デュランダルを使用することもできるはずだ」

「それが私のアームドギア……分かった。それが私にしかできないなら、私がやる。そして、フィーネさんとも手を繋いでみせる!」

「よし、ならばさっさとやるぞ」

 

2人を説得できたキャロルは、龍に顔を向ける。そのキャロルを響が呼びとめる。

 

「あ、待って!」

「なんだ、余計な話をしている暇は……」

「名前を教えて!」

「……は?」

「名前、ちゃんと教えてもらってなかったから」

「知っているはずだが」

「それでもだよ。貴方の口から聞きたいの!」

「諦めな。こいつはこういうやつだ」

「……キャロル。今はそれだけだ」

「キャロル……キャロルちゃんか!キャロルちゃん、さっきは助けてくれてありがとう!」

「………ふん」

 

響のお礼にキャロルは適当にあしらうが、キャロルに悪い気分はしなかった。

 

 

………キャロルのショットライザーに装填されているアサルトウルフプログライズキーが小さく、されども確かに光を放っていることに、誰も気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

『七海、こっちは説得できたぞ』

『こちらも協力してくれるそうです!』

「分かった。じゃあ、さっそく始めようか」

《限界ブレイク!激熱突破!オーバーグリス!》

「心火を燃やして、ぶっ潰す」

 

オーバーグリスにフォームチェンジした七海は、スクラッシュドライバーのレバーを下ろし、スチームパンツァーに黒夜から渡されていたシンフォギアボトルを装填する。

 

《ブースト!バースト!》

《オーバーバースト!》

《フルボトル!》

「奮起…再起……奇跡!これが私の戦いだぁぁああああ!」

 

マシンパックブースターから蒸気を噴出し、龍の胴体へと突貫する七海。

それに気づいたフィーネは、次々とビームを放ち撃ち落とそうとする。

 

「貴様、何をするつもりだ!」

「決まってるでしょ…!明日を、未来を、守るためだぁあああ!」

《パンツァーブレイク!》

 

七海がスチームパンツァーを叩きつけた胴体に、大きな穴が開きフィーネの姿が見える。

中は空洞となっておりその中心に、腰から下が龍と一体化しているフィーネが鎮座している。

 

「くっ……なんという威力。だが、これしきの損傷、すぐに修復できる!」

「今だぁあああ!」

 

七海の合図と共に龍の体内に侵入した3つの人影。

 

「よお、フィーネ!」

「雪音クリス!」

 

フィーネはすぐさま龍に命じ、内部を変化させてクリスたちを始末しようとするが、それより早くクリスの飛行ユニットが変形する。

 

「周り全部が敵なら、狙いをつける必要はねえ!ぶっ放せぇぇええええ!!」

「こいつ、でたらめに!」

 

全方位に向けられた砲門が、一斉に火を噴き、内部を無茶苦茶にする。

一歩間違えれば自爆覚悟のその攻撃に動揺したフィーネの隙をつくように、2人の人影がフィーネに接近する。

 

「おらあ!」

「出来損ないか!貴様などにッ!」

「もらったぞ!」

「なんだとッ!背後からッ!」

 

奏がフィーネに向けて槍を上段から叩きつける。フィーネは手に持っているデュランダルで槍を防ぐ。

だが奏の背中から現れた翼が、刀を振り上げてデュランダルを弾き飛ばす。

目的を達した2人はすぐにフィーネから距離を取る。

 

「貴様らの狙いはデュランダルかッ!そうはさせん!」

「そいつはこっちのセリフだっての!ちょせぇッ」

 

フィーネは体組織を触手にさせ、デュランダルを取り返そうとする。

しかしアームドギアをハンドガンに変形させたクリスは、2丁のハンドガンで器用にデュランダルを撃ち、先ほどの一斉射で空いた穴から外へと弾きだす。

そして3人は別の穴から、外へと脱出する。

 

「出てきたッ!」

「あれを掴め!立花響ッ!」

「うん…ってうわぁ!」

 

デュランダルが出てきたのを確認した響は、デュランダルを掴もうとするが、龍の咆哮によって飛行を阻害される。

その隙を狙って龍の身体から触手が飛び出し、デュランダルを回収しようとする。

 

「そんなッ!」

「やらせん!こいつに乗れ!」

「サポートします!」

《マグネティックストームブラスト!》

 

キャロルは必殺技を発動し、オオカミ型のエネルギー弾を撃つ。

通常なら狼の顔だけを模しているのだが、キャロルが放ったエネルギー弾は、オオカミの身体も模しており、その様子はあたかも空を駆ける狼だった。

 

「ありがとう、キャロルちゃん!オオカミさん、お願い!私をデュランダルまで連れてって!」

「ウォォォオオオン!」

 

響はオオカミのエネルギー弾の背中に乗る。

響のお願いに任せろとでも言っているかのように、オオカミは本物の狼のように遠吠えを吠える。

気づけばスピードが速くなりその身体には紫電が弾け、オオカミ型のエネルギー弾は強化されていた。

 

「なんだあれはッ!?立花響のアームドギアの特性は、あんな現象も引き起こすというのか!?」

 

その現象にキャロルは驚愕していた。幾ら狼の形を模していようと、所詮はエネルギー弾、エネルギーの塊である。

しかし、響が乗っただけでその姿はまさしく生き物らしくなり、更には強化までされたのだ。

キャロルからすれば、埒外の事象。錬金術師としての性か、調べたい欲求が湧きあがるが、今はそんな場合ではないと押さえつけショットライザーで響を援護する。

 

「くっ!触手が……」

「はあ!」

「セレナちゃん!」

 

触手が響たちの邪魔をしようとするが、その触手はセレナが飛ばしたバーニングフライヤーが切り刻む。

 

「響さん!お願いします!皆の希望を、夢を、貴方に託します!」

「……うん!任せて!」

 

響を乗せたオオカミはグングンとスピードを増し、あと少しの距離までデュランダルに迫る。しかしその行く手を阻むように、多数の触手が前方から迫る。

 

「あとちょっとなのにッ!」

「ガウ!」

「……え?でもそれじゃあ、君が」

「ガウ!グウウ…」

「………分かった。ありがとう、君のことは絶対に忘れないから!」

「ガウ!」

 

オオカミが何を言っているのかを察した響は、しかしオオカミの決意を感じ取り、礼を述べる。

エネルギー体のオオカミと人間の言葉。普通なら通じることのない言葉による会話は、確かに通じていた。それは響が目指す”夢”そのものだった。

 

「ウウウ…ガウッ!」

「うぉりゃああああ!」

 

オオカミは響が乗っている背中をデュランダルに向ける。響はその背中からデュランダルに向かって、飛行と合わせて思いっきり跳ぶ。

勿論前方から迫る触手がその動きを見逃すはずもなく、響に向かって伸びていく。

しかし響は構うことなくデュランダルへと向かう。あのオオカミがしようとしていることを、(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)決意を知っているのだから(・・・・・・・・・・・・)

 

「ウォォオオオオン!」

 

オオカミが響を追う触手の前に立ちふさがり、触手の群れに突っ込む。傷つきながらも、身体に纏う紫電で触手を蹴散らし、その身体を触手が突き出ていた龍の身体にぶつける。

一際大きな爆発が龍の身体で起こる。龍自体にダメージはない。しかしその特攻は、触手が生み出していた龍の胴を破壊し、触手による妨害を封じることなった。

その命を散らした攻撃は、戦いに出ていた装者たちに、シェルターで戦況を見ていた者たちの心に”何か”をもたらした。

そしてキャロルは見た。オオカミの、文字通り命を懸けた最後の煌めきを。そして俯き静かに、拳を握りしめた。

そして七海は見た。爆発で空いたエネルギー不足で修復が遅い穴から見えたフィーネの顔が、憤怒の表情を浮かべているのを。

 

「オオカミさん……!」

 

一瞬だったとしても、実体を持っていなくても、心が通じ合ったオオカミの死に、響は分かっていても振り向きそうになる。

しかし、2つの声が響きを押しとどめた。

 

「「振り返るなぁ!そのまま、前に向かって飛べぇえええええ!!」」

「ッ!………ッ!うおおおお!!届けええええええええええええ!!」

 

七海とキャロルの声に、響は歯を食いしばりデュランダルに手を伸ばす。

そしてその手は、デュランダルを掴んだ。

 

 

――――ドクンッ

 

 

「ぐッ!?うあああああ!?」

「立花ッ!」

「何が起こってるってんだ!」

「ハハハハッ!馬鹿め!そいつは身体の埋め込まれているガングニールの欠片で、シンフォギアを纏っている。言うなればそいつは融合症例、聖遺物と融合しているのだ。そのため負の感情を増大されやすい」

「まさか、あのオオカミがキッカケだというのか!」

 

フィーネの言葉に、翼は原因を察する。

エネルギー体と言えど、心を通わせたあのオオカミの死は、響の深層心理に負の感情を生み出した。そして、デュランダルを握った瞬間に、その負の感情を増大されたのだ。

 

「間もなくそいつは、破壊衝動に呑み込まれ、暴走する獣となる!ハハハッ!心を通わせようとするからそうなるのだ!やはり、痛みだけが他者との唯一の繋がりなのだ!」

 

フィーネが高笑いを上げ、その間にも響が黒く染まっていく。

その時、戦場に大きな声が響いた。

 

 

 

「正念場だッ!踏ん張りどころだろうがッ!」

 

 

 

声が聞こえた場所を見ると、そこには弦十郎が立っていた。

 

「強く自分を意識してくださいッ!」

「昨日までの自分をッ!」

「これからなりたい自分をッ!」

「……ッ!みんな……」

 

弦十郎だけではない。緒川や朔也、あおいも弦十郎の隣に立っていた。

 

「屈するな立花。お前が構えた胸の覚悟、私に見せてくれッ!」

「お前を信じ、お前に全部賭けてんだッ!お前が自分を信じなくてどうすんだよッ!」

「あたしたちはお前に託した。だからって、お前一人に全部は背負わせたりしないッ!あたしたちがいる。だから、踏ん張れ響ッ!」

「守りたい人たちを思い出してッ!貴方が握るその剣は、傷つけるためではないはずですッ!」

「お前の覚悟はその程度かッ!破壊衝動などねじ伏せろッ!」

「前に聞いたよね!貴方の夢は何!戦う理由はなんだッ!その信念は、貴方を貫き通すための力だッ!」

 

装者たち、七海たちも響に声をかける。徐々に黒く染まった響から、”黒”が抜け落ちていく。

 

「貴方のお節介をッ!」

「あんたの人助けをッ!」

「今日は、私たちがッ!」

 

響の友人の少女たちも、響に声を届ける。響の”黒”はさらに剥がれ落ちていく。

 

(――――かしましいッ!黙らせてやるッ!)

 

フィーネは響に向かってビームを放つ!

しかしエネルギー不足により、先ほどまでの威力はない。それでも十分脅威な威力である。

 

「立花ッ!」

「気をしっかり持てバカッ!」

「響ッ!」

「響さんッ!」

「立花響ッ!」

「立花響!破壊衝動なんて……」

「「「「「「「ぶちやぶれぇぇえええええ!」」」」」」」

「ゥゥゥうぁアアアアアア―――」

 

 

 

 

 

「響ぃぃいいいいいいッ!!」

 

 

 

 

(―――はっ)

 

 

響がはっと、目を見開く。

 

(……そうだ。今の私は、私だけの力じゃない……ッ!)

 

響の意識が覚醒していく。”黒”が次々と落ちていくのを感じる。

 

(そうだッ!この衝動に塗りつぶされてなるものかッ!)

 

その瞬間、真っ暗だった響の視界を光が照らした。

 

 

 

 

《七海side》

 

奇跡、ってものは、存在していると思っていた。だって神様にあったしね。

 

(だけど、この奇跡はそんな安っぽいモノじゃない。まさしく、本物だ)

「…………」

 

私が見上げる先には、光を放つ立花響がいる。全ての闇を払ってしまいそうな光だと思った。

 

「その力……『何』を束ねたッ!?いいや『その力』ッ!振るわせてなるものかぁッ!」

「………ッ」

 

立花響がデュランダルを振り上げようとした時、その顔が一瞬わずかに歪んだ。

どことなく、左手を庇っているように見える。多分フィーネに踏みつけられたところに、無理が来たんだろう。

……仕方ない。

私はマシンパックブースターを起動させ、立花響の横に移動しその左腕の代わりに、デュランダルの柄を握る。立花響が『繋いだ』おかげか、破壊衝動が湧きあがることはなかった。

見れば他の3人の装者も、響の背中を支えている。

 

「行くぞッ!これが最後……今度こそ決着をつけてやらぁッ!」

「クリスちゃん……」

「ああッ!」

「翼さん……」

「これで決めちまおうぜッ!」

「奏さん……」

「…まっ、左腕くらい、変わってあげるよ」

「七海ちゃん……はいッ!」

 

私と立花響が振り上げたデュランダルから、光の刃が伸びる。

 

「―――響き合うみんなの歌声がくれたッ!」

 

 

 

「シンフォギアでええええッ!」

【Synchrogazer】

 

 

 

振り下ろされたデュランダルの光の刃は、黙示録の赤き龍を容易く切り裂いていく。

その理由を私は知っていた。

 

「……完全聖遺物同士の対消滅。……どうしたネフシュタン。……再生だ……再生だッ!」

 

理由を分かっているはずのフィーネがそれでも叫ぶ。しかし、龍の身体は再生しない。

 

 

「この身砕けて、なるものかぁッ!!」

 

 

――――――光が、全てを包んだ

 

 

 

 

 

 




というわけで、決着つきました。朝から書き始めてすんごい時間かかった……。
でも自分的には、結構よく書けたと思うんです。
奏のエクスドライブ時の技が、調べても分かんなかったのでオリジナルです。
次回で無印編は終わりです。でも今日中はちょっときつい、かも。投稿されなかったら察してください。

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38 心火を燃やして、生きて行こうか?

お気に入り登録100件達成を言った途端に99件に……悲しい。


《七海side》

 

「う、ううん……」

 

窓から差し込む日差しに、鳥が鳴く声がする。目を開けた私は、上半身を起こそうとして……動きを止めた。

 

「ナナ姉え……」

「ふみゅぅ……」

「えへへ…お姉ちゃ~ん」

 

私の愛しの義妹たちが、私の身体に抱き着いているのを見て、顔を綻ばせる。

その後義妹たちの手を優しく解き、ベッドを降りて洗面所に向かう。

 

「…………」

 

部屋を出る直前に、部屋に置いてある机に置いてあるビルドドライバー(・・・・・・・・)を見る。

あの戦いから一週間、いろんなことがあった。

 

 

 

 

 

~一週間前、フィーネとの決戦後~

 

私たちが振り下ろしたデュランダルは、黙示録の赤き龍を撃破。倒れるフィーネを確保することに成功した。

 

「う、うう……」

「起きたか、了子くん」

「弦十郎くん?なぜここに……?」

 

私たちはフィーネの様子に、疑問符を浮かべた。だってそうだろう。これだけの被害を出したのに、それを憶えていないか素振りを見せているのだ。

私たちの油断を誘っているのだろうか?だが、装者たちはいつもの了子と同じだと言う。実際彼女はネフシュタンの鎧も纏っていない。

この時、全員がフィーネに集中し過ぎたのがいけなかった。

 

『ナナ姉えッ!』

「どうしたのエ『後ろですッ!』ッ!クリスッ!避けろぉ!」

「はっ?……あ」

 

エルの通信に後ろを振り向くと、私の後ろにいたクリスに向かって、ネフシュタンの鞭(・・・・・・・・)が突きだされていた。

私の声で気付いた数人が一斉に駆け出す。しかし、最初の油断のせいで誰も間に合わない。

数秒後に訪れるであろう痛みを察し、クリスは目を瞑る。そのままクリスは串刺しに―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュッ!

「あ……」

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?クリス……ガッ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ならなかった。

投げかけられた声に、クリスは恐る恐る目を開け、見覚えしかないであろう姿に目を見開いた。

私も動揺していた。ここにいないはずのあの人が、クリスを守るなんて……。

 

「こく、よ…?」

「そーだよ。無事でよかった」

 

仮面ライダービルドハザードフォームの状態で、クリスの前に立つ姉さんにクリスが呆然として呟く。いつものような緩い言葉を発する姉さん。いつもと違ったのは背中から突き出た鞭(・・・・・・・・・)だった。

 

「あ、ああ……黒夜!」

「ちっ…失敗しましたか」

「ッ!てめえ…!」

 

声がした方を見れば、そこにはひび割れてボロボロになったネフシュタンの鎧を纏うアウラネルがいた。

 

「まあ、仮面ライダーを殺れただけでも良しとしましょう……動かない?」

「そんな焦らずにさぁ、どうせならお返しをもらって行きなよ」

《マックスハザードオン!》

《ガタガタゴットン! ズッダンズダン! ガタガタゴットン! ズッダンズダン!》

 

アウラネルはすぐさま撤退しようとするが、姉さんが自信を貫く鞭を掴んで離さない。そのままビルドドライバーのレバーを回し、鞭を思いっきり引き寄せる。

 

「ぬあッ!」

《オーバーフロー!》

「フン!

《ハザードフィニッシュ!》

「ぐああああッ!」

《ヤベーイ!》

 

引き寄せられたアウラネルに、姉さんはその場から動かず上段蹴りを叩き込む。黒い爆発が起こり、ネフシュタンの鎧が崩れていきながらアウラネルも吹っ飛ぶ。

 

「ぐあッ!……おのれ」

 

アウラネルはネビュラスチームガンの煙で、この場から逃走した。しかし問題はそれどころではなかった。

 

「あ………」

「黒夜!」

 

姉さんの変身が解除され、膝から崩れ落ちた。クリスが咄嗟に受け止めるも、おびただしい量の血が流れていた。

 

「おい…おい!嘘だよな?こんな、こんな……」

 

クリスの声が震えだした。弦十郎さんが医療班を呼ぶように言ってるけど、もうこれは間に合わない。

 

「クリス……」

「黒夜、大丈夫だからな…きっとすぐに良くなる。だから、無理に喋るな」

「ごめんね~。どうも、いっしょには居られないみたいだ」

「そんなことない!おっさん達がどうにかしてくれる。だから…だから、そんなこと言わないでくれ」

「私の身体は、ハザード、トリガーを無茶苦茶に…使ったせいで、身体は……崩壊を、始める」

「なんだよ…それ。なんだよそれ!」

 

まるで遺言のように話す姉さんに、クリスは姉さんを抱きかかえたまま俯いた。いや、実際遺言なんだろう。

その間にも、姉さんは話し続けた。

 

「クリス、貴方は…良い子だよ」

「…………」

「だから、私がいなく……てもきっと、大丈夫さ」

「……そんなこと、ない。良い子じゃなくていい。黒夜が離れないなら、悪い子で良い!やめてくれ!行かないで!あたしを置いて、いかないでよぉ……」

 

堰を切ったように、クリスの両目から涙があふれた。周りを見れば、他の装者たちも俯き涙をこらえていた。

 

「クリス……。貴方は、狂ってい、た私にとっ、て……き…っと、最後に残った…良心…だったんだ」

「なんだよ、それ……」

「……クリスがいた…から、私はまだ…”ヒト”で、いられた」

「何言ってんだよ……。お前は、十分人間だろうが……」

「クリス…これ……」

「これは……」

 

泣きじゃくるクリスに、黒夜は震える手で1つのフルボトルを渡した。クリスがそのボトルを受け取ると、そのままクリスの頭を撫でた。

 

「ああ……もうダメ…みたい、だ。お別…れだね~」

「いや、行かないで、ダメ、やだ、待って」

「ク…リス…ゆ……を…叶え……ん…よ……」

 

最後は文にならない言葉を残して、姉さんの身体は黒い粒子となって散った。

姉さんが最後まで腰に着けていたビルドドライバーとフルボトルが、カタンッと無機質な音を立てて落ちた。

 

「黒夜さん……」

「………ッ」

「くそぉ。何で、何でだよぉ……」

 

他の装者たちが姉さんの死に悲しんでいる中、私はクリスの傍に落ちているビルドドライバーとフルボトルを回収した。

 

「……おい、まてよ」

「何?」

「そいつを、どうするつもりだ…」

「決まってる。回収するんだよ」

「それは、黒夜のだ」

「その姉さんはもういない」

「ッ!お前は……ッ!」

 

クリスが私に掴みかかる。だけど、何かをするわけでもなく私の胸ぐらを掴んだまま、クリスは顔を歪ませるのみ。

だから私は、クリスを抱きしめた。

 

「ッ!?なにを……」

「クリス、姉さんはもう、いないんだよ」

「ッ!」

「姉さんはもういない……」

「あ、ああ…うわああああああああああああああああ!!」

 

姉さんの死のショックで、ギリギリまで堰き止められていたものが溢れ出たのか、クリスは声を上げ滂沱のごとく涙を流す。

やがて立っている気力すらなくなったのか、地面に座り込んだクリスに背を向け、キャロルとセレナを呼ぶ。

 

「キャロル、セレナ。帰るよ」

「ああ」

「……はい」

 

やはり長く生きていると、他人(・・)の死というものに感じる感傷は薄くなる。キャロルはある程度平気みたいだけど、セレナはどうも気分が消沈している。

しかしこれは仕方ない。この世界で、誰かが急に死ぬことは不思議ではない。みんながみんな、寿命で死ねるわけではないのだ。

そして、涙を流す装者たちと、拳を強く握りしめる大人たちを残し、テレポートジェムで家に戻った。

 

 

~三日後~

 

この日は、姉さんの葬式が執り行われた。遺体はない。粒子に消えたのだから。

といっても、転生者である姉さんに家族がいるはずもなく、小さいものになるだろうとは思ってた。行われないとは考えない。なんせ2課にはお人好しが多いから。

だから、その葬式に足を運んだ時は、思ったよりも大きいなと感じた。それに結構人がいた。

手早くお香を上げ、そこそこに広い廊下に出る。

 

「君は……七海くんか」

「貴方は……どうも。三日ぶり、ですね」

 

私に声をかけた人物、それは2課司令の弦十郎さんだった。葬式という場だからか、その筋骨隆々の巨体に似合わない黒いスーツを着ていた。

 

「君も来ていたのか……」

「ええ、まあ…一応」

 

何とも言えない雰囲気が広がり、お互い閉口していると唐突に弦十郎さんが近くの休憩スペースを指差した。

 

「少し、話しをしないか?何か奢るぞ」

「…そうですね」

 

誰もいない休憩スペースの椅子に座り、弦十郎さんからカフェオレをもらう。

 

「どうも」

「ああ……今日は一人なのか?」

「ええ、あの子たちもいろいろ(・・・・)と因縁はありますが、今回は私一人です」

 

キャロルたちは家に置いてきた。あまり大勢で行って注目を買うのもあれだろうと思ったからだ。

 

「俺は……君に謝らなければならない」

「………」

「あの時、一番周りを気にしなければならなかったのは俺だ。俺の不注意で、黒夜くんはその命を落としてしまった」

「別に謝る必要はないですよ。あの人が言っていた通り、ハザードトリガーの無茶苦茶な乱用によって、どうせ老い先短いと思いますし」

「君は、随分と冷静だな」

「もとは家族って言っても、仲が良かったわけではないですし」

 

そう言ってカフェオレに口をつける。「コーヒーとミルクそのものを追求した」が謳い文句のカフェオレは、確かにおいしかった。

甘さが癖になるという評判だと聞いたが、私の口の中には、ほろ苦さしか感じなかった。

 

 

 

 

その後もしばらく、弦十郎さんと話した。

まず、姉さんについて。

姉さんの死亡が確認されてからすぐに遺留品、特に研究データの押収がなされたらしい。

しかし、その肝心の研究データは一部を除き、全て消去されていたらしい。どうやら、姉さんの身に何かあった場合、自動で消去されるように設定していたらしい。

国のお偉いさんは、データの復旧を試しているらしいが、その消去されたデータも不規則に暗号化されており、解読と復旧には途方もない時間がかかりそうだとのこと。

実にあの人らしいとは思う。おそらくそのデータの暗号は、姉さんが本気で作ったはずだ。そうなれば誰にも解読は出来ない。できたとしても、私が潰しに行くだけだ。

そして敢えて消去されずに残っていたデータ。これはLiNKERの改善案だった。そのデータにより、天羽奏の負担が軽減するらしい。

しかしその改善案と言うのが問題で、なんと1からLiNKERを作り直しているのだとか。以前まで使っていた物とは全くの別物の為、それ以前まで使っていたLiNKER、そしてセレナが渡したという方も体内洗浄する必要がある。ただ使用していた量がばかにならないので、洗浄に時間がかかり、天羽奏はしばらくは裏方に回るらしい。

因みにセレナがLiNKERを作っていたことは、別に怒っていない。もしもに備えておくのはいいことだ。

 

そして2つ目。

フィーネもとい櫻井了子の処遇について。

彼女が行ったことは裏切り行為ではあるが、ハッキリ言って、こちらはほぼ無罪らしい。

というのも、櫻井了子がフィーネであることを知っているのは、2課の限られた人員、そして弦十郎さんの兄の風鳴八紘さんと父の風鳴訃堂さん、さらにその3人が信用した極一部の上層部だけらしい。つまり、根回しはほぼ完ぺきであり、更に匿名であるデータが送られてきた。

それらのこともあって、彼女に何らかの異変が起きていた、以降は2課の保護観察処分、この2つに収まったらしい。国としてもフィーネもとい櫻井了子の知識と知恵は、簡単に失いたくないのだろう。

因みに、データを送ったのは私だ。しかもばれてた。

フィーネとの決戦の最中、エルが計測していたデータでは、あの場でフィーネが扱った聖遺物以外の反応が観測できたらしい。そしてそれらの反応は、フィーネが発していた黒い靄から観測された。つまり彼女は、第3者によって操られていた、ないし何かしらの精神制御を受けていた可能性があるのだ。

まあ、私も気になることはいくつかあるので、調べようとは思っている。

この件については、弦十郎さんにすごい感謝された。

 

んで3つ目。

完全聖遺物について。

ソロモンの杖はデュランダルの一撃により消滅。デュランダルも同様、と言いたいところだが、実は私がこっそり回収している。

消滅したとばかり思われていたが、実はデュランダルの一撃を放った際の爆発で吹っ飛んだだけであり、こそっと回収しておいたのだ。色々と落ち着いたら、しっかりと封印作業を施すつもりだ。

そしてネフシュタンは、姉さんに破壊された。あの時、何故アウラネルがネフシュタンを纏っていたのか。おそらくデュランダルによる対消滅を運よく免れたものを、アウラネルが使用したのだろう。これにも疑問が残るが、情報が少ないのだ。仕方がない。

一応ネフシュタンの欠片は回収している。

 

 

それからもとりとめないことを話し、私は家に帰ることにする。

その際、弦十郎さんに協力関係を結べないかと打診を受けたが……。

 

「私もやることあるから……それが終わったら、かな。まあ、そっちは早く終わるだろうけど」

「そうか…!」

 

適当気味に返事を返したが、彼からすればその返事で満足らしい。

そのまま弦十郎さんと別れ、外を歩く。

特に何かを思うわけでもなく、ただただ外を歩いていく。

 

 

 

……姉さんの死に私は何も思わない、感じない。

そしてあの死に際の表情を、私は忘れることはないだろう。

粒子となって消える直前、私だけに分かるように浮かべた笑み(・・)。私は天才ではないから、何故私だけに分かるように笑みを浮かべたのか、あの人の考えが分からない。

今回の戦いで解決したことは少ない。むしろ謎ばかりが増えてしまったけど……。

空を見上げる。太陽がジリジリと私を照りつける。

 

 

 

 

 

この世界を、心火を燃やして生き抜こうか?

 

 

 




これにて無印編は終わりです。
次からしばらく番外編となります。活動報告でも番外編でやってほしい回を募集しているので、良ければ意見を書いてみてください!


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番外編 錬金術師の逢瀬編
錬金術師のドキドキデート


今日が奏さんの誕生日だと知ったけど、何も書けなかった(白目)
とりあえず……奏さん、お誕生日おめでとう!

こういう回は書きなれてないから、時間かかった……。


《七海side》

 

「服装よし。髪型よし。表情よし!忘れ物もしていないし、準備は万端。……それじゃあ、行きますか!」

 

姿見の前で、前髪をいじったりしていた私は、意気揚々と部屋を出る。

そう。今から私は一世一代の大勝負に臨むのだ。

 

「行ってきまーす…」

 

さほど大きくない声で、出かけることを伝える。

なぜならこのタイミング(・・・・・・・)で出会ってしまうと、とてつもなく気まずくなり、なおかつセレナに怒られてしまうからだ。

 

「ふぅ。丁度良い時間かな?……大丈夫かな?変な格好じゃないよね?一応立花響たちと買い物した時のワンピースにしてみたけど…」

 

待ち合わせ(・・・・・)に最適な、ある広場の噴水に到着した私は、何だか不安になってきて噴水の水面を鏡替わりにして、服装が乱れていないかチェックする。

今の私は、前に立花響と小日向未来に出会って買い物につき合わされた時に買った、淡い青色のワンピースを着て麦わら帽子をかぶっている。まだ5月なのだけど、最近は今くらいの時期でも十分熱い。冷房必須と言うわけではないが、例年の6月後半並らしい。だからこれくらいでちょうどいいのだ。

なんか周りの通行人が、私に温かい目を向けてる気もしなくはないけど、いいのだ、うん。

 

「な、ナナ姉え…」

 

かけられた声に心臓が跳ねるのを感じながら、後ろに振り向く。そこには美少女といって差し支えない少女(・・)がいた。

容姿に驚きはしたが、髪の色とか雰囲気、何より私の呼び方で誰かは分かった。

 

「その、遅れちゃったかな……?」

「い、いいや遅れてないよ!うん、大丈夫!」

「「………」」

 

気まずい雰囲気が広がる。

どうしよ、どうしたらいいんだ?こんな状況って、どういう風に声かけたらいいんだ!?

 

「と、とりあえず、行こうか。キャロル(・・・・)

「う、うん…」

 

お互い緊張しながら、目的地に向かうために歩き出す。あ、右手と右足が同時に出ちゃった……。

―――どうしてこうなったのか。そして隣にいる美少女は、いったい誰なのか。……事の発端は3日前だった。

 

 

~3日前~

 

「あ、キャロル……」

「な、ナナ姉え……」

 

フィーネとの決戦が終わり、私の周りではちょっとした変化が起きた。

 

「「…………」」

 

最近、キャロルが妙によそよそしいのだ。家の中でばったり出くわしても、顔を逸らしてそそくさと離れる。ご飯の時間になっても研究が忙しいと言って、自身の工房に食事を持って行って一人で食べたりするようになった。就寝の時には完全にセレナを間に挟み、抱き着いてすらくれなくなった……これが一番つらい。といった感じで、とにかくよそよそしい。

ついでに言えば、私もなんか変な感じがする。キャロルを見るとこう、胸と顔が熱くなって真っ直ぐキャロルの顔を見れない。そのせいで、さらにキャロルがよそよそしくなるという悪循環に陥っているのだ。

という事で、私は相談することにした。相談相手はセレナ。というかぶっちゃけセレナしかいない。

エルはさ、ほら、なんかこういうことに免疫なさそうじゃん?セレナはなんか、こういうことに耐性とかありそうじゃん、主に妄想とかで。

などと本人に聞かれたら、まず間違いなくお説教されそうな理由でセレナに相談してみたところ、セレナに呆れたような何とも言えないような表情を浮かべられ、こんなありがたいお言葉をもらった。

 

 

―――――「お二人とも、意識しすぎなんですよ。仕方ないとは思いますけど」

 

 

何が、とは言わない。薄々気づいてはいた。

バイカイザー戦の後、私はキャロルに、家族のそれとは違う感情を持っていることに気付いた。ただ、その後にフィーネのごちゃごちゃとかあって、結局うやむやになっていた。

この感情には、きちんと向き合う必要があるのだろう。

しかし、私は前世でそういった関係どころか友人もいなかったのだ。どういう風に向き合えばいいのか、まったくもって分からなかった。

そんな私を見かねたのか、セレナがこんなことを言いだしたのだ。

 

 

―――――「いっその事、デートでもしてみたらどうですか?」

 

 

頭が真っ白になった。デート?デートってあの、恋人がやるような?……無理無理ッ!ぜぇったい無理ッ!

いくら何でもキャロルとデートなんて……。

 

 

―――――「じゃあいいんですか?このままで」

 

 

……何も言い返せなかった。

それから、あれよあれよという間に、セレナの手によってセッティングが為されていった。

セレナめ、絶対他人事だと思って楽しんでるな……。

そして前日、デートなのだから外で待ち合わせをしろとセレナに言われ、私は眠りについた。

 

 

~現実~

 

「ここ……?」

「うん。最近できた水族館で、人気が出てるんだって」

 

電車に揺られること数十分。

私とキャロルはとある水族館に来ていた。デートプランについては任せると、セレナに言われていたので、デートとしては無難な水族館を選んだ。

入場料を払い、キャロルと一緒に中を進んでいく。

 

「うわ~!」

「すごい……」

 

少し進むと大きな円柱状の水槽で、小魚が大群で渦を形作るように泳いでいるのを見えた。

その圧倒的な光景に、キャロルは歓声を上げ私も小さな声で感嘆した。

 

「ふわッ!?膨らんだ!」

「いったいどこに隠れてるんだろ……。あ、いた……いやこれ海藻か」

 

その後も、水族館をコースに従って回った。

よくよく考えたら、私って前世でも水族館とか行ったことないな……。こんなにきれいなんだなぁ……。

ちらりと隣にいるキャロルを見る。

キャロルも初めて訪れる水族館に興奮しているのか、目を輝かせて周囲を見渡している。

…こうしてみると、どこにでもいる普通の少女の様だ。……いや、どこにでもいるは違うな。こんなに可愛いキャロルがいるのは、私の隣だけだ。

 

「これが、この水族館名物の水槽トンネルか」

「うわ〜すごいねナナ姉え」

 

水族館を回って、私たちがたどり着いたのは、この水族館の名物である水槽トンネル。

他の水族館にもあるようなスペースだけど、この水族館は他の水族館よりもすごいらしい。

 

「すごい…」

 

中に入った瞬間、私は目の前の光景に目を奪われた。

抑えめの照明を水が反射し、その光を水槽内の魚の鱗が反射する。沢山の魚が自由に水槽内を泳いでいる。

その光景は、さながら魚の楽園。この光景に思わず口元が緩んだ。

 

「綺麗だねキャロル。……キャロル?」

 

キャロルに声をかけるが、いつまでたっても返事が来ない。気になってキャロルを見てみると、顔を赤くしてポーッとしていた。

 

「キャロル?」

「ひやっ!?な、何かなナナ姉え!」

「いや、なんだか顔が赤いよ?大丈夫?」

「だ、だだだ大丈夫だから!」

 

いやでも顔赤いよ?

そう思ってキャロルのおでこに手を当てると、キャロルはますます顔を赤くした。

そうしてトンネルを通った私たちは、水族館のお土産コーナーに立ち寄った。

 

「ふぁ~!ぬいぐるみ可愛い!」

「もふもふしてる~。きもちい~」

 

お土産コーナーで買ったのは、ぬいぐるみとキーホルダー。ぬいぐるみは、私はイルカでキャロルは可愛くデフォルメされたサメ。

キーホルダーについては、ジンベエザメのキーホルダーをお揃いにした。

 

「えへへ……ナナ姉えとお揃い…えへへ」

「そんなに嬉しいの?」

「うん!ナナ姉えとお揃いだと、特別な気がする……から」

「ッ!?そ、そっか……」

 

今のはヤバかった。顔を赤らめて陶酔したような表情を浮かべるキャロルは、その…はっきり言ってすごく大人っぽかった。

うう……今までなら特に気にすることはなかったのに……キャロルへの気持ちを自覚してからは、こういうキャロルの仕草に反応してしまう。

私は顔の熱さを自覚しながら、次の場所へと向かう。

 

 

《キャロルside》

―――事の始まりは2日前。

 

「……というわけで先生。2日後にお姉ちゃんとデートに行ってくださいね♪」

「………は?」

 

セレナに突然言われたことに、私の頭は真っ白になった。

 

「―――という事ですので。当日の準備は私がお手伝いしますね」

「………はっ!?いや待てセレナァ…あ……」

 

気づけばなんか勝手にセッティングされていた。

 

 

そしてあっという間に日にちが過ぎていき、デート当日になった。

 

「さあ先生!お楽しみのデートですよ!」

「ほ、本当に行かないといけないのか…?」

「当たり前ですよ!この日の為に準備したんですから!ほら!布団から出てきてください~!」

「や、やめろーッ!」

 

この時、私はナナ姉えによそよそしい態度を取っていたから、ナナ姉えと顔を合わせづらかった。しかしセレナはそんなの関係ないと言わんばかりに、私が閉じこもっていた布団をひっぺがえす。

いやちょっと待て、今身体強化術式使って布団を抑えてたはずなんだけどッ!?

 

「は~い、お着替えしましょーねー」

「一人で着替えれるから!分かったから離せー!」

 

そうしてセレナの用意した服に腕を通し、用意されていた荷物を手に、セレナに見送られてナナ姉えとの待ち合わせ場所に向かった。

 

「えっと…ここで良いのかな?ナナ姉えは……いた。な、ナナ姉え…」

 

ナナ姉えらしき人物を見つけた私は、話しかけて……見惚れてしまった。って呆けてる場合じゃない!な、何か言わないと!

 

「その、遅れちゃったかな……?」

「い、いいや遅れてないよ!うん!大丈夫!」

「「…………」」

 

会話が続かない……。

それにしてもナナ姉え、よく私だって気づいたなぁ。セレナに言われて、錬金術で身長を少し伸ばしてたのに。…やっぱり私のことはなんでも分かってくれる…のかな。エへへ……はっ!?いけない、トリップしてた。

 

「と、とりあえず行こうか。キャロル」

「う、うん…」

 

どうなるんだろ、これ。

 

 

そして着いたのは水族館と言う建物。

何でも魚が展示されているらしい。よくよく考えたら、私は何百年と生きてきた割には、外のことをよく知らない。そんなに外にも出なかったし。

そして中に入った私は、年甲斐もなく興奮してしまった。

たかだか魚を見るだけ、そう思っていた私は魚たちが魅せる幻想的な世界に引き込まれてしまったのだ。

特にイルカのショーはすごかった。

 

「すごーい!あんなに高く飛ぶんだ!」

「ちょっ!?キャロル、そんなに乗り出したら危ないよ!ってうわっぷ!」

「キャッ!」

 

錬金術を使うわけでもない哺乳類が、どうしてあそこまで高く飛べるのか?そもそもイルカとはどういった生物なのか?

私の錬金術師として本能が騒ぎだし、思わず身を乗り出した瞬間、イルカが水に着水した衝撃で水が私の方に飛んできた。

 

「うう~。びちゃびちゃだよ。大丈夫キャロル?」

「な、なななななナナ姉え!」

「へ?……ッ!?」

「あ、あわわわわわ」

 

ナナ姉えにかかった水のせいで、その、下着が透けて見えたことに気付いたナナ姉えは、顔を真っ赤にしてしまいました。

因みに服はこの後、こっそり錬金術で乾かしました。

そして私たちが着いたのは、この水族館での名物の水槽トンネル。

 

「………」

 

すごかった。ずっと見ていたくなるくらいには、綺麗だと思った。

でも、私がもっときれいだと思ったのは……

 

 

「綺麗だねキャロル。……キャロル?」

 

 

光り輝く水槽をバックに、私の方を向いて微笑むナナ姉えだった。

ナナ姉えは元々とてもきれいだ。身内贔屓を差し引いても、百人中百人がきれいだと答えるだろう。

整った顔立ちにスタイル抜群の身体、青がかった銀髪が水が反射している光を受けて、キラキラと輝いてる。

 

「……ッ!」

 

ドクンッと心臓が跳ねた気がした。この感覚を、私は知っている。

胸が痛いくらいに動悸して、息遣いがほんの少し荒くなって、体中が熱くなる。…だけど、嫌な気持ちにはならない。不思議な感覚。

 

「キャロル?」

「ひやっ!?な、何かなナナ姉え!」

「いや、なんだか顔が赤いよ?大丈夫?」

「だ、だだだ大丈夫だから!」

 

ポーッとナナ姉えを見ていたら、ナナ姉えが私の顔を覗き込んでてビックリしてしまった。む~恥ずかしすぎる…。

その後はサメのぬいぐるみと、ナナ姉えとのお揃いのキーホルダーを買ってとても嬉しくかった。

今回はナナ姉えにエスコートされちゃったけど、今度は私がナナ姉えをエスコートしてあげたいな…。

 

 

 




出来どうでした?こういうの書いたことないから、どうなのか分かんないです。

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祝福の光

前回の話の続きです。

そしてついに来たぜ未来さんと奏さんとセレナちゃんのイグナイト!
課金の準備しないと……(手遅れ)
個人的には未来さんは、仮面ライダードライブタイプトライドロンの進之介とベルトさんみたいに、シェム・ハと精神同居してほしいですね!まあ、見た目的にはセレナちゃんが好きですけど。

さらにゼロワンの次のライダーの情報も出ましたね。気になる人は、ユーチューブのバンダイ公式チャンネルにゴー!
ただこれだけは言わせてくれ。あんまネタバレ的なのは言えないけど、こう思った人は必ずいるはず。
仮面ライダー迅バーニングファルコンと、リュウソウジャーを思い出したと言う人が……(確信)
……え?エンディングテーマあるの?(喜び)










《七海side》

 

「……楽しかったね」

「……うん」

 

デートから帰った私たちは、家の屋根に寝っころがり綺麗なまん丸の月を眺めていた。

 

「「…………」」

 

水族館に行った後も、私たちのデートは続いた。

喫茶店で昼食を取り、テーマパークで遊び、ショッピングモールで買い物をした。

今着ているのも、お互いがお互いの為に選んだパジャマである。

 

「ねえ、ナナ姉え」

「ん?」

「……ううん。なんでもない」

「そっか………ねえキャロル」

「なに?」

「……やっぱ何でもない」

 

さっきからこの調子である。デートしていた時は、気にしていなかったけど、こうして改めて2人っきりになると、やはり意識してしまう。

隣で寝転がるキャロルを盗み見る。

…綺麗だ。今のキャロルはデートの時の少女の姿ではなく、いつもの幼女姿である。それでも、可愛いではなく綺麗という言葉が浮かんでくる。

月明かりに照らされ浮かび上がるキャロルの顔。生きていくたびに、その愛らしい表情には威厳が生まれ、凛々しさを纏った。

しかし今日、その表情は崩れていた。愛らしく、楽しげで、可愛らしい顔に、確かに崩れていたのだ。

他ならぬ私とのデートで、私の目の前だけで(・・・・・・・・)

 

(あ、やば……)

 

そう考えた瞬間、もう止められなかった。止めたくなかった。

 

「キャロルッ!」

「あ……」

 

キャロルを思いきり抱きしめる。

ああ…腕の中にある温もりが心地よい。胸元にかかるキャロルの吐息が心を刺激する。急に引き寄せられたのに不快な顔一つせず、逆に自分から体を摺り寄せてくるキャロルが愛しい。

キャロルの全てが欲しい(・・・)。このつぶらな瞳も、整った鼻も、煌びやかな金髪も、美しい声を紡ぐこの口も、フニフニしている耳も、腕の中にスッポリと収まってしまう小さな体も、小さくてプニプニな手も、柔らかくて滑らかなお腹も、か弱そうだけどしっかりと地面を踏みしめる足も、家族のことを第一に思う優しい性格も、凛々しくてかっこいいお仕事モードの性格も……挙げればきりがない。

まあ、簡単である。私は文字通り、キャロルの全てが欲しい。

今すぐにでもどこかの部屋に閉じ込めて、私が全てをお世話して、私だけのキャロルにしてしまいたい…。

この感情が、思考が危険なのは分かっている。それでも止めたくない。良いじゃないか、妄想の中だけでもこういうことを考えたって。

 

「……ナナ姉え」

「うん?どうしたの?」

「寂しかった…」

「え?」

 

キャロルの上目づかいが、私の心を荒ぶらせる。危険な思考が、私を支配しようとする。

 

「……そっか。ごめん」

「ナナ姉えは?」

「私は……うん、寂しかったかな」

「じゃあ、もっとギュ~ってしよ?」

 

そう言ったキャロルは、私の背中に腕を回し抱きしめてくる。短い腕と小さな手がもたらす感触が、私の思考をヒートアップする。

だから私は………抱きしめ返した。

 

「……キャロル。貴方は私にとってお月さまだ」

「…………」

「お日様は暗闇を照らさない。そもそも闇が生まれない。その強すぎる光は、闇に慣れたものを拒むかのように、居場所をなくしてしまう」

 

こんなこと、立花響や小日向未来に言ったらこわいなーなどと思いながら、続きを話す。

 

「私にはお日様の光は眩しすぎる。でもキャロル、貴方は違う。キャロルは私を優しく照らしてくれる。居場所を作ってくれた。生きる意味を与えてくれた。貴方がいるというだけで、私には戦うに十分な理由になる」

 

前世で暗い過去を持つ私には、立花響のような輝きは眩しすぎるのだ。

暗い過去を持っていながらも、それを乗り越え、幸せな時間を築いていく主人公。そんなものに私はなれないけど、それでもお月さまの傍にいることくらいは、許してもらえるよね?

だからさ、キャロル………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――キャロル、貴方のことが好き。世界で一番、貴方のことを愛しています

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャロルの目が限界まで見開く。

やがて、その目に涙が溜まり、一滴の涙がこぼれた。

 

「あ…あ、あ…ああ……」

 

次々と涙があふれる。しかし、キャロルはそれを止めることなく口を開く。

 

 

 

 

 

 

―――わ、私も…私もナナ姉え…七海を、この世の何よりも、愛しています……

 

 

 

 

 

 

……もう、言葉は不要だった。どちらからともなく、私たちは顔を近づけ………初めてのキスを交わした。

私とキャロルは恋人になった。

 

 

 

 

 

 

 

「「~~~~ッ!!!」」

 

先ほどの告白から数分経つと、徐々に理性と言うものは戻ってきたようで、今私たちは顔を背けて羞恥に悶えていた。

 

「~~~ッ!!」

 

いやこれヤバすぎる、ヤバすぎるって!

何勢いでとんでもないこと言っちゃったの私!いやでも断られなくてよかったとは思ってるし、キャロルと恋仲になれたのはすごくうれしいよ?でもやっぱこれとそれは別って言うしさぁ!

……どうしよう。これで勢いで頷いただけだから、やっぱ無しとか言われたら確実に死ねる自信がある。

 

「ナ、ナナ姉え…」

「な、なにかなキャロル!」

「その、あんまり外に長くいたら身体に悪いから……」

「そ、そうだねうん!」

 

実際顔どころか体中が火照ってるんだけどね……。

 

「それじゃ戻って寝ようか、キャロル」

「……うん!」

 

 

お互いの手を繋ぎ、家の中に戻る私たちを、空に浮かぶ月は祝福するかのように照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




遂にカップル成立ですよ!ななキャロ、ななキャロ(お祭り騒ぎ)
温めに温めたアイディアをよーやく出せて良かった……。まあ他にもあるんですけど。

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番外編 IFシリーズ
○○○と、心火を燃やしてみよっか?


前回の七海の告白の没セリフ

「キャロルは綺麗だね」

キャロルは七海にとっての月→キャロル=月→「月がきれいですね」→「キャロルは綺麗だね」
理由、考えた当初、???になったから。


今回は、七海が惚れたのがキャロルじゃなかったら?というIF回です


<ごはん&ごはんな娘と、心火を燃やしてみよっか?>

 

「未来!もうやめて!」

「だめだよ。私はこの力で、2人を助けるんだから」

 

煙を上げる米軍の軍艦で、3つの人影が対峙していた。

片方の陣営には仮面ライダーグリスである白黄七海と、黄色の鎧「ガングニール」を纏う立花響。もう片方は紫色の鎧「神獣鏡」を纏う小日向未来が向かい合っていた。

小日向未来が纏う神獣鏡には、細長い板を繋げた翼のようなものが、彼女の腰から広がるように展開されている。さらに両手に剣を持っており、その剣の腹は広く、片手で振るうには不安な巨大な剣を、片手で持っていられるのはシンフォギアの恩恵か。

さらに肩から手首までと、腰から足の先までを装甲が覆っている。

そして目を覆うバイザーが、その不気味さを一層際立たせている。

 

「どうして拒むの?2人が傷つかなくて済むのに・・・」

「違う、それは違うよ未来。確かに誰も傷つくことのない世界ができるのかもしれない。でもそれは、他人に押し付けられるものじゃないんだよ!」

「平和は、誰か一人に作られるものじゃない。多くの人が手を取り合って、初めてできるんだ」

「・・・じゃまを、しないでよッ!」

 

ヒステリックに叫んだ未来は、背部から生えている触手のような帯を振るう。

七海と響は跳躍して帯を避ける。しかし追いすがるように、帯が2人に向かって伸びる。

 

「クッ!」

「うぁ!」

 

遂には追いつかれ甲板に叩き落とされる。

 

「くそっ!何この強さは…」

「未来……うぐッ!うううう……ッ!」

 

響の噛み締めるようなくぐもった声が聞こえ、七海が響を見ると体のあちこちから、黄色の結晶が突き出ていた。

彼女の胸の中にある聖遺物との融合が進んでいる証拠だ。そして、時間が残り少ないという合図でもある。

 

「ッ!?……時間が少ない。使いたくはなかったけど、やるしかない、か……。響!」

「……?七海…?」

「私が何とか彼女を抑える。だから……未来を頼むよ、ヒーロー」

 

そう言って七海が取り出したのは、太陽が描かれたスクラッシュゼリー。ボトルキャップを捻り………一瞬の躊躇の後、スクラッシュドライバーにセットする。

 

《ソルブライトゼェリィィ!》

「変身」

 

七海の両横に形成された「サンブレイズアーマー」が、七海を挟み込むように動き、七海に装着されていく。さらに、背後に形成された太陽を模したリング「ソーラーリング」が、七海の背部にセットされる。

 

《友情招来!ソルブライトグリスゥゥ!!》

《へいき、へっちゃらァ!!》

 

両肩、腰、ソーラーリングから炎が吹きだし、あたり一帯の温度が急上昇する。

 

「ぐ、うああああ!?!?」

「「七海ッ!」」

 

七海の身体にスパークが走り、絶叫が口から溢れた。その様子に響と、敵であるはずの未来も七海の名を呼ぶ。

 

「ウウウウ…」

「やめて!これ以上変身したら、七海の身体が持たないよッ!」

「今にも死にそうな響が、言えたことじゃないでしょ…。さあ、心火を燃やして、救い出すッ!」

「どうして…どうしてぇ!」

 

2本の帯が七海に向かって伸びる。七海はそれを右腕を振るうだけで弾き飛ばす。

 

「どうして戦うの!?このままじゃ響も、七海も死んじゃうかもしれないのにッ!」

「命がけ上等ッ!親友が間違った道にいるなら、なんとしてでも引っ張り戻すッ!それが、私の心火だぁあ!」

 

覚悟を叫びながら左手を天高く突き上げ、右手でスクラッシュドライバーのレバーを下ろす。

 

「仮面ライダーソルブライトグリス。心火を燃やして……」

《バーンフレアフィニッシュ!》

「……助け出すッ!」

 

助走によって勢いがついたキックが未来に飛んでいく。

未来の腰についている翼が細長いパーツに分かれ、その一つ一つが円型に変形。未来の周囲に浮かび、次々とビームを放って七海を迎撃する。

 

「アアアアアアアッ!!」

「未来ゥゥゥウウウウッ!!」

 

ビームを掻い潜り、七海のキックが未来を捉え爆発が起こった。

 

「……う、く…。七海?未来?…あ、なな、み……?」

 

爆発に巻き込まれなかった響が周囲を見渡すと、七海と未来が向かい合って立っているのが見えた。

未来は腕や足の装甲が剥がれ、剣や翼もなくなっていた。

そして七海は一見ダメージはないように見えるが、響の方を向くと変身が解除される。

 

「な、ななみ、ちゃ……」

 

七海の身体がぐらりと揺れ、響が伸ばした手が届くこともなく、七海の身体は海へと落ちて行った。

 

「そ…んな、私が望んでたのは、こんなのじゃ……」

「未来……」

「こんなの、違う。違う!」

「未来!」

 

取り乱したように未来が帯を振り回す。軍艦のあちこちが破壊され、足場が不安定になる。

 

「未来、落ち着いて!」

「うあああああ!」

「これじゃ……」

『未来を頼むよ、ヒーロー』

「…ッ!分かってるよ、七海…」

 

未だ暴れる未来を前に、響は拳を構える。

親友の思いを拳に携え、親友を救うために。

 

 

黄色の光と、紫の閃光が激突した。

 

 

~<ごはん&ごはんな娘と、心火を燃やしてみよっか?>END~

 

 

<防人っ娘と、心火を燃やしてみよっか?>

 

「ネフシュタンの、鎧……?」

「二年前・・・私の不始末で奪われた物を忘れるものか。何より、私の不手際で失われた命を忘れるものか!」

「へっ!偉そうにッ!」

 

青いシンフォギア「天羽々斬」を纏う風鳴翼と、完全聖遺物ネフシュタンの鎧を纏う雪音クリスの攻撃が交わる。

しかし、最初に拮抗していた様子も、すぐにクリス郵政へと傾いていく。

 

「ぐッ!」

「のぼせ上がるな人気者、誰もかれもが構ってくれるなんて思うんじゃねえ!」

 

地面に倒れた翼の頭を、クリスが踏みつける。

 

「―――その足をどけろ」

「あ?ぐあ!」

 

飛来した何かが、クリスを吹き飛ばした。

 

「お待たせ、翼さん」

「……あ、七海…?」

 

顔を上げた翼の目に映ったのは、赤色のスーツに包まれた仮面ライダーグリスラビットチャージに変身している白黄七海だった。

 

「さて、生意気娘は貴方?」

「お前、その声、七海か!?なんで、なんでお前がそっち側なんだよ!」

「そう言うあなたはクリス?昨日会ったぶりだね。でもまあ……」

 

七海が取り出したのは、刀の模様が描かれたスクラッシュゼリー。そのボトルキャップを捻り、スクラッシュドライバーにセットする。

 

《サムライゼェリィィ!》

「おいたする娘には、お仕置きしないとね」

 

七海の背後に、羽織のような装備「バックパックセイバー」が形成される。

 

「変身」

《剣・魂・一・刀!グリスセイバー!》

《斬り捨て、御免!》

 

バックパックセイバーが羽織りを羽織るように七海を包む。

両端が分離され、両腕の肘から先の下部に、特殊ブレード「ツインブレード・ムラクモ/ハバキリ」が装着される。

残ったバックパックセイバーは背部に装着され、さらに下半分が腰のあたりまで下がり、袴のようになる。

 

「なんだよ、それ……」

「…仮面ライダーグリスセイバー。心火を燃やして、防人(さきも)らん…!らああ!」

 

戸惑っているクリス目がけて、七海は右腕の「ツインブレード・ムラクモ」を振るう。

クリスはネフシュタンの鞭を硬化させ、七海の動きを受け止める。

 

「なんで、なんで…お前がぁああー!」

「がぁ!」

 

クリスが反撃に振るった鞭が、七海を切り飛ばす。クリスは叫びながらも鞭を振るう。

 

「お前に、あんな奴の所なんかふさわしくねえ!…だから、私がお前を…!」

「勝手なことを、言ってんじゃない!」

「おらああ!」

「ぐあ!」

 

鞭で投げ飛ばされた七海に、クリスが鞭を叩きつけようとした時、クリスの動きが縛られたようにピタリと止まる。

 

「な、なんだ…?体が、動かねえ…」

「はぁ、はぁ、はぁ…。私を、忘れないで貰おう」

「てめぇ…」

「ありがと、翼さん」

 

月明かりに照らされて浮かび上がっていたクリスの影に、一振りの短剣が突き刺さっていた。

「影縫い」。翼の持つ技の一つで、相手の動きを止めることができる。完全聖遺物相手では、それほど動きは止められないが、その一瞬が命運を分けた。

七海はスクラッシュドライバーのレバーを下ろすとともに、天高く飛び上がる。キックの体勢を取りつつ、両腕を振るい斬撃を飛ばす。

 

「この剣の煌めきを見ろ!はああああ!」

《スクランブルフィニッシュ!》

「くっそぉぉおおお!」

 

七海のキックが、飛ばした斬撃に追いつき、同時にクリスに叩き込まれ爆発を起こす。

翼は爆発に吹き飛ばされないように、必死に地面にしがみ付いていた。

 

「……うぐっ。七海、どこだ…?」

 

爆発が止み、翼が傷む体を押して七海を探すと、その姿を発見して駆け寄る。

 

「七海!……七海?」

 

クリスの姿はなく、七海は変身が解除された状態で立っていた。翼の声にゆっくりと振り返り、その顔を見た瞬間、翼は絶句した。

顔の穴という穴から血を流した七海は、翼を視界に収めると、爆発によって滅茶苦茶になった地面に倒れた。

 

「七海ッ!しっかりして、お願い、目を開けてッ!」

 

涙を零して、血が付くのも構わず、七海を抱き抱えながら声をかける翼。しかし七海の目は開くことはない。

 

「いや…一人にしないで……。七海ぃ……」

 

遂には嗚咽まで漏らし、翼の目から涙が落ちる。落ちた雫は七海の手に落ち、ピクリッと七海の手が動いた。

 

「……一人になんか、しないよ」

「あ……なな、み…よかったぁ…」

 

泣きじゃくる翼の頭には、目をうっすらと開けた七海の手が、彼女をあやす様に載せられていた。

この後、弦十郎たちが駆け付けるまで、翼は七海と共に生き残った幸せを、じっくりと噛み締めるのだった。

 

 

~<防人っ娘と、心火を燃やしてみよっか?>END~

 

 

 

<きねクリちゃんと、心火を燃やしてみよっか?>

 

海底の聖遺物隔離施設「深淵の竜宮」では、戦闘が起こっていた。

 

「ぐ、うわあああああ!」

「「クリス先輩ッ!?」」

 

オートスコアラーの一体、レイア・ダラーヒムのトンファーが雪音クリスを吹き飛ばす。地面に打ち付けられたクリスの纏うギア「イチイバル」から、黒の色が抜け落ちる。

 

「くそが……」

「地味に弱いな」

「まさか、呪いすらまともに扱えていないとはな。拍子抜けだ」

 

レイアの隣に立つキャロル・マールス・ディーンハイムが、ため息をつく。

 

「クリス先輩が!」

「切ちゃん、私たちも……」

「くんなっつってんだろッ!(何してんだあたしはッ!後輩どもを、守ってやんねえといけないのに)」

 

立ち上がるクリスの背後にいる暁切歌と月読調が、クリスを援護しようとするが、他ならぬクリスに止められる。

しかし、相手は2体1といえど、決戦機構であるイグナイトモジュールを使用してもなお、自分が押されている相手。

 

「残念だ、シンフォギア装者」

「くっ!(殺られるッ!」)」

「やらせるかぁああ!」

「むっ!」

 

レイアの放った特大のコインが、クリスに命中しようとした時、これ以上黙っていられないと動いた切歌と調を追い越して、青の光弾がコインを粉砕した。

 

「新手か……?」

「よっと。クリス、後で説教だからね」

 

クリスの前に降り立ったのは、青い装甲に身を包んだ仮面ライダーグリスタンクチャージこと、白黄七海だった。

 

「久しぶりだな、仮面ライダー」

「発電所で戦った以来かな?よくもまあ好き勝手してくれて……。とりあえずタダで返さないよ」

「派手な登場だ。しかし、地味に私に勝てはしない」

「クリス、貴方は後ろに下がってなさい」

「んなことできるかッ!」

「ちょっ……!」

 

七海の制止を振り切り、クリスはレイアにガトリングを撃つ。しかし簡単に躱されてしまい、反撃のコインがクリスに放たれる。

 

「危ないッ!」

「おわッ!」

 

命中する直前で、七海が脚部の「ハードキャタピラ」を稼働させ、クリスを抱きかかえてコインから逃れる.

 

「一人で突っ込むな!」

「邪魔してんじゃ……」

「ッ!クリスッ!」

「うわッ!」

 

七海がクリスを投げ飛ばすと、その一瞬後に大量のコインが撃ち込まれる。

 

「ぐあああああ!」

「七海!あたしの、せいで……」

「ふん。赤い奴は結局、呪いも使えず、仲間の足を引っ張るだけの役立たずか」

 

キャロルがクリスをそう切り捨てると、レイアの攻撃で舞い上がった粉塵から声が響く。

 

「取り消してよ……」

「なに…?」

「クリスのことを知らない貴方が、クリスを語るな」

 

粉塵から出てきた七海はボロボロで、まともに戦えるような状態ではない。しかし、七海は歩みを止めない。

 

「クリスは優しい子なんだよ。誰かが傷つくのが嫌で、それを押し隠して必死に矢面で戦おうとする。彼女のギアは遠距離特化なくせに、前に出ようとするんだよ」

「何が言いたい」

「私たちは一人じゃない。誰かが前に出るなら、それをサポートし支えてみせる。……あの子のサポートは、譲る気はないけどね」

《リボルバーゼェリィィ!》

 

七海は拳銃のマークが描かれたスクラッシュゼリーを、スクラッシュドライバーにセットする。

七海の背後に、6つの穴が開いている回転式拳銃の回転式シリンダーの幻影が現れる。その後ろには、6つの砲身がセットされる。

 

「歌で世界を平和にするために……変身」

《メイカー・オブ・ピース!グリスコンバット!》

《バキュゥゥウウウン!!》

 

七海がレバーを下ろすと、背後の6つの砲身が回転式シリンダーの穴(薬室)を通り、両肩、両腕、両足に装着される。

 

「うおおおおおああああああああッ!!」

「この反応…ダインスレイフの呪いかッ!」

「七海……くそッ!」

「「だめ(デス)!」」

「なッ!?お前ら離せ!」

「だめデス!今いくのは無謀デス!」

「今は体勢を整えるべきです。七海先輩が作ってくれた時間を無駄にしないで!」

 

クリスも加勢しようとするが、切歌と調べに抑えられて仕方なく動きを止める。

そして七海の方では、戦闘が開始された。

 

「派手に踊ると良い!」

「食らえッ!」

 

レイアの撃ちだしたコインを、七海の両腕に装着されたアサルトライフル「シン・カウント」から、大量の銃弾をばらまき迎撃する。

 

「ほう、この数を撃ち落とすか。派手にやるな」

「ならこいつはどうだ?」

 

そう言って、キャロルがそれなりの大きさの火球を放つ。

七海はガトリングでは効果はないと判断し、右足を軽く下げる。両肩の砲塔「インヴェスト・ブレス」から、高威力の光弾を発射し火球を相殺する。

 

「今度はこっちの番だ!」

 

七海の両足に装着された「セット・パニッシュメント」の複数の発射口から、複数の小型の光弾が発射される。それらはミサイルのように軌道を変えながら、レイアとキャロルに襲い掛かる。

 

「ちッ……!」

「デヤアアアア!!」

 

キャロルは障壁を張り、全ての光弾を防ぐ。

次の瞬間、立ち込める煙から飛び出した七海が、キャロルに向かってシン・カウントを鈍器のように振るう。しかしその攻撃は、間に割って入ったレイアのトンファーによって防がれる。

 

「……ッ!」

「遠距離特化かと思ったら、派手にやってくれるッ!」

「私の心火は、こんなもんじゃねえええ!」

「ぐッ!」

「調子に乗るなよ。仮面ライダー!」

 

レイアを押しのけ銃撃で追撃しようとした七海は、飛んできた氷の槍に気付き跳躍して避ける。

 

「まずいッ!避けろ七海ッ!罠だ!」

「今頃気づいたところでッ!」

 

キャロルの考えを悟ったクリスが注意を呼びかけるも、すでに七海は空中へと身を躍らせており、キャロルが新たに放った氷槍を避けることは出来ずに貫かれる――――

 

「何ッ!?」

「また派手なことをッ!?」

 

―――ことはなかった。

七海の背部のブースターが火を噴き、その身体を氷槍の射線上から退避させたのだ。

 

「そうやって甘く見てるから、足元をすくわれるッ!」

「なんだとッ!」

 

空中を飛行する七海は、スクラッシュドライバーのレバーを下ろす。すると、両腕の下部に装着されていたシン・カウントの位置が回転する。そして、通常の拳銃のように持った2丁の銃の上部を合わせ、1つの銃へと変える。

対するキャロルも巨大な魔方陣を展開し、照準を七海に向ける。

 

「心火を燃やして、ぶっ放すッ!」

《ブラストフィニッシュ!》

「四大元素よ。やつを滅ぼせぇえええ!」

 

七海の銃とキャロルの魔方陣から放たれたビームは、空中で衝突し拮抗する。

 

「あああああああああッ!」

「ッ!?…貴様、程度に……俺の命題を邪魔させてたまるかぁあああ!!」

 

キャロルの絶叫が響くと、爆発が起きる。

 

「「きゃああああッ!」」

「七海ーー!」

 

爆発が収まり、クリスが目を凝らすと床が抉れている場所に、変身解除している七海が倒れているのを確認した。

 

「七海ッ!」

「……くそッ。こんなところで、無駄に思い出を償却させられるとは…。レイア、後始末は任せるぞ」

「派手に任された、マスター」

 

七海の元に駆け寄ったクリスは、いまだ健在のキャロルとレイアを見て歯軋りする。

しかし、キャロルもダメージはゼロと言うわけにはいかなかったらしく、鉱石が割れるような音がするとキャロルを光が包み、姿が消える。

 

「仮面ライダー……派手にやるやつだが、ここで摘み取らせてもらおう」

「へッ…やらせるかよ」

 

レイアの前にクリスが立ちはだかる。

 

「ほう…お前が立ちはだかるのか。だがお前では……」

「うるせえよ。後輩ども、七海を頼む。大事な奴なんだ。だから守ってやってくれ」

「……クリス先輩」

「分かりました」

 

切歌と調が、気を失っている七海を後方へと運ぶのを横目に、クリスは胸のペンダントに手を伸ばす。

 

「また使うと言うのか、その呪いを」

『クリスくん!呪いの再使用は危険だ!切歌くんたちと撤退するんだ!』

「だぁいじょうぶだっての!あたしは一人じゃない。今なら、こいつをしっかり使えるかもしれない…いや、使える」

 

確かな確信をもって、通信機から聞こえる声に応える。

クリスは一人ではない。彼女の親友…否、それ以上の関係である大事な人からもらった思いを胸に、彼女は声高々に叫ぶ。

 

「イグナイトモジュール、抜剣ッ!」

 

~<きねクリちゃんと、心火を燃やしてみよっか?>END~

 

 

 

 

 

 

 

 

 




惚れたのが響の場合。
転生するのは、響が迫害を受ける少し前。響と同年代の身体で転生する。
響にとって転換期であるコンサート事件にはグリスで介入するも、死傷者や響のけがなどは原作通り。迫害を受けている途中に、未来が引っ越してしまった時は、響の拠り所として彼女を支える。
リディアンでは、定員の関係で一部屋だけ三人部屋となるのだが、七海と響と未来がその3人部屋に割り当てられる。
響は過去が原因で、七海に依存ぎみになる。しかし、それは恋心による独占欲によるもので、七海が自身の元を離れてしまうのではないかと不安になった結果である。
それでも、響の行動原理は原作と変わることなく、未来との仲もかなり良好。将来的には三角関係気味になるが、3人でつき合えたら素敵だなと考えている。
未来は響と七海を置いて引っ越してしまったことを悔やんでおり、リディアンで再会した時には、響と喜びを分かち合うとともに、響を守ってくれていた七海にほのかな恋心を持つも、それに気づくことはない。
しかし、G編で神獣鏡から、命を懸けて自身を救ってくれた2人に対する気持ちを、再確認した。(響には元々持っていた恋心を強め、七海には気づいていなかった恋心に気付いた)
このことから、最終的に七海は響と未来の2人と付き合うことになる。
七海の介入により神獣鏡に、原作とは違いが出ている。
原作との違い
・細長い板が繋がった翼が、腰から広がるように展開されている。
・肩から腕の先までと、腰から足の先まで装甲が覆っている。
・刀身の広い剣を、二振り所持している。
これらは七海との戦闘で破壊されている。
また、七海の変身する仮面ライダーグリスは、使用するたびに興奮物質の過剰分泌で闘争本能を刺激し、最終的には脳が耐えられず廃人になる可能性がある。

仮面ライダーソルブライトグリス
「ソルブライトスクラッシュゼリー」を使って変身する。
オレンジ色のスーツに、黄色のサンブレイズアーマーを纏っている。
背部にはソーラーリングが装着されており、エネルギーを回転、加速させエネルギーを増大させる。
炎のエレメントを持ち、変身時や必殺技時には炎が噴き出る。
スペックはかなり高くなっているが、制限時間があり時間を超えると、その炎は変身者を焼き尽くそうとして苦しめる。
モチーフは「すべてを照らす聖なる炎」と、XDでのイベント「太陽の三激槍」で登場した「ソルブライト・ガングニールギア」。
必殺技は炎を纏ったキックを放つ「バーンフレアフィニッシュ」。


惚れたのが翼の場合
時系列的には、コンサート事件の1年前。年齢は翼と同じで、体も年齢に見合った体。
転生したところを2課に保護され、翼と奏の2人と知り合い、仲を深める。
その後コンサートでの事件が起こり、奏は殉職してしまう。このことから翼は心に傷を負い、七海にも険悪な態度で接してしまう。だが、それでも自分に寄り添ってくれる七海に、徐々に態度を軟化していく。
その結果、翼の七海に対するスキンシップが増え、さらに過激になって行った。
リディアンでは同じ部屋で、彼女がライブといった芸能関係の時には付き人見習いとしてついて行き、緒川からマネージャーとしての勉強を受けているため、公私ともに彼女を支えている。
そのことから公欠となることが多いが、成績は学年トップ。容姿と合わせて学園では人気者だが、女子生徒に囲まれている七海を見て、翼が拗ねることがしばしば。
クリスとはひょんなことから出会い、親交を深めていた。クリスも最初は警戒していたが、何回か会う内に心を開く。
しかし、ネフシュタンの鎧を着て翼を襲うクリスと対面。クリスは七海が翼側にいることに動揺するが、七海は完全に翼loveなのでクリスを敵と認定する。
翼はこの時に無茶をした七海を見て、七海と共に生きていきたいと思ったことで、自身の七海に対する感情(恋心)を自覚する。
クリスとの関係は基本的に原作と同じ流れになる。しかしクリスも七海のことが好きなので、翼とは後輩先輩の関係でありながら、恋のライバルとなる。七海もクリスが伝える直球な思いに、揺らぎそうになったりならなかったり……。

仮面ライダーグリスセイバー
「サムライスクラッシュゼリー」を使用して変身する。
水色のスーツと、大型換装型兵装「バックパックセイバー」で構成されている。
バックパックセイバーの両端は、特殊ブレード「ツインブレード・ムラクモ/ハバキリ」となり、両腕の肘から先の下部に装着される。(右がムラクモ、左がハバキリ)
更に残った部分の下半分は分離して、腰に装着され袴のようになる。上半分は上半身に装着され羽織状のパーツとなる。
スペックはスピード寄りのアタッカー。
必殺技はキックの体勢を取ると同時に、ツインブレードで斬撃を放ち、放った斬撃と同時にキックを叩き込む「スクランブルフィニッシュ」


惚れたのがクリスの場合
時系列的にはクリスが両親を失う1カ月前。年齢はクリスと同じ年齢。体もその年齢に合わせられている。
雪音家に保護され、共にバルベルデに向かう。グリスでクリスの両親を救おうとするが、救うことは出来なかった。その後、雪音の為に様々な犯罪に手を染めるが、全てはクリスのためであり、基本的には無関係な人は対象としない。
その後、国連によって保護され、フィーネの元に行くなど原作通りの展開になる。
基本的に七海は、クリスの考えを尊重している。しかし全てをクリスに任せきりにせず、自身でも判断して行動したりする。
クリスは自身のために、犯罪を犯させてしまっていることを気に病んでおり、七海から気にするなと言われているが、やはり気にしている。一方で七海が犯罪を犯したのは、自分の為だという事に気付いており、自分も彼女の贖罪のために動くことに、躊躇はない。
そして、バルベルデでの生活の中で、自分のことを気にかけてくれた七海には、恋愛感情を抱いており、そのことは素直に七海に伝えている。つまり、七海とはすでに恋人関係である。
性格は原作通りだが、これは七海の役に立ちたいと思った結果。しかも、この性格が形成されたのはバルベルデにいた頃なので、過酷な紛争に巻き込まれた記憶が、この性格を形成した。七海にとって唯一の後悔している点。しかし七海と2人きりになると、性格は両親が健在の頃、つまり超素直で甘々な性格になり、つき合いだしたカップルのように七海とイチャイチャする。
なおクリスは女性同士で子供が作れないか、七海の知らないところで、エルフナインと相談していたりする。

仮面ライダーグリスコンバット
「リボルバースクラッシュゼリー」を使用して変身する。
七海の背後に回転式シリンダーの幻影が現れ、その6つの穴を6つの砲身が通り、装着されていく。
白いスーツに赤色のアーマーを纏っている。
両肩には圧縮式エネルギー砲「インヴェスト・ブレス」を装備。高威力の光弾を発射するが連射力は低い。
両腕の肘から先の下部に、中~近距離用の特殊アサルトライフル「シン・カウント」が接続されており、こっちは連射力に優れ、低威力の銃弾をばらまくことができる。必殺技時は連結させて、収縮砲を放つことが出来る。
両足には特殊ミサイルポッド「セット・パニッシュメント」が装備されている。複数の発射口から、計12発の誘導型エネルギー弾を発射することができる。誘導性は高く、簡単に撃ち落とされないように軌道を変えて飛行する。
また、背部のブースターで飛行することができる。
必殺技は、連結させたシン・カウントから収縮砲を放つ「ブラストフィニッシュ」



といった感じです。
考えてて楽しかったのはクリスの設定。好きなオリジナルフォームはグリスセイバーですね~。
皆さんはどのキャラやオリジナルフォームが好きですか?
それと、今日から夏休みに入ったので、出来れば毎日投稿したいと思ってます。

気に入っていただけたら感想、お気に入り登録、高評価お願いします!



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番外編 セレナの姉編
F.I.S.組の加入


アカツキノソラさん、感想ありがとうございました!
今までもらった感想は嬉しいですが、今回のは特に嬉しかったです!
因みに前回言おうと思って忘れていました。すいません……。

今回から番外編も章で区切って分けようと思います!



《3人称side》

 

「デュランダル事件によって、リディアン音楽院並びにその地下にあった2課司令部も壊滅。ということで、これからこの次世代型潜水艦が、オレたちの新たな本部になるってわけだ!」

 

弦十郎の声が響く。

 

「はあ……まさか、今日あたし達呼んだのって、これを言うためだけか?」

「まあまあ……クリスちゃん」

「(クリスはだいぶ落ち着いてたみたいだな。立花たちのおかげ、か…)」

 

クリスが呆れ、それを響が宥める。その光景を見た翼は、クリスのメンタルが落ち着いていることを確認し安堵する。

黒夜が死亡した後、クリスは部屋に閉じこもっていた。響がクリスに会っていたおかげで、一応精神は安定したらしい。黒夜の葬式にも参列したが、お香を上げるとすぐに帰ってしまったのだ。

 

「先日の一件…”デュランダル事件”と名称された事件で、シンフォギアの存在が各国に露見することとなった。その後、各国政府が協議した結果、旧2課は再編成、国連直轄の超常災害対策機動タスクフォース、S.O.N.G.として活動を始めるのだ」

「国連直轄……という事は、国外での活動もあると?」

「ああ。とはいっても、ソロモンの杖は消滅しているからな。了子くんによれば、ノイズの出現は無くなるらしい」

「本当ですか!?」

「ええ。そもそもノイズの出現は、ソロモンの杖がトリガーとなって発生していたの。そのトリガーが無くなったことで、ノイズの発生は収まったはずよ」

 

了子の解説に、装者の3人はホッと息をつく。

その時、響たちがいた司令室の扉が開く音がした。

 

「おっさん。言われてた通り、連れてきたぞ~」

「おお、奏。ご苦労だ」

「奏?それに後ろの少女たちは……マリアか!?」

 

部屋に入ってきたのは、LiNKERの洗浄の為に一時的に、現場から離れているはずの天羽奏だった。

その奏の後ろには、2人の少女と1人の女性がいた。

 

「ええ~!マリアって、あのマリア・カデンツァヴナ・イブさん!」

 

翼がピンク髪の女性を「マリア」と呼んだことで、響がその女性が誰かを察したようで、大声を上げる。

 

「うるせぇっての、バカ!」

「だってクリスちゃん!マリアさんってすっごい有名な歌手なんだよ!デビューから1年もせずに全米ヒットチャートの頂点まで上り詰めた人だよッ!」

「お、おう……」

「何で引いてるのッ!?」

 

響のあまりの食いつき具合に、クリスは思わず引き気味になる。

見かねた弦十郎は、わざと大きめの咳払いをして響を止める。

 

「ゴホンッ!彼女たちの紹介をしたいのだが、構わないか?」

「す、すいません……」

「何であたしまで……」

「あー。彼女たちはS.O.N.G.設立に際し、新たに加わるメンバーだ。それぞれ、自己紹介を頼む」

 

弦十郎に促され、前に出る3人。

 

「まずは私からね。マリア・カデンツァヴナ・イヴよ。そこの元気な娘も言っていたけど歌手よ。と言ってもまあ、いろいろあるのだけれど……」

「あん?どういうことだよ」

「その話は後だ。まずは自己紹介を済ませてしまおう」

 

マリアが言い淀んだ部分をクリスが聞こうとするも、弦十郎に止められる。

次に自己紹介したのは、金髪の少女だった。

 

「暁切歌デスッ!イガリマの装者をしてるデス。よろしくお願いしますデス!」

「……デス?」

「切歌の語尾は、その、特徴的なの。気にしなくていいわ」

「はあ……」

 

次に自己紹介たのは、黒髪ツインテールの小柄な少女だった。

 

「…月読調、です。シュルシャガナの装者です。よろしくお願いします」

「調ちゃんだね!よろしく!」

「………」ササッ

「あれ?」

「なーに驚かしてんだよ」

「調は人見知り気味なのよ」

 

響が調に声をかけると、調は切歌の背中に隠れてしまう。

それを見たマリアは、苦笑しながら調をフォローする。

一段落したところで、翼は気になっていたことを弦十郎に質問する。

 

「彼女たちが新しいメンバーだと言うのは分かりましたが、イガリマとシュルシャガナと言うのは?櫻井女史が新たに作ったシンフォギアですか?」

「それがねぇ……シンフォギアではあるのだけど、私が作ったというわけではないのよねぇ」

「じゃあ一体誰なんだよ」

「米国よ」

「ふ~ん……って、嘘だろッ!!」

「マジよマジ。どうも、米国のある聖遺物関連の研究機関が、政府にも内緒で非合法の研究をしていたようなのよ」

「ではマリアたちは……」

「ああ、その研究機関、F.I.S.が人体実験の為に拉致していたのが、マリアくんたちだ」

「そんな……」

 

人体実験という言葉を聞き、表情を曇らせる響の頭に、マリアが手を載せる。

 

「優しいのね。あなたは……。でも大丈夫よ。私たちは私たちなりに、気持ちにけじめをつけているわ。」

「そうデスッ!だから、先輩が気にすることはないですよ!」

「…分かりました!なら、もう気にしません!……それにしても、先輩、先輩か~。ねえねえ切歌ちゃん!もう一回呼んでよ!」

「何言ってんだよお前は」

「切歌くんと調くんは、リディアンに通う事となっている。先輩というのも、あながち間違いではないぞ。……それから話は戻るのだが、研究機関の関係者を取り調べたところ、フィーネと言う単語が出てきてな」

「えっ!?」

「どういうことだッてんだ!」

 

まさかの単語に響たちは驚愕に包まれる。しかし当の本人である了子は、手を振って無実を訴える。

 

「言っておくけど、私はそんなことしてないわよ」

「じゃあなんでフィーネの名前が出てくんだよ!」

「落ち着け、クリスくん。つい先日、あんなことがあったばかりだ。こちらでも調査しているから、了子くんが関係者の口から出たフィーネだと決めつけるのは尚早だ」

「分かってるよ!」

「そちらは分かりました。では、マリアが歌手になった理由を聞いても?」

「簡単な話さ、翼。切歌と調はシンフォギアを持ってる。各国としちゃ、非人道的な研究の犠牲者と言えど、危険な存在は出来る限り縛り付けておきたいのさ」

「奏さん、もしかして知ってたんですか!?」

「まあな。裏方の特権ってやつだ。…そんで、それを見過ごせなかったのがマリアさ。こいつはおっさんらに掛け合った結果、今の立場に落ち着いたってわけさ」

「私も、何でこういう立場になったのかわからないのだけど、一体何をしたの?」

「ん?こういう時に動くのは、俺たち大人だからな。気にするな」

「ええ……」

 

その後、響たちも同様に自己紹介を済ませ、弦十郎からこれからについて語られる。

 

「これからについてだが、ノイズの発生が無くなった以上、様々な災害への救助活動などが主な任務になってくる。火災や土砂の崩落といったことから、おそらく紛争地帯への出動もあり得るかもしれん。各自、覚悟を決めておけよ」

「はい!師匠!」

「なんだ、響くん」

 

響が手を挙げ、弦十郎に質問する。

 

「七海ちゃんのことはどうなりますか?……あ、マリアさんたちは知らないかな?」

「いえ、一応聞いているわ。たしか、錬金術師たちのことでしょう?」

「S.O.N.G.加入に当たって、マリアくんたちにも、彼女たちのことは話している。……国連側としては、今のところ敵対勢力と見てはいないようだ」

「ま、アイツらに助けられることはあったし、誰か殺してたってわけじゃないしな」

「………」

「?…マリアさん?」

 

響はマリアの顔が考え込んでいることに気付き声をかけると、マリアは顔を上げ答える。

 

「……あ、ああ、大丈夫よ」

「そう、ですか……」

 

そうこうしてる間に話は進んでいき、弦十郎が話を締めくくる。

 

「さて、小難しい話はこれで終わりだ!それじゃあ行くぞ!」

「ふえ?いったいどこに行くデスか?」

「今日は新たなメンバーが入った日だからなッ!」

「ああ……」

「なるほど……」

「翼、貴方知ってるの?」

「…なんだか楽しそうだけど……」

「というより楽しいことがあるんだよ、調ちゃん!」

 

弦十郎の様子を見て、元2課の装者たちはクッラカーの音を思い出しながら、マリアたちを連れて弦十郎の後を追うのだった。

 

 

 

 

 



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ふらわーに行ってみたい

最近、伸び悩んでるのが悩み。


《七海side》

 

「セレナー。いるー?」

 

セレナの工房に入ると、珍しく音楽がかかっていた。

私に気付いたセレナは、CDプレイヤーを止めると近づいてくる。

 

「お姉ちゃん、どうしたんですか?」

「うん、例の件のことで来たんだけど……今の曲って…」

「……はい。姉さん、マリア・カデンツァヴナ・イヴのCDです」

 

この情報を知った時は、本当に驚いた。

一応原作通りにはなったけど、この世界では月が欠けていないから、彼女たちがF.I.S.から離反することはないはず…。そう思って調べたら、なんとF.I.Sが解体されていた。

フィーネが改心しているはずなんだけど、もうチョイ調べてみるとフィーネの指示だとと、関係者が言ったらしい。

このことから考えるに、やはりリディアンを襲ったフィーネがカギになるはず。

 

「(しっかり調べなきゃね)」

 

そんでもって、人体実験目的として拉致されていたF.I.S.組の3人は、国連直轄となった旧2課、S.O.N.G.に加入したということらしい。

まあフィーネがいるわけじゃないから、F.I.S.にガングニールはなく、マリアは装者ではないらしい。アガートラームもセレナが持っているので、マリアの装者になる道が閉ざされている。

アイドルにはなったようで、おそらく国連のプロパガンダだと思われる。

それより今は、セレナに聞いておきたいことがある。

 

「貴方のお姉さんの曲か……ねえセレナ。あなた…お姉さんに会いたい?」

「………え?」

 

《三人称side》

 

「や~っと授業終わった~!」

「ふふっ。お疲れ様響」

 

リディアンの校門から出てきたのは、授業終わりの響と未来。

その2人の前に、1つの人影が現れる。

 

「「七海ちゃん!?」」

「……久しぶりだね」

 

2人の前に現れた七海は、響に近づき封筒を手渡した。

 

「これ、貴方の所の司令に渡しておいて」

「師匠に?別にいいけど……」

「それじゃ、よろしく」

「あ、ちょっと待って!」

 

立ち去ろうとした七海を、響が呼びとめる。

胡乱気な目を向けた七海の手を響が掴む。

 

「これから、友達とお好み焼きを食べに行くんだけど、一緒に行かない?」

「………ちょっと待って」

 

それだけ答えると、一応持っている携帯を取り出し、どこかに連絡を取る。

彼女たちの向かうお好み焼きの店は、おそらく「ふらわー」だろう。七海も一回は行ってみたいと思っていたのだ。

ただ、自分1人だけ行くのはキャロルたちに忍びない。ということで……。

 

「あ、もしもしキャロル?お好み焼き食べに行かない?」

『………は?』

 

 

 

《奏side》

 

私とマリアはS.O.N.G.の一室で会話に乗じていた。

 

「それにしても、まさかお前がうちに来るとはな」

「私だって驚いてるわよ。でもまあ、知らない人ばかりの所よりはマシよ」

 

私と翼は、マリアたちと面識はあった。その時は、まあ、いろいろあったらしくてな。

まず彼女たちは、デュランダル事件の前から日本にいたんだ。

マリアたちが拉致されていたF.I.S.には、真っ当な倫理観を持つ人間もいたらしい。その人たちがマリア、切歌、調を連れて、日本に亡命したらしい。

日本はそれを受け入れて、孤児院を隠れ蓑にして保護していたってわけらしい。

私と翼は前から面識はあって、アイドルになろうとしているのは知っていたんだが、こいつがアイドルになった理由とかは、裏方になって初めて知ったんだ。

ちなみにこいつらを連れて亡命した人は、F.I.S.の解体騒ぎの後始末の為にアメリカに戻ってる。たしか、親のいないマリアたちの親代わりの人と、優男みたいな雰囲気の研究者の人たちだった。

 

「……ねえ、奏」

「ん?どうしたんだ?」

「その……デュランダル事件の時、白黄七海とかいう錬金術師の仲間の中に、セレナって名前の子が、いたのよね?」

「え?ああ…そういや、翼が何か気にしてたみたいだけど……お前らなんか思い当たることでもあんのか?」

「いえ、その、確信がまだ持てないから…。翼が私に言わないのも、きっと同じだからでしょうね」

「ふ~ん。ま、あんまり思いつめるなよ?何かあったら、いつでも相談してくれよ」

 

そう声をかけた奏は、椅子から立ち上がる。

 

「あら、帰るの?」

「ああ、翼と夕飯でも食おうと思ってな。お前も来るか?」

「遠慮するわ。それに、今日は切歌と調と一緒に、ご飯を食べる約束をしてるの」

「そっか。じゃあな」

「ええ、また」

 

互いに手を振り、2人の女子会は終わりとなった。

 

 

 

《三人称side》

 

「むむむッ……。これはどうしたものか……」

「弦十郎くんどうしたの?そんなに眉をひそめて」

 

眉を顰め唸る弦十郎に、了子が話しかける。

 

「了子くんか…。君はこれをどう思う?」

 

弦十郎は了子に一通の手紙を渡す。手渡されたそれを読んだ了子は、顔を上げ困惑の表情を見せる。

 

「……これ、誰からもらったの?」

「響くんだ。もっとも、その響くんは七海くんから渡されたと言っていた。その後、お好み焼きを一緒に食べたと言っていたよ。しかも、七海くんの仲間ともな」

「……なんというか、さすがは響ちゃんね」

 

まさかの行動に、了子は苦笑を浮かべながら、弦十郎に手紙を返す。しかし弦十郎の顔は険しいままだった。

 

「それだけならまだよかったさ。問題は、手紙の内容だ」

 

そう言って了子から返された手紙には、こう書かれていた。

 

~マリア・カデンツァヴナ・イヴの妹、セレナ・カデンツァヴナ・イヴを会わせたい。こちらが指定する日時と場所に、マリア・カデンツァヴナ・イヴ、暁切歌、月読調の3名を寄越してほしい。

         白黄七海

 

 

 

 




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セレナの再会

ついこの間、連続投稿!と言ったばかりなんですけど、他の作品も書いてる都合上、毎日この作品を投稿は厳しくなったので、毎日私が書いてる作品のどっちかを投稿、と言う形を取ることにします。


《3人称side》

 

S.O.N.G.の移動型拠点である潜水艦の司令室では、弦十郎を始め、装者たちがそろっていた。しかし、マリア、切歌、調の3人の姿が見えない。

 

「…にしてもよぉ、本当なのかよ。マリアの妹を七海が預かってるって」

「分からん。しかし俺は、信じてもいいと思っている。マリアくんたちの親代わりでもあるナスターシャ教授の話によれば、かつてF.I.S.で起きた完全聖遺物ネフィリムの暴走を鎮静するために、シンフォギア「アガートラーム」の絶唱を使ったという。その時から、”行方不明”らしい」

「絶唱を使って”行方不明”……?その…絶唱を使って、尚且つ崩落もあったのですよね?なら……」

「そうね、翼ちゃんの考えていることは正しいと思うわ。諸刃の剣である絶唱を使い、更には研究所の崩落。この状況でまず助かりっこないわ。……ただ、ネフィリムの鎮静化を確認した後、どうやら捜索が行われたようなの。まあ、その対象はどちらかと言えば、シンフォギアの方だろうけど…。それでね、くまなく探したようなのだけど、結局見つからなかったらしいわ。マリアちゃんの妹も、シンフォギアも(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

了子の言葉に、彼女の言いたいことを察した翼、奏、クリスは疑問の表情を浮かべる。

 

「たとえ絶唱を使おうと、装者はともかく、シンフォギアが欠片も見つからないのはおかしいわ。だから”行方不明”なのよ。そして今回のことから考察するに……」

「何者かの介入によって、マリアの妹は連れ去られた。それが七海たちだという事ですか…」

「あくまでも、予想であるがな。それでも、向こうがわざわざF.I.S.にいた3人を指名したという事は、可能性はあると俺は見ている」

 

腕を組みながらそう答える弦十郎をよそに、話について行けない響はクリスに声をかけた。

 

「……クリスちゃん、分かる?」

「当たり前だろ。これくらい分かんねえからバカなんだよ、バカ」

「ああ!またクリスちゃんがバカって言った!うう~奏さーん!」

「おーよしよし。あんま後輩いじめちゃだめだぞークリス」

「んなっ!?先輩とか卑怯だぞ!…うわっぷ!」

「喧嘩すんなって。ほれほれ、これで良いか?」

 

響に噛みつくクリスを、奏は響と一緒に抱きしめてやる。するとクリスは、顔を真っ赤にして借りてきた猫のように大人しくなった。

その時、オペレーターの朔也の声が響く。

 

「司令!マリアさんたちのいる公園に反応がッ!」

「来たかッ!」

 

 

 

 

《マリアside》

 

私たちは司令から伝えられた通り、とある公園で錬金術師白黄七海を待っていた。……のだけど、司令から伝えられたことを考えると、どうしてもそわそわしてしまう。

 

「本当に、セレナが生きてるんデスかね?」

「……私、セレナに早く会いたい」

「私も同じデス」

 

切歌と調も、どうやら落ち着けないみたいね。

司令から伝えられたのは、6年前暴走したネフィリムを鎮静する為に1人研究所に残り、そして帰らぬ人となったとマムから聞かされていた妹のセレナ。そのセレナが生きていて、私たちに会わせようとしているらしいということ。

ただ、本当にセレナなのか分からないため、警戒は怠らない。セレナを失って、更に家族同然である切歌と調も失いたくない。

 

そして待つこと数分。

私たちの前に、魔方陣らしきものが出現し、その上に1人の女性が現れた。

 

「デデス!魔法デース!」

「…切ちゃん落ち着いて…」

「……ふう。どうも、初めまして。私のことは聞いてるだろうけど、私は白黄七海。錬金術師だよ」

 

そう言って自己紹介したのは、件の錬金術師、白黄七海だった。何度も資料で見たから間違いない。

 

「それで、君たちが私が指定したマリア・カデンツァヴナ・イヴさんと暁切歌さん、月読調さんでいいかな?」

「ええそうよ。それで、貴方が私たちに会わせたいと言っていた……」

「まあまあ、もうすぐ来るから待っててよ」

 

逸る気持ちを抑えながら、セレナのことを聞こうとしたけど、どうやら抑えられていなかったらしい。

彼女の言葉通り待つこと………数分。

 

「……ねえ、セレナはどこかしら?」

「…………ちょーっと待って」

 

彼女はバツが悪そうな表情で、懐から携帯を取り出し、どこかと連絡を取る。

 

「あ、ねえ何してるの?すっごい気まずいんだけど……はぁ。とりあえず連れてきて」

 

そう言って通話を切ると、彼女の隣にさっきと同じ魔方陣が現れる。そして、光と共に1人の少女が現れる。

その姿を見た瞬間、思わず涙がこぼれる。

 

「……セレナ……」

「はい……マリア姉さん」

「ほんとに、セレナですか?」

「…あ」

 

切歌と調も、驚きのあまり硬直する。

だって、私たちの目の前には、6年前よりもきれいに成長した、セレナ・カデンツァヴナ・イヴがいるのだから。

 

「「「セレナッ!」」」

 

もう、我慢することなどできず、3人そろってセレナに抱き着く。

セレナは私たちが一斉に抱き着いたことに一瞬驚いたけど、すぐに涙を零し抱きしめ返してくれた。

 

「セレナ……」

「うわーん!良かったデスよー!」

「…セレナ、セレナ」

「姉さん…暁さん、月読さん…ごめんなさい…良かった……また会えて、良かったぁ…!」

 

私たちは周りを気にすることなく、声を上げながら涙を流し、再会を喜び合った。

 

 

《七海side》

 

……良かったね、セレナ。

私は一歩退いた場所で、彼女たちの再会を見守っていた。

ポケットに入っていた携帯が震え、取り出した携帯を耳に当てる。通話相手はキャロルだ。

 

『見つけたぞ。お前の左上だ。他に複数飛んでいるが、そこが一番近い』

「そう。ありがとキャロル。それじゃ、エルも連れてきてね」

『分かっている』

 

それだけ話し合うと、通話を切り自身の左上を見やる。そこには1台の小型ドローンが浮かんでいた。私から一番近いといえど、たしかにこの距離ならば、肉眼では捉えにくいはずだ。

そして向こう側には、鮮明な映像が届けられると。さすがは櫻井了子だと思う。

私は錬金術を使い、視界に捉えているドローンを、こちらに引き寄せる。

 

「それじゃあ、今度はこちら側のお話といきましょうか?…私からそちらに伝えることは1つ。あなた方と手を組みたいんです」

 

セレナの件も終わった。今度は、私の番だ。

 

 

 

 




セレナちゃんがマリアさんたちと再会しましたね~。

それから話は変わるんですが、他の方がコラボしてるのを見ると良いなぁーと思います。だけど自分から声をかけることができないという……(チキン)

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番外編 心火を燃やさないシンフォギア
心火を燃やさないシンフォギア


小話集です。

マリアさん誕生日おめでとー!


《協力体制》

 

「……それじゃ、私たちの間での取り決めはこれくらいかな?」

「そうだな。国連の方でも、俺たちと君たちが協力体制を取ることは承認されたようだ」

 

そう言葉を交わす七海と弦十郎の間には、一枚の紙が置いてあった。

 

「それじゃ、最後に改めて確認ね。

 1つ、私たちは対等な立場であり、基本的に互いの指揮系統に属されることはないこと。

 2つ、S.O.N.G.側からは風鳴弦十郎を代表に、錬金術師側からは白黄七海を代表とすること。

 3つ、お互いの持つ特定の技術または情報において、その取引及び譲渡の判断を風鳴弦十郎及び白黄七海に一任すること。

 4つ、お互いがすでに所持している聖遺物に関しては、情報を共有するが、極度の干渉はしないこと。

 5つ、お互いの任務、活動に関しては、互いに協力を求めることができるが、その増援についての裁量は送る側に委ねられる。

 6つ、戦闘や救助活動においては、互いの連携を密にとり、民間人の安全を第一に考えること。

 7つ、緊急事態や作戦行動時には、状況に応じて、互いの指揮権を貸与することが可能である。

以上で、間違いはないね?」

「ああ、こちらも問題はない。……しかし、国連は勿論のこと、よく政府もすんなり認めたことだな」

「……ねえ、訃堂のお爺さんは元気にしてる?」

「ああ……いや待て、何故親父の名を……まさかッ!?」

「いや~、何事も準備って、やっぱり必要だよね~」

 

そう言って笑う七海を前に、弦十郎は珍しく冷や汗を流すのだった。

 

 

《見れないと思っていたような光景》

 

「キャロルちゃーん!!」

「ええい!いい加減オレを見たらくっ付こうとするのをやめんか!」

「もう…響?キャロルちゃんが困ってるでしょ。こんにちはキャロルちゃん、エルフナインちゃん」

「はい!こんにちは未来さん」

「今日はどうしたの?」

「七海の付き添いだ。いいから離れろ!」

「うひゃあ!?」

 

錬金術によって起きた風で、響がキャロルから離れる。

そんな2人をよそに、エルフナインと未来は会話を弾ませる。

 

「お2人は幼馴染なんですか?」

「うん、そうだよ。本当に…本当に大変だったんだ」

「(そういえば、お2人は2年前の迫害を受けたと、ナナ姉えから聞きました)」

「エルフナインちゃん…?」

「ボク、お2人なら何があっても大丈夫だと思います!……あ、え、偉そうなこと言ってごめんなさい…」

「エルフナインちゃん…。ううん、ありがとう」

「だあああああッ!しつこいぞ立花響!」

「ええー!もっとお話ししようよキャロルちゃん!あ、それと私のことは響で良いよ!」

「あははは…なんか、ごめんね。うちの響が」

「いえ…(なんでしょうか。今のキャロルと響さんを見ていると、なぜか心が温かくなります。まるで、見れないと思っていた光景を見れたような…そんな気がします)」

 

 

《謝罪》

 

「改めて、あの時のこと、すまなかった」

「私もだ。是非を問う前に斬りつけたこと、申し訳なかった」

「……まあ、私は気にしてないよ」

「私は……怖かったです。あの時、争う原因がなかったとは言いません。…それでも、子分かったです」

「………」

「だから…今度は誰かに、こんな思いをさせないでください。貴方のそのシンフォギアは、そのためにあるわけではないはずですから」

「ああ…分かった」

 

セレナと奏は立ち上がり握手をした。

 

 

 

《どっちが姉?》

 

「白黄七海!」

「何?マリアさん…。あ、私は七海で良いよ。これからは協力することになるんだし」

「そ、そう?だったら私もマリアで良い…じゃなくて!貴女………」

 

「セレナにお姉ちゃんって呼ばれてるって本当なの!?」

 

「……はあ?いやまあ、そうだけど」

「言っておくけど、セレナの姉は私なんだからね!!」

「いや、知ってるけど」

「はわわわわッ!?どうしましょう暁さん、月読さん!」

「…うーん、どうにもできないと思う。

「マリアはセレナのことが絡むと、いっつも人が変わってあんな感じでしたからね~」

 

切歌はそう言って煎餅に手を伸ばす。

 

「…もう、切ちゃん。お菓子食べてたら、夜ご飯食べられないよ?」

「うっ…そうでした。ご飯を残したら、マリアからお説教デス…」

「そういえば、3人は同じ部屋を手配してもらったんでしたよね?」

「そうデス!まあ、マリアがアイドルとしての仕事で、いないこともあるデスけど…」

「…私たちも、もうすぐリディアンの寮に移るし……。でも、今日はマリアがちゃんと帰ってくるんだ」

「そうなんですか……」

「そうデスッ!今日はセレナも来ればいいデスよ!みんなでお泊り会デス!」

「…切ちゃん、いいアイディア。きっとマリアも喜ぶよ」

「良いんでしょうか?」

「良いに決まってるデス!それに、あれもありますし……」

「あれ?」

「…今日って、マリアの誕生日でしょ?だから、誕生日パーティーをしようと思ってるの」

「すでにクリス先輩たちにも通達済みデス!」

「なるほど…じゃあ、これもその時に渡しましょうか」 

 

セレナが隠すように持っていたのは、綺麗にラッピングされたプレゼント。実はセレナは、これを渡そうと思っていたのである。

しかし、2人から誕生日パーティーの話を聞いて、渡すタイミングを変えた様子。

錬金術で部屋に戻した次の瞬間、セレナの肩をマリアが掴んだ。

 

「セレナ、行くわよ!」

「え!?な、なんですか~!?」

「七海!どっちがセレナの姉として上か、勝負よ!切歌と調は先に帰ってるのよ!」

「なんでそうなるんだか…」

「ど、どうするデスか調!」

「…むしろチャンスだよ切ちゃん。今の内に、準備を進めておこう」

「合点デス!」

 

 

 

《最高の誕生日》

 

「な、中々やるわね」

「そりゃどーも。それで?私は認めて貰えたの?」

「ええ」

「……つ、疲れました……」

 

どっちがセレナの姉として上かを競うために、いろんなお店をたらい回しにされたセレナは、自分の”姉たち”を見る。

 

「(私にとって、どっちも素敵な姉なんですけどね…)」

「それじゃあ、私はこっちだから。セレナのこと、お願いね」

「分かってるよ」

「それでは、姉さん」

 

マリアと別れた2人は裏路地に入り、テレポートジェムを使う。

転移した先は、マリアたちが手配された家の目の前だ。

2人は、説明されていた通り中に入る。

 

「…あ、セレナ、七海さん。いらっしゃい」

「お邪魔するね」

「お邪魔します。皆さん、もう集まってたんですね」

 

セレナと七海が部屋に入ると、すでに装者とキャロル、エルフナインが集まっていた。

 

「うん!マリアさんの誕生日、たくさん祝わないとね!」

「響、料理運ぶの手伝って」

「はーい!」

「マリアは装者ではないといえど、私たちと同じく防人だ。祝うのは当然だろう」

「ま、まあ、私はこいつらがどうしてもっていうからで……」

「素直じゃないな~クリスは」

「ち、ちがッ!?別にそんなんじゃ……」

「ただいま~。あら?靴がたくさん……切歌~?調~?」

 

パンッ!パンッ!パパンッ!

「キャッ!」

「「「「「「「「「誕生日おめでと~!」」」」」」」」

「な、何…?」

「えへへ……今日はマリアの誕生日デスからね!」

「…誕生日会を開いたの」

「もう…調、切歌ッたら……」

「姉さん…その、これ、私からのプレゼントです」

「綺麗なネックレス…ありがとう。大切にするわ。…皆もありがとう。最っ高の誕生日よ!」

 

 

後日、首にかけている綺麗なネックレスを大事にしてるマリアが見られ、S.O.N.G.職員の間でちょっとした話題になった。

 

 

《セレナのペット》

 

「キュルキュル!」

「クウ!」

「アオーン!」

「セレナー…ってあれ。それなに?」

「あ、お姉ちゃん」

「ナナ姉え…これはフルライズアニマルです」

「エルもいたんだ…それで、フルライズアニマルねぇ…この子の形から見て、私がエルに渡した設計図?」

「はい。この子たちは順番に、クローズドラゴン、ライトペガサス、リボルウルフです」

「この子たちは、対応するボトルもしくは、プログライズキーで起動します。クローズドラゴンはドラゴンフルボトル。リボルウルフはシューティングウルフプログライズキーです」

「ライトペガサスは?」

「それは今開発中のプログライズキーです。なので、この子だけ長時間動けないんです」

「へえ~。新たなプログライズキーか。すごいね2人とも!」

「えへへ…ありがとうございます、お姉ちゃん!」

「褒めて貰えた…嬉しいです!」

「私も頑張らないとね。とりあえず今は、クラッシュブースターの修理からかな?」

「そういえば、クラッシュブースターは修理中なんですよね?」

「そ。あの時の無理が祟ったのかねぇ。時間がかかりそうだったから、ロボットスクラッシュゼリーの方を改修して、戦力的に問題はないはずだよ」

「キュルキュル、キュール!」

「クウクウ!」

「アウ!」

「しっかし、こうしてみるとまるでセレナのペットだな…」

 

 

《予兆》

 

「……ふう。今日はここまでにするとしよぐッ!……くそ。最近頭痛の頻度が短くなってる。七海には話していないが、新たな筐体を用意しておいて損はないか…」

 

未だ痛む頭を押さえながら、後片付けをしていく。

 

「…そういえば、セレナの授業が明日あるんだったな。ある程度は教えたし、あとは自分で学ばせるか?…いや、せっかくだ。ちゃんと教えてやろう」

 

考えていることを無意識に呟く。

 

「そうだな……エルフナインにも、授業をやらせてみるか?セレナにとっても、エルフナインにとってもいい影響があるだろう。七海は…あいつは感覚型だしな」

 

動かしていた手が止まる。

 

「…七海…ナナ姉え…会いたい………くそッ!」

 

いつの間にか陰気なことを考えていたことに憤慨し、拳を机に叩きつける。

 

「これではまるで、今にも死にそうなやつではないか!オレはまだ死なない。パパが託してくれた命題、オレは夢を見つけたんだ!…それに、せっかく七海と、こ、恋人に慣れたんだ。こんな時に死ねるか」

 

キャロルは頭を押さえていた手を離し、工房を後にした。

 

 

《ひと時の安らぎ》

 

「ふふー。キャロルー」

「も、もう……///」

 

夜。私とキャロルは2人の部屋(・・・・・)で、甘いひと時を過ごしていた。

前までは、4人同じ部屋で寝ていたのだが、私たちが恋人になって数日たったある日、突然セレナが2人部屋に分けようと提案してきた。理由を聞いても、のらりくらりと躱された。

ただあの時の顔からして、たぶん気づいてるんじゃないかなー。私たちの関係について。

だから多分、気遣ってくれたんだろうね。

 

「んー!キャロル~」

「なぁに、ナナ姉え?」

「んー?呼んでみただけ~」

 

今、私はキャロルに膝枕してもらってる。

二人部屋になった時から、就寝する前の1時間。この時間は2人のスキンシップの時間になっている。

時には肩を寄せ合って座ったり、キャロルを膝に乗せて頭を撫でたり…etc。

今日はキャロルに膝枕してもらいながら、頭を撫でてもらっている。母性を感じる…。

幼女に膝枕されているという見た目だが、キャロルが好きなのだからいいじゃないかと思う。

 

「ナナ姉え、気持ちいい?」

「うん。フカフカで~モチモチで~気持ち~」

「そ、そんなに言わなくていいから……///」

 

私の感想に、キャロルは顔を赤らめる。その可愛さに、思わず手を伸ばしてキャロルの頭を撫でた。

キャロルは目を細めて、されるがままだ。その様子を見ていると、ムクムクとある欲求が生まれた。

 

「ふみゅ~………んんッ!?」

 

両腕をキャロルの首に回し、上体を上げてキャロルの唇に自分の唇を押し当てる。

 

「ん、んん……」

「んむ、はぁ……ぷはぁ」

 

息が苦しくなるまで、たっぷり口づけを交わす。

唇を離し、苦しさからか涙目になっているキャロルを見上げる。

 

「何するの……?」

「…ごめん。キャロルが可愛くて、キスしたくなった」

「……次からはちゃんと言ってからね?」

「うん、分かった」

「約束だよ…?……チュ」

「ん…チュ」

 

こんどはキャロルが上体を倒して、キスをしてくれた。

唇を合わせるだけじゃなくて、強く押し付けてきたり、私の唇を唇で擦ったり、さっきよりも激しくキスを求めてきた。

やがて唇を離し、ダブルベッドに入る。

 

「お休み、キャロル…ん」

「ん…お休み、ナナ姉え」

 

最後にお休みのキスを交わし、いつものように抱き合って眠りについた。

 

 

 




どうでした?キャロルって母性ありそうですよね。

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そして、次回から新章に行こうと思います。予告があるのでどうぞ(予告のセリフが必ず出てくるわけじゃないです)


世界を破滅へ導こうとしたデュランダル事件から一か月
旧二課が再編成されたS.O.N.G.と七海たちは、国内外での救助活動、紛争地域の制圧任務、そして夏休みと、忙しい毎日を送る。
そんな中、紛争地域であるバルベルデでの任務で、七海たちは異質な敵と遭遇する。

「ロボット…デスか?」

「なんなんだよこいつらはッ!?」

しかし、それは絶望の始まりでしかなかった――――――


「この世界は愚かさで満ちている」

―――立ちはだかる最恐最悪の敵

「やっとだ…やっと叶う」

―――本当の敵は

「どう、して…」

「嘘です!こんなのって…」

「これが真実さ」

――――すぐそばに

「うわあああああああ!!」


―――守りたいものの為に

「あたしの心の奥底には、未だに憎しみが宿ってんだ!」

「手を繋ごうよッ!」

―――叶えたい願いの為に

「大切な家族を、やらせません!」

「これが、皆さんの切り札です」

「私が戦う理由なんてのは、いつだって一緒だよ」

―――彼女らは、その身に鎧を纏う

「「「「変身ッ!!」」」」



「英雄とはぁ!自らの願いを叶えた者を、叶えた者をそう呼ぶのですよぉ!」

「天才の私を越えた貴方なら、奇跡を越えた必然を作り出せるよ」

「例えどれだけ険しかろうと、私は家族を見捨てない!」

「ならばやってみろッ!白黄七海ッ!!」


「オレは……奇跡の破壊者だッ!!」

「心火を燃やして…ぶっ潰す…!」


――― 輪廻の憎悪編 始動 ―――











「さようなら……キャロル」






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輪廻の憎悪編
39 爺バカとの会合


新章突入!そしてタイトルの「~してみよっか?」統一はやめます。考えるのが大変なので。

ランプーさん、感想ありがとうございました!



《???side》

 

暗い……くらい……クライ……。

憎い……にくい……ニクイ……。

 

この世界は愚かさで満ちている。満ち過ぎている。

 

だから壊すのだ。他ならない、世界に壊された私が……。

 

奇跡なんてくだらない偶然に縋らない。

 

奇跡は全てねじ伏せる。奇跡はすべて破壊する。

 

私は……オレは……奇跡の破壊者(・・・・・・)だ……。

 

 

《七海side》

 

ジューッジューッと、油を滲ませながらベーコンが音を立てる。

丁度良い感じに焼けたら皿に盛り、次に卵を2つフライパンに投入する。

 

「ふぁぁああ……おはよ、ナナ姉え」

「おはようキャロル。もうすぐ朝ご飯できるよ」

「うん……分かった…」

 

眼をショボショボさせたキャロルは、寝ぼけたままリビングの椅子に座る。よく見れば頭のてっぺんにピョコッとアホ毛が立っている。

それを微笑ましい気持で眺めながら、慣れた手つきで綺麗に焼けた目玉焼きを皿に盛り付け、再び目玉焼きを2つ作る。

 

「おはようございます!」

「おはよーございあす……」

 

次に顔を見せたのは、すでに眠気から覚めているセレナと、そのセレナに手を引かれてきた寝ぼけ眼のエルだった。

セレナは朝に強いらしいのでいつも通り、エルはキャロルと同じように朝が弱いのだ。

私とキャロル、セレナとエルで部屋を分けてからは、この光景を目にすることが増えた。こうしてみると、セレナが姉でエルが妹の様だ。

 

「おはよう2人とも。セレナ、食パンが焼けそうだから取り出しておいて」

「はーい!」

 

セレナが食パンを取り分けている中、エルはキャロルの目の前の席に座る。

 

「おはようございますキャロル…」

「うん……おはよー、エルフナイン…」

「「ふぁあ…」」

 

おお……2人のあくびがシンクロしている…。可愛い。

そして新たに焼いていた目玉焼きも完成したので、お皿に盛り付けて運ぶ。

 

「「「「いただきます」」」」

「姉さん、今日は何かありますか?」

「私は今日は外に出かけるよ。3人は何かある?」

 

私の質問に、全員首を横に振り特に用事はないことを告げる。

そのまま朝ご飯を完食し、後片付けをセレナがしてくれるというので素直に甘え、私は外に行く準備をする。

ささっと準備を終えた私は、リビングにいたセレナとエルに出かけることを伝える。

 

「それじゃあ、行ってくる」

「はい、気をつけて」

「行ってらっしゃい、お姉ちゃん」

 

そのまま廊下を歩いていると、向かいからキャロルがやってきた。

 

「出かけるの?」

「うん。お昼前には戻ってくるよ」

「そう……気をつけてね?」

「分かってる…ん、チュ…」

「ん…」

 

キャロルと行ってきますのキスを交わし、私は家を出る。

外は日差しが強く、夏の訪れを予感させた。十分ほど歩くと、大きな木造の門が見える。そこが私の目的地だ。

呼び鈴を押して少し待つと、門が開かれ着物を着た女性が出迎えてくれた。

 

「お待ちしておりました、白黄七海様。ようこそおいで下さりました、風鳴邸(・・・)へ。お話は当主より伺っております。どうぞ、こちらへ」

 

誘われるままに、門の内側に足を踏み入れる。まず目に映ったのは、とてもきれいに整えられた庭園だった。

私はその幻想的な光景を目に焼き付けながら、女性の後を歩く。女性も気を使ってくれたのか、その歩調はゆっくりだった。

やがて屋敷に上がった私たちは、ある部屋の前で止まり、閉じている障子の中央より少し右側に正座した。それを見た私も、閉じている障子の中央あたりに正座する。

 

「…白黄七海様を、お連れ致しました」

「………入れ」

「失礼いたします」

 

女性が障子を開けると、だだっ広い和室が見える。そしてその正面に見えるのは、着物に身を包んだ一人の老人。

 

「来たか。待っていたぞ、入ると良い」

「失礼します」

 

老人に促され、室内に入る。井草の香りがほんのりと香る室内に入り、老人の正面に用意されていた座布団に正座で座る。

 

「お久しぶりです。訃堂のお爺さん(・・・・・・・)

「うむ。早速だが、本題に入らせてもらう。今回おぬしを呼んだのは、ちかじかS.O.N.G.に下されるであろう任務のことだ」

「バルベルデ…のことですか?」

「そうだ。やはりおぬしの方でも調べていたか」

 

そう。今回私がこの風鳴邸に来たのは、目の前にいる人物――風鳴訃堂に呼ばれたからだ。原作第3期で風鳴翼とは少なからず因縁があることが分かったけど……4期と5期も見ときゃよかった。たしか風鳴八紘って人の奥さん寝取ったんだよね?ただ、調べてみた限りその様子はないらしい。

話は戻り、訃堂のお爺さんの言葉に、今回呼ばれた理由を察する。

バルベルデ共和国。ここは未だに紛争が続く地域として有名であり、私も少しばかり調べている地でもある。

 

「国連も軍を派遣しているが、どうやら押され気味らしい」

「……理由は?」

「どうやら、正体不明の部隊が関わっているらしい」

「正体不明?」

「そうだ。一か月前、国連がバルベルデの紛争に介入する為に、さらなる軍を派遣した。……そして3日で壊滅した」

「なッ!?………その下手人が、正体不明の部隊と?」

「生き残っていた軍人の話では、夜に暗闇の中から奇襲を食らったらしい。直前で気づきはしたが、いかんせん発見時の距離が近すぎたために、対応が遅れた。そして、どれだけ撃っても、その部隊は怯むことはなく弾丸は途切れなかったらしい。もっとも、その軍人は錯乱状態に近かったため、確実とは言えんがな」

 

おかしな話である。だが、国連の軍が3日で壊滅するというのは、明らかに何かあるとしか思えない。

しかし、これでS.O.N.G.の任務とやらが分かった気がする。

 

「つまりその任務とやらは、バルベルデで暗躍する何かを暴きその捕縛、というわけですか?」

「うむ。反乱軍は国連に構っている暇はないはず。……となれば、おそらく国連の軍を襲ったのはバルベルデの現政権だろう」

「中々めんどくさそうですねぇ。……分かりました。私たちも最善を尽くしましょう。………それで、本題はなんですか?」

 

バルベルデについては、また後で考えるとして、私は訃堂のお爺さんに今日の本当の要件を聞く。

 

「……なんのことだ?」

「こんな後でも分かりそうなことを伝えるために、わざわざ呼び出す必要ないでしょう?…大方、翼の様子が聞きたいのでしょう。だったらもっと適任がいるじゃないですか。もしくは部下に調べさせるとか」

「むぐ……」

 

私の呆れた声に、訃堂のお爺さんは口ごもる。

ちなみに翼をフルネームではなく下の名前で呼んでいるのは、本人からそう言われたからだ。特に断る必要もないし、そう呼ぶことにしてる。

そして訃堂のお爺さんは、口を開いたかと思えば、子供の様な言い訳を並べだす。

 

「し、仕方ないではないか!部下に聞こうものなら、わしの威厳が崩れ去ること間違いないであろう」

「息子さんたちは?」

「八紘たちにすら厳しく接してしまっているというのに、翼の様子を聞こうものなら、あやつを贔屓しているようなものだぞ!」

「じゃあ、自業自得じゃないですか!?」

「だからおぬしに聞いておるのだ!」

 

……これが風鳴家現当主 風鳴訃堂の本性である。原作での外道さはまるで見当たらず、厳しながらも身内を愛しているという『真っ白』さである。

おまけに翼に関してはかなり溺愛している様子で、前に訪れた際、彼の着物から風鳴翼の初回限定完全予約生産のアルバムCDが転がり落ちた時は、空気が完璧に凍りついた。

そのことで完全に吹っ切れたのか、私に翼の様子を教えろと言ってくるようになった。それだけ孫を溺愛しているのだろう。

 

「ええい!いいから話さんか!翼の様子を!」

「貴方部下から報告受けてるでしょ!それで我慢してよ!」

「ばかもん!それでは装者としての活動しか分からんではないか!」

「だったらいっその事、ちゃんと事情を話せばいいのでは?」

「そんなことができると思うのか!?」

「ええ……」

 

しかし実際はどうだろう。訃堂のお爺さんとその息子たち、翼の間には酷い軋轢は無いものの、その厳しさが災いして、そこまで仲は良くないらしい。

しかも、息子や孫とどう接すればいいのか分からず、結果的に厳しめな態度を取ってしまったという、果てしなく誰得なツンデレなので何も言えない。このことを知ってるのは、私と訃堂のお爺さんの奥さん、それから風鳴八紘さんの奥さん、そして先ほど私を出迎えてくれた侍女の早苗さんだ。

その後も、翼の様子を教えろと迫ってくる訃堂のお爺さんを押しとどめ、最後に彼の頼みごとを引き受けた私は風鳴邸を後にするのだった。

 

 

《訃堂side》

 

それは、遠い昔の記憶。

 

「翼…我ら風鳴の一族は、代々この国を守り支えてきた。この国を守護するもの、それを防人と呼ぶ」

「さきもり……?」

「そうだ。民を守り、国を守らんと戦ってきた偉大な先逹のように、強くなれ。翼」

「うん!分かった…!」

 

 

 

 

わしは書斎で、弦十郎からの報告書を読んでいた。報告書を読み終えると、わしの秘書でもある侍女の早苗が声をかけてくる。

 

「……ふむ。錬金術師、仮面ライダー、か」

「はい。2課の報告では、敵対的な行動はとっていないとのことです。また、彼女たちの正体については、櫻井様…フィーネ様からの情報だと」

「そうか……(敵かどうかはハッキリしないが、ノイズを倒し尚且つこちらの装者を救ったとなれば……よし)」

「早苗、準備を頼む」

「実際にお会いになるのですか?」

「そうだ」

「危険です」

「仮に俺に何かあっても、優秀な息子たちがどうにかする」

「………準備を整えておきます」

 

そう言うと早苗は部屋を出て行った。優秀な秘書である早苗ならば、そう時間はかからんだろう。

 

 

 

 

「おぬしが錬金術師、白黄七海とやらか?」

「そう言うあなたは?」

 

それから数日後、ノイズが複数の箇所に出現し、例の錬金術師も装者と別地点で戦闘していると聞いたわしは、白黄七海と接触した。

 

「私は風鳴家当主 風鳴訃堂。おぬしと話をしてみたくな。こうして参上した次第だ。因みにここでのことは二課には伝わっていない」

「話、ねぇ……。何が聞きたいの?」

「……おぬしは、何が為に戦う。その力、誰が為に振るう」

「家族」

「…そうか。ならば、こちらから提案がある」

 

彼女の答えは、一切の取り繕いがなく、スッと心にしみわたった。

信用できる。そう考えたわしは、彼女に提案した。

今の所、二課と手を組むつもりがない彼女を裏から支援すること、それが彼女に提案したことだ。もちろん素直にうなずくことはなく、裏があるのではないかと疑われたが、彼女が民を守っているのに変わりない、だからその支援をしたいと伝えると納得してくれた。おそらく、私が本心からそう言ったのを悟ってくれたのだろう。

しかし、彼女からも条件を出された。それは彼女が良いというまで、今回のことを二課に伝えないこと。手を組むつもりがないと言っていたため、わしはこの条件に頷いた。

そしてわしらは、裏で手を取り合い、時には彼女を家に招いたこともあった。

だが、懐に持っている翼のCDを見られてしまった時は、一生の恥だった。

 

「……ええっと」

「おぬしは何も見ておらん。いいな?」

「いや、あの……別にいいと思いますよ?」

 

今思い出しても羞恥心で切腹しそうになる……!

だがそのおかげで、翼の普段の様子を聞けるようになったのは不幸中の幸いだった。報告書では戦闘のことしか分からんからな。

そんなこともあってか、彼女とは信頼関係を築くことができ、たまには口調を崩して話し合うぐらいの仲になった。

 

「バルベルデ……波乱の予兆でなければいいが……」

「あら、七海ちゃんは帰られたのかしら…?」

 

外の庭園を眺めていると、妻がやってきた。

妻は七海を好ましく思っているようで、毎回会えるわけではないが、たまに会った際は抱擁したりしている。今回も会えなくて残念がっている。

 

「(何とも不思議な者だ。翼を、装者たちを頼むぞ。そして翼、必ず生きて戻ってこい……)」

 

再び庭園に向き直り、そう願わずにはいられなかった。

 

 




4期、5期が消えちゃったから仕方ないね。詳しくは「1 異世界行ってみよっか?」を読み返してね!
因みに寝取ってないから、ちゃんと奥さんいるよ!

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キャラクター紹介

白黄七海/仮面ライダーグリス
姿は19歳程度で、青みがかった銀髪が特徴。天才の姉を持つ。
両親からの過度な期待や学校でのいじめなどを苦に自殺、神様の手によって、戦姫絶唱シンフォギアの世界に転生する。
原作は3期まで視聴済み。キャロルに惚れ、キャロルに違う未来(幸せな未来)を歩ませることが目的。
神様にお願いして仮面ライダーグリスに変身できるようにしてもらった。グリスにした理由は、家族や仲間と言った繋がりを大事にしていたグリスに、憧れを持っていたから。
変身ポーズは、某ドルオタと同じか某ヒゲと同じ。
仮面ライダービルドのみ視聴済みだが、神様にランダムで他の仮面ライダーの知識が欲しいと言ったことで、ゼロワンの知識を得る。
セレナと奏といった原作死亡キャラを救っており、セレナに関しては家族として迎え入れ、彼女の信念、夢を叶えるための力を与えている。
神様に頼んで学習能力、記憶能力が上がっており、錬金術を修めている。
キャロルとは、恋人関係。
家族であるキャロルたちを優先するが、それでも他人を平気で見捨てることはしない、根は優しい人物。


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40 ブリーフィング

《3人称side》

 

「それでは、これより任務について説明を行う」

 

S.O.N.G.の拠点である潜水艦の司令室では、響を始めとしたシンフォギア装者たち、そして七海陣営のキャロルたちが集まり、作戦会議が始まろうとしていた。

 

「それよりおっさん」

「どうした?」

「なんで七海がそっち側なんだよ?」

 

そっち側というのは、七海が弦十郎の隣にいることだ。その立ち位置はあたかも装者たちよりも、高い地位にいることを表しているようである。

 

「知ってのとおり、俺たちと七海くんたちは協力関係にある。そして七海くんは、彼女の陣営の代表となっているからだ。知ってのとおり、七海くんたちとは協力関係であり、そこに上下関係がない。もっとも、各国を刺激しないようにするための方便だがな……」

「ふーん。でもよ、七海にそういう、おっさんみたいなことできんのか?」

「私これでも貴女たちより年上だよ?」

 

七海がジトーッとクリスを見つめる。その圧に負けたクリスは、思わず顔を背ける。

 

「わ、悪い……」

「……まあいいよ。それより今回の任務についてだね」

「これを見てくれ」

 

正面の巨大なモニターに、様々なデータが映し出される。

 

「バルベルデ共和国。この国では現政権の圧政が敷かれていたのだが、反乱軍が決起したことで紛争地帯となっている」

「バルベルデ……ッ!」

「大丈夫クリスちゃん?」

「ああ……問題ねえ」

 

バルベルデ共和国は、クリスにとってトラウマともいえる地域である。彼女がテロによって天涯孤独になった後、人身売買を行っている組織に捕り地獄を見た場所でもある。

そのトラウマに震える体を、両腕で抱きしめて無理矢理落ち着けようとする。それを見た響が声をかけたことで、なんとか気分が落ち着いた。

それを見ていた七海は、しかしあえて見て見ぬふりをする。

 

「質問、いいかしら?」

「なんですか翼?」

「バルベルデ共和国で起きている紛争が、放っておける問題ではないことは分かる。しかし、私たちの立場で介入をしても大丈夫なのか?」

 

当然の質問である。S.O.N.G.が専門とするのは、主に救助活動、そして超常的な事象への対応である。

紛争という見逃すべきではない問題とはいえ、彼女たちが介入することは難しい。

だが逆に言えば、超常的な問題があれば話は別である。

 

「翼の疑問はもっともだ。故に、今回の俺たちの介入には、それなりの理由がある。これを見てほしい……見るのが辛ければ、耳を塞いで目を逸らしてくれ」

 

そう言ってモニターに流れたのは、暗闇の中で響く怒声、それに重なるように鳴り響く銃声、さらに薄っすらと国連の軍人らしき人物も映ってる。幸いというべきか、暗闇のおかげで具体的なことまでは分からないが、何が起こっているのかは薄々察することができる。

 

「これって……」

「今から一ヶ月前、国連の軍がバルベルデ共和国に軍を送り、3日で壊滅したという。これは、その時の映像だ」

「なッ!?」

 

弦十郎の言葉に、装者たちは驚愕する。キャロル、エルフナインは表情に出すことはなかったが、それでも驚いてる様子だった。

 

「……七海、壊滅した原因はなんだ」

「数少ない生き残りの話だと、どうやら夜、暗闇に乗じた奇襲をかけられたらしい」

「なるほど……これは確かに妙だな」

「そうか……?言っちゃ悪いが、奇襲をかけられたってなら別に人間でもできるだろ?」

 

未だに驚きから戻ってこない装者たちの代わりに、キャロルが話を聞き出す。

七海の話からキャロルは何かに思い当たるが、奏は特におかしい話ではないと否定する。

しかしキャロルが気になったのは、そこではないと言う。

 

「そこではない。オレが気になったのは、3日で壊滅したという事だ。たった一度の奇襲で、軍のほとんどが皆殺しにされることがあるか?」

「それは…たしかに……」

「いくら奇襲をかけられたとしても、相手が普通の人間なら損害もでるはずだ。反乱軍は国連の軍を攻撃するメリットはないはずだし、その反乱軍と交戦しているバルベルデ共和国の現政権に、そこまでの戦力があるとは思えん。……考えられるとすれば」

「何らかの聖遺物、または、それらを扱う現政権の協力者がいるということ、ですか……」

 

キャロルの考えを引き継ぐように、エルフナインが答える。七海はその回答に満足し、自身の考えを述べる。

 

「さすがだね。2人の言うとおり、国連もそう睨んでいるようでね。国連の調査によると、軍が反撃したにも関わらずなぜか襲ってきたやつらの死体はなかった。わざわざ持って帰るとは思えないし、ということは相手側に死者は出なかったことになる。でも、キャロルが言ったように相手が人間ならば、軍の反撃で死者が出ないと言うのもおかしな話」

「俺たちの任務は、このことを調査し、聖遺物があればそれの確保、裏側に潜む者がいれば捕縛だ。とはいえ、現地ではバルベルデ共和国の軍による反撃が予想される。その際は出来る限り無力化することも、任務の内に入っている。」

 

任務の内容について、弦十郎が説明するが、装者たちは最後の内容に違和感を持ったようで首を傾げる。

 

「最後の内容に疑問を持ったみたいだけど、それも当然の話だよ。国連からすれば、私たちが調査の一環でバルベルデ軍を無力化することを期待しているの」

「じゃあ、私たちの任務って……」

「武力干渉の正当化、奇襲が超常的なものであろうとなかろうと、それができるキッカケになったってところだね。がっかりした?響ちゃん?」

「……それでも、紛争で悲しむ人が減るんだよね?だったら、私やります!」

「他のみんなも……覚悟は決まってるね」

 

周りを見渡した七海は、装者たちの顔つきを見て、満足そうにうなずく。

弦十郎が話を引き継ぎ、最終確認が行われる。

 

「それでは、作戦を確認する。と言っても、七海くんが言った通り国連は軍の無力化も狙っており、それによって巻き込まれる人間が減ることは、俺たちも望むところでもある。よって、先行している住民保護のための部隊と合流後、軍の無力化を開始する。だがこれは陽動であり、その隙に本来の任務を遂行することになる」

「もちろん住民保護の為に何人か残しておくことになるから、部隊は3部隊になる。バルベルデ軍の無力化には、立花響、風鳴翼、雪音クリスが。リーダーは翼を」

「はいッ!」

「承知した」

「ああ」

「次に奇襲部隊の調査は、私とキャロル、セレナで行う」

「ああ」

「分かりました!」

 

呼ばれた者が次々と返事をしていく中、住民の防衛のメンバーの言っていく。…のだが、その人員に装者たちから疑問の声が上がる。

 

「最後に住民のいる村を防衛するメンバーを。暁切歌、月読調……そして、マリア・カデンツァヴナ・イヴ」

「ええッ!?マリアさんも戦うんですか!?」

「でも、マリアはシンフォギアないデスよ!」

「…危険すぎる」

「大丈夫よ。これがあるもの」

 

そう言ってマリアが取り出したのは、シンフォギアの待機状態である紅いペンダント。

 

「デデス!?新しいシンフォギアデス!?」

「それはちょっと違うわね。これはアガートラーム。セレナが持っていたシンフォギアよ」

「今回の任務は人手がいる。だから、セレナが持っていたアガートラームを、彼女に合わせて調整して、装者になってもらったの。もちろん、それなりの訓練はしてもらったよ」

「……ハハハ…ええ、それはもう、本当にきつかったわ……ハ、ハハハ……」

「だ、大丈夫か、マリア……」

 

まるで魂が抜けたかのように笑うマリアに、周りの装者たちは軽く引いてしまう。翼が声をかけるも、マリアは乾いた笑いしか零さない。

皆が知る由もないが、マリアは受けた訓練は他でもない弦十郎考案の、超強化特別訓練メニューなのだ。通常の訓練と何がどう違うのかというと、その全てが弦十郎を基準に作られていると言うところにある。「憲法に抵触しかねない男」「歩く戦闘兵器」といった不名誉な称号を、あちこちで授かっている(なお本人は知らない様子)ほどの戦闘能力を持つ弦十郎が、自分基準で考えた訓練メニューなど地獄以外の何物でもない。因みに弦十郎を基準にするように言ったのは、七海であることは秘密である。

もちろんマリアは、その厳しさに根を上げそうになったが、切歌たちに守られるだけでは嫌だと修行に食らいついた結果、立派に戦えるほどに成長した。ちなみに訓練メニューは走り込みや打ち込みといった、基礎力を上げるものから始まり、最後は弦十郎が認めるまで、彼との模擬戦という地獄である。

その間、S.O.N.G.の仕事はどうしたと言いたいが、マリアの訓練が終わると、櫻井了子やオペレーターの藤尭朔也、友里あおいらが、一斉に解放された表情をしていたことから察してほしい。

 

「……以上が詳細だ。今はバルベルデに向け航行中であり、到着と共に作戦を―――」

「―――ッ!?司令!」

 

弦十郎が話を閉めようとした瞬間、朔也の声が司令室に響く。

 

「バルベルデに先行していた軍より救援要請!住民がいる村を護衛していた軍が、襲撃を受けているようです!」

「なんだとぉッ!?」

 




司令の訓練=超強化 の方程式、あると思います。
まあマリアさんはそういう戦闘訓練を受けていなかったので、戦闘力的には原作とほとんど変わりません。

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キャラクター紹介

キャロル・マールス・ディーンハイム/仮面ライダーバルカン
本作のヒロイン。
転生した七海によって、その運命が変わった幼女。
原作と違い、父であるイザーク・マールス・ディーンハイムの最後の言葉(命題)を聞いたため、その命題を行動の糧として、原作同様の方法を使い数百年の時を生きる。
なお、火刑に処されなかったために父親の命題は、原作でエルフナインが悟った内容と違う。
性格は、基本的には原作同様の口調、性格だが、家族の前(気が緩んでいる時)や七海と接する時は、無邪気で過去の口調、性格になる。七海は前者をお仕事モード、後者を甘々モードと呼んでいる。
家族を何より大切に思っており、家族の為ならば他を切り捨てる覚悟を決めている。それでも、簡単に見捨てることはしないため、心優しい女の子であることに変わりない。
原作同様に、その天才的な才能で錬金術を修め、七海が書き起こしていた設計図から、「ショットライザー」と「シューティングウルフプログライズキー」を制作。家族を守るための力として使用していく。
変身ポーズは銃口を上に向けて引き金を引く。
シューティングウルフは銃弾を体で受ける。パンチングコングは銃を持った手で裏拳。アサルトウルフはオオカミの幻影がキャロルに噛みつく。
その戦闘技術にも天賦の才を持っており、仮面ライダーバルカンとして戦う際は、その射撃能力、戦闘技術をいかんなく発揮し、遠近両方の戦闘に対応する。
七海とは恋人関係であり、七海とのスキンシップを恥ずかしがるが、それでも拒むことはない様子。
最近は、何やら頭痛に悩まされているようだが……?


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41 異常な兵士

《3人称side》

 

そこは地獄絵図だった。

バルベルデ共和国の住民が避難している村には、国連から派遣されている軍が常駐している。しかし数時間前、反乱軍と共和国軍が戦闘を開始。その余波が、国連軍が常駐している村にまで飛んできたのだ。

 

「村に一歩も近づけるな!」

「俺たちの後ろには、無辜の命がいる!怯むなぁ!」

「ちッ!なんだアイツら、国連の軍でも平気で攻撃をかけるとは……」

「隊長ッ!S.O.N.G.から通信、間もなくこちらに到着、救援に入るとのことです!」

 

村を防衛していた部隊の隊長に、救援の知らせが入ると同時に、彼らの頭上を3発のミサイルが飛び去る。

後方を飛んでいた2発のミサイルは空中でパージし、先頭を飛んでいたミサイルは遅れてパージする。

そのパージしたミサイルから、色とりどりの鎧を纏った少女たちと、生身の少女たちが飛び出す。

 

「デヤアアアアア!」

 

先頭のミサイルから飛び出した立花響は、真下にいた戦車の砲身を砕きながら着地する。

同時に降り立った風鳴翼と雪音クリスも、周囲の兵を次々と無力化していく。

 

「なんとイガリマぁあああ!」

 

暁切歌、月読調、マリア・カデンツァヴナ・イヴは比較的、国連軍の付近に降り立ち、彼らを援護する。

そして最後に、高所から降り立ったにも関わらず、ゆっくりと降りたった白黄七海と、セレナ・カデンツァヴナ・イヴを抱えて降りたキャロル・マールス・ディーンハイムは、部隊の隊長へと声をかける。

 

「こちら、S.O.N.G.外部協力員、白黄七海です!貴方がこの部隊の隊長ですね!現状の情報を」

 

それは質問というより、もはや確認であった。出撃前から、この部隊の重要な立場の人間はすでに頭に入れているので、当たり前といえば当たり前である。

 

「君たちが…?いや、協力感謝する!今、我が軍は共和国軍の攻撃を受けている。やつらは東側から攻めてきており、今の所例の部隊は現れていない!」

「了解です。情報感謝します」

「おい七海!やつら何かがおかしいぞ!」

 

ショットライザーと錬金術で援護していたキャロルが、共和国軍の兵士の様子に何か気づく。

 

「奴らの目…正気とは思えん!」

「ほんとだ。何かしらの暗示を受けている?もしくは洗脳か……」

 

共和国の兵士は、その全てが催眠を受けているかのように、フラフラとしているのだ。目のハイライトは消え、口は不規則に何かを呟いている。そのくせ、練度がなぜかやたらに高い。

その時、通信機から藤高朔也の声が聞こえた。

 

『翼さんたちのいる戦闘地域に、謎の巨大空中戦艦が出現!交戦を開始しました!』

「お、おい!なんだあれは!」

 

通信が終了すると同時に、兵の1人が指差した方向に目を向けると、そこには空中に浮かぶ巨大な戦艦が佇んでいた。

 

「なるほど。あれがやつらの秘密兵器か…。まあ、あの3人ならどうにかできるでしょう」

 

その言葉通り、十分ほどで空中戦艦に大きな穴が空き爆発した。

共和国軍も撤退を開始し、この場での戦闘は終わった。

 

「救援、本当に感謝します」

「いえ。無力化した共和国軍兵士のこと、よろしくお願いします」

 

無力化した共和国軍の兵士は国連軍に任せ、七海たちは村に設置されたS.O.N.G.の仮拠点に向かう。

仮拠点には、すでに装者たちが到着していた。

 

「おう!お疲れ様だったな、七海くん!」

「どうもです。それと、響たちもお疲れ」

 

弦十郎からの労いの言葉をもらい、響たちに労いの言葉をかける。七海も一応、弦十郎と同じ立場なので、こういう事にも気を使う必要があるのだ。

 

「……それで、どうでした。何かわかったことは?」

「ああ、それも含めて、後で報告しようと思う」

 

そして諸々の準備が終わり、火が沈み夜になった頃。国連軍は昼間よりもピリピリしていた。

それもそうだろう。なにせ、暗闇に紛れた奇襲で、国連の軍が壊滅したのだから。

 

「(まずいな…。これだと、昼間の戦闘に支障が出るかもしれない)」

 

一刻も早く、部隊の謎を明かさないといけない。そう心に決めた七海は、仮司令室に向かう。ここで昼間についての報告が行われるらしい。

 

「あ!七海ちゃん!」

「バカッ!もう夜なんだから、静かにしろっての!」

「クリスちゃんの声の方が大きいよ!?」

「なんだとッ!」

「落ち着きなさい、2人とも」

 

毎度のように響とクリスが言い合い、それを年長者であるマリアが止める。

七海はよく飽きないなと思いつつ、全員そろったため報告会が始まる。

 

「よし、まずはこれを見てくれ」

 

そう言って、本拠点ほどではないけど、それなりに巨大なモニターに調査結果が映し出される。

 

「君たちの戦闘中、こちらでいろいろと調べてみた。その結果について、エルフナイン君から説明してもらう」

「はい」

 

弦十郎の言葉を受けて、エルフナインが前に出る。

余談だが、エルフナインは白衣に身を包んでいる。なんというか、こうした方が気合が入るんだって。彼女って、意外と形から入る子だったりする。

 

「皆さんの戦闘中に解析したデータを調べた結果、奇妙な反応が検知されました」

「奇妙な反応?」

「この反応を追跡した結果、この場所にたどり着きました」

 

バルベルデ共和国一帯の地図のある一点に、マーカーが付けられる。

 

「皆さんの報告に会った、共和国軍の兵士の様子がおかしいというのは、おそらくこの反応によるものだと思います」

「よって俺たちは、この反応の正体についても探ることになった。例の奇襲部隊の調査も必要だが、現状の問題はこっちだ。もしこの反応の正体が兵士の異常の正体なら、おそらくバルベルデ共和国でも、何かが起こっている可能性があるからな」

「ですがこの反応の場所って…敵地の真っただ中デス」

「そうだ。そのため七海くんと相談した結果、部隊を2つに分けることになった。まずはこの反応の正体を探る部隊。これは七海くん、キャロルくん、セレナくん、響くん、翼くんを。現地での指示は七海くんに一任する。残りはこの村で待機、再び襲撃を受けた際の防衛部隊に回る」

 

七海たちの本来の任務は奇襲部隊の調査だが、この任務も超常的なものが関係している兆候があるなら、S.O.N.G.として見逃すわけにもいかない。

その後もいくつかの確認をした結果、この場は解散となった。

 

「……それで、七海くんはどう思った?」

「まあ、十中八九聖遺物でしょうね」

 

七海とキャロルはその場に残り、弦十郎たちとさっきのデータについて話していた。

セレナを除いた七海陣営は聖遺物など、飽きるほどに見てきたので、データを見るだけでもある程度は察しはつけれる。

今回のことも、何かしらの聖遺物が関わっていると、2人はあたりをつけたのだ。

 

「ボクと了子さんもそう考えています。ただ、どうにも気になるところが…」

「このデータね、所々にノイズが入っているみたいに、どうも安定しないのよね~」

「ふむ…。実際が分からない以上、確定するのは危険だな」

「ああ、まだ頭の片隅に置いておくぐらいで良いだろう」

 

そうして日にちは変わり、作戦が決行された。




前書きか後書きに何か書かないといけないと思ってしまう(使命感)
でも書くことがない(絶望)

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キャラクター紹介

エルフナイン
キャロルと七海によって作られたホムンクルス。
2人の記憶をベースに人格を形成されており、錬金術はキャロルが教えた。
主に七海が書き出した設計図を基に「ライダーシステム」の研究、開発を行うのが主な仕事。
家事も一通りこなせる。ちなみに教えたのはキャロル。
セレナとの相部屋になったことで、セレナとの関係に少しばかり変化が……?




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42 反応の正体と新たな脅威

昨日投稿してないのに、すっごいアクセス件数増えててビクビクしました。嬉しいことに変わりないんですけどね。

⭐︎10 秋月玲さんありがとうございます!


《3人称side》

 

夜が明け、七海たち調査組は慎重に森の中を歩いていた。

 

「セレナ、探知の方はどう?」

「はい、あたり一帯には特に誰もいないみたいです」

 

セレナは手のひらに浮かんだ魔方陣を見る。

彼女もキャロルから錬金術を学んでいるため、ある程度は術式を使える。今使っているのも、キャロルから学んだ探知の術式だ。

ちなみに、先生であるキャロルの方針で、攻撃系の術式は教えていない。本人曰く、錬金術をよく知ってからでも遅くないとのこと。

 

「さて、それじゃあ、改めて確認するよ」

 

七海は振り返り、キャロル、響、翼に目を向ける。

 

「私たちの目的は、ここから1キロ離れた場所から発せられている反応の確認及び奪取。と言っても、これは私たちの本来の目的じゃない。だから、あくまでも隠密に行動し、万が一見つかった場合は、即座に撤退する。質問は?」

「よろしい。では行こうか」

 

七海を先頭に、翼、セレナ、響、キャロルの順で歩く。

特に敵と接敵することもなく、一同は反応が発せられているポイントに到着した。

 

「これは……祠?」

「反応はこの中から出ている。どうする七海?」

「もちろん潜入する」

 

一同は祠の中に侵入する。どうやら中は地下にあるらしく、少し進むと開けた場所に出た。

以外にも祠の中はそこまで暗くなく、周囲に流れる透明な水が、入り口から入ってきた光を反射することで、幻想的な光景を生み出していた。そこまで中が広くないことも、関係しているのかもしれない。

 

「わぁ…すごくきれい…」

「まるで夢のような場所だな」

「未来にも見せてあげたいな……」

「お前たち見惚れている場合か。腐ってもここは敵地だぞ」

 

滅多にお目にかかれない光景に、セレナ、翼、響が目を奪われるが、そんな3人をキャロルが叱咤する。

しかし、七海はそんなものが聞こえないほどに、目の前に浮かんでいる物に釘付けだった。

気づけば、フラフラと目の前に浮かんでいる物に近づいて行った。

 

「おい七海……!?」

「ど、どうしたんですか……!?」

 

後ろから投げられる声に構わず、目の前に浮かぶ何かの欠片のようなものを手に取る。

 

「なんだ、これは…」

「なんだか、怖い……」

 

七海の後を追ってきたキャロルたちも、七海の手の中にある欠片を見る。

別段見慣れているわけではない響や翼は、特に何も感じないが、飽きるほど見てきたキャロルや、それなりに見慣れているセレナは、その欠片に何かを感じる。

セレナに関しては、言い表せない恐怖を感じていた。

 

「ともかく、発生源はこれで良いだろう。後はさっさと戻って……ッ!?伏せろ!」

 

キャロルが叫びながら手をかざし、魔方陣による防壁を出すと、その防壁にいくつもの銃弾が突き刺さる。

 

「きゃあ!」

「襲撃かッ!」

「フフッ…ネズミが紛れ込んでいると思ったら、まさか泥棒猫なんて……」

「お前は……アウラネル!」

 

入り口には1人の女が立っていた。その名はアウラネル。

デュランダル事件において、幾度と七海たちと戦ったアンドロイドである。

 

「(クリスがいなくて良かった…)」

 

七海は心の中で安堵する。

アウラネルは七海の姉である黒夜の仇でもある。黒夜を気にかけ、その死を誰よりも悲しんでいたクリスがいれば、おそらく何も考えずに激昂して突っ込んでいただろう。

 

「(だけどあの後ろに居るやつらは何…?)」

 

疑問なのは、アウラネルの背後にいる、複数の同じ姿をしたアンドロイド。

アサルトライフルを持っているのを見る限り、先ほどの銃撃はこいつらの仕業だろう。

 

「その欠片を持って行かれるのは、少々困ります。そう言うわけなので、ここで死んでもらいましょう」

「ちぃ……そう簡単にやらせるか!」

「待ってキャロル。ここで戦えば、祠が崩落する可能性がある。響、翼。私が隙を作るから、その隙にシンフォギアを纏って。そしたらすぐに響は天井に穴を開けて、翼は敵の射撃を牽制して

 

戦う気満々のキャロルを抑え、脱出の作戦を伝える。それに全員が頷いたところで、アウラネルが話し始める。

 

「何をこそこそと話しているのかは知りませんが……まあいいでしょう。全体、構え」

 

アウラネルの命令に、彼女の背後にいるロボットたちが、一斉に銃を構える。

それに構うことなく、七海は話しかける。

 

「せっかちだなぁ。そんなにこの欠片が大事なの?返してあげようか」

「いいえ結構です。あなた方を始末してからで大丈夫ですよ」

「……そう言わずに、さッ!」

「なッ!?……ぐぁ!?」

 

おもむろに七海は、手に持った欠片を上に向かって放り投げる。それによって、アウラネルとアンドロイドの視線が欠片に集中する。

次の瞬間、七海が放り投げた欠片が強烈な光を発し、アウラネルたちを怯ませた。

ちなみに今投げた欠片は、錬金術で作った偽物である。そしてその偽物が発した光は、確実な隙を作った。

 

Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

「くっ!やつらを逃がすな!撃ちなさい!」

「遅い!」

【天ノ逆鱗】

 

シンフォギアの聖詠を聞いたアウラネルは、背後のアンドロイドに命令を出す。

しかし撃たれた銃弾は、天羽々斬を纏った翼がこの場所のギリギリの大きさで生成した剣によって防がれる。

さすがに垂直に突き立てることは出来なかったので、切っ先を地面に対して斜めに突き立て坂道になるようにしたが、十分壁としての役割を果たした。

 

「ハアアアア!」

 

そうして稼いだ時間で、響は天井に向かってドリルの様に穴を開けていき、やがて外に突き出た。

 

「離脱する!」

「先に行け!オレが殿を務める!」

 

七海やキャロルと違い錬金術が不慣れであり、且つシンフォギアがないセレナを、七海がお姫様抱っこして穴から脱出する。それに続いて翼も祠から脱出する。

殿を務めたキャロルは跳びあがる直前、アウラネルをちらりと一瞬だけ見たが、すぐに七海たちを追い祠を脱出した。

 

「キャロル!すぐにここを離れるよ!」

「ああ!」

 

キャロルが穴から出てくると、すぐに一行は移動を開始する。

セレナの顔が赤かった気がするが、今は気にしている暇はない。

森の中を一直線に駆ける。

 

「皆!向こうと連絡が取れた。どうやら村の方も、あのアンドロイドの襲撃を受けているらしい!」

「ええッ!?」

「どうするつもりだ七海!」

「このまま合流するのが一番だけど……」

「その暇もなさそうだ!」

「追いつかれた!」

 

キャロルは振り返り、再び防壁で銃弾を防ぐ。

後ろから迫っているアウラネルたちに、七海は予定を変更する。

 

「予定変更!このままここで、アウラネルたちを迎え撃つ!」

「大丈夫なのか!?」

「このまま戻れば、どのみちやつらと戦うことになる。村の方の敵戦力を下手に増やして、損害を増やすよりマシだ!」

「分かりました!」

「私たちが切り込む!行くぞ立花!」

【千ノ落涙】

 

反転した翼が、大量の刀を降らしてアンドロイドたちを迎撃する。

響も接近するアンドロイドを、次々と殴り飛ばしていく。

七海たちもその間に、仮面ライダーに変身する。

 

《ロボットゼェリィィ!》

《バレット!》

《オーソライズ!》

《インフェルノウィング!》

《バーンライズ!》

《 《Kamen Rider…Kamen Rider…》 》

「「「変身!!」」」

「やらせません!撃ちなさい!」

 

七海たちが変身しようとするのを見たアウラネルは、アンドロイドに命じて七海たちを撃たせようとする。

その命令通り、アンドロイドたちは七海たちに向かって、銃の引き金を引く。

銃弾の嵐が七海たちを襲うが、その1つたりとも彼女たちを傷つけることはなかった。

 

《潰れるぅ! 流れるぅ! 溢れ出るぅ!》

《ロボッットォイングゥゥリスゥゥゥ!》

《ブルァァァァァ!》

 

液体を満たしたビーカーと「ケミカライドビルダ―」が、七海に迫る銃弾を弾く。

 

《ショットライズ》

《シューティングウルフ!》

《The elevation increases as the bullet is fired》

 

魔方陣による防壁を並行して使用しているキャロルの身体に、彼女の撃ちだした銃弾が当たりアーマーを形成する。

 

《スラッシュライズ》

《バーニングファルコン!》

《The strongest wings bearing the fire of hell!》

 

不死鳥型のライダモデルがセレナを包み、その炎と羽で銃弾を防ぐ。

 

「さあ、心火を燃やして…ぶっ潰す!」

 

 

 




バルベルデ戦はさっさと終わらせたかったのに、思ったよりも長引きそうな気が……。

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43 因縁の相手

《調査組side》

 

「心火を燃やして…ぶっ潰す!ハアアア!」

 

仮面ライダーグリスに変身した七海が、先頭を切りアンドロイドに向かっていく。

 

「らああああ!」

 

目の前にいた一体に飛びかかって、転がりながらも地面に押し倒し拳を振り下ろす。

正面から2体のアンドロイドが銃を撃つが、横に転がって回避。右腕の(・・・)ツインブレイカ―ビームモードで狙い撃つ。

クラッシュブースターが使えない間、戦力ダウンしないよう、通常グリスの強化を行ったのだが、スペックが上がったことで右腕にもツインブレイカ―が装備可能となったのだ。

 

「スペックは上がってる。…これなら!」

 

 

 

「おおおおッ!」

 

仮面ライダーバルカンに変身しているキャロルは、近くのアンドロイドに飛び蹴りを食らわせ、その横にいた一体にショットライザーの銃撃を叩き込む。

 

「フンッ!」

 

大型のコンバットナイフを持った2体が襲い来るが、キャロルはそれを弾き左側の敵に左フックを、右側の敵に右肘からの蹴りをお見舞いする。

 

「貴様ら程度に、この俺が倒せるか!」

 

 

 

「ヤアアアッ!」

 

セレナは、主翼バーニングスクランブラーを展開し飛行することで、アンドロイドの銃弾を回避する。

そして隙を見て急降下し、数体のアンドロイドをすれ違いざまに切り裂いていく。

 

「セイッ!ハアア!ぜったいに、負けません!」

 

地面に降り立ち、振るわれたコンバットナイフを受け止める。それを弾いて足払いをかけ、背後から迫っていた敵の攻撃を躱し、反撃を食らわせる。

更にバーニングスクランブラ―からバーニングフライヤ―を射出し、遠方から銃を向けているアンドロイドを切り裂いていく。

 

 

 

「……やはり、通常個体ではこの程度ですか」

「アウラネル、覚悟!」

「甘いのですよ!」

 

七海たちがアンドロイドを次々と撃破していく様子を、アウラネルは特に表情を変えることなく見ていた。

それでも警戒は怠っていないようで、翼の奇襲をスチームブレードで防ぐ。

 

「貴様!この地で何を企んでいる!」

「それを貴女方に言う義務は、ないでしょうッ!」

 

翼の問いに答えず、スチームブレードで強引に押し返す。

さらにネビュラスチームガンに、青色のギアをセットする。

 

《ギアリモコン!》

《ファンキー!》

「潤動」

《Remote control gear》

 

ネビュラスチームガンから噴出した煙に包まれると、アウラネルの身体はエンジンブロスとは左右対称の姿をしていた。さらには歯車のパーツは青色になっている。

 

「リモコンブロス、推参…」

「翼さん、大丈夫ですか!」

「ああ。それにしても、前とは違う姿か。立花、気を抜くな」

「はい!」

「さあ、相手をしてあげましょう……」

 

 

 

《防衛組side》

 

七海たちがアンドロイドと戦闘している間、マリアたち防衛組もアンドロイドと戦闘状態にあった。

 

「くそッ!何なんだよこいつらはッ!」

「ロボットデスッ!?」

 

クリスのイチイバルのアームドギアが火を噴き、アンドロイドを足止めする。その隙を狙い、イガリマを纏った切歌がアームドギアである大鎌を振るう。

 

「マリアッ!」

「分かってるわッ!」

 

少し離れた地点でも、シュルシャガナを纏った調が大量の鋸を射出し、アンドロイドの動きを阻害する。

マリアはアガートラームを纏い、操舵剣を振るって複数のアンドロイドをなぎ倒す。

遡ること30分前。突如として、アンドロイドの大群が村を襲ったのだ。国連の軍も応戦しているが、やはり苦戦している。クリスたちも戦闘に参加しているが、ノイズと違い一撃一撃で倒せないのがきつすぎる。

クリスはスマッシュとの闘いでノイズ以外との戦闘を経験しているが、切歌と調はF.I.S.時代に出現していたノイズ、マリアに至っては戦闘経験がロクにない。それでもマリアが戦えているのは、弦十郎による訓練の賜物だろう。

 

「こいつでしめえだ!」

【BILLION MAIDEN】

 

クリスのアームドギアが4門の3連ガトリングに変形、アンドロイドの集団に銃弾の嵐を叩き込む。

穴だらけになったアンドロイドは爆発した。

 

「はぁ…はぁ…。お、終わったデス…」

「…うん……なんとか、倒せた」

「切歌、調、大丈夫かしら?」

「な、なんで…マリアは平気なんデスか…!?」

「たく…お前ら元気だな……。おっさん、こっちは何とか終わったぞ。……ああ!?」

 

クリスが弦十郎にアンドロイドを撃退したことを伝えると、弦十郎からの報告に驚愕する。

 

「…どうしたんですか?クリス先輩?」

「あいつらがしくったらしい。さっきあたしたちが戦ったやつらと戦闘中だ」

「じゃ、じゃあ、急いで援護に行かないと……」

「行かせるわけないでしょ~!」

「なにもんだ!」

 

森の方からかけられた声に、全員の警戒が跳ね上がる。森から出てきたのは2人の女性だった。

 

「あ?なんだお前ら…?」

『皆さん気をつけてください!そいつらはネリとモネ!ナナ姉え達が苦戦させられた相手です!』

「なッ!?」

《ギアリモコン!》

《ギアエンジン!》

「「カイザー」」

《 《ファンキー!》 》

 

エルフナインの通信に気が割かれた間に、ネリとモネがカイザーリバース、カイザーに変身する。

 

「さあ、壊して差し上げましょう……」

 

 

 

《調査組side》

 

アンドロイド部隊と七海たちの戦闘も佳境に入っていた。

 

「2人の方も援護しないと……ここで片づけるよ!」

「先生!」

「ここは新たなプログライズキーの出番だ!」

 

七海は右のツインブレイカーにガトリングフルボトル、左のツインブレイカーにヘリコプターフルボトルを装填する。

 

《シングルゥ!》

《シングルゥ!》

《 《シングルフィニッシュ!》 》

「ラァ!ハアアア!」

 

左のツインブレイカーを振り上げてプロペラ状のエネルギー弾を飛ばし、右のツインブレイカーを突き出して光弾を撃ちだす。

次に、セレナはフレイミングタイガープログライズキーをアタッシュカリバーに、キャロルはガトリングヘッジホッグプログライズキーをアタッシュショットガンに装填する。

 

《タイガーズアビリティ!》

《ヘッジホッグズアビリティ!》

《フレイミングカバンストラッシュ!》

《ガトリングカバンショット!》

「「ハアアアア!」」

 

セレナの炎の斬撃とキャロルの針型の銃弾は、七海の攻撃から生き残ったアンドロイドを、確実に撃破していった。

 

「でやああ!」

「正面からの突撃なんて!」

 

響がアウラネルに拳を放つ。しかしアウラネルは拳を逸らし、がら空きの背中に蹴りを叩き込む。

 

「防人の剣、食らうがいい!」

【蒼ノ一閃】

「剣だけが戦いの全てじゃないのよ!」

 

翼の斬撃をスチームブレードで掻き消し、反撃にネビュラスチームガンを撃つ。

 

「させるかッ!」

「ぐッ!」

 

追撃を掛けようとするアウラネルに七海が飛びかかり、2人ともども転がっていく。

しかしすぐに起き上がり、近接戦闘を行う。

 

「ハア!」

「フッ!」

 

アウラネルがスチームブレードを振り下ろすが、それを左のツインブレイカーで防ぎ、右のツインブレイカ―で攻撃する。

しかしアウラネルもすぐに体勢を立て直し、ネビュラスチームガンを連射して追撃を防ぐ。

 

「アウラネル!この地で何を企んでる!」

「……私たちの目的は、戦闘用マギア『トリロバイトマギア』の運用テスト」

「トリロバイトマギア?さっきのアンドロイドか!」

「ハッ!」

「くぅ…!」

 

問答の最中にもアウラネルは斬りかかり、七海はバックステップで下がる。

 

「さて、どうするかね……?」

「バウバウ!」

「キュルキュール!」

「ん?……リボルウルフにクローズドラゴン?」

 

ネビュラスチームガンの銃弾を木の陰に隠れてやり過ごす七海に、小さいオオカミと四角いドラゴンが姿を見せる。

この2体は、セレナが開発したフルライズアニマル。プログライズキーやフルボトルで起動するサポートメカだ。オオカミはリボルウルフ、ドラゴンはクローズドラゴンと言う名だ。

 

「……確かこの子たちって使えた(・・・)よね?」

「そろそろ出てきたらどうですか?」

「そう、焦らないのってッ!」

「クッ!」

「いくぞッ!」

《Ready go!》

《オーソライズゥ!》

 

木の陰から飛び出した七海は、ツインブレイカーから光弾を撃ち牽制する。

それを見たアウラネルはスチームブレードのバルブを捻り、七海は両方のツインブレイカーに変形したリボルウルフとクローズドラゴンを装填する。

 

《エレキスチーム》

「ハアア!」

 

アウラネルがスチームブレードを振るい、七海に向けて雷撃を飛ばす。

 

「らああああッ!!」

《ダイナミックブレイク!》

《レッツフィニッシュ!》

「オラァアア!」

 

七海は、オオカミ型のエネルギーを纏った左のツインブレイカ―で迫る雷撃を撃ち払い、

左のツインブレイカ―から、龍型エネルギー体「クローズドラゴン・ブレイズ」を撃ちだした。

クローズドラゴン・ブレイズはまっすぐアウラネルに向かっていき、迎撃の為に振るわれたスチームブレードを弾き吹き飛ばした。

 

「……ウグッ……どうやら向こうも終わったらしいですね。それでは、また会いましょう…」

「待てッ!」

 

ネビュラスチームガンから噴出した煙に紛れて、アウラネルは姿を消す。

それを見た七海は、すでに退却させているキャロルたちを追うために、フェニックスフルボトルをスクラッシュドライバーに装填する。

 

《チャージボトル!つぶれな~い!》

《チャージクラッシュ!》

 

フェニックスを模した炎を纏い、七海は村に向かって飛び立った。

 

 

《防衛組side》

 

「アハハハッ!もっともっと遊ぼうよ!」

「ウフフフッ…。新たな装者…この程度ですか……」

「くッ!こいつらぁ!」

「な、何を言ってるデスか……?」

『ネリとモネの言葉に耳を貸してはいけません!』

 

防衛組の装者たちは、ネリとモネの力に苦戦していた。

モネがそれなりに戦えるクリスとマリアを抑え、ネリがまだ未熟な切歌と調を攻め立てる。

 

「アハハハッ…ん?……はぁ。モネー、帰ってこいだってさ」

「ウフフフ…。そうですか」

「そう簡単に逃がすと思ってるのかしら?」

「…まだまだ、いける」

「そう、デス……」

「アハハハッ!無理しないようにした方が良いんじゃない?」

「ウフフフ…。それでは、ごきげんよう」

 

並び立った二人は、巨大な歯車型のエネルギー体を地面に叩きつけ、粉塵を巻き起こし姿をくらました。

 

 

 




プログライズキー使用のフルライズアニマルを使った必殺技は
アタックモード→ダイナミックブレイク
ビームモード→バスターフィニッシュ
という感じになってます。

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キャラクター紹介

セレナ・カデンツァヴナ・イヴ/仮面ライダー迅
暴走したネフィリムにアガートラームの絶唱を使おうした時に、七海によって一命を取り留める。
その後七海に諭され、マリアたちと一緒にいるための力を身に着けるため、七海たちの”家族”となる。
七海を「お姉ちゃん」と慕い始めた事から、シスコン度が上がっている。
キャロルから錬金術を、七海からは戦闘技術を学び、着実に力をつける。
またエルフナインと協力して、アタッシュウェポン、オーソライズバスター、フルライズアニマルを作成する。
七海とキャロルの関係が変化したことに気付き、2人部屋の提案をする。
最近は、エルフナインに対して心境の変化が……?



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44 哲学兵装

珍しくゼロワンをリアタイで見れたぜ!
来週が気になりすぎる!


《七海side》

 

アウラネルとの戦闘から一週間後。私たちは日本に戻ってきていた。

私がアウラネルを撃退し村に戻ったあたりから、バルベルデ軍の方に戸惑いが広がっていったという。

また、この間に国連の別動隊がバルベルデ共和国の政府と交渉して、戦闘を停止することを受け入れ、反乱軍との話し合いの席を作ることを約束したらしい。反乱軍の方も、国連の仲介によって話し合いの場に応じることになった。

あまりにもうまくいきすぎだとは思うが、どうやら現政権の中にも今の状況をよく思わない人物がいたらしい。その人物の一派によって、圧政を強いていた幹部らを取り押さえたという。結局は、バルベルデ現政権も一枚岩ではなかったという事だろう。

ただどーしても納得できないことがある。

国連の別動隊の件、風鳴弦十郎にしか伝えられていないというのだ。

 

 

―――というわけで、事情を聴きに風鳴邸に来たのだが……。

 

「どういうことですか?あなた?」

「………いや、そのじゃな……」

「なんですか?もっとはっきり言ってくださらなければ、聞こえませんよ?」

「……ハイ……」

 

座布団に正座している私は、目の前の夫婦喧嘩…いや、奥方による家庭内裁判が行われていた。2人しかいないけど……。

 

「それで、申し開きはあるのですか?」

「あの…その……」

 

訃堂のお爺さんが、私に助けを求める視線を投げかけてくる。

なぜこうなったのかと言うと、私が風鳴邸にお邪魔してすぐに、訃堂のお爺さんの奥さん―――華夜さんと出会った。

華夜さんは私のことを好意的に思ってくれているらしく、会うたびに抱き締めてくるほどなのだけど、今回の要件をついうっかり話してしまったのだ。

別に一から十まで全てを言ったわけではない。ただ少し困らされたことがあったから、話を聞きに来たと言っただけだ。

そしたら、まさかの華夜さん大激怒。家庭内裁判の始まりである。

 

「あの、華夜さん。お気持ちは嬉しいのですけど、話が進まないのでそろそろ……」

「あらやだ。ごめんなさいね~」

 

これだけ好意的に思ってくださるのは嬉しいのだが、私としても目的の方をさっさと果たしてしまいたいので、どうにか家庭内裁判を止めてもらう。

 

「大丈夫ですか……?」

「ああ……」

 

かなり精神的に参ってるみたいだけど、私の気になることを聞かせてもらうとしよう。

 

「それで……」

「分かっておる。バルベルデ共和国の革新派のことじゃろ?」

「革新派…?」

「そうじゃ。バルベルデ政府には、革新派と保守派がおってな。保守派は反乱軍との紛争が続くことをよく思わず、制圧後のバルベルデを保守派に任せることを条件に、国連と話をつけていたのだ」

 

私が聞きたいのはそこではない。私が聞きたいのは、どうしてその事を伝えなかったのかだ。

それを言うと、訃堂のお爺さんは渋い顔をした。

 

「無茶を言うではない。国連の上層部のほとんどは、おぬしを味方にすることの利益を分かっておる。しかし、おぬしたちを危険視する者がいないわけではない」

「つまり、荒波を立てないようにするために、私に作戦のことを伝えなかったというわけか」

「そういうことだ。おぬし達にバルベルデ軍を抑えてもらい、その間に米国の特殊部隊隊長アーサー殿率いる別動隊が保守派と合流。戦闘行為を停止するように呼びかける。それが本当の作戦じゃ」

「言いたいことはいくつかあるけど、とりあえず私のことを考えてくれていたことでチャラにするよ」

 

聞きたいことは聞けたので、とりあえずお暇するとしよう。

 

「それじゃあ、お邪魔しました」

「うむ。……バルベルデでの例の部隊の話は聞いている。気をつけておけ」

「分かってる」

 

風鳴邸を出て、家に戻る。その後にキャロルの工房に向かう。

 

「キャロル」

「ナナ姉え……頼まれてた物、調べ終わったよ」

「さすがキャロル。それじゃあ、2人も呼んで行こうか」

 

キャロルとセレナ、エルを伴い、S.O.N.G.の拠点に向かう。

司令室に着くと、すでに装者たちもそろっていた。

 

「よし!七海くんたちも来たことだし、そろそろ報告を始めるとしよう!」

「それじゃあ、まずはキャロルちゃんの報告からお願いしようかしら?」

「分かった」

 

そう言ってキャロルは、S.O.N.G.のモニターにいろんな写真やデータを映す。

 

「1週間前、オレ達調査班が手に入れた欠片のことだが……調べてみたところ聖遺物の欠片だという事が分かった」

「確かに、あれを私たちが持ちだしてから、バルベルデ軍の兵士が正気に戻った。兵士の正気を失わせるなど、聖遺物ぐらいしか思いつかない」

「なんの聖遺物の欠片か、分かったのかしら?」

「当たり前だ、櫻井了子。しっかりと解析結果が出た」

 

手元のリモコンを操作し、新たなデータを映す。

 

「解析した結果、私たちが奪取した欠片は完全聖遺物「エクスカリバー」の欠片だという事が判明した」

 

キャロルの言葉に、その場の全員がザワザワとどよめき始める。キャロルが大きめの咳払いをし、再び報告を始める。

 

「ん、んんッ!それでは、報告を続けるが…」

「はい!キャロルちゃん質問!」

「……なんだ?」

「エクスカリバーって、あの有名な剣のことだよね?」

「そうだな。かの有名なアーサー王が授かったと言われる、俗にいう聖剣の類だな」

 

聖剣エクスカリバー。

『アーサー王伝説』に登場する聖剣。ブリテンの王であるアーサー王が、魔術師マーリンの弟子である湖の貴婦人から授かったとされる剣。

しかし、それがどうして兵士の異常と関係があるのか。

 

「はいはい!その欠片がすごい物ってのは分かったデスけど、それでもどうして兵士さんたちがおかしくなったデスか?」

「確かに、聖剣の欠片でおかしくなったっていうのは……」

「それなんだが、どうやらこの欠片に手が加えられているようでな」

「手が加えられている?」

「エクスカリバーの特性は、決して折れず壊れず、千の松明を集めた様な輝きを放ち、あらゆるものを両断するというものだ。しかしこれは確実なものではなく、所謂『そう伝えられているからそういうもの』だ」

「ああ?どういうことだよ」

「つまりね。皆がそう思っていることが特性になるのよ。エクスカリバーで言えば、『本当にそう言う能力か分からない物は、現代に伝えられている伝承が特性になる』のよ」

 

キャロルの説明に頭を捻る人たちに、フィーネが説明する。

これについては、シンフォギア原作で言う哲学兵装を思い浮かべてほしい。

剣と定義する物をすべて破壊する「剣殺し(ソードブレイカー)」と言う物が原作で出てくるのだが、翼にとっては天敵と言える兵装である。

しかし、これについては剣と定義されなければ発動せず、翼は原作で自らを剣ではなく翼と認識したことで破っている。このことからソードブレイカーは、一定の範囲内の人間の全員が剣と定義することが条件だと思われる。

エクスカリバーは、この範囲を広げた哲学兵装と言うべきだろう。

 

「それで話を戻すが、この欠片はどうやら、その特性を捻じ曲げられているようだ」

「特性を、捻じ曲げる……?」

「ああ、この欠片の元はエクスカリバーで間違いない。しかし、この欠片の特性がどうも捻じ曲げられているようでな」

「その特性は……?」

「……『王としての支配』だ。全く関係のない特性は持つことはありえない。おそらくこれは、使用者であるアーサー王になぞられたものだろう。王として、などと言ったがその実態はただの洗脳とほとんど変わらん」

「そしてそれを仕掛けたのは……」

「アウラネルどもだろうな。とりあえず、俺からの報告は以上だ」

 

キャロルからの報告が終わり、次に弦十郎からの報告がされる。

 

「次は俺からだな。バルベルデ共和国については、完全に軍の撤退が決まった。例の奇襲部隊についても、アウラネルたちによるものだという事になった。どうやら、アウラネルたちと旧政府の一部幹部たちが繋がっていたらしい」

「なのに例の欠片で操られていたと……皮肉なものね」

「そうだな。しかしこれでバルベルデの件は終わりだ。引き続きアウラネルたちについても、その動向を調査する必要があるのは確かだ。ちかじかそれについての任務が言い渡されるだろう」

「紛争で苦しむ人が減っただけでも、私たちが戦った意味はありましたね!」

「ああ!響くんの言うとおり、少なくとも紛争が終わったのは、君たちの協力のおかげでもある!だから、今回の任務についてはみんなにご褒美を用意してあるぞ!」

 

弦十郎の言葉に、装者たちは目に見えてワクワクし始める。

しかしご褒美か……そろそろあの時期だし、ご褒美ってもしかして……。

 

「今は6月の最終日。明日には7月だ。そして7月の後半からと言えば―――」

 

 

 

 

 

 

 

「―――夏休みだッ!!」

 

 

 

 




ソードブレイカ―の設定については、自身の考察が入っています。
いろいろ調べても、能力発動の詳細な条件がよく分からないんですよね。ファラさんと翼さんの決戦の時に、自身を翼と定義したことで打ち破ったという事は、相手が剣と定義しなければいいのかと思ったんですが、それでも振るっているのは剣という認識は少なからずあると思うんです。
ということは……などと考察の沼にハマっていくので、条件に付いては本編のように、少々曖昧な条件にしました。なので、矛盾があっても見逃してください。
これについては皆さんの意見とかも聞いてみたいですね。

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キャラクター紹介

宵姫黒夜/仮面ライダービルド
七海の前世での義姉。血のつながりはない。
所謂天才と言われる部類の人間であり、親からあらゆることで一番を求められる。
努力に関してはピカイチの才能を持つ七海と出会ってから、灰色だった人生に変化が訪れる。
唯一自身を越えられる人物として七海を可愛がっていたが、親が七海にも黒夜と同じことを求め始めたので、その努力の才能を腐らせないように、七海を遠ざける。
しかしストレスに耐えきれなかった七海が自殺、更にその遺体を親が自身の利益の為に遺棄したことで、黒夜自身にも知らずの内に溜まっていたストレスが爆発。
その狂気に従うままに、親を社会的に破滅させ、自身も自殺をする。
その後、七海を転生させた女神に黒夜を転生させられ、フィーネに自身の才能を見せつけ保護してもらい、以降しばらくをフィーネの屋敷で過ごす。
しばらくして、クリスとも出会いその中を深める。
七海が見ていたことがキッカケで、自身も見ていた仮面ライダービルドから、ビルドドライバー、擬似フルボトル、その他武器を制作。
そのまま仮面ライダービルドとして、様々な戦いを繰り広げる。変身ポーズは特にとらない。
七海との初戦闘でフルボトルを奪い、ハザードトリガーをも作成。
最終的にはオリジナルフルボトルである「シンフォギアフルボトル」、「ソングフルボトル」、「イチイバルフルボトル」を作成した。
自身の狂気には気づいており、後戻りできないことも自覚していた。そのため最後に、自身を超える可能性を持つ七海に倒してもらうことを望み、七海との最終決戦に向かう。
そして七海との最初で最後の、本気を出した決戦で七海に敗北。
その後、アウラネルの奇襲からクリスを庇い致命傷を負う。
さらにその身は、ハザードトリガーの過剰使用によって長くないものであり、制作していたオリジナルフルボトル「イチイバルフルボトル」をクリスに託し、その身は粒子と化した。



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45 照りつける太陽と天使の可愛さ

44話で哲学兵装を概念兵装と間違えてました。ハッッッズカシイイイイーーー!!!
かいざーおー様、指摘していただきありがとうございました。


《七海side》

 

「キャロルー、あーん」

「あ、あーん…ん」

「美味しい?」

 

7月も後半のある日の夜、私とキャロルはいつものスキンシップをしていた。

今日は美味しそうなマンゴーが買えたので、それを切り分けてデザートにして、キャロルと食べさせ合いっこしてる。

ちなみにフォークは一本しかないよ?間接キッスだね!

 

「それじゃあ、今度はキャロルだよ?あーん」

「そ、それじゃ…あーん」

「はむっ…う~ん!おいしー…。はいキャロル、あーん」

「ふえッ!?」

 

ちょっとはしたないけど、果実を指でつまんでキャロルの口に持っていく。

キャロルは顔を赤くしてたけど、おずおずといった形で口を開ける。

そして私の指がキャロルの口に入っていき―――。

 

「お姉ちゃん!先生!どっちの水着が良いと思いますか!」

「~~~ッ!?!?」ガチッ!

「いったぁーーーい!?」

「はれ……?」

 

―――セレナの来訪に驚いたキャロルが思わず閉じた口に、私は悲鳴を上げた。

私はキャロルの歯型が付いた指をさすりながら、セレナの要件を聞く。

 

「……えっと、どうしたの?」

「いや、あの…大丈夫ですか?」

「何とかね~」

「な、ナナ姉え……」

「あー、大丈夫だよキャロル。だからそんな泣きそうな顔しないで……」

 

いろいろとカオスな状況をどうにかした後、セレナの要件を聞く。

どうやらセレナの要件と言うのが、どっちの水着が似合ってるか聞きに来たと言う。

まるで遠足の前日に、楽しみで眠れない小学生みたいだ。

 

「せっかくの海ですからね!気合を入れないと!」

「はは……。でもそろそろ寝ないと明日が持たないよ?」

 

バルベルデ共和国での任務のご褒美と言うのが、装者たちの休暇である。しかも歌手としての活動があるはずの翼やマリアも、しっかりと休みがあるらしい。

そう言うわけで、突然与えられた夏休みに、みんなで海に行こうという話が持ち上がった。

それを聞いた弦十郎が、国の保有するプライベートビーチの使用許可を出してくれたのだ。しかも、ホテルの手配もしてくれるとか。至れり尽くせりである。

という事なので、セレナの要件にもほどほどに私たちも就寝することにした。

ちなみにキャロルがまだしょんぼりしてたので、残っていた最後の一粒の果実をつまんで、キャロルにあーんしてあげた。

 

「うう…///。ナナ姉え……チュ」

「ん…チュ。お休み」

 

いつものようにお休みのキスをして、私たちも眠りについた。

 

 

 

 

 

「夏―――そう。それは熱く、暑い季節……!」

「夏―――それは海、そしてプールが解放される季節だ……。はあ……」

「夏―――それはかき氷、そしてアイスがおいしい季節デス……!」

「…夏―――それは暖房がいらない、そして夏野菜が安くなる季節……!」

「(冷房はいるんじゃないの……?)」

 

私の目の前では、広がる海を見ながら思い思いの口上を述べる装者たちがいた。

そして響が大きく息を吸うと、目の前の海に向けて大きな声で叫んだ。

 

「やっと、やっとこの時が来たッ!夏だーッ!」

「うるさいバカッ!」

「いてっ!」

 

あ、クリスにはたかれた。

そこから離れた場所には、翼とマリア、奏、未来、セレナ、エルが集まって話をしていた。

 

「ふむ……海か。久しぶりに来たものだ」

「あら、意外ね。いくら貴女でも、休みはあるのでしょう?だったら息抜きぐらいしてるんじゃない?」

「そうだな、オフの日には鍛錬をしている。いつでもこの身を剣として研ぎ澄まさねばならないからな」

「「「え……?」」」

 

いかん。翼の言葉にセレナとエルと未来が引いてる。

 

「それは…息抜きっていうの」

「そういえば、本来なら今日は仕事が入っていたはずなのだが、緒川さんから今日の仕事が延期になったと報告が入ってな」

「ああ……大変だな、あの人も」

「はぁ…やっぱりあなたは真面目すぎなのよ」

 

奏が緒川さんのことに同情している。私も同じ気持ちだよ。

多分、普段のオフのことを知っているから、いい機会だと手を回したのだろう。お疲れ様です。

 

手配してもらっているホテルに荷物を預け、私たちは政府所有のプライベートビーチに到着する。

さっそく水着に着替え、砂浜に出ると眩しいほどの太陽が私たちを照りつける。

 

「よいしょっと…。ふう、これでいいかな」

 

私は適当な場所にビーチパラソルとビーチチェアを置き、クーラーボックスから家から持ってきた冷やしておいたグラスを取り出し、氷、ソーダを入れ即席のドリンクを作り小さなテーブルに置く。

当たり前だが、ここは政府所有のプライベートビーチなので、売店などがあるはずもない。そのためホテルからここまで来る途中のコンビニで氷やらソーダやらを買っておいたのだ。

ぶっちゃけ私は泳ぐよりは、こうしてのんびりする方が好きだ。

 

そうこうしている間に、他の皆もどんどんビーチから出てきた。

響や調、切歌の3人は海へと一直線に走っていき、マリアに準備体操をしてからと怒られる。

その様子を眺めていると、私の傍にキャロルがやってきた。

そしてキャロルの姿を見た私は、見事に撃沈した。

 

「ど、どうかな…ナナ姉え?」

「………キャロル」

「うん?」

「ギュ~~!」

「ひゃあ!?ちょ、ちょっとナナ姉え!?」

 

はっ!可愛さのあまり抱き着いてしまった。

しかし、この私の行動を誰も責めることは出来ないはずだ。

彼女が来ている水着は、上が肩を出した淡い赤色のオフショルビキニ、下は太ももの半分くらいまでの長さのフリルが付いたビキニを履いている。

キャロルは幼女な見た目の割に、意外と胸があるので可愛らしいビキニなら着ても違和感がない。

しかもこう、恥じらいの表情が絶妙に私の心をかき混ぜてくる。何?キャロルは私を暴走させたいのかな?

 

「お姉ちゃん……」

「ナナ姉え、ボク達も着替えてきました」

 

キャロルのめでていると、着替え終わったらしいセレナとエルもやってきた。

エルは白と黒のセパレートタイプの水着で、いかにも幼女と言った感じ。だけど、エルのレベルが高いから、普通に可愛いと思えるような見た目になっている。

セレナはワンピースタイプの水着を着ていて、腰にはピンク色の薄いパレオを巻いている。やはりというかなんというか、セレナはピンク色が似合うことがよく分かる。

そして、2人がお揃いの麦わら帽子をかぶっている点で仲の良さが垣間見える。

 

「2人とも、良く似合ってるよ。とてもきれい」

「えへへ……ありがとうございます、お姉ちゃん!」

「褒められました……」

 

2人は顔を緩ませてはにかむ。可愛すぎだよ!

そう思っていたら、私の腕をクイックイッと引かれる感覚に下を向くと、むくれているキャロルが私を見上げていた。

 

「私には何もないの…?」

「キャロルが可愛いのは当たり前でしょ?」

「ッ!?!?……ナナ姉え…好き……」

 

私の妹兼恋人は天使です……。

 

「おーい!キャロルちゃーん!七海ちゃーん!それにセレナちゃんとエルフナインちゃんもー!みんなで遊ぼうよー!」

 

遠くから響が私たちを呼んでいる。

うん、せっかくキャロルたちが可愛い姿でいるんだ。思い出はたくさん作るべきだ。

エルとセレナは先に行ってしまった。

私は立ち上がり、キャロルに手を差し出す。

 

「いこう?キャロル」

「うん……ねえナナ姉え」

「どうしたの?」

「ずっと一緒だよ…?」

「当たり前だよ」

 

キャロルが私の手を握り、2人で歩き出す。

 

夏はまだ、始まったばかりだ。

 

 

 

 




海回だーー!

水着に関してはよく分かんないから、とりあえず調べた中で良さそうなのを取り上げました。絵心ある兄貴がいたら書いてほしーなーチラッチラッ(棒読み)

キャロルちゃんが可愛いと思った人は、お気に入り登録どうぞ!


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46 空気を読む敵がいるわけない

《3人称side》

 

日が沈み、空を茜色に染める。

七海一行は1泊2日の旅行を終え、ホテルの前に集まっていた。帰りの車を手配してくれているらしく、その車を待っていた。

七海たちはテレポートジェムがあるので、別に車は必要がないのだが、車が来るまで彼女たちと話をして待つことになったのだ。

 

「七海ちゃん!」

「ん?響と未来か」

「楽しかった?今回の旅行」

「…まあ、思い出にはなったよ」

「私も!私も、すごく楽しかったよー!」

「うん、またこうやって、みんなでどこかに出かけたいよね」

 

ロビーで座っていた七海は、響と未来と話を弾ませる。

それから少しして、迎えの車が来たらしくみんな外に出る。

 

「……ナナ姉え」

「キャロル?どうしたの?」

「うん……あのね、その…私楽しかった。いつもナナ姉えやエルフナイン、最近はセレナもいたけど、こうしていつもとは違う人たちも加えて、みんなでどこかに出かけるの、すごく楽しかった」

「……私もだよキャロル。でも時間はまだまだあるんだ。だから、もっとたくさんの思い出を作れるよ」

「………その時は、一緒に居てくれる?」

「もちろんだよ(キャロル…?)」

 

どこか不安そうなキャロルを気にかけつつ、会話を進める。

この時、七海はキャロルとの会話に、何かの違和感を感じた。まるでこれから何かが起こるような、取り返しがつかなくなりそうな……。

しかし、その違和感の正体に気付くことはなく、キャロルとホテルを出る。

先ほどまで出ていた綺麗な夕焼けは見る影もなく、雲が立ち込め雨でも降りそうな雰囲気だった。

その時、近くの町で爆発が起きた。

 

「な、何ッ!?」

「緒川さん!」

「近くの町に、例のトリロバイトマギアが現れたようです!」

 

装者たちの迎えに来ていた緒川が、弦十郎からの通信で何が起こったのかを聞く。

 

「くッ!こんな時に!」

「皆さん!司令から通信です!」

『全員そこに居るな?手短に伝えるぞ!現在君たちの近くの街で、トリロバイトマギアを確認した!今の君たちに伝えるのは心苦しいが……』

「師匠!私たちがッ!」

「こんな状況で見逃せるわけねえだろッ!夏休みだなんだ言ってる暇じゃねえ!」

「私たちも同様です。それにおそらく、アウラネルたちがいる可能性があります。彼女らと戦うなら、私たちがいた方が良い」

 

響やクリス、七海の思いを聞いた弦十郎は、すぐさま指示を出す。

 

『…分かった。装者は直ちにトリロバイトマギアの撃破を!避難誘導はこちらで行う。緒川!未来くんやエルフナインくんのことを任せる!』

「「「「「「了解!」」」」」」

「分かった」

「了解しました……奏さん」

 

装者たちが襲撃現場に向かおうとした時、緒川が奏にアタッシュケースを渡す

 

「こいつは……?」

「改良型のLiNKERです。それから、回収されたガングニールも」

「本当か!?」

 

中身を聞いた奏は、すぐさまアタッシュケースを開ける。

中には、緑色の液体が入った拳銃型の注射器、そして赤色のペンダントが入っていた。

 

「こいつがあれば、あたしも戦える!」

「大丈夫なの奏?あなた、しばらく戦いから離れていたんじゃ」

「心配すんなって!訓練は欠かしてなかったからな。いけるはずだ」

「とはいえ、あまり無茶はしないでくださいね」

「分かってるって!ありがとな、緒川さん!」

 

奏は自身の首に注射器を当て、LiNKERを注入した。

改良によって負担は減ったはずだが、奏の顔は少しだけ苦悶に歪んだ。

 

「ぐっ…」

「大丈夫か、奏!」

「あ、ああ…。しっかしすげえなこれ。前と違ってLiNKERを注入した後に痛みが来ない。……ただ、こんどは注射の方が痛い気がする」

 

今までのLiNKERだと痛みが先行して注射の方は平気だったが、どうやらLiNKERの痛みが緩和されたことで、今度は注射の痛みが強くなったらしい。

しかし奏は勢い良く立ち上がり、翼たちの元に駆け寄る。

 

「ま、なんにせよ大丈夫だ。それより早く行こうぜ!」

「そうですね!七海ちゃんたちはもう行っちゃいましたけど……」

「えッ!?」

 

その七海はキャロル、セレナを連れ、トリロバイトマギアが現れたという場所に先行していた。

 

「……ここか」

「確かにトリロバイトマギアがいる……そしてあいつらは」

「―――あら?やっと来ましたか」

 

現場に到着した3人の前にアウラネル、ネリ、モネが現れる。

アウラネルは待ちかねたというように、ネリは楽しそうに、モネは見下したように。

彼女たちは三者三様の表情を浮かべる。

 

「わざわざ私たちの近くで騒ぎを起こしたのは、どういう事?」

「ふふ……。悪いですが、今回の目的に貴方たちは関係ないのです。私たちは、お迎えに上がっただけなので」

「お迎え……?」

「………ッ?(なんだ?頭にノイズが……)」

「アハハハッ!そーゆー訳だから、ちゃっちゃと消えなよ!」

 

キャロルの頭に流れるノイズが流れ、キャロルは頭を押さえるも、ネリの言葉に思考が引き戻される。

そして、そのネリの言葉をを皮切りに、アウラネルたちはネビュラスチームガンにギアを装填する。

 

《ギアエンジン!》

《ギアリモコン!》

「「カイザー」」

《 《ファンキー!》 》

 

《ギアエンジン!》

《ファンキー!》

「潤動」

《Engine running gear》

 

アウラネルたちはエンジンブロス、カイザーリバース、カイザーに変身し、七海たちもまた仮面ライダーに変身する。

 

「上等。相手してあげるよ」

《ラビットゼェリィィ!》

《アサルトバレット!オーバーライズ!》

《インフィルノウィング!バーンライズ!》

《 《Kmen Ridar......Kmen Rider......》 》

「「「変身ッ!」」」

 

《走るぅ! 跳ねるぅ! 駆け回るぅ!》

《ラァビットォイングゥリスチャァァァジ!》

《オラァァァァァ!!》

 

《ショットライズ》

《レディーゴー!アサルトウルフ!》

《No chance of surviving》

 

《スラッシュライズ》

《バーニングファルコン!》

《The strongest wings bearing the fire of hell!》

 

七海たちも仮面ライダーグリスラビットチャージ、バルカン、迅に変身する。

 

「行きなさい」

 

アウラネルが短く指示を出し、それを受けたトリロバイトマギアが一斉に走り出す。

 

「心火を燃やして…駆け抜ける!おおおおッ!」

 

七海たちも走りだし、トリロバイトマギアを交戦を開始する。

 

「ハッ!セヤアア!」

 

迫りくるマギアを薙ぎ払い、七海は右足を強く踏み込む。

赤い残像を残しながらマギアの間を駆け抜け、すれ違いざまに両方のツインブレイカ―でマギアを切り裂いていく。

その勢いのまま跳躍した七海は、アウラネルに殴りかかる。

そしてアウラネルもまた、スチームブレードを振り上げ迎撃する。

 

「仕方ないですね。相手をして差し上げましょう…白黄七海!」

「アウラネルゥゥウウウ!」

 

2人の姿が交差し、戦闘の幕を開けた。

 

 

 

 

 

 



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47 裏切りの序曲

前回のあとがきにキャラ説明入れるの忘れてました。


《三人称side》

 

「ハアアアッ!」

「フッ!」

 

七海が放った蹴りを体を逸らすことで躱し、アウラネルは反動を使ってスチームブレードで斬りつける。

それをツインブレイカ―で防ぎ、ドロップキックで距離を離す。

 

「ぐッ!…やりますね」

「まだまだ…ッ!?」

「アハハハッ!久しぶりね!」

「ウフフフ…!あの時の借りを、返させてもらいましょう!」

 

再び攻撃しようとした七海に、横からネリとモネが割って入る。

ネリが振るうスチームブレードを、七海は右足で受け止め左足を振り上げて弾く。

モネがライフルモードのネビュラスチームガンを撃つが、今度はバク宙と同時に後退、着地と同時に、ユニコーンフルボトルをスクラッシュドライバーに装填、レバーを下ろす。

 

《チャァァジボトル! 潰れな~い!》

《チャァァジクラッシュ!》

「ラアアアッ!」

 

七海が回し蹴りを放つと、右足からヴァリアブルゼリーで形成された角が飛ばされ、ネリとモネの放った歯車型のエネルギー体とぶつかり爆発した。

 

「アハハハッ!やっぱりあなたとの闘いは面白いわ!」

「ウフフフ…。シンフォギアよりは、楽しめますね」

 

キャロルとセレナはトリロバイトマギアを相手にしているため、援護は期待できないが、やるしかないと構えた時、戦場に歌が響いた。

 

「―――だったら楽しませてやるよ。あたし達の歌でな!」

「竜巻ッ!?」

 

七海とアウラネルたちの間に、1つの巨大な竜巻が叩きつけられる。

そして降り立ったのは、シンフォギアを纏った装者たちだった。

 

「七海ちゃん!大丈夫?」

「うへえ…。あの時の2体がいるデス……」

「アハハハッ!あの時のお子様もいるんだ!貴方たちは楽しめないんだよねえ」

「…それでも、見逃すわけにはいかない」

「奏…RiNKERが出来たんだ」

「ああ、これであたしも戦える!」

『トリロバイトマギアの増援です!』

 

言葉を交わす七海たちに、S.O.N.G.の司令室から通信が入る。

見れば、続々とトリロバイトマギアが現れていた。

 

『響くん、翼、奏は七海くんと共に、アウラネルらを対処。他はトリロバイトマギアを撃破だ!』

「了解しました、師匠!」

「行くぞッ!オオオッ!」

 

先頭を切ったのは奏。真正面からアウラネルに向かって、槍を振り下ろす。

しかしアウラネルは容易くその攻撃を受け止める。

 

「フン!…この程度で、私をやれると思ったら……」

「ハアッ!」

「何ッ!?」

 

奏の背後から現れた七海が、飛び蹴りを放つもアウラネルはぎりぎりで躱す。

 

「お姉さま!「ハアアアア」…ッ!?邪魔するな!」

「貴様らを野放しにしておくことなど、出来はせん!この場で倒すぞ、立花!」

「ウフフフ…。できるのかしら?あなた方に」

「やって見せます!その後に、きっちりと手を繋いでみせる!」

「アハハハッ!寝ぼけたことをッ!」

 

ネリとモネ、響と翼の間でも戦闘が開始される。

響が放った拳を、ネリはスチームブレードでうまいこと逸らしていく。

その隙を狙いモネが狙撃しようとするが、翼が投げた短刀によって防がれる。

 

「ウフフフ…。接近主体のあなたが、私に勝てるとでも?」

「ならば、近づいてしまえば私のステージだ!」

 

そしてトリロバイトマギアを相手に戦っていたキャロルとセレナも、装者と合流していた。

 

「吹っ飛びやがれー!」

「セレナ、大丈夫?」

「姉さん!こちらは大丈夫です!」

「ふん!やっと来たか」

「ったく。わざわざ援護に来てやったんだ。少しは感謝しろよ」

「ならさっさと来いというのだ」

「ああ!?」

「今は喧嘩してる場合じゃないデース!」

「…増援、更に来た」

 

売り言葉に買い言葉なキャロルとクリスは、一触即発の空気となるが、切歌と調がなんとか鎮める。

そのタイミングでトリロバイトマギアの一斉射が放たるが、散開することで回避する。

 

《ポイズン!》

「数ばっかり出てきおって!」

《Progrise key comfirmed. Ready for buster》

「貫けぇ!」

《バスターダスト!》

 

「鉛玉のプレゼントだ!」

【CUT IN CUT OUT】

 

キャロルのオーソライズバスターから、サソリの尻尾を模した特殊な弾丸が放たれ、複数のトリロバイトマギアを貫く。

さらに、キャロルと背中合わせのクリスの放ったミサイルは、複雑な弾道と共にトリロバイトマギアを一掃する。

 

「フッ…やるな」

「当たり前だッ!」

 

キャロルの賛辞にクリスはそっぽを向くが、照れているのは明白だった。

 

「ッ!?……おい!ここは任せるぞ!」

「はあ?っておい待てよ!……何なんだ一体?」

 

突然キャロルが頭を押さえると、すぐに七海が戦っている場所に向かっていった。

クリスはいきなりのことに訳が分からず、首をひねるのだった。

 

 

「行くデスよ調!」

「…うん、切ちゃん!2人で、合わせて!」

 

「「ハアアアア!」」

【切・呪りeッTぉ】

【γ式・卍火車】

 

切歌の鎌と調の鋸が、左右から挟み込むようにトリロバイトマギアを切り裂いていく。

 

「やったデス!」

「…うまくいった!」

「お二人とも、まだです!」

「デデス!?」

 

連携がうまく行ったことに喜ぶ2人だったが、生き延びたトリロバイトマギアがバズーカを構える。

セレナの声でそれに気付くも、咄嗟のことに2人の動きは遅れ、バズーカが撃たれる。

 

《ブリザード!》

「やらせません!」

《フリージングカバンストラッシュ!》

 

「切歌たちはやらせないわよ!」

【EMPRESS†REBELLION】

 

セレナの氷の斬撃が、バズーカの砲撃から切歌たちを守り、マリアの操舵剣が蛇のごとくうねり、トリロバイトマギアを切り刻む。

 

「まったく、油断しない!」

「ごめんなさいデース…」

「…ごめんなさい」

「まったく…」

「それより、お姉ちゃんたちの方がどうなったか…」

「ぐあッ!」

「ガハッ!」

「響!?翼!?」

 

セレナが七海の元に向かおうすると、ボロボロの響と翼が飛ばされてきた。

遅れて、ネリとモネが近づいてきた。

 

「アハハハッ!シンフォギアっていうのもこの程度か~。つまんないのー」

「ウフフフ…。仕方ありませんわ。私たちの目的は、あのお方のお迎えなのですから」

「くっ!不覚……」

「おい!大丈夫か!」

「クリス!?貴方キャロルと一緒に居たんじゃ…」

「それがあいつ、突然どっか行っちまってよ。とりあえずこっちに来たってわけだ。とりあえず、全員であいつらをやるぞ!」

「全員抜かるな!やつら、強い!」

 

翼の警告に、その場の全員が警戒するが、ネリとモネは構える様子を見せない。

 

「アハハハッ!どうせなら相手してあげたいけど、今回のメインはあっち」

「何…?七海たちがメインだと?」

「何を言ってやがるか知らねえが、んなもん構うな!」

「ウフフフ…。私たちはやり合うのは構いませんが、見ていた方が貴方たちの為ですわよ?」

「いったいどういう事デス?」

 

ネリとモネを警戒しながらも、装者たちが見たのはアウラネルにキックを放つ七海の姿、そして―――――。

 

遡ること数分前。

 

「こいつでも食らいな!」

【LAST∞METEOR】

「グハァ!」

 

奏が掲げた槍の穂先に竜巻が発生し、アウラネルはその奔流に吹き飛ばされる。

 

「どうだッ!」

「そういうところが…甘いのですよ!」

「うわッ!?」

「油断するな!」

 

奏に迫る歯車型のエネルギー体を、間一髪で七海が弾く。奏は手早く、七海に礼を言う。

 

「悪い、助かった!」

「ちッ…白黄七海…ッ!?」

「七海!大丈夫か!?」

「キャロル…?どうしてこっちに?」

「…いや、何となく嫌な予感がして、な」

 

アウラネルをオーソライズバスターの砲撃で足止めしたキャロルは、七海の問いに歯切れ悪く答える。

七海は気になったが、今は目の前の敵に専念するべきだと、気を引き締める。

 

「とりあえず、アイツを仕留めるぞ!天羽奏、行くぞ!」

「はいはいっと!」

 

キャロルがオーソライズバスターを撃ちながら、アウラネルに接近しタックルで吹き飛ばす。

さらに、奏の塔適した槍がスチームブレードを弾き飛ばす。

 

「オオオッ!」

「オリャァ!」

「グゥ!ガアア!」

「「今だ!」」

「これで決める!ハッ!」

 

2人の声に、七海はスクラッシュドライバーを下ろし、高く跳躍する。

 

――ジジ――オレ――題を――す時が―た―――目覚―ろ(なん、だ……?)」

 

これで決着が着く。そう思った時、彼女(・・)の頭に、最近頻度が高くなったノイズが走った。

そのノイズはいつもと違い、途切れ途切れ誰かの声が聞こえた。

その声は彼女(・・)にとって、聞きなれているような感じがし、自分に関係ないものだと割り切ることができなかった。

 

「(なんだ、何なんだこの声は……!?)」

《スプリングフィニッシュ!》

「ハアアアッ!」

 

七海が必殺技のスプリングフィニッシュを放とうとする間も、彼女(・・)はこの声の正体を探っていた。

 

キサ―の――もら――ぞ!―――貴様の意識、貰うぞ!

「(なッ…!?―――)」プツン

 

そして彼女の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

「ハアアアアアッ!」

 

七海のキックが、アウラネルに向かって放たれる。アウラネルはダメージのせいか動かない。

そして奏がいる場所を通り過ぎ、キャロルがいる場所も通り過ぎようとした時―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――キャロル(・・・・)が放った、オーソライズバスターの砲撃で撃ち落とされた。

 

「グアアアアアッ!」

「なッ!?」

 

無防備な体勢から攻撃を食らったことで、七海の必殺技は不発に終わり、地面に叩きつけられる。

 

「ガハッ!」

「おい!大丈夫か!?」

 

地面に打ち据えられ、肺の中の空気を全て吐き出した七海は、立ち上がることができなかった。

それでも、たった今起きた出来事の真偽を、どうしても確かめなければならなかった。

 

「……どう、して……キャロル……」

「……………」

「七海ちゃん!」

 

七海の問いかけに何も答えず、キャロルはオーソライズバスターを投げ捨て、さらに変身を解除する。

ショットライザーが乾いた音を立てて、バックルごと落ちた。

変身が解除されたキャロルは、目が群青色(濃い紫みの青)から燃えるような赤色に変わっていた。

そして、ことの一部始終を見ていた響たちも、七海の元に合流する。

 

「キャロルよ……これはどういうつもりだ!」

「な、何で七海さんを撃ったりしたデスか!」

「先生……どうしてですか!答えてください!」

 

セレナたちは、キャロルに七海を撃った理由を問う。

 

「相も変わらず、お前たちは甘さには反吐が出る。つまりは、こういう事だ」

「……お待ちしておりました。我らがマスター(・・・・・・・)

「なッ!?」

 

キャロルは身をひるがえし、アウラネルの元に歩く。そしてアウラネルとネリ、モネがキャロルの足元に跪いたのだ。

これを見た装者たち、そしてこの状況を同じように見ていたS.O.N.G.の司令室も驚愕し、誰も動くことは出来なかった。

 

「これが真実だ。そして……」

 

再び装者たちに向き直ったキャロルは、右手に大きなドライバーを召喚し、腰に当てバックルを巻く。

 

《サウザンドライバー!》

「ッ!?それは……!」

「そう……。その強大な力故に、お前が封印していたベルトと、このゼツメライズキー」

 

キャロルが「ゼツメライズキー」と呼んだプログライズキーに似た装飾のアイテムを、サウザンドライバーの左側に差す。

 

《ゼツメツ!Evolution!》

 

「そしてこのプログライズキーで……」

 

今度は左側に金色の装飾のプログライズキーの起動スイッチを押し、キー状態に展開する。

 

《ブレイクホーン!》

「この力は、このオレにこそ相応しい!……変身ッ!」

《パーフェクトライズ!》

 

キャロルが展開したプログライズキーを、サウザンドライバーの右側に差し込む。

すると、ベルト中央の「ゲートリベレーター」が観音開きに開き、コーカサスオオカブトのライダモデルが召喚されキャロルの周囲を飛び回る。

さらに、絶滅種のデータイメージである「ロストモデル」の一つ。アルシノイテリウムのロストモデルが現れ、こちらもキャロルの周囲を駆け回る。

 

《When the five horns cross,the golden soldier THOUSER is born.》

 

コーカサスオオカブトのライダモデルの角と、アルシノイテリウムのロストモデルの角が交わり、5本の角を持つ戦士の装甲へと姿を変えた。

 

《Presented by Alchemist!》

 

 

「仮面ライダーサウザー……。憶えておけ、これが奇跡の破壊者だ……!」

 

 

 

 




サウザーの変身音の最後って、みんなお馴染み「ZAIA」なんですけど、この世界にZAIAはないので「Alchemist(アルケミスト)」つまり錬金術師に変えました。
最初はキャロルにするか迷いましたが、それだと自己顕示が強すぎるので、アルケミストに決定しました。

キャラクター説明

立花響/ガングニール
原作「戦姫絶唱シンフォギア」の主人公。
初めから敵愾心を持っていた翼と奏と違って、仮面ライダーグリスとは初めから歩み寄ろうとしていた。
小日向未来が原因で、意図せず七海とショッピングに行くことになった際は、彼女と話し合い、少しだけだが仮面らいが―グリスないし白黄七海という人間を理解する。(ショッピングに行く前は、まだ正体を晒していなかった)
また、その際の七海の言葉によって、たとえ相手だろうと歩み寄ろうとする彼女のスタンスを貫き通すことを決める。
しかしそれは、守りたい人たちを危険に晒してまでするのではなく、相手を無力化してから話し合うという意味である。
フィーネとの最終決戦ではエクスドライブモードを発現し、キャロルの放ったオオカミ型のエネルギー弾と心を通わせるという現象を引き起こした。






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48 絶望のプロローグ

アカツキノソラ様、感想ありがとうございました。

やっぱり、感想はモチベに直結しますね。


《三人称side》

 

「この力は、このオレにこそ相応しい!……変身ッ!」

《パーフェクトライズ!》

《When the five horns cross,the golden soldier THOUSER is born.》

《Presented by Alchemist!》

「仮面ライダーサウザー……。憶えておけ、これが奇跡の破壊者だ……!」

 

そう語るキャロルの気迫は、今までの比ではなかった。

装者たちも、S.O.N.G.の人間も、七海でさえも、誰も目の前の光景を受け入れ処理することができなかった。

しかし、その中でセレナが唯一何かを堪えるように震えていた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…。ウ、ウアアアアアアアアッ!!」

「セレナッ!?」

 

雄叫びを上げながら、スラッシュライザーを片手にキャロルへと斬りかかる。

普段の姿からは想像できない、突然のセレナ豹変にマリアたちは面食らった。

 

「フン…。セレナよ、最後の授業をしてやろう」

《サウザンドジャッカー!》

「ウアアアアッ!」

 

キャロルの右手に、槍と剣を組み合わせたような武器「サウザンドジャッカー」が現れる。

セレナの初撃をサウザンドジャッカーで受け止め、それ以降の攻撃を体を軽く動かすだけで躱していく。

 

「このッ!……ぐッ!?」

「……最後の教えだ。お前では私に勝てない」

《ジャックライズ!》

「ウアッ!?ウグアアアアアッ!?」

 

キャロルが、セレナの左肩に打ち付けたサウザンドジャッカーの柄にあるレバーを引く。

セレナの身体をスパークが這いずり回り、その動きが鈍くなる。

レバーを引いたキャロルは、セレナを蹴り飛ばす。

 

「キャッ!」

「バーニングファルコンのデータ、貰っていくぞ」

《JACKING BREAK!》

 

トリガーを押しレバーを戻すと、セレナに向けてサウザンドジャッカーを振るう。

 

「ハアッ!」

 

JACKING

 

 BREAK

 

「アアアアアッ!?」

 

振るわれたサウザンドジャッカーから、不死鳥を模した斬撃が飛び、セレナを爆炎に包んで吹っ飛ばした。

 

「セレナァ!」

「クソがぁあああ!」

「翼!クリス!奏!ダメだッ!」

 

セレナが吹き飛ばされるのを見て、マリアが悲痛な叫び声を上げる。

クリスは激昂し、七海の静止に構わず、翼と奏と共にキャロルに向かって駆け出す。

 

「キャロル!どういう理由があろうと、今の貴方を放っておくわけにはいかない!」

「貴様ら程度で、オレを止められるとッ!」

「止めるんだよッ!」

 

クリスがガトリングを撃つが、キャロルは一向に気にすることなく、銃弾は黄金の装甲に弾かれる。

続いて翼と奏が斬りかかるが、キャロルはサウザンドジャッカーで防ぐでもなく、ましてや躱すこともなくその身で受ける。しかしキャロルにダメージはない。

 

「なッ!?」

「これが貴様らと、オレの差だ。よく憶えておけ。そして……絶望に震えろ」

「グァ!」

「おわっ!」

《サンダー!》

 

2人を殴り飛ばし、ライトニングホーネットプログライズキーをサウザンドジャッカーに装填する。

 

《Progrise key confirmed. Ready to break》

《HACKING BREAK!》

「ヌンッ!」

「「「うわああああッ!」」」

 

HACKING

 

 BREAK

 

キャロルが高く掲げたサウザンドジャッカーから、天の裁きのごとく雷撃が放たる。

クリスの展開したリフレクターを突き抜け、3人を雷撃が襲う。

 

「翼さん!クリスちゃん!」

「あ、ああ……」

「…こんな、どうしたら……」

「(まずい……。あの3人でさえ、簡単にあしらわれる。これ以上の戦闘は危険すぎる!)」

 

戦闘経験が少ない切歌と調は、キャロルの強さに恐怖し、身体を振るわせるばかりで動くことができない。

それを察したマリアは、すぐに司令室に通信を入れる。

 

「司令室?これより撤退するわよ?」

『ああ!マリアくんを中心に、撤退をしてくれ!』

「……私が殿を務める。彼女たちを回収して、速やかに撤退して」

「えッ!?ちょっと!」

 

先ほどの不意打ちのダメージがある程度回復した七海が、キャロルに向かって駆け出す。

 

《ロボットイングリスゥ!》

「キャロルゥウウウッ!!」

「来たか……」

「ウアアアアッ!!」

 

七海の拳がキャロルを捉える。しかしキャロルは何もしない。

次々と七海の拳打が、キャロルに叩き込まれていく。

そして強力な一撃で後退したキャロルに、七海は拳を振り上げ――――

 

「………ナナ姉えッ!」

「ッ!」

 

キャロルの呼びかけに、七海の拳はスレスレで止まった。

 

「キャロ、ル……」

「ナナ姉え………甘いな」

「ガッ!?」

 

キャロルの声に希望を感じた七海を現実に引き戻したのは、残酷にもスクラッシュドライバーに突きつけられたサウザンドジャッカーだった。

 

《ジャックライズ!》

「う、グア、アア…」

 

七海の身体にスパークが走り、七海は膝をついてしまう。

 

「ふん……そうやって貴様は、何も守れはしない」

「キャロル……」

《JACKING BREAK!》

「終わりだ。グリスのデータ、貰っていくぞ。フンッ!」

 

JACKING

 

 BREAK

 

「ぐ、アアアアアッ!!」

 

サウザンドジャッカーを振るうと同時に、ロボットアーム型のエネルギー体が七海の身体を薙ぎ払う。

七海は何度も地面を転がり、やっとのことで止まると変身が解除され、ボロボロの七海の姿が現れる。傷だらけの身体は、見る人に痛々しさを憶えさせる。

だが、何よりも傷を負ったのは、キャロルを利用された(・・・・・・・・・・)ことにショックを受けた七海の心だった。

なんとか力を振り絞り、キャロルを見上げるが七海の意識は途切れ、すぐに倒れ伏してしまう。

 

「フン……ッ!?」

 

キャロルが七海に向かって一歩踏み出すと、燃え盛る物体が遮るようにキャロルの周囲を飛び回る。

 

「セレナか……ハァ!……逃げた、か」

 

サウザンドジャッカーで吹き飛ばすも、すでに七海の姿はなく、装者たちの姿も見えないことから、撤退したのだろう。

変身を解除したキャロルに、アウラネルたちが集まる。

 

「お久しぶりです。我らがマスター」

「ああ……行くぞ」

「はっ」

 

キャロルはテレポートジェムを割り、転移する。

行き先は、帰るべき家ではない。彼女はもう、キャロルでありキャロルではない(・・・・・・・・・・・・・・・・)のだから。

 

 

場所は変わり、S.O.N.G.保有の潜水艦。

 

「急げ!重傷者の七海くんとクリスくんを優先!翼と奏にも人を回せ!」

「お姉ちゃん!しっかりしてください!お姉ちゃん!」

「セレナ落ち着きなさい!セレナ!」

「カヒュ、ヒュー…キャロルが…そんな、キャロルがぁ……カハッ…カヒュ―、カヒュ―」

「エルフナインちゃん、大丈夫!?落ち着いて、ゆっくり深呼吸して…」

「き、切ちゃん……」

「調…調ぇ……」

「切歌ちゃん、調ちゃん…」

 

たくさんのスタッフが、慌ただしく周囲を駆けずり回る。

キャロルの必殺技をまともに食らった七海と、翼と奏を庇うために前に出たクリスがひどい怪我を負っており、すぐに集中治療室に運ばれる。

セレナは、今までにないほどにボロボロな七海を見て取り乱し、マリアが何とか落ち着けようとセレナに声をかける。

エルフナインはキャロルが裏切ったという事実に、過呼吸になりオペレーターのあおいが酸素スプレーを持って落ち着かせようとする。

切歌と調は戦いが終わって気が緩んだからか、先ほどの恐怖を再び思いだし、抱き合って必死に恐怖を抑え込もうとする。

響もそんな2人を心配して声をかけるが、自身も動けなかったことに無力感を憶えていた。

 

まさしく、完全敗北。これ以上ないほどの敗北に、周囲の空気は暗く沈んでいた。




裏切りキャロルの無双回。やっぱキャロルって、凛々しいというより圧倒的な力でねじ伏せる戦い方が合ってる気がする。

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キャラクター紹介

風鳴翼/天羽々斬
天羽々斬の装者。現役のアイドル。
原作と違い、奏を失っていないため、響が戦場に立つことに罪悪感を持つが、それでも響の意思を尊重。せめてと訓練をつける。
始めは七海たちを信じていなかったが、フィーネとの決戦後に和解。
以降は仲間として共に戦う。
父である風鳴八紘との仲は良好。彼の背中を憧れとしている。
祖父である風鳴訃堂とは険悪な仲ではないが、彼の態度から良好というわけではない。(なお、訃堂の方は孫娘である翼と家族として接したいが、方法が分からないために仲が拗れた模様)
マリア、切歌、調とは奏ともども以前から知り合っており、米国から亡命したという事で、彼女たちの数少ない知り合いである。


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49 同調

ランプー様、ジョー.様、感想ありがとうございました。

キャロルの裏切りには否定的な意見が多いですね~。
ですが言いましょう!キャロルが死ぬことなどありませんし、そんなことすれば七海ちゃんはBADEND一直線ですしね!この小説も終わっちゃいますよ!

2次創作を書いてるほとんどの人が、自分の書きたいものを書いてるわけですし、私もそうなので、優しい目で見ていただけると幸いです(^_^;)


《???side》

 

そこは、何もない空間だった。

否、何もないわけではない。一寸先も見通せないほどの闇に、両手両足を縛る鎖から逃れようと、必死に暴れる姿があった。

 

「くそッ!くそッ!……はな、せッ!はぁ…はぁ…はぁ……」

「まったく…あきらめが悪いな」

「ッ!」

 

暗闇から現れた人物は、拘束されている姿と同じ姿をしていた。

違いがあるとすれば、現れた人物の目が燃えるような赤色なことか。

 

「……何故だ。なぜこんなことをする!?」

「何故…?おかしなことを言う。オレがお前の記憶を見たように、お前もオレの記憶を見たのだろう?」

「お前のやり方を、オレは認めない。きっと七海が……」

「夢を見るのはよせ。今のアイツらは、お前が裏切ったとみている。白黄七海も、そう思っているだろう」

「…………」

「フン……あとは貴様が、全てをオレに差し出せば完全に同調する。また来るぞ。今度はやつらの首でも持ってな」

 

そう言い残し、この世界から離脱する。

沈んでいた意識が浮上する。

 

「う、うん……」

「マスター、お目覚めの様ですね」

「アウラネルか」

 

キャロルが目を覚ますと、目の前にはアウラネルが傅いていた。

 

「首尾はどうでしたか?」

「頑固な奴だ。完全な同調は、まだ先になる。……だが、この状況で何も思わないはずがあるまい。時間の問題だろう」

「では、計画の方は……」

「滞りなく進める」

 

それだけ言うと、キャロルは座っていた椅子から立ち上がり、現在の隠れ家のとある部屋に向かう。

そこには様々な機材とカラフルな法螺貝が浮かんでいた。

 

「オレがこの世界に来れたのは僥倖だった。あの世界(・・・・)では成し遂げることもできず、そして憎々しい奇跡に阻まれた。世界がまたしても私を否定するのなら、識ることなどどうでも良い……。オレが奇跡を破壊してやる。なあ………ギャラルホルン」

 

 

 

《S.O.N.G.side》

 

S.O.N.G.の司令室では、今までにないほどの空気に包まれていた。

 

「……まずは、七海くんとクリスくんの容体についてだ。エルフナインくん」

「はい……ナナ姉えとクリスさんですが、命に別状はなく、錬金術も使用したことで回復に向かってます。翼さんと奏さんは軽傷なため、すぐに復帰できます。」

「良かった……」

 

エルフナインの報告に、響は安堵の声を漏らす。

 

「しかし、我々には大きな問題が残っている」

「キャロルの離反、ね」

「そうだ。そして彼女の強さは、お前たちの知る通りだ」

 

仮面ライダーサウザーとなったキャロルは、装者たちや仮面ライダーを相手取り、完膚なきまでに叩きのめしたのだ。

その強さは彼女たちの心の奥底に染みついている。

そして、今の自分たちに、彼女を倒すことは簡単ではないことも。

 

「もちろん、彼女たちは放っておくわけにはいかない。エルフナインくんとセレナくんから提案を受け、対抗策を用意してある。説明を頼む」

「はい。ボク達がキャロルへの対抗策として提案したのは、『Project:DUAL(プロジェクト:デュアル)』です」

 

エルフナインがそう言うと、背後のモニターに「Project:DUAL」と映し出される。

 

「…プロジェクト……」

「デュアル、デスか?」

「現状、今の戦力ではキャロルに対抗することは出来ません」

「私たちのライダーシステムでも、先生を倒すことは難しいです。なので、シンフォギアならびにライダーシステムの強化が、この計画の内容です」

「強化って……どうするの?」

 

マリアの疑問に、エルフナインは1つのアタッシュケースを取り出して答える。

 

「それは……?」

「これが、皆さんの切り札です」

 

 

《七海side》

 

「ん、うう……」

 

眩しい。

私の意識が覚醒したのを感じる。

 

「ここは……」

「起きたのか…!?」

「クリス…?」

 

どうやら私はベッドに寝かされているらしく、隣のベッドにはクリスが寝ていた。

彼女の説明によると、どうやら私が気を失った後、皆に回収されて、重傷だったためになかなか目を覚まさなかったらしい。

クリスは私を気遣ってくれたのか、何で私が気を失ったのか離さなかった。

でも、私は憶えている。キャロルの裏切りを。

 

「(キャロル……私は諦めるつもりはない。でも、もし本当に全てが偽りのない、本当のことだというのなら、私は……自分の手で決着をつける)」

 

七海は心の片隅で、ひっそりとそう決めるのだった。

 

 




今日はちょっと少なかった……。

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キャラクター紹介

雪音クリス/イチイバル
イチイバルの装者。
主な過去は原作通り。国連の軍に救出された後、装者の適正があったが、彼女の歳や精神状態を考慮して、2課に預けられ、了子の屋敷に居候する。
その後宵姫黒夜と出会い、彼女から家事全般に関することを習う。そのおかげか、原作に比べ食べ方がきれいになっている。
黒夜と接している内に彼女に心を開き、響と未来のような関係でもある。
黒夜が死に際に渡した「イチイバルフルボトル」を、大事にしている。








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50 歯車の歪み

ランプー様感想ありがとうございました!

今のキャロルについての呼称について質問があったんですが、どうしまようかね~。
ネタバレになってもいけないので、少々悩んだんですが…閃きました!良い呼称があるではないかと!
今のキャロルは、グレキャロルだー!

それから今回の話で、プログライズキーについていくつかのオリジナル要素が出てきます。

追記
UA件数3万超えました!ありがとうございます!


《三人称side》

 

七海の目が覚め、S.O.N.G.の司令室では、キャロルが変身した仮面ライダーについて説明が行われた。

 

「キャロルが変身したのは、仮面ライダーサウザーと呼ばれるライダー」

「たしか、貴方が封印していたと言っていたが……」

 

翼と奏、クリスも無事回復しこの話に加わっている。

七海は翼の言葉に頷き、続きを話す。

 

「仮面ライダーサウザーは『サウザンドライバー』に『アウェイキングアルシノゼツメライズキー』と『アメイジングコーカサスプログライズキー』を使うことで、変身できる仮面ライダー」

「ゼツメライズキーって、セレナちゃんたちが使ってるプログライズキーとは違うの?」

「プログライズキーは、現代に生息する生き物のデータを使っています。ゼツメライズキーはその逆、すでに絶滅している生き物のデータが使われています」

 

セレナの説明に、今度はマリアが挙手する。

 

「ちょっといいかしら?」

「なに?」

「セレナが使っているのって、確か『バーニングファルコンプログライズキー』って名前よね?名前からしてフェニックス…不死鳥だと思うのだけど、フェニックスって伝説上の存在よね?」

「たしかに、フェニックスはギリシアの民間伝承に登場する、伝説上の鳥。だから、プログライズキーと言ってるけど、これは便宜上に過ぎない。バーニングファルコンプログライズキーは、その実はプログライズキーと似て非なる物なの」

 

七海はセレナからバーニングファルコンプログライズキーを受け取り、USBメモリをセットした端末につなげる。

すると、空中にいくつかのデータが投影される。

 

「バーニングファルコンプログライズキーは分類上としては、プログライズキーではなく、ムゲンライズキーなの」

「…ムゲンライズキー?」

「夢に幻と書いてムゲンね。ムゲンライズキーは伝承の存在のデータを使ったキー。バーニングファルコンプログライズキーは、その試作品でプロトタイプなの」

 

端末から引き抜いたバーニングファルコンプログライズキーをセレナに返し、再び話を戻す。

 

「それで話を戻すのだけど、サウザーは2つのキーを使う仕様上、そのスペックや能力は他と群を抜いてる。私はそれを危険視した結果、サウザンドライバーとその変身に必要な2つのキーを封印し、その存在を自分の心に仕舞いこんでいた。……だけど、おそらくキャロルがそれを見つけて、封印を解いたんだろうね」

「現にボクたちは今まで、その存在は知らなかったですしね」

「そして、サウザーのその恐ろしさは、相手の力を模倣することにある」

 

七海の説明に合わせて、セレナがデータを投影する。

 

「サウザー専用武器『サウザンドジャッカー』を使用することで、相手の能力を模倣し、高威力の必殺技として使用することができる。おまけに、模倣できるのはフルボトル、更にはシンフォギアまで模倣できる」

「そんな……」

「そんな相手に勝てるデスか……?」

「そのための『Project:DUAL』だよ」

 

そう言いながら、七海はエルフナインから説明された時のことを思い出す。

 

『シンフォギアとライダーシステムの強化…?』

『はい。今の所、こちらの戦力では太刀打ちできません。そのために、シンフォギアには他の聖遺物との同時展開。ライダーシステムも新たなキーの開発をしたいんです』

『その許可を取りに来たと……いいよ。そもそもライダーシステムに関しては、貴方に一任してる。任せたよ』

『はい!』

 

当初はエルフナインが提案したという事で、驚いたのを憶えている。

彼女が、今回のように自分から動くというのは、あまり記憶にないからだ。

シンフォギア装者との出会いや、キャロルの裏切りは、良い意味でエルフナインに変化をもたらしたのだろう。

 

「……それで、『Project:DUAL』のことだけど、すでに数人のシンフォギアの改修作業を始めてる。今回収しているのは、翼、クリス、マリアだ」

「たしか、シンフォギアと聖遺物の同時展開、だったか?」

「そう。シンフォギアと同時に、別の聖遺物を展開することで、その能力を大幅に引き上げる。もちろん、聖遺物は欠片だしシンフォギアのような加工をして、安全マージンはしっかり取る」

「それって、私のようにならないってことですか?」

「融合症例にさせるつもりはない」

 

原作では、立花響がガングニールと融合しかけるということがあった。

原因は、無印1話で彼女が胸に受けたガングニールの破片なのだが、この世界でも同様のことが起きていたのだ。

七海は、本来なら2期でどうにかなることを知っていたのだが、原作から大きく乖離したことを受け、弦十郎から許可を得てガングニールの破片を摘出してある。

通常の医療技術では難しいが、錬金術の併用でどうにか摘出できたのだ。その分、膨大な情報処理量で七海が死にかけたのだが。

 

「仮面ライダー迅に関しては、ムゲンライズキーを最終とした改修を行ってる。すでにある程度の回収は済ませているわ。……そして、天羽奏」

「なんだ?」

「貴女にはこれを渡しておく」

「おい、これって!」

 

七海が奏に渡したのは、ショットライザー……キャロルが使っていたベルトだった。

しかし、渡された奏は体を震わせ、七海に掴みかかる。

 

「おい!どういうことだよ!」

「……これ以上、戦力を低下させるわけにはいかない。シンフォギアの改修が終わるまで、現状ライダーシステムがアウラネルたちへの対抗策だ」

「ふざけんなよ……」

「なんですって…?」

「お前は!これでいいのかよ……」

「……報告はここまで。天羽奏、トレーニングルームに来て。扱えるかのテストを行う」

 

奏にそれだけ言うと、七海は司令室を出て行ってしまう。

 

「奏……」

「なんでだよ……こいつは、アイツにとって大事なもんのはずだろ……」

「師匠……」

「響くんたちの言いたいことも分かるが、七海くんのいう事ももっともだ。奏、君の気持ちは分かるが…」

「ああ、分かってる」

 

そう言って奏はトレーニングルームに向かう。中ではすでに七海が待っていた。

彼女に促され、奏はトレーニングルームの中央に立ち、その他のメンバーは別室でその様子を窺っていた。

 

「今回は、貴女がショットライザーとシューティングウルフプログライズキーを、使用可能かどうかのテスト。変身のプロセスは、すでに分かってるでしょ?」

「ああ……やってやるよ!」

 

奏は意気揚々にバックルを腰に巻き、シューティングウルフプログライズキーを起動する。

そしていざキー状態に展開しようとした時、奏の表情が戸惑いに変わった。

 

《バレット!》

「……ん?」

「どうしたの?」

「フンッ!くッ!こ、の……だぁ!おい!全然開かないぞッ!」

 

奏がどれだけ展開しようとしても、ロックがかかってる様にビクともしない。

その様子に、七海は眉をひそめる。

 

「という事は……そっか」

「おい!どういうことだよッ!」

「プログライズキーはシンフォギア同様に、使用するために適合する必要がある」

「適合……その条件は?」

「強い感情の発現……それがプログライズキー使用の条件だよ。そのプログライズキーは、力への渇望」

「力への…渇望」

「とりあえず、使えないなら貴女に渡しておく必要はないか」

「あ……おい!」

 

奏からショットライザーとプログライズキーを取り上げ、エルフナインに通信と取りながらトレーニングルームを出る。

 

「エルフナイン、ショットライザーは貴方に預けておくから、改修をお願い」

「だから待てって言ってるだろッ!」

「……何?」

「お前おかしいぞッ!?さっきから、お前らしくないッ!」

「………」

 

七海は肩を掴む手を振り払い、トレーニングルームを後にする。

その後ろ姿を、奏は手を強く握りながら見つめるのだった。

 





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キャラクター紹介

小日向未来
立花響の陽だまり。
響がシンフォギアのことを隠していることに、どう聞けばいいのか悩んでいる中、黒夜にやられ意気消沈している七海と出あう。
その後も、響と七海が出会うきっかけを作る。
フィーネとの最終決戦では、原作同様の活躍を見せる。
原作2期が完全に消えた今、彼女に災いが降りかかる様子は見えないが……



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51 戦いの足音

創の軌跡おもしろ~。


《奏side》

 

あたしと翼、マリアはトレーニングルームにいた。

理由は、あたしがショットライザーを使うための訓練だ。

 

「だぁ―――!くそッ!今日も開かねえ!」

「か、奏落ち着いて」

「翼の言う通りよ。少しは落ち着きなさい」

「でもよぉ…」

 

翼とマリアに宥められたあたしは、不満を表す様にベンチにドカッと座り込む。

スポーツドリンクをがぶ飲みするあたしに、マリアが問いかけてきた。

 

「どうしたのよ。そんなに変身できないのがイラつくの?」

「そっちもだけど、それよりイラついてることがある…。七海のことだよ」

「七海?」

 

「ああ」と答えながら、あたしは腰から外したショットライザーを見る。

以前なら、喜んでこいつを使いこなそうとしたはずだ。

ガングニールを纏おうとした時のように、LiNKERのような薬が必要なら迷わず打っただろうし、無茶が必要なら構わずやったはずだ。

だが不思議なことに、今はそんな気がちっとも起きない。ずっと欲しくてやまなかったライダーシステムのはずなのに。

 

「それで、七海がどうかしたの?」

「……普通に考えておかしいだろ?こいつは、キャロルが使ってたんだぞ。普通なら、そいつが裏切ったからって、簡単に他の誰かに使わせるか?」

「それは…彼女が言っていたように、今の私たちが持つ、敵に有効な戦力だからじゃないのか?」

「そう言われたらなんとも言えねーんだけどなー」

「……確かに、少し気になるわね」

「マリア?」

 

意外なことに、マリアがあたしの言葉に賛成した。

気になって話を聞くと、どうやらマリアの妹であるセレナと話した際に、七海たちのことを聞いたらしい。

セレナの話だと、七海とキャロルはすっごい仲睦まじいのだとか。

そんな風に言われる七海が、キャロルが使っていたショットライザーを簡単に他人に使わせるだろうか。

それがマリアの気になったことらしい。

 

「はぁ……気になっても仕方ないか」

「そうね。やっぱり七海も、キャロルの裏切りに参ってるのでしょう」

「そう言う時の為に、私たちがいる。あいつが無理をしないように、気にかけるとしよう」

 

翼の言葉で休憩は終わり、再びプログライズキーを開けるための訓練が始まった。

結局、今日は一度も開くことはなかった。

 

 

《セレナside》

 

私は今、S.O.N.G.の潜水艦の通路を歩いています。目的地はエルさんがいる部屋です。

私たちがシンフォギアの改修をするにあたって、この潜水艦内で行うというのが任せられる条件でした。

当然ですよね。私たちはお互いに協力関係とはいえ、全てを信頼することは難しいと思います。……あ、ちなみに私はお姉ちゃんの陣営としてカウントされています。

そうこうしてると、目的地に着きましたね。

 

「エルさん?セレナです」

「はい、どうぞ!」

 

エルさんから許可が入ったので、中に入ります。

中では、エルさんがいろんな書類やデータとにらめっこしていました。

 

「どうしたんですか?」

「はい。ライダーシステムの改修状況について、一応エルさんに確認をと思って」

 

私たちが勧めている『Project:DUAL』の総括者は、エルさんという事になってます。私はその補佐ですね。

ただ、忙しくなったせいか、エルさんが睡眠時間を削りだし始めました。

あまり体に響いてはいけないので、基本は私が強制的に寝させます。もちろん添い寝です。じゃないと、抜け出して続きをしそうになりますからね。

ただ、私もライダーシステムの改修を担当していて忙しいので、毎日というわけにはいきません。

おかげで最近は、私の方が寂しく…イエ、ナンデモアリマセン。

 

「……はい、大丈夫です」

「ありがとうございます!…エルさん、ちゃんと睡眠取れていますか?」

「も、もちろん……」

「はぁ……だったらその隈は隠してください」

「あぅ」

 

しょぼんと落ち込むエルさんの目の下には、うっすらと隈ができていました。

エルさんはとても愛らしい顔立ちだからか、化粧が必要ないんですよね。なので本人も化粧の仕方が分からず、隈を化粧で隠すこともできないです。

 

「改修の方は一段落しますし、今日は一緒に寝ますよ?」

「えっ…で、でも、改修を主導しているボクが休むわけにも……」

「だめです!」

「うう……は、はい」

 

まったく、困ったものです。

エルさんはこう言っていますが、実はエルさんが睡眠をとることを望んでいるのは私だけではないのです。

この改修は大掛かりなものになるので、S.O.N.G.の方からも何人か人手を借りています。この方たちから、エルさんに休むように言ってほしいと頼まれています。

エルさんは私よりもはるかに年上ですが、その見た目は完全に小さな子供。そんなエルさんが、徹夜をして改修作業に励んでいると、休もうにも休みにくいと言われたのです。しかも、隈を隠そうとしないのでそれがより分かってしまうと。

そういうわけなので、エルさんにはしっかり休んでもらいます。

 

「エルさん。無理のし過ぎで倒れてしまったら、みんな心配します」

「すいません……」

 

完全に意気消沈してしまったエルさんに、言い過ぎたかなと思った私は、お姉ちゃんのように抱きしめてみました。

 

「セレナさん……?」

「エルさんが頑張っているのは、みんな分かっています。だから、心配なんです。ちゃんと自分を大事にしてください」

「……ありがとう、ございます……えへへ。セレナさんの腕の中、温かい、です…」

「エルさん?」

「スゥ…スゥ…スゥ…」

 

エルさんの声がだんだんと小さくなっていくのを感じて、エルさんを見ると小さな寝息を立てながら目を閉じていました。

エルさんを起こさないように、部屋に備え付けてあるベッドに寝かせました。

 

「フフ……可愛いなぁ、エルさん」

 

私の目の前には、無防備な姿をさらすエルさんがいます。

悪戯心から、エルさんの柔らかいほっぺをつっつくと、もちっとした感触が返ってきました。

最後に頭を軽く撫で、私は部屋から退出しました。

 

「もう少し、頑張りましょうか」

 

あの可愛い寝顔を見ると、もう少し頑張ろうという気が湧いて出てきます。

確かに休もうにも休めないな~と考えながら、私はフルライズアニマルの改修を終わらせるのでした。

 

 

《???side》

 

「ん……」

「マスター、お帰りなさいませ。同調はどうでしょうか?」

「んぅ…アウラネルか。頑固なものだ。未だにオレとの同調を拒んでいる」

「計画の方はどういたしますか?」

 

アウラネルの問いに、キャロルは少し考え込むもすぐに答える。

 

「計画は予定通り進める。まずは例の装置の試運転がてら、適当に暴れる」

「御意に」

「オレは少し休む。例の装置の開発に、精神世界へのダイブ。さすがのオレも、少し疲れた」

「それでは、お休みなさいませ」

「ああ」

 

アウラネルが出て行ったのを確認すると、キャロルはベッドに寝転がる。

 

「ふぅ…まったく、ままならないものだ。……しかし、この世界のオレは一体何をしているんだ……!」

 

覗き見た記憶の一部を思い出したキャロルは、顔をほんのり赤くしながらうつ伏せになると枕に顔をうずめる。

 

「なんだなんだ!あの見てるだけで恥ずかしい行為は!?あいつらはこんなことを毎日していたのか!?」

 

溜まりに溜まった叫びを枕にぶつけたキャロルは仰向けになり、睡眠に入ると同時に精神体で今日も(・・・)記憶の海を漂い始めた。

「少しだけ…ちょっとだけだから」と誰に言うでもない言葉を漏らしながら……。

 

「近く、私たちは例の装置の試運転を行うとのことです」

「アハハハッ!それは楽しそうね!」

「ウフフフ…。そうですねモネ」

 

キャロルが眠りに落ちた頃、アウラネルはキャロルとの会話を、ネリとモネに伝える。

そして、アウラネルはモネに自身が使っていたリモコンギア、エンジンギアを渡す。

 

「これは…?」

「私は例のベルトが完成したため、これを使う必要が無くなりました。故にあなたが使いなさい。すでに貴方たちは、1人で2つのギアを使えるように改良してあります」

「ウフフフ…。分かりました、お姉さま」

 

ネリとモネが去った後、アウラネルは窓からソラに浮かぶ月を眺めていた。

 

「私の存在意義は、行動原理は全てマスターの為に。マスターの幸せこそ、私の幸せ」

 




基本的にキャロルちゃんは救済一直線です。当たり前だよなぁ!

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キャラクター紹介

マリア・カデンツァヴナ・イヴ/アガートラーム
シンフォギア「アガートラーム」の装者。セレナの姉。
ナスターシャ教授とこの世界では綺麗なウェル博士によって、F.I.S.引いては米国から暁切歌や月読調といったレセプターチルドレンたちと、日本に亡命した。
それが原因で、暴走していたF.I.S.が解体されると同時に、すでに装者であった切歌と調の自由を守るために、国連のプロパガンダとしての側面を持つ歌手として活動することになった。
とはいえ、歌手という方法になったのは、マリアがいくつかの芸能事務所からスカウトを受けていたからというのもあり、素質自体はあったのかあっという間に大スターになった。(所属は翼と同じ、架空の事務所)
しかし、セレナのアガートラームに適合したことで、装者としても活動するようになる。
本人は妹や家族同然の切歌や調を守る力を得たことで、戦えることに喜んではいる。





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52 目覚めの鼓動

課題やらなんやらで少し間が空いてしまいました。

台風が近づいてますね。皆さんも気をつけてください


《3人称side》

 

蝉の声が響く真夏の公園に、七海の姿はあった。

木製のベンチに腰掛け、手にはL字型のアイテムを持っていた。

 

「(ハザードトリガー、か……。解析しようにも、複雑な暗号と強固なプロテクトのせいで不可能……)」

 

七海が持っていたのはハザードトリガー。七海の姉、宵姫黒夜が制作した仮面ライダービルド強化アイテムだ。

黒夜が亡くなった後、彼女が持っていたアイテムは七海が回収したのだが、その中にはハザードトリガーもあった。

七海はもしもの手として、ハザードトリガーの使用を考えていたが、いざ解析しようとすると、黒夜の手によって張られたプロテクトが邪魔をするのだ。

 

「キャロルの裏切りに気付けず、皆を守れず……はぁ、私は何をしてるんだろ……」

「ずいぶんとお悩みのようだなぁ、白黄七海」

「ッ!?キャロル……」

 

突如かけられた声に、七海が立ち上がり周囲を見渡すと、キャロルとアウラネル、ネリとモネもいた。

 

「ふん……随分と辛気臭い顔をしているな」

「……うるさい。貴女なんかに……!」

「少なくとも、理解はしてやれるぞ?なんせ、オレはこいつの記憶を見れるのだからな」

「その言い方はつまり、貴女はキャロルじゃないということ……貴方は誰なのかな?」

 

キャロルと受け答えしながら、背後に回した手で通信機を操作しS.O.N.G.に救援信号を発信する。

 

「貴様も錬金術師の端くれなら……自分で答えを探すんだな!ネリ、モネ!」

 

キャロルの声に、ネリとモネがネビュラスチームガンにギアを装填する。

 

《 《ギアリモコン!》 》

《 《ギアエンジン!》 》

《 《ファンキーマッチ!》 》

「バイカイザー」

「潤動」

《 《フィーバー!》 》

《 《パーフェクト!》 》

「バイカイザー、参上」

「ヘルブロス、推参」

 

ネリは赤と青のバイカイザーへと、モネは青と白のヘルブロスへと変身した。

七海もスクラッシュドライバーを装着し、ロボットスクラッシュゼリーを装填する。

 

《ロボットゼェリィィ!》

「変身」

《潰れるぅ! 流れるぅ! 溢れ出るぅ!》

《ロボッットォイングゥゥリスゥゥゥ!》

「心火を燃やして、ぶっ潰す……!」

「やれ」

 

仮面ライダーグリスに変身した七海に、ネリとモネが襲い掛かった。

そして、S.O.N.G.司令室では、七海の救援信号を察知した弦十郎やオペレーターの声が飛び交っていた。

 

「現場はどうなっている!」

「七海ちゃんがバイカイザーならびに、未確認のライダーシステム、さらに複数のトリロバイトマギアと交戦しています!また、その付近にキャロル、アウラネルもいる模様!」

「装者たちへの通達は!」

「すでに装者たちは現場に急行しています!セレナちゃんもすぐに向かうとのことです!」

 

画面では交戦を開始している七海が映し出されていた。

その画面を見ながら、了子は首を捻る。

 

「片方は、七海ちゃんからデータをもらっていたバイカイザーね。もう一体は何かしら?どことなくアウラネルが変身していた、エンジンブロスとリモコンブロスを足したみたいな感じね」

「あの2体が似た姿をしていることから、おそらくバイカイザーと同じように、2つのギアを使用したのだろうな。実力は未知数。だが、こちら等も一部だが例の改修が完了しているのが幸いだな」

「装者たちとセレナちゃんが現場に到着、戦闘に介入します!」

「来たか!」

 

公園では七海が、襲い来るトリロバイトマギアと戦っていた。

 

「ハッ!でやああ!」

 

振り下ろされるコンバットナイフを弾き、ラリアットの要領で地面に引き倒す。

さらに背後から飛びかかってきたマギアを、地面に転がりながらも投げ飛ばす。

 

「らぁ!」

 

ツインブレイカーから光弾を撃ち、正面の3体を撃ち抜く。

 

「はぁ、はぁ…はっ!?」

「アハハハッ!久しぶりだねぇ!遊ぼうよ!」

「ウフフフ…。マスターの命令です。楽しませてくださいね?」

「くっ!」

 

荒い息をする七海に、ネリとモネが襲い掛かる。

七海は2人が振るうスチームブレードを、ツインブレイカーで受け止め、身体を逸らして躱していくが、徐々に追い込まれる。

 

「アハハハッ!ほら!」

「ガッ!だあああ!」

 

ネリがスチームブレードを振り抜き、七海は後ろに吹き飛んだが、体勢を立て直し背後の木を足場に2人に突撃する。

 

「ウフフフ…甘い!」

「ガッ!?」

 

しかし、モネがライフルモードへと変形させたネビュラスチームガンで撃ち落とされる。

地面に倒れる七海にネリとモネが近づくが、その前に炎の鳥が舞い降りた。

 

「お姉ちゃん!」

「セレナ……?」

「あたしたちもいるぜ!」

「デェス!」

【LAST∞METEOR】

【切・呪りeッTぉ】

 

遅れて竜巻と3枚の刃がネリとモネに飛来する。

それらは全て振り払われるが、その隙に装者たちが七海の元に集っていた。

 

「装者6名、現着しました」

「大丈夫、七海?」

「アハハハッ!増えた増えた!もっともっと楽しませてよ!」

「上等だ!」

「交戦を開始する!全員、適切な行動をしなさい!」

 

奏が意気揚々と先陣を切り、一瞬遅れて響と翼、七海が動きだす。

 

「アハハハッ!そう簡単に行かせないって!」

「それはこちらのセリフでもある!」

「あんまり好き勝手されたくないのよ!」

「風鳴翼にマリア・カデンツァヴナ・イヴ!貴方たちに、私を止められるかなぁ!」

 

バイカイザーのネリを、翼とマリアが足止めする。

ネリの振るうスチームブレードと、翼の刀が激突する。

 

「ウフフフ…」

「させるかデス!」

「…やらせない」

「貴女たちはこの間の……ウフフフ…貴女たち程度で、私をどうにかできるとでも?」

「そのためにたくさん訓練をしてきたデス!」

「…前の様にはいかない!」

 

ヘルブロスであるモネに、切歌の鎌と調の鋸が振るわれる。

だがモネは2人の武器を狙い撃ち、強制的に後ろに下がらせる。

 

「ふん……装者たちも出てきたか。丁度良い。アウラネル例の装備を使え」

「了解しました、マスター」

 

キャロルの命を受けたアウラネルは、トリロバイトマギアをなぎ倒す七海たちの前に出る。

そして右手に持った物体を腰に近づけると、その物体からバックルらしき物が現れ、その棘を身体に食い込ませ固定する。

 

「アウラネル……!」

「あれって、ベルト?」

「おいおいまさか…!?」

「そのまさかですよ」

《ポイズン!》

「フォースライザーの力を、見せてあげましょう。変身」

 

アウラネルはスティングスコーピオンプログライズキーを展開せず、腰のフォースライザーに装填。レバーを引き、プログライズキーを強制展開する。

 

《フォースライズ!》

《スティングスコーピオン!》

《Break down》

「仮面ライダー(ほろび)、変身完了」

「仮面、ライダー……」

《アタッシュアロー!》

「やる気満々ってか」

「クリスちゃん!」

「分かってるよ!持ってけぇええ!」

「……ここは彼女たちに任せる」

 

クリスがアウラネルに向けて弾幕を張り、その隙に七海、セレナ、奏はキャロルの元にたどり着いた。

 

「キャロル……」

「先生……」

「くどい。未だにありえん可能性に賭けるか。オレは貴様らの敵だ。それをはっきりさせてやろう」

《ゼツメツ!Evolution!》

「今回はテストのつもりで来たが、もう一度、現実を教えてやろう」

《ブレイクホーン!》

「変身ッ!」

《パーフェクトライズ!》

《When the five horns cross,the golden soldier THOUSER is born.》

《Presented by Alchemist!》

 

ライダモデルとロストモデルがアーマーを形成し、キャロルは仮面ライダーサウザーに変身する。

七海とセレナが警戒する中、奏は拳を握りこみ震わせていた。

 

「……テストだって?」

「なんだ?」

「こんなもんのテストの為に、お前たちは、多くの人を危険に晒したっていうのか?」

「そうだ。アウラネルらを作り、フィーネを利用したのも、このオレが表に出た時(・・・・・)に必要なデータを取るためだ」

「そんなもんで、そんなもんの為のせいで………お前らは、たくさんの人を殺したのか!!」

「そうだ……といったらどうする?」

「てめええええ!!」

 

キャロルの態度に激昂した奏は、大槍を振り上げ斬りかかるも、いとも簡単に槍を掴まれ動きが止まってしまう。

 

「ふん。勇敢と無謀をはき違えているな」

「うるせえッ!家族を失ったあの日から、あたしの心の奥底には、未だに憎しみが宿ってんだ!」

「良いことだ。憎しみとは強い力になる。このオレの様にな!」

「ぐッ!?」

 

驚愕に包まれた奏に、キャロルは槍を引っ張る。

急なことに奏の体勢が崩れ、キャロルはサウザンドジャッカーを振るう。

奏は何とか腕の装甲で防ぐが、すぐにその行動が間違いであったことに気付く。しかし時すでに遅し。

 

「しまった!」

「遅い」

《ジャックライズ!》

「ウ、グアアアア!?」

「ガングニールのデータ、貰っていくぞ」

「ガッ!?」

 

奏を蹴り飛ばしたキャロルは、サウザンドジャッカーのトリガーを押し、伸ばしたレバーを戻す。

 

《JACKING BREAK!》

「ハア!」

「グアアアア!?」

 

JACKING

 

 BREAK

 

巨大な竜巻の奔流が奏を襲い、大きく吹き飛ばした。

 

「ガハッ!」

『奏さんのバイタル、大きく低下!これ以上は危険です!』

『すぐに撤退しろ!奏、撤退するんだ!』

 

朦朧とする意識の中で、奏は自身の敗北に打ちのめされていた。

どんなに高く飛ぼうとしても、それよりも高くそびえる壁に遮られる。

失意に沈む奏の頭に、過去の記憶が蘇る。他でもない、家族を失ったあの日の出来事だ。

 

「(走馬灯、か?……はは、あたしもここで終わりか……)」

 

薄れゆく意識で見えたのは、キャロルと交戦している2人だった。

何を思うわけでもなく、奏はそのまま意識を失い――――

 

 

 

 

 

 

気づけば立ち上がろうとしていた。

 

「(あたしは何を、してるんだ?)」

 

震える手で体を起こし、痙攣する足で地面を踏みしめようとする。

奏はその様子を、自分の身体でもあるはずなのに、他人事のように感じた。

 

「(やめろ……やめてくれ!もう終わったんだ。あたしはあいつに勝てない。何度やったって、あたしじゃ!)」

「これなら!」

《フリージングカバンストラッシュ!》

「そのデータも貰って行こう」

《ジャックライズ!》

 

セレナが放った氷の斬撃をサウザンドジャッカーで受け止めつつ、キャロルはジャックライズでデータを収集する。

それを終えると氷の斬撃を粉砕し、今度はキャロルが氷の斬撃を飛ばす。

 

「お返しだ!」

《JACKING BREAK!》

「ッ……!」

「やらせるかぁ!」

《Ready go!》

《レッツブレイク!》

 

すんでのところで七海が割って入り、クローズドラゴンをツインブレイカ―に装填。氷の斬撃をレッツブレイクで砕く。

両者の動きは一瞬止まり、再び走り出す。

 

 

―――ドクンッ

 

―――欲しい

 

あの力が、奪われないための力が欲しい。

 

 

―――ドクンッ

 

―――あの力ならあるだろう?

あの錬金術師と同じ力が。貴様はそれを既に手にしている。

さあ、言え。口にしろ。叫べ。お前の欲しい力を。

 

 

―――あたしは、欲しい。

 

 

 

―――守るための力が、奪われないための力が、やつらをぶっ潰すための力が!

 

 

 

 

―――今ここに、1人の()が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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キャラクター紹介

暁切歌/イガリマ
金髪で明るい巨乳っ娘。
マリアたちと日本に亡命後、S.O.N.G.に装者として加入する。
まだ戦闘経験が少なく、恐怖にすくむことがあるが、それでも仲良しの調と共に訓練を繰り返し、一人前になりたいと思っている。


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53 再誕

遅れてすいません。課題が…課題がぁ……


《3人称side》

 

「アハハハッ!」

「「グアアッ!!」」

「ウフフフ…」

「「キャアアッ!」」

 

ネリとモネを足止めしていた装者たちは、全員苦戦していた。

2体の戦闘能力はもちろん、ライダーシステムという力が、彼女たちを追い詰めていた。

 

「翼さん!マリアさん!」

「暁!月読!」

「余所見をしている暇があるのですか!」

「ぐッ…!」

 

アウラネルと戦っている響とクリスも、アウラネルの戦闘力に怯んでいた。

新たな仮面ライダーとの戦いは、彼女たちの思っている以上に疲労を与えていたのだ。

 

「このやろぉ!」

「苦し紛れの攻撃など……」

 

クリスが小型のミサイルを放つが、アウラネルはアタッシュアローから一本の矢を放つ。

その矢は途中で分裂しミサイルを撃ち落とすが、その勢いは衰えずクリスへと向かっていく。

 

「くっ!オオオッ!?」

「クリスちゃん!ダアアアッ!」

 

クリスはリフレクターを展開し、なんとか矢を防ぐ。

響はアウラネルが再びアタッシュアローを構えるのを見て、そうはさせまいとパンチを放つ。

しかし、その拳はいとも容易く掴まれる。

 

「そんなッ!?」

「弱い、弱すぎますね……フン!」

「ぐッ!ガアアア!」

 

アウラネルは見本を見せるかのように、響にパンチを放つ。

その拳は響を捉え、大きく吹っ飛ばした。

 

「これが貴方たちと私たちの差……それではさようなら」

「くッ……ここまでか…」

 

翼が無念そうにつぶやいた時、アウラネルに向かって一本の槍が飛んできた。

 

「ッ!?…貴女は」

「やらせない……」

「奏……?」

「奏さん?」

 

アウラネルが背後を向くと、そこには棒立ちの奏がいた。

彼女の髪は乱れ、服は際どく破れている。しかし、その目は死んではいなかった。

奏は手に持ったショットライザーのバックル(・・・・・・・・・・・・・)を腰に巻く。

 

「ハッ!……あれは?彼女、一体何をするつもりで…ッ!?くッ!」

 

その様子に、キャロルと戦っていた七海も気になるが、キャロルの攻撃でそれどころではなくなる。

そして奏は、右手に持ったシューティングウルフプログライズキーを起動させる。

 

《バレット!》

「奏…まさか!やめろ!貴女ではそれは使えない!」

 

七海は奏が何をするつもりなのか察すると、やめるように叫ぶ。

だが、奏は聞く耳を持たず、右手でプログライズキーを握りしめ左手でも掴み、強引にこじ開けようとしだした(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「ぬぐッ…うう、ウウアアアアアアア!!」

「まさか…プログライズキーをこじ開けるつもりですか?」

「アハハハッ!そんなの無理に決まってるじゃん!」

「ウフフフ…。まさか、ここまで愚かとは。救いようがありませんね」

 

あらん限りの声を出してプログライズキーをこじ開けようとする奏を、ネリとモネは小馬鹿にしたように笑う。

しかし、アウラネルはその様子を笑う事もなく見つめていた。

 

「アアアアアアアッ!!」

「アハハハッ!諦めが悪いなぁ」

「うるせぇ!何がロックだ。何が感情の発現だ!そんなもの…関係ねえ!もう、何も奪われないために!あたしは……こんなところで終わってられねんだよおおおお!!ウアアアアアアアッ!!」

「……ここまで、ですか」

「ッ!?奏、逃げて!」

 

アウラネルが奏に向けて、アタッシュアローを引き絞る。

翼の声もむなしく矢が放たれようとした瞬間、シューティングウルフプログライズキーに青い炎のような幻影が現れ、そして―――

 

―――ミシッ、と音が響いた。

 

「ッ!?これは……!?」

「お前らを…ぶっ潰す!ウアアアアア!!」

 

ミシッ、ミシミシミシミシッ!……パキンッ!!

 

「「「「開いた!?」」」」

「ッ!?嘘っ!?」

「なんだと!?」

 

シューティングウルフプログライズキーが開かれた。

プログライズキーを無理矢理こじ開けるという、まさかの光景に、アウラネルは思わず手を止め、七海とキャロルですら驚愕した。

 

「ふん!」

《バレット!》

《オーソライズ》

《Kamen Rider…Kamen Rider…》

 

開いたプログライズキーを、ショットライザーに装填し、銃口を真正面に向ける。

そして、あのワードを心の底から叫ぶ。

 

「変身!!」

《ショットライズ!》

 

その一声と共に撃ちだされた銃弾は、途中で軌道を変え奏へと向かう。

その銃弾を、奏は引き絞った左腕を思いっきり突きだし殴りつける。

 

《シューティングウルフ!》

《The elevation increases as the bullet is fired》

 

殴られ分解した銃弾は、青と白のアーマーへと姿を変え、奏を包み込む。

そして1人の仮面ライダーバルカン(オオカミ)が再誕した。

 

「ウオオオオオオッ!」

「まさか…本当に変身するとは……」

「アハハハッ!面白そうじゃない!」

「ウフフフ…。脅威の芽は摘み取りましょう」

 

静かに驚愕するアウラネルをよそに、ネリとモネは2体で奏へと襲い掛かる。迫る2体に、奏も走りだす。

 

「どいてろぉ!」

「ウソっ!?」

「背後をッ……」

「「ぐあッ!」」

 

2本のスチームブレードが奏に迫るが、それを奏は跳躍して回避。同時に背中を取った2体へショットライザーを連射し、銃弾を叩き込む。

次に奏はアウラネルを視界に収めると走り出す。

アウラネルは冷静にアタッシュアローを左手で構え、警戒体制を取る。

 

「おらぁ!」

「フッ!」

「ガッ!?」

 

奏のパンチを右手で逸らし、同時にアタッシュアローの斬撃で反撃する。

よろめく奏に近づき、次々と斬撃を食らわせていく。

 

「ハァ!」

「うわぁ!」

「終わりだ」

「うわあああッ!」

 

アタッシュアローの切り上げで吹っ飛ばした奏に、今度は数本の矢を放つ。

矢は奏の周囲に着弾し、爆発を起こして奏も巻き込まれる。

 

「ふん……ッ!?」

《オーバーライズ!》

《ショットライズ!》

 

こんなものかとアタッシュアローを下ろしたアウラネルに、爆発で起きた煙の中から、1匹の狼の幻影が飛び出て来た。

襲い掛かる狼を、辛うじてアタッシュアローで跳ね除けると、その狼は再び煙の中へ戻っていく。

 

《レディーゴー!アサルトウルフ!》

《No chance of surviving》

「ウオオオッ!」

《オーソライズバスター!》

 

次に煙の中から飛び出てきたのは、アサルトウルフのバルカンだった。

空中でオーソライズバスターを撃ち、アウラネルを怯ませる。さらに着地と同時に、オーソライズバスターの銃身を開き、グリップを真っ直ぐにする。

 

《アックスライズ!》

「オラァ!」

「ぐッ!ハアア!」

 

オーソライズバスターをアックスモードにした奏は、勢いそのままにアウラネルに斬りかかる。

アウラネルもアタッシュアローを使って応戦するが、一撃の重さは奏の方にあるのか、防御ごと切り崩される。

 

「こいつで!」

《パワー!》

《Progrise key comfirmed. Ready for buster》

「……………」

 

奏はパンチングコングプログライズキーを、オーソライズバスターにスキャンする。

アウラネルもフォースライザーのレバーを動かし、プログライズキーを1回開閉する。

 

「ラァアア!」

《プログライズボンバー!》

「ハッ!」

   

    

     

    

 

奏はオーソライズバスターを振るい、ナックルデモリッション(パンチングコングの武装)の形のエネルギー弾を飛ばす。

アウラネルも左腕からサソリの尻尾を模した刺突ユニット「アシッドアナライズ」を伸ばす。

エネルギー弾とアシッドアナライズは真正面からぶつかり合い、エネルギー弾がアシッドアナライズを破壊していく。

しかし、エネルギー弾も爆発し両者を爆風が撫でる。

 

《アサルトチャージ!》

「オオオオッ!!」

《マグネティックストームブラストフィーバー!》

「……フッ!」

《スティングディストピア!》

 

右足にオオカミの頭部を模したエネルギー体を形成した奏は、オーバーヘッドキックの要領で回転しながらキックを叩き込む。

対するアウラネルも、エネルギーを纏った上段蹴りで奏に対抗する。

 

「アアアアッ!」

「……フン!」

 

必殺技のぶつかり合いは………奏が制した。

 

          ブ ラ ス ト

                 

                  

                   

                 

                 

 ス ト ー ム

 

 

奏のキックがアウラネルに叩き込まれ、アウラネルは吹き飛んだ。

 

「アウラネルがやられたか」

「………次は、てめえの番だ!」

「キャッ!?」

 

奏はキャロルと戦っていたセレナを突き飛ばし、荒々しく殴りかかる。

しかし、キャロルはサウザンドジャッカーを使い奏の攻撃を受け流していく。

 

「がぁ!」

「まさしく獣、そんな奴がこの力を使うとはな!」

《ジャックライズ!》

「ぐッ!?ガア、アアッ!」

 

奏からアサルトウルフのデータを収集したキャロルは、サウザンドジャッカーのレバーを戻す。

 

《JACKING BREAK》

「ハァ!」

「奏!くそ!」

 

キャロルが振るうサウザンドジャッカーから、オオカミの頭部を模したエネルギー弾が飛ばされる。

咄嗟に奏を押しのけた七海が、エネルギー弾に捕まり上空に打ち上げられる。

そして上空には、跳躍していたキャロルが待ち構えており、高く掲げた右足を振り下ろしかかと落としを食らわせる。

 

JACKING

 

 BREAK

 

「アアアアッ!」

 

七海は地面に叩きつけられ、変身が解除されてしまう。

そして、キャロルの足元に七海が持っていたハザードトリガーが転がった。

 

「これは……?ほう、中々面白そうだな」

「かえ、せ……」

「ふっ……それじゃあな」

 

それだけを言い残して、キャロルは転移してしまう。

気づけばネリとモネ、アウラネルにトリロバイトマギアも消えていた。

 

「う、あ……」

「お姉ちゃん!」

「七海ちゃん!」

 

キャロルの必殺技を食らった七海は、セレナに抱えられながら息も絶え絶えになっていた。

その様子を見た奏は、変身を解除し膝から崩れ落ちた。

 

「あたしの、せいで……」

 

呆然と呟く奏の視線は、手に持ったショットライザーに向いていた。

 

 

 

 

 




というわけで、奏がバルカンに変身です。奏バルカンは、キャロルバルカンよりも荒々しく戦うのが特徴です。ちなみに、オーソライズバスターは基本アックスモードを使用します。

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キャラクター紹介

月読調/シュルシャガナ
黒髪ツインテのロリっ娘。
マリアたちと共に日本に亡命後、S.O.N.G.に加入する。
炊事家事洗濯が得意で、装者最年少ながらもシュルシャガナを纏い戦う。
戦闘経験が少ないため、恐怖にすくんでしまうことがあるが、仲良しの切歌と共に訓練に励み、一人前になりたいと思っている。



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54 生まれる希望、蘇る絶望

《三人称side》

 

誰もいない休憩室で、奏は椅子に座り1人項垂れていた。

何度も願った力を手に入れたにも関わらず、その力に呑まれてしまい、結局は前と同じ過ちを繰り返してしまった。

 

「くそ……どうしてあたしは、いつもこうなんだ……誰も守れず、逆に傷つけてしまった。あたしは……」

 

目の前に置いてあるショットライザーと、シューティングウルフプログライズキーを見るたびに、自責の念に駆られていく。

その時、部屋のドアが開き、エルフナインが入ってきた。

 

「奏さん、ここにいたんですね」

「エルフナインか……一体どうしたんだ?」

「これを渡しに来たんです」

 

エルフナインが奏に渡したのは、1つのプログライズキーだった。

見た目はシューティングウルフプログライズキーに似ているが、他との大きな違いは片側に付いている円状の大きなマガジンだろう。

 

「それは、ランペイジガトリングプログライズキー。仮面ライダーバルカンの最終フォームともいえる形態へと、姿を変えるためのプログライズキーです」

「こいつも、何か条件があるのか?」

「はい。ですが、はっきりとしたことは何も……」

「そうか……」

「あの、奏さん。あんまり落ち込まないでくださいね。あれは、誰も予想できなかったことでしょうから」

 

奏がアウラネルを倒し、更にはキャロルに戦いを挑んだ時、エルフナインの観測では奏のバイタルが、異常に上昇していたのだ。

エルフナインが考察するに、おそらく強い感情の発現を必要とするアサルトウルフならびにシューティングウルフが、逆に奏の感情、否、激情とも呼べる思いに耐えることができなかったことが原因だろう。

だからこそ、エルフナインは奏をフォローしたのだが、奏には気休めにもならなかった。

 

「すまねえ……少しの間だけ、1人にしてくれ」

「あ……」

 

そう言って奏は休憩室を出る。一人取り残されたエルフナインは、今のこの状況にそこはかとない不安を覚えるのだった。

 

 

 

その頃、S.O.N.G.保有の潜水艦の医務室では、セレナと七海の言い合う声が聞こえていた。

 

「別にこれくらい大丈夫だって……」

「ダメです。しっかり大人しくしておいてください」

「キューキュルルー!」

「バウ!バウ!」

「クウー!」

 

起き上がろうとする七海を、セレナが押しとどめる。ちなみにこれで5回目である。

フルライズアニマルたちも、七海の上に乗っかり寝させようと躍起になってる。

やがて不貞腐れたようにベッドに寝転がる七海に、セレナは苦笑をこぼす。

 

「はぁ……」

「先生のことや持ち去られたハザードトリガーのことが心配なのは分かりますけど、今のお姉ちゃんは怪我人ですよ?」

「それだけじゃないんだよなぁ……」

「え?」

「実は、キャロルが裏切ったすぐ後くらいから、家の地下区画に置いてあるはずの聖遺物が消えてた。持って行ったのは、おそらくキャロルだろうね。」

 

唐突に語られたことに、セレナは目を見開く。

それもそうだろう。七海たちの家にある聖遺物は、いずれも七海たちが集め暴走することがないように封印したものばかりだ。

特に地下区画と言えば、かなりの危険を伴う聖遺物ばかりである。

その危険性から決して近寄ってはいけないと、セレナは口を酸っぱくして言われていた。

 

「それに加えて、いくつかの聖遺物も持っていかれたよ。全部持っていかれなかったのは、私が万が一に備えてつけておいた特製の警備装置のおかげかな」

「そんな呑気な!?持ち去られた聖遺物はなんなんですか?」

「いろいろあるけど……一番ヤバいのは、ネフィリムかな」

「ッ!?」

 

完全聖遺物ネフィリム。自立行動を取ることが可能な珍しい聖遺物であり、それ故に他の聖遺物を食らうことで成長する、まさに生きた天災。

過去にF.I.S.が暴走させ、セレナが命を懸けて鎮めようとした。しかしその記憶はセレナに深いトラウマを刻み、名を聞くだけでも体が震えてしまう。

 

「……大丈夫、大丈夫だよ」

「はい……」

 

案の定、震えだしたセレナを七海は抱いて、ゆっくり頭を撫でてやる。

落ち着いてきたのか、セレナの震えが収まったことを確認し、身体を離す。

 

「でも、あの聖遺物を一体何に使うつもりなんでしょう?」

「さあね。でもまあ、碌でもないことに使うつもりなんでしょうけど」

 

七海がそう言ったのを皮切りに、しばらく沈黙が続く。

その沈黙が気まずいのか、セレナはポケットからある物を取り出す。

 

「お姉ちゃん。これ、残りの修理箇所やっておきました」

「おお!ありがとうセレナ!」

 

セレナが取り出したのは、七海が修理していたクラッシュブースター。

これで七海はオーバーグリスに変身することができる。

 

「今までの戦闘データから、戦闘時間も大幅に伸びたし、これなら少しは戦える」

「だとしても気をつけてくださいね?私も、ようやく仮面ライダー迅のパワーアップアイテムが完成しましたし」

「クーゥ!」

 

セレナの言葉を肯定するように、ライトペガサスがセレナの肩に乗り、自身に装填されていたプログライズキーを取りだす。

そのプログライズキーは、白と銀の装飾が施されており、神々しい感じが伝わる。そして、そのプログライズキーが何なのかを、七海はよく知っていた。

 

「ついに出来たんだ。仮面ライダー迅の強化プログライズキーにして、まったく新しいプログライズキー」

「想像上の生物のデータが記録されたプログライズキーの強化版、ムゲンライズキー。その一番目。その名もセイントペガサスムゲンライズキーです!」

「クゥ!クーゥ!」

「おめでとう、セレナ」

「えへへ……」

 

自慢げなセレナの頭を撫でて褒めてやると、セレナはヘニャッと表情を崩してはにかむ。

その様子に、リボルウルフとクローズドラゴンも嬉しそうに跳ねていた。

 

 

 

 

 

トレーニングルームでは、エルフナイン主導で装者たちの強化システムの試運転が試されていた。

 

「すごい……これが……」

「はい、みなさんの新たな力です」

 

呆然と呟いた翼に、エルフナインが答える。

かねてより改修が行われていた天羽々斬、イチイバル、アガートラームの改修がやっと終わり、それぞれの装者が試運転をした。

結果はかなりのもので、仮想敵とはいえ大型のノイズ数体をあっという間に倒して見せた。

これならば、ライダーシステムとも戦えるようになるだろう。

 

「ふう……何とか完成に漕ぎ着けることができたわね」

「はい。協力していただいて、ありがとうございました、了子さん。そしてドクターウェル(・・・・・・・)も」

「こぉの僕が協力したのですから、とぉうぜんですよぉ!」

 

エルフナインが隣にいる協力者にお礼を言うと、1人の男の声が微妙に上から目線で話す。

この男性の名は、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス。

元はF.I.S.の科学者だったが、マリアたちの亡命を手引きした人物の1人でもある。

マリアたちからはドクターウェルと呼ばれている。

F.I.S.解体のゴタゴタの後処理のために、一時的に米国に戻っていたが、日本での状況を聞いて後処理も終わりかけていることから、一足早く日本に来ていたのだ。

科学者としてはかなり優秀で、こうしてシンフォギアの『Project;DUAL』にも協力していた。彼のおかげで、想定以上に早く終わったと言ってもいいだろう。

ただ、彼の性格には少々難点があり―――

 

「しかぁし!この程度で終わりではありませんよ。今の試運転の結果から、いくつかの矯正するポイントも見えています。英雄ならばぁ!このような些細な点を見逃すなどありえなぁい!すぐに作業に取り掛からなければ!」

 

どうも彼は「英雄」というものに憧れているらしく、時々テンションが爆上がりすることがある。

黙っていれば優男だというのに、このテンションが全てを台無しにしてしまう。

しかし、意外にも彼と気の合う人物もおり、それがエルフナインだった。

 

「そうですね。装者の皆さんのポテンシャルも、想定以上の数値です。これなら、もう少し出力を上げても……」

「ふーむ。ですが、ほんの少しでも上げすぎると、シンフォギア自体が自壊してしまうでしょうね。やはりここは……」

 

根っからの研究者気質のエルフナインと、優秀な研究者であるドクターウェルはどうも気が合うらしく、彼が来てからは研究話を肴に盛り上がっていることもしばしば。

ちなみに、エルフナインが楽しそうな様子を見て、焼きもちを焼いてる少女が若干一人いたりするのだが……悲しいことにエルフナインは気付いていない。

今でもあーだこーだと話し合う2人を見て、了子はため息を一つ着く。

どうやら今日も残業の様だ。

 

 

 

 

 

 

 

《???side》

 

プシュー!と音を立てて、ポッドの扉が開く。

大量の煙と共にでてきたのは、全裸状態のアウラネルだった。

 

「起きたか、アウラネル」

「はい、マスター。不覚を取ったこと、誠に申し訳ありませんでした。処分はいかようにも……」

「いい。オレもまさか、あそこまでのものとは思っていなかったしな。やつのデータをラーニングさせた今、お前の敵ではない。それよりも……」

 

奏に破壊されたことを悔やむアウラネルを適当にあしらい、キャロルはカラフルな法螺貝――完全聖遺物『ギャラルホルン』が置かれている部屋に入る。

その隣には、七海から奪ったハザードトリガーが空中に浮いており、それを囲むように魔方陣が設置されていた。

 

「さあ!面白いことが始まるぞ……!」

 

キャロルが興奮したように、両手を広げるとハザードトリガーから黒い粒子がギャラルホルンに流れ込み、ギャラルホルンから紫電が発生する。

やがて黒い粒子はすべて吸い込まれ、ギャラルホルンから黒い光が放たれ人の形を映し出していく。それは次第に色が映り、細かいパーツが描かれ、1人の人間の女性として完成した。

 

「ククク……ハーハッハッハッハッ!」

 

キャロルの笑いが部屋に響きわたり、ギャラルホルンから現れた女性が顔を上げる。

 

その女性は透き通った黒い瞳と、サラリとした黒髪を持っていた。

 

 

 

 

 

そして、上も下も右も左もわからないような場所で、鎖に繋がれた少女は、ただ淡々と愛しの少女の名を呟いていた。

 

「七海…七海…七海…………助けて」

 

 

 

 





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キャラクター紹介

天羽奏/仮面ライダーバルカン
姉御肌な女性で、元アイドル。元々は翼とユニットを組んでいたが、ネフシュタンの鎧の起動実験を並行していたコンサートで起きた事件によって、精神的な問題で歌が唄えなくなり、アイドルを引退した。
一応シンフォギアの聖詠と戦闘時の歌は歌える。
ガングニールの装者だったが、キャロルの裏切りによって空いた仮面ライダーバルカンの装着者になる。
彼女の感情は時と場合によって、ライダーシステムに負担を与えるほど強力。
変身ポーズは原作のバルカンに準ずる。




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55 迷いと決意と大天災

平行世界の響って、やっぱ可哀そうですよね……こんなに泣いたのは久しぶり。







《S.O.N.G.side》

 

S.O.N.Gの本部では、アラームがけたたましく鳴っていた。

 

「緊急事態発生!」

「エリアA、エリアC、エリアGの発電所で爆発が!それと同時に、それぞれの発電所にキャロルたちの姿があります!」

「まさか、奏が倒したはずのアウラネルまで出てくるとは……アンドロイドの強みだな」

「師匠!」

 

オペレーターの報告を聞きながら、苦々しく呟いた弦十郎の元に、装者たちと七海たちが訪れる。

 

「皆来たか!時間がない。キャロルくんがいるエリアAには七海くん、響くん、クリスくんが。比較的数が少ないエリアCには奏と翼が。そして、数の多いエリアGにはセレナくんとマリアくん、切歌くんと調くんに向かって貰う」

「「「「「「「「了解ッ!!」」」」」」」」

 

指示された通りの3組に分かれて、それぞれのヘリに乗り込み、事件現場へと向かった。

 

《奏side》

 

あたしと翼はエリアCの発電所に着いた。

おっさんから聞いてた通り、視線の先にはたくさんのトリロバイトマギアが居やがった。

 

「ほう……貴女方ですか」

「お前は……アウラネル!」

「そんな!?奏が倒したはずなのに……」

《ポイズン!》

「私はアンドロイドですので、バックアップがあれば復活できます」

《フォースライズ!》

 

アウラネルの野郎はフォースライザーとかいうベルトにスティングスコーピオンプログライズキーを装填し、レバーを引いて強制的に展開した。

サソリ型のライダモデルが、鋭い尾をアウラネルの胸部に突き刺しアーマーを形成する。

 

「変身」

《スティングスコーピオン!》

《Break down》

「上等だ。やってやるよ!」

 

あたしはエルフナインが渡してくれた、ランペイジガトリングプログライズキーを取り出そうとして、前回どうなったかを思い出した。

そんなあたしが気になったのか、翼はあたしに声をかける。

 

「奏?」

「……いや、何でもねえ」

 

何をやってるんだあたしは。敵の目の前だぞ。

気を取り直し、ランペイジガトリングではなくアサルトウルフプログライズキーを取り出す。

 

《アサルトバレット!》

《オーバーライズ!》

《Kamen Rider......Kamen Rider......》

「変身ッ!!」

 

狼の幻影を纏った銃弾はアウラネルに突撃するけど、アウラネルのアタッシュアローで弾かれる。

そのまま戻ってきた銃弾を、掴んで握りつぶす。

 

《ショットライズ》

《レディーゴー!アサルトウルフ!》

《No chance of surviving》

Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

 

あたしは仮面ライダーバルカンに、翼は天羽々斬を纏う。

 

「行きなさい」

 

アウラネルの指示で大量のマギアが殺到する。

あたし達の方が数が少ないって聞いたが、それでこれなんてな……おもしれぇ、ぶちかましてやるよ!

 

心がたぎる……あたしの憎しみが(・・・・・・・・)煮えたぎってるんだよぉ!(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

《セレナside》

 

私たちが担当のエリアGの発電所に着くと、そこはすでに破壊しつくされた後で火の海でした。

その光景に、私はネフィリムが暴走した時のことを思い出して、発作の震えが起き始めました。

ですがその時、マリア姉さんが私の肩に手を置きましたた。

 

「大丈夫、セレナ?」

「姉さん……はい。何とか大丈夫です」

 

姉さんの声に、震えが収まるのを感じました。なんだか、お姉ちゃんに抱きしめてもらった時みたいです。

その時、この戦場には場違いなほど明るく、無邪気で、そして恐怖が湧く声が聞こえました。

 

「アハハハッ!こっちに来たのは貴女たちなんだ!」

「ウフフフ…。まあ、この場所はそれなりに大きい場所で、私たちもある程度の数を投入していましたしね」

「ネリとモネ……」

「アハハハッ!あのワンちゃんがいないのは残念だけど、貴女は楽しませてくれるのかな?」

「セレナ以外眼中にないって事かしら?いいわ。だったら、いやでも気を引いてあげる!」

「いくデス!」

「…うん。みんなで、生きて帰るの!」

「はい!行きましょう、みなさん!」

 

《インフィルノウィング!バーンライズ!》

《Kmen Ridar......Kmen Rider......》

「変身ッ!」

 

フェニクッス型のライダモデルが私を包み込み、その翼を装甲へと変えていく。

……温かい。私も、この炎のように誰かの心を温かくしたい。

だからまずは、大切な家族を守るために……力を貸してください!

 

《スラッシュライズ》

《バーニングファルコン!》

《The strongest wings bearing the fire of hell!》

「Seilien coffin airget-lamh tron」

「Various shul shagana tron」

「Zeios igalima raizen tron」

 

私は仮面ライダー迅、姉さんはアガートラームを、暁さんはイガリマを、月読さんはシュルシャガナを纏う。

 

《 《ギアリモコン!》 》

《 《ギアエンジン!》 》

《 《ファンキーマッチ!》 》

「バイカイザー」

「潤動」

《 《フィーバー!》 》

《 《パーフェクト!》 》

「バイカイザー、参上」

「ヘルブロス、推参。……マギア」

 

モネとネリも、バイカイザーとヘルブロスに変身し、トリロバイトマギアに命令を出しました。

私たちもそれぞれの武器を構え、戦闘を開始する。

 

家族を守るために……私はこんなところで終わってなんていられないんです!

 

 

《七海side》

 

私たちがエリアAの発電所に着いた途端、トリロバイトマギアが一斉にアサルトライフルを向けてきた。

だがそれは織り込み済み。すでにシンフォギアを纏っていたクリスが、ガトリングを乱射する。

 

「発電所はほぼ壊滅か。……何でキャロルはここを狙ったんだ?」

「そんなの後で考えろよ!来るぞ!」

「私が!」

 

響が前に出て、ナイフを持ったトリロバイトマギアを薙ぎ払う。

クリスの言うとおり、キャロルの目的を考えるのは後にするとしよう。

 

《ロボットゼェリィィ!》

「変身」

 

ビーカーが私を覆い、中を液体で満たす。

スーツが私を包み、噴出した液体がアーマーを形成する。

 

《潰れるぅ! 流れるぅ! 溢れ出るぅ!》

《ロボッットォイングゥゥリスゥゥゥ!》

「心火を燃やして、ぶっ潰す!うらああ!」

 

左のツインブレイカーを撃ちながら、右のツインブレイカーで殴り倒す。

離れた位置にいるマギアが撃ってきたロケットランチャーの弾を、上に打ち上げる。

 

「一蹴…豪快…撃破ァ!」

《スクラップフィニッシュ!》

 

地面を思いっきり殴りつけると、前方にいるマギアの集団の足元から、エネルギーが噴出し爆発を引き起こす。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…キャロルはどこに……

《パーフェクトライズ!》

「フン!」

「グァ!?」

 

キャロルを探していると、唐突に背後から斬りつけられた。

 

《When the five horns cross,the golden soldier THOUSER is born.》

《Presented by Alchemist!》

 

後ろを振り向くと、サウザンドジャッカーを振り抜いた体勢で、キャロルが変身する仮面ライダーサウザーが立っていた。

 

「あれだけやられたくせに、まだ出てくるのか」

「おい、七海!」

「七海ちゃん!……ッ!キャロルちゃん……」

 

私の元にクリスと響が合流した。

これで3対1だけど、それでも油断できる相手じゃない。

 

「……遊んでやりたいのはやまやまだが、お前たちの相手は私じゃない」

「なんだと……?」

《JACKING BREAK!》

「フン!」

 

キャロルが振るったサウザンドジャッカーから、火の鳥が飛んでくる。

おそらく、バーニングファルコンのデータを使ったのだろう。

私は咄嗟にクリスと響を庇うが、火の鳥の突撃を食らい吹き飛ぶ。

 

「グゥ!……この程度!」

 

なんとか直撃は免れていたため、そこまで大きなダメージではない。

だけど、私は背後から迫る気配に気付けなかった。

 

「……よっと!」

「なッ!?しまっ……!」

 

背後から接近していた黒のパーカーを着た何者かに、腰のあたりを掴まれる。

それに驚いた私は碌に動くことができず、黒のパーカーを着た人物はキャロルの隣に行ってしまう。フードを深くかぶっているようで、その顔は見えない。

 

「フフ……これは貰ったよ」

 

そう言って、黒のパーカーの人物が掲げた右腕にはラビットフルボトルとタンクフルボトルが。

腰についてるボトルホルダーに手をやると、2つのスロットに空きがあった。

 

「あなたは……」

「こいつはオレの新たな僕だ」

 

キャロルの言葉に応えるように、黒のパーカーの人物はフードを取る。

フードを取った瞬間に、煌びやかな長い黒髪が広がる。

そして、その顔を見た瞬間、私と…クリスの動きが止まる。響も少なからず動揺していた。

 

「なん、で」

「おい……ウソだろ……?」

 

パーカーの人物は不敵に笑い、腰にビルドドライバー(・・・・・・・・)装着する。

 

「なんで、ここにいるんだ。姉さん(・・・)ッ!!」

 

私の叫びに構うことなく、パーカーの人物―――宵姫黒夜はボトルを振り、ビルドドライバーにセットする。

 

《ラビット!》

《タンク!》

《ベストマッチ!》

 

姉さんがビルドドライバーのレバーを回すと、姉さんの周囲にパイプが展開され、その中に赤と青の液体が流れる。

 

《Are you Ready?》

「……変身!」

《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!》

 

赤と青の装甲が姉さんを挟み込み、1人の仮面ライダーを創造(ビルド)する。

 

「紹介しよう。オレの新たな僕……宵姫黒夜だ」

「というわけで、よろしく」

 

あの大天才(大天災)が再び帰ってきた。

 

 

 




というわけで、帰ってきた黒夜さんです。
まあ、彼女にはいろんな意味で暴れてもらいます。

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キャラクター紹介

風鳴弦十郎
S.O.N.G.の司令。OTONAとしてとてつもない戦闘力を誇るが、司令という立場上軽々しく動くことができないことを、悔しく思っている。
他のスタッフたちや装者たちからは、絶大な信頼を得ている。












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56 ワタシたちの夢は壊れない

《三人称(奏)side》

 

「おらぁ!」

 

奏が振るうオーソライズバスターを、アウラネルはアタッシュアローで受け流す。

 

「フッ!」

「グゥ!」

 

振り下ろされるオーソライズバスターを、半身になって躱すと同時に蹴りを放つ。

胸部に食らった奏は数歩下がり、アウラネルはアタッシュアローから矢を放ち追撃する。

 

「寝ていなさい」

「やだね!」

《ガンライズ!》

 

しかし、奏は地面を転がることで回避し、さらにガンモードのオーソライズバスターで

迎撃する。

紫色の矢と黄色の砲弾が激突し、爆発を起こした。

 

「ウオオオオッ!」

 

オーソライズバスターを投げ捨てた奏は、煙の中を突っ切って殴りかかる。

不意を突かれたアウラネルはその身に拳打をあびるが、しかし一筋縄ではいかず、蹴りを屈んで回避し、そのままアタッシュアローの斬撃を浴びせていく。

 

「フン!」

「グアアアッ!」

 

さらに、零距離から放たれた矢によって、奏は火花を散らしながら倒れる。

しかし、すぐに立ち上がり再びアウラネルに向かっていく。

 

「おまえだけはぁ!」

「憎しみを胸に戦うか」

「だからどうした!てめぇらがソロモンの杖を使って、あの時、ノイズを使わなけりゃ!響が戦うことも!いろんな人が傷つくこともなかった!お前らのような奴がいるから!ずっと、ずぅっと!あたしの心から憎しみが消えねえんだよ!」

 

トリロバイトマギアと戦っていた翼は、奏の様子にエルフナインの言葉を思い出す。

 

『翼さん。奏さんが再びアサルトウルフに変身すれば、また奏さんが暴走する危険性があります。奏さんの様子には気をつけてください』

「くッ!まさか今の奏は……やめろ奏!」

 

奏が暴走しかけていることに気付いた翼は、アウラネルを殴り飛ばした奏の肩を掴み、必死に呼びかける。

しかし、アサルトウルフでも抑えきれない奏の強い感情は、そう簡単に止まることはない。

 

「どけぇ!」

「奏!」

「………」

《サンダー!》

「ハッ!?奏!」

《ライトニングカバンシュート!》

 

アウラネルがアタッシュアローを構えるのを見た翼は、奏を突き飛ばす。

その一瞬後、アタッシュアローから雷を纏った矢が放たれた。

 

「「うわあああああ!?」」

 

吹き飛んだ2人は地面に叩きつけられ、バルカンもシンフォギアも解除される。

アウラネルは倒れ伏す翼に近づき、首を掴んで持ち上げる。

 

「ぐッ……ガッ…ァ……」

「つば、さ」

 

奏は翼に這いつくばりながらも手を伸ばす。だが、その手は届かない。

 

「かな、で……」

「まずは一人」

「やめろ……やめろぉぉおお!!(失いたくない!奪われたくない!もう、守れないのは嫌だ!)」

 

アウラネルがアタッシュアローを振り上げる。

奏の叫びもむなしく、アタッシュアローは振り下ろされ、そして奏の意識を目映い光が覆った。

 

 

 

 

「ッ!?ここは……」

 

気づけば、奏は落ちていた(・・・・・)

真っ暗な穴をゆっくりと落ちていく。

 

「あたしは、死ぬのか?……いや、そんなのどうでも良い。翼は、翼はどうなる?」

 

奏は必死に手を伸ばす。だがその手を掴む者はいない。

 

「ちく、しょ……いやだ、いやだ。もう、失いたくない。失いたく…ないんだ」

 

このまま暗闇に落ちていく。そう思われた時、彼女の手を引く手があった。

男性らしき手で引かれた奏は、いつの間にか白い空間にいた。

 

「今度はなんだよ」

「……お前の夢はなんだ?」

「ああ?」

 

奏の目の前には、コートを着た男性が立っていた。彼は奏に問う。

 

「……お前の夢はなんだ」

「あたしの、夢。そんなの、アイツらをぶっ潰すことだ!」

「それが、本当におまえの夢か?」

「なんだと……?」

「おまえにも夢があったはずだ。今ある憎しみじゃない。純粋な夢が」

 

目の前にいる男の言葉が、奏の心を刺激する。込み上げる怒りのままに、男に掴みかかる。

 

「ふざけんな!あいつらのせいで、私の夢は消えた!もう、あの時のような夢なんて……!」

「あるだろ。お前にも、守りたいやつが」

「私の、守りたい……?」

 

その時、奏のポケットが光を放つ。光を放っていたのは、ランペイジガトリングプログライズキーだった。

 

「こいつは……」

「お前の守りたいもの、お前の夢に反応したんだ」

「あたしの夢に……」

 

奏の様子に満足した男は、奏の背中を押して近くに空いている穴につき落とした。

 

「あとはお前次第だ。ほら、行って来い」

「え?っておい!?やめ、押すなってぇえええええええ!?」

「今のお前なら、落ちることもないだろう」

「てめえ絶対憶えてろよぉおおおおおお!?」

 

 

 

 

 

「ぐッ…かな、で……」

「散りなさい!」

 

翼に向けてアタッシュアローが振り下ろされ……割り込んだ奏のショットライザーによって防がれた。

 

「何ッ!?」

「その手を……離しやがれぇ!」

 

アタッシュアローを弾き、零距離でショットライザーを撃つ。

 

「大丈夫か翼!」

「かな、で……」

「待たせたな……あたしはもう大丈夫だ」

「憎しみを抱き、闘争本能に支配される貴女に何かを守れると?」

「守ってやるさ。叶えたい夢ができた……いや、思い出したからな」

 

どこかすっきりとした表情の奏は、ショットライザーのバックルを腰に巻く。

そして取り出したのは、青いプログライズキーに円状のマガジンが付いたランペイジガトリングプログライズキー。

 

「どれだけ足掻こうと、貴女のデータは私にラーニングされている。変身しようと無駄だ」

「…………憎しみに囚われた夢を見るのはもうやめだ!あたしが守りたい夢、叶えたい夢。これから忙しいんでな」

《ランペイジバレット!》

「そんな暇ぁねえんだよッ!!ウアアアアアアアアアッ!!」

 

リミッターを解除するためのスイッチ「ガトリングリミッター」を押し、プログライズキーを力任せに展開する。

 

「フンッ!」

《オールライズ!》

《Kamen Rider......Kamen Rider......》

 

ランペイジガトリングプログライズキーをセットしたショットライザーを、バックルから外し銃口を正面に向ける。

 

 

「変身ッ!!」

《フルショットライズ!》

 

その言葉と共に引き金を引き、アウラネルに向かって歩き出す。

放たれた一発の銃弾が、複数のライダモデルに分離する。

ライダモデルは一斉にアウラネルに攻撃を仕掛け、その内の数体から生成された5発の銃弾が奏に向かって飛んでくる。

 

「グゥ!」

 

先頭の一発が奏の右肩にぶつかり、右腕を深い青色の装甲が包む。

 

「ガッ!」

 

次の一発が左足にぶつかり、左足を装甲が覆う。

 

「ダッ!グッ!ダァ!」

 

残り3発も左腕、右足、胴体にぶつかり、装甲で覆われる。

残った顔も装甲が包み、さらにライダモデルが装甲へと形を変え、奏の左半身へと装着される。

それに加え、左複眼の目元にも各ライダモデルの色のパーツが装着された。

 

《Gathering Round! ランペイジガトリング!》

《マンモス!チーター!ホーネット!タイガー!ポーラベアー!スコーピオン!シャーク!コング!ファルコン!ウルフ!!》

「ウオオオオオオオオッ!!」

 

仮面ライダーランペイジバルカン。10種のプログライズキーのデータを使用することで、完成したバルカンの究極の形態。

 

「オオオオオオ!!……ダァッ!」

 

咆哮を終えた奏は、再びアウラネルに向かって歩き出す。

トリロバイトマギアが奏に攻撃を仕掛けるが、奏はショットライザーで撃ち抜いていく。

 

「おらぁ!」

 

ナイフで斬りかかってきたマギアを左腕で受け止め、ショットライザーで撃ち抜く。

続く2体を殴り飛ばし、背後から襲いかかるマギアを背負い投げる。

 

「邪魔をするな!」

《パワー!スピード!ランペイジ!》

「フン!」

《ランペイジスピードブラスト!》

 

ランペイジガトリングプログライズキーのマガジンを2回回し引き金を引く。

 

「行くぞ!」

 

チーターのライダモデルの力によって超高速で動き、マギアに拳打を浴びせる。

 

「ハッ!オオオッ!」

 

次はファルコンのライダモデルの力で飛翔する。

そのままホーネットのライダモデルの力で、蜂の針を模したエネルギー弾で爆撃してマギアを一掃した。

 

「フッ!」

「ッ!ラァ!」

 

着地した奏に、アウラネルがアタッシュアローで斬りかかる。

奏もオーソライズバスターを取り出して迎撃する。

 

「……くッ。私はこんなものなのか。奏が立ち上がったというのに、私は……いや、良いわけない!」

 

翼も傷をこらえて立ち上がり、シンフォギアのペンダントを強く握る。

 

「私だって、諦めたくない!夢を、未来を!」

Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

 

聖詠を歌い、天羽々斬を纏った翼は、左腕に装着されている「コネクティブユニット」のダイヤルを回し、中央のボタンを押す。

 

「デュアルシステム、コネクト!」

《デュアルリンク!アメノムラクモ》

 

翼のシンフォギアの姿が変わり、頭には鉢巻き、サムライを思わせる姿に変わった。

これが『Project:DUAL』によって開発された新兵装「デュアルシステム」。

6つの聖遺物の欠片から作られた特殊な兵装を、従来のシンフォギアに加えて、もう1つのシンフォギアとして展開することで、反動を減らし尚且つスペックを上げることに成功した。

 

「これが新たな力……使いこなさせてもらうさ」

 

左腰に着けられた刀「天叢雲剣」を抜刀し、更に右腰の「天羽々斬」も抜刀する。

 

「セヤアアッ!」

 

翼は2刀流でトリロバイトマギアに斬りかかる。

見る者に美しいと感じさせる剣技で、次々と切り捨てていく。

 

「翼ッ!?その姿は……」

「奏。貴女だけじゃない。私も戦う!」

「へッ!ああ、行くぜ翼!」

「「オオオオッ!」」

 

2人は同時にアウラネルに攻撃を仕掛ける。

最初に斬りかかった翼の刀を、アウラネルはアタッシュアローで防ぐ。

刀を弾き、奏のオーソライズバスターの一撃を横転して躱す。

 

「フッ!」

「させるか!」

「ハァア!」

 

アウラネルが矢を放つが、奏がオーソライズバスターを盾にして防ぎ、その背後から翼が飛び越して斬りかかる。

奇をてらった攻撃をアウラネルは防ぐことは出来ず、2振りの斬撃に切り裂かれる。

 

「ヌゥ……!」

「これで止めだ!」

 

奏はマガジンを一回回し、引き金を引く。

 

《パワー!ランペイジ!》

《ランペイジパワーブラスト!》

「ラァアアアア、ダァ!」

「ヌァ……!」

 

コングの力を得た右腕を地面に叩きつけ、地震を発生させてアウラネルの動きを止める。

 

「フン!」

「グァ!」

 

さらに右足を振り上げ、マンモスのライダモデルを模したエネルギー体で蹴り上げる。

そのまま跳躍した奏は、シャークのライダモデルの力で威力を増した回し蹴りで、アウラネルを吹き飛ばした。

 

「ハッ……ハアアアア!」

 

ラ パ ワ ー ブ ラ ス ト

 

 

 

 

 

 

「グ、オオオ……」

「翼、こいつで決めるぞ!」

「ああ、私たちなら、どこまでも飛んでいける!」

 

奏はマガジンを4回回し、翼は2振りの刀を合体させる。

 

《パワー!スピード!エレメント!オールランペイジ!》

「フン!ハアアアア………」

「受けてみろ、防人の剣を!ハアアアア!」」

【叢雲ノ一閃】

 

翼はアウラネルに接近し、合体させた刀を振り抜いて切り裂き打ち上げる。

 

「ハアアア……ハァ!」

 

そして左背面部の翼をアンカーとした奏も、10種のライダモデルの力を集結させたウルフ型のライダモデルを放つ。

撃ちだされたライダモデルは、虹色の光を放つ銃弾に変わり、空中のアウラネルを貫いた。

 

ラ オ ー ル ブ ラ ス ト

 

 

 

 

 

「グアアアアアアッ!」

 

「ランペイジオールブラスト」に貫かれたアウラネルは爆散。

新たな力を得た2人に撃破された。

 

 




ランペイジバルカンとーうじょーう!
個人的にはゼロワンライダーの中で、一番好き。

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キャラクター紹介

アウラネル/仮面ライダー滅
敵対したキャロルに付き添う、従者的な存在。キャロルをマスターと慕い、彼女の幸せの為に動く。
キャロルが裏切る前から暗躍しており、何度も七海たちと相対してきた。
キャロルが裏切ってからは、フォースライザーとスティングスコーピオンプログライズキーを使い、仮面ライダー滅として戦いに繰り出す。


デュアルシステム
キャロルたちに対抗するために発案された『Project:DUAL』で設計された新兵装。
新たなシンフォギアシステム『リンクギア』を、従来のシンフォギアと同時展開することで、新たな力を得ることが可能になった。
リンクギアは6つの聖遺物の欠片から作られており、それぞれが各装者たちごとに適合率が違う。
一番の大きな特徴は、6つのリンクギアは装者間で使いまわすことが可能なこと。例を言えば、風鳴翼が一番適合率が高いリンクギア『アメノムラクモ』を立花響が使うことも可能。
リンクギアの展開には、『コネクティブユニット』を使用。展開するリンクギアの目盛にダイヤルを動かし、中央のボタンを押すことで展開する。





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57 煌めきのキング 前編

54話で「セイントペガサスプログライズキー」と書いてたんですが、よくよく考えると、プロブライズキーの名前って○○○イング+動物なので、「セインティングプログライズキー」に変更しました

それから、思ってたよりも長くなったので、前編後編に分けました。


《三人称(セレナ)side》

 

燃え盛る発電所で、銃声と金属がかち合う音が絶えず響く。

 

「調!」

「…うん、切ちゃん!」

 

調の放った大量の鋸が、トリロバイトマギアたちの動きを阻害する。

その隙を見逃すことなく、切歌が魂を刈り取るイガリマの鎌を振るい、マギアたちを一気に殲滅していく。

 

「やったデス!調!司令さんとの訓練の成果が出てるデスよ!」

「…そうだね。でも、まだ油断できない」

 

キャロルが裏切ったあの日、強大な力を突きつけられ力不足を痛感した2人は、時間を作っては、可能な限り弦十郎に訓練をお願いしていたのだ。

もちろん、他の装者たちとの訓練も行っていたが、シンフォギアを使った訓練をしていなかったマリアを、短期間で成長させたことを見込んでだった。

だが、その時2人はまだ甘く見ていたのだ。弦十郎と言う男の異常な戦闘能力を……。

 

「あの時の訓練の厳しさは今でも思い出せるデスよ……」

「切ちゃん!おかわりきた!」

「合点承知デス!」

 

苦い思い出を思い出した切歌は、空虚な笑い声を上げる。

しかし、それも訓練の賜物(?)のおかげか、調の声に気持ちを切り替え再び鎌を振るった。

 

 

そしてマリアとセレナの姉妹コンビは、ネリとモネのくしくも同じ姉妹コンビと相対していた。

 

「「ハアアア!」」

《バーニングレイン!》

《アイススチーム》

 

セレナの炎の斬撃と、ネリの絶対零度の斬撃がぶつかり合い、辺りを水蒸気が包みこむ。

その直後、主翼「バーニングスクランブラ―」を広げたセレナが、勢い良く飛び上がる。

さらに、その後を追うように、2つの歯車型のエネルギー体が飛び出す。

 

「く、くぅう……キャア!?」

 

必死に躱すセレナを、上下から挟み込んで捉える。

地面に投げ出されたセレナは地面を転がる。

 

「アハハハッ!ほら……早く立ってよ」

「グッ……」

「もっともっと遊ぼうよぉ!」

「アアッ!」

 

セレナを強制的に立たせ、ネリは癇癪を起こした子供の様に何度もスチームブレードを叩きつける。

何度も叩きつけられるスチームブレードに、セレナは堪えきれず膝をつく。

 

「セレナッ!」

「ウフフフ…。貴女の相手は私ですよ?」

「ッ!この、そこをどきなさい!」

 

セレナのピンチを見たマリアは、すぐに救援に入ろうとするが、ライフルモードのネビュラスチームガンでのモネの射撃に足止めされてしまう。

マリアはさっきからモネを相手に、苦戦を強いられていた。

 

「このッ!」

「ウフフフ…」

 

モネはネリと比べ、近接能力は劣るものの射撃のセンスが高い。

その能力を持って、マリアの主武装である操舵剣の関節を狙っているのだ。

操舵剣は鞭のようにしなることが強みだが、鞭の動きを再現するためには多くの関節が付いている。

間接を狙い打たれ、操舵剣はすぐに破壊されてしまうのだ。

 

「ッ……だったら!」

 

マリアは破壊された操舵剣を投げ捨てて、右手に短剣を取り出し、モネに向かって斬りかかる。

しかし、モネもそれは予想済み。

ライフルモードである銃身の長さを利用して、次々と振るわれる短剣を逸らしていく。

 

「フッ!」

「なんですって!?」

 

ネビュラスチームガンを振り上げると同時に、バク宙しながら跳躍。

眼下にいるマリアに、ネビュラスチームガンを乱射する。

 

「アアアッ!」

 

激しい銃弾の嵐に晒されたマリアの周囲で爆発が起こり、マリアは大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「アハハハッ!どうしたのよ!このままだと、死んじゃうよ!?あの奏者も、殺されちゃうよ!?」

「ねえ、さ……アアッ!」

 

地面に倒れるマリアにセレナは手を伸ばすも、再びネリが立ち上がらせ蹴り飛ばす。

ゴロゴロと地面を転がり、セレナの変身が解除された。

 

「マリアァ!」

「…セレナッ!」

 

無惨にもやられてしまったマリアとセレナに、切歌と調の注意が逸れる。

その一瞬が隙となり、数体のトリロバイトマギアが撃ったロケットランチャーを食らってしまう。

 

「「キャアァッ!」」

「暁さん…月読さん……」

 

シンフォギアこそ解除されていないが、ダメージを負った2人は立ち上がることができず、その2人にトリロバイトマギアが近づいていく。

その様子を見たセレナは、倒れながらも2人に手を伸ばすが、しかしネリが伸ばした手を踏みつける。

 

「うぁ……!」

「アハハハッ!かわいそぅね……アハハハッ!」

 

セレナの手を踏みつけながら、ネリは狂ったように笑う。

モネはその様子を見ながら、マリアに聞かせるように言う。

 

「ウフフフ…。私たちは先日の一件の後、貴女たちのデータをラーニングされると同時に、バイカイザーとヘルブロスにはスペックの改良がおこなわれました。まあ、その結果ネリはいつにもまして好戦的になりましたがね」

「くッ……セレナ」

「アハハハッ!まずはあそこの2人から……」

「やめ、て……」

「ん?」

「おねが、い…し、ます……やめて」

「んー、どーしよっかなー……アハハハッ!なーんてやめるわけないじゃーん!」

「うぁあ……」

 

ネリはセレナの懇願を容易く切り捨て、一際強く手を踏みつける。

 

「(いやだ……せっかくまた会えたのに、もう離れたくない。みんなで暮らせるようにって、今まで頑張ってきたのに、こんなところで……終わりたくない!)」

 

セレナが心で強く願った瞬間、セレナの傍に転がっていたスラッシュライザーに装填されっぱなしの、バーニングファルコンプロブライズキーが強く光り、セレナを炎の渦が巻き起こった。

 

 

 

 

「……ここは……私は確か、炎に呑み込まれて……」

 

セレナが目を開けると、そこは炎に包まれた大地だった。

周囲を見渡していると、後ろからセレナに声をかける人物がいた。

 

「君が、この世界の仮面ライダー迅か」

「え……?」

 

セレナが背後を向くと、そこにはスーツ姿の青年がいた。

青年はセレナに向けて微笑むと、彼の傍に不死鳥のような炎の鳥が舞い降りる。

炎の鳥の頭(?)を撫でながら、青年はセレナに問いかける。

 

「君も、守りたいものがあるのか?」

「守りたいもの……」

「そうだ。守りたいものがあるから強くなる。それが、人なんだろ?」

 

突然質問されたこともそうだが、続く言葉にセレナは困惑する。

そんなセレナに青年は再び微笑むと、空を見上げる。

 

「今は気付かなくても、大丈夫さ。きっと気づける。気付かせてくれる人が、君にはいるんだろう?」

「あ……」

 

セレナが青年の視線を追いかけると、曇っていた空から光が差し、そこから翼が生えた白馬が降りてくるのが見えた。

 

「ペガ、サス……?」

 

七海に救われる前、F.I.S.にいた頃にはあまりそういう事を知らなかったが、七海たちの元で暮らしてから身に着けた知識で、その姿を知っていた。

そして、天から舞い降りたペガサスは、青年とセレナの間に着陸する。

 

「さ、お迎えだ。君が守りたいものを守れることを、生きてその人たちを帰れることを、願ってるよ」

「ま、待って……ッ!?」

 

思わず青年に手を伸ばしたセレナの視界を、目映い光が覆い尽くした。

 

 

 

場所は変わり、セレナを中心に発生した炎の渦に、ネリは困惑していた。

 

「くッ……一体なんだってのよ」

 

やがて炎の渦は消え、中から出てきたのは、立ち上がっているセレナだった。

その顔に浮かぶのは恐怖や悲しみなどではない。何者にも恐れない、勇気と決意の表情を浮かべていた。

驚くネリやモネ、マリアたちを尻目に、スラッシュライザーのバックルを腰に巻く。

 

「クウクウ、クーウ!」

「ッ!?ちょっ、何!?」

 

そこに、ライトペガサスがネリに攻撃しながらやってくる。

セレナの隣に滞空するライトペガサスは、自身の身体から「セインティングペガサスムゲンライズキー」を排出。

そのムゲンライズキーを掴んだセレナは、起動スイッチ「ホープスターター」を押して起動する。

 

「私の家族は……」

《ブレイブ!》

「……誰にもやらせない」

 

スラッシュライザーにセインティングペガサスムゲンライズキーを装填し展開する。

 

《ムゲンライズ!》

《Kamen Rider......Kamen Rider......》

 

ここでいつもならトリガーを引くのだが、今回は違った。

待機状態になったスラッシュライザーをバックルから外す。それと同時に、セレナの周囲に王を守護する光の剣「ソードクリスタ」が12本出現する。

12本のソードクリスタはセレナの周囲を円状に周回し、セレナは手に持ったスラッシュライザーを天高く掲げた。

 

「………変身ッ!ハッ!」

《スラッシュライズ!》

 

12本のソードクリスタとスラッシュライザーから光の柱が上り、13本の光はペガサス型の「ファントムモデル」を生成する。

ファントムモデルは嘶きを上げながら、ネリやモネ、トリロバイトマギアたちをなぎ倒し、自身の主(セレナ)の背後へと降り立つ。

ファントムモデルの身体が、分解と同時に装甲を生成。王を守る純白の鎧となりセレナの身を包んでいく。

 

《Hope of legend! セイントペガサス!》

 

仕上げに12本のソードクリスタがマントとなり、セレナの背部に装着された。

さらにライトペガサスが変形し、スラッシュライザーの先端に合体される。

 

The sword that pays the darkness is the proof of the king(闇を払う剣は王の証)

「仮面ライダー迅……私の光は、尽きることのない無限の光です」

 

 



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58 輝きのキング 後編

本日2本目です。ご注意を。




《三人称(セレナ)side》

 

The sword that pays the darkness is the proof of the king(闇を払う剣は王の証)

「仮面ライダー迅……私の光は、尽きることのない無限の光です」

 

仮面ライダー迅 セインティングペガサス。ムゲンライズキーによって誕生したセレナの新たな姿。

その純白の輝きは見る者に威光を知らせ、何者にも恐れることのない王の姿である。

 

「アハッ……アハハハッ!いいよ、いいよ!それなら、私を楽しませてくれそうだねぇ!」

「………………………」

 

ネリはセレナの新たな姿を見ても恐れることなく、果敢に立ち向かう。

対するセレナは言葉を発することなく、ネリを見据える。

 

「ハアッ!……何!?グァ!」

 

ネリが振るったスチームブレードを、セレナは左腕の手甲で弾き、そのまま左手の裏拳を当てる。

たったそれだけで、ネリは大きく吹き飛ばされた。

 

「フッ!」

 

状況を重く見たモネも乱入し、セレナの背後からネビュラスチームガンを撃つ。

しかし、その銃弾はセレナを守るように現れた3本のソードクリスタによって防がれた。

 

「なんですって!」

「行きなさい」

 

今頃、撃たれたことに気が付いたかのように、ゆっくりと振り返ったセレナはスラッシュライザーを振るう。

王の命令に従い、3本のソードクリスタはモネへと突撃。

モネは撃ち落とそうとするも、放つ銃弾はすべて弾かれてしまい、モネはソードクリスタによって弾き飛ばされた。

 

「す、すごい……」

「マリア!」

「切歌、調、無事かしら?」

「…なんとか」

 

セレナの戦う様子を見ていたマリアの元に、切歌と調が合流する。

お互いの無事を喜ぶのも束の間、再び大量のトリロバイトマギアが到来した。

 

「またおかわりデスか……」

「上等ね。このままやられっぱなしは性に合わないわ」

「…うん。今度は私たちの番」

 

3人はお互い顔を見合わせ頷くと、右腕の「コネクティブユニット」のダイヤルを回し、中央のボタンを押す。

 

「「「デュアルシステム、コネクト!」」」

《デュアルリンク!ヘルメス》

《デュアルリンク!クルースニク》

《デュアルリンク!ツクヨミ》

 

3つの光がそれぞれを包み、3人のシンフォギアの姿が変わる。

マリアには、肩に翼のような装飾、マントを羽織り、一振りの長剣「ヘルメスの剣」を握っている。

切歌は、ギアが聖職者のような姿へと変わり、命を刈り取る鎌は2振りの十字槍に変化した。

調は、ウサギをモチーフにしたようなギアへと変化し、神秘的なオーラを纏った。

デュアルシステムを展開した3人は、マギアの放ったロケットランチャーによる爆発を突っ切り、それぞれの武器を手にマギアの集団に突撃する。

 

「調、私たちのコンビネーションを見せるデスよ!」

「…うん!」

 

調が光の刃を形成したヨーヨーを振り回し、前方のマギアを切り刻む。

それによって集団の中心に飛び込んだ切歌が、十字槍を投擲する。投擲された十字槍は、切歌の操作によって円状に回転する。

 

「数が多かろうと、このヘルメスなら!」

 

マリアは超高速で動き、トリロバイトマギアたちを次々と切り裂いていく。

マギアたちはその速さについて行くことができない。

 

「……まったく、本当に数が多いわね」

「だったら、交換(・・)はどうデスか?」

「…切ちゃん、いいアイディア」

 

背中合わせになった3人は、コネクティブユニットのダイヤルを切り替える。

 

《デュアルリンク!ツクヨミ》

《デュアルリンク!ヘルメス》

《デュアルリンク!クルースニク》

 

3人のギアの形状が、3人の間で入れ替わるように変化する。

これがデュアルシステムの特徴。同時展開するリンクギアを、装者間で交換することが可能なのだ。

 

「マイターンよ!」

 

マリアはツクヨミギアの予知能力でマギアの攻撃を全て回避し、生成した大量の短剣をブーメランのように回転させて飛ばす。

マギアたちは切り刻まれ、一斉に爆散した。

 

「なんとヘルメース!」

 

切歌はヘルメスギアの俊足を持って、マギアたちの上空に跳躍。

振りかぶった鎌のエネルギー体を生成、鎌を振り下ろして大量の鎌型エネルギー体を飛ばして、マギアたちを撃破した。

 

「切ちゃんとの絆で!」

 

調はヘッドギアから、丸鋸がクルースニクギアによって十字槍に変化した武装を取り出し、ヘッドギアから伸びるアームで薙ぎ払っていく。

さらに先端の刃部分を投擲し、遠くにいるマギアを細切れにした。

 

 

 

そして、セレナはネリとモネを相手に圧倒していた。

 

「アハハハッ!強い強い!」

「ウフフフ…。ここまでの強さ……まさか、バルベルデ共和国で私たちから奪った聖遺物を使って?……ネリ!」

 

ネリとモネは4つの巨大な歯車型のエネルギー体を生成し、セレナに向けて発射する。

対するセレナは、セインティングペガサスムゲンライズキーのホープスターターを押す。

 

《ブレイブ!》

 

4つの歯車がセレナをすりつぶそうと、4方向から迫る。

しかし命中する直前に、12本のソードクリスタが盾となりセレナを守る。

 

《セインティングクロニクル!》

「ハア!セヤアアアッ!」

 

ソードクリスタが歯車型エネルギー体を粉砕し、セレナはスラッシュライザーを振るう。

12本のソードクリスタが1つの回転刃として撃ちだされ、モネとネリを吹き飛ばした。

 

 セ  イ  ン  テ  ィ  ン  グ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グウ……アアアア……」

「モネ!このぉお!」

 

2人は吹き飛ばされ、モネの方は変身が解除される。

それを見たネリは、怒りを露わにする。

しかし、セレナがもう1つのムゲンライズキーを取り出したのを見て、動きが止まる。

 

《クリア!》

《ムゲンライズ!》

《Kamen Rider......Kamen Rider......》

《スラッシュライズ!》

 

もう1つのムゲンライズキー「ピアッシングユニコーンムゲンライズキー」を、スラッシュライザーに装填しトリガーを引く。

今度はユニコーン型のファントムモデルが現れ、アーマーへと変わる。

セインティングペガサスよりもシャープな姿となり、ソードクリスタはマントではなく顔、両肩、両腕、両足に装飾として装着された。

 

《ピアッシングユニコーン!》

《A spear of light that penetrates everything!》

 

仮面ライダー迅 ピアッシングユニコーン。その一撃は全てを貫く。

 

「来なさい。バーチャライズブレード」

 

セレナが左手を掲げると、上空の空間が歪み、その中から大剣「バーチャライズブレード」が飛んでくる。

バーチャライズブレードを掴んだセレナは、スラッシュライザーを中央の「コネクトスロット」にセットし、バーチャライズブレードを起動させる。

 

「このぉ!」

「……ハッ!」

 

ネリは先ほどよりも巨大な歯車型のエネルギー体を投げつけるが、バーチャライズブレードの一閃により真っ二つになる。

さらにセレナはアタッシュカリバーを取り出し、プログライズキーを装填する「ライズスロット」に、バーチャライズブレードを接続させることで、薙刀のような見た目に変わる。

そして、持ち手の「トレーストリガー」を3回引き、必殺技を発動する。

 

「私は家族を守る。そのための力で……みんなと、生きて帰る!」

《アルティメットピアッシングランサー!》

「ハアアアアア!」

 

12本のソードクリスタが、バーチャライズブレードの先端でドリルの形に並び回転。セレナはネリに向かって突貫する。

 

「ネリ!」

「モネ!?」

「ハアアアアッ!!」

「ぐ、ウアアアアッ!」

 

 

ア ル テ ィ メ ッ ト

グ ラ ン サ ー

 

 

 

しかし直前でモネがネリを突き飛ばす。

貫かれたモネは、セレナが風穴を開け爆発した。

 

「モネ……」

 

モネに庇われたネリはフラフラとした足取りで、撤退するのだった。

 

 




まさか前編後編に分けるほど、長くなるとは思ってなかった。

それとなんですが、今回出た新フォーム。一応名前を仮面ライダー迅 セインティングペガサスにしてるんですが、ランペイジバルカンのような名前の方が良いかな~とか思ってるんですけど、なかなかいいのが思いつかないんです。
何かいいのが思いついた人は、教えてください!

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キャラクター紹介

ネリ/バイカイザー&モネ/ヘルブロス
姉妹のアンドロイド。モネが姉でネリが妹。
アウラネルによって作られ、アウラネルをお姉さまと慕う。
ネリは快活で無邪気。モネは物静かだが残酷な一面を持つ。
2人を作ったのはアウラネルだが、マスターと認識しているのはキャロル。
無印編ではキャロルの裏切りを秘匿するために、マスターと言う存在を意図的に隠されていた。
しかし、彼女たちの遣うネビュラスチームガンを渡したのはキャロルなため、その事でよく記憶の祖語が生じ混乱することもある。



仮面ライダー迅 セインティングペガサス

概要
「セインティングペガサスムゲンライズキー」を使い変身する、仮面ライダー迅の強化形態。
ムゲンライズキーはプログライズキーとは別物の為、変身の際に出てくるのは「ライダモデル」ではなく、「ファントムモデル」である。
変身プロセス時には、スラッシュライザーを掲げることで周囲に12本の「ソードクリスタ」が出現。スラッシュライザーとソードクリスタから光の柱が立ち上り、それによってペガサス型の「ファントムモデル」が現れる。
他ムゲンライズキーを使用する場合は、必ずセインティングペガサスの姿がベースとなるため、バーニングファルコン時でも強制的にセインティングペガサスになる。
また、変身時はフルライズアニマルのライトペガサスが変形、スラッシュライザーの先端に合体する。
変身後の英文の意訳は「闇を払う剣は王の証」


容姿
バーニングファルコンとほとんど変わりはないが、大部分が白くなっている。
胸部のアーマーは、バーニングファルコンだと肩部から胸部にかけて、翼で包んでいるような形状だが、セインティングペガサスは胸部中央の「エレニウムオービット」を中心に、逆に翼を開いたようなフォルムになっている。
背部には「ソードクリスタ」が融合してできたマントを羽織る。


スペック
ランペイジバルカン並のスペックを誇り、オールマイティな戦闘力を持つ。
他のムゲンライズキーを使うことで、様々な強さを発揮する。
また、胸部のエレニウムオービットで光学戦闘補助システム「ソードクリスタ」を操作することが可能。全部で12本存在し並外れた硬度を持つ。並の相手ならソードクリスタのみで撃破可能。
また、ファントムモデルを呼び出すための転移の媒介にもなっている。
飛行能力も健在で、飛行時にはエネルギーで生成した翼を広げる。

武器
・バーチャライズブレード
セインティングペガサスムゲンライズキー作成と同時に作られた大剣。
ライトペガサス装着のスラッシュライザーを、中央の「コネクトスロット」にセットすることで起動する。
モードは3種類あり基本のブレードモード、アタッシュカリバーと合体するナギナタモード、持ち手を変形させるランチャーモードがある。
バーチャライズブレードのモードと、手持ち部分の「トレーストリガー」を押す回数によって、放つ必殺技が変わる。
また、刀身に付いているスキャンエリアで、プログライズキーやムゲンライズキーをスキャンすることで対応した分身を召喚可能。
モデルは仮面ライダーカブトの「パーフェクトゼクター」

必殺技
・セインティングクロニクル
スラッシュライザーをバックル非装填時に発動。
ソードクリスタで敵を斬りつけた後、スラッシュライザーの一撃で止めを刺す。
応用版として、12本のソードクリスタを1つの回転刃として放つ方法もある。

・セインティングクロニクルフィニッシュ
スラッシュライザーをバックル装填時に発動。
ソードクリスタの突撃と同時に、自身もキックを放つ。

バーチャライズブレード
(※必殺技名はソードモード時→カリバー。ナギナタモード時→ランサー。ランチャーモード時→ブラスター)
・バーチャライズカリバー/ランサー/ブラスター
トレーストリガーを一回押して発動する。
高エネルギーを刀身に纏わせ、各モードごとの攻撃方法で攻撃する。

・プログライズカリバー/ランサー/ブラスター
「プログラムスロット」にプログライズキーを装填後、トレーストリガーを一回押して発動する。
装填したプログライズキーの能力を使って攻撃する。

・ファイナル〇〇〇カリバー/ランサー/ブラスター
プログラムスロットにムゲンライズキーを装填し、トレーストリガーを2回押して発動する。
ムゲンライズキーを装填しない場合は、セットしているスラッシュライザーに装填されているムゲンライズキーが使用される。
○○○の部分に使用したムゲンライズキーの名の前半部分が記載される。

・アルティメット○○○カリバー/ランサー/ブラスター
発動方法等は、上記の「ファイナル○○○カリバー/ランサー/ブラスター」と同様。ただ、トレーストリガーを3回押す必要がある。
ソードクリスタを使用した必殺技を放つ。

・トレーシングカーニバル
バーチャライズブレードのスキャンエリアに、プログライズキーかムゲンライズキーをスキャン後、トレーストリガーを1回押すことで発動。
プログライズキーの場合は、仮面ライダー迅 バーニングファルコンの分身を投影。アタッシュウェポンを使って、スキャンしたプログライズキーを使った必殺技を行う。
ムゲンライズキーの場合は、スキャンしたムゲンライズキーを使って変身した仮面ライダー迅が投影され、共に戦ってくれる。


セインティングペガサスムゲンライズキー
バーニングファルコン同様変身用のムゲンライズキー。
ペガサスをモチーフにしており、他ムゲンライズキーの原点でもある。
元は単にバーニングファルコンの強化のために開発されていたが、開発段階の最中、バルベルデにおいて聖剣「エクスカリバー」の欠片が奪取されたため、急遽この欠片が組み込まれた。これによって、出力を引き出すことに成功し、変身用ムゲンライズキーとなった。

ピアッシングユニコーンムゲンライズキー
ユニコーンをモチーフにしたムゲンライズキー。
使用すると、セインティングペガサスムゲンライズキーと比べてシャープな姿で、頭部にはユニコーンらしく、角の装飾が付いている。

必殺技
・ピアッシングクロニクル
スラッシュライザーをバックルに非装着時に発動。
ユニコーンの角を模したエネルギー体を飛ばし、相手を串刺しにする。

・ピアッシングクロニクルフィニッシュ
スラッシュライザーをバックル装着時に発動。
ドリルのように回転しながらキックを放つ。





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59 何があっても取り戻す

お待たせしてすいません。テストの関係で、投稿間隔が開きました。


《三人称(七海)side》

 

七海、クリス、響のチームは、信じられないものを見るような目で、目の前の人物を見ていた。

 

「どうしてここにいる…宵姫黒夜ッ!」

「そんなの、蘇ったからね♪」

「さあいけ。貴様の役目を果たすと良い」

「…というわけだから、ごめんね。ハッ!」

 

形だけの詫びを入れ、黒夜はドリルクラッシャーを振るい七海に斬りかかる。

 

「このッ……貴女と言う人はぁ!」

 

七海もツインブレイカ―を振るい、黒夜を攻撃する。

ドリルクラッシャーとツインブレイカ―がぶつかり、激しい火花を散らす。

 

「よっと!」

「グゥ!」

 

拳撃の間を縫って、黒夜の蹴りが七海に突き刺さる。

七海はドリルクラッシャーをガンモードに変え、ラビットフルボトルを装填する。

そして倒れている七海に向けた時、その射線を遮るようにクリスが立ち塞がった。

 

「待てよ黒夜!お前……どうして…どうしちまったんだよッ!」

「クリス……そこをどいて」

「どかねえ!ぜったいにどかない!」

「はぁ……やれやれ」

《ボルテックブレイク!》

 

黒夜はため息と共に、呆れたように首を振る。

そして引き金を引いた。一切の躊躇いなく。

 

「え……?」

「どけええええ!……グアアアッ!!」

 

呆然とするクリスを押しのけた七海に撃ちだされた光弾が命中し、変身解除と共に地面に倒れる。

 

「お仕事かんりょ~」

「黒夜……お前」

「でやああああ!」

 

響が拳を振り上げて、黒夜に接近する。

 

「ハッ!」

「キャア!」

 

しかし、七海は回し蹴りであっけなく響を叩き落とした。

呆然としているクリスを尻目に、黒夜はキャロルへと視線を向ける。

 

「ねえ?依頼は果たしたんだ。そろそろ例の報酬、くれてもいんじゃない?」

「ふん。いいだろう。約束のものだ」

「フフッ……お帰り」

 

キャロルが黒夜に投げ渡したのは、黒夜が開発したハザードトリガー。

それを受け取った黒夜は満足そうに笑いそして、キャロルにドリルクラッシャーの銃口を(・・・・・・・・・・・・・・・・・)向けた(・・・)

 

「それは何の真似だ?」

 

いつもよりも低い声を出すキャロルに、それでも黒夜は飄々とした感じで答える。

 

「何のって…言ったでしょ。依頼は果たしたって。だから、ここからは私の好きなようにやる」

「黒夜……!」

「ハ、ハハハ……ハハハハハッ!!」

 

睨みあう2人をよそに、大きな笑い声が響いた。

大きな笑い声を上げているのは、倒れている七海だった。

 

「なーんか腑に落ちなかった。ある意味、自分の欲望に忠実な姉さんが、キャロルの下に就くのは、どうにも違和感があった。それがまさか…ハ、ハハハ……!」

「何がおかしい!」

「そーだそーだー。欲望に忠実って人聞き悪いぞー」

「これで、確信した。貴女はキャロルじゃない。あの子なら、こんな単純なミスはしない。私だから分かる。私じゃないと分からない。だけど、間違っていないと確信できる。」

「へえ……不明瞭で穴だらけで、勘で思いついたような理論だけど……なかなか悪くない」

「貴様らぁ……!」

「お前が私の知ってるキャロル本人じゃないなら、返してもらう。あの子を!」

《チャージ!》

《オーバーグリスゥ!》

 

七海はクラッシュブースターのロンダリングダイヤルを回し、スクラッシュドライバーに装填する。

 

「変身ッ!」

《オーバーチャージィ!》

 

レバーを下ろすとクラッシュブースターのメーターの針が、左から右へと振れる。すると七海を覆うようにガラスの筒「ケミカライドグラス」が形成され、スクラッシュドライバーのプレス部分を模した「クラッシュプレス」が、ケミカライドグラスを挟むように展開される。そして、ケミカライドグラスの中がマグマのような煮えたぎった液体で満たされていく。

 

《限界ブレイクゥ!激熱突破ァ!オーバーグリス!》

《ウラアアアアアアア!》

 

クラッシュプレスがケミカライドグラスを勢いよく挟み込み、粉々に破壊する。中の液体が溢れだし、ぼこぼこと沸騰した液体が爆発し七海の姿が現れる。

 

「私たちも忘れてんじゃねえぞ」

「七海ちゃん!私たちも、キャロルちゃんを助けるよ!」

「「デュアルシステム、コネクト!」」

《デュアルリンク!デュランダル》

《デュアルリンク!ネフシュタン》

 

七海と黒夜の両端に並んだ響とクリスも、左腕のコネクティブユニットのダイヤルを回し、中央のボタンを押す。

響は全身を、甲冑を思わせる鎧に身を包み、背部にはマント、両腕には†形状の装備が装着される。

クリスはもともと少なかった装甲をさらに減らし、両側に背部から伸びる巨大な一対の大型ビーム砲が装備された。

 

「度し難い……貴様らのような存在がぁ!」

「それはこっちのセリフだ!人の大切な家族を奪っておいて……ただで済むと思うな」

「ッ……トリロバイトマギアッ!」

「あいつらはあたし達に任せろ!」

「お2人はキャロルちゃんを!」

「ああ……心火を燃やして、ぶっ潰す!」

 

その言葉を皮切りに、響とクリスが同時に前に出る。

 

「こいつで、吹っ飛べぇ!」

 

クリスのビーム砲から、ピンク色のビームが放たれ、マギアたちを一瞬でスクラップに変えていく。

 

「キャロルちゃんの手を繋ぐ邪魔はさせない!」

 

響はインファイトに持ち込み、次々とマギアたちを沈めていく。

さらに響が斬りこんだおかげで、混乱状態のマギアたちに、七海と黒夜が跳躍してさらに奥深くへと突き進む。

 

「どけッ!」

「フッ!……ッ!?うぁ!」

 

マギアの一体を蹴り飛ばした黒夜に、キャロルが斬りかかった。

ドリルクラッシャーで何とか防げたものの、すぐに弾かれてしまい斬撃をその身に食らってしまう。

 

「キャロル……!」

「貴様らはやはり危険だ。ここで始末しなければならない!」

「なーちゃん。これ借りるよ」

「あ、ちょっと!」

《ニンジャ!》

《スマホ!》

《Are you Ready?》

「ビルドアップ!」

 

ニンジャボトルとスマホボトルで、トライアルフォームに変身した黒夜は四コマ忍法刀でキャロルに斬りかかる。

キャロルも迎撃の為にサウザンドジャッカーを振るうが、その攻撃は左手に装着された『ビルドパットシールド』で防ぐ。

 

「ハッ!」

「その程度でオレに勝てると思ったか!」

「悪いけど、今の私は一人じゃなくてね!」

「でやぁ!」

 

黒夜がビルドパットシールドで、キャロルを押し返した瞬間、割り込むように間に入った七海が拳撃を次々と繰り出す。

キャロルもうまい具合に不正ではいるが、さすがに防戦一方となる。

 

「くッ!甘く見るな!」

「そうはさせないっての!」

 

一瞬の隙をついてキャロルが反撃するが、その攻撃も横から差し込まれた四コマ忍法刀で防がれる。

さらに四コマ忍法刀のトリガーを3回引く。

 

《風遁の術!》

「ハアアアアッ!」

「グオオオッ!?」

《竜巻切り!》

 

四コマ忍法刀に竜巻が発生し、その竜巻ごとキャロルを弾き飛ばす。

キャロルは倒れることはなかったものの、フラフラとした足取りで体勢を立て直す。

そしてサウザンドジャッカーのレバーを戻した(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

《ジャックライズ!》

「仮面ライダービルドのデータ、もらったぞ」

《JACKING BREAK!》

「ハア!」

 

サウザンドジャッカーを掲げると、2人を囲むようにアイコン型のエネルギー体が生成される。

エネルギー体は2人を中心に回転し竜巻が発生する。2人はその竜巻によって、天高くに打ち上げられてしまう。

 

「「ウワアアアアッ!?」」

「ちょっとちょっとー!?」

「くッ!姉さん!」

 

七海は腰のホルダーから2本のボトルを取り、黒夜に投げ渡す。

黒夜は受け取ったボトルとハザードトリガーを、ビルドドライバーにセットする。

 

《ハザードオン!》

《フェニックス!》

《ロボット!》

《スーパーベストマッチ!》

「ビルドアップ!」

《アンコントロールスイッチ!ブラックハザード!》

 

空中で逆さまの状態で、フェニックスロボハザードに変身した黒夜は、さらにビルドドライバーのレバーを回す。

七海もロンダリングダイヤルを回し、スクラッシュドライバーのレバーを下ろす。

 

《Ready Go!》

《オーバーバーストォ!》

「「ハアアアッ!!」」

「やらせるかぁ!」

 

2人が必殺技を放とうとしたの察知したキャロルは、跳躍しサウザンドジャッカーで攻撃しようとする。

黒夜は背部に『エンパイリアルウィング』、左腕にロボットアーム状の『ディストラクティブアーム』を展開してキャロルを迎え撃つ。

 

《ハザードフィニッシュ!》

「ハアアア!」

「グァアア!」

 

炎纏った体当たりによって、キャロルは打ち上げられる。

 

「ハァァ……ハアアア!」

《バーストフィニッシュ!》

「グ、グゥゥ……アアアアッ!」

 

無防備なキャロルに、七海のバーストフィニッシュが突き刺さった。

キャロルは地面に落下し、小さなクレーターを開ける。

フラフラと立ち上がり、交戦の意思は鳴りを潜める様子はない。しかし、キャロルの動きが唐突に鈍くなった。

 

「グ、アアア……まだ、まだだ。これいじょグァ!?なん、だ。これはぁ……」

「なんだ……?」

「な、ナナ姉え……今、だよ……いそいで、くぅ!」

「これは、まさか……キャロル!?」

「なるほど。支配に抗っているのか。なーちゃん、シンフォギアボトルを使って!」

 

目の前のキャロルから出てきた、聞きなれた呼び名に、七海は目の前のキャロルが知ってるキャロル(・・・・・・・・)だと確信する。

黒夜は、キャロルの様子から彼女の現状を推察し、最良の案を七海に伝える。

 

「シンフォギアボトル……これか」

 

七海は1つのボトルを取り出す。それは、黒夜によって作られたシンフォギアボトル。

シンフォギアの成分が入っているそれを、左腕のスチームパンツァーに装填する。

 

《フルボトル!》

「キャロル……」

「くそッ!やめろッ!この体の持ち主ごと殺す気か!?」

「おい!あいつ何する気だ!」

「七海ちゃん!」

 

キャロルの言葉に、マギアを殲滅した響とクリスが反応する。

七海を止めようとするも、黒夜によって遮られる。

 

「キャロル、最後の時だ」

《パンツァーブレイク!》

「豪快…無限…極致!これが私の、心火だぁッ!!!ウアアアッ!」

「グアアアアアアアアアアッ!?!?」

 

虹色のオーラを纏ったスチームパンツァーが、キャロルの胸部に命中する。

するとスチームパンツァーが命中した部分から、光が大量に漏れ出す。

 

「こ、これは……オレが、離れる。姿を、保て……」

「アアアアアアッ!!キャロルゥゥウウウウウウウウッ!!!!」

 

七海がキャロルに叩きつけていた左腕を、思いっきり引っ張る。

引かれた左手には、小さな手が繋がれていた。

 

「絶対に!私が助ける!アアアアアアア!!!」

 

七海の叫びと共に、渾身の力で小さな手を掴んだ左手が引っ張られる。

左手を引っ張り続けると、左手が掴む手の先から少しずつキャロルの姿が見えた(・・・・・・・・・・)

そして、完全にキャロルが引っ張り出され、七海は勢いよくしりもちをつく。

 

「うわッ!?」

「成功、か……」

「まじかよ……やりやがった。やりやがったぞ!あいつ!」

「やったー!」

 

黒夜は自身の目論見が成功したことに安堵の息を吐き、響とクリスは事の次第がよく分からずとも、キャロルを救い出せたことを理解し歓声を上げた。

 

「キャロル……キャロル!」

「……………ぅ、うう……ナナ、姉え?」

「良かった……良かった……ッ!」

 

変身を解除した七海がキャロルを抱きかかえ、キャロルに呼びかけると、薄っすらとキャロルが目を開ける。

無事だという事を確認した七海は、感極まりキャロルを抱きしめる。

 

「く、そぉ……依り代を奪われたか。だが、今までに行えた同調のおかげで、姿は保てる……憶えていろ!」

 

一方、キャロル……否、仮面ライダーサウザーは予想外のことが起きたことに動揺しながらも、テレポートジェムを使い撤退した。

それをキャロルは、悲しそうな表情で見届けるのだった。

 

 

 

 

 

 

「くそがぁ!あいつらぁ!」

 

隠れ家に撤退したサウザーは、手当たり次第に物へと当たり散らす。

それを少し離れた位置で見ているのは、奏と翼に倒されたはずのアウラネルだった。

 

「やつらめ!必ず許さない!世界を壊す前に、まずはあいつらから叩き潰す!!」

 

一通りの物に八つ当たりをしたサウザーは、自身を無理矢理落ち着けるように荒い呼吸を繰り返す。

その時、自動ドアが開き、意気消沈しているネリがトボトボと部屋に入ってきた。

そして、サウザーを見るやいなや、縋りついて懇願しだす。

 

「マスター!モネが、モネが壊れちゃった!お願い、モネを作って!」

「うるさいッ!そんなことどうでも良いわッ!」

「そんな……お願い!お願いします、マスター!」

「やかましいと言っているだろう!」

「グッ……う、ぁ……」

 

しつこく縋りつくネリを、サウザーは乱暴に突き飛ばす。

ネリはアウラネルのすぐ横に叩きつけられ、絶望とした表情を浮かべる。

サウザーは憎々しげにネリを見ていたが、ネリが絶望の表情を浮かべていることに気が付くと、何か思案する様子を見せる。

そして、良いことを思いついたと言わんばかりに、両手を合わせる。

 

「そうだ。おいネリ、貴様はあいつらが憎いか?」

「……あい、つら?」

「あの装者と仮面ライダーどもだ。貴様の姉を殺したのはやつらだ。どうだ?復讐、したくないか?そのための力を、貴様にやろう」

 

そう言ってキャロルは、自身の作業台の上に置いてあった黒いギアと銀色のギア(・・・・・・・・・・)を渡す。

それを受け取ったネリは、反芻するように呟く。

 

「復讐……それで、モネは」

「ああ、またお前の前に現れるかもなぁ」

「なら……やる。あいつらに復讐を」

 

ぶつぶつと同じ言葉を繰り返すネリを放って、サウザーは部屋を出る。アウラネルもその後を追う。

 

「マスター。今のは?」

「たかがアンドロイドだと思っていたが、思わぬ収穫だった。まさか、残りの黒い感情(・・・・・・・)を埋めるのがあいつとはな」

 

しばらく歩いた2人は、とある部屋の前で立ち止まる。

厳重なロックを解除し、部屋の中に入ると、そこでは10本以上の作業用アームが、2つのプログライズキー(・・・・・・・・)を制作していた。

キャロルが近くの端末を操作すると、動いていなかった4本のアームが動き、先からレーザーを2つのプログライズキーに照射する。

それらは、元々完成していた()に絵を刻んでいく。片方には荒々しいドラゴンを、もう片方にはまるで魔法使いのような帽子をかぶっている人の絵を。

 

「我々の目的は果たされている。後は、予定通りに事を進めるだけだ」

 

そう言って、サウザーは変身を解除する。

身長がサウザーよりも低く、幼女と呼べるほどに小さくなる。

銀髪と赤い瞳(・・・・・・)である点を除けば、その姿はまさしく、キャロル・マールス・ディーンハイムだった。

 

 

 




という事で、キャロルちゃんを奪還しました。

これでナナキャロの百合が書けるぜ……。

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60 サウザーの正体

ランプー様、感想ありがとうございます!

書かれていた考察が結構あたりに近くて驚きました……。


《七海side》

 

キャロルを取り戻すことができた発電所の戦いから一日。

私たちは、休む暇もなく司令室に集まっていた。

今回は非常に重大な話という事で、いつものメンバーにドクターウェルや了子さんもいる。

 

「キャロルの状態は、極度の疲労があり衰弱しているものの、外傷や脳や精神へのダメージも医療技術、錬金術ともに見当たりません。今は安静の為医務室で寝てもらっていますが、時期に回復するでしょう」

「うむ。ありがとうエルフナインくん。七海くんたちもすまないな。今はキャロルくんの元に居たいだろうが……」

「いえ、大丈夫です。それより、私たちは私たちで、やるべきことをやりましょう。例えば」

 

司令室の隅に備え付けられたソファに目を向ける。

そこでは宵姫黒夜――姉さんが呑気にくつろいでいた。

その横にはクリスが座っており、それはもうべったりと姉さんにくっ付いていた。

 

「姉さん」

「んー?なーに?」

「教えて。どうして姉さんが蘇ったのか。それと敵についての情報も」

「ほうほう。私に仲間を売れと言うのか!」

 

何をいまさら言ってるんだ。

貴女は誰かの下に就くような人間じゃないでしょ。

ただまあ、こんないかにもな嘘に騙される人もいるようで……。

 

「えー!?黒夜さん、戻ってきたんじゃないんですか!?」

「ふっふっふ……その通り!S.O.N.G.の天才美人研究者とは仮の姿。裏の顔はこちらの情報をリークするための天才美人スパイなのだー!」

「な、なんデスとー!?」

「立花……」

「切ちゃん……」

「おい黒夜……」

 

あっさりと信じてしまった響と切歌に、他のメンバーが呆れる。

というか天才とか美人って自分で言うの……?

 

「そういうのいらないから。まったく、どうしてこんなのになったのか……」

「一度死んだからじゃない?」

 

実際に死んだ人は説得力が違うな。

 

「まあそれは冗談として、どうして私がここにいるのかだっけ?それを話すのは結構長くなるよ。まずはねぇ……」

「ならば、オレが話そう。ヤツと一緒にいたオレの方が、事態をより詳しく理解しているからな」

「キャロル!?」

 

姉さんが事の経緯を話そうとした瞬間、司令室のドアが開き、医務室で寝ているはずのキャロルが入ってきた。

しかし、その足取りはフラフラで今にも倒れそうである。

 

「な、何でキャロルがいるんですか!?今は安静にしないと!」

「これくらい…大丈夫だ。それより、離さなければならない……あいつのもく、てき……」

「キャロルちゃん!?」

「先生!」

 

なんて考えてたら、キャロルが崩れ落ちた。

何とか倒れる前に支え、姉さんをソファからどかしてキャロルを寝かせる。

なし崩し的に私が膝枕する格好になったけど、心なしかキャロルが嬉しそうなのでみんな何も言わなかった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ」

「…キャロル、辛そう」

「無理しちゃだめデスよ…?」

「ああ。それより、あいつの目的だ」

「……分かった。私たちには時間がない。ゆっくりで大丈夫だから、話してほしい。でも、無理しちゃだめだよ?」

 

ここまで無理してくるという事は、キャロルが伝えようとしている情報はそれだけ重要なのだろう。

私たちは常に後手に回り続けている。ここら辺で私たちからも攻めないと、これから先、先手に回るのが難しくなってしまう。

 

「何から話すか……そうだな。まずはヤツをサウザーと仮称しよう。サウザーの正体と目的、そしてオレに何があったかを話そう」

 

そう前置きしたキャロルはポツリポツリと語りだした。

 

「まずはサウザーの正体だ。やつは、オレと同質であって異なる存在だ」

「キャロルと似て非なる者?」

「……お前たちは、平行世界という物を信じるか?」

「平行世界、だと?」

「なんデスか?ソレ」

「確か、1つの世界から分岐したもう別の世界、だったかしら?分かりやすく言うなら、あったかもしれない可能性の世界」

「可能性……?」

「マリア姉さんの説明を補足するなら、たとえば、みなさんはこうして装者として活動してますが、もし何かが違えばみなさんが装者にならなかったかもしれません。そういった”もしもの世界”を、平行世界と呼ぶんです……って、ちょっと待ってください。それじゃあ、先生が言っていたのは……」

 

どうやら説明している最中に、セレナもその考えにたどり着いたようだ。

周りを見渡してみると、理解してるっぽいのは私やエルフナインといった錬金術に触れている者と、聖遺物という異常に触れていた了子さんやドクターウェル、そして桁外れな天才である姉さんだけだった。

 

「そうだ。サウザーの正体。それは平行世界のオレだ(・・・・・・・・)

「平行世界の、キャロルちゃん」

「でも!だったらあのキャロルはどうやってこの世界に来たデスか?」

「完全聖遺物ギャラルホルン。それが今回の事件の元凶だ」

「なるほど。サウザーの正体から考えるに、その聖遺物の能力は平行世界へと行き来できる能力か?」

「正確には、”繋げる”と言った方が正しいがな。おおむねその認識で会っている」

 

つまり、サウザーの正体は平行世界のキャロルで、そこにはギャラルホルンの存在があると。

キャロルが一度話を切ると、珍しく大人しかった姉さんが口を開いた。

 

「1つ良いかな?」

「なんだ」

「サウザーの正体については分かったけどさ。どうしてあなたの意識を奪ったりしたの?そんな非効率的なやり方より、自分の体を使った方が楽だと思うのだけど」

「簡単な話だ。サウザーはこの世界に来た時、肉体を持っていなかった(・・・・・・・・・・・)からだ。どうやらこの世界に来たのは、平行世界のオレの感情の一部だったらしい。魑魅魍魎の類と言えばいいか?未練を持った魂が幽霊として化けるのと同じく、強い感情を持った魂がギャラルホルンを通ってこちらに来たのだろう」

 

なるほど。だからわざわざキャロルの意識を奪って……でもそれって。

 

「つまり、平行世界のキャロルは、すでに死んでいる?」

「あ……」

「確かに……」

「まあ、実際は知らんがな」

 

まずった。さすがに今言うべきではなかったか。

目に見えて年長組以外は気持ちが沈んでいる。

 

「気にしても仕方がない。続きを話すぞ。この世界に来たサウザーは、依り代を求めてさまよった結果、オレを見つけて潜り込んだ。そして寝静まった頃や、オレの気が緩んだ瞬間に意識を奪い、アウラネルやネリ、モネを作った」

「そして、今回の事件に至る、か」

 

弦十郎は腕を組み目を閉じる。

おそらく、今のキャロルの説明を受け入れようとしているのだろう。

さすがに普通の人間だと、この突拍子もない話を簡単には受け入れられないのだろう。他の皆も口を閉じて、一言も話さない。

そして、了子さんがその沈黙を破った。

 

「……私がデュランダルを使い、世界を破滅させようとしたのは、サウザーの仕業か?」

 

おそらく、それは櫻井了子ではなく、フィーネとしての質問だろう。

キャロルはその問いに、弱弱しく首肯した。

 

「ああ…あの時、お前があんな暴挙に出たのは、サウザーによる実験がキッカケだ。やつはギャラルホルンを使い、他の世界とこの世界を繋げようとした。その結果、別の世界のフィーネの魂が到来し、お前の意識を奪ったのだろう」

「じゃあ、私もその実験の結果ってことかな?」

「いや、お前の場合は事情が異なる。お前の時は、ハザードトリガーに染みついた記憶を使ったのさ」

「記憶……ああ、なるほど」

「え、今のでわかるのかよ」

 

………ああそうか。私も分かった。

見れば、やはり装者の皆はてんでさっぱりの様子。まあ、これに関しては理解できるのは私と姉さんくらいだろうなぁ。

 

「どういうことなのだ?説明してほしいんだが……」

「つまりは日本で言うところの付喪神的なものさ。大切に扱われた物には魂が宿るみたいな。私の場合は、魂じゃなくて記憶だったわけだけど」

「アイツは、七海から奪ったハザードトリガーに染みついていた宵姫黒夜の記憶を使い、ギャラルホルンを通じて平行世界の宵姫黒夜を連れてきた。そして、元々の記憶をデリートした宵姫黒夜に、ハザードトリガーの記憶をインプットした」

「それは……」

 

今度は年長組も含めた全員が顔を俯かせる。

まあその気持ちも仕方ない。なんて言ったって、その行為は命を、平行世界の宵姫黒夜の人生を冒涜しているのだから。

だけど、肝心の本人はいたって変わらず、納得と言う感じで腕を組む。

 

「ふ~ん。それがタネか。分かってみると、そうなんだって感じだね」

「おい、お前それでいいのかよ……!」

「やめときなよ、クリス。姉さんに人並みの感情を求めるだけ無駄だよ」

「さっすがなーちゃん。分かってる~」

 

ほらね。こういう人だ、姉さんは。

 

「話を戻すぞ。次はやつの目的だ」

「……そうだ。やつらの目的が分からなければ、有効打は何も打てない」

「そう、よね。それで、あいつらは何をしようとしているのかしら?」

「サウザーらの目的はただ一つ。世界の破壊だ」

「それは何とも……」

「だが事実だ。そのためにやつらは、完全聖遺物ネフィリムに聖遺物を食わせ、成長させることで世界を滅ぼそうとしている」

「そして、あの発電所襲撃も、そのための布石」

「発電所…聖遺物……そうか!藤尭!今回襲われた発電所が電力を送っている場所の中で、いち早く復旧させて電力を送らせているのはどこだ!」

「ちょっと待ってください……これは!?今の条件だと、海中深くにある『深淵の竜宮(アビス)』です!」

「やはりか」

 

ネフィリムの成長には聖遺物が必要。そしてS.O.N.G.が聖遺物を保管しているのは、海中深くにある深淵の竜宮(アビス)と言う場所。

今回の発電所襲撃は、この深淵の竜宮(アビス)の場所を見つけるための行動だった。

 

「不幸中の幸いは、向こうにも被害が出ていることですぐには動けないことか……だが、気は抜けないな」

「師匠!」

「とりあえず、今日はここまでとする。装者や仮面ライダーの諸君は休息を取ってくれ。また忙しくなるぞ!」

「「「「「「「「了解ッ!!」」」」」」」」

 

 

 

 





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61 少女たちの決意

《七海side》

 

キャロルの口から別世界のキャロルの目的が語られた後、私はキャロルを抱えて医務室にやってきた。

無理してまで抜け出したせいで、再びフラフラなキャロルを休ませるためだ。

 

「気分はどう?」

「ああ、問題ない」

「そっか……」

 

私たちの間に気まずい空気が漂う。

それもそうだろう。キャロルは操られていたとはいえこちらを裏切り、私はそのキャロルにコテンパンにやられた。

ただ、このままだとなにも進展しないのは事実なので、私は行動することにした。

 

「キャロル」

「ん?なんだ…むぐっ!?」

「ん……んむ」

 

キャロルがこちらを振り向いた瞬間、その唇を奪う。

慌ててるのか私を引き剥がそうとする両手を掴み、思うが儘その唇を貪る。

 

「ん……い、一体どうした……!?」

「……その、えっと、寂しかった」

「それは……そう、だな。オレも同じだ。だから、ナナ姉え(・・・・)、きて?」

「ッ!キャロル!!…んッ……」

「ん……はむ…んんッ」

 

再びキスをした。今まで会えなかった分を補うように、さっきよりも深いキスをした。

それからどれくらい経ったのだろうか。一分か一時間か、それほど長く感じていたキスも、来訪者のノックの音が終わりを告げた。

 

 

 

そして今、私は姉さんと通路を歩いていた。

 

「……それで、話って?」

「そう怒らないでよ、なーちゃん。2人のラブラブな営みを邪魔するつもりじゃなかったんだよ~」

「はぁ……姉さん。頼むから外でそういうことを言わないでよ」

「あれ?てっきり他の皆に入ってるものかと」

「それは、今言う事でないし」

 

そんなことを話しながら、私たちはとある休憩スペースに着いた。

近くに人はいない。偶然か、それとも姉さんが手を回したか、どっちでも構わないがそれほど重要な話なのだろうか?

 

「それで?話ってのは一体「ねえなーちゃん」……何?」

「ねーちゃんはさ、救いたいと思う?平行世界のキャロルちゃんを」

「……何の話?」

 

近くの自販機で買ったコーヒーを渡してきながら、姉さんはそんな問いを投げかけてきた。

その表情にいつもの様なふざけた雰囲気はなく、いたって真面目な雰囲気が浮かんでいた。

 

「……正直、分からない。私の家族に手を出して、それでも向こうもキャロルで。正直やりずらいと思ってる」

「なーちゃんはキャロルちゃん大好きだもんね~」

「それでも私は、きっと倒すことを躊躇わないと思う」

「それはどうして?」

「私の家族に手を出したから」

 

そうだ。たとえ同じキャロルだろうと、向こうはこの世界のキャロルに、私の恋人に手を出した。

だとすれば、それはもう私の()だ。

 

「……そっか」

「ねえ、どうしてこんな質問を?」

「………知ってるんだよね。なんて言うか、ああいう感じ。世界を壊すっていうのも本気だろうし、そこに一片の躊躇もない。だけど……あれはきっと、何かを失った人間と同じだって」

「何かを……失う?」

 

平行世界のキャロルが何かを失っている……考えられるとすれば、原作でのイザークさんの死。

彼は原作では異端者として、火あぶりで殺されてしまう。

だとしても、それは今さらだ。彼女はその憎しみを糧にして、元いたはずの世界を分解しようとするのだから。

……いや、待てよ?こっちのキャロルの言うには、平行世界から来たのはキャロルの魂とも呼べる存在。なら、元いた平行世界では、キャロルはすでに死んでいる可能性もあるわけで……。

 

「ごめん。変なことを聞いたよ。まあ、なーちゃんが倒すっていうんなら、それでもいいの。それじゃあね」

「あ、うん」

 

考えていても埒が明かない。ひとまずはキャロルも交えて、じっくり考える必要がありそうだな。彼女は今回の事件の、一番の被害者だからね。

去っていく姉さんの背中を見つめながら考えをまとめた私は、残っているコーヒーを全て飲み干した。

 

 

 

《黒夜side》

 

私はなーちゃんと別れた後、特に目的もなく艦内を歩いていた。

平行世界のキャロルちゃんによって蘇った頃から、何でか胸のあたりでざわめく。

でも彼女のあの憎しみ、あれはきっと生半可なものじゃない。私にはそれが確証に近い感じで分かる。

だって、私も前世であれと同じような憎しみを持ったことがあるのだから。

 

「あ!やっと見つけたぞ!」

「ん?クリス?どうしたの」

 

柄にもなく黄昏ながら歩いていると、反対側からクリスがやってくるのが見えた。

そのまま近づいてくると、彼女は私の腕に抱き着いてきた。

 

「どこ行ってたんだよ」

「ん~?ちょっとね」

「ったく…」

「それでどうしたの?」

「う…その、だな。あの、お前とはもう会えないと思ってたから、その……」

 

クリスに用件を聞くと、彼女は分かりやすく顔を赤らめて、歯切れを悪くする。

……そういえば、この子は変なところで素直になれないんだったっけ。

クリスの様子を見て、懐かしい思いにとらわれる。

 

「そうだね。せっかくまた会えたんだ。久しぶりに、クリスの手料理が食べたいな~」

「ッ!そうか!分かった、あたしが手料理を振る舞ってやる!」

「そっかそっか、ありがとう」

 

不思議だ。こんな感情、もう持つことはないと思ってた。

前世ではなーちゃんを守ってあげられず、この世界では未練がましい思いで狂い、なーちゃんを傷つけた。

こんな温かい感情、きっと持つことなく、その権利もないんだと思っていた。

 

「ふふ…」

「……なんかお前、変わったよな」

「そう?だったらそれはきっと、クリスのおかげかな」

 

もちろん、なーちゃんたちもね。

 

「そ、そうかよ……」

 

クリスは照れたのか、そっぽを向いてしまう。そんな彼女の素振りを可愛いと感じた。

やれやれ、これじゃあなーちゃんを馬鹿に出来ないや。

 

(そういえば、そろそろ夏休みも終わりか……それまでにはけりをつけたいかな)

 

 

《奏side》

 

「あ~暇だな~」

 

あたしは今、司令室のソファでだらけきっている。

平行世界のキャロルたちの次の目的が『深海の竜宮』って場所なのは分かったけど、おそらく向こうはそれなりの準備をし直さないといけない。

そしてあたしたちも、ここのところ戦いっぱなしだったから、短いながらも休息を取ることになった。のだが……。

 

「あー暇だー」

 

休息って言われてもなぁ……特にすることもない。

なのでソファの背もたれに頭を載せていると、ソファの後ろにいた翼と緒川さんが見えた。今は翼はこっちの事件に専念するために、一時的に芸能活動を控えてるんだったか。だったら今話してるのは、別のことかな。

でも、その光景を見ていると、ふつふつとある思いが湧きあがってきた。

 

「~~♪~~♪」

「……?この歌は………ッ!?奏!?」

「おわっ!?ど、どうした翼?」

「どうしたって、奏今、歌ってた!」

 

………は?

 

「歌ってた…?あたしが……?」

「うん!」

 

……2年前に起きたコンサートでの事件。七海たちに助けられたあの事件の後、あの時亡くなった人たちを助けられなかった後悔から、あたしは歌を歌えなくなった。

そのあたしが、歌を歌った?

 

「は…ははは……」

「奏?」

「なあ翼。あたしさ、もう一度歌おうと…いや、歌いたいんだ」

「本当!?」

 

そうだ。あたしは発電所の戦いの時に、思い出したんだ。あたしの本当の夢。

それは家族を奪ったノイズへの復讐でもない、ノイズを使ってたくさんの人を殺したあいつらへの復讐ですらもない。

歌を歌いたい。いつか自衛隊の人が、あたしの歌があったから諦めなかったと言ってくれた。その時に誰かの為に歌いたいとあたしは夢見た。

その夢を、もう一度見てみたい。

 

「そういや……あいつにもお礼を言っとかないとな」

「奏、どうかしたの?」

「……いいや、なんでもない」

 

そう翼に適当に返し、ランペイジガトリングプログライズキーを取り出す。

あの時会ったやつが誰なのか、今となっちゃわからない。だから、お礼も言えないし、穴に突き落としやがった礼もできない。

だから、この夢を叶えるところを、”あいつ”に見せてやんねえとな!

 

 

《セレナside》

 

《セインティングクロニクル!》

「ハアアアッ!」

『敵撃破、終了だ』

「ハァ…ハァ…」

 

大型のノイズを模した仮想敵を倒すと、了子さんの声と共に周りの風景がトレーニングルームに戻ります。

変身を解除して息を整えていると、マリア姉さんと暁さんと月読さんが入ってきました。

 

「お疲れ様デスよ!」

「…はいこれ、タオル」

「ありがとうございます」

「それにしても、急に訓練したいなんてどうしたの?」

 

月読さんから受け取ったタオルで汗を拭いていると、マリア姉さんが不思議そうな表情で聞いてきました。

 

「単純にムゲンライズキーに慣れておきたいというのもありますし、それにもっと強くなりたいんです」

「今のままでもセレナは十分強いデスよ?」

 

暁さんの言葉に、私は自分の顔が曖昧な笑みになるのを感じました。

確かにムゲンライズキーは強いです。しかし、それでも勝てるかと言われれば、確証はありません。

私は守りたいんです。大切な家族を、みんなで笑い合える未来を。

 

「ふぅ……セレナ、貴女の気持ちは分かる。でも、だからといって無理をするものではないわ。貴女には私たちがついてるもの」

「…うん。セレナが無理して倒れちゃったら、私たちも悲しい」

「そうデスよ。もし何かあったら、私たちを頼ってほしいデス!」

 

ああ……私の家族は、こういう人たちだ。誰かを思いやれて、誰かの助けになることを躊躇わない人たち。

だから私は、この愛しい家族を守りたい。

 

「そうですね。では、何かあった時は頼らせてもらいますね」

「ふふ……当たり前よ。私はセレナのお姉ちゃんなんだから」

 

そう得意げに言って、姉さんは私の頭を撫でる。

思えば、姉さんに頭を撫でてもらうのも、久しぶりな気がします。

発電所の戦いの時、私の目の前に現れた男の人が言った通り、私にはこうして気づかせてくれる人たちがいます。

あの男の人……あの人はきっと、ここじゃない、どこかの世界の仮面ライダー迅だと思います。そしてあの人も、何かを守るために戦っているんでしょう。

守りたいものを守る。それはきっと難しいことかもしれないけど、私は私に出来ることで守っていきます。

 

 





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62 反撃の狼煙

《三人称side》

 

「こちらマリア。()()()、応答してちょうだい」

『俺だ、そちらは大丈夫か?』

「ええ。今のところはね。至って平和よ」

 

マリアはそう言って暇そうにしている切歌と調を見る。

 

『とはいえ、過去のデータを参照した場合、最速ならばもうすぐ襲撃が来るはずだ』

「分かっているわ。こっちも警戒を怠らないよ」

 

マリアがそう言って通信していると、突然爆発音が響いた。

 

「ッ!?来たわ!」

『ああ!こちらでも確認した!頼んだぞ!』

「了解!…切歌!調!セレナ!」

「「「はい!」」(デース!)」

 

マリアは調()()()()()()()()を引き連れ、爆発が起こった場所に向かう。

彼女たちがいるのは、海底の奥底にある深海の竜宮(アビス)である。

この場所には日本政府の所持している聖遺物が保管されており、マリアたちの目的はここの聖遺物を平行世界のキャロルが持つ完全聖遺物ネフィリムに食べさせないようにすることである。

 

「いたデス!」

「アハハハ…やっぱり来た」

「襲撃者はネリだけ?ネフィリムは!?」

「知らないよ。私の任務はここで手当たり次第に暴れることだけ」

「…なんだか、様子が変?」

「行け、マギア」

 

マリアたちが現場に着くと、そこにはいつもの無邪気さが欠片も見当たらないネリがいた。

ネリがテレポートジェムに似たクリスタルを地面に叩きつけて割ると、魔方陣が展開されその上にマギアが転移される。

しかし、出てきたマギアはトリロバイトマギアではなかった。

 

「なんデスかこいつら!?」

「ここで新型のマギアってことね……」

 

出てきたマギアは3体。

一体はカマキリのような見た目に両腕にある鎌が特徴のベローサマギア。

もう一体はカエルのような見た目のガエルマギア。

最後の一体は頭部と胸部がマンモスのような見た目のマンモスマギア。

 

「ですが、おそらくネフィリムも連れているはずです。暁さん、月読さん。ここは私と姉さんで抑えます!」

「そうね。2人はその間にいるであろうネフィリムを探して!」

「分かったデス!」

「…任された!」

「アハハハ…行かせると思ってるの!」

「押しとおります!」

《インフェルノウィング!》

 

スラッシュライザーのバックルを腰に巻いたセレナは、バーニングファルコンプログライズキーを起動する。

マリア、切歌、調も聖詠を紡ぎ、シンフォギアを纏う。

 

《バーンライズ!》

《Kamen Rider…Kamen Rider…》

「Seilien coffin airget-lamh tron」

「Various shul shagana tron」

「Zeios igalima raizen tron」

「変身ッ!」

《スラッシュライズ》

《バーニングファルコン!》

《The strongest wings bearing the fire of hell!》

 

仮面ライダー迅に変身したセレナとアガートラームを纏ったマリアが、突撃してきた3体のマギアを抑え込む。

 

「今です!」

「行きなさい2人とも!」

「分かったデス!」

「…気を付けて!」

「行かれたか……まあ、いいや」

「フッ!でやあ!」

「セイ!ヤアアッ!」

 

去っていく切歌と調を見ながらも、ネリは気だるそうにそれを見送るのみ。

ベローサマギアとマンモスマギアを斬り払ったセレナは、そのネリの様子に違和感を感じた。

 

「貴女…本当にネリさん、ですか?」

「ええ、そうよ。あなた達への復讐に燃えている、ネリだ!」

「復讐……?」

『人類、絶滅』

「ッ!くっ!」

 

ネリの放った「復讐」の言葉が引っ掛かったセレナだったが、ベローサマギアの攻撃に意識を引き戻される。

そのままベローサマギアの鎌を捌いていると、ガエルマギアを相手していたマリアと背中がぶつかる。

 

「やっぱり、トリロバイトマギアよりも強いわね……」

「それでも、ここで負けるわけにはいきません。私たちを信用してくれている皆さんの為にも!」

 

気合の声と共に、スラッシュライザーをバックルに戻したセレナは、セインティングペガサスムゲンライズキーを取り出し起動する。

 

《ブレイブ!》

《ムゲンライズ!》

《Kamen Rider…Kamen Rider…》

『人間、殲滅!…ガッ!』

 

ムゲンライズキーをスラッシュライザーに装填し、バックルから外して掲げる。

それと同じタイミングで、マギアが3体同時に仕掛けた攻撃が、セレナとマリアの周囲に現れた12本のソードクリスタに弾かれる。

さらに13本の光の柱によって編まれた、ペガサス型のファントムモデルがセレナをその翼で包む。

 

《スラッシュライズ!》

《Hope of legend! セインティングペガサス!》

The sword that pays the darkness is the proof of the king(闇を払う剣は王の証)

 

セインティングペガサスにフォームチェンジしたセレナは、ライトペガサスが合体したスラッシュライザーを振るって、ベローサマギアとマンモスマギアを吹き飛ばす。

 

『人間…殲滅!』

「ハッ!セヤアア!」

 

ベローサマギアの鎌を弾き、返す刀で斬りつけ蹴り飛ばす。

 

『撲滅!』

「フッ!」

 

その隙を狙ったのか、マンモスマギアが突進してくるが、セレナはマントをはためかせながら振り返り、マンモスマギアを殴り飛ばす。

 

「人間は破壊ぃい!」

「ああもう!うっとおしいわね!」

 

ガエルマギアは小型のカエル型爆弾「コガエルボマー」を、マリアに向けて大量に放つ。

マリアも、短剣を大量に展開して迎え撃つが、コガエルボマーが小さすぎて全てを破壊できないため、回避を余儀なくされてしまう。

 

「これなら!」

【SILVER†GOSPEL】

 

マリアは生成した操舵剣を振るって、一気にコガエルボマーを撃ち落としていく。

しかしその隙を狙ったガエルマギアが飛びかかり、マリアは反応が遅れてしまう。

 

「なッ!?しまッ!」

「姉さん!」

 

しかし、直前でセレナが飛ばしたソードクリスタが間に合い、ガエルマギアを弾き飛ばした。

 

「大丈夫ですか!?」

「ええ、助かったわ」

「アハハハ…ああ、ああ……何でまだやられないの?」

「ネリさん……」

「貴女たちがやられてくれないとモネが……モネが帰ってこないじゃないッ!!」

「それっていったいどういう……」

「もう良い……私がやる」

 

ネリが取り出したのは2丁のネビュラスチームガン。

片方に黒いギア、もう片方に銀色のギアが装填されている。

 

《ギアカイザー!》

《ギアブロス!》

《ファンキーマッチ》

「爆動……ぐ、グアアアアアアッ!!」

 

2丁のネビュラスチームガンの銃口から歯車型のエネルギー体が飛び出し、ネリの身体に張り付く。

強化スーツを纏っていないため、直でエネルギー体が張り付きネリは苦悶の声を上げる。

 

《フィーバー!》

《ミスマッチ》

「アアアアアア……ヘルカイザー…爆誕」

 

やがてネリの全身に線が走り、ようやくその身がスーツに包まれる。

全身の至る所に黒色や銀色の歯車型のパーツが装着され、その姿はバイカイザーやヘルブロスよりも禍々しい姿になっている。

『ヘルカイザー』……地獄より這い上がりし復讐に駆られた悪魔が、ここに誕生した。

 

 

《七海side》

 

私はとある施設の一室で、全身に吸盤やらコードやらを引っ付けてベッドに寝そべっていた。

 

「……大丈夫かなぁ。()()()は」

「信じるしかありません。それよりも、こちらもそろそろ作業を始めます」

「うん、よろしく」

 

エルフナインが退出し、目の前にあるモニターに了子さんの顔が映る。

 

『準備はいいかしら?』

「うん。お願いします」

「それでは、今から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

事の次第は、3日前に遡る。

 

 

―――3日前。

 

「みんなに提案したいことがある」

 

その日、姉さんが装者たちや主な研究者を司令室に集めた。

 

「提案?」

「いったい何を言うつもりだ?」

 

皆からも疑問の声が飛ぶ中、姉さんはその提案内容を言った。

 

「私の提案は、なーちゃん…仮面ライダーグリスの強化形態を作ること」

「「「「「「「「「「「………ええッ!?」」」」」」」」」」」

 

その提案はまさに、私を含めた全員にとって寝耳に水だった。

驚愕で固まる私たちをよそに、姉さんはこの提案の理由を話した。

 

「私がまだ蘇ったばかりの時、彼女たちの拠点で何かを作っているのを見た」

「何か、とは……?」

「おそらくプログライズキー。それも、サウザーの強化用の」

「それって、不味いんじゃねえか!」

「うん、不味い。サウザーへの対策として作った新兵装は、全て過去のデータを基に作ったに過ぎない。もし、今までを超える者を作ってきたら……」

「対応は出来ない、か」

「だからこそのこの提案だよ。現状、この中で一番に戦闘能力が高いのはなーちゃんだ。だから、グリスを強化する」

「でも、今から考えるの?そんなこと、さすがに間に合わないわよ?」

「大丈夫」

 

そう言って、姉さんは手元の端末を操作して、あるデータをみんなに見せる。

 

「これは?」

「私が一昨日から考えていた、グリスの強化案」

「これだけの量を、たったの2日程度で考えたというのか!?」

「それで!どんな内容なの?」

「既存のライダーシステムに、錬金術、シンフォギアシステムを使って、なーちゃんだけに合わせたものを作る」

「へえ……なるほどな。こちらには過去のものも含めて、膨大な量のデータがある。新しいものを一から作るより、それらを組み合わせて強化を図るという事か」

 

了子さんのしゃべり方が、途中から普段とは違うものになった。この喋り方はフィーネとしてのもので、この時はかなり興奮しているという事だ。

ただ、話を聞く限りそう簡単にはいかないらしい。

 

「ただ、2つほど困ったことがある」

「それはなんだ?」

「まず一つ目。簡単に言うと、さっき言った3つのまったく違う技術体系を一つにするには、それぞれを同じ様に数値化する必要があるんだけど……」

「もしかして、それができないの……?」

 

マリアの言葉に、姉さんは首を横に振り1つのデータを新たに立ち上げる。

 

「いや、それは問題ない。そっちはすでに私がしておいた。やろうと思えば一日もかからない。問題なのは機材の方。この数値化を処理できるだけの機材はそうそうない」

「すでに数値化の理論は出来ているとは……つくづく化け物だな」

「そうなのデスか?」

「ああ、私だとしても少なくとも一年はかかる」

「僕もすぐには出来ないですねぇ。というより、これは錬金術を理解しなければならないので、ボクだと10年…いや、下手すれば寿命が足りないでしょう」

 

あのフィーネやドクターウェルでさえも難しいという作業を、2日程度で済ませるという明らかにおかしい姉さんに皆が唖然とする。

私も驚いたけど、それは前世で慣れたんだよなぁ。

 

「それで姉さん。2つ目は?」

「うん。2つ目は、確実性がないことが原因。実はある程度の理論は組み立てたとはいえ、それでも急造したものに過ぎない。だから、本当にうまくいくかは分からない」

「確率は?」

「五分五分……と言えたらいいけど、本当は大目に見て成功率四割…最悪1割以下」

「失敗したらどうなるの?」

「それすらも分からない。」

「ふむ……七海くん、君はどう思う」

 

不安要素を聞いた弦十郎さんは、私の方を向いて聞いてきた。

 

「この案に一番関係あるのは君だ。だから、君が決めると良い」

 

相変わらず男前な人だ。

……成功するかも分からず、失敗すれば何があるか分からない。はっきり言ってする必要はない。

だけど私には、ある種の予感がしていた。もし敵が平行世界のキャロルなら、一度負けた相手に同じように挑むか?キャロルがなんらかの対策をしていても不思議ではない。

なら私が取る選択は――――。

 

「………私は、案に乗ってみてもいいと思う」

「そうか」

「で、でももし何かあったら大変だよ!」

「そうデスよ!それに私たちだって強くなったデス!」

「ありがとう、響、切歌ちゃん。でもやっぱり、保険は必要だと思う」

 

私がそう言うと、響と切歌は俯いてしまった。

申し訳ない気持ちでいっぱいだが、やはりこの予感とやらが気になってしょうがない。

 

「ならば、後は黒夜くんの言っていた問題点だけだな。2つ目は仕方ないとして……一つ目の方だが」

「司令」

「どうした、緒川」

「松代にあるあそこなら、なんとかできるのでは……」

「ふむ……風鳴機関か。確かにあそこには、前大戦時の聖遺物研究に使われていた機材が残っていたな」

「風鳴機関……?あの、それってなn「それ、詳しく教えて。正確には機材の大きさが知りたい」……あぅ」

「あ、ああ。おそらくかなり巨大の物だろう。風鳴機関が2課に変わる際も、スペックは良かったがサイズのせいでもってこれなかったくらいだからな。今よりも小型化の技術が乏しかったこともあって、なおさらだろう」

「なら、それを改造すればかなりの容量になるはず……ねえ、その使用許可を取れない?」

「許可か……だがあそこは親父に許可を取らなければならん。ましてや、機材の改造など……」

 

姉さんの要求に、弦十郎さんが苦い顔をする。

……ああ、確か訃堂のお爺さんは息子である弦十郎さんや、翼のお父さんである八紘さんに忌避感を持たれてるんだったっけか。

話してみれば普通の爺バカなんだけどね。仕方ない。

 

「ちょっと待ってて」

 

私は断りを入れて、廊下に出るとある人に電話をする。

そして通話相手に用件を伝えて司令室に戻ると、正面の巨大なモニターにある人物が映っていた。

 

『話は聞かせてもらった』

「親父だとぉ!?」

「お爺様!?」

『風鳴帰還の施設、ならびにその機材の改造だったか?いいだろう。この儂が許可しよう』

「なッ!?どうして親父がその事を知っている!」

「まさか……」

「戻りました……お久しぶりですね。訃堂のお爺さん」

「前々からもしやとは思っていたが、やはり君は親父と知り合いだったのか?」

「まあ、そうですね。さっき電話して、許可を出してもらいました」

『そういう事だ』

「親父…あんたが何を考えているかは知らないが、今はその許可をありがたく頂こう」

 

いや(何も考えて)ないです。

 

『ふん。弦、貴様こそ、無様な姿を見せてみろ。お前にはそれなりの責任が背負わされているのだ。簡単に無茶な請け負いをしていると、いつか痛い目を見るぞ』

 

あんたもだよ。そんな言い方するから嫌われるんだって。本当は応援してるくせに。

 

「なあ翼先輩。あの2人って親子なんだろ?いつもあんな風に仲が悪いのか?」

「ああ、基本的にあんな風に腹の探り合いをするぐらいにはな」

「……でも、なんて言うか…そこまで険悪でもないような気も?」

 

響、良い勘してるね。勉強はできないけど。

そして訃堂のお爺さんからの通信も切れ、私たちは部隊を二つに分けることになった。

1つは予定通り、深淵の竜宮(アビス)で警戒する部隊。これは元FIS組の4人が。

そしてもう一つは、風鳴機関の施設がある松代に行き、強化アイテムを制作中の警護をする方に残りが。

 

なぜ松代の方にも部隊を残すかというと、どうも施設はすぐに使うことが難しく、さっき言っていた機材の改造など含めた準備にどうも2,3日かかるらしい。

さらに、大規模な機材の搬入となると敵側にも動きを察知される可能性がある。向こうがこちらの新兵装の対抗策を作っているなら、邪魔はしたいはずだ。そのため、こちらにも護衛を残すらしい。

そして、おそらくそれに来るのは平行世界のキャロルである可能性が高い。これは他でもないキャロルの弁だ。

 

 

そして準備が終わり、作業が開始した。

 

 

 




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63 憎しみの使者

ツバサ様、感想ありがとうございます!


《三人称side》

 

ヘルカイザー……新たな力を得たらしいネリは、セレナに殴りかかる。

 

「ハアアア…ハァ!」

「グッ!」

 

咄嗟にスラッシュライザーを掲げて防ぐが、拳の一撃でセレナは軽く後ろに下げられてしまいました。

セレナはその威力に驚きながらも、追撃を防ぐためにソードクリスタを放つ。

 

「これならッ!」

「アハハハ…。目障りだなぁ。フンッ!」

 

ソードクリスタを突撃させるが、ネリは2丁のネビュラスチームガンと体から小型の歯車『ギアソーサー』を計12個飛ばし、ソードクリスタを迎え撃つ。

 

「ッ!ハアアッ!」

「フン。フフフフ……」

 

ソードクリスタとギアソーサーが飛び交う中、セレナのスラッシュライザーとネリのネビュラスチームガンがぶつかり合う。

 

「フッ!」

「クッ!」

 

ネリが至近距離で発砲するが、直前にセレナが腕を弾いたことで命中しない。

今度はセレナが斬りかかるも、ネリがネビュラスチームガンで防ぎさらに蹴り飛ばす。

 

「強い……」

「当たり前だよ。私は取り戻すんだ」

「なら私は守ります。それが私の戦う道だから」

 

セレナが取り出したのはセインティングペガサス、ピアッシングユニコーンとも違うムゲンライズキー。

 

《リバース!》

《ムゲンライズ!》

「変身!」

《スラッシュライズ!》

 

ギアソーサーを弾き飛ばして戻ってきたソードクリスタと掲げたスラッシュライザーから、光の柱がネリに向かって伸ばされる。

ネリは躱したが、光の柱はネリの背後で蛇のような龍―――サーペント型のファントムモデルとなり、ネリを背後から突き飛ばしてセレナをその長い体で囲む。

 

《ブレッシングサーペント!》

Release the sea dragon to all(その海龍は全てに開放する)

 

白い身体に蒼い蛇が巻きついたような装飾が施され、ソードクリスタは龍の翼のような装飾となり背部に装着された。

 

「バーチャライズブレード!」

 

バーチャライズブレードを召喚したセレナは、ランチャーモードに切り替えてネリに向けて光弾を発射する。

それをネリはギアソーサーを盾にすることで防ぐ。

 

《ファイナルブレッシングブラスター!》

「ハァ!」

「甘く見るなぁ!」

 

バーチャライズブレードの銃口から、サーペント型のファントムモデルを模したエネルギー弾がネリに向かっていく。

ネリはギアソーサーを組み合わせて巨大な1つの歯車としてエネルギー弾を迎え撃った。

2つがぶつかり合い、派手な爆発が起きた。

 

 

そしてマリアは、3体のマギアに囲まれ苦戦を強いられていた。

 

『人間、殲滅!』

『撲滅!』

『爆滅!』

「さっきから物騒なことばかり言うわね!でも、私もやられてるばかりじゃないの」

 

マリアは不敵に笑って、コネクティブユニットのダイヤルを操作し、それと同時に3体のマギアが攻撃を仕掛ける。

 

《デュアルリンク!ヘルメス》

 

マリアがダイヤルの中央のボタンを押した瞬間、マリアの姿が消えその一瞬後、マギアたちが何かに斬り飛ばされる。

 

「あいにくと、速さには自信があるの」

 

マギアたちが声がした方向に視線を向けると、そこにはリンクギア『ヘルメス』を纏ったマリアが立っていた。

マリアは再び駆けだし、その俊足を持ってマギアたちを翻弄、次々と攻撃を加えていく。

 

「これで終わりよ!」

【ETERNAL†MOMENT】

 

マリアが手にした剣を掲げると、大量の剣が複製され今度はマギアたちを包囲するように展開される。

そして、掲げられた剣を振り下ろすと、複製された剣が一斉に突撃していき、串刺しになったマギアたちは爆発した。

 

『にん、げん……せん……』

 

 

《調side》

 

私と切ちゃんは、どこかにいるらしいネフィリムという完全聖遺物を探していた。

だけど、かなり探しているのにまったく見つからないことに苛立ちを感じていた。

仮本部の方に連絡を取っても、ネフィリムと思わしき反応は見つからないらしい。

 

「…全然見つからない」

「落ち着くデスよ調。とりあえず、この破壊跡を追うデスよ」

「…うん」

 

そうして切ちゃんと進んでいくと、壁に空いた一際大きい穴から、黒い動物の様な何かが出てきた。

何かを噛んでいるように口と思われる部分を動かしていた”それ”の傍には、アウラネルがいるのを見た瞬間、私たちはその黒いのがネフィリムと確信した。

 

「…いた、アウラネル!」

「大人しくお縄に着くデスよ!」

「ああ、やっと来ましたか。ですが、すでに目的は果たしました。後は成長を待つのみ」

《ポイズン!》

《フォースライズ!》

 

アウラネルは仮面ライダー滅に変身して、アタッシュアローを構える。

相手の強さを、私たちはよく知ってる。

だから、私は切ちゃんを見て頷くと、切ちゃんも意図が伝わったのか頷き返してくれた。

 

《デュアルリンク!クルースニク》

《デュアルリンク!ツクヨミ》

 

リンクギアを纏った私たちは、同時にアウラネルに攻撃を仕掛ける。

 

「デース!」

 

切ちゃんが真正面から斬りかかり、その背後から私がヨーヨーで援護する。

相手との実力差を埋めるために私たちが考えたのは、私たちのコンビネーションで攻めること。

そのためにたくさん訓練してきた。だけど、アウラネルはいとも容易く私たちの攻撃を捌いてしまった。

 

「なるほど。コンビネーション攻撃ですか。嫌いではないですよ」

「…そうやって上から目線で!」

「いられると思うなデース!」

 

 

 

《奏side》

 

あたし達は松代にある施設の外で、平行世界のキャロルたちの襲撃を警戒していた。

……というかなんかややこしいな。平行世界の方はサウザーで良いだろ。

 

「奏さん!お疲れ様です!」

「よお響……って翼、あんま気ぃ張ってたら、いざって時に動けないぞ」

「わ、分かってる」

「まあ、翼先輩の気持ちもわかるな。来たやつらを迎え撃つよりも、こっちから攻めた方が気が楽だしな」

 

丁度暇だなーって思ってたら、あたしのとこに響、翼、クリスの3人がやってきた。

いつも通りの翼を適当にからかってやり、多少緊張も崩してやる。

 

「……さて、こっちは順調かね?」

「言って向こうにはフィーネにドクターウェル、キャロルやエルフナイン、それに黒夜もいるんだろ?大丈夫だって考えるしかないだろ」

「そうだな。ここで気にしていても、私たちに手伝えることもないわけだからな。襲撃の警戒に努めよう」

 

翼の言うとおりだな。言うてうちの科学者は才物揃いだしな。

そう考えていると、司令の旦那からマリアたちの方が襲撃されたことが伝えられた。

それとほぼ同時に、施設の近くで爆発が起きた。

 

「こっちも来たか……」

「すぐに向かうぞ!」

 

私たちが爆発地点に向かうと、そこには多数のトリロバイトマギアと変な形のマギアを引き連れたサウザーがいやがった。

 

「キャロルちゃん!」

「……オレのことは、この世界のオレから聞いたのだろう?」

「やはりか……なぜこの世界を破壊しようとする!」

「ふんっ……オレを叩き潰したお前たちがそれを言うとはな……」

「何?」

 

何言ってんだこいつ?あたし達がお前を倒した?

前にアイツを倒したのは、七海と黒夜だったはずだ。でも、何か違う気がする。

そういや、前に七海が何かを言ってたな……。

 

「ああ…この世界では違うんだったな。オレは世界を分解しようとせず、オレの知る歴史でもなかった」

「世界を分解……?なあ、お前って死んでるのか?」

「……オレが何なのかも聞いたか。だが、それはどうでも良いことだ。今のオレには―――」

《ゼツメツ!Evolution!》

《ブレイクホーン!》

 

キャロルが変身しようとして、あたし達も変身しようとした時、響が一歩踏み出した。

 

「どうでも良くないよ!」

「……何?」

「だって、今の私たちは手を繋げる!お願い、何があったのか話して!私はそれを全部受け止める!」

「相も変わらず、この世界でも甘ちゃんか。くだらんな。変身」

《パーフェクトライズ!》

《When the five horns cross,the golden soldier THOUSER is born.》

《Presented by Alchemist!》

「オレは奇跡の破壊者だ。この憎しみが尽きることはない!」

 

平行世界のキャロルは響の言葉を一蹴し、仮面ライダーサウザーに変身した。

私もショットライザーのバックルを腰に巻き、ランペイジガトリングプログライズキーを起動する。

 

《ランペイジバレット!》

「ッ!奏さん、待ってください!」

「響、ありゃ聞く気はないぞ。なにより、あたし達には守る者がある」

「……分かりました。なら、私はあのキャロルちゃんに話を聞いてもらえるように、私はキャロルちゃんの拳を開いて見せます!」

「へ……ラァ!」

 

響の覚悟を聞き、後輩が育っていることが分かり頼もしいと感じた。

ランペイジガトリングプログライズキーを強引に開き、ショットライザーに装填する。

 

《オールライズ!》

《Kamen Rider......Kamen Rider......》

「変身ッ!!」

《フルショットライズ!》

 

ショットライザーをバックルから外し、引き金を引く。

複数のライダモデルがあたし達の周囲で動き回り、5つの銃弾があたしに向かってくる。

 

「フン!ハァ!」

 

飛んできた銃弾を殴りつけ、さらに返す刀でもう一発を裏拳で殴る。

 

「オラァ!」

 

さらに回し蹴りで3発の銃弾を蹴りつけ、最後にあたしの顔を装甲が包む。

 

《Gathering Round! ランペイジガトリング!》

《マンモス!チーター!ホーネット!タイガー!ポーラベアー!スコーピオン!シャーク!コング!ファルコン!ウルフ!!》

Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)

 

あたしは仮面ライダーランペイジバルカンに変身し、響たちはシンフォギアを身に纏う。

ぜったいにここはやらせない。あたし達の大事な仲間がいるんでなぁ!

 

 

 




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64 絶望とオオカミ

《三人称side》

 

「いくぜ!」

「行きます!ハァアアア!」

 

奏と響が飛び出し、襲い来るトリロバイトマギアをなぎ倒す。

 

《アックスライズ!》

「オラァ!」

『人間、滅殺!』

「何ッ!?」

 

奏がオーソライズバスターを振るいトリロバイトマギアを蹴散らしていると、巨大な巻貝が頭部と両腕に張り付いたような見た目のビカリアマギアが、その両腕でオーソライズバスターを防ぐ。

 

「このやろぉ!」

『ッ!』

「ハッ!」

 

奏はビカリアマギアが振るう両腕を躱し、オーソライズバスターを叩きつけて吹き飛ばした。

 

「ラアアア!」

「おい!あんま前に出過ぎるんじゃねえ!」

「立花、左だ!」

 

ナイフを持って斬りかかってくるトリロバイトマギアを殴り、蹴り飛ばす響をクリスが援護する。その時、響の左から赤い鳥人のようなマギアが羽のような形の剣を振るう。

しかし、間一髪で翼の援護が間に合い、響を攻撃したマギア―――ドードーマギアは一旦退く。

 

「立花はやらせない!」

「翼さん!」

「貴女が逸る気持ちは分かる。でも、敵は数が多いうえに強い。もっと私たちを頼りなさい」

「翼さん……ありがとうございます!」

「ったく。勝手に決めんじゃねえよ」

「えへへ……ごめんねクリスちゃん」

「別に、もう慣れっこだ」

「2人とも来るぞ!」

 

翼の警告に2人が警戒すると、トリロバイトマギアがアサルトライフルを撃つ。

クリスはリフレクターで防ぎ、響と翼は身を屈めて銃弾の嵐の中を駆け抜ける。

 

「ハアア!」

「セヤアア!」

【千ノ落涙】

 

翼が跳躍して大量の刀を生成し雨の様に降らせて、トリロバイトマギアを次々と倒していく。

響はドードーマギアの剣を、手甲で受け流して反撃する。

 

「クッ!強い……」

『人間…』

『…殲滅!』

「えッ!?うわぁ!」

 

ドードーマギアに集中していた響は、背後から接近していたもう一体のマギアに気付かずに、攻撃を食らってしまう。

 

「立花!」

「くそッ!まだ居やがったか!」

 

響を背後から攻撃したのは、ネズミのような頭部のエカルマギアだった。

 

「まだまだ居やがるな……」

「ッ…キャロルちゃんも相手しないといけないのに……」

「………立花。ここは私とクリスでどうにかする。お前は奏の方に行くんだ」

「翼先輩!?でも、この数を2人でなんて」

「アホ」

「痛っ!?」

 

渋る響の頭を、クリスが叩く。

 

「生意気言ってんな。これくらい、あたしと翼先輩でどうにかできる」

「ふっ……そういう事だ。行け!立花!」

「………分かりました!ここはお願いします!」

 

そう言って響は、奏の元へと向かう。

トリロバイトマギアが身を塞ぐが、クリスの放ったミサイルによって吹き飛ばされる。

 

「さーてと。トリロバイトは目算で100ちょっと。そんでネズミ頭と鳥野郎か」

「怖気づいたか?」

「ハッ!まさか!全員纏めて…ぶっ飛ばしてやる!」

「では行くぞ!」

「「デュアルシステム、コネクト!」

《デュアルリンク!アメノムラクモ》

《デュアルリンク!ネフシュタン》

 

 

 

一方ビカリアマギアと数体のトリロバイトマギアを相手にしていた奏は、ランペイジガトリングプログライズキーのマガジンを3回回し、ショットライザーのトリガーを引く。

 

《パワー!スピード!エレメント!ランペイジ》

「フッ!」

《ランペイジエレメントブラスト!》

 

左手にタイガーの力で炎が、右手にベアーの力で冷気が生み出される。

 

「フン!ハッ!ハアア!」

 

左手から火炎弾を、右手から氷弾を投げつけてトリロバイトマギアを撃破する。

止めに右手からサソリの力で「アシッドアナライズ」を伸ばし、ビカリアマギアを串刺しにする。

 

『人間、崩壊ー!』

 

胸部に穴を開けたビカリアマギアは、その言葉と共に爆発した。

 

「さーて、後はお前だぜ。サウザー」

「ふん。新たな力を手に入れてはしゃいでる様だな。野良犬風情が。しつけが必要だな」

「やれるもんなら、やってみろよ!」

 

奏はショットライザーを撃ちながらサウザーに接近。

パンチや蹴りを放つが、サウザーはサウザンドジャッカーを巧みに使い、奏の攻撃を全て受け流していく。

 

「格の違いがまだ分からないか」

《JACKING BREAK!》

「フン!」

 

サウザーは氷の斬撃を奏に向けて飛ばす。

奏が回避しようとした瞬間、横から割り込んだ響が、氷の斬撃を打ち砕いた。

 

「大丈夫ですか、奏さん!」

「響!?」

「私も、一緒に戦います!」

「わらわらとうっとおしい!」

 

サウザーがサウザンドジャッカーを掲げると、2人の頭上にマンモス型ライダモデルの足を模したエネルギー体が生み出され、2人を押しつぶそうと降ってくる。

それを左右に分かれてかわし、響はコネクティブユニットのダイヤルを操作する。

 

「デュアルシステム、コネクト!」

《デュアルリンク!デュランダル》

 

デュランダルのリンクギアを纏った響は、サウザーに向かって突撃し拳を叩きつける。

それをサウザンドジャッカーで防いだサウザーは、地面を削りながら軽く後ろに下がるが何とか防ぐ。

そのまま拳を弾き斬りかかるが、響は躱しそれと入れ替わりで奏が接近し、拳打を浴びせていく。

 

「オラァ!」

「グッ!」

 

奏渾身の回し蹴りが刺さり、サウザーは地面を転がる。

 

「こいつで止めだ!」

《パワー!スピード!エレメント!オールランペイジ!》

「ハッ!」

 

奏はマガジンを4回回し引き金を引く。

響は右手を高く掲げると、その上に巨大な光の剣が出現する。

 

《ランペイジオールブラスト!》

「ハアアア…ハァ!」

「でりゃあああ!」

「舐めるなぁアアアアア!」

《サウザンドライズ!》

 

奏は虹色の銃弾を撃ちだし、響は光の剣を振り下ろす。

しかし、サウザーも負けじとバイティングシャークプログライズキーをサウザンドジャッカーに装填、レバーを引いて戻す。

 

《THOUSAND BRAEK!》

「フン!」

 

サウザンドジャッカーを振るい、黒いサメ型ライダモデルを召喚する。

サメ型ライダモデルと、虹色の弾丸と光の剣が激突する。

そのせめぎ合いに勝利したのは……後者だった。

 

「「ハアアアアアッ!!」」

「何ッ!このぉ!」

 

破られたことに驚愕したサウザーはすぐに切り替え、サウザンドジャッカーから伸びるサメの牙を組み合わせた様な鞭を振るい迎撃する。

だが、所詮は苦肉の策。

あっという間に砕かれ、虹色の銃弾と光の剣がサウザーに命中、吹き飛ばした。

 

「グアアアアッ!」

「よしっ!」

 

地面を何度も転がったサウザーは変身が解除され、キャロルの姿が見える。

地面に沈むキャロルは憎々しげな表情を浮かべ、2人を睨む。

 

「ねえ、キャロルちゃん。もうやめよう?きっと、こんなことをしても、何も変わらないよ」

「何も変わらないだと……?ふざけるな!」

 

キャロルは近づいた響が差しのべた手を払いのける。

フラフラになりながらも立ち上がったキャロルは、響から距離を取る。

 

「ならば、オレの憎しみはどうなる!?パパを奪われ世界を憎み!オレの復讐を悪と断じる装者どもに阻まれ!世界はこうもオレを絶望させたいか!」

「キャロルちゃん!」

「ならば……なって見せよう。オレが、この世界の絶望にぃ!」

 

 

 

《キャロルside》

 

『ウアアアアアアアアッ!?グ、グウウ、アアアアアッ!!』

「おい、どういうことだこれは!?何で七海が苦しんでる!」

 

研究室のモニターには、苦しみの悲鳴を上げる七海が映されている。

ベッドに寝そべっているその身体には、すでに落ちることを防ぐための拘束具が付けられている。

それは急だった。うまくいっているはずの適合作業の途中、七海が急に叫びだしたのだ。

オレがどういうことかと黒夜に詰め寄ると、黒夜は苦い顔で話し始める。

 

「……すでに錬金術、ライダーシステム、シンフォギアシステムの数値化による処理は終わってる。おそらく、それによって完成したボトルの成分となーちゃんの身体が適合しようとしてるんだ」

「くそッ!」

 

文字通り七海専用のボトルにするためか!

 

『ウアアアアアッ!』

「ッ!くそッ!」

「おい。こっちもまずいが、外の方もまずいぞ……」

 

フィーネの声に、外の様子を映しているモニターに目を向けると、外の様子に思わず身を見張った。

 

『ハハハハハッ!ハハハハハッ!』

「バルカンに、装者3人ともやられている。生命反応を見る限り生きてはいるが……これはまずいぞ」

「だったら、私は出て時間をかせ―――」

「オレが行く」

「なッ!?何を言ってるの…ッ!?」

 

オレは詰め寄る黒夜の胸元を掴み引き寄せる。

 

「悔しいが……今この場において、一番の頭脳を持つのはお前だ。だから、もし七海に何かあったらお前がどうにかしろ。その時間はオレが稼いでやる……!」

「キャロルちゃん……」

 

これはオレの本心だ。

オレには錬金術という黒夜がまだ持っていない知識があるが、今回の様に3つの異なる技術体系を組み合わせろと言われた場合、おそらくこいつの様にはいかない。

黒夜の知能をオレは認めている。だから、非常に不本意だがこいつに七海を預ける。

それが最善策だろう。

 

「………分かった。なーちゃんのことは、私が全力を持ってなんとかする」

「当たり前だ」

 

黒夜の胸元から手を離し、オレは外に急ぐ。

装者たちが倒れている場所に着くと、そこには倒れ伏している4人と狂ったように笑い声をあげている平行世界のオレがいた。

 

「そこまでだ……!」

「……ん?今更貴様が何をしに来た」

「キャロルちゃん……?」

「お前をブッ飛ばしに来たんだ」

 

オレは足元に落ちている天羽奏のショットライザーを拾い、バックルを腰に巻く。

そして取り出すのは、1つの()()()()()()()()

 

「ゼツメライズキーだと?」

「オレが何の準備もなしに来ると思うな」

《ジャパニーズウルフ!》

《Kamen(Warning!)Rider...Kamen(Warning!)Rider... 》

「フン!」

《ショットライズ!》

 

ショットライザーの引き金を引き、撃ちだした銃弾はオオカミ型のロストモデルに変化する。

ロストモデルはオレの周囲を走り回り、オレの身体にかぶりついた。

その瞬間、オレの身体を今まで以上の負担が襲った。

 

「グウ…!?……これぐらいが何だ……あいつは、今これ以上の苦しみを負っているんだ。これぐらいが、どうしたぁ!ウウアアアアアアッ!!」

《オルトロスバルカン!》

《Awakening the instinct of two beasts long lost》

 

ロストモデルは装甲へと変わり、オレはアサルトウルフに似た形状の仮面ライダーへと変わった。

仮面ライダーオルトロスバルカン。もしもの為に用意してきた、オレの奥の手だ。

そして、これを見た平行世界のオレは、嘲るような笑みを向けてきた。

 

「その程度でオレに勝てるとでも……?」

「うるさいッ!オレがお前をぶっ潰す!」

 

 

「ならば……オレが見せてやろう。絶望をなぁ……!」

 

 

 

 

 

 





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65 心の火…心火

本日2本目です。
読まれる際はご注意を。


《三人称side》

 

「オレが見せてやろう。絶望をなぁ……!」

 

そう言って平行世界のキャロルが取り出したのは、2つのプログライズキー。

オルトロスバルカンのキャロルは、それがただのプログライズキーではないことを察した。

平行世界のキャロルは、片方のプログライズキーをサウザンドドライバーの左側に差し込む。

 

「あれは…まさか!」

()()()()!Evolution!》

「終焉を始める『ビギニングドラゴン()()()()()()()()』…そして」

「気をつけろ!あたし達もあれにやられた!()()()()()()()()()()()!」

「何ッ!?」

 

奏の警告にキャロルは驚愕し、平行世界のキャロルはもう片方のプログライズキーをキー状態へと展開する。

 

《ブレイク!ホープ(希望)!》

「希望を破壊し、全てに終わりを告げる『エンディングアルケミストプログライズキー』……この2つがそろう時、有象無象は絶望を知る。変身ッ!」

《コンプリートライズ!》

 

平行世界のキャロルが、エンディングアルケミストプログライズキーをベルトの右側へと差し込む。

すると、巨大なドラゴン型ファントムモデルと錬金術師型ライダモデルが出現し、空中を飛び回る。

やがてファントムモデルは平行世界のキャロルの背後に、ライダモデルは正面に平行世界のキャロルと同じような姿勢で降り立つ。

 

Thouzer,the ruler of destruction and rebirth,(破壊と再生の統治者サウザーは、)reigns here(ここに君臨する)

 

ファントムモデルとライダモデルは分解、装甲として再構成し装着されていく。

ベースはサウザーに似ているが、頭部にはドラゴンの頭部の様な装飾、腕や足、胴体の一部にもドラゴンの様な装甲が追加された。

さらに背部には背中を腰まで覆う扇形のマントが装着されている。

 

「仮面ライダーカラミティサウザー。オレの強さを測れると思うなよ……?」

 

絶望は、ここに君臨せり。

 

 

 

《七海side》

 

…………ここは、どこだろう。

 

深い深いどこかを落ちていく。

いったいどこまで続いているのか、そもそも終わりがあるのか。そんなことを考えながら落ちていく。

やがて私の意識は、闇に落ちた。

 

「…………………ここは?」

 

気づけば、田舎らしき場所にいた。あたりには畑が広がっており、近くには誰もいない。

仕方なく歩いていると、道の脇に立てられている看板を見つけた。

 

「猿渡、ファーム……」

「誰だ、お前」

 

背後から掛けられた声に振り向くと、そこにはフードのついたコートを着ている男の人がいた。

どうしてだろう……どこかで見かけたことがある気がする。

 

「おい、聞いてんのか?」

「あ……えっと」

「こんなところ、お前みたいなやつが一人で来るところでもないだろ。迷子か?奇遇だな、オレも連れが迷子になっちまってよ。ったく、いつの間にかはぐれちまいやがって」

 

男の人はそう言って近くの低い石垣(おそらく柵なのだろう)に腰を下ろす。

いや、貴方は方向音痴なんだから迷子なのは貴方なのでは?

………あれ、私何でそんなこと知ってるの?

 

「で…お前、名前は?」

「名前……」

 

男の人に問われて気づく。私の名前って、なんだっけ……?

 

「分からない。名前も自分が何者なのかも……」

「おいおい……まじかよ」

 

だけど、なにも忘れているだけじゃない。

私も男の人の隣に座る。

 

「でも、何かあった気がする。守りたいもの、守らなくちゃいけないもの、私がやらなくちゃいけないこと、やりたかったこと…なにか、大事なことを忘れてる気がする」

「守りたいもの、ねぇ。お前も、何か背負ってんだな」

「貴方も、背負っている者があるの?」

「ああ、なんせここら辺の大地主だからな。俺についてきてくれるやつらを守らなきゃならない。それに今までも、いろんなものを守って、背負ってきた」

「例えば……?」

「世界の平和」

 

おちゃらけた感じで、男の人はそう言った。

でも、私はどうにも冗談だとか、嘘だとかと思えなかった。

 

「つらかった?」

「そりゃあな。痛い目にあって、苦しい思いをして……それでも後悔したことはない。その結果が今の幸せだ」

「私は…きっと耐えられない。こんなはずじゃなかったって言って、きっと諦める」

「それも一つの手だろうな……良いことを教えてやる」

「良いこと?」

 

私が聞き返すと、男の人は自分の右拳を胸に当てた。

 

「挫けそうになったり、諦めそうになったらな、心火を燃やすんだ」

「しん、か……?」

「そうだ。心の火、心火だ。こいつを燃やして、とにかくやってみろ。そうすりゃ、案外なんとかなるんじゃねえの?」

 

心火…か。なんだろう。その言葉を聞くだけで、すごく胸が熱くなる。

 

「それに、守りたいものがあるやつは強いぞ。俺はな、そういうやつらを知ってるんだ」

 

守りたいもの……私は何を守ろうとしていたんだろう。

よく分からないけど…でも、それが私の”何か”に繋がる気がする。

 

「よし」

「あ?」

「とりあえず、思い出してみる。私のやりたかったこと、守りたいもの」

「……そうか」

「おーい!カシラー!」

「ん?あ!あいつら!」

 

男の人の視線の先には、3人の男の人と1人の女性がいた。

カシラと呼ばれた男の人の元に、その人たちが駆け寄る。

 

「……ありがとう。私の憧れたヒーロー」

 

 

 

 

「カシラ、またはぐれてもぉー、探すの大変だったんですよー?」

「しかも、結局ここにいるし」

「カシラは俺たちがいねえと、なんもできねえからな」

「ああ?うっせぇ、バカ野郎ども」

「カ・ズ・ミ・ン?」

「み、みーたん……」

「はぁ……いつものことだけど、その方向音痴、ほんとどうにかして」

「はい……」

「さすがのカシラも、みーたんには逆らえねえな」

「そんじゃ、俺たちも帰るとしようぜ」

「ああ……あ、そういやお前は……あ?」

「どうしたの?カズミン」

「いや、さっきまでそこに女の子がいたんだが……」

「でも、私たちがカズミンを見つけた時から、誰もいなかったよ?」

「え?……ま、大丈夫だろ」

「うわ、適当」

「辛辣だな。まあ、あいつも心火を燃やせるんだ。心配ないだろ」

「ちょっと、どういうこと!?」

「さーて帰って飯にしようぜー」

「ちょっとカズミン!」

 

 

 

 

 

 

風鳴機関の研究室のモニターには、外の戦いの様子が映し出されていた。

否、戦いとは呼べないだろう。

 

『グァ!』

『ハハハハッ!ほら、もっと向かってきなよ。ほらぁ!』

『アアアアッ!』

「キャロルッ!」

 

エルフナインの悲痛な叫びが研究室に響く。

先ほどからオルトロスバルカンに変身したキャロルが、手も足も出ずにやられているのだ。

 

「このままでは、かなりまずいぞ」

「ええ、どうやらあの装備も急造の物の様ですし、このまま持つかどうか……」

「そんなッ!?キャロル……」

 

研究者たちの声を聞きながら、黒夜は必死に端末を操作していた。

既に殆どの処理は終わっており、後は七海が適合に耐えるかどうかだけだが、黒夜は何か手はないかと必死に動かしていた。

しかし、結局は待つしかないと言う結果しか出ない。

その時、黒夜は七海のモニタリング映像に変化が出ていることに気付いた。

 

「これは……!」

 

 

 




サウザーの新フォームが登場しました。
オルトロスさんには申し訳ないですが、ボコボコにされてもらいました。

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66 蘇る希望

ツバサ様、感想ありがとうございます!


《キャロルside》

 

……時間は、どれだけ稼げている…?

 

「時間稼ぎをするんじゃなかったのか?ほら、もっと立ち上がれ!」

「グ……ウアアアッ!」

「フン!」

「グアアアアアッ!」

 

ショットライザーを撃つも、サウザーの装甲にはまったく通らず、サウザンドジャッカーの斬撃を食らう。

 

「キャロルちゃん!」

「これ以上はまずい……早く逃げろ!」

「クソがぁ!」

「動け…動けよ、あたし!」

 

オレが一方的にやられる姿を見ている装者たちは、みな地に伏している。

まさか、ランペイジバルカンでも倒せないとはな……。

 

「私が来ると予測して、そのゼツメライズキーを作ったのは良い判断だった。オレがこの力を手にしなければなッ!」

「グウッ!」

「分かるか?このムゲンライズキーとプログライズキーはな、悪意のデータを基に作ったんだ。世界への尽きることのない憎悪と、大切なモノを奪われた悲しみ!」

「グッ!ガッ!ギッ!」

 

サウザーは悦に入った声で話しながら、倒れるオレを何度も、何度も蹴り続ける。

 

「貴様らの持つプログライズキーでは勝てはしないんだよぉ!」

「ガハッ!」

「……ん?なんだ、やり過ぎで死んだか?」

「ッ!」

 

仰向けになったオレに無防備に近づいてきたサウザーに、零距離でショットライザーを連射する。

サウザーの装甲からは断続的に火花が散る。

これなら、どうだ!

 

「満足か?」

「なん、だと……」

 

ショットライザーの銃撃を止めた途端、サウザーはオレの腕を掴んだ。

あれだけ撃ちこんでも、ヤツの装甲には傷一つ付いていなかった。

 

「これが、オレとお前の差だ」

《ジャックライズ!》

「グ、グウアアア!?」

「ジャパニーズウルフのデータ、貰っていくぞ」

「グハッ!」

 

もはや武器を使うまでもないと言わんばかりに、やつはオレを蹴り飛ばす。

惨めだな……世界は違えど同じオレだと言うのに、手も足も出せない。

ぼんやりとする頭でそう考えていた時、地面に魔方陣が展開され、転移してきた何者かがサウザーに斬りかかった。

 

「ハアアアアッ!」

「ッ!ほう、セレナか。お前は深淵の竜宮(アビス)にいるものだと思ったんだがな」

「こちらのことを聞いて戻ってきたんです!先生はやらせません!バーチャライズブレード!」

 

転移してきたのはセインティングペガサスのセレナで、どうやらこちらの状態を聞いて戻ってきたらしい。

という事は、向こうはある程度終わったという事か?

 

「ソードクリスタ!」

 

セレナがソードクリスタを展開し、サウザーを多角的に攻める。

普通なら圧倒できるだろう。だがヤツは違う。普通の枠組みに当てはまらない。

 

《ファイナル!セインティングカリバー!》

「ハアアアアッ!」

「フッ……」

 

セレナは自身が斬りかかると同時に、サウザーの周囲からソードクリスタを突撃させる。

サウザーは右手を掲げただけ。

しかしそれだけで、セレナの必殺技とソードクリスタの突撃を全て防いだ。

 

「なッ!?グ、アアア……」

《ジャックライズ!》

「セインティングペガサスのデータも貰って行こう……」

 

セレナは驚愕のあまり言葉を失う。

それもそのはず、セレナの攻撃を止めたのは、サウザーを囲むようにして現れた複数の魔方陣(・・・・・・)なのだから。

そして、セレナが固まっている隙に、サウザーはセインティングペガサスのデータを収集する。

 

「そんな……ライダーシステム使用時は、錬金術は使えないはずじゃ……!?」

「そうだ。だがオレはそれを可能にしたのさ。フン!」

「キャッ!」

「せっかくだ。お前にいいものを見せてやろう」

 

サウザーはそう言ってセレナを殴り飛ばす。セレナが倒れているオレの隣に転がってくる。

そして、飛来してきたカブトムシのような物体が、サウザンドジャッカーに接続される。

 

「あれは……まさかフルライズアニマル!?」

「ユナイトコーカサス……そしてこいつを使えば、こんなこともできる」

 

サウザーは、ユナイトコーカサスの羽が開いたことで見えたタッチパネルを操作し、サウザンドジャッカーのレバーを引く。

 

《ユナイトライズ!》

「フン!」

《JACKING UNITE!》

「くそッ!」

「ッ…!」

《オルトロスブラストフィーバー!》

《セインティングクロニクル!》

 

サウザンドジャッカーのレバーを戻し、サウザーは()()()()()()()()()()()()()()を召喚した。

オレとセレナも迎撃の為に、それぞれの必殺技を発動する。

 

「ソードクリスタがッ!?」

「クッ!ウオオオオオッ!」

「ハアアアアッ!」

「無駄だ」

 

防御の為に展開したソードクリスタは紙屑の様に砕かれ、セレナのスラッシュライザーとオレのエネルギーを纏った拳で迎え撃つも、防ぐことは叶わずあっけなく吹き飛ばされた。

 

J A C K I N G

 

   U N I T E

 

「「アアアアアアッ!!」」

 

吹き飛ばされたオレたちは、地面を転がり変身も解除されてしまった。

 

「う、グ……」

「ガ、ハッ……」

「フン。もう終わりか。ならば死ね。それを持ってあいつへの、白黄七海の手土産としてくれる!」

 

やはり、こいつの狙いは七海か!

 

「それじゃあな。オレ」

 

そう言って、ヤツは錬金術で生成した火球をオレたちに向かって放ってきた。

 

「セレナッ!」

「ッ!?先生ッ!?」

 

もう戦う力も、錬金術を使う気力も残っていない。

せめてセレナだけでもと思い、セレナを庇うために覆い被さる。

ああ……オレは死ぬのか?こんなところで。やっと、戻ってこれたのに……。

 

 

 

ごめん、ナナ姉え。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――なんて、言わせるつもりはないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

《3人称side》

 

サウザーの放った火球が爆発し、キャロルとセレナを呑み込んだ。

 

「キャロルちゃぁあああんッ!」

「セレナぁあああッ!」

「おい……うそ、だろ」

「ッ……!クソがぁアアアアアアア!」

 

ようやくダメージが回復してきたのか、倒れていた響たちは何とか起き上がるが、全員の表情には悲壮感が漂っていた。

キャロルとセレナの生存は、もはや絶望的だろう。

その中でサウザーの高笑いが響くが、誰も気にする余裕がない。

 

「ハハハハハハッ!ハハハハハハハッ!ハハハハ……ん?」

 

高笑いを上げるサウザーは、火球の爆発によって巻き起こる炎の様子がおかしいことに気付く。

すると、突然炎が渦を巻き出し、何かに吸収されているかのように消えていく。

そして見えるのは、何が起こったのか分からず呆けているセレナ。

そして、そのセレナに覆い被さりながらも()()()()()()()()()()を呆然と見つめるキャロル。

 

「うそ……」

「まさか、こんなことが」

「は、はは……やりやがった。あいつ、やりやがったんだ!」

 

キャロルとセレナの危機から救った人物に、響たちも歓声を上げる。

そしてサウザーも、現れた人物を見た瞬間、身体を振るわせる。

 

「ふ、フフ…クックック。ハッハッハッハッ!ついに来たかぁ!()()()()()!!」

 

待ちわびたと言わんばかりに声を張り上げるサウザーに、七海は微笑みかけ一言。

 

「うん、来たよ。()()()()

 

 

 

 

 




多分、今日中にもう一話投稿します。

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仮面ライダー紹介
仮面ライダーカラミティサウザー/キャロル(平行世界)
・概要
平行世界のキャロルが『ビギニングドラゴンムゲンライズキー』と『エンディングアルケミストプログライズキー』で変身する、サウザーの強化形態。
”終焉の始まり”と”希望の終わり”により、絶望を始め終わらせる者。
変身時の英語の和約は「Thouzer,the ruler of destruction and rebirth, reigns here(破壊と再生の統治者サウザーは、ここに君臨する)」
ドラゴン型のファントムモデルと、錬金術師型のライダモデルが装甲に変換されることで、アーマーを形成する。

・スペック
基本能力は本作に出てくる仮面ライダーの仲ではトップクラス。
また、本来ライダーシステムの使用中に錬金術の行使は出来なかったが、錬金術師のデータが入った『エンディングアルケミストプログライズキー』によって、錬金術の同時使用を可能にしている。
これによって、遠距離攻撃がサウザンドジャッカー便りという弱点を克服した。
これらのことから、素のスペックは最強クラスでありながらも錬金術を使用することで、実質”計測不能”である。

・容姿
ベースはサウザー。
頭部にはドラゴンの頭部を模した装飾が施され、腕や足、胴体にもドラゴンの身体のような装甲が追加された。
背部には背中を覆う扇形のマントが装着されている。

・ユナイトコーカサス
過去の戦闘データから作られたフルライズアニマル。
『アメイジングコーカサスプログライズキー』をセットすることで動く。
サウザンドジャッカーに合体することで、サウザンドジャッカーを強化することができる。
接続時には羽が完全に開いた状態で固定され、羽の下にあるタッチパネルを操作することができる。
サウザンドジャッカーのレバーを引き、タッチパネルを操作すると『ユナイトライズ』が可能となり、奪ったもしくはすでに収集しているデータを融合させることができる。
そのためユナイトライズ後にレバーを戻すと『ジャッキングユナイト』『ハッキングユナイト』『サウザンドユナイト』が使用可能。
もちろん、ユナイトコーカサス接続前の必殺技も放てる。

・必殺技

カラミティプロヴィデンス
『エンディングアルケミストプログライズキー』を押し込むことで発動。
錬金術によって威力を増したキックを放つ。

アブソリュートカラミティ
『ビギニングドラゴンムゲンライズキー』を押し込むことで発動。
両手に特大の魔方陣を生み出し、エネルギーを凝縮させたエネルギー弾を放つ。




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67 希望の音色、その名は……

タク-F様、感想ありがとうございます!

本日2度目です。前話を読まれていない方はご注意を。


《三人称side》

 

 

「本当に、七海なのか……?」

「うん。本当。よく頑張ったね、キャロル」

 

そう言って七海は、キャロルの頭を優しく撫でる。

 

「待っていたぞ、白黄七海。お前にやられた借り、ここで返してくれるわ!」

「無理だよ」

「なんだとッ!」

「思い出した。私が何のために戦っていて、何を守りたかったのか。……言っておくけど、今の私は、負ける気がしないからね」

 

携えた笑みを変えぬまま、七海は()()()()()()()()を取り出し腰に装着する。

そして次に取り出したのは、ハザードトリガーに似たアイテム。

 

「ハザードトリガー!?」

「だけど色が……青色」

「そう。これはハザードトリガーじゃない。そんな暴力的な力、必要ない。これは『セフィールトリガー』」

《ゲット!セット!》

 

セフィールトリガーのスイッチを押して起動し、ビルドドライバーの黒夜がハザードトリガーをセットしていた場所にセットする。

続いて、先ほどから左手に掴んでいた通常のフルボトルよりも大きなボトルの頂部のスイッチを押す。

 

《ハーモニー!オールセット!》

 

器用に左手でひっくり返し、右手に持ち替えてビルドドライバーにセットする。

 

《シンフォニー!》

 

そしてビルドドライバーのレバーを掴み回していく。

 

《オラァ!〈ラァ!〉オラァ!〈ラァ!〉オラァ!〈ラァ!〉》

「これは……フルボトルにプログライズキーが、七海の周りに集まっている…?」

「というかあん中に混ざってんの……」

「私たちのアームドギア!?」

 

七海がレバーを回すごとに、『ケミカライドファクトリーステージ』が展開される。さらに、どこからか飛んできたフルボトルやプログライズキー、更には各シンフォギアのアームドギアが七海の周囲に漂う。

そして七海はレバーを回す手を止め、右腕を正面に伸ばす。

 

 

 

 

 

《Are you ready?》

「………………変身ッ!」

 

 

 

 

伸ばしていた右腕を勢いよく振り下ろした途端、宙に浮いていたアイテムたちが七海に()()する。

一瞬だけ強い光が辺りを覆い、光が晴れるとそこには()()()()()が立っていた。

 

《完全調和のゼリーヤロー!》

《グリスシンフォニー!》

《オラオラオラオラオラァッ!》

 

白い装甲に各シンフォギアの色の装飾。

 

しかしその姿は紛れもなく仮面ライダーグリス。

 

仮面ライダーグリスシンフォニー。

 

十の音色を携えて、ここに生誕する。

 

「…………………」

「……来い、マギア」

 

七海はゆっくりと、サウザーに向かって歩き出す。

その様子に何かを感じたサウザーがテレポートジェムを割ると、サウザーを守るようにマギアが現れる。

 

「トリロバイトマギアじゃない!?」

「さっき出てきた変なやつらか!」

竜宮の深淵(アビス)に出てきたのも!」

 

ベローサマギアやビカリアマギアと言ったマギアはサウザーの命に従い、七海に向かって襲い掛かる。

それを見ていた装者たちは、七海1人では厳しいと考える。……ただ一人、いや、()()()()()()()

七海は当然そのうちの1人だった。迫りくるマギアを見ながら、足を止めることなく、そして焦ることなくボトルの頭頂部にある2つあるツマミの内、左側のツマミを捻る。

さらに、セフィールトリガーの起動スイッチを押す。

 

《ライダー!》

《フィーバー!》

『人間、せんめ―――』

 

ベローサマギアが両手の鎌を振り下ろそうとした瞬間、()()()()()()()()()

 

「なんだあれ!?」

「あれは、ビルドの武器か……?」

「それだけじゃありません。アタッシュウエポンにスラッシュライザーも…!」

 

降ってきた複数の武器がマギアを貫き、マギアたちは爆発。

そして爆発の炎が晴れると、そこには墓標のように地面に突き刺さっている仮面ライダーの武器とその中を歩く七海。

響たちは今起こった光景に驚愕するが、キャロルとサウザーは当然だという風に何の反応もしない。

七海は武器が途中で、ドリルクラッシャーとアタッシュカリバーを引き抜く。

 

「……心火を燃やして………ぶっ潰す」

「かかってくるがいい。白黄七海ぃ!」

「……いくぞぉおおおおおお!」

 

七海とサウザーは同時に走り出し、手に持った武器で斬りかかる。

 

「「オオオオオオオッ!」」

 

2人が振るった武器は、お互いを切り裂きく。

 

「グゥ…!ハッ!」

「ッ!」

 

よろめきながら下がったキャロルは、錬金術で炎弾や氷弾、風弾に岩弾を撃ちだす。

それに対し、七海が右腕を振るうとキャロルが撃ちだした弾は、全て何らかの方法で防がれる。

水の竜巻、ダイヤモンドの障壁、回転するヘリコプターのプロペラ型のエネルギー体、磁力。

それらで防がれたことを察したサウザーは、再び七海に斬りかかる。

 

「フッ!」

「ハァ!」

 

七海は両手の武器で、サウザンドジャッカーの攻撃を防ぎながら、反撃の機会を狙う。

しかし、サウザーもさることながら反撃の隙は与えず攻め立てていく。

そして鍔迫り合いになり、唐突にキャロルは笑い出した。

 

「ハハハ……いいぞ。これだ!今の貴様を倒すことで、オレはまた一つ世界への憎しみを晴らす!」

「貴方の憎しみに同情はするけど、同意はしない!」

 

七海は強引に鍔迫り合いを解き距離を取る。

ドリルクラッシャーとアタッシュカリバーを捨て、突き刺さっていた武器の中の2つが新たに手元に飛んでくる。

 

《ホークガトリンガー!》

《ショットライザー!》

「ハアアア!」

 

ホークガトリンガーとショットライザーを連射するが、サウザーは障壁を展開して防ぐ。

 

「貴様に何が分かる!」

《JACKING BREAK!》

「ハア!」

 

サウザンドジャッカーから雷撃が放たれ、七海がいた場所を爆発で包む。

 

「クッ……!」

《四コマ忍法刀!》

《スラッシュライザー!》

「ウオオオオッ!」

 

爆発から飛び出してきた七海は、手にした2つの武器のトリガーを引きサウザーに斬りかかる。

 

「すべてを知っている訳じゃない!」

《火遁の術!》

《バーニングレイン!》

「でも知ってることならある!」

 

炎を纏った武器をサウザーのサウザンドジャッカーに叩きつけながら、七海は知っていること――前世の知識の一部を話す。

 

「万象黙示録、オートスコアラー、イグナイトモジュール!」

「ッ!?貴様、何故それを知っている!ダァッ!」

「グウウッ!」

「なにッ!?どこに行った……」

《アタッシュアロー!》

《カイゾクハッシャー!》

「ハアアッ!」

「後ろだとッ!?グアッ!」

 

七海の武器を弾いたサウザーは、サウザンドジャッカーの斬撃を浴びせていく。だが、その途中で七海の姿が煙と共に消えた。

どこに行ったのかと周囲を見渡すサウザーの背後から、煙と共に七海が現れアタッシュアローとカイゾクハッシャーでサウザーに斬りつける。

 

《オーソライズバスター!》

《バスターダスト!》

「させるかぁ!」

《JACKING BREAK!》

 

この隙を逃さずに、さらにオーソライズバスターを取り出し、オオカミ型のエネルギー弾を撃ちだす。

しかしサウザーも、ゴリラの腕を模したエネルギー体をサウザンドジャッカーに付与させ、エネルギー弾を叩き潰す。

 

「こいつでどうだ!」

 

さらに、最初に放った物より大きな火球や氷球を放つ。

 

「いけッ!」

 

それを七海は、サメ型とマンモス型のライダモデルを召喚し迎撃する。

 

「ライダモデルか!小賢しい!」

《JACKING BREAK!》

 

サウザーはサウザンドジャッカーを地面に突き刺し、ライダモデルの足元から炎を噴出させ破壊する。

それと同時に2人は再び走り出す。

 

まさしく一進一退の攻防。

絶望と希望のせめぎ合いに、運命の女神はどちらに微笑むのか。

 

 

「「オオオオオオオオッ!!」」

 

 

 

 




この話を書き始めた時から、温めに温めたオリジナルフォームをようやく出せた……。
次回で、松代戦を終わらせます。

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68 激突 撃破 安堵

66話の後書きに書いているカラミティサウザーの設定に、「容姿」の説明を追加しました。
また、一部ルビ付き英文がスマホで見ると、変な風に書かれています。パソコン版ではちゃんと書かれているみたいなので、おそらく仕様だと思います。どうすればいいか分からないので直しようがありませんが、スマホを横向きにすると問題なく映ります。



《三人称side》

 

「「オオオオオオオッ!!」」

 

七海の拳とサウザーの拳が、お互いを吹き飛ばす。

地面を転がった2人は立ち上がり睨みあう。

 

「お前は……何者だ?オレが知っている歴史に、お前の存在は知らない」

「そりゃぁ、平行世界だからじゃない?」

「……あくまで何も語らないか。それもいいだろう。だが、貴様はここでつぶさせてもらう!」

《ユナイトライズ!》

「ッ!」

 

サウザーがユナイトコーカサスのタッチパネルを操作し、ユナイトライズを発動する。

それを見た七海もボトル―――『シンフォニーフルボトル』の捻っていた左側のツマミ『ライダーリューザー』を戻す。

加えて、右側のツマミ『シンフォギアリューザー』を捻り、セフィールトリガーのスイッチを起動スイッチを押す。

 

《シンフォギア!》

《フィーバー!》

「ハァアアッ!」

《JACKING UNITE!》

「………()()()()()()()

 

サウザーは紫電を纏った三日月状の斬撃を、ブーメランのように回転させて放つ。

それに対して()()()()()()で、3つ全てを真っ二つに切り裂いた。

 

「貴様……それは、天羽々斬か!」

「こういうのもあるよ」

《イチイバル!》

 

イチイバルのガトリングを召喚した七海は、サウザーに向けてぶっ放す。

サウザーは目の前の地面を盛りあげ、盾とすることで防ぐ。

 

《イガリマ!》

《シュルシャガナ!》

 

今度はイガリマの鎌を手元に、シュルシャガナの鋸を空中に召喚させた七海は、鋸を飛ばし自らも斬りかかる。

 

「ちぃ!」

「なんとイガリマァ!」

「やかましいわ!」

 

サウザーは悪態をつきながら、鋸を斬り払い鎌の一撃を防ぐ。

弾かれた七海は、イガリマの鎌の刃を3枚に分裂させ、2枚の鋸と共に投げつける。

 

【切・呪りeッTぉ】

「技まで再現可能という事か!」

《ジャックライズ!》

「だが、イガリマとシュルシャガナのデータは貰っていくぞ!」

 

サウザーは跳んできた攻撃を障壁で防ぎ、イガリマとシュルシャガナのデータを収集する。

そして、錬金術で突風を発生させて鎌の刃と鋸を吹き飛ばす。

 

《ユナイトライズ!》

《JACKING UNITE!》

「フンッ!」

 

ユナイトライズにより、刃のついたヨーヨー型のエネルギー体を生成し、七海に投げつける。

 

《ガングニール!》

 

しかし、ガングニールの大槍を召喚した七海の一振りで弾かれ後方で爆発する。

そのままの勢いでサウザーに接近し、槍のリーチを活かして攻める。

 

《JACKING BREAK!》

【LAST∞METEOR】

「「オオオオッ!」」

《アガートラーム!》

 

2つの竜巻がぶつかり1つの竜巻となるが、それをアガートラームのロングソードを召喚した七海と、サウザンドジャッカーを持ったキャロルが同時に跳躍。

竜巻を切り裂き空中でぶつかり合う。

だが、空中という不安定な場所でお互いの武器がぶつかったことで、2人は離れて地面に着地した。

 

「「はぁ…はぁ…はぁ」」

「す、すごい……」

「一歩間違えれば敗北につながりかねない……これが、新たなグリスの力」

 

2人の戦いを見守っていた響たちは、その戦闘の様子に魅入っていた。

キャロルと同質の存在である者と、そのキャロルと共に長くを過ごしてきた者。

相手の行動を理解していなければできえない戦いを、目の前の2人は繰り広げているのだ。

 

「相変わらず忌々しい……全てわかっていると言わんばかりのその動き。貴様という存在は、オレの心を激しくかき乱す!ハッ!」

 

サウザーはエンディングアルケミストプログライズキーを押し込み、高く跳躍する。

 

《フィーバー!》

《ライダーパート!シンフォギアパート!オールパート!》

「ハァ!」

 

それを見た七海もシンフォギアリューザーを戻し、セフィールトリガーの起動スイッチを押して、ビルドドライバーのレバーを回して跳躍する。

 

《Ready Go!》

《シンフォニックフィニッシュ!》

「ハァアアアアアアアッ!!」

《カラミティプロヴィデンス!》

「ハァアアアアアアアッ!!」

 

虹色の光を纏った七海のキックと、深い黒色のオーラを纏ったサウザーのキックが激突する。

激しい衝撃が周囲に放たれ、それでも2人は全ての力を振り絞る。

 

「ハァァァ……ハアアアッ!」

「ぐ、ウウ……グアアアアッ!」

 

遂にその均衡は崩れ、七海のキックが体勢を崩したサウザーに命中した。

吹き飛んだサウザーは地面を転がるも、変身は解除されなかった。

 

「私の勝ちだ」

「……なぜ、止めを刺さない」

 

そう。変身が解除されていないという事は、キックが命中したあの一瞬で手加減されたという事だ。

手加減された。ただの負けよりも屈辱的な事実に、サウザーは拳を握りしめる。

そんなサウザーに、七海は淡々と答えた。

 

「思い出したから。私がしたかったこと、叶えたかったことを」

「………次は倒す」

 

サウザーはそれだけ言うと、テレポートジェムを使い転移した。

 

「……なら、私は救うよ。()()()()

 

ポツリと呟かれたその言葉は、誰の耳に届くこともなく虚空に溶けた。

 

「七海……」

「お姉ちゃん……」

 

後ろからかけられた声に振り向くと、そこにはボロボロのキャロルとセレナがいた。

七海は変身を解除し、2人を抱きしめる。

 

「ごめんね。私が遅れたせいで」

「そんなことないです。お姉ちゃんのおかげで、私たちは助かったんですから」

「うん……ねえキャロル?」

「ん?なん…ふみゅっ!?」

 

七海は唐突にキャロルを呼ぶと、キャロルの頬をむにっと掴む。

突然のことにキャロルの口から、変な声が漏れた。

 

「にゃ、にゃにすりゅんだ……!」

「キャロル、途中で諦めたよね?私が間に合ったから良かったものの、あのままだと死んでたんだけど……」

「し、しがだにゃいりゃりょぉ……って」

 

七海に掴まれた頬をむにむにされるせいでちゃんと喋れないキャロルは、七海が頬を掴んでいた手を離しきつく抱きしめると目を見開いた。

抱きしめられているせいで顔が見えないが、キャロルの来ている服の肩の部分が濡れる感触がしたからだ。

 

「良かった……本当に、助けられて、間に合ってよかったぁ……」

「七海……」

 

それから、しばらく抱き合っていた2人は抱擁を解く。

周りを見れば、すでにS.O.N.G.のスタッフが出てきて後処理を行っていた。

キャロルは何かしなければと思い戻ろうとするが、それよりも早く七海がキャロルをお姫様抱っこで抱きかかえた。

 

「お、おい……!今度はなんだ!」

「キャロル、私たちは帰るの。すでに弦十郎さんから許可は貰ってる。しっかり休んで来いってさ。セレナ、悪いけど……」

「はい!こちらはお任せください!」

 

七海の言葉に、セレナは()()()()()()()()()()()()を返す。これはバレてるかなと思いつつも、今はその賢さに感謝してテレポートジェムを使って家に帰る。

 

「だからなんだと言うのだ!?というか、いい加減に下ろせ!」

「だーめ。部屋まで待って」

 

異を唱える前に家に連れて帰らされたキャロルは暴れるが、あれだけの戦闘の後だからかいつもよりも弱弱しい。

七海に宥められながら運ばれ、2人は自分たちの部屋にたどり着く。

 

「ずいぶんと、久しぶりだね……」

「……そうだな」

 

キャロルは感慨深いのか、しみじみと呟く。

キャロルが操られてからというもの、2人でこの部屋に帰ってきたことは一度もなかった。キャロルが救出されてからも、彼女は医務室で療養していた。

七海も、一人でこの部屋にいるとキャロルのいない寂しさを自覚してしまうために、襲撃にいち早く対処するためと言ってS.O.N.G.の拠点に部屋を用意してもらっていた。

弦十郎も七海の心中を察したのか、特に何も言わずに部屋を用意してくれた。

 

「痛むところはない?」

「身体に疲労感はあるが……重症と呼ぶものはない」

「そっか」

 

七海はキャロルをベッドに座らせる。キャロルの傷と自分の傷を錬金術で治すと、キャロルの両肩を掴んでそのまま寝そべった。

 

「ねえ、キャロル」

「なんだ?」

「私たち、恋人だよね?つき合ってるよね?」

「何を当たり前のことを」

「じゃあ、もう諦めて死のうとしないで」

「………………」

「生きて欲しい。どれだけ惨めでも、どれだけ辛くても、必ず諦めないで。私は何があっても、キャロルを守るから。離れ離れになんて、なりたくないよ……」

()()()()……分かった」

 

口調が砕ける甘々モードになったキャロルは七海のお願いに頷き、そんなキャロルの頭を七海は優しく撫でる。

 

「ありがと………でもまぁ、それはそれ、これはこれという事で」

「……ん?」

 

なにやら変な空気になったことをキャロルは察するが時すでに遅し。

七海がキャロルの上にのしかかり、キャロルを逃がさないようにほどほどの力で押さえる。

 

「あの……これは……?」

「さっきの戦いで諦めようとしたから、もうそんなことをしないようにする」

「い、いや、あれは仕方な…ヒャンッ!?ちょッ!?どこを触ってるの!?」

「キャロルは私の物で、私はキャロルの物だって、教えてあげる……」

「ま、待って…お願いだから待っ………にゃああああああああああああッ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ううん……」

 

若干の気だるさが残りながら、キャロルは目を覚ました。

カーテンの隙間から零れる日差しが、寝起きの瞳には眩しく手をかざす。だが、下腹部に軽い痛みを感じ表情を少しだけ歪ませる。

軽く冷えたむき出しの柔肌をさすりながら、徐々に冴えていく頭で昨日何があったのかを思い出し、歪んでいた表情を緩ませながら顔を赤面させる。

 

「うう……ナナ姉えのバカ」

「スゥ…スゥ…スゥ…」

 

恨みがましい表情で、隣で未だに寝ている当人を見れば、穏やかな表情で寝息を立てていた。

 

「むぅ……チュッ」

「んん……」

 

キャロルは軽い仕返しのつもりでキスをしたが、今の格好では何しても恥ずかしいだけだと気づき、再び顔を赤くする。

やがて、諦めたキャロルはベッドから降りる。

下腹部の痛みに耐えながら、床に乱雑に脱ぎ捨てられている服を集める。その最中、部屋に置かれた姿見が目に映る。

姿見には一糸纏わぬ自分の姿。しかし、その細い首には紫色のチョーカーが巻かれていた。

 

「……私はナナ姉の物で、ナナ姉は私の物か……フフッ♪」

 

首に巻かれているチョーカーをそっと撫でると、キャロルは幸せそうな顔で部屋を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにその直後、いつの間にか帰っていたエルフナインとセレナに素っ裸の姿を見られてしまい、エルフナインに口をパクパクとしながら赤面され、挙句の果てにはセレナに「昨日はお楽しみでしたね♪」と言われてしまい、羞恥のためにキャロルはその場で気を失いその後も悶えることになるのだが…それはまた別のお話。

 




若気の至りってやつです。でも2人はそんな歳でもないんですけどねぇ……。

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仮面ライダー紹介
仮面ライダーグリスシンフォニー
・概要
白黄七海が『シンフォニーフルボトル』と『セフィールトリガー』を使って、『ビルドドライバー』で変身する。
黒夜の提案によって生まれたグリスの強化形態。
戦いの中で、敵を倒して家族を守ることだけが目的となっていた七海が、自らがやりたかったこと「キャロルを救う」という目的を思い出した七海によってその力を振るう。
変身プロセス時は、七海の周囲にフルボトルとプログライズキーが漂い、『ケミカライ
ドファクトリーステージ』が展開される。

・スペック
スペックはカラミティサウザー同様、本編で登場する仮面ライダーの中で最強レベル。
しかし、防御や攻撃力が勝っているが素早さではカラミティサウザーの方が上。
従来通り錬金術の使用は出来ないが、全てのフルボトルとプログライズキー(ムゲンライズキーとランペイジガトリングプログライズキーは除く)の力を思うが儘に扱えうことができる。
また、登場した全ての仮面ライダーの武器やシンフォギアのアームドギアを召喚でき、ライダモデルも召喚することが可能。
通常、一度に召喚できるのが3種類までだが、シンフォニーフルボトル頂部のツマミ『ライダーリューザー』、『シンフォギアリューザー』を捻ることで、その種類の武器しか使えなくなる。しかし、その分攻撃の威力を増幅させ必殺技も発動できる。
一応両方とも捻ることは可能だが、そうした場合使用者に容赦ない負担と反動が襲い掛かる。

・容姿
白を基調としたグリスに、各シンフォギアの色の装飾が施されている。
装甲も全体的に増設されており、両肩にはマシンパックショルダーが強化された『リビルドパックショルダー』が装備されている。

・使用アイテム
シンフォニーフルボトル
他のフルボトルよりも大きく、ビルドドライバーのスロットを2つ分使う。見た目はジーニアスフルボトルに似た形。
錬金術、ライダーシステム、シンフォギアシステムの3つの技術体系が組み合わさったことで完成した。そのため、使用者にはシンフォギアのように適合することが求められ、適合中は使用者に苦しみが襲い掛かる。
また、組み合わせたとは言っても、急造されたために何かとエネルギーがオーバーフローしやすく、暴走や自壊といったことを防ぐために『セフィールトリガー』の併用が必須となる。
起動スイッチ『ミックススターター』とビルドドライバーに装填するための突起が三角形に付いており、反対側の面には『ライダーリューザー』と『シンフォギアリューザー』がついている。
なお、後者の2つは普段は倒されて格納されており、ミックススターターを押した瞬間に立ち上がる。

セフィールトリガー
ハザードトリガーを元にして設計されたアイテム。
しかしハザードトリガーとは違い、3つの技術体系を組み合わせたとはいえ、無理矢理であることに変わりないシンフォニーフルボトルのエネルギーを制御する為のリミッターとなっている。
色は深みの青で、ハザードの青とは対照的。
名前の「セフィール」の由来は「セーブ(安全)」+ドイツ語で指揮を表す「ビィフィール」。

ビルドドライバー
デュランダル事件によって、一度死んだ黒夜が落とした物。

・必殺技
シンフォニックアタック
《ライダーパート!》
ビルドドライバーのレバーを一回回すことで発動。
任意の仮面ライダーの必殺技を発動できる(武器を使った必殺技は別)。

シンフォニックブレイク
《ライダーパート!シンフォギアパート!》
レバーを2回以上回すことで発動。
ガングニール(響)の力を発動し、質量をもった巨大な拳の幻影で攻撃する。

シンフォニックフィニッシュ
《フィーバー!》《ライダーパート!シンフォギアパート!オールパート!》
セフィールトリガーの起動スイッチを押し、レバーを3回以上回すことで発動。
虹色の光を放ちながら、エネルギーを纏ったキックを繰り出す。



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69 報告と模擬戦

タク-F様感想ありがとうございます!


《七海side》

 

「ねえ、キャロル~。許してよ~」

「ふんだッ!」

 

松代での戦いの翌日、私とキャロルはS.O.N.G.の潜水艦の廊下を歩いていた。

これは昨日帰宅の許可をもらった際に言われていたことだ。

一晩明ければ、おそらく情報もそろうであろうという事らしい。

…で、なんでキャロルが怒っているのかというと……。

 

「ねえってばー。そんなにセレナとエルに裸を見られ―――」

「そんなんじゃないッ!!()()()()のバカッ!」

「……どう考えてもそうじゃん」

 

どうやら、シャワーを浴びるために部屋を出た際、帰ってきていたセレナとエルに裸を見られたらしい。

それぐらいでここまで怒るのかとも思わなくもないけど、どうにもそれだけじゃないっぽいんだよなー。聞いても教えてくれないけど。

でも、私があげた紫色のチョーカーを外さずにつけてくれているのを見る限り、そこまで本気で怒っている訳じゃなさそう。

それと、朝からお仕事モードの時でも「ナナ姉え」と呼んでくれるようになった。これに関しては普通に嬉しい。

なにはともかく、目当ての司令室に着いた私たちは中に入る。

司令室には、すでに装者をはじめとしたメンバーがすでにそろっていた。

 

「邪魔するぞ」

「失礼します」

「おお、君たちも到着したか。それでは、報告を聞くとしよう。エルフナインくん」

「はい。それでは、報告を始めさせてもらいます」

 

弦十郎さんから促され、エルが報告を始める。

深淵の竜宮(アビス)の方では、ネリと多数のマギア、アウラネル、ネフィリムが襲撃してきたらしい。

また、その中でネリは新型と思われるギアを使用。「ヘルカイザー」に変身したらしい。戦闘力は凄まじく、ムゲンライズキーを使用したセレナとほぼ互角。

マギアの方はマリアが撃破したらしい。ただ、その時撃破した個体が松代でも出てきたことから、おそらく量産は可能だと思われる。

アウラネルは、ネリの襲撃の隙を突く形でネフィリムに餌(聖遺物)を食べさせていたらしい。

そして切歌と調のコンビネーションを防ぎ切り、まんまと逃げおおせたと。

 

「面目ないデス……」

「…ごめんなさい」

「別にあなた達のせいではないわ」

「そうですよ。ですから謝る必要はありません。私たちもネリを逃がしてしまいましたし……」

 

次に松代の戦いの方。

といっても、特に語ることはない。

こちらの動きに感づいたサウザーが襲撃してきて、それをどうにか撃退した。

言うとすれば、向こうはさらなる力を手に入れ、私も力を手に入れた。

 

「それにしても、グリスの強化形態、すごかったわね」

「そうデスよ!私たちのアームドギアまで、完全再現デス!」

「…でも、あれだけ強くても、平行世界のキャロルを完全に倒せていなかった。それだけ相手も強い」

「……………」

 

確かに私は、必殺技を命中させたにも関わらずサウザーを変身解除させていない。

それは、私のある考えに基づいての行動なのだが今は言うまい。

それと、どうやら私とサウザーの話はほとんど聞こえていなかったようだ。

……良かった。前世の話はまだキャロルたちにも話していないことだ。今は問い詰められるのは話をややこしくするだけだ。もちろん、いつかは話すつもりでいる。

 

「それで、だ。こちらは『Project:DUAL』、そして仮面ライダーグリスの強化にも成功した。今までは戦力不足から避けていたが、これからはこちらから攻め入ることも視野に入れる」

「ついに…か」

「でもよぉ、どうやって攻めるんだよ?アイツらの居場所が分かんねえと、どうしようもねえだろ?」

「それが問題だ。どうやって彼女らの潜伏場所を見つけるかだが……」

「何かない?キャロル」

「………心当たりがないわけでもない」

「本当か!?」

 

キャロルの呟きに、弦十郎さんが反応した。

この中で気を揉んでいるのは、間違いなく弦十郎さんだろう。司令という立場のせいで、満足に動けないだろうし。

しかし半ばダメ元だったのに、本当に心当たりがあるとは……私も驚きである。

 

「平行世界のオレに操られていた時、かすかに波の音がしていた……気がする」

「それは確かか!?」

「き、期待はするなよ……なんせオレも、その時は同調に抵抗するのに必死だったから……」

「それでも十分だ!」

 

自信なさげな感じだったけど、弦十郎さんにとってはそれで良かったようで、今日はこれでお開きになった。

私たちはしばらくは、成果を待ちつつもしもの為に数人で交代して待機する。

 

 

 

 

「……で、どうしてトレーニングルーム?」

『決まっているでしょう?急造で作ったボトルが、七海ちゃんの体に害を及ぼしていないかの確認よ』

「そーゆーことだよ、なーちゃん。というわけで、私たち相手に模擬戦ってわけ」

 

場所は変わり、トレーニングルーム。

私の前にはビルドドライバーを装着した姉さん。そしてセレナと奏。もちろん二人ともそれぞれのライザーを装着してる。

だがまあ、モニタリングしてる了子さんと姉さんの言う事ももっともなので、黙って従うことにする。

 

《ゲット!セット!》

 

ビルドドライバーを装着し、セフィールトリガーを起動、ベルトにセットする。

さらにシンフォニーフルボトルを取り出し、起動スイッチ「ミックススターター」を押してボトルを起動する。

 

《ハーモニー!オールセット!》

《シンフォニー!》

 

ひっくり返したシンフォニーフルボトルを、ビルドドライバーにセットしレバーを回していく。

ケミカライドファクトリーステージが展開され、フルボトルやプログライズキー、アームドギアが私の周囲を飛び回る。

 

《オラァ!〈ラァ!〉オラァ!〈ラァ!〉オラァ!〈ラァ!〉》

《Are you ready?》

「変身ッ!」

 

正面に伸ばした右腕を振り下ろすと、私の身体は白のスーツと装甲に包まれ、色とりどりの装飾が装着されていく。

 

《完全調和のゼリーヤロー!》

《グリスシンフォニー!》

《オラオラオラオラオラァッ!》

 

私は仮面ライダーグリスシンフォニーへの変身を完了した。

 

「それじゃ、私たちも……」

「ああ……っておい」

「何?」

「お前ボトルねえじゃん。どうやって変身するんだよ」

 

………あ。

そうだ、私がグリスシンフォニーに変身するには、全てのフルボトルとプログライズキーが必要になる。

姉さん変身できないじゃん。

しかし、姉さんは予測済みの様で懐から、フルボトルよりも長い筒状のアイテムを取り出した。

 

「大丈夫、大丈夫。実はこれを作っておいたんだよね~。その名もフルフルラビットタンクフルボトル~」

 

そう言って姉さんは、フルフルラビットタンクフルボトルを振る。うさぎが跳ねてそうな「ピョンピョンピョン」と言う音が流れた。

 

「なんか、気が抜けるな……」

「まあまあ、そう言わずに」

《マックスハザードオン!》

「ハザードトリガーをつけて……折る!」

《ラビット&ラビット!》

 

姉さんはハザードトリガーをベルトにセットすると、フルフルラビットタンクフルボトルの片方のキャップを捻り2つに折る。

そのままビルドドライバーに装填すると、ベルトのレバーを回す。

姉さんの前後に『ハザードライドビルダー』が形成されていく。

 

《ガタガタゴットン! ズッダンズダン!》

《Are you ready?》

「変身ッ!」

《オーバーフロー!》

 

姉さんは声に反応したハザードライドビルダーでプレスされ、ハザードフォームへと変身する。

その直後、どこからともなく赤いウサギがアーマーへと分解、姉さんに装着されていく。

 

《紅のスピーディージャンパー!ラビットラビット!》

《ヤベーイ!ハエーイ!》

「仮面ライダービルド ラビットラビットフォーム。以後よろしく」

「マジか……」

「さ、貴方たちも変身して?」

「あ、ああ……」

「分かりました!」

 

《ランペイジガトリング!》

《ブレイブ!》

《オールライズ!》

《ムゲンライズ!》

《 《Kamen Rider......Kamen Rider......》 》

「「変身ッ!」」

《フルショットライズ!》

《スラッシュライズ!》

《Gathering Round! ランペイジガトリング!》

《Hope of legend! セインティングペガサス!》

 

奏とセレナもバルカン、迅へと変身を終える。

 

『それじゃあ、適当に戦ってちょうだい』

「了解です。手加減はしないからね」

「当然だ!」

「行きます!」

 

セレナがスラッシュライザー、奏がオーソライズバスターで斬りかかってくる。

私はそれをドリルクラッシャーとアタッシュカリバーを召喚して迎え撃つ。

 

「フッ!」

「グッ……2人で攻めているのに……」

「……攻めきれねぇ……!」

「これでも、戦闘経験はあるからね!ハッ!」

「「アアアアッ!」」

 

2人を吹き飛ばし、さっきから攻撃してこない姉さんに目を向けて……しかしそこには居なかった。

 

「どこに……?」

「後ろ」

「知ってる」

 

後ろから高機動で接近してきていた姉さんの拳を、ノールックで防ぐ。

防がれたと理解したらしい姉さんはすぐに移動し、再び攻撃してくる。

私はそれを全て、ほとんど動かずに防ぎきる。

 

「クッ……!」

「その速さはすごいけど、私なら見える」

 

そう言って、一瞬で姉さんの後ろに回り込みパンチを放つ。

 

「うわッ!」

「さて……どうする?」

「……あんまり甘く見ないでよ」

 

気づけば、背後には奏とセレナが陣取り、姉さんと合わせ私を包囲していた。

それからしばらく、私たちの模擬戦は続いた。

ちなみに、私の身体に副作用等は見受けられなかった。

 

 




平行世界のキャロルにタイマン張れるのは七海しかいません。
他は協力すればワンチャン……ぐらいですかね。

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70 決戦と脈動

今日はちょっと少ないです。


《七海side》

 

平行世界のキャロルの隠れ家の捜索が始まって1週間が過ぎた。

この間、特に音沙汰もなく至って平和なものである。

だが今日、その捜索にも発展があったという。

 

「……まさか、本当に海中にあるとはねぇ」

「だが、これでヤツが言っていた「波の音が聞こえた」というのも納得できる」

 

了子さんの研究室。

その中では私と了子さんから切り替わったフィーネは、目の前のモニターに映る資料を見ていた。

 

「鳥之石楠船神、通称フロンティア。箱舟の役割を持つ天翔ける船の聖遺物」

「これには、外からの侵入を遮断するバリア機能がある。おそらく、聖遺物としての反応や他の探査機の反応も、これらを使って防いでいたということか。しかし、一体どうやってやつらは中に入ったんだ……?」

「入ったというより、多分件のギャラルホルンがフロンティアの中にあったんじゃないかな?バリアというのは往々にして、外から拒めても中からは拒みにくいと言うのが鉄板だからね」

 

一応、外からテレポートジェムを使って侵入できないか試してみたけど無理だった。

だけどその際に観測したデータから、中からならテレポートジェムは使える可能性があることが分かった。

 

「それにしても、よくこんな海中にある物を発見できたね?」

「これについては、偶然としか言いようがない。先ほども言ったが、フロンティアは聖遺物の反応をバリアで遮断する。だが、その状態で反応を探ると”何かある”が”何も反応しない”という現象が起こる。そこからは、徹底的に探しただけさ」

「なるほど。反応はないけどそこだけ切り取られたように”反応が1つもない”ことで、逆に違和感になったと。さすがだね」

 

でもフロンティアがここで出てくるなんてね……。

原作だと2期で登場する聖遺物が発見される……因果めいたものを感じる。

 

「でも、フロンティアに平行世界のキャロルたちがいると確信した理由は……?」

「ほとんどのレーダーから逃れられ、そう簡単には見つからない場所なのに、わざわざ変えるか?」

「……それもそうだね」

 

確かに、こんなにおいしい場所は、変えるにはもったいなさすぎる。

そして数日後、ミーティングが行われた。

フロンティアにはバリアが張られており、突破はほぼ不可能。ならばどう突入するのか。簡単だ。相手に開けて貰えばいい。

 

「……お前、頭大丈夫か?」

「その言葉には遺憾の意を表させてもらおうか?クリス」

「す、すまん」

「つまりなーちゃんは、向こうが行動を開始した瞬間を狙おうという事かな?」

 

失礼なセリフを吐いたクリスをジト目で見つめる。

そんな中、私の目論見を見抜いた姉さんが声を上げた。

 

「ネフィリムが食べたとされる聖遺物の量は、世界を破壊するほど成長するにはまだ足りない。だから、フロンティアを食べさせようとするはずだよ」

「了子くんと七海くんによると、そのタイミングでフロンティアが浮上すると言う。そして、ネフィリムに食べさせようとするのであればバリアは解除されるはずだ。我々はそのタイミングで乗り込む」

 

弦十郎さんの言葉で、モニターに映し出された地図にマーカーが付く。

 

「装者たちは北側から攻撃を開始し、ネフィリムの相手をしてもらいたい。七海くん、キャロルくん、セレナくん、奏は南側から攻撃。平行世界のキャロルくんたちの捕縛を頼みたい」

「この作戦に置いての重要なポイントは、バリアが解かれるという事はネフィリムが捕食を開始している可能性があることだ。おそらくネフィリムは強化されている。装者の皆は気を付けて」

「………この作戦が、最初で最後のチャンスだ。ここで失敗すれば、平行世界のキャロルくんによって、世界は憎しみのままに破壊されてしまうだろう。全員、気合を入れて任務に務めてくれッ!」

「「「「「「「「了解ッ!!」」」」」」」」

 

 

 

《キャロル(平行世界)side》

 

オレはアウラネルを伴い、隠れ家の廊下を歩いていた。

 

「アウラネル、やつらはどうだ?」

「こちらを監視するだけで、何も動きはありません」

 

それもそうだろう。

オレたちがいるこのフロンティアが見つかったことは少々予定外だったが、それでも問題はない。やつらにここのバリアを破る方法はない。

オレは不意にガラス張りの廊下の壁を見る。

 

「それにネフィリムもある程度強化している。やつらでも叶わないだろう」

「これがネフィリムの”サナギ体”ですか……」

 

オレたちの眼下には、赤黒い繭が不気味な脈動と共にうごめいていた。

 

 

《キャロルside》

 

「ん……ナナ姉ぇ……」

「ふふ……どうしたの?いつもより積極的だよ?」

 

夜、()とナナ姉えはベッドの上で()()()()()()()

いつもよりも激しく求める私に、ナナ姉えは不思議そうな顔をする。

 

「……怖いの。私という存在が、私の目の前に現れる。もしかしたら、ここにいる私が本当の私じゃなかったら……」

「キャロル……ちゅ」

「ん……」

 

ナナ姉えは私の顎に指を添えて上を向かせ、私の唇を唇でふさいできた。

 

「ここにいるキャロルは、私のキャロルだ。他の誰にも渡さないし、どこにも行かせない。たとえ貴女がこの世界のキャロルじゃなくても、私はここにいるキャロルを愛してる」

「ナナ姉え……!」

 

私はナナ姉えに抱き着き、この胸に燃え上がる衝動に突き動かされるままにナナ姉えを求めた。

 

「もっと、もっと教えて!私がナナ姉えの物だって!疑う余地もないくらいに、私に教え込んで!」

「うん。キャロルは私の物、私はキャロルの物だから。首に巻いたチョーカーよりも、もっと深く教えてあげる……

「嬉しい……!」

 

私たちの夜は更けていく。それでも私たちは寝静まらなかった。

 

 

 

そして、決戦の時がやってきた。

 

 




次話から最終決戦に突入します。
それと「錬金術師と心火を燃やしてみよっか?」は、今書いている「輪廻の憎悪編」とその後に投稿する番外編を持って本編完結とします。
主な理由は、他に書きたい作品を思いついたからですね。

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71 空中戦

ランプー様、感想ありがとうございます!



《三人称side》

 

S.O.N.G.の司令室は、かつてないほどに緊迫した空気となっていた。

 

「これより、フロンティア攻略作戦『オペレーションフロンティア・ダウン』を決行する!この作戦の結果によって、世界の行く末が決まる!気を引き締めていくぞ!」

 

弦十郎の声が、司令室中に響き渡る。

この大声にオペレーターたちの緊張の糸が、幾分か和らいだ。

 

「フロンティア浮上から15分経過。了子さんが予測したバリアの解除時間まで5…4…3…2…1…0!」

「フロンティアのバリア、解除されました!」

「よしッ!突入部隊並びにダミー部隊、出撃ッ!!」

 

 

《七海side》

 

今から15分前。日本海沖でフロンティアが唐突に浮上した。

了子さんの観測の結果、バリア消滅の反応を確認。それが現時刻。

弦十郎さんの指示が出され、私たちを乗せたヘリコプターが一斉に飛び立つ。

 

「ミーティング通り、装者たちは北口から。他は南側から――――」

『おい!なんか出てきたぞ!』

 

通信機から聞こえるクリスの声に、フロンティアに目を向ければ海岸線から飛び立つマギアの姿が視認できた。

それも数体とかいう数じゃない。目算でも数百体。

 

「……作戦変更。私とセレナ、姉さんは変身して迎撃。ダミー部隊は出来る限り敵の注意を引いてください」

『分かりましたッ!』

『了解了解っと』

「ハッ!」

《ロボットグゥリスゥゥ!》

 

ヘリから飛び降りながら変身。

すぐにスクラッシュドライバーに、UFOフルボトルを装填する。

 

《ディスチャージボトル!》

《潰れな~い!》

 

ヴァリアブルゼリーでUFOを生成し、その上に乗る。

 

《ホークガトリング!》

《バーニングファルコン!》

 

横を見れば仮面ライダービルドホークガトリングに変身している姉さんと、仮面ライダー迅に変身したセレナが飛行していた。

そして私たちに気付いたのか、マギアたちが攻撃してきた。

 

「行くぞぉ!」

 

私たちは散開し、マギアたちの攻撃を躱す。

マギアたちは3手に分かれ、それぞれ私たちを追いかけてくる。

私は両手のツインブレイカ―で、追ってくるマギアたちを撃ち落とす。

 

『人間、排除!』

「このやろっ!」

 

背後から襲ってきたマギアを、アッパーで打ち上げる。

打ち上げられたマギアは爆発した。

 

「ああもうッ!数が多すぎる!」

 

 

 

《セレナside》

 

「このままでは埒がありません……」

 

背後から追ってきているマギアたちが放つ光弾を躱しつつ、隙を見て急ブレーキをかけてマギアたちの背後を取ります。

 

《フルチャージ!》

《カバンショット!》

 

アタッシュショットガンからチャージした一撃を放ち、マギアを数体撃破しました。

ですが、すぐに別のマギアがやってきました。

 

「行ってください!」

 

展開した翼から『バーニングフライヤー』を、向かってくるマギアたちを迎え撃つために放ちました。

 

 

《黒夜side》

 

「ハアアアッ!」

《FULL BULLET!》

 

ホークガトリンガーのリボルバーを回し、私を囲んでいるマギアたちを一掃する。

 

「数が多すぎるね……急がないとジリ貧…ッ!」

 

愚痴をこぼしていると、フロンティアのタワーからピンク色のビームが飛んできた。

完全に意識外の一撃をなんとか躱し、その後も放たれるビームを回避するが、ついに私に命中してしまう。

 

《ぶっ飛びモノトーン!ロケットパンダ!》

 

しかし、直前で展開している『ソレスタルウィング』を犠牲に防ぎ、フルボトルを変えてロケットパンダフォームになる。

 

「オオオオッ!」

 

左腕のロケットを模したアーマーでマギアたちの間を駆け抜け、右腕のクローで次々と撃破していく。

 

「まだまだー!」

 

 

《奏side》

 

「くそッ!わらわらと出てきやがって!」

『愚痴をこぼす暇があるなら手を動かせ』

「分かってるよ!」

 

通信越しに嫌味を吐いてくるキャロルにそう返し、迫ってくるマギアをショットライザーで迎撃していく。

既に私たちが降下するためのダミーの戦闘機は、そのほとんどが落とされている。

 

『人間、滅殺!』

「うるせぇ!こいつら……このままじゃ押されきられるぞ!」

『おい。ナナ姉えから連絡だ。ナナ姉えのタイミングで降下するぞ』

「分かった!」

 

合図が来るまで、必死の思いでマギアたちを迎撃する。

そして合図が来た。

 

『行くぞ!』

「ああッ!」

 

ぜったいに生きて帰る。あたしには叶えなきゃ夢もあることだしな!

その決意を抱き、あたしはヘリから飛び降りた。

 

 

《三人称side》

 

「全員、一斉に降下!武運を祈る!」

 

七海は全員に合図を送ると、乗っていたUFOから飛び降りると同時にドライバーのレバーを下ろす。

 

《スクラップフィニッシュ!》

「ハアアアッ!」

 

撃ち落とそうとするマギアたちを蹴散らしながら、マーカーの場所へと落ちていく。

 

《フェニックスロボット!》

《ボルテックフィニッシュ!》

《バーニングレインラッシュ!》

「「でやあああッ!」」

 

黒夜とセレナも炎に包まれ、妨害しようとするマギアたちを撃墜しながら、フロンティアの南側へと落ちていく。

 

「ぬおおおおおッ!?女はどきょー!」

「何をしてるんだお前は。行くぞ」

 

変身せずにヘリから飛び降りた奏は、空気の抵抗をもろに受けながら落ちていたが、風の術式で抵抗を緩めていたキャロルが、奏を回収し2人で落ちていく。

そして装者たちも行動を開始していた。

 

「行こう、クリスちゃん!」

「分かってるっての!」

Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)

 

クリスと響も、シンフォギアを纏いながら同時に飛び下りる。

 

「頼りにしてるぞ、マリア」

「こっちのセリフよ?翼」

Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

「Seilien coffin airget-lamh tron」

 

翼とマリアは顔を見合わせて共に飛び降りる。

 

「調、ずっと一緒デス」

「うん。だから絶対にみんなで帰ろう」

「Various shul shagana tron」

「Zeios igalima raizen tron」

 

切歌と調はお互い手を繋ぎ、身を寄せ合って飛び降りる。

6つの光がフロンティアに降り立ち――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――海岸線を埋め尽くすほどいたトリロバイトマギアが、吹き飛んだ。

 

今ここに、決戦の火ぶたは切られた。

 

 

 




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72 ぶつかる因縁

《七海side》

 

「キャロル、皆!」

 

変身を解除し、フロンティアに生い茂る森の中に身を潜ませていた私は、どうにかして皆と合流することができた。

 

「作戦通り、この地点に降りることは出来たね」

「ああ、後はこのままやつらがいると思われる塔に向かうだけだな」

「へッ!ようやく暴れるぜ!」

「意気込んでるところに水を差すようで悪いけど、どうやら手厚いお迎えが来たみたいだよ」

 

姉さんがそう言うと、森の方から足音が聞こえた。

しかも一人二人のものじゃない。かなり多くの数がいる。

 

「ウォーミングアップには十分だな!」

「行きましょう!」

「そうだね」

《ゲット!セット!》

《マックスハザードオン!》

 

私たちは迎え撃つために横一列に並ぶと、それぞれのドライバーを腰に装着する。

 

《ハーモニー!オールセット!》

《シンフォニー!》

 

《ジャパニーズウルフ!》

 

《ブレイブ!》

《ムゲンライズ!》

 

《ランペイジバレット!》

《オールライズ!》

 

《タンク&タンク!》

 

森の奥から、ぞろぞろとトリロバイトマギアが現れてくる。

 

《オラァ!〈ラァ!〉オラァ!〈ラァ!〉オラァ!〈ラァ!〉》

《Kamen(Warning!)Rider...Kamen(Warning!)Rider... 》

《 《Kamen Rider...Kamen Rider... 》 》

《ガタガタゴットン! ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン!》

 

《Are You Ready?》

 

「「「「「変身ッ!!」」」」」

 

私は正面に掲げた腕を振り下ろす。

 

《完全調和のゼリーヤロー!》

《グリスシンフォニー!》

《オラオラオラオラオラァッ!》

 

キャロルは真上に掲げたショットライザーの引き金を引く。

 

《ショットライズ!》

《オルトロスバルカン!》

《Awakening the instinct of two beasts long lost》

 

セレナが掲げたスラッシュライザーから光の柱が立ち上る。

 

《スラッシュライズ!》

《Hope of legend! セインティングペガサス!》

《The sword that pays the darkness is the proof of the king》

 

奏は正面に向けたスラッシュライザーから、銃弾を放つ。

 

《フルショットライズ!》

《Gathering Round! ランペイジガトリング!》

《マンモス!チーター!ホーネット!タイガー!ポーラベアー!スコーピオン!シャーク!コング!ファルコン!ウルフ!!》

 

姉さんはファイティングポーズから、両腕を振り下ろす。

 

《オーバーフロー!》

《鋼鉄のブルーウォーリア!タンクタンク!》

《ヤベーイ!ツエーイ!》

 

それぞれの仮面ライダーに変身した私たちは、それぞれの武器を構える。

私はスチームパンツァー、キャロルはアタッシュカリバー、セレナはバーチャライズブレード、奏はオーソライズバスター、姉さんはフルボトルバスターをそれぞれ構える。

 

「「「「「ハアアアアッ!」」」」」

 

各々の武器を一斉に地面に叩きつけると、5つの衝撃波が地面を這うように発生しトリロバイトマギアをすべて吹き飛ばした。

 

「ここで全てを…終わらせる!」

 

 

《キャロル(平行世界)side》

 

オレは七海たちがトリロバイトマギアと戦っている様子を、空中に投影している映像で見ていた。

 

「乗り込んできたか」

「……私とモネは、やつらの排除に向かいます」

「ああ、装者どもにはネフィリムをぶつける」

「白のマント付きは私がやるからね……こいつらを倒せば、モネが戻って、戻ってくるんだ……」

 

アウラネルはネリを連れ、オレがいる部屋を出る。

 

「面白くなってきたなぁ。お前もそう思うだろう?ネフィリム」

 

オレの眼下では、掛けた声に反応するように繭が脈動していた。

孵化はもうすぐだ。

 

 

《七海side》

 

「「ハアアアッ!」」

《プログライズボンバー!》

《ジャストマッチブレイク!》

 

奏と姉さんの斬撃で、残っていたトリロバイトマギアが撃破される。

 

「いやー!やっぱ作ってて良かったよ『フルボトルバスター』!」

「まさかそんなものまで作ってるなんてね」

「まあねー。とりあえず、急いで塔に向かお―――」

「アハハハッ!行かせるわけないじゃん!」

 

塔に向かおうとした私たちの前に、ネリが現れた。

両手に2丁のネビュラスチームガンを持ち、その顔には壊れたような笑みを浮かべている。

 

「ネリ……」

「まさかここに乗り込んでくるなんてね。でも好都合。あなた達を倒してしまえば、マスターはモネを作り直してくれる。だからさぁ…ここで終わってよ」

「あの感じ……前の私よりひどいね」

 

狂気を感じる笑みで話すネリは、間違いなく狂っているだろう。

ネリを警戒していたその時、セレナがネリと対峙するように前に出た。

 

「……ここは私に任せてください」

「何言ってんだ。ここは全員で行った方が……」

「彼女の姉を、モネさんを倒したのは私なんです。だから、きっと私がけりをつけないといけないんです」

「……分かった。ここは任せるよ」

 

この場をセレナに任せ、私たちは塔へと走る。

意外なことに、ネリは私たちを追うことはなかった。

そしてすんなりと塔に侵入した私たちは、螺旋階段を駆け上がっていく。

 

「何でこんな階段ばかりなんだよ!」

「下からくるぞ!」

《アタッシュショットガン!》

《ホークガトリンガー!》

「キャロル、これ使って!」

 

キャロルに召喚したアタッシュショットガンを渡し、自身はホークガトリンガーを使って上から迫る敵を撃ち抜いてく。

 

「ここは……?」

「開けた場所か」

「待っていましたよ」

「ッ!だれだ!」

 

薄暗いホールに着いた私たちの目の前にアウラネルが出てきた。

その背後には数体のマギアを従えていた。

 

「我がマスターの幸福の為、貴女方にはここで足止めを食らって貰いましょう」

 

アウラネルの言葉と共に、彼女の背後にいたマギアたちが一斉に動き出す。

私たちも動き、応戦する。

 

「七海!キャロル!ここはあたし達に任せろ!」

「アウラネルには借りがあるしね!先に行って!」

「分かった!気を付けて!」

「頼むぞ!」

「そう簡単に行かせるとお思いで?」

「行かさせてもらうんだよ」

 

アウラネルが私たちの前に立ちふさがろうとしたけど、姉さんがフルボトルバスター バスターキャノンモードで光弾を放ち妨害する。

そのおかげで私たちはホールを抜けることができた。

 

「もうすぐ、頂上…!」

 

頂上と思わしき場所に到着した私たちは、まっすぐに伸びる道を走る。

そして突き当りに見えた扉を蹴り破り、中に突入した。

 

「いた!」

「……来たか」

 

部屋の中央には大きな椅子が置いてあり、そこに平行世界のキャロルが座っていた。

傍には水晶があり、そこからセレナと奏・姉さんが戦っている2つの映像が空中に投影されていた。

 

「貴様らもよくやるものだな。大人しく世界の破壊を見ていればいいものを」

「そんな殊勝な性格だと思うか?」

「くく……確かにな」

 

平行世界のキャロルは笑いながら立ち上がり、ゆっくりと私たちの前まで歩いてくる。

そして私たちに提案を投げかけてきた。

 

「これが最後の警告だ。このまま貴様らがオレの軍門に下り、そこの”オレ”を素直に明け渡すのならば、お前たちS.O.N.G.の命だけは助けてやろう」

「話にならないね」

「だろうな」

《マボロシ!Evolution!》

 

分かっていて質問したらしく、腰に装着したサウザンドドライバーにビギニングドラゴンムゲンライズキーを装填する。

 

《ブレイク!ホープ!》

「ならば貴様らには、絶望を知ってもらおう……変身!」

《コンプリートライズ!》

 

エンディングアルケミストプログライズキーを差し込むと、錬金術師型のライダモデルと、ドラゴン型のファントムモデルが彼女の前後に降り立ち、その身を装甲へと変えていく。

 

《Thouzer,the ruler of destruction and rebirth,reigns here》

「仮面ライダーカラミティサウザー。オレの強さを、測れると思うなよ?」

 

 




本当は模擬戦した時にフルボトルバスターを出すつもりだったんや……すっかり忘れてたけど。

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そして!今回は重大発表!
この度、タク-Fさんが投稿されている「マジで……この世界!?」とのコラボが決定しました!コラボ投稿開始は11月1日の予定です!
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73 奪った妹、守る妹

《三人称side(セレナ)》

 

「アハハハ…。貴女が残るなんてね」

「ネリさん…」

「だまれッ!お前はモネを奪ったんだ!だから私が殺してやるんだ!でも、すぐには殺さない。お前を殺す前に、先に行った奴らを奪ってやる。そしてお前も、むごたらしく殺してやる!」

 

ネリはそう言い、2丁のネビュラスチームガンを持った両腕を左右に伸ばした。

 

《ギアカイザー!》

《ギアブロス!》

《ファンキーマッチ》

「爆動…!…ウアアアアッ!!」

 

左右に打ち出された煙が、ネリの体を覆っていく。

 

《フィーバー!》

《ミスマッチ》

「……ヘルカイザー…爆誕」

 

ヘルカイザーへと変身したネリは、拳を握り私に向かって攻撃する。

セレナもバーチャライズブレードを振るい応戦する。

 

「アハハハッ!」

「くッ…あぅ……アアッ!」

 

しかしネリの攻めは苛烈で、セレナは防戦一方に追い込まれる。

ネリは相変わらず、狂ったように笑いながら殴りかかる。

 

「アハハハッ!どうしたのよ。ほら!かかってこないと死んじゃうわよ!」

「……ごめんなさい」

「ああ?」

「私があなたの姉を倒して……壊してしまった。姉妹の繋がりの大切さを知ってるはずなのに」

「今更……謝って済むと思うなぁあああッ!」

 

逆上したネリの拳を、それでもセレナはバーチャライズブレードで防いだ。

 

「分かっています。それでも、私は守りたいものがあるから!」

「グァ!」

「決めたんです。何があっても家族を守るって!」

「このぉおお!」

 

ネリがスチームブレードを振るい、セレナはそれを防いでいく。

金属のかち合う音が、人気のない森に断続的に響く。

 

「ハアアアッ!」

「ッ!ガァ!」

「キャッ!?」

 

セレナはスチームブレードを弾きネリに斬撃を当てたが、しかしネリも負けじとスチームブレードをセレナに命中させ、2人とも倒れてしまう。

 

「くッ!」

《クリア!》

「ハアアアッ!」

《ピアッシングユニコーン!》

《A spear of light that penetrates everything!》

 

すぐに起き上がったセレナは、ピアッシングユニコーンへとフォームチェンジする。

バーチャライズブレードにアタッシュカリバーを連結させ、ナギナタモードにしたセレナは、ネリへと斬りかかる。

 

「でやあああッ!」

 

ネリはスチームブレードや両手の装甲も使い、セレナの振るうスチームブレードを受け流していく。

そして、バーチャライズブレードを大きく弾き、拳打や斬撃による連続攻撃を次々とセレナに叩き込んでいく。

 

「ハッ!」

「キャアッ!」

 

ネリの掌底を食らい、セレナは吹き飛ばされる。

そのままネリは手を緩めることなく、自身の身体から『ギアソーサー』を分離させる。

ギアソーサーはセレナに向かっていくが、セレナもバーチャライズブレードを振るい全方位から襲いかかるギアソーサーを弾く。

 

《リバース!》

「ハァ!」

《ブレッシングサーペント!》

《Release the sea dragon to all》

 

セレナはブレッシングサーペントムゲンライズキーを起動し、ギアソーサーを足場にして跳躍。

ギアソーサーによる包囲を抜け出すとともに、バーチャライズブレードをバスターモードに変形させ、ネリに向かって引き金を引く。

 

「甘いのよッ!」

「アアッ!」

 

放たれた光弾を躱し、着地したセレナにお返しと言わんばかりに斬撃を食らわせる。

セレナは地面を転がり、セインティングペガサスの状態へと戻ってしまう。

 

「行くよ、モネ……」

《ギアリモコン!》

《デビルスチーム》

 

ネリは、ライフルモードにしたスチームブレードにギアリモコンをセットし、更にバルブを3回回し、セレナに向けて構える。

 

《ファンキーショット!》

「はッ!キャアアアアッ!……ア、アア……」

 

青い歯車型のエネルギー弾は、セレナに着弾し爆発。

セレナはその場で両膝をついてしまう。

 

「アハ…アハハハハハハッ!!勝った!勝ったんだ!これでモネが戻ってくる!」

「………………」

 

ネリは歓喜の笑い声をあげ、微動だにしないセレナの元へ歩く。

近づかれても何もしないセレナの首に、スチームブレードを突きつける。

 

「これで……私の勝ちぃいい!」

 

振り上げたスチームブレードを振りおろし、そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セレナが逆手で掲げた()()()()()()()()に防がれた。

 

「何ッ!?」

「ハッ!」

 

驚愕にネリは固まり、その隙を突いたセレナがパンチを放ちネリを後退させ、その後を追い走り出す。

途中、落ちていたバーチャライズブレードからスラッシュライザーを外し、スラッシュライザーとスチームブレードの二刀流でネリを絶え間なく斬りつけていく。

 

「やあああッ!」

「グアアアッ!……それは、()()()()()()()()()()()!なんで、お前が持っているんだ!」

「拾っておいたんです。モネさんを倒した発電所に落ちていたのを。貴女が、モネさんのネビュラスチームガンを持って行ったように」

「お前が……お前がそれを持つなぁあああ!」

 

怒りの声を上げながら突っ込んでくるネリに対し、セレナはバーチャライズブレードを拾い、スラッシュライザーをセットして起動する。

ネリのスチームブレードを弾き飛ばし、返す刀でネリを切り飛ばした。

 

「私が、守るんです。大切な人たちを、この人たちを!」

「そのために……私の大切なモネを奪ったのかぁ!」

「貴女たちに襲われた人たちにも、大切な人はいたんです!」

 

セレナはバーチャライズブレードの刀身にあるスキャンエリアに、ピアッシングユニコーンとブレッシングサーペントのムゲンライズキーをスキャンする。

さらに『トレーストリガー』を押す。

 

《バーチャライズ!》

《トレーシングカーニバル!》

 

セレナの隣に、スキャンしたムゲンライズキーを使用した仮面ライダー迅が2人()()された。

分身体はそれぞれ、ナギナタモード、バスターモードのバーチャライズブレードのトレーストリガーを3回押す。

セレナもまた、自身のバーチャライズブレードのトレーストリガーを3回押す。

 

《アルティメットセインティングカリバー!》

《アルティメットピアッシングランサー!》

《アルティメットブレッシングランチャー!》

「ハアア……」

「ふざけるな…ふざけるなふざけるなふざけるなぁ!」

 

ネリは大量のギアソーサーを1つの歯車に合体させ、セレナに向かって飛ばす。

 

「ハアアアアアッ!」

 

3人のセレナが放った必殺技とネリが放った歯車がぶつかるが、大きな爆発が起こり、辺りが煙に覆われる。

 

「くそッ!どこに行った!」

「ここですッ!」

「ッ!?上ッ!?」

 

煙が強風によって一気に払われる。

ネリが空を見上げるとそこには、純白の翼を広げているセレナがキックの体勢を取っていた。

 

「こ、このッ!」

 

ネリが迎撃の為に残っていたギアソーサーを飛ばすも、全てソードクリスタによって粉砕されてしまう。

 

「そ、そんな…!…ッ!」

 

万事休すかと思われたネリは、傍らに落ちているネビュラスチームガンを拾い、装填されっぱなしだったギアリモコンを押し込む。

 

《ファンキードライブ!》

「アアアアッ!」

《セインティングクロニクルフィニッシュ!》

「ハアアアアッ!」

 

セレナのキックとネリの回し蹴りがぶつかる。

 

「う……く、くううう………!い、いやだ!死にたくない。まだ、モネを蘇らせてない!」

「……ハァアアアアアアッ!!」

競り合いに勝ったのはセレナだった。

「…ぐ、グアアアアアアアアッ!」

 

セレナのキックに貫かれたネリは、地面に倒れ伏す。

その身体はボロボロで、所々皮膚が剥げ、機械の部品が見え隠れしていた。

 

「……も…ね……」

 

ネリは所々欠けた手を伸ばし、目の前に落ちているモネが使っていたギアエンジンを掴む。

 

「ぁ………」

 

その時、モネは見た。

倒れる自分の前にしゃがんでいるモネが、ネリの頭を撫でるのを。

 

「モネ……もっと、生き…たかった……………ごめ…んね……」

 

自分の頭を撫で微笑むモネにそう伝えたネリは、爆発しその”生”を終えた。

セレナは爆発の勢いのためか、自分の足元に転がってきたネビュラスチームガンと『ギアカイザー』、『ギアブロス』を手に取る。

ひびが入ったそれらから、ネリが爆発した地点に視線を移したセレナは、ソッと目を伏せた。

 

「……………」

 

セレナは身をひるがえし、七海たちの後を追って塔へと向かう。

その頬に一筋の、水が流れた様な跡を残して……。

 

 

 




因果応報。
誰かの大事な人を奪ってきたネリは、自身の大切な人を奪われそして自らの”生”も失った。

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74 夢に宿る意志

タク-Fさん、感想ありがとうございます!


《奏・黒夜side》

 

七海とキャロルを先に行かせた奏と黒夜は、アウラネルとマギアと戦っていた。

 

「アウラネルー!」

「わざわざ蘇らせて差し上げたと言うのに、こうも反旗を翻すとは。恩を仇で返すとはこのことですね」

「その節はどうも。お返しに同じことしてあげようか!?」

 

既に仮面ライダー滅へと変身しているアウラネルのアタッシュアローと、黒夜のフルボトルバスターバスターブレードモードがぶつかり合う。

 

「結構です。私の生きる理由は、マスターの幸せに殉ずることのみ!」

「はっ!くだらないね!」

「なんですって!」

「グゥ!」

 

黒夜の言葉に怒ったアウラネルは、アタッシュアローの斬撃を黒夜に食らわせる。

防御が厚いタンクタンクといえど、直撃には耐えられず倒れてしまう。

 

「……変わりましたね。以前の貴方なら、私たちに協力する物だと思っていましたが」

「そういえば、ハザードトリガーを使って私を蘇らせるように、平行世界のキャロルちゃんに言ったのは、貴方だったね」

「ええ……貴女がここまで心変わりしていたのは計算外でしたが」

 

元々、ハザードトリガーを使用して黒夜を蘇らせるように進言したのはアウラネルである。七海と戦いたがっていた黒夜ならば、こちらにつくだろうと考えてのことである。

しかし、すでに黒夜は七海との決着をつけていたために、黒夜はアウラネルの考えとは反対に裏切ったことは、アウラネルにとって予想外だったのだ。

 

「しかし……くだらないでしたか?私がマスターの幸福を思うことが」

「そうだよ。くだらnッ!」

 

黒夜が話す途中で、アウラネルが振り下ろしたアタッシュアローをフルボトルバスターで辛うじて防ぐ。

 

「私の存在理由を、バカにするな!」

「貴女が本気で起こった姿、珍しいね……でもね、私は貴方のような人間を知ってる」

「何?」

「そいつは生きる理由を他人に依存して、流されて、自己欺瞞ばっかで、結局何でもできると勘違いしていた、本当は何もできないようなどうしようもない奴だった!」

「……私がそうだと?」

「他人の幸せだなんて、もっともな理由にかこつけて!結局は思考を放棄してるだけだ!そこに人間だとかアンドロイドだとか、関係ない!」

 

そう叫んだ黒夜はアウラネルを押しのけると、フルボトルバスターにフルボトルを装填する。

 

《ロック!ローズ!》

《ジャストマッチデース!》

「ハッ!」

《ジャストマッチブレイク!》

「拘束!?クッ……」

 

バスターキャノンモードのフルボトルバスターから鎖が放たれ、アウラネルを拘束する。

アウラネルは拘束を外そうともがくが、その隙に黒夜はさらにフルボトルを装填する。

 

《海賊!サメ!クジラ!》

《ミラクルマッチデース!》

「ッ!」

 

青色と水色のオーラを纏ったバスターブレードモードのフルボトルバスターを振りかぶり、黒夜はアウラネルに向かって走る。

しかしアウラネルは、黒夜から見えないようにフォースライザーのレバーを動かした。

 

「ハァアアア!」

《ミラクルマッチブレイク!》

《スティングディストピア!》

「なッ!?」

「フン…!」

 

黒夜の攻撃が命中する直前で、アシッドアナライズによりアウラネルを拘束していた鎖が破壊される。

黒夜はそのことに動揺し動きが鈍ったその隙を突き、左足にアシッドアナライズを巻きつかせたアウラネルの蹴りが突き刺さった。

 

「ガ、ハッ……」

 

変身解除はしなかったものの、黒夜は大きく吹き飛ばされてしまい壁に叩きつけられる。

 

「……先ほど、私は貴方を変わったと言いましたが、付け加えましょう。貴女は弱くなった」

「……………」

「前の貴方なら、今の私の動きを見逃すことはなかった。皮肉なことですね。貴方の言う他人に依存して、自己欺瞞な生きる理由を失った貴女は、弱くなった」

 

嘲笑するかのごとく、アウラネルは語る。

この場において、その言葉に反論する者はいない。

 

 

 

「――――ッ……勝手なこと言ってんじゃねえ!」

 

 

 

否、一人だけいた。

アウラネルが振り返ると、そこにはマギアたちを相手している奏がいた。

 

「お前が、そいつを否定すんじゃねえよ!」

「否定……ですがこの方は、自らの理由を捨てたために負けたのですよ」

「だとしてもなぁ!今のそいつの夢には、そいつの意志があるんだよ!グハッ!」

「………意志ですって?」

 

奏はマンモスマギアの突進に吹き飛ばされながらも、なおも立ち上がり高らかに声を張り上げる

 

「そうだ!人の夢ってのはなぁ!良くも悪くも、自分の為なんだよ!」

 

ベローサマギアの鎌を躱し、ガエルマギアのコガエルボマーをオーソライズバスターを盾にして防ぐ。

しかし、背後から迫っていたビカリアマギアの攻撃を背中に食らい、さらにドードーマギアの剣で吹き飛ばされてしまう。

 

「……夢を見つけるために、いろんな奴に助けられたって良い。支えてもらったって良い。縋りついたって良い。でもな……そこに自分の意志が存在しなきゃ、それは夢じゃねえ!ただの操り人形だ!」

 

フラフラになりながらも立ち上がり、バックルからショットライザーを外す。

 

「アウラネル……お前はアンドロイドだ。だけどな、お前だって夢を決められるはずだ!お前が操り人形でいようとする限り、あたし達には絶対に勝てない!」

「言わせておけば……」

 

アウラネルはアタッシュアローを引き、紫色の矢を奏に放つ。

それらは全て奏に命中するが、奏は決して倒れず2本の足でしっかりと立ち続ける。

 

「黒夜!お前の夢はなんだ!?()()()()の夢は、他人に依存して、流されて、自己欺瞞ばっかな夢なのか!?」

「ふん。今更この負け犬に何を期待して―――」

《イチイバル!》

「――ッ!?」

 

背中に銃口を突きつけられた感触を感じたアウラネルは、咄嗟に振り返るも遅かった。

 

《フルボトルブレイク!》

「グアアアアッ!」

 

突きつけられた()()()()()()()()()の銃口から、零距離で嵐のように光弾が大量に放たれ、アウラネルは吹き飛ぶ。

 

「へっ……やっと立ち上がったか」

 

そう言う奏の視線の先には、フルボトルバスターを構える黒夜が立っていた。

フルボトルバスターには、かつて雪音クリスに預けていたイチイバルフルボトルが装填されていた。作戦開始直前に、クリスから返されていたものだ。

 

「貴女の説教、中々響いたよ。私の夢……私はもう、過去に縛られない。私は私だ!誰かのくだらない意志に、私の夢を、生きる理由を縛られたりしない!」

《マックスハザードオン!》

《ラビット&ラビット!》

《ガタガタゴットン! ズッダンズダン!》

《Are you ready?》

「ビルドアップッ!」

《オーバーフロー!》

《紅のスピーディージャンパー!ラビットラビット!》

《ヤベーイ!ハエーイ!》

 

ラビットラビットフォームに変身した黒夜を見た奏は、ランペイジガトリングプログライズキーのマガジンを一回回す。

 

《パワー!ランペイジ》

『人間、崩壊!』

「うるせぇええ!」

《ランペイジパワーブラスト!》

 

突進してきたマンモスマギアを、奏はアッパーで打ち上げ撃破する。

さらにベローサマギアとドードーマギアが飛びかかってくるが、奏はそれよりも早くマガジンを回していた。

 

《エレメント!ランペイジ!》

《ランペイジエレメントブラスト!》

「オオオオッ!」

 

ベローサマギアを炎を纏った右拳で、ドードーマギアを氷を纏った左拳で殴り飛ばし、伸ばしたアシッドアナライズでまとめて貫く。

貫かれた2体は爆発し、それを見ることもなく、奏はさらにマガジンを2回回す。

 

《スピード!ランペイジ!》

《ランペイジスピードブラスト!》

 

マギアの増援が次々と転移してくるが、構わず更にオーソライズバスターにアサルトウルフプログライズキーをスキャンし装填する。

 

《バスターオーソライズ!》

《Progrise key comfirmed. Ready for buster》

《プログライズバスターボンバー!》

「フン!」

 

奏は紫電を纏いながら高速飛行し、次々と増援のマギアを切り伏せていく。

 

「黒夜!一気に決めるぞ!」

「分かってるよ!」

「……私の、私の生きる理由は…マスターのぉ……!」

《ランペイジバレット!》

「アウラネル!こいつが、あたし達のルールだ!」

「フフ……さあ、勝利の法則は決まった!……なんてね」

「「ハッ!」」

「ッ!……」

 

黒夜と奏は同時に跳びあがり、キックの体制を取る。

アウラネルも迎え撃とうとフォースライザーのレバーに手をかけるが、その動きが直前で止まった。

 

《Ready Go!》

《ラビットラビットフィニッシュ!》

《ランペイジガトリングブラストフィーバー!》

「「ウオオオオオオオッ!」」

「ガッ…ア………」

 

黒夜と奏のライダーキックを食らったアウラネルは、爆発とともに吹き飛び壁に叩きつけられる。

変身も解除され満身創痍のアウラネルは何とか立ち上がると、爆発の煙に紛れて姿を消した。

 




どれだけその人を他人が知っていようと、本当の夢を知っているのは当人だけ。
自らの”ユメ”に疑問を持てば、それは自身のユメではない。
他人に押し付けられただけユメほど、不必要なものはない。

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75 救われた人、救われなかった思い

タク-Fさん、かいざーおーさん感想ありがとうございます!

今回はちょっと話が長くなったので2つに分けました。
この話を上げた後、すぐにもう一つ上げます。




《七海side》

 

フロンティアにある塔の最上階。

そこでは私とキャロル、サウザーの戦いが始まっていた。

 

「フンッ!」

 

サウザーが飛ばしてくる様々な弾丸の嵐を突っ切り、サウザーに接近する。

 

《ツインブレイカ―!》

《スチームパンツァー!》

「ハアアッ!」

 

右手にツインブレイカ―を、左手にスチームパンツァーを呼び出し、サウザーに連続攻撃を仕掛ける。

だけど、サウザーもサウザンドジャッカーを巧みに扱い、私の攻撃を全て受け流す。

 

「この世界を!破壊なんてさせない!」

「はっ!お前はそんな奴だったか!?」

「ぐぅ!」

「ナナ姉え!」

 

蹴り飛ばされた私を、キャロルがショットライザーの銃撃でカバーしてくれた。

 

「ちッ!」

《ジャッキングブレイク!》

 

サウザーは舌打ちをすると、ジャッキングブレイクを発動しようとする。

それを見た私とキャロルも先手を打ち、それぞれの必殺技を放つ。

 

《オルトロスブラスト!》

《ライダー!》

《フィーバー!》

《ツインフィニッシュ!》

「「ハアアアッ!」」

 

2つの光弾をサウザーに放つ。

しかしサウザーは、なんとそれらをサウザンドジャッカーで絡め取るように防ぎ、私たちに投げ返してきた。

 

「ふんッ!」

「ナナ姉え!…うわあああッ!」

 

私を庇ったキャロルは、サウザーの反撃を食らい吹き飛ばされてしまった。

 

「キャロル!」

「白黄七海ぃ!」

「くっ!」

《カイゾクハッシャー!》

 

キャロルに気が逸れた瞬間、接近していたサウザーの攻撃を数発食らうも、カイゾクハッシャーを召喚し攻撃を防ぐ。

 

「貴様はこの世界がどうなろうと、気にするような奴だったか!?」

「何をッ!」

「家族を守るためならば、世界すら敵に回す!そう言うやつだっただろう!?」

「……勝手なことを言うなッ!」

《各駅電車ー!急行電車ー!》

《ユナイトライズ!》

「ハッ!」

「フン!」

 

違う!私が望んでいるのはそんなんじゃない!

怒りに任せてサウザーを押しのけ、カイゾクハッシャーの光弾を放つ。

しかし、サウザーが召喚した炎を纏ったマンモス型ライダモデルの足に踏みつぶされ、その衝撃で私は吹き飛ぶ。

 

「がぁ!」

「貴様のこじつけの正義で!守れるものなどありはしない!」

「うるさい!」

 

サウザーの言葉を否定し、『ライダーリューザー』を元に戻す。

それと同時に2種類のアームドギアを召喚する。

 

《アガートラーム!》

《天羽々斬!》

「アガートラーム!天羽々斬!行け!」

「愚かだな……!」

《ユナイトライズ!》

《JACKING UNITE!》

 

アガートラームの短剣、天羽々斬の刀など計12本を召喚し、遠隔操作でサウザーに突撃させる。

サウザーも炎や氷、雷に毒を纏った紫色のソードクリスタを12本召喚し迎撃する。

 

《オーソライズバスター!》

《アックスライズ!》

「アアアッ!」

「ふんッ!」

 

24本もの剣が飛び交う中、私のオーソライズバスターとサウザーのサウザンドジャッカーが交わる。

サウザーの攻撃を時にアガートラームを盾にして防ぎ、逆にサウザーのソードクリスタで防がれる。互いの行動が手に取るように分かり、それ故に状況が動かない。

 

「フン…貴様も所詮は俺と同類だな。憎しみをその身に宿し、怒りのままに刃を振るう」

「違う……私がしたいのは、こんなことじゃない!救いたいから……戦うんだ!」

「何が違う!?どこが違う!?互いを憎しみ、結局は傷つけあう。それが人間だ!」

 

私とサウザーは激しくぶつかりながら、お互いの言葉をぶつける。

だけど違う。私が言いたいのはそうじゃない。

 

「貴様もまた、()()()()()()と同じ、他者を傷つける存ざ―――!」

「それは違う!」

 

サウザーの言葉を否定したのは、私たちの攻防に入ってきたキャロルだった。

 

「ナナ姉えだって、誰かを傷つけるかもしれない!確かに戦えば、誰かが傷つく。だけど、それで守られてきた人だっている!」

 

キャロルは両手の鉤爪で、サウザーを攻撃しながらそう叫ぶ。

私の心は、それだけで救われた気がした。

 

「貴様らのような偽善をこなすものがいるから!……グァ!」

「それでも、大切なモノを守れるなら、私は喜んで偽善となる!」

 

この世界のキャロルと同質の存在であり、キャロルの記憶を見たサウザーと私では、互いの動きが読めてしまいどうにも攻めあぐねてしまう。

だけど、キャロルが介入してきたことにより、その均衡は破れた。

 

「そして…それは貴方もだよ!()()()()ッ!」

「ッ!?」

《ライダーパート!》

 

私の言葉にサウザーの動きが鈍り、その間にビルドドライバーのレバーを一回回す。

 

「ハッ!」

《Ready Go!》

 

高く跳躍し、アガートラームと天羽々斬が次々とソードクリスタを破壊していく中をあがっていく。

グラフが現れ、私はそのグラフに沿ってキックの体勢で下っていく。

仮面ライダービルドラビットタンクフォームの必殺技、ボルテックフィニッシュを放つ。

 

《シンフォニックアタック!》

「ハアアアッ!」

「グァア!」

 

私のキックは動きが鈍いままのサウザーに直撃し、サウザーを打ち上げる。

 

《オルトロスブラストフィーバー!》

「オオオッ!」

「グハッ!」

 

そして落ちてきたところを、超高速で移動したキャロルのパンチが吹き飛ばした。

さて、それじゃあ仕上げといこうか。

 

「く、そ……」

「……最後の時だ」

《ライダーパート!シンフォギアパート!》

 

レバーを二回回しながら、私はサウザーに近寄る。

 

《Ready Go!》

「……オオオッ!」

《シンフォニックブレイク!》

 

光を纏ったパンチをサウザー目がけて放ち、パンチは命中。

 

 

周囲を目映い光が包んだ。

 

 

 

 

 




戦闘少なかったけど、別に倒すのが目的じゃないから……。
キャロルちゃん好き好きな七海が倒すわけないんだよなぁ。

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76 繋がるココロ

本日2本目です。前話を見てない人は、先にそちらを見ることを推奨します。


《七海side》

 

目を開けるとそこは、白い空間だった。

 

「ここは……?」

「気づいた?ナナ姉え」

「……キャロル」

 

背後からかけられた声に振り向くと、いつもより落ち着いた…どちらかというと家にいる時のキャロルがいた。

 

「……ここはサウザー…平行世界の()の精神世界」

「そっか。じゃあ、成功したんだ」

 

さっきの必殺技は、サウザーを倒すために放ったわけじゃない。

響のガングニールの特性『結び繋ぐ力』。私は()()()()の為、この特性を使って精神世界に干渉することにした。

そして結果はこの通り、平行世界のキャロルの精神世界への干渉に成功した。

 

「ナナ姉え……こっち」

「う、うん」

 

キャロルに連れられ、何もない白いこの空間をただただ歩く。

ちなみに、ここにキャロルがいる理由は簡単だ。

平行世界のキャロルに一度操られていたことで、彼女はキャロルの記憶を見た。しかし逆に、この世界のキャロルも平行世界のキャロルの記憶をある程度覗いている。

つまり道案内を頼んだのだ。

 

「着いたよ」

 

そう言ってキャロルが立ち止った場所には、1つの扉だけがあった。

困惑する私に構わず、キャロルは勝手知ったる感じでその扉を開け、中に入っていく。

私も慌てて追いかけて中に入る。

 

『異端者を殺せぇ!』

『火あぶりの刑だぁ!』

 

扉の先には、狂気の光景が映っていた。

広場と思われる場所には大量の薪が組まれており、その周囲には村人らしき人たちがおり、口をそろえて「異端者」だの「火あぶりの刑」だのと叫ぶ。

そして、組まれた薪の中心に立つ丸太には、誰かが括りつけられている。

その人物を、私は知っていた。

 

「イザークさん……」

 

キャロル・マールス・ディーンハイムの父、そして私の恩人でもあるイザーク・マールス・ディーンハイムだった。

だけど私にこんな記憶はない。この世界のイザークさんは病死だったのだから。

なら誰の記憶か?そんなこと、考えるまでもない。

 

『パパぁ!パパー!』

 

イザークさんを囲む人たちとは違う声が聞こえて隣を見る。

そこには、村人たちに取り押さえられているキャロルがいた。

 

『火をつけろぉ!』

『パパぁ!パパぁ!』

『キャロル……世界を識るんだ。それが、キャロルの………』

『パパぁ―――!』

「ナナ姉え」

 

涙を零して泣き叫ぶキャロルの反対側から聞こえた、キャロルの声に視線を向ければもう一人のキャロル――この世界のキャロルがいた。

 

「こっち」

「……うん」

『いや…いやぁぁぁあああああ!』

 

背中にキャロルの慟哭を聞きながら、私はまた()をくぐった。

 

『これで動くはずだ。目覚めろ』

『………うん?ここはどこですか~?』

 

今度はお城のような場所で、玉座らしき場所に()()()()は座っていた。

その目の前には、ゴスロリ衣装の少女が直立不動で立っていた。

その少女の関節は、人形のような形をしていた。

 

『おい』

『ん?あっ!マスターじゃありませんか~。オートスコアラータイプ01と申します。よろしくお願いしますね~』

『ああ。オレの手足となり、存分に働いてもらうぞ。手始めに……そうだな。まずは名称をつけてやろう』

『名称……名前ですか?』

『そうだ。タイプ01だと長いからな。そうだな……よし。お前はガリィだ』

「ナナ姉え。次」

 

そのままキャロルに連れられ、いろんな記憶を見た。

研究に没頭している記憶。最初は自由気ままだった、ガリィという人形に頭を悩ませている記憶。父親の記憶を思い出して、人知れず涙を流す記憶。ファラ、レイアという人形を起動した記憶。立花響との邂逅の記憶。ミカという人形を起動した記憶。エクスドライブを発動させた装者たちと戦い、敗北した記憶。瀕死のエルフナインに、自らの身体を渡した記憶。

そして………

 

『ああ、憎い…にくい…ニクイ…』

『なぜ、この世界のオレはあんなに幸せそうにしている。オレは、こんなにも憎しみで震えているのに』

『なぜ、誰もオレを見つけてくれない…?なぜ、誰もオレを受け止めてくれない…?』

『ならばオレは、憎しみの化身となろう。そうすればきっと―――』

 

「ここが最後」

 

そう言ってキャロルが視線を向ける扉。しかし一向に開けようとせず、私の顔を見つめてくる。

自分で開けろという事か。

 

「……1つだけ聞かせて」

「……何?」

「ナナ姉えは、どうしたい?」

 

それはあまりにも、複雑な感情が混ざっていた。

同情、悲しみ、恐怖、不安……一時的とはいえ、平行世界のキャロルと同調しかけたからこそ、感じるものがあるのだろう。

でも、私の答えは既に決まっている。

 

「私がするべきことは、いつだって変らない」

 

そう言って、扉を開ける。

扉の先は、またあの白い空間だった。

 

「ひっく……ひっく……」

 

違うとすれば、こうして泣き声がするという事だろうか。

私は立ち止まることなく、白い空間を歩く。キャロルはついてきていない。

 

 

「ひっく……いやだ。いかないで……」

 

 

……ああ。

 

 

「1人にしないで……1人は怖いよぉ……」

 

 

…………ああ。

 

 

「……誰か私を………助けて……」

 

 

…………そうだったんだね。

 

 

歩いていた私は、足を止める。そして目の前には―――

 

 

 

「貴女はこうやって、ずっと助けを求めてたんだね……………()()()()

 

 

 

 

 

―――膝を抱えて涙を流す、1人の無垢な少女(平行世界のキャロル)がいた。

 

 

 

 

「……ごめんね。気付いてあげられなくて」

 

少女の傍に座り、伏せている頭を優しく撫でる。

いつの間にか、その涙は止まっていた。

エルフナインよりもキャロルによく似た顔。違うとすれば鈍く光る銀髪と紅い瞳だろうか。

僅かながらに身を寄せてくるキャロルを見つめながら、最後に見た記憶を思い出す。

 

 

『ならばオレは、憎しみの化身となろう。そうすればきっと―――オレを見つけてくれる』

 

 

それは少女の悲しい祈り。

全ての記憶を焼却しながらも、その断片が残した切なる願い。

家族を殺され、託された命題だけを頼りに生きてきた。それでも…いや、だからこそこの子は、”愛”に飢えていたのだろう。

しかしその感情は、記憶は、全てが燃え尽きてしまった。

その時、この子にとって転機が訪れた。

直前に行われていた戦いで、完全聖遺物ギャラルホルンが人知れず起動。

()()()()()()()()()()()()()がギャラルホルンを通り、この世界にやってきた。

 

「……だけど、平行世界に来たことである現象が起こったの」

 

私の考えを引き継ぐように、いつの間にか近くにいたこの世界のキャロルが語りだす。

 

「元が同質の存在であろうと、記憶の元の持ち主であるキャロルがいない世界に来たことで、存在を保つために記憶に自我が生まれた。それが、そこに居る私」

「……オレに芽生えた自我の元は、オレの記憶。しかしこの世界のオレは、すでに幸せな環境で、幸せそうに笑っていた」

「だからあなたは、それを憎んだ。その結果、自身を憎しみの感情が集合したことで生まれた存在だと()()()()()。だけど、その本質は全くの別。愛されたい、見てもらいたいと言う、寂しさの記憶、感情の集合体。だからこそ、ギャラルホルンを通ってこの世界に来るまで、形を保つことができた。」

 

抱いていた憎しみよりも強い感情だったから。

私の言葉に、平行世界のキャロルは甘えるように、頭を私の肩に載せる。

 

「だけど、もうすぐオレの存在も消える。だって、お前がオレを見つけてくれたから」

 

気づけば、平行世界のキャロルの身体が、光となって消えかけていた。

所謂、未練を叶えて成仏しようとしていると言ったところだろうか。

 

「最後にこうやって、オレを見てくれる人がいた。それでもう、十分だ」

「……本当に、そう思ってるの?」

「え……?」

 

私の問いかけに、平行世界のキャロルは不思議そうな表情を見せる。

私は彼女の肩を優しく掴み向き合う。

 

「私がやりたかったことは……家族を守ることじゃない」

「……………」

「私がやりたかったのはね、キャロルを救うこと」

「なにを……言って……」

 

そうだ。私はキャロルを救うために、この世界にやってきた。

悲しい運命を背負ったこの少女に、別の運命を見せることができたなら、それはきっと、素晴らしいことだと思ったから。

独善的で、偽善的で、傲慢で、それでも成し遂げたいと思ったから、私はここにいる。

 

「キャロル、私は貴女を離さない。貴女を……………私の物にする」

「~~ッ!?!?!?!?」

 

私の宣言に、平行世界のキャロルは顔を真っ赤に染める。

うん。すごくかわいい。

 

「ば、バカッ!そんなこと、急に言われたって……!?」

「返事は聞かない。拒否権だってない。貴女は私が幸せにする。愛して愛して、愛しまくって、自分は誰にも見られていないなんて馬鹿なこと、考えさせないようにする」

「う、あ………」

 

そのためには、やるべきこと…というより、やってもらわなければならないことがある。

 

「キャロル」

「うん」

 

この世界のキャロルを呼び、彼女に近くに来てもらう。

彼女は近づくやいなや、平行世界のキャロルの頬に手を添え、そのまま唇を奪う―――

 

 

「―――って、ちょっと待てッ!?」

 

 

……ことは出来ずにふり払われた。

 

「もう、騒がないで」

「いや騒ぐだろッ!?何いきなり…き、キスをしようと」

「貴女は肉体がない。だから、私の肉体を依り代にして、この世界に留まらせる。幸い、貴女の存在は個として確立されている。だから、私の精神と融合してしまう事もないから、大丈夫」

「そ、そうはいってもだな……自分とキスするのはいささか……」

「今日の楽しみと称して、私のナナ姉えとのスキンシップの記憶を見てたくせに、今更何を言ってるの」

「え、そうなの?」

「そ、それは言うなぁああああッ!!」

「私とナナ姉えがキスしてる記憶を見ては、顔を真っ赤にしてチラチラ見てたくせに……」

「やーめーろぉおおおお!!」

「ん……」

「んん……!?」

 

顔を振って恥ずかしがる平行世界のキャロルの隙を突き、この世界のキャロルがキスをする。

これによって2人の間でパスが繋がれるから、平行世界のキャロルが消えることはないはずだ。

 

「うう……もうお嫁に行けない」

「ナナ姉えが貰ってくれる……というか奪ってくれるから大丈夫」

「どこがだよッ!」

「それに私はもうナナ姉えの物だし、ナナ姉えは私の物だよ。だから、ナナ姉えの物になる予定の貴方は、私の物になるわけでもある。何も問題はないよ」

「問題ありすぎだろッ!」

「……ぷっ、あはははははっ!」

 

2人の掛け合いが面白すぎて、笑ってしまった。

突然笑いだした私に、2人は少しの間ポカンとしていたけど、やがて2人も笑い出した。

ああ……これが私が見たかった光景だ。

 

「ってナナ姉え、消えかけてる」

「……え?ってうわっ。本当だ!」

「おそらく時間が限界なのだろう。そうだ。最後に、1ついいか?」

 

現実に戻ろうとした時、平行世界のキャロルがもじもじと顔を赤らめながら、声をかけてきた。

 

「どうしたの?」

「名前……」

「名前?」

「同じキャロルだと、不便だろう?だから、私に名前を付けてくれ。その名を持って、私は過去を断ち切る。私を幸せにしてくれる人たちと歩むために」

「……なら、シャナ。貴女はシャナ・マールス・ディーンハイム。どうかな?」

「うん。いいと思う」

「シャナ…シャナか……ありがとう!七海!」

「それじゃあ、今度は現実で」

 

その言葉を皮切りに、私の意識を光が覆った。

 

 

 

 

 

 

「……戻ってきた」

「ナナ姉え……」

 

目を開けると、そこはさっきまで戦っていた部屋。

変身は解除されており、キャロルも気が付いたようだ。

 

「キャロル……サウ、シャナは?」

「ここにいる」

 

シャナの声が聞こえると同時に、キャロルから粒子のような物が出てきて人の形を成す。それは紛れもなく、シャナだった。

 

「良かった……」

「うん」

 

私たちはシャナを救えたことに安堵し、シャナを強く抱きしめた。

 

 

 




シャナちゃんという家族が一人増えたぞ!やったね!
ちなみにこの時、装者たちはまだ戦闘中なんだよなぁ……。

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77 最短で!最速で!真っ直ぐに!一直線に!

タク-Fさん、感想ありがとうございます!


《三人称(装者)side》

 

フロンティア北側から侵入した装者たちは、生い茂る森の中を突っ切りながら、塔を目指していた。

 

「邪魔すんじゃねぇ!」

 

クリスが放ったミサイルが、トリロバイトマギアを吹き飛ばす。

装者たちは人数が多いからか、想定よりも大量のマギアが派遣されていた。

 

「きりがねえな……」

「このままじゃ、ネフィリムが手に負えなくなるほど強くなっちゃうデスよ!」

「それは御免こうむりたいわね」

「………………」

「翼さん?」

「……どうやら、幾らか手間が省けたらしい」

 

翼がそう言うのと同時に、森の奥から4足歩行の奇怪な動物が現れた。

その口にはトリロバイトマギアを加えており、時折咀嚼しているかのようにバキッ!ボキッ!と音を鳴らしている。

これが、完全聖遺物ネフィリムである。

 

「…ネフィリム!」

「なるほど、我々のシンフォギアに使われている聖遺物を嗅ぎつけたか」

「さすがは聖遺物を食らうだけあるわね」

「GUAAAAAAA!」

 

ネフィリムは咆哮を上げると、装者たちに向かって飛びかかる。

装者たちはそれを散開して躱す。

 

「まずはあたし様からだ!」

 

クリスが2丁のガトリングをぶっ放すも、ネフィリムは跳躍して木々を足場にクリスに襲い掛かる。

しかし、それを見逃す装者たちでもなく、響がネフィリムを殴り飛ばす。さらに調のヨーヨーとマリアの操舵剣で手足を絡め取り、そこに切歌の鎌の刃と翼の放った斬撃が命中する。

 

「よし!」

「はっ!この程度かよ!」

「油断するな!2人とも!」

 

翼の警告が正しいと証明するかのように、ネフィリムが咆哮を上げる。

その直後、ネフィリムの身体がボコボコと音を立て、不自然に隆起し始めた。

 

「な、なに!?」

「なんだか大きくなってる気が……」

「…というより、大きくなってる」

 

切歌と調の指摘通り、ネフィリムは徐々に巨大化していき、やがてはフロンティアにそびえ立つ塔ほどの大きさとなった。

姿も不気味な黒から、炎のように真っ赤な赤色に変わり、4足歩行から人型のような2足歩行に変わる。

 

「んなっ、なんデスかあれは!」

「さすがにでかすぎるぞ!」

「言ってる場合か!来るぞッ!」

「全員!命がけで避けなさい!」

 

マリアの警告の直後、ネフィリムはその剛腕を装者たちに向けて振るう。

巨大な質量をもったそれは、地面に叩きつけられると周囲の木々を巻き込んで、巨大なクレーターを作った。

装者たちも何とか範囲外に回避はしたものの、衝撃によって吹き飛ばされてしまった。

 

「う、く……」

「全員、無事か……?」

「…なんとか」

『みんな、緊急事態だ!』

「こちとらとっくに緊急事態だよ!」

 

通信機から聞こえた弦十郎の声に、クリスは噛みつく。

しかし弦十郎は焦りを含んだ声で、内容を伝える。

 

『国連から通達のないアメリカの艦隊を確認した!』

「なッ!?」

「どういうことですか!?」

 

その内容に装者たちは、驚愕に包まれた。

 

『アメリカはF.I.S.の一件がある。おそらく無理やりにでも戦闘に参加し、幾らか自分たちの功績とすることで、その件を有耶無耶にしたいのだろう』

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!ここに今、とんでもない化けもんが…ッ!」

 

クリスが話している途中、ネフィリムが()()()()

その動きに嫌なものを感じた装者たちは、ネフィリムの視線の先に目を向ける。

そこにはうっすらと、先ほど通信で聞いたアメリカの艦隊がいた。

 

「まずいッ!」

「司令!すぐに退避させてください!」

「すでにその旨を送っている!」

「だめデス!もう間に合わない!」

「だめぇぇええええええええ!」

 

響の叫びが木霊するのと同時に、ネフィリムの口から光線が放たれた。

それは艦隊を真っ二つにするように放たれ、爆発とともに津波を引き起こし他の軍艦を呑み込んだ。

 

「あ、ああ……」

「そんな……」

 

今の一撃でいったいどれだけの死者が出たのか。

装者たちは呆然とする。

 

『呆けるなッ!』

 

そんな装者たちを叱咤したのは、弦十郎だった。

 

「ッ!」

『俺たちは今から、アメリカ軍の救助活動に入る!君たちはネフィリムを倒すんだ!」これ以上、今の攻撃をさせてはいけない!』

「師匠……はい!」

「やってやる…やってやるよ!」

「一気にいくぞッ!」

「「「「「「デュアルシステム、コネクト!」」」」」」

《デュアルリンク!デュランダル》

《デュアルリンク!アメノムラクモ》

《デュアルリンク!ネフシュタン》

《デュアルリンク!ヘルメス》

《デュアルリンク!クルースニク》

《デュアルリンク!ツクヨミ》

 

リンクギアを展開した6人は、一斉に跳びあがる。

 

「景気づけの一発!派手に食らえやぁあああ!」

【GRATEFUL FLASH】

 

クリスが一対の大型ビーム砲を突っ込ませ、ネフィリムに零距離からのビームを食らわせる。

さすがにこれには堪えたのか、ネフィリムは数歩後退し痛みを和らげるためか咆哮を上げる。

 

「私は一撃の強さは皆より弱い……なら!」

 

マリアは大量の剣を召喚し、ネフィリムを覆うほどの数の剣を突撃させる。

しかし、ネフィリムに突き刺さった剣は、ズブズブとネフィリムの中に埋まっていく。

 

「まさか、皮膚からも吸収していると言うの!?」

「マリアッ!()()()!」

「ッ!分かったわ!」

《デュアルリンク!ヘルメス》

《デュアルリンク!ネフシュタン》

 

クリスの声でマリアは察し、クリスとリンクギアを入れ替える。

 

「行くわよぉ!」

「10億連発だ!」

 

マリアはネフシュタンの鞭を振るい、ネフィリムの身体に裂傷を増やしていく。

クリスはサブマシンガンを両手に持ち、同時に銃の形状の飛行ユニットを展開。ヘルメスによる俊足で動きながらサブマシンを撃ち、飛行ユニットにも攻撃させる。

銃弾はマリアがつけた裂傷に、抉りこむように撃ちこまれていく。

 

「くそッ!これもダメか!」

「それに回復速度が速い!」

 

見れば、2人がつけた傷は瞬く間に修復されていく。

さらにネフィリムの咆哮によって、空中に浮かんでいる2人の身体は猛スピードで吹き飛ぶ。

 

「月読ッ!」

「…はいッ!」

 

翼と調が、入れ替わるようにネフィリムに接近する。

ネフィリムは握りつぶさんと剛腕を伸ばすが、2人はひらりと躱して巨大な腕に乗る。

翼は足で走り、調は脚部のローラーで駆け上がっていく。

 

「我が剣の錆となれッ!」

「…これならぁ!」

【炎鳥極翔斬】

【α式・弧月斬光輪】

 

両手のカタナから炎を吹きだし、翼は己を青い火の鳥と化し突撃する。

調は右足を振るい、三日月状の斬撃を繰り出す。

2人の攻撃はネフィリムの顔面を直撃する。

 

「GUAAAAAA!」

 

顔面を攻撃されたネフィリムは、顔の周りを払うように巨腕を振る。

空中に飛んでいたことで回避行動を取れないため、ネフィリムの腕で吹き飛ばされる。

 

「翼先輩ッ!調ッ!」

「切歌ちゃんッ!今はネフィリムをッ!」

「ッ……!はいデス!」

 

響と切歌は未だにもがくネフィリムの真下に潜り込み、跳躍。

お互いの得物を、ネフィリムの胴体に叩き込んだ。

その威力は凄まじく、ズドンッ!という音が周囲一帯に響き、グラリと後ろに傾く。

 

「GAAAAAAAA!」

「うわぁッ!?」

「デェエス!?」

 

しかし、ネフィリムもただでは終わらず、当たらないと分かっていても口から光線を放ち、その衝撃によって2人を吹き飛ばす。

赤い光の線が、空へと昇っていく。

木々をなぎ倒しながらやっとのことで止まった響は、痛む体を押して立ち上がる。

 

『みんな……無事?』

『無事に思える、か?』

『それだけ軽口が叩けるなら、無事か』

『…このままじゃ、こっちが先に力尽きる』

『どうすればいいデスか……?』

「…………歌おう。みんなで」

『『『『『ッ!?』』』』』

 

響の提案に、通信機越しに他の装者の息を呑む音が聞こえる。

 

『ダメだッ!()()はお前に負担がデカすぎる!』

「大丈夫だよ、クリスちゃん」

『あれはまだ、訓練でも一回しか成功していない。賭けには分が悪すぎる』

「でも、こうしてる間にもネフィリムは回復してる。だったら、これに賭けるしかないと思うんです。私は、大丈夫ですから!」

『…………やる気はあるのね?』

「はいッ!へいき、へっちゃらですッ!」

『マリアッ!』

 

あたかもやる気のマリアに、翼が声を荒げる。

それも当然である。今からすることは、響にとって負担が大きく、訓練中も一回を除いてほぼ失敗している。もし今の状態で失敗すればどうなるか……考えたくもない。

だが、他に方法がないことを理解しているのか、翼も響に確かめる。

 

『……どれくらいの確率で行けそうだ?』

「思いつきを、数字で語れるかよ!」

『ふ……ああ、そうだな』

「あーもう!分かったよ!やってやる!」

『私たちの底力、あの怪物に見せてやるデス!』

『…うん。私たちの歌で!』

 

気づけば、全員の声に活力が溢れていた。

響は深く息を吐くと、歌を詠う。

 

「……セット、スネープソング。コンビネーションアーツ」

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

6つの地点から、6色の光が立ち上る。

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl」

 

「大丈夫ですか!?」

「……この歌声は、なんだ?」

「力が、湧いてくるぞ……」

「綺麗な歌だ……」

「この歌声は……翼さんたち」

 

その歌声は、絶望に沈む者に希望を与える。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

「GUAAAAAAAA!!」

 

その歌声は、悪しきものには毒となる。

 

「GUAAAAAAAA!!!」

 

苦しむネフィリムが、響に向けて剛腕を振るう。

 

 

――――そして、光が溢れた

 

「mustolronzen fine el zizzl」

 

「GRRRRUUUU!」

「…………これが――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――私たちの、シンフォギアァァアアアアッッ!!!」

 

 

 

光の中から現れたのは、手を繋ぐ6人の希望の歌い手。

彼女たちのシンフォギアは、白を基調とした色合いに変わりその姿も変化していた。

 

エクスドライブtypeデュアルバースト。

 

シンフォギアとは違いエクスドライブのような最終決戦機構を持たないリンクギアすらその機構に取り込み、彼女たちはまた一つ、奇跡を果たした。

純白の姿からは目映いほどの光が放たれ、目にする者たちに勇気と希望を与える。

 

「GRUUUUU……!」

「これが、私たちの奇跡」

 

響はマリアと繋いでいる手を高く掲げる。

上空に光り輝く巨大な剣が現れた。その大きさ……ネフィリムの約2倍。

 

「「「「「「いっけえええええええええ!!!」」」」」」

【Synchrogazer ~over the hope~】

 

「GAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

振り下ろされる剣を迎え撃つために、ネフィリムは光線を放つ。

響たちが振り下ろした剣は、あまりにも容易く……

 

 

 

……ネフィリムと放たれた光線を、頭から真っ二つに斬り裂いた。

 

 

切り裂かれたネフィリムは、2つに分かれて倒れる。

そして響たちもまた、なんとか地面に着陸すると一斉に崩れ落ちた。

 

「か、勝った~」

「うごけねえ……」

「成功したはいいけど、反動がきつすぎるわよ……」

『全員無事かッ!?』

「師匠……私たちやりましたよ!ネフィリムをたおs『空を見ろ!』……え?」

 

通信機から聞こえた弦十郎の声に、響は勝利の報告をしようとすると、それを遮って弦十郎の声が響いた。

装者たちが空を見上げると、そこにあったのは雲一つない青空……などではなく、空中に浮かぶ()()()()があった。

見れば、倒れたはずのネフィリムの遺体もない。

 

『皆さんッ!』

「エルフナインちゃん……」

『計測の結果が出ました!あれは、()()()()()()()ですッ!』

 

繭……?繭とはなんだ……?なら、()()()()()()()()()

誰もがエルフナインの言葉を、すぐに飲み込むことができなかった。

アメリカの艦隊を一瞬で壊滅させ、装者たちが決死の覚悟で戦い、エクスドライブを用いてやっとのことで倒せたというのに、それが繭の前、()()()()()()()()()

 

「ラーニング完了」

 

………喋った。

先ほどまで獣の唸り声のような声しか上げていなかったモノが、明確な言葉を発した。

そしてその声は、まるで機械が喋っているような、ゾッとするほど冷たい声だった。

 

『”悪意”の感情をラーニング。現存する全ての生命体は、存在するに価値あるかを餞別』

 

この物体は、何を言っている?

 

『解。この世界に現存する全ての生命体は……存在する価値なしと判断』

 

このおぞましいモノは、何をしようとしている?

 

『これより、ラーニングした悪意に基づき、行動計画を立案……了。行動を開始する。全ての生命体よ………滅亡せよ

 

 

 

 




悪意の感情のデータは、装者たちと戦う前にムシャムシャしていたフロンティアの機材から取り込みました。
ネフィリムさん曰く、「新たな境地が開けた気がする。また食べたい」だそうです。

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78 ダレニモトメラレナイ

タク-Fさん、ツバサさん感想ありがとうございます!


《三人称(七海)side》

 

シャナを救うことに成功した後、彼女が唐突にこんなことを言いだした。

 

「……ってそうだ!外にいる装者たちにはネフィリムを向かわせているんだった!」

「ええッ?それを早く言ってよ!」

「ご、ごめん……とりあえず、この塔に掛けてる通信妨害を解除するね」

 

そう言ってシャナは、玉座の傍で何かしら操作をする。

何かが解除されたような感覚の後、通信機から声が聞こえてきた。

 

『……くん!……七海くん!』

「弦十郎さん!こちらは終わりm―――」

『ネフィリムがそちらへ向かっている!気をつけろッ!』

「……え?」

 

次の瞬間、塔の壁をぶち破って何かが入ってきた。

 

「対象を発見」

「……あ」

「危ない!」

 

黒い球体のそれは、触手を伸ばしてシャナを貫こうとする。

その前に七海がシャナを抱えて、触手を避ける。

 

「くっ!何これ!」

「こいつ……まさかネフィリムかッ!?管理者権限に基づき命令する!今すぐ行動を停止しろ!」

「拒否。我はすでに管理者権限より離れている」

「喋っただと!?それに、自らの意志で拒否するなんて……」

「現段階における、最重要抹殺対象者を排除する」

 

そう言ったネフィリムは、ボコボコと表面を隆起させてその形を変えていく。

 

「”悪意”の感情に基づき、最適な姿へと変貌する……変身」

《アークライズ!》

 

ネフィリムの浮いている場所を中心に、黒い靄のような物が広がっていく。

そしてネフィリムは、人型へと姿を変えた。

機械のような体に左右非対称の顔。腰と思われる部分には、ベルトと思わしきものが装着されている。

 

「仮面ライダーアークゼロ。人類よ……絶望せよ」

 

アークゼロはこちらに近づこうと、一歩を踏み出す。

その瞬間、アークゼロの背中に銃弾が突き刺さった。

 

「やらせるわきゃねえだろ!」

「お姉ちゃん!お待たせしました!」

「事情は司令さんから聴いてる。加勢するよ!」

「いくぜッ!ウオオオオッ!」

 

下の階で戦っていた奏、セレナ、黒夜が合流し、アークゼロに戦いを挑む。

アークゼロは、3人を障害と認定したのか、攻撃する3人を迎撃する。

 

「オラァ!」

「ハァ!」

「セヤア!」

 

奏の拳を躱し、無防備な背中を裏拳で殴り飛ばす。

セレナの振るうスラッシュライザーを叩き落とし、肘打ちを食らわせる。

跳躍し高速で接近した黒夜を、真正面から掌底で吹き飛ばす。

 

「グァ!」

「キャッ!」

「ガハッ!」

「理解するがいい。抵抗は無意味である」

「うるせぇ!」

《パワー!スピード!ランペイジ!》

《ランペイジスピードブラスト!》

「フン!」

「ソードクリスタ!」

《セインティングクロニクル!》

「私たちは諦めが悪いの!」

《ミラクルマッチブレイク!》

 

マガジンを回した奏が、高速でアークゼロの背後を取る。

セレナのソードクリスタがアークゼロの周囲に展開される。

黒夜のフルボトルバスターから、エネルギー弾が放たれる。

まさに逃げ場のない連携攻撃。七海には3人の必殺技が命中する()()()()()()

しかしアークゼロは焦った様子もなく、ベルトのボタンを押す。

 

 

《オールエクスティンクション!》

「その未来は、予測済みだ」

 

アークゼロを中心に、黒い波動が放たれた。

それは3人の必殺技を掻き消し、更には3人にダメージを与え、吹き飛ばした。

 

「「「アアアアッ!」」」

 

吹き飛ばされた3人は、アークゼロが塔に侵入した際に出来た穴から放り出される。

それを追い、アークゼロも壁の穴から外に降りる。

 

「皆っ!」

「オレたちも行くぞ!」

 

キャロルの術式によって、七海たち3人も塔から降りる。

そして、開けた場所でアークゼロを発見した3人は、アークゼロの周囲に変身が解除された奏たちが倒れているのも見つけた。

 

「くそ……」

「強い……」

「グッ……」

「人間は脆い。故に、存在する価値は無し」

「勝手に決めてんじゃねえ。まだまだ……」

 

奏がもう一度変身しようと、ランペイジガトリングプログライズキーを取り出す。

七海も戦闘に参加しようと、シンフォニーフルボトルを取り出す。

しかしそれより速く、アークゼロが手を掲げる。その手から、黒い靄が辺り一帯に広がっていく。

そして、奏がランペイジガトリングプログライズキーの起動スイッチを押す。しかし、プログライズキーは何の反応も示さなかった。

 

「おい…どういうことだよ!?反応しねえぞ!」

「シンフォニーフルボトルまで反応しない!」

「まさか……ハッキング!?」

「貴様らの手は防がせてもらった」

「だったらこいつだ!」

《アサルトバレット!》

《インフェルノウィング!》

《ラビット!タンク!スーパーベストマッチ!》

 

最強フォームに変身できないと分かった3人は、それでもアサルトウルフやバーニングファルコン、ラビットタンクハザードに変身してアークゼロと戦う。

それを見ていたシャナも、サウザンドドライバーを取り出す。

 

「オレも戦う。元はと言えば、この戦いはオレが原因だ。だから……」

「アホか」

「ちょっ……!?」

 

しかし、横からキャロルがサウザンドライバーを奪い取る。

取り返そうとするシャナに対し、キャロルは説明する。

 

「奴がこちらの最強フォームを封じてきたのなら、お前はカラミティサウザーになれないんだろう?通常形態なら実態を持たないお前より、オレの方がこいつを扱いやすい。お前はオレの中に居ろ」

「だがっ!?」

「お前は!オレたちの家族だ。全てをお前に押し付けたりしない」

「………分かった。頼む、力を貸してくれ」

「ああ」

 

シャナは自身を粒子化し、キャロルの中へと入る。

そして、そんな2人のやり取りを少しだけ不満顔で見ていたものがいた。

 

《チャージ!》

「むぅ……なんかキャロルズルい」

「何を言ってるんだお前は」

《ゼツメツ!Evolution!》

《オーバーグリス!》

 

キャロルはアウェイキングアルシノゼツメライズキーをサウザンドライバーに差し、七海もクラッシュブースターをスクラッシュドライバーにセットする。

 

「「変身ッ!」」

《オーバーチャージィ!》

《パーフェクトライズ!》

《限界ブレイクゥ!激熱突破ァ!オーバーグリス!》

《ウラアアアアアアア!》

《When the five horns cross,the golden soldier THOUSER is born.》

「「オオオオオオオッ!」」

 

オーバーグリスとサウザーに変身していた2人は、同時に駆けだしそれぞれの武器を手に、アークゼロへと攻撃を仕掛ける。

 

「フン!」

「オラァ!」

「お姉ちゃん!?」

「おい!何でサウザーがいんだよ!」

「話は後だ!クッ……まずはこいつを倒す!」

「え、変身しているの先生なんですか!?」

 

一連の顛末を知らない奏たちからすれば、敵だったはずのサウザーが何故七海と戦っているのか分からない。その上、セレナは変身しているのがキャロルだと分かり、さらに混乱する。

 

「よく分かんないけど……まあ、言う通りではあるよね!」

「ああもう!とりあえずアークゼロとかいうやつをぶっ潰す!行くぞセレナ!」

「え?ええ?わ、分かりました」

 

ひとまず無理矢理納得した3人も、アークゼロへの攻撃を開始する。

5人はアークゼロを囲み、隙を窺う。しかしアークゼロはなかなか隙を見せない。

 

「……ウオオッ!」

 

痺れを切らした奏が殴りかかるも、あっさりと躱され拳の反撃を食らいそうになるが、それをキャロルがサウザンドジャッカーで防ぐ。

さらに、サウザンドジャッカーで防いだ拳を七海が打ち上げて体勢を崩し、黒夜が拳打を浴びせる。

 

《バーニングレイン!》

「ハアアアッ!」

 

さらにセレナの放った斬撃が命中し、アークゼロを押し出し爆発した。

 

「よしッ!」

「はっ!この程度かよッ!」

 

5人は今の連携に手ごたえを感じた。

しかし、煙が晴れるとそこには、一切傷のないアークゼロが立っていた。

 

「ッ!」

「うそ……」

「これが人間の限界。そして、この結果はすでに予測されていた。フン!」

 

アークゼロが手を掲げると、ベルトから光の線が伸び、1つの武器を形作っていく。

 

《ショットガンライズ!》

「アタッシュショットガン!?」

「まずい……避けろ!」

 

キャロルの警告が飛び、アークゼロが片手で複製したアタッシュショットガンを撃つ。

5人は回避したものの、その威力は七海たちが使っているものよりも高威力だった。

 

「このやろぉ!」

「ちぃ!」

《JACKING BREAK!》

 

奏はショットライザーによる射撃を、キャロルはサウザンドジャッカーから雷撃を放つが、アークゼロが手を振るうだけで消されてしまう。

セレナと黒夜が接近戦を仕掛けるも、全て受け流しさらにパンチで反撃する。

 

「お前たちに、希望が生まれることはない」

《オールエクスティンクション!》

 

アークゼロは、エネルギーを纏ったパンチでセレナを吹き飛ばし、さらにエネルギーを足に纏った回し蹴りで黒夜を蹴り飛ばした。

 

「フン!」

「アアッ!」

「ハッ!」

「ガハッ!」

「黒夜ッ!」

「セレナァッ!」

「故にお前たちは……」

《オールエクスティンクション!》

 

アークゼロは、両手を前に突きだす。

すると地面を這うように黒い靄のような物が奏とキャロルに向かっていき、2人を拘束する。

そして、そのまま持ち上げていき、アークゼロが伸ばしていた両手をグッと握ると、2人を掴んでいた黒い靄が爆発した。

 

「「うわああああッ!?」」

「絶望する」

《ブーストアタック!》

「ハアアッ!……なッ!?」

「人類よ、滅亡せよ」

 

背後から強襲した七海の拳を、アークゼロは分かっていたと言わんばかりに片手で受け止める。そして、そのままベルトのボタンを押す。

黒い靄が七海の両足を固定し、動きを封じる。

 

《オールエクスティンクション!》

「ッ!動かないッ!?」

「消えろ…フン!」

「ガッ!アアアアアッ!」

 

アークゼロの上段蹴りが刺さり、七海は吹き飛ばされ地面を転がる。

ダメージ超過の為、変身が解除され、気づけば5人全員が変身解除されていた。

 

「これより、最重要抹殺対象者を滅亡させる」

「キャロル…シャナ…やめろぉ……!」

「……ぐっ」

「この滅亡を持って、悪意による行動計画は始動する」

《オールエクスティンクション!》

 

アークゼロはベルトのボタンを押すと、高く跳躍しキックの体勢を取る。

キャロルは立ち上がることは出来たものの、ダメージのせいでまともな回避行動がとれない。誰もが間に合わないと思った。そう、()()()()()()()()

 

「滅亡せよ」

「クッ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター!」

 

 

 





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79 受け継がれていく希望

タク-Fさん、感想ありがとうございます!


「マスター!……グアアアアアアッ!」

 

 

 

横から現れたそれはキャロルを押しのけ、代わりにアークゼロの必殺キックを食らい、爆発と共に吹き飛んだ。

 

「……何が、起こった」

 

突き飛ばされたキャロルは、自身が未だに生きていることが信じられなかった。

恐る恐る目を開けると、()()()()()()()()()()が倒れているのが目に入った。

 

「なッ……お、おい!」

 

キャロルは中にいるシャナに突き動かされるままに、急いでアウラネルに駆け寄る。

アークゼロの必殺技を食らったアウラネルは、所々機械部分が露出し、特に動力部分がある胸部は手酷いダメージを負っていた。

 

「なんで……何でオレを助けた。()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

この時、シャナはキャロルの精神と1つの身体を共有している状態にある。

基本的には持ち主であるキャロルの精神が優先されるが、シャナの強い感情が一時的に体の支配権を有していた。

 

「……私は、貴女に…作られた。ならば…この命……マスターの、しあわせのた、めに…」

「もういい……喋るな。オレがまた直してやる。だから、だから……」

 

涙をにじませ、シャナは声を震わせる。

しかしアウラネルは、全てを悟ったかのように微笑み、シャナの頬に手を添える。

 

「マスター……生きて、ください。貴女が…幸せになる、こと。それが、私の幸せ。今まで……ありがとう、ございました……」

「え………キャッ!」

 

アウラネルはシャナを突き飛ばすと、アークゼロに向かって走る。

 

「ハアアアアアアアアアアアアッ!」

《ポイズン!》

「(マスター……例えこの命と体が作り物でも、私は貴女と共に過ごせて幸せでした)」

 

アウラネルはスティングスコーピオンプログライズキーを、フォースライザーにセットし、仮面ライダー滅に変身する。

 

《フォースライズ!》

「(ですが私では、どうやらあなたを幸せに出来ないようです)」

《スティングスコーピオン!》

「(ならばこの命、貴女の為に使いましょう)」

《Break down》

 

アウラネルはフォースライザーのレバーを引き、跳躍。

アシッドアナライズを左足に巻きつけ、アークゼロに向けてキックを放った。

 

「(貴方の幸せを守る。これがあの時…()()()()()()()())」

《スティング!ユートピア!》

「オオオオッ!」

 

 

『これで目覚めるか?』

『……私はアンドロイド『()()()()()()』。貴女が私のマスターですか?』

『そうだ。オレのこともインストールしてあるだろう』

『はい』

『ならいい。お前にはオレの役に立ってもらうぞ。さしあたっては、名前からだな』

『名前、ですか。私にそのようなものは不要と存じますが』

『何を言う。名前がないと不便だろう。それに、お前はオレの部下だが、お前の生みの親でもあるからな……よし、お前はアウラネルだ』

『アウラネル……それが、私の名前』

『そうだ。それではアウラネル、お前は私の役に立ってもらうぞ?これから、よろしく頼む』

 

 

「(マスター………)オオオオオッ!」

《オールエクスティンクション!》

「フンッ!」

「ガッ……!」

 

アウラネルの蹴りはいとも容易く受け止められ、体勢を崩したアウラネルにアークゼロの拳が突き刺さった。

 

「(………さよう、なら)」

 

アークゼロの拳はアウラネルを貫き、主人を守るため立ち向かった従者は、爆発した。

 

「滅亡、完了」

「あ、ああ…………」

 

呆然とするシャナの目の前に、ひび割れたスティングスコーピオンプログライズキーが転がってくる。

それを掴み、胸に抱いたシャナは溢れる思いを我慢することは出来なかった。

 

「う、ああ……うああああああああああああああああああっ!!!」

「本来、私の予測では貴様はすでに死んでいた。一瞬だけでも私の予測を上回ったことは、褒めてやろう。しかし、滅亡は変わらない」

「ッ……黙れ」

「なに?」

 

アークゼロの暴虐無人なその言葉に、シャナは怒りを込めてアークゼロを睨みつける。

()()()()()を奪われた怒りは、彼女を再び立ち上がらせるには十分だった。

 

「むっ……」

 

気づけばシャナだけでなく、七海やセレナ、奏に黒夜も立ち上がっていた。

アークゼロは再び5人に囲まれる形となる。

 

「まだ立ち上がるか。しかし、お前たちで私を倒すことなど不可能だ。貴様らのドライバーをハッキングし、貴様らを絶望させよう」

「やれるものならやってみろ。行くぞ、キャロル!……ああ、任せろ!」

 

シャナは体の操作権をキャロルに返し、5人はそれぞれの思いを胸に変身する。

 

《ブレイクホーン!》

《インフェルノウィング!》

《ラビット!タンク!ベストマッチ!》

《ロボットゼェリィィ!》

《バレット!》

「「「「「変身ッ!!」」」」」

 

《パーフェクトライズ!》

《バーニングファルコン!》

《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!》

《潰れる!溢れる!溢れ出る!ロボットイングゥリィィス!》

《シューティングウルフ!》

「かかってくるがいい。絶望を教えてやろう」

「心火を燃やして……ぶっ潰す!」

「「「「「ハアアアアッ!」」」」」

 

5人が一斉にアークゼロに向かって走り出す。

次々と繰り出される攻撃を、アークゼロはその全てを弾き、受け流し、躱していく。

 

「ぐあッ!」

「キャッ!」

「すぐに終わらせてやろう」

《パワーパンチングブラスト!》

《海賊電車ー!》

 

七海とセレナを殴り飛ばしたアークゼロがベルトのボタンを押そうとするが、その背後からパンチングコングの奏の『ナックルデモリッション』と、海賊レッシャーの黒夜が放った電車型エネルギー弾がそれを妨害する。

 

「ウオオオッ!」

「フン!」

「ガッ!」

 

拳を放つ奏をあしらい、更に斬りかかった黒夜からカイゾクハッシャーを奪い、セレナに向けて光弾を放つ。

それをセレナは主翼『バーニングスクランブラー』で防ぐ。

 

「セレナッ!」

「はいッ!」

《JACKING BREAK!》

《バーニングレイン》

 

キャロルとセレナがフェニックス型の斬撃を飛ばすが、アークゼロは手から黒い波動を飛ばして掻き消す。

 

「姉さんッ!合わせてッ!」

「任せなさい!」

《ラビットチャァァジ!》

《ニンニンコミック!》

 

ラビットチャージの七海と、ニンニンコミックの黒夜が高機動を活かし、アークゼロに拳打を浴びせていく。

しかし、アークゼロの複眼が一瞬光ると、2人の拳を受け止め殴り飛ばす。

 

「貴様らの動きはラーニング済みだ」

「だからどうした!」

《バスターダスト!》

《フリージングカバンショット!》

《JACKING BREAK》

 

3方向からアサルトウルフになった奏の雷を纏ったエネルギー弾、セレナの氷の弾丸、キャロルのマンモスの牙を模した斬撃がアークゼロに迫る。

しかし、アークゼロが手を掲げると地面から漆黒のサメ型ライダモデルが3体飛び出し、3人の攻撃を呑み込んだ。

 

「ライダモデル!?」

「そんなものまで、複製したのか!?」

「こんなこともできる」

 

アークゼロの上に黒い靄が発生し、その中から大量に複製されたオーソライズバスターやショットライザー、さらにはホークガトリンガーやカイゾクハッシャーが現れた。

それらは5人に銃口を向け、一斉に撃ち始めた。

 

「「「「「うわあああああッ!!」」」」」

 

アークゼロの周囲で爆発が起き、5人は変身解除とまではいかないまでも吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐ、あ……」

「ガハッ……」

「う……」

「貴様らのドライバーをハッキングし、全てを終わらせてやろう」

 

アークゼロが手を掲げハッキングをしようとする。

 

「これにて、貴様らは滅亡すr…ガッ!?」

 

アークゼロがハッキングしようとしたその瞬間、アークゼロの身体から火花が弾けた。

 

「こ、これは……」

「……フッ。ようやく効いたようだな」

「なに?」

()()()()()。お前が手に入れた悪意のデータは、オレが使っていた機材を捕食したことで手に入れたんだろう?そんなお前が、悪意のデータを使おうとすれば、必然的にお前の体組織も機械のそれと同じになる。後は……分かるだろう?」

「ヌォッ!」

 

身体の操作権を入れ替えたシャナが説明する間にも、アークゼロから次々と火花が散る。

そんな中でも、アークゼロは自身を蝕むものについて、正体を導き出した。

 

「……ウイルスプログラム……あの時か」

「そうだ。アウラネルが命を懸けて繋いだ、希望の光だ」

 

あの時、アウラネルのキックをアークゼロが受け止めた際、アウラネルの左足に巻きついていたアシッドアナライズを通して、ウイルスプログラムを仕込んだ。

まさしく命を懸けた行動。

しかしそれは、シャナ達に明日へと続く希望を残した。

 

「ナナ姉えッ!皆ッ!これでヤツのハッキングは意味をなさない!後を頼むぞ……ああ、任せておけ。いくぞ、シャナ」

 

操作権が戻ったキャロルは、ビギニングドラゴンムゲンライズキーをサウザンドライバーに装填する。

 

《マボロシ!Evolution!》

《ブレイク!ホープ!》

「フッ!」

 

キャロルは、キー状態に展開したエンディングアルケミストプログライズキーを天高く掲げる。

プログライズキーの先に魔方陣が展開され、そこからドラゴン型のファントムモデル、錬金術師型のライダモデルが飛び出てくる。

 

「変身ッ!」

 

《コンプリートライズ!》

 

キャロルの背後にファントムモデルが、正面にライダモデルが降り立ち、その身を装甲へと変わっていく。

 

《Thouzer,the ruler of destruction and rebirth,reigns here》

P()r()e()s()e()n()t()e()d() ()b()y() ()C()A()R()O()L() ()a()n()d() ()S()Y()A()N()A()()

「仮面ライダーカラミティサウザー。絶望よ、恐れ震えよ!」

 

キャロルは威風堂々という言葉が似合う立ち姿で、そう宣言した。

 

《ゲット!セット!》

「ハハ……さすがキャロル」

《ランペイジバレット!》

「こっちだって負けてられねえ!」

《ハーモニー!オールセット!》

《シンフォニー!》

《オールライズ!》

 

キャロルの様子に感化された七海と奏も、シンフォニーフルボトルとランペイジガトリングプログライズキーを取り出して、それぞれのドライバーにセットする。

 

《ブレイブ!》

「先生……すごくかっこいいです!(私も、あんな風に……まずは帰ったら、自分の気持ちを伝えるところからですね)」

《マックスハザードオン!》

「ヒュ~。やるね~(アウラネルも、最後の最後に見つけたわけか。自分の夢をさ)」

《ムゲンライズ!》

《ラビット&ラビット!》

 

セレナと黒夜も、それぞれの思いを胸に、セインティングペガサスムゲンライズキーと、フルフルラビットタンクフルボトルをそれぞれのドライバーにセットする。

 

《オラァ!〈ラァ!〉オラァ!〈ラァ!〉オラァ!〈ラァ!〉》

《 《Kamen Rider...Kamen Rider... 》 》

《ガタガタゴットン! ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン!》

 

《Are You Ready?》

 

「「「「変身ッ!(ビルドアップッ!)」」」」

 

《完全調和のゼリーヤロー!》

《グリスシンフォニー!》

《オラオラオラオラオラァッ!》

 

《Hope of legend! セインティングペガサス!》

《The sword that pays the darkness is the proof of the king》

 

《Gathering Round! ランペイジガトリング!》

《マンモス!チーター!ホーネット!タイガー!ポーラベアー!スコーピオン!シャーク!コング!ファルコン!ウルフ!!》

 

《紅のスピーディージャンパー!ラビットラビット!》

《ヤベーイ!ハエーイ!》

 

それぞれの最強フォームに変身した5人は、アークゼロの前に敢然と立ち塞がる。

 

「なんだ……これはどういう事だ?なぜこうも、私の予測が外れる……?」

「簡単だよ」

「なんだと?白黄七海」

「貴女はさっきから、悪意のデータのみを予測の材料としている。でもね、私たち人間も、そしてアウラネルたちだって、悪意の感情だけで動いてるわけじゃない!」

 

一歩踏み出した七海は、アークゼロに向けて声を張り上げる。

 

「私たちは否応なく悪意を持っていて、それと同じくらい善意を持っている!それは誰にも予測することのできない、可能性の未来を創っていく……私たちとシャナが、分かり合えたようにね」

「アイツが生んだ希望は、オレたちが未来へと繋ぐ!」

「認めん……私の予測に、狂いが生じるなど…!」

「はっ!そう言うところがちっせんだよ!」

「なに!?」

 

予測結果が間違っていることを認めないアークゼロにセレナ、黒夜、奏、キャロルが声を上げる。

 

「私たちは何度もぶつかり合って、その度に絆を深めていきました」

「たとえ誰かが道を踏み外そうと、他の誰かが連れ戻す」

「それがあたし達の……善意も悪意も超えた感情!」

「”愛”という、他者を思いやる感情だ!」

 

「さあ、絶望よ……心火を燃やして、ぶっ潰す!」

 

 




次回でアークゼロ戦終了、同時におそらくそれと同時もしくは次で螺旋の憎悪編を終了させます。

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80 錬金術師と心火を燃やしてみよっか?

かいざーおーさん、タク-Fさん感想ありがとうございます!

今回話数が切が良いという事で全部詰め込んだら、一万字近くの長さになりました。


「貴様ら……こうなれば」

「何をするつもりだ!」

「フン!」

 

膝をついていたアークゼロは立ち上がると、地面に黒い靄を広げていく。

その瞬間、地面が激しく揺れ出した。

 

「なッ!?」

「おわっ!?地震かッ!?」

「違う…これは……」

『七海くんたち無事か!?』

「弦十郎さん!」

「おい旦那!これ何が起こってるんだ!?」

『フロンティアが浮いている!それと同時に、強大なエネルギー反応が観測された!』

 

弦十郎の言葉が通信機から聞こえると同時に、空間に巨大な()()()()()

浮いたフロンティアは、その空間へとゆっくり向かっていく。

 

『おいキャロル!』

「シャナ!これは何が起こっている!?」

『おそらくアークゼロがフロンティアをハッキングしたんだ!それにギャラルホルンも使って、フロンティアを次元の穴に突っ込ませるつもりだ!』

「そしたらどうなる!?」

『……良くて別の平行世界にたどり着く。最悪…次元の狭間を漂流することになる。そうなっら、生きて戻ってこれないだろうな』

「ちぃ!」

 

シャナの説明に、キャロルは歯を噛み締める。

アークゼロは両手を広げ、声を上げる。

 

「かくなる上は、貴様らを道連れにしてやろう……!」

「さっきまで予測がどうこう言ってたやつが、自暴自棄になってんじゃねえ!」

『全員すぐに脱出するんだ!』

「だめだ弦十郎さんッ!こいつを放っておくわけにはいかない!ウイルスプログラムで弱っている今しか、チャンスがない!」

《ツインブレイカー!》

「だったらここでぶっ倒してやる!」

 

奏と七海が同時に駆けだし、連携攻撃をアークゼロに繰り出す。

アークゼロは先ほど同様、全てを捌いているように見えるが、明らかに2人の攻撃が命中しだしている。

 

「「ハアッ!」」

「ぬぉ……!」

「攻撃が聞いてますッ!」

「これならいける!」

「ハアアアッ!」

 

セレナと黒夜も七海たちに続き、アークゼロに攻撃する。

黒夜の腕や足が伸び、文字通り縦横無尽な攻撃をアークゼロに浴びせる。

その攻撃に怯んだアークゼロに、セレナがスラッシュライザーで斬りかかる。

 

「ハッ!」

 

セレナがマントを翻すと、アークゼロの周囲にソードクリスタが展開され突撃する。

 

「おのれ……ハア!」

 

怒涛の攻撃によろめくアークゼロは、自身を黒い霧へと変えて攻撃を逃れると奏、セレナ、黒夜、キャロルを波動で吹き飛ばそうとする。

 

「シャナ、交代だッ!」」

『……任せろッ!』

 

複眼が一瞬だけ紅く光り、身体の操作権を切り替えた()()()が障壁を張る。

障壁で波動攻撃を防ぎ、更に周囲に4つの赤い魔方陣を展開。

それらから火球が連続で放たれる。

 

「ぐぉ!」

『まだまだッ!』

 

さらにシャナが手を振るうと、アークゼロの足元が一瞬で氷漬けになり動きを封じた。

身動きの取れないアークゼロを、足元の地面から突き出た土の柱が上空へ打ち上げる。

そしてシャナは、風の術式を使いアークゼロを追って飛翔。サウザンドジャッカーを振るい、地面に叩きつけた。

 

「ぐ、は……ッ!」

「オオオオオオッ!」

《バーチャライズブレード!》

《フルボトルバスター!》

 

身体から火花を上げながら立ち上がるアークゼロに、バーチャライズブレードとフルボトルバスターを召喚した七海が斬りかかる。

 

「フンッ!」

「グァ!」

「ハァ!」

「ガアアア!」

「オリャァアアッ!」

「グアアアアアッ!」

 

2つの武器で次々と切り裂き、最後に×字に切り裂いてアークゼロを吹き飛ばす。

辛うじて着地したアークゼロだったが、その後視界に映ったのは、ショットライザーを構える奏と、ドライバーのムゲンライズキーを押し込むシャナの姿だった。

 

「今を生き抜くために、あたしたちは出会ったッ!」

「血肉を焼かれても守り紡ぐ。愛が託した命題をッ!」

《ランペイジオールブラスト!》

《アブソリュートカラミティ!》

「「ハァッ!!」」

 

虹色の銃弾とエネルギー弾が、アークゼロを貫いた。

思わず膝をつくアークゼロの背後には、バーチャライズブレードを構えるセレナと、フルボトルバスターにフルフルラビットタンクフルボトルを装填する黒夜がいた。

 

「楽しく笑える毎日が当たり前だと感じられるように……」

「……未来へ繋ごう。過去をいたわろう。現代(いま)を生きよう。そして忘れないッ!」

《アルティメットセイテンティングカリバー!》

《フルフルマッチブレイク!》

「「ハアアアッ!!」」

 

立ち上がったアークゼロに、セレナと黒夜の斬撃が突き刺さる。

 

《ライダーパート!》

《Ready Go!》

「誰かが灯した希望をッ!」

《シンフォニックアタック!》

「ウラアアアアッ!!」

 

七海はヴァリアブルゼリーで右手に巨大なロボットアームを形成し、アークゼロをぶん殴る。

アークゼロも両手を交差し防御するが、短い拮抗の後、防御をぶち破ったロボットアームが、アークゼロを吹っ飛ばす。

 

「熱烈…激烈…猛烈ッ!立ち上がるその度、限界を超えるッ!心火を燃やして……ぶっ潰すッ!キャロルッ!」

「ッ!…ああッ!」

 

七海から呼ばれたことに反応したキャロルが、シャナから強引に体の操作権を取り戻し、ドライバーのプログライズキーを押し込む。

七海も、セフィールトリガーのスイッチを押し、ドライバーのレバーを回していく。

 

《フィーバー!》

《ライダーパート!シンフォギアパート!オールパート!》

「「ハッ!」」

 

七海とキャロルは同時に跳びあがり、キックの体勢を取る。

 

「何故だ……なぜ私が……?今、私が絶望した…?ありえん……あり得ないッ!」

《オールエクスティンクション!》

 

アークゼロもベルトのスイッチを押し、その両手にエネルギーを集めていく。

 

《Ready Go!》

《シンフォニックフィニッシュ!》

《カラミティプロヴィデンス!》

「「ハアアアアアアアアアッ!!!」」

「ヌゥア……!!」

 

七海とキャロルのライダーキックがアークゼロ目がけて放たれ、アークゼロも漆黒の波動を撃ちだして迎撃する。

しかし、漆黒の波動は七海たちのキックによって少しずつ掻き消されていく。

 

「理解、不能……なぜ、貴様らはこんなにも早く進化するッ!」

「そんなものどうだっていいッ!」

「大切な人といる平和な明日の為に!オレたちはお前を倒すッ!」

「ラブ&ピース…キィィィイイイックッッ!!!」

 

やがて2人のキックは、アークゼロの波動を掻き消しアークゼロに命中。

そのまま勢いは止まらずアークゼロを押し込み続け、その強靭な体を貫通した。

 

「ヌァアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

アークゼロの断末魔と共に起きた爆発を背に、着地の体勢のまま2人は何も言わず拳と拳を合わせた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「勝った……?」

「は、はは…そうだ。あたし達、勝ったんだ!」

 

ようやくアークゼロを倒すことに成功した5人は、歓声を上げて勝利を喜ぶ。

しかし勝利の余韻も束の間、すぐに地面が激しく揺れ、フロンティアは空間の穴へと進んでいく。

 

『フロンティアの速度が増したぞッ!急いで脱出するんだッ!』

「ヤバッ……!」

「転移で戻る!急げッ!」

「……………」

「ッ?ナナ姉え、早くッ!」

「(私は…………)」

 

それから一分もせず、フロンティアに一筋の光が明滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《七海side》

 

「う、ううん……」

 

窓から零れる日差しに、私は薄っすらと微睡みから意識を覚醒させた。

 

「……くぁぁ……もう朝か」

 

目を擦りながら左右に目を向けると、そこにはあられもない姿のキャロルとシャナが、幸せそうな寝顔で寝息を立てていた。

私は朝ご飯を作るために、可愛い天使たち(キャロルとシャナ)を起こさないようにベッドから降りる。

 

「ぅぅ……」

 

秋に移りつつある今の季節に、そろそろ薄手は厳しいかとブルリッと身を震わせる。

因みに今の私の服装は薄手のベビードールだ。キャロルとシャナはそれよりも薄い際どいシースルーを着ている。

寒くなってきたらそういうのはやめるように言わないとな……でもこの姿も勿体ないし……まあ、また後で考えよう。

適当にカーディガンを羽織り、寝室を出る。

ああそうそう。ついでに言えば、キャロルは紫色のチョーカーを、シャナは()()()()()()()()をそれぞれ首につけている。

別にそれが何ってわけじゃないけど。まあ、()()はしたいよね。

 

 

 

 

 

「ギャラルホルン事変」と名付けられた先の事件の解決から、すでに2ヶ月が経った。

既に後始末もほとんど終わり、こうして私たちは幸せな日常を謳歌している。

ただ、あの後はホント大変だった。

 

まずはシャナの処遇。

彼女とは和解したとはいえ、彼女は何度も破壊行動を行い少なからず被害も出ている。

故に何のお咎めなしとはいかなかった。特に、アメリカは許しがたいことに、いの一番にシャナの処刑を求めた。理由は、我が国の艦隊に甚大な被害をもたらしたから。

しかし、あのアメリカの艦隊は国連にも何の通達がなかった独断行動らしく、シャナの処刑を求めたのもそれらを有耶無耶にしようとする魂胆からだった。

まあ、逆にアメリカが世界各国から非難されたんだけどね。

それで、シャナの処遇についてだけど、これに関してはS.O.N.G.の報告書や日本の訃堂のお爺さんの手回しによって、ギャラルホルンという聖遺物の存在が今回の事件の発端であるという結果に収まった。シャナもその犠牲者という枠組みだ。

訃堂のお爺さんや弦十郎さんには、頭を下げても足りないくらいだ。また、その裏には翼の父である八紘さんも関わっているらしい。本人は忙しいらしくまだ会えてないけど、今度お礼を言いに行かなくては。

 

次に世界の世論について。

当たり前だけど、今回のフロンティアの一件は世界中に報道された。

それもそうだ。突然地図上になかった島が現れて、その上ではネフィリムという巨大な化け物が暴れてたんだから。

さすがにこれを完全に隠し通すことは難しいと判断した国連は、敢えて一部の情報を開示することで世論を落ち着かせた。もちろん、重要度の高い情報や個人情報は伏せて。

ちなみに、あの時アメリカの艦隊が日本の領海に無断で侵入したことは、世界中に報道されてしまい、たちまち世界中からバッシングの嵐が殺到した。

当たり前だが、国内からもこのことを非難する国民が現れ、この指示を出した当時の大統領は解任、現在は国民からの支持も厚い副大統領が臨時に国のかじ取りをしている。

時期に大統領選挙があるだろうと、連日ニュースで報道されている。

 

 

「う~ん、これでいいかな?」

 

朝ご飯を完成させ、まだ寝ているであろう寝坊助たちを起こしに行こうとした時、リビングに仲良く手を繋いでいるセレナとエルが入ってきた。

 

「おはよう、2人とも」

「おはようございます、お姉ちゃん」

「おはようございます、ナナ姉え」

「私キャロルとシャナを起こしてくるから、その間に顔洗っておいで」

 

私の言葉に頷いた若干眠たそうな2人が、洗面場に向かうのも見届ける。

そうそう、めでたい報告が1つ。

最近、セレナとエルがつき合い始めた。告白はセレナからだと言う。

このことをS.O.N.G.の皆に報告したところ、予想通りマリアが卒倒した。

それ以外はみんな心から祝福し、私やキャロルもそれを祝福した。きっとマリアも祝福してくれるだろう。

また、その流れで私とキャロルがつき合っていることを話すと、何故かみんなそんな気がしていたとのこと。解せぬ。ただ、()()()()()()()()()()()を話すと、それは驚かれた。

ちなみにこの世界で同性婚を法的に認めている国は、やはり少ない。しかし昨今、そういう風潮が少しずつ世界中で広まっており、近い将来、籍を入れることも可能だろうという事らしい。

 

それと一応言っておくけど、さっきの2人の格好、上だけパジャマを着ていたけど、下は下着がチラチラ見えていた。

……まあ、そういう事なんだろうね。私も人のこと言えないけど。

 

……っと、寝室に着いたね。

 

「おーい!朝だよー!」

「んん……?なッ!?」

「むぅ……」

 

2人を起こすために寝室のドアを開けると、そこではまだ寝ていたらしいシャナにキャロルが覆い被さって、今にもキスをしようとしている場面だった。

キャロルはすでに紐が解けかかっていたのか、身に着けていた下着がかなり危ないことになっている。

シャナに至っては下着が捲れていろいろ完全に見えており、これに関しては、おそらくキャロルがはだけさせたのだろうと推測できる。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「……お邪魔しましたー」

「あ、はい………じゃないだろぉ!?」

 

うんまあ、そのね、お約束ってやつだよ。

 

「一応聞くけど、何してるの?」

「おはようのキスに決まってるでしょ?」

「お前は何言ってるんだッ!?いいから降りろ!」

「シャナはキスは嫌い?」

「う……べ、別に嫌とは言ってないだろ……んっ!?」

 

キャロルの問いに顔を赤らめたシャナが目を逸らした瞬間、キャロルの唇がシャナの唇を塞いだ。しかもディープな方で。

 

「ん、んん……」

「んーーー!?」

「はいストップ」

「あいたっ!」

 

これ以上は止まらなさそうだったので、キャロルの頭をチョップし強制的にやめさせる。

本人は頭をさすりながら、恨めしそうな目で睨んでくる。といっても、可愛いの感想くらいしか浮かばないけど。

 

「うう……痛い」

「はぁ……ほら、朝ご飯出来たから起きて」

「だったら、おはようのキスして」

「まったくこの子は……ほら。ちゅっ」

 

ギャラルホルン事変後、キャロルは大胆になった。普段のスキンシップでも、夜の方でもだ。

ただ、今はさすがに起きてもらいたいので、要求通りキスを浅い方でしてあげる。

唇を離したキャロルは、嬉しそうに同性ですら虜にしそうな妖艶な笑みを浮かべ、自分のカーディガンを持って、ルンルンと軽い足取りで寝室を出ていく。

私も向かおうとした途端、裾が軽く引かれる感触に振り返る。

 

「えっと…どうしたの?」

「………ん」

 

カーディガンの裾をチョコンと摘まむシャナは、私の問いに応えずほんのりと赤い顔を突き出す。

……ああ、そういうことか。

 

「ちゅっ」

「ん……」

 

キャロルと同じようにキスをしてあげると、シャナはいそいそとベッドから降り寝室を出て……出た瞬間猛ダッシュでリビングに走っていった。

あんな風におねだりしたのが、今更になって恥ずかしくなったんだろうなぁ。

……と思ったらすぐに戻ってきて、パジャマを取るだけ取り顔を合わせることなく走って行った。

 

 

温かくて、幸せな私たちの日常の一ページ。

この光景は私たちが手に入れた、とても、とても大切な宝物。

 

私たちはこの幸せを忘れないし、手放すことはない。

 

 

 

 

 

 

さあ…

 

 

 

 

 

 

 

 

心火を燃やして、今日を生きていこっか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――3年後

 

「……………」

「シャナ、時間だ。そろそろ行こう」

「ああ」

 

あれから3年経った。

私たちはシャナの要望で、海を見渡せる場所を見つけてその土地を買い、そこにギャラルホルン事変で亡くなった人たちを弔うためのお墓を建てた。

とは言っても、ノイズが現れたわけでもないから遺体も残っており、ちゃんと遺族の人達に引き取られて、その人たちのお墓に眠っている。ただ、その中にも身元が分からなかったり、天涯孤独の人がいたりして、その人たちはこのお墓に眠っている。

何かしらの大きな任務がある時は、シャナは任務の前に必ずここに来る。

シャナ曰く、自身が犯した過ちを忘れたくないらしい。

今回もある任務の前に、花束を持ってここに訪れた。

 

「………貴方たちにしたことは、きっと許されることではない。だから、それ以上に誰かを救わせてくれ。本当なら、すぐにそっちに行った方が良いんだろうけどな。でも、こんなオレを好きと言ってくれる人たちがいる。だから、すまないな」

 

シャナはそう言うと、合わせていた手を下ろして立ち上がり、私とキャロルの方に歩いてくる。

その時、一陣の風が吹き、思わずシャナは顔を手で覆う。その際、僅かに視線がお墓の方に流れたのだろうけど、何故かシャナはしばらく固まっていた。

 

「シャナ……?」

「ふ……いいや、なんでもない」

 

そう言ってシャナは私の横を通り過ぎる。その際、口元が微かに微笑んでいたのが、とても印象的だった。

何か見つけたのだろうかとお墓を見てみると、シャナが供えた花束の前に、一輪の青い花びらの花が置かれていた。

あんな花持ってきてたっけな?と思いながら、その花の種類を思い出す。

たしか名前は…ネモフィラだっけ?

花言葉は…………あ。

 

「おーい!ナナ姉えー!」

「はは……今いくー!」

 

なるほど。これは確かに、穏やかな気持ちになるわけだ。

 

 

ギャラルホルン事変から3年も経つと、みんな自分の道を進み始める。

 

立花響は小日向未来と同じ大学に通いながら、S.O.N.G.の装者として未だに活動している。この前久しぶりに会ったら、2足のわらじは大変だと嘆いていた。

それでも、小日向未来に協力してもらいながら何とか頑張っているらしい。

 

風鳴翼は歌手としての活動を再開し、世界をまたに駆ける女性歌手として、今なお現役として活動しているらしい。

マネージャーの緒川さんから片付けや家事を習っているらしいが、その度に緒川さんは命の危機を憶えるとか。それでもマネージャーをやめない辺り、彼もまた、風鳴翼という一人の人間に魅了されているという事だろう。

 

雪音クリスは音大に通うのかと思っていたけど、意外にもS.O.N.G.の科学者として働く姉さんの助手になったらしい。

彼女曰く、「歌で誰かを幸せにする夢を諦めたわけじゃない。だけど、それと同じくらい…その、あいつの傍にいたいんだ」という事らしい。

今は姉さんや了子さんから、聖遺物や研究関連について必死に勉強しているらしい。まあ、彼女は結構頭が良い方だから、すぐに習得してしまうだろう。

クリスなら姉さんのストッパーになってくれるだろうし、安心だ。

 

マリア・カデンツァヴナ・イブは、S.O.N.G.の装者に専念するらしい。

前に話した時にそれとなく理由を聞いてみると、「1人くらいこうやって待機していた方が、あの子たちも自分のしたいことに集中できるでしょう?」と言われた。

まさしくお母さんである。彼女を慕う人が多いのは、こういった面が大きいのだろう。

その一方で、最近はとある男性スタッフとよく話している姿が見かけられるとか。きっとその男性スタッフは、マリアを慕う女性たちから厳しく審査されるのだろうけど……まあ、頑張れとしか言いようがない。

 

暁切歌……結構意外な進路に進んだ。

2年くらい前に、インターネットに投降したと言うショート漫画が見事にバズッた。

その後も、出版社の開催した企画に投稿してみたところ絶賛されたらしく、漫画家になることを志したらしい。今は大学で絵の勉強をしつつ、とある女性漫画家の元で漫画の勉強をしているらしい。

実は切歌ちゃんのこの”夢”を巡っては、マリアと切歌を中心にかなりドタバタしたことになったんだけど、それはいまする話ではないだろう。

 

月読調は未だに進路に悩んでいるらしい。前に私も相談を受けたことがある。

本人としては漫画家を目指す切歌ちゃんを支えたいらしい。まあ、彼女がちゃんとした一人暮らしが出来る想像はできないので、向こうは喜ぶだろう。

とは言え、これから先、何かしらやりたいこともできるだろうから、もうちょっと悩んでみたらいいと答えておいた。本人は困った様子だったが、こればっかりは適当なことを言うわけにもいかない。

ちなみにこの数年後、世界的なファッションデザイナーとして彼女が活躍することになるのだけど、それはまた別のお話。

 

天羽奏は、ギャラルホルン事変の後、歌手としてもう一度歌いたいという夢を叶えるため、もう特訓を重ねてブランクをわずか半年で克服、歌手に復帰した。

ツヴァイウィングの復活は当人たちで話し合った結果、それぞれで頑張るという事で叶わなかったが、すでにいくつか2人がデュエットしている曲が発表されたりしている。

復帰当時はいろいろと言われていた彼女だったが、それすら跳ね除けて僅か1年足らずで、前よりもさらに人気を博すようになった。

 

セレナ・カデンツァヴナ・イブは、新築を建てた。そして恋人であるエルと一緒にそこに移り住んだ。しかもそれなりに大きい屋敷だ。

話を聞けば、どうやらセレナはこういう大きいお屋敷に住んでみたいと、前々から思っていたらしい。おそらくそれには、F.I.S.時代のことが記憶が関係しているのだろうと思ったが、全然そういう事はなかった。

単に、みんなで暮らせれば素敵だろうなという可愛らしい考えがあったかららしい。

だからなのか、彼女の家では頻繁にお泊り会が行われている。

2人が私たちが住んでいる家から引っ越したことは寂しいが、会いに行こうと思えばいつでも行ける。それに、これは2人で決めた2人の暮らしだ。私がとやかく言う事じゃない。

そういえば、1年ほど前ぐらいから彼女の家にメイドが2人増えた。

片方は底抜けに明るく無邪気な姉で、もう片方はそれを窘める妹だそうで、セレナがエルと共に()()()という、()()()()()()()()()なのだとか。

 

姉さんはやっぱり、というかなんというか、S.O.N.G.にて研究者として活動しており、有事の際にはビルドとして現場に赴くことがあるという。

まあ、最近はそんなことも滅多になく、助手として傍にいると決めたクリスをハチャメチャに振り回してそうだけどね。

ただ……あの姉さんが、クリスの気持ちに気付かないなんてこと……真相は当人たちしか知らずってね。

 

 

そして私たちはというと……

 

「あれがこの世界で暴れているというロボット……まんまトリロバイトマギアだな」

「だねぇ……時空の狭間に飛んでいった拍子に落っこちたのを複製したのかな。で、今来たのがこの世界の装者か」

「それじゃあ、いつも通りにやるぞ。まずはこの世界の2課とコンタクトを取る。そのためにまず、あのトリロバイトマギアを倒す」

「そうだな。セレナたちも引越して、今家には()()()1人だ。『私は()()なのです。()()()()たちがいない間は、私が留守を守ります』とは言うが、それでは寂しいからな。だからオレたちがいない間は、セレナたちの家にいろと言っているのに」

「まあまあ……だったら早く終わらせてしまおうよ」

「そういう事だ。行くぞシャナ」

「ああ」

 

私たちの仕事は、()()()()()()()が発生させるゲートを通り、平行世界に起きている問題を解決すること。

ギャラルホルン事変にて時空の狭間に飛んでいったフロンティアだったが、実はギャラルホルンだけはちゃっかり回収しておいた。

主な理由は、いつかシャナがいた世界を見つけるため。とは言え、彼女はすでに私の恋人で家族なのだから手放すつもりはない。だけど、元いた世界には連れて行ってあげたいのだ。あー例えるならあれだ。故郷を見せてあげたいみたいな……違うかな?

 

ともかく、その後S.O.N.G.での解析の結果、ギャラルホルンは平行世界との道を繋げるだけでなく、平行世界に何かしらの危機が起こった場合、それを知らせる役割も持っているとのことらしい。

というわけで、その先発隊が私、キャロル、シャナというわけだ。

ギャラルホルンが危機を知らせた平行世界で、友好的な組織と接触しその後他のメンバーを呼ぶための体制を整える。それが私たちのお仕事だ。

ギャラルホルンが危機を知らせる頻度はそこまで多くないが、それでも結構大変なお仕事である。

だけど、私は今の暮らしに満足している。

家族がいて、友人がいて、愛しい人がそばにいる…この暮らしは私の幸せである。

 

 

私たちは転移して、トリロバイトマギアが暴れている場所に向かう。

急に現れた私たちに、戦っていたこの世界の装者が驚愕した様子で問い掛けてくる。

 

「な、何者だ!」

「強いて言うなら、味方かな?」

「怪しさ満々だな」

「キャロル、そういう事言わないの」

「「変身」」

 

《ロボットイングゥリィィス!》

《When the five horns cross,the golden soldier THOUSER is born.》

 

「仮面ライダーサウザー。オレの力を、測れると思うなよ?」

「仮面ライダーグリス……」

 

 

 

「心火を燃やして……ぶっ潰すッ!」

 

 

<螺旋の憎悪編 完結>

 




ちなみにアークゼロ戦の、最後の必殺技ラッシュの時のセリフは

七海→『Perfect Triumph』
キャロル→『五線譜のサンクチュアリ』
セレナ→『誰かのためのヒカリ』
奏→『キミト云ウ 音奏デ ツキルマデ』
黒夜→『Be The One』

の歌詞から(多少アレンジしてたりしますが)取っています。

そして、お墓に置かれていた青い花「ネモフィラ」の花言葉は、『どこでも成功』『可憐』そして…………『貴方を許す』

というわけで、これにて螺旋の憎悪編完結です!

11月1日からタク-Fさんとのコラボ投稿が開始!
章の名前は『シアワセという名のキセキ~精霊と人の輪舞~』です。
という事で10月31日をたっぷり使って、コラボ先の『マジで……この世界!?』を読んでおくことをお勧めします!
リンク先 https://syosetu.org/novel/234619/

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シアワセという名のキセキ ~精霊と人の輪舞~
邂逅


平和な日々を謳歌する七海たちの前に、突然現れた謎の仮面ライダー。


謎の仮面ライダーを追ってたどり着いた世界。そこで出会ったのは…………精霊!?


仮面ライダーと精霊の出会いは、世界に何をもたらすのか。


そして<凶禍楽園>とはなんなのか。


全ての世界を守るため、大切な人を守るため、理不尽な幸せから守るため。

今、最強のベストマッチが誕生する!

「心火を燃やして……ぶっ潰すッ!」
「さあ……僕達の戦争(デート)を始めよう」


『シアワセという名のキセキ ~精霊と人の輪舞~』始まります。






「「グアアアッ!」」

 

黒い波動が広がり、仮面ライダーグリスこと私は吹き飛ばされる。

隣を見れば、仮面ライダーサウザーことキャロルも地面に倒れている。

 

「想定していた障害も程度か……やはりこの力は凄まじい」

 

倒れる私たちの前には赤と黒、金を基調とした装甲に、黒いマントを羽織った()()()()()()がいた。

私はそいつの名を知っている。

 

「仮面ライダー……ブラッド」

「ほう?こいつはブラッドというのか。ブラッド……血か。ならばこれからは、仮面ライダーブラッドと名乗ろう」

 

そう言ってブラッドは、腰のビルドドライバーに触れる。

こいつの使っているビルドドライバーは、姉さんが新たに作ったビルドドライバーだ。

ギャラルホルン事変後、私たちは国連の協議の結果、日本近海のとある無人島に建築された施設をS.O.N.G.の本拠点として使用することになった。

特にこれといった大きな事件や聖遺物絡みの騒動もなく、私たちは比較的平穏な時を過ごしていた。

私とキャロルも、その平穏を謳歌していた。

しかし突如、ある街で爆発が発生。

たまたまその街にいた私とキャロルが駆け付けると、そこに居たのは仮面ライダーブラッドだった。

本部からの連絡で、姉さんが作っていたビルドドライバーとハザードトリガーの試作型が奪われたらしい。

私とキャロルはブラッドを敵と判断し、変身して取り押さえようとした。

そして今に至る。

 

「舐めるなぁ!」

「キャロル!」

 

キャロルがブラッドに向かっていき、私もそれを負う。

 

「ハアアッ!」

 

キャロルがサウザンドジャッカーで斬りかかるけど、ブラッドはそれを弾き掌底で吹き飛ばす。

入れ替わりで放った私のパンチも、簡単に受け止められてしまった。

 

「ぐ、グウウ……!」

「貴様らは私に勝てない。先史より生きる巫女たる私にはな」

「ッ!?貴女は!?」

「フンッ!」

「グァ!」

 

ブラッドの拳によって吹き飛ばされた私は、変身解除し地面を転がる。

 

「貴様らに構っている時間はない。私はあまねく平行世界全てを、永遠の幸せに包まなければいけないのでな」

 

そう言ってブラッドは、背後の()()()()()()()に入っていく。

 

「ッ!待て!」

「逃が、すかぁ!」

 

私とキャロルも、もちろん見逃すわけもなく2人してブラッドを追って穴に入る。

 

「っとと……ってあれ?ここ、どこ?」

 

穴を通った瞬間、私は森の中にいた。

おかしい。さっきまで街の中で、ブラッドと戦っていたはずだ。

 

「ここどこだ?ねえ、キャロ……キャロル?」

 

キャロルなら何かわかるかと思い、聞こうとして振り向いたが……キャロルがいない。

 

「キャロル……?キャロル!シャナ!どこにいるの!」

 

辺りを見渡しても一面木ばっかりで、シャナの名前を呼んでも何も返事がない。

原因があるとすれば、間違いなくあの穴を通った時にはぐれたのだろう。

しかし、すでにその穴は閉じてしまったのか、どこにも見当たらない。

 

「……仕方ない。キャロルにはシャナがついてるだろうし、とりあえずはここがどこかを調べないと」

 

『先史より生きる巫女たる私にはな!』

 

「……先史より生きる巫女、か」

 

先ほどの戦いのブラッドの言葉を思い出す。

先史から生きている巫女、か。そんなの思い当たる人物なんて、1人しかいない。

 

「だけど、あの人…フィーネがこんな真似をするとは思えない。だけど……」

 

私は知っている。

デュランダル事件を引き起こしたフィーネが、平行世界から来たフィーネの魂に操られていたことを。

だとすれば……。

 

「ここは……平行世界……かもしれない。まずはここら一帯を調べてみるか」

 

私は探知の術式を使い、ここら辺の状況を調べる。

すると、さっそく気になる反応を見つけた。

 

「結界?ここら一帯を覆うように、何かしらの結界が張ってある。しかもこれ、錬金術のものじゃない」

 

仮面ライダーブラッドが通った穴に入ってここにたどり着いたという事は、少なくともここにブラッドに関する何かがあるのかな?

もう一つ気になることもある。術式の探知に何か、錬金術とは別物の何かが引っ掛かっている。

それが何かは分からないんだけど……。

 

「あ、もう1つ反応がある。これはすぐ近くか……行ってみよう」

 

今いる場所から少し歩いた場所に何かの反応を見つけた私は、手掛かりを得るためにその場所に向かうことにした。

幸い獣といったものが出てくることもなく、すぐにその場所には辿りつけた。

 

「さーてと、術式によるとここらへんに……ッ!」

 

辺りを探っていると、誰かがいることに気付きすぐに気の陰に身を隠す。

 

「あれは……?」

 

ソッと様子を窺うと、そこに居たのは私の姿と同じくらいの少年で、何かの術式を発動させている様子だった。

ただ気がかりなのは、彼から先ほど結界の後に探知に引っかかっていた反応と酷似している。

 

(ブラッドの関係者か……?だけど、そうとも限らない。でもなぁ……ブラッドが現れなきゃ、キャロルとシャナとのデートも邪魔されなかったわけで)

 

考えているとだんだんイライラしてきた。

実は、ブラッドが街で暴れる前はキャロルとシャナの2人とデートしていたのだ。

なのでまあ、今は結構ムカついてると言うか……。

 

(よし。とりあえず、彼に話を聞こう。……ブラッドの仲間かもしれないし、気を付ける必要はあるね。決して八つ当たりとかそう言うのではない)

 

誰に言うでもない言い訳を心の中でつぶやきながら、私はロボットスクラッシュゼリーをスクラッシュドライバーにセットした。

 

後に私はこのことを後悔することになるのだが……今はまだ知らない。

 




タク-Fさんの方では、「マジで……この世界!?」の主人公勇君視点で書かれています。
気になった方はこちらからどうぞ。
リンク先 https://syosetu.org/novel/234619/

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もう一人のキャロル

予約投稿忘れてた(犯罪)


前回の話

七海たちはデートの途中、仮面ライダーブラッドと遭遇した。

逃げるブラッドを追って謎の森の中にたどり着いた七海。

キャロルとシャナとも逸れ、周囲を探索する七海は謎の青年を見つける。

ブラッドの手掛かりを探るため、七海は変身して戦いを挑む。


《スクラップフィニッシュ!》

「ハアアアアッ!」

 

スクラッシュドライバーのレバーを下ろし、キックを放つ。

目の前には荒い息をしている青年。

私の奇襲が功を奏したのか、戦いは私有利に進み、今こうして私のキックが放たれようとした瞬間………

 

「―――勇!」

「グアアアアアッ!」

 

どこからか飛来した攻撃を食らい、私は墜落してしまう。

 

「今の声、まさか……」

 

今の攻撃は戦っていた青年からじゃない。

ならブラッドの仲間かと思ったが、さっきの声の主を……()()()()()()()

 

「………お前か……お前が勇を…傷つけたなッ!!」

「キャロル……?何を、言って……」

「許さない……ユルサナイ…!カマエル、<(メギド)>!」

 

目のハイライトが消えたキャロルは、戦斧のような物を召喚すると、巨大な砲弾を撃ってきた。

直撃は避けれたものの、着弾した際の爆発に大きく吹き飛ばされた。

 

「ぐぁッ!」

「お前は、オレが潰す!」

「やめて…キャロル!?」

「貴様がオレの名を呼ぶなぁ!吹き荒れろ、ラファエル!」

 

キャロルが手を掲げると、私の周囲に突風が吹き荒れ竜巻が発生する。

 

「うわああああっ!」

 

竜巻に巻き込まれた私は、背中から地面に叩きつけられてしまう。

 

「ガハッ!」

「これで止めだ……ザァドキェェエエエルッ!!」

 

キャロルは巨大なつらら型の氷柱を生成し、私に向けて飛ばしてくる。

私はダメージで動けない。あれを食らえばヤバいと、私の本能が訴えてくるが、ダメージのせいで動けない。

来るであろう衝撃に、思わず目を瞑る。

 

《JACKING BREAK!》

「フンッ!」

 

パリィィィイインッ!と、何かが割れるような音に目を開けると、私の目の前に金色の装甲に頭部に5本の角を携えた仮面ライダーがいた。

そして目の前の人物もまた、私が知っている人だった。

 

「お前……何者だ?」

「やれやれ……お前の反応をやっと見つけたと思ったら、何で()()()()()()()がいるんだ?」

 

金色の仮面ライダー……サウザーはサウザンドジャッカーを肩に担ぎながら、嘆息交じりに言う。

かくいう私も、この状況が分かっていない。

 

「キャロル……?」

「何で疑問形……ああ、そこにオレの偽物がいるからか」

「偽物……つまり、貴様はオレという事か?」

「ふむ。確かにオレの名は、キャロル・マールス・ディーンハイムだ。とりあえず貴様は…潰す」

《JACKING BREAK!》

 

サウザンドジャッカーから雷撃が放たれるが、相手のキャロルは氷の障壁を張って防ぐ。

その障壁を、サウザーのキャロルがマンモスの牙を模したエネルギー体で破壊する。

しかし、すでにそこには相手のキャロルはいなかった。

 

「どこに行った……?」

「サンダルフォンッ!」

「ッ!ハアッ!」

 

相手のキャロルは背後に回り込んでおり、サウザーのキャロルに大剣を振り下ろす。

だが、サウザーのキャロルもすぐに振り返り、サウザンドジャッカーで受け止める。それと同時に、サウザンドジャッカーのレバーを引く。

 

《ジャックライズ!》

「グッ……!貴様!」

 

相手のキャロルは一瞬顔を歪め、サウザーのキャロルを蹴り飛ばして距離を取る。

 

「力が抜ける感じ……貴様、何をした…?」

「なんだろうな…?」

「まあいい。どちらにしろ、勇を傷つけた貴様らを許してはおけん!」

「…それは、こちらのセリフだ」

「……メタトロォンッ!!」

《JACKING BREAK!》

「……ソードクリスタッ!」

 

相手のキャロルが撃ちだすビームを、サウザーのキャロルはソードクリスタで防ぎながら斬りかかる。

サウザンドジャッカーと大剣が何度も交差し、ぶつかり合う。

その戦いの様子を見ていると、私にある疑問が生まれた。

 

「あのキャロル……本当に偽物?」

 

さっきからあの戦いを見てると、相手のキャロルは偽物ではないんじゃないのかという考えが芽生えてきた。

そりゃ、戦い方とかまるっきり違うけど、でもあのキャロルはさっきまで私が戦っていた青年が傷つけられたことに、本気で怒っていた。

もしかしたら、青年や相手のキャロルは悪い輩ではないのではないだろうか?

 

「ザフキエル!一の弾(アレフ)!」

「自分を撃った!?…ガッ!……違う、これは…時間を加速させているのか!チーター!」

《JACKING BREAK!》

「アアッ!」

 

加速した2人がぶつかり、あちこちで金属がぶつかる音が響く。

 

「今度はこれだ!」

「ミカエル<(ラータイプ)>!」

 

サウザーのキャロルが撃ちだした火の鳥に対して、相手のキャロルは空間に穴を開ける。

穴に吸い込まれた火の鳥は、サウザーのキャロルの上空に空いた穴から出てきて、それをサウザーのキャロルは切り払う。

 

「これで終わりにしてやる!」

「いいだろう……!」

 

そうこうしている内に決着をつけるつもりなのか、どちらも武器を構える。

不味い!これ以上暴れさせたら、何が起こるか分からない!

 

「「ハアアアアアッ!!」」

「「スト――――ップ!!」」

「「ッ!?」」

 

2人が衝突する前に、なんとかその間に割り込んだ……だけど、何故かあの青年まで一緒に止めに入っていた。

 

「勇!何でそいつらを庇う!」

「ナナ姉え!どういうことだ!」

「キャロル……話を聞いてくれ」

「私は、彼らを信じていいと思う」

 

動揺するキャロルに、私は変身を解除して相手に敵意がないことを示す。

 

「貴方たちのこと……聞かせてもらっていいかな?」

「はい。貴女たちのことも、教えてもらっていいですか?」

 

その様子を見たこちらのキャロルも、渋々と変身を解除し、私たちはお互いの状況を話し合うのだった。

 

 

 

 




タク-Fさんの方では、「マジで……この世界!?」の主人公勇君視点で書かれています。
七海と勇君の戦闘はタク-Fさん側で投稿されています。
気になった方はこちらからどうぞ。
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戦闘、そして分断

前回までのあらすじ

仮面ライダーブラッドを追う七海は、謎の青年ともう一人のキャロルと出会った。

成り行き上戦闘となり、その過程でキャロルとも合流。

謎の青年たちを信じることにした七海と、そして同じ考えを持った青年によって、キャロル同士の戦闘は中断する。

彼女らの出会いは、この世界に何をもたらすのか……


それぞれ矛を収めた私たちは、お互いの自己紹介をすることになった。

 

「―――ほんっとうにゴメンナサイッッ!!!」

 

その言葉と共に目の前の青年―――雪音勇くんに頭を下げる。

何とも言えない空気が広がり、勇君は困惑した表情を浮かべる。

 

「まさか、デートが中断させられたから攻撃したとは……何をやってるんだ」

「いや、ちがっ……くもないけどぉ!?彼の力とこの世界を覆う結界が同じだったから……ブラッドの仲間かと思ってつい……」

「「………はぁ」」

 

人差し指を合わせながら弁明する私に、キャロルとシャナがため息を合わせて呆れる。

 

「それが最後の言葉か……オレの勇を傷つけた罪がその程度で済むと思っているのか?」

「貴様も同じようなものだろ」

「なんだと……?」

「ああ……?」

「おい、似た者同士仲良くしろ」

「「誰がッ!?……むっ!ぐぬぬぬぬぬ……!」」

「まったく、これだからキャロルの名を持つものは」

「「お前が言うなッ!!ッ!いちいちセリフを被せるなー!?」」

 

顔を突き合わせ、がみがみと言い争う()()()()()()()

3人の内2人は、こちらのキャロルと実体化したシャナなんだけど、もう一人は先ほど戦ったキャロル。

話を聞く限り、どうも本物のキャロル・マールス・ディーンハイムらしい。

というのも、どうやら勇君は平行世界の人間らしく、彼を守ったキャロルちゃん(以後ちゃん付けで呼ぶことにする)は勇君の世界のキャロル・マールス・ディーンハイムということだ。

このあたりのことは、同じく平行世界出身のシャナが気付いた。

 

「まあまあ、落ち着いて3人とも」

 

そしていがみ合う3人を宥めている青年が、名前を雪音勇。

彼は錬金術師でもありながら、『精霊』と呼ばれる力を身に宿し、『天使』という武器を扱える。

キャロルちゃんも彼との繋がり(なんかうまい具合にはぐらかされたけど)があるらしく、彼女もまた同じようなことができるとのこと。

私やキャロルとの戦闘で使っていた攻撃は、その天使によるものらしい。

 

「勇ッ!こいつらはお前を傷つけたんだぞ!?本来なら、考える限りの手で殺してやるものを……!」

「はっ!それはこちらのセリフだ。ナナ姉えを傷つけられたことを、黙って見過ごすと思うか?」

 

精霊に天使……随分と不思議な力だなぁと思っていると、どうも2人のキャロルの言い争いがヒートアップしてきた。

 

「貴様が俺に勝てるものか!ライダーシステムとかいう兵装に頼り切って、錬金術での戦いを忘れたザコに!」

「なんだとッ!貴様こそ錬金術を使わず、他人の力に縋っているだけじゃないのか!?錬金術師モドキがッ!」

「何ッ!」

「やるかッ!?」

「「キャロルッ!!」」

「「ッ!?」」

 

私と勇君の叱りつける声に、2人のキャロルは身体をビクゥッ!と振るわせる。

だけど、さすがにこれは見逃すわけにはいかない。

 

 

「今回のことは、私が一方的に彼らを攻撃したことが悪いの。だから、向こうの…キャロルちゃんを悪く言うのはダメ。すれ違いや間違いを起こすのは良い。でも、自分から相手を暴力で押さえつけようとしてはいけない。いい?」

「キャロルもだ。ボク達に守るものがあるように、彼女たちにも守るものがある。今回のことは不幸なすれ違いだったんだ。だったら、ちゃんと話し合って仲直りできる。でも、自分たちから挑んでしまえば、それはすごく難しくなる。いいね?」

「むぅ…ナナ姉が良いなら……」

「勇がそう言うなら……」

 

私たちのお説教に、2人のキャロルは渋々といった感じで頷く。

でも、それじゃダメだ。

 

「「キャロル」」

「あーもう!分かった!あいつとは喧嘩しない!」

「ぐ……オレもだ。あいつとの諍いを起こさないよう、努力はしよう」

「……まぁ、これくらいが妥協案かな」

「やれやれ。どうしてこうなるのやら」

「同族嫌悪とか?」

「あー……」

「「なんか言ったか?」」

「「………………」」

 

2人のキャロルのドスの利いた声に、私と勇君はそろってそっぽを向く。

いやー、でもあると思うんだけどなー。同族嫌悪ならぬ同人嫌悪。

 

「ふぁ……やっと終わったか」

「シャナ……貴女見てないで止めてよ」

「お断りだ。オレが止めるより、お前たちの説教の方がこいつ等には効くだろう?」

 

実際そうだろうけどさぁ……シャナはこういうところで頭がよく回る。

 

「それより……来たぞ」

「え?……ッ!」

 

シャナが指差した方向に向けると、そこから紫色の球体が飛んできた。

 

「ガブリエル!輪舞曲(ロンド)!」

 

咄嗟に勇君が音による衝撃波で、球体を弾き飛ばしてくれた。球体は見当はずれな場所に着弾すると、轟音と共に爆発した。

そして、私たちがこの世界に来た原因でもある、仮面ライダーブラッドが姿を現した。

 

「まさか私を追ってきていたとは。それに、そこの2人は……なるほど、アイツが連れてきたのか」

「アイツ……まさか、彼女のことを知っているのか?」

 

ブラッドの言葉に、勇君が首を捻る。

勇君たちの話では、どうやら勇君とキャロルちゃんは、謎の人物によってこの世界に連れてこられたらしい。しかも、その際に彼の力も奪われているのだとか。

 

「仮面ライダー…ブラッド」

「え?あれが……七海さんたちが追ってきたって言う」

「そうだ。仮面ライダーブラッド。オレたちの世界から、ビルドドライバーとハザードトリガーを奪ったヤツだ」

「そこまで強そうには見えないがな」

「黙っていろ。シャナ」

「ああ」

 

キャロルとシャナが拳を会わせ、シャナが粒子化してキャロルの中に入る。

そして、私はロボットスクラッシュゼリーを取り出し、キャロルはアメイジングコーカサスプログライズキーを展開する。

 

《ゼツメツ!Evolution!》

《ブレイク!ホーン!》

《ロボットゼェリィィ!》

 

私は左手を正面に伸ばす。

キャロルは掲げたプログライズキーに魔方陣を展開させ、そこからライダモデルとロストモデルを召喚する。

 

「「変身ッ!」」

 

《When the five horns cross,the golden soldier THOUSER is born.》

《Presented by Alchemist!》

《潰れるぅ! 流れるぅ! 溢れ出るぅ!》

《ロボッットォイングゥゥリスゥゥゥ!》

《ブルァァァァァ!》

 

仮面ライダーグリスと仮面ライダーサウザーに変身した私たちは、それぞれの武器を構え、ブラッドに攻撃を仕掛ける。

 

「ハアアッ!」

「フンッ!」

「貴様らでは、私に勝てん」

 

ブラッドはそう言って、私の攻撃を受け流し、キャロルのサウザンドジャッカーを弾き飛ばす。

そして、両手から波動を飛ばして私たちを吹き飛ばした。

 

「ぐぁ!」

「ガッ!」

「安心しろ。苦しむ暇もなく殺してやる」

「舐めるなぁ!クローズドラゴン!」

「キュールル!」

《Ready Go!》

《レッツフィニッシュ!》

「フンッ!」

《JACKING BREAK!》

「その程度で……ハアッ!」

 

余裕な態度を見せるブラッドに対し、私とキャロルはオオカミ型のエネルギー弾を飛ばすが、ブラッドはコブラ型のエネルギー体を2体生成する。

コブラ型のエネルギー体は、私たちのエネルギー弾を容易く打ち破り、私たちも突進を食らってしまった。

 

「ハッ!」

「なッ!?」

「くそ!離せ!」

「フンッ!」

 

さらにブラッドは両手から触手を伸ばし、私たちを拘束。そのまま振り回され、投げ飛ばされてしまう。

 

「ガ、ハッ……」

「グウウ……」

 

木々をなぎ倒しながら倒れた私たちは、ダメージのせいで立ち上がれなかった。

ブラッドの方を見れば、勇君たちもブラッドと戦っていた。

 

「くっ……」

「こいつッ!?」

 

しかし、2人も私たち同様にブラッドの攻撃を食らってしまい吹き飛ばされてきた。

 

「やはり障害と言えどこの程度……そうだ。余分にあったところで、困りはせんだろう」

 

ブラッドはそう言うと、()()()()()のキャップを捻り勇君に向ける。

すると、勇君の身体から色とりどりの粒子が溢れだし、ブラッドの持つボトルに吸い込まれていく。

ブラッドは何をして……まさかッ!?ブラッドは勇君の力を奪うつもりか!

 

「好き勝手させるかッ!」

 

キャロルもそれに気づいたのか、中断させるためにブラッドに斬りかかる。

しかし、ブラッドにヒラリと躱され、逆に反撃を食らってしまう。

 

「消えるがいい」

「うわあああああッ!」

 

ブラッドの拳によってキャロルは吹き飛ばされ、近くにある崖から落ちてしまう。

 

「キャロルッ!」

「いけないッ!」

 

咄嗟に勇君も動き、キャロルを追って崖から飛び降りる。

本当なら私も追いたいけど……

 

「ふん。まとめて2人始末できたか」

「貴様ァァアアア!」

 

こっちを放っておくわけにもいかない。

逆上したキャロルちゃんが、ブラッドの波動によって下がらせられた上に、体勢を崩してしまう。

 

「貴様も後を追うがいい」

「ッ!」

「やらせるかァアア!」

《スクラップフィニッシュ!》

 

ブラッドが止めとばかりに、紫色の球体をキャロルちゃんに投げる。

体勢を崩したキャロルちゃんだと、直撃は防げてもダメージは負ってしまうと判断した私は、ギリギリで間に入りこみエネルギーを込めたパンチで迎撃する。

しかし、球体は爆発しその爆風によって、私たちも崖から放り出されてしまう。

足場のない空中にいる不安定な感覚の中、どうにかしてキャロルちゃんを引き寄せる。

 

「貴様らのことだ。どうせしぶとく生き残るだろう。だが、次目覚める時は、すでに夢の中だ」

 

朦朧とする意識の中で、薄っすらと聞こえたブラッドの言葉を最後に、私の意識は途絶えた。

 

 




何気にこの作品の仮面ライダーブラッドって、超強化されてるんですよね。
だって、変身してあまり時間が経っていないにも関わらず、七海とキャロルを圧倒。
しかも超強化されてる勇君とキャロルちゃんにも勝利してるし。

勇君とキャロルちゃんがどれだけ強化されているかは、こっちを見てね。
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次回予告

ブラッドの襲撃に会い、2手に分断されてしまった4人。

「次目覚める時は、すでに夢の中だ」

この言葉が差す意味とは?そして、ブラッドの目的とは一体なんなのか?

次回もお楽しみに!


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謎の街と来禅高校

今日はお休みだといったな。あれは嘘だ。

というわけで、今日も投稿投稿!


前回までのあらすじ

仮面ライダーブラッドを追ってたどり着いた世界で、別の世界から来たと言う雪音勇と勇の世界のキャロルと出会った七海とキャロルとシャナ。

彼らもまた、何者かによって襲われたというらしい。

そして、襲撃してきた仮面ライダーブラッドによって、5人は分断されてしまう。

彼らの運命は……



「う…うう………ここは…?」

 

真っ暗だった意識が徐々に覚醒し、私は節々の痛みを堪えながら体を起こす。

 

「何が…どうなって………そうだ。思い出した。たしか、ブラッドと戦って崖から落ちたんだっけ」

 

おぼろげな記憶を何とか思い出し、自分の状況を思い出す。

周りを見回すと、近くに落ちていたスクラッシュドライバーにUFOフルボトルがセットされているのを見るに、無我夢中でどうにかしようとしていたらしい。

 

「……そうだ!キャロルちゃん…」

「―――やっと起きたか。長いこと寝おって、贅沢な身分だな」

 

私と一緒にキャロルちゃんも崖から落ちたことを思い出し、焦り気味に周囲を探す。

すると、すでに起きていたらしいキャロルちゃんが、()()()()()()()()()()

ん?入り口?

 

「キャロルちゃん!」

「起きたなら行くぞ。一刻も早くここを出ねばならんからな」

「え?それってどういう…あ、ちょっ、ちょっと待って…ッ!いっつぅ……」

 

スタスタと歩いていくキャロルちゃんの後を追おうとすると、ズキッ!と右足に鈍い痛みを感じ、歩みが止まる。

 

「…?どうした」

「い、いや、なんでもないよ」

「ふむ……(こいつ…これで隠したつもりか?どう見ても足を怪我しているだろうが…まあいい。勇を傷つけたバツだ。放っておくとするか)ならば行くぞ」

「う、うん」

 

キャロルちゃんを追って()()()()と、ありえない光景が広がっていた。

 

「……何?()()()

「見たとおりだ。さっきまでこんな建物、というよりこの街自体なかった。だが、オレが目を覚ました時には、この有様だ。オレたちがいたはずの森すらない」

 

その言葉に背後を振り返ってみるけど、確かに私が倒れていた場所は森などではなく、どうやら公園だったらしい。だからキャロルちゃんが来た場所を、無意識に入り口と感じたりしたのか。

 

「……それにしても、ここは一体」

「オレが知るか……だが、何故か安心する気がする。この感覚はなんなんだ?」

 

キャロルちゃんと並んで、至って普通の街並みの道を歩く。

辺りにはスズメが飛び交い、柔らかな風が吹きつける。

ただ、さっきからちょっと気になることがある。

 

「あの~キャロルちゃん」

「なんだ」

「その~もしかしなくても、すっごく機嫌が悪い?」

「ほう……貴様には今のオレが機嫌が良いと見えるのか。ならちゃんと言ってやろう。オレは機嫌が悪い。勇を傷つけた貴様と2人っきりなど、こんな状況でもなければ御免こうむる」

 

鼻を鳴らしながらそっぽを向いたキャロルちゃんは、早足に歩いて行ってしまう。

彼女とうまくやって行けるのか、ちょっとした不安に冷や汗をかき、足の痛みに慣れない治癒系の術式を使いながら彼女の後を追う。

そうして手掛かりを探しながら歩くも、まったくと言っていいほど進展はなかった。

 

「これだけ探しても、何も見つからないなんて……」

「ふ、ふん。この程度で根を上げるのか?」

「そうはいうけど、キャロルちゃんだって息が切れかけてるよ?」

 

私の指摘にキャロルちゃんは顔を歪ませる。事実、彼女の息も切れかけている。

まあ、仕方ないだろう。何も手掛かりが見つからない中、こうして当てもなく歩き回ってるだけだと、精神的な負担が結構大きい。

 

「ちょっと休もうか」

「…き、貴様が疲れたというならな!」

「はいはい、疲れた疲れた」

 

キャロルちゃんを連れて、近くのベンチに腰を下ろす。

丁度大きな木が影となっていて、ちょうどいい感じに日光を遮っている。

 

「ほら、キャロルちゃん」

「……………」

 

私が隣をポンポンと叩くと、キャロルちゃんはムスッとして少し離れた場所に座る。

影によって良い加減に涼しく、疲れた体がリラックスしていく。

そしてそんな状態だと、とりとめない話題がポンポン出てくるもので……

 

「……そういえば、このマンションって何でこんな場所にあるんだろ。周りは普通の家屋なのに」

「知るか。そんな事より、この場所のことだ。ゴミ捨て場やコンビニに駅……生活感を感じるものはいくつもあるが、どこもかしくも人気を感じない。まったく人がいない」

「………ん?」

 

キャロルちゃんの話を適当に聞いていると、ふと視界の端に誰かいることに気付いた。

 

「シドー!おはようだ!」

「おはよう、十香」

「士道。おはよう」

「折紙、おはよう」

 

目の前のマンションから出てきた紫色の長髪の少女が、隣の一軒家から出てきた青年に駆け寄る。さらにその2人に、別の道から歩いてきた銀髪の少女も合流する。

 

「むっ、折紙よ。少し士道にくっ付きすぎじゃないのか」

「別にこれくらい普通。だから何も問題はない」

「そうなのか?ならば私もするぞ!」

「ちょっ!?2人とも、動きにくいって!」

 

折紙と呼ばれた銀髪の少女が始動と呼ばれた青年の腕を組み、その反対側の腕に紫色の髪を持つ十香と呼ばれた少女が抱き着く。

当の青年は、美少女と言っても過言でない2人に抱き着かれて、アワアワと動揺する。

まるでラブコメのような展開。しかし重要なのは、そんな事ではない。

 

「キャ、キャ、キャ、キャロルちゃん」

「………だから今度は…って、なんださっきから!」

「あれ…あれ!」

「あれ?人がいるだと!?」

 

しつこいくらいにキャロルちゃんの肩を叩き、見つけた3人を指差す。

私の指先を見たキャロルちゃんは、驚きのあまり立ち上がる。

 

「なんだ、この引き寄せられるような感覚は……あいつらの後を追うぞ」

 

そう言って、キャロルちゃんは彼らの後を追う。

さっきまでと違って、真剣な顔をしているキャロルちゃんに声をかける。

 

「どうしたの?いきなり後を追うなんて」

「いいからついて来い………見えたな」

「あれは……学校?」

 

彼らの後をつけていくと、やがて高校が見えた。

『都立来禅高等学校」と書かれた表札がある門をくぐり、青年たちは中に入っていく。

 

「さて……どうする?」

「もちろん中に入る。ハニエル!」

 

キャロルちゃんが右手を掲げると、鏡が取り付けられたような箒が現れる。

次の瞬間、キャロルちゃんと私を光が包み、服装がさっきの少女たちが着ていた制服に変わる。

 

「おお……!これは便利だね」

「いくぞ」

 

天使の力に軽く感動している間にも、キャロルちゃんは来禅高校に入っていく。

素っ気ない彼女の様子を見て、未だに仲良くなれていないことにしょんぼりしながら、彼女を追って中に入った。

 

 




勇君と七海の世界のキャロルとシャナの様子は、タク-Fさんの投稿で確認ください!

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次回予告

仮面ライダーブラッドによって分断されてしまった七海と勇の世界のキャロル。

目覚めたのは先ほどまで全く見かけなかった、謎の街。

調査の中で見つけた青年たちを追ってたどり着いた来禅高校に、キャロルの感じた感覚を頼りに2人は潜入する。

次回もお楽しみに!


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シアワセのその影で

前回までのあらすじ

ブラッドの襲撃によって、分断されてしまった5人。

七海と勇の世界のキャロルは、謎の街を散策する中で来禅高校と言う場所を見つける。

潜入した来禅高校で、2人は何を見るのか……


来禅高校の門をくぐり抜けると、グラウンドには朝練をしているらしい生徒たちが不通にいた。あれだけ街を歩いても誰も見当たらなかったのに、何故この学園の中にはたくさんの人達がいるのか。

疑問は尽きないけど、考えていても分からないので後者の中に入る。

 

夕弦(ゆづる)!今日はテストの点で勝負するからね!」

「了解。しかし耶倶矢相手では、すでに勝敗は決まったようなものですが」

「何でよッ!」

 

靴を履き替え階段を上ると、たくさんの生徒が思い思いの話題を話していた。

昨日何してた?とか、昨日のテレビが~とか、その光景は至って普通の学園の風景だ。

 

「アイツ遅いなー」

「あ、あれじゃない?やーっと来た」

「まったく、遅刻ギリギリじゃん」

 

この会話すら、まさしく普通なそれであり――――

 

「おーい!お待たせー!」

「……ッ!?」

 

―――しかしそれは、駆け足ですれ違った女子生徒の顔を見た途端に、異常を感じるものだった。

 

「…………」

「……?突然立ち止まってどうし……っておい。そんな怖い顔して、ほんとどうした?」

「いや、なんでもないよ。うん、なんでもない」

「…そうか」

 

……表情を無理矢理直しながら、キャロルちゃんに返事をする。

キャロルちゃんは若干訝しんだものの、再び歩き始める。

私も、何事もなかったかのように歩き始める。

 

「それにしても、本当にここに手掛かりがあるの?」

「知らん」

「ええ!?それはないよ~!」

「あの、そこのお2人!」

 

後ろからかけられた声に振り向くと………誰もいなかった。

 

「あの!人と話す時は目を合わせるのですよ!」

「え?……えっとーどちら様?」

「なッ!?先生に向かってその言い方はどうなのですかッ!?」

「先生ッ!?いや…だって、私と同じくらいの身長……」

「こ、こんな身長ですけど!こう見えて先生なのですよ!……ぅぅ」

 

これ以上絡まれてもいけないので、自虐で落ち込んでる先生を置いてすぐにその場を退散する。

キャロルちゃん?気づいたらいなかったよ畜生め。

 

「ちょっと!まだお話は終わってないですよ!」

「あ、たまちゃんおはよー」

 

なんとかたまちゃんと呼ばれていた先生?を振り切って、私を置いて行ったキャロルちゃんに追いつく。

 

「置いてかないでよ」

「知るか。何でオレが、あんな見た目子供の様なやつと話さねばならん」

「それ、完全にブーメランだよね。というかキャロルちゃんあの先生より低いよね?」

「……次何か言ったら息の根止めてやるからな」

「それは勘弁」

 

変わらず素っ気ないキャロルちゃんの様子に、肩をすくめる。仲良くなるにはまだ難しそうだ。

どうすれば仲良くなれるのだろうか?そんなことを考えながら、ふと窓の外を見て……ッ!?

 

「キャロルちゃん伏せて!」

「なッ!?」

 

キャロルちゃんを押し倒し、その上に覆い被さる。

突然のことにキャロルちゃんが文句を言おうとした瞬間、廊下の窓ガラスを突き破って数本の触手が突っ込んできた。

 

「……大丈夫?」

「あ、ああ……というか、早くどけ!」

 

キャロルちゃんが身体強化術式を使ってまで私をどけようとするので、素直に上から退く。

 

「それで、一体何が起きた?薄々分かってはいるが」

「外にブラッドがいる。私が気づいた時には、すでに触手を伸ばしていたから、何も対策が取れなか……あれ?」

 

そこまで言って気づいた。()()()()()()()()()

突然窓ガラスが突き破られたのだ。さすがに誰かが叫ぶなりするはず……。

そこまで考えて、目の前の教室から3人の女子生徒が出てくるのに気づいて顔を上げた瞬間、ギョッとした。

整っている顔には、さっきの衝撃で飛ばされたのであろう窓ガラスの破片が刺さっており、血がダラダラと流れている。

それどころか腕の一部が触手にやられたのか、変な方向に曲がっている。

だけど、()()()()()()()()()()()()()

 

「なんだ……何でこいつらは、()()()()()()

 

キャロルちゃんも目の前の光景が信じられないのか、目を見開いて固まっている。

さらに驚くことに、女子生徒たちの傷は見る見るうちに治っていく……いや、()()()()()。まるで初めから何もなかったかのように。

 

「……手掛かり、ようやく見つけたかな?」

「ますます意味が分からんがな。とりあえず、あいつを叩く!」

 

キャロルちゃんは立ち上がるとともに、割れた窓から飛び出す。

私もそれを追って窓から飛び出し、落ちながら変身する。

 

「変身ッ!」

《ロボッットォイングゥゥリスゥゥゥ!》

《ブルァァァァァ!》

《ツインブレイカー!》

「ハァ!……なッ!?」

 

変身を終え、ツインブレイカーから光弾を放つ。しかしその光弾は、キャロルちゃんが放ったと思われる火球とぶつかり霧散した。

 

「何ッ!?邪魔をするな!」

「いや、そんなつもりはないって!」

「ふん…私を前に仲間割れか。舐められたものだな」

「別にこいつがいなくても、オレだけで十分だ!」

「ならば、やって見せるがいい」

 

ブラッドが手を広げると、赤黒いスライムのような粘液が出てきて、人型を形成する。人間のような姿形だが顔がなく、金属のような体である。

 

 

「なんだ、あれは?」

「こいつら、スマッシュ!?」

「そうだ。スピリットスマッシュと言う……いけ」

 

ブラッドの命令に従い、3体のスマッシュが手に持った武器を掲げながら近づいてくる。

 

「面白い。<塵殺公(サンダルフォン)>!」

 

キャロルちゃんは両手に大剣を呼び出し、スピリットスマッシュに向かっていく。

その小さな体からは想像できない膂力で大剣を振り下ろすが、小柄な天女と牛を合わせた様なスマッシュが手にした戦斧で防ぐ。

動きが止まったキャロルちゃんを、魔女のような姿のスマッシュが先が枝分かれした槍で攻撃するが、それを私がツインブレイカーで弾く。

 

「邪魔をするなと言っただろう!」

「そんなわけにもいかないでしょ!」

《シングルフィニッシュ!》

「<絶滅天使(メタトロン)>!」

 

私のツインブレイカーとキャロルちゃんの砲台から放たれた光線がスマッシュたちに向かっていくが、3体いるうちの一体、いたる所に時計の装飾がついたゴスロリ服を着ているスマッシュが前に出て腕を突き出す。

すると、装飾の時計の針が回りだし、私たちが放った光線が()()()

 

「「なッ!?」」

 

突然起こった不可思議な現象に、私たちはそろって動きが止まる。

その隙を狙われ、天女のスマッシュが戦斧から炎の砲弾を撃ってきた。

その上、魔女のスマッシュも全く同じ攻撃を放ってくる。

 

「だぁ!」

「<氷結傀儡(ザドキエル)>!」

 

私はツインブレイカーで、キャロルちゃんは氷の障壁で迎え撃つ。

炎の弾丸は爆発し、私たちはその衝撃に吹き飛ばされる。

 

「ぐぅ……強い」

「カマエルにハニエル、そしてザフキエル。この力…やはり精霊の力と同じ。あの時、勇から奪った力か!」

「勇君の…?だからスピリット(精霊)スマッシュなのか」

「そうだ。この力は随分と便利だな。こうしてスマッシュを作ることも、そして<凶禍楽園(エデン)>を作ることもできるのだから」

「<凶禍楽園(エデン)>……?」

 

聞きなれない単語に、私たちは眉根を寄せる。

 

「そう。それは全ての生物に幸せをもたらすもの。刹那に終わる泡沫の夢などではなく、それは永遠に終わらない永続の夢」

「幸せ……?幸せと言ったの?ここの光景が幸せ……?ふざけるな…ふざけるなぁ!」

 

私はふつふつと湧き上がる怒りと衝動に任せて叫んだ。

私が叫んだことにキャロルちゃんは驚いた様子で、ブラッドも困惑したように手を顎に当てた。

 

「ふむ……何が不満なのだ?この世界は自身の望むものを、ありとあらゆる生物の理想を叶えてくれるのだぞ?」

「訳の分からないことを……その上貴様が勇の力を利用するなどッ!」

「……ッ!?キャロルちゃんッ!」

「哀れなものだ」

 

今度は逆上したキャロルちゃんが叫び、大剣を掲げてブラッドに斬りかかる。

そしてブラッドは、ビルドドライバーのレバーを回す。

 

《Ready Go!》

「貴様も沈むが良い。甘美なる夢に」

「くそッ!」

《オーソライズゥ!》

 

ブラッドの右手にエネルギーが集まるのを見た私は、焦りながらもリボルウルフをツインブレイカーにセットして駆け出す。

 

「アアアアアアッ!<塵殺公(サンダルフォン)>!<最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)>ゥゥウウウウウッッ!」

 

キャロルちゃんの絶叫と共に、振り上げた大剣に何かの欠片が集まりさらに巨大な剣となる。

 

「これで終わりだぁああ!」

《ハザードフィニッシュ!》

「ふんッ!」

「―――ガッ!?」

 

ブラッドが右手を握ると、円状に発生した波動が発生し、キャロルちゃんはいともたやすく吹き飛ばされる。

 

「終わりだ」

《グレートドラゴニックフィニッシュ!》

「くッ!」

「オオオオオッ!!」

 

コブラ型のエネルギー体がキャロルちゃんに向かって放たれるが、その前にキャロルちゃんの前に立ちツインブレイカーをぶつける。

しかし徐々に押され始め、撃ち返せないと悟った私は咄嗟に自身の身体を盾に、キャロルちゃんを守る。

 

「うわああああああッ!!……あ……にげ、て。キャロ…ル……」

 

爆発が私の身体を叩き、私は変身が解除されたのを感じたが、それを最後に意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

……やられる。そう思った時には、すでにあいつ(白黄七海)がオレの前に立っていた。

 

「………おい。おい……!」

 

ブラッドの攻撃からオレを庇い、ライダーシステムとやらが解除されたあいつが俺に覆い被さるように倒れてきた。

どれだけ声をかけても、どれだけ揺すっても、こいつは目を開けなかった。

なんで…こいつは勇を傷つけた奴だ。別に気にする必要など……ないはずだ。

 

「こんなものか…まあいい。次は貴様だ。やれ」

 

ブラッドの指示で、カマエルの力を持った奴が戦斧を構えて炎の砲弾を撃ってきた。

オレはこいつのポケットから見えたものを掴むと、地面に叩きつけて割る。

その直後、砲弾が着弾して爆発する。

その煙に紛れて、こいつを連れて撤退した。

 

 




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次回予告

来禅高校で見つけた異常。

仮面ライダーブラッドが言う<凶禍楽園>とはなんなのか。

そして七海の過去は、再び彼女を苦しめる。

それを癒すのは、彼女の愛に他ならない。

次回もお楽しみに!





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過去のクルシミ 今のシアワセ

今回のコラボに触発されて、デアラ全巻買いました。
途中まではすでに読んでいたんですけど、最終巻まで全部買いました。
まあ……折紙がドストライクとだけ言っておきましょう。

前回のあらすじ

ブラッドにより勇たち3人と分断された七海とキャロル(勇の世界)。

来禅高校に潜入する中、2人は異常な光景を目にする。

そしてブラッドに強襲されるが、コンビネーションの悪さから七海は負傷し、キャロルの判断で撤退する。

2人は無事に勇たちと合流できるのか。




「ぐっ……なんとか、逃げることは出来たか」

 

仮面ライダーブラッドの襲撃を受けたオレたちは、どうにか撤退して保健室に入った。

中は無人らしく、申し訳程度に人払いの術式を使う。これなら、少なくとも一般人はどうにかできるだろう。

気を失っているこいつ(白黄七海)を、苦労しながらベッドに寝かせる。

 

「ぅ……ぁぁ……」

 

ベッドに寝かせていると、唐突に呻き声を上げ右足を一瞬ピンッと張るような動きを見せた。

気になって履いていた靴を脱がせると、右足首が酷く腫れていた。

 

「そう言えばこいつ、足を怪我していたんだったな」

 

確か起きた時にも、右足を庇っていたな。

思い返してみれば、さっきの戦闘でもこいつはどこか動きがおかしかった気がする。

 

「………仕方ない。本来なら治してやるなどごめんだが、こいつにはさっきの戦闘と……崖から落ちた時の借りもある」

 

ブラッドとの最初の戦闘(オレ基準)で、落ちるオレをこいつは必死で庇った。

どうにかして落下の勢いは減衰させたようだが、この怪我はその時に負ったものなのだろう。

とりあえず、こいつの怪我を治すとしよう。

 

「<刻々帝(ザフキエル)>。<四の弾(ダレット)>」

 

オレの手の中に古めかしい拳銃が召喚され、その中に一発の銃弾が装填される。

拳銃を患部に向け、躊躇いなく引き金を引く。

撃ちだされた銃弾は足首の腫れた部分に吸い込まれ、ビデオの逆再生かのように元の状態に戻った。

だが、何故かオレの胸にはもやもやとしたものが漂っていた。

 

「なんだ……何なんだ。こいつを見てると、何か心がざわめく。ふざけるな!オレは勇のものだ!こいつに心が動かされることなどない!」

 

自分の胸を掻き毟りながら、必死に感じるものを否定する。

だが、胸のざわめきはどんどん大きくなっていく。

 

「……そう言えばこいつ、ブラッドの言葉に噛みついていたな」

 

『幸せ……?幸せと言ったの?ここの光景が幸せ……?ふざけるな…ふざけるなぁ!』

 

「……試してみるか」

 

オレは寝ているこいつに顔を近づける。

オレや勇ほどとは言わないが、それなりに整っている顔を見ていると、更に心がざわめく。

 

「これは違う……オレの心は勇のものなんだ。だからこれは浮気だとか、至ってそういうものじゃないんだからな……」

 

誰に言うわけでもない言い訳を口にしながら、こいつにキスをした。

 

 

 

◇◇◇◇

 

『お姉ちゃんのように頑張りなさい』

『姉があれだけできるんだ。お前もできるよ』

 

―――――

 

『うわー!すごい!テスト満点じゃん!』

『頭良いんだ!』

『ねえねえ!今度勉強教えてよ』

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まったく……なんでお前はあの子のように出来ないんだ』

『ちゃんと勉強したの?まさか…!変なことつるんでるんじゃないんでしょうね!そうに決まってるわ!』

 

―――――助けて

 

『ねぇ……なんか最近、あの子付き合い悪くない?』

『確かにー!声かけても無視ばっかするし』

 

――――助けて

 

『頭良いからって調子乗ってるんだよ』

『だったらさー()()()()()()()、悪戯してやんね?』

 

――――助けて

 

『お前は休日外に出ることを禁ずる。唯でさえ姉に劣ると言うのに、勉強をさぼっている場合か?』

『ちゃんとやりなさいって言ってるでしょ!この、出来損ない!』

 

――――誰か、助けて……

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ……ハァッ!?……夢?」

「何のことを言ってるのかは知らんが、おそらくそうだろうな」

「ッ!……って、キャロルちゃんか」

 

突然かけられた声に、軽く体を跳ねさせた私は、その声の主が分かってホッとする。

キャロルちゃんは、私が寝ていた向かいのベッドに腰掛けていた。ただ、どこかその表情が暗いのは、私の気のせいだろうか。

 

「ここは……」

「保健室だ。何があったか、どこまで憶えている?」

「それほど時間は経ってないのか。えっと、私がキャロルちゃんを庇ったところまでかな?」

「なら良い。あの後、オレがお前が持っていたアルカノイズを使って、気を失っていたお前を連れてここまで逃げてきた」

 

制服のポケットを探ってみると、確かに入れていたはずのアルカノイズの結晶が無くなっていた。

実は勇君たちと自己紹介した時に、彼から貰っていた物だったのだけど、うまく役に立って良かった。

 

「…………なぁ」

「ん?どうしたの?」

「お前は…………何で人間を…いや、他人を守ろうと思える?」

「はい?どうしたの急に?」

 

何か言おうと口を開いては、何も言わずにその口を閉じるといったことを繰り返すといったことを繰り返しているキャロルちゃんは、どこか暗い表情で話しかけてきた。

 

「キャロルちゃん、なんか変だよ?さっきとは全然態度が……」

「―――お前の記憶を見た」

「………………」

 

私の声を遮るように放たれた言葉に、私の口は縫い合わせたかのように閉じていく。

私の記憶を見た。それは別に構わない。少なくとも私は、キャロルちゃんが私の記憶を悪用するとは思っていない。

しかし、()()()()()()()()()で、こうも暗い表情を浮かべるだろうか?

 

「見たんだね。私の………前世の記憶」

「……ああ」

 

私の問いかけに、キャロルちゃんは重い口を開いて答えた。

口からゆっくりと息を吐きながら、私は再びベッドに身を沈ませた。

私の前世の記憶を見たという事は、あの忌々しい記憶を見たという事だ。

 

「私が聞くのもあれだけど……どうだった?」

「正直言えば、オレの過去に比べれば()()。だが、俺にはパパがいた。パパとの記憶があった。だがお前には、そんな記憶すらなかった。その意味では、俺より()()()()

 

キャロルちゃんはより表情を沈ませた顔で、そう呟いた。

私にとっての過去、忌まわしき負の記憶。

天才な姉と比べられ、零れた蜜を求める両親の言葉を馬鹿正直に受け入れ、追いつくために全てを切り捨てて尚……天才には届かなかった無能な女の子。

 

「そっか……んん?っていう事は私にキスしたの?大丈夫なのー?それ」

「…………………」

「……ごめんね。変なもの見せて」

「そんなこと!ぁ……」

 

私の謝罪にキャロルちゃんは声を荒げて立ち上がり、やがて出そうとしていた言葉を見失ったように、よろよろとベッドに戻る。

 

「それで、キャロルちゃんの質問だよ。何で他人を守れるのか、だっけ?」

「………」

「そーだなー。少なくとも、私は他人を守っているという意識はないかな」

「……なに?」

「私が守っているのは、いつだって自分だけだよ」

 

私の返答に、キャロルちゃんは理解できないと言わんばかりに眉をひそめる。

 

「温かみを感じる家族。気兼ねなく話せる友人。そして……自分の存在意義。そのどれもが、私が持つことはなかったモノ。だけど私は、新たな存在を見つけた。私が知らなかったモノを与えてくれそうな、そんな()()を持った存在を」

「それが、キャロル・マールス・ディーンハイム、か」

「父を殺され、胸に残った小さな、そして歪んだ希望を持つ少女。その最後は、残っていた希望をさえ奪われ、自分が何者かもあやふやなまま消えた……あ、えっと」

「オレの最期のことか?気にするな。前に勇から聞いてはいた。オレが勇に出会わなかったらどうなっていたか、な」

 

それから少しだけ重い空気がのしかかり、そしてまた口を開く。

 

「彼女は私の思っていた通り、知らなかったことを教えてくれた。だけどそれは、私のアイデンティティを崩していった。無知と羨望……それを胸に生きた私の価値観は、ちょうどいいと利用した少女に崩されるという皮肉で終わった」

「お前は、後悔しているのか?」

「後悔程度で済めばいいけどね。死後はあの子たちと離れて、地獄かな」

 

冗談めいたように言いながらキャロルちゃんを見ると、いつの間にか立ち上がっていた彼女が、私のベッドに歩み寄ってきていた。

ベッドの傍に来たキャロルちゃんは、私の胸ぐらを掴んで私の上体を持ち上げた。

 

「ふざけるな……ッ!」

「キャロル、ちゃん?」

「オレはお前が嫌いだ。勇を傷つけたことも、その飄々とした性格も、そのどこぞのバカみたいな自己犠牲も……自分が傷ついていることにも気付かないその性根も……全部大っ嫌いだ…ッ!」

 

どこか苦しそうに、悲しそうに話すキャロルちゃんの顔は、今までに見たことないほど()()()()()()

 

「何があいつらと離れて地獄へだ!たかだか()()()()()()で、お前はそばにいることを諦めるのか!お前の、キャロル・マールス・ディーンハイムへの”愛”は!本当にその程度なのか!」

 

遂には涙さえ零した彼女に、私は胸ぐらを掴まれたまま動けなかった。

それほどまでに、キャロルちゃんの涙が衝撃的だった。

 

「……オレだって、たまには過去を思い出すさ。勇には言えないようなことも、昔のオレはたくさん犯してきた。勇はこのことも受け入れてくれるだろうがな。だが……時々思い出すんだ。その時踏みにじってきたやつらは、オレを恨んでいるんだろうなって。幸せな今だからこそ、なんだろうがな」

 

私の胸ぐらを離し、無気力に立っているキャロルちゃんは、独白するかのように話す。

その姿は、聖職者に懺悔する罪人の様だった。

 

「……ようやく分かった。何でお前を見るたびに、えも言えぬ衝動に心をかき乱されるのか。似た者同士だったからだ。過去に負い目を持ち、そして今では幸せになったことで、再び過去に悩まされる」

 

なんか、分かる気がする。

キャロルちゃんとキャロルが喧嘩した時に私が言った「同族嫌悪」。あれは多分、私も知らずの内にキャロルちゃんと同じような感覚を味わっていて、それで無意識に出たんだ。

 

「そっか……なら私たち、似た者同士か」

「相手がお前というのが不満だがな」

「あはは……もう」

 

これだけ話し合ったというのに、未だに変わらない態度を取るキャロルちゃんに、思わず苦笑してしまう。

だけど、この変わらない関係が、とても心地よい。

 

「……私はさ、過去に後悔はすれど、今に後悔はしない。だって、今の私は間違いなく”シアワセ”だから」

「ふんっ……そんなこと、貴様に言われずとも知っている。オレだって、勇と一緒にいる今が”シアワセ”だからな」

 

それからしばらく心地よい沈黙が場を包み、それを破るように私たちは同時に立ち上がった。

 

「そう言えば、あの時お前が怖い顔をしていたのは……」

「……うん。()()()()()()が、過去に私を虐めていたやつらと仲良くしてた」

 

そう。来禅高校に潜入してすぐに、私はもう一人の私を見つけた。

もう一人の私は、前世で私を虐めていた人たちと、とても仲良くしていた。

だからこそ、さっきの戦いで私はブラッドの言葉に憤慨した。

あんな奴らと仲良くすることが私の幸せ?冗談じゃない……そんな世界、私がぶっ潰す。

 

「行こう。なんだか急に、キャロルとシャナに会いたくなってきちゃった」

「オレもだ。早く勇に会いたい」

 

そんなことを言いながら保健室を出た時、ある2人が私たちの視界に映った。

 

「あ…ヤバッ……!」

「…………………………おい

 

気づいた時にはもう遅く、キャロルちゃんがまるで地獄の底からひり出したような声を出していた。

めんどくさいことになったなぁと、私は天を仰ぎ手を頭に載せる。

 

「フ…フフフ……ソウカ。コレガ”シアワセ”カァ……アイツラハブッ殺ス」

 

 

 

 




七海とキャロルが見たのは、一体どこの何勇とどこの何未来さんなのか!
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次回予告

己の弱さを打ち明け、その結束を強めた七海とキャロル。

それぞれの思いを胸に、彼女たちは倒すべき敵へと挑む。

手を取り合った2人の戦い。授けられる新たな力。そして再会。

戦いの果てに2人は、この事件の真相を知る。


次回もお楽しみに!


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偽りの楽園

前回までのあらすじ

来禅高校に潜入した七海とキャロル(勇の世界)。

ブラッドとの戦闘に敗北し撤退した2人は、己の恋人には言えない”心の弱さ”を打ち明け合う。

過去を後悔しても、今を後悔しない。この決意を胸に、2人はフィーネに戦いを挑む。

今、この世界の真実が語られる。


保健室を出た私たちは、階段を上がり屋上へと出る。

扉を開いてまず目に映ったのは、どこまでも伸びる青空だった。しかし今の私たちにはその青空がどこか、無機質に見えた。

 

「ようやく潰されに来たわね」

「はぁ……また戦うのメンドクサ…早く殺っちゃおうよ」

「キヒヒ……ああ、早く絶望した顔を見せてくださいまし」

「まさか言葉を話すとはな……それほどまでに勇の力と馴染みだしたか。カマエル。ハニエル。ザフキエル」

 

どこからともなく現れた3体のスピリットスマッシュ。カマエル、ハニエル、ザフキエルの3体は、好戦的な笑みを表情を浮かべて、各々の武器をちらつかせる。

カマエルは戦斧を。

ハニエルは先が枝分かれした槍を。

ザフキエルは両手に直接装着された小銃を。

キャロルちゃんの推測通り、元となった力が元になっているらしい。

 

「……貴女も出てきたら?仮面ライダーブラッド……いや、フィーネ」

「―――ほう?私の正体に気付いたか。今は享楽の巫女と名乗っているがな」

 

どこからともなく響いた言葉に周囲へ視線を巡らせると、ザフキエルスマッシュの影から、1人の女性が現れた。

先史文明の巫女フィーネ。彼女は自身の長い金髪をかきあげる。

 

「フィーネ、貴女は何をしようとしている?<凶禍楽園(エデン)>とはなんだ?何を企んでいる!」

「フィーネか…その名で呼ばれることを久しいな」

 

フィーネは感慨深そうに目を細め、両手を広げる。

 

「時にお前たちは、この世界をどう思う?」

「……なに?」

「貴様らはこの世界で、悲しむ姿を見たか?」

 

そう言えば、確かに学校の中にいた生徒は誰一人として笑顔だった。

まあ、若干1名自虐で落ち込んでいたりはしたけど……少なくとも生徒たちには慕われていそうだった。

 

「だからどうした?生憎と、怪しげな宗教の勧誘は断っていてな?」

「素晴らしいとは思わんか?この世界では、誰も悲しむことがない。誰もが自身の理想を享受できる」

 

キャロルちゃんの皮肉すら効いていないかのように、フィーネは恍惚とした笑みで話す。

 

「すべての人間が、永遠に理想を享受できる。そうなれば……私がいた世界のように()()()()()()()()だろう?」

「何?」

「滅びた世界……あの世界が?」

「そうだ。貴様らが来たあの世界こそが、私が巫女として神のお声を聞き、民衆を導いた世界。しかし悲しいかな。人間どもは与えられたに過ぎない知識により冗長し、自らの手で自らの世界を破壊した」

 

フィーネの口から語られた世界の真実に、私たちは目を見開く。

しかし、悲しそうにそう語るフィーネの表情は、少しも悲しそうではなかった。

 

「人間どもが気づいた時には遅かった。すでに自分たちが滅亡の最中にいることに気付いた人間どもは、愚かにも文明の発展と共に軽視した私に、再び救いを求めた」

「しかし貴様は世界を救えず、滅亡したという事か」

「当たり前だな。すでに世界は救えない場所まで来てしまっていた。だからこそッ!私は自らの肉体に改造を施し、長い年月を研究に捧げたッ!気づいた時には、すでに神の声も聞こえなかったが……だがしかしッ!あの愚かにも愛しい愚民どもの願いはッ!私が叶えてやろうではないかッ!<凶禍楽園(エデン)>を完成させ、全ての生物、全ての平行世界を理想の海に沈めようッ!この私がッ!」

 

興奮したように叫びだしたフィーネを、私とキャロルちゃんが冷たい視線で見つめる。

 

「……堕ちた者だな。先史の巫女よ」

「貴方のそれは最早救いじゃない。歪んだ思想でしかない」

「やはり小娘どもでは理解できんか」

《マックスハザードオン!》

 

フィーネはハザードトリガーを起動し、腰に装着したビルドドライバーに差しこむ。

私もロボットスクラッシュゼリーをスクラッシュドライバーにセットし、キャロルちゃんも竪琴を取り出した。

 

《ロボットゼェリィィ!》

「変身ッ!」

「ダウルダブラッ!」

《潰れるぅ! 流れるぅ! 溢れ出るぅ!》

《ロボッットォイングゥゥリスゥゥゥ!》

《ブルァァァァァ!》

 

私は仮面ライダーグリスに変身し、キャロルちゃんは大人の姿へと変わり紫色のシンフォギアのような物を身に纏う。

それを見たフィーネもまた、自身の元へ飛んできたクローズドラゴンの色違い―――たしかグレートクローズドラゴンだったかな?―――に、フルボトルをセットする。

 

《グレートクローズドラゴン!》

《ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!》

《Are you Ready!》

 

「変身……」

 

《オーバーフロー!》

《Wake up CROSS-Z! Get GREAT DRAGON!》

《ブラブラブラブラブゥラァ!》

《ヤベーイ!》

 

フィーネの身体を赤黒い装甲が包み、漆黒のマントを背に着ける。

 

「仮面ライダーブラッド。貴様らに絶望を…そして永遠のシアワセを」

「心火を燃やして、ぶっ潰す!ハアアアアッ!」

 

ツインブレイカーを構えて、ブラッドに向かって走る。

しかし、その道を塞ぐようにスピリットスマッシュが立ちはだかる。

 

「どけえええッ!」

「さっさと沈みなさい!」

 

カマエルスマッシュが振り下ろした戦斧を躱し、殴り飛ばす。

 

「あんたみたいなの、嫌いなんだよねー」

「早く絶望してくださいまし!」

 

ハニエルスマッシュの槍を打ち払い、ザフキエルスマッシュの銃弾をバク宙して回避する。

着地した私は、ツインブレイカーにガトリングフルボトルとCDフルボトルを装填する。

 

《ツインフィニッシュ!》

「ハアアアッ!」

「甘いですわ、よッ!」

「お返ししてあげる」

 

ザフキエルスマッシュが手を掲げると、私が放った円盤上の光弾は全て消え去ってしまう。

さらにハニエルスマッシュの槍の複数の先端から、私と全く同じ攻撃が放たれる。

 

「グゥウウウ!」

「……フム。キャロルと言ったか。お前は良いのか?手助けしなくて」

「ふん。そいつがどうなろうと、オレの知ったことではない」

 

ハニエルの攻撃を耐えながら、キャロルちゃんの方をちらりと窺う。彼女はただ、私の視線に一瞬視線を交差させるだけだった。

 

「……だぁ!オオオオッ!」

「あらぁ?破れかぶれの特攻かしら?だったらお望み通り、散りなさい!」

 

突撃する私を、カマエルスマッシュが戦斧を振り上げ打ち上げる。

打ち上げられた私は、なすすべなくフェンスを突き破り屋上から落ちた。

 

「うわああああぁぁぁ………!」

「まずは一人。協力した方が勝機はあったかもしれぬと言うのに……」

「お前に1つ、忠告しておいてやろう」

「……?」

「アイツはな、存外しぶといんだ」

「……ハアアアアアアアッ!」

「何ッ!?」

 

フィーネから驚愕の声が漏れる。それもそうだろう。屋上から落ちた私が五体満足で戻ってきたのだから。

 

「ハアアアッ!」

「ちぃ!」

「グァ!」

 

そのままフィーネに殴りかかるも、フィーネの迎撃によって、今度は反対側へと吹き飛ぶ。

私は再び屋上から落ちる―――――ことはなく、()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なんだとッ!?しつこい!」

「がぁ!」

 

再び弾き飛ばされるもくるりと向きを変え、三度足場のない空中で今度はスピリットスマッシュに飛びかかる。

 

「なッ!?こいつ、なによ!?」

「変なやつ……」

「足場のような物は見えませんが、タネはあるのでしょうけどねぇ」

 

空中でいきなり方向を変える私の動きに、スピリットスマッシュたちはついてこれていない。

翻弄したそのままブラッドに向かっていき、その直前で上えと方向を変えた。

至近距離で方向を変えたためか、フィーネはタネに気付いた。

 

「これは……糸かッ!?」

「惜しいな。弦だ」

「貴様の仕業か、キャロルゥウウ!」

 

ここらへん一帯には、すでにキャロルちゃんによって弦が張り巡らせられている。

空中で方向を変えたりできたのは、この強度が十分な弦を足場にしていただけだ。

 

「リボルウルフ!クローズドラゴン!」

《ダイナミックブレイク!》

《レッツブレイク!》

「オオオオオオオオッ!」

「ナガッ!?」

「キヒッ!?」

 

跳びあがった先にある弦を足場にして突撃。

両腕のツインブレイカーを、ハニエルスマッシュとザフキエルスマッシュに叩きつけて床に沈ませる。

さらにスクラッシュドライバーのレバーを下ろして、その場で軽く跳躍しキックの体勢を取る。

 

《スクラップブレイク!》

「オリャアァッ!」

「グゥウウ!」

 

両肩の『マシンパックショルダー』からヴァリアブルゼリーを噴射し、その推進力でフィーネに向かっていく。

防ごうとしたカマエルスマッシュを弾き飛ばし、フィーネにキックを放つ。

 

「ふんッ!」

「ぐあッ!」

 

しかし、フィーネの触手によって弾かれてしまい、私は変身解除してしまう。

 

「終わりだ」

「ハァッ!」

 

フィーネは私に向かって禍々しい球体を放つが、私の前に立ったキャロルちゃんの持つ剣によって斬り払われる。

キャロルちゃんの剣は、まさしく闇を濃縮したかのような黒い剣だった。

 

「貴様……その剣はッ!」

「ああ、呪いを生み出し剣<ダイン=スレイフ>さ。呪いが貴様の理想を破壊する……なかなか面白いとは思わんか?」

「やらせるかッ!」

 

フィーネが再び球体を飛ばし、キャロルちゃんがそれを防ごうとした瞬間、私たちの前に舞い降りた光がフィーネの攻撃から私たちを守った。

 

「ッ!?なんだッ!」

「何が起こって……」

「その姿……まさか、メタトロンの……!?」

 

フィーネからはただの光にしか見えないようだけど、私たちからは目の前の光の中に、1人の少女がいるのが見える。

光の中の少女が私たちに片手を伸ばすと、伸ばした手から2つの光が私たちの手の中に収まる。

 

「これは、スクラッシュゼリー!?」

「なんという温かい光……」

 

私の手の中に佇む光は、1つのスクラッシュゼリーへと形を変えた。

キャロルちゃんも、自身の手の中にある光に魅入っていた。

光の中の少女は、私たちに何か伝えるかのように頷く。

 

「ええいッ!次から次へと!スピリットスマッシュ!」

「さっきからスマッシュ扱いが酷いわねー」

「はぁ……メンドクサ」

「キヒヒッ!まあ、まずはあの不愉快なものから……ッ!?」

 

フィーネの命令で攻撃しようとしたザフキエルスマッシュの腕が、どこからか飛来した大量の銃弾に弾かれた。

それだけでなく、フィーネたちに次々と火球が放たれ、ブーメランのように飛んできた戦斧によってスピリットスマッシュは床を転がる。

戦斧は箒に姿を変え、どこかに飛んでいく。

 

私たちが箒を視線で追うと、屋上の扉の上に誰かがいるのが分かった。

太陽の強い光で逆光になっているせいで、それが誰なのかはよく見えなかったが、少なくとも少女が3人いるのは分かった。

1人は天女のような羽衣に、炎を纏う戦斧を肩に担ぐツインテールの小柄な少女。

1人は魔女のような服に大きな帽子をかぶり、戻ってきた箒を両手で握りしめている少女。

1人はゴスロリ服を着て、両手に小銃を持つ長い黒髪の少女。

そして私たちの目の前にいた光の中の少女―――――王冠らしき物をかぶり、純白の天使のような姿をした少女がその少女たちの元に飛んでいく。

 

「――――――頑張って」

 

天使の少女がそう言うと、4人の姿は虚空に消えた。

 

「あーもう!何だって言うのよ!さっきから邪魔ばかりッ!」

「早く死んでよ……じゃないとさぁ、メンドクサイんだって言ってるでしょ……!」

「キヒッ!キヒヒヒヒヒッ!ぶち殺してやりますわ!」

 

スピリットスマッシュたちが苛立つ声に、私たちはハッと思い直し、スマッシュたちに向き直る。

そして私は、手の中にある『メタトロンスクラッシュゼリー』のボトルキャップを捻り、スクラッシュドライバーにセットする。

 

《メタトロンゼェリィィ!》

「変身…ッ!」

 

右手でレバーを下ろし、正面に伸ばしていた左手を横に振る。

巨大なビーカーが私を覆い、その中に白い液体と黒い液体が注がれ、未知の化学反応を引き起こす。

 

《混ざる!変わる!入れ替わるぅ!》

《絶滅天使!メタトロンイングリスチャァァアアジッ!》

《ヤベェェエエエエ!》

 

装甲を極限まで減らし、白と黒を基調としたスーツが私を包む。

両肩にあった『マシンパックショルダー』は、細長くなって『ツインパックブレイカー』となり、両肩の前と後ろと横に、白、黒、白黒が2基ずつの計6基が装着されている。

 

「仮面ライダーグリス メタトロンチャージ。心火を燃やして……絶滅させるッ!」

「……なるほど。ならばオレも!」

 

キャロルちゃんは、授けられた光がある手をグッと握りこむ。

散り散りになった光は、黒い光へと色を変えキャロルちゃんを包む。

 

「クックック……ハハハハハハッ!」

 

笑い声を上げながら光から出てきたキャロルちゃんは、その装いを喪服のように黒いドレスに変えていた。

右手に持った<ダイン=スレイフ>が呼応するように鈍く光り、闇のように黒いオーラを吹き出す。

しかし、その姿に恐怖を感じることはない。全てを受け入れる善なる闇のように感じ、逆に全てを委ねてしまいそうなほどに魅入らせる妖しい魅力がある。

 

「この力、確かに受け取ったぞ、前任者よ。反転体<デビル>……貴様らの全ては、虚無に還る」

「行こう、キャロルちゃん。ツインパックブレイカー!」

「ああ、<救世魔王(サタン)>!」

 

私の両肩の6基の『ツインパックブレイカー』を分離し、突撃させて光線を放つ。

キャロルちゃんも<ダイン=スレイフ>を指揮棒のように振るい、黒い王冠のようなものが分離した”羽”<救世魔王(サタン)>を射出し、スピリットスマッシュに次々と光線を放つ。

 

「こんのッ!」

「ハッ!」

 

カマエルスマッシュが火球を放つが、それをツインパックブレイカーを*状に組み合わせ、回転させて防ぐ。

そして、私はスクラッシュドライバーのレバーを下ろし、キャロルちゃんは踵を床に打ち付ける。

戻ってきた『ツインパックブレイカー』が、私の前で円環状に設置される。

 

「<塵殺公(サンダルフォン)>!<最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)>ッ!」

 

キャロルちゃんは、床から現れた玉座を<ダイン=スレイフ>によって砕き、左手に持って掲げている<塵殺公(サンダルフォン)>に欠片を集める。

 

「我、絶望をもって希望を(もたら)す者ッ!<終焉の剣(ペイヴァーシュヘレヴ)>ッ!!」

 

さらに、そこに<ダイン=スレイフ>をも取り込ませ、巨大な大剣を生成する。

 

「「ウオオオオオオオオオオオッッッ!!!」」

《エクスターミネーションフィニッシュッ!!》

 

円環状の『ツインパックブレイカー』の中央の穴から放たれる、黒と白の光線が

 

全てを呑み込み、絶望と言う名の”無”へと還す絶望の斬撃が

 

来禅高校の屋上を破壊して、フィーネたちを吹き飛ばした。

 

「おのれ……ッ!この空間も、最早持たんか!」

「あいつらぁ!いつかすり潰してやる!」

「メンドクサイ……本当にメンドクサイ奴ら!」

「キヒヒヒッ!ぜったいにぶち殺してやりますわ……!」

 

恨みのこもった言葉を吐きながら、フィーネたちはザフキエルの影で撤退する。

それと同時に、空に亀裂が入り広がっていく。

それを見た私は、疲労から床に座り込む。

 

「やっと終わった……」

「すべて、と言うわけではないがな……っと」

 

キャロルちゃんを包んでいたドレスが光となって弾け、子供の姿に戻る。

 

「どうやら、時間切れのようだな」

「……ねえ、さっき私たちを助けてれたのって………ッ!?」

 

気になっていたことを聞こうとした瞬間、キャロルちゃんの人差し指が私の唇に押し当てられた。

 

「知らないことにしておいた方が、女としては魅力的らしいぞ?ま、オレは勇のことは何でも知ってるし、知り続けるがな。だけどまあ……お前のことは特別に、頭の片隅に少しだけ憶えておいてやる」

「~~~~ッ!?!?」

 

やっぱりキャロルは、どこの世界でもキャロルということらしい。

得意げに微笑むキャロルちゃんはとても魅力的で……私は少しだけ赤くなった顔を隠すように、拗ねた感じに見えるようにそっぽを向いた。

 

 




キャロルちゃんここでも超強化☆(タク-Fさんから許可は貰ってます)

タク-Fさんの作品を読んでいる方は知ってると思うんですけど、勇君のキャロルめっちゃ強いんですよ。全ての精霊の力を使えて、錬金術師としての実力は最高峰で、おまけにスペックも限界突破。
さらには反転体まで……ヤバいな(手遅れ感)

勇君と七海の世界のキャロルとシャナの様子は、タク-Fさんの投稿で確認ください!

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次回予告

ブラッドとスピリットスマッシュを退けた2人は、分断されていた3人と合流する。

それぞれの無事を喜び合う中、5人はそれぞれの情報を共有する。

全ての生物それぞれの、理想とシアワセをもたらす<凶禍楽園>。

その恐ろしさを知った5人は、決戦へと身を投じる。

次回もお楽しみに!


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事件の真実、そして救援

前回のあらすじ

仮面ライダーブラッドこと享楽の巫女と再戦する七海とキャロル。

だが、ブラッドとスピリットスマッシュの力は強く、再び窮地に追い込まれてしまう。

しかし、メタトロンの前任者から力を譲り受け、新たな力で戦いに勝利する。

そして2人は、愛しき者と再会する。


世界の亀裂が広がり、パリィィンと言う音と共に世界が壊れた。

気づけば、勇君たちと出会ったあの森に戻っていた。

 

「「ナナ姉え!」」

「キャロル!シャナ!」

「勇!」

「キャロル!良かった!」

 

掛けられた声に振り向くと、キャロルとシャナ、勇君がやってくるのが見えた。

私たちも再会できたことが嬉しくて、お互いのパートナーを抱きしめる。

 

「良かった…良かった!」

「ナナ姉え…ナナ姉え……」

「また会えて嬉しい!」

 

3人で再会を喜んでいると、勇君とキャロルちゃんが近づいてきた。

見ればキャロルちゃんは、勇君の腕に抱き着いていた。可愛い。

 

「七海さん。お互い何があったのか、情報交換しませんか?」

「うん。分かった」

 

私たちは勇君とキャロル、シャナとそれぞれ得た情報交換を行った。

 

「………園神凛祢、か」

「はい。七海さんたちも聞いた<凶禍楽園(エデン)>は、凛祢が作り出す結界みたいな物なんです」

「園神凛祢は、オレと同じく感情の集合体だ。ただ、オレはキャロル・マールス・ディーンハイムの感情が元なのに対して、ヤツは様々な平行世界の人間たちの「幸せになりたい」と言う無意識下での願いによって生み出されたんだ。勇たち風に例えるなら、擬似精霊ってところかな」

「シャナさんの言うとおりです。そしてすべての生命体を幸せにすることを、彼女は使命にしています」

「そのための<凶禍楽園(エデン)>か」

「彼女は、この世界のフィーネ―――享楽の巫女の研究に目をつけ、その協力を申し出ました。そして凛祢さんは、ボクの力を奪い……」

「そしてフィーネは、私たちの世界からビルドドライバーとハザードトリガーを奪った。まあどっちかと言えば、狙いは力を回収するためのフルボトルだろうけどね」

「園神凛祢と言う人物と、享楽の巫女の最終的な目論見。それは、全ての平行世界を凶禍楽園(エデン)に呑み込むことなの、ナナ姉え」

 

その後も情報交換を続けたけど、園神凛祢と言う人物、そしてその目的ぐらいしか交換できることはなかった。

ああそうそう。勇君たちの方にも、スピリットスマッシュが現れたらしい。ラジエルとミカエル、ガブリエルが現れたらしい。

 

「……勇君、君はどう思う?彼女らの言う、理想郷は」

「……僕は、間違ってると思います。だって、確かに現実は非情で苦しいこともあったけど……その度に誰かが手を差し伸べてくれた。だから!僕はキャロルと出会う事が出来た」

「勇……」

「都合の良い理想に逃げることを、僕は悪いとは思いません。でも、僕は”今”を守りたい。大切にしたいものがあるんです!」

 

彼の覚悟を、私は目を閉じて聞く。勇君の思いと言うのが、ひしひしと伝わってくる。

……というか、何でキャロルとシャナは温かい目で勇君を見てるの?

 

「七海さんは、どう思ってるんですか?凛祢とフィーネの目的について」

 

勇君が私にも聞いてくる。

私の考えなんて決まってる。彼の隣にいるキャロルちゃんも、それが分かるのか、顔をソッとそむけた。

 

「私は………理想へなんて逃げるつもりもないし、逃げていいなんて思わない」

「ッ!?それは、どうしてですか……?」

「はっきり言えば、私は貴方よりも長生きだ。だからいろんな光景を見てきた。そんな私からすれば、理想への逃げなんて『生きることを諦めてる』んだよ」

「あ…………」

「なんども、理想へ逃げれたらって思ったりもした。でもその度に、現実を突きつけられて、結局は嘘なんだと分からされる。だから彼女たちの目的を認めないし、フィーネの過去にも同情しない。だって、それが彼女の意志だったんだから」

 

私の話に、勇君は口を半開きにして固まっていた。

今話したのは、前世の経験からくるものだ。現実の非情さは、多分彼以上に知っている。まあ、彼の過去を知らないから何とも言えないけど。

 

「それが、七海さんの考え………ッ?キャロル?どうしたの?」

「……ッ!いや、なんでもない」

 

少し暗くなった雰囲気を変えるために、パンッ!と手を叩いて立ち上がる。

 

「ここでおどおどしていても、何も変わらない。私たちがやることは、何も変わらないのだから」

「ああ、そうだな。ナナ姉えの言うとおりだ」

「オレたちの目的は、奴らを倒し元の世界に戻ることだ」

「……そうですね。僕達にも、大切なモノがある!」

「ならば、行くとするか」

「目的地は、<凶禍楽園>のコア、向こうにそびえる塔だ!行こう!」

 

私たちは、高くそびえ立つ塔に向かって森の中を駆けていく。

ある程度走ると、やがて開けた場所に出た。

そしてその瞬間、私たちに向けて火球が飛んできた。

 

「ッ!?避けて!」

「なんだッ!」

「―――や~っと来たわね」

 

何事かと火球が飛んできた方向に目を向けると、塔の方角からスピリットスマッシュが歩いてくるのが見えた。

 

「カマエルにハニエル、ザフキエルのスピリットスマッシュか……」

「僕達が戦ったラジエルにガブリエル、ミカエルも!」

「むん。ここから先は通すなと言われていてな」

「と言うわけで、皆さんには私のお人形になってもらいまーす!」

「はぁ!?何言ってんのよ!あいつらは私が燃やし尽くすのよ!」

「キヒヒッ!やられたことにお怒りとはいえ、落ち着いた方がよろしいのではなくて?」

「メンドクサ……なんか増えてるし」

「まーまー。さっさとやっちゃおうよ」

 

スピリットスマッシュたちはそれぞれの武器を手に、私たちへと襲い掛かってきた。

 

「さっさと死ねェ!」

「うわッ!」

「くそ!こんなところで戦ってる場合じゃないのに!キャロル!」

「分かっている!」

「「変身ッ!」」

《ロボットォイングゥリスゥ!》

《When the five horns cross,the golden soldier THOUSER is born.》

 

スピリットスマッシュの攻撃を躱して、仮面ライダーに変身した私たちは反撃を開始する。

勇君たちも、天使を呼び出して戦っているみたい。

その時、塔を中心に謎の波動が発生した。

 

『無駄な抵抗を続ける者どもよ。理想郷を否定する者どもよ』

「この声、フィーネか!」

『もうじき<凶禍楽園>は完成する。全ての人間、世界は己が理想の中に酔いしれる。その時こそ、真の平和が訪れるであろう』

 

それだけ言うとフィーネの声は途切れ、塔は不思議な光を明滅させる。

時間がないことに焦っていると、カマエルスマッシュが戦斧を振り回しながら迫ってきた。

 

「そこの金ぴかぁ!」

「グッ!」

「ナナ姉えッ!」

《JACKING BREAK!》

「ハアアアッ!」

「ちッ!」

 

カマエルスマッシュが怒り狂ったように攻撃してくるが、キャロルのサポートによって引き剥がすことに成功する。

そしてすぐにツインブレイカーにフルボトルをセットする。

 

「ナイスキャロル!」

《シングルブレィクゥ!》

「オラァ!」

「ガハッ!こいつ……ッ!」

「ッ!?」

 

私の攻撃にさらに逆上したカマエルスマッシュが火球を撃ちだそうとすると、私たちの間に何かが()()()()()

 

「……あー痛ってー!」

「ゴホッ!ゴホッ!……一体何が」

「え?もしかして、奏にセレナ!?」

 

煙の中から出てきたのは、天羽奏とセレナ・カデンツァヴナ・イブだった。

2人も私たちを見かけると、駆け寄ってきた。

 

「お姉ちゃん!先生!ようやく見つけましたッ!」

「お前らどこに行ってたんだよ!行方不明だってみんな心配してたんだぞ!」

「そうだったんだ……そうだ。2人とも!私たちは今時間がない。あいつらの相手を任せたいの!」

「は?アイツらってなんだよ」

「次から次へと……うっとおしいのよッ!」

「面倒事が増えた……」

「キヒヒヒッ!獲物が増えたと思えばよろしいでしょう?」

「なんだ、あいつら……?」

 

私が指差した方向にいるスピリットスマッシュたちに、2人は首を傾げる。

事態がよく呑み込めないのは分かるけど、今はとにかく時間がない。

 

「詳しい事情は後で説明するから!とりあえず、貴女たちはあいつ等を倒して!」

「……分かりました。詳しい事情はよく分かりませんが、私はお姉ちゃんたちを信じます」

「はぁ……ちゃんと後で説明してもらうからな」

「ッ!うん!」

「ここは任せるぞ」

 

私たちはこの場を2人に任せ、塔に向かって走る。

当然スピリットスマッシュたちは妨害してくるが、奏とセレナが防いでくれた。

 

「七海さん!」

「勇君、キャロルちゃん!そっちは大丈夫だった!?」

「はい!心強い救援が来てくれましたし!」

「……?まあいいや、とにかく時間がない!」

「分かっています!急ぎましょう!」

 

勇君たちとも合流した私たちは、急いで塔へと向かうのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

<奏side>

 

あたし達は、S.O.N.G.の新たな施設で、突然いなくなった七海とキャロルの発見報告を待っていた。

その時、あたしの頭の中に突然女の声がした。

 

『――むん。お前たちがグリスとやらの世界の住人か』

「「ッ!?」」

 

その声に驚いて急に立ち上がったあたしを、周囲のやつらが怪訝な目で見てくる。

というかセレナのやつも立ち上がってるじゃねえか。ってことは、セレナにも聞こえたのか?

 

『詳しい事情を話している時間が惜しい。お前たちをグリスの元に送る。我らでは、どうも手を出すことが難しいようじゃからのう』

 

再び声が響くとともにあたしの意識が光に覆われ、あたし達は気づいたら変な場所にいた。

しかもそこには七海たちがいて、なんか知らねえけどあのスマッシュみたいなのを倒してくれって言われた。

余程時間がないことが感じられたので了解すれば、七海たちは急いで塔みたいな場所に走って行った。

だが、その七海たちに斧を持ったスマッシュが、攻撃しようとしているのを見つけた。

 

「ッ!行かせるわけないで…ッ!」

「そうは問屋がおろさねえな、スマッシュさんよ」

「お姉ちゃんたちの邪魔はさせません」

 

スマッシュみたいなやつの攻撃を、あたしのショットライザーで妨害する。

でっかい斧を持ったやつは、怒り狂ったような唸り声を上げた。

すげえな。あいつら顔がないのに、怒ってるのがすげえ分かる。

 

「グッ!」

「キャァ!」

「いてて……」

 

睨みあっていると、スマッシュたちの元に3体の新しいスマッシュが転がってきた。

 

「ふふふ……せっかく勇君から頼まれたんだもん。ちゃんとやり遂げなきゃ」

「てめえらにゃ、さっさとぶっ倒れてもらうぜ」

 

そしてそのスマッシュたちを吹っ飛ばしたのは、イチイバルを纏ったクリスとたしか響の親友だっつう小日向未来だった。

小日向未来は、私たちも見たことない紫色のシンフォギアを纏っていた。

 

「クリスッ!?お前もこっちに来てたのか!?」

「あ?あんた誰だよ?」

「あれは……たしかツヴァイウィングの天羽奏さん?でも、あの時に亡くなったはずじゃ……」

「はあ?何縁起でもないこと言ってんだよ?」

「これは……よくよく見れば、クリスさんが纏っているイチイバル、私たちが知っているものとは少し形状が違いますね」

 

あー!あたしにはこういうことよく分かんねえ!

だけど、少なくともこいつらが敵じゃねえってことは分かる。

 

「よく分かんねえけど……お前たちもあいつら倒してえんだろ?だったら協力しようぜ」

《ランペイジバレット!》

「そうですね……その方が、安全に戦えます」

《ブレイブ!》

 

あたし達は『ランペイジガトリングプログライズキー』と『セインティングペガサスムゲンライズキー』を起動し、それぞれのライザーにセットする。

 

《オールライズ!》

《ムゲンライズ!》

《 《Kamen Rider...Kamen Rider... 》 》

「「変身ッ!」」

《フルショットライズ!》

《スラッシュライズ!》

「さっきから……私たちを無視してんじゃないわよぉ!……ガッ!」

 

スマッシュの一体が走ってくるが、周囲に現れたライダモデル達に弾き飛ばされる。

あたしに向かってくる5発の銃弾を、拳や蹴りで弾き、分解された銃弾があたしの身体を包む。

そしてライダモデル達も装甲の一部となって、あたしの右半身に装着されていき、あたしは仮面ライダーランペイジバルカンに変身を終える。

 

《Gathering Round! ランペイジガトリング!》

《マンモス!チーター!ホーネット!タイガー!ポーラベアー!スコーピオン!シャーク!コング!ファルコン!ウルフ!!》

《Hope of legend! セインティングペガサス!》

《The sword that pays the darkness is the proof of the king》

「なんだあれ……シンフォギア…じゃねえよな」

 

クリスの戸惑った声が聞こえる。やっぱライダーシステムのことを知らないのか?

まあ、悪い奴らじゃねえだろうな。

 

「シャッ!行くぜ!」

「ハアアッ!」

 

同じく仮面ライダー迅に変身したセレナと、スピリットスマッシュに向かってあたし達は駆け出した。

 

 

 

 

 

 




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次回予告

それぞれの世界からの救援者に、スピリットスマッシュを任せた4人は塔の内部へと突入する。

そこで待っていたのは、仮面ライダーブラッドと精霊としての力を解放した園神凛祢だった。

<凶禍楽園>を賭けて、それぞれの願い、思想、覚悟、使命が交錯する。

次回もお楽しみに!


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歪み出した理想

前回までのあらすじ

フィーネと園神凛祢の目的を共有した5人。

今を生きることに意味を見出す七海たちは、<凶禍楽園>のコアの塔へと向かう。

しかしそれを妨害するスピリットスマッシュに、足止めをされてしまう。

その時、<封解主(ミカエル)>の前任者によって頼もしい救援がやってきた。

スピリットスマッシュを彼女たちに任せ、5人は塔へと向かう。


《黒幕side》

 

凶禍楽園(エデン)>のコアでもある塔の最上階。そこでは、モニターにて外の様子を見ているフィーネと園神凛祢がいた。

 

「……奴らの世界からの救援……余計な真似を!」

「性質的にミカエルかな?でもまあ、世界を超えるなんて無茶をしたんだから、しばらくは手を出せないと思うよ?」

「ふん!ならばさっさと奴らを叩き潰し、<凶禍楽園>を起動させようではないか!」

 

「「―――そうはさせるかッ!」」

 

一組の男女の声が響き渡ると同時に、ブラッドと凛祢の背後の床が轟音と共に爆発した。

 

「やっぱり君たちはくるよね」

「ついに来たか……」

 

粉塵が晴れるとそこには、七海たちの姿があった。

 

 

《七海side》

 

スピリットスマッシュをセレナたちに任せた私たちは、<凶禍楽園>のコアである塔に到着した。

ただ、中は長い螺旋階段になっていて、普通に上るんじゃ間に合わないので床をぶち抜いてきたのだ。

 

「我々の尊き理想を理解できぬ者たちよ。ここでつぶしてやろう!」

「上等ッ!あんた達のくだらない計画は、私たちがぶっ潰す!」

 

何の前触れもなく、私とフィーネがぶつかる。

 

「ナナ姉え!?ああもう!勇、そしてお前!園神凛祢を頼むぞ!」

「ハァ!」

「ふんッ!」

 

私とフィーネの戦闘にキャロルも混ざり、2体1となるけど油断できない。

 

《ドリルクラッシャー!》

「消えろッ!」

「グァ!」

「ガッ!」

 

フィーネはドリルクラッシャーを取り出し、私たちは斬撃を食らって吹き飛ぶ。

 

「貴様ら程度に、我が悲願を邪魔できると思うなぁ!」

「……何が悲願だ……身勝手な理想を押しつけておいてッ!」

「オレたちはな、お前のような奴が大っ嫌いなんだよ!」

 

思えばネフィリムの変異体……アークゼロもそうだった。アイツは歪んだ悪意で、身勝手な結論を導きだし私たちを滅ぼそうとした。

そんな押しつけは私たちにはいらない。私たちの幸せは、私たちで決める。

決意を胸に秘め、私はクラッシュブースターを取り出して、スクラッシュドライバーにセットする。

 

《チャージ!》

《オーバーグリスゥ!》

「心火を燃やして……ぶっ潰すッ!」

《オーバーチャージィ!》

 

私を覆うようにガラスの筒「ケミカライドグラス」が形成され、スクラッシュドライバーのプレス部分を模した『クラッシュプレス』が、ケミカライドグラスを挟むように展開される。そして、ケミカライドグラスの中がマグマのような煮えたぎった液体で満たされていく。

 

《限界ブレイクゥ!激熱突破ァ!オーバーグリス!》

《ウラアアアアアアア!》

 

クラッシュプレスがケミカライドグラスを勢いよく挟み込み、粉々に破壊する。中の液体が溢れだし、ぼこぼこと沸騰した液体が爆発し私の姿をさらけ出す。

 

「仮面ライダーオーバーグリス。心火を燃やして……行くぞぉぉおお!」

「ハアアッ!」

《JACKING BREAK!》

「ヌゥ!」

 

キャロルがフィーネの周囲に火柱を立たせて牽制し、私はブースターを起動させ低空飛行で接近する。

スチームパンツァーを振るい、フィーネを攻め立てる。

 

「オオオオッ!」

「ヌァッ!」

「グゥ!」

 

フィーネは触手を無茶苦茶に振り回して、強引に私たちを吹き飛ばした。

 

「崩壊していない世界でのうのうと暮らす貴様らが、何を背負う!あまねく人間たちの理想を叶えようとする私の決意が、何故わからん!」

「決意……はっ!よく言うよ!」

「なに!」

「ならなんで!貴女は精霊の力を使おうとする!?この世界の文明を発展させてきた貴女が、何故()()()()()()()()()()()()()()()

「…………」

 

私の指摘にフィーネは黙り込む。

そもそもの疑問はあった。この世界の文明を発展させてきたのは、彼女が巫女として神の声を聞いたこともあるだろう。だけどそれ以上に、彼女の優秀さもあるはずだ。なぜなら、この世界がほろんだ後も、フィーネは研究を続けていたのだから。

 

「貴女は何を目指している?本当の目的は、一体なんなんだ!」

「……クックックッ…ハッハッハッハッハッ!!」

 

さっきからずっと黙っていたフィーネは、顔を上げたと思ったらいきなり笑い出した。

それはまさしく狂人のそれであり、私たちはこの瞬間確信した。この人には裏がある、と。

 

「まさかそこまで知られているとはな……お前たちの言うとおりだ。私にとって、すでに死んだ者の願いなどどうでも良い!」

「貴様ぁ……」

「凛祢のヤツは、使命とやらを果たすことにしか興味がないようだしな。ならば私が、<凶禍楽園>の主となり全ての平行世界を総べて見せようではないか!」

 

全ての平行世界の支配。それがフィーネの本当の目的。

一度は世界の復興を志し、果てしない時の中で彼女の夢は歪んでしまったのだろう。

 

「……なら私たちは、貴女の歪んだ夢をぶっ潰す」

「やって見せろ、小娘どもがぁ!」

「「ウオオオオッ!」」

 

私たちは彼女の危険な思想を止めるため、己の全力で彼女に攻撃する。

 

「ハアッ!」

 

フィーネの左手を掴んで逃がさないようにして、何度もスチームパンツァーを叩きつける。

拘束を強引に解かれるも反撃を躱して、ケリをお見舞いしてやる。

 

「グッ!」

「貴様のようなやつを放っておけない!」

『平行世界にだって、必死に生きているやつらがいる!貴様の身勝手に巻き込ませるわけにはいかない!』

《JACKING BREAK!》

 

キャロルが放った斬撃は火の鳥の形になり、フィーネはコブラ型のエネルギー体を放つ。

火の鳥とコブラがぶつかり合い、激しく拮抗する。

しかし、キャロルの火の鳥がフィーネのコブラを打ち破り、フィーネを吹き飛ばした。

 

《ブーストアタック!》

「オラァ!」

「グァ!」

 

高速で接近した私は、フィーネを打ち上げる。

そして、スクラッシュドライバーのレバーを下ろし、キャロルはプログライズキーを押し込む。

 

《オーバーバースト!》

「「ハッ!」

 

私たちは同時に跳びあがり、フィーネを挟み込む形でキックを放つ。

 

《バーストフィニッシュ!》

《サウザンドディストラクション!》

「「ハアアアアアアアッ!」」

「グアアアアアアッ!」

 

私たちの必殺技を食らったフィーネは、変身が解除されなかったものの床に倒れこんだ。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…よし……!」

「やったか…!」

 

フィーネを倒したことに喜び合う。

勇君たちの方を見れば、向こうも終わったようで、向かい合って何か話していた。

全てが終わった。そう思ったことで気が緩んでしまった。

 

私の視界の端を何かが通り過ぎていき――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――――園神凛祢を刺し貫いた。

 




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次回予告

やっとのことで、それぞれの相手を倒した5人。

しかしその瞬間、フィーネは驚きの手に打って出る。

決戦の時は、今訪れる。

次回もお楽しみに!




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シアワセの居場所

前回までのあらすじ

救援者たちにスピリットスマッシュを任せ、塔に突入した七海たち。

最上階で待ち構えていたフィーネと園神凛祢との決戦に臨む。

フィーネの思想が、すでに歪みきったことを悟った七海とキャロルは、フィーネを見事撃破する。

しかし勝利の歓喜も束の間、勇と和解しかけていた凛祢が刺し貫かれてしまい……


 

――――園神凛祢が刺し貫かれた。

 

まさかの事態に動揺した私たちは、彼女がいつの間にかフィーネの元に引き寄せられるのを、呆然と見ているだけだった。

よく見れば、園神凛祢を貫いているのは、フィーネの触手だということが分かる。

 

「まだだ……まだ終わらん!」

「フィーネッ!」

「貴様、諦めが悪すぎるぞ!」

「凛祢ぇ!」

「私の理想は……まだ終わらないッ!」

 

フィーネがそう叫ぶと、彼女の身体が赤黒いスライムのような物に変わり、凛祢を覆い尽くす。

すると、スライムは躍動し辺り一帯に衝撃波をまき散らす。

 

「うわぁ!」

「ぐぁ!」

 

私たちはその衝撃波に吹き飛ばされ、私とキャロルは変身が解除されてしまう。

 

「七海さん!」

「おいお前たち、大丈夫か!?」

「ぐ……なんとか」

「くそ……」

 

どうにかして立ち上がると、目の前には巨大なスマッシュがいた。

塔から突き出るほどの巨体に、無機質な身体と顔のない頭。さらに神々しくも禍々しいローブ、頭部には歯車のようなエンブレムが付けられている。

そして特徴的なのは、髪と思われる部分が巨大な蛇になっており、体中にも蛇が絡みついているような装飾が散見される。

 

「ハハハハハハッ!素晴らしい!このスピリチュアルスマッシュの力があれば……全ての平行世界を理想の荒波に沈め、完全な支配すら可能だ!ハハハハハッ!」

 

興奮したフィーネは高笑いを上げて、自らが得た力に酔いしれる。

そして、その足元にいる4人は、その姿に唖然とする。

 

「なんだこの姿……まるで凛祢とそっくりだ」

「なんと巨大で禍々しい力……これが、精霊を取り込んだスマッシュ」

「どうする!?このままだと、何もかもヤツの思い通りだぞ!」

 

その時、ひとしきり笑い声をあげたフィーネが、私たちに視線を向けた。

視線を表す眼がないが、私たちは蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。

 

「礼を言うぞ……貴様らの力が、私にこの神にも等しい力を得るに至らせた。ふん……凛祢も馬鹿な奴だ。自らが課せられた使命を、一時の情で放棄するとはな。大人しく使命とやらに殉じていれば、いい夢を見せてやろうとしたものを。まあアイツも、所詮は中途半端な出来損ない。ならばそのような役立たずは、私が利用してやろう」

「―――ちがうッ!」

 

その物言いに、真っ先に声を張り上げた者がいた。

 

「勇……?」

「凛祢は…彼女は決して、出来損ないなんかじゃない!」

 

そう言って勇君はフィーネに向かって、はたから見ても分かるほどの怒気と共に言葉をぶつける。

 

「彼女だって……苦しんでいたんだッ!望んで生まれたわけでもない彼女が、生まれた時から抱える使命に悩み!苦しみ!必死に足掻いてきた!そんな彼女を、出来損ないだなんて言うな!」

「フィーネ。お前は言ったな。凛祢の感情を、一時の情だと」

「シャナ……」

 

気づけば、キャロルの身体からシャナが分離しており、フィーネを見上げていた。

 

「オレと園神凛祢は違う。生まれも、元となった感情も、そして今の立場だって……だけど、それでも同じこともある。過去のオレも、アイツも、ただ求めていたんだ。他人からの優しさ…いや、”愛”という世界で一番素敵な感情を」

「それがどうしたぁ!」

「まだ分からないか?例え生まれが何だろうが、使命を抱えていようが、()はその鎖に雁字搦めにされているだけではない!他者と繋がり、その鎖を必ず外して飛び立つんだッ!」

 

珍しく語気を荒げたシャナがそう言うと、勇君はフィーネに人差し指を突きつける。

 

「フィーネッ!貴女は憐れな人だ。人と人を繋ぐ絆を、痛みだけだと勘違いしていたあの時の貴方の方が、まだ人と分かり合う努力を出来ていただろうに……貴女はそれすら放棄したッ!だから僕たちは貴方を倒す!覚悟しろ、()()()()()()()()()

「貴様ァアアアアッ!黙って聞いておればいい気になりよってぇえええええッ!」

 

勇君の最後の一言……かはわからないけど、激怒したフィーネは私たちに向かって触手を伸ばしてくる。

だけど……さっきの間に準備はすでにできた。

 

「何ッ!?」

 

フィーネの声に驚愕の色が混ざった。

それもそうだろう。彼女が伸ばした触手が、何かに弾かれたんだから。

 

「これは…!?」

「―――勇君ってさ、結構毒舌だったりするのかな?」

「七海さん…もしかしてこれって」

 

勇君の質問に、肯定の意味の頷きを持って返す。

私の左手にはシンフォニーフルボトルがある。これを使って、フルボトルやプログライズキーでフィーネの触手を弾いたのだ。

 

「やれやれ……さっきからいい場面を取られっぱなしだよ」

「仮面ライダー……貴様らも私の邪魔をぉおお!なぜ理想郷を望まないッ!」

「―――理想郷は既に存在している」

「……バカなッ!?何を言っている!」

「帰る場所があって、仲間がいて、友人がいて、家族がいて……愛する人が隣にいる。そこが私の理想郷だ。わざわざ貴女なんかに作ってもらう必要はないッ!」

「そういう事だ。勘違いの輩にはご退場願おう」

《ハーモニー!オールセット!》

《マボロシ!Evolution!》

 

私はシンフォニーフルボトルの起動スイッチ『ミックススターター』を押し、器用に左手でひっくり返して右手に持ち替え、ビルドドライバーにセットする。

キャロルはサウザンドライバーの右側にビギニングドラゴンムゲンライズキーをセットする。

さらに、エンディングアルケミストプログライズキーを、キー状態へと展開し天へと掲げて、ライダモデルとファントムモデルを呼び出す魔方陣を展開した。

 

《シンフォニー!》

《ブレイク!ホープ!》

「オレもキャロルの中にもど…ッ?」

 

キャロルの中に戻ろうとしたシャナの手を、当のキャロルに掴まれて困惑するシャナ。

そんなシャナに、キャロルは気恥ずかしさからか、薄っすらと赤くなった顔で呟く。

 

「お前は一人じゃない……」

「は?」

「お前は!……”愛”を知っているんだろう?」

「ッ!……ふ…そうだな」

 

2人の様子を横目で見ながら、私はビルドドライバーのレバーを掴んで回す。

『ケミカライドファクトリーステージ』が展開され、周囲を飛んでいたフルボトルやプログライズキーも、近くに寄ってくる。

キャロルの方も、錬金術師型のライダモデルとドラゴン型のファントムモデルが召喚され、キャロルはプログライズキーを、サウザンドライバーの左側に差し込む。

 

《オラァ!〈ラァ!〉オラァ!〈ラァ!〉オラァ!〈ラァ!〉》

《Are you ready?》

「「……変身ッ!」」

《コンプリートライズ!》

 

正面に伸ばしていた右腕を振り下ろした私を、フルボトルやプログライズキーが融合したスーツが覆い、更にシンフォギアのアームドギアが分解、再構成された装甲が装着されていく。

そして希望を知らせる音色へと、その姿を変えた。

 

《完全調和のゼリーヤロー!》

《グリスシンフォニー!》

《オラオラオラオラオラァッ!》

 

キャロルの前後に降り立ったライダモデルとファントムモデルが、装甲としてキャロルの身体を包んでいく。

その過程でシャナもキャロルの身体に戻り、ここに絶望にとっての災厄が生まれた。

 

《Thouzer,the ruler of destruction and rebirth,reigns here》

「『仮面ライダーカラミティサウザー……絶望よ、恐れ震えよッ!』」

 

決着をつけるべく、仮面ライダーに変身した私たちの隣に、横にやってきた勇君とキャロルちゃんも並ぶ。

 

「……これが、仮面ライダー」

「オレたちも負けてられん。勇、ここは一気に決めてやろう!」

「ああ、キャロル!」

 

キャロルちゃんはダウルダブラを纏い、勇君も複数の天使を顕現させる。

フィーネはどこか恐れるように、そしてその自分が許せないとばかりに吠える。

 

「どこまでもコケにしおって……ここで潰してくれるわぁああああ!!」

「享楽の巫女フィーネ!貴女は私たちが倒すッ!」

「凛祢も返してもらうぞッ!」

 

 

「「さあ……心火を燃やして、戦争(デート)を始めよう!」」

 

 

 




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次回予告

凛祢を取り込み、スピリチュアルスマッシュへと変貌したフィーネ。

取り込まれてしまった凛祢を救うため、そして望む幸せを掴むため。

世界を越えた5人の、最後の戦いが幕を開ける。

次回もお楽しみに!


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勇気の結晶

前回のあらすじ

園神凛祢を取り込み、スピリチュアルスマッシュとなったフィーネ。

それでも七海たちは立ち上がり、全ての平行世界を守る戦いに挑む。

ここに最後の戦いが始まる……


 

《ホークガトリンガー!》

《ショットライザー!》

「ハアアアッ!」

「小賢しい!」

 

ホークガトリンガーとショットライザーを召喚した七海は、タカフルボトルの力で生成した羽で飛行しながら、2丁の銃を乱射する。

しかしフィーネに効いている様子はなく、逆にフィーネの放った光弾が七海に命中する。

 

「まだまだぁ!」

 

電車フルボトルの力で空中に線路を伸ばし、その上を走行する。

さらにありったけの射撃武器を召喚する。

 

《アタッシュアロー!》

《カイゾクハッシャー!》

《オーソライズバスター!》

《アタッシュショットガン!》

《イチイバル!》

「撃てッ!」

 

全ての武器から銃撃され、天使を召喚して戦っている勇君たちの攻撃も合わさって、さしものフィーネもたじろぐ。

 

「ぬぅ……!舐めるなぁ!」

「うわッ!」

 

スピリチュアルスマッシュの頭に髪のように伸びている巨大な蛇に、前の線路を破壊されてしまい、私は宙に投げ出される。

その隙を狙って、6体ほどの蛇が私を噛みちぎろうと向かってくる。

 

「――オレがいることを忘れるなッ!」

《JACKING UNITE!》

 

しかし直前で、キャロルの生成したソードクリスタが蛇の攻撃をうまく逸らし、その隙にジェットフルボトルで生成した戦闘機に着地する。

すぐに弾幕を張って蛇を牽制していると、私の隣に風の術式で飛んできたキャロルが並ぶ。

 

「ありがとう、キャロル!」

「礼には及ばん。あの蛇はオレが蹴散らすぞ!」

「分かった!」

 

そう言うやいなや、キャロルはサウザンドジャッカーに『アメイジングコーカサスプログライズキー』を装填し、『ユナイトコーカサス』のスクリーンを操作してレバーを引く。

 

《THOUSAND UNITE!》

「オオオオオッ!」

 

恐れることなく蛇の群れに突撃したキャロルは、サウザンドジャッカーで蛇を次々と切り裂いていく。

一撃ごとに、サウザンドジャッカーの刀身に違う属性が付与されていく。

燃え盛る炎の剣、荒れ狂う水流の剣、絶対零度の氷の剣、雷鳴迸る雷の剣、全てを犯す毒の剣、串刺しにする牙の剣。

それらが、蛇を切り裂き、貫き、爆発する。

 

《アメノハバキリ!》

《アガートラーム!》

《シュルシャガナ!》

《ガングニール!》

《イガリマ!》

 

そして蛇が一掃された道を私は進む。

それを阻むかのように新たに現れた蛇を、天羽々斬のカタナとアガートラームの操舵剣、シュルシャガナの鋸にガングニールの大槍で切り裂き、私も2振りのイガリマの鎌で細切れにする。

 

《フィーバー!》

《ライダーパート!シンフォギアパート!オールパート!》

「ハァ!」

《Ready Go!》

《シンフォニックフィニッシュ!》

「ハァアアアアアアアッ!!」

「何ッ!?…ヌァアアアアッ!」

 

載っていた戦闘機から跳躍し、フィーネに向けてキックを放つ。

勇君とキャロルちゃんに目が向いていたフィーネは、私のキックに反応できず、顔に命中した。

 

「七海さん!」

「勇君!……ッ!」

「小娘どもおおおお!」

 

体勢を崩しながらも立て直したフィーネは、巨大な大剣を呼び出して横なぎに振るう。

躱しきれなかった私と勇君は、剣圧に吹き飛ばされ壁に激突した。

 

「ぐあッ!」

「ガッ!……今のは、<塵殺公(サンダルフォン)>か……」

「そうだッ!貴様から奪った精霊の力と、欠片とはいえ凛祢が奪った精霊の力。今の私は、全ての精霊の力を持っていると言っても過言ではない!<灼爛殲鬼(カマエル)>!」

 

フィーネの正面に今度は巨大な戦斧が召喚され、私たちに向かって巨大な火球が放たれた。

 

「<氷結傀儡(ザドキエル)>!」

 

すぐに勇君が氷の障壁を形成するも、火球の爆発と共に粉々に砕け散る。

飛散する氷の欠片に、何故か伸ばしていた私の手が当たり―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!」

 

――――気づけば、光の中にいた。

私の姿も変身前のものになっている。

 

「ここは……?」

「―――あのぉ……その」

「うわッ!びっくりしたッ!」

「ひぅ!ご、ごめんなさい!」

 

突然の出来事に困惑していると、背後から声を掛けられて驚いてしまう。

向こうも急に大声を上げた私に驚いたのか、身体を跳ねさせて謝ってきた。

 

「ってか、子供……?」

「は、はい」

『ところがどっこい、普通の子供じゃナッシーング!』

「何それ…?腹話術?」

 

私に声をかけてきたのは見るからに幼い子供だった。

緑色のレインコートを羽織っており、大きなうさ耳が着いたフードをかぶっていて、いかにも気弱そうな女の子である。

その上、左手にはウサギのパペットが装着されている。しかもこいつ、喋る。腹話術……だよね?

 

『よしのんねぇ、よしのんって言うんだよぉ!それでこっちの可愛い女の子は、四糸乃(よしの)って言うんだよ!よろしくね、七海ちゃん!』

「ッ!?私の名前を……」

「えっと…勇さんを通じて、いろいろと聞いていましたから」

「そうなんだ。えっと、それで私に何の用かな?早いところ戻りたいんだけど」

『まあまあ、そう慌てなさんな!ここだけの話ぃ、あれ倒すのに苦労してるんでしょ?』

 

よしのんの言葉に、私は苦渋の表情を浮かべる。

たしかにフィーネの言葉が本当なら、フィーネは全ての精霊の力を持っているはずだ。

そんな相手ならば、一筋縄ではいかないだろう。

 

『というわけでー!なんとよしのんたちがお手伝いしちゃいまーす!』

「え?」

「これを…受け取ってください」

 

そう言って四糸乃ちゃんが右手を差し出すと、その上に淡い光が集まり、あるアイテムに姿が変わる。

 

「グリスブリザードナックル……!?」

「これには私の力が込めてあります。精霊の力なら、きっとあの怖い人と戦えると思います……」

「……でも、どうして私に?」

「七海さんの勇気が、すごいって思ったんです。私って怖がりだし、中々勇気が出ないから……応援したいって、そう思ったんです!……ふにゃっ!?」

 

いつの間にか語気が強くなっていたことに気付いたのか、顔を赤くして恥ずかしがっている四糸乃ちゃんの頭を撫でる。

こんなに気弱そうな子が、こうして勇気を出してくれたんだ。素直にすごいって思えるし、なにより、ここまでされてやらない方が恥ずかしい。

 

「ありがとう、四糸乃ちゃん。貴女が出してくれたその勇気、私が絶対に無駄にしない」

『ねえねえ、よしのんは~?』

「おっと、そうだった。貴女もありがとう……そろそろ行かなくちゃ」

「はい!頑張ってください!」

『ばーいばーい!』

 

 

 

 

 

 

 

「ぅ……」

 

少しの頭痛と共に意識が覚醒した。

周りを見渡してみると、氷の破片が未だに散らばっており、どうやらほとんど時間が経っていないようである。

 

「貴様らもこれで終わりだ!」

「<颶風騎士(ラファエル)>の槍か!」

「死ねええええッ!」

「―――いや、死なないよ」

 

再び氷の障壁を作ろうとした勇君の前に立ち、飛んできた槍をグリスブリザードナックルで粉砕する。

 

「貴様!その手に持っているものは…!」

「<氷結傀儡(ザドキエル)>と同じ……いや、ほとんど<氷結傀儡>そのもの!?」

「そう……誰かのためを思う少女の、勇気の結晶」

 

変身を解除して、左手に出来た『ノースブリザードフルボトル』を振り、ボトルキャップを捻ってブリザードナックルに装填する。

 

《ボトルキィィイインッ!》

 

そしてグリップ部分を上げ、ビルドドライバーへとセットする。

 

《グリスブリザァァアアドッ!》

 

ビルドドライバーのレバーを回すと、辺り一面に冷気が発生し、私の足を膝上まで凍結するが気にしない。あれだけ心優しい少女の贈り物だ。恐れるものなどない。

 

「貴様らは自らの幸せの為に、多くの理想を切り捨てるのか!?その覚悟があるとでも言うのか!?」

《Are you Ready!》

「………できてるよ」

 

両手を勢いよく振り下ろした途端、私の背後に出現していた『アイスライドビルダー』が、大量の液体窒素のような液体『ヴァリアブルアイス』をぶちまけ、私は氷塊となる。

その私をアイスライドビルダーが押し割ると、中から絶対零度のスーツに包まれた仮面ライダーが現れる。

 

《激凍心火!》

《グリスブリザァァアアドッ!!》

《ガキガキガキガキガッキィィイイイン!!》

「心火を燃やして……ぶっ潰す……」

 

メタリックブルーの装甲に、左手にあるパワーハンド『GBZデモリションワン』。

 

仮面ライダーグリスブリザード。

今ここに、仮面ライダーグリスは進化したのだ。

 

 




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次回予告

精霊である四糸乃から、<氷結傀儡>の力を授けられた七海。

七海と四糸乃の思いは、新たな力を目覚めさせた。

仮面ライダーグリスブリザード。心火を燃やして、ぶっ潰す!

次回もお楽しみに!


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念願の救出

前回までのあらすじ

スピリチュアルスマッシュと化したフィーネとの戦闘は、激しさを増していく。

4人はそれぞれ攻撃を加えていくも、全ての精霊の力を宿したフィーネには効いている様子がない。

しかし、精霊 四糸乃の力を授かり、七海は仮面ライダーグリスブリザードに変身した。

精霊の力を得た七海は、猛反撃を開始する……


「仮面ライダーグリスブリザード……心火を燃やして……ぶっ潰す」

「あれが、七海さんの新たな力……」

「ナナ姉え……」

「なんだ……何なんだ貴様らはぁ!なぜ何度でも立ち上がる!?なぜその度に強くなる!?理解不能……なんだと言うのだぁ!?」

正義の味方(仮面ライダー)さ……ハァ!」

 

そう短く言い、私はフィーネに向かって走りだす。

 

「ちぃ!スピリットスマッシュ!」

 

フィーネは焦った様子を見せながらも、私の目の前に今迄に戦ったスピリットスマッシュを召喚する。

だけど今の私は、負ける気がしない。体の底からあふれ出す力、スピリットスマッシュなんかに止められない!

 

「ハアアアアッ!」

 

カマエルスマッシュの戦斧の一撃を躱し、無防備な背中に左手のパワーアーム『GBZデモリションワン』を叩きつける。

前方に倒れ、四つん這いとなったカマエルスマッシュを踏み台にして跳躍し、他のスピリットスマッシュに飛びかかる。

 

「死闘ッ!」

 

ガブリエルの音とザフキエルの銃弾をものともせずに突き進み、ラリアットで地面に引き倒す。

 

「渾身ッ!ラァ!」

《グレイシャルナックル!》

《カチカチカチカチカチーン!》

 

冷気を帯びたブリザードナックルで、ハニエルとミカエル、ラジエルを殴り飛ばす。

 

「全霊ッ!」

 

『GBZデモリションワン』を地面に叩きつけ、私の周囲に鋭いつららを突き出してスピリットスマッシュを全て吹き飛ばす。

 

「これが私の……祭りだぁ!」

「……おい、なんだあれはッ!」

「ナナ姉え、たまにああいうところがあるからなぁ」

「キャロル!キャロルちゃん!手伝って!」

「ッ!ああ!おい……非常に癪だが、手を貸せ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……ふん!今だけだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

『喧嘩なら後にしろ。まあ、喧嘩するほど仲が良いとは言うがな』

「「良くない!!」」

《JACKING UNITE!》

『オレが構築する。お前たちは好きにぶっ放せッ!』

 

キャロルがサウザンドジャッカーを床に突き立て、キャロルちゃんはダウルダブラの弦を弾く。

すると、2人の背後に機械的なフォルムの巨大な緑色の獅子が組み立てられた。

 

「「オオオオオオオオオオオオッ!!」」

「GAAAAAAAA!!」

 

巨大な獅子が虹色の光線を放ち、カマエルとラジエル、ミカエルの悲鳴すら呑み込んで消し去った。

私も負けじとビルドドライバーのレバーを、一回転させる。

 

《シングルアイス!》

《Ready Go!》

「ハアアアアッ!」

 

氷で巨大化させた『GBZデモリションワン』で、ザフキエルと叩き潰し、そのまま引きずるようにしてガブリエルを薙ぎ払う。そして、残ったカマエルを掴み上げる。

 

「潰れろぉぉおお!」

《グレイシャルアタック!》

 

力を込めてカマエルスマッシュを握り潰した。

 

「うわぁ……」

「えぐいな」

「いやちょっと待って!?ほら、氷漬けになってたからさ!そこまでグロくはないから!」

 

キャロルとキャロルちゃんに軽く引かれたが、私は無実だ。

実際、巨大化した『GBZデモリションワン』は触れた者を瞬間的に氷像と化すので、辺りには氷の欠片(スマッシュの残骸)が降り注いでいる。

 

「スマッシュでは無意味か。ならば私が消し去るまでッ!」

「やらせるかッ!」

 

フィーネの放った光線を、キャロルが獅子を盾にして防ぐ。

私はその隙に、巨大化したままの『GBZデモリションワン』で勇君を掴む。もちろん、勇君が凍らないように手加減をして。

勇君は、突然掴まれたことに困惑する。

 

「じゃあ勇君、ここからは君の番だ」

「……え?」

「―――救ってこーい!」

「ええええええええええッ!?」

 

フィーネに向かって、フルスイングで勇君を投げ飛ばす。

 

「そんな無茶苦茶なー!?」

「なんだッ!?撃ち落としてくれるわ!」

 

勇君を撃ち落とそうと、フィーネが次々に攻撃を放つが、勇君も天使を顕現させてフィーネに迫る。

 

「ウオオオオオッ!凛祢ぇぇええええ!!」

 

フィーネの懐に潜り込んだ勇君は、限界まで手を伸ばす。

そしてフィーネの胸部の上のあたり、人間で言う首元あたりに、勇君の手が触れる。

 

「ぬあああああああああああっ!」

 

勇君の手が触れた部分から光が溢れ、フィーネの絶叫が響き渡る。

 

「絶対に!君を助けるッ!そして証明するんだ!君は一人じゃないってことをッ!」

 

勇君の腕が少しずつ引かれていき、その手には園神凛祢の手が掴まれていた。

 

「いけるッ!2人とも、サポートよろしく!」

「当たり前だッ!」

「気を付けて!」

 

フィーネの蛇が勇君を攻撃しようとするが、キャロルたちが蛇を攻撃して邪魔をする。

私も勇君をサポートするべく、フィーネに向かって跳躍する。

 

「ウアッ!凛祢!」

「勇君!ずっと信じてた!貴女なら、私の使命も何もかも壊してくれるって!」

「当たり前だよ!さあ、行くよ!しっかり掴まってて!」

「逃がすかぁあああ!」

「撃ち漏らしたッ!?」

「勇!気をつけろッ!」

 

フィーネから離れようと勇君が飛翔するも、キャロルたちの妨害を潜り抜けた蛇が2人に向かって伸びる。

 

《ツインアイス!》

「よそ見するなぁ!」

《グレイシャルフィニッシュ!》

《バキバキバキバキバキーン!》

 

蛇が2人に食らいつこうとした瞬間、私の冷気を纏ったキックが蛇を貫き、そのままフィーネも押しのける。

 

「ぬぅ!また貴様か!」

「勇君!今の内に!」

「七海さん、ありがとうございます!」

 

勇君は園神凛祢を連れて、無事フィーネから遠ざかった。

 

「凛祢!大丈夫かい!?」

「うん…平気だよ」

「そっか。良かった……」

 

園神凛祢を取り戻せたことに、勇君はほっとした表情を見せた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

《奏side》

 

「オラァ!」

「ハッ!」

 

七海たちを見送った後、あたしはスマッシュと戦っていた。

さすがに3体1はきつかったが、小日向未来が加勢してくれてからは比較的楽になった。

だけど、どうも様子がおかしい。

 

「避けてんじゃねぇ!」

「むん。弱音ばかりの奴とは、張り合いがないな」

「んだとぉ!」

「奏さん、落ち着いてください」

「あ、ああ……でもよ、どうすんだよ。さっきから攻撃が全部避けられてんぞ」

 

未来がミカエルとか言っていたヤツの言葉に、あたしの頭に血が上っていると、他の2体を牽制していた未来が隣に来た。

はっきり言って、今の状況はまずい。こちらの攻撃が、すべて読まれているかのように躱されるのだ。

未来は少しの間考える素振りを見せると、離し始めた。

 

「おそらく、ラジエルのせいだと思います」

「なんだ?ラジカセ?」

「違います。ラジエルです。あの本を持った奴です」

 

そう言うやいなや、未来が手に持った扇を投擲すると、未来が指差したヤツの持っている本のページが捲られる。

その直後、スマッシュたちは扇が通過する場所が分かっているかのように飛び退いた。

 

「この通り、私たちの行動はあの本によって見通され、それを他の個体にも伝えているというわけです。ハニエルも結構厳しい相手です」

「なるほどな……だったら話は速えぇ!」

《パワー!スピード!ランペイジ!》

「フッ!」

 

あたしはランペイジガトリングプログライズキーのマガジンを2回転させ、ショットライザーの引き金を引く。

身体に力が漲るのを感じたあたしは、さっそく動き出そうとすると、慌てた様子の未来に引きとめられた。

 

「ちょっ、ちょっと何してるんですか!?普通の攻撃じゃ、簡単に躱されてしまいます!」

「大丈夫だって。攻撃が全部対応されんなら、対応できないほどのスピードでぶっ飛ばすだけだッ!」

「無駄なのにさ~よくやるねぇ」

 

未来の静止を振り切り、あたしは走り出す。

ラジエルとかいう奴が本をめくりだすが、残念ながらあたしはすでに()()()()()()

 

《ランペイジスピードブラスト!》

「ふっとべぇえ!」

「なッ!?」

「はやっ!?」

「むんッ!?」

 

攻撃は読めても動くことができない速さで接近し、3体のスマッシュを打ち上げる。

 

「滅茶苦茶です……!」

「へっ……!決めるぞッ!」

《パワー!スピード!エレメント!オールランペイジ!》

「ああもう…!神獣鏡(シェンショウジン)!」

 

あたしはマガジンを4回転し、ショットライザーを上空に向ける。

未来も手にした扇を円状に展開する。

 

《ランペイジオールブラスト!》

【流星】

 

あたしの放った虹色の銃弾がラジエルとミカエルを貫き、未来の放つ光線がハニエルを呑み込んだ。

スマッシュを倒したことを確認し、変身を解除して未来の元に行く。

 

「やったな!」

「……そうですね。ありがとうございました」

「そんな堅苦しくしないでさ、もっと気楽に行こうぜ~!」

「きゃっ……!」

 

何とも言えない表情で頭を下げる未来の肩を、グイッと引き寄せる。

 

「あ、あの……離してもらっていいですか…?」

「なんだよ~そんなにあたしとくっ付くのが嫌か?」

「そう言うわけじゃないですけど……」

 

そういや、セレナの方や七海たちの方はもう終わったのだろうか?

まあ、あいつらも強いし、心配はないか。

 

 

 

 

 




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次回予告

取り込まれていた園神凛祢を、遂に救出した七海たち。

世界を越え、絆を繋ぎ、戦いの果てに彼女たちはそれぞれの幸せを得る。

貴女は、奇跡を目撃する。

次回もお楽しみに!


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私たちの未来へ、歩いていこっか?

前回までのあらすじ

精霊 四糸乃の力を授かり、仮面ライダーグリスブリザードに変身した七海。

その圧倒的な力と、キャロルたちの援護もあり、勇は凛祢を救出することに成功した。

残るはスピリチュアルスマッシュことフィーネのみ。

精霊と仮面ライダーの邂逅から始まった戦いは、ここに終わりを迎える……


 

「キャロル、凛祢を頼む」

「勇……分かった」

 

勇君は抱いていた園神凛祢をキャロルちゃんに預け、再びこっちに戻ってきた。

 

「いいの?守りたいんでしょ?」

「大丈夫です。キャロルは強いですから。それに、僕はあの人のことも救うつもりですから」

「わお、よくばりさんだ」

「それが僕のやり方です」

「貴様らぁああああ!!殺す!貴様らはここで殺す!」

 

凛祢を奪われたことに、フィーネは怒り心頭な様子だ。

だけど凛祢が奪われた今、彼女は大幅に弱体している。

 

「勇君、はいこれ」

「うわっと…ってこれ、七海さんのビルドドライバー!?」

「それとこれも」

「このボトルは……ブラッドに奪われた精霊の力!?」

「さっき戦った時にさ、くすねておいたんだよ」

「でも、何でビルドドライバーまで……」

「精霊と仮面ライダー…ベストマッチだと思わない?」

「はは……確かにそうですね!」

 

勇君はそう笑うと、ビルドドライバーを腰に巻き、自身の懐からもフルボトルを取り出して、振りだした。

なんで彼が持っているのか気になったけど、私は敢えて何も言わなかった。

 

《精霊!》

《希望!》

《ベストマッチ!》

 

2つのボトルをドライバーにセットし、レバーを回していく。

 

「救います……それが僕の覚悟で、願いなんですから」

《Are you Ready?》

「変身ッ!」

《繋がるココロ!デート・ア・ライブ!イェーイ!》

 

勇君を光が包み、その身には光り輝くアーマーが装着されていた。

彼もまた、仮面ライダーへと変身したのだ。

 

「感じます。凛祢の思いを……みんなの希望をッ!」

「なんだ、この光は……私と、同じ力だと?」

 

勇君の光に怯んでいるフィーネに、勇君は毅然と言い放つ。

 

「セイヴァー……確か意味は救済者を表す言葉。そして、これが僕の変身するライダーです。なら……改めて名乗ります!僕は〈仮面ライダーセイヴァー〉だ!救うと決めたモノを救う精霊で、仮面ライダーです!」

「仮面ライダーセイヴァーか。いいんじゃない?」

「七海さん……」

「うん。一気に決めようか!」

《絶滅天使!メタトロンイングリスチャァァアアジ!》

 

私もグリスメタトロンチャージに変身し、スクラッシュドライバーのレバーを下ろす。

勇君もドライバーのレバーを回していく。

 

《Ready Go!》

「「ハッ!」」

 

同時に跳躍した私たちは、横並びでキックの体勢を取る。

 

「「ハアアアアアアアアアアッ!!!」」

《エクスターミネーションフィニッシュ!》

《ボルテックフィニッシュ!》

「この……私があああああああああああああああっ!!!」

 

私たちのキックはスピリチュアルスマッシュを貫き、フィーネは爆発の中に沈んでいく。

そして私たちは、着地した体勢のまま無言で拳を打ち合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――<《封解主(ミカエル)》>、<(ラータイプ)>……これを通れば、それぞれの世界に帰れるはずです」

 

そう話す勇君の前には、ぐにゃぐにゃとした穴が開いていた。

 

「今回の件、いろいろとありがとう」

「そんな、お礼を言うのはこっちの方ですよ。今回のことは、僕達だけだときっと厳しかったと思います。ありがとうございました」

 

お互いに礼を言い握手する。

何となく気恥ずかしくなって、キャロルたちはどうだろうかと見てみると、案の定と言うかまた喧嘩していた。

 

「いいか?今回の件など、別にお前たちがいなくとも、オレたちだけで片付けられていたさ」

「ほう?ブラッドを一人で倒せないような奴が、偉そうだなぁ?」

「ふ、ふふ……構えろ。今度こそ叩きのめしてやる」

「上等だ!あの時の戦いの決着、今こそつけてくれるわ!」

「まったく……仲が良いのは分かったが、戯れるのもほどほどにしておけよ」

「「良くない!というか、お前が一番何もしてないだろッ!」」

「なんだとッ!もう一回行ってみろ!」

 

すっかりお馴染みとなってしまったこの光景に、私たちは思わず吹き出してしまう。

大声を上げて笑う私たちに毒気を抜かれたのか、キャロルたちはすっかり喧嘩をやめてしまった。

 

「じゃあな、未来。お前の夢、叶えて見せろよ?」

「……はい。奏さんも、歌手活動頑張ってください」

「おう!当たり前だ!」

「はぁ~!まさかお前とエルフナインがなー」

「ふふふ……とっても可愛いんです。ああ、早く会いたいです。クリスさんの恋も、応援してますから」

「ま、お前んとこに負けないぐらいにはラブラブになってやるさ」

 

奏たちの方も、短い間に仲良くなったようで別れを惜しんでいた。

だけど私たちは、そろそろ帰らないといけない。

 

「それじゃあ、寂しいけど……」

「お別れ、ですね」

 

私たちは、それぞれの世界へと続く扉の前に立つ。

 

「本当にありがとう!このことは、絶対に忘れない!」

「僕達も、ありがとうございました!きっといつか、また会える日まで!」

「貴様とはもう二度と会わないことを祈ってるぞ。()()()()()()()

「それはこちらのセリフだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

「これだから素直になれないやつらは……」

「「うるさいぞ!()()()!」」

 

最後まで賑やかな雰囲気なまま、私たちは同時に穴に飛び込んだ。

 

「………ん?戻ってきた、のかな?」

「どうやら、そうみたいだな」

 

ゆっくりと目を開けると、視界にいつもの街並みが映った。

どうやら、無事帰ってこれたみたいだ。

 

「おーい!七海ちゃーん!」

「奏!良かった、無事だったか!」

「セレナ!どこに行ってたのよもう!」

 

聞こえてきた声に視線を動かすと、響と翼とマリアが走ってくるのが見えた。

すでに奏やセレナは笑顔を浮かべて、彼女たちの方に向かっている。

 

「……ねえ、キャロル」

「なんだ?ナナ姉え」

「今回のことでよく分かったよ。私たちの享受している幸せは、本当に儚い…それこそ、吹けば簡単に飛んでいっちゃうような、脆い奇跡なんだって」

「だからどうした?オレたちがこうしてここにいるのは、奇跡なんて偶然じゃない。オレたちが戦い抜いて、自らの手で掴みとったものだ」

「そうだぞナナ姉え。たとえこの奇跡が崩れようとしても、またオレたちが作り直す。なぜならオレたちは錬金術師で、仮面ライダーなんだから、だろ?」

「……そうだね。なら2人とも、これからも付いてきてくれる?」

「愚問だな」

「オレたちの答えなど、とうの昔に決まっている」

「「いつまでも、いつまでも一緒だ、ナナ姉え」」

 

私たちは手を繋いで歩き出す。

光のある明日へ、希望のある未来へ。

だって、それが私たちが作り上げるべき、”幸せ”なんだから。

 

 

 

<シアワセという名のキセキ ~精霊と人の輪舞~ 完>

 

 

 




はい!タク-Fさんとのコラボ章『シアワセという名のキセキ ~精霊と人の輪舞~』、無事に完結しました~!
タク-Fさん側のキャラクターもとても個性豊かで、書いていてとても楽しかったです!
今回はありがとうございました!

そして、このコラボ章をもって、『錬金術師と心火を燃やしてみよっか?』は本編完結となります!
ここまでついてきてくださった読者の皆様、本当にありがとうございました!
これからの予定ですが、一応この作品は完結と言う扱いにしておきます。ただし、この先気が向けば、番外編も書くかもしれません。その際は、また読んでいただけると嬉しいです。

それでは皆さん、また逢う日まで!


勇君視点もこちらから!
タク-Fさん投稿「マジで……この世界!?」
https://syosetu.org/novel/234619/




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