エトランジェ帰りの魔女 (ギラスⅡ)
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人物紹介


読まなくてもいいですし読んだ方が楽しいかもという人物紹介と用語解説などのコーナー

エリア88側キャラ、オリジナルなどが登場するたび次第に増えていく予定です。更新された時はその時に読んでみてください。


植村 由也

年齢:21歳(前の世界準拠 現在の肉体年齢は不明)

誕生日:3月11日

身長:172cm(前の世界と変化なし)

使い魔:ティラノサウルス(本来ならばできないもののはず なぜ契約できてるか理由は不明)

固有魔法:治癒魔法

使用機材:F5D スカイランサー、T-2CCV

使用武器:M1919A6、曲刀"アザラフシュ"

階級:元アスラン王国外人部隊エリア88中尉 (ストライクウィッチーズ世界では扶桑海軍軍曹 後に中尉)

 

男性の時の容姿はシンやミッキーほどではないが美形な方。女性となり前世や前の世界同様にややつり目ぎみだが堅い人物という印象は受けない。宮藤芳佳と同じ跳ね方のした両端と前髪の左側のみを伸ばしているのが特徴。左目にアイパッチをしており、それで火傷跡を隠している。

服装はダークグリーンのパイロットスーツの上半分のみとなったようなもの。下は白のズボン(本人曰くただのパンツ)。胸はリーネより少し小さいくらい。

 

転生してエリア88の世界に生まれ変わった青年。学生旅行でフランスにいったら何かの署名運動と間違えて契約書にサインしてしまった。

腕前は空戦一筋であり、サキ<シン<ミッキー<ウォーレン、セラ等<(主人公)……といったところ

 

戦闘機の写真を撮る事、さらには撮った戦闘機やパイロット達のデータ(本人命名"アサルトレコード")を作る事を趣味にしている。その趣味と相まってラウンデルの補佐につく事になる。元88基地移動後は度々行っていたキトリの僚機を務めて終戦まで生き残る。

終戦後に愛機にのって移動中にストライクウィッチーズ世界へと飛ばされ挙げ句の果てに性別まで変わってしまう。

 

その瞬間を楽しむ事を心情にしており何事も楽しそうな方を優先するが、命令された事はキチンとやり遂げる。楽観的に動いているように見えて周りをよく見て行動する冷静さを持ち合わせ、自分も周りも生き延びさせる努力をする若さに似合わない強さを持つ。しかし人の死に直面し手が震える、転生し人物達に関わった事で事象が細かく変化している事に気づき焦燥するなど感情を隠すが行動にでてしまう脆さもある。

 

前の世界では一人っ子で母親は小さな診療所を営んでいた。父親は技術者でとある企業で働いており、その影響で機械いじりが得意になった。

前世では兄がおり、その影響をうけてエリア88やストライクウィッチーズといった作品を見るようになった。その兄は由也が死亡する数月前に家を出て行き音信不通だという。

 

使用機体:F9F-8(加入序盤〜ウルフパック戦まで 撃墜され1月ほど離脱)→F4D-2(〜地上空母〜ギリシャ基地)→F5D(山岳基地)→P-51D(山岳基地脱出〜仮設基地脱出 その後も何度か使用)→F5D(試作機からエンジンが換装され速度はマッハ2に 空母88〜最終決戦)

その他にもT-38(訓練期間時)やRF-5E(地上空母捜索時)を使用した経験がある。

 

 

 

F5D スカイランサー

魔導機:ゼネラル・エレクトリック J79

脚長:100.5cm

最大速度:2,450km/h(高度4,000ft:12,190m時)

搭載可能兵装

本体下パイロン:AIM-9 1発ずつ

翼下パイロン:AIM-9 2発ずつ

もしくはAIM-7 1発ずつ

ロケットランチャーパイロン2基

 

元は由也はマッコイじいさんから購入したF5D。本来ならばプラット・アンド・ホイットニー J57エンジンが搭載されており、最高速度も1,590km/hの第2世代級艦上戦闘機だったが、設計段階で頓挫したゼネラル・エレクトリック J79を搭載した型のものを持ってきており、最高速度はマッハ2にまで上昇している。

 

翼端の丸まった変形デルタ翼が特徴で発展前の機体であるF4D(スカイレイ)と同様に上昇力と速度性能、高高度飛行能力に優れる。また、デルタ翼形状故に運動性能もよいものであった。

F4Dの難点であった全天候性能の改善としてより強力なレーダー装置を装備し、その恩恵でセミアクティブレーダーホーミングミサイルの搭載能力を得ている。

 

しかし、アメリカ海軍はこの迎撃戦闘機から航続距離や汎用性を求めた戦闘機へと望みが移っていたために採用はされたが生産には至らなかった。

 

上記の性能はストライカーユニットとなっても健在であり、由也の腕と相まって運動性能に長けるレシプロストライカーを履いた501メンバーとの模擬空戦でも引けを取らぬ働きを見せる。

 

 

T-2CCV

魔導機:ロールス・ロイス RT.172 アドーア

脚長:101.0cm

最大速度:1,958.4km/h

搭載可能兵装

翼端:AIM-9

翼下:AIM-9、空対艦ミサイル、無誘導爆弾、ロケット弾

 

日本航空自衛隊のT-2の改造機で運動能力向上機(通称"CCV")としての試験機として作成されたもの。

 

通常の飛行機ではできないような迎角での安定飛行や飛行経路の変更無しのヨーイング姿勢制御、姿勢制御無しの遷移移動が可能となっている。この技術を利用してF-2支援戦闘機が完成している。

 

由也のストライカーである当機は坂本のF-2やルッキーニのタイフーンと同様にプロジェクト4側から得た技術や設計図を基に完成したもので、生産可能だったT-2にプロジェクト4の持っていた技術であるCCV技術を盛り込んだものとなっている。前述のF-2やタイフーンが本来の性能より廉価したものであるのに対してT-2CCVは(試験機要素が強いのもあって)より高性能となっている。

なお本来は装備されてないパイロンやFCSレーダー各種、後方警戒レーダーが装備されているため実戦運用が可能である。

 

前代のF5Dより鈍足となったが機動性は上昇しているため由也の行うマニューバが安定してかつ今まで以上の鋭さで行えるようになった。

 

 

 

 

風間 真

年齢:30?(前の世界の年齢、肉体年齢は18)

身長:170cm(以前と変わらず)

使い魔:ユニコーン(神話生物は本来使い魔にできない。なぜできてるのかは不明)

固有魔法:覚醒

使用機材:F-20 タイガーシャーク

使用武器:九九式2号2型改 13mm機関銃

階級: 元アスラン王国外人部隊エリア88大尉 (ストライクウィッチーズ世界では扶桑陸軍大尉)

 

外観的に大きく変わったわけではなく体つきや骨格が女性的になったほど、それくらいに前の世界から中性的だったと言わざるをえない。服装はストライクウィッチーズの世界に合わせてこの世界の軍服に変更している。

 

言わずと知れたエリア88トップエースだった人物。最終決戦において親友との一騎討ちで記憶障害を患ったはずだが、この世界に来た影響か記憶が戻ってきている。

紳士的で冷静沈着、人前で取り乱したり感情的になることは滅多にない。だがそれは由也や涼子といった親しい仲の人間には見透かされることも。刺のある発言や自嘲するような言動が多かったエリア88時代から打って変わってだいぶ落ち着きのある朗らかな性格になったのは記憶を失ったことに合わせ、涼子やジョゼと過ごした平和な日々の影響もあるだろう。

 

非常に高い魔法力を携え、飛行技術と相まって戦闘能力は主人公の名に恥じないものとなっている。しかしながらく実戦から遠ざかっていたため多少のブランクはある模様。それでも大和航空国際線の年少機長にして元エリア88ナンバー1の実力は伊達ではない。

 

 

F-20 タイガーシャーク

魔導機:ゼネラル・エレクトリック F404

脚長:100cm

最大速度:2,414km/h

搭載可能兵装

翼端:AIM-9

翼下:AIM-7、AGM-65、ハープーン、そのほか誘導・無誘導爆弾数種

 

F-5 フリーダムファイター/タイガーⅡの最終発展機といえるノースロップの威信をかけた最高傑作機。

 

F-5Eは軽量安価戦闘機の代名詞であったが、機体は旧型で性能も陳腐化が激しくなっていた。特にレーダー機器や火器管制装置に起因する使用可能兵装の限定化は問題だった。さらに同時期にはより高速のMiG-21や高性能なF-16、MiG-29といった戦闘機が開発されていた。

このF-5戦闘機を使用する国への新たな売り込みとして開発されたのがF-20だった。レーダーおよび火器管制装置の一新により当時最新鋭だったF-16初期ロットに対し使用可能装備は多く、性能の高いGE F404エンジン単発への設計変更という斬新な方法により上昇力や最高速度も向上した。なによりこれだけの性能を持ってなおコストはF-16よりも下というまさに傑作機だった。

 

真はこの機体の性能をフルに発揮しエースとして戦ってきた。そしてウィッチとしてもこの青いF-20で空を飛び怪異を落としていくだろう。

 

 

 

 

 

サキ・ヴァシュタール

年齢:24歳(この世界での年齢 以下全員同じ)

身長:183cm(同上)

使い魔:なし

固有魔法:なし

使用機材:クフィールC2、G.39

使用武器:BAR

階級:ガリア空軍中佐

 

前世にてアスラン王国空軍外人部隊を率いた人間にしてアスラン王室の第一王子。前世では父のアブダエルと共に母の霊廟で自決する。

 

この世界においてもその血筋は健在であり、さらに一族代々が魔法力をもつ。その例に漏れずサキもまた並のウィッチと同じほどの魔法力を有している。

前世と同様に前線で指揮を取る姿は健在で、時には飛行服をつけて使用できるように改造された特別仕様のストライカーを自ら履き、戦闘に参加する姿を見せる。そのため旧エリア88メンバーだけでなくその他ウィッチからの信頼も厚い。しかし逆に上層部からの反発は強く戦力が回されない、階級が上がらないなど様々な妨害を受けることが多い。

ガリアだけでなくカールスラントの人々を多く救った英雄として讃えられているが、本人はそれを否定している。理由としてパ・ド・カレー撤退戦において陥落直前に部下に押し出される形で脱出を余儀なくされ、多くの部下を亡くしたことにある。その事を忘れぬようにと前世と同じく額に×の字の傷をつけている。

 

前の世界よりも性格は丸くなり、心の底の優しさが目立つようになったのが変化と言える。また、身体的に前世よりも若いのが特徴だ。

 

 

 

クフィールC2

魔導機:ゼネラル・エレクトリック J79

脚長:101.5cm

最大速度:2,440km/h

搭載可能兵装

本体下パイロン:無誘導爆弾各種及び増槽

翼下パイロン:AIM-9、シャフリル、ロケットランチャー、無誘導爆弾各種、増槽

 

イスラエルが開発したネシェル戦闘機の発展型。元々ネシェルはフランスのミラージュⅢ戦闘機の違法コピー品とも言える存在だった。しかし産業スパイを使ってまで完成させたネシェルはエンジンパワーの低さに悩まされた。

そこでF-4などに使われるGE J79をライセンス生産できるようにし、これを搭載することでマッハ2級第3世代戦闘機へと発展させることとした。これがクフィールである。クフィールとは子ライオンのことを意味する。

 

特徴は空気取り入れ口のカナード翼だ。これによりミラージュから引き継がれていた揚力問題、離着陸時のスピード問題などが解消することとなり、安定性も格段にアップした。ミラージュ譲りの安価さと高性能は第3国によく好まれ、2000年代を超えた今でも現役で運用されている。

 

ストライカーユニットとなったクフィールはサキの腕と相まって非常に良好な性能を見せる(由也曰く「ハルトマンに匹敵する腕」)。対空戦闘から対地攻撃、迎撃戦闘(インターセプト)までそつなくこなす性能を示した。

 

 

 

 

 

ラウンデル・F・フィッシャー

年齢:55歳

身長:189cm

階級:ブリタニア海軍中佐

 

前の世界でエリア88の副官としてサキを支えてきた名策士。低空侵入攻撃機 バッカニアを愛機としていた。

 

容姿はサキ同様に全く変わらずの姿である。

ブリタニア海軍において前大戦から活躍する空戦部隊指揮官として名が知られている。その作戦は繊細かつ大胆で容赦がない。そのため『海賊(バッカニア)』の異名で恐れられることとなる。

ブリタニア軍上層部の腐敗、特にトレヴァー・マロニー空軍大将の野望に最も早く気づいた人間であったが、歯に衣着せぬ言動で上層部から嫌われておりほとんど行動することができなかった。そのかわりにその周囲の外堀を埋めて弱体化させることに尽力した。

前大戦では自ら航空機を操縦し前線に立つほどであったがさすがに機体性能が追いつかず操縦桿を握ることはほとんど無くなった。そのかわりにエリア88初の空中管制機のオペレーターとしてバックアップ側につくこととなった。

 

 

 

 

 

フーバー・キッペンベルグ

年齢:18歳

身長:174cm

使い魔:ワシ

固有魔法:広域探知

使用機材:F-4E ファントムⅡ Bf-109G

使用武器:MG42

階級:カールスラント空軍少佐

 

前世においてはエリア88きっての実力の持ち主の1人だった男。たかい指揮能力と実力を持ち、防空戦闘にてサキの僚機を務めて戦死した。

 

ブロンズの髪に細いもの優しげな目が特徴。高い格式の家のように厳しく教育を受けたため場によっては相応の態度を示し、日常でも所々でそれが見受けられる。

 

この世界ではフーバーは歴代名のある戦士の家系の1人として生まれる。特に母は前怪異(ネウロイのこと)との戦闘で目覚ましい活躍をしたエースウィッチであり、キッペンベルグの家系は貴族ではないものの軍人ウィッチ双方から憧れの眼差しを向けられる。それはバルクホルンやミーナも例外ではない。

 

彼女もネウロイとの戦闘のために第一線へと向かうが、兵力の差は覆せずカールスラントをネウロイへと明け渡すこととなってしまう。強いての救いは彼女の指揮能力の高さ故に僚機や部隊全員の死者数がゼロであることだ。

それからは上層部の意向に反して昇格の話を全て蹴り前線に立ち続けている。

 

 

 

F-4E ファントムⅡ

魔導機:ゼネラル・エレクトリック J79

脚長:104.5cm

最大速度:2,370km/h

搭載可能兵装

翼下パイロン :AIM-9 4発、AIM-7 2発、空対地ミサイル 2〜6発、無誘導爆弾いずれか

胴体下ステーション:AIM-7 4発、ECMポッド

 

西側第3世代ジェット戦闘機の代表格ともいうべき戦闘機。数多くの国家で運用が行われており、フーバーの原隊であった西ドイツ空軍やNATO軍においても運用されていた。エリア88においても性能の高さから多くの傭兵が好んで使用していた。

 

胴体下部のステーションにはAIM-7レーダー誘導ミサイルを搭載可能で、専用パイロンを取り付ければECMポッドの運用もできる。高いマルチロール性能からワイルドウィーゼルと言われる低空侵入攻撃にも使われた。

一方で格闘戦は得意とは言えず、大型機故の運動性の低さはベトナム戦争においてもMiGを相手に露呈することとなる。

 

F-4のレーダー探知性能はフーバーの固有魔法でブーストされ、通常以上の範囲の探知を可能とする。これを使い彼女は柔軟に戦闘を進める。

 

 

 

 

 

ミッキー・サイモン

年齢:18歳

身長:176cm

使い魔:ウサギ

固有魔法:マルチロックオン

使用機材:F-14A トムキャット、F4F ワイルドキャット

使用武器:M134

階級:リベリオン海軍大尉

 

別名「火の玉(ファイアーボール)ミッキー」

ゲイリー・マックバーンとの死闘ののちに機体が爆発、死亡したがストライクウィッチーズ世界で新たに生を受けた。

 

短い金髪が特徴、整った顔をしておりリベリオン海軍の船乗り達の間では人気が高く「マルセイユの写真よりもミッキーの写真の方が高く売れる」と言われるほど。胸は中くらいだが形はいいとはシャーリー談。

 

前世同様にリベリオン合衆国の中でも有数の大企業の御曹司として生まれる。父親が社長を引退し、彼女が今は社長と軍人を兼任している状況である。その代わりに地位を使って自分たちのジェットストライカーのパーツを生産している。

海軍きってのエースとして名を馳せ、混戦になればなるほど有利になっていくその姿は火の玉(ファイアーボール)として語られる。

 

高い魔法力を有し、固有魔法を持っている。「マルチロックオン」はF-14Aのアビオニクスと連動することで通常以上の数の相手に対し同時ミサイル攻撃を可能としている。

 

 

 

F-14A トムキャット

魔導機:プラット・アンド・ホイットニー TF-30

脚長:118.8cm

最大速度:2,434km/h

搭載可能兵装

本体下パイロン:AIM-7およびAIM-54 各4発いずれか

翼下パイロン:AIM-9、AIM-7、AIM-54 、無誘導・クラスター爆弾、ロケットランチャー

 

旧エリア88メンバーが利用するジェットストライカーの中では2番目に大型のストライカーユニット。艦隊防空任務を主体においた最新鋭の第4世代戦闘機で可変翼機構が最大の特徴といえる。

20度から68度までコンピューター制御でうごくこの翼は速度に合わせて変化し、この機体の運動性能と機動性に役立たせている。しかしその分重量がかさみ、運動エネルギーロスも大きいため扱うにはある程度の慣れが必要である。

また、エンジンも曲者でフレームアウトを起こしやすいという問題がある。また大型であるのが災いし、片方のエンジンが停止するとそのままバランスを崩してフラットスピンに陥る。

レーダー探知距離はどの機体よりも長く200kmを超える。このレーダーとAIM-54(フェニックス)の連携によりアウトレンジからの攻撃を可能としている。

 

ミッキーはベトナム戦争でこの機体を扱っており、手足のように動かすことができた。そのためこの世界においてもストライカーユニットとして愛用し続けている。

 

 

 

 

 

グレッグ・ゲイツ

年齢:25歳

身長:152cm

使い魔:ハイイログマ

固有魔法:怪力

使用機材:A-10A サンダーボルトⅡ、F2A バッファロー

使用武器:ボフォース40mm機関砲改

階級:スオムス空軍大尉

 

前世では母親を亡くした少女を諭す際に拳銃で撃たれ、その傷が原因で死亡している。

 

ルッキーニ並に小さな体が特徴。ボーイッシュな見た目をしているが肌は非常に白い。由也から「合法幼女」と言われるほどに幼く見えるがれっきと成人済みである。

 

スオムスに籍を置いていた彼女は戦争初期においてF2Aを利用した対地戦闘で活躍する。固有魔法の「怪力」を使い20mm機関砲で相手を粉砕する様は前線の士気に大きく影響したという。

無類の酒好きで上官から嫌われることも多々あるが子供好きな一面から部下の面倒見はよく、ウィッチだけでなく整備兵などからも好印象に見られる。

また、Bf109に転換するという話があった時には「速度が上がると敵を狙いにくい」と言って拒否し、周りに合わせてF2Aを使い続けたという。

その根底には前世の地上空母との戦闘で多くの仲間を亡くしたことが無念であり、1人でも多く守ろうという気概があるからだ。そのため魔法力のあがりを見せ始めた今も前線で体を張っている。

 

 

 

A-10A サンダーボルトⅡ

魔導機:ゼネラル・エレクトリック GF-34

脚長:106cm

最大速度:706km/h

搭載可能兵装:空対地ミサイル、無誘導爆弾、ロケットランチャー各種。

 

エリア88で運用された機体のなかでも最新鋭の攻撃機。高い剛性と低速での安定性能が売りで片エンジンが吹き飛んでも飛行可能なほどである。

また翼から本体にかけてかなりの数のパイロンがついており、11箇所に7tもの武装を搭載することができる。

 

この機体はCAS機と呼ばれ対地支援戦闘において無類のない強さを発揮する。さらにグレッグは自身の固有魔法で40mm機関砲を空に持ち出し運用している。この組み合わせの前では陸上ネウロイは跡形もなく木っ端微塵に吹き飛ぶ。

 

 

 

 

 

セイレーン・バルナック

年齢:16歳

身長:168cm

使い魔:シロヘビ

固有魔法:なし

使用機材:F-104G

使用武器:トンプソンM1A1

階級:なし(リベリオン籍の民間人)

 

通称"セラ"。前の世界では元プロジェクト4の兵士だったが離反、エリア88の一員として戦った。

 

前世と最も容姿が近い。(元から女性なのだから当たり前だ) しかし年相応に幼くはなっている。

 

負けん気が強く男勝りな性格。ただ幽霊が苦手で可愛いものが好きと少女らしい一面も見せる。

前世で恋仲となったミッキーとの関係はこの世界でも健在、隙を見つけてはイチャつく姿が確認されてる。

だがそんなミッキーでも彼女が軍属になるのは全力で反対した。だがどうしても肩を並べたかった彼女はジュゼッペ・ファリーナに協力してもらい彼直属のテストパイロットとして再び空を飛ぶ。由也のT-2CCVを仕上げたのも彼女である。

 

 

 

F-104G スターファイター

魔導機:ゼネラル・エレクトリック J79

脚長:100.0cm

最大速度:2,450km/h

搭載可能兵装:AIM-9、無誘導爆弾、ロケット弾

 

日本人では「三菱鉛筆」の愛称で親しまれる超音速要撃機。加速と上昇力では最新の戦闘機にも引けを取らない性能を持つ。

 

全体的に小型で電子機器も要撃機として最低限のものとなっている。そのためレーダー誘導ミサイルが装備できず航続距離にも欠ける。しかし翼面荷重は高く対地攻撃可能なマルチロール戦闘機として各国で採用されることとなる。

しかし操作には癖があり過敏で事故率が高いのが難点である。(カールスラントでは多くの機体が導入されたが、超音速機に慣れず事故で破損するストライカーと病院送りになる新兵が増えてしまった。)

 

セラは前世においてNATO軍から奪取してエリア88と合流した際の機体を愛用していた。その時に気に入ったか元の愛機であるMiG-21よりもF-104を好んでいるようだ。

 

 

 

 

 

チャーリー・ダビットソン

年齢:18歳

身長:161cm

使い魔:ハヤブサ

固有魔法:なし

使用機材:F-16A ファイティングファルコン、スピットファイア Mk.Ⅸ

使用武器:M134

階級:ブリタニア空軍中尉

 

不死鳥(フェニックス)チャーリーの名前で通ることが多い彼女はかつて風間 真との戦いで死亡した人間だ。その内容は神崎 悟からの依頼によるものだった。

 

ブロンズのショートボブが特徴の常に笑顔の消えない少女といったところ。人によっては胡散臭いという印象を受けるという。

 

ブリタニア空軍に入隊した彼女の腕前は前世から落ちることはなく、多くの戦場で被弾はしても被撃墜や墜落を一度も経験していないことから不死鳥(フェニックス)と呼ばれる。同じ機体を常に使い続けており、機種転換するまで乗り換えなかったという逸話がある。

基本的に1人で動く事がおおい彼女だが、部隊の指揮をやらせてもそれなりに活躍する。周りを配慮してとぶため一時期は教官をやっていたこともあるようだ。

 

 

 

F-16A ファイティングファルコン

魔導機:プラット・アンド・ホイットニー F100

脚長:101.5cmcm

最大速度:2,474km/h

搭載可能兵装:AIM-9、無誘導爆弾、ロケットランチャー

 

アメリカ空軍のハイ・ロー・ミックス構想をもとに作られた軽量戦闘機。F-15(イーグル)よりも小型でフライ・バイ・ワイヤやCCV技術を操縦系に組み込むことでF-5のようなそれまでの機体をこえる運動性を誇る。比較的に戦闘機として安価なのも特徴の一つである。

チャーリーがあやつるF-16は初期型でAIM-9しか空対空ミサイルを搭載ができない。これに競合するのがF-20であった。

 

デジタル化されたこのストライカーユニットはレシプロ同士の空戦からネウロイとの戦闘まで幅広く活躍する。チャーリーの腕前とF-16の性能が合わさることで前世を彷彿させる動きを見せる。

 

 

 

 

 

グエン・ヴァン・チョム

年齢:24歳

身長:164.7cm

使い魔:トラ

固有魔法:なし

使用機材:F-105D サンダーチーフ、F2A バッファロー

使用武器:M134

階級:チュノム空軍中尉

 

かつては南ベトナム空軍に在籍し、ベトナム戦争を体験した人間。悲惨な過去からか残虐さがでていたが子供好きの一面もある。

前世では戦闘中に脱出装置の故障で強制ベイルアウトさせられ、その時の傷が原因で死亡した。

 

前世同様に顔に大きく傷痕があり、目つきや言動からキツい人間の印象を受けやすいが決してそんなことはない。

 

ストライクウィッチーズ世界でもベトナムにあたるチュノムに生まれる。しかしウラルを超えてくるネウロイの戦火に晒され、誕生と同時に母親が死亡するという壮絶な始まりをする。

魔法力があることがわかってからは現地空軍に入隊し扶桑のウィッチのもとで教導を受ける。その後アジア方面で幅広く活躍し、その暴れっぷりからチュノムに伝わる人喰い虎の伝説にちなみ「トンキン湾の人喰い虎」と恐れられ讃えられる。扶桑のウィッチとの面識も多く坂本 美緒や竹井 醇子らとの面識もある。

 

 

 

F-105D サンダーチーフ

魔導機:プラット・アンド・ホイットニー J75

脚長:129cm

最大速度:2,208km/h

搭載可能兵装:AIM-9、空対地ミサイル、各種無誘導爆弾

 

「センチュリーシリーズ」と呼ばれる100番台戦闘機の一つ。機種は戦闘爆撃機とされ、胴体部に爆弾槽を有しているのが特徴。単純な脚長ではもっとも大きなストライカーユニットとなる。

エリアルールの採用によるコークボトルのような曲線を描いた形をしており、マッハ2のスピードを誇る。その速度で核攻撃を行うのが本来であるが、元の世界同様に低空への高速侵入などの戦闘に引っ張り出されることが多い。

 

対地攻撃に対して戦闘機とは思えぬ強さを発揮し、大量に搭載した爆弾による爆撃は下手な機体での火力を遥かに上回る。しかし爆装状態のF-105は非常に鈍足になり空戦ができなくなってしまう。爆弾を落として身軽になるか制空装備であればMiGを凌駕する機動性を発揮することが可能である。

 

グエンのF-105は機首が黒に、それより後ろがタイガーストライプに塗装されている。かなり派手な塗装だがこれも傭兵部隊であるエリア88の特徴といえる。

 

 

 

 

 

マリオ・バンディーニ

年齢:16歳

身長:156cm

使い魔:黒猫

固有魔法:身体強化(対G)

使用機材:G.91(FT)、クフィール

使用武器:MG42

階級:ロマーニャ空軍少尉

 

元イタリア空軍「フィレッツェ・トリコローリ」曲技飛行隊の隊員でソロメンバーを任されていた凄腕の持ち主。"本物の空戦をするため"にエリア88に志願しトップエースとして名を馳せたが、逆宙でのレッドアウトで気を失い撃墜された。

 

前世に負けず劣らず美形を保つ。艶やかでふくらみのある黒髪と綺麗な丸を描いた瞳は多くの人を魅了する。ちなみに由也とセラを抑えてエリア88の中で胸の大きさがトップ。

 

前世ではややナルシズムの強めな言動は鳴りを潜め、周りを見れる余裕のある性格となった。それでもエースウィッチのプライドは強く、時々尊大な発言をすることも。

ロマーニャが誇るエースの1人でエリア88内で最もメディア露出の多い人物でもある。優れた容姿とエースウィッチらしからぬ派手な戦闘から非常に人気が高くファンも多い。イベント事の際には曲技飛行をこなし、普段は前線でエースウィッチとして活躍する日々を過ごす。武勇伝の中には一瞬で2つのネウロイを撃墜したというものもある。

 

 

 

G.91

魔導機:ブリストル・シドレー オーフュースMk.803 D11

脚長:90.6cm

最大速度:1,075km/h

搭載可能兵装:翼下に無誘導爆弾、ロケット弾

 

フィレッツェトリコローリをはじめ小型軽量で安価な戦闘機として設計された機体。

 

そのコンパクトさから高いSTOL性能を持つが、搭載可能な武装が少ないのがデメリット。レーダー機器も無くミサイルも搭載できないため近代的な空戦は難しい。特にほぼ同時期により高性能なF-5A フリーダムファイターがロールアウトしていたのが運の尽きだろう。

だがその小柄な機体サイズは機動性で優位に立つことができる。だからこそフィレッツェトリコローリで長く愛用されたのだ。

 

この世界でもマリオはG.91を愛用したがクフィールが配備されてからはそちらをメインで利用する。今となってはこの機体は予備兼イベント曲技飛行用であり、塗装もフィレッツェトリコローリのものになっている。

 

 

 

 

 

バクシー・マローン

年齢:25歳

身長:161cm

使い魔:プードル

固有魔法:弾道補正

使用機材:A-4F

使用武器:エリコン FF20mm機関砲

階級:スオムス空軍少尉

 

前世においてグレッグとともに逃し屋を切り盛りし、とある事情から共にエリア88に志願した。しかし地上空母との決戦において戦死する。

 

だらしなく伸びた髪が特徴。少し鼻が高く細目。由也曰く「キチンと整えれば美人になるだろうけど本人にその気がない。」

 

物腰柔らかく優しい性格、しかし内気であまり口には出さない不器用さがある。

グレッグとともに対地攻撃ウィッチとして空を飛んでいるエースウィッチ。腕はいいのだが着陸でヘマをしたり物を乱雑に扱うことが多く、ニッカ・エドワード・カタヤイネンと並んでストライカーの破損率が非常に高い。以前までF2Aを利用していたのはグレッグと違い、よく壊すため修理しやすい機体を好んで使っていたため。

魔法力のあがりをみせている年齢でありながらもまだ飛行し続けるのは「グレッグから目を話すと危なっかしい」かららしい。

 

 

A-4F スカイホーク

魔導機:プラット・アンド・ホイットニー J52

脚長:96cm

最大速度:1,077km/h

搭載可能兵装:4つの武装パイロットにAIM-9、対地ミサイル各種、無誘導爆弾、ロケット弾

 

小型軽量艦上攻撃機の傑作機とも知られる機体。高い機動性からブルーエンジェルスやトップガンでも使用された。

 

尾翼付きデルタ翼で電子機器を搭載したポッドを背負っているのが外観的特徴。そして何よりこの小柄な見た目に見合わぬほどの翼面荷重を持ち合わせている。メンテナンス性に優れている点もあり、多くの国で長く愛用された。

このサイズでかつ特徴的な翼構成の恩恵あって格闘戦性能にも優れ、対地ロケットでMiGを撃墜した実績もある。そのMiGに機動性が近しいとされ仮想敵機役としても運用された。

 

エリア88にも多くの機体が配備されクフィールやF-4E、F-5シリーズなどと共に終戦まで運用された。運用に際して砂漠迷彩が施されている。

 

 

 

 

 

カルヴィン・キャンベル

年齢:18歳

身長:160cm

使い魔:オオカミ

固有魔法:なし

使用機材:A-4F

使用武器:エリコン FF20mm機関砲

階級:リベリオン海軍少尉

 

『鉄腕キャンベル』の名前で通るエリア88のエースの1人。右手と左足が義手義足なのが特徴でベイルアウト時に置いていってしまうこともしばしば。

 

長い金髪と丸い目が優しそうな印象を受ける。前世からの特徴であった義手義足もそのまま受け継いでいる。

 

なにかと血の気の多いエリア88の中では珍しく温厚でのんびりとした性格。由也と並んで良心として喧嘩の仲裁役をすることも多い。

対地攻撃から対空戦までマルチロールにやってのけるウィッチ。何度かの実戦経験のうちに腕や足が吹っ飛び片足片手がなくなってしまっている。しかし実力は折り紙付きで鈍足のA-4Fながらもプロジェクト4側の超音速機と対等に渡り合える。

冷静に物事を観察して素早く行動するのがセオリーで戦術の似た由也とは前世からロッテを組むほどの付き合い。この世界でも共に飛ぶ姿が見られる。

 

 

 

 

 

ゲイリー・マックバーン

年齢:18歳

身長:167.7cm

使い魔:タカ

固有魔法:なし

使用機材:F/A-18A ホーネット、F4F ワイルドキャット

使用武器:M134

階級:リベリオン海軍大尉

 

かつてはプロジェクト4の部隊指揮官だったが娘の死でヤケになりアスラン首都を無作為に攻撃、神崎によって殺害される。

この世界においては他メンバーとは違って女性としての立ち振る舞いをすることを心がけている。ただ突然のことがあるともとの男性口調がでてしまう。

 

肩ほどまでの長い黒髪が特徴の年不相応な女性といった雰囲気をまとう。だいぶ年上に見られるが、本人は特に気にしていない模様。

 

スラムの出身で前世同様に空への憧れからリベリオン海軍へと志願する。実力で大尉級まで上り詰めた実力派でミッキーとは対の立場にある。その腕前はリベリオン海軍内でも指折りのウィッチの1人として数えられるほど。

部下の面倒見はもっともよく、部隊指揮官として優秀。教官としての腕も高くウィッチ教導の任務に長くついていた。

ミッキーとは長い付き合いであり、腐れ縁ともいえる仲である。

 

 

 

F/A-18A ホーネット

魔導機:ゼネラル・エレクトリック F404

脚長:110cm

最大速度:2,082km/h

搭載可能兵装:AIM-9、AIM-7、AIM-120、AGM-84、空対地ミサイル、誘導・無誘導爆弾各種

 

アメリカ海軍の最新鋭戦闘機であり、戦闘機と攻撃機両方の符号をもつ特殊機体である。軽量双発機という特徴のプロトタイプ機YF-17(コブラ)に目をつけたアメリカ海軍によってA-6の後継とF-14の後継機として設計し直し、採用された。

機体性能はF-14に劣るが運用コストは遥かに下である。その上で数多くのミサイルや爆弾兵装を搭載可能であるため長く愛されることとなる。

運動性能や機動性も非常に良好でアメリカ海軍曲技飛行部隊「ブルーエンジェルス」に採用され、現在でも運用が行われている。

 

マックバーンの機体もまたブルーエンジェルスカラーに塗装されており、非常に目立つ存在となっている。発案者はミッキーである。

 



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過去編:鎖の切れた一角獣

俺が男だった時の話をしよう。

あの地獄の中、戦友達とともに飛んだ記憶だ。

そうだな……あいつとの話をしよう。俺と同じ日本人の戦闘機パイロットの話だ。
とんでもなく腕の立つまさにエースパイロットそのものだった。だけど戦場にいるべき人間でもなくて……ってそれは俺も同じか。

だけど行動力は良くも悪くも俺以上だったよ……脱走するくらいには。


1979年 中東(ミドルイースト)アスラン王国

 

ここは数年ほど前より紛争が続いていた。原因は穏健派のザク・ヴァシュタールと急進派であるその兄、アブダエル・ヴァシュタールの不仲にあった。

新国王となったザクの方針に反発したアブダエルは反政府軍を結成、ザク派に対し戦争を仕掛けた。

 

冷戦の色濃く残る時代、反政府軍は東側諸国兵器を使用。対し政府軍は西側諸国および中東製兵器で身辺を固めた。

 

しかし兵器は金で買えれど兵士の育成はできなかった。

 

アスラン王国政府は傭兵の雇い入れを開始。当初から設立されていたエリアの末尾ナンバーとして基地を新設する。

 

COIN機によって編成されたエリア81、ヘリで編成されたエリア84およびエリア85、そこに吸収されたエリア81、82。傭兵部隊だったが正規軍へと編入されたエリア86、87。

 

そしてジェット戦闘機パイロットたちで編成された傭兵戦術航空部隊。その名は____

 

エリア88

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直角に刺さるかのように錯覚する日差し。焼けるコンクリート。一歩外に出れば一面の砂漠。まさに地獄の一丁目……それがエリア88だ。

 

ここがどう地獄かと聞かれればいろんな声が上がるだろう。人命を度外視した作戦、出撃ルーチンの厳しさ、法外的な値の貼られた敵の命____あげればキリがない。

 

そんなところに数少ないアジア人、それも日本人の姿があった。周りのメンバーにくらべ年齢の低い彼の名は「植村 由也」という。とてもこの硝煙の匂いかおるこの場所にはいるはずもない人畜無害そうな少年だ。

やや吊り目だが瞳は明るく、艶やかで本人曰く親の遺伝だと言う両側の跳ねた髪が日に当たって輝いている。

 

そんな彼と共にいるのはグスタフ・タンヘルム。ここエリア88基地の整備班長をしている男だ。

 

何をしているのか、それは由也の愛機のメンテナンスだ。彼の愛機はF9F-8、愛称は"クーガー"。遷音速の旧式艦上戦闘機でちょうど今年で最後の使用国で最後の機が退役したものだった。

性能は現役のF-5やクフィールおろかA-4にも劣るが、由也はこの堅実な戦闘機をエリア88に来て以来ずっと使い続けていた。

 

全体のチェックも終わり、機から離れる。

 

「……よし、問題は無さそうだ。」

 

「サンキュー、グスタフ。金額は俺のターゲットチップ(エリア88での個人通帳のようなもの)から勝手に引いといてよ。」

 

「ああ。しかしお前のクーガーは物持ちがいいな。カーライルのスカイホークも相当長持ちだが、お前のはその次だよ。」

 

「そりゃいい褒め言葉だ。限界以上のことがしない主義なもので。」

 

ニヤリと笑う由也。自分の機を後に駐機場(エプロン)から離れた。

 

 

 

 

 

食堂が唯一、傭兵達が心を休める場所だ。トランプに勤しみ、撃墜スコアで自慢をしあっている。由也だけでなくミッキー・サイモンやグレッグ・ゲイツのようなエリア88のトップエース達がここにいつも集まっているのだが、今日はどうも人の数が少なく感じる。

 

食堂に入るとそこには様々な写真が貼られており、人だかりができている。ここ最近の傭兵たちの楽しみにもなっているもので、新庄真という戦場カメラマンが撮っているものだ。中には金を渡してまで撮ってもらった者もいるらしい。

 

プロであるため非常に綺麗に仕上がっている。由也も写真を撮る趣味があるが、やはり新庄のそれには遠く及ばない。

 

由也の写真も貼ってある。出撃前のエンジンスタートの時の写真だ。我ながら随分凛々しい顔をするなと思う。

 

すると後ろから声をかけられ、そっちを振り向く。

エリア88の対地戦メンバーのバクシー・マローンだ。

 

「よっ、ユウヤ! 調子はどうよ。」

 

「バクシーか。まぁ稼いではってところだ。機体もそんなガタがきてるわけでもなく、撃墜数が伸び悩んでるわけでもなく。」

 

「機体が壊れて無いだけマシじゃねえかよ。」

 

「お前が壊しすぎなの。買って一月でスカイホークを壊す奴がどこにいるんだ。」

 

「あれは買った機体が悪かっただけだ!」

 

「そーやって他のせいにしてさぁ!ちったあ自分の腕が悪いのを自覚しろやい!」

 

由也とバクシーがぎゃーぎゃーと騒ぎ合う。普通なら誰か割ってはいるのだがエリア88ではこの程度の喧騒は日常の出来事だった。

 

その時、アラートが鳴り響く。この時間に来るのはいつもの定期便だろう。

 

ため息をつくと由也は話もほどほどに食堂を出て駐機場の愛機の元へと向かった。

 

 

 

 

 

由也のクーガー、そしてこの基地の紅一点のキトリ・パルバーネフのミラージュF1、由也の友人でこの基地のもう一人の日本人である風間真のF-5 タイガーⅡが離陸位置につく。

 

「奴さん暇そうみたいね、相手してやりましょ。」

 

「いっそ暇な方が良いんだけどなぁ。」

 

「そう言わないの。」

 

由也とキトリが笑いあう。タキシングするとスロットルを全開にし離陸する。シンを先頭に右にキトリ、左に由也がつく。

 

由也は発進前にシンの横顔をみた。いつもの冷静そうな顔に焦りのようなものを感じた。もしやと由也は思う。

 

由也は転生者である。生前話題になった神様転生というものでは無いが前世の記憶を持ち、そして現に「エリア88」という作品に関する記憶を持ったままこの場にいる。

彼は前世の記憶を探る。もしかするとシンは違約金である150万ドルに一歩手前まで達しているのかもしれない。それならば……

 

「真……」

 

「どうした由也?」

 

「……焦るなよ。命あっての物種だ。」

 

「……ああ、わかってる。」

 

真は短くそう答えた。だが心配だ。もしかすると、ということがあるかもしれない。その時は我が身を挺してでも、由也はそう考えていた。あのエンディングを迎えたくはないがためにも。

 

 

 

「敵機前方より接近、数6、2分後に会敵。」

 

「了解したわ。」

 

「こちら由也、了解した。」

 

前方から敵機が近づいてきたようだ。由也のクーガーには簡素な測距レーダーしか無いため視界以上の事はわからない。タイガーⅡやミラージュF1の探知レーダーに頼るしか無い。

 

前方から6機、編隊飛行で接近する。機種はすべてMiG-21、小型軽量の超音速戦闘機でこちらのタイガーⅡやミラージュF1とも引けを取らない高性能のロングセラー機だ。

 

3機は増槽を捨てて各々戦闘を開始する。由也は左端の一機に狙いをつける。ヘッドオンでまず一機だ。

 

敵のMiGと由也が同時にミサイルを発射する。由也は急上昇、太陽に向かって飛んでいく。対してMiGは回避が遅れ正面からAIM-9(サイドワインダー)を喰らい、破片となって空に消える。

 

スロットルを抑え太陽から逸れると、由也を追っていたミサイルは太陽をバーナーの炎と間違え飛んでいく。

これで脅威は去った、次のターゲットだ。

 

レーダーが無いクーガーはここで不利になりやすい。だが由也の目は特別良かった。真の後ろに付こうとしているMiGを見つけると降下し逆に相手の背後に迫る。

 

機関砲で牽制して真から注意を逸らす。狙い通りMiGはこっちに狙いを変えて旋回する。だが優位にたっているこの場を譲る気はさらさらない。

激しいシザース機動で翻弄せんとする思惑を正確に追従することですべて叩き折る。ましてクーガーの方が軽量でかつ最高速度に劣る、どんなに全力でエンジンを回してもMiGに追いつくおろか追い越すことは無理だ。

 

引き離されるよりも前にMiGをロックオンし、AIM-9を放つ。白い線を引く槍は激しい機動をするMiGの後ろをより速く追い回し、エンジン付近で破裂する。

エンジンから火がつき、バラバラになりながら落下していく。それを見送ると機体を動かし真を確認する。

 

青いタイガーⅡがMiGを追いかけるが、撃墜にまでは至っていない。いつもなら必中の攻撃に鋭さが無い。

2発のサイドワインダーを無駄にしてなんとか一機落とした。だがやはり焦っているのが丸見えだ。

声をかけたいが、それよりも先にキトリの方がピンチに陥っている。

 

「メーデー、メーデー!後ろに付かれた!」

 

「っ! 真、そっちの一機は任せた!」

 

そう言い残すとキトリの方へとクーガーを走らせる。たしかにMiGがガッチリくっついている。

 

MiGとキトリの間に割って入り、あえて煽るようにローリングしてみせる。思惑通りMiGはこっちに標的を変えて追ってきた。

 

「キトリ! 今のうちにMiGの後ろに回り込め!」

 

「わかったわ!」

 

MiGをなるべく引き付けつつ、だがけっしてロックオンされないようにシザースしつつ飛行する。

 

MiGの背後、キトリがついに後ろを取り返す。ミラージュから撃たれたAIM-9がMiGの腹這いに当たり、燃料に誘爆、一瞬で空中に散っていった。

 

「よしっ、ナイスキルだ!真は!?」

 

真の方を振り向くと、高度を落としたタイガーⅡが煙を拭いているのが見えた。敵の弾をエンジンに喰らったらしい。

 

「! 真!!」

 

クーガーが反転しタイガーⅡの後ろを陣取るMiGへと向かう。

 

残りAIM-9は2発、その両方のロックを外す。赤外線追尾シーカーが急激に冷却されていき、MiGのエンジンを注視する。

由也の引くトリガーに合わせてロケットが噴射され、一気に加速しターゲットへと飛んでいく。2つの火炎がMiGにぶつかると特徴的な円筒を3等分に叩き折る。

 

火の玉となって落ちるMiGを端目に由也は真の隣に寄る。

 

「真、大丈夫か?」

 

「ああ……まだ飛べる。」

 

「反政府軍は全部落とした、さっさと戻ろう。」

 

真を囲むように編隊を組んで基地へと戻る。騙し騙しで飛んでいるが、基地までは保ちそうだ。

 

「エリア88管制塔(コントロール)、こちら由也。真が被弾した。火は出てないが念のため救急車と化学消防車を頼む。」

 

「こちら管制塔、了解した。滑走路に手配しておく。」

 

「よし……それじゃあ先に降りなよ真。」

 

「ああ……すまない。」

 

「いいんだよ、早くいきな。」

 

由也とキトリは上空で待機し、真はフラップとギアを下げて着陸態勢に入る。エアブレーキを全開にして速度を落とすとタイガーⅡ特有の高いピッチ角で着陸する。

 

「真!」

 

「あっ!シン!?」

 

着陸成功したその瞬間、本来なら耐え切れるはずの左脚が衝撃で折れ左翼が地面によって擦り下ろされる。バランスを崩したタイガーⅡは機首を地面に叩きつけ、火花と炎を上げて滑走路を滑っていく。

 

滑走路を外れてなお砂を巻き込み、やっと停止すると待機していた消防車がタイガーⅡの周りに集まる。

 

「キトリ、俺達も降りるぞ!」

 

「ええ!」

 

管制塔の言うことも聞かずに由也達も滑走路へと降りていった。

 

 

 

機体をエプロンに停めると真のタイガーⅡへと駆け寄る。火災は止められ、白と青のボディは消化剤で濡れていた。

 

こういう時に真っ先に飛んできそうなミッキーなどはいなかったがマッコイじいさんという基地御用達の武器商人はすでに来ている。

真はタイガーⅡから降りるとマッコイじいさんに尋ねた。

 

「マッコイ、この機体を修理するのにいくらかかる!?」

 

「……シン……買い換えた方が早いよ。同程度の機体でなるべく安いやつを持ってきても50万ドルはかかるぜ。」

 

「2万ドルを焦って50万ドルの出費か……ザマァないね……」

 

真が自嘲気味に笑う。そこに由也が口を挟む。

 

「真、50万ドルくらい俺が出せる。そうすれば……」

 

「いや、それはお前が国に帰るための金だろう。使うべきじゃないよ……気持ちだけは受け取っておくよ。」

 

そういうと整備兵の車に同乗する。由也とキトリもそれの後を追って乗り込んだ。

 

それをとある黒人パイロット3人組に見られていることも知らず……

 

 

 

宿舎まで行こうとすると目の前で何人かが集まって何かをしている。目を凝らすと、ミッキーやグレッグらがジャーナリストである新庄をリンチにかけてるのが見えた。

 

車が集団の前に停まるのも待てず由也がたまらず飛び降りた。

 

「ミッキー!お前達揃いも揃って……何やってんだ!」

 

「何、裏切り者を制裁してやってるだけだ。」

 

「この野郎、俺達を騙しやがって……」

 

「裏切り?騙す……? ミッキー、グレッグ!何のことを言ってるんだ!?」

 

「知らないんだろ、シンジョウがエリア88に来た本当の目的をよ!」

 

ミッキーが話始める。新庄はとある人物からの依頼で真の死に顔を撮りに来たのだという。

由也はもうそれが誰かわかっていた。神崎だ。自分の手を汚さず何があっても責任が自分に届かぬようなっている。その手腕には舌を巻かざるを得ない。

 

周りが次々と好き放題罵る中、新庄が呻くように弁明する。

 

「ち……違う……俺はそんな依頼なんてもう……」

 

「まだ言うか、ええ!?」

 

一人が新庄の胸ぐらを掴んで持ち上げると腕を振り上げる。そのまま新庄の顔に拳が____

 

「いい加減にしろ……このバカ共!」

 

「いっ……ユウヤお前!こいつの味方をするってのか!?」

 

ギリギリで由也が手で受け止めた。新庄から引き離すとミッキー達と向かい合う。

 

「味方だなんだ、そういう低次元な話をしてるんじゃない。俺達が新庄にあーだこーだ言うのが間違いだって言うんだ。」

 

「なんだと!? お前自分がそいつに利用されてきたの分かってて言ってるのか!?」

 

「その男の写真を楽しみにしてた奴らが言うセリフか!グルグル手のひら返しやがって!」

 

今まで新庄を責めていたメンバーがうぐっと言葉を飲み込む。さらに追い討ちをかけるように由也の舌は回り続ける。

 

「それにお前達だって軍人の端くれだろ!?この中には元軍属だって何人もいるはずだ!それが反撃もできない民間人をリンチして……人として恥ずかしくないのか!揃いも揃って恥知らずの卑怯者ばかりで!」

 

由也の怒りは収まらない。果てより最も嫌いな戦争をやらされてる立場、無作法で粗雑で喧嘩っ早い、年中戦争のことばかりな彼らには我慢の限界だったのだ。そこにこのような事があればどんなに心を押し殺しても彼の感情は爆発せざるを得ない状況だった。

 

そんな彼を止めれるのはただ一人、真だけだった。

 

「そこまでにしておけ、由也。」

 

「真……だけど……」

 

「もういいだろ、言いたいことは言い終わったはずだ。」

 

「う……わかった。」

 

真にそう言われ引き下がる。真はボロボロになった新庄に向き合うと言い放った。

 

「俺は許すよ。」

 

「えっ……真?」

 

「許すって言うんだけど、新庄。もう依頼のことなんていいんだろ?」

 

「……ああ。もう依頼なんて関係ない。ただここの連中の、真の写真が純粋に撮りたいだけだ。」

 

「……ならいい。お前達もこれでいいだろ?」

 

渋々、といった様子だったがこうなっては納得するしかない。勢いの削がれたメンバー達はさっさと各々自分の居場所へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新庄の取り扱いは結局のところ退去命令となることとなった。すぐに出発ということでヘリがすでに用意されてもう乗り込んでいる。

 

持ち物はことごとく焼かれてしまい、もう残っていない状態だ。だがたった一つだけキトリが拾っていたものがあった。

 

「はい、これ。」

 

「!これは……ありがとうキトリ!よかった……まだ使える……」

 

新庄の愛用のカメラ。必死こいて貯めたアルバイト代で購入した学生時代からの相棒だという。これがあれば新庄はまた戦場カメラマンとして活躍できる。

 

以前に来ていた六木剛と違い五体満足……ではないが大した怪我も無く帰れるのは幸運だろう。

 

新庄は2人に真について話すと由也にとある伝言を頼んでエリア88を去っていった。ヘリが見えなくなるまで見送るとキトリと由也はそれぞれやることをこなすべく踵を返す。

 

「さて……私もやることしなきゃ。今日は夜間哨戒もあるのよね。」

 

「そりゃまた。レーダー持ちの機体に乗ってる奴は辛いね。」

 

「あんただって、いつまでもボロのクーガーじゃなくて乗り換えたらどう? ミラージュだっておすすめよ?」

 

「デルタ翼は大好きだけどね……まぁ、今の相棒が壊れたら買い換えるかな。」

 

「それ買い換える気無いってことじゃない!」

 

そう笑い合いながら駐機場に向かう。その時、滑走路を一機のタイガーⅡが発進するのが見えた。誰かが夜間哨戒か自由出撃でもしたのかと思ったが、様子がおかしい。ミサイルを1発も積まずに全部のパイロンに燃料タンクを搭載している。

 

由也は前世の記憶を思い出し、すべてを察した。

 

「……真……!?」

 

「えっ?」

 

「キトリ!スクランブルして真を追え!俺もすぐに武装を載っけて出る!」

 

「わ、わかった!」

 

キトリは戸惑いながらも自身のミラージュに走る。由也はマッコイじいさんの方だ。サイドワインダーミサイルと燃料タンク、機関砲弾を買いにいったのだ。

 

キトリはさっさと駐機場から機体を出すと滑走路に出る。由也もスタンバイを始めるが武装の搭載がまだだ。

 

「キトリ、簡潔に言えば真が脱走しようとしてる。基地にそれに気づかれれば帰ってきてもただでは済まない。その前になんとしても止めるんだ。」

 

「! 了解!」

 

キトリとしても真には何度も助けられた恩義がある。何より、由也も知らないところだが彼女は秘めた想いを真に募らせている。何があっても死なせたくない。

 

ミラージュF1はタイガーⅡよりも最高速度で勝る。まして今の真は増槽を山ほど載っけたために鈍足だ。少し速度を速めればすぐに追いついた。

 

キトリがタイガーⅡのスレスレを威嚇射撃する。

 

「シン!戻りなさい!今ならまだ大丈夫、理由はつけられる。だから脱走だなんて考えないで!」

 

だが真はそれを無視するように旋回する。キトリもそれを追う。

 

「新庄から聞いたわ!気持ちはわかるわ、けれどここで逃げてなんとかなるっていうの!? 余計彼女を不幸にすることになるのよ!?」

 

なおも真は止まらない。こっちの声が聞こえているのかもわからない。

 

そこに由也も合流する。

 

「キトリの言う通りだ真。エリア88のことを知ってる人間が脱走したなんて言ったらどんな手を使ってでもお前を消しに来るはずだ。彼女を巻き込むかもしれないんだぞ?」

 

反応を伺うが、真の決心固く一切揺らぐ素振りがない。

 

「……新庄から伝言を頼まれてるんだ。『彼女に全てを伝える』とさ。」

 

「……! 涼子……!?」

 

「そうだ。彼女は真のことを諦めないだろうさ、お前が諦めない限りな。こんなところで部の悪すぎる賭けに身を投げ捨てていいのか?彼女は凛としてお前を待つのに?」

 

しばらくはそのままみな黙って飛び続ける。だがとうとう真がドロップタンクを全て落とした。脱走の意思は無くなった。

 

「……よかった。帰ろう。またすぐに稼ぎなおせばいい。」

 

「ああ……そうだな。」

 

「いや、そうはいかないな。」

 

「!? 誰だ!」

 

基地に戻ろうと進路を変えた真たちを囲むように3機の黒く塗られたBAC ライトニングが現れた。最近入ってきた黒人3人組の機体だ。

 

「脱走兵を逃すなというのが司令部の命令でね、それで金をもらってるんだ。悪く思うなよ。」

 

「それに俺たち3人の囲みから逃れられた奴はいないよ。」

 

3人組が喋り始める。由也は察しついていたが、彼ら3人はアスラン軍司令部が送り込んだアフリカきっての脱走兵殺し(エスケープキラー)なのだ。

 

「やはり……気をつけろ、真!キトリ!奴ら脱走兵殺し(エスケープキラー)だ!初めから真に目をつけてたんだ……お前が狙いだぞ!真、ミサイル無しだがいけるか!?」

 

「……ああ、いける!」

 

「キトリ!」

 

「やる気なの!? ……でも、やらなきゃいけないわよね。ええ、やってやるわ!」

 

「……よし、行くぞ!攻撃(アタック)!」

 

由也たちが一斉に散開する。脱走兵殺したちもまた各々の狙いを定めた機体を追って散開する。

 

クーガーを追ってライトニングが張り付く。なんとか振り切ろうとするが、速度も機動性でもライトニングに劣るクーガーでは厳しい。

 

と、ここでライトニングについて簡単に説明する必要がある。BAC ライトニングは英国が作り上げたマッハ2級の超音速迎撃機である。直線での加速に優れるが、武装の積載量と航続距離は非常に少ない。最終型のF.6でもミサイル2発と機関砲のみとなる。

しかし機体の頑丈さでは他の機体を上回る。見た目以上に頑固に作られた主翼とその接続部はハイG機動でも簡単に折れない。そしてクリップトデルタ翼が生み出す高高度での機動性は同時期に作られた小型軽量の迎撃機F-104にも劣らない。

 

結論から言おう、正面からやり合うのでは部が悪いなどという話ではない。由也の圧倒的不利であることに間違いない。だが、由也が半端な腕前であればの話だ。

 

レーダーロックの警告音をBGMに左右にダンスをしながら高度を下げていく。

ライトニングを由也の得意とする戦場に引き摺り下ろすためだ。低空でのドッグファイトとなればクーガーでもやりようがある。

 

そんな由也の思惑も知らず脱走兵殺しはクーガーのケツを追い続け、そしてついにミサイルのシーカーがクーガーのジェット炎を捉えた。由也目掛けてレッドトップ空対空ミサイルが飛翔する。

 

普通ならばこのまま撃墜されるだろう。下の砂漠も夜で冷え込み、天然のチャフとなり得ない。

 

だが由也は違った。ミサイルが発射されると同時にエアブレーキを開き、機体を上昇させながらも鋭く左にターンした。レッドトップは目標を見失いあらぬ方向へと落ちていき、クーガーは凄まじい機動でライトニングの後ろについた。

速度を落としてシザース機動を繰り返すがクーガーを振り切れない。

 

時速は400km/h前後まで落ちる。超音速ジェット戦闘機ならばあと少しで失速して墜落する危険な速度だが、クーガーならばその速度でも安定して飛行できる。

 

突然、ライトニングが斜め上に消えてたと思えば円を描くように動き始めた。バレルロールだ!

 

その瞬間由也は無意識のうちに機体を動かしていた。スティックを折れるかと思うほど手前に引き、右のラダーペダルを踏み抜いた。急激に機首を上げ失速寸前にまで減速すると同時に頂点で急反転、そのまま再度水平飛行に戻った。

由也が前世、フライト系のゲームで得意技としていた戦技だ。

 

バレルロールも不発に終わりとうとう万事休すという状況となったとき、エリア88から通信が入った。司令官のサキ・ヴァシュタールだ。

 

「こちらエリア88管制塔、ただちに戦闘を停止せよ! ……ユウヤ、キトリ、シン!もういいだろう、やめてやれ。」

 

「サキ……フゥ、あいよ。真、キトリ、集合だ。」

 

「「了解。」」

 

タイガーⅡとミラージュF1がクーガーの左右につく。パイロンからミサイルは1発も撃たれていない。3機のライトニングもフラフラしてるが疲労のせいだろう。

 

「フッ……わかっただろう。司令部に伝えておけ、エリア88に脱走する者はいない。いたとしてもお前たちでは太刀打ちできんとな。」

 

「ウ……わかった……」

 

ライトニング3機は内陸へと北上していった。真がサキに本当のことを話そうとする。

 

「サキ……俺は……」

 

「何も言うなシン。昼からまた出撃だ、早く戻って休め。」

 

サキは何も聞こうとせずにそのまま通信を切ってしまった。だが由也はこれはサキが今できる精一杯の不器用な優しさなんだと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日経ったのち、由也たちも普段通りの日常へと戻った。これから由也は偵察任務に飛ぶ予定だ。エリア81がMiG-27の編隊に壊滅させられたのを受けてのことだ。

 

滑走路を飛び立つクーガー戦闘機。だがこの機体が再びエリア88に脚をつくことはなかった。

 

ここはエリア88……地獄の最前線エリア88




どうも、読んでいただきありがとうございます。

アンギラスです。

前の世界……いわゆる過去話です。漫画の一巻ラストとTVアニメ最終回、OVA ACT1の混じり合い。ほぼオリジナル回ですが。

BAC ライトニングって結構頑丈で脚も着地の衝撃に十分以上に耐えれるし主翼もかなり頑丈だったようで。どうりでwarthunderで猛威を振るってるわけだ。

さて次回でまたお会いしましょう。ではでは。


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番外編:ゲームをやろう(エスコンZERO)

ちょっとした息抜き回ですよ?前書きの会話を期待した?

タイトル通りの番外編です。本編には半ば以上に関係ないので読み飛ばしても別に影響ないですので云々。
時系列的には9話の後になります。

注意:すごい適当な息抜きなのでキャラ崩壊するかも。そこだけ注意してね。

では、ゴー!!


「由也さん、入るわよ。」

 

「ん? ミーナか? どうぞー」

 

ノック音に反応し答えるとミーナが部屋に入ってくる。手には手紙を持っている。

 

「あなた宛に手紙と荷物が届いてるわ。荷物はミーティングルームに置いてあるから。」

 

「ありがとう、ミーナ。あとで中を確認してみるよ。」

 

手紙を受け取ると封をあけて内容を読む。差出人は……ファリーナ氏だ。

 

『由也くんへ 忙しい時ではあるかもしれないが急にこのような手紙を送って申し訳ない。プロジェクト4に協力していた基地の一つを調べていたところ、見知らぬ機械が押収されたとサキ氏から連絡があった。我々も使い方がわからなかったため、君ならわかるだろうと遅らせてもらった。ぜひ有効活用してほしい。 ジュゼッペ・ファリーナより』

 

「ファリーナの爺さま……何を送ってきたんだ? まぁ、見てみるか……」

 

手紙を机の引き出しにしまうとミーティングルームに向かった。

 

 

 

 

 

ミーティングルームに置かれた箱。ただ木箱のようなものではなく、由也には見慣れた段ボール箱だ。外箱には"植村由也宛"と大きく書いてある。

 

「目立つにも程があるだろ……」

 

そう思いながら部屋から持ってきたナイフを使って封を切り、中を見る。そこには見慣れたものが、いや見慣れ愛用した物が入っていた。

 

黒い外観に特徴的なマーク、電源ボタンと筐体の表に書かれた英数字。

 

「プレステ2じゃねえか!?」

 

懐かしいものを見つけて思わず叫ぶ。彼自身、幼少期はこれでよく遊んだものだ。

箱の中を確認するとセット一式が全て入っており、専用の映写機(プロジェクター)まで入っている。ゲームカセットもそこそこ豊富だ。(どれも空戦系のものばかりだが)

 

しかしどうしたものか、こんなものを自室に置くにはスペースが足りない。なぜ映写機でモニターじゃないのか。

 

うーんと頭を悩ます。どこに置けるか……。その時、ピンといい場所を思いついた。早速そこに持っていき、動作確認をしようと箱を持ち上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ブリーフィングルーム-

由也が作業をしているのを遠目に誰かが見ている。ルッキーニと宮藤、リーネの3人だ。

 

「なにやってるのかな、あれ?」

 

「うーん……遠くて見えないよ……」

 

「なにか機械を動かそうとしてるのはわかるんですけど……」

 

扉の隙間からコソコソと見ようとするがなかなかわからない。

由也は作業が終わったのか、部屋の明かりを消すと機械の電源をつける。すると、映写機から色付きの映像が出る。

 

「わっ!みてリーネちゃん、ルッキーニちゃん!」

 

「カラー映像だ……!」

 

「わっはは!すごーい!」

 

やがて映像は動画へと変わる。銃撃と爆音。そして1人の男性の姿が映る。

 

『あいつか?ああ、知ってる、話せば長い。そう、昔の話だ。』

 

その男性が語り始める。宮藤たちは隠れてたことも忘れて映像に見入る。

 

『知ってるか?エースは3つに分けられる。強さを求める奴、プライドに生きる奴、戦況の読める奴……この3つだ。あいつは____』

 

3つのエース。その話に宮藤は惹かれた。自分もやがてそのエースのうちのどれかに入るのだろうかと思い。

 

そして"片羽の妖精"と呼ばれる彼の語りから物語が始まる。

 

『あれは雪の降る寒い日だった。』

 

ギターやドラムで奏でられる壮大な音楽とともに戦闘機同士の空中戦が始まる。機関砲とミサイルが飛び交い、様々な戦場を戦闘機たちが駆け抜ける。

塔の先端から放たれるレーザー。戦争はさらに激化する。

 

『誰もが正義となり、誰もが悪となる。そして誰が被害者で、誰が加害者か。一体平和とは何か。』

 

4機の戦闘機が画面いっぱいに突っ込んでくる。

 

「うわぁっ!」

 

その迫力に後ろに倒れる宮藤。だが目は画面から一切離れない。

 

『野犬狩りだ。』

 

『空戦にルールはない。ただ敵を殺すだけだ。』

 

『この戦いはどちらかが死ぬまで終わらない。』

 

『受け入れろ小僧。これが戦争だ。』

 

『撃てよ臆病者!』

 

交戦規程はただ一つ

 

 

 

生き残れ

 

 

 

映像が終わり、タイトルが表示される。だがあまりの衝撃に3人はまだ動けずにいる。

その3人に由也が声をかける。

 

「エースコンバットZERO ザ・ベルカンウォー……1人の傭兵の物語、プレイヤーはとある世界の小国"ウスティオ"に雇われた傭兵"サイファー"としてガルム隊を率いてベルカ戦争を終わらせるべく奔走する。そういう物語の俺の世界のゲームだ。ほら、一緒にどうかな?」

 

「き……気付いてたんですか……」

 

「まぁな。ほら、来なよ。」

 

ちょいちょいと手招きし、3人を座らせると説明書と予備のコントローラーを渡す。

 

「これは?」

 

「読んで操作方法を覚えるんだ。読まずに飛んで地面に向かって音速突破なんて笑い者だからな。覚えたらやる順番を決めるんだぞ。」

 

はーいと返事し操作方法を読み進める。コントローラーを触り、一つ一つ確認していく。

覚えたら次は順番決めだ。ジャンケンで勝った順にやるようだ。その結果……

 

ルッキーニ→リーネ→宮藤

 

の順番に決まった。

 

 

 

画面を進めていく。ストーリーが終わるとブリーフィング画面に、そしたらハンガーで武装の購入を行い、機体を選択して出撃する。

 

「由也さん、戦闘機が3つありますよ?」

 

「ほんとだ、どれを選べばいいの?」

 

「そうだな……好みを使うのが良いが、一つづつ解説するよ。

 

まずはF-5E タイガーⅡだ。小型軽量の戦闘機で整備性に優れ安価な旧型戦闘機。対空対地両ミッションで活躍できる。

次にF-1。旧型ではあるが安定した性能をもち、前線での信頼性が高い。対地ミッション向きの機体だがある程度は空戦も可能。

最後にサーブ35 ドラケン。短距離離陸性能に優れ、道路から発進できるほどの実力がある。対空戦闘で高い性能を見せるが安定性に難があって、失速の危険と隣り合わせだ。

 

さぁ、好きなのを選びな。」

 

 

 

-Mission1-

爆撃機迎撃

 

「内容は簡単だし落ちる要素はほとんどない。安心してプレイしてくれ。」

 

雪の降る山脈の上を飛ぶ戦闘機。ルッキーニが選んだのはドラケンだ。副兵装はデフォルトのSAAM(セミアクティブ空対空ミサイル)。僚機のピクシーが操るF-15Cも画面に入ってくる。

 

「よーし、いっけー!」

 

スタートと同時にアフターバーナーを最大点火し音速突破で敵に突っ込んでいく。

やはりエースなだけセンスがいい。あっというまに護衛の戦闘機を落としていく。

 

「うわぁー、ルッキーニちゃんすごい!」

 

「がんばって、ルッキーニちゃん!」

 

「はじめてやるゲームでこれだけ動くなんて……さすがだな。」

 

ルッキーニの動きに驚く。ドラケンの長所短所をうまく使ってかなり早いスピードで敵を落としていく。

ルッキーニがあることに気づいた。

 

「んん?ねえ由也、敵の中に黄色いのがいるよ?」

 

「ああ、それは非抵抗目標だ。落としてもスコアになるが、戦闘後の評価が変化するぞ。」

 

「戦闘後の評価ですか?」

 

「ああ、3つに分けられてて……誇りを重んじる『ナイトルート』、戦況を見極める『ソルジャールート』、全てを無差別に皆殺しにする『マーセナリールート』の3つだ。黄色を落とせば落とすほどマーセナリーに近づいていく。……全てはプレイヤーの性格しだいだ。」

 

ニヤッと笑う由也。それを聞いたルッキーニは黄色目標を落とさぬように敵を落としていく。

 

「ルッキーニちゃんすごい!」

 

「へっへーん、どんなもんだ!」

 

そしてさすがというべきか、あっという間にミッション1をクリアした。あっさりとクリアして得意気だ。

 

「あ、一つ朗報だ。ミッション1、2はチュートリアル(練習期間)でしかない。次から難易度が上がっていくぞ、気をつけろ。」

 

「「「え……」」」

 

 

 

-Mission3-

B7R「円卓」

 

ミッション2はリーネが案外難なくこなしてしまった。次は宮藤……ご愁傷様と由也は心の中で合掌する。

 

機体はF-5E。戦場は____円卓。宮藤とピクシー目掛けてベルカ軍戦闘機が幾多も襲いかかってくる。

しかし宮藤も決して下手なわけではない、その全てをピクシーとの連携で撃ち落としていく。

 

「お〜、やるじゃん宮藤!」

 

「その調子だよ、頑張って!」

 

「うん……!」

 

どんどん調子良く敵を落としつつ円卓の奥へ奥へと進んでいく。そしてついに彼らが現れる。

 

「あれ……?映像が……」

 

『インディゴ1から各機へ、目標を確認した。攻撃を開始する。』

 

「な、何!?」

 

「来たな……"ベルカ藍色の騎士団"インディゴ隊……!」

 

「嫌な予感がするよ……芳佳ちゃん、気をつけて!」

 

「う、うん!」

 

白に藍色のラインのついた戦闘機 グリペンが4機、ミサイルを放ち宮藤に向かって突撃してくる。

ミサイルを避けつつ一機の後ろにつくが、ミサイルを尽く超機動で避けられ当たらない。

 

「ううっ……この!」

 

「芳佳、後ろ!」

 

「えっ……?」

 

宮藤の後ろからインディゴ隊の一機がミサイルで攻撃する。反応の遅れた宮藤に避ける事はできない、直撃し一気にダメージを受ける。

 

「次当たったら終わりだぞ。」

 

「はい……!なんで当たらないの……!?」

 

「芳佳ちゃん、また後ろ!」

 

「そんな!?」

 

インディゴ隊の止めのミサイルが芳佳にあたり、機体の損害率が100%になる。機体が爆発し、ゲームオーバー画面へ移る。

しばらくコントローラーを持ったまま茫然とし、そのうちハッと戻ってくる。

 

「なんですかあれ!ズルいですよ!」

 

「あれがエースだよ、悔しければ勝ってみせな。ああいうのを乗り越えて成長するんだ。」

 

「う……」

 

「まーまー、仇はとるよ、芳佳。」

 

意気揚々とコントローラーを持つルッキーニ。機体をドラケンに乗り換えて再出撃する

 

結果は……

 

『ガルム1撃墜!』

 

「うにゃーっ!やーらーれーたー!」

 

「そ、そんな……リーネちゃん、お願い!」

 

「わ、私で勝てるかな……」

 

リーネがコントローラーをかわる。しかし……

 

「ああっ!」

 

「リーネちゃんまで……!」

 

全滅。まさか全員落とされるとは由也も予想してなかった。ストライカーとはまた勝手が違うから彼女たちからすれば難しいのかもしれない。

3人の視線が由也の方を向く。

 

「由也さん、お願いします!」

 

「倒してください!」

 

「お手本を見して〜!」

 

「そこで俺に投げるか……仕方ない、貸してみろ。」

 

コントローラーを手にする。前世から実に人生2周分ぶりだ。あの時の戦い方が抜けてなければいいなと思いながらミッションを始める。機体はF-1だ。

 

ヘッドオンで、ドッグファイトで、時にはピクシーと共同で。襲いかかる敵機を3人以上のスピードで落としていく。

 

「すごい……!」

 

「まだまだ……ここからが問題だよ。」

 

「……来ました!インディゴ隊です!」

 

「やっとお出ましか!」

 

正面からインディゴ隊がやってくる。もっとも垂直角に近い機体にロックをつけるとヘッドオンの状態でミサイルを2発連続で撃ち、相手のやや上あたりに向かって全速飛行する。

その一機は由也を追おうとするが、正面からのミサイルに撃ち落とされてしまう。

 

「落とした!」

 

「あと3機いる、まだ油断は禁物だぞ!」

 

相手の後ろをとるが、ミサイルは撃たず接近し続ける。十分に接近すると武装を切り替え、RCLと機銃を使用する。また一機撃破。

間髪入れずに敵のミサイルが由也を襲うがバレルロールで全て避ける。

 

ピクシーへの指示を自由戦闘に変えると後ろについた一機を落とすべく格闘戦に持ち込む。右に左に、上に下に。インメルマンターン、スプリットS……あらゆる動きを駆使してインディゴを振り切ろうとする。

 

「ちっ……しつこい!」

 

「由也、大丈夫?」

 

「このくらい……まだ何とかなる!」

 

スロットルを限界まで絞り、ピッチ角を一気に上げる。80度を超えたあたりで上向のシザース機動をする。相手はマッハ2級戦闘機、由也はマッハ1強の戦闘攻撃機、勢い余ったインディゴは由也を追い越してしまう。それを狙い由也はミサイルを連続発射する。避けきれない敵機はそのまま撃ち落とされた。

 

「やったぁ!残りは1機です!」

 

「やっちゃえ由也!」

 

3人が後ろで声援を送る。最後の一機を地面のスレスレまで追い込み、ミサイルで撃墜。これでインディゴ隊は全滅した。

 

「やったぁ!勝った勝った!」

 

「やったー!!由也さんが勝った!」

 

「おめでとうございます、由也さん!」

 

「ふは……久しぶりだったがカンは忘れてないようでよかった……」

 

今まで何度もやられた相手に勝ったことで沸き立つ。そんなブリーフィングルームの騒ぎを聞きつけまた誰かがやってくる。

 

「この騒ぎはなんだ?」

 

「お、由也ー。何やってんの?」

 

「バルクホルンとハルトマンか。俺の世界のゲームがなぜか届いたからやろうと思ったらこの3人が来たからさ、一緒に楽しんでたんだよ。」

 

「お前の世界の?なんでそんな……「楽しそうじゃん!私も混ぜてよ!」ってハルトマン、話の途中に割り込むな!というか参加しようとするな!」

 

「はい、順番な。これ説明書。バルクホルンもやるか?」

 

「やろうよ、トゥルーデ!」

 

「む……わかった、一回だけだぞ!」

 

「へへへ、きっまりー!」

 

バルクホルンとハルトマンも参加しエースコンバットのプレイは再開される。その後もシャーリー、ペリーヌ、エイラとサーニャ。果ては坂本とミーナまで参加して夜遅くになるまでゲームを楽しんだ。




どうも、読んでいただきありがとうございます。

アンギラスです。

自分はエースコンバットZEROはホーネットが愛機、ルートはナイトEDでした。(隙自語)

まあ今回はこんなふうに息抜きを少し書きましたが、またやろうと思っています。というかピクシーとの最終決戦のところ書きたい(願望)

アンケートはシーズン1、つまり1期が終わるあたりまでやってますのでぜひ投票していってください。

では次回またお会いしましょう。


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番外編2:ゲームをやろう(エスコンZERO終編)

前回からのつづき、まだ読まれてない方は左上の矢印をクリックすべし。

エースコンバットZERO1週目クリア編ということであのミッションをクリアしてもらいます。

ルートは純ナイト。機体はF-15C。さぁ、どうぞ!


プレイをはじめて数時間、全員がこのブリーフィングルームに集まり由也の持ち出した"ゲーム"に夢中になってた。カラーの映像で繰り広げる大空戦は歴戦のウィッチ達を年相応の子供に変える。

相手と戦い一喜一憂し新しいストーリーに見入り……由也はそんな彼女達の姿にかつての自分の背中を見ていた。

 

兄とともにゲームをした思い出。まだそんなに上手じゃなかったがそれなりにゲームをクリアしていった。そして何より、今以上に純粋に戦闘機が飛ぶ姿が好きだった頃。懐かしい記憶に思いを馳せていた。

 

 

 

だがそれももう終盤である。

 

幼いエースたちはこのゲームのストーリーに様々な感情を抱いた。

 

「古い遺跡を改造した要塞だなんてよく思いつくもんだ。」

 

「この基地も古城の跡だけれど規模が全く違ったわね。」

 

ミッション7に登場した要塞は史跡を改造した長大な防衛要塞だった。大量の防空火器や飛んでくる戦闘機、垂直離陸機に手を焼いたものだ。

 

それから次のミッションではエクスカリバーと呼ばれる塔のようなレーザー砲台との攻防が始まる。

 

「シャーリー、スピード出してすぐに落ちるんだもん。」

 

「なんだよ、ルッキーニだってそうだったろ?」

 

空からのレーザーを避けようと加速し逆にレーザーの中に突っ込んでしまうなんていうことが多々発生した。特にシャーリーはまっすぐ加速して行こうとした結果飛び込んでいくことになったのだ。

 

ちなみに正解はレーザーが降ってきたら速度を落とし逃げ回る事だった。リーネがそれを実行してやっと終わらせられた。

 

そこから待ち受けるのがエクスカリバー本体の破壊作戦だ。

 

「この時にPJさんと会ってるんですよね。」

 

「まさかそれから一緒に飛ぶ事になるとは思いませんでたわ。」

 

PJ____本名「パトリック・ジェームズ・べケット」

クロウ隊3番機にしてここからガルム隊の援護をながらく行うこととなる。ピクシーほどではないがそれなりの実力を持ち、サイファーのことを信頼している。

そんな彼との出会いがこの作戦だった。

 

だがここから戦争は激化する。

 

B7R-円卓- での戦いにおいてサイファーは円卓の鬼神の名を得る。

 

「ズィルバー隊との戦い……教官と教え子の部隊か。」

 

「なんだかロスマン先生を思い出すね。」

 

彼女たちが当たったエースはズィルバー隊。教官のケラーマンとその教え子達で編成された部隊。この戦いも熾烈を極めた。プレイヤーはハルトマンであったが、彼女も初出撃では教官であったロスマン曹長と出撃している。それ故に心のうちは複雑なものだった。

 

ここからベルカ軍の勢いは大きく削がれるが、それが地獄の始まりでもあった。

 

ミッション11、工業地帯への爆撃。とうとうお互いの狂気が表に出ることとなる。

 

「……人がいる街に爆弾を落とさなきゃならないなんて、考えたくないよ。」

 

「うん……」

 

敵も味方も、全てが狂っていた。民間人のいる中への爆撃、火の海となる街。そして狂気はつづき……

 

「自国内での核爆弾の使用……か……」

 

「滅茶苦茶ね、もう……」

 

「ピクシーさん……」

 

ベルカは最終手段として国内へ攻め入る敵軍に対し核攻撃を敢行した。ただし自国内にてだ。都市や人々は炎に包まれ、この時に長らく僚機を務めた"片羽の妖精"ピクシーが離反することとなった。仲間の突然の裏切りは彼女たちの心の傷となる。

 

それからはPJとともに戦後も戦い続ける事になる。そこで現れた新たな組織のクーデター軍「国境なき世界」の所持するXB-0による攻撃に見舞われ、サイファーらの基地は爆撃により大きな被害を受けるがこれを撃破。そして最終決戦のためあの円卓を抜けてアヴァロンダムへと向かい報復兵器「V2」の破壊を目指す。

 

「そこで現れたのがウィザード隊だな。」

 

「ステルス戦闘機……強かったです。」

 

ウィザード隊 正式名称「オーシア国防軍第8航空団第32戦闘飛行隊ウィザード」

F-16XL 4機とYF-23 4機の特務編成部隊で国境なき世界創立メンバーにしてリーダー格であった男が指揮官を務めた部隊。F-16XLが先行し攻撃を引きつけYF-23が敵を撃ち落とす。

これを相手にルッキーニやリーネ、宮藤をはじめとした多くのメンバーが落とされることとなった。最後は坂本の肉薄での格闘戦でほぼ全機をガンキルするという荒技をやってのけ攻略した。

 

「はっはっはっ、見える位置まで近づけば問題ない!」

 

「それができるの坂本さんくらいだと思います……」

 

そしてアヴァロンダムの決戦。V2の発射装置の破壊をするため渓谷の隙間を高度制限をかけて飛び、ダムの中へと飛び込む。まともな所業ではないその戦闘に度肝を抜かれた者も多い。

意外にもこれをクリアしたのはリーネだった。F-15Cの無誘導爆弾を正確にに目標に命中させ、ターゲットを全て破壊したのだ。低速での飛行も難なくこなし由也を驚かせた。ちょうどここで一時停止している。

 

そんな長い戦いもこれで終わる。

 

「だが次で最終回だ。泣いても笑ってもこれが最後。宮藤、行ってこい。」

 

「はい!」

 

 

 

『やった!これで戦争は終わる!』

 

PJの喜ぶ声が聞こえて来る。彼のF-16が隣にくる。

 

『俺、実は基地に恋人がいるんすよ。』

 

「えっ本当に!?」

 

宮藤が声を上げる。そんな話は初耳だ。

 

『戻ったらプロポーズしようと。花束も買ってあったりして……』

 

それを聞いて自分のことのように喜ぶ宮藤。きっと素敵な家庭を築くだろう。だがAWACSの無慈悲な警告が2人に向かって飛ぶ。

 

『警告!アンノウン急速接近中!ブレイク、ブレイク!』

 

『うおあああああ!!』

 

F-16が大きく左に曲がり宮藤のF-15の前に出る。その時、正面から来た赤い光がPJを貫いた。脱出することもできず機体は空中で爆発する。

 

「え……」

 

さっきまで隣を飛んでいた彼の死。突然のことに驚く宮藤。

そしてとある人物からの通信が彼女に入る。

 

『戦う理由は見つかったか、相棒?』

 

「……その声……まさか!」

 

白い機体色、誇るように塗られた赤い片羽。みたことこない戦闘機だがだれが乗っているか、すぐに分かった。

 

「ピクシーさん!」

 

 

 

ミッション18〜ZERO〜

 

 

 

『ダメだ!核サイロの再開を確認!ガルム隊、作戦続行!交戦せよ!状況分析を開始する。それまで持ち堪えろ!』

 

AWACSの悲鳴のような声が響く。その間も正面から光線を放ち攻撃して来る。

だが宮藤もかつての相棒が攻撃をしてくる現実に頭が追いつかない。

 

『不死身のエースってのは戦場に長く居たやつの過信だ。お前のことだよ、相棒。』

 

ピクシーの声が宮藤の頭にやけにクリアに入ってくる。自分が過信していたのか?

そこに由也が声をかける。

 

「慌てるな宮藤、お前の戦い方で行けばいい。」

 

「由也さん……」

 

覚悟を決めた宮藤がピクシーに向かい合う。ピクシーもまたターンして宮藤の正面に向かい合う。

 

『奮い立つか?ならば俺を落としてみろ。』

 

そう言ってレーザーで攻撃する。宮藤のF-15Cは特殊兵装が無誘導爆弾となっている。通常ミサイルのみで落とさなければならない。

だが宮藤は強い。ミサイル、ガンの二つを使いピクシーにダメージを与えていく。

 

やがてピクシーの機体の上に載っていたレーザー発射装置が破壊される。

 

すると今度はミサイルでの格闘戦へと発展する。だがピクシーの発射したミサイルは空中で炸裂すると凄まじい爆風で宮藤のイーグルを揺さぶる。

 

「きゃあああああっ!何!?」

 

「気を付けろ、空中炸裂式の広範囲対空ミサイルだ。近くを通るだけでもダメージを受けるぞ。」

 

由也が助言を入れる。宮藤はミサイルの爆風を避けるように飛びつつピクシーを追いかける。

 

加速しつつロックオン次第ミサイルを放ち、ガンレンジに入ると構わずトリガーを引く。

 

するとピクシーが1発、ミサイルをあらぬ方向に撃ち出し上昇した。

 

__来る。そう思い水平に急旋回してミサイルから遠ざかる。

 

 

ドンッ!!

 

 

凄まじい音と共に衝撃が宮藤に襲い掛かる。それなりに距離を取ったと言うのにとんでもない破壊力だ。

 

気を抜いた瞬間に上からピクシーにロックオンされ、ミサイルが飛んでくる。スプリットSで回避すると垂直上昇し引き離そうとする。しかし振り切れるほど2機の性能差は無かった。

 

速度を急激に落として反転すると機関砲を撃ちながらミサイルをばらまく。

 

命中したとき、ピクシーが一言応えた。

 

『__時間だ。』

 

アヴァロンダムのミサイルサイロが開き、弾道ミサイル"V2"が打ち上げられる。

 

それを背にピクシーが宮藤と向かい合う。

 

『惜しかったなぁ相棒。歪んだパズルは一度リセットするべきだ。このV2で全てを『ゼロ』に戻し、次の世代に未来を託そう。』

 

違う、人はきっとまた立ち直る。終わらせてはダメなんだ。宮藤の悲鳴は暴走する片羽には届かない。

 

それとほぼ同時にAWACSの通信が入ってくる。

 

『こちらAWACS! 聞け!ガルム1。 敵機体の解析が完了した。コード名は"モルガン"、この機体はECM防御システムで護られている。唯一の弱点は前方のエアインテークだ。正面角度から攻撃を行い、モルガンを撃墜せよ。』

 

滅茶苦茶を言う人だ。だがその次のセリフが宮藤を奮い立たせる。

 

『今そこで彼を討てるのは君だけだ。円卓の『鬼神』、幸運を祈る!』

 

宮藤とピクシーが正面から向き合う。一気に加速してお互いのレンジ内に突っ込む。

 

『俺とお前は鏡のようなもんだ。』

 

お互いにミサイルを撃ち合う。宮藤は撃たれたミサイルをバレルロールで回避するが、ピクシーは正面から衝突する。

 

『向かい合って初めて本当の自分に気づく。』

 

反転してもう一度撃ち合う、しかし今度は宮藤がミサイルに当たってしまいダメージが入る。もうあと1発当たってしまうと堕ちるのは確実だ。

 

『似てはいるが正反対だな。』

 

操作しながらも宮藤はピクシーの言葉に反論する。

 

「違います、ピクシーさんは自分の思いに素直になれなかっただけなんです。願うことは私もピクシーさんも同じ、ただ不器用だっただけなんですよきっと。だから……」

 

再度ヘッドオンの体勢になるがいざという時に手がすくみミサイルを撃ち損ねる。そんな宮藤を叱咤するようにピクシーが吠える。

 

『撃て! 臆病者!』

 

シャンデルで旋回し、モルガンを視界に入れる。ピクシーもインメルマンターンで宮藤を捉えた。

 

「止まってぇぇぇぇぇ!!」

 

『撃て!!』

 

宮藤のミサイルがモルガンに止めるを刺す。煙を吹くモルガンと宮藤のF-15がすれ違う。

 

モルガンは空中で何度か火を吹き、爆発した。

 

すると空に上がったV2が突然自爆する。管制するモルガンが撃墜されコントロールを失ったからだ。

 

『サイファー、任務完了だ。さぁ、帰ろう。俺たちの家へ。お前の帰りを待っている奴らがいる。』

 

宮藤の飛び去った東の空には太陽が登り始めていた。

 

 

 

 

 

インタビューが進んでいく。騎士道を重んじるインディゴ隊のデミトリ・ハインリッヒ、サイファー達の前に立ち塞がったゲルプ隊の2番機のライナー・アルトマン、新しい世代に戦い方を教えたズィルバー隊のディートリッヒ・ケラーマン、愛する者と共に巨鳥を護ろうとしたエスパーダ隊のマルセラ・バスケス、世界を破壊し変革をもたらそうとしたウィザード隊のジョシュア・ブリストー。

 

そして相棒であり敵であった男、片羽の妖精(ピクシー)。ラリー・フォルク

 

彼らは各々の歴史を紡ぎ、歩んでいた。

 

「__この映像はあいつも見るのか?会ったら伝えてくれ。」

 

ラリーが問いかける。すこしかしこまった風に体勢を変えると言葉を紡ぐ。

 

「よう相棒、まだ生きてるか?」

 

戦場でなんども聞いた言葉だ。ふっと息を吐くともう一度カメラに向かい合う。

 

「ありがとう戦友。」

 

どれに対しての感謝なのだろうか。共に戦った事か、背中を守っていた事か、それとも__自分の暴走を止めてくれた事か。

 

だが、もう彼の顔に迷いや憎しみの感情は無かった。それが答えなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて……オールクリアおめでとう。」

 

「は……はいぃ……」

 

「おいおい宮藤、泣きすぎだろ……酷い顔。ってリーネも、みんな泣いてんな……」

 

エンディングが終わり由也が振り返るとみんな感動で涙が溢れていた。由也自身、初プレイで目頭が熱くなったのは確かだがここまで泣かれるとは流石に思っていなかった。

 

ふとあることを思い出した。

 

「そうだ、一ついい事を教えてやる。これ、今のが1週目のクリアだ。あと2回は楽しめるぞ。」

 

「えぇ!? どういうことですか!?」

 

「言ったろ、3()()()()()()()()()って。それぞれで現れるエースも戦い方も変わってくる。是非ともクリアしてくれ。」

 

ええーっ!と驚いた声が部屋中に響き渡る。

 

 

その後、このゲームは申請を出せば誰でもやれるようになった。意外とみんなハマっていたのはここだけの話だ。




今回も読んでいただきありがとうございます。

アンギラスです。

まさか外伝ネタが続くとは思わなかった。(オイ)

これにてエースコンバットZERO編終了です。さすがに全部をやらせると全てが足りないのでラストミッションをピックアップです。

さて今度はどういう番外編をやろうかな……

次の機会にまたお会いしましょう。


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番外編:空に輝くSPEED STAR

対ネウロイ戦の最前線、ブリタニア。ここに築かれた古い城を改築した基地に人類最強のエースウィッチ部隊"第501統合戦闘航空団"____通称"ストライクウィッチーズ"はいた。

癖は強いが腕は確か、そんな彼女達もわずか10代の少女なのだ。欲もあれば夢もある。

これはそんな少女達のうちの1人の音の壁のさらに向こうを目指すお話。


シャーロット・イェーガーとは何者か、そう尋ねられたウィッチはそのほとんどがこう言うだろう。

 

「彼女は最速のウィッチだ。」

 

ボンビネル・ソルトフラッツでバイクによる世界最速記録を出した彼女は更なるスピードを求めて軍に入隊、航空ウィッチとして従軍する。そんな彼女がP-51Dストライカーユニットで超音速を超えたことは記憶に新しい。

 

そしてストライカーはレシプロからジェットへと変革し、彼女の愛機もP-51DからF-15へと変わった。マッハ2強をペーパースペックで叩き出す新たな翼、彼女の夢はゴールを迎えたように見えた……

 

 

 

由也が格納庫に向かう理由は大抵愛機(F5D)の整備と決まっている。しかし今日はそれだけじゃなかった。心の中に染みつく不安、プロジェクト4のこと、ネウロイのこと、そういった不安を忘れるため愛機に触れたかった。

そんな彼女が格納庫の違和感に気づいたのは通路の途中、凄まじいターボジェットの轟音が反響し聞こえてくるではないか。

 

「だれかはしゃいでんのかね?」

 

格納庫に近くにつれ大きくなる音に耳を傾けそう考える。

 

ジェットストライカーが配備されてからそんなに日が経っていない。未知の世界に興奮するのもよくわかる。

由也自身、F9F-8からF4D-2に乗り換え超音速飛行をしたとき、もの言えぬ興奮を覚えたものだ。

 

格納庫に着いてみるとそこにいたのはシャーリーだった。たしかに彼女は以前よりストライカーをよく改造し速度記録を目指していた。

 

エンジンを止めたシャーリーが由也に気づき振り返る。

 

「よっ、由也!」

 

「よぉ、せいが出るな……といっても無断改造じゃな。まあミーナには黙っとくよ。」

 

「へへっ、ありがとな!」

 

屈託のない笑顔を由也に向けるシャーリー。真っ直ぐな瞳に思わず吸い込まれるような感覚を覚える。

 

「そういう由也はF5Dの整備か?」

 

「まぁな……整備できる奴が俺だけだし、マニュアルも無いようなもんだし仕方ない。」

 

「この中でメカを触れる人も限られるしな。なんなら私が手伝おうか?」

 

「バカ言え、今まで自力でできてたんだ。これくらい出来らあ。」

 

「それでも時間はかかるだろ?2人なら早く終わるぞ。」

 

「……わかった、頼む。」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

そういうと早速F5Dに手をつけ始めるシャーリー。由也も頭をかきながら作業に入った。

 

 

 

作業を進めている最中、由也がふと口を開いた。

 

「そういやシャーリー、ストライカーをいじってたってことはやはり速度を?」

 

「ああ。さらなる速度を求めてな。」

 

「やっぱりな……だが無改造で音速を超えれる以上はやる必要は無いんじゃ……?」

 

由也の言うことはもっともだ。元々シャーリーが目指したのは時速1200km/hの世界、だがF-15ならば2480km/hまで加速できる。無改造で音速突破が可能なF-15ならばあっという間に夢の世界へ行けるのだ。

 

「たしかにそうだがな、音速を超えて新しい目標ができたんだ。」

 

「新しい目標……」

 

「時速3000km/h、それが次の目標だ。夢を追わなくなったら終わりだよ。」

 

「……」

 

シャーリーの言葉に由也の手が止まる。それほどに彼女の心に刺さったのだ。

 

「……いつからだろうな、夢を諦めたのは……」

 

「まだ諦めてないんじゃないか?」

 

「何……?」

 

「知ってるぞ、由也の部屋が歴史書だらけになってること。」

 

「……そう、かな……そうかもな。」

 

フッと由也の口元が緩む。つられてシャーリーも笑いだす。平和なひとときの、純粋な少女の笑顔だった。

 

 

 

「よしっ……終わった。あとは試運転くらいしときたいな。」

 

「なら私も付き合うぞ。ひとっ飛びしときたいしな。」

 

「お前最初っから一緒に飛ぶ気だったろ……」

 

「へへっ、どうかな?」

 

そう言いながら自らのストライカーに足を収める。由也、シャーリー共に発進する準備は完了だ。エンジンに命が宿りタービンファンが甲高い音を立てて回転し始める。十分な回転が得られると燃料に点火しノズルから炎が湧き出る。

 

アフターバーナーを点火すると同時にロックが解除され2人は一気に大空へと羽ばたく。

 

上昇力に長けるF5Dと大きな推力を持つF-15、しかしそれでもF-15の方が性能が良く由也が置いてかれていく。

 

「さすがにイーグル相手では勝てないな。さすが最強と言われる戦闘機だ!」

 

「あら……悔しがるかと思ったぞ。」

 

「まさか、俺は根っこからこう言う人間でね。」

 

高度5000mにまで到達すると2人同時に最大出力で加速する。900……1000……1100……HUDの速度計の数字がグングンと増えていく。次第に加速は鈍くなり2400km/hほどで止まる。だがシャーリーの加速は止まらない。

 

「見せてもらうぞ、シャーリー。お前の速度、お前の世界!」

 

「おおおおおおおお!!」

 

由也を置いていき更に加速する。目視では見れなくなりレーダーの半径からも消えるギリギリでUターン、由也のもとに戻ってくる。

 

「やったぞ!2800km/hまでいった!」

 

「本当か!!やったな!」

 

スペックを大きく上回る結果に2人は空の上で抱き合って喜んだ。

 

 

 

 

 

格納庫にもどりストライカーを脱ぐとシャーリーはそのまま横になる。由也はその隣に座った。

 

「いやー、飛んだ飛んだ。気持ちよかったなー。」

 

「久しぶりに何も考えずに飛んだ気がするな……」

 

息を吐きながら格納庫から空を見る。陽が傾き赤く照らされている。

 

少し気持ちが浮かばれたような、そんな気分になる。今まで考えていた不安が吹っ飛び頭の中がスッキリする。

 

そこまで思ってハッと気づく。初めからシャーリーはわかってたんじゃないか。

 

「ありがとな、シャーリー。」

 

「ん?何がだ?」

 

「少し心が軽くなった気がするよ。お前のおかげだ。」

 

「ははは、そりゃどうも。」

 

由也に笑顔を見せるシャーリー。彼女の心の内はわからないが何を言いたいのかはなんとなくわかった気がした。




西暦2020年 12月 7日

世界最初に超音速を突破した伝説のエースパイロット『チャールズ・エルウッド・"チャック"・イェーガー』が亡くなられました。

ミリタリー派の人間としてはベルX-1"マッハバスター"やノースロップF-20"タイガーシャーク"のパイロットとして、ストライクウィッチーズのファンとしてはシャーロット・E・"シャーリー"・イェーガーのモチーフとして知っている方も多いと思います。

彼はまだこの空を音より速く飛んでいることでしょう……

偉大なるチャック・イェーガー米空軍准将のご冥福をお祈りします。


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誕生日編:2人の時間、それぞれの時代

誕生日、というのはその当人にとって色々な物を意味する。たとえば記念日で祝う日だったり、中年に近づいたと嘆く日だったり……ただウィッチにとっては少し重い意味を持つ。

魔法力は成人になるにつれて衰える、それはほとんどのウィッチの鉄則だ。宮藤芳佳の一族のような例外を除けばその未来から逃れられない。


3月11日

この日が由也にとって他の日とは違う特別な日だというのはおそらく一部の者もよく知っているだろう。

 

1961年____この世界では未来になってしまうが____のこの日、由也は二度目の生を得た。つまり彼女(元・彼)の誕生日なのだ。

そして同時に由也の恋仲であるミーナの誕生日でもある。今まで以上に彼女の中でこの日は特別な日となったのだ。

 

すでに由也の自室の机の上にはやけに高そうな酒やら本やらタバコやらが無造作に積まれているのだが、実のところ由也はすでにエリア88基地から遠く離れミーナのいるカールスラント空軍基地へと赴いていた。

 

理由はもちろん先に話した通りのためだ。

 

そんなわけでアポも無しに突然やって来たわけだがミーナにも任務がある事は承知の上だ。一声かけてこの日のために購入したプレゼントを渡して帰る、その程度で済ませるのも致し方無しという気だった。

 

行くあても無くぶらぶらと通路を歩く。日の暖かさを全身で感じ、眩しい光に目を細めていると____

 

「隙ありー!!」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?」

 

聞き覚えのある声(CV:野川さ◯ら)が後ろから飛んでくると同時に目と口を塞がれ手足を縛られて担がれる。

 

(エーリカってこんな力あったっけ!?)

 

声も出せずもがけず大人しく何処かへ運ばれる由也。しばらく運ばれるとドアをノックする音が聞こえた。

 

「ミーナ、入るぞ。」

 

(お前もかトゥルーデ!!)

 

まさかの共犯者である。扉が開かれ丁寧に椅子____というよりソファーの上だろうか____に置かれる。いや、座らされる、と言った方が正しいだろうか?

 

それやいなやサッと目隠しと猿轡は外される。

 

「ハッピーバースデー、ミーナ!」

 

「……」

 

「……」

 

「……あれ?」

 

「いや、そうなるよ。」

 

なんか期待外れな反応といったエーリカに由也の冷静なツッコミが飛び出す。

 

「いや〜こういうのは「プレゼントは私でーす!」っていうのが1番ウケるかなーって。」

 

「せめて同意をとってくれ……トゥルーデも巻き込んで。」

 

「いや、私はその……」

 

珍しくトゥルーデがどもる。エーリカが目配せをするとさっさと部屋から出て行ってしまった____由也の手足のリボンも解かずに。

 

「「……」」

 

手足の自由の無い由也は困った顔でミーナを見つめ、ミーナはあっけに取られた顔からある程度理解を取り戻すも困惑した顔で由也を見ている。

 

しばらく見つめ合い微妙な空気が部屋に流れる。

 

「……コーヒーでも淹れるわね」

 

「いやほどいて」

 

ミーナ、キミもか。

 

 

 

 

 

由也はやれることもなくコーヒーを淹れるミーナの背中を見つめる。

水の熱せられて泡立つ音以外に音もなく、二人の間に一言の会話もない。

 

しかし、先に静寂を破ったのはミーナの方だった。

 

「私、今日が苦手だったの」

 

「どうした急に」

 

「誕生日を迎えるたびに歳を取る、それは誰も逃げることができない摂理なのは私も理解してるわ」

 

コーヒー豆を挽く音が部屋に響く中、表情が見えないままミーナは独白を続ける。

 

「歳をとるたび、年齢が上がるたびにいつまで『飛べるのかしら』『いつまで戦えるのかしら』って思うの。私もいつか飛べなくなる……その時が来なければいいのにって。エーリカや宮藤さんたちと戦えない、もう誰かを守るために戦えないと思うと……怖いの」

 

「ミーナ……」

 

また二人の間から言葉が消え、コーヒーミルが豆を挽く音すらも止まる。

 

ごめんなさい_そうミーナが言おうとしたとき、今度は由也が口を開いた。

 

「そんなことで悩んでたのか」

 

「そんなこと……?」

 

「俺たちが飛べなくなったら、次の世代に技術をつないで意思を継がせて信じて送り出す。ただそれだけのことだ。」

 

「それだけって……!」

 

「俺たちができることを、できる時にやる。それしかやれることは無いんだ。そうやって今まで生きてきたんじゃないのか、ミーナだって」

 

「……」

 

「俺が今できることをやってる、それがやがてできなくなったら新しいできることを探して(おこな)って……人生ってその繰り返しじゃないか。それをやめない限り"誰かのため"の行動であり続けるんだよ」

 

戦うことだけが平和の道じゃない_そう由也は言う。かつてかの地獄の戦場エリア88で戦って戦って戦い続けて、多くの仲間が死にながらも最後まで生き延びた由也だからこそ言えることだろう。

 

彼女、否_彼らの行動が世界に平和をもたらした。そして彼らを支えた者や、意図的ではないものの彼らを支援することになった人々がいることも事実だ。

 

それを知る由也だからこういうことが言えるのだ。

 

吹き出る蒸気の音を聞きながらも2人は黙ったまま見合ったまま、それでも先にミーナが折れた。

 

「……そうね、そうよね。なんだか吹っ切れたわ」

 

「ならいいんだ。あんまり悩み続けてもいいこと無いしな」

 

部屋の中に芳醇な香りが漂い、由也の前にカップが置かれる。

 

「はい、これはお礼よ」

 

「ありがとうミーナ。だけど……

 

 

 

 

 

これほどいてくれない?」

 

この主人公、この瞬間まで縛られたままである。

 

「あら、ごめんなさいなら……」

 

なにかを閃いたミーナが由也の隣に座るとコーヒーを口に含み_

 

「ミーナっ……んぅ……っ!」

 

由也にキスをすると唇と舌を器用に使って彼女の口をこじ開け、コーヒーを流し込む。

ミルクも砂糖も入ってないのに、今まで飲んできたコーヒーのどれよりも甘い、とても甘いコーヒーだ。

 

由也は甘さと快楽に蕩けそうになるも身をよじって逃げようと試みる。だがそのままソファに倒れこみ、ミーナに押し倒される形になってしまう。

 

「ミーナっ、もう……んんっ……!」

 

「んっ……はぁ……」

 

コーヒーを飲ませてなおミーナは離れないまま舌を絡ませ、息が苦しくなるのも忘れて由也と繋がりつづける。

 

「っ……ハァっ……ぅあ……」

 

「んはっ……はぁ……はぁ……」

 

やっと離れると二人の唇の間に一瞬橋が架かる。

呼吸を整え、涙目で惚けた顔になりながらもまだ由也は理性を保たせていた。

 

「ひどいじゃないかミーナ、こんな……」

 

「あら、エーリカたちがなんで由也をそういう姿にしたのかわからない?」

 

「へ?」

 

「今日は私の誕生日だけど、由也の誕生日でもあるでしょう?二人きりにしてくれたのよあの子たち。だから……もう少し、ね?」

 

そう言われて由也は赤くなっている顔色をさらに濃くする。

このまま彼女にされるがままもイイかも……

 

その思考を理性で押し込んで左のポケットに入っているものに意識を向ける。

 

「じ、じゃあミーナ、せめて俺の上着の左のポケットに入ってるものを取りだしてくれないか?あまり潰れてほしくないものなんだ」

 

「わかったわ、こっちね……これかしら?」

 

ミーナが由也の上着を探り、それを取り出す。

その小さな白い箱には赤いリボンが巻き付いており、ミーナの名前が書かれている。

 

取り出した箱を見つめてミーナは驚いた顔で由也に尋ねた。

 

「由也、これって……」

 

「ミーナへの誕生日プレゼント、気に入ってもらえるといいけど」

 

「開けてもいい?」

 

「もちろん」

 

リボンをほどき、箱を開けると中には天使を模したペンダントが中に入っていた。

ミーナが首にかけると鮮やかな装飾の施された小さなペンダントが日の光に当てられて胸元で輝く。

 

「まぁ……!うれしい、ありがとう由也!」

 

「あぁ……誕生日おめでとう、ミーナ」

 

窓から差す光が二人を照らし、影が再び重なった。




ウィッチは激務で誕生日プレゼントとか買えないだろうなぁとか思いつつ()

恋人同士なんだしあまあまな事しないと、ね?キスぐらいならセーフ……セーフだよね?
正直ウィッチの純潔アウトラインがまったくわからないしそもそもあの設定生きてるのかわからないし以下省略。

ちなみに作者の誕生日はガランド将軍と被ってます。こわい

では最後に……
あくまでも番外編のため本編には関係してこない可能性の高い内容なので伏線になることは無いと思ってね!


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シーズン1
プロローグ:新たな戦場、新たな体


誰かが落ちる。あれはクフィール……ケンのやつだ。火を吹いてる。

綺麗なところだと聞いていたのにすっかり地獄にかわり果ててしまった。サキもウォーレンも、グレッグも死んじまった。

見ろ、キム!エリア88が見える!着陸するぞ!

あれはF-14(トムキャット)、ミッキーの機体だ!セラのF-104(スターファイター)もいるぞ!

あ……ああ!ミッキーのF-14が!爆発するぞ!離れろ!
あ、おい!セラ!行くな!戻れッー!

あぁ……クソッ!アアアアアアアァァァァァッ!!



中東(ミドルイースト)、アスラン王国。砂漠に覆われたこの国で起きた内乱は何年もの歳月をかけて終戦へと向かった。エリア88指揮官のサキ・ヴァシュタールの自決、プロジェクト4及びアブダエル派アスラン政府軍指揮官の神崎 悟の戦死。プロジェクト4とエリア88、多くの因縁を孕んだ決闘として……首都を火の海に変えながらも。

 

そしてただ、たった一人……その存在が戦争の内容を我々が知る物とは少しづつ変えながらであったが。

 

 

___________________________________________________

 

 

-アスラン王国首都国際空港-

加圧服を着た青年がベンチに座り愛機を眺めている。機体はF5D「スカイランサー」。彼はエリア88でこの機体に何度も助けられてきた。

 

戦争が終わった今、もうここにいる義理は無かった。一度この機体でフランスに旅たち母国に戻る予定だ。

 

彼の名前は「植村 由也」。訳もわからずサインしたことでエリア88に担ぎ込まれた男。そしてこの世界への転生者。戦争の顛末を知っていた、たった一人の人物。

 

前世の記憶を持つ彼だったが、人の未来を変えることは出来なかった。風間 真は記憶を失い、ミッキー・サイモンをはじめとする多くの仲間が死んでいった。それどころか彼の存在が世界を変化させ、思いもよらない物を呼び寄せてしまう事もあった。彼自身もウルフパックとの戦いにおいて左目を失い、アイパッチと長い髪で焼けただれた顔の左半分を隠していた。

 

自分のやってきたことが無駄だったのか否か……彼の中で揺れ動いていた。しかし、思考の海を漂うも答えまでは漂流してこなかった。

 

ふと誰かが自分を呼んでいる声がすると顔を上げる。

 

「ユウヤ!」

 

「なんだ、キムか。それにキトリまで……わざわざ見送りにでもきたのか?」

 

「なんだとは何よ、散々一緒に飛んだ仲間の(ツラ)を見に来ちゃダメっていうの?」

 

キム・アバとキトリ・パルヴァーネフ。共に由也がエリア88で戦った仲間だ。奇妙な共通点として2人とも王族の血筋……キムはアフリカの小国ルンガの、キトリはこのアスラン王国のだ。

 

「ハハハ……いや、嬉しい限りさ。シンの方はどうだった?」

 

「……」

 

2人の嬉しそうな顔が暗転していく。思わずハッとなって由也は顔を背ける。

 

「……すまん。」

 

「い、いえ……いいんです。」

 

キムが手を振ってごまかす。だが暗い気持ちに押されて由也は思わず口を動かす。

 

「だがな……シンはあれで良かったと思うんだ。平和な場所で生きるのに戦場の記憶なんて持ってたら最悪だ……」

 

「やめてユウヤ! その話はもう……!」

 

「! キトリ……」

 

キトリが声を荒げる。仕方もない、愛した男の傷ついた姿を見るも思い出すのも、誰だって辛いものだ。

キトリは首を振ると話題を変える。

 

「……だから、この話はこれで終わり。 さっさとフランスに行くんでしょ?」

 

「人を追い出すみたいに言うんじゃねえやい……ったく。」

 

頭を掻きむしり悪態をつくと私物の入ったバッグとヘルメットを手に持って立ち上がる。

 

「そんじゃ俺もそろそろ時間だし、おいとましますかなぁ!」

 

「もう……そんな時間なんですね。」

 

「そんな顔すんじゃないや、キム。金輪際の別れじゃないんだから……」

 

「はい……」

 

「フッ……じゃあ、またな。キム、キトリ。」

 

手を振るとヘルメットを被りタラップを登るとコックピットに収まる。

外を見ると2人が手を振っていたので、俺も親指を立てて返してやった。

 

(さらばアスラン……エリア88……わが青春をかけた血染めの記憶。)

 

 

 

 

雲より高い空をドロップタンクをくくりつけたF5Dが行く。

 

この機体はもとを言えば実に20年以上も前にアメリカ海軍が作った試作戦闘機だった。ダグラス社の機体であるF4D「スカイレイ」を大型化し火器管制(アビオニクス)などを強化した全天候型艦上戦闘機。

しかしチャンス・ヴォート社のF-8「クルセイダー」との競合に負けたこの機体は採用はされたが生産はされなかった。

 

それをどういうわけかエリア88に顔を出していた商人____マッコイじいさんが漁ってきて由也に売り飛ばしたのだ。

 

今彼が乗っている機体は2代目。エンジンが換装されマッハ2級の戦闘機としてできあがっていた。こだわりは無かったがマッコイじいさんが値段もそこそこで持ってくる上、なによりその前まで使っていたF9F-8「クーガー」に比べて充分高性能だったため気に入っていた。

 

道すがらは順調に見えた。だが、前の方に奇妙な雲が発生してるのが見えた。

 

それは上向に渦巻き、高度1万を超えてそうなほど大きく、雷が雲の隙間を縫っていた。

 

由也は中継の空港に連絡し気象状況を聞こうと通信を試みる。

 

「エリア88ユウヤよりテルアビブコントロール! 気象状況を知らせてくれ!」

 

だが返信が返ってこない。ノイズばかりでうんともすんとも言わないのだ。

 

「通信機がイカれたのか妨害されてるのか……まさか、P4(プロジェクト4)の連中が仇討ちに来た訳じゃねえよな……?」

 

瞬間、ガクリと機体が揺れたと思うと雲の方へと吸い込まれ始めた。

 

「気流に乗っちまったか!?クッソォ……逃れねぇ……!」

 

逃れようと機体を動かすがそのまま雲の中に突っ込む。酷い気流に荒らされ、コックピットがミキサーにかけられたみたいに酷く揺れる。そのうちキャノピーに頭をぶつけると由也はそのまま意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

1944年、突如出現した人類の敵『ネウロイ』の圧倒的な戦力の前に人類はヨーロッパの多くを渡すこととなってしまった。ネウロイに対し人類は魔法で動く機械でできたホウキ「ストライカーユニット」を作り上げこれに対抗した。

 

そしてヨーロッパの島国、ブリタニアの地に連合軍は各国のエース級ウィッチを招集しガリア解放のために501統合戦闘航空団「ストライクウィッチーズ」を結成した。

 

そのストライクウィッチーズに合流すべく、扶桑の航空母艦「赤城」が目的地へと急いでいた。

しかし、そこでネウロイの襲撃を受けてしまう。

 

艦隊防衛のため空へと上がった扶桑のウィッチ、「坂本 美緒」は限りなく渋い顔をしていた。

 

(まずい……ここままでは艦隊が全滅する……!)

 

今この場にいるウィッチは2人、もう一人「宮藤 芳佳」という少女を連れているが、彼女は戦う訓練を受けていない。先ほど、医薬品を提げて出歩いていたがやれることはほとんど無いはずだ。

 

救援が来るまでの20分間もの間、彼女一人で持ち堪えさせないといけないのだ。

 

銃は弾切れを起こし残ってる武器は扶桑刀一本のみ、何ができるか……

 

その時、耳元のインカムに奇妙な通信が入ってきた。

 

「こちらエリア88、00(ゼロゼロ)セクションのウエムラユウヤ……だれか応答してくれ!」

 

 

 

時間は少し遡る。由也は顔に当たる暴風に意識を戻される。嵐はどこかへ行ったようだ。だが目を開けるとそこは空の上……それも生身でだ。

 

「機械トラブルで強制イジェクトか!? クソがなんて整備だ!」

 

思わず悪態をつくが声がおかしい。声変わりはとっくにしてるはずが妙に音が高い。思わず喉に触れると喉仏に触ることができない。

 

「どうなって……」

 

首をさげ体を見ると、その異常の原因がわかった。

 

ふくよかな胸、足についた羽つきの謎の装置、そしてパンツしか履いてない下半身……左目が見えないのは変わらなかったが性別は大きく変わっていた。

 

「どういうことだコリャあ〜!?」

 

悲鳴、ただただ悲鳴。20年以上苦楽をともにした()()の跡地に手を当て悲鳴をあげる。だがそれ以上の危機が目の前にあった。

 

空を落ちている。その事実がある限り下に落ちれば今度こそ間違いなくあの世行きだ。

 

「ここでこんな死に方でミッキー達のとこに行くなんて嫌だぞ!? なんとかなれー!」

 

すると足についている装置から勢い良くジェット炎が吹き上がり、由也は水平飛行に移行した。

 

まじまじと足の装置に目をやる。するとどこか見覚えがあるのに気がついた。

尾翼のパーソナルマークであるT-REXに先の丸い主翼、試作機特有の赤と白の派手な塗装____

 

「これ……スカイランサー……なのか?」

 

驚く由也。愛機は己の足となり生身で空を飛ばしていた。しかもAIM-9(サイドワインダー)をパイロンに2発括り付けて。

身の回りの装備を調べると、いつもの愛用のダークグリーンのヘルメットに対Gスーツの上半分のみみたいなもの。下はパンツまるだしに背中にはコックピットに積んだ私物品の入ったバッグとストック付きのM1919機関砲があった。しかも弾はフルで入っている。

 

「まだ飛べっていうのか……お前。」

 

なぜだか可笑しくなって笑みが溢れる。

しかし今自分がどこを飛んでいるのか、どこに向かえばいいのかもわからないのではどうしようも無い。

耳元には通信装置らしいものがついている。だれかがこの声を拾ってくれる事を祈って由也は叫んだ。

 

「こちらエリア88、00(ゼロゼロ)セクションのウエムラユウヤ……だれか応答してくれ!」

 

神のいたずらか悪魔の定めた運命か、しかと誰かが答えた。だがその相手というのは奇妙なものだった。

 

「こちらは第501統合戦闘航空団"ストライクウィッチーズ"のサカモトミオ!聞こえるか!?」

 

「501統合戦闘航空団……?どこの部隊かは分からないが助かった!こちらは空を遭難していたところだ、無礼は承知だが貴官の所属基地に着陸許可を求む!」

 

すがる思いで相手と交信する由也。一度地に足がつけばまだ何かわかるかもしれない。だが運悪く、相手も込み入っている様子だった。

 

「無理な相談だ……!こちらは敵と交戦中だ!」

 

「ナニ……!だったらこっちから援護しに行く!」

 

「何を言ってる!そちらもこっちの援護ができる状況では無いのだろう!?」

 

「安心しな、武器弾薬は満載よ!さ、行くから場所を教えてくれ!」

 

「……わかった。地点は____」

 

手元のマップと照らし合わせ、今いる場所と目的地を割り当てる。地中海から大西洋まで一気に移動していたのは気になるが、幸い1分足らずで行ける場所だ。500ノット(時速で換算し900km/hほど)で飛べばすぐにレーダーにも写るだろう。

 

進路を合わせて真っ直ぐ飛ぶ。レーダーや照準は愛用のヘルメットに写るようになり機器が手足になってる分、レバーやペダル、パネル系の操作が要らず楽にはなったが体勢などは長時間飛ぶにはキツかった。特に言えば下半身がスースーする事が一番だが……

 

レーダーにいくつか光点が写るようになった。一つは自分と同じほどの大きさ、もう一つはかなり大きく戦術爆撃機並み、そして残りは小型のセスナのようなものだ。その相手もすぐに目視できた。

 

全身が翼でできたような大型飛行機、黒く塗りつぶされた体の所々に赤い幾何学模様がいくつもある。まるでノースロップのYB-49かB-2みたいだという感想をもったが、その戦闘光景に由也は思わず絶句した。

 

九十六式艦上戦闘機がB-2モドキから撃たれたレーザーに次々と叩き落とされているのだ。海の上には旧帝国海軍の赤城らしい船は陽炎型の駆逐艦と思しきものが火を吹いて沈んでいっている。もはや頭の理解が追いつかなかった。

 

「そこのウィッチ!聞こえるか!」

 

耳元の怒鳴り声で我に帰る。あたりを見回すと同高度を飛ぶ、自分のF5Dに似た装置____ジェットではなくレシプロだが____を足に履いた眼帯の女性が手を振っていた。なるほど、自分はウィッチという職にいてあれが坂本美緒、というやつなのだろうと察する。今度は下はスクール水着だ。しかも今時珍しい旧タイプ。どうなってるんだと由也はゲンナリする。

ふと前世で同じような人物を見た気がするが、それどころではなさそうだ。

 

「お前が植村 由也か。私が坂本 美緒だ。いろいろ聞きたい事があるが……」

 

「わかってらぁ、まずはアレを墜としてからだろう?手伝うぜ。」

 

「ああ、助かる……」

 

坂本は目に見えて疲弊していた。あまり時間をかけるわけにはいかないだろう。

 

しかし先に、相手の方が手を出してきた。敵のレーザー攻撃が赤城の後部甲板を狙撃する。

 

「しまった! 宮藤!応えろ、宮藤!」

 

坂本が赤城に向かって誰かしらの名前を叫ぶ。部下か思い人か……だが、だれかの命が危機だということはわかった。

 

「坂本さんよ、さっさとアレをぶっ潰そうや!その宮藤ってヤツが生きてるかを確認するためにもな。」

 

「あ、あぁ……クソッ、宮藤……無事でいてくれ……」

 

心配こそするが、そこはプロの軍人らしい。坂本はすぐにB-2モドキに向かい合う。俺も効くかどうかもわからないM1919を構えて発砲する。

 

旋回しつつ確認すると、なんてことだダメージは入っているが自然回復している。少しづつダメージを受けた部分が勝手に治っていき、すっぽりと穴は塞がってしまった。

 

「なんだってテレビゲームのバグじゃねえんだぞ、そんな機能あるんならよこせってんだ。」

 

悪態はつくが攻撃の手は緩めない。速度を緩め、急旋回でレーザー攻撃を避けつつ相手の上を陣取ってM1919の弾を当て続ける。だがすると今度はレーザーが曲がって追尾してきたではないか。

 

ロールしつつ真下にダイブして攻撃を振り切る。レーザーとはいえ弾速はそんなに早く無いみたいだ。

 

ふと赤城が視界に入った時、甲板にだれかがいるのが見えた。坂本と同じく下は旧スク水、セーラー服を着て足には坂本のものと同じ装置を履いている。

 

「宮藤!?」

 

坂本の声だ。ということはあれが宮藤という子かと理解する。

宮藤が滑走を始めるが、そこにB-2モドキのレーザーが赤城の横腹に突き刺さる。飛行甲板の一部が吹き飛び、その爆風に揉まれて宮藤がバランスを崩した。

 

「頭を上げろ!空を見るんだ!」

 

思わず由也が声を上げる。次いで坂本も叫ぶ。

 

「飛べ!宮藤!」

 

甲板から離れ、宮藤が空を飛んだ。

 

「何てヤツだ……初めてストライカーを履いたというのに……」

 

思わず坂本が呟き、それを聞いて由也も驚く。ストライカーというものが何なのか、それは今自分が履いてるものだと理解した。

だが訓練もなしに行きなり飛べる奴がいるかとツッコミたくもなった。由也は戦闘機を動かしていた感覚で今空を飛んでいる。このストライカーを履いたのは今が初めてだが、数月のギリシャでの訓練期間と数年の実戦経験が彼の飛行を助けているのだ。

だが彼女はそれをすっ飛ばしていきなり飛んだというのだ。規格外にも程がある。

 

「坂本さーん!私、手伝います!」

 

フラフラと飛びながら坂本の下に行こうとする宮藤。そこにB-2モドキが間髪いれずレーザーを撃ち込んでくる。坂本や由也が注意するより早く宮藤に当たる……そう思われた。

 

だが本能的にだろうか。宮藤はレーザーに向かって巨大な魔法陣を出して防いだのだ。坂本はその大きさに驚き、由也は魔法陣が出たことに驚いた。彼(今となっては彼女だが)の口から間抜けな声がでる。

 

そして気づいた。今までの情報から、今自分が置かれている状況に。

前世に自分が好きだったアニメの一つ、その中にたしかに坂本や宮藤という人物がいた。

 

-ストライクウィッチーズ-

 

ネウロイという存在と戦う少女たちの物語。自分も彼女たちも魔法が使えるウィッチという存在。ストライカーという機械のホウキで空を飛ぶ魔法少女!まさか、再び世界を越えることになるなんて!それも前までの世界とは全く間反対な場所に!

頭を抱えて真っ逆さまに落ちたくなる気持ちに襲われる。

 

だが、坂本がすぐに声をかけたおかげで意識は戻ってこれた。

 

「由也、こい!」

 

「お、あぁ……!」

 

「いいか、2人とも。ネウロイはコアを壊さなければ倒せん!あのあたりにコアがある……」

 

そういうと刀で機体の中央、尻尾のような垂直翼の付け根の部分を指す。

 

「由也、お前は私と来い!攻撃を引きつける!宮藤、お前がコアを撃ち抜くんだ。できるか!?」

 

「いいぜ、やってやろうじゃないか。」

 

「はい!やってみます!」

 

「よし!宮藤は2つ数えたら私について来い!行くぞ由也!」

 

「あいよ!」

 

坂本と共にネウロイに向かってダイブする。バレルロールしながらのダイブでレーザーを避けつつ機関砲弾をありったけ当てていく。

 

相手の付近をすれ違う時、あることに気づいた。レーザーは一定の高さで曲がり一定角度までしか曲がらない。

 

後ろを振り返ると宮藤が敵の攻撃を受けて防戦一方になっていた。垂直上昇しながらM1919を乱射しつつ宮藤に近づく戻る。坂本もすぐに宮藤のもとに来る。

 

「大丈夫か!?」

 

「はい……!大丈夫、まだ飛べます……!」

 

坂本も疲弊していたが、宮藤はもっと限界だった。初飛行、初実戦、しかも訓練もせずに。どんなに才能があったって体力や精神は限界だ。

 

「次で決めようや、2人とも。」

 

「はい! もう一度お願いします!」

 

「よし……気を引き締めろよ!最後のチャンスだ!」

 

「はいッ!」「おうよ!」

 

再度ダイブするとネウロイの機体表面を這うように飛びつつ攻撃を加える。AIM-9を使いたい気分もあるがロックオン自体できるか、撃って補給ができるかが不明な以上はやたらと撃ちたくない。そもそも飛ぶか当たるかも怪しいが……

 

ネウロイから離れ再度上がると宮藤が坂本は由也と同じようにネウロイの上を低空飛行していた。相当技量が必要なはずだがストライカーユニット故かどうか難しい機動を直感的にやっているようだ。宮藤の機銃攻撃でネウロイのコアがあらわになる。だが宮藤も坂本も、そして由也もコアを攻撃するには位置が悪い。

由也はループで相手にコアを射線に収めようとする。

 

しかし、それよりも早く、銃弾がネウロイのコアを正確に撃ち抜いた。

 

ヘルメットのレーダーにはいくつかの光点が別方向から飛んでくるのが見える。前世の記憶から思い出す。これは確か____ 501(ストライクウィッチーズ)の救援だ。

 

宮藤の方をみると、緊張がとけたのか空の上で気を失っていた。

坂本がそっと抱きかかえ、由也も近くに寄る。

 

「大したヤツだ。何の訓練もなしにここまでやるとはな。」

 

「本当に初実戦なのかこの子……ようやるぜ。」

 

「そうだな……さて、そろそろお前の事についても聞かないとな。」

 

「まぁ、そう急かすなよ。ゆっくり話せる場所で……な?」

 

「そうだな……なら我々の基地に誘導しよう。」

 

「ああ、頼むぜ。」

 

まだ彼女____由也のウィッチとしての戦いは始まったばかりだ。彼女の存在がこれからどのような変化を促すのか……いまはまだ、だれも知らない。




どうも、アンギラスです。
プロローグ編を読んでいただきありがとうございます。

エリア88全巻一気読み&アニメ、OVA見た勢いで思わず書き始めてしまいましたがいかがでしたでしょうか?

ここでは自分の裏話や機体解説、キャラクターやネタの説明をしていこうと思います。

1回目では主人公の機体:F5D スカイランサーについて少しばかり

ダグラス社はF4D「スカイレイ」が正式採用されたものの、時代に置いていかれていることに気がついていました。その前に採用されたF3H「ディーマン」やF7U「カットラス」に比べれば安定した高性能を発揮はしましたが、全天候性能の欠落や航続距離の短さ。特に空軍のF-100「スーパーセイバー」と同じエンジンを使いながら音速突破ができない難点を併せ持つ事などが改善点として見られました。
そこで機体のエンジンを強力にしたF4D-2の製造を海軍に提案、一時は100機生産の指示がでましたが不採用となりました。

そしてダグラス社はF4Dを基に機首およびキャノピー形状の変更や機体自体の大型化、レーダーをなど電子機器の強化を行ったF5D「スカイランサー」を海軍に提出しました。
F4D譲りに秀でた高速性能に欠点であった点を改善した優秀な超音速艦上制空戦闘機として完成したのです。

しかし時代は制空戦闘機から爆撃の可能性なマルチロール機へと変わりつつありました。F5Dはミサイルやロケットランチャーこそ搭載できますが、爆弾までは搭載不可能でした。
結果、採用時代はされたものの量産命令はされず、試作機が数機残るのみとなりました。エンジンを強化したモデルも計画されましたが、製作はされませんでした。

この機体は自分が好きな戦闘機の一機でもあります。そのため主人公にはこれにのってもらっています。

さて、次回は未定ですがお気に召しましたら首を長くして待っていただければ幸いです。
ではまたの機会にお会いしましょう。


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第一話:昔と違う、何もかも

せっかくのフランス、学生旅行だぜ!目一杯遊ぼうや!
エッフェル塔に凱旋門だろ、やっぱフランス料理も食いたいし……あー、成人してりゃ酒も飲めるのにな。

お?なんだあれ……署名活動か?ちょっと行ってくるわ。
へーへー、いいよお人好しで。それに名前書くだけだぜ?すぐに終わらせてくるさ。

……さっ、とりあえずホテルに行こう。荷物置いてパァーッと遊ぼうぜ!


いかにも中世ヨーロッパ風なお城と言える建築物、第501統合戦闘航空団「ストライクウィッチーズ」の基地。

 

この施設の部屋の一つに由也はいた。

 

なにやら機密資料だらけの本棚、いかにも偉い人が使っていそうな豪勢な机……そして本当に偉い人が複数人。

 

ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ

 

カールスラント空軍中佐、年齢18歳。カールスラントは元の世界でいえばドイツに当たる国で、この世界ではネウロイに占拠されてしまった国だ。つまり彼女は亡国の軍人、ということになる。

 

ちらりと右を見ると、腕を組んで少しでも動いたらこっちを殺す気だと言わんばかりの目をした少女とやる気のなさそうにダラけている少女の1セット。

 

ゲルトルート・バルクホルンとエーリカ・ハルトマン

 

ミーナと同じくカールスラント空軍の出身で階級はそれぞれ大尉と中尉。

年齢はバルクホルンが18でハルトマンは16だったか。

しかし18歳……自分がエリア88に叩き込まれた時と同じ年齢だな。しっかりしてるというか大人びてるというか……

そう思いながらじっと微動だにせず立ち続ける。

 

手元の由也の証言をまとめた紙を見ていたミーナが顔を上げ、本人たる由也を見据える。

 

「植村 由也さん。念のためあなたの証言をもう一度確認させていただきます。」

 

そういうと紙に書いてある内容をもう一度読み上げる。

 

植村由也 現在21歳 最終階級は中尉

1961年3月11日生まれ

1979年 訳もわからず契約書にサインしたことでアスラン空軍外人部隊へと入隊する。

数月の訓練期間をへて「エリア88」に編入。以後数年にわたり首都陥落後も戦い続けることになる。

終戦後除隊。機体を売却するべくフランスへ移動する最中に謎の嵐に巻き込まれ、気づけば性別からはじまる何もかもが変わった状態で空の上に放り出され、今に至る。

 

改めて聴くとなんとも波乱万丈な人生だと、しかし決して悪いものではなかったと思い返す。

たった2人の日本人と思っていたら戦場カメラマンとして六木 剛や新庄 真がエリア88にやってきて、戦後は津雲 涼子に会うこともできた。

脱走した真を止めるためにキトリと飛び上がって説得し、そのまま脱走兵殺し(エスケープキラー)3人組のBACライトニングと空戦になったこともあった。

戦場で成人を迎えてグレッグら魔中年共に酒をアホほど飲まされて作戦に参加できないなんて事件もあった。

確かに血塗れのろくでもない青春だったが、その中にはいい思い出というのも確かにあった。

 

「……以上です。事実と異なる点はありますか?」

 

「ありません。」

 

短く、しかしはっきりと答える。

 

この世界基準では考えられない由也の経歴にミーナは頭に手を当て、短くため息をつく。

人間同士の戦争というのも、ネウロイが来てからそれどころではなくなってしまった。さらに彼女……いや彼だろうか?は1961年生まれ____今から10年以上先の生まれということだというのだ。

しかし私物の中に英語と中東の言語で書かれた認識票や医療識別表からして事実だということに間違いはなさそうだ。

 

「貴様、さっきから……いい加減本当のことを言え!」

 

「とはいえこれ以上本当のことは叩いても出ないもんで……それとも、そちらが望む模範解答を言ったほうがいいかな?」

 

「貴様!」

 

「やめなさい、トゥルーデ。」

 

ミーナが由也に煽られ怒るバルクホルンを諫める。バルクホルンが下がると由也に向き合う。

 

「さて、由也さん。あなたが今置かれている状況は把握してるかしら?」

 

「ええ。現用機よりはるかに強力なジェットエンジンを搭載したストライカーユニット、とんな銃弾やロケットよりも遠距離から相手を狙えるAAM(空対空ミサイル)、基地のものより精度の高く小型のレーダー……首が物理的にとぶには理由は十分だ。」

 

「そうね……由也さん、あなたはこの世界でなにをしたい?」

 

「なにをしたい……」

 

言葉を反芻する由也。今まで考える暇も無かったことだ。

ただただ今日その日を生きることに精一杯で相手を殺すことだけを考えて飛んできた。だが、この世界の空はそんな血生臭い空ではない。

人類の敵ネウロイに立ち向かう正義の味方、か……悪くない。

 

「前の世界で3ケタ以上の人間を殺しました。なら今度は3ケタ以上の人間を守るために飛びたいです。できることなら、あなた達と……」

 

「このストライクウィッチーズに入隊を希望する、ということで間違い無いわね?」

 

「ええ。むしろ他所で上手くできる自信はありませんよ。」

 

「……無理に戦う必要はないのよ。」

 

「何年もこの生き方をしてたら、これしかできなくなりましたから。」

 

ニヤリと笑う由也。ミーナはじっと由也を見つめるが、やがて観念する。

 

「わかったわ、入隊を許可します。あなたの処遇についてだけれど……」

 

「あー、それでなんだが……結局階級っていうのも一時的についてただけで正規軍のやり方には慣れてないんだ。いきなり尉官っていうのはこっちが慣れない。いっそ新人として扱ってくれた方がマシだぜ。」

 

「それじゃあ、階級は軍曹でいいかしら?」

 

「いっそ無いくらいでいいんだがな……まぁ、それしか無いなら仕方ないな。」

 

「それとあなたのジェットストライカー……なんて言ったかしら……F5D、だったわね?あれは整備士にも触らないように言っておくわ。」

 

「ありがたい、マニュアルはあるがいきなり触られて壊されるのだけは勘弁だからな。手を借りたくなったらこっちから言うよ。」

 

「わかりました。その他書類等はこちらで用意して後で渡すので今は休んでおきなさい。部屋は……空きがあったはずね。トゥルーデ、エーリカ、基地を案内してあげて。」

 

話がトントンと進んでいく。だがバルクホルンは由也を信用しきっていない。

 

「まってくれ、ミーナ!本当にこいつを仲間に入れるのか!?」

 

「本人が希望してるのよ。いま一人でも多くの戦力が欲しい以上はこれが最善だわ。」

 

「しかし今まで言ったことが()()だっていう可能性も……!」

 

なかなか下がらないバルクホルン。由也が思わず口を挟む。

 

「人間同士の戦争を生き延びてきた証……それが見たいか?」

 

「それがあるなら、な。」

 

「ふむ……わかった。」

 

そういうと由也は徐に服を脱ぎ始めた。突拍子もない行動にバルクホルンは思わず顔を赤くするが、服の下の肌を見て目を見張る。それまで会話に参加する気もなかったハルトマンまで由也を見る。左目のアイパッチを外し髪をかきあげると、その全貌がハッキリとする。

 

左目は完全に潰れて開かず顔の左半分を覆うほどの火傷跡、それが首をつたい体の左肩から胸の左側半分あたりまで広がっている。まだ彼女が彼だったころに受けた傷だった。

 

「これは敵のエース、ウルフパック(群狼)という奴らからミサイルをくらった時のケガだ。コックピットのすぐ隣で弾けてな……ベイルアウトして奇跡的に生きてはいたが、しばらくの間大火傷で動けなかった。だが敵はすぐそこ、すぐに飛ばなきゃならなかった。1月もしないうちに包帯グルグル巻きのまま中古で買った戦闘機に乗っかって戦場に返り咲きだ。」

 

由也の話に絶句する3人。彼女は服装を直しつつ話を続ける。

 

「俺はまだ生きてるから運がいい方だ。隣の部屋に騒がしいのが入ったと思った明日には遺品整地の真最中なんてのが毎日だ。最後の戦いの時だって、エリア88の古参やトップエースが50人以上いたパイロットが帰ってきたのが両手両足で数えれるくらい……」

 

「まるで……地獄ね……」

 

絞り出すようにミーナが呟く。その一言を由也は否定した。

 

「まるで地獄、か。それは違うぞミーナ。

 

あそこが本当の地獄さ

 

 

___________________________________________________

 

 

 

私物をもってバルクホルンとハルトマンの後をついていく。行先は自分のあてがわれた部屋とのことだ。

 

しかし……先の話のせいか会話が一切発生していない。

 

(気が滅入るぜ……さっきはああ言ったがやってけるのか本当に)

 

自分の発言を後悔する由也。しかし言い出しっぺから原因まで自分である以上、なにも言えないのだ。

 

「ついたぞ。」

 

「お、ああ……」

 

そうこうしてるうちに部屋の前に着いていた。扉を開けて中に入ると今までの自室が嘘みたいな豪華で広い作りとなっていた。

 

「広いな……最初の基地の部屋より3倍……いや4倍は広いし豪華だ。」

 

「へぇー、前のところってそんなに狭かったの?」

 

今まで喋りかけてこなかったハルトマンが由也の言うことに反応する。

 

「ああ、砂漠のど真ん中の基地でな。部屋にあるのは机とベッドとうるさいクーラーだけ、狭っ苦しいもんでな……チェスもできないような所だったよ。」

 

「狭いねー。私が住んだら1日足らずで埋まりそう。」

 

「ハルトマンお前な……それでもカールスラント軍人か!?カールスラント軍人たるものだな……!」

 

「えー、だって片付けるのめんどくさいんだもーん。」

 

「だってじゃない!」

 

バルクホルンが叱りつけるがハルトマンはのらりくらりと受け流す、そんなやりとりが目の前で繰り広げられる。気の抜けた会話に思わず笑ってしまう。

それを2人は不思議そうに見ていた。

 

 

 

由也は2人に施設をあらかた案内してもらい、自室に荷物を整理しに戻ってきた。晩の食事は私物の中にあったマッコイじいさんの在庫売り捌きで山ほど買った乾パンで済ませた。施設を振り返ると、だれが飲むかもわからない酒の貯蓄がある食堂やピアノの置いてある豪勢な居間、さらには大浴場とまるでリゾートホテルのような印象を受ける基地だ。正規軍がみなこのレベルの扱いなのか、それともウィッチという特殊な存在だからなのか……「作品」としての知識はあれど、「世界」として知らない彼女からすれば前の基地と比べることでしか推し量れない。

そう考えつつも私物を出していると、懐かしいものが出てきた。

何冊かの少しボロになったノート。中にはエリア88メンバーの情報や機体の説明、今までの作戦やそこで出てきた知る限りの敵の名前や編成が記されている。

由也はこれを「アサルトレコード」と呼んでいた。なにもやれと言われたわけではなく、ただ趣味でやっていたのみのものだが、これがサキの目に留まりラウンデルら士官組の補佐職につくことになったのは今でも覚えている。

 

ページをめくるたびいろんな奴の顔や声が浮かび上がってくる。ウォーレン、ケン、ルロイ、ライリー、マリオ、キャンベル……

 

「ダメだな……来て早々にシけちまうなんて。」

 

酒でものんで気分を変えようと食堂に向かう。

 

(そうだ……ワインもあったな。()()があればいいんだが。)

 

 

 

食堂に入り、キッチン脇の酒のボトルの詰まった棚を開ける。中は大半がエール(ビールの一種。英国でよく好まれる。)かイギリスワイン……こっち風にいえばブリタニアワインだ。

目当てはドイツワイン……この世界のカールスラントのものにあたるためそもそも銘柄があるか、あったとして残っているかが問題だった。

 

無いかと思い棚を閉めようとすると、端のほうに見慣れたラベルのワインを見つけた。それこそ由也が探していた逸品だ。

 

手に取ろうとしたとき、後ろから声をかけられた。

 

「珍しいな、ここでカールスラントワインを飲む奴がいるなんて。」

 

「……思い入れのある品だからな。俺は植村由也、あんたは?」

 

「私はシャーロット・イェーガー、シャーリーって呼んでくれ。」

 

振り返るとなんとも……ナイスバディな少女が立っていた。いや、その胸は少女というには……

 

これ以上はヤバいと由也は首をふって思考を断ち切る。

ワイングラスを2つ取り出してシャーリーに渡す。彼女も乗り気のようで笑顔で受け取る。

 

「"シュタインベルガー"……勝手に飲んで良いって棚のとこに置いてるとはいえ、そこそこ高いのじゃなかったかそれ?」

 

「実際高いぞ。良いものを買おうとすれば240ドル(25000円程)くらいはするだろうな。」

 

「そりゃあまた……その思い入れってのはなんだ?」

 

「前の部隊のエースパイロットが愛飲した逸品なのさ。」

 

栓を開けシャーリーのグラスに、そして自分のグラスにと注ぎ乾杯する。

一口煽るとかの人物について話し始める。

 

「"鋼鉄の撃墜王"フーバー・キッペンベルグ。冷静、勇猛、知略に長け空戦にて最強。そしてこの石の山(シュタインベルガー)はあの人が遠い母国を思い浮かべて飲んだ酒だ。」

 

「なるほど……そいつは今、どうしてるんだ?」

 

「……さぁな。雲の上でみんなと仲良くしてんじゃないかな。」

 

グラスに入った残りのワインをぐっと流し込む。ふと、フーバーの声が聞こえたような気がした。

 




どうも、アンギラスです。
読んでいただきありがとうございます。

加入までのお話なので盛り上がりには欠けるかもですが、戦闘はもう少し先なのでそこまでお待ちを

今回紹介するはこちら

「フーバー・キッペンベルグ」
通称"鋼鉄の撃墜王"

由緒正しい空軍パイロットの家系で祖父は第一次世界大戦でブルー・マックスの称号をうけたカール・フォン・キッペンベルグ、父はメッサーシュミット(機種は言及なし おそらくMe109と思われる)に乗って109機の撃墜数を誇ったアドルフ・キッペンベルグ、そしてフーバーは西ドイツ空軍少佐でNATO軍で高速編隊の指揮をしていたという。
密集編隊訓練の際に指揮のミスで部下を全員事故死させてしまい退役、エリア88に流れ着いた過去を持つ。

ウルフパック戦にて初登場。サキの指名した9人のパイロットの一人として登場する。その後はメンバーの指揮を一時的に行なっていて、上記の過去あいまってか真曰く「指揮のとりかたはサキよりも安心感がある」という有能さを見せる。
その後エリア88防空戦で戦死するが、たびたび夢の中でサキや真の前に現れ、助言などをいれてくれる回想要員として出てくる。死後も登場回数が多い「エリア88」という作品の中では少し珍しい形のキャラクターだった。

次回も読んでいただければ幸いです。それではまたの機会にお会いしましょう。


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第2話:ファーストコンタクト、ファーストフライト

あんた……日本人か?

あっと……自己紹介がまだだったな。俺は植村由也だ。昨日まで訓練で飛んでて今日からここで厄介になる。

風間真……か。よろしく。たった2人の日本人同士がんばろうぜ。

……馴れ合う気はないって感じかな?握手くらいは良いだろ?

お気楽ね、よく言われる。ただ暗い気持ちで年中いるより楽しんだ方が良いんだよ人生って。まぁ、18の若造が言うことでも無さそうだけどさ。

な、なんだよ……そうだよ、18歳、ナウいヤングな未成年よぉ。

なんでここに来たってそれは……よくわからないまま連れてこられただけさ。

お、ブリーフィングルームに集合だって。行こう、真!


第501統合戦闘航空団基地 ブリーフィングルーム

 

教室を連想する作りになっているここに、部隊に所属してるウィッチ全員が集められていた。昨日に新たに配属されたメンバーを紹介するためだ。

ミーナが全員集まっていることを確認すると手を叩いて注目を集める。

 

「はい、皆さん注目!改めて今日から皆さんの仲間になる新人を紹介します。」

 

新人とは由也ともう一人、昨日の空母赤城を助けた際に一緒に飛んだ宮藤芳佳の2人のことだ。

ミーナの紹介が進んでいく。

 

「坂本美緒少佐が扶桑皇国から連れてきてくれた宮藤芳佳さんと植村由也さんです。」

 

「宮藤芳佳です。皆さんよろしくお願いします!」

 

「植村由也だ。これからよろしく。」

 

宮藤は元気に、一方由也は軽い感じに挨拶をする。

青い服の娘とバルクホルンが眉間にシワを寄せた気がするが無視する。

 

由也の出自は5割方嘘で固めてでっち上げたことになっている。中東(ミドルイースト)のパルチザンにいたが全滅、帰国時に坂本に呼ばれて501に異動してきた……という事になっている。F5Dのストライカーユニットもそのパルチザンで使っていた出所不明のものとして取り扱っている。

 

近いが遠い、なんともいえない過去にされたな……と思う。真実はあの場にいたミーナ、バルクホルン、ハルトマン、そして坂本の4人が知るのみだ。

 

「階級は2人とも軍曹になるわ。同じ階級のリーネさんが面倒を見てあげてね。」

 

「は、はい!」

 

リーネと呼ばれた少女が返事をする。オドオドしているところ、寧ろこっちも彼女をサポートすべきだろうなと由也は感じた。

 

「じゃあ必要な書類、衣類一式、階級章、支給品がこれになるわ。」

 

そう言われてアタッシュケース一つ分の書類やら、そして拳銃一本が渡される。おそらくPPKだろう。

書類などはまだしも由也としては愛用のスタームルガー・ブラックホークがあるためあまり必要のない物ではあるが……

 

隣の宮藤がそっとPPKをミーナに渡す。

 

「あの……これは、いりません。」

 

「何かの時には持っておいた方がいいと思うけど。」

 

「使いませんから……」

 

ミーナはそう……と短く答えると銃を受け取る。

坂本は少し困った顔をしながら笑っているが、その後ろの青っ娘の顔はだいぶ険しい。後ろのメンバーとこそこそと少し話すと机を叩いて出て行ってしまう。

ミーナは仕方なく解散させた。

 

由也は隣にいる宮藤に手を開いて挨拶する。

 

「さ……昨日ぶりだな、宮藤。改めてよろしく。同じ国生まれだ、気軽に由也と呼んでくれ。」

 

「はい、よろしくお願いします!由也さん!」

 

こっちの挨拶に応えて握手を交わす2人。

由也はなんとも戦場に似合わない少女だろうという感想が浮かぶと同時に、以前(エリア88)の着任の時とは天と地の差だなと感じた。

 

エリア88について着任報告をした際のサキといい、それからすぐに会話を交わした真といい……初対面の感想は「無愛想な人間の集まり」だった。

だがこっち(501)は空気から違う。その事がすぐにわかった。

 

「ひゃあ!?」

 

「んあっ……!?」

 

すると宮藤の、いや2人の胸を誰かが掴む。宮藤は驚き、由也は思わず変な声が出る。

 

「こっちは残念賞……でもこっちは意外と……」

 

「い、いきなりなんばしよっとかぁあっ!?」

 

「あいたーっ!?」

 

由也は思わず揉んだ相手をひっぱたき黒板を背にするように下がる。犯人と思われるツインテールの少女が頭を押さえて蹲っている。

 

「ハハハ、やられたなルッキーニ!」

 

シャーリーが頭を叩かれた少女の頭を撫でる。他のメンバーも宮藤ら2人のもとに集まって自己紹介をする。

 

「由也は昨日会ったな。改めて、私はシャーロット・E・イェーガー。リベリオン出身で階級は中尉だ。シャーリーって呼んでくれ。」

 

「あたしはフランチェスカ・ルッキーニ。ロマーニャ空軍少尉!」

 

「エイラ・イルマタル・ユーティライネン、スオムス空軍少尉。こっちはサーニャ・V・リトヴャク、オラーシャ陸軍中尉。」

 

「り、リネット・ピジョップです。よろしくお願いします。」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「なかなか多国籍だな……よろしく頼む。」

 

大体の挨拶が終わると坂本が声をかける。

 

「よし、自己紹介はそこまで。各自任務につけ。 リーネと宮藤は午後から訓練、由也はストライカーユニットのテストを行う。リーネ、宮藤に基地を案内してやれ。」

 

「了解。……てことはしばらく別行動か。それじゃあ、宮藤、リーネ、また後でな。」

 

「は、はい!」「はい!また後で!」

 

そういうと由也はブリーフィングルームから出て行く。

さて、午後までもう何時間か余裕がある。それまでF5Dの整備(メンテナンス)でもしようと格納庫の方に足を運んだ。

 

 

 

格納庫に入るとシャーリーとルッキーニがF5Dの周りに集まっていた。

 

「よ、お前ら。見物か?」

 

「由也か!それもあるけど、お前のテスト飛行に付き合うことになってな。」

 

「あたしも一緒!」

 

「へえ、お2人が一緒にとんでくれるのか?」

 

「そういうこと!」

 

それは心強い、と軽口を叩く。

 

由也はF5Dの近くによると装甲を外して整備点検をしていく。さすがにC整備以上のことはできないが、多少のことなら心得ている。とくに山岳基地のときは人手不足で自分の目で見なければならなかったし、輸送機がYak-38(フォージャー)におとされしばらくの間パーツが来なかった時があった。その時はこうして騙し騙し整備をしながら使っていたものだ。

 

しばらく整備の様子を見ていたシャーリーが話しかけてくる。

 

「なぁ、由也。こいつはどうやって飛ぶんだ?」

 

「こいつはジェットで飛ぶんだ。レシプロに比べて持続性は落ちるけど、パワーは遥かに上だから速度は出るぞ。」

 

「ジェット! スピードはどれだけ出るんだ!?」

 

「時速950キロはでるのは確か、最高速度は試したことないな……」

 

興味深々というシャーリーにすこし濁しつつ答える。いかんせん、F5Dは今から10年後の機体だ。かるく音速は超えれるが、そのことをペラペラ言うわけにはいかないだろう。

その他にも隠すべきことが多い。レーダーやFCSの搭載、ミサイルやロケットランチャーなどを装備できるパイロン(いちおうAIM-9は外して決して見られないように保管されている)……今のストライカーを鑑みればはるかに先進的だ。

 

問題を言うなら……コーションマークなどは全て英語、胴体横にデカデカと「TEST」の文字が書いてあることだ。放置されてた試作機を持ってきたものとはいえあまりにもズサンだなとマッコイじいさんを恨む。

 

「見てシャーリー!こっちに書いてある文字も全部リベリオンの文字だよ!」

 

「本当だ。てことはリベリオン製なのか……?」

 

由也はやっぱり……という顔をして思わず頭に手を当てる。やや苦し紛れではあるが、なんとか嘘を見繕う。

 

「あー、それな……前のところでそこら辺から適当にパーツやストライカーを引っ張り出してきてたからどういうものなのか全くわかんないんだ。名前も型番も、作った国もよくわからないものが転がってるなんてこともあったしな……」

 

肩を竦めながら答えるとなんとか納得してくれたようだった。

それでもF5D関連でこれ以上質問がでるのはマズい。話題を変えようと先のブリーフィングルームの時の話をする。

 

「そういえば、まともに名前も言わずに出てったあの青色ツンツンメガネ……あれは誰なんだ?」

 

「あぁ、あれはペリーヌだ。ペリーヌ・クロステルマン。ガリア空軍の中尉だ。」

 

「ガリア……ってことはお隣さんか。」

 

「そーそー、今はネウロイに占領されててさ。」

 

前世の記憶もだいぶ飛び飛びになってるな、と考える。前の世界にいた時が必死になりすぎていたせいか、それ以外の作品(きおく)の情報を忘れかけている。

 

「だから宮藤が嫌いなのかねぇ……」

 

ぽっと独り言が飛び出す。故郷を思って戦うペリーヌに対して戦争の嫌いな宮藤。馬が合わないのは確かだ。

その独り言をルッキーニが拾う。

 

「いやぁ、多分それとは別だと思うな〜。」

 

「? なんだそりゃ?」

 

「ペリーヌは少佐が好きなんだよ。だけど昨日、宮藤がお姫様抱っこされてでしょ?それで……」

 

「あぁ……そういう。」

 

思ったよりも理由はだらしなかった。女の嫉妬……というものか。

だがその次に飛んできた言葉には驚かざるを得なかった。

 

「あ、その流れでいくと多分由也のことも嫌いだよ。」

 

「は?」

 

「ほら、少佐のこと呼び捨てで呼んでたじゃん?」

 

「いや、だからって……」

 

そう言いかけてふと思い返す。そういえばもう自分も正規軍に編入されてる以上は階級による上下関係というのを考えなければならないのか。坂本は佐官、以前の直属の上司だったラウンデルと同じ階級にあたるのだ。ちゃんとした接し方をしなければなるまい。

中尉の階級を捨てたのは失敗だったな……。今更になって後悔する。

 

そうこうしてるうちに全てのチェックが完了した。新品の同然まで整備して出てきたのだから劣化はほとんどないのは当たり前だが、念のため行うというのが染み付いてしょうがない。

 

「よし、こっちはいつでも飛べるぞ。いつから始めるんだ?」

 

「もうそろそろミーナ中佐が来るから、それからだ。お、噂をすれば……」

 

シャーリーが見ているほうを振り返るとミーナがこっちに歩いてくる。

 

「由也さん、準備はどうかしら?」

 

「整備点検完了、いつでもいけるぞ。」

 

「では発進準備!シャーリーさんとルッキーニさんも!」

 

「「「了解!」」」

 

そういうと3人はそれぞれ自分のストライカーを履く。シャーリーのはP51(ムスタング)、ルッキーニはG55(チェンタウロ)だ。

 

(P51か……山岳基地脱出のときに使ったが、こっちでも見ることができるなんてな。)

 

そんな感想を持ちながらも由也もF5D(スカイランサー)に足を収める。

 

「まわせー!……って自分でやるんだったな……」

 

「? どうした由也?」

 

「なんでもない、シャーリー……古い癖だ。」

 

エリア88にいた頃の癖で叫んでしまうが、ストライカーユニットは自分の魔力を注いでスタートさせる。楽ではあるが、この癖が抜けないと発進のたびに恥をかきそうだ。

 

2人はすぐにエンジンをかけるが、由也はスタートに至るまでの準備が些か長い。

耐Gスーツ用の吸気ホースを左足の専用口に取り付け、しっかり固定されてるか確認する。メットを被りゴーグルを下ろすと電子照準器などが正常に点灯するのを確認する。全てOKならいよいよエンジンスタートだ。

キュウウゥゥ……と甲高い吸気音が始まりエンジンが回り始める。回転がある程度安定したのを確認し火をつける。

 

「うおっ!」

 

「うぅう、すごい音〜!」

 

「こ、これがジェットストライカーなの……!?」

 

3人は初めて聞くジェットエンジンの音に驚く。

 

少し由也は遅れたが3人とも問題なくスタート完了だ。

その様子を見ながらミーナは冷静に由也を分析していく。

 

(魔力量は中から少し多いくらい……宮藤さんほど多いというわけではないみたいね。)

 

回転数を順調に上げていき、シャーリー、ルッキーニ、由也の順に離陸する。

高度1500mほどまで上昇するとその場でとまる。振り向けば基地が一望できるくらいの高度にはなった。

 

「さて、まずは基本からだな。この基地の周りをぐるっとまわるぞ。私の後ろをついてくるんだ。ルッキーニ、由也の後ろについてやれ。」

 

「りょうか〜い!」

 

「あいよ。」

 

シャーリーが加速しつつ緩やかに旋回する。由也が続き、見守るようにルッキーニが後ろを飛ぶ。エリア88に着任する前の訓練でラウンデルによくドヤされながらやったことと似ているなと他所ごとを考えながらもしっかりあとをついていく。

ピタリと編隊く崩さないように飛ぶ由也を見てシャーリーは内心、舌を巻いていた。

 

(とても新人には見えない動きだ。これだけ編隊を崩さないように飛べるやつなんて相当練度が高くなきゃできない。一体何者なんだ……?)

 

その様子はミーナも地上から見ていた。

空を飛ぶ由也を見上げながらバルクホルンがやってきて、ミーナに話しかける。

 

「あいつの様子はどうだ、ミーナ?」

 

「変な様子はないけれど……彼女すごいわ。初めて編隊を組む相手なのにピッタリついていってる。それもまったく編隊を乱さないで。」

 

「練度は相当高いな。あの話も嘘ではないということか……」

 

「そうね……」

 

思わずミーナは視線を下げた。由也の話が嘘であればまだ良かったのにと。彼女、いや彼はもう十分に戦ってきた。それがこの世界に来てもまだ戦い続けている。あとどれだけ彼女は戦いつづけなければならないのか……

ミーナは神を、恨んだ。

 

 

 

 

 

テスト……といってもかるく飛び回るだけだ。由也からすれば遊覧飛行のようなものだった。スーツの胸ポケットからタバコとライター、ポケット灰皿を取り出し、タバコを一本加えると火をつける。

グエンのように頻繁に吸う人間ではないが、やはり口元が寂しくなる事はある。

 

ふっと吐くと白い煙が空にあがり消えていく。その空には4本の線。坂本と宮藤、リーネ、それとペリーヌだ。訓練飛行で自分が飛んでいたのと同じコースを飛んでいる。

 

前線のはずなのに、随分と緩いなと思う。基礎訓練の終了していない新人が1人、宮藤が増えて2人だ。ましてこの501はガリアのネウロイの巣を攻略するための先鋭戦力だとばかり思っていたが、開けてみれば問題児と新人の集まりみたいなものだ。エリア88が言えた事ではないが、戦力としては申し分ないが軍隊としては尖りすぎていてお世辞にも扱いやすいとは言い難い。

 

それでも成り立っているのはネウロイの一定周期で進行してくるという特徴だろう。ましてガリアからブリタニアは海を隔てており、ネウロイの航続距離も巣から一定までしか飛ぶことができない。

進行ルートが確定し、来る日にちも決まっているため成り立っている……といったところだろうか。

 

そう由也は分析した。

 

訓練も終わったようで4人が降りていくのが見える。

もう日が暮れてきている。そろそろ部屋に戻ろうとタバコの火を消して灰皿に入れた。

 

 

 

___________________________________________________

 

 

 

数日後。

朝早くから警報が鳴り響き、日課のロードワークを切り上げフライトスーツ(のこの世界に合わせて上半分だけになってしまったもの)を羽織ってブリーフィングルームへと急ぐ。

 

入るとバルクホルンや眠そうにしているハルトマン、佐官2人などがいるだけでその他はまだ起きてきていない。由也はいつも通りに部屋の右側の壁にもたれかかると全員の集合を待った。

 

3分もしないうちに全員が集まる。メンバー全員が集まったことを確認するとミーナが作戦ブリーフィングを開始した。

 

「監視塔から報告が入ったわ。『敵、グリッド東、144地区に侵入』高度はいつもより高いわ。今回はフォーメーションを変えます。」

 

「バルクホルン、ハルトマンが前衛、シャーリーとルッキーニは後衛、ペリーヌは私とペアを組め!以上、出撃!」

 

坂本があとを引き継いでフォーメーションの説明をすると出撃メンバーを引き連れて出撃すべく格納庫に向かった。

由也とリーネ、宮藤もあとを追う。

 

前衛組、中衛組が発進していく。シャーリーとルッキーニも準備が終わっている。そんな2人に由也が声をかける。

 

「2人とも、グッドラック!」

 

「おう、サンキューな!」

 

「まっかせとけー!」

 

親指を立てて見送ると、2人もそれに応える。

離陸すると先に出た組を追ってスピードを上げる。すぐに視界から消えていった。

 

出撃メンバーに選ばれなかったが、こういう願掛けはしておくに越した事はない。前の世界で学んだことだ。みんなそうやって生き残ってきたのだ。

 

さて、あとはもうやれる事はない。戦果報告でも聞いてよう……そう思って待機室に足を運んだ。

 

 

 

一方戦場ではネウロイと交戦が始まろうとしていた。

ネウロイを視認したバルクホルンとハルトマンが攻撃すべく接近する。

 

そのときネウロイに異変が起きた。ネウロイの胴体下部分が分離し進行方向とは別、北西の方角に高速飛行を始めた。

 

「まずい!ネウロイが分離した!」

 

「くっ、間に合わない……!」

 

突然の行動に混乱が生じる。進路も違うため旋回して追いかけるのでは間に合わない。実質追撃は不可能だ。

 

 

 

その報告はすぐに基地にも知らされた。

 

「まずいわね……サーニャさんは?」

 

「夜間哨戒で魔法力を使い果たしてる、ムリだな。」

 

「いま動けるのは私とエイラさん、由也さんだけね……」

 

「相手はかなり高速だ。俺がいこう。」

 

「単騎で行く気?無茶よ!」

 

由也が出ていこうとするのをミーナが止める。この世界のセオリーでいけば単騎でネウロイを相手にするのは自殺行為に等しい。だが由也はただの人間ではなかった。

 

「あっちのメンバーができないんじゃ、お2人のストライカーじゃ追いつけないだろ? それに10機以上の敵に囲まれて生きて帰ってきた事もある、安心しろ。」

 

それじゃ、と言ってメットを持って待機室を飛び出す。

 

AIM-9を装着する間も無く自分のストライカー(F5D)を履き、スクランブルする。

 

耳元の通信機にミーナからの連絡が入る。

 

「分離したネウロイは高速で飛行中、まもなくブリタニア沿岸に差し掛かるわ!なんとしても都市部への到着は阻止して!」

 

「出来る限りやってみる!」

 

そういうとアフターバーナーを点火し一気に加速、上昇する。体から力がすごい勢いで抜けていくのが嫌でもわかるが気にしている暇はない。

 

あっという間に高度8000mまで上昇、速度は音速の2倍ほどに至った。

相手を追いかけるよりかはいっそこのまま北上し待ち伏せたほうが会敵、もしくはレーダーレンジに捉えられそうだ。

 

海岸沿いを飛んでいると、メットのレーダーに光点が写る。方位0-6-5、距離30km、これが例のレーダーだろう。速度は時速600kmほどとかなり高速でレシプロ機では追いつくのが難しそうだ。

だが超音速戦闘機であったF5Dなら話は別だ。すぐに視野内に収められる。

 

視界に黒い点が見えたと思うとグンと一気に近づく。M1919を構えるとその銃口の先にパピーが表示される。

照準器いっぱいにネウロイが写るまで近づき、引き金(トリガー)をひく。

すれ違いざまに何発かの銃弾がネウロイに命中し白い破片を撒き散らす。

 

振り返って確認すると、なんとも奇妙な形のネウロイであった。

ミサイルのように細長い、角ばった胴体に細長い翼のついた形。前世で見たUAV(無人航空機)のような形だ。しかし大きさは約5mほどでそんなに大きくはない。

 

ネウロイは進路を変え由也を追いかけ始める。レーザー攻撃を加えながら速度を落とさずに追い詰めようとする。

 

右に左にとシザースで避けながら反撃の機会を伺う。

 

「ミサイルが飛んでこないだけマシ……か。生身だからできる戦い方をしてみるか!」

 

ローリングしながら宙返りに入り、逆宙の姿勢でネウロイに銃撃を加える。

ネウロイも由也のあとを追うが運動性と機動性で負けており、引き離す事は容易だ。

相手の後ろをとり、再度機銃掃を加える。度重なる被弾で速度が少しづつ落ちていく。

 

ふと視界の端、地面の方に都市部が見える。早くネウロイを墜とさないと流れ弾で被害を受けかねない。

 

ネウロイとバックトゥバックの姿勢で飛行を維持して全面に満遍なく銃弾を浴びせる。コアの位置がわからない以上、こうして無理やり見つける方法を取らざるを得ない。

 

「見つからない……? 分離した子機には元から無いのか? なら……」

 

一度加速しネウロイと距離を取ると急旋回しヘッドオンで捉える。正面からの撃ち合いは由也の得意とする状況だ。

 

ヘッドオンからネウロイの正面に向かってM1919の7.62mm弾をねじ込んでいく。ダメージの許容限界を迎えたネウロイは一瞬光ったと思うと消滅した。

 

「由也より管制塔(コントロール)、ネウロイの子機を撃墜した。基地に帰投する。」

 

「了解した。現在基地近海にてミーナ中佐らが交戦中、至急応援に……あ、いや……」

 

「? どうした管制塔?」

 

「いえ、ネウロイはリネット軍曹と宮藤軍曹が撃墜しました。周辺空域に敵性勢力なし、帰投してください。」

 

了解(ラジャー)

 

ふぅ……と息を吐き下を見る。

街の人々が由也に向けて手を振っていた。戦うことで誰かから感謝される、初めての感覚だったが悪くないものだ。

 

手を振り返すと基地に進路を変えて飛び去った。戻ったらリーネと宮藤の初撃墜のお祝いだろうなと思いを馳せる。

 

「あっ、都市部にまで来ちゃってるじゃんか……帰ったらお叱りかなぁ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファリーナ様、ご無事ですか?」

 

「私は大丈夫だよ、マスタード君。それよりあのウィッチを見たかね?」

 

「はい。ストライカーユニットはおそらく前の世界のものの戦闘機かと思われますが……」

 

「ふふ、どこの誰かはわからないが……会ってみたいものだな。あの計画を潰すためにも……!」




どうも、アンギラスです
今回も読んでいただきありがとうございます。

いいかげん20k字超えるのではないかと少し冷や冷やしてます。文字数ダイエットしたほうがいいですかね……?

さて、今回紹介するのは……

AIM-9 -サイドワインダー-

プレステのゲームの話ではありませんよ?空対空ミサイルの話です。
赤外線ホーミング式の近距離空対空ミサイルとして有名なため、あまり説明は必要ないかもですが。

前述の通り赤外線ホーミング式を採用しているため、レーダーを搭載していないF-86(セイバー)F-5A/B(フリーダムファイター)のような機体でも扱える利点があります。ランチャーなどを取り付ければ大体の機体で使用が可能、なおかつ値段も安めという利点がありました。
しかし初期のサイドワインダーの誘導性能は酷いものでした。朝鮮戦争でこそ威力を発揮しましたが、つづくベトナム戦争ではジャングルの熱源などを捉えてしまい、あらぬ方向に飛んでいくことが多々ありました。
また、この誘導方式を利用しフレアを放出することでサイドワインダーから逃れるという手も編み出されました。

しかし画期的であったのは事実、ロシア、日本、イスラエル、フランス、イギリスなど様々な国でオリジナルのものやコピー品が生まれました。(例:R-60、マジック、シャフリル、パイソン、90式誘導弾 等)

近年ではホーミング装置や翼に改良が加えられ、誘導性能や運動性の向上が行なわれています。



さて、次回もまた未定ではありますが、きながに待っていただければ幸いです。
ではまたの機会にお会いしましょう。


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第3話:失った物、失う物

ミッキー!残ってるのは何機だ!?

今回はずいぶんやられたな……出撃機9機で帰還機は3機だなんて。

……こんなとこで何やってんだろうな、俺。

元々好きで入ったわけじゃない、ただ戦わされてるだけなんだけど……理由もなく敵を殺すだけだなんて、おかしなことじゃないかなって。

敵からすれば理由もなしに殺されるんだぞ?たまったもんじゃない。正規軍なら戦う意義があるけど、俺たちは……

いや、変なこと言ったな。忘れてくれ。帰ろう、ミッキー。


朝6時。由也は起床すると服を寝巻きからいつものフライトスーツに着替え、タオルを手に外に出る。

 

かるく体をほぐすと10kmほどのロードワークを行う。エリア88にいた時は必ずこれをやっていた。どこの基地に行こうと、どんな状況であろうと、よっぽど朝早くから出撃がない限り行っている。

 

何も命令されてるわけではない。ただ、死にたくない一心の行動だ。パイロットにふさわしい体力を維持することが戦場では生死を左右する。それを持たない人間は……死ぬだけだ。

 

世界は変われどやることは命のやり取り、ならば続けることが一番だろう。

 

 

 

ロードワークも終わり食堂に入ると全員すでに集まっていた。食事はリーネと宮藤が作ったようだ。

 

「あっ、由也さん!おはようございます!朝ごはんをお持ちしますね!」

 

「おはよう、宮藤。ありがとう。」

 

宮藤から朝食のトレーを受け取る。そこに由也の大好物だった納豆がのっていた。3、4年ぶりに和食をみて思わず固まる。

 

「どうしました……もしかして嫌いなものでも?」

 

「あ、いや違うんだリーネ。何年かぶりに扶桑のご飯を見たから懐かしくてな……むしろ納豆は大好物だ。」

 

「ほんとですか?喜んでもらえてよかったです!」

 

料理を褒められて喜ぶ宮藤。だが無粋にも文句をつけるやつはいる。

 

「よくもこんな腐った豆を好き好んで食べられますわね。」

 

「ペリーヌさん……でも納豆は体に良いし坂本さんも好きだって言って____」

 

「坂本さんですって!?坂本少佐とお呼びなさい!私だってどれほどさん付けで……!」

 

そこまで言って咳払いをしてごまかす。

 

「ともかく、いくら坂本少佐がお好きでもこの臭いだけは絶対に我慢できませんわ!」

 

宮藤は困った顔をする。由也が席に向かう……その前にペリーヌにちょっかいをかける。

 

「嫌なら窓からでも投げ捨てたらどうだ? 」

 

「なっ……ガリア貴族がそんなはしたないことをするわけ……!」

 

「じゃあ文句言わずに食べるんだな。」

 

物理的に噛みつかんという勢いのペリーヌにそれに、と付け加える。

 

「貴族様が好き嫌いしちゃあ器が小さいってもんよ。皆に尊敬される人間は選り好みしないんだ。」

 

うっ……と呻き声を上げると渋々といった顔で食べ始める。

席に座ると隣のルッキーニが由也に小さく声をかける。

 

「手慣れてるね〜由也。」

 

「姪っ子が似たようなワガママ娘だったからな、そりゃあ慣れるさ。」

 

朝食はなんとも美味しいものだった。ブリタニア=イギリスということで警戒していたが、全部が全部悪いわけではなさそうだ。

何より数年ぶりの和食は由也の涙腺にまで響く。懐かしさあまり涙が出かけるがなんとか堪える。

 

おかわりをねだるルッキーニのために近くに来た宮藤がバルクホルンの食事が全く進んでないことに気づいた。

 

「あの……何かお口に合いませんでした?」

 

「……」

 

バルクホルンは訳も言わずに立ち上がる。そんな彼女に由也は声をかける。

 

「バルクホルン、飯くらいは食べたほうがいいぞ。」

 

「……余計なお世話だ。」

 

「いや、最前線を何年も生きた人間が秘訣を教えようというんだ。聞いとくのが得だぞ?」

 

「必要ない。」

 

そう言い放ち、ハルトマンに短く「先に行っているぞ」と伝えて出て行く。

由也はその後ろ姿をため息混じりに見送った。

 

 

 

 

 

「そうだ、由也さん。」

 

「どうしたリーネ?」

 

洗濯物を干すのを手伝っていると、リーネが何かを思い出し由也に話しかけた。

 

「今朝の新聞に由也さんのことが書いてあったんですよ。」

 

俺が?と聞き返すと記事の内容はこういうことだった。

 

ネウロイの侵入を1人で食い止めた隻眼の乙女!

先日、ネウロイがブリタニアの防空網を突破した事件に対し、たった1人のウィッチがこれの対応にあたった。第501統合戦闘航空団所属の彼女はネウロイと激しい空中戦の末にこれを撃破。

片目を失っていること、翼に描かれた竜のマークから「隻眼の竜騎士」と地元住民は呼んでいる……

 

と。竜じゃなくて恐竜なんだが……と思うが口に出さないでおく。

 

「でもすごいです、由也さん!ネウロイをたった1人でやっつけちゃうなんて!」

 

「相手が小さかったのもあるし、本体はリーネと宮藤が墜としただろ? 俺が足止めしてればそれで済んだ話さ。そう言う意味じゃ2人のほうがすごいぞ?コア持ちを協力して狙撃したっていうんだから。」

 

「そ、そうですか……?」

 

リーネが恥ずかしそうに顔を逸らす。

 

「それに都市部に侵入されてる時点で____」

 

プロペラの音が由也の声をかき消す。ハルトマンとバルクホルンの2人が飛行訓練で上がったところだ。

 

「綺麗だねー。あんな風に飛べたらなぁ……ね、由也さん! ……由也さん?」

 

「……ん? あ、あぁ……そうだな。」

 

意識を空の方に集中していたため呆けていたように見えたらしい。取り繕うと再び空の2人の動きを見る。

ふとバルクホルンがこっちを見た気がした。それにつられてかハルトマンとの連携があまりうまくいっていないように感じる。

 

そこに坂本が声をかける。

 

「宮藤!これが終わったら次は基地内の掃除だぞ!」

 

「はい!」

 

「由也、すまんな。こういうのを手伝わせてしまって。」

 

「いや、腕ばっかりの軍曹階級だ。下っ端らしくこういうこともしないとな。」

 

洗濯カゴを片付けながらそうだ、とさっき気になったことを坂本に話す。

ミーナと坂本の2人もどうやらバルクホルンのことを気にかけていたようだ。

 

「お前の目にもそう見えるか……」

 

「何年も空に生きてれば嫌でもわかるさ。しかし、あの状態が続くようじゃ一緒に飛ぶ側が心配になるぞ?」

 

「そうね……宮藤さんが来てからあの調子なの。」

 

宮藤か。何かの中心になりやすいのは主人公故なのかと由也は至極どうでもいいことを思考する。しかしあの目はどこかで見覚えがある……エリア88でああいう目をした奴を見た気がする。死んでいった仲間の中に、あの目をした男を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

汗だくになりながらバルクホルンはベッドから飛び起きる。時計の針は深夜0時を指している。

 

またあの夢だ。

 

宮藤を見ているとあの日のことを思い出す。国はおろか(クリス)をも守れなかったあの日を。

その日からバルクホルンは心に決めていた、この身をネウロイを殲滅するただ一つの道具とすることを。

 

だが宮藤が来てから再びあの悪夢を見るようになっていた。そして今日もまた……

 

「……水でも飲もう。」

 

思考を中断し、立ち上がると服を着て食堂に向かう。

 

食堂の入り口から明かりが漏れていることに気づく。中を覗くと由也が1人、タバコの煙をたなびかせながらグラスを持って外を眺めていた。

机の上には半分ほど中身の消えたビール瓶が置いてある。

 

「こんな時間に晩酌か?」

 

「ん……バルクホルンか。まぁ、そんなところだ。」

 

スッとグラスを掲げるが、バルクホルンは首を振って拒否する。

バルクホルンは水を一杯グラスに入れて飲み干す。その間じっと由也は彼女の顔____正確には目をみていた。

 

それに気づいたバルクホルンが由也を見つめ返す。

 

「なんだ?私の顔に何かついてるか?」

 

「何がついてるかと言われると……強いて言うなら、死相かな?」

 

「死相……?」

 

バルクホルンは思わず聞き返す。

 

「前にもお前みたいな目をした奴がいたなと思ってな。ブラシアって国があって、その国が戦争で滅び自分も死刑にされる……ならば死ぬその瞬間まで軍人として敵を1人でも多く墜とそうとしてた奴がさ。」

 

「そいつと私が似ていると?」

 

「境遇はな。だが大きな違いがある。」

 

「違い……。」

 

「仲間を信頼しているかどうかだ。」

 

バルクホルンはなにをと思った。もちろん彼女は仲間を信頼している。ミーナのことはもちろん、ハルトマンをはじめとする501の全員を。

だから由也の言に反発する。

 

「馬鹿なことをいうな!私は仲間を信じている!でなければ背中を預けたりなどしない!」

 

「口では言えるが、心はどうかな……今のお前に仲間を見てられるほど余裕があるか?」

 

「なにを……!」

 

「故郷が遠い、その気持ちは痛いほどわかる!だがな、それで戦う理由を見失って死に急ぐ人間に付き合わされるのは御免だぜ!」

 

「貴様に……貴様に私のなにがわかる!」

 

「わかるかよ!なにも言わない癖に理解しろなんて贅沢な話だ!」

 

返す言葉が出ずぐっと黙る。その間も由也は喋り続ける。

 

「何のために戦う、ネウロイを倒すため、じゃあなんでネウロイを倒す!お前は俺のように金で雇われた傭兵(エトランジェ)じゃない、立派な1人の軍人だ。理想や理念があって戦争をやってるんだろう!? 過去になにがあったかは聞かないが、お前はその過去に襲われて死に急いでるんだ!意義を失った力がどれだけ無力で危険かよく分かってる……このままだとお前は間違いなく死ぬ!」

 

息を深く吐きつつ椅子に体を預ける。俯き過去を思い出しながらも由也の口は止まらない。

 

「多くの仲間をすでに失った。その故郷を亡くした男、アッサン大尉も……俺の目の前で敗走する敵の体当たりでやられた。アスランの首都が落ちた後のエリア88狩りの時も20人近くいた仲間のうち10人ほどが撃ち墜とされた。もう……誰かが俺の前で死のうとするのを見たくはない。」

 

バルクホルンは黙って話を聞いていた。由也は今まで散々誰かが死ぬ瞬間を見てきた、そして今自分が死ぬことを恐れている。

 

「……変なことを言ったな、すまん……おとなしく、もう寝るよ……」

 

おぼつかない足取りで食堂を出て行く由也。その背中はひどく小さく、悲しげに見えた。

 

 

 

 

 

日は上り、明朝。この朝早くから坂本はリーネと宮藤に訓練をさせていた。

というのも予測によれば明後日、ネウロイの襲撃がある予定だからだ。

 

ミーナ曰く少しづつズレが出始めているということではあるが、今はこの予測に頼るしかなかった。

 

そんな中、由也は外で風に当たりながら昨日のことを思い返していた。絶賛頭痛もち状態である。

 

「二日酔いってほどじゃないけど飲みすぎたな……」

 

理由は言わずもがな、バルクホルンもことだ。アサルトレコードを読み返していた時に気づいたアッサン大尉のエリア88に来たばかりの時の目、亡国への思いを馳せる思いなどの悲しみを背負った目はバルクホルンのものによく似ていた。

 

ならなにが2人を分けるか、仲間の存在だろう。アッサン大尉には部下をはじめとする苦楽を共にする仲間がいた。他にもセラやキムなどエリア88メンバーと打ち解けたことで多くの信頼関係を持つことができた。

だがバルクホルンはどうだろうか。今の彼女は自分から心を閉ざし周りを遠ざけている。それも親友であるはずのミーナやハルトマンさえも。そしてなにかしら、以前までは持っていた戦う理由すらなくしている。

 

それがどれだけ危ない橋か、由也の体験したところだ。首都が陥落し存在意義を無くしたエリア88がP4(プロジェクト4)に対しどれだけ無力だったか、終戦間際の戦う理由を失ったP4(プロジェクト4)の連中がどれだけ危険だったか。

 

あんなことは2度も見たくはない。だが目の前の彼女はまさにそのドツボにハマっている。引っこ抜くのは容易ではない。

 

「なんとかしないと……だな。」

 

とりあえず今は水をガバガバ飲んで養生しようと食堂に向かうのだった。

 

 

 

食堂に入るとミーナが由也に話しかける。

 

「あら、由也さん。ちょうどよかったわ。少しこっちに来なさい。」

 

「どうしたミーナ?なにか用か?」

 

「ええ、あなたの給料の話よ。」

 

給料、そういう物もあるのか。関心してしまったが今までが異常だった話でもある。戦車1台で700ドル、制空戦闘機なら4,000ドル、諸々の撃破記録を収めたガンカメラを提出し、そこから集計後に金額が振り込まれ、そこから整備費燃料費弾薬費を差っ引いてやっと自分が自由に使えるお金というのが手に入る。

ちなみにだがこのせいか、彼のメットにカメラ機能が入っている。使うことがあるかは不明だが。

 

稼ぎは減るように見えるが、確実に自分が自由に扱えるお金というのが安定して手に入るのだからそういう意味では良いものだなと思う。

 

「はい、これが半月分のよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

給料の入ったケースを受け取り、中を確認する。なんと現金だとは。

 

しめて10ポンド、日本円換算で78,400円ものお金だ。しかもこの時代換算なものだから相当の金額が入ったと言える。

 

新しい機体のための……と思ったが、マッコイじいさんもいないこの世界では調達も購入もできない。

 

「意外と使い道に困るな……」

 

とりあえず今は貯金しておくことにする。いずれ使う日が来ることを信じて。




どうも、アンギラスです。
今回も読んでいただきありがとうございます。

アニメの第4話にあたる部分……ですが前後編に分けております。

トラウマが振り返したバルクホルンとトラウマを掘り起こした由也の2人、うわぁ地獄だ(他人事)

さて、今回紹介するのは……

バム・アッサン
ブラシア空軍大尉

アスランがP4(プロジェクト4)に占領された後に登場するエリア88の新メンバー。
元はブラシアは軍事力はあまり強くなく交戦的でもない国でしたが、P4(プロジェクト4)の策略により侵略され事実上消滅します。その際に大統領以下政治関係者は全員公開処刑にて銃殺された事が報告されてます。

さて、軍人らには軍事裁判が待っているのが基本ですが、P4(プロジェクト4)のやることは一味違う。丸腰で逃して演習の的にすることで事実上の死刑としてました。アッサン大尉以下20名の兵士も例外ではなく、愛機のF-5EでF-15やミラージュ、クフィールを相手に鬼ごっこをすることになっていました。それをセイレーン・バルナックに誘導され、エリア88へと入隊することになります。

その後はブラシアを奪還し原隊に復帰しますが、国の上層部がエリア88の支援を行わないことを機に国外逃亡、エリア88へ復帰し最終決戦に挑みました。



さて、次回は後編となります。由也にいろいろと引っ掻き回してもらいたいところですが、他にも面倒ごとは降ってくるもの……それも次回のお楽しみ。

では次回でお会いしましょう。


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第4話:得たもの、見つけたもの

バクシー、どうした?

グレッグか……大丈夫さ、銃弾喰らったって死ぬタマじゃない。
な?

ふふ……そういうこと。今は待とう、友人の帰りをさ。

はははは、わかった、わかったよ。そういうことにしとくよ、バクシー。



いいな……友人って……なぁ、ボリス。


給料も受け取り手持ち無沙汰となった由也は風呂にでも入ろうかと大浴場に向かう。

 

大抵人のいない時間帯を狙って利用していたため、昼間や夕方あたりのこの時間などは入ったことはない。

理由は簡単、元男であるが故に……自分のものでも女性の裸を見るというのは抵抗がある。

 

頭痛はあるていど治ったがやはりまだ頭がぼうっとする。

やっとこさ慣れたパンツ____この世界のズボンや服を脱いでいく。この時本来なら別の籠に服が入っていることを確認するのだが、それを忘れていた。そのために彼女は宮藤達が入っていることに気づくことはできなかった。

 

扉を開けて中に入り、そこで話し声がする事に気づく。

 

(ヤバッ、誰かいたか!?)

 

スッと足を止めて回れ右をしようとした時、すべって思いきり頭から地面に激突してしまう。

ゴンッ!と鈍い音が大浴場中に響き渡る。

 

「! 誰だ!?」

 

「入り口の方からだよ?」

 

坂本とリーネだろうか。声と足音が近づいてくるのがわかるが軽い脳震盪を起こしたのか視界がふらつき安定しない。

 

「由也さん! 大丈夫ですか!?」

 

「あ……あぁ……頭を打った、だけ、だ……ぁう。」

 

視界が揺れるが声で宮藤だとわかる。

なんとか立とうとするがどうもおぼつかない。

 

「無理をしないで! 横になってください、今治しますから!」

 

ふと後頭部に柔らかいものが触れたと思うと、体全体が温かな光に包まれる感覚に襲われる。

するとぶつけた後頭部の痛み、頭痛に不安定だった視界までが治っていく。

 

「これは……」

 

「宮藤の治癒魔法だ。まったく幸運だったな、大事になる前に治療ができて。」

 

「そうか……ありがとう、宮藤。」

 

「いえ、いいんです! 私にできることをしただけですから!」

 

しかし実際すごいものだった。あれだけ悩まされていた頭痛もスッキリ元通りになり、後頭部も腫れる前に治った。おかげでこうして膝枕の感覚も……

 

そこで気がついた。今、自分が宮藤に膝枕をされている。

 

「み、みみみ宮藤!? なんで俺は膝枕されて!?」

 

「え? 由也さんが転んで頭を打ってたので……」

 

「そ、そうじゃなくて……いや、そうなのか? ええと……?」

 

混乱しながらも言葉を紡ごうと視線を回す。坂本、リーネ、宮藤……中、大、小……

 

「____!!!!!!」

 

「ああっ!急に起き上がっちゃダメですよ!」

 

「は、離して!離してくれーっ!!」

 

 

 

 

 

お湯に濡れた少し小麦色に焼けた肌、艶やかな黒髪、遠くをみる黒い瞳……

 

 

そして口元あたりまで湯に浸かって現実逃避をする由也。左には宮藤、右にはリーネ、その隣には坂本と完全に囲まれている。

 

「はっはっはっ!裸を見るのが恥ずかしいとは、女同士だというのに変なやつだ!」

 

(わかってて言ってるのか純粋に忘れているのか……)

 

坂本にツッコミたくもなるがそれは軽々しく言えないため黙って水面を見つめる。

いい加減息苦しくもなってきたので半潜水をやめて顔を出す。

 

「しかし……治癒魔法かぁ……便利だなぁ。」

 

「まだうまく使えないですけどね……」

 

「いや、使えるだけでも十分すごいよ。それがあれば……」

 

無意識のうちに左肩に手を当て、火傷の跡をなぞる。

宮藤らの視線もその痛々しい戦争の傷痕に吸い寄せられていった。

 

「後悔とかじゃないけど、今のコレ(左目)は些か不便だからさ……」

 

笑ってごまかすが由也。宮藤の目には髪に隠れた傷痕とアイパッチが映っている。

 

ふとリーネが口を開く。

 

「由也さんがいたところってどんな場所だったんですか?」

 

「ん? そうだな……まず、こんなふうにお風呂には絶対入れない場所かな。風呂に入ろうものなら明日の朝飯からスープがなくなっちまう。」

 

由也の冗談めかした話に少し笑顔が戻る。少しの間、由也の話に花を咲かせるのだった。

 

ただ、あとどれだけ誤魔化し続けれるだろうか。由也はそんなことばかり考えていた。

 

 

 

このあと宮藤と共に風呂から出たところでペリーヌが乱入し一悶着あったことを記しておく。

 

(豆狸……どっちかっていうと豆柴だな。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

坂本、バルクホルン、宮藤、リーネの4人が空に上がる。編隊飛行の訓練ということで坂本とリーネが先行、バルクホルンと宮藤があとを追うという内容だそうだ。

 

「前に言っていた"組ませる"ってこういうことか……」

 

F5Dの整備をしながら呟く由也。彼女も参加したいのだが、人数が合わず、さらにいえばエンジンの調子が悪かった。

訓練で何度か無理な動きをしたことに合わせて前回の超音速飛行、それで不調をきたしたのかと思ってはいる。だがこれくらいなら簡単な整備で大丈夫だろうと考える。

 

しかしこれから先、C整備のようなオーバーホール級のことをしようとすれば問題が次々と出てくるだろう。

 

F5Dのエンジンはその原型機のF4D(スカイレイ)と同じプラット・アンド・ホイットニー J57が本来載っていたが、彼の機体は計画でしかなかったゼネラル・エレクトリック J79が搭載されている。

[注釈:P&W J57はF-100(スーパーセイバー)F-8(クルセイダー)と同じもの、GE J79はF-4(ファントムⅡ)F-104(スターファイター)に使われてるもの]

 

前のA88(エリア)ならばゴロゴロと部品があったのだが、この世界ではそうそう規格の合うパーツなんてあるものじゃない。騙し騙し使わざるを得ない。

最悪の場合、この時代のジェットエンジンを無理やり使うかレシプロストライカーに乗り換える必要が出るだろう。

 

せめてJ57が手に入れば……と思うため息をつく。

 

背後からだれかが来るのを感じ、振り返るとミーナが歩いて近くに来ていた。

 

「調子はどうかしら?」

 

「なんとも……どこかパイプが詰まってるのか左足が少し咳き込む感じがあるってところだな。」

 

「なるほどね……直りそうかしら?」

 

「もう2〜3時間あれば完治かな? でもまぁ、現状でも十分飛べるさ。」

 

だがネウロイはなかなかこちらの用事を考えてはくれないものだ。

警報が鳴り響き、敵の襲来を知らせる。

 

「たくっ、こんな時に……俺も当番だったな? すぐ出るぞ!」

 

「でもあなたのストライカーユニットは……」

 

「こっちもプロだ、できると言った!あとの出撃メンバーは……」

 

(わたくし)ですわ!」

 

「どっから出てきた……ま、こっちは準備万端だぞミーナ。」

 

どこから出てきたかペリーヌが格納庫に駆け込んでくる。

ミーナも首を縦にふり、2人に命令する。

 

「では2人とも、出撃を!上空の坂本少佐たちと合流しネウロイを迎撃します!」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

 

コンビネーションとして前衛がバルクホルン、ペリーヌ、由也。中衛に坂本と宮藤、後衛にミーナとリーネがつく。

 

由也はネウロイ襲撃予測に合わせてAIM-9を胴体パイロンに1発づつ装備したこの世界に来た時と同じ状態にしている。さらにフリーガーファウストを倉庫で見つけたので、それを改造し翼部ロケット用パイロンに1丁づつ計2丁の18発のロケット砲を搭載している。

このロケット砲はミサイル同様に使えるようにしているため、フリーハンドで使用できるはずだと由也は豪語している。

 

 

 

敵との接敵地点____作戦地区 グリッド東07 高度15000フィート(約4600m)____に近づくと、坂本が固有魔法の魔眼を使用して周りに知らせる。

 

「敵発見! バルクホルン隊、突入!」

 

「「「了解!」」」

 

バルクホルン、ペリーヌ、由也の順にネウロイに向かって突撃していく。

 

ネウロイの見た目は……まあなんとも奇怪だ。三枚の羽とその先についた推進器。

 

(トリープフリューゲル……か……?なんてものを真似てんだか。)

 

そう思いながらもペリーヌの後ろを追いつつ銃撃を加える。

 

しかしペリーヌがバルクホルンに対しやや遅れ気味になりつつある。

いや、正確にはバルクホルンがペリーヌや由也を置いていきながら1人で戦いつつある。

 

(まずいな……ペリーヌがついていけてない……!バルクホルンめ、独りよがりに飛びやがって!)

 

由也はバルクホルンの異常性に気付いた。やはりあのカンは間違っていなかったと。

今の彼女は敵しか見えておらず、ペリーヌや由也はもちろん他の仲間のことが視界に入っていない。

 

その違和感は長くバルクホルンと飛んでいたミーナも感じ取った。

 

「やっぱりおかしいわ……」

 

「えっ?」

 

「バルクホルンよ!あの子はいつも視界に2番機を入れているのよ。なのに今日は1人で突っ込みすぎる!」

 

ミーナの言う通りネウロイにかなり接近し攻撃を加えている。ペリーヌもついていこうと必死だが追いつけない。由也はペリーヌを追い越す方がいいかと考えるが、ペリーヌを捨てておけぬのと左のエンジンがやはり本調子でないのが祟って思うほどうまく動けない。

 

「近づきすぎだ、バルクホルン!」

 

坂本の注意が飛ぶ。

しかし、彼女を止めるより事故が起きる方が先だった。

 

「キャッ……!」

 

「ぅあっ!?」

 

「なっ……!?」

 

ネウロイの攻撃を防いだ反動で後退したペリーヌと由也が空中衝突、勢いを殺せず玉突きをするようにバルクホルンにもぶつかってしまう。

 

そこにネウロイのレーザーが襲いかかる。バルクホルンがシールドで防ぎきれなかった攻撃が彼女の持っていたMG42の片割れを破壊し、破片が彼女を襲う。さらに流れ弾が咄嗟にペリーヌを庇った由也の左足のユニットを貫く。

 

墜落と誘爆から逃すためにペリーヌを突き飛ばす由也。すぐにF5Dの自動消化装置が作動し火を消し始める。

 

「「バルクホルン大尉(さん)!由也さん!」」

 

「俺はいい!バルクホルンを助けろ!」

 

左足のユニットから火を吹きながらもバルクホルンを助けるように促す由也。幸いAIM-9に直撃しなかったため爆発はしなかったが、エンジンは完全に停止している。

それでも立て直し水平飛行に戻すことはできた。問題はバルクホルンの方だ。

 

「宮藤、ペリーヌ!バルクホルンを連れて離脱できるか!?」

 

「ダメ……動かすと出血がひどくなる……ここで治さなきゃ!」

 

下の方で宮藤の治癒魔法が始まったのが見える。敵の真前で治療をするなんて、良い的だ。

 

実際ネウロイは垂直になり、浮遊状態となっている。このままでは3人が危ない。

 

「宮藤!? 仕方ない……坂本!宮藤の援護を!」

 

「わかった! しかし由也は下がれ!」

 

「弾薬は十分、火は消えた!まだ飛べる!」

 

「無理をするな由也! お前まで……!」

 

「無理じゃない、これは賭けだ! 宮藤がバルクホルンを助けるまで時間を稼げれば良い! それくらいなら今の俺でもできる!」

 

「……わかった。だが無理だと思ったら下がるんだ、いいな!?」

 

「あいよ!」

 

そういうと由也は一気に機首を上げてネウロイをAIM-9のロックオン距離まで近づく。FCSがネウロイを捉える。狙いは羽の先端、推進器だ。

 

「くらって落ちやがれ!」

 

右足のAIM-9が白線を描いて飛んでいく。吸い込まれるように推進器部分に向かって進んでいき、粉々に粉砕する。するとネウロイがバランスを崩す。

 

弱点を見つけた由也は次の推進器を破壊するためにターンし照準に捉える。

左のミサイルも羽の先を破壊すべく飛んでいき、その責務を果たす。

 

3つのうち2つの動力を失ったネウロイは浮遊状態が保てず、尻もちをつくように地面に墜落する。しかし敵の攻撃がバルクホルンを狙い定めているのが嫌でもわかる。ペリーヌが防いでいるが、限界が近いはずだ。

 

「少しはこっちを向けってんだ、この野郎!」

 

敵の上方から機関砲弾と共にフリーガーファウストを全弾撃ち込んでなんとか注意を引かせようとする。坂本、ミーナ、リーネもネウロイを囲み攻撃するがなかなかよそ見をしない。

 

このままではラチがあかない。だが、朗報がはいる。坂本がコアの位置を見つけたのだ。

 

「コアを見つけた!場所はネウロイの先端部分!」

 

由也も破壊しに行きたいところだが、位置が悪く高度は18mほどとかなり低い。ネウロイの上に再び登って一撃離脱でチマチマと攻撃するか、位置関係も意味がないほどの大火力で押し切るしかない。

 

ふとその時、だれかが飛び上がってくるのが見えた。バルクホルンだ。破壊されたMG42のかわりに宮藤の九九式を持っている。

それをみた由也がとあることを思いつき、バルクホルンの右につく。

 

「バルクホルン、ちょっと力を貸してくれ。いいことを思いついたんだ。」

 

「なんだ、由也?手短に頼む。」

 

「何簡単な話だ…… バルクホルンが左、俺は右のポジションで密集したまま突っ込んで、今ある3本の機関砲の弾を集中してアイツのコアの位置に当てる。この大火力で押し切るんだ。」

 

「なるほど……わかった!いくぞ!」

 

2人は触れるほどに密集したままネウロイのボディに沿って上昇する。

そして先端部分のコアがあるだろう位置にたどり着くとそれぞれの得物を向ける。

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」

 

鳴り響く銃弾の撃ち出される音、ハイスピードに抉れていくネウロイの装甲、そして2人の咆哮はコアを粉砕する。

破壊されたネウロイは白い破片となって2人の上にひらひらと舞い散る。

 

終わったことを確認するとバルクホルンは由也に向かい合って話しかける。

 

「由也、その……前にお前の言っていたこと、間違っていなかった。」

 

「あのことか……こっちこそ悪酔いして変に絡んで悪かった。すまん。」

 

「だが……」

 

「いいの、これでチャラってことで。友だちだろ?」

 

バルクホルンは驚く。つい先日に喧嘩をしたというのにすぐに許すどころか自分を友人だと言った。

宮藤もだが、変わった奴だと思ってしまう。

 

「俺は先に戻ってるよ。積もる話もあるだろうし……」

 

「えっ? おい……?」

 

由也は手を振って基地にさっさと戻っていってしまう。困惑するバルクホルンだったが、すぐに理由がわかった。

 

後ろからミーナが近づいてくる。その表情は今にも泣き出してしまいそうだ。

バルクホルンのもとにくると、彼女の顔に1発平手をはなつ。

 

「ミーナ……」

 

「何をやっているの!? あなたまで失ったら私たちはどうすればいいの! 故郷も何もかも失った、けれど私たちはチーム……いいえ、家族でしょう!この部隊の皆がそうなのよ! あなたの妹のクリスだってきっと元気になるわ。だから妹のためにも、新しい仲間のためにも死に急いじゃダメ! 皆を守れるのは私たちウィッチーズだけなんだから……!」

 

由也に、宮藤に、そしてミーナに叱咤されバルクホルンは自分の間違いに気づかされる。

宮藤の姿をクリスと照らし合わせ過去の自分に囚われていた。だが仲間の____家族のためにも、未来のために戦うべきなんだと。そしてお互いに助け合い生き抜く。そうすることで1人でも多くの人々を助ける。

 

「すまない。私たちは家族だったんだよな。」

 

そして何よりも、たった1人の血を分けた家族のためにも生きる。それが大切なんだと教えられた。

 

「休みを貰えるか? 見舞いに行ってみる。」

 

由也と宮藤にもきちんと礼を言わないとな。その思いを胸にバルクホルン達も基地に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

F5Dのまわりにシャーリーやルッキーニが集まっている。由也が左足のストライカーを分解しているのだ。

 

「エンジンを抜くぞ、下がれ下がれ!」

 

そういうと由也はジェットエンジンを中から引き抜き、台の上に置く。

ちょうど真ん中のあたりに綺麗に穴が開き、中にあるはずのパーツも焼け焦げたり抜け落ちたりしている。

 

由也はエンジンと本体の両方のダメージを受けた部分を明かりで照らし診る。

 

「直りそうか?」

 

「無理だな……新品のエンジンを持ってきてストライカー側のパーツもとっかえる必要があるな。右足のエンジンも無茶させて回したから悪くなってきてるし……分解整備レベルにやらんといけないのにパーツが無いんじゃしょうがない。」

 

シャーリーにそう返しつつ再度エンジンを戻していく。次の出撃からはレシプロストライカーに乗り換える必要がありそうだ。

 

「まさかこんなことになるとはなぁ……機種転換のための書類とか必要かなぁ……」

 

「まぁそう落ち込むなって。アタシのP51(ムスタング)を貸そうか?」

 

「予備があればそれを借りるかもな。」

 

そう言いながら機体を収める。このままF5Dはスクラップにする必要があるので明日にはそれ用の書類を提出し、明々後日までには回収されるだろう。

 

その時、格納庫の出入り口からエイラが来る。由也を見つけると近づいてきた。

 

「おっ、いたいた。由也、オマエ宛にいろいろ荷物が届いてるぞ。」

 

「俺宛……?どこの誰からだ?」

 

「前にネウロイを撃ち墜とした街の人たちからだってさ。量が多いから一旦格納庫から入れて選別するってミーナ隊長は言ってた。」

 

はい、とエイラが手に持っていた手紙の束を由也に渡す。

 

「……これは?」

 

「オマエ宛のファンレター、モテモテだな。」

 

「……どうも。」

 

ニヤニヤと笑いながらこっちをみるエイラ。なんか無性に腹が立つが口には出さないでおく。

しかし、戦争やってファンレターをもらうのは初めてだ。荷物も大したものはないだろうからまわりの仲間に任せてこの手紙の集団を開けていこうと由也は自室に向かった。

 

 

 

由也宛の木箱の山をメンバーや整備兵など総出で整理する。中は野菜や果物、パンなど食材がほとんどだった。

だがその中でシャーリーがとあるものを見つけた。

 

「? どうしたのシャーリー?」

 

「これ……リベリオンの企業のマークだ。」

 

「リベリオンの? なんて会社なの?」

 

「これは……サイモン・インダストリー……なんで由也宛に……?」

 

木箱の中にはミサイルとスペアエンジンが入っていることはこの後すぐに知ることとなる。

 

 

 

一方由也も手紙の中に()()で封をした豪壮な手紙があることに気がついた。そして封をしているろうに刻印されているマークに見覚えがある。

 

由也はアサルトレコードを出してどこでみたものか探す。だがそれは簡単に見つかり、そして彼を驚愕させた。

 

「まさか、ヴァシュタール家の紋章……!? 差し出し人はまさか……!」

 

差し出し人の欄には2人の人物の名前。1人はサキ・ヴァシュタール、もう1人はジュゼッペ・ファリーナ。

中にはこう書かれていた。

 

『我が信頼なる部下 植村 由也 直接会って話がしたい。』

 

日付、時間、住所まで指定している。

 

この再会が何を意味するのか。それを知るのは神だけだろう……




どうも
アンギラスです。

今回も読んでいただきありがとうございます。

少しづつエリア88側の人間が出始めてきました。不穏な空気が501基地を覆い始めます。

さて、今回はちょっとした裏話。主人公の由也の傷痕について。
もともと途中で死んでストライクウィッチーズの世界に来させる予定(プロジェクト4との最終決戦時)だったんですが、設定を煮詰めるうちに「死ぬ思いはさせたいけど死なせたくはないな」と思い始めた結果、最後まで生存したメンバーの1人となりました。

傷痕はその名残りでどこで受けたかで悩んでいたのですが、ウルフパック戦の過酷な戦場なら違和感は無いなということでその際に受けたものとしました。
まぁ死にかけてるのに間違いはないんですけどね!というか普通だったら死んでるわ!なんで生きてるのこいつ……

さて、次回も楽しみに待っていただければ幸いです。
感想、応募してます……

ではまたの機会に。


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第5話:とある1日

ふあ……おはよ、真こんな時間に機体の整備?

明日が1日空いてるからその時にやるよ……書類整理とその他もろもろで疲れた……

だっていうのにこんな時間に叩き起こしてブリーフィングだなんて、ひどい話だまったく!

いや……ラウンデルより先に切り上げて寝ちまったから詳細は知らないよ。

ま、今からじっくり聞こうじゃない?


先日送られてきた物資の中のいくつか、例の曰く付きの木箱の中を由也は調べていた。

 

ミサイル____AIM-9が9本入った箱が2箱とスペアのジェットエンジンが4本送られてきた。

箱に書かれたサインには"サイモン"の文字。

 

「ミッキー・サイモンか……」

 

木箱の蓋を戻してそっと呟く由也。もし本当に彼ならば、ほかの面子もいるだろう。なぜだかそんな気がした。

 

「どいつもこいつもこっちの世界で仲良くやりやがって……」

 

そうは言いながらも笑顔で、目尻には涙が溜まっていた。

 

 

 

一旦倉庫からでて食堂に向かう。いかんせん朝から入り浸って作業をしていたのだ、少しくたびれた。昼食を食べたらまた倉庫に戻り、F5Dの修理に必要な資材を持って徹夜作業だ。

 

資材のリストを確認しながら歩いていると食堂の方から懐かしい香りがしてきた。海鮮系のダシと味噌の匂い。

 

早足で食堂に入っていくと配膳をしていた宮藤が由也の方を振り向く。

 

「あ、由也さん! お昼ご飯、もうできてますよ!」

 

「この匂いは味噌汁かな?」

 

「はい! この前に届いた食材に貝がいたので、それでお出汁をとってみたんです。」

 

トレーの上に載せられたお碗には味噌汁、出汁につかった貝のたっぷり入ったものだ。

他にもご飯、焼き魚など和食の定番ともいえるラインナップが揃っていた。

 

貝を見た由也は一瞬戸惑った顔をするが、すぐに席に座って食事を始める。

 

宮藤の料理の腕がいいからだろうか、長く和食に触れてなかったからだろうか、理由はどっちでもいい。ただただ今この目の前にあるご飯がみんな美味しいということが幸せだ。

 

貝だけは残っているが。

 

由也は誰にも気づかれないようにそっと避けて食べる。しかし彼女の不幸は隣にルッキーニがいたことだ。

 

「あれ?由也貝食べないの?」

 

ギクゥッ!

 

ルッキーニに何か言ってやりたいところだがもう遅い。

 

「食える物は食えるうちに、じゃなかったか?」

 

「バルクホルン……これはだな……」

 

「言い出した人間が実行できない事は言う物じゃないぞ。それに軍人たるもの栄養補給に物の好き嫌いというのをだな……」

 

「いつになく厳しいじゃないかバルクホルン……これは、そう、今食おうと思ってたんだ。」

 

バルクホルンにボロボロに言い負かされる由也。子供っぽい言い訳しか出ない。そしてハルトマンが爆弾を投下していく。

 

「もしかして由也……貝苦手?」

 

ピキッという音が聞こえたような気がする。由也の顔がひきつり、言葉を出そうとするが溺れてるかのように口を動かす以外できていない。

 

「……図星か。」

 

「ち、違うぞバルクホルン……貝は食べれる、どちらかというと中の砂が苦手なだけでだな……」

 

「砂抜きならちゃんとしたので大丈夫ですよ?」

 

宮藤が追い討ちをかける。もう逃げ場が無くなってしまった。

宮藤の純粋無垢な目が由也を見つめる。周りの視線に耐えかね、覚悟を決める。

 

「……っ、ええいくそっ!」

 

お碗の中の貝を一つ箸でつまみ、くわえる。実を口の中に入れて咀嚼し____

 

 

 

ガリィッ!!!

 

 

 

何かを噛み砕く音が食堂中に響き渡るほどの大音流が由也の口から発せられる。音にビックリし食事中だったほかの面々までもが由也の方をみる。

 

ジャリ……ジャリ……ジャリ……

 

砂を噛む音が虚しく響く。由也の顔は真っ青になり、今にも泣き出す寸前といった状態だ。

 

なんとか飲み込み、死にそうな声を捻り出す。

 

「こうなるから嫌だったんだよぉ……」

 

 

 

 

 

「つまり……貝を食べると十中八九砂を食べることになるから嫌だったと……」

 

大爆笑しきって腹を抱えながらシャーリーが聞き返す。由也は宮藤の淹れたお茶に口をつけながらコクコクとうなずく。

バルクホルンもさすがに困惑した様子だ。

 

「昔から貝を食べるたびこうなって……どんなに入念に砂抜きしても俺だけこうなるんだ。」

 

「なんとも……運がいいのか悪いのか。」

 

「極限に悪いよ……まだ砂の味がする……」

 

「大丈夫ですか? まだおかわりありますから……」

 

宮藤にお茶を注いでもらってはそれで口直しをし続ける由也。しばらくこの感覚は抜けなさそうだ。

 

「あとでうがいしに行こう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの惨事から抜け出した由也。散々シャーリーに大爆笑されたのがやや心にキたのでほぼ逃げ出してきたような感じだが。

 

通路を歩いていると書類の束を持ったミーナが正面からやってくる。たいぶ疲れた顔をしている。

 

「大丈夫か、ミーナ? 少し持とうか?」

 

「あ、由也。ごめんなさい、お願いできるかしら?」

 

「もちろん。」

 

半分ほどを持って一緒に執務室へと向かう。

入って書類を置こう……とはするが、机の上はすでに書類の束でいっぱいになっている。

 

「ミーナ、この量を1人でやるのか?」

 

「そうね……これくらいなら1日あれば終わらせられるわ。」

 

さすがに見かねた由也はこっちも手伝おうと考える。

 

「なぁミーナ、書類仕事くらい手伝おうか? 今日中にやらないといけないこともストライカーの修理くらいしか無い暇人だし。」

 

「さすがにそこまでは悪いわ。」

 

「大丈夫だよ、それに向こうじゃ書類仕事をやらされる事も多かったしな。こういう事も慣れてるよ。」

 

「そこまで言うなら……わかったわ、こっちの書類をお願い。」

 

「あいよ、任された!」

 

久々の書類仕事に腕をまくり向き合う。

 

 

 

~約2、3時間後~

 

 

 

「……っと。これでこっちの書類は全部片付いた。そっちに残ってる書類はあるか?」

 

「いえ、これで全部よ。ありがとう、ここまで手伝ってもらって。」

 

「いいんだよ、良くしてもらってるお礼みたいなもんだ。」

 

そういうと座ったまま手を組み、グッと背伸びをする。パキパキと小高い音が背中からなる、これが少し心地いい。

 

「これは私からのお礼よ。おかげで半分の時間でおわったわ、ありがとう。」

 

コト、と机の上にカップが乗せられる。中にはコーヒーが湯気を立たせていた。

口をつけると苦味はやや強めだが、香りがふわりと口の中に広がる。今までインスタントや缶コーヒーしか飲んだことのない由也にとっては新鮮な、手の込んだコーヒーの味だ。

 

「美味しい……」

 

「ふふっ、それはよかったわ。」

 

微笑むミーナの顔に思わず今まで感じた事のない感情を抱く。顔が熱くなるのを感じ、コーヒーを飲んで意識を逸らそうとする。

 

「そ、そういえば、ミーナがいつもこういう書類の相手を?」

 

「そうね……ほかにやれる人も少ないし、これでも501の司令官だもの。」

 

そうか、と考える。坂本は書類仕事をするような人間では無いな、どちらかというとサキみたいに前線に飛んでいくタイプだ。そうなると残りの士官はバルクホルンとシャーリーくらいだが、バルクホルンは書類仕事はこなせるだろうが前線にいる時間の方が長そうだ。シャーリーは……まぁ、無理そうだ。あれは武勲で上がってきたタイプだ。

そうなると必然とミーナが書類の面倒をみないといけなくなる。

 

エリア88にいた頃を思い出す。あっちでは副官のラウンデルがもっぱら基地に残り、サキの方がよく前線に飛んでいた。それで墜落したりするものだから余計にタチが悪いのだが。

501はその逆だ。指揮官のミーナは陣頭指揮を行うよりかは基地に残ってこういうバックアップをすることの方が多い気がする。

 

思えば自分もかなりミーナの側の人間だなと思う。エリア88の時も正規軍に編入されて階級を配られた際に1人だけ中尉階級を与えられ、ラウンデルの補佐という仕事に振り分けられた。それからというもの出撃よりも書類のほうが出番が多く、引き金を引くより文字を書くほうが多くなってしまったものだ。

それでも給料がもらえたので文句は無いが。

 

「ミーナ、もしまた時間があれば俺が書類仕事を手伝おうか? 出撃が無い日とかだと時間が結構余るし、整備もそんな頻繁にやる必要も無いしな。」

 

「本当にいいのかしら? 迷惑だったりしない?」

 

「自分から言い出してるんだ、迷惑に思うかって。ミーナさえ良ければ。」

 

「それなら……また、お願いするわね。」

 

「ああ、任された。」

 

フッと微笑み返し、残ったコーヒーを飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、いい加減にF5Dを直さないといけない。必要なスペアエンジンや資材を持ってきてF5Dの前に立つ。作業用のツナギに着替え、手袋もしてきた。

 

右足はエンジンを入れ替えればいい。だが左はそうもいかない。エンジンはもちろんだが、穴を塞ぐ必要も、穴で断線した部分を直す必要もある。直したらそこを元どおりに塗装しなおし、そこまでやって初めて修理完了だ。

 

「徹夜仕事で終わればいいな……」

 

頭をかいてぼやく。まぁなんとも派手に壊れたものだ。元の世界でも資金難になった時には自力で機体の整備や修理を行なっていた。慣れてはいるが、そうそう簡単にいくものじゃ無い。

 

ただ、ここで足踏みをしていても仕方がない。とりあえず進めるだけ進めよう。

 

「さて……始めるか!」

 

 

 

 

 

「……さん……由也さん!」

 

作業に没頭していると誰かが由也を呼んでいるのに気づいた。顔を上げると宮藤がお盆をもって立っていた。

 

「おお、宮藤、どうした?」

 

「これ、夜食です。もし良ければと思って作ってみたんです。」

 

そういってお盆を差し出す。皿の上におにぎりが4個と水筒がのっていた。いくつか形が崩れてるのがあるのが気にはなるが、正直ありがたい。

宮藤が左から一つづつ中身の話をする。

 

「これがおかかで、これが梅干しです。この2つは坂本さんが握ったんですよ。中は両方ともシャケです。」

 

「坂本が……ああ、どうりで。」

 

慣れない事をしたのだろう。形の崩れているのは坂本が握ったものらしい。

宮藤に指南されながら握っているその姿を想像すると、なんだか微笑ましい気分になる。

宮藤の頭を撫で、笑顔でお礼を言う。

 

「ありがとう、宮藤。」

 

「んっ……なんだか由也さんって、時々お姉ちゃんみたいになりますよね。」

 

「なんだー?年上なんだから当たり前だろ?」

 

「うーん……なんというか、他人じゃない感じがするんです。」

 

「ははっ、なんだそりゃあ……」

 

しばらく2人で笑い合う。

オイル塗れの手袋を外し、おにぎりに手を出して食べ始める。ふっくらと柔らかく、だが味はしっかりとしていて懐かしい気持ちになってくる。いわゆる故郷の味とか、母の味……というやつなのだろうか。

ふと由也がとある事を思い出す。

 

「そういえば……俺の母さんも芳佳って名前だったな。小さな診療所をしててさ。」

 

「へぇー、私と同じ名前なんですか? それに私の家も診療所なんですよ。」

 

「そうなのか? なんか不思議な共通点だな。」

 

「そうですね。」

 

2人でまた笑い合う。もしかしたら、前の世界(エリア88)での宮藤が自分の母親なのかも……と密かに思う由也だった。"彼"の母親はだいぶ宮藤に似ていた。料理が得意で困った人や怪我人を放っておけずよく飛び出していっていたものだ。その度に止めるのはいつも由也の役割だった。

 

そうこうしてるうちにあっという間におにぎりを食べ終えてしまっていた。宮藤に注いでもらったって水筒のお茶をすすり口を潤す。

 

「ふぅ……ご馳走さま。美味しかったよ。」

 

「本当ですか?ありがとうございます!」

 

宮藤は眩しい笑顔を向ける。妹がいたらこんな感じなのだろうかと思いながらその笑顔を見つめる。

 

「さ、もう良い子は寝る時間だぞ。早くいきな。」

 

「ふふっ、わかりました。おやすみなさい、由也さん。」

 

「あぁ、おやすみ。」

 

お盆を持って格納庫から出ていくのを見送る。

さて、もう少し頑張ろう。そう思って工具を手に作業を再開した。

 

 

 

「あ……由也さん。」

 

「……ん?サーニャ、か。」

 

左足のパイプ類を直してるところにサーニャがやってくる。ふと時計を見ると消灯時間に近い。

 

「こんな時間から出撃か?」

 

「はい。夜間哨戒は私のお仕事ですから。」

 

「そうか……いつもありがとうな。」

 

前の世界の時から夜間哨戒の面倒臭さはよく知っている。ましてレシプロストライカーにはレーダーなんて便利なものは付いていない。彼もF9F-8(クーガー)のようなレーダー非搭載型の戦闘機で飛んだことがあるためその苦労はよくわかる。

レーダーを持っていてもしんどい任務だ、彼女1人のおかげで自分たちが安心して寝れていると考えると感謝しきれない。

 

サーニャは一瞬ポカンとした顔をすると照れ臭そうに顔を赤めらせる。

 

「? どうした?」

 

「い、いえ……ありがとうって久しぶりに言われたので……」

 

「なるほど、そうか……」

 

そういえば、昼中あまり顔を見ることが少ない彼女だ。誰かと話す機会も少ないのだろう。必然と当たり前な会話も数すくなることはあるかもしれない。

 

「でもな、サーニャは実際すごいぞ? 俺でも夜間飛行はそんな得意じゃない。だけどそれをやってのけるんだから。」

 

「そ、そうですか?」

 

顔を赤くしながらはにかむ。ふっと微笑み、サーニャを送る。

 

「そう、自分にできる事、胸を張って自慢できる事だ。さぁ、いってらっしゃい。無事に戻ってこいよ。」

 

「はい、行ってきます。」

 

ストライカーを履き、その小柄な彼女には似つかわしいロケットランチャー(フリーガーハマー)を手に闇世の中に消えていく。

由也は作業を再開する前にサーニャの背中に願掛けを唱えるのだった。

 

「good luck、サーニャ。」

 

 

 

 

 

……作業を始めてかなりの時間が経った。両足の修理が終わり、各所漏れが無いか確認も終わる。あとは試運転で微調整をするくらいだ。

 

そう考えてF5Dをストライカーの格納台に戻すと、滑走路の方からプロペラの音が聞こえてきた。

目をやると、朝日が差し込んでいる。由也はサーニャが戻ってきたんだと察した。

 

エンジンを切りストライカーを脱ぐ。外傷は見当たらない、無事に戻ってきたようだ。

 

「おかえりサーニャ。」

 

「ん……」

 

「おわっ!?」

 

だが返事をする間も無くそのまま倒れ込む。由也の胸の中に収まるとそのまま眠ってしまっていた。

 

「まぁ……そうか……そうなるかぁ……」

 

さすがにここに置いておくわけにはいかないのでサーニャの部屋に連れて行こうとお姫様抱っこをする。

 

隊員の部屋の位置は把握している。何かあった時などに使えると思って全て記憶しているのだ。それがまさに役に立った。

 

サーニャの部屋に入ると、なんとも言えない雰囲気に少し驚く。窓は塞いであり、由也が言えたクチではないが家具も最低限しか無い。

 

とりあえずベッドに寝かせて由也は自分の部屋に戻ろうとする。だが途中から腰に縛って巻いていたツナギの上、その袖にあたる部分を引っ張られる。

サーニャがガッチリ掴んでいるのだ。離そうとするがなかなかこれがしぶとい。

 

「……仕方ない。」

 

由也もサーニャと同じベッドに入り、背中をトントンと叩いて寝かしつける。心なしか顔がさっきより安らいでいるように感じる。そんな彼女の顔と寝息で由也も眠気に襲われてきた。

 

「ぅ……ふあぁ……俺も……ね……そ……」

 

だが抗えずそのままサーニャの隣で寝てしまう。2人の寝息が静かに暗い部屋の中に木霊するのだった。

 

 

 

このあとサーニャを探しにきたエイラに見つかり一悶着あった事を記しておこう。




どうも
今回も読んでいただきありがとうございます

アンギラスです

気づくと評価や付いてたりお気に入りの数がかなり増えてたりと心臓がドゥンクドゥンクします。動悸がやばいってか。

今回はちょっとした裏話。
由也と貝のお話。

あれ、筆者の体験談です。貝を食べるたび砂か貝殻の破片にあたり、アサリはもちろん何故かサザエやカキなどですらあたる事も多いです。おかげで筆者、貝は好きなのに食べれません。

他にもいろいろありますが、よく常連で行っていたリゾートホテルでの食事中、ディナーに小さなガラス片が入ってたなんてこともありましたね。滅茶苦茶謝られて翌日の朝食のビュッフェで再開した時に卵焼きをいただいたのは今でも覚えています。

何かと運が無い……そんなところを由也にも当てはめています。



さて、次回もいつになることやら。続々と書いては行きますのでしばし待っていただければ幸いです。
感想、応募してます……

ではまたの機会にお会いしましょう。


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第6話:光と闇との再会

よう、真。生きてたんだな。

ハハ……生きてはいるよ。顔の左半分が焼き肉にされちゃったみたいでよ、目は開かないし目ん玉そのものも熱で潰れてるって話だ。

お前こそ、不死鳥のチャーリー共々落ちたと聞いたときにはさすがにダメかと思ったぞ。ウルフパックの連中とそんな激戦になるだなんて……

……チャーリーに殺されかけた?誰かからの依頼で?
真、ここに来る前に私怨でも買ったか?

真、チャーリーはもしかすると尖兵に過ぎないかもしれないぞ。誰かがずっとお前の命を狙ってるかもしれない。気をつけろ。


夏真っ盛り、読者諸君はなにを思い浮かべるだろう。

 

ここは501統合戦闘航空団基地。すぐ目の前はかるいビーチだ。強い日差し、白い砂浜、青い海。そして何より……

 

「坂本さん! なんでこんなの履くんですか!?」

 

……訓練日和だ。

 

全員水着を着ているが立派な訓練模様だ。その証明に宮藤とリーネはストライカーを履いている。

シャーリーとルッキーニは完全に楽しんでるように見えるがこれは訓練だ。

 

坂本が竹刀片手に宮藤に怒鳴る。

 

「何度も言わすな! 今日は海水浴に来たんじゃない! 万が一、海に落ちた時のための訓練だ!」

 

「他の人たちもちゃんと訓練したのよ。あとは貴方達だけ。」

 

ミーナが付け足す。坂本がズンズンと宮藤たちに近づいていく。

 

「だから……つべこべ言わずに飛び込め!」

 

悲鳴を上げながら2人は海へと落ちていく。人っ子1人にストライカー分の重量の重なった水しぶきが縦に打ち上がる。

 

タイマーのスイッチを入れて浮いてくるまでの時間を計る。しかしなかなか浮かび上がってこない。

 

「……やっぱり飛ぶようにはいかないか。」

 

「そうね……由也にもやらせた方が良かったのだけれど。」

 

「仕方ないさ、あいつは今頃……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……っふぇくし! あー、だれか噂してんのかぁ……?」

 

ズズッと音を立てて鼻をすする由也。彼女は以前に救った街の付近を車で走っている。目的地は手紙にあった住所だ。

やることはもちろんかつての戦友にして上官、サキ・ヴァシュタールを名乗る人物とある意味では仇敵ともいえるジュゼッペ・ファリーナを名乗る人物との会合だ。

 

地図を片手に車を走らせしばらくするとやっとこさ街の中へと到着する。

 

長らく車を走らせていたため少し疲れた。時間はまだ余裕があるので休憩しようと彼女は喫茶店の近くに車を停め中に入る。こじんまりとした店だが雰囲気は由也の好みの時代を感じるものだ。

そういえば朝は軽く済ませて出てきてしまったため小腹もすいた。何か食べておこう。

 

「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ。」

 

「コーヒーとベーコンのマフィンを頼む。」

[注釈:ここでのマフィンはイングリッシュマフィンの事をさす]

 

料金を支払い、料理を受け取るとカウンター席に向かう。

 

基地を出る際に暇つぶしになればと持ってきていた新聞を広げる。社会誌が基本に世界各地の戦況などが事細かく記されている。501のことが書いてあればワイト島分遣隊の活躍の話、さらには遥か遠くオラーシャの502部隊『ブレイブウィッチーズ』のことも取り扱っている。

そんな紙面に大きく写っているのはアフリカ方面で活躍するウィッチ、「黄色の14」「アフリカの星」などの二つ名を持つハンナ・ユスティーナ・マルセイユだ。

 

由也も一度はロンドン侵攻につながりかねないネウロイの攻撃を止めたとしてこの地で戦ったことが大きく一面に載ったことがある。だがこのマルセイユというのは格が違うと感じる。人類最強のスーパーエース、まるでそう言わんばかりの扱い。激戦区を長く跳び続けるだけでなく、その中でしかと戦果を上げているのがその要因だろう。

ついでに言えば顔がいい。だからこそこうしてメディア映えするものだ。

 

そんなことを考えつつ食事を進める。あっという間にマフィンを平らげ、塩気を流すようにコーヒーを流し込んでいく。ミーナの淹れたものに比べると味の質は下に感じるが、今までの缶コーヒーよりかははるかに美味しい。

 

そうしていると、1人の女性が由也に話しかけてくる。

 

「あのう……もしかして、ユウヤ・ウエムラさんですか?」

 

「? はい、そうですが……」

 

「わぁ、やっぱり! 私、ユウヤさんのファンで、その……サインをいただけませんか!?」

 

そう言いながらペンと写真を差し出す女性。しかも写真は自分が手を振っていた時のものの上半身のアップのものだ。

どうやって撮ったのかと思いながらサインを書いて渡す。

 

「ありがとうございます!一生、一生大事にします!」

 

そう言うと小走りで去っていった。感謝されるどころかファンができてサインを求められるようになるとは思いもしなかった。新聞のマルセイユもこんな気持ちなのだろうかと思った。

 

が、ひょっとして今の状況はまずいのではないか?と冷静になって考える。

服装はいつもと変わらずダークグリーンの航空服に白いマフラー、強いて言えばハーネスをつけていないことくらいだろうか。ただ目立つものは目立つ。ましてこんな目立つ顔をしていればすぐに人だかりができそうだ。

 

さっさと出た方がいいと思いコーヒーを素早く飲み干すとさっさと出て行く。

 

だがすでに遅かった。店の外には由也を一目見ようと人だかりができていた。

 

 

 

このあとしばらく撮影会やサイン会に発展し予定以上に時間を食ったが、話すと長くなるので飛ばすことにしよう。

 

 

 

 

 

さて、そんな目に遭いながらもやっとこさ目的地に到着する。

街のはずれの山の頂にあるそれはなんとも豪壮な古城のような建物だった。

石造りでできたこの城の周りは高い同じく石の塀で覆われ、正面1箇所にのみ出入用の門があった。

 

手紙の手順通りに一時停止しライトを2回点滅させる。すると門が重々しく開く。

 

中に進んでいくと玄関にサングラスをつけた男が立っていた。

 

「失礼、ユウヤ・ウエムラさまでお間違いないでしょうか?」

 

「ああ、俺が由也……扶桑海軍軍曹の植村由也だ。」

 

「お待ちしておりました、私はファリーナ様の秘書のマスタードと申します。ユウヤさま、ファリーナ様のもとまでご案内します。車は私共の駐車場に停めておきますゆえ、ご安心を……」

 

そういうと屋敷の中へと通される。人気は少なく感じるが、決していないわけではない。むしろヒシヒシと冷気のような、殺気のようなものを感じる。

 

ファリーナ家といえばイタリアンマフィアの中ではかなり高名な存在だ。神崎 悟に乗っ取られはしたが、それだけ政治などに対する裏からの発言力は強く、命も狙われやすいのだろう。だからこそ、このピリピリとした雰囲気がこもっているのかと想像する。

 

やがて大きな扉の前にまで到着する。マスタードが扉に手をかけ、ゆっくりと開いていく。

 

中に入ると車椅子に座った老齢の男性とサングラスをした黒い長髪の男性、そしてその周りを5人の少女が立っていた。

 

ジュゼッペ・ファリーナとサキ・ヴァシュタール、その2人はすぐにわかった。ならば残りの5人は?

だが由也はその少女たちが何者か、直感的に理解した。彼女たちとは共に戦った仲の人間だと。

 

「扶桑海軍軍曹……いえ、元アスラン空軍外人部隊エリア88中尉の植村由也です。」

 

「私がジュゼッペ・ファリーナだ。はじめまして、由也くん。」

 

「名前だけなら伺ってます、ミスター・ファリーナ。」

 

パッと挨拶をするとサキの方を見る。サキはサングラスを外し、由也に向かい合う。

 

「久しぶりだな、由也……今まで通りで結構だ。」

 

「ならそうするよ。……久しぶり、サキ。」

 

サキに手を差し出し、握手を交わす。

すると周りにいたやつらも一斉に近寄ってくる。

 

「なんだよ、由也!俺たちは無視か!?」

 

「うるせー散れ散れ! だれが誰かなんとなくわかるが自己紹介くらいしやがれ!!」

 

「なんだとぉ?顔は可愛いくなったのにかわいくねーヤロウだ!」

「おまえさんのそういうところは変わってねえな。」

「俺を忘れたとは言わせねえぞ、由也!」

「そうだぞこのやろ! おい、マック!そこで突っ立ってねえで来いよ!」

「待て、ミッキー、俺は初対面で……こら、ひっぱるな!」

 

「だぁーっ!一気に話すな押しかけるなタバコは消せ胸を揉むな!」

 

「クックッ……そこまでにしておけ。それに由也の言う通りだ、名前くらい名乗れ。」

 

一気にもみくちゃにされる由也。ファリーナは腹を抱えて笑い転げている。サキが笑いながら静止してやると仕方なさそうに離れる。

 

501の中ではもっとも高身長の由也よりも高身長な金の短髪の女性がまず立つ。

「じゃあ俺からだな。ミッキー・サイモン、リベリオン海軍の大尉をしてる。また会えて嬉しいぜ、由也!」

 

次にルッキーニほどに低身長のボーイッシュな少女が前に出る。

「俺はグレッグ・ゲイツ、スオムス空軍で大尉だ。改めてよろしく、由也!」

 

ショートボブのブロンズの髪の女性がついで名乗る。

「俺ぁチャーリー・ダビットソン。不死鳥(フェニックス)チャーリーと名乗った方がいいかな? ブリタニア空軍の中尉だ、またよろしく頼むぜ由也。」

 

顔に傷のついた女性がタバコを灰皿に押しつけ由也の方を向く。

「グエン・ヴァン・チョム、チュノム空軍……前のでいうベトナムで中尉をしてる。久しぶりだな、由也。」

 

最後に肩ほどまで黒髪を伸ばしたスタイルのいい女性が由也に挨拶する。

「私ははじめましてだな。ゲイリー・マックバーン、リベリオン海軍大尉だ。気軽にマックと呼んでくれ。よろしく、由也。」

 

「改めて私も自己紹介くらいはしておこう。サキ・ヴァシュタール、ガリア空軍中佐だ。改めてよろしく頼む。」

 

「ああ……みんな、よろしく。」

 

かつての仲間との久しぶりの再開だ。思わず顔がほころぶ。他のメンバーも皆笑い、時を忘れてお互いの事を話し合った。

 

 

 

どうやら大概は自分とは境遇がまったく違うらしい。死んだ後に赤子として転生したそうだ。だが記憶も名前もそのままなため違和感だらけながらも変えていないのだと言う。

サキはアスランにあたる国の王室出身なのは間違いないが、生まれてすぐにネウロイの攻撃から逃れるためにガリアに避難、そのままガリア空軍に入隊したという。パ・ド・カレーの撤退戦の時の指揮などを行なっていて、その際にチャーリーと合流したそうだ。ちなみにサキは一族が魔法力をもつため、男性ながらストライカーを動かせるほどの魔法力を持っているという。

マックとミッキーも似たようなものでマックは孤児として、ミッキーはサイモン家の後継として生まれる。なおミッキーの実家である大企業のサイモン・インダストリーは父親が引退してしまっているため、ほぼ実質ミッキーが運営している状態だそうだ。それを利用して全員のジェットストライカーのパーツをファリーナとともに生産しているそうだ。

グレッグはスオムスの出身になり、そのまま現地の空軍に入った。前世同様に対地戦闘の天才、しかし年齢は20越えなため魔法力が減衰し始めてるという。

出生的にもっとも悲惨なのは間違いなくグエンだ。前世と同じように死んだ母親の腹から生まれ、血と火薬の中で生きてきたと自ら豪語する。そして20をとっくに超えた今でも「トンキン湾の人喰い虎」の二つ名と共に空を飛んでいる。

 

他にも旧エリア88メンバーがちょくちょくいるらしく、ミッキーはセイレーン・バルナック……セラと仲睦まじく同棲しているらしく、ロマーニャではマリオ・バンディーニが青いG.91(ジーナ)で戦っているそうだ。

 

 

 

ひとしきり喋りあったところで由也がファリーナに問いかける。

 

「さて、ミスター・ファリーナ。まさか昔話のために呼んだわけではないだろう? そろそろ本題に入ろう。」

 

「フフ……さすが、勘が鋭い。では、全員をここに呼び寄せた理由をそろそろお話ししよう。」

 

ファリーナがサキの方を一瞥する。サキはそれを察して全員に向かい話し始める。

 

「皆に来てもらったのはとあることを話すためだ。これはこの世界の未来に関わる重要な話であり……あの戦争の記憶を持つ我々だからこそ知っておかなければならないことだ。」

 

全員の表情がかわる。場の空気も戦場のそれのように張り付く。

 

「端的に言おう……プロジェクト4がこの世界で発足し動き出した!」

 

「なっ……!?」

 

マックが悲鳴のような声を上げる。元プロジェクト4側の人間だった彼女としては最悪の記憶ともいえるものだ。それがこのまったく別の世界で再び日の目を見ようと動き出したというのだ。

 

それについていけないのはただ1人、チャーリーだけだ。

 

「ちょっと待ってくれ、俺がいなくなった後の話をされたってわかんねえよ。少しは詳しく話してくれや。」

 

「そうだな……プロジェクト4について詳しいことは私が説明しよう。」

 

ファリーナがサキにかわりプロジェクト4の説明を始める。

 

「前の世界で私とバンビーン氏が立案した地球上のあらゆる場所、人種を問わず戦争に巻き込む計画、まさに悪魔の滅亡の手引書……私はプロジェクト4と名付けた。適当に戦争をさせ、適当に終わらせ、そういった計画を組んで予算を組み戦争をさせる。人の生死、人生までを掌握する。そうすることで我々武器商人が儲けるという計画。それがプロジェクト4だ。」

 

「ケッ、改めて聞きゃあ最悪な話だ。」

 

グレッグが悪態をつく。同じように顔をしかめた由也がファリーナに問いかける。

 

「ミスター・ファリーナ、その立案者の1人たるあなたがなぜプロジェクト4と対立する方を選んだ?」

 

もとを言えばファリーナは地上空母をもってエリア88と対立した人間だ。チャーリーもまたファリーナに雇われた人間ではあったが、あくまでもエリア88側の人間として戦った。だがそんな彼とは話が違う。

本来ならば儲け話を考えてプロジェクト4側についていてもおかしく無いはずだ。

 

「ふむ……たしかに今までであれば私もプロジェクト4に協力していたかもしれん。だがこの世界は前の世界とは違う。ネウロイに侵略され、人類が一丸となって戦わなければならない。それなのに人間同士で争うなど儲け以前の問題だ!だから私はここにいるサキ氏と顔を合わせ、奴らを潰すために力を貸そうというのだ。」

 

「へへ……あんたのそういうところは嫌いじゃないぜ、ファリーナの爺さんよ。だが、いったいだれがこんなことを言い出したんだ!?」

 

「そこが問題なのだと、ミッキーくん。事は数年前、始まりは1人の東洋人が言い出したことなのだよ。」

 

「へぇ……ヨーロッパのマフィアの集会に東洋人が出るとはね。」

 

グエンが新しいタバコを咥えながらファリーナの話を聞く。

 

「名前はなんといったか忘れてしまったが……すでに彼の計画に多くの組織が手を出しつつあるのだ。そして問題はここからだ。彼は独自に我々と同じくジェットストライカーを生産しておる。」

 

「なんだって!?」

 

ミッキーが思わず声を上げる。ミッキーだけじゃない、この場にいるほぼ全員が驚き、困惑する。

 

「しかも我々の知らない機体が多く作られつつある……これがその写真だ!」

 

そう言って指を鳴らす。後ろに控えていたマスタードが資料を全員に渡す。皆一様に首を傾げ、どういう機体なのか考える。だが由也だけはその機体に見覚えがあり、思わず叫ぶ。

 

「これは……MiG-29(ファルクルム)!?こっちはJ-10(ファイヤーバード)F-CK-1(経国)、グリペン……どれも冷戦終了間際の戦闘機を基にしたストライカーばっかじゃないか!」

 

「なにか知ってるのか、由也?」

 

口に出てしまった事を後悔しあっと口を塞ぐ。後の祭りであるが。

前世の記憶があることは前の世界でもサキとラウンデルにしか話していない。ミッキーたちは由也の前世を知らないのだ。

 

「由也、いい加減あの事を話したらどうだ。もう時効だろう……」

 

「……そう……だな……」

 

由也は前世について、エリア88という作品について、話す。そしてその記憶を頼りに未来を変えようとしたことも。

 

「つまり由也はよ、俺が死ぬ事を最初から知ってたってことか。」

 

「そうだ……ミッキーもグレッグも、グエンにチャーリー、フーバー、ジェンセン……みんなが死ぬのをなんとかしたかった。だが結果はご覧の有り様だ。」

 

「由也……」

 

ミッキーが由也の隣に座り話始める。

 

「俺は死んでなかったら、向こうで幸せになってたと思うか?」

 

「それは……ミッキーが決めることだ。俺が決めつけることじゃない。」

 

「だったらそれでいいじゃねえか。たしかにあそこで俺は死んだ。だがこの世界でまた生きてる。後悔はしてるが不幸だとは思っちゃいないよ。なぁ、みんな?」

 

「ミッキーの言う通りだ。」

 

「それに由也のせいというわけでもないだろうよ。」

 

全員がそーだそーだと声を上げる。由也は茫然とした顔をするが、すぐに笑顔になる。

 

「そっか……そうかな?」

 

「なんども言わせんなよ!な?」

 

「おっ、なんだ由也?おまえさん泣いてるのか?」

 

「うるせ、チャーリー。泣いてねえやい。」

 

「大丈夫か?ほら、ハンカチを使え。」

 

「マック、だからな……!」

 

やんややんやとまた騒ぎ始める。そんな光景にサキはエリア88を幻視していた。

 

「またあいつらと飛ぶことになるな……」

 

「しかし、サキ。由也の言っていることが本当なら少々厄介ではないかな?」

 

「由也と同じ転生者が敵になる、か……たしかに事この上なく厄介だ。だがこの戦い、勝たねばならない。これからの世界のためにもな……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

門限前に501基地に戻った由也。そこでシャーリーに捕まって音速を超えた話に長々と付き合わされることとなった。




どうも、読んでいただきありがとうございます。

アンギラスです。

とうとうエリア88メンバーとの再会。なのでキャラ紹介の欄が更新されます。お楽しみに。

何人か性転換してるじゃねえか!というお話から。
これが1番自分でも迷ったところです。やはりエリア88側の人間も出したい、だけどそれは人を選ぶ……結果として性転換しながらも出すことにしました。
だが出すとして誰を出すかでまた迷う。

考えに考え抜いた結果、上記メンバーがメインに入ることになりました。もしかしたらまた増えるかもしれない……その時は自分の好きなキャラがウィッチ化(性転換)させられる可能性があるので覚悟してください。(作者はなんの予備知識を見ずにストライクウィッチーズみたら好きなエースパイロットの笹井醇一がウィッチ化してたのにビビった)

ちなみに不死鳥チャーリーの姓については完全オリジナルです。自分の好きなバイクメーカー「ハーレー・ダビットソン」からとりました。

さて、キャラ紹介などの更新を行いつつとなるのでやや遅れるかと思いますがきながに待っていただければと思います。お気に入り20件越え記念とかやりたいしね!

ということで次回またお会いしましょう。


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第7話:争奪戦の決闘騒ぎ

気をつけろ、真!キトリ!奴ら脱走兵殺し(エスケープキラー)だ!

初めから真に目をつけてたんだ……お前が狙いだぞ!

真、ミサイル無しだがいけるか!?

キトリ!

……よし、行くぞ!攻撃(アタック)


「模擬戦?」

 

ミーナに呼ばれて執務室へ来た由也。その内容は模擬戦をしたいという要望のものだった。言い出しっぺはエイラらしい。

 

「凄みのある顔をしてたのだけど……なにか心当たりはあるかしら?」

 

「ないとは言い切れないが……」

 

以前(5話参照)にサーニャを部屋に寝かしに行った時だ。サーニャが離してくれず、寝かしつけた時にそのまま一緒のベッドで寝てしまった。そのあとにエイラがサーニャをさがしに部屋に来たのだが、それから先が大変だった。

人語とは思えない叫び声を上げ由也を持ち上げようとしそれをサーニャが由也を抱きしめることで止めようとし……それを見たエイラがまた発狂するという地獄のサイクルだった。最終的には締められて死にそうになった由也が起き、エイラと口喧嘩してるところにサーニャも目を覚ましたおかげでなんとか一旦は落ち着いた。

だがそれ以来、エイラは親の仇を見るような目で由也を見るようになっている。

 

「さすがにずっとこう見られるのも面倒だしな……仕方ない、その模擬戦に参加しよう。」

 

「わかったわ、こっちで申請は出しておくわね。……にしても災難ね、こういう事に巻き込まれるなんて。」

 

「なに、地面の上で殴り合いの喧嘩をするよかよっぽどマシだよ。」

 

肩を竦めて話す。なにせエリア88はゴロツキ共のあつまりみたいな場所だったためまあ喧嘩やらがけっこう多かった。その度に止めるのは由也かミッキーだった。ミッキーまでもが喧嘩に参加することも多かったが。

あんな何度も喧嘩されるよりはこう模擬戦でさっさと決着をつける方がマシだ。

 

そうだ、と由也はミーナの方を振り返ってあることをお願いした。その内容は____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

模擬戦を行うと決まったことでエイラと由也が格納庫に集まる。審判は坂本が行う。

 

……のだが、どこで聞きつけたのか観戦者がぞろぞろと集まっている。宮藤らウィッチはもちろん、整備兵などその他諸々がいっきに集まっている。

 

「どうしてこんな大事になってんだ……」

 

由也は頭をかかえため息をつく。なんで決闘が一大空戦ショウになってるんだ。

そんな由也の心情などつゆ知らずエイラは敵対心剥き出しでやる気満々といった表情をしている。

 

審判役の坂本が2人に近づく。

 

「さて、そろそろ始める……と言いたいが、由也。なにか話があるといってたな?」

 

「なんだ? 降参(サレンダー)でもするのか?」

 

「まさか……全力でことに臨むのが俺だ。」

 

しかし、と指を立てて話を続ける。

 

「決闘となれば俺もフェアな状況で戦いたい。だが俺のストライカー(F5D)とエイラのストライカー(Bf109G-2)の間では倍ほどのスペック差が出てしまうのが現実だ……そこでパワーバランスを整えるために2対1での戦闘を所望する! ミーナの許可はもらってる、誰を選ぶかはエイラの自由だ……じっくり決めてくれ!」

 

「マテ! オマエ、私にハンデをつけるっていうのか!?」

 

「言ったろ? フェアな戦いをしたいんだ。その気になれば高度15000mからただただ一方的に射程外攻撃をすることもできる……だがそんな状況は俺も好ましくない。これは俺にとってもお前にとっても必要な制限だ。……決めたら知らせてくれ。」

 

そういうと自分の装備の確認のためにF5Dの方へと向かう。

 

エイラは自分の僚機を考える……が、なかなか思いつかない。セオリーでいけば機種の同じであるハルトマンかミーナだろう。だがあの2人に頼んでしまうとそっちの方が由也を撃墜してしまいそうだ。それはエイラの好むところじゃない。ならルッキーニか、リーネか、それとも宮藤か……?

うーんと唸っていると後ろから声をかけられる。

 

「エイラ……私が一緒に飛ぶよ?」

 

「サーニャ……!?」

 

「エイラが困ってるなら、力になりたい。」

 

上目遣いでそう言われてエイラの意識が一瞬銀河の彼方まで飛んでいく。

サーニャから!上目遣いで!「力になりたい」と言われた!

幸せすぎてこれだけで勝てそうだ。ご飯も3杯までおかわりできる……いやこれは違うか。

 

(死んでも悔いはねえって顔してるな……)

 

その様子はバッチリ由也に見られてたのだが。

 

 

 

 

 

4人が空に上がる。審判役の坂本は高度2000mほどまで上昇するとその場でホバリングし、残りの3人は3500mほどまで上昇すると2組それぞれ反対方向に進む。

 

約5秒ほどだろうか、水平飛行を行なうと模擬戦開始の合図のブザーが鳴り響く。由也とエイラ・サーニャペアは同時に行動を開始する。

 

由也はインメルマンターンで高度を稼ぎつつ反転する。一方エイラーニャペアはエイラが先行、サーニャがその200m後方をついて水平飛行しつつ由也の出方を伺っている。

 

(さすがにやり手だな……どちらが攻撃されてもすぐに援護に向かえる距離を把握し、2人で集中攻撃ができるようなフォーメーションをすぐに組めるとは。)

 

戦闘機とストライカーの差はやはり運動性と機動性の高さだと言える。前の世界のBf109(メッサーシュミット)とこの世界のBf109(メッサーシャルフ)、機体特性はほぼ同じだがいざ動くとストライカーユニットの運動性には驚かされる。

戦闘機の時と同じ感覚で襲い掛かれば痛い目を見るのは確実だ。これで上空からの一撃離脱は封じられたことになる。

 

緩降下しつつ2人をやり過ごし、スピードを落とさぬように後ろにつこうとターンする。しかしエイラ達もそれをわかっていたらしく、縦ロールで由也の上方を取ると落下スピードとともに高速で向かってくる。

 

「へっ……むしろちょうどいい!」

 

由也も機首を上げてエイラとヘッドオンになる。この状況は由也が最も得意とする状況だ。

 

まず1人____声には出さずも頭の中で数える。しっかり狙いを定め、距離を測り、引き金を引く。放たれたペイント弾がエイラに____

 

「当たらないな!」

 

「なっ……!?」

 

____命中せず残像を貫いてどこかえ消える。

逆にエイラの銃弾が由也を落とさんと飛んでくる。体をよじって避けるが、次はサーニャのロケット砲だ。垂直上昇してこれもなんとかやり過ごす。

 

「なら力技で!」

 

マイナスG機動で急激な方向転換をする。視界が赤く染まるのを耐えてサーニャの後ろを捉える。

サーニャはシザース機動で由也をオーバーシュートさせようとするが、F5Dのエアブレーキを展開してスピードを限りなく落としてさせまいとする。FCSがサーニャを捕らえ、ロックオンする。もちろんサーニャのMiGには後方警戒レーダーなんて物はないのだが、むしろその方が幸運だろう。耳元でアラート音を鳴らされるのは精神的にクるものがある。

 

必中を狙い、なるべく接近する由也。だが撃つより前にエイラが来てしまった。

驚く程に正確な射撃で由也をサーニャから引き離す。由也も当たるまいとしてスレスレで避け続ける。由也の顔を冷たいものが伝うのを感じる。だがエイラはその由也の顔を見て距離を取りつつ通信を入れる。

 

「悪趣味だな、由也!」

 

「なにがだ!?」

 

「顔がニヤついてるぞ!」

 

ハッとなって口端を触ると、たしかに口角が上がっている。

いつのまにかエリア88にいた時のようになっていたらしい。空戦を楽しむ、空を飛ぶことを楽しんでいた()としての一面が表に出てしまっている。

 

自分の心に嘘はつけない。

 

「……フッ、ははは……はははははっ!」

 

たまらなく自分のことが可笑しくて笑い声が出る。そうだ、自分もエリア88のゴロツキ共と同じだ。殺気を感じると狼になる。狩りをする瞬間がたまらなく愉しく、敵を撃ち落とすことが快感になっていたようだ。

 

この平和な空に、血腥さとは無縁の場所にいるべき人間じゃない。

 

だが、今は殺し合いをしてるわけではない。死人は出ない。なら____

 

「____愉しませてもらうとするか。」

 

 

 

 

 

一方エイラとサーニャも由也の変化に気づいていた。坂本もだ。

笑い出したと思うと全身から鋭い気のような何かが肌を突き刺す。背筋が凍るような気分に鳥肌が立つ。由也の目つきも何もかもが今までとは違う。

 

そしてエイラにとってさらに恐ろしいことが一つあった。

 

(おかしいぞ……未来予知を使ってもなんで1発も当たらないんだ!?)

 

エイラの固有魔法「未来予知」。読んで字の如く数秒先のことを()()ことができるのだ。だからこそ由也の攻撃も避けれたし、精密な射撃を行うこともできた。

 

だが本来ならエイラの攻撃は避けることはできないはずなのだ。そのことはサーニャや坂本、そして地上で見ているほとんどのメンバーが知っていた。知らないのは新しく入ってきた宮藤と由也だけだ。

 

ひとえに言ってしまえば長年のカンと実力なのだが、これは地獄の激戦区「エリア88」を生き延びた由也であるが故だと言える。おそらく同じことをできるのはミッキー、グレッグ、サキ、そしてこの世界にはいない真くらいだ。

 

 

 

由也の実力はエリア88内では上位ではあるが撃墜数は実のところ上位メンバーほど多くない。途中からデスクワークが増えたこともあるが、由也は「敵の攻撃を避ける」ことに関して天才的な技を見せる。そこに遷音速機体で敵をオーバーシュートさせやすいF9F-8(クーガー)や機動性と運動性の高いF4D-2(スカイレイ)F5D(スカイランサー)が組み合わさることでドッグファイトにおいて有利に立つことができた。

敵の攻撃を避け続け、隙を見せた瞬間に撃ち落とす。そうして時間を稼ぎ仲間の到着を待つ。その戦い方はエリア88メンバーから「鉄壁」「氷の男(アイスマン)」と称されるほどだった。

 

固有魔法を持たないながら、ただ才能だけでエイラの未来予知に勝る動きをしているのだ。

 

 

 

何度か撃ち合うものの命中弾が全く出ない。こっちも当たらないのはもちろんだが、さっきから感じる嫌なものが背中を伝う感じが不快で不快でしかたがない。

 

エイラは由也を早く落とそうと焦り、再度一撃離脱を加えようと由也の上から降下する。

 

だがエイラは未来を見た。見てしまった。『由也はエイラを無視してサーニャのほうに向かう』という未来が。気づいた時には由也はエイラの下を通り過ぎてサーニャに向かっている。急旋回ももう間に合わない。

 

「サーニャ!逃げろ!」

 

「えっ……?」

 

声を張り上げる。だが由也はもうサーニャを捉えている。逃げろと言われても逃げれない。

 

ならばとフリーガーハマーを由也に向ける。ロケット砲の雨から逃れるのはさすがに無理なはずだ。そう考え全弾を発射する。

 

そう、普通の人間なら避けれない。

 

由也はローリングしつつラダーと主翼エルロン、フラップを細かく動かしてロケットとロケットの隙間を縫ってサーニャに近づいていく。その間もスピードを一切落とさない。

雨を抜ければもう射程内、由也はペイント弾をサーニャに当てる。

 

「さ、サーニャ撃墜!」

 

坂本は由也の人外的な動きに動揺しながらもサーニャの撃墜宣言をする。

 

地上の面々も由也の動きに驚いていた。

 

「うわ〜……今のすごいね、リーネちゃん。」

 

「うん……サーニャさんのフリーガーハマーを全部避けてそのまま撃墜しちゃった……」

 

「なっ……なんですの今のデタラメな動き……!?」

 

「アタシだったら絶対1発は当たってるよ〜。ううん、全部当たってるかな?」

 

「それが普通だと思うぞルッキーニ……あんな動きができるのはあたしが知る中でも数人もいるかどうかだ。」

 

「やるねー由也。エイラの攻撃どころかあれまで避けるなんて。」

 

「あ……ああ、そうだな……」

 

「エーリカやトゥルーデだってあんな動きは……由也、あなたは……」

 

全者全様な反応をする。

 

由也がゆっくりとエイラの方を振り返る。その目は冷たく、鋭く、しっかりとエイラを見定めている。

サッと血の気が引くのを感じる。これは戦ってはいけない相手だと本能が戦うのを恐れる。余裕があるのは未来予知の魔法がある、勝機があるという思いがあるからだ。

 

ダイブして速度を稼ぎエイラに向かう由也。エイラは由也に対し旋回して格闘戦に入る。本来Bf109は巴戦を行うような機体ではない。最高速度の高さを生かして一撃離脱による撃破がメインだ。だがエイラとてそれを由也に対してやるのは悪手だと理解している。ならば運動性で優位にある以上はなれないドッグファイトをするしかない。

 

だがやはりというべきか、格闘戦なら由也の後ろを取ることは簡単だった。由也もこっちの誘いに乗ってきたおかげですぐに終わらせられそうだ。

 

(勝ったな……!)

 

ホッと安心しつつMG42を構える。あとは未来をみて避ける方向に銃を撃つだけだ。引き金に指をかけ、未来を視る。

 

しかし見れたのは空だけで由也はどこにもいなかった。

 

「はっ……?」

 

思わず声が出て攻撃するのが一瞬遅れる。その隙を由也は狙ってきた。

 

急激なピッチアップで垂直上昇に入ると同時にラダーを全力で右に倒す。抵抗と重力でスピードが一気に減少しエイラは由也を追い越してしまう。さらにハンマーヘッドターンのように急反転し今度はエイラの後ろにつく。

エイラと由也の距離は3mもない。由也がM1919を短く3連射する。エイラが避けようとするが距離が近すぎた。7mm弾は正確にエイラにぶつかりオレンジ色に色塗りされてしまう。

 

「エイラ撃墜! 戦闘終了、由也の勝利だ!」

 

坂本の宣言で試合は終了する。地上から歓声がどっと湧き上がった。

 

 

 

自分が撃墜された。「無傷のエース」と呼ばれたエイラにとってありえないことだった。茫然とし今もまだ信じられないという顔をしている。

 

「おーい、生きてるか、エイラ?」

 

由也の声で我に帰る。由也の顔はさっきと打って変わっていつも通りの穏やかで優しそうな顔をしていた。

 

「あ、ああ……大丈夫、だぞ。」

 

「そりゃあよかった……すまんな、ついマジになった。いい試合だったよ。」

 

「こっちこそ……」

 

由也が手を出して握手を求める。

おっかなびっくりエイラは由也の手を取り握手する。その手は確かに暖かい人の手をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由也は通路をあるきながら模擬戦のことを考えていた。軽い気持ちで請け負ったがやるべきではなかったと後悔している。

 

由也自身、どんな悪い状況でも物事を楽しんで生きるということを心情にしていた。それは前世からの心情で、エリア88でも決して曲げていない。空戦を人殺しである、ということを自覚するのが恐ろしかった「彼」はその心情を維持することで自分を保ってきた。

だがどうしても人の死を見てしまえばそれも壊れる。それからは覚悟を決めて責任感や生存本能で戦っていたようなものだ。だが、「彼」の心のどこかには戦いを楽しむ闘争本能が芽生えてしまっていたようだ。それを最初に自覚したのは山岳基地でプロジェクト4のMiG-21の部隊と戦った時だ。それからは意識してその心を抑えてきた。もちろんそれどころじゃないというところもあったが。

しかし、ここに来てまた復活しつつある。

 

(人殺しは所詮人殺しか……)

 

自分の手を見つめる。一見普通に見えるが、彼女から見れば血でドス黒くなっている。どんなに洗っても落ちない汚れがこびりついている。

 

終わった後のエイラの表情がいまでも脳裏に張り付いてる。恐怖と驚愕が混じり合った顔。あとで聞いた話だが、彼女は未来予知の魔法を使えるそうだ。その能力で無敗を誇っていたのだという。彼女の初黒星の相手が由也となったというのだ。

エイラの恐怖はよくわかる。自分も最初に感じたものだ。誰かから向けられる殺気は恐ろしいものだった。今はどうだ?なれきったどころかそれを楽しんでいる。

 

「ろくでもない大人になってしまった……な……」

 

ため息をついて歩き続ける。そうだ、サキに電話をしよう。こっちの世界のプロジェクト4についての進展を聞かないと。そう考えて電話機のほうに向かった。

 

 

 

ペリーヌもまた先の模擬戦のことを思い返していた。とても軍曹級のものとは思えない動き。いったい由也はどこでそれを習得したのか。

 

シャーリーが模擬戦の終わった後にとあることを言っていた。

 

『あんな動きができるのはあたしが知る限りだと……まずハルトマン、それに「アフリカの星」のマルセイユ、あとはリベリオン海軍の「火の玉」ミッキーとマックバーン……それくらいじゃないか?あたしはできるっ!とは胸を張って言える自信がないな。』

 

ハルトマン中尉は言わずと知れた501、いや世界きってのトップエース。マルセイユも同じくアフリカ大陸で活躍する一流ウィッチだ。残りの2人について詳しく知らないので聞いてみると、どうもリベリオン海軍始まって以来の天才と言われるほどのエースウィッチだそうだ。

 

逆を返して言えば、由也はそういったウィッチたちと同レベルの実力を持っているというのだ。

 

由也の過去についてはあまり詳しく知らされていない。中東のパルチザンにいたということだが不自然なことだらけだ。なぜそもそも扶桑人である由也が遠く離れた中東で戦っているのか?それも市民軍に入って?いったいそこで何があったのか?

 

調べたいところは山々だがペリーヌは一介の中尉、しかも亡国ガリアの軍人でしかない。いかに高名な貴族の出身の、青の一番(ブループルミエ)と呼ばれた彼女でもこのブリタニアではそんな権限は無いのだ。

 

「いけませんわね、私としたことが。」

 

首を振って思考をやめる。なぜそんなに仲間である由也のことを疑わなければならないのか?彼女は自分のことを守ってくれた恩人でもある。

どんなに坂本少佐のことを呼び捨てで呼び合うような羨ま____失礼な方でも疑うことは……いや、腹が立ってきた。

 

すると由也の話し声が聞こえてきた。誰かと話しているようだ。

 

「たしかこっちは電話がありましたわね……?」

 

由也が誰と電話しているのか?興味に駆られて彼女は近くに行く。

 

「……そうか、まだそんなにわかってないか。仕方ないさ、前の世界でも……」

 

「うーん……よく聞き取れませんわ。」

 

「わかったことがあるのか? 所属不明のウィッチ? それがプロジェクト4に……なるほど。」

 

じりじりと壁に寄って聞き耳を立てる。次第になんとか聞こえるようになった。だがこれを聞くべきではなかったと彼女は後悔するもとになる。

 

「殺し合いなら任せろ、俺だって何年地獄で生きてきたと思ってる? すでに慣れっこだよ。今更1人2人殺した数が増えたって……」

 

「なっ……っ!?」

 

思わず声が出そうになるのを手で抑える。由也が一瞬その声に気づいたように周りを見渡すが、そのまま話を続ける。

 

「そうなったらエリア88をまたここで作るのか? その時は俺も転属になるのかね?……そうか。何かあったら連絡してくれ。ああ、じゃあまた。」

 

電話を切ると由也はペリーヌのいる方とは反対側に歩いて行く。その際に「人殺ししたら永遠に人殺しで食う運命か……」と呟きながら。

 

人を?殺しなれてる?由也はいったい何者なのか?由也をどういう目で見ればいいのか……?ペリーヌは彼女のことがわからなくなってしまっていた。




今回も読んでいただきありがとうございます。

アンギラスです。

ギャグかと思った?残念、シリアスだよドシリアス。次回もその予定だけど。

ちぃっとした小ネタ解説
前書きに登場、その前にも単語だけ出たエスケープキラーについて

3人組のアフリカ人のチーム。使用機体はBAe ライトニング。
来た際には整備兵から「また古い機体で戦争しに来たな」と言われている。お前たちがいうなというところだが。
原作やOVAでは真に目をつけ、脱走を企てた彼の前に立ち塞がるがミッキーやグレッグをはじめとするエリア88メンバーに逆に囲まれ、最後はサキに脱走するような奴はいないと言われてすごすごと逃げて行きました。

アニメ版では出てこない代わりに真はF-5Eに燃料フル満載で脱走しました。それをアニメ版オリジナルのキャラクター、キトリが追いかけ最後は脱走をやめて前から来る敵を迎撃するべく共に戦うという展開に。

由也が経験したのはアニメ版と原作の混ざり合ったものでエスケープキラーとの空戦で優位に立ち続け、落さずに勝利したといったところ。

さて、次回は未定かな……といったところ。早めには出す気なのでお待ちいただければ幸いです。

ではまたの機会にお会いしましょうw


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第8話:"殺し"のプロ

……ショウイチローだったな。
そこまで言うならなんでサインした?自分の意思で……

「それは……」

俺は半ば騙されたようなものだ。真もそうだ。だがお前は違う!自分の意思で!書いたんだぞ!人を殺す覚悟もないで!

「う……!! ああそうだ!たしかに俺が書いた。俺がバカだったさ……見えはって国を飛び出し誘われるがままにサインして……どうせ人里離れた国境警備でもやらされるんだろうって……それもロマンがあっていいんじゃないかってね……ところがどっこい半年間の訓練が終わったら最前線送りだとよ……初めて気づいたよ、ここは原宿でも秋葉原でもない、一歩都市を離れれば銃弾が飛び交うアスランだ。ここが日本なら愛国心や主義主張で銃も握れたろうさ。だが違う!ビジネス(金儲け)だぜ!1人殺していくら、一機撃ち落としていくら……銭をやるから戦争をやれって言われたんだ!風間さん、植村さん……あんたらはそれをやってんだぜ!」

っ……それは……!

「あんたらは愛国戦士じゃない、金で人を殺す殺人鬼なのさ!そう言う目をしてるよ……。」

……

「俺……間違ってなかったと思うよ……あんたから見れば軟弱な日本人かもしれんが、これが俺の……アホで契約した俺の……責任の取り方さ。だって……俺ぇ……人殺しで生きろだなんてそんなこと……日本で教わってこなかったもんなぁ……」



……真……戻ろう……



「うああああああああああ!!!!!!!! 助けてくれよおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

っ!

「母さああああああああん!!!!!」


「っはあっ!!……はぁっ……はぁっ……」

 

時計の針の音が由也の部屋の中に木霊する。針は二本とも12を指している。

 

最悪な夢だ。久しぶりにあの出来事を思い出してしまった。自分が異常であることの再認識、ただの人殺しだということの自覚を持たされたあの日の出来事。

汗で寝巻きのタンクトップが体に張り付き不快感を倍増させる。

 

ベッドから起きようと手を枕元に置くと、硬いものが触れる。ふとそれを手に取り月明かりに照らす。

 

ブラックホーク。前の世界から持ってきた護身用のシングルアクション式リボルバー拳銃。支給品のコルト・ガバメントが前愛機のF9F-8(クーガー)とともに炭になったため実費で購入したものだ。いざという時のために普段から所持し、寝る時は枕元に置くようにしている。

 

「こういうところなんだろうな……」

 

自嘲しブラックホークに額を当てる。紙切れ一枚で地獄行き、あの時サインをしていなければここにはいなかった……だがこんな思いもしなかったはずだ。

その時、今一番聴きたくない声が聴こえてくる。

 

『そうさ……あんたは人殺しが身に染みてんのさ……!』

 

「!! 誰だ!」

 

とっさに拳銃を構える。その銃口の先には夢の中で見たあの男が立っていた。

 

『おお怖い怖い……さすが、殺しのプロは違うね。』

 

「お前……ショウイチロー・イトー……!?」

 

ショウイチロー・イトー、ギリシャの訓練所で脱走兵として銃殺刑となった男だった。

ショウイチローはへらへら笑いながら由也の近くに寄る。

 

『随分とかわいい見た目になってるじゃないか、植村さんよ……やってる事は変わりないみたいだけど。』

 

「違う……!俺はこの世界のために!」

 

『何が違うんだい? 平和なのに慣れてないくせに……』

 

「何をデタラメを!」

 

『デタラメ?違うね、事実だ。だってあんた、楽しそうに戦ってたじゃないか。』

 

「____!」

 

喉がひきつる。変な汗が吹き出し背中を伝う。尚もまだショウイチローは止まらない。

 

『あんたは所詮人殺しさ。殺し合いを心から楽しんでる。』

 

「……黙れ……」

 

『自分じゃ気づいてないみたいだけど、金儲けも信念もあんたにはありゃしない。ただ血を見れればそれで十二分なんだよ。』

 

「黙れェェェっ!!」

 

6発の銃声が響き渡る。弾丸はショウイチローを正確に貫き、壁に全て当たる。

 

『今にわかるさ……あんたの居場所はここには無いんだよ。』

 

「うるさいっ!うるさいっうるさいっうるさいっうるさいっ!!お前に何が……俺の何が……!」

 

『分かりたかないね……殺人鬼の考え方なんて……やだやだ。』

 

「俺は……殺人鬼じゃない!!好きで人殺しをやってなんか!」

 

その時、扉を叩く音が由也の耳に入る。ハッとなるとすでにショウイチローはいなかった。

気づけばだいぶ呼吸が浅い。落ち着かせるように、ゆっくりと深呼吸をしようとするが緊張が解けない。

 

扉が開かれシャーリーとバルクホルンが入ってくる。

 

「由也!今の叫び声は!?」

 

「さっきの銃声はなんだ!?無事か!?」

 

「ハッ……ハッ……はぁっ……シャーリー……バルクホルン……」

 

「由也……!? 本当に大丈夫か!?」

 

「安心しろ、もう何もいない。ゆっくり息を吸うんだ……」

 

シャーリーとバルクホルンに促されてゆっくりと慎重に息を吸う。構えていた拳銃を下ろし少しづつ落ち着きを取り戻す。緊張がほぐれ体から力が抜けて、体が倒れるのをバルクホルンが支えてやる。

 

「由也……何があったんだ……」

 

「……死人が出てきただけだ……」

 

「なに?」

 

「血を見た人間は永遠に呪いを背負って生きる……か……心配かけてすまん。もう、大丈夫だ……」

 

「本当か?とても大丈夫には見えないぞ……」

 

シャーリーが顔を覗き込む。由也の顔はひどく疲弊しきったという印象を受ける。

 

「大丈夫だよ。ほら……もう寝よう。」

 

「……わかった。何かあったら私のところに来い。」

 

「ああ……ありがとう、バルクホルン。」

 

2人が部屋を出ていくのを見送る。再びベッドに横になるが寝るのが恐ろしくなってなかなか寝付けれない。暗闇にそのまま置いていかれて2度と出れなくなってしまいそうだ。

 

立ち上がると灯りをつけてまた横になる。これならまだ怖くはない。

 

「ボリス……あなたもこんな気持ちだったのか……?」

 

この日の夜、由也の部屋から光が消える事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然のエマージェンシーで501のウィッチ全員がブリーフィングルームに集められた。由也はいつも通り椅子には座らず壁にもたれている。

ガヤガヤと話し合っていたが、ミーナと坂本が入ってきた事ですぐに静かになる。

 

「急に集まってもらってごめんなさい、でも先に言った通りエマージェンシー(緊急事態)よ。」

 

「ブリタニア北部の防空基地からの連絡が今日の06:00から途切れたままだという報告が入った。ウィッチが3名は駐在し、一個戦闘飛行隊が所属していた基地だ。ネウロイの侵入の報告も来ていない。だからこそ何があったのか調べる必要がある……そこで何人かに防空基地に向かい調査をしてもらう。強制はしない、希望者は手をあげてくれ。」

 

なるほど、と由也は考える。ネウロイはドーバー海峡を越えて来るものだというのが定説だ。北部から侵入するのは奴らの航続距離的に不可能だ。だがそれがなんらかの形で可能になったとしたら?今の戦略を変える必要がある。

これからのことに大切なことだ。

 

真っ先に手をあげたのはバルクホルン、ハルトマン、そして由也だ。

 

「よし、じゃあまずは3人だな。他に誰かいるか?」

 

(わたくし)も行きますわ!」

 

「ペリーヌも行ってくれるか、頼りにしてるぞ。」

 

ふとペリーヌが由也の方をみる。その目は疑いの混じった目をしていた。

 

「あの……坂本さん。私も行きます!怪我をしてる人がいるなら、私が治せます!」

 

「芳佳ちゃん……私も、私も行きます!」

 

「よし、わかった。ではバルクホルン、ハルトマン、ペリーヌ、由也、リーネ、宮藤、以上6人に行ってもらう!出発は10分後だ。では解散!」

 

 

 

由也は一度自分の部屋に戻る。何か使えるものはないかと物色する。

ペンとノートは使えそうだと鞄に詰める。あとは愛用のM型ライカも入れる。

 

ふと顔を上げると壁に貼ってあった地図に夜の銃弾の跡がついていた。地図の扶桑(日本)の場所に6つの穴が開いていた。

 

 

 

6人のストライカーのエンジンが一斉にスタートする。先頭はバルクホルンとハルトマンの2人、中衛は由也とペリーヌで組み、後衛はリーネと宮藤だ。

 

管制塔(コントロール)よりペリーヌ、由也。離陸せよ。」

 

「ペリーヌ、了解しましたわ。」

 

「由也、了解。離陸する(テイクオフ)。」

 

ゆっくり速度を上げて離陸する。AIM-9を6本フル搭載しているためやや重いが問題無く上がる。先に上がったバルクホルン達の後ろのつく。すぐに宮藤とリーネも上がってくる。

フォーメーションを組むと目的地である北部防空基地へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなに時間はかからず到着する。だがその様相は地獄だとしか言いようのないものだった。

由也がライカを構えつつしゃべり始める。

 

「近くに街があったのか……こっちも被害が酷いな。」

 

「そこらじゅう家が壊れてる……中にまだ人がいるかも!助けに行かなきゃ!」

 

「やめろ、宮藤。まだ敵がいるかもしれない。それに……もう生きちゃいないよ。」

 

「そんな……!」

 

自分でも嫌になるくらい冷静に写真を撮り続ける。街の状況を一通り撮り終わると目的地の基地に向かう。

 

あいもかわらず通信は通じないが滑走路は無事なようだ。全員着陸するとタキシングし格納庫に向かう。

 

その中で誰かがうつ伏せに倒れていた。格好からしておそらくウィッチだ。芳佳が零戦を脱いで近づこうとするが、それを由也が止める。

 

「助けなきゃ……!」

 

「まて宮藤!行くんじゃない!」

 

「やめてください、止めないで!」

 

「ダメだ!」

 

由也が珍しく宮藤に対して怒鳴る。肩をびくっと震わせ足を竦ませる。その奥ではリーネが怖がった顔をし、バルクホルンとハルトマンは由也が宮藤を怒鳴ったことに驚いていた。

 

由也がゆっくりと倒れるウィッチに近づき、仰向けに起こす。むわっと血の香りが漂い彼女の顔が見える。

彼女はすでに目を開けたまま事切れていた。手には支給品であるコルト・ガバメントが握られており、体には無数の穴が開いている。

目を手でそっと閉じると遺体の傷痕の写真をとり、ガバメントを剥がして弾倉を取り出す。中身は1発も使われていない。撃つ間も無く死んだのか、撃つことが出来なかったのか……謎は深まる。

 

後ろを振り返ると宮藤が手を押さえて青くなっていた。初めて生の人間の死体を見たのだろう。それも自分と同年代の……

 

「由也……さん……」

 

「あまり見るな宮藤。リーネ、宮藤についてやってくれ。」

 

「は……はい。」

 

由也はバルクホルンのところに行き、これからどうするかを話す。

 

「宮藤たちは連れていくわけにはいかないからな、ここでストライカーを守ってもらおう。」

 

「ああ……私達は二手に分かれて基地を調べるぞ。ハルトマン、いくぞ。」

 

「それじゃあ……いこう、ペリーヌ。」

 

「わかりましたわ。」

 

自身の得物を手に基地の中を調べ回る。そんなに広いわけではないので時間はかからないだろう。

 

 

 

施設内もまた地獄だった。そこらじゅうに銃撃戦の跡がのこり、逃げまどった兵士たちの必死の抵抗虚しく死んでいったことがわかる。由也はその遺体の傷痕の写真をとり、ノートに詳細を記していく。その間も表情は変わらない。

 

辛そうな顔をしているペリーヌが口を開く。

 

「由也さん、辛くは無いのですか?」

 

「死体を見ることか?」

 

「っ……ええ。」

 

「そうだな……はじめはキツかった。ゲーゲー吐いて飯が食えなくて……だが何年も戦ってるうちになんとも感じなくなって……」

 

由也の握っているペンが軋む。小さく、彼女は呟く。

 

「……殺しすぎて、気が狂っちまったんだ。」

 

「っ!」

 

「……っと、なんでもない、忘れてくれ。」

 

やはり先日の電話の会話、聞き間違いじゃなかった。

ペリーヌの心の中の由也に対する嫌疑が強くなる。

 

「……由也さんは市民軍に在籍してたと聞きますわ。なぜ入られたのです?」

 

「……」

 

想定外の質問に黙り込む由也。やがてゆっくりと答える。

 

「成り行き……かな。そういう環境だったというか、そうせざるを得なかったというか……」

 

さてと言って立ち上がる。ある程度調べ終わったようだ。機器をしまって2人は部屋を出る、途端ピタリと由也の足が止まる。

 

「由也さ……」

 

「シッ……!」

 

喋ろうとしたペリーヌを止める由也。彼女は誰かがくる気配を感じ、じっと聞き耳を立てているのだ。

この宿舎にたった一つしかない階段、それをだれかが上がってくる。

 

ゆっくりと上がってきたそれは人間……のような……それにしては不気味なモノだった。顔はガスマスクに覆われて夏場だというのに肌を一切見せない服装をしている。

 

由也とペリーヌが驚いた顔をしているとガスマスク兵は手に持っていたブレン軽機関銃を2人に向けた。瞬間、由也の動きは早かった。M1919を素早く構え腰だめのままガスマスク兵に乱射する。数発ほど食らったガスマスク兵は倒れて動かなくなった。

 

ペリーヌが由也の胸ぐらを掴み寄せる。

 

「あなた……あなた、今何をやったかわかってるの!?」

 

「……殺される前に殺した、それだけだ。」

 

「それだけって……!人を撃ってるのですよ!人の命を!それを……!」

 

「じゃあなんでこんな物騒なもん持ってるんだ! これは交通安全のお守りでも金持ちの道楽の道具でもないんだ、人を殺す道具だ!こんなところにいる以上は覚悟くらいしてるんじゃないのか!!」

 

「そ……それは……!」

 

そのとき、鉄の軋むような音がする。そっちを見ると殺したはずのガスマスク兵が起き上がっているではないか。

 

「ペリーヌ下がれ!バルクホルン達に連絡を!」

 

「え、ええ!」

 

由也が機関銃を構え扉の入り口を守る。すぐにガスマスク兵と由也の撃ち合いに発展する。悲鳴をあげたくなるのを堪えて通信機に叫ぶ。

 

「バルクホルン大尉、こちらペリーヌ!東地区の官舎2階で敵と交戦中!相手はマスクをつけていて所属は不明!どうか応援を……!」

 

「ペリーヌ!?そっちにも敵がいるのか?!」

 

「そっちにもって……まさか!?」

 

「ああ……こっちも同じ奴らと交戦中だ!そっちの助けに行けそうにない……そこを脱出しろ!格納庫で落ち合おう!」

 

「そんな……!」

 

ペリーヌが絶望した顔をする。階段は一本、逃げるにも正面が開かなければ意味がない。由也が後ろから声をかける。

 

「ここを逃げ出せばいいんだな……?」

 

「ええ……そちらはどうですの?」

 

「殺ったよ……いい知らせと悪い知らせがある。」

 

「いい知らせから聞かせてくださいまし……」

 

「敵さん、人間じゃない。機械仕掛けの人形だ。」

 

「じゃあ悪い方はなんですの?」

 

「もう2体ほど階段を上がってきた。こっちに来てる。」

 

「なっ……!?」

 

バッと由也の方を振り返る。少し息が上がり、脇腹や腕から出血している。

 

「由也さん、あなた怪我を……!」

 

「擦り傷だこの程度……それより逃げるぞ。」

 

「……ええ、わかりましたわ。」

 

ペリーヌがブレン軽機関銃を構える。しかし、手が震え足ももたついている。人を撃つのは初めてになる、仕方がないがとても戦えそうには見えない。

 

「ペリーヌ、無理して戦わなくてもいい。生き残ることを考えろ。いざって時は俺に構わず逃げるんだ。」

 

「まさか……あなたを置いて逃げたらクロステルマン家末代の恥ですわ。」

 

由也は強情な娘だ、と思うと同時に強いとも感じる。普通なら逃げてもいいのに心は覚悟を決めている。

 

扉から通路を覗く。すでに2体のガスマスク兵が上がってきている。さて……どうするか。手負い1人に場慣れしてない中尉が1人、相手はどっちも無傷。勝ち目はない。

 

ふと窓をみる。2階だがすぐ近くに木があり、たしか下には植え込みもあったはずだ。

 

「ペリーヌ、失礼するぞ。」

 

「えっ何を……きゃあっ!?」

 

ペリーヌが可愛い悲鳴を上げる。由也がM1919を背中に回してペリーヌをお姫様抱っこしているのだ。

そして由也は窓に向かって走る。

 

「何をする気ですの!?」

 

「舌噛むぞ、黙って掴まれ!」

 

タンと床を蹴ると窓を破り外に出る。悲鳴をあげるペリーヌを庇うように落ちる由也。読み通り木や植え込みがクッションになって怪我はなく落ちれた。

 

「ぅう……次からはきちんと言ってくださいます!?」

 

「次は無いように努力する。走るぞ!」

 

ペリーヌの手を引き格納庫へと走る。すでに他の4人は合流済みだ。

 

「由也さん、怪我を!? すぐに治します!」

 

「いやそれより……」

 

「いいですから、早く!」

 

宮藤の剣幕に気圧され傷を見せる由也。すぐに治癒魔法で治されていく。擦り傷でそんな深いものでないのが幸いだ。

傷が治るとすぐにストライカーを履きタキシング、ランウェイ&テイクオフする。

高度を上げて離脱している途中、由也のレーダーが3つの光点を表示する。おそらく敵だ。

 

「全機コーション(警戒)ボギー(敵機)インバウンド(接近)、スリー!方位0-0-0、真後ろだ!」

 

「さっきの仲間か!?」

 

「いや……御本人の登場だ!無人機、3機接近!」

 

さっきのガスマスク兵がストライカーを履いて高速で接近してきている。

かなり速い、すぐに追いつかれる。

 

「逃げれそう?」

 

「無理そうだぞハルトマン……やつらもジェットを使ってるみたいだ。」

 

「えーずるーい。」

 

「仕方ないだろ……どこから手に入れてんだか。来るぞ!」

 

「全員散開っ!」

 

バルクホルンの合図でバラバラの方向に分かれる。通り過ぎざまにストライカーの形状を確認する。

ブリタニアの識別マークがついているが機体は別製だろう。直線のテーパー翼にレシプロ系と同じような尾翼。機体下についたバーナーノズルと足の挿入部についたエアインテーク。

 

「機種判明!MiG-9だ!」

 

「ガリアの銃にブリタニアのマーク、使うストライカーはオラーシャか!まるで万国博覧会だな!どう戦う!?」

 

「安心しろバルクホルン、スピードは速いが運動性はそんなにいいとは言えない。2人1組で格闘戦に持ち込み落とせ!」

 

バルクホルンはハルトマンと共に一機を連携して追いかける。宮藤とリーネは宮藤が囮になりリーネが狙撃する戦法を取っている。由也もペリーヌと共に一機を落とそうとする。その時耳元のインカムが別の通信を拾い、レーダーに新たな反応が増えた。

 

ザ……アリコーン1よりHQ(ヘッドクォーター)…… ザ……魚が網にかかった。これより狩りを行う。」

 

「……?これは……?全員コーション(警戒)ボギー(敵機)インバウンド(接近)、スリー!ペリーヌ、お前の後ろだ!」

 

「何ですって!?」

 

その時、由也のレーダーがペリーヌに向かって高速で何かが飛んでいくのを見つけた。

____ミサイル!

 

「ペリーヌ!逃げろ!」

 

叫ぶが意味ないのは由也が一番よく知っている。ペリーヌの恐怖した顔と白い線を描いて飛んでくるミサイルが見える。

由也は射線の間に割り込むとアフターバーナーを炊いて垂直上昇する。するとミサイルは由也の方に方向を変えて飛んでくる。

 

「由也さん!」

 

「ペリーヌは目の前に集中!バルクホルンかハルトマンはペリーヌの援護をしてやってくれ!」

 

「由也はどうするのさ!?」

 

「新しい敵を迎え撃つ!」

 

そう言って通信を切る。これからはウィッチ同士の殺し合いだ。来させるわけにはいかない。

 

宙返りのままフレアを放出し、ミサイルを避ける。

正面から3人のウィッチが飛んでくる。先頭のリーダー機をロックオンしAIM-9を2発、発射する。

瞬間、3人は一斉に上昇し散開する。上をすれ違う際にストライカー形状を確認する。

縦についた2基のエンジンと中の切り抜かれたようなデルタ翼。膨れた機体下部が特徴の戦闘機。

 

「BAe ライトニングか……!」

 

イギリス生まれの高速迎撃機のライトニング戦闘機だ。その高速飛行性能は下手な機体よりも上をいく。少なくともBf109やFw190などでは太刀打ちできない。

 

素早く旋回し一機の後ろにつく。射撃管制レーダーがそれを捉え照準器が連動し追いかける。だが耳元に警告音が鳴り響く。こっちがロックオンされた!

後ろを見れば別の一機がぴったり張り付いている。ミサイルが片方無いのをみるにペリーヌを撃ったやつだ。

 

降下しつつスピードを上げるが、ライトニングもすぐに追いかける。このままだと追いつかれる。視界の下は街だ。人っ子1人いない。

 

「やってみるか……!」

 

一計を考えた由也はそのまま街の中まで降下する。速度をマッハ1.3ほどの超音速を維持して町の通りのど真ん中を突っ切る。後ろを追っていたライトニングも同じ動きをする……が、それが運の尽きだ。

由也が通ったことで地面や家屋の瓦礫や木片、窓ガラスなどがいっきに飛び散り、舞い上がる。その中に突っ込むことになるのだ。シールドを貼る暇もなく突っ込んでコントロールを失い、音速飛行で地面に激突する。原型も残らぬ肉片となって飛び散り、足ごともげたストライカーは家屋にぶつかって爆発した。

 

「まず一機……!」

 

「クソっよくもアリコーン3を!ウチの一番の若手を!」

 

通信が混線しているのか敵の声まで入ってくる。音速飛行を維持して由也をロックオンし、ミサイルを放つ。

由也はギリギリまで寄せつけるとフレアを出しつつバレルロールでミサイルを避ける。それと同時にエアブレーキも全開にして相手をオーバーシュートさせる。

自分の後ろに由也がついたことで相手の耳元にはレーダーロックの警告音が鳴る。それに恐怖しめちゃくちゃに動いて振り切ろうとする。

 

「わ、わ!隊長!助けてください! だれか!助けて!」

 

彼女の悲鳴が通信機をつんざく。それを聞いた宮藤が由也の方を見てしまう。

 

「由也さん……ダメ!撃っちゃダメ!!」

 

「……」

 

だが由也はあえて無視する。コイツらを全員落とさないかぎり自分達が逃げれる保証がない。

 

「ダメーッ!」

 

「……アーメン……」

 

M1919の弾丸が名前も知らぬ少女貫く。「ぐぎゃっ」と断末魔を上げるとそのまま火を吹き落ちていく。これで残りは一機だけだ。

 

「貴様っ!」

 

「しまっ……うぁっ!?」

 

由也の左後ろから最後の一機が機関銃をばら撒きながら由也に突貫してくる。レーダーには映っていたが死角からの攻撃だ。反応が遅れ何発か体に鉛玉をもらう。

 

「私の部隊が……化け物め!貴様は……何者だ……!」

 

呟いたつもりだろう。指揮官機の通信が聞こえて来る。由也も聞こえてようがなかろうがどっちでもいいと答える。

 

「誰……か……俺は悪魔の傭兵部隊、元アスラン空軍外人部隊エリア88の植村由也だ!覚えて地獄に落ちやがれ!」

 

垂直上昇と同時にラダーを右に倒し急激な方向転換と減速で相手の後ろにつく。エイラとの模擬戦でも使った得意技だ。

 

由也の撃つ銃弾が指揮官の頭に当たる。叩き割られたスイカのように弾け、コントロールを失ったストライカーはフラフラと飛び、やがて地面へと落ちていった。

 

「は……は、ざまぁ見やがれ……」

 

体の痛みを堪え飛行を維持する。もうレーダーにも501のメンバー以外の飛行目標はいない。戦闘は終わった。

 

「敵機全機撃墜……基地に戻ろう……」

 

「……ああ……」

 

 

 

 

 

管制塔(コントロール)より由也、滑走路が空いた。着陸せよ。」

 

管制塔からの指示で着陸態勢に入る。前縁フラップと後縁フラップを開き、エアブレーキを展開し、機首を上げる。スピードを失速前まで落として滑走路を捉える。

 

「前縁フラップオープン、後縁フラップオープン……エアブレーキ、開。着陸開始(アプローチ・ゴー)!」

 

ゆっくりと態勢を崩さず高度を下げていく。誘導灯に沿って滑走路にどんどん近づく。そして完全に地に足をつけ速度を限界まで引き絞る。着陸完了、後は格納庫に入るだけだ。

 

格納庫では先に着陸した宮藤とリーネ、ペリーヌ、それとミーナらが来ていた。

 

(あぁ……やっと帰ってこれた……)

 

そう思うと緊張が溶けて体が前のめりに倒れる。血がどこかに行きすぎたんだ。由也が最後に見たのはミーナ、宮藤、リーネ、ペリーヌが倒れる自分に駆け寄る姿だった。




どうも、今回も読んでいただきありがとうございます。

アンギラスです。

長い?こりゃ失礼……戦争ってのはだらだら長くって金がかかるからいけねぇ……

今回の解説はこれ
・BAe ライトニング
イギリス空軍が作り上げた最初で最後の超音速迎撃機。F-104とそのコンセプトは似ているが、機体構造に英国節が全開なものとなっている。
子持ちシシャモと言われる膨れた腹には燃料タンクが、縦に長い胴にはエンジンが縦に2つ付いている。初期型は機関砲を未搭載だったが、そうなるとミサイル2発のみしか武装がなくなるためF.6より2門の機関砲を搭載している。また、航続距離の短さから上記型番は翼の上に増槽をつけれるようになっている。

さて……ここくらいにして次回に進んでいきましょう。もうちっとシリアスは続くんじゃ。それまでしばしお待ちいただければ幸いです。

ではまたの機会にお会いしましょう。


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第9話:そこは地獄の一丁目

あ、マッコイじいさん。まだ生きてたんだ。

はいはい……今日はどんな商談のお話で?

AIM-9が10本で500ドル……1発50ドルか、前よりは高い方だが、それでも安いな……大丈夫かよ本当に?

そう言って前に売ったやつは100mも手前で爆発してたじゃないか。

本当ぉ……?せこい商売してたら地獄に落ちるぞ、じいさん

……そうだな……ここが地獄だったな……


時計の音に包まれた手術室前。ミーナやバルクホルン、ハルトマンがじっと黙り込んだまま座っていた。宮藤は中で手術の手伝いをしている。面々の表情はかなり重い。

 

手術室のランプが消えて扉が開く。医師が出て来るとミーナが立ち上がる。

 

「先生……由也の容態は……」

 

「運がいいというか……奇跡としか言いようがありませんな。大口径の銃弾を喰らったものの全て急所を外れて貫通しています。ただ、かなりの量の血を失っていますから……どうやってここまで飛んでこれたのかも不明と言いたいところです。命に別状はありませんが、1週間ほどは空戦はさせず安静にさせるべきでしょう。」

 

そういうと医師は着替えに場を離れていった。

 

重い空気の中、バルクホルンがぽつりと口を開く。

 

「……私の責任だ。部下の傷の容態に気付けなかったなんて……」

 

「いいえ、あなたは悪くないわトルゥーデ……由也の性格からして傷を見せるようなことはしないでしょうし、トルゥーデだけの責任ではないわ。」

 

「そうだな、バルクホルンは悪くない。」

 

「そうそう、トルゥーデの……って由也!?」

 

全員が驚いて入り口を見る。たしかに由也だ。血だらけの包帯と患者衣をまとい、壁に手をついて立っている。

 

「由也あなた……!」

 

「はは……麻酔がボロで手術途中で目が覚めちまってよ……薬品のデキが悪いぞまったく。」

 

不敵に笑いながら胸ポケットを探ろうとし____着てる服が違うのに気付いて手を下ろす。

 

「傷は塞がってるよ。宮藤のおかげだ、ありがとう。」

 

「ん……いえ……」

 

頭を撫でられホッとする宮藤。だが彼女の脳裏にはまだ容赦無くウィッチを撃ち殺した由也の姿が焼きついていた。

 

「由也、そのさ……あのことなんだけど。」

 

「いいんだよ、ハルトマン。どうせいつかは言わなきゃいけない事だ。……どうせみんな集まってんだろ?この際話すさ。先に行っといてくれ、俺もすぐ行く。」

 

「……わかったわ。宮藤さん、あなたは由也さんについてあげて。トルゥーデ、ハルトマン、いきましょう。」

 

そういうとミーナ達3人は全員があつまる談話室へと向かった。

 

 

 

 

 

ミーティングルームには由也の言っていた通りすでに全員が集まっていた。面々の表情は様々だ。シャーリーやルッキーニ、サーニャは本気で心配した顔をしている。坂本も同じように心配しているが、別のこと(由也の過去)を考えやや顔が暗い。エイラやリーネは心配だが由也の殺しの顔を思い出し恐怖と混じり合っている。

ミーナらが階段を降りて来ると、全員がそっちの方を向く。

 

「ミーナ、由也の様子は?」

 

「命に別状はないみたい。ただ1週間は出撃はダメだって。」

 

「そうか……」

 

坂本は本気で安心した顔をする。その他のメンバーの大半もそうだ。だが1人、素直に喜べない者がいた。

由也の真実にもっとも近づいてしまった彼女……ペリーヌだ。もちろん喜んでいるのは確かだし、無事安心している。由也は彼女を助けてくれたのだから。だが、だからこそ由也が何者なのかはっきりしておきたかった。

 

ペリーヌの中にとある確証がある。まずミーナ中佐は素性のわからない人間をそう簡単に部隊に入れるとは思えない。必ず何かを知っている。

そして由也だ。彼女は嘘をつくのが限りなく下手だ。本来は裏表の無い実直な人間だとこの期間ともに過ごしてわかった。

 

そんな彼女が隠さなければならない過去、それをミーナ中佐は知っている。

 

「ミーナ中佐、お聞きしたいことがあります。」

 

「どうしましたか、ペリーヌさん?」

 

「由也さんについてですわ……中佐、彼女についてご存知ではなくて?」

 

「! ……いえ……」

 

一瞬、ミーナの表情が変わった。クロだ、ミーナは由也の過去を知っている。

 

「中佐、なにか知っているのであれば教えてください、彼女が何者なのか!」

 

「そ……それは……」

 

珍しくミーナがどもる。それもそうだ、由也の過去はおいそれと話せるほど内容が軽くは無い。まして彼女自身、約束を破るような人ではない。

 

 

 

「そこまでにしてやれよ……あんまりミーナを困らせてやんな。」

 

 

 

「! 由也さん!?」

 

その時、由也が階段を降りてミーティングルームに入ってきた。宮藤が隣で体を支え、患者衣の上にアスラン空軍の制服を羽織っている。

 

「由也、もう大丈夫なのか!?」

 

「おう、シャーリー。傷も塞がってこの通り____」

 

話してる最中にハルトマンが由也の脇腹をつっつく。由也の顔が固まり青くなる。

 

「やっぱりまだ痛むんじゃん?」

 

「そういって傷口つっつく奴がいるかぁっ……!」

 

痛みで悲鳴が出るのを堪える。

 

「少しは真面目な雰囲気だったのにぶち壊しじゃねえかまったく……俺のことを知りたいんだろ?」

 

「由也!」

 

坂本が食ってかかるが、由也は手で止める。

 

「はなっから言うつもりで来たんだ、言ってること言ってないこと全部な……そのためにこんなのも持ってきたんだ。」

 

そう言って手に持っていたノートを机の上に置く。砂埃などですこしくたびれており、表紙にはタイトルのようなものが書かれている。

 

「これは……?」

 

「"アサルトレコード"、俺はそう呼んでる。()()()()で俺が参加した作戦の記録、基地の詳細、同じ部隊のメンバーのプロフィール、運用した戦闘機についてが書かれている。」

 

「なるほど……ん?ちょっと待て、前の世界?なんだそりゃ?」

 

シャーリーが由也の単語に反応する。普通、国と言うならまだしも世界と表現するのは違和感がある。

由也はフッと笑うと本題に入った。

 

「そう____俺はこの世界の人間ではない。」

 

 

 

 

 

由也について話すには前世のことから語る必要がある。前世____つまりエリア88の世界より一つ前の出来事となる。彼であった由也は兄が1人と両親の4人家族の中で生まれ育った。この時の趣味が今の彼を助けていると言っても過言ではない。

元は兄の趣味であった戦闘機やそれに関係するもの、それを見て育った由也もまた同じものを好んだ。その一つがストライクウィッチーズというアニメ作品であり、エリア88という漫画である。

 

「ちょっと待て!?」

 

「まだ始まったばかりなんだが……どうしたシャーリー。」

 

「私達がそっちだとコミックの類になってるってことか!?つまり最初から私達のこと知ってたのか!?」

 

「そういうこと……ただその記憶もやや曖昧だけどな。名前を聞いて『ああ、あの人か』って思い出せるって状態だよ。」

 

由也自身、前世の記憶がやや曖昧になり始めていた。だがそれでも大切な思い出だとして大切にしている。

由也が考古学志望として大学受験を行なっていたある日、兄が父親と喧嘩し家出。その後連絡が取れなくなる。

 

「あの時は辛かった……仲が良かった兄が急にいなくなったんだ。生きてるのか死んでるのか、それもわからない……」

 

「……私もクリスにそんな思いをさせるところだったのだろうか……」

 

「だがバルクホルンは帰ってきた。うちのバカ兄よりマシだよ。……まあ俺が言えたクチじゃないけどさ。」

 

「? どういうことだ?」

 

「そのあと車に轢かれて死んでるもんだから。」

 

その一言に驚き全員が叫ぶ。その声に耳を塞ぎつつ由也は話を続ける。

 

一度の死の経験から転生____彼自身ベタだなと思ったが、前世と似ていたのが幸いだった。しいて言うならやや時代が古いことが難点か、約30年は前の時代だったことだろう。

彼は前世に夢を諦めず、考古学の道を再び歩き始める。実質他の人間の倍の勉強量だ、ほぼトップの学力を維持していた。

そしてそんな彼を支えていたのが母親だった。父親は技術者、母親は医者。結果家にいることが多いのは母親の方、おっちょこちょいで考えるより動くタイプの人だったが一番隣にいて助けてくれた人だった。

 

「ここまでは普通の人生を生きてたんだ。ここまではな……アレさえなければ俺はここにいなかったと思う。」

 

「アレ……?一体なんですか?」

 

「受験終わりにフランス旅行……この世界のガリアまで観光をしに行った時の話だ。そこで俺の人生が変わった。」

 

フランス旅行の初日、彼は道端で署名を求めている団体を見つけた。しかし英語はできる彼だったがフランス語はわからなかった。ただ日本で考えればああいうのはなんらかの署名運動だろう、この時まではそう思っていた。だがそれは大きな間違いだというのがすぐにわからせられることとなる。

 

「次の日、泊まってたホテルの部屋に黒服の奴らが入ってきて拉致も同然に連れて行かれた。」

 

「そんな……どうして?」

 

「俺がサインした紙、あれは実は中東のアスランという国で外人部隊の募集をやっていた契約書だったんだ。言葉が読めず、英語は聞き取りにくい、まあとりあえずサインしておこうとした結果、俺は軍人になっていた。」

 

「そんな、横暴です!」

 

リーネがアスランのやり方に怒る。彼女の怒りももっともだ。だがそれほどにアスラン政府も追い詰められていた。

 

「半年の訓練期間を経て最前線送り、日常からも天国からも最も遠い地獄の一丁目だ。地獄の激戦区、最前線の中の最前線、再び滑走路を踏める運はすべてアラーの神まかせ……俺たちは神さまと手を切って、地獄の悪魔の手をとった命知らずの外人部隊(エトランジェ)!そして悪魔の巣窟たる作戦地区名、その名は……

 

 

 

エリア88

 

 

 

「エリア……」「88……」

 

軍曹2人の顔に汗が浮き出る。だがこれはまだ始まりに過ぎない。本当の地獄はここからだ。

 

「滅茶苦茶なところだったよ。使用戦闘機は旧型か安物の2択、金を貯めれば新しい戦闘機が手に入るかもしれない。そこまで生きてればの話だが……」

 

「その前に死ぬかもしれないってことか?」

 

「察しがいいなエイラ、新しい戦闘機に乗る前に新しい棺桶に入る奴の方が多いのが現実よ。まぁ……棺桶に入れればの話だが。」

 

「なんだ、嫌な予感がするぞ……」

 

「俺たちには棺桶も墓石もありゃしない。地面に刺さった愛機の残骸がその代わり……運良く生き残っても炭になって見れたもんじゃない。その点俺は運が良かった。」

 

そう言いながらそっと左目をさする。ずっと隠してきた傷痕。

彼女は死ぬ思いをして、それでも生き残ってきた。その跡なんだとみんな察した。

 

「……あの時、俺だけは基地から離れた地域を飛んでいたからたまたま愛機を破壊されなかった。だがその捜索途中に襲い掛かられ、コックピットに直撃を食らった。他にも何人か俺と同じように飛んでいた奴らもいたが、そいつらは全員吹っ飛んでな。」

 

「由也さんが傷を受けるほどの敵……一体何者ですの?」

 

「ウルフパックと呼ばれる反政府軍が雇った傭兵部隊、総勢18機の超音速戦闘爆撃機で編成されてる。そいつら全員に追いかけられて、瀕死の重傷だ。」

 

「むしろよく生きてたな……」

 

「それなりに場数を踏んでるんだ、簡単に逝ってたまるかよ。」

 

由也のエリア88での戦歴は単純な長さで言えば坂本の戦歴の半分ほどになる。だがその特異的すぎる戦場に長くいたため、技量はカールスラントトップエース級のハルトマンやバルクホルンのそれに近い。

そしてエリア88最大の特徴はそういった人間のみで編成されているという点といえる。

 

「まぁいろんな奴がいたよ。アメリカ(リベリオン)海軍のトップエース、ドイツ(カールスラント)空軍歴代エースの家系の末裔、イタリア(ロマーニャ)曲技飛行隊でソロを任されていた元メンバー、元イギリス(ブリタニア)空軍中佐で対地攻撃のプロ……中には殺人犯した犯罪者もいた。」

 

「まるで懲罰部隊だな……よく雇ったものだ。」

 

「腕が良ければ誰でもよかったからな……だけどアジア人は俺含めて4人、日本人は3人しか知らない。」

 

「こんな厚みなノート分だけいてたったそれだけ?」

 

「ああ……1人は風間 真という。元民間航空会社のエリートパイロットで社長令嬢と婚約までしてたやつだ。」

 

「なんだって!?エリートどころか出世コース間違いなしじゃないか!なんで軍人になったんだ!」

 

シャーリーが驚く。それもそうだ、ここまで恵まれた環境なのに軍人を、差し引いてはわざわざ傭兵になる必要があるのか。だがこれも彼なりの理由があった。

 

「真曰く、親友に裏切られたそうだ。同じ孤児院で兄弟も同然に育った仲の奴で、飛行学校を卒業してその記念に飲みに行って酔っ払い……その際に外泊証明書と言われてサインしたのが外人部隊の契約書だったそうだ。」

 

「ひどい……!」

 

宮藤の手に力が入る。他人のために怒れる、この部隊の子達はそういう事ができる。

 

(俺もそういうことができたはずなんだけどな……)

 

いつから嫌な大人になったのだろう。そう思うと彼女たちが眩しかった。

 

 

 

エリア88の部隊規模は大きく上下に変動することが多かった。ウルフパックとの戦いで一時減少し、少しづつ増えるが地上空母との戦いで再度減少、基地も使用不能になる。ギリシャ訓練基地で再編と正規軍への編入を行い、規模が200人強にまで膨れ上がり基地も山岳地帯のものへと移動する。

 

「大部隊だな……」

 

「俺たちが最前線だからな。この時に今まで無かった階級も与えられた。」

 

「由也さんの階級はいくつだったんですか?」

 

「空軍中尉だな。」

 

「「「「「「「中尉!?」」」」」」」

 

今の彼女は軍曹、だが元階級は中尉……アスランのドッグタグにもたしかにそう書いてある。

しかし由也にとって階級などないに等しい、いやエリア88のほぼ全員がそう考えていた。実力主義で成り立つ彼らにとって階級による上下関係に縛られることほどバカらしいことはない、真に強いと感じ信頼のおける人間こそ上に立つ者であり、指揮官もまたその実力を持つ男だった。

 

しかしそのエリア88も首都陥落後は崩壊の一途を辿った。傭兵である彼らにとって命あっての物種、雇い主が消えた以上は無理にいる必要もない。

だが、その相手がすり替わっていたことが更なる問題として浮かび上がった。

 

「最初は政府対反政府の内乱だったのが気づけば外資企業対傭兵の戦争になっていた。」

 

「外資企業……?なんでそんなのが戦争をするんだ?」

 

「儲かるためさ……奴らはプロジェクト4という計画を実行するためにアスラン反政府を乗っ取り、首都を陥落して政治体系を手中に収めるとその計画を推し進めた。」

 

「プロジェクト4?いったいどういう内容なんですの?」

 

「戦争を人為的にコントロールし、適当に戦争を始めて適当に終わらせる。兵器販売などを全て請け負い断続的に戦争をさせることで兵器産業が飢えないようにする、という戦争商法だ。中には人工授精による兵士の作製まで計画の中にあったらしい。」

 

「死ぬための命……ということ……!?」

 

ミーナの顔が歪む。考えたくもない話だ、殺し殺されるただそれだけの命だなんて。人の尊厳を簡単に踏みにじろうというのだ。

 

「ど、どうなったんですか!? まさか……!」

 

「安心しろ、俺たちが勝ったよ。エリア88の活躍でアスラン政府軍や民衆がクーデターを起こし、世界中でプロジェクト4傘下企業に対する不買運動が起こった。首都奪還作戦でプロジェクト4は崩壊、戦争も終結した。しかし……」

 

「しかし……どうしたんですか?」

 

「エリア88メンバー約50人のうち、決戦を生き残ったのは10人未満だった。その中には風間 真もいたが、親友であった男との一騎討ちで記憶を失い、親友に裏切られたことも数年の戦争の記憶も……親友を討ったことも忘れていた。」

 

勝利、というには被害が多すぎる、その惨状に言葉を失う。だが由也はその過酷な戦場を生き延び、そしてまた戦っている。ここにいるだれよりも戦場の悲惨さを理解していた。だが逃れられない理由もあった。

 

「ここに来てもう殺さなくて済むと思っていたら……また向こうから戦争がやってくるんだ……」

 

「向こうからって、何があったの?」

 

「……プロジェクト4がこの世界でも始動した。先の所属不明ウィッチもおそらくプロジェクト4の連中の私兵だろう。」

 

「まさか!この状況で人間同士の戦争をするつもりか!?」

 

坂本が思わず叫ぶ。それもそうだ、今ネウロイとの戦争も終わっていない状況で戦争を新たに起こすなど愚の骨頂である。だが由也は察していた。この世界もまた前世などと同じように各国が戦後のイニチアシブを得ることを考えていることが。だからこそプロジェクト4はこの世界において劇薬だと思っている。手にしてしまえばこの世界は地獄と化す。

 

「奴らが出た時は俺が相手をするよ。みんなにやらせるわけにはいかない。」

 

「由也さん……大丈夫なの?」

 

「そんな顔するなよサーニャ……俺なら大丈夫だよ。それに自分の心配をしろよな、ネウロイの方が脅威度的には高いんだから。」

 

サーニャの頭を撫でながらそう答える由也。少し乱暴にやったが、それでも気持ちよさそうに目を細めている。なおエイラが凄まじい目で見ているが。

 

 

 

 

 

「そういえば一つずっと放ってたことがあるんだけど。」

 

「うん、どうしたんだルッキーニ?」

 

「エリア88の時の性別は男だったよね?」

 

「そうだな。」

 

「今は女だよね。」

 

「……そうだな。」

 

「性別が変わってるのはどういうこと?」

 

「君のような勘のいい……ってそうじゃないな……まあ聞きたくなるのはわかる。」

 

頭をかいてうーんと唸る。

 

「……この世界に来た時なんかしらんがこうなってた。それしかわからん。」

 

「なんだよそれ〜」

 

ルッキーニが、由也が笑い合う。それにつられみんな揃って笑いあった。まだ彼女たちの戦いは始まったばかり、今度はどんな敵が待ち受けているのか。それを知るものはこの場にはいない……




どうも、今回も読んでいただきありがとうございます。

アンギラスです。

ちょっとした過去にまつわるお話のカミングアウトとなりましたがいかがでしたでしょうか?ちなみに主人公はどんどん酷い目にあってもらう予定です。(ここは全年齢版だからあんまやらんけどアンナコトも予定)

ギャグが絶望的に書けないだけなのは秘密だぞ!

さて、次回は未定……はいつも言ってるか。またお待ちいただければ幸いです。仕事や授業が再開し始めて意外と辛い。

ではまた次回でお会いしましょう。


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第10話:夜の雲海と忍び寄る影

輸送機が全滅!?このあたりに飛行場もミサイルランチャーもないはずだぞ!

今外を飛んでるのはキムのAV-8A(ハリアー)とミッキーのF-14A(トムキャット)か……よっぽどでないかぎり逃げれるとは思えないが……

やっぱり真もひっかかるか。このあたりで発進できるとすると戦闘ヘリくらいだとは思う。空対空ミサイルとかを積んで攻撃すれば一応……だが全部落とすのはかなり難しいはずだぞ?

今は2人の報告を待つしかないか……


夜中、ブリタニア上空。ここを501部隊の使用するJu52輸送機が飛んでいた。司令部からの帰りで、中にはミーナと坂本、そして随伴してきた宮藤の3人が乗っている。

ただ、坂本の眉間にはシワが寄っている。

 

「不機嫌さが顔に出てるわよ、坂本少佐。」

 

ミーナがそれを指摘する。眉間のシワは伸びないが、応える。

 

「わざわざ呼び出されて何かと思えば……予算の削減なんて聞かされたんだ。顔にも出るさ。」

 

「彼らも焦ってるのよ。いつも私達ばかりに戦果をあげられてはね。」

 

「連中が見ているのは自分の足元だけだ。」

 

「戦争屋なんてあんなものよ。もしネウロイが現れてなかったら今頃あの人達、今頃人間同士で戦い合ってるのかもね。」

 

「……さながら、『世界大戦』だな。」

 

笑えない冗談だった。事実、別の世界では2度も起きて核爆弾のような大量破壊兵器まで使用されているのだから。

さすがにこの話をすすめるのはいやになったか、宮藤に話を振る。

 

「悪かったな宮藤。せっかくだからブリタニアの街でも見せてやろうと思ったのに。」

 

「いえ、軍にもいろんな人がいるんだなって……」

 

「それに……由也もな。わざわざ操縦者(パイロット)をしてもらって。」

 

坂本が操縦席のほうに話しかける。そこでは由也が操縦桿を握り真剣な表情でこのJu52を飛ばしていた。パイロットがいなかったため由也が代わりに担当している。

振り返らぬまま会話する。

 

「なぁに、金をもらってる分は働かないと。」

 

「べつにそこはよかったのよ? 給料が減るわけでもないのだから……」

 

「心持の問題さ。金をもらってるならそれに見合う責任感で仕事をしないと。」

 

ふっと笑いながらそう答える。これは由也の本心であった。エリア88は撃墜数に応じて法外的な報酬がもらえたが、ここは定期的に一定額支払われる形になる。自己責任の以前とは違う、給料がきちんと支払われるのだからそれに応じるのが必要だと思っている。

ちなみに由也は先日の一件から階級がエリア88と同じ中尉へと推薦、昇格されている。故にミーナとしては階級相応の立ち振る舞いを……と思っているのだが、半ば諦めている。

 

「お……基地からのお迎えが来たみたいだ。」

 

「え?ほんとですか?」

 

「ほら、歌が聞こえる。」

 

由也の言をきいて外を見る宮藤。外にはサーニャが空を飛んでいた。

 

「サーニャの歌だ。我々の迎えにきたんだ。」

 

「そうなんだ……ありがとう!」

 

宮藤がサーニャに手を振る。それを見たサーニャは厚い雲の中へと消えていった。

 

「サーニャちゃんってなんか照れ屋さんですよね。」

 

「とってもいい子よ。唄も上手でしょ?」

 

「手を出したらエイラが飛んでくるがな。」

 

由也が笑いながらいう。経験者は語る、ということだろうか。

その時、サーニャの歌が止まった。

 

「どうした?」

 

「……誰か、こっちを見ています。」

 

「サーニャ、位置の詳細、接触までの時間はわかるか?」

 

「はい、シリウスの方角です。所属は不明……おそらくネウロイです。接触まで約3分。」

 

「……視認不可、雲の中か。」

 

「そうです。」

 

由也が情報をまとめる。しかし、雲の中を飛んでいて坂本でも目視はできない。

 

「ストライカーが無いのを狙ったのかしら……?」

 

「ネウロイはそんな回りくどいことしないさ。」

 

「サーニャさん、援護が来るまで時間を稼げればいいわ。出来る限り交戦は避けて。」

 

「はい。」

 

サーニャはフリーガーハマーの安全装置を解除して一気に上昇する。

 

「こういう戦いになるとサーニャは有利だな。俺のF5D(スカイランサー)じゃこうは行かない。」

 

「由也さんのストライカーにもレーダーがついてるんじゃないんですか?」

 

「ついてるが、雲の中はレーダー波が乱反射して見れないんだ。おまけに型が古いしな……2000年代級の最新鋭が欲しいよ。」

 

無い物ねだりを言うだけ言う由也。彼としては2000年代でも現役のF-15(イーグル)系列がもっとも欲しいところだが……以前でも最新鋭戦闘機として出たばかり、価格は非常に高価な代物だ。買うことはもちろん作るのも一苦労だろう。

 

サーニャの時間稼ぎのおかげでだいぶ距離が離れた。由也がサーニャに通信を入れる。

 

「基地に近づいた、援護部隊も来てる。もう大丈夫だぞサーニャ。」

 

「でも、まだ……」

 

「いいんだ、戻ろう。命あっての物種だ。」

 

サーニャがJu52の隣につくと雲の間からゆるやかに降下していく。正面から基地から来た仲間が見えた。中にはエイラもいる。

仲間に守られながら由也たちは基地へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、雨の中を飛んできたものだからほぼ全員がびしょ濡れだ。風邪をひかないうちに出撃した全員が風呂に入ってきた。由也は入る必要がないので拒否した……のだが、ハルトマンとシャーリーに引きずられ無理やり連れて行かれた。ここ最近も由也が人が入っていない時間を狙っていたのをわかっていたのだろう。

浴場から悲鳴が上がり、戻ってきたときには由也の目は死んでいた。

 

そんな状態の由也はルッキーニに遊ばれつつ、今回現れたネウロイについての話が続いていた。

 

「……それじゃあ、今回のネウロイはサーニャ以外誰も見ていないのか。」

 

「ずっと雲に隠れて出てこなかったからな。」

 

「けど何も反撃してこなかったって言うけど、そんなことあるのかな?」

 

ハルトマンが疑問を口にする。たしかに今までのことを考えれば戦わずに逃げるネウロイなんて想像がつかない。

 

「それ本当にネウロイだったのかー?」

 

「恥ずかしがり屋のネウロイ……なんてことないですよね、ごめんなさい……」

 

リーネがそんなことを口にする。それにいつのまにか復活していた由也がルッキーニの頭を潰さんという勢いで掴みながら応える。

 

「案外そうかもな。奴めサーニャにだけは近寄ってきたが、援護部隊が来た時に雲の中を這って逃げてる。少人数で動くウィッチにしか近づいてこないのかもしれん。リーネのそれはいい線行ってると思うんだけどな……」

 

「そ……そうですか……?」

 

由也に評価され恥ずかしそうに顔を赤めらせるリーネ。

ミーナとバルクホルンが話を進める。

 

「"ネウロイとは何か"それが明確にわかってない以上由也さんやリーネさんの言うようなネウロイが現れてもおかしくないわ。」

 

「仕損じたネウロイが再び現れる確率は極めて高い……」

 

「そうね、そこでしばらくは夜間戦闘を想定したシフトを敷こうと思うの。サーニャさん、宮藤さん、当面の間あなたたちを夜間戦闘専従班に任命します。今回の戦闘の経験者ですからね。」

 

「えっ!?私は見てただけで……」

 

宮藤が反論しようとすると、後ろにいたエイラが宮藤の頭を押さえて体を乗り出す。由也もルッキーニを離すと手を上げる。

 

「はいはいはいはい!私もやる!」

 

「俺も同行する。今回の件に関わっているし、夜戦の経験もある。病み上がりのウォーミングアップもしたいところだ。」

 

「わかりました。じゃあ、あなたたち4人でお願いね。」

 

こうして4人で夜間哨戒と対ネウロイ戦シフトを組むこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、食卓に大量のブルーベリーが並んでいた。

 

「でもどうしてこんなに?」

 

「私の実家から送られてきたんです。ブルーベリーは目にいいんですよ。」

 

そうリーネが言う。ブリタニアの夜間パイロットたちは好んで食べるというのだ。

皿いっぱいのブルーベリーにがっつくハルトマン。由也はヨーグルトに入れて食べている。これは由也の前世からの食べ方だ。

 

「シャーリー、芳佳!べーして、べー!」

 

「ん?」「え?」

 

ルッキーニに言われてシャーリーと宮藤、それとルッキーニも舌をだす。ブルーベリーで紫色に染まっていた。それが可笑しくって3人で笑い転げる。

一方ペリーヌはそれをみて呆れる。

 

「ベタなことを……」

 

「お前はどうなんだ。」

 

後ろからエイラに口端を引っ張られるペリーヌ。中は歯まで紫色に染まっている。さらに運悪く坂本にそれをみられてしまう。

 

「……何事もほどほどにな。」

 

そう言われてペリーヌの顔が赤くなっていく。

 

「____〜!!エイラさん!あなたなんてことを!」

 

ペリーヌがエイラを追いかけ叱る。そんな喧騒に飲まれつつ、サーニャがポツリとつぶやいた。

 

「……美味しい。」

 

 

 

 

 

夜間シフトの人間は夜中に慣れるためと昼夜逆転の活動になるため、サーニャの部屋兼臨時夜間専従員詰所に入れられている。だが由也は万全の状態で飛行するべく格納庫に向かい、ストライカーの整備をしていた。かれこれ1週間近く放置されていたので心配になっていたのだ。

 

いつものツナギ姿に着替えて点検していく由也。次々と慣れた手つきで作業をしていると後ろから坂本が近づいてきた。

 

「今夜に備えて寝ろと言ったのに、ストライカーの点検の方が先か?」

 

「仕方ないだろ、こいつを弄れるのは俺だけなんだからさ。こう長く放置してると心配で……な。」

 

作業の手を止めずにそう話す由也。坂本はやれやれといった感じに肩を竦める。

 

「ほどほどでやめておけよ。それで夜中に眠くて動けないじゃ笑い者だからな。」

 

「ああ、もちろんな。」

 

そう言うと坂本は格納庫を後にした。

 

 

 

その後サーニャの部屋で数時間過ごし、夕方。整備に加え密閉された部屋で大人数でいたものだから汗だらけになっていた。そこでエイラの提案で大浴場脇に作られたサウナへと向かった。

由也は前世で何度か入ったことがあるが、半ば兄との我慢大会となっていたのを思い出す。だが決して嫌いではなかった。

 

しかし慣れてない宮藤としてはあんまり好みではなさそうだ。

 

「ふあー……これじゃさっきとかわんないよー……」

 

「スオムスじゃ風呂よりもサウナなんだぞ」

 

ふへーと鳴きながら横たわる宮藤。ふと視界に片膝たてて座る由也とちょこんとおとなしく座っているサーニャが目に入った。

 

「由也さんって肌綺麗ですよね……こう、健康的というか。」

 

「そ、そうか……?向こう(中東)は日差しが強いから結構焼けちゃってな。これが良いのかどうか……」

 

「そこが良いんです!」

 

ぐっと推してくる宮藤。なんだか小っ恥ずかしくなってきて顔があつくなる。

 

そして宮藤はサーニャの方にも目をつけた。

 

「サーニャちゃんって肌白いよね。」

 

「ド、ドコみてんだオマエ!」

 

「いつも黒い服着てるからよけい目立つというか。」

 

「____! サーニャをそんな目で見んなー!」

 

 

 

サウナのあとには水風呂____なのだが501基地には生憎と備え付けが無い。ならどうするのかというと、基地内にある川で水浴びをするのだ。

 

だがさすがに由也としては恥ずかしかった。

 

「これはさすがに無い……!」

 

一矢纏わぬ姿で外にいるのだ、恥ずかしくないわけがない。お情け程度に腕で胸と股関を隠すが、それで(リーネほどではないが)豊満な胸が潰れて余計に扇情的に見える。

 

由也をガン見する宮藤だが、歌が聞こえてきたのに気づくとそちらの方を向く。エイラと一緒に岩の影からそっちを伺うと、サーニャが涼みながら歌を歌っていた。

 

「なんかこう……ドキドキしてこないか?」

 

「……うん。」

 

(何やってんだかこのおバカちん共……)

 

2人を冷たい目で見る由也。サーニャも宮藤達の視線に気づいてこちらを向く。

 

「あ……邪魔しちゃってごめんね。素敵だね、その歌。」

 

「これは昔、お父様が作ってくれた曲なの。」

 

サーニャは音楽家の家庭で生まれ育ったという。とある雨の続いた日、落ちる雨粒を数えていた時に父親がそれを歌にしてくれたそうだ。

 

「素敵なお父さんだね。」

 

宮藤が純粋な感想を口にする。たしかにロマンのある良い話だ。

 

「宮藤さんのお父さんだって素敵よ。」

 

「えっ?」

 

「オマエのストライカーは宮藤博士がオマエのために作ってくれたんだろ。それだって羨ましいってことだよ。」

 

「せっかくならもっと可愛い贈り物の方がよかったな。」

 

「ゼータクだな、高いんだぞあれ。」

 

「なんなら羽にリボンでも描いてみるか?」

 

「あっはは……それは可愛いというより面白いかも。」

 

宮藤が笑うとサーニャもつられて笑い始める。4人で目一杯笑い合った。

 

 

 

 

 

そして夜、宮藤初めての夜間飛行だ。タキシングし滑走路に立つが、宮藤が震えている。

 

「宮藤、大丈夫か?」

 

「由也さん……夜の空がこんなに怖いなんて思わなくて……」

 

「無理ならやめる?」

 

サーニャが宮藤にそう聞く。宮藤は手をさしだすとサーニャにお願いをした。

 

「手、手を繋いで良い?サーニャちゃんが手を繋いでくれたらきっと大丈夫だから。」

 

サーニャの魔導針が赤く点滅し、そっと手を握り返した。それをみたエイラがムッとして宮藤の手をすこし乱暴に握る。

 

それを見て微笑みながら由也は滑走路を離れ、3人もそれに続いた。

 

 

 

やがて高度がかなり上がり、雲の上に到達するとそこには一面に星空が広がっていた。宮藤はその光景にわぁーっと歓声を上げる。由也も見慣れた景色だったが、こんなゆったりとした気持ちで飛ぶのは初めてで見惚れている。

 

「すごいなぁ!ありがとう!サーニャちゃん、エイラさん!私1人じゃ絶対こんな所まで来れなかったよ!」

 

「たしかにこの景色は……良いもんだな。」

 

「なんだ、由也。飛び慣れてるんじゃなかったのか?」

 

エイラが由也に声をかける。

 

「作戦行動として慣れてるだけで、こうしてゆっくり飛べるのは初めてだよ。夜の空の綺麗さに初めて気がついた気がする。」

 

由也は空を見上げる。その目は星空よりももっと遠くを見ているように見えた。

 

「由也さん……なんだか星空に吸い込まれていきそう。」

 

「! そ、そうか? 夜空を見てると、死んだ仲間の顔が見れるような気がしてな……ある意味間違ってはいないか。」

 

縁起でもないことを喋る由也。そんな彼女の心の中にはとある人物が浮かんでいた。

"死神"ボリス____イギリスの地上攻撃の天才と言われたエースだった男。そんな彼も闇が嫌いだった。先に逝った友人の顔が浮かんでくるから……

 

ぽつりと呟く。

 

「また死んだら、今度はあの星の一つになるんだろうか。」

 

「由也さんは死なせません。私が守りますから!」

 

「宮藤……ははっ、いってくれるじゃないか、このこの!」

 

ワシワシと頭を撫で回す由也。その姿をサーニャとエイラは後ろから見ていた。




どうも、今回も読んでいただきありがとうございます。

アンギラスです。

良い加減ペースを落とさないとなと思いつつ筆がなかなか止まらない。
もっとサーニャとエイラをイチャイチャさせたい。

今回のちょっとした小ネタ

・ボリス
漫画エリア88一巻やOVAの序盤、アニメ2話に登場する元イギリス空軍軍人。中佐の階級にいた経歴があり、もし生き残っていればサキやラウンデルと並び部隊のトップの1人を飾っていたかも。
F-8(クルセイダー)を使用しており、アニメではマッコイじいさんから「新しく買った方が修理するより安くつく」と言われるほど使い込んでいる様子。

一番の特徴は部屋の電気を絶対に消さないということ。部屋を暗くすると死んだ友人の顔が浮かんでくるのが理由だという。

アニメでは"死神"の二つ名付きで登場。これは周りが言い出したことではなく、ボリス自身が言い出したこと。最期は全作共通で「砂漠の牙」攻略の際に機関砲弾をエンジンと腹部にくらい、力尽きて墜落。友人達の元へと向かいました。
古い機体を使い続けること、自ら1人になろうとすること……彼は死に場所を求めにエリア88にきたのではないかとアニメ版では語られていました。

さて、そろそろ筆のスピードを落とさないといけない時期。次回はもっと遅くなるかもですね。それまでしばしの別れ。

アンケートはシーズン1終了までやってますのでどんどん票を入れて行ってください。ただみんな鬼やね……

ではまたの機会にお会いしましょう。


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第11話:孤独の襲撃者

真!ミッキーから連絡があった!敵はキムと同じ垂直離着陸(VTOLE)機だ!

東側の機体だとすると、おそらくYak-38(フォージャー)だと思う。遷音速で機体が重いから重武装はできないはずだ。問題はどちらかというとキムの方だな……

アイツがAV-8A(ハリアー)に触ったのは今日が初めてだ。そんなうまく扱えるとは思えない。

わかった、F-20(タイガーシャーク)と俺のF5D(スカイランサー)を準備させてくる。すぐに出るぞ!


夜間哨戒も終わり、翌朝。

いつもの朝食……ととても美味しそうに感じられない匂いを発する飲料が並んでいた。

 

「これ……肝油か?」

 

「はい、坂本さんが取り寄せてきたんです。」

 

「ああ……やっぱり……」

 

由也はゲンナリとして項垂れる。彼女も前の世界で何度か飲んだことがあるが、とても美味しいとは言えないもの……いや、不味いのオンパレードだった記憶しかない。

栄養はかなり高いので体には良いが味覚に無遠慮なものばかり食べてきた身、由也としても触れたくない代物だった。それもそのはず、医療品としての意味合いが強いのだからそれが当たり前である。

 

ちなみにいろいろと味付けされた飴が市販されているが、由也はこれには触れてこなかったようだ。

 

「私もよく飲まされたものだ。」

 

「心中お察しいたしますわ……」

 

坂本が持ってきたと聞いて一気飲みしたペリーヌが死にそうな顔をしている。

 

他も死屍累々で大半はやはり美味しく無いという感想だ。若干一名、ミーナのみを除いて……

 

ちなみに由也はというと。

 

「「……」」

 

「由也とトルゥーデが死んでる……」

 

バルクホルンと仲良くまっしろになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく、サーニャの部屋。宮藤は早々に寝てしまったため、由也とサーニャ、エイラで喋りあっていた。

 

「スオムスとオラーシャか……たしかに遠いな。」

 

タロットカードを引きながら由也が呟く。エイラの占いというのをやってみようという事でこうしてカードをシャッフルしている。

混ぜ終わるとまとめて3つにカットする。

 

「こういうのは言うもんじゃないかもしれないけど、帰る場所と会う家族がいるのは少し羨ましいな。」

 

「オマエまでそういうこと言うんだな。」

 

呆れたように言うエイラ。たしかにスオムスもオラーシャもかなり広い。とくにオラーシャは由也でいうソビエト連邦・ロシアにあたる国だ。東から西へ大陸を跨ぐ広さを持つため、人探しは容易ではない。

だが由也の故郷はもっと遠いのだ。

 

「俺の故郷は遥か遠く違う世界だからな……返りたくても帰り道がわからない。帰ろうとしたら迷子じゃ済まなさそうだ。」

 

「あっ……」

 

サーニャが思わず声を上げる。由也はもう故郷にも家族にも会えない人だ。ここにいる誰よりも寂しく、辛い状況にいるはずだ。

 

「ごめんなさい……嫌なことを聞いてしまって。」

 

「いいんだよ。2回も親不孝をやっちまった身、しかも約1回は自分の不注意だ。だけどそのおかげでお前たちに会えた。寂しい気持ちはあるけど後悔はしてないよ。」

 

そう言って微笑む由也。

 

そうこうしてるうちにエイラの占いの結果が出たようだ。

 

「ウーン……"近いうちに大切なものを失う"か……?」

 

「縁起でもねえな……」

 

苦笑いする由也。今の彼女にとって持ち合わせてる大事なものは仲間とこの身一つくらいだ。なくすとなれば誰かが死ぬことと同義語だろう。

 

「まっ、当たるも八掛当たらぬも八掛。運の悪さは今に始まったことじゃないし、その場の流れに身を任せるさ。」

 

「けっこう図太いなオマエ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星空の下を飛ぶ4本の線、由也を先頭に航空灯を輝かせて飛んでいた。そのうちの1本がふわりと上がると残りの3本に話しかける。

 

「ねぇ!聞いて!今日はね、私の誕生日なの!」

 

「え……」

 

「なんで言わなかったんだよ。」

 

「そうだぞ、言ってくれりゃ派手なお祝いの一つや二つやったのに。」

 

「私の誕生日はお父さんの命日でもあるから。なんだかややこしくてみんなに言いそびれちゃった。」

 

「バカだなオマエ、こういうときは楽しいことを優先したっていいんだぞ。」

 

そうかな?と話し合う宮藤とエイラ。ふとあることを思いついてサーニャが宮藤に近づく。

 

「宮藤さん、耳をすまして。」

 

「? うん。」

 

少しのノイズとともに音楽やドラマなどが耳元に流れ始める。

 

「これは……ラジオか?」

 

「本当だ……これ音楽のかな?」

 

「うん……夜になると空が静まるから、ずっと遠くの山や地平線からの電波も届くようになるの。」

 

「ヘェ〜!すごい、すごい!こんなことができるなんて!」

 

宮藤は純粋に感動する。由也もなるほど、夜間哨戒の間も退屈しないわけだと納得する。

 

「良かったのか?こういうのは秘密のことだったりしないか?」

 

「だったりじゃなくて実際に秘密なんだよ。私とサーニャの2人の。」

 

「ごめんね。でも、今夜だけは特別。」

 

「……ちぇっ、しょーがないなぁ。」

 

エイラはサーニャの事情を察して引き下がる。それに宮藤が反応する。

 

「え?どうしたの?」

 

「あのなー、今日はサーニャも……」

 

そこまで言った時、耳元のラジオから変なノイズがはしり始めた。由也の索敵レーダーに謎の光点が写り、サーニャの魔導針の色が変わる。

 

「……楽しい時間は一旦終わりだ。全機コーション(警戒)ボギーインバウンド(敵機接近)!」

 

「なんだって……!」

 

「そんな……どこから!?」

 

やがてノイズは歌へと変わる。その歌はここにいる全員が聞いたことのあるものだった。

 

「これ……まるでサーニャちゃんの……」

 

「どうして……お父様の私の……!」

 

自分と父親との絆の証とも言える唄をネウロイが歌っている、そのことにサーニャが激しく動揺する。

 

 

 

 

 

この異変は501基地も気付いていた。初めて聞くネウロイの声、今までに無かった行動に指揮官2人は驚きを隠せない。

 

「これがネウロイの声……!?」

 

「サーニャの唄を真似てるのか……?すぐにサーニャを呼び戻せ!」

 

「無理よ!この状態じゃどこにいるのかも……」

 

通信はすでにネウロイの電波妨害圏内にはいり繋がらず、レーダーは濃い雲の群れに遮られ把握ができない。

坂本がネウロイの目的に気づく。

 

「そうか!敵の目的は……ッ!」

 

 

 

 

 

「くそっ、火器管制レーダーじゃ雲に遮られてロックオンができない!索敵レーダーでチマチマ探すんじゃ位置を割り出すのも一苦労だぞ!」

 

由也が悲鳴を上げながらも細かくレーダーレンジを変えて敵を探すのにやっきになる。火器管制レーダーと索敵レーダーはそれぞれ電波の周波数がちがう。索敵レーダーは雲の妨害にそこそこ強いため、雲海の薄いところに入ればネウロイを把握できる。だが火器管制レーダーは雲によって使い物にならず、より正確な位置の特定ができない。

この場で敵の正確な位置を補足できているのはサーニャだけだ。だがそのサーニャは突然月に向かって上昇する。

 

瞬間、雲の中から光線が発射されサーニャに向かう。

だが由也がそれをさせまいと射線に割って入る。見え隠れする索敵レーダーとサーニャの位置から光線の射線を割り出し、ジェットの最大出力で無理やり間に入りシールドでこれを防いだ。

 

「サーニャ!」

 

エイラが真っ先にサーニャのもとに向かう。

 

「バカ!1人でどうする気だよ!」

 

「敵の狙いは私……間違いないわ。わ、私から離れて。一緒にいたら……」

 

みんなも狙われる。そう言う前に由也が泣きそうなサーニャの顔を手で挟んで目を合わせる。

 

「俺たちはそんな信用に足らない人間かな?」

 

「そ……そんなことは……」

 

「なら、一緒に戦おう。アイツは1人、こっちは4人だ。()()()()()()()()()()()()()。」

 

「!!」

 

涙の溜まった目を見張るサーニャ。由也が一気に作戦を指示する。

 

「エイラはサーニャとネウロイにロケット砲で攻撃を。サーニャの探知魔法をお前の未来予知でサポートしてやれ。宮藤、お前は俺と一緒に来るんだ。ネウロイに直接攻撃を仕掛けるぞ。」

 

「はい!」「わかった!」

 

「サーニャ、今回の作戦は君が勝利の鍵だ。頼んだぞ。」

 

「……はい!」

 

「よし、作戦開始!」

 

由也と宮藤は雲海の表面ほどまで降下し、サーニャとエイラは寄り添い狙いを定める。サーニャが敵の位置を探知し報告する。

 

「ネウロイはベガとアルタイルを結ぶ線の上をまっすぐ私達の方に向かってます。距離約3200……」

 

「おりひめとひこぼしを結ぶ……見つけた。ネウロイ補足!サーニャ、先に攻撃を仕掛けてくれ。続いてこっちが畳み掛ける。」

 

「わかりました。」

 

サーニャがネウロイに照準を合わせ、エイラが敵の飛ぶ先へと誘導する。

 

「サーニャ、もう少し下だ。」

 

「わかった、こう?」

 

「そう……今だ、サーニャ!」

 

3発のフリーガーハマーが雲に吸い込まれていく。爆発が3度起こると雲海に穴が開き、海が覗き込めるようになる。

 

「外れた!?」

 

「いいえ、当たったわ!速度が落ちてる!」

 

敵がダメージを受けたところを火器管制レーダーで補足した由也が後を追いかける。

 

「宮藤、俺のライフルは曳光弾が多くセットされてる。弾道が見えやすくなっているから、同じところに向かって撃て!」

 

「はい!」

 

由也が先に銃撃し、宮藤がその後に続く。由也の弾薬ベルトは夜戦用に曳光弾という発火式の特殊弾を多く混ぜている。ネウロイへのダメージは減ってしまうが、雲の中を照らし姿をあらわにさせていた。

宮藤の攻撃がネウロイの表面を削っていく。それに耐えかねたネウロイは進路を変えて宮藤達にむかって光線を放つ。それを避けつつ一度距離をとると由也はサーニャに再度攻撃を求めた。

 

「サーニャ、もう一度攻撃を頼む!いい加減出てくるはずだ!」

 

「はい!やろう、エイラ!」

 

「ああ、任せろ!」

 

再び3発のフリーガーハマーがネウロイに向かって正確に飛んでいく。爆風に紛れてネウロイの姿が一瞬見えた。すぐに雲の中へと逃げ込んだが、由也はすでにその姿を捉えている。

 

再度接近し2人の弾丸がネウロイの装甲を削り取る。とうとう耐えきれなくなったネウロイが雲海から白い線を引きずり現れる。

それこそ由也の狙いだった。

 

「今だ!全火力を集中、挟み撃ちにするぞ!」

 

「「「了解!」」」

 

4人の攻撃が一斉にネウロイに向かって火を吹く。敵も砲火に晒されながらも反撃をするがサーニャはエイラの未来予知で共に避け、由也は宮藤が動ける機動でその全てを避けていく。

 

「一気に落とすぞ!チームワークでぇっ!」

 

「私たちなら絶対できる!」

 

「それがチームだ!」

 

「私はもう、1人じゃない……だから!」

 

黒い影を切り裂く弾丸、闇を祓う爆風、そしてついにコアが粉々に粉砕される。夜空に散らばるネウロイの破片が輝き空を舞う。

 

だが、音楽はまだ鳴り止まない。

 

「まだ流れてる……?」

 

「そんな、倒したはずじゃ……」

 

由也がそっと音楽に耳を傾ける。先程までのノイズがかった耳障りな音じゃない、やわらかいピアノの音色だ。

 

「いや待て……これはピアノだ。ラジオからだ。」

 

「!これは……お父様のピアノ!」

 

もっとつよく電波(思い)を受け止めようと上昇するサーニャ。

この世界のどこかから、この広い空を通じて届いている。この世界のどこかからサーニャのことを思って音楽が流れている。そのことに宮藤がはしゃぐ。

 

「すごいよ!奇跡だよ!」

 

「そうでもないかも。今日はサーニャの誕生日だったんだ。正確には昨日かな?」

 

「え……じゃあ私と一緒?」

 

「サーニャの事が大好きな人なら誕生日を祝うなんて当たり前だろ? 世界のどこかにそんな人がいるなら、こんな事だって起きるんだ。奇跡なんかじゃない。」

 

奇跡じゃない、これもまた必然なのか。そんなことを考える由也。彼女の視線の先には月を背に涙を目に溜めたサーニャの姿があった。その幸せそうな表情を見ていると、どちらにせよこれは彼女のための素敵な誕生日プレゼントだということだけはわかった。

 

「誕生日おめでとう!サーニャちゃん!」

 

「あなたもでしょ。お誕生日おめでとう、宮藤さん。」

 

「おめでとなー。」

 

「ありがとう!エイラさん優しいね。」

 

「そんなんじゃねーよ、バカ。」

 

気づけば空の上でワイワイと騒ぎ始める。由也は手を叩いて意識をこっちに向けさせる。

 

「はいはい、一旦基地に戻るぞ。話はそれからだ。それと……明日は誕生日パーティーだ、全員参加で派手にお祝いしてやる。別に良いよな、ミーナ?」

 

『ええ、もちろんです。みんなでお祝いしましょう。』

 

「ふ……さあ、帰ろう!明日は遊び尽くすぞ!」

 

「「はい!」」「ああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回のネウロイ、由也の目から見てどう感じたかしら?」

 

あれから数日、由也とミーナが執務室で話し合っている。先の戦いのネウロイについてだ。

 

「異質でもあり、順当でもあり……難しいな。ネウロイが人類を理解しようとしているのか、学習しようとしているのか、解釈によって道は変わるぞ。」

 

「そうね……今回のネウロイのようなイレギュラーがまた現れた時、どう対応するべきなのかしら……」

 

「その場に合わせ臨機応変に、だな。だが今回の戦いで一つ疑問が浮かんだ。」

 

由也が窓の外を見る。外はあの日と真逆に雲一つない快晴だ。日の光の眩しさに目を細める。

 

「サーニャと波長のあったのがいたんだ、ネウロイの中にも宮藤のような戦争嫌いな奴とかはいないのだろうか?」




今回も読んでいただきありがとうございます。

アンギラスです。

消えたと思った?これが多分これからの普通になると思います。結構時間が……無いねんな。
ブレイブウィッチーズとノーブルウィッチーズ見ないとな。いろいろ出したいキャラが多すぎるんじゃ。

肝油……今だとあまり聞かない単語な気もする。あれって薬品扱いなようで製薬会社しか一般販売してないんですよね。それも肝油ドロップってやつが基本。ただ味付けがされててバナナ味だったりサイダー風味だったり食べやすくなってる模様。

一般販売だけでなく、薬用としても存在してその際には夜盲症やくる病(ビタミン欠乏症。日にあたらなかったりで発症することも)用の薬品として使われるそう。用法を守らない接種では副作用もあるらしいです。

アンケートの結果はだいぶ割れてきてる……か?連れてこなきゃかな……彼も。

さて、次回も同じようにすこし幅は長くなると思います。それまでしばしお待ちいただければ幸いです。
ではまた次回お会いしましょう。


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第12話:書類とズボンと勲章

なんだこの状況……いつもの馬鹿騒ぎするメンバーがみんな管制塔に集まって。

なるほど、視界不良の味方を誘導しに……って別にグレッグがやる必要もないんじゃないか?こんな人数集まって邪魔くさい……

俺はお仕事ですよ、書類整理がまだ終わってないんです。だからラウンデル少佐を呼びにきたんだけど。

……このおバカちん共……


起床時刻前、由也は日課のロードワークを、坂本は自主訓練を外で行なっていた。もちろん同時刻にこういうことをしていれば顔を合わせることはある。だがお互いにお喋りするほど半端な気持ちではない。さらなる力のために、これから先も生き抜くためにやっているのだから不干渉でいることが2人の暗黙の了解となっている。

 

気づけば起床ラッパが鳴り始める時刻となっている。由也はロードワークを切り上げて大浴場へと向かった。さすがに汗ばんだまま食事はしたくはない。

 

着替えをとりに自室に向かう……とそこはカオスだった。ペリーヌは眼鏡を忘れ、宮藤は寝ぼけて枕を抱いて扉を開けながらたったままウトウトしている。シャーリーは寝巻きの下着姿の状態で扉を開けっぱなしで歯を磨いている。せめて扉を閉めろ。

 

と、向こうからミーナが歩いてくる。さすがカールスラント軍人か、きっちり服装も正している(いや、これがあるべきなんだろうが)。

 

「由也さん、おはよう。」

 

「ミーナ、おはよう。今日はどこかに用事か?」

 

「ええ、リーネさんと町の方に……そこでお願いがあるのだけれど、書類整理がまだ終わりきってないの。頼めるかしら?」

 

「ああ、問題ない。気をつけて行ってこいよ。」

 

「ふふ、ありがとう。」

 

そういうとミーナは表へ歩いて行った。

 

ちなみに由也は中尉階級だが、書類関連の仕事を任されることが多々ある。いかんせん佐官でかつ戦闘隊長を務める坂本は書類仕事はできなくはないが嫌う方だ。バルクホルンはできる方ではあると思うが、それ以外にやることが多かったりと地味に多忙。大尉へと昇格したシャーリーも上級士官の仲間入りとなったのだが、事務はとことん苦手だ。結果的に書類仕事ができる由也が補佐し、相応の権限を持つこととなった。

影で「501の財布締め係」なんて呼ばれているのは内緒だ。

 

大浴場はこの時間はカラなため特に会話も無く、朝食を食べに食堂に向かう。集まっているメンバーはシャーリーとバルクホルンだけのようだ。

 

「よっ、由也。今起きたか?」

 

「いや、日課帰りでさっき風呂に入ったところだ。ご飯を食べたら書類整理もしなくちゃならんしな……」

 

「あー、なるほど。お疲れ様。」

 

「変わってくれてもいいんだぞシャーリー。」

 

ジトっとシャーリーを見る由也。シャーリーは乾いた笑い声を出しながら目を背ける。

席に座り、大皿山盛りのふかし芋を突っつき始める。作ったのはバルクホルンだろうか。だとはいえこの量は……とも思うが。

 

「由也、他の皆は見なかったか?」

 

「ミーナはリーネと町に、坂本は宮藤と朝練だろうな。サーニャは夜間哨戒帰りでエイラが多分面倒をみてるだろう。ルッキーニは外で寝てるのを見たが……ペリーヌとハルトマンは見てないな。」

 

「そうか……ハルトマンめ、まだ起きてないのか……?」

 

「あー、たしか今日は勲章の授与の日だったか?」

 

一応はスケジュールを頭に入れてる由也。ハルトマンは先日のネウロイ250機撃墜を受けて柏葉剣付騎士鉄十字章が送られるはずだ。

 

「それで起こしてきたのだが……まさかまだ起きて来てないなんて。」

 

「まぁいいんじゃないか? 実際ぐうたらだが結果は出てるし、俺としては文句をつけれないが……」

 

「よくない!」

 

バルクホルンの説教まじりの愚痴が始まる。たしかにハルトマンの怠け具合は目に余るものがある。とはいえバルクホルン自身が進んで世話を焼いているのだからどうしようもない。

 

「聞けば聞くほどバルクホルンが世話を焼きすぎだと思うのだが……まぁ気持ちはわかるけどね。俺も兄がダメ人間だったし。」

 

「へぇー、初耳だな。」

 

「話す機会が無かったからな……あの兄もいろいろと抜けててなぁ、洗濯物がたためないし飯の時間を忘れるし、趣味に一直線なのはいいんだがその他が絶望的だから俺がよく面倒見てたもんだ。」

 

「たしかにバルクホルンのことを言えないな。」

 

「おい、どういう意味だリベリアン。」

 

由也とシャーリーは笑い転げ、バルクホルンは疑問符を浮かべる。

 

由也が背もたれにもたれているとシャーリーが彼女を____正確には彼女の体____を観察するように見ている。

 

「? どうしたシャーリー、俺の体になにか?」

 

「……由也ってかなりスタイルいいよな。」

 

「へっ?」

 

「非番の時に結構声かけられるんじゃないか?告白とかもされたり……」

 

「い……いやいや、無い無い!声をかけられるのもサイン目的が多いし!」

 

「へー……気になったやつはいなかったのか?」

 

「気になったって……」

 

いろんな人々の顔を思い浮かべるがそういう思いを持った相手はなかなか思いつかない。うーんと唸りながら考え、そして1人思い浮かんだ。

 

ミーナの顔が。

 

(いやいやいやいやまてまてまてまて!!ミーナがなんで出てくるんだ!?)

 

慌ててかぶりを振る。まさか、自分の上官だ。まして心はまだしも体は同性、そんなことができっこない。

だが顔に出てしまっているようだった。

 

「由也、顔が赤いぞ……さてはいるな?だれだ?」

 

「う、うるさいっ!いないったらいない!」

 

ごちそうさまとやや乱暴気味に言って立ち上がると食堂を後にする。しかし執務室までの道のりの間もずっとミーナの事とシャーリーの発言が離れなかった。

 

(ああ……好きになってしまったんだろうな。ミーナの事が……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書類仕事の何が辛いか、単調作業になりがちな点である。人間、やることが平均化されてしまうと思考が止まり、やがて眠気に襲われる。

 

これがほんの些細なミスを引き起こし、やがて大事故にも繋がりかけないのだ。実際過去にとある国の銀行で個人通帳にとんでもない額の金額が誤って振り込まれたなんて事件もある。

 

なので作業の合間にリフレッシュすることは大事だ。ミーナのようにコーヒーを嗜むことも有効な手段だろう。

 

そして由也もまたこの書類の束を相手にそろそろ疲れて来た頃合いだった。

 

「んー……っはぁ……半分以上は終わらせたがまだ数が多いな……食堂にいって何か飲むか。」

 

由也はペンを置くと部屋を後にする。

 

 

 

食堂につくと、何やら様子がおかしい。先にいた2人にペリーヌや宮藤、坂本とルッキーニにハルトマンと基地にいるほぼ全員が集まっている。なぜか宮藤が坂本の制服を着ているが。

気になって仕方がない、由也は何があったかたずねる。

 

「この状況は何があったんだ?」

 

「あぁ、実はな……」

 

坂本が事情を説明する。朝練が終わった後、坂本、宮藤、ペリーヌ、ルッキーニの4人は入浴をしていたそうだ。だが風呂から上がるとペリーヌのズボンが無くなっていた。あえなく宮藤のズボンを手に取るが良心の呵責に迷ってるところ坂本と宮藤も上がってきて……

 

ということだそうだ。

 

(ぜってー坂本のズボンに手をかけようとしただろ……)

 

ペリーヌのこと、由也はそう思ったが彼女の名誉のために口に出さないでおく。

さて、そうなると盗難という線が一番だろう。ならば犯人が誰かが問題となるわけだ。

 

「入浴前後に大浴場付近にいた奴が犯人だというわけだが……坂本ら3人はまぁ除外、俺はさっきまでデスクワークで縛られてたから動けない。不確定要素はエイラとサーニャだが、夜間哨戒要員だから動いてない。」

 

「私ら2人はずっとここにいたぞ。ハルトマンは……」

 

「ふぁふぁふぃふぁふぁっひおふぃふぇふぃふぁ。」

 

「口の中のものゴックンしてから喋ろうな……」

 

由也は御行儀悪いぞとたしなめる。となると残りは……テーブルでフォークを持ったままガタガタ震えているルッキーニだけだ。

 

「……フランチェスカ・ルッキーニ少尉?」

 

挙動不審なルッキーニにバルクホルンが声をかける。ルッキーニは青い顔をしたままフォークをそっと置くと椅子から飛び出して走り出した。

 

「あっ逃げた!」

 

ひらりと舞う上着からのぞいたズボン、ルッキーニらしからぬ真っ白なもの。

ペリーヌが叫んだ。

 

「! 私のですわ!」

 

「待て!止まれ!」

 

ハルトマンと由也を除く全員がルッキーニを追いかけて飛び出す。

 

「ごっ……ごめんなさーい!」

 

「待ってルッキーニちゃん!私の服!」

 

「待て!罪を重ねるのか!」

 

去り際に宮藤のズボンも持っていきながら。

あとには2人だけが残された。

 

「由也は追いかけないの?」

 

「まだ仕事が残ってるし、上級階級3人がついてるんだからおそらく大丈夫だろう。ミーナ達が帰ってくる前に終わればいいけど……」

 

由也は頭をかきながらゆっくりと食堂をあとにした。

 

 

 

 

 

執務室に戻り、仕事を再開する由也。残り半分となった紙の束にペンで立ち向かう。

 

しばらく作業を続けていた由也。そこにノック無しに勢いよく扉が開けられる。バルクホルンだ。

 

「由也!こっちにルッキーニは来なかったか!?」

 

「……見てないぞ。」

 

「そうか……すまない、邪魔した!」

 

そういうとさっさと出て行く。突然扉が開いたこと、その轟音に驚き手元の書類がダメになり由也の眉がひくつく。

 

しばらくするとそーっと扉が開いてまた誰か入ってきた。ルッキーニだ。

近くに来ると小声で話しかけてくる。

 

「由也〜少し匿って〜……」

 

「……邪魔しないなら好きにしろ。」

 

はぁとため息をつき、そう答える。ルッキーニは嬉しそうな顔をすると、由也の足元、机の下に隠れる。

再び部屋は静寂に包まれ、ペンが紙の上を走る音と時計の音がリズムよく響く。やがてルッキーニが話始める。

 

「あのね、由也。アタシね、本当はね、ただペリーヌのズボンをとっちゃったわけじゃないの。」

 

「……」

 

「お風呂出たらアタシのズボンが無くなっててね、だから隣にあったペリーヌのズボンを借りたの。」

 

「……人のものを勝手に取っていくのは悪いことだな。」

 

「うん……」

 

「そういう時は目上の人を頼るべきだ。すぐ近くに宮藤にペリーヌに坂本までいたんだ。困ったらまず相談すること。いいね?」

 

「はーい……って由也は信じてくれるの、アタシのこと?」

 

「嘘つきは泥棒の始まりだが、泥棒がみな嘘つきだとは思ってないよ。」

 

「〜!由也、ありがとー!」

 

ルッキーニが机の下から這い出て由也に抱きつく。だが運が悪いことにそれと同時に扉が空いて宮藤とペリーヌが入ってくる。

 

「あっ!ルッキーニちゃん!」

 

「やっと見つけましたわよ!おとなしく捕まりなさい!」

 

「うじゅ〜!? いやだよ〜!」

 

3人が執務室の中でドタドタと暴れ回る。改めて言っておこう、執務室だ。由也が絶賛目の前で仕事をしている。いい加減に堪忍袋の緒が切れる。

机に穴が空くのではないかというほどの大きい音が響き、由也が3人に警告する。

 

「そういうことは、外でやれ。いいな?」

 

「「「は……はい……」」」

 

すごすごと3人は出て行く。さすがに本気で怒る一歩手前の由也は怖かったようだ。

由也は一息つくと静かになった部屋で再び仕事を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらかたの仕事が終わりもう一息という時だった。突然基地中に警報が鳴り響いた。ネウロイ襲撃の合図だ。

由也も格納庫に向かおうと立ち上がるがふと思い返す。前回の襲撃からインターバルがなさすぎる。基地の内線を手に取ると管制塔に繋いだ。

 

「こちら植村。管制塔、警報が鳴ったがネウロイ出現は確認できたか?」

 

「こちら管制塔、ネウロイは確認されていません。レーダーにも反応無しです。」

 

「そうか、了解した。」

 

内線を切ると窓の外を見上げる。雲もほとんどない快晴だ。

 

誤報、故障、もしくは?ひとまず事態を終息させるために格納庫に急いだ。

 

 

 

 

 

格納庫、そこはカオスが広がる惨状の現場だった。宮藤とペリーヌはズボンが無い、エイラは何があったかサーニャのズボンを代わりに履いている。

 

「坂本さん、スースーします!」

 

「私もちょっと……擦れて……」

 

「ちょ、酷いじゃ無いかサーニャ!ここで脱げだなんて…… !」

 

「だって私のだから……!」

 

「……なぁにこれ……」

 

格納庫一面クソカオス、なんかもう言葉が出ない。とりあえず空に上がる気の全員を止めるために声を上げる。

 

「ストップストップ!離陸中止!」

 

「由也!? そんなこと言ってる場合か、ネウロイが来てるんだぞ!」

 

「そいつは誤報だ。ネウロイどころか鳥一羽も飛んじゃいないよ。」

 

「なんだって!?」

 

バルクホルンが驚き声を上げる。同時に滑走路側からミーナたちもやってくる。ルッキーニも一緒だ。

 

「由也の言う通り警報は誤報よ。」

 

「ルッキーニちゃんが誤って押しちゃったみたいで……」

 

「なっなにぃっ!?」

 

ガーンという効果音が聞こえてきそうだ。同時にルッキーニが持っていっていた宮藤とペリーヌのズボンも返された。

ちなみに警報の誤報に気づきルッキーニを捕まえたのはハルトマンだそうだ。

 

「さて、ルッキーニ……散々人に迷惑をかけたんだ、覚悟しろよ?」

 

オーラが見えるほどに怒ったバルクホルンがルッキーニに迫る。ルッキーニは短い悲鳴をあげて由也の背中に隠れる。さすがにルッキーニの泣きそうな顔を見るといたたまれなくなり、由也がバルクホルンを止めに入る。

 

「やめてやれ、バルクホルン。この子も風呂を出た時にズボンが無くなっていたらしい。ルッキーニも半ば被害者だよ。」

 

「そのことを信じるのか?」

 

「逃げも隠れもするが嘘は言わないのがこの子だろう?」

 

そういいながらルッキーニの頭を撫でる。

 

結果的に今回の騒動についてルッキーニは不問というわけにはいかないがなるべく軽めに、罰として由也の仕事を手伝うこととなった。

 

 

 

 

 

そしてミーナが外に出向いていた理由、それはハルトマンの勲章の受け取りだった。即席で壇が出来上がると勲章の授与式が執り行われた。

 

「ハルトマン中尉、壇上へ!」

 

「はい!」

 

周りのメンバーは拍手で彼女を讃える。どこかハルトマンの表情も誇らしそうだ。

 

「ハルトマン中尉、貴官は第501統合戦闘航空団において見事なる殊勲、多大なる戦果を挙げた。よってこれを賞する。」

 

ミーナがハルトマンの首に勲章を下げる。その時、風が壇上に吹いた。他の人達より上の位置にいるハルトマンの服が少しめくれ、ズボンがあらわになる。

青と白の縞模様。

 

由也は声を上げそうになるが堪える。他の面々もまたそうだ。驚きが隠し切れていない。

壇上のミーナや坂本は気づかぬまま、ハルトマンを祝福した。

 

「おめでとう、ハルトマン中尉。」

 

「ありがとうございます!」




どうも、今回も読んでいただきありがとうございます。

アンギラスです。

第1期最大のカオス回……見てる分には楽しいけど由也はキレていい。

一番はルッキーニがやや不憫なので救済措置あげたかったのはありますね。ズボン取られてバケツ持たされて踏んだり蹴ったりだなあの子。

次回がこの世界のターニングポイント的なものになればと思っています。予定が未定なのはいつもどおりかもしれないけど……

では次回またお会いしましょう


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第13話:超音速体験記

ブリタニア・ロンドンのとある映画館、由也が紙袋に詰まったピーナッツ片手に白黒の映画を見ていた。題材はバトルオブブリテン。この世界におけるもののため、敵はネウロイで特撮技術を使って派手に迫力のある演出が魅力的だ。
だが目当ては映画じゃない。もっと別のことにある。

隣に女性が座ってくる。糸目でもの優しげな風貌、そしてたたずまいには育ちの良さがうかがえる。その女性は座るなり周りには聞こえないほどの声量で由也に声をかける。

「こっちじゃはじめましてだな、由也。急に呼び出してすまない。」

「まぁ……急に呼び出された上にこんなところで合流だ、よっぽどな案件だろう。」

そういいながらピーナッツを口に放り込んでいく。もう半分以上の中身が由也の胃の中に消えている。

「お前もこっちにいればもっと密会として話せるんだがな……まぁ仕方がないことだ。いくつか決まった話を伝えにきた。」

「へぇ……」

由也の手が止まり、顔を動かさず女性の方を見る。

「プロジェクト4がまもなく始動する。それに合わせてサキがエリア88を再結成させる予定だ。」

「この世界でもまたその名前か。サキらしいといえばそうだな。」

由也は苦笑する。かつてエンタープライズ級空母を基地として使っていた時も艦名をエリア88にしていた。彼とその仲間たちにとってあの名前は切っても切れないものらしい。

「そしてそれと同時にジェットストライカー技術と設計図を全面に開放を行った。」

「はっ!?」

突然の発言に思わず叫び立ち上がる。ヤバイと思ってすぐに引っ込んだが。

「私たちが大手を振って活動するためだ。だいぶ前からすでに開発に協力はしていたP-80やMe262にHe163、ミーティアやMiG-9が正式採用されて試験運用が開始されてる。F-4やMiG-21の先行量産型も生産ラインに乗っているらしい。」

「早すぎるな……20年は技術進歩が早まったということか。」

「ストライカーユニットだけだがな。そこで由也に頼みがある。」

「できることならやるが……何を御所望で?」

「501JFWメンバーにジェットストライカーの機種転換訓練を頼みたい。」

「……そりゃあまた大変なことになりそうだ。」

ため息をついて深く背にもたれる。

「近く501基地に練習機が届く。それを使ってくれ。機種は日本のT-2、使用後は扶桑に送る予定の機だ。」

「……わかった。どうせなら正式な命令書とかも作っといてくれよ。」

そういうと由也は席を立つ。別れ際に女性に挨拶をする。

「それじゃあ、またエリア88で会おう。フーバー。」

「ああ、またな由也。」


……ということで、全員にジェットストライカーの機種転換訓練を行ってもらうことになった。」

 

由也が移動式の黒板を背に書類片手に格納庫で鞭撻を振るうべく全員を集めていた。後ろにはジェットストライカーとなった日本の超音速高等練習機「T-2」がそびえている。

 

ストライカーユニットとなったT-2も練習機として使用可能なように2人乗りができるようになっている。メインの操縦者は通常通りの場所に、教官はキャノピーのようなパーツを開いてそこから脚を収める。それにより教導を行うのだ。

ちなみにどうも後期型のT-2を生産しているらしく、両翼端にはミサイルランチャーがついている。FCS系機器も付いているため射撃訓練やその気になれば実戦運用もできそうだ。

 

「じゃあまず簡単なジェット戦闘機について、前世の記憶混じりで解説していく。」

 

そういうと黒板に記入していく。

 

ジェット戦闘機とひとえに言えどその内容は細かく細分化される。その際たる例が"世代"だ。

第1世代から第5世代、間に4.5を挟み合計6つに分けられる。

 

第1世代機は至って単純、戦闘機の動力にジェットを使ったものである。武装はレシプロ時代と対して変わらず、多くの機体が機関銃と無誘導の爆弾、ロケット砲のみとなっている。

 

「これはすでに世界各国で開発が進んでいるそうだ。扶桑では陸軍の火龍と海軍の橘花が、リベリオンではP-80(シューティングスター)が、オラーシャでMiG-9が、カールスラントではMe262(シュバルベ)He163(サラマンダー)の2機種、ブリタニアではミーティアが開発と生産が始まっているらしい。」

 

「質問いいか?」

 

「はい、どうしたシャーリー?」

 

「結局は由也の元仲間っていうのが設計図とか出すんだよな?わざわざ作る必要はあったのか?」

 

シャーリーがそう質問する。たしかにその通り、最後は元エリア88メンバーやファリーナ一族の所持していた設計図が公開されることになる。そうであればこれらのストライカーを作る必要はない。

だが、その答えを由也は持っている。

 

「それはジェットストライカーの生産や開発、運用のノウハウを得るためだ。いきなり音速戦闘機を与えられてうまく運用できるとはさすがに思ってない。間に遷音速ジェットを挟むことで戦術などを確立させることが狙いだ。」

 

ふむと納得するシャーリー。その他のメンバーも納得した様子だ。それを確認すると次の説明に進む。

 

 

 

第2世代で速度は超音速に達する。ここでも兵装は機関砲とロケットがメインとなるが、この世代から多くの機体がレーダーやFCS機器、そしてミサイルを搭載するようになる。一部資料では「センチュリーシリーズ開発期の機体は第2世代戦闘機」とすることもある。

 

「俺のF5Dもここに入るな。」

 

「へぇ〜、結構古い機体ってことなんですね。」

 

「まぁ、事実退役済みの試験機だからな……」

 

第3世代機は第2世代機との分け方がややあやふやである。一般的には超音速飛行能力とレーダー誘導ミサイルの搭載能力を持った機体が第3世代に振り分けられる。ミサイル発射母機としての意味合いが強く、運動性が蔑ろにされた世代でもある。

 

「このT-2も戦闘機運用をするならこの第3世代に割り振られるな。」

 

「じゃあ機動性や運動性に難があるのかしら?」

 

「そうでもないぞ、このT-2は一時期はアクロ飛行隊で使われた経験がある。超音速機だから滞空時間は短いがかなり運動性はいい方だ。」

 

実際、T-2は自衛隊でアグレッサー機として運用された経験もある。決してその動きはミサイルキャリアーのそれとは違う。

 

 

 

第4世代では第3世代で失った運動性と機動性を取り返すべく様々な新技術が盛り込まれた。ファイア・アンド・フォーゲット(撃ちっぱなし能力)ミサイルの搭載能力に主翼と胴を一体化したブレンデッドウィングボディ、そしてコンピュータ制御されたデジタルフライ・バイ・ワイヤ。革新的な技術進歩により機体性能は大きく上昇した。

 

そこよりさらに対地性能の向上や戦闘能力向上を求めたものが第4.5世代となる。

 

そして現在最新鋭となるは第5世代戦闘機だ。ここには上記戦闘機の技術のほかにステルス機能というのが増えることとなる。

 

「ステルス……ですか?」

 

宮藤が疑問の声を上げる。やはり馴染みの薄い言葉だ、ピンとこないのだろう。

 

「これはサーニャの方がイメージがつきやすいかな……レーダーに非常に映りにくい機体形状をすることで狙われにくくするんだ。」

 

「なるほど……レーダーに映らず近づき、相手よりも先に攻撃するということか。」

 

「さすがだなバルクホルン、大正解だ。」

 

近代戦闘機での戦闘は昔のように格闘戦をすることが少ない。レーダーで相手を捉え、中距離ミサイルで攻撃し、それでも落とせなければ短距離ミサイルで撃ち漏らしを落とす。機関砲はお守りのようなものだ。

 

「そこまで来るとパイロットはいらないんじゃないの?」

 

ハルトマンがごもっともな感想を漏らす。

 

「そうだな……正直なところ前線でパイロットが命をはって戦う時代も来なくなるのかもしれない。事実無人機が多く開発されているからな……」

 

だが、と付け加える。

 

「これは俺の歴史に触れてきた中での持論だが、戦争は人間同士がやることに意味がある。3桁4桁の人間が戦争で誰かのために死んでいった、その事実がある限り人は平和を願う。あの戦争も俺たち傭兵や正規軍の連中が命がけで戦ったから人々は平和を願ったんだ。機械油しか流れない戦争に悲惨もクソもあるか。」

 

由也が真剣な顔でそう答える。歴史に多く触れてきた身であり、自身もまた戦争の渦中にいたが故に言える論だった。

 

 

 

 

 

一通りの解説が終われば次は実践だ。T-2を使う前に必要な機器の解説をしていく。由也はまず片耳のヘッドホンに片目眼鏡の付いたようなデザインの機械を持ち上げる。

 

「これはヘッド・アップ・ディスプレイ。通称HUD(ハッド)と呼ばれる。機能は俺のヘルメットと同じで照準や自身のピッチ、ロール軸の傾きの状況、速度、かかっているG、作戦地域までの進路(ウェイポイント)、レーダーなどがここに表示される。」

 

これだけの小ささにそれだけの機能がある、由也としてはハイテク極まりない物体だ。ブレイン・マシン・インターフェスにより魔法力さえあれば扱える代物、この世界の無線インカムもだが部分的な技術力は由也の前世、2000年代よりも高い水準にいるかもしれない。

 

「由也のやつと同じにはしなかったの?」

 

「頭の防護ならシールドで代用できること、ヘルメット形状だと重量がかさみ長時間の着用に難があることが主な理由だそうだ。」

 

まぁ、ヘルメット形状では中が蒸れることも理由の一つらしいが。ウィッチといえど年頃の少女だ、そういうところも気になるだろうという配慮もあった。

 

 

 

次に男性用の短いズボンのようなものを持ち上げる。ホースのようなものも一緒に付いている。

 

「これは耐Gスーツというものだ。基本ウィッチは魔法力で身体能力を強化しているが、ジェット戦闘機のマニューバでかかるGはもっとキツい。そこでこれを脚の()()につけて血流を抑えて失神を防ぐ。」

 

これは由也もF5Dを使う際には必ず使用する。それでもプラスGやマイナスGの掛け方によってはブラックアウトやレッドアウトを起こすことがある。必ずしも防げるというわけではないのだ。

 

由也らは前世界から使っている飛行服のためハーネスが付いているが、ウィッチである彼女たちのは通常の制服などに以上2点の装備をつければ飛行が可能である。

 

「以上で装備品の説明は以上だ。昼食後には実際に飛んでもらうことになる。誰から飛ぶか今のうちに決めておけよ。」

 

そういうと由也は格納庫から出る。一部は由也と一緒に食堂に向かったがその他は誰が最初に飛ぶかで言い合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食後、とうとうT-2を使い飛行訓練を行うこととなる。順番決めで見事勝利したのは____

 

「……シャーリーか……不安だなぁ……」

 

「ちょっ、なんだよそれ!」

 

シャーリーである。由也とてシャーリーの音速に対する執念はよく理解している。御せるかどうか、不安になってきた。

 

何はともあれ今は訓練に集中せざるを得ない。器具を渡してつけたのを確認するとシャーリー、そして由也の順にT-2を履く。その間も解説は忘れない。

 

「魔法力消費は多くなるが、その分巡航速度が800km/h前後にまで上昇している。戦闘可能時間はやや短くなるが、最大飛行距離は長くなるはずだ。アフターバーナーを使えば最高速度まで出せるが魔法力消費が激しいため今回は使用禁止だ。」

 

「最高速度はどれくらいだ?」

 

「記録上はマッハ1.6が出る。」

 

へぇ……とニヤリと笑うシャーリー。嫌な予感がしてくる。

何はともあれ飛行だ。

 

管制塔(コントロール)、こちら訓練機。コールサイン"ランサー"。離陸許可を求む。」

 

「管制塔よりランサーへ、クリアードフォーテイクオフ。離陸を許可する。」

 

了解(ラジャー)。よし、少しづつ回転を上げていけ。急激なスロットル操作はエンジンのフレームアウトを起こす。」

 

「オーケー。」

 

ゆっくりとエンジンの音が高く響き始める。ガコンとストライカーを固定していたロックが外れると加速していき格納庫をでて滑走路を疾走、慣れたように離陸する。

 

「……滑走距離が長いな。」

 

「機体重量が重いから仕方がない。今は高度を6000mまで上昇させるんだ。」

 

そのまま2人は上昇していく。レシプロでは考えられない上昇率で上がっていき、6分もしないうちに指定高度まで来る。

 

「では指定のウェイポイントを通過していく。ただし超音速飛行は禁止だ、いいな?」

 

「はいはい……ちぇっ、折角乗れてるんだから少しくらいいいじゃないか。」

 

「慣れない飛行して落ちたら誰の責任だと思ってるんだ?」

 

ジトりとシャーリーを後ろから睨む。当のシャーリーはハハハ……と笑ってごまかす。

この問題児も普段は部隊の常識人なのだが、こういうスピードの話になると目つきが変わる。本当にジェットを与えていいのだろうかと心配になってくる。本日何度目かというため息が空に消えた。

 

 

 

 

 

シャーリーの腕前はさすがというもの、離陸から飛行、着陸まで非常に綺麗にこなした。

 

それから全員分の飛行訓練、そして射撃訓練を行った。手際が意外と良かったのは宮藤だ。元が新人な分、レシプロもジェットも慣れきっていないのが救いだろう。

逆に一番難航したのはハルトマンだった。どうもジェットへの信頼の無さと慣れてないことで何度か空中で無理なマニューバをしてアラートを鳴らしていた。

 

「だが矯正不可じゃないな……」

 

すでにミッキーの実家の工場とファリーナ家の持つコネから他のメンバーの専用機体が完成し近く送られる予定だという。急な話であったが故に駆け足で訓練させることになったが、全員がエース級の腕前で良かったと改めて思う。

ハルトマンはつきっきりでしばらく見てやり、他は専用機が着き次第自主訓練でなんとかいけそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして約1週間がのち、とうとう彼女たちの機体が送られてきた。

ミーナとハルトマンにはF-4(ファントム)、バルクホルンにはF-104(スターファイター)。シャーリーにはF-15(イーグル)が送られてルッキーニは試製タイフーンが。サーニャにはMiG-31(フォックスハウンド)とエイラのF/A-18(ホーネット)、ペリーヌのミラージュ2000にリーネのハリアー。そして坂本にはF-2(ヴァイパーゼロ)が送られることになった。

宮藤のみ開発が遅れT-2を急遽専用機として利用することとなる。

由也も新たな機体の話が上がっており、T-2を基にした試験機が送られるという話が上がっている。

 

ほかにもAIM-7(スパロー)をはじめとする中〜長距離ミサイルが入ってきたため武装のレパートリーもかなり増えた。

 

さて、専用機が届いたということでもう空には____

 

「ヒャッホーウ!」

 

「シャーリーさん、待ってー!」

 

____シャーリーがF-15で飛び上がり超音速飛行を楽しんでいる。まぁしばらくは慣熟飛行ということで許すが、いつか制限しないとパーツの消耗が激しくなりそうだ。

 

さてと、と由也はハルトマンのところに向かう。バルクホルンとともに彼女の特訓だ。

 

このあとハルトマンは慣れるまで何時間も飛行する羽目になるのだがそれはまた別の話。




どうも、今回も読んでいただきありがとうございます。

アンギラスです。

完全オリジナル、全員のジェット機への転換となりました。なのでストライカーが以下のようになります。(階級順)

ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ [F-4E]
坂本 美緒 [F-2]
ゲルトルート・バルクホルン [F-104G]
シャーロット・E・イェーガー [F-15]
エーリカ・ハルトマン [F-4E]
サーニャ・V・リトヴャク [MiG-31]
ペリーヌ・クロステルマン [ミラージュ2000]
エイラ・イルマタル・ユーティライネン [F/A-18C]
フランチェスカ・ルッキーニ [タイフーン]
リネット・ピジョップ [ハリアー]
宮藤 芳佳 [T-2]

「なんでや!この子はこの機体やろ!」っていうのもあるとは思いますが、これで行くことになります。一部は後々機体が変わるかもしれないけど。

フーバー・キッペンベルグ……さらっと登場させてるので人物紹介も更新します。

さて、次回は未定というのはいつもの事。しばしお待ちいただければと思います。
ではまたの機会にお会いしましょう。


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第14話:因縁のパ・ド・カレー

グエン、それにミッキー。こんなところで何を話してんだ?

……そっか、2人はあの戦争の経験者だったな。それでここで……

プロジェクト4にも同じ戦争の経験者が、か。なんとも言えない状況になってきたな。かつての仲間同士で殺し合うなんて。前にもそんなことがあったな。あの時はミッキーの元部下だったっけ。

因縁、か……難しい話だな。わかった、次そいつが出てきたらミッキーに代わるよ。相手は頼んだ。


世界にジェット戦闘機が配備され始めたこの頃、意外にもネウロイの進行は散漫となっていた。時折異なる方向から来るはぐれ種もワイト島分遣隊により迎撃され、大きな攻勢も無く501基地は平和な日を送っていた。

一応は明日が予測でのネウロイ襲撃の日程となっているが、陽気な天気もあってかどこかのんびりしている。

 

由也も例外ではなく、コーラを片手に外の原っぱで日向ぼっこしつつ読書をしていた。旧エリア88基地と違い日が強すぎず弱すぎず、程よい暖かさで心地いい。

 

そんな501基地に一隻の船が寄港するのが見えた。由也もそれに見覚えがある、特徴的な左に寄った島型艦橋と飛行甲板。扶桑海軍の空母「赤城」だ。

以前の戦いで少なからず被害を受けた艦だったが、修復され復帰したようだ。

 

そんな気持ちのいいところをバルクホルンに邪魔されることとなる。

 

「こんなところにいたのか由也。ミーナが呼んでいたぞ。」

 

「あら……いいところだったんだがな。」

 

「歴史書にいいところも何もあるか。さっさと行ってこい。」

 

「はいはい……」

 

しおりを挟み空き瓶となったコーラと本をまとめてミーナのもとへと向かった。

 

 

 

 

 

応接室に向かうと宮藤にミーナ、さらには扶桑海軍の士官服を着た初老の男性もいる。そしてその隣には見慣れた顔が2人立っていた。

 

「サキ……それにラウンデル少佐!」

 

「前にあった振りだな、由也。」

 

「久しぶりだ、由也。元気そうで何よりだよ。」

 

「はは……ラウンデル少佐だって……」

 

かつての上官、ラウンデルとの再会を喜ぶ由也。

そこでミーナがこほん、と咳払いする。

 

「再会して嬉しいのはわかるけど、まだ人がいるのよ?」

 

「あぁ……すまない。」

 

「いえ、良いのです。ミーナ中佐。」

 

初老の男性はそう言うと帽子をとると自己紹介をする。

 

「はじめまして、空母赤城艦長の杉田と申します。乗員を代表して御礼を言いにきました。」

 

「なるほど、赤城の……」

 

由也がこの世界に来た時の話だ。赤城がネウロイに襲撃されているところに転移してきたものだからその時は大いに焦った。今となっては懐かしい思い出だ。

 

「皆さんのおかげで遣欧艦隊も大事な艦も失わずに済みましたし、何より多くの人命が助かりました。本当に感謝しています。」

 

「いえ、私は何も……それにあの時は坂本さんや由也さん、それに他のみんなが……」

 

「俺とてあの時はがむしゃらに飛んでただけだよ。宮藤がいなかったら俺もここにいなかったんじゃないか? ともかく俺も助けられたし、何より杉田艦長がこう言ってるんだから誇っていい事だぞ。」

 

「そうかな……」

 

はにかみながらそう答える。さらには2人に贈り物も渡された。宮藤はそれを受け取り喜ぶ。

杉田艦長はそんな宮藤を自分の子か孫を見るように微笑んでいたが、すぐに真剣な顔になる。

 

「反抗作戦の前哨として我々の出撃が決まりました。」

 

「……ついに、ですか。」

 

「今回はその途中で寄らせていただいたのです。明日には出航なので是非艦にも来てください。皆が喜びます。」

 

「それはそれは……もしよければお邪魔させていただきます。」

 

「はいっ!」

 

由也としてはあの赤城に乗れるのは個人的な趣味の意味合いでも興味本位という意味でも好ましい。一度は乗ってみたいと思うは男児の夢だ。今は女だが。

宮藤にとっても世話になった艦、乗り気のようだ。

 

だがそれに待ったをかけられることとなる。

 

「____残念ですが、明日は出撃予定がありますので。」

 

ミーナが横から割って入り杉田艦長を止める。

その様子に由也はミーナの発言に少し疑問を抱いた。正規軍は外人部隊じゃない、他部隊との友好関係は必要なもののはずだ。であればこういう機会はもっと活用すべきだろう。

だがこれは何も今回だけじゃない。整備兵らとウィッチの交流も禁止事項の一つだった。ミーナが制定したものだというが由也にとって不可解なものだった。

 

「そうですか……それは残念です。」

 

杉田艦長はすっと引き下がる。ついでサキが口を開いた。

 

「今回の反抗作戦には私達も新たに部隊を編成し参加する予定だ。そこで由也に頼みがある。私達と共にきて欲しい。」

 

「……サキがそう言うなんて珍しいじゃないか。」

 

「私とて人の意思を尊重するさ。あとは君がどうしたいかだ。」

 

悩む由也。今回の新たな部隊というのは新生エリア88のことで間違いない。かつての仲間たちと共にまた飛ぶのは非常に嬉しい。さらにいえばエリア88が再び立ち上がったということはプロジェクト4の本格稼働が行われたと考えて良いだろう。奴らと戦う必要もある。だが____

 

「……まだ、ここでやりたい事がありますから。それが終わったら合流します。」

 

「そうか……」

 

ふっと笑うサキ。ラウンデルもどこか満足そうに頷いている。

 

「ならそれでいい。強制はしない、満足したら来ればいい。」

 

「サキ……」

 

変わった、というよりかはこれが本来のサキの性格なのだろう。元の世界では余裕が無く、非情に徹していた節があったが今は違う。ある程度の余裕があり優しさを感じる。

 

その後、しばらく他愛もない会話を楽しみその日は別れることとなった。

 

 

 

 

 

「ミーナ、失礼するぞ。」

 

「ええ……どうぞ。」

 

ノックをして由也が執務室に入る。ミーナの手には1通の手紙がある。

 

「その手紙はどうしたんだ、上層部からの通達か?」

 

「いえ、宮藤さん宛のものよ。赤城の乗員のだわ。」

 

「なんでそんなものをミーナが持っているんだ?」

 

「言ったはずよ、ウィッチと兵士の交流は禁止。例外は許されないわ。」

 

規律に厳しいカールスラント軍人らしい発言をするミーナ。だがいつものミーナらしくなく、妙に厳しい。

 

「……なにか尺に触ったか?」

 

「どうしたのかしら、急に?」

 

「いつものミーナらしくない。」

 

まっすぐに言ってみせる。ミーナはふと目を伏せ、何もないと言う。だがその顔は深い悲しみの中にあった。

 

あぁ、この顔は知っている。

 

「大事な人を亡くしたか。」

 

「____!」

 

ミーナの表情が大きく変わる。やはりかと思うと同時に胸の中に一瞬モヤのようなものがかかる感じがした。

 

「失う物がないことは強さじゃない。そこを履き違うべきじゃない。」

 

「わかってる……わかってるわ!けど、大事なものを失うことは戦うことより痛いの!」

 

ミーナの悲痛な叫びが執務室に響く。由也はミーナの泣きそうな目を見て思わずたじろぐ。

 

「ミーナ……」

 

「あなたは……あなたは傭兵だから分からないかもしれないけれど……私はあの子たちに同じ思いをさせたくない。だから!」

 

「……その優しが通じる世界じゃないんだ……失いたくないものを守りたくても守りきれない、だがそれでもと手を伸ばし続けるんだろう。あの戦いの時みたいに……」

 

苦々しい顔をしながらそう答える。冷静になったミーナがはっとなる。

 

由也とてミーナの気持ちはわかる。エリア88の若手パイロット達を育て、そして亡くしてきた。それだけではなく、多くの生死を共にした仲間たちも。

 

だからこそ由也は親交を重要視するのだ。ミーナとは真反対をいく意見を持つ彼女が衝突することになるのは当たり前だろう。

 

睨む合う状況となるが、由也がすぐに折れた。ミーナの悲しむ顔は見たくない。

 

「すまない、邪魔した……」

 

そういうとミーナが止めるのも聞かずそのまま外へと出て行った。

 

 

 

 

胸のモヤを抱えたまま自室に向かう。部屋に贈り物をおいているのだ。まだ開封していないので確認しておきたい。

 

重い足取りで部屋に向かっていると後ろから突然胸を揉まれる。

こういうのをするのは大体誰か決まっている。振り向かずに頭があるであろう場所に手刀をかます。だが思ったよりも高い位置で手応えがあった。

 

思わず振り向くと、予想に反してハルトマンがうずくまっていた。

 

「……お前何してんだ。」

 

「い、いやぁ元気が無さそうだったから……イタタ……」

 

本気でいたそうに頭をさするハルトマン。少し申し訳ない気持ちになるが、次に出る台詞でそんな気持ちも吹き飛ぶことになる。

 

「どうしたの、ミーナと喧嘩でもした?」

 

「んなっ……そ、そっそんなことは……」

 

「……ふふっ、由也って嘘が下手だよね。」

 

ぐいとハルトマンが由也に寄る。

 

「ね、ミーナに何かあったら隣にいてあげて。私たちだといろいろ遠慮されちゃうことも多いけど由也ならできると思うから。その中でぶつかり合うのもあると思うけど、さ。」

 

そういうと反対側に走っていく。いったい彼女はどこまでわかっているのだろうか……そう思いながら自室へと戻る。先のハルトマンの言葉を反芻しながらも____

 

 

 

 

 

由也に贈られた木箱の中は扶桑人形だった。モチーフは扶桑海事変の英雄、扶桑陸軍当時少尉の穴拭智子。通称"扶桑海の巴御前"。

脚色はされているのだろうが、この世界の英雄であることに変わりはない。

 

世界は違えど、遠い故郷の英雄の顔を覗き呟く。

 

「なぁ……お前はなんで戦ったんだ……お前にも大事なものがあるのか?」

 

少女を模した人形は憎たらしいほど清々しい顔で、ただまっすぐに前を見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌の日。珍しく予測通りにネウロイが現れた。

 

ガリアより出現したネウロイは高度15000ftよりまっすぐロンドン方面へ向け進行中。501基地はロンドン最終防衛の要、ガリアからロンドンに向け最短で進めばかならず進路にこの基地が存在する。

つまり出撃し直進すればすぐに迎撃ができる。

 

「ルーチン通りの出撃で十分迎撃可能だな。」

 

「今回はジェットストライカーでの初実戦となるわ。くれぐれも気をつけて。」

 

ミーナがそう釘を刺す。これまでに慣熟や射撃訓練は行なっていたが、実際にネウロイと戦闘になるのはこれが初だ。用心するに越したことはない。

 

前衛にハルトマンとバルクホルン、中衛には坂本と宮藤がつく。後衛はペリーヌとリーネが務め、由也はミーナと共に遊撃任務につく。

 

全員が格納庫に向かうと慣れた手つきで装備をつけていく。耐Gスーツのホースを各々のストライカーに接続し、HUDの表示を確認する。前衛から順に固定具を外しタキシングすると滑走路を駆けて空へと躍り出る。

 

由也はやや感慨深いものを感じる。初めて来た時はジェットストライカーというもになれなかった彼女達が気づけばもうジェットを履くようになっている。

 

(だがアレとの決着をつけるのは俺たちだ。)

 

先に上がっていく彼女たちの背を見送りつつそう改めて決心を固める。

 

「管制塔よりミーナ、由也。滑走路が空いた。タキシングのちテイクオフせよ。」

 

「こちらミーナ、了解したわ。」

 

「由也、了解。」

 

ミーナのF-4と由也のF5Dが同時にエンジンを昂らせる。タービンの回転する音が次第に高くなり、2人をグングン前へと押し出す。やがて足が地を離れ先に出た6人の元へと飛んでいく。

 

 

 

ガリアに向かってまっすぐ飛べばすぐに敵は見えてきた。見た目はほぼただの箱のようなネウロイだ。ほかにも小型がいるのかと思ったが、そのようなこともないみたいだ。

 

セオリー通りに前衛のハルトマンとバルクホルンが攻撃すべく降下する。その時、敵に異変が起きた。全体に碁盤の目のような亀裂が入ったと思うと分裂し襲いかかって来た。

 

分裂したネウロイをミーナが固有魔法の空間把握で索敵する。

 

「右下方80、中央100、左30。」

 

「総勢210機分か、勲章の大盤振る舞いになるな!どうする!」

 

「あなたはコアを探して。バルクホルン隊は中央、ペリーヌ隊は右、由也は左を迎撃!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

全員が各々の目標に向かって突撃する。由也もまた左の軍勢に向かうべくストライカーを唸らせる。

 

分裂した小型ネウロイは3機ほどで密集編隊を組んでいる。落とすのは容易だ。由也はそのうちの集団の端に位置する敵に向かって銃を向ける。

主翼下のAIM-9が3つの敵に飛んでいき、正確に撃ち落とす。

 

そのまま速度を維持して次の編隊に目をつける。残りのAIM-9を全て撃ち尽くして身軽になる。次だ。

 

あっという間に6機の敵を撃ち落とす。由也をはじめとするエリア88のエース達は混戦になったほうが生き生きすることが多い。まして近代ジェット戦闘機戦においてガンファイトを行うことは稀であるにもかかわらず、機銃のみでの戦闘で大きな戦果をあげることができた。

その実力は機体がストライカーに、握る操縦桿がライフルとなっても健在だ。さらに一つの編隊を潰し合計9機ものネウロイを撃墜した。

 

他のメンバーの働きもまた目まぐるしいものだ。バルクホルンとハルトマンはお互いのストライカーユニットの高い速度性能で100ものネウロイの集団の間を潜り抜け、すでに20以上のネウロイを撃破している。

ペリーヌもミラージュ戦闘機の運動性能を活かし、さらには固有魔法の「トネール(電撃)」を使いネウロイを一網打尽にしていく。リーネはハリアーのホバリングでの安定性を利用し得意の狙撃でペリーヌの背中を守る。

 

しかしそれでも200を超えるネウロイの群れの中からたった1つのコアを見つけるのは時間がかかる。そうこうしているうちに由也は15ものネウロイを撃ち落とし、左に展開していた敵の数は半数にまで減少していた。

 

「はっ、一機400ドルでもしてくれりゃかなり稼げてるんだがな!」

 

疲労の色を顔に見せながらも軽口を叩いてみせる由也。額の汗を拭うと手早くM1919の弾倉を交換する。予備は一つしか持ってきていない、これが最後だ。

 

後ろから迫る編隊からの攻撃を回避しつつも急激な縦ロールで限りなくその場での回頭に近い動きを行い、相手とヘッドオンの状況に持ち込み全て撃ち落とす。

次の編隊に目をつける。旋回している敵編隊の後ろに素早く取り付くと射撃を加える。1機、また1機と落とす。最後の1機は逃れようとウェーブ機動をするが、その程度で引き剥がされる由也ではない。ぴったり貼りつき必中位置まで接近し撃ち落とす。

ふと周りを見渡せば30はいたネウロイが片手で数えられるほどにまで減少している。戦線もガリアにだいぶ近づきつつある。ここは放置して苦戦している他の仲間のもとに行くべきだろうか。

 

その時、通信が由也の耳に入る。

 

「全隊員に通達! 敵コアを発見!他を近寄らせないで!」

 

とうとう坂本がコアを見つけた。なら最後までこの連中の相手をするべきだ。

 

無理に落とす必要は無いのだが、由也の中の戦士としての感情がうずうずと戦いに駆り立てる。ここまできたら全部落としてやろう。

 

残る3つの編隊のうちこちらに背を向けるように飛んでいるものの上方を位置取り、ダイブで速度をつけつつ後ろ上方から攻撃を仕掛ける。

先頭の1機が銃弾に引き裂かれ消滅する。残りは左右に分かれて逃れたため、由也はやや体の傾いていた左の方向にターンし敵を追跡する。少しづつ、確実に、近づき狙いを定める。ガンレイティクルの距離を示すゲージが短くなっていく。必中の距離だ。

 

短くトリガーを引くとM1919の7.62mm弾が数発、ネウロイに吸い込まれていく。ネウロイの表面を抉り、中心まで弾が達すると白い破片となる。

 

「さぁ……次は!?……ってあれ?」

 

他の敵を狙おうと周りを見渡す。その時、周りにいたはずのネウロイが次々と砕け散っていく。どうやらコア持ちのネウロイが撃墜されたようだ。

 

ちなみに今回の由也のスコアは23機、合計でのネウロイ撃墜数は共同撃破を含め25機となった。

最後のコア持ちのネウロイは宮藤のスコア、初の単独での敵機撃墜だ。

 

空を舞うネウロイの破片が雪のようにウィッチ達の周りに散っていく。

 

「綺麗……」

 

「ああ、こうなってしまえばな。」

 

歴戦のウィッチ達といえど根は年頃の少女だ。

 

だが由也には別の意を読みとっていた。未来の自分の暗示、紙切れよりも早く灰になる命……あの時と同じように戦い死んでいくのだろうか。ならばこの娘たちは巻き込みたく無い。事情を全て知っている以上、共に戦おうとするかもしれない。だがここまで来たら男の意地にかけてでも絶対にやらせない。

 

 

 

ミーナが突然、何かに気づき廃港に降りていく。

 

「あ、ミーナ?」

 

「待て、いかせてやれ由也。」

 

ミーナを呼び止めようとすると坂本にとめられる。バルクホルンがそれで気がついた。

 

「そうか……ここはパ・ド・カレーか……」

 

 

 

一台の車が港に置き去りにされている。原型は保っているが、長く潮風に晒されて全体が錆び付いている。

 

一見すればどこにでもある小型車だがミーナにとっては忘れることのできないものだ。もう何年も前のこと、ガリアからの撤退作戦において愛する男性と共にこのパ・ド・カレーで戦っていた。

作戦は一般的には成功とされている。だがその被害はあまりにも大きく、カレー港で殿をつとめた部隊のうちそのほぼ全てが壊滅、ミーナの思い人もそこで消息を絶った。

 

この錆びついた車がその彼の車が使っていた車なのだ。扉を開けると中には荷物が入っていた。包みをそっと開けると中には手紙と衣装が入っていた。かつて夢を捨てるため、その覚悟のために焼いた真紅のドレス。

 

『ごめん、ミーナ。』

 

そうどこからか彼の声が聞こえた気がした。ぽつり、ぽつりと涙が溢れ頬を伝う。しばらく雨は止みそうになかった。

 

 

 

外では由也があたりを警戒しつつミーナを待っていた。ミーナは後ろから彼女に声をかける。

 

「ごめんなさい、待たせてしまって……」

 

「いや……もういいのか?」

 

「ええ、大丈夫よ。」

 

そう言って車から離れようとする。由也がちらと車の方を見る。

 

「……連れて行かないのか?」

 

「え?」

 

「大事なんだろう。その人も、その夢も。」

 

「____!」

 

「今度こそ一緒に帰るんだ。そしたら彼のために歌でも歌ってやれ、一番好きだった歌をな。」

 

ミーナはうなずくき、包みを抱えて歩き出した。今度は絶対に離さないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地では空母赤城が出航するところだった(ブリタニアで改装を受けたのか装甲甲板になって艦首にはカタパルトが装備されていた)。さすがにそこに降りるわけにはいかなかったが、近くを飛行することをミーナは許可した。

 

そしてミーナは出航する彼らの、そして大事な彼のために歌を捧げた。曲名は「リリーマルレーン」。由也も知るカールスラント(ドイツ)の歌謡曲だ。サーニャのピアノ演奏と合わせた彼女の歌声はかつての夢を追いかけていた時と変わらぬ美しさと儚さがあった。

約1名、サーニャのピアノも褒めろと言っていたがこれは置いておこう。

 

 

 

あとで由也が聞いた話だが、ガリアからの撤退作戦の際に作戦指揮と殿を務めたのはサキで、同作戦にラウンデルやチャーリー、フーバーも参加していたという。

特にサキは航空ウィッチほどの魔法力を持つウィザードであるのをいいことにストライカーを履いて自ら前線に立ち、最後の最後まで戦い続けたという。部下に引きずられるようにブリタニアに撤退する船に乗せられたが、最終的な残存部隊の最期は由也の知る通りだ。

 

さらにはペリーヌの元領地であった場所もまた、パ・ド・カレーだという。

 

あの地には様々な人間の思いが錯綜している、文字通りの因縁の地であるという事だろう。

 

ふぅと溜息を吐きつつ由也は窓の外を見つめる。

 

今回の騒動は解決したと言える。ただ由也が一つ抱えた不可解な感情、ミーナが大事な人の事を思う時にできた心のモヤ、その正体が由也にはわからなかった。シャーリーに(特に相手のことを)ボカしながら相談し理解(わか)ったそれは「嫉妬」だった。

 

だれかを好きになることはこういうことなのか?初恋がこれである由也にはイマイチよくわからなかった。

 

頭を振って思考を散らすとフラりとどこかあてもなく歩き始める。特に目的もないがミーナのところにでも行こうか。

 

そんなことを考えながら廊下をフラフラ歩く由也だった。




今回も読んでいただきありがとうございます。

アンギラスです。

恋愛って……難しいね。ええ、ミーナに関する回なので由也の感情暴走中です。

次回から第一期もクライマックスに入っていきます。まぁそこで終わるはずもないのですが云々

小ネタというかなんとやら
リリー・マルレーンは第二次世界大戦時にドイツで人気を博した歌謡曲です。感覚的にはカチューシャに近いですね。日本でも様々な歌手が歌っていますが、このストライクウィッチーズ版もその一つ(なんせ言うならウィキペディアにも載ってる)。

売れ残りレコードを前線に送る慰問品に紛れ込ませたのがことの始まりで前線のドイツ兵のみならずイギリス兵まで聴き入ったという話です。我々の世界では敵国では聴くことを禁じられたこの歌もストライクウィッチーズの世界では各国で広く知られていることでしょう。

さて次回はいつになることかやら。いい加減たまごひこーきを作るの一区切りさせんといかんかな……

ではまたの機会にお会いしましょう。


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第15話:戦うべき敵

501統合戦闘航空団に関する報告書

以下においては501統合戦闘航空団を501JFWと呼称する。

戦力については世界のストライカー技術の急激な進歩により大きな上昇が見られる。これは全ての統合戦闘航空団に言える。
特にシャーロット・E・イェーガーのF-15やフランチェスカ・ルッキーニのタイフーン、坂本美緒のF-2は当方の運用ジェットストライカーに同等もしくは以上の機体性能を持つ。
ただし人間同士の戦闘となればこちらが有利であるだろう。

上記内容と合わせ、今後計画の障害となり得る者も数多い。現在ブリタニアのマロニー大将と協力体制を敷き501JFW解体を行なっている。メンバーにおいて警戒すべき人間は以下の通り。
・ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ
・坂本美緒
・エーリカ・ハルトマン

イレギュラー、植村由也の存在は脅威となる可能性大。戦闘技術をはじめとする全能力の平均値は非常に高く放置するのは危険。
原作の進行がやや遅れているが、近く人型ネウロイとの接触があると推測されるため、これを植村由也暗殺に利用する計画を実施予定。

全てはプロジェクト4遂行と我々転生者のために。

プロジェクト4 第11戦術航空隊

インフィニティ中隊 指揮官

日々野(ヒビノ) 寿夜(スズヤ)



ミーナが坂本に銃を突きつける。銃口が向いているというのに坂本は冷静だった。

 

「何だ?随分と物騒だな。」

 

「約束して。もうストライカーは履かないって。」

 

ミーナは依然え銃を向けたままだ。

 

実のところ先の戦闘の時のことだ。宮藤が撃墜したネウロイの破片を防ごうとしたとき、坂本のシールドを貫通していた。彼女の魔法力はかなり衰えてきているのだ。

 

「私は本気よ。今度戦いに出たらきっと貴方は帰ってこない。」

 

「だったらいっそ自分の手で、という訳か? 矛盾だらけだな、お前らしくもない。」

 

「っ! 違う!違うわ!」

 

ミーナの手が小さく揺れる。

坂本は頑とした表情でミーナに覚悟を示す。

 

「私はまだ飛ばねばならないんだ。」

 

そういうと踵を返し扉に向かう。その背に銃を向け続けるが、最後まで撃つことはできなかった。

 

 

 

部屋から出た坂本。ふぅ、と息を吐き扉の側にいる人物に声をかける。

 

「どこまで聞いた、由也?」

 

「……銃向けたあたりからかな。」

 

由也が扉の側で壁にもたれかかっていた。手には愛銃のブラックホークが握られている。

愛銃をホルスターにしまい、壁から離れる。

 

「何かあったら扉を蹴破るつもりだったが、杞憂だったみたいだな。」

 

「そんな大事にするつもりは無いさ。」

 

「そうか……」

 

胸元からタバコを取り出しながら外に向かう由也。ふと立ち止まって振り返らぬまま坂本に一つ付け足す。

 

「坂本、覚悟を決めるのは良い。だが自分から死にに行こうとは思うなよ。恩人に恩を返せないままっていうのは嫌だからな。」

 

「……ああ、私だって死ぬつもりは無いさ。」

 

宮藤の成長を見届けるまでは。口には出さなかったが坂本の決心は固かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日、平和な日が続いていた。バルクホルンは意識が戻ったという妹のところに向かい、ハルトマンが同行している。

宮藤とペリーヌ、シャーリーとルッキーニのペアは模擬戦で空に上がっている。審判はリーネが務める。日頃の訓練は大事なもの、ましてジェットに乗り換えたばかりの現状では特にだ。

 

さて由也はというとF5Dの整備をしていた。結局のところ整備兵たちは新ストライカーの整備に慣れるという方に手一杯なため、現状彼女のストライカーをもっともうまく弄れるのが自身くらいとなっているのだ。あとは強いて言えばシャーリーだろうか。

そんなものだから点検整備なども全て由也がこなしていた。

 

作業休めに背中を伸ばしていると訓練を終えた5人が格納庫に入ってきた。シャーリーとルッキーニの服はペイント弾で派手に装飾されている。

 

「派手にやられたなシャーリー、ルッキーニ。誰にやられた?」

 

「うじゅ〜、芳佳にやられた〜」

 

「腕を上げたよほんと。左捻り込みをやってくるなんて。」

 

「レシプロでもないT-2でか? たしかに坂本はやってたが……」

 

左捻り込みは坂本が得意とする戦闘機動だ。零戦を使用していた際に使っていたものでレシプロ特有の回転トルク、そして零戦の高い低速域の安定性と機動性を利用した超低速下戦闘機動だ。F-2に乗り換えても安定性と機動性に長けた性能を利用しほぼ同じ動きを行うことができた。

 

しかし宮藤もなかなか型破りなことをしたらしい。ストライカーの磨耗が心配だ。

 

……いや、こんなことを考えるあたりまだ傭兵気質が抜けてないんだな。純粋に腕前が上がってきているのを喜ぶべきだ。そう思うと宮藤の頭を撫でに行こうと少しばかり作業から離れた。

 

 

 

 

 

やがて整備も終わり試験飛行のためにストライカーを履き、実弾携行で飛行準備をする。周辺の巡回も兼ねてのことで、以前に基地のレーダーに引っかからないネウロイが現れたためにミーナが考えていたことの一つでもあった。

 

主翼のステーションには増槽タンクと本体にはAIM-9を2本装備させ長時間飛行を重点に置いた装備で飛行することになる。

 

魔導エンジンをスタートさせ、回転を少しづつ上げていく。

 

「由也より管制塔(コントロール)、離陸許可を求む。」

 

「こちら管制塔、滑走路は空いている。離陸せよ。」

 

それを聞き由也はストライカーのエンジン出力を上げ、固定を外す。徐々に速度を上げ、滑走路半ばに到達する頃には完全に足は地から離れる。

艦載機としての設計とジェットの後押しあって重装備にも関わらず順調に高度を上げていく。

F5Dの特徴の上昇性能と速度性能は少しもくすんでいない。パーツが潤沢にあり、整備を定期的にしているおかげだ。

 

飛んでいる時は気持ちがいい、蒼とその上の黒く広がる空を見ていると救われる気分になる。

 

由也にとってこの空はなによりもかけがえのない大事なものだった。何事よりも空を飛ぶことが楽しみだった、そのおかげであの激しい戦争の最中でも正気を保てた。空を飛ぶことを奪われるのは何よりも苦痛だ。

 

願うことなら平和な空を飛びたいが叶いそうには無さそうだ。だが魔法力とこのF5D、そしてまもなく届く新たな愛機がいる限り由也は空を飛び続けるだろう。

 

 

 

本来の目的を忘れてはいけない。整備の終わったストライカーの全力運転と哨戒任務、まずはF5Dをフルドライブさせる。

 

体を地面に対し直角ほどにするとバーナーを炊いて一気に上昇していく。

8,000m、9,000m、10,000m……まだ上がる。17,000mまで上がったところで限界に達する。しかし戦闘機としては十分、平均的な数値だ。

 

今度は一気に急降下をする。速度計と高度計が狂ったように回転する。速度が2,000km/hを超え、やがて音の2倍の速さを超える。計器が赤く点滅しアラートが鳴る。

エアブレーキを展開しつつゆっくりと体を水平に戻していく。これだけの無茶をしてもどこにも異常が見られない。我ながら完璧だ。

 

あとはゆっくりと哨戒飛行をしつつ基地に戻ればいい。それまで何もないことを祈るばかりだ。

 

 

 

 

 

だがそううまくいかないのが現実だ。ミーナからの通信が由也に届く。

 

「由也、聞こえる? ネウロイが出現したわ。ただ問題が発生して……飛行訓練をしていたペリーヌさんから宮藤さんが先行したと話があったの。」

 

「なるほど、了解した。こちらも急行する。」

 

ミーナから敵の位置を聞きつつ速度を上げる。幸い位置は近い、すぐにレーダーにひっかかるはずだ。

 

 

 

数分もしないうちにレーダーが相手を捉えた。光点は2つ、片方が宮藤でもう一つはネウロイだろう。だが両方とも異常に接近している。心配になった由也は宮藤に通信を入れる。

 

「宮藤? 宮藤!聞こえるか! 何が起きてる!?」

 

「あっ、由也さん!? それが……ネウロイがなぜか攻撃してこなくて、ウィッチみたいになって。なんか遊んでるような遊ばれてるような……」

 

「何だそりゃ……? ともかくすぐに向かうから少し待て。」

 

宮藤の状況が理解できない。兎にも角にも何が起きているのか目で確認する必要がありそうだ。ドロップタンクを落として一気に接近する。

 

宮藤の姿がすぐに見えてきた。そしてもう1つ、いやもう1人の姿。それを見て由也は絶句せざるを得なかった。

 

「……ウィッチだな、たしかに……」

 

かろうじてそう呟く。ネウロイの姿はたしかにウィッチのそれと全く同じだった。少女の姿をし、足にあたる部分はストライカーユニットを模した形となっている。

 

「由也さん、どうしましょう……」

 

「どうするったって……」

 

由也の中にこのウィッチ型ネウロイに対する違和感が湧き上がる。今までのネウロイは少なからず殺気のようなものを放っていた。だがこのウィッチ型はそのような気配が全くない。いったい何のつもりなのか理解できなかった。

まさかネウロイも一枚岩ではないということなのだろうか。

 

そんなことを考えていると、ウィッチ型ネウロイが胸の部分を開きコアを露出してきた。

 

「由也さん、これって……」

 

「俺達を信頼しているのか……?」

 

自分から弱点をさらけ出してきた。なにか理由があるのは確かだ。

 

この時ネウロイは敵だという軍人的感情と別、由也の研究者意識からくる興味本位が勝っていた。

 

「宮藤、こいつとコミュニケーションするにはどうしたらいいと思う?」

 

「えっ? それは……こう、根気よく話しかけてみるとか、触れてみるとか?」

 

「だよな。いっちょやってみるか。」

 

「はい! ……ってえぇ!?いいんですか!?」

 

「なんだ、宮藤もその気だったか。大丈夫、根拠はないがそんな気がする。やるぞ。」

 

そっと由也がネウロイのコアに手を伸ばし、宮藤もおそるおそるそれに続く。もう少しで触れる、その時だった。

 

「なにをしている!宮藤!由也!撃てっ!」

 

「! 坂本!?」

 

基地から急いで飛んできた坂本らが高スピードで急速に近づいてくる。

 

「坂本さん、まって!」

 

「惑わされるな!そいつは敵だぞ!」

 

坂本の言はごもっともだ。だが由也も宮藤もこのネウロイの特異性がわかっている。攻撃なんて絶対にできない。

 

先に反応したのはネウロイの方だった。坂本の殺意を受け取った彼女は由也たちのもとを離れ、坂本に向かって光線を放った。

 

もちろん坂本とてシールドを張る。しかしそれはもはや壁として機能していなかった。貫通し分散た光線が坂本を襲い、運悪くその一発が彼女の持つ九九式機関銃の弾倉部に直撃、ほぼゼロ距離で爆発する。

 

「坂本さん!!」

 

「坂本少佐!!」

 

宮藤とペリーヌがまっさきに落ちる坂本に向かう。そのうちにネウロイは離脱してしまった。

由也も坂本を助けるようと動くが、さらなる脅威が襲い掛かった。

 

由也の耳元に一番聞きたくない、聞き慣れた警告音が鳴り響く。ミサイルだ。それも11発づつ、合計22発もの中距離ミサイルが一斉に由也とハルトマンに対して撃たれたのだ。

 

「クッソ!速い!」

 

回避しようと急旋回する。ハルトマンの方は固有魔法を使い回避、もしくは迎撃する。しかし由也にそんな芸当はできなかった。チャフとフレアを出しながら急旋回をなんどもくりかえして回避していく。

 

しかしそれも長くは続かない。やがて一発が至近で炸裂する。

 

「うぐぁっ……っ!エンジンがパワーダウンして……!」

 

エンジンから煙が吹き出し、破片を噛んだか異音を出しながら回転が遅くなる。そして無慈悲な槍が由也に突き刺さる。

 

由也の姿は爆炎の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂本の容態は最悪だ。至近で炸裂した弾倉や銃の破片が胸部に深く突き刺さり、宮藤の懸命の応急処置があっても危険な状況であった。

 

基地に急いで運ばれ現在は手術中となる。予断は許されない。

 

 

 

一方撃墜されたと思われた由也は奇跡的に無傷で帰還した。1発目が当たった際のダメージで脚の挿入口が外れて奇跡的に直撃前に由也本人が脱落して助かったのだ。

それでもかすり傷一つ無いというのはあまりにも異常ではあるのだが。

 

各々暗い面持ちでいるが、同時にこの無傷で帰ってきた奇跡のウィッチに対し問いただせねばならなかった。

 

無音の世界を打ち破るようにバルクホルンが声を出す。

 

「由也、なぜネウロイに攻撃しなかった?」

 

「……なんだろうな。」

 

「ふざけてるのか!?」

 

バルクホルンが座っていた由也の胸ぐらを掴み持ち上げる。それを周りが抑える。

 

「やめなさいトルゥーデ!」

 

「止めるなミーナ!殴ってやらねば気が済まん!」

 

「ああっ、もう!待てバルクホルン!今そんなことやったってどうもこうもならないだろ!」

 

「シャーリー大尉の言う通りですわ!落ち着きなさってください!」

 

周りの制止で由也を離す。首が締まっていたかすこし咳き込む。

 

「……なにも訳もなく攻撃しなかったわけじゃない。普通のネウロイだったら容赦無く撃ち落としてるさ。だが……」

 

「だがなんだと言うんだ。」

 

数秒考え込み、口を開く。

 

「……自分でも突拍子のないことを考えた。それにあくまでも仮定の話だ、周りのお前たちがまともに聞き入れるとは思えない。」

 

じゃあなと背中越しに手を振り止める声も聞かず自室に向かってしまった。あとには重々しい空気だけが漂っていた。

 

 

 

 

 

由也は自室であのネウロイについて考えていた。

 

(あのネウロイ、なぜこちらと接触するような素振りを見せた?コアを露出することがどういうことかアイツもわかっていたはずだ。)

 

状況を紙にまとめ整理していく。一番最初に接触した宮藤は魔法力の使いすぎで倒れているため、自分が把握しているかぎりでだが。

 

宮藤が接触した時点で敵意が無く、由也が合流しても行動に変化が見られなかった。その後、坂本に銃を向けられたことで急遽攻撃し撤退した。

さらに由也と宮藤は気づけばだいぶガリアのネウロイの巣に近づいていた。なぜ本拠地である巣へと彼女達を誘ったのだろうか。

 

ネウロイが人間の兵器を模しているのに由也は気づいていた。ならば人間に近い思考を持ち始めてもおかしくはないはずだ。

 

(まさか……な)

 

ネウロイが話し合いのために来た?あまりにも突拍子この上ない。自分で言っておいて信じる方が難しい。

 

 

 

そして何より問題は最後のミサイルだ。AIM-7(スパロー)かと思ったがどうも違う。セミアクティブ式のAIM-7ではターゲットを捉え続ける必要があるため、発射した母機がどんどんと由也の方に近づくはずだ。

だがその母機は見えなかった。バルクホルンはミサイルが飛ぶ前に1()1()()()()()()()()()の姿がレーダーに映ったがすぐに反転したと言っていた。

 

つまりファイア・アンド・フォーゲット能力ミサイル、AIM-120(アムラーム)を使用したのだろう。まだ正規軍にもエリア88にも配備されてない最新鋭のミサイルだ。

 

プロジェクト4がとうとう動き出した。その先手として俺やウィッチ内で世界トップのハルトマンを狙ったのだろう。

そうなれば真っ先に前線に立つべきは自分だ。彼女達に傷一つつけてやるものか。

 

そう考える。

 

「ふぅ……いい加減に覚悟を決めるか。あまり渡す気は起きないが。」

 

そう言うと引き出しから1通の封筒を取り出す。面には遺書とデカデカと書かれている。由也がいざという時のためにエリア88再結成の報を受けた日から書き記していたものだ。

 

魔法力があるかぎり由也は飛べる。飛べるかぎり由也は戦い続ける。ならば近くこれが必要になるかもしれない。

 

ミーナにこの不吉な紙を渡すべく懐にしまって席を立った。




どうも、今回も読んでいただきありがとうございます。

アンギラスです。

クライマックスの序章ってところ。とりあえず坂本と由也が落ちました。ここからプロジェクト4の暗躍も加速……いや暗躍と言っていいのかやら。

小ネタというか小設定のお話
坂本のF-2やルッキーニのタイフーン戦闘脚はエリア88メンバーおよびファリーナ家以下各企業がプロジェクト4勢力下施設から押収した資料からストライカー化させたストライカーユニット。

ジェット戦闘機でいえば4.5世代級、エリア88勢や他メンバーのストライカーユニットとは一線を画す性能を出す……予定だったのですが、あまりにも性能差が大きく再現が中途半端に。特にCCV技術は未知のものであり未完成なものとなっている。
そのため各国ではCCV技術の再現のために様々な機体が作られることとなる。

ルッキーニのストライカーが"試製"タイフーンなのはそのため。



さて次回はいつになるかやら……まぁなる早で、とは考えてはいます。それにやや短くなる予定ですから。
さぁまたの機会にお会いしましょう。


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第16話:敵を知ること

「そっか、生きてるんだ。彼女。」

少女と見間違うほどに美しい容姿をした少年が部下であるウィッチの報告に耳を傾ける。

「はっ、501の諜報員によるとストライカーから寸前で脱出できたと。」

「ふーん、強運だねぇ。」

面白くなさそうな顔をしながらトントンと机を指で叩く。

「いかがなさいますか?」

「んー……まぁ、どうせ501は消えるわけだし焦らなくていいよ。それにいざ抵抗したって僕とラプターには勝てっこ無いんだよ。」

綺麗な顔が醜く歪む。そしたら彼女達を手籠に、そう心の中で呟きながら。


坂本撃墜事件からその日の夕刻、宮藤の懸命の治癒により坂本の意識は回復した。だがそれからというものハイペースにものが進んでいった。

 

執務室に集められた由也と宮藤。周りはハルトマンとバルクホルンが固め、正面にはミーナが座り対面する。

 

「植村由也中尉、ならびに宮藤芳佳軍曹。 あなた方には上官の命令無視、宮藤軍曹はさらに独断先行の嫌疑がかけられています。これは重大な軍規違反です。」

 

「……」

「……はい。」

 

「この部隊における唯一の司法執行官として質問します。あなた方は軍法会議の開催を望みますか?」

 

「あ……あの「()()()()()()

 

宮藤がネウロイのことを切り出そうと声を出すが由也がかぶせるように答え、遮る。

 

「わかりました。では今回の命令違反に対し勤務、食事、衛生上やむを得ぬ場合を除き10日間の自室禁固を命じます。異議は?」

 

「あの、私____いっ!」

 

()()()()()()

 

宮藤が再び声を上げるが由也が背中を抓って黙らせる。

 

話もほどほど、簡素な軍事裁判は閉廷した。

 

 

 

 

 

大浴場に珍しく501ほぼ全員が集まっていた。今回の宮藤と由也の件でだ。

シャーリーが話を切り出す。

 

「禁固処分だって? それだけで済んで良かったなぁ。」

 

「シャーリーなんか5回も禁固刑くらってたもんね〜」

 

「バカいえ4回だ、4回!」

 

「私6回ー。」

 

「競い合うもんじゃないぞハルトマン……」

 

わいわいと自分の処罰自慢が始まる。宮藤もそんな空気に呑まれ少し和むが、みんなに伝えたいことを言おうと立ち上がる。

 

「みんな聞いて!あの、私……ネウロイに今までと違う何かを感じたの。もしかしたらネウロイと戦わずに済む方法があるのかも……」

 

「……何をバカなことを。」

 

真っ先に噛み付いたのはやはりと言うべきか、バルクホルンだった。

 

「今まで奴らが何をしてきたのか知っているのか。お前はネウロイの味方をするのか?」

 

「っ……今度のネウロイは今までとは違います!そうでしょう由也さん!」

 

話題を振られた由也が腕を組んだまま、話始める。

 

「……そうだな、違和感は強かった。殺気も感じず、何かする訳でもなく、ただ俺たちを誘うように飛んでいた。」

 

「それが罠だったかもしれないというんだ。お前ほどの軍人がそれを履き違えるのか?」

 

「考えないこともない。だがネウロイの生態が完全にわかってない今、俺は一つの仮説を提唱したいのだ。」

 

指で組んでいる腕を軽く叩きつつ自身の仮説を説明し始める。

 

「ネウロイが以前から人類の行動や製作物を真似ているのは明白だ。わかりやすいのは以前に現れたサーニャの歌を歌うネウロイだ。ここまではいいな?

 

以前のネウロイは歌を真似て流していた。それ以前のものは航空機を真似たものなどが多かった。つまり外観を真似る事から内容を真似る事へと変化している。ならば人間の思考というものを真似る、などと言うことがあってもおかしくはないはずだ。事実カウハバではウィッチと接触し行動を真似たネウロイが現れたという話もある。」

 

「だけどそれって噂話じゃなかったのか?」

 

「ああ、エイラの言う通り公式の発表のあるものではない……が、これを踏まえれば今回のネウロイの行動にとある仮定を提唱できるんだ。」

 

ふっと息をつく。

 

「あのネウロイは宮藤や俺にコンタクトを取ってきた。なんらかの意思を伝えるために、な。」

 

「なんらかのとは、どういう内容だ?」

 

「そこまでわかれば苦労しない。だが定石でいくなら和平交渉の類だろう。」

 

「バカなことを言うな!」

 

バルクホルンが思わず立ち上がる。特に、故郷をネウロイの攻撃で失った彼女としては信じ難い内容なのは明らかだ。

 

由也は風呂から上がり、先に行くと短く伝えると脱衣所に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、自室に待機する由也。扉には南京錠で頑丈に鍵がかけられて開けることのできぬようになっていた。

 

「渡しそびれたな、これ。」

 

懐から自身の遺書を取り出す。ミーナに渡すはずがあのような状況故、できぬままだった。

 

外に目をやるともう一面黒色に塗りつぶされ、窓には雨粒が張り付いている。滑走路の誘導灯一つ点いておらず、完璧な闇だ。

 

と、聴き慣れた音が鳴り始める。甲高いターボの響き、ジェットエンジンの振動音。誰かが飛ぼうとしている。

 

「……宮藤……?」

 

なぜだか、誰が出るのかわかった気がした。きっと窓から無理に出ていったのだろう。

 

アイツと同じだ。根っこは優しいし、行動力がバカみたいにあって脱走だってやってのける。それの後始末をするのは大体俺たちの仕事だ。

 

「これだから主人公ってのは……!」

 

頭をかいて悪態をつく。兎にも角にも由也とて軍人の一部だ。このことはミーナに報告せざるを得ない。

部屋の内線の受話器をとるとミーナの自室に繋いだ。

 

 

 

 

 

それからの対応は早かった。すぐさま全員がブリーフィングルームに集められた。もちろん由也もいる。

 

「宮藤さんが脱走したわ。」

 

その一言に様々な反応が上がり、騒然となる。

 

「これが司令部に知られたら厄介だわ。急いで連れ戻して……」

 

そこまで言ったところで外線電話にコールがかかる。ミーナが手元の受話器を持ち上げる。

 

「こちら501統……閣下!? ……ですが、それは……いえ、了解しました。」

 

受話器を戻し困惑した顔をするが、すぐに表情を戻し皆に向き直る。

 

「____司令部から宮藤さんに対する撃墜命令が下ったわ。」

 

ヒューッと口笛が響く。由也だ。

 

「墜としたら何ドルもらえるのかな?」

 

「由也! 冗談でも言っていいことというのが……!」

 

バルクホルンが机を叩き由也を睨む。だがそれを無視し、由也はいつになく真剣な表情で思考を張り巡らせていた。

 

「……そうだ、ああそうだ。冗談じゃすまない。宮藤は司令部が知られると不味い事を知ろうとしてるらしい。」

 

「……由也? どうしたのさ?」

 

「簡単な事だよハルトマン。邪魔なのはそれらしい理由をつけて消すのが手っ取り早い。正規軍もやっきになって探しにかかる。我々は今から出ていけば夜明けあたりにはたどり着ける。正規軍の正式配備機にはまだ全天候性能機は少ない、宮藤は捕捉できないはずだ。行くなら今だぞ。」

 

「……ええ、わかってるわ。司令部よりも先に宮藤さんを見つけて連れ戻す、この目的に変わりはありません。由也、あなたは引き続き自室に。バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニさん、以上の4名は私と共に出撃、宮藤さんの後を追います。」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

各々言われた通りに行動を始める。ふと由也があることを思い出し、ミーナに近寄る。

 

「そうだ、ミーナ、これを預かっといてくれ。」

 

「えっ? これは……」

 

「今回の件、プロジェクト4が絡んでると見て間違いないだろう。そうなると俺も生きてるかどうかやや不安だからな。何かあったら読んでくれて構わないよ。それじゃあ、宮藤を頼んだ。」

 

背中越しに手を振って自分の部屋に向かう由也。彼女を問い詰めたいところだったが、それよりも宮藤の方が重要だ。まずはあの子を連れ戻さなければ。

 

ミーナは早足に格納庫へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宮藤が向かったのは一番最初にあのネウロイと出会った場所。そこにいけばまた会えるのではないか、確証は無いがなぜかわかる気がした。

 

そしてそれは宮藤の前に再び現れた。だがすぐにネウロイの巣へと、宮藤を誘うように飛んでいく。

 

「! 待って!」

 

宮藤もそのあとを追って巨大な暗雲の中へと入っていく。

 

少し遅れてミーナらも追いつくが、宮藤の背中を見送ることしかできなかった。

 

「くっ……どうするミーナ隊長、追うか?」

 

「……いえ、様子をみましょう。」

 

シャーリーの問いにそう答える。ミーナの中に由也の一言が引っかかっていた。

 

("宮藤は司令部が知られると不味い事を知ろうとしてるらしい"……?もし由也の読みが正しいなら司令部がネウロイを利用して何かを企んでいる。それに以前トルゥーデ達の報告にあった自立稼働の偽ウィッチにハルトマン中尉と由也の撃墜騒ぎ、プロジェクト4の暗躍……まさか司令部が?)

 

ネウロイの巣を睨みながらも自分達の背後で起きていることの思考を張り巡らせるのだった。

 

 

 

 

 

一方宮藤もネウロイの巣、その中枢だろう場所へと誘導された。空間の中央にはネウロイのコアが剥き出しになって鎮座している。

 

宮藤は困惑しながらもそれに近づく。すると周囲に映像が映り始める。それを見て宮藤は驚いた。

 

「あれは、坂本さん!?」

 

坂本だけじゃない、501の面々達の戦う姿がそこに写っていたのだ。ネウロイと戦い、そしてその破片が地面に墜落する。それをブリタニア兵や研究者達が回収する。

 

やがて場面は移り、どこか怪しげな研究所の一室にネウロイの破片は移動される。そしてその場にとあるものが写っていた。

以前、宮藤らを襲ったガスマスクを被った姿の無人ウィッチ群、そしてその後ろに佇む巨大な人形兵器、それらを見上げるブリタニア兵士達と、彼らとはまた違う雰囲気を醸し出す謎の美少年。

 

まさか、と驚かざるを得ない。宮藤を襲ったアレらは全てブリタニアで作られたものだったというのか。こんなことがあっていいのだろうか?

 

「あなたは……どうしてこれを……?」

 

宮藤がネウロイに問いかける。だがネウロイは外から何かが来るのを感じ取り、宮藤を残して巣の外へと姿をけしてしまった。

 

 

 

例のネウロイがミーナ達の前に現れる。宮藤はいない。

それを見てバルクホルンが呻く。

 

「やはり罠か!」

 

「全員散開!」

 

ミーナの号令で各々散開しネウロイを囲むように動く。だがネウロイはそれに目もくれず一点を凝視する。

 

その時、謎の戦闘機____いや戦闘機とも形容し難い飛行物体がジェットストライカーを凌ぐ高速で侵入してきた。

それは機首にあたる部分についた機関砲でネウロイを攻撃する。

 

直撃を受けたネウロイは爆煙の中に一度消える、が無傷で立っていた。ストライカーのようなパーツ、主翼にあたる部位からレーザーを無差別に発射する。

 

ウィッチ達はそれをシールドで受け止めるが、威力の高さに驚愕する。

 

「こんなすごいビーム初めてだよ!」

 

「あれは……!?」

 

ミーナが戦闘機モドキの方を見る。なんとそれは空中で人形に変形し、謎のシールドとは違う障壁でレーザーを防いでいた。

 

それは両腕を上げるとネウロイと同じレーザーを発射した。

 

「ビームを撃ったよ!」

 

「あれもネウロイなのか!?」

 

面々が声を上げる。

そのレーザーはネウロイに当たるとドロドロに溶かしてコアを粉砕、さらにその奥のネウロイの巣の一部さえも吹き飛ばしてみせた。

 

そこの近くに宮藤はいた。宮藤はレーザーの衝撃で吹き飛ばされる。それをシャーリーとルッキーニが空中でキャッチする。

 

戦闘機モドキは再度変形すると逆方向へと向かって飛び去っていった。

 

「芳佳、大丈夫?」

 

「うん……なんとか。あの、ネウロイは……?」

 

宮藤があのネウロイがどうなったか尋ねる。だがそれ以前に彼女は脱走者だ。

 

「宮藤軍曹、あなたを無許可離陸の罪で拘束します。」

 

今はただ、おとなしく連行されるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地に戻ったミーナら。だがその滑走路が何者らかによって占拠されている。その中心人物たるはミーナのよく知るブリタニア空軍将校の制服を着た男だった。

 

"トレヴァー・マロニー"ブリタニア空軍大将

 

第501統合戦闘航空団"ストライクウィッチーズ"の指揮官である男だ。そんな彼がなぜ軍隊を引き連れこの場にいるのか。

 

「ご苦労だった、ミーナ中佐。この基地はこれより私の配下である第一特殊強襲部隊、通称"ウォーロック"が引き継ぐ事となる!」

 

彼の背後に例の戦闘機モドキが変形し着陸する。その姿はまるでマロニー大将の力の象徴のようだった。

 

「まるでクーデターですね、マロニー大将。」

 

「命令に基づく正式な配置転換だよ、ミーナ中佐。」

 

ミーナが皮肉めいて言い、それを受け止め答える。

 

続々とウィッチ達が中から出てくる。由也も例外ではない。坂本もペリーヌに車椅子で押されて現れた。

 

「これでウィッチ達全員集合かね?さて……君が宮藤芳佳軍曹か。君は軍紀に背いて脱走した、そうだな?」

 

「……軍紀……」

 

そこまで言って宮藤はマロニー大将の背後にそびえるそれが見覚えのあるものであることに気がついた。

 

「あっ……その後ろの!」

 

「ウォーロックの事かね?」

 

「私、見ました!それがネウロイと同じ、実験室のような部屋の中に……!」

 

瞬間、マロニー大将の顔色が変わった。焦燥した声で叫ぶ。

 

「なっ、何を言い出すんだ君は!」

 

「でも私、見たんです!」

 

「質問に答えたまえ!君は脱走した!そうだな?」

 

拉致があかぬと質問相手をミーナに移す。

 

「中佐、私は脱走者は撃墜するように命令したはずだ。」

 

「はい、ですが……」

 

「隊員は脱走を企て上官も司令部からの命令を守らない。実に困ったものだが、今後はこのウォーロックがネウロイを撃滅する。ブリタニアを守るのに君たちはもう必要ないのだ。」

 

全員がざわつく。マロニー大将はすっと息を吸い、宣言する。

 

「本日、只今をもって第501統合戦闘航空団 ストライクウィッチーズは解散する!各隊員は可及的速やかに各国の原隊に復帰せよ! 以上。わかったね、ミーナ中佐?」

 

ミーナの胸中は少なくとも穏やかとは言い難い。だが上官からの命令である以上は従わざるを得ない。

しかしここには正規軍というものが嫌いな者もいる。そう、由也だ。

 

「そんなお人形さんが本当にネウロイと戦えるのか?」

 

「……君は植村由也中尉だったね。」

 

じろりと由也を見る。その視線から出る嫌悪感を由也は包み隠さない。苛立つマロニー大将は由也にこう告げる。

 

「君には味方部隊殺害の罪状がある。味方殺しはこの上ない重罪だ。」

 

「へぇ……じゃあどうなるって言うんだい。」

 

「君は銃殺刑に処される。」

 

ひっ、と誰かが悲鳴を上げた。こんな馬鹿な事があるのか。今まで共に戦ってきた戦友が、英雄とまで言われた人物が突如として大犯罪者として処されるなどと。

 

だが揺るがぬ事実でもあった。由也は事実、敵であるとはいえウィッチと交戦し全て撃墜している。言い逃れはできなお。

 

「君は彼の監視下に入る。その後、早ければ翌日には処刑が行われるだろう。」

 

そう言うとマロニー大将は指を鳴らして背後に控えていた人物を呼ぶ。その人物は宮藤がネウロイの巣で見た人物と同じ非常に整った、一見美少女と見違う少年だった。

 

「スズヤ・ヒビノだ。由也中尉、何があろうと君は彼の監視の下に行動する事になる。わかったな?」

 

「そういうこと。それじゃあよろしく頼むよ、由也さん?」

 

そうスズヤが微笑みかける。このような状況でなければ多くの女性が心打たれていたであろう美貌は間違いない。

 

由也はそんな彼を訝しむ目で見るが、覚悟を決める。

 

「……了解。 手柔らかに頼むぞ、スズヤとか言うの。」

 

「ふふっ、任せてよ。女の子の扱いは得意だからさ。」

 

そう言うと数人の警吏を引き連れスズヤは由也を連れて行く。

その背中に宮藤が叫ぶ。

 

「待って、待ってください由也さん!待って!」

 

「無駄だ。これが最後の対面だよ。君のせいだ、宮藤軍曹。君の独断先行がなければウィッチーズの解散も無かっただろうにな。」

 

「わ……私の……」

 

精神的に耐えきれなくなった宮藤の意識が急速に消えていき、視界が狭くなっていく。最後に見えたのは微笑む由也の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ化けるのもやめたらどうだ。プロジェクト4の尻尾め。」

 

「……やっぱ気付いてたんだ。」

 

夜半、監禁場所である由也の自室で2人きりとなったこの場で由也がスズヤに声をかけた。そう、やはりと言うべきかスズヤはプロジェクト4の人間なのだ。

 

怪しい点は見られなかったが、由也の勘が訴えかけていたのだ。こいつは顔に騙されてはいけない、根っこは正真正銘の下衆だと。大抵こういうのはろくでもないことをしでかそうとするやつだ。

 

由也がスズヤを睨みつける。

 

「何が目的かは知らないが、彼女達に手を触れるんじゃないぞ。」

 

「大丈夫だよ、()()何もしないから。」

 

「てめえっ……!」

 

「彼女たちの命運はこれからの君の行動次第、だよ?」

 

スズヤの顔がニヤけていく。その表情に由也は怒りと共に恐ろしさを抱いていた。

だがその次に出た言葉は由也も驚くものだった。

 

「いや、幸運だったよ僕も。死んだと思ったらこの世界にいるんだもの。"ストライクウィッチーズ"の世界にだなんて。」

 

「てめえ……まさか転生を!?」

 

「そうさ。僕だけじゃない、プロジェクト4の主要メンバーはみんな転生者さ。無論、みんなこの世界についてよーく知っている。君だってそうだろう?」

 

「ならば何故世界を混乱に陥れる!?そこまでして金が欲しいか!!」

 

「んー? そんなことは考えてないよ?」

 

「何……?」

 

疑問符を浮かべる由也。理解ができないのだ、世界を巻き込んだ戦争を起こすような計画を動かしておいて目的が違うとは。

 

「僕達は自分の希望のために戦ってるだけさ。そのために転生する時に神様から"特典"までもらったんだ。この力で僕のしたいことをするだけ……ストライクウィッチーズの全員を手に入れるだけさ!」

 

「!? この……下衆がっ!!」

 

由也がスズヤに激昂し襲いかかる。魔法力がある分由也が有利に立つ、だがそれはすぐに覆された。

スズヤの頭と尾骶部からニホンオオカミの耳と尻尾が生え、由也を、いや宮藤を凌ぐ魔法力で由也を逆に押さえつけた。

 

「な……なんで……」

 

「これが"特典"さ。僕には魔法力があるんだよ。それも芳佳ちゃんよりも強いやつがね!」

 

「ぐっ……てめえがその名前を口にすんじゃねえ!それは俺の……!」

 

「君のなんだって言うんだい?所詮君からしても物語の人物でしかないだろう?」

 

「違う!彼女はこの世界に生きる人間だ! それに彼女は俺の!」

 

「ああ、うるさい口だなもう。これでも食べてて。」

 

懐のハンカチを丸めると由也の口の中に押し込むとそのまま由也の手足を押さえて馬乗りになる。

 

「最初はリーネちゃんで愉しむつもりだったけど気が変わったよ……君の泣く顔を見てみたいな。知ってるかい?普通のウィッチは純潔がなければ魔法力が使えない。ここで僕が君を犯したら……」

 

「____!? ____!」

 

言葉にならない悲鳴を上げる由也。彼女の目には涙すら浮かんでいた。スズヤはそれをみて下卑びた顔で由也に迫る。

 

 

 

由也はこの日、ウィッチとしての力を失うことなる。




今回も読んでいただきありがとうございます。

アンギラスです。

夜中に呪○の広告流れるのほんとどうにかして欲しいと思うこの頃。夜寝れなくなってしまった。

さてさて、とうとう現れたウォーロック、ストライクウィッチーズ解散、そしてストーリーはクライマックスへと向かう。宮藤と由也の関係とは、由也の未来は?

次回is未定、なれど待っていただければ幸いです。プラスしまもなくアンケートの方も期限が近いです。第一期終了時点で集計する予定なので今のうちに答えていただければ。

ではまたの機会にお会いしましょう。


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第17話:送る言葉、受け取る心

「うう……ん」

宮藤がゆっくりと目を覚ます。もう一日過ぎていたが致し方ない。

謎のネウロイとの接触から坂本の撃墜、禁固刑に脱走、ストライクウィッチーズの解散、由也の処刑、疲労凄まじくあまりにも一日に多くのことが起こりすぎたのだ。

ベッドのそばに座って寝ていたリーネが起きる。

「……! 芳佳ちゃん! 起きたんだね! よかった……!」

「うん……他のみんなは?」

「今呼んでくるから、少し待っててね!」

そういうとリーネは早足に部屋を出た。それからすぐに全員を連れて宮藤の部屋へと戻ってきた。

ただやはり、由也の姿は見えない。

「あの……由也さんは……」

宮藤にそう尋ねられたミーナが静かに、首を振った。
宮藤の顔に影がかかる。

「私のせいだ……私のせいで由也さんが……」

「いいえ、あなたのせいではないわ宮藤さん。」

「そうだよ芳佳ちゃん!」

「全部あいつのせいだよ!」

周りの全員が宮藤を励ます。しかし由也の死は全員の心に深い傷をつけるものだ。
ミーナがふとあることを思い出した。宮藤を追う前に由也から渡されたものだ。

「みんな、これを由也から渡されてるの。中身はまだ確認してないけれど……」

「表の字……漢字だ。これは……遺書か。」

茶封筒の中に入った由也の遺書。何かあったら読んでいいと言われている。
悩むが、決心はすぐについた。

「読みましょう、由也から私達への最後のメッセージを。」

全員が神妙な面持ちで見守る。ミーナは封筒を開けると中の手紙を取り出した。

ゆっくりと、しっかりと噛み締めるように読み始める。


これは俺が死んだ後に読んでほしい。もしくは死ぬことが確定してるならそれでも構わない。

 

俺はどうやって死んだのだろう?空の上で死んだのなら幸運だ、だが地面の上で死んだのなら不幸なことだ。

死ぬのならば空か畳の上だと決めている。だが俺は国には帰れない。俺にはこの空しかない、空は俺に残された最後の居場所だ。ここを奪われたくはない。

 

俺が死んで宮藤やリーネは泣いてないだろうか?あの子達は人一倍優しいから心配だ。

 

 

 

俺からみんなに謝りたいことがある。

俺達の戦争に巻き込んでしまったこと、殺し合いの渦中にみんなを連れて行ってしまった事だ。

 

本来ならば俺やエリア88の人間だけで決着をつけるべきだというのに、無関係なみんなに戦いを強要するような現状にさせてしまったことは悔やんでも悔みきれない。

 

本当に申し訳なかった。

 

それと同時に、戦う理由を失った俺に再び意味を与えてくれたことは感謝しても仕切れない。

 

心の底から、本当にありがとう。

 

 

 

ここからはみんな一人一人へのメッセージになる。

 

 

 

 

 

ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ

 

俺の嘘に巻き込んだりと色々と迷惑をかけて申し訳なかった。書類仕事を手伝ったりをしていたが、俺は役に立てていただろうか?

 

戦うしか能のない俺を引き入れてくれたこと、とても感謝している。ここで過ごした戦場と日常はとても楽しかった。そしてそれを作ったあなたのことは自分が出会ってきた中でも上位にあたるほどに尊敬している。本当だぞ?

 

傭兵であった俺が正規軍の中で共に戦えた。それは紛れもなくミーナの尽力あってのことだ。その力はどこに行こうと必要になるだろう。

 

世界の平和を手に入れる、その陣頭に立てるほどの力がある。世界を頼んだ。

 

 

 

坂本 美緒

初めて会ってから随分と良くしてもらった。世界は違えど同じ国の生まれだからだろうか、だがそんなことはどうでもいい。一人の人間として、軍人として、指揮官として尊敬し信頼できる人物だった。だから俺は迷わずあなたについて行けた。

 

俺達傭兵って気難しくて、実力のない奴にはついていこうとしない生き物なんだよ。だが坂本は力も目も頭脳も備わっていた。きっと俺以外の連中も納得するはずだ。

もしエリア88の連中と共闘することがあればあいつらのことを頼む。

 

あなたは今後の世界に必要になる人物だ。決して死のうなどとは思わないでほしい。俺も望まないし、宮藤達が悲しむ。永く、飛べなくなっても生きていてくれ。

 

 

 

ゲルトルート・バルクホルン

傭兵と正規軍、なにかとぶつかり合うことが多かった仲かもしれんが、俺はあの日々は好きだったよ。

 

お前は絵に描いたようなカタブツだからな、忌諱されやすいだろうが501には必要な人物だ。柔軟な思考は必要だが真っ当な意見で周りを制止させる人物がいなきゃいけない。お前はそれにはもってこいだよ。

 

ミーナの補佐を頼んだよ。

 

 

 

シャーロット・E・イェーガー

初めて501に来たときに声をかけてきたのはシャーリーだったな、一緒にシュタインベルガー(石の山)を飲んだ夜のことは今でも覚えているよ。それからもよく一緒に絡んでくれたな。分け隔てなく誰とでも話せることは貴重だよ。

 

お前のムードメーカーなところは絶対に必要になる。絶望的な闇の中で光を灯せる存在だ、みんなのそばに必ずいてやれ。

 

 

 

エーリカ・ハルトマン

お前はあれだな、自由奔放に見えるが周りを見る目はしっかりしている。やっぱお前は本物のエースだよ、ハルトマン。今まで見てきた中で一番強い奴だ。間違いない。

 

だが俺には運も実力も伴わなかったようだ。どんなに悪魔と契約しても所詮はただの人殺し、天才的な実力もなにも無かったということか。

 

お前ほどの実力があれば皆を守ることもできるはずだ。約束を守れなくてすまない、ミーナを、仲間たちを守ってやってくれ。

 

 

 

サーニャ・V・リトヴャク

サーニャの歌とピアノはとても好きだったよ。エリア88にもギターと歌を趣味にする奴がいたな。あいつは今どうしてるのかやら……と、話題が逸れたか。

 

オラーシャは広い、ご両親を見つけるのはとても大変だと思う。俺も家族に会えない辛さはよく知ってる。だからこそあきらめないでほしい、俺や前の世界の俺の家族と同じ思いだけはして欲しくないから。いざという時はきっとエイラが力になってくれる。健闘を祈る。

 

 

 

ペリーヌ・クロステルマン

俺の違和感に一番最初に気づいた洞察力、見事だった。お前にはどんな隠し事も出来なさそうだなと思わされたよ。ただ責任感が人一倍以上に多すぎるな。祖国を思う気持ちはよくわかる。だがそれでは先にお前のほうが折れてしまう。

もっと周りを頼る生き方をしてもいい。幸いにも坂本やミーナ、バルクホルンをはじめとする頼れる仲間が何人もいる。

 

それと個人的な頼みになるがリーネと宮藤の面倒を見てやってくれ。あの2人と最も長く関わってるのは坂本とお前だからな。頼んだぞ。

 

 

 

エイラ・イルマタル・ユーティライネン

未来予知の固有魔法か……今まで戦った中で最も厄介だと思ったよ。それにお前の占いはよく当たる。これを読んでるってことは俺が空から引き摺り下ろされたこと、俺の大事な世界から引き剥がされたことに変わりない。

 

だがな、見てる未来は可能性に過ぎない。実際その通りにことが進まないようにすることでお前は被弾ゼロを誇ってるわけだしな。

 

わかってると思うがサーニャをしっかり守ってやれ。彼女は強いが夜に共に飛べるのはお前だけだ。手を取って互いに助け合えばどんな夜も超えれるだろう。

 

 

 

フランチェスカ・ルッキーニ

このいたずら好きのガッディーノ(仔猫)め、事あるごとに胸を触ってきて……たしかに部隊の中で大きい方だけどそう頻繁に触ろうとするんじゃないよまったく……だが、それも来なくなると思うと寂しいな。

 

世話焼いてた人が言うのも変だが、たまにはシャーリー抜きでいろいろできるようにならなきゃダメだぞ?あと勉強もキチンとすること。訓練をサボるのは天才的な才能があるから百歩譲って、勉強まで怠けてたら大きくなった時に後悔することになるぞ?人生2回もやってる人間が言うんだから間違いない。

 

元気でな。

 

 

 

リネット・ピジョップ

リーネは周りをよく見て気の使える優しい子だ。俺にもよく話しかけてきてくれたし、同じ時期に同じ階級で入った宮藤とも仲良くしてくれてた。謙遜すると思うが狙撃の腕前だって部隊の中じゃナンバーワンだ。いくらでも胸を張れるよ。

 

すまないが、宮藤から目を離さないようにしてくれないか?あの子はよく無茶をするし、軍隊のやり方に縛られない子だから目を離すとどっかに行きそうだ。坂本も万能じゃないし俺はいなくなってしまった。リーネが頼りだ。頼んだよ。

 

 

 

宮藤芳佳

いくらでも無茶をするから少し心配だな、考えるより先に体が動くのだから見てないとあっという間に遠くに行ってしまいそうだ。

だけど、宮藤がこれを読んでるなら俺の目的は一先ず達成できたということだろうか。怪我はしてないな?血が出てたりとか痛いところとか無いか?宮藤が無事なら俺はそれでいいんだ。

 

宮藤……いや、芳佳。ずっと言いそびれていたことがある。

以前に俺の母親の話をしただろう?あれには実は続きがある。あの後、一つ思い出した事があるんだ。

 

俺の母親の旧姓は宮藤なんだ。だから本名は宮藤芳佳……そう、別の世界のお前のことだ。俺はほぼ事実上、芳佳の子供にあたるんだ。きっと君さえ生きていれば俺と同じ存在がこの世界でも……いや、それが正確には俺でないことはわかっているんだ。

 

だが俺の生きた証が唯一残せるのならば、君のためにこの命の一つや二つ投げ出すつもりでいた。これを聞いたら怒るだろうなと思って黙っていたが、死んだ手前もう隠す必要もない。

 

芳佳、戦争が終わったら平和な世界でたくましく生きてくれ。平和な世界に生きる事が許されなかった俺の分もどうか。

 

 

 

 

 

最後まで読んでくれてありがとう。サキやミッキー達エリア88の連中に会ったらこう伝えてくれ。

 

「次は平和な世界で会おう。」

 

それじゃあ、みんな元気でやれよ。

ありがとう戦友、ありがとうストライクウィッチーズ。

 

 

 

 

_________________________________________________

 

 

 

 

 

遺書を読み終わった時、その全員が様々な感情にかき回され様々な表情を浮かべていた。だが全員共通して深い『悲しみ』を抱いていることに間違いは無かった。普段は笑顔を絶やさぬハルトマンやシャーリーだって例外ではない。

 

「? ミーナ、その手紙の裏になにか書いてあるぞ……?」

 

「えっ? 本当だわ……」

 

ふとバルクホルンがミーナ宛のメッセージの紙の背面に何か書いてあるのに気がついた。

二重線で消されたり少し形が崩れているが、カールスラント語でこう書かれていた。

 

 

 

ich liebe dich(私はあなたを愛しています)

 

 

 

口でいうには恥ずかしく、まして現在となっては女同士。今の関係が壊れるのを恐れた由也の精一杯の告白だった。

 

「もう……そういうのはきちんと言って……バカ……!」

 

堪えていた涙が言葉とともに溢れ出る。自分のことを好きなる人が次々と消えていく、その現実に耐えられる者などいるはずもない。たとえ歴戦の猛者であっても。

 

 

 

ひとしきり泣き終え、宮藤がミーナに確認する。

 

「あの……由也さんは本当に……」

 

「ええ……今日の昼頃には執行される予定らしいわ。私達もすぐにここを出ないといけない、面会も許可されなかったわ。」

 

窓の外には空母赤城が停泊し出航を待つばかりという状況だ。もう残り許された時間はほとんど無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重い瞼を押し上げ由也の意識が浮かび上がる。激しい気怠さと下腹部の違和感を感じながら起き上がり周りを見渡す。すでにスズヤはいなくなっているようだ。

 

ベッドの上は散々な有様で毛布は吹っ飛びシーツにはいくつものシミができている。そばには早々に脱がされた由也のフライトスーツが散らかされたまま放置されている。

 

だんだんと思考が働き始め何があったか思い出し始める。そうだ、昨日の夜は____その全てを思い出し、そのおぞましさに思わず我が身を抱く。

人生2回も経験しても恋事などはこの世界が初めてだった。なら自分の純潔も愛する人にと思っていた矢先の出来事。あんな男に「はじめて」を奪われ、快楽に溺れてしまった、そんな自分がひどく情けなく惨めに見えてしまう。気づけば目からは涙がこぼれ落ちていた。

 

もう体の芯に根付いていた魔法力も感じられず、使い魔である恐竜の尻尾すらも出てこない。

 

彼の命ほどに大切な王国(おおぞら)は最悪な形で奪われてしまった。

 

「う……うう……うああああああ!!」

 

ただの1人の少女となった由也はただただ泣き続けることしかできなかった。

 

 

 

 

 

ストライクウィッチーズの面々はもう基地に残った者はいなくなっていた。シャーリーとルッキーニはほぼ自家用機となったソードフィッシュ攻撃機でロマーニャに向けて飛び立ち、エイラ・サーニャ組は列車で北を目指していた。リーネは車で実家へと戻り、宮藤と坂本は扶桑へ行くために空母赤城へと乗船した。ペリーヌは祖国が未だ戻らぬため坂本の付き添いとして赤城に同乗している。

 

そしてミーナとバルクホルン、ハルトマンの3人はというと____

 

「……よし、監視はどこにもいない。大丈夫そうだな。」

 

「こっちも大丈夫だよ。」

 

バスの停留所に陣取り元自分達の基地を監視していた。そのためバルクホルンとハルトマンの2人が周辺を見られていないか確認していたのだ。ミーナはエリア88、もといサキへと由也について連絡をしている。

 

トレヴァー・マロニー空軍大将がプロジェクト4に加担しているというのはほぼ確実だが、今現状証拠がない。それを掴めれることがもっとも好ましい。

 

いや、プロジェクト4だけでない。宮藤の言っていたネウロイとウォーロックの関係性を暴きマロニーを失脚させる。今まさに死の淵に両足をつけている由也へのせめてもの手向だ。

 

周辺警戒が終わり機材を設置するとミーナが戻ってきた。

 

「ミーナ、サキ中佐の方はどうだった?」

 

「話せることは全て話してきたわ。あっちは別でもう証拠を掴んでるみたい、すぐにマロニー大将逮捕と由也救出のために飛んでくるそうよ。『遺言はあいつの口から言わせてやる』って言っていたわ。」

 

いつもは表情の変化に乏しいと聞いているサキがそのような冗談を言うのだ、思わず皆笑い出す。だがすぐに真剣な眼差しへと変わる。

 

「エリア88到着、もしくは異変があり次第すぐに基地に戻ります。格納庫には私達のストライカーなども残っている、それを奪取してエリア88に加勢します。」

 

「「了解!」」

 

3人が見守る中、ウォーロックがガリアへとパルスジェットエンジンの甲高い音を響かせながら飛んでいく。由也の処刑まであと____




どうも、今回も読んでいただきありがとうございます。

アンギラスです。

ちょい短めですが今回はこの程度で。死んだこともないのに死人の気持ちって分からん……けどやらないといけない、物書きのつらいところ。

転生者スズヤへのヘイトの溜まり具合が加速してそうですがまだ死なせないです。まだだ……まだだ……

と、次回はいつぐらいになるでしょうかね……ここ最近夏バテか体調崩しかけでしたし少しテンポ落ちるかもです。
ではまたの機会にお会いしましょう。


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第18話:Re Fly Wings

ブリタニア内陸部、ロンドン防空隊基地
この場所にエリア88は一時的に身を置いていた。

第88特殊戦術航空団

それがエリア88の正式名称だ。そしていまこの基地は今までにない慌ただしさを見せていた。基地の格納庫は総勢12機の各国多様なジェットストライカーに次々と装備が行われ、滑走路上に配備されたばかりの空中管制機EC-121(ウォーニングスター)(コールサイン:バッカニア)がエンジンスタートを開始している。

ブリーフィングを行う間も惜しんでの緊急出撃だ、まだウィッチすら揃っていない。

部隊指揮官であるサキが指示を出しつつも自らの愛機であるストライカーユニット、クフィールへと向かう。そう、彼自身もまた魔法力を持つ特異体質のウィザードなのだ。
一般的なウィザードはウィッチほど魔法力が高くなく、ストライカーユニットを動かすことなど到底できない。だがこの世界のヴァシュタール家は代々尋常で無い強さを持つウィッチを生み出してきた中東王家の系譜だ。その影響あってサキもまた例に漏れず高すぎる魔法力を持ち合わせている。

「サキ様、全員集まりました。まもなく出撃準備完了です。」

「そうか、ご苦労だった。」

サキの通信機に副官であるラウンデルの報告が入る。彼も魔法力を持たぬ身ではあるが、空中管制官として"バッカニア"に搭乗し部隊のバックアップにまわることになる。

しかし、とラウンデルが提言する。

「各所で混乱が生じています。1週間の作戦の繰り越しはいささか早すぎでは?」

「ストライクウィッチーズがプロジェクト4の策略で解散に追い込まれた。さらに由也がまもなく味方殺しの罪で銃殺刑にされるとミーナ中佐から連絡があった。」

「! 由也が……!」

ラウンデルにとって由也は自らの直属の部下だった人物だ。それが死ぬなどとあっては普段冷静なラウンデルも感情があらわになる。

「味方基地を実験場に使い口封じが失敗すればそれを利用して厄介者を消すか……小賢しい手を使う。」

「しかし、いささか引っかかる点もありますな。なぜ由也が重点的に狙われるのでしょう。」

「そこだ、ラウンデル。どうも今回のプロジェクト4の動きは前の世界のものと異なる。以前のように利益を優先して戦争を仕掛けるのではなく、この世界の情勢に合わせて不都合の出ぬよう行動している。それも先に何が起きるのか予見しているかのように……」

「……まさか由也と同じ……!」

「ああ、だいぶ厄介な相手になるかもしれんぞ!」

遅れてミッキーらエリア88のウィッチ達が到着した。行先はブリタニア島南東ドーバー海峡沿岸、第501統合戦闘航空団「ストライクウィッチーズ」元基地だ。


由也はぼうっと窓の外を眺めていた。もう泣く気力も喚く体力も残っていない。

 

先程ウォーロックがガリアのネウロイの巣へと向かって飛び立つのが見えた。生憎ともう見えないが。

 

いや、正確には魔法力が使えれば見えはするのだ。だが魔法力が無くなった今の由也には手首に繋がれたヤワな手錠をちぎることもできない。それもこれもあのスズヤという転生者のせいである。

今こそ彼は諸事情で基地を離れているが、その昨晩というもの由也にとって悪夢以外何ものでもなかった。

 

由也を押し倒し抵抗できなくし、ひとしきり自分が愉しむと今度は周りの警吏兵士を誘い入れ集団で犯し始めた。

 

魔法力を失ったウィッチなどただの年頃の少女に過ぎない。由也が前の世界でどれだけ訓練された凄腕の元傭兵(エトランジェ)であったとしても今この世界ではか弱い小娘でしかないのだ。

 

たしかに日頃の鍛練の成果あって一般的な女子よりも体力と筋力はあると言っても大の大人、それも正規軍の軍人が複数となっては勝ち目はない。

あとの結果はもうここに記すほどのことでもないだろう。読者諸君の想像に任せる。

 

 

 

もう数時間もすれば目隠しされて貼り付けにされるのだろう。まさにまな板の鯉、風前の灯火。しかしその数時間が長いと感じるものだ。

 

愛用のタバコ____その最後の一本を取り出して火をつける。前の世界でかった物のため空っぽになるのは当然といえばそうだ。むしろ長持ちした方だろう。

逆に言えば、もっと頻繁に吸っていれば今までの人生を振り返り感傷に浸るなんてことも無かったんだろうなと思う。

 

 

考えれば考えるほど最悪な人生の連続だった。前の世界において自分の勘違いでエリア88に叩き込まれ戦争漬けの日々を過ごして運命をかえれず多くの仲間が死んでいった。自分の身を守るだけで精一杯だった。

 

「その力を 多くの人を守るために」

 

母からよく言われた言葉だ。その言葉は傭兵となったあの時も決して忘れたことはなかった。だからこそ原作(みらい)を知っているからこそ1人でも多く救おうとした。そして変えられず己の無力さを呪った。

 

その矢先のこの世界、ストライクウィッチーズの世界だった。この世界の、特にストライクウィッチーズの面々によって由也の心は救われたと言えよう。元の平和な人生を過ごせなくなった由也を受け入れ、家族同然に扱ってくれた。

 

そこにプロジェクト4は再び立ち塞がった。もはやここは由也の知る世界では無くなってしまった。もしかするとこの中の誰かが死ぬかもしれない。

ならばせめて自分を迎え入れてくれた仲間だけでも守りたい、その一心だった。

 

結果は____まあ、死に様としては最悪だが、最後の最後に勝利できたと由也は思っている。特に宮藤を、いや芳佳を守ることができたのは由也にとって大事なことだった。

 

やり残したことはいくらでもあるが後悔はしていない。覚悟は決めてきた。昨日死ぬか、今日死ぬか、その違いでしかない。ただそう決めつけ平静を保っている。

 

 

 

いろんな液体でぐちゃぐちゃになったベッドにタバコを押しつけて火を消す。と、自分の手が震えていることに気がついた。

 

「……はぁ……やっぱ、だめか……」

 

どうしても死ぬと分かっていると恐怖してしまう。人間の、というよりかは生物の()()なのだろうが今の由也にとっては自分がひどく情けない人間に思えて仕方がなかった。

 

片膝を抱えて塞ぎ込む。いっそこの基地ごと大爆発してみんなまとめて吹き飛べばいいのに。

 

そう思った瞬間、窓から赤い光が差し込み衝撃と爆風がガラスを破り捨てた。

 

「〜っつぅ……! なんだ!?」

 

ベッドから飛ばされガラスの破片で怪我をしながらも由也は起き上がって外を見る。

そこには黒と赤のネウロイ特有の幾何学模様へと姿の変わったウォーロックが耐空しているではないか。遠くでは船が燃えているのが見える。あれは赤城か?

 

芳佳がウォーロックを見た時に言っていたことを思い出した。ウォーロックはネウロイを利用した兵器なのではないか?つまり今のウォーロックはガリアの巣に触れたことで本来の姿を取り戻したのではないか……

 

「くそっ!」

 

悪態ついて外に出ようと窓から身を乗り上げる。今の由也にできることはない。だがせめて電話さえ使えれば仲間達に、サキらエリア88の仲間に連絡ができる。それから殺されるなら文句は言わない。このままではストライクウィッチーズの仲間達が危ないのだ。

 

窓べりをつたい外に剥き出しのパイプをつたって地面に降りる。基地のマロニー将軍麾下の下っ端達もだいぶ混乱しているようだった。

 

由也は兵士たちに見つからないよう動き始める。ウォーロックの暴走で場が混乱している今なら行けるはずだと考えた。

 

裏口に回って扉のない出入り口からこっそり中に入る。電話機はそとには取り付けられているが、場所が遠く馬鹿正直に外を歩くのは危険すぎると判断した。

 

突如、さらなる衝撃が基地を襲った。だがウォーロックの攻撃ではなさそうだ。

 

 

 

 

 

エリア88部隊が旧501航空団基地を視認する。格納庫は鉄骨で無造作に蓋がされて入れないようになっている。

サキが支持を飛ばす。

 

「フーバーらホワイトセクションはネウロイを攻撃、足止め。グレッグらグリーンセクションは格納庫入り口を粉砕、その後反撃してくる対空砲を破壊しろ。他は強制着陸し基地内部の制圧に入る。」

 

「了解した。マリオ、チャーリー、ついてこい。」

 

「「了解!」」

 

「あいよぉ!バクシー、キャンベル、あの壁をブッ壊すぞ!」

 

「あいよ!」「了解!」

 

F-4(ファントム)F-16(ファルコン)、クフィールの3機がウォーロックに向かって攻撃を開始する。

 

A-10(サンダーボルト)A-4(スカイホーク)をはいた地上攻撃専門のグレッグ部隊"グリーンセクション"が一気に高度を下げ、格納庫に蓋をしている鉄骨を照準に収める。

グレッグのボフォース40mm機関砲とバクシー・キャンベルのエリコンFF 20mm機関砲が一斉に火を噴いて鉄骨を根本から引きちぎる。格納庫の入り口が開けるとそこに次々とエリア88メンバーが着陸していった。

 

 

 

 

 

そんなこともつゆしらず由也はどんどん電話機への道のりを進んでいく。この調子でいけばもうそろそろ見えて来るはずだ。

「! お前は死刑囚の!」

 

「げっ!」

 

だがそう甘い現実ではなかった。施設に入って廊下の角を曲がったところで兵士とかち合わせてしまった。

相手はステン短機関銃を、こっちは丸腰。愛銃のスタームルガー・ブラックホークは昨夜のドサクサに紛れ紛失____どうせ誰かが盗っていったのだろう____M1919A6は海の底だ。予備があるがそれはマロニーの手で格納庫に大事に封印されてる。

 

慌ててきた道を走って引き返すが後ろから銃撃され何発か背中に命中する。一瞬痛みで動きが鈍るがなんとか他の道に逃げ込む。

 

以前までならこんなことにがならなかったはずだ。ネウロイのレーザーが受け止められるシールドを張れるのだ、機関銃の弾くらい防ぐくらい造作もない。それがどうしたことか無様に壁に手をついて重い足を引きずって逃げ回ることしかできない。

 

「くそ……あの野郎また会ったら綺麗な顔を吹っ飛ばしてやる……」

 

血溜まりで線を描きつつも前へ前へと歩き続ける。しかしだんだんと足取りが重くなっていく。

 

「おか、しいな……体重は減ってる……っ……はずなのに……どんどん体が……重く……」

 

ペタんと膝をついてへたり込んでしまう。なんとか立ち上がろうと脚と手に力を入れるが、うまくいかずそのまま壁にぶつかりもたれかかるようにずり落ちた。

視界までぼやけ始めてきた。思考はうまくまわらないが自分がだいぶヤバイということだけは理解できる。ただ、もう体を動かす余力もない。

 

ただ遠くから自分の名前を叫んで誰かが走って来ることだけはわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミーナら3人とサキ以下数名が既に司令部を制圧していた。抵抗した一部の人間はバルクホルンとグレッグによって面白い顔にさせられた。

 

「____私達を陥れるために随分いろいろとなさられたようですね、閣下。」

 

「ぐっ……」

 

押収したウォーロックなどに関する資料を読みながら冷たい目を向けるミーナ。

ウォーロックは失敗した。宮藤の発言による事実の発覚を恐れ、結果を求めるあまりに実戦投入を急ぎすぎたのだ。コアハックシステムをはじめとするほとんどの機能は確かに想定以上の働きをした。しかしそれによりネウロイの巣のコアに触れた結果、ウォーロック自体がネウロイとなってしまったのだ。

 

その時、サキの通信機に声が入る。この声は施設内部を制圧しているミッキーのだ。

 

「サキ、まずい事になったぞ!由也が銃撃を受けて出血で死にかけてる!」

 

「何!?由也が!?」

 

ミーナの表情がサッと青くなる。まさか、助けられると思った矢先そんなことがあって欲しくない。

 

マロニーが追い討ちをかけるように喋り始める。

 

「はっ、あのキナ臭い小娘に何かあったか。どうせ死んだのだろう、賢しいだけのガキが生意気にしゃしゃり出るから……」

 

瞬間、マロニーの顔の数ミリ横に銃弾が撃ち込まれ、ヒィッと情けない悲鳴が出る。見るとグレッグの拳銃から煙が出ている。

眉間を撃ち抜かん勢いのグレッグをサキが鎮める。

 

「グレッグ、そこまでにしておけ。」

 

「サキ!俺ぁ仲間のことを好き勝手言われて黙ってられるほど人間できちゃいないぞ!」

 

「グレッグ。」

 

サングラス越しにグレッグを睨む。

 

「私だって同じ気持ちだ。だがコイツを死なせては私達も同じ穴の狢になるぞ。」

 

グレッグが銃を下ろすとマロニーは一瞬だけほっとした顔をするが、サキ達に睨みつけられ再び竦み上がる。

 

「縛り上げてその辺に転がしとけ。もうすぐ憲兵隊が到着する。我々は由也のところに行くぞ、急げ!」

 

そういうと司令部を飛び出してミッキーらのいる場所へと向かった。

 

 

 

 

 

ミッキーとセラが由也の応急処置をする。その他の場所にいたゲイリーやグエンなど全員が集まっていた。サキやグレッグ達残りメンバーとミーナも到着する。

 

それに気づいてか由也が壁にもたれたまま少し顔を上げる。ミーナも走って由也のそばに駆け寄る。

 

「由也!」

 

「ミーナ……戻って来て……」

 

「そんなことはいいの!どうして……どうしてこんな……」

 

「赤城が燃えているのが見えて……エリア88に連絡がつけれればと吹っ飛んだ窓から外に出たはいいが……途中で見つかってこのザマよ。情けない……」

 

タイミングの悪さにサキは思わず唇を噛む。もう少し早く到着していれば助けられたかもしれない。だがそういう「たら」「れば」が通用する世界でないことがサキはよく知っていた。

 

「顔も見れないのが心底残念だな……」

 

「由也、あなたもう……!?」

 

「でも声は聞こえる……から……マァ良いかな……好きな人の……声が聞けて……」

 

「そんなこと言わないで! あんな……あんな告白の仕方で終わらせるつもり!? あなたの口から言いなさい! でないと……許さないんだから……!」

 

「は……は……あれでも……けっこう頭ひねったんだぞ……ひどいこと……言う……なぁ……

 

「由也……?由也!!」

 

涙を流して由也に叫び続ける。だが次第に由也の視線が下がっていく。そして瞼が閉じ、首をたれてしまう。

ミーナが何度も肩を揺さぶり名前を呼ぶが返事が来ない。すでに胸の鼓動は止まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由也の視界は完全に真っ暗となり壁にもたれていたと思う体も宙に浮いていた。しかしこの場所は初めてじゃない、以前に一回死んだ時にもこの状況になった記憶がある。

 

____あぁ、また死んだのか____

 

たった2回目にして死ということに無頓着になりつつあることに嫌気をさしながらそう思う。最後耳にしたミーナの声から泣いていたのはわかっている。だがもうこうなってはどうしようもない。

 

後味の悪い死に方だ。次はまた変な世界に飛ばされるのか今度は成仏させてくれるのか。だがせめて、彼女を幸せにさせることができたら____けれどそれも叶わない。

 

全てを諦めようとしたとき、もう聞くことがないだろう声が由也を目覚めさせた。

 

「なんだ、随分と華奢になったな由也。」

 

「えっ……真……!?」

 

目の前に気づけば真____風間真がいた。かつてエリア88で着ていたフライトスーツを身につけ、そばに紅いたてがみの一角獣(ユニコーン)を引き連れている。

 

「なんでここに……というか俺のこと覚えてるのか!?」

 

「ん……まぁ、な。だがそれは今は大した問題じゃ無いんじゃないかな?」

 

「いや俺としては大問題なんだが……」

 

「いや、問題じゃないね。由也お前、諦めるのか?」

 

「な、何を……」

 

()()()()()()。」

 

由也の表情が曇る。俯き、絞り出すように声を出す。

 

「そりゃあ……できるもんならすぐにでも戻りたいよ。けれどもうここに来ちゃったんだよ。もう死んじゃったんだ。今更なにができるっていうのさ!」

 

「お前……エリア88にいた頃の方が輝いてたぞ。ウルフパックのときのことを忘れたのか? お前はあの時ほぼ死ぬ寸前だった。だがそれでも生きようという意思を持ち続けて帰ってきたじゃないか。」

 

「それは……」

 

「それに後ろの奴はまだ死んだつもりじゃないみたいだぞ?」

 

え?と振り返ると由也の身長より少し小さいくらいの恐竜が、パーソナルマークとして使っているティラノサウルスの子供が由也を見つめていた。直感でわかった、この子は由也(おれ)の使い魔としてずっと一緒に空を飛んでいた相棒だと。

 

キュルルと喉を鳴らして首を傾げる。まるで由也に「行かないの?」と尋ねているようだ。頭を撫でてやるとクルクルと気持ち良さそうな声を上げる。

すると由也のフライトスーツを噛んで引っ張り始めた。

 

そうか、この子はまだ諦めていないんだ。あの時、俺とのつながりが消えた後もずっと俺と一緒にいようとしたんだ。それなのに俺が先に諦めるのか?彼女も仲間も置いて先に逝くなんて……俺も嫌だ。まだあの場所にいたい。

 

すると自然と道が開けた。光が由也の行先を導いている。

 

「目指す場所は見えたか、由也?」

 

「あぁ……おかげさまで。俺はもう行かなきゃ。」

 

「フ……行ってこい、由也。たぶんまた、そのうち会える。」

 

「その言葉すごい気になるんだけど……あぁもう、時間がないのが惜しいな! じゃあまたな、真!」

 

「ああ、またな由也!」

 

2人は各々別の方向へと歩いていく。その後ろにそれぞれの象徴たる獣を連れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由也の手を握り名前を叫び続ける。そこにいるのはカールスラントのエースでも厳格だが心優しい部隊の指揮官でもない、1人の愛する者を失った少女だ。

 

サキが背中に声をかける。

 

「ミーナ中佐、由也はもう……」

 

「まだ!まだ死んでない!」

 

ミーナは由也の手を掴んだまま離さない。泣きじゃくりながら由也に声を投げ続ける。

 

「そうでしょう、由也……ねえ……お願いだから目を開けて……私を……もう置いてかないで……!」

 

ピクッとミーナの手の中で動いた気がする。いや気のせいではない、確かに動いた。心臓の動く音もする。

 

「由也……由也!」

 

「まさか……由也、生きてるなら返事をしろ!」

 

サキやミッキー達も信じられないという顔をするが由也の名前を呼び続ける。

由也から使い魔の尻尾が生え、魔法陣が足元に広がる。そこから感じ取れる魔法力の強さは芳佳のものに匹敵するほどだ。

由也の身体が優しい光に包まれ傷がみるみる癒えていき、眼が開く。由也がしかとミーナを見つめる。

 

「……どれくらい寝てた?」

 

「____っ、バカ!心配させて!」

 

ミーナが由也に抱きつく。傷は塞がってもまだ痛むため少し声が漏れる。するとドッと一斉にエリア88の面々も由也に飛びかかる。その全員が安堵し笑顔の表情を見せていた。

 

サキが手を叩いて騒ぎに収集をつける。

 

「お前達、まだ終わっていないぞ! 上空のホワイトセクションの救援を忘れるな!由也、行けるか?」

 

「ああ、血が抜けてちょっと頭がフラフラするがいけるぞ。だが……」

 

「安心しろ、お前にストライカーはもう用意してある。」

 

「ありがたい。」

 

大胆不敵に笑う由也。空にはフーバーらがウォーロックの足止めをしている。さらにミーナが芳佳も空にいることを教えてくれた。早く向かわなければならない。一斉に格納庫へと駆け出した。

 

 

 

 

 

格納庫に向かうとなぜかエイラとサーニャが戻ってきていた。わけを聞くとエイラは列車を寝過ごした__と言っていたがとんだツンデレ、サーニャの言うには占いで芳佳が危ない事を予感しサーニャ自身も固有魔法でネウロイと化したウォーロックを探知したため戻ってきたのだ。

 

その後、沈む赤城から坂本とペリーヌをキャッチして戻ってきたシャーリーとルッキーニ、最後にリーネが合流する。

 

「ってなんだよ、結局全員戻ってきてんじゃないか。」

 

「まーまー、いいだろ由也?いかにもあたしららしいじゃんか。」

 

「みんなと飛ぶのが一番です。もちろん由也さんも一緒ですよ。」

 

「そ、サーニャの言う通りなんだな。」

 

やはり全員揃って初めてストライクウィッチーズと名乗れる、誰一人欠けることは許さない。絆の深さを改めて痛感する。

 

 

 

サキが無理を言って空輸してきた由也の新たなストライカーユニット(つばさ)を見せる。

 

「由也、これがお前の新しいストライカーだ。」

 

「これか……"T-2CCV"、よく再現したもんだ。」

 

「プロジェクト4から押収した資料とこちらで開発中だった技術を合わせた代物だがな。元の世界の物と同じく運動性能力向上機としての意味合いが強い。」

 

T-2CCV__芳佳の使うT-2練習機を基礎にした運動性能力向上機(CCV技術実験機)だ。小さな主翼にスポイラーとフラップ、エンジンの後部に取り付けられた尾翼部、ここまではT-2と同じだ。

最大の差異にして特徴たるはエアインテーク脇と機体下部についたカナード翼である。さらに3重のデジタル・フライバイワイヤを操縦系に使用することで安定性をより高めた機体となっている。

 

由也らのいた元の世界の実機と同様の白いボディに赤でラインを描いた機体カラー、そこに垂直尾翼にあたるパーツには"A88"の部隊章、胴と主翼に扶桑の国章を付け由也のパーソナルマークのティラノサウルスも描かれている。

 

さらにストライカーユニットとして実戦でも使えるように6つのパイロンとFCSシステム等を取り付けていた。

 

「これからよろしく、相棒。」

 

そう言うとT-2CCVを優しく撫でた。

 

 

 

半ば監禁状態で押し込められていた整備兵達を開放してストライカーユニットの発進準備を急がせる。その間にサキとミーナが全員の前に立ち隊員達に呼びかける。

 

「ストライクウィッチーズの諸君、皆の中には知ってる者もいるだろうが名乗っておく。私は第88特殊戦術航空団、通称"エリア88"司令、ガリア空軍中佐のサキ・ヴァシュタールだ。現在我々は緊急事態の渦中にあると言っても過言ではない。プロジェクト4の暴挙により一度は部隊が散り散りになり、連中の秘密兵器であったウォーロックは暴走、敵味方関係なく襲い掛かる始末。エリア88隊員一人一人の自己紹介をする暇も惜しい事態だ、そこで君たちに一つ願い事を聞いてほしい。我々と共に戦い、奴らの暴走を止めることに協力してくれ。」

 

「エリア88の皆さんはじめまして、私はミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ、カールスラント空軍中佐でこの第501統合戦闘航空団、通称"ストライクウィッチーズ"の司令を務めています。仲間の危機に際し、私達の声に応え共に勇敢に立ち向かってくださったこと心から感謝します。しかし今一度、もう少しだけ力を貸してください。空にはまだ私達の仲間が戦っています。皆さんのお仲間が共に戦ってくださっていますが、敵は強力で苦戦している……どうかもう一度仲間を助けるため、この空を取り戻すために力を貸してください!」

 

2人への返答、それは格納庫を吹き飛ばさんかぎりの鬨の声だ。

 

総勢23人の蒼空の騎士による、悪魔の計画への反逆が始まろうとしていた。




読んでいただきありがとうございます。
アンギラスです。

主人公は殺させない、絶対(頑なな意思)。

ここでついに彼が登場したわけですが……察しのいい読者様はもう気付いてるんじゃないですかね。そう、これでアンケートは投票終了となります。沢山の投票ありがとうございます。

結果から言いましょう……「風間真 参戦決定」っっっ!!!鬼かな読者様方。
これで出番終了じゃないですよ?きちんとウィッチとしてメインキャラ入りしてもらいます。そこまで俺生きてられるかな……

次回も楽しみに気長にお待ちいただければ幸いです。
ではまたの機会にお会いしましょう。


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第19話:Strike! Witches

フーバー・キッペンベルグはカールスラントきってのエースウィッチの家系の一人であった。
キッペンベルグ家は爵位を持たぬ身でありながら代々カールスラント王室の軍人として怪異__ネウロイとの戦いに従事してきた。事実、彼女の母も前の怪異との大戦でかの有名な"レッドバロネス(赤い女男爵)"ことエルフリーデ・フォン・リヒトホーフェンなどと共に活躍したウィッチである。
そんなキッペンベルグ家はカールスラント軍ウィッチにとって憧れの存在であった。

それは彼女が「彼」であった時と似ているといえよう。

フーバーだけではない、エリア88を編成しているウィッチの全員が前世持ちの人間である。
このホワイトセクションに組するフーバー、チャーリー、そしてマリオ・バンディーニもまたエリア88きってのエースパイロット達であった。

チャーリーはエリア88で片手の数ほどもいない契約期間満期をもって帰国できた腕利き、マリオはイタリア空軍の曲技飛行隊「フィレッツェ・トリコローリ」でソロ飛行を任されていた凄腕パイロットだ。

だがそんな彼女たちをもってしてもネウロイとなったウォーロックは強敵だった。
赤城に搭載されていたT-2を履いた宮藤芳佳が途中から参戦するが、4対1という絶対的優位の状態はウォーロックの火力と機動力を前にはむしろ悪手であった。

「うおっ、危ねえ! ちったあ周り見て飛べマリオ!」

「この弾幕の中で無茶言うな!」

「くっ……大丈夫か芳佳?」

「は……はい、フーバーさん。」

周りを見れば焦り始めているのがわかる。2mほどのネウロイというには小柄なサイズから大型ネウロイに近しい火力と弾幕で4人を寄せ付けないのだ。ダメージは与えているがやはり致命傷には至らない。

フーバーすらもが焦りを感じていた。

(このまま戦闘が長引くのはこっちが不利だ……だが相手の火力と持続力を放置すれば被害が基地だけでは済むまい……どうすれば……)

思考を張り巡らすフーバー。だがそこに1発の弾丸がウォーロックに直撃した。
バランスを崩したウォーロックはそのまま海へと落ちていった。


ストライクウィッチーズとエリア88の混成編成のウィッチ達が続々とに空に飛び上がる。

由也が飛び上がった時点でウォーロックはリーネの狙撃で海中に没していた。

 

芳佳を見つけた由也はまっすぐ飛んでいく。

 

「芳佳!よかった、無事だな!」

 

「わわっ、由也さん!それにみんなも!……って由也さんその呼び方……」

 

「あっ……まぁ、そのなんだ……アレ読んだんだろ。」

 

「ていうことは……やっぱりあれは全部本当のことなんですね。」

 

「そ……そういうことで……」

 

なんだか喋りづらい雰囲気になりよそよそしくなる。そこにハルトマンが後ろから2人に抱きついてくる。

 

「なにソワソワしてんのさ2人とも!」

 

「おわっ、ハルトマン!?」

 

「は、ハルトマンさん!?」

 

「2人の関係がなんであれいつも通りでいいじゃんかさ、こういうのって。」

 

「……ハルトマンのそういうところは見習うべきなんだろうな。」

 

「ちょっと何さ、そういうところって。」

 

「お気楽なところがメリット&デメリットってことさ。」

 

いつもと変わらないやりとりに芳佳は思わず笑い転げる。それにつられ由也とハルトマンも笑い出した。

そんな3人に苦笑しながらミーナが近づく。

 

「ほら3人とも、まだおわってないわよ。」

 

「……ネウロイが浮上してきます。」

 

サーニャがそう言うと水中からウォーロック__いや、もっと巨大な何かが浮上してきた。

それは空母赤城と合体したウォーロック、さしずめ空母ウォーロックといったところだろうか、といった具合の物体だった。

 

「地上空母の次は空中空母のお出ましだ……ゲテモノと戦うことしかできんのかね俺らは。」

 

「言うなミッキー、今回は直掩のホーネットがいないだけ楽チンだぞ。」

 

「むしろホーネットは味方にいるしな!」

 

「やめてくれ……」

 

巨大な敵のご登場だというのにひどく緊張感のない会話をする元傭兵達。その悪い空気がうら若きウィッチ達にも伝播する。

 

それを諫めるように老練たる指揮官の声が飛んできた。

 

「お喋りはそこまでにしろ。こちら空中管制機AWACSバッカニア、ラウンデルだ。こちらでも空中空母型ネウロイの反応を確認した。」

 

「ラウンデル少佐、こちらはストライクウィッチーズのミーナです。私と坂本少佐の固有魔法でネウロイのコアの位置を調べましたが……位置は空母赤城の機関部、外からは破壊できそうにありません。」

 

「なんと……サキ司令。」

 

「うむ……厄介だな。こちらの空対空ミサイルでは艦船への攻撃はまともに効かない上にこれか。」

 

現在のエリア88およびストライクウィッチーズの装備は空対空装備メインとなっている。強いて言うならばグレッグらグリーンセクションの3機が空対地装備である無誘導爆弾を満載しているのみだ。

 

行き詰まったかと思った矢先、芳佳が手を挙げた。

 

「はいっ!宮藤芳佳です!私なら赤城の中がわかるので中に入って直接コアを攻撃できます。」

 

「私も行きます!」

 

「赤城の内部なら私も多少はわかりますわ。同行いたします。」

 

リーネとペリーヌも突入組に参加する。

 

「決まりですな。エリア88、ストライクウィッチーズ各機で3人の突入を援護。全機攻撃開始!」

 

『了解!!』

 

真っ先に飛び込んだのはハルトマンだ。固有魔法「疾風」を使い回転しつつ超音速で空母ウォーロックの側面をえぐり取る。その後に続いてバルクホルンも2丁のMG42を連射しながら装甲を削り、攻撃手段を減らしていく。

 

グレッグらグリーンセクションが上昇したと思うと反転し急降下爆撃を行う。合計15トンにものぼる爆弾の雨が降り注ぎ空母ウォーロックの飛行甲板を吹き飛ばす。さらに40mmと20mmの機関砲で追撃し艦上構造物を跡形もなく削り取る。

 

その他も負けてはいない。シャーリーとルッキーニのペアにフーバー・チャーリー・マリオのホワイトセクション、ミッキー・セラ・グエン・ゲイリーのブルーセクション、そしてサキと由也の2人の編隊も空母ウォーロックの周囲を囲むように飛行しつつ熾烈に攻撃を加える。

 

遠くからはエイラとサーニャがそれぞれ攻撃と回避に専念しフリーガーハマーで砲撃している。

 

蜂の巣同然にボロボロにされた空母ウォーロックの攻撃の手がだいぶ薄くなってきた。

 

「今だ!やるぞルッキーニ!」

 

「行っちゃう?」

 

シャーリーがルッキーニを掴むと高速で回転する。そして__

 

「行っけー!ルッキーニ!」

 

「ヤッホォー!」

 

空母ウォーロックに向かって思い切り放り投げた。ルッキーニは前面にシールドを張りつつ固有魔法の「光熱」で威力を高める。

高速の弾丸となったルッキーニが空母ウォーロックの艦首を切断する。これで突入口はできた。

 

3人が穴を目指すがそれをさせまいと空母ウォーロックも光線を撃つ、が3人を覆うほど巨大なシールドがそれを防いだ。由也だ。

 

「入るまでは俺が守る!そっから先は力を合わせていけ!」

 

「はい!」「わかりました!」「もちろんですわ!」

 

「ふ……芳佳のことを頼んだぞ、リーネ、ペリーヌ!」

 

切り口までたどり着くと由也は反転して離脱、3人はそのまま中に入っていった。

 

通路の一部は隔壁が閉まっており、芳佳やペリーヌの銃では破壊できない。リーネの対装甲ライフルでこれを破壊する。だが空母ウォーロックは通路の中にも光線砲を作り出し、リーネと芳佳の銃を破壊する。

 

なんとか狭い通路で光線を避けながらも進んでいき、機関部に繋がる隔壁にたどり着く。しかしやはりか残ったペリーヌのライフルでは歯が立たない。

 

「最後までとっておくつもりでしたのに……"トネール"!」

 

ペリーヌの固有魔法の雷撃が隔壁を破壊し、中に入る。そこに鎮座するコアはあまりにも巨大なものだった。由也が見れば「原子炉か何かか?」と言うであろうそのサイズは今ここにいる全員が持つ武装を使っても破壊できないだろう。

ペリーヌのブレン機関銃や雷撃魔法、まして空対空兵装のAIM-9サイドワインダーでは傷一つ付けれない。

 

ふと芳佳の頭の中に父の声が聞こえてきた気がした。

 

 

 

ーその力を多くの人を守るためにー

 

 

 

(ストライカーをお父さんがそのために作ったのなら……)

 

考えはまとまった、覚悟も決めた。ならばあとは実行するだけだ。

 

「リーネちゃん、ペリーヌさん、私をキャッチしてくれる?」

 

「芳佳ちゃん?」

 

「何をする気ですの、宮藤さん?」

 

芳佳が天井いっぱいまで上昇すると反転する。

 

「ありがとう。」

 

そうストライカーに言うとフルブーストでコアに向かってストライカーを()()()()()

芳佳は空中でリーネとペリーヌにキャッチされ、打ち出されたT-2はAIM-9とエンジンの爆発でコアを粉砕する。

 

 

 

 

 

空母ウォーロックが崩壊を始める。穴だらけになった空母ウォーロックの中からリーネとペリーヌに抱き抱えられた芳佳が出てくる。

 

「芳佳!やったか……やったぞあの子!」

 

「やってのけたのか……すごい子だな。」

 

「やるじゃないあのちみっ子!」

 

「いや、今のセラもそのちみっ子の仲間入りだぞ……まあ、たしかにたいしたものだよあの子。」

 

「お、マックからのお墨付きがもらえたか!こりゃ勲章ものだぞ!」

 

ワイワイと全者全様に反応する。とくに芳佳がネウロイを撃破したことはエリア88のメンバーの彼女に対する印象を変えるものだった。

 

突然、対岸のガリアを覆っていた暗雲が晴れた。

ガリアのネウロイの巣にあったコアが空母ウォーロックに移乗していたのだ。それが撃破されたった今ガリアが解放されたのだ。

 

「ガリアが……私の故郷が……ついに解放されたのですね……!」

 

「ああ……やったぞ……皆……!」

 

ガリアに生まれた2人が感極まり、周りにいた者も感嘆の声を上げる。

これで全て終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝手に終わるなぁっ!!」

 

突然1人のウィッチが割り込んでくる。この距離に来るまでだれも気付けなかった、レーダーにも反応しなかったなどあり得ない。

 

「全機警戒しろ!レーダーに1()0()()の機影を確認した!あと10秒で会敵するぞ!」

 

「10!? 11の間違いじゃないのかラウンデルのオッさん!目の前にすでに一機いるんだぞ!!」

 

「いや……こちらで確認できているのは10機だ!」

 

「言い合ってる場合か!来るぞ!」

 

さらに10人のウィッチがやってきて先にきたウィッチの周りに滞空する。先にきたウィッチのストライカーは見たことのない物だが、後から来た10人のものはシャーリーの履くF-15(イーグル)に近い形をしていた。そして全員の特徴として垂直尾翼パーツに水色の角ばった∞のマークが付いている。

 

そしてこのウィッチ、由也のよく知る__いや、忘れられない顔であった。

いやウィッチという表現も正しくない。そう、彼は__

 

「お前……スズヤか!」

 

「スズヤって……あのスズヤさん!?」

 

ストライクウィッチーズの面々の記憶にも新しい。好青年といった風貌の彼がストライカーユニットを履いて自分達の前に立ちはだかるとは夢にも思わなかった。

それもその魔法力の強さ、芳佳や由也のものを遥かに上回るものである。

 

ただ1人、スズヤの本性を知る由也が銃を向け警戒する。

 

「お前今更なんのつもりだ?」

 

「由也……お前のせいで僕の計画がメチャクチャになったんだよ。わかるだろそれくらい?」

 

「知るかよ、お前の自業自得だろうが。下らないハーレム願望なんて捨てちまえ。」

 

「下らない……?下らないっていったか人の夢を!」

 

「下衆な野望が下らない以上の物であるもんか。自分のやったこと振り返りやがれ。」

 

「この……ベッドの上でアヘ顔晒してイキ狂ってた女が生意気言いやがって!」

 

スズヤが本性を現した。綺麗な顔を醜く歪ませ由也を罵倒し続ける。

 

「ちょっと押し倒して弄ればホイホイ股を開く売女が偉そうな口きいてんじゃねえよ!またブチ犯してやろうか、ええ!? そもそもなんで魔法力の無くなったお前が空を飛んでるんだ……どういうチート使ったんだお前!? 僕のことを散々嫌ってたくせになんだ、やっぱりお前も同じじゃないか!」

 

「お前いい加減に……」

 

由也が喋りかけた瞬間、スズヤの脳裏に自分が撃たれるビジョンが視えた。これも彼が転生の際に神さまからもらったという特典の一つだ。この程度の攻撃難なくシールドを張って防ぐ。

 

だが誰が撃ったのか。

 

由也は驚いた顔をして振り返る。スズヤも信じられないといった顔をしている。

 

怒気をはらんだ顔をしたミーナがMG42をスズヤに向けている。銃口からは薄く煙が上がっているではないか。

スズヤはまさか彼女が人に向かって銃を撃つことがあるとは思わなかった。だがそれはあくまでも彼が作品としてのミーナしか知らなかった故だ。彼女達とて正規の軍人だ、人を撃ったことはないが撃つ訓練はいくらでもしてきた。むしろネウロイとの戦闘こそ人間との戦闘の延長なのだ。

その訓練を受けてないのはリーネと芳佳くらいだ。

 

由也としては撃たせたくなかったが、撃てないという道理は無い。

 

そして聡明な彼女は由也があの状況に追い込まれた原因が彼であることに気付いた。ただミーナだけではない、この場にいる全員が由也の背中の傷の原因を理解した。

 

「あなたが……あなたが由也を!」

 

「なるほど……綺麗なのは顔だけということか。」

 

サキも顔には出さないが相当にキレていた。それを皮切りに続々と怒りが連鎖爆発を起こす。

 

「なあ由也、あいつ1発殴ってもかまわんよな?」

 

「グレッグ……せめて俺がやってからにしろ。」

 

「おう、俺も混ぜろよ。やってやらなきゃ気が済まねえぞ。」

 

「俺もだ。久しぶりにキレちまったよ。」

 

「私も混ぜなさいよ、弟分に手を出したこと後悔させてやるわ。」

 

「そっちだけで盛り上がるなよ、私にもやらせなよ。」

 

「総勢20人ちょっとからかぁ、それだけで死ねそうだね。」

 

こうは言ってるが普段は温厚なハルトマンすら本気で怒っているというのが雰囲気でわかる。全員の殺意がこれまでにないほどに高い。

思わずスズヤがヒッと恐怖の声を上げる。

 

「全機攻撃準備、奴ら1人とて残すな。」

 

「リーネさんは宮藤さんをつれて基地へ、そのほかはエリア88を援護をします。」

 

「「攻撃開始!」」

 

「っ! インフィニティーズ、応戦!」

 

21対11、後の世に『バトル・オブ・ブリタニア』と呼ばれる大空戦の幕開けだった。

 

 

 

 

 

いきなり正面切ってのミサイルの撃ち合いでは奇跡的にも被害が出なかった。エリア88とストライクウィッチーズの練度の高さが相当な物であるのはわかり切っていたが、このインフィニティーズと名乗るプロジェクト4側の部隊も近いレベルの実力を持っているのは間違いない。

もしプロジェクト4の全ての部隊がこのような実力の持ち主ならば今後の戦い方には気を付けなければならない。

 

 

 

だがまずは目の前の戦闘に集中しよう。

 

 

 

バラバラに散開した2部隊は各々近くのウィッチとロッテを組んで戦闘に移った。

 

ミッキーとチャーリー、マックとシャーリーでロッテを組み、2人のウィッチを相手取る。

 

インフィニティーズの主要ストライカーユニットはF-15E、シャーリーのF-15に近い性能を誇る。かなりの強敵だ。

 

だが機体性能ならば負けていない。F-14、F-15、F-16、F/A-18とナンバリング機体が揃っているのだ。ましてその腕前は普通じゃない。

 

「くっ、なぜ勝てない!? 私達の方が高性能なんだぞ!?」

 

敵のウィッチが呻く。ハイヨーヨーで旋回しながらもミッキーがそれに反論する。

 

「バカめぇ、こっちは人生2回分も空を飛んでんだ! お前らみたいな戦争も飛行もペーペーな奴らに落とされるかよ!」

 

「私まで一緒くたにされるのはどうなんだか……」

 

シャーリーも相手に追従すべくハイGターンで速度の落ちたF-15Eの側面に回り込みつつ銃撃を加える。

しかし相手も上手だ、シールドを張りながらも降下して失った速度を稼ぐ。バレルロールアタックでシャーリーの後ろを取り、ロックオンする。

 

しかし簡単にはいかない。マックの下から突き上げるようのミニガンの斉射でF-15Eは引き剥がされる。

 

「すまない、助かった!」

 

「気にするな。」

 

一言交すと編隊を組みなおし、再度攻撃に移る。

 

 

 

ミッキーとチャーリーのコンビはより過激だった。大型ストライカーのF-14とは思えぬ機動でミッキーがF-15Eを翻弄し、隙ができた瞬間にチャーリーがF-16の素早い動きで攻撃を仕掛ける。

 

シザース、バレルロール、シャンデル、スプリットS……あらゆるマニューバをするもまったく引き剥がせない。

 

もっと恐ろしいのはこれだけのハイG機動をしているにもかかわらず、本気の殺し合いの最中だというのに2人とも生き生きした顔をしているのだ。

 

「どうしたミッキー、すこし動きが鈍いぞ。愛妻料理を食いすぎて太ったか?」

 

「言ってろ! むしろ毎日飯が旨くって人生が楽しいよ。」

 

軽口を叩きながらも的確にF-15Eを駆るウィッチを追い込んでいく。インフィニティーズのナンバー3であることがプライドであった彼女の心は恐怖で満たされていた。

 

 

 

グレッグとエイラ、随分と珍しいコンビが出来上がっている。お互い合わせることでもなく、だがその連携は何度も共に戦ってきた仲のようなものだった。

 

遠ざかろうとすればエイラが攻撃し、ならばこちらから出ればグレッグがその高い火力で粉砕せんとする。

 

「おらおら、さっきまでの威勢はどうしたぁ!」

 

グレッグが40mmもの大口径の機関砲を向けながらF-15Eを追いかける。

 

かなりの低速、低空に追い込まれてしまいもう下には逃げられない。下手に曲がれば余計にエネルギーを失って墜落しかねない。

 

グレッグのA-10は近接航空支援用で空戦には向かない。だが低速低空域であれば話が別だ。事実元の世界においては演習にてF-22を落とした事実もあり、そこにグレッグの実力が合わさればF-15Eの一つや二つなんのそのだった。

 

さらにいうならばグレッグとて長く遷音速の攻撃機で対空戦もやってのけていたのだ。A-4にはじまりA-10まで、そういった機体で小型軽量のMiGを相手取っていた。

 

垂直上昇でなんとかグレッグの追手から逃れる。速度と上昇力なら負けるはずがない。

 

だがその先にはエイラが待ち構えていた。ヘッドオンで撃たれてはたまったものではない。

 

「化け物め……!」

 

「お前だけには言われたくないんだな!」

 

エイラの正確すぎる射撃をシールドで防ぎつつインメルマンターンで逃れようとする。

 

そして予知能力持ちのエイラだ、勝ち目がまるで見えない。

 

 

 

グエンに引きつられたマリオとルッキーニの2人が高速で空をかける。2機のF-15Eがそれを追うように白線を描く。

 

「ほらほら、その程度かい?」

 

「鬼さんこちらー!にゃはは!」

 

しかしトリッキーに飛び交うマリオとルッキーニはまったく捕まえられそうにない。シザースかと思いきや急にエルロンロールし始め、突然急上昇したかと思えばハンマーヘッドターンですれ違う。

おちょくるような言葉でインフィニティーズのウィッチの神経をひたすら逆撫でする。

 

「おらお前ら少しは真面目にやれ!」

 

「「はーい。」」

 

グエンはそういうが、彼女も大概な機動をする。小回りこそ効かないが推力をフルに活用して上に下にと相手を振り回している。

 

そしてついに立ち位置が逆転する。

 

スライスバックで速度を稼ぐと体を90度傾けてハイGターンで後ろにつく。鬼ごっこはもう終わりだ。追いかけられる気持ちというのをわからせてやる。

 

 

 

ハルトマンとフーバー、この2人は何度か顔を合わせたことがある。正確にはバルクホルンやミーナもなのだが、フーバーは特にハルトマンのことを手塩にかけて面倒を見ていた。

 

一番はガランド中将やメルダース中佐、ロスマン曹長らが目をつけていたというのがある。そしてフーバーもまた彼女がエースになるということはよくわかっていた。

もう一つは前世、"彼"であった時にフーバーが尊敬した人物であったのもまたハルトマンという名のエースであったからだ。その人物はフーバーが軍に入った時には退役していたが生ける伝説であったことに違いはない。

 

彼女もまたその伝説を作るのならば隣に立ちたいと願い、鍛え上げていたのだ。

 

そしてこの2人が力を合わせたその実力は他の誰をも寄せ付けぬほどだった。

 

フーバーはハルトマンの実力に合わせて自由にとばさせる。ハルトマンもフーバーの動きに合わせて彼女の動きやすい位置に敵を誘導する。

 

ハルトマンの攻撃を防ぎなんとか離れたと思えばフーバーがその先に回り込む。F-15Eを駆る彼女は自分がまるでクモの巣に引っ掛かった獲物のようなドツボへとハマっていることにまだ気づけないでいた。

 

 

 

一方でバルクホルンはセラとロッテを組んでいた。2人のF-104は要撃機であり格闘戦の得意な機体ではない。しかし速度と上昇力では目を見張るものがあった。

 

その特性を知り得ている彼女たちに恐るもにはなかった。

 

1人が囮となり、もう1人が攻撃する。攻撃している方にターゲットを変えようとすると速度で振り切り視界から消え去り、2機同時に攻撃を仕掛ける。それを避けるとまた振り出しに戻る。

 

現にセラがウィッチに追いかけられているがその顔は余裕そうだ。

 

「ふふふ、どうしたの? 何世代も前の機体にも追いつけないのかしら?」

 

「くっ……バカにするな!」

 

旋回するセラをハイヨーヨーでオーバーシュートせぬよう追い詰める。しかし__

 

「あら、そんな私に熱心で良いの?」

 

「! しまっ__」

 

「そこだぁぁぁぁぁ!!」

 

バルクホルンが急降下し突撃してくる。電動鋸と言われるほどの連写速度を誇る銃、それも2丁から撃たれるのだ。急いで逃れようと急上昇するがそれこそ思うつぼだ。

 

セラとバルクホルン、2人分の攻撃が一気に集中する。無理やりフラップを全開にしたピッチロールで逃れるがエネルギーも一緒に失う。

 

2人を相手にするにはこのウィッチには荷が重かった。

 

 

 

サーニャ、バクシー、キャンベルと3人1組のセクションとなりF-15Eと渡り合う。が、格闘戦向きだが遷音速のA-4と格闘戦に不向きなマッハ3級のMiG-31、戦うにはどちらも合わせにくい。

 

「バクシー、そっち行ったぞ。」

 

「バカバカ、こっちに来させんなって!」

 

油断していたバクシーがF-15Eに追いかけられる。キャンベルも追いかけはするがやたらめったらに逃げ回るものだから捉えられない。

 

するとキャンベルの後ろからサーニャが追い越してくる。手にしたフリーガーハマーで砲撃する。

 

防がれこそするが爆風でバランスを崩させることに成功する。__ただしバクシーを巻き込んだが。

 

「お前ぇぇぇぇぇ!!」

 

「す、すみません。」

 

キャンベルは大爆笑していた。

 

 

 

坂本とサキ、そしてペリーヌの戦い方は周りとは一線を画すものだった。

 

片手に銃を、片手に剣を。寄って斬り、斬れねば撃ち、撃たれれば避ける。その戦いは他の誰よりも優雅で美しく、鋭かった。

 

3対2、サキ達が優位に立っていながらもインフィニティーズのウィッチ2人が長く持ち堪えているのは片割れがナンバー2__この部隊の副隊長であるからだろう。

 

サキからの斬撃を紙一重で回避しながらも副隊長であるウィッチは叫ぶ。

 

「隊長のもとへは……行かせない……!」

 

「……解せんな。 なぜあのような男に忠誠を誓う?」

 

「隊長は親を亡くした私を拾ってくださったのだ。父はネウロイに殺され、母は医者に診てもらえず病気で死んだ……そんな私を……どんな理由があれ、その恩には報いる。それに……」

 

ギッとサキを睨みつける。

 

「我らの総帥には平和を作る算段がある! 世界の平和のためにも私達は負けられない!」

 

そう言うと2人は懐からナイフを取り出してサキとペリーヌに突き立てようとする。

 

それをサキはシャムシール(曲刀)で弾き、ペリーヌはレイピアでいなす。その隙をついて坂本が刀を振り下ろすが、ナイフで受け止めて唾ぜり会う。

 

「その算段というのがどういうものか知らんが……そのために戦争や犠牲を出そうなど言語道断!許されるものか!」

 

「すぐにわかる!人の本質が闘争にあると!」

 

銃を逆手に持ち、銃床で坂本を殴りつけようとする。鼻先かすめながらも避けるがバランスを崩し少しよろける。それをサキが優しく受け止める。

 

「本当にそう思っているならお前も相当な阿呆だということだ。」

 

「なんだと……」

 

「私達は国境を越えて人類のために戦っているのですわ。それを見てなおそう言えるのならおバカさん以外何でありまして?」

 

「人と手を取り合うのが困難だというのならそれも可能にするのがウィッチというものだ。貴様たちが不可能だというのなら私達がそれを成す!」

 

「目の前のものを正しいと信じることしかできないならば私がその正義を否定する。かかってこい小娘、貴様の幻想を破壊してやる!」

 

 

 

ヒビノ・スズヤ……日々野 寿夜は前世では空戦ゲームでトップの腕前をもつプレイヤーだった。どんなオンライン戦でも史実のエース級のキルレートを誇り負け知らず。そういう人間であった。

 

だから慢心はしている。それでもなお歴戦の勇者であるミーナと由也を相手取れるのはひとえに彼の実力だけではなかった。

 

ミーナがスズヤの後を追うが狙いが定まらない。

 

「くっ……レーダーに映らない!?」

 

「無理に追いすぎるな! そいつはステルスだ、無闇に戦えば逆に食われるぞ!」

 

F-22 ラプター__読者の中にも知らない人の方が少ないであろうほど有名な戦闘機だ。第五世代ジェット戦闘機の代表格とも言える機体で高いステルス性と機動性を併せ持つ。その総合性能はSu-27(フランカー)8機分にも相当すると言われている。

 

それを使用しているのだ。いかに機動性と安定性が大きく向上したT-2CCVやF-4でも近接戦となってもなお劣勢を強いる状況だった。

 

「ははははは! そんな動きで僕を落とそうなんて!」

 

「チッ、調子に乗って……!」

 

由也が悪態をつく。しかし攻撃が当たらないのは事実だった。由也とミーナの分を足してもなお届かないほどの強さを誇る魔法力に予知能力、2つの"転生特典"が由也達を追い込んでいた。

 

急激な宙返りでミーナの上をとると手に持ったM16アサルトライフルで背中を狙う。

 

体を捻って避けるが、腕に擦り顔をしかめる。

 

「ミーナ!待ってろ、すぐ治す!」

 

「由也……!?」

 

由也がミーナに近づき、傷口に手をかざすとみるみる塞がっていく。芳佳と同じ強力な治癒魔法だ。それを見てスズヤは驚愕する。

 

「お前なんでそれを使えるんだ!?」

 

「さあな、血縁だからじゃないか?」

 

さらに驚いた顔をするとすぐに怒りに変わる。手を震わせ頭に血が上る。

 

「ふっざけるな!なんだその設定は!」

 

「知るか!母さんに言えっての!」

 

射撃を全てエルロンロールで回避する由也。

 

戦い方を模索しつつもその動きの鋭さは以前よりも増していた。




どうも、今回も読んでいただきありがとうございます。
アンギラスです。

とうとう奴との戦いがスタートしましたよええ。次回では完全にスズヤと由也・ミーナペアの空戦に集中する形になります。そのためにウォーロックは犠牲になったのだ……

ヘイト溜まりすぎてそろそろ殺らないと俺が読者様方に殺られそう。

ちょっとした解説話

♦︎F-22 ラプター
誰もが知ってる星条旗の守神。推力偏向ノズルと空力重視の設計でF-15を超える運動性と機動性を叩き出すとんでもねえステルス戦闘機です。

アラスカで行われたノーザンエッジ演習においては144戦全勝0敗0機被撃墜の戦果を叩き出す実力を見せつけます。しかしこれは視野外戦含めての記録。

格闘戦という話になると意外にも敗戦は多くタイフーン戦闘機やE/A-18G グラウラー、T-38 タロンを相手に敗北している記録があります。中には低空のA-10に喧嘩を売って負けたとかいう話も……しっかりキルマーク付いてる。

次回は近々、されど未定。少々お待ちいただければ幸いです。
ではまたの機会お会いしましょう。


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第20話:Regain her's sky

空中管制機"バッカニア"の中は混乱状態にあった。管制官たちは地上の憲兵隊の指示と空の警戒に追われて初任務にして最大級の忙しさを迎えていた。

「少佐、空戦の方は……」

「そっちはサキ司令達に任せればいい!今は警戒を厳にしろ!奴らの仲間が来たらこっちは一冠の終わりだぞ!」

その最中で指揮官であるラウンデルはレーダーを見返す。いくつもの光点が入り乱れ乱舞している、それから激しい空戦が行われているのがわかる。

そのうち2つが虚無と戦っている。由也とミーナの2人だ。
手探りで戦うかのように見えるが、きっと彼女たちは面向かい戦っているのだろう。

ラウンデルは歯痒さを感じる。自分もあの戦場に向かうことができれば、せめて力になれればと。

だがそうもいかないのがこの世界だ。だからこそ今こうして空中管制機に乗り込み、彼女達をバックアップすることを決めたのだ。

(死ぬな……由也……!)

そう祈りながら自らの責務を全うするのだった。


由也は考えながら戦うパイロットである。それはなにも自分のことだけではなく、周りの人間や相手の動きなどを把握し最善の動きと指揮をする、そういう人間だ。

 

「ミーナ、3秒後に左にブレイク。その後急旋回で俺の後ろに!」

 

「わかったわ!」

 

スズヤに追われ右にターンしているミーナに指示を出す。きっかり3秒で左にブレイク、それの後をスズヤも追う。

 

だがその先に由也が飛びかかる。M1919の弾丸がスズヤに向かうが射線の通らない場所を縫ってギリギリで全て避ける。

 

急上昇してエネルギーを殺すと90度ロールして由也の後ろに降下する。しかしタイミングよくミーナがさらにその後方に回り込む。

 

由也を撃たせまいとMG42が金切り声を上げて弾を吐き出す。

 

そのことごとくをエルロンロールでかわしつつラダーを倒すことで体を横滑りさせてウィッチらしからぬ動きで離脱する。

 

「なんて機動!?」

 

「さすが世界最強と言われる戦闘機だな……!」

 

編隊を組みなおしながらも呟く。

 

高い魔法力で強化された身体能力がF-22の叩き出す機動性の限界を超えて人外的な動きを可能とさせているのだ。UFOを彷彿させるような機動もまたその賜物だった。

 

急激なターンで向かい合うと2人を狙いM16を乱射する。このM16もプロジェクト4の転生者の1人が生産しているものだ。

 

2人は背中合わせになりながら撃ち返し、高速ですれ違う。スズヤはすぐにエアブレーキを展開して180度反転するが、由也とミーナは緩やかなカーブを描いて旋回する。

 

もちろんのごとく後ろをとられる、がそれこそ2人の思惑だ。

 

同時にバレルロールを行いスズヤが前に飛び出す。

 

突然の曲芸に驚きつつもスズヤは急旋回で照準から抜け出す。それに追従するのは由也だ。フラップを下げカナードと尾翼を振り切れるまで曲げてターンする。

 

スズヤの頭を抑えようと銃を小刻みに発射する。どれも左右に揺れて避けられるが、それくらいわかっている。

 

本命のミーナが上空から一気に加速してスズヤに向かって一直線に突っ込む。スズヤは90度ロールして左手を出すとシールドを張って防いだ。それを見てミーナは再上昇してもう一度攻撃するためにループする。

 

「しぶといな……!」

 

「お前だって……!いい加減落ちろよ!」

 

瞬間、スズヤの体が直立したと思うと由也を追い越させほぼその場で一回転する。一瞬のうちに立場が入れ替わってしまった。

 

「今の、クルビットか!」

 

「お前相手に使うことになるとは思わなかったよ……僕がここまで追い込まれるなんて!」

 

警報(アラート)が由也の耳にけたたましく鳴り響く。シザース機動で攻撃を避けつつもミーナにさらに指示をだす。

 

「4秒したら垂直上昇する、そこを撃て!」

 

グンッと視界がブラックアウトし、気が遠くなるのを堪え一気に高度を稼ぐ。スズヤもそれに倣うが、ミーナがその背中を襲う。

 

スズヤはまたクルビットと同じ容量でターンしミーナに撃ち返しながら降下していく。

 

「大丈夫、由也?」

 

「安心しなよ、弾ひとつ擦りもしてない。ただミサイルが残ってて撃たれてたらヤバかったかもな……エイラと同じ予知能力持ちな上にストライカーの性能差が激しいのはちとキツい。」

 

そう言いながらスズヤの出方を伺う。レーダーに映らないせいでいちいち目を向けないといけないのは面倒だ。

 

見れば速度を十分に稼いだスズヤがこっちに向かってきている。由也が先行し降下、ミーナが彼女の後ろを守る。スズヤに狙いをつけて引き金を引く、がやはりそれは視えていたかシールドで全て防ぐ。あとはこれで自分に狙いが行けば__由也はそう考えたが、スズヤが予想外の行動に出る。

 

「そっちが邪魔なんだよ!」

 

「なぁっ!? ミーナ、逃げろ!」

 

スズヤは由也を無視してミーナの方へと向かう。反転しようにもスピードがのっていて大回りになってしまう。

 

「僕の手で落とした女を手籠にするっていうのも一興じゃないか……由也?」

 

「てっめえ……この下衆が!」

 

高度もだいぶ下がってしまい、ミーナのもとに行くにも時間がかかる。このままでは彼女が危ない。

 

だがミーナとてエースだ。

 

ミーナは目を瞑り、意識を集中する。右手一本でMG42を持つと後ろに向けて撃ち始めた。その攻撃はどれも驚くほど正確なものだった。

 

「……さすがに、強化しても片手で撃つのは難しいわね。」

 

そう言いながらも予知能力さえなければ当たっているはずの攻撃ばかりだ。これにはとあるタネがあった。

 

空間把握、それがミーナの固有魔法だ。目では見てなくともどこにだれがいるのか、それを全て正確に瞬時に把握することができる。なにより固有魔法である以上、ステルスなど関係なしに見れるのだ。それを使えば直接見ずとも狙い撃つことなど造作もないことだった。

 

問題は集中しなければ使えないということだが、正確な射撃でそもそも反撃すらさせぬ状況だった。

 

徐々に高度を上げ、太陽に向かって上昇する。スズヤがミーナを追った時、それが罠だと察した。

 

(!? 弾道が……!?)

 

予知能力で視れるミーナから撃たれるであろう弾道、それが太陽光線で飽和しどれが"予知"でどれが"光"かわからなくなっているのだ。

 

ミーナが反転ししっかりスズヤを捕捉し狙いをつける。

 

経験の浅いスズヤに実戦の勘なんてものもない、ただ訳もわからずロールしながら左に進路を変えた。

 

ミーナの撃った弾丸はF-22の右フラッペロンとフラップを吹き飛ばす。とうとう彼に一矢報いた瞬間だった。

 

「ぐっ……あんな戦い方をするなんて聞いてない……!」

 

「自分の手の内を見せる奴がいるかよ!」

 

「くそっ、植村由也!僕の邪魔をどうしてもするのか!」

 

「当たり前だ!ミーナを……芳佳を……みんなをお前に汚されてたまるか!被害者なんぞ俺1人で十分だ!」

 

シザース機動でお互い入れ替わりながら2人撃ち合う。そのとき、由也はF-22の尾翼に描かれたエンブレムを見た。リボンのマーク、いや∞のエンブレム。

 

「……なるほど、それがお前のプライドか!」

 

「何がっ……だ!」

 

「"リボン付きのラプター"、前々世でよく見たもんだ。あのゲームは名作だからな、よくわかるよ。」

 

スズヤの攻撃をロールして避けると背面飛行でスズヤの上に並ぶ。

 

「だがスズヤ、お前はああいう"英雄"でも"最強のエース"でもない。ただの犯罪者だ。」

 

「違う!僕はエースだ!誰にも僕は落とせやしない……!何人ものウィッチと戦ってその全てを落としてきたんだ!『1人殺せば殺人者だが100人殺せば英雄』っていうだろ!?」

 

「チャールズ・チャップリンの殺人狂時代のセリフだな。『1人の殺害は犯罪者を生み、百万の殺害は英雄を生む。』」

 

はぁとため息をつき、由也がキレた。

 

「自分勝手な都合のために故事を使うなクソったれ。歴史は悪事の正当化のためにあるんじゃない、悪事の再発防止に努めるために使うんだ。過去の人物も発言を解釈するのはその人物の主義主張を理解するためで自己満足のためじゃない。そのセリフは戦争を皮肉ったものであって人殺しを正当化するものじゃない!自分勝手な理由のために歴史を使うな!」

 

「うるさい!死んだ人間だ、『死人に口なし』って言うだろ!どんな解釈しようが僕の勝手だろうが!」

 

スズヤはバレルロールで由也の後ろに回り込むと由也の背中を狙う。

 

「これで終わりだ由也ァ!」

 

「……こっちのセリフだ。」

 

その時、由也が急上昇したと思うと180度ヨー軸に回転、スズヤの背後を取り返した。以前から由也の得意としていたマニューバがT-2CCVの能力と重なり異常な動きとさせたのだ。

 

距離を詰められ予知しても避け切れることができない。由也は躊躇わず引き金を引いた。

 

だがそこはスズヤも意地になった。ロールして頭に当たるのだけは避けようと体をひねる。たしかにあたらなかったが手に持っていたM16は弾かれ海に落ちていった。

 

「勝負ありだな……スズヤ。」

 

ありえない、といった顔のスズヤと向かい合いホバリングする。ミーナも由也の近くにスズヤを囲むように降りてくる。しかしスズヤの目からはまだ殺意が抜けきっていなかった。

 

「まだ……僕の部下たちが……」

 

「それはどうかな、なぁサキ?」

 

「由也の言う通りだ、もうお前しか残っていない。」

 

気づけば周りで空戦をしていた者もみな残る1人を見つめている。歴戦の勇者たちの前にはどんな最新の兵器も最優というわけではなかったのだ。

 

「今降伏するなら毎日3食寝床付きの少しきれいな牢屋にいれてやる。もう勝ち目は……」

 

「……ざけるな……」

 

「何……」

 

「ふっざけるなこのガキがっ!!」

 

激昂したスズヤが腰に手を当てるとどこからともなく刀が一振り現れた。一閃、由也とミーナの銃が真っ二つに切り裂かれる。

 

「ハァーハッハハハ! お前だけでも道連れだァ!」

 

唐突な動きに由也の思考が一瞬止まる。スズヤの刀が由也の頭に向かって振り下ろされ__

 

「由也っ! っくう……ッ!」

 

「は……ミーナ!? 背中が……!」

 

ミーナが由也を庇うが無理な体勢からのため避けきれず、背中が切り裂かれる。すぐに治癒魔法で治すが、傷がそこそこ深く痛みは相当だったか由也に抱きついて動けない。

 

「ミーナ、なんで……」

 

「好きな人を……もう、失いたくないから……かしら。」

 

ミーナが息も絶え絶えながらも笑って答える。由也の胸がキュッと締め付けられるような感覚に襲われる。

 

彼女にこんな傷を負わせてしまった自分が腹立たしくなる。

 

「坂本、ミーナを頼んだ。」

 

「由也、私達がやる!お前は……」

 

「9割9分俺のつけるべきケジメなんだ。これ以上誰かを巻き込めるか。」

 

「由也お前……」

 

「待て由也。」

 

「止めるなよ……サキ。」

 

「いや、こいつを持っていけ。」

 

そういうとサキは手に持っていた曲刀を由也に渡した。

 

「我が家の宝物庫にあった刀のうちの一つ、『アザラフシュ(稲妻)』だ。戦勝の前祝にくれてやる。きちんと勝ってこい。」

 

「……ああ!」

 

アザラフシュを抜いて鞘を背中にかけるとスズヤの前に再び立ち塞がる。

 

「死ぬ準備はいいか由也ァ……僕1人では死なない、お前を殺して僕も死ぬ!」

 

「そういうのは好きな人に言って欲しいセリフだな。そんな状況になりたくはないが。」

 

由也はアザラフシュを肩に乗せて構えると左手を挑発するようにクイクイッと上げる。

 

「来いよ、今までの分全部利子付きで返してやる。」

 

「やれるもんならやってみろ!!」

 

スズヤが加速して由也を横なぎに切り払おうとする。由也は肩から曲刀を離すと大きくアッパーにふりかぶり刀を上に弾いた。

返す刃でスズヤに斬りかかるが難なく避けて見せる。ならば、と下から突き上げる。スズヤは体をそらして避けると落下して逃げる。

 

由也もそれを追いかけながらも斬りかかる。2度、3度、4度、何度も交差しては鍔迫り合い弾き弾かれ、青空に線を描きながら壮絶な決闘を繰り広げる。

 

焦ったくなったスズヤが再び腰に手をやる。すると今度はリボルバーが現れた。それも由也の愛用していたブラックホークだ。

 

「そいつは俺の! お前か盗んでいったのは!」

 

「死ぬ人間が持つにはもったいないからな!有効活用してもらえるんだ、ありがたく思え!」

 

運悪く由也が追いかけられる形だ。旋回して逃れようとするもブラックホークの銃口が持ち主に向けられる。

 

背中目掛けて撃たれた瞬間、由也が体勢を変えぬまま垂直に浮かび上がり銃弾はあらぬ方向に飛んでいく。

驚愕を隠せぬまま同じ場所に突っ込むとスズヤまでもが突風に吹きつけられバランスを崩した。

 

上昇気流だ。由也は初めからこれを狙っていた。先の戦闘の最中に気流の流れる位置を把握しわざと誘導していたのだ。

 

由也はエンジンを絞って気流に身を任せ流れるが、スズヤは逆に炊いてなんとかしようと焦る。そこで差が出た。

 

スズヤがなんとか体勢を立て直そうとするがうまくいかず気流に流される。

そうしてるうちに由也が気流を抜けて反転し直滑降しながら曲刀を振り下ろした。

 

推力偏向ノズルをやたらめったらに動かし回転することでなんとか避ける。

 

 

 

しかし次の一撃で全てが決まる。

 

 

 

由也とスズヤ、2人が向き合う。お互いバーナーを最大にふかして突撃する。

 

「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」

 

由也が袈裟斬りに、スズヤが横なぎに構え飛びかかる。

 

だが由也の行動を全て視ているスズヤがそんな馬鹿正直に突っ込むはずがなかった。

 

(フン……避けながら体を真っ二つにしてやる!)

 

ロールしようとエルロンを動かすスズヤ。だが思った通りに曲がらない。なぜと足元を見た時、ハッとなって自分にストライカーがどういう状態か思い出した。

 

ミーナの攻撃で右のフラッペロンが吹き飛んでいたことを失念していたのだ。さらに気流で巻き上げられた分に追加し自ら加速したためにロールが余計鈍くなっている。

 

もう避けられない、目の前だ。

 

由也とスズヤ、2人の刃がぶつかり合い__

 

「__あ?あああああああ!!??!」

 

スズヤの刀が中程でへし斬られ、体が斜めに紅く染色される。由也が血を払いながらスズヤに近づく。

 

「さて……なにか言いたいことはあるか?」

 

「し……死にたくない……死にたくない……」

 

「この期に及んで……いい加減覚悟を決めろ。今までそうやって殺してきたなら殺される覚悟くらいしてるだろ。」

 

「いやだぁー!死にたくない!助けてくれ!」

 

背中を向けて逃げようとするスズヤの首根っこをひっ捕まえて引き寄せる。

 

「喚くな喧しい。さっさと……」

 

アザラフシュを鞘に収めると右手を引き__

 

「地獄にいって来い。」

 

__思い切り顔面をぶん殴った。

 

悲鳴もあげれずスズヤは海に落下し二度と上がってくることはなかった。

 

「俺の空……たしかに返してもらったぞ。」

 

 

 

 

 

「レーダーの反応なし、もうなにも来ないな。」

 

「はい、もう大丈夫です。」

 

ミッキーとサーニャが固有魔法や長距離レーダーで周りを見渡す。もうプロジェクト4の増援もマロニー派の連中の攻撃もなかった。

 

「よし……今度こそ作戦終了だ。みなよくやった。」

 

「エリア88、ストライクウィッチーズ全員へ、帰投します!」

 

「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」




読んでいただきありがとうございます。
アンギラスです。

次回にてとうとうシーズン1最終話となります。その後はシーズン1.5として色々と絡ませたりする予定ではあるので終わる気はまだないですからご安心を。

や……やっとこさ逝った……さらばスズヤ、お前の悪行はある意味伝説だったと思う。(視野外からの射撃で由也撃墜、マロニーを唆し由也を死刑囚に、由也の強姦……うーんこの)

次回も早くなるかそれとお遅くなるか……バイト中に水分不足で頭痛に悩まされてるので早ければ早くなる、としか。喉潰れそう。
ではまたの機会にお会いしましょう。


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エピローグ:私にできたこと

おっと何を期待した?

私です、作者のアンギラスです。
趣味で前書きに後書きを書こうと思います。決して好きなラノベ作家の真似っこじゃないです、ええ。あのスタイル好きですけども。

エリア88の原作、OVA、アニメとストライクウィッチーズの1,2期、映画を一気観したノリと勢いで始めたこの作品も途中何人か振り落としつつ、気づけばアニメ一期の最終回を超えてこれがエピローグ。ここまでお付き合いいただいた多くの読者様には感謝してもしきれません。

あ、まだまだ終わりませんよ?書きたいことが山ほどあるんです
なので次章からはゲーム&オリジナルシナリオ時々ワールドウィッチーズ編といった感じになります。

今回はのんびりと会話をするだけの回になりますが最後までお付き合いください。


ウォーロック暴走事件を受けて軍の上層部もやっとこさ重い腰を上げた。マロニー大将以下彼の派閥にあった将兵の多くは更迭され、マロニー大将本人もまた軍を追われることとなった。

 

空いた第501統合戦闘航空団総司令官の座にはカールスラントのアドルフィーネ・ガランド中将がつくことになった。

 

そして何より、ガリア解放の一報は一気に世界中を駆け抜けた。エリア88とストライクウィッチーズの活躍によりネウロイの巣が破壊され、希望が生まれたことが大々的にニュースに取り上げられた。

 

エリア88もガリアへと基地を移動することになるのだが、まだ建設が始まったばかりで動けない。そのためしばらくは第501統合戦闘航空団基地に残ることとなった。

 

部隊を超えた交流はいい経験になるかと思われたが意外にも顔見知りが多いようだ。

 

「その……グエン中尉、ご無沙汰してます。」

 

「何かしこまってんだよ、お前の方が階級が上じゃねえか。もっとシャンと胸をはれ。」

 

「はっはい!」

 

あの坂本が頭が上がらない相手、それもそうだ。過去にグエンは教練のために扶桑海軍・陸軍に籍を置いた時期があった。その際によく翼を共にしたのが訓練生時代の坂本達だった。

 

扶桑海事変にまで巻き込まれながらもアジア人エースの1人として名を馳せたグエン、前線人間のため階級がまったく上がらない(というよりも自分から上がろうとしない)が今なお坂本達からは敬意と畏怖を込められている。

 

 

 

「お久しぶりです、フーバー少佐。」

 

「元気そうで何よりだ、ミーナ中佐。気づけば階級も追い越されてしまったな。それにバルクホルン大尉とハルトマン中尉も。」

 

「あー、えっと……その……お久しぶりです。」

 

「おいハルトマン、上官に向かってなんだその返事は!」

 

「いいんだバルクホルン大尉。最も厳しく訓練をさせていたのは私がよく知っている。」

 

フーバーは笑いながら喋る。実際フーバーはハルトマンを稽古付けるためにかなりの無茶な飛び方をした。曲技飛行(アクロバット)も真っ青な高G機動にぶつかる寸前なまでの超低空飛行、一歩間違えれば死にそうな異常接近状態での編隊飛行まで行い、戦技においても限りなく実戦に近い形式での訓練を何度もさせていた。

 

そのおかげでハルトマンの実力はカールスラント4強と言われるほどとなっているのだが。

 

 

 

グレッグがエイラの頭を乱暴にぐしゃぐしゃと撫で回す。グレッグとバクシーはエイラの姉であるアウロラと戦友の仲、エイラとは姉を巻き込んでの(というよりお互い巻き込まれてか)知り合いだった。

 

「なんだ、俺よりでっかくなりやがってこのこの!」

 

「ちょっ、グレッグ……や〜め〜ろ〜!」

 

「おいグレッグ、そこまでにしてやれ〜……」

 

「エイラ……大丈夫?」

 

グレッグに揉みくちゃにされるエイラ。それを外側からバクシーとサーニャが他人事に心配する。

 

だがエイラもどこか嬉しそうだった。

 

 

 

賑やかさで埋まるミーティングルームにさらに数人が合流する。戦闘後から一日かけて精密検査を行なっていた由也、それに付き添っていた芳佳と司令部からの通達などを受け取っていたサキ、ラウンデルだ。

 

由也に気づいたミッキーとセラ、シャーリーとルッキーニが真っ先に飛んでくる。

 

「よっ、賑わってるじゃないの。」

 

「由也、もういいのか?」

 

「もちろん、この通り健康体だし体になんの異常もないよ。」

 

そういうと腕を回して自分の調子の良さを強調する。

 

「しかし見た時ビビったぞ、背中血だらけなんだから……」

 

「というか一回確実に死んでたわよね……何で生きてるのよ。」

 

「セラ言い方……まぁ俺も正直夢でも見てたんだと今でも思ってるけど、友人に背中叩かれてさ。」

 

「由也の友達?」

 

「そっ……ルッキーニとシャーリーは名前しか知らないんだったな、あいつのこと。 "風間 真"」

 

それを聞いた瞬間、エリア88の面々の顔つきが変わった。

 

「由也、今なんて言った?」

 

「一回死んだ時に真に会った……しかもあいつ『また会おう』だなんて言いやがった。」

 

「由也と同じようにこっちの世界に来る気かよアイツ……」

 

グエンが呆れた顔をする。みなの気持ちはおそらく同じ、『真にはもう戦って欲しくない』だろう。

 

「まぁ、それはその時に考えればいいだろ。なぐろうが叩こうがこっちの勝手だぜ。」

 

「それもそれでどうかと思うぞ。」

 

「だが違いねえ。」

 

笑い合いながらもそう話す。

こうは言っているが、元エリア88の全員にとって真は特別な存在だった。由也とともにたった2人の日本人として活躍し、覚悟を決めて残った由也と違い幸せを手に入れるべきはずだった人物。しかし最も腕が良く信頼でき、誰もが背中を預けられる戦友。

 

そんな矛盾しながらも愛された人物なのだ。

 

 

 

「んでまぁ、俺もこうしてピンピンしてるどころか強くなっちゃったわけだけど……原因は不明だってさ。魔法力が使えなくなったはずなのに復活してる理由も。」

 

「だよねー。それがわかったら苦労しないよ。」

 

「これは個人的な考察なんだけど……多分やっとこの世界に順応したんだと思う。心なしか体も以前より軽いし、芳佳と同じ固有魔法が使えるようになったし。」

 

「そういえば前の世界じゃ芳佳が由也の母親なんだろ? なんだか奇妙な関係だナ。」

 

エイラの言う通り、至極不思議な関係となった2人だ。由也にとって芳佳は前の世界の母親であり妹分、芳佳からすれば由也は姉のような存在でかつ別世界では娘。難しすぎる相関図だ、混乱する。

というか由也と芳佳もこのカミングアウトに対する気持ちや意識の整理ができてるわけではない。

 

由也は頭をかいてごまかす。

 

「あれだよ、その……ほら別世界のお話だから芳佳は関係ない話しではあるし?決して同一視はしてないわけで。母さんは芳佳だけど芳佳は母さんじゃなくて……あれ、自分で何言ってるのかわからない……」

 

「ダメじゃないか。」

 

「というより呼び方変わってる時点でもう宮藤さんが母親だと意識してしまっているのではなくて?」

 

マリオとペリーヌから容赦ないツッコミをくらって撃沈する由也。

 

そこでチョンチョンと芳佳が由也の肩を叩く。

 

「わ、私は大丈夫ですから!甘えてもいいですよ由也さん!」

 

「いや俺が余計に大丈夫じゃなくなるんだが!?」

 

「ででででも私が由也さんのお母さんなわけで……なら私も由也さんのお母さんになります!??」

 

「落ち着け芳佳、すこし錯乱してるんじゃないか!? それは俺の社会的ないろいろがヤバみですごいからやめようね!? 今まで通りでいいから!いいから!!」

 

お互い錯乱している。間違いない。まったくフォローできてないぞ芳佳。

 

2人の混乱してあらぬ事を言い合うおかしな様子をみて坂本が豪快に笑い始める。やがてそれは伝播していき、結局みんな笑いだすのだった。

 

 

 

ふとハルトマンがあることを思い出し、手を引っ張る。

 

「ねね、由也。こっちこっち。」

 

「おっとと……どうしたんだよハルトマン?」

 

「! ほら行きなよミーナ中佐。」

 

「あっ、イェーガー大尉!?」

 

「行ってこーい!由也!」

 

「ちょっとこらハルトマン!?」

 

由也をミーナがいる方へ押し出す。それで同じことを思ったシャーリーがミーナを由也の前に引き出す。

 

目のあった2人は思わず顔を真っ赤にして黙ってしまう。

 

由也が口がつっかえながらも少しづつ喋り始める。

 

「あ……えっと、ミーナ、その……以前にあなたの笑顔をみて、一目惚れして……その、えーっと……あー待って、待って!今の無し!」

 

「……ふっ、ふふ……柄にないことして…… あの告白で納得したっていうわけではないわ。でもあなたの気持ちはキチンと伝わってる。あとはちゃんと、口にして言うだけよ。」

 

余裕を取り戻したミーナが由也の手をそっと握る。ただでさえ赤かった由也の顔が赤を超えて紅にまでに染まる。

 

「っ……ぅ……す、好きです!付き合ってくださいっ!」

 

やや声が裏返りながらそういうとほぼ直角に頭を下げる。まるで学生が校舎裏で告白するかのような感じになってしまった。

 

ミーナは由也の頬に手を添えて頭を上げる。そして

 

「__!?!?!?!???!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおお!!」」」」」」」」」」

 

2人の唇が触れ合い、周りのギャラリーが湧き上がる(主にエリア88側の連中が)。由也の目が驚きで見開かれる。離れて目を合わせるとミーナが微笑む。

 

「__これが私の返事よ。言うのが遅いんだから。」

 

「……はひ……」

 

「あっ、由也が倒れた。」

 

キャパシティがオーバーフローし茹で蛸状態になった由也が頭から湯気を上げながらミーナに寄りかかるように倒れる。

 

ミーナは慌て、テンパった芳佳が由也に治癒魔法をかけ始める。

 

本日何度目かになるが部屋の中を笑い声が埋め尽くすのだった。

 

 

 

 

 

サキが受け取ってきた報告や司令を全員が読み始める。由也は頭に氷嚢を乗っけながらだが。

 

「やはりあれでガリアは完全解放、ネウロイもカールスラント方面へ撤退か。」

 

「パ・ド・カレーから上陸した部隊からの連絡だけど、ちと早急だな。まだ司令部も出来たとは言ってないし警戒しとくに越したことはないな。」

 

フーバーとチャーリーが報告書を読みながら話し合う。

 

まだ最深部、カールスラント国境付近まで到達したわけではないが現状で抵抗が見られず、もうガリアを取り返した気でいるようだ。

 

しかし司令部もそこまで阿呆ではないようで現実的な判断をしている。

 

だがエリア88はそんな悠長に待っていられるほど暇ではないのだ。

 

「ゲッ、数日中のうちに基地移動かよ。」

 

「また急ね。サキ司令、基地がパ・ド・カレーに作られる理由は?」

 

「交通の利便性からだ。すぐ行けば港に、陸路は最前線に繋がりドーヴァー海峡を抜ければ北海に向かうことができる。今現状我々が行動するにもっとも最適だと考えたからだ。」

 

「でもサキ、エリア88に空母は……」

 

バクシーがごもっともな意見を挙げる。前の世界であればかつて一時期、アメリカ海軍が製造を放棄したエンタープライズ級を"足長おじさん"が買って与えてきたものを使っていた。

 

だがこの世界で同じことは流石に出来ない。正規空母のエセックス級一つ配備するのも難しい、しかしボーグ級護衛空母級ではフル出撃の際の能力に不満が残る。

 

しかしサキ__正確には出資者(スポンサー)のファリーナに考えがあるようだった。

 

「そこに関してはファリーナが工面しているようだ。あるものを用意しているらしい。」

 

面々の頭にはハテナマークが浮かぶがミッキーと由也の2人はなんとなくそれが何なのか分かった気がした。

 

 

 

しかし由也がもっとも気にしたのは一枚の報告書、以前に由也が撃墜したウィッチ部隊のものだった。

 

あのウィッチ部隊がマロニーが従えるウォーロック研究のためにプロジェクト4 が送ってきた部隊であること、無人ウィッチがウォーロックの旧型にあたるもののコア無し型であること、部隊名が「無人攻撃機試験戦闘隊"アリコーン"」であること。

 

そして最悪なことに2名の遺体が見つかっており、約1名が行方不明であること。

 

由也は漠然とした不安に襲われる。いつかコイツは良からぬ事態を引き起こすのではないか。

確実なことは言えないはずだが、彼女の勘がそう言っていた。

 

 

 

 

 

数字後、エリア88の面々がガリアに向かう日がきた。

 

「私達は先にガリアに上陸することになるな。由也、あとから追ってこい。いつでも待ってるぞ。」

 

サキがそう言って由也に手を差し出す。由也がそれを握り返す。

 

「ああ、必ずそっちに行く。また会おう。」

 

まだネウロイは残っている。プロジェクト4の攻勢も始まったばかりだ。だが彼女達の働きで人類は希望を抱いた。

 

次の戦場を求めて空を切り裂き魔女(ウィッチ)達が飛び立った。




こちら……シン……

こちら……ザマシン……応答……

こちら風間真。だれか応答してくれ!

通信は繋がらない……どうなってるんだ?みたことのない場所を気づけば飛ばされてるし体はなんか違和感があるし……燃料もカツカツだな。

心配しなくていいよ、ジョゼ、涼子。なんとかするさ!


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シーズン1.5
プロローグ:平和を守るのも難しいが


1944年9月

とうとう人類はネウロイからガリアを取り返すことに成功した。

この一報はあっという間に世界中に広まった。世界に散らばった旧ガリア政府要人やガリア軍、亡命した国民達が故郷を目指し復興に一心を注ごうとしていた。

そしてガリアを救った英雄達は今__






さんさんと照る太陽が大地を暖め、ほどよく気持ちのいい気温へとしていく。

 

あったまった空気と陽気な日差しがちょうどいい昼寝日和を作り出していた。

 

特に業務もなく処理する書類もなく、昼下がりの最も温度の高い時間を少しばかり過ぎた頃。由也は1人寝転がっていた。前の世界から持ってきていた私服の一つ、すこし値の張るどこのブランドかもよくしらないトレンチコートを布団代わりに上から羽織り、木陰で気持ちよく寝息を立てる。

 

非番である芳佳やルッキーニらは朝早くから街へ遊びに出かけ、当番であるミーナやバルクホルンもゆっくりとしている。

 

数日前の戦闘から平和という一言で済ませれるほどの日々が続いていた。まるであの殺伐とした戦闘がまるで嘘のようにほぼ全員がゆったりと一日を過ごしていた。

 

あの由也ですらこんな状態なのだ。バルクホルンや坂本なども鍛錬は欠かさないが、張り詰めた様子もなくかなり余裕のある心持ちになっている。

 

 

 

突然ドンッとお腹の上に何かが乗っかる衝撃が来て驚き目を開ける。

 

街から帰ってきたルッキーニだ。由也を見つけて上に乗っかると体勢を少しづつ調整し、器用に丸まって寝始めた。

 

やれやれといった風にため息をつき、もう一度寝付く。

 

しばらくすると今度は芳佳がやってきた。

 

寝息を立てて気持ちよさそうに寝る2人の近くに座り、じっと観察する見つめる。

 

(私もいつか誰かと結婚して子供ができて、そして目の前にいるこの人(由也)が生まれるのかな。)

 

そう考えながら由也の髪をそっと撫でる。少し気持ちよさそうな顔をすると頭を芳佳の手に当てるように動かす。

 

幸せそうな顔だ、前の世界の夢でも見ているのだろうか。だとすると母親の夢だろう。

そんな由也を見ていると温かいものとモヤっとした感情が心の中に渦巻く。この感情が何なのか気付くのはまだ先の話になるだろう。

 

だが人とは不思議なもので他人の寝息を聞いていると自分も眠たくなってくるのだ。だんだんとウトウトし始め、由也の胸元に倒れ込むとそのまま寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

バルクホルンが手持ち無沙汰に外を歩いているとシャーリーが角から何かを覗き込むように何かを見ている姿が見えた。頭からひょっこり生えたウサギの耳が時折跳ねたり揺れ動いたりしている。

 

気になったバルクホルンがシャーリーに話しかける。

 

「……何をしているんだ、イェーガー大尉」

 

「バルクホルンか、いやちょっと見てみろよ。」

 

そういうと視線の先のものをバルクホルンにも見せる。

 

その先には由也と芳佳、ルッキーニが3人そろって寝ていた。由也は2人の下敷きにされているが決して苦しそうには見えない。むしろどこか幸せそうだ。

 

「平和だなぁ……」

 

「……平和だな。」

 

影からそっと見守る2人。今日も基地は平和であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌の日、朝から基地の港に扶桑の空母が寄港し忙しさを見せていた。

 

ウィッチになにか関係することがあるのかと言われれば全くと言っていいほど無い。だがその艦の見た目が関係あった。

 

やけに高い位置の飛行甲板、特徴的な左側に寄った島型艦橋。忘れるわけがない。空母赤城にそっくりなのだ。

 

それもそのはず、この艦は空母赤城の2番艦、空母"天城"だ。

 

非番の一部を除いて様々な面々が遠くからそれを見ていた。

 

対して由也は坂本に言われて手伝いを行なっていた。501の物資をこの空母に詰め込む、そのためのチェックリストの確認だ。しかしそのリストを見て由也は不思議に思った。

 

この基地の物資のほとんど全部を積み込むのだ。まるでこの基地を引き払うような……そのことが気になり坂本のもとへと向かった。

 

しかし先客がいたようだ。坂本と喋るもう1人のウィッチは同じ扶桑人のようだ。服装も士官服で自分と近い階級、しかし坂本と親しく話してるあたり旧友というものか。

 

話しかけるべきか迷ってると先に坂本のほうが由也を見つけた。

 

「由也、そこでなにをしてるんだ。こっちに来い。」

 

「いや、聞こうと思ったことがあったから……坂本、こっちは?」

 

「ああ、彼女は私の戦友の竹井醇子だ。竹井、こっちはちょうど話に上がっていた植村由也だ。」

 

「はじめまして、扶桑海軍大尉の竹井醇子です。美緒とは昔馴染みなの。」

 

「同じく扶桑海軍中尉、植村由也です。よろしくお願いします、竹井大尉。」

 

「そんなに固くならなくて大丈夫よ、植村さん。呼び方も竹井でいいわ。よろしくね。」

 

「なら、俺のことも由也と呼んでください。それが一番慣れてるので。」

 

2人が握手を交わす。第一印象は……優等生、といった感じだろうか。

 

「ああ、そうだ。竹井には"事情"は全て話してある。なんせ私達はグエン中尉にしごかれた仲だからな。」

 

はっはっはっ、と大笑いする坂本。由也としてはそんなグエンの姿が思い浮かばないのだが。

 

坂本があっと思い出し由也にグエンのことを質問する。

 

「そうだ、グエン中尉は前の世界ではどんな人だったんだ?」

 

「たしかに気になります。」

 

「うーん、グエンかぁ……本人の了承が欲しいが、アイツだし別にいいか。」

 

良くないと思うが。

 

初めて会った時からのことをポツポツと話始める。

 

「アイツは良くも悪くも戦争しかできない奴だったよ……俺たちの世界では人間同士の世界を巻き込んだ戦争、"世界大戦"が何度も起きていた。グエンも言わばその被害者の1人だった。アイツの故郷であるベトナム……この世界でいうチュノム王国にあたる国だが、あの一帯の多くの国家は100年ほど欧米諸国からの植民地支配を余儀なくされていた。だがその後の世界大戦で日本、つまり扶桑だな。が南下するに連れてパワーバランスが変動、ベトナムも否応なしに戦場にになった。グエンは世界大戦の最中に生まれたんだが、生まれ方は悲惨の一言だ。爆弾で吹き飛んだ母親の腹から生まれたという。」

 

「う……酷いわね……」

 

「だがこれで終わらないのが、な。それから1945年に世界大戦は一度終わるんだが、それからすぐに新たな対立が起きた。政治体系の違いからアメリカとソ連、リベリオンとオラーシャの間で激しい対立が発生した。しかし二国が直接戦うことはなく、代理戦争が世界中で乱立するようになった。俺たちはこの時代を冷たい戦争……"冷戦期"と呼んでいる。そしてその間に起きた戦争の一つがベトナム戦争だった。南北ベトナムの内戦で1955年から始まった戦争にグエンも61年の20歳で南ベトナム空軍の兵士として戦場に出たことになる。」

 

「人間同士の戦争……何年続いたの?」

 

「20年間。ついにはアメリカも参戦したが結局南ベトナムとアメリカの敗北だ。この戦いにはミッキー・サイモンやゲイリー・マックバーンもいたが、皆多くの仲間を亡くしている。そして故郷をなくし、戦争を忘れられなかったグエンは俺たちのいるエリア88に流れ着いた……」

 

ベトナム戦争(茶番劇)に何年も付き合わされ、故郷も失い戦う理由も無くなり、残ったものは硝煙と血の匂いと、30年以上の人生の戦争の中で育まれ破綻した心だけだった。

 

エリア88に来てからのグエンもミッキーと同じで戦争が忘れられなかった人間だ、しかし狂気に揉まれて生きてきたグエンは一味違った。

 

「ファーストコンタクトから最悪、着任してすぐに出撃するし脱出したパイロットは20mmで撃ち殺すし……戦争よりも人殺しを愉しむタイプというか、今までに無い毛色の人間だったな。」

 

「そんな軍人だったか……今のグエン中尉からは考えられないな。」

 

「だが意外な一面もあったんだぞ?子供好きで義理堅い、人情深くて人としては憎めない奴だった。ま、それを含めてもあんなに丸くなって変われたのは俺たちだけじゃない、坂本たちのおかげもあるだろうな。」

 

仲間がグエンを変えた。それは紛れもない事実だ。由也達も、坂本達も、グエンにとってはかけがえのない仲間なのだ。

 

 

 

 

「……って本題が全く言えてないんだが。坂本、このリストだが……」

 

そこまで言った時、基地中に警報が響き渡った。瞬間、全員の顔つきが変わる。

 

「……ネウロイか、こんな時に!」

 

「行くぞ由也!竹井は……」

 

「私も出るわ。空母に私のストライカーもあるからすぐに上がれるわ。」

 

「よし……行くぞ!」

 

一斉に各々のストライカーのもとに走り出す。由也のT-2CCVも坂本のF-2も万全の状態だ。

 

少し脇道に話がそれるが、近頃は由也は自分でストライカーをいじる事が少なくなった。

理由はいくつもある。前のエリア88では整備費も自腹だ、少しでも浮かせようとパーツさえあれば自分で整備を行い、1人でジェット機一つ直せるほどの腕になっていた。

そしてマッコイじいさんの持ってくる機体がどれもマトモじゃないのがもう一つの理由だった。以前の由也の愛機であるF5D(スカイランサー)ですら出所不明の曰くつき、他の機体もカタログスペック上の耐用年数分飛べると言える機体がいなかった。

それ故に頻繁に整備をしてたのだ。

 

だが今のT-2CCVは純正機体でパーツも整備も金がかからず新品のものが入ってくる。わざわざ何度も油塗れになりながら整備する必要はない。

 

閑話休題(それはさておき)、格納庫では基地にて出撃できるメンバーがほぼ全員入ってきていた。出撃ルーチン組のバルクホルン、ミーナ、ハルトマンにペリーヌ、非番だがリーネと芳佳もいる。

 

「坂本さん、私も行きます!」

 

「宮藤、しかしお前のストライカーは……」

 

「いや、以前芳佳が吹っ飛ばした扶桑で使うはずだったT-2の補機がある。未調整だが飛ぶことはできるだろう。」

 

ストライカーのない芳佳に由也が助け舟を出す。

 

芳佳のT-2は空日ウォーロックとの戦いでコアの破壊のために損失したが、補機がファリーナから送られてきていた。さすがにこれは確実に扶桑に送らねばならないため、その日のために倉庫で眠らせていたのだが、こんな事態だ。

 

「よし……ミーナ中佐とバルクホルン、ハルトマンが先行、由也とペリーヌはそのあとに続け。私達も準備出来次第すぐに上がる。」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

続々とストライカーを足にはめてエンジンをスタートさせていく。ターボジェットの甲高い音が格納庫を震わせ、パイロンにミサイルが装備される。各々の銃火器が展開され、それを受け取る。由也のM1919A6はストックがなくなったため扶桑の九九式13mm機銃を使う。

 

アフターバーナーを焚いてミーナ達が離陸する。

 

「先に行くわね、由也。」

 

「それじゃ、また後でねー。」

 

そう言い残すと一気に加速して空に飛び上がった。3人のストライカーは迎撃機としての設計故、やはりスピードが速い。あっというまに上昇して見えなくなってしまった。

 

「俺たちも急ぐぞ。」

 

「ええ、もちろんですわ。」

 

由也とペリーヌもすぐに青空を目指す。空から敵の数をレーダーで探る。

 

「なかなか大部隊だな……小型が30ちょっとに中型も何機か、大型が一機いる。あれが親玉だな。」

 

「大型までたどり着かないといけないというのにこの数を相手にするのは……」

 

「なら私もついていっていいかしら?」

 

由也とペリーヌの編隊に竹井も合流する。ストライカーは扶桑海軍正式配備型のF-11B(スーパータイガー)、機動性と操縦性に優れる機体だ。それも超音速飛行が可能なタイプ、前の世界では計画倒れだったものがこの世界で日の目を見たことになる。

 

竹井の顔を見てペリーヌがあっと驚く。

 

「あなたはさっき坂本少佐と親しげに話してた……!」

 

「ペリーヌ……一応言っておくが彼女は竹井醇子、坂本の親友で階級は『大尉』だ。」

 

「たいっ……し、失礼しました!」

 

「いえ、いいのよそんなこと……それよりも大事なことがあるでしょう?」

 

「だな。どうする竹井?俺としては無闇に突っ込むのは悪手だと思うが。」

 

「そうね……大型ネウロイの進路予測位置に先回りして攻撃を仕掛けましょう。」

 

「よし、方位修正……竹井、指揮は任せたよ。」

 

由也が先頭を竹井に譲るとダイヤモンドを組んで左に少し旋回する。大型ネウロイが来るであろう進路の先で待ち伏せすべく飛行する。

 

 

 

正面から3機の小型ネウロイが飛んでくる。ヘッドオンでの撃ち合いになる__が、それは由也の得意とするシチュエーションだ。

 

エルロンロールで敵の攻撃をすれすれで回避しつつ九九式13mm機銃から吐き出される弾丸をばら撒き小型ネウロイを撃ち落とす。

他の2人は素直にAIM-9を使ってネウロイを撃ち落としていた。

 

由也の避け方を目の当たりにした竹井は驚嘆の声を上げる。

 

「すごい動きね。とっさにそんな機動ができるなんて。」

 

「避けることばかりはエリアとストライクと含めてトップなもので。」

 

ニヤリと笑って答える由也。まだ竹井を驚かす気でいるようだ。

 

左から突っ込んでくる小型3機に対して各々適当な方向にブレイクして回避する。由也は左に旋回してブレイクすると頭を下げて速度を稼ぎつつカナードと尾翼を振り曲げ一機のネウロイの後ろにつく。ネウロイは由也と反対にシャンデルで逃れようとするが由也は速度ののっている状態だ、すぐに追いつかれる。

AIM-9のシーカーが冷えてネウロイを捉える。右翼端のパイロンから噴煙を引いて飛んでいき、ネウロイに接近する。ほぼゼロ距離まで近づいた弾頭が炸裂しネウロイに降り注ぐ。鉄の雨がネウロイを引きちぎるとダメージの許容範囲を超えて空に散らばる。

 

そのまま流れるように2発目を次のネウロイ、ペリーヌを追いかける機に向けて放つ。正確に吸い寄せられ、爆炎の中に消える。

 

「これで貸し一つだ。久しぶりの戦闘で鈍ったかペリーヌ?」

 

「バカ言わないでくださいます? まだまだこれからですわ。」

 

竹井も一機撃ち落としてすぐに合流する。しかしそうこうしているうちに周りを囲まれつつある。ミーナとで分断しても数で差がありすぎるのだ。

 

まずいと思ったその時、周りを囲むネウロイが銃弾とミサイルに吹き飛ばされ消滅していく。

 

坂本達だ。リーネの狙撃で遠距離の敵は粉砕され、芳佳が牽制し坂本が堕とす連携でネウロイが次々と減っていく。

 

「大型ネウロイを直接叩く!ミーナ、竹井、援護してくれ!」

 

「了解!」

 

「わかったわ! いきましょう、2人とも。」

 

「あいよ!」「もちろんですわ!」

 

竹井を先頭に由也とペリーヌが坂本らの背中を襲おうとするネウロイを撃ち落としていく。AIM-9も出し惜しみ無しで全部発射し、手に持った機銃でネウロイをスコアにしていく。

 

自身の後ろにつこうとしたのをハイGターンで振り切り逆にとりついて撃ち落とす。下側からの攻撃に対して気流の流れに乗って上昇しつつ避け、カナードをうまく動かして反転するとしれ違いざまに2機のネウロイをいただく。

 

獅子奮迅の働きをする由也だがミーナや竹井達も負けてはいない。正確に効率的に動くミーナ、両手のMG42で最大火力を叩き込むバルクホルン、固有魔法を使って相手をまとめて吹き飛ばすハルトマンとペリーヌ。

 

竹井の動きもまたエースの名に恥ない動きだった。機動性の高いF-11の特性をくまなく使い次々とネウロイを屠っていく。鋭くも軽やかなその動きは坂本の大胆なものとは違う姿を見せていた。

 

そんな彼女をみてミーナが呟く。

 

「あれが『リバウの貴婦人』竹井醇子……」

 

「知ってるのかミーナ?」

 

「ええ、以前に何度か聞いたことがあるわ。」

 

噂に劣らず素晴らしい動きね、と称賛する。かつて坂本とともにリバウで戦ったというその動きはミーナが知るものよりも上をいくものだった。

 

 

 

と、由也が芳佳の背後にネウロイが近づくのを見つける。芳佳は大型に攻撃することに夢中で気がついていない。

 

由也がネウロイより先回りして芳佳の背中を守り、逆にネウロイを銃弾で引きちぎる。

 

「由也さん!?」

 

「こっちは任せろ、芳佳はそっちに集中しろ!」

 

「は、はい!」

 

由也は芳佳の背中を撃とうとするネウロイをシールドで守り撃ち落とす。芳佳は先に進もうとするネウロイに向かって銃を撃ち続ける。芳佳の動きに合わせて由也も動き、背中合わせを崩さない。

 

そして芳佳がとうとうコアのある部分の装甲を吹き飛ばし、中のコアごと破壊する。

 

輸送機型の大型ネウロイに亀裂が入り、砕ける。それと同時に由也たちが相手していた小型達も次々と光となり消えていく。全てこの大型ネウロイの子機だったようだ。

 

レーダーにも反応が無い。これ以上なにも来なさそうだ。

 

ふぅ、と息を吐くと由也が坂本に聞こうとした事を思い出し尋ねる。

 

「そうだ坂本、さっきの続きなんだが……あの運ぶこむ物資リストはもしかしてこの基地を……」

 

「ああ、由也の想像通りだ。詳しくは戻ったら話そう。あとで執務室に来てくれ。」

 

「了解した。」

 

戦いを終えたストライクウィッチーズ、しかしこれはまだ新たな戦いの序章に過ぎない。竹井醇子を新たに加えた彼女達の前に新たな脅威が立ち塞がるのを今はまだ知らない__




読んでいただきありがとうございます。
アンギラスです。

ここからとうとうシーズン1.5、ゲーム「白銀の翼」やブレイブウィッチーズ、ノーブルウィッチーズなどと同じ時間軸に移っていきます。

SFCネタのオリ話を中心に各国ウィッチやオリジナルウィッチを出そうという予定です。さぁここからだいぶいそがしくなるぞぉ……うふふふふ。

さて次回はいつになるかな……それまでしばしお待ちを。

ではまたの機会にお会いしましょう。


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第1話:ウィッチーズ解散!?新たな地へ

「ま……そうなるか。」

「わかっていたのね。」

「あの物資リストを見ればな……それに、この部隊の設立意義を考えればわかることさ。」

執務室でミーナから事を聞かされた由也。察しがついていたため驚きはしなかった。

「ところでコレ、いつ皆に言うんだ?」

「これからいうつもりだ。」

「随分と早いな……ってもしかして表の空母って__」

「察しがよくて助かる。」

由也の問いに坂本が首肯する。ふわっと嫌なものを感じ取った由也がさらに坂本に質問する。

「なあ、俺をここに呼んだ理由ってこれだけじゃないだろ?」

「ああ、扶桑海軍司令部から由也に辞令が来ている。」


ブリーフィングルームにストライクウィッチーズの面々のほとんどが集められる。ミーナと坂本の指揮官2人、それに由也の姿が見えないが。

 

戦闘の終わって直後に集められた面々はガヤガヤと話しながらミーナ達を待つ。

 

「急に呼び出されたけどなんだろうね。」

 

「きっと、とても大事な事なんだよ。」

 

芳佳とリーネが話しながら席につく。その後ろはハルトマンとバルクホルンだ。

 

「ふぁ〜……もう少し寝てたいのにな〜。」

 

「ハルトマンお前な……出撃の直前まで寝てただろ。だらしがないぞ。」

 

グデっとだらけるハルトマンにバルクホルンはいつものお叱りモードだ。説教が始まるそれよりも前に由也が部屋に入ってきてハルトマンが助かったという表情をする。

 

由也は壇上に立つと部屋を見渡し、全員揃っているのを確認する。

 

「よし、揃ってるな。これから先の戦闘のデブリーフィング兼これからのブリーフィングを始める。ミーナと坂本はとある人物を呼んできてるため後から来るから、俺がひとまず司会進行をさせてもらう。」

 

驚きの声や茶化す声が上がりながらも無視して進めていく。さすがこういうことは慣れっこといったところだろうか。

 

「まず、先の戦闘のネウロイの件だ。あれはガリアに残存していたネウロイの生き残りだということがわかった。最後の悪あがきにこっちにきたのだろう。しかし坂本達のおかげでここを死守できた。そして何より……これでガリア全土の完全奪還を完了、ガリアはネウロイから取り返せた。」

 

「私の祖国が……ついに!?」

 

「ああ、これでガリアは再び人類の大地となった。おめでとうペリーヌ。」

 

周りの全員も一斉にお祝いの言葉をかける。再び賑やかさに包まれるが、由也が咳払いをして鎮まらせる。

 

「話はまだ終わってないぞー。……さて、ガリアが解放されたということはこの第501統合戦闘航空団の存在意義も同時に消えたということになる。つまり……」

 

「つまり……?」

 

「……本日をもって第501統合戦闘航空団"ストライクウィッチーズ"は解散となる。各員は各国司令部の指示に従い原隊に復帰されたし!以上!」

 

「「「「「「「「「え〜っ!!?」」」」」」」」」

 

寝耳に水とはこのこと、突然のことに全員が叫び声を上げる。

 

ひとしきり驚くとルッキーニが涙ぐみ、やがてワッと泣き出してしまう。

 

「いやだ……みんなと離れ離れなんてやだよ!」

 

「ルッキーニ……」

 

シャーリーがルッキーニを抱き寄せ慰める。しかし場の空気は一気に重くなる。

 

それぞれにあれこれと辞令が来ているのだ。まだ共にいられるという仲になるのは類稀だろう。それこそ元の所属が同じのミーナら3人や同じ国から来ている芳佳と坂本くらいだ。

 

由也が励ますように話始める。

 

「まだ皆が皆二度と会えないってわけじゃないだろ? 悲しいことだが、ネウロイとの戦争がある限りまたどこかで会える。それに空は繋がっているんだ。決して離れ離れなんかじゃないさ。」

 

むしろ……と付け加える。

 

「大変なのはここからだぞ。ガリアを復興させなくちゃならないんだから。ペリーヌは特にな」

 

「……ええ、覚悟しておりますわ。」

 

「ならいいんだ……お前達も忘れるな、戦争は最中よりもその後が大変だ。建物を直し、人を集め、元に戻す__いや、それ以上にしなければならない。俺の祖国(日本)も経験したことだが、その道のりは決して平じゃなかった。焼け野原になった街、家を失った人々、核爆弾の放射能で汚染された都市部、親を亡くした孤児(みなしご)に戦争を忘れられなくなった兵士達……戦争の残滓で溢れた国を元以上にするのはとても難しいことだった。」

 

じっとみんなが由也の言葉に耳を傾ける。

 

「これからみんな離れた場所で戦うことになる者がほとんどだろう。だが覚えておいて欲しい、決して自分から命を捨てるような真似はしないようにと。命を投げ捨てていいのは帰る場所も信念も無い以前の俺たち(エトランジェ)だけだ。」

 

由也がひとしきりしゃべり終える。すると拍手をしながら坂本とミーナが入ってきた。

 

「名演説だな、由也。」

 

「坂本、来てたのならさっさと入って来いよ。間を保たせるのは苦手なんだぞ。」

 

「はっはっはっ、お前も士官の1人なのだからいつか訓示などもするようになるんだぞ?いい経験になったろう。」

 

勘弁してくれ、と口に出そうになるが今は正規軍の一員だ。嫌でもやる時が来るだろう。

 

由也に代わってミーナが壇上に立つ。

 

「先ほど由也から話があったように当部隊は本日を以って解散、各員は原体復帰もしくは辞令に従い別の部隊に異動となります。それらの書類はこちらで預かってますから取りに来るように。 明日には現在寄港している空母天城に乗艦してパ・ド・カレーに向かうことになります。忘れ物の無いようにね。」

 

はーい、と返事が返ってくる。やる気がないように聞こえるがいつも通りで結構なことだ。

 

ミーナはさらに話を進める。

 

「物資や機材はブリタニア軍に返還、もしくは新設する統合戦闘航空団に輸送させることになります。それで、短い間ですけれど共に行動する仲間を紹介します。」

 

ミーナが呼ぶと扉が開いて1人のウィッチが入ってくる。扶桑の士官服を着た彼女、坂本や由也はもちろん先に共闘したメンバーはみな知っている顔だ。

 

「扶桑海軍大尉、竹井醇子です。新しく作られる第504統合戦闘航空団の戦闘隊長に抜擢されました。短い間ですが航海を共にします、よろしくお願いします。」

 

一斉によろしくお願いします、と声が響いた。これでやっと役者が揃った。

 

 

 

 

 

ブリーフィングも終わり、各々辞令の書かれた紙を受け取りながら自室に向かう。

 

ルッキーニとシャーリー、芳佳と由也が道中これからのことを話し合う。

 

「私はアフリカ戦線に行け、だってさ。部隊名も何も書いてないよ。」

 

「アタシは特に何も来てないし〜シャーリーと一緒かな。」

 

「えらく適当だな……芳佳は戻ったら実家に戻るんだっけ?」

 

「はい。お母さんやお婆ちゃんの事もありますし、学校もお休みしちゃってるから。」

 

「うじゅ〜、勉強苦手〜」

 

「あはは……私もだよ。」

 

「お前達な……」

 

由也が酷く呆れた声を出す。ルッキーニも芳佳も勉強が大事な年頃、特に芳佳は実家が医者なのだ。学力が必要になるのだから必須なはずだ。

 

「ま、少しくらいなら勉強は見てやるよ。」

 

「本当ですか!? ありがとうございます!!」

 

「ただし、俺が教えるからにはきちんと覚えろよ。」

 

「は、はい!」

 

ジトっとした目で芳佳を見る由也。だがすぐにため息をついて自分に来た辞令を思い返す。

 

「『司令部に出頭し実験機の返却、および報告を行われたし』か……T-2CCVとも短い付き合いになっちまったな……」

 

「あれってファリーナって人達が独自に作ったやつだろ?そしたら由也は何を使うんだ?」

 

「一応扶桑海軍機としてナンバー登録してるからな……そこは海軍制式採用機のF-11B(タイガー)か陸海共用機のF-1、F-4(ファントム)あたりになるだろうさ。本心、デルタ翼機が欲しいけど……」

 

「ガリアのミラージュでも使ったらどうだ?マッハ2が出るし性能も十分だぞ。」

 

「アターエンジンは出力に不満がな……熱帯地域じゃパワーダウンが起きたりするし、そもそもの出力不足で加速や上昇で負けるんだよ。機動性は好みだけど。」

 

ワイワイと話しながら廊下を歩く。一緒にいられる時間を惜しむように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガリア パ・ド・カレー

 

ブリタニアにもっとも近く、陸海ともに交通の便がいいこの地にエリア88基地がここに建てられつつあった。

 

二本の滑走路と大型の輸送機等の格納庫、弾薬庫。一角丸々を使ったストライカーユニット用格納庫に大きくそびえる管制塔。そして以前のエリア88では考えられないほど豪華に作られた隊員用宿舎。

 

初代エリア88基地を踏襲して作られたこの世界版新エリア88基地が急ピッチで完成に向かっていた。

 

司令室から滑走路に物資を積んだロックヒード・コンステレーションが着陸するのを眺めつつ話始める。

 

「完成までまだかかりそうではあるな。」

 

「報告によるとあと半月はかかると。」

 

「短いようで長いな……それよりも前に奴らが動き出してきそうだ。」

 

椅子を引くと軋ませながらもゆっくり座る。椅子ごと振り向くとラウンデルの報告を聞く。

 

「プロジェクト4の動きはどうだ?」

 

「今のとこは目立ったものは無いです。むしろネウロイの方が不穏です。」

 

「ネウロイか……」

 

「はい。どうもドーヴァー海峡に不明のネウロイが新たに発見されたという報告が。ただ……」

 

「どうした、ラウンデル?」

 

「あ、いえ。報告によればそのネウロイが現れる前に赤色の航跡を引く魚雷が見えたという報告があったのです。さらにネウロイが海から現れ、大砲で補給艦艦隊を襲ったと。」

 

「何……?」

 

ネウロイは水を嫌う傾向がある。理由は定かではないが、ネウロイが金属生命体であるからとされている。長時間の水との接触は自らを錆びさせ腐敗させていく。

 

本来のネウロイでは考えられない事だった。

 

「気になるな……こちらからも調査をしてみるか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天城艦上で遠ざかる基地を見守るバルクホルン。その隣に由也が近づく。

 

「感傷に浸ってどうした、バルクホルン。」

 

「……あそこで様々な事があったなと改めて思ったんだ。」

 

「俺が来る前からの話もあるだろうからな。俺にとっても、短いようで長いような……思い出の場所だよ。」

 

胸ポケットを探りタバコを取り出す。この前にエリア88メンバーが来た際に一箱貰ったのだ。

 

一本咥えると火をつけ、煙を吐き出す。が、少しむせる。

 

「……けっこうキツいやつ寄越しやがったなミッキーの野郎。」

 

「あまり吸ってると体に毒だぞ。」

 

「いいんだよ、精神的にはハタチどころか人生2周分の約40だし。おばさんだもん。」

 

「そんな40歳がいるか。それにあとで宮藤に叱られるんじゃないか?」

 

「……それはいやだな。」

 

1/3あたりまで吸ったところで早々に火を消しポケット灰皿に放り込む。再びじっと遠ざかる基地を見つめ、2人の間に静寂が生まれる。

 

ぽつりとバルクホルンが由也に喋る。

 

「……トゥルーデ……」

 

「えっ?」

 

「私とお前の仲だ、いつまでも苗字で呼ばれるのもな。トゥルーデと呼んでくれて構わない。」

 

「……わかった、トゥルーデ。」

 

一瞬目をパチクリさせるが、すぐに微笑みその名で呼ぶ。しばらく見つめ合うと吹き出し、笑いあった。

 

 

 

甲板上に響き渡るようにブザー音が鳴る。一瞬警戒したが緊急の敵ではなさそうだ。

 

『着艦ウィッチあり! 甲板要員は準備せよ!』

 

アナウンスが流れて甲板にいた着艦要員が慌ただしく動き出す。甲板上に着艦のためのアレスティングワイヤーが張られ、各員が準備位置につく。

 

遠くに米粒ほどの人影が見えたと思うとだんだんと大きくなってくる。やがてそれは由也やバルクホルンの目にも見えるほどの大きさになった。

 

黒と黄色でストライプ風、いやタイガーミート塗装が施された特徴的なコーク瓶型のストライカーユニット。主翼の付け根位置のエアインテークと胴体に大きく描かれたフライングタイガーのマークが目印のそれは由也のよく知る機体だ。

 

グエン・ヴァン・チョムのF-105(サンダーチーフ)

 

下ろされたフックをワイヤーが掴むと甲板に叩きつけるように引っ張る。グエンはストライカーユニットをぶつけぬようシールドを張って着艦した。

 

「毎度のことながら鮮やかなこった……しかしなぜグエンが?」

 

「なにか緊急のことがあったのか……」

 

バルクホルンがそこまで言った時、再びアナウンスが響く。今度はミーナの声だ。

 

『ストライクウィッチーズ各員は作戦会議室へ集合してください。繰り返します__』

 

「……ただ事ではなさそうだ。」

 

「ああ、急ぐぞ由也。」

 

由也とバルクホルン、2人が艦内へと走り出す。艦の進路は北へと向かいつつあった。

 

 

 

 

 

艦内の作戦会議室、もといブリーフィングルーム。軍艦故の無骨な作りだが現状のメンバーが皆座れるほどの大きさを誇る。

 

バルクホルンはハルトマンの隣に座り、由也は壁にもたれて集合を待つ。

全員が集まるとブリーフィングが開始された。もちろん竹井とグエンももちろん一緒だ。

 

「つい先程ガリアとカールスラントの国境付近でネウロイとの戦闘があり、付近のウィッチに援護要請がかかりました。そこで我々も現地に向かい友軍の援護を行います。」

 

「なるほど、これがストライクウィッチーズ最後の大仕事というわけか。」

 

由也が腕を組みながらフッと笑う。

 

しかしながらガリアにも多くのウィッチ隊がいるし、何せ言うならエリア88もいる。その疑問をぶつける者もいた。

 

「はーい、質問。なんで私達なの?ガリアにはエリア88もいるじゃん。」

 

「それについちゃ俺が答えさせてもらうぜ。」

 

グエンが横合から割って入り、正面に立つ。

 

「エリア88の新基地が建設途中でな、まだ燃料物資も完全な状態じゃない。おまけに当分出撃できないのを良いことにストライカーの近代化改修を行いはじめていてな、それ全部ひっくるめたせいで出撃可能な奴が俺とバクシー、キャンベル、セラ、マリオくらいなんだ。そんでもって別件でそいつらも動かしてるから現状稼働戦力が俺だけという状況さ。」

 

「燃料物資はまぁわかるが……別件っていうのは?」

 

「どうも新しいネウロイがこのドーヴァー海峡あたりを動き回ってるらしい。しかも潜水艦型のネウロイだそうだ。」

 

「潜水艦型!?」

 

驚いたリーネが柄にもなく大声を出す。その他の面々も同じように驚きを隠せない。

 

「そっちも気になるが……今はカールスラント戦線が最優先だな。ミーナ?」

 

「ええ、そちらはエリア88に任せましょう。我々は現戦力でガリア=カールスラント戦線のネウロイと戦う必要があります。戦域は広くなりますので3人1組のケッテを組んで行動してもらいます。」

 

それからのメンバー決めは楽な物だった。

 

・ミーナ、バルクホルン、ハルトマン組

 

・坂本、芳佳、リーネ組

 

・シャーリー、ペリーヌ、ルッキーニ組

 

・竹井、由也、グエン組

 

・サーニャ、エイラ(夜間哨戒任務のため特殊編成)

 

といった具合になる。

 

全員格納庫に向かうと各々のストライカーユニットを装着し、準備に入る。

 

由也の腰から使い魔の尻尾が生え、体内の魔法力が高まる。T-2CCVに足をはめるとガンコンテナから九九式13mm機銃がせり上がる。それを手に持つとストライカー台ごとエレベーターに移動され、甲板上に持ち上げられる。

 

台のロックが外れカタパルトの発射位置に移動する。発射要員が手際良くT-2CCVとカタパルトを接続し、後部のジェットデフレクターが回転し展開される。

 

由也が一気にアフターバーナーをふかすとノズルから勢いよく炎が吹き出てデフレクターにあたる。異常なし、発進OK。

由也が要員に親指を立て、敬礼する。

 

それを確認したカタパルト要員が手を上から振り下げ、腰を落とす。

 

グンっと由也の体が前に引っ張られ瞬時に時速300km近くにまで加速し艦から投げ出される。

 

「ひゃーっほーい!」

 

由也が叫びながらローリングし、上昇していく。行き先はガリア東部戦線の一部、ガリア=カールスラント戦線の最前線だ。ストライクウィッチーズ最後の戦いが幕を開けた。




読んでいただきありがとうございます。
アンギラスです。

ストーリー上なかなか日常シーンが少なくなってしまうのが悲しい。あとブレイブウィッチーズ勢とか早く出したい。そのために全話観てるんだから。

とと、今回の解説解説

♦︎ F-11 タイガー
グラマン社勢遷音速艦上戦闘機。全天候性能と高い操縦性を持つ優秀な戦闘機。しかし同世代のF-8やF-4に比べて鈍足かつマルチロール性能で劣るとして10年足らずで退役に。ただ操縦性を買われて曲技飛行隊の『ブルーエンジェルス』で長く愛用されました。(これはゲイリー・マックバーンの過去話でチラッと登場する。F-11もエリア88の出演経験があるのだ。)

その能力強化機となるF-11F-1F(F-11B) スーパータイガーは超音速性能を得た……のだが結局のところF-8らの方が優秀、自衛隊に配備される計画はダグラス・グラマン事件で白紙に。結局F-104が正式配備されることに。

最近空戦ゲームのWarThunderにてイベント配布されたので知名度は若干上がったのかな?といった印象です。少なくともF4DやF7Uよりかは断然上だとは言えますね。

竹井らが使う正式配備機とは能力強化機の方になります。



さて……次回はいつになることやら。忙しいのお。1日のうちになんちゃって迷彩塗装の1/100 F-100作ったり自分専用のF-18考えたり由也専用T-2CCV作ろうとしたり荒野のコトブキ飛行隊テイクオフガールズやったりエスコンやったりブレイブウィッチーズ見たりノーブルウィッチーズ見たりルミナスウィッチーズの曲聞いたりミーナの秘め歌聞いたりストライクウィッチーズの新作アプリゲームにウキウキしたり

ではまたの機会にお会いしましょう。


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第2話:暗黒の森の番犬

マジノ線__ガリア東部、カールスラントとの国境線に引かれた対ネウロイ用超長大堅牢な要塞。

山岳地帯に作られ天然の要塞と化していたこの地に巨額の資金を投資して作られた要塞は航空ネウロイの存在によって本来の力を発揮できず陥落した。

さらに要塞建造のために予算を圧迫し兵器の近代化が後回しとなったガリア軍はまともな抵抗ができぬ状態で敗戦を続けた。
特にこのマジノ線を維持するために多くの兵士達が散っていった。

その中にはエースウィッチも存在した。コールサイン"ガルム"__神話の番犬の名を冠した彼女が最悪の形で復活しようとしていた。


竹井を先頭にグエン、由也の編隊がネウロイの群れへと向かう。もうかれこれ十分ほどの飛行を続けている。そろそろ見えてきてもおかしくない頃合いだ。

 

業を煮やしたグエンが由也に声をかける。

 

「由也、なにか見えるか?」

 

「いや……そろそろレーダーに何か写るはずだが……」

 

「……くそっ、誤報でしたとかじゃあ無いよな?」

 

「ミーナ達は交戦を始めてるんだからそんなはずは……ちょとまて。」

 

由也のHUDに表示されているレーダーに光点が明滅し始める。その数はどんどん増えていき、まっすぐと由也達目掛けて飛んでくる。敵味方識別信号(IFF)にも反応がないとなればほぼ決まりだろう。

 

「来たぞグエン、敵だ。」

 

「やっとお出ましかい。」

 

グエンが手早く銃のセーフティを外す。由也もそれに倣う。

 

「このまま正面から交戦します。2人とも良いですね?」

 

「ああ、思い切りやってやろう。」「もちろんだ。」

 

竹井を先頭に3人はネウロイの群の中に突っ込んでいく。正面からすれ違いざまの撃ち合いになるが全員歴戦の猛者、持ちうる全てのミサイルと機銃を使い次々と落として群れを突破する。

 

編隊を維持したまま反転し再度突っ込む。対してネウロイは統率もなくバラバラに飛んで反転してくる。

 

「散開っ!」

 

竹井の号令に合わせて3人が思い思いの目標に向かって散らばる。由也はT-2CCVのアンダーパワー気味なエンジン出力を補うために降下しながら狙いをつける。

 

旋回途中のネウロイに横から突っ込み銃弾を浴びせ破壊する。速度を十分に稼げたと判断するとシャンデル気味に上昇しつつこっちに腹を見せている敵を狙い撃つ。

 

そのまま3機ものネウロイを撃ち落とし再度降下、小半径の楕円ループで次を狙う。

由也を狙い上昇してくるネウロイ数機に対しロールで攻撃を回避しながら撃墜していく。長期戦になりそうな以上、無駄に魔法力を使いたくない。シールドを極力使わないように回避を重視するのが重要だ。

 

ローヨーヨーで背後につき一機、由也の後ろから来た敵をバレルロールでオーバーシュートさせさらに一機、遠方から接近する敵に対しハイGターンでヘッドオンの状態に引き込んでもう一機。

 

エリア88のエースの『混戦になるほど強くなる』という特異性が存分に発揮され、開戦から3分と経たずにネウロイの軍勢を滅ぼしてしまった。

 

「まだネウロイは攻めてきてるみたいね……急ぎましょう。」

 

編隊を組み直すと再び戦線を移動し新たな敵へと向かう。

 

飛行しながらも由也の中で様々な思考が錯綜しネウロイの動きを読もうと必死になっていた。これも前の世界からのクセのようなものだ。参謀役として頭を悩ませ書類にかじりつき操縦桿を握る由也はある意味ではラウンデルよりも多忙だったと言っても過言ではない。

 

そんな彼女だ、パターンなどの未だ不明瞭なネウロイの戦術をもなんとか探ろうとするのは必然である。

 

(このタイミングでネウロイが攻勢に出る……なにも無策に突っ込んできているわけではないはず。単純に人類側の戦力を侮っているとかであれば良いのだけど。

たしかに戦線が伸び切り、戦力補充が追いつかない状態ではあるがなんとかネウロイを抑えられるほどの力はある。敵だって承知の上のはずだ。 なら何か逆転の秘策があるんじゃないか……まさか例の潜水艦ネウロイにプラスして他にも未知のネウロイが?)

 

警戒するに越したことはないか__そう考えながらレーダーを注視する。

 

決してレーダーレンジの長い機体ではないが中身はほぼカナードの付いたF-1のような性能をしている。少なくともF-11よりかは中身が上等な分由也が索敵を担当した。

 

前方から再びネウロイの集団が接近してくる。まだ戦いは始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

空母 天城

 

2人のウィッチが留守番をしていた。その片方、白く透き通る肌をもつ妖精のような少女__サーニャは静かに寝息をたてていた。

 

その側で彼女を守るようエイラが座りながらタロットを引いては配置していく。今日の運勢、何が起こるかを占うことができるのがエイラの占い趣味だ。やり始めた頃はまずまずだったものの、最近では的中率があがってきている。

 

しかし時には当たって欲しくないこともある。今がまさにそうだ。

 

実に3回もやり直してなお同じ結果となれば認めざるを得ない。

 

自分たちの身に大きな災厄が降りかかる。

 

それが自分とサーニャだけなのか、それとも全員をひっくるめてなのか。そこまではわからないがろくでもない事が起きようとしていることだけはわかった。

 

だがそれが案外早く来てしまうことはさすがのエイラも予想外だった。

 

『左舷より謎の航跡確認!総員戦闘配置!』

 

艦内中に警報とアナウンスが鳴り響き、船員達が慌ただしく走り出す。

 

寝ているサーニャの頭の猫の耳が反応していた。

 

 

 

「アレはなんだ!?」

 

「わからん、だが味方じゃない!」

 

「銃座どうした!?」

 

「まだ配置に……敵が速すぎます!」

 

甲板上は地獄だった。ソナー班が異常を察知したのが1分前、妙なノイズが聞こえ始めた。それから見張員が海上に赤い光を放つ何かがこっちに向かってくるのを見つけた。それがもう10数秒前だ。

 

対応するにはあまり近すぎる。ウィッチを呼び戻すのも出撃させるのもできない。

 

直撃する__そう覚悟したとき空から銃弾が降り注ぎ海中のそれを全て破壊した。

 

空を切り裂くジェット音が通り過ぎる。尾翼に描かれたマーク、A88の文字。

 

「エリア……88……」

 

だれかが呟いた。エリア88の3人のウィッチがこの艦を守った、それ気づいた兵士達は歓声を上げる。

 

しかし喜ぶのはまだ早い。元凶たるモノが水中から浮上してきた。

 

 

 

 

 

由也達は3度の戦闘で兵装を損耗していた。ミサイルは所詮で撃ちきり、手持ちの銃も弾切れが近そうだ。大型ネウロイも撃ち落とし、大半を掃討できたのは幸運だろう。

 

補給のために天城に戻ろうと通信を入れる。

 

「こちら竹井、補給のために帰還します。機銃の弾とミサイルの準備をお願いします。」

 

「こちら天城、現在我々は新種のネウロイと交戦中、対応できない!」

 

「何ですって……!?」

 

「まさかグエンの言っていたネウロイ?」

 

由也が思わず呟く。もしそうであるなら大問題だ。サーニャとエイラだけでは対応が難しい。

 

「戻りましょう!」

 

「いや……そうもいかねーみたいだぞ。」

 

グエンが後ろを見る。何かが高速で接近している。超音速というわけではないがネウロイにしてはやけに速い。

 

接近してきたそれは人の形を__いや、間違いなく人だった。

 

確かな胸の膨らみ、金色の長い髪、そして脚にはめられたストライカーユニット。目元などはネウロイと同じ幾何学模様の物体で覆われ、体や肩、発展途上な腰あたりを締め付けるようにハーネスと装甲を混ぜたものがくっついていた。

 

「ウィッチ……?」

 

竹井の口から言葉が溢れる。それもそうだ。見る限りウィッチとしか思えない。

 

だが残念ながら敵だ。

 

原型の分からなくなるほどネウロイに侵食された大型のライフルを向けると光線を撃ちながら突っ込んでくる。

 

3人は難なく避けると反転、ウィッチと交差した。

 

その瞬間に由也はそのウィッチの履くストライカーを確認する。ガリアの国籍マークに鎖に繋がれた狼らしきパーソナルマーク、機番と機種はわかった。

 

ポテ 630

 

ガリア空軍が採用していた重戦闘脚だ。操縦性に優れていたがエンジン馬力が低く最高速度や上昇力で周辺国のストライカーより劣る。少なくとも由也の知るものはそういう機体だ。

 

だがネウロイ化によるチューンアップのせいかあからさまに性能が上がっている。現に由也の後ろに張り付き離れない。

 

竹井の牽制射撃でなんとか引き剥がせた。しかし由也の額には冷や汗が滲んでいた。

 

「由也大丈夫?」

 

「生きてはいるが……相当な腕前だな。シャーリーやペリーヌ、いやそれ以上か?この前戦ったインフィニティーズなんか比じゃない腕前だ。」

 

ぱっと後ろを振り向くと早くも反転したウィッチが由也達を見据えていた。

 

「へっ……殺気を感じないのが恐ろしいな。」

 

「ウィッチ本人の意識は無いのか、それとも乗っ取られてるのは体だけなのか……どっちにしても厄介だなぁ。」

 

「どのみち落とすか助けないかしないと戻るにも戻れないわ。行くわよ!」

 

3人がウィッチに向かって分散しながら攻撃を仕掛ける。上昇した由也ロールしたと思うと直上から急降下して接近、引き金を細かく引く。

 

もちろん左にブレイクし避けられるが想定内だ。

 

逃げた先には竹井が待ち受けている。すれ違いざまに数発ほど弾を撃ち込む。

 

ストライカーのウィングに何発か当たったがすぐに再生を始める。思ったよりも再生のスピードが速い。

 

由也がウィッチの変化に気づいた。ネウロイとなっている箇所が再生するとき、ウィッチから使い魔のものであろう耳と尻尾が生え、彼女が呻き声を上げた。

 

彼女の魔法力や空技、ストライカーを使って自分たちと互角以上に戦っている。だがそれがいつまでも保つはずがない。先にウィッチが音を上げる。

 

「竹井、グエン!攻撃待て! 下手に撃つとウィッチの命が危ない!」

 

「何ですって!?」

 

「チッ、面倒な!」

 

攻撃しようとしていたグエンがウィッチから離れる。その隙にウィッチはカタログスペックを超える速度で消えていった。

 

「あっ、くそ……」

 

「あっち側ってたしか天城の……」

 

「しまった!急いで追いかけるわよ!」

 

その後追いかけるもこの日再び会敵することはなかった__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、501の面々はまた作戦会議室へと集められた。しかし朝よりも人数は増えている。

エリア88からセラ、バクシー、キャンベルの3人が合流したのだ。

 

「全員集まったわね? デブリーフィングを始めます。」

 

ミーナの声から報告が始まる。

 

ミーナ達はウォーロックに非常に酷似したネウロイと交戦した。最後は坂本らのチームと交戦し北へ逃げたという報告があがった。

 

これを"ネウロック"と仮称、当面の攻撃目標として指定することが決定した。

 

そして留守番をしていたサーニャやセラ達のぶつかったネウロイ、サキ達が追っていた潜水艦型のもので間違いなかった。

 

その特徴というもの、艦橋前部に連装砲を持ち対空砲はネウロイ化した赤城同様に強化されていた。そして艦橋後部には中型飛行ネウロイを格納、発進させる能力を持っていた。

 

代わりにではあるがネウロイ特有の飛行能力は持ち合わせていなかった。しかしそれでも天城にとって脅威であることに変わりはない。

 

「まるでアーセナルシップ……水中空母機動艦隊って感じだ。」

 

「その船、まさかスルクフ?」

 

「知ってるんですかペリーヌさん?」

 

「ええ、ガリア海軍の誇る世界最大の巡洋潜水艦だった船ですわ。ただ1年前にネウロイの攻撃で撃沈されたと聞きましたが。」

 

「ということは、ネウロイはそれに憑依して自分たちの物にしたということか。」

 

バルクホルンが顔をしかめ唸る。たしかに過去に似た事例が無かったわけではない。しかしこれほど大規模なものは初めてだった。

 

もし同じようなことが世界中で行われればパワーバランスの崩壊も十分にあり得るだろう。

 

だがさらに恐ろしい報告が続く。由也達の会ったウィッチの話だ。

 

あの後、由也はガリア軍の過去のデータと自分が見た情報を照らし合わせ、ネウロイに操られている彼女の正体を探り当てた。

 

 

 

ガリア空軍 東部方面防空部隊所属

フランセット・ブロック 少尉

 

総スコア数はわずか数月ほどの間に20もの敵を撃ち落としたと言われ、低性能に悩まされたM.S.406やポテ630でこれだけの能力を見せていたのだから相当な腕前の持ち主であることに変わりはない。

固有魔法の広域探知を使い夜間哨戒などの防空任務についていた。最後の情報では1940年の戦闘でネウロイに取り付かれたあと通信途絶、消息不明として戦死扱いになっていた。

 

使い魔である狼と自身のパーソナルマークから神話上の生物である"番犬(ガルム)"と呼ばれていた。

 

 

 

そんな彼女が今になって再び現れた。それも敵として。

 

「そいつなら見たぞ?」

 

「なんだって!? 本当かキャンベル!」

 

「さっきのその……スルクフだっけ?と戦ってた時に乱入してきてな。着艦して今は海の中だ。」

 

キャンベルの言うことが本当なら相当面倒なことになってしまった。最強の船と最強のパイロット、このコンビネーションが由也達にとって最悪でないわけがない。

 

「森の番犬、フランセット・ブロック少尉でしたら私も知ってます。しかし4年も前の話、まだ生きてるとは思えませんわ……」

 

「しかし生きていた。ネウロイによって生きながらえさせられていたのかもしれない。だが……」

 

ちらりと芳佳の方を見る。この中で医療関係の知識を持っているのは彼女だけだ。

 

「芳佳、飲まず食わずで生きてられる期間って何日だ?」

 

「えっ?ええっと、普通の人だとどんなに頑張っても3日から1週間……あっ、前に1ヶ月生きてたって人がいたって聞いたことあります。」

 

「となれば魔法力でセーブしたとしても1年もつか持たないかだろうな普通……」

 

あからさまにおかしい。どんなに足掻いたって4年も生きながらえているなどあり得ない。

 

「もってあと数日もあるかどうか、か……」

 

それが由也の出した答えだ。はやく助けないと彼女の命が危ない。そのために必要なものは__

 

由也がミーナに目配せをする。ミーナも由也のやりたいことを理解する。

 

「次からの作戦では私達ネウロックの追撃部隊、グエン中尉達エリア88のスルクフの迎撃部隊、そして由也中尉と宮藤軍曹のフランセット少尉の救出部隊、この3つに部隊を分けます。私達は翌日0800に出撃、カールスラント方面に逃げたネウロックの追撃を行います。」

 

「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」

 

「グエン中尉、私達が出撃している間の天城の護衛をお願いします。」

 

「ああ。」

 

「由也、宮藤さん、彼女をネウロイから必ず救い出しなさい。」

 

「任せてくれミーナ。」「はいっ!」

 

各々の思いを胸に秘めながらも今日はこれで解散する。長い夜はまだまだ続きそうだ。




どうも、読んでいただきありがとうございます。
アンギラスです。

今回新たに出てきましたウィッチ「フランセット・ブロック」

完全オリジナルのウィッチで史実にいる人物モチーフではないです。
モチーフは自分がWarTunderというゲームで愛用しているM.B.157戦闘機です。20mm機関砲2門120発が唯一の武装とかいう迎撃機仕様。なんだこの戦闘機。



……白状しますと実のところ白銀の翼はプレイ経験あるんですけどストーリーが途中保存もなにもできないから記憶が薄れつつあります。さすがに完全再現はできないためほぼオリジナルストーリーとなります。

そこのところ注意していただければ幸いです。

さて次回も書かねば。近頃遅筆のなってきたかな……
ではまたの機会にお会いしましょう。


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第3話:番犬対竜騎士

何か聞こえる

だけどそれがなんだかわからない。

あの時ネウロイに捕まった私は外の情報を遮られ、頭から記憶や技術を見られ……もう今がいつなのか、ここがどこなのかもわからない。

ガリアは今どうなっているのだろう。仲間達は無事なのか?それが気がかりで意識をずっと保ってきた。だけどもう限界。

眠たくなって来た……どうなっちゃうのかな……私……


海の夜は冷え込む。とくに10月にもなれば気温も下がり上着が必須になる。

 

しかし中東の暑い日差しと凍えるような夜に慣れ切っている由也にとってあまり苦ではなかった。むしろ、あのネウロイに囚われたウィッチ__フランセット・ブロックという少女のことを考えるとそんな物もどうでも良くなった。

 

夜風にあたり大海原のその奥、はるかな闇を見つめる由也。

 

そんな彼女の後ろから2つカップを持った芳佳が近づく。芳佳の可愛らしいマグカップと由也の鉄製の無骨なアウトドアマグだ。

 

「冷えますよ由也さん? はい、あったかい牛乳です。」

 

「ああ、ありがとう芳佳。」

 

芳佳からカップを受け取ると中のホットミルクを啜る。内側から由也の身体を温めて一息つかせる。ホッと短く溜息を吐くと白い息が空に消えた。

 

「芳佳、すまないな。俺のわがままに付き合わせて。」

 

「もしかしてフランセットさんって人の事ですか?」

 

無言で首肯する由也。由也と芳佳が彼女の救出に選ばれたのはもちろん治癒魔法の存在だ。ミーナはそれを承知の上で言っているし、由也もそのことは理解している。

 

しかし由也は今までの戦いの人生で自分を否定する癖がついてしまった。人殺しである自分と平和を愛する自分、いったいどっちが本当の自分なのかわからなくなってしまったのだ。

 

「これは……俺がただの人殺しじゃないっていう証明のための戦いでもある。だがそれに芳佳まで巻き込んでは……」

 

そこまで言ったところで芳佳がギュッと由也の手をつかんだ。

 

「でも助けたいって思ったっていうことは向こうの世界での約束を忘れてないってことですよね?お母さん(わたし)との約束を守ろうとしてるんですよね。」

 

「……うん……」

 

「なら、私は由也さんの背中をいっぱい押させてもらいます。由也さんが納得するまで、いくらでも。だから迷惑だなんて言わないでください。」

 

「芳佳……」

 

懐かしい記憶が由也の眼に映る。幼い日、泣いていたところを母に慰めてもらった記憶。

 

芳佳の優しさが彼女の過去を呼び覚まし涙腺にダメージを与え、涙が溜まる。それが溢れるのをグッとこらえいつもの調子を取り戻す。

 

「ああ、じゃあとことんついて来てもらうぞ。2人で彼女を助け出そう。」

 

「はいっ!」

 

 

 

 

 

翌朝、天城の甲板上が慌ただしく動き出す。シャーリーとルッキーニがカタパルトに接続され、蒸気を吹き出し時速200kmで打ち出される。

 

続いてペリーヌとリーネが発進位置に着く。リーネのハリアーのノズルがやや斜め下を向き、2人は前傾姿勢をとる。スタッフが腕を水平に倒して腰を落とすと2人は空へと飛び出していった。

 

竹井と坂本、バルクホルンとハルトマンと続いてミーナ、それと天城の直掩としてバクシーが発進するためにカタパルト射出位置につく。

由也は射出時のジェットの影響が無いくらいの位置まで2人に近づき、通信機を介して話す。

 

「ミーナ、気をつけていってこい。 スルクフやフランセットの事もある、どんな変化球を使ってくるかわからんぞ。カールラントを目指した理由が何かあるはずだ。」

 

「ええ、わかってるわ。そっちこそフランセット少尉の救出をお願いね。」

 

「ふ……ああ。無事に帰ってきてよミーナ。」

 

「ふふ、帰ってきたらちゃんと出迎えしてね由也?」

 

「あーあー、見せつけてくれちゃって……そーいうのは他所でやれっての。」

 

「うっさいバクシー。そういうお前はストライカーを壊すなよ。」

 

「誰がやるか!勝手に壊れる方が悪い!」

 

「そーゆーとこが悪いんだっての!」

 

「はいはい、そこまで。ミーナ出撃します。」

 

「バクシー離陸(テイクオフ)!」

 

2人がアフターバーナーを点火し甲板からカタパルトの蒸気を吹き飛ばし飛び立つ。それを見送ると由也は一度艦内へと戻っていった。

 

 

 

格納庫でセラとキャンベル、そして芳佳と由也の4人が集まり緊急事態に備えていた。いわゆるアラート任務、といった状況だ。突然のスクランブルに対応できるように自分たちのストライカーユニット・ハンガーの近くで過ごしているのだ。

 

由也は買ってきた歴史書を読んでいたが爆睡、キャンベルとセラと芳佳は過去話に花を咲かせていた。

 

「へぇー、昔はキャンベルさんが由也さんの僚機だったんですか。」

 

「ああ、作戦がない時は俺やボリスが後ろから見てやって由也が戦う。さすがに数が多かったり危なくなったら助けに行ったりしてな。部隊最年少だから可愛がったもんだ。」

 

「考えられないですね〜……由也さんがかぁ。」

 

「そのあとに16歳が入ってきてるから次点になったけどね。今度は由也が彼の面倒をよく見てたわ。」

 

「あはは、由也さんらしいです!」

 

由也の知らないところでドンドンと由也の昔話が赤裸々に語られていく。いい加減起きろ由也。

 

「そうね、私がエリア88に着任した時はもうギリギリだったから……由也の機体なんてジェット戦闘機じゃなくてP-51だったのよ? それでフック機動をしたりしてMiGを落としてるのだから恐ろしいわ。」

 

「P-51ってリベリオン製のあの……?」

 

「それの戦闘機版ね。たしかに悪い機体じゃないのだけれどいくらなんでも30年も前の戦闘機よ?それで戦ってたの。」

 

由也が2機目のF5D(スカイランサー)を手に入れる前、レシプロ機でジェットの相手をせざるを得なかった。もっぱら書類仕事や哨戒、爆撃がメインへとされたとはいえそういう不利な戦闘もこなすこととなった。

 

それでも何機か落としてみせるのが植村由也というパイロットだったのだが。

 

それなりに話が盛り上がっていた時、とうとう天城の警報が鳴り響いた。寝ていた由也が飛び起きて叫ぶ。

 

「回せーっ!!」

 

「……って自分で回すんだよ!」

 

「あっ、そうだった……出るぞ!」

 

ハンガーに登ると次々とストライカーを装着し、パイロンに各々装備が付けられる。

 

キャンベルのA-4には小型の無誘導爆弾を多数、セラのF-104には多数のロケット砲、由也と芳佳には4発のサイドワインダーが装備された。

 

先にキャンベルとセラがカタパルトに接続され、空へと打ち飛ばされる。続いて由也と芳佳だ。

 

カタパルト位置まで移動すると射出要員の手でストライカーユニットと射出装置が接続される。やや前傾姿勢をとり、フラップを開き補助翼を離陸体勢位置に動かす。

 

射出要員が合図を送る。由也はサムズアップし短く敬礼するとアフターバーナーを一気に吹き上げる。カタパルトは蒸気吹き出し大重量のT-2CCVを一気に時速200kmまで加速させると由也を甲板から投げ飛ばし、空へと浮かせた。

 

芳佳もすぐ後ろに続き、先に上がったセラ達のもとへと急いだ。

 

スルクフは天城のすぐ近くに浮上を始めていた。すでにバクシーがネウロイスルクフから放たれる魚雷型子機を機関砲で撃ち壊していた。しかしバクシーは最低限の武装しかないため本体と戦うのは難しい。

 

「キャンベルは私とスルクフの相手をするわ!バクシーは一回天城に戻って爆弾持って戻ってきなさい!」

 

「芳佳、俺達は上空に戻って3人の援護、あくまでも狙いはコールサイン"ガルム"……フランセット少尉だ。いいな?」

 

「はい!」

 

「よし……ついてこい!」

 

由也と芳佳は上空に上がりセラ達はスルクフの上空から一気に急降下をする。

 

A-4の抱える爆弾が全て外れて落下していき、F-104から発射されるロケット弾が白線を描いてスルクフに吸い込まれる。スルクフも船体の各所、赤い模様から撃たれるレーザーで撃ち落とすも数が多すぎ、そのほとんどが命中する。

 

甲板が炎に包まれ、砕けたネウロイの破片が宙を舞う。するとスルクフの艦橋にあたる部分に赤く輝く宝石が見えた。コアだ。

 

「いくよキャンベル!」

 

「あいよ姐さん!」

 

コアの位置を確認した2人は反転しスルクフに向かう。20mmの機関砲と7.92mmのミニガンがスルクフ目掛けて撃たれ、ネウロイも負けじと船体からのレーザーや20.3cmの連装レーザー砲で応戦する。

 

突如スルクフの艦橋後ろ、航空機格納庫の扉が開き一機のネウロイ____いや1人のウィッチが飛び出した。間違いない、あれは"ガルム"フランセット・ブロック少尉だ。

 

「あれだ! いくぞ芳佳、攻撃(アタック)!」

 

90度ロールし一気に高度を下げていく由也と芳佳。2人は2発づつAIM-9をガルムに向かって撃ち込む。ただしネウロイによって魔改造を受けた彼女のストライカーは通常ではあり得ない機動で避け、由也たちとすれ違う。

 

由也と芳佳はそれぞれ反対方向に旋回、ガルムも由也めがけ急減速し反転。横ロール戦に発展する。

 

こうなっては由也達のほうが不利ではある。虎の子のAIM-9は高速ですれ違い合うためロック・オンができず機動性では(いくらポテ 630が低性能とはいえ)ジェットストライカーのほうが劣る。つまり由也が後ろを取られるのは必然ではある。

 

しかし後ろにつかれても由也は冷静だった、いやこの状況こそ由也の狙うべき状況だった。

 

「いまだ芳佳、取り付け!」

 

「はあああああああああっ!!」

 

後ろから迫る芳佳がガルムに抱きついた。バランスを崩した2人はなんとか空に留まるがふらふらと安定しない。

 

そこに由也が機銃を背中にしまい、ホルスターからSAAピースメーカー(ブラックホークが紛失したため新たに購入)を抜いてガルムの頭を掴む。銃口を頭のネウロイ製ヘッドギアに突きつける。しかし由也のSAAを持つ手は汗ばみ震えている。

 

(コアがあるとしたらヘッドギア部分以外あり得ない。だがしかし……!)

 

いかに由也の腕と度胸があっても彼女の頭にくっついたネウロイの、それもコアのみを撃ち抜くのは至難の技であり、緊張するものだった。

 

瞬間、目にあたる部位が開きコアが露出する。

 

「なんっ……」

 

突然の行動に反応が遅れる。その隙を突いてコアから直接由也の顔めがけてレーザーが発射された。

 

シールドは張ったものの衝撃で頭を思い切り揺さぶられ、意識を失い落ちていく。

 

「由也さん!……きゃっ!?」

 

気の削がれた芳佳をガルムが銃床で殴り引き剥がす。するとガルムの右腕と銃が合体し巨大な鍵爪の付いた腕になる。

 

右腕、手のひらからレーザーが発射される。芳佳は避けるが、着弾した場所がまるで1トンの爆弾が爆発したかのような水しぶきを上げる。

 

(あんなのが当たったら……!)

 

思わず冷や汗がにじむ。いくら芳佳の魔法力が高くともあんな威力の攻撃を受けては防ぎ切れる自信はない。ましてこちらから攻撃ができない状況……事態は最悪だ。

 

一気に接近すると右腕を振り下ろし、芳佳を攻撃するガルム。しかし大振りな攻撃のため彼女には当たらない。しかし芳佳は自分が誘導されていることに気づかない。

 

ガルムの右手が赤く光り、レーザーの発射体勢になる。芳佳は避けようとして____やめた。自分の後ろに天城がいる。避けては天城がやられ、避けなくては自分が危ない。

 

しかし芳佳の性格だ、避けることなど絶対にしなかった。天城を覆うほどに、全てを受け止めるよう巨大なシールドを張りレーザーを一身で防ぐ。

 

「くぅっ……ぁあっ!!」

 

なんとか防ぎ切るが華奢な芳佳の体には重すぎた。大きく弾き飛ばされ、意識も途切れ落ちていく。

 

「間に合えッ……!!」

 

海に落ちる寸前にセラがキャッチする。先に落ちた由也は戻ってきたバクシーが空中で抱えている。

 

これ以上の継続戦闘は不可能だと判断したのかスルクフが撤退を始める。ガルムもスルクフの艦内へと反転し戻っていく。

 

作戦は失敗に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由也が起き上がるとベッドの上だった。起き上がると芳佳が自分に倒れ込むように寝ている。

 

(そうか、あの時……)

 

ゼロ距離でのレーザー、それをシールドで防いだものの衝撃で気をうしなってしまった。助けるどころか返り討ちにあうとは情けない話だ。

 

すると扉の開く音がしてミーナが中に入ってくる。由也と目が合うと一瞬驚いた顔をするが、すぐに安堵や嬉しさの混じった表情で由也に抱きつく。

 

「由也……よかった……!」

 

「ちょっとミーナ……少し気を失ってただけさ、大丈夫だよ。」

 

「バカっ!心配させたのだから少しは反省しなさい!」

 

「それは……その……はい、ごめんなさい……」

 

「んぅ……むにゃ……あっ由也さん!起きたんですね!よかったぁ……!」

 

寝ていた芳佳も起き上がり、由也に飛びつく。3人で笑い合っている様子はまるで家族のようであったと言う。

 

 

 

 

 

扉が開き由也とミーナ、芳佳が入ってくる。他の全員はすでに集まっていて3人が来るのを待っていた。

 

由也に真っ先に気づいたキャンベルが近づく。

 

「由也、もう大丈夫なのか?」

 

「たかが頭打って気を失ってただけだ、この通りピンピンしてるよ。」

 

「すまん、俺らが援護に行けてればよかったんだが……」

 

「スルクフの相手をしてる最中に、それもたった2人で戦ってるのにそれは至難の業だよ。むしろ一瞬の隙をつかれ落とされたんだ、情けない……」

 

「宮藤から聞いたぞ? むしろゼロ距離攻撃に反応してシールド張れただけでも十分さ。」

 

話もほどほどにデブリーフィングが始まる。しかしどちらの面々もやや重い顔をしていた。

 

「俺たち直掩組から報告させてもらうと……結果から言おう、撃破は失敗した。フランセット少尉も捕われたまま、スルクフも健在だ。」

 

「さすがに仕留めきれなかったか……」

 

「だが両方ともコアの位置は掴んだ、攻撃方もしっかり見れた。作戦をしっかり練って対抗するまでだ。そのために……」

 

由也は背中に下げている曲刀(アザラフシュ)の柄に触れる。

 

「……そのためにこれを使う。アザラフシュが勝利の鍵だ。」

 

「己の刃に勝利を賭けるか……はっはっはっ、それでこそ扶桑撫子だ!」

 

「いや日本人だがな?」

 

由也が苦笑しながら答える。まあ扶桑=日本であることを考えれば坂本の言っていることは間違っていない。しかし元男としては撫子と呼称されるのはいささか複雑な気持ちだが……

 

「ま、そう言うことだから後でセラ、バクシー、キャンベル、芳佳は残ってくれ。詳しく作戦を説明する。いたってシンプルだから安心しろ。」

 

「りょーかい。」「あいよ。」「了解。」「はい!」

 

各々返事をする。由也が話すことはもう無い、場所をミーナに渡す。

 

次はミーナ達ネウロック追撃組の報告だ。

 

「こちらもカールスラント近海に移動していたネウロックを追撃するも作戦は失敗……ネウロックには逃げられてしまいました。」

 

「そうだ、あの時の空母!ネウロックが合体したやつ、赤城に似てたけど何だったんだろうね?」

 

ルッキーニが思い出したように声を上げる。聞くにネウロックは追い詰めたと思ったら海中に没し、次の瞬間には赤城に似た空母と合体し浮上。ミーナ達に砲撃を加えると再び逃走したらしい。

 

話を聞いていたミーナは悲しげな顔をし、坂本は気まずそうに目を逸らす。

 

ワイワイと様々な憶測を立てる皆に坂本が声をかける。

 

「あー、アレはだな。その……」

 

「坂本少佐、その事は私が話します。」

 

「いいのか?アレは……」

 

「いえ、私が話すべき事ですから。」

 

悲しみを胸にミーナがネウロックに乗っ取られた空母について話し始める。

 

「アレは"グラーフ・ツェッペリン"……赤城型空母の3番艦、カールスラント所属の空母よ。未完成だった3、4番艦をカールスラントが引き取り完成させていたの。空母ウィッチ隊の教導の際に私も一時期協力していたわ。」

 

「えぇっ!?カールスラントに空母があったのか!?」

 

シャーリーが驚きの声を上げる。カールスラントは地上戦力や空軍力においては有名だったが、海軍戦力はUボートと呼ばれる潜水艦艦隊や船団護衛用のポケット戦艦"ドイッチュランド級"、高速戦艦"ビスマルク級"と言ったところを聞くのみ、空母があるという話がほとんど上がらなかった。

 

それはガリアにも言えることではあるが。

 

「失礼ですわね!ガリアにも空母はありましてよ!」

 

「ベアルンか? しかしアレは大きさがなぁ……」

 

「にっししし……ペリーヌとおんなじ?」

 

「ちょっとどういう事ですのルッキーニさん!?」

 

冷静に評する由也と茶化すルッキーニに憤慨するペリーヌ。だんだんと話が脱線してきた。

 

ミーナは手を叩いて話を戻す。

 

「ハイハイそこまで、話をもどします。 ……4番艦のグラーフ・シュトラッサーはほとんど未完成状態だったためすぐにノイエ・カールスラント領に送られたのだけれどグラーフ・ツェッペリンは殆どの艤装が終わっていたため輸送船や難民船として使われたの。だけれど当時空母に発着艦できる戦闘機もウィッチもいなかった上に武装化も終わってなかった。」

 

「直掩も装備もない非武装の船で戦地を行ったり来たりか……そう長くは保たないな。」

 

「ええ……往路の途中、ちょうど私達が戦っていたあの海域でネウロイの総攻撃を受け撃沈……生存者はいなかったそうよ。」

 

「それを乗っ取って……ね、趣味の悪い!」

 

「くっ……死者すらまともに眠らせてやれんのかネウロイは!」

 

セラとバルクホルンが憤る。由也達としてもとても気持ちのいいものではない。

 

グラーフ・ツェッペリンとスルクフ、2つの空母に1人のエース。これだけの相手をするために天城は闇を切り裂き海を行く。進む先は決戦の空か____




どうも、読んでいただきありがとうございます。
アンギラスです。

別にWoWPやってたとかエスコン7やってたとかクルセイダー作ってたとかそういうわけじゃないですよ?別に趣味やってて趣味の小説が進んでなかったわけじゃないですええ。Fw190楽しい。やっぱ俺は要撃機派だな。

さて今回は不覚をとった由也ですが次は秘策あり、はたして彼女は"ガルム"フランセット少尉を助けることができるのか?次回に乞うご期待。いつになるかやら。

さぁて次の機会にまたお会いしましょう。ではでは。


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第4話:神話に終焉を

由也から作戦を聞かされて直掩組メンバーは皆様々な面様だった。驚き、呆れ、心配……いろんな感情が混じりあった顔をしている。

笑みを浮かべる由也が口を開く。

「……ま、難しい内容じゃないだろ?」

「内容は難しくないけどよ……」

バクシーがうなり難しい顔をする。由也の言った作戦内容はあまりにも……

「由也、あなた死ぬ気? とても正気じゃないわ。」

「そうです、危険すぎます!」

セラと芳佳も反対する。しかし由也はこの作戦を通すつもりだった。

「フランセットの生命力のタイムリミットが限界な以上は長引かせるのは愚策、そしてスルクフがいる以上は逃げ場所として使われ続ける。つまり同時に落とさねばいけないという事だ。幸いにもスルクフの行動パターンはサキからもらったデータと先日の襲撃で完全にわかった。実行するのは易いさ。」

「だからって……」

由也がここまで説明してもなおバクシーらは変わらず心配そうな顔をする。それをキャンベルがなだめる。

「まぁまぁ……なにか根拠はあるんだろ由也?」

「もちろん。それぞれ各位の技量と戦い方、ストライカーの性能を吟味した上で作戦を立てたんだ。10分クオリティとはいえ十分な出来だと思うぞ? それに……」

「それに?」

「ウィッチに不可能はない!必ず成功する、させねばならないんだ!」

そう言う由也の目は闘志と覚悟に燃えていた。


ミーナが艦首にあたる吹き抜けとなった甲板通路を歩いている。

 

天城の艦首艦尾はもともと支柱で支えられた吹き抜け構造だった。しかし近代化改修でカタパルト装着や装甲化を行った際に強度や防御力に不安が生じ、急遽剛性を強め吹き抜け部の2/3を覆うモノコック装甲化を施した。

 

通気性は若干悪化したがもとよりカタパルト装置などのつまった機械室となる予定だった場所のため、さほど問題視されなかった。

 

閑話休題(それはさておき)

 

ミーナがここを歩いているのは夜風にあたるためであった。ネウロックが乗っ取ったグラーフ・ツェッペリン、もしかしたら自分が助けられたかもしれなかった船。それが敵の手で再び使われ、操られていると考えると寝付けれなかったのだ。

 

すると波の音に紛れ歌声が聞こえて来る。綺麗だが悲しげな歌。リベリオンの言葉で流れる故郷を思う歌詞。知らない歌だが、歌っている人の心が伝わってくる。

 

歌声につられて歩くと手すりにもたれながら由也が目を瞑り、歌声を響かせていた。

 

歌い終わるとミーナが拍手をしながら彼女に近づき、同じように由也の隣にもたれる。

 

「綺麗な歌ね。あなたの時代の歌?」

 

「聞いてたのかミーナ……"カントリーロード"、故郷を思う歌だよ。というか少し恥ずかしいんだが、ミーナは本業の人だろ?」

 

「本業ってそんな……それに由也の歌声も十分綺麗よ。」

 

「そうか? ありがとう……そういや子供の頃は歌がうまいって言われたな……」

 

「なら一緒に歌手を目指しましょうか?」

 

「ふっはは、それも悪くない。」

 

2人で笑いながら仲睦まじく話し合う。

 

ふとミーナが由也にあることを聞く。

 

「ねえ由也。元の世界に戻りたいと思う?」

 

「……どうかな。たしかに今でも故郷が恋しい、両親に会いたいし友達にも。だけど……」

 

自分の手を見る由也。ミーナには由也の眼帯の奥で悲しそうな目をしているのが見えた。

 

「……こんな手でどうやって会えば良いんだろうか。」

 

「由也……」

 

「ミーナに告白するのが怖かったのはこれが理由なんだ……血に汚れた俺と人類守護の英雄であるお前と、まったく真逆の人間だ。住む世界が違いすぎる。」

 

「……」

 

「ミッキー、あいつさ、前の世界でも御曹司なんだよ。婚約者もいた。だけどベトナムから帰ってきた後、戦争が忘れられず平和も家族も恋人も捨ててエリア88に来た。もしミーナからOKをもらっても俺もそんな風にどこか遠くに行ってしまって、不幸にさせてしまうんじゃないかって思うと……怖くて……」

 

微かに手が震える由也。そっとミーナがその上に手を重ねる。

 

「あなたは私から離れない、離れ離れになったって必ず戻ってくる、私はそう信じてる。心が通じ、助け合って、遠くに居ても繋がってる。恋人ってそういう物でしょう?」

 

「ミーナ……」

 

「だから、あなたが遠くでピンチの時には私が必ず助けに行く。」

 

「……ならミーナが助けてほしい時は俺が飛んでいく。」

 

「お互い助け合って。」

 

「お互い支え合って。」

 

「「お互い愛し合って生きていく。何があっても一緒。」」

 

「……っふふ。」

 

「……っははは。」

 

つい吹き出してしまう。だがこれで良いのだ。今彼女達は幸せを感じているのだから。

 

「だから……1人で全てを抱え込まないで。過去のことも、プロジェクト4のことも。あなたには501の皆とそれに、私がいるのだから。」

 

「ああ……!」

 

 

 

「ドキドキ……あれが大人……」

 

「よ、芳佳ちゃん。そんなジッと見てたらバレちゃうよ。」

 

「ミーナ隊長と由也さん、あんなに仲睦まじく……いずれか私と坂本少佐も……キャ〜ッ!」

 

「青春、してるねえ。」

 

影からやりとりを芳佳、リーネ、ペリーヌ、キャンベルに見られていたのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦内中に鳴り響く警報、慌ただしく走る船員達。機銃に弾が込められ、対空砲弾が装填される。

 

ウィッチ達も例に漏れず格納庫内で次々と出撃準備を始める。今は夜間哨戒をしていたエイラとサーニャが応戦している状態、絶対数的に不利だ。

 

「まさかネウロイの方から攻勢に来るなんて……!」

 

突然の襲撃に竹井が呻く。今まで逃げの一手であったはずが急に反撃してきたとなれば番狂わせもいい所だ。

 

「窮鼠猫を噛むか。厄介な!」

 

「むしろカールスラント本土に近づきすぎたのかもしれん。それかもしくは……ネウロイにとってグラーフ・ツェッペリンが今後の戦争のイニシアチブを握るのに必要なものなのか。」

 

「どういう……そうか!」

 

「空中ネウロイ母艦として大量のネウロイを格納してあんなものがとんでくるとなれば今までのネウロイの行動範囲を無視した活動ができる。そうなれば巣から離れた場所のロマーニャやギリシャ、下手をすればリベリオンや扶桑本土にまで攻撃できるようになるはず。それが量産されれば……」

 

「ガリアを解放したことも意味がなくなる……!」

 

由也の懸念が現実になればあの歯列を極めた戦いも無駄になる、それどころか人類の勝ち目すら見れなくなってしまう。

 

さらにはもう一つの凶事が近づきつつあることに由也は気づいていた。

 

「スルクフの攻撃ルーチンの時間がすぐ目の前だ。奴ら海と空の2面作戦でこっちを潰すつもりだぞ。」

 

「こちらの戦力を計られたというわけか……!」

 

パイロンにAIM-9が装備されたのを確認するとエンジンをスタートさせ通信機をオンにする。エレベーターに載せられながらも混乱する飛行甲板上の指揮を行う。

 

『艦首を風上に向けれないか!?』

 

『時間がない!横風に注意しろ!』

 

『ネウロイが抜けてきた!対空銃座撃ちぃー方ァ初め!』

 

『リトヴャク中尉とユーティライネン少尉だけでは無理だ!誰かなんとかしろ!』

 

『イェーガー大尉、ルッキーニ少尉射出完了!続いてクロステルマン中尉、ピジョップ軍曹射出準備!』

 

「こちら由也、それでは時間がない。ペリーヌは坂本と発艦、リーネは甲板後部からVTOL(垂直)離陸しろ。戦力が少しでもほしい、武装を一部投棄しても構わん!シャーリーとルッキーニはリーネの発艦を援護、ホバリング中を狙わせるな!」

 

『了解、クロステルマン中尉と坂本少佐は発艦位置へ!』

 

「続いてハルトマンとバルクホルン、竹井とミーナ、そして俺の順で発艦。エリア88および芳佳は対艦装備で待機!どんな状況であれ作戦は実施する!」

 

『ネウロイ11時方向より侵入!高度4000!どうすれば……!』

 

「いま上がったペリーヌとリーネに迎撃を当たらせろ!対空砲の指揮は天城砲術長に任せる!手取り足取り言われなくても行動しろ!」

 

『『『『了解!!』』』』

 

「ウィッチ各員は船から離れたら銭勘定しながら勝手にやれ!ただし指揮官の坂本とミーナの指示はきちんと聞くこと!」

 

手慣れたように管制官以上の働きをする由也。奇襲に混乱していた甲板上をあっという間にまとめ上げ最大効率でウィッチを打ち上げさせる。

 

現場慣れのしていない新人の天城管制官よりも前線指揮経験の豊富な由也の方が混乱下での指揮能力が上であるのは当たり前ではあるのだが。

 

そこに芳佳が通信を入れてくる。

 

「由也さん、私も出ます!」

 

「ダメだ! 今回の作戦はスルクフとフランセット、2つ同時に攻略する事が必要だ。そのためにはお前たちが必要になる。もうそろそろスルクフが浮上する、それまで待て!」

 

「由也さん!」

『植村中尉、カタパルト空きました!発艦を!』

 

「了解、発進する。」

 

「由也さ……

 

芳佳からの通信を切ってカタパルトに乗ると手早く発艦する。だが発艦の隙をネウロイが狙ってきた。

 

小型ネウロイは直滑降で由也に接近するとレーザーで攻撃する。しかし歴戦の傭兵の名は伊達ではないのだ。滑走路から足が離れた時点で戦闘準備は出来上がっている。

 

左90度にロールし紙一重で避けながらも右手で機銃を構えて急降下するネウロイを撃ち、撃破する。

 

そのまま海面すれすれをローリングしながら飛行し、ネウロイの集中砲火を回避し続ける。

 

「やはり山岳基地の時みたいにはいかないか……!」

 

自分の上を支配するネウロイを睨みつける。今までの戦いの中でも由也が空母からの発進を行ったことは限りなく少ない。あったとしてもスクランブル発進の経験は無く今の状況はまさに彼女にとって初めての体験だった。

 

由也を援護するように竹井とミーナの2人がネウロイを牽制し散開させる。その瞬間に由也は一気に機首を上げて垂直上昇する。

 

高度を十分に稼ぐとハンマーヘッドターンで急反転し降下、速度を稼ぎつつ1機目に狙いを定める。

 

ミサイルのシーカーが急激に冷えてネウロイの発する熱を捉える。しかしいくら誘導ミサイルといってもマニューバをする敵にはそうそうあたらない。必中を見極め、そして撃つ。そのその粘り強さは由也の持つ得意とするものだ。

 

1発目のミサイルがネウロイを粉々に粉砕する。再生しないのをしかと確認し左に旋回しつつ次の標的へ、それを撃ち終わるとループに入りながら3、4機目と撃ち落としていく。

 

視界のあらゆる場所が小型ネウロイで埋め尽くされている、その中から背中や腹を見せている奴を順番に撃ち落としていく。由也やエリア88のエース達の得意な戦術だった。

 

直滑降しつつ2機のロッテを組んだネウロイをまとめて撃ち抜き速度を落とさぬよう緩やかに並行に戻る。

周りを見渡し次の獲物を見渡すとサーニャとエイラが4機のネウロイに狙われているのが見えた。アフターバーナーを焚いて加速、追いつくと1機づつ確実に落としていく。

 

2人の顔には疲労の色が強く出ている。夜間哨戒の帰還するギリギリを狙われた上にこの時間まで応戦していたのだ、むしろよく落ちなかったものだ。

 

「由也さん……敵は、グラーフ・ツェッペリンはあの雲の向こうに……」

 

「無理するなサーニャ、まっすぐ北東の方角だな。エイラ、サーニャのエスコートは頼んだぞ。」

 

「もちろんなんだな……!」

 

息も絶え絶えな2人を天城に返し、由也はその援護をする。

 

ストライクウィッチーズ面々もサーニャの言葉は聞いていた。なんとかネウロイの群れを片付けて先に進もうとするが数が多すぎ、まともに動けない。

 

このままではまずいと由也や坂本らが打開策を考えていたその時、超長距離からの対空ミサイルがネウロイ軍の一部を削り取り穴を開ける。それとほぼ同時に聞き覚えのある声が由也達の耳に入ってきた。

 

「エリア88見参! 生きてるかストライクウィッチーズと愉快な仲間達!」

 

「……ミッキー? ミッキーか!」

 

「俺だけじゃないぞ、グエンとチャーリーにマックも一緒だ!」

 

サキへの報告のために天城から離れていたグエンにストライカーの近代化改修の終わったミッキーらが乱入してきたのだ。先の攻撃はミッキーのAIM-54(フェニックス)とその他メンバーが一斉射したAIM-120(アムラーム)だ。

 

「俺のF-14はA型(トムキャット)からD型(スーパートムキャット)に改装よ!」

 

「俺のはF-16C相当だな。久しぶりに中距離ミサイルなんて使ったぜ。」

 

「私のはF/A-18A+……まあC型と同じと思ってくれ。」

 

「愛機自慢できる奴ァいいね、どーせ俺は作者から出番も忘れられる古臭いF-105(サッド)だよ。」

 

「お前ら……真面目にやれーっ!」

 

「わーっ、怒った怒った!」

 

ふざけながらもその動きはまったく冗談などのない鋭い剣のよう、次々とネウロイを屠っていく。しかしストライクウィッチーズも負けていない。ハルトマンやバルクホルンといったスーパーエースを筆頭に数を減らしていく。

 

突然の援軍に足並みの崩れた小型ネウロイ達はみるみる数を減らしていき、気づけばもう1割も残っていないほどになっていた。

 

「ここから先は俺たちだけで十分だ、ミーナ!」

 

「わかったわ。全員グラーフ・ツェッペリンを目指します!」

 

ミーナ達がグラーフ・ツェッペリンの潜伏する空域へと向かうのを見送ると再び天城の直掩にあたる。

 

しかしその時由也は見た、天城に向かう4本の赤い雷跡を。

 

(アレがスルクフのネウロイ魚雷か!)

 

スルクフの攻撃であると気づくとそこからの由也の行動は非常に早かった。

 

「雷跡を確認、スルクフ出現!残メンバーもフル出撃だ!急げ!」

 

指示を飛ばしながらも雷跡に向かい破壊せんと機銃を乱射する。水中に発射してもある程度の威力減少はあるが自爆能力に特化した魚雷ネウロイ故に当たればすぐに壊れる。

 

2本は壊したが残り2本になかなか致命打が当たらない。戦闘機に比べて鈍足な上に対地戦闘の苦手な由也にとってはかなり難しいことだった。

 

やっとの思いで1つを撃ち抜くが爆発での衝撃で水面に墜落仕掛ける。水しぶきと冷や汗に顔を濡らしながら最後を狙う。もう天城が目の前だ、時間がない。

 

息を殺し、しっかり照準器をのぞく。ストックを肩にあて雷跡よりも少し前を狙い……引き金を引く。

螺旋を描いた銃弾が水中を潜り、魚雷に命中する。瞬間、水中で爆発したそれは衝撃波を発し由也の前に水柱を作り上げる。視界が塞がれ、思わず目を瞑る。次に目を開けた時には目の前に天城がそびえ立っていた。

 

「うっわわっわわわ!?」

 

機動性をフルに生かしてコブラよろしく垂直になってブレーキをかけるとそのまま垂直上昇する。

 

(慣れないことはするもんじゃない……!もう絶対やらないからな!)

 

プハッと息を吐いて深呼吸する。しかしネウロイは息つく暇すら与えてくれない。

 

魚雷がすべて迎撃されたとわかるとスルクフが浮上してきた。天城のすぐ近く、前に出てきた時よりもずっと近い。

 

『敵艦至近!副砲撃ち方よぉーい!』

 

『対ネウロイ弾装填ヨシ!』

 

『各砲自由射撃!』

 

天城の側舷20cm砲が火を吹きスルクフを攻撃する。それと同時に空に上がったバクシーとキャンベル、セラと芳佳も攻撃を開始する。ストライカーに付けた爆弾を対空砲火にさらされながらも急降下で当てていく。

 

先陣を切るキャンベルのものが甲板前部に着弾、潜水が不可能になる。次鋒のキャンベルのものが主砲付近に当たり旋回装置を破壊する。傷が深く再生が追いつかない。そしてセラの爆弾が甲板後方の飛行機格納庫あたりに直撃する。

 

すると格納庫にできた穴から何かが由也に向かって勢いよく飛び出した。

 

「由也さん!」

 

「いけ、芳佳!コイツの相手は俺だ!」

 

背中のアザラフシュを引き抜き、振りかぶるとそれを弾き飛ばす。それは上空で反転すると由也を睨みつけるように振り向く。

 

間違いない。"ガルム"フランセット・ブロックだ。

 

「……お相手仕る。」

 

どこかふざけた口調ながらいつにない真剣な表情で剣を構える。ガルムも小柄な身体に似合わない巨大な右腕をダランと下げ、いつでも襲い掛かるといった様子だ。

 

静寂が2人を包み、そして____爆発した。

 

「らぁっ!!」

 

「____!!」

 

剣と巨腕、2つがぶつかり衝撃波が飛び散る。しかしガルムの方がネウロイとの融合体故か力が異常に強く弾かれのけぞる。ガルムはその巨腕から繰り出される貫手で由也をつらぬかんとする。しかし由也も跳ね上げられたアザラフシュを振り下ろし軌道をそらす。

 

由也には剣技などというものは持ち合わせていない。最初の人生では万年文化部を貫き通し、前の世界においては父親に連れられ動力付きグライダーの操縦をやったのみ。併せて言えばエリア88入隊における最低限の訓練だけだ。

 

剣に触れたのはスズヤとの戦闘が初めてであり、その後に何度かサキやペリーヌや坂本に稽古に付き合ってもらったのみだった。

 

しかし由也は負ける気はなかった。かつて多くの仲間を救えなかったこと、そして今は誰かを救える力を持っていること。母から言われたあの言葉「その力を多くの人を守るために」____今までできなかったそれを成す時が来たのだ。こんなに嬉しいことはない。

 

どんなに過酷な世界に生きていても、由也は宮藤家の人間なのだ。

 

何度も鍔迫り合い、離しレーザーで攻撃をしそれを避け、再び肉薄し剣を振るう。剣を使うには雑な振り方だが、刃こぼれ一つつかぬアザラフシュ。むしろ由也が魔力を注ぐたびに光り輝き切れ味が増している。

 

一瞬の隙をついて由也を跳ね飛ばすとガルムがその腕を天城に向けた。手のひらについた砲門に紫電が迸り、エネルギーが溜まっていく。芳佳を吹き飛ばしたあの攻撃が再び天城を狙っているのだ。当たれば轟沈は免れない。

 

「さ、せ、る、かぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

ありったけの魔力をアザラフシュに注ぎ、大振りに振り下ろす。込められた魔力が刃先から伸びて実体となり巨大な雷の刃となる。刃はどんな攻撃も防ぐほどの頑丈さを見せたガルムの右腕を切り裂いた。

 

突然のことに由也だけでなく周りのウィッチ達や天城の乗員らもその光景に驚きを隠せない。しかし敵が怯んだ今こそチャンスだ。

 

由也は手に持っていたアザラフシュを振りかざすとガルム目掛けて()()()()()。回転しながら飛んでいくアザラフシュ、それをかろうじて残っている右腕の肘先で弾き返す。しかしその目の良さが勝敗を決した。

 

 

 

バンッ!!!

 

 

 

1()()の銃声が鳴り響くとガルムの顔を覆っていたバイザー型ネウロイに3()()()()銃痕が生まれ、ヒビが入る。うち1発はコアにまで到達していた。

 

-ファストドロウ-

 

由也が前の世界から得意とするリボルバーの早撃ち技術だった。あらかじめハンマーコックした1発に左手の指で2発目、3発目をコッキングする。シングルアクション拳銃であれば1発目からトリガーは引きっぱなしにすることで2、3発目はいちいち引き直さなくても撃たれる。

 

言葉で言うには簡単だがこれを命中させることができるのは相当な技量の持ち主だけだ。そして由也にはそれだけの腕前があった。

 

コアが砕かれ、ネウロイであった右腕や装甲などの部分が破片となって散らばる。ストライカーユニットもネウロイに強く侵食されすぎたために粉々に砕け散り呪縛から解き放たれたガルム____いや、フランセットは重力に従って落下を始める。

 

「芳佳!」

 

「由也さん!」

 

アザラフシュを空中でキャッチした由也と芳佳がフランセットを受け止め、治癒魔法を全力でかける。外傷はほとんどないが衰弱している彼女を守るものは今何もない状態だ。少しでも助かる確率を上げるための宮藤姉妹だったのだ。

 

治癒魔法をかけ続けているとフランセットが少し身動ぎをし目を開ける。

 

「ここは……」

 

「海の上だよ、今はしっかり休んでいな。」

 

由也が優しく語りかける。スルクフもエリア88の猛攻に傷つき天城の砲撃でとどめをさされ光と消えた。

 

囚われの番犬はついに解き放たれた。




読んでいただきありがとうございます。
アンギラスです。

荒野のコトブキ飛行隊 完全版、2周してきたのですが空戦シーンの迫力がアニメの比じゃないですね。自分が空にいるみたい。おかげでレシプロ熱が久しぶりに再発しました。二次大戦航空機だとフォッケウルフか雷電が好きですね。

ブレイブウィッチーズももうそろそろ完走するところです。いやぁやっぱウィッチはいいぞ。先生好きだわ。というかあの人の言葉には心を救われた。見てよかった。

次はついに空母グラーフ・ツェッペリンとの戦い。アザラフシュの能力を解放した由也と合流したエリア88、そしてストライクウィッチーズ。対艦番長が全力を出してくるぜ。

それでは次回またお会いしましょう。
ではでは


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第5話:死者には弔いを

グラーフ・ツェッペリン

かつては高雄と名付けられ扶桑からカールスラントへ譲渡された赤城型空母2隻のうちの片割れである。カールスラント独自の改装が多く施されているがその見た目はやはり姉妹艦である赤城や天城に近い。

しかしネウロイの侵攻には間に合わず空母艦載機すら完成もままならず結果として輸送船や難民船としての働きしかすることができなかった。

そしてその生活すらもネウロイによって奪われた。

難民船としてカールスラントを出港した直後をネウロイに狙われ、奮戦虚しく矢尽き刀折れ。護衛のウィッチおろか航空機一機無い船団などただのいい的だ。

グラーフ・ツェッペリンは駆逐艦3隻をお供に武器弾薬と数千人の避難民を巻き添いに海の中へと消えた。

そして今、冒涜的な復活を果たした伯爵は人類の敵として空を飛ぶ____


グラーフ・ツェッペリンの対空砲がストライクウィッチーズを攻撃する。護衛機こそ壊滅させたがネウロイ化した影響あって火力がケタ違いに強化されている。それこそ赤城なんて目じゃないほどだ。

 

もとより原型艦である赤城よりも強化され各所についた対空砲、対艦砲だけでなく赤い幾何学模様からのレーザー攻撃に手をこまねいていた。

 

「まともに近づけない……っ!」

 

「ちょっとマズいよ〜!?」

 

バルクホルンとハルトマンが攻撃しながらも悲鳴に近い声を上げる。

 

このままの状態が続けば確実にこちらが押し込まれて退却せざるを得なくなる。そうなれば由也の懸念することが現実のものになる可能性もあるかも知れない。

 

それだけは避けなければならない。しかし打開策がないのも現実である。

 

「うーん焦ったいなぁ!先行っちゃうね!」

 

「あっこら!ハルトマン!」

 

ハルトマンが堪えきれなくなり1人グラーフ・ツェッペリン目掛けて突っ込み、バルクホルンもその後を追う。

 

対空砲を全て躱して肉薄すると固有魔法の疾風(シュトルム)で側舷を抉っていく。しかし天城から離れる瞬間を狙ってレーザーがハルトマンの背中を狙う。

 

バルクホルンはそれをギリギリで防いでやるとハルトマンを叱る。

 

「ハルトマン!勝手に1人で無謀に飛び込むな!」

 

「だいじょーぶだよ、トゥルーデが守ってくれるもん。」

 

「そういう問題じゃない!危険だと言ってるんだ!」

 

「……でも有効な手ね。」

 

ミーナの肯定する声に不思議そうな顔をするバルクホルン。ミーナの中でやり方は決まった。

 

前回は数で優勢であったために対空砲が分散していたが今はエリア88もおらず前回の半数以下という状態だ。攻撃から離脱の瞬間が狙われる。

ならばその背中を別の人に守って貰えばいいのだ。

 

「ロッテを組んでそれぞれ攻撃と防御に専念!」

 

「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」

 

バラバラに飛んでいたウィッチ達が2機編隊(ロッテ)を組んでグラーフ・ツェッペリンに攻撃を仕掛ける。

 

リーネとペリーヌがシールドを張りながら接近すると電撃(トネール)で対空砲を破壊する。離脱の際に後ろから攻撃されるがそれはリーネが防いだ。

 

続くはシャーリーとルッキーニだ。だが2人の戦い方はより変則的だった。シャーリーがルッキーニを抱き抱えると固有魔法の超加速で一気に接近してルッキーニの光熱で溶かし削る。武装が装甲ごと抉られていくのを黙って見ていられない、がシャーリーの速度凄まじく時速3000kmを上回り熱の壁にブチ当たりレーザーを振り切っていく。

 

坂本と竹井のリバウ組の息のあったコンビネーションで一度だけではなく何度も何度も攻撃を加えていく。坂本はすでに魔法力のあがりの影響ありシールドが張れぬ身体となってしまっているが、それを竹井が補佐した。

 

2人1組となりグラーフ・ツェッペリンの武装を削っていくもやはり決定打に欠けていた。もっと強力な攻撃が必要だ。

 

 

 

そしてその火力というのが思ったよりも早く到着した。

 

 

「エリア88見参!」

 

 

 

「! 由也!?」

 

「待たせたなミーナ! あっちは全部終わらせてきた!加勢するぞ!」

 

エリア88と由也、芳佳が補給を終えて戦線に復帰してきたのだ。フランセット少尉も天城に預けてきた。さらにはエイラとサーニャの2人も休憩もほどほどに出撃してきている。

 

マックがサーニャについて喋りだす。

 

「まさかサーニャがあんなに頑固だとは思わなかったな……以前見た時は物静かな子だと思ったが。」

 

「私だって、みんなの力になりたいんです。」

 

「わかってるさ。そのために由也が急ごしらえでミサイルをいじったんだろ。」

 

「ああ、ベトナムでF-102(デルタダガー)が使った手と同じように近接信管が作動しないようにしてある。対艦ミサイルとはいかないがそれなりの威力が保証できるはずだ。」

 

F-102(デルタダガー)AIM-4(ファルコン)対空ミサイルを搭載する要撃機だったが全天候性能を買われて夜間爆撃に使用された。その際に赤外線シーカーを利用し攻撃を行なったのだ。まあ結果は散々であったが同じような手が使えるはずと踏んで由也はサーニャの長距離対空ミサイルを少し調整している。

 

それだけに飽き足らず由也と芳佳、エイラとマックは載せれるだけのエグゾセをありったけ詰め込み、グエンとチャーリーも大量のAGM-65(マヴェリック)を3連パイロンに取り付けこれでもかと引っ提げてきた。ミッキーもサーニャと同じように調整された長距離対空ミサイルを最大本数括り付けている。

 

「全機ミサイル一斉射!」

 

ミサイルが切り離されロケットブースターに炎が灯る。超音速にまで一気に加速し10を遥かに超える数の槍が迎撃すらおぼつかない伯爵へと突き刺さる。

 

いくつもの爆炎がグラーフ・ツェッペリンを覆い、その巨躯に穴が開く。

 

魔眼で遠視していた坂本がその穴の奥に潜む存在に気付いて叫んだ。

 

「あの先だ!あの穴の向こうにコアとなってるネウロックがいる!」

 

「! 行きます!」

 

「待てッ芳佳! そういうのは保護者同伴だ!」

 

「芳佳ちゃん!」

 

親玉がいると知るや否や芳佳が真っ先に飛び込み、それを追って由也とリーネが入っていく。他の者も追おうとするがタイミング悪く対空砲が再生を始め再びウィッチを寄せ付けぬよう攻撃を始める。

 

「リーネさん、宮藤さん!由也中尉まで少佐の命令を聞かないで勝手に行動して!」

 

「由也! 無事か!」

 

「ああ、しかし誘い込まれてるような気分だ。」

 

ペリーヌの罵倒や坂本の通信を聞きながらネウロックを目指す由也達。ネウロイによる抵抗があまりにも少なく奇妙な感覚に囚われる。きっとこれは空母の中とは思えぬ広さの空間を飛んでいるのとは関係ない、考えすぎなだけだ、そう由也は思いたかった。

 

リーネが不安そうな顔で由也を見る。今この中で士官でかつ年長なのは由也だ、自分がしっかりしなければならない。

 

「なにはどうであれ外に出るより奥に行ってネウロックを倒してしまった方が早い。先を急ぐぞ。」

 

「「はいっ!」」

 

どんどんと奥に進むがなかなか最深部が見えてこない。まるで巨大な生物の腹の中を移動してるようだ。そもそもいくら大型のグラーフ・ツェッペリンでもこんな巨大な空間は無いはずだ。

 

「次元を歪めて空間を広げてるのか……どんどんSF小説チックなヤツになるなネウロイってのは。」

 

「次元……ですか?」

 

「ああ、いや。こっちの話だ、気にしないでくれ。」

 

ある意味未来人である由也の発言に疑問符を浮かべるリーネ。話についていけないのはごもっともである。

 

そうこうしているうちに円柱状の空間に招かれた。由也は思わずデ○スターの中心部か?と身も蓋もないことを言う。当然周りの2人には通じないのだが。

 

空間のちょうど中心の位置にまるで鍾乳石の柱のように上下から結晶が伸びていて、その間に元凶が居座っていた。由也とてそのシルエットは一度だけチラッと見ただけだがとても忘れることはないだろう。

 

ネウロック

 

幾たびもストライクウィッチーズの前に立ちはだかった人類の業"ウォーロック"。少し前の由也達であればこれが再び現れるとは思いもしなかっただろう。それがネウロイとなって今ここにいる。このままカールスラントのネウロイの巣に向かえばグラーフ・ツェッペリンだけでなくコイツまで量産される可能性がある。それだけは避けなければ、最悪な事態は絶対に起こさせてはならない。

 

「いくぞ……芳佳、リーネ。ここで終わらせるぞ!」

 

「「はいっ!」」

 

3人がネウロックめがけて一直線に飛ぶ。なるべく最小限の動きで攻撃を避けながら、それでも避けれないのはシールドで防ぎながら接近し機銃で攻撃する。

 

ネウロックが両腕で防ぐと白く破片が散らばり、対装甲ライフル弾で大穴を開けられる。反撃にと3人の背中めがけてレーザーで攻撃する。

 

散開回避(ブレイク)!」

 

由也の号令と同時にバラバラの方向に急旋回して避ける。再び攻撃するために旋回する由也。しかし____

 

「きゃあああああーっ!!」

 

「リーネちゃん!!」

 

「リーネ!っ……あれは!?」

 

リーネの悲鳴に振り向くと多数の人間の腕に捕まれているではないか。芳佳が助けようと無謀に飛び込むが芳佳までもが引き摺り込まれ始める。

 

急いで由也が彼女達を捕まえている腕を機銃で破壊して助ける。

 

「ありがとうございます由也さん。でもアレは……」

 

「……遺骨だよ。奴らグラーフ・ツェッペリンに残っていた遺骨を全部取り込んでネウロイにしやがった……!!」

 

あまり荒っぽい感情を出すのが嫌いな由也が怒りを堪え、声がわずかに震えている。

 

地獄の釜の底から這い上がるように人骨の上に人骨がのっかり一歩づつ由也達めがけて手を伸ばそうと這い上がってくる。

 

「やるぞ2人とも……それがせめてもの彼らへの手向……」

 

「由也さん……わかりました。」

 

「終わらせましょう、ここで。」

 

キッとネウロックを睨みつける。そんな3人を嘲笑うように小さく揺れたと思うと結晶柱から飛び上がった。

 

「飛べるのかよ……いいだろう、空の上でケリをつける!」

 

アザラフシュを抜いて左手に持ち、機銃を撃ちながらネウロックめがけてアフターバーナーを全開にダッシュする。由也の攻撃を避けながら剣撃を左腕で受け止めて力任せに振り飛ばす。

 

大振りの攻撃で隙のできた左脇から芳佳が接近し攻撃する。ネウロックも右腕からのレーザーで撃ち返すがそれを芳佳はスナップロールで下に避ける。追撃しようとするが持ち直した由也が再び機銃で攻撃を始める。

 

さらにリーネも的確に隙を狙ってライフルで狙撃する。しかしいくら攻撃してもおかしなことに傷がすぐさま直されていき、ダメージがリセットされてしまう。いくら再生が速いと言っても異常な速さだ。

 

まさか、と思いながらも由也がトリックを見抜いた。

 

「あいつグラーフ・ツェッペリンからエネルギーをもらってるのか!」

 

「ええっ!?でもネウロックがコアなんじゃないんですか!?」

 

「おそらくこの艦自体が巨大なエネルギータンクのような役割を担ってるんだ。だからどんなにダメージを受けてもすぐに直る……外から攻撃して艦の再生をさせてその間にこちらもネウロックを攻撃する、これしか無い。」

 

「ですが通信も通じず……」

 

リーネが絶望した顔で由也を見る。ネウロイの特性で長距離通信が妨害され、ミーナ達と会話一つできない。おまけにネウロックを落とすことも難しく来た道を戻ろうにもすでに塞がれてしまっている。

詰み、ということか。

 

リーネはさらに青い顔で呟く。

 

「む、無理です3人だけじゃ……私達だけじゃ……」

 

「……この場にいるのは3人だけだな。だが俺達は()()()3()()()()()()()()()()。」

 

「えっ……」

 

「俺達は『ストライクウィッチーズ』なんだ、仲間がたった3人ぽっちなわけないだろ? 信じろ、仲間を!」

 

由也がリーネを励ます。泣きそうな顔をしていたリーネも再び顔を引き締めてうなずく。ここらからはストライクウィッチーズの反撃の時間だ。

 

由也と芳佳が同時にネウロックめがけて銃撃しつつ左右に散らばる。

もちろんネウロックは左右両方を攻撃しようと両腕を広げる。そこをリーネが狙い撃ちダメージを与える。さらに由也がアザラフシュで切り抜け、芳佳が周りを旋回しながらひたすらに鉛玉を撃ち込んでいく。

 

しかしその攻撃でできた傷全てが瞬く間に癒えていく。ダメかと思ったその時、突然空間が揺れてネウロックの動きが鈍くなった。

 

何が起きたかと一瞬わからなかったがすぐに理解した。これは____

 

 

 

 

 

「ミーナ、これ本当に効いてるの!?」

 

「効いてなくてもよ!赤城の時と同じよ、中に入った由也達を援護すると思って!」

 

外側でミーナ達がグラーフ・ツェッペリンと交戦していた。各々の機銃をもちいてダメージを与える。戦闘に参加しているのは彼女達だけでなく天城も高角砲で直接グラーフ・ツェッペリンを砲撃する。

 

効いているか、いないかなど問題ではない。中に突入した仲間のためにいまできる精一杯をこなすだけだ。

 

 

「私達全員で勝利を掴む!」

「俺達全員で勝利を掴む!」

 

 

由也がネウロックの右腕を切り飛ばし、芳佳とリーネで蜂の巣にしていく。ズタズタになった装甲の隙間から赤い光が漏れているのを見るにコアの位置もすでに分かっている。

 

「由也さん、もう弾が……」

 

「私のも……」

 

「チッ……あと一歩のところで!」

 

しかし全員弾が残っていない。最後の武器は由也のアザラフシュだけだ。

 

もう一度あの技が使えれば仕留められるだろう。しかし由也の残り魔法力も少なくあの技を使うには足りない。

 

だがあくまでも1人でなら。皆とならできる。

 

「リーネ、芳佳、力を貸してくれ。ネウロックを落とす必殺技を使いたい。」

 

「はい!」「わかりました!」

 

言われる通り由也が構える剣に手を置き、魔法力を込めていく。ネウロックがそれを止めようと残った左腕を振り上げるが遅い。

 

「これで終わりだぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

由也が雷電迸り巨大な雷の刃を振り上げるとネウロックめがけて叩きつける。真っ二つ、とはいかなかったが損傷した装甲では由也の稲妻(アザラフシュ)を受け止められるわけがなかった。装甲共々コアが断ち切られ、視界が白く光輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラーフ・ツェッペリンが崩壊し、海へと落下していく。その中から由也達3人が飛び出した。

 

「由也だ! 由也が戻ってきた!」

 

「宮藤達も一緒だ。大した奴だ……」

 

無事を確認すると皆で帰還を喜ぶ。しかし由也の顔は嬉しそうでは無かった。

 

沈んでいくグラーフ・ツェッペリンを振り返ると静かに敬礼する。ミーナもかつてのグラーフ・ツェッペリンの乗員達への思いを胸に由也に倣う。他の面々も思い思いに手を合わせたり、敬礼をしたりしてグラーフ・ツェッペリンを送った。

 

天城の警笛が鎮魂を祈るように北海に響き渡るのだった。




読者である傭兵の皆様、今回も読んでいただきありがとうございます。
アンギラスです。

荒野のコトブキ飛行隊3周してきたりストライクウィッチーズ3期1話の先行配信で焚きつけられてWTやってたわけじゃないです……(震え声)
Potez631が強いのが悪い。ランク低いの乗ろうと思ったら1日のうちに今までの機体の戦績あっというまに超えやがった。

そう、第3期Road to Berlin編ですよ。さらにアプリゲームのユナイテッドフロントも始まりますしルミナスウィッチーズも待ち構えてます。正気かコレ。

楽しみでしょうがないが財布も心配。CDをあと何枚買えば良いんだ……

とりあえずユナフロはミーナと先生を当てるために頑張るかな……リセマラはしない主義なので課金と運で。

では次回またお会いしましょう。ではでは。


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第6話:白銀の翼

ツェッペリン・スルクフ事件。ストライクウィッチーズ、エリア88の2度目となる共同での戦闘は新聞にてこう名付けられた。ネウロックはウォーロック自体が最高軍事機密にあたるとして一切触れられず、『カールスラント領ネウロイがグラーフ・ツェッペリンとスルクフをネウロイ化させた。ストライクウィッチーズ及びエリア88がこれの撃破のため出撃、行方不明だったフランセット・"ガルム"・ブロック少尉も彼女達の尽力で発見、救出された』と報道された。

そしてここで大々的に一面に載ったのは宮藤芳佳、そして植村由也の2人だった。特に由也は"片目の竜騎士"の二つ名と共がさらに有名なものになった。余談だがグラーフ・ツェッペリンに敬礼する姿の写真は特に人気を博し、本人の知らないところでブロマイドとなって売られるのだがそれはもう少し先の話。

そして時はネウロックを撃破したその翌日に戻る____


-天城 医務室-

 

「ん……ぅ……?」

 

助けられた少女、フランセットが目を覚ます。なぜここにいるのか戸惑い、すぐに思い出した。自分はネウロイに囚われ、そして長い、長い間ずっと暗い世界にいた。そして限界だと思った時、私に誰かが手を差し伸べてくれた。小さい時に読んだ絵本の騎士様のような人。それを思い出すと鼓動が早まり顔が熱くなる。

 

思考を中断し頭を振ると誰か探そうとベッドから立ち上がろうとする。しかし情けなくそのままベッドのそばに倒れ込んでしまう。

芳佳と由也の治癒魔法によって怪我などは良くなったがその他で問題はある、致し方ない。

 

そのまま何度か立とうと四苦八苦し、なんとか立ち上がった時、扉が開いて人が入ってきた。そう、芳佳だ。

 

一瞬ぽかんとするがすぐに状況を飲み込んで慌ててフランセットをベッドに戻す。

 

「まだ動いちゃダメです!傷は治っても疲労や体力の衰えがあるんです、もう少し安静にしてないと。」

 

「あ……ごめんなさい。私……」

 

「フランセットさんですよね。私達がネウロイに捕まってたのを助けたんです、と言ってもほとんど由也さんのおかげなんですけどね。」

 

「由也……?その人が私を助けてくれたの?」

 

「はい!私のお姉さんみたいな人です!」

 

そう話していると再び扉が開いて芳佳と似た、しかしもっと年上の女性が入ってくる。扶桑の士官服を着た彼女、由也もフランセットを見ると少し驚いた顔をするが、安堵感をあらわにする。

 

「由也さん!フランセットさん起きましたよ!」

 

「もう意識が戻ったのか。すごい精神力だな。」

 

「あ、あの……」

 

「失礼、俺は扶桑海軍中尉、植村由也。君の救出作戦の責任者だ。こっちは同じく扶桑海軍軍曹の宮藤芳佳だ。ひとまず無事でよかった。」

 

ベッドの近くに椅子を2つ持ってくると座る。由也の顔が近づき、フランセットの顔がまた少し赤くなる。

 

「ガリア空軍少尉、フランセット・ブロックです。フランとお呼びください。えっと……助けていただきありがとうございます。」

 

「いや、当然のことをしたまでだ。一応本艦は1日後にガリアのパドカレーに寄港して君を軍病院に入院させることになってる。その間に君が知らない間のこちらの話をしようと思う。大丈夫か?」

 

「……はい。お願いします。」

 

時系列順を追って説明を始める。ガリアの陥落、複数の亡命政府の樹立、統合戦闘航空団の設立の開始、そしてガリア解放へ。

 

「由也中尉は私だけでなく祖国をも救ってくれたのですね。」

 

「俺だけの力じゃない、芳佳やみんなが居たおかげだ。まあ、そこから先は君も体験してるだろうことだ。」

 

「4年もネウロイの捕虜になっていたなんて……あの時隙を突かれてなければこんなことにはならなかったのに。」

 

「誰だってそんなことはあるさ。最後に生きていればいい。」

 

落ち込むフランにフッと笑いながら優しく声をかけ、頭を撫でてやる。嬉しさ半分恥ずかしさ半分、そして気持ちよさに目を細め口元を緩める。どこか大人びた印象を受ける彼女だがやはりこういう所は13歳の年相応の可愛さがある。

 

そういえば、と芳佳が疑問を口にする。

 

「フランさん写真で見た時と変わってないですよね。まるで歳をとってないみたいな……」

 

「いや、医者曰く実際にとってないらしいぞ。」

 

「「えっ!?」」

 

「どうも年齢による肉体的衰えや魔法力の変動もほとんど無いみたいで4年前と全く同じ状態でキープされてるらしい。」

 

「そんなことあるんですか……?」

 

「昔聞いた話だが、炭鉱の事故で深い昏睡状態にあった少年が何十年も目覚めず当時の身体を維持していたってのを聞いたことがある。フランもネウロイに囚われている間、一種の冬眠状態にされていて身体の老化を防いでいたのかもしれないな。」

 

ネウロイのやることは計り知れない。人間の技術力ではできないようなことを平然とやってのけるのだから恐ろしい。

 

その時、大きなお腹の鳴る音が医務室中にこだまする。見るとフランの顔がみるみる真っ赤になっていく。

 

「ハハハ……そうだったな。すこし待っててくれ、飯にしよう。」

 

由也は立ち上がると医務室を出て行く。再び芳佳とフランの2人だけになった。ふとフランが芳佳に気になっていたことを質問する。

 

「ねえ、芳佳さんと由也中尉って姉妹なんですか?」

 

「え?えぇっと、血は繋がってるけど姉妹ではなくて……うーん……」

 

「……従姉妹なのですか?」

 

「あっ、うん!そうそう、親戚なの!」

 

そう言ってごまかす芳佳。いかんせんあまりにも複雑怪奇な関係なのだから説明が難しい。

 

逆にと芳佳も聞き返す。

 

「フランさん家族はいるんですか?もうどこかに避難して?」

 

「いえ、母は私を産んで早くに亡くなりました。父は私が前線に出てから連絡が取れなくて……」

 

「! 由也さんなら知ってますよ!きっと無事ですよ!」

 

「そう……そう、よね。」

 

曇った顔がすこし元気を取り戻す。それからしばらくして由也が小さな鍋を持って中に入ってきた。

 

「いきなり固形物は危ないからな、流動食として雑炊を作ってもらってきたぞ。」

 

そういうと鍋を置いて蓋を開ける。中からなんとも言えぬ美味しそうな香りが漂い部屋に充満する。

フランにとって馴染みのない料理だがそれが本当に美味しそうで思わずよだれが口元から垂れる。

 

由也が手に持ったレンゲで雑炊をすくうと息で冷ましてやり、フランの前に持ってくる。

 

「ほら、フラン。あーん。」

 

「あ、あーん……ング……」

 

恥ずかしさが出るがそれよりも食い気、そんなことに気にしてられるほど彼女のお腹に余裕は無かった。ほとんど歯応えはないが舌に確かな味が染み渡る。久しい刺激に目頭が熱くなるが涙をぐっと堪える。

 

次々と親鳥から餌をもらう雛鳥のように鍋の中を食べていき、気づけば空っぽになっていた。

 

鍋を片付ける由也にフランがさっきの話題の事を聞く。

 

「由也さん、私の家族はどうなっているかご存知ですか? 父はまだ存命のはずなのですが……」

 

「ん……あー、そうだな……」

 

由也が腕を組んで考え始めうーんと唸り眉間に皺がよる。しばらく考え込むと決心したように話し始めた。

 

「やっぱ嘘をつくのは苦手だ。フラン、君のお父様はネウロイの攻撃で死亡されている。明確な死因まではわからなかったが……」

 

「やはりそうなのですね……」

 

「……わかってたか。」

 

「今までの事で察しは付きます。私が……私がもっと上手くやっていれば運命は変えれたかもしれない……けど……っ!」

 

「フランさん……」

 

フランの小さな手が血が滲みそうなほど握り締められる。彼女の手の上に由也がそっと手を添えて諭した。

 

「神様ってのは残酷で飽き性でクソったれなもんだ……殴り込みにいこうにも高度10,000mにもいないから顔を殴ることもできない。けどまだお前が生きてるのには必ず理由がある。」

 

「り……ゆう……?」

 

「人を守るためさ。ウィッチという力があり、空を飛ぶ才能がある。それを使って今まで4年間守れなかった人をこれから守るんだ。お前のその翼は剣ではなく盾であらねばならない。」

 

「うん……」

 

「これからの戦いはただネウロイと戦うだけじゃなくなる。もしかしたらネウロイを守る戦いも、人間を撃つ戦いも経験することになるだろう。その時に聡明なお前ならどっちに付くべきかわかるはずだ。」

 

「……うん……」

 

「ガリア解放戦をターニングポイントにこれから泣く暇もない戦争になるかもしれない。だから、今はたんと泣いておけ。」

 

「う……うぁあああああん!!」

 

フランの目から涙が溢れ出るのを由也は胸で抱きとめる。彼女が泣き止むまで静かに抱きしめてあげた。

 

 

 

「ご、ごめんなさい。服に……」

 

「いいんだよこのぐらい。」

 

泣き止むとフランはまだ目を赤く腫らしながら謝る。しかし由也とてその程度で起こるような器の小さい人間じゃない。むしろ彼女の事を感心していたのだ。

 

ルッキーニとほとんど同じ年齢ながら物分かりがよく落ち着きのある性格だ。感情のコントロールも歴戦の兵士ほどではないが年齢不相応にできて由也の言うことをきちんと理解し噛み締めていた。

 

(なんて心のつよい子なんだ……俺よりももっとつよい。)

 

少しフランを羨ましく思ってしまう。かつての自分が情けないほどに弱かったが故に。

 

いけない思考だ、頭を振ってそんな考えを捨て去る。

 

「あとでの医師からの健康診断次第では面談もできるようになる。騒がしい連中だが悪い奴じゃない、きっとすぐに仲良くなれるさ。」

 

「本当でしょうか……ほんの昨日まで戦っていたというのに。」

 

「操られていただけだろ?それにその程度であれこれいうほど思考の働く奴らじゃないさ……」

 

そういうとおもむろに立ち上がり扉に手をかける。重い扉を素早く引くとドタドタッと悲鳴を上げながら部屋の中に倒れ込んできた。

 

「……だろ?ハルトマン、ルッキーニ?」

 

「えへへ……ばれてた?」

 

「うじゅ〜……重い……」

 

ルッキーニを下敷きにハルトマンが笑ってごまかす。立ち上がるとフランのベッドの横に移動する。

 

「はじめまして、私はエーリカ・ハルトマン!よろしくね!」

 

「あっ、ずるい!アタシはフランチェスカ・ルッキーニ!」

 

「え、えっと、フランセット・ブロックです。フランと呼んでください。」

 

「ルッキーニは年が近いくてハルトマンは3つ上だ。階級も近いからそんなに固くならなくていい……が、お前ら。医師の許可あるまで面会謝絶だと言っておいたはずだが?」

 

「えー?別にいいじゃん。ほら、フランだって退屈しちゃうよ。」

 

「体力の衰えたウィッチは外傷や病気への抵抗が著しく弱くなるの。体を守るシールドがほぼ無くなる故に風邪をはじめとする病気にかかる確率だって大きくなる。それが今のフランには脅威になる可能性があるから面会謝絶にしてるんだ。そこら辺理解しろこの万年中尉。」

 

「ぶー、ケチケチ言わなくたっていいじゃないお財布番兵。」

 

ハルトマンと由也が言い合っている間にフランはルッキーニと芳佳と会話の花を咲かせていた。

 

それは後でバルクホルンが来るまで続くのだった。

 

 

 

 

 

それから時間の経つことの早いこと、エリア88の面々は一足先に帰還してしまっていたが、由也の言う通りフランとストライクウィッチーズの面々は早々に打ち解けた。フランの体も大きな異常はなく、長年の監禁生活での体力や体重の低下などがある以外は健康体であった。

 

そしてすぐに日は経ち船は進み、別れの時がやってきた。

 

タラップから降りたすぐの場所にみんなが集まる。フランは最優先で軍病院に送られ、由也と芳佳、坂本、竹井はロマーニャに向かい、そこで竹井も降りる予定だ。だがその他の全員はこのパ・ド・カレーで降りるのだ。

 

各人別れを惜しみ挨拶を交わす。それは由也も例外ではない。

 

「しかしこれでお別れかぁー……長いようで短いような、そんな感じだったな。」

 

「シャーリーはアフリカ方面だったな。どうせルッキーニもついていくんだし、あまり面倒ごとは起こさないようにな。あっちは"アフリカの星"のお膝元なんだから……」

 

「そんな心配すんなよ。なあルッキーニ?」

 

「うんうん!」

 

「余計に心配なんだが……」

 

シャーリーは明確に日時を決めてないのを理由にルッキーニの里帰りについて行った後に辞令通りアフリカに向かうという。変なトラブルを引き起こさなければいいが……特にルッキーニ。

 

 

 

「由也さんとはまたすぐに会えますよね?」

 

「ああ、エリア88はパ・ド・カレーに基地を備えるからな。リーネとペリーヌとは何度も顔を合わせることができるようになるさ。」

 

「由也中尉、エリア88に所属となります時は是非私の屋敷に来てください。復興途中なので微々たる物ではありますが、おもてなしさせていただきますわ。」

 

「期待しておくことにするよ。」

 

ペリーヌは故郷であり自身の領地であるパ・ド・カレーの復興のため軍を離れる予定だ。リーネもペリーヌに付き添い、共に復興を手伝うそうだ。彼女達2人ならかつての美しい街並みを取り戻すのもそう遠くないだろう。

 

 

 

「由也さん、お世話になりました。」

 

「こちらこそ、サーニャ。オラーシャでご両親を探すのは難しいかもしれないが必ず希望はある。どうか幸運がありますように……」

 

「大丈夫だって。私がついてんだかんな。」

 

「よーくわかってるさ。サーニャのことしっかり守ってやれよ騎士サマ?」

 

「もちろんなんだナ!」

 

サーニャは北に向かい両親を見つけるため、そして故郷を取り戻すためにスオムスへと向かう。それにつきそうのはエイラの役目だ。北方生まれの2人でかつ長くコンビを組んできた2人だ。心配はない。

 

 

 

「とうとうお別れだね。」

 

「またすぐに会えるさハルトマン。どうせお互い前線に立ってるのが似合ってる性分なんだから。」

 

「かたいかたーい!いい加減名前の方で呼んでくれてもいいじゃん!ほら!」

 

「えぇ?えーっと……じゃあ、エーリカでいいか?」

 

「ん、それが良いな!」

 

「フラウお前な……由也、元気でな。」

 

「トゥルーデこそ。無病息災武運長久、俺がまたヨーロッパに戻るまでに体を壊したりするなよ?頑張りすぎる節があるから、息抜きもするんだぞ。」

 

「むぅ……お前は私の親か……? 」

 

バルクホルンら3人はやはりというべきか最前線に向かうようだった。もとより彼女達自身が望んだことだろう。

しかしそれはミーナと由也が離れ離れになる事を意味する。

 

「ミーナ……その、心配はしてないんだけど……」

 

「言いたいことはわかるわ。寂しいのはお互い様よ。」

 

「わかってるさ……」

 

「……由也、少し屈んで?」

 

そう促され腰を落とす由也。そっと正面からミーナが由也を抱きしめた。

 

「そんな顔しないで。また会える日までのほんの少しのお別れ、それだけよ。"さよなら"じゃないわ、また会いましょう。」

 

「ああ……ああ! また、な!」

 

涙目ながらもニッと笑顔になる由也。ミーナも笑って応えた。

 

 

 

 

 

みんなを見送った由也達扶桑の面々。踵を返して艦に戻ろうとした時、遠くから車が近づいてくるのが見えた。

 

中型のトラックが停車すると車椅子が下され、1人の老人が座らされた。もちろん、それは由也のよく知る人物だった。

 

「ミスターファリーナ! マスタードさんまで……」

 

「久しぶりです。」

 

「君のT-バードがとうとう扶桑に返還されると聞いて、予備機として作っておいた機体を贈ろうと思ってな。」

 

そう言ってファリーナが合図をすると荷台からストライカーユニットが降ろされる。

白い機体に赤いラインの入ったパーソナルカラー、綺麗にワックスがけされた新品ピカピカの状態だ。そしてその機体形状は由也の親しみなれた翼端の丸いデルタ翼。

 

F5D(スカイランサー)!! M1919A6まで……!!」

 

「君にはこれが一番合っているだろう? 試験飛行すらしていないれっきとした新品だ。元々サキから君のためにと作っていたが、君自身がT-2CCVを選んだからお蔵入りになる予定だったのだ。気にってくれたかな?」

 

「最高さ!ありがとう、ミスターファリーナ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、ここでみんなお別れだな。」

 

「うじゅ〜……寂しいよ、まだ離れたくない!」

 

分かれ道となったところでルッキーニが泣き出してしまう。まだ幼い彼女にとって別れというのは辛いものだ。シャーリーがあやすがなかなか泣き止まない。

 

その時、シャーリーの耳に遠くから聞き覚えのあるジェットエンジンの音が聞こえてきた。人生で初めて聞いたジェットの音だ、忘れるはずがない。

地面を影が走り、彼女達の上を猛スピードでそれが通過する。皆がそれを見上げるとそこには在りし日の由也の姿があった。

 

旋回して再びみんなの上に来ると翼端からスモークを焚いて数々の高等テクニックを披露し始める。

 

「ナイフエッジ、エルロンロール……キューバンエイトまで。多芸ですわね。」

 

「おぉっ、ハンマーヘッドターン!由也の得意技だ!」

 

いつしか涙も時間も忘れてアクロバットに魅入っていた。由也の曲技飛行はスモークが空っぽになるまで続いた。

 

帰りしなに彼女達の上を通過する際に大きくバンクを振ると一気に加速して飛び去ってしまった。

 

「行っちゃった……もう少し見たかったな。」

 

「由也なりの別れの挨拶だったんだろう。あいつも寂しかったんだ。」

 

「口下手ですものね、あの人は。」

 

「……さぁ、私達もいきましょう。行くべき場所に。」

 

ミーナの言葉にうなずき、それぞれの行く場所に向かう。

 

だがすぐにまた会える日が来る。由也だけでない、全員がそう思っていた。




今回も読んでいただきありがとうございます。
アンギラスです。

ユナフロ楽しい(挨拶)ミーナが3Dで眺めれるなんてすごい世界だなぁ。

……はい、投稿遅くなった理由半分がそれです。残り半分はモチベーション低下とスランプです。感想って励みだけじゃなくてモチベーションをあげるんだなってたんだなって今更になって気づきました。

さて、次回からオリジナルの扶桑編となります。スピードアップはするはずなので今回ほど時間はかからないかと。

それでは次回またお会いしましょう。ではでは〜


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第7話:故郷

由也が故郷である日本から離れたのはもう3年ほど前の話だ。大学受験終わりに友人とフランスへ旅行に行ったきり、たった一つの間違いが全てを狂わせた。

アスラン傭兵部隊育成のためギリシャに送られ、動力付きグライダーの操縦経験を買われて戦闘機乗りとなり、風間 真らと同期でエリア88に入隊させられた。

それから数年、コンクリートと砂漠とフットペダルと、それとほんの一瞬だが空母の甲板に足を付ける生活を延々と続けてきた。
そして戦争が終わりやっと帰れると思った矢先のこの世界だった。

もう故郷には帰れない、だが故郷に近い国というのは存在する。それは果たして本当に故郷なのだろうか。そもそも受け入れてくれるのか……

空母のタラップから降りながら空気を感じる由也。この国の空気も風景も聞こえて来る言葉も確かに故郷、日本のものと全く一緒だった。だがこの国に自分の居場所はあるのだろうか……

首を振って考えるのをやめる。先の事を考えるよりも今のことを考えよう。

先に降りた芳佳や坂本を追ってタラップを駆け足気味に降りていった。


由也と芳佳、そして坂本とその従兵である土方 桂助と共に海軍司令部たる建物から出てくる。坂本と由也は珍しく軍帽まで被っている。が、由也は外に出て早々に軍帽を脱いで上着の襟ボタンを外した。

 

「ったぁー……堅っ苦しいのは苦手だよ全く……」

 

「はい……すごい緊張しました。」

 

芳佳にいたっては膝がいまだにプルプルと笑っている。その様子をみて坂本は笑う。

 

「さすがに宮藤は慣れないか。だが由也、お前は今回みたいな事は今まで無かったのか?」

 

「俺があってきた中で一番階級が高いのはサキとミーナだよ。そんなに肩を張るような相手でも無かったし。」

 

「確かにな。サキ中佐はわからんが、ミーナは横のつながりを大事にする方だからな。それに由也の場合……」

 

「な、なんだよ……」

 

ニヤニヤと由也を見る坂本。何も言わないが言わんとすることはわかる。由也は居心地悪そうに頭を掻きながらポケットを探りタバコを取り出す。芳佳が隣にいるので火はつけないが。

 

表に止めてあった車に4人とも乗り込むと土方の運転で芳佳の家へと向かう。由也も芳佳の誘いで彼女の家に誘われているのだ。

 

「しかし本当によかったのか? 俺まで増えては家の負担っていうのも……」

 

「大丈夫ですよ、もともとお父さんもいて4人で暮らしてましたから。それにお母さん達も良いって言ってましたし!事情も全部話してます!」

 

「余計心配事が増えたんだが……」

 

思わず頭を抱える由也。あの複雑怪奇な自分達の関係というのがそんな簡単に信じてもらえるのかやら。火のついてないくわえタバコをピコピコ上下に揺らしながら唸り悩む。

 

結局タバコから煙が一度も立つこと無く気づけば芳佳の家である診療所に着いてしまった。

 

誰かが診療所の入り口あたりをほうきで掃き掃除しているのが見えた。とたんに芳佳が車が止まったと同時に飛び降りて女性に向かって走っていく。

 

「お母さーん!」

 

「! 芳佳……!」

 

「お母さん……!お母さんっ!ただいま……!」

 

「ああ……おかえり芳佳……」

 

芳佳が母親に飛び込むと、わんわんと泣きじゃくる。数月の間も母親と離れて戦っていたのだ。その間に様々なことがあった。それが一気に吹き出し感情が溢れてしまっては止めることはできない。

 

由也は静かにタバコに火をつけ、煙を吐き出した。白いモヤは青空に吸い込まれ、空気を汚すこと無く消えていくのだった。

 

 

 

由也が一本吸い終わるうちに芳佳も泣き止み、家の中へと案内された。宮藤家の間取りというのもやはり小さく、由也の実家よりもひとまわりほど控えめなものだった。芳佳と母親の清佳と祖母の芳子が由也と坂本らの向かいに座る。

 

「あなたが芳佳が手紙でよく話してた方かしら?」

 

「あ、はい、植村由也です。えっと……芳佳とは……」

 

「大まかには話は芳佳から聞いてるわ。なかなか大変な出自だって。」

 

普段は説明の下手な芳佳だが、手紙では説明できていたようだ。由也の自分に関する応答にもしっかり答えてもらえたので、自分のことが伝わっているようで安心する。

 

「別の世界とはいえ血の繋がっているのなら家族のようなもの、今日だけと言わずここに住みなさい。」

 

「ありがとうございます……家無しの自分にこんなに良くしていただいて。」

 

「むしろ、だからこそよ。それに芳佳が珍しくどうしてもってわがままを言うんですもの、ああなったら言うこと聞かないわ。」

 

「ちょっと、お母さん!」

 

さらっと言われるカミングアウトに芳佳が顔を赤くする。そんな仲睦まじい光景を見せられては笑みがこみ上げてきてしまう。由也が思わず笑い出し、それにつられて坂本もつられて笑い声が漏れるのだった。

 

 

 

宮藤家に迎え入れられた由也。日も傾いてきたため母親と祖母の2人は夕食の準備を始め、由也や芳佳も手伝おうとしたのだが「長旅で疲れているだろうから」と早々に台所から出されてしまった。

 

いたしかたなく縁側に座り坂本、芳佳、土方と談笑する。

 

「由也のストライカーも返還か……」

 

「扶桑行きのを俺が横取りしたようなもんだしな。主翼や機材を本来の仕様に変更して俺の運用分含めてデータ取りに使うらしい。CCV技術が確立すれば坂本のF-2だって完璧な状態になる。」

 

「ほう……それは心強い。」

 

「……お願いだから無茶はするなよ? そうなったら俺やミーナが苦労するし、芳佳が悲しむ。」

 

「……なるべく善処する。」

 

「ダメなやつだこれ……あ、そうだ。坂本、自動二輪車を一台いただきたい。私用で使うものだからそんな立派なのじゃなくて良いが。」

 

「む?いいだろう。土方、明日には届けられるように頼む。」

 

「了解しました。」

 

「あれ?由也さんバイクに乗れたんですか?」

 

「一応ね。」

 

前の世界で原付の免許は持っており、エリア88でも「同じ要領で乗れるだろう」という無茶な理由で大型バイクの運転をさせられた事があった。

 

おかげさまで車よりかはバイクの方が性に合ってる。私事で乗り回すにもこっちの方が慣れてる分良いだろう。

 

「前の世界で稼いだ金が使えるのはわかってるから、それ全部使ってもいいんだけどね。」

 

「どのくらい残ってるんですか?」

 

「25万3千と15ドル、それと501での給料分。」

 

「「「25万!?」」」

 

「25万ドルって……お米何杯分ですか坂本さん〜!?」

 

「米で換算しきれんぞ……古いストライカーユニットが買えるほどだ。」

 

とても個人が持つ資産ではない。しかしこれでやっとエリア88を除隊するために必要な違約金の1/6なのだ。由也のスコアが伸び悩んだとはいえいかにエリア88という部隊が異常だったかが伺える。

 

「正規軍さまからは人間らしい扱いをされなかったがまあ金は出たし文句を言う奴ぁ少なかったな。逆にこっちに慣れすぎて501の待遇にはびっくりしたもんだ。」

 

そう言いながら笑う由也。エリア88の無法地帯っぷりには坂本も苦笑いしか出なかった。

 

 

 

そうしているうちに夕飯が食卓に並べられる。6人分と多いにもかかわらず2人で揃えたというのはさすがといったところだ。

ご飯と味噌汁におひたしと焼き魚、シンプルな和の食卓でまとまっている。

 

いただきます、と挨拶を済ませると喉を鳴らして食事に手をつける。焼き魚の少し強めの塩味がご飯の食べる手を推し進める。おひたしも出汁の味が効いて非常に美味、味噌汁は白味噌でサッパリとしており箸休めにちょうどいい。なにより懐かしい味、長年慣れ親しんだ故郷の、親の味。口に合わないわけがない。

半分ほどまで食べ進めている時、由也は自分の目に涙が溜まり()()を伝っているのに気付いた。

 

それを見た芳佳がギョッとする。

 

「由也さん!? 大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫……なんか、涙が出て……どうしてだろ……」

 

そう言いながら涙を拭う由也。いや、実のところ理由なんてわかっているのだ。

 

「もう帰れないと思ってた。だけどみんな、俺が何なのか全部を知ってるのに……俺を受け入れてくれて……安心しちゃって……」

 

「当たり前ですよ、だって私達家族なんですから。」

 

告白し嗚咽を漏らす由也を芳佳が正面から抱きしめてあげる。とうとうわっと芳佳の胸の中で泣き出してしまった。それをただただ静かに抱き続けるのだった。

 

 

 

 

 

「な、なんか……ごめん、芳佳。」

 

「いえ、良いんですそんな……」

 

あのあと、泣き止むと恥ずかしくなって逃げるように完食して風呂へと逃げ込んだ由也。芳佳も跡を追って入って来て一緒の浴室に2人でいる状態だ。

坂本らはさすがに帰宅したらしい。

 

「みっともないところ見せちまったな……」

 

「むしろ由也さんは弱さをあまり見せないじゃないですか。もっと今日みたいに甘えてくれていいんですよ?」

 

「う……まぁ、その通りなのかもしれないけど。母……じゃない、妹に甘える、かぁ〜。」

 

さすがに外聞が、と考える由也。何も考えずに芳佳に甘えればいいものを。ご覧、芳佳も可愛らしくほっぺたを丸めてむくれている。

我慢できなくなった芳佳がえいやと由也の頭を抱きかかえて小さな胸に寄せる。

 

「よ、芳佳!?」

 

「私だって、ミーナ中佐と同じくらい……ううん、それ以上に心配してるんです。いっぱい無茶して、傷ついて……だからせめて家族の、妹の私には甘えて欲しいんです。」

 

「……プッ、はははははは!ミーナと張り合うのか、芳佳?」

 

「うえ?由也さん?」

 

芳佳の胸元から離れると今度は由也が自身の胸に芳佳を抱き寄せた。501部隊の中で3位の大きさを誇る彼女の胸が芳佳を優しく包む。

 

「すでに何度も頼ってるじゃないか。初めて会った時、トゥルーデが傷ついた時、夜戦の時、そしてフランの時。むしろお前に甘えっぱなしだ。だから今度は俺が恩を返す番だ。」

 

「由也さん……」

 

互い抱きしめ合う2人。その後寝る時までずっと一緒だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、少しの肌寒さで芳佳が目を覚ます。ぼやけた目を擦りながら起き上がると、隣で寝てたはずの由也がいない。

 

「あれぇ……由也さん……?」

 

芳佳の寝ぼけた声が部屋に響くだけだった。

 

 

 

「はっ、はっ、はっ、はっ……」

 

田園風景の中を由也が運動のしやすい服装で走っている。タッ、タッ、とリズムを保ち一定の速度と呼吸で。季節も秋になりだいぶ朝日が登るのが遅くなり始めていた。まだ東の空も明るくなり始めたばかりだ。

 

由也の、というよりエリア88のメンバーの日課とも言えるロードワークだ。朝早くから芳佳を起こさないように布団を抜け出すと着替えて外に飛び出したのだ。

 

すでに折り返しを超えて家への道のりを辿るのみ、それももう少しで終わる。やがて宮藤診療の看板が見えて来る。

 

敷地内に入りゆっくりとスピードを落とすと乱れた息を整える。玉のような汗に冷えた風が当たり気温以上に涼しく感じる。風邪をひいてはいけない、タオルで汗を拭いながら家に入る。

 

さすがに時間が経っていたためか清佳と芳子の2人が台所で朝食の準備をしていた。

 

「あら、おかえりなさい。裏の井戸で汗を流してらっしゃい、すぐにご飯になるから。」

 

「わかりました、お母さ……あっ。」

 

つい条件反射で清佳のことをお母さんとよんでしまう。一瞬驚いた顔をしたがすぐにさっき以上に機嫌の良い笑顔になる。

 

「ふふ、お母さんって呼んでいいのよ()()。」

 

「……善処します……」

 

恥ずかしくなり早足で着替えをとりに部屋に向かう。襖を開けて中に入ると上体を上げて寝ぼけた顔で目を擦る芳佳がいた。手元には枕を抱いて寝巻きははだけている。

 

「あ……由也さんおはようございます……」

 

「おはよう芳佳。服はだけてるぞ〜。」

 

そう言うと由也は芳佳の方をあまり見ないように私服を取り、裏口へと出て行く。

 

芳佳もだんだんと頭が冴えてくる。そして自分の格好に気づき____

 

「____!!!」

 

ドタドタドタッ!!

 

「何かしら……騒がしいねぇ。」

 

この後朝食ができるまで延々としょうもないやりとりがあったことを記しておく。

 

 

 

 

 

朝食も終わると芳佳は学校へと駆け足で出て行った。一方由也はというと明日まで休暇をいただいてるため無理に何かをやる必要はない。が、何もしないのは彼女としてもらしくない。

 

結果、芳子と清佳の2人から魔法力のコントロールを教わっていた。特に固有魔法に目覚めた今、治癒魔法能力のコントロールをできるようになることは重要なことであるのだ。

 

これが使える、使えないとで戦場での負傷者の生還率が変わってくる。何度も芳佳の治癒魔法を見てきた由也だからその重要性が理解できた。

 

集中し全身の力を意識して手のひらに込める。呼吸を安定させリズム良く、そしてゆっくりとお腹を動かす。全身から出る魔法力の光も安定する。

 

「____そこまで。」

 

芳子の手を叩いく合図と共に由也も全身から力を抜いて息をつく。少しこわばった表情でチラッと芳子の方を見る。

 

芳子はシワのついた顔をもっとクシャッとさせて笑っている。

 

「そう構えなくてもいいよ。筋もいいし覚えも早い。すぐにうまく使えるようになるよ。」

 

「本当ですか!? なら早めにものにできるよう頑張らねば……」

 

「あんまり根を詰めすぎても毒だよ。ちょうどいい、昼ご飯にしましょう。」

 

気づけば時計の針も垂直に並ぶところだった。こんな長時間集中したのは久しぶりだ。さすがにお腹も空いてきた。

 

早速昼食の用意のために動いた。

 

 

 

とはいえ由也ができることはほとんどなかった。数年以上料理を作った記憶がないのだ、包丁を握るのすら持ち方が怪しい。

あえなく台所を追い出されちゃぶ台で座りながら新聞をぼうっと読んでいた。坂本の活躍とガリア解放がやはりいまだ取り扱われるのと、由也と芳佳がフランを救ったことが大きく書いてあった。そして佐世保の英雄である「雁淵 孝美」と訓練生である「雁淵 ひかり」の欧州遠征も。

 

「ペテルブルクね……北欧は激戦区らしいけど……?」

 

雪山でのベイルアウトは悲惨だな、などと考えながら読んでいると表のほうから車が入ってくる音が聞こえた。こんな時間に来客とは。立ち上がると玄関口に向かった。

 

玄関を出ると軍用車から降りてくる坂本と土方がいた。後ろに布のかぶさった荷台を引いている。

 

「昨日ぶりだな由也。」

 

「今日はどうしたんだ坂本?」

 

「昨日頼んでいた物を持ってきたのさ。」

 

そう言って土方に目を配ると後ろの荷台の布を剥ぎ取り荷物を下ろす。

 

それを見て由也は感嘆の声を漏らした。

 

「側車付きの陸王、それの陸軍モデルか!よく用意できたな。」

 

「私が佐官であることをわすれてないか?それにお前も中尉だ、こういう物の多少の融通は効くさ。」

 

そう笑いながら話す坂本。と、騒がしさに芳子ら2人も表に出てくる。

 

「あら、それ由也のかしら?」

 

「ええ、ちょうど頼んでたもので。」

 

「……そうだ、ちょっとお願い事してもいいかしら?」

 

 

 

 

 

学校ももう終わる時間。以前までと同じように芳佳は親友でありはとこでもあるみっちゃん____山川 美千子と一緒にいた。

 

それまでと同じように一緒に歩いて帰ろうと学校を出る、がそのすぐそばで人だからができていた。

気になって覗くと背の高い、ベージュのスラックスと襟付きの白いシャツを着て扶桑海軍の士官用の軍装の上着をラフに羽織った女性がバイクにのっかかり寝息を立てていた。もちろんのこと芳佳はこの女性について、普段と服装が違えど身に覚えがある。

 

彼女に近づくと肩を揺すぶって起こしてあげる。

 

「由也さん、起きてください。由也さん!」

 

「ん……ぅ……芳佳か、遅かったじゃないか。」

 

「遅かったじゃないか、じゃないですよ。なんでこんなところで寝てるんですか?」

 

「お祖母さんに芳佳を迎えに行ってやってくれんかって言われてね。こいつの試運転も兼ねて。」

 

そう言ってバイクの胴を軽く叩くと軽快だがしっかりと重い金属の音が響く。すると美千子もそばにやってきた。

 

「わぁ、九七式側車付自動二輪車! 初めて見た……!」

 

「おっ、詳しいね。芳佳の友達かい?」

 

「はい!山川 美千子です!」

 

「美千子ちゃんか、俺は植村 由也だ。よろしく。」

 

そう言い互いに言葉を交わし続ける2人。機械好きで戦闘機マニアな由也と兵器全般に精通する美千子と大層ウマがあった様子、芳佳を置いてけぼりに気づけば2人だけの世界が出来上がっていた。

 

これが由也の、由也なりの平和の日常の姿なのかもしれない。




読んでいただきありがとうございます。
アンギラスです。

RtBが放送されてからミーナの写真を撮る手が止まらん(おい)
エースコンバット7に新DLCが増えて空戦がより楽しくなりましたし、戦闘機に関する作品がもっと栄えてもっと増えたらなぁ……と思うこの頃です。

さて、少し小ネタ話

♦︎九七式側車付自動二輪車
かの有名な陸王を軍用モデルに改良したオートバイ。サイドカーをつけての2人乗りが可能なだけでなく、サイドカー側の車輪も駆動させ二輪走行車として不整地走行性能をあげている。もちろんサイドカーを外しての使用も可能。

排気量1272ccと正真正銘の大型バイク。陸王自体がハーレー・ダビッドソンの和製機なだけあってシャーリーが最速記録を作ったバイクよりもさらに上をいく。



さて、次回でストーリーはさらなる展開を見せることでしょう。もう少し書くスピードを早めたいけどこの時期クッソ忙しい……時間がない。

では次回またお会いしましょう。


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第8話:揃う役者

陸軍と海軍は仲が悪い。

誰が言い出したことだか、しかしあながち間違いともいえない。
扶桑海事変の時にもそうだった、それ以外の時にも度々2つの軍隊の上層部は対立しあった。

しかしウィッチ同士となれば話は別だ。こっちは長らく良好な関係を維持してきた。助けて助けられて、そうやって前線で戦っているのだ。そんなことでいちいち喧嘩などしてられないだろう。

いざという時に軍の垣根を越えて頼りになる、それが戦友というものだ。


「対プロジェクト4用仮想敵部隊?」

 

「ああ、さすがに上層部も危機感を感じたらしくてな。」

 

坂本と由也があてがわれた個室で粗茶を片手に話し合っていた。それだけ機密性の高い内容という事だ。

 

坂本から資料を受け取り内容を確認する由也。しかし紙の束に思わず顔をしかめる。

 

「……なんだこれ。」

 

「その部隊用に人員が6人は必要だ。お前を入れてあと5人、陸海軍所属ウィッチのうち国内にいる腕利きの情報が全部載ってる。そこから選抜してほしいとの事だ。」

 

「ちょっと待て、それを俺が選ぶのか?これだけの人数の中から?」

 

突拍子なことに思わず立ち上がってしまう。アグレッサーとなればただ強いだけでは成り立たない。使う機体、戦術、特性というものを全て戦うべき"敵"に合わせなければいけない。そんな人物をこれだけの資料の中から選ぶなど困難甚だしい。

 

しかし現実は非情である。

 

「プロジェクト4と交戦経験があるのはお前と私、その中でもっとも経験の多いのは由也だけだ。必然的にお前が必要になるんだ。」

 

「んな殺生な……」

 

眉の端をさげ、脱力し再び席に座り込む。資料をめくっていくがその顔はだいぶ渋かった。

 

坂本も何も言えず苦笑いしながら茶をすするのみだった。

 

 

 

 

 

とはいえなんとかしなければならないのは事実。陸軍海軍双方に顔を出せるよう便宜を図ってくれたためか資料内には陸軍のウィッチも数多くいた。

しかしなかなかこれが難しい。一体どれだけ引き抜けるかやら。

 

とりあえず目処はいくつかついていた。

 

1人は岩坂 弘美という陸軍大尉のウィッチだ。ストライカーユニットはF-104Jだが資料によればリベリオンの新型ストライカーであるYF-15Aを相手に勝利を収めているらしい。この腕前はきっと使えるはずだ。

 

そして角丸 美佐、こちらも陸軍で階級は中尉。ブリタニアのワイト島分遣隊の指揮官をしていた人物で由也としても馴染み深い。なにより指揮経験のある人物がいるのは重要だ。

 

さらに神田 鉄那と栗原 美沙のコンビ、こっちが海軍のウィッチで2人とも中尉になる。訓練生時代からの親友同士でオラーシャ方面にて活躍。今は502部隊に所属している管野 直枝と「新撰組」を名乗っていたそうだ。純粋な実力の神田と計算づくされた作戦をたてる栗原、2人はこの部隊の重要な戦力となるだろう。

 

さて、あと1人は欲しいところだがそれが決まらぬままバイクを走らせる。大抵が腕っこきなのは良いのだが長期間借りられそうな人員がいないというのが理由の一つだ。

せめて1週間、それだけの間一緒に飛べればいい。それも自分の隣と飛べるほどに腕のいいウィッチが。

 

信号待ちの中考え込む。

ふっとその時、由也の隣を歩道を歩く誰かがすれ違った。3人組、だが1人はよく知った顔だ。金色で顔にかかるほどに長い前髪。一瞬見ると男性とも女性とも捉えられる中性的な顔つき。

 

「真……?」

 

由也が名前を呟く。それに反応して振り返る、彼女は驚いた顔をしていたが由也を見てさらにその感情が大きくなった。

 

「由也……」

 

「真、真!!」

 

バイクを蹴っ飛ばして真に向かって走る。側車を外しているため横転し金属音の非難を上げるが知ったことじゃない。

 

思いっきり抱きつきそこに真がいることを実感する。たしかに体つきが柔らかくなり胸にたしかな膨らみが付いたが間違いなく真だ。

 

「真、俺がわかるのか!? なんでここに……!」

 

「わ、わかったから少し落ち着け……」

 

「落ち着けるかアホッ! お前、どれだけ心配したと思って……どんな思いでいたと!いっつもいっつも無茶して怪我して帰ってきてなぁ!お前は……」

 

真の首根っこをひっつかんでガクガクと揺らす。いろんな感情が爆発して気づけばあの頃のように説教をし始めている。だが2人ともどこか嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 

さすがに道の真ん中で喋るのは外聞が悪いと手近な喫茶店に移動する。

 

「……つまりあの時の真は本人と……?」

 

「ああ。もっとも俺としても夢の中の事だと思ってたが……その数日後に3人で遊覧飛行をしていたらこっちの世界にとばされてな。その衝撃で____」

 

「全部思い出したと。」

 

そう言われて真は無言でうなずく。由也は複雑な心情を飲み込むようにコーヒーを飲み込む。

 

ここに来る前に独白したように真は自分達のこと、あの戦争の事を忘れた方が幸せだったと思っている。真自身のために、そして()()()()()()のためにも。

 

そんな心のうちを察してか真が優しく微笑みかける。

 

「たしかに辛い事をたくさん思い出した。だけど全部辛かったわけじゃない、ミッキーやサキやグレッグ……それに由也、お前とのたのしかった記憶も全部戻ってきた。決して悪い事だなんて思ってないさ。むしろ今まで言えてなかったことがやっと言える……ありがとう由也、お前のおかげでエリア88での激戦を生き残ってこれた。」

 

「そんな……むしろ俺の方も随分と助けられたし……ありがとう真。」

 

お互いに今まで言えなかった感謝の言葉を伝え合う。この世界に来てやっとお互いに思いを伝えることができた。この運命には感謝すべきだなと密かに感じるのだった。

 

さて、いつまでも彼女達を放ってはかわいそうだ。話が一区切りついたところでそちらを向く。

 

「久しぶりにお会いしたというのに取り乱してすいません、涼子さん。それと……ジョゼちゃんも。」

 

「良いのよ、久しぶりの再会なんですもの。それが当たり前よ。」

 

「そのかわりにずーっと放置されてたけどね。」

 

「こらジョゼ!」

 

そう、この2人こそ真の恋人「津雲 涼子」と(義理ではあるが)娘の「津雲 ジョゼフィン」ことジョゼ。この2人も真とともにこの世界にとばされて来ていたのだ。

 

ジョゼが涼子に叱られ、それを諫める真。その様子を笑いながら見ていた。

微笑ましい家庭、いつか自分もミーナとそういう関係を築ければと思う。

 

ただこのままでは話も進まない。由也の方から話を切り出す。

 

「真たちは今どうやって生活を?」

 

「扶桑陸軍のウィッチ隊に籍を置いてるんだ。なぜかは知らないが俺のF-20(タイガーシャーク)がストライカーユニットになった状態で一緒だったから、それを使って空を飛んでる。」

 

「ウィッチ隊に……」

 

やはりというべきか、真もまた自分達と同じように戦場に出る道を選んだようだ。

 

ふとさっきまで考えていた事が頭をよぎる。だが由也の中に再び迷いが生まれる。

真には家族がいる。俺も言えたことではないが、その幸せを壊しかねない危険な世界に再び飛び込ませようというのだ。そうなれば今度は自分があの神崎と同じになる、そんなことはしたくない。

 

だが嘘と隠し事が苦手なのは真もよく知っていることだった。そんな心のうちはバレバレなのだ。

 

「俺が必要か、由也。力を貸すぞ。」

 

「真……だが____」

 

「俺がこの世界にいるのも理由があるだろう。それに新聞で見たぞ?エリア88とお前の活躍。仲間が戦ってるのに俺だけ後ろにいるのは似合わない。」

 

「真____」

 

変わらないよお前、その言葉を胸にしまい事情を話す。真が快諾するのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

その日の夜、由也は持ち帰った重要書類の束に襲われ部屋に篭りきりとなっていた。早いうちにまとめ上げ部隊を完成形にして次のステップに進む。そうしないとエリア88への合流も遅くなる。

 

「……也さん、由也さん。」

 

「ん……? あぁ、芳佳。すまん、集中してて……どうした?」

 

「これ、お茶です。一息つけれればとおもって。」

 

机に向かって何時間経っただろうか、気づけば芳佳が隣に来ていた。手にはお盆を持っていてお茶の入った湯飲みを載せている。

 

湯飲みを受け取ると一口すする。湯気がまだ立っている分温かく、由也の体全体にじんわりと染み渡るような気分になる。

 

「そろそろ休まないと倒れちゃいますよ? 」

 

「だけどもう少しで片付くんだ。明日には提出して早め早めに召集しないと……」

 

「だからって焦っちゃダメですよ。ほら、もう夜も遅いですし。」

 

「むぅ……」

 

それでも粘ろうとする由也、下がらぬ芳佳。宮藤の家系はどうも頑固らしい。

そこで芳佳が変化球を投げてきた。

 

「なら私が手伝いますから。今日はもうここでお休みにしましょう。」

 

「むむむ。」

 

「なんでちょっと不安そうな顔するんですかぁーっ!」

 

「……わかった、今日はここまでにするよ。だが明日は坂本のところに行く予定だぞ、大丈夫か?」

 

「明日はお休みだから大丈夫です。さっ、早く寝ましょう!」

 

そう言うと由也を布団に誘導する。布団のもとまでタキシングし睡眠位置に、そして緊急発進するよりも早く夢へと離陸したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日の後____

 

「ったく、なんでこんな遠くまで出向かなきゃならないのよ。ねえクリ?」

 

「しょうがないでしょ、カンちゃん。軍人っていうのは呼び出されたら行かなきゃならない職業なんだから。」

 

横須賀の海軍基地の中を歩く2人のウィッチ。1人は髪が短く乱雑に飛び跳ね、もう1人の髪は背中ほどまであるが一本で綺麗に纏まり眼鏡をかけてるのもあってかしっかりした印象を受ける。

 

神田 鉄那と栗原 美沙、互いを名字の頭である『カン』『クリ』で呼び合い、様々な場面で息ピッタリのコンビネーションを発揮する相当に親しい仲だ。

 

しかし彼女達の本来いるべき基地は関西方面、はるばる遠く関東圏であるここまで来たのは栗原の言う通り呼び出されたために他ならない。辞令とあらば行かねばならぬといきせいひっぱり来たものの理由までは知らされてなかった。基地司令曰く最重要機密(トップシークレット)とのことだ。

 

「神田 鉄那中尉です。命令により参上しましたァ!」

 

「同じく栗原 美沙中尉です。」

 

「来たか、入りたまえ。」

 

「「失礼します!」」

 

さて、指定された部屋である会議室とデカデカ書かれた扉を開けるとすでに先客が3名座っていた。長机の1番奥の席に座るは2人も知っている人物、ガリア解放の英雄が1人、坂本少佐だ。

だが残り2人は陸軍の軍服を着ていた。

 

「よく来たな、私は坂本美緒だ。……といっても知ってるとは思うが。」

 

「ええ、新聞で写真があれだけ貼られていれば。」

 

「はっはっはっ!それもそうか! まあ適当に腰掛けてくれ、まだ集めた当の本人が来てないからな。」

 

「坂本少佐では無いのですか?」

 

「ああ。私はただの新設部隊の司令、それも形だけだ。」

 

疑問が多く残るが促されるがまま陸軍勢の対面になる位置に座る。その後に風間 真と名乗る陸軍のウィッチが入ってくる。

それからすぐにその張本人たる植村 由也が来た。ただ女学生の制服の子を連れている。周りの5人はその少女を由也の手伝いだろうと勝手に解釈した。

 

全員がいるのを確認すると挨拶も手短にブリーフィングが始まる。

 

「皆集まってくれてありがとう。今日この面子に来てもらったのは陸海軍上層部からの要請によりとある部隊の設立を要請されたためだ。」

 

「とある部隊?なんだそりゃ。」

 

「今説明しよう、神田中尉。芳佳、アレを。」

 

芳佳が持ち込んでいた投影機(エリア88で使っていたものに近い小型のもの)の電源を入れて壁に光を映す。そこに由也が手に持っていた資料を置いていく。

 

1枚目はMiG-9ストライカーを履いた偽ウィッチ。2枚目はライフルを発射するウィッチの姿、これもジェットストライカーのライトニングを履いているが4人の見たことのない物だ。さらにもう何枚か、いずれもここのほとんどが見たことのないストライカーを履いたウィッチ達が同じくウィッチと戦っている写真が映し出される。

 

「ネウロイの脅威度がガリア解放によって下がったことはここにいる全員が知っている通りだと思う。だがそれと同時に人類に余裕ができたことも相まっていがみ合いが発生するようになった。それと同時にとある計画が活発に動き始めたのだ。コイツらはその尖兵……実際に俺や坂本らが戦った連中だ。」

 

「一体何者で何が目的なんです?」

 

「計画名は"プロジェクト4"、兵器生産業界が主導となっており目的は断続的かつ計画的に戦争を行わせることで自分達が飢えないようにすること。つまりウィッチ同士での対人戦の危険性が高まってきたというわけだ……」

 

投影機の電源を切ると全員が再び由也に注目する。

 

「よって俺たちはこのプロジェクト4と対抗するべく対人戦闘教導のために集められた。坂本少佐を司令官に俺こと植村由也、風間真、岩坂弘美、角丸美佐、神田鉄那、栗原美沙の合計7人で編成されることになる。」

 

「質問いいか、植村中尉。」

 

「由也でいいさ。どうした岩本大尉。」

 

手をあげたのは腕を組んで黙って話を聞いていた岩本だ。

 

「私達を選んだ基準というのを教えてくれ。対人戦とひとえに言っても訓練だけで実戦なんて経験がないぞ。」

 

「それは承知の上。理由を述べるならここにいる全員に言えるのは皆が一騎当千の強者であるということだ。」

 

むぅと唸る岩本。自分とて空戦技に秀でているのは確かだ。それに隣にいる角丸もまた欧州戦線を生き延びてきたウィッチだ。そう言われれば納得せざるをえまい。

 

特に質問も上がらないのを確認して話を進める。

 

「明日には最初の任地……といっても俺と真はそこでの任務が終わり次第前線に戻らなきゃならないんだが、そこに向かう必要がある。そこで今日は一日を親睦会にでもしようかと。」

 

「親睦会?」

 

「そっ、そのために頑張っていろいろ用意したんだから。」

 

前の世界の由也だったら飛び出してこないだろう単語が出てきて真はおどろきの声を上げる。

 

少し待ってろと言って芳佳と共に外に出て数分後、大量の料理を載せた台車を押して再び入ってきた。

 

「由也、少し遅れてきた理由って……」

 

「これだけの分作ったんだぞ。まぁ大部分は芳佳がやってくれたんだが……料理なんて5年以上やってなかったし。」

 

そう言って芳佳の頭を撫でてやる。幸せそうに目を細める芳佳を他所に料理を前にした周りのウィッチ達は思わず胸が躍る。神田は特にでヨダレが口からはみ出ている。

 

「さぁ飲んで食って話し合おう!いただきます。」

 

「いっただっきまーす!!」

 

「あっこらカンちゃん!もう……いただきます。」

 

由也の合図を皮切りに料理に手をつけていく。この日は遅くまで語り合ったのだった。




今回も読んでいただきありがとうございます。
アンギラスです。

3期も気づけば伝統の7話超えましたね。まぁ今期のは……その……勝てねぇ。

さてついに風間 真が登場、さらに漫画版作品「片翼の魔女たち」より門丸美佐、オリジナルウィッチとして岩坂弘美、神田鉄那、栗原美沙の3人が増えました。

きっと彼女達のモチーフが誰なのかわかった人は多いはず。あえて解説はしないでおきましょうか。

次回でアグレッサー部隊任務へ、その行先は佐世保。知ったウィッチ等がどんどん登場する予定です。

では次回でまたお会いしましょう。ではでは


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第9話:cobra spuadron

佐世保航空予備学校

海軍基地にほどなく近い位置に作られたこの校舎で多くのウィッチ達が教練に励み1日も早く一流のウィッチになることを目指している。

この学校の校長を務める北郷 章香少佐含めエースウィッチ揃いであった。
しかしそんな彼女達をもってしてなおヒヨッコ達を一人前にするのは骨の折れるものだ。

実戦に近い環境というものが作れない以上、思ったように鞭撻が進まないのだ。

そんなある日、大本営からある部隊を翌日派遣するという通達を得た。聞くに対ネウロイ、対人戦闘用の仮想敵部隊だという。

これはきっといい経験になる。

ある計画を思いつくと北郷は早速その部隊の指揮官たる人物に連絡をつける。自分のかつての教え子であるウィッチに。


甲高い音を立てて空を飛ぶ6人のウィッチ。先頭を真、彼女から右に由也と美佐、左を弘美、神田、栗原が編隊を組んでいる。

 

あの後、だれが隊長をするかで一悶着があった。由也は設立者として譲れないとし、階級が下の者が指示をするのは外聞が悪いと弘美や真を推薦し、弘美は指揮官の経験が無いからと美佐を推薦し……

 

結果として真が隊長、由也が副隊長となり至らないところがある、もしくは2人がエリア88に戻ったあとは弘美と美佐が引き継ぐ形として収まった。

 

「しかし____」

 

ふっと栗原が口を開く。

 

「新兵相手に本気でやって良いのかしら?」

 

「一応坂本からはそう言われてる。」

 

彼女の疑問に由也が答える。基地を出立する前に坂本から言われた作戦に対し栗原は慎重だった。

 

「とはいえ本気でやったら相手の心を折ってしまいそうよ。」

 

「それで良いんだよ。」

 

真が振り返らぬまま口を開く。

 

「命のやりとりをする職業だ、その覚悟の無い奴に飛ばれて困るのは俺たちだ。ここでふるいに落とすのも必要だろう。」

 

「だが……」

 

「それにもう今更止めるなんて言えないでしょう。向こうも準備は終わってるはずです。」

 

 

 

 

 

美佐の言う通り佐世保航空予備学校では朝早くから緊急発進アラートが鳴り響いていた。

 

まだ訓練課程の終了していないウィッチ達が履き慣れぬ新型練習機のT-2を履き、空へと上がる。手に持つ銃には実弾が込められてその重みが少女達に底知れぬ恐怖を与える。

始めての実戦、それもネウロイではなく同じウィッチが相手。恐怖を感じないわけがない。

 

それは学校首席であり、迎撃部隊のうちの一つの隊長として空に上がってきた三隅美也にとっても同じ事だった。

 

彼女とて遣欧艦隊派遣組として立候補をし、同級生の雁淵ひかりとせめぎ合った仲だ。戦場に出る覚悟はできていた。

だがそれはネウロイとの戦いのためであって人間同士の戦いのためではない。

 

人に向けて銃を向ける。模擬戦では幾度もやってきた事だが、それが実弾となった今、形容できない感情が彼女の中に渦巻いていた。

 

しかし今は自分が周りを引っ張る立場、不安な顔はできない。勇猛を心に()がくるであろう正面を睨みつけた。

 

 

 

 

 

真らのストライカーが発するレーダー波が光点を捉える。それを確認し由也が説明を始める。

 

「出発する前に話した通りだが、お互い装備は実弾の状態で空戦を行う。ミサイルは互いに未装備のため視野外戦闘は起きない。ただし、だからといって撃墜するのは厳禁だ、スレスレで外せ。6対9の状況となるがお前達なら十分乗り切れると信じている。」

 

「レンジ、オン!散開!」

 

真の号令とともに3つのグループに分かれて散開する。正面を突っ切るは真と由也の編隊、右を弘美と美佐が、左を神田と栗原が務める。

敵もこっちに合わせて3方向に分かれて迎撃してくる。好都合だ。

 

 

 

弘美と美佐のストライカーはF-104、栄光と名付けられたこれの特徴はなんと言っても細長いということに他ならない。まさに空を飛ぶ鉛筆、その小ささは空の上での視認性の低さに貢献する。

 

そしてそれを利用した戦術を立ち上げた人物こそまさに今ここにいる岩坂弘美なのだ。

 

3人のウィッチが弘美らを囲むように飛行するが、持ち前の鋭い加速でその合間を縫いくぐり迂回上昇する。

 

「美佐、私の合図で散開だ。私は左に。」

 

「了解、私は右ですね。」

 

太陽を背にした瞬間、2人ははじけるように分散する。2人を追っていた訓練生たちは陽の光に目が眩み見失ってしまう。こうなってしまえばいくら格闘戦能力の低いF-104でも背後をとるのは易い。

 

大きく旋回しながら訓練生の背後に取り付き、照準を合わせる。訓練生たちは上昇して逃げようとするが思う壺。F-104の上昇力にはアンダーパワーなT-2では勝てない。

 

考え込まれた戦術を前にすでに翻弄されつつあった。

 

 

 

神田と栗原、海軍きっての名コンビの2人の動きは目まぐるしいものだった。馬力に勝るが大型故に運動性ではやや劣るF-4()の性能を駆使して訓練生を翻弄していた。

 

神田が野生的と言える第六感で訓練生の攻撃を掻い潜り振り切り、栗原がその後方から訓練生を追い立てる。

 

「カンちゃん、5秒後右旋回。そのままシャンデル。」

 

「はいはい!」

 

「はいは一回。」

 

さらに神田の一挙一動を栗原が指示しナビゲートしている。レーダーと周辺の航空マップ、そして彼女の固有魔法である『高速演算』があるからこそできる芸当だ。

 

神田が右に急旋回しそのまま右斜め上方へ旋回をする。訓練生たちも編隊を崩さず続くがT-2のアンダーパワーではF-4の上昇についてこれない。距離は離れる一方どころか後ろから栗原が追いついてくる。逃れようと動いた瞬間、ただでさえ失っていた速度に旋回を加えたためエネルギーを全て失い失速、落下していく。

 

この2人を相手取るには彼女達は未熟すぎた。

 

 

 

由也と真、何年共に飛んできたのか。一時期真が除隊したときや初期の由也が未熟だった時期を除けば2人が編隊を組む事は多かった。互いの勝手はよく知り合った仲だ。それがまして生死を共にした仲となれば余計に。

 

ロッテを崩さぬまま訓練生の編隊の中を突破する。撃たれる機銃の弾をシールドで受け流しつつ1人とすれ違う。そばかすと二振りのおさげが特徴の女の子、すると方向を急転換し2人の後ろに追いすがる。

 

垂直上昇で引き離そうとすると即座に追うのをやめて味方と合流した。自分の機体の特性をよく分かっていての行動だ。

 

「1人腕のいい奴がいるな。彼女が模範になって統率のとれた動きをしてる。」

 

「ああ、教科書的だが良い腕だ。」

 

批評をしながら大きく旋回すると今度は由也達から攻撃を仕掛ける。

 

右側を狙うように仕掛けるが少女はそれを見抜いて狙われた1人を回避に専念させ、2人で由也か真のどちらかを墜とそうと試みる。

 

後ろにつこうとした瞬間に2人は逆方向にブレイクして離脱する。腕のいい彼女は仲間を連れて真に縋り続ける。

しかし背中を向ければ敵が来る。由也が横旋回で2人の後ろに回り込むとストライカーに照準を絞り射撃を始める。

 

腕のいい方は回避するがもう1人はそういかない。シールドを張ろうと慌てふためき、スレスレをかすめる弾に恐れ高度が落ちていく。

 

1人抜けた____と思うと回避に専念していた子が合流し少女達はすぐに再度編隊を組み直すと由也を狙って旋回する。随分と統率のとれた動き、それに戦術も悪くない。

 

「避けれる!」

 

ただ不幸なのは由也がそれを全て回避できる腕前を持っていることだ。半端なパイロットならいざ知らず地獄のような戦場で幾たびも落とされ、生還してきた由也にとって彼女の攻撃は遅く感じるものだった。

 

それでもなんとか食いつく、が後ろに真が迫る。

 

____チェックメイトだ。

 

 

 

『そこまで!』

 

 

 

その時、全員の通信機に凛とした女性の声が響く。

 

「いい教練になっただろう。これが実戦と訓練の違いだ、しっかりと覚えておけ。全員帰投しろ、教官たちもご苦労様だ。」

 

声を皮切りに肩で息をしながら訓練生達は戻っていく。編隊も組まずバラバラな状態を見るに相当参ったのだろう。

 

「ふぇー疲れたー……」

 

「お疲れ様、神田。」

 

「まったくよ……もうやりたくない。」

 

神田栗原ペアと美佐弘美ペアが合流する訓練生達ほどではないがそれなりに疲れていた。やはり実弾で人を撃つ、ということ自体が慣れないのだろう。

 

この世界では慣れ切ってしまっている真と由也が異常なだけだが。

 

「さ、俺たちも着陸しよう。」

 

 

 

 

 

滑走路の端では訓練生達が横たわりへたりこみ死屍累々としている。その側で教官達が小言を言いながらもアフターケアをしているのが見えた。

 

そして着陸した先に件の人物がいた。坂本曰く今回の実戦に限りなく近い模擬戦を申し込んできた問題の人物(この学校の校長)

 

一見すれば眼帯のしてない坂本のような容姿のその女性が真に近づくと手を差し出す。

 

「よく来てくれたな、君たちが例の部隊か。私は佐世保航空予備学校校長の北郷 章香だ。」

 

「扶桑陸海軍飛行戦術教導隊隊長の風間 真です、1週間の間お世話になります。」

 

北郷 章香

扶桑事変までウィッチとして活躍し、"軍神"と呼ばれるまでの活躍をした人物。原因不明の重傷を負うも奇跡的にに一命を取り留め、今もなおこうして海軍に籍を置き教官の立場にいる____とは坂本の談だ。その原因というのも北郷の口から語られる事もなく、坂本の知り得ぬ事となってしまったというのだが。

 

北郷が由也に目を向けるとツカツカと足音を立て近づいてくる。思わず由也は姿勢を正し肩を張る。

 

「君が由也か。話は醇ちゃんや坂本から聞いてるよ、腕のいいウィッチだって。」

 

「竹井と坂本が……」

 

「ああ、それと君も剣を使うとも。訓練合間に稽古をつけてやってほしいと坂本から頼まれててね。」

 

(あの人ぉ……!)

 

表情は変えないがこめかみに青筋が入る。せめて擁護するが坂本に悪意があったわけではない。伸び代がある故に叩いて伸ばそうとするタイプだからこその善意に満ちた行動なのだ。

 

「そういうことだ、私が責任もってしっかり鍛えよう。」

 

「……よろしくお願いします……」

 

心は折れそうだがこの人が悪いわけではない、なんとか踏ん張り返事を絞り出す。

神田が由也の肩を叩き振り向かせる。

 

「……ドンマイw」

 

数秒後空を舞う神田の姿が見れたことを追記しておこう。

 

 

 

講堂に集められたこの学校の中で一部の優秀な部類に入る学生達、だが中には海軍だけでなく他基地からも来た陸軍の学生もいた。

 

理由はなんとなく察している者も多かった。先の戦闘で相手した集団____1週間の特別教導訓練のために来たという教官達についてだろう。

 

ザワザワと騒がしい講堂が一瞬で静まる。学長の北郷が入ってきたのだ。後ろには例の教官達を連れている。

壇上に立つと学生を見渡し、口を開く。

 

「皆に集まってもらったのは他でもなく翌日からの訓練内容に関する通達だ。明日より1週間の間、陸軍と海軍合同での訓練生に対する強化教導が行われることになった。教官達とは実際に一戦交えた者達はよくわかるだろうが歴戦の猛者である凄腕を集めている。」

 

北郷が真に目を配ると真が変わって壇上に上がる。少し咳払いをし、やや作った口調で話し始める。

 

「紹介に預かった陸海軍飛行戦術教導隊隊長の風間真大尉だ。我々はこれより1週間の間君たちの戦闘訓練を請け負うことになった。我々が君たちに教えるのは戦場で生き抜く方法、戦法、そして空気だ。君たちがこれから戦っていくことになるのはネウロイだけでなく人間同士、果てはウィッチ同士の戦場をも経験する事になるだろう。」

 

真の言葉に全員がざわつく。ここにいる若いウィッチ候補生の全員がネウロイと戦うという目的のために今まで鍛えてきたのだ。それが人と戦うなどという話は聞いていない。

 

1人の学生が声を上げる。

 

「風間大尉!私達はネウロイと戦うために教えられてきました!人と戦うなんてことはできません!」

 

「ふむ……君はなぜ軍隊に入った?」

 

「お国のためです!」

 

まっすぐな目で彼女は真を見る。真を怯ませようと言わんばかりの眼光だがその程度で真は止まらない。

 

「国のためというのなら余計に人と戦うことを視野に入れなきゃな。」

 

「なっ……なぜです!?」

 

「ネウロイとの戦いがひと段落したとき、他の国が戦争をふっかけてくることもあり得る。その時お前達は人を撃てないと言って国が蹂躙されるのを見守るのか?」

 

「それは……」

 

「お前達が撃つ撃たないのは勝手だがその時だれが傷つく?お前達の後ろにいる人たちだ。」

 

「……」

 

「ここは軍隊だ、信念や野望があって来たやつもいるだろうが、根本は戦争をする組織だ。そしてネウロイと戦うだけが戦争じゃない。その覚悟をしてこなかった、そんなはずじゃなかったと言うのはお前達の想像力不足だ。戦争をする覚悟のない奴は足手まといでしかない、さっさと出て行け!」

 

真の怒声が部屋中に響き渡る。はたで聞いていた弘美らやこの世界に多少なり理解のある由也にとって理不尽と思ってしまうが反論はできない。特に由也はだが、全員が人間同士のゴタゴタを何度も見てきた経験がある。ましてプロジェクト4という胡散臭い連中が暗躍する中、こうして集められたのだ。いずれ、いや近いうちに人間同士の戦争というのも起きるだろうことは容易に想像できた。

 

訓練生達の中から何人か脱落するのは覚悟の上だった。だが彼女達は由也らが思ってるほど弱くなかった。誰一人として動こうとはしなかった。

 

「……さっきも言ったように俺たちはお前たちに"戦場で生きる術"を教える。だがどんな技術を教えても最後はお前たちが確固たる意地と意志を持って使わなければ意味がない。俺たちを失望させるな。」

 

そう言い締めると生徒たちに背を向ける。様々な視線が刺さるのを感じる、だがそれで怖じけるような面子ではない。

 

この少女達に様々な試練を与える身、情け容赦は捨てている。

 

(さて……真のお目につく子は出てくるかな?)

 

そんな中、由也は一人そんなことを考えるのだった。




お久しぶりです
アンギラスです。

……いや本当に久しぶりですね。RtBロスとリアルと趣味にかまけた結果がこれです。
この小説を書き始めてから色々ネタが舞い降りるもののそれを形にするのは自分が過労死しそうだと思い下書きだけが増える日々。うーんこの

とうとう最強の師匠と出会った由也、努力チート系主人公道を歩むことになる……のかなぁ。これから由也も周りもどんどん心身共に成長させていきます。
そしてこれより「トップガン」……ならぬ「ベストガイ」風教導編スタート!乞うご期待ください(でもあんまり期待しすぎないで)。

では次回でお会いしましょう。


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第10話:座学のじかん

朝6時、まだ朝日すら上りきっていないこの時間に学校の敷地内に作られた剣道場から鋭い竹刀の音がいくつも響いていた。中を覗いてみよう。

中では由也と北郷の二人が竹刀で打ち合っていた。しかし展開は一方的____何度か打ち合うと思うと由也が吹き飛んでくの繰り返しといった様子だ。
由也の方は肩で息をし絶え絶えというのに北郷はまったく涼しい顔をしている。

「無駄な動きが多い、半端なネウロイならいざ知らず大型や多数など相手ではそれではあっという間に撃墜されるぞ。」

「っ……はい……!」

空戦ではそれなりにつよい由也も剣ではまだまだ素人、とても彼女に太刀打ちはできない。
ほぼ一方的にボロボロにされて竹刀で体を支えるようにしながら膝をつく由也。その様子を見てふむ、と声をもらす。

「そうだな、一旦休憩だ。君の癖もだいたい理解したしな。」

「癖、ですか。」

「強力な一撃で短時間で終わらせようとするな。だから体力もすぐに消耗するし疲れ果てる。」

反論はない。今までにも坂本やペリーヌに指摘されたこともある。
幸いにも寄生型ネウロイとの戦いでは相手も未熟だったために勝てたが、北郷らのような剣技に長ける相手では勝ち目はない。

反省の色を見せる由也に北郷が微笑みかける。

「そう気負うことはないさ。君に剣技を教えるのが私の役目だ。やると言ったからには私の全部を教えてあげるよ。」

「はい……はい!」

「よし、良い返事だ!休憩が終わったらもう一本行くぞ!」

「お願いします!」

結局日が登るまで稽古は続けられるのだった。


新米ウィッチも軍人とはいえまだ青春真っ盛りの少女達である。校舎に入り教室の席につき、友人がいれば話をする。少女は噂やお喋りが好きなのだ。

 

話題はやはり先日から始まった強化教導訓練についてだ。

 

「ねぇ、昨日のアレ……どう思う?本気で私達に訓練を積ませるのかな?」

 

「あー、でも本気じゃないかな。だってあの校長がそんな無意味に呼ぶわけないじゃん?」

 

「だよねー……」

 

彼女達の心持ちはやや重かった。誰かのためにネウロイと戦う、そのために入った軍隊でそのあり方を叩き割られたような感覚に陥っていたのだ。

 

やがて扉の開く音とともに3人のウィッチが入ってきた。岩坂、栗原、そして由也の3人だ。

壇上に上がると同時に生徒たちは立ち上がって3人に敬礼する。

 

3人も敬礼を返すと座るように促し、由也が挨拶を行う。

 

「さて、昨日の今日で申し訳ないがこれより特別教導訓練の座学を開始する。この教室に集められたウィッチはこの度、特別教導訓練に招かれることとなった優秀な生徒たちということだ。陸軍、海軍の2チームに分かれて競い合うことになるが座学の場およびブリーフィング・デブリーフィングではこのように同じ場に集められることになる。自分の戦友とライバルの顔はよく覚えておけ」

 

そう言われ、おもわず周りを見渡す。これからは全員での競争だ。ナンバーワンになるための努力が始まる。

 

ピリッとした空気が教室を支配する、が突然大きく開かれた扉に打ち破られる。

 

そこには1人の陸軍ウィッチが立っていた。

 

「いやぁー、おくれました。梶谷 英美軍曹です」

 

「……点呼前だからまぁ許そう。ちなみに遅れた理由は?」

 

「向こうで貰った自転車がボロで途中でパンクしたため押してきたためです!」

 

悪びれなく笑顔でそう言う。もう由也も叱る気持ちもどこかへ行ってしまった。

 

「わかった……とりあえず席につけ、もう座学を始める」

 

「指定席ですか?」

 

「特にない」

 

クスクスという笑い声が上がる。緊張感を持たせるはずがこの子1人によってあっという間に砕かれてしまった。

 

(まぁ、その緊張を和らげる能力は前線では必要だけど)

 

そう密かに思ってるのは秘密だ。

 

 

 

 

 

「さて、座学といっても私たちとしても君たちとしても初歩中の初歩の話を繰り返すことになる。だがこれができなければ飛行ウィッチとしてなり得ない。型を持たずに型破りになることなんて不可能だ」

 

そう前置きを話すと黒板に次々と図と解説を書き始める。

 

 

 

初歩の初歩、ループ。宙返りとも言う機動だ。

上むきに旋回を行う機動で逆向きは逆宙と呼ばれる。

 

続いてエルロンロール。主翼についた補助翼を利用して回転する。

ただし揚力は常に上を向くため、直進するためには推力方向を細かく変更する必要がある。正確に機動を行うには集中力を必要とする機動だ。

 

シャンデル/スライスバック

斜め45度上下にに旋回する。上向きがシャンデル、下向きがスライスバックという。180度の方向転換と速度の増減速が期待できる。

 

インメルマンターン/スプリットS

上2つとちがい直角度の旋回で短時間かつ効率よく旋回できる。しかしスプリットSの際には高度に気をつけねばならない。

 

ブレイク

急旋回。敵機やミサイルを振り切るための回避行動。小隊での編隊飛行時には敵機の狙いをばらけさせることも期待できる。

 

ハイ・ヨーヨー/ロー・ヨーヨー

敵機の後ろを追いかける際、速度が遅くては振り切れら速くては追い越してしまう。それを避けるために旋回時に速度が速いときは機首を上に向けて減速、遅いときには下げて加速する。それがこの2つだ。

 

 

 

……どれも初歩中の初歩だができないのでは論外だ。いつの時代、どれだけ戦争が進化しても空戦の初歩は常に同じだ。絶対に叩き込め」

 

「教官、"捻りこみ"などは教えてくださらないのですか?」

 

一人が手を上げて質問する。

 

たしかに捻りこみがカウンターマニューバとして非常に有効だ。だが大きな危険も伴う。

 

「初めにも言ったが、型を知らずに型破りができないように、基礎をマスターしてないお前達にそういう上級テクニックはまだ無理だ。それこそ血が滲むほどの努力と天性の才能が無ければ、な。俺が知る仲でも……ほんの片手ほどしかそんな芸当ができる人物はいないがな。だがお前たちの中からもそういう人物が出るかもしれない、そういう期待を私はしているぞ」

 

そんなことを言われてそれぞれ様々な反応を示す。ある者は不安そうな表情になり、ある者は強気にも覚悟をあらわにし、また別の者は大胆不敵に笑みを浮かべる。

 

そんなまだ幼い教え子に微笑みかけながら由也は移動を促す。

 

「休憩を挟んだら実機での飛行訓練に入る。この結果次第では訓練内容が変わってくるぞ、それが嫌ならお前たちの全力全開を見せつけろ!」

 

 

 

 

 

 

 

訓練生たちが速足に自らの愛機たる練習機(T-2)を装着する。

 

実技を担当するのは真、美佐、そして神田の3人だ。

訓練生たちが準備をする傍らで真に由也が話しかける。

 

「間違ってもあの時みたいなシゴキはするなよ真」

 

「当たり前だ、あれは特別なだけだ」

 

「といってラウンデル少佐みたいなスパルタも控えなよ」

 

「わかってる、わかってるから」

 

「あ、だからって教官陣しかついてけないような動きやタイトロープの時みたいな特殊な動きも無しだからね」

 

「お前……こんな世話焼きなキャラだったか?」

 

「だれかさん共のせいじゃい!」

 

真の言葉におもわずツッコミを入れる。実際こういうキャラになったのは真がいなくなった後の傾向だから仕方が無いのだが、それはさておき。

 

ロールスロイスエンジンの甲高いエンジン音があたりに響き渡り、訓練生たちが手際よく準備を終えると離陸していく

 

さらに真のF-20と美佐のF-104J、神田のF-4EJがより力強い音を立てて続けて離陸する。

 

今まで使っていた練習零戦と違い有り余るパワーに押されてものの1分もしないうちに練習規定高度にまで到達する。

 

「よし、見せてもらうぞお前たちの腕前!」

 

そういうや否や真を先頭に編隊は行動を開始する。エリア88流の指導がスタートした瞬間だった。

 

 

 

「……無茶しなきゃいいがなぁ」

 

「あの子たちなら大丈夫でしょう」

 

「いや、そっちじゃなくて真の方がな。あの頃の人殺スケジュール訓練をするようなら説教コースだが……」

 

「「人殺スケジュール……」」

 

2人の過去を詳しく知らない岩坂と栗原は苦笑いしながら顔を見合わせる。しかし数時間の後帰ってきた様子を見て言うことを理解した。

 

そして真は由也によって訓練時間以上の説教を受けることになった。

 




仮設置された教官たち用の部屋に6人が集まった。そのうち2人はヘトヘトに疲れ果て、もう一人の最上級士官は首から「私は警告を無視しました」というカードを首に下げている。

寝室を兼ねるこのこじんまりとした部屋で頭を集めて会議を重ねていた。

「これからの座学は機体に関する理解度を増やそうと思います。自分の機体がどういう動きができるか把握できれば様々な動きを可能にし、作戦立案にも役立つようになるでしょう」

「今日の訓練では皆必死についてきてた。それは私たちもだけど……」

「逆に言えばあれだけの動きについていけるんだから十分素質はあると思うぞ」

「座学は人それぞれ差が出るだろうな。見るからに苦手そうなのも何名か見受けられたしな」

「では当初の予定通り座学での基礎知識の向上と並行で3日間の基礎訓練、のちに3日間の実戦式空戦訓練で最終日に優秀者2名を選定し一騎討ちによる審査としよう」

「「「「了解」」」」

「よし、解散!飯食って風呂入って寝ろ!」

「……なぁ由也、俺はいつまでこうしてればいい?」

「反 省 す る ま で だ が ?」

「はい……」


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