学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆 (夕凪の桜)
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序章
序章-1


初めまして、夕凪の桜です。
コロナウィルスの影響でずっと家にいて、はっきり言えば暇です。
やることもいつも同じなので、前に小説を書いたことがありまして、なら、好きなラノベを自分でアレンジしてみようかなと思いました。
投稿ペースは正直遅いです。週一出来たらいいなって感じです。
コロナが落ち着いて色々と再開されたら行方不明になるかもしれません。
でも、精一杯書くつもりなので、立ち寄ってみてください。


星導館学園序列1位、『刀雷』と呼ばれるアスタリスク史上最強の星脈世代、鳴神灰(なるかみかい)

雷を操る能力を持つ魔術師であり、鳴神流の正当な後継者であり遠距離だけではなく、近距離においても絶対的な支配力を持っている。

彼は今回の王竜星武祭までは魔術師としての力を使わず、自分の刀一本で全ての相手を打ち負かしてきた。

だが、王竜星武祭には絶対的王者と言われた『孤毒の魔女』オーフェリア・ランドルーフェンが相手だったのである。そこで彼は使わざるをえなかった、魔術師としての力を。力を使った時、観客は大いに困惑した。なぜなら魔術師であることは知っていたが使わないということはうまく使えず、戦闘の邪魔になるためという認識だったのだ。

しかし、実際は違った。雷を自由自在に操り彼女の瘴気を悉く打ち破ったのである。

そのまま勝負は決まり、灰は見事絶対王者を打ち破り、新しい王者として、グランドスラム達成者として世界に名を馳せた。

 

 

 

ここは王竜星武祭の祝賀祭。行政区の超が付くほどの高級ホテルの宴会場。

灰は星導館の生徒会長クローディアに付き添いの元宴会場に来た。来たと言っても皆制服のためただの食事会だ。3回目ともなるとそこまで緊張もしない。最初はここに招待される各校の猛者たちや星武祭の運営委員会の幹部たちも出席しているため若干の緊張を感じていた。ただ、聖ガラードワースの『聖騎士』アーネストやクインヴェールの『戦律の魔女』シルヴィアなどに話しかけてもらい、若干あった緊張もなくなったのも懐かしい思い出だ。まあ、シルヴィアについては今は例外的ではあるが……

今は序列1位として緊張することもなく、自然な立ち振る舞いができていると思っている。

 

さて、ここで一回シルヴィアとの関係について話しておこう。

 

灰が中学一年生の秋頃、つまり、鳳凰星武祭で圧倒的勝利を収め世界に名を知らしめた年の秋のことである。

再開発エリアで謎の爆発事件があり、その現場を興味本位で見にいこうとした時に、そこらへんのゴロツキに絡まれて困っているところにたまたま出くわし、助けたということがあったのだ。

それから彼女の探し物に偶に付き合う間柄の関係になった。それからたまに個人的なやり取りをするようにもなったりもした。

 

話を祝賀祭にもどそう。

 

 

「大分慣れてきましたね、この祝賀祭にも」

 

そう声をかけてきたのは星導館の生徒会長クローディアだ。

 

「まさか、ここに三回も来ることになるとはね」

 

やれやれといった様子で肩をすくめるのは灰だ。

 

灰色の髪をしており、後ろ髪のひと房だけを腰まで伸ばしているのが特徴的だ。

髪色同様目も灰色である。

 

「あら?ご謙遜なさるのですね。鳳凰星武祭を圧倒的な力で制覇をした時から私はあなたがグランドスラムを達成するのではないかと思っていましたよ?」

「買いかぶりですよ、会長。たしかに鳳凰星武祭、獅鷲星武祭は個人の力より連携の力が必要だけど、王竜星武祭は違う。単純な個人の力によって勝ち抜かなきゃいけない。正直この大会の前は優勝できる確信なんてなかったさ」

 

星武祭を二連覇したという重責が灰にのしかかっていたのだ。

 

「それでも、あなたは勝ち抜いた。それは誇っていいことですよ」

 

優しい笑みを浮かべるクローディアは灰に謎の安心感を与えてくれた。

 

「今回の主役もあなたなのですから。さ、行ってくださいな」

 

肩を軽く押されたので仕方なく、祝賀祭の中心にいる三人に近づいていった。

仕方なくといったが、口元には軽い笑みを浮かべていた。どんなことを言っても王竜星武祭を制覇してグランドスラムを達成したことは灰にとっても嬉しいことなのだった。

 

足を進めると三人のうち一人であるマディアス・メサ運営委員長が灰に気づき声をかけてきた。

 

「鳴神君、王竜星武祭優勝並びにグランドスラム達成おめでとう。君の活躍は久しぶりに胸が躍ったよ。これからの活躍も期待するといってももう星武祭に出れないのが悲しいね。また君の活躍が見れることを期待しているよ。改めて、おめでとう!」

 

手を差し出してくるマディアス。それに応えない理由もなく、灰は握手に応じた。

 

「ありがとうございます」

「ここの場に私がいても話しづらいだろう、私はここらで他の参加者に挨拶回りでもしておくよ。君たちはこのまま自由に過ごしてくれたまえ」

 

そう言ってマディアスは他の参加者の方に向かっていった。

 

「メサ委員長に言葉を取られてしまったが、優勝並びに星武祭三連覇おめでとう、鳴神君」

 

金髪のイケメン。聖ガラードワースの生徒会長にして序列1位、『聖騎士』アーネスト。

 

そして、後ろで誰にも気づかれていないことをいいことに小悪魔的な笑みを浮かべながらウインクをしてるのがクインヴェールの生徒会長にして序列1位、『戦律の魔女』シルヴィア。

もちろん灰はシルヴィアとの関係がバレないようにスルーするがアーネストのことだ、薄々は気づいているだろう。

 

「ありがとうございます。フェアクロフさん。これで少しは安心できそうです」

「君がいなければ獅鷲星武祭も優勝できそうだったんだけど、それで優勝したとしても何か物足りない気がするのだよ」

 

その言葉には次は絶対に負けないという絶対なる自信があった。

 

「フェアクロフさんを退屈させないような人物が現れる気がしますよ。なんか、そんな予感がするんです」

 

そう、わからないがそんな予感がしているのだ。再び捲き起こるアスタリスクの盛り上がりを。

 

「面白いことを言うのだね。だが、君が言うとなぜか信憑性が高そうだ。なるほど楽しみにしておこう」

 

普通なら信用すらされないような言葉もアーネストは自分なりの解釈で納得させた。

 

「そろそろミス・リューネハイムに君を譲らないとね。独占するわけにはいかないからね」

 

後ろでずっと話が終わるのを心待ちにしていたシルヴィアが一歩前に来て、代わりにアーネストが一歩後ろに下がった。

そして、やっとおめでとうを言えると思ったがある事が起こる。

 

「獅鷲星武祭優勝とグランドスラム達成おめっ「失礼します」」

 

ものすごーくタイミングが悪い時に給仕の人が来てしまったのだ。

タイミングが悪すぎてシルヴィアがそれはもう頬を膨らませていた。

 

「鳴神様、リューネハイム様にお手紙がございます」

「手紙?」

 

手紙は電子機器が発達してるこのアスタリスクにおいて使われるとしたら相手に顔を見られたくないという意思表示で他ならない。

つまり、相手は自分たちに顔を見られたくないような人物なのである。

 

「失礼ですが、差出人の方は?」

 

この状況にいち早く冷静な分析をしたアーネストが給仕に聞く。

 

「それが、受付のものによりますと、統合企業財体の幹部の方だそうで、お名前を聞くわけにもいかなかったそうでして、我々では判断ができない状況でして、メサ委員長に判断を仰いだところ、お二方の判断に任せるとのことでして」

 

マディアスの言いたいことは二人はアスタリスクトップクラスの実力があるんだからもし何かあってもどうにかなるだろうという事だろう。

 

「わかりました。僕は受け取ります」

 

ちらっと目で確認するとシルヴィアも受け取る事を灰に目で伝える。

 

「私も受け取らせてもらいます」

「ありがとうございます。急な申し出でご迷惑をおかけしました。それでは失礼いたします」

 

一礼して去っていった給仕にアーネストとシルヴィアは疑いの目を向ける。一方灰はというと。

 

(どこまでだ、幹部と名乗る男に今の給仕はほぼ黒だろう。あとは受付もか?いや、そこは末端のものだろう。ただ、あの給仕はおそらく地位がだいぶ上のものだろう。ばれる事を分かった上で接触してきた。厄介な事にならなければいいが……)

 

灰の中ではもう黒が確定していてそこからの事を考えていた。

ただ、この手紙によって面倒ごとという事はほぼ確定していた。

 

「フェアクロフさん。お願いできますか?」

 

何をとはいわない、そんな事を言わなけれはいけないほどアーネストは馬鹿ではない。

 

 

「何かあれば聖ガラードワースの生徒会長としてではなく、アーネスト・フェアクロフ一個人としてい君たち二人に力を貸そう。気をつけてくれたまえ。それでは」

 

そう言ってアーネストは他に来ている聖ガラードワースの人たちの所に行った。

二人は頭を下げるわけにもいかず、心の中でお礼を言った。

 

 

「''シルヴィ''内容を確認しよっか」

「そうだね、せっかくフェアクロフ君が空気を読んでくれたんだし」

 

灰はシルヴィアの事を二人っきりの時にはシルヴィと愛称で呼んでいるのだ。

 

手紙を開封しその中身を読む。白地に活字がびっしりと書かれていたが、大まかな事はオーフェリアの命を助けたければシルヴィアと二人で再開発エリアの沿岸部に来いという事であった。それが丁寧な言葉で長々と書かれていた。

 

「シルヴィ、一旦寮に戻って変装してきて、そしたら僕の家に来て。そこから向かおう」

「わかった。時間差も必要だし、私が先に出て行くね。受付はどうしよっか?」

 

受付、二人の予想では呼び出した連中の仲間であるはずだから、出て行けば連絡が行くだろう。

 

「多分それは気にしなくてもいいと思う。突然襲ってはこないだろうし」

「だよね、なら、また後でね」

 

走らず普通に歩いて会場を去っていくシルヴィア。

 

 

 

 

 

ここで今回なぜオーフェリアが出てきたのかを説明しよう。

 

オーフェリアと灰が直接会ったのは二回、一回目は去年の冬、シルヴィアに頼まれて再開発エリアである事を調査している時に襲われ撃退、その後和解が成立した。この時に色々と1時間ぐらいはなしてたりもした。二回目は今回の決勝戦。

仲がいいというよりかはまあ、軽く話す程度の関係だが、一回目から決勝戦の間にあった事も話した事もなかった。ただ、それで見捨てるほどの無関係ではないし彼女の経歴を軽くでも知っている今はほっておけないのだ。

 

 

まだ、シルヴィアとの時間差が短いため、灰が中央区外縁部に家を持っている理由を話そう。

これは序列1位となった権限及び鳳凰星武祭優勝の権限により外に家を持つ事が可能になった。もちろん学内の寮にも部屋はある。こちらは週に一度掃除してもらったりしている。特別な貴重品は学外の家に全て運んだ。

特例で家を持つ事ができたが、特別豪邸なわけなく、普通の一般的な家である。むしろ、学内の寮の方が広いというのである。

だが、この家も一人で暮らすには十分過ぎる。

 

 

 

シルヴィアが会場からいなくなった後、数人もまた会場から立ち去ったので灰も会場を後にする。

 

 

 

そして、灰たちの怪しいと予想した受付では。

 

『報告です、シルヴィア・リューネハイム、及び鳴神灰、両名がホテルから出て行くのを確認しました』

 

『おおよそ時間通りだな。よし、交代時間になったら目標地点に合流しろ』

 

『了解しました」

 

灰が予想した通りの展開となっていた…………

 

 

 

 

 

 

シルヴィアが寮に到着し、変装している頃ぐらいに灰は自分の家に到着していた。

家に入り、灰は他の部屋と違い厳重に鍵が掛けられている部屋を開け中に入る。明かりをつけた。

そこには二本の純星煌式武装の発動体が台座の上に置かれていた。

片方は『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』。『凍氷の皇帝(ヨトゥン・シュヴァルツ)』の使っていたとされる最強の純星煌式武装。

もう片方は『雷桜の断罪剣(キュラリー・フリークス)』。誰も知らない純星煌式武装。だが、その力は『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』に匹敵する。

 

なぜ、灰がこんなにも強力な純星煌式武装を持っているのかというと、彼が『凍氷の皇帝(ヨトゥン・シュヴァルツ)』だからだ。

自らこの二本を作り出し、統合企業財体との戦いが終わった後に自分の家を手に入れた後封印した。しかし、何かあった時のために近くには置いておく事にしたのだ。

 

 

 

「こいつらを持っていくか悩んだが、こいつらも久しぶりに暴れたいのかもな………。この嫌な予感、外れればいいが外れた事がないからな………。もしものときは力を貸してくれ……」

 

そう言い二本を持って行く事にする。

 

 

灰も変装をしシルヴィアが来るのを持つ。

ちなみに灰は髪の毛を灰色から黒に変えて目立たないようにする。

茶色の長ズボンに灰色の薄めのシャツ、青のパーカーを着て安めのコートを着る。流石に薄着すぎると冬なのに目立ちすぎるからだ。とまあ、軽く考えてこんな感じに収まった。

もちろん、少しは考えてはいる。何も考えてない事がバレるとシルヴィアに怒られるのだ。

 

 

ちょうど玄関の呼び鈴がなり、シルヴィアが来た事を告げる。

扉を開けると変装したシルヴィアがいた。髪の毛を栗色に変えていつもみたいに綺麗に髪の毛を整えず、無造作に縛っているだけの状態だ。

服はジーパンにコートを着ておりその中はどんな服を着ているかわからないが、白のブラウスに水色のカーディガンを着てたと後でわかった。

 

「それじゃあシルヴィ、オーフェリアの所に行って手紙の差出人に挨拶しに行こか」

 

そういい扉を閉め二人で並んで軽く走り出す。夜遅いため人もほとんどおらず、誰も二人に気づかない。

 

「そうだね、オーフェリアさんほどの実力者が人質となるってことは相手はそれ以上実力者なのかな……」

「わからない、でも、やれることはやるらないとね。それにシルヴィは絶対に守るから。オーフェリアの事を出しておびき出すっていうことは多分僕のことだろうし、巻き込んでしまったから」

 

 

申し訳なさそうにする灰、だが、シルヴィアは守られるだけ嬉しいと感じる人間ではない。

 

「むうー、怒るよ?たしかに、オーフェリアさんの事に巻き込まれたのは私が灰君と一緒に色々嗅ぎ回っていたからであって、私の責任。だから、そんなこと言わないで。それに君が守ってくれるんでしょう?だったらこの世界に安全な場所はないんだからね」

 

 

 

つくづく灰はシルヴィアには勝てないなと思うのだった。

 

 

「もちろんさ。さて、なら囚われのお姫様でも助けに行きますかっと!」

 

このとき、灰の心の中にあった不安は今消えて無くなったのだった。

 

「………どっちが守られてるんだか………」

 

そう呟いた言葉をシルヴィアが耳にすることはなく、二人は再開発エリアの指定された場所に到達した。

 




改めて、こんにちはこんばんわ、夕凪の桜です。
今作品はアスタリスク本編の進行にそって話を進めていくつもりですが、綾斗をどうするか悩みました。
あまり登場しないと思いますが、一応は存在させるつもりです。
綾斗ファンの方には申し訳ないです。
フリガナはアスタリスク本編で使用されているものはフリガナをしないで、自分のオリジナルはフリガナをきちんとふります。各話一回出てきた振り仮名は2回目に出てきた場合、付けないかもしれません。
主に灰視点で話は進行させますが、視点が変わるときは何かしらの目印を必ずつけておきます。

さて、今作の主人公である鳴神灰。彼の読み方は「なるかみかい」です。本文の一番最初にだけしか書いてなくてすいません。





コロナウィルスで社会が変わっていく中でストレスも多いと思います。その中で自分の作品が皆様のリラックスする方法の1つになるのであれば嬉しいです。

最後に誤字や、ここはこう変えて欲しいなどありましたらお気軽にお願いします。
感想も匿名でも書けるようにしてあるので気楽に書いてもらえればと。
感想やご指摘は皆様が自分の作品をしっかりと読んでくれていると思えて励みになります。
もしよければ評価もしていってもらえたら幸いです。


それでは次の話で。



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序章-2

日曜日ということで割と時間があったので布団に転がりながら書いたりしてたので割と早くかけました。

それでは、本編をどうぞ!!!!


二人がたどり着いたのは再開発エリアの外縁の大通り全く車通りもなく、異様な静けさが辺りに充満していた。

その中で一際目立つのは通りの真ん中に血を流して倒れているオーフェリアだ。

 

「………!オーフェリア!!」

 

まさかいきなりこのような仕打ちをしてくるとは思いもよろず、灰は冷静さを失いかけた。

慌てて二人は駆け寄り、オーフェリアの容態をみる。

 

「ひどいね、星脈世代じゃなかったら即死だろうに………」

「右手と左足に剣による刺し傷、左腹部に穴が空いてるから内臓に傷がついてるかもしれない。それに無数の切り傷と擦り傷。早急に医者に診てもらわないと……」

 

オーフェリアの容態は予想以上にひどく、病的なまでに白かった肌もさらに血の気が悪く、青白くなっていた。

これはオーフェリアの命が後少しで尽きる可能性が高いということをしめしていた。

 

「灰君どうしよう、私の能力でも怪我は治せないよ………」

 

灰は立ち上がり自分のコートを脱ぎ、オーフェリアに優しくかけてあげる。

そして、自分のパーカーも脱ぎシルヴィアに渡す。

その姿が死ぬことすら厭わない姿に見えてシルヴィアは泣きそうになる。

 

「シルヴィ、これをちぎって右手と左足の傷を縛って止血してあげて。あと、水を作って小さな傷のところを綺麗にしてあげて。少しは楽になると思うから」

「灰君は!灰君はどうするの!!」

 

シルヴィアも灰と同じく自分たちの事を見ている二十人ほどの気配に気付いており、一人一人が自分を超える実力者である事がわかり、灰のことを心配する。たとえアスタリスク最強の星脈世代だとしてもだ。

 

「オーフェリアをこんな姿にした奴らをお出迎えしなくちゃいけないらしいからね」

「でも!!そんなこと、そんなことしたら………」

 

顔を伏せ、灰の顔を見ることができない。

 

 

「泣くな、シルヴィ。僕のことを''信じてくれる''なら、僕は必ず帰ってくるよ」

 

自分でも似合わないセリフを言ったものだと心の中で苦笑している。

 

「信じしてる。前からずっと君のことは信じてるよ」

「なら…………これにその気持ちを込めてくれれば僕は必ず帰ってこれるよ」

 

灰は懐から2つのネックレスを取り出しシルヴィアに手渡す。1つは青い宝石がもう1つは黄色の宝石が埋め込まれている。

 

「オーフェリアが目を覚ましたら1つ渡してあげてほしい」

 

そして、灰はシルヴィアとオーフェリアに背を向け離れていく。彼女らを戦闘に巻き込まないために。

オーフェリアほどの星辰量保持者ならかなりの自己再生能力があるはず。といっても大怪我がすぐ治るわけではなく、小さい傷なら少し経てば治ることや、意識が回復するまでの時間が早くなることぐらいだが。

それでも、意識が回復することは大切である。

 

 

 

 

 

「今回も頼むぞ、『雲雫』」

 

腰から刀を抜き放ち、中段に構える。『雲雫』の刀身は普通の刀と違い青みががった刀身で、今のアスタリスクでこの刀は抜き放たれれば相手に必ず勝利すると言われる生ける伝説だ。

 

 

「貴方ならここに来てくれると信じてましたよ。鳴神灰君」

 

突然、辺りに男か女か性別がわからない声がした。

暗闇から声が反響してきてどこから喋りかけているのかをわからなくしているようだ。

 

「ソルネージュのお偉いさんの特殊部隊さんたちは僕たちに何の用でしょうか?」

 

ソルネージュ、レヴォルフの運営母体たる統合企業財体。今回のことは全部ソルネージュの企てと見ていいだろう。

 

「さすがの観察力です。上からもおそらくばれているだろうと言われましたが、予想通りですね」

「僕たちのことを狙うとしたらレヴォルフかその上のソルネージュしか無いですからね」

 

灰は自分たちの周りにいる正確な人数を掴みどう対処するか考えていた。ただ戦っても被害が後ろの二人に及ぶ可能性があるからだ。

 

「ですが、こちらの正体がばれているのであればなおさら生かしてはおけません。安心してください、彼女たちは貴方を殺したあとに殺して差し上げますので、安心して本気を出してくださいね?」

 

暗闇から響くこの声の主は灰の考えていたことを読み取ったらしい。

 

「それを守ってくれるという保証はどこにあるんですかね?命のやり取りをするような相手の言葉、簡単に信じるとは思っていないでしょうね」

 

シルヴィアとオーフェリアを狙わないと言われて、はい、そうですかと言って納得するほど灰は間抜けでは無い。

 

「それは十分承知ですよ。ただ我々もこの手のプロを自称してましてね、こういう事をしてますと契約は絶対でして、一度言ったことは絶対に曲げないのが我々のプロとしてのプライドです。そこはそうとして信じてもらうしかありませんね」

 

悩ましげに説明をする声の主。これ以上刺激しすぎるとせっかくシルヴィアとオーフェリアを狙わないと言っているのに、二人を狙いかねない。

 

「わかった。いいでしょう。貴方の言葉信じてあげます」

 

灰もこの声の主を信じることにして覚悟を決め、死闘の開始を今か今かと待つ。

 

「シルヴィ、一度抜き放たれた剣は血を吸わないと鞘に収まることは無いから。ここからは血が絶対に流れる。見たくも無い光景かもしれない。でも、どうか見届けてほしい」

 

そう言うと灰は前方に現れ始めた黒づくめの集団に斬り込んでいく。

 

 

 

〜〜〜シルヴィア side〜〜〜

 

わたしは、ここに来て無力感を感じていた。灰君は今目の前で死闘を繰り広げていた。灰君から渡されたネックレスの青い方はオーフェリアさんに握らせてあり、わたしのはオーフェリアさんを手当てしている右手の手首に巻きつけた。なんとなく、灰君の力を借りられるような気がしたのだ。

灰君は今ちょうど三人目を切り捨てたところで、同時にすでに10を超える傷を負っていた。何個かは軽視できないような傷から血が流れ出ている。

一人の攻撃をはじき返したところでまた別のところから攻撃が来てまともに反撃すら出来ないような状況で、少しでも甘い攻撃が来た時に無理矢理攻撃をねじ込み、確実に致命傷を与えていく。肉を切らせて骨を断つ。まさにこのことだが、灰君は長くは保たないとわたしは思った。すでに灰君の灰色の髪の毛は返り血と自分の血で半分以上が赤く染まっていた。

自分が行っても足手まといにしかなれない、そんな自分が嫌いになりそうだった。

 

 

「………う、………あ……シル、ヴィア……?」

「オーフェリアさん!よかった目を覚ましたんだね。…………良かった…………」

 

目が覚めたばかりで手足に上手く力が入らないのかゆっくりと体を起こすオーフェリアさん。

 

「早く逃げて、…………あいつらは灰でも敵う相手じゃ無い………」

「えっ…………でも、今は灰君が……………」

 

戦っていると言おうとしたとき、甲高い音が辺りに鳴り響いた…………。

 

 

〜〜〜シルヴィアside out〜〜〜

 

 

 

 

すでに八人まで斬り伏せた灰だが、それと同時に『雲雫』が甲高い音を出して刀身の真ん中から先が粉々に砕け散り、それらはさらに細かくなって地面に落ち、消えてしまった。そして、奇妙なことに黒づくめの集団は一歩後ろに下がり体制を整えた。

後ろをチラ見するとオーフェリアがシルヴィアの手を掴むことを確認する。ここでシルヴィアが来てしまったら今の状況が崩壊してしまう。

 

「なるほど、ただ『マナダイト』を使っていると思ったら刀身の約半分を『ウルム・マナダイト』で構成することで通常のものより高い耐久力と切れ味を誇っていたということですか。面白い考えですね」

 

ただ見ただけで『雲雫』の隠された秘密について簡単に暴いてしまうこの声の主に灰は目線を向ける。

一番後ろに立っており、腕組みをして戦いに参加しようとしない謎の人物。それにより一層警戒の目を向ける灰。だが、灰に焦りは全くない。どこかまだ余裕があるように思えた。

 

「そろそろ諦めたらどうですか?刀は砕け、貴方の星辰量もほぼ底をついてるのでしょう?」

 

丁寧な口調を全く崩さないあたりからこの人にとってまだ焦るような事態では無いのだろう。まるで想定内とでも言いたげな、そんな雰囲気がある。

 

「はははは、面白いことを言ってくれるのですね」

 

普通な人間ならまず笑わないような状況なのに、突然笑い出す灰。後ろでずっと見守っていた二人も何事かと驚く。

そして、同時に灰と話していた黒服がフードを脱ぎ、睨め付けるかのような表情で凝視していた。

 

「やっと、わかりましたよ。この不快感が!貴方はずっとギリギリの状況でもどこか余裕があった。それが私をこの上なくイライラさせるのです!!」

 

声の主は白髪の男で、さっきとは比べ物にならないほど冷静さを失っていた。

 

「そう、まるで自分はまだ全力を出していないかのように……………この私を見下して愚弄するつもりか!!!」

 

もはや最初とは違い、理性的ではなくなり、ただ感情に左右されているこの男に灰はこう告げる。

 

 

「惚れてる女を守っているっていう、男にとって一番かっこいい状況だから、必死な姿より余裕があった方が安心もできるだろう?」

 

そして、一息ついて灰はこう叫んだ。

 

「それに、僕は二人と約束したんだ!必ず帰ると!!必ず助けると!!だから、絶対に負けるわけにはいかないんだ!」

 

今までの灰とは違い、理性的な部分に感情的なものが姿を現し始めていた。

 

 

「貴方はもっと理性的な人物だと思っていましたよ。しかし、まさかここまで愚かだったとは………女のために捨てられるような軽い命ではないはず!あなたは自分より惚れた女を大事にするのか!」

 

もうこの男は止まらない。自分の思ったことをそのまま灰にぶつけているだけだ。

 

「命を賭けるといったが、死ぬつもりなど毛頭ないさ、死んでしまったらまだ伝えてない想いを伝えられないだろ?」

 

 

灰の言葉がよほど頭にきたのかさっきとは違い、殺気を隠すことなく灰にぶつけて来る。

この男が怒り心頭で言葉遣いがどんどん荒くなっていくと同時に灰はだんだんと冷静さを取り戻すことが出来ていた。

 

 

「愚か者は死になさい。目障りです!!!!!」

 

初めて怒声を放ち一斉に灰に襲いかかってくる。だが、それと同時に灰は二人に渡したネックレスを通じて入ってくるものを感じていた。

 

「ふっ、愚か者かどうか、証明してあげよう…………」

 

首からシルヴィアとオーフェリアに渡した同じ形のネックレスを取り出し、首にかけてある状態から一気に引きちぎった。

真ん中に埋め込まれた虹色の宝石が暗い周囲をほのかに照らした。

 

その瞬間、星辰量が底をつきかけていた灰から莫大な星辰量が解放され、一種の暴風となり周囲の人間を視界を塞ぐ。

 

 

 

 

〜〜〜オーフェリア side〜〜〜

 

わたしは、灰とシルヴィアを殺せとソルネージュに言われた。前のわたしだったらそれに何も言わずに従い、二人を殺そうとしたかもしれない。まあ、あの二人にわたし一人とソルネージュの暗殺者がいたところで相手にすらならないわ………

 

彼に初めて会った時、わたしは手も足も出なかったのを今でも思い出す。どんな魔法も彼の眼の前では斬り伏せられた。無味無臭の毒で周囲を覆ってしまったとしても、彼は息を止め切り抜けられた。信じられなかった。後から聞いた話によると彼は自分で肺の中の空気を循環させ心拍数を戦闘に必要なギリギリまで落とし、息を吸わなくても戦闘できる時間を十五分まで引き延ばしたらしい。

近距離の戦闘はからっきしだからそれがどれだけ凄いかはわからないけど、私では到底できないようなことを軽々とやってのけていることだけはわかった。

 

彼に倒された。いや、彼は決して本気を出していなかったから、ずっと遊ばれていただけかもしれないけどね。

でも、そうだとしても怒りなんてなかったわ。むしろ清々しかったわ。

 

魔女としての力を得てみんな私を恐れ、周りから去っていった。大人たちは私を最強の道具とし扱った。むしろそれでいいと思った。もう誰も人として私に接することは無いだろうと思った。

でも、あの時、彼は私を人として、一人の女として接してくれた。その時にずっと溜め込んでいた悔しさや悲しさが一気に溢れ出して彼に泣きついてしまい、慰めてもらった。凄い恥ずかしかった。でも、心の中に立ち込めていた黒い霧のようなものは全て彼によって全て取り除かれた。

その時気づいたの。私は彼に恋してしまっているということに。

 

 

彼の戦闘、いや死闘と言えるものは目を背けたくなるようなものだった。

彼は血を流し、どんどんボロボロになっていく。そんな姿見たくなかった…………

 

 

 

 

 

 

体が少しずつ動くようになっていくことを感じながら灰の戦闘からは目を離さないようにしていた。それがオーフェリアにできる唯一のことだから……

だがその時、灰の愛刀、『雲雫』が甲高い音を立てて砕けてしまったのだ。

そのことにシルヴィアは駆け出そうとするが、慌てて手を掴む。

 

「待って、シルヴィア。それだと彼の信頼を裏切ることになるわ」

 

なぜ止めるのか、そのことに対する焦りが珍しく露わになっている。

 

「なんで止めるの、このままじゃ、このままじゃ灰君が……………」

「灰は貴方になんて言ったの?」

 

今にも泣きそうなシルヴィアだが、灰のことを完璧に信じているオーフェリアは意識が薄れている中、灰が必ず帰ってくるといったことは聞こえておりその約束は絶対に破ることは無いとオーフェリアは思っていた。

 

「必ず、必ず帰ってくる。でも……『惚れてる女を守っているっていう、男にとって一番かっこいい状況だから、必死な姿より余裕があった方が安心もできるだろう?』」

 

灰の言った言葉によってシルヴィアは言葉を失う。おそらく、彼女も少なからず彼に恋しているとオーフェリアは思っていた。

 

「シルヴィア、貴方は彼が好き?」

『僕は二人と約束したんだ!必ず帰ると!!必ず助けると!!だから、絶対に負けるわけにはいかないんだ!』

 

オーフェリアと灰の言葉が重なり、シルヴィアは動揺する。自分の中に芽生えていた不確かな恋心をストレートに聞いてきたからだ。

 

 

「……………うん、好きなんだと思う。……………ううん、好き、私は灰君のことが好き!!!!!!」

「私もよ。私も灰のことが好き」

 

その時、シルヴィアはわかった。なぜ、オーフェリアがここまで落ち着いているのかを。

好きな人の言葉を信じられていなかったシルヴィアは自分を恥じた。自分の想いと向き合わなかった自分を。

そして、二人は理解する。自分たちの本当にするべきことを。

灰から渡されたネックレスを両手に持ち、灰を信じる心を。好きだという気持ちを乗せてネックレスに込めた。

 

 

「お願い灰君。帰ってきて……」

「灰、私との約束守ってくれるんでしょ………」

 

二人の想いに反応したかのように宝石が強く発光する。

 

 

〜〜〜オーフェリアside out〜〜〜




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みいただき有難うございます!
若干寝る時間が遅くなりつつある夕凪の桜です。

本当は序章は二話で終わろうとしたんですが、書いているうちに楽しくなってどんどん楽しくなってしまい、書いているうちに6,000文字近くまで行ってしまい話を二つに切ることにしました。
本当に申し訳御座いません。

次で終わるはずです!多分……!

今回視点の切り替えが上手くいかないところがあり、皆様には読みにくい文章を読ませてしまい、申し訳ありません。自分なりに工夫はしたつもりなのですが、誤字チェックした時にも読みづらいと思ってしまいまして。どうしたらいいか困惑している最中です。
思いつき次第変えていきます。



ここからは読んで頂いている皆様への感謝の言葉です。

かなり早めのペースで二話目を上げられて自分としても凄い嬉しいです。
これには訳がありまして、予想以上に自分の作品のUAやお気に入り登録が伸びてまして、投稿した付近だと、UAは400を超えまして、お気に入り登録は14件となっておりました!
本当にモチベが凄い上がりました!

感想も二件いただき、評価もありがたいことにかなり高い評価を付けてもらい、この期待に応えなければ!と思っています。



最後に誤字や、ここはこう変えて欲しいなどありましたらお気軽にお願いします。
感想も匿名でも書けるようにしてあるので気楽に書いてもらえればと。
感想やご指摘は皆様が自分の作品をしっかりと読んでくれていると思えて励みになります。
もしよければ評価もしていってもらえたら幸いです。


それでは次の話で。





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序章-3

最初はオーフェリアとシルヴィアsideから始まります。
後書きがいつもの通り長ったらしく続くので前書きは短めに。

暑いんだが、風が強くて寒いのかよくわからない日々が続いていますが、体調管理に気をつけてください。

それでは本編をどうぞ。



周囲が灰の星辰量が暴れ狂い暴風と化しているため、少し離れているところにいる黒づくめの暗殺者たちを軽く吹き飛ばすが、シルヴィアとオーフェリアの方には暴風の影響はない。そう、まるで意志を持っているかのように彼女らの間をすり抜けて行く。

ここまで大量の星辰量を完璧に制御し得る人物とは二人には灰以外想像できなかった。

 

そして、また再び暴風に変化が起こる。広がっている星辰量がピタッと動きを止め、どんどんさっきとは逆の方向、つまりこの星辰量の持ち主たる灰の元へ集まり始めた。しかし、いくら灰でも、これほどの星辰量を取り込んだらひとたまりも無いとそう思えた。

この時、オーフェリアは自分の体にある傷が綺麗になっていることに気づいた。

激痛で意識を繋ぐためにできるだけ傷を意識しないようにしていたが、突然自らを襲う激痛がなくなったことに気づいた。

 

「ねぇ、シルヴィア………」

 

自分の負っていた怪我はたとえアスタリスクの治療院でも全治数ヶ月かかるような怪我なのだ。内臓に傷が付いている以上もしかしたら数ヶ月では済まないかもしれない。

だが、今はどうだろう内臓がダメージを負っているような感じはせず、無理やり治したかのような強引な治療ではなく、丁寧に治療されたようだった。

 

「なん、で………オーフェリアさんの傷が………」

 

シルヴィアも目を見開き、何が何だかわからないようだ。彼女の万能たる力でも傷を治すことはできないことはたった今痛感したところであった。

そして、灰の雷の力では治療などできないと分かりきっているが、それでも尚、オーフェリアの傷を治療したのは灰だと確信していた。そして、それはオーフェリアも同じであった。

このような現象を起こしている灰以外に大怪我を一瞬で治すようなことはできないと思ったからだ。

 

「わからない………でも、灰のお陰であることはわかるわ」

 

その眼は今も暴風の中心にいるであろう灰のことを正確に捉えているように見えた。

 

「なんで、オーフェリアさんは灰君のことをそんなに信じることが出来るの?好きってだけじゃそこまで…………」

 

シルヴィアはわからなかった。灰のことを好きであることに変わりは無い。それは自信を持って言える。彼がたとえどんな強大な力を持っていても彼のことを好きでいる自信はあった。それでも、なんでオーフェリアが灰に全幅の信頼を簡単に置くことが出来るのか、それがわからなかった……

 

「灰は………私の全てだから……………。彼は暗闇の中から私を引っ張り出してくれた。何もなかった私に生きる意味を与えてくれた」

 

オーフェリアの言葉はシルヴィアにとって初耳だった。灰とオーフェリアとの関係はどんなものか知らなかったが、それでもオーフェリアの想いは十分伝わってきた。

 

「彼がどんな悪魔であっても、私は彼を信じる。運命って言葉はもう使わない。そう、これは私の覚悟。彼に添い遂げるという私の覚悟よ」

 

オーフェリアの想い。それは本当に純粋な恋心であるとシルヴィアは痛感した。でも、人それぞれの恋の仕方がある。そう思えている今はオーフェリアに嫉妬などしなかった。

 

「これは完敗だなあ………」

 

嫉妬はしてないが、悔しさはあった。

 

「負けてないわ。引き分けよ。むしろ私の方が負けてるかもしれないわ」

「えっ…………」

 

予想外のことをオーフェリアに言われ、困惑するシルヴィア。なぜ、そんな事を言ったのか聞こうとしたが灰の姿が段々おさまっていく星辰量の嵐の中に確認でき、これからの成り行きを黙ってみまることにした。それが何よりも自分たちがしなければいけないことだからだ。

 

〜〜〜シルヴィア、オーフェリアside out〜〜〜

 

灰は自分から濁流のように体外に漏れ出ている星辰量のうち、まずはシルヴィアとオーフェリアに向かっていく星辰量の制御を真っ先に行い、その次に自分の体内の星辰量を制御した。

しかし、自分の体内に宿る無限とも言える星辰量を制御するのにいささか手間取ってしまう。なにせ三年ぶりなのだ、感覚をすぐに取り戻した灰はさすがとも言える。

 

「…………やっと本来の自分に戻れたようだな………………」

 

手を何回か握り直し、改めて自分が力を取り戻したことを実感する。

そして溢れ出ていただけの星辰量を自らの体内に呼び戻す。

 

さっきまで底をついていた星辰量が今では身体中に満ち溢れていた。

最後の星辰量が灰の中に戻り、星辰量の影響で吹いていた風も収まりつつある。

完全に風が収まり、中心部にいた灰の髪の毛は血まみれの灰色から輝くような水色に。二人からは見えないが眼の色が灰色から右目は蒼く、左目は黄金に輝いていた。

そして両手には純星煌式武装の発動体が一本ずつ握られていた。

 

 

「9人か…………」

 

顔は動かさず、両目でしっかりと確認していく。

さっきまでは12人いたはずだが3人減って9人ということはさっきの暴風で吹き飛ばされたのだろう。

 

 

「嘘だろ…………」

「ありえないだろ………」

「まさか、『皇帝』だと………」

「死んだっていう噂じゃ………」

 

数人が口を開き目の前の現象について自分の気持ちを漏らすが、大半はついていけなかった。

その中の一人が口をパクパクさせていただけの状態から突然騒ぎ出す。

 

 

「も、もうダメだぁぁーーー!!!!!!!」

 

その言葉に反応したかのように他も騒ぎ出そうとしたその時。

 

「だまれぇ!!!!!!!!」

 

 

灰と言い争いをした男が仲間の言葉を強制的に終わらせる。

 

「『凍氷の皇帝(ヨトゥン・シュヴァルツ)』がここにいるわけ無いだろ!奴は、死んだ!あんな奴が生きているはずが無いんだ!!」

 

この男はまるで『凍氷の皇帝(ヨトゥン・シュヴァルツ)』に恐怖を覚えているかのように声を荒げていた。

 

「あんなもの、見せかけに過ぎない!早く奴を殺せ!!!」

 

もはやこの男は恐怖に支配されてしまっているようだ。だが、同時に何人来たところで、今はもう関係無い。

 

瞬間移動したかのような高速移動をして白髪の男に肉薄する。

驚いた顔をしてなんとか距離を取ろうとするところを見るにやはりこの男がこのグループのリーダーなのだろう。しかし、すでにそのことを予想していた灰は肉薄した時に間合いを完全に潰しこの男が距離をとることで生じるほんのわずかな隙間に無理矢理攻撃をねじ込んだ。

右肘を男のみぞうちにめり込ませ堪らず男は崩れようとするが、突き刺さっている灰の肘がそれを阻む。

 

「貴様ら『バベラトス』の残党には聞きたいことが山ほどある。とりあえず生かしておいてやろう」

 

その男に興味をなくしたかのように肘をみぞうちから引き抜き、後ろにいる8人の方に振り返る。

煌々と輝く蒼と黄金の瞳からの視線を感じた8人は本能的な恐怖を感じ一歩後ずさる。

 

「2人を狙わなかったことだけは褒めてあげるよ。でも、オーフェリアを傷けたことだけは、絶対に許さない!!」

 

そして、灰は統合企業財体からして見ればタブーとも言える純星煌式武装を起動する。

冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』柄は蒼く、紫に輝くウルム=マナダイトをコアとし、水色の刀身を持っている。そして柄から色の同じ蛇のように細長い二本のオーラが螺旋状に刀身の周りに巻きついている。巻きついているというよりかは締め付けようとしているように見える。

オーラに締め付けられるのを嫌がるかのように刀身からエネルギーを発して拒んでいた。

 

エネルギーの反発により、一層エネルギーが高まっており、見たことも無いような高エネルギーを発していた。

 

「本当は土産など渡すつもりなどなかったが、『バベラトス』の残党がいるなら気が変わった」

 

そう言うと左手に持っている『雷桜の断罪剣(キュラリー・フリークス)』を起動する。今まで誰の目にも触れなかった『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』と対になる純星煌式武装。

刀身が形成されていくと同時に灰の後ろ髪の真ん中にある長い部分が水色から金色に変わっていく。

冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』の対となる剣であり、その内包エネルギー量は同等かそれ以上である。

柄は綺麗で鮮やかな桜の色で刀身は黄金に輝いている。そして、蛇のように細長い桜色のオーラが刀身を螺旋状に巻きついているが、こちらは『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』と逆向きに巻きついていた。オーラは刀身を締め付けようとはせず、優しく包み込んでいるように見えた。

冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』はオーラが刀身を締め付けようとし、刀身がオーラを拒絶することによる反発から生まれるエネルギーによりエネルギーを増幅させているのに対し、『雷桜の断罪剣』は刀身とオーラがお互いを強化しあうことで、『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』よりもエネルギー量は高くなっている。

まあ、そもそも『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』とまともに打ち合えるような純星煌式武装なんて、このアスタリスクには4色の魔剣ぐらいしか無いだろう。

他の純星煌式武装だとしたらウルム=マナダイトが悲鳴をあげて壊れてしまう。

それほどまでにこの二本は圧倒的なエネルギー量による出力によって他を圧倒する。

 

 

 

圧倒的なエネルギーによって圧倒された8人は立ち尽くしていた。

だが、白髪の男以外にもう1人、顔を隠した実行部隊の中のリーダーがなんとか声を上げる。

 

「全員、生きて帰れるとは絶対に思うな!!そんな甘い考えは全て捨てろ!いいか、生きるか死ぬかの平等の戦いじゃない。ただの圧倒的な力による殺戮だ!死力を尽くせ!」

 

白髪の男よりもこの実行部隊の男の方がどうやら信頼されていたらしく、残りの7人も各々の武器を構え始める。目が変わったように灰は思えた。

 

「君たちに敬意を払い、名乗らせてもらおう」

 

灰は一瞬考えた。アスタリスク最強の星脈世代。星導館の序列1位。『凍氷の皇帝(ヨトゥン・シュヴァルツ)』様々な呼ばれ方をする灰であるが、それ全てが灰であり、彼女たちはそれを受け入れてくれようとしているのだ。隠す方が馬鹿らしい。

 

 

「星導館学園序列1位『刀雷』にして『凍氷の皇帝(ヨトゥン・シュヴァルツ)』鳴神灰」

 

 

 

そう言い切ると灰は瞬間的に加速し一番左にいた黒づくめに肉薄する。左足で踏み込み、左手に握る『雷桜の断罪剣(キュラリー・フリークス)』を切り上げ、次の右足の一歩を左足で地面を蹴るけどで真横に大きく踏み込み、その隣にいる た黒づくめ2人を右手に握る『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』で串刺しにする。2人が刺さった『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』を次の加速と同時に後ろに振り、剣から死体が飛ばされる。

 

残り5人。

 

認識を許さない圧倒的な速度によって、3人を葬り次の目標に加速する。

だが、2人を串刺しにしたことによって急接近した灰は目の前がほとんど見えず剣を後ろに振った時には目の前に凶器が迫っていたが、左手の『雷桜の断罪剣(キュラリー・フリークス)』を引き戻していたため、簡単に振り払われ、戻ってきた『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』によって体を二つに両断される。そして、体の間からもう1人突進してきているのを確認できた灰は真横に降ったまま腕を捻り突きに攻撃を転じ5人目を突き刺し、『雷桜の断罪剣(キュラリー・フリークス)』を瞬時に逆手に持ち替え、後ろにいたもう1人の体を斜めに斬る。

 

残り2人。

 

そして、今度は『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』を右から左に振りながら前進し、左足で斜めに軽く飛び空中で小さく回転し逆手に持っている『雷桜の断罪剣(キュラリー・フリークス)』を上から振り下ろし、心臓のあたりを刺し、地面に体を縫い付け、残り1人となったリーダ格の男の喉元に剣を突きつける。

 

「殺さないのか?」

 

その男は喉元に突きつけられた時、武器を地面に落とし、無抵抗を示していた。

 

「あなたに聞きたいことがあったから少し生かしただけです。大体のことはあの男から聞きますので」

 

そう言い、奥で固まっている白髪の男を目で示す。

 

「あなたは『バベラトス』のメンバーではありませんよね?」

「ふん、あんな狂信者集団と一緒にしないで欲しいものだな」

 

吐き捨てるように言ったその言葉からどうやらこの男は『バベラトス』のメンバーでは無いようだ。

ならば灰の目的のことを知っているはずも無い。

 

「聞きたいことはそれだけか?なら、早く殺してくれ。仲間のところに早く行きたいんだ」

 

灰はこれ以上は聞かない。少しと言った以上二つ三つと質問するのは流石に無神経すぎるからだ。

 

「最後に言い残したいことはありますか?少しだけなら聞いてあげますよ」

 

一瞬だが、灰はこの男を殺すことをためらった。他の黒づくめを皆殺しにしてしまっているためそんなことは出来ないが。何故かわからないがその気持ちが出てきてしまったのだ。

 

「鳴神灰。『バベラトス』に執着しているなら、一つ教えてやろう。『バベラトス』そして、『リヒシュタン』の生き残りは『ノアの箱舟』と名乗っている。守りたいのなら、気をつけろ。奴らはどこにでもいる。奪われたく無いなら、守ってみせろ」

 

そう言いうと目で言い終わったと伝えてくる。これ以上は喋る気は無いらしい。

 

「肝に銘じておこう」

 

そう短く告げると灰はその男の首を刎ねた。

力無く倒れる体に背を向け、未だに動けない白髪の男のところへ歩いていく。

 

 

 

 

 

「動けないだろう?」

 

灰がその男の顔を掴み無理矢理目を合わせる。

男の表情は恐怖でおかしくなりそうな程歪んでいた。

 

「お前の体中の筋肉は全てが僕の力によって凍り付いている。本当は色々聞きたいことがあるが今は時間が無い。しばらく恐怖で震えてるがいいさ。お前たちのしたことは許すつもりなど無いからな」

 

そう言うと顔から手を離し、背を向け2人の元に歩いていく。

男は力無く倒れ伏し動く気配すら見せない。

雷桜の断罪剣(キュラリー・フリークス)』と『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』を発動体にも戻したため髪の毛も元の灰色に戻り、目の色も灰色に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

2人は灰のことをまっすぐ見て、優しく微笑んでいた。

この2人になんて言おうか迷ったが、こう言った。

 

「ただいま」

 

そう言うと2人はほぼ同時に灰に抱きつき、灰の顔を見ながらこう返してくれた。

 

「「おかえりなさい」」

 

そう言ってもらえた時、灰は2人のことを抱きしめた。

 

「本当に2人ともありがとう」

 

その言葉に2人は強く抱きつくことで返事をした。

しばらく3人で抱擁を交わしていたが、ほぼ同時にお互いの体を離した。

 

 

「ちょっとごめんね」

 

2人から少し離れ虚空に向かって口を開く。

 

「少し前からずっとそこから見ていたのでしょう?戦闘は終わりました。そろそろ出てきてはくれませんか?」

 

中央区の方向の廃ビルの方に声をかける。普通なら人などいるはずも無いが、1人十階から飛び降りてくる。

ヘルガ・リンドヴァル。星猟警備隊の隊長である灰がアスタリスクに来る前は最強の魔女として名が知られており、今でもその力は衰えていない。

シルヴィアとオーフェリアも気配には気づいていたがまさかヘルガ・リンドヴァルだとは思ってもいなかったらしい。

微かに驚いていた。もともとこのような場所にくる人物など限られているからだろう。

 

「鳴神灰君。今すぐこの場を立ち去りなさい。私の部下がそろそろ駆けつけるでしょう。面倒ごとに巻き込まれたくなければそこの2人を連れて行きなさい」

「わかりました」

 

口答えは許さないといわんばかりの威圧で会話を断ち切る。その威圧はこれまで感じたどの威圧感よりも重くのしかかってきた。

そして、ヘルガはすれ違いざまこう言った。

 

「後日、手の空いた時、星猟警備隊の本部まで来てください」

 

 

その言葉に返答はせず灰は2人を連れ近くのビルの屋上に飛び移り、闇の中に消えていった。

 

 

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆の序章-3をお読みくださりありがとうございます。夕凪の桜です。

今回で序章を終わろうとしてたのですが、苦手な戦闘シーンにも挑戦しようとして文字がどんどん増えてしまい気づいたら6,000文字を超えてしまい、流石にこれはここで切るしか無いと思い切らせてもらいました。
今回で終わらないとわかった時、布団の上でしっかりと土下座させてもらいました。本当に申し訳御座いません。




ここで皆様にご質問がございます。
毎回5,000文字以上で3日に一度程度で投稿するのと2,000文字ぐらいで毎日投稿するのとどちらがいいでしょうか?昼に活動報告を書きますのでそこのアンケートに答えてもらえたら幸いです。



さて、実は理系の学生である自分なのですが、文章を書くのが下手で四苦八苦しておりました、文学は難しいなと思っている日々です。楽しいので苦にはならないですが。
なぜ、アスタリスクのSSを書こうと思ったのかい言うとですね、自粛中に暇すぎてアスタリスクのラノベ15巻までを2周して、アスタリスクのSSを書いてみようと思いました。





自分がこの後書きを書いている前確認した時はUAが996と後少しで4桁になるという非常に喜ばしいことになっておりまして、お気に入り登録も28件とこれも倍近くになっておりました。
本当に励みとなっております。皆様重ね重ねありがとうございます。


最後に誤字や、ここはこう変えて欲しいなどありましたらお気軽にお願いします。
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それでは次の話で。


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序章-4

やっと序章が終わりました!
これで次からやっと本編に入れる!!

前書きに書くことがわからないので、早速どうぞ!!!


アスタリスクの治安を守る星猟警備隊の本部。

 

 

 

ヘルガに率いられてきた星猟警備隊が再開発エリアで灰が戦った後を調べ、白髪の男を主犯として本部に連行し、地下牢獄の最奥に閉じ込めた。だが、不可解のことに白髪の男は精神を壊したかのように何かに怯えているように見え、警備員の尋問も全く気にせず、ガタガタと震えていたらしい。殺人によって精神が壊れたというわけでもなく、本能的な恐怖に支配されているようにみえた。

 

そして、3回目の尋問が行われようとしている時に、これまでずっと黙っていたヘルガが口を開いた。

 

「全員席を外してくれ。ここからは1人でやる。確かめたいことを確認できたら呼ぶ」

 

ヘルガは一足先に現場に到着しており、その時に何か目にしたのかもしれない。

あの時のヘルガの表情は何かを考え込んでいるように見えたからだ。

 

「では隊長、終わりましたら我々をお呼びください。それでは」

 

星猟警備隊の幹部の1人がそう言ったことにヘルガは頷いて返事をする。

全員が同時に敬礼をして部屋から退室した。

 

 

 

「さて、今ここには我々二人だけだ。『凍氷の皇帝(ムフェト・シュヴァルツ)』になぜそこまで怯える?」

 

その言葉を聞いた途端、白髪の男は暴れ出す。

 

「わ、私は違う!違うんだ!!!あいつらが勝手にやったことで、私はやってない!!、……か、関係ないんだ。私はむ、む、無実だ!!」

 

後ろ手に拘束されながらも暴れ拘束を壊そうとする。

 

「ふむ、やはり無理か………。彼が来てくれるのを待つしかないか………」

 

暴れ疲れたのか肩で息をしながら、座り込む。

 

「『凍氷の皇帝(ムフェト・シュヴァルツ)』。彼はこの男にどんな恐怖を刻み込んだのだ……。彼がこのアスタリスクを脅かすことはないだろうが、統合企業財体が彼に手を出さなければいいが………」

 

異常な星辰量の増幅を感じたため本部にいる警備隊員を途中の道路に待機させたのちヘルガ一人で廃ビルに登り灰の戦いを見たか、見る限りシルヴィアとオーフェリアを守るために戦っていることは明らかだからだ。

 

「彼にはいろいろ聞かなければならないな………」

 

この後再び尋問が行われたが白髪男はただ怯えているだけであった。

 

 

 

 

 

その後廃ビルの屋上を飛び移りなら再開発エリアを抜け、灰の家の近くになってからは歩いて家に向かった。

深夜十一時ごろ、祝賀会を抜け出してから約1時間が経っていた。

 

ようやく家に着き一息つけた。

 

「シルヴィ、オーフェリア。お風呂が沸いてると思うから二人で入ってきていいよ。この家の風呂無駄に広いから二人でも十分広いと思うし」

 

はーい、と鼻歌交じりに返事をするシルヴィアと風呂と聞いて興味を示しているオーフェリア。

 

「それじゃあ着替えは私の私服が置いてあるからそれでいいよね?」

「え、ええ………」

 

シルヴィアは再開発エリアに行く時の変装用の私服などを少し置いているらしい。灰は流石に何着あるかなどは詳しくは知らない。知ろうとした時のシルヴィアが怖いからだ。普通の私服も置いていっているように思えるのは気のせいであろう。多分………。

 

オーフェリアは二人の、特にシルヴィアの話の進むスピードが速すぎてオタオタしている。

灰は楽しそうに部屋を出て行き、自分の私服が置いてある部屋にスキップしていく姿を見て苦笑している。

ああなったシルヴィアは止めるのは難しい。

 

「オーフェリアさーーーーん」

 

部屋の外からシルヴィアの呼ぶ声が聞こえる。

どうしたらいいのか戸惑っているオーフェリアだが、灰を見て、行っていいのだと理解し、部屋を出て行く。その顔は心なしか喜んでいるように見えた。

 

二人が服を選び、風呂に入っている間、灰は『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』、『雷桜の断罪剣(キュラリー・フリークス)』が保管されていた部屋に向かう。ここには灰が革命を起こす前に日本の一般には知られていない霊峰にて仙人たちと修行を行っていた時にその地に眠るウルム=マナダイトを渡されていたものが保管されている。その数は三十個以上あり、一つ一つが各学園に保管されている純星煌式武装に使われているウルム=マナダイトをよりも強力である。

そして、この仙人というのが悠久の時を経て生きるとも言われる者達の集団ではるか昔に仙人の存在の噂についてもこの集団だ。もちろん強さは計り知れないが、灰は全員から教授を受けその技術をすべて盗むかの勢いで習得していった。仙人達はどんどん新しい技を繰り出してきて結局どれくらい習得したのかはわからない。

 

灰は『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』と『』の発動体を取り出し、『非活性化モード』で起動する。この二本の剣は他の純星煌式武装と違い、三段階に分かれている。なぜなら強力すぎるエネルギーを秘めているこの二つのウルム=マナダイトはずっと最大出力で展開しているとそのエネルギーに耐え切れずウルム=マナダイトが自壊してしまうのだ。そのため『非活性化状態』『活性化状態』『臨界状態』の三つに分けられている。

 

非活性化状態は出力が最低限でありただの煌式武装と変わらないのだ。だが、活性化状態になると出力が跳ね上がる。灰が先ほどの戦いで使用していたのはこの活性化状態だ。

 

そして、最後に臨界状態。これは二本のコアのウルム=マナダイトの出力を最大限発揮するのがこの状態である。しかし、この臨界状態、灰の制御能力を持ってしても維持するのは長くは持たない。持って15分。状態によっては10分は持たない。灰がこれを使用したのは2回のみ。

二つの統合企業財体の総本部を壊滅させた時だけである。

かの仙人達も極力使うなと言われており、灰もその忠告を忠実に守り、その力を使いより一層その力を使わないようとした。

初めて灰が力に対して恐怖を抱いたのだ。もしかしたら世界をも滅せる可能性が垣間見れたのだ。

 

「これを呪いというか祝福というか迷ったが、今は祝福だったと思えるよ。ありがとう」

 

そう言った時、『冰青の天界剣』と『雷桜の断罪剣』が微かに震えた。意思を持つと言われる純星煌式武装だが、その話はほぼ本当のようだろう。

 

二本を発動体に戻し、中央の台座に置く。

部屋から出て、先ほど外したネックレスを首にかけ直しながら寝室のある3階に向かう。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜シルヴィア、オーフェリアside〜〜〜

 

 

大浴場があるようなホテルと同じぐらいの広さを持つ。と言っても浴槽が広いだけだ。

オーフェリアの傷の跡はしっかりと洗い流し、二人で肩を並べ広い浴槽に浸かる。

これでやっと一息がつけたと落ち着ける二人。

 

「ふわわぁーー」

 

ここまで気の抜けた世界の歌姫を他に誰が見たことがあるだろうか。至福の表情を見せるシルヴィア。

そんな彼女がこてん、とオーフェリアの肩に頭を乗せる。

 

「ちょ、ちょっと、シルヴィア……」

 

急に肩に頭を乗せられ、驚きより恥ずかしいという気持ちの方が強かった。

 

「むぅー、またシルヴィアって言ったー。シルヴィって呼んで」

 

オーフェリアの肩にぐりぐりと頭を押し付ける。

シルヴィアが信頼している人しかいない時にのみ見せるのがこのような表情だ。完璧に気が緩んでいる時の表情。凛々しい歌姫という姿ではなく、ただ一人の年頃の少女である表情だ。

 

「わ、わかった。呼ぶ、呼ぶから。呼ぶからやめて、、シルヴィ………」

 

オーフェリアがそう言うとシルヴィアは満足したかのように頭をぐりぐりするのをやめる。やめただけで肩に頭は乗せたままだ。

 

「ねぇ、シルヴィ………」

「なに?オーフェリアさん」

 

オーフェリアは自分の肩に乗せているシルヴィアの頭に自分の頭をくっつける。

まさかオーフェリアが頭をくっつけてくるとは思わなかったのか驚きの表情をする。

 

「ありがとう。あなたに出会えて良かったわ」

 

短く告げられた言葉だったが、その言葉はシルヴィアをものすごく喜ばせた。

 

「私だけ愛称で呼んでもらうのも変な感じするし、灰君にオーフェリアさんの愛称をつけてもらわなきゃね」

 

楽しそうにしているシルヴィアを見てオーフェリアは思った。この顔はまた何か企んでいるなと。

シルヴィアと一緒にいた時間はものすごく短いが、純粋に楽しみにしている顔と少し違うのがなんとなく分かったのだ。

そして、オーフェリアのその考えはあっていた。何を考えていたのかは乙女の秘密らしい。

 

風呂を上がり、二人は着替えて灰を探す。リビングを見てもいなかったので、おそらく三階の寝室にでもいるのだろうと予想し向かっていく。

 

 

寝室の扉を静かに開けると灰は窓の前に立ち、行政区の高層ビル群の方角を眺めていた。王竜星武祭の熱が覚めきらないのか夜なのに未だに輝いていた。二人が入ってきたのに気づいたのかゆっくり振り返る。

 

 

〜〜〜シルヴィア、オーフェリアside out〜〜〜

 

 

 

窓の外、夜の闇に支配されるはずが、今は人工的な光に打ち消され昼のように行政区の高層ビル群は光り輝いていた。流石に光は抑えられてはいるが、カーテンを閉めないとさすがに眩しい。

グランドスラムを達成者が出てさらに盛り上がりを見せているようかに見えた。

 

シルヴィアとオーフェリアが扉を開け入って来たため、ゆっくりと振り返る。

 

「お風呂はどうだった?」

 

二人にそう聞く。お風呂上がりで二人の頬は赤くほんのり染まり、髪の毛は少し湿っている。

 

「うん、すごい良かったよ。いつもあれは一人で使ってるなんてずるいなー」

「気持ち良かったわ、傷痕もしっかりと綺麗にできたわ」

 

二人たらも好評で一安心する灰。ここの風呂は生徒会長のクローディアによってこの家をもらった時に要望として風呂をかなり広く作って貰ったのだ。

そして、クローディアのいたずらなのか、ベッドが無駄に広いのだ。それこそ3人で一緒に寝ても充分広いぐらいに。

 

 

「喜んでもらえたらなら良かった。あの風呂はこの家をもらった時から広いけど、何回か改造しているからそこらのお風呂よりずっといいと信じてるからね」

 

 

そこで一息ついた時にオーフェリアとタイミングを確認してから、シルヴィアが意を決したかのように声を発する。

 

「灰くん。これから言うことを聞いて欲しいの」

 

何を言おうとしているか大体予想がついている灰だが、なんでかを聞かず、静かにシルヴィアの言葉を待つ。

 

「私はね、灰くん君のことが好きだよ。友達としてじゃない。一人の異性として君のことが好きだよ。ずっと一緒に居たいと思っているの」

「私も、あの日貴方に人の温もりを教えて貰った時、貴方に全てを捧げると、そしてずっと一緒に添い遂げると思ったわ」

 

アスタリスクで最上位に入る美貌の持ち主である二人。シルヴィアはもちろんだが、本能的な恐怖によりほとんど注目されることのないオーフェリアだが、その美貌はアスタリスクでも最上位に位置する。

そんな二人からの告白を同時に受け保留にするほど灰は間抜けではない。

 

「二人ともありがとう。………僕も君たちとはずっと一緒に居たい。でも、二人の内どちらかを選ぶことなんてできない。だから、二人と付き合うってことでも良いかな?」

 

そう、灰はシルヴィアも、オーフェリアも好きなのだ。どちらかを選ぶことなどできない。

 

「もちろん。ちゃんとそのことは話し合っているよ」

「貴方ならそういう答えをすると思った。だから、シルヴィと私で決めたの。二人で灰の彼女になろうって」

 

どうやら二人は事前にどうするか決めていたらしく、と言うよりも灰がどう答えるかも予想していてその先の言葉で考えていたらしい。

 

「二人がそれで良いなら、僕もそれで良いよ。改めてよろしくね二人とも」

「よろしくね、灰くん」

「よろしく、灰」

 

3人の表情はみな嬉しそうにしており、灰は改めて守るべき存在を認識する。いや、守られるだけでは無い。二人は灰の心の支えとなり、灰を守る存在なのだ。

 

「あ、ねえ灰。ちょっと目をつぶってて」

「え、あ、うん……」

 

突然オーフェリアにそう言われ、断る理由もなく目を瞑る。

何をされるのか本当にわからなかったが、両肩に手を乗せられる。シルヴィアとオーフェリアが片方ずつ手を乗せているらしい。

 

「ぜ、絶対目を開けないでよ!!」

 

耳の近くでそう言われ、顔がすごい近いことが分かり、灰はなんとなく二人がやろうとしている事を理解した瞬間、両頬に少し湿り熱を持ったものがくっつけられた。

 

そう、二人は灰の頬にキスしたのだ。

 

「待って!まだ目は開けないで……………」

 

目を開けようとしたところシルヴィアの声に止められる。

彼女の状況を見てから何か声をかけようと思ったが、彼女たちがどんな表情をしているかわからないため、声をかけるのを戸惑ってしまう。

 

少しして、シルヴィアから声が目を開けて良いとのお達しがある。

目を開けると未だに顔が赤いオーフェリアとおそらく赤くなっていたのが少しおさまっているシルヴィアが未だにあたふたしてた。

 

「僕はお風呂いってくるから二人は先にベットで横になってて良いよ。寝心地も最高なはずだから」

 

何かをしゃべろうとしては止めてしまうのを繰り返している二人を見て助け舟を出す。

 

「え、ええ。そうさせてもらうわ」

「あ、ありがとね。ありがたく使わせてもらうね」

 

詰まりながらも返事をする彼女達。恋愛経験が乏しいため反応がいちいち可愛いのだ。

 

顔を赤らめる二人を見て、改めて可愛いと認識した灰は部屋から出て行こうとするが背中から声をかけられる。

 

「あ、そうだ。灰くん。オーフェリアさんの愛称をお風呂入っている間に考えてあげてね!考えたらベッドに入ってきて良いからね!」

「了解、ちゃんと考えておくよ」

 

そして、今度こそ扉を閉めてお風呂場に向かう。

しっかりと体を休めるためにいつもより長めに湯船と言えるかわからない大きさの浴槽にゆっくり浸かる。

充分浸かった後は寝るための服に着替えるのではなく、外用の服にもう一度着替える。

そのまま寝室に向かい、静かに扉を開けると二人の微かな寝息が聞こえる。

こっそりとベットに近づき、布団を少しめくると手を繋ぎ仲良く眠る二人がいた。その二人の頬にさっきのお返しにキスをしてから布団を戻し、静かに部屋から出て行く。

これから行くところは警備隊の本部だ。ヘルガに来てくれと言われ、ずっと待たせるわけにもいかず、ならすぐに行こうと思ったのだ。

 

 

警備隊の本部につくと元々話が通っていたのかすんなり奥に通されヘルガの待つ部屋に通された。

 

「よく来てくれた。鳴神灰くん」

 

椅子に座っていたヘルガは立ち上がり灰を出迎えてください。

 

「リンドヴァルさんからのお呼び出しですので、待たせるわけにはいきませんので」

 

灰はこう言ったが、本当の理由もヘルガは知っていたため特に何も言わず灰について来るように言い、白髪の男の待つ部屋に行く。

厳重に封鎖された扉を開けると中央の椅子に後手に拘束された白髪の男。ヘルガが入ったときは何も反応しなかったが、灰が入った瞬間顔を上げ、灰の顔を見て急に暴れ出す。

 

この時の灰の表情は笑っていた。

灰は数時間に及び白髪の男を尋問した。次から次へと投げかけられる質問にこの男はすぐに答えていく。答えなかった時、殺されると思っていたからだ。その間ヘルガはずっと隣で見ていたが、確信する。鳴神灰という人間の行動原理に。オーフェリアとシルヴィア、二人を守るということはもちろんだが、その深淵には強大な復讐心があるということに。

 

そして、灰の尋問が終わりヘルガとともに最初に通された部屋に入る。

 

「鳴神灰くん。星猟警備隊に入る気はないか?」

 

ヘルガは暗に今回のことは黙っておくから警備隊に入れと言うらしい。もちろん灰は言われなくても元々ヘルガにお願いするつもりだったのだ。断る理由もない。

 

「もちろんです。元々こちらからお願いしようとしていたのです。断る理由もありません」

 

そう言うと二人は握手を交わし、正式に灰が星猟警備隊に入隊した。

 

後日、家に星猟警備隊の制服と所属していることを示すバッジが送られてきた。

 

 

 

 

 

 

 




告白シーン下手くそでごめんなさい!!!!!!!(土下座)

学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。夕凪の桜です。

やっと、この物語の序章を終わらせることができました!
一つの目標を達成することができました!
一話目を書いた時、学校が再開されたりしたらどうしようかと思いながら書いていましたが、延期されひとまずほっとしてます。いや、ほっとしちゃいけないのかも…………


さて、そんな話は置いておいて、前回言ったアンケートなのですがおそらくこの後書きの下にあると思うので、良かったら投票お願いします………。
投票の結果を見て毎日投稿するなら5月10日のこの時間あたりに、5,000文字程度なら11日ぐらいでしょうかね。とりあえず1日だけ休憩を……………本編の物語進行をほとんど考えていなくて焦ってます。




自分はこれを書いている時にアスタリスクのアニメのOP二つをずっと回しながら聞いているのです。そうするとより物語が作りやすいので。アスタリスクのOPめっちゃ大好きなんですよね。
気分がめっちゃ乗るというかなんというか。





ユニークアクセスが念願の4桁に到達し1500も超えることができました。皆様本当にありがとうございます。
お気に入り登録も33件と少しずつですが伸びている状況です。
そして、評価もものすごい高いものをいただいており、感謝しかありません。
平均評価ランキングには最低5票ないといけないらしく、あと少しで乗ることができるとワクワクしております。




最後に誤字や、ここはこう変えて欲しいなどありましたらお気軽にお願いします。
感想も匿名でも書けるようにしてあるので気楽に書いてもらえればと。
感想やご指摘は皆様が自分の作品をしっかりと読んでくれていると思えて励みになります。
もしよければ評価もしていってもらえたら幸いです。
感想、評価はこの後書きの下にありますので何卒よろしくお願いします。




それでは次の話で。


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間章-0-1

王竜星武祭の少し後の話となります。


こんにちは!シルヴィア・リューネハイムです!

知らない人に簡単に説明すると、クインヴェール女学園の生徒会長で序列1位、一応アイドルやってます!って言えば何となくわかるかな?

 

はい!えっとですね、今日何を話すかというと、近況報告みたいなものです!

 

みんなは灰君。鳴神灰君って知ってるかな?今シーズンの鳳凰星武祭、獅鷲星武祭、王竜星武祭を全部優勝してグランドスラムを達成した凄い人なんだよ!それで、なんで灰君がここに出てくるかっていうと、えっと、その……灰君は私のか、か、か彼氏なんです……///

今日はその事に関することです!

 

 

 

 

ううう、やっぱり慣れないな………

 

アイドルって恋愛は御法度みたいな暗黙の了解があるんだけどね、私もそれに従ってたんだ。

でも、灰君と出会ってから、何回も遊んだりしてる内に私が灰君に惹かれているってことに何となく気付いちゃったんだ。でも、恋愛は絶対にダメだからその気持ちを押さえ込んでライブをしたんだけど、本当に酷かったよ………

だって、歌詞は飛んじゃうし、ステージで転んじゃうし、音程外しちゃうし、本当散々だったな………

 

 

そしたら、ペトラさんに言われちゃったの。

『気になる人でも出来たの?』って。

本当にびっくりしちゃったよ!何で分かったんだろう………そんなに表情に出てたのかな………

 

 

まあ、私が不調続きってことでその後のライブは中止になってるから、大丈夫だったんだけどね!

でも、アスタリスクに戻ってきて王竜星武祭の準備してる時は凄い順調だったんだ!これも灰君のお陰かな///

 

今から思い返してみると灰君の事ばっかり考えてたからライブも失敗しちゃったのかな……

でも、アスタリスクに戻って来れば灰君に会えるから調子も上がったのかも!

 

 

そして王竜星武祭!!

 

準決勝までは順調に勝ち進めたけど、私の王竜星武祭はそこで終わっちゃったの。だって、相手が灰君なんだもん!!!!

もちろん、最初から負ける気で戦ってないよ、勝つ気で本気でぶつかったよ。だって、あの『鳴神流抜刀術』はずるいよ!あんなの防ぎようがないもん!!!!少しは近接戦に自信あるけどさ、あれは全く見えなかったよ………

 

それで、まあ、そのままフィーアちゃんも倒して灰君はグランドスラムを達成したの!

彼女として誇らしいけど、悔しいな……

 

 

ここからが一番大事だよ!

灰君はあの『凍氷の皇帝(ムフェト・シュヴァルツ)』だったの。でも、私は彼がどんな人間だったとしても彼を信じるって決めたから、そんなこと気にせず、三人で付き合ってます!

 

それでね、灰君と付き合い始めてあら歌の練習が凄いうまくいったの!そしたら、ペトラさんに『あなた、出来たのね』って言われて、それは焦ったな〜。だって、アイドルに恋愛は御法度だもん。でも、ペトラさんは意外なことに許してくれたの。その条件として、灰君と少し話がしたいんだって!

 

あ、ペトラさんは私の彼氏が灰君ってことはまだ知らないの。

それはお楽しみということで、ね?

 

 

はい!そして、いま!灰君は私とフィーアちゃんの本気によって、誰かすぐには分からないようなぐらいにはなっています!

ペトラさんに当ててもらうためだよ!!

 

 

いまはもう理事長室の前まで来てるから、他の生徒も居ないということで、灰君の左腕に抱きついてます♪

ちなみに、フィーアちゃんはいつも右手だよ。

なんでかって?

 

灰君からもらったネックレス、それに嵌め込まれている宝石?なのかな、それの色が私は金色だから。灰君が『凍氷の皇帝(ムフェト・シュヴァルツ)』の時に使ってる二つの純星煌式武装、『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』と『雷桜の断罪剣(キュラリー・フリークス)』で左手に握ってるのが『雷桜の断罪剣(キュラリー・フリークス)』。同じような色の方がいいかなーって、二人で話し合ってそうなったの!

 

 

 

 

 

話が逸れちゃったね。それで、今は理事長室の中でペトラさんと向き合ってます。

 

 

 

「ようこそ、シルヴィアの彼氏さん。ペトラ・キヴィレフトよ」

「どうも、シルヴィの彼氏やらせてもらってます」

 

ペトラさんが灰君のことすっごい見てる……

ふふ、でも、私達2人で灰君の変装を弄ってるから簡単には分からないはずだよ!!

 

「なるほど、シルヴィアはあなたを選んだんですね。鳴神灰君」

「えっ……………」

「さすがです。とでも、言えばいいのでしょうか?」

 

うそうそ、なんでペトラさんわかったの?!だって灰君の変装は完璧のはず……

 

「あのね、シルヴィア。私はこれでも元クインヴェールの序列1位よ?雰囲気で何となくわかるわよ。隠しているようだけど、これほどの覇気を持っているのはアスタリスクで一人しかいないわよ」

 

あちゃー、完全にこれは私の落ち度だな〜〜

ペトラさんが鳳凰星武祭で優勝して、王竜星武祭準優勝したことは知ってたけど、まさか見破られるなんて………

うううー、いつも驚かないから驚かせてやろうと思ったのにー!!

 

 

「それで、ペトラさん。話したいことってなんですか?」

「シルヴィアと付き合う事に私は口出しはしないわ。ただ、覚悟はあるか、それを聞きたかったの」

 

 

覚悟……?あれ、人と付き合うのって覚悟とか必要だったっけ………

 

「世界の歌姫であるシルヴィアの彼氏となればそれ相応の批判をくるでしょう。たとえ、貴方でも」

「たとえそうであったとしても、僕は彼女の隣に立ち続けますよ」

 

うう、灰君って結構恥ずかしいことを普通に言うから困っちゃう………///

あ、全然嫌じゃないんだよ!

むしろ嬉しいの///

 

 

「それに、僕なら彼女と対等になれると思いますよ」

 

対等……むしろ、私が見劣りしないか心配だな……

だって、グランドスラム達成者で、警備隊の幹部……うーん、何とかなるかな!!ペトラさんがどうにかしてくれると思うし。

 

「まあ、貴方とわかった時点でその辺りについては心配などしていませんよ」

「合格ということですね」

 

 

 

 

 

 

そのあと二人は5分ぐらい話してたんだけど………私ってここにいる意味あったかな………

ずっと二人で喋ってたし……

 

まあ、灰君と一緒に入れるだけでも十分だね!!

 

 

 

 

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます!
意味わからない生活してる夕凪です。

このあとにオーフェリアの間章を入れようか悩んだんですが、次に回すことにしました。
なので次は二章の設定などを投稿予定です。

7名の方に評価をいただき、評価のゲージの左端が自分でもにやけてました。
7名のかたありがとうございます!


それでは次回!


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姫焔邂逅
新たな波紋


やっとアスタリスク本編に入れました!

アスタリスク本編の主人公である綾斗は嫌いではないのですが、若干苦手なのでそんなに登場させない予定です。多分………
もしかしたらこちらの都合上登場するかもしれませんが。



新学期となり、冬に行われた王竜星武祭の熱が覚めきらぬ中時は無情に過ぎ、人々は次の星武祭に新たな興味を抱く。

灰は高校生となり同時に警備隊に正式に入隊し春休みの間にも警備隊の仕事をしていた。

だが、高校生になって何かが変わるわけでもない。星武祭にすでに三回出場している灰の学園でやることと言えば序列戦か後人の育成が主なやることとなりそうだ。

入学式も序列1位として何か言ったほうがいいのかも知れないが、別に何か言いたいこともないので警備隊の仕事を理由に断った。

そんな見え透いた考えがクローディアにバレないはずもなく、後日何かしらの仕返しが来そうだ。

とは言っても警備隊の仕事があるのは本当だ。灰も三ヶ月の間に幹部となるまで昇進したのだ。異例の大出世である。

もちろん、嫉妬する者も居たが全て灰は実績を出すことで黙らせた。

これには訳があり、歓楽街を支配しているマフィアの幹部の5人いる中の3人が灰に頭が上がらないのだ。

警備隊になりたての時、一度二人に手を出そうとしたアホなマフィアに灰がキレて、マフィアの根城まで行って、幹部3人を含めその時いた連中を全員ボコボコにしたのだ。もちろん、警備隊の他の人には内緒だが、ヘルガにはもちろんばれた。

その時からマフィアの中に灰には手を出さないことが暗黙の了解となっていた。表立って逃げるわけにもいかず、極力灰の機嫌を損ねないようにするよう末端のものまで通達されているらしい。

そのためか灰は主に歓楽街を取り締まることが多くなった。

 

 

 

 

今日もいつも学校があるはずの6時に起きる。灰は警備隊の仕事がある日は早朝訓練はほとんどしない。何やかんやで早朝訓練はかなり疲れるのだ。

ベットから体を起こすと隣で寝ているはずのオーフェリアがいないことに気づく。シルヴィアはツアーのため今は家にいない。一緒の家に住んでいると言っても、ひと月のうち半月はシルヴィアはツアーなどアイドルとしての仕事で家にいない。

オーフェリアは家にいることが多い。ディルク・エーベルヴァインとも決別した。灰が金目と銀目という諜報部隊とディルク本人の手駒全員の気絶した山を築き上げ渋々了承したのだ。

もちろんディルクはこれを公表はしない。自分たちにはまだオーフェリアという手札があることにしておきたいからだ。

 

 

 

 

リンビングに降りるとキッチンで朝ごはんを作ってくれているエプロン姿のオーフェリアがいた。

最初は料理がうまくできなかったオーフェリアだが、灰とシルヴィアという料理の上手な二人に教わりどんどん上達していった。

そのため、シルヴィアとオーフェリアがご飯を作りたがるので、灰は最近ほとんど料理してない。

 

「おはよう。灰」

 

エプロンに身を包み、白い髪の毛をポニテ気味に結んでいるオーフェリアが一旦料理の手を止め振り返る。

 

「ああ、おはよう。フィーア」

 

シルヴィアに言われたオーフェリアの愛称は、灰が考えてフィーアとなった。その愛称もオーフェリアは気に入っているようでなによりだ。

 

「もう直ぐ出来るから少し待っててね」

 

邪魔する理由もないので大人しくダイニングテーブルに座り、ぼんやりとオーフェリアのとこを眺める。

揺れ動く綺麗な白髪に目を奪われる。窓から差し込む朝日によってキラキラと輝いていたのだ。

 

「お待たせ、できたわ」

 

オーフェリアと向かい合い、朝食をとる。

7時には警備隊本部に集合のため、6時半には出発しなければならず、のんびりと食べ過ぎるわけにもいかない。

 

「今日の仕事はレヴォルフの学生の鎮圧?」

 

ご飯を食べながら今日の仕事について尋ねてくる。

 

 

「うん。毎年入学式の日に暴れる奴が多いからそれの鎮圧。しかもただのゴロツキ達だから加減しなきゃいけないのがめんどくさい………全員黒焦げでいいじゃん………」

 

この仕事を言われた時、灰は警備隊全員が出席している前でヘルガから念入りに手加減するように言われた。

それはもう恥ずかしいったらありゃしない。

 

「しょうがないじゃない。貴方が軽くやったとしても、今日暴れる連中はひとたまりも無いんだから」

 

苦笑しながらオーフェリアにやんわりと止められた。やっぱりダメらしい。

 

 

 

朝食を食べ終わり、警備隊の制服に着替える。最初はこれを着るだけでも緊張したが、今では慣れなものだ。

灰の警備隊の制服もただの黒い制服から所々に金や銀の刺繍が施され若干かっこよくなっているのがこの幹部の制服だ。

そうしているうちに6時半となり出発する時間となる。

 

「いってらっしゃい。馬鹿な連中の性根を叩き直してきてね」

「リンドヴァル隊長に怒られないように加減しながら頑張ってみるよ」

 

出かける前にオーフェリアと軽くハグをする。キスはしない。

これはシルヴィアとオーフェリアと3人で決めたことだ。シルヴィアが仕事で家にいないことが多いため、平等じゃ無いとオーフェリアが言い出したのだ。シルヴィアは別にそんな事はしなくていいと言ったが、断固譲らなかったオーフェリアに根負けしてそうする事になったのだ。そのため、シルヴィアが家にいる時は二人とも凄い甘えてくる。緩急がつき、良いような悪いような………

 

「それじゃあ、行ってくるね、フィーア」

 

玄関の扉を閉め、警備隊本部の方へ歩を進める。まだ昇ったばかりの太陽は綺麗に辺りを照らしていたが、同時に綺麗な朝日はその後に雨が来る可能性が高いということを示し、そこまで綺麗に晴れて欲しくなかったなと思う灰であった。

 

 

 

 

 

 

朝からの警備隊の仕事は、普段は学生である灰のことを考慮して学校がある時は緊急以外の仕事はない。休みの日は仕事があるが。

今日はもともと入学式で10時頃から開始される予定のため、今日まで仕事があるのだ。

それが終わり着替えるつもりもない灰は(単純にめんどくさいらしい)正門をくぐり中庭を通って校舎に向かおうとすると人だかりができているのでその中にいる見知った顔を捕まえて何があったのかを聞く。

群衆の中から聞こえる声からなんとなく分かるが。

 

「おい矢吹、これはなんの騒ぎだ?」

 

頬に傷があるカメラを構えている友人に声をかけた。

矢吹英士郎。新聞部でいろいろな情報を持っているため食券と引き換えによく利用している。まあ、本人には何かしら裏の事情がありそうだが。

 

「おお、鳴神。見ての通り決闘さ」

 

カメラを中心部に向けて固定したままこちらを振り返る。

 

「見ての通りと言われても、ユリスが暴れてるのしかわからんぞ。

 

この凛々しい声の主はリーゼルタニアの王女であるユリスのものだ。プライドの高いユリスのことだ。何かしらの喧嘩でも売られたのだろうか。

 

「お友達と言えるのがお前さんしかいないお姫様はなんと新入生に決闘をふっかけたのさ」

 

序列5位であるユリスは簡単に決闘などしないはずなのだが、それにいくらプライドが高いと言っても決闘事になるなんてよっぽどでもない限りありえないはずだ。

あ、そうそう。ユリスは他を寄せ付けない性格上誰も友達になれず、だが、その実力は本物で中学三年生で転入してから数ヶ月後には序列5位となったのだ。そして、公式序列戦で1位の灰に挑み終始遊ばれて敗れた。その後手加減されていたことに腹を立てたユリスが直談判し、灰のトレーニングエリアにてもう一度決闘が行われたが魔法を展開する時間を与えてもらってもなお、ユリスは手も足も出ず敗れた。灰が刀を抜いて3秒後、ユリスの校章は真っ二つに割れ地面に落下した。

この時ユリスはわかったのだ。自分はこの男に本気を出させるようなレベルに到達していないと。

 

 

そこから何やかんやでユリスの訓練に付き合うことが増え今ではある程度親しい仲になった。

オーフェリアはユリスと顔見知りのため、新学期になる前にオーフェリアと話し合い、秘密にすることにした。どうやらまだ知られたくないらしい。

 

 

「矢吹、なんでユリスが決闘してるのかは知ってるか?」

 

推測しても答えには辿り着きそうに無いので矢吹に聞く。この男なら何か知っていると思ったから。

 

「さあーねー、騒ぎがあってから駆けつけて、そのまま俺の煌式武装を投げ渡したから詳細までは……って、おい、鳴神どこ行った!!」

 

矢吹の言葉を最後の方はちゃんと聞けなかった。

自分に向けられた殺気ではないが、ユリスに向けられているのだけはなんとなくわかり、居ても立っても居られなくなり、駆け出したのだ。

 

灰の目にはユリスに向かってまっすぐ飛んでいく光の矢を捉え、全力で加速して叩き斬った。

 




どりゃゃゃゃゃゃゃーーーーセーーフ。………何してんだろう、自分
今日投稿したのには訳があり、後で話させていただきます……

学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読み頂きありがとうございございます。夕凪のさくらです。
やっと本編に入れて満足感に溢れてます。
最初ということもあり、説明的なところが多くなりほとんど話は進んでおりません。
オリジナルの部分は原作の5巻の終わり、鳳凰星武祭が終わったあたりに入れようかなと。

今日は投稿する気がなかったんですが、というか午前中はアスタリスクの一巻読んで構成を考えていたのです。メモ書き程度にかるーく書いただけでした。
しかし、夕食の時に親が馬鹿なことして雰囲気最悪になってすごいストレス溜まって勉強する気になれず、ちょっと急ぎ足でこの話を書き切りました。

おそらく誤字やニュアンスが変なところがあるので発見したら教えてもらえたら幸いです。



アンケートの結果、毎日投稿の方が多かったので、毎日投稿頑張ります!
ただ、割と大変と思われるので、とり合えず一週間。一週間は頑張ってみてペースを掴んでみます。

急ぎだったので、今回はここまでです。


最後に誤字や、ここはこう変えて欲しいなどありましたらお気軽にお願いします。
感想も匿名でも書けるようにしてあるので気楽に書いてもらえればと。
感想やご指摘は皆様が自分の作品をしっかりと読んでくれていると思えて励みになります。
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感想、評価はこの後書きの下にありますので何卒よろしくお願いします。




それでは次の話で。


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襲撃

生活リズムが2時間ずれてる………
直さないと………


中庭の周りに存在する茂みから発射された矢は群衆の間をすり抜ける前に灰が腰から『雲雫』を抜き放ち両断される。

群衆の間からユリスと紫の髪をした少年。彼が噂の転入生か。二人が灰のことを見て違う表情をしていた。ユリスは灰を見て目で襲撃者を捕まえろと言ってくる。そして、少年はユリスを押し倒しながら自分以外にも襲撃者の存在に気づいた人間がいる事に驚いている表情だ。

しかし、転校生くん。君は勇気があるね、あのユリスを押し倒そうとするなんて。

 

お二人の事はまあ、誰かがどうにかしてくれるだろう。

おそらく騒ぎを聞いたクローディアあたりが。

 

「さて、僕は襲撃者さんのところに行こうかな。手加減なんてしなくて良いんだもんね」

 

灰は朝の警備隊の仕事で少なからずストレスが溜まっていて襲撃者は絶好の標的とされたのだ。

 

「さてと、おかしな星辰量をもつ襲撃者さんは誰なのかね」

 

灰の登場に驚いていた襲撃者だが、すぐに踵を返し逃げようとする。

おかしな星辰量。灰は『凍氷の皇帝』の力を使ったあと、何故か人それぞれの魔力の波長を読み取ることができたのだ。無論しっかりと集中しないとそれぐらいのオンオフは灰なら簡単にやってのける。

慣れ親しんだ、それこそシルヴィアとオーフェリアの星辰量の波長は直ぐにわかる。

だが、この時感じた星辰量は体内から発生するのではなく、あらかじめ込められた星辰量に感じたのだ。そう、この襲撃は魔術師か魔女の能力によって遠隔に行われていると、灰はその時直ぐに分かった。

 

「人形か、面白い……」

 

茂みの中へと消えていった襲撃者を追いかけるが、正門にはまっすぐいかず、何回も入り組んだ校舎の間をすり抜けるため流石の灰も見失ってしまう。

 

 

「ちっ、これ以上追うのは流石に無理か……ユリスに小言を言われそうだ」

 

人形を見失ってしまったのは痛手だが、これで相手も灰のことを敵と認識し襲ってくるか、逆に警戒し襲ってこないかの二択のどちらかを取るだろう。中途半端なことはしないはずだ。

だが、灰にとって襲撃よりもユリスの小言の方が怖いのだ。

 

 

 

 

 

 

教室に入り自分の席と椅子を引きどかっと座る。目を閉じ天井を見る。まためんどくさい事に巻き込まれた自信があるからだ。

 

「はぁー、僕に平穏は訪れないのか………」

 

星武祭の出場権を使いきり、ある程度静かに暮らせると思ったがどうやらそれは不可能らしい。

 

「序列1位なのに何を腑抜けたことを言っているのだ。お前は」

 

後ろから声をかけられる。どうやら後ろの席の人が来たらしい。

 

「だって、しょうがないじゃん。朝から中庭で花火大会やってるから見てたら変な奴いるしー、流石に放置しておくわけにもいかないじやん」

 

クローディアから事前に次の鳳凰星武祭に出場し活躍すると思われていた選手が何者かに襲撃されていたのを聞いていたのだ。

ユリスも前々から鳳凰星武祭に出ることは聞いており、襲撃される可能性があると思っていたが、まさか今日、決闘をするなんて予想してなかったからだ。野外で決闘なんてしたら襲撃の良い的だ。油断していたのは灰も否めない。

 

「た、確かに朝のは助かった。それは礼を言う」

「お姫様も素直じゃないねー、素直にありがとうって言えば良いのに」

 

すると隣の矢吹が茶化してくる。こいつは本当に………………

 

「う、うるさい!!お前は黙ってろ!矢吹!!」

 

まあ、当然ユリスは怒る。まあ、これがいつもの光景だからユリスも本気で怒っているわけではないのはわかる。

はぁー、ため息をつき、ユリスは灰の方を見て本題に入る。

 

「それで、襲撃者はどうしたんだ」

 

朝の襲撃者、それがユリスが一番聞きたかったことだろう。

 

「どうしたもこうしたも、逃げられたからこうしてるの!」

 

星猟警備隊に所属してから色々な物事を解決していたため、襲撃者も捕まえられると思っており、逃げられたことはかなり精神的に来たのだ。

 

「お前でも逃すとなると捕まえるのは厳しいか………」

「ただの植え込みしかないところだったら捕まえられたけど、あいつ、校舎の間をすり抜けていくから加速が出来なかったんだよ!あーもーやだ、寝る」

 

 

ぐでーと机に突っ伏す。もちろん寝る訳ではなく、ただ机に机に伏せてるだけだ。

 

 

「はあ、ユリス。これからは屋外で決闘なんてするなよ?」

 

とりあえず言いたいことは言わせてもらう。

 

「当たり前だ。今日のような事は流石に私も懲りた」

 

どうやら流石のユリスも襲撃されたことに危機感を抱いたらしい。

 

「まあ、何かあったら言ってくれ。力にはなれると思うから」

学園内で星猟警備隊の幹部としての権力は使えないが、それでも鳴神灰個人としての力だけでも十分すぎるぐらいだ。大体の事はそれだけで事足りる。再開発エリアや歓楽街のガサ入れする時ぐらいしか星猟警備隊の権力を使わざるおえない。そもそもそんな事になる事なんてないに等しい。

 

「頼もしい限りだ。ただ、たいていの事は自分で解決出来ると自負している。だが、灰。お前の力が必要になるときは素直に借りるとしよう。お前の事は信頼してる」

 

ユリスは人と馴れ合う事を嫌うが、灰の事は信頼しているようだ。

 

「信頼されてるようで何より。なんか無駄に疲れたから授業まで寝るからユリス起こしてー」

 

朝の仕事は簡単であったが数が多すぎて流石の灰も疲れたらしい。

後ろからユリスの溜息が聞こえたような気がするか気にしない。視界の端に噂の転校生君が来たように見えたが、今は寝る事を優先する。

転校生君は割とギリギリできたようで八津崎先生が直ぐに来てしまい、灰は夢の世界に入る事すらできずにユリスに起こされた。

灰の学校の成績は平均よりも上であるが最上位ではない。上の中ぐらいだ。序列1位で成績もそこそこ優秀なら何も問題はない。

まあ、アーネストに関しては成績も最上位であり、本当にどうかしてると思っている。

 

授業が終わり、クラスのほとんどが転校生君の周りに集まり今朝の決闘について聞きたがっていた。

 

「矢吹、そう言えば今朝の決闘の理由、結局何だったんだ?」

 

転校生君………いや、八津崎先生が天霧綾斗って言ってたな。綾斗とユリスの決闘の理由について聞いてなかった事を思い出し、離れたところにいる矢吹に声をかけた。

 

「うんぁ?今朝のか?何でも天霧がお姫様の着替え覗いたらしいんだ」

 

ひゅー、彼は初日からすごい事ばっかするもんだね。着替えを覗いたり、押し倒したりと、誰もやらないような事ばっかやるもんだ。

 

「そりゃ、ユリスも怒るわけだ。だからあんなイレギュラーな形で決闘する事になるのか」

 

あの決闘がどうやって終わったか知らないが、まあ、取り敢えずはいいだろう。

 

「まあ、天霧もお前さんが追いかけていった襲撃者の事には気づいていたっぽいし、割と直ぐに序列入りするかもな」

 

星導館は昨シーズン灰以外に目立った成績を残したものはおらず、層の薄さが露呈してしまった。

 

「たしかに、ありえるかもな」

 

そこで話を切り、再び自分の席に戻る。次の教師は色々とめんどくさいから早めに着席していい子にしているのだ。

 

(序列入りか………あの遠距離からの攻撃を見破る事が出来るのはそれこそ序列上位者、『冒頭の十二人』クラスの力が無いと不可能だろう。特待転入生らしいけど、面白いじゃ無いか………)

 

アスタリスクに巻き起る新たな風を彼は巻き起こしてくれる。そんな気がしたのだ。

 

 

後ろで何やら矢吹と綾斗が灰について話しているが気にしないで次の準備に取り掛かる。

 

 

綾斗が灰と話す事になるのはまだ少し先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださり有難うございます。夕凪の桜です。


連日投稿2日目、何とか余力があるところです。若干頭痛がしていて長引く予感がしたのでちょっと早めに投稿させていただきます。早めに寝て明日に影響しないようにしないといけませんので。
ですが、本編に入れてウキウキが止まらなくて執筆活動もどんどん進んでおり、結構速いペースで書いてて文章が意味わかんなくなってたりしてそうなので、明日しっかり修正させてもらいます。

ゴールデンウイークが終わり、若干気の緩みが発生しているらしいですが、皆様はどうでしょうか?
最近は近所の子供達が(自分もまだ大人とは言えないですけど)外の道路で遊んでて、元気がいいなーって思ってます。自分は は外行くのがめんどくさくなってそろそろやばいです。

さて、自分は最近抱き枕を買ったんですが、抱き枕カバーにシルヴィアかオーフェリアの物がなくて悲しくなってます。皆様は知ってたりしませんか??


アクセス数が2300、お気に入り登録が40を超えて自分も嬉しい限りです。
皆様のご期待に応えられるような文章を書きたいなと思っているので、これからもお読みいただけたら幸いです。
書きあがり次第、人物紹介も投稿できたらなと思っております。



最後に誤字や、ここはこう変えて欲しいなどありましたらお気軽にお願いします。
感想も匿名でも書けるようにしてあるので気楽に書いてもらえればと。
感想やご指摘は皆様が自分の作品をしっかりと読んでくれていると思えて励みになります。
もしよければ評価もしていってもらえたら幸いです。
感想、評価はこの後書きの下にありますので何卒よろしくお願いします。




それでは次の話で。


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三人が揃った日

皆様コーヒーをご用意ください


結局灰は綾斗とは話さないまま新学期初日を終えた。

 

放課後は星猟警備隊の本部に立ち寄り、今朝の報告をする。時間がなかったので一緒に居た人達に報告を任せていたが、一応自分でも報告しておこうと思ったのだ。報告と言っても灰の場合鎮圧出来ました、ではなく治療院送りを出しませんでしたという報告になる。灰とヘルガに関しては鎮圧するのは当たり前というのが今の警備隊の共通認識だ。事実、この二人に鎮圧出来ない暴動など『翡翠の黄昏』ほど大規模なもので無い限り鎮圧可能だ。灰は今回のような仕事は初めてだったので手加減の具合を間違えないかが不安がられたのだ。

結局治療院送りがゼロだったのでヘルガも特に何も言わず、問題はなかったらしい。

警備隊の本部から家へとのんびりと帰る。

 

「そう言えばシルヴィも今日は入学式の挨拶があるからアスタリスクに居るんだっけか、家には帰ってくるのかな………」

 

昨日までツアーがあり、明日からまた別のツアーが始まるため今日は家で過ごせるかもしれないが、時間が無けれな明日のツアー予定地に先に行く事になる。詳細は当日までわからないらしい。まあ、ペトラさんあたりがどうにかしてくれるだろう。

 

 

 

「………だーれだ♪」

 

後ろから抱きつかれ、手で目隠しをされる。ただ、身長差があるのか背伸びしているため背中に少女であることを証明する確かな胸の膨らみを感じる。

そんなことをする人物は二人しかいないが声的にもうわかっていた。

 

「うーん、シルヴィかな」

 

わざと迷った風に答える。

すると少女、シルヴィアは頬を膨らませながら器用に自らの胸の谷間に灰の左腕を挟み込むようにして腕を絡める。

クインヴェールの自分の寮に一回寄って変装してから家まで来るので、身バレすることも無い。

 

「そこは迷わないで答えてほしかったなー」

 

胸の柔らかい感触が制服越しに伝わってくるがここで反応するとシルヴィアにからかわれるのはわかっているのでスルーする。

 

「もちろんシルヴィって、すぐ分かったけど、せっかく聞かれたんならちょっと遊んでみようかなって」

 

流石にシルヴィアに後ろから抱きつかれたら灰はすぐにわかる。

 

「そういうことなら、許してあげちゃう」

 

そう言うと久しぶりに灰に会えたことで寂しかったことを示すように路上なのに灰の腕に頬ずりをする。 頬ずりをしているためゆっくりと手を絡めながら歩く。この二人の間で作られる世界に他の周囲にいる人たちはわざわざ近づこうとはしない。そのためある程度個人的なことも話しやすい。

シルヴィアはツアーが終わり、家で過ごせる時の初日は物凄い甘えてきて、猫のようにくっついてきて、これがまたいつも以上に凄い可愛いのだ。

 

「それにしても、星猟警備隊の幹部服もだいぶ着慣れてきたね。最初は着るだけで緊張してきたのに」

「なんか、ここまでくると逆に緊張しなくなるよ。

「今日は家に居られる?」

 

灰が一番聞きたかった事を尋ねる。夜ご飯を家で食べたとしても夜中にまた次のツアーに出発することがたまにあるからだ。

 

「うん、ペトラさんが今回はゆっくり休んで来いって。だから数日間は一緒に居られるよ」

 

なるほど、シルヴィアの機嫌がいつもより良い理由が分かった。

 

「本当は今日の朝に連絡しようかと思ったんだけど、忙しくて時間がなかったの」

 

シルヴィアは家でご飯を食べる時は事前に連絡してくれる。シルヴィアが居ない時はオーフェリアがご飯を作ってくれるため事前に連絡しておかないとオーフェリアが困るからだ。

 

「あ、でも、ちゃんとフィーアちゃんにはお昼ぐらいに連絡してあるから安心して」

 

ちゃんとオーフェリアには連絡してあるらしい。多分灰達の家庭事情を知っているペトラさんが気を利かせてくれたのだろう。あの人はこういう気遣いをさり気なくしてくれるので灰としても大いに助かっている。

 

「久しぶりにフィーアちゃんの料理を食べられるから楽しみだな〜」

 

料理を教えればどんどん上達していくオーフェリアの手料理はシルヴィアのお気に入りだ。今では三人の中で一番料理が上手い可能性まである。

 

「フィーアはどんどん料理のレパートリーも増えていってるらしいし、どんどん僕が料理する必要がなくなりそうだよ」

 

これに関しては灰にとって嬉しいことだ。料理をするのが嫌いでは無いが、好きな人の手料理の方が何倍も美味しいからだ。

 

「いいのいいの。好きな人に手料理を振る舞えるのは女としてこの上ない幸せなんだから」

 

そう言うと頬ずりに満足したのか、頬ずりを止めて腕を絡めるだけにする。

その後家に着くまでの間、今回のツアーはどうだったとか、ペトラさんが厳しすぎるとかの話を聞いた。灰も今日あったことを話す。主に綾斗の事だが、それでも灰がここまで興味を示すという事は面白い人物なのだとシルヴィアも思った。

 

時間にして15分ぐらいして家に着き、鍵を開けて家の中に入ると鍵が開いた音が聞こえたのかオーフェリアが一階に降りてくる。

 

「おかえり。灰、シルヴィ」

 

この家はクインヴェール、レヴォルフ、星導館からの距離がほぼ同じなので、三人が学校行った日はほぼ同じ時間に帰ってくるが、今日は灰は星猟警備隊の本部に行き、シルヴィアはツアー帰りなので遅く、オーフェリアが一番早く家に着いたのだ。

 

靴を脱ぐとシルヴィアはオーフェリアに抱き付いた。

シルヴィアはとにかく帰ってきた日はスキンシップが激しくなる。その対象は灰だけではなくオーフェリアにもだ。

 

「フィーアちゃーーーーん!!!寂しかったよーーー!!!」

 

二人の身長はほぼ同じなので抱きついた時にほぼ決まって頬ずりをするシルヴィアはオーフェリアの頬に頬ずりを出来る。

スリスリと頬ずりをされるオーフェリアの顔はどこか嬉しそうにしている。久しぶりに会えて、オーフェリアも嬉しいのだろう。

 

「ねえ、シルヴィ、今からご飯作るところなんだけど、もし良かったら一緒に作らない?」

 

未だに抱きついている状態のシルヴィアにそう問いかける。灰からはシルヴィアの顔は見えないが、反応からして喜んでいるのだろう。

そのまま二人は揃って階段を上っていった。

仲のいい二人を見て自分が幸せ者であることを感じる。

階段の下にある部屋、灰の星猟警備隊の制服や星導館の制服が置かれている。荒事が多い星猟警備隊の服が八割を占めており、私服は三階にまとめて置いてある。

一階にある風呂を沸かしてから星猟警備隊の服を脱ぎ、朝着ていた服に着替える。

それから3階に上がる。二階はシルヴィアとオーフェリアが料理をしているためいい匂いが充満していた。

 

3階に上がり、ウルム=マナダイトなどが保管されている部屋に入る。

真ん中の台座には二本の純星煌式武装ありその後ろの壁に一本の大きな鎌がかけられている。

この鎌は鳳凰星武祭、獅鷲星武祭を一緒に勝ち抜いた戦友が使用していたものだ。だが、王竜星武祭を前に六花を去った。序列2位まで登り詰め唐突に消えたため一時期大騒ぎになった。

 

『俺にはこのアスタリスクを護るための力が足りない。俺はいつか必ず戻ってくる。それまでどうかこいつを預かっていて欲しい』

 

最後にそう言い残し本当に消えてしまったため、灰も今どこにいるかはわからない。だが、戻ってくると言った以上いつかまた会えることを信じて灰は待ち続けるのだ。

 

「お前の求める護るための力が見つかることを祈っているよ」

 

だが、灰は別れる前に戦友が口にした言葉を思い出し、より一層不安になる。

 

『灰、『凍氷の皇帝』はなぜ、革命を起こしたと思う?』

 

とっさのことに何も反応できなかった灰であるが、戦友はこう続けた。

 

『あの人は護るために戦ったと、思っている。俺はそこに答えがあると思っているんだ』

 

灰の返答を待たずして立ち去る戦友の姿を灰はただ見送るしかなかったのだ。

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。夕凪の桜です

コーヒーを用意してくださいと言ったものの、最後は伏線を張るためにほとんどコーヒーの意味がないという………
次は激甘で行ける、はずです。
今回と次の話は完全に自己満足的な部分があるので、可愛いシルヴィアとオーフェリアを読んで想像してもらえればと思います。
恋愛描写が下手くそなのは自分でも反省してます。なにせそういったものを経験したことがないもので………

毎日投稿3日目、だいぶ書くのにも慣れてきて楽しい限りです。
ただ、毎日投稿してたりすると文章をしっかりチェックする時間がないので、この後、確認作業をしようと思います。


コロナウィルス感染者が減っているらしいのですが(若干ニュースの情報を信じられないので)これだと学校が再開されて投稿するのが厳しくなる可能性があります。6月から学校が始まる予定なので、それまではのんびりとですが投稿して行きたいつもりです。出来れば鳳凰星武祭終わるまで。


最後に、誤字やご指摘があれば遠慮なくお願いします。
感想も匿名で書けますので、一言二言だけでも残していってもらえたら幸いです。
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感想、評価するところはこの下にありますので、何卒よろしくお願いします。

それではまた次の話で。


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その夜

学校というものを現実逃避したい…………


夜ご飯も食べ終わり、灰が風呂に入った後、シルヴィアとオーフェリアは一緒に風呂に入る。シルヴィアが居ない時は灰とオーフェリアは一緒に入るわけではない。さすがにそれは二人とも恥ずかしいのだ。というか、三人全員の認識がそうなのだ。いつかは一緒に入りたいと思っている三人であったのだ。

ただ、シルヴィアとオーフェリアの髪の毛を梳かすのは灰の役割である。今日はシルヴィアから先にお風呂から上がってきたので、椅子に座ってもらい、綺麗な紫色の長い髪を丁寧に梳かす。ちゃんと手入れがされているため、櫛が簡単に通っていく。梳かし終わった後も、シルヴィアが満足するまで丁寧に梳かし続ける。この間シルヴィアはほとんど何も話さない。ただ、されるがままになって灰に身を委ねるのだ。シルヴィアは後ろ側から梳かしてもらうことが好きで、オーフェリアははまた違う形で髪を梳かしてもらうのを好んでいる。

オーフェリアが上がってきたため、シルヴィアは椅子から立ち上がりリビングのソファーに移動する。灰に髪を梳かしてもらえる役割は素直に譲るのがこの二人の間での半ばルールになっていた。オーフェリアは髪を梳かしてもらう場合、灰の膝の上に横向きに座って髪を梳かしてもらうのがお好みらしい。大体梳かしてもらう時は灰の心臓あたりに耳を当てて心臓の鼓動を聞くのが良いらしい。それはシルヴィアも同じだ。

 

二人は奇跡的なことに甘え方が分かれており、シルヴィアは寝るときに心臓の鼓動を聞きたい派であり、オーフェリアは寝る前に心臓の鼓動を聞き精神を安定させてから寝る派だ。もっとも、オーフェリアは髪を梳かしてもらった後はほとんど灰の右手から離れないため、ずっと精神安定状態に入っており、いつでも寝れる状態なのだ。たまにそのまま寝てしまうことがあるのはしょうがない。

 

 

お風呂も入り終わり、今はリビングで三人でくっつきながらテレビを見ている。お風呂入った後で体が熱いので、軽く手が触れる程度しかまだ密着していない。

だいたい1時間程すると体も冷めてくるのでだんだんと密着してくる。オーフェリアはいつも通り右手に密着してきて、わざとなのか天然なのか右腕を自らの胸の谷間に挟み込んでくる。シルヴィアと同じぐらいの確かな胸の膨らみがあるオーフェリアは今はパジャマに着替えているため、その感触をよりダイレクトに感じることになる。

灰はこれをされると毎回どういう反応をすれば良いか迷うのだが、大体はスルーすることにしている。

シルヴィアはというと、灰の膝の上に寝っ転がっている。シルヴィアの綺麗な紫色の横髪を丁寧に撫でる。

 

そろそろテレビのニュースも飽きてきたので、オーフェリアにユリスが今日襲撃されたことを教える。

 

「そういえばフィーア」

 

腕に抱きついている状態から顔だけあげて首をかしげる。

 

「今日、ユリスが屋外で決闘したときに何者かに襲撃されたんだよね」

 

オーフェリアが微かに驚いた顔をする。今は関わりがないとはいえ親友だった人物が襲撃されたにしては反応が薄い。

 

「でも、貴方がそう言うってことはちゃんと守ってくれたんでしょ?なら、何も心配ないわ」

 

オーフェリアはちゃんと信じてるということを強調するためか、さらに腕に抱きつく力を強くする。

 

「それはまあ、もちろんだけど………」

 

頭をかきたくなるが、両手が塞がっているので頭を掻くことを諦める。

たまにこういう話をするとオーフェリアはストレートにこういう言葉を言う為、人に信頼されるのがどうにも慣れない灰はこういう言葉に弱いのだ。だが、シルヴィアはそう言う言葉はほとんど言わず、行動で示すことが多い。例えば今、灰に膝枕されている時など、完全にオフモードのシルヴィアを見れるのは信頼されている証だろう。

 

「でも、リースフェルトさんって確か今回の鳳凰星武祭、優勝候補だったよね?」

 

シルヴィアが顔を上に向け、その時撫でるのを横髪から前髪に変える。

 

「うん、ある程度ちゃんとしたペアが見つかれば優勝は確実って言われてる」

 

星武祭に出場権のない灰と王竜星武祭にしか興味のない二人にとって、次の鳳凰星武祭の情報は最低限しか入ってこない。

 

「星導館内に外部の人間と取引している者がいるって僕は思ってる」

 

クローディアはレスターが怪しいと言っていたが、灰はそうは思わなかった。

あの時の星辰量の波長はレスターのものではなかった………。

 

「闇討ちとかはレヴォルフの領分だけど、今回のことは多分違うと思うわ」

 

そう、もしディルク・エーベルヴァインなら星武祭に出場させてから棄権させる手法を好むはずだからだ。

 

「ということは今回はアルルカントが星導館を新作の実験台にでもしたということか………」

 

三人の持つ様々な情報を組み合わせて今回の件の真相に少し近づく。

 

「んぅ〜〜〜〜」

 

するとシルヴィアが軽く伸びをする。

 

「シルヴィ、疲れてるのならもう寝る?」

 

灰の腕を堪能しているオーフェリアがシルヴィアに聞く。オーフェリアの表情は眠いのか眠くないのか分かりにくいが、経験上この時間だと若干眠いぐらいだろう。オーフェリアは早寝なのだ。

 

「うん……ちょっと今日はいつもより忙しかったから眠いかも………」

 

目を擦りながら小さく欠伸をする。連絡する時間もないほど忙しかったからということは余程の事だろう。

 

シルヴィアが疲れていることもあり、今日は早めに寝ることにする。時刻は11時前、いつもは12時に寝ている為1時間ほど早い。

ベッドに入ると移動する為に離れていたオーフェリアが再び右手に抱きつき、シルヴィアは頭を灰の胸の上に乗せる。

いつもはここで少しばかしイチャイチャしてるが、今日は二人とも早い。オーフェリアはいつも早いがシルヴィアも今日は早かった。なので、二人の寝顔を少しばかし堪能してから寝ることにする。

 

 

(アルルカント………生徒会長の左近洲馬はそこまで実行力のない人物だと聞く……。つまり、もしこのような事をするとしたら派閥のリーダー格の人物……朝、逃げる時の筋肉の動きが通常では考えられないような動きをした……。つまり人形のはず、人形使いの魔術師か魔女のうち星導館にはそのような人物がいないはず………)

 

クローディアから今回の事件について少しばかし話を聞いていたこととさっき三人で会話したこと、そして警備隊の情報局で見られる情報を照らし合わせ黒幕ではなくとりあえず実行犯を割り出すことにした。

 

(有力候補のランディーとレスターはまず怪しすぎるからほぼ実行犯ではないだろう。ランディーに関してはもしかしたら関与しているかもしれないが、逆に全く容疑がかかってないサイラス・ノーマン。奴が一番怪しいな………いや、ほぼ確定と言っても良いかもしれない)

 

心の中でため息をつくと、シルヴィアが少し身動ぎする。左手は空いてるので優しくシルヴィアの頭を撫でる。その寝顔がさらに落ち着いたものになり、安心する。

 

(守るものが増えるのは大変なことだよ、ほんと。彼女たちを守る為に僕は持てる全てを持って戦い抜こう)

 

オーフェリアの頭に自分の頭をくっつけ、シルヴィアの腰に手を置きより近くに抱きよせる。

 

灰も目を瞑り夢の世界に落ちていく。今日は良い夢を見れそうだ。

 

 

 

 

 

 

灰は6時に起きて7時までは早朝訓練をする。近接戦闘をしないオーフェリアは早朝訓練は参加しない。中衛として近距離と遠距離両方をこなす為、ツアーが終わった2日後の朝から訓練に参加している。その為今日はまだ帰ってきて直ぐなので参加はせず、オーフェリアと一緒に朝ごはんを作るのだ。

 

灰の早朝訓練は地下室で行われる。外に星辰量が漏れ出ないように特別な素材で作られている。上でまだ寝ている二人を起こさない為だ。

自分の体内の星辰量を意図的に暴走させてそれを完璧にコントロールする。単純な様に見えてかなり体に負担を強いるのがこの訓練だ。

最初の頃はほんの少しでもかなり消耗したが、今はそれからは成長したがそれでもまだ少ししか暴走させることはできない。灰はとりあえずこの訓練を続けることになるだろう。

 

 

そして、今日はシルヴィアもオーフェリアもいる。数少ない三人が揃う時間を大事にしようと思い1日が始まる。

 

 

 

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。抱き枕に布団を占領されてる夕凪の桜です。

ギリギリ毎日投稿できました………。こういうシーン書くのも苦手で描写が難しい……(もともと描写自体少ないのですが……)
息抜き回を挟み次からは本編に戻る予定です。
そろそろ綾斗と灰が会話してくれるはず………!


明日から授業がオンラインで始まるかもしれないので、気が重いです………。
小説書いて息抜きになるのでこれは続けていく予定です。このペースだと何話ぐらいかかるんだろ鳳凰星武祭まで行くのに………


ユニークアクセスが3000超えて、すごいびっくりしてます。ちょっとずつアクセス数が伸びていくのを見るのってなんだか楽しいものです。
そして!お気に入り登録が50を超えて3桁までの折り返し地点となりました!自分でもびっくりしてます。まさか自分の書いた小説がここまでお気に入り登録してもらえるとは!
皆様には感謝しかありません!




最後に、誤字やご指摘があれば遠慮なくお願いします。
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それではまた次の話で。


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束の間の平穏

暑いけどエアコンつけすぎたら寒い…………


朝の訓練が終わり、三人で久しぶりに一緒に食事をとる。楽しげに朝食をとる二人を見ながら灰は思う。

 

(二人の笑顔を守る為にも頑張らなくちゃな………)

 

朝の訓練を思い出すとより一層そう思えたのだ。

朝、シルヴィアも帰ってきていることだし少しいつもより多めの星辰量を暴走させてみることにしたのだ。霊峰の師匠たち曰く、ごく稀に自分の体内から溢れ出る星辰量が大気中の万応素に干渉してそのまま『世界という概念』そのものに干渉することがあるらしい。それは少し先の未来を見通す事があるのだとか。

 

あの光景…………あちこちで火の手があがるアスタリスク、警備隊、各校の序列上位者が全力を尽くして皆を守ろうとしている光景。そして、ヘルガ隊長以下数名の精鋭で敵の本拠地を強襲、激しい激戦の末にヘルガ隊長と灰のみが生き残るが灰は大怪我を負っているというそこでその未来は途切れた。

 

そのあとは予想がつく。治療院に運ばれ入院、たとえ助かったとしても意識が回復するかもわからないそんな危険な状況。それはこの二人を悲しませることになる。

 

(未来はあらかじめ設定されたものではない。自ら切り開いて作るものだ。その手で守りたいものがあるなら、その為の道を切り開く。師匠たちはそう言ってたな……)

 

灰は運命を自ら切り開くだけの力を持っている。あとは灰自身の覚悟次第だ。

 

 

そのまま朝食を食べ終わると各々制服に着替えて家を出る。シルヴィアは一旦クインヴェールの自分の寮の部屋で着替える必要があるため、いつもの自分の制服ではなく変装のための制服を着ている。

 

そういえば星導館は入学式の次の日から2日間にわたり序列戦がある。新入生に自分たちの学園の序列上位者の実力を体感させるためらしい。また、新入生の中で序列上位者、特に『冒頭の十二人』に挑戦したい人たちには挑戦権が与えられる。1日目は在校生のみによる序列戦が行われ、その時に自分がもし挑戦するなら誰を選ぶかを考えるのだ。

そして、一位は毎年最も挑戦者が多い。この時に敗れ去る人もいたらしい。

 

朝、クローディアから連絡があった。昼休みに序列戦についての打ち合わせがあるのだとか。

昼になり、灰は生徒会室に入る。するとそこには奥のテーブルに座っているクローディア一人しかいなかった。

 

「会長、序列戦のことについて何か話があるって聞いたけど、新入生達を驚かしすぎないでくれよ」

 

この金髪の生徒会長はいつも悪巧みしてるから新入生達が腰を抜かさないか心配だ。

 

「あら〜?そんなことはありませんよ?ただちょっとした私なりの歓迎です♪」

 

ほら言った。この人のちょっとしたって言うのは心臓に悪いから止めた方が良いのかもしれないが、灰はこの企みに加担することにした。昨日の事がよっぽどストレスになったのだろう。

 

「よし!その歓迎とやらに僕も全力で協力させてもらうよ」

 

その言葉を聞いたクローディアは腹黒い笑みを浮かべる。

腹黒生徒会長と心の中で言おうとすると、その腹黒い笑みが威圧的になったので考えるのをやめる。

 

「それでは詳細を詰めましょうか」

 

クローディア曰く、今日は序列戦には出ないらしい。グランドスラムを達成した最強の星脈世代の力は未だ健在か、そんなシナリオらしい。

さすがに三ヶ月程度じゃ力は衰えないと思ったが、人間三ヶ月あれば変わるしそんなものなんだろう。

2日目はちゃんと序列戦に参加する。そこで新入生の中の希望者が灰に挑むらしい。予想だと十数人らしい。

それ以外にも軽い打ち合わせをしていた頃、ちょうど昼休みの残り五分を告げる予鈴がなったので急いで教室に戻ろうとする灰の背中にクローディアから声がかかる。

 

「あと、そうでした。序列戦の開幕の挨拶お願いしますね。私は2日とも試合がありますので」

 

閉まりかけの扉の隙間からそんな言葉が飛んできた。

クローディアから何回か生徒会の仕事を手伝わされた事があり灰は知っていた。この生徒会室の扉は一度閉じる動作をするとその間は上げる動作は受け付けてくれないのだ。次は移動教室でほとんど時間のない灰は扉が閉まるのを待ちもう一度開けるほどの余裕はない。

つまり、クローディアからの頼まれごとを半ば了承したことになる。

 

「はぁー、やられた。ただで帰してくれる訳ないわな……会長、やってくれたじゃないか………って、こんなことしてる場合じゃない。ユリスに小言を言われるのは慣れてるけど、矢吹にまで言われる訳にはいかないからな」

 

矢吹に言われるとなんか、ムカつくのだ………わかる人はいるはず………

 

 

慌てて教室に戻り移動教室に必要なものを持って行く。灰がついたのはチャイムが鳴るのと同時刻だった。案の定ユリスと矢吹に小言を言われた。矢吹許さん。

 

 

結局ろくに開幕の挨拶をろくに考えられないまま時間だけが過ぎ序列戦が始まってしまった。

最初に生徒会長が挨拶をするのが恒例となっている。

 

だが、今回は生徒会長ではなく、灰が挨拶をすることになっており、ステージ上に用意された仮設の壇上にあるマイクに向かってゲートから出てきた灰はゆっくりとしかし堂々と歩いていく。

 

「みなさん、こんにちは。ここに立つのが生徒会長ではなく僕で驚いている人もいると思います」

 

新入生の中でクローディアが生徒会長であることを知らない人は灰が生徒会長であると思っていたのか驚いているだろう。現に驚きを隠せていない新入生がここからちらほら見える。

 

「この中には僕のことを知っている人もいるかと思いますが、改めて自己紹介しましょう。星導館学園序列1位、『刀雷』こと鳴神灰です」

 

ここで何も知らなかった新入生がざわめく。何せ灰はグランドスラムを達成した伝説の人物なのだ。そのような人物を同じ学園とはいえ初日から肉眼で見れるとは思わなかったのだろう。

 

その後は当たり障りもないことを10分ぐらい話したところで新入生達は飽きてくるかもしれないと思い話を終わらせる。

 

「さて、ここで長々と話しすぎると後ろの序列戦が今日の分が終わらなくなってしまうので一旦終わりにしましょうか。あなた達が目標とする背中をしっかり見るといいですよ。無駄にはならないはずです。明日の君たちからの挑戦、楽しみに待っています」

 

 

その言葉で開幕の挨拶を締めくくると壇上から降りてゲートへ去っていく。その背中には新入生からの惜しみのない拍手が送られた。

新入生達の大半はこの不敗の背中を追うことになる。その不敗伝説に現実を突きつけられ諦めるかそれとも挫けず努力するか、二択の選択肢が彼らには与えられることになる。

 

 

ステージから退出した灰はそのままスタジアム内の生徒会専用ルームに向かう。

中にはクローディアが序列戦の準備のため対戦相手のデータを見ていたが気にせずソファーに横になる。

 

「お疲れ様でした。大勢の前で話すのは初めてだと記憶しているのですが、流石ですね」

 

対戦相手のデータの確認が終わったのか灰に話しかけてくる。序列3位たるクローディアは油断することなく格下と序列戦を行い今まで序列3位担ってからはその座を維持している。

 

「星武祭の優勝した時に大勢の観客に見られながらの表彰に比べればどうってことないさ」

 

灰はあの時の緊張を思い出す。鳳凰星武祭の時はもちろん緊張したが、王竜星武祭の時はそれよりも緊張した。グランドスラム、それは灰が思っていた以上に偉大なることだったのだ。

 

「そんなことを言えるのは貴方ぐらいですよ。ですが、そのおかげで新入生の方々も大いに盛り上がっているようなので、明日さらに盛り上げてくれることを期待していますよ」

 

やんわりとプレッシャーをかけてくるクローディア。だから灰は仕返しとばかりにこう言った。

 

「『パン=ドラ』を使わないからって足下掬われるなよ」

「ご心配にはおよびません。これでも近接戦は得意な方ですから」

 

未来視の能力がある『パン=ドラ』を抜きにしてもクローディアの近接戦の技術はかなりのものだ。もともと心配すらしていない。

 

 

クローディアの試合だが、序列23位の相手を完封していた。未来視を必要としない圧倒的な勝利であった。

 

 

ちなみにこの後家に帰るとシルヴィアとオーフェリアの二人に序列戦の開幕の挨拶でめちゃくちゃいじられた………

普段見ない姿だから新鮮だったらしい………

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。夕凪の桜です。

色々と書きたい事があるのですが、まず最初に一つ。

自分の学校の方でオンライン授業が始まるらしく、毎日投稿が厳しくなるかもしれません。
楽しみにしてくださっている方々、本当に申し訳御座いません。
出来る限り毎日投稿は続けたいのですが、さすがに勉強をサボるわけにもいかず…………



さて!暗い話はここまで!
明るい話をしましょう!

昨日のアスタリスクのSSの中で先週と今週だけののUAのランキングを見たら自分の作品が二番目でした!!!
本当にびっくりして、スマホを二度見して確認するほどでした。

これからも頑張っていきたいと思いますので応援していただけたら幸いです。


最後に、誤字やご指摘があれば遠慮なくお願いします。
感想も匿名で書けますので、一言二言だけでも残していってもらえたら幸いです。
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それではまた次の話で


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序列戦2日目

暑いんか寒いんかどっちやねん…………


1日目の序列戦が終わり、冒頭の十二人はその座を維持した。それより下の場合は少し変動があったらしい。

一位である灰の試合がなかったことから新入生達は尻込みして例年は二十人ほどの挑戦者が十三人に減っていた。

まあ、アスタリスクに来たばかりの学生が何人いても変わらないが、減ったことは大いにありがたい。早く終わるからだ。

 

 

灰の序列戦は二つに分かれており、前半戦は七人、後半戦は六人と二回に分かれている。

そして、その序列戦にあたり、灰は校章破壊によって試合を終わらせるつもりはなく、降参して貰うつもりでいた。校章、薄くてあってもなくても変わらないのが、新入生の場合、間一髪攻撃を回避した時に校章が破壊される可能性があるからだ。

そのため、不完全燃焼で終わらせないようにせめてもの配慮で校章破壊は狙わないようにするのだ。

 

前半戦七人。確かに名乗りをあげるだけあり、新入生にしてはレベルが高く、序列入りするかもしれない可能性があるのが二人ほどいた。

灰の前半戦七人抜きを皮切りに他の序列戦も開始された。新入生に遅れをとることなく皆順当に勝ち星を挙げた。

そして、本日最後の序列戦、灰の後半戦だ。残り六人中に刀藤流の使い手がいるらしいから少し楽しみだ。

 

一人、二人と試合を続け危なげなく勝利を収め、最後の一人、名前は刀藤綺凛。なるほど、彼女が刀藤流の使い手らしい。

 

試合開始位置に立ち、彼女の構えを見る。力み過ぎず程よいリラックス状態を保っている構え、今までの新入生達とは段違いの熟練度であった。

 

(会長から言われてたのはこの子か。初めてなのにここまで落ち着いて集中できるのは流石だな。その剣技楽しませてもらうよ)

 

灰も『雲雫』を構える。一見しっかりとは構えていないように見えるが、対戦相手はその隙の無さに圧倒されることだろう。

 

試合開始の合図がなるとすぐに灰に向かって一直線に突進して上から斜め下に刀を振り下ろす。なぜなら、灰は先手で攻撃してこないが、一瞬でも時間を与えれば絶対に攻撃は通らないからだ。

そして、灰は今までとは段違いの早さに驚く。だが、それだけだ。クローディアから事前に言われていたため何かあると思っていたからだ。

 

(速いだけじゃ、僕の間合いを切り崩すことなんて……出来ないよ!)

 

振り下ろされる剣を自らの刀で巻き取るようにして攻撃をいなし、今までやっていたように後の先を取る形でカウンターをする。

大抵の人間ならそこで試合は終わるがこの子は違った。

無理矢理刀の柄で灰の攻撃を受け止めたのだ。だが、灰の攻撃は速く、そして重い。まだ肉体が完全に成長しきっていない中学生では到底受け止めることはできない。

弾き飛ばされ、大きく距離を空けるがその距離を灰は一瞬にして詰めて、彼女がさっき刀を振り下ろした軌道と全く同じ軌道で刀を振り下ろす。さっきとは違い完全に体勢を崩している状態、決まるのはほぼ確定していたが、次の瞬間綺凛は先ほど灰が攻撃をいなしたと同じ方法で灰の攻撃をいなした。

 

体勢は崩れ、先ほどよりも重い攻撃に完璧にいなすことは出来ないが、それでも攻撃を回避し、灰の間合いから逃れたのだ。

そこで一旦体勢を整えることはせず、再び間合いを詰めて特殊な連続攻撃を繰り出してきた。

 

(これは………!『連鶴』……!まさか中1でこれほどの完成度とはさすが刀藤流の天才剣士か……)

 

連鶴は相手をどんどん確実に追い込んでいく技だが灰は一歩も引かず刀をはじき返す。後ろに下ることを前提に攻撃を繰り出したため間合いがズレてしまい技と技との繋ぎが崩れてしまう。その隙を見逃す灰ではなく、連鶴を完璧に途切れさせたが、予想外なことが一つあった。攻撃を受け止めたのだ。

彼女はわざと隙を見せて灰の攻撃を誘導したのだ。そして、その隙に差し込まれる灰の攻撃の軌道を先読みして防御を成功させたのだ。

 

 

(なるほど、自分の剣に過信することなく、そして、僕の強さを理解している。なるほど、一本取られたな)

 

綺凛からのカウンターをカウンターする攻撃を灰は受け止めることもできたが、自ら間合いを開け、距離をとる。

その瞬間会場がざわめいた。理由がわからない綺凛は困惑する。

 

「ここまで会場がざわめく理由がわからないようだね」

 

試合が始まって灰は初めて口を開く。他の新入生達には何も言う必要がなかったから、これが初めてとなる。

突然口を開いたことに綺凛は驚くが、無言で頷き返答する。

 

「僕は序列1位となってから何回も挑戦を受け、それを正面から、一歩も後退することなく勝ち続けた。でも、君は僕を後退させた。たまに絶対領域と呼ばれる僕の間合いは対戦相手をも支配して吞み込む。だが、その間合いを君は斬り崩したんだ」

 

攻撃は最大の防御と言われるように灰の間合い、絶対領域は踏み込んだ相手を支配し屈服させる圧倒的攻撃により絶対的防御を確立していた。しかし、それを綺凛は破ったのだ。そのことを知っている人間は皆驚く。

 

 

「だから、僕は君を一人の対等な剣士として認めよう」

 

最初までは手を抜いていたという事を認めたのだ。いや、言われなくても分かっていたのだろう。手加減が無ければ秒殺されるだろうと。

 

「行くよ」

 

綺凛は灰から感じる気配が変わったことに気づいた。目を瞑っている灰の剣気に気圧されたのだ。圧倒的と言える剣気は肌を突き刺すような感覚を綺凛に味あわせた。

灰は『雲雫』を納刀し抜刀術の構えを取る。そして、柄を順手ではなくて逆手に構える。これが鳴神流の抜刀術の特徴だ。

 

『鳴神流抜刀術『炎華』』

 

そう呟いた時、刀は神速で抜き放たれた。

『炎華』、16の抜刀術の中で最も重い攻撃を繰り出す技である。そのため、最も遅い攻撃となっている。だが、そうだとしても肉眼で捉えられるものはほとんどいない。灰は攻撃力を落とさず、速さを最大限加速させてこの抜刀術を放つ。

 

綺凛の構えていた刀を吹き飛ばす。そして、刀に振り回されることなく戻ってきた刀を喉元に突きつけられて綺凛は降参する。

こうして灰は序列戦を無敗で終えた。ステージから居なくなる前に灰は綺凛にこう言った。

 

「この後、少し君と話したいことがある。僕はこれからトレーニングルームで少しトレーニングするからそこに来てもらえると嬉しいかな」

 

この試合の時に感じた違和感を拭うために彼女に聞くことにしたが、さすがに大衆の前で公に聞くわけにもいかないので、トレーニングルームに来てもらうことにした。

 

(先にシルヴィとフィーアに遅くなるって伝えとくか、少し長話になりそうだ。もちろん、あの子が来てくれればの話だが………)

 

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。夕凪の桜です。

遅くなってしまいすいません。ちょっと本格的に時間がなく、2日に一回ペースになるかもしれません………
自分自身で頑張ってコントロールしながら上手くやっていけたらいいのですが、難しく………

これからも頑張っていきたいと思いますので応援していただけたら幸いです。


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剣の重さ

灰がステージから立ち去った後、未だに観客たちは動揺を隠しきれなかった。あの鳴神灰が自分の支配する間合いを食い破られたのだ。序列戦、星武祭、全てにおいて無敗を誇る絶対領域を。そのため灰は出さざる終えなかった、鳴神流抜刀術を。最強の剣術を。かつて数回しか使ったことのない抜刀術を中学一年生の刀藤綺凛に使ったのだ。

そして、人々は刀藤綺凛という少女に注目を集めるだろう。

 

 

(あーあ、やらかしたな。絶対領域を破られるなんて思っても無かったから対応が遅れて抜刀術を使うことになるなんて………情けない)

 

灰は自分の抜刀術をほとんど使わない。過去に公式戦で使ったのは今回を除き、4回のみ。星武祭の決勝戦の三回、そして、王竜星武祭の準決勝の時にのみ使用した。

なぜ、使わないかというと単純に強すぎるからだ。基本スピードが速い灰の剣術がさらに速くなれば誰も太刀打ちできないからだ。

純星煌式武装の中で防御不能と言われる魔剣と同じようなものだ。抜刀術は速すぎて不可視、つまり防御不能ということになる。

 

(はあ、自分に腹が立ってきたよ……トレーニングルームで少し暴れるか)

 

トレーニングルームには自動で動く人形が続々と出てくる訓練があり、その人形を何体倒せるかというものである。

これは上限が1024に設定されている。なぜかというと灰は人形程度ならほぼ永久的に倒せるためクローディアに上限を設けられてしまったのだ。

ここで実は抜け道がある。それは獅鷲星武祭用のモードにすれば人形の上限が3倍となるが、これがばれた時のクローディアが怖いため絶対にやらないことにしているのだ。ただでさえ、色々と無茶なお願いをしている以上、これ以上はさすがに気がひける。

 

開始のボタンを押して人形が続々と出てくるのを正眼に構えた刀で迎え撃つ。

灰に接近した人形は大きさ関係なく吹き飛ばされていく。その速さに人形の供給がだんだんと間に合わなくなり、一瞬人形が居なくなったところで来客通知が来る。トレーニング中は体の動きを感知して通知が表示されないが、体の動きが一定時間無くなると通知が表示されるのだ。

来客、つまり綺凛が来たということなのでトレーニングを中断する。スコアは853、15分程でこれなのでまあ、いつも通りぐらいだろう。

自分から呼んだので待たせるわけにもいかないのですぐに扉を開ける。

 

「お、お邪魔しますです……」

 

おずおずと入ってくる綺凛。試合の時とは違い、小動物のようにオドオドしてる。

 

(シルヴィやフィーアとはまた違う癒しを与えてくれる系の子か。妹系というのかな、これが………)

 

部屋の中を見渡した綺凛だが、灰の後ろを見たとき固まってしまった。

なぜ固まるのかが分からなかったが、灰は自分が今さっきまでやっていたことを思い出して納得する。

頭をかき、自分に呆れる。

 

「……そういえば自動回収機能つけると人形が出てくるのが遅くなるから付けなかったんだっけか」

 

流石にこれは自分でもやりすぎたなと思う。全ての人形が積み重ねられて巨大な二つの山を形成していた。その高さはトレーニングルームの天井に届きそうであった。トレーニングルームの天井は約8メートル、そのため近くで見たら充分巨大な山だ。

 

「ごめん刀藤、自分に腹が立ってたんだ。まあ、気にしないでくれるとありがたいかな」

「は、はい………」

 

急に呼び出されて、そこに行ってみたら意味不明な光景が目の前にあったらさすがに困惑するわな。

 

「あ、あの………!」

 

さすがに空気が重いので、何か話そうかとしたら綺凛が口を開いた。

 

「もし良ければ、トレーニングの続きを見てみたい、です……」

 

最後の方は消えそうなほど小声で話していたが、ちゃんと聞き取れた。

上級生のしかも序列1位に呼び出されて緊張しない方がおかしい。

 

「了解。残りが200もいないからすぐに終わっちゃうかもしれないけどね。一応離れといて、それにその方が見やすいからね」

 

灰は綺凛に自分の手の内を晒したとしても、それは一部に過ぎず、大して変わらないからだ。

 

自動回収機能を使ってわざと出てくるスピードを落とし、一体一体確実に倒していく。さっきまでの灰とは違い、落ち着いて型を一個一個なぞるかの様に丁寧に攻撃する。なぜか、綺凛のためとしか言いようがない。

そして、五分足らずで200弱の人形は全員退場した。

 

(たまには丁寧にやるのもまた新鮮でいいな)

 

刀を納めながら、そんな事を思っていた。基本的1対多数が想定されている鳴神流は一対一の場面用のものといえば基本的なことが多い。そのためこれはいい練習となるのだ。

 

「ありがとうございますです。鳴神先輩の剣、意志のようなものを感じました!あれはなんですか!」

 

やはり、遠目で見たことによりさっきの実戦で感じたことが確信できたらしい。

それに、この子生粋の剣術がオタクだろう。そのためかさっきとは違い、ぐいぐい迫ってくる。

 

「そうだね、意志。間違ってはいないけど、どちらかというと信念に近いかな。自分の信念を刀に乗せる。それに刀は反応する。君も何回か聞いたことがあるんじゃないかな」

 

綺凛は灰に言われたことについて真剣に考えているため灰との距離がものすごく近いことに気づいていない。

 

(そう言えば、あいつもこんな感じだったな)

 

灰の妹、正確には義理の妹となる。その子は綺凛みたいな剣術オタクでいつも灰の訓練を見てはずっと付き纏っていろいろな事を聞いてきた。

 

「はい、聞いたことがあるです。固い信念を持つ人の刀はそれに応えてくれると、実際に見たことはありませんでしたです」

「そういうこと。もし刀藤がさらに強くなりたいなら、まず信念を刀に込めるといい。それがどんなものであれ、応えてくれるはずだよ」

 

信念、灰は何を込めているかというと、当たり前だがシルヴィアとオーフェリアを守り抜くというもの。しかし、深淵には統合企業財体に復讐するという暗いものがあった。誰にも気づかれずにずっと灰の中に存在していた。

 

そして、灰の言葉を聞いた時、灰の顔が予想以上に近かったため、綺凛は慌てるも急にすぎて離れることも出来ずにアタフタする。

その姿はまさしく小動物だ。

 

さして、灰は間違えて妹にいつもやっていたように頭を撫でてしまう。初対面の年下の女の子のだ。

 

(あ………やっばい、間違えた。シルヴィとフィーアにバレたら、というか絶対にバレるだろうな………)

 

そう考えると気持ちがなんとなく沈んでしまう。

あの二人に説教されると決まって二人はいつも以上に甘えてくる。まあ、かわいいから全然いいのだが

 

「はううう………」

 

綺凛が顔を真っ赤にして慌てる。そりゃ、当然のことだろう。

 

 

「あ、ご、ごめん!!つい、義妹にやってる癖で………」

 

少し疲れているのかもしれない、灰はそう思った。普段だったら絶対にやらないようなことをやってしまったのだ。

 

「い、いえ、ただ、慣れてないだけなので………」

 

この時トレーニングルームは謎の空気に包まれて本題が全く進まなかった。

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。夕凪の桜です。

毎日更新することに夢中になりすぎて前回、記念すべき10話目を投稿したのにすっかり忘れてました。ほんと、何やってるんでしょうね………
とりあえず!祝!10話突破!!!
ということで、皆様のおかげでモチベーションが維持できて10話目までを滞りなくとうこうすることができました。本当に感謝です!


さて、本編なのですが、もうすこーし綺凛パートが続きます。なぜか終わらない………書いているうちにどんどん書き足して行ったら一話に収まらないという………
自分としてはもっと灰たち3人がもっとイチャコラして欲しいんですけどね………

はい、とりあえずは鳳凰星武祭が終わるまでは毎日できたらなと。あと何話あるんでしょう、このペースだと二十話ぐらいかも………



UA4000越えありがとうございます!!これからも頑張っていくので何卒よろしくお願いします。

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弟子

昨日できなくてすいません!!!!
学校のホームルーム的なのがありまして生活リズムが崩れてしまい、勉強する気が起きずダラダラしてたら小説も書くことができなくて………
















さて、この空気をどうしたものかと思い、少し気になったことを聞くことにした。

 

「どうだい、僕の弟子になってみないか?もちろん、流派が違う以上正式な弟子には出来ないけど」

 

鳴神家の当主ではない以上正式な弟子にも出来ず、また、綺凛も刀藤流を抜けるわけにはいかないだろう。

綺凛は灰のその提案に驚く。灰は今までに弟子や教え子といったものを取ったということは聞いたことがないからだ。

最強の星脈世代に誰もが教えを請いたいだろうが、誰もそれは叶わなかった。なぜなら、灰はクローディアに頼んで弟子は取るつもりはないという意志を公表してもらった。

 

急に言われ 完全に固まってしまう。今まで弟子を一切取らなかった灰から弟子にならないかと言われればみんな固まるだろう。

 

(後人の育成なんてやる気はほとんどなかったけど、光るダイヤの原石を見つけてしまったからね)

 

言い方は悪いが、灰は凡人の育成など余程のことがない限り面倒くさくてやりたくないのだ。

 

「わ、私なのでいいのでしょうか……」

「構わないよ。僕だって人に教えるのは初めてだし、それに、君の才能を僕の手で伸ばしてみたくてね」

 

彼女のまだ若干荒削りな才能を綺麗に磨けるとしたらこのアスタリスクにおいて灰か『万有天羅』である星露だけだろう。他の人間だったら彼女の高すぎる才能を伸ばしきれないだろう。

 

「えっと、なら、よ、よろしくお願いしますです……。鳴神先輩」

 

まだ緊張しているが前よりはそうではないように見える。

 

「はい、これ僕の連絡先。今日はさすがに何もできないけど、明日から始めることになるだろうから用事があったりして訓練ができないとかがあったら連絡して、それ以外にも個人的なことでも気軽にしてくれていいよ。基本的に暇なはずだから、多分………」

 

 

そう、今日に限っては暇かどうかはわからない。シルヴィアとオーフェリアが綺凛との関係について根掘り葉掘り聞かれる可能性がある。おそらく灰に密着した時にバレるだろう。逆になんでバレるのか教えてほしいぐらいだ。

 

「あとそうだ、呼ぶ時は下の名前で、灰でいいよ。教え子に上の名前で呼ばれたらなんか悲しいからね」

 

そう言ってトレーニングルームから出て行く。相手の返答を待たずに自分の意見だけ言っていなくなるのはよくクローディアに使われたので、灰も似たようなことは出来る。

 

急に色々なことを言われ理解のできていない綺凛は固まっている。多分大丈夫だろう。

 

なんやかんやあった1日も終わりをむかえる。序列戦も問題がなく終わり、明日からは通常の授業になるが、夏にはすぐに鳳凰星武祭がある。その数ヶ月後の秋には文化祭がと、大規模のイベントが連続する。そのためアスタリスクはいつも賑わいを見せている。

だが、1日1日は平穏に過ぎていき、灰は二人が待つ家に帰り幸せな日々を送る。

 

 

今日も灰はシルヴィアとオーフェリアが家で夕ご飯を作って待っているであろう家に着き、玄関を開ける。

 

「ただいま〜」

「お帰りなさい。灰」

 

ピンクのエプロンを着たオーフェリアが階段から顔だけ出して出迎えてくれる。

そのまま階段を降りてきて灰と軽く抱擁を交わし、キスをする。寝る前ではない為今は軽めだ。

いつも帰ってたら一緒に出迎えてくれるはずのシルヴィアがいなくて少し探してみると、オーフェリアは灰が何をしたいかわかった為、シルヴィアの居場所を教えてくれた。

 

「シルヴィは生徒会の仕事で疲れてもう寝ちゃったわ。貯めすぎると面倒くさい〜って、言ってたわ」

 

ツアーが終わると生徒会長しか決めることのできない案件などを処理しなければならず、それはかなりの量になるだろう。

 

「それでね、シルヴィが今度の週末、3人でデートしよって。私も久しぶりに3人でデートしたいし、灰はどう?」

 

階段を上りながらオーフェリアが今週末デートしないかと聞く。3人でデートしたのは付き合い始めてすぐの頃にした以来一回もしてない。ちょうど灰もデートしたいと思っていた頃だ。

 

「そう、それでシルヴィと少し話したの。灰、女装してみてくれないかしら」

 

オーフェリアが台所で料理の仕上げをする為に台所に立つと徐ろにそう言った。

 

 

「………、え!?、ほ、本気で言ってる?」

 

さすがに大声を出すわけには行かないので抑えめに声を出す。

 

「なんでも、シルヴィが灰に来てもらいたい女性ものの服があるらしいの」

 

シルヴィアは本当に唐突に変というかすごいことを思いつく為、毎回驚かされる。

これで自分の服を着せたいと言われたらさすがに灰は戸惑う。一箇所絶対にサイズが合わないところがある。そう胸部だ。二人は平均から見たら大きいため、男性が着るとしたらその部分だけスカスカになって明らかに変になる。

 

「まあ、うん、任せるよ。たしかに、女子3人が一緒に歩いているだけなら全然違和感ないか」

 

任せると言ったのは今日、綺凛の頭を間違えて撫でてしまうという事をしてしまい、バレなかったとしても、二人の提案を断るわけには行かないのだ。

 

休日のデートの女装については一旦忘れるとして、オーフェリアが作ってくれる夕ご飯を考える。さっきからいい匂いがずっとしている為お腹はペコペコだ。

灰はもう二人の料理に完璧に胃袋を捕まえられているので争うことはできない。

 

「今日はシチューよ。この前食べたいって言ってたから作ってみたわ」

 

一週間ぐらい前に何気ない会話で行ったのをオーフェリアはしっかりと覚えてくれていたらしく、灰は嬉しくなる。

 

「さ、出来たわ。食べましょ」

 

オーフェリアが灰が食べたいと言ったものをしっかりと覚えててくれて作ってくれた料理だ。それはもう美味しかった。序列戦で13連戦した疲れ。少ししか疲れは溜まっていないが、それでもその疲れは綺麗に癒してくれた。

夜ご飯を食べた後にすぐに風呂に入ると体に悪い為、少し時間を置く為ソファでのんびりとする。膝の上にオーフェリアを乗せてのんびりとする。

 

「私とシルヴィはもう先にお風呂に入ったわ。灰の入りたい時に入って」

 

膝の上に乗せてるとオーフェリアからシャンプーのいい香りがするので、いつまでも膝の上に乗せていたいが、序列戦で少なからず汗もかいている為さすがにずっと膝の上に乗せるわけには行かないので、少ししたら膝から降りてもらうことにする。

 

 

5分ほどオーフェリアを堪能したらお風呂に向かう。

一人で入るには広すぎるこの風呂に一人で入るのにも慣れているが、せっかく二人がいるのだから一緒に入りたいと思うのは仕方のないことだろう。だが、羞恥心というものがあり未だにできないでいる。

 

灰は湯船に浸かり、今日のことを思い返す。そう、刀藤綺凛のことだ。

 

(剣の才能はある方だと自身あったんだけどな………あの子は本当に才能が高すぎる)

 

灰が使った滑らかなカウンター、そして、最後の抜刀術の時、あの子は予想だにもしないことをやってのけた。

自分に使われたので違う流派の技を一回見ただけで、ほぼ完璧に模倣したのだ。

そして、最後の抜刀術を使った時、彼女はそのスピードについていけなかったが、数合交えただけで灰の癖を読み取り抜刀術の軌道をほぼ完璧に予想したのだ。

 

(荒削りだが、綺麗に磨かれていたあの剣技、あの子の両親はわかっていたんだろうな。彼女の高すぎる才能に。自分たちでは才能を伸ばしきれないと分かっているから、アスタリスクでなら、と思ったんだろうな)

 

自惚れているわけではなく、灰はアスタリスクで最強であり、同時に弟子を取らないことでも有名である。

だが、綺凛ほどの才能なら灰に教えを請うこともできるのではないかと思ったのだろう。だいぶ大きな賭けをしたもんだと思う。

 

その後、色々考えたがいまいちわからなかったので、湯船から上がる。

考え事をしている間に綺凛から連絡があったので返信する。内容は自分のことも下の名前で呼んでほしいとのこと。要は綺凛、と呼ぶことになる。

明日からの訓練が楽しみだと、少し心が躍る。始めて弟子を持つことに灰も嬉しいのだ。

 

お風呂から上がり、リビングに戻ると突然オーフェリアに椅子に座るように言われる。

 

「何するの、フィーア?」

 

手に櫛を持ち、灰の膝の上に座るオーフェリアが何をしようか何となく分かった。オーフェリアは自分の髪の毛を梳かして欲しいのだろう。

 

「多分だけど、あなたの思っていることと違うわ。私の髪はもうシルヴィに梳かしてもらったわ。だから………、今日は私があなたの髪の毛を梳かすの」

 

いつも灰にやってもらってるから、今日はオーフェリアが灰の髪の毛を梳かしたいらしい。

 

 

「わかった、梳かすほど髪はない気がするけど、よろしく」

 

オーフェリアは器用に体を動かして灰の一房ほどしかない長髪の部分を優しく櫛で梳かす。その時、風呂から出た灰は薄着をしているため、いつも髪を梳かす時に感じる胸の柔らかい感触をさらに強く感じることになった。まあ、それに関してはいつも沢山されてるのでギリギリ慣れてきてはいる。だが、もう一つ、そうオーフェリアの顔がものすごい近くにあるのだ。一年前の悲しみに満ちた顔ではなく、普通の女の子として笑っている愛しの顔が近くにあり、自分を頑張って落ち着かせる。何回か寝ている時にオーフェリアの顔が近くにあったことはあるが、それも全て天然でやってるから対処ができないのだ。シルヴィアはどちらもあり、判断に困る………。いやまあ、どちらにしても可愛いんですけどね。

 

 

「ん………、出来た」

 

どうやら、終わったらしい。幸せなひと時だったと思う灰であった。

 

「今日は早めに寝ない?新学期だからまだ体が慣れてなくて、少し眠いわ」

 

新学期で授業が始まってまだ身体が長期休暇の時のリズムで若干のズレがあるのだろう。

 

「そうだね、ちょっと早いけど寝ようか」

 

時刻は11時、鬱もより少し早いぐらいの時間だ。

オーフェリアが膝の上から降りようとするので、その前にお姫様抱っこをして抱きかかえる。

シルヴィアと歓楽街にいるときにマフィアが面倒くさくなり逃げ出す時に一回しただけで、オーフェリアにするのは初めてだ。

 

「きゃ………!!」

 

突然のことで驚き、可愛らしい悲鳴をあげるが、自分が何をされたのか分かり、灰に身を委ねて、灰の首元に抱きついてそのまま寝ようとした。

もともと寝つきの早いオーフェリアはベッドに着く頃には半分夢の世界にいた。

そのままゆっくりとベッドに下ろして、シルヴィアとオーフェリアの二人の間に入り灰も寝る体制に入る。

隣のシルヴィアの頬にキスをして、オーフェリアの頬にもキスをして二人を抱き寄せていつものように寝る。

条件反射というべきか二人は寝ているのに灰が近くにいることに気づいて、いつも寝る時と同じように抱きついてくる。二人の温もりを感じながら灰も夢の世界に入っていくことになる。

 

 

翌日、朝ごはんを食べている時に綺凛の頭を撫でたことがばれた。オーフェリアは気づいていたらしいが、灰が浮気するようなことはしないと知っていたため、シルヴィアと一緒に面白がり追求したらしい。それを口実にその日はいつもより甘えられたのはまた別の話………

 

 

 

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。夕凪の桜です。



前髪と後ろ髪が長すぎて後ろ髪だけでも伸ばし寝みようかと考える厨二病を発症しております。改めまして夕凪の桜です。

今回で綺凛との出会いは終わり、やっと次のパートに入れて一安心です。一巻部分だけはかなり長くなると思うのでもう少しお付き合いください…………

毎日投稿をしてからまだ一週間も経っていないのに途切れさせてしまい本当に申し訳御座いません。前書きでも書いた通り、昨日は一日中グダグダしてたので執筆が思うように進まず、今日この話の八割ぐらいを書いたのです………

明日は投稿できるかな………正直不安です。


お気に入りが60を超え、ユニークアクセスが4700と気付かぬうちにどんどん伸びてて自分自身驚いております。口元がにやけているのは気のせいです。

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3人デート

女装してみたい……



綺凛を弟子にしてから初めての休日となり灰は女装することになる。朝早くから起きてシルヴィアとオーフェリアに着せ替え人形にされている。着てもらいたい服があるらしかったが、そんなことはなく、二人の私服をどんどん着せられていく。胸の部分のサイズが合わないかと思ったが、そうでもなく目立つほど違和感はなかった。結局、シルヴィアが買ってきた服を着ることになった。

二人のあの満足げな表情を見る限り恐らくただ着せてみたい服をどんどん着せて行ったのだろう。

 

「よし!これで大丈夫かな」

「ええ、これなら灰だとは思わないわ」

 

まさか誰もあの鳴神灰が女装して歩いているなど思わないだろう。

 

二人が自分たちの私服を着せて遊んでいたことに関しては触れないでおく。触れたらいけない気がするのだ。

朝ご飯を食べて髪の色を変えて外に出る。灰は灰色から水色に。シルヴィアとオーフェリアは目立たぬように茶髪にし帽子を目部下にかぶる。灰の女装はまあ、普通の女の子の見た目となっている。

外に出ると3人は並んで歩く。さすがに腕を組むわけにはいかない。二人ならまだしも3人が並ぶとさすがに悪目立ちする。残念ながら二人は腕を組まず灰の近くを歩くことで満足していた。他人から見れば仲のいい3人に見えるだろう。

 

 

 

3人は昼食まではショッピングをして、昼食後は3人で甘いもの巡りなどをしている最中に見知った人物を見つけ、厄介ごとに巻き込まれるのだろうと予想する。

 

 

「次はどうしよっか〜」

 

休憩がてら入ったカフェの外にあるテーブルでのんびりとする。今日は快晴で日差しがちょうどいいため店の仲の席より店の外にある席の方が人がたくさんいる。

ちなみに灰は女装しているときは声を変えて声のトーンを上げている。さすがにいつものままだと、喋っている声が近くの人に聞かれた時に不審がられるからだ。そのため本当の女子のように振る舞うことができる。

まあ、その分ナンパされたが女子3人で恋人同士だとわかるとみんな居なくなった。

二人が口を揃えて『私たちはこの子にしか興味ないから残念でした』『私たち、この子以外はどうでもいいのよ』

などと、言うため聞いてるこっちが恥ずかしくなりそうだった。

 

「灰の服をもう少し買うとか、どう?」

 

なんかしれっとオーフェリアが怖いこと言っている気がするが気のせいだろう。うん。

 

「あ、いいかもね。私たちの服ばっかり買ってたから、今度は灰君の番だね」

 

もちろん、男物の服だよね?二人とも。そう目で訴えかけると二人とも笑って返してくれたので、一安心すらできなかった。

要は二人とも灰のことを女装させたいのだろう。まあ、女装も悪くない気がするけどなと、思い始めている灰であった。

 

次の方針が決まったので3人は席を立ち再びショッピングモールに向かう。このアスタリスクには学生が大量に買い物した場合、大型のショッピングモールなどは荷物を寮や自宅に配送してくれるサービスがあり、そのため、この二人は気兼ねなく買い物ができる。それはまあすごい、女子の私服は奥が深いのだ。

 

午前中に買ったショッピングモールで買い物をすることになり、灰は二人に着せ替え人形にされた。だいたい20から30ほど服を着せられた。そのうち半分以上買い、灰は買った枚数だけ女装させられると思った。まあ、秘密裏に外出する時などに利用させてもらうことになるなだろう。

 

買い物が終わり、自宅に配送してもらいショッピングモールの外に出るともう夕方になっていた。空は赤く染まり、休日のためたくさんの人が出歩いていたが、今はもうポツポツとしかいない為、二人は灰の腕にくっついている。まあ、人が少ない為灰も受け入れた。

 

「ふふふ、灰君がまた女装してくれるの楽しみにしてるね♪」

 

どうやら今日のデートはシルヴィア的には大満足だったらしい。

 

「最初は恥ずかしがってたのに途中から堂々として、満更でもなかったんじゃない?」

 

オーフェリアが鋭いところを突いてくる。まあ、確かに途中から慣れてきて若干楽しくなってきたのは絶対に二人には言わない。

 

「そ、そりゃ、堂々とでもしてないと店員さんに怪しまれるから、さ!」

 

頑張って怪しまれない様な言い訳をするが、逆にそれが明らかに言い訳してますと言っている様に思えて心配する。

 

「そう、ならいいわ」

「………………」

 

 

シルヴィアからの視線を感じて咄嗟に目線を逸らしてしまう。

 

(あ………やば、やらかした。これ女装するのが悪くなかったって言っている様なもんじゃん……まあ、いっか、楽しかったのは事実だし)

 

目を逸らし、二人からの視線がさらに鋭く灰に突き刺さるが頑張って耐える。男として負けられないのだ。

二人の無言の圧力に耐えきるとさっきまでが嘘かの様に、その圧力はなくなった。

 

(とりあえず、一安心……………すら、させてくれないねの。はぁ、めんどくさい)

 

「?どうしたの灰君」

「灰……?」

 

 

 

 

 

圧力はなくなり、3人で仲良く話していた頃にそれは起こった。

道路の反対側にある緑地公園の方角から何者かの殺気を感じた。自分たちに当てられたものではない為シルヴィアとオーフェリアは気づかなかったが、数多くの修羅場を経験している灰にとって、殺気というものが存在していれば対象が誰であれ感知することは容易だ。

 

(はあ…まあ、僕たちに危害を加えるつもりのないのであれば放置するか、当事者さんには申し訳ないけど………)

 

「ううん、なんでもない。勘違いだったみたい」

 

そう言ったが、二人はイマイチ納得していない様だ。灰が誤魔化す場合2パターンあり、一つは本当にどうでもいいこと。もう一つは二人を巻き込みたくない場合。両者もほぼ同じ様な反応をする為見分けがつかないのだ。

 

「大丈夫、今回は本当にどうでもいい事だから。安心して」

 

二人が納得していない様だったので、本当になんでもない事を告げる。

だが、この殺気の対象にユリスが入っていた事が分かり、少し後悔したのであった。

 

家に帰り、いつも通りの夜ご飯を食べてお風呂に入り、テレビを見ながらイチャイチャしてる頃、クローディアから電話が来る。

 

「会長?こんな時間になんでだろう。ちょっとごめん、出てくるね」

「はーーい」

「ん………」

 

二人に了承を取り、クローディアから電話を二階のベランダで出る。

たまに思うのがこの時のオーフェリアは本当に起きているのかが若干疑問に思う。

 

「会長なんですか?」

 

少しだけ待たせてしまったが、電話が切れる前に出る事ができた。

 

『ひとつだけ、あなたにご報告が。ユリスが今日も襲撃を受けました』

 

その言葉を聞いて歯ぎしりをする。

休日に関しては何も出来ないのがもどかしい。

そして、灰は夕方の緑地公園方向の殺気の対象がユリスなのではないかと予想する。

 

 

「会長。もしかしてユリスの襲撃場所って商業区の緑地公園ですか?」

『え、ええそうですが。なぜ分かったのですか?」

 

その時、一瞬だけクローディアの目が鋭くなったのを灰は見逃さなかった。もしかしたら自分の学園の序列1位が悪事に加担しているのではないかと。

 

「夕方、買い物の帰りに緑地公園から殺気を感じたので、もしかしたらと」

 

クローディアの眼差しが疑念を含んだものからいつものに変わり心の中で安心する。この生徒会長だけは敵に回したくないのだ。

 

「会長。サイラス・ノーマンが一番怪しいです。おそらくそろそろ大きな行動を起こすでしょう。その時に決着を」

『その時には、力をお借りすると思います。私はどうしても立場上動きづらいので』

 

生徒会長はいろいろな権力がある代わりに自ら色々と事を起こす事はできないため、どうしても力で何かをしなければいけない事があるのだ。その時に灰はよく動いている。

 

「明日、放課後生徒会室に行くので詳細はその時に」

 

 

その言葉でこの通話は終了する。

 

今日の夜空は少し星が少ない様に思えた。

 

ベランダから部屋に戻る。シルヴィアの肩に頭を乗せており、いつもとは違った光景で灰が戻ってきた事に気づいた二人は慌てて離れるが、顔は真っ赤であった。そんな可愛い二人と灰は今日も一緒に過ごす。至高の幸せとはこれの事だろう。




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。夕凪の桜です。



女装がしてみたい。改めまして夕凪の桜です。

次回で一巻部分が終わり、2巻部分にはいれるとおもいます!!
毎日投稿、頑張って続けていきたいと思うので、どうか宜しくお願いします。

ちょっと短いですが後書きはこれで。


最後に、誤字やご指摘があれば遠慮なくお願いします。
感想も匿名で書けますので、一言二言だけでも残していってもらえたら幸いです。
もしよろしければ評価もしていってもらえたら嬉しいです。
感想、評価するところはこの下にありますので、何卒よろしくお願いします。
この話が面白いと思ったらお気に入り登録して貰えると嬉しいです。

それではまた次の話で


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事件は終結へ

シルヴィアとオーフェリアと3人でデートをした翌日。朝から愛おしい二人の作る朝ご飯を食べてから学校に行くという、他の人間に知られたら嫉妬で殺されそうだ。特にシルヴィアのファンに。

 

アスタリスクは基本晴れる事が多いが今日は朝は少し曇っており、少し嫌な感じが否めなかった。雲は灰色だが、どちらかというと黒よりに見える。この様な天気だと昼間はかなり大雨となるだろう。朝から少し気が沈む結果となった。

 

 

予想通り昼間は大雨となったが、これがまた記録的な大雨となりより一層不安は募っていった。

放課後には晴れ、雲ひとつない快晴となったが、嫌な予感がヘドロの様に纏わりついて、灰の心を重くした。

その足取りで生徒会室に向かう。

 

扉を開けると先にいたクローディアが出迎えてくれた。

 

「あら?随分と浮かない顔をしていらっしゃいますね」

 

隠すことなく、沈んでいる顔をしているため、さすがにクローディアに心配された。あからさま過ぎて逆に誰もが心配する様な面持ちでクローディアの対面に座る。

 

「今日の雨、いつもより酷かったですよね?それが何となく嫌な感じがして」

 

クローディアも灰の言った事に同意するかの様に頷き返す。今日の大雨はみんなの気持ちを暗くする。新学期早々これだと、先行きが怪しいからだ。

 

「もしかしたら、今日、ユリスが襲われると?」

 

クローディアは自分の考えを灰に話す。

 

「正直なんとも………。ただ、その可能性はあるけど、まだ放課後直ぐだし、人も多いはず。もし襲うならもう少し後だと思うんです」

 

灰は昨日の一件で少し自分の中に疑念が生じていた。自分の行動が大切な人を本当に守れるのかと。あの時ユリスは直ぐ近くにいた。もし、あの時に気付けていればと。

 

「あなたが昨日のことで思い悩んでいるのはわかります。ユリスは貴方には心を開いているのは事実ですし………」

 

そう、ユリスにとって唯一とも言える友達が灰なのだ。

 

「ユリスにとって貴方は守るべき存在ではなく、対等な存在として見ています。まあ、分かっているとは思いますが……」

 

ユリスが友達を作らないのは、失うのを恐れるからだ。だが、灰は守られる様な存在ではないことをユリスは理解したのだ。だから灰には心を開いた。

 

「知っていますよ………自分が信頼されていることぐらい。でも、なんか気が乗らないんですよ」

「なら、書類の処理を手伝ってもらえませんか?ユリスが色々と破壊したせいで大変なんです」

 

クローディアからのちょっとした気遣いに灰は感謝する事にする。直ぐに作戦会議しないのは灰がより考え込んでしまうからだろう。

 

書類を手際よく処理していく。何回か手伝っていたので慣れたものだ。

その中で気になる書類が目に入る。

 

(………天霧綾斗の純星煌式武装の適性検査結果……『黒炉の魔剣』適合率97%か……なるほど、面白いやつだ)

 

『黒炉の魔剣』4色の魔剣のうちの一本。今までにそれを使用できたものはほとんどいない、強力な純星煌式武装。

おそらくアスタリスクの純星煌式武装の中で最強とも言えるのがこいつだ。それを手なずけたという事は、それに見合った実力があるという事だ。彼はもしかしたらアスタリスクに新しい風を吹かせてくれるかもしれない。

 

 

「私は少し届け物をしてきます。私が戻ってきたら作戦会議でよろしいでしょうか?」

 

書類の処理を30分程しているとクローディアが立ち上がり、届け物があるらしい。

 

「僕も大分落ち着いたので、それで大丈夫です」

 

書類を無心で片付けているとそれ以外の事を考えなくて済み、落ち着く事ができるのだ。灰が大丈夫だと判断し部屋から退出するクローディアの背中を見届ける。

 

(今はまだ星猟警備隊として動いている事になって色々と面倒な事になる……こういう時はこの肩書きは鬱陶しいものだ……)

 

放課後直ぐ起こった問題は学内の問題として処理される。つまり、今灰が動けば警備隊が学園に干渉したとなり問題となるのだ。

 

(…………この事をもし犯人の黒幕が利用して、僕を動けなくさせようとするなら、すでに犯行は始まっているはず………)

 

夜襲撃した場合、確実にユリスを潰しにかかっているとみて間違いはない。いくら自由に動けると言ってもさすがに反応は遅くなる。

逆に放課後はユリスを襲撃した事で灰が出てくる事によって、星導館を潰しにかかってきていると言って間違いない。

だが、どっちが狙いかなどわかるはずもなく、灰は考えるのをやめる。

 

(ほんと、最近は自分らしくないことばっかやっている気がする…………)

 

前まではただ天気が悪いだけで気落ちする事もなく、ただ、自分の道を進んでいた。その隣には誰も居なかったが今では二人。そして、ユリスも入る可能性すらある。すでに自分だけの人生ではないがためにここまで難しいのだろう。

 

(師匠達が大切な人を見つければより強くなれると言ってたけど…………いや、大切なものを守る力、確かに強いけど………)

 

 

シルヴィアとオーフェリアを守るためなら灰はどんな手を使っても絶対に守り抜くだろう。

だが、それは本当に強いものなのかは未だに理解していなかった。灰がこの力について理解するのはもう少し先の事になる………………

 

 

 

 

 

 

 

 

10分ほどして生徒会室の扉が乱暴に開けはなたれる。クローディアはそんな事しないため、誰か他の人が来たのだと思い振り返ると肩で息をしたクローディアがそこにいた。

 

「大変です!ユリスが一人で決着をつけに行ってしまいました!!!!」

「あの……バカ姫が………!!!」

 

最悪の事態だ。放課後直ぐにユリスが決着をつけに行ったとしたら、もうすでにかなりの時が経っているはず………

慌てて駆け出そうと扉に走っていくとクローディアに腕を掴まれる。

 

「待ってください」

「なんでですか!会長!!早くしないとユリスが!」

 

ユリスよりも移動スピードは速い灰だが、さすがにこれ程まで時間が空いてしまうと追付けるわけがない。

だが、今からでも何か出来ると信じて灰は行くのだ。

 

「これを、今のあなたには必要でしょう?」

 

そう言ってクローディアは生徒会に所属する印としてのバッチを渡す。

そう、これが唯一の抜け道。警備隊に所属している灰がユリスの現場に行ったとしても他学園からの糾弾を交わすことができる。

 

「私も後から行きます、先に行ってユリスと綾斗の安全の確保を。そして、黒幕の捕縛をお願いします」

 

待ってましたと言わんばかりにそれを受け取り、クローディアにうなずき返す。

 

生徒会室を飛び出し近くの外へ通じる扉から外へ飛び出す。およそ10階分の高さの扉から一気に飛び出す。5階にも屋上があるので、そこを足場にして更に飛ぶ。星辰量を使い一気に加速し再開発エリアに急ぐ。

 

 

再開発エリアに着くも見渡す限り廃墟しかなく、ユリスがどこに行ったかさっぱりわからない。

 

 

 

「くっそ……どこだ……ここじゃ手がかりがなさすぎる……」

 

すると突然莫大な星辰量が膨れ上がるのを感じる。

 

「この波長………天霧綾斗か…………これほどの星辰量を持っているのか……いや、それよりも彼がいるところにおそらくユリスもいるはず」

 

なぜ彼が星辰量を隠していたかはこの際どうでもよく、今はユリスの救出が先だ。

ここから星辰量を感じたところまでおよそ5分。間に合うかギリギリのラインだ。

 

 

あと少しで到着というところで空から当事者たるサイラスが落ちてきて、同時に先ほどまで感じた綾斗の星辰量が急激に小さくなっていることを感じる。

 

ユリスの悲鳴が聞こえてきたのでとりあえずユリスに任せる事にして、サイラスを片付ける事にした。

 

 

 

 

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。夕凪の桜です。

後書きを書く時間がないので少しだけ………

次で一巻が終わり少し日常パートを挟んでから2巻に突入します!

誤字、感想、評価、ご指摘などありましたらお気軽にどぞ!!!!

それではまた次回、お会いしましょう。


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刀雷の魔術王

雨だと気持ちが沈む…………

最近雨多くないですか?
いやーまあ、そのおかげで苦手な背景描写も思いついたんですけどね………


路地裏へと逃げていくサイラスをのんびりと追い詰めていく。その足音は静かだが再開発エリアの路地裏になぜか反響していた。そう、まるで死神の足音のように『カツン、カツン』と響くそれはサイラスを追い詰めていった。

 

「あ、あ、、あ、」

 

顔は自らの涙で醜く汚れ、高所から落ちたことにより制服がボロボロになっているサイラスは行き止まりに追い詰められ、意味不明な言葉をただただ言っていた。

 

「会長から殺すなって言われてるから殺さないけど、とりあえず捕縛させてもらうよ」

 

その時サイラスは灰が目の前から消えるところまでは理解していたが、次の瞬間には自分の四肢に力が入らず崩れ落ちた。

彼の後ろには刀を納刀しようとしている灰がいただけだ。

 

言葉を言い切ると同時に瞬間的に加速して…………いや、加速などしなかった。一瞬でトップスピードに達したため加速という概念すらなくなる。それこそ灰がかつて統合企業財体と戦った時に会得した防御不能の殺戮の剣、敵に認識されずに敵を斬る技術。名前は付けていないが敢えてつけるとしたら『閃瞬』。

 

それによって、刀が通った軌跡、青みががった銀色の線となり両手両脚の腱を正確に断ち切った。

ここからさらに追い討ちをかけるならサイラスは本当に絶命するため灰は手を出さない。殺してしまっては意味はないからだ。ユリスを傷つけたことで、本当はこのまま殺したいが、自らを自制する。怒りに震える右手が再び刀を握ろうとするのを頑張って抑えつける。

 

灰は後で来るクローディアに回収を任せてビルの屋上にいると思われるユリスのところに行く。

そうでもしないと殺してしまいそうだからだ。

 

「災難だったなユリス」

「灰か………」

 

ユリスは屋上で綾斗に膝枕をしているが指摘したらユリスが暴れて綾斗が起きてしまいそうなのでそれに関しては放置する。

 

「ごめん。もう少し早く襲撃されるって分かってれば……」

 

今日も気落ちしていなければ、いつもの灰であったらこの襲撃も簡単に予想できたはずだ。警備隊として三ヶ月間幾つもの難事件で養った感覚は今回のことぐらい簡単に予想できたはずだ。

 

「気にするな。人間誰しも間違えることはある。それに私は怪我はしたが、鳳凰星武祭にも問題なく出れる。それで良いではないか」

 

ユリスからの優しい言葉に灰はやっと肩の重圧が降りた。自分は護られるだけではないということを灰に伝えてくるユリス。全てを自分で守らなくても彼女たちは自衛できるのだと。

その言葉に何かこみ上げるものがあるが、ユリスの前では小っ恥ずかしく顔を背ける。

 

朝は雨であったが今日綺麗な夕焼けとなり廃墟のビル群を赤く染め上げていた。

 

「ユリス、彼と出るんだね」

 

さっきユリスは星武祭に問題なく出れるといった。つまり、パートナーが必要な鳳凰星武祭に出ようとしているユリスにパートナーが出来たということだ。その条件に当てはまるのは綾斗以外いないからだ。

 

「ああ、こいつとなら、私の夢も叶えられそうだ」

 

ユリスの夢、それが何かは知らないが、友達の願いというものは応援したくなるものだ。

 

「昨シーズン鳳凰星武祭制覇者として微力ながら手伝わせてもらいますよ。お姫様」

 

茶化すように言うが、二人の親しい間柄を示している。ここまでユリスと仲が良い人物はこれから先も片手ほどしかいないだろう…………

 

「ふっ、何が昨シーズンの鳳凰星武祭制覇者だ。昨シーズン全ての星武祭を圧倒的力でねじ伏せて史上二人目のグランドスラムを達成したお前に手伝って貰えて何が微力だ」

 

灰は先ほど微力といったが、灰が微力しか手伝えない訳がないのだ。アスタリスク最強は伊達じゃない。

 

「ま、僕が参加するのは二人である程度訓練した後だな。せめて基礎は作っておいてくれ。基礎がなきゃどうにもならん」

 

ユリスも灰に1から基礎を教えてもらうのは気がひけるのだ。

 

「そうだな、綾斗に関してはアスタリスクの戦い方に慣れなくてはいけないから、三ヶ月。三ヶ月で基礎を固める。そしたらお願いしよう」

 

三ヶ月。ユリスなら無茶して二ヶ月と言いそうであったが、しっかりと三ヶ月と言ってくれて一安心した。

 

「うん、合格。ここで二ヶ月とか言ったらどうしようかと思ったよ」

 

ここで二ヶ月と言わないと言うことはそれだけユリスが心に余裕があるということだろう。

 

「じゃあね、ユリス。僕はもう帰るよ。遅くならないようにしなよ。歓楽街ならまだしも再開発エリアは僕の名前を聞いてもあんまり逃げ出さないからね」

「………?」

 

ユリスは知らない。灰が歓楽街にいるマフィアを全て半壊させ、今ではその全てのマフィアは灰の半ば言いなりであることを。マフィアを取り潰さないのは歓楽街を機能停止にさせると何が起こるかわからないからだ。一部の不良が暴れ出しさらに面倒ごとになる。

 

ユリスが灰の言った事を理解していないことを分かりつつも、そのままビルの屋上から飛び降り消えていった。

 

 

 

 

先ほどサイラスがいたところに行くと血だまりだけが残っており本人は消えていた。四肢の腱が断ち切られている以上、逃げることは不可能。おそらく銀河の諜報機関『影星』が回収したのだろう。

灰は近くにいる人物に声をかける。この人ならすべて知っているだろうから。

 

「会長、サイラスはどうなりますか?」

 

ビルにもたれかかるようにして灰の事を持っていたのはクローディア。いつも通り優しい表情をしているがその裏にたくさんの策略が巡らされているのを灰は知っている。

 

「そうですね……『影星』に任せているのでどうなるかは分かりませんが、おそらく二度と日の目を見ることは………」

 

まあ、当然だろう。他校と内通していた以上、普通の学生生活は送れないだろう。

 

「それにしてもお見事です。両手両足の腱のみを斬り出血量を最小限にする。さすがは我が校の不敗の序列一位『刀雷の魔術王』ですね」

 

『刀雷の魔術王』………?灰の二つ名は魔術師として異例の『刀雷』だったはず。アスタリスクの学生は二つ名を持つ場合、魔術師なら魔術師という名が含まれるはず。しかし、灰はもともと魔術師としての力を使わないため、その名が含まれなかった。しかし今度はどうだろう。魔術王。異例の極みだ。最強の魔女、オーフェリアやヘルガ、その二人ですら魔女という名は含まれている。

 

「僕の新しい二つ名ですね?」

「はい、かの『孤毒の魔女』すら力でねじ伏せた圧倒的な力。右手に握られた刀はすべてを斬り伏せ、左手に宿りし雷は全てを打ち砕く、その様な戦い方をするあなたにとって魔術王という名は相応しいと私は思いますよ」

 

特別すぎてやめて欲しいと思ったが、せっかくの好意を無下にするわけにもいかないと思い受け入れる。

だが、雷を使うことなどほとんどない灰にとってその名は少し変な感じがした。

 

「その名に恥じぬ様に頑張るとしますよ。会長」

 

ここに戻ってきた目的はサイラスの確認。それが終わった以上もうここにいる理由はない。クローディアから新しい二つ名を受け取ったということで少し長居をしてしまったか、早く二人の待つ家に帰りたいのが本心だ。怒りを制御するのは疲れる……

 

「あ、そうだ会長。僕のことは下の名前で呼び捨てで良いですよ。同学年ですし、同じ生徒会なんですからね。それでは僕はこれで」

 

クローディアとすれ違い様に呼び捨てで良い事を告げる。灰は堅苦しいのが嫌いなのだ。そして、常套手段、返答を待たずに立ち去る。それが灰の突然二つ名を知らされて驚かされたささやかな仕返しだった。

 

 

 

去り際の灰の髪の毛が風になびき、夕焼けによって赤く染まる灰色の髪の毛は血の様に赤く染まり、クローディアの心を僅かに曇らせた。

灰の手際があまりにも良すぎて不気味に思えたのかもしれない。そうまるで何人も殺してきている様な、死というものに慣れているのではと思ってしまうのだ。

 

クローディアは自分の中でそんな訳ないと整理をして自分もその場から立ち去った。

 

 

 

 

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。夕凪です。

これでやっと一巻を終えることができました。ちょうどアニメの四話目ですね!
なのに、灰と綾斗の絡みが一切ないという。出すタイミングをなくしたとは言えない………

ま、まあ、2巻部分ではちゃんと登場するので!!



最後に誤字、感想、評価などありましたらよろしくお願いします。
批判でも構いません。自分に足りないところを客観的に見るのは難しく、ダメなところがあれば教えてもらえれば……
メッセージでも構いません。


それでは次回!!!!
次はゆったりパートです。


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間章-1
灰のいない日常


鼻がかゆい………


私の日常は半分は大好きな人の腕に抱きついた状態で目を覚ますわ。半分は彼が起きてしまってシルヴィに抱きついているの。彼の腕に抱きついている時ほど安心することはないわ。でも、シルヴィに抱きついても同じくらい安心できるわ。

多分、私は灰と同じぐらいシルヴィのことが好きなんだわ。本当にいまは幸せだわ。

 

 

鳴神灰。私の人生を変えてくれた私の大好きな人。全てを諦めて自分を否定していただけだった人生を送っていた私を肯定してくれた人。だから、私は彼に全てを捧げるわ。この心も体も全て。ちょっと変かもしれないけど、灰はその方が私らしいって言ってたから変えるつもりはないわ。

彼が『凍氷の皇帝』という事には驚いたけど、別にそれで私の彼への想いが変わる訳ではないわ。彼が何故『凍氷革命』を起こしたのか教えてもらい、より一層彼への想いは強くなったわ。絶対に何があっても私は彼と添い遂げる。愛が重いって言われるかもしれないけど、私はそれしか伝え方を知らないから、変えるつもりはないわ。

 

 

 

 

 

 

 

今日は灰が朝から休日なのに緊急の呼び出しがあって夜遅くまで帰れないそうよ。だからシルヴィと一緒に家でのんびりするわ。外に行くのも良いけど、たまにはのんびりしたいの。

シルヴィと一緒にいてつまらないなんて感じたことはないけど、やっぱり灰がいないことは寂しいわ。でも、とりあえず寂しさは感じないと思うわ。だって、シルヴィはこうなるとおそらく………

 

「フィーアちゃーん!!」

 

やっぱり、後ろからシルヴィに抱きつかれたわ。

まあ、全然嫌じゃないし、むしろ私から行くのはなんか恥ずかしいから助かってるわ。

 

「どうしたの?シルヴィ?」

「ううん、なんでもなーい。ただ一緒にいたいからー」

 

家にいる時はいつにも増してスキンシップが激しいのよね。シルヴィって。灰だけじゃなくて、私にも凄い。

当然といえば当然ね。家に入れる時間があんまりないからその分たくさん甘える。当たり前の事だわ。それに私だって寂しいわ。

 

 

「私もよ。でも、先に朝ごはん食べない?」

 

朝から灰が緊急の呼び出しで慌しくて朝ご飯を食べる時間がなくて、まだ食べてないからお腹ぺこぺこだわ。

 

「たしかに。じゃあ、今日は朝ご飯は私が作るからフィーアちゃん少し待っててね」

「ええ、お願いするわ」

 

灰は適当に買って食べると言ってたけど、少し心配だわ。彼は一つ何かに集中しちゃうとそういうことすぐ忘れるから……

シルヴィの料理を食べれるのに灰は残念ね。

ふふ、灰が聞いたらどんな顔するのかしら……、やっぱり悔しがるかな……

 

「フィーアちゃーん、出来たよー」

 

美味しそうな匂いがすると思ったらどうやら朝ご飯が出来たのね。久しぶりのシルヴィの料理楽しみだわ。

 

「ええ、早く食べたいわ」

 

 

久しぶりのシルヴィアの料理は最高に美味しかったわ。

 

「片付けは私がやるわ。シルヴィはゆっくりしてて」

 

せっかく作ってもらったから片付けぐらいは私がやらないとね。

 

「ありがとう〜じゃあ、お言葉に甘えて先にのんびりさせてもらうね〜」

 

さて、私ものんびりしたいし、すぐに終わらせなきゃね。

 

 

 

 

………なんでこうなったのかしら???

 

「むにゅぅーーーー」

 

今、私は世界の歌姫と言われているシルヴィに膝枕をしているのだけど、私なんかがしていいのかしら?

 

「シルヴィ、いいの?私なんかがあなたに膝枕して」

「むぅー、いいのー、私がいまして欲しい人はフィーアちゃんなんだもん。これは誰にも邪魔する権利はないもん」

 

わ、わかったから、腰に抱きつくのはやめてほしい………シルヴィの綺麗に手入れされた髪ってくすぐったいのよね……それに何故か恥ずかしいのよね………

 

そのあとは逆に膝枕してもらったり、まあ、その色々やったわ。嫌な気持ちはしなかったし、むしろ、灰にして貰う時ぐらい気持ちよかったわ。やっぱり、私はシルヴィのことも大好きなんだわ。

 

そのあとは…………思い出すだけで恥ずかしいからやめとくわ……

 

結局、1日が過ぎていって夜になっても灰は帰ってこなかったわ。なんでも、界龍まで問題が広がっちゃって鎮圧するのに時間がかかっているらしくて、朝まで帰れないそうよ。

 

だから二人で夜ご飯を食べてお風呂に入って早めに寝ることにしたの。明日の朝早めに起きてすぐに『おかえり』を言えるようにしようって。

 

 

 

お風呂に入るのってやっぱり気持ちいいものね、特にこの家に来てからはシルヴィと一緒に入ることが多いけど、なんて言うのかすこし恥ずかしいわ。同性から見てもシルヴィは綺麗だし、見惚れちゃうというか………

 

 

あれ…………?ああ、そっか朝に灰が軽くお風呂に入った時の寝間着がまだあったのね………

 

シルヴィは、まだ、お風呂に入ってるだろうからこ、これを着てもばれないよね………

 

 

うーーん、やっぱり腕の長さが余っちゃうわ。これっても、萌え袖って言うのかしら………灰が見たら喜んでくれるかな?

そういえばなんで腕の長さは余ってるのに服の丈は余ってないんだろう……灰と私って身長差10センチぐらいあるから余るはず………って、そういえばこれって男性用だったわ。この胸のせいで丈がちょうど良くなったのね……

 

灰って胸が大きいほうが好きなのかしら?世の中には小さいほうがいいっいう人もいるし……うーん、いつか聞いてみましょう。

 

 

「ふぅーー、さっぱりした……って、フィーアちゃん何してるの??」

 

灰の寝間着に夢中になってたからシルヴィが上がってくるの気づかなかったわ。どうしよう、恥ずかしすぎる。

 

「え、えっと、これは、その………」

「どうだった?灰君の服は」

 

うう、灰に包まれてる感じがして良かったなんて恥ずかしくて言えないわ……

 

「分かるよ、その気持ち一回やったことあるもん。私も。そしたら灰君に見られてすごい恥ずかしかったの。まあでも、後悔はしてないわ。だって、寂しい時の対処法が見つかったんだもん!」

 

そうだったわ。シルヴィって結構寂しがりやだったからこういう事考えててもおかしくは無いわ。

そうね、シルヴィだって同じ気持ちだって事がわかったからなんか、気持ちが軽くなったわ。

 

 

結局二人で灰の服を着て寝てたら思ったより灰が早く帰ってきて、ベットで寝ている姿を見られて恥ずかしだったわ。だって、寝顔を見られるだけなら、まだいいわ。だっていつも見られてるし……でも、灰の服を着て寝てたのがばれたのが一番恥ずかしいわ………

 

 

 

 

でも、灰が無事帰ってきてくれて嬉しかったわ。それが一番大きかったわ。

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。夕凪です。


さて、初めてオーフェリアの一人語りでの話だったんですが、難しい……
かなり難しいですね、これ………

まあ、書いてて楽しかったので、良かったです!

明日は人物紹介を入れる予定です。その次の日はお休みさせてください。一旦休憩です、すこしだけ書き溜めします。


それでは最後に誤字、指摘、評価、感想、よろしくお願いします。

また次回お会いしましょう!。


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一章の人物紹介、用語解説

本編に関するネタバレが多く含まれます。

姫焔邂逅部分までをお読みになっていれば大丈夫です。


鳴神灰

 

所属学園: 星導館学園

 

序列: 序列外→序列18位→序列1位

 

二つ名: 『刀雷』→『刀雷の魔術王』

 

身長: 175cm

 

使用する純星煌式武装: 『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』、『雷桜の断罪剣(キュラリー・フリークス)

 

本編の主人公。アスタリスクで無敗伝説を築いている超有名人。中学三年間でグランドスラムを達成し灰の持つ刀は一度抜き放たれたら勝利するまで攻撃の手が止まることのないと言われている。また、過去数回しか使われなかった『鳴神流抜刀術』防御不能にして不可視の太刀と呼ばれている。

髪の毛は灰色で目も灰色。

 

戦闘スタイルは基本的に刀のみで戦い、自身の能力はほとんど使わない。近接戦闘だけで大体の相手は倒せるからだ。

シルヴィア、オーフェリアとは王竜星武祭終了後から付き合っており、彼女たち二人の関係も良好だ。学園内の寮ではなく、中央区の外れに家を持っていてそこに三人でのんびり暮らしている。

他にも各校の有名人とは顔見知りであり、ガラードワースのアーネスト、界龍の星露などと個人的な交友関係がある。

 

また、星猟警備隊に所属していて、三ヶ月で幹部に昇進した。歓楽街が主な仕事場であり、そこに巣食うマフィアたちは灰の半ば言いなりである。しかし、完全に潰すのは歓楽街が崩壊するという事で、違法なもののみ摘発する事にしている。

星猟警備隊の幹部服は他と違い、すこし豪華になっている。灰のものは執事服を基本としていて、そこから肩に幹部という証の六芒星があり、肩から胸ポケットのところ銀色のチェーンで繋げられている。真っ白の手袋をしておりかなり目立つものとなっている。

 

本人の性格は気まぐれであるが、その事を知る人物は灰と親しい人物だけである。それを知らない人は、だいたい近づこうとすら思わない。

 

 

 

凍氷の皇帝(ムフェト・シュヴァルツ)

かつて統合企業財体と戦い、『凍氷革命』と言われるものを起こした。

統合企業財体の最高幹部は未だに『凍氷の皇帝(ムフェト・シュヴァルツ)』の名を聞き震え上がるとも言われている。

かつての力は『三首聖女の首飾り(エール・ロザリー)』という純星煌式武装によって封印している。しかし、この『三首聖女の首飾り(エール・ロザリー)』の力はこれだけで無いと思っている。灰の師匠達はそんな単純な物を渡すような人たちではないからだ。

日本の隠された霊峰に住んでいる仙人のような人達に鍛えられ、統合企業財体に対抗しうる力を手に入れた。

 

凍氷の皇帝(ムフェト・シュヴァルツ)』として活動するときは髪の毛は、『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』の代償によって水色となってしまう。また『雷桜の断罪剣(キュラリー・フリークス)』も使うと長い部分の髪の毛が金色に染まる。

 

 

 

『灰の家』

 

アスタリスクの本島にあり、全てを知っているヘルガにはたまに愛の巣と呼ばれている。

高級住宅街に建っており、3階建てで地下もある。

地下は主に訓練場と純星煌式武装の調整をするための工房がある。

 

一階の大部分は風呂となっており、他には灰の星猟警備隊の制服が置かれている部屋があるだけである。

 

二階はキッチンにリビング、ダイニング、そして、灰の部屋がある。ここはほとんど使う事はなく、制服など、灰の服が置かれている。

 

三階は寝室とシルヴィアとオーフェリアの部屋がある。といってもほとんど二人は使用しておらず学校の勉強をする時以外はほとんど使わない。他には衣装部屋があり、二人の服と灰の女装用の服がたくさん置かれている。

また、大量のウルム=マナダイトや『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』と『雷桜の断罪剣』などが置かれている部屋もここにある。

 

 

冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』柄は蒼く、紫に輝くウルム=マナダイトをコアとし、水色の刀身を持っている。そして柄から色の同じ蛇のように細長い二本のオーラが螺旋状に刀身の周りに巻きついている。巻きついているというよりかは締め付けようとしているに見る事ができる。

また、オーラに締め付けられるのを嫌がるかのように刀身からエネルギーを発して拒んでいた。

エネルギーの反発により、一層エネルギーが高まっており、見たことも無いような高エネルギーを発していた。

 

能力は氷を操る力を有し、その出力は純星煌式武装の中で最も高い内の一振り。統合企業財体『バベラトス』の総本部を壊滅させた時に使用したエネルギーは灰ですら制御が難しく、臨界状態と呼んでいる。

代償の一つに髪の毛が水色に変色するというものがある。

 

 

 

雷桜の断罪剣(キュラリー・フリークス)

 

柄は綺麗で鮮やかな桜の色で刀身は黄金に輝いている。そして、蛇のように細長い桜色のオーラが刀身を螺旋状に巻きついているが、こちらは『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』と逆向きに巻きついていた。オーラは刀身を締め付けようとはせず、優しく包み込んでいるように見えた。

冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』はオーラが刀身を締め付けようとし、刀身がオーラを拒絶することによる反発から生まれるエネルギーによりエネルギーを増幅させているのに対し、『雷桜の断罪剣(キュラリー・フリークス)』は刀身とオーラがお互いを強化しあうことで、『冰青の天界剣(ラヴィータ・イシュラ)』よりもエネルギー量は高くなっている。

 

能力は雷を操る力を有し、今まで所有はしていたものの使う事はなかった。『リヒシュタン』との戦いにおいて、一度だけ活性化状態で使った事はあるが、これを見たことあるものは全員死亡、世間にその情報が出回る事はなかった。

代償の一つに髪の毛が金色に変色するというものがある。

 

 

 

 

この二本は一対の剣で、同時に適合しない限り使用する事はできない。

 

 

 

 

 

 

オーフェリア・ランドルーフェン

 

所属学園:レヴォルフ黒学院

 

序列:1位

 

二つ名:弧毒の魔女

 

身長:165cm

 

灰が鳳凰星武祭制覇後、再開発エリアにて襲撃をかけるが軽々と退けられる。その時に灰が星辰量に干渉して漏れ出ている瘴気を浄化して自らが制御できる量に抑えてもらう。その後は二人きりで2時間ほど話してから別れ、その後の交流はなかったが自らを肯定してくれた灰に惚れ込む。

 

その後王竜星武祭で決勝で灰と戦い、敗れる。その夜に襲撃に遭い重傷を負った時、再び灰と再会する。

シルヴィアと話して灰の事が好きだという気持ちを改めて確かめる。シルヴィアも灰の事が好きであり、二人で灰と付き合う事になる。

灰が『凍氷の皇帝(ムフェト・シュヴァルツ)』だとしても気にする事はなく、自分の身も心も全て灰に捧げると言っている。

家では朝ごはんと夜ご飯を作る事が多く、最初は料理が得意ではなかったが、シルヴィアや灰に教えてもらい今では二人の胃袋をガッチリとつかんでいる。

 

純粋で気付かないうちに大胆な事をしており、後から気付いてすごい恥ずかしがっていたりする。

 

眠くなるのが早く灰の腕に抱きついてそのまま寝落ちする事がたまにある。寝る時も右腕に抱きついて寝るのが習慣となっており、一度抱きついたらもう離さない。朝は灰より早く起きる事もあるが、灰が先に起きるとシルヴィアがいる場合はシルヴィアに抱きつかれる。

 

灰だけではなく、シルヴィアのことも大好きである。

 

 

シルヴィア・リューネハイム

 

所属学園:クインヴェール女学園

 

序列:1位

 

二つ名:戦律の魔女

 

身長:165cm

 

灰が歓楽街でマフィアに絡まれているシルヴィアを見つけて、助けられて一緒に行動する仲になる。灰は歓楽街に用はないが気分転換になるという事でシルヴィアの人探しに付き合う事にする。灰は最初はシルヴィアの正体がわからなかったが、星辰量の波長によってすぐに分かったとしても、気にせず前と同じように振舞っている。

 

何回も一緒に行動している内に灰の事を好きになるが、自分はアイドルであり恋愛など出来ないと決めつけて、灰への想いを隠す。しかし、王竜星武祭終了後にオーフェリアに言われた事をきっかけに自分の気持ちには嘘をつかない事を決める。

 

灰と一緒の家に住んでいるが、半分は仕事で家に入れないため、帰ってくれと猫のように甘えてくる。ペトラにも見せないような表情を見せる事が多い。灰の事を女装への道へ誘った張本人。

突然、突拍子もない事を思いつき灰やオーフェリアを驚かせている。灰の女装もその一つである。

 

寝る時は何かに抱きついてないと寝れないのか、灰が先に起きてしまうとオーフェリアに抱きついている。

ペトラも灰がシルヴィアの癒しになる事は知ってるため、出来る限り一緒にいさせてあげたいと思っている。

 

シルヴィアは灰の事が大好きだが、オーフェリアの事も大好きである。

 

????

 

灰と共に鳳凰星武祭、獅鷲星武祭を制覇した猛者。序列は2位であったが、突如アスタリスクから姿を消す。

最後に灰が話をしたが、それでも決意は固く引き止める事はできなかった。

 

武器は大型の鎌を使う。魔術師ではなく、純粋な近接戦闘能力は灰に匹敵する。

影で『凍氷の皇帝(ムフェト・シュヴァルツ)』を崇拝している。

 

 

 

 

????

 

灰の義理の妹。若干ブラコン。

 

 

三首聖女の首飾り(エール・ロザリー)

 

灰の星辰量の大半をこれによって封印されている。

 

本体の他に二つ分体があり、三つ全てが反応することによって封印は解除されるが、本来の機能とは違い、オーフェリアの重傷を治すなどがあり、不明な点が数多くある。

 

 

 

『ノアの方舟』

 

統合企業財体『バベラトス』『リヒシュタン』の残党が集まった集団。他の統合企業財体にしては珍しい星脈世代至上主義を掲げており、その影響力は他の六つを大きくしのいでいたが、灰によって滅ぼされる。その後の生き残りは最強の星脈世代たる『凍氷の皇帝(ムフェト・シュヴァルツ)』を崇拝し始める。狂信者の集まりで離反するものもいたが、逆に集まってくるものもおり、その数は500を超えると言われている。一人一人が暗殺技術から純粋な戦闘能力まで全てが高水準。

行いは残虐で裏世界では絶対に喧嘩を売ってはいけない相手として広まっている。

 




設定集でした!本編に書いてないことも書かれていますが、ネタバレにはならないのでご安心ください。

明日はお休みなので、明後日、銀綺覚醒でお会いしましょう。

誤字、指摘、感想、評価お気軽に宜しくお願いします。


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銀綺覚醒
疾風刃雷


布団は恋人……


綺凛と師弟関係になってからおよそ三ヶ月が経った。

綺凛はその後灰に嫉妬している序列2位に決闘を挑まれてそれを返り討ちにして晴れて序列2位となった。二つ名は『疾風刃雷』彼女のこと鋭い刀のことをよく表しているいい名前だ。

 

序列2位だったものは、一年前繰り上げで序列3位から2位となった。その後の王竜星武祭でまさかの予選負けをしてしまい、逆に最強の魔女と言われたオーフェリアを打ち破った灰は優勝をして、灰に嫉妬することとなった。公式序列戦でも灰に二敗している以上挑むことはできず、その後の新入生歓迎の序列戦で灰と少しだがいい勝負をした綺凛に八つ当たりをするかのように決闘を挑み、敗れ、序列外となったのだ。

 

その後は不気味なほど音沙汰がないが聞いたところによると自信を失い、かつての覇気はなくなったとのこと。

 

 

 

 

綺凛との修練は週4回か5回ほど行っていた。平日は放課後しかできないため回数ほどの時間は修行できているわけではない。それでも週10時間以上はやっており十分ではある。

 

綺凛は最初は灰のスピードに慣れるので精一杯であったが、今では灰の最高速度の8割でちゃんと打ち合えている。灰の8割速度に対応できる学生はこのアスタリスクに10人ほどしかおらず、中学一年である綺凛はさすがと言えた。

 

さすがに力加減はしている。綺凛の力ではまだ灰の力を完全に受け流す事はできないからだ。

技量、経験とまだまだ灰には劣るものの、着実に綺凛も進歩しており、彼女の才能だけではなく、しっかりとした努力が伺える。綺凛もそのことを理解しており少しでも灰に追いつけるように、灰の技をどんどん吸収していった。

 

 

刀藤流と鳴神流の基本的な事は似ており、一対一に重きを置くのが刀藤流で、一対多に重きを置くのが鳴神流だ。

そのため、基本がしっかりできている綺凛は鳴神流の技も簡単に習得できた。

 

 

 

 

今日も綺凛と灰は模擬戦をしており、これで今日は3回目だ。今までにすでに200を超える模擬戦をしてきたが、灰は未だに負けた事はない。

 

一戦ごとにじっくりと反省会をしているため放課後の2時間だと三回が限界だ。灰が一つ一つ気になったことを綺凛に聞き、綺凛がなぜその行動をしたかを聞き、綺凛が説明し、そのことてについて灰と議論をする。完璧になることは幾ら才能があろうとも不可能だが、完璧に近づけることはできる。綺凛程ならより近づくことができると灰は思っている。

 

灰は綺凛に問いかける時にわざと正しい選択をした時のことも織り交ぜて質問することで、綺凛に戦いの中で常に考えることを習慣化させ、それを一人で出来るようにすることを最優先とした。徐々に綺凛は戦闘中でも自分の選択について考えることも慣れてきていた。

はじめは深く考えすぎて集中ができなかったり、逆に浅く考えすぎたり、また過去のことを引きずってしまったりなどがあったが、徐々に自分の最適解に近づくことができた。灰はわざとこれに関しては大幅に違わない限りアドバイスはしなかった。何もかも教えるのが弟子にいい影響をもたらさない事を知っていたからだ。

 

 

 

そして、本日3回目の模擬戦が始まる。反省会の時間も少しずつだが短くなっていき、綺凛の成長を灰も心の中で喜んでいた。

 

二人で刀を構え向き合う。綺凛は正眼に、灰は『雲雫』を片手でいつもとは違い下段に構える。

 

下段………つまり、防御主体ということだが、油断など出来るわけがない。

灰の速度は8割と抑えられているものの筋肉の使い方、体の動かし方などにより8割以上の速度で刀を振るうことができる。何より動体視力、反射神経が半ば人外の域に達している。また、それによるわずかな緩急が綺凛を騙す。

 

それに加え、灰は綺凛が後の先をとろうとしても、灰は後の先の先を取ることが可能なため迂闊にカウンターを狙えない。

つまり、綺凛に許されるのは灰を一方的に攻め立てるか、それともカウンター覚悟で後の先を狙いにいくか、手段は限られていた。

 

灰はわざといつもと違う構えを取り、綺凛を試した。三ヶ月、ちょうど綺凛に稽古をつけ始めてから経ち、テストの意味が込められていた。

 

 

(さあ、どうする綺凛?君がどれだけ成長したか、僕に見せてくれ)

 

綺凛は一気に駆け出して灰に急接近、灰の下段に構えている『雲雫』に刀を振り下ろし、『雲雫』をさらに下に追いやる。しかし、そのような単調な攻撃は灰には通じず、一歩下がると同時に刀を上手く使い攻撃をかわす。綺凛は気にせず何度も果敢に攻撃を続ける。

 

 

(………おかしいな。綺凛は我武者羅に攻め込むようことは絶対にしないはず、、何かをしようとしているのか……)

 

 

灰はこの我武者羅な攻撃を受け流しながら何回も反撃をする機会を窺うが、綺凛の策が見たくなり、わざとスルーしていた。

そして、28合目、綺凛の攻撃は灰に避けられてしまい、攻撃は空を切る。その絶対的な隙を灰は『雲雫』を振り上げ、綺凛を吹き飛ばす。

大きく開かれる間合い、綺凛は着地と同時に納刀しこう呟いた。

 

『刀藤流抜刀術・折り羽』

 

灰の目には綺凛が抜刀し灰に攻撃を放とうとしているように見え、反射的に防御しようとするが、その瞬間灰はあることに気づく。

 

(踏み込み足に体重が乗っていない………なるほど虚像の剣か。虚像には虚像でお返しを)

 

綺凛のこの抜刀術が虚像であることに気づき、自らも虚像を作り出す。

とは言っても魔法で作り出すわけではない。綺凛はおそらくこの虚像が見破られる可能性を考慮しているが、自分の目に映る灰が防御姿勢を取っていたら見破られていないと勘違いするだろう。

その思い込みの瞬間に灰は『折り羽』と同じ原理を使い、虚像を作り出す。完璧には作り出せないが、綺凛と剣を合わせているうちに刀藤流の大まかの根幹は理解しており、一瞬だけの再現ならなんとか出来る。

 

綺凛が灰の虚像に気付かぬまま喉元に刀を突きつけるがその瞬間、彼女にはまるで霧のように消えてしまう灰の姿が写るが、その1メートル程後ろに刀を納刀して構えている本当の灰が綺凛の策略に敬意を表して、自分なりの返礼をした。

 

『鳴神流抜刀術・犀撃』

 

刀を大きく前に突き出した状態の綺凛のほぼ真下から突然現れたかのように見えた灰の刀が、綺凛の顎下に突きつけられる。

 

 

『犀撃』は他の抜刀術とは大きく違う。この技はしゃがむように姿勢を低くして、相手に急速接近、体をのけぞらせるかの勢いで状態を大きくそらし、その勢いで刀を抜刀。肋骨の下から刀は体内に侵入、心臓を断ち、そのまま頭までを切り裂く。

 

この抜刀術が他と大きく異なるのが刀の抜き放つのが横ではなく縦ということである。

 

しかし、この技をそのまま持ちいれば綺凛は死んでしまうので一歩間合いを大きく取り、ちょうど振り抜いた時の切っ先が顎下になるように調節した。

 

 

トレーニングルームのシステムが模擬戦の終了を告げ、二人は刀を下す。

 

「今日も勝てませんでした。完敗です」

 

だが、綺凛の顔は落ち込んではいるもののその目は闘志に燃えていた。

次こそは、それを何回も繰り返しても折れない心を彼女は持っていた。アスタリスクに来てから、実家では味わえないような敗北の連続を綺凛は悔しいとは思うものの、勝ちたいと思う気持ちが強かったからだ。

 

「まさか折り羽を簡単に見破られて虚像を虚像で返されるとは思ってもいませんでした」

 

綺凛は苦笑しながらそう言った。奥の手を簡単に読まれ、その上そのまま返されたのだ。苦笑する他ない。

 

「刀藤流も鳴神流も根本は同じだから、見様見真似でやっただけだから、一回しか通用しないさ」

 

こんなものハッタリに過ぎず、綺凛には二度目は通用しない。

 

「それでも、一回通じるのであれば十分だと思います」

 

まあ、星武祭は一発勝負であり、二回目は無いためその心配はないが、灰は弟子に負けるのが嫌なだけだ。

 

「綺凛の成長がすごいからそろそろ慌ててるのさ」

 

少しおどけてみせる。

 

「灰さんがそう言ったとしても、そんなに説得力はないですよ?」

 

慌てるそぶりすら見せない灰の言葉を信頼性のかけらもなく、綺凛は信用していなかった。

 

(まだ慌ててはないけど、でも、すごい勢いで成長しているのは間違いないのに、綺凛は本当に謙虚だな……)

 

謙虚と言うより、師匠である灰は綺凛の目標であり、レベルが高すぎるので謙虚にならざるおえないのだ。

 

「あ!そうでした。叔父様が灰さんと一回話をしたいとおっしゃってて、その、明日の放課後とかどうでしょうか……」

 

綺凛が思い出したかのように言ったことは灰に少し難題が加えられることになった。

 

と言っても綺凛の叔父は灰の訓練に干渉はしてこないので、放置していたが話がしたいとなると面倒くささが増す。

 

 

「いいよ。明日の放課後にじゃあ、よろしくと伝えてもらえるかな?」

「はいです!!」

 

こうして灰は綺凛の叔父と話すという少し憂鬱なイベントが発生した。




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださり有難うございます。夕凪です。

昨日はゆっくり休ませてもらいました!これでだいぶ2巻部分のイメージが固まりました。
今日から毎日投稿再開です!!

今作は綺凛の叔父様はそんなに悪いやつではないという設定で行かせてもらいます。


UAが7000を超えて、お気に入りも80を超えました。皆様本当にありがとうございます。
これからも学校が始まるまではとにかく続けていきたいと思っております。


最後に感想、評価、待ってます。お気軽にどうぞ!!

それではまた明日。


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過去を胸に

寒いですね………


綺凛から明日叔父が話したいということを伝えられて少し、ほんの少しだけ憂鬱になりながら帰っていた。

 

灰は別に綺凛の叔父である刀藤鋼一郎が嫌いではない。好きでもないが………

遠目に見た限り、出世欲が強いような目つきをしており、綺凛のことを利用しているように思えたのだ。灰は統合企業財体の内部事情に関して興味すら湧かないが、綺凛は灰の弟子であり、それを利用するのであれば少しは気になる。

 

「はあーー」

 

柄にもなく大きなため息をついてしまう。統合企業財体に関係している人間は何かと口が達者で灰が苦手とするところだ。おそらく鋼一郎氏も同じであろう。

 

「そんなにため息をついてどうしたの?」

 

突然背後から声をかけられる。こんな場所で灰に話しかける人物は限られている。

シルヴィアは、3日前にアジアツアーに出発したためアスタリスクにはいない。

つまり、ここで会うとすれば一人しかいない。

 

「明日面倒くさい人に会うことになって憂鬱……」

「ふーん?貴方ならそういう人が相手でも大丈夫だとは思うのだけど」

 

その人物、まあ、オーフェリアなのだが、横に並んで手を繋いでくる。もちろん、恋人繋ぎだ。ちなみに、灰はこうして家に帰るときは気配を消しながら歩いている。そうでもしないとまともに歩けないから。

 

「まあ、どうにかはするけど……それよりもフィーアは夜ご飯のための買い物帰り?」

 

考えたくないのでとりあえず話題を変える。明日のことは明日どうにかする。いわゆる現実逃避だ。

灰と手を繋いでいる手と反対側の手にスーパーの袋があったので、それを代わりに持ってあげる。

 

「ええ、今日の夜ご飯と明日の朝ご飯の買い物ね。いつもは通販だけど、たまには自分で買い物するのも良いものよ」

 

いくら変装していると言ってもいつバレるかわからないので、通販で頼むことが多い。とくに学校がある日は買い物の時間がそこまでないので、よほど早く帰らない限りは買い物はしない。休日は3人で買い物に行くことが多い。とくに新学期になってから灰は女装出来るようになったので、周りを気にせず買い物ができる。

何かと女子二人と歩いていると周りによく絡まれる。それに、変装しても美人であることに変わりはない二人はよく目立つ。

 

 

何かと有名人である灰は最初は追い掛け回されるのに慣れなかったが、今はすっかり慣れてしまい、気配を消して歩くことにも苦痛は感じなくなった。

そのまま家に家に帰り、オーフェリアの作ってくれたご飯を食べて、寝る。ここにシルヴィアがいる時が一番幸せであるが、自分が惚れた女性がやりたいことを生き生きとやっているのが、一番輝くと思っている灰はそこまでは求めない。

 

現にオーフェリアは灰の家で料理している時は一番可愛く見える。

 

 

シルヴィアとオーフェリアの関係は物凄く良好で、心配する必要などなかった。

 

 

 

 

 

(この幸せを守るためなら、僕は何でもしよう。それが唯一復讐に身を堕とした僕にできることだから)

 

 

灰が幼い頃に起こった惨劇は灰を復讐というものに支配されるには充分だった。

 

 

 

これはまだ灰が小学三年生だった頃。

 

鳴神家の道場で稽古をつけて貰っていた灰の家は道場から1キロ以上離れていた。

灰は小学三年生にして鳴神家の剣術は『免許皆伝』となっていた。そのスピードは周りをいともたやすく置いていった。

 

そして、事件が起こったあの日、灰は稽古に熱が入りすぎて夜まで道場におり、師範である灰の叔父に家まで送ってもらうこととなった。

家に帰ってみると家の灯りは点いておらず、おかしいと思った叔父は家の中に入り部屋を一つ一つ見ていくと二階のリビングで惨殺された灰の両親を見つける。その光景を見て叔父は固まってしまい、灰がその光景を見てしまうのを防ぐことはできなかった。

 

慌てて止めるも間に合わず自分の両親が惨殺された光景を見てしまい灰は倒れてしまう。

 

後々叔父から聞いたところによると警察は通り魔の仕業だと言っていたらしい。が、叔父は二つの統合企業財体の名前を出した。

その時、灰は誓った。この世の中を支配して玉座に踏ん反り返っている者に復讐すると!

その復讐心はどんどん燃え上がっていった。

 

 

もちろん、叔父は止めた。

 

 

だが、幼い灰の中に秘められた狂気とも言える復讐心を感じ取った叔父は止めることができず、鳴神家の宝刀を灰に授けた。そして、こう言った。日本には隠された霊峰があり、そこに七天大聖と呼ばれる七人の仙人たちが住んでいるため、彼らに弟子入りしろとのこと。

 

鳴神流の開祖は七天大聖の弟子であり、鳴神家の当主には代々その場所が受け継がれていった。

灰は霊峰で七天大聖に弟子入りして、一年の修行の末、革命を起こすための力を習得した。

 

 

かの二本の剣は灰自身が作ったものではなく、彼らがいつの日か起こるであろう大災厄の対抗手段として七人全員の力を集結して作り出したものである。

それ故とても強力であり、最後まで灰に渡すかどうか悩んだとのこと。

 

 

二本の剣を手に入れた灰はついに復讐を始める。

灰は片っ端から『バベラトス』と『リヒシュタン』の施設を襲い、そこにいる戦闘員、並びに研究員など皆殺しにしていった。もちろん、施設によっては民間人がいるため、民間人は殺さないように細心の注意を払っていた。

 

初めはただの犯罪者集団かと思われていたが、次第に逃げ延びた民間人の証言が集まり出し、ある一人の星脈世代によってこの事件が引き起こされていることがわかった。

 

吹き荒れる星辰量のため顔は確認できなかったが、水色の髪に水色の剣を携えていることは一致しており、そのことから灰は『凍氷の皇帝』と呼ばれるようになった。

 

 

約三ヶ月以上に及ぶ戦いの末灰は『バベラトス』と『リヒシュタン』の総本部を壊滅させることが出来た。

疲れ果てた灰は霊峰に戻り、七天大聖の元へ戻る。その時の灰は人間らしさはなく、まるで機械のようだったと言っていた。

 

重すぎる運命を背負っている灰に七天大聖はある首飾りを授けてアスタリスクに送り出す。その為の教育を約二年間に及ぶ灰は受けた。

なおかつ、七天大聖は霊峰の地下に眠っている数多くの強力なウルム=マナダイトを灰に渡し、また純星煌式武装の作り方を教えた。

いつの日か必要になる時が来ると言われたが、よくわからないまま、灰は受け取った。

 

 

この事をそのままシルヴィアとオーフェリアには話しており、その時二人は涙を流し、灰の過去に悲しみを覚えた。

話したのが夜であったためその日はすぐに寝たが、その次の日、ほとんどの時間二人に抱き着かれている状態だったのはいい思い出だ。

もちろん、二人の過去も知っている。

 

 

自分の幸せを守るため、そして、二度とこのような悲劇が起こらないように統合企業財体の動向を牽制する。

それが今の灰がやることだ。

 

 

現に『凍氷革命』が起こって以来、統合企業財体の動きは消極的になっていた。

 

 

 

 

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。夕凪です。

本当は鋼一郎氏との対話を入れようとしたのですが、入らなかったので灰の過去の話で終わりになります………


銀綺覚醒部分はあと5、6話で終わらせて早めに鳳凰星武祭には入りたい所ではあります。


最後に、感想、評価、誤字、指摘、お気軽によろしくお願いします。

それでは、また明日。


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刀藤鋼一郎

1日30時間希望します


オーフェリアに癒してもらい、なんとか鋼一郎との対談に行くだけの精神を回復した。

多分いつも以上に甘えてしまった…………いつもは甘えられる側だから、たまにはね?

 

逃げるつもりはないが、どうしても逃げたいという気持ちが強くなってしまう。

向こうから話したいと言っていたので話題を持っていく必要がないのが唯一の救いと言えよう。

 

時間を着実に過ぎていき、放課後となり綺凛から連絡が来た部屋に向かう。

外に綺凛が待っていたので、部屋に入る。綺凛は部屋に入ってこないで外で待っているようだ。

 

(綺凛が居たら話しづらい事を話すということか………)

 

綺凛が居ないということはどんな事を聞かれるか想像がつかなかった。

綺凛というセーフティーがなくなった以上、灰はある意味覚悟を決めなくてはいけなかった。

 

「来たか」

 

部屋の真ん中にある椅子に腰掛けて腕を組んで待っていたので、おそらく彼が刀藤鋼一郎氏だろう。

銀河の幹部の座を狙っているらしい……

 

「まあ、座れ」

 

さすがに灰もずっと立ち話をするのは嫌なので座らせてもらう。

 

「単刀直入に聞こう。三年後の王竜星武祭で綺凛は優勝できるか?」

 

本当にストレートに聞いてきたことで、少し驚く。もちろん、こういうことは想定はしていた。彼が聞いてくるとする事などある程度はもともと絞れていた。

 

「そうですね、三年後このまま僕が鍛えたとしても、優勝は無理でしょう」

 

そう、いくら綺凛の成長がはやいと言っても、王竜星武祭は本当に修羅の道だ。

鋼一郎氏は無言で理由を説明しろと言ってくる。

 

「彼女の成長スピードは本当にすごいと思っています。入学数週間で序列2位となったのはさすがと言えます。しかし、王竜星武祭にはシルヴィア、オーフェリアと最強の魔女が出場するでしょう。僕には三年であの二人を超えることは不可能だと思っています」

 

たしかに、綺凛はすごい。その成長ぶりは凄まじく、師匠である灰も誇らしい。

 

「それに、彼女には実戦経験が不足しています。星武祭での戦いは模擬戦では経験できないようなものばかりです。あの二人は歴戦の猛者、経験不足などすぐに見抜かれますよ」

 

別に二人に情報を流す気は無い。そもそも二人はそんなこと望まない。

 

「自分で言うのもなんですが、僕の抜刀術は誰も防ぐことのできない最強の剣です。彼女も三年後には半分以上使えることになるでしょう」

 

『鳴神流五連抜刀奥義』ならまだしも普通の抜刀術なら教えることもできるので、綺凛なら習得するだろう。

だが、灰の使う抜刀術はただの鳴神流抜刀術では無い。

 

「しかし………僕の抜刀術は超高精度な星辰量操作技術が必要となる体術を使用しているからこそ、防御不能にして不可視の剣となるのです。魔女ではない彼女がそれを使おうとしたら足が負荷に耐えられず砕け散ります」

 

鳴神流では技を完璧に習得してようやく二流、その技を自分にあった形に改造出来て一流なのだ。

灰の使う体術、つまり七天大聖の体術は細胞一つ一つに適切な星辰量を注ぎ込むことで成立する。そんな事が出来るのは魔女や魔術師として星辰量操作技術を日々鍛えていない限り不可能だ。

 

「それに、その技に頼らなければ勝てないなどという不安定なものであるなら、王竜星武祭は優勝などできません」

 

たしかに、綺凛が鳴神流抜刀術を習得して、研鑽した場合、それはかなり脅威になるが、事前の予備モーションが大きいあの技を作り出せる為にだけ技を磨くのは絶対に違うからだ。

 

「彼女は遅かれ早かれ剣士として大成するでしょう。しかし、それを王竜星武祭優勝のためだけに歪めるのであれば僕は彼女の師匠役を降りますよ。あなたにもわかるでしょう。たとえ剣士ではなくても、刀藤家の人間なら」

 

彼女が剣士として大成するにはかなりの時間がかかる。それだけ彼女の才能は凄まじいのだ。

 

「やはり、お前もそう思うか。分かった。しかし、私は私なりのやり方で綺凛を王竜星武祭で優勝させる」

「中学一年ならば、まずは共に高め合う仲間を見つけさせてあげてください。まずはそこからです」

 

今の灰と綺凛の関係は絶対的な上下関係にある。

彼女に必要なのは師匠以外に好敵手と呼べるような存在がなければ一定以上には成長できない。

 

「つまり、お前は鳳凰星武祭、もしくは獅鷲星武祭の方がいいと言うのか?」

 

タッグ戦の鳳凰星武祭、チーム戦の獅鷲星武祭。たしかに、ここに出場するなら仲間は良き好敵手となるだろう。

 

「そうですね、彼女のためを思うならそちらの方がいいかも知れませんね」

「アスタリスク最強の星脈世代の貴重な意見として、頭に残しておこう」

 

話はそれで終わり、鋼一郎は部屋を出て行こうとする。

 

 

「あなたが思っている以上にアスタリスクは甘くは無いですよ」

 

灰は出て行く鋼一郎の背中に声をかけた。

 

「私はお前以上の曲者などいないと思っている」

 

そして、今度こそ部屋から出て行った。

 

 

「僕以上に曲者な人などたくさんいますよ」

 

その声は鋼一郎には届かない。

たしかに灰はアスタリスクでは曲者に含まれるかも知れない。星導館という学校の中で序列1位という座を守り抜くのは強いだけでは不可能だ。色々な策で灰を貶めようとする人間がたくさんいる。だが、それを見破れるからこそ、今も無敗伝説は続いている。

 

灰よりも曲者といえば、クローディアなど、各校の生徒会長がいい例だ。

 

 

(絶対、今日の夜フィーアに膝枕してもらって頭を撫でてもらおう)

 

静かに決意していた。

 

 

 

 

 

 

 

鋼一郎との対談は思った以上に神経を使った。彼を刺激しないように注意しながら、綺凛から手を引くようにしむけようとした為である。

その疲れからか少し対談した部屋で休んでから出てきた為、もう夕暮れ時で、空が赤く染まっていた。

 

 

 

「「はあー」」

 

????

誰かと溜息が重なる。ふと辺りを見渡してみると茂みの向こうにユリスが歩いていた。

 

「どうしたんだ?ユリス」

「うん?灰か……」

 

なんだろう。ユリスが灰を見たときに心なしかもう一回溜息をついた気がする……

 

「ちょっと、いろいろありすぎて胃が痛いだけだ………」

 

 

詳しく聞いてみると綾斗の幼馴染らしい沙々宮がトレーニングルームの壁を破壊して、いつも以上に胃が痛くなったらしい。

胃痛の原因は主に綾斗のアスタリスクに対する無知さらしい。

 

 

「それは災難だったな。そういえば、コレあげるよ」

 

灰はポケットから薬の入った瓶をユリスに投げ渡す。

 

「これは?」

「僕が特別に調合した胃薬。効果は他の胃薬より良いことを保証するよ」

 

灰は今日の対談で絶対に精神的に疲れ胃が痛くなると思い、昨日の夜に胃薬を調合したのだ。七天大聖からもらった秘伝のレシピの為効き目は抜群だ。使う必要も無くなったのでユリスにあげる。

 

 

 

「それは、ありがたい。ちょうど今使っている胃薬が効かなくなってきたのでな」

 

それはかなり重症だ。よっぽどユリスの胃袋は悲鳴をあげているらしい。

 

 

「それで、調子はどう?天霧とのトレーニング」

「まあまあといったところだな。だいぶ基礎もできてきたところだ。そろそろお前にも相手を頼むかも知れない」

 

どうやらユリス達の訓練は順調で鳳凰星武祭に向けて着々と準備が整ってきているらしい。

あとは灰に実戦と経験談からの助言を貰うだけらしい。

 

 

「順調そうなら良かった。だが、ユリス。お前自身の体調管理はしっかりしろよ?」

「まあ、そろそろ胃が痛くなることは無いはずだ」

 

ユリスの胃袋はあと少しの辛抱らしい。

その会話で二人は別れ、各々の帰る場所へと行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灰は家に帰ったらオーフェリアに膝枕と頭を撫でてもらい、疲れを癒したとのこと。

 

 

 

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。夕凪です。

緊急事態宣言が解除されそうで、学校が始まってしまいます……
現実逃避していたい……

とまあ、こんに事ばっか言っててもしょうがないので小説書いて誤魔化します。

それでは次回。
感想、評価、誤字指摘などお気軽にお願いします。


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初めての接触

やっと綾斗くんが出てくる………


ユリスに今日から綾斗とのトレーニングの相手をしてもらいたいと言われたので、『冒頭の十二人』の専用トレーニングルームで待つことにした。序列1位のトレーニングルームは他と違い、広く、また設備も充実している。

まあ、灰は自分の家の地下のトレーニング場を使うことの方が多い。

あそこは灰が改良を加えており、灰がある程度暴れても壊れることはなく、また星辰量の反応が外に漏れることも無い。

 

 

時刻は午後3時45分。ユリスとの待ち合わせ時間から15分が過ぎていた。

星導館学園の授業が終わるのは午後3時。そのため待ち合わせは午後3時半となっていた。

特に準備することの無い灰は3時10分にはトレーニングエリアに着いていた。ユリス達も20分には来るだろうと予想していたが、当ては外れたようだ。

 

「時間に厳しいユリスなら20分には来ると思ったんだけど、来ないってことは天霧あたりが何かやらかしたんだろうな」

 

何の連絡もなしにユリスが遅れるはずはなく、必ず何か理由があるはずだ。

 

「まあ、今日は綺凛との訓練は無いし、気長に待ってるか」

 

あとでユリスから綾斗の面白情報でも聞いてみるのも悪くなさそうだと、一人悪い笑みを浮かべている灰であった。

 

 

 

 

 

それから5分ほどして急に来訪者を告げるメッセージが来る。

 

『すまない灰!遅れた』

 

肩で息をしているユリスであった。近くに綾斗の姿もあるのでどっからか引っ張ってきたのだろう。

 

 

灰が扉を開けるとすぐにユリスは綾斗を近くにあるベンチに寝かせる。

すると急に魔法陣が綾斗を縛り付けるかのように展開する。溢れ出ていた綾斗の星辰量が急激に減少する。

 

(これは……封印系統の魔術師か魔女の力。しかもかなり強力な力で封印されている……これほどのことができる星脈世代なんて聞いたことが無いぞ)

 

警備隊の幹部権限で閲覧できる情報には一通り目を通している灰であるが、そのような力を持つ実力者などアスタリスクにはいないはずだ。

 

 

 

ユリスが一通り綾斗の応急処置が出来たので声をかける。

 

「ユリス、どういうことか説明してもらえるか?」

「私にも詳しいことはわからん。だが、綾斗曰くお姉さんの禁獄の力らしい」

 

ユリスも詳しいことは分かっていないようだったが、灰にはそれで十分であった。

封印系統の能力者は灰は知らないが、唯一の禁獄の能力をもつ人であるのなら灰は知っていた。

 

(禁獄の能力の所持者で天霧の性を持つ魔女、天霧遥。幹部権限でしか閲覧出来ない情報の一番下にあった機密事項。彼女は何かを知っているのかな……)

 

幹部権限で見れる情報は莫大であり、それ全てに目を通しているものは幹部十人で三人ほどだろう。必要な情報は検索をすれば簡単に出てくるのでわざわざ目を通すのはよっぽどの物好きだろう。

 

「その反応何か知っているな。頼む、綾斗に教えてやってほしい。あいつは姉を探しにここに来たらしいんだ。だから……!」

「すまないが、こればっかりは教えられない。僕がこの情報を知っているのは星猟警備隊の幹部権限で閲覧できたんだ。たとえユリスであっても幹部権限領域の情報である以上は無理だ」

 

幹部権限領域の情報はアスタリスクの暗部の情報の詰め合わせであるため、簡単に外部に漏らしてはならない。それが幹部としての絶対の規律だ。

 

「そうか……いや、当たり前か。すまない、急ぎすぎたみたいだ」

 

ユリスは本当は是が非でも聞き出したいのであろうが、灰の意思を曲げることは出来ないことがわかっているのだろう。

 

「その代わり、今日はちゃんと訓練に付き合ってやるさ」

 

灰なりのユリスに対する罪滅ぼしであった。 灰だって言えるものなら言いたいのだ。隠し事は性に合わない。

 

 

「綾斗が起きるまで、付き合ってもらうとするか」

 

 

 

 

 

 

それから30分ほどユリスとの訓練は続いた。ユリスの星辰量が尽きかけたので一旦止めることになった。

 

 

 

 

「相変わらず勝てるビジョンが全く思い浮かばないな、ほんと」

 

地面に座りこむユリスは力なくそう言った。

 

「流石にまだまだ負けられないさ。だが、前よりは大分良くなってるよ。自分の能力を良く理解しているね」

「一歩も動いていないお前に言われても些か説得力に欠けてるぞ」

 

実際灰は一歩も動かず勝利している。飛んでくる魔法は全て灰の魔法で撃墜され、設置型の魔法も灰は叩き斬るため目くらまし程度にしか役に立たない。

ユリスは無敵の壁を相手にしているように思っていた。

 

 

「私よりも魔法を速く、多く展開しているのにどうやって勝てばいいのだ。星辰量の総量も圧倒的に負けているのに」

「ユリスには一撃必殺の様な物が無いからそうなるんだよ。どんなに時間をかけて構築したっていい、相手を必ず葬る技を身につけるのが先決だな。そればかりに頼るのは流石に無理があるが、切り札としては有効なはずだよ」

 

鋼一郎にも言ったが、一つの技に頼りすぎるのは自ら成長するのを拒んでいるのと同じことだ。

だが、その技を持つことには成長の妨げにはならない。切り札というのは使いすぎればただの技に成り下がる。

 

「まあ、それに関してはまた今度だな。彼が起きた様だし」

 

綾斗は自由の利かない体をなんとか起こす。おそらく禁獄の力の影響だろう。

 

「目が覚めた様だね。天霧」

「君はたしか、同じクラスの……」

 

綾斗に灰は初めて声を掛ける。そのため綾斗が灰の名前を知らなくても仕方が無い。

 

「僕は鳴神灰。灰でいいよ」

「ああ、よろしく。俺は天霧綾斗。俺も綾斗でいいよ」

「よろしくな、綾斗」

 

これが同じクラスなのに三ヶ月間なぜか話さなかった二人の初めての会話となった。

 

(それにしてもアスタリスクに関しての知識が無いのは本当みたいたね……)

 

灰の知名度は今ではシルヴィアと同じぐらい高い。それでも知らないということは余程無知なのだろう。

 

「それで、綾斗。ユリスから大体の事情は聞いたけど、なんで決闘なんてしたのさ。しかも、よりにもよって彼女と」

「彼女、強かったけど一体誰なんだい?」

 

ユリスの胃袋が引いを上げているのは気のせいだろう。

灰はユリスの胃袋に手を合わせる。

 

「はぁー、お前せめて自分の学園の『冒頭の十二人』ぐらい覚えておけ!」

「まあまあ、ユリス。そう怒るなって。胃袋が小さくなるぞ」

 

ユリスを止めないと色々と大変なことになると思ったのでさすがに止める。

あと、胃袋にもね。胃袋に罪は無い。

 

「彼女は刀藤綺凛。うちの序列2位だよ。二つ名は『疾風刃雷』たった三ヶ月だけど、刀一本でその座を守ってきた期待の中1ってところかな」

 

まあ、ざっくりと綾斗に説明する。詳細はまあ自分で調べろってことだな。

 

「へー、序列2位か……道理であんなに強いんだね。でも、そしたら、もっと強い序列1位の人がいるんでしょ?」

 

綾斗がその言葉を言った時、ユリスの胃袋がなくなったのを灰は感じ取った。

 

「おまえ、まさかそこまで知らないのか!!」

「い、いや、クローディアからちょっとぐらいは。昨シーズン史上2人目のグランドスラムを達成した人ってことぐらいは聞いたよ」

 

綾斗はこれ以上ユリスを怒らせない様になんとか言い訳をする。

だがね、綾斗よ。もうユリスの胃袋はストレスで亡くなってしまったのだよ。

 

「はぁ、もう怒りを通り越して呆れだな」

 

肩をガックリと落とし落ち込むユリス。

端末を操作しながらユリスは軽い説明をしてくれた。

 

「うちの序列1位はさっきお前が言った通り、史上2人目のグランドスラムを達成した。今まで公式戦で負けなしのアスタリスク最強の星脈世代。それがこのわるだくみが成功した様な顔をしている男だ!」

 

ネット上に上がっている灰の情報を綾斗に見せるユリス。

ユリスの手が肩にあるのだが、それが地味に痛い。

 

だが、それよりも耳が痛かった。

何せ綾斗が叫ぶから……




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みいただきありがとうございます。夕凪です。


気付いたら二十話を超え、お気に入りも90を超え、UAも8000を超え、当初では考えられないようなものとなっております。
5月中は毎日投稿できそうで一安心です。
学校が再開された場合、どうなるかはまだわからないので、決まり次第自分の投稿ペースもどうするか報告させてもらいます。

これからもよろしくお願いします。
感想、評価、誤字指摘などお気軽によろしくお願いします。

それとはまた明日。


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実力の一端

異様なほど眠かったです……



綾斗があまりに叫ぶものだから耳がキンキンする。音で聞いたのだが、防音設備が整っているトレーニングルームの外にまで響き渡っていたらしい。

 

「さっきユリスが言った通り、僕はこの学園の序列1位、二つ名は『刀雷の魔術王』かな」

「一応言っとくが灰は中学一年生の時からずっと序列1位の座を守り続けているのだぞ」

 

鳳凰星武祭後に序列1位となった灰は約三年間その座を守り続けた。

 

「こいつは本領は魔術師なのだが、ほぼ刀一本だけで星武祭を制したことから規格外すぎるということで、二つ名も魔術師から魔術王と変わったのだ。訓練の相手としては十分だろ?」

 

そう、本来の目的は綾斗の応急処置などではなく、訓練である。鳳凰星武祭三ヶ月前なので、そろそろちゃんとした対人戦の訓練をしなければいけない。

もっとも、今日は出来そうにない。綾斗の星辰量がほとんど回復してないからだ。

 

「まあ、今日はいろいろあったしとりあえず軽くやろうか」

「え、でも二対一はいくらなんでも……」

 

一対一なら個人の実力が圧倒的に勝っている灰が勝つだろうが、二対一はそれほど単純ではないからだ。

 

「安心しろ綾斗。私達2人が逆立ちしても絶対に勝てないような相手だからな」

 

確かに灰はユリスと綾斗2人の相手でも絶対に負けないが、綾斗はまだ灰の実力を知らないので半信半疑といったところだ。

 

「まあ、とりあえずやって見ようよ。綾斗も取り敢えず僕の実力が分かった方がいいでしょ?」

 

灰は笑ってそういった。だが、この笑みは綾斗とユリスに二つの違うイメージを与えた。

綾斗には灰が明るくて快活という人柄というイメージを与えたが、ユリスはこの灰の笑みが悪巧みをしているように思えた。

 

 

 

それから、三人は初期位置へと移動する。綾斗は前衛、ユリスは後衛としてペアとしての構成は悪くはない。灰は綾斗から10メートルほど離れて構える。星武祭でも初期位置の距離はおよそ10メートルなので練習にはその方がいいだろう。

 

 

綾斗は下段に。相手の実力が自分よりも上のため、まあ良い選択だろう。

 

灰はいつも通り右手で刀を持ち、脱力する。これが灰の基本的な構えだ。それを見た素人はやる気のないように思えるかもしれないが、綾斗は灰の構えを見てより警戒した。

 

(なるほど、特待転入生として来ただけはあるね。僕のこの構えを初見で見て侮らないってことは相当の訓練を積んでるね。面白い)

 

灰のこの構え、自然体が完全に隙のないものだと分かるにはかなりの訓練を積まない限り不可能だ。

 

そして、灰は綺凛がまだ反応できない速度で綾斗に迫る。もちろん、七天大聖の体術は使わない。まあ、使ったとしても綾斗が使われたことを認識できればの話だが。

 

灰の全力は音速を超える。10メートルという距離なら一瞬で詰めることができる。

 

 

「どうしたの綾斗?僕は見ての通り隙だらけだよ?」

 

もちろん、これは嘘だ。綾斗がこの構えに隙がないことを知ってることを理解した上で言っている。

 

「何言ってるんだか。隙なんてどこにもないじゃないか。こんなの迂闊に攻められないよ」

 

綾斗の判断は正しい。相手の実力がどれほど上かわからない上に、この隙だらけに見える構えを取られているため、綾斗は攻めることが出来ないのだ。

 

「来ないんだったら、こっちから行くよ?」

 

綾斗は頷く。この時綾斗は慢心はしていなかったが、こう思っていた。

 

『いくらアスタリスク最強と言われていても防御に徹したらどうにかなると』

 

そう、これは慢心などではない。灰の実力がどれだけ馬鹿げているか知らない人間にとって分かるはずもないのだから。

綾斗はこの後すぐに『刀雷の魔術王』と言われている灰の実力の一端を理解する。一端だとしても、それは綾斗を遥かに凌ぐ。

 

「そんじゃあ行くよ、頑張ってね」

 

その瞬間灰は綾斗の目の前から消え、綾斗は防御姿勢をとるがそれよりも先に灰は綾斗の間合いに侵入していた。

なんとか煌式武装で迎撃しようとするも早すぎて間に合わなかった。

 

灰は綾斗の煌式武装に攻撃する。速さ、重さ、その二つが規格外の灰の剣に対して、綾斗にはどうすることも出来ず、ボールのように吹き飛び、ユリスの後ろのトレーニングルームの壁に激突した。しかし、ここは『冒頭の十二人』のしかも序列1位のトレーニングルームだ。そう簡単には壊れはしない。

 

 

ユリスはもともと灰が綾斗に自分の実力を分かってもらうために、'ある程度'本気を出すと思っていたが、まさか本気の速度を出すとは思ってもいなかった。

 

「分かってもらえたかな、僕の実力の'一端'を」

 

その声が聞こえた2人は戦慄する。反応すらできなかった今の斬撃がまだ強くなるということに。綾斗の場合、禁獄の封印を解除すれば渡り合えるかもしれないが。

 

「今のが僕が素で出せる最高速度」

「素でだと?どういう事だ」

 

 

灰のその言葉に反応したのはユリス。遠距離主体である彼女は近距離のことについても多少は知っている。

近距離戦において、剣を振るという行為はただ振るだけではなく、体術というものを同時に用いる事でさらなる高みへ行く事が可能になる。

しかし、今の灰の言葉、『素で出せる最高速度』。つまり、体術を用いないで今の速度を出したという事。それが何を意味するかはユリスよりも唖然としている綾斗の方がより理解しているだろう。

 

 

「さ、僕の実力も大体わかったかな?綾斗。これぐらいなら2人の相手を務められるかな」

 

 

 

 

 

それから三人は時間になるまで訓練を続けた。

2人の連携は三ヶ月にしては上出来で、手加減しているとはいえ、かなりいい勝負が続いた。それでもなお灰が勝ち続けたのは経験の差であろう。

 

灰は二人に教える側なので、違和感やアドバイスなどを二人に教える事にした。

 

 

「まあ三ヶ月にしては上出来かな。ただね、二人は完璧を目指しすぎかな。何も言わないでも完璧に連携が取れるペアもいるよ。でも、それが必須という訳じゃない。もう少し掛け声をかけな、連携が上手くいかない事があるのはそのせいだよ。それに、その所為で綾斗がユリスに遠慮しちゃっている感じがするし…………」

 

 

 

 

 

 

とまあ、途中から説教じみた事になっていたが、小一時間ほどそれは続いた。ユリスが完璧を求めすぎている所為であるのは明白だったため、それを止めるのに苦労した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはアスタリスクの再開発エリア、そこに二人の人影があった。

 

 

「そろそろかな、オーフェリア嬢を我々から奪い去った彼に報復するのは」

 

一人は特徴的な仮面を被りながら話をしている。

 

「我は反対だ。彼奴からは嫌な感じがする。認識阻害の結界が通用しない事すらありえる」

 

もう一人はフードを深くかぶっているため、声から女性という事しかわからない。

 

「その時はどうにかするさ。我々の計画を邪魔してくれた以上、放置するわけにもいかないからね」

「好きにしろ」

 

 

 

 

 

 

 

そう言うと二人はそれぞれ闇の中に消えていった。




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。
寝坊した夕凪です。


そろそろ星武祭に突入できそうでとりあえず一安心です!!!

お気に入りとUAが伸びているのが個人的にすごい嬉しいです。
皆さまありがとうございます。




感想、評価、誤字指摘、お気軽によろしくお願いします。
それではまた明日。


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暗躍するもの

ゲームとかすると時間が絶対足りまへん


綾斗とユリスの二人の訓練をし始めてから数日が過ぎた。

綺凛から昨日の夜にメールが届いた。なんでも、自分で一歩を踏み出すために綾斗ともう一度決闘するらしい。師匠として弟子が成長するのはこの上なく嬉しい。しかし、今回の件については家の問題があり、刀藤家と縁戚関係にある鳴神家である灰は迂闊に手が出せなかった。そのため、少し悔しさもあった。

 

 

決闘の時間は午後三時半、場所は星導館内のスタジアムで開催するらしい。できれば見に来て欲しいと言っていたので、特に予定のない灰は見に行こうと思う。

 

 

 

綺凛が成長したという喜ばしい事により、灰の気分は朝から少しよかった。もともと朝はそこまで得意ではない灰にしては珍しい事である。

 

「早く綾斗と綺凛の試合を見たいなー………はあー、気分が台無しだ」

 

灰の気分の良さは一気に沈む事となった。

学園に向かって歩いている途中、いつも人通りが多いはずの道が誰もおらず、異様な雰囲気を醸し出していた。

 

(忌避の能力者か?これほど大規模な物を作り出すにはどれほどの星辰量を消費しているんだ……)

 

灰は自分の頭の中に忌避系統の能力者をリストアップするが、そもそもそのような力を持つ魔術師か魔女の存在を灰は知らない。

 

(外部勢力か、それとも純星煌式武装の力か、とりあえず目的は僕みたいだな)

 

誰もいないはずなのに感じる視線、それはつまり、目的が灰である事を告げていた。

 

「そろそろ出てきてくれないか、今は少し穏やかに対応できる気分じゃないんでね」

 

軽く殺気を周囲にばらまいて未知の敵を牽制する。

 

「そう早まるな、我はお前に話をしに来ただけだ」

 

路地裏からフードを被っている者が出てくる。

声からして女性という事だけが分かる。だが、より一層灰は警戒を強めた。

 

(この足運びに気配の消し方、ただ者じゃない……)

 

忌避の能力か何かによって、近くは誰もいないがその場合、そこに存在する事で気配はより分かりやすくなる。しかし、この女は出てくるまでは完全に灰の気配探知から逃れていた。

 

「今日の放課後、再開発エリアのここに来い。そこでお前と話したいという者がいる」

 

女から地図が送られてくる。そこはかつてサイラスがユリスを襲撃した場所であった。

 

「わざわざ来る必要もないと思うが?」

 

そう、これは一方的な要求、灰は無視する事もできる。

 

「対価を欲するか。やはり人間は強欲だな」

 

この女は驚くべき事を言った。まるで自分が人間ではないかの様に悪態をついたのだ。

 

「彼奴から、もしお前が対価を求めた時のことも事前に聞いている。彼奴はお前の要求を一つ聞くと、そう言っていた」

 

相手方はかなり大胆な事をする様だ。灰は星猟警備隊の幹部であり、このアスタリスクの暗部の情報もかなり知っている。つまり、どんな事を要求するかはわからないのだ。相手はバックにどんな人間がいるかわからない状況、灰がどれほどまで思考を巡らせるかなど想像できるわけがない。

 

 

「いいだろう。ただし、その条件が破られた場合、命はないと思え。僕は他の学生とは違う」

 

灰はこの言葉にかなりの殺気を込めて相手を威嚇する。アスタリスクの学生は人の命を奪った事などない者がほとんどであり、普通はハッタリに聞こえるだろう。しかし、灰はアスタリスク最強の人間、そして、その身から発せられる殺気は人を殺した事があるという事を物語っていた。

 

 

「我は知らん。我はただの伝達役、深く介入するつもりなどない」

 

それだけ言うと女は再び気配を消して姿をくらませた。

 

(この時期に接触するとしたら『ノアの箱船』か、もしくはオーフェリアが関わっていた、'あの計画'の関係者か?)

 

先ほどの女が力を解除したのかわからないが、遠くの方から人が数人やってくるのが見えるので、灰は星導館に向かって小走りで向かった。

 

(とりあえず行くだけ行くか……)

 

 

そして、時間は止まる事なく過ぎていきすぐに放課後になった。

 

「灰、綾斗と刀藤の試合見に行くだろ?」

 

後ろの席のユリスがそう聞いてくる。綾斗、綺凛の両名と交流関係がある灰ならば必ず見に行くと思ったから。

 

「すまんユリス。行きたいのは山々なんだけど、同室も外せない用事があるあら。二人によろしく言っといて。それじゃ!!」

「お、おい!待て!」

 

これ以上ユリスに捕まると根掘り葉掘り聞かれるかもしれないので、素早く退散した。

生徒会、星猟警備隊と二つの組織に所属している灰は、色々と忙しいという認識はユリスもしている。

 

さすがに今回の事はみんなに教えるわけにもいかない。

学校にいる間、星猟警備隊の管理している情報を再確認していたが、今朝の件で推測出る事などほとんどなかったが、一つだけ気がかりになっている事が発生した。

 

 

 

 

 

三ヶ月前にユリスがサイラスに襲われた廃墟に灰は到着する。

建物の入り口あたりから中に侵入すると、急に空気が変わる。

 

(なるほど、前回は広範囲で忌避の能力を使っていたから感じなかったが今回は範囲を狭めたからより濃密になってるって訳か)

 

入り口のあたりに結界のようなものがある事を灰は認識していた。

 

 

(取り敢えずユリス達が襲われた階層まで登るか…………)

 

確信はなかったが、相手がここを指定してきた以上、ある程度灰に推測できる場所にするだろう。そんなところ、ここでは一つしかない。10階、ユリス達が襲われたところだ。

 

案の定ともいうべきか、10階に到達すると朝に遭遇したフードを被った女と、奇妙な仮面を着けた男がいた。

 

「来てくれてよかったよ。鳴神灰くん」

 

奇妙な仮面を着けた男、顔が思い出せそうなのだが、思い出す事ができないでいた。

 

(認識阻害の結界も張っているということか。いよいよ面倒くさくなっていた)

 

忌避に認識阻害、その二つを操れるのは純星煌式武装である、あいつしかあり得ないからだ。

 

「やめておいたほうがいいよ。ここは彼女の結界の中だ。私の事は認識できない。まあ、この仮面はスタイルの問題だとしてくれ」

「なるほど、元の人間が誰だか知りませんが、『処刑刀』という事ですか」

 

この奇妙な仮面を着けた男、『蝕武祭』の専任闘技者として名の知れた男であった。

 

「君とは随分前から話し合いたいと思っててね、付き合ってもらえるかな?」

 

 

 

その言葉を灰は拒否する事ができそうになかった。




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださり有難うございます。
小指をぶつけて悶絶している夕凪です。

お気に入り登録100件突破!!!!!!有難うございます!!!!
昨日寝る前に見てみたら100という数字に自分でも驚いております!!
皆様本当にありがとうございます。

それではまた次回。


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処刑刀

コラボってどうやってやるんでしょうか……
興味はあるんですよね………


処刑刀から発せられる圧倒的なオーラ。各校の序列1位(もちろん、灰は除く。レベルが違いすぎるからだ。)レベルの圧力を感じた。

 

「一つ最初に聞きたい。もし僕が貴方の対話に応じた場合の対価、それはちゃんとわかっていますよね」

 

朝、フードの女が言った事が本当であるならば、この男が自分の聞きたい事を聞いたら、灰のある程度の望みを叶えるという破格の条件であった。もし、これが守られないのであれば、灰は今すぐにでも尻尾を巻いて逃げるつもりだ。

 

「ああ、彼女から聞いているよ。それで構わないよ」

「それだけ守ってくれるのであれば構わない」

 

相手がまだ守るかはわからないが、それでも尻尾を巻いて逃げるほどではないのは確からしい。

 

「率直に聞こう。オーフェリア嬢から手を引いて、我々の元へ返したまえ」

 

この言葉を聞いて灰は殺気を解放しなかった自分を心の中で褒めていた。

オーフェリアを物のように扱うこの男に怒りを覚えるのは、当たり前と言えた。

 

(僕たちの関係を知った上での挑発、面白い事をやってくれるじゃないか)

「そんな事を聞いて何になるんですか?はいそうですかと言うわけないでしょう」

 

おかしいのだ、わざわざ朝接触してきてまでにしては聞く内容が杜撰すぎるのだ。

 

「やはり、そう答えるか。彼女を変えたという君の意思、変えられるわけがないか……………いいだろう。次に行く前に君の聞きたい事を聞いてあげよう」

 

一つ目の質問に対しての返答について深くは追求せず、自分の質問は終わり、次は灰の聞きたい事に答えるらしい。

朝に急に言われてから、そこまで時間もなく、ちゃんとした聞きたい事など考えられなかった。

 

だが、さっきの質問で一つだけ思い付いたのだ。

 

 

「処刑刀。貴方は僕の敵か?それとも味方か?もしくは中立か?」

 

この問いの答えはほぼ決まったようなものであるが、一応聞く。

 

「敵か、味方か、中立か、なるほどね。君がおとなしくオーフェリア嬢を渡してくれたのであれば味方だったかもしれないが、渡してくれないのであれば、敵だ」

 

処刑刀は灰の予想した通りの回答をした。

そして、腰のホルダーから発動体を取り出す。

 

「なるほど、最初から僕と戦うつもりだったんですね」

 

処刑刀、使用する武器は4色の魔剣の一振り、『赤露の魔剣』

それを起動し片手で軽々と扱う戦闘スタイル。だが、本当の戦闘スタイルは両手持ちである。

大きさ故に、両手の方が安定する。

 

「もちろんだとも。あのオーフェリア嬢の気持ちを変えた君の答えなど、決まっているからね。さあ、武器を構えたまえ」

 

灰は鞘から『雲雫』引き抜き、自然体で構える。油断などできない、いつにも増して真剣な表情をしていた。

おそらくだが、処刑刀は『雲雫』がウルム=マナダイトで構成されている事を知っているはずだ。言動からして間違いないだろう。

 

「ふっ、私を楽しませてくれたまえ。鳴神灰君!!」

 

先ほどまでの両者の距離は15メートル。それを処刑刀は一歩で詰めて灰に斬りかかる。

 

突き、なぎ払い、切り下げ、突き上げ、切り上げ、フェイントを混ぜてからの袈裟斬り、その全てが鋭く、卓越した技術がある事を示していた。

 

(体格でも負けているし、それに『赤露の魔剣』をうまい具合に支配してる。流石だな………)

 

それでも灰は負けない。灰の最高速度の8割、これが処刑刀と灰の速度であった。両者一進一退と言うのはこれを示すかのように戦闘は苛烈であった。

 

灰が上手く刀の上で魔剣を滑らせて、カウンターを取る!

その速度は常人では絶対に反応できない領域の速度であったのに、処刑刀はギリギリといえども反応して見せた。

 

「素晴らしい。まさかここまで追い詰められるとは思ってもなかったよ。手を抜くのはやめだ。本気で行かせてもらうよ」

 

両手で赤露の魔剣をしっかりと持ち、威圧感も先程までとちがい、確実に増大している。

 

「なら、僕も一段階上げさせてもらいますか」

 

灰は刀を両手では握らない。鳴神流では両手が基本なのだが、抜刀術が得意な灰は片手の方が自分に合っているため、片手で持っている。しかし、処刑刀が魔剣を両手で振る以上、先ほどよりも重く鋭くなっているに違いない。

そのため灰は七天大聖の体術を使う。

星辰量の操作を少しでも間違えれば細胞が死滅する諸刃の剣であるが、灰にその万が一はない。

その程度のミスをしないために、灰は七天大聖の体術を体に定着させ、呼吸と同じように出来るようになった。

 

処刑刀は上から魔剣を振り下ろす。先ほどよりも早く、そして重い。それを灰は片手で持っている『雲雫』で受け止めた。

そこから鍔迫り合いに移行する。ただの力のぶつかり合いではなく、両者の駆け引きがここで行われている。相手の力の入れ具合、呼吸と様々なものを同時に把握する必要がある。

 

 

この時灰は力負けした振りをして、体勢を崩したかのように見えたが、灰自身によって隠されていた左手には超高密度の雷が纏われており、気づいた時には処刑刀の鳩尾に深く食い込んでいた。

 

 

 

「くはっっ……………」

 

処刑刀はたまらず苦悶の声を上げる。雷を纏った拳は内臓にダメージを与えることに成功した。

だが、致命傷には至らない。それにそのダメージも一時的なものになる。

 

「君の剣技に隠されてしまっているが、君は魔術師であったね。こんな初歩的なミスをするとはなんとも情けない」

 

その剣技に目が行きがちであるが、本人は魔術師が本領だと言っている。もちろん、それが事実かなんて誰もわからない。灰の剣技が支配する間合いを誰も破れなかったからだ。唯一破れたのはオーフェリアだけである。

 

左腕に雷を纏い、処刑刀を待ち構える。

超高密度の雷は磁場を歪め、灰を中心に引力が微弱ながらに発生していた。

 

これが刀雷の魔術王といわれる灰の戦闘スタイルだ。

 

「さあ、死闘の開始だ」

 

灰は先ほど一段階上げると言ったが、どうやらそのようなことを言っている場合ではなく、二段階引き上げることになったのは処刑刀には気づかれていない。

七天大聖の体術は適材適所の部位の身体能力をあげるため、処刑刀は灰が魔法を使ったことに気を取られ、本来発生するはずもない鍔迫り合いのことを完全に忘れてしまっていた。

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。腹痛の夕凪です。

感想、評価はお気軽に!
それでは次回!


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本気

五月が終わる…………


処刑刀と灰の攻防は徐々にだが灰に傾いていった。なぜなら、最初は部分でしか七天大聖の体術を使えなかったが徐々にだが体が慣れてくると、よりスムーズに使うことができるため、今ではほぼ全身に使っていた。

いくら呼吸するかのように使えるとはいえ、普段使わないものを瞬時に最高の状態に持っていくことはできない。

特に、脳を活性化させる『蒼界』は最も難しい。腕を強化する『翠界』、脚を強化する『朱界』、肺などの内臓部位を強化する『白界』の三つはまだ難易度は低い。

『蒼界』、『翠界』、『朱界』、『白界』の4つを同時に発動させる、四界で灰は本領を発揮する。ここに『瞬閃』を同時に加えることは未だ灰はできない。全く違う星辰量の操作技術を必要とするためである。

 

だが、四界と呼ばれるこれを使ったが故に処刑刀は対応が出来なくなってきたのだ

 

灰に魔剣を大きく弾かれ、がら空きとなった胴を一閃する。しかし、もともとカウンターを予想していた処刑刀は弾かれる勢いを利用してバックステップを踏み、大きく距離を取っていた。そのため、灰は大きな隙を作ってしまい、ずっと静観していたフードの女が攻撃する隙を作ってしまった。黒いハルバートによるスイングは急いで刀を引き戻した灰を吹き飛ばした。

 

だが、この女の介入は処刑刀にも予想外だったらしい。

 

「彼の相手は私一人でやる。君の助けは必要ない」

「ふん、肩で息をしているお前に対し、あいつは余裕な表情だぞ?まだ強気でいるつもりか」

「悔しいが、そのようだな」

 

二対一にこれからは移行するらしい。

 

「すまないね、これは正当な戦いではないからね。悪く思わないでくれ」

「そっちがその気であるのなら、僕もそれ相応の対応をさせてもらいますよ」

 

この二人は見誤っていたのだ。今までの灰が全力であると。処刑刀の少し上の実力であると思ってしまったのだ。

灰は七天大聖の四界を解き、『瞬閃』を使う。殺戮のための剣技を使用した灰は殺意の顕現させる。

四界はどちらかというと一対一向きである。全てを活性化させているとはいえ、その中でも星辰量の大小をつけなければ体がパンクする。

 

それに対して初速で限りなく最高スピードに達するこの剣技は、相手に認識されることなく相手を斬り伏せる。

四界を使用した時は溜めや淀みが生じてしまい、どうしても初速が遅くなり、加速を生んでしまう。それではどうしても相手によっては認識されてしまう。それすら許さないのが、この瞬閃である。認識されないが故に一対一よりも多数を相手するときにこれは有効である。

 

 

「我は認識阻害に力を割いている以上お前のサポート程度しか出来ん」

「それで充分だ」

「気をつけろ、奴の放つ殺気が変化している」

 

 

フードの女はやはり、認識阻害を使っていたらしい。阻害系統には忌避も含まれる。

だが、認識阻害に力を割くのはやめないらしい。灰はそもそも相手の事など眼中になかったが、そんなことは知る由もない。

 

灰は自分から解き放たれている殺気を制御する。莫大な殺気が暴れていると灰自身のものであっても邪魔になるのだ。

だが、殺気をコントロールすることは普通はできない。殺気というものは自然と発せられるものであるからだ。

 

 

「お前………何人殺したことがある……?」

 

フードの女はそんなことを聞いてきた。何の脈略もなく、だ。

 

「お前のその殺気、人を一人や二人殺した程度では出せるはずもない、濃密な死の気配がする。本当に学生か?……」

 

殺気というものは死を吸収し、より濃密となり相手を恐怖で支配する。灰の殺気は女が今までに感じたことのないほど濃密であったのだ。

 

「どうでしょうね。一人も殺してないかもしれないし、あるいは大量殺人鬼かもしれませんね」

 

わざわざ答えるはずもなく、はぐらかす。それに、こうやって話すのも飽きてきたのでそろそろ終わらせることにする。

 

「せいぜい生き延びてくださいね」

 

その言葉と同時に灰は『瞬閃』を発動する。

一瞬で処刑刀の目の前に現れ、先ほどと同じ鳩尾に左の拳をめり込ませる。先ほどよりもより高密度の雷は一瞬で処刑刀の全身を駆け巡り、身体を麻痺させる。魔剣を中段と下段の間に構えているため、『雲雫』では簡単には有効打が決められない。そのため左手を使うことにした。

 

処刑刀は声すらあげれずに、全身を激痛に支配された。

それでもなお膝をつかないのはこの男のプライドだろう。

 

「ちっ………!」

 

一瞬で移動した灰の姿を見失った女が、処刑刀に攻撃する時に姿を認識したため、黒いハルバートを灰に向かって振り下ろす。

だが、そのようなことは灰は読んでおり、すでに『瞬閃』を使われた後であった。地面を深くえぐったハルバートをすぐに自分を守るために引き戻し、警戒するもどうやら灰は処刑刀を狙っていることに気づく。しかし、気づいたところで何もできない。

 

その圧倒的な速度に、この二人はついていけないのだ。

 

「くっ、なんなんだ!こいつのデタラメな速度は!」

 

灰色と金色のの閃光が二人の周囲を縦横無尽に行き交っている。周りから不規則に降り注ぐ雷、死角から突然襲いかかってくる音速を超えた斬撃、ギリギリ反応ができるが故に余計に神経をすり減らしていた。

二人は灰の先ほどの攻撃の後に背中合わせで死角を値切る限りなくしていた。だからこそ、今までの灰の攻撃を凌げていた。そうでなければ、灰の攻撃をしのげるはずがないのだ。

 

「はあ、はあ、君を侮りすぎたようだね。やはり、君は我々の最大の敵だね」

 

所々から血を流し、肩で息をしている二人は灰が生み出した数百の雷の槍に頭上を包囲されており、もはや逃げることは出来ない。灰が『瞬閃』を使って一、二分で二人は簡単に追い詰められた。

 

「なら、そろそろ全力で逃げに転じようかね」

「できると思っているのか?」

 

灰は二人を逃すつもりもなく、警備隊の本部に連行する予定である。

 

「それは、やってみないとわからないさ!!」

 

すると女から黒い霧のようなものが高速で灰に向かってくる。灰だけではなく、少し上に展開していた数百の雷の槍にも襲いかかってきた。

突然のことで対処が遅れる灰。まさか自分だけではなく頭上の雷にも同時に襲いかかってくるとは思わなかったので一瞬動揺してしまい、対処が遅れてしまい、逃げるには十分な隙を与えてしまった。

 

霧が晴れるとそこに二人の姿はなく、荒々しい戦闘の後だけが残っていた。

所々に飛び散った血痕は太陽によってより赤くなっていた。

 

 

「隊長に聞かなきゃいけないことが増えたな……」




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。
夕凪です。

ここのシーンは思いつきで書いたのですが、出来がそんなに良くないですね……
次で第二章は終わらせます。ちょうど学校再開のタイミングですね。

学校の対応が決まり、2日に一回のペースでは投稿できると思います。
これからも宜しくお願いします。
それでは!


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報告

昼寝って最高だということに気づいて寝まくってます。

そしたら、投稿出来ませんでした、すいません。



そして、UA10000越えありがとうございます!!!!!!




「最後の最後で詰めが甘い、師匠達にもよく言われたな。だが、まあ、収穫はあったし、今日はこれぐらいでいいか」

 

収穫がなかった時の場合については誰も知らないが、知ったら絶望するだろうという事だけは言っておこう。

 

(あの女、魔女かと思ったら純星煌式武装の使い手か?いや、それにしてはそれっぽいものが無かったしどういう事だ?隊長に相談してみるか、それにフィーアにも)

 

灰はヘルガに相談したい事があると連絡し、オーフェリアには聞きたい事があると連絡した。

二人からはすぐに返事が返って来た。ヘルガは今は本部にいるらしく来てくれれば良いと。オーフェリアは家にいるからいつでも良いとのこと。

 

とりあえず、灰はヘルガの待つ警備隊本部に行く事にした。

ちょうど巡回警備中のため本部に人はほとんどいなかった。話に機密事項が含まれているため好都合であった。

 

「すいません。急に呼び出してしまって」

「ちょうど暇していたところだ。気にするな」

 

ヘルガはそう言って奥にある隊長室に案内してくれた。

 

(隊長って仕事の時はすごい怖いイメージあるけど、オフの時は普通に良い人なんだよな………)

 

ヘルガは一部では融通の利かない鬼だとか、言われているらしいが、それは人員の足りない警備隊の現状を加味すると仕方のない事だろう。いまでは灰が入隊してから歓楽街の仕事も減った。

 

 

灰は歓楽街で暴れている馬鹿を片っ端から叩きのめした。不良達は、ヘルガはすでに王竜星武祭を二連覇してから月日が流れ、すでにその実力も衰えたと勝手に思い込んでいるが、灰は現役で尚且つ、その圧倒的な力でグランドスラムを達成した事は記憶に新しく、同時に反抗する学生は容赦なく気絶させることから恐れている。そのため、歓楽街は大分落ち着いている。もちろん、マフィアも灰の言いなりなのもある。

だが、どこにいっても頭の悪い人間はいる。そのため、少なからず仕事はあるが、前に比べてかなり減っている。

 

 

「隊長。処刑刀について教えてくれませんか?」

 

灰が処刑刀について言った時、一瞬だけヘルガが目を細めたのを灰は見逃さなかった。つまり、それだけ危険で重要人物だという事だろう。

 

「もう少し詳しく説明してもらえないか?私も奴の情報は一つでも欲しい」

「わかりました」

 

灰は朝に会ったフードの女、そして、先ほどの戦闘について詳しく説明した。

 

「ありがとう。まさか、奴等二人を相手にしてほぼ無傷で生還するとは、流石たね」

 

ヘルガは優しく笑った。この人は灰の裏事情を知っていたとしても悪用はせず、親身になってくれるので、今回の事も心から心配してくれたのだろう。たとえ、灰が最強の星脈世代でもだ。

 

「君が言っているフードを被った女はおそらく、『ヴァルダ=ヴァオス』。精神干渉能力を持つ純星煌式武装だ。その中に認識阻害や忌避の能力もある」

 

 

『ヴァルダ=ヴァオス』、警備隊の情報システムにもその名は記されていたが、破壊されているとの事だったので完全に盲点であった。

 

「処刑刀については私の見解が多く混ざっているから、詳しくは話せない。君の権限で閲覧できる情報の中にあるものが全てで、もう少し待って欲しい。だが、少しだけなら話す事もできる」

 

ヘルガは処刑刀について、情報元となっている事柄を説明してくれた。それだけでかなりの数があるが、一つ一つから採取できる情報が少なく、なんとか情報をまとめているのが否めなかった。

 

 

 

 

「………これぐらいだな」

「わかりました。………隊長、フィーアを狙っている以上、僕も協力させては貰えませんか?」

 

彼女を狙う存在を野放しにするほど愚か者ではない。必ず捕まえる、そう灰は心に誓った。

 

「私としてもありがたい。だが、情報が少なすぎる上に認識阻害や忌避の能力を使われている以上簡単には見つからない。それに、今日君に接触してかなり痛い目を見た事だし、機会は当分ないと思う。すまないね」

「いや、突然の事だったので、大丈夫です。また何かあれば連絡します。長居するわけにもいかないので僕はこれで」

「そうだね、時間も時間だ。学生は体を休めたまえ」

 

灰がこのアスタリスクでの生活をスムーズに送れている要因の一つにヘルガの気遣いが大きい事は、本人がよく理解している。

灰の仕事も大分気を使って減らしてくれている。ヘルガには感謝しかなかった。

 

おそらく、ここから家に帰るまでにも時間はかかるため、家に着くのは7時ぐらいになるだろう。

 

灰は家に帰るまでの間に綺凛からきているメッセージを返信した。

 

 

 

内容は今日の決闘について、負けてしまったが、自分として新しい一歩を踏み出せた事を実感しているとの事。

また鋼一郎は失脚してしまったらしい。おそらく、クローディアが手を回したのだろう。母親を最高幹部に持っている彼女しかできない。

 

そして、一番最後に紗夜と一緒に星武祭に出る事になったらしい。

そのための訓練をつけて欲しいとのこと。もちろん、了承する。

 

綾斗とユリスの訓練もあるが、綺凛と紗夜は基礎訓練から始めないといけないので、少し荒削りになるが要所だけを抑える訓練をしようと思う。あとは実戦で成長してくれる事を祈るのみ。

 

その旨を綺凛にメッセージで伝える。

 

(なんか、万有天羅みたいな事をしてるのは気のせいだろうか……)

 

なぜ、このような事を思ったかというと、ネットの記事に『四代目万有天羅になるのは誰だ!』というようなタイトルで書かれていたので少し覗いてみたところ、灰の名前が一番上に上がっていたのを少し引きずっているのである。

 

実際に灰の教え方はわかりやすく、教えを受けている綺凛はものすごいスピードで成長している。綾斗に負けはしたものの純粋な剣技ではまだまだ綺凛の方が上だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 

『おかえりなさい』

 

上からオーフェリアの声が聞こえる。いつもは料理の途中でも降りてくるのだが、今回は降りてこないという事は、手が離せない状況なのだろう。

 

二階に上がり、キッチンをのぞいてみるとオーフェリアが炒飯を作っていた。タイミングが大事な炒飯なら手は離せないだろう。

制服を脱ぎ、私服に着替えてからオーフェリアの横に立ち、他の料理の手伝いをする。もちろん、息はピッタリ。

作るものさえ分かっていれば何も言わなくても、欲しいものを欲しいタイミングで渡す事ができる。

 

最近はメインをオーフェリアか、シルヴィに作ってもらう事は前と同じだが、サラダなどの小物は灰が作る事になっている。

さすがに全部任せるのは段々と気が引けてきたからだ。

 

 

食事を済ましてお風呂が沸くまでの間、今日の事をオーフェリアに話す事にした。

寝る前にこの話は空気が重くなる。

 

 

「それで、話って?」

 

こてん、と肩に頭を乗せてくる。綺麗な白髪が首にあたり、少しだけくすぐったいが、今ではその感覚も気持ちいものだ。

 

「処刑刀って知ってるか?」

「ええ、でも、私は何も知らないの。彼が誰で、何を目的としているか。あの頃の私はただ利用されているだけの存在だったから」

 

オーフェリアは申し訳なそうに言う。余り表情を表に出さない彼女だが、灰はなんとなく、落ち込んでいるかのように思えた。

これもずっと二人で暮らしているからこそ、分かった事である。

 

「なるほど………いや、気にするな。もともとそう簡単に尻尾をつかましてくれるとは思ってなかったし」

「……そう、なら良いのだけど」

 

慰めるためにも、灰は頭を乗せているオーフェリアに を軽く抱き寄せて、頭を優しく撫でる。

無言なのは、そのような無粋なものはいらないという事だろう。

 

 

 

 

 

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みいただき有難うございます。夕凪です。

はい!という事で2巻分が終わりました!
次の投稿は6月3日と少し空いてしまいます。
間章を投稿する予定です。序章の少し後の話になるので、位置もそこになります。

3日の後は2日置きに投稿する予定です。
これからもよろしくお願いします。

感想評価、誤字指摘、などよろしくお願いします。
それでは次回!!


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二章の人物紹介、用語解説

銀綺覚醒の登場人物、用語の解説、補足です。
読んでない方はネタバレが含まれるので、先に二章までを読むことをお勧めします。

















刀藤綺凛

 

所属学園:星導館学園

 

序列:序列外→2位→序列外

 

二つ名:疾風刃雷

 

 

星導館の序列2位に決闘を挑まれ返り討ちにしてその座に着いた。その後三ヶ月間、刀一本でその座を守り続けた。

灰に修行はつけてもらっており、その成長は著しい。すでに近距離戦では星導館においては彼女に勝てるものは師匠である灰以外いない。

しかし、修行以外のことは全て叔父である刀藤鋼一郎の言いなりであった。灰はそのことを知ってはいたが家庭内の事情に首を突っ込むつもりはなく、度が過ぎない限り、干渉するつもりはなく、綺凛が自らの意思で歩み始めるのを待っていた。

 

綾斗と知り合い、自分で進むことを決意し、綾斗に決闘を挑み破れるが本人は気にしていない。

灰との師弟関係も続いているため綺凛自身に支障はない。

 

灰との修練で鳴神流抜刀術を習得するが、未だ灰の速度には遠く及ばない。それも抜刀術全てを習得しているわけではない。

それでも、かなりの脅威となることに変わりはない。

 

 

綺凛にとって灰は兄のような存在であり、灰にとって綺凛は妹のような存在である。綺凛に実の兄はおらず、初めての兄の様な存在で灰のことを慕っている。

 

 

ユリス・アレクシア・フォン・リースフェルト

 

所属学園:星導館学園

 

序列:5位

 

二つ名:華焔の魔女

 

王族という偏見から媚び諂うクラスメイトとは関わりを持とうしなかった。

序列戦や決闘において序列を上げ、転入して早々に序列5位の座に着いた。しかし、自分の力を過信したユリスは灰に決闘を挑みすぐに敗北してしまう。その後、手を抜いていることに怒りを覚えたユリスは灰に直談判してもう一度決闘をする。その時に灰との実力差を痛感する。

 

灰はその時にユリスにこう言った。

 

『友達の一人や二人作れないようじゃ僕には勝てないよ』と。

この意味を理解するのにユリスは少しかかったが、自分よりも強く偏見を持っていない灰と友達となる。

 

灰という仲間を得たことにより自分に不足していたものを実感する。

この時、矢吹がユリスと灰が付き合っているという記事を書いたので、矢吹は灰によって楽しい時間を過ごせたとのこと。

(トーーニングルームに連行されて反省するまで魔法を何発も打ち込んだとか、しないとか)

 

 

今では綾斗というパートナーが出来て鳳凰星武祭の優勝を目指す。

 

 

 

天霧綾斗

 

所属学園:星導館学園

 

序列:二位

 

二つ名:叢雲

 

星導館に特待転入生として入学するが、アスタリスクに関する情報をほとんど持っておらず、灰がグランドスラムを達成した最強の星脈世代であることを知らなかった。

ユリスとタッグを組み鳳凰星武祭優勝を目指すため、灰に訓練をつけてもらっている。初めての灰との訓練の時に灰の実力を思い知る。

 

未だに黒炉の魔剣を使っても灰に触れることすらできていない。

 

 

 

 

処刑刀

 

蝕武祭の専任闘技者。体格を生かした剣技で他者を圧倒する。赤露の魔剣を使っており、その卓越した剣技は各校の序列一位を複数人相手することすら可能にするが、灰に手も脚も出ず敗北する。

オーフェリアを渡すように灰に要求するが、逆にそれが灰に怒りを買ってしまい警戒を強めてしまう。

 

灰の影響力は計り知れず、計画がもう少し完成に近づくまでの間は灰に接触することを諦める。

背後には『ノアの方舟』がいるが、灰はまだ知らない。

 

 

『鳴神流抜刀術』

 

鳴神流と刀藤流の開祖は兄弟であり、その根幹にある技術は似ている。

灰が七天大聖との修行によって会得した体術により本来よりも格段に速い攻撃を繰り出すことが可能になった。

そのため、防御不可能な、不可視の剣となった。

10の型があり、一つ一つがしっかり特性を持っている。

 

『炎華』『犀撃』『銀雷』『鳳凰』『追律』『覇災』『燎乱』『烈日』『龍破』『刃心』

 

『鳴神流五連抜刀奥義』

 

相手を必ず葬る技。五回にわたる連続的な抜刀術により、敵は抵抗すらままならない。

 

『一撃・刹鬼』

『二撃・雄雲』

『三撃・烈魂』

『四撃・時断』

『終撃・比翼』

 

『七天大聖』

 

数百万年前から存在している七人の武人の集団の総称。

七人は異なる二つ名を持っており、次代に継承していく。それは二つ名だけではなく名前もであった。

弟子をとった七天大聖はその弟子がこの座を継ぐ意志があり、七天大聖側もその弟子に譲る意志があるのなら、名前と二つ名が継承される。

 

 

 

 

 

第1席:『光輝』フレイヤ

第2席:『調和』レギンレイヴ

第3席:『予知』スクルド

第4席:『真理』セージ

第5席:『狂乱』トゥルード

第6席:『捕食』フェンリル

第7席:『使命』ジェラード

 

以上7名によって構成されている。

七人が開発した技術と、個人が開発した技術の二種類のうち灰はほぼ全てを受け継いでいる。

 

ここでは七人が共同で開発した技術について記そう。

 

『四界』

 

『朱界』『蒼界』「翠界』『白界』の四つからなる。

腕を強化する『朱界』。脚を強化する『蒼界』。内臓を強化する『翠界』。脳を強化する『白界』。

この中で飛び抜けて『白界』が難しい。

 

これを同時に発動させ身体能力を格段に上昇させることができる。

『四界』はただの身体能力強化ではなく、細胞一つ一つにちょうど良い星辰量を注ぎ込むという魔術師や魔女の星辰量操作技術を持ってしても維持するのが精一杯であるという代物なのだ。

これを戦闘中に用いることができて、初めて使いこなしていると言えるだろう。

 

失敗すれば細胞が死滅する危険な技であるが、灰は長年使い続け呼吸するかのように使えるために、絶対に失敗しない。

 

 

『烈界』

 

相手だけではなく、空気も切り裂き、一時的な真空状態とする。

これに触れたものは防御できずに傷を負う。

 

これは四界を使用する前提の技であり、世界中で使える人間は十人ほどしかいない。

 

 

 

 



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鳳凰星武祭
最終調整に向けて


灰が鳳凰星武祭に参加するわけではないので、3巻分ありますがそこまで長くはない予定です。




鳳凰星武祭まであとに一週間と目前まで迫りくると同時に、夏の暑さが最高潮に達しようとしていた。

 

すでに鳳凰星武祭目前ということもあり、出場する生徒は授業が午前中だけで午後からは訓練に時間を使うことができる。

そのため、今日から一週間、灰は綾斗、ユリス、綺凛、紗夜の四人の訓練の相手をすることになる。

 

そんな一週間の始まりの日の昼休みを灰は彼女であるシルヴィアと通話しながら過ごしていた。

四人との約束は一時半であり、昼ご飯をすでに終えている灰は約1時間ほど時間に余裕があるためである。

 

 

『そっかー、一週間ずっと訓練だなんて大変だね〜』

 

灰は人目につかない場所として星導館の屋上を好んで使っていた。ここは特に中の階段から行き来ができないため、人が来ることなんてまず無い。シルヴィアと通話するならこれ以上の場所は無いだろう。

 

え?どうやって灰がここまで登ってきたかったて?そんなもの『刀雷の魔術王』だからに決まってるじゃ無いか。

 

…………冗談はさておき、普通に一個下の階の部屋の窓から飛んできただけさ。

 

 

 

 

「まあ、ずっと家でダラダラするのも性に合わないし、ちょうどいい運動って感じかな」

 

本当は顔を見て話したいが、シルヴィアは灰との関係がバレたらめんどくさいことになるし、灰も急に誰かが来たら言い訳するのが大変なので、ヘッドホンを使って通話はしている。

 

『ははは、序列二位と五位のペアと元序列二位のペアがいるのちょうどいい運動になっちゃうんだ』

 

通話越しでもシルヴィアが呆れているのが声音で伝わってくる。

 

「まあ、もう星武祭には出れないけど、序列一位を守るために頑張ってますからね」

『君に挑もうとする勇敢な人が可哀想に思えてくるよ……」

 

今の灰は王竜星武祭で優勝した時よりもさらに強くなっており、序列外からの挑戦を変わらず跳ね返している。

この結果に誰もが灰の実力の衰えを感じることはなかった。

 

 

「そんなことより、中国ライブはどう?」

 

そろそろこの話題も尽きそうなので一旦話題を変える。

 

 

『独特な雰囲気があって、いいよ!!チャイナドレス?っていうの買ったから期待しててね!』

「了解、楽しみにしておくよ」

 

シルヴィアのチャイナドレス………想像しただけで凄いことになりそうだ。

おそらく自分の分だけではなくしっかりとオーフェリアの分も買ってくるだろう。

 

 

二人のチャイナドレス、脳内に永久保存確定だろう。

 

 

『でも、見た感じ凄い恥ずかしいんだよね……』

 

足がかなり露出するため、慣れてないとすごく恥ずかしいものになるだろう。

 

 

 

『まあ、でも、いつも紳士な灰君をデレデレにさせられるかもしれないし、頑張るね!』

 

いつも紳士かと言われれば、否定はできないぐらいには灰は紳士ではある。

彼女たちに対する気配りを忘れたことはない。

 

 

「そんなことに努力しないでよろしい」

『えへへ〜、じゃあ、帰ってきたらちゃんと甘えさせてね!』

「了解ですよ、お姫様」

 

 

もしここにシルヴィアがいたら頭を撫でていただろう。

ちなみにだが、灰は二人の頭を撫でるのがものすごい好きである。

本人曰く落ち着くらしい。

 

 

「たしか、鳳凰星武祭の本戦が始まるぐらいに帰ってくるんだっけ?」

『うん!最近はペトラさんが休みをすこし多めにくれるの』

 

おそらくペトラさんの気遣いであろう。シルヴィアがしっかり休めるのならという建前ではあるが、シルヴィアの幸せを誰よりも願っているからである。

 

 

「じゃあ、その日は港に迎えに行こうか?」

『うーん、魅力的だけど生徒会の仕事で処理しなくちゃいけないのがあるらしいから、それをやってからだから、クイヴェールの正門近くに迎えに来てもらってもいい?』

「じゃあ、終わりそうな時に連絡してくれたら、迎えに行く準備をするよ」

 

迎えの約束をしてから30分ほど話してから通話を切った。

 

 

 

 

 

「占いは信じる気はないけど、きな臭くなってきているのは間違いないか……」

 

 

七天大聖の技の中に星辰量を使った占いがある。『識界』と呼ばれている。

灰も詳しい原理はわかっておらず、なおかつ膨大な星辰量の制御が必要なためほとんど使わないものの、月に一度、定期的に使っている。

好きなことを視ることはできず、ランダムで自分に関係のあることを視せられる。

 

 

『識界』を使い未来を見た時の光景が灰は頭から離れないのだ。

『識界』の未来は絶対起こる故に、不安は灰の中で巣食っている。

 

 

 

 

「まあ、そうだとしても、僕はできることをするまでさ」

 

その声は誰の耳に入る訳でもなく消えていった。

だが、いづれ人々は目にすることになる。『刀雷の魔術王』鳴神灰の覚悟というものを。

最強の星脈世代が見せる愛する者を守ろうとする覚悟に人々は震撼する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上から見える景色をすこし眺めて、灰は屋上から地面に飛び降りて四人の待つトレーニングルームへと向かうことにした。

 

トレーニングルームは今回は綾斗のものを使うことになっている。

先にすこし体を動かしているということらしい。

 

 

 

綾斗のトレーニングルーム前に到着して入室の許可が出るのを待つ。

 

はずだったのだが、顔認証機能で事前に灰が登録されておりすぐに開いた。

 

 

「お待たせ、準備運動は……出来ているようだね」

 

すでに中にいた四人は程よく汗をかいており、コンディションがいいことを物語っていた。

 

「なら、僕の準備運動にも付き合ってもらおうかな。6割制限を解除して、8割にしようか」

 

この時、灰の実力をよく知っている綺凛とユリスは特に驚きもしなかったが、未だによくわかっていない綾斗と紗夜は今までが6割ということに信じられなかった。

 

「ああ、それに鳳凰星武祭の練習ならちゃんと僕も二人分の役割を果たさないとね。しっかりと前衛と後衛で別れて、連携もするからいつもよりハードだよ?」

 

灰が浮かべたその笑みに四人はただただ冷や汗をかいていた。

 

6割で戦っていて灰の方が経験の差によって勝利を収めているが、実力差はほとんどなかった。

しかし、さらに上の8割でしかも前衛と後衛に分かれるということは灰が容赦なく魔法を使うということだ。

 

 

四人は今日は全身がボロボロになる覚悟をした。

 

 

ちなみにこの日、トレーニングルームからは悪魔の笑い声と爆発音が無数に響いたという。




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。
全身筋肉痛の夕凪です。

いやーー、本当に痛いんですよ。主に腹筋が………


さてと、何を話そうかというとですね、twitterアカウントを作るか作らないか悩んでいまして、twitterあったほうが便利だったりしますか?自分はよくわからないので、意見があればコメントお願いします。


それでは次回!


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気になること

鳳凰星武祭に向けた訓練の最終日、つまり鳳凰星武祭の前々日に行った訓練の後に行われた恒例の反省会は灰の辛辣な言葉が発せられるかと思われたが、そんな事はなく、ユリスに対して少し言ったぐらいで他は概ね褒め言葉であった。なぜかと言うと鳳凰星武祭目前で精神的ダメージを与えるわけにはいかないという、灰の気遣いであった。

 

そのまま解散の流れになるのだが、灰は綾斗と話したいことがあるので引き止める。

 

「綾斗、少し話したいことがあるからいいか?」

「うん、いいよ」

 

別に断る理由もないのでー綾斗はすんなり了承する。

 

「それは私達は帰って休むとするか」

「お疲れ様でしたです!」

「ん、おつー」

 

女子三人は灰が綾斗を引き止めたことを特に気にすることなく出て行ってトレーニングルームは二人きりとなる。

 

「それで灰。話って?」

「うーん、二つあるけど、とりあえず『黒炉の魔剣』持ってる?」

 

灰が綾斗を引き止めたのは伝えたいことが一つ、もう一つは伝えるか悩んでいた。

 

「あるけど、なんでだい?」

 

腰のホルダーから『黒炉の魔剣』の発動体を取り出して聞き返してくる。

いきなりそんなことを聞かれたら、誰でも同じ反応をするだろう。

 

「少し貸してもらえないか?」

「それは別にいいけど」

 

綾斗はより灰の行動が理解できなかった。

魔術師である灰は基本的に純星煌式武装との相性が悪く、使うことはできない。

そのため、少し躊躇いながらも発動体を灰に渡す。

 

「ごめん、急にこんなことを言って。ただ、確かめたいことがあってね……」

 

発動体を受け取った灰は躊躇いもなく星辰量を込めて起動する。

 

「ちょ、ちょっと!いくらなんでも灰は……」

 

魔術師なんだから起動は無理だよと言おうとしたが、口からその言葉が出てくることはなかった。

なぜなら『黒炉の魔剣』は拒絶することなく、灰の手の中にあった。

 

 

もちろん、灰が綾斗の星辰量の波長に合わせたわけではない。

ただ、武人としての灰の高みを瞬時に理解した『黒炉の魔剣』が大人しくなっただけである。

こいつになら、触れられても文句はないと。

 

 

「ほんと、気難しい性格をしているね、こいつは」

 

『黒炉の魔剣』から発せられる感情のようものを灰は薄々と感じ取っていた。

 

「さすがに武器として使うことは許してくれないみたいだけど、ただ持つだけなら許してくれるみたい」

「だとしても、どうやって………」

 

その疑問は当然のことだろう。

魔術師である灰がなぜ気難しい性格の『黒炉の魔剣』を起動することができたのか、それはあることが原因である。

 

「『黒炉の魔剣』が僕のことを武人として認めてくれたのもあるけど、何よりも僕はね、純星煌式武装の開発をしたことがあるんだ。それが理由かはわからないけど、純星煌式武装を起動するぐらいなら出来るんだ」

 

純星煌式武装を開発したことのある人間なら誰でも触れるわけではない。ウルム=マナダイトとの親和性は高くなるが、それは自作したものにのみ適用される。ただ、灰の場合もともと魔術師としては珍しくウルム=マナダイトとの親和性は高く、純星煌式武装を開発したことでより親和性が高まった故に『黒炉の魔剣』を扱うことが出来るのだ。

 

「まあ、詳しいことはよくわからないけどね」

 

灰はさすがに詳しくは教えない。『凍氷の皇帝(ムフェト・シュヴァルツ)』であることを知っているものしか、灰が純星煌式武装を使用していることは知らない。それを綾斗に教えることは憚られる。

 

 

それはさておき、なぜ灰が綾斗を呼び止めたのかというと、『黒炉の魔剣』において気になることがあったからだ。

 

「綾斗、こいつをしっかりと扱えている自信はあるか?」

 

なぜ、こんなことを聞くかというと鳳凰星武祭で優勝するには『黒炉の魔剣』の力をもっと引き出す必要があるからだ。

 

「ううん、どちらかというと振り回されてる感じかな」

「まあ、今じゃただのよく切れる剣だもんな」

 

灰がそんなこと言うと『黒炉の魔剣』が心外だと言わんばかりに高熱を発する。

 

 

「あっつ!!わかった、わかったって!別にお前が弱いってわけじゃないから!!」

 

ふんす!っとそんな擬音が聞こえてきそうな感じで『黒炉の魔剣』は高熱を出すのをやめた。

 

「はぁー、めんどくさ………」

 

そんなことを言ったら再び『黒炉の魔剣』が起こるかと思いきや、そんなことはなく静かであった。

 

「触れなば熔け、刺さば大地は坩堝と化さん。こいつの能力はそれに見合っている。たとえば、こういう風にね………!」

 

『黒炉の魔剣』に少しだけ星辰量を込めてトレーニングルームの床に突き刺すと灰や綾斗のいる方向とは逆の方向に向かって床が赤熱化して溶けていった。

 

「とまあ、こんな感じで軽くでも、十分過ぎるぐらいの威力は持っているはずだ………って、こら!余計に星辰量を吸おうとするなこのクソ魔剣!!」

 

 

なんと表現すればいいかわからないが、『黒炉の魔剣』が遊んでいるように見える。

事実遊んでいるのだろう。吸っても吸ってもいくらでも星辰量が湧いてくる灰は遊ぶのにはちょうどいい。

 

自らの力で浮遊した『黒炉の魔剣』は綾斗の前に戻ってきた。自分の主の元に帰ったのだろう。

 

「まあ、今のを見ればわかると思うけど、こいつらには意志のようなものがあるとか言われてるが、意志がちゃんとあるんだ。だから、今みたいにじゃれつくこともある。うまく対話できればね」

「なんで、灰はそんなに扱いが上手いのさ?」

 

その疑問は当然であろう。誰もが真っ先に考えつくことだ。

 

「こいつらの望む扱いをしてやれば、こいつらは嬉しがって反応してくれるのさ。それをうまく読取らなきゃ、使い手としては未熟だぜ、綾斗」

「僕にはまだまだ、出来そうにもない話だよ……」

「いいんだよ、戦いの中で見つけることの方が多いんだから。僕からの用事はこれで終わりだけど、綾斗は何か聞きたいことはあるか?」

 

自分の都合で残ってもらったのだ、何かあればそれを聞くのが筋であろう。

 

「うーん、特にないかな。むしろ勉強になったぐらいだし、助かったよ、灰」

「なに、僕は四人が鳳凰星武祭で勝ち残れるように助言してるだけさ。それに、綾斗も気づいてるだろ?」

 

なにを、とは灰は絶対に言うことはないだろう。灰はこういう場合、大体は背中を向けて何処かへ行ってしまう。現に今もトレーニングエリアから出て行こうとしている。

 

「そんじゃ、綾斗。鳳凰星武祭勝ち残れよ」

 

それだけ言い残して灰は立ち去っていった。

 

「さあ、面白くなってきたじゃないか。楽しませてくれ、綾斗、ユリス、沙々宮、綺凛」

 

 

 

 

 

後日談、灰はクローディアにトレーニングエリアの床を溶かしてしまったことを説教されたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。
生活リズミが変なことになっている夕凪です。

前回まで三話にわたって書いた最終調整の部分なのですが、個人的に出来が悪いので、誠に勝手ながら消させてもらいました。今は2日に一回投稿で精一杯なので、他の部分を編集する余裕がなくて。そのため、後日しっかりと書き直してあげる予定です。



綾斗の扱いが本当に難しい…………
そのため、冒頭部分が消しても支障がないようにしてあるので少し違和感があるかもしれません。



皆さんは最後に灰が言ったことの意味、なんとなくわかりましたか??




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それでは!!


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甘えたくなる日

戦闘シーンを書くのが苦手すぎて、この前の三話分を突然消してしまってすいませんでした。



人間誰しも唐突に甘えたくなる日が、たまにあるのではないだろうか。いつもは甘えられる側なのに、この日だけは甘えたい。そんなにことが起こるのではないだろうか。それが起こるとすれば、疲れているかなどの精神的疲労が関係していることだろう。

 

いつもデレデレされているアスタリスク最強の星脈世代こと鳴神灰も今日は気分的に甘えたい気分だったのだ。

 

家に帰り、出迎えてくれたオーフェリアと一緒にご飯を食べて、別々にお風呂に入り、そして、今はベットで膝枕をオーフェリアにしてもらっている。

 

「珍しいわね、あなたから膝枕をして欲しいって言うなんて。月一の甘えたい衝動かしら?」

 

久しぶりと言っても、実は鳴神灰という男、オーフェリアやシルヴィアに月一ぐらいのペースでいつもとは違い甘えまくるのである。

マフィアなどからも恐れられている灰であっても、恋人の膝枕というものは気持ちいものであり、恋しくなるものだ。

 

そして、オーフェリアとシルヴィアは灰が月一で甘えたくなることを知っているため、『月一のデレデレ期』と呼んでいたりする。

 

ちなみにこの膝枕、頭を撫でてくれるというオプションが付いており、精神的な疲れを急速に癒してくれる。

そのため、灰はすぐに寝落ちしてしまうのである。二人から遠慮なく寝てもいいと言われているためである。

 

 

 

「僕だって甘えたい的なあるのさ。甘えられるのは嫌?」

 

少し、意地悪な質問をオーフェリアにしてみる。この答えは嫌なわけがないという、答えに決まっている。

 

 

「嫌だったら今頃瘴気で毒殺してるわ。それに、いつも立場が逆なんて滅多にないじゃない」

「それじゃあ、この至福の時をもう少しだけお願いしようかな」

「わたしも、こうするのは好きだし、喜んで」

 

どうやら、灰の最愛の彼女も甘えられるのは好きであるらしい。

 

「それにしても、貴方が甘えたくなるほどのことが起きたのかしら?」

 

本当ならこのようなことは寝る前に話すのは空気が悪くなるかもしれないが、灰はその辺りをしっかりとコントロールするので、心配はいらない。

 

「いやさ、僕って警備隊の幹部だからいろいろな情報を知ることになっちゃうのは知ってるよね?」

「ええ、幹部権限?だったかしら、それで見れる情報は一通り貴方の頭の中に入っているのよね」

 

オーフェリアは自分の記憶と照らし合わせながら幹部権限について思い出す。

 

「そんな感じ。だから、アスタリスクの暗部の情報とかも知りたくなくても知ってるんだけど………」

 

それから灰は綾斗がお姉さんを探しており、その情報を自分は知っているが、言えない状況である板挟みの状況について詳しく説明した。

 

権力というものは力を与える代わりに自由を奪う、そのことをひしひしと実感している灰であった。

 

「ほんと、権力はめんどくさいものだよ。僕は自由がいいっていうのに」

「じやあ、なんで貴方は権力を手にするのを拒まなかったの?」

 

そう、オーフェリアはそれを一番不思議に思っていた。灰はたしかに警備隊に入り、生徒会にも所属しているが、それは全て灰自身の意思であることは知っている。しかし、自由がいいのなら警備隊に入ったとしても幹部にはならなければ良いし、生徒会も入らなければ済む話だ。

 

「『凍氷の皇帝(ムフェト・シュヴァルツ)』である僕は統合企業財体から狙われることは確実だけど、権力があり、それによって世間の注目が集まれば簡単には手出しできなくなる」

 

グランドスラムを達成した後に何も功績を残さなければ、闇の中に葬られる可能性があるが、警備隊として今も実績を残し続ければ人々は灰の行動にずっと注目することになる。それが何よりも抑止力となるのだ。

 

「それに、権力があったほうが二人を守りやすいしね」

 

何よりも一番はそれだ。二人を護るというのが灰の今の行動原理であるのだから。

 

「そうね、でも、忘れないで。私たちは貴方に守られるだけの足枷になんてならないつもりよ。私達は貴方に守られて、そして貴方を守るのだから」

「僕らは運命共同体ってことでしょ?もちろんわかってるよ」

 

ただ、灰は一つだけ懸念があった。

彼女たちに何かあった時、自分は理性を保てるであろうかどうか。であった。

 

「貴方がたとえ復讐に囚われた悪魔になっても私達はずっと貴方のそばにいるわ。これはシルヴィと一緒に誓ったことなんだから。灰がダメって言っても押し通すわ」

「考えてることなんてお見通しってことか………」

 

 

灰が何を考えているかを察したオーフェリアに全てを言われてしまう。

 

「そんなに重い誓いをして貰ったんだ。必ず応えないとね……」

 

まあ、でも、今のアスタリスクの現状ならそんなことになることはない。

そう言おうとしたが、すごい眠気が襲ってきたので、その言葉を発することが出来なかった。

 

「寝る?」

「そうさせて貰おうかな……って、フィーアさん?」

 

 

寝るために頭を動かそうとするとオーフェリアの手によって、動かすことが出来なかった。

さすがにこのまま寝るのはオーフェリアの足に負担がかかってしまうのではないかと思うのだが……

 

「このまま寝ていいわよ。足が痛くなったら枕に移動しておくから、このまま寝顔を堪能させて」

「フィーアがそうしたいのならそれでいいけど………それじゃあ、お先におやすみ」

「ええ、おやすみなさい」

 

ゆっくりと瞼を閉じる最後の方にはオーフェリアが目を輝かせて灰のことを見ていた。

おそらくいつも先に寝てしまうことが多いオーフェリアは灰の寝顔を堪能することがほとんどできないからであろう。

この機会にじっくりと眺めておく魂胆である。

 

(そんなに見つめられたら寝ようにも寝れない気がする……)

 

しかし、その言葉に反して灰は数分もしないうちに寝てしまった。

これもオーフェリアの膝枕という最高の枕のおかげだろう。

 

 

 

~~~オーフェリア side~~~

 

私の膝の上で灰はすぐに寝てしまって、じっくりと眺めてられるわ。

灰は今、どんな夢を見ているのかしら。

凍氷の皇帝(ムフェト・シュヴァルツ)』の時の夢とか見ないのかしら?

 

私は彼がすごく心配になる時があるの。重い過去を背負っている彼がいつか押しつぶされてしまうのではないかと。

たとえそうでも、私達は絶対に彼を支えるの。

 

 

……寝る前に重いことはやめましょう。

 

 

 

うーん、灰の髪の毛ってなんでこんなにさらさらなのかしら。シルヴィや私はかなり気を使って手入れしているのだけど、勝てる気がしないわ。撫でてこんなに気持ちいいものなんて初めてだわ。

 

 

その後オーフェリアは寝顔と髪の毛ととじっくり堪能してから寝たそうだ

 

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みいただき有難うございます。
腹痛気味の夕凪です。

2日前に投稿しようとしたのですが、腹痛に悩まされて投稿を断念しました。
本当にすいません。

書くことがすぐに思いつかなかったので後書きはこれぐらいで。






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鳳凰星武祭開幕

暑いんやら寒いんだが、どっちなんすか……………


鳳凰星武祭当日、六学園は全て自由登校となる。この間、授業が進むことはなく、星武祭に出場しない生徒は自由な二週間が与えられる。

灰も星武祭に出場しないため、二週間自由時間になるかと思えば、それは違う。星猟警備隊に所属している灰は会場警備、中央エリアの巡回など、出場選手並みに忙しい日々を過ごすことになる。

 

まあ、退屈することはないだろう。

灰の友人の多くは今回の鳳凰星武祭に出場するため、鍛錬相手も話し相手もいないのだ。

オーフェリアの場合、学園が違うため昼間は会うことは難しい、

 

 

さて、星猟警備隊の会場警備だが、幹部だけは少し特殊なローテーションとなっている。

開会式、ヘルガを含む幹部は開会式に出席することとなっている。

11人が一斉に会する唯一といってもいい機会だろう。

 

 

 

今日もいつもと同じように起きて朝の訓練をする。

星辰量を意図的に逆流させる訓練も少しずつだが逆流可能な量が増えてきた。

 

休みの日も生活リズムを変えないのがここの3人だが、少しのんびりと1日を過ごすことはある。

 

さて、訓練も終わり、起きてきているであろうオーフェリアの作ってくれた朝ごはんを食べる。

もし、起きてなかったら久しぶりに料理する機会であると少しながら期待したが、オーフェリアは起きていたので作ることは叶わず、少し残念であった。

 

 

 

 

朝ごはんを食べてすぐに着替え始める灰にオーフェリアは疑問を浮かべる。

 

「あれ、今日は朝から警備隊の仕事かしら?」

「いいや、会場の警備兼、開会式に出席かな」

「へー、そうなの。初めて知ったわ」

 

オーフェリアは初耳らしいが、確か彼女はすでに二回星武祭に出場しており、その時も星猟警備隊の幹部は全員出席していたはずだ。

 

「王竜星武祭の時も幹部の人たちはいたぞ?」

 

前回の王竜星武祭に関しては灰も出場しており、その時に星猟警備隊の幹部が全員出席しているのを確認している。

 

「前々回はそもそも興味もなかったし、前回に関してはあなたのことしか見てなかったもの。他はわからないわ」

 

そこまでやる気もないのに王竜星武祭を制覇するオーフェリアの強さもさながら、灰にしか見ておらず、ほかのことはどうでもいいという、少しヤンデレかメンヘラのように思えてしまい、少し怖い灰であった。

 

「相変わらずといったとこらだな。まあ、その方がフィーアらしいけどね」

「あら、それは褒めてるのかしら?」

 

ぷくーと、頬を膨らませて可愛く拗ねる可愛い彼女の頭を優しく撫でる。

 

「まあ、そういう事だから、行ってくるね」

「ええ、頑張ってね」

 

何を頑張るか、わからないが、いろいろと星猟警備隊としての誇りを保つため、だらしない姿を見せるわけにはいかない。

毎度開会式は運営委員長のありがたいお話は長いので、ずっと立ち続けるのは何かの辛いものがある。

 

 

いつもの制服に身を包み、心の中で気を引き締める。

何もないとは思うが、そうだとしてもだらけるわけにはいかない。

それは灰のプライドが許さないのだ。

 

 

外に出るとすでに明るくなっており、天気が快晴であることを物語っており、星武祭の開幕にもってこいな天気だ。

天気が快晴であるほど星武祭は盛り上がると言われるが、去年の王竜星武祭の開幕は大雨であった。

 

なんとも信用ならないものである。

 

第二代万有天羅のグランドスラム達成した時は快晴であったらしいが、灰の時は大雨と微妙なものである。

 

たしかに、大荒れとはなったが……………

 

 

 

会場に一足先に入りステージ内の決まった持ち場へと着く。

 

まだ選手も来ていないため静けさが漂っているが、幹部11人が揃っている姿は圧巻とも言えよう。全員が星武祭を制している猛者であるが故に当然とも言えよう。

 

灰たち星猟警備隊はステージの壁沿いにいるだけであるので観客からは目に入りづらい。

ただそれでも各学園が並んでいるところの後ろにいる存在は生徒たちにとっては大きなものであった。

 

 

(会場に選手たちが入ってくるまでは瞑想でもしてるか……)

 

彼らは灰を除き、すでに現役から身を引いたものたちであるが鍛錬を怠ったことのない武人たちであり、こういう時は瞑想でもして時間を潰すといいとアドバイスをもらったのだ。

 

瞑想というものを真面目にやったことがない灰はよくわからないが、精神統一のようなものだろうという解釈をしている。

 

七天大聖との修行はとことん戦いがメインで、唯一『調和』の第二席、レギンレイヴのみがその系統の修行をしていた。

最も彼女の場合、精神世界による戦闘によって、精神面を鍛えられたので、少し違うが……

 

 

 

 

 

三十分ほどの瞑想ののち、各学園の選手が入場してくる。

灰はアルルカントの近くにいるため、視線を集めることもなく、開会式は黙々と進んでいった。

 

運営委員長のマティアスの話は正直、灰は全くと言って興味がなかった。

新しい制度の発表がされて、代理出場という形が許可され、アルルカントの優位性が強調されるかと思いきや、星脈世代の速度に対応できるようなものが作れるかと言われれば首を傾げるしかないからだ。

 

そして、もう一つ綺凛が負けることはないと思っているからだ。

鳴神流抜刀術を完成しかけているため、簡単には負けるはずがない。

 

綾斗に関しては封印によりいまいち実力を測りかねている。

 

だが、一週間みっちり鍛え上げたので、アルルカントよりもその2ペアしか興味がなかった。

 

 

開会式が終わり、会場は鳳凰星武祭の開幕に盛り上がっているが、それに興味を示さない灰は静かにステージを後にして星導館の生徒会専用部屋に向かった。

 

 

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。
寝る前にバイオハザードの実況を見てサン値が限界突破しました。

早く寝たいので、寝かせてもらいます………………


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鳴神琴音

学校が本格的に始まってまう………





開会式が終わり、ユリス、綾斗、綺凛、紗夜の四人と軽く話をしてから灰は星猟警備隊の仕事に戻った。

いくら人が足りないと言っても少し雑談の時間ぐらいは存在する。

 

灰は先に会場の外で待っているロイド一等警備正達に合流する。彼らの部隊はどちらかというと年齢の上の層が集まっている。

しかし、だからと言って強さは全盛期から維持していると言ってもいい熟練者達である。

 

そして、ロイド一等警備正。

本名はロイド・チャルス。

彼は鳳凰星武祭に二回、王竜星武祭に一回出場しており、どちらも好成績を残している。

鳳凰星武祭はベスト4と準優勝、王竜星武祭は準々決勝でヘルガと当たってしまい、負けしてまうもヘルガをかなり手こずらせたほどの実力者である。

青髪の偉丈夫でハルバートを片手で振り回す。二つ名は『狂斧槍(バルトフィール)』。全てを片手でなぎ倒すことからつけられた。元界龍第七学園の序列三位でもあった。

 

もともと彼は序列には興味がなく、ただ強くなることだけを目標に友人達と切磋琢磨していた。

だが、当時の序列三位に難癖をつけられて快勝、一躍注目の的となった。

 

その後星武祭に三回出場して界龍を卒業した後は星猟警備隊へ就職。また、彼と一緒に鳳凰星武祭を戦い抜いた戦友であり、彼と付き合っていた、シャーリー・カルテ。こちらは界龍の序列7位。『氷花艶撃』の二つ名を持っていた。彼女も彼と一緒に星猟警備隊に就職。今では彼と同じ一等警備正になっており、ヘルガの秘書役を務めている。

そして、彼女は今はヘルガと共に会場の警備に当たっている。

 

 

 

 

「すいません。お待たせしました。ロイドさん」

「なに、俺らも全員が集まったのはついさっきだから、気にしないでくれ灰くん」

 

灰は幹部という立場上一等警備正よりも階級が上であるが、年上の人たちを呼び捨てで話すのは抵抗があり、彼らも灰の懸念を理解していたのか、そこらへんはあまり注意することはなかった。

というよりか、灰は星猟警備隊の他の隊員たちも全て年上であるため一番下の階級の隊員でも呼び捨てで呼ぶことはない。

 

 

「さてと、僕たちは外縁部の見回りに行きますか」

 

全員が集まったことで、灰を先頭としてロイド達が後ろへと続く。十人でひとつの部隊としている星猟警備隊は部隊長として一等警備正、または二等警備正がつくことになっている。そして、ランダム配置で幹部が部隊長の上に着く。その場合十一人で一部隊となる。

 

有事の際、例えば翡翠の黄昏などの大規模テロ、の場合はまた別の部隊編成となる。

 

 

 

外縁部の見回り隊は六部隊配置されており、等間隔に並んでいる。

 

メインスタジアムのシリウスドームから外縁部へとまっすぐ続く道を進み、アルルカントの正門付近に六部隊の配置完了を待つ。

 

 

それから間もなくして六部隊の準備が完了し、灰達は外縁部を時計回りに周り始める。

 

 

各学園との間を約15分ほどかけてゆっくりと歩き進み、それを繰り返す。

 

ちょうど昼休憩を取る時は三部隊ずつ取り、45分間存在する。お

灰は初日の休憩は星導館の近くで取ることになる。

 

そして、その途中にある港湾部で灰は懐かしい後ろ姿を見つける。

アスタリスクでは珍しい浴衣を着ており、腰まである長い茶色の髪の毛は、灰のように軽くまとめてあるだけであり、その姿に灰は見覚えしかなかった。

 

「琴音……か?」

 

ここにいるはずもない、星脈世代の義理の妹の名前を灰は呼んだ。

だが、灰の小さな声は聞こえるはずもなかったが、灰のことをずっと慕ってきた琴音にはそのような小さな声も聴き逃すことはなかった。

 

 

キョロキョロと周りを見渡すと、ちょうど真後ろにいた灰の存在に気づくとこちらに駆け出してくる。

 

「兄様〜!!!」

 

そのまま灰に飛びつく。灰はしっかりと琴音を受け止める。

 

 

鳴神琴音。

 

灰の義理の妹で星脈世代。槍をメインに使うが、薙刀、小太刀、弓、など器用に色々と使える。現在は小6で来年にはアスタリスクに来ることになっている。

兄弟がいなかったが、灰が義理の兄となっては兄という頼もしさに惚れ込み、今では重度のブラコンとなっている。灰がグランドスラムを達成したことがさらに拍車をかけている。

髪型は灰の真似事をして軽く結ぶだけにしている。灰曰く、そんなことしないで自由な髪型にしたほうがより可愛くなるとか、

琴音だけがブラコンなわけではなく、灰も軽度ではあるがシスコンが入っている。

シルヴィアやオーフェリアと比べることができないほど大切な存在であり、琴音が小学校でいじめられた時(影で数人からであり、ほとんどの人間は知らない)その主犯格とその親を土下座させるまでに懲らしめたとか、なんとか、小学生相手に大人気ないかもしれないが、妹のためなら問題ないとのこと(シスコン補正)

 

普段は着物を着ている。なお、灰も実家では着物を着る。

そのため、今日、アスタリスクに来た時も和服ですぐにわかったのだ。

 

さて、話を現実に戻そうか。

 

 

 

琴音は灰に抱きついたままであるが、一応なりとも灰は仕事中であり、このままは色々とまずい。

灰をよく思わない連中は数あれど、灰に本人は興味すら湧かないが、琴音にそれが移るのはまずい。

 

 

「すまんな、琴音。一応なりとも今は仕事中だから、終わったら会いに行くから、それまで待っててもらえないか?」

「はわわ。すいません。兄様。そうですよね、星導館学園の制服を着ていらっしゃらないので、やはり、お仕事でしたか………」

 

シュンっと、項垂れて灰から離れようとする。大好きな兄の仕事を邪魔してしまったことに対する罪悪感のためであろう。

 

すると、そんな時、後ろから声がかかる。

 

「灰くん」

 

ロイド一等警備正であった。

 

「すいません。ロイドさん。仕事の最中なのに」

「なに、気にすることないよ。そこの嬢ちゃんも、久しぶりに君に会えてテンションが上がってしまったのだろう。それに、今日はまだ星武祭初日。問題なんてそうそう起こりゃしないさ。だから、久しぶりに兄妹の時間を楽しんできな」

 

 

するとそんなことを言ってきた。つまり、仕事は別にないから遊んできていいよということだ。

一応彼らの上司という立場である灰にとって、それはなんとも言えないものであったが、久しぶりに琴音と会えて、ゆっくりと過ごす時間をくれるというのであれば、甘えるしかないだろう。

 

「隊長には俺から上手くいっておくからさ、お前さんはまだ若いんだ、やりたいことりやるといい」

 

そう、ロイドは言った。

その言葉に、琴音はパッと目を輝かせる。

 

「なら、お言葉に甘えさせてもらいますね。ロイドさん」

「それじゃあ、また明日、会場前で」

 

そこで灰はロイドと別れ、取り出した帽子を目深く被り、カモフラージュをする。

さすがに、星猟警備隊の服のままは色々まずい。

 

 

「行こうか、琴音」

「はい!兄様!!」

 

琴音の嬉しそうな表情を見て、灰は嬉しく思うのだった。




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます

鳳凰星武祭に関してなんですが、そこまで注目せずに灰を主軸に話を進めていきます。書いたところでグダるのが目に見えてるので。
文章力が追いつかない………




そして、小説はのんびりと投稿していきますので、これからもよろしくお願いします。
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兄妹の時間

お久しぶりです。

受験がひと段落としたのでまた投稿を再開していきたいと思います。


ただ、毎日投稿はさすがに出来ないので、のんびり不定期投稿となります。


ロイドに今日の仕事を任せて、灰は琴音と一緒に歩いていた。

今の時間、灰と仲の良い知り合いはみな試合があり間違えても鉢合わせることはないだろう。

 

若干一名、可能性があるが、その時は消えてもらうので問題ない(シスコン補正)

 

 

 

 

 

ちょうど二人で中央区の商店街を歩くこと、小一時間。琴音が思い出したかのようにある事を灰に言う。

 

「あ、そういえば兄様。父様から兄様の和服を渡すように言われてたのですが……」

 

灰は琴音と同じで実家では和服をずっと来ているが、アスタリスクに来てから全くと言って良いほど来ていないため、そろそろ寂しくなってきたのだ。

 

「わざわざ持ってきてくれたのか、ありがとな」

 

そう言って、隣にいる琴音の頭を優しく撫でる。

琴音の頭を撫でるのはアスタリスクに来て以来、一回もなく、かなり久しぶりであった。

 

ちなみに、琴音の表情は若干人には見せてはいけないような顔になっていたが、スルーする。

 

「じゃあ、一旦僕の家に荷物を置いてから出直すか。琴音もずっと持ってて重いだろ?」

「兄様の生活している家!!絶対に行きたいです!」

 

琴音の持っている荷物は灰の和服であり、和服は数着でもかなり重い。

それをずっと持たせたまま歩くのも、せっかく来てくれた琴音に申し訳ないので、家に寄ることを提案する。

 

琴音は灰が寮で生活していないことを知っており、行ってみたいとは思っていたものの、なかなか言い出せずにいたので、今の灰の提案はまさに神からのお告げのように思えたのだ。

 

「それじゃあ、行こうか。荷物は持つよ。僕の服なら、僕が持たないとね」

 

灰は琴音から荷物を受け取る。

 

兄様の荷物は私が持ちます!、と言いそうではあったがすんなり渡してくれた。おそらく、灰の家に行けることで頭がいっぱいなのだろう。

 

 

ただ、灰も一つ忘れていることがあった。そう、家にオーフェリアがいるかもしれないことだ。

彼女は朝は一緒に家を出たが、その後すぐに行く方向が違った為、今レヴォルフにいるか、それとも家にいるか、おそらく、家に帰るときオーフェリアは灰に連絡しているだろうが、生憎とさっきまで仕事中だったため、携帯の電源は切っており、メールを確認していない。

 

 

さて、二人で一旦灰の家に戻るために歩き出したところ、琴音がとあるカフェに視線を向けていることに気づいた。

そこはシルヴィアやオーフェリアが以前話していた場所であり、イチゴの特大パフェで有名らしい。大きいだけでなく、味もしっかりとしていているとか。また、普通の飲み物や食べ物も高レベルである。

 

ちょうど歩き疲れたところなので入ってみることにする。

 

「少し疲れたし、休憩がてらここで休もうか」

 

琴音の体力は星脈世代だとしても、まだ低く1時間ほど歩けばさすがに疲れる。

 

その点灰の場合、厳しい修行を日々自分に課しているのでこの程度では疲れはしない。

琴音はそれを理解していたが、灰が自分に気を使ってくれたこと理解する。

おそらく自分がイチゴの特大パフェに目を奪われていたのがばれてしまったのだろう。

少し恥ずかしく思う琴音であった。

 

 

 

 

灰がそのことに気づいたのは家に着く数分前であった。

 

「あれが兄様の家………」

 

目を輝かせている琴音には申し訳ないが、別に豪邸でもないので、少し恥ずかしく思えてしまう。ただ、灰の実家よりは大きいため、琴音にとってはかなり大きく映るのだろう。

 

ただ、他の地域の住宅と比べれば大きい方だが、周りは灰の家よりもさらに大きいのだ。なにせ、ここはアスタリスクの1等住宅地なのだから。アスタリスクにある大企業の偉い人間たちは、皆ここに住んでいる為、警備も最高峰でプライバシーもしっかり保護されており、ここ以上に良い条件の場所はないだろう。

 

 

「周りの家に比べれば小さいけど、実家に比べたら大きいからね、結構広く感じるかも」

 

 

「......そういえば、兄様って今は一人暮らしなのですか?」

 

 

琴音は自分の中で浮かんできた疑問を口にする。

 

灰は実家を離れ、アスタリスクに移住してから、寮ぐらしを経てこの家に住むようになると一人暮らしすることになっているはずであるが、灰の家は2階の灯りがついているのが目に入ったからだ。

 

 

星猟警備隊の仕事中は仕事用の携帯しか電源入れていないため、フィーアがいつ家に帰ってくるかはわからない。

シルヴィとフィーアには仕事用の電話の連絡先を教えているが、緊急以外は連絡しない決まりとなってる。

 

 

プライベート用の携帯を、琴音と一緒に行動するようになってから、すぐに電源を入れなかった灰のせいである。

 

 

まあ、本人いわく、数年ぶりに再開した妹の成長した姿を見るのに夢中だったから、仕方のない!!らしい。

重度のシスコン補正が入ると、恋人である二人の優先順位が狂ってしまうことがあるのだとか。

(後日談)

 

 

 

さて、灰のシスコンがどの程度かわかったことで、話を本題に戻そうか。

 

 

 

「あー、えっと、一緒に暮らしてる人はいるよ」

 

 

灰には珍しく歯切れが悪く、少し顔を逸らす。このことに琴音は疑問をもつ。

 

星猟警備隊の活躍で灰の姿が報道される時、星猟警備隊の事件では常に他の隊員の先頭に立ち続け、いつも堂々としている、自分の兄はこのような歯切れの悪そうに物事を言うだろうか?

 

 

「まあ、とりあえず家に帰ろうか。怪しいやつじゃないし、琴音にも紹介したいから」

 

 

 

 

 

 




学戦都市アスタリスク 凍氷の皇帝、歌姫と魔女の絆をお読みくださりありがとうございます。

何度も書こうとは、やめての繰り返しをしていたので、ここまで遅くなってしまいました。

マイペースにのんびりと書いていこうかなと思います。
ひさしく書いていなかったので、文章力が落ちており、拙い作品になっているかと思いますが、温かい目で見てもらえると嬉しいです。





そして、小説はのんびりと投稿していきますので、これからもよろしくお願いします。
コメント、評価、誤字報告など、お気軽にお願いします。


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