【キサラ架空デュエル】休園中の海馬ランドをポルナレフランドが乗っ取るんだ!! (生徒会副長)
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デュエル前パート

・感染症について取り扱っていますが、実在する人物、団体、疫病とは一切関係ありません。
・クロスオーバー要素があります。苦手な人は回れ右
・架空スピードデュエル作品です。2020年3月1日のカードプールと効果処理に準じているつもりです(たぶん2020年5月でも大きくは変わっていないはず)。
・時系列的には瀬人VSキサラから数か月後であり、キサラVSドッペルゲンガーよりは前にあたりますが、先にキサラVSドッペルゲンガーを読んだほうが分かりやすいと思います。


「海馬コーポレーション社長の海馬瀬人と、その弟で副社長の海馬モクバ氏が、新型ウイルスに感染していたことが判明しました。これを受けて、同社が経営する遊園地『海馬ランド』は、明日から1週間の休園となり、海馬コーポレーションの従業員は8割がテレワークに切り替わるとのことです」

 

 そんなニュースが流れてから、もう3日が経ったか。少し長くなった日が沈んだ暗い残寒の中、海馬コーポレーション共済病院では優秀な医療スタッフが、ウイルス感染症を患った海馬兄弟に献身的な治療と看護を捧げていた。

 そんな状況下、海馬コーポレーションの舵取りを一時的に任されているのが、今の瀬人の電話相手──キサラだ。

 

『すみませんね。まだまだ分からないことだらけなので、昨日も今日も何度も連絡することになりまして。磯野さんにも頼りっぱなしですし。感染リスクがない身体なのに看病に関われないのも歯痒いです……』

「ふぅん……。ゴホッ……。まあお前の出自と身体構造を世間にバラす訳にはいかんしな。モクバと……ゴホッ……俺の両方が物理的に社会と隔たれた状態で、間違いなく信頼できる人間が出社しているのは心強い……。ゴホッ」

『あぁ瀬人様。どうか無理をなさらないで。まあ8割の社員がテレワークに切り替わってるので、出勤している人数は少ないですけどね』

 

 ちなみに、瀬人もモクバも若いだけあって症状としては軽い風邪程度であり、パソコンを使えばある程度の仕事はこなせる。また、瀬人とモクバの名誉の為に解説するなら、普段の二人、それもウイルスカードを嬉々として使う海馬瀬人が、ウイルスなんぞの餌食になるのはあり得ない。新型ウイルスが大流行したアジア某国から風邪気味で帰ってきたクセに、マスクをしていなかった阿呆の他社営業マンから感染(うつ)されたのである。

 そしてキサラに感染のリスクがないのは、彼女の正体が『4枚目のブルーアイズ』だということに由来する。獣の病を人が患うことが滅多にないように、人の病を龍が患うことなど滅多にない。ましてやキサラは莫大な魔力による防御と恒常性維持に普段以上の注意と能力を割いているのだ。

 さて、今後のことについて更に細かく瀬人がキサラと話していると、電話の向こうのKC社長室のドアが突然開かれた音が聴こえた。

 

『キサラ様! 一大事でございます!!』

『何でしょう磯野さん。あと、様付けしなくていいってお伝えしませんでしたっけ? まだ私は半人前ですし。あと、瀬人様と電話中だったのはむしろ好都合だったと考えるべきですかね』

 

 瀬人がキサラの正体を伝える程に信頼し、多くの社員がテレワークに切り替えている中で本社勤務に励む程に優秀な社員、磯野が慌てている様子が窺えた。

 

『休園中の童実野町海馬ランドが、何者かに内装を書き換えられてしまっています!』

『書き、換え……? 占拠や乗っ取りではなく……?』

『はい! 建物は外装から位置関係まで別のモノに! 数々のアトラクションもデュエルモンスターズと無関係な……ロボットのような……何か別のキャラクターのモノになってしまっており! 海馬コーポレーションとは関係のない、客ともスタッフともつかない無秩序な色や服装の者達が跋扈し! もはや海馬ランドとは別のモノになってしまっております! ソリッドヴィジョンシステムに異常は見られず、人影と機械の数の割に、熱源反応が殆んどありません!』

「っ! ゴホッ! キサラッ! 磯野ッ!」

 

 以前の瀬人なら、この不可解で不愉快な異常現象に対し、怒りや疑問をぶつけることが最優先だっただろう。そしてあくまで科学の力だけで処置しようとしただろう。だが今の瀬人は違う。やるべきことがある。出来ることがある。電話口から命じた。

 

「磯野は動ける社員と私兵団を動員し、情報規制とSNSの監視と……ゴホッ……マスコミ対策に当たれ! キサラはすぐに、『どんな手を使ってでも』……ゴホッ……海馬ランドへ飛び……ゴホッ……俺達の夢を──取り返して来い!!」

『ハッ! 直ちに!』

『はい! すぐ征きます!』

 

 ──瀬人との通話を切ってから、今の海馬コーポレーションの双翼代理はすぐに走り出した。

 

「キサラさん。いや、敢えて『ブルーアイズ様』とお呼びしましょうか? 書き換えられた海馬ランドでは、何が起こるか分かりません。御武運を!」

「ありがとうございます! 磯野さんも、会社のことをよろしくお願いします! すぐ戻ります!」

 

 エレベーターで二人は別れる。磯野は社員が残る部屋を目指して下へと。キサラは屋上ヘリポートを目指して上へと。

 屋上ヘリポートに着いたキサラはふと思い出す。今の、生まれ変わった自分の人生はここから始まったことを。

 

(あの時の私は、瀬人様を未来と命を消し去る為に、海馬コーポレーションを滅ぼす為にここに立った……)

(でも今は違う! 瀬人様の未来と夢を守り抜く為に、海馬コーポレーションを救う為にここを発つ……!)

 

 ヘリポートの中心に立った彼女は、身体に魔力を張り巡らせ、デッキから3枚の『青眼の白龍』と、1枚の白紙のカードを取り出して呪文を唱える。それは、『破り捨てられた4枚目』から生まれ変わった、自分自身の召喚呪文だ。

 

「究極の二択の果て、第三の決断に救われた、第四の光! それが我が身、我が真名!」

 

 全身が白く光輝く彼女の背中から、力強い翼が広がる。かつてのモノクロの翼ではない。魔力が青き光の筋となって走る、白き翼だ。その持ち主こそが──。

 

「ブルーアイズッ!オルタナティブ・ホワイト・ドラゴン──!!」

 

 原形を顕した彼女は、ソリッドヴィジョンのフリをして、闇夜に紛れて、人目につかぬ遥か上空を翔んでいく。

 目指すは当然、何かに蝕まれ、何かに書き換えられたという、海馬ランドだった──。

 

──※──

 

 J・ピエール・ポルナレフは、芸術の国フランスが誇る漫画家である。子どもの頃からの夢を叶え、●ィズニーより売れっ子の漫画家になった、空に伸びる銀髪と筋肉質な身体つきが特徴の、20代のナイスガイだ。

 

──というポルナレフのプロフィールは、殆んどカメオという人物がポルナレフの願いを叶えることで付与されたデタラメである。

 本来なら、カメオにはこれほどの願いを叶える力などない。土や石を、本人が欲しかった財宝や会いたかった人に見せかける程度のことだ。

 しかしどういう偶然か、「どんな願いも叶えることができ、宇宙の誕生を担った」という、デュエルモンスターズ界のとある伝説のカードとカメオの力が合わさり、時空を超えた瀬人やキサラが住まう世界で、ポルナレフは自分の世界と漫画をモチーフにしたテーマパークを、海馬ランドに上書きする形で造り始めてしまったのである。

 ロボットの硬さと筋肉のしなやかさが同居したキャラクターが独特のカラーリングの乗り物になっており、スタッフはイタリア人ややらナチス科学兵やら改造制服を着た日本の男子高校生やら。銅像としては、198cmのイギリス人やら、腹に銃機関砲を備えたドイツ軍人やら、道端にへばりつく牛のクソのような髪型の高校生やらが並んでいて……。

 見る人が見れば『ジョジョランド』と呼ぶべきテーマパークなのだが、あいにくとそうは呼ばない。

 

「おっしゃあ~! スタッフどもぉ、俺の漫画のテーマパークを造るため、キリキリ働けよぉ~! ポルナレフランドをおっ立てるんだ!!」

 

 自分を売れっ子漫画家だと信じて止まないポルナレフが、天空に向けて夢を叫ぶ。だが生憎と、此の地に夢を描く者としては先約が居る。土地の持ち主が居る。其れが黙っているはずもなく──天空から隕石のごとく強襲してきた。

 

「こぉーーらぁーーーー!!」

 

 ドン☆と鳴り響くは、顔と胴体だけ人間態に戻したキサラの龍爪が、地面を抉った音だった。ポルナレフは素早く飛び退いて、その一撃を避けていた。

 

「この海馬ランドは! 瀬人様とモクバ君が、大人の陰謀や社会の闇と闘い抜いた末に、愛と希望を抱いて創りあげた夢の国! ポルナレフランドなるものを創るなら他所で勝手にやってください! 即刻立ち退かないと、バーストストリームで消し炭にしますよ!!」

 

 魔力を感じ取ったので、キサラは正体を隠す気もなくいきなり本気で脅しにかかった。

 怒りと愛に燃える切れ長の青い眼。ハリのある白い肌。鍛えられた刀のような銀の鱗で覆われた、龍の尾と四肢と翼。瑞々しい女体と強靭な龍の力の、両方と調和するストレートの銀髪。そんな彼女は、とても──。

 

「ふつくしい……! ブラボー! おお……ブラボー!!」

「海馬ランドだけじゃなく台詞までパクる気ですか? 本当に消し炭になりたいようですね……」

 

 残念ながら瀬人以外に美しさを称えられても、キサラの機嫌は良くならない。だがポルナレフに恐れはなさそうだ。

 

「フッ……。天界から舞い降りた戦女神と見間違える程のお嬢さん。貴女のドラゴンの力と──!」

 

 ポルナレフの傍に立つ者が現れる。鎧を着た、細身の中世騎士のようなそれは、軽く十発程の突きを肩慣らしに空撃ちして見せた。

 

「このJ・ピエール・ポルナレフの『銀の戦車』で、死闘に興じるのもアリだとは思うぜ? だがそれをすれば! アンタの柔肌はタダじゃあすまないッ! そいつはプレイボーイで紳士な俺としては実に避けたい!」

 

 その分析にはキサラも頷ける。『銀の戦車』と呼ばれた霊的な何かの刺突の素振りは実に素早く、負ける気はしないものの無傷で済まないのは覚悟していた。

 

「そこでぇ! ここは平和的に、デュエルで決着をつけようじゃないか! 俺が勝てばここはポルナレフランド! あんた……えぇっと……」

「名乗らせて頂きましょう。キサラと申します」

「キサラさん! あんたが勝てばここは海馬ランドに戻る! 簡単だろ?」

「良いでしょう。デュエルで道が開けるのなら、望むところです!」

 

 元が攻撃力3000の通常モンスターだっただけあって、キサラの考えはそれだけシンプルだった。白龍態を解き、デュエルディスクを構えて、二つ返事でデュエルを受ける。ただし。

 

「ただし、だ! 今ここはポルナレフランドになっている! デュエルのルールは、ポルナレフランドのルール──『スピードデュエル』で受けてもらうぜッ!」

「スピードデュエル……!?」

 

 ポルナレフ曰く。スタート時はライフ4000、手札4枚。使用出来るカードとレギュレーションは独自のもの。メインフェイズ2とモンスターゾーン両端と魔法罠ゾーン両端がなく、デュエル中に条件を満たすと『スキル』というカードとは別の効果を使うことが出来るデュエル──。それがスピードデュエルだという。

 本来なら普通にデュエルすれば済むため、この要求をキサラが飲む道理はない。しかし、使用出来るカードのリストを見て気が変わった。

 キサラがKCの研究開発部門で働く中で発見・開発した最新カードが、使用可能なレギュレーションになっていたのである。使いたいカードが使えるなら、通常のデュエルでもスピードデュエルでも問題ないと思えた。

 

「良いでしょう。そのスピードデュエル、お受け致します!」

 

 早速キサラは、スピードデュエル用にデッキを一部組み換える。持ち合わせていなかったカードはポルナレフが用意したカードも採用した。そんなことをしている間に物理的に襲ってくるのではないか、用意されたカードに何か仕込まれているのではないかとキサラは警戒したが、そんな様子は見られなかった。そんな真面目さがあるなら、最初から海馬ランドをポルナレフランドに上書きなどしないで欲しかったのだが。

 

 デッキが組み終わったところで、いざ尋常に──。

 

『スピードデュエル!!』

 

キサラLP4000(先行)

≪VS≫

ポルナレフLP4000(後攻)

 



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スピードデュエル!キサラVSポルナレフ!

『スピードデュエル!!』

 

キサラLP4000(先行)

≪VS≫

ポルナレフLP4000(後攻)

 

「俺は、デュエル開始時に効果発動! 『バランス』のスキルだ!」

「えぇ!? いきなり!?」

 

 まだデッキからカードを引いてすらいないのに、とキサラは驚く。初期手札4枚に、ある程度の操作を加えるスキルらしい。スキルとデュエルディスクの自動シャッフルで決められたデッキトップがポルナレフの初期手札に、キサラはごく普通に初期手札をドローしたところでデュエルが開始した。

 

「私の先行! ポルナレフランドに対する上書きです! フィールド魔法『光の霊堂』を発動!」

 

 夜のポルナレフランドの中心、2人デュエルフィールドが、白亜の壁によって隔てられ、冬の月光は暖かな陽光に置き換わる。現代で一般的なファンタジーを元に脚色はされているが、これこそキサラの故郷をモチーフにした新しいカード群の1つだ。

 建物だけでなく、当然そこで暮らしていた人々もカードで再現されている。

 

「『青き眼の賢士』を通常召喚! 召喚成功時の効果で、レベル1光属性のチューナーをデッキからサーチします! 『青き眼の乙女』をサーチし、そのまま『光の霊堂』の効果で追加召喚!」

 

青き眼の賢士/攻800(通常召喚)

青き眼の乙女/攻0(デッキ→手札→場)

キサラ/手札3枚→2枚

 

 かつてキサラが生まれ育った町で特に賢く勇敢だった青年を模したモンスターが霊堂の右手に、キサラ自身の夢想を具現化したモンスターが霊堂の左手に集う。人が揃ったところで、ついに龍の神への祈りが始まる。

 

「『光の霊堂』の更なる効果を、『青き眼の乙女』を対象にして発動です! デッキから通常モンスターを1体埋葬し、そのレベルに比例して自分フィールドのモンスターを強化します。 しかし! 『青き眼の乙女』には、効果対象になったときに発動する誘発効果があります! これにより出でよ! 『青眼の白龍』!!」

 

青眼の白龍/攻3000(デッキ→場)

青き眼の乙女/攻0→800

青眼の白龍(デッキ→墓地)

 

 青き眼の2人の祈りに挟まれて、霊堂の中心に白き龍が降臨する。

 遥か往古、青き眼の一族が信仰した伝説はここで終わりだ。しかし、次元を超えて未来を生きるキサラは、伝説の続きを紡ぐ。

 

「レベル8の『青眼の白龍』に、レベル1の『青き眼の賢士』をチューニング!」

 

 2枚のカードから解き放たれた9つの星が、新たなドラゴンを生み出す。ただでさえ高次元の存在である『青眼の白龍』よりも高い次元の力を宿した其れの身体は、光を透過し、自らも光を放つ。土の魔力すら金の棘として取り込んだその龍の名は──。

 

「天地を司る精霊の力を、青き眼に宿せ! シンクロ召喚、『青眼の精霊龍』!!

 そして、カードを1枚伏せて、ターンエンドです!」

 

キサラLP4000/手札1枚/伏せ1枚

青き眼の乙女/攻0(光の霊堂の効果終了)

青眼の精霊龍/守3000

白き霊堂(フィールド魔法)

 

 このターンにキサラが使用したカードは、『この世界においては』海馬瀬人やキサラの関係者しか知らない、最新かつ希少なカードばかりだった。しかしポルナレフはさほどの驚きや感動や恐怖を覚えていないようだった。ポルナレフの世界とはカードの価値が違うのか、それともポルナレフランドの主になったときに得たデュエルの知識を基準にすると、大して珍しいカード群でもないのだろうか。それとも──。

 

「あ……ありのまま 今起こった事を話すぜ!

 

『銀髪美女の髪と指芸に見惚れていたら、いつの間にか妨害能力と回避能力を持つ守備力3000のドラゴンと、ちょっかいを出すと攻撃力3000のドラゴンを喚び出す美少女がフィールドに並んでいた』

 

 な……何を言っているのか分からねーと思うが、おれも何をされたのか分からなかった……。頭がどうにかなりそうだった……。アニメオリカだとか、レギュレーション違反だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいインフレリンクスの片鱗を味わったぜ……」

 

 ……ただの女好きという可能性も、一応残ってるだろうか。

 

「……サレンダーして立ち退いてくれるなら、それはそれで良いのですが?」

「ハハッ、冗談冗談!」

 

 と、言いつつポルナレフはサッとカードをドローする。先ほどの動揺はただの芝居か、はたまた創造神(運営)サマに対する愚痴か。

 

「でもこのターンじゃどうしようもねーのは事実だな! とりあえず『剣闘獣ベストロウリィ』を通常召喚して……」

「一応使っておきますか。『底なし落とし穴』!」

 

剣闘獣ベストロウリィ/攻1500→/守800(裏側)

 

 鳥類の頭蓋を持つ緑の戦士のヴィジョンが一瞬だけ現れたが、すぐにカードで蓋をされて消えてしまった。場に残ったのは裏側守備表示モンスター1体だ。

 

「ホント容赦ねーなー。手札を3枚伏せてターンエンドっと」

 

ポルナレフLP4000/手札1枚/伏せ3枚

剣闘獣ベストロウリィ/守800(裏側)

 

 ポルナレフのターンが守備固めで終わったところで、キサラのターンに移る。

 

「私のターン、ドロー! 再び『光の霊堂』と『青き眼の乙女』のコンボを使います! 3枚目の『青眼の白龍』をデッキから埋葬し、1枚目の『青眼の白龍』を墓地から復活させます!」

 

青き眼の乙女/攻0→800

青眼の白龍/攻3000(墓地→場)

青眼の白龍(デッキ→墓地)

 

 神聖な霊堂が敬虔な乙女に授ける光と、乙女自身の祈りが放つ光が、激しくフィールドを包む。だがスピードデュエルのフィールドは狭く、もうこれ以上の光を収容出来そうにない。フィールドを空けつつ攻防の力を高めるため、キサラは更なるシンクロ召喚を行うことにした。

 

「レベル8の『青眼の白龍』に、レベル1の『青き眼の乙女』をチューニング! 蒼穹を臨む銀嶺が如く、此処にそびえ立て!」

 

 これは新しく開発したカードではないが、希少性は非常に高い。かつてキサラの身から零れ落ちた守護の光がカード化したもの。逞しい脚で力強く大地を揺らして現れたその龍こそ、″この時空世界において″最初に召喚されたシンクロモンスター。

 

「シンクロ召喚、『蒼眼の銀龍』!! 特殊召喚に成功した場合、誘発効果『ホワイトフレア・サンクチュアリ』が発動! 2回目のエンドフェイズを迎えるまで、自分フィールドのドラゴン族に効果対象耐性と効果破壊耐性を付与です!」

 

蒼眼の銀龍/攻2500(シンクロ召喚)

 

 脚と翼と、尾と声で、『蒼眼の銀龍』が大地と空気を揺らすと、白い炎が雪のように降り始める。その焔は『蒼眼の銀龍』と『青眼の精霊龍』を守る力として2体を囲った。

 

「空いたフィールドに『青き眼の祭司』を召喚し、召喚成功時の効果で墓地から『青き眼の賢士』を回収します。そのまま『青き眼の賢士』の効果を発動! 手札の自身とフィールドの効果モンスターの魂を捧げて、青き眼の龍族をデッキから喚び出します!」

 

 手札と墓地をシャトルランする『青き眼の賢士』は、キサラと里と龍神の為なら、喜んでその力を貸してくれる。コストとして手札から墓地に捨てられた『青き眼の賢士』の秘術の後に続いて、『青き眼の祭司』もその老体を光の渦に捧げる。秘術によって開かれた門から、新たなドラゴンが現れる。

 

「出でよ、聖なる影!『白き霊龍』!」

 

白き霊龍/攻2500(デッキ→場)

 

 ″影″と呼ばれるだけあって、身体は透けており、″実体″である『青眼の白龍』に比べて鋭さで一歩譲るドラゴンだ。しかし″影″だからこそ『見えるけど見えないもの』を制することが出来る強さも持っている。

 

「『白き霊龍』が召喚・特殊召喚に成功した時の効果、発動です! 相手の魔法・罠を1枚除外出来ます! 中央のカードを消し去ります!」

「クソったれ! 『銀の鏡壁』が除外されたか!」

 

 あらゆる光と攻撃を反射・半減するはずの『銀幕の鏡壁』ではあるが、『白き霊龍』が放つ神々しく淡い光は、鏡ではなく容れ物であるカードの方を風化させた。

 

「よし! いいカードを除外出来ましたね! 手札を1枚伏せて──バトルです!」

 

 まだ伏せカードは2枚残っているが、攻撃力2500のドラゴン3体による蹂躙が始まる。ベストロウリィで1発防いでも、残り2発がポルナレフに直撃すればゲームエンドだ。しかも3体中2体は白い炎で守られている。

 

「『蒼眼の銀龍』で、裏側守備になっているベストロウリィに攻撃です! ブレスを吐くまでもないですね!」

 

 地を蹴る脚力と、天を駆る翼の揚力を活かし、『蒼眼の銀龍』が牙と爪を裏側守備表示のカードに突き立てようとした──その時だった。

 

「あいにくと! その攻撃の軌道はわかっていた! 軌道がよめれば、切るのは……たやすい! 罠カード『分断の壁』発動!」

 

 相手が攻撃宣言したとき、相手モンスター1体につき、相手の攻撃表示モンスターの攻撃力を800ダウンさせるカードである。

 

「く……チェーン発動!『青眼の精霊龍』! 自身をリリースして、疑似シンクロ召喚です!」

 

 いま攻撃宣言していたのは『蒼眼の銀龍』なので、このサクリファイス・エスケープ能力は、本当は今使わずにもう少し温存するのも手ではある。しかし、キサラの知識と直感がそうさせた。『青眼の精霊龍』が昇天することで生まれた光の球体の中から、2体目の『蒼眼の銀龍』が守備表示で特殊召喚される。先ほど同様に効果破壊耐性と効果対象耐性も付与されるが、『分断の壁』の効果は防げない。

 

「モンスターの数と、攻撃してきたモンスターに変化はねーぜ! 800×3の2400ポイントッ! ドラゴン2体の攻撃力を切断し、攻撃を弾き返すッ!」

 

青眼の精霊龍(リリース)

蒼眼の銀龍/守3000(EXデッキ→場)

蒼眼の銀龍/攻2500→/攻100

白き霊龍/攻2500→/攻100

 

剣闘獣ベストロウリィ/守800

≪VS≫

蒼眼の銀龍/攻100

 

 『分断の壁』のカードから『銀の戦車』が飛び出す。そして急所を避けるように、『蒼眼の銀龍』と『白き霊龍』の牙と爪と翼を目にも止まらぬ早業で切り捨てた。満身創痍になった『蒼眼の銀龍』の突撃は、表側になった『剣闘獣ベストロウリィ』が起こす突風で弾き飛ばされる。

 

「くっ……!」

 

キサラLP4000→3300

 

 巨龍2体が墜落した衝撃波で、キサラのライフが僅かに削られる。

 ──いや、僅かと言っていいのだろうか? 攻撃力たった100ポイントのモンスター2体が棒立ちで残ってしまった。しかも初期ライフがLP4000ポイントスタートのルールなので、既に無駄な攻撃を受け流す余裕がない。

 

「『剣闘獣』が戦闘を行ったことで効果発動だぜ! スタンドを引っ込めて新たなスタンドをデッキから特殊召喚し直す! 来いっ、『剣闘獣ウェスパシアス』!」

 

剣闘獣ベストロウリィ(場→デッキ)

剣闘獣ウェスパシアス/攻2300→2800(デッキ→場)

 

 青い甲冑の海竜剣士が、ポルナレフのデッキから飛び出す。そしてフィールドに降り立つと同時に、足元から起こした水流を自らの剣に纏わせる。

 

「ウェスパシアスが剣闘獣の効果で特殊召喚された場合、自身を含めたフィールドの剣闘獣全ての攻撃力を500アップさせる。 次のターン、俺が攻撃力200以上のモンスターを出せば勝負は決まるッ!」

「……ターン、エンドです……」

 

キサラLP3300/手札なし/伏せ1枚

蒼眼の銀龍/守3000

蒼眼の銀龍/攻100

白き霊龍/攻100

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ポルナレフが引いたのは罠カードだった。だが、別に彼は「攻撃力200以上のモンスターを引けば」とは言っていない。「出せば」とは言ったが。

 

「カードを1枚伏せ。勝ったッ! 攻撃力1500の、『剣闘獣ベストロウリィ』を通常召喚!」

 

 元から手札にあったカードを、さも今引き当てたかのように召喚する。

 

「2枚目のベストロウリィですか……!」

「1枚目を引き直した可能性もあるだろ?」

「どちらにせよ、こちらも2枚目のこのカードを発動します!『底なし落とし穴』!」

 

剣闘獣ベストロウリィ/攻1500→/守800(裏側)

 

 一見前のターンと全く同じ攻防に見えるが、実際は違う。今度のベストロウリィは、落とし穴に嵌まっても止まらない。

 

「このターンでは倒せねーか! だったら融合召喚だ! ベストロウリィとウェスパシアスを素材としてデッキに戻し──『剣闘獣ガイザレス』!!」

 

 裏側になっているはずのカードからベストロウリィが飛び出し、ラクエルは蒼のオーラになった後、ベストロウリィ──いや、『剣闘獣ガイザレス』の鎧になった。

 

剣闘獣ベストロウリィ(場→デッキ)

剣闘獣ラクエル(場→デッキ)

剣闘獣ガイザレス/攻2400(融合召喚)

 

「ガイザレスが特殊召喚に成功したとき、フィールドのカードを2枚まで選択して破壊できるッ! モンスターは『蒼眼の銀龍』の効果で守られているんだったな? ならば俺は、そこ以外を切り刻む!」

 

 ガイザレスの翼から風の刃が放たれると、『白き霊堂』の柱に、壁に、窓に──いや、空間そのものに亀裂が走る。

 バリン!と、白光で満たされた神聖な空間が砕け散ると、其処は夜闇にゴゴゴゴ……とした圧力の影が潜む遊園地、ポルナレフランドに戻ってしまった。

 

「ガイザレスで、攻撃力100の『蒼眼の銀龍』を攻撃!」

 

 ガイザレスの翼が、今度はそれ自体が刃として使われ、満身創痍で無抵抗の『蒼眼の銀龍』を、魚を捌くかのように容易く斬り捨てた。

 

剣闘獣ガイザレス/攻2400

≪VS≫

蒼眼の銀龍/攻100(戦闘破壊)

 

キサラLP3300→1000

 

「くっ……!」

「バトル終了後、ガイザレスは2体の剣闘獣に分離するッ! デッキから来い、『剣闘獣ラクエル』と、『剣闘獣ウェスパシアス』!」

 

 再びウェスパシアスが現れると同時に、新たに赤い甲冑を身につけた猛虎『剣闘獣ラクエル』も特殊召喚される。だがその赤い防具の一部がすぐ炸裂し、代わりに焔の大車輪がラクエルの周囲を廻る。

 

「ラクエルは、剣闘獣モンスターの効果で特殊召喚した場合、甲冑の一部を脱ぎ捨てて身軽になる。攻撃力は1800から上昇して2100! ウェスパシアスの効果も合わされば、攻撃力2600! これでターンエンドだ!」

 

 ウェスパシアスが起こした水流と、ラクエルの火炎が交り合い、高エネルギーの二重螺旋になる。

 

剣闘獣ガイザレス(場→EXデッキ)

 

ポルナレフLP4000/手札なし/伏せ2枚

剣闘獣ウェスパシアス/攻2300→2800

(デッキ→場)

剣闘獣ラクエル/攻1800→2100→2600

(デッキ→場)

 

「私のターン! スタンバイフェイズに、生き残った方の『蒼眼の銀龍』の効果発動です!」

 

 キサラのライフは少なく、ポルナレフは2体のモンスターを従えているが、その攻撃力は『青眼の白龍』より低い。ここで蘇生させれば十分すぎる戦力になる──が。

 

「させるかっ! 行け、『剣闘獣の戦車(チャリオッツ)』!!」

 

 再び、中世騎士風のスタンド『銀の戦車』が、今度は『剣闘獣の戦車』のカードから飛び出す。そして効果を発動しようとする『蒼眼の銀龍』の前に立ち塞がった。

 

「切り刻んでやるぜ! 大根をおろすように! ホラホラホラホラァ!!」

 

 ブルーアイズの進化の1つが、守護の光の象徴が、大根おろしなぞに例えられてバラバラにされるのは耐え難い屈辱だ。しかしそれがデュエルのルールであり現実であり、その強さ誉れ高い『剣闘獣の戦車』の効果だった。

 

「くっ……!」

 

 キサラに残されたのは、攻撃力100で翼すら失った『白き霊龍』と、たった1000のライフだけ……に見える。しかし、追い詰められればこそ使える力もある。

 

「私のライフが2000未満になっているので、スキル『光射す!』を発動です! 光属性モンスターを強化するフィールド魔法を展開します!

 そして『青き眼の祭司』をデッキに戻し、『白き霊龍』を対象に効果発動です! 霊龍よ──惨めなその姿を晒すなら、長老の秘術で以て、我が半身復活の礎になりなさい!」

 

 キサラの影がポルナレフの方へと伸びるほどの、強烈な光が射す。その光に照らされて、聖なる影である『白き霊龍』と、影として浮き上がった『青き眼の祭司』が光の粒子となって消えていく。その光の粒子が蘇らせた輪郭は、まさしく瀬人とキサラの魂のカード。このランドで、真に讃えられるべき偶像。

 

「蘇生召喚、『青眼の白龍』! 攻撃力3500です!」

 

シャインスパーク(スキルで発動)

白き霊龍(場→墓地)

青き眼の祭司(墓地→デッキ)

青眼の白龍/攻3000→3500(墓地→場)

 

 翼を光輝かせて現れた白き龍。剣闘獣を圧倒する攻撃力の前に敵は無い。

 

「バトルフェイズ! 『剣闘獣ラクエル』に、滅びの爆裂疾風弾!!」

 

 フィールドに光が満ちていることにより、破壊エネルギーの充填が、より早く、より強く、より大きく行われる。しかしそれを発射するより早く。

 

「ダメージステップに、伏せていた速攻魔法発動! 『星遺物を巡る戦い─スターダスト・クルセイダース─』! 返り討ちだッ!!」

 

剣闘獣ウェスパシアス/攻2800→/攻2300

(一時的に除外)

剣闘獣ラクエル/攻2600→/攻2100

青眼の白龍/攻3500→/攻1200

 

 『剣闘獣ウェスパシアス』が、自身の身体を霧散させながらその剣をブルーアイズの顎に投擲する。剣はブルーアイズの脳幹を貫き、発射直前に妨害を受けた爆裂疾風弾は風船が割れるように暴発した。

 その隙に、ラクエルの紅い鉤爪が、空と空の間に炎を取り込んだ斬撃を幾重にも繰り出す。

 

「ホラホラホラホラァーーッ!!」

 

青眼の白龍/攻1200(戦闘破壊)

≪VS≫

剣闘獣ラクエル/攻2100

 

「くっ……ううううっ!!」

 

 ソリッドヴィジョンとはいえ、無惨に散りゆく自分のドラゴンの破片飛沫を、当たる面積を最小にして防御する暇もなく、モロに喰らってしまう。

 

キサラLP1000→100

 

「やった!勝った!仕留めた!海馬ランド完! ポルナレフランドの完成だ!」

「ふっ……ふふふ……」

 

 笑顔を浮かべたのは、もはや勝ちが見えたポルナレフ1人だけではなかった。キサラもまた不敵に嗤う。

 

「ねぇ……。ポルナレフさん? 貴方……。深く、心から、真に、神に誓って、どんな罪を背負ってでも……。ポルナレフランドを創りたいんですか……?」

「あぁん? そんな大それたもんじゃあねーぜ? 紅海の無人島の砂浜で錆びたランプを拾ってよー。そこから出てきたランプの魔神が『願い事を言え』っていうから、試しに到底叶いそうもない願い事を言ってみたのさ」

「そうですか……」

 

 万にひとつ。キサラは、ポルナレフの夢と執念がとてつもなく強いものだったなら(当然私や瀬人様やモクバ君程じゃないでしょうけどねという確固たる自信の気持ちはありますけどね)、業務提携ぐらい考えてもいいかと思っていた。

 しかし、実際はただの、万能の願望器の性能テスト、ただの思いつきだとハッキリした。ならば──。

 

「ならば私は! この程度で負ける訳にはいきませんね!!」

 

 キサラが、最後に残された手札を天に掲げる。母なる海のように、深い深い蒼のカードだった。

 

「私は違う。私は、あの人の為なら何だって出来る。何処へでもいける。何者にだってなれる。何度でも立ち上がれる!

 このドラゴンは、自分のブルーアイズモンスターが戦闘か相手の効果で破壊されたとき、手札から特殊召喚出来ます!」

 

 白い身体に青い瞳の龍。それだけなら『ブルーアイズ』の進化形の一種に見えるだろう。

 だが実際には、これは『ブルーアイズ』ではない。これは彼女が、彼の為なら、『キサラ』では無くなろうとも、『青眼の白龍』では無くなろうとも構わないという、深く重過ぎる愛の具現。

 

「罪深き過去と真実の未来──。時空を越え、神をも超えて、蒼き我が心の深淵に宿した白き愛よ、ここに翼広げよ!」

 

 人の世の、罪と真実を嘲笑う巨龍『Sinトゥルース・ドラゴン』が遺した因子から生まれた龍──。

 

「ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン!!」

 

 暁の陽光のような5枚の優雅な翼。その翼と背びれには、巫女の鈴や魔除けのピアスや貴婦人のネックレスを思わせる輪状の羽根が連なる。龍でありながら、その腰回りは人間世界の女神像のような悩ましい曲線を描く。

 人の常識、龍の限界、世の条理を超越した愛の力が、そこにはあった。

 

「ディープアイズは、墓地のドラゴンの力を使って敵を斃します! 自身の効果で特殊召喚した時、墓地のドラゴン族1種類につき、相手に600のダメージを与えます! また、このカードの元々の攻撃力は不定ですが、フィールドに降臨した場合に、墓地のドラゴン族1体と同じ攻撃力を得ます!」

「て、ことは……」

「効果ダメージは2400! 攻撃力は『シャインスパーク』と合わせて3500! ラクエルを盾にしても、3800のダメージを受けて貰います!」

 

 墓地から輪郭だけの姿で『青眼の白龍』『白き霊龍』『青眼の精霊龍』『蒼眼の銀龍』が出現して、刺すように細いレーザー状の光線でポルナレフを焼く。

 

「ぐぅぅ……!」

 

本丸であるディープアイズは5つの翼の生え際になっている円輪から、圧し潰すような極太の光線を放った。

 

「ぐぉおおおおーーッ!?」

 

ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン

効果ダメージ/600×4=2400

ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン

/攻3500

≪VS≫

剣闘獣ラクエル/攻2100(戦闘破壊)

 

ポルナレフLP4000→1600→200

 

「私のターンは終了です!」

「ぐ……。ターン終了時に、除外していた『剣闘獣ウェスパシアス』が帰ってくるぜ……!」

 

キサラLP100/手札なし/伏せなし

シャインスパーク(フィールド魔法)

ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン/攻3500

 

「そして俺のターン!……Yeah!!」

 

 キサラの思わぬ反撃と自分のライフ激減に狼狽していたポルナレフだったが、引きの良さで威勢を取り戻した。浮き沈みの激しい男である。

 

「『剣闘獣ベストロウリィ』を裏側守備表示で出して……2体融合! 再びガイザレスだッ! あんたのフィールド魔法とディープアイズを破壊するッ!!」

 

 動作と処理が、滑らかで無駄がない。裏側守備カードから出たベストロウリィの、ガイザレスへの進化。そのガイザレスが羽ばたくことで生まれた風の刃。その鋭さが切り刻む光のフィールド魔法と光の龍。

 速い。実に速い。

 ……キサラのライフを削りきる深淵には程遠いが。

 

「一見正しいように見えた今の攻撃……。けれど、それだけでは届かない深淵に溺れてもらいましょう!

 フィールドのディープアイズが効果破壊された場合、相手フィールドのモンスターを全て! 道連れに効果破壊します!!」

「なぁにィィイイイイ!?」

 

剣闘獣ベストロウリィ(手札→場→デッキ)

剣闘獣ウェスパシアス(場→デッキ)

剣闘獣ガイザレス(融合召喚→破壊)

 

ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン(破壊)

シャインスパーク(破壊)

 

 龍の散り際に残された丸い羽根が一瞬光ったかと思えば、蒼の矢に変化していた。モンスターゾーンに対する無差別な矢の雨を浴び、ガイザレスは破壊された。

 

 キサラとポルナレフ。LP100とLP200。互いに手札もフィールドも殺風景なものになった。

 

「ふふっ。まるで、ついこの前に観た西部劇のガンマンみたいですね? 『ぬきな! どっちが素早いか試してみようぜ』なんて台詞が、あったような気がしますよ」

 

 引き金の代わりに引くのはデッキ。銃弾の代わりになるのは『攻撃力200以上のモンスター』だが、そこに懸ける誇りと未来には些かの差もない。

 

「……引けよ。引き金を……!」

 

 ピシュ──と銃声の代わりに響いたのは、キサラのカードが風を切る音。そのカードの正体は──。

 

「……。『銀龍の轟砲』! いでよブルーアイズ!!」

 

 銃弾ではない。

 砲弾でもない。

 この決闘を終わらせるのは、爆裂疾風弾。

 

「滅びの、バーストストリーム!!」

 

 海馬ランドの夢の象徴が、ポルナレフランドの主を吹き飛ばした。

 

青眼の白龍/攻3000(銀龍の轟砲で蘇生)

≪VS≫

(直接攻撃)

 

ポルナレフLP200→0

 

「ぐおおおおぉぉ──ッッ!!」

 

 爆裂する弾丸に撃たれ、ポルナレフは地に伏せることなった。

 

────

 

 ザッザッと落ち着いた確かな足取りで、キサラは倒れているポルナレフに近づいていく。

 

「ジャン・ピエール・ポルナレフさん。私と貴方の間に勝敗の境界を引いたのは、きっと懸けた思いの差だと思います」

 

 膝を曲げて、彼女は続けて問う。

 

「デュエルをすれば、相手の魂の在り方が分かると、よく言われます。貴方はきっと、強く誇り高い魂の持ち主のはずです。そんな魂を、思いを懸けた願いは、本当に『ポルナレフランド』だったんですか? もっと尊い願いや夢や闘いが、貴方にはあったのではないですか?」

 

 ポルナレフはすぐには返せなかった。

 

 当たっている。

 彼は妹の仇を討つために十年修行した。妹の仇に近づいたとき、対面したとき、倒した後、共に旅する大切な仲間を得た。

 それらに比べればポルナレフランドなど、くだらない小ネタの1つだ。

 そんなことの為に、孤立無援となり、見知らぬ土地の淑女に迷惑をかけてしまった。

 

「……すまなかった。ただの思いつきで、ただならぬことをしまったらしい。詫びらしい詫びも出来ないが、せめて元の旅路と仲間のところへ帰るとするぜ」

 

 にわかに、キサラの髪がなびくほどの風が吹いたかと思うと、ポルナレフランドの、あらゆるアトラクション、あらゆる建物、あらゆる銅像が、砂になって散り始めた。

 

「帰り道は分かりますか?」

「砂と一緒にクールに去ればいいらしい。何故か分かるんだ。なぜか、な」

 

 ポルナレフが立ち上がる。本当にもう去っていくつもりなのだろう。

 

「もっと普通の……。敵対せずに済むようなところでお会いしたかったです。あるいは、また会えるんでしょうか?」

「それは分からんが……。また会えたなら、またデュエルしてくれ」

 

 正々堂々とデュエルができたなら、もう恨みっこは無しだ。2人は軽い握手を交わす。握手を解き、ポルナレフが背中を見せると、彼とポルナレフランドは、砂嵐の中に消えていった──。

 

 あとに残ったのは、ブルーアイズジェットコースターに、ブルーアイズキャッスルに、ブルーアイズアーケードに……。

 ブルーアイズまみれだがブルーアイズランドという名前ではない。元に戻った海馬ランドの姿が、そこにはあった。

 

「……ホント私まみれですよね、ここ」

 

 『青眼の白龍』本人としては、心中複雑ではあるのだろう。

 だがそれほど悪い気はしない。ここは瀬人が描いた夢の国で、これが瀬人の選んだロードなのだから。

 それを取り戻せたことが、キサラにはちょっと誇らしい。

 

「……さて。帰りますか!」

 

 来たときと同じだ。キサラの身体が光輝いたかと思うと、次の瞬間には『青眼の亜白龍』の姿を顕していた。

 青眼の亜白龍が飛び去っていく。自らが守り抜いた海馬ランドを、ゆるりと眼下に見納めながら──。



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エピローグ

 キサラはKCの社長室に帰還して、瀬人に電話で事の顛末を伝えた。

 

「結局そのポルナレフという奴は、一時の気の迷いでこのようなことをしでかした訳か」

「みたいですね。まあきっと、私に負けたのをトリガーにして、元の世界、元のロードに帰れたんでしょう。多分ですが」

 

 パソコンで先程のデュエルのログを分析しながらキサラはそう答える。

 スピードデュエルに、『星遺物を巡る戦い』を始めとした未知のカード、魔力の反応などが、「別世界」の存在を証明しているとキサラは考えていた。

 

「きっと。多分か。なかなか無責任な言い方だな?」

「そりゃあ……。私たちの夢を侵した、別世界の男性のことまで心配する義理なんて、正直ないですし?

 まあ収穫もありましたけどね。スピードデュエルに未知のカード。資料はまとめとくので、この感染症が収まったら、海馬ランド復活の目玉にしたいですね!」

 

 体調が優れず、KCの先行きも不安な瀬人を元気付けるつもりで、彼女はそう明るく話した。

 

「……なあ、キサラ。1つ聞いておくが」

 

 一呼吸置いて、瀬人が尋ねる。

 

「俺が道を踏み外したり誤ったりしたときは、お前はどうするつもりだ?」

 

 キサラがどう答えようか少し考えている間を、思い出したような瀬人の咳が埋めた。

 キサラが口を開く。

 

「……止めますよ? よっぽど酷ければね?」

「てっきり何処までもついてくるのかと思ったぞ」

「そりゃあ基本的にはそのつもりですよ? でも、ただ後ろをついていくだけなら『キサラ』である意味がないでしょう? そもそも私、ついこの前まで『Sin青眼の白龍』だったんですからね?」

 

 『Sin青眼の白龍』だったときのキサラは、自分か瀬人の死で以て、罪深き破滅の未来を避けようとした。それは、1から10まで全てパラドックスに操られていたが故という訳でもないのだ。

 

「ずいぶんとまぁ強かなものだ」

「おや? か弱く夫の後ろに付き従って、ひたすら盲信するようなお嫁さんの方が良かったですか?」

「まさか。頼りにしているとも。今までも、これからもな」

「えぇ。どんどん頼ってくださいね! 今の私は、どんな敵にも、暴力にも、疫病にも負けない、ちょっと無敵の嫁ですから!」

 

 この疫病騒動が収まった後、マスタールールを簡易化した『スピードデュエル』と、簡易化によって軽減されたサーバーへの負担をフルダイブVRデュエルに活用した『デュエルリンクス』のサービスが普及し、感染症患者や身体障害者に向けたデュエルエンターテイメントとしても注目を浴びていくのは、もう少し後になってからのことである──。

 

 




【あとがき】
 今回めちゃくちゃ難産でした……。
 デュエル構成はめちゃくちゃ簡単に組めた(たぶん30分で組めた)のですが。
・世情に関連付けている点
・クロスオーバーなところ
 辺りが最後の最後(デュエル終わった後の会話シーン)になってから自分のモチベーションを下げましてね(汗)
 デュエル終わったところまで書いたから捨てるのも勿体無くて結局ものすごい時間を書けて完成させてしまう運びになりました。

【デッキ解説】
ポルナレフのデッキ/【剣闘獣】
 ストラクチャーデッキとメインBOX第26弾ジャッジメントフォースによって強化された剣闘獣……なのですが、不十分な下調べだけやった後にデュエル構成を組んだ結果、本来はこんなに罠カード要らなくて、もっと展開札を積んだタイプが今の主流みたいですね。すみません。
 ポルナレフを選んだ理由は「感染症によって封鎖された海馬ランドの乗っ取り」「ジャッジメントフォース販促」を絡めた結果、ポルナレフランドの野望を持ち、チャリオッツのスタンドを持つポルナレフが良いかと思った次第です(良くない)。
 あくまでデュエルがメインのつもりなので、あまり深く考えないほうがいいと思います。

キサラのデッキ/【シンクロ青眼】
 デュエルリンクスがインフレしまくった結果、「キサラVSドッペルゲンガー」の時と遜色ないデッキが組めるようになりました(作中の時系列としてはこっちが先です)。
 スキル「光射す!」は、本来三沢のスキルですけど、スキルと決闘者の関係がどうなっているのか公式では一切描写されてないので問題ないでしょう……。
 サーヴァントの宝具や魔法使いの魔法のように本人の肉体や魂と紐付けされているのか、それともカードや剣のように自由に取捨選択できるものなのか。今回は後者のつもりで考えています。


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