俺の聖剣伝説 (ユキユキさん)
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ーオープニングー
第1話 ~火山島からの始まり。


コロナで色々ありました。

ストレスが酷い。

よってこれもリハビリ。


ある世界にて一人の男が死んだ。有象無象の一人、その自覚がある故に死んだ男の魂は逝くべき場所へと流れていく。最終的には天国か地獄か、どちらへ逝くことになるのだろうか? そんなことを考えながら流れていく男の魂、出来れば天国へ逝きたいなぁ~…と思うのが本音である。

 

しかしその道中にて、突如として現れた不気味な渦へ男の魂は吸い込まれていく。あ~れ~…!? と叫びを上げるも助けはない、魂故に声を出せないのだから。そもそもこの道中、他の魂と出会うことはない。よって一人の男の魂は人知れずこの世界から消えた、当然…世界に何ら影響はなかった。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

………流されて消えた男の魂は今、別世界にて新たな命を授かり生きていた。その場所とは火山島ブッカ、活火山を中心に置く無人島である。新たな命を授かった男の魂は、人の子としてこの島に流れ着いたのだ。無人島故…直ぐに果てるかと思いきや、運良く温厚なダークプリーストに拾われた。そしてそのダークプリーストの住む村にて育てられ、すくすくと成長していった。

 

 

 

 

 

 

人の子でありながら過酷な環境にて逞しく生きる彼、その名をリアードといった。彼を拾ったダークプリーストが、木の精霊ドリアードにあやかって名付けたのだ。そのお陰か生命力に溢れて育ったリアード、今日も元気に島の中を駆け回っていた。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーリアードー

 

ガキンッ!!

 

互いの持つ斧と斧がぶつかり火花が散る、このままつばぜり合いが続くのかと思うだろうが…、

 

「うらっ!!」

 

俺の方が力強いわけで相手を斧ごとぶっ飛ばす。ぶっ飛ばされたゴブリンロードは目を回しており、それを見逃すほど俺は甘くない。

 

「だぎゃ! …っと。」

 

直ぐ様距離を詰めて脳天から両断、哀れゴブリンロードは天に召されましたとさ。

 

不思議なことに死んだ魔物は暫く放置すると、その姿をお金に変える。運が良ければアイテムにもなるわけで、初めて見た時はぶったまげたけど今はもう慣れたよ。今日の成果に大量のお金と少量のアイテムを袋に入れ、食料である獣と魚を忘れずに持ち村へ帰還する。

 

これが毎日の日課、戦えるようになってから毎日忘れずに行っている。勿論生きる為に、育ててくれた恩もきちんと返さなきゃならない。魔物の中に人の子一人、大変だけど充実しとります。…めっちゃ馴染んでいる俺、でもきちんとした服装でいますよ? …前世の記憶が一応それなりにあるからね、よって腰みのだけで生活はしていません。村の職人さんに作って貰っています、当然のことながら対価を払っているよ。与えられるだけじゃあ人間腐るからね、当たり前っすよ。

 

 

 

 

 

 

夕食を終えてから温泉に入った後、草の上に寝転がって思う。前世で人知れず死に魂となって天国か地獄へと逝く途中、吸い込まれて別世界にて生まれ変わった俺。…まさか魔物という存在がいて、その魔物に育てられるとは思わなかった。しかしこうやって健康的に成長しているんだからな、…生まれ変わって良かったと言えるだろう。

 

このまま親代わりとなってくれたダークプリースト達と生活していく、こんな人生も良いかと思う。けれど…島の外を見てみたいと思う気持ちもある、この世界がどうなっているのか気になるんだ。何故そう思ったのか、それにはきちんとした理由がある。…今まで気付かない振りをしていたんだけど、…アレを見てしまったら振りなんか出来ない。この世界って前世でプレイしたゲーム、聖剣伝説3の世界だよね? …遠目で見た海のヌシ、ブースカブーをこの目で見て確信してしまったんだ。

 

………まさか聖剣伝説3の世界だとはなぁ~、火山島ブッカっていう名に聞き覚えがあったのはそのせいか。生前めちゃくちゃ好きで最低20回はクリアしたぞ? …とそれを思い出したが為に島の外が気になるんだよね。…マジでどうしようかなぁ。…そんなことを考えている内に眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

そして次の日、今日は何をして一日を過ごそうかと考えていたら、

 

「リアード、ここにいたのかぎゃ。」

 

俺を育ててくれた親代わりのダークプリーストが呼び止めてきた。他のみんなが思い思いに行動している中で、育ての親たるこのダークプリーストが朝一で珍しいな…と思っていたら、

 

「お前はもう一人前だぎゃ。外の世界に憧れているのも知っている、だから成人の儀を受けて海のヌシに認められると良いんだぎゃ!」

 

…これは俺の憧れを知って、旅立つことを促してくれているのか?



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第2話 ~岸辺の洞窟へ。

調子がすこぶる悪い。


ーリアードー

 

この火山島ブッカに生まれて十数年、聞いたこともない成人の儀のことを聞かされた。

 

火山島ブッカ成人の儀、俺だけの専用儀式。内容は単純、海のヌシであるブースカブーに遭遇し認められること。運が良ければ島の周辺で見られるようだが、今回は運が良ければでは駄目。100%とは言えないけれど、それに近い確率で遭遇出来ると言われている岸辺の洞窟を目指すこと。その洞窟の奥まで行き、遭遇出来なければ儀式は失敗として島の外を諦めるしかない。遭遇して認められれば島の外へ行ける、…ほぼ運任せの博打っすね?

 

まぁ俺がイレギュラーでも主人であれば、ブースカブーに遭遇し認められる筈。主人公でないのなら遭遇せずに終わる、この島で生きるしかない。後々…主人公達がこの島へ流れ着いたような気がするけど、その時には俺の入る隙間などある筈がない。潔く親代わりのダークプリースト達と共に散るのみ、足掻くような見苦しい行いはしない。分かりやすい、それに諦めもつけるかと思う。

 

まぁとりあえず今は、やってやろうじゃないか。島を出る為の成人の儀ってヤツをさ!!

 

 

 

 

 

 

愛用の斧を持ちいざ! …と思った矢先、

 

「コイツも連れて行ってやれぎゃ!」

 

と差し出されたモノ、それは…、

 

「…ピィッ!」

 

黄色の愛くるしい魔物、その名はラビ。弱っていた所を拾い、気(まぐ)れで世話をしたら懐かれたのだ。…正直コイツのことを忘れていたよ、差し出されていなければ置いてったな。飛び付いてきたコイツを一撫でしてから頭の上に乗せ、改めて岸辺の洞窟へ。…俺の運命は如何様に!?

 

 

 

 

 

 

ダークプリーストの村をラビと共に飛び出し、島の西にある岸辺の洞窟を目指す。勝手知ったる島の中、岸辺の洞窟までの道は知っている。

 

そこへ行くまでの道中で気を付けるべきことは一つ、見た目とは違い火山島ブッカ(いち)危険な魔物コカトリス。奴の石化クチバシだけは要注意、食らえば石化してお陀仏は確実。絶対に食らってはいけない攻撃だ、更に奴は進化もする。コカバードになったら凶悪だ、石化効果のある羽を周囲に飛ばしてくるからな。理想は進化前に撃破、進化したなら無理をせずに逃走を頭に入れておくこと。それが島の常識、分かったね?

 

…とまぁ注意事項を言った俺だが、大量のコカトリスに手間取っています。一人で5羽はキツいぜ? 俺のストーリーってハードモードだったりする? …つーか愚痴を言っても意味がないか、…意味がないけど言いたくもなる状況。焦るなよ俺、焦ったらきっと………!!

 

 

 

 

 

 

俺のバカヤロー! フラグを立てちまったばかりに超ピンチ! 1匹仕損じて進化させちまった。

 

後2匹だったのに、焦りはしなかったけれど気を緩めてしまった。まさかこの俺が斧を、…斧の一撃を甘めに放ってしまうとは! …そのせいで致命傷を避けたコカトリスが進化、厄介なコカバードになってしまった。直ぐ様両断すれば良かったんだろうが、もう1匹のコカトリスが横から突っ込んできたから追撃出来ずに!

 

そのせいでコカバードに攻撃をさせる時間を与えてしまい、

 

「………げっ!?」

 

俺の頭上で翼を広げるモーション、それは非常にまずいぞ!? …やめてくれという俺の願いも空しく、コカバードは無数の羽を俺目掛けて飛ばしてきた。当たれば即石化、避けるのが非常に難しい状況。俺は此方へ飛んでくる羽を恐れることなく、ただただ見詰めるしか出来なかった。

 

…見詰めるだけでも身体は自然と動くもので、せめて頭上のラビだけは守ろうとするも肝心のラビが飛び出してしまう。石化羽に向かうなんて無謀だ! …そう思ったんだがラビは大きく口を開け、コカバードの石化羽を吸い込んでしまった。その光景に目を剥く俺、…何ともないのか!? 俺の心配を余所に、そのままコカバードへと体当たりをするラビ。それを見た俺は慌てて斧を振り上げながら跳躍、体勢を崩したコカバードを二つに両断。そのまま流れるように残るコカトリスを屠る、…ラビのお陰で命拾いをした一戦になったな。

 

 

 

 

 

 

コカトリスの集団を倒しきった俺は大きく息を吐いた、今こうやって安堵出来るのはコイツのお陰だ。頭上のラビを腕の中に納め、まずは怪我をしていないか確認をする。…怪我をしていないようだから、感謝の気持ちを込めてモフりながら撫でまくる。

 

「…ピィッ♪」

 

目を細めてご満悦のラビ。出る時に存在を忘れていてごめんな? これからは存在を忘れずに、命の恩人たるお前を大切にするよ。



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第3話 ~岸辺の洞窟。

調子がすこぶる悪い。


ーリアードー

 

ラビのお陰で命拾いをした俺、焦らずとも油断はするなってヤツだな。気を引き締めて先へと進もう、岸辺の洞窟は後少し。

 

襲ってくる可愛い娘ちゃん、ギャルビーを倒すのは気が重いけど殺らねばならぬ。親代わりと同族のダークプリーストを殺るのも滅入る、…が別物として対処せねば島からの脱出は夢のまた夢と化す。心を強く、俺はラビと共に島の外へと行くのだ!

 

 

 

 

 

 

道を塞ぐ魔物達をラビと共に蹴散らしながら、やっとこ目的地である岸辺の洞窟に着いた。いつもの俺なら道中に現れる2種の魔物、ギャルビーとダークプリーストとは殺り合わないように気を付けるのだが、今回ばかりは俺のこれからの人生がかかっているからね。問答無用で殺りました、…目標があると人は変われるものなのね。

 

まぁとにかくだ、人生初の洞窟ッス。島内…外とは違い魔物も強力な奴等が多い、安全を第一に考えて速やかなる行動で最奥を目指す。気合十分、…やったるぜ!

 

 

 

 

 

 

岸辺の洞窟へ初潜入、内部は意外にも広い。更に水の流れる音がする、…ということは水棲系の魔物が多くいるってことだな。思い出した前世の記憶を辿ってみる、…ぱっくんオタマとグレルがヒット。そこそこ厄介なヤツだ、コカトリスよりは脅威度が低いけど。まぁ結局前世の…ゲームの記憶だからね、現実は自身で立ち向かうことからアテには出来ん。ゲームとリアルは違うわけで、俺自身の命がかかっているんだから慎重に。

 

命を大事にを念頭に先へと進んでみれば、最初に現れたのは蝙蝠型の…バットムだったか? 現実では初見になるが問題ない、危なげなく撃破。注意すべきは超音波か? 離れた所からそれっぽいのを食らったんだが、めっちゃ不快で頭に響いたんだよね。食らいすぎたら混乱しそう、よって弱くても要注意な奴と覚えておこう。

 

続けてゴブリンロードがバットムと共に出現、殺りなれているから雑魚扱い。ゴブリンロードよりも先にバットムを優先的に殺ろう、ほっとくと超音波がウザいし集るからね。

 

…ゴブリンロードとバットムの集団を難なく撃破、周囲を確認してから一休み。適度に休憩を挟まないと疲れるし、…疲れは身体能力を下げるから気を付けないと。勿論要警戒、奇襲を受けぬようにする。常識ッスよね?

 

 

 

 

 

 

ある程度の疲れが取れたから探索を再開、ゴブリンロードと共に現れたのは…薄い緑色の可愛いナマモノ。何ていう奴だっけか? …え~と、確かポト…っていう名の魔物だった筈。確か奴はヒールライトを使う回復役、更にピンチの時は親を召喚してきたような…。となればやはり先に倒すのが吉だろう、回復されちゃあたまらんからね。

 

一応、前世の記憶と現実に違いがあるかとポトを後回しにしてみた。ラビと共にゴブリンロードを小突いていたら、間違いなかったらしくポトがヒールライトを唱えた。…うん、ポトは先に倒すべきだな。ヒールライトは当たった、…召喚の方は恐いから確かめずにただ殺るのみ!

 

程なくしてゴブリンロードとポトの集団を撃破、更に先へと進んでみた。ゴブリンロードにポト、バットムとダークプリーストはよく出現する。しかしぱっくんオタマとグレルが全く出てこない、…何故? 俺の記憶違いなんかね? と考えながら進む。水棲系の魔物だしこの洞窟にいると思うんだけど、そこら中に水…海水があるわけだし。…う~ん、本当に何でだろう? …まぁ戦わずに済むのは歓迎だけどもさ。

 

 

 

 

 

 

襲ってくる魔物達を倒しながら先へ進んだ所、遂に最奥部と思わしき行き止まりへ辿り着いた。俺とラビがいる足場以外は全て海水、それにだだっ広い。これだけ広い空間ならば、海のヌシことブースカブーが現れても狭く感じることはないだろう。…とりあえず最奥部へ着いた、後は自身の運命を信じてブースカブーの登場を待つのみ。どれだけ待てば良いのか分からんけれど、…暫く待ってみるか。

 

 

 

 

 

 

………ブースカブーの登場を待ってたぶん半日、未だに姿を現さず。…不思議なことに、この空間には魔物が現れないようだ。よって今日はこのまま一夜を過ごしてみよう、…それで現れなかったら諦める。…うん、そうしよう。粘るだけ無駄だと思うし、運命に選ばれなかったと諦められる。…まぁそういうわけで俺は寝る、ぶっちゃけ疲れているんだよね。

 

…………………じゃあお休み。



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第4話 ~ブースカブー。

調子が悪くてなかなか思い付かないよ。


ーリアードー

 

海のヌシであるブースカブーに認められる為、相棒のラビと共に岸辺の洞窟へ。その最奥部へ辿り着いたがブースカブーはおらず、とりあえず次の日まで待つと決めて野宿。魔物との連戦で疲れたからね、爆睡したよ。

 

 

 

 

 

 

…ツンツン。

 

…何だよ、俺はまだ寝ていたいんだ。

 

…ツンツン。

 

………ラビか? …頼むからもう少しだけ眠らせてくれ。

 

…ツンツン。

 

………あぁ~っ!! もう何なんだよ!? 人が気持ちよく眠っている中をちょっかい出して! いい加減にしないと流石の俺もキレるぜ?

 

…ツンツン。

 

…コラ! いい加減にしろ、ラビ!! …ラビ? …ラビにしてはモコモコしていない、…というかヌメヌメ?

 

一体何奴!?

 

眠りを妨げているのがラビではないと気付いた俺は、慌てて起きて斧を構える。もしかしたら魔物が出現したのかもしれない、ヌメっぽさからぱっくんオタマか!? …そう思っていたのだが魔物ではなかった。

 

目の前にいたのは大きな緑色の亀のような奴、…コイツはもしかしなくてもブースカブーではないか!?

 

 

 

 

 

 

目覚めたらブースカブーがいた。いきなりの登場に俺…固まる、ついでにラビも起きており同じく固まっている。…寝ている俺を突っついていたの? いつ頃から? …そして何故? 俺は運命に選ばれたのか? …もしかして主人公の一人? まさかの7人目!?

 

固まりつつも色々と頭の中で考えてしまうが、

 

「…ブゥ。」

 

ブースカブーが鳴き声を発したことで思考の海から帰還する。帰還はしたがやはり目の前にいるとね、…固まるのは仕方がないと思うわけよ。…親代わりのダークプリーストから聞いているんだぜ? ブースカブー、…実はめっちゃ凶暴な大型の幻獣だってことを。

 

聞くところによると、不用意に近付いたりすると鋭い爪で切り裂かれるらしい。機嫌が悪いと上級水魔法メガスプラッシュをぶっ放すとか、フロストドラゴンを咥えていたとか色々とね。…それを知っているからこそ固まる、…ビビっちゃうわけなんですよ。認められる為にここまで来たわけなんだけど、いざ対面するとビビっちゃう人間の矮小さ。ままならぬものですな!

 

 

 

 

 

 

そんな俺に対しブースカブーは顔を近付けてきて、

 

「…ブゥ♪」

 

弾む鳴き声を発した。ゴーグルの奥に光る瞳が何かを期待している? …が期待されても矮小なる人間である俺に出来ることは少ない。そう思いつつもとりあえず、今出来ることをしよう。

 

「…初めましてブースカブー! 俺はリアード、頭の上にいるのがラビ。ヨロシクな!!」

 

そう、…元気よく挨拶をすること。…正直これしか思い付かないよ!

 

極力ビビりを抑えて元気に挨拶してみたわけだが、…ブースカブーの反応は? 様子を窺ってみると、目をぱちくりさせた後にぐるぐるとその場で横回転。

 

「…ブゥ♪」

 

…何やらご満悦の様子。ご機嫌のままピタリと横回転を止め、此方へ向き直り一鳴き。

 

「…ブゥ!」

 

敬礼と共に挨拶を返されたよ。………ブースカブーなりの挨拶でいいんだよな?

 

………これは俺、…気に入られたってことでいいのか?

 

 

 

 

 

 

互いに挨拶? をした後は、普通にブースカブーと話をしたよ。他人から見たら会話をしているようには見えないだろうけど、確かに通じ合っている。ブースカブーは『ブゥ。』としか鳴かないからね、俺はほぼ頷くように聞いているだけだし。だが会話は成立している、何故かブースカブーの言っていることが理解出来ているし。

 

ブースカブー的に世間話のつもりなんだろうけど、内容は世間話とは言えないものである。

 

魔法王国アルテナが草原の国フォルセナへ戦争を仕掛けようとしている。

 

ビーストキングダムが聖都ウェンデルへの侵略を計画している。

 

ナバール盗賊団が風の王国ローラントに対して侵攻を開始せんとしている。

 

………最初に聞いた世間話が全て戦争関連、物騒過ぎる。…というか近々、聖剣3の本編が始まろうとしているじゃないか!

 

更にマナの力が弱まってきただとか、不審な人物や組織等が水面下で蠢いているだとか色々。総じて全てが悪い話、良い話がないのはどういうことかね?

 

……………聖剣3の物語を体験する為に島を出ようと考え、ブースカブーに認められようとここまで来た俺。世の中物騒だ、…外へ行くのを止めたくなってきた。世界を知り現実を知ると考えが改まるね、軽はずみに聖剣3の物語へ介入しようと考えた俺って本当にバカだわ。



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第5話 ~強制的な旅立ち。

ーリアードー

 

岸辺の洞窟最奥部にてブースカブーと遭遇、理由は分からんけれど気に入られたっぽい。これで島の外へ行ける、…と思ったんだけど気が変わってしまった。ブースカブーから聞いた世間話、本編が始まろうとしているのは分かった。分かったんだけど、今更ながら本編に関わっても大丈夫なのだろうか? 俺の立ち位置がどんなものなのか? …色々と考えてしまう、ぶっちゃけ介入に躊躇しています。

 

 

 

 

 

 

ブースカブーの世間話を聞いて腰が引き気味の俺、当初の目的である島の脱出から物語の介入。…それを止めようかと本気で考え始めたんだけど、

 

「…ブゥ。」

 

ブースカブー曰く、俺は彼に選ばれた幻獣側の代表者とのこと。それぞれの国がどうなろうとも、マナの女神や各精霊達のことをヨロシク! …だって。

 

…それって断ることは出来たりするのかな? …って聞いてみたところ、

 

「…ブゥ。」

 

返答はもう決めたから無理だよ! …だってさ。………マジかぁ~。

 

更にブースカブーから謎の発光体を渡された。…何だコレ? と思う前にその発光体が俺の中に消えました。…本当に何ですかねコレ!? との抗議に対し、

 

「…ブゥ。」

 

…海の巡回中に保護をしたフェアリーのうちの1体、…だとか。

 

 

 

 

 

 

フェアリーって言ったら物語の中心的精霊じゃんか!? 保護をしたとかって物語はどうなるんだよ! テンパる俺にブースカブーは? 顔ではあるが、

 

「…ブゥ。」

 

他の3体が聖都ウェンデルを目指しているよ! とのことで落ち着いた。

 

落ち着いた時に思い出した。そういえば、フェアリーの回想シーンで語られていたっけ? マナの聖域から4体のフェアリーが聖都ウェンデルを目指して飛び立つ。途中で1体が力尽き、次に2体が脱落していったという場面があった。最後の1体がその道中で主人公と邂逅、そこから本格的に物語が始まるって流れだった筈。…そこで思う、…これって物語的に大丈夫なのか?

 

…で思い至る。ブースカブーが保護をしたフェアリーは最初に力尽きた1体、…ってことは次に力尽きると思われる2体はどうなるんだ? そう考えたところでブースカブーが慌て始めた。何かスゲー嫌な予感がするんだけれどどう思う? ラビよ。相棒にそう語り掛けた瞬間、ブースカブーに捕まった。

 

「…ブゥ!」

 

2体のフェアリーが力尽きそうだから保護をしに行くよ! …だって。捕まったことから拒否権なし、…これから俺はどうなるんでしょうか!?

 

 

 

 

 

 

問答無用で甲羅に乗せられた俺とラビ、急いでいるのか凄まじいスピードで海を泳いでいます。ラビを懐に入れつつ振り落とされぬよう必死で旗? にしがみ付く、…これは振り落とされたら死ぬヤツだと思う。…つーかブースカブーよ、フェアリーを助けたいという気持ちは分かる。分かるがその前に俺達への配慮を! 物語が始まる前に終わっちゃうよ!!

 

………俺とラビの危機的状況を無視して海を爆走した結果、海上スレスレの所を飛んでいた消えかけた発光体を2つ回収。そのままそれを押し付けられ、1つ目と同じように俺の中へ。俺にフェアリーを3体預けてどうするんだよ、最後の1体が物語の鍵なんだぜ? 言っちゃあなんだが俺の中の3体、存在していたら物語に大きく影響を与えたりしない?

 

…と考えたところで首を振る。俺という男が存在している時点でイレギュラーなわけで、消える筈のフェアリーが存在したとしても今更か。俺の知る聖剣3の物語とは違う展開になることは確実、これから先…どうなることやら。…主に俺、…当然のことながら読めないッス。

 

 

 

 

 

 

フェアリー2体を保護した後はのんびり、ゆっくりと泳ぐブースカブーの甲羅の上でボケッとしていた俺とラビ。…なのだが気付いた、…この後何処へ行くのだろうか?

 

命の危機から脱してやや放心状態だった、しかし正気を取り戻したからには聞かねばならない! …とのことでブースカブーに何処へ行くのかと聞いてみたら、

 

「…ブゥ。」

 

はりきり過ぎてお腹が減ったよ、だからご飯を食べに行くさ! …だって。腹が減ったら飯を食うのは当たり前、しかしながらブースカブーは大型幻獣。…一体何を食べるのか? 因みにラビは何でも食べるけど、基本は俺と同じ物を食べる。同じ釜の飯を食うってヤツ? だからこそこんなにも俺に懐いているのだろう。

 

何処で何を食べるのか? と聞いたところ、

 

「…ブゥ。」

 

零下の雪原奥地にある氷壁の迷宮周辺、そこに住むはぐれフロストドラゴンを食べるらしい。美味しいよ! …と言われても困る、…魔物肉なんか食べたことがないし。

 

…まぁ次の目的地は魔法王国アルテナ方面か、…何の防寒対策もしていないけど凍死せんよね?



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第6話 ~雪の都エルランド。

ーリアードー

 

フェアリー保護の為とはいえ、強制的に火山島ブッカから連れ出された俺とラビ。当初の目的通りにことが進んでいる、…が軽い気持ちで脱出を目指していた身としては複雑だ。謎の幻獣側代表という肩書き、そして保護をした3体のフェアリー達。これからどんな流れになるのかは分からんけれど、第3者的立ち位置から外れて中心人物に躍り出ることは確実。…どうしてこうなった?

 

 

 

 

 

 

ブースカブーの食事の為に魔法王国アルテナ方面へ、寒冷地ということで少々の警戒をしていた。火山島ブッカ出身の俺とラビ、凍える寒さに死ぬんじゃないかと不安だった。そんな俺達を余所にブースカブーはマイペース、凍てつく海の氷を豪快に粉砕しながら泳ぐ。因みに俺の目からして氷の大地にしか見えん、海が氷で見えないんですよ。異常気象だよね? コレ、アルテナの人々はこんな環境下で過ごせてるの?

 

アルテナの人々を心配するのと同時に思う、…俺とラビがヤベェ。火山島の気候に合わせた薄着装備なのだが、…この氷の海へ突入しても全然寒くないのだ。ラビも火山島生まれであるのに余裕の様子、…これも主人公補正なのか!? なんて考えていたんだけど、

 

「…ブゥ。」

 

ブースカブーの加護らしいよ。…これが主人公補正というか転生特典だったり? …まぁどちらでもいいわな、平気だってことに喜んでおこう。ブースカブーも加護ありがとね、…強制的な旅立ちの件はこれでチャラ…になるのか?

 

 

 

 

 

 

寒冷地どころか極寒地だったこの大陸、そんな大陸のとある浜辺に俺とラビは降ろされた。…降ろされても困るんだけど? と言えば、近くに雪の都エルランドがあるからそこで待っていてだとか。それだけ言ってからブースカブーはご機嫌な様子で再び氷の海へ、俺達は極寒地の浜辺に取り残された。

 

取り残された俺達は仕方なくエルランドへ、…何をして待っていればいいんだ? 寝て待つじゃあ暇をもて余す、…エルランド観光が無難か? 何をしようか考えながら向かったわけだが、…猛吹雪じゃね? マジで大丈夫なのか? 魔法王国アルテナや雪の都エルランドを含むこの大陸。

 

 

 

 

 

 

進めば進むほど猛吹雪に、雪の都エルランドも例外なく猛吹雪。そんな中でも人々は逞しく活動している、現地人侮りがたし。…そんな人達の目からしても俺は変な奴に見えるらしく、頭の上のラビ共々好奇の視線に晒されることに。逆の立場だったら俺も同じ視線を送るわな、…うん。

 

そんな怪しい俺とラビは現在、小さな女の子に絡まれている。小さな女の子はチチという名前らしい、俺の周囲をぐるぐると回り、

 

「おにいちゃんのちかくはあったかいねぇ♪なんでなんでぇ~?」

 

と最終的にしがみ付いてきたし、

 

「このきいろいのもこもこでかわいいねぇ♪」

 

とラビをモフってはしゃいだり、

 

「あそぼあそぼぉ~♪」

 

とか言って他の子供達を巻き込んで遊ぶハメに。…まぁ何をやろうかと考えていたからね、これはこれで暇を潰せるからよしとしよう。

 

 

 

 

 

 

猛吹雪の中、子供達と遊んでやったわけだがどうしたものか? 天候は変わらずに猛吹雪を維持、辺りは暗くなりつつあるがブースカブーからの連絡はなし。…というか、どうやって連絡を取ればいい? そこらの話をしないで別れたんだけどヤバくね? しかも遊びに付き合ったせいで宿を取れず、寒くはないにしても流石に野宿は死ぬよね? …う~む。

 

そんな俺の悩みはあっさり解決された。妙に懐いた地元の子であるチチ、彼女は俺にしがみ付いたまま離れなかった。仕方なく彼女に自宅の場所を聞き送り届けたところ、彼女の母親は感謝と共にお礼として泊めてくれるそうだ。正直、…マジで有難い。

 

 

 

 

 

 

チチの家に泊まることとなった俺とラビ、彼女が遊び疲れて寝てから改めて礼を言われた。俺とラビも何だかんだ楽しかったからお互い様ですと返し、そのままチチの家族と世間話をした。と言っても俺は世間を知らんからね、火山島の話しか出来ない。…が、雪国の人からしたら十分みたいで喜ばれた。後半はここら辺の話、魔法王国アルテナ関連と大陸の気候について聞けた。

 

魔法王国アルテナ関連では、草原の国フォルセナとの戦争まで後少しという噂が広まっている。何でも紅蓮の魔導士とかいう奴が中心となり、着々と戦争の準備が進められているとか。…ブースカブーの情報通りだな、…ということは旅人? である俺も気を付けねば。他国からのスパイとして捕まりかねない、こんな状況下で俺とラビを放置すんなやブースカブー!

 

後はこの猛吹雪、原因はマナの減少によるものだとか。それにより理の女王の結界が弱まってしまった、その結果がこの猛吹雪らしいよ。今はまだ堪えられるぐらいの猛吹雪だけど、このまま続いたらいずれは…っていう状況のようだ。…まぁ続いたら大変だろうね、それ以上に猛吹雪を堪えられることの方が凄いと思うのは気のせいか? 結界云々(うんぬん)よりもこのままこの寒さに適応しそうに見える。ここの人達は自覚がないっぽいけど、身体能力が強いのではなかろうか?

 

まぁ俺の見解はともかく、こりゃあマジで幻獣側代表として頑張らなきゃいずれはマナが失くなったり? 責任重大じゃね? …つーか、このことを知らせにフェアリー達が聖域を旅立ったんだっけ? …ヤバイな、ここらがうろ覚えだぜ。



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第7話 ~拾ったのは…。

ーリアードー

 

猛吹雪に襲われている極寒の大地、そこにある雪の都エルランドに滞在中の俺とラビ。成り行きで知り合った少女チチの家に宿泊することになり、その家族からこの地の情報を簡潔に教えて貰った。

 

その情報により分かったことは、本編開始まで後少しどころかすぐにでも始まりそうなこと。マナの減少によりこのような猛吹雪となり、このままでは人の住めない大陸になるかもしれないってこと。それを知ることにより、自身の押し付けられた幻獣側代表という肩書きの重圧にいずれ逃げたくなりそう。

 

 

 

 

 

 

そんなこの俺リアードは、雪の都エルランドにて足止め中。一週間も経つのにブースカブーからの連絡はなし、お陰様でチチを筆頭に都の人達と仲良くなったよ。理由は猛吹雪からただの吹雪へ、天候が少しばかり良くなっている。それは俺がエルランドへ訪れてから、ある意味救世主のような扱いを受けている。ブースカブーの加護が影響を与えている? それとも俺の中で眠る3体のフェアリーの影響? …相乗効果のような気がする。

 

そんなわけで猛吹雪から吹雪へ、圧倒的に前よりも良い天候になった。子供達は元々外に出て遊んでいたが、天候が多少ながら良くなったことで年寄り達も外へ出るようになった。まぁその年寄りの方々なんだけど、俺を見る度に拝むのは止めて貰えませんかね? 天候が良くなったのはたまたま、俺が手を出したわけじゃないんで。…実際、俺が起点になっているのかも分からんし。

 

 

 

 

 

 

更に一週間、ここより北西の方角から強力な魔力の波動を感じた。…ブースカブー? …いやこれは違うか。ブースカブーはもうちょっと穏やかな感じ、この魔力の波動は…悲しみの感情が乗っている? 暴走か何かをしたんか? …にしても誰? …それとも魔物? …う~む、…分からん。そもそも何故に波動を感じることが出来るんだ? ラビや都の人達は何も感じてなさそうなのに。これもブースカブーの加護の影響? それともフェアリー?

 

一人悩み考えている時、

 

『………いつか後悔させてやるんだから!!!』

 

という叫びが頭の中に響いた。何だこの声!? …女性のようだが知らない声だな。しかし何故だろう、この声…叫びの主の下へと行かなければいけない気がする。都の外は零下の雪原、そこを北西へ向かえば魔法王国アルテナ。…となれば叫びの主はアンジェラか? 俺の覚えている物語では確か、…何かしらがあって彼女は零下の雪原へと飛ばされたような?

 

…ということはだ、もしそうならば早く助けに行かないと。ここの天候は吹雪だけど、零下の雪原は猛吹雪の筈。更に言うならアンジェラは、温室育ちのようなものだから…猛吹雪には堪えられない可能性が。俺の存在のせいで物語が変わっているならば、…無事にこのエルランドへ辿り着くという保証がない。そう考えれば救出は必須、万が一という事態を未然に防がねばなるまい。

 

聖剣3のお色気担当を失うわけにはいかない! …というわけだから行くぞラビ!

 

「わたしもおそとであそびたい!」

 

とかいうやんちゃなチチを母親に預けていざ、アンジェラ救出の為に零下の雪原へ!!

 

 

 

 

 

 

雪の都エルランドを出て暫く、予想通り零下の雪原は猛吹雪だった。そのせいで視界が悪い、都の人に地形のことをある程度聞いているから危険度大なのは理解している。気を付けなければ海に落ちかねんし、所々その海へと続く川もあるとか。落ちれば確実に死ねるね、魔物も当然いるわけだし。ヤバイね零下の雪原、マジでアンジェラが心配だ。

 

猛吹雪で視界が悪くても、…何故かアンジェラがいそうな場所が分かるんだよね。魔力探知的な能力を知らない内に入手したのかな? そんなことを考えながら行く手を阻む魔物を蹴散らしていく。サハギンとラビが多く出現し、たまにポトが加わり襲ってくるって感じかな? 総じて戦闘に関しては問題ない、この猛吹雪と地形にさえ注意すれば危険度は低いだろう。

 

 

 

 

 

 

俺とラビは慎重に先へ進みながらアンジェラを探す、探知的にはもうそろそろだと思うんだが…。猛吹雪で視界が悪い中その姿を探す、リアルなアンジェラの姿は分からんけれどゲームん時の姿とあまり変わらないだろうと予想。だから目立つ筈なんだよなぁ~…と、進んだ先に佇む金の女神像。そこで(うずくま)る目的の人物、紫髪に赤い衣装は俺の知るアンジェラ像と重なっている。

 

…やっと見付けたぜ、雪に埋もれかかっているけどまだ大丈夫っぽい。…が楽観は出来ん、速やかに彼女を救出せねば。

 

 

 

 

 

 

雪の中で気を失っているアンジェラ? を横に抱き抱え、その身にラビをくっ付ければ多少の暖は取れるだろう。それに俺の不思議パワーでこれ以上は冷えないかと、…まぁそれでも危険なのは変わらない。よって余計な戦闘は回避して、エルランドへ素早く運んで暖めてあげなければ!!



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【別視点】アンジェラ《その1》

今日もいつものようにホセの下へ行く。ホセは昔、魔法王国アルテナにその人ありと謳われた大魔導師だったらしい。そんなホセの下でだったらきっと、…きっと魔法が使えるようになると信じて。

 

…だけど、ホセの下で学んでいても未だ魔法を使うことが出来ない。内心で焦る私にホセは毎回やんわりと説教をしてくる、格好ばかり気にしているからだと。肝心の心が伴わないといけない、でなければ魔法は使えないと。…そうは言うけれど、私を見てくれない皆が悪いんじゃない! こんなんじゃ心なんて疲弊するだけ、…伴える筈がないじゃない。

 

そこで私はいつも反発をする、ホセの下から逃げ出すのが日常。そして逃げ出した先にいるヴィクター、彼は弄ると面白い。嫌なことがあった時は彼にイタズラをする、その反応が好き。…でもその後の困ったような微妙な顔、その顔は大嫌い。怒りたければ怒ればいいじゃない! …どうして距離を取るの? 私はそんなの望んでいない。イタズラをしたんだから怒ってよ…、私を叱ってよ……。何で憐れむの? 私は………。

 

 

 

 

 

 

そんな日々の中で、この魔法王国アルテナに不穏な空気が流れている。発端はマナの減少による結界の弱体化、そのせいでここは勿論のこと大陸全体の天候が悪くなっている。アルテナはまだましだけど、零下の雪原とその先にある雪の都エルランドは最悪の天候らしい。常に猛吹雪で人々が難儀しているみたい、このままでは凍死で全滅する可能性もあるとか。

 

そんな未来を防ぐべく、アルテナは草原の国フォルセナへ戦争を仕掛けようとしている。…私の嫌いな紅蓮の魔導師を総指揮官に、お母様の号令でその準備が進められている。…自分達の為ならば他国がどうなろうと知ったことではない、…以前のお母様や皆ならばこんな考え方はしない…と思う。とても…とても厳しいお母様だけど、その一線は越えないと思っていた。…それがこんなことになるなんてね、…紅蓮の魔導師がこの国に戻ってから流れが変わった。…私が何を思い考えたとしても、お母様達は紅蓮の魔導師を信用しているから何も言わない。…落ちこぼれなんてお呼びじゃないもの、私よりも戦争だもの………。

 

 

 

 

 

 

私自身、魔法を使えないということに思い悩んでいたある日。ヴィクターから、お母様と紅蓮の魔導師が私を呼んでいると伝えられた。更にお母様がいよいよ、草原の国フォルセナへ侵攻を開始するらしい。…何か凄く嫌な気がする、…私を呼び出したのもその関連じゃないだろうか?

 

…でも私は魔法を使えない、侵攻の役には立たないと思うんだけど。………それ以外で私に何の用だろうか? 言葉では言い表せない確かな不安、それを胸に秘めて女王の間へ向かう。…何故だろう? 歩を進める度に言い知れぬ恐怖に襲われる。女王の間へ向かう私に向けられる視線が私を孤独にする、このまま進んでしまったら私は自分の立場を嫌でも理解してしまう気がする。

 

……………だけど、もしかしたら何かしらで私を必要としてくれるかも? 大きな不安と小さな希望。私の運命が決まる、その結末は……。

 

 

 

 

 

 

…そして、向かった先の女王の間にて、

 

「お前の命と引き換えにすれば、マナストーンのエネルギーを放出することが出来る。王家の恥であるお前が役に立つのだ、光栄に思いながら散りなさい。…せめてもの情けとしてその名を残してやる、女王の娘に相応しい散り様であったと。」

 

お母様の口から残酷な言葉が紡がれた。…私は王家の恥、生け贄にしかならない者。…やっぱり私は生かされていただけだったんだ、この日の為に生かされていたんだ。当然…誰も助けてくれない、冷たい視線が私に注がれる。

 

必要なのは私の命だけ、…だから私を見なかったんだ。私がイタズラをして迷惑を掛けても怒られなかったのは、…生け贄の為に生きる私を憐れんでいたから。落ちこぼれの私が追放されなかったのは、…生け贄にする為だったんだ。お母様に愛情を向けられなかったのは、…死ぬ運命にある者だったから…なんだね? …希望はなかった、死ぬ運命にある私が持ってはいけないもの。

 

絶望する私に向かいお母様、…理の女王は、

 

「…さぁ、こちらへいらっしゃい。」

 

冷たい…無機質な表情でそう言った。横に控える紅蓮の魔導師は笑みを浮かべている、…役立たずにはそれしか価値がないと言いたげな目だ。周囲の兵達も同じ、…きっとホセやヴィクターもそう思っているに違いない。

 

…誰も私を見てくれないのね? 私のことを認めてくれないのね? 私の価値は命だけなのね? ………分かった。私の居場所はここにない、もっと早く気付けばよかった。この国に拘るのはもう止めよう、認められるよう私なりに頑張ったんだけどもね? …全部無駄だったんだ。

 

………貴方達の思い通りにさせてあげない、私はここで死なずに生きる。生きて見返してやるんだから、貴方達以上の力を身に付けてみせる! こんな所で終わるもんですか!!

 

「………いつか後悔させてやるんだから!!!」

 

私は力の限り叫んだ。それと同時に身体の底から何かが溢れて、…私の視界を白く染めた。

 

 

 

 

 

 

…意識を取り戻し目覚めた先は雪の上、…ここは零下の雪原? …私は城の外に出ることが出来たの?

 

意識がはっきりとした時に気付く、…物凄い吹雪だ。

 

「………寒い。」

 

素直な言葉が出てきたけど、この状況を何とか出来る程の力は私にない。…よって少し遠いけど雪の都エルランドを目指そう、ここにいたら死んでしまう。せっかく命の危機を抜け出せたんだから、ここでも足掻いてやる。何もしないで凍死するよりも、無理をしてでも雪の都エルランドへ。

 

 

 

 

 

 

寒さに震えながら進み見付けた女神像、…まさかここまでとはね。もう歩く力がない、私はここで終わり。………でも、生け贄で死ぬよりましよね? 私が自分で示した結果の死…なのだから。

 

…確かな満足と、ここで終わる無念を思いながら私は再び意識を手放した。




あれ?

アンジェラの様子が……。


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第8話 ~俺ってば彼女の重要キャラっぽくない?

ーリアードー

 

零下の雪原にある金の女神像、その直ぐ(そば)で倒れていたアンジェラらしき女性を見付けた俺。速やかに抱き抱えて雪の都エルランドへ戻る、道中の魔物は回避して急行した。それが功をなし、夜の(とばり)がおりる前に着くことが出来た。

 

エルランドへ着いて真っ直ぐにチチの家へ、厚かましいが彼女のことを頼めるのはここだけ。人の良いチチの家族は快諾してくれて、彼女の為にベッドを用意してくれた。後はそこに寝かせて目覚めるのを待つのみ、十分に暖まればきっと意識を取り戻す筈。

 

…っと更に一人、追加で世話になるのだからこれを納めます。助けるついでに狩ったアザラシっぽい動物、食卓にでも並べて下さいな。

 

 

 

 

 

 

アンジェラらしき女性を保護して数日後、未だブースカブーとは連絡がつかず。本当にいつまでここにいればいいんだ? 聖剣3の主人公キャラを保護したからには確実に物語入り確定。たぶんアンジェラのオープニングよ? 俺がそこに入っていいのかね? …と思っていたら、チチの母親に呼び出された。…アンジェラらしき女性、彼女が目を覚ましたらしい。

 

急いで戻ってみれば、彼女は既にベッドから抜け出していた。目覚めたばかりの彼女にチチが絡んでいる、そんな困り顔の彼女を助けるべく近付けば今度は俺に絡むチチ。お転婆なヤツめ、と思いながら相手をしていると彼女の方から此方へ。そして、

 

「…貴方が私を助けてくれた人よね? …その、…ありがとう。お陰で命を拾うことが出来たわ、…本当にありがとう。」

 

俺の手を取り礼を言ってきた。俺は当然のことをしたまでだって謙遜し、とりあえず彼女に暖炉の前を勧める。勝手知ったるチチの家、俺ってば本当に図々しい。

 

 

 

 

 

 

彼女と話す前に、俺はチチにラビを預けて遊んでくるよう促す。嬉しそうにラビを頭の上に乗せ、外へと駆け出して行ったのを見送ってから彼女へ向き直る。…で彼女が何故雪の中で倒れていたのか? 支障がなければ教えてくれないか? と聞いてみれば、彼女は素直に応じてポツポツと話し始めた。

 

話を聞いてみれば、彼女は俺の知るアンジェラで間違いないっぽい。自分が魔法王国アルテナの王女であることはぼかし、それ以外も多少の虚実を含みながら話していると思う。けれど何だろう? …どうにも言葉の節々に孤独が見え隠れしているような。更に少しの憎しみ、…自分の母親と国に対して嫌悪感を持っているみたい。…彼女ってこんなキャラだったっけ? もう少し明るくて高飛車なイメージがあったんだけど、こんなにも人の顔…様子を窺うような娘だったかな?

 

…まぁ彼女の話を最後まで聞いたんだが、零下の雪原へ飛ばされる直前にそんなことがあればそうなるか…。信じていたもの、…信じようとしていたものが自分の命を利用しようとしていた。そりゃあ人間不信に傾くわな、信用出来るか否か気にするようなるわ。やられる方は多少…気分が悪いけど、理由を知ればなるほどって同情するだろう。

 

俺から言えることは一つだけ、俺とラビはアンジェラを害する気は一切ないぜ? 初対面だし、そんな話を聞かされて何かする程腐っちゃいない。むしろ手助けしたいわ、…理の女王以下アルテナの者達を見返したいんだろ? 復讐とかではなく、如何にアンジェラが才能溢れた逸材だって。

 

…思い付くといえばだな、先ずは魔法を使えるようになればいいんじゃないか? 俺は魔法を使えるけど教えるのは専門外、…上手く教えられる自信がない。手っ取り早い手段を考えるなら、聖都ウェンデルで聞くのが一番だと思うが…。彼処にある光の神殿なら良い魔法の習得方法を教えてくれるかもしれない、それがダメでも最低限の道は示してくれる筈さ。…と言っても人から聞いた話なんだがね、信じる信じないはアンジェラに任せるよ。ぶっちゃけ今のアンジェラは闇寄りに思える、その反対の光に頼ってニュートラルになった方が色んな道を見付けられるんじゃないか? …何となくだけど。

 

…つっても一個人の考えだし、アンジェラ自身で考えたり他の者に聞いたりしてみれば? んで、俺の言った可能性である聖都ウェンデルへ行くか行かないか。それ以外を考えるか、…くどいと思うがきちんと落ち着いて先のことを考えるといいさ。

 

因みに俺は聖都ウェンデルへ行く予定、色々あって助言をイタダキタイ状況にあるのよ。助言を聞いてどうするか決めたいかなって、…まぁほぼ道は確定しているから気休め程度にかな? …もしアンジェラが聖都ウェンデルへ行くことにしたのなら、道中一緒に…は行けないと思うから向こうで会うかもね。そん時はヨロシクな!

 

…っとまだ名乗ってなかったか、すまない。俺の名はリアード、火山島ブッカ出身の旅人…になるのか?

 

 

 

 

 

 

…でアンジェラと別れた後にテレパシー? みたいなものが俺の下に届いた、勿論ブースカブーからだ。内容は…、

 

『お腹一杯ご飯を食べたら眠くなっちゃった、ちょっとブッカに戻って一眠りしてくるね!』

 

だって。

 

人を散々待たせてそれかい! …幻獣は自由気ままでいいですね!!



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【別視点】アンジェラ《その2》

私は見知らぬ場所にいた、周囲を見回せば…氷の迷宮? …そして目の前には不思議な巨大石。マナに満ち溢れた巨大石を見て心が暖まるのと同時に、…得体の知れない悪寒を感じた。何故暖かいのに寒く感じるの? そう思った瞬間に人の気配、振り向いて悪寒の正体を知った。

 

私の背後にいたのは理の女王、そして紅蓮の魔導師以下アルテナ兵達。皆…私を無機質な顔で見詰めている、…私は恐怖のあまり後退る。…何をする気なの? …私をどうする気なの? 問い掛けたいけれど動けない、動けない私に理の女王は、

 

「…さぁ、私達の為にその命を散らしなさい。」

 

と言ってその手を頭上に掲げ、強大な魔力を練り上げて………。

 

私は恐怖で動けない、一歩も動けないでいた。目前に迫る脅威、私は…、

 

「………いやぁぁぁぁぁっ!?」

 

絶叫をあげてその意識を闇に落とした。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

「………っ!!?」

 

一気に意識を覚醒させた私、最低な夢…でいいんだよね? アレは夢、辿ったかもしれないただの夢。…夢であることな安心して気付く、…何で私はベッドの中にいるの? 確か零下の雪原をさ迷ったあげく、女神像の前で力尽きた筈。自身の状況に混乱するも、少し落ち着いてみれば誰かに助けて貰ったのだと想像がつく。…あんな猛吹雪の中を誰が?

 

誰が私を助けてくれたのか? ベッドの中でそのことを考えながら、視線を天井から横へと移した時に、

 

「………!?」

 

ベッドの縁からジッと私を見ている視線に気付いた。視線の主は小さな女の子、互いの視線が交差して暫く、

 

「…おねえちゃん、おめめぱっちりした? もうげんき?」

 

と尋ねてきたから私は、

 

「ええ、元気になった…と思うわ。」

 

と答えたら女の子は目を輝かせて、

 

「…おぉ~♪ おねえちゃんがげんきになった、おにいちゃんにおしえてあげないと♪ …おかあさぁ~ん!」

 

全身で喜びを表現したかと思ったら、そのまま何処かへ行ってしまった。…女の子の言葉から察するに、私を助けてくれたのは女の子のお兄さん?

 

 

 

 

 

 

目覚めたのにいつまでもベッドの中にいるのはまずいわよね? そう思い、ベッドから出て大きく伸びをする。…それだけなのに凄く疲れるし、バキバキと何か音がする。それにお肌の色艶、張りが悪いような…。もしかしてだけど、私ってば長い間寝ていた…意識がなかったりした? それならこの状態に納得が出来るんだけれど。

 

身体の調子を気にしていると、先程の女の子が戻ってきた。立っている私に気付いて飛び付いてきたのだ、…ちょっと調子が悪い私にそれは厳しい。その衝撃にかなりフラついたけれど何とか堪え、飛び付いてきた女の子に助けてくれたお礼を言った。女の子はニコニコと笑って、

 

「わたしはねているおねえちゃんをみていただけだよ。おにいちゃんがね、おねえちゃんをつれてきたの♪」

 

嬉しそうに私を助けてくれた人のことを教えてくれた。予想通り、女の子のお兄さんが私を助けてくれたようだ。ならそのお兄さんにきちんとお礼を言わないと、そう思っているんだけれど、

 

「おにいちゃんはおそとだよ? だからわたしとあそぼあそぼぉ~♪」

 

と言ってじゃれついてくる。正直調子が万全じゃないから辛い、辛いけれど助けてくれた手前…断れない。倒れない程度に相手をしよう、…邪険にするのは可哀想だし。

 

気合いを入れた私は女の子の相手をしようとしたその時、

 

「…お、本当に目を覚ましているようだ。…ってチチ、お姉さんに絡むのはダメだぞ。」

 

という声を聞いた。同じくその声を聞いた女の子は、私から視線を外したかと思ったらその声の主の方へと駆け出していった。目線を声の主へと向ければ、そこにいたのは女の子を抱き抱える長身の男性。この人が私を助けてくれたお兄さん? …にしては似ていない気がするけれど。

 

白髪に小麦色の肌、この地にて異色の薄着。顔付きは精悍な…、所謂イケメン。最も目を惹くのが頭上にいる魔物のラビ、それと男性の顔から身体に描かれている紋様かしら? 明らかに異国の戦士風、女の子のお兄さんではないと思う。なのにとても仲良くしているようで、少しだけ…というかかなり羨ましい。…私は家族とそんな風に接したことがないから、…だから妬ける。

 

少し醜い私の感情、それを隠して彼の下へ。彼も私に気付き、

 

「…調子はどうだ? 数日間眠っていたのだから、無理はしてくれるなよ?」

 

本気で私を心配してくれているような声色、…心配されたのって久しぶりのような気がする。感極まった私は彼の手を取り、これもまた久しぶりに心からお礼を言った。



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【別視点】アンジェラ《その3》

心からのお礼を彼に言えば、

 

「人として当然のことをしたまでだ。…それよりも本当に大丈夫なのか? 顔色がまだ悪い気がする。とりあえずは暖炉の前へ、そこで少し話をしよう。」

 

謙遜しつつ私を暖炉の前へ誘う、私のことを本気で心配してくれているみたいだ。正直、まだ何となくだけれど身体が冷えている気がしていた。だから私は彼の勧めるまま暖炉の前へ、彼は女の子にラビを預けてから私に続く。ここでも小さな気遣い、女の子を遊びに行かせてくれた。どう接してあげればいいのか分からなかったから、…私って人付き合いが本当にダメみたい。

 

 

 

 

 

 

暖炉の前で彼と二人きり、炎を見詰めながらの沈黙。それを破ったのは彼で、

 

「君は何故、零下の雪原で行き倒れていたんだ? 話せるのなら教えて欲しい。勿論話せないのならそれでいい、…無理に聞く程狭量ではないからな。」

 

私のことについて尋ねてきた。…まぁ気になるわよね? 女が一人零下の雪原で行き倒れていたら。…でも話してしまったら、彼も私のことに巻き込まれてしまうかもしれない。きっと逃げ出した私を探している、そのことに思い至った瞬間気付いてしまった。このままここにいたら、彼も先程までここにいた女の子も狙われてしまうのでは? …と。最悪この場所に住まう人達が、魔法王国アルテナに攻め滅ぼされてしまうのではと。

 

私は今更ながら恐くなってしまった、…一人じゃ堪えきれない。だから私は彼に話してしまった、私の身に起きた出来事を。私が王女であることを(ぼか)して、本当のことに嘘を含めて話してしまった。罪悪感が押し寄せてくるけれど、私は止めることなく話し続けた。

 

…話してしまった、…私は何てことを。こんなことを話したのだから軽蔑するよね? もしかしたら巻き込まれて命を狙われることになるかもしれないんだから。恐る恐る彼の顔を見てみた、…軽蔑の色はなくあくまで心配そうにしていた。これからのことを責めることはなく、逆に…、

 

「軽々しくは言えないが、一人でよくこう…健在で頑張れたな? まぁ少しは安心してくれ、少なくとも俺とラビはキミを害しないと約束しよう。…後は多少の手助けは出来るか?」

 

と言ってくれた。ただの同情ではないようで、彼が知る限りの情報を教えてくれたのは助かった。

 

その中でも特に気になったのは聖都ウェンデルのこと。そこにある光の神殿へ行けば、魔法の習得方法を教えてくれる可能性があるらしい。人伝(ひとづて)に聞いたようで、真意の程は分からないとのこと。それでも私にとっては貴重な情報、可能性があるだけでも本当にありがたいと思う。

 

後はよく分からないことを言ってきた、私が闇寄り…と。だからこそ光の神殿へ行った方がいい、その方がより良い道を見付けられるのでは? …だって。…本当によく分からない、けれど私のことを考えて言ってくれたんだと思う。だからこのことは頭の片隅にでも置いておこう、だって嬉しいんだもの。私の身を案じてくれている、そういうことよね?

 

そして最後に、情報を信じる前に自分で先のことを考えろと言われた。きちんと自分で考えて道を決める、うん…それは大切なことよね。私自身でも情報を集めないと、言われた通りに動いてちゃあ変われない。変わる為に行動しないと、自分の足で歩かなきゃ。

 

アルテナから逃げた時にはどうすればいいのか分からなかった、ただ雪の都エルランドへ向かうことだけを考えていた。見返すと言ってもノープラン、…考えてもいなかった。行き倒れてから助かって、彼に情報を貰って道が一つ広がったような気がする。…因みに彼の名前はリアード、火山島ブッカ出身の旅人らしい。彼自身も聖都ウェンデルへ行くみたい、…一緒に行けたら嬉しいんだけれども。まぁ何はともあれ、どうすべきか考えよう。

 

 

 

 

 

 

女の子のご両親のご厚意で食事を頂いた後、外に出て自分なりに情報収集をしてみた。その結果、情報はリアードから聞いたのと同じ。それ以外ではリアードのことが多かった、異国出身の彼は都の人達に好かれているようだ。零下の雪原よりも天候が穏やかなのはリアードが来たかららしい、それに彼はかなりの強者で魔物を定期的に間引いてくれているという。…そういう情報を聞いて思う、ダメ元で共に行っていいか聞いてみようと。魔法の使えない私に旅は厳しい、守ってくれる人がいないと不安だから。

 

 

 

 

 

 

色々と情報を集めて、最後に占い師の人に占って貰った。占いの結果はリアードを頼ること、頼ることが私の幸せに繋がるかもしれない。詳しくは教えてくれなかったけれど、彼と共にいれば間違いないらしい。

 

…やっぱりリアードに頼もう、何としても一緒に行動して貰わなければ。今の私には頼れる人がいない、助けてくれた縁を頼るしかない。…彼は了承してくれるだろうか?



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第9話 ~そろそろエルランドから旅立つ時。

ーリアードー

 

ブースカブーからの連絡を受け、俺は一人頭を抱えて唸る。雪の都エルランドへ連れてきた癖に、まさか置いていくとは思わんよ。どうすればいい? このままエルランドに留まるという選択肢はない。留まろうとしても、たぶん主人公の一人だから旅立たなければならない運命だと思う。現にブッカからここに来たわけだし、…アンジェラを助けて関わったわけだし。

 

…ブースカブーに頼れないとなれば、定期船に乗るしかないか? …確かあった筈だよな? 外は猛吹雪で極寒だから、本数はかなり少ないと思うけれど。港に確認しよう、いつ出航をするのかって。

 

 

 

 

 

 

聖都ウェンデルを目指す為には先ず、城塞都市ジャドに行かねばならない。このエルランドからジャド行きの定期船が出ていた筈、…前世の聖剣3知識でだけれど。現実となった今、その定期船はあるのだろうか? アンジェラがいる時点であるとは思うが、…どうだ?

 

エルランドージャド間の定期船はあった。けれど出航は二週間後、しかもこれを最後に当分は運航を停止させるようだ。理由は海面に浮かぶ流氷が多いことと、凍結をしている箇所が多く安全な航行が難しいこと。定期船のメンテナンスを十分にすれば、一度だけ氷の海を航行出来ると判断したようだ。二週間のメンテナンス後、直ぐ様出航するみたいだから乗り遅れないよう気を付けねば。

 

…何つーか危険な航海になると思うのだが、…大丈夫かね? 無理をして出航せんでもいいような? …俺としてはありがたいけれど。これも主人公補正というものか? 出航せねば物語が始まらんからな。…出航と同時に本当の旅が始まる、聖剣伝説3が始まるわけか…。本当に俺ってどういう存在なのか? …正直不安しかないよ。

 

 

 

 

 

 

チチの家へ戻る途中、アンジェラと会ったが緊張しているっぽい。何故に? と思ったら、アンジェラは聖都ウェンデルへ行くと決めたらしい。決めたはいいが無力な女一人旅は恐い、だから目的地が一緒の俺と共に行きたいとのこと。…なるほど、一緒には行けない…とアンジェラに言ったな俺。だからこそ緊張しながら言ってきたわけか、…断られる可能性が高いとみて。

 

しかしながら朗報ですぜ? ブースカブーに頼れんから船で行こうと思っていたし。更に船は二週間後に出航する1本のみ、旅立つと決めたのなら共に行くのは必然のこととなったのだ。よってこれも何かの縁、共に聖都ウェンデルへと旅立とうか!

 

…たぶんきっと強制力が働いている、この地に来たのもアンジェラに会ったのも全部必然だったんだよ。ああ、俺の人生はどんな道を辿るんだぁ~!?

 

 

 

 

 

 

一緒に行けることが嬉しいのか、アンジェラは不安な顔から一転してニコニコ笑顔。初対面の男に気を許しちゃいかんのでは? と思いつつ、美人なアンジェラに頼られている事実に喜ぶ俺がいる。そんなアンジェラと連れ立ってチチの家へ、二週間後に旅立つとお世話になっている家族へ伝えた。

 

伝えたら残念がられた、特にチチが大泣きした。行っちゃ嫌だとしがみ付いて離れない、…ここまで懐かれたことは嬉しい。嬉しいけれどこれは困った、チチの家族達も困り顔。…どうしようか? なぁ、どうすればいいと思う? ラビ。

 

 

 

 

 

 

悩んだ結果、旅立つ日までチチと行動を共にすると決めた。何をやるにもチチがいる、寝る時も一緒だ。ついでにアンジェラも付き合ってくれている、旅立つ前に俺との関係を深めたいようだ。まぁ旅のパートナーとなるわけだし、互いを知るのは良いことだと思う。

 

共に行動すると言っても基本は遊ぶだけ、それ以外は危険だからね。遊ぶにしても色々あるけれど、集中的にやっているのは雪像作り。雪像と言っても雪だるま風、チチや他の子供達と作っているからね。難しいものではないけれど、魂と願いを込めて作っているのさ。素材と形は違う、…がダークプリーストの村にあるトーテムポールを目指している。俺がいなくなっても天候が悪くならないように、そして都の人達を守ってくれるように。

 

 

 

 

 

 

旅立ちの前日に、雪だるま風のトーテムポールが出来上がった。真摯な祈りを皆でやった為、きっと雪の都エルランドを守ってくれるだろうと思う。チチには俺がブッカから持ってきていたお守りをあげた、凄く嬉しそうにしていたっけ。…勿論、最後の夜も一緒に寝てあげたさ。血の繋がりがない妹って感じ? チチのお陰で俺とラビは不自由なく過ごせた、感謝しかないよ。



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第10話 ~旅立ちの時。

ーリアードー

 

翌日、朝一でこのエルランドを旅立つ。思えば長く滞在したものだ、全てがブースカブー任せだったからな。拒否権がなかったからどうしようもなかったんだけれど、…まぁ今となっては来てよかったってところかね? チチと出会って都の人達と親交を深め、正規の主人公であるアンジェラを助けて行動を共にすることが決まった。…他にも細々としたイベントがあった、総じて濃いエルランド生活だったな。

 

 

 

 

 

 

エルランドで入手した魔物からのアイテム良し! 都で買ったり貰ったりした回復アイテム良し! チチから貰ったお返しのお守り良し! 頭上にラビ! 旅のパートナーであるアンジェラの準備も良し! …忘れ物はないようだ、さぁ定期船に乗り込もう!!

 

 

 

 

 

 

俺達を見送る為にチチも今日は早起きだ、定期船へ向かう道中はチチを抱き抱えて歩いている。眠そうな顔をしているが、無理をして起きているっぽい。その気持ちが俺としては嬉しく、チチに話し掛けて寝ないよう配慮する。寝落ちしたら後々大泣きしそうだしね、別れはきちんとしてやらないと。

 

定期船の前に着いた俺はチチを降ろす、ここでチチの眠気は完全になくなったようで、

 

「…もうおにいちゃんとらびはいっちゃうんだね? おねえちゃんもなかよくなれたのに…。」

 

としょんぼりしている。俺はしゃがみ込んでチチと目線を合わせ、

 

「…そうだな、今日でチチとはお別れになる。」

 

と言いながら頭を撫でる。チチの目が涙で潤んでいる、ついでにラビもビィビィ寂しがっている。もう少しここにいてやりたい気持ちはあるけれど、今日以外に旅立ちのチャンスがないからな。

 

頭を撫でながら、

 

「もう会えない訳ではないからな、今日は笑ってお別れをしよう。俺があげたお守りがあるだろう? 俺もチチから貰ったお守りがある。これがある限り、離れていてもずっと一緒だ。」

 

チチから貰ったお守りを見せてやれば、チチも俺があげたお守りを見せてくる。

 

「…うん、いっしょ。おにいちゃんとらびと、…おねえちゃんと。」

 

チチがそう言った時、俺の横にいたアンジェラがしゃがんでチチを抱き締めた。感極まった様子、…彼女も変わったなぁ。…というか、本来のアンジェラに戻りつつあるだけか?

 

チチの他にその家族、都の人達と別れの挨拶を交わす。それが終わり出航の時間が迫った為、俺達は惜しみながら定期船に乗り込む。船の上から波止場を見下ろせば、チチ以下都で親しくなった人達が並んでいた。こんなにも多くの人達と仲良くなったんだなぁ~、…感慨深いものがあるぜ。…とその時、

 

『船が出るぞぉぉぉぉぉっ!!!』

 

という声が波止場に響いた。

 

出航の合図が響き、定期船が徐々に動き出す。船が動き出したのと同時に、

 

「兄ちゃん、またなぁ~!!」

 

「元気でやれよぉ~!!」

 

「またエルランドへ来てねぇ~!!」

 

「雪像はちゃんと守るからなぁ~!!」

 

という都の人達からの声。その中でもよく聞こえたのが、

 

「おにいちゃんおねえちゃんらびぃ~! またきてねぇ~っ!!」

 

というチチの声。決して大きな声…叫びではないけれど、俺達には人一倍よく聞こえたような気がする。そんな声に応えて、

 

「チチ! みんな! 風邪をひくなよぉ~! …いずれまた行くからなぁ~!!」

 

「ビィ! ビィ!」

 

「またね、みんなぁ~!!」

 

俺達も手を振り声を張り上げて叫んだ、エルランドが見えなくなるまで手を振り続けた。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

エルランドが見えなくなった瞬間に猛吹雪、こりゃたまらんと船内に避難した。この悪天候で航海が出来るんか? と船員に聞いてみれば、航海の日数が少し増えるが問題ないとのこと。…プロの言葉を信じてのんびりするか、…ってなことでやることがないから部屋へと戻る。

 

頭上のラビを膝に乗せ、モフモフしながら何をしようかと考える。外は猛吹雪、俺は寒さを感じないが危険であるのは分かる。船内には当然のことながら娯楽的なモノはない、…となれば寝るしかなくね? と思っていたらアンジェラが絡んできた。

 

…実はアンジェラと同室なんだよね。最後の定期船ということで、客も荷物も多めになったそうで。結果…船室が足りなくなった、つーことで知り合い同士で相部屋となったのだ。俺的には未婚の男女が相部屋なんてダメだろうと主張したのだが、アンジェラが俺以外を信用しきれないとすがり付いてきたので渋々と了承したのだ。

 

ニコニコと俺の隣に座るアンジェラ、もしかしてお喋りっすか? …女って生き物はお喋りが好きだよねぇ。…アンジェラが知らん話といえば、火山島ブッカの話ぐらいしかないけれど良いのか?

 

………仕方がない、そこまで言うならば話してやるよ。話してやるからもうちょっとだけ離れてくんない? …ちょっと落ち着かない。




オープニングテーマを頭の中で流そう!


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ーウィスプ解放ー
第1話 ~ジャド占領中。


ーリアードー

 

チチ達のいる雪の都エルランドから旅立った俺達。悪天候の中の船旅であったが、極寒の地から離れれば天候は回復。部屋に閉じ籠っていた数日分を取り戻すべく、船の甲板に出ては釣りをしたり日向ぼっこをしたりした。ラビもアンジェラも大喜び、…はしゃぎ過ぎて海に落ちるなよ!

 

約一週間の船旅が終わろうとしている。後数時間で目的地の城塞都市ジャドだ、そこから歩きで聖都ウェンデルを目指す。…が何かを忘れているような気がする、………何だっけ?

 

 

 

────────────────────

 

 

 

やっとこジャドに着いた。船旅は予想以上に長かったけれどそれなりに楽しかった、…がやはり陸地こそ人間のいるべき場所だよな。海の上は何ていうかフワフワしていた、俺としてはどっしり構えたい。落ち着くよね? 陸地。

 

無事にジャドへ上陸したけれど、妙に物々しいのは何故? アンジェラもこの雰囲気に若干ビビり気味。…気にはなるがとりあえずは都市内へ行ってみようぜ、この雰囲気の理由が分かるかも。…と気楽に考えていたんだが、都市内へと足を踏み入れた瞬間に見たのがマッチョな男達。何だコイツら? と思った時、一際目立つ男が都市入りしたばかりの俺達に向けて、

 

「ジャドは我々ビースト軍が占領した! 大人しくしていれば危害は加えない!」

 

と凄んできた。…ああ、何か忘れていると思っていたけれどこれのことね。そういえば彼等も侵攻してたんだった、あはははは。

 

 

 

 

 

 

…笑っちまったけれど笑い事じゃねぇな。ビースト軍のせいで都市外へは出られず、更には港も閉鎖されて動けなくなった。俺が一暴れしたら、ジャドの人達に迷惑が掛かる。アンジェラもいるからそれは出来ない、さて…どうすべきか。とりあえず宿にでも行って落ち着こう、ラビはともかくアンジェラがビビっとる。

 

宿に行ってみれば運良く一部屋だけ空いていた、直ぐ様その部屋を借りてアンジェラを落ち着かせる。落ち着かせながらやるべきことを考えてみるけれど、どう考えても先ずは情報収集だよな? アンジェラはこの様子だと戦力外、俺一人で行動すべきか。瞬時にそう考えた俺は、少し落ち着いたアンジェラに俺の考えを話した。それを聞いたアンジェラが申し訳なさそうな顔をしたから、笑って女を守るのが男の甲斐性と言えば照れだした。照れる理由は分からんがゆっくりしていろ、ラビを預けるから面倒をヨロシクな!

 

 

 

 

 

 

…情報収集の基本といえば酒場、そこへ行けば最低でも一つぐらいは有益な情報があるだろう。そう思って都市内を歩いてみれば、…聖剣3の主人公達がちらほらと。…めっちゃ話し掛けたいけれど、既にアンジェラと関わっている。下手に話し掛けて何かに巻き込まれたら、脱出どころの話ではなくなる。そう思いスルーを決意、どの道誰かとは後々関わるしね。

 

…で酒場へやって来た俺、ホークアイっぽいのがいるけれど無視してマスターの下へ。話をしてみれば案の定、有益な情報を教えてくれた。ビースト兵は夜になると変身をする、血が騒ぐ為にジッとはしていられないとか。それで夜な夜な領主の館に集まって好き放題、その間は警備が手薄になるとのことで狙い目…と。

 

早速この情報を持って宿へと戻れば、あまりの早さにアンジェラが驚いた。驚いたついでに、夜までゆっくり出来ることに喜びだした。まぁ船旅で疲れているところにコレだからな、気持ちは分かる。分かるが夜にはジャドを抜け出す、なかなかにハードな行動をすることになるからな。そう言えば顔をしかめるアンジェラ、夜更かしは肌に悪い? …知らんがな!

 

 

 

 

 

 

宿で時間を潰して暫く、外はすっかり暗くなった。窓から外の様子を窺ってみると、情報通りビースト兵は変身をして館に向かって行く。…うん、今しかチャンスがないな。そう判断をした俺はアンジェラを見る、…眠気眼だよこの女。イラッときたが俺は優しい男、この程度では怒らない。

 

…が足手まといだよなぁ、この状態では。見捨てる訳にもいかないからアンジェラを不本意ながら背負うことにした、柔らかい感触に理性を揺さぶられるけれど堪える。…都市を抜け出すまでの辛抱だ、抜け出したら叩き起こしてくれる! 流石の俺も魔物が出現するラビの森を背負って抜ける真似はしない、可愛い相棒のラビに必要以上の負担を強いる訳にはいかぬのだよ。

 

…だがまぁ俺も健全な男である。ジャドを抜け出すまでこの感触を堪能させて貰うぜ? セクハラではなく、これは役得ってヤツですよ?



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第2話 ~ラビの森を抜けて。

ーリアードー

 

情報通りにビースト兵が変身し持ち場を離れた、その隙にアンジェラを背負って脱出。無事にジャドの城壁を越え、ラビの森の入口に出ることが出来た。入口の近くに金の女神像があったから、そこで先ず一息入れよう。俺の背で眠っているアンジェラを起こさなければ、…眠りっぱなしは許さん。

 

 

 

 

 

 

金の女神像の足下、そこへアンジェラをやや乱暴に降ろす。地面を転がりうつ伏せになるアンジェラ、暫くしてから起き上がり俺を見て怒り出した。草だらけの顔で怒っても恐くはない、…というか怒るのは違うんじゃないかい? 逆にここまでの経緯を話しアンジェラを叱る、俺だって眠いんだからな!

 

叱られて落ち込むどころか嬉しそうなアンジェラ、Mなの? …と思った俺は悪くない。まぁとにかくアンジェラが目覚めたんだから先へ進もう、確か…ラビの森へ入って南に進めば村があったような。…進んでいけば立て札ぐらいあるだろう、それを見逃さずに行こうか。勿論ラビを中心に魔物が潜んでいるからな、アンジェラは気を付けろよ。…ラビを殺せないだ? 甘ったれんな! 俺のラビとは違い凶暴なんだから殺りなさい、分かったなアンジェラ!

 

 

 

 

 

 

そんなわけで俺を先頭にラビの森を南進中。案の定、野生のラビを中心にアサシンバグやマイコニドが襲い掛かってきた。俺とラビからしてみれば雑魚中の雑魚、しかしアンジェラにとっては強敵だ。涙目で杖をがむしゃらに振り回して戦っている、その必死さが可愛いと思ったのは内緒だ。まぁ彼女に戦闘経験を積ませる為…手は出さない、その代わり一対一になるよう調整している。それにマジで危なくなったら助けるし、回復アイテムも沢山あるから余程のことがない限り安全だ。

 

安全なんだけれども、アンジェラの奴は野生のラビにボコられて泣いている。泣いていることから無事である、普通は泣くどころか死体となって野晒しになるところだぞ。このラビの森で発覚して良かったわ、アンジェラが思いの外に激弱ってことを。…この先にあるであろう村へ着く前にある程度は鍛えなければ、そうしなければ彼女が死んでしまう。いつも一緒にいるわけじゃないからな、一人で行動することもあるだろう。その為にも杖で戦えるようにしないと、…泣いている暇はないぞアンジェラ。

 

 

 

 

 

 

ややスパルタで戦い方を教えながら進み、最低限の戦闘術を仕込むことに成功した。魔法が使えないと腐り気味ではあるが、何だかんだで素質があるのだろう。魔法の方は未知数だが、杖での戦闘はイケると思う。まぁアンジェラも主人公の一人だし、きっかけがあれば魔法の方もイケると確信している。俺でも分かる程の魔力量だぜ? 身体中から溢れ出るえげつなさっすよ彼女。

 

そして辿り着いた目的の村。え~と…湖畔の村アストリアね、良い感じの村じゃないか。自然の中にあって湖の(そば)、名に恥じぬ村のようだ。情報収集も兼ねて村の中を歩きたいところだが今は真夜中、殆んどの村人が寝静まっているし辺りも暗い。よって今日はこのまま宿へ向かって寝ることにしよう、…疲れたし。

 

………あん? 眠くないだ? …そんなの知らんがな、俺は眠いんだ。ジャドで情報収集したし、お前を背負って脱出したんだぜ? それにほぼ付きっきりで戦い方を教えたわけだ、そりゃあ眠くもなるさ。眠くないと言ってもベッドへ入れば眠れるって、…俺は爆睡する自信があるね。…つーことで今日はこれで終わり、分かったな?

 

………にしてもだ、ジャドと同じように何かを忘れているような気がする。眠くて頭が働かねぇや、…何だったかな? …う~む。

 

…………………………ぐぅ。

 

 

 

────────────────────

 

ー???ー

 

………はぁっ、………はぁっ。…やっとここまで来ることが出来た、後少しで聖都ウェンデルに着くわ。みんなから託された力を節約しながらここまで来たけれど、…少し厳しいかな? …このままじゃマナの聖域のこと、マナの樹と女神様の異変を知らせることが出来ない。…何処かに宿り木、…宿り木になりそうな人がいてくれれば。

 

 

 

 

 

 

………もう、……本当に不味いわ。…私の力、…聖都ウェンデルまでもたない。…このままじゃあ、…せっかく力を託されたのに何も出来ないまま。

 

………何かの力を感じる、……これは…嘘!? ……あの娘達はもう、…なのに何故? …確かめなきゃ。…でも、………そこまでもつかな?

 

 

 

 

 

 

………ああ…もう駄目、…真っ直ぐ飛べない。

 

…残る力を使って強い光を出してみたけれど、……………気付いてくれるかな?

 

………気付いてくれなかったら、…知らせることもなく……消えてしまう。

 

……………どうか、………………気付いて。



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【別視点】アンジェラ《その4》

占い師の下から女の子の家へ戻る途中、丁度良くリアードと鉢合わせた。何やら考え事をしているようだけれど、私の存在に気付くとにこやかな笑みを浮かべて近付いてきた。彼に頼み事があるからか、極度に緊張してしまう。…でもきちんと頼み事を、…お願いを言わなければ進まない。だから私は彼に言った、聖都ウェンデルへの旅を共に行かせて欲しいと。

 

彼が言うにはエルランドから出航する船は一隻だけ、二週間後の定期船のみらしい。よって私が聖都ウェンデルを目指すのであれば、それに乗船するしかなく…必然的にリアードも同じ船に乗船する他ない。…ということは、お願いするまでもなく共に行けるということ?…緊張して損した気分だけれど、リアードが、

 

「これもまた縁、護衛も兼ねて共に行こう。聖都ウェンデルまでの旅路、よろしく頼むよアンジェラ。」

 

と、笑顔でそう言ってくれたのだ。渋々ではなく笑顔で、…本当に嬉しい!

 

リアードが旅のパートナー、先程までの不安が消し飛んだ。今の私は上機嫌、顔のしまりが無くなりニヤついていると自覚する。みっともないとは思うが直せない、私はニヤついたまま彼と共に少女の家へ。お世話になっている少女とその家族へ、リアードは二週間後に出航する定期船で旅立つことを伝えた。少女の家族は残念だと口にし、少女…チチちゃんは大泣き状態で彼にしがみ付く。チチちゃんの家族とリアードは困り顔、当然私はニヤつく顔を引き締めた。この状況下でニヤつく程非常識ではない、…けれど場違いを感じて固まってしまうのは仕方がないわよね?

 

 

 

 

 

その後、旅立ちの日までチチちゃんの相手をリアードがすることに。私も助けて貰った縁でチチちゃんの家でお世話になる、だから私も頑張ってチチちゃんの相手になろうと思う。恩人でもあるし、これを通して仲良くなれたら嬉しい。アルテナの件で私は人間不信気味、それが少しでも改善させれば。改善することが出来ないと、この先苦労すると容易に想像が…ね。

 

チチちゃんの相手になる、…となれば必然的にリアードとも過ごすことに。彼を中心にチチちゃんの相手、都の子供達を巻き込んで遊ぶ。その中でも一番熱いのが雪像作り、形に残るモノを都に…とリアードが言ったのだ。それに食い付いたのがチチちゃんを筆頭とした子供達、…勿論この私も食い付いた。私がチチちゃん達と仲良く過ごせた証になる、気合が入るのは仕方がないでしょ?

 

 

 

 

 

 

…で、雪像が出来上がったのは旅立ちの前日。縦に長い雪ダルマのようなモノに仕上がった、…リアードの故郷にあるトーテムポールという像をエルランド風にしたそうな。トーテムポールは守り神、チチちゃん達とエルランドを守ってくれるよう願いを込めて作られた。リアードや私、チチちゃん達の願いも込められているからきっと守ってくれる。リアードはそう笑顔で言い切っていた、…私もそう思うわよ?…だって、この像の魔力が目に見えて凄いもの。更にリアードから雪像へ力が流れていったのを見たし、…不思議な光が3つもね。

 

正直…この像は普通に考えれば危険なモノ、だってこれ程の魔力を宿しているのよ?アルテナが目を付けるに決まっている。けれど…何でだろう?そう思うのに大丈夫だって、そんな気がするのよね。マナの女神像と同じような神聖さがある、だからこの像はアルテナに侵されない。ずっとエルランドを、チチちゃん達を守ってくれるわ。

 

 

 

 

 

 

因みに最後の夜、リアードはチチちゃんと一緒に寝ていた。羨ましいなって思ったのは内緒だ、…リアードがだよ?決してチチちゃんが羨ましいってワケじゃないよ。

 

…とは言っても一人は寂しい、だから最後の夜はラビと寝かせて貰った。ラビはモフモフで可愛いし気持ちがいい、それにリアードと一緒でとても優しい。こんな私の願いを聞いて一緒に寝てくれるんだもの、………ラビちゃん♪……………うふふふふ♪

 

 

 

 

 

 

旅立ちの朝、今日この日にエルランドを発つ。それは即ち魔法王国アルテナを出ること、生まれ故郷から飛び出すのだ。………命を狙われているから出られることに喜びを感じるのと同時に、やはり今まで過ごしてきたからか少しの悲しみもある。…でも疎まれて愛されていない事実を思い出せば、これは新たな第一歩になる筈よ。

 

自分の足で自分の意志で国を出るのだ、聖都ウェンデルに行けばきっと私にも魔法が!それにこの旅にはリアードとラビがいる、…私は一人じゃない。それがどんなに嬉しいことか、…本当に嬉しいんだから。

 

 

 

 

 

 

私が私になる旅が始まる、私…アンジェラの旅がこの雪の都エルランドから!!



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