そのバンド、シャイにつき。 (acidaq)
しおりを挟む

設定集
#0 人物設定もとい筆者のカンペ


普段これを見て執筆をしているわけですが、設定があるなら公開した方が良いなあと思ったので「設定その1」を公開します。
適宜更新・編集します。多分。maybe。
先に行っておくとネタバレはありません。多分。


登場人物一覧

 

主人公

・西秋 圭介(Nishiaki Keisuke) 

春から花咲川の高校1年。中学の間は親に連れられ3年間まるまる海外の学校へ行っていた。RASのチュチュと面識がある。

小学校時代に住んでいた家は商店街ではなかったが、商店街に引っ越してきた。

後述するメンバーと「Masquerade kiss」というバンドを組んでおり、そのリーダーを務めている。が、周囲の人間には言っていない。ステージ上での呼び名はK、もしくはKei。女声並びに男声を幅広く使いこなし、MCの時はあえて中性の声を使っているため、性別が不詳となっている。ギターを始めたのは小学校に上がる前。腕前はプロ並み。他のメンバーの楽器もギターには劣るが弾ける。

担当:Gt.&Vo.

身長:175 体重:65

一人称:俺 二人称:お前、お前ら、その他名前

他の人からの呼ばれ方

北斗:圭介

冬樹:ケイ

しぐれ:ニッシー

千夏:ケイちゃん

香澄:ケイくん

たえ:ケイ

有咲:西秋くん→圭介(変更のタイミングは#)

沙綾:西秋くん→圭介(変更のタイミングは#)

りみ:圭介くん

以下、追記事項

両親が1週間後に海外に戻る設定。家の詳細な場所は商店街の外れ。(#2)

 

愛用のGt.

Ibanes RG8570Z jcustom Almandite Garnet(Masquerade kiss)

Ibanes RG8570Z jcustom Black Rutile(werewolf)

 

バンドメンバー

・春日野 北斗(Kasugaya Hokuto)

担当:Gt.

春から花咲川の高校1年。ギターは小学3年生くらいから始めた。他のメンバーが楽器をやっていたことに感銘を受けて楽器を始めた。

 

ステージ上での呼び名は「春」。

一人称:俺

メンバーからの呼ばれ方

圭介:北斗

冬樹:ホクト

しぐれ:

千夏:春くん

身長:175 体重:66

 

愛用のギター

PRS the S2 McCarty 594 Thinline Vintage Cherry (Masquerade kiss)

Suhr Guitars Core Line Series Modern Satin HH FRT (Black Satin/Pau Ferro)(werewolf)

 

 

・高東 冬樹(Takatoh Huyuki)

担当:Ba.

春から花咲川の高校1年生。ベースを始めたのは小学校1年生。

ステージ上での呼び名は「Taka」。

若干関西弁が混じっているような気がするが、エセ関西弁。

一人称:自分

他の人からの呼ばれ方

圭介:冬樹

北斗:冬樹

しぐれ:ふゆき

千夏:ケチコク

 

愛用のベース

 

 

・南出 しぐれ(Minamide Shigure)

担当:Dr. 女の子

春から羽丘の高校1年生。ドラムを始めたのは小学校2年生。

ステージ上での呼び名は「ミナミ」。

普通にコミュ強。友達多い。同級生をはじめとし。先輩や後輩とも分け隔てなく接することができる。

一人称:あたし

他の人からの呼ばれ方

圭介:しぐれ

北斗:しぐれ

冬樹:しぐれ

千夏:しぐれ

 

・中川 千夏(Nakagawa Chinatsu)

担当:Key. 女の子

春から羽丘の高校1年生。キーボードを始めたのは小学校2年生。しぐれが楽器を始めた関係で自分もと思い始めた。

ステージ上での呼び名は「中華」。名前をローマ字変換したところからヒントを得た。

一人称:私

他の人からの呼ばれ方

圭介:千夏

北斗:なつ

冬樹:チナツ

しぐれ:ちなったん

 

愛用のキーボード

 

バンド「Masquerade kiss」について

バンド名の通り、ライブ中はメンバーそれぞれ思い思いの仮面をかぶっている。から、実際にメンバーの顔を知っている人はいない。と思われる。

前述したバンドメンバーは全員圭介の小学校時代の同級生。

全員が全員、親以外周りにバンドをやっていることを知られたくない秘密主義者のため、ライブ中に仮面を被りつつも、来てくれた方々に情熱的な感情を味わって欲しいとのことでこのようなバンド名になった。なお、バンドとしてはかなりの実力。ライブをやるとなるとチケットは即完売する。メンバーに謎が多く、わかっているのは全員が高校生ということと冬樹、しぐれ、千夏の性別だけ。なお、メンバーの学年については2回目の活動再開ライブで表明されている。

実力に伴い知名度は相当高い。いずれはドームツアーも計画している。

また、Circleを利用する際はバンド名を使うわけには行かないので、「Werewolf」というバンド名を使って練習をしている。

バンドをやっていることを隠そうとする熱意は凄まじく、ドラム以外はバンド名によって各自楽器を使い分ける。

 

 

ポピパの面々

・戸山香澄

1A→2A

 

他の人からの呼ばれ方

圭介:戸山→香澄

たえ:香澄

りみ:香澄ちゃん

沙綾:香澄

有咲:香澄

 

・花園たえ

1A→2E

 

他の人からの呼ばれ方

圭介:花園→おたえ

香澄:おたえ

りみ:おたえちゃん

沙綾:おたえ

有咲:おたえ

 

・牛込りみ

1A→2B

 

・山吹沙綾

1A→2B

 

・市ヶ谷有咲

1B→2A

 

 

Roselia

湊友希那

氷川紗夜

今井リサ

宇田川あこ

白金燐子

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

高校1年生 「ひっさびさの日本とバンド」
#1 帰国と再会


ほぼ処女作のような感じです。
文章等拙いとは思いますがどうぞよろしくお願いします。

気ままに更新していきます


4月。日本では桜の花が咲く季節。寒いところではまだ咲いてないしもっとあったかいところではもうすでに散ってはいるけれど、4月は桜の花が咲く季節ってばあちゃんが言ってたから間違いない。

「日本、久しぶりだなあ〜」

空港から都心へと向かう俺、西秋圭介は、ふとそんなことを呟いていた。

飛行機に長時間揺られて(その間は爆睡し)、気がついたら空港に着陸していたわけだ。

中学の3年間は親の仕事の都合で海外のスクールに通っていたから、日本の学校は正直恋しかったし、あいつらに久々に会えるとなると楽しみになってくる。

つい先ほど、俺は小学校時代の同級生たちのLAINグループに日本に帰ってきたこと、そしてこれから通う予定の高校のことを投稿した。

「日本に帰国しました。高校は花咲川。また会えそうだったら会いたいです」

「お、俺も花咲川だ。圭介、久しぶりだな。おかえり」

「同じく花咲川。また一緒の学校だな。すぐに会えそうで楽しみや」

「え〜。あたしら羽丘だよ〜」

「男子と女子でうまいこと別れたね……、ともあれ、ケイちゃん、おかえり」

俺の放った一言から話はどんどん広がり、そして早速明日の昼、俺の新居の近くにある「羽沢珈琲店」で一緒に会おうということになった。

___

翌日。荷解きを済ませ、自分の部屋を構築しているうちにあれよあれよと時間は過ぎて、約束の時間になっていた。

「ついた〜」

約束の時間の前に、俺が住んでいた街を若干放浪した。懐かしさを噛み締めたり、新しいライブハウスを見つけてテンションが上がったりとまあいろいろなことがあった。ライブハウスは普段の活動に使えそうだけど、バンド名は隠しておかなきゃな……。

「おっす、圭介、久しぶりだな」

考え事をしていると、体格が同じくらいの、薄手のコートを羽織った男に話しかけられた。

「久しぶりだな、北斗」

「相変わらず集合時間よりも早く着くんだな」

「そういう北斗だって、集合時間ぴったりに着くところは全く変わってないじゃんか」

2人で3年ぶりの会話を楽しみながら、他のメンバーの到着をしばし待つ。

紹介し遅れたが、彼の名は春日野 北斗。俺のバンドのメンバーの1人。濃いめの茶髪でリードギター担当。もともとの髪の毛の色はもっと金髪に近い茶髪なのだが、北斗自身がこの色が好きで、わざわざ染めているらしい。

他の幼馴染み達が3年前から全く変わってないとすると、おそらく全員が集合するのは30分後ぐらいになる。練習の時以外は時間にルーズだからな。というか基本的に金がかかっている時以外は俺らのバンドメンバーは時間にルーズ。

それぞれの近況報告をしあっていると、もう2人が歩いてくるのが見えた。

「10分の遅刻か、相変わらずだな、お前ら」

「別にいいじゃん?あんまり急いでもなかったんだし」

「しかも最強のケチコク人が来てないから大丈夫っと」

「それもそうだな。……それよりもしぐれ、千夏。久しぶり。また会えてよかった」

「ニッシー、突然しんみりした雰囲気だすなって!男だろ!」

「私も会えて嬉しいよ、ケイちゃん」

ドラム担当の南出しぐれと、キーボード担当の中川千夏。この2人も北斗と同じく同級生。

俺のことをニッシーって呼んできたのがしぐれで、ケイちゃんと呼んできた方が千夏だ。

「さ〜て、残すは遅刻魔&けちんぼのあいつだけだね」

「まーだ冬樹は遅刻魔なのかよ、いい加減小学校時代から直ったと思ったのに」

結局もう1人のバンドメンバー、高東 冬樹が来たのは、それから10分経ってからだった。

 

___

全員が揃い、羽沢珈琲店のドアを開けると、コーヒーのいい香りがほのかに漂った静かな空間が訪れた。

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」

「5人です」

「それではこちらのテーブル席へどうぞ」

同級生くらいの女の子の接客で案内された席に着くと、各々がメニューをとり、さっと注文を済ませる。こういう時は俺らは早い。

しばらくして、全員が頼んだ飲み物が来た。俺と北斗と冬樹はブラックのオリジナルコーヒーを、しぐれはカプチーノを、そして千夏はアイスティーを頼んだらしい。

「さて、3年ぶりの全員揃ったことだし乾杯でもしますか」

「いや、喫茶店で乾杯ってどういうことだよ」

「まあ、あたしららしくていいじゃん、カンパ〜イ!」

「お前ほんとにそういうとこやぞ、しぐれ」

しぐれの乾杯の音頭に冬樹がツッコミを入れながらも、みんなが静かにカップやグラスを寄せ合って乾杯したのを見て、俺は改めてこの場に戻ってきた、帰ってきたことを実感した。

 

しばらくすると料理も来て、だんだんと会話に花が咲き始めた。

「ところで、この近くに新しくライブハウスでも出来たのか?」

「ああ、Circleのこと?3年くらい前にできたから、ニッシーと入れ違いかな。1回行ったことあったけど、まあよかったぞ。あたしらの普段の練習場所として使えそうって感じだ」

「ただ、予約するときの名前、どうする?」

『それなんだよ』

俺以外の全員から同時に返答が返ってきた。

俺らはバンドを組んでいるわけなのだが、周りにはそのことを一切言っていない。

つまり、メンバーが身バレしてない。知っているのはそれぞれのメンバーの親くらい、か。

しばしの沈黙の後、俺はふと思いついてみんなに提案する。

「俺から提案、Werewolfってのはどうだ?」

「それ、どういう意味?」

「『人狼』って意味さ。普段は人間の姿形をしているけれども、満月の晩にだけ狼に変身する空想の動物のことだ。まあ、これを聞けばお前らならわかるだろ?」

少し間が空いた後、他のみんなが静かに頷いた。

「じゃ、それで決定ってことで。詳細はまた後日詰めよう。とりあえず飯だ飯」

「最後の最後で圭介らしいな」

北斗に笑われながらも、俺は自分の頼んだナポリタンを胃のなかに流し込み始めた。

___

近況報告をしていると、あっという間に夜になってしまった。

「そろそろ解散かな、俺も久々に練習したいし」

「そうだな、賛成。きっとお前のことだからすぐに合わせようとか言い始めるんだし」

「最初の練習場所、どこにする?」

「そりゃお前んちだよ、しぐれ。当たり前だろ」

「デスヨネ〜、とりま明日から使えるようにはしとくわ、了解」

「んじゃ、北斗、冬樹。お前らはまた明日な」

「私らもまた明日じゃないんですか〜?」

「そう拗ねんなって千夏。また明日。しぐれもな」

「時間、あとで連絡してね」

羽沢珈琲店を出ると、俺とそれ以外の奴らで別々に別れて帰路についた。

さて、明日は入学式だ。

今日は早く寝るぞ〜……。と、心には決めていたが、結局のところ時差ボケが酷く、結局一睡もできなかった。

 

___

入学式。こちらの入学式は向こうと違って桜の季節で華やかでいいねえ、とひとりしみじみ感じながら花咲川の校門へと向かう。校門で他の2人と落ち合おうっていう算段だ。

「おはよう、ずいぶん早かったな」

「俺はお前と違って少し家が遠いからな、早めに家を出とかないとなってことでかなり早めに家を出たら早く家を出過ぎた」

実際北斗の家は結構遠い場所にある。小学校の時も学区ギリギリだったはずだ。

「で、圭介は寝れたの?」

「んにゃ、全く。時差ボケってのを忘れてたぜ」

「そりゃお疲れ様だ。式中に寝るなよ」

ブランクが3年間もあったとは思えない会話に、心の中ではウッキウキになっている。が、絶対顔には出さない。出したら絶対北斗にからかわれる。

ところでここ、花咲川学園もとうとう少子化の流れに負け、今年から共学化された、つまり、俺らは男子の一期生。女子の比率の方がもちろん高く、少々怖い。じゃあなんで受けたんだ俺。

「にしても冬樹おせえな。迷子か?」

「どうせあいつはいつも通り遅刻だろ、圭介もわかってんだろ?」

「まあねえ。後どのくらいで来ると思う?」

「10分後。そうしないと間に合わないからな」

 

北斗がそんなことを言ってからほぼ10分後、「やまぶきベーカリー」と書かれた袋を持った冬樹がゆっくり歩いて校門に到着した。

全員揃ったことを確認し、俺らは花咲川学園の門をくぐった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#2 入学式って心が若干踊るよな

とりあえず2話です。
前書きになにを書くかはそのうち決めようと思います。
#2、気ままにお付き合いください。



「ようこそ、花咲川学園へ!」

校門を一歩入ると、上級生だろうか、制服を纏った生徒らしき人がテントの中から挨拶をしてきた。朝早くからお勤めご苦労様ですっと。

にしてもさすが女子校だったところ、女子だらけ。これ男子の人権ないやつでは?

「圭介、あの人混み、なんだ?」

北斗に言われて気付いたが、何やら掲示板の近くにえらい人混みができている。

「知らん、行ってみるか?」

俺らは近くまで行ってみることにした。

___

掲示板付近まで行ってみると、クラス分けの紙が張り出されていた。

なるほど、これは確かに大事だ。クラスがわかんなきゃこれから1年間困っちまう。

「北斗〜、お前、何組だった?」

「俺はA組。お前は?」

「おお、同じじゃん、1年間よろしく頼んだ」

「で、冬樹は?」

「自分もA組や。よろしくやで」

全員A組だったようだ。よかった。最悪他が全員女子でも、なんとかやっていけそうだ。

ところで俺の隣にいた女子たちはなんか「いい匂いがする!」とか言いながらひっついてた。女子校(だったところ)怖い。あいつらとは同じ組なのだろうか。

ま、名前がわからないから知りようもないけどね。

一緒の組だったらひっついてた方とはできる限り関わらないようにした方がいいかもしれない。

 

クラスを確認したのち、新入生は教室まで移動して入学式に出席。

生徒代表挨拶の代表者がサボりで出てこなかったのは北斗と冬樹と一緒に驚いたが、それ以外はつつがなく式も進み、時は流れ、HR。

クラス全員、まずは自己紹介をやろうとのこと。担任の先生から「高校生らしい自己紹介を期待しています」と来たもんだ。高校生らし自己紹介ってなんだよ。知らんわ。まあ、適当に済ませておきますか。

最初に挨拶を済ませたのは北斗。女子校だっただけあって、自己紹介後には周りの女子たちが騒いでたような気がする。名字の50音順で自己紹介が進んでいくから、俺は冬樹の次だ。

冬樹が席についたところで、俺は続けて席をたった。

「西秋 圭介です。3年間海外の学校に通っていて、日本の学校は久しぶりです。皆さんと仲良くしていければと思います。1年間、どうぞよろしく」

まあ、高校生らしい挨拶なんてよくわからねえから、適当にこんなもんでいいだろ。

男子の挨拶はこれで終わり。掲示板の名前を見た限りだと新入生の男子は各クラス3人程度しかいなかった。

自己紹介はここからは女子の番。まずは女子の1番だが……

「あっ、あのっ……、牛込 りみです。よろしくお願いします」

トップバッターは牛込さんっていうのか、多分自己紹介とか苦手なタイプだろうな。

1人目の自己紹介を聴いたら飽きたために、春うららかな校庭を窓越しにのぞいていると、あれよあれよという間に自己紹介は進んでいた。

「次、戸山さん」

「はい!戸山 香澄15歳!……」

おっと、これは事故紹介が始まったぞ……。

___

自己紹介が全員終わったのちは、担任の先生から諸注意が話され、それで今日は終了となった。よくよく見ると事故紹介してた奴は掲示板のところで見かけた奴だったことが判明した。

「北斗、昼飯どうする?」

「ん〜俺はどっかで適当に弁当でも食うわ。圭介は?」

「持ってきてねえから購買かなあ今から行って間に合うかどうかはわからないけど。冬樹はどうする?」

「俺は今日は帰って飯を食うことにしてる。……今日練習どうするんや」

今日の練習のことについては全く考えていなかった。なんせ帰ってきたのが久々で、向こうではなかなか楽器を触っている時間もなかったために、正直なところバンド全員で集まって練習できる状況とは思えない。

「各自でいいんじゃね?正直俺も勘を取り戻したいところだし。全員での練習開始は来週あたりからでいいと思うぞ」

「りょーかいっと。そんじゃ、お先」

手早く荷物をまとめて帰っていく冬樹を見送ると、俺は財布を持って購買へと向かった。

___

結局購買にはなんにも売ってなかった。

行った時間がおそらく遅かった。今日の俺の昼飯がなくなってしまったことが確定したため、大人しく帰宅することに決めた。そういえば冬樹が持ってたパン屋って、どこにあるのだろう。商店街散策するがてら、ちょっくら探してみるか。

俺の家は商店街の少し外れにある。家の周囲に何があるか位は多少なりとも把握しておかないとまずい。

実際こっちでの生活はほぼ1人暮らしのようなもんだしな。両親も1週間後には向こうに戻っちまうし。

家に荷物を置き、商店街を少しばかり彷徨っていると、たまたま「やまぶきベーカリー」を見つけた。昨日行った羽沢珈琲店のすぐ近くだったのに、どうして気付かなかったんだと自分を呪った。

「ん〜、今日の昼飯はパンでいっか。パンなら食いながら最悪練習できるし。午後は防音室籠って練習になるだろうし」

パン屋のドアを開けると、中から香ばしい小麦の美味しそうな匂いが漂ってきた。

「いらっしゃいませ〜、メロンパン、焼き立てです」

年の近い女の子の店員がこちらを見ると、少しだけ目を大きくして、それから少し微笑んできた。

俺はトレーにフランスパンと焼きたてと言っていたメロンパン、そしてクリームパンを乗っけてレジへ。

「ねえ、キミ、西秋君だよね?」

「そうだけど、なんで?」

「やっぱり。私、同じクラスだったの、覚えてない?」

「あ〜……、うん、覚えてない。自己紹介のときあんまり聴いてなかったから。すまんな」

「山吹 沙綾」

「へ?」

「私の名前。自己紹介聴いてなかったんだから、ちゃんと今伝えておこうって思って」

「そりゃどうも。ところでいくら?」

「400円になります」

「ほい、ありがとさん。それじゃまた学校でな、山吹」

「ありがとうございました」

家の近くのパン屋の娘が同級生だったことに内心驚きが隠せないが、まあ別にそんなに気にする必要もないだろう。

腹が減った俺は、家まで待ちきれず、帰り道で袋を開けてメロンパンを食べてみた。

「あ、すげーうまい」

次から練習前の飯をあそこで買って行こうと決意した圭介だった。

___

自宅に戻ると、制服を脱ぎ、早速圭介は自室の隣にある防音室に入る。

「そうか〜、これまでのギターにもう1本追加で買わないとバレるのか、どうしたもんかねえ」

バンド、「Masquerade kiss」の絶対の約束。それは、身バレしないこと。

身バレをするときはメンバー全員の了承を取ってからでなければならないが、全員が全員普通の学校生活を送りたい、有名人として「目立ちたくない」ので、絶対了承なんか取れない。

「というか他のやつら新しい楽器買うのか?」

俺はLAINを開き、彼らに聞いてみた。

「今のままの楽器を使い続けたらそっから身バレする可能性あるけど、お前ら新しい楽器買うの?」

「俺は高校合格祝いで親父に半分出してもらって2本目は持ってる。めっちゃ高かったけど買うの久しぶりだから許してもらえたわ」

「俺も2本目は一応持ってるで。ライブでも使えるくらいのやつ。だから多分心配はいらんやろ」

「あたしはドラムだからいっかなって。会場にあるやつ使えばいいっしょ」

「私は買ってない。ただ最近気になってるブランドのちょっといい感じの子が発売されたから買おうかなって思ってる」

「あ、結局みなさん買うんですね」

「なに、もしかして圭介2本目持ってなかったのか?」

「これまで正直なところどうにかなってたからなあ」

これまでの練習場所では練習場所のギターを貸してもらっていたため問題がなかったのだが、バンドを掛け持つとなると話は別になってくる。

「この機会に買っちゃえばいいじゃん、今のと似たようなやつ」

「……色違いもうポチったわ」

「はや!?」

みんな2本目を持っているとなればもうそれは買うしかないですよね。はい。

まだ会話が続きそうなLAINグループをそっと閉じ、俺は自分の練習に入っていった。

___

「このチャキチャキ感やっぱりいいよな」

Marshallのアンプに愛用のギターを繋げて久しぶりにかき鳴らす。

「懐かしい音だけど全く変わってねえなあ、お前のそんなところも好きだぞ」

小学生から愛用していた赤いギターでカッティングなど初歩的なテクニックを試す練習曲で少しだけ遊んだら、オリジナルの曲の練習へ。

〜♪〜♫

ギターソロ部分以外は単調なリフで作られている簡単な曲。

だけどそれは、俺らの仲を紡いでくれた大切な曲。

腕は多少なりとも落ちてはいたものの、なんとか弾きこなせたから来週のバンド練習もなんとかなるだろう。

他の曲も適当に弾いていると、いつの間にか3時間経っていた。

「明日も学校だし、ちょっぴり予習してから寝るか〜」

暇なら次のライブのセトリでも考えてればいいし。

自室に戻り、机に座っていたらいつの間にか意識が薄くなっていった。

 




誤字等ありましたら遠慮なく報告してください、お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#3 久々のバンド練習ってだけで心がウッキウキして止まんねえな

終わり方が難しいし既存のキャラを動かすのも難しいし……。
他の作者様に尊敬しかないです……。
毎日更新なんて夢のまた夢です……。
それでは本文をどうぞ。


新学期が始まってからあっという間に1週間が過ぎ去った。

「んあ〜、久しぶりの練習だな!おら、心がウッキウキして止まらねえぞ」

「そうだな、全員揃うのは久しぶりだしな」

「ケイが向こうに行っちまってからみんなで集まることは不可能だったし、自分らだけで練習しててもなんか足りない感じもしたからなあ」

「うるせえぞ冬樹。……まあ、俺も楽しみだ」

今日はなにを隠そう、ほぼ3年ぶりのバンドメンバー全員が揃って練習する日。こいつらとまた合わせられるって考えただけで心が弾む。

学校早く終わらないかなあ。あ〜あ。まだ始まってすらいないのにね。

というか……さっきから教室でランダムスター弾いてる戸山はなんなんだ?しかもそのなかなかにハイエンドなギターどこで手に入れたんだ?学生じゃ手が出ねえ値段の代物だぞそれ。

しかもちゃっかり学校にギター持ってきてる花園もなんなんだ?この学校ギターOKなの?え?え?(困惑)

「変態だ……」

花園、それには全面的に同意するぞ。

___

学校は適当に聞き流してたら終わった。特に最後の英語。正直簡単すぎる。なんてったって3年間話してた言語だしな〜、なんて思ってたら終わってた。

家庭科の授業の作業も授業中に終わったし、順調順調。同じ

HR前に手早く帰る準備をパッと済ませ、放課になるのを今か今かと待っていた。

「それでは皆さん、また明日」

よっしゃ終わった。楽しい楽しい練習の時間だぜ(白目)。

「んじゃ、各自楽器を持って1時間後にCircleに集合な!遅刻した奴がいたらスタジオ代そいつ持ちな〜。早く来たのから中入ってていいから」

放課後になるや否やLAINに投下。これで遅れてくるやつはいないはず。

「りょ〜かい☆」

しぐれもこう返してるし全く問題ないだろ。

さ〜て、俺も遅れないようにしますかね。

「ところで予約名は?」

「ああ、werewolfだ。人狼、始動だ」

「人狼、始動って、なんかカッコええな」

「冬樹、お前が一番遅れるんだから、遅れるんじゃねえぞ」

 

きっかり50分後。この間ポチった黒い相棒を背負ってCircle前に。いつも使ってるギターの色違いだから重さについてはあまり変わらないし、形もほとんど変わらない。ただ、試奏をしたわけではないので実際の弾き心地はわからない。先に入ってちょっと弾いとくか。

「こんにちは!ご予約の方ですか?」

ドアを開けると受付の女の人が微笑みながら訪ねてきた。

「はい、werewolfで予約しています」

「確認しますね。……はい、大丈夫です。スタジオ2番です」

「わかりました、ありがとうございます」

受付を済ませ、鍵を受け取りスタジオへ向かう。やっぱり俺が一番初めじゃねえか。

スタジオ内に入ると、ギターケースから黒光りする相棒とピックを取り出し、シールドでギターとアンプを接続。では、早速。

〜♪

「うん、音伸びもあいつと変わらないし弾いた感じもいい感じかな。ライブでも普通に使えそう」

「せやな、ケイの新しい相棒、なかなかいい感じじゃん?」

「本当だな。あの時通り、いい演奏を頼むぞ、圭介」

「お、それニッシーの新しいギター?いいじゃんいいじゃん!!」

「いつものギターの色違いだね」

状態を確かめているうちに全員がそろったようだ。

「よし、全員揃ったな。みんな時間通り。冬樹、遅れてくると思ったけど」

「このケチコク、金が絡んだ時はいつもこうだったでしょうが」

「確かにそうだな。まあいいや。全員準備が終わったみたいだし、久しぶりの一緒の2時間、楽しもうぜ」

適当に喋ってる間にみんなも準備できたようだし、

「オッケ〜、で、なにから始める?」

「ん〜、“仮面”」

なんとなく呟いた俺の一言に、他のメンバーは鳩が豆鉄砲を食らったかのように俺の方を見る。

「ケイ……、こっちでMasqueradeの曲をやるんかいな?」

「最悪カバーって形でもできるし、最初にこの曲を合わせたいんだ。いずれはこっちの名前でライブをすることになると思うし、曲も作っていければって思ってる」

「まあ、圭介がそういうならそれから始めるか」

「北斗、助かる。他の奴らもそれでいいか?」

皆頷いていたから問題はないだろう。

「んじゃ、いつも通り、頼むぜ」

しぐれの合図から「人狼」の活動が始まった。

___

曲の修正とこれからの活動方針を適当にまとめていたらあっという間に2時間が終わった。

「時間だしそろそろ出ようか、ケイちゃん」

「ん?もうそんな時間か、ありがとな、千夏」

ギターとアンプからシールドを外し、アンプの電源を切る。

真空管アンプじゃないはずだからまあ多少適当でも問題ないだろう。

「んじゃ、あたし受付行って次の予約してくるね〜」

一歩先に片付けが終わっていたしぐれがそう言い残し、手を振りながらスタジオを先に出ていく。

「んじゃ、俺らもさっさと終わったやつから出ますか〜……」

メンバー全員の撤収が完了したのを確認したのち、忘れ物がないかを再度確かめ、スタジオのドアをそっと閉めた。

 

受付に行ってみると、しぐれは同じような制服を着た、いかにもギャルっぽいベースケースを背負った高校生と談笑していた。

「しぐれ、予約終わったか?」

「あ、ニッシー!終わったよ!ちゃんと予定通り取れた!」

「了解、ありがと。んで、そちらの方は?」

「ん!で、こっちの人はリサ先輩!Roseliaのベース担当!」

「ほ〜、あのRoseliaのね〜……。よろしくお願いします?」

今後関わる可能性が無きにしもあらずってところだから一応しっかり挨拶はしておこう。

「いきなり疑問形?こっちこそよろしく☆で、キミ、名前は?」

「西秋 圭介って言います。花咲川の1年です。ちなみにしぐれとは幼馴染なだけなので邪推はしないでくださいね」

「な〜んだ、そ〜だったのね」

「も〜、言ったじゃないですかリサ先輩」

「あはは、ごめんごめん。で、名前で読んでもいいかな?」

「俺は全く気にしないのでどうぞご自由に。ところで他の奴らは?しぐれ」

俺は先にでたはずの他のメンバーが周りにいない理由をしぐれに尋ねた。あいつらのことだから先に帰ってるってこともわりとあり得る。

「外にカフェあるのを見つけてそっちに行ったよ〜」

「ほ〜。ここのスタジオ、外にカフェまであるのか。今時のスタジオはおしゃれだな」

「向こうでは普通だったんじゃないの?」

「いや、向こうはスタジオにカフェなんて基本は併設してないからな」

「ん?向こうってどういうことかな?」

リサ先輩からいきなり横槍が飛んでくる。

「ああ、実は俺、親の都合で3年間留学というか、日本にいなかったんですよね。だから、日本のスタジオを使うのがかなり久しぶりで」

「そうなんだ!海外のスタジオってやっぱり日本のとは違うの?」

「え〜っと、いろいろですね。ただ、日本の方が断然サービスは充実してます。部屋の個数とかはやっぱり向こうに軍配が上がりますけどね。あと、値段についてはどっこいどっこいです。田舎になると安いみたいですし、都会になるとやっぱり高いですね」

向こうで通っていたスタジオのことを思い出しながらリサ先輩に答え、その後も立ち話をしているうちに、カフェに行ってた奴らが戻ってきた。

「お、出てきたか圭介。お疲れ様」

「お疲れ。で、カフェとやらはどうだった?」

「メニュー数はやっぱり少なめやけど、練習前とか後とかに時間を潰すには良さそうな感じやな」

「ケイちゃんも行ってみる?」

「いや、俺は遠慮しておくよ。今日は早く帰りたいところだしね。それじゃリサ先輩、お先に失礼します」

「お疲れ〜☆」

リサ先輩に軽く挨拶し、俺らはCircleを後にした。

___

「せっかくケイが日本に帰ってきたんだし、久しぶりにライブ、したくねえか?」

「賛成さんせ〜い!!あたしもライブしたい!!」

帰り道、冬樹としぐれがいきなり言い出した。確かに、前回Masquerade kissでライブをしたのが小学6年の3月。その時の様子を俺は頭の中に思い浮かべてみる。

 

「我ら、Masquerade kissは3年間、活動を休止します。理由については仮面の下に隠させていただきますが、あなた方なら追求しないと思います。必ず、3年後、我々は戻ってきます。その時まで、待っていていただけるのであれば、3年後。またお会いしましょう。……では、今日の最後にこの曲を。―」

 

3年前のライブで自分が言っていたことを思い出しながら俺は答えた。

「今思い返してみればなかなかキザなこと言ってたな俺。確かにあの時3年後って言ったし、今年はその3年後だ。早いうちにやりたいな」

「圭介もそういうと思ってた。俺もやりたい」

「私も。ケイちゃんと、みんなと、またライブしたい!」

「それじゃ、決まりだ。期日とかについてはまた詰めよう。それじゃあ、今日はこれでな。北斗と冬樹はまた明日」

「おう、じゃあな圭介」

「ケイ、また明日や!」

俺はみんなと別れ、セトリや演出を考えながら帰路についた。

俺らの再始動は、ここからだ。

 




ついに始動し始めました。もっとバンドリ!メンバーとの絡みを増やしていければと思います
P.S.お気に入り登録ありがとうございます。
自分の頭の中の世界を描いていければ、と思います。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#4 文化祭って楽しいのかなんなのかわからないよね

前書きで、書くことが、ないっ!!!

文化祭です。3部構成の予定です。お楽しみください。

では、本文を。


初練習から3週間。あれから毎週全体練習をし、並行してライブの日程なども詰め始めた。

が、文化祭とかその他の学校行事の関係から、ライブの日程自体は今週の練習で決めることになっていた。

花咲川はもうすぐ文化祭。文化祭と言えばクラスごとに出し物だが……

「文化祭実行委員長になりました、戸山 香澄です!出し物は〜……」

文化祭実行委員長が事故紹介野郎になったおかげで俺は早速先行きが不安です☆

なんてしぐれっぽく言ってみたけど、やっぱり俺にはこれは合わんな。うん、却下。

なんだよきらっとして、シュッと、って。知らんわ。とやまかすみ語が全員に伝わると思うな。

「その前に副委員長を決めないと……」

「そうだった……」

ナイスだ学級委員長。まあ、俺には関係ない話なんですけどね。

ほら、副委員長は山吹に決まったみたいだし。困惑してたけどまあなんとかなるっしょ、山吹頑張れ。

「え〜、1年の副委員長は今年から男女2名となりました。ので、男子から1人出してもらおうと思います」

その言葉を聞いた瞬間、俺は即座に委員長に申し出た。

「あの、2分間だけいただいてもいいでしょうか、学級委員長。それで3人の中から決めます。あと、教室の外に出ることを許可していただけると嬉しいです」

ここで学級委員長って言っとかないと戸山が反応するからな。大事。

___

学級委員長に俺らの要望が認められ、短い短い2分間が始まった。

「さて、どうする?戸山と山吹と一緒に仕事をする犠牲者をここから決めるわけだが」

「少なくとも冬樹はダメだな。こいつ間違いなく委員会とかに遅刻する」

「それはそうやな。さすがホクト、自分のことよう分かっとる」

「んで、俺か北斗かの二択になるわけか。どうする?」

「正直バンド活動とかとの兼ね合いになるとは思うが、正直なところ、俺は圭介にまかせたい。お前はリーダーとは言えど、英語関連の授業を聞いてなくていいし予習も復習もしなくていいってのはアドバンテージだしな。バンドの方についてはまあ俺も支えるし、みんなでうまくやっていけばいいだろって思ってるが、どうだ?」

北斗が声を落として俺らに囁いた。廊下に出ていて俺ら以外にいないとは言えど、男子の声は思っている以上によく響く。用心しすぎることはないだろう。バンドをやっていると知られること自体がリスクになり得る。

「そうやっていつも面倒ごとは俺に飛んでくるんだな。正直指名制にしても半分くらいの確率で俺になりそうだったしまあいいよ。北斗、あとで練習付き合え。そしてなんか奢れ」

「ああ、わかった。悪いな」

「んじゃ、決まりやな。戻ろうぜ」

俺が学級委員長にもらった2分がちょうど過ぎた時、俺は教卓の横に、北斗と冬樹は自分の席についていた。

「山吹と同じく副委員長になりました、西秋 圭介です。委員長やもう一人の副委員長のサポートを微力ながら精一杯していこうと考えています。どうぞ、よろしくお願いします」

副委員長就任挨拶を済ませると同時に、クラスから拍手が起こる。

そして終わるや否や、戸山がまたとやまかすみ語を吐き出し、山吹がそれを訳してって感じになり、結局1Aの出し物はカフェに決定した。

……ところでこれ、俺何かやる必要あったの?

___

後日。第1回の文化祭実行委員会会議。

生徒会と各クラスの実行委員長が集まる会議だ。

今年は1年の代表者の人数が増えたらしく、去年よりも広い教室での会議らしい。が、正直今年から来た俺にはあんまり関係がない。と言うか全く関係がない。

「では、第1回文化祭実行委員会を始めます」

生徒会長の一言で、文化祭実行委員会が始まった。

で、なんか記入する用紙の説明のところになったら戸山が溶けてた。

そんな難しいやつなのか?と思い俺は山吹にその用紙を見せてもらうことにした。

「悪い山吹、その書類、ちょっと見せてもらえるか?」

「ん?いいよ、ちょっと待ってて」

「助かる、ありがと」

山吹から書類を受け取ったあと、俺はさっとそれらの書類に目を通す。

(申請書多いなあ〜……、まあでも、主催ライブをやる時よりかはまだマシってレベルだな。様式も最初から指定されてるし、書くことも決まってる。こりゃ2時間ありゃ全部書き終わるな)

確認が終わると、俺は山吹に書類を返した。

 

会議後。

「……、う〜、書かなきゃいけない書類いっぱいだ〜」

戸山は案の定項垂れていた。

「ああ、書類ね。俺が全部書いておくから気にすんな。それより戸山はクラスを引っ張ってくれ。お前の頭の中にカフェの構想があるから、お前以外はクラスを引っ張れない。で、山吹はその補佐ってところがいいかなと思うけど、どうだ?」

「それなら頑張る!」

「私は……それでいいけど、西秋くん、無理してない?」

「心配するな、山吹。お前はそれよりも戸山に振り回される心配だけしておけばいい。戸山の相手は俺じゃ絶対無理だ」

「あはは……、了解。何か困ったことあったら言ってね、手伝うから」

「じゃあそん時は遠慮なく言わせていただきますよっと、んじゃ、じゃあな」

「あ、ケイくんじゃ〜ね〜」

「おう、戸山もじゃあな」

今までぐったりしていた戸山が急に元気になったな。なんか後ろの方で香澄でいいのにって言ってる気もするがそんなことはどうでもいいわ無視無視。そんなことより今日の練習の方が大事(失礼)。

足早に帰宅すると、俺はギターと一緒に防音室に篭り、練習と作曲に耽った。

___

翌日。週に1回のCircleでの練習。

流石に練習を積み重ねていると、昔の勘が戻ってくるのもあってどんどん音がまとまってくるのがわかる。

次のライブでやるであろう曲を一通り合わせ終わった後の休憩中、俺はメンバーに発表をした。

「次のライブの日程とチャンネルを決めた。2つライブをやろうと思う」

「ケイ〜、チャンネルって何さ〜」

「どっちの名前を使ってやるか、だ。話を戻すと、1回目は次の花咲川の文化祭でやろうと思ってる。チャンネルは人狼。で、2回目は文化祭の2週間後。こっちは都内のまあまあなキャパのライブハウスかな。チャンネルは舞踏会の方にしようと思ってる。一応それぞれのセトリも考えたし新曲も手直しは必要だと思うが作ってみた。んで、舞踏会の方のハコもそれ用の連絡先で押さえてはある。こんな感じでどうだ?」

「ってことは、大体1ヶ月が準備期間ってことか。圭介、舞踏会の方は主催ライブってことでいいか?」

「少なくともそのつもりで考えてるよ、北斗。ゲストアクトどうするかとか全く考えてねえけど、最悪俺らだけのワンマンでもなんとかなるだろ」

「なんとかなると思うで、チナツとしぐれはどうや?何か意見ある?」

「ん〜、あたしは大丈夫。チケの値段とかどうするか練習終わったらさくっと決めようか。チケの柄は活動再開だし、休止ライブの時のやつでいっか〜」

「私も大丈夫。でさ、ケイちゃん。もしゲストアクト決まってないならTuitterで告知がてら募集してみれば?やりたいバンドはDM送ってくださいみたいな感じで」

「確かにそれもありだな。……とりあえず聞いてる感じはみんな賛成ってことでいいか?」

『おっけ〜だ(よ)』

「んじゃ、それに向けて練習頑張りますか〜。ちなみに文化祭の件については生徒会の方に俺から話を聞いてみるわ。よし、休憩終わり。練習の続きに戻るぞ〜」

その後の練習は気がついたら終わっていた。帰る前に次回の予約を済ませ、収益をもとにチケ代を決めた。バンドの通帳を握っているのはしぐれだが、他のメンバーも逐次予算の規模は掴んでいる。小6の時に毎月ライブやってかなり稼いでいたからかなりの額が溜まっているわけだ。ちなみに誰かが極端に遅れるとか、そういうことがない限りはスタジオ代等、バンドメンバー全員が関わる代金はそこから出している。

その日の晩。Masquerade kissのTuitterが3年と2ヶ月ぶりに更新された。

「活動再開を報告申し上げます。つきましては、再開記念の会を主催させていただきます。

日時:6月第1週の土曜日 19:00 start

参加費:4000円

会場:Zippe トーキョー

その他:今回は物販はありません。次回以降にご期待ください。

チケットは1週間後に発売です。続報をお待ちください。

また、大きな告知があります。ツリーをご覧ください。」

「重大告知

・今回の会にあたり、ゲストアクトを招待しようかとメンバー内で話し合っていたのですが、招待するバンドが思い浮かばなかったこともあり、自薦を募ります。もちろん他薦でも構いません。最大2バンドとさせていただきます。メンバー内で選考を行い、結果につきましては締切の3日後にお伝えいたします。期日はこの投稿からちょうど3日後とさせていただきます。皆様、また会であいましょう」

ちなみに広報を担当しているのは冬樹だ。あいつ間違いなくそういうの得意だしな。

 

(ライブの告知もしたことだし、途中の曲を少し書いたら今日は寝ますか〜)

諸雑務を片付けると俺は部屋の電気を消した。

 




相変わらず終わり方がわからない……
感想評価、誤字報告のほど、お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#5 少なくとも文化祭の準備自体は地獄

文化祭当日です。
1人不在のようですが……。大丈夫でしょうか(原作通りです)。

では、本文を。


翌日。俺はHRの前、生徒会室にきていた。

「こんにちは、文化祭でライブをするにあたり質問があるのですが、大丈夫ですか」

生徒会室のドアを開けて恐る恐る訊ねてみる。

学年が2つ違う先輩ってほら、怖いじゃん?わかる?

そういえば2年前は女子校だったらしいから、3年生の先輩はみんな女子か……なお怖えじゃねえか。

「おはようございます。生徒会長は朝の風紀チェックで不在ですが、質問なら私が承ります」

なんか水色の髪の毛の先輩だ。確か……氷川先輩って言ったっけ?

「あ、はい。文化祭でバンドをやりたいんですけど、他校の生徒を花咲川に呼ぶことは可能でしょうか」

「そうですね……、生徒会長の許可が降りれば可能です。申請書を提出していただき、その内容を生徒会内で確認、決済という形です。ただ、きちんとした内容であれば許可は下りるかと」

「わかりました。まずは申請書書いて提出しろって話ですね。わかりました。申請書、いただけますか?」

「こちらが申請書です。全てに記入して生徒会室に持ってきてください」

「ありがとうございます。お手数おかけしました」

「いえ、ライブ、楽しみにしています」

「?」

まさかの風紀委員にそんなこと言われるとは思わなかったから、疑問符を浮かべちまった。多分頭の上にも疑問符浮いてるやつだこれ。

「あ、いえ。私もバンドをやっているものでして」

「そうですか、なるほど。確かにそれなら気になりますね。では、記入出来次第、提出します」

もうちょいでHRだし、山吹と各種書類について確認しないとだしな。教室に戻るか。

 

「山吹、今ちょっといいか?」

「ん?あ、西秋くんか。どうしたの?」

「提出する書類について確認してほしいんだが、これで大丈夫か、戸山と一緒に確認してくれるか?まだ決まってないところについては決定し次第、そっちで記入してほしい。仕事を任せちまって申し訳ないが、できるだけやったつもりだ」

「すご……。1日でこれだけ書いたの?大丈夫?」

「雑務は慣れてるもんでな、こんなの朝飯前だ。書いた時間を考えると就寝前だけどな」

小学生時代から主催ライブをやってた力がこんなところで生きるとは思わなかったけどなってのが、正直なところ。

「ありがと。後はこっちで書いておくね」

「ああ、任せた。他にやるべきことはないか?」

「いやいや、西秋君ばかりに仕事を任せるのはよくないって」

「ふ〜ん、ま、何か手伝えることあったら言ってくれよ」

「了解っ、その時はお願いするね」

「あいよ〜」

俺は山吹との用事を済ませると、北斗と冬樹のいる自分の机の方へ向かった。

「さすがケイやな。1日で仕上げるなんて」

「お前らなら普段どれだけ俺がやってるかわかるだろうが」

「それもそうだな。助かってる。で、ライブの件はどうなった?」

「ああ、確認してきた。とりあえず申請書を記入して生徒会内で決済だそうだ。まともな企画ならほぼ問題ないそうだ。一応これから書いて、今日の練習の時にでも確認をとってもらおうと思う」

これまでは1週間に1回の練習だったが、さすがにライブが近い時はそうは言ってられない。これからは毎日練習の日々。まあ、楽しいからいいけど。

じゃあ、他のメンバーは……?

―――

「みんなは毎日いっぱい練習してるけど、大丈夫?楽しくなくない?」

「俺は大丈夫だぞ、千夏。音楽は音を楽しむこと。楽しんでなきゃ、観客も楽しませられない」

「俺も同意見。お前らと過ごしてるともっとギターが上手く弾ける。だから、すごく楽しい」

「自分もや。みんなと一緒に過ごしてる時間が一番好きだぞ」

「あたしも、時々きつくなるけど、みんなでいるのが一番だから。めっちゃ頑張れる」

―――

毎日練習していたあの時のことを思い出して、少し懐かしくなった。

俺らがバンドを組んだのは小学4年生。そっから解散だの仲違いだのがなかったことは半分くらい奇跡だろうな。

きっと今も大丈夫。俺らがみんなの音をちゃんと聞いてれば、俺らは音で繋がれる。俺らにしか、奏でられない音で。

___

学校を終えると、いつものように各自楽器を持ってCircleへ。

「文化祭ライブの申請書、こんな感じでいいか?一応書いてみたから各自で確認してみてくれ」

練習前、俺はメンバーに申請書を見せる。これで参加可否が決まるんだから、この書類はめっちゃ重要。

「ん〜、パッとみた感じ大丈夫だな」

「自分も確認してみたけど、特に問題はないで」

「あたしも大丈夫かな、ありがと、ニッシー」

「私も大丈夫だよ、ケイちゃん」

しばらくの後、全員からOKが出て、晴れて提出できるようになった。

「オッケー、ありがとな。そんじゃ早速始めるか。セトリ通りに一回通して、その後新曲のポイント練習って感じにしよう」

〜♪

___

「ふう〜、大体準備も終わってきたかな」

「そうっぽいな。後やるべきことと言えばシフト調整と最終確認かな」

時は流れて文化祭の前日。結局のところ申請書はOKがでたと氷川先輩から返事があった。生徒会長に提出したはずなのに氷川先輩から返事をもらうとは思ってなかったし、しかも返事をもらった場所がCircleってどういうことよ。

「あれ?香澄は?」

「ポピパで下見じゃね?山吹は行かなくていいのか?」

「あ〜……、あれ、香澄たちが間違って書いちゃってさ、あはは」

「ふ〜ん、そっか。またドラム叩くんかと思ってた」

「……え?どうして……?」

「知り合いから聞いただけ。気にすんな」

山吹がドラムをやってたっていうのは冬樹から聞いた。どうやらあいつ、中学時代から山吹に顔を覚えられるレベルで山吹ベーカリーに通ってた常連で、いろいろ山吹の相談を受けてたらしい。

「もしかして……、冬樹?」

山吹がドラムを叩くか叩かないかについて半分くらいどうでも良くなってシフト表をざっと確認してみると、戸山が働き過ぎなことに気がついた。あいついくら何でも働きすぎ。

「さ〜ね〜?……あ。悪い山吹、戸山呼んできてくれねえ?ちょっとシフト調整する」

「ねえ、私の話聞いてた?……わかった」

「せんきゅ。助かる」

半分くらい諦めた顔だった山吹を俺は見送った。

あいつを助けてやるのは、少なくとも俺の役割じゃない。

「んじゃ、戸山が来るまでシフト調整と明日の搬入の段取り、組んでおきますか」

俺は少し伸びをした後、作業に取り掛かった。

___

 

「え〜、働きすぎかな〜?」

「お前こんなに働いたらライブでキラキラドキドキできねえぞ多分」

「え〜、でも、やりたいことだし……」

山吹が戸山を連れてきてはや10分。ずっとこんな感じだ。

こいつ……、こんなに働きたいなんて正気か?

「ところで戸山。お前ギター歴どのくらいだ?」

「ん〜、1ヶ月?」

「で、ライブの経験は?」

「ん〜、クライブを入れていいなら2回目?」

まあ、なんと言おうとシフトは削って差し上げるんですけど。ライブそんなにやったことない奴がこんなに入ってたら絶対ライブで力尽きる。その道の先輩の言うことを聞け。

「はいシフト組めた。お前のシフトは明日の午前だけだ。後はライブに集中しろ。いいな」

「ええ〜……」

「駄々をこねても聞きません〜。ほら、明日ライブなんだろ?練習練習」

「う〜、ケイくんの意地悪〜」

戸山は泣く泣く去っていった。まあ納得させられたようだしよかった。

「さ〜て、残りのシフトは大丈夫そうだな。ライブのあるやつは戸山と山吹くらいだしな」

「も〜、だから私は出ないって」

山吹を揶揄いながら俺は北斗と冬樹のシフトを調整して、ライブ前に調整できるようにした。

文化祭ライブは、明日だ。

___

「みんな〜、文化祭、成功させるぞ〜!!」

「1A、1A、えいえいやー!」

「そこはオー!じゃないの?」

「まあいいじゃん?」

と、文化祭当日です。すでにやまぶきベーカリーのパンの搬入を終え、後は営業開始を待つのみ。

山吹はどうやら来れなくなったようだが……。ご家族が倒れたならまあしょうがない。俺らで頑張るのみ。

ちなみにやまぶきベーカリーを出すってなったのは牛込さんの案。企画書を書く時はちょっと冷や冷やしたが、無事に通った。さてはここの生徒会、イベントごとの企画に関してはかなりゆるゆるだな?

「さーて、戸山。開店準備だ。みんなに指示出して」

「あ!そうだった!!」

委員長様がこれで本当に大丈夫ですかねえ……。

まあ、俺も精一杯頑張ったし何とかなるだろ。ほんとに久々に地獄を味わった……。

文化祭が幕を開けようとしていた。

 




本当は文化祭を2日構成にしようと思っていたけれど、それはまた後に取っておきます。
感想、評価、その他いただけると作者が喜びます!

誤字報告もお願いいたします。

次回更新は未定ですができる限り早く更新します……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#6 ただ、文化祭本番はちょ〜楽しい

感想ありがとうございました。大変嬉しかったです。

さて、文化祭です。当日です。
結構文字数が多くなってしまいました。
ではどうぞ。



朝の9時。文化祭の幕が開けた。

(う〜ん。やっぱり文化祭当日のこのわちゃわちゃした雰囲気はなんとなく好きになれないんだよなあ)

そんなことも言ってられねえ、俺はキッチンで頑張るぜ。野郎が店先に立っててもしょうがねえしな。絶対可愛い女の子が店先に立ってた方が集客見込めるって。

心の中ではぐだぐだ言いながらも、やるべきことはきっちりとこなすつもりだ。

午前中のキッチンは俺と北斗と冬樹。こいつらとなら全く問題ない。

「なあケイ、お前、シフト仕組んだやろ?」

「いや、全く?」

「じゃあなんでこの3人しかいないんだ?圭介」

「まあ、仕組んだと言われればそれまでだが、俺らをはじめとするバンド組は午前中しかシフトに入れねえからな、多少無理が必要なんだ」

「確かにな、んじゃ、俺らも頑張るか」

「せやな、頑張ろ」

やまぶきベーカリーのパンを確認する。それぞれ十分な数がある上、パンごとにトレーを分けていただいていた。その心配り、すげえ助かる。

俺は大きめの付箋にそれぞれのトレーに入っているパンをサッと書いて貼っておく。これだけで随分楽になるはず。今回は常連客とパン屋の娘の戸山&山吹プロデュースだしな。結果としてパンの種類も多くなってしまった。

「お、パンの種類貼ってくれたんか!ありがとな、助かるわ」

「だろ、ミスらなくなるだろうなって思ってな。さて、最終確認だ。手の空いている時は、冬樹がパン、北斗と俺がドリンク。忙しくなってきたら関係なし。早いオーダーから早く出すように心がける。OK?」

『ああ、もちろんだ』

「さすが相棒、理解が早くて助かるぜ。早速注文きたな」

さてと、徐々にエンジンかけて行きますか。

___

1Aカフェは文化祭が始まると同時に大盛況を見せていた。誰だよキッチン3人でまあいけるとか思ってたやつ。これ確実に3人の作業量じゃねえぞ。

「キッチン〜、これまだ〜?」

「注文お願〜い」

「ちょっと待ってくれ〜……」

ホールには決して届くことがない悲痛な叫び声がこだまする。

IHで料理を作るのが俺と北斗で、パンやドリンクといった加熱調理をしないで出せるものの担当が冬樹っていうシフト分けだが、それが上手く行ってたのは最初だけだった。途中から続々と来る注文に対して手の空いた奴が取り掛かるっていう図になっていた。なんでや。

 

あれよあれよという間に俺らのシフトは終了した。正直なところ記憶がねえ。忙しすぎた。

「やっと交代か〜……」

「え、みんなヘロヘロだけど大丈夫?」

「全く大丈夫やあらへんな。んじゃ、自分らは下がるから、あとはよろしく……」

「任せて〜」

と、全員死にかけになりながらシフト交代を済ませる。体育館でのライブまであと1時間と30分ほど。で、俺と北斗と冬樹はここにいるので、あとは俺らと一緒にいるはずのない羽丘のしぐれと千夏がどこにいるのかを見つけなければならない。

「おいお前らしぐれと千夏がどこにいるとかわかる?」

「ん?俺のところには連絡ないな」

「自分のところにも連絡はないで。グループで聞いてみればええんちゃう?」

「それもそうだな」

グループのLAINに「どこにいる?」と送信すると、すぐに既読が3と表示された。

【北斗「ん〜、圭介の隣だな」

冬樹「ん〜、自分も圭介の隣や」

しぐれ「ん〜、ちなったんと一緒に校門ついた〜」】

「んじゃ、全員もうちょいで揃うんだな。校門だから秒だな」

玄関付近にいる、とだけ伝え、俺は携帯の電源を落としてライブのことを考え始める。

(ん〜、久しぶりのライブだな〜、どんな演奏をできるか、楽しみだ)

「お〜っす、ニッシー!お待たせ〜」

「ケイちゃん、春くん、お待たせ」

「え、チナツ自分は?」

「ケチコクにはいつも待たされてるからいいかなって」

「よっしゃ、全員揃ったな。んじゃ、体育館にいくぞ」

『おう!』

俺ら、「Werewolf」の初舞台は、もうすぐだ。

___

体育館に入ると俺らの2つだか3つ前にやるバンドがリハをしていた。

1時までは勝手に使っていいんだって。やるね生徒会。

「どうする?ちょっと叩かせてもらうか?しぐれ」

「ん〜?大丈夫っしょ☆音聞いてるだけでどんな子かってのはある程度わかるし」

「それ本当にわかるのか……?」

北斗が呆れているが、まあしぐれが大丈夫ってなら大丈夫なのだろう。

現在時刻は12時50分。俺らの出番は1番最後、トリだ。

で、俺らの出番は大体14時ってところだろう。俺らの前には5バンドが控えている。

「会場の下見も済んだことだし、控え室でもいくか?」

「ちょこっと早いような気もするけど、そうしておきましょ」

「さんせ〜!!……で、控え室どこ?」

「しぐれお前……。まあいいや、ついてこい」

___

控え室に入ると、先ほどリハをしていたバンド以外は揃っていたが、間も無く、そのバンドも控え室に入ってきて出演全バンドが揃った。

「ええ〜!ケイくんバンドやってるの!?いってくれればよかったのに!」

「本当だ、ケイ、なんでいってくれなかったの?」

「おたえちゃん、香澄ちゃん、説明、始まるよ?」

牛込さんが戸山と花園をなんとか宥めてくれた。助かった……。

「では、注意事項を確認します。各バンドの持ち時間は15分ですが、これは準備から撤収まで含めた時間です。多少伸びても許容としますが、14時30までには全バンドが終了するようにお願いします。それから……」

戸山たちが黙ると、生徒会の担当者が注意事項の最終確認を始めた。聞いている感じは特に変更もなく、事前の注意と同じだ。

「それでは最初のバンドは準備をお願いします」

説明が終わると、最初のバンドの子たちが体育館へと向かった。どうやら、事前に渡されているタイムテーブルの10分前までに体育館に行けばいいらしい。

「衣装どうする?制服でいいかな?」

「私はそれでいいと思うけど……」

「自分もそれでいいと思うで。ケイは?どうする?」

「ん〜、全く考えてなかったけど、制服でも全く問題ないっしょ」

「んじゃ制服で行こうか」

『OK』

……で、待ち時間は何をするんだ?

「ね〜ね〜ニッシー、待ち時間みんなで模擬店回らない?」

「そんなことやっていいのかよ?」

「まあライブできれば問題ないっしょ。50分くらい見て回ってから戻ってこようや」

「私も模擬店とか出し物みたい!」

「いざとなれば怒られるの俺だし、いっか。いくぞお前ら」

待ち時間の過ごし方なんて、ハナから考えなくとも勝手に決まっていました。いつの間にか。ところでこれ本当にいいのか?

___

あれから3年生の先輩がやってるお化け屋敷だったり、2年生の先輩がやってるカジノだったり、そこそこ楽しんでいたらいつの間にか50分経っていた。

「さ〜て、では、いざ出陣、ですな。ぶちかますぞ、お前ら」

「おう」

「せやな」

「任せて」

「精一杯やろう」

体育館の裏で、ポピパの演奏を聴きながら俺らは自分たちを奮い立たせる。

それにしても初めて1ヶ月の割にはよく弾けてるな、戸山。感心感心。

「ドラム、誰なのかな?」

「ん〜?……まあ、そのうちわかるんじゃねえの?」

まさかポピパラスト一曲でいきなり山吹が現れてドラムを叩き始めるなんて思ってもなかったけどな。

「……いよいよだな」

「ああ。でも、大丈夫だ」

「いくぞ」

ポピパと入れ替わりで、俺らはWerewolfとしての初めてのステージに立った。

___

「皆さん、初めまして。Werewolfと言います。まずは一曲聞いてください。『idiot』」

北斗のギターリフから始まり、そこからベース、リズムギター、キーボード、そしてドラムが入って、ボーカルが入り、そしてそのままBメロへ。

これは今回のために作った曲。そもそも今回のために曲を作らないと演奏する曲がなかったんですけどね。

(北斗のギターも、冬樹のベースラインも、しぐれのいつも通りのドラムも、そして千夏のキーボードも、よく聞こえるぜ)

久々のこいつらとのライブに俺は胸を弾ませながらサビへと向かう。

会場の熱気に当てられて、走りそうになるのを抑えながらなんとかサビを歌い切る。

そしたら、それぞれのパートのソロの始まり。

実はこの曲、一番難しくしたのはこのパートソロの部分だったりする。

各個人がギリギリ弾けるフレーズを考えるのすげー楽しかった。メンバーからは鬼畜くそ野郎って罵られかけたけど。ちなみにリズムギターにソロパートはつけなかった。代わりにボーカルのシャウトがある。

「……ラ〜〜〜〜ラ〜ラ〜ラ〜〜ラ〜ラ〜」

千夏のキーボードソロの後にドラムソロが始まる。

……やっぱりこの曲えぐいわ。誰だよこんなの考えたバカ野郎。

 

「ありがとうございました、1曲目、いかがだったでしょうか?」

俺らがトリってわけで、フロアは大盛況だ。サイコ〜って歓声だのが聞こえてくる。うんうん、この感じがたまらねえんだ。

「初めてのライブがここでできて幸せだぜ!じゃあ2曲目、といく前に……。この中で「Maaquerade kiss」ってバンド、知ってる人いますか〜」

『は〜い!!』

おお、かなり知ってくれてるじゃねえか。嬉しい限りだ。そんなこと言わないけど。

「2曲目は、そんな素性のわからないバンドから。聞いてください。『仮面』」

___

「以上、Werewolfでした!これからもバンド、できればと考えています!ありがとうございました!!」

 




誤字報告等よろしくお願いいたします。
(I感想と評価をいただけると大変喜びます)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#7 紅き舞踏会

主催ライブです。前回に引き続き切りどころが分からず文字数が多くなりました。
では、本編をどうぞ。


文化祭ライブは大成功に終わった。

山吹もまたドラムを叩く決心がついたようだ。なんと言うか、よかったなあとしみじみ感じる。絶対そんなことは言わないけど。

「にしても、まさかあんなにMasquerade kissのことを知ってくれてる人がいるとはなあ」

「そうやな、びっくりした」

時は変わって文化祭終了の2日後。まだ学校は文化祭の空気が冷めやらない感じだが、俺らはとっととそんな空気とはおさらばしなければならない。

「んで、主催ライブまであと1週間ちょいってわけだ」

元々主催ライブもとい活動再開の会は文化祭の2週間後でセッティングしてある。

「そろそろ本番を意識して練習しないとな」

「そうやな、ゲストアクトも決まったわけだしな」

ゲストアクトの選考は文化祭の3日前に済ませた。というかゲストアクトの選考で30バンドも見ることになるとは思わなかったし、何より驚いたのはその中にRoseliaまでいたことだ。もちろん、俺らの主催ライブだから俺らの思った通りに、贔屓目なしに選考したけど。

「んじゃ〜、今日の練習の時に今後の日程詰めるか〜」

『そうだな』

 

授業中は今後の予定を立てるのに腐心していた。顔合わせのリハをはじめ、スタジオとの最終的な打ち合わせの日程決め、ゲネプロ……、本番前の最終準備……。

やらなきゃ行けないことが相変わらず多いんだよな。セトリはもう決めたからいいけど。

う〜ん、だるい。

「……じゃあ、次の問題。西秋くん、お願いします」

大体質問とか問題とかってのはこういう話を聞いてないときとかうとうとしてる時に限って飛んでくるんですよね分かりますよええ。

___

「んじゃ〜練習前に今後の予定を決めます」

「どしたのニッシーそんなに改まって」

「何もそこまで心配することはないでしょしぐれさん」

練習前に大事というか時間のかかりそうなことは済ませておかないとね

「いつも通り、顔合わせの時からライブ衣装で行きます。顔合わせは4日後、当日のライブ会場で行うってことで各バンドと調整をかけてある。ゲネプロは前日。本番の俺らの入りは朝8時から。で、ライブ開始が19:00からで最初はゲストアクトだから出番は大体30分後かなと思ってる。で、なんだっけ?」

「うわでたよ悪い癖」

「そんな自分らに聞かれてもわからんわ」

「次は撤収じゃないの?ケイちゃん」

「お〜、そうだった。千夏ナイス」

長めの文章っていうかなんというかを色々考えながら喋ってるとどうしても途中で忘れちゃうよね。そういうことよくある。うん。

「で、終了は21:00ごろを予定していて、最後に告知があれば告知って感じかな。告知は他のバンドにも一応募ろうと思う。撤収は23:00までに済ませること。まあどんなに見積もっても1時間30くらいがマックスで取れる時間だから結構きついかもしれんが、なんとかなるだろ」

ふい〜、やっと言い終わった。

「で、何か質問のあるやつは?」

『特になし』

「オッケ〜、そんじゃ、いつも通りの分担であとは頼むわ。練習するぞ〜」

最初の話し合いが終わったら、練習を開始。

あ〜、俺のギターがジャキジャキ言ってて気持ちがええんじゃ〜。

「☆チケット情報☆

・出演バンドはRoselia、××(ダブルキッス)と決定しました

・以前の投稿の通り、明日10:00からチケットの販売をはじめます。

・値段は1枚4000円です。取置き分は各バンドにご相談ください。

・一般枠は2400枚用意しております。券種はオールスタンディングです。

・一般枠の他にも、各バンド取置き分が25枚ずつありますので、お問い合わせください。

・整理番号は発券時に抽選されますのでご了承ください。

・ツリーに各バンドの連絡先を投稿しますので、適宜ご参照ください。

それでは来る日の晩、皆様にお会いできることを楽しみにしています」

___

んで、今日は顔合わせの日だ。顔合わせと言ってもそんなに時間はかからない。こちらからある程度注意事項を説明して終わり。

「Roseliaです、よろしくお願いします」

「××です、同じくよろしくお願いいたします」

「Masquerade kissです、どうぞよろしくお願いします。それでは今日の顔合わせを始めます」

注意事項を話し始める。今回はカンペもとい原稿を用意してきたから内容を失念することはない。

Roseliaに氷川先輩いるから少しやりにくいんだよな。まあ身バレはしないだろうけど。

「……以上です。何か質問のある方はいらっしゃいますか」

「ちょっといいですか?」

「はい、どうぞ」

「はい。あ、Roseliaのベース、今井って言います。あの、もし各バンドの取置き分が売れ残った場合はどうすればいいですか?」

流石にリサ先輩もいつもと口調が違うか。

「ありがとうございます。売れのこりについてはこちらで後ほど処理するので問題ありません。当日販売にしても問題ないはずですので。他に質問はありませんか?」

周りを見渡したが、特に質問がある様子ではなかったので、今日の顔合わせは終わりだ。

「それでは本日は以上です。次回のゲネプロ、よろしくお願いします」

『はい』

___

ゲネプロもいつの間にか終わり、今日は本番当日。結局事前販売分のチケットは売れ残ることはなかったが、当日分にチケットを150枚ほど用意してある。

どのバンドの取置き分も売れたというのだからちょっとびっくりした。

「全員、準備はできたか?」

「あたしは大丈夫」

「俺も」

「自分も」

「私も」

「よし、大丈夫そうだな。それじゃ、思いっきり今日は楽しんでいこうな」

時は15時。久々の主催ライブのスタート。

 

ゲストアクトのバンドをそれぞれの控え室に案内したり、会場の最終的なセッティングを確認しているうちにいつの間にか18:00になっていた。

会場外には結構人が集まっている。当日券の列を見る限り、全部チケはハケそうだな。

俺は列に出ると、ライブ用に中性的な声を作って声高らかに宣言した。

「それでは今から開場並びに当日券の販売を始めます。今回は当日券は150枚です。現在並んでいただいている方で締切となります。では、会場へとお入りください」

上からパッと数えてみたけど並んでる人は150人ちょい。ちょっと無理言って入れてもらおう。キャパ的に入るしいけるいける。会場側にもそう言ってあるしね。

ライブまではあと1時間。もうすぐだ。

___

「出演者の皆さん、本日のために時間を割いていただきありがとうございます」

開演前の出演者挨拶は北斗。俺はもう挨拶するの疲れたからな。

「皆さんの実力を出し切れば、必ずや成功します。それでは、気合を入れて、最高のライブにしましょう」

『はい!!!』

「××さん、準備お願いします」

ちょうどスタッフさんからお呼び出し。ゲストアクトが始まる。けど、その前にちょっと挨拶。

「皆さんどうもこんばんは。そして、お久しぶりです。今回はMasquerade kiss再開の会に集まっていただき、心より感謝申し上げます。我々は今日からバンド活動を再開します。今日はゲストアクトからですが、我々が選考したバンド、実力は折り紙つきです。どうぞ楽しんでいただければ幸いです。では、最初のバンドの出演です。どうぞ」

さっき挨拶は疲れたと言ったな。あれは嘘だ(いや、実際疲れてはいるけど)。

まあこれで開幕には十分だろう。思いっくりふるわせてくれよ。

___

ゲストアクトの2バンドが終わり、ついに俺らのバンドの出番。失敗はできない。主催だしね、当たり前当たり前。

「やっば、緊張してきた。死ぬかも」

「自分もわりとやばいわ。死ぬ」

「いっつもお前ら大げさすぎ!ほら、行くよ!」

「私も頑張るから、みんなの頑張ろう?ね?」

「良心は千夏だけだったな。しゃきっとして行こうぜ。円陣、組むぞ」

サッと全員が肩に手を回し、五角形の円陣を組む。

「この感じも久しぶりだな。んじゃ今日は冬樹、頼む」

「了解。行くぞ!」

『おう!』

「ゲストアクトが盛り上げてくれたところで、次は我々、Masquerade kissです。まずは久しぶりなのでメンバー紹介からいきましょう。紅いPRSを持つのは我らがリードギター、『春』」

北斗が紹介に合わせて軽くフレーズを弾く。

我らが身バレ防止手段=ライブ衣装で仮面をつける+メンバーそれぞれをコードネームというか芸名で呼ぶ。そして俺は中性的な声を頑張って出す。

声変わりが完了したからちょっと感覚が違う感じだったが、普通に出せるようになってて一安心した。

今のところばれてないから身バレ防止は結構機能してるはず。

「続いて、ベース、Taka」

「ドラム、ミナミ」

「キーボード、中華」

それぞれ冬樹、しぐれ、千夏の名前。千夏のは……名前をローマ字にしたらChinaって出てきたから中華になった。それぞれが軽くフレーズを奏でたら、最後は俺。

「最後に我らがボーカル&ギター、Kei!」

ん〜、悩んだけどてきと〜にシャウトでもしとくか。今日の声の調子もOKっと。

「盛り上がってるようで何よりです。ゲストアクトの方々に感謝しております。それでは早速一曲目。この曲から始めます。『Liebe dich』」

一時期英語以外の曲名をつけようキャンペーンを行っていた時期に作った曲だ。

バラード調でそんなに難易度も高くない。しっとりと歌い上げるかつ声出しに選んだ曲だ。

「良い感じにあったまってきてますね、皆様。3年ぶりに会う方、どのくらいいますか?」

一曲目が終わり、軽くMC。3年前はギリギリ小学生だったからな、その頃から追っかけてくれてる人たちは今は大学生とかになってるのか?

フロアの反応を見ると、結構多いのな。3年前も来てくれた人。

「みんなに会えて嬉しいよ〜、ありがと☆」

「んじゃ、自分初めてだよ〜って人、どのくらいいますか〜?」

俺に続きしぐれと冬樹が質問する。おっと、ステージ上ではTakaとミナミ、だったな。

「初めての人も多いみたいですね、ありがたいです」

「んじゃKei、そろそろ次の曲でもいきますか?」

「そうですね。次の曲は、3年ぶりの人は懐かしのあの曲です。聞いてください、『ひとりごちて』」

___

「次で最後の演目となりました。皆さんと過ごす時間はあっという間に過ぎ去ってしまうといつも思ってます。さて、最後は、最近コピーされることも増えてきたような気もするこの曲です。どうぞ」

最後の曲は文化祭でwerewolfの方でも演奏した『仮面』。このバンドの中心的な曲だ。

最後の1音が鳴り止むと、次の瞬間、俺らは破れんばかりの拍手に包まれた。

3年ぶりの主催ライブは、大成功のうちに終わった。

 




これ以上オリジナルバンドを増やすとよく分からなくなるので××についてはバンド名だけ考えました。

感想・評価・誤字報告をいただけると助かります。よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#8 日常ってのは大切にすべき

コロナの関係で崩れていた日常生活が元に戻りつつあり……。少し忙しい日々を送っていました。
自分の作風になっているか不安ですが、とりあえず本文をどうぞ。
P.S.評価をいただきました。ありがとうございました。



主催ライブから1週間が過ぎ去った。今回ご来場いただいたゲストの数は2625人。満員御礼。チケットは完全に売り切った。

というか3年ぶりでこれだけ集まるなんて相当やばくね?俺らってすげえ(他人事)。

で、文化祭でライブをやってからやたらと香澄に絡まれるようになった。というかおたえからもやたらと絡まれるようになった。主催ライブの準備が忙しかったからのらりくらりと逃げていたが、とうとうそのライブも終わり逃げる理由も無くなってしまった。もちろん、主催ライブをするなんて一言もこいつらには言ってないけどな。

「う〜、難しいよ〜……おたえ〜」

「ここはね、こんな感じで……」

「こいつらどこでもギター弾いてるのかよ山吹」

「あはは……いつも、かな?」

時は昼休み。香澄に北斗と冬樹共々連行され、ポピパのメンバーと一緒に中庭で昼食をとっていた。

にしても、久しぶりのなんも追われるもののない日常ってやっぱり平和。いいぞ、この日常ずっと続け。

「ところで私のことは名前で呼ばないの?西秋くん」

なんか急に爆弾降ってきたような気がするんですけど気のせいですかね。

「ん〜?別にそっちが嫌じゃなければ名前で呼んでも良いけど」

「じゃあ〜……、お互い名前呼びにする?」

「良いんじゃね?沙綾」

「わかった、圭介。……う〜ん、ちょっとなんか変な感じする」

「これまで名字呼びだったんだからそりゃそうだろ。あ、北斗その卵焼きくれよ。ウインナーやるからさ」

「良いぞ、持っていけ」

北斗の家の卵焼きは俺の好みの味だ。昔遊びに行ってた時にどういうわけか北斗のお母さんに胃袋を掴まれた。それ以来毎回弁当から一品もらっている。

「私も〜、ケイのハンバーグもらうんだ〜」

「は?いつの間にいたんだおたえ。じゃあ俺もお前からミートボール奪いとるわ」

「ところでここのフレーズ、ケイだったらどうに弾く?」

「なんでおたえはおかず奪いつつ飯食いながらギター弾いてんだよ器用だな」

と、ポピパの日常に巻き込まれることになってしまった。

おたえの追撃をなんとか受け流しながら遠くの会話に俺は聞き耳を立てていた。

ところで地の文までおたえになってるのは、こいつに追撃を食らうから。

花園「おたえ」、やっぱりエスパーだろこいつ。

「でさ〜、この前のMasquerade kissのライブなんだけどさ〜」

「あ〜、ヤバかったよね!あれ3年ぶりなんでしょ?すごかったよね〜」

「うん!ボーカルもCDみたいな声だったし感動した〜……は〜、また行きたい」

あいつら、同じクラスのやつじゃんか。これ身バレしたらますますやばいやつじゃんか。

「そういえばなんだけど、1週間前のライブ、すごかったね、おたえちゃん」

「うん、すごかった!震えた!」

「ん?なんだ?お前らライブやったのか?熱心なもんだな」

「違うよケイくん!見に行ったんだよ?」

「いやいや、言わないと流石に西秋くんわかんないだろ香澄」

「で、どんなバンドのライブ、見に行ったんや?」

「なんだっけ〜?りみりん〜……」

「え〜っと、確か『Masquerade kiss』だよ?」

「そう!それ」

こいつらも見にきてたのか。ちょっとびっくり。

「よくチケット手に入ったな。あれ、すぐ完売したんだろ?」

「Roselia分のチケットもらったんだ〜、『私たちもゲストアクトで出演するから時間があれば』って、友希那先輩がくれた!」

「おい、ちゃんとうちら買っただろ?」

「そうだっけ?」

『あはは……』

沙綾と市ヶ谷さん、その気持ちはよくわかるよ。こいつの相手は大変だよな。

「で、震えたってなんだ?」

北斗が話を元に戻す。もうこいつ食い終わってんじゃん、早いな。

「うん!なんかこう、すごくて、キラキラ〜って感じ」

「はいはい」

「なんか難しいこと言ってるけど言ってること中身ないじゃねえか」

「でも、すごかった!ベースの音も、ギターも!」

「あのドラム、音圧すごかったな」

「キーボードも、ヤバかった」

「ちなみにあのドラムとキーボード、女の子らしいぞ〜」

少しだけ驚いたような顔で北斗と冬樹がこちらを見ている。

『え!?嘘でしょ!?』

お〜、やっぱり食いつきいいな〜。実際あいつらの楽器の腕はすごいからな〜。繊細さを含んだ力強さってのは俺には100年経っても出せる気がしねえ。

「ってか、なんで圭介が知ってるの?メンバーの情報って秘密じゃない?」

「ん〜、昔から俺もファンだったしな〜、噂程度だよ、噂」

「だからお前ら文化祭でカバーしたのか。なるほどな」

「まあね〜、同じく噂の域を出ないけど同年代らしいし、あれだけ上手ければな」

「同年代かあ……」

まあ、このくらいは問題ないだろ。こいつら半分くらい頭の中お花畑のようなもんだし(失礼)。

少しだけ沈黙が流れた後、冬樹が荷物をまとめ始めた。

「自分、そろそろ戻るわ。沙綾、パンありがとな」

「冬樹こそ、いつもありがと」

「なんでお前戻るんだ?なんかあったっけ?」

「ん〜、特に理由はないんやけど。なんとなく?」

「疑問形で言うな冬樹。じゃ、また次の時間に」

で、食い終わってないのがギターを弾きながら飯を食ってる香澄とおたえ、と。

なんかちょっとしたリサイタルを見ている気分だ。

「にしても、なんでそんなにめちゃくちゃギター弾いてるんだ?なんかライブでもあるのか?」

「オーディション、受けるんだ〜」

「ほ〜、どこの?」

「SPACE!」

「ほう、あそこのオーディション受けるんか、頑張れよ、都築さん厳しいから」

「都築さんって、誰?」

「オーナーのこと。オーディション通ったら教えてくれればライブ、見にいくぞ」

「任せて!」

「んで、おたえと香澄は早く昼飯食わないと昼休み終わるぞ〜」

『あ……』

いや気付いてなかったんか〜い。

___

「んで、ポピパに私たちが何者かに繋がるヒントを流した、と」

「おっしゃる通りでございますが言い訳させてください」

『聞いてあげる』

ところ変わってCircle。冬樹が昼休みに早く帰った理由は密告するためだったらしい。あいつ許さない。

「え〜っと、そこまで確信に迫るようなことは吐いてないですし、噂ということを強調しておいたので特に身バレはないかと……」

「え、自分的にはあれだけの情報持ってたらワンチャン沙綾気付くと思うねんけどな〜」

「はい、死刑」

「しぐれ様それだけはお許しをうぎゃっ」

その日以降、圭介の姿を見たものは誰もいなかった。

――

「この辺で遊びは置いておこう?ね?」

「え〜、まあ、ちなったんがそう言うならいいか」

唯一残された良心がこちらに微笑んでくれた……。千夏いいこ。

いや、嘘。これ千夏も怒ってるパターンだ。目が笑ってない。

「……ケイちゃん?」

「はい」

「次はないよ?」

「……気をつけます。はい。ちゃんと許可取ってからにします」

「よろしい。練習、しよっか?」

普段怒らない人間ほど怖いってのはわかってたはずなんだけどなあ(遠い目)

___

「オーディション?」

「ああ、俺らも受けられるなら受けてみないか?」

休憩中。俺はメンバーに今日の昼休みにあったことを洗いざらい話すことになった。で、ふとポピパがオーディションを受けるって話を思い出して話しているうちに、俺らも受けたいって気持ちが増えてきた。

「SPACEか、まあ、いいんやない?ポピパも受けるっぽいしな」

「そうするか。でもあそこガールズバンドの聖地だったよな?俺ら受けられるのか?」

「ん〜、わからん。とりあえず今から行ってみるか?どうせライブ今日もやってんだろ?」

「おたえに聞いたらやってるっぽいぞ、圭介。練習後、いくか?」

「ナイス北斗。行こうぜ」

「じゃあ〜、今日のチケ代ニッシーの奢りで!ありがと〜☆本番のオーディションみたいに練習しないとね〜」

「うん、私もいいと思う。頑張ろう?」

最後の最後でえげつねえなしぐれ。

___

『と〜ちゃ〜く!!!』

「あ〜、ここか〜」

思い出した。SPACE俺ら来たことあるわ。小学生時代ライブしてた。なんなら今の今まで忘れてたけど。

「にしても、昔はオーディションなんてしてなかったけどな。俺らは全力でやりすぎてぶっ倒れてたっけ」

「そういえばそうかも、ケイちゃん、いつも本当にすごかったよね」

「あの時はバンド名を隠すなんてこと考えてなかったからな」

『確かに』

SPACEの前で昔のことを思い出し、輪になって笑っていると、中から懐かしい顔が出てきた。

「騒がしいね。なんだい?……お前ら、来たね」

『お久しぶりです、オーナー』

 




誤字報告や感想、評価をいただけると喜びます。お願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#9 俺らの原点、って感じがするよな

Todoに追われていました。
なぜかオーディションを受けることになったMasquerade kiss もといWerewolfのメンバーですが……。
それでは、本文を。


「久しぶりだね。で、なんの用だい?」

「オーディションを受けようと思って」

オーナーが出てきたと同時に一列になって軽く頭を下げていた俺らだったが、意を決して頭をあげ、言葉を振り絞った。

男のいるバンドを受け入れてはくれないかもしれない。アポイントなしできたことに腹を立てているかもしれない。でも、言わないと前には進めない。

「残念だけど、今日はライブの日。あんたらのオーディションならいつでも時間をとってやるからまた連絡しな。……見てくかい?」

『高校生5枚、こいつにツケで』

「ツケとは感心しないねえ。ほら、圭介。3000円払いな」

「ちゃっかりあんたも乗ってるんじゃねえか」

さよなら、俺の英世3人……。

___

思い返すとSPACEは俺らの原点だった。

小学校時代に楽器に出会ってから実は入り浸っていた時期があった。みんなで集まってオーナーにライブがない日の昼の時間に入れてもらって、自由に演奏させてもらったのもいい思い出だ。その時にはまだオーディション制度なんてなかったな。

そこで最初のバンド練、やってたんだっけ。

親に内緒で集まってたけど、オーナーにはそんなこともバレててちゃんと親に連絡行ってたんだっけ。しかもメールで。

やばい。思い出したら懐かしくなってきた。若干泣きそう。

「ところで、なんでここにオーディションなんてもんが出来たんだ?」

「あ〜、あたしらが通ってた時期はオーディションなんて存在しなかったもんね。確かオーナーがステージ上でなあなあな演奏をしたバンドにブチ切れてオーディション制ができたらしいよ。それ以来あたし達も来なくなっちゃったから詳しいことはよくわかんないけどね」

「それであってるで、しぐれ。俺らがステージに立ってた頃が懐かしいな」

「何言ってんだ?冬樹。俺らでもう一度立つんだろ?」

「それもそうやな。オーディション、頑張るか」

「みんな、もうすぐ始まるよ」

俺らがいつも立っていたステージは、あの時と同じくらいきらびやかで、上に立つ少女たちの黄緑色の衣装を輝かしく照らしていた。

___

「やっぱりあそこのライブはアツいね。出てたバンドみんないい。さすがオーディション通ってるだけあるよ」

「練習したばっかりだけど、あたし、叩きたくなってきちゃった。どうしよ」

「なんならうち使うか?ドラム置いてあるぞ」

「自分も寄ってええか?弾きたくなってきた」

「ま〜、今日金曜日で明日学校もないし、いいぞ」

「よっしゃ☆もう連絡しといたから、今日はよろしくね!」

「はいはい、任されましたっと」

他のバンドのライブを見たらこうなるんですよねわかります。大体そうだもん俺ら。

「みんな行くなら俺も行くぞ?」

「え、じゃあ私も行く!」

「そう、それで結局のところ全員揃うんですよね」

「だってオーディション明後日じゃん?」

「ほんと、もっと頑張らないとね」

「よっしゃー、燃えてきたで〜!!」

「そうだな、久しぶりに俺もアツくなってきた」

「明後日に入れてもらえたの半分奇跡のようなもんなんだからな。オーナーに感謝だぞ」

「うわ、珍しくニッシーが常識人枠やってる!」

「いや、俺は元々常識人枠だぞ?」

『え?どこが?』

「やめてみんなに言われると俺流石に悲しくなっちゃう」

実際明後日オーディションとか言うバカげた日程を組んで怒られなかったのは俺らとオーナーもとい都築さんとの関係性が大きいのだろう。

小学生の悪ガキだった頃から世話になってたからな。

だって冬樹が頼んだ時あの人半分くらい怒ってたぞ?

どうやら同じ日程にポピパもいるらしいしちょっと楽しみだな。なんか対バンっぽくね?って勝手に思っちまう。まあポピパだけじゃないだろうけど。

「まあ、なんだかんだ言って俺も燃えてきたし、やっちゃいますか〜」

『おう!』

いつもはひとりの帰り道が、今日はたいそう賑やかだった。

__

「ストップ、今の、しぐれが4分の1テンポ遅れた」

「ごめん、気を付ける」

「圭介も少しだが走ってたぞ」

「わりいな。北斗は相変わらずだな。で、冬樹はいつにもまして暴れすぎ。もうちょい自制してくれ。リズム隊がリズム崩してどうする」

「ごめんな。じゃあ、さっきのところから、もう一回やな」

「よし、行くぞ」

深夜3時。そろそろ深夜テンションになってくる時間……のはずだが、俺らに深夜テンションが存在するかと言ったらそんなことは全くない。

「またずれた。やり直すぞ」

存在するのはいつもよりストイックに止める俺と

「もうちょい落ち着け圭介。ドラムを聞けドラムを」

「自分はどうなんや」

「ベースのくせに走ってるからなしでしょ?」

いつにもまして活発にダメだししあう他の奴らだった。

演奏が途中で止まった時、俺らは必ずボーカルが止まった部分の5小節前から入ることににしている。その方がだんだん合わせられるしね。

「さっきよりは良くなったな」

「とりあえず最後まで行ったしな」

「そうやな。ちょっと水飲むわ。流石に疲れた」

「あたしも飲む!ケチコク、あたしの分取って!」

「自分で取れやアホ」

「だからケチなんだぞ冬樹」

しばし休憩。完全な防音室だからこんな時間に楽器を演奏してても全く問題はない。はずだ。

この部屋だけは実は周りの部屋から浮いている。雰囲気的に浮いているのではなく、物理的に浮いているような状態なのだ。

部屋と部屋の間に空気の層を挟んで、ドラムとかベースとかが出す振動や低周波をより軽減させるように工夫された部屋らしい。まあ、設計したのは建築士だからよくわからんのだが。

だから24時間ぶっ続けで演奏し続けられるのだが、そんなことをやるのは流石に頭が悪いので休憩休憩。さすがに俺はもう疲れた。

「次どうする?」

「ん〜、とりあえずオーディションの練習はこれくらいで大丈夫だと思う。もうさすがに弾けない。無理」

「俺も今日のところは満足や。これ以上は弾けへん」

「俺もだ。このあと新曲の構想でも練るか?」

「ん〜、それもアリかもな。あそこのステージで演奏するにはやっぱり昔の曲と新曲がベストだろ。考えっか〜」

と、全員が楽器を置いて床に集まる。

「それでは第1回作曲会議を始めます」

「なんで会議調やねん」

「さすがエセ関西人、いいツッコミだったよ」

「それ褒めてへんやろ」

「ふざけんのはそこまでにして、やるならやるぞ〜」

いざ会議もとい話し合いが始まると一気に真剣に曲の構想を出し始める。

議論が白熱し、曲の構想ができ、そして曲ができて歌詞ができて、みんなが床で眠りについた頃には、外は朝日の光で明るくなりつつあることだった。

___

時は変わり、日曜日。ついにオーディションの日。

「あー!ケイくんだ!……なんでここにいるの?」

「もしかして、オーディション見にきた?」

「いやいや、見にくるだけならギターとかいらねえだろ」

「そうそう、自分らは敵情視察、やな」

「ケチコク、戸山さん達に嘘つかないの」

「香澄でいいよ〜」

「お、ホント?よろしくね、香澄」

「やっぱりお前らってコミュ力お化けだよな」

「で、なんで圭介くんたちがここにいるの?」

「ああ、俺らもオーディション、受けようって思ってな。今日無理やりねじ込んでもらった」

『おお……』

「と言うことでポピパ、よろしくな。お互い頑張ろう」

『うんっ!』

「次、Poppin’ Party」

『はいっ』

オーディションは進み、ついにポピパの番になった。緊張した面持ちでスタジオに入っていったが、大丈夫だろうか。

「大丈夫かな?あたしら、受かるかな?」

「心配すんな。いつも通り、全力でやれば全く問題ねえよ。全力で足りなかったら、俺らがそれまでだったってことだからな」

「……うん、しぐれ、そうだよ」

「ニッシー、ちなったん……。うん、そうだよね。頑張る」

『……』

北斗と冬樹は真剣に画面を見ていた。集中しているのだろうか。

今回のオーディションで合格したバンドはここまで2つ。受けたバンドが俺らを含めて10バンドいたはずだから、かなり狭き門なのだろう。

 

ポピパの演奏が終わり、どうやらオーナーの審査タイムらしい。

「この中でやり切った、って思うものは?」

「はいっ!」

香澄だけが手を挙げていた。他のメンバーはまあ……演奏聞いてたけどそうだよな。

リズム隊が崩れてからみんな崩れてったのがよ〜くわかった。

「ダメだ。うちのステージに立たせるわけには行かないね」

「また受けます!いっぱい練習して、何回でも」

「頑張りな」

「あの、オーナー。この前予定表見た時、先の予定がまっさらだったんですけど」

「花園には、言ってなかったね。ここを畳むよ」

「えっ……」

 

『えっ?ここを畳む?』

オーナーがおたえに言った一言で俺ら全員が驚いた。

「マジで?ほんとに?あの音楽バカのオーナーが?」

「信じられへんのやけど」

「あたしもケチコクとおんなじ意見」

「ここ、なくなっちゃうんだね……」

「次、Werewolf。お願いします」

『……っ、はい』

「お前ら、いけるか?ここでやりきれなかったら、オーナーに俺らぶち殺されるからな。平常心で、いつも通り、やるぞ」

『おう!』

___

「凛々子は下がりな。受付の片付けでもしててくれればいい」

「でも、PAは……」

「あたしがやるさ。心配しなくていい」

「……わかりました」

俺らを呼んだスタッフの人がスタジオから出て行った。そしてオーナーが口を開く。

「来たね、お前ら。『Masquerade kiss』の本気、見せてみな」

「っ!!!」

なんでオーナーが知ってるんだ……!?

 




誤字報告等、よろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#10 やっぱオーナーには勝てねえわ

更新が大変遅くなりましたことをお詫び申し上げます。
かなり忙しく(半分くらい言い訳)なかなか執筆の時間が取れませんでした。



「なんで、って顔してるね。そんなにアタシにバレてるのが不思議かい?」

「いや、まあ、付き合い長いですけど……」

「まあそう言う話は後だ。始めな」

と言うと、オーナーはPAの機器の前に立ち、こちらに向かって頷いてきた。

「曲目は、「Masquerade kiss」」

オーナー相手なら思う存分暴れられるだろう。あの頃からやってた、この曲なら、きっとオーナーなら完璧に「やり切ってくれる」。

この曲は最初の8小説だけリズムギターがソロを弾く。その後にリードギター、ベース、キーボード、ドラムと入ってくる曲。普通にむずいんだけど楽しいんだよなあこれ。

普通にお前らできてんじゃねえかさすがだわ。

本当は今日、オーディションではこの曲をやるはずではなかった。

Werewolfのチャンネルの方でオーディションに参加することにしていたから、「idiot」でもやろうかと思ってたけど、気分が昂っちゃったから仕方がないよね。多分後でしぐれあたりには殺されると思うけど。

あれよあれよと言う間にサビだ。まだ声変わりする前、Masquerade kissを結成したばかりの頃にお試しで作って改良した「練習曲」だから、この曲は最高音がえげつねえ。

「相手が誰なんてわからないけど

そんなの気にせず踊っちまおうぜ

仮面の下の素顔を隠し

恥ずかしげもなくキスをする」

なんで高1にもなってhihiAなんてミックスボイスで出さなきゃいけねえんだよ死ぬわ普通に。こちとら声変わり終わってるんだからな。小学校時代の俺何考えてるんだよバカ。これ完全に女性アーティストの声域じゃねえか。俺は男。OK?

とりあえず一番きついところは歌い切ったので、後は全力でギターを演奏するのみ。

ドラムとベースもきっちり完璧にリズムキープをこなし、そしていつも以上に楽しそうに演ってるし、キーボードは曲にあった雰囲気で、かついつもより感情がこもった音色を響かせている。

え?俺らギター組?そんなのリズムを保ちつつ暴れるに決まってるだろ。

そして最後はリズムギターのソロ。曲の入りとは逆の順番で終わり。

しばしの静寂の後、オーナーの拍手がスタジオにこだまするのを、俺らは夢見心地で聞いていた。

___

「やり切ったね?お前ら」

「完全に感覚で暴れてました。これでやり切ってなかったらここでバンド解散します」

「他のものも……やり切ったようだね」

『はい』

「……合格だ。よくやった。うまくなりやがって。……いいライブだった」

「詩船さんに鍛えてもらいましたから」

「オーナーだよバカたれ。早く片しな。Poppin’ Partyが外で待ってるはずだ。話はそれから」

「わかりました」

楽器を手早くまとめてロビーへと出ると、オーナーが行った通りポピパとあの黄緑色の衣装を着ていたバンドのグループが待っていた。

「お疲れ様。合格おめでとう」

「すごいんだな、お前ら」

「沙綾、市ヶ谷さん、ありがと」

「んで、こちらの方々は?」

「グリグリ……Glitter*Greenってバンド。花咲川の3年生」

「お疲れ様です。どうされたんですか?」

「あ〜、妹のりみがオーディション受けるって言うから、見に来ちゃった」

「なるほど……。ポピパは残念だったな。見てたぞ」

「あはは……。でも、また受ける!合格するまで!絶対!」

「がんばれ、応援してるぞ」

「お前ら、早く帰りな。そこにいる『人狼』に喰われちまうぞ」

「オーナー、あんまりふざけるとさすがに怒りますよ」

ポピパとグリグリが帰った後、俺らはオーナーにコーヒーを出してもらって話を始めた。

「で、なんで俺らが『Masquerade kiss』ってわかったんですか?」

「ああ。簡単なことさ。お前らの親から聞いてたってのが1つ。それから、これに気づくやつは相当少数派なんだろうけど、お前がギター弾いてる時の音がMasqueradeのKと同じなんだよ、圭介」

「そりゃ同一人物ですし……、そっか〜、身バレしてたか」

俺は手を頭の後ろに組み、天を仰ぐ。まさか俺からバレるとはなあ。

「みんなすまんな。バレちまった」

「ま〜、オーナーならしょうがないね」

「そうやな」

「今回のはしょうがないよ」

「オーナー、これは内緒でお願いしますわ」

「なんでだい?現に人気が出てるんだから、言っちまえばいいのに」

「時が来るまでは、大事にしたくないんです。せめて高校3年生になるまでは」

「……そうかい。まあ、お前らの好きにしな。実際アタシもお前らのファンだ。ライブ、楽しみにしてるよ」

「オーナーからそう言ってもらえるなんて光栄ですわ。最後までステージでも頑張りますよ」

「何もお前らだけじゃないさ。これまでうちのステージに立ってきたバンドも、これから立つバンドも、これから立つであろうバンドも、みんなファンだ。頑張りな」

「コーヒー、ごちそうさまでした。お代は……」

「ああ、そんなのはいいよ。そこにいる冬樹ってやつが払うから」

「あいっ変わらず性格悪いなあ、オーナー」

俺らのオーディションは、思ってたのとはちょっと違った方向で幕を閉じた。

___

1週間後。

「あ〜、授業終わった〜。帰る。ギター弾いて寝る」

今日は練習もないしな〜。Spaceでのライブもまだないし。と言うかあそこでできるのってせいぜい3回程度じゃね?その程度なら全部予定合わせて出るか(アホ)

「ねえ、圭介。ちょっといい?」

「あん?なんだ沙綾。俺は帰りたいんだけど」

「ごめん、ほんっとにちょっとだけだから」

「まあ、そこまで言うならいいぞ」

「圭介ってさ、……声、出なくなったこと、ある?」

「……は?ない。なんで?」

「……香澄が、歌えなくなっちゃった」

「え?あんなキラキラドキドキとか言ってたあいつが!?……確かに今日欠席してた気がするな」

あいつがいないとクラスが静かになるからすぐにわかってしまう。

「……うん、Spaceのオーディションでね、急に歌えなくなっちゃって……」

「な〜るほ〜どね〜……、んじゃ、帰るわ」

「うん、……なんかごめんね」

「気にすんなって。俺もちょうどあいつと話したかったところだしな。今日はどうしようもないだろ?な?んじゃ、シーユー」

どうせオーナーに何か言われたってところなんだろうな。詩船さん、不器用だからな。

多分それで香澄がショックを受けたんだろうが、それを乗り越えるのは香澄自身だし、もしひとりで乗り越えられなければきっとポピパが支えてくれる。

「……まああいつらなら大丈夫だろ。ギター弾こう」

それから俺は考えることをやめ、防音室へと入っていった。

___

沙綾との会話から1週間。ほんとに香澄が声でなくなっててびっくりしたのがはるか昔のことのようだ。

今は定期練習の帰り、ギターを背負いながら家路につく。

あれからSpaceのステージにはWerewolfのチャンネルで1回だけ立った。俺らの原点からみた景色はやっぱり変わってなくて安心したが、あの頃よりも圧倒的にお客さんの「熱量」が感じ取れるステージだった。

グリグリもさすが人気のガールズバンドだけある。会場を淡い緑色の世界に染め上げていたし、何よりも引きずり込まれた。

ライブの様子を思い出しながら、ふと顔を見上げるとどこか暗い様子の香澄がいた。

―声、出るようになったのだろうか。

香澄の顔を見るや否や、沙綾との会話が脳裏にふとよぎって、少しばかり気になってしまう。たまらず俺は声をかけた。

「よう、香澄。……少し、話そうか」

――

「そうか、声、出るようになったんだな。よかった」

「うん。……なんとかオーディション、間に合いそう」

近くの公園のベンチ。夏の夕日がじりじりと俺らを照らす。

「次で最後だもんな。頑張れ」

「ありがとう……。でも、ちょっと不安で」

香澄の顔からはいつもの元気さは失われ、代わりにどこか怖がっているような感じがあった。

「……ポピパとは、話したのか?」

「うん、いっぱい。有咲に怒られちゃった」

「ほ〜ん、そりゃまたなんで?」

「お前ができないのなんて初めからわかってたし〜とか、無理しすぎだ〜とか」

「そりゃあなあ。むしろ3ヶ月でこのレベルまで来たのは素直にすげえぞ」

「みんないっぱい支えてくれた。有咲も、おたえも、りみりんも、沙綾も……」

香澄は再び決意したように顔をあげる。心配はもういらなそうだな。

「はいはい、わかったわかった。……んじゃ、俺はもう行くわ。じゃあな」

「え〜、もう行っちゃうの〜?待ってよ〜」

「帰るわ。オーディション、いつ?」

「期末最後の日。そこが最後のチャンスだから」

「……了解。……香澄」

「ん?な〜に?」

「お前は……星だぞ。だから、大丈夫だ」

「???」

最後に香澄に俺なりのエールを送り、そそくさと帰路についた。

生憎真っ直ぐに本心を伝えるのはどこか恥ずかしいところがあってな。

キラキラドキドキとかいう事故紹介をしてた時には本当にこいつ大丈夫かと思っていたが、ステージ上でのこいつは、キラキラドキドキの体現者で、星だった。

スペースのオーディションでこいつが輝けば、オーナーは、きっと認めてくれる。

___

「Poppin’ Partyです!よろしくお願いします!」

期末テスト最終日。オーディションの日がやってきた。

 




次回の更新もおそらく遅くなりますが、2週間後には更新できるように頑張ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#11 これぞ大団円って感じだな

大変お待たせいたしました。そもそも待っていただいている方がいるのかどうなのかという疑問は置いておきますね。
では、早速どうぞ


とうとうポピパのオーディションか。香澄以外はまあ大丈夫だろう。顔を見る限りだけどな。

問題は香澄か。多分この様子では一抹の不安を抱えているんだろう。

「ポピパ〜、頑張れ〜」

見るとグリグリメンバーも揃っていた。きっとシスk……もとい妹の様子を見にきたゆりさんにつられてだろう。

俺らは花咲川の3人だけ。しぐれと千夏はデートするらしい。

「今日はちなったんとデートするんだ〜!いいでしょ?」

「はいはい、行ってこい」

と、来るかどうか聞いたらそんな答えが返ってきたから間違いはないだろう。

2人で外出することをすぐデートって呼ぶからなあいつは。まあ、間違ってはないんだろうけど。

「なんとかなるよ。頑張れ」

「せや!大丈夫大丈夫!」

北斗と冬樹がポピパの面々にメッセージを投げかけているのを横目に見ながら、俺は自分の席に座る。

「精一杯、やってこい」

「……うん、いってくる」

きっと、大丈夫。どこか確信に近い思いを抱きながら俺は香澄たちを見送った。

___

しばしの時が流れ、オーディションが始まる。

曲はこの前のオーディションの時と同じ。違うのは香澄以外が歌い分けているところ。

それぞれにぴったり合った部分の歌詞を歌い分けてるから歌にメンバーの想いが乗っかって、全部こっちにまで届きそうだ。

「いい、ライブだな」

「……せやな」

「ああ」

俺が画面越しのポピパのライブを見て呟いた感想に、北斗も冬樹も同意の言葉を返してくれる。なんというか、一言でいうとエモい。

サビは香澄。楽器初心者だったにも関わらず、こんな短期間でここまでくるには相当な努力が必要だったろう。もちろん他のメンバーも。これだけの短期間で演奏を仕上げてきたんだ。相当努力はしてきたはず。その努力があるからこそ、ポピパが歌うこの歌は心が揺さぶられる。

(これは、受かっただろうな。ステージ上の香澄も、みんなも、キラキラしてやがる)

俺はオーナーじゃないからなんとも言えないけど、それでもきっと受かっただろうと思った。思わさせられた。

そうこうしているうちにライブは終わり、あとはオーナーが結果を伝えるのみになった。

___

「音楽は、やりたいやつがやればいい。……いいライブだった」

オーナーは天井を仰ぎながらそうに呟く。これは……

「合格」

ですよね。

「合格か〜、やったな」

「せやな、やっとポピパも、って感じやな」

「相当努力したんだろうな」

俺らは思い思いに感想を言い合う。ポピパとおんなじステージに立てるのはちょっとばかりワクワクする。

「ポピパ〜」

「ゆり、よかったね」

「……うんっ!」

グリグリの方々も喜んでいるようだ。そりゃ〜妹と同じステージに立てるんだから嬉しいだろうね。うん。

画面の中のポピパは香澄の周りに集まって泣き笑い合って、喜びを噛み締めているようだった。

なんだこれ。感情爆発してんじゃん。大丈夫か?

___

オーディションからしばらく。今日がSPACE最後の日。

何やら、いろんなところからたくさん人が集まってきたらしく、控え室がすごいことになっていた。よく見るとRoseliaの皆さんもいるじゃん。挨拶しておこう。

「氷川先輩、お疲れ様です。Roseliaも出演なされるのですか?」

「あなたたちは……。ええ、私たちも出演するわ」

「今日はよろしくお願いしますね」

「あ、リサ先輩!お疲れ様です」

「お、お疲れ〜。なになに、SPACEのオーディション、受かってたの〜?」

「つい最近ですけど、一応合格しました」

「さすがだね〜☆今日は頑張ろ!」

にしても、なんでこんなにいるんだ?めっちゃ人いるやんけ。愛されてんなあここ。

と、ドアが後ろでガチャ、と開く音がした。

「あ」

完全に目があった後、すぐにドアは閉まってしまった。

「今の誰?」

「誰やろな」

「ちょっとあこ、見てきます」

「いや、あこちゃんはそこで待ってな。俺が言ってくるわ」

「お、さすがニッシー、男だね〜」

「からかうなしぐれ。ちょっと遊んでやろうって思ってな」

一瞬目があっただけだが俺はあいつが誰か完全に分かったぞ。今のは完全に市ヶ谷だった。間違いない。間違えたら今日のステージでアドリブで一発芸する。嘘。俺が死ぬ。

「どうしたんだ〜有咲〜?」

ドアを開けていつもは市ヶ谷と呼んでいるところを有咲と呼んでみた。

「あ、え、あ、有咲……?」

「あ、動揺してる動揺してる。ポピパお疲れ〜、何してんだこんなところで」

「ありさがね〜、中の様子を見てくれたんだ〜」

「そしたら、人いっぱいいたって。有咲ちゃんが」

「あ〜……確かに人いっぱいいるな。早いとこ入っとけ。今ならまだ入れるぞ」

「有咲……?大丈夫?」

「だっ、大丈夫だっつーの」

「本当に大丈夫か?顔赤いぞ?どれどれ……」

「やっ、やめろおおおおおおおおおお!!!」

「さすがにおでこに手を当てようとするのはからかいすぎたかな?」

「ぷっ、あっははははははははは!!やっぱり有咲面白い!」

あいつ……さてはチョロいな?

「圭介、さっきの誰か分かったのか?」

「ああ、市ヶ谷だよ」

「あれ〜?さっき圭介名前で呼んでなかった?」

「あれはあいつをからかうためだって」

「でも、ケイくん有咲だけ市ヶ谷って呼んでるよね〜」

「言われてみれば確かに」

「それはやな、ケイが有咲ちゃんのことを名前で呼ぶのが恥ずかしいからや」

「へ〜、意外と圭介ってウブなところあるんだね?」

「沙綾、こいつのいった嘘に騙されるな。ただ名前で呼ぶタイミングがないだけだ。ほら、俺はドイツ語圏に生きてた人間だからさ」

「何その話聞いてないんだけど」

「あ〜、そっか、留学先の話してなかったんだっけ?」

「ケイちゃん、みんな、そろそろ時間だよ」

「あれ、有咲戻ってきてる」

「悪いかよ」

「入るぞ有咲」

「お、おう……」

なんか俺が有咲って呼ぶとしおらしくなる気がするんだけどなんで?なんか悪いことした?

___

「今日で最後だ。でも、やることはいつもと同じだ。やり切ってきな」

『はいっ!』

ここでの、最後のライブ。俺らの原点での、最後のライブ。

そのライブ前の、オーナーの挨拶。こりゃ〜やる気でるわ。

「お前ら。円陣」

『おう』

本番前。俺らはトップバッター。多分ここでやらせてもらった歴は、今日演るバンドの中で一番長い。だから俺らは自ら志願した。

「いいか、今日で最後だ。いつも通り」

「全力で」

「音を」

「楽しもう」

「がんばろうね」

俺、北斗、冬樹、しぐれ、千夏の順でいつも通りの円陣を組み、スイッチをいれる。

「よっしゃ、いくぞ!」

『おう!』

最後のステージが幕をあげた。

 

「こんにちは!Werewolfです。今日はSPACE最後の日ということで、まずはこの曲を。『thx』」

この日のために、全てを込めて作った曲。俺らみんなで、全ての感謝をここSPACEとオーナーとに捧げた歌。

このまま俺らは4曲をぶっ通しでやり、次のバンドへバトンタッチ。

最後に盗み見たオーナーの顔は、「お前ら……」って感じのいつも通りの顔で、だけど拍手を送ってくれていた。

「いや〜、やり切ったね〜☆」

「うん、合格点だと思うよ」

「せやな。たまには打ち上げせんか?」

「いいねケチコク!たまにはいいこというじゃん!賛成賛成!」

「ん〜。今日はなしだな。次のライブの予定を詰めなきゃいかん。次のライブが終わったら打ち上げな」

「え〜、今日はニッシーがケチな番だ〜」

「ほらほら、早く着替えて客席いくよ。他のバンド見るんでしょ?」

「そうだった!ちなったん、いこ?」

女子2人を追っ払った後に、そっと北斗が訊ねてきた。

「で、次のライブの準備って、なんだ?」

「ああ、それはな……」

___

「Poppin’ Partyです!バンドをはじめて3ヶ月!」

「え?」

「……え?」

ライブはあれから進み、ついに最後のポピパの番。

ところでこのとやまかすみ16さいは喋らせると事故しか起こさないのか?なんでバンドメンバーに突っ込まれてんだ?まあお察しだけど。

もう何度目になるかわからないが、よく楽器をはじめて3ヶ月程度でここまで来れたな。素直に尊敬してる。最初はランダムスター持ってキラキラ星の単音弾きしかできなかった人間が本当に……。

「それでは聞いてください。夢見るsunflower」

リードギターの旋律から始まるこの曲は、今の夏の青空を思い浮かばせるような元気で、だけどどこか遠くを想起させる曲だった。

「ありがとうございました。Poppin’ Partyでした!」

「あ〜、終わっちまったか」

ポピパの曲を聞きながら、俺はこれまでのSPACEでやったライブを思い出していた。はじめてはきっとあの時。ここから俺らはスタートした。俺と、冬樹と、北斗。そしてしぐれと千夏。全員が全員揃って、楽器に興味をもち、いつの間にか結成されていたバンド。一時活動休止を発表する直前のライブもここでやった。今思い返せば全て過去のことであることに、俺はどこか寂しさを覚える。

「なくならないよ、ここは」

「……オーナー」

「あたしがくたばるわけじゃないんだから。ここはお前らの「ここ」に残る。そうだろ?」

「……はい」

「なら、大丈夫さ。……お疲れ」

俺は心を押さえ、そしてここを忘れまいと決意した。そうすれば、大丈夫。

ステージ上では、ポピパの笑顔が大輪の花を咲かせていた。

___

(Poppin’ side 幕間)

「ねえねえ有咲〜、なんでケイくんに名前呼ばれた時逃げてたの〜?」

「分かった!ケイのこと、好きなんだ!」

「バッ、お前、そんなわけねえじゃん」

「え〜、ほんとかな〜?」

「なんていうか、その……急に名前で呼ばれて恥ずかしかったっていうか……ちょっとびっくりしたっていうか……別に名前を呼んで欲しいってわけでもねえけど、なんていうか……」

『有咲(ちゃん)、かわいい……』

有咲が圭介のことを名前呼びできるようになるのは。まだまだ先のことのようである。

 




実は誤投稿してました。すみません()

次回はそんなにお待たせしないと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#12 夏は海に行かなきゃ始まらねえ

1期OVAをイメージして書きました。
では、どうぞ。


「ん〜、夏って言ったらやっぱり海!だよね!」

「はいはい、今回の主目的は演奏力アップと今後の予定立てで、余った時間で全力で遊びだからな〜、あんまりはっちゃけんなよしぐれ〜」

「はいは〜い!んじゃ、まずはさくっと色々やっちゃいますか。この近くにスーパーとかあるの?」

「ちょっと待ち、自分、今から調べる」

「よろしく☆」

「にしてもいい景色だな。結構コテージもでかいし」

夏休み。夏と言ったら海!ということで、俺らは楽器を背負ってコテージに来ている。なんというか、うん。やっぱりテンションは上がるよな。

きっかけは2週間前に遡る。

___

「合宿に、行こうと思います」

「どこにやねん」

「え〜、いいじゃん、合宿」

「うん、私もいいと思う」

「ほら、ちなったんもこう言ってるし!ケチコクは黙った黙った!!」

「え、自分人権ないん?悲しくなるわ〜」

「ところで、合宿に行くって急にいったけど、あてはあるのか?圭介」

「ん?当て?全くないけど?」

『……は?』

彼らの夏休みは、波乱万丈に満ちたものになりそうだ。

___

「なるほどね〜、確かにライブの告知とか、それに合わせた練習とか、今後の計画とかも合わせて色々話し合っておくべきだよね」

「ん〜、確かにね〜。久々に私らのライブ、やりたいかも」

「前回はなんというかゲストアクトがいたから、今回はワンマンかなって考えてるんだけど」

「ええんちゃうか?やっぱりワンマンだとちゃうからな」

「練習場所のあては……まあちょっと俺が考えてみるわ」

「言い出しっぺお前だしな、任せた」

「日付とかいつにする?私らの方で決めちゃっていい?」

「あ〜、先に言っておいてくれると助かるわ。羽丘は夏休みいつまでだ?」

「ん〜、31まで。9月から登校って感じかな」

「あ〜、じゃあ、うちと同じような感じか。じゃあある程度決めやすいな」

「緊急の発表があります」

「どうしたの?ケイちゃん」

「アテが見つかりました」

「何、親でもまた頼ったんか?」

「それ。なんかそういうための別荘持ってやがった。俺も正直意味がわからない」

「多分あたしら全員意味わかってないから……」

「で、もう1回今後のことについて整理するけどいいか?」

「あー、なんかライブやるとかなんとか言ってたやつか?」

「ああ、そういうことだ。詳しく説明すると、主催ライブの告知のためにどっかのブッキングライブにMasqueradeのチャンネルで出ようと思う。で、主催ライブをその2ヶ月後に開催しようって思ってるんだ。で、2年生から3年生にかけてもっと面白えことやろうと思ってるから期待しとけ。Werewolfの方のチャンネルはまあ適宜って感じだ。で、そのための練習並びに遊びたいってことで合宿。以上」

「で、その合宿の海はどこだ?」

「ん?熱海か沖縄」

「熱海にしよう?ね?みんな」

「金と時間的にもそうなるよね」

「さすがに沖縄行って観光があんまりできないのはねえ……」

「んじゃ〜、決定!1週間でいいか?」

「長いんとちゃうか?……そんなもんなんか?」

「い〜じゃんい〜じゃん、せっかくだしさ☆」

「ま、腰を据えて練習ってなるとそんなもんになるだろうな」

「よし、じゃ、2週間後からな」

___

「近くにスーパーあるっぽいぞ〜。まずは買い出し行ってから、練習の日程について考えるか」

『了解』

1週間、6泊7日の合宿が始まった。

____

買い出し後。日程はあくまでも大雑把に決めた。各日の午前中は個人練習。昼食をとった後に全体練習を3時間ほどして、その後ライブの演出研究だったり、構成、セトリのストックなどを作ったり考えたりする。その時その時でセトリを考えるバンドも多いだろうが、俺らは先に10セットくらいセトリを用意しておいている。だって忙しくてもなんとかなるし。で、そのストックが尽きてきたから貯めておかなければいけないってわけだ。

夕暮れ時になったら2時間ほどの自由時間。少し街のほうに出てもいいし、海で多少遊んでもいいしって日程にしてある。

で、中日の4日目は終日フリー。海で遊ぼ〜byしぐれのもと、俺ら全員で海で遊ぶという予定になっている。

「それじゃあまた昼にな」

「おう、がんばろうな」

「うん、がんばろう?」

「ケチコクさぼんなよ〜?」

「しぐれこそサボったら許さんで」

それぞれのメンバーが、それぞれの楽器がおかれている部屋へと入っていく。

このコテージ、どうやら母ちゃんが昔組んでたバンドのメンバーと練習するときに時々使っていたコテージらしく、スタジオみたいな部屋がいくつか存在していた。で、今回は俺らがそれを使わせてもらうってわけだ。自分で言っててなんだけどよくわかんねえな本当に。

久しぶりに家以外での個人練習。普段スタジオで練習する時には他の奴らと一緒に練習することの方が多いしな。しかも俺の場合は自宅がスタジオのようなもんだからわざわざいく必要もないし。

ギターとアンプを繋ぎ、チューニングを軽く済ませたらウォーミングアップだ。

今日の全体練習曲はライブでやることの多い曲だからそんなに忘れてもいないはずだし、昔からずっと弾いてる曲だから問題なく弾けるはず。一応1曲ずつ流して練習して、その後作曲でもするか。なんかチャキチャキカッティング多い曲でも作るかな。

昼食時。昼食と夕食を作る担当は日替わりにした。だってみんな料理はできるはずだからな、俺らは小6の時点で実証済みだぞ分かってるからな。

で、今日の担当は俺と北斗。さすがに5人前を1人で作るとなるときついので、1日2人ずつにした。

1日目は俺と北斗、2日目は冬樹としぐれ、3日目は千夏と俺、4日目は自由なのでなし。おそらく海の家ででも食べることになるのだろう。5日目は北斗と冬樹、6日目はしぐれと千夏。そして最終日はみんなで作るってことにした。これで全員平等に回数が当たるってわけだな。

「今日のメニューはどうする?」

「ん〜、俺は昼飯オムライスとか結構ガッツリと、夕飯は冷製パスタとか、涼し目な料理がいいんじゃないかと思うぞ」

「確かにな、賛成だ。じゃまずは米を炊くか。4合くらい炊けばなんとかなるだろ」

「さすがに4合あれば問題はねえな。にしてもここのコテージ結構キッチンもしっかりしてるんだな。調理器具多いし、でけえ」

「母ちゃんも俺らとおんなじように使ってたらしいからな、そりゃ調理器具とかも増えるだろうよ」

北斗がオムライス担当、俺はサラダや汁物などの付け合わせ担当となった。オムライス担当とはいえど、俺の役割が軽すぎたので、最後の卵を作るタイミングになったら協働することになった。

「昼飯だぞ〜早くこい〜、冷めるぞ〜」

「あ〜い。お、オムライスか、うまそうやな」

「これは味に期待が持てますな〜」

「そりゃ、北斗の自信作だからな」

「すごい、やっぱり美味しいね」

「さて、午後の練習に向けてしっかり食うぞ。全体練習は1時からな」

___

4日目。合宿の前半日程が終了した。ここまでの3日間は濃密に過ぎ去った。ここまでの3日間で、今後の構想だったりセトリだったり、既存曲の全体練習、個人練習は済ませ切ったから、今回のノルマは完了!ということで、今日はいっぱい遊べるぜ!遊びすぎて死ぬかもな。

「じゃ〜ん、どう?どう?ちなったんとこの前デート行ったときに選んだんだ!」

「どう、かな?ちょっと恥ずかしいけど……」

「大丈夫大丈夫!あたしが選んだんだから!」

しぐれはオレンジ色の、千夏は薄い水色のビキニを見に纏っていた。千夏の方は上に薄手のブラウスを羽織っていたけど。

「なんというか、しぐれが選んだって匂いがぷんぷんするぞ」

「大丈夫や、2人ともよく似合ってるで」

「え〜、ケチコク本当に思ってる?」

「思ってるって。本当や本当」

「ま〜、いっか!ありがと!」

「よっしゃそしたらお前ら、遊ぶ準備はできてるか〜?」

「いきなり圭介がグリグリになったな」

「だって海だぞ!海!ほれ、早く!」

「はいはい」

「自分らもいくか」

せっかく海に来たんだから、海を楽しまない手はないだろう。死なない程度ならセーフセーフ。

「ってあれ?ポピパ?」

『は?』

「あれ」

俺は海水浴場となっている砂浜に走って向かっていると、なんか見たことのある5人組が海の家に集まっていた。

「しかもなんかRoseliaもいない?」

「え?どれ?」

「ほら、海の家で大量にポテト買ってるの絶対紗夜さんだって」

「あ、本当だ。どうする?混ざる?」

「悩んでるうちに発見されたぞ、ほれ」

「お〜い、ケイく〜ん、み〜んな〜」

今日の自由タイムは死ぬことが確定したようです。

___

「ポピパは想像できるけど、まさかRoseliaがねえ、海に来るなんてな」

「遊びじゃないわ、練習のためよ」

「お〜、俺らと同じですね。そっちはどのくらいの日数でやってるんですか?」

「近くのコテージを借りて、2泊3日の予定です。湊さんが作詞に詰まって気分転換に、と。Werewolfさんは?」

「俺らは、1週間です。今日が中日で、1日海で遊ぼうって決めてたんです」

「そうなんですね……」

「え〜、ケイくんたち1週間も合宿してるの〜!?」

俺と北斗、湊さんとそして紗夜先輩とが海の家で飯を食っていると、香澄が乱入してきた。

にしても相変わらず紗夜先輩はポテトめっちゃ食うな。1人で3人前くらい食ってるぞ。

「ポピパは遊びか?」

「うん!さーやがね、海に行きたいって!」

「ちょ、ちょっと香澄!?」

「駅に着いた時1番はしゃいでたし〜?」

「あ、有咲まで〜!!」

「へ〜、意外に可愛いとこあるんだな、沙綾」

「なっ、圭介までっ……」

「ところでなんでお前らギターなんか持ってきてるんだ?」

「弾きたくなった時に弾けるようにだよ〜」

なんでわざわざ海に持ってくるんだよ……。まあ、気持ちはわかるけれども。弾きたい時に弾けなかったら困るけれども。

「ねえねえ、ご飯食べ終わったらみんなでビーチバレーして遊ぼうよ!」

『は?』

 

 

 




お気に入り登録をしていただいている方も増え、嬉しい次第です。
こんな感じで続いていくと思いますが、どうぞよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#13 海といえばスイカ割りとビーチバレーとライブ!?

今回めちゃくちゃ長いです。長いのが得意でないかた、申し訳ないです(切りどころがわからなかったやつ)
それでは、どうぞ


ご飯食べ終わったら遊ぼう、だ?別に俺らはいいけど(チョロい)、Roseliaの人たちは……。

「えー、いいじゃんいいじゃん」

「あこもさんせー!!」

「あこ、リサ。遊びで来ているのではないのよ」

ですよね〜、そうなると思ってた。

「そうですよ、今井さん」

「も〜、紗夜まで〜。いいじゃんビーチバレー」

「ビーチバレーやりましょうよ〜」

「ほら、砂浜で運動すると演奏に必要な基礎体力がつくっていうじゃん?」

「むっ……演奏に必要というのであれば仕方がないですね。やりましょう」

「あ、じゃあビーチバレー終わったらスイカ割りやりませんか?みんなでスイカ割りしようって話をしてたんです」

「あ〜なんであたしらおいてってご飯食べてるの!?あたしらもお腹減った〜」

「あ、お疲れ様ですみなさん」

「ポピパとRoselia全員集合って感じやな」

「お〜、お前ら、ポピパとRoseliaがビーチバレーやるらしから、その後にでもスイカ割りやろうぜ」

「お、いいね〜、あたしらも参加しとく?」

「さすがに3バンドってなったら時間かかりそうだから俺らはいいっしょ。しぐれと千夏が参加したいならどっちかに混ぜて貰えばいい」

あと、正直なところ女の子だらけのところに男が混じってはいけないってのはもうn回言われてるから。

「了解〜、リサさん、混ぜてもらえますか?」

「しぐれこっちに入る?いいよ〜」

「じゃあ、私はポピパのみんなとかな?いいかな?」

「もちろんだよ!よろしくね」

しぐれがRoselia側、千夏がポピパ側に混じることが決定した。

「そしたら、開始は今きた3人が飯を食ってからになるのかな?」

「あ、そうだ!海の家にギター預かってもらえないか聞いてみるね?」

「お〜う」

なんか相変わらず自由すぎませんかねポピパさん達……。

___

あれから30分後。なんかギター預かってくれたらしい。やったな香澄。

「それじゃ〜、Roselia対Poppin‘ Partyの試合を始めま〜す」

「審判は俺と有咲が務めま〜す」

「んなっ!そう簡単に名前呼ばれると困るってか……」

なんか有咲が照れているっぽいが、知らん。だって正直市ヶ谷よりも有咲の方が呼びやすいんだもん。許せ。

「ボールはポピパからか」

おたえが綺麗にスマッシュを決めて、あっけなく一点が決まった。これすぐに勝負がついちまうんじゃねえの?

「お、やっるね〜」

「これルールはどうなってるんですか?」

「ん〜、詳しいことはわからないけど、バレーと同じルールじゃないの?」

「落としたら負け、ってことですかね。あと、3回以内に相手に返すとか」

「ふっふっふ〜、次はあこの番だぞ!」

なんか色々カオスだがこのゲーム、大丈夫か?

次はあこのサーブなのね。ちゃんとサーブできるのだろうか。

「めっちゃボール高く上げたな」

「あれサーブミスったら痛いやつやん」

ボールに伴ってあこ自身もめっちゃ高く飛んだ。こりゃ〜エースものだろ

『あ……』

綺麗に打ち損じた。そして顔から落下した。重力が仕事をしすぎている。落下速度だけ異常に早かったぞ?

「あこちゃん、大丈夫?」

「宇田川さん、大丈夫ですか?」

「うう〜、口の中ジャリジャリする〜」

あれだけの高さから落下してよく鼻血とか出さなかったな、尊敬するぞ。

「で、Roseliaはあこちゃんにこのまま続行させるの?どうするの?」

正直このまま続行できるとは思わねえけどな。

「いえ、ここは私が……あこちゃんの、仇をとります!」

……燐子さんが出ますか〜。

___

その後、紗夜さんが本気の臨戦態勢になって、ゲームはいよいよ終盤へ。

ここまではRoseliaが2ゲーム、ポピパが2ゲームの接戦。

Roseliaは紗夜さんとしぐれ、リサさんが中心に攻め、そしてポピパの方は香澄とおたえ、沙綾を中心に攻めているという感じだ。で、りみと千夏が交代で入っている。

こうして女子の中で競技してるのを見ると、しぐれも千夏の身体能力が極めて高い、というかお化けということがよくわかっちまう。そりゃそうだよな。俺らと一緒に遊んでるというか、普通にスポーツとかできてるんだもんな。やっぱりこいつら頭おかしいわ(褒め言葉)。

「そんじゃ〜、ラストセット〜。サーブはRoseliaから!15点先取!はじめ!」

北斗の掛け声とともにリサさんのサーブからゲームが始まる。さすがに5ゲーム目ともなるとなかなか慣れてきたようで、サーブも連携も両方ともかなりスムーズになってきていた。

得点はともに譲らず、ポピパが抜け出したと思えばRoseliaが取り返す、そんなシーソーゲームが展開される。ポピパは千夏とおたえが、Roseliaはしぐれとリサさんが意味のわからない身体能力を見せているから終わらないっていうのもあると思うんだ。なんで相手方の本気のスパイクを体投げ出して取れるの?意味わからないって。あ、そしてごちそうさまです(眼福)。

「ポピパ〜、マッチポイントやで〜」

そうこうしているうちにポピパマッチポイント。Roseliaは1点差をつけられている。

「取り返すわよ、紗夜」

「ええ、もちろんです」

「最後のサーブは、私かな?」

「千夏、頑張って〜」

「うん、頑張る」

これで決まるとあって、両方とも気合が入っている。にしても最後が千夏のサーブか。このゲーム終わるんじゃねえの?

「それじゃ、サーブいきま〜す。しぐれ、勝負だね」

「ちなったん、いいよ!」

千夏の手からボールが空に投げ上げられる。まさかのジャンピングサーブ。

空中で掌に綺麗にバチンとあたり、そしてドライブのかかったサーブがしぐれに向けて一直線に飛んでいく。ビーチバレーであんな速さ出せるのね?

「おお〜、いいサーブだね〜。リサさん、お願いします」

「しぐれ、ナイスレシーブ!友希那、お願い!」

「ええ、いくわよ」

友希那さんはそう言い残し、ボールを目掛けて飛んで行った。

___

ビーチバレーは終わり、今度はスイカ割りの時間になった。

え?決着はって?ギリギリポピパが勝った。普通だったらデュースで決着がつかなかっただろうが、先取のゲームだったので決着がついた。

「では、スイカ割りをします。そのスイカはこれです。どうぞ。特注の一級品です」

『でか……』

スイカ割りの参加者は俺、北斗、冬樹、しぐれ、千夏のいつものメンバーと、ポピパからは香澄、おたえ、沙綾、Roseliaからはあこ、リサさん、そして燐子さん。まあ、他の人は……お察しの通りだ。

「割れたらみんなで食べましょ〜!早いうちに割った方が美味しいよ!冷えてるからね!」

ということで、スイカ割りの開始だ。

「最初は誰からいく?」

「ポピパメンバーからでいいよ〜☆」

「リサさんもそう言ってることだし、ポピパ、、Roselia、俺らの順番でいいかな?」

「いいんじゃないか?俺らがやったらどうせすぐ終わっちまうし」

「スイカ割りってそんなに早く終わることってあるの?」

「自分らにはプロがいるんや、沙綾」

「じゃあ早速始めてみよっか!」

しぐれの一言でスイカ割りが開始された。スイカは砂浜に割れた破片が落ちることの無いよう、きちんと綺麗なシートの上に置かれていざスタート。

「香澄〜、もっと右だぞ〜」

「いやいや、左やろ!」

「そのまままっすぐ行け〜!」

「戸山さん、頑張って……!」

「……お前ら、絶対楽しんでるだろ」

参加していない有咲が遠くからツッコミを入れてくる。相変わらずツッコミ属性は健在なんだな。

「どっちに行ったらいいかわかんないよ〜!!」

「そこだ!振れ!」

「えっ!こう?」

香澄の振り下ろした棒は、スイカにわずかにあたって砂浜についた。

「惜しかったね、香澄」

「さ〜や〜……次はよろしく……」

かれこれ言ううちにポピパの順番もRoseliaの順番も終わってしまった。

「我が聖剣が威力を振るうときっ……!」

と言いながら出陣して行ったあこはなんかまた気合を入れて棒を振りすぎてこけていた。

しかも顔面から砂浜に着地。痛そう(小並感)。

で、とうとう俺らの番になったわけだ。

「んじゃ、まずは俺から行きます〜」

「はいはい、みんな〜、食べる準備するよ〜」

「え〜、でもケイくん、割れるとは限らないよ?」

「リサ先輩とか、結構ガッツリ当たってても割れる気配すらなかったしね」

「香澄ちゃん、沙綾ちゃん、……まあ、見てて。ケイちゃん、すごいから」

香澄、沙綾、千夏がそう言っているのを横目に、俺は準備を始めた。

よし、スイカはあそこだな。

「んじゃ、いきま〜す」

「圭介〜、あんまり力強く行きすぎんなよ〜」

「そのまままっすぐやで〜」

「本当に圭介、スイカ割れるの?」

「ま〜ま〜、リサさんも、Roseliaの皆さんも、静かに見てましょ☆」

「お前らいい加減静かにしとけ」

予め把握したスイカの位置と自分の位置とを再度確認し、スイカに向かってスタスタと歩いていく。

「ん〜、この辺かな?よいしょ、っと」

俺は棒をかなりのスピードで振り下ろした。

「バゴっ!」

『……は?』

スイカが割れた鈍い音とともに、スイカ割りに使う棍棒まで折れた。

「我ながら今日も完璧だな。よし、お前ら、食うぞ」

なんかみんなからすごい目で見られてたけど、俺そんなにすごいことしたかな……?

___

「またみんなで遊びたいな〜、今度はAfterglowも、パスパレも、ハロハピも、みんなで!」

「いいじゃんいいじゃん、面白そうで」

「それ絶対疲れるやつだな」

スイカをみんなで食べながら今日一日あったことを振り返る。

自由時間に砂浜に出たらポピパとRoseliaがいて、海の家で昼飯を食った後にビーチバレーとスイカ割り。なかなか内容濃いな、海でできることほとんど全てやったんじゃないのか?

「さて、そろそろ俺らは帰るとするか。ポピパも帰るだろ?」

「うん!そうする!」

もうすぐ、楽しかった1日が終わる。少しの寂しさを胸に、俺らはギターを取り戻すべく海の家に向かった。

__

『ありがとうございました!』

「いいっていいって。代わりにどうだい?一曲、弾いてがないかい?」

「え?」

「お嬢ちゃん達、バンド、やってるんだろ?」

という会話があったらしく、夕暮れどきの海の家でポピパのワンマンライブが始まった。といっても、一曲だけっぽいけどな。ドラムがないから打ち込みでやって、空いた沙綾は歌うらしい。何それ豪華。

「みんな〜!準備はいい〜?……聞いてください、『八月のif』」

キーボードのメロディーから始まる、夕暮れ時の夏の浜辺に綺麗に調和した歌詞。

何より香澄と沙綾が歌っていることがいい。夏らしさを感じる。

「いいな。この曲」

「せやな。感動するわ」

「なんか、あたしらもこんな曲やってみたいね」

「うん、いつかは、野外で……」

「なんかやる気出てきたな。これ終わったら戻るか」

「うん、そうしよう」

演奏も終盤に差し掛かる。どうやら感化されたのは俺らだけでは無いようだ。

「いい曲ね」

「ええ……」

最後のメロディーもキーボード。控えめに言ってめちゃくちゃ綺麗。好き。語彙力皆無だけど。

「いい曲が書けそうな気がするの」

演奏が終わるや否や、湊さんらは合宿場所に戻って行った。いい刺激になったのだろう。実際俺もいい刺激になった。頑張らんと。

「お疲れさん、いい曲だったぞ」

「ありがと〜!あのね、すっごく気持ちよかった!海で歌えてよかった!」

「俺らも聞いてて気持ちよかったぞ」

「お楽しみのところ悪いが、そろそろ電車なくなるんじゃないか?」

北斗がそう言うと、有咲が早速スマホで時間を調べる。

「うわ、やっべえ、今すぐ出ねえと帰れなくなるぞ!お前ら、急げ!」

『わ〜!!』

「じゃあな〜、気をつけて帰るんやで〜!」

「またね〜、ポピパ〜」

ポピパを見送った後、太陽が水平線に沈んでいくのを眺めながら残された俺らは、今後にやりたいことの話をしていた。

「私は、みんなで少しでも多くのステージに立ちたいな」

「あたしもちなったんと同じ。あ、でも、野外でライブやってみたいかも」

「自分も1回野外ライブ、やってみたいんや」

「お、ケチコクと被るなんて珍しいね〜」

「俺は……武道館とか、せっかくなら立ってみたいな」

「お、北斗言うな。自分らなら、きっと立てるで」

「圭介は?」

「ああ、ずっと考えてた。……高2の終わりから高3の初めにかけて、ドームツアーと武道館をやろうかなって考えててな。受験の関係でな。どうせお前らまあまあな大学いくんだろ?」

『……わかった(で)』

「そうと決まりゃ、明日からまた練習だな!んじゃ、帰りますか!」

『おう!』

夕日を背景に、俺らも5人で、足並みを揃えてコテージまで戻って行った。

 




これで一応アニメ1期は終了ってことになリます。適宜日常会を混ぜつつ、ガルパのストーリーを拾って行きつつ2期に突入できればなと考えています(なお、ガルパのストーリーをほとんど見ていない作者の顔)

誤字・脱字等ありましたらご報告いただけると嬉しいです。
評価、感想をいただけると励みになります。よろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#14 バイトってやつは探すところから大変

大変遅くなりました(n度目)



 

合宿も終わり、間も無く2学期が始まろうとしていた。そろそろ新しい機材が欲しいと思わなくもないのだが……。

「金がねえ……。金欠だ……」

根本的な問題に直面していた。

「で、俺らに助けを求めた、と」

「そう言うこと。お前らバイトとかしてんの?」

「なんだ、金の無心じゃないんやな」

「冬樹は俺をどんな目で普段見てるんだ?……もし金の無心をしたらどうするつもりだったんだ?」

「ん〜?正直機材一つ分くらいだったらケイが海外いたときの誕生日プレゼント分で買ってやらんくもないとは思ってたな。ただ、ケイの持ってるギターとかあんまり高いやつじゃなくて、エフェクターぐらいにはなるとは思うけどなあ……」

「お、優しいな。しぐれにもそのくらい優しくしてやればいいのに」

「ち、ちゃうねん!あいつは、その、なんと言うか……」

ほ〜ん(察し)、そう言うことね

「そう言うことか。まあ、俺は冬樹に任せるが、解散だけは勘弁な」

北斗も同時に察したようだ。ま、俺も正直なところ冬樹に任せるつもりだ。どうせ解散はせんやろ(盛大なフラグ)。

「で、話を戻すと、お前ら何かバイトとかしてんの?北斗は自前でギター買ってんだろ?」

「ま〜、Suhrのギター買えるとなったら、小遣いだけじゃ無理やな」

「ちなみに小遣いは2人はいくら?」

「俺は月5000」

「自分も同じくらいや」

「Oh……」

俺は実質一人暮らしなので、両親からの仕送りは月5万円。正直恵まれているが、参考書と食費、その他生活必需品の購入で月に貯められる金額は多くても1万円程度だ。あと模試受けたり塾の講習とか行ったりすると余計に金かかるしな。

「う〜ん、バイトしよう。金貯めよう」

「ちなみにやけど、自分はバイトしてるで」

「俺もバイトはしてるな」

「確かやけど、チナツもしぐれもバイトしてるはず」

「なんだよ、お前ら……みんなバイトしてるだなんて……。ちなみにどこでバイトしてるんだ?」

「俺は近所の書店だな。結構本、好きだからさ」

「自分は掛け持ちや!江戸川楽器店っちゅ〜楽器屋さんと、ライブハウス!」

「いかにもバンドやってますってやつの選びそうなバイト先だな」

「ちなみにグリグリのひなさんとおたえもいるで」

「めっちゃ豪華だな」

「んで、しぐれが確かファストフード店だったっけな。パスパレの彩さんとあとハロハピの花音さんがいるあの……」

「パスパレ……?それ誰だ?」

「さすがにケイ、芸能人知らなすぎじゃない?バンド組んでるアイドルだよ。うちの学校にいるらしいよ」

「はえ〜、にしても、アイドルがバイトなんてな。自由なんだな、そこの事務所」

「あとは、チナツが確か羽沢珈琲店やったっけな」

「え、千夏のやつあそこでバイトしてるの?」

「ああ、なんか最初に行った時に気に入ったらしい。そしたら成り行きで、って。ほら、つぐみちゃんも羽丘だし」

「みんなバイトしてただなんて……。バイト先探さなきゃじゃん、どうしよう」

「こればっかりは自分で頑張るしかないな」

「せや!うち紹介したろか?バイト代結構安いけど小遣い稼ぎ程度にはなるで」

「冬樹マジか!?助かるぞ。……ただ、なんというかもう一つくらいやっときたいというかなんというか」

「ん〜、せやな。掛け持ちもできるくらいのゆるさやし、仕事もない時はないからなあ」

「まあ、もう一つは自分で頑張って探してみるわ。ありがとな」

__

いざ1週間経ってみても、バイト先は一向に見つからない。これでも頑張って探してはいるんだからな。これはほんと。

「う〜ん……、腹減ったな」

Circleでのバンドの定期練習後。俺は一人で家路についていた。家の方向一人だけ違うしまあしょうがないね。

「ん〜、やまぶきベーカリーでも寄っていくか〜。今日はあそこのパンの気分」

俺は密かに夕飯を決めると、家に向けて歩みを進めた。

「……これじゃん。あった、バイト先」

やまぶきベーカリーに到着するや否や、ビビビっと頭の中に何かが降りてきた。

―やまぶきベーカリーで雇ってもらえば、よくね?

「たのもー!!」

「わ!びっくりした〜、誰かと思ったら圭介じゃん」

俺はパンを選びながら沙綾と交渉してみることにする。

「ああ、悪い悪い。なあ沙綾、ここでバイトってできるか?」

「……え?いきなりどうしたの?」

にしてもどのパンも相変わらずうまそうだな。ここでバイトしたらパンも焼けるようになるのか?それって控えめにいって俺得では?

「いや〜、最近機材を新しく買おうとも金がなくてな。バイトでもしようかと思ってたんだわ。せっかくならここ、結構近いしいいかなって思ったんだよな」

「なるほど……。私だけじゃ判断できないけど、お父さんに後で聞いてみるね」

「助かるわ。すまんな。んじゃ、今日はこれでお願いするわ」

「いつもありがと!」

俺はメロンパンとクリームパン、そしてバケットを買って家に帰る。

これだけ買って550円。バケットでかいし勝ちだね。これだけで3食はいける。

「う〜ん、もしもやまぶきベーカリーがダメだった時のためにいくつか他にも探しておくか〜」

沙綾のお父さんが家族経営の中にバイトを入れたくないって人って可能性も十分に考えられるわけだ。

「せっかくならライブハウスとかでバイトしてみたいよな。作業も覚えられるし、もしかしたらPAとかにも詳しくなれるかもしれねえし。それは俺得ってもんよ」

「な〜にひとりでぶつくさ言っとんや?」

「うお、冬樹。いや、バイトのあては増やしておくに越したことはねえじゃん?ライブハウスでバイトでもいいかなあって思い始めてきたんよ」

「あ〜、ライブハウスね〜……。おたえにでも相談してみたらどうや?あの子、ライブハウス掛け持ちしてるし、SPACEあった時はそこでバイトしてたらしいし、結構ツテあるかもしれないやん?」

「へ〜、あいつって結構バンドマンしてんだな。ありがとな、冬樹」

とりあえず今日のところは帰って作戦会議でもしますか。何の作戦を立てるのかは正直なところ自分でもよくわかってねえけどな!

___

「おたえ〜、ライブハウスでいいバイト先ねえか?」

「おはよ〜、ケイ。ライブハウスのバイト先?うちは人手足りてるし、冬樹のところも大丈夫そうだし……。あ、そうだ」

「お、何か閃いたか?」

「お腹減ってたんだった!」

「何やねん。結局思い当たるバイト先はねえってことでいいか?」

「ごめんね、紹介してあげられたらよかったんだけど……」

「いや、別にいい。悪かったな、ありがとよ」

と、いうやりとりをおたえと学校でしたのは今日の午前中。商店街を買い物がてら散歩でほっつき歩いてると、いつもの八百屋の隣にライブハウスがあることに気がついた。

「あれ、おやっさん、こんなところにライブハウスなんてあったっけ?」

「……お、圭介じゃねえか。買い物か?」

「ちょうどいいやますき。ちょっと質問なんだけどよ、こんなところにライブハウスってあったっけか?」

「あ〜……そこうちだわ。親父がオーナーやってんだ。地下倉庫を改造してライブハウスにしたらしいぞ」

「ほ〜……。ちょっくら中見に行ってもいいか?」

「親父に聞いてみな。大丈夫だろ?親父」

おやっさんの方を見ると、おやっさんもこちらを見返しながらうなずいた。ということは、中に入っても問題はないということなのだろう。

「ありがとな、ますき。愛してるぜ」

「お〜」

もしかしたらバイト先が見つかるかもしれないという淡い期待を抱きながら、俺は分厚く重い扉を開けた。

「すみません、ここってバイト募集してますか?」

___

「ということで、バイトを見つけたわ。ありがとな、北斗に冬樹」

バイトを探し始めてから1週間後。無事にバイト先を見つけることができたことを2人に報告した。

「ええってええって、頑張り〜」

「ところで圭介、お前のバイト先ってどこなんだ?」

「あ〜、Galaxyってライブハウスと、やまぶきベーカリー」

「え!?自分やまぶきベーカリーでバイトすると?ほんまに?負けてもらお」

「勝手に負けるなんてできねえだろうが。考えろアホ。しぐれに沙綾からちくってもらうぞ」

「それは堪忍や」

「やまぶきベーカリー、バイト募集してたんだな」

「沙綾が一肌脱いだっぽい」

これは俺も驚いたのだが、すぐに「採用」の返事が沙綾からLAINで来た。俺がライブハウスのバイトになったのとほとんど同時だ。なんかお父さんを頑張って説得したらしい。「一肌脱いだんだからね」って言われた時に「なんかそれエロいな」って返信したら怒られた。解せぬ。

「で、バイトはいつからなんや?」

「とりあえずやまぶきベーカリーは今日からだな。親父さんとどれくらいシフト入るかの確認とか、そんな感じからスタートらしい」

「ほ〜、ま、お互いがんばろうぜ」

「正直言って不安しかねえけどな。放課後のことで緊張しすぎて1日が一瞬で過ぎ去っていったわ」

だって沙綾の親父さんだよ?怖くない?え、優しいって?確かにそうだけどさ……ほら、いろいろあるじゃん、ね、いろいろ(遠い目)

どんなこと言われるのかな〜って考えてたら、いつの間にか敵地の前についていた。

___

「いらっしゃい。……あら、圭介くん?」

「こんにちは、今日からお世話になります、西秋 圭介です」

「そんなに改まらなくてもいいのよ〜、ちょっと待っててね、今主人を呼んでくるから」

出迎えが沙綾のお母さんで本当に助かった。少し和んだ。

これからバイト先になる(かもしれない)パン屋さんは、お客として来るのとは少しばかり違った感じで見えていた。

 




バイトって探すの大変ですよね。
リアルが忙しくなってて更新が遅くなってます。申し訳ないです。

評価、感想、誤字報告等よろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#15 行きつけのパン屋さんでバイトって新鮮みが強い

暑くなってきました。だんだんと時間ができてきて、執筆に専念できるといいのですが……(あまり時間は増えない)
では、本編を。


ソワソワしながら沙綾のお父さんを待つ。正直なところかなり緊張している。ちびりそう。

「お、君が圭介くんか。私は山吹 亘史。いつも娘が世話になってるね」

来た、ラスボス。なんか後ろにオーラが見える気がする。

「こんにちは、西秋 圭介と言います。沙綾さんにはこちらこそお世話になっています」

軽く挨拶もといジャブの撃ち合いを済ませ、こっから本題の殴り合いに突入……すると思ってた時期がありましたよ俺には。ええ。

「早速だけど、荷物をおいて厨房の方に来てもらえるかな?」

「……へ?」

「どうかしたかい?」

そりゃそうか。採用って言われてたんだから、俺が勘違いしてただけなのか。早とちりはよくねえな。別にやましいことなんて何もないわけなんだし。

「……いや、何でもないです。ところで荷物ってどこにおけばいいですかね」

「ああ、そうだったね。2階がうちになってるから、そこに置いておくといいと思うよ。そこの階段を上がって、きっと沙綾が上にいるはずだから、聞いてみてくれるかい?」

「わかりました。ありがとうございます」

俺は亘史さんが指した階段を登っていく。なんだかんだ沙綾んちに来るのって初めてじゃないか?

「沙綾いるか?」

「お、来たね〜、今日から?うちで働くなんて感心感心」

「そりゃどーも。ところで荷物ってどこにおけばいい?」

「ん〜、リビングとかに置いてもらって大丈夫だと思うよ。純たちもいたずらしないだろうし」

「あい、了解」

俺は沙綾に言われた通り、適当にリビングに荷物を置くとサッと厨房に行った。

「お待たせしました」

「よし、それじゃ、どのくらいシフトに入るかとか、時間とか決めて行こうか」

その後、俺は亘史さんにシフトの調整とか何時に来て何時上りにするとか、どんな仕事をするかとかを軽くレクチャーしてもらった。シフトは週3回、早朝が2回と夕方が1回。夕方の時はレジやパン出しで、早朝は俺の希望もあってパン作りの手伝いをすることになった。

なんか半分くらい修行みたいになっててテンションが上がってきたぞ。

「それじゃ、今日はこんなところで。また明日、早いけど頼んだよ」

「わかりました。よろしくお願いします」

俺のバイト1日目は不安に思ってた自分がバカらしくなるほど呆気なく終わった。

___

「圭介、バイトの具合はどうだ?」

バイトを始めた後、初めての全体練習。ちょうど1週間くらい経った時だろうか。

「まあボチボチってところだよ」

嘘は言っていない。やまぶきベーカリーの初日は早起きするのが少しだけキツかったが、流石にもう慣れた。パン作りは思った以上に難しくて、当分焼けるようになるのは先だな〜と亘史さんをみながら思ってしまった。バイト代入ったら機材の前に家庭用のいいオーブンでも買って練習しようかしら。

接客の方は沙綾が教えてくれることになった。わかりやすいしやりやすいことこの上ない。ただ、常連さんたちが俺と沙綾が一緒にレジに立っているところを見てあらあらうふふしてたのはちょっとアレだったけどな。

ライブハウスの方も順調。今はライブの予定もないし、週に1回でいいってことになった。仕事はゆっくり覚えていけばいいよ〜って店長さんも言ってたし、そんなに心配はしていない。大丈夫なはず……。大丈夫だよな?俺?

「え〜、ニッシーバイト始めたの〜?聞いてな〜い」

「おう、だって言ってねえからな」

「バイト、始めたんだね。どこで働いてるの?」

「ん〜、やまぶきベーカリーとGalaxyってライブハウスで働いてる」

「おお〜、掛け持ちじゃ〜ん、やるう」

「うるせえぞしぐれ。お前もバイトはしてるだろうが」

「けど、ニッシーみたいに掛け持ちじゃないも〜ん」

「何というか、やまぶきベーカリー落ちる心配してたけど杞憂に終わったみたいだな」

「ああ、それについては沙綾に感謝する他ねえな。……さて、そろそろ時間だ。練習に戻るぞ」

「え〜、もうちょっと休憩した〜い」

「自分ももうちょっと休憩した〜い」

「ごめん、ケチコク。流石にきつい」

「うわ〜、しぐれ辛辣やなあ」

「ほれ、やるぞ。休憩前の続きからな」

メンバーにはちょっと申し訳ねえと思いながらも、心を鬼にして練習を再開した。

そもそも俺があんなことを言わなければここまで根詰めて練習する必要もなかったんですけどねえ。

___

時は遡ることバンド練習の1日前。

Galaxy、2回目の出勤。今週はシフト決めとか契約とかがあってな、2回来ることになってたんだ。

土曜の夜。普通のライブハウスだったら掻き入れ時だろうが、如何せんGalaxyは最近できたばっかりのライブハウス。お察しの通り閑古鳥が鳴いていた。

「お疲れ様です、店長」

「あ、圭介くん、お疲れ様〜!今日も掃除とメンテナンスを手伝ってくれればあとは自由にしてていいから」

「わかりました、にしても、大丈夫です?」

「ん?何が?」

「土曜の夜でライブがないライブハウスって……」

「あはは……、それ、言っちゃう?」

あ、店長の目からハイライトが消えた。これ地雷だったか?

「もしアレなら、来週か再来週、ここでライブでもやりましょうか?」

___

とまあ、こんなことを口走ってしまったわけだが、メンバーに確認してみたら何と全員奇跡的に1ヶ月後だったら予定が空いていたので、突如ライブをやることになってしまった。しかも主催で。これは寝れない日が続くぞ。

元々ライブをやる予定は大きいライブなら1年くらい前から俺らは計画だけでも話に上がるし、何なら小さいライブでも2ヶ月前、遅くとも1ヶ月半前には話が上がっているから今回は異例。というか、俺の行動も今回は異例。

だってさ、アレじゃん?流石に入ったばっかりのライブハウスにつぶれてほしくはないじゃん?

最速でライブできるのが1ヶ月後ってのがちょっと心残りではあるが、まあそれまで何とかライブハウス自体は持ってくれるだろう。俺はそう信じてるぞ店長。

「こんな急な主催ライブで大丈夫なの?」

CIRCLEでの練習も終わり、鍵をフロントに返して5人で帰ろうとすると、しぐれがどこか曇った目でこちらを見てきた。

「ああ、準備については俺に任せとけ。とりあえずいつも通りの役割でいつも通りのことをやってくれればいいから。あ、もちろんチャンネルは人狼の方で行くけど」

「ねえねえ、みんなも呼んでいいかな?」

「みんなって誰だ?」

「ん〜っと、Roseliaとか、ポピパとか、その辺のメンバー呼びたいなって」

「千夏が人を呼ぶなんて……成長だな」

「何で私がいうとそんな風になるわけ?……はあ、まあいいや」

「んじゃ〜俺らは主催ライブに恥じない演奏をするってわけか」

「ところで何やけど、呼ぶってのはゲストアクトとして呼ぶんか?それとも普通にお客さんとして呼ぶのか?」

「ん〜、あたしはどっちでもいいかな〜」

「正直なところ俺はお客としての方がいいと思うぞ。こんなライブいきなりだし、さすがに各バンド準備が足りねえだろ」

「さすがに私もゲストアクトで呼ぶつもりはないよ。マスカレードのチャンネルならともかく、さすがに人狼の方じゃ、ねえ」

マスカレードの方のチャンネルでやったら1ヶ月前であってもこちらがオファーを出せば出演してくれるバンドはあるだろうが、人狼の方ははっきり言って無名のバンド。これは自分たちだけのステージになりそうだ。

「ま、ちゃんとお客入ってくれればそれでいいだろ。ところで俺は腹が減ったぞ」

「んじゃ、その辺のファミレスにでも寄っていくか?」

「俺はいいけど」

「自分もいいで」

「今日はあたしも寄って行こうかな」

「千夏は?何か用事でもあるのか?」

「ううん、私も寄っていけるよ。みんなで行こうか」

「おっし、それじゃ、レッツゴー!」

___

ファミレスにつくとテーブル席に通された。かなり広い、わちゃわちゃやるには最高。

これは余談だけど、ファミレスで勉強する高校生の集団は正直言って邪魔以外の何者でもない。何というか、うん。おっきい机は占領するし勉強しねえでくっちゃべってるし何というかとにかく邪魔。どっかの誰かんちで勉強すればいいのに。

とりあえずドリンクバーを注文して飲み物を取りに来ると、しぐれはあたりをキョロキョロと見渡す。

「あ!やっぱりいた!」

「誰がや?」

「Roselia!」

「まじか」

「なんか今日リサさんがファミレス行くんだとか何とか言ってたからさ、もしかしてって思って探してみたんだ!」

「それでタイミングかぶるのは正直すげえな」

「Roseliaの人たちは何やってんだろうな」

「北斗のぞきに行ってみれば?」

「やだよ、俺まだ友希那さんに殺されたくない」

「誰に殺されるですって?」

こっぷをもった みなと ゆきな が あらわれた!

どうする?

>あいさつする

どうぐ

ほくと を みすてる

なんか目の前にいきなりポケモンの選択肢が出てきたけど。しかもなんか選べそう。とりあえずあいさつした後に北斗を見捨てるか。

「こんにちは。こんなところで奇遇ですね」

「ええ、こんにちは。私もびっくりしたわ。あなたたちは何をしているのかしら」

「自分らはCIRCLEの練習帰りにファミレス寄ろうやって話になって」

「ところでRoseliaの皆さんは?」

「私たちも同じような感じです」

みれば紗夜さんまできてるじゃねえか。なんか堅物2人がきたな。早く逃げよう。

「圭介、しばくわよ」

「いや、それは理不尽でしょ」

「あれ〜?人狼のみんなだ!」

「本当だ!たまたま〜?やっほー」

「こ、こんにちは、みなさん」

「リサさん、お疲れ様です!」

「お、しぐれじゃ〜ん!みんな集まって何してるの?」

「練習帰りにファミレス寄ろうという話になったそうです」

「へー、Werewolfたちも同じか〜」

「談笑中のところ申し訳ないんですけど、ここドリンクバーの前ですよ」

『あ……』

誰一人として気づいてなかったんかい。

「あ!おねーちゃんだ!おーい!!」

「っ!!日菜!?なんであなたがこんなところにいるの!?」

遠くから駆けてきたのは、紗夜さんと同じような見た目をした一人の女の子だった。

 

 




感想・評価・お気に入り登録いただけると泣いて喜びます。
誤字報告もお願いします。
次回は天災のおかげで(?)Masquerade kissのメンバーがすごいことになります(小並感)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#16 音楽番組?なんでそんなのに出演が決まったんだ?

自粛生活で執筆が進むかと思いきや課題なり勉強なりで普通に忙しくて後回しになるの本当によくないですよね()
とりあえず本文をどうぞ


「それでは本日のゲストをお出迎えしましょう!巷で今話題のバンド、Masquerade kissさんたちです!」

某日。俺らはテレビ局の収録スタジオにいた。

(どうしてこうなった……?)

天災って突然襲ってくるものなんだなって思ったよ。

___

「それで、なんでこんなところにいるの?」

「練習終わりなんだ〜、彩ちゃんとかと一緒に来ちゃった」

「来ちゃったって、あなたねえ……」

わー紗夜さんが呆れてる(遠い目)。にしても本当によく似てるな。

「ニッシー日菜先輩知ってるの?」

しぐれが小声で俺らに話しかけてくる。日菜先輩なんて知らないしなんなら今初めて見た。

「うんにゃ、全く知らん」

「ケイが知っとるわけないやろ、こいつアイドルとかそういうの一切興味ない人間やで」

「それは流石に失礼じゃないか?俺に」

「流石にケイちゃんに失礼ってことはないと思うよ……。日菜先輩は、Pastel*Paletteってアイドルバンドを組んでる先輩なの。で、ギター担当で、さっき出てきた彩さんがボーカルの人」

「ほ〜、よく知ってるんだな千夏」

「さすがちなったん!」

「ちなみに彩先輩は花咲川だぞ。しかも同じクラスの若宮さんもキーボードで入ってる」

「うえ?まじか、全然知らなかったぞ」

「お前、若宮さん自体は知ってるよな」

「そ、そりゃーもちろん知ってますとも」

「あ〜、こりゃケイ、知らなかった時の反応やな」

「正直同じクラスのクラスメイトくらいは知っておいてもいいと思うんだよね」

一応なんだ?そのPastel*Paletteについて調べてみるか。

ほ〜、結構有名なんだな、そりゃいろんな奴らが知ってるわ。

しかも白鷺千聖までいるのね。結構意外。

「あ、そーだ!今度パスパレで音楽番組やるんだけど、おねーちゃんたちのバンド出てみない?るんってするんだ〜」

「と、日菜が言ってますが湊さんはどうしますか」

「出ないわ。そんなことに割く時間はないもの」

「とのことよ。日菜」

「え、友希那さん出ましょうよ〜」

「あこ、収録と練習とで時間がとられてゲームの時間が減るわよ」

「うっ、それは……」

急所を突かれた!あこに999のダメージ!あこは諦めた!

「え〜、残念。じゃあどのバンドを呼べばいいかな〜。結構有名なバンドがいいらしいんだよね」

「だったら、Masqueradeでも呼んだらいいんじゃん?」

リサさんから飛び出した何気ないひとことが、俺らの心に突き刺さった!

(え、なにこれ、もしかして俺らテレビに出ちゃうのん?)

「おねーちゃんたちがゲストアクトで出たあのバンドだね!確かにるんってする!マネージャーさんに聞いてみよーっと。ありがと!」

「あ、ちょっと日菜……って、行ってしまったわ」

「なんというか、大変ですね紗夜さん」

「もう慣れたわ。見苦しいところをお見せしてすみません」

「いい加減ドリンクバーの前からどいた方がいいと思うんですけどね……俺は」

「あはは……確かに注目されちゃってるしね」

「そしたらまたね〜」

「皆さん、また……」

「Roseliaの皆さんもお疲れ様です」

「リサさんまた今度遊びましょう!」

「お、しぐれいいね☆また誘って!」

俺らは思い思いに飲みたいものを注いで席へと戻って行った。

「Roseliaに爆弾投げられなかった?」

「いいじゃん別に!音楽番組っしょ?出たとしたらでっかいこと告知したくない?」

「そんな俺らが告知なんてできるんかよ」

「ま〜、自分的にはマネージャーさんとかに打ち合わせの時に言ってみればいいかなって思うけどな」

「そうだよ!冬樹の言う通りだよ!出演決まったら話してみようよ!」

「そうもうまくいくかね〜……そもそもオファーが来るとも限らんしな。そんなことより食おうぜ、ほら、来たぞ」

それぞれが注文した料理が来た。ドリンクバーの前で話してたからそんなに待った気はしないけど。

やっぱりサイ○リアって神だと思うんだ。安いし結構うまいし学生の味方!

それから数日後。Masquerade kissのお問い合わせフォームに出演依頼のメールが来てしまった。

___

と、いうわけで俺らは天災とその姉に売られてしまったってわけだ。

その後メンバーに報告したら全員一致で出演が決まったってことで……なんだかなあ。

何気テレビは初(というかテレビに出たことのある人間の方が希有だとは思うが)だから緊張はしていたものの、リハとか楽屋周りとかそういうのも思ってたよりは緊張せず本番を迎えた。多分だけど仮面かぶってるお陰ってのもあるんだろうな。

「皆さんこんにちは、Masquerade kissのギターボーカル担当のKと申します」

「同じくギター担当の春と申します」

「自分はベース担当のTakaって言います、よろしく」

「あたしはドラム担当のミナミで〜す、以後お見知りおきを☆」

「最後に、キーボード担当の中華って言います。どうぞよろしくお願いします」

パスパレの面々の前で挨拶をすませ、いざ本題へ。

「え〜、今日はゲストの方の知られざる素顔をあらわにしていければと思うんですけど……」

「そうですね、この仮面を外すってことはできないと思うんですけど、まあ可能な限り質問には答えていきたいと思います」

「え〜、せっかくだから取ろうよ〜、その方がるんってするしさ!」

「日菜ちゃん、無茶をいうのはやめなさい」

「その仮面、まさにブシドーって感じでカッコいいです!」

「イヴさん、流石にその使い方はどうなのかと思いますよ……」

流石に仮面をブシドーって聞いたことねえから突っ込んじまったぞ、パスパレメンバーの絡みに何か不純物が混じったけどまあいっか(テキトー)。

「ジブン、Masqueradeさんのライブ見に行ったことあるんすけど、とにかく独自の世界観というか、ライブによって世界観を変えて表現していく演出がすごいな〜っていつも思ってるっす」

ほ〜、麻弥さん俺らのライブ来たことあるんだ。ちょっとびっくり。

「ここでライブ映像のVTRがあるらしいので、ちょっと見てみましょうか」

タイミングよくライブ映像のVTRが入る。これは……最近やった再結成のライブだな。懐かしい。

「うわ〜、お客さんの数すごいな〜……」

「この時には確か2500人を超える人が集まったとか」

「そうですね、3年ぶりの復活ライブだったんですけど、僕らを待っててくれた人に対する恩返しの気持ちとか、これからもよろしくお願いしますの気持ちとかを前面に打ち出した演出にしようってメンバーで決めてたんですよね、そのおかげもあってかなんとか成功を収めたって感じです」

「今後は私たちを初めて知る人とかが来やすいライブとか、みんなで楽しめるようなライブとか、様々なコンセプトでもっともっと私たちの音に触れたい方々に会えればいいかなって思ってます」

と、北斗と千夏が打ち合わせ通りのことを言ってくれた。ここまでは特に波乱はなし。

……問題はこの後なのである。そう、本当の問題は。

「それでは、次のコーナーです。毎週、パスパレのメンバーが交代で担当するお楽しみ企画!今日の担当は……」

「ワタシですね!皆さんでレッツブシドーですよ!」

パスパレのメンバーが交代で担当する企画。この企画何が問題かって……

「それではイヴちゃん、今日の『やりたいこと』をどうぞ!」

ゲスト側には全く何をやるかが知らされてない点なんだよな……。

「ハイ、今日は皆さんで夏にしかできないブシドーを味わいたいです!」

「と、いうと?」

「具体的には、スイカ割りをしたいです!」

またか……(絶望)

「いいね〜、るんってするよ!」

「では、この後皆さんで特設会場まで移動してスイカ割りを行います!」

ということで、今夏2度目のスイカ割りが幕を開けようとしていた。

___

パスパレと一緒に特設会場まで移動すると、そこにはもうスイカが用意されてた。しかも2つ特上なやつ。手際めっちゃいいですね、スタッフさん(血涙)。贅沢を言うならこれ普通に割らずに食べたい。

「えー、では、今回のルールを説明させてもらいますね。パスパレとMasquerade kissが交互にスイカを割っていって、最初に割ったチームの勝ちと言うルールです。先行と後攻は後ほど決定します。勝ったチームは告知の時間がもらえますが、負けると……」

『負けると……?』

「罰ゲームとして激マズドリンクは用意されています」

「つまり、それを飲むことになると」

「そうなりますね」

「うちには日菜ちゃんがいるから無敵だよ〜」

「るるるん♪ってするね!」

「こちらにも必殺兵器があるので、負けませんよ」

「ということで、お前から行け。K」

「プロデューサーさんいます?……これってテレビ的要素必要ですか?」

一応聞いたところ特に必要ないとのことだったので、俺からいくことにした。多分一発で割れる。

「では、先攻と後攻を決めます。各バンドの代表者にコインの裏表どちらが出るかを予想してもらい、実際に出た面を選んだバンドからスイカ割りを開始、ということでMasquerade kissさんは誰が代表です?」

「あ〜、どうするかな。じゃあとりあえず私が行きますね」

「Pastel*Paletteはアヤさんが行きます」

「ええ、イヴちゃん!」

「そうだよ〜、ここは彩ちゃんじゃないとるるるんってしないもん」

「日菜ちゃんまで〜、うう、わかったよ……」

「で、丸山さんどうします?表ですが?裏ですか?」

仕方なく代表者になったような丸山さんに先に決めてもらう。

正直なところ運要素でしかねえからな、こんなの。とっとと決めてとっととスイカ割りしたい(本音)

「う〜んと、じゃ、じゃあ表で」

「オッケー、じゃあこちらは裏で」

いざ、賽は投げられた。いや、実際に投げられたのはコインだけども。

___

「先攻のPastel*Paletteからは、氷川日菜さんが、そして後攻のMasquerade kissからはK

さんが最初となります」

「さーて、いっくよ〜!」

と、先攻はPastel*Paletteに譲った。こればかりは運。しょうがないね。

この天才のことだから一発で割ってきそうなんだよな。そんなこと思ってるとほんとにわれるっていうフラグが立ちそうだけど、それはとりあえず置いておいて。

「日菜ちゃん、もうちょっと前かな」

「右です!右!」

「ソコです!ブシドー!」

「え〜、みんな言ってることがバラバラすぎてわからないよ〜」

早速混乱している。もうなんというか見ていて微笑ましい。

しばらくののち、パスパレ全員の意見が一致したようで、日菜さんが歩みを止めて持っているバットを思い切り振り落とす。

「そこっ!」

「バコっ!!」

「お〜っと、当たりはしましたが完全に割れはしませんでした。それにしてもいい音がしましたね〜」

「ちぇ〜、割れなかったか〜」

「でも当てるだけすごいよ〜」

「それでは、後攻のMasquerade kiss さん、お願いします」

「んじゃ、いつも通り行きますかね」

俺は北斗に目を隠してもらうと、他のメンバーがいると思われる方を見て頷き、静かに前に歩き始めた。

 




ということでパスパレを出してみました。うまくかけてるのかな?謎いな?

次の投稿はいつになるかは未定ですが、できるだけ早めに投稿します。9月頭には必ず。
コロナの関係で大学の期末試験やレポートが1ヶ月遅れてやってきました。死ぬ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#17待っていたのは唐突な死でした

お久しぶりです。覚えていていただけている方はいらっしゃるでしょうか。
難産すぎたというところと、私生活が忙しく、なんというか。はい。すみません、遅くなりました。
それでは本編をどうぞ。


「とまあ、場面が変わって今日はライブなのである」

「お前誰に向かって話してるんだ?」

「それは……まあメタいから内緒」

と、まあなんでいきなりライブになったかというと氷川日菜とかいう天才もとい天災があんなことを言ったからで……

___

「あ〜、やっぱり容赦無く割ったな」

「え、一発で割っちゃったの?」

「必殺兵器があるって、最初にいいましたよね?」

「うわ〜、こればっかりは勝てないや。つまんないの〜」

「日菜さんに褒められるなんて光栄ですよ」

俺は飛び散ったスイカ片を処理しながら日菜さんに向かって軽口を叩く。

まあ、俺のスイカ割りの腕前がどのくらいなのかは以前Roseliaたちと海で遭遇した際に披露した通り。

なぜかスイカ割りだけは天才的にできるんだよな。他はまあまあだけど。多分。

「ともかく、勝ったMasquerade kissさんが告知の時間を獲得です」

「え〜、それじゃあ、今日は私たちが罰ゲームってこと!?」

「何を言っているの彩ちゃん、そういうルールでしょ?」

「そんなあ……」

千聖さんはいつも通り冷静だなあ。それに比べて彩さんはどこか……、うん。なんというかいつも通りって感じだ。これ以上は明言しない。

「告知どうしますか?何か演奏とかしますか?」

番組のディレクターさんに声をかけられた俺は、どうするか(一応)メンバーの方に顔を向けると、当たり前のように頷かれた。

ですよね(知ってた)。

「らしいので、準備をお願いできますか?」

「機材の方はどこにありますか……?」

「お前ら機材持ってきてるのか?」

『いいや』

じゃあなんで演奏するねん(憤慨)。まあ俺も持ってきてないけど。なんならそんな予定なかったし。

「……らしいので、適当にギター2本とベース1本とキーボードとドラムを用意していただけると幸いです」

「わかりました。準備しておきますね」

うわー、ディレクターさん有能。流石パスパレを統治してるだけあるな。

「皆さ〜ん、休憩後に、Pastel*Paletteの罰ゲームとMasquerade kissさんの告知の収録をしますので、それぞれ準備をお願いします!では、休憩です!」

−−−

休憩中。

「わ〜、本当にMasqueradeさんって仮面外さないんだ〜、その下はどうなってるのかな〜??」

「ちょっと、日菜さん、やめてください?」

「日菜ちゃん、ゲストさんに迷惑をかけるのはやめなさい?」

「ちぇ〜、つまんないの〜。あ、なんか彩ちゃんの方でるるるんってすることがありそう!」

先ほどの収録で割ったスイカを食べていたらPastel*Paletteの天災もとい天才に絡まれた。本当に嵐のような人だな。姉とは大違いだ。

「ところで千聖さん、サインとかいただけたりします?実は割と千聖さんのファンでして」

「あら、そうなの?ちょっとびっくりしたわ。実は私たちもMasquerade kissさんのファンなの。サインの交換、ってのはどう?」

「それはそれはいいですね。誰のサインが欲しいとかありますか?」

「はいは〜い、ジブン、ミナミさんのサインが欲しいっす!同じドラマーとしてもミナミさんは天才的だと思うんすよ!」

「わ〜い、褒められちゃった!ありがと!麻弥ちゃんにサインなんてこっちも光栄だよ〜」

いつの間にか会話に乱入されてしかも俺ら置いてきぼりを喰らっているんだけど。これなんて罰ゲーム?

「うんじゃあお前らはお前らで交換してろな?千聖さんはどうします?」

「そうですね、では、せっかくなので同じベーシストのTakaさんのサインでもいただきましょうか」

そこで俺が選ばれないあたりが寂しいぜ!

別に泣いてはない。ほんとだぞ?本当の本当にだからな?……嘘。ちょっと泣いてる。

「わかりました!とりあえず呼んできますね」

俺としては千聖さんのサインがもらえれば満足なので、十分である。

スタコラサッサとあいつを呼びに行きつつ、どのようなサインをもらおうかを考えて胸を踊らせていた。

−−−

「それでは、演奏の準備が整いましたので、Masquerade kissさんは準備を、そしてPastel*Paletteの皆さんは心の準備をしておいてくださいね?」

「わかりました。よろしくお願いいたします」

……ところで全く曲目とか打ち合わせしてないけど、どうするつもりなのん?僕どうなっても知らないよ?どうするつもり?

ディレクターさんが出て行き、バンドメンバーだけになるやいなや冬樹が口を開いた。

「曲目はどうするんや?」

「それな?ちょうど俺もそれを思ってたのさ」

「ん〜、こっちのチャンネルだし正直なところ代表する『仮面』とかでいいんじゃないかな?と私は思うけど」

「ちなったんにさんせ〜。あたしもそれでいいと思う」

「了解した。じゃ、それで行こうか。北斗も問題ないよな?」

「ああ。最近練習してたところでもあるしな。それで行こうか」

決まりだな。そろそろ休憩時間も終了する。スタジオへ出向こうか。

「一応、演奏するんだしさ。いつものやつ、やっておこうよ」

「ああ、円陣か?いいんじゃね?やっておこうか?」

俺らはいつも通り、五角形を作って右の手を出し合う。

「そんじゃ〜今日はしぐれ。頼むぞ」

「は〜い、了解☆いっくよ〜?」

『おう!!』

しぐれのコールの円陣は果たして気合が入るのだろうか。微妙だな。まあいいや。

「それでは、収録を始めます。準備はよろしいですか?」

「Masquerade kissより、『仮面』」

 

−−−

初のテレビはパスパレと楽しく共演して幕を閉じた。正直なところこの形が正解なのかもな。

罰ゲームを受けるパスパレもなんか面白かった。語彙力ないけど。

ああいった罰ゲームだと千聖さんより正直丸山さんの方がテレビ映えするよな。なんというか素のリアクションが見れて面白い(失礼)。

だって千聖さんは鉄仮面なんだもん。反応がないからあんまり面白くないんだよね(偏見)。

とかなんとか思いながら罰ゲームの様子を見ているとどこからか声が聞こえてきた。

(あら、圭介くん?何か言い残すことはあるかしら……?)

(こいつ……、エスパーで語りかけてきている!)

ちなみに後で千聖さんには土下座しました。

で、パスパレの罰ゲームが終わったら告知タイム。

「えー、私たちMasquerade kissはですね、特に告知する内容もないんですけどね。全く現状決まっていないんですよ」

しょうがないじゃん。Galaxyでのライブも人狼の方のチャンネルなんだしさ、特にこっちのチャンネルで告知することってないんだよね。わかる?

「え〜、そんなこと言いにきたの〜??るんってしないな〜」

わからないか〜、知ってた。日菜さんはそう言い出すってわかってたよ。

「それじゃ〜さ、ライブやろうよ!合同でさ!」

「それは急ですね、いつです?」

「ん〜、来週とか?マネージャーさん、スケジュールなんとかなるでしょ?」

いやいやいやいや、いくらなんでも人気絶頂のアイドルバンドの予定が合うわけがないでしょ。

(カンペ:来週、空いてます)

「私らの予定も一応無理やりにはなりますが、開けることはできますね。主催ライブでもない限りはなんとかなると思うので」

と、北斗が余計なことを言ってしまったので、天才もとい天災の目がきらーんと輝き、あれよあれよという間に告知内容が決まってしまったのである。

後からSNSでエゴサをかけてみるとそれはそれは盛り上がっていた。なんでトレンドに入ってるんだよおかしいだろ。

というわけで、冒頭に戻るのである。

___

「まさかパスパレと合同ライブとはねえ。今考えてみてもすごいことだよなあ」

「なかなかできるバンドでもないしな。ギャラとか呼んだらめっちゃ高いことになりそう」

「今後の共演のきっかけとかにもできるんやないか?これもええ機会やろ」

一応そういうことにしておこう。まあ、ライブなのでね。いつも通りやることはやりますよ、しっかり。ライブ後には人狼の方での主催ライブ準備で死ぬことがわかってるけど、まあ楽しいから大丈夫でしょ。知らんけど。

余談だが、パスパレは初めてのライブよりもとても上達していたように俺には感じられた。最初のライブの惨状からよくもまあここまで上り詰めたもんだよ。おじさん感動しちゃう。

とりあえずライブ後にも日菜さんが「またライブしよーね」と嬉しそうに言ってくれたので、きっと共演のタイミングはまた訪れるだろう。いつかね、いつか。

というかほんとに日菜さんの提案のおかげで死んでたんですけど。物理的に。

天災がある先には唐突な死が待っているってのは本当だったんだな。以後気をつけよう。絶対。

 




次の話もゆる〜く執筆していければと思っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#18 パン作りってのは奥が深いから楽しいんだ

お久しぶりです。

圭介の日常回と独白回です。いつもの感じとは少しばかり感じが違うと思います。そして今日は短めです。
前回の翌日で、まだパスパレとの合同ライブが終わっていない時間軸でのお話になります。

(P.S.お気に入り50件、ありがとうございます……!ゆっくりな更新ではありますが、気長にお付き合いください)


「お疲れ様で〜す」

「お、お疲れ様。今日もきたね。沙綾より早起きとは気合十分だね、うちを継ぐかい?」

「またまたご冗談を。今日もよろしくお願いしますね」

時刻は朝の4時。やまぶきベーカリーでのアルバイト。

このバイトを始めてから早くも1ヶ月くらいが経とうとしていた。Galaxyで主催ライブをするまで残り2週間程度。ぶっちゃけそっちの準備も忙しい(忙しすぎる)のだが、それでもバイトをサボる理由にはならない。パン作り楽しいしね。奥深くて。

パスパレに無理やりスケジュール確保させられたために1週間後にライブあるけど!まあそっちは芸能事務所の方が死ぬ気でなんとかしてくれるらしいしなんとかなるでしょう。多分。……なるよね?ならないの?え?え?

Galaxyのライブをセッティングした際に用事が入っていたメンバーもたまたまその用事がおじゃんになった。本当にたまたまライブができるようになった。なってしまった。

この前の番組であったことを静かに1人で追想しつつ、着々とパン作りの準備を進めていく。25kgの強力粉の袋を厨房に運び、バターと酵母、砂糖と塩、スキムミルク、そして様々な具材の準備。決してライブという現実から逃避しているわけではない。

生地作りは機械だから、そこまで熟練の技が必要じゃないって思っていたけれど、水を入れる量がその日の湿度によって異なっていたり、最終調整は生地の触り心地で決めたりすることから、俺にはまだまだ1人で出来そうにない。

ところで、なんでこんなに朝早くから出勤しているか、だって?パン作りがやりたいからに決まってるだろ?

自分でパンを作れるってめっちゃかっこよくない?とも思うし、せっかくパン屋でバイトをしているわけだから手に職をつけたいというか何というか。そういう思いもある。

後は、まあ。沙綾に無理をさせないためってのもあるけどね。パン作りできれば沙綾の代わりになるだろうし。あいつは無理しすぎるからな。

__

「亘史さん、俺、パン作り極めたいんですけど、手伝うことってできますかね?」

「お、圭介パン作りするの?朝早くて大変だぞ〜?」

「僕としてはウェルカムだけど、沙綾の言う通り早朝からの仕込みだから、起きるのが大変だと思うけど大丈夫かな?」

「あ〜、まあ4時くらいからなら大丈夫です。最近その時間にはいつも起きているので」

「じゃあ、週2回くらいでいいかな?最初はお試しで、それで続くようだったら毎日とかになるかもしれないけど」

「わかりました、よろしくお願いします」

__

という経緯でパン作りをしているわけである。パン作りを始めたのは2週間前のこと。

流石に2週間もバイトをすると基本の接客には一通り慣れてきたし。何か他に自分でできることはないかなあと思っていたところだったし、自分でパンが焼けるようになればいざというときの食料確保もできそうだしというところでパンの焼き方を教わっているわけだ。

「こんな感じの生地の質感がいい感じなんだよ。触ってごらん?硬すぎもせず、柔らかすぎもしない。いい感じにまとまっているのがわかるかい?」

「本当ですね。手につかない程度にまとめるって感じですか?」

「簡単にいうとそうなるね。慣れてくると一度触ればどの程度の水分量か、多いのか少ないのかってのがわかってくるよ」

「やっぱり慣れってすごいですね」

「そりゃ、毎日やってればきっと圭介くんもわかるようになるよ」

「そうなれたらいいですけどね」

バイトを始めて1ヶ月で亘史さんとはとても仲良しになった。

沙綾からも

「最近圭介、お父さんとめちゃくちゃ仲いいよね?何かあったの?」

と聞かれる始末である。沙綾にはテキトーに男の秘密とでも返したら殴られた。そんなに痛くなかったけれど、解せぬ。

「圭介なんか知らない」

と言われてぷいっとどこかに行っちまったし。なんだったんだろうな、あれ。よくわからないわ。

やまぶきベーカリーは人気店だけあって、亘史さんの腕も確かなものだと感じる。

たくさん学べることもあるだろう。

そう思っていると、パン作りに割く時間も次第に増えていった。

で、今にいたる。今はほぼ毎日早起きしてパン焼いて、学校に行き、ライブの準備とバンド練習をしながら、週に1回Galaxyでバイトをして、週に2回やまぶきベーカリーでバイト。そしてバイトが終わったら練習。週に1回は全体練習という感じのスケジュールで生活している。こうやって書き起こしてみるとめっちゃやばくね?スケジュール帳も結構びっしり予定が埋まっているのをみると、自分の忙しさを再度痛感することになる。

しかし、パン作りは毎日やらないといけない。

「そうそう、圭介くん。パン作りがうまくなりたいならね、毎日フランスパンを1回は焼いてみなさい。うちで焼くのでもいいし、自分の家にオーブンがあればオーブンで焼くのでもいい。必ず毎日焼くこと。それが上達への近道だそうだよ」

と亘史さんに言われてから、俺は毎日フランスパンを焼いている。フランスパンを焼くためだけに自分の家にオーブンとリスドオルを買う始末。あ、ちなみにリスドオルってのはフランスパン粉とも呼ばれる準強力粉のことだ。ホットケーキを作っても美味しいし、ピザの生地をそれで作っても美味しい。結構万能。小麦の匂いと言うよりフスマの匂いがする小麦粉は、これまで俺が使ってきた小麦粉の匂いとは異なっていて、初めて使ったときはびっくりしたっけな。

生地の加水具合と、発酵具合、寝かせ方、時間、そしてクープの入れ方と焼成方法。焼成時間と温度。1つ1つ意識して焼いていかないと、味は美味しいけれど……残念なフランスパンになってしまう。基本のパンであればあるほど難しい。

クープが浅すぎるとクープ以外の部分でパンが裂けてしまい、不格好なパンになってしまうし、焼成温度が低すぎてもいけない。焼成時に霧吹きを行わないとクープはうまく裂けないし、クープを入れる時に生地をしっかりと寝かせて冷やしておかないと生地がクープナイフに張り付いてうまくいかない。発酵時間があまりにも長いとパンがすっぱくなってしまうし、発酵容器を間違えるとパンのコシがなくなってしまう。

加水が少ないフランスパンの生地はまだ扱いやすいけど、高加水の生地はとても扱いにくい。

パン作り1つといえど奥が深い世界だなあと思うばかりだよほんとに。

これ趣味の1つにできるよ。生活の一環にすればパン買う必要なくなるのでは?それって家計の節約になるのでは?

ちなみに毎日フランスパンを焼いているとどうしても自分では消費しきれない。ので、余ったパンは学校に持っていって、昼休みに香澄とかおたえに消費させる。あいつら喜んで食うからな。時々沙綾も食べては、「む、美味しくなってる」と難しい顔をして何やら考え込んでいるらしい。食いながら考えるってそんな器用なことよくできるよな尊敬尊敬。後はポピパ以外にも北斗とか、冬樹とかに食べさせている感じ。あいつら、感想言ってくれるから意外と助かるんだよな。

とまあ、そろそろ俺の日常の独白は終わりにしよう。俺のパン職人への道、乞うご期待!………なんちって。

ライブまで、あと1週間。練習は普段通り。あとは微調整をするだけ。

かなり大きな箱になるとは思うが、主催ライブにも向けた最高のライブにしたい。

「チンっ!」

かなりの時間物思いにふけっていたのか、いつの間にかフランスパンが焼けていた。霧吹きはした記憶があるから、10分程度は考え事をしていた。

俺は色づいたフランスパンをオーブンから取り出し、「天使のささやき」を聴きながら、来るライブに思いを寄せた。

 

―ライブまで、あと、1週間




パン作りは面白いですよ。酵母菌は可愛いので(?)。
誤字、脱字等ありましたらご報告いただけると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#19 夏休みにはやっぱり主催ライブもしなきゃ、ねえ?

いよいよ主催ライブ。長くなってしまったので2つに分けました。
前回の日常回と言うかなんと言うか、毛色の違う独白回は、完全に作者の趣味でした。パン作りは奥が深いのです。
まとめる力が欲しいよぉ。


ライブ当日。今日は主催ライブの日。正直パスパレのライブを本当に収録1週間後に入れられた時は死ぬかと思った。OAもかなりギリギリだったし、あれ、告知間に合ったのだろうか。多分間に合ってないよな。

正直テレビ局というか、アイドル事務所もとい大人の本気を見たような気がした。なんであのペースで箱を押さえられたり人員確保できたりチケット用意できたりするの?やばすぎるでしょあれ。

そんな過ぎ去ったことはさておいて。今日は俺たちの主催ライブ。いつかのごとく、俺は他のメンバーが来るのをひとりで待っていた。

主催ライブ以外にも色々と立て込んでおり、主催ライブの準備は本当に大変だった。多分過去一番大変だったと感じる。だってなんでライブを立て続きでやることになってるの?おかしいでしょそれ。秋の高校3年生の模試ラッシュじゃねえんだから。

とまあ、死にそうになりながらもチケットを売ったりセトリを決めたり練習したり、せっかくだからゲストアクト呼びたいという話になり、その選定をしたりと着々と準備は進んでいった。

ゲストアクト?そんなの決まってるじゃねえか。

__

「え〜、ケイくんたちライブやるの〜!?私も出た〜い!!」

「こら香澄、無茶言うなよ」

「私も、出てみたいな」

「あはは……実は私も……」

「あ、さーやも同じ気持ちだ!久しぶりにギター、ライブでかき鳴らしたい気分なんだ〜」

「ちょっ、お前らっ……!」

中庭で昼食をとっていた際、主催ライブのことをちらとこぼすと、一緒に食べていたポピパがこれみよがしに反応してきたわけだ。

北斗と冬樹は、と言うと、あいつらはなんか係の仕事があるらしく遅れてくるらしい。しばし待ちだな。どうせそのうち来るだろう。

「は〜、別にうちらは2週間後でも全然間に合うけどさ、流石に圭介たちにも準備ってものがあるだろ?」

「お、そんな心配してくれるんだ、有咲。優しいね」

「ちょっ、べ、別にお前のためじゃねえぞ?ただ、最近忙しそうだし仕事を増やすのが申し訳ないというかなんというか」

有咲が自慢のツンデレを発揮しているなか、俺は香澄が言い出したことを1人で考えてみていた。

主催ライブをやるにあたってどっかのバンドを呼びたい。けど主催ライブまでの時間が短いためになかなかこちらから声をかけられない。で、今ポピパは主催ライブに自分たちからゲストアクトで出たいといった、かつ準備もなんとかなるって言ってて、さらにSPACEのオーディションに通る程度の演奏力もある。

……あれ、もしかして完璧なんじゃね?

Werewolfの方では流石にすごいバンドを呼ぶってわけにもいかないしな。全然ありあり。

ということで、俺の中ではOKという結論に達したのだが、他のメンバーの意見がわからない。正直なところ男はなんとかなるんだろけど、女の方がねえ。とりあえずLAINでも入れてみるか。

圭介:「なーお前ら」

しぐれ:「何?どうしたんニッシー」

千夏:「どうしたのケイちゃん?」

圭介:「ゲストアクトワンチャンポピパ。どう?」

千夏:「ん〜〜、あり」

冬樹:「ありやな」

しぐれ:「ちょっと、なんで乙女の会話にケチコクが割り込んでくるの?」

冬樹:「ちょっとしぐれはん、流石にそれは手厳しいとちゃいますのん?」

北斗:「俺も別に問題ないぞ。でも、ポピパ側の都合はどうなんだ?」

圭介:「それが何と逆オファーだ」

北斗:「逆オファーか、じゃあ大丈夫そうだな」

千夏:「確かに、それなら、まあ。大丈夫か」

圭介:「じゃあ、全員賛成ってことでいいな?」

「香澄〜、お前らがよければポピパ、人狼の主催ライブに出れるぞ」

「本当に!?やった〜!」

「ちょっ、マジか!?」

「ありさ〜、ライブだよ?楽しみだねっ!」

「ちょっ、香澄!抱きつくな〜〜!!」

「あらっ?面白そうなことやってるわね!私も混ぜてもらおうかしら?」

「あ、こころん!」

香澄が手を振った方向を見ると、そこには2階の窓から飛び降りて倒立回転しながら向かってくる金髪の女の子の姿が見えた。

(ええ……(困惑))

何で2階の窓から飛び降りて何事もないように普通にこっちまで来てるの?というかあの身体能力何!?男子顔負けというかおそらく男でもあそこまでできるやつおらんよ!?

「で、香澄たちは何を話していたのかしら?」

「う〜んと、あ、そうそう!今度ケイくんたちがライブをやるらしくて、それに出てもいいか〜っていう相談!」

「ライブだわ!面白そうね!私たちも出ていいかしら?」

ええ……(困惑)

あまりに会話が進むテンポが早すぎて困惑してますよ私は。ええ。沙綾とか有咲とかの方向いても苦笑いするだけで何も助けてくれそうにないし。何やねんこれ。

「ちょっとこころ!すぐにそうやってどっか行かないの!……すみません、うちのこころがご迷惑を……」

「ああ、ちょっとびっくりしただけだから大丈夫だよ。なんでこの子2階から飛び降りても平気な顔してるの?」

「私に聞かれても……、あはは……」

「奥沢さんも大変ですね」

「市ヶ谷さん、ありがとう……」

苦労人なんだな(察し)。大変そうだ。

「美咲!私たち、ライブに出るわ!」

「えっ、ライブ!?いきなり何?いつ!?聞いてない!」

「あ〜、すまん、面倒ごとに巻き込んじまったみたいだな……」

「ポピパがライブをやるって言うから思わず2階から飛び降りちゃったわ!」

「最初から話に入ってたわけじゃないのねこころ……」

奥沢さんと呼ばれていた人が呆れながらもツッコミを入れる。

この人あれだ。有咲と同じような感じだ。苦労人。さっきは察しただけだけどこれで確定だわ。かわいそうに。南無三。

「んで、さっきライブに出るとかそこの金髪が言ってたけど、お前らはバンドでもやってるのか?」

「私の名前は弦巻こころよ!こころって呼んで!」

「はぁ。……こころはバンドをやってるのか?」

「えぇ!私のバンドは世界を笑顔にすることを目標にしてるの!」

だめだ、こいつも話が通じない匂いがする。

「こころ……、それじゃあわからないよ……。あ、私たち、ハロー、ハッピーワールド!っていうバンドをやってます。そのー、大変申し上げにくいんですが……。ライブ、出られますかね……?こうなったこころは多分止まらないので……」

奥沢さんが困ったような顔で俺の方を見てくる。現在のところ、ゲストアクトのバンドとして決まっているのはポピパのみ。尺的にも全く問題はないはず。他のメンバーからの了承が得られればだけどね。

「ん〜、ちょっと聞いてみるわ。少し待っててもらってもいいかな?」

「お手数おかけします……はぁ」

圭介:「もう1バンド出てもよき?」

しぐれ:「オッケ〜」

千夏:「ちなみにバンド名は?」

圭介:「あ〜、ハロー、ハッピーワールド!って言ってたな」

しぐれ:「あ〜、それあたし聞いたことあるかも。羽丘でめっちゃ人気のある先輩がいてさ、その人のバンドだ〜って」

千夏:「しぐれもその人大好きでしょ」

しぐれ:「ちょっ、ちなった〜ん!それは言わない約束でしょ!」

「で、もう1バンド増えそうなのか?」

「おう、北斗に冬樹か。随分と遅かったじゃねえか」

「ごめんな?係の仕事がちょ〜っとだけ時間かかったねんな」

「万年遅刻魔の冬樹からしたらこれちょっとの時間なのね、理解したわ」

昼休みはもう15分すぎた。残っている時間は25分。香澄とおたえはギターを弾きながら飯を食ってるから時間がかかってるけれども、他の奴ら、りみとか沙綾とか、そして有咲もか、は食い終わってるからな。

「で、話を戻すと、もう1バンド増えるってことで良さそうだな」

「せやな。別に自分はええと思うで。ゲストアクトは多ければ多いほど楽しいし」

「……じゃあ、決まりだな」

圭介:「じゃあ、そのハロー、ハッピーワールド!も出るってことでいいか?」

しぐれ:「おっけ〜」

千夏:「私も大丈夫だよ」

__

と、こんな感じでゲストアクトは決定、っと。結局ポピパとハロハピの2バンドが揃った。

ハロハピってのはハロー、ハッピーワールドの略らしい。よくある略し方だな。バンド名の前半と後半とのそれぞれの頭から文字を取っていくっていう方法。

「お疲れ様で〜す!」

「今日はよろしくね?」

「これ、差し入れで〜す」

俺が開場前最後の準備に向かおうとすると、突然Galaxyの出演者控室のドアが開かれた。これはこれはびっくり。香澄、もうちょい落ち着こうな?有咲は香澄を宥めながら入ってくるし、おたえは周りを見渡しながら入ってくるし。何考えてるか相変わらずよくわからんな。そこがいいところなんだけどな。りみりんいい子!こちらこそよろしくお願いします!沙綾差し入れありがとう!

と、心の中でそれぞれに向けて感想を言い、本番前の最終準備に向かう。今日はいいライブになりそうだ。

 

最終準備といってもやることはあまりない。最後に照明の明るさが適切かどうかや、マイクの音量が適切かどうか確かめるくらいだ。この前Roseliaをゲストアクトに呼んだときは、湊さんが最後まで調整してたな。ガチだったわあの人、俺はあそこまでガチで調整はしないんだけどな。

「大丈夫そうです、本番もよろしくお願いしますね、店長」

「いやいや、そっちこそ、頑張ってね?今後のGalaxyの収入に関わってくるんだから」

「はいはい、頑張りますよっと。期待しててくださいな」

最終調整も終わったことだし、楽屋にでも戻って何か食べておくか。

「あ!いた〜!」

「いや誰ってぐほっ!」

「ちょっとはぐみ!……圭介さん、大丈夫でした?」

「奥沢さんか、大丈夫じゃないかもしれない……」

思いっきりオレンジ色の髪の毛のやつに突進されたぞ?大丈夫?俺あの勢いで突っ込まれて死んでない?

「それにしてもなんで俺はいきなり突っ込まれたんだ?」

「え〜、だってこころんが探して〜っていってた人っぽかったから」

「だからって突っ込む必要はないでしょうはぐみ……」

「え〜、だって突っ込みたくなっちゃったんだもん……」

これ、こころと同じ匂いがするぞ。やばそう。

「ところでこれ、誰?」

俺を押し倒しているオレンジ色の頭をさしながら奥沢さんに問う。

「あ〜、はぐみです。うちのベースの。なんか毎度ご迷惑をおかけしてすみません」

「キミの名前は〜?」

「俺は西秋 圭介だ。というか初対面でいきなり突っ込んでくるなよ」

「じゃあ〜、けーくんだね!よろしく!けーくん」

「お、おう」

この子も話を聞かないパターンですかそうですか。奥沢さんも苦労してますね。完全に他人事になってるけどまあいいか。

「で、奥沢さんもいて、しかもこころって名前が出てきたってことはハロハピも揃ったってことでいいかな?」

「あ〜、はい。そうですね。楽屋にみんないます。ちょっと1人遅れてますけど……」

「そうか。どうやらこころが俺をなぜか探してたみたいだし、いったん俺も楽屋に戻るとするか」

楽屋に戻ると、顔を赤くしているりみとしぐれと、なんか輝いている背の高い紫色の髪の毛をした人と、そしてそれをいつも通りって感じで見つめている千夏がいた。なんだこのカオス空間。

 




分けても長いんですけどね。
一応完結までは持っていきたい!と思ってます。
いつまで続くかは分かりませんが、気長にお付き合いいただけると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#20 Galaxy、なかなかいいところじゃん?

後編です。あんまりライブの描写が多くてもグダリそうだな(完全に書くのに疲れてきたと言うのとネタ切れ)と思ったので、今回はWerewolfのライブ描写は少なめです。書きたかったのどちらかと言うとゲストアクトの方だったなんて言えませんね。それでは本文をどうぞ。


「薫さん……(うっとり)」

「薫さま……。かっこいい……。うっ」

「おい、お前らライブ前だぞ。もっとしゃっきりしろって」

「ケイちゃん、こうなったしぐれは止められないからもうなるようになるまで待つしかないと思うよ……」

「えぇ……」

まあ、一緒の学校の千夏がそういうならそうなのだろう。

「ちなみに千夏はしぐれがこうなるのって見たことあるのか?」

「まあ、うん。何度もある、かな?」

「さいですか」

「あ〜!圭介!見つけたわ!」

「こころじゃん。そういえば俺を探してたらしいけど、何か用でもあったか?」

「探し物かい?子猫ちゃん。あぁ、儚い」

ちょっと待て、何が儚いんだ。しかも誰が子猫だ。俺じゃないな?こころのことだな?そうなんだな?

「そう!圭介!今度一緒に遊びましょうよ!せっかくライブに誘ってくれたんだわ!今度お返ししなくちゃ!」

「なんだよ、急用じゃなかったのかい。まあ、また今度な」

「ええ!とびっきりの笑顔にしてあげるから楽しみにしておいて!」

「ふぇぇ……、迷っちゃったよぉ……」

「花音さん大丈夫ですか?」

「美咲ちゃん、ごめんね……。この辺初めてで……」

「連絡くれれば迎えに行ったのに……」

「よし、これでハロハピの全員揃ったってことでいいか?」

「まだだわ!ミッシェルがまだよ!」

「ミッシェル?誰だそれ」

初めて聞いたぞ。なんだ?その日本人じゃなさそうな名前は。

「あ〜、ミッシェルはちょっと遅れるみたいだから、先に初めてて大丈夫だって。ライブまでには到着するから」

「本当ね!?それならいいわ!」

「……奥沢さん、本当に始めちゃって大丈夫なのか?」

「あ〜、確かに西秋くんたちとライブをやるのは初めてだし……それもそうか。あの、ミッシェルは私が入ってるぬいぐるみというかマスコットというか……のことだから……」

(えぇ……)

本日何度目かわからない困惑。ハロハピってなんなの?超人集団かおバカな集団か何か?よくわからないわ。

「あ、あと私のことは美咲って呼んでくれて構わないので……学年も一緒だし……」

「じゃあ、そっちも俺の名前で呼んでくれ。なんかこっちだけ名前呼びだと恥ずかしくなってくる」

「圭介……でいいのかな?名前呼ぶと恥ずかしくなるなんて、案外初心なところもあるんだね」

「……うっせ」

全員揃ったことだし、そろそろ始めるか。といっても、楽屋では思い思いのことをやりすぎててこいつらは本当にまとまるのだろうか。ほらそこのはぐみと香澄、キャッチボールを楽屋の中でするんじゃありません。お兄さん怒りますよ。

俺は心の中でため息をつきながらみんなに声をかける。

「ほらお前ら、本番前の打ち合わせ、するぞ」

__

「それでは聞いてください、『夏のドーン!』!」

なんとか打ち合わせも、直前の注意事項の共有も済ませ、最初はポピパ。

なんで事前準備だけでこんなに疲れてるの?俺このままだと今日死ぬよ?ねえねえ。

話通じてるのかどうなのかわからない感覚肌or天才肌or天然肌の人間がこれだけいると説明を済ませるまでにまず疲れる。

「ケイちゃん、お疲れだね……」

「千夏、お前は俺の良心かもしれない」

「……いや、それは大袈裟」

「薫さまの演奏がこんな近くで聞けるなんて、楽しみ……」

「ほら、しぐれ。お前はお前でもっと普段通り集中せや」

「うるさいケチコク。黙って」

「自分に対する扱い雑じゃないですか……?」

「ふふっ、そんなに私の演奏が楽しみなのかい?子猫ちゃん」

「あっ、薫さまぁ〜!!」

「ふっ、儚いっ……」

いきなり登場するなや。3バカの一角め、と美咲から受けた説明を思い出しながら考えてみる。

〜〜

「え〜っと、まずメンバーは、ボーカルのこころ、ギターの薫さん、ベースのはぐみ、ドラムの花音さん、そしてDJのミッシェルこと私って感じですね」

「へえ、DJが入ってるバンドか。珍しいな」

「で、前半の3バカはあんな感じの人なので疲れるとは思いますが……はぁ」

〜〜

「で、薫さん?だったっけ?はなんでこんなところにいるんだ?」

近くで見るとこの人身長たっかいなあ。俺と北斗が175だから大体170はあるんじゃないか?

「……?私かい?ふふ、子猫ちゃんの儚い演奏をより近くで聴いていようと思ってね」

なるほど、わからん。ただ、この人その辺の男よりも男らしいっていうか、王子様って感じの印象を受けるな。だったら……。

「まぁ、ジュリエットの演奏を身近で聴くのもいいですけど、自分の演奏も頑張ってくださいよ、ロミオ様」

「君は、シェイクスピアに詳しいのかい?」

「いや、全く。そんなことはないですよ?」

「そうかい……。残念だ」

いや、いきなり残念がられましても……。薫さんシェイクスピアが好きなのだろうか。

気づけばポピパの演奏も終わりに近づいてきた。この曲は、八月のifだろうか。しばらく前に海の家で聞いた、香澄と沙綾のツインボーカルの曲。ハモリがある曲ってめっちゃ聞いてて好きなんだよな。特に下ハモは主旋律を支える力持ち!って感じがあって俺に刺さる。

ポピパはあと1曲。夏休みも半分を過ぎたといえども、まだまだ夏も盛りなわけだから、こんなにも夏を中心にしたセトリになっているのだろう。

ということは、最後の曲は……。

「次が私たちの最後の曲です!聞いてください!『夏空SUNSUNSEVEN!』」

__

「ありがとうございました!Poppin’ Partyでした!」

夏空SUNSUNSEVENが終わり、ポピパは袖に掃けていく。

今日初めて聞いたけど、これめっちゃいい曲じゃねえか?特にオチサビ前のあの感じとか香澄ぴったりだろう。曲名しか聞いたことなかったからなあ。今度練習してみようかな。

「さて、と。次は……」

「ハッピー!ラッキー!スマイル!『イエーイ!』」

こころの声でハロハピが一斉に黄色く照らされた舞台へ登場する。ところで、普段働いている時にはこんな下から登場する仕掛けなんてなかったような気がするのだが。いつの間に導入されたの?しかもいくらかかったの?ここ潰れない?大丈夫?

「早速行くわよ〜?『えがおのオーケストラ』!」

なんだかんだでこいつらの演奏を聴くのは初めてだな。流れ出したイントロに期待しながら、俺は自分たちの番が来るのを待った。

 

「え?なんであの子歌いながらバク転とかバク宙とかしてるの?大丈夫?」

「なんか3バカが観客の上漂い始めたんだけど!?この箱ダイブとかOKなの?あ、主催者俺だわ」

「花音さんめっちゃ力強いドラム叩くな?そして美咲はよくあんな着ぐるみきながらあれだけ激しいDJできるな!やばすぎだろこの集団」

まあそんな簡単に自分たちの演奏順が来るなんて思ってませんでしたよええ。知ってた。

でもさ、普通こんなこと考える?ダイブとかモッシュとかそういう行為があるのは知ってたけどさ、いきなりそれが目の前で始まるとは思わないじゃん?普通さ?しかもそれやってるのが観客じゃなくて演奏してるやつだからね?やばすぎるでしょそれ。

美咲はこころ、はぐみ、薫さんのことを3バカって呼んでたけど、俺からすりゃこのバンドは全員体力バカだわ!

まぁ、それでも。これだけ楽しそうに演奏されれば、見ている方は笑顔にならざるを得ないなわな。

「世界を笑顔に、か」

こいつらなら、いつかはできるんじゃないだろうか。

らしくもないことを考えながら、不覚にも微笑んでしまった。

「以上、ハロー、ハッピーワールド!でした〜。次は主役の『Werewolf』の登場です!」

__

「と、いうわけで俺らの番なわけだ。」

「今日の円陣どうする?」

「親指と小指でつないで輪っか作ろうぜ!」

「え、何それ!?どうやるの?」

「こんな感じ」

「考えたこともなかったけど、いいんじゃん?」

「じゃ、それで。掛け声は北斗な?」

「しょうがないな……。ほら、準備」

ライブ前。盛り上がりは最高潮。後は、やるだけ。やりきるだけだ。

「行くぞっ!」

『オウっ!』

文化祭ライブ以来の俺らのライブが、幕を開けた。

ステージに上がる。俺らの学校の生徒が目立つ、という印象だろうか。箱が小さいから、ステージから会場の隅々まで見渡せる。なんか文化祭ライブの続きみたいだ。

チケットもかなり安くしたし、花咲川と羽丘の知り合いとか伝手とか、そういうのを使ってチケットを売ったからそりゃそうなるわ。主催側としては満員御礼。

「早速始めるぜ!『人狼』」

さあ、楽しい楽しい“吠える”時間。思いっきり楽しもうか。

__

「今日は来ていただきありがとうございました!またお会いしましょう!」

無事にライブを終えた俺は、観衆に向けて手を振りつつ、大歓声に紛れてひとりごちた。

「Galaxy、なかなかいいところじゃん?」

___

(おまけ)

「相変わらずうまいね〜。バンド始めたばかりとは思えないや。私も早くあのくらい弾けるようになりたいな」

「大丈夫、香澄も上手くなってるよ」

「もう最後の曲かぁ、もっと聞いてたいなぁ」

「そういえばさ、有咲最近圭介のこと名前で呼んでるけど、何かあったの?」

「はぁ?どうした?沙綾。いや、別に、何も、ない……けど……」

「本当に〜?」

「ばっ、沙綾、近いって!」

「あ〜りさ!とさーや!は何話してるのかな〜?」

「ちょまっ!香澄までぇ〜!!!」

 




主催ライブが終わると夏休みの終わりも近くなってくるようですが……。彼らは「宿題」は終わっているのでしょうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#21 夏休みは終わるのに宿題は終わってねえわ参考書を忘れてくるわのポンコツピンクは誰だ?

モデルはかのイベントです()。
一応これを書くにあたってイベントストーリー自体は一度だけ見ましたが、正確に記述できているかどうかが怪しい(というかほぼ喋ってる人違う気がする)。
雰囲気だけでも楽しんでいただければうれしいです。
それでは、どうぞ。


夏休みも終わりが近づいてきた。今日は夏休み最後の登校日。夏季補習とか登校日とかは夏休み前半にあったきりだから、これが2回目の登校日となる。ただ始業式の日程とか、持ち物とかの連絡をされたぐらいだけどな。それでもやはりクラスのみんなと顔を合わせるってのはなんかいいよな。「ライブよかったよ」とか声をかけてくれる人もいたし。帰り道で今更ながら振り返って見ると今年の夏はかなり充実していたなぁ、と感じてしまう。

(SPACEでのラストライブから始まり、合宿に海。海ではポピパとロゼリアと一緒に遊ぶことになったっけな。で、なぜかいきなり天災に捕まってテレビ出演からのアイドルバンドとの対バン的なライブもして、さらにさらに主催ライブも済ませたんだろ?めっちゃ今年の夏充実してたな。主催ライブは最初は別にゲストアクトを呼ぶつもりもなかったけど、なんかポピパとハロハピっていう賑やかなバンドが集まったし。なんだかなぁ、おじさん感慨深いよ)

改めて思い出してみると本当に充実してたな。これ本当に一夏の出来事か?

これ中学の時の俺3年分の夏だったぞ?あ〜、でも、向こうではバカンスとかあったからな。それと比べると別にって感じだけど、友達とか幼馴染と過ごす夏休みが久しぶりだから思い出深いものになっているかもしれんな。そういうことにしておこう。

で、夏休みの終わりともなると当然気になってくるのは。そう、高校生の天敵、宿題である。

「なあ、お前ら、宿題は終わってるんだよな?」

俺は宿題は早めに終わらせる真面目ちゃんなので夏休みに入って1週間で終わらせてしまった。だって残しといてもいいこと何にもないじゃん?英語なんてぶっちゃけ宿題程度でつまることもねぇ。

「そりゃ当然。俺は終わってるよ。冬樹は?」

「あんな簡単な宿題、パパパっと終わらせて自分らと遊んでたからな。記憶にないんや」

「さすが秀才。後は遅刻魔とケチなところ直せばしぐれなんて簡単に落とせそうだが?」

「なっ!そんなんやないんだって!その、あいつは……」

「あ〜、ハイハイ、わかったわかった。ごちそうさまだぜ」

北斗はこういうところ面白がって口をどんどん突っ込んでいくタイプだからな。俺の手を汚さずして情報を得て行けるから別にいいんだけど。俺は好きな人ができようがなんだろうが絶対表には出さないようにしよう。

聞いてみた限りは、花咲川組は宿題を既に全員やり切っているみたいだな。この前ライブ終わりに香澄が有咲にどやされてたな。「香澄お前宿題やれ〜!」って感じで。どうせあそこはあそこで集まって勉強会!とかしそうだし、終わるんだろうな。有咲頑張れ。なんだかんだポピパは優秀そうだし、大丈夫でしょう。

「あ、ニッシーいいところに!」

「みんな、こんなところで集まってどうしたの?」

「いや、それはこっちのセリフな?同じ学校で登校日だったら一緒に学校行って一緒に帰るだろ?」

道端でくっちゃべっていると羽丘組がきたわけだが、

「それもそうね。でさ、あたしらも今日登校日だったんだけど、ひまりちゃんが全く宿題終わってないらしくてさ、一緒に手伝うって言っちゃった!」

__

「で、なんで俺らまでが呼ばれるんですかねぇ……」

「羽丘のことはわからないしな」

「せっかくだしさ?ね?この前のライブの打ち上げin 羽沢珈琲店ってことでいいでしょ?」

しぐれに丸め込まれた俺らは羽沢珈琲店に連行されてしまった。Afterglowのメンバーと一緒に。

「ほら、秀才冬樹くん、アピールのチャンスだぞ。行ってこい?」

「……ケイまでそういうこと言うんやな。およよ」

「いやお前そんなんで泣かないだろ。早く行ってこいって」

ここの娘さん、つぐみちゃんの好意により(?)貸切状態。男は男で一つのテーブルに纏まって、まあ他愛もない会話をしているわけだ。

冬樹を送り出し、コーヒーを口に運びながら、さっきの会話を思い出す。

俺らと同じような感じでバンドを始めた奴らがいるとはなぁ。同じようなことを考えるやつもいるもんだぜ。全く同じってわけじゃねえけどな。

〜〜

「え〜、みんなしぐれちゃんの友達なの?」

「幼馴染で、しかもバンド仲間って感じかな?」

「それって私たちとおんなじじゃん!」

「で、みんな成績優秀だから呼んじゃった☆」

「うぅ〜、神様が増えたぁ〜」

「ふーん、Afterglowも幼馴染で組んだバンドなのか」

〜〜

あいつ紹介するだけ紹介して「後は任せた!」って目をしてたけど、俺よりもお前らの方が絶対適任だろ。

カップを置き、コーヒーの香りに満足しつつ勉強組のいる机の方を見てみる。

赤い髪が巴、だっけ。あこのお姉ちゃんって知ったときはちょっとびっくりした。確かあいつ、世界で一番かっこいいドラマーとかなんとかいつかファミレス行った時に言ってたっけ。かっこいいがあこ方面じゃなくてちょっと安心したよ。で、赤メッシュが美竹さん。家が華道の名門らしいが、本人に家を継ぐつもりはないらしい。華道って和服きてやるんだろ?絶対和服似合うって。変なことを口走ると絶対怒られるだろうから慎重に接しよう。多分怒ると怖いタイプだからね!最後の1人。パンを口に放り込んでむにゃむにゃ言ってる奴がモカ。あいつ溶けてるけど宿題終わってんのか?

(モカちゃんは天才なので宿題なんてちょちょいのちょいなのだ〜)

(こいつも脳内に直接語りかけてくるパターンの人間かよ)

ま、宿題終わってるならいいや。というか宿題終わってるなら教えてやれよお前。

「ねえちなった〜ん、ここわかんな〜い」

「もうちょっとで終わりそうだね。えっとね〜……」

「お、しぐれ、そこはこうやって解くんや!」

「ケチコクは呼んでな〜い」

「つめたぁ」

我がメンバーたちももうちょっとで終わりそうだ。俺らはまとめてやるタイプだけどこいつらはコツコツやって積み重ねていくタイプだからな。これは完全にタイプの違いってやつだ。

「なあ北斗」

「ん?」

「あまりに暇だから暇つぶししないか?」

このまま寝るわけにもいかないし、宿題終わってるし、ただ黙ってコーヒー飲んでるよりはまだいいだろ。

「ああ、そういえば……」

__

暇つぶしに興じていると、コーヒーカップも乾き、外も暗くなっていた。

「じゃあ、次はしりとりでもするか〜」

北斗ともやることが尽きてきて、ついに最強の暇つぶし手段に手を出そうとした瞬間。

「……参考書、学校に置いてきちゃった……」

「おい、今めっちゃ不穏な単語が聞こえてきた気がしたんだが、気のせい?気のせいだな?」

「ケイちゃん、現実逃避はなしだよ?」

「今から取りに行くにしても、もう夜だし……」

「でも、明日から確か完全閉鎖だったような……」

「どうしよう……あれがないと、私宿題、終わらないよ」

「……買えばよくね?」

「ひーちゃんは毎月スイーツにお金を使いすぎてお金がないのです」

「ちょっとモカ!」

「で、どうするんだ?取りに行くのか?」

「みんな、一緒に来て〜!!」

「そういうと思った」

「ひまりひとりで行かせるのも心配だしな、みんなで行くか!」

「うぅ〜、みんな、ありがと〜」

と、言うわけで羽沢珈琲店を出発した俺らは、日が落ちかけるなか、羽丘へと向かっていた。

「夜の学校って久しぶりだな。いつぶりだっけ」

「え、圭介くんたち、夜の学校に行ったことあるの?」

「あ〜、小学生の頃な。学校に泊まろうって行事があって、その時夜の学校で肝試しとかやったなぁって。つぐみちゃんは?ないの?」

「そんな経験なかなかないよ〜」

「確かあのときはしぐれが泣き叫んでたような」

「ちょっと、北斗!それは言わない約束!」

「ははは、しぐれもかわいいところがあるんだな!」

「巴!茶化すなぁ!」

「ごめんごめん!つい面白くてな!」

「絶対反省してない!」

「ところでさ、俺らは完全に部外者だけど、羽丘に入っていいのか?」

「……知らないけど、いいんじゃない?夜だし、バレないし。……みんな一緒の方が、その、怖く、ないし」

「蘭がデレた〜」

「デレてないし!モカっ!」

「蘭が怒った〜」

「賑やかだな、これなら夜の学校でも怖くなさそうだ」

「そうだね。いざというときは、ケイちゃんたち、頼りにしてるから」

「やめとけって。俺だってそんなに耐性があるわけじゃないんだから」

そんな会話も挟みつつ羽沢珈琲店から歩くことしばらく。

「……めっちゃ不気味に感じるんだけど」

昼とは違うであろう雰囲気の、夜の羽丘学園に到着した。

……え?めっちゃ怖くない?

「ほら、これ以上暗くなる前にとっとと行くよ、みんな」

「……さすが赤メッシュ。勇気あるな」

「圭介。今、あたしのことなんて呼んだ?」

「あ、美竹さんは勇気あるな〜って」

「次、変なこと言ったら、殴るよ?」

「気をつけます……はい」

幽霊に向けるのとは別の怖さに震えが止まらないぜ!

美竹さんを先頭にして、俺らは羽丘の校舎へ入っていった。

 

 




長くなってしまったので一度分割!
校舎から彼・彼女らは脱出することができるのでしょうか。
ビビリはだ〜れだ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#22 夜の校舎ってドキドキするよな……

後編です。
イベントにオリジナルの主人公たちを付け加えて書いていくのって大変難しいんだなということを思い知らされました。
それでは、早速本文をどうぞ。


「やっぱり夜の校舎って雰囲気違うね……」

「なんか……でそう……」

校舎に入って最初の感想がそれかよ。まあ、確かにひまりの気持ちはわからんでもない。これだけシーンとして暗いと出そうだよな。何とは言わないけど。

「早く参考書とって出よう。みんな」

「蘭は暗いところ苦手だからね」

「ふーん、意外と可愛いところあるんじゃん」

「ふんっ!」

ドゴォ!

らんの こぶしが けいすけの みぎかたに さくれつ!

「いっった!!!何すんだ!」

「次変なこと言ったら殴るって言ったよね」

「これも変なことなのかよ」

殴られた右肩を撫でつつ、ひまりたちの教室へと向かう。

「ほら、早く中いって取って来いって」

「うん、そうする!」

「へえ〜、ひまりの教室は1Bなのか。ところでしぐれと千夏の教室はどこなんだ?」

「私は、1Aだよ」

「1Cです☆」

「ほーん、みんなバラバラなんだな」

初めて入る羽丘の教室を見渡しながら、思ったことをそのまま口に出す。

どこの学校も大して教室の内装は変わらないけど、少しずつ学校ごとに違いがあるのは面白いな」

「えーっと、確かこの辺に……」

「おい、ひまり、まだか?」

「あれ〜、おっかしいな……あ、あった!」

こちらを向いたひまりの右手に掲げられたのはきっと探してた参考書だろう。

なんでこの子はそんな大事なものを置いてったんでしょうねえ。お兄さんわからないよ。

「目的のものも見つかったわけだし、帰るか!」

「早くここから出よう」

「蘭ちゃん、本当に暗いところダメなんだね……」

「しぐれは、その……こういうところ、大丈夫なの?」

「昔は結構苦手だったけど、今はもう大丈夫になったかな!」

「もうちょっとで玄関だから、蘭ちゃん、大丈夫!」

「つぐみ……ありがと」

なんか後ろが百合百合し始めた気がするので、俺らはとっとと先に行くとするか。

「ところで巴さんはこういうところ大丈夫なのか?」

「ああ、暗いところは大丈夫さ。ただ、お化けとか、そういうのは……。ってか、そのさん付けやめてくれよ。同級生だろ?アタシも、その、北斗って呼ぶからさ」

「じゃあ、遠慮なくそうさせてもらう」

ふ〜ん、巴、お化けが苦手なのか。じゃあ……。

「わっ!」

「うわあああああああ!」

「ひゃああああ!」

やっぱりこういうのも苦手ですよね〜。知ってた。

「あははははは、びっくりしすぎだろ!おもしれ〜」

「なんだ……圭介か。びっくりした」

「本当にお化けとかそういうの、ダメなんだな」

「ついでにひまりちゃんまで驚いちゃったね」

「ちがっ!わ、私は巴の叫び声に驚いただけだから!」

「ほら、ひまりが叫んでる内に玄関、着いたから」

「だから蘭!私はひまりの声に驚いただけだから〜〜〜!!」

「さーて、とっとと帰るか〜」

玄関で脱いだ靴を1番に履き、校舎の外に出ようとした冬樹は、扉を押してそのまま外に出ようとした。が……。

「痛った!!なんでや!開かないで!!」

「「「「「えぇ〜〜!!!」」」」」

「どうせケチコク、面白がってわざと当たったんでしょ!」

「いや、ほんまやって、しぐれ!開けてみ?」

「またまたぁ……って、あれ。本当に開かない」

「もしかして……」

「ああ、もしかしなくとも閉じ込められたな」

「「「「「どうしよう……」」」」」

「外側から鍵がかかってる……。きっと警備員さんが閉めちゃったんだ」

(内側から普通閉めるだろ。なんで内側に鍵がついてないんだ?このドア)

「誰かここ以外にいつも開いてる出口を知ってる人はいないか?」

「そういえば、運動部が遅くまで部活をやってるときでも外に出れるように、って体育館の非常口はいつも開いてるな」

「巴ナイス!よし、じゃあ、そこを目指して行くか」

「えぇぇ〜!ここから体育館まで移動するの〜〜!?」

「しょうがないよ……このまま私たちここにいたって、干からびちゃうだけだよ?」

「つぐみちゃんの言ってることも一理あるね。ケイちゃん、どうする?」

「どうするも何も、俺はこの学校の生徒じゃねえからこの学校の作りがよくわかんねえから、お前らについていく以外にどうすることもできないっての」

「じゃあ、体育館まで最短経路で向かうか」

「「「「「うん……」」」」」

このとき俺らはまだ知らなかった。この学校がリアル・ホーンテッドスクールだったとは……。

__

「にしても、この校舎本当に暗くなるな。外見的には結構新しく感じたけど、ここまで夜は廃墟感が増すんだな。本当にお化けが出そう」

「非常用の懐中電灯があってよかったね」

「それ、勝手に使って怒られないか?」

「後で事情を説明すれば大丈夫でしょ。それよりも早く出よ」

「ううううう〜」

「ひゃっ!って、モカ!」

「ごめ〜ん、蘭が怖そうにしてたから、驚かしたくなっちゃって」

「……次やったら殴るから。強めに」

「ごめんて〜〜。そーいえば。お化けでモカちゃん思い出したけど……羽丘には代々伝わる七不思議があるんだよ〜」

「「「「「「七不思議?」」」」」」

「あ〜、それアタシも知ってる!先輩から聞いたんだ!校庭に井戸が出没したり、誰もいない体育館からドリブルの音が聞こえてきたり……」

「そうそう、しーちゃんは知ってるんだね〜。あとは〜、人体模型が廊下を歩いたり、知らない人が写る鏡だったり、誰もいないはずの音楽室からピアノの音が聞こえてきたり、階段の段数が一段増えていたり……。あれれ?最後の1つはなんだっけ?」

なんかしぐれとモカが七不思議を言っていくにつれて、Afterglowの面々の顔がどんどん青ざめていってるんですけど。あ、あと冬樹もだ。こいつもそういえば幽霊系ダメだったわ。

「そんなことあるわけないだろうが。なぁ?」

「ケイちゃん、もしかしたら、そんなこと……ある、かも?」

「お〜う、お前も信じてるパターンの人間か?千夏」

「いや?そんなことはないよ?ただ、冬樹が怖がってるところが見たいだけ、かな?」

「さいですか」

俺らのバンドは怖がりが少ない。というか冬樹以外は幽霊の類は大丈夫。しぐれと千夏はお化け屋敷大好きだからな。強いわ。

「と、と、とにかく、早くここ、出ようぜ」

「そうだな。ちなみに、玄関から体育館まではどのくらいかかるんだ?」

「普通だったらすぐ着くよ。大体5分くらいかな。ただ、今は足元が暗くてゆっくりになるから、10分くらいかも。校舎から体育館への連絡通路は2階にあるから、階段を上がらなくちゃいけないんだ」

「ふーん。……ところで、羽丘の階段って何段あるんだ?」

ほら、階段にまつわる七不思議なんていうものを聞かされたらさ、気になっちゃうじゃん?階段の段数。別にそれが変わっていたって俺は怖くないけど。ほんとに。

「普段階段の段数なんて意識して歩いてないからわからない」

「確かに……!ということは、階段の段数が増えてるかどうかはわからない!」

「巴もひまりも、お前ら天才か?」

「およよ〜?もしかしてニッシー怖いの?」

「怖いわけねえじゃんか」

巴とひまりの会話に乗ったら何故かしぐれから煽られてしまった。それだけでビビリ認定されるのだけは解せないから否定しておく。

「あ、でも、私生徒会の掃除で校舎内の階段の段数数えたことあるんだ!確か12段だったはず」

「その情報は今いらなかったよ、つぐ〜」

「あはは……」

「ちょうど階段の前についたことだしさ、上がりがてら階段の段数数えてみないか?」

「ちょっ!それでもし階段の段数が増えてたらどうするんや!」

「ケチコクはビビリだなぁ〜、怖いんだ?」

「しぐれ!別に怖いってわけじゃないねん!」

「はいはい、じゃあ、数えながら登って行こうか」

「いち、に、さん、……」

階段の段数を一段ずつ数えながら10人で登っていく。階段の段数はあと1段、ここまで11段。

「じゅうに、と。特に増えたり減ったりはしてないみたいだな」

「じゅうさん!」

「……え?」

なに、誰今のじゅうさんって声。

「……お前ら冗談でもやめろよ?冗談だよな?」

「圭介、どうしたの?」

「いや、美竹さん……きみ達の中でじゅうさんって言ったやつ、いない?」

「いや、あたしらは誰もそんなこと言ってないと思うけど」

「マジか……」

七不思議ってほんとにあるものなのん?都市伝説の類じゃないのん?

「……ともかく、階段は登り切ったわけだし、とっとと体育館目指していくか」

「ねえ、なんか聞こえない?音楽室の方からさ」

「いや、何にも聞こえ……」

ない、と圭介は言いかけた。が、次第に大きくなってくるピアノの音は、いやでも圭介の耳に飛び込んできてしまった。

「……都市伝説ならぬ七不思議、その2ですか」

「面白くなってきたな」

「なんで北斗はそんな冷静なんや!俺はもう先に行くで!」

「あっ、ちょっとふゆき!」

「こんなところさっさと出る!」

「音が鳴ってるのとは反対方向に行こう!」

「こっちだ!早く!」

「ちょっと!みんな!?」

耐えられなくなったのか、怖くなったのか定かではないが、冬樹、美竹さん、ひまり、巴は音楽室とは逆方向に駆け出して行ってしまった。というか羽丘の構造把握してないのに冬樹は大丈夫か?

「あ〜あ、行っちゃった」

「ホラー映画とかで一番最初に死ぬのは単独行動始めた人達なんですけどね」

「どうする?モカ、つぐみ」

「とりあえず、私たちはまとまって動いた方がいいと思う。体育館の方にいきながら、離れちゃった4人を探そう?」

「随分と2人は冷静なんだね」

「千夏ちゃんたちの方が冷静じゃないかな?」

「さっさと探しにいきますか……」

ただでさえ知らない校舎からの脱出劇に加えて散り散りになった奴らを捜索するなんていうめんどくさい仕事を増やしやがって……。

__

散り散りになった奴らを探し、俺と北斗、そしてしぐれと千夏はつぐみちゃんとモカと一緒に体育館を目指していた。

「意外と七不思議ってあるもんなんだなぁ」

「ほ、ほら、でも、たまたまかもしれないじゃん?」

「たまたまで七不思議のうち2つが連続して起こるってどんな世界線だよ。怖すぎるだろ」

「それもそうだな。……ん?つぐみ、ちょっともう1回そこの鏡覗いてみてくれるか?」

北斗が何かに気がついたようにつぐみちゃんに対して声をかける。鏡をもう1回覗き込んでくれだなんて、何があったのだろうか。

「う〜ん、気のせいか?」

「いや、モカちゃんも見えるよ」

「見えるって?何が?」

「……鏡に明らかにつぐじゃない人が写ってるんだよ」

うん、やっぱり七不思議は実在するんだな。

「えっ……!?」

「あっ、ちょっと!つぐみちゃん!!」

「ちなったん、どうしよ!つぐみがどっかに行っちゃった!」

「そりゃ〜びっくりもするだろ。とにかく、俺らは散り散りに動かないようにしよう。探し物が1つ増えただけだ」

「探すのも結構大変だけどな」

「とりあえず私らは体育館へと向かいますか〜」

「それが1番だね」

__

「も〜、散らばって動いちゃダメでしょ〜?暗くて危ないんだから〜」

「「「「「ごめんなさい……」」」」」

「まあ、ともあれみんな無事でよかったわ。とっとと体育館へ行こう」

「ケチコクってビビリなんだね〜ぷぷぷ」

「しぐれっ……笑うなぁ!!」

全員が再び集まり、モカのありがたい(?)説教を受け、再び全員で体育館を目指すことになった。

「ところで、体育館は後どれくらいで着くんだ?」

「もうすぐ着くぞ!そこを曲がれば、っと。到着!」

「やっとついた〜」

「さてと、とっとと非常口を探すか」

「確かこの辺にって、うおっ!」

「え、なんで電気消えたの!?」

「わ、わからない!こんな時に故障?」

「つぐ、生徒会は体育館の清掃、しないの?」

「体育館は運動部の管轄だからわからいないよ……あれ、風が吹いてきた気がする」

なんか懐中電灯が壊れたとか言って騒ぎ始めたぞ。本当にそれ壊れたのか?

別に壊れてもスマホのライトで照らせばいいんじゃね?見てるの面白いから絶対言わんけど。

「風が吹いてきた方に行けば、出口がわかるかも……!」

「確かに……隙間がなきゃ風は吹かないし……。よし、そっちに行ってみよう!」

「でも、こんな暗闇の中で歩くのは危ない気がする」

「みんなで手を繋いでれば大丈夫だよ!」

「そうだね……!みんな、つぐみの手を離さないようにしよう!」

「……それって俺らもやるのん?まじで?」

「つべこべ言うんやないで、自分はとっとと出たいんや!」

「はいはい、わかったわかった」

風が吹いた方に向かっていくことしばし。にしても手をつなぎながら歩くってなかなか歩きにくいな。大変だわ。

「ここだ!」

「よし、外に出れる……って、開かないぞ!?」

「「「「「えぇ〜!?!?」」」」」

「まじか」

「いや〜、どんどん面白くなっていきますね」

「やめてやれって」

「ちょっと、ワクワクしてきた」

驚いているAfterglowと冬樹に聞こえないように小声で俺らは話し合う。こんなこと聞かれたら間違いなく「面白くなんかないよ〜!」って怒られることが目に見えている。

「誰か、誰かいませんか〜?」

「助けてくださ〜い!!」

だって、ねぇ?今にも泣きそうな顔でドアをガンガン叩いてる奴らにさ、そんなこと言えっこないじゃん?

巴とひまりって言うんだけど。

「あ、電気ついた」

「接触不良だったのかもね」

「ん?ドアも開くようになってる」

「きっと警備員さんがさっきの声に気づいてくれたんだよ」

「あれ〜、おかしいぞ〜」

「どうしたんだ?モカ?」

「外に誰もいないよ〜?」

「あれ……また、風が……」

「……そういえば、七不思議最後の1つを思い出したぞ」

「あたしも今、思い出した……確か、生徒の幽霊が夜な夜なうろついて、夜の学校に入ってきた生徒にいたずらをするんだって」

「えっ、じゃあ……」

『うわぁぁぁぁぁぁあああ!』

そんなこと言ったらこいつら逃げ帰るに決まってるだろうが。

まぁ、夏休み最後の肝試しとしては楽しめたわ、こいつらとは2度と!2度と学校に来たくないけどな!

「あ〜あ、面白かった」

「その辺のお化け屋敷よりドキドキしたね」

「ちなった〜ん、お化け屋敷行きたくなってきた!」

「じゃあ、今度行こっか!」

「ほら、お前らもとっとと帰るぞ」

先に走って帰りやがった奴らよりは遅れたものの、俺らも帰路につく。

(また、遊びに来てね……)

なんか聞こえたような気がするのは気のせいだろう。うん、気のせい。

 

 




コレジャナイ感が半端ない気がします……。
気が向いたら修正します。
夏休みも残すところもう少しの圭介は、最終日くらい優雅に過ごしたいって思っているみたいですが、果たして……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#23 船の上で追っかけっこするなんて聞いてねえ!

書き上がってはいました。投稿する暇もないくらい忙しくて遅れました。
お待ちいただいていたかた、いらっしゃったなら申し訳ありません(言い訳)

夏休み最終日、どこかのお嬢様に、圭介たちは振り回されてしまうようです。


夏休みも今日で最終日になった。

「たまには何もなく喫茶店でもいってゆっくりしたいところだな。北斗とか、その辺でも誘って羽沢珈琲店にでも行ってみるか?」

断じてつぐみちゃんが目当てなわけではない。……本当だぞ?

俺らは宿題はすでにあのポンコツピンク(ひまり)が参考書を取りに行った日には終わってたし、夏休み明けのテストの準備もまあまあ。さらには、バンドの方も順調ってことでやることがない。いや、やることというよりもやるべきことがない。バイトをしていて金も結構溜まってきてるし、ちょっとは優雅な時間を過ごしたいじゃん?ということで

〜〜

圭介:「おい、お前ら」

冬樹:「なんや」

圭介:「暇か?」

北斗:「一応は」

圭介:「羽沢珈琲店でゆっくりしたい」

冬樹:「いきなりやな。別に俺はいいけども」

北斗:「何時にする?」

圭介:「今は14時だから、16時とかでどうだ?」

北斗:「了解」

冬樹:「おっけ〜」

〜〜

と、残る2人も釣れたのでちゃっちゃと準備をしますか。

「あ〜、見つけたわ〜!」

なんか遠くから声がした気がするけどこっちは今日癒しを求めてるんだ。夏休み最後くらい癒しを求めたってよかろう。

「も〜、どうして無視するの?」

「なんだ、こころか、気づかなかった。すまんな」

「大丈夫よ!それよりも圭介!船に乗るわよ!」

「お嬢さん、今、なんて?」

「だから、船よ!船に乗るの!」

こいつはこいつで何言ってんだ?

「というか、なんでお前がうちにきてるねん、おかしいやろ」

「西秋様、準備はできております、どうぞこちらへ」

いや、行くって言った記憶、俺の中にはないんだけど。どういうこと?ねえねえねえ。

__

と、理解が追いつかないまま気がついたら黒服の人に取り押さえられていました。あらやだ怖い。

「で、どういうことだ?いきなり船に乗るって」

「急に船に乗りたくなったの!せっかくだったらみんなで乗ったほうが楽しいわ!」

「ほ〜ん、わからん。ところで、みんなって……ハロハピの奴らもいるのか?」

「ええ、もちろん!」

「それならハロハピの奴らだけで楽しめるだろうが!」

「この前ライブに出させてくれたでしょう?せっかくだからそのお礼よ!」

「で、俺今日北斗と冬樹とこの後約束があったんだが?」

「大丈夫よ!みんな一緒に船に乗るわ!」

乗るわって、お嬢さん確定事項なんですね。

というかこの車内めっちゃ広いな?どんだけ弦巻家金持ちやねん。

夏休み最終日くらいはゆっくり優雅に過ごそうと思っていた時期も私にはありましたよ、ええ。そんな希望、目の前にいるお嬢様に打ち砕かれたけどな!

___

「で、ここは?目の前のでっかい船は?なに?」

「え〜っと……すごいね」

「やっば〜!めっちゃでっかい!やばい!あたし、ワクワクしてきちゃった!」

「豪華客船やないかい!」

「にしてもでっかいな……俺、こんな船乗るの初めてかもしれん」

「ところで北斗に冬樹、すまんな。約束を反故にしちまって」

「ああ、気にしなくていい。俺のところにははぐみが迎えにきたからな」

「自分のところは花音さんやったな。なんか困ってて大変そうだったけど」

「あ〜、みんな被害者の会のメンバーなんですね」

「あたしのところには薫さんが来てくれたの!夢のような時間だった!」

「約1名は被害者じゃなくてお楽しみだったわけだな」

「待たせたわね!この船は私の船よ!」

「スマイル号ですか……」

「あはは……、Werewolfのみなさん、巻き込んでしまってすみません……」

「ここまできたらもう、せっかくだから楽しむことにするよ……」

「さあ、乗り込むわよ〜!!」

「「おーー!!」」

「美咲、いつもこのテンションの奴ら相手にしてるの?お疲れだな」

「あはは……。同情するなら変わって欲しいくらいだよ」

「それは断固拒否したいところだな」

「早く乗り込まないと置いていくわよ〜」

「今行くからもうちょい待ってろ」

夏休み最終日は、優雅は優雅だけど、常識を超えた優雅さで過ごすことになりそうです。

___

「それにしても、船に乗りたいとか言ってるからクルージングかと思ったけど、まさかまさか豪華客船だったとはな」

「うん、中も本当にすごいね。レストランにカジノ、免税店に展望台、しかも劇場にバーまである。しかも中央のピアノめっちゃ高いし」

「さすが財閥って感じの財力で殴られた感がすごい」

出港から1時間。俺らは一通り船の中を見て周り、最初に乗り込んできた中央のエントランスに戻ってきた。感想はとにかくエッグい以外の何者でもない。多分これ、お金出して乗ったらウン百万する周遊旅行になるよ?

あと、船の中を歩いてて思ったけど、俺らの服装の場違い感半端じゃない。だって羽沢珈琲店行こうとしてたんだよ?こんな豪華客船の船内をパーカーで歩くもんじゃなくね?普通は!もっとさ、ジャケットとかそういうもの着るべきでしょうが!

「お、こころとはぐみに、そして美咲か。他の2人は?」

「それが、どこに行ったかわかんないんだよね」

「そうか。って、なんでいきなり電気が消えるんだよ」

「いきなり消えたねんな!?また幽霊パターン!?」

「ケチコクビビリすぎ!そんなん出ないって」

「すぐ点くから、大丈夫だよ。ほら」

美咲さすが。これは常識人枠。

「……は?」

「豪華客船『スマイル号』へようこそ!素敵な夜だね、かわいいお嬢さんたち、かっこいい坊ちゃんたち」

「うわっ、あれ誰?」

「うーん、私の知り合いではないわね!」

(いや、バリバリ薫さんだろ)

(あれは……)

(どう見ても)

(薫先輩……)

(薫さん、かっこいい!!!!!死んでもいいわ!!!!)

「ふふ、私の名は怪盗ハロハッピー。今宵、私の欲しいものをいただきにきたのさ」

「と〜っても素敵だわ!怪盗さん、ハロハピに入らない?」

「いや、何言ってんの?」

思わず声に出してしまった。こんな状況でバンドに勧誘とか正気か?あ、もともとそういう子でしたね。そういや(諦め)。

「私の欲しいものは最後に教えてあげよう。突然だが、この麗しいお姫様を攫わせてもらうよ」

「ひゃっ!?」

「怪盗さん!花音に何をするの?」

「何もするつもりはない。ただ、君たちには私と戯れてもらうだけだよ」

「いいかい、君たちが私を捕まえることができれば、このお姫様は君たちに返そう。まずはカジノで待つ!さらばっ!」

「いや、移動早くね?あの人身体能力高過ぎでしょ!」

「ケイちゃん、そこ真面目にツッコミ入れなくていいところじゃないかな……?」

こうでもしないとやっていけないでしょうが……。

「花音が攫われちゃったわ!追いかけるわよ!」

「なんで夏休み最終日に船の上で追っかけっこが始まるんですかねぇ」

「これも3バカの介護だと思って……諦めよう?」

「はあ、そういうことなら、思う存分楽しんでやるわ!」

せっかくここまできたら楽しまなきゃ損だしな。やるだけやってやるぜ。

「まずはカジノ、って言ってたわよね!行ってみましょう!」

『うん!(おう!)』

___

「カジノに着いたわ!」

「これ、合法?違法じゃないの?」

「夢がなさすぎるだろ圭介……」

「このカジノは、私でも遊べるように全部偽物のコインなの!」

「ほー、実質無料のカジノってわけか。完璧だな」

「さて、みんなで怪盗さんを呼んでみましょう?」

「えぇ……」

「ほら、圭介も、みんな一緒に!」

『怪盗さん、花音(さん)を返しなさい!』

まあ、ここはお嬢様の機嫌を損なうわけにはいかないからな。ノってやるのがいいってこった。カジノまで全力ダッシュしてきて体力が怪しいけどな!

「待たせたね。早速だけど、勝負と行こうか」

「何で勝負するの?ソフトボール?」

「はぐみ、さすがにカジノでそれはないと思うぞ」

すかさず北斗がツッコミを入れる。確かにここまできてソフトボールはない。

「せっかくのカジノだ。ルーレットで勝負しよう」

「あんまり複雑なルールにしないでおくれよ」

「大丈夫、赤か黒のどちらかを選んで、ボールが落ちた方が勝ちだ」

「どっちか選べばいいんだね!勝利の炎の色は赤だから、赤にする!」

「簡単に決めすぎじゃない?大丈夫なのそれで」

「まあ、遊びやしええやろ。自分はそういう思い切りの良さ、好きやで」

「じゃあ、私は黒だね。ディーラーさん、お願いするよ」

ディーラーから放たれたボールは、黒の2番に吸い込まれていった。

「残念だけど、この勝負、私の勝ちだね。まだお姫様は返せないよ。次は……そうだね、儚い物が手に入る場所で待とう。さらば!」

いや、儚い場所ってどこだよ。しかも逃げ足早すぎるだろ。

「薫さま……あたしを連れ去って……」

なんか約1名妄想の世界に入っていってるしさ、なんなんだこれ……。

「ギフトショップね!急ぐわ!」

「あの説明でギフトショップってよくわかったね……」

「彼女らは彼女らの感性で感じ取っているのかもな」

「あはは……。先にいかれちゃったよ、追いつこうか」

「そうだな……」

___

「迷わずこれたようだね?」

(どっかの誰かさんのおかげでなあ!)

間違いなく俺らだけだったら迷ってたぞ、これ。自明だろ、あんなのでわかる方がおかしいっての。

「ここでの勝負は?」

「そうだね。では、ここで私が気に入りそうなものを選んできてくれるかい?私が気に入ったら、花音を返そう」

「どんなものが好きなの?」

「それは……儚いものだよ」

(((((((いや、全然わからん))))))

「あの〜、さすがにヒントが少なすぎてわからないので、もっといいヒントくださいませんか怪盗さん」

「そうだな……かのシェイクスピアはこう言っている……。『ひとつの顔は神が与えてくださった。もうひとつの顔は自分で造るのだ』とね」

(ほんとにそんなことシェイクスピアが言ったのかよ)

「でもまあ、答えはわかったな。あれだろ?」

「ああ、せやろなあ」

「じゃ、あたしらが適当にいい感じのアレを見繕うのでいいか」

「え、今のヒントで人狼のみんなはわかったの?」

「ああ、このヒントがあればわかる。とりあえず美咲はそこの2人を見ててくれ」

「あっ、ちょっと!」

俺らはライブでいつもつけている“アレ”を探して、ギフトショップを駆け巡るのだった。

__

 




次回、後編。
誤字などがありましたら報告していただけると助かります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#24 怪盗が欲しかったもの?そんなのきっと宝物だよ

後編です。続き。
早速ですが本文をどうぞ。


しばしの時間が経った後。

「ぜ〜んぜんいい感じの奴がみつからん」

「あ!わかったわ!怪盗さん、これでしょう!」

遠くからこころの声が聞こえてくる。どうやら答えに辿り着いたようだ。

「まあ、これは最初からあいつらのゲームだからな、あいつらが楽しんでくれれば何よりってわけだ」

「そうだな。そんなことより」

「早く戻らないと、また置いていかれちゃうかも……」

戻ってみると、こころが手にしていたものはどこかの民族のものかと思われる、存在感があまりにも強いお面だった。

(いや、シリキ・○トゥンドゥじゃあるまいしさ、そのお面存在感ありすぎでは?)

今、ディ○ニーのアトラクションの中にいるあのお面のやつバカにしたから、今日の夜俺はエレベーター乗れんわ。多分呪われた。

「う〜ん、悪くないチョイスではあるが、勝負は次までお預けってことにしておこう。次はシアターで待つ!」

「次は、シアター……」

「劇場、か」

「おし、そしたらどんどん行ってみようや!」

「このお面、儚いわよねえ?」

「う〜ん、それは儚いに入る……のか?」

「私は……わからないや」

「人によって美意識は違うからな。こころ、はぐみ、早くいかないと怪盗に花音さんを連れ去られちまうぞ!」

「それは大変だわ!早く行きましょう!」

_

「ねぇ冬樹!見て見て!すっごい広い劇場だよ!」

「せやなあしぐれ。こんな豪華客船所有してるなんて、何度も思うけど、弦巻家、半端ない富豪やな」

シアターに到着。あまりに広くて驚くレベルで広い。はぐみなんか1万人くらいはいるんじゃない?とか言ってるし。さすがにそれはないだろうが、少なくとも1000人は入りそうな劇場だ。半端ねえ。

「お嬢さんたち、待ってたよ。これが最後の試練だ」

「とうとう追い詰めたわよ!さあ、花音を返してもらうわ!」

「そう焦らないで、お嬢さん。最後の勝負は、そうだな、愛の告白をしてもらおうか」

「愛の、告白?」

「そこの綺麗な黒髪のお嬢さん?お姫様に、愛の言葉をつぶやいてごらん?」

「わ、私?」

「お、美咲が花音さんに告白するのか、がんばれ」

「美咲ちゃん、頑張って?」

「どうしてあたしなの……」

「だって、私はまだ君と勝負をしていないではないか……。私と遊んでくれたまえ」

「はぁ……わかったよ」

美咲が渋々ステージ上へと上がっていく。なんか花音さん状況が飲み込めてないような気がするけど、大丈夫かな?

「本当は断固お断りしたいところだけど……やるしかないかぁ……」

「設定は、君はお姫様に愛を伝える王子ということにしよう。それでは、始めてくれたまえ」

「え、えと……。麗しい、お姫様。あ、あなたが……好き、です」

「そんなものかい?もっと愛を伝えてごらん?」

「う……えーと……一目あったその日から……心を奪われ……」

(さすがに棒すぎるなぁ……)

「まだまだ気持ちが伝わらないよ?もっと真剣に」

「あなたを常に想ってます……とにかく、好きです。……いきなり告白なんて言われたってわかんないし!」

「はぐみ、演技はわかんないけどダメダメだと思う」

「心に響かなかったわね。これじゃあ勝負は負けかしら?」

「そんなことないよ、美咲ちゃんはすごく頑張ったよ!」

「花音さんが良ければもうそれでいいや」

「告白というのはもっとスマートにやらなければいけないよ。そうだな、例えば……『麗しのお姫様よ、私があなたのことをどれほど思っているかご存知ですか?寝ても覚めてもあなたのことばかり考えてしまうのです。私の心を奪って離さない罪深きお方……愛しています』」

う〜ん、めっちゃキザ。キザすぎてなんかもうやばいな。隣のしぐれとかいうやつ死んでるんじゃねえの?

「薫さま……尊い……死んでも、いいわ?」

「いいだろう、怪盗よ、俺と勝負だ」

キザ度合いだったら、絶対負けないぞ(投げやり)。

「ほう、紳士様から愛の告白か。設定は……」

「設定は、闇夜に過ぎ去ろうとする怪盗にずっと憧れていた少年が想いを告げる、でどうだ?」

「そ、それでいいが……」

「ああ、月夜に現れし怪盗さま、今宵は何を取っていくのでしょうか?瞳よりも大きなダイヤモンドでしょうか?あなたは、あなたさまは大切なものを盗んで行ってしまいました。それは、私の心、です。どうか、心のみならず、私を奪って、どこかへと連れ去ってしまっていただけませんか?あなたを想わなかったことはありません。僕を、今宵のお宝として、奪っていってくれませんか?愛しています」

「っっっっっ!!勝負は、お預けにさせてもらおう!」

「あ、逃げた。これは俺の勝ちってことでいいか?」

「あいっ変わらずニッシーはキザだねぇ。その言葉、本当に好きな人に言ってあげればいいのに」

「さあね。怪盗は取り逃しちまった。どうせ最後はデッキだろう。追うぞ」

「意外とケイ、乗ってきてないか?」

「ほっとけ」

あれだけキザなセリフ吐かれちゃ、いつも舞踏会でキザなセリフを吐いてる奴として、負けてはいられねえだろうが。プライドってやつだ。

先をいくこころとはぐみに置いていかれないようにしながら、俺らはデッキを目指した。

__

「さて、デッキに着いたわけか。怪盗さんよ、とうとう本当に追い詰めたぞ」

「そうだね、では、ここでひとつクイズを出そう」

「クイズ?」

「ああ、私が本当に欲しかったものは、なんだと思う?」

「わかったわ!怪盗さん、あなたが欲しかったものは、『みんなと楽しく過ごす時間』よ!」

いや、こころさん早くないですか?こんな早く正解を導き出すなんてエスパーですか?なんなんですか?

「まぁ……確かにずっと一緒にいるこいつらだったらすぐに答えられそうな気がするがな」

「自分も北斗と同意見や。多分、俺らの中の誰かが怪盗になって同じような質問をしても、俺らは答えられるだろうな」

「そういうものか」

「うん、そういうものだよ、ケイちゃん」

なんかこっちで話してる間に花音さんが解放された戻ってきたようだ。

「それでは良い旅を!またどこかで会えることを楽しみにしているよ」

ボンッ!

「煙玉っ!?」

「いや、ここまで凝った演出するのかよ。やばいな」

「チョ〜楽しかったぁ〜!!」

「怪盗、捕まえられなかったわ……」

「まあ、花音さんも戻ってきたことだし、いいってことにしておこう」

「それより、お前ら中行かないか?さすがに疲れたし腹へった」

「そうよ!レストランで夕食にしましょう!」

「豪華客船のレストラン!何が出てくるんだ!?楽しみや!」

「いつもケチケチしてるから楽しみなんでしょ?」

しぐれが意地の悪い笑みを浮かべながら冬樹に問いかける。

「あぁ、私もお腹が空いてしまってね」

「薫さん、今までどこに行ってたの!?」

「私かい?私はずっと君たちと一緒にいたが」

(なんでこの子達気づかないのよ……?)

「そんなことより、ご飯よ!レストランまで競争ね!」

「2人とも、待ってよ〜」

「なんであいつらあんなに元気なんだ?体力おばけだったわ忘れてた。にしてもやばすぎ」

「ケイちゃんもぶっちゃけ今アレくらいだったら走れるでしょ?」

「いや、気分じゃないから無理だな」

「なんやそれ!」

「ところで薫さん、なんで怪盗なんかやったんだ?」

「あぁ、実は、船に乗る前にこころの付き人の黒服さんから、船の余興に、ってことでな。怪盗をできるのは、多分私しかいなかっただろうし……」

「まあ、確かに。こころたちを楽しませることができる怪盗って言ったら、薫さんくらいしかいないか」

「あれ、あいつら、戻ってきたぞ」

「本当か?北斗。何か忘れ物でもしたのか?」

「大変だわ!ミッシェルへのお土産を買ってないわ!」

「あの仮面でいいんじゃない?今度ライブでつけてDJしてもらおうよ」

「えぇ〜」

美咲は心底いやな顔をしている。そりゃそうだろうな。あの仮面は。

花音さんは多分期待してるな。顔を見りゃわかるっての。

「美咲、がんばれ。次のライブ、楽しみにしてるな?」

俺は美咲の肩を叩き、満面の笑みでサムズアップする。

「圭介までっ!」

顔を赤くしてレストランの方に走って行った美咲を追って、俺らもレストランの方へと向かった。

__

夕食に舌鼓を打った俺らは、その後港に戻るまでクルージングを最大限楽しんだ。

船首でタイタニックみたいなことをしてみたり、カジノでポーカーやルーレット、ダーツ、そしてビリヤードやスロットを軒並み楽しみ、記念ということでギフトショップで色違いのスカーフを買った。今度ライブで巻いてみようかしら。もちろんMasquerade kissの方で。

シルク製のスカーフだから上品な光沢が出てて、WerewolfっていうよりもMasquerade kissの方がイメージに合うしな。

しばらく遊んでいると、船がそろそろ着岸するとのアナウンスが入った。

「2学期だね」

「本当に。あっという間の夏休みだった」

「最後に船の上で追いかけっこするなんて聞いてなかったけどな」

「それでも、まあまあ楽しんでたでしょ」

「俺はそうだな。しぐれはどうだった?」

「あたしも、まぁ楽しめたかな」

「明日からの学校も、バンド活動も、大変になるだろうけど、また頑張ろうか」

「そうだな」

5人で見つめる方向は、夜の帳のおりた空を背に、光輝く港の風景だった。

 

 




ハロハピに拉致された夏休み最終日は終了しました。
圭介の巻き込まれはまだまだ続きます。
???「あ、るるる〜んとすること思いついちゃった!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

「誰の誕生日だって、ちゃんとお祝いしたいじゃん?」
#Saya ひまわりの彼女が、一番綺麗に輝く日


1日遅れました……しかもギリギリ……。
急いで描いたので文章がボロボロだとは思います。きっとそのうち修正します。


「自分らにお願いがあるんやけど」

「どうした急に改まって」

至って普通の日の、至って普通の昼休み。

今日は男3人で屋上に上がって昼飯を食べるって決めてたから、ポピパの面々はいない。

そんな普通の何もない昼休みに、いつもはふざけた調子の冬樹が、普通でない様子で俺らにお願いをしてきた。

「まあいいだろう。聞いてやろう」

「え〜っと、今日は何日ですか?」

「今日?あ〜、5月17日だけど、それがどうした?」

「5月19日は誰かの誕生日なんやけど、それをお祝いしたくて……、それで自分らに手伝ってほしいねん」

なんだ、急に改まったと思ったらそんなことか。

でも誰かの誕生日か。誰なんだろう。

「ところで冬樹、それって誰の誕生日なんだ?」

「……沙綾。あいつや」

なるほどなあ……。

___

「んで、作戦会議をしようと」

「そんなところ」

ところ変わってCircleの外のカフェ。今日は練習の日ではなかったものの、LAINで集合をかけたらみんな集まった。やっぱりカフェあると気楽に集まれていいよな。時間つぶしにもなるし。

「女の子の誕生日を祝おうだなんて、ケチコク珍しいね?あたしらの誕生日なんてこれっぽっちも祝ってくれないくせに」

「いや嘘つけ毎年祝ってるぞ?」

「沙綾の誕生日か〜……。確かに毎年こんなくらいの時期だった気がするな〜。なんかお店毎年忙しそうだったけど」

「お前らよく沙綾の誕生日知ってるな?俺なんて知らなかったぞ?」

「そりゃそうでしょニッシー。だって海外いたじゃん?」

「俺らは商店街にも割とよく通ってたからな。あそこに買い物行くと安いし新鮮だし量り売りとかあるし便利じゃん?」

「そうそう、やまぶきベーカリーのパンもうまいし!」

「私も、中学生の時は家のお使いとかでよく行ってたかも。商店街の子たちとも顔見知り程度だけど話したことはあるし」

「そうか、つまり俺が海外に行っている間にお前らは圧倒的友情を育んでいたわけだな」

俺はヨヨヨと泣くふりの仕草をしたが、みんなに無視されて話題を戻された。悲しい。

「ところで、何やるの?言い出しっぺだからにはケチコク、何かいい案あるんでしょ?」

「いや?全く?何かお祝いできたらええな〜くらいの考えや」

「頼りにならねえなお前。どうする?圭介」

「……ん〜、安直になっちまうけどパーティーとか?」

「それいいじゃん!パーっとやろうよ!ニッシーの家とかでさ!」

「確かに、ケイの家なら近いしええな」

「それで決まりだな」

「……ケイちゃん、みんな。それだとポピパと被っちゃうんじゃないの?」

『あ……』

___

「ということで召喚しました」

「重要参考人」

「おたえは相変わらずおたえらしいな」

やっぱり当事者を呼ぶのが一番早いよね、ということで、俺が香澄を呼び寄せた。

――。

香澄「すぐ行く!待ってて!」

圭介「あ、沙綾はなしで頼むわ」

香澄「え〜、なんで〜?まあ、ケイくんがそういうならわかった〜」

圭介「悪いな、頼むわ」

――

と、LAINでメッセージを送ってから10分後。走ってきたのだろうか、香澄とおたえが先について、そのあとで牛込さんと市ヶ谷さんが死に体できた。なんというか、お疲れ様です。

「で、早速本題。明後日5月19日は」

「さーやの誕生日!!」

「香澄、最後まで話を聞け」

「ですが、ポピパは何かやるの?」

「そのまま話続けるのかよ……」

市ヶ谷さんが呆れたようにこちらを見ながらツッコミを入れてきたが無視無視。

「私たちは蔵でお祝いパーティーするんだよね、香澄ちゃん」

「そう!りみりんの言う通り!有咲んちの蔵でね、誕生日パーティーするの!」

「クライブもやるんだ、さーやに誕生日の歌、歌ってあげなきゃ」

「クライブ?なんだそれ」

「ん〜、蔵でライブするから、クライブ」

「なるほど?全くわからんが」

「そろそろ話を戻すぞ、圭介、香澄、おたえ。で、俺らも沙綾のお祝いしたいって思うんだけど、混ぜてもらえねえか?」

北斗が脱線した話をもとに戻しながら本題に入っていく。

「いいよ!一緒にキラキラドキドキしよう!」

「ちょっと香澄!私の許可をとれ〜!!」

「市ヶ谷さん、ええかな?自分らも沙綾の誕生日、祝いたいんやわ」

「まあ、そこまで言うなら、別に、いい、けど……」

「よっしゃ決まりだ!それじゃあ早速準備するで〜!!」

「……時間とか、何やるかとか、あたしらで決めよ?ちなったん」

「そうだね。りみちゃん、有咲ちゃん。打ち合わせしようか」

香澄とおたえ、圭介と北斗、そして冬樹がギターやらベースやらをカフェスペースでかき鳴らしてるのを横目に、残ったりみ、有咲、しぐれ、千夏は詳細事項を打ち合わせ始めた。

何をやるのかを決めるのにあまり時間はいらなかった。

「それじゃ、また明後日に」

「うん!じゃあね〜」

誕生日会は明後日だ。

___

誕生日会当日。

「やべえ緊張してきた。沙綾喜んでくれるかな?」

「大丈夫やろ。はよ行くぞ、ケイ」

俺らは有咲の家の蔵の内装をデコレーションする手伝いの役になっていた。

そりゃ〜、女の子よりも身長は高いしね。適材適所。だいじ。

誕生日会に参加するって決まってから、誕生日プレゼントを渡さねばと言うことですぐに準備をしたが、何せ女子にプレゼントを渡すのって初めてだったから自信がない。

しぐれとか千夏はほら……いつも一緒だったから特に悩まなかったけど、高校で知り合った異性となるとそうは行かない。さすがに友達とはいえどちょっと頑張って選びたくなる。

そうこうしているうちに市ヶ谷さんの家についたのだが……

「市ヶ谷さんの家って流星堂だったのか……でっけ〜……」

「ケイ、行くで〜」

「よく躊躇せずに入っていけるな……」

先に門を潜った冬樹に続いて俺も門を潜る。

塀には一面に星のシールが貼られていた。めちゃくちゃすごい量。貼ったのは……まあ一人しかいないだろうが。

「お邪魔します!こんにちは!蔵ってどこですか?」

「あら?有咲の友達?蔵はあっちよ」

「まあそんなところです。ありがとうございます」

多分市ヶ谷さんのおばあちゃんだろう、優しそうなおばあちゃんに蔵の場所を案内してもらい、蔵の前に行くと市ヶ谷さんが待っていた。

「お〜、ついたな。こっちだ」

「今日はよろしくな」

「おう」

市ヶ谷さんに案内されたのは蔵の地下。降りてみるとそこはスタジオだった。

「ここを飾りつければいいのな。沙綾はどれくらいでくるんだ?」

「あ〜、あと30分くらいじゃないか?」

「了解。冬樹、やるぞ」

デコり始めて思ったけど……この広さ30分って割としんどくないか?

最後の方は時間との戦いになりながらも、なんとか飾り付けを終えて、俺らは沙綾の到着を待った。

___

『沙綾、誕生日おめでとう!』

「わ!みんな!Werewolfのみんなまで!ありがと〜!」

主役が登場する10分前くらいに北斗、しぐれ、千夏が蔵に到着。彼らは料理の担当。

実際千夏もしぐれも料理はうまいし適任。北斗は盛り付けだろうな。

「これみんなが用意してくれたの?」

「北斗くん、しぐれちゃん、千夏ちゃんが用意してくれたんだよ」

「ありがとう!めっちゃ嬉しい」

「早速食べよう!」

「待て、香澄。主役は沙綾だぞ?」

「そうだった!」

「ふふふ、ありがと、有咲。それじゃあ、食べようか!」

『うん!』

___

料理にしばし舌鼓を打つと、パーティーはプレゼントを渡す時間へと移っていった。

「はい!さーや!みんなで選んだんだよ〜」

「わ〜、ヘアアクセ!ありがとう!……着けてみていい?」

「うん!着けて着けて!」

ポピパからの誕生日は山吹色のヘアアクセ。確か沙綾の趣味ってヘアアクセコレクションだったから、それに合わせた形だろう。

「まあ、その、似合ってるぞ?」

「有咲のお墨付き、いただきました」

「次は俺かな?」

「お、北斗は何をくれるのかな?」

「つまらないものだが、受け取ってくれると嬉しい」

「お、ありがとう。開けてみていい?」

「もちろん」

「……わ〜、ティディベア!ありがとう!」

「自分からはこれ。ほい、お誕生日おめでとう」

「……これ、野球観戦のチケット?しかも5枚も!?」

「ポピパのみんなで行ってき。楽しめると思うで」

「なんかこんなにもらっちゃって悪いな〜」

「そう言わんといて!ほんの気持ちやから!」

「あたしからはこれ!はい!」

「あ、スティックだ!ありがとう!」

「同じドラム仲間として、これからもよろしくね?」

「うん!こっちこそ!」

「私はこれを。しぐれと一緒に選んだんだ。おうちでの練習に使ってみて?」

「あ、ドラム練習用のパッド!ありがとう、欲しかったんだ〜」

ここまで北斗、冬樹、しぐれ、千夏が順にプレゼントを渡し終え、ついに俺の番。

「で、圭介は何をくれるのかな〜?」

「ん〜、ちょっぴりおたえっぽいけど、歌かな。沙綾のために作ったから、聴いて欲しいんだ」

俺はそう言うとギターケースからエレアコを取り出して、蔵にあったアンプに繋ぎ、そして沙綾に向かった。

「聞いてください。『ひまわり色の君へ』」

形に残るプレゼントは何も思いつかなかったから、せめて記憶に残るプレゼントを。

だったら俺は、沙綾と出会ってから今までのことを織り交ぜた歌をプレゼントしよう。

「ひまわり色のキミの笑顔は

みているだけで眩しかった

これからもその笑顔を

周りに振りまいておくれよ

ひまわりの君が輝く姿を

これからもずっと見せてよ」

ひまわり色の彼女には、弾ける笑顔がよく似合う。

お誕生日、おめでとう。沙綾にとって幸せな1年になりますように。

 




Happy Birthday to Saya!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#Kasumi 燦々と輝く太陽なキミの誕生日は、きっと特別な1日になる

タイトルの通りです。
いつかは0時ぴったりに投稿できるといいな〜と思っています。はるか先になりそうですけどね。
では、本編をどうぞ。


梅雨も明け、夏の暑さもだんだんと強くなってきた今日この頃。

「香澄の誕生日ねえ……何すっかねえ……」

やまぶきベーカリーでのバイト帰り。バイト上がりに沙綾に火曜日の予定を聞かれた。

「ねえ圭介、火曜日の放課後空いてる?」

「お?デートの誘いですか?」

「違っ……!そんなんじゃないから、ね?その、香澄の誕生日なんだけど」

「あ〜、なるほど、完全に理解したわ。ポピパは今回何やるの?」

「う〜ん、Circleのラウンジを借りてパーティーかな」

「また大層なことをしますな。で、俺らには何をして欲しいと?」

「ん?いや、ただパーティーに参加してくれればいいけどさ」

「あらやだ、それならそうと早く言ってくれればいいのに!策士山吹さん!」

「いや、勝手に圭介が勘違いしただけでしょ。なんで私のせいになってるの……」

「ま、そんなことはおいといて、とりあえず火曜日の放課後は暇だぞ。みんな引き連れてCircleに行けばいいんだな」

「うん、ありがとう。ごめんね、なんか迷惑かけて」

「気にすんなってことよ。それじゃ、お疲れ様」

夏の夕焼けの空は赤く輝いていて、暑くて、でもどこか涼しくて。とても気持ちがよかった。

___

「で、何かあたしらでもお祝いをしようと」

「そうだな。ポピパとは結構親交もあるしな」

「しかも香澄やろ?ある程度ぶっ飛んだことやらへん?」

「う〜ん、流石に香澄ちゃんでもそれは……まずいんじゃないの?」

「とりあえず全会一致で誕生日を祝うってことでいいっぽいな。じゃ、何やるか決めようぜ」

「俺らと言ったらやっぱりなんと言うか音楽だけど、それはなんか違うよな」

「なんかもっと他のことやりたいって気持ちはあるよね」

『う〜ん……』

「あ、思いついたかもしれねえ」

いきなり北斗がなんか思いついた。何を思いついたんだこいつ……。

「なんやホクト、なんか思いついたんか?教えて〜や」

「おう、いいぞ冬樹。それはな……」

冬樹の目がキラキラと輝き始めた。顔までもにやけ始めてきやがって。そんないいことなんか?気になるじゃねえか。

「自分、それめっちゃいいと思うで!やろやろ!それ」

「だろ?冬樹ならそう言うと思ったぜ」

「ねえねえ北斗、ケチコクだけに教えてないで、あたしらにも教えてよ!」

「そうだよ春くん、私らにも教えて教えて」

「なんで俺を仲間外れにするんだよ、俺にも教えろよ」

しばしの間。その後、全員は一致した。

『よし、それやろうぜ』

___

明日が香澄の誕生日。沙綾の誕生日には何も思いつかなかったから曲をプレゼントしたけど、香澄はギタリストだからもらって嬉しいものがわかるぞ。と言うことで俺は楽器屋に来ていた。お目当てはピック。とりあえずあいつが普段使っているようなやつと、俺のおすすめ、そして北斗が使ってるようなやつを合わせて10点ほどお買い上げ。ピック1枚が誕生日プレゼントは流石にちょっと悲しすぎるからな。そんなことは許されまい。

「あ、プレゼント用のラッピングってお願いできますか?」

会計で尋ねてみたら難なくOKが出た。ちょっと時間がかかるとのことだったので、少しだけ楽器屋を散策しようと言う気に駆られてしまった。

(だいたい散策してるとろくなことがねえって言うか、金がなくなるからな。できれば楽器屋とか散策はあんまりしたくねえんだよな)

まあ自分がすぐにギターを欲しくなるのがいけないんだと思いますけどねええ。

店内を物色しているうちにカウンターからお呼びの声がかかる。ラッピングが終わった。今日は金を溶かすほどに店内を見ていなかったので救い。やったね。

プレゼントを購入したのちに、俺は北斗の計画を進めるために足早に家に帰った。

と言っても、俺はパソコンとにらめっこするだけなんですけどね。他のやつらがんばれ。

___

当日。香澄の誕生日。

学校の後にポピパみんなで誕生日会をやるのだそう。俺らはそこにお邪魔するわけだ。なんと言うか……明らかに違うけどポピパの一員として認められたって感じでいいよね!すごくいい!るんってする!

……なんか氷川妹に脳内を侵食されたような気もするが、気のせいだろう。頭の中の氷川姉に連れて行ってもらおう。と、茶番はここまでにして。

「香澄〜、誕生日おめでとな〜」

「わ〜、ありがと!ケイくん!ねえねえ、プレゼントは?」

「それは後でのお楽しみだ。そういや今日ポピパで誕生日会やるんだって?」

「あ!うん!そうなの!ケイくんたちも来るの?」

「おう、参加させてもらうぞ。で、そのことなんだけどさ、匂いがついてもいい服で来てくれねえか?」

「う〜ん、なんで?」

「大人の事情ってのがあるんだ。悪いけど、お願いできるか?」

「う〜ん、よくわからないけどわかった。有咲とかにも伝えた方がいいかな?」

「あ〜、それは俺らから伝えておくから大丈夫だ。ありがとな、香澄」

任務は完了した。後は俺は沙綾に伝えればOK。りみとたえは冬樹、そして有咲は北斗の仕事。正直有咲には俺は伝えられる気がしねえ。

「と言うわけでそこで話を聞いてた沙綾も頼むぞ〜」

「……なんで私だけいつもバレちゃうかな〜」

「お前はなんと言うか存在してるだけでわかるからな。なんて言うんだ?溢れ出るお姉ちゃんオーラを隠し切れてない」

「褒め言葉として受け取っとくね。服の件は了解。汚れてもいい服でいった方がいい?」

「いんや、特にその必要はねえな。なんか沙綾には勘付かれてそう……」

「圭介は私をなんだと思ってるの……」

沙綾と軽口を叩きながらも、俺はノルマを完遂した。見た感じ冬樹も北斗も完遂したようだな。北斗すげえ。

「HR始めるぞ〜、席につけ〜」

授業が終われば、パーティーの始まりだ。

___

放課後、Circle。

『香澄、お誕生日、おめでとう!!』

みんな一斉にクラッカーを鳴らす。クラッカーって正直なところ結構うるさいよな。しかも火薬くさい。わかる人いない?流石にそんな野暮なことは言わねえけどな。

「香澄、これ、私たちからのプレゼント」

「ありがと〜!ねえ、開けていい?」

「いいんじゃねえの?好きにしろ」

「わ〜、写真立てだ!可愛い!」

「有咲が選んだんだよ?誕生日の写真みんなでとって飾ればよくね?って」

「バッ、お前それ言うなって……」

「有咲ありがと♡」

「香澄っ!お前来るな来るなあ!」

「お楽しみの最中で悪いが、これは俺からのプレゼントな。なんかありきたりなもんですまんな。これからもギタリストとしてよろしく頼むよ」

「ケイくんもありがと!……わ〜、ピックだ!ちょうど買いに行こうと思ってたところだったんだ〜」

「じゃ、間がよかったってことかな。もっと上手くなってくれよ」

「うん!もちろん!」

それからみんなでケーキを食べ、談笑し、気がついたら日が落ちてあたりが暗くなっていた。

「わー、みんなありがと〜!すっごいキラキラドキドキした!」

「まだまだこれからだよ、香澄」

「なんでおたえがいうの?」

「みんな〜、準備できたよ〜」

「しぐれ了解。んじゃ、みんなで外に行こうか」

「え〜、何かあるの〜?」

「行ってみてのお楽しみ、だな」

「楽しみになってきた」

「沙綾、有咲、りみりん、いこっか」

『うん!』

___

ギリギリ夕暮れ時と言う時間だろうか。地平線に太陽が落ち、その周囲がルビー色に輝いているように見える。

「わ〜、バーベキューだ!」

「北斗の発案でな。せっかく夏なんだから夏っぽいことしたらどうだって。まりなさんに許可ももらったし大丈夫」

「ホントは星の見えるところでやりたかったんだ。香澄ちゃん、星、好きでしょ?」

「なっちゃんもありがと!でもこれだけで楽しいから大丈夫!」

「焼くぞ〜、お前ら〜」

「お、さすが有咲。焼く気満々だねえ」

「そうすりゃ1番に食えるしな」

「ほれ、はよ焼くで」

じゅ〜と言う美味しそうな音が響き渡る。炭の匂いと炎の感覚、そしてこの少しじめっとした涼しさも含んだ暑さが、夏を主張してくる。

「花火買ってきたんだけどやるか?打ち上げだぞ」

「どこで打ち上げ花火なんて買ってきたの?」

「その辺のホームセンターで実は売ってるんです」

「りみりん、あたしらと線香花火しない?」

「うん、やろう、しぐれちゃん」

「お前ら花火楽しむのはいいけど、肉も食えよ〜」

『はーい』

___

用意した食材は1時間くらいで食い尽くした。流石に10人もいるとなるとあっという間だ。

ホントは屋台やりたかったんだけどね。夏祭りみたいな。綿菓子杏あめチョコバナナ、射的に金魚すくい。あとは大規模な打ち上げ花火。

ただ、流石にそこまでは無理だった。屋台とかテント組み立てるの大変だしな。

俺はちらと香澄の方を見る。有咲と沙綾、そしてりみとおたえに囲まれて、線香花火をみんなでしているところだった。

線香花火のわずかな明るさに照らされた顔は太陽みたいに輝いていて、そしてとっても眩しくて、何かを追いかけているような、とても尊い輝きを放った笑顔だった。

燦々と輝く太陽なキミの誕生日が、特別な1日になりますように。

俺が静かにそう願っているところに、ネズミ花火がどこからか飛んできた。

「ネズミ花火って楽しいんだな」

「ほれ、ホクト、もういっぺんいくで〜」

「お前らネズミ花火は飛ばすもんじゃねえぞ!!」

「え、そうなん?遊ぶの初めてだったから知らなかったぞ」

「おい。冬樹」

「自分はこれまでやってきたやり方でやっただけや。悪うない」

「お前なあ……、雰囲気ってものがあるだろ、雰囲気ってものが」

夜空を見上げると、そこには星たちの鼓動が聞こえてきそうな、一面の星空が広がっていた。

 




Kasumi, Happy birthday to you, and I wish this year is the best year among you have experienced!

次回投稿は未定ですが、7月中に投稿できればと思っています。と言うか7月中にはします。
急造品なのでいずれ修正したいなあ。
感想・評価・お気に入り登録をしていただけると泣いて喜びます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。