凪と毎日ほわわんな日々を (ピアチェーレ)
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黒曜の朝食(黒曜)

オリジナルキャラクター・ノエルが登場します。

神崎ノエル
ヴァリアー所属
大空属性
並中生
風紀副委員長

凪大好き
クロームのことは凪呼び
原作では骸しか知らないが、みんな知っている設定
苗字も原作では出てこないが、ここでは架空で出てくる

年上で、頭がよく、強い
美人で、スタイルがよく、みんな一目置いている


凪(クローム髑髏)
ほぼ原作通りだけど、性格は明るめ
ノエルと同じ風紀副委員長


ほかのキャラも大体原作通り


ふと、目が覚めた。

カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。

柔らかな日差しだ。

ノエルは、手を伸ばして枕元に置いてある置時計を探り当てた。

まだいつも起きている時間より早くて、なんだか得した気持ちで、体を起こす。

いい朝だな。

カーテンを開け、朝日を体に取り込んだあと、洗面所に向かう。

手洗い、うがいをし、そのまま洗顔。

お気に入りのスキンケア用品を取り出す。

化粧水をコットンに出し、肌になじませる。

乳液も同じように行う。

その後、ワンピースに着替える。

スキンケアが済んだので、化粧下地を薄く塗り、パウダーをブラシで乗せて、軽くメイクをする。

洗面所に戻って、ヘアアイロンで髪の毛をまく。

「よし」

鏡でチェックし、ワンピースの上からカーディガンを羽織って、リビングに向かう。

 

リビングに着いたノエルは、足を踏み入れると、まずカーテンを全開にした。

本日二度目の朝日の吸収をした後、台所へ行く。

昨日の夜に予約した炊飯器は、あと10分で炊き上がると表示されていた。

その間におかずを作ろう、と冷蔵庫から卵を取り出す。

ノエルは素早い手さばきで、おかずを作っていく。

人数分のプレートに、ご飯とおかずとサラダを盛っていると

「おはよう・・・」

透き通る声が聞こえ、顔を上げると、淡いピンク色のルームウェアに身を包んだ凪が顔を出した。

「おはよう」

ノエルはにこっと笑ってあいさつを返し、

「凪、スープをよそってもらっていいかな」

凪は微笑んでこちらにやってきた。

その間に、席にプレートを並べていく。

全員分の朝食の準備が完了し、少ししてから、眠そうな犬と千種がやってきた。

「いただきまーす」

そして、たわいもない会話をする。

ふと、凪が聞いていた。

「ノエルの得意料理って何?」

犬も千種も興味がありそうな面持ちでこちらを見る。

「得意料理?」

ノエルは注目が集まる中、お茶を一口飲むと

「ないよ。ありすぎて逆にない」

さらっとそう言った。

質問した凪は、尊敬した目でノエルを見つめ、千種はそうだろうなと思った。

犬は興味がなくなったのか、おかずを口いっぱいにつめこんでいた。

ノエルは、パンと手をたたくと

「明日の朝食、何かリクエストある?」

と聞いた。

各々が明日の朝食べたいものを考える中、凪が

「イタリアではコルネットを食べるんだよね・・・?食べてみたいな」

ひかえめにそう言った。

コルネットとは中身入りのクロワッサンのことだ。

「オッケー!中はチョコレート入れようかな」

凪とノエルが楽しそうに話す中、朝の時間は穏やかに過ぎていく。

千種は、お昼はパスタをリクエストしてみようと考えていた。

 

 

 

 

 

 




そんなほのぼのとした、黒曜の食卓から始まる、凪とノエルの日々をどうぞお楽しみください。


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麦チョコ(黒曜)

「・・・麦チョコ」

ノエルは午前中からパソコンで何やら仕事をしていたが、先ほど終わったのか、いそいそとノートパソコンを閉じると、そのままソファーに、しなだれかかった。

それが数分前。

身動き一つしないため、寝てしまったのかと千種が思っていると、先ほどの言葉を口にした。

千種は無言で次の言葉を待った。

食べたいのか。

しかし、現在この黒曜ランドに麦チョコはない。

いつも何袋かストックがあるが、昨日最後の一袋を凪が食べていた。

ここ最近、凪は風紀委員の仕事、ノエルは任務などが忙しく、買いに行く暇がなかったようだ。

したがって、食べたいとなれば買いに行かなきゃならないが、千種は断固として行かない。

なぜなら。

めんどくさいからだ。

そして今、ノエルの次の言葉を待つのでさえもめんどくさいので、食べたいのであれば買いに行けばいいと思っていたら、ノエルはむっくりと体を起こして

「一粒が小さくてなかなか減らないから、いつまでも食べ続けられるよね!」

・・・。

一粒でチョコの甘さに顔をしかめた犬を思い出し、果たしてそうかと思ったが、とりあえずうなずいておく。

しかし、幸せそうに語っていたノエルが顔を曇らせ、

「でも麦は胃の中でふくらむから、三袋くらいで満腹になっちゃうの」

平均一袋だと思うが、一体ノエルは平均いくつだと思ってるんだろう。

聞くのは怖いため聞かないが。

十袋は余裕で食べそうだなと思った。

そう予想したところで、犬が帰ってきた。

「帰ったびょん」

犬の声が聞こえたかと思ったら、ノエルは光の速さで体を起こすと、きらきらとした瞳で

「犬!麦チョコ買ってきてくれないかな!」

今すぐに!

たった今帰ってきた人間に酷なことを言う。

麦チョコについて語っていたが、やはり食べたかったのか。

「とりあえずね、三十袋お願い!」

陳列棚に並んでいる麦チョコを買い占める勢いの個数だ。

「すぐ食べる分の十五袋と、ストックの十五袋ね!」

丁寧に内訳を教えてくれたが、そのうち半分は自分が今から食べる量らしい。

「明日の朝食、犬のリクエスト作るから!」

ね!と言いつつ、若干殺気があふれているような気がして、誰も断ることなんてできない。

ノエルはひょいとソファーから降りると、犬に歩み寄り、両手に自分の財布を握らせた。

「五百円までなら、お菓子買っていいよ!」

犬はひきつった顔でこくりとうなずくと、ゆっくりと踵を返した。

それを見ながら千種は犬にこっそり同情していた。

 

「毎週金曜日は麦チョコ購入の日にして、一人五袋買ってくるっていうのはどう?」

そうしたら、食べたいときにないって悲劇も起きないし。

夕食時にそう提案したノエルだが、金曜日に二十袋増えるからと週末食べまくって月曜日にはもうないという更なる悲劇が生まれるのを千種には想像できたため、全力で却下した。

しゅんとなったノエルだが、「明日、業務用の麦チョコ一緒に買いに行こ」という凪の一言により秒で復活した。

明日二人でその業務用麦チョコを食べきってしまう想像がつき、千種はやれやれと思った。

 

 

 

 




最後にちょこっと凪を出せてよかったです。


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お散歩しましょう(黒曜)

とある日曜日、ショッピングモールで服を買った帰り道。

「あれ?こんなところに新しいパン屋さんができてる」

黒曜商店街をぬけ、黒曜ランドまでのいつもの道を歩いていると、凪が言った。

「本当だ。素敵なベーカリー・・・」

以前は何のお店だったか思い出せないほど、ずっとテナント募集の張り紙がしてあった店に、「新規オープン!」と書かれた看板と、きれいな花が玄関に飾られている。

並中に行くときはこの道を通らないため、気が付かなかった。

ガラスの向こうには、たくさんのパンが並べられているのが見える。

「入ってみようか」

問いかけると、凪はうれしそうにうなずいた。

扉を開けると、からんからんとドアベルが鳴り響く。

途端に、パンのいい香りが鼻腔をくすぐる。

奥にいた優しそうな店主がいらっしゃいませと声をかけた。

ノエルと凪はそれぞれトングとトレーを持つと、パンを選び始めた。

りんごのデニッシュ、クロワッサン、塩バターパン、チョココロネ、ハムとチーズにカスクートなど、さまざまな種類のパンがあり、選ぶのにとても時間がかかった。

凪は、自分用にアップルパイ、ねじりシュガードーナツ、犬に半熟卵の入ったカレーパン、クリーム入りメロンパンを選んだ。

ノエルは、自分用に三種類のサンドイッチ、千種にクリームチーズとりんごのくるみパン、ハムエッグマフィンを選んだ。

お会計を済ませ、パンが入ったいい香りのする紙袋を持って、うきうきで黒曜ランドに帰る。

 

「え、おいしい・・・」

黒曜ランドのソファーで並んでサンドイッチを食べていたノエルが、びっくりしたようにつぶやいた。

「これ、食べてみて」

半分に割って隣に座っている凪に渡す。

「おいしい」

凪は一口かじると、目を輝かせた。

ほっとするような、どこかで食べたことのあるような味。

「ツナサンド。初めて食べたけど、すごくおいしいね」

ノエルは感動したように凪と顔を見合わせた。

「私も初めて食べた・・・」

凪も衝撃的だったようで、何度もこくこくとうなずく。

「このアップルパイもとってもさくさくで、甘くておいしい」

 

夕食は、ベーカリーで買ったパンと、コーンスープ、サラダになった。

凪とノエルは先ほど自分たちの分を食べたので、今スープとサラダのみ。

「・・・おいしい」

ノエルがチョイスしたハムエッグマフィンを食べた千種はそう言った。

その表情はいつもと変わらないが、瞳の奥が輝いている気がする。

「そうだよね!!」

ノエルはうれしそうにサラダを口に運んだ。

「気に入ってくれたようでよかった」

「犬は・・・?」

黙ってカレーパンを食べる犬を心配そうに見つめ、問いかける凪に

「・・・うまいびょん」

聞こえるか聞こえないかで答えた犬。

凪はにこっと笑うと、コーンスープを飲んだ。

 

 

それから数日たったある朝。

ノエルは凪と並中に向かいながら、

あ、そうだ。

とノエルはつぶやくと

「今日のお昼はツナサンドだよ」

そっと凪に耳打ち。

前を歩く人の間から、ツナのツンツンヘアーが見えたからだ。

二人でふっと笑って、ツナのもとへ駆け出した。

 

12時。

お待ちかねのランチタイム。

「昨日の帰り道、黒曜スーパーでツナ缶買って、あのベーカリーで食パンとバターを買ったの」

晴れているため、屋上で食べることにした。

ランチボックスを開けると、ツナサンドとトマト、レタス、コーンのサラダ、もう一つの小さめのランチボックスには、りんごが入っていた。

「いただきます」

ツナサンドを手に取り、一口食べる。

「おいしい・・・!」

ベーカリーのツナサンドの味とは違うが、とても似ていて、食べやすいと感じた。

「バターとマヨネーズのちょうどいい配合が難しくてね。実は三回作り直したの」

てへっとかわいらしく笑うノエル。

凪は、帰ったら作り方を教わろうと思った。

 

 

ちなみに、日曜日のショッピングモールでは、凪の洋服を買いに行っていた。

「凪は、白やピンク、うす紫が似合うよね」

白のパールつきスリーブブラウス。

ピンクのギャザーフレンチトップス。

ラベンダーのフレアスカート。

「透明感があるから、水色も似合いそう」

コットンボリュームニット。

スフレリブトップス。

「でも、黒も大人っぽく決めてくれそう」

ペプラムレーストップス。

凪は状況が呑み込めていなかった。

それはさかのぼること十分前。

ショッピングモールに入るや否や、「行きたいところがあるの」と告げられ、凪が普段行かない階で降り、ついたのはとても高級そうなアパレルショップ。

きらびやかな雰囲気に物怖じする凪を鏡の前に立たせると、突然ノエルのコーディネート講座が始まったのだ。

ノエルは似合いそうな色を考えながら、凪の骨格や肌の色、雰囲気に合わせて服を選んで、凪の体にどんどん合わせていく。

凪は困惑顔でされるがまま。

「う~ん・・・」

数分後、ノエルはあごに手を当て考えこみ始めた。

怒涛のコーディネート講座が終わり、凪がほっとしていると、

「すみません、何着かワンピース持ってきていただけますか?」

「えっ?」

ノエルがそばにいた店員に声をかけると、「かしこまりました」と奥へ消えていった。

終わりだと安心していた凪が驚きの声をあげると、ノエルはにっこり笑って、

「今合わせてみた中で、どれが一番よかった?」

めまぐるしくて、どれもかわいかったことしか覚えていない。

と正直に言ったらだめかなぁと思っていると、

「おまたせしました」

ノエルの後ろから、たくさんのワンピースを抱えた店員がにっこり笑って言った。

ノエルはありがとう、と受け取りながら

「着てみたほうがしっくりくるよね。はい、まずこれから」

ノエルのコーディネート講座第二弾。

一番上のワンピースを手渡され、フィッテングルームに押し込まれた。

笑顔で手を振られ、無情にカーテンが閉められる。

凪はしばらく茫然としていたが、ひとまず靴を脱ごう、と座り込んだ。

 

数分後。

ひかえめにシャッとフィッテングルームのカーテンが開いた。

「どうかな・・・?」

おずおずと凪が姿を見せると、

「色がよく似合ってて、プリーツがアクセントでいいね。丈は長く感じるけど、今はロングスカートやロングワンピ流行ってるし、すごくかわいい」

とてもほめてくれて、凪はうれしくなったが

「じゃあ次はこれね」

すぐに二着目のワンピースを差し出された。

その後何度試着したか忘れたが、何度目かのワンピースを着て、カーテンを開けると、

「お疲れさま~。それが最後のワンピだよ。レースがセクシーでかわいいね。私は、五番目に着たブラウンのコルセットフレアロングワンピが一番好きかな」

もはや凪は何着目がどのワンピースかわからないが、自分もそれが一番気に入ったのでそう伝えてみる。

「それとね、最後から二番目のうすいピンクのふわっとしたワンピも・・・」

頑張って説明してみると

「カシュクールシフォンワンピだね。私も凪に似合うと思う」

これでしょ?とノエルがワンピを見せてくれる。

うなずくと、着替えておいでと微笑まれ、ふたたびフィッテングルームに戻る。

最後に着ていたワンピを脱いで、今日着てきた服に着替えて出る。

やっと試着が終わりほっと一息つくと、ノエルが近づいてきて

「そのワンピ、店員さんにお返ししておくね」

ありがとう、と差し出された両手にワンピースを乗せると、ちらりと名札が見えた。

そういえば金額を気にしていなかった、どのくらいなんだろう、と何気なしに手に取ると

「ノエル・・・!値段が・・・」

ノエルは凪の言葉に顔を上げると、凪がぷるぷると震えていた。

どうしたの?といった感じで首をかしげると

「か・・・買えない・・・」

だんだん凪の顔が真っ青になっていく。

「大丈夫だよ、私が買うつもりだから」

えっ?と出した声は出ていなかった。

「私が凪にプレゼントしたいの。受け取って」

とても優しく微笑まれて、一瞬凪はどきっとしたあと、こくりとうなずいた。

ノエルは振り返ると

「こちらのワンピース二着と、さきほど彼女に合わせたトップスとスカート、全て包んでください」

そばに店員がいたのに凪はその時気づいた。

かしこまりました、という店員の声はほとんど届いていなかった。

凪はばっとノエルを見ると、

「ワンピースだけで私は・・・」

十分、そう言おうとしたら

「うん、ワンピースだけでもいいかもしれないね」

あっさり引き下がるノエルに、凪は目を丸くしたが

「でもね、白のパールつきスリーブブラウスは、凪ブラウス持ってないから取り入れてみてもいいし、ピンクのギャザーフレンチトップスは、凪が持ってるネイビーのタイトスカートに合うし、ラベンダーのフレアスカートは、優しい色で凪にぴったりで足がきれいに見えて、それに・・・」

「買いますっ・・・!」

凪が挙手して叫び、ノエルのマシンガントークを止まった。

ノエルはにっこり笑うと、

「お会計してくるから、待っててね」

と言ってレジの方へ歩いて行った。

ありがとう、と告げて、凪は待っている間お店の中をぐるっと回ってみることにした。

おとなっぽいかわいらしい服がたくさんあり、思わず手に取ってみるが、値札が見えそうになり、あわてて手を離す。

一旦そのエリアを離れると、きらりとしたものが目に入ってきた。

アクセサリーも売られているようで、ネックレスとブレスレットがあった。

こういうの、ノエルに似合いそう・・・。

シンプルなデザインのネックレスを手に取ってよく見ようとしたら

「ありがとうございました~」

店員の声が聞こえ、はっと振り向く。

会計が終わったらしい。

見送られながら、ノエルと一緒に店を後にする。

次はどこに行く?など話しながら、ふと気になっていたことを尋ねる。

「買ったお洋服は・・・?」

会計を終えてアパレルショップから出てきたノエルは自分のバッグ以外何も持っていなかった。

「この後もお買い物するでしょ?荷物になっちゃうから、黒曜ランドに送ってもらうことにしたの」

なるほど・・・と納得した凪にノエルは

「今からどこ行く?雑貨見る?カフェで軽く食べる?」

言いつつ、二人の足はカフェに向かっていた。

 

その帰り道、凪とノエルはこれから毎月通い、お気に入りになるベーカリーと出会う。

 

 

おまけ

カフェにて

「お洋服、本当にありがとう・・・」

「どういたしまして。迷惑じゃなかった?」

「全然・・・。びっくりしたけどうれしかった」

「ごめんね、次からは控えます。・・・また一緒に行ってくれる?」

「もちろん・・・!」

 




パン屋さんの話より、ショッピングデートの話がメインのようになってしまいました。
どんな服でも、凪はかわいく着こなすんだろうなあと思います。


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美しい彼女と(ノエ凪)

クローム髑髏という少女はなぜこんなにも美しいのかと、ノエルは時々疑問に思う。

長いまつげに縁どりされた、輝くようなきれいな瞳。

まるでアメジストのよう。

まつげも長く、伏し目だとそれがよくわかる。

自然とカールされたまつげはとても魅力的だ。

片目でさえこの威力なんだから、両目で見つめられたら、その美しさで溶けてしまうのではないかしら。

それに瞳だけでなく、紫色の髪もきれい。

つやがあり、手でとかすとさらさらしていて柔らかい。

風がふくと、ふわっふわ揺れて触りたくなるし、太陽の光に当たると、きらきらして、やっぱり触りたくなる。

宝石でもちりばめられたかのような、きらめき。

ショートヘアもかわいいし、ロングヘアもとても似合うと思う。

もし凪が髪を伸ばし始めたら、ポニーテールやみつあみにしたいなとひっそり思っている。

ポニーテールにしたら、スポーティーでフレッシュな印象になりそう。

みつあみはゆるく結んだら、ますます柔らかい雰囲気になって、大人の魅力も発揮されそう。

肌は白くきめ細やかで、透明感あふれている。

つやつやしていて、潤いがあり、光が反射してみえる。

メイクをしたらもっときれいになるだろう。

顔立ちが整っているので、どの角度から見てもかわいいと感じる。

小柄で華奢だけど、スタイル抜群で、何でも着こなしてくれそう。

街を歩いてたら、みんな振り向きそうなほどの美貌だ。

たとえるなら、高嶺の花。

黒曜ランドで一緒に生活を始めたときの、クールでミステリアスな凪も好きだけど、麦チョコを幸せそうに食べている凪、散歩の途中で猫を見かけてはしゃぐ凪、初めて食べた料理に驚く凪。

たくさんの表情を見せてくれるようになって、もっと見てみたいと気付いた。

初めて会った時からかわいい子だと思っていたけど、最近ますますそう思うようになった。

「・・・」

凪は、ノエルに見つめられ続け、限界が来たらしい。

「ノエル・・・」

頬を赤くし、うつむいてしまった。

それに対しノエルは、この透き通る声も好きだなあ・・・と考えていた。

凪は、熱量は変わったものの、いまだ見つめ続けるノエルに、ひたすらどきどきしていた。

今まで出会った中で、一番美しい人にずっと見つめられて平気な人はほとんどいないと凪は思った。

ノエルは、

儚くておしとやかな子だけど、芯の強さもあるこの子と一緒に強くなってずっと過ごしたい。

凪は、

誰よりも強くて美しい人と一緒に強くなって、ずっと隣にいたい。

という思いを心に秘め、にっこり微笑んだ。

 




ノエルは凪が一番かわいいと思っているが、凪はノエルが一番きれいで美しいと思っている。


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ドーナツいっぱい食べたいな(ノエ凪)

「今度はここに行ってみたい・・・」

そう言って凪は自分のスマホの画面を見せてくれた。

それは、屋上でお昼ご飯を食べた後、のんびり過ごしていたときだった。

ひょいとのぞき込むと、映し出されていたページは、有名なドーナツのチェーン店だった。

「いいね!一緒に行こう」

凪はにっこり笑ってうれしそうにうなずいた。

 

土曜日のお昼過ぎ、凪と一緒にバスに乗って、ドーナツのチェーン店にやってきた。

トレーとトングを持ってどれにしようか悩む凪に

「食べたいもの全部買おう!」

ノエルが隣でぐっとガッツポーズをした。

食べたいドーナツを選びながら、食べきれそうな数に絞った結果、

凪は、

ストロベリーリング

シュガーレイズド

ドーナツポップ16個入り

キャラメルアーモンドマフィン

ノエルは、

ダブルチョコレート

ポン・デ・ストロベリー

チョコファッション

エンゼルクリーム

を食べることにした。

凪は全て甘い系をせめているが、ノエルも甘いパンの方が好みなので、全て甘いものになった。

飲み物は凪はりんごジュース、ノエルはブレンドコーヒーに決めた。

凪が大人だなあと思いながら、レジの前に並ぶと

「パスタやアイスもあるんだ・・・」

レジの奥のメニューが見え、思わずそうつぶやく。

値段もかなり安く、おいしそうだ。

「次回食べようね」

つぶやいた声がノエルにも届いていたようで、そっと耳打ちされる。

凪は口元に笑みを浮かべてゆっくりうなずいた。

 

会計を済ませ、ドーナツとドリンクが乗ったトレーをもって、二人掛けのテーブル席に座り

「おいしく食べられるところまででいいからね。苦しくなったら言って。残りは私が食べるからね」

ノエルは優しく言うと、手を合わせた。

凪がうなずき、手を合わせる。

『いただきます!』

 

「幸せ・・・」

口いっぱいにドーナツをほおばりながら凪は笑顔で言った。

それを見ながらノエルもおいしそうにドーナツを口へ運ぶ。

雑誌に載ってたカフェの話、来月公開される恋愛映画の話、好きなアーティストの新曲の話、明日最終回のドラマの話など、話に花を咲かせた。

 

「ごめんなさい、ノエル。私もう無理みたい・・・」

二つドーナツを食べ、マフィンを半分ほど食べながら、凪は苦しそうに言った。

「分かった!残りは私が食べるね!」

凪の持っているマフィンを受け取ろうとすると

「ううん、ここまでは自分で食べる・・・!」

自分が食べた分は責任をもって食べたいらしい、さすがしっかりしてるなあとノエルは思った。

 

「凪・・・」

最後の一つのドーナツを食べながら、ノエルが悲しそうに凪を見た。

ノエルが食べたドーナツは凪の分も含め、五個だ。

さすがにきつかったのか。

どうしよう、トイレで戻した方がいいか、それとも胃薬を買ってきた方が・・・。

凪がそう考えていると、ノエルが口を開いた。

「お隣の人が食べてるチュロス、すごくおいしそう」

「え」

ノエルの視線の先をちらっと見ると、確かに、隣に座っている女性がチュロスをおいしそうに食べている。

「追加で買ってきてもいいかな?」

ノエルは食べ過ぎて苦しそうだったのではなく、他のドーナツも食べたかったらしい。

申し訳なさそうにこちらを見るノエルに、凪は笑って、

「いいよ」

「わーい!」

ノエルはうれしそうに持っていたドーナツを食べ終えると、トレーを持ってドーナツがあるカウンターへ向かった。

「え・・・」

追加のドーナツを買いに行ったノエルが戻ってきたと思ったら、持っていたトレーには様々な種類のパンがどっさり乗っていた。

そしてなぜか飲み物まで持っている。

「最初買うとき、こっち飲んでみたいと思ってて。これは凪の分ね」

テーブルの上にトレーを置き、凪の分のりんごジュースをすっと彼女の前に置き、自分の方にはキャラメルラテを置いた。

凪はありがとう、と言いながら、ノエルが追加で買ってきたものを見る。

チュロス、ポンデリング、オールドファッション、ブルーベリーチーズマフィン、ハムグラタン。

「ほんとはチュロスだけ買おうとしたんだけど、他のドーナツ見てたら食べたくなって」

えへ、とかわいらしく笑って

「おかず系もいいかなってハムグラタン選んじゃった」

そっかぁ・・・と凪は目を丸くしたままうなずいた。

ノエルは最初の一個を食べる時と同じペースでおいしそうに食べていく。

りんごジュースを飲みながら、凪はたくさん食べるノエルをかっこいいなと思った。



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凪とノエルだけの楽しい時間(黒曜)

とある日曜日の午後。

たいていノエルは黒曜ランドで生活しているが、パソコン仕事をするために、凪たちと出会う前から住んでいる高層マンションの一室に帰ることもある。

しかし今週の週末、ノエルは任務のためイタリアに飛んでいた。

はずなのだが、突然ふらりと黒曜ランドに現れたノエルは、両手にがさがさと大量のビニール袋をさげて登場した。

三人の視線が集まる中、持っていた袋をテーブルの上にドン、と乗せると

「第一回利き麦チョコ大会~!」

突然大きな声でそう宣言した

ぱちぱち・・・と凪だけがキラキラした顔で拍手を送る。

「帰ってきてたんだ・・・」

千種がぼそっとつぶやいた。

週末いないときは月曜日の夕方、学校帰りに来ることが多かったため、今回もそうかと思っていたのだが。

「本当は明日の朝日本に着く予定だったんだけど、早めに終わったから」

さらっと一言で説明すると、いそいそと持ってきたビニール袋から麦チョコを取り出し始めた。

ノエル曰く、利き麦チョコ大会とは、ノエルが買ってきた五種類の麦チョコを当てるというものらしい。

ちなみにその五種類は、黒曜スーパー、コンビニ、ドラッグストア、並盛商店街の駄菓子屋さん、ディスカウントストアに売られていた麦チョコだ。

念のためアイマスクをさせ、それぞれ小皿に移した麦チョコをスプーンで食べさせることになった。

トップバッターは犬。

犬と千種は遠慮したが、全員参加だそう。

こわごわ開けた犬の口に、千種が麦チョコを乗せたスプーンを押し込む。

ゆっくり咀嚼し、やがて飲み込むと

「甘いびょん・・・」

うん、チョコだからね・・・。

ノエルは心の中で思った。

残り四種類のチョコも、「甘いびょん」「これも甘いびょん」「さっきと同じ味だびゃん」「やっと終わったびゃん」と最後に至っては味の感想ですらなく、犬にとっては地獄の時間だったようだ。

口直しに台所に向かった犬の代わりに、次の千種に食べさせるのを凪にやってもらう。

そっと優しく口に運んだ凪。

千種は犬と同様ゆっくり麦チョコをかみ砕くと、吟味した。

「・・・」

が、無言。

考えているのかあきらめたのか全く分からないため、五つ目の麦チョコを千種が飲み込んだところで、「はい、次は凪~!」とノエルは強制的に終わらせた。

ノエルがまず一つ目の麦チョコを凪の口へ運ぶと

「ドラッグストア」

「えっ」

「ここの麦チョコは、コーティングされた麦チョコがほかの麦チョコより甘いのが特徴なの」

ごくんと飲み込んでそう分析する凪。

当たってる。

がノエルは「なるほど・・・。じゃあ次は二つ目ね」と答え合わせはせず、二つ目の麦チョコを食べさせる。

「コンビニ。パフが一番さくさくしてるの」

「駄菓子屋さん。麦チョコの一粒一粒が大きくて食べやすい」

ここまで全問正解。

あとは黒曜スーパーとディスカウントストア。

ノエルは四つ目に選んだ麦チョコをスプーンに乗せ、口へ運んだ。

「あ・・・」

それまでびしばしと当ててきた凪が驚いたような声を上げた。

ここにきて不正解か!?

「これ・・・」

台所から戻ってきた犬、見守っていた千種と三人で固唾をのんで凪の言葉を待つと

「黒曜スーパーでよく買う一番好きな麦チョコ。一袋88円」

「・・・合ってる」

千種がつぶやいた。

レシートを確認すると、値段も当たっている。

「さすが麦チョコ系女子!」

ノエルが独特な賞賛をおくると、凪はうれしそうに笑って

「黒曜と並盛のスーパー、コンビニ、ドラッグストアとか、麦チョコが置いてある店舗すべての麦チョコを食べたことあって、味も全部覚えてるの」

最後の最後に爆弾をぶち込んできた。

犬と千種が唖然とする中、

「くっ、これならネットでしか買えない麦チョコも用意しておくべきだった・・・!」

ノエルは一人悔しがっていた。

以上により、利き麦チョコ大会は凪の圧勝だったので、第二回は開催しないこととなった(しかし、凪が希望したら開催する)。




ちなみに、優勝者の凪には、残りの五種類の麦チョコがプレゼントされた。


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黒曜ランドのディナーへようこそ(黒曜)

数か月ぶりに骸が帰ってきた。

「骸さんびゃん!」

犬のうれしそうな声が黒曜ランドに響く。

千種と凪も、骸を見て笑顔で駆け寄る。

犬たちと話していた骸はノエルの方を見ると

「お久しぶりですね」

と言って口元に笑みを浮かべた。

「久しぶり。元気そうで何より」

ノエルも笑みを返す。

骸がノエルと初めて会ったのは、精神世界だった。

骸の出所後も、仕事の関係でイタリアで会ったり、凪たちと出会ってからも精神世界で数回会っていた。

骸は出所した後、イタリアで暮らしていて、今回のようにたまに帰ってくる。

 

骸のイタリアでの土産話や凪の並中での学校生活の話に花を咲かせていると、ふとしたことから、ノエルと骸が言い争いになった。

発端は骸で、内容は覚えていないくらい、ささいなことだった。

空気が凍り付いたが、凪が間を取り持ってくれて、お互い謝り、その場は収まった。

 

骸たちが買い出しに行き、凪とノエルが夕食を作ることになった。

数時間後、テーブルには

麻婆豆腐

カレーライス

サーモンサラダ

が並んだ。

「珍しいよね・・・」

千種がテーブルにつきながらつぶやく。

「カレーが食べたくなって。麻婆豆腐は犬のリクエスト」

ノエルが笑顔で答える。

全員で手を合わせた後、

「おいしい・・・!」

凪が瞳を輝かせてカレーをほおばる。

それぞれがおいしそうに食べている様子を見守り、骸も自分のカレーを口に運んだ。

しかし。

辛い。

全てが辛い・・・!

骸はとっさに口を押さえて、震える手でスプーンを置き、今自分が食べたカレーを見た。

とてもおいしそうな、大きな具材がたくさん入ったカレーだが、じゃがいももにんじんも玉ねぎも。

とても辛いのだ。

急いで隣のご飯をほおばるが、ご飯じゃ打ち消せないほど辛さが強い。

そっと顔を上げて犬たちを見るが、おいしそうに口に運んでいる。

汗を流しながら、

自分が辛い物が苦手だからかもしれない。

そう思った骸は気を取り直し、サラダを食べようと口へ運ぶが

「うっ・・・!」

辛い。

どうして。

サラダなのに・・・。

骸はサラダを凝視する。

実は骸のサラダだけ、手作りの唐辛子入りのドレッシングがたっぷりとかけてあるのだ。

何とか飲み込んで水を口へ運ぶと

「ぐっ・・・!」

水かと思って飲んだ液体は、

「・・・!?」

お酢だ。

凪たちが不思議そうにこちらを見ている。

骸は何でもないかのように額から流れる汗をぬぐった。

ノエルはすました顔で麻婆豆腐を食べている。

カレーも麻婆豆腐もサラダも、凪たちだけ普通の辛さで、骸だけ激辛になっていた。

骸は、麻婆豆腐の豆腐だけすくい、おそるおそる食べるが、舌がしびれるくらい辛い。

痛い。

急いで飲み込むが、直後のどに激痛が走る。

食道が痛い。

辛さで唇を真っ赤にしながら必死に食べる骸を見て、ついにノエルが噴き出した。

突然爆笑し始めるノエルに、凪たちはきょとん顔で見つめる。

カチャン、と骸がスプーンを置いた。

ノエルが笑うのをやめ、骸を見る。

「ノエル、すみませんでした」

頭を下げる骸に

「うん、許してあげる。私も大人げないことしてごめんね」

ノエルも申し訳なさそうな顔で謝った。

ほっとした空気が流れる中、

「でも、最後までちゃんと食べてね。致死量に満たない配合で時間かけて作ったんだから」

骸が青ざめた。

皿にはまだどれも半分以上残っている。

 

数時間後、何とか完食した骸がソファーで横になっていると

「はい、骸」

透明の液体が入ったグラスと薬、チョコレートアイスが入ったカップをトレーに乗せた、ノエルがやってきた

「お口直しに食べて。あとこれは胃薬」

「ああ・・・」

とりあえず水を飲もうとグラスに手を伸ばしたが、さっきのお酢を思い出し、さっと引っ込める。

「今回はちゃんとお水だよ」

ノエルが申し訳なさそうに、手渡す。

「本当にごめんなさい。明日、骸の朝食は骸のリクエスト作るね」

 

遠くからそれを見ていた犬と千種は、改めてノエルを怒らせてはいけないと思った。

その後、トマトパスタなど赤い料理が出ると、びくびくしながら食べていて、本当に申し訳ないとノエルはひっそり思った。




ちなみに、残りの激辛カレーや激辛麻婆豆腐は、次の日ノエルが一人で完食しました。

書いている途中で骸がかわいそうになりました。
ごめんね骸。
あと、凪をあまり出せなかったことが無念です。


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彼女たちの朝のお仕事(並中)

「あ、凪~!正門の見回り終わった~?」

特注の黒の女子用学ランとその左腕につけた「風紀」の紋章をはためかせ、ノエルは向かいからやってくる、同じく左腕に紋章をつけている学ランを身に着けた、紫の澄んだ瞳と美しい髪の美少女に呼びかけた。

凪――そう呼ばれた彼女は、短いスカートに気を配りながら、かけ足でノエルに近づいてきて言った。

「ノエルっ・・・。校則違反をしてる生徒はいなかったよ。でも・・・」

そこでいったん言葉を切り、心配そうに再び口を開いた。

『遅刻者が・・・』

その言葉は見事にノエルと被った。

 

「あ、やっぱりツナたちだ~!」

ブンブンと手を振りながら、校門前でほかの風紀委員に足止めを食らっていた三人に呼びかける。

「ノエル、クローム!」

ツナは心底ほっとしたような顔でノエルたちを出迎えた。

安心したのか、凪のことは「黒霧(くろむ)」と呼ばなければいけないのに、いつもの調子で呼んでしまっている。

「ここは私たちがやっておくから云々・・・」

いつものようにうまく丸め込んで、そこにいた風紀委員たちを校舎に戻らせる。

それを見送ったノエルは満面の笑みで振り返ると、

「反省文30枚ね」

語尾にハートマークがつきそうな勢いで言った。

「てめぇ!十代目に・・・」

獄寺がつかみかかろうとするが、ノエルはしれっと

「うちの風紀委員長さん愛用のトンファーの餌食になるよりは、ましじゃなくって?」

ぐっと言葉に詰まった獄寺に、んふふと不敵な笑みを浮かべる。

「あの・・・ノエル・・・」

横でおずおずと手をあげた凪に、ノエルは笑顔を向け、どうしたの?とたずねる。

「反省文に加えて、中庭の落ち葉掃きを手伝ってほしいの・・・」

まさかの仕事の手伝い。

「風が強いからスカートがめくれやすくて・・・」

顔を赤らめて、ぎりぎり聞き取れるくらいの声量で言う凪に

「了解!じゃ、ツナたちは冬休みまで、週一で落ち掃きよろしくね!」

「なっ・・・!」

ツナは絶句し、獄寺は怒りに震え、山本はにこやかに笑うなか、

「また遅刻した時、反省文書いたり、咬み殺されたりするの嫌でしょ?だったら先に掃除をして罰を受けてストックを作っておけばいいんだよ」

次遅刻して風紀委員に止められても、風紀副委員に命じられて仕事をして免除してもらってるんでって、私と凪の判子が押された紙を見せたらオッケーだよ、ほかの風紀委員にもそう通しておくし。

ね?名案でしょ?といった感じににっこり笑うノエルに言いくるめられて勝てるものなどいない。

確かにそっちの方がいいかも・・・と遅刻する気満々のツナが思ったところで、くるりとノエルが振り返った。

不思議そうにみんながノエルと同じ方向を見つめると、その先に雲雀が姿を現した。

「雲雀、お疲れ様~」

明るく委員長に労いの言葉をかけるノエルと、恐縮したように、お疲れ様です・・・!と頭を下げる凪。

「ねぇ、君、何勝手に草食動物たちと群れてるんだい?」

ひんやりとした空気を感じさせながら雲雀は言った。

「遅刻をしていた生徒がいたので、指導していましたぁ」

ツナたちが体をこわばらせる中、涼しい顔で報告するノエル。

あれは指導というより闇の取引みたいなものだったが。

雲雀ははぁ、とため息をついて

「君たち・・・」

そう言ったタイミングでチャイムが鳴り響いた。

「HR始まっちゃう。では委員長、また放課後」

ノエルはそう言いながら、会釈し、凪たちと昇降口へ向かっていった。

 

「ひ~!雲雀さん怖かった~」

ツナが青い顔で叫ぶ。

「びっくりさせてごめんね」

ノエルが申し訳なさそうに謝った。

 

そうして、いつものノエルたちの並中での学校生活が始まった。




お仕事、たいへん。


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飲み物をどうぞ(並中)

「あの・・・、先日の見回りの件の反省文を書いてきました・・・」

ノエルと朝の見回りをしていて、ツナたちと談笑していたことだ。

本当は反省文を書くほどでもないうえに、わざわざ風紀委員がするようなことでもない。

真面目に業務に取り組んでいる凪らしいことだった。

「ふぅん・・・。ご苦労だったね」

皮肉を込めて言ったが、天然の凪が気づくはずもなく、お願いします、と渡すと

「あの、紅茶淹れましょうか・・・?」

と聞いてきた。

ふう、と雲雀が息を吐くと、

「コーヒーをお願いするよ」

給湯室に歩き出していた凪がぴたり、と止まった。

そして、振り向いて申し訳なさそうな顔をして口を開く。

「私、コーヒー淹れるの下手で・・・。練習してるんですけど、どうしても苦くなってしまって」

紅茶なら、ノエルに褒められるくらい上手に淹れられるんですけど・・・。

上目づかいで言う凪に

「じゃあ、それで」

書類に目を通しながら答える雲雀に、凪はゆっくりうなずいた。

 

数分後、トレーにダージリンティーを乗せた凪が戻ってきた。

机に置きながら

「お砂糖とミルクは・・・」

雲雀はいらないという風に首を横に振り、ゆっくり口に運んだ。

その様子を、ぎゅっと手を組んで凪が真剣な面持ちで見つめる。

雲雀はソーサーにティーカップを置くと、ふっと笑って

「じゃあ、ノエルがいない日や、僕が紅茶を飲みたくなった時には君にお願いしようかな、クローム」

それを聞いた凪は、ぱっと花が咲いたような顔で

「はいっ!」

と返事をした。

 

数日後、放課後の応接室にて。

「珍しい紅茶が届いたんだよね~。ちょっと飲んでみない?」

高級そうな缶に入った茶葉をかかげてたずねるノエル。

「・・・僕の紅茶はクロームだから」

手元の書類に目を落としたまま言う雲雀に

「え?」

ノエルはきょとんとした。

凪を見ると、困ったような照れたような表情をしている。

「え、仲良くなるのはすごくうれしいんだけど、いつの間にそんな関係になったの!?しかも僕の紅茶はクロームって何!?」

「そのままの意味だよ、ノエル」

はぐらかす雲雀に

「ノエルもこの紅茶飲むよね?私淹れてくる」

そそくさと逃げるように給湯室へ向かう凪。

その後ろ姿を見送りながら

「あ、ありがとう凪。雲雀!ちょっとその話詳しく!」

ノエルは必死の形相で雲雀に詰め寄った。

 

 

ちなみに、反省文を書いてきた凪だが、ノエルはというと、反省文を持ってくることはしなかったが、その日の放課後、応接室を訪れるや否や、

「今朝はごめんね~。委員長のたまってる書類片付けるから許して!」

と言い、ものの数時間で、雲雀の一週間分の仕事を片付け(自分の分の仕事もこなしつつ)颯爽と帰っていった。




荒ぶるノエル。
珍しく取り乱すノエルが書けて、うれしいです。


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期間限定避難場所(並中)

放課後、雲雀が校内の見回りを終えて、応接室に戻ると

「うん、合ってる!じゃあ次はこの問題解いてみよっか」

来週から定期試験のため、風紀委員の仕事を休みにしているノエルと凪がいた。

雲雀が扉を開けたまま、ソファーに並んで座っている二人を見つめていると

「あ、雲雀見回りお疲れ様~!」

ノエルが気づいて声をかけた。

奥の凪もこちらを見て会釈する。

「君たち何してるの?」

氷点下の声で雲雀がたずねる。

「見ての通り、試験勉強だよ」

ノエルが笑顔で、机に広げたテキストのうちの一冊を、雲雀に見えるように掲げる。

「家でやりなよ」

雲雀の至極真っ当な言い分に、ノエルはふるふると首を振り、

「集中できないの。図書館はもうすぐ閉まっちゃうし。でもここなら、雲雀が帰るまで開いてるし、クーラー効いてるし、紅茶も飲める!」

家以上にくつろいでるのではないかと思う雲雀。

それにノエルは、家じゃ集中できないのではなくて、仕事をしてしまうからでは・・・。

ましてや、彼女にとって中学レベルの試験など勉強する必要もないと雲雀は思った。

凪は家が黒曜ランドで、あの二人組がいて集中できないのはわかるが。

試験勉強目的での応接室の利用を承諾しない雲雀に、

「じゃあ、この問題教えてよ~。そうしたら帰るから」

しぶしぶといった感じでノエルが提案してきた。

数式が見えたので、開いてあるのは数学のテキストだ。

雲雀はため息をつきながら、彼女の前に置かれたテキストをのぞきこんだ。

 

読めなかった。

数式や問題が理解できなかったのではない。

文字通り、読めなかった。

いつのまにかイタリア語のテキストにすり替わっていたからだ。

「さあ、雲雀教えて?これ、何て書いてあるの?」

すっと一番上の言葉を指さされるが、日本語が一つもないうえに、イタリア語なんてろくに目にしたことがない。

静寂な空気が応接室を支配する。

ふと顔を上げると、ノエルの隣で凪が申し訳なさそうな顔をして見ている。

思わず、助け舟を出してくれないかと彼女を見つめ返すと

「凪をにらんじゃダーメ」

睨んでいると勘違いしたノエルが凪を抱き寄せる。

「わっ・・・」

引っ張られ、バランスを崩した凪がすっぽりとノエルの胸の中におさまる。

すっかり和んだ空気の中、

「これ、試験に関係ないでしょ」

雲雀が反論した。

「試験の問題教えてなんて言ってないし、息抜きで凪にイタリア語教えてたから、これも勉強だもん」

よくわからない理論を口にするノエル。

戦いにしても何にしても、ノエルに勝てたためしなんて一度もないため、これから何時間口論しても、平行線か、自分の負けだろう。

そう思った雲雀は、ため息をつくと、

「・・・うるさくしないでね」

しぶしぶ使用許可を認めた。

「やったぁ!」

ノエルと凪はハイタッチし、

「じゃあ、凪、頑張って高得点目指そうね!!」

ノエルは笑顔でそう言った。




ちなみに試験の結果は、ノエルは全科目満点、凪はすべて平均点以上、英語が高得点だったとのこと。


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大切にしてください(黒曜)

その日、ノエルは朝から違和感があった。

何の違和感かはわからないが、それは、あれ?と思うくらいのささいなことだった。

それにより、十数秒ほど動きを止めたノエルだが、鍋が沸騰していることに気づき、はっと我に返り、その違和感も忘れてしまった。

 

朝食は、

トースト

キノコのクリームスープ

オムレツ

サラダ

にした。

みんなでわいわいと食べる。

それから、学ランに身を包み、並中の制服とバッグ、お弁当を持って凪と学校へ向かう。

今日は校門で風紀チェックの日だ。

午前の授業を受けた後、いつもは凪と昼食をとるのだが、断って応接室へ向かう。

放課後は予定があって行けないため、昼休みに前倒しで仕事を行う。

午後の授業を終えると、スーパーに寄って食材を買い、黒曜ランドに帰って、夕食の下ごしらえを済ませる。

続きは凪と千種に任せ、マンションに帰り、仕事服に着替えてイタリアへ向かう(ここでは飛行機で三時間で行ける設定)。

23時から情報屋の仕事をし、2時に飛行機で日本へ帰る。

5時に日本に到着し、6時にマンションに戻りシャワーを浴び、並中の制服と学ラン、バッグを持って黒曜ランドに向かう。

7時にみんなを起こして、朝食とお弁当を作って登校する。

飛行機内では仮眠をとったり、宿題をしていた。

 

そんなある日、久しぶりに風紀委員の仕事も、情報屋の仕事もなく、夕食を食べ、食器洗いが終わったところだった。

突然くらっとめまいがし、倒れそうになった。

近くにいた千種に支えられ、

そうだ、先週の朝もこんな感じでくらっときたんだった。

違和感の正体が分かったノエルはそう思った。

そのままソファーに横になり休むことにした。

「ありがとう」

おでこに濡れタオルを乗せてもらい、ノエルはお礼を言った。

ひんやりとした冷たさを感じながら目を閉じる。

しかし、いつまでたっても気配が消えない。

ぱちっと目を開けて隣を見ると、千種がタオルを乗せた時と同じ様子で見つめていた。

そのまま見つめ合っていると

「死ぬよ」

ぽつりと千種が言った。

「死なないよ」

「死ぬよ」

「死なないって」

ノエルは軽く笑いながら返していたが

「死ぬよ」

変わらず淡々とした声色だが、いつになく真剣な顔で千種はまた言った。

 

ノエルはここ最近の生活を思い返した。

情報屋の仕事が多く、ほとんど毎日イタリアに行っていた。

マンションには荷物を置き、シャワーを浴び、また荷物を持っていくだけで、ほとんど過ごしていなかった。

睡眠は、飛行機の往復の時間だけだが、宿題をしたりしていて、きちんとは寝ていない。

そんな生活を二週間繰り返した。

まともに休んでいないが、一切疲れた様子を見せず、いつも笑顔で振るまった。

まだ大丈夫だと思っていた。

 

「分かった。もう無理しないから、凪たちには秘密にして」

本当に言ってほしくないのは彼女だけだが。

みんな大切だけど、あの子にだけは悲しい顔をさせたくない。

ノエルの懇願に、千種はうなずくと

「来るのはたまにでいいよ。三人でも生活できるし」

眼鏡を押し上げながら言った。

「毎日駄菓子生活してたのは誰だっけ?」

ジト目で見つめるノエルに

「気をつける」

千種はうなずいた。

「きちんと分担して、みんなで家事するんだよ!」

ノエルはそう言うと、ゆっくり目を閉じた。




珍しく弱弱しいノエルちゃんでした。
何でもできるけど、それは努力の上で成り立っている。
頑張りすぎて無理しちゃうタイプ。
いっぱい休んでください。


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けんかするほど(黒曜)

朝、ノエルが朝食の準備をしようとダイニングに行くと、カーテンが開けられ、テーブルの前には犬と千種が座っていた。

「おはよう・・・」

驚きながらもノエルがあいさつすると、犬と千種はぼそぼそとあいさつを返した。

どういう気まぐれだろう。

二人とも朝は弱く、いつもぎりぎりまで起きてこないのに。

ノエルは不思議に思いながら、エプロンをつける。

まあいいか。

せっかくだから手伝ってもらおう。

ノエルはそう結論づけると、満面の笑みで振り返った。

 

三人で朝食の準備をし、(千種には料理の補助を、犬にはかき混ぜてもらったり、火を止めてもらったり、お皿を出してもらったりと簡単な手伝い。犬は完成した卵焼きを一切れつまみ食いしようとしたり、みんなのご飯を山盛りによそったりしていて、その都度千種がため息をつきながら止めていた)テーブルに全員分の朝食を並べた。

しかし、いつも朝食を食べる時間になっても、凪が起きてこない。

体調でも悪いのかと思い、凪の部屋に様子を見に行くことにする。

「凪のところに行ってくるから、先に食べてて」

二人にそう言い残し、ノエルは急ぎ足で凪の部屋へ向かった。

 

凪の部屋の扉を軽く三回ノックし、

「凪、おはよう。大丈夫?」

声をかけると、少ししてから、

「大丈夫・・・」

と凪の声が聞こえた。

「朝食持ってこようか?」

ノエルが扉の外でそう提案すると、また少し間が開いたあと、

「・・・うん」

ひかえめな返事が返ってきた。

ノエルはそれ以上聞かず、

「分かった!すぐ持ってくるね」

元気よく返した。

ダイニングに戻ったノエルは、トレーに凪の分の朝食と飲み物を乗せて、彼女の部屋に届けた。

扉は開けてくれなかったので、部屋の外に置いて、あとにする。

そしてまたダイニングに行くと、犬と千種はダイニングにいたままだった。

二人のお皿は空である。

ノエルは無言で自分の席に着くと、すっとまっすぐ前を見据えた。

しばらく静かな時間が流れた後、その空気に耐えられなくなったのか

「怒らせたびゃん・・・」

聞いたことのないほど小さい声で犬が言った。

「誰を・・・?」

ノエルが静かにたずねると

「・・・クローム」

犬が凪の名前を口にするのを久しぶりに聞いた。

ノエルは息をつくと

「最初から話せる?」

 

簡単に説明すると、昨日凪にちょっかいを出した。

いつもみたいにスルーされるかと思ったら、傷ついた顔をして、怒った。

予想外の反応をされ、言い出したからには引くに引けなくなり、言い合いになった。

 

「そう・・・。それで、犬はこれからどうしたいのかな?」

事情を聞いたノエルが優しくたずねると、黙りこんだ犬。

きまりが悪いのか、うつむいている。

「このままでいいの?このままずーっとクロームがお部屋から出てこなくて、ずーっと悲しんだままで」

子どもをあやすような声色で、諭すように続ける。

それでも無反応の犬に、ノエルは何かのスイッチが入った気がした。

 

数時間後、犬は凪の部屋の前にいた。

あれからノエルの説得は昼頃まで続き、最終的に犬は折れた。

しかし、なかなか気持ちが固まらず、扉の前に立ち尽くしていた。

そして、意を決したように犬は、軽くノックした。

名乗らず、何も言わず待ち続ける。

少しして、そっと扉が開いた。

凪が不思議そうに顔をのぞかせる。

立っていたのが犬と分かると、凪はびくっと肩をはねらせ、閉めようとした。

「クローム」

犬が凪の名前を呼んだ。

その言葉に凪が動きを止める。

「何・・・?犬」

凪の通る声が響く。

犬はうつむいて沈黙していたが、

「わ、悪かったびょん」

小さい声で謝った。

反応がなく、犬がいらだって顔を上げると

凪がにっこりと笑っていた。

「!!」

犬は、凪が自分に優しく笑いかけるのを久しぶりに見た気がした。

いつも笑いかけていたかもしれないが、犬は見ていなかった。

「私もごめんね・・・」

凪も謝ると、ゆっくり扉を開けて出てきた。

 

その一部始終を見守っていたノエルと千種。

「仲直りできてよかったね~」

小声で千種に話しかけるノエル。

「うん・・・」

そっけなく返す千種だが、うれしそうに感じた。




悪いことしたら、素直に謝るの大事。


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大嫌いな女(黒曜)

城島犬は神崎ノエルが嫌いだった。

いきなり黒曜ランドに現れて、バカ女の肩を持ったことも。

勝手にメシ作って、掃除して、居着いてるところも。

骸さんより強いことも。

 

きれいな髪も。

長いまつげも。

透き通るような目も。

真っ白な肌も。

長い指も。

細い手首も。

目が合うと笑いかけてくるところも。

横を通ると、ふわりといい香りがするところも。

何もかも気に入らなかった。

 

休日の昼過ぎ。

この時間、黒曜ランドにはいつも全員いるのに、千種はどこかに出かけていて、凪もいなかった。

そのとき犬は、初めてノエルと二人きりになった。

といってもいつもと変わらない。

話しかけたりしないし、それは相手も同じだろう。

そう思い、犬がダイニングでテレビゲームをしていると、

「ゲーム好きなんだね。何のゲームしてるの?」

後ろから声がした。

びっくりして振り向くと、いつの間にかノエルがいて、画面をのぞきこんでいた。

が、別に答える必要もないため、目の前のゲーム画面に集中する。

犬が無視しても、ノエルはそこにいた。

「わ~!強いんだね!」

「今避けるの上手だったね!」

「なるほど!そこで攻撃するんだ~」

いるだけじゃなく、すごく話しかけてきた。

しかし、褒められて悪い気はしなかった。

 

「これ、二人でもできるんだね」

しばらくして、ノエルがゲームの説明書を見て、感心したようにつぶやくと

「ねえねえ、私もやってみていい?」

目をきらきらさせて聞いてきた。

いつもなら無視するが、気まぐれだった。

無言でコントローラーを渡し、横にずれる。

こいつは強いし、頭もいいし、骸さんも一目置いてるし。

何でもできる。

きっとこのゲームも、さっさと勝つに決まってる。

それでも一緒にやっているのはどうしてなのか。

犬は考えてもわからなかった。

 

結果は、何度やっても犬の勝ちだった。

「難しいね・・・」

見てるときは、できそうだったのに。

ノエルは眉間にしわを寄せて、悔しそうにつぶやいた。

犬は、今まで見たことのないノエルの顔に驚きつつも、

へっ、こいつでもできねーことあるびょん

思いがけず弱点を知って、内心うれしかった。

 

それから、凪と千種が帰ってくるまで対戦は続いた。

結局ノエルは一回も勝てなかったけど、なぜか清々しい顔をしていた。

それは犬も同じだった。

「さすがだね。また教えてね」

そう言って笑うと、ノエルは夕食の準備をしにキッチンへ消えていった。

ノエルのことは好きじゃないけど、

まあ、たまにならいいか

と犬は思った。




そしていつの間にか懐柔されている犬。


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彼女についての考察(黒曜)

とある休日。

昼食を食べ終わり、千種と凪がダイニングの掃除をしていると、ひょんなことからノエルの話になった。

と言っても、凪が一方的に瞳を輝かせながら話していたんだけれども。

「この前、ノエルに選んでもらって、たくさん服を買ったの。びっくりしたけど、私に似合う服をいっぱい選んでくれて、うれしかった」

弾んだ声の凪に、そう、と千種はうなずいた。

ノエルにされるがまま、着せ替え人形のようになっている凪が容易に想像できた。

「あと、帰り道にね、こう言ってくれたの。『凪はどんな服でも着こなせるけど、凪自身の美しさには、どんな服も宝石も敵わない』って」

どこのキザな男かと思う。

千種はテーブルを拭きながらひっそりと思った。

「初めてノエルの作ったご飯を食べたときも、びっくりしたの。あんなにおいしい料理、食べたことなかったから」

ノエルは将来、シェフになったらいいと思うの。

凪はうっとりとそう言った。

将来も何も、彼女はもう情報屋だから、それはないと思う。

と言いたいが、彼女のことだから、クロームが頼んだら、情報屋をあっさり打ち捨ててシェフになってしまいそうで怖い。

あり得る話だ。

「たまにイタリア語も教えてくれるの。発音がきれいねってほめてくれて」

学校の先生にもなれそう。

「それに、美人さんでスタイルもいいし、モデルさんや女優さんにもなれると思う」

どんどんノエルの職業選択の幅が広がっていく。

確かに、裏社会に身を投じてなかったら、そうなっていそうだ。

医者、弁護士、研究者・・・。

その気になれば彼女は何にでもなれるだろう。

「ノエルって普段どんな仕事してるんだろう・・・」

凪がぽつりとつぶやいた。

確かに出会って結構たつが、知らないことが多い。

年齢、イタリア人なのかハーフなのかクオーターなのか、なぜ日本に住んでいるのか、家族はいるのか・・・。

知っているのは、大空の守護者で、とても強いということ・・・。

「聞いてみたら・・・?」

千種が手を止めて言った。

クロームが聞けば教えてくれそうだ。

「・・・ノエルが話したくなったら聞く」

凪は、覚悟を決めた瞳でにっこりと笑った。

ノエルと出会ってから、クロームは表情豊かになったと千種は思った。

「ただいまー!ねえねえ、帰り道ねこちゃん見かけた~!」

そのとき、夕食の食材を買いに行っていたノエルと、荷物持ちの犬が帰ってきた。

「・・・見た目や言動から年上だと思うけど、たまに幼くなるよね」

しれっとそう分析した千種に、凪はうん、と柔らかい笑顔で答えた。




凪が千種に話していたのは「お散歩しましょう」でのことです。


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