Tales of the Force -lyrical Crisis- (天羽々矢)
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1 闇の執行者

どんな物にも光と影があるように、どの世界にも必ず表と裏が存在する。

これは、その世界の裏・・・闇と影の世界に身を置きながらも平和を重んじる1人の人間と、それを取り巻く者達の物語である・・・。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

世間で“JS事件”と呼ばれる大規模テロから1ヵ月近くが経った頃、街は未だ復興ムードが漂い続けている。

その中で1つの新聞の1面記事が世間を騒がせていた。

 

【元時空管理局一佐、金色の閃光により拘束されるも起訴ならず!?】

 

【本日、時空管理局当局はフェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウン執務官により身柄を拘束されたオーウェン・テンペニー1等空佐を起訴に必要な証拠が不十分とし告訴を断念。テンペニーは職務に忠実で勤勉だと評価されていたが、その裏では脅迫、賄賂、違法薬物所持、性的暴行等の容疑があり・・・】

 

その記事の通り、悪党が法の裁きを逃れのさばっている。馬鹿げていようが珍しい事ではないだろう。権力者は己のありとあらゆる力を利用し罪から逃れようとする。うまく周囲を操る事ができれば難しい話ではない。だが当然それを市民達はよしとせず、復興中でありながらも悪人を裁けと街中でデモ行進が起こる危険も孕んでいる。

 

そして、その市民の中で1人、動き出す人影が・・・

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

人気が無くなったクラナガンと呼ばれる都市の深夜の低所得者街の橋の上、そこに件の人物はいた。

日焼けしているかのような褐色の肌にスキンヘッド、悪党然とした悪い目つきに管理局指定の茶色の制服の男。彼こそが法から逃れた悪党“オーウェン・テンペニー”である。

 

「チッ、三提督とか抜かす老いぼれ共がいねぇからって羽目外し過ぎたか・・・フェイト・T・ハラオウンか、覚えたぞ、その名前。いつか俺に逆らった事を後悔させてやる・・・」

 

手下らしき1人の男を従えながらも自らを裁こうと出たフェイトに対し明らかな憎悪を見せるように吐き捨てる。

そしてすぐ近くに停めてある車に乗り込もうとした時だ。

 

「うわっ・・・!!」

 

突然手下の男が悲鳴を上げ、そして橋から転落。下の川に落下した。

 

「何っ・・・!?」

 

突然の事態にテンペニーは驚きを隠せない。ふと正面に気配を感じ視線を正面に戻すと黒いロングコートに付いているフードを目深くかぶった、下も黒のジーンズ、インナーも黒と全身黒ずくめの人間が立っていた。体格からして恐らく男であろう。

そしてその右手には赤い液体・・・人間の血が付着している刃物、直刀と呼ばれる部類の日本刀が握られている。

 

「な、何だお前は!?俺を手にかけるつもりか!?」

 

テンペニーは目の前の男の放つ威圧感に呑まれているのか及び腰になりながら後ずさる。それに対し黒衣の男はゆっくりとだが確実にテンペニーに迫る。

 

「お、お前なんざ簡単に潰せるんだぞ!?もし俺を手にかけてみろ、タダで済むなんざ・・・!!」

 

「法や管理局がお前を許しても、俺はお前を許さない」

 

テンペニーの言葉を遮り黒衣の男は口を開いた。それはまだどこか少年のような雰囲気を残した青年の声であるが、その声には目の前にいるテンペニーに対しての明確な怒りと憎悪が感じられ、刀を持つ右手にも力が入っているのが分かる。

 

「ひぃっ、く、来るなっ!!」

 

テンペニーは遂に恐怖に負け黒衣の男に背を向け走り出す。が、黒衣の男は低く構えると一瞬で距離を詰め右手に持つ刀をテンペニーの背に向け振り下ろした。

 

「ぐっ・・・この俺が、こんな・・・」

 

背中を大きく斬られたテンペニーは苦し気に声を出すが、そこで黒衣の男の事で何か思い出したのか目を見開き、

 

「・・・思い出したぞ・・・黒ずくめの人斬り・・・お前が・・・“闇の執行者”か・・・」

 

それだけ言い、テンペニーは力なく橋から転落し手下と同じように川へ落ちた。

闇の執行者と呼ばれた黒衣の男はその様子を見届けると、すぐにその場を移動する。



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2 8年前と現在(いま)

新暦75年、広域次元犯罪者“Dr(ドクター).ジェイル・スカリエッティ”が自身の手により造られた機械兵器ガジェット・ドローンと戦闘機人なる人造人間を従え引き起こした大規模テロ“JS事件”。

 

その影響は未だ強く、この事件で大きな被害を被った時空管理局は体制の見直しと修正を余儀なくされている。

 

だがその中でも、“あの出来事”を忘れずにいる人間はいる・・・。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

復興中の街中を歩く1人の女性の姿。

 

栗色の髪を左側でサイドテールに纏め白い制服に身を包んだその女性は“高町なのは”。

彼女はこの世界で時空管理局と呼ばれる治安維持機関に属する人間であり、我々の国で言う自衛隊と同じ階級で言えば一等空尉とかなり高い地位にいる。

 

そんな彼女だが今その腕の中には花束を抱えている。別に誰かへのプレゼントという訳では・・・否、今の彼女の目的を考えればある意味そうかもしれない。

 

『なのは(ちゃん)』

 

そこになのはの背後から声をかける2人の女性が。

 

豊かな金髪にモデルのように整ったスタイルで、管理局では“執務官”と呼ばれる管理職の証である黒い制服に身を包んだ女性“フェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウン”。

 

少し小柄な体形で茶色のショートボブで地上勤務の茶色の制服を着た女性“八神はやて”。

 

2人もなのはと似たようにその手に何やら紙袋を持っている。

 

3人は互いに見合って頷くと、すぐに何処かに向け移動を始める。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

時空管理局からは第97管理外世界と言われる地域・・・、我々の言葉では地球というその場所。

 

その一角、日本の海鳴市と呼ばれる海に隣接した街の外れにある小高い丘。そこになのは達3人は来ていた。

そして彼女達の目の前には交差するように地面に突き刺さっている2本の剣。しかしその剣は剣身に大きくヒビが入っており見て取れる程ボロボロで今にも折れて崩れてしまいそうだ。

その少し手前の地面には黒曜石のプレートが置かれておりそこにはミッドチルダの言語に似る言葉、英語で文字が彫られていた。

 

The true hero of the Phil Maxwell incident(フィル・マクスウェル事件の真の英雄),Sleeping here, the soul of Lexus Belforma(レクサス・ベルフォルマの魂ここに眠る)

 

そう、目の前に刺さっている2本の剣と黒曜石のプレートは墓標代わり。

 

なのは達にはもう1人仲間が・・・“彼”がいた。

出会ったのは10年ほど前。“彼”はなのは達と違いロクな訓練もせずいつも出たとこ勝負と、少々爺むさくどこか不真面目ささえ感じられる事もあったが義を重んじる熱い部分もあり、なのは達がそれに後押しされた事も少なからずあった。

 

そして・・・なのは達はそんな彼に淡い想いを寄せていた。その想いをなのは達3人が互いに認識しあった時、“学校を卒業したら皆で想いを伝えよう、誰が選ばれても恨みっこなし”、そんな約束もしていた。

 

・・・だが、それが果たされる事は無かった。

 

8年ほど前、地球ともミッドチルダとも違う異世界から来た来訪者達が引き起こした事件。黒幕の最後の足掻きからなのはを守るべく自ら身代わりを買って重症を負った。それでも彼は諦めず文字通り死力を尽くし己の全てを出し切りなのはを守り抜いたが、その代償はあまりにも高すぎた。

 

あの場にいた時空管理局の面々も彼を必死で捜索するが現実は非情な物。ボロボロになった彼の愛剣と千切れ飛んだ彼の左腕が見つかりその事から生存は絶望的であろうと判断され、その1ヵ月後に正式に戦死報告が行われた。

 

あまりにも非情な現実に、未だ幼かった当時の彼女達は泣き崩れた。

受け入れられない、受け入れたくない、こんなのは嘘だ、悪い夢だ、早く覚めてほしい、そう願わずにはいられなかった。だが起きた現実は決して変わる事など無い。

 

なのは達は後悔した。

自分たちには力がある、そんなのは嘘だ。たった1人、大切な人も守れず何が天才だ。

彼女達は唯々後悔し、苦しみ、絶望した。今すぐ死んで彼を追いたい、彼に会いたい。そう思い始める程だった。

 

だが、それでも彼女達は前に進まなければならない。それが生きとし生ける者の果たす責任、何より彼に胸を張っていけるように。

 

それでも彼女達は迷ってしまう。本当に自分達は正しい事をしているのか、彼に胸を張っていけるのか・・・と。

当然答える人はいない、仮に答えられる人間がいるとすればそれは彼しかいない。しかしそれを確かめる術は無い。・・・もう会う事も叶わないのだから―――――。

 

 

そして今日は彼の墓参り。正確な命日は不明ではあるが彼が消息を絶ち戦死報告された日とされている。今年は自分達の仕事の都合もあり大きく遅れてしまったがこうして来れただけでも良しとすべきだろう。

 

なのはは持参してきた花束、フェイトとはやてはミッドチルダで購入した彼の好物を目の前の墓標に供え、両手を合わせ祈りを捧げる。

彼への想いとあの時の後悔からか3人とも目じりに涙が浮かんでいたが堪える。もしここで泣いてしまえば穴の開いたダムのように止まらなくなってしまうだろうから。でも、それでも思わず、願わずにはいられなかった。

 

(レッ君・・・会いたいよ・・・)

 

(レクサス・・・帰ってきてよ・・・)

 

(レクサス君・・・ほんまにごめんな・・・)

 

そう思ったが最後、目じりから涙が零れ、ついに3人は声を押し殺しつつも泣き始めた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

同時刻:ミッドチルダ

 

ミッドチルダ南東部に位置する、地球で言えばアメリカ・フロリダ州マイアミを彷彿させるその街の名は“バイスシティ”。

 

ミッドチルダ有数のリゾート都市ではあるが、その社会の裏ではミッドチルダに限らず管理世界と呼ばれる世界にて違法とされている銃火器等の質量兵器や麻薬を始めとした違法薬物の売買、街には至る所にギャング構成員が蔓延っている娯楽と腐敗に満ちた街。

 

ギャング同士での闘争(ドンパチ)や違法物品の取引など日常茶飯事。挙句の果てには次元指名手配されている犯罪者まで流れてくる始末。一応地元の管理局部隊も存在するがまるで役に立っていない。

 

何処かのバカが管理局にパクられた、アホがギャングのボスを怒らせた、娼婦の誰かがギャングの女になった等、この街では当然のようにありふれた話である。

 

 

バイスシティ東島最南端部、オーシャンビーチ。その更に南の方にあるオーシャンハイツ・アパートメント。その1室に青年・・・“彼”の姿はあった。

 

背中まで届くほど綺麗に伸ばしたコバルトブルーの髪、まだ少し幼さが残る整った顔立ちに黒曜石のような黒い()眼。・・・そう、彼は過去の事故が原因で左右の光彩の色が異なる異色光彩となっている。そしてその左眼の方は・・・鮮血のような赤い眼。決して充血している訳ではない。

 

上は寝起きのままなのか白いTシャツ1枚のままで、左腕には包帯が巻かれている。下は普通の黒いジーンズだ。

その彼は今、部屋の窓縁に腰を下ろし外を眺めていた。

 

「開いてる~?入るよ~」

 

すると部屋の入口のドアから女性の声が聞こえ、間髪入れずにドアを開け部屋に入ってきた。

 

腰辺りまで伸ばし、その1部を後頭部上方で黄緑色のリボンでポニーテール風に纏めたハーフアップ、赤い瞳に少し小柄でありながらモデルのように整った体形。

 

白のブラウスにピンクのカーディガン、茶色のスカートを身に着けた女性だが、少し小柄な事と髪型、リボンの色等違いこそあれどその雰囲気はフェイトに似ている。

 

「も~またそんな恰好で、ホントに風邪ひくよ()()()()?それに今日はノースポイントモールに一緒に行く約束でしょ?」

 

「分かってるよ。それと()()()()、公の場じゃその名前は言うなよ?絶対騒がれるから」

 

「だいじょ~ぶ。私、口堅いから♪レクサスこそ私の名前バラさないでよね?」

 

青年にレクサスと呼ばれた青年は少しムッとしたのか、自分がアリシアと呼んだ女性を部屋の外へ追い出すと歯磨きと洗顔を済ませ、ハンガーにかけてあるデニムジャケットを羽織り部屋の外へ。アリシアと合流してアパートを出る。




OP:幻想の輪舞/黒崎真音


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3 レクサスとアリシア

OP:幻想の輪舞/黒崎真音


オーシャンハイツ・アパートメントを出て、レクサスとアリシアはレクサス所有のハーレーダビッドソン・ソフテイルFLSTCの改造バイクで東島北部、バイスポイント地区の北部にあるノースポイントモールに足を運んでいた。

 

2階の衣服店でアリシアの買い物に付き合い支払いを済ます際に2人が提示したIDにはこう表記されていた。

 

Leonard(レナード)O'Conner(オコナー)

 

Alice(アリス)F(フィオラ)O'Conner(オコナー)

 

それが()の2人の名だ。出発前にレクサスが言った通り、2人の本名は表沙汰にすると面倒なのである。

 

アリシアの買い物を済ませ、今2人は1回のフードコートで昼食をとっている。ちなみにメニューはフルーツスムージーとクロックムッシュ。レクサスは自分の好物であるチリドッグをペットボトルの緑茶で流し込んでいる。

 

食事の間、レクサスはノートPCでネット情報を漁り何か変わった事が無いか調べている。もっとも、この街(バイスシティ)ではその変わった事が日常茶飯事として起きているが。

そんな時レクサスの持つ携帯端末のバイブが鳴り、画面を確認するとミッド東部地方の別の都市、リバティーシティで仕事をしていた“仲間”が仕事を終えてこれからバイスシティに戻るという内容のメールが届いていた。

 

「もしかして、あの子から?」

 

「当たり。仕事が終わったから()()()()バイスに戻るって」

 

早く2人、あるいはレクサスに会いたいが為に愛用のバイクをかっ飛ばそうとして同僚の3人に止められる水色の髪の女性の姿を想像し2人は思わず吹き出してしまった。

だがすぐにレクサスは残っているチリドッグの一片を口に放り込み緑茶で流し込むと、アリシアの荷物である紙袋を持って立ち上がる。

 

「さて、今度は俺の買い物を済ませないと」

 

「あ、待ってよ~」

 

すぐに移動を始めたレクサスを追うべく、アリシアも残っているクロックムッシュを口に押し込むとすぐに椅子から立ち上がり後を追う。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

次に2人が入ったのはノースポイントモールの関係者以外立ち入りが禁止されている区画。レクサスは周囲に自分たち以外誰もおらず、サーチャーも設置されていない事を確認すると重厚な扉を開け中へ入る。

 

その先は薄暗くとも広い空間となっており、そのスペースの一角の壁には、ミッドチルダを始めとした次元世界では既に違法とされている武器、銃火器が掛けて並べられていた。そしてその先にあるカウンターに佇んでいる赤い甲冑魚のようなフェイスマスクを着けた男に近づく。

 

「おや、これはこれはレナード・オコナー君じゃないですか。ご注文の物は仕上がってますよ」

 

少しぼんやりとした口調だが、男はカウンターの下から無骨だがスマートな黒い物体・・・拳銃を取り出しカウンターに置く。

 

「ご注文通り、消音器(サイレンサー)を付けられるようにしておきましたよ」

 

「ありがとうございますシンカイさん。それとこれ用のマガジン3つと彼女用に別の物を1丁お願いできますか?できれば装弾数が多くて扱いやすい奴を」

 

「え~っと、ちょっと待ってくださいね」

 

レクサスにシンカイと呼ばれた赤マスクの男は注文を受け奥へ入っていった。

シンカイが立ち去ったのを見ると、レクサスはカウンターに置かれた拳銃、“スプリングフィールド XDM”を手に取り射撃の構えだけをとって感触を確かめる。

 

XDMはスプリングフィールド・アーモリーがHS2000拳銃をコピーして販売したXDを一新した新モデルで前のXDよりもスマートになりより握りやすくなっている。

レクサスのXDMは.45ACP弾を使うモデルだ。

 

「随分と暇そうだねトラヴァ?」

 

XDMの感触を確かめながらもレクサスはカウンターの奥の方で新聞を読む1人、トラヴァと呼んだ肩まで届く藍色の縮れ毛の髪の男に声をかける。

 

「別に見てくれ程ヒマじゃねぇのよこれでも。他に仕事あんだし」

 

「へぇ~、流石“ミッドチルダ最速の何でも屋”ってとこ?」

 

「おぉ何だケンカ売ってんのか、よし買っちゃうよ?」

 

レクサスの発言を挑発と受け取ったのか、トラヴァは読んでいた新聞を投げ捨てレクサスを睨みつける。レクサスもお返しと言わんばかりに睨み返し一見すると険悪な雰囲気だが、これが2人の割と普通のやり取りである。

そこへXDMとは別の拳銃を木箱の上に載せて両手で持つシンカイが戻ってきた。

 

「はいはいお二方毎度のやり取りはお終いですよ」

 

そう言いながらシンカイは木箱をカウンターに置く。レクサスは木箱の上に置かれている拳銃を一目見て判別した。

 

「これってPx4?」

 

「当たり。“ベレッタ Px4 Storm(ピーエックスフォー・ストーム)”。簡単にグリップを換えられるしバレル、マガジン、スライドの取り換えるだけで9mmパラベラム、9mmIMI、40S&Wと多様の弾を使える初心者にはイチオシのブツですよ。ちなみにこれは9パラの方ですね、弾数は17まで入りますよ」

 

シンカイが解説を挿み、レクサスはPx4の銃身を握るとグリップの方をアリシアに向ける。アリシアは武骨だがどこか威圧感を放つ雰囲気に思わず息を呑んだが意を決し左手でグリップを握りグリップ下部に右掌を添え射撃の構えを取ってみる。

 

「・・・良さそうだね」

 

アリシアの構えを見て判断したのかレクサスが僅かに笑みを浮かべ頷きながらそう言い、カウンターに20ドル札を20枚束ねた物を置いた。

シンカイがそれを見て電卓を取り出し、お札を数えて電卓に数値を入力し計算する。

 

「丁度ですね~毎度ありがとうございます~」

 

会計終了の言葉を聞きレクサスとアリシアは部屋を後にする。

だが部屋を出たレクサスは先ほど見せた笑みではなく、アリシアを心配するような表情だが、それに気づいたアリシアは首を横に振って何かを否定する。

 

「心配しないで、もう覚悟は決めてる。今私が生きてるのもレクサスが()()()()()から。そうじゃなくても私はレクサスだから着いていくんだよ。だから私はレクサスが望むのであれば何でもするよ。・・・たとえ管理局を敵に回す事になっても、ね」

 

笑みを浮かべながらも語ったそれはアリシアの決意。レクサスに救われてからずっと秘めていた思いだ。

 

「・・・ありがとう」

 

その思いにレクサスは感謝を述べアリシアの頭の頭を撫でる。

アリシアは気持ちよさげに目を細め、猫のように甘えている。だが2人の時間ももう終わり。用事は全て済ませたので後は帰宅するだけだ。

2人はそのままモールの駐車場に止めてあるレクサスのハーレーに乗り帰路に就いた。




ED:DREAMCATCHER/ナノ


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4 影の仲間達

OP:幻想の輪舞/黒崎真音


オーシャンハイツ・アパートメントに戻り引き続きネットワークでの情報収集を行うレクサス。辺りはすっかり日暮れであったが、そこに何やらドタドタと凄い足音が聞こえだす。

“いつものパターンか”と内心思いつつも、椅子から立ち上がってドアの前に待ち構える。

やがてドアが開き、そこから水色の影が飛び出したかと思うと、

 

「たっだいま~!!」

 

腹の底から出たかのような元気な声と共にレクサスに向けダイブしてきた。あまりの勢いに押し倒されそうになるも何とか踏ん張り、飛びついてきた影に目を向ける。

それは毛先が黒みがかった水色の髪をツインテールに纏め、ワインレッドの瞳でややツリ目気味。更に出るとこは出て引っ込むとこは引っ込むといったモデルのような体系を白いシャツとネイビーのデニムジャケット、グレーと青のミニスカートで包んでいる女性であった。

 

「お帰り、レヴィ」

 

「えっへへ~♪」

 

自分の胸に飛び込んできた水色ツインテールの女性、レヴィの頭を撫でながらレクサスが言う。

そのレヴィはと言えばノースポイントモールでのアリシアの時と同じように気持ちよさげに目を細め甘えている。

 

「レクサス、私には挨拶は無しですか?」

 

そんな空気に割り込む凛とした声。見れば玄関には別の女性が立っていた。

 

茶色の髪を肩口辺りまで流したショートカットに青い瞳、彼女もレヴィに負けず劣らずの良いスタイルを持ち白シャツに紫のリボン、桜色のテーラードジャケット、薄紫のフレアスカートに顔には知的な印象を与える赤縁のメガネと少しキッチリしつつも女子らしい雰囲気である。

 

「シュテルもお帰り、首尾は?」

 

「まずまずと言った具合ですね、そして、ただいま戻りましたレクサス」

 

レクサスに呼ばれた女性、シュテルはレクサスに向け丁寧に頭を下げる。レヴィとはまるで正反対だ。

 

「おい、我が臣下(シュテルとレヴィ)は出迎えておいて我等には出迎え無しか貴様?」

 

そこにまた別の声が聞こえてきた。それはどこか厳格そうな声。

 

見ればそこに立っていたのはレヴィ、シュテルとはまた違った女性だ。

前髪以外の毛先に黒メッシュが入っている肩口辺りまでの銀髪に緑色の瞳、、左前髪に×印の紫の髪飾り、薄紫のシャツに黒のブレザージャケット、白のタイトミニスカートを身に纏うこの女性もモデルのように整った体系ではあるがシュテルやレヴィと比べれば身長とバストサイズは少し控えめである。

 

そしてもう1人、その女性の背中で寝息を立てている1人の少女。

ウェーブがかった金髪に童顔、身長は145cm程だろうか3人と比べると大分低いが身に着けているコスモスピンクのパーカー越しでも分かる程の2つの()がディアーチェの背中に当たって形を変えている。もしかしたら85cm位はあるかもしれない。

下はキャラメルブラウンのフレアミニスカートと黒ニーソックスという組み合わせだ。

 

「ごめんごめん、ディアーチェもお帰り。ベッドが空いてるからユーリを寝かせてあげなよ」

 

「言われずとも分かっておるわ、たわけ」

 

ディアーチェと呼ばれた女性はユーリと呼ばれた少女をベッドにそっと寝かせ布団を掛ける。

 

ここまでで戻ってきたシュテル、レヴィ、ディアーチェであるが・・・所々に差異はあれどその姿形はそれぞれなのは、フェイト、はやてによく似ている。それには()()()()が絡んでくるのだがそれを語るのは別の機会にしよう。

 

今のレクサスは上記の3人と今はベッドで寝息を立てているユーリ、そして今は不在のアリシアともう2人の計8人で活動している。

 

「ねぇねぇレク、今日のごはんは?」

 

「晩飯ならカレーを作ってあるよ。冷蔵庫にはサンドイッチとデザートにチーズケーキ」

 

「やったぁ!レクのカレー、王様のと同じくらい大好き!」

 

レクサスが既に用意していた夕食の内容を聞きレヴィは大喜びする。ちなみにレクと言うのはレヴィがレクサスに対する渾名のような物だ。

レヴィが自分でカレーをよそったのを見て自分もそろそろ夕飯にしようかと席を立った時、レクサスの携帯が鳴った。個人で設定している着メロ「PHANTOM MINDS」であった為に誰からの着信かすぐに分かった。

 

「アリシア、何かあった?」

 

〈レクサス?ロスサントス(ロス)で動いてるアミタから連絡があって、第15無人世界で盗掘されたらしい珍しい鉱石を取引する為にお偉い様方がバイスに来るみたい〉

 

アリシアからの連絡にレクサスの目つきが変わった。

 

「取引相手を突き止めるチャンスだな。そこから情報を集められる」

 

〈レクサスならやっぱりそう言うと思ったよ♪今リトルハバナで見つけて尾行してる。早く来ないと見失っちゃうよ〉

 

「分かった、すぐ向かう」

 

それだけ言うとレクサスは通話を切り、デスクの引き出しに仕舞ってあるスプリングフィールド XDMを入れてあるホルスターごと取り腰に取り付けるが、それにシュテルが気付いた。

 

「仕事ですか」

 

「アリシアが盗品(ブツ)の取引人物を尾行してる。相手を突き止める為にこれから合流する」

 

「お供してもよろしいですか?」

 

「サンキュー、と言いたいけどユーリも寝てるし人数が増えるとバレやすくなる。悪いけどシュテル達は待機で頼むよ」

 

「そうですか、残念です」

 

言葉では残念と言ってはいるが、このシュテルという女性、一見すれば無表情である。そこそこの付き合いがあるレクサスでも考えが分からない事も少なくない。

シュテルの発言に一瞬怪しそうに眉を寄せるが、あまり悠長にしている暇はない。レクサスはあまり言及しないようにしそのまま部屋を出る。だがそれにカレーを食しているレヴィも気づいた。

 

「あれ、レク出かけるの?ボクも行く!」

 

「ダメですよレヴィ。レクサスはこれからアリシアと一緒に()()()()ですから」

 

「えぇ~何でぇ~!?ボクたち前まで別々でずっとアリりんが独り占めしてたのにぃ~!!ズルい~!!」

 

レクサスについて行こうとしたレヴィをシュテルが止めレヴィがまるで子供のように駄々をこねる。

2人のやり取りに既に部屋を出たレクサスは知らんぷりを決め込み自分のガレージがある1階へ。そこのガレージには午前中にレクサスがアリシアと出かけた時に乗っていたハーレー・ソフテイルFLSTCとは別の1台の車が停まっている。

 

流線形のボディに丸形2灯のヘッドライトが特徴的なメタリックグレーの車体にカーボン製ボンネットとトランクを装備したその車は1970年式“シボレー・シェベルSS”。

 

レクサスはシェベルの運転席に座ると改造された5.4L(リッター)V8スーパーチャージドエンジンをかけアリシアが待つリトルハバナへ向けシェベルを走らせていく。




ED:DREAMCATCHER/ナノ


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5 秘密の撮影任務

OP:幻想の輪舞/黒崎真音


アリシアから連絡を受け、レクサスはシェベルSSをリトルハバナに向け走らせる。

 

「いたいた!お~い!」

 

リトルハバナ、ロビーナ・カフェ前。そこにアリシアの姿はあった。

レクサスはシェベルをカフェのすぐ前に止めアリシアを拾う。

 

「向かい先は?」

 

「えっと、確かプローン島!まだ追いつけるよ!」

 

「OK」

 

行先が分かり、レクサスはギアを入れ再びシェベルを走らせる。

 

プローン島はバイスシティ北部、リトルハバナがある本土と東島のちょうど中央に位置する島で。島の北部には既に廃墟となった3棟の大邸宅、南部には映画の撮影スタジオがある。

北部の大邸宅は元々は麻薬(ヤク)を売り捌くギャングの首領の所有物件だったらしいが今では荒れ放題だ。

 

ゲートは開いていた為レクサスはシェベルを3邸宅を正面から見て左の邸宅の裏手に留め、カメラを片手にアリシアと共に邸宅の屋上まで上っていく。

 

「設定は夜間モードでフラッシュをオフ、と・・・」

 

「フォーチュンドロップ、撮影モードお願いね」

 

All rigth(了解です),Master Alicia(マスターアリシア)

 

カメラの設定をしているレクサスの隣で、アリシアは首にかけている黄緑色の雫形のネックレスに声をかける。するとフォーチュンドロップと呼ばれたネックレスから機械的でありながらも女性の声が聞こえた。

 

 

―――ミッドチルダを始めとした管理世界には魔法と呼ばれる現象が存在する。体内に存在するリンカーコアと呼ばれる器官が大気中の魔力素を取り込みそれらをエネルギーとして加工したもの、魔力を放出して発動する一種の超科学のような物。

 

その魔法を使う者の世間では“魔導士”と呼ばれ、それらの者は魔法使用の補助の為に魔法の杖、“デバイス”を用いる。

 

アリシアが持つ黄緑色の雫形ネックレス“フォーチュンドロップ”もそのデバイスの一種。中でも人格型AIを搭載した事で自律機能やデバイス単体での魔法発動が可能な“インテリジェントデバイス”と呼ばれる物だ。―――

 

 

アリシアがフォーチュンドロップに頼むとアリシアの眼前にスクリーンが映され、そこにはカメラのようなカーソルが表示されている。

レクサスもカメラの設定を終えスタンバイ。

 

「何か私たち、特ダネを追っかけてる記者みたいだね♪」

 

「そんな暢気(のんき)な事言ってる場合かって、・・・来たぞ」

 

レクサスが表情を引き締めてそう言うと、ちょうど中央の邸宅のゲート前に黒塗りのベンツのセダン1台が停まった。

すかさずレクサスがカメラを構える。そして停まったベンツから黒いスーツ姿の1人の人間が降りてきた。

 

体格からして恐らく男性。何処かの会社の上級幹部のような雰囲気だ。

逆立てた金髪で肌の色はアメリカの白人のような白肌だ。

 

辺りを警戒してか周囲を見渡し、その顔がレクサス達がいる左の邸宅に向いた瞬間、レクサスとアリシアはシャッターを切った。

撮った画像を確認、ばっちりと顔が映っていた。

 

「さっそく出てきたね、表じゃ相当偉そうな人・・・」

 

「そうだな。けど待った、あいつどっかで見覚えがあるような・・・?」

 

「え?」

 

写真を確認するレクサスが何処か含みのある発言をし、アリシアは思わず首を傾げるが別の車の走行音が聞こえてきたので再び撮影に集中する。

 

次に正面の邸宅ゲート前に停まったのは艶消しブラックのBMWのF90型M5だ。

 

「あの黒、純正の黒じゃないよね?結構目立つよ」

 

「シッ!静かに・・・」

 

ブツブツと呟くアリシアを静め撮影に意識を向ける。

M5の後部席から降りたのは、なんと女性だ。

 

首辺りまでと短めのミドルポニーテールに藍色のロングコート、インナーはへそ出しの黒いベアトップ、下はジーパンとかなり動きやすそうな服装。

体系から見てもまだ20代前半か半ば位の年齢だろうか、顔立ちもモデル顔負けの端麗さだ。

 

「キレイな人、何であんな何もなさそうな・・・」

 

「待てアリシア、あいつの左腕・・・!」

 

疑問に思ったアリシアにレクサスが女性の左腕を見ろと促す。

左腕はロングコートの袖に隠れてはいるが、時折チラリの何か黒いものが顔を覗かせていた。

 

「あれって・・・」

 

「アリシアは左腕を、顔は俺が押さえる」

 

レクサスの指示にアリシアは頷き、黒いものを覗かせる女性の左腕を画像に収め、レクサスも女性の顔を押さえる。

だが気のせいか、その時に女性が左の邸宅の屋上を見た気がした。

 

「マズい、伏せろ・・・!」

 

レクサスとアリシアは慌てて床に伏せる。が、女性は少し見ただけで何事もなかったかのように正面の邸宅に入っていった。

少し顔を出して女性が行った事を確認するとレクサスとアリシアは安堵の溜息をつき再び撮影の構えを取る。

 

次にゲート前に停まったのはシルバーメタリックの1965年型ポンティアック・GTO。

それから降りたのは、なんと時空管理局地上本部所属の証である茶色い制服を身にまとった男だ。

 

厳格そうな顔つきに黒いオールバックのヘアスタイルに口髭という鬼軍曹といったような見た目だがここに来たという事は間違いなくこの一件に絡んでいる。

 

「うわぁ出たよ、悪徳局員さんが」

 

「あいつはグレッグ・マルチネスだな。地上本部の1等陸佐だ。地元部隊が動かない訳だな・・・」

 

今回の件でバイスシティの地元管理局部隊が動かない理由が分かり、思わず呆れの溜息をつくレクサス。

だが仕事は仕事。管理局の男、マルチネスの顔写真も押さえたところでまた別の車が来た。

 

「ちょっと、一体何人がこの取引に関わってるの・・・?」

 

「それほどデカいヤマだって事だ。潰せば結構な痛手になるぞ」

 

隠れつつも話す2人を後目に次にゲート前に停まったのはメタリックグリーンの1972年型のフォード・グラン・トリノ。

その助手席から降りたのはバイスシティの雰囲気によく合う水色のアロハシャツとチノパンという恰好をした少し小柄な丸刈りの男。

顔は少し丸みを帯び白い肌、目元は僅かに吊り上がっている。

 

「あれはルーフェン系の人間だな」

 

「ルーフェン系でこんな仕事をする人なんていたっけ・・・?」

 

「その辺も写真が上がったら調べてみよう」

 

ルーフェン系の男の顔写真もしっかりと撮影。

なお、ルーフェン系の男が降りたグラン・トリノは男を降ろした後に既に走り去っていた。男の部下かただの雇われかは今は定かではないがあのルーフェン系の男の身元を調べれば分かるだろう。

 

この後も少し待ち続けたが他に近づく車が無い事から恐らくこれで全員だろうと判断し、屋上から降りて裏手に停めてあるシェベルに乗り込み怪しまれないよう自然に出ていく。

 

プローン島を出てバイスシティ東島、バイスポイントのWKチャリオットホテルの駐車場にシェベルは停まった。

 

「ここからは別々で戻った方がいいかもしれないな。俺は追手がいないか確かめた後でタクシーを拾う。車は任せた」

 

「了~解、気を付けてね」

 

「アリシアも」

 

レクサスはシェベルから降り、アリシアが助手席から運転席に移りシェベルを走らせ1人先に戻る。

降りたレクサスはホテルに入り、高層階まで上って窓から追手がいないかを確認する。

 

そして追手らしき車も人影も確認できなかった事を確認するとホテルを出て、空車のタクシーを拾ってカメラショップで写真の現像を頼んだ後でオーシャンハイツへの帰路に就く。




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6 因縁と動き出す光

OP:幻想の輪舞/黒崎真音


レクサスとアリシアが今回行われる盗掘品の違法取引の関係者と思われる人物の顔写真を撮り終えて翌日、写真が仕上がった為にここから本格的な捜査に乗り出す。

 

今のオーシャンハイツ、レクサスの部屋はまるで捜査室のような雰囲気である。

 

「なんか管理局の特別捜査みたいだね♪」

 

「レヴィ、いつまで昼餉(ひるげ)を食しておる!貴様も手伝わんか!」

 

昼下がりの部屋でレヴィは昼食に用意されたハンバーガーを頬張っており、集められた情報を纏めた書類に目配せするディアーチェに怒られる。

そんな2人を後目にテーブルに置かれたノートPCで情報を探っている2人、シュテルとユーリだ。

 

昨日は眠っていて分からなかったユーリの金色の瞳もしっかりと開かれている。

 

「ユーリ、女性の方は分かりましたか?」

 

「あ、はい」

 

シュテルから突然問いかけられるも、ユーリは何とか対応してPCを回して調べ上げた情報を纏めた画面を見やすくする。そしてその画面をディアーチェとハンバーガー片手に立ち上がったレヴィが覗き込む。

 

「名前は“オーフェリア・アル・シュヤ”。管理世界だけでなく管理外世界でも活動してる大犯罪組織“大蛇(オロチ)”の首領です。逮捕歴は2回、どれも刑務所に収監されてますがその全部を単独で脱走を果たしてます」

 

「“だつごくしゃ”ってやつ?」

 

「食しながら喋るな口の中の物が飛んだぞ!!」

 

画面を見てハンバーガーを食べながら喋るレヴィにディアーチェが怒鳴る。

するとそこでドアノブの音がし、何やら書類を片手にレクサスとそれに付き従うアリシアが入室してきた。

 

「やっぱりだ、あの黒スーツの男どっかで見覚えがあると思ったんだ」

 

そうぼやきながらレクサスはテーブルの上に持っていた書類を置いて見やすくなるように広げる。

その書類には逆立てた金髪に色白の肌の男の顔写真が入っている。

 

「“キャメロン・レイエス”。リバティーシティで今1番力を持つ投資家でアレクトロ社の最高幹部、そして・・・1()4()()()()()()()()()()()()()()に関わってた男だ」

 

少し含みのある言い方だったがその声には明らかに怒気が孕んでおり。それを隣で聞いているアリシアも怒り心頭といった表情だ。

 

「見覚えがあると言いましたが、レクサスはこの男と面識が?」

 

ふと気になったシュテルが質問するが、レクサスは怒りを隠す様子も無く答える。

 

「9年くらい前かな。その時管理局の捜査官見習いだった俺は暴走事故の事が気になって改めて事故の詳しい経緯を調べた。調べ上げるのにはホントに苦労したっけな・・・。で、アレクトロを挙げられる証拠を掴んでそれを管理局上層部に提出した。けど・・・」

 

「けど・・・?」

 

「・・・特別報奨と長期休暇を()()()()()()()()()()()()握り潰されたよ」

 

レクサスのその発言にシュテルはおろか室内の誰も発言できなくなってしまった。レヴィでさえもハンバーガーを持つ手が止まっている。

だが今の話を聞きレクサスと同じかそれ以上に憤っている人物がいた。

 

「・・・最初に罰を下すべき輩が決まったな」

 

そう呟くように発言したのは銀髪の女性、ディアーチェだ。

その声には明らかに憎悪に似たような怒気を孕ませ、右手にも怒りからか力が入り震えているのが分かる。

だがレクサスは首を横に振った。

 

「ただ潰すだけじゃダメだ。奴が消えたところで誰かが奴の財と成果を引き継ぐ。何せリバティーで最も権力(ちから)のある男だからな」

 

「フンッ、そんな戯言で王たる我が怖気づくとでも思ったか?むしろ望むところよ。愚か者から全てを奪ってくれるわ」

 

「流石です、我が王」

 

「そうだよ!王様の言う通り悪いやつはこらしめなくちゃ!」

 

「そうですよ、私もディアーチェの意見に賛成です!」

 

レクサスのネガティブ発言にむしろやる気の炎が燃え上がったディアーチェの発言にシュテル、レヴィ、ユーリも賛同する。

そして隣にいるアリシアもレクサスの手を両手で握りしめる。

 

「やろうレクサス、みんなで」

 

それはアリシアもディアーチェに賛同する意である。

全会一致。これで次の仕事の標的(ターゲット)が決まったが、まだ機ではない。

それをレクサス達は分かっている。

 

「やるにしても今のままじゃダメだ。まずは情報が要る。その後に作戦を立てないと」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

ミッドチルダ中央区画、

 

湾岸地区のミッドチルダ南駐屯地内にJS事件で名を馳せた奇跡の部隊“機動六課”の隊舎がある。

 

「ふぃ~・・・」

 

その部隊長室で書類仕事を終え椅子の背もたれに背中を預ける女性、はやてである。

 

「お疲れ様ですぅ、はやてちゃん」

 

「お疲れ様です、我が主」

 

そこにはやてに声掛けをする2人の女性の声が。

 

1人ははやての隣に立ち、トレイに載せているお茶の入ったコップを置く10代後半相当の綺麗な長い銀髪と赤い瞳を持つ女性。

もう1人は身長30㎝程で、青い眼である事を除けば前述の銀髪の女性に似ている。

 

2人ははやての家族とも言える存在でそれぞれ“リインフォース(アインス)”と“リインフォース(ツヴァイ)”と呼ぶ。

 

「あんがとなリインフォース、リインもお疲れ様や」

 

2人の労いの言葉を聞き、はやてはリインフォースⅠが入れたお茶を口に含もうとした時、

 

 

デスクの上にあるインターホンが鳴る。

 

インターホンの表示には“クロノ・ハラオウン”と表れている。

信頼できる人間であった為はやては迷わず回線を繋ぐ。

 

〈はやて、いきなりですまない〉

 

「ほんまにいきなりやな、今からリインフォースが入れてくれたお茶飲もう思ってたんやけど・・・」

 

はやての目の前にスクリーンが映し出され、そこには黒髪の男性の姿が映っている。

その黒髪の男性こそが“クロノ・ハラオウン”その人である。

その苗字の通りフェイトとは義理の兄で本局直轄の次元航行隊の提督を務めるまさにエリートと呼ぶに相応しい人物。

機動六課の設立にも一役買っている後見人の1人でもある。

 

〈休息の楽しみを邪魔してしまったのは本当に申し訳ないと思ってる、だが至急調べて欲しい案件があるんだ〉

 

だが基本的にクロノはあまり連絡を寄こさない。その彼がこうして連絡を寄越してきたのだ。それが何を意味するかはやてはよく分かっている。

 

「それでどうしたん?突然連絡してきたっちゅう事は、やっぱそれなりに厄介事なんか?」

 

〈あぁ、まさにその通り・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・第15無人世界から盗掘されたロストロギアらしき物品の違法取引がミッド南部、バイスシティで行われるらしい。だが僕は他の案件もあって動けない。そこで六課に調査と、可能であれば取引の摘発の依頼したいんだ〉




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7 黒と雷刃

OP:幻想の輪舞/黒崎真音


最初の標的をキャメロン・レイエスに決めて早3日、アリシア、レヴィ、ディアーチェは少しでも情報を集めるべく奔走。シュテルとユーリはネットワークから集められる情報を時にはハッキングしてまで集めようとしているがそのどれもがハズレのガセネタ。あまりの進展の無さにディアーチェが癇癪を起こしそうになっていた時。

 

「コラー!レヴィ!」

 

何やら既にご立腹な様子のアリシアがドアを壊しそうな勢いでドアを開けて入室してきた。

 

「どったのアリりん?」

 

「どったのじゃないよ!また私のパンツちょろまかしたでしょ!!」

 

アリシアのレヴィに対する怒りの発言、それはこの場に男であるレクサスがいないからこそ発言できる言葉であった。

もしこの場にレクサスがいよう物なら、今手の空いているシュテル、ディアーチェ、ユーリに目と耳を塞がれ首を外れる勢いで回されるかもしれない。

 

「あはは~・・・ゴメンねアリりん?ボクのパンツ、なんか全部でろ~んってなっちゃってて、アリりんのが大きさもピッタリ・・・」

 

「知らないよそんな事っ!!レヴィの感覚だけで勝手に人の下着使わないでよ!しかも今度はよりにもよって私の1番のお気に入りのパステルグリーンのシマシマのやつを・・・」

 

「何騒いでんだアリシア?下の階まで聞こえてたぞ?」

 

アリシアが女性ならでは(?)の怒りをレヴィにぶつけている最中、再びドアの方から声が。それも男性の声。

その声にアリシアは顔をリンゴのように赤くし、錆びついた人形のようにぎこちない動きで後ろを向く。

 

「あっ、レクお帰り~!」

 

・・・が、先にアリシアの影から顔を覗かせたレヴィが先に帰ってきた男性、レクサスの名を呼んだ。

それに先ほどの発言。自分の言葉が床を抜けて下の階にいるレクサスにまで聞こえていたらしい。そう捉えたアリシアは羞恥からかレヴィから発せられたレクサスの名を聞いた瞬間フリーズしたかのように固まってしまった。

 

「あれ?アリりん?」

 

「そんなちびひよこなんぞ放っておけ、それより何用だ?」

 

レヴィの行動を遮りディアーチェがレクサスに問う。

その問いに対し、レクサスは手に持っていた紙の筒をテーブルに置いてそれを広げる。それに書かれていたのはミッドチルダの東半分にかけてのエリアのリニアレールの路線図であった。

 

「リニアレールの路線図、ですか?」

 

「あぁ。バイスに先乗りしてたレイエスの手下らしい連中を尾行して手に入れた情報だから間違いは無いはず。レイエスが手配したリニアレールが今リバティーに向かってるらしい。到着は今日も入れて、あと4日」

 

「・・・それで?まさかその列車を追う気か?間に合わんぞ?」

 

レクサスが入手した情報を聞くもディアーチェは若干呆れ気味だ。だがレクサスは“待てよ、まだ大事な部分を話してないぞ?”と続ける。

 

「重要なのはさっきも言った通り()()()()()()()()()事。言っちゃ何だけどリニアレールの貸し切りって結構するらしいぞ?それならハイウェイ使った方が安上がりだし早く目的地に着ける事もある」

 

そこまで話した所で、内容を理解したのかシュテルが口を開いた。

 

「つまり、態々(わざわざ)コストも時間もかかるリニアレールを使ってまで人目を避けて運びたい物がある。という事でしょうか」

 

そのシュテルの言葉にレクサスは首を縦に振って肯定する。

その後、それにと言ってレクサスは更に続ける。

 

「ディアーチェは間に合わないって言ってたけど別に追い着こうなんて考えてない。リバティーに向かう路線は地形の都合上どうしても高台のある場所を通らないといけない。それがここ」

 

徐に赤の蛍光ペンを取り出し、レクサスは路線図の一部を囲う。

そこは丁度リバティーシティの西隣に位置するイーストフロントのアルゲニア台地である。

 

「つまり、その高台のあるポイントで待ち伏せし列車に飛び移る、と」

 

「そう。だけど向こうがどんな守りをしているか分からない以上強力な突破力が欲しい。そこで今回は・・・レヴィ、お前と組む」

 

「ふぇ?」

 

いきなりレクサスに名指しされたレヴィが首を傾げた。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

ミッド南東部のバイスシティから北東部のイーストフロント州までは分かるとは思うがかなり距離がある。3日という期間内で普通に走っていては間に合わないだろうが、心配はないだろう。

 

それは、北に向かう州間高速道路(インターステイト)を疾走する1台の車と1台のバイクを見れば明らかである。

 

「ヤッホー!!」

 

水色のバイク、2017年式“カワサキ・ニンジャZX-10R”に乗っている女性は、バイク用ヘルメットを被ったレヴィである。

そしてそのレヴィを追走するのは、メタリックグレーの車体とカーボンボンネットとトランクを装着したレクサスの70年式シボレー・シェベルSSである。

 

本来なら転移魔法を使用した方が遥かに早く辿り着けるのだが、それでは魔法行使時の魔力反応で管理局が出張って来てしまう。それにより感づかれてしまっては意味が無いのだ。

その為か2台とも明らかに法定速度ガン無視で飛ばしまくっているが周辺に管理局のパトカーがいない事は確認済みな為お構いなしである。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

2日後・・・

 

イーストフロント州アルゲニア台地。

 

季節の移り変わりを感じさせるように木々の葉はすっかり紅く染まり、所々には紅葉のカーペットが出来上がっている。

 

その紅葉の森の一角にその姿はあった。

 

“その時”を待ちわびるように空を見るワインレッドの瞳とそよ風になびいている毛先が黒みがかった水色のツインテールを持つ女性。紛れもなくレヴィその人だ。

 

だが手近な岩に腰かけている今の彼女は先程までの私服姿ではない。

裏地が青の黒いマント、黒を基調に所々にレヴィのパーソナルカラーとも言える水色のアクセントを取り入れた軍服調の服装である。

それは彼女に限らず、魔導士の戦闘服とも言えるバリアジャケットと呼ばれる防護魔法の一種である。

 

「レヴィ、そろそろ時間だ」

 

そのレヴィの背後からレクサスが声をかけるが彼も先程までの私服姿ではない。

 

今のレクサスの服装はフード付きの黒いロングコートに黒いジーンズ、インナーまで黒と()()()()()()。更にコートに付いているフートを被っている。

更に左手には、鞘に収められている()()らしき物を持っている。

 

「オッケー・・・」

 

レクサスの声に返答しながらも振り向くレヴィ。その表情は先程までの人懐っこい笑みではなく何処か好戦的な雰囲気を感じさせた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

紅葉の森の中を駆け抜ける人影、それはレクサスとそれに付き従うレヴィだ。

レクサスが地面をダッシュしているのに対しレヴィはその近く、地面ギリギリを飛行している。

やがて2人は森を抜け、真下をレールが奔っている崖の真上に辿り着いた。そこへ丁度列車の警笛が聞こえ、見ればリニアレールがレクサス達の真下のレールを通らんとする所である。

 

2人は顔を見合わせ、直後にレクサスが崖から飛び降り斜面を滑り下りていく。レヴィもその隣を飛行し追従。列車が迫ってきた所でレクサスが跳躍して鞘から刀を抜刀。

列車後部のコンテナに着地と同時に刀を突き立てて身体を固定。レヴィはレクサスのすぐ左隣を飛行しついて来ている。

身体を固定し終えると刀をコンテナから抜いて鞘に収め、先頭車両に向け駆け出し当然レヴィもそれに続く。列車のコンテナ上を走り、車両間を跳びして前の車両へ移る。そして手近なダクトの上に着くと一瞬で抜刀してダクトの施錠部を切断。鞘は左腰に差しダクトを開けてレヴィと共にコンテナ内へ入る。

 

「やれやれ、面倒な事になったみたいだな」

 

コンテナ車両に入ってのレクサスの第1声がそれだった。

2人の周囲にはカプセルに似た円錐型のボディと4本のコードを持ったロボットのような機械が鎮座しており、2人の侵入を感知するとカメラが起動し2人を取り囲む。その数は10体程だろうか。

 

「どうって事ないでしょ?」

 

そんなレクサスの心境を知ってか否か、レヴィがそう返す。

そして周囲を囲う円錐型ロボットの1体が2人にコードの先端を向ける。

 

Prove your identity(身元証明セヨ), if not, consider it an intruder(無キ場合ハ侵入者ト見ナス).]

 

コードを向けたロボットの警告に対しレクサスは薄ら笑いを浮かべる。

そして・・・コートに忍ばせていたスプリングフィールド XDMを持つ左手を眼前のロボットに対して向け、躊躇せずに発砲。発射された銃弾はロボットのカメラアイに命中し、動きが止まった一瞬の隙にレクサスが距離を詰めて背後に回り、右手に持つ刀を振り下ろしてロボットを左斜めに切断。レクサスが刀を振り付着した金属片を払うと同時にロボットの胴体が徐々にずれていきついに倒れた。

 

それを確認したロボット達もコードを伸ばし臨戦態勢。それを見たレヴィも自分の愛機(デバイス)の“バルニフィカス”を展開し、更にそれを薙刀形態“スラッシャー”に変形。

 

レヴィの背後から迫ってきた2体に対し瞬間移動したかのような高速度で2体の後方に移動する刹那で2体を胴体中心で横に両断。

 

その先は当に黒と水色の乱舞。互いに背中を向けながらも互いをフォローするような動き。時折向かい合ったかと思えば、両者同時に一閃して互いの背後にいたロボットを撃破。

 

4体程は車両前部に退避し、その内の1体がコード先端から魔力弾を斉射。

だがそのほとんどをレヴィの前に立つレクサスが直刀で斬り落として防ぎ、弾幕が止んだ瞬間レヴィが駆け出して射撃していたロボットを両断。

周囲にいた他の2体も勢いそのままにバルニフィカスを振り回して上下半身とで両断し、最後の1体もそのままの勢いでバルニフィカスをロボットの下から振り上げて斬り上げる。

そこにレクサスが飛び入り、レヴィが斬り上げたロボットに飛び蹴りを繰り出す。

 

蹴り飛ばされたロボットがコンテナ車両前部の壁を突き破り、レクサスとレヴィはそろって車両の外へ。

無積載のコンテナ車上に出ると、増援として起動したであろう同型のロボット6体が立ちはだかる。

だがその状況を見ながらも、レクサスは不敵な笑みを崩さない。

 

Let's do this(やるぞ)!」

 

レクサスのその発言にレヴィも笑みを浮かべ2人揃ってロボット軍団に突撃していく。

補足だがレクサスは気分が高揚するとどうしても母国語が出てしまうらしい。レヴィは恐らくレクサスの発言の意味など分かっていないだろうが何をしようとしているかは分かっているようだ。

 

レクサスが間合いを詰め鞘から直刀を振りぬいて一閃。斬り上げたロボット2体にレヴィがバルニフィカスでの追い打ちをかける。追い打ちを受け機能が既に停止したロボットを今度はレクサスが再び直刀で斬り飛ばす。

そのままレクサスが突撃する中、レヴィは薙刀形態のバルニフィカスを構え、それを素早く振るう。

そこから放たれた回転する2つの水色の魔力刃が先行していた2体のロボットを弾いて後退させ、そこをレクサスが一閃。動きが止まった所でレヴィが急接近し固まっていたロボット4体を1度に斬り上げ、それを見たレクサスは1度納刀すると、落ちて来たタイミングですかさず抜刀。3連続での居合を決める。

 

そこを今度はレヴィが一閃。2人の乱舞の中で未だ動いていた1体をレヴィが正確に見極めそれを蹴ってレクサスにパス。レクサスは直刀を左手、それも逆手に持ち替えると空いた右手にXDMを持ち、飛んできたロボットに見向きもせずに左逆手に持った直刀でロボットを斬り上げそこに右手に持ったXDMを発砲。

見もせずに機能が停止した事を分かっているのかレクサスは刀を左腰に差してある鞘に、XMDを右腰のホルスターに収める。

そのレクサスの隣にレヴィも降り立ち、バルニフィカスをスラッシャーから通常形態へ戻す。

 

「イェーイ♪」

 

先程までの真剣さは何処へやら、そんなレヴィの声と共にレクサスとレヴィはハイタッチ。

しかし直ぐに2人は前の有蓋貨物車両に入る。

 

その車両の中にあったのは、1台の自動車。

レクサスのシェベルとは全くの別物である。

大きく膨らんだ前後フェンダーにラジエーターグリルが覗く大口径グリルレスエアインテークを持つオープントップのロイヤルブルーのボディに白いレーシングストライプをあしらった車。

 

「何これ?」

 

当然レヴィは知らないがその知識を持っているレクサスがその問いに答える。

 

「・・・・シェルビー・コブラ MK.Ⅲ。これも地球産の、しかも古い部類のクルマだ」

 

レヴィに説明しながらもその車、シェルビー・コブラの車内を覗くレクサス。そこで何かに気づいた。

コブラのコンソールにクラシックカーらしからぬ最新のカーナビゲーションシステムが搭載されていたのだ。それもミッドチルダ製の物だ。

 

「これは・・・」

 

「レク・・・?」

 

レクサスの反応にレヴィが心配になり声をかける。

そのレクサスはというと少し思案した後にタイヤについている車輪止めを外し始める。

 

「レク?」

 

「レヴィ、何も思わないのか?俺が言ってた事は?」

 

「え?え~と・・・」

 

レクサスの発言に首を傾げるも、レヴィはレクサスが何を言っていたかよく思い出す。

ロボット軍団に突撃する時、リニアレールに侵入した時、行動前、レクサスが地図を持って説明した時・・・

 

「・・・あ!?」

 

「思い出した?」

 

レヴィの反応を後目に最後の車輪止めを外したレクサス。そして次は室内の前の方にあるコブラのキーはが入っているガラスケースの前に移動する。

 

「クルマの方が電車より速い!」

 

「“速い”じゃなくて“早く着く事がある”なんだけど、まぁ正解に近いからよし。それじゃレヴィ、右側のドアを開けといて」

 

「あいあいさー!」

 

レクサスの指示にレヴィが貨物車両右側の引戸を開け始め、レクサスは左腰に差している直刀を鞘ごと抜くと、それをガラスケースに叩きつけケースを破壊する。

だか、引戸を全開にし終えたレヴィがリニアレール前方に橋を見つけた。

 

「ヤバい!レク、橋だよ!!」

 

レヴィの叫び声に、しかしレクサスは焦る事は無い。

破壊したケースからコブラのキーを手に入れ、そのままコブラに駆け出す。

そして運転席側のドアを左手で握るとそれを支えにドアを飛び越えてコブラに飛び乗る。そしてキーを差し込んで回すとシェルビーの手が施された7.0LV8エンジンが咆哮を上げる。

 

クラッチペダルを蹴って5速マニュアルミッションのシフトレバーを1速へ叩き込む。

 

「レヴィ!」

 

レクサスがレヴィに呼びかけ、彼女がそれに反応して振り向く。

レクサスの方を見たレヴィはすぐさま駆け付け、レクサスがやったのと同じように右手で助手席のドアを握って支えにしコブラの助手席に飛び乗る。

それを確認するとレクサスは間髪入れずにサイドブレーキを解除しアクセルを踏み込む。それに呼応するように後輪が駆動を始めホイルスピンさせながらも加速。そしてレヴィが開けた引戸から飛び出した。

 

「イェーイ!!」

 

興奮した様子のレヴィが大声を上げ盛大に着地。

そしてそのままコブラはレクサスの運転でレヴィを共に乗せリニアレールから離れていく。




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8 取引と繋がり

OP:幻想の輪舞/黒崎真音


リニアレールからミッドチルダ製の最新カーナビゲーションシステムを搭載したシェルビー・コブラ MK.3を奪取したレクサスとレヴィは、レヴィのバイクであるZX-10Rを回収した後にレクサスが乗ってきたシボレー・シェベルSSを痕跡(あし)が付かない為にスクラップヤードへ運び解体処分をしてもらう事に。

だがミッドチルダを始めとした管理世界から見れば希少である地球産のクラシックカーな上に状態が良かった為か幾分かはパーツ取り用にとって置けるという事で管理業者から駄賃を受け取る事にった。

 

そしてレクサスとレヴィはバイスシティへの帰路に付き隠れ家へ戻るが、

 

「馬鹿か?いや、元から馬鹿だったな貴様は」

 

戻ってきたレクサスを待っていたのはディアーチェによる容赦ない毒舌だった。

だか彼女の反応はある意味正常とも言える。襲撃に成功したという連絡を受け何を持って帰って来るかと思えば、何十年も前の古臭い車だったのだから。

レクサスは一先ずそんな彼女を宥め話を続ける。

 

「まぁまぁとにかく話を聞いてくれ。連絡した通りこのクルマはリニアレールで運ばれてた。時間もコストもかかるのにも関わらず」

 

「そうまでする価値がこのクルマにはある、という事でしょうか・・・?」

 

レクサスの言葉にユーリが相槌を打つ。そのユーリの言葉にレクサスは頷き、今度は車内を確認しているシュテルの方を向く。

 

「シュテル、ユーリと一緒に()()の方を頼めるか?」

 

その言葉を聞きシュテルはレクサスの方を向くと、

 

「承知いたしました。ではユーリ、すぐ始めましょう」

 

「は、はいっ!」

 

そう言い、シュテルの両手には既にレンチやドライバー等といった工具が握られていた。

それを見てユーリも作業を始めようとするも、アワアワしていたので、

 

「あうっ」

 

と言う声と共に足をもつれさせて転び顔面から倒れこんでしまう。

ディアーチェが慌ててユーリに駆け寄り容態を確認するが、それを見計らっていたかのようにレクサスが退室していく。

 

「出かけるの?」

 

気づいたアリシアが一声問うが、彼はそれに対し一言。

 

「ちょっと小遣い稼ぎだよ」

 

そう返し退室していった。

 

 

 

 


 

 

 

 

ミッドチルダ本土と隣接するバイスシティ本島、その南西に存在するバイスシティ唯一の空港“エスコバル臨海空港”。

毎日大勢のサラリーマンや観光客が往来するその空港の大駐車場では半年に1度の頻度で管理する航空会社の主催で自動車オークションが行われる。

 

 

―――個人やショップが腕を振るいレストア・カスタムした車が多数出品されそれらを求める顧客達が大金を(はた)いてでも手にしようと盛り上がる。

 

古来からミッドチルダは地球との関わりがあったようだが、エース・オブ・エースの異名で知られる“高町なのは”や“八神はやて”を筆頭とした地球出身の魔導士が出現した事で地球産の物品に注目が集まりミッドチルダを始めとした管理世界に流通し始めている。

 

それは当然、自動車も例外ではない。地球から何台か車が輸入されると、その機能や外観に惚れた企業の人間達によりデザインを参考、あるいは模倣した自動車が生産され始めたがそれでもオリジナルである地球産には敵わない―――。

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

レクサスはそのオークションが行われている駐車場兼オークション会場に足を運んでいた。

 

今メインステージではディープブルーの車、ヴァイセンのインポンテというメーカーが作った車“デュークス”を巡っての競りが行われている。

かく言うレクサスも勝手に増えていくコレクションの処分の為に来た訳なのだが。

 

今、レクサスは自分が乗ってきた車の手入れをしている。

窓、ホイール、ボディを軽く拭き汚れが無い事を確かめる。後は受付に話を通し出品手続きを終えるだけ。

そう思いレクサスが車から離れようとした時だ。

 

「よう、ちょっといいか?」

 

レクサスの背後から声を掛けられる。

振り向いてみると、そこにいたのは地上勤務の証拠である茶色の管理局制服を纏ったダークブラウンの髪の青年。

当然レクサスは顔に覚えがない。

 

「えっと……どちら様?」

 

「俺はヴァイスってんだ、お前さんは?」

 

「……レナード」

 

局員の青年、ヴァイスに話しかけられた事から一瞬自分の正体がバレたかと内心焦るがヴァイスの反応からそれは違うと分かり何とか持ち直した。

レクサスのそんな心境とは裏腹に、ヴァイスはレクサスの持つ車に興味津々のようだ。

 

「このクルマ、お前さんのか?」

 

「そう。それも地球産(オリジナル)だよ」

 

その言葉を聞いたヴァイスは関心と更なる興味からか口笛を吹いた。

 

トランクリッドの端まで伸びた緩やかに傾斜したルーフラインとユニークな凹型テールランプパネルが特徴的。

ボディラインに沿って入れられたジェードグリーンのピンストライプを境に下側はシルバー、上側はタキシードブラックのツートンカラーのその車は、

 

“1969年式 フォード トリノGT スポーツルーフ”。

 

ミッドチルダはおろか管理世界でも滅多に見られない地球産のクラシックカーである。

下手をすれば地球でもお目にかかれないかもしれない。

 

「エンジン見てみる?」

 

「良いのか?」

 

トリノに興味津々なヴァイスにレクサスは1つ提案し、ボンネットを開けてエンジンを見せる。

 

カバーに“ROUSH(ラウシュ)”と彫られているそれは5.0LV8、“コヨーテ”のニックネームで知られるV8エンジンが収まっている。目を引くのはエンジンに取り付けられている8連独立スロットル。

 

「スゲェな、いくつ出るんだこれ?」

 

「500馬力くらいだったかな?」

 

レクサスが度々解説を挟みながらも夢中気味なヴァイスに説明を続ける。

 

排気管(マフラー)Flowmaster(フロウマスター)製“SUPER(スーパー) 44 SERIES(シリーズ)

 

サスペンション周りは大馬力に耐えられるよう前後輪コイルオーバーサスペンションに、Wilwood(ウィルウッド)製のディスクブレーキを4輪全部に装備している。

 

ホイールはボディに合うメタリックグレーのAMERICAN RACING(アメリカンレーシング)製“Torq (トルク) Thrust(トラスト) Ⅱ”。

 

トランスミッションはTREMEC(トレメック)製TKO5速マニュアルミッション。

 

内装はヘッドレストが無いバケットタイプの黒シートに外装に合わせて緑のパイピングが入っている。後部のベンチシートも同じだ。

 

その全てが地球産のパフォーマンスパーツでアップグレードされている。

 

「ところで、1つ相談なんだが・・・このクルマを売る気あるか?」

 

ここでヴァイスが話を切り替えて来た。どうやらヴァイスはレクサスのトリノが相当気に入ったらしく売ってもらえないか聞いてくる。

レクサスとしては売る事自体は何ら問題は無い。元々オークションに出品する予定の車だったのだから。

 

「良いけど、値段にもよるよ?俺としてはコイツに……42000ドルは欲しいとこかな」

 

レクサスが提示した額を聞くとヴァイスはあちゃーと右手を額に当て天を仰ぐ。

その反応にレクサスは頭に?マークを浮かべるが、すぐ答えは帰ってきた。

 

(わり)ぃな、貯金の40000までしか出せねぇんだ。何とかなんねぇかな?」

 

それはヴァイスの予算の上限、40000ドルまでしか出せないという事だ。

レクサスは自分の顎に右手を当て考える。自分としてはこれまで掛けた維持費を取り返す意味合いでも確かに儲けは欲しい。

だがその費用のほとんどは実際には比較的安易に入手できるパーツだ。欲張らなくとも取り返すのは難しくない。

それに仮にオークションに出品したとしても、40000どころか30000以上の値が付く保証も無い。

そう考えに至ったレクサスは決断した。

 

「人の懐を全崩しするほど俺も鬼じゃないし……OK、じゃあ34000(サンヨン)でどう?」

 

「マジか!?よっしゃ買った!」

 

レクサスの値引きにヴァイスは歓喜し、2人は握手。交渉成立だ。

ヴァイスが小切手を切り、それをレクサスが受け取ると今度はトリノのキーをヴァイスに手渡す。

 

「登録書と権利書はクルマのグローブボックスに入ってるから、どうぞ楽しんで」

 

「サンキュー、気前の良い兄ちゃん!」

 

笑いながらヴァイスがレクサスの肩を軽く叩き、その後すぐにトリノに乗りエンジンを掛ける。ギアを5速に入れゆっくりと走り出して去っていく。

それを見送ったレクサスも、あらかじめ用意していた折り畳み式ロードバイクに乗り一先ずは受け取った小切手を換金すべく銀行へ向けペダルをこぎ始める。

 

 

 

 


 

 

 

 

レクサスという青年から69年式トリノGTを買い取ったヴァイスは上機嫌でダウンタウン北西部に存在する高級マンション“Hyman Condo(ハイマン コンドミニアム)”のガレージに入る。

そのガレージにはヴァイスと同じ茶色の制服姿の青いショートヘアの少女、オレンジのツインテールの少女、坂だった赤い短髪の少年、ピンクのショートヘアの少女が街に繰り出そうとしていた所だ。

 

「ヴァイス陸曹どうしたんですか、そのクルマ!?」

 

戻ってきたヴァイスが乗って帰ってきたトリノを見てオレンジのツインテールの少女が驚きながらヴァイスに問う。

 

「コイツか?空港のオークション会場で気前の良い兄ちゃんが安く譲ってくれたんだよ」

 

『カッコいい……!』

 

ツインテールの少女にヴァイスが説明する中、青ショートヘアの少女と赤短髪の少年は好奇心に満ちた眼差しでトリノを見つめている。

 

「エリオ、キャロ、ハンカチ忘れてるよ」

 

「フェイトさん!」

 

「す、すみません……」

 

そこにガレージ奥から豊かな金髪にモデルのような整った体型に黒い制服を身に纏った女性、エリオと呼んだ赤短髪の少年“エリオ・モンディアル”にフェイトと呼ばれた彼女“フェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウン”がエリオとキャロと呼ばれたピンクの少女“キャロ・ル・ルシエ”に忘れ物らしきハンカチを届けに入り、エリオとキャロは少し気まずそうにする。

 

2人に対しフェイトは微笑みながらハンカチを手渡すが、

 

「……!?」

 

2人のすぐ背後にある車、ヴァイスが買い取ったトリノを見ると途端に表情を引き締めた。

その様子を見てエリオとキャロは頭に?マークを浮かべて首を傾げる。

 

「このクルマ……どうしたの?」

 

「えっと、確かヴァイス陸曹が……」

 

「あぁ、確かに俺が買ったクルマッスけど……」

 

オレンジのツインテールの少女とヴァイスがフェイトの問いに答えると、フェイトは飾り台の付いた逆三角形の宝石のような物を取り出し、

 

「バルディッシュ、確認お願い」

 

[Yes Sir]

 

フェイトがそれに声をかけると機械的な男性の声で返事が返ってきた。それこそフェイトが幼少期から共にいた相棒(デバイス)である。

フェイトが宝石のような物、待機状態のバルディッシュを右手でカメラを構えるように持ったままヴァイスのトリノの周囲をゆっくりと周っていく。

 

Confirmation completed, no doubt(確認完了しました、間違いありません)

 

「ありがとう」

 

「えっと……このクルマがどうかしたんスか?」

 

車体後部のナンバープレートを確認した所でバルディッシュからの報告を受けフェイトはバルディッシュを降ろす。

フェイトとバルディッシュのやり取りにヴァイスはおろかエリオ達4人も理解が追い付いていないが、フェイトは一呼吸置くと5人の方に向いて言葉を発する。

 

 

 

「このクルマ……麻薬密売組織の首領が使ってた物だよ」




ED:DREAMCATCHER/ナノ



今回はそれなりに早く書けたと思いますが、原作でのミッドチルダでの買い物システムを覚えてないんだよなぁ・・・マンガの方にも無いし・・・
もし覚えてる方がいらしたら是非アドバイスお願いします(__)


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9 バイスシティ捜査線 Ⅰ

OP:幻想の輪舞/黒崎真音


エスコバル臨海空港で持っていた車、69年式トリノGTをヴァイスに売ったレクサスは受け取った34000ドル分の小切手を銀行にて換金した後、オーシャンハイツに戻る。

そろそろシュテルとユーリから何か進展を聞けるかもしれない。

 

「ただいま」

 

「あ、レクおかえり~!」

 

オーシャンハイツのガレージに戻ってすぐにレヴィから返事が来るも、ガレージ内にいるディアーチェがすぐさま詰め寄ってくる。

 

「貴様ぁ!我に断りも無く外出とはどういう了見(りょうけん)だ!!」

 

「どうどう、落ち着いて。俺も理由無しに出歩いてた訳じゃないから」

 

「ほう?では出歩いていた訳とは何だ?」

 

ご立腹のディアーチェを何とか宥め、レクサスがジャケットの内ポケットから小切手を換金して作った34000ドルを取り出す。

 

「これが理由。勝手に増える倉庫の中身を片付けに行ってたんだよ」

 

レクサスが理由を述べながらトリノを売って作った札束を見せる。

それに対しディアーチェは面白くなさそうにフンッと鼻を鳴らすと、レクサスの右手の中にある札束から20000ドルをひったくった。

 

「ちょっ、おい!?」

 

「我に断りを入れず出て行った罰だ、たわけめ」

 

不機嫌さを隠さずディアーチェはそう言い、レクサスからひったくった20000ドルをブレザージャケットの内ポケットにしまい込む。

それを見たレクサスは溜息をつきながら後頭部を軽く()くが、ディアーチェのすぐ後ろで作業しているシュテルとユーリに近づく。

 

レクサスとレヴィが持ち帰ったシェルビー・コブラはシュテルとユーリ、2人の()()によってフロントカウルが外されエンジン、サスペンション周り、フロント部のフレームがむき出しの状態にされている。

 

「あ、レクサスお帰りなさい!」

 

作業中のユーリが戻ってきたレクサスに気づき顔を向ける。コブラを挟んで反対側にいたシュテルもユーリの言葉を聞き作業中の手を一旦止めてレクサスに向けお辞儀した。

 

「何か進展あった?」

 

レクサスが2人に聞くと、シュテルがボックス状の機械を持ってレクサスのもとに持ってくる。

睨んだ通り、ミッドチルダ製の最新のカーナビゲーションシステムだ。

 

「こんな最新のハイテク機材を積んでるくらいなんだ、何かあるはず……」

 

シュテルからカーナビを受け取り、何か怪しい所が無いか確かめる。

そして機材の背中側をチェックしてみると……

 

機材に差し込まれているメモリーチップを発見した。

 

「見つけた」

 

『??』

 

レクサスの呟きにシュテルとユーリは揃って首を傾げるが、レクサスは機材からチップを抜き取ってそれを2人に見せる。

 

「どう見る?」

 

「恐らく個人用のメモリーチップですね」

 

レクサスの質問にユーリが答え、それを確かめるべく、アリシア、レヴィ、ディアーチェを自分のもとに集める。

 

 

 

 


 

 

 

 

時は少し(さかのぼ)り、エスコバル臨海空港。

ヴァイスが69年式トリノGTを譲ってもらったという青年を確かめるべく、空港の管理室にはフェイトを始めとした面々がいる。

 

フェイトはもちろん、栗色のサイドテールの女性“高町なのは”、一見すると小学生程に見える赤い三つ編みヘアを持つ茶色の制服を纏った少女“ヴィータ”、ピンクの長い髪をポニーテールに纏めている凛々しい風貌でヴィータ、なのは、フェイトと同じ茶色の制服を纏った女性“シグナム”、

 

ボーイッシュな雰囲気を纏った青いショートヘアの少女“スバル・ナカジマ”、

 

オレンジのツインテールで何処か鋭そうな雰囲気を持つ少女“ティアナ・ランスター”、

 

そしてエリオとキャロの計8人だ。

中でもティアナは空港に向かう道中でフェイトが言っていた内容を思い返していた。

 

【名前は“ディーノ・サイラス”。ミッド南西部を拠点にしていた麻薬密売組織の首領だったんだけど、2年くらい前に死亡が確認された。心臓部分に鋭い刃物で突き刺された痕跡があった事から地元地上部隊は組織内部の誰かがサイラスを殺害したって思ってたみたいなんだけど、私は外部の何者かが殺したんじゃないかって思ってた。それで後から調べてサイラスを取り巻いていた重要幹部も全員同じように殺されていた事が分かったから、地元部隊も外部の犯行と見て捜査を始めたけど2年経った今でも犯人に繋がる証拠は見つからず事実上の迷宮入り……】

 

組織の首領を殺した誰か、それに対しティアナは過去に自分の兄が追っていた違法魔導士追跡事件を思い出していた。

あの時ティアナの兄は違法魔導士に攻撃され瀕死の重傷を負ったが、交戦時に割り込んだ何者かにより助けられ2年ほど昏睡状態に陥った物の何とかを取り留める事が出来た。しかし生き残った代償と言わんばかりに魔導士の生命線と言っても過言ではないリンカーコアが収縮してしまい以前のように航空魔導士としての活動が出来なくなってしまったらしい。

今でこそ復帰を果たし別の部署で奮闘しているが、兄が諦めてしまった夢を成し遂げるべく無謀とも言える訓練や戦術を使いなのはに叩きのめされたのは記憶に新しい。

 

「ヴァイス君、クルマを売ってくれた人に会ったのはいつ?」

 

「えっと……割と直ぐに話がまとまったから帰る道のりも考えれば20分か30分くらい前ッスかね?」

 

ティアナがフェイトの言葉を思い返している中、なのはがヴァイスに取引した時間を聞きその時間帯の駐車場の監視カメラが記録した映像を警備員がコンソールを操作してモニターに表示する。

 

その時の駐車場は自動車オークションの会場となっており多数の参加者でごった返していた。この中で特定の1人を探すのは難しいかに思えたが……

 

「あ、いました、10番カメラ!」

 

背丈の都合上前列にいたエリオが駐車場出入口付近を監視する10番カメラの記録映像にヴァイスの姿を確認した。

 

時刻はヴァイスの言った通り今から20分程前の午前10時20分。69年式トリノGTを磨き終え受付に向かおうとした1人の長髪の男にヴァイスが話しかけた所だ。

ヴァイスが話しかけた事で青年がヴァイスの方に顔を向ける。すなわちカメラに青年の顔が映る……。

 

『……ッ!?』

 

青年の顔が映像に映った瞬間、なのは、フェイト、ヴィータ、シグナムの4人は思わず言葉を無くした。

カメラに映った青年の顔が、8年前に死んだ仲間だった少年の表情と重なって見えたのだ……。

 

『なのはさん(フェイトさん)……?』

 

その様子にスバル達が戸惑い心配そうな声をかけるが、それに気付いたなのは達はハッとなり両手で顔を挟むように叩き目を覚ます。

 

記録映像の方では青年が商談を進めヴァイスと青年が握手した所だ。

 

「とりあえず、ここで止めてください」

 

「はい」

 

フェイトの指示で警備員が映像を一時停止。そこで待機中のバルディッシュを取り出し映像に映るヴァイスと握手した青年の顔を記録させる。

残りの調査は今の拠点であるハイマン コンドミニアムに戻り隊舎側に確認を取ってみなければ進められない。

そう思い至りなのは達は管理室を後にするが、帰りの道中でのなのは、フェイト、ヴィータ、シグナムの心中は混乱していた。

 

 

 

“彼”は死んで、もういるはずがないのだから……




ED:DREAMCATCHER/ナノ


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