魔法使い(仮免)になりまして (シャケ@シャム猫亭)
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魔法使いの弟子(仮)
というか、こういうテンプレ物読みたい。
……読みたくない?
気づいたら海の上だった。
船の旅とかではなく、文字通り海の上に立っていた。
「…………」
右を向いても左を向いても霧ばかり。10メートル先はもう見通せない。
どちらへ向かえばいいのか、道しるべは何もなく。
上を向いても霧深く、日も月も星も見えない。
無為に立ち続けてみても、目の前の海はあるがままで変わることなし。
故に、ただただ前に向かって足を動かした。
「…………」
深く寝ていたところを無理やり起こされたような、あるいは強い酒を飲んで前後不覚になったときのような。物事の一つ一つを結びつけることができず、何もかもがひどくあやふやだ。
歩いているはずなのに足の感覚がない。前に進んでいるのに後ろがわからない。
自分はここを海だと知っているのに、海が何かわからない。
霧で見えないはずなのに水平線が見える。
「…………」
どうして自分は前に進んでるのだろうか。
目指してる?
追ってる?
逃げてる?
導かれてる?
わからないわからない。
前に進むことが自然な気もするし、意思を奮い立たせて進んでいる気もする。
かと思えば立ち止まっている気もするし、引き返している気もする。
「…………」
今は朝なのだろうか。
もしかしたら昼なのかもしれない。
いや、夜だろう。
「…………」
一分歩いた?
一時間歩いた?
一日歩いた?
「…………」
わからない。
わからない。
わからない。
わからないことが、わからない。
島が見えた。
こじんまりした木造の家と、潮風に揺れる赤い旗。
ここが自分の目的地だったのだろうか。わからない。
そんな気もするし、ここに来てはイケナイ気もする。
でもここでじっとしていても何も始まらない。始まるって何が?
わからないが島へと進み、家の扉をノックする。
『どなたかな? おや……これは、なんとも』
中から出てきたのは、眩しいくらい白い肌をした
白い褐色?
突然訪ねた自分のことを見て、ひどく驚いたようだが、それだけだった。
『取り敢えず、中に入るといい』
自分を家へ招き入れているのだ。
勧められるまま家に入り、勧められたまま窓際の席に座った。
「君、自己の境界がぐちゃぐちゃになってるけど、いったい何をしたんだい?」
テーブルをはさんで対面に座った
だが、自分にはそれが頭に入ってこない。
音は確かに聞こえてるのに、単語一つ一つの意味はわかるのに、理解ができない。
理解できないから、答えられない。
『いや、答えられるはずもないか。まずは、自己の確立が先だね』
家に着いた当初は固まりかけた自分が、またぐちゃぐちゃになる。
まとまらないまとまらないまとまらない。
ドロドロと解けて、混ざり合って。まぁぶる模様に染まってく。
ぽろりぽろぽろくずれてく。
「大丈夫、一つずつ認識していこう」
なのに、不思議と声が聞こえる。
「君、どうやってここに来たんだい?」
どうやって……海を歩いて。
「歩いてきた。ということは『足』があるんだね。歩くとき、足はどう動かすんだい?」
どうやって……右足と左足を交互に前に。
「そうか『二本の足』で歩くんだね。今、私が立てている指の数は何本かな?」
……三本。
「どうやって三本ってわかった?」
どうやって……目で見たから。
「ほう、『目』があるんだね。君はこの家の扉をノックしたけど、どうやってノックしたんだい?」
どうやって……手で軽く。
「どうしてノックしたんだい?」
どうして……インターフォンがなかったから。
「おっと、一気に自己認識が進んだね」
そうだ、■なのだ。
「ふむ、私もだいぶ君のことが認識できるようになったよ。君は間違いなく『人間』だね」
■=人?
ああそうか、ヒト、ひとだ。人間だ。
「けれど、まだ『個人』ではない。さあ、もっと君を絞り込もう。君は男? それとも女?」
…………男。
「
……日本人。
「歳はいくつ?」
32。
「よしよし、即答できるようになってきたね。もう少しだ」
カチリカチリと音を立て、自分が組みあがっていく。
褐色の人の質問が、パズルを組み立てるように、あるいは積み木を組むように。
曖昧だったものが明確に。
自分という存在が世界に組み込まれていく。
「身長は? 目の色は?」
170、鳶色。
「髪の長さは? 色は?」
黒で短い。
「……うん、ここまで自己認識できれば大丈夫かな」
俺のことをしげしげと観察して。褐色の女性はにこりと笑いながら言った。
「それじゃ最後に、君の名前は?」
「チセ? チセは女の子の名じゃ………ああ、ファミリーネームか」
女の子? チセは、女の子……
「あ、しまった、自己認識がズレた!」
ガキッと何かが折れたようなあるいは無理矢理に押し込んだような音がして、組み合わさった。
「トモカズ、君は男だ! 自分で言ってただろう?」
トモカズ……男。でもチセ、女の子。
変に組み合わさったまま、その上にどんどん自己が積み上がっていく。
「ああ、まずいまずい! このままじゃどこかで自己矛盾が生じて崩れる!」
焦った声を上げるが、もう遅い。この瞬間もトモカズという存在は組み上がっていく。
今から認識を正すことは、複雑に組みあがった教会の要石を無理やり引き抜くようなものだ。
何か、自己矛盾を矛盾と認識させない概念を組み込まなくてはならない。それもトモカズ自身が矛盾じゃないと納得できる方法で。
褐色の人の目の前で、チセ トモカズという個人がどんどん認識できるようになっていく。
手足は細く、柔らかな丸みを帯びており。夜を糸にしたような、さらりと流れる髪は首にかからないよう短く切りそろえられている。
だが同時に、矛盾を内包しているがゆえに存在が不安定で、ノイズが走るかのようにザリザリと姿が消えては現れる。
「──トモカズ君、男なのに女の子とはどういう存在かね!?」
男なのに女の子。それは──
気が付くと柔らかなベッドで寝ていた。
海が近いのだろうか、しずかなさざ波が聞こえる。
湿った磯の香りと、婆ちゃんの家のような古い木の香り、それと燃える炭の香り。
目を開けなくてもわかった。自分の家じゃない。
「……やっぱりな」
見知らぬ部屋、見知らぬベッド。
脇のテーブルには銀の水差しと、木製のコップが一つ。
上体を起こしてベッドの上で胡坐を組み、頭をがりがりと掻きながら昨日の記憶をたどる。
「昨日は定時で仕事が上がって、同僚と飯食いに行って……どうしたんだっけ? あー、酒で記憶が飛んだ? 飲んだ記憶ないけど、それすら飛んだか?」
酒で記憶を飛ばしたのなら、これで都合三度目だ。初めて飛ばしたときは、起きた時に一体ここは何処だと焦ったものだが、三度目となると焦りよりも、やっちまったという後悔で胸がいっぱいになる。
着ている服も記憶と違う。胃からリバースして盛大に汚したのを、着替えさせてくれたのだろうか。
「うわっ、よく見たらこのシャツ女物じゃん!」
まさか、酔って女性の世話になった? まさかまさか……やっちまった? そのくせ、記憶なし?
「いやいや、まだ卒業したとは限らん。いやむしろ俺なら何もなかったハズだ」
ほら、ベッドは乱れてないし、身体にキスマークもない。匂いは……わからないが、事後らしきティッシュやらもろもろなんかは何処にも無い。何より息子が無いんだから、できるはずがないのだ。
「……へ?」
思わず股を触る。
「ない……」
恐る恐る目で確認する。
「む、息子おおおおおおおぅぅぅ!!」
32年間、苦楽を共にした息子はそこには居らず、代わりにつつましげな娘がそこに居た。
「ああ、起きたか。なかなか起きないものだから心配………何してるんだい?」
嘆く俺の声が聞こえたのか、部屋に女性が入ってきて。
彼女は股を覗きながら嘆く俺をみて、訝しげに声をかけた。
「その、なんだ。すまなかった。まさかあんな一言で、あそこまで自己認識がズレるとは思わなかったよ」
窓際のテーブルで、二人向かい合って座る。
目の前で頭を下げている女性から色々聞いたが、誰かドッキリだと言ってくれ。
心底そう思う内容だった。
「あー、まあいいですよ、命の恩人みたいですし。生きてるだけ儲けもんって思うことにします」
知らないうちに境界というものを踏み超えたらしく、自己がぐちゃぐちゃになったらしい。
そのせいで形容しがたいモノになっていたところを、このラハブさんが助けてくれたようなのだが。
ぶっちゃけ説明されてもよくわからなかった。魔法や魔術の話をされてもさっぱりである。
これが常時なら、なんやこいつ危ない人やな関わらんでおこ、で終わる。
だがまあ、今は異常時なのでそうもいかない。なにより、
「そう言ってもらえると、ありがたい。それじゃあ、改めて自己紹介しよう。私はラハブ」
魔法使いでも、魔女でも、海の魔物でも。
好きに呼ぶといい。
そう言ってラハブさんは手を差し出してきた。
「
その手を自分とは思えぬ細くて滑らかで柔らかそうな手で握り返す。
そう、そうなのだ。
まったくもって馬鹿げていると一蹴できるような話を、蹴り飛ばせない理由がここにある。
いつもより低い身長。いつもより高い声。
いつもより長い髪。いつもより細い腕。
性転換手術とかホルモン注射とか、そんなチャチなもんじゃねえ。
もっと恐ろしく完璧なモノだ。何せ身長どころか歳まで若返ってるんだからな。
妹って言ったが、正確には中学生の時の妹だぞ。
そんなん、ありえんだろうが。俺の妹は三十路だぞ。
というかさぁ、よりにもよって妹かよ。そりゃ順当に考えればTSしたら、そりゃそうなるだろうけどさ。
赤の他人になるよりよっぽど自然だけどさぁ。
どうせなら美が付く方がよくない? いや、微なら付くか。
どこがって、顔だよ。
おい、今、どこに目をやった?
……はっ! いかん、既に思考が身体に引っ張られてる。
「ところで、ここは何処なんですか?」
窓から見えるのは、海と霧。それと、時折風に揺られる赤い旗。
孤島に建つ小屋といったところか。その孤島が何処にあるものなのかが皆目見当つかないから尋ねたわけだが。
「ここは霧の向こう側。何処にでもあって、どこでもない場所さ」
「はあ……? よくわかんないですが、魔法の不思議空間的なやつですか?」
「そんな認識で構わないよ」
何にもわからんかった。
それにしても、霧の島に住む魔法使いのラハブさんか。
………何か聞き覚えある、というか見覚えあるというか。
「あの、つかぬことを伺いますが……エリアスという骨頭の方をご存知だったり?」
「知ってるとも。もしかして、エリアスの知り合いなのかい?」
「知り合いではないですけど……そうですか」
異世界。
一言で言えばそれ。
剣と魔法と学園モノ……ではなく、ちょっとだけズレた現代。ちょっとだけ神秘が残った世界。
どうやらそこに迷い込んだ、らしい。
俺が知らないだけで世界には魔法があった、って方がずっとマシだった。だってさぁ、この姿さえ何とかすれば帰れるじゃん。
でも現実はそうじゃなくて、異世界転移、あるいはドリフト。
どうしてドリフトしたか原因は不明だけど、因果はあった。
ほっっっそい糸で、微レ存とでも言ってしまえるような。
ミジンコみたいな因果が、家の本棚に。
「ラハブさん、知ってること全部話すんで、お力を貸して……いや、助けてくれませんか」
「私に出来ることは多くはないけれど、これも何かの縁だ。出来るだけのことはするよ」
魔法使いの嫁。
生まれつき不思議なモノを見ることが出来た主人公が、その不思議なモノのせいで不幸になり、なんやかんやあって自暴自棄になって闇オークションで自分を売り、異形の魔法使いに嫁として買われる話。
いやそこまでは過去話か。買われた後のなんやかんやが本編。
なんやかんやが多い? そういうことを言う奴には、こう言ってやろう。
嫁。
間違った、読め。(ダイマ
こんな話を、実際はもっとずっと丁寧にラハブさんにしたのは、つまりはそういう事で。
「まさか、この世界が物語になってる世界があるとはね……」
「その漫画でラハブさん、エリアスさん、リンデルさんについて知りました」
「なんというか、ちょっと気恥ずかしいね」
ぽりぽりとラハブさんは頬をかく。
「それで、どうやったら帰れるでしょうか?」
「…………」
その質問にラハブさんは腕を組んで考える。
そうしてしばらく考え込んで出た結論は、
「すまないけど、私にはトモカズ君を帰してあげることは出来ない。君を帰す魔法も魔術も、私は知らないからね」
「そう、ですか……」
その答えに、思わず肩を落としてしまう。
漫画随一の強キャラ(っぽく見える人)がそう言うなら、無いのだろう。
そうか、帰れないのか。
うっ、いかん、涙がぽろぽろと……。
「ずびばぜん、涙ががっでに……」
「ああ、泣かないでくれ! まるっきり手が無いわけじゃないんだ」
「ずび………そうなん、ですか?」
「トモカズ君が読んでいた本は、沢山あるうちの一つなのだろう? 同じものを持っている人は沢山いたはずだ。なのに何故、君だけがこちらに来たのか」
なぜ?
……本が特別だった? 中古本屋で揃えたやつだぞ、そんなはずはない。なんなら、前の持ち主だっていたはずだ。
俺の生まれが特別なわけでもない。
俺の住んでいた場所が特別なわけでもない。
「きっとね、トモカズ君を喚び寄せたナニカがこっちにあるんだよ」
「俺を呼び寄せた、何か?」
「そう。案外、君の人生が物語になっていて、誰かの書架に入っているのかもね」
「は?」
いやいや、ごく普通の独身リーマンだぞ。
物語になるような事件も事故にも巻き込まれたことないし、ドラマチックなことなんて………日常系があったわ。
あれなら誰でも主人公ですわ。
「こっちの世界に俺の物語があったから、俺はこっちに来たってわけですか?」
「本なのか漫画なのか絵画なのか彫刻なのか、それはわからないけどね。それに、あるだけじゃ何も起こらない。それを触媒に、誰かが君を呼ぼうとしたんじゃないかな」
偶発的なのか意図を持って喚んだのか、それはわからないけどね。
そう言ってラハブさんはマグカップに口を付けた。
意図を持って喚ばれたとしたら、なんともはた迷惑な話だ。
呼び出される側のことを何も考えてないじゃないか。
大体、俺に会おうなんて酔狂にも程があると思うのだが。何か特別な力があるわけでも、面白いことができるわけでもないぞ。
「……その喚び出そうとした誰かを問い詰めれば、帰れますかね?」
「魔術によって喚びだしたのなら、その魔術を反転させれば出来ると思うけど……」
そっか、そうか。
よかった、帰れる。
はーっと息を吐き、掛けていた椅子に沈み込んだ。
あ、安堵したらまた涙が……身体に引きづられてるなぁ、俺。
「それで、トモカズ君はこれからどうするんだい?」
「探します。地の底までも」
「随分な覚悟だね」
言い過ぎかな?
……言い過ぎだな。多分、命かけてまでは探さない。
精々が地球の裏側くらいまでだ。
「でもどうやって探すんだい? 魔法も魔術も使えないんだろう?」
「……き、気合で」
「…………魔法、教えようか?」
「是非」
そんなわけで、魔法使いの弟子(仮)になりました。
もう既に魔法使いだって?
うるせぃ。
俺がこの世界に来てからしばらく経った。
日数が曖昧なのは許して欲しい。だってここ、時間感覚が曖昧なんだもん。日が二時間しか昇ってない時もあれば、まる三日出っぱなしの時もある。
ともかくしばらく経ったのだ。
その間、ラハブ師匠から色々手ほどきしてもらった。
畑の耕し方、魚の釣り方、庭の掃除の仕方、ハーブの手入れの仕方、料理の仕方に編み物の仕方。
それと、女性としての身の振り方とあれこれ。
覚えることがたくさんあって、毎日忙しくしている。
………あれ? 魔法教わってなくない?
いや、これは、あれだ。
下積みってやつだな、きっと。
畑の耕し方、魚の釣り方、庭の掃除の(ry のなかに魔法に必要なものがあるんだ。
よーし、今日も頑張るぞー!
まずは床の雑巾がけだな!
俺がこの世界に来てから結構経った。
前は日が昇った回数を数えてたけど、それも止めてしまったから、もうどれだけ経ったかなんてわからない。
ともかく結構経ったのだ。
それと最近は貴族ともコミュニケーション取れるようにテーブルマナーや社交ダンスも練習している。
ラハブ師匠はその辺あまり頼りにならないので、もっぱら先生は本になるのだが。
でもラハブ師匠からは本当に色んなことを教わった。
………魔法? そういえば、習ってないな。
まあまた今度でいいんじゃない?
ここ、時間とは切り離された場所だから、いくら過ごしても外では時間経ってないし。
正確にはどの時間とも繋がってるから、一分後だろうが一年後だろうが、あるいは数年前にだって出れるってだけだけど。
よーし、今日も頑張るかー。
ふんふふーん。
私がこの世界に来たのはいつだったか。
あまりにも長くここにいたせいで、そもそも何でここにいるのかも忘れちゃったわ。
もはや育てられない野菜は無いし、狙った獲物は逃がさないし、庭仕事は一級どころか人間国宝。ハーブどころかマンドラゴラだって育てられるし、料理は和洋中エスニックなんでもござれ、マントを編む時に見えないように防壁の魔法陣を十重二十重に仕込むのなんか朝飯前よ。
人類の言語はおおよそマスターしてしまったから、最近は異種族の言語を勉強しているわ。エルフ語や妖精語は割と簡単だったけど、龍語のようにそもそも声帯構造が違う種族の言語は中々難しいの。声に意思疎通の魔力を込めればコミュニケーションに言語理解なんか必要ないのだけれど、種族特有の魔法を使おうとするとそうもいかないからね。
まあ、半分以上私の趣味なんですけど。
そういえば、ラハブ師匠が『いい加減、ここを出てもいいんじゃないかな。十分すぎるほど魔法魔術に精通したし』と言っていたが、まだまだ師匠の足元にも及ばないと思う。
精々、影を踏めた程度かな。
そう伝えたら、『君、最初の覚悟はどこ行ったんだい?』なんてため息を
覚悟、覚悟ねぇ。私、何を覚悟してたんでしょう?
うーん、思い出せないわね。
そんなときは、これ。
えーっと、どこに仕舞ったかしら? 確かこの辺に……これじゃない…………ああ、あったわ。
これが私が魔導具を作れるようになって最初の作品、思い出し玉よ。どう、真っ赤で綺麗な宝玉でしょ。
これを使えば、記憶の奥底に眠ったものだって瞬時に思い出せるの。
どう使うのかですって?
こうやって、ぎゅっと握ると、
あ。
あああああああああああああああああああああああッ!!!!!!
思い、出したぁあああああッ!!!
そうだよ何やってるんだよ、俺ェッ!!
もとの世界に帰るための手がかり、ぜっっっんぜん探してないじゃん。何が『探します、地の底までも(キリッ』だよ、有言不実行にも程があるだろ。
地球の裏側なんて以ての外、そもそもこの小島から出てないし。
こうしちゃおれん、すぐに荷物をまとめて出発しなくては。
ししょー、ラハブ師匠ーぅ!
「なんだい? 新作のお菓子の味見かな?」
「あ、それは冷蔵庫の中で冷やしてるんで、二時間後くらいに食べてください」
って、そうじゃない!
「ラハブ師匠、いままで大っっ変お世話になりました。わた、俺は自分の世界に帰るため、手がかりを探しに行きます」
「おや……ようやく思い出したのかい」
「お恥ずかしながら……」
「そうかぁ。
「……時々、遊びに来ますよ」
失せもの探しの法を使えば、わりと簡単にここに来れるからね。
まあそれがラハブ師匠にとっての百年後か百年前かはわからないけど。なにせここはどの時代とも繋がってる場所だから、仮に忘れ物して十分で引き返したとしても、ここでは何十年経っているかもしれない。
「その時は、お土産を持ってきてくれると嬉しいな」
「もちろんです。ここでは手に入りにくい物持ってきますよ」
コーヒー豆とかね。
キリマンジャロとか絶対手に入らない。だって、ここキリマンジャロじゃないし。
日照時間がランダムすぎてうまく育たないし。
「それじゃあ、今日の夕飯は久しぶりに私が作ろうか。お祝いだよ」
「ホントですか! やった師匠のご飯久しぶり!」
「ふふっ、もうユウカの方が料理は上手いよ」
「師匠は師匠の味があるからいいんです」
「そうかい?」
「そうです!」
んー、楽しみだなぁ。
私が師匠のご飯で一番好きなのは、白身魚の包み焼きで、香草ときのこの香りがふわって香って…………はっ、いかんいかん、私に戻ってた。
私は俺、私は俺、私は俺………ヨシッ!
名前がトモカズからユウカになったけど、漢字は変わってないし身体に合わせただけだから、ヨシッ!(現場猫
「ところで、ここを出て行った後は何処に向かうんだい?」
「んー……イングランドですかね」
魔法使いの嫁という物語を因果としてこの世界に来たのなら、魔法使いの嫁という物語の舞台に、あるいはその傍に、俺を呼び寄せたナニカがあるはずだ。
ならその舞台として大半を占めるイングランドにそれがある可能性は高い。
それにほら、一ファンとしてチセの物語を覗いてみたいって気もある。
ああ、大丈夫。原作を壊す気はないよ。
「何言ってるんだい、ユウカが来たんだから物語は変わるよ?」
「へ?」
「有名じゃないか、バタフライエフェクトってやつ。何がどう変わるかはわからないけど、間違いなく変わるよ」
「そ、そこは世界の修正力とか運命力とかアカシックレコードとかが、こう、うまく……」
「無いよ。物語の変化は、例えばエリアスが家に帰るのに一歩多く歩くだけかもしれない。でも、その一歩があるいは大事な時の一歩で、何かが間に合わなくなるかもしれない」
「ま、マズイじゃないですか!?」
「そうかい? 未来がどうなるかわからないなんて普通のことじゃないか」
「そうですけどぉ!」
そうじゃないんですよ。
あの上手い具合に色々なものが噛み合って良い方向に転んだような物語が、物語通りに進む保証が無くなるのは大変マズイのですよ。
一ファンとして一大事なのですよ。
もし悪い方に転がったら、目覚めが悪いどころじゃないんですよ。
「……決めました。俺、エリアスの住んでる村に住みます」
んで、陰ながら応援します。
良い方向に転がりそうならほっとくけど、悪い方に転がりそうなら原作通りになるようセーフティネットを張ります。
あ、でも原作に沿うよう手を貸すのは時間制限付き。
具体的には、俺が物語の流れを知っている学園編の初めまで。
それ以降は知らないから、手を貸すか貸さないかはもう流れに任せる。
それより先に目的のナニカを見つけて、元の世界に帰れれば万々歳だけど。
「エリアスによろしくね」
「はい、引越し蕎麦持っていきます」
「……蕎麦の食べ方、知ってるかなぁ?」
よし段々方針が決まってきたな。
まずはイングランドに行って、エリアスが住んでる村を探す。
見つけたら、お隣……は近すぎるだろうから、同じ村の中に引越しして。
遠くからチセとエリアスの物語を観察しつつ、ナニカを探すっと。
「うん、忙しくなりそう」
「その割に、楽しそうだね」
「そうですね……正直わくわくしてます。ここに来てから代わり映えのしない毎日でしたから」
「うっ……悪かったね。そういう場所なんだよ、ここは」
「あ、いえ、師匠が悪いわけじゃないです! ただ、ちょっと、霧に飽きたというか……でも、ここは実家のような安心感がありますから! むしろ実家ですから!」
「フォローは受け取っておくよ」
しばらくラハブ師匠は肩を落としたままだった。
でも、夕飯の席には俺の大好物が沢山並んで。夜にはお酒を片手に思い出をツマミに、その日は遅くまで師匠と話をした。
「それじゃあ、行ってきます師匠」
「ああ、身体には気をつけるんだよ」
「師匠こそ、ちゃんと早寝早起き三食きちんと食べて下さいね」
「努力するよ」
「嘘じゃないですけど、真実じゃないですよね?」
「それが見抜けるなら、魔法使いとして一人前だね」
まったく、もう。
秘密と事実と真実を使い分けるのは魔法使いの専売特許だが、こんな時くらい本心を見せてくれてもいいのに。
「……行ってきます」
「行ってらっしゃい、我が弟子」
こうして俺/私ことチセ
潮の香りを嗅ぎながら、海の上を進む。
長い間歩いたような気もするし、あるいは一瞬だった気もするが。いつの間にか足元でしていた水音がなくなり、代わりにブーツが石畳を叩く音がした。
ふと顔を上げる。
知らない街で、知らない人たちが忙しそうに行き交っていた。
師匠以外の人を見るのはとんでもなく久しぶりで、霧以外の景色を見るのもとんでもなく久しぶりで。
何だか自然と涙が頬を伝った。
「っと、いけない。まずは今がいつか確認しなきゃ」
ゴシゴシと目元を袖で拭い、パンッと音を立てて頬を叩く。
気合十分。これから
近くを通り掛かった人の良さそうなおじさんに声をかける。
「すみません、今年って何年でしたっけ?」
「ん? ああ、ど忘れってやつか、よくあるよな。俺も最近歳が思い出せなくてなぁ……って、嬢ちゃんにはまだ早い気もするが。まあいいか、1914年の7月27日だよ」
「ありがとうございます」
礼を言ってその場を後にする。
第一次世界大戦の前日である。
物語は欠片も始まっていないのだった。
…………どうしろと?
申し訳ないですが、私は11巻までしか持ってないので、12巻以降の話で矛盾あったら、そっと優しく教えて下さい。
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いざイギリスへ
それと、申し訳なし。書いてる途中で三人称で書いてることに気づきましたが、時すでにお寿司。
直せないと踏んで、三人称で書き上げました。
部隊は森の中を進む。
カサリ、カサリと歩くたびに枯葉と朽ちた枝、それと生い茂った草々が音を立てる。
この先にある小さな村が目標地点だ。
山間に位置するその村は、戦略的に重要な拠点というわけではない。後続の大隊が進む予定のルートからは少しばかり外れているし、別段ここに敵の部隊が展開しているという情報もない。
しかしさりとて、無視するには勿体無い。
例えばその村で井戸を確保できれば、後続の大隊が持ち歩く水の量を減らせる。
無くても問題ないが、あったら楽。
そのため、彼ら一小隊が先遣隊として向かわせれた。
「隊長ーぅ、まだ着かないんっすか?」
「この森を抜けたら見えてくるって話だ」
「それ三十分前にも言ってたじゃないっすか。通信機重くて辛いんすよ」
「それが通信兵の仕事だろうが」
「せめて目安が欲しいっす。そしたらそこまで頑張ろうって気になりますから」
「ったく、仕方がねえな」
隊長と呼ばれた男は部隊に小休憩の命令を出した。
隣で通信兵の青年が座り込み水筒から水を飲む最中、自身は背負う
「ざっと一時間って所か」
「……ぷはっ、え? 何がです?」
「お前が後どのくらいか聞いてきたんだろうが、馬鹿者」
「ああ、そうでした。結構あるなぁ」
「だが敵軍が居るって話も無い。いやまあ、それの裏付けを取るのが俺らの仕事のわけだが」
だから、占領自体はスムーズに行くだろう。
できれば友好的に、水と食料と部隊が駐屯する土地を貸してくれればいい。ダメなら、小銃を向けることになるが。
「まあ頑張れ。着いたら報告の後で水浴びの許可をやる」
「そいつはイイっすね。最近身体が痒くてたまんなかったんです」
「ついでに洗濯もするといい。臭いぞ」
「それはみんな同じですって」
「違いない」
隊長は地図をしまうと、小休憩の終わりを告げた。
各々座り込んで休んでいた兵士たちは立ち上がり隊列を組み直すと、総勢三十二名の小隊は森の中を進み始めた。
村までの道はある。だがそれは舗装されているわけではないため、草や木や石で荒れており、時には倒木などが横たわっていた。
残念ながら、そのような荒地を進める軍用車を彼の軍は持ち合わせていない。
あったとしても、そもそも軍用車自体がまだまだ希少なため、末端の小隊は結局のところ歩くしかないのだ。
三十分も歩いただろうか。
急に森に霧が立ち込めてきた。
山の天気は変わりやすい。これもその一つだろうと隊長は考え、雨具をいつでも着れるよう準備するよう伝える。
幸いにも霧はそれほど深くはなく、前に進むには支障はない、
だが木々の隙間から見えていた山々が確認できなくなり、山の位置関係から部隊の位置を把握することはできなくなった。
隊長は地図とコンパスを背嚢から取り出し、こまめに確認できるよう懐に仕舞い込む。
更に三十分歩いた。
予定ではもうそろそろ森を抜ける頃だが、未だ先には森が続いている。
この霧のせいで辺りを警戒しながら進んでいるため、予定より皆の足が遅くなっているせいだろう。
だが、もう村は目と鼻の先のはずだ。
一度停止命令を出して武器の確認をさせて、部隊はより一層慎重に歩みを進めた。
すでに三十分歩いた。
おかしい、もうとっくに村に着いているはずなのに、未だに森を抜けられないでいる。
地図を開き、コンパスで方角を確認する。間違ってない。
ならば何故?
「隊長ぅ、もしかして迷いました?」
「そんなはずはない……と言いたいが。おい、お前も地図読めたよな」
「軍学校で一通り習いましたからね」
それを聞き隊長は地図を通信兵へと渡した。
「えーっと、ここまでは確実に進んでたっすよね」
「そうだ。このあたりで霧が出てきた。そこからは道なりに、コンパスで確認しながら進んだ」
「ちょっとコンパス貸してください」
通信兵は水平にした手のひらにコンパスを乗せ、その場でゆっくりと一回転する。
その間、コンパスは同じ方向を指し示した。
「コンパスは壊れてないっすね、多分」
「なら俺たちは地図上ではおよそこの辺、間違いなく村に着いているはずなんだが」
「道を間違えたとか?」
「荒れているとはいえ一本道だぞ、間違えようがない」
「取り敢えず、もう少し行ってみましょう。道はあるわけですし」
「……そうだな、そうするか」
そうして更に歩くこと三十分。
いまだ変わらぬ景色が続いている。
流石におかしいと隊長は一度全隊を止め、小休止を入れさせる。
その間に本部との連絡を取ろうと、通信兵に指示を出したのだが、
「変っすね、全然繋がらないっす」
「山間だから繋がり難いのか?」
「多少はあるでしょうけど、にしても繋がらないっす」
「敵軍のジャミングの可能性は?」
もしそうであれば、ここには間違いなく敵軍が居て、ジャミング機を置くほどの何かがあることになる。
この一小隊では荷が重い。
だがそれはないと、通信兵は首を横に振った。
「ジャミングだったら酷い雑音がしますが、むしろ雑音が無さ過ぎるくらいっす」
「……お前、もしや壊したんじゃ」
「い、いやいやいや、ちゃんと丁寧に運んだっすよ! 使い方だって散々叩き込まれたんっすから。なんなら取説の暗唱だってできるっすよ!」
「冗談だ。だがまあ、お前が悪くなくても、機械は壊れるときはあるからな」
「修理もできるっすけど……こんな敵陣の森の中ではやりたくないっすね」
通信兵の答えを聞き、隊長は顎に手を当て考える。
一分ほど考え込み、出した結論は帰還だった。
「いいんっすか?」
「地図が信頼できない上に本隊とも連絡取れん。一度帰って情報を再確認してから、もう一度向かえばいい。それほど遠い場所なわけではないしな」
隊長は小休止のために散っていた隊員を集合させ、転進を命じる。
せっかくここまで来たのにとぶつぶつ文句を垂れる隊員もいたが、そういう隊員は他の隊員に森で遭難することの恐ろしさを説かれていた。
そうして帰っていく部隊の背中を、一羽のカラスがじっと見つめていた。
「うん、賢明な判断だな」
そのカラスの瞳を通して、部隊が去っていくのを
そう、森に立ち込める霧も、妙に長い道のりも、通信機の故障も、すべてはユウカの魔法によるものである。
二つの地点の空間を繋いで道をループさせ、山々の位置からループに気づかれないよう霧を出し、ついでに霧に電波を吸収させて本隊との連絡を断った。
これならいくら進んでも村に着かないことから、遭難したと考えるはず。
森で遭難することの危険をわかっているなら、これで転進してくれるだろうと考えて。
そしてそれは狙い通りになり、今こうして部隊の背中を見ているわけである。
「もしまだ進むようだったらタチサレ…タチサレ…妖怪でも出そうと思ってたんだけど……御蔵入りかな」
『なんだ残念』
ユウカは部隊の後ろ姿が見えなくなるまで見送り、ようやくカラスの視界を切断し、安堵のため息を一つ吐いた。
正直、運が良かった。
道なりに進まないとループを仕掛けた空間を通らないから、もし地元のガイドを連れて獣道を通る近道を進まれたらどうしようもなかった。
あるいは強風が吹いて霧が飛ばされたらループもバレてただろうし、通信の妨害も出来なかった。
もちろん、他の手はある。
が、無血の条件を付けると途端に絞られる。
そのなかでも一番穏便な方法でお帰りいただけたのだから、双方ヨシと言っていいだろう。
「それじゃ、ありがとな」
『こちらこそ、中々美味しい魔力だったわ』
ユウカの隣でふよふよと浮いていた隣人と別れ、ユウカは村に戻る。
報告のため村長の家に向かえば、窓からこちらに気がついたのだろう、立派な髭を蓄えた村長が慌てた様子で出てきた。
「ど、どうですかな、上手くいきましたか?」
「バッチリです。ドイツ軍は帰って行きましたよ」
「おおっ! ありがとうございます、ありがとうございます!」
ユウカの答えに、村長は何度も何度も頭を下げた。
説得力を増すために声に魔力を含ませたとは言え、その感謝ぶりにユウカは若干引いてしまう。
「でもあの様子じゃ、明日にも戻ってきますよ」
「いえいえ、その一日の猶予が大事なのです」
それだけあれば、足腰の弱い老人でも十分な距離を稼ぐことが出来る。
目的は村の水源と食料だろう。
労働力ではないのなら、村人を追ってくることはないはずだ。
「何ぶん、ドイツ軍の占領下はそれはもう酷い扱いを受けると聞きますから」
その言葉にユウカは少しばかり首をかしげる。
盗み聞いた感じでは、向こうはわりと穏便に済ませようとしていた。
悪感情が先走っていて実態が見えていない気もするが、ユウカ自身も彼ら以外のドイツ軍がどうなのかはわからない。
まあ、あまり深く関わるわけでもなし。黙っておくのが一番だろう。
そもそもユウカがこの村に来たのだって、ただの通りがかりだ。
ユウカが師匠の元を離れ、霧から出た先は1914年7月27日のドイツ地方都市だった。
これはやばいと手持ちの貴金属を換金し、急いで旅支度を整えて出発したのだが、国境を越える前にドイツはロシアと開戦。国境が封鎖されてしまった。
それでも魔法を使えば人目を忍ぶことは訳ないので、こっそりと国境を渡りベルギーに入ったのだが。
なんと今度はベルギーと開戦。
村で一泊して起きたらドイツ軍が攻めてくるということで、村は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
列車や車がないため、てくてく歩いてイギリスに向っていたユウカは、あっという間に戦争に追いつかれたというわけだ。
ユウカは素性もわからない奴を快く泊めてくれた礼として、魔法のことは隠してドイツ軍の足止めを買って出たというわけである。
因みに、魔法が使えるのになぜ歩いていたかといえば、その答えは簡単。
ユウカは移動系の魔法も魔術も勉強していなかったからだ。
あの狭い小島では
こんなことなら移動系の魔法なり魔術なりを勉強しておけばと、真っ先に後悔したのである。
「して、ユウカ嬢はこれからどうするのですか?」
「西に向かうんですよね? あんまりこの辺の地理に詳しくないんで、ご一緒させて貰えたら嬉しいんですが」
「もちろんですとも。皆、準備できた者から順に村を発っていますから、彼らに着いて行くといい。私から口添えしておきます」
そう言うと村長は早速村の広場に向かい、出発しようとしている一家族に声をかけた。
ユウカが向かった頃にはもう話は終わったようで、その夫婦からにこやかに荷車に乗るよう勧められる。
礼を言ってから荷車に乗り込み、村長に振り返った。
「では村長さん、一晩お世話になりました」
「そんなこちらこそ。お陰で無事に皆が避難できます」
まだ避難できてないのは二、三家族。
それらが出発して、最後に村長も避難するそうだ。時間にして二時間程ユウカの出発より遅れることになるだろうが、それでも十分に余裕がある。
牛に引かれ、ガラガラと荷車が動き出した。最後に村長に手を振って別れる。
「……戦争かぁ」
話は聞いたことはある。本で読んだことはある。写真を見たこともあるし、映像を見たこともある。
けれど
それが今こうしてすぐ後ろに迫ってきているわけだから、何だか言葉に表しにくいモヤモヤしたものが胸の中で渦巻く。
「嬢ちゃん、あまり見ない顔立ちだねぇ。どこの生まれだい?」
そんなことを考えて空を見ていたら、同じように荷車に乗っていたお婆さんが話しかけてきた。
膝には孫だろう娘を座らせ抱いている。
「日本……アジアです」
「ほーアジアかい。知ってるよ、ずっと東の方だろう? よくもまあそんな遠いところから」
「そうですね……遠いです」
ホント、嫌になるくらい遠い。
「西へ向かってるんだって?」
「西というか、イギリスです」
「来た所も遠ければ、向かう先も遠いねえ」
「ええ、ですからこうやって乗せてもらえて助かります」
こういうときご老人の喋り癖はありがたく思う。
ただじっと黙って座っているのは、やっぱり何だか肩身が狭いものだ。
「ああそうだわ、ほら、自己紹介なさい」
そう言うとお婆さんは抱いていた孫を立たせて前に出した。
「……エリサ、です」
「エリサちゃんね。おいくつですか?」
「四さい」
「うん、えらいえらい」
手を伸ばして頭を撫でる。
エリサは一瞬ビクッと警戒したが、撫でるだけだとわかるとすぐにおとなしくなった。
っと、撫でていると気づいた。
「……エリサちゃん、夜寝るときに変なのが見えたりしない?」
「へんなの?」
「そう。黒くてまあるくて、うねうねしたやつとか」
「いる!」
「毎日いる?」
「うーんとね、えっとね、ときどきみるよ?」
「そっか、ときどきかー」
それなら、弱めの物でも大丈夫だろう。
ユウカは腰につけたポーチをごそごそあさり、桃の木を削って作った犬笛を取り出した。
犬笛の表面には細かい文様が彫刻され、革紐で首にかけれるようになっている。
それをユウカはエリサに手渡した。
「これなーに?」
「犬笛って言うんだよ。吹いてごらん?」
「───ッ! ───ッ! ……
「人間には聞こえない音がしてるんだ。実はね、あの黒い変なのはこの音が嫌いなんだ。だから、今度変なのを見たらこれを吹いてごらん。どっかに行っちゃうから」
「わかった!」
元気いっぱいに頷くとエリサは早速お婆さんに犬笛を見せびらかす。
お婆さんもそこで聞いていたのに、まるで初めて聞いたかのように驚き頷き、そしてエリサの頭を撫でた。
「ありがとうね。嬢ちゃんは
「魔法使いです。見習いですけどね」
「おやおや、可愛い魔女もいたもんだね」
お婆さんの方は多分信じてない。
ユウカを見る目がエリサを見る目と同じだから。
なんだか微笑ましいものを見るような目だ。
だが、エリサの方は違った。
「おねえちゃん、まじょなの!?」
目をまん丸に開け、瞳をきらきらと輝かせて。
エリサはユウカに尋ねる。
「魔女じゃなくて、魔法使いだよ」
「ほーきでおそらとべる!?」
「私はできないなぁ。師匠は出来るだろうけど」
「そうなの? まほーつかいなのに?」
ぐさり。
言葉の矢が、ユウカの心臓を貫いた。
「じゃあねじゃあね、どうぶつさんとおはなしできる?」
「あ、それはできるよ。ほら、いま牛さんがモーって鳴いたよね。あれは『いい天気だなー最近遠出してなかったから散歩できて嬉しいなー』って言ってるんだよ」
「わぁ! すごいすごいっ!」
無事に汚名返上。
エリサは手を叩いて喜び、ユウカも無茶振りじゃなくて良かったと胸を撫で下ろす。
嘘は言ってない。牛の感情をちょっと読み取っただけだ。
「エリサもまほーつかいになりたい!」
「おやおやまあまあ。エリサは魔法使いになって何するんだい?」
「ほーきでおそらとんで、どうぶつさんとおはなしして、お菓子いっぱい食べたい!」
「そうかい。嬢ちゃん、エリサは魔法使いになれそうかい?」
お婆さんもエリサの話に乗って、そんなことを聞いてきた。
さて、どうしたものか。
魔法使いは嘘をつかない。でも真実と事実と秘密はいくらでも織り交ぜる。
「エリサちゃんには魔法使いになれる才能が有るよ」
「ほんと!?」
「でもね、魔法使いになるにはいっぱいいっぱい勉強しなくちゃいけないんだ」
「うー……おべんきょう……」
「お花を育てたり動物の世話も出来なくちゃいけないし、お料理もお裁縫も出来なくちゃいけない」
「エリサできない……で、でもでも、がんばるから!」
「それじゃあ、これからお父さんのお願いを一つ、お母さんのお願いを一つ、お婆ちゃんのお願いを一つ、毎日欠かさずに叶えてね」
「まいにち一つ?」
「そう、毎日一つ。そうしたら皆の願いを叶えられる、幸せの魔法使いになれるよ」
「……わかった。エリサがんばる!」
「うん、えらいえらい」
両手をぎゅっと握り締め、エリサはふんすと気合を入れた。
そんな彼女がなんだかとっても可愛らしくて、思わず頭を撫でる。
それから念の為、内緒だよと言ってエリサに耳打ちする。
「もし、その笛を吹いても変なのが何処かに行かなかったら、その笛を壊してね」
「壊しちゃうの?」
「壊れたらわかるから。そしたらエリサちゃんがピンチだと思ってすぐに駆けつけるよ」
「やくそく?」
「……うん、約束だ」
ユウカはエリサの手を取り、二人の小指を絡ませる。
そして魔法使いにとっては大事な。
『指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーます。指切った』
「いまのなんのお
「約束を破ったら針を千本食べますって歌」
「キャー、こわーい!」
そう言ってエリサは笑いながら、お婆さんの腕の中に飛び込んだ。
空では鳥が鳴き、澄んだ空の青に白い雲。
木々は緑に生い茂り、風がそよそよを抜けていく。
そんな
すぐ後ろに迫る、激動の時代から逃れるように。
おかしい。
私はもっとコメディでおバカでゆるくてネタ満載な俺つええ的なテンプレものが書きたかったはずだ。
なのに、なんだ、これは………。
ばかな、どこに間違いがあった………。
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ブリュッセル
ところで私は世界史をローマ五賢帝までしか受けてないので、近代史はチンプンカンプンです。「時系列おかしいだろ」「この時代にそれは無い」と思った近代史マニアは、そっと歴史を教えてください。
直す努力はしましょう。「私には無理ぽ」と投げ出すかもしれませんが。
あ、タイトル変えました。あまりにも適当すぎたので。
ガタゴトガタゴト。
西に向かう荷車の上で揺られること一日半、大きな街に着いた。
ここで避難は終わりかと思いきや、どうやらこの街もドイツ軍の侵攻ルートらしく、今度は北に向かって避難するらしい。
近隣の村から集まった避難民は街で気休め程度の水と食料の配給を受けてから、ベルギー軍の先導の元、慌ただしく北へと旅立って行った。
俺の目的地は、フランスを抜けてドーバー海峡を渡ったイングランドの端っこに位置するカントリーサイド。ざっくり言えば西。
向かう先が違うため、エリサ一家とはここでお別れだ。
エリサちゃんは寂しそうにしていたが、最後は元気に手を振ってくれた。
去りゆく荷車から、エリサちゃんが楽しそうに歌う声が聞こえる。旅の道中、俺が教えた歌の中でもエリサちゃんお気に入りの一曲だ。
それが荷車が遠くなるに連れて段々と聞こえなくなるのが、なんとも物悲しい。
ドナドナなんて教えるんじゃなかった(ブワッ
まあ適当に翻訳して教えたから、内容は明るい旅の歌になってるんだけど。
それでもちょっと、日本人としては、ね。
……そういえば、三十年くらい時代を先取りした歌だな。まあそのうち忘れるでしょ。
ともかく。
ここからはまた徒歩での旅かぁ、なんて思っていたのだが。
なんとこの街、鉄道が通っていたのだ。戦時中のため民間人使用不可とのことだが。
……知ってますか?
バレなければ犯罪じゃないんですよ。
というわけでちょっと隣人のお力を借りて軍備輸送の列車に忍び込み、出発進行。
シュシュポポー、シュシュポポー、僕らのロコモーションである。
丘、森、山、川、それらが右から左へと流れていくのを車窓から眺める。向こうでは写真でしか見たことないような景色だ。
まだまだ見ていたい、流れ消えないでくれという思い。早く次が見たい、進めもっと先へという思い。矛盾してる二つが同時に胸の内に宿る。
ああでも、どうだろう。
ほんの少しだけ、先を思う心の方が大きいか。
そうして景色を楽しんでいたら、いつの間にか大きな駅に着いた。首都ブリュッセルである。
そこから先、更に西に向かう列車はあるようだが、発車までしばらくあるようだ。
せっかくだし観光でもしようと街に出たのだが、
「うぇ、なんだこりゃ!?」
なんか街全体が黒い煙で覆われていた。
え、なにこれ、大気汚染?
石炭ガンガン焚いたらこうなるの? 視界が十メートルもないんですけど。
だが周りをよく見てみると、人々は気にすることなく過ごしている。なんなら煙の向こう側にいる人に向かって手を振ったりしてる。
「…………あ、そうか。これ魔術由来か」
そうと分かれば話は簡単。
目の魔力感度をぐぐっと下げれば……おお、なんだ結構良い街じゃん。旅行番組でみたことあるヨーロッパって感じ。
それじゃあ観光でもと一歩を踏み出した時だ。
『ぐぇ……』
「ん? なんか踏んだ?」
潰れたカエルのような声が足元から聞こえた。右足に、何か柔らかいものを踏んでいる感覚もある。
だが足元を見てみても、何もない。
『じ、ぬ……おも……』
「悪い、今退ける!」
一歩後ろに下がり、踏んでいた何かから足を退ける。それに合わせて目の感度も元に戻した。
あっという間にあたりは黒い煙で包まれたが、足元にいた者も見えるようになる。
『マジ死ぬかと思ったぜ。ったく、どこに眼ェ付けてやがる』
「すまんすまん」
足元でプンスカ怒っている隣人に頭を下げる。
因みにどんな奴かというと、小さいおっさんだ。なんじゃそりゃと思うかもしれないが、背丈三十センチほどの髭面のおっさんだ。スーツ着て、わりと身だしなみはきっちりしている。
「ちょっと目の感度落としてたから見えなかったんだ。ほら、煙すごいじゃん?」
『煙だぁ? そんなチャチなもんじゃねえぞこれは』
ゴホゴホッと咳き込みながら、少しでも吸わないように袖口を口に当てて、おっさんは言った。
『
「み、みあすま?」
『知らんのか? ったく、最近の若いモンは……』
ぶつぶつと文句を言いつつもおっさんは教えてくれた。
『ミアスマってのは、簡単に言えば
「……それ、まずくない?」
『ったり前だろうが! だからワシがこうして出所を探してるんじゃねえか』
魔力を持つ者たちにとって、魔力とは即ち命と言ってもいい。
それが作れなくなるということは、血液を作れなくなるのと一緒だ、いずれ魔力が枯れて死ぬ。
それに魔力が乱されるとなれば、魔法魔術を使えないだけじゃなく、体調不良を起こしておっさんが言ったように倒れてしまう。
『妖精の国への避難は進めてるが、全員が避難するには、とてもじゃないが間に合わん。元凶を叩くしかねえのさ』
「はー、そういうことだったんだ」
『のんびりしてるがな嬢ちゃん、ワシが見えるってことは魔力持ちだろ。具合が悪く……なってねえな?』
「ああ、うん。この外套のおかげかな」
なにせ有り余ってた時間をふんだんに使って作った自信作だ。
『矢避けの加護、火除けのルーン、魔力防壁陣──おいおい、いったい
「わかんない。魔法も魔術も仕込めるだけ仕込んだから」
『なんつう……まあいい。確かにこれならミアスマを防げるな』
足元で俺の外套をしげしげと眺めていたおっさんだったが、急に決心したかのような顔になると、土下座せんばかりに頭を下げて言った。
『頼む嬢ちゃん、この外套を貸してくれねえか。こいつがあればミアスマを恐れず元凶に突っ込める』
「え、やだよ。貸したら俺が具合悪くなるじゃん」
『そこを何とかっ! 仲間の命がかかってんだ!』
「というか別に──」
『嬢ちゃんの魔力量ならすぐに命がどうこうってこともねえ。ミアスマが薄いところを教えるから、そこに居てくれればいい』
「あの、話を──」
『一日、いや半日でいいっ! このラバーキンの名にかけて絶対に返す。それだけじゃねえ、嬢ちゃんのために最高の──』
「話を聞けっ!!」
ようやくおっさんの話が止まった。
驚いたのか、目をまん丸に開いている。なんともコミカルな顔だ。
「あのさ、おっさん。確かに貸したくないって言ったけどさ、別に貸さなくてもいいじゃん」
『……ワシが平気なのは、ここがまだ薄い方だからだ。ミアスマを止めるにはどうしたって、濃いところに行かなきゃならん。今のままじゃ間違いなく片道切符だろうよ』
「だからさ、一緒に行けばいいじゃん」
『は?』
イマイチ飲み込めていないおっさんをひょいと手で持ち上げ、外套の中に入るように腕に抱く。
肩に乗っけて歩ければカッコイイのだけれど、それだと外套の効果範囲外だから、こうして猫を抱くようにするしかない。
「煙が濃い方に行けばいいんだよな?」
『お、おう……』
進むにしたって前が見えないのは危ないので、左目は魔力感度を下げて煙が見えないようにする。
何ともアンバランスな視界になるが、まあどうってことはない。
体験したい? 夜、予め左目だけを瞑って暗闇に慣れさせてから、部屋の電気を消せばいいよ。
どう、わかった?
大体そんな感じだから。
『……いいのか、嬢ちゃん?』
「まあここで見捨てるのは目覚めが悪いし」
『誰かが撒いたミアスマだ。それを止めるってことは、もしかしたら戦いになるかもしれねえぞ?』
「マジ? あー、その時は逃げるか」
歩く教会並に硬い
『戦わねえのか? この外套作ったってなら、相当腕が立つと見たが』
「いやダメでしょ」
腕があれば殴れるし足があれば蹴れるけど、じゃあやるかと言われればNO。
それはいけないことだと学び、教え、生きてきた。
平気で人を傷つけるような奴は、
『とんだ甘ちゃんだな』
「まあね。でも、それを良しとする時代が来るよ」
そう、百年後くらいにね。
てくてく、てくてく。石畳の上はコツコツ。
おっさんことラバーキンの指示のもと、大通りを抜け路地裏に入り住宅街を進む。
どこもかしこも煙だらけで嫌になる。
「なあラバーキン、あんたってもしかして
『おう、そうだな』
「レプラコーンを捕まえると黄金のありかを教えてくれるって聞いたことあるけど、今の抱き抱えてる状態って捕まえたことになんの?」
レプラコーン。有名なのはグリム童話の『小人の靴屋』だろうか。
夜な夜な素晴らしい靴を仕立て上げるというあれだ。
『黄金が欲しいのか?』
「いや、いらない。ただなんとなく気になっただけ」
確かにあって困るものじゃないけど、別に必要な物でもないし。
『そうか、それがいい。どうせ他のレプラコーンも銀行の地下を指差すだけだ』
「あー、やっぱり?」
『おうよ。それなら嘘じゃないからな』
レプラコーンは同時に悪戯好きとしても有名だ。
水辺でうたた寝してる人を水中に引きずり込んだり、
『言っておくが、ワシはしないぞ? クルラコーンやファー・ジャグルの奴らならするだろうが』
「なら安心だな」
『……さては嬢ちゃん、この状況をワシの悪戯と疑ったな?』
「一割くらいね」
そうして話しながら歩いているうちに、だいぶ煙が濃くなってきた。
おそらくこの先の大きな公園に、発生源があるのだろう。
「そういや、発生源ってなんなのさ」
『さあな。普通、ミアスマは空気が澱みやすい坑道や、墓場なんかでできるんだが』
しかしそれは吹けば飛ぶようなものだ。
ここまで濃く、街一つ覆うようなのはラバーキンも聞いたことがないと言う。
『注意しろよ? 何があるかわかりゃしねえ』
この辺はもう一メートル先も見えないほどミアスマの煙で真っ黒けっけ。
左目は緑あふれる綺麗な公園を映しているだけに、右目はとても残念な感じ。
慎重に一歩一歩進む。
っと、何か柔らかいものが足に当たった。下を向いて確かめる。
「……っ! 大丈夫か!?」
人だ。
左目には映っていないが、右目にははっきりと軍服を着た青年が倒れていた。
肩をたたき呼びかけるが、反応がない。すぐに息と脈を確かめる。
「よかった、生きてる」
『おいその服、近衛魔術師じゃねえか!?』
近衛、つまりは王直属を許されたエリートだ。
多分この人もこの煙の発生を止めるべくここに来たのだろう。
それがこうして敢え無く倒れているということは……
風切り音がした。
「っ!!」
反射的に横へ飛んだ。
直後、何か太いものがさっきまでいた地面へと叩きつけられ、土煙を立てる。
「おっさん無事!?」
『嬢ちゃんにしがみついてたお陰でな!』
ずるりと音を立ててそれは煙の向こう側へと引き戻されていく。
「おいおい、これどう見ても尻尾だろ?」
『ああ……どうやらとんでもなく大物みてぇだな』
あの青年は……よかった。当たってないみたいだ。ミンチにされたかと思った。
でもマズイな、相変わらず気を失ってる。
敵の気を引きつつ離れないと、巻き込まれて潰されてしまう。
落ちていた小石を拾い、敵のいるであろう方向に投げつけながら、青年から離れるように走り出す。
悪いけど、ラバーキンを抱えている余裕はない。胸元に自力でしがみついてもらう。
また風切り音がした。今度は横から。
倒れるように身をかがめると、真上を先ほどの尻尾が通り過ぎ、そばにあった太い木をへし折った。
木は轟音を立てて倒れ、行く手を阻むように横倒しになる。
「おいおいおいおい、
『バカ、脚を止めるな! 逃げろ!』
気づいた時には真っ黒い壁が目の前にあった。
あ、これ壁じゃない尻尾───
まるでボールでも蹴り飛ばすかのように、軽々と身体は吹き飛ぶ。
五十メートルくらいは宙を飛んだだろうか。その後はバウンドして、地を滑り、木にぶつかってようやく止まった。
激しく視界がブレたために目が回り、頭がくらくらする。
「ら、ラバーキン大丈夫?」
『い、生きてる……ワシ、生きてる』
咄嗟に庇う様に抱いたため、ラバーキンも何とか腕の中にいた。
『死んだかと思った、いやむしろ何で生きてんだ?』
「そりゃ外套のお陰だよ──いてて、あちこち
外套に仕込んだ物理防壁、衝撃吸収、その他諸々は問題なく効力を発揮したようだ。
いや、実は仕込んだはいいが、師匠のところじゃ敵なんかいないから試しようがなくて。だからこれはぶっつけ本番というか何というか。
「しっかし、質量の差は考えてなかったわ」
外套のお陰で尻尾を叩きつけられた衝撃は全て受け止めれたものの、そこから先、質量の差で押されて吹っ飛ばされてしまった。
例えるならバランスボールを抱えた力士に体当たりされた感じ。痛くはないけど、吹っ飛ぶよな。
『それでもとんでもねえ性能だな』
「師匠にも認めてもらった自信作だからな。それより尻尾であのサイズって、本体は何メートルだよ」
『わからん。が、相当だろうな』
「全体が見えなきゃ対策のしようもないか……」
だいぶ距離が開いたからか、追撃がくる様子はない。このまま逃げたいところではあるが、あの青年を見捨てるわけにはいかない。
起き上がってぱっぱと埃を払ってから、腰につけたポーチの中をあさる。
『おい、何やってんだ』
「なんか使えそうな物探してる」
流石にこの状況を予想して、予め対策魔道具を作ってるなんてことはない。
だが、何作ったか忘れるくらいには師匠の所で色々作ったから何かある……はず。
「妖精よけのお香、
『よくもまあ次々と、色んなもんが出てくるな』
「四次元ポーチなんて魔法使いの必需品でしょ。チセも持ってるし……愚者の鎖、相手は幽霊じゃないので没」
『やはり魔法使いか。だが噂でも嬢ちゃんのこと聞いたことないな。なったのは最近か?』
「そうだよ、まだ仮免ってとこ…………お、これは使えそう」
取り出したのは芭蕉の葉。大きいものは二、三メートルになるが、これは小さい五十センチ程度の物。
チセも浄化に
「ラバーキン、今からこの辺のミアスマ吹き飛ばすから、落ち着くまで捕まっててね」
『そんな便利なもんあるなら最初から使わんか!』
ごもっとも。
だからこれで挽回しなくちゃね。
芭蕉の葉を扇のように持ち、
ここは赤き大地。
行く手阻むは八卦炉の欠片落ちし火焔山。
芭蕉の葉を持つ我は、翠雲山住みし鉄扇公主。
なればこの手の葉は秘宝たる芭蕉扇。
みよ、ひとたび扇げば風が吹く。みよ、ふたたび扇げば雲を呼ぶ。みよ、みたび扇げば嵐舞う。
「吹けよ風、舞えよ嵐。燃え盛りし火焔山の
芭蕉の葉を大きく振るう。
精々が
振るう振るう振るう。
木々がしなって悲鳴のような音をたて、土や木葉が舞い上がる。当然、周囲を覆っていた
振るう振るう振るう。
乱れ吹いていた風が段々と揃い、公園を中心として渦を巻いていく。遠くから見ているものがいれば、突然真っ黒な竜巻が天へと伸びていったかのように見えただろう。
中にいる俺たちにとっては、黒い壁がせり上がっていくように見えたが。
『やるじゃねえか!』
「あまり長くは持たないけどね」
俺の魔力だけで起こしてるから、すぐに限界が来る。
だがこれならば周囲の
実際、竜巻に吸い込まれて薄くなってきている。
これなら左目も感度を上げて問題ない。やっぱり片目だと目測が狂うから、随分と動きやすくなった。
さて、鬼が出るか、それとも────
「……ラバーキン、この場合、蛇が出たって言っていいのかな?」
『それは、ちと失礼だと思うぞ?』
巨大な尻尾から予想はしていたけど、いざ目の前にすると二人して顔を引き攣らせてしまう。
そこにいたのは全身を宵闇に染め上げたような、全長三十メートルはあるであろう黒の
「俺、初めて見る」
『今じゃ減っちまったからなぁ。昔は割とどこでも居たんだが』
「その初めてがこれって、ないと思わない?」
だがそれも、本来であればの話。
地から生えた鎖が首に巻きついて繋ぎ留め、瞳がある所には虚ろな空洞。口は開かぬよう鋲で縫い付けられている。
肉は腐り溶け、腐敗によって生まれた泡が弾けてはそこから
明らかに。そう、明らかに、この竜は普通じゃない。
「
呪文難しい。模倣系にしたけど、あんまりまほ嫁っぽくない気がする。
あ、実は長いので分割投稿です。
次の話は一時間後に更新。
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切り札
そう、長すぎて分割したのです。流石に1話で1万3千字は多いかなって。
なので、更新されたお気に入りから飛んできた人は、一回前話にもどって確認したほうがいいかも。
そういえば、この小説の後に二つもまほ嫁二次が増えました。
大変喜ばしい。
『
ああ、聞こえる。怨嗟の声が。
意識して耳を閉ざさなければ気を持っていかれそうになる。
死してなお、いいや死したからこそ深く深く、濃く濃く、強い強い、憎しみ。
「誰がやったと思う?」
『さてな。だがこの国のモンじゃないだろうさ。自分の畑に毒を捲く奴はいねえだろ』
鎖を壊せば何処かに行ってくれるだろうか?
自由に暴れ回るだけな気がするし、例え何処かに行ったとして、それが人里離れた山奥である保証なんてない。それに、人里離れてるほど妖精や精霊たちに迷惑がかかる。
「せめてミアスマの発生だけでも止めれるといいんだけど……」
『竜を殺せば止まるだろうが、なあ?』
「雛ならまだしも、こいつは成体だ。
『だろうな』
それほどに竜というのは強力だ。
存在そのものが大きな力を持っているし、鱗の一枚、爪の一本ですらそれだけで強力な武具になる。
例え死していても、なんの準備もなしに戦いを挑むなんて、裸で冬のアラスカに行くようなものだ。
「とりあえず、まずはあの青年を逃がさないと」
あんなところで倒れてちゃ、いつ潰されてもおかしくない。
だがさっきのように近づいては、また尾で攻撃される。煙が晴れたため、今度は楽によけれるかもしれないが、それは一人での話。流石に大の大人を引きずってては出来ない。
考えろ考えろ。
あいつはどうやってこっちを察知している?
眼はない、つまり視覚ではない。なら嗅覚と聴覚か?
「……試してみるか」
ポーチから神楽鈴を取り出し、稲穂のように付いている鈴を取り外す。
本来は禊や祓い用に作ったのだが、音が鳴るならなんでもいい。大きく振りかぶり、青年とは離れた方へ投げる。
鈴は放物線を描いて飛ぶと、地面に落ちてリリンと澄んだ音を立てる────瞬間、竜の尾がそれを叩きつぶした。
続いて
「決まり、聴覚だな」
『鼻も潰されてるのか。哀れだな……』
聴覚ならば魔法で何とかなる。
取り出したるは紐で留めた紙の束。十枚ほど抜いて、残りはポーチにしまう。
『おい、何するんだ?』
「古来より、紙は式神にする一番手軽な触媒だろ」
紙に魔力を通して放り投げると紙がパタパタと織り込まれ、あっという間に折り鶴の式神となった。
ぱたぱたと回りを飛び回る式神たちに右腕をすっと伸ばしてやれば、腕を宿り木にしてさっと整列する。
よーしよし、いい子だ。紙で出来ていることそのものが弱点なのだが、それを引いても余る使い勝手のよさがこの式神にはある。本来は火炎を警戒しなければいけないのだが、今回に限っては口を封じられているためその必要もない。
先ほど外した鈴を一羽ずつ咥えさせれば準備オッケー。
「ラバーキン、今からこの子達が竜の気を引いてくれる。その間にあの青年を安全な場所まで下げるぞ」
『待ちな嬢ちゃん。念には念をいれるぞ』
ラバーキンは恐る恐る外套から外に顔を出し、吹き飛んだお陰でミアスマの影響を受けないことを確認すると、俺から飛び降りる。
そして何事かを呟きながら、靴の先でトントンと地面をノックした。
『よし、これでワシ達の気配が薄くなった。だが完全じゃない、わざと騒いだりするなよ?』
「サンキュー、助かるよ」
『なに、一蓮托生よ』
「そうだな。それじゃ行くぞ!」
それっ、と腕を振り、式神たちを飛び立たせる。
それぞれが咥えた鈴がリンリンとけたたましく鳴りながら、式神は竜の元へと飛んでいく。
竜はそれを潰そうと尾を、爪を振るうが、式神はそれをひらりひらりと
『性格悪いな……』
「失礼な。効果的と言って欲しいね」
竜が式神に煽られている隙に、二人してこそこそと青年に近づく。
ドシンドシンと音がしている中で青年は未だ気を失っていた。ちょっとやそっとじゃ起きれないほど危険な状態だということなのか、それとも単に図太いのか。まあ前者だろうな。
青年を仰向けにしてラバーキンに足を持ってもらい、自分は両脇に腕を入れる。
一、二の三で持ち上げようとするも、
「うっ、重い……」
だめだ、全然持ち上がらない。女の子になった弊害だ、素のパワーが足りてない。
ちらりと竜の方を見ると、式神が七体に減っていた。あまり時間はない。
持ち上げるのは諦めて、ずりずりと引きずる。
ああもう、どうしてヒトってこんなに重いんだよ。
何とか竜から離れ、茂みに青年を隠した時には汗びっしょりになっていた。
竜の方は……式神がもう二体しか、あ、落とされた。
残った一体を手元に戻す。竜は相当苛立っていて、尻尾で地面をバシンバシンと叩いている。
「ふう……何とかなったな」
『ああ。だがここからどうする?』
もうじき芭蕉扇の効果も切れる。もう一回できなくはないけど、それをやると俺の魔力はほぼ空っぽになってしまう。
魔法を使うときに周囲の魔力を取り込めるのが魔法使いではあるが、自分の持ち出しがゼロのわけじゃない。特に大規模の魔法や、隣人の力を借りない魔法は、それだけ持ち出しが多くなる。
魔力切れの俺なんて、ただの少女だ。見栄を張ったって微少女止まり。
竜をどうにかするなんて、できるわけがない。
「芭蕉扇の魔法が切れる前に決めるしかないよな」
『手はあるのか?』
「……ラバーキンは?」
『…………ねえな』
「それでどうやって止める気だったのさ……」
『うるせぇ、屍竜が出るなんて予想できるか。人間程度なら何とかする手段はあったが、全部パーだ』
まあそうだよね。
…………仕方がないかぁ。
まさか師匠の元を出て、こんなに早く切り札を切ることになるなんて。知ったら怒るだろうな……いや悲しむか。使うなって、口を酸っぱく言われてたし。
「……ラバーキン、屍竜って生きてるって思う?」
『いいや思わん。動いてようが、恨みという意思を持ってようが、あれは死んだものだ』
「うん、なら
『そりゃ構わんが……何する気だ』
なら、それができるものになる。
そのために────
「ちょっと
ラバーキンと青年から離れ、竜と対峙する。
大丈夫、大丈夫。俺は俺、チセ
芯を失わなければ、自分を見失わなければ、きっと元に戻れる。
大きく深呼吸して、
腕の認識を外し、脚の認識を外し、瞳の認識を外し、ヒトという認識を外す。
年齢も、身長も、体重も。自分を構成するモノを外して外して外して。
そうして最後には、「自分はチセ トモカズである」という柱だけを残して、全てがバラバラになった。
腕は、どんな物でも引き裂ける力強いものを。
脚は、どんな重みをも支えれる強靭なものを。
瞳は、敵を見失わない千里を見通せるものを。
翼は、流星の如き速さで天空を渡れるものを。
かちりかちりと組み上がっていく。
そうだ、俺はチセ
チセ
龍だ。
『■■■■■■■■■■■■ッ!!!』
『な、な、はあああああっ!?』
腕、よし。脚、よし。AGIT■、よし。
うまくいった、今の俺は白龍だ。
これならいける。■には■を、ってやつだ。
『嬢ちゃん、竜人だったんかっ!?』
『違う。ちょっと■■を組み■えた』
視点が高い。当たり前か、龍だ■の。
違う違う、当たり前じゃない。普段はもっと■い。
っ、ダメだ。余計なこと考えるな。
じゃないと■に自己を塗■つぶさ■る。
『■バーキン、下■って■。■き込ん■ゃうかも■れ■いから』
『あん? 何だって?』
くそ、思ったより侵食が早い。
もう長くは喋れない。
『下がって、早く!』
『っ! おう!』
ラバーキンが避■するのを■■している余裕■ない。
身体を沈みこませて力を溜め、地を蹴った。
引き絞っ■弓から放たれた矢の■うに、一直線に屍竜に向かって突■する。
『■■■■■!』
『────ッ!!』
■■かり、組み伏せ、首に噛み付く。
屍竜もただではやられない。■でこちら叩き、振るわれた鉤爪で腕に■に傷を負う。
ゴキリと音がして、確■に首の骨を噛み砕■■。だが屍竜は平然■している。いいや、何も感■て■ない。
『■■なら!』
右腕に力を込め、一閃。
伝説の■■にもなるその爪は屍竜の鱗と■を易々と■■裂き、屍■の右腕■切り飛ば■た。
これで少しは──ッ!
『再■……ッ』
傷口■泡立っ■■と思え■、ズルリ■腕■生え■■た。
『地脈から力を吸ってやがる!? 一撃で消し飛ばせ嬢ちゃん! いくらでも再生するぞ!!』
ああくそ、■■■■ことか■。
なら■■■しかねえ。それにはこの鎖が■■だ。
鎖を■み、■■に■■■ぎる。どうやら■■を■■ぎ止めること■特化■■■■せいか、■■■■と壊れ■。
手には■、繋■■■は■竜。
『■■■■■■』
翼■広げ、飛■■がる。■■は抵抗■■■鎖で■■れ、そ■身体は宙■■浮■た。
五十■■■■ほど■高さで■■■■■、■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■。
■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
『しっかりしろ!! 負けんじゃねえ!!』
『──っ!!』
あぶねえ、飲まれかけてたっ!
そうだ、俺は白龍じゃねえ。今だけの仮の姿。
さっさと決めて、■に戻る!
身体に絡みついていた屍竜を蹴り飛ばすように引き剥がすと、落ちる屍竜の鎖を掴む。
さあ気分は室伏、狙うは■メダル!
ブォンブォンとハンマー投げのように振り回し、天高く鉛直に屍竜を投げ飛ばす。
反動で俺は地面へと吹っ飛ぶが、好都合。
ズドンと地響きを上げて着地し、天を向いて屍竜を視界に捉える。
『屍竜よ、
大地を両脚で踏みしめ、地脈から力を吸い上げる。
『
腹でそれ溜め込め純化し、
『迷わず進め』
■で指向性を与え、
『■■■■■■■■ッ!!』
天に向かって吠えた。
限界まで開いたアギトのその奥から、
黒い竜巻は弾けとび、天に光の柱が立つ。
屍竜は自ら飛び込むようにして、光に飲まれた。まるで帰る家が見つかった迷子の子供のように。
時間にして数秒にして、ブレスは屍竜を欠片も残さず消し去った。
バチンとアギトを閉じ、ブレスを終わらせる。
『
口の中を火傷しちまった。こりゃお醤油がしみるぞ。
『締まらねえなぁ……』
『いいんだよ下手の方が』
だって慣れてないってことは、本来の姿じゃないってことだろ?
『なあ嬢ちゃん、その姿は一体何なんだ?』
『あー……俺、
それをラハブ師匠が組み立ててくれたお陰でヒトに戻れたのだが、少々失敗して矛盾を抱えたまま組みあがってしまった。
本来ならその矛盾のせいで、また自己がバラバラになるかもしれないという爆弾のようなものなのだが。
『逆に考えれば、矛盾を起点に自己を組み直せるってことじゃん?』
俺がヒトなのは、俺がヒトとして組み上がり、この
じゃあ、俺がヒトではない何かとして組み上がったら?
『ご覧の通り、
『…………なんつう、無茶苦茶な』
『まあ長く変身してそれが当たり前って認識しちゃうと元に戻れなくなるから、正直最後の手段だよね』
というわけで、さっさと元に戻るとするか。
腕を、脚を、鱗を
ヒトとしての姿を、チセ
「──っ、んんっ! あーあー、アメンボ赤いなアイウエオ。ヨシ!」
『お、戻っ……おい』
あれ、なんか違和感……げっ、翼が残ってる!
『何が「ヨシ!」だ。思いっきり失敗してんじゃねえか』
「やっべ! んんっ…………ダメだ、すぐには戻んねえや」
ちょっと急いで自分を組み立てすぎたみたいだ。まだ自分が龍だという認識が残っていた。
ただあまり強い認識じゃないようだから、時間かければ元に戻せる。
『ったく、まあいい。ありがとな嬢ちゃん。お陰でこのミアスマも消えてきた。これで逃げ遅れた仲間たちも助かる』
「そうじゃなきゃ困る。こんなに身体張ったんだから」
発生源が無くなったため、
何だか、ちょっと手伝うだけのつもりが、随分なことに巻き込まれてしまったな。
『礼といっちゃなんだか、最高の靴を作ってやるよ』
「いいのか?」
『むしろやらせてくれ。恩人に何も返せないんじゃレプラコーンが
「じゃあお願いしようかな……あ、でも俺、もうすぐ此処を発つぞ?」
フランスのリール行きの列車に
その後は乗り換えして、ドーバー海峡の街のカレーってとこに向かう。
『何っ!? ワシも連れてけ! もしくは足を置いてけ!』
「足は置いてけねえよ!? まあ、付いて来るなら止めはしないけど」
そういえば、今
ポーチから懐中時計を取り出して確認する。
「っ、五分前じゃねえか!」
『どうした?』
「急げラバーキン、列車が出ちまう!」
『列車って、あの鉄の塊に乗るのかよ!?』
「嫌なら来なくていいぞ」
妖精は鉄が嫌い、というか触ると傷つくから無理する必要ない。
だがラバーキンは嫌そうな顔をしたが、付いてくることに決めたようだ。
ラバーキンから外套とポーチを受け取り、身に付けていく。
翼が邪魔で外套を着るのに手こずっている時だった。
「……うっ、私……は……」
「お、気がついたか青年」
近衛魔術師が目を覚ました。身動ぎをし、ぼんやりとだが目を開ける。
さっと身体を魔法で見るが、魔力が不足している以外、問題なさそうだ。
「ミアスマの元凶は倒した。もう大丈夫だぞ」
「つば、さ? 君……は……」
「俺? そうだな……通りすがりの仮面r『ピイイイイイイィィィ!!』汽笛っ! 走るぞ、ラバーキン!」
『あ、おい、置いてくな!』
じゃっ、と軽く手を上げて青年に別れを告げ、駅へと走る。
遅れ気味のラバーキンは、途中で小脇に抱えた。
認識阻害の魔法をかけて背中の翼を誤魔化し、街を全力疾走。駅に着いた時には列車はもう動き出していた。
走って追いかけ、ホームギリギリのところで飛び乗る。
そんな風に慌てていたから、気付かなかった。
「屍竜を滅する者が居るとは……シュリーフェン・プランを見直すよう進言しなくては」
屍竜を街中に出現させた者の視線と、
「……天使だ…………」
青年が呟いた言葉に。
時代はうねりを上げ、全てを飲み込んでいく。
戦争はもう、
やっと俺つえええできた。
あらすじ未達を解消できて満足。
エリアスとチセに早く絡みてえ。主人公と絡まないとかまほ嫁二次名乗っていいのか不安になる。
「そのとき不思議なことが起こった!!」で百年後にならないかな……
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