最強ユウリちゃん(ただし恋愛弱者) (レイトントン)
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ユウリちゃんトレーナーになる

 ガラル地方、ハロンタウンには一年ほど前に引っ越してきた。近所に住むホップという少年と、ユウリはよく遊んだ。

 ホップは兄に、ガラル地方のチャンピオンであるダンデを持つ。絶対無敗のチャンピオン。最強の男、ダンデ。ホップは彼のことをよく話題にしたし、彼の試合の動画をよく見せてくれた。あまりポケモンバトルのことはよく知らなかったけれど、ホップが嬉しそうにしているので、ユウリもそれに合わせて試合を楽しんだ。

 ダンデとは直接会ったことはない。チャンピオンというのは、それだけ忙しいのだろう。だが、ホップは電話でよくユウリのことを話しているらしい。なんだか照れ臭い気持ちになる。

 

 ユウリはまだポケモンを持っていない。ホップはウールーというポケモンをパートナーにしていて、よく触らせてもらっていた。ポケモンというのは可愛らしく、愛着も湧くが、なかなかきっかけが見当たらず、また強いてパートナーにしたいポケモンもいなかった。

 そんな折、ホップからメッセージが届いた。なんでも、近く兄のダンデがハロンタウンに帰ってくるらしい。帰省ついでにホップと、なんとユウリにも大きなプレゼントを持ってくるのだという。まだ会ったこともないのにそんなものを貰うのは気が引けるが、ホップはノリノリだ。

 

「ダンデさん、一体なにをくれるんだろうね」

「きっとジムチャレンジの推薦状だぞ! 俺とウールーでアニキに挑戦するんだ!」

「ホップ、ずっとお兄さんとバトルしたいって言ってたもんね」

 

 ホップは、よくダンデの部屋に入っては、ポケモンバトルの専門書であったり、兄の残したメモなんかを読み漁って、着実にポケモンバトルの知識を増やしていた。ユウリもそれによく付き合わされ、バトルについて詳しくなってしまったものだ。

 

「ああ。アニキは俺の目標だからな!」

「できるといいね、バトル。私、応援してるよ」

「ありがとうユウリ! でも、俺はユウリともバトルしてみたいぞ!」

「私と?」

 

 ユウリは心底驚いた。

 

「私、まだポケモンを持ったこともないよ?」

「そうだな。でも、一緒に試合を観てる時、トレーナーの意図をよく読んでるだろ!」

「そうかな」

 

 たしかに、ホップと一緒に動画を観てる時は、ふと思い付いた意見や、こうしたらどうかという戦術を話してみると、ホップは感心したように頷いていたのを思い出す。

 けど、あくまで素人の意見だ。実際のバトルは、そんなに甘くないだろう。

 

「ユウリはいつポケモンを持つんだ?」

「まだ、その予定はないかな」

「はやくユウリとバトルしてみたいぞ!」

 

 あはは、とユウリは苦笑いでその場を誤魔化した。しかし、ホップのその願望は、すぐに実現することとなる。

 

 ダンデが帰ってきた。

 ホップと話題を合わせるために、またダンデとの挨拶の準備として、彼のエキシビジョンマッチを観た。対戦相手は、ガラル最強のジムリーダー、キバナだ。

 彼も相当な実力者だが、ダンデの実力は圧倒的だ。

 

 ギガイアスの攻撃は、ギルガルドに防御されてしまう。シールドフォルムとブレードフォルムを巧みに使い分け、ダンデは終始キバナを翻弄した。彼の絶対的エース、リザードンがジュラルドンを倒したところで、勝敗は決した。

 いつも通りの勝利だ。

 ホップにはどう話題を振ろうか、そう考えていると、まさにそのホップから声をかけられた。お隣さんで、仲がいいこともありどちらも家に自由に出入りできる。

 

「新しいスマホか? アニキの試合観てたのか」

「うん。スマホロトム。お兄さん、また勝ったよ」

「そうだろそうだろ! なんたって、アニキだからなー!」

 

 ホップは嬉しそうだ。その無邪気な笑顔を見ていると、なんだかこっちまで嬉しくなってくる。ユウリは促されるまま身支度を整え、母にもらった大きめのバッグを背負い、ホップの後を追った。

 

 ダンデは、ブラッシータウンの駅でギャラリーに囲まれていた。ちょっとした帰省でこれでは、まるで心が休まらない。チャンピオンというのも大変だな、とユウリはどこか他人事のように思った。

 ホップと話していたダンデは、ユウリに目を向けた。

 

「君がユウリだな。ホップからよく聞いているよ」

「はじめまして、チャンプ。私も、いつも試合観てます。ホップと一緒に」

「そうか、ありがとう! 俺のリザードンの勇姿も見てくれたんだな」

 

 自分のことよりポケモンのことか。ホップの兄だけあり、好感の持てる人物だと思った。

 ダンデは、ユウリとホップを連れて自宅へと戻った。彼の言うプレゼントとは、なんとポケモンだった。ガラル地方の初心者用ポケモン。ヒバニー、サルノリ、メッソンの3匹の内、1匹を選んでも良いという。初心者はポケモンを育てるのも大変だから、まず1匹を選ぶと良い、との気遣いだ。

 

「ホップ、どうする?」

「ユウリが先に決めて良いぞ! 俺にはウールーもいるからな!」

 

 ホップに先に決めさせてあげたかったが、本人がそう言うなら仕方ない。ユウリは、ポケモンの様子を見た。

 メッソンは周囲の様子に怯えているようだ。まだあまり外の世界を知らないからだろうか。いや、それとは別に人見知りする性格なようだ。

 サルノリは元気いっぱいだ。早速木に登って、手に持つ棒の感触を確かめたりしている。少し自分勝手な様子もあるが、まだ小さいしこんなものだろう。

 ヒバニーは、ホップ宅の庭を駆け回っていた。好奇心旺盛なようだ。目の前のものに夢中になってしまっている。

 

 誰が良いだろうか。

 ポケモンバトルには、正直さほど興味はない。だが、ホップのことだ。ユウリがポケモンをもらえば、バトルをしてみようと言い出すのは目に見えている。たとえ今日我慢できたとしても、明日にはバトル欲が沸いていることだろう。

 バトルに忌避感のあるポケモンは意外と少ない。が、やはり得手不得手、向き不向きはある。

 

「この子にします」

 

 その点、ユウリ目線では、ヒバニーが最もバトル向きの性格をしているように感じた。

 

「ヒバニーか。良いポケモンだぞ! じゃあ俺はサルノリを選ぶぞ」

「そうか、ならメッソンは俺と来るといい」

 

 チャンピオンのポケモンになれるとは、メッソンは得をしたな、とユウリは思った。

 たしか、ダンデの手持ちには水タイプポケモンはいなかったはずだ。バランスも良い。

 

「3体のポケモンが、3人のトレーナーのパートナーになった。記念すべき日だ、お祝いしなきゃな」

「じゃあ、うちの庭でバーベキューするぞ!」

 

 兄がいるからか、ホップはどうも興奮気味だ。いや、いつもこんな調子だったか。

 とはいえ、ユウリもホップの家で食べるバーベキューは大好きだ。異存はない。

 

 夕食はホップの家族、ユウリの家族で、新たなトレーナー、パートナーの誕生を盛大に祝った。その後、ユウリは自宅の部屋でヒバニーと話していた。

 本当はホップとサルノリも一緒に、と思ったが、久しぶりのダンデの帰省だ。家族水入らずを邪魔するのも無粋だろう。

 

「ヒバニー。これからよろしくね」

 

 その晩はヒバニーと触れ合って過ごした。ヒバニーの体温、性格、好きなもの、嫌いなもの……それを少しずつ知っていった。

 翌朝には、ユウリとヒバニーはすっかり仲良しになっていた。

 今日はどうしよう、とヒバニーを撫でながら考えていると、部屋の窓からホップとダンデの姿を見つけた。窓を開けて声をかけると、ホップはユウリに降りてくるように求めた。

 

「ポケモンももらったことだし、バトルしようユウリ!」

「うん、いいよ」

 

 外に出て、開口一番に予想通りの言葉だ。この1年で、ホップとはすっかり仲良くなった。このくらいの予想は朝飯前だ。

 

「よし、なら審判はおれが務めよう。ユウリはポケモンを1体しか持っていないし、1対1のバトルでいいな?」

 

 ユウリとホップは頷いた。

 ユウリにとっては人生ではじめてのポケモンバトルだ。多少の緊張を覚える。それを見てとったのか、ホップはユウリに笑いかけた。

 

「大丈夫だぞ、ユウリ! 俺と一緒に、兄貴の試合を観て勉強してきたじゃないか! それに、バトルの時は1人じゃない。ヒバニーと一緒だ!」

 

 ホップの言葉を受け、思わず足下のヒバニーを見た。ヒバニーはにこりと笑い、口もとから白い歯が覗く。

 その姿に、なんだか安心感を覚える。肩の力が抜けた。

 

「ありがとう、ホップ、ヒバニー。お陰で緊張が解れたよ。でも、手加減はしないから」

「ユウリはそう言うとほんとに手加減しないからな。まあ、してほしいわけでもないけどな!」

「うん、知ってる。それじゃあ、やろう、ヒバニー」

「よし、いくぞサルノリ!」

 

 はじめてのポケモンバトル。

 ほのおタイプのヒバニーと、くさタイプのサルノリ。相性は断然、こちらが有利だ。

 

「ヒバニー、ひのこ!」

 

 ヒバニーは口から小さな火炎を飛ばす。サルノリにあたると、大きなダメージを受けたようだった。

 

「さすがだぞ! タイプの相性をバッチリ分かっているんだな!」

 

 ストレートな褒めかたに、思わず口角が上がる。

 

「うん。くさタイプはほのおタイプに弱い、だったよね」

「その通りだぞ。相性は俺たちの方が不利だな。でも、勝つのは俺たちだ! 行くぞ、サルノリ!」

 

 サルノリはトレーナーの想いに応えるように、唸り声をあげる。

 

「サルノリ、えだづきだ!」

 

 サルノリが持っている木の枝で突きを放つ。鋭い一撃は、しかしヒバニーを捉えることはなかった。

 ヒバニーはひらりと身をかわし、サルノリにたいあたりを仕掛けた。

 

「なにっ!?」

「ヒバニー、もう一度ひのこ!」

 

 畳み掛けるような攻撃。サルノリはたまらず戦闘不能になった。

 

「サルノリは戦闘不能だな。この勝負、ユウリとヒバニーの勝ちだ!」

 

 ダンデの裁定が下り、ユウリはヒバニーを抱き寄せる。ホップの方も、よく頑張った、とサルノリを褒めてあげている。しかし、それはそれとして、ホップは複雑そうな表情だ。

 

「そんな、一回も攻撃が当たらなかった……ユウリとヒバニー、強すぎるぞ」

「ふふっ、ちゃんと勉強してた成果が出たね」

「勉強?」

「うん。昨日、今までホップと勉強したことを、ヒバニーと話してたんだ。サルノリはえだづきって技を使ってくるから、もしそれが来たらこうやって躱そうね、って決めてたの」

 

 そうなのか! としてやられたように唸るホップだったが、審判を務め、それぞれの様子を見ていたダンデは、ユウリのトレーナーとしての才覚に舌を巻いていた。

 前日にポケモンと作戦会議をしていた。言うのは簡単だし、実際に多くのトレーナーがしていることだ。しかし、それを出会って1日のポケモンと行い、なおかつ初めての実戦で完璧に通して見せた。普通なら、ポケモンの動きにぎこちなさが出たり、トレーナーの指示に対して動きが遅れたりするものだ。

 しかし、事実はどうだ。ヒバニーは滑らかとも言えるような動きで攻撃を避けて、なおかつ攻撃でできた隙にひのこを叩き込んだ。これが初めての勝負だと聞いても、誰も信じられないだろう。

 この結果を引き起こした要因を、ガラルのチャンピオンは見抜いていた。

 

(ユウリとヒバニーが、ただの1日でそれほど絆を深めた……? いいや違う。調整したんだ。ヒバニーの体が付いてくる指示に)

 

 ポケモンバトルにおいて、トレーナーとポケモンの絆は何より重要視される。何故なら、互いの考え、能力、性格、好み、癖といったものを理解していれば理解しているほど、トレーナーの脳内の動きと、ポケモンの動きにブレがなくなっていく。

 トレーナーの指示がどれだけ優れていようと、ポケモンがついてこられなければ意味がないし、逆もまた然り。トレーナーのイメージが貧困であったなら、ポケモンの動きを制限してしまうことになる。

 だが。

 ユウリは、彼女にとっての理想の動きと、ヒバニーにとっての理想の動きを、完璧に一致させた。

 それも、たったの一晩でだ。

 絆を深めたわけじゃない。いや、そういうと語弊がある。深めはしたのだろう。しかし、あれだけの動きを、一晩の付き合いで引き出すのは不可能だ。

 ヒバニーの能力を完全に理解し、100%の能力を引き出した、ユウリの実力はダンデでも底が知れない。

 

 ぶるっ、と、ダンデは思わず肩を震わせた。

 これほどの才覚を持つトレーナーは久しぶりに見た。

 

「アニキ? どうしたんだ?」

「いや、なんでもない。それより、良いバトルだったぞ、2人とも、それにポケモンたち。思わずリザードンと参加するところだった!」

 

 彼女なら、もしかすれば。

 

「ユウリ。見所のあるトレーナーの君にお願いだ。ホップのライバルにもなれ! 2人で強くなるんだ!」

 

 ダンデからしてみれば、将来の楽しみなトレーナーの2人が、互いに切磋琢磨してくれることを祈っての言葉だった。チャンピオンを目指すホップのライバルとなれば、自然彼女もチャンピオンを目指すことになるだろう。

 ホップも、ダンデの言葉に嬉しそうだった。

 ただ1人、ユウリだけが、困ったような笑みを浮かべているのだった。



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ユウリちゃんカレーを作る

 ホップの目標は、チャンピオンである兄、ダンデとのバトルだ。そのためには、舞台に立つために、また十分な実力を付けるためにも、ジムチャレンジを制覇するのが1番の近道だろう。

 そのためには、まずポケモン図鑑を手に入れることだとダンデは言う。ジムチャレンジのこと、ポケモン図鑑のこと、とりあえず母に報告しようと、自宅への道を歩いていると。

 ウールーが、ユウリの家の裏手にある柵をこじ開けて、中に入ってしまっていた。奥はまどろみの森と呼ばれている、珍しいポケモンが棲むと言われる奇妙な森がある。そこは常に霧がかかっており、奥まったところは前が見えないほどになっている。

 危険な場所だから、と親に入るなと言われているところだ。しかし、ウールーのことは心配である。

 助けに行こう。ホップもそれに同意し、2人はまどろみの森の奥へと足を踏み入れた。

 

「噂の森に棲むポケモンって、どんなポケモンなんだろう」

「噂だと、伝説のポケモンっていう話も聞くよな。伝説っていうくらいだから、きっとすごく強くてカッコいいポケモンだぞ! 見てみたいな」

 

 ホップは、まどろみの森の様子にワクワクしているようだ。対照的に、ユウリの気は重い。伝説……かは分からないが、そう噂されるようなポケモンが、もし自分たちに友好的でなかったら。野生ポケモンの中には、凶暴な性格で人間に襲いかかってくるものもいる。もし伝説のポケモンとやらがそうならば、新米トレーナーである自分たちはただでは済まない。

 

「ダンデさんに一緒に来てもらえばよかったかな」

「ムリだぞ。アニキは凄いけど、方向音痴だからな!」

「そうなの?」

「ああ。ブラッシータウンに迎えに行ったのも、道に迷っちゃうかもしれないからだしな! もちろん、アニキに早く会いたかったのもあるけど」

 

 チャンピオンの意外な欠点だ。あの完全無欠のチャンピオンが、方向音痴……なんだかおかしくて、ユウリは思わず噴き出した。

 

「でも、きっと俺たちが本当にピンチの時は助けてくれるから、心配は要らないぞ」

「うん、そうだね。ダンデさんは、最強のチャンピオンだもんね」

 

 不気味な森も、ホップと他愛ない話をしていると恐怖を感じない。これなら、手早くウールーを見つけて帰れそうだ……

 そう思っていた、その矢先。

 巨大な影が、目の前に現れた。

 

「なっ」

 

 一目見て理解した。この圧倒的な存在感。このポケモンが、噂のポケモンだろう。

 ホップはすぐにサルノリを繰り出すが、ユウリは彼を手で止めた。今の自分たちで敵う相手ではないことは明白だった。

 それに、そのポケモンの瞳には、理知的な光があった。だから、選んだのは、対話だ。

 

「勝手に森に入り込んでごめんなさい。ウールーがここに迷い込んでしまったの。その子を見つけたら、すぐに連れて戻るよ」

 

 だから、気を悪くしないでほしい。

 冷や汗が頬を伝う。もし、襲いかかってきたら。ホップたちとヒバニーだけでも逃がせるだろうか。いや、無理だ。いくらなんでも、力が違いすぎる。

 だが、そんな心配は杞憂に終わった。

 謎のポケモンは、ユウリの瞳をじっと見つめると、やがて視線を外し霧の奥へと消えていった。

 

 ユウリは尻餅をついた。

 大きな息を吐く。焦った。人生で一番焦った。

 

「大丈夫か、ユウリ!?」

「う、うん。なんとかね。さ、早くウールー探して、すぐに出よう」

 

 ウールーは、驚くほどすんなりと見つかった。

 心なしか、あのポケモンと出会ったあとから霧が薄くなった気がする。あのポケモンが、霧の原因だったのだろうか。なら、ちゃんとユウリの言葉は届いていたのだろう。

 

 森を出ると、中々来ないからと心配していたダンデにこってり絞られた。しかし、ウールーを連れ戻したことに関しては、盛大にお褒めの言葉をいただいた。

 

 トラブルはあったものの、気を取り直してブラッシータウンのポケモン研究所へ向かう。

 ダンデに紹介されたのは、ソニアという若い女性だった。

 

「こんにちは、ダンデにホップ。それにはじめましての女の子! 私はソニア。おば……マグノリア博士の助手で、ダンデくんとはジムチャレンジを一緒にした幼馴染なんだ」

「ユウリです。1年くらい前、ガラルに引っ越してきました。よろしくお願いします、ソニアさん」

「ソニアでいいよ。ユウリ……うん、覚えた! ホップと一緒にジムチャレンジに参加するの?」

「ええと、はい。多分……」

「あはは、多分って! で、ダンデ。今日はどんな用事で来たの?」

 

 ソニアとダンデは、幼馴染というだけあって随分気の置けない関係に見える。話を聞けば、ダンデはソニアの手料理を振る舞ってもらったこともあるのだとか。

 

「この子は新米だから、ポケモン図鑑をあげてほしいんだ。それと、何かアドバイスもしてやってくれ」

「オッケー。じゃあ、おばあちゃ……博士を呼んでくるね」

 

 ソニアはどたどたと研究所の奥に消えていってしまう。忙しない人だ。

 

「さて、ジムチャレンジに参加するには、推薦状が必要なわけだが……」

「そうなのか? 推薦状なんてもってないぞ!」

「チャンピオンも推薦人の権利を持ってますよね。ホップを推薦してあげないんですか?」

「いや、推薦してあげたいのはもちろんなんだが……やっぱりまだ心配な気がしてなあ」

 

 ダンデは思ったよりも心配性らしい。

 

「なにも心配いらないぞ! ユウリも一緒だからな!」

 

 そう言って、ホップはユウリの肩を抱き寄せた。あまりに突然のことで、ユウリは顔を真っ赤にして俯いた。

 

「なあ、ユウリ! 鍛えあって、2人でチャンピオンを目指すぞ!」

「い、一緒に?」

「だって、お前は俺のライバルだぞ! 当然だろ!」

 

(……そっか。ホップと、一緒に)

 

「んん? なんだあれ?」

 

 ホップは研究所の窓を指差した。夕焼けの空に、真っ赤な線が引かれていく。やがてそれはどんどん大きくなり、研究所の近くで大きな音がした。

 

「なんだなんだ!?」

「外に出てみよう」

 

 ユウリとホップが研究所を出ると、目の前に『ねがいぼし』が落ちてきていた。

 

「ねがいぼしだ! しかも2つも!」

 

 ホップはそれを拾い上げると、1つをユウリに渡した。

 ねがいぼし……ダイマックスと呼ばれる現象を起こす、謎の多い鉱石だ。なんでも、本気の願いを持つ者の前に落ちてくるとか、持ってる者の願いを叶えるとか、そんな噂がある。

 ホップは最強のトレーナーになる、と3度も唱えてねがいぼしに祈っている。しかしユウリは、このねがいぼしに何を祈ったらよいのか分からずにいた。

 

「なるほど。ねがいぼしは本気の願いを持つ者に落ちてくる、というし……ホップ。お前の気持ちは本物のようだな。よし、チャンピオンとして2人の推薦状を渡そう!」

 

 ダンデは、ユウリとホップに推薦状を渡した。これで、ジムチャレンジに参加できる。

 

(あながち間違ってないのかな。願いを叶えるって)

「ねがいぼしに見出されたトレーナーたち……久しぶりに良いものを見ました」

 

 研究所から、ソニアに連れられて1人の老女が出てきた。ユウリも、その顔はテレビなどで見て知っている。

 マグノリア博士。ガラルでも有数の研究者で、ダイマックス研究の第一人者と呼ばれる人だ。

 

「ねがいぼしはそのままではダイマックスを使えません。私に預けてちょうだい」

 

 マグノリア博士が、ダイマックスを可能にするダイマックスバンドの作成者だ。ユウリとホップは頷き合い、彼女にねがいぼしを託した。

 

「よっし。みんな今日は泊まっていくでしょ? 私、最近流行りのカレー作りに凝ってるからさ。みんなに振る舞うよ」

「私も一緒に作っていいですか? カレー作り、はまってるんです」

 

 よくホップにもカレーを食べてもらう。甘めの味付けが好きだと言っていた。

 

「うん、もちろん! 一緒に作ろ!」

 

 ソニアと一緒に、カレーを作る。普段は母に手伝ってもらっているけど、作り方は大体分かっている。

 

「ホップは甘口が好きって言ってたから、甘口で良いですか?」

「うん、いいよ。じゃあ、モモンの実とか入れようか」

 

 いつもの手順で野菜をカットしていると、ソニアにやんわりと注意される。

 

「あ、ユウリ。もうちょっと野菜は大きめに切った方がいいかも」

「そうなんですか?」

「うん。細かく切りすぎちゃうと野菜の味が逃げちゃうからね。弱火でじっくり炒めていこうね」

「はい!」

 

 ソニアは料理が上手かった。さすが、凝ってると言うだけのことはある。なんだか敗北感を覚えるユウリであった。

 結局、ソニアに色々教えてもらうばかりで、あまり手伝いもできなかった。

 2人で作ったカレー、と銘打ちながらも、ほぼソニアお手製のカレーをみんなに振る舞う。ダンデ、ホップからは大絶賛だった。

 

(ショックだ……)

 

 確かに、今まで自分が作ったものと比べてみると、ソニアのカレーの方が美味しい。気がするんじゃなくて、確実に美味しい。

 

 ため息を吐きたくなる思いで、ユウリはソニアを見た。ソニアは頬杖を突きながら、カレーを美味しそうに食べるダンデを見て微笑んでいる。

 

(あれ? ソニアさん……)

 

 もしかして、いや、もしかしなくても、そういうことなのだろうか。幼馴染……ジムチャレンジを一緒に……

 今まで感じていた劣等感は、すぐに応援の心に切り替わった。ダンデは結構ニブそうだし、道のりは険しいだろう。

 

「カレー、美味しいですね」

「ん? ああ、そうだな! ありがとう、ユウリ!」

 

 お礼を言う相手が違う!

 

「いやいや、私はお手伝いくらいしかできなかったので。ほとんどソニアさんが作ってくれたんです」

「そうなのか? たしかに、いつものユウリのカレーと味が違う気がするぞ」

「……………………」

 

 思わずホップに『いつもより美味しい?』とか聞きそうになった。

 

(食卓に『ふぶき』かますところだった……)

「そうか、ソニアもありがとうな」

「別にいいって。前はよく作ったじゃん」

 

 と言いつつ、ソニアは照れ臭そうに頬を掻いている。

 

(私も、ホップにいっぱいカレーを作ってあげよう。でも……)

 

 ソニアの口振りは、最近はダンデに料理を振る舞っていなかったかのようだ。それはそうだろう。ソニアはマグノリア博士の助手として働いているし、ダンデは無敵のチャンピオンとして、普段はシュートシティにいるのだろう。ハロンタウンとはかなり距離が離れている。

 それに、チャンピオンともなれば多忙を極めるはずだ。それこそ、中々帰省もできやしないくらいに。

 

(ホップがチャンピオンになったら、中々会えなくなっちゃうのかな)

 

 この1年、ホップと過ごした時間は長い。ホップと一緒にいられなくなるのは、嫌だ。

 

(あ、でも、大丈夫か)

 

 ホップは、ユウリのことをライバルだと言った。2人でチャンピオンを目指すと言った。

 もし、ホップがチャンピオンになったら、ユウリはそれに挑み続けるチャレンジャーになれば良い。そうすれば、バトルの中で常に一緒にいられる。

 ……もし、ホップより先に自分がチャンピオンになってしまったら?

 

 それも、問題ないだろう。

 ホップの目標はチャンピオンになること。2人で一緒に高め合って、チャンピオンを目指すと約束した。

 ユウリがチャンピオンになったら、今度はホップが、最強のチャレンジャーとして挑み続けてくれる。

 

「なんだ、なんの心配もいらないじゃん」

 

 心が軽くなった気がする。これで、ユウリも気兼ねなくジムチャレンジに挑めるというものだ。

 

「ん? 何か言ったか、ユウリ?」

「ううん。ホップ、明日から一緒に頑張ろうね。私たちなら、きっとダンデさんに挑戦できるよ」

「そうだな、2人とも良いバトルをする! お前たちならきっとジムチャレンジを勝ち上がってくれるだろう。シュートスタジアムで戦えるのが楽しみだ!」

 

 ダンデの言葉に、2人は頷いた。

 2人で目指す高み。甘美な響きに、ユウリは口もとの緩みを抑えきれなかった。



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ユウリちゃん出発する

 出発の朝。

 マグノリア博士の研究所に泊まったユウリは、彼女から『ダイマックスバンド』を受け取った。昨日のねがいぼしを素材として、マグノリア博士が作り上げた、ポケモンをダイマックスさせるのに必要な腕輪だ。

 ダイマックスはガラル地方特有の現象で、見た目にもド派手なその変化は、ガラルの人々に大人気だ。ダイマックスには種類があり、キョダイマックスというものもあるらしい。

 

 ブラッシータウンの駅から、エンジンシティ行きの電車に乗る。車窓からは広大なワイルドエリアが覗いていた。

 ワイルドエリア。そこは野生ポケモンたちの楽園だ。街々の開発が行われているガラル地方だが、このワイルドエリアはポケモンたちのために、最低限の橋や施設があるのみで、ほぼ手付かずの自然の姿で残されている。

 ポケモンたちはありのままの姿で過ごし、トレーナーたちはそこで釣りやキャンプを行うという。

 

「動画では何回も見たけど、実際来るのは初めてだな!」

「うん。ポケモン持ってないと、危ないから入れないもんね。……って、目的地はエンジンシティだよ? ワイルドエリアはまた今度!」

「ええーっ。でも、見たことないポケモンだってきっといっぱいいるぞ。ユウリは見てみたくないのか?」

「そりゃあ、私だって見てみたいけどさ。でも、ジムチャレンジするんでしょ? 開会式までもうあと数日なんだから、早くエンジンシティに入って準備しておかないと」

「ううー、たしかにそうだな……」

 

 ホップはがっくし、という様子だった。ちょっと可哀想だが、しかたない。遅刻してしまえば、次の機会は1年後になってしまう。1年は、彼女たちにとっては長すぎる時間だ。

 

「うんうん。ホップは偉いね、ちゃんと我慢できて」

「や、やめろよユウリ。恥ずかしいぞ」

「そう? ホップはいつも私を褒めてくれるから、たまには私が褒めてあげようと思ったんだけど」

「ユウリはいつも凄いからな」

 

 そんな他愛ない話をしていると、車内に放送が入った。

 

『乗車中のお客様へお知らせいたします。現在、線路上にウールーの群れが集まっており、通行できません。ワイルドエリア前の駅に一旦停車いたします。繰り返します。現在線路上に……』

 

 2人は顔を見合わせて、大笑いした。

 

「ラッキーだぞ、ユウリ! ワイルドエリアで、新しい仲間をゲットするんだ!」

「電車が止まっちゃったなら、仕方ないよね!」

 

 2人は電車がワイルドエリア前の駅に着くや否や、ワイルドエリアに繰り出した。

 

「わあ!」

「広いな!」

 

 確かに広いし、景色も素晴らしいが、何よりポケモンたちの数だ。見渡す限り、ポケモン、ポケモン、ポケモン。まるで世界中のポケモンが、この広大な場所に集められたかのようにさえ思えてくる。

 トレーナーたちも、キャンプを張ったり、ポケモンバトルをしたりとちらほらその姿を見かける。

 

「よーし、ポケモン捕まえるぞ!」

「どんなポケモンがいるんだろう。楽しみだね」

 

 はしゃぎ回るホップの後ろをついていく。ユウリもユウリで、パートナーとなるポケモンを吟味していた。

 エンジンシティ前まではまあまあの距離があったので、一晩はキャンプをして夜を明かすことになった。いつものようにホップにカレーを作ってやる。

 

「うん、やっぱりユウリの作るカレーはおいしいぞ。ウールーたちもそう思うよな」

 

 ポケモンたちは嬉しそうに鳴き声をあげた。

 

「ありがとう、みんな。ソニアさんに作り方を教わったから、前より上手になったかも」

「そうなのか。でも、1度教えてもらっただけで上手くなるユウリも凄いぞ」

 

 ホップのストレートな褒め方は、ユウリにとって心地よかった。にやにやが治らなくて、片付けに集中してるフリをして、なんとか誤魔化した。

 

「明日はいよいよエンジンシティだね。ホップ、緊張してない?」

「ああ、大丈夫だ。自分でも意外だけど、落ち着いているぞ!」

 

 まあ、開会式は明後日だから、まだ緊張するもなにもないか。とはいえ、ホップに気負いはなさそうだ。そのことに、ひとまず安堵しながら、ユウリは眠りについた。

 

 翌日。エンジンシティに到着したのは、昼頃になった。

 ハロンタウンが田舎だったことを思い知らされる。ユウリは、ちょっとショッピングなんかをしたい時は、ブラッシータウンまで足を運んだものだが、このエンジンシティはそことは比にならない大きな街だ。

 建物の高さも、人の数も、ポケモンの数も、まるで違う。道行く先には、イワークを従えたトレーナーが何やら話し込んでいるのが見える。あれだけの巨体を持つポケモンが出ていても、みんな普通にしている。当たり前の光景なのだ、これが。

 ユウリたちは、スマホロトムや周りの人に聞いて、エンジンスタジアムの場所を目指した。どうやら、蒸気機関で動く昇降機に乗った先にあるらしい。

 2人が昇降機に乗り、ボタンを押すと、勢いよく足場がせり上がった。

 

「わっ」

「っとと。ユウリ、大丈夫か?」

 

 倒れそうになったユウリの腕を、ホップが掴んで支える。

 

「うん、ありがとうホップ」

「いいって。それより、見ろよユウリ! あれがエンジンスタジアムだぞ」

 

 ユウリは、促されるまま、目の前に佇む巨大な建物を目上げた。街に恥じぬその威容に、目を輝かせる。

 エンジンスタジアム。ファイナルトーナメントの開かれる、最高の舞台・シュートスタジアムや、ジムチャレンジ最後の難関であるナックルスタジアム……それらに次ぐ規模を誇る。

 開会式が行われることから、始まりのスタジアムと呼ばれることもある。それがここだ。

 毎年、チャレンジャーで溢れ返る開会式当日は、この街のジムリーダー・カブの炎に当てられたかのように凄まじい熱気だという。

 

 スタジアムに入り、受付に並ぶ。ガラル全域から集まってきた、腕自慢のトレーナーたちがひしめき合う空間は、なんだか自分が場違いなように思えてくる。ちら、と隣のホップを見ると、彼は大会出場に胸を踊らせているようで、特段気にしてはいないようだった。

 ホップに勇気を借りるようにして、ユウリは心を落ち着けた。

 

「やあ、ジムチャレンジに参加するのかい?」

「はい、ハロンタウンのユウリです。こっちはホップ」

「推薦状もちゃんと持ってるぞ!」

「拝見しようか。ふむ、推薦人は……チャンピオン!? すごいな、初めて見たよ」

 

 ダンデは、普段あまり推薦人にはならないようだ。長いことチャンピオンをやっており、その権利は持っているはずだが、有望な選手と出会いがなかったのだろうか。

 

「俺たちチャンピオンを目指してるんだ。俺はチャンピオンの弟だし、ユウリは強いんだぞ!」

「そうか、チャンピオンの推薦だし、これは期待できそうだな。……よし、2人ともエントリーできたぞ」

「ありがとうございます」

「ところで、2人は今日の宿は決まっているのかい? 決まっていないなら、ホテル『スボミーイン』に行くといい。推薦状を受付で見せれば無料で宿泊できるから、明日の開会式に備えて体を休めないとな」

「チャレンジャーはみんなそこに?」

「ああ。この時期は近場のホテルやポケモンセンターは予約でいっぱいだからね」

 

 聞けば、毎年周辺のホテルのどこか1つを大会側で、選手たちのために貸し切るそうだ。これほどの手厚いサポートは、マクロコスモスの代表であるローズ氏がポケモンリーグ委員長を務めてるのが大きく関係しているのだろう。

 

「分かった。どうもありがとう」

「ありがとうございました」

「明日からジムチャレンジ頑張れよ!」

 

 リーグスタッフに激励され、2人はスボミーインへ向かった。スタジアムからはあまり離れておらず、ホテルにはすぐにたどり着いた。

 中には、見知った顔があった。ソニアだ。

 どうやら、まどろみの森にいるポケモンについて調べており、ガラル地方の伝説について知るのが近道だと判断したらしい。

 曰く、かつてのガラル地方には、空に黒い渦が発生する『ブラックナイト』と呼ばれる現象が起こっていたらしい。それを、剣と盾を用いて鎮めたのが、ガラルの英雄であるということだ。

 

「ガラルの英雄かあ。俺もこんな風になりたいな」

 

 やっぱり男はこういうものに憧れるらしい。ユウリとしては、変な像だな、くらいにしか思わなかった。

 

「これから色々調べてくからさ。何か分かったら教えてあげる」

「ありがとう、ソニアさん」

 

 さて、宿泊の受付を行おうとロビーの階段を上がると、何やら騒ぎになっていた。

 

「なんだなんだ?」

 

 見れば、やたらパンクな格好をした2人組が、受付をしようとするチャレンジャーたちの邪魔をしているらしい。

 話の内容からして、特定のチャレンジャーのサポーターであるようだ。彼らは、自らをエール団と名乗った。

 

「受付したければ我々とポケモン勝負です!」

「我々はあるトレーナーを勝たせるためエールを届けーるのです」

 

「ユウリ」

「うん」

 

 ホップが何を言い出すかは、目に見えている。

 

「その勝負、俺たちが乗るぞ!」

 

 相手は男女2人ずつ、4人だ。こちらはユウリとホップの2人。連戦になるだろう。

 しかし、ワイルドエリアで野生ポケモン相手に、何度かバトルの経験は積んである。それに、ワイルドエリアで新しいポケモンも捕まえた。

 

「いくよ、エレズン!」

「いけっ、ジグザグマ!」

 

 エール団とのバトルが始まった。

 

「ジグザグマ、たいあたり!」

 

 黒と白。モノトーンの体躯が、すばやく動き回る。なるほど、行動はともかく、しっかりポケモンは鍛えているようだ。

 

「エレズン、左からくるよ! ようかいえき!」

 

 ジグザグマが飛びかかろうとする瞬間を見計らい、エレズンに指示を出す。ドンピシャなタイミングで、エレズンのようかいえきがジグザグマを捉えた。

 速度で翻弄し、当たるはずだった一撃にまさかの迎撃をもらったジグザグマは、動揺したのか動きに精彩がない。

 エレズンは好機と見たか、そのままジグザグマに接近しようとする。

 

「エレズン!」

 

 しかし、ユウリが声をかけると、エレズンはピタリと動きをとめ、ユウリの方を振り返った。そこに、

 

「ジグザグマ、バークアウト!」

 

 ジグザグマの叫びによる攻撃が、エレズンに向けて放たれた。エレズンはダメージを受けながらも、なんとか持ち堪える。

 

(くそっ、誘い込んで強力なのを喰らわせてやろうと思ったのに)

「エレズン、もう一度ようかいえき」

 

 エレズンが、今度は真正面からようかいえきを吐き出す。ジグザグマが攻撃を躱そうと足に力を込める。その一瞬を、ユウリは見逃さない。

 

「エレズン、ほっぺすりすり!」

 

 ジグザグマが避けた方向に、エレズンが突進する。そして、相手をまひ状態にさせるほっぺすりすりをジグザグマにヒットさせた。

 

「くそっ、ジグザグマ、たいあたり!」

「エレズン、そのままようかいえき」

 

 まひになり動きの鈍ったジグザグマ相手に、ようかいえきは容易く当たった。ジグザグマが倒れる。

 

「エレズン、おつかれさま」

「くそー、勝負を吹っかけておいて負けるとは……」

「ユウリも勝ったか! 俺も勝ったぞ」

 

 ホップも、危なげなく勝利したようだ。

 

「じゃあ、最後はダブルバトルで行こうか」

「おう。俺たちのコンビネーションを見せてやる!」

 

 ヒバニーとサルノリのコンビは、あっさりとエール団のポケモンたちを蹴散らした。

 2人の勝利に、ロビーに集まっていたギャラリーが湧く。それらに手を振って、ユウリとホップはハイタッチで勝利を祝った。

 

「みんな何してるの」

 

 項垂れるエール団に、1人の少女が駆け寄る。エール団の面子は、その姿を認めるとまずいところを見られた、というように慌てだした。

 

「えーっとその」

「もう、応援してくれるのは嬉しいけど、やり方が刺々しすぎるよ」

「ごめんよ、マリィ」

 

 マリィという少女は、エール団を撤収させるとチャレンジャーたち……特にエール団の暴走を止めたユウリとホップに深く謝罪した。なんでも、エール団は彼女の応援団なのだという。

 

「気にするなって。それより、エール団だっけ。もうファンが居るなんてすごいぞ!」

 

 ホップの賞賛に、マリィは照れ臭そうに笑った。迷惑なやつらではあるが、マリィは彼らのことが好きだし、彼らもマリィのことが好きなのだろう。

 

「よろしくね、マリィ。じゃあ、また明日」

「うん。また明日」

 

 チェックインを終えたユウリたちは、それぞれの部屋へ向かった。

 1人残されたマリィは、先ほど見たユウリのバトルを思い出す。

 

「あの子と競うのか……こりゃ大変やけんね」



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