東方偽奏録 (戯言遣いの偽物)
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1・墜落〜fall into〜

彼は落ちていた。

真っ暗な中をしばらく仰向けで落ちていた。

彼に記憶はない。

気がつけば落下していた。

所持品と言えば手に持った杖と、肩から下げた今彼の腹のあたりでバタバタ暴れている大きめのショルダーバッグと、着ているものくらいだ。

彼は不思議と混乱してはいない。

(あぁ・・・死ぬのか。)

彼は思った。そこに深い悲しみも後悔もない。

(こうやって死ぬのが本望だった気がする。わからないけど。)

彼はそう思い、目を閉じた。

 

「あーあ。今日も賽銭ないわねぇ・・・」

ここは『外で失われたもの』が集まる場所、幻想郷。その東の端にある博麗神社。その賽銭箱の前で少女が項垂れていた。黒く真っ直ぐでショートにした髪に茶色の目。肩や腋が大きく見えるように大胆に改造(?)された巫女服。トレードマークと思われる頭の大きなリボンは本人の心情を表すかのように萎れていた。彼女は博麗霊夢。格好の通り巫女さんである。

「あっはっは!それはいつものことだろ?霊夢?」

それを見て笑う少女がまた1人。金眼。ふわふわとしたロングの金髪を片方だけおさげにし、白いリボンがついた三角帽子を被っている。白のブラウスに黒いサロペットスカート。片手には箒が握られている。彼女は霧雨魔理沙。見ての通り魔法使いである。

「だってぇ・・・賽銭あるかもしれないじゃん・・・」

「まぁ・・・仕方ないのぜ。気落とすなよ。霊夢。」

ちょっと泣きそうな霊夢をなだめる魔理沙。

「それにしても暇ね。最近大きな異変がないから、やることが少ないわね。」

「起こったら起こったでめんどくさがるんだろ?」

「多分ね。」

はははと笑い合っていると

 

ドキャン!バキャ!バキ!ゴキ!ガリガリ!メキ!メギャン!

 

と彼女らの後ろから破砕音とともに土煙が立つ。

「え?」

目が点になった霊夢の脳天に細長い何かがスコーン!と当たる。

「い゛っ゛つ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」

頭を抑え呻く霊夢。

「うっわ・・・なんだよ一体・・・」

驚く魔理沙。おもむろに霊夢の脳天を強襲したものを拾う。杖だった。100センチほどの白い木製。しかし、あるところに切れ込みがあり、そこから分かれて、中から白銀の刃が見えた。

「仕込み杖?おい霊・・・」

「あぁ!!石畳がぁ!!!!」

煙が晴れると何かが落ちたあたりの石畳に大穴が開いていた。

「なんなのか知らないけど・・・許さない!」

ブチ切れた霊夢が猛然と神社の周りにある森へ走る。

「お・・・おい!」

慌てて箒に乗って追う魔理沙。

霊夢は自分の直感を信じて、バウンドしていったらしい落下物を追う。

森の木々が何かにより折れ、粉砕されていた。

(何が落ちてきたのよ・・・)

しばらくして落下物を見つけた。

「・・・」

人間だった。性別はおそらく男で、十代から二十代の青年。ベリーショートの黒髪。黒のTシャツにジーンズ。肩から大きめで布製のショルダーバッグをかけている。気を失っているようで、目を閉じたまま動かない。

「・・・何よ・・・なんてダイナミック迷い込みなのよ。こんなの初めてよ・・・」

霊夢は途方にくれた。




はじめまして。戯言(ザレゴト)遣いの偽物と言います。そして『偽奏録』を読んでいただいてありがとうございます。私の作品に興味を持っていただいてありがとうございます。これは元々pixivで書いているものをこちらにも載せたものです。pixivも続けますがこちらも進めていきます。pixivの方もよろしくお願いします。あと感想もよければお願いします。そしてこれからも『偽奏録』を読んでいただければ幸いです。


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2・忘却〜forget〜




とりあえず霊夢は後から追いかけてきた魔理沙と共に落下物・・・もとい落下者の男をえっちらおっちら博麗神社に運び込み、床に寝かせる。

「さて・・・紫ー?紫ー?ロリBB・・・ブグォン!?」

霊夢はドロップキックを食らった。真横から飛んでくる足に吹き飛ばされた。

「ロリBBA言うな!霊夢!」

裂けた空間から出てきた少女はプンスコ怒っている。背丈はひょろりと高く、魔理沙と同じ金眼金髪ロング。しかしその長い髪は赤のリボンで毛先をくくって何本かの束にしていてこれまた赤いリボンのついた白のナイトキャップを被っている。道士服風前掛けとフリル付きのドレスを着ている。彼女の名は八雲紫。結界を操る妖怪である。

「で?何かしら?霊夢?あら?伸びてるじゃないの。」

「あんたがやったんだろ・・・八雲紫・・・」

呆れたように言う魔理沙。

「そこにいるやつがダイナミック迷い込みしてきたのぜ。」

「あぁ、迷い人ね。どれどれ・・・?」

と、紫は男の顔を覗き込む。

「・・・ふぅん?」

「どうしたのぜ?」

「なんでもないわ。ほら、起きなさい人の子よ♪」

と、男を突いた。

「・・・っ?」

と、男の目が開き、起き上がった。

(・・・?なんだあの目・・・)

彼は深い穴のような光を反射しない目をしていた。

「ねぇ君、おはよう。」

「・・・」

「私は八雲紫。そこの金髪魔女っ子が霧雨魔理沙。そこで伸びてる巫女さんが博麗霊夢。よろしくね。あなたの名前は?」

「・・・」

彼は少し考え、

「・・・わからない。」

と答えた。

「ふーん?何か覚えてることはある?」

「・・・」

静かに首を振った。

「記憶喪失かしらね・・・魔理沙ちゃん?持ち物なかった?」

「あったけど・・・」

と、魔理沙は霊夢の脳天を強襲した件の杖と彼が持っていた大きめのショルダーバッグを渡す。

「ありがと。杖は仕込み杖・・・良く斬れそうな刀ね。これは置いておきましょう。こっち開けていい?」

「・・・構いませんよ。」

ショルダーバッグが開けられた。中からは色々なものが出てきた。身元を示すものは一つもなかったが、よくわからないものが出てきた。まず前面に大きなヒビが走っている白い箱のついたバックルのような何か。その箱の横の部分を引くとガチョンと90度回転した。もう一つはこれまた白い長方形の箱。これを開くと何も描かれていない黒いカードがたくさんあった。どうやらカードホルダーのようだ。紫曰く昔『外の世界』でやっていたという『仮面ライダーディケイド』という特撮番組のヒーローの変身道具に似ているという。後は壊れたパソコンとスマホ。それくらいだった。

「んー、名前もわからず・・・か。ん?」

と、紫は仕込み杖の先にさっき気がつかなかった掠れて読みにくい文字があった。

()・・・(エン)?かしら?この刀の銘かしらね?そうだわ。ねぇ君。名前思い出せないのよね?」

「・・・?はい。」

「じゃあ義縁(ギエン)と名乗りなさい。いい名前でしょう?」

「いきなりだな。八雲紫。」

「・・・わかりました。」

「そうね・・・姓は・・・」

二兎咬(ニトカミ)。」

彼が呟いた。

「へ?」

「ニ匹の兎を咬むでニ兎咬・・・だったような気がします。下の名前は思い出せませんが・・・」

「・・・わかったわ。じゃあ、ニ兎咬義縁君。幻想郷はあなたを受け入れるわ。」

「ありがとうございます。八雲紫さん。」

彼・・・義縁は頭を下げた。




はい、『偽奏録』です。この作品は私が公開した初めての小説です。公開した理由としてはTwitter上の友達が書いているのを見て、「書いてみよう!」ってなったからです。ほぼ見切り発車で始めとクライマックスだけ考えてあってその間の展開に苦しんでいます。頑張ります。それでは、『偽奏録』をよろしくお願いします。


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3・発生〜happen〜

「さて・・・案内ったって・・・どこがいいんだろ・・・人里でも行くか?二兎咬君?」

「よろしくお願いします。霧雨魔理沙さん。」

「あぁいいのぜ。ただ、フルネームはやめてほしいのぜ。魔理沙でいいのぜ。」

「わかりましたよ。霧雨魔理沙さん。」

「・・・もういいよ。それで。」

魔理沙と義縁は今博麗神社のある山の麓にいる。霊夢は伸びたままだし、紫は、

「私は義縁君の当分の家を用意してくるから魔理沙ちゃんはここの案内をしてちょうだい。ほんとなら霊夢も行かせるんだけどなぜか伸びてるからね〜。よろしくね〜♪」

とか言ってスキマで麓まで降ろされたのだ。

「んじゃ行くか。歩いてすぐだぜ。」

と言って魔理沙は手に持った箒をくるんと回して肩に乗せ、歩き出した。義縁もショルダーバッグの位置を直し、『戯厭』片手についていく。

「・・・なぁ」

しばらくして魔理沙が聞いた。

「遠くない?距離感。」

「・・・?」

さっきからずっと魔理沙と義縁の間の間隔が10mくらいを維持している。

「もっと近づいてもいいんだぜ?お話しにくいじゃないか。」

「・・・はい」

と、5mくらいに縮まった。

「・・・」

魔理沙はおもむろに止まり、一気に近づいてみた。バックステップで下がる義縁。

「・・・もしかして女の子苦手な人?」

「いえ・・・女の子がよくわからない男と一緒にいたらいけないと思いまして・・・」

「何言ってんだぜ?そんなことはいいんだよ。私とお前はもう友達じゃないかぜ?」

「・・・わかりました。」

と、義縁は魔理沙の横を歩き始めた。もちろんへんな間隔は空いていたが・・・。

道中魔理沙は幻想郷について話した。それを義縁は静かに聞いていた。

 

 

その様子を見ていた者がいる。黒いローブを着て、その顔はフードにより隠れている。ローブから見えた手には血液のように赤黒く、四角い宝石のはまった指輪をしていた。

「・・・」

彼は黙って2人を見つめる。何を考えているかはわからない。

「・・・」

そのうちローブの端から見える口がにぃぃ・・・とつり上がる。

「・・・彼はちゃんと着いたか。バックもあるということは『アレ』もあるということか・・・。とりあえず観察・・・いや、一つ遊んでみようか?まぁ、許してくれよう。ふくく・・・」

彼は笑った。その姿は揺らいで消えた。

 

 

「この幻想郷では時々よくないこと・・・というか事件が時々起こるんだよ。それを私とか霊夢とかが解決してるってわけ。」

「ほぉ・・・」

「私もそうだが、能力を使う人間や妖怪がいるのぜ。私は『魔法を使う程度の能力』。霊夢が『空を飛ぶ程度の能力』、他にも色々あるぜ。そういえば二兎咬君って能力あるのかぜ?」

「・・・知らないです・・・」

「まぁそうだな。おいおい分かると思うのぜ?」

「そうですかね」

そんなことを話しながら歩く2人の前に乞食のような男が現れた。ボロボロの茶色の着物に古ぼけた蓑を被っていた。

「・・・?乞食?」

「・・・?」

「・・・く・・・」

乞食が何かボソボソと言っている。

「なぁ?大丈夫か?」

と、魔理沙が少し近づく。

「・・・クレ・・・」

「ん?何が欲しいのぜ?」

「ソノニククレ!ソシテクワセロ!」

乞食が顔を上げた。目がなかった。鼻もなかった。あるのは口だけだった。

大きく裂けたような口には牙がずらりと並んでいた。

そいつが魔理沙に摑みかかる。

「うぉあ!?」

「危ない!ごめんなさい霧雨魔理沙さん!」

義縁は咄嗟に後ろから魔理沙を真横に蹴り飛ばす。

「ぶぺら!?」

魔理沙は奇声をあげて転がる。

空ぶった乞食のような化け物はゆらりゆらりと揺れながら近づいてくる。

「・・・なんだこいつ・・・!」

「妖怪!?でもこんなの知らない・・・、でもやるしかないのぜ!」

と、帽子からあるものを取り出す。薄い八角柱に足が生えたのようなもので、表面に白黒の棒と陰陽マークが描かれたもの。彼女はそれを『ミニ八卦炉』と呼ぶ。

それを構え、叫ぶ。

「恋符『マスタースパーク』!!」

直後、ミニ八卦から極彩色に輝く。そして極太のレーザーが発射された。

その光は化け物諸共道を覆い尽くし、吹き飛ばす。

義縁は爆風ですっ転ぶ。

「よーし!これで退治できただろ?」

「いやいや、道に隕石が落ちたみたいな感じになってますよ!?それにここって人里に近いんじゃ?」

「だぁいじょぶだって!私だって被害を出さないように気をつけてるのぜ?」

「本当ですかね・・・」

「・・・ウゥ・・・ビックリシタ・・・」

突然土の一部が盛り上がり、怪物が現れた。服や蓑は焼けて無くなっている。しかし、首元から一直線に胴が裂け、牙を覗かせていた。よく見ると身体中に口のような器官がある。

「なんで!?私のマスタースパークが!?」

「クラウ・・・クライツクス!」

怪物は全身の口を震わせ、吼えた。




はい、『偽奏録』です。私が作品作りで一番悩むのはストーリーの細かな描写です。頭にはその光景があるのに書けないのが辛い。2番目はタイトル付けですかね。目立つような良いタイトルがわかない。1話1話のタイトル付けやめようか迷ってます。しかし頑張ります。後書き部は私が勝手に話すだけなので気にしなくてもいいです。それでは『偽奏録』をよろしくお願いします。


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4・変身〜disguise〜

ズルリズルリと、そいつは魔理沙たちに近づく。

「な・・・なんでもいいのぜ!今度こそぶっとばしてやる!」

魔理沙は立ててあった箒にまたがる。

「二兎咬君は逃げて!ここは私がやるのぜ!」

「危ないですよ!霧雨魔理沙さん・・・」

「だから大丈夫だって。行きな!」

と、魔理沙は飛んだ。

怪物は不思議そうに見上げる。

「消えな!星符『ドラゴンメテオ』!」

と叫び、ミニ八卦炉を下に向ける。そこからまたあの極彩色の光の柱が伸びた。クレーターがさらに深くなる。

「これで・・・!」

「ヴガァァァァァァ!」

奴はまだ立ち上がった。所々焼け焦げていたがピンピンしている。

「うぇ!?なんで!?」

「オマエ、アツイ。イタイ。キライ!コロス!」

怪物は両手を大きく開く。すると、胴を一文字に走る巨大な口がミシミシ・・・パキパキ・・・と何かが軋む音を立てながら開いていく。

「は・・・?」

「ヴァァガァ!!」

口が一瞬光った。

次の瞬間、白い光線が天を穿った。

「うおおおおおおおおお!!!!!???」

魔理沙は全速力で横へ避けた。

しかし、それでも間に合わずスカートと箒の先が少し焦げた。

「なんなんだよ!お前!」

「ハズシタ・・・デモ・・・ツギハハズサナイ!」

と、怪物はもう一度打とうと構えた。

「やっべ・・・」

「クラ・・・グッ!?」

奴が不意にふらついた。背中から血のようなものが噴き出した。

「・・・」

「テメェ・・・ナニシヤガッタ?」

義縁であった。魔理沙に言われて大人しく隠れていたが、思わず飛び出して、怪物を『戯厭』で斬りつけてしまった。

「バカ!何でてきてるのぜ!二兎咬君は逃げるのぜ!」

「・・・いえ。女の子に守ってもらうのも男として申し訳ないですからね。」

「そんなことないのぜ!だから下がって!」

「オマエ・・・クウ!」

と、化け物は標的を義縁に変え突撃する。

「おぉおぉぉぉぉ!?」

転がって避ける義縁。

空ぶった怪物は身体中の顎関節など使ってグニャリとバク転のように回転し、義縁に蹴りを入れる。と同時に彼は『戯厭』を振り、化け物の腹を横に切りつける。彼が掴んだ『戯厭』の白銀の刃はダマスカス鋼のような紋様が浮き出ていた。双方転がる。

「グフッ・・・」

「イッテェ!」

「二兎咬君!もういい!逃げろ!」

「そうもいか・・・ん?」

バックルが落ちていた。大きな傷のついた白いそれはまるでそこにあるのが当然だというようにそこにいた。

(バッグは隠れていたところに置いてきたはずだ。なんでここに?)

「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!」

「ああもう!」

義縁はバックルを拾い、立ち上がる。

「僕が何者か知らないけど!これが何か知らないけど!こいつに恩人を助ける力があるなら・・・使ってやる!」

と、腰にバックルを嵌めた。

バックルからベルトが伸び、ガッチリとロックされ、横側にバッグに一緒に入っていたカードホルダーが吊りさがった。

「・・・」

ホルダーが勝手に開き、そこからカードが一枚飛んだ。

「おっと・・・」

義縁がカードを掴むと、黒一色だったカードが白く輝いて、変わる。

「・・・?これは・・・」

魔理沙だった。カードに描かれていたのは黒い魔女帽子を被ったあの金髪少女だった。

「・・・?まぁいいよ。」

義縁はバックルの傍を引き、バックルを90度回転させる。

「これは・・・こうか?どうやってやるうぇ?」

「ヴァァガォォォ!!」

義縁が四苦八苦しているうちに怪物は攻撃してくる。腕や脚、そこについた牙と爪を用いて乱撃。それをギリギリで避けながらなんとかスロットにカードを入れる

 

TOUHO RIDE!

 

「む?」

バックルから音声が流れた。

「シネェェェェ!!!」

「うおおおおお!?」

化け物が飛びかかると同時に彼はバックルの傍を押して90度回転させる。

 

マリサ!

 

バックルから八角形のエンブレムが飛び出し、怪物を吹き飛ばした。たくさんの黒い棒と陰陽のマーク。魔理沙のミニ八卦炉に描かれているのと同じものだ。

「おいおいおい!なんですかなんですか!」

その光るマークがジリジリと近づいてくる。

「怖い怖い怖い!!」

義縁は少し後ずさったが、エンブレムは彼を飲み込んだ。

光で目が眩み、目を閉じた。

そして開けてみるもさして視界は変わらなかった。

目と鼻の先にあの化け物がいる。それだけだ。

(む?使い方が違うのか?)

「な・・・なぁ、その格好・・・」

後ろに魔理沙がいた。少し引いているような顔だ。

「格好・・・ですか。」

義縁は格好を見る。腰にはあのバックル。黒の服にエプロン。そしてスカート。

(・・・エプロン?スカート?)

肩のあたりに何か触っているので触っているのでサラサラとした金色の髪だった。

(・・・金髪。)

彼はさっきまで気づいていなかったがいつのまにか頭に魔女帽子が乗っかっていた。

(そういえば声が高いような・・・)

「・・・これは・・・どういう状況でございましょう?霧雨魔理沙さん。」

「あの・・・二兎咬君が・・・私になっちゃってる?のぜ?」

「・・・ですよね。なんでだよ・・・」

義縁は少し頭を抱えたくなった。

 




はい『偽奏録』です。東方のキャラはみんな好きですが、特に好きなのは魔理沙です。可愛いですよね。もふもふしてそう。友達になったら毎日楽しそうです。それではこれからも『偽奏録』をよろしくお願いします。


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5・飢餓〜starvation〜

 

「・・・っ!来るのぜ!」

「うぇ!?」

後ろを見ると怪物が突進してきた。

魔理沙と義縁はそれぞれ左右に飛んで逃げる。

「これ・・・どうすれば・・・」

と義縁が呟くと、『戯厭』が勝手に飛んできた。しかし全長がだんだん伸び、先が細く分かれ、義縁が手に取る時には魔理沙が持っているのと同じ箒になっていた。

「・・・てことは・・・」

と帽子の中をゴソゴソ探ると案の定ミニ八卦炉があった。

「・・・」

「ォオオオオオオオオオオ!!!」

化け物は手のひらに空いた口のようなものからレーザーを撃つ。

義縁は慌てて箒に乗って飛ぶ。ただし魔理沙のように跨って乗るのではなく、スケートボードのように箒の上に立って飛んでいる。

「えぇっと・・・どうやるんだ?霧雨魔理沙さんと同じレーザーが出せれば・・・」

とブツブツ言いながら怪物の頭の上をグルグル飛んでいる。

「何やってるのぜ!?急がないとまたレーザーが飛んでくる!」

と魔理沙が横へ飛んでくる。

「見たところあいつは霧雨魔理沙さんのレーザー・・・マスタースパーク?を吸収して打ち返してる。それなら吸収できるより多くのレーザーで焼き尽くせばいいはず。僕が霧雨魔理沙さんの姿になったということはマスタースパークを使えるかもしれない・・・」

とまで言ったところでまたホルダーがカードを吐き出した。掴んだ数枚の黒いカードは光り、色々なカードに変わった。

「・・・これか?」

義縁はそのカードの中から一枚、バックルを回転させ、入れる。

 

SPELL RIDE!

 

「・・・」

回転。

 

恋符『マスタースパーク」!

 

「いけるのか・・・?」

「いや、いけるかいけないかじゃねぇ!やるのぜ!」

魔理沙はミニ八卦炉を両手で、義縁は片手で構える。

「いくぜ!二兎咬君!!」

「・・・あぁ。」

「「恋符『マスタースパーク』」」

二つのミニ八卦炉から閃光が走る。

「シネェェェェェェェェェ!!!」

怪物は胸の口からレーザーを出そうとするが、口からは何も出てこない。

「ナ・・・キレタ・・・!」

「「はぁぁぁぁぁ!!!」」

虹色の光線が放たれた。

化け物はそれすらも喰らおうとしたが、肉や牙が焼け、溶ける。喰らうより先に体が燃やされているのだ。それでもいくらか吸収するが、過剰なエネルギーによるものなのか身体中がブクブクと腫れ上がっていく。

「アァァァァグェェアァァァァ・・・」

そのうち内から破裂するように爆散した。その肉片さえもレーザーにより消え去った。

そしてクレーターをさらに抉った。

「やったぜ!倒した!・・・怒られるかなぁ・・・これ。」

「確実にどやされそうですけどね。それよりも・・・あの怪物は・・・知ってました?霧雨魔理沙さん?」

「いや・・・知らないのぜ。」

二人は少し黙り込んだ。

ふと義縁が魔理沙をちらりと見ると、魔理沙の顔がダブって見えた。ダブったもう一人の金髪の女性は服装も違い、白一色のドレスを着た・・・

「ん?どうしたのぜ?二兎咬君?」

気づくと幻影は消えていた。

「・・・いえ、なんでもありません。」

 

 

それを森からあの指輪をしたローブの男が見ていた。

「・・・ふむ・・・まず予定通り・・・か。」

「いいの?いきなり『飢餓』を使って?」

ピィィィィィン・・・ピィィィィィン・・・

と、後ろからコインを弾く音が近づいてきた。

露出が多い服を着た女だった。茶色の髪に赤っぽい眼。腰には刃の広いナイフとリボルバーと小さな麻の袋を縛り付けていた。手で銀色のコインを弄んでいた。

「・・・オウ。お前は暇人か?」

「うるさいわよ。ヴィザ。あまり兵力を削らないでよ。」

と、オウと呼ばれた女はキッとヴィザと呼ばれた男を睨む。

「大丈夫だ。オウ。アレはただの残滓。ただの自動人形オートマタだよ。こんな序盤で『本体』を出すようなしけたマネしない。」

「そうね・・・あんたはそんな奴だったわね。ヴィザ。それはそうとあの子はうまくやってるようね。」

「あぁ、『アレ』もうまく動いているようだ。ふくく。」

と、ヴィザは手をプラプラと振る。ローブの端から見えるその指には大きな赤黒い宝石の指輪が光る。

「・・・悪趣味ね。その指輪。」

「女の子は指輪とか好きそうだがな。」

「私アタシには合わないのよ。私にはコインの輝きの方がいい。」

と、オウはうっとりとコインを見る。

「ふん。いいさ。俺たちは『我らの主』の計画を遂行するのみだ。」

「そうね。じゃ、『我が主のために』。」

「あぁ、『我が主のために』。」

二人は森の闇に溶けるように消えた。

 

 

「はぁ・・・いきなり騒動起こすなんてね。」

義縁と魔理沙はスキマでやってきた紫に博麗神社に戻され、正座させられていた。

「仕方ないのぜ・・・私たちを襲ってくる化け物がいたのぜ・・・」

「化け物?それも気になるけど・・・そのバックル。」

と、紫は義縁の前に置かれた白い箱に目を移す。

「カードを使えば容姿・スペルカードを完全完璧に模倣する代物・・・とんでもないものよ。」

「・・・」

「まぁいいわ。それは義縁君に預けるわ。変なことに使わなければ目をつぶってあげる。」

「ありがとうございます・・・」

「怪物に関しては私の方で調べるから魔理沙ちゃんはここに案内して。お願いね♪」

と、地図を魔理沙に手渡す。

「わかったのぜ。行こう!二兎咬君!」

「あっ・・・はい。」

と二人は出て行った。

「・・・」

「何か気になることでもあるの?紫。」

と、扇子を口元に当てて考え込む紫の後ろから聞く霊夢。

「・・・義援君の力・・・あんなものじゃない気がする。もっと・・・こう・・・強力な感じの・・・」

「珍しく要領を得ないわね。」

「それに魔理沙ちゃんが言ってた怪物・・・今人間は妖怪にとっても大事なものよ。無差別に喰い散らかそうなんて奴はいないはず・・・。そんなことしたら食糧が減って無くなってしまうから。なのにその怪物は・・・。」

「容赦なく食う。・・・でもたまたまかもしれない・・・」

「しかもそいつが入ってきた形跡もない・・・『目』にも反応はなかった。」

「・・・」

「義縁君、バックル、怪物・・・何が起こってるの?」

紫の眉間に皺が寄った。

 




最近のコロナ騒動のせいで学校の春学期丸々遠隔授業になりました。戯言遣いの偽物です。ここで一つの括り?が終わりました。義縁君が何者なのか、彼らは何を企んでいるのか、考えてみるのも面白いかもしれません。バレないと思いますけど当てたらすごいです。それではこれからも『偽奏録』をよろしくお願いします。(pixivの方で初めてコメントが届いて喜んでいます。感想もあればください。)


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6・遊戯〜pley〜

義縁が幻想郷に居つくことになって3日ほどが過ぎた。

「・・・」

彼は日課にしようとしているそう広くない庭で『戯厭』を使っての素振りをを終え、着替える。

人里の端の一戸建ての家。この家を渡された時、義縁は戸惑った。紫に聞いてみると

「いいじゃないの〜。色々あって私が持ったはいいけど倉庫にしちゃってた場所を開けただけだから。水道ガス色々繋がってるから使えるわよー!」

と言った。

(しかし・・・いつまでも八雲紫さんに頼ってばかりもいられない・・・今収入も八雲紫さんからの支給に頼ってるし・・・)

「なら・・・仕事だな。さて・・・どうしたものですかね。」

「何がだぜー?」

「おおう!?」

突然ピシャリと戸が開いて魔理沙が入ってきた。

「お邪魔するぜー!」

「なんで度々来るんですかねぇ・・・」

「今日は私も一緒よ。二兎咬くん?」

霊夢も入ってくる。

「博麗霊夢さんまで・・・。何やってるんですか?神社どうしたんです?」

「いーのよ。どうせ参拝客なら来ないし。」

「そうですか・・・。」

心の中でいたって無機質に週一くらいで参拝にでも出かけようと決めた義縁だった。

「そんでもって暇だし魔理沙と来たってわけ。」

「何故そこで僕の貸してもらってる家に来るんですか・・・」

「友達の家に遊びに行くのは普通だぜ?」

「・・・」

「ところで二兎咬君は何してるのぜ?」

「僕はこれからの生活どうしようかと考えていました。収入のために仕事を探そうかと。」

「仕事ねぇ・・・私は賽銭と異変解決とかで食い扶持繋いでるけど・・・」

「私は魔法の森のキノコとったりして生活してるぜ。」

「そうですか・・・どうしましょうかねぇ。」

「それよりも遊びに行こうぜ!まだ色々面白いところはあるからな!」

「それもそうね。行きましょう!」

「・・・分かりました。ちょっと待ってください。」

と、義縁は立ち上がると、件のバックルとカードホルダーの入ったいつものショルダーバッグを肩にかけ、立てかけてあった『戯厭』を手に取る。

「・・・それ持っていくの?」

「私物が近くにあるとなんだか安心するもので。」

「・・・やっぱり何も思い出せないの?」

「・・・」

義縁はここ3日で人里をウロウロしたりしながら自分の過去をゆっくり思い出そうとした。しかし、ここに来る前、自分が何者で何をしていたか全く思い出せないのだ。記憶という紙がハサミですっぱりと切られたかのように。彼は鍵は魔理沙とダブって見えた金髪の女かもしれないと考えているが、手がかりもゼロでお手上げ状態なのだ。

「まぁいいさ。それは後々然るべき時に思い出すのぜ。そんな思い詰めるなよ。」

「・・・そうですね。」

そう言って彼は靴を履いた。

 

 

「ふんふふんふーん!」

「楽しそうね?」

「楽しそうで何より。」

人里を歩くめちゃくちゃ楽しそうな魔理沙といつも通りの霊夢と少し離れて付いていく義縁。

「だって楽しいじゃん!友達と遊びに行くのは!」

「・・・そうですか・・・」

「あ!妖夢じゃん!」

魔理沙はお友達を見つけたらしい。

同年代くらいの女の子だった。白のシャツに緑のベストの胸元に黒い蝶ネクタイ、ベストと同じ色の短めのスカートに黒い靴。白いボブカットの髪に霊夢とは違うタイプのリボンをつけている。背中に長刀短刀をくくり付けてある。白いふよふよしたものが周りに浮かんでいる彼女の灰色の目は売り物の野菜に向けられている。

「よーっす。妖夢?元気?」

「む?魔理沙じゃないですか!お久しぶりですみょん!」

「・・・みょん?」

「むむ?誰ですみょん?」

「3日前に入って来た二兎咬君だぜ!」

「私は魂魄妖夢だみょんみょん!よろしくだみょん!」

「・・・二兎咬義縁です。」

妖夢はニコニコと笑っている。

義縁は無表情だった。

「幽々子のご飯の買い出しか?」

「うん。幽々子様がいつも通り食べちゃうから買い出しが重いみょん。」

よく見るまでもなく彼女の両腕にはパンパンに詰まった袋をいくつも掛けてある。

「私たちが持とうか?妖夢?」

「ほんとかみょん!?ありがとう!」

霊夢と魔理沙と妖夢で一つづつ、義縁は二つ持つことになった。

「・・・重い。」

「これ・・・何キロあるのよ・・・」

「んー、5キロかみょん?」

「ご・・・!?」

「・・・どれだけ食べるんですか?そのユユコさんって人は・・・」

「そりゃあもういっぱい・・・あ、義縁さん。」

「・・・何ですか?魂魄妖夢さん?」

「妖夢でいいみょん。この杖、刀ですよね?」

「・・・」

『戯厭』は今、妖夢の手にある。義縁が妖夢のように背負おうにも縛る紐がないし、手に持つこともできないから困っていると、妖夢が持つというので、心苦しいし、心配だが預かってもらったのだ。

「この刀・・・どこで?」

「・・・わからないんです。僕、記憶喪失みたいで・・・ここに来た時に持ってた数少ない持ち物で・・・」

「そうかみょん・・・ごめんなさい。」

と、謝る妖夢。

「いいんですよ。それで?その刀がどうかしました?」

「あの・・・刀使えるんですよね・・・?」

「・・・?まぁ・・・少しは。」

「それならお願いだみょん!手合わせをお願いしたいみょん!」

「は?」

 




マイパソコンが届いたけどあまり機械に強くなくて四苦八苦している戯言遣いの偽物です。私が小説を書きはじめた理由の一つに西尾維新先生に憧れたというのもあります。図書館で借りて読んでたのですが、最近のコロナ騒動で借りれないので悲しいです。自分でも買いたいんですけどお金がなくて全然買えてません。新刊出たのに買いに行けない・・・。それはともかく私は西尾維新先生のようなすごい文章を書けるような人間ではないのですが、目指して頑張ります。それではこれからも『偽奏録』をよろしくお願いします。感想もお願いします


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7・剣戟〜sword〜

そんなこんなでみんなで山を登り、妖夢が住んでいるという白玉楼についた。ちなみに妖夢はいつものことらしいので慣れた様子で階段を登り、霊夢は空を飛び、魔理沙は箒に荷物をかけて飛んだが、義縁は飛べないし、極力バックルを使わないようにしたので巨大な荷物を両手になれていない上に無限に思えるほどの階段を自分の足で登らなければならなかった。

「遅いぜ・・・」

「ぜぇ・・・貴女方は・・・飛べるし・・・はぁ・・・僕は・・・飛べない。」

「まぁそう言ってやるんじゃないよ。魔理沙。」

「そうだみょん。普通の人にはきついみょん。」

「とりあえず・・・どこに置けば?」

「あぁ、こっちだみょん。」

と、奥を示す。

すごく和風で豪華な建物が目の前にあった。とりあえずめちゃくちゃでかい。その一言に尽きる。広々とした庭まである。

「でっか・・・」

「こっちみょん!」

と、妖夢がスタスタと歩いていく。

「あらぁ、妖夢ちゃん。おかえりなさい。」

と、縁側にいた誰かが声をかけた。

ピンク色のミディアムボブの髪。水色と白のフリフリっぽい着物に色は違うが紫と同じナイトキャップのような帽子。帽子には三角の白い布がくっついていた。彼女は青いリボンがついたパンプスを履いた足をプラプラさせている。

「あ、幽々子様!ただいま戻りましたみょん!義縁さん、あの人がこの白玉楼の主、西行寺幽々子様です!」

「・・・こんにちは。西行寺幽々子さん。僕は二兎咬義縁です。」

「あら・・・貴方がね・・・紫から聞いているわぁ。」

幽々子は口元に緑の扇子を当ててクスクス笑う。

「なるほどねぇ・・・。紫が貴方を掴みきれなかったのもわかるわぁ。なんだろうねぇ。」

「どうかしました?」

「いいえ。なんでもないわぁ。」

義縁は幽々子の方が飄々として掴みきれないと思うが言わない。

「二兎咬さん!早くしてくださいみょん!」

「はぁ・・・」

「霊夢と魔理沙はもう行ってるみょん!」

「はぁい。」

と、二つの大荷物を持ち直し、えっちらおっちら運ぶ。

食料庫(?)に妖夢指導の元、中身を放り込み戻ると、霊夢と魔理沙が戦っていた。

「霊符『夢想封印』!」

「儀符『オーレリーズサン』!」

色とりどりの光弾がぶつかって光る。

「へ?へ?へ?へ?何やってんですか?あの二人・・・止めなくていいのですか?」

「いいみょん。あれは弾幕ごっこだみょん!」

「弾幕・・・?」

「妖怪がこの幻想郷を壊さないように作られたゲームのようなものみょん。私も持ってるけどスペルカードを使って妖怪や人間が戦うんだみょん。」

「へぇ・・・まぁ、僕はスペルカード?を持ってませんからね・・・」

「そうかみょん・・・あぁ!そうそう!手合わせ!」

「・・・忘れてくれたらよかったのに・・・」

と、ため息をつく。

「おーい!魔理沙ぁー!霊夢ぅー!一旦やめてみょーん!」

「ん?もう?わかったわ。」

「えー、もっとやりたかったのに〜」

と、霊夢はあっさりと、魔理沙は渋々「弾幕ごっこ」をやめた。

「さぁ刀を持ってくださいみょん!やりましょうみょん!!」

「ちょっと待って。真剣でやるんですか!?ここは木刀の方が・・・」

「いいや、真剣でやるみょん!」

と妖夢は大太刀小太刀(楼観剣と白楼剣だったか)を引き抜く。

「はいはいわかりましたよ。そのかわり、怪我しない程度でお願いしますよ。」

と、義縁はその横を通り抜け縁側に立て掛けた『戯厭』を掴む。

ゆっくり『戯厭』を引き抜く。その刃にダマスカス鋼のような紋様が浮き出てきた。

義縁は『戯厭』を右手で持ち、その鞘を左手で逆手持ちし、妖夢と対峙した。

「どっちも頑張れー!」

と、魔理沙の声が聞こえる。

「てえぁぁぁぁ!!!」

先手は妖夢が取った。楼観剣と白楼剣による連撃。それをなんとか『戯厭』で受けて防ぐ。しかしじりじりと後退させられる。

「はっや・・・」

「どうしたのかみょん!打って来なさいみょん!」

と、妖夢は一旦バックステップで距離を取り、突進する。義縁はその刀を『戯厭』で止め、妖夢の右脇腹に鞘を叩き込む。

「ぐぇっぷ。」

妖夢は奇声をあげて転がる。

「・・・」

「やるみょん。でもまだまだみょん!」

と、すぐに立ち上がり向かってくる妖夢。

「・・・」

義縁は黙ったままであった。ただ彼の瞳孔がきゅっ・・・と狭まった。鞘を捨て、『戯厭』を持った右腕を大きく引く。

「む・・・?」

その行動に怪訝な顔をした。

彼はボソリと言った。

 

「・・・虚斬(ウロギリ)

 

「・・・っ!!!」

妖夢が何かを感じたのか突撃を止め、真横に飛び、転がる。

義縁は引いた右腕を後ろから前に振り抜いた。

刀身がぐにゃんと曲がったように見えた。

そのしなりがまっすぐに戻った一瞬後、地面が裂けた。それはもうメリメリと。

「うぇえ!?」

「何!?」

「え?」

と、三人が驚く中、

「あらあらぁ、すごいわねぇ」

と、幽々子が呑気に言う。

「コォォォォ・・・」

義縁は息をゆっくり吐き、剣道で言うところの脇構えを取って妖夢の方を向く。

「ちょ・・・ちょちょちょ!わかりましたみょん!やめましょう!怖い怖い!」

妖夢はビビりたおしているが義縁はじりじりと進む。

「そこまでよ。二兎咬君。」

霊夢がいつのまにか割って入っていた。手に持ったお祓い棒の先を義縁に向ける。

「妖夢を斬り殺すなら容赦しないわ。それが二兎咬君でも魔理沙でもね。魔理沙が妖夢のようになったとしても同じよ。」

目が本気だった。冗談抜きで義縁をぶちのめす気である。

義縁はその棒の先をしばらく見つめていたかと思えば、パタリと倒れた。

「おい!二兎咬君!?」

「あら?ビビらせすぎたかしら?」

「そんなこと言ってないで運べよ!」

 

 

その様子を木の上からやはり見ていた人間がいた。いや、人間と言っていいのかはわからない。なぜなら全身黒い甲冑で身を包んでいたからだ。面頬の奥の目さえ見えない。その鎧は太い鎖で巻かれ、所々南京錠で留めてある。

「・・・なるほど。アレか・・・拙者から見てもいい太刀筋であるな。」

低い声の独り言が甲冑から聞こえる。

「しかし、ヴィザ殿のいうとおりまだ足りぬ。強さを得るには試練が必要であるな。」

と、鎧武者は鎖についたその和風な身なりとは合わないえらく近代的な南京錠のようなものを一つ外した。

「今回はこれでよかろう。死ぬではないぞ?」

と、鎧武者はその南京錠のようなものをその場に投げ捨てると、枝へ枝へ飛んで消えた。

 



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8・髑髏〜skeleton〜

 

「ふぅ・・・なんなんだよもう・・・」

ぶっ倒れた義縁をなんとか寝かせて一息ついた魔理沙。

「わからないみょん・・・いきなり・・・」

「確かに途中から様子がおかしくなったわね。」

「ヒートアップしちゃったかもねぇ?」

幽々子だけが呑気なことを言う。

「それにしても・・・不思議なのはこの刀もだみょん。」

と、妖夢は手に持った『戯厭』を引き抜く。白銀の綺麗な刃が現れる。

「二兎咬さんが使ってた時はなんか木目のような模様が出ていたような気がするみょん。それに・・・」

と、『戯厭』を隈なく見る。

「あれだけ刀の連撃を受けて、さらにあんなに乱暴に地面に叩きつけてもヒビ、欠けすらないみょん。いくら刃に使われてる鋼が硬いと言ってもあんな使い方したら欠けくらいつくみょん。」

と、訝しげに言う妖夢。

「まぁいいんじゃない?二兎咬君についてはほとんどわかってないし。」

「まぁそうだな。まだ数日しか経ってないしな。」

と、笑う霊夢と魔理沙。

「そんな問題ですかぁ!?」

と、少し呆れた妖夢。

「ぐ・・・ぐぇ?」

義縁が目を覚ました。

「おーい。大丈夫か?」

「大丈夫ですから僕の頭の上に顔を出さないでください。危ないですよ。後髪の毛がくすぐったいです。」

「あぁごめんごめん。」

と、魔理沙が引いたのを見てから義縁は立ち上がった。そして妖夢の前まで進み、膝を折り手を地面に付け、頭を地面にこすりつけた。いわゆるジャパニーズ土下座だ。

「すみません。魂魄妖夢さんをあわや斬り殺してしまうところでした・・・」

「い・・・いやいや!私も無理言ってすみませんみょん・・・。だから土下座までしなくていいみょん!」

「いえいえ・・・」

と、謝り続ける義縁。

「それはそうと二兎咬君。あの技はどうやって出したの?」

霊夢の問いに対して義縁ふるふると首を振る。

「やっぱりね。多分二兎咬君が記憶を失う前に覚え込んで体に染み付いた技なのでしょうね。記憶を失った後も歩けるなと同じね。」

「・・・」

「まぁ、人を斬らなければ大丈夫じゃないか?」

「そうね。どうしようもないからね・・・」

と、議論していると

ガゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ン゙!

と、轟音が響く。

「何事!?」

「外だみょん!」

「行くよ!」

と、三人は飛び出して行く。義縁は少し呆気にとられたが、すぐに我に返り、三人を追いかけた。

とはいえそれほど走ることもなかった。みんな庭に出てすぐのところで立ち止まり上を見上げていた。

「みなさん・・・どうしました?」

「上。見てみろよ・・・」

「上?」

義縁が上を見上げると巨大な白い棒のようなものがあった。それが太い芯のような棒にくっつくように12対。さらに上の方で分岐しぶら下がっている。芯の一番下の先は森の奥で見えない。一番上の先は尻切れトンボのように途切れていた。

「これって・・・」

「・・・人骨だみょん・・・」

「いや、デカすぎないか?」

「それに怨念が強いみょん・・・」

そんなことを言っているうちに巨大な人骨の腕に当たる所が動いた。その骨の指でつかんだのは白く大きい玉。骨自身の頭蓋骨だろう。それを芯・・・いや背骨の先に乗せ、ちょうどいい位置を探るように頭蓋骨を調整する。さらに全体の調子を確かめるようにカラカラと音を立てながら体を動かし、最後に

[ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!]

と、悲鳴のような叫び声を上げた。

「うるさ!」

「うぅ・・・」

「・・・なんなのぜ?あれ?」

「・・・ガシャドクロ・・・?」

「へ?」

「僕の家が元々八雲紫さんが倉庫にしていたからかなんかの本がたくさんあって、それを暇つぶしに読んでたんだ。その中に出てきたやつと似てる・・・」

「まぁガシャドクロでもなんでもいいわ。ここが危ない。迎撃するわよ!」

「・・・わかったのぜ。」

「わかったみょん!」

「・・・」

 

 

ガシャドクロ。

昭和中期に創作された、埋葬されなかった死者達の骸骨や怨念が集まって生まれる、巨大な骸骨の姿をした日本の妖怪。

歌川広重の浮世絵『相馬の古内裏』に描かれた巨大な骸骨をモデルにしていると言われる。夜間にガチガチという音をさせながら彷徨い歩き、生きている人を見つけると襲いかかり、握り潰したり、食い殺すなどと言われている。

 

 

ガシャドクロは右腕を振りかぶると、ただ単純に振り下ろす。しかし巨大が故の威力がある。

「下がって!多分あれは怨念の塊、なら!」

と、迫り来る隕石にも似た拳に札をいくらか投げつける。紙でできたその札は矢のように飛び、拳に当たってスパークを放つ。ガシャドクロの拳は弾かれたが、大してダメージが入った様子もない。

「・・・チッ!中身の怨念の量が多すぎる!これじゃジリ貧よ!」

「どちらにしろここじゃ白玉楼が壊されるみょん!!どうするみょん!」

「壊される前に叩く!」

「言うと思ったぜ!二兎咬君は下がって!私たちがやる!」

「いいや、僕も行くよ。やれることだってあるさ。バックルもある。」

「・・・わかったわ。やるわよ!」

「おう!」

「みょん!」

「・・・!」

4人は巨大骸骨の討伐に乗り出した。

 



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9・分裂〜division〜

「修羅剣『現世妄執』!!」

「符の一『夢想妙珠連』!!」

「星符『ドラゴンメテオ』!!」

斬撃や光弾、レーザーがガシャドクロを襲う。尺骨と橈骨、腓骨と脛骨、そして肋骨が焼かれ、斬られ、砕かれた・・・が、すぐに黒いモヤのようなもので修復される。

「チクショウ!なんだよこれ!」

「あの骨の中の怨念が体を再編成してるの!妖夢の刀でも全部成仏させるのは多分不可能よ!」

「『白楼剣』は斬れば迷いを断つけどあいつら全然迷ってないっぽいみょん!暴れることが全てというか、あの骸骨になるためだけに生まれてきた魂というか・・・」

「どうでもいいのぜ!とりあえず爆発四散させるのぜ!」

「・・・あぁ。」

義縁はガシャドクロの足元を走る。

「・・・『ウロギリ』・・・!」

『戯厭』を振り抜き足を斬る。

だが、さっき地を割らほどの斬れ味は出ない。せいぜい腓骨に傷をつけた程度だ。

「クソ・・・どうやったんだ・・・僕は・・・『昔の僕』は!!」

オ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ン゙!!!

ガシャドクロが吠えた。霊夢たちは風圧で吹き飛び、白玉楼の壁にヒビが入った。

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!白玉楼がぁぁぁ!!」

「あぁもう!!ウザい!吹き飛ばしてやらぁ!」

魔理沙がミニ八卦炉を構え直す。

「ちょっとま・・・」

「恋符『マスタースパァァァァァク』!!」

義縁がいることを忘れてレーザーをぶっ放す。

ガシャドクロの肩から腰へ貫くように吹き飛ばす。

「ちょっと!あっぶ!」

「あ、すまんすまん。」

「もう・・・まぁいいですけど・・・」

躓きかけながら奔る義縁はバックルを腰に嵌め、魔理沙のカードを挿入する。

 

TOUHO RIDE! マリサ!!

 

八卦モチーフのエンブレムに突っ込み、黒髪の少年は金髪の少女に変身する。『戯厭』が変化した箒にスケボーのように乗る。

「これ男の僕が女の霧雨魔理沙さんになるのってどうなんですか。」

「気にしてないのぜ。てかそのバックルどんな原理で男を女にしてるのぜ?」

「わからないよ!というか霧雨魔理沙さん聞こえるの!?」

「魔理沙が二人!?増えたみょん!?」

そんなこと言っている間にもガシャドクロの傷は癒える。

「あの復活能力頭おかしいでしょ!あれじゃ倒せないでしょ!」

「問題は中身の魂の多さ・・・。博麗霊夢さんや魂魄妖夢さんにも対処しきれない多さ・・・」

 

SPELL RIDE! 魔空『アステロイドベルト』!

 

魔理沙の姿で『戯厭』が変化した箒に乗り、光弾をばら撒きながら考える義縁。

「ともかく・・・攻撃しまくるしかないみょん!人符『現世斬』!!」

「そうだね。少しづつでも数を減らさないとね。宝符『躍る陰陽玉』!」

「まぁそうだな!光符『アースライトレイ』!」

三者三様に技を放つ少女達。

「・・・」

義縁は何か思いついたのか、ホルダーから一枚カードを引く。絵柄は人型の影が分裂しているような感じである。義縁がある時、興味本位でホルダーからカードを取り除こうとした時に見つけたカードの1つだ。(本来の目的は28574枚目あたりで数えるのをやめ、それからしばらくしてカードを引き抜くのもやめてしまった。)

「試してないけど危急だ。大丈夫。死にはしないはず!」

そう言ってそのカードをバックルに装填する。

 

STRANGE RIDE!

 

その時手足による攻撃をしていたガシャドクロが口を開き、紫の人魂を多数吐き出した。

人魂は3人を襲う。一体一体は弱くとも、それが何十ともなると厄介になる。

「く・・・邪魔!」

「なんだこいつら!?しっしっ!あっち行け!」

「人魂!?斬っても斬っても湧いてくるみょん!」

ガシャドクロは人魂に気を取られている3人のうち、妖夢に狙いをつけたようだ。引いた右腕を横振りに振る。

「危ない!!」

義縁はバックルを戻す。

 

DIVISION!

 

「みょん!?うわぁぁぁ!!」

妖夢が気づいた時にはもうすぐそこまで迫っていて・・・と、横から誰かに引っ張られ、ガシャドクロの腕は空ぶった。

「あ・・・ありがとうみょ・・・みょん?」

妖夢は引っ張った人間・・・魔理沙(義縁)に疑問を持った。

確かに後ろにいるのは魔理沙(義縁)だが、本物の魔理沙を除いても魔理沙がもう一人ガシャドクロの足元を走っている。

「なるほど・・・分裂の効果・・・これなら・・・」

「何ぶつぶつ言ってるみょん?」

その時、ホルダーからカードが何枚か吐き出された。まるで、前の魔理沙の時と同じように・・・

義縁はそのカードを見る。白髪に黒いリボンをつけた少女。妖夢のカードだ。

「・・・タイミングがいい。力押しだけどなんとかなりそう。協力してください。魂魄妖夢さん?」

「・・・?わかったみょん!」

それを聞きながら、妖夢のカードを装填する。

 

TOUHO RIDE!

ヨウム!

 

頭上に光る刀が大小二本、白い人魂と共にクルクルと円形に回っていた。それが下に降りてくる。義縁の周りをまわりながら下りると姿が変わる。目の前の少女と同じ姿になる。

「みょ!?わ・・・私!?」

妖夢が驚いているのを横目に変化は続く。

さっきまで手に持っていた魔理沙の箒(『戯厭』)が2つに分裂。黒塗りの大小二本の刀に変わる。『白楼剣』と『楼観剣』だ。

「私の刀!?なんでぇ!?」

「わかりませんよ・・・でもこいつと分裂を使えればなんとかなりそうだ。案としては安直だけどね。」

義縁はぶつぶつと何か考えていた。

 

         *

 

ガシャドクロを呼び出した鎧武者は遠くでその様子を見ていた。

「・・・やはり使いこなしているわけではないであるか。まぁ仕方がないのである。」

両側の腰に差した長刀の柄には血のようなもので汚れた包帯のようなものが巻かれ、その余った端がゆらゆらと風に揺れている。

「・・・全く『主』は迂遠なことをする。さっさとあいつに力を与えて『計画』を押し進めれば良いのである。」

「あらぁ?武士のお方?」

後ろから声をかけられた。鎧武者が振り返ると亡霊を連れた水色の服の女性がいた。幽々子だ。

「む?こんにちは。お嬢さん。」

「お嬢さんねぇ・・・それよりも貴方何をやっているの?『アレ』を出したのは貴方?ならやめてちょうだい。白玉楼が壊れてしまうわ。」

と、幽々子はガシャドクロを指して柔らかく言う。

「・・・拙者はただの見物人である。『あの骸骨』のことは知らぬ。すまぬな。」

「いいえぇ。ごめんなさいねぇ。」

鎧武者は去っていった。

「・・・生きた人間がなかなか来れないこの場所に死んではない変な気配の方が見物ねぇ?」

幽々子は扇子を口に当てながら微笑んだ。しかしその目は笑っていなかった。

 



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10・半霊のワルツ〜Waltz of half spirit〜

ガシャドクロは未だに自分がどこにいるかわからなかった。いつだったか『鎧武者』につかまって暗いところに閉じ込められ、いきなりよくわからない場所で解放されたのだ。しかしそれでもガシャドクロはわかる。さっきから周りをぶんぶん飛び回ってチクチクしてくるコバエの中の一匹。あいつに対してだけガシャドクロの警戒信号がマックスで鳴り響いている。早く叩き潰さないとまずい。そう思えた。

その時、顎に違和感が走った。ガシャドクロが目・・・があったところで燃えている鬼火を動かすと黄色いコバエがレーザーを当ててきた。正直痛くもないし万が一砕けても以前に大量に集めた怨霊の数々を使って修復できる。だがうざったらしいのは変わらない。何か叫んでいるが小さすぎて聞こえない。仕方ない。あちらから潰すことにする。ガシャドクロはその黄色いハエを叩く。しかしぶんぶん動き回って当たらない。あぁうざい。しかもコバエが移動し始めた。潰すなら徹底的に潰さなければ。のっそりと周りの木々を踏み潰しながら追いかける。クソが。ぷんぷん飛んでんじゃねぇ。ガシャドクロは口から瘴気を吐いたり腕を振り回しながら追う。頭に血が上っている。上る血はないが。ともかくガシャドクロは今冷静さを欠いていた。長い間捕まっていて鬱憤が溜まっていたし、いきなり訳もわからない場所を放り出されてハエに纏わり付かれてイライラしていた。元からあまり頭の良い妖怪ではなかったが、イライラによりハエを殲滅させること以外考えられていない。しかし罠だろうとガシャドクロは気にしない。どのコバエがやばいかなんてもうどうでもよい。ただ昔のように暴れ回るだけだから。

 

 

「よっしゃついて来たぜ!次どうするんだ?」

「しばらく時間を稼いでください!白玉楼から出来るだけ離したいですし、こっちも用意に時間がかかります!」

 

STRENGE RIDE! DIVISION!

STRENGE RIDE! DIVISION!

STRENGE RIDE! DIVISION!

 

ガチョンガチョンとカード挿入と効果発動を繰り返す義縁。効果によって分身がどんどん増えていく。

「このくらいでいいか?皆さん!用意ができました!」

「わかった!」

「わかったわ。」

「魂魄妖夢さん!出番ですよ!」

「みょんみょん!」

合図とともに霊夢が封魔針をガシャドクロ足に投げ刺し釘付けにする。

 

TOUHO RIDE! ヨウム!

 

義縁が妖夢のカードで変身すると高く飛び上がる。同時に分身たちも飛んだ。しかしその数は2人3人程度ではない。数百、もしかすると千を超えているかもしれない。その分身たちと共に妖夢と義縁はガシャドクロを取り囲む。

「まぁ愚直ではあるけれども、数が足りなければ増やせばいいってね。」

と、呟きながら一枚のカードを挿入する。

 

SPELL RIDE! 幽鬼剣『妖童餓鬼の断食』!

 

「行きますよ。魂魄妖夢さん。」

「いつでも行けるみょん!」

2人(+α)は『白楼剣』と『楼観剣』を構える。

ガシャドクロはやっと己の危機に気付いたようだが、もう遅い。

「「幽鬼剣『妖童餓鬼の断食』!!!」」

2人(+α)が刀を振ると白い斬撃とそれから分裂した光弾が飛ぶ。それは大玉の花火のように光り輝く。義縁達くらいの大きさで俊敏に動けるのであれば逃れることは、万に一つの可能性だが、できるかもしれないが、ガシャドクロは高層ビル並みの大きさのある鈍重な妖怪である。来るとわかってても避けられない。

光弾と斬撃に当たってガシャドクロの中の怨霊が次々と浄化されていく。

「やぁぁぁぁぁ!!!『ウロギリ』ィ!!」

最後に義縁が頭の先から『白楼剣』で真っ二つに斬る。

オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!!!!

という断末魔を最後に、巨大な骨の怪物はバラバラになり、砕けて消えてしまった。

「・・・これも違う・・・のか・・・?わからないや・・・」

それを見た義縁は急に意識が遠くなり、やがて気を失ってしまった。

 

          *

 

『立て。』

男の声がする。義縁には聞き覚えのない声だ。

『立てと言っている。』

いつのまにか義縁はうつ伏せに倒れていたようだ。頭を動かしてみると草鞋を履いた足が見え、義縁はさらに目線を上に向ける。和装の男だった。ただ、顔は逆光で見えない。男の右手には木刀のようなものが握られている。

「だ・・・誰ですか?」

男は答えない。今更気づいたが倒れているのは森の中ではなく真っ白な何もない空間であった。そばに落ちている木刀は自分のものだろうかと義縁は思う。

『立て。グズグズするな。』

とだけ言って男は背を向けて何処かへ行ってしまう。義縁はそれを見ながらなんとか立ち上がろうとするが、また意識が薄れていった・・・。

 

          *

 

「おい!?二兎咬君!?おーい!起きろよー!朝なのぜー!?二兎咬くーん?」

「魔理沙。今は昼だしなんなら夕方になりかけてるわよ。」

「そうだったぜ。」

「気を失っているし落下したからあまり揺らさない方がいいかもだみょん。」

「う・・・うん?」

3人の少女がやいのやいの言っていると義縁が目を覚ました。

「・・・どういう状況ですか?これ?」

「気を失った二兎咬君をえっさほっさと白玉楼に運んだのよ。」

「いやそういうことではなくて。骨はどうなったんですか?」

「消えちゃったみょん。バラバラになって・・・」

「・・・そうですか・・・よかった・・・」

と、気が抜けたように言う義縁。

「でもなんであんなものがいきなり出てきたんだろう?」

「うーん。まぁよくあることだぜ。」

と明るく答えた魔理沙の言葉を聞いて

「よくあること・・・か。」

と、義縁はボソリと呟いた。

 

         *

 

「ふむ。ガシャドクロはやられたであるか。順調のようであるな。しかしあのお嬢さん。やはり捉え所のない人だ。」

と、鎧武者は感慨深そうに言う。

幽々子と会ったところから少し離れた場所から望遠鏡をのぞいて見ていたのだ。

「剣を交える日が楽しみである。拙者も研鑽を積まねば・・・」

『おいおい。何してんだ?髃樕ぐそく。お前も見物か?』

どこからか声がする。鎧の隙間からひらりと一枚の紙が出てきて、空中に止まった。紙が震えて音を発している。

「・・・ヴィザであるか。何用だ。」

『何用だじゃない。一旦集まれとの御達しだ。』

「・・・『あの方』であるか。オウとDr.エグゼはどうしているのであるか?」

『オウとエグゼにはもう連絡したしもう既に来ている。きていないのはお前だけだ。髃樕(グソク)。』

「それはすまないのである。すぐに行く。それと・・・順調であるぞ。」

『・・・そうか。ならいい。早く来い。』

とだけ言って紙は音を発しなくなりひらりひらりと落ちていく。それを髃樕は掴むとそのまま木々を伝って消えていった。その顔は面頬によって隠れていたが、いくらか嬉しそうであった。




はい、最近絵描きも始めた戯言遣いの偽物です。妖夢編が終わりました!(しばらく後書きを書かなかったのは話す内容がないから)最近書けていませんが頑張らないとなぁ、では、これからも『偽奏録』をよろしくお願いします!


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11・狂人4人〜four lunatics〜

「ふぁぁ・・・むにゃむにゃ。」

 

「立ったまま寝ないでください。眠いのはわかりますけどそんなに堂々と箒持ったまま立って寝ないでください。僕が処理に困ります。」

 

義縁はそう霊夢に言う。

 

義縁は白玉楼の時に決めたように毎朝博麗神社にお参りに行っているのだ。ただ、1人参拝客が増えようが霊夢は興味なさげだった。彼女が1人の時に神社でやることといえば適当にそこらを箒で払うかお賽銭箱を念入りに覗き込むか暇そうにぼーっとするくらいだ。

 

「わかってるわよ。うるさいわねぇ。お賽銭入れなさい?入れないと許さないから。」

 

「入れましたよ。そんなに怒らなくても・・・」

 

「あんたねぇ。初めここにきた時、参道の石畳に大穴開けたのとその杖頭に当てたこと忘れてないわよ!」

 

「いやあれは不可抗力・・・いえごめんなさい。」

 

とりあえず謝る義縁。

 

「ふん。お賽銭入れて弁償しなさい。そして暇だから付き合いなさい。」

 

「えー、ちょっと行くところがあるので・・・」

 

「バイト?そんなのいいのに・・・。まぁいいわ。ならさっさと行きなさい。くれぐれも妖怪には気をつけなさいよ。」

 

と、ひらひらと手を振りながら素っ気なく言う霊夢。

 

「相変わらずですね。わかりました。ではさようなら。」

 

「バイバイ。ふぁぁ・・・」

 

欠伸をふかす霊夢を横目に義縁は少し笑って大階段を下りた。

 

 

          *

 

「やぁやぁ。髃樕君?体調は大丈夫かね〜?見たところ安定しているようだねぇ〜?結構結構。」

 

「・・・ぎゃあぎゃあうるさいのである。Dr.エグゼ。拙者は無論大丈夫である。纏わりつくでないベタベタ鎧に触るでない!」

 

幻想郷某所。髃樕は白玉楼から移動し集合場所に着くや否や白衣の少年に纏わり付かれていた。

少年はピンクの髪に緑と紫のオッドアイ。白衣はダボダボで袖や裾がズルズル擦っている。白衣の下は黒のニットにグレーのチノパンを履いていた。

 

「そういうなよ〜全くつれないねぇ〜?僕ちゃん医者だからさ〜そういうの気になんだよねぇ〜。そう言わずにさ〜診せろ診せろ診せろよ〜。」

 

「うざいのである。」

 

「え〜ケチ。」

 

「エグゼバイアス。そんな纏わりついてやんなよ。」

 

と、口を尖らせるDr.エグゼの後ろから近づく人間がいた。オウだった。相変わらずの露出度の高い彼女は軽々とDr.エグゼを抱き上げる。

 

「オウレアか。だから僕ちゃんのことをエグゼバイアスと呼ぶんじゃないよ。Dr.エグゼと呼びなさい。そして抱き上げるんじゃない!!」

 

「あんたも(アタシ)のことをオウレアって呼ぶじゃない。かーわいーねぇー。」

 

オウは抱き上げたDr.エグゼに頬を擦り付けてご満悦な様子だ。オウの大きく膨らんだ胸にDr.エグゼの後頭部が沈んでしまっていた。そんな状態のDr.エグゼは髃樕が来た時とは打って変わってげんなりとしていた。

 

「・・・」

 

それを髃樕が無言で見つめていた。

 

「まぁまぁそう騒ぐなお前たち。やっと我らが集まったのに早速喧嘩するんじゃないよ。」

 

後ろからパンパンと手を叩く音がする。それと同時にカチカチと金属同士が打ち合わせる音もする。三人(?)が振り向くとボロボロのローブを羽織った男(?)がいた。顔はフードによって見えず、ローブから出た手の指には血の色をした宝石がついた指輪がはまっていた。

 

「・・・ヴィザ。お前いつからいた?」

 

「最初からだよ。気がつかなかったお前らが悪い。そうだろう?オウ?・・・さてさて?『アレ』はどうだね?髃樕?」

 

「・・・順調だろう。『計画』に支障はない。打ち合いが楽しみだ・・・」

 

と言いながら髃樕はクツクツと笑う。鎧が揺れてカシャカシャ音を立てる。

 

「まぁまぁそう興奮するな。いつかはあるだろう。とりあえず俺と髃樕はちょっかいをかけてみた。俺も大丈夫だとは思う。『あの方』を困らせることはないだろう。」

 

「で?『あの方』はいつ来るのかい?エグゼバイアス?」

 

「Dr.エグゼと呼びなさい。心配するな。色々あるが必ずおいでになる。僕ちゃんが保証するよ。」

 

「あーそうかい。ならいいのよ。」

 

「まー、報告がないなら解散だけどどうする?」

 

「てめー、クソ適当に(アタシ)ら集めたな!?こんな話程度なら通信機でよかったじゃねぇか!」

 

「いーじゃん。何日かに一度くらいは情報を共有したり親睦を深めるのもいいじゃないか。」

 

キレ散らかすオウの言葉の暴力をのらりくらりとかわすヴィザ。

 

「ヴィザールさ。僕ちゃん達は『あの方』に仕えてるとはいえ目的も信条も全く違うのさ。僕ちゃんは色々あって医者稼業も研究もやれなくなったし、そんな時に『あの方』に誘われたから来ているだけだよ。『あの方』に感謝はあるしそれなりに尊敬してるけど、君たちのことは〈検体〉としか見てないからね。君たちのような珍しい〈検体〉はなかなかないよ?だから馴れ合いはしないよ?ベタベタはするけどね?」

 

「・・・全く面白い奴だな?エグゼバイアス。」

 

「君ほどじゃないよヴィザール。」

 

「「・・・」」

 

双方黙り込む。

 

「まぁいい。話はそれだけだよ君たち。各々『計画』を進めるなり『アレ』にちょっかいをかけるなり自由にするがいい。」

 

「ヴィザが(アタシ)達を取り仕切ってんのかはわからないけど、そういうなら自由にさせてもらうわ。じゃあね。」

 

と言って、オウはDr.エグゼを下ろすと去っていった。

 

「拙者も行くとしよう。では御免。」

 

髃樕もオウに続いて去っていった。

 

「ふむ。じゃ、僕ちゃんも行くよ。・・・そういえば今『何枚』だね?」

 

「二枚だろう。なに、まだ始まったばかりだ。のんびりしようや。」

 

「・・・そうだね。『我らが主のために』。」

 

「『我らが主のために』。」

 

そう言ってDr.エグゼはポテポテと歩いて暗闇に消え、それを見送ったヴィザは地面に沈むように消えた。

 

         *

 

「ふぅ・・・疲れた・・・。働くのはいいね。なんでかはわからないけど。」

 

夕方、バイトから帰った義縁はゴロリと横になった。縁側を見ると、ちょっとした庭があり、その先には森が広がっている。

 

「・・・僕1人住むには広すぎるなぁ。まぁ住めるだけありがたいんだけど・・・。面白い本もあるし。」

 

と後ろの本の山を見る。殆どが和本だが、いくつか洋本が混ざっている。

 

(・・・妖怪・怪異・伝説・怪談・奇譚・説話などなど・・・すごい量だな・・・八雲紫さんも集めるのも大変だっただろうに・・・。ん?)

 

義縁はそこまで考えてから声に気づいた。庭の方・・・正確には森の中からキャッキャッという子供の声が近づいてくる。

 

「・・・なんだ?子供?もうそろそろ子供は家に帰る時間じゃ・・・?」

 

一応『戯厭』を手に取り、縁側に出る。庭の周りに植えられた植え込みの一角がガサガサと音を立てる。

 

「・・・あの・・・そこにいるのは・・・」

 

と、声をかけようとしたその時、植え込みから何かが転がり出た。

 

「うぇ!?」

 

「つーかまーえたー!」

 

「くそー!あたいが捕まるなんてー!」

 

転がり出たのは2人の少女だった。1人は薄い青でセミショートの髪、頭に青いリボンをつけていた。青と白のワンピースを着て、首元に赤いリボンを結んでいた。そして、背中から氷の結晶のようなものが3対浮いていた。もう1人は緑の髪で左側頭部にサイドテール揺れている。他方より色の薄い青と白のワンピース。背中からは虫か鳥かわからないが、そういうような羽が一体ついていた。

 

「あのー・・・」

 

「あはは!私の勝ちだね!チルノちゃん!」

 

「くそー!さいきょーのあたいが捕まるなんてー!次は負けないぞ!だいちゃん!!」

 

「ええと・・・お嬢さん方?」

 

義縁はキャッキャッとはしゃいでいる2人に恐る恐る声をかける。

 

「ん?誰だ?お前?」

 

「チルノちゃん!初対面の人に『お前』って言っちゃダメだよ?」

 

「あぁ・・・えっと僕はニ兎咬義縁。最近ここに住み始めたんだよ。君たちは?」

 

「あたいはチルノ!さいきょーなんだよ!!」

 

「私は大妖精です。私もチルノちゃんも霧の湖に住む妖精です。」

 

「霧の湖・・・ねぇ?近いのかい?」

 

「あっちの方ですよ。」

 

と、大妖精は森の奥の方を指差す。

 

「ふぅん・・・チルノちゃんに大妖精ちゃんだっけ?もう暗くなるからお家に帰りなさいよ?」

 

「あたいを子供扱いするな!!お前よりも長く生きてるんだぞ!!」

 

顔を真っ赤にして怒るチルノ。

 

「あぁごめんなさい。ええと・・・お菓子食べる?」

 

「食べるー!」

 

「わーい!」

 

2人は義縁が差し出したおかき(時々様子を見にくる紫から貰った)を子供のように無邪気に喜んで食べ始める。

 

「むぐむぐ・・・美味しい!お前いい奴だな!」

 

「それはどうも。」

 

「すみません、義縁さんでしたっけ?質問していいですか?」

 

ニコニコでおかきを頬張るチルノを眺めている義縁に大妖精が声をかけた。

 

「貴方・・・何者ですか?人間?妖怪?よくわからないです。」

 

「僕もよくわからないんだよね。記憶が飛んじゃっててね。」

 

「そうですか・・・ならいいです。帰りましょうチルノちゃん。」

 

「んー?いいよー!バイバーイ!」

 

「あぁ、バイバイ。」

 

去っていく2人の妖精に手を振って見送る義縁であった。



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12・銀貨の手品師〜magician of the silver coin〜

「チルノちゃーん!遊ぼー!」

 

「だいちゃん!わかったよ!!」

 

 女の子たちの楽しそうな声が聞こえてくる。昨日義縁の家に現れたチルノと大妖精の声だった。ただしそこは先が全く見えないほど霧がもうもうと立ち込める湖であった。霧の湖。その立ち込める霧からそう呼ばれている場所だ。チルノと大妖精はそこあたりに住んでいるのだ。 

 大妖精が呼びかけると、チルノが根城としているかまくらから

 

「だいちゃん!何して遊ぶ?かくれんぼ?鬼ごっこ?」

 

「先にリグルとかルーミアを探そうよ!」

 

「そうだね!!だいちゃん頭いい!」

 

「そうかな⋯⋯えへへ⋯⋯」

 

 そう今日の予定を話し合っていると、

 

ピィィィィン⋯⋯ピィィィィン⋯⋯

 

という音が聞こえてきた。金属の板が弾かれるような高い音。その音がだんだん大きくはっきりしてくる。音源が近づいてきている。

 

「なんだろうねチルノちゃん⋯⋯」

 

「ちょっと見てくる!待っててだいちゃん!」

 

「まっ⋯⋯待って!!私も⋯⋯行く⋯⋯!」

 

「ならあたいの後ろにいて!」

 

「わかった!」

 

 そんなこんなで前を歩くチルノの青いスカートの端を大妖精が掴みながら付いていく形で音源に近づくことにした。

 近づくごとに金属音に

 

ザッザッザッザッ⋯⋯

 

という足音も混ざってきた。

 やがて霧の中に黒い人影が見えた。金属音もその人影の主から響いているようだ。

 

「誰かいるよ⋯⋯?どうする?」

 

「声をかけてみようよ。おいお前!!何やってるんだ!?」

 

「ちょっと!失礼だよ!!」

 

「あん?ガキか?」

 

 チルノが声をかけると人影が反応した。ザッザッとさらに近づく音がして、黒い人影がくっきりと姿形が見えるようになった。

 とんでもなく露出の激しい服を着た茶髪で赤っぽい目の女だった。胸にサラシを巻きショートパンツを履いていて、その上から少し長めの革のコートを羽織っていた。腰には幅広のサーベルとリボルバーと何かが入って膨らんだ麻袋をくくりつけている。その手は銀のコインを弄んでいた。

 

「⋯⋯ガキってなんだ?」

 

「んと⋯⋯子供って意味。ちょっと乱暴かな⋯⋯?」

 

「なんだと!!あたいはチルノ、だいちゃんはだいちゃんっていう名前があるんだ!!失礼なやつめ!名前はなんだ!!」

 

「チルノちゃんも失礼だよ!!後私の説明なってないよ!」

 

「あ?あぁ⋯⋯悪かった悪かった。(アタシ)はオウレアっていうんだよ。手品師(マジシャン)をやってるんだ。」

 

「マジシャン?」

 

「手品をする人のことだよ。」

 

「まぁ見た方がいいでしょう?」

 

と言ってオウレアは手に持った会話を見せる。一面に大きく翼を広げた鳥、もう一面にX(バツ)印が彫り込んである不思議なコインだった。

 オウレアはそれを見せながら腕を左右に振るとコインは無くなっていた。

 

「おぉ!?お前何をやったんだ!?」

 

「すごい⋯⋯!」

 

「こんなものじゃないよ。」

 

 そう言いながらオウレアは次々にマジックを見せた。手からメダルを出現させる、2人に持たせたメダルの裏表を当てる、メダルを浮かせる、二つのメダルを一体化させるなどなど⋯⋯さまざまなマジックを見せた。

 

「すげーなお前!次は次は?」

 

「次はだなぁ⋯⋯」

 

 様々なマジックを見て興奮してせがむチルノを見てオウレアはニィッと笑った。そしてチルノと大妖精の額を指先で小突いた。

 

「あたっ⋯⋯」

 

「うわ⋯⋯」

 

 小突かれて少しのけぞった後、力が抜けたように棒立ちになった。目から光が消えていた。まるで人形になったかのように。

 

「記憶消失マジックさ。まぁ君たちは見れないだけどね。」

 

 それを見ながらオウレアが笑う。

 

「今(アタシ)らの姿を覚えられると困るんだよ。これは(アタシ)のミスね。あーやっちゃったやっちゃった。これから仮面でもかぶるかね?こいつらが単純でよかったよ。(アタシ)はマジシャンではないんだけどね。能力でそう見せかけることはできたからよかったんだけどね。⋯⋯あれ?こんなキャラだっけ?まぁいいや。さぁて⋯⋯」

 

 オウレアはぶつぶつと独り言を呟くと2人に手を伸ばす。額を上から下へなぞるとコインの投入口のようなものが生成される。

 

「何が出るかなぁ?」

 

 ニヤニヤしてそんなことを言いながらその投入口をデコピンで弾いた。すると、投入口の穴からコロンとコインが出てくる。大妖精からは銀のメダル、チルノからは薄く発光した銀のメダル。それを見てさらに口角を上げる。

 

「ほーう?なるほど⋯⋯この子⋯⋯見込みがあるなぁ!メダルを『増やす』にちょうどいい。記憶は返さねえがこれをくれてやる。」

 

 2枚の銀のメダルを仕舞うと代わりに金縁のコインを取り出す。色は青。サメのようなシャチのようなそういう魚の絵柄がついている。

 

「どのコインもガンガン使うし『増やし』たいんだよなぁ。この子には『水のコイン』を入れよう。相性が良さそうだ。」

 

 そんなことをぶつくさ言いながらチルノの投入口にコインを入れた。チャリーンという音と共にコインが消え、そのあと投入口が引っ込んだ。大妖精のものは何も入れないまま引っ込めた。

 

「よし、君たちは(アタシ)を見ていない。いいね?あとよろしく頼むよ?チルノちゃん?」

 

 そう言ってオウレアは銀のコインを弾く。クルクルと回って飛ぶコインに手を伸ばすとオウレアの姿がブレた。そして手からコインに吸い込まれるように消えた。オウレアを飲み込んだコインも地面にぶつかると同時に銀の粒子となって消えてしまった。

 

 

 

 

「⋯⋯あれ?」

 

「⋯⋯んぁ?」

 

 しばらくして2人の意識が戻ってきた。

 

「⋯⋯私たち何してたんだっけ?」

 

「んー⋯⋯わかんない!そんなことより早くルーミアたちを探そうよ!」

 

「⋯⋯うん⋯⋯そうだね!」

 

「急ごう!早くしないと日が暮れちゃ⋯⋯う?」

 

チャリーン!チリチリ⋯⋯

 

 チルノが足を踏み出した時そんな音が聞こえた。

 

「⋯⋯あたい何か落としたかな?」

 

「ええと⋯⋯これじゃない?」

 

 大妖精が少し地面を探ってみるとあるものを見つけた。一面に何かの魚の絵、もう一面にX(バツ)印が彫られた銀色のコインだった。

 

「⋯⋯チルノちゃん?拾った覚えある?」

 

「⋯⋯ないよ⋯⋯?こんなもの知らない⋯⋯河童のにとりに渡せば喜びそうだ⋯⋯ん?」

 

チャリーン!チリチリ⋯⋯

チャリーン!チリチリ⋯⋯

 

 また落ちた音がする。今度は数が増えている。チルノはすごく怪訝な顔をする。

 

「あたい動いてないよ?でもまた落ちたよ⋯⋯?今度はどこに⋯⋯」

 

「チ⋯⋯チルノちゃん!!足!!」

 

 大妖精が怯えた顔でチルノの足を指差す。

 

「どうしたの?だいちゃん?」

 

「足!足見て!」

 

 チルノは首を傾げながら頭を下げ、足を見た。そして大妖精が怖がっていた意味を知る。

 コイン、コイン、コイン、コイン⋯⋯。チルノの両足がさっきの銀のコインに覆われていたのだ。しかも未だに増えているようで、

ジャリ⋯⋯ジャリ⋯⋯と金属が擦れるような音を立てながら上へと侵食している。

 

「うぉあ!?なにこれ!?」

 

「チルノちゃん!動かないで!痛かったらごめん!!」

 

 恐怖を友人のために無理矢理押し込めた大妖精はチルノを襲うコイン群に向かって弾幕を放った。そのグリーンに輝く光弾がコイン群を破砕する────大妖精はそのつもりだった。しかしそれは甘かった。光弾が近づいてきたのを察知したのかコイン群が前へ迫り出し、銀の壁となって光弾を防いだのだ。

 

「そ⋯⋯そんな!!チルノちゃん!!」

 

「多分あたいでも無理だと思う⋯⋯。助け、霊夢か魔理沙か誰でもいい。とにかくだいちゃんは離れるんだ!!」

 

「でも⋯⋯!!」

 

「行って!!」

 

 尚も行こうとしない大妖精にチルノが厳しく突き放す。大妖精は泣きそうな顔をし、後ろを向いて走り出した。

 

「⋯⋯このやろ!!」

 

 それを確認したあと、チルノは能力を使ってつららを作り出し、コイン群に向かって何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も突き立てた。

 

「クソ!クソ!クソ!なんなんだよ!!」

 

 折れようが砕けようが能力で復活させて必死に突き立てる。

 しかし、氷がぶつかる音がやがてなくなり、そしてチルノの声も小さくなって消えた。

 

          *

 

 

「⋯⋯はぁ、いつも思うけど⋯⋯アクセス悪すぎじゃ⋯⋯ないですか?」

 

 息を切らし疲れ切った義縁は膝に手をついて息を整えていた。

 

「仕方ないじゃない。博麗神社はここにあるもの。」

 

 そんな義縁を横目で見ながら霊夢は涼しい顔で箒で掃除をしている。

 

「もっとこう⋯⋯スロープをつけるとか⋯⋯色々と⋯⋯できることは⋯⋯あると⋯⋯思います⋯⋯よ?」

 

「そんなの時間もお金かかるじゃない。そんなことやりたくない⋯⋯ふわわ⋯⋯」

 

「⋯⋯そうですか⋯⋯」

 

 

 呑気にあくびをする霊夢を見て諦めた義縁であった。

 

「まぁいいわ。茶でもいる?」

 

「珍しいね。いつもお金お金って言ってるのに⋯⋯」

 

「私は卑しい守銭奴じゃないわ。あとついでよついで。客が来たわ。」

 

 霊夢はそう言って空を仰ぎ見た。青く澄み切った空。そこに黒い点が一つついた。それはだんだん大きくなり人だとわかるほどまでに近づいた時、箒の先を上げ強引にスピードを落とすと強風を撒き散らしながら着陸した。

 

「よーっす!遊びに来たぜ!」

 

「魔理沙⋯⋯もうちょっと静かに来れないの?」

 

「霧雨魔理沙さん、おはようございます。」

 

「よう!義縁!霊夢!」

 

人影────魔理沙はにっこり笑った。

 

「魔理沙、あんた茶飲むでしょ?たまにあんたは勝手に飲んでるけどね。数は⋯⋯あうんはまだ寝てるし三つでいいわね、」

 

「お?ありがとうよ!義縁もこっちに来いよ!」

 

「あぁ⋯⋯はい。」

 

 魔理沙は霊夢に言われる前には既に縁側に座り、義縁は言われてから彼女とは距離を開けて座った。

 

「なんだよこっちに寄ればいいのに⋯⋯」

 

「それは⋯⋯うん?」

 

 魔理沙から目を逸らすように母屋の中を見た。そして三段の木のタンスの上に木の写真立てに入った写真を見つけた。それは朗らかに笑う幼い霊夢のような子供を巫女服の女性が抱いて微笑んでいる写真だった。巫女服の女性は黒髪のストレートロングに鷹のように鋭い目つきで黒目、子供を抱く手は傷だらけであり、頬にも古傷があった。

 

「⋯⋯誰だろう?」

 

「それ?私と母親よ。」

 

 義縁の疑問にお茶を入れて戻ってきた霊夢が淡々と答える。

 

「私が子供の頃、射命丸が撮ってくれたのよ。」

 

「あうんさんに射命丸さん⋯⋯当然だけど知らない人たち⋯⋯」

 

「すぐ会えるわよ。特に射命丸はもうそろそろ突撃取材が来るんじゃないかしら?むしろあのマスコミ烏にしては遅い方よ。」

 

「そうですか⋯⋯ところで、博麗霊夢さんのお母様は⋯⋯」

 

「消えたわよ。」

 

「あっ⋯⋯その⋯⋯ごめんなさい⋯⋯えっと⋯⋯亡くなられたではなく『消えた』?」

 

「そう。消えた。私がいくつの時だったっけね。一人前って言ってもらえた翌日にいなくなったわ。紫にも手伝ってもらって幻想郷中を探してもどこにもいなかったし多分死んでると思うわ。」

 

「⋯⋯ドライですね。」

 

「そう?でもやってられないのよ。割り切らなきゃ。」

 

 お茶を配る霊夢の顔はいつも通りだった。しかし、その声は少し寂しそうだったと義縁は感じていた。しかし、ここまでの交流で彼女にそういうことを言うと拳が飛んでくることが多い(ほとんど魔理沙が殴られている)ことを学んでいるので言わないことにした。

 それを悟られないように気をつけながらお茶を啜る。香ばしく美味しいほうじ茶だった。

 

「⋯⋯そうですかね。お茶美味しいです。ありがとうございます。」

 

「どうしたしまして。義縁君。」

 

「れ⋯⋯霊夢さん!魔理沙さん!助け⋯⋯ぁ痛!!」

 

 義縁が礼を言った。そんな時、彼らを呼ぶ声が博麗神社に響いた。その声の主は空を飛んでやってきたようだが、相当慌てていたようで鳥居の上部に足を引っ掛け頭から地面へと墜落した。石畳に顔面をぶつけズシャシャッと痛そうな音を立てる。

 

「あんた⋯⋯大丈夫⋯⋯?」

 

「大丈夫です⋯⋯そんなことよりって義縁さん!?」

 

「あ、大妖精ちゃん。昨日ぶり。チルノちゃんはどうしたの?」

 

「そうです!!チルノちゃんが!チルノちゃんがぁぁぁ!!!」

 

 大妖精はチルノの名を聞いて大泣きしはじめ、事情をなんとか聞いて動き出すまでに結構な時間を要することになった。




お久しぶりです。戯言遣いの偽物です。遅くなってすみません。ブーストかかるのに時間かかりました。多分これからも不定期になるのでごめんなさい⋯⋯。それでは、『偽奏録』をよろしくお願いします。


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