花のように可憐で… (Black History)
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『ヤンデレ』とタグにあるのですが、まだ最初のためヤンデレ要素少なめです。


・・最初から病んでる子なんてそうそういませんので…お許しください。


※作者に文才はありません。
それでも「私はいっこうに構わん!」という方は先にお進みください。


では、、どうぞ



 

 

 

―僕こと『市村翔太』と、幼馴染の『結城友奈』との出会いはごくごく普通のご近所関係から始まった

 

昔から家が隣だったため、園が休みの時は一緒に家の中で遊んだり、天気が良ければ外でも遊んだりした。

こう見えて友達はそこそこいるのだが、その中で一番遊んだり、付き合いが長いのは男女関係なく友奈だろう

 

 

「しょうちゃん~!あーそぼ!」

 

「うん!あそぼ~!」

 

 

家がすぐ隣なので多少遊ぶ時間が長引いても大丈夫だった。そのため、帰らないといけない時間ギリギリまでよく遊んでいた。

それに加えて時々ではあるが、友奈のお母さんの同意のもとでお泊まりをしたり、されたりもした。

 

その関係は小学校低学年まで続き、あの頃は本当に楽しかった。

暑い夏の日にはビニールプールで遊んだりしたし、寒くなってきたり天気が悪くなったりしても、家で二人という少人数ではあるがトランプをしたりもした。

 

「あー!またババさんだよぉ~!」

 

「ふっふ~。けいかくどうりー!」

 

「しょうちゃんめ~…やったなー!」

 

「えへへ~。きょうはかたせてもらうよ!ゆうな!」

 

 

…結局その日も友奈に一回も勝てなくて、数分ぐらい一人で落ち込んだのはいい思い出だ

 

 

 

 

そして月日はすぐに過ぎ、僕と友奈は小学校中学年になった。

 

中学年になってからは友奈のことを異性として見るようになり、お泊まりはもちろんのこと、休日等に一緒に遊ぶ…なんてことをするのも羞恥心が芽生えるようになり、ほとんどしなくなった。

 

そして、学校にもその影響は及んだ。

前まではよく同クラスの友奈と休み時間を過ごしていたりしていたが、それを見た同級生によるからかいが頻繁に起こるようになり、友奈と学校で過ごすことも少なくなっていった。

 

 

「翔ちゃん!遊―「ごめん、今日は違う友達と遊ぶんだ」…そっか」

 

「翔ちゃん!一緒にかえ―「今日は男友達と一緒に帰るから無理」……そっか」

 

 

女子と遊ぶなんて恥ずかしい…

女子と一緒にいたら、からかわれる…

そんな思いから最初こそ断る際に一言謝りの言葉を言ったりしていたのだが、だんだんそんな言葉も消え、突き放すような言葉づかいになっていった。

 

 

 

 

・・・いくら幼き頃のこととは言え、本当に申し訳ないことをした。

 

一瞬表情を暗くさせながらも、それを無理やり押し殺して悲しげな笑みを浮かべていた当時の友奈の顔を思い出す度にそう思う

 

 

 

 

友奈は幼い頃から【空気を読む】ということが得意だった。

さらには周りへの気遣いもできていたので、当然僕なんかよりも友達が多くおり、それゆえに僕はこう思うようになった

 

 

 

 

『僕なんかいなくても、友奈にとっては所詮友達の一人が消えた程度。友奈は何にも困らない』

 

 

 

そう思ってから僕は、ますます友奈から距離をとるようになった

 

僕なんか友奈の近くに居ても邪魔にしかならないから……。

そう、いつも自分の行動を頭の隅で自分に言い聞かせて、正当化していた。

 

…言ってしまえば昔の僕がやっていることは、ただ自分に都合のいい自己暗示をかけているだけにすぎない

 

 

 

 

 

 

しかしある日のこと。

いつも通り学校で過ごしていると、友奈が友達と話している所がことごとく偶然視界に入った。

 

 

 

「結城。すまないが今日休みの山本の代わりに日直をやってくれないか?」

 

「はい、いいですよ!」

 

「すまんな」

 

 

「友奈ちゃん~!私昼休みに用事あるからさ、先生に頼まれてたこの紙持っていってくれないー?」

 

「うん、いいよ」

 

「ありがとう~!」

 

 

「結城さ~ん!この仕事代わりにやってくれないー?」

 

「う、うん。いいよ」

 

「結城さん!私もいいかな?今日このあと習い事にいかなくちゃならなくて」

 

「え…ごめん、ちょっと……」

 

「結城さんなら大丈夫だよね?後は任せたよ!お願いねー!」

 

「ちょ、ちょっと待って!……どうしよう…まだ仕事あるのに…」

 

 

その内容は酷いもので、ただただ友奈にみんな雑用やらなんやらを押し付けていることばかりだった。

習い事やら欠席やらと、みなそれぞれ大義名分を立ててこそいるが…とどのつまり、面倒な事を友奈に擦り付けているだけにすぎない。

 

誰かに頼られるということは、相手からの信頼を得ていないと起こりえない。なので、たくさんの人から頼られる人は、それだけ周りからの信頼を得ているということになる。

 

しかし、友奈の件とそれは別だ。

さっきから言っているが、友奈のされていることはもはや【頼る】のレベルを越してしまっている。それだけ信頼を得ている…なんて言えば良く聞こえるかもしれないが、さすがにこれはやりすぎだ。

 

こんなものが長く続けば、どんなに優れた人間だろうと潰れるのは明白。

 

 

 

「でも…私がちゃんとやらないと、みんな困っちゃうよね」

 

「私がやらないと…」

 

 

数十分後

さすが友奈と言うべきか、しっかりと押し付けられた仕事を全部終え、「ふぅ」と息を一つ吐きながら疲れた顔で教室に戻って行った。

 

 

校舎に生徒はほとんど残っていない

おそらく今残っているのは僕と友奈ぐらいだろう。それぐらいの時間だ。

 

本当は今日も友達と一緒に帰る予定だったのだが、朝と昼の友奈の様子を見て少し嫌な予感がしたため、友達に断りを入れて校舎に残っている。

 

 

少し経った後、教室から帰る身支度を整えた友奈が出てくるのが見えた

 

 

 

このまま物陰に隠れて友奈に気付かれないようにやり過ごそう……

 

 

そうして友奈が歩いているのを眺めていると、あることを小さな声で誰もいないはずの虚空に呟いた

 

 

「みんなが仲良く、楽しく生活できるなら私は…大丈夫、大丈夫……」

 

 

そう自分に自己暗示をかけている彼女の姿は、いつも僕が見ている姿とは真逆で…いまにも崩れてしまいそうなほど脆く見えた

 

 

 

――何が【大丈夫】だよ。明らかに弱ってるじゃないか――

 

 

 

「友奈!!」

 

 

気づけば物陰から飛び出して彼女に大きめの声でそう呼び掛けていた

 

 

「!・・翔ちゃん」

 

友奈は一瞬驚いた顔でこちらを見ると、すぐに悲しそうな顔になった

さすがに気付くよな…聞かれてたこと

 

 

「全部聞いたよ、友奈」

 

「…いや、今の発言だけじゃない。今日1日君がみんなにどれだけ頼りにされてるのかどうかも見させてもらったよ」

 

「あはは…やっぱり翔ちゃんだったんだ。あの感じてた視線は」

 

 

どうやら今の発言が聞かれていたことだけではなく、今までのお願い風景を見られていたことまで気付いていたようだ

 

「気付いてたんだ?」

 

「うん…長い付き合いだもん」

 

「・・そっか」

 

 

さすがにその言葉に罪悪感を感じないほど当時の僕は人でなしではない。

チクリと胸が痛むのを感じつつ、目の前の赤髪少女に対して口を開く

 

 

「友奈……辛くないの?」

 

「っ……辛くないよ」

 

一瞬の表情の変化を僕は見落とさない

たとえ腐っても、幼馴染としての観察眼は衰えたりしないよ、友奈。

 

 

「嘘だね」

 

「・・嘘じゃないよ。だって…私が頑張ってみんなが楽しく過ごせるなら、全然辛くなんかないから」

 

 

『みんな』が『楽しく』過ごせる…か

 

 

「・・みんなが楽しく過ごせるためにやってるの?友奈は?」

 

「うん。だから…」

 

 

 

 

「僕は楽しくないよ」

 

 

楽しさなんか、あるもんか

 

 

「え?」

 

「全然楽しくないよ、、むしろ辛い」

 

「何で…?」

 

「・・友奈はさ、大事な友達が傷ついているのを見てどう思う?」

 

「大事な友達?」

 

「うん。君の中で一番大事な友達」

 

友奈は困惑しながらも、こちらをチラチラ見て考えていた

心優しい友奈のことだ、友達に一番なんか決められない…とでも思ってるんだろう。別に想像さえできれば誰でもいいんだけど…

 

 

「どう?」

 

「・・嫌」

 

「うれしい?」

 

「…うれしくない」

 

「楽しい?」

 

「楽しくない!」

 

 

 

声を痛切に張り上げて否定するそんな友達思いの友奈に、僕は優しく微笑む

 

 

 

 

…よく分かってるじゃん、僕の気持ち

 

 

 

 

「…ほらね?」

 

「…!」

 

 

「一番大事な友達が傷ついているのを見て楽しいわけないでしょ?」

 

「・・翔ちゃん…」

 

「だからもうやめて…って言っても友奈のことだから、やめないだろうね」

 

「・・・・」コクッ

 

「…なら三つ程お願いしていいかな」

 

「…お願い?」

 

「うん。簡単なことだよ」

 

 

 

 

「まずひとーつ!何か分担できるようなことを頼まれた時は僕も手伝う!」

 

「え、、それはちょっと…」

 

「ちなみに心配かけた罰として、友奈に拒否権はありません」

 

「・・それじゃもう『お願い』とは言えないんじゃ…?」

 

 

 

 

「ふたーつ!「…無視?」辛くなったりしたら必ず僕に言うこと!」

 

 

「・・・拒否権は…?」

 

「無いよ?」

 

「・・・・」

 

 

 

 

 

「・・最後の三つ目は、拒否したかったら拒否してもいいよ」

 

「え、、本当?」

 

「うん……友奈」

 

 

むしろ拒否されて当然だろう。

今更虫が良すぎるからね、こんなこと

 

 

「今まであんなこと言ってごめんなさい。無理を承知で頼みます。どうかこれからも僕と友達でいてください!」

 

 

 

「・・・うん!もちろんだよ!」

 

「・・・ありがとう、友奈。そして…これからもよろしく」

 

情けなくもその時、僕は友奈の曇りなき笑顔を直視できなかった

 

小さくても男は男、、女の子の前で涙なんて流したくなかったのだろう。

 

…潤いだす瞳を堪えて顔を俯かせている昔の僕の姿を見れば、誰でもそんなことわかるだろうが。

 

 

 

 

その日から僕は友奈がみんなに任された仕事を必死に手伝った。

そのおかげか友奈は前よりも笑顔が増え、辛そうな顔をしていることは無くなった

 

そしてお泊まり…とまではいかないが、前のように家で遊んだりすることも多くなっていった。

一緒に遊んでいる時の友奈は笑顔でとても楽しそうにしており、見てるこっちまで笑顔になってくる。

 

 

 

 

 

 

・・まぁ、それは良かったのだが……

 

 

「えへへ~♪」

 

「・・友奈。そんなに頭を撫でられるっていいものなの?」

 

「うん!」

 

「さようですか…」

 

いかんせん距離が近い…何がいいんだよ、頭撫でられることの何が。

 

 

「・・ねぇ、翔ちゃん」

 

「…ん?どうしたの友奈?」

 

撫でる手を止めて友奈に目を合わせる

 

 

「私も翔ちゃんのお願い聞いたからさ…翔ちゃんも私のお願い聞いて?」

 

「・・いいよ。僕にできることなら」

 

・・どうしよう、これで僕の貯金を全部頂戴とか言われたら。

…友奈に限ってそれは無いだろうけど

 

 

「えっと…二つあるんだけどいい?」

 

「とりあえず言ってみてよ」

 

「…なら、、一つ目!」

 

 

 

 

「わ、私と一緒に居てください!」

 

「・・一緒に?」

 

「う、うん」

 

「中学や高校も一緒の所に行く…とか、そういうこと?」

 

「可能な限りで…駄目、かな?」

 

「大丈夫だよ。むしろこちらこそ」

 

「え…いいの!?」

 

「おっとと?あはは…近いよ?友奈」

 

「あっ!…ううっ……」

 

僕の指摘によって頬をピンク色に染めて恥じる幼馴染。…頭を撫でるのは大丈夫なのに、それで恥ずかしがるんだ

 

僕もできるならこれからも友奈と一緒に学校生活を楽しんでいきたいな……

 

 

 

「で、二つ目は?」

 

「えぇ!?」

 

「…いや、何で君が驚くのさ?友奈が僕にお願いしたいことだろ?」

 

「・・ちょ、ちょっと待って……すぅーはぁー。すぅーはぁー」

 

「・・なぜ深呼吸?」

 

 

無茶しすぎてついに壊れたか?

それとも…僕に何かとんでもないお願い事をする気なのか…?

 

どうしよう、元気な笑顔で「土地が欲しいんだ!」とか言われたら。

 

 

「頑張れ私…頑張れ私……よし!準備できたよ!翔ちゃん!」

 

「よーし!ばっちこい!」

(僕にできることで頼むぞ友奈!)

 

 

 

先ほどまでピンク色に染まっていた頬は彼女の髪色と同じような赤色に染まり、瞳はわずかに潤いを帯びていた

 

 

―そして彼女は口を開く―

 

 

 

 

「大きくなったら……わ、私と結婚してください!!」

 

 

 

 

・・・・『結婚』?

僕と、、友奈が?

 

 

 

 

「へ……?」

 

 

全思考が停止する

頭の中が真っ白になる

 

まるで、頭を強いハンマーで殴れたかのような強すぎる衝撃だっため、一瞬ではあったが、軽く放心状態に近い状態になっていた。

 

しかしそんな僕を彼女こと結城友奈は待ってくれない

 

 

「翔ちゃん?私も頑張って言ったんだから…ね?返事…聞きたいな」

 

 

「OKか、駄目か……どっち…?」

 

 

 

 

「・・いいよ」

 

「…!ありがとう!!翔ちゃん!!」

 

 

 

―あの時のOKは決して嘘ではない

 

だが、完全に僕の気持ちで「はい」と言ったかというとそうではなくて…実はあまりにもぐいぐい来る友奈に押されて言ってしまったのだ。

 

・・もちろん、友奈との結婚が嫌なわけでは無いのだが…人生の一大事をそんなすぐには決めたくなかった

 

 

「えへへ~!うれしいな~!」

 

「あはは…僕もだよ」

 

 

今考えてもわからない。

友奈は僕のどこが良かったのだろうか…できるなら今にでも本人に聞いてみたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-------------------

 

 

私…「結城友奈」には大事な人がいる

 

 

その人の名前は「市村翔太」

私は翔ちゃんって呼んでる。

些細な気遣いができる優しい友達だ……それを昔本人に言ったら「友奈の方ができるだろ」って言われちゃったんだけど。

 

本当はしたくないんだけど、、もし友達の中で順位を付けるとしたら、一位はもちろん翔ちゃんだ。

 

 

 

・・しかし、中学年になってから翔ちゃんは私を避けるようになった

 

 

最初はとっても悲しかった

いつも何かに誘っても拒否され、そのたんびに涙が出そうになったけど私は必死に我慢した。

 

 

翔ちゃんにもきっと何か事情があるんだ。じゃなかったら翔ちゃんはこんなことしない

 

そう考えてから私は翔ちゃんを遊びに誘ったりすることをやめた

 

 

―きっといつか前みたいな関係に戻れるはずだから…私はそれまで待ってる!

 

 

 

ある日先生から休みだった子の日直代理を任された

先生は私に謝ってたけど、私は全然嫌なんて思ってない。私なんかが誰かの役に立てるなんてうれしいから!

 

 

―後ろから視線を感じた

 

 

 

同じ日の昼休みに、今度は同クラスの友達から先生に紙を渡す仕事を任された

ちょっと量が多くて重かったけど、途中途中で転びかけながら何とか職員室に運ぶことができた。

 

ちょっと疲れたけど…仕方ないよね

 

 

―また後ろから視線を感じた

 

 

 

同じ日の放課後、今度は同クラスの友達二人から仕事を任された

さすがに二つは…

そう思い声をかけたけど、女の子は足早に教室を去っていってしまった。

 

 

……ちょっと帰るのが遅くなっちゃうかもしれないけど…私がやらないとみんな困っちゃうよね

 

荷物を机に置いて、任された仕事を行うために教室を出る

 

 

・・やっぱり視線が…気のせいかな?

 

何回も不思議に思って、その都度振り向いたりしてみたんだけど、誰も後ろにいなかったんだよね…。

 

 

「きっと気のせいだよね…それよりも早く仕事終わらせなくちゃ!」

 

 

 

 

仕事をやっと終えた頃にはもういい時間になっていて、校舎に残っているのはもう私だけになった。

 

 

早く帰らないとお母さんが心配しちゃう…でも、、疲れちゃって走れないや…

 

 

思わずそんな弱気になってしまう

ハッっとなり、頭を横に振って気を再び引き締める。

 

 

・・私は大丈夫なんだ、大丈夫…だってみんなのためなんだから。

 

 

 

「みんなが仲良く、楽しく生活できるなら私は…大丈夫、大丈夫……」

 

 

そう自分に言い聞かせていると、後ろから懐かしい声が聞こえてきた

 

 

「友奈!!」

 

 

「!・・翔ちゃん」

 

 

・・もしかしてとは思ってたけど…本当に翔ちゃん居たなんて…失敗しちゃったな

 

 

「全部聞いたよ、友奈」

 

「…いや、今の発言だけじゃない。今日1日君がみんなにどれだけ頼りにされてるのかどうかも見させてもらったよ」

 

…視線もやっぱり翔ちゃんだったんだ

どこかで感じたことのある視線だと思ったら、、当たってたんだね。

 

「あはは…やっぱり翔ちゃんだったんだ。あの感じてた視線は」

 

「気付いてたんだ?」

 

「うん…長い付き合いだもん」

 

「・・そっか」

 

…何で苦虫を噛み潰したような表情をしてるの?翔ちゃん?

 

 

私がそう首を傾げて困惑していると、翔ちゃんは私と正面から目を合わせたのちに口を開いた

 

 

「友奈……辛くないの?」

 

 

・・・そんなの…

 

 

「っ……辛くないよ」

 

「嘘だね」

 

そんな私の言葉は翔ちゃんによって真正面から切り捨てられる…

 

 

 

「・・嘘じゃないよ。だって…私が頑張ってみんなが楽しく過ごせるなら、全然辛くなんかないから」

 

 

そう…みんなが幸せに、楽しく暮らせるなら私はそれで……

 

「・・みんなが楽しく過ごせるためにやってるの?友奈は?」

 

「うん。だから…」

 

 

 

 

「僕は楽しくないよ」

 

 

 

「え?」

 

・・・え…?そんな…翔ちゃん…?

 

 

「全然楽しくないよ、、むしろ辛い」

 

「何で…?」

 

「・・友奈はさ、大事な友達が傷ついているのを見てどう思う?」

 

「大事な友達?」

 

「うん。君の中で一番大事な友達」

 

 

一番大事な友達?

・・翔ちゃん……もしそんな翔ちゃんが傷ついていたら…?

 

 

 

―胸が強く痛む

 

 

「・・嫌」

 

「うれしい?」

 

「うれしくない」

 

「楽しい?」

 

「楽しくない!」

 

思わず強めに言ってしまう

もし翔ちゃんが傷ついてたら、、私…

 

 

「…ほらね?」

 

「…!」

 

 

 

「一番大事な友達が傷ついているのを見て楽しいわけないでしょ?」

 

え…それって…。

 

「・・翔ちゃん…」

 

「だからもうやめて…って言っても友奈のことだから、やめないだろうね」

 

やっぱりお見通しなんだね、、

私は無言で静かに頷く

 

「・・・・」コクッ

 

「…なら三つ程お願いしていいかな」

 

「…お願い?」

 

「うん。簡単なことだよ」

 

 

 

 

 

 

―あの日から数年が経ち、私と翔ちゃんの小学校生活もいよいよ後半を迎えた

 

 

「起きろ~!友奈ー!」

 

「あと5分…」

 

「だーめ。友奈のお母さんがもう朝ごはん作ってくれてるんだから。早く起きて一緒に食べよう?」

 

「・・わかったよ~。着替えるから、先に一階で待ってて?翔ちゃん」

 

「わかった。待ってるよ?」

 

パタンと閉まるドアを見て、ベッドからのそのそと起き上がって着替えたのちに翔ちゃんの所に向かう

 

 

 

「あら?おはよう友奈」

 

「おはよう!お母さん!」

 

「あ、友奈」

 

「翔ちゃん!おはよう!」

 

「うん。おはよう、友奈」

 

「うふふ…」

 

翔ちゃんといつも通り朝のやり取りをしていると、お母さんがそんな私達を見て意味ありげに微笑んでいた。

 

「な、何?お母さん?」

 

「何でもないわよ~?二人を見て、まるで夫婦みたいだなんて思ってないわよ~」

 

 

ふ、夫婦!?

私と翔ちゃんが……夫婦…

 

 

「えへへ…」

 

「・・友奈?…駄目だわこの子。完全に自分の世界に入っちゃってる…」

 

「あはは…」

 

「ごめんなさいね?翔太君。結構前からこの子こんな感じで…昔同じようにからかった時はもっと反応面白かったんだけど」

 

「だ、大丈夫ですよ。…おーい!友奈!早くご飯食べて学校行くよ!」

 

「…え、、あ!待ってよ翔ちゃん!」

 

「あらあら」

 

 

 

 

「行ってきまーす!」

 

「行ってきます」

 

「二人共気をつけてねー」

 

 

 

 

「…ねぇ、友奈」

 

「どうしたの?翔ちゃん?」

 

「いや…さすがに恋人繋ぎは恥ずかしいかな~って」

 

「?何で?」

 

「いや、だから…もういいや」

 

「変な翔ちゃん~」

 

「・・ずっと満面の笑みを浮かべてる、究極のお人好しさんに言われたくないよ」

 

「え~?」

 

 

だって翔ちゃんに『お願い』を聞いてもらったおかげで、毎日が楽しいんだもん!

 

 

それに将来は翔ちゃんと……

 

 

「ちょ、ちょっと友奈さん?何かさっきより力強くないですか?」

 

「気のせいじゃない?」

 

「無理があるよ?そのごまかし方は」

 

 

無意識の内に力が入ってたらしい

 

 

だけど無理もないだろう

 

だって……

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな幸せ、手放したくないから

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、翔ちゃん」

 

「ん?友奈、どうかした?」

 

「・・やっぱり何でもなーい」

 

「…途中で言うのをやめられると、余計気になっちゃうな?教えてよー」

 

「何でもないったら何でもないよ~」

 

 

 

 

 

 

―大好きだよ、、翔ちゃん

 

 

 

 

 

 

 

 




第1話、いかがでしょうか?

1話を見て、何か感想、誤字報告等ありましたらお申し付けくださると幸いです。



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別れはいつも突然に

二話目にしてタイトルが少々不穏ですが…とりあえず本編をどうぞ。




友奈と幼子あるあるの可愛らしい結婚約束をしたあと、言わずもがなだと思うが前より距離がさらに近くなった

 

 

当然それを見てからかってくる子もいたのだが、、その子達に友奈が一言

 

 

「私は翔ちゃんのこと大好きだよ!」

 

 

と、大声で清々しいほどの笑顔浮かべて言い放ち、その言葉を聞いた男の子達はみな顔を赤く染めて帰っていった。どうやら彼らは案外純情だったらしい。

 

…友奈、頬を赤く染めて恥ずかしがるなら言わないでくれ。こっちだって君のせいですごく恥ずかしいんだから。

 

 

そのおかげでそれ以来からかいにくるような男の子は一人もいなくなった

結果オーライ…なのかな?

 

 

「翔ちゃん!ここの問題ってどう解くの?教えて~」

 

「あぁ、いいよ。ここはね…」

 

よって僕が以前のように恥ずかしく思う要素はなくなり、学校でも友奈と仲良く過ごせるようになった

 

ちなみに僕は運動ができる方ではない

なのでせめて勉強は…と思い、その甲斐あってか成績はまぁまぁ良い方だ

 

 

・・だが女の子である友奈と腕相撲をした際、ぼろ負けしたのは悔しかった…

 

 

 

そんな風に僕と友奈はいつも笑いあって、とても楽しい生活を送っていた

 

 

 

 

 

ピンポーン

 

―あの日までは

 

 

「あら、、誰かしら?」

 

「俺が出てみるよ。お前は居間で翔太と待っててくれ」

 

「えぇ、わかったわ」

 

ある日の日曜日に家族仲良くテレビを見て談笑していると、突如として家のチャイムが鳴らされた

時間はもう午後6時を過ぎているため、友奈が遊びに来た可能性は0に近い…というかさっきまで友奈と遊んでいたところなのだから、無いと言っていいだろう。

 

なら誰だろうか?こんな時間に…

 

 

 

ピンポーン

 

「はーい!どなたで……は?」

 

「あなた?どうし……え?」

 

 

両親の呆気にとられたような声を聞き、何事かと居間から顔を出して玄関を覗くとそこには……

 

 

 

「失礼いたします」

 

 

不気味な仮面を被った大人の人達が静かに玄関前に立ち並んでいた。

……宗教の勧誘か何かだろうか?

 

 

「た、大赦の人達がこんな家に何のようでしょうか?」

 

「私達何かしましたか…?」

 

「いえ、別に何か不満があって訪れたわけではございません。別件でございます」

 

 

『大赦』…え、この人達が?

あの総理大臣をしのぐ権力を持っているとされている大赦が、、この人達?

お父さんとお母さんから聞いてはいたけれど、こんな仮面着けてるのか…

 

 

「なら何のご用で…?」

 

「報告でございます。お宅の息子様…『市村翔太様』が、神樹様に選ばれました」

 

「・・え、、それって…」

 

「はい。市村様の息子様は男で初の、【勇者】ということになります」

 

 

・・・【勇者】?

勇者って…あの勇者?

世界を救ったりするあの?

 

しかし聞き慣れない言葉に困惑して首をひねる僕とは対照的に、お父さんとお母さんは顔を青ざめさせていた

 

「そんな馬鹿な……だって勇者は―」

 

「はい。純真無垢な少女のみが成れるものとなっております。…しかし現に息子様は神樹様に選ばれていますので、勇者としてお役目を果たしていただきます」

 

「・・変更とかは…」

 

「できかねます。もう息子様が大赦の中でも小さくはありますが伝統のある、『倉橋家』に養子として出ていただくのは決定していますので」

 

「っ……せめて息子と、最後の会話ぐらいはさせてくれるんでしょうね?」

 

「3日後に私共が迎えに来ますので、その間に行ってくださればよいかと」

 

「・・・わかりました。身支度なども含めて済ませておきます」

 

「・・あなた……」

 

「では、また3日後に訪れさせていただきます。今回は失礼いたしました」

 

 

バタン

 

 

静かな空間に扉が閉まる音がただ響く

 

その音と同時に崩れ落ちる父と母

 

 

「!お父さん!お母さん!」

 

「・・翔太……」

 

「お母さん…?」

 

「・・翔太…ごめん、、ごめんな…」

 

「お、お父さん……」

 

 

 

何が何だかわかっていなかった僕に、お父さんとお母さんは丁寧に内容を話した

 

 

 

僕は神樹様に初の【男勇者】として選ばれたこと。

 

そしてそのために僕は3日後【倉橋家の養子】に出なきゃいけなくなったこと……つまり僕は3日後から『倉橋翔太』として生きることになる。

 

 

 

そして養子に出る予定の倉橋さんの家はここから離れたところにある

 

 

よって……

 

 

 

「転校……するんだ」

 

「…あぁ、、そうなるな…」

 

「・・そっか…」

 

「・・ごめんな、翔太…こんな親で」

 

「ううん。お父さんもお母さんも悪くないよ。僕は大丈夫だから・・ただ…」

 

 

 

 

《わ、私と一緒に居てください!》

 

 

 

「・・友奈に何て言おうかな…」

 

 

 

「ははっ……友奈に会わせる顔がないよ、これじゃあ…」

 

 

 

 

それから養子に出るまでの3日間、何回も友奈に言おうとしては口を閉じるを繰り返してしまっていた

 

当時友奈に冷たく当たっていたのと、お願いを無下にしてしまう罪悪感が混ざりあっていたせいだろう

 

 

 

 

そうしている内にとうとうお別れの3日目になってしまった

 

「翔ちゃん?聞いてる?」

 

「・・ん?うん、聞いてるよ。確かもぐらがどうとか…」

 

「全然違うよ……翔ちゃん、いったいどうしたの?今日変だよ?」

 

「変?僕が?」

 

「うん…」

 

 

以前も言ったが、友奈は『空気を読む』のが非常にうまい。

 

…そりゃばれるよな、、腹をくくるか

 

 

「・・友奈。学校が終わったらすぐに僕の家に来てくれないか?」

 

「え?いいけど…どうして?」

 

「話したいことがあるんだ…なるべく早く来てくれるとうれしい」

 

「う、うん。わかった」

 

 

 

『市村翔太』として最後ぐらい腹をくくらないとな……嫌われる覚悟もできた

 

 

殴られてもいい

罵詈雑言を浴びせられるのも覚悟した

 

 

 

 

 

―そしてその時は訪れる

 

 

「来たよ、翔ちゃん!」

 

「いらっしゃい…僕の部屋で話そう」

 

「うん。失礼しまーす」

 

「椅子がなかったから、代わりにベッドの上で話したいんだけど…いいかな?」

 

「大丈夫だよ。よいしょ…」

 

 

ベッドの上にお互い正座で座る

話しやすいよう向き合って座っているおかげで、目の前にいる友奈の困惑し気味の表情がよく見える。

 

 

 

・・その赤髪も、聞くだけで元気が出るような明るい声も聞けなくなるのか…

 

 

「それで、、翔ちゃん。話っていったいどんな話なの?」

 

「あぁ、それはね…」

 

 

口が思わず閉じそうになるが、堪える

 

 

ここで言わないのはただの逃げだ…

そう自分に言い聞かせ、奮い立てる

 

 

 

 

―そうしてやっとの思いで口を開き、沈黙を自ら破る

 

 

 

 

「・・転校…することになったんだ。だから……友奈とはお別れになる…」

 

 

 

「・・・え…?」

 

 

僕の言葉に目を丸くして呆然とそんな言葉を漏らす友奈

 

 

 

―胸が強く痛むのを感じる

 

 

そうして再び場を沈黙が支配する…かと思いきや、その沈黙は友奈によってすぐに破られた

 

 

「・・何で…」

 

「・・お父さんが転勤するんだ。それについていく形で僕も「言い訳はいいよ…」…友奈…?」

 

「お願いは…?聞いてくれたんじゃなかったの?いいよってあの時……」

 

「・・ごめ「謝られてもうれしくないよ!!」っ…」

 

 

 

初めて聞く友奈の怒鳴り声

 

 

友達からどんなに仕事を任せられても、無理難題を課せられても笑顔を浮かべていたあの友奈が……怒鳴った。

 

 

友奈の顔を見ると彼女の目には大粒の涙が宿っており、『怒』と『哀』が混ざったような表情を浮かべていた。

 

 

「・・それでも僕に言わせてくれ……ごめん。友奈」

 

 

初めて聞いた幼馴染の怒鳴り声に体と心を震わせつつ、謝罪と共に頭を下げる

 

…それが今の僕にできることだから

 

 

 

「・・・なら、翔ちゃん。頭上げて」

 

 

時間が経って落ち着いたのか、友奈の若干震えた声色が少し収まっていた。

 

もちろん今の僕に友奈の要求を断る理由はないため、ゆっくりと頭を上げる

 

 

 

しかしそうして頭を上げきった途端…

 

 

ドンッ

 

 

「え…?うわっ!……ゆ、友奈…?」

 

 

僕が友奈の顔を見るよりも先に体を軽く押されたような弱い衝撃が走り、ベッドに強制的に横たわる。

 

 

…いや、押された『ような』ではない

 

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

【押された】のだ、友奈に

 

 

 

いきなり押し倒されたため困惑したが、とりあえず上体を起こさないと…

 

 

そう考えて起き上がろうとするも、上から友奈が覆い被さってきて、力を入れようとしていた腕をベッドに押さえつけられる

 

 

・・顔が俯いているせいで、友奈がどんな顔をしているのかわからない…

 

 

「ちょ、ちょっと友奈?これだと動けないんだけど…離してくれない……?」

 

「・・・・」

 

「お、お願いだから…」

 

「・・・・」

 

「友奈……」

 

「・・・ねぇ、、翔ちゃん」

 

 

友奈が俯かせていた顔を上げる

しかし上げた顔を見て、ゾッとする

 

 

 

 

いつも輝きを放っていた友奈の瞳はまるで深海のように光を失い、ルビー宝石のように綺麗な瞳は赤黒く染まっていた

 

 

「ひっ…!」

 

 

そんな彼女の姿を見て怯えを隠しきれず、口に出してしまう。

 

 

 

・・・怖い…本当に目の前にいるこの女の子はあの『結城友奈』なのか…?

 

 

そう考えてしまうほど、今の彼女は恐ろしく見えてしまっていた

 

 

体を捻って友奈の顔をなるべく見ないようにするが、横になっている僕の真上に友奈が覆い被さっているため、嫌でも視界に入ってしまう。

 

 

「私…すごいうれしかったんだよ?翔ちゃんにお願いを聞いてもらって…」

 

「・・なのに……」

 

 

 

 

 

「嘘だったんだね?あれは?」

 

「っ!?」

 

 

 

 

聞いたこともないような友奈の重低音が全身の骨の髄にまで響く

 

冷や汗が滝のように流れるのを感じる

 

 

 

―否定しないと…!

 

身の危険を感じ、急いで否定の言葉を言うため口を開くが、それは友奈本人によって遮られる

 

 

 

 

「でも、、いいよ」

 

「・・・え…?」

 

「翔ちゃんは何か事情があって、やむを得ずにそうしてるだけなんでしょ?」

 

「ゆ、友奈…」

 

 

声も元通りの高さにまで戻ってる…

 

まさか、察してくれたのか?

 

 

 

不安だが、、弁解するなら今しかない

誤解をとかなくては…!

 

 

「友奈違うんだ…あの時のOKは決して嘘じゃない。今こうして破って信用できないかもしれないけど、、本当なんだ」

 

「・・本当?」

 

「本当だよ…ごめん、友奈」

 

「ううん…こっちこそごめんね?翔ちゃんのこと誤解しちゃって」

 

 

・・良かった…友奈の目に光がある

 

 

どうやらいつもの友奈に戻ってくれたらしく、ベッド上の拘束から解放される

 

 

「ごめんね……怖かった?」

 

「だ、大丈夫だよ。約束を破った僕が全部悪いんだからさ」

 

 

少し手首が痛いが、もともと殴られるぐらいの覚悟はできていたから問題はない…怖かったのは否めないが。

 

 

 

 

「でも・・お別れ…なんだね」

 

「うん……友奈がいないのかぁ、、寂しくなるな~」

 

「あはは…私もだよ、翔ちゃん」

 

 

 

「「・・・・」」

 

 

 

―最後ぐらい、笑顔で別れたい

 

その気持ちから沈黙を自ら破る

 

 

 

「・・・きっと…また会えるよ」

 

「・・え?」

 

「何の根拠もないけどさ…別に僕達は死に別れるわけじゃない」

 

「世間は狭いって言うだろう?永遠の別れじゃないならさ……また会えるよ」

 

「そう…かな?」

 

「きっとそうだよ。だから、僕達がするのは『さようなら』じゃない」

 

 

 

 

「『またね』…だよ。友奈」

 

 

「!そうだよね!また会えるよね!」

 

「う、うん。近いよ?友奈」

 

元気になってくれたのはいいんだけど、距離が近い…今更か。

 

 

「そうだ…ちょっと待ってて!」

 

「え?あ、友奈!」

 

 

 

いきなり部屋を出ていったかと思ったら、少し経ったあと大事そうにガラスに包まれた押し花を持って来た

 

 

「?・・『四つ葉のクローバー』?」

 

「うん!少し前の日曜日、たまたま道端で見つけたんだ!」

 

 

幸運の四つ葉のクローバー…だったか

前にクラスの友達が土手で探し回ってたっけ…結局なかったらしいけど

 

 

「これ翔ちゃんにあげる!」

 

「え?いや、そんなの悪いよ!四つ葉のクローバーってレアなんでしょ?」

 

「大丈夫!もう一個部屋に飾ってあるから!お守りとして使って?」

 

「いや、でも……」

 

「いいの!翔ちゃんとお揃いになるし…むしろ貰ってほしいな」

 

「・・それなら、、貰うね?」

 

丁寧に割れ物を扱うように受けとる

 

ガラスの入れ物に入っているからか、不思議と四つ葉のクローバーが強く輝いているように見えた。

 

 

「綺麗…ありがとう、友奈」

 

「大切にしてねー?」

 

「もちろん!我が命に代えても、このクローバーは守り抜きます!」

 

「そこまでしなくていいよ!?」

 

 

 

 

 

「「・・・ふふっ」」

 

 

「またね…友奈」

 

「うん…元気でね、翔ちゃん」

 

 

 

―そうして僕と友奈の楽しい日々は唐突ながら終わりを迎えた―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「翔ちゃん……」

 

 

―彼がいなくなってから数日が経った

 

 

彼がいなくなったあと、よく仕事を頼んできていた友達の女の子達が突然謝ってきてびっくりした

 

どうしたの?と話を聞くと、どうやら翔ちゃんにこっぴどく怒られたらしい

それも翔ちゃんがいなくなる数日前に

 

 

《一番大事な友達が傷ついているのを見て楽しいわけないでしょ?》

 

 

 

胸がきゅっとなる

 

 

―まったく…翔ちゃんは本当に…

 

 

 

ふと机の上に飾ってある四つ葉のクローバーの押し花を見る

 

 

「・・ねぇ、翔ちゃん」

 

「一般的に知られている四つ葉のクローバーの花言葉は【幸運】だけど…」

 

 

 

「実は【もう一つ】あるんだよ?」

 

 

 

キランと日の光を四つ葉のクローバー入りのガラスが反射する

 

 

 

 

「えへへ……絶対だよ、翔ちゃん」

 

 

 

「嘘は嫌だからね?」

 

 

 




いかがでしょうか?

なるべく友奈ちゃんぽくヤンデレを書いたのですが…感想でどう思ったか教えてくださるとありがたいです。

『倉橋家』はオリジナルです
小さくも大赦の伝統のある家柄…という設定になっております。
とりあえず作者の小さなオリジナル要素として認識していただければ、そこまで気にしなくて大丈夫です。


四つ葉のクローバーの花言葉について調べた際、少々ゾワってしました。
知らない方は調べてみてください……



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彼女とのお別れから…

まめ鈴さん、ぼるてるさん、マンそんさん、ズバさん、名無しんごさん、フライドエッグさん、こなこなこなさん、評価ありがとうございますm(__)m

誤字報告もいただきました。
『倉橋家』が『高橋家』になってたようです……高橋さんって誰でしょう?


そんな中言いにくいのですが、今回の話に友奈ちゃんは出てきません。友奈ちゃん好きの方、申し訳ありませんm(__)m
代わりと言ってはなんですが、ある子達との会話があります。


とりあえず、本編をどうぞ



―友奈と別れて何日も経った

 

 

貰った押し花はこっそり学校に行く際にポケットに隠して持って行ってる

…バレたら没収されちゃうけど、逆に言えばバレなきゃいいのだ。

 

 

「…おはよう、翔太君」

 

「おはようございます。倉橋さん」

 

「すまないね、毎朝朝食を作ってもらって…無理はしてないかい?」

 

「大丈夫です。むしろこれぐらいして当たり前だと思いますよ?そもそも僕は養子として出てるんですし」

 

「そうか…ならご厚意に甘えよう」

 

「お任せを!」

 

 

養子として出た倉橋家の倉橋さんはとても温厚でいい人だ

 

正直悪いように使われないか…と少し不安だったのだが、まったくそんなことなく家族として扱ってくれている

 

 

 

 

 

そして肝心の学校生活については…

 

 

「zzz…むにゃむにゃ~」

 

「・・園子ちゃん~?起きて~」

 

「むにゃ?…いっしーおはよう~」

 

「はい、おはよう。相変わらず可愛らしい寝顔だったね~」

 

「えへへ~ありがとう~!」

 

「翔太君…あまりそのっちを甘やかしちゃ駄目よ?」

 

「少しキザだったぞ?今の翔太」

 

 

同じ【お役目】を背負っている者同士『乃木園子』、『鷲尾須美』、『三ノ輪銀』の三人と仲良くなれて、意外にも楽しい学校生活を送れていた

 

 

最初は会話等色々とぎこちなかったのだけど、一緒に『お役目』をこなしてるうちに今では幼馴染のように親しくなった

 

 

 

そう、、まるで【幼馴染】のように…

 

 

 

《翔ちゃんー!》

 

 

 

「・・友奈…」ボソッ

 

 

やっぱり…どこか寂しいな

 

昔から一緒にいるのが当たり前のような子が身近にいないというのは…妙にむなしくなってしまう。

 

 

 

・・こんな姿、友奈に見せられないな

 

 

そう苦笑していると、隣の席に座っていた銀ちゃんが勢い良く立ち上がる

 

「よーし!今日を頑張ったご褒美として、久しぶりにイネスへ行こう!もちろんみんなで!」

 

「びっくりした…急すぎない?」

 

「突然どうしたの?銀?」

 

「みのさんはアクティブだね~」

 

 

「いやさ…前の遠足帰りの時、結局行けなかったじゃん?」

 

「・・急にお役目がきたからね~」

 

 

 

そういえば……今でこそ笑い話にできるものの、、あの日のお役目は地獄だったっけ…本当に死を覚悟したよ、あの日は

 

 

「・・そういえばそうだったわね…」

 

「あはは…あの日はそれどころじゃなかったからね」

 

「…主に翔太が一人で突っ走ったからだけどなー?アタシが戻るまで待っててくれれば良かったのに…」

 

「うぐっ…け、結果オーライだよ。ほら、今はこうしてみんな無事なんだからさ…それで良くない?」

 

 

 

「「「良くない」」」

 

「・・えー?」

 

何もみんな口を揃えて言わなくても…だってあの時一番ケガが軽かったの僕だったじゃん!適任だったじゃん!

 

 

「本当に心配したんだからな?アタシ達…もう一人で無茶するなよ?翔太」

 

「…約束はできな「す・る・な・よ?」はい。もうしません」

 

「翔太の言質も取ったことだし、イネスにさあ行こう!」

 

「お~!」

 

「・・僕の扱い酷くない?」

 

「無茶した罰よ、翔太君」

 

「そんなぁ……」

 

 

罰にしても強引すぎるような…昔友奈にも同じようなことされたよ

 

前を走る園子ちゃんと銀ちゃんに苦笑しつつ、須美ちゃんと一緒に二人を歩いて追いかける

 

「・・ねぇ、翔太君?」

 

「何だい?」

 

「その…大丈夫?ちょっと顔が暗かったけど、、何か困り事?」

 

「…いつから気付いてた?」

 

「銀が叫ぶ前からよ。ちょっと声をかけようとしたら銀に遮られて…」

 

さすが元気っ子代表の銀ちゃん。須美ちゃんの声をかき消すとは…

 

 

・・別に隠すほどのことじゃないし、言ってもいいかな…少し恥ずかしいけど。

 

 

「いや、転校する前に仲良かった幼馴染のことを考えててね」

 

「幼馴染?」

 

「うん、とってもいい子だったよ。それに銀ちゃんに負けないぐらいの元気と明るさもあって…大切な幼馴染だよ」

 

 

ポケットに入っている押し花を見せる

 

 

「・・それは?」

 

「別れる前に幼馴染から貰った押し花。僕の大事なお守りなんだ~毎日学校にも持っていってるぐらいのね」

 

「そうなの……ん?学校にも?」

 

「……あっ」

 

いい忘れていたが、須美ちゃんはルールといった決まり事に非常に厳しい。

 

よって今の状況は警官の目の前で自分が行った犯罪を告白するのと同じだ

よって……

 

 

「…翔太君?ちょーっと私と『お話』しましょう?」

 

「あ、いや、その…」

 

 

こうなるのは当然である

うん…バカかな?僕何やってんだ?

 

「おーい!二人とも遅いぞ~!」

 

「早く早く~」

 

「!今行くよー!…というわけで須美ちゃん、さきに行ってるね!」

 

「あ、ちょっと!待ちなさい!」

 

「待てと言われて待つ人はいない!」

 

 

 

しかし結局行く先は同じイネスのため、数分後に椅子の上で僕が正座することになったのは言うまでもない

 

 

「翔太君?ちゃんと聞いてる?」

 

「はい…聞いてます…」

 

「・・また何かやったのか翔太?」

 

「ははっ…ちょっとねー」

 

「翔太君?」

 

「すみません…」

 

 

嫁の尻に敷かれる旦那さんってこういう気分なのかな…?

 

 

 

 

・・通りすがりの人の視線と足のしびれに耐えること数分。ついに解放された

 

 

「おう…足に力が入らない」

 

「大丈夫ー?肩貸すよ~」

 

「ありがとう園子ちゃ…近くない?」

 

肩を貸してくれるのはありがたいけどさ、そんなに寄る必要ないよね?

 

「ん~。やっぱりいっしーの隣はすごく落ち着くんよ~」

 

「…まいっか、園子ちゃんだし」

 

 

『落ち着く』ねぇ……昔友奈にも同じこと言われたことあったっけ。

 

僕にそんな癒し効果ないと思うけど…

 

 

思わず隣にいる園子ちゃんに対して手を伸ばし、撫でてしまう

 

 

「へ…?い、いっしー?」

 

「あ、、ご、ごめん!」

 

やっちゃったよ…

つい友奈にやってた時の癖で、、さぞ気持ち悪かったことだろう。

 

 

 

「・・続けて~?」

 

「え?」

 

「いいからいいから~」

 

「あ、うん……強さとか大丈夫?」

 

「ベリーグッドだよ~」

 

「・・さようですか」

 

 

・・友奈の時と同じだなぁ、これ

 

自然と笑みがこぼれる

 

 

「ふふっ」

 

「…?いっしー?何で笑ってるの?」

 

「ちょっと、昔仲良かった幼馴染との出来ごとを思いだしちゃってさ」

 

「それが今の状況とまったく同じだったから、つい…ね」

 

歴史は繰り返すってやつかな?

まぁ、ただ僕が学べてないだけなのかもしれないけどさ。

 

 

そう考えて苦笑しつつも園子ちゃんの頭を撫でていると、撫でていた腕を園子ちゃんに掴まれる。

 

…どうしたのだろう?

疑問に思い、顔を園子ちゃんに向ける

 

 

 

「・・・それって、女の子?」

 

「そうだけど…それがどうかした?」

 

「いやー?何でもないよ~?ただ気になっただけ~……これは一度三人で話し合わないと駄目かもね~」

 

「ならいいんだけど、、」

 

「でもやっぱりみんなで幸せになりたいから…その子も一緒がいいなぁ~」

 

「?」

 

掴まれていた手は無事離してくれたが、今度は小声でぶつぶつと話し始めた

 

小声のため内容を聞き取ることはできず、ただ首を傾げることしかできない

 

 

 

「な、なぁ!翔太!」

 

「ん?どうしたの銀ちゃん?」

 

「あ、いや……その、、」

 

「?どうしたの?」

 

そんな指を弄りながらこちらをチラチラ見られても…僕はエスパーじゃないから、銀ちゃんの思考は読めないよ?

 

 

「さ、さっき園子の頭撫でてたろ?」

 

「うん。絶対気持ち悪がられると思ってたんだけどね。気に入ったみたい」

 

「アタシも…やってほしいなーって」

 

 

…What?

 

「・・熱あるんじゃない?」

 

「…恥ずかしいこと言ってる自覚はあるけどさ?それは酷くないか?」

 

「近くに病院は…無いか。仕方ない、タクシーでも呼んですぐに病院へ…!」

 

「だからどこもおかしくないって!」

 

「なら…君はもしかして偽物…?ドッペルゲンガー?」

 

「本人ですー!本物の三ノ輪銀ですー!純度100%の銀様ですよー?」

 

「ならもしかして…」

 

「…いいかげんにしないと泣くぞ?」

 

 

ちょっとだけのつもりが銀ちゃんの反応が面白くてついやりすぎてしまった

 

こちらを若干潤んだ目で睨んでくる銀ちゃんを見て、少々申し訳なく思う。

驚いたのは本当なんだけどね…

 

 

「ごめんごめん。いいよ、おいで?」

 

「・・あ、、本当に落ち着く…」

 

「それは何よりだけど…」

 

距離が近いせいで、銀ちゃんの髪の毛からシャンプーのいい匂いが……

 

っていかんいかん!

煩悩退散、煩悩退散!

大事な友達をそんな目で見るな僕!

 

 

 

 

・・・しかし、何だろう?

どこかから視線を感じるような…

 

 

「・・・・」ジィー

 

「・・・須美ちゃん?」

 

「…な、何かしら?」ソワソワ

 

「えっと、、来る?」

 

近くの椅子をポンポン叩く

 

幸い僕達以外のお客さんは少ないし、もう一人増えても大丈夫だけど…?

 

 

「・・不束者ですが…」

 

「そんなことないと思うけど?」

 

「んっ、、銀とそのっちの気持ちがよく分かる気がするわ……」

 

「力とかは大丈夫?」

 

「私はこのままで…」

 

「アタシはもうちょっと強く!」

 

「はいはい」

 

そう言えば、、他のお客さんがこの光景を見たらどう思うのだろうか?

 

 

少し気になって周りを見渡してみると、他のお客さんに生暖かい視線を送られていることに気付いた。

 

やめて…こっちを見て「若いわね~」とか話さないで…恥ずか死ぬから…

 

 

「・・・あー!わっしーもみのさんもずるいんよー!私も私も~!」

 

「ちょっ、、園子ちゃん?今はお願いだから黙ってて?またいつかちゃんとやってあげるから…」

 

これ以上はご勘弁願いたい…せめてここ人前では我慢してほしい…。

 

 

「本当~?ならいいよ~!」

 

「・・アタシもまた今度でいいから、お願いできないかな?」

 

「・・わ、私も…」

 

「う、うん。わかったから…早く家に帰ろう?お家の人に怒られるよ?」

 

「げっ、、もうそんな時間かぁ」

 

「ならここで解散ね。みんな、また明日会いましょう?」

 

「そうだね~。また明日~」

 

「バイバイー!」

 

 

 

 

 

帰り道、ふとみんなを撫でていた自分の手を眺める。

 

「そんなにいいものなのかなー?頭を撫でられるって」

 

ぽすんと頭上に手を下ろし、ゆっくりと動かしてみるが、何も感じない。

そりゃそうだ…だってそもそも自分でやるものじゃないんだし

 

 

ポケットに入った押し花を手に取って、それを優しく一回撫でる

 

 

 

―友奈といい、銀ちゃん達といい、、男に撫でられて何がいいんだか。

 

 

苦笑がこぼれるが、悪い気はしない

 

 

 

少し日が暮れているおかげで、地面に僕の長い影がうっすらと映る

 

 

「・・また会えたら…何がいいのか改めて聞いてみよっかな~」

 

 

 

 

―友奈、こっちは楽しく過ごせてるよ

 

―銀ちゃんも園子ちゃんも須美ちゃんもとってもいい子で…大切な友達だよ

 

 

 

―君がいなくても、、僕は大丈夫。

 

 

 

―だから……

 

 

「僕の心配なんてしてないで、自分の体について考えててくれよ?君は本当に無茶しやすいんだからさ」

 

友奈の自己犠牲精神は素晴らしいけど、僕としては止めていただきたい。

見ててこっちがヒヤヒヤするんだよ…

 

 

 

・・そんな友奈が、もしも【勇者】になったとしたら…ぴったりだろうな

 

 

 

「『結城友奈は勇者である』って感じでね…気持ち悪いぐらい合ってるな」

 

 

…もっとも、友奈に【勇者】になってほしいだなんて一ミリも思わないが

 

 

そろそろ日が本格的に暮れてくる頃だ

早く帰らないと、倉橋さんに余計な心配をかけちゃうな…急ごう。

 

押し花を片手に持ちながら走る

 

 

 

 

―不意に押し花がキラリと光ったような気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ね、ねぇ?あなた?」

 

「ん?どうした?」

 

「…そこに男の子がいるじゃない?」

 

「…おう、いるな。それが?」

 

 

「その、、『影』が…」

 

「『影』?影がどうし……?あれ?」

 

「……おかしいわよね?確かにあそこにいるのはあの男の子【一人】なのに」

 

 

 

 

 

「・・・影ではいないはずの誰かと手を繋いでて【二人】映ってるのよ…」

 

「・・・【女の子】みたいに見えるが…まさか心霊の類いか…?」

 

 

 




いかがでしょうか?
今回はほのぼの?寄りです。

最後に話していた方々は今回限り登場の通行人さんです。
…はい。悪く言えばモブさんです。

深夜テンションで仕上げましたので、誤字や文の構成に一部違和感があるかもしれません…深夜テンションって色んな意味で怖いですよね。(経験あり)



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変化

竹闇さん、megane/zeroさん、sin3θさん、うりぼーノックさん、評価ありがとうございます。励みになりますm(__)m


それに加え、アンケートのご協力もありがとうございました。
アンケートの結果、何人でもいいという声がとても多かったです。


…ちなみに四倍近く差が離れてました


前書きで長ったらしく話をいたしましても面白くないと思いますので、さっさと本編に入ります。

今回時間がいっきにとんだりしていますので、少々読み辛いかもしれません…とりあえず本編を、どうぞ。



―更に数日が過ぎた

 

…といっても、何か大きく変わったようなことは一つもない。

 

いつも通り仲のいい三人と遊び、学び、のほほんと暮らしている

 

 

 

そして今は園子ちゃんのお宅に邪魔させてもらっています。

今日は日曜日だからね…昼頃からこうして園子ちゃんの部屋に集まって、楽しく談笑させてもらっている

 

 

「おーい?翔太?」

 

「…ん?どうしたの銀ちゃん?」

 

「いや、何かボーッとしてたからさ。学校にいる時の園子みたいだったぞ」

 

「・・平和だな~って思ってただけさ。それ以外に深い理由は無いよ」

 

 

勇者である僕達には『お役目』がある

 

前も言った通り、お役目には危険がつきものであり、しかもいつその時がくるかわからない。

なのでその時がくるまで、こういう平和な時間を噛みしめたいのだ。

 

 

・・できれば『あの日』みたいなお役目はもうしたくないな…もうちょっとで片腕持っていかれるところだったし

 

 

「確かに…平和だよな~。アタシ達がこの平和を守れてるなら…うれしいな」

 

「みのさんは頑張ってるよ~!」

 

「そうか?」

 

「えぇ、銀は頑張ってるわよ?ちょっと前に出過ぎだけれどね」

 

「・・須美さんは上げて落としますね~?否定はしないけどさー」

 

「自覚があるならやめて欲しいわ…」

 

 

三人がわいわい笑顔で話しているのを見ていると、何だか嬉しくなる。

 

 

こうやって話しているのを見ると、とても彼女達が危険なお役目背負っている【勇者】とは思えないなぁ…

 

 

「アタシは斬り込み隊長だからな~。よってそれは聞き入れられない!」

 

「みのさんかっこいい~」

 

「何言ってるのよ…?あとそのっちは銀を簡単に持ち上げないで!」

 

「「え~?」」

 

「え~?じゃないわよ!もう…」

 

 

何も知らない人が見たら下らない会話だと吐き捨てるかもしれない

 

それでも僕にとってはそんな会話でも幸せを感じられるんだ

 

 

 

 

 

―こんないい子達が命をかけないと駄目なのは絶対に間違ってる

 

 

しかし僕達は【勇者】

弱音をはくなんて許されないのだろう

 

 

ならば、、もし彼女達が危険に晒された時には、同じ勇者である僕が全力で助ければいい。

 

 

 

・・場合によっては僕の命だって…

 

 

「・・・やめよう、こんなこと考えるのは。少なくとも今じゃない」

 

首を横にふって、暗い思考を散らす

 

こんな暗いこと考えてたら気分まで暗くなっちゃうよ。

明るく、明るく…ポジティブに…

 

 

「いっしー?」

 

「うわっ!?そ、園子ちゃん!?」

 

「どうかしたの~?小声でぶつぶつ話してたけどー?」

 

「な、何でもないよ。大丈夫」

 

「本当?」

 

「本当だって!神樹様に誓うよ!」

 

「…そこまで言うなら本当だね~」

 

 

しまった…みんなと遊んでいることをすっかり忘れてたよ。

 

何とか誤魔化せたから良かった……

 

 

「そういえばさ、翔太」

 

「はい?何ですか銀ちゃん」

 

「翔太の夢って何なんだ?前に聞いた時うやむやに返されたからさ」

 

「…あぁ、、夢かぁ……」

 

 

前に四人でそれぞれの夢について話したことがあるのだが、その時僕は明確な夢がなく、銀ちゃんの言うとおりうやむやにしたのだ。

 

僕以外の三人がしっかりとした夢を話している中、「特にない」なんて恥ずかしくて言えなかったから、うやむやにしたんだっけ…

 

 

 

 

しかし……『夢』か…。

 

男友達の子は『警察官』や『消防士』、『自衛隊』だったり『先生』といった夢を持っているんらしいけど……僕はこれといってなりたいものがまだないんだよなぁ

 

 

夢ねぇ、、そういえば友奈の夢ってなんなんだろうか?

…保育士さんとかかな?

 

 

 

 

 

 

《大きくなったら……わ、私と結婚してください!!》

 

 

 

 

・・所詮子供の時だけの口約束だ

小さい頃に結婚の約束をする…なんてよく聞く話だからね。

 

 

 

もう友奈と別れてからだいぶ経ったんだ。とっくに忘れて、なくなっていても不思議ではない…むしろそのほうが自然だ。

 

 

「翔太ー?そろそろ教えてくれよー」

 

「…ん?あぁ、ごめんね」

 

「私も気になるわね。やはり日本男児たるもの、国のために働く自衛隊とかかしら?」

 

「あはは…僕の身体能力じゃ、訓練で潰れるのがオチだよ」

 

「いっしー体力無いもんね」

 

「アタシとの腕相撲でも負けてたな」

 

「・・人が気にしてることを言わないでくれないかい?心にくるから」

 

友奈だけじゃなく、銀ちゃんにまで負けました…はい?何か文句あります?

 

 

「残念ね…ならいったい翔太君の夢はなんなのかしら?」

 

「さぁ!白状しろよ翔太!」

 

「はいちゃえば楽になるよ~」

 

「取り調べの刑事さんみたいなこと言わないで?……うーん、、そうだなぁ」

 

 

・・・『結婚』…そうだ!銀ちゃんと被っちゃうけど、、いいよね?

 

 

期待の眼差しを向けてくる三人に対して、ゆっくりと口を開く。

 

 

 

「夢というか、、願望に近いけど…」

 

 

 

 

 

「『結婚』は……したいなぁ」

 

 

 

 

 

「「「・・・・」」」

 

「ははは…男が言っても気持ち悪いだけかな?でもまだ夢が決まってなくてさ、とりあえず願望を言ったんだけど…」

 

 

顔に熱がともっているのを感じる

…うん、、恥ずかしいね…ちなみに嘘は言ってない。

僕のお父さんとお母さんのように、できたら一生を誰かと共にできたらいいな~とは思っている。

 

 

「・・あっ、、いやいや!アタシはいいと思うぞ!かくいうアタシも同じような夢だし…すごくいいと思う!」

 

「わ、私も銀と同じよ!とっても素敵な夢だと思うわ!」

 

「び、びっくりしたよ~…まさかいっしーもみのさんと同じ夢だなんて……メモメモ♪」

 

「・・・うん。ありがとう」

 

 

みんな顔を少し赤く染めてまでしてフォローしなくていいよ…余計恥ずかしくなってくるからさ。

 

やっぱり僕なんかが結婚願望を持ってたら変だよな…言わなきゃよかった

 

 

 

「・・本当に、何であの子は僕なんかと結婚したいなんて言ったのやら」

 

 

 

思わずそう呟いてしまう

その呟きはかなり小さく、自分でもギリギリ聞こえるかどうかの大きさだった

 

当然僕より離れた場所にいる三人には聞こえない…はずなのだが

 

 

ボトッ

 

「・・・いっしー…何その話?」

 

「へ?もしかして、、聞こえた?」

 

「そんなことどうでもいいよ、いっしー。その話教えて…?」

 

「ど、どうしたの?いつもと何か違うよ園子ちゃん…」

 

さっきまで手に持っていた手帳を落とし、園子ちゃんの……いや、銀ちゃんと須美ちゃんの雰囲気も少し変わった。

 

・・・いったいどうしたんだろう?

 

 

「・・早く」

 

「えっ、いや、、言葉の通りだよ?昔から仲の良かった幼馴染と小学校中学年の時に結婚の約束をしただけだけど…」

 

「…え?もしかしてその幼馴染って、あの押し花をもらった子…?」

 

「う、うん。須美ちゃんの言うとおりだけど…結構前にした約束だからね。たぶんあっちは忘れてると思うよ」

 

「・・へ~」

 

人は忘れる生き物だからね、十中八九忘れていると思う。

 

 

・・あれ?なのにずっと覚えてる僕って…もしかしなくても気持ち悪い?

 

 

 

「・・・だといいけどね~」

 

「・・・絶対忘れてないだろうなぁ、、その女の子」

 

「・・・その子が忘れていることを願いたいけど…ないでしょうね」

 

「?どうしたの?三人でボソボソと」

 

「いっしーは気にしなくていいよ?ちょっとしたガールズトークだから~」

 

「そうなの?ならいいんだけど…」

 

 

・・気のせいだったのだろうか?

さっき園子ちゃんが僕にどんな話か聞いてきた時……少しの間だけ、

 

 

 

 

彼女達の目に【光がなかった】気が…

 

 

 

いや、きっと見間違いだったのだろう

三人でボソボソとガールズトークをしているところを見てみると、やや薄めだがしっかりと瞳の中に光がある。

 

それを見てホッと胸を撫で下ろす

 

 

・・あの日の友奈みたいになってなくて良かった……あの時の友奈は本当に命の危険を感じたからな…。

 

あの時は僕が完全に悪かったため仕方ないのだが、、それでも怖かった

 

 

そんなことを考えている間に、どうやらもういい時間になっていたようだ

 

「…そろそろ時間だよ?三人とも」

 

「・・本当だ。どうする?二人とも」

 

「・・とりあえず今日はもうお開きにしましょう。いいわよね?そのっち」

 

「そうしよっか~」

 

 

その後は特にこれといったこともなく、そのままお開きになった

 

 

 

 

 

 

 

家にてーーーーー

 

 

「翔太君、お風呂上がったよ」

 

「はーい!今入りに行きます!」

 

今まで読んでいた小説本を閉じ、着替えを持って脱衣場に入る

 

 

上着を全て脱いで洗濯機に入れ、同じようにズボンも脱いで入れようとするが、よく見るとポケットが少し膨らんでいる

 

何だろう?少し硬いけど…

 

 

 

「・・え?押し花…?」

 

 

今日は確かに机の上に置いてきたはずなんだけど…寝ぼけて入れたのかな?

 

 

「よくわからないけど、、そのまま洗濯機の中に入れなくて良かったよ」

 

洗濯機の横に押し花を置く

お風呂から上がったら部屋に戻そう…危なかったな。気付いて良かったよ~

 

 

 

キラリといつも以上に強く輝いた押し花に僕は気付かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―それからしばらくの年月が経った

 

 

 

―今となっては懐かしい思い出だ……普通に楽しく過ごせた日々の記憶なんて

 

 

「今じゃ松葉杖無しだと一人で満足に動けないんだもんな~」

 

「銀ちゃんと園子ちゃんよりはマシだよ。僕は散歩も自由にできるからね」

 

「でもいっしー大赦さんに出ちゃ駄目って言われてるよね~?」

 

「…うん。だから外に出れてないよ」

 

包帯を大きく巻かれている二人を、【眼帯がついていない】左目で見る。

 

 

・・それでも二人よりはマシ……だと思うんだけどなぁ。

 

 

「アタシ達と違って確かに翔太は動けるけどさ…本当に大丈夫なのか?」

 

「まぁ、確かに色々と不便なところはあるけど…須美ちゃんを放っておくのは心配だからさ」

 

「わっしー元気だといいな~」

 

「たまに戻ってきて話すよ。須美ちゃんのことはもちろん、次の勇者さん達のこととかもね」

 

「・・ごめん翔太。助かる」

 

「・・気をつけてね、いっしー」

 

「うん、ありがとう」

 

 

 

コンコン

 

 

「失礼いたします。翔太様、学校へお送りする準備が整いました」

 

「分かりました……それじゃあ、またいつか戻ってくるね」

 

「おう!待ってるからな~!」

 

「いってらっしゃい~!」

 

 

 

仮面を被っている『大赦』さん達に所々サポートしてもらいつつ、松葉杖で車まで移動して乗り込む。

 

もちろん車の運転は大赦さんだ

 

 

「大赦さん、僕ってもう中学生になったんですよね?」

 

「はい。そして今向かっている学校は『讃州中学校』となっております」

 

「そうですか…ちゃんとした卒業式とか行ってませんけど、中学校に通って大丈夫なんですか?」

 

「そこはすでに我々が色々と手回しをしてありますので問題ないです」

 

…やっぱりすごいんだな、大赦って

 

 

「もうそろそろで到着いたしますので、お降りの準備をなさってください」

 

「…あっ、はい。分かりました」

 

 

ついに僕もピカピカの中学一年生か…

 

・・できれば不自由のない体で迎えたかったなぁ。せっかく人生で一度だけの中学校入学式だったのに…

 

 

「ご到着いたしました」

 

「お送りありがとうございました」

 

「翔太様、この紙に新しい家の場所と住所がのってありますので、学校が終わり次第そこにお向かいください」

 

「なるほど、ご丁寧にありがとうございます。…よいしょっと」

 

紙と共に松葉杖を受け取り、車から降りて校内へと移動する。

松葉杖の使い方に関してはこの日のためにリハビリを何回も行っていたため、何一つとして問題はない

 

 

・・やっぱり周りからの視線は避けれないよな……松葉杖に加え、大赦印の黒塗り車で来たから当然だけど。

 

 

 

「はぁ…胃が痛いよ」

 

 

―そうして幸先の悪さにため息をつきつつ、歩みを校内へと進めるのだった

 

 

 

 




いかがでしょうか?

時間がとびとびかもしれませんが、道中を書いていたらグダグダと話数を重ねてしまいそうなので、、お許しください

書いては消して、書いては消してをずっと繰り返してました…文才が欲しい。

何か指摘等あった場合はオブラートに包んでお教えくださるとありがたいです。作者のメンタルはガラスと同レベルですので……



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再会

ケチャップの伝道師さん、豚バラ煮込みさん、魚の鰓さん、評価ありがとうございますm(__)m

深夜テンションもありで書きましたので、少し不安なのですが…ご感想等いただけると幸いです。

今回はシリアスが多めかもしれません…ちなみに作者はヤンデレも好きですが、シリアスも同じくらい好きです。

・・はい、どうでもいいですね。さっさと本編入ります、、どうぞ。



 

 

「そういえば、、僕ってどこのクラスなんだろうか?」

 

入学式を終え、今からそれぞれクラス別に移動するところなのだが…僕はどこのクラスに行けばいいの?

クラス表が書いてある紙とか見てないのだけど……

 

 

「翔太君、ちょっといいかな?」

 

「あ、はい…えっと……」

 

「初めまして、君のいるクラス担任の佐藤です。どこの教室に行けばいいかわからないだろう?案内するよ」

 

担任の先生だったのか、助かった…

先生が来てくれなかったら校舎内を右往左往するところだったよー。

 

「なるほど、担任の先生でしたか。よろしくお願いします」

 

「よろしくね。それじゃあさっそくだけどついて来てもらえるかな?」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

「ここだよ…うん。どうやら他のみんなはもう集まってるみたいだね」

 

「時間取らせて申し訳ないです…」

 

「いやいや、大丈夫。どうせみんなに自己紹介してもらおうと思ってたから、むしろこの状況は好都合だよ」

 

「あぁ、そういえばそうですね」

 

そっか、そういえば自己紹介というものがあったな…

 

 

・・やばい、、何も考えてないぞ?

 

無難だが、好きな食べ物とか趣味の読書とか言えばなんとかなるか、、?

 

 

「教室に入った後、僕の自己紹介を先にさせてもらうね。そのあとに教室内で合図するから、そのあとに入ってきてもらえるかな?」

 

「りょ、了解です」

 

「翔太君の自己紹介が終わったあとに他のみんなにもそれぞれ自己紹介してもらうから…トップバッター頼んだよ?」

 

「は、はい!」

 

 

先生、、プレッシャーかけないで…

 

 

「いい返事だ。それじゃあ、合図出したらよろしく頼むよ」ガラガラ

 

扉を開けて先生が先に入って行く

 

 

 

そうしてしばらく時間が経ったあと、今度は教室内から「いいよー!」と呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 

・・第一印象は大事だよな…とりあえず噛まないようにだけ気を付けよう

 

 

 

ガラガラ!

 

「皆さん初めまして。僕の名前は倉橋翔太って言います。趣味は読書、好きな食べ物はお茶漬けです。どうかよろしくお願いします」

 

「翔太君は見ての通り、数年前に交通事故に巻き込まれたせいで『美森さん』と同じく体に不自由があります。なのでみんな優しく接してあげてください」

 

 

・・『美森さん』という子はもしかしなくても『東郷美森』…昔『鷲尾須美』だった子のことだろう。

 

 

先生のフォローがありがたい…それでも奇異の目で見られるのは避けられないんだけどね。仕方ないことだけど

 

 

クラスの子達全員を一度見渡してみる

 

やっぱり不思議な物を見るような目で見られるよね、、ん?

 

 

 

「(・・あの赤髪…もしかしたら…)」

 

 

人違いかもしれないが…少なくとも赤髪の子なんて、僕の知ってる『幼馴染』ぐらいしかいないと思うんだけど?

 

 

「それじゃあ翔太君、あそこの空いてる席に座ってくれ」

 

「あっ、はい。分かりました」

 

先生の言葉で我に帰る

えーっと?隅っこの席か…いいね。

授業中に後ろから奇異の視線を感じることがないのはラッキーと言える。

 

松葉杖を机に当たらないよう慎重に動かして、無事席につくことができた

 

 

「翔太君の自己紹介が終わったところで…次は他のみんなにも自己紹介してもらいます!今度は先生と翔太君に、みんなのことを教えて下さい!」

 

「「「えぇ~!!」」」

 

そういえばみんなにも自己紹介してもらうって言ってたっけ…

 

 

「じゃあ記念すべき一発目に行きたい人はいますかー?」

 

・・うん、そりゃあ一発目なんて嫌だよね。誰も手をあげてないよ。

 

「あらら、いないのか。なら先生が当てちゃおうか「先生!なら私行きます!」…お?ならお願いしようかな」

 

「はい!」

 

赤髪の女の子が手をあげながら先生の声を遮り、そう話した。

 

 

 

―その声…やっぱり…?

 

 

そんな疑問が膨らむ僕を知ってか知らずかはわからないが…赤髪の子が席を立った時、一瞬こちらを見たような気がした

 

 

そして女の子の自己紹介を聞いて、僕の疑問は確信に変わる。

 

 

 

 

 

「讃州中学一年、『結城友奈』です!趣味は押し花、好きな食べ物はうどんです!よろしくお願いします!」

 

 

 

―あはは、、僕の人生もまだまだ捨てたもんじゃないなぁ

 

 

久しぶりに会ったが…どうやら彼女の明るさと、花のような笑みはぜんぜん衰えてなかったらしい

 

 

 

 

 

 

 

放課後ーーーーー

 

 

「翔ちゃん!!」

 

「友奈…久しぶりだね」

 

「うん…会いたかったよー!」

 

新しく配られた中学校の教科書を纏めていると、久しい幼馴染である友奈が話し掛けてきた…かと思ったら強い力で抱き付かれた。

少し痛いけど、、我慢しよう。

 

相変わらず距離が近いけど…うん。懐かしいなぁ……まさか本当にこうして友奈と会話できる日がくるなんて

 

 

「うれしいなぁ~。翔ちゃんとまた一緒にいられるなんて」

 

「・・・うん。僕もうれしいよ」

 

あぁ、うれしいとも

あぁ、すごくうれしい

実に感無量だ…でも、、

 

 

 

 

・・・こんな『化け物』のような体ではなく、『人間』の体で再会したかった…というのは我が儘だろうか?

 

 

「・・だけど、翔ちゃんのその体…」

 

「あはは…これかい?ちょっとした交通事故に巻き込まれちゃってね」

 

「大丈夫…?」

 

「確かに不便なところも多いけど、生活できないほどではないから大丈夫だよ。リハビリもたくさんしたし」

 

「・・そっか……何か手伝えることがあったら言ってね?力になるよ!」

 

「ありがとう。頼もしいよ」

 

ぎゅっと力こぶを作って見せつけてくる友奈を見ていると、少し落ち込んでいた心が和むのを感じるよ。

 

心強い幼馴染を持って、僕は幸せです

 

 

「あっ、そうだ翔ちゃん」

 

「ん?どうしたの?」

 

「実は翔ちゃんに紹介したい友達がいるんだけど…時間大丈夫かな?」

 

「大丈夫だけど、、珍しいね?昔にも紹介とかされたことなかったのに」

 

友達こそ多い友奈だが、紹介までされたことは一度もなかったので新鮮だ。

 

「…まぁね。じゃあ連れてくるよ~」

 

「楽しみだな~。どんな子だろう?」

 

友奈に親しい人ができてうれしい限りだ…さて、どんな子なのだろう?

 

そう期待に胸を弾ませていると、どうやら連れてきてくれたようだ。

 

 

 

「えっと……『東郷美森』です。友奈ちゃんのお友達をやらせてもらっています。よろしくお願いします」

 

「…堅いよ~東郷さんー」

 

「そんなこと言われても…殿方と話したことなんてほとんどないのだから、しょうがないでしょう?」

 

「なら翔ちゃんで慣れちゃおう!」

 

「無茶言わないでちょうだい…」

 

 

―世間は狭いと言いますが、さすがにちょっと都合良すぎませんか?

 

車椅子に乗った少女、『鷲尾須美』こと、『東郷美森』ちゃんを見る

 

・・美森ちゃんと友奈が仲のいい友達になっているだなんて、はたして誰が想像できただろうか?

…少なくとも僕はできてませんでした

 

 

「翔ちゃん?どうしたの?」

 

「何でもないよ。倉橋翔太です。よろしくね、東郷さん」

 

「えぇ。よろしくね、倉橋く…ん?」

 

「?東郷さん?どうしたの?」

 

僕の名前を呼ぶかと思ったら、やけに歯切れが悪い。

 

「何か気に障っちゃったかな?」

 

「いえ、そういうことじゃなく……倉橋君の名前を呼ぶとき、なぜか―

 

 

 

 

―すごく懐かしいような気がしたの」

 

 

 

 

「っ……!」

 

「そうなの?もしかしてどこかで会ったこととかあるんじゃ…」

 

「私は無いと思うのだけれど、、倉橋君はどうかしら?」

 

 

―あるさ、大ありだよ

 

 

「・・僕も無い…初対面だと思うよ」

 

「そうよね…不思議だわ」

 

「不思議だね~」

 

「・・・・」

 

知ってるよ。

そう口に出したいのを必死にこらえる

 

たった一言、口に出すのは容易だ。

しかしそのたった一言が彼女にとってどう運ぶかなんてわからない

 

 

もし僕が美森ちゃんの立場にいたら…きっと変に混乱してしまうだろう

 

 

―だから『嘘』をつく

 

はたしてその嘘は美森ちゃんについているのか、はたまた自分についているのか…そんなのわからない

 

 

「まぁ、よくある話じゃないかな?どこかで見たことあるような~なんて」

 

「そうかもね。そういえば私も友達からそんな話聞いたことあるな~」

 

「そうかしら…」

 

「うんうん…だからよろしくね。とりあえず友好の証に握手でもしない?」

 

「そうね、、よろしくお願いします」

 

優しく手を握り、友好の握手をする

 

 

仲の良かった友人に忘れられているのはもちろん悲しく、辛いものだ

 

「そうだ東郷さん。友奈が何か迷惑とか掛けてないかな?」

 

「えっ、翔ちゃん!?」

 

「うーん…友奈ちゃんは勉強面で少し不真面目な所が目立ってるわね」

 

「うぐっ…」

 

「友奈は覚えこみいいんだけどね…やっぱりそこの所はまだ治ってないか」

 

「すみません…」

 

「あと他にも何かあったりする?」

 

「そうね、他には少しおっちょこちょいな所があると思うのだけど…」

 

 

しかし今もこうして彼女が無事に生きてくれているのなら…僕はそれでいい

 

「思いだせ」なんて言わない

 

記憶が無いなら無いで……

 

 

「もうやめてよ~!二人とも~!」

 

「「友奈(ちゃん)が悪い」」

 

「なんでもう息が合ってるの!?」

 

「「友奈(ちゃん)が悪い」」

 

「二人とも酷いよー!!」

 

「ふふふ」「あはは」

 

 

 

『初めまして』から、また始めよう

 

0からまた楽しい思い出を作ろうよ、須美ちゃ……いや、美森ちゃん。

 

 

 

 

 

帰り道にてーーーーー

 

 

「私達の家はこっちなんだけど…翔ちゃんの家ってどこにあるの?」

 

「僕の家?ちょっと待ってね…」

 

ポケットに入れておいた大赦さんからもらった紙を手にとる。

えーっと、、お?これはこれは…

 

「僕もそっちみたいだね」

 

「え!?翔ちゃんも!?」

 

「すごい偶然…」

 

「ほら、この地図見てみてよ」

 

「・・本当ね、、ってあら?この家がある場所って…」

 

「うん?何かあるの?」

 

「ちょうど私と友奈ちゃんが住んでる家のすぐ近くにあるわね…この家」

 

「・・マジですか」

 

ご近所さんに知り合いがいるのはうれしいけど…こんなに偶然って重なる?

まさかとは思うが、大赦さんが何かしら手を回したのでは…?

 

 

「…ということは・・・また翔ちゃんと一緒にいられるんだね……」

 

「ん?友奈、何か言った?」

 

友奈が小声でボソボソと何か言ってたような気がするが、聞き取れなかった。

うれしそうな顔をしていたけど、何かいいことでもあったのかな…気になる。

 

「何でもないよ!なら翔ちゃんも一緒に帰ろうよ、道案内してあげるから!」

 

はぐらかされたけど…まいっか

確かに気になりこそするが、問い詰めるほど知りたい訳じゃない

道案内は素直にありがたいから、ここは友奈のご好意に甘えよう。

 

「それはありがたいね。なら頼みますよ?結城友奈先生」

 

「うむ、任せたまえ!」

 

「ふふっ…仲がいいわね、二人とも」

 

「友奈とは幼馴染だからね~。純粋に友奈のノリがいいってのもあるけど」

 

「私だけじゃなく、東郷さんも一緒に翔ちゃんに道案内しようよ!仲間外れはなしだからね?」

 

「わ、私も?」

 

「うん、僕もそうしてもらえるとうれしいな。嫌じゃなかったら、簡単にでいいのでご案内を頼みたいのですが…駄目でしょうか、東郷美森司令官」

 

「!司令官…私が…」

 

美森ちゃんは自他共に認めるほどの愛国心をお持ちの変わった女の子だ。

確か昔の戦艦や空母とかにも詳しかったはずなので、司令官呼びにしたんだけど…効果は抜群のようですな。

 

「任せて!必ずや翔太君をお家まで導いてあげるわ!私の大和魂に誓う!」

 

「…何かよくわからないけど、かっこいいよ!東郷さん!」

 

「・・あれ?おかしいな?僕はろうそくに火をつけようとしたんだけど…どうやら間違えてダイナマイトに火をつけてしまったみたいだ」

 

…神樹様は記憶こそ消せても、彼女の愛国心までは消せなかったか、、

 

 

 

そう内心苦笑しつつ、意気揚々と前を行く二人に案内されるのだった

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「ただいまー!」

 

「お帰りなさい友奈…どうしたの?いつも以上に笑顔で楽しそうだけど、、何か入学式でいいことでもあった?」

 

「うん!翔ちゃんと再会したの!」

 

「あら、翔太君に会えたの?それは良かったわね~友奈」

 

「それだけじゃないよ!昔みたいに家もすぐそこにあるんだ~!」

 

「そうなの?なら明日あたり挨拶に行かないと駄目ね…楽しみだわ」

 

何かお菓子あったかしら…そうぶつぶつ言いながらリビング戻るお母さんを見送ったのち、自分の部屋に入る。

 

 

「翔ちゃん、、えへへ…また会えて今すごいうれしいよ~」

 

呟きながら、四つ葉のクローバーが入った押し花をぎゅっとだきしめる

 

 

―あの時の『またね』は嘘じゃなかったんだね翔ちゃん…私、信じてたよ

 

…翔ちゃんは知らないだろうけど……翔ちゃんが教室に入ってきた時、私すごく嬉しかったんだよ?

 

 

 

 

 

《あはは…これかい?ちょっとした交通事故に巻き込まれちゃってね》

 

 

 

・・・ある一点を除いて…

 

 

少し前からベッド下に入れてあったアルバムを手に取り、ゆっくりと開く

 

そこにある写真には確かに『眼帯』や『松葉杖』を使っていない、笑顔で元気な翔ちゃんの姿があった。

 

 

「・・翔ちゃんは大丈夫って言ってたけど…昔と違って表情が堅くなってた。前はもっと元気で明るかったのに…」

 

 

―ポタリ

 

 

「翔ちゃんだって、翔ちゃんだって…私に心配かけてるじゃん……」

 

 

―ポタリ

 

 

「翔ちゃんは私に『無茶するな』って言うけど…私は翔ちゃんに『無茶するな』って言いたいよ…!」

 

 

 

 

《一番大事な友達が傷ついているのを見て楽しいわけないでしょ?》

 

 

 

「馬鹿…翔ちゃんの馬鹿ぁ…!」

 

 

 

―その日私は笑顔で写る大好きな人の写真の横で、そう静かに嘆いた

 

 

 




いかがでしょうか?

作中で翔太君は友奈ちゃんによく『無茶するな』なんて言ってますが、彼も友奈ちゃんと同じぐらい強い【自己犠牲精神】を持ってます。


・・もしくはそれ以上かも…?

佐藤先生はオリジナルです。
これからもちょくちょく小さなオリジナル要素が顔を出すかもしれませんが、大して気にしないでくださるとうれしいです

最後に…新しく『ハーレム』タグを追加したのですが、『結城友奈』のタグを外すつもりはありません。
理由は、、話を読んでいる皆様が大体お察していると思いますので、あえて言いません。


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日常と入部と幼馴染と


@taroさん、ハンベイさん、ウルトラ木星人さん、座馬八郎さん、那須屋 高雄さん、Plant Swampさん、ナギンヌさん、まりゅさん、断空我さん、貴重なご評価ありがとうございますm(__)m

今回は少し区切りが悪いかもしれませんが、次回をなるべく早めに投稿する予定なのでお許しくださいm(__)m

とりあえず本編入ります、どうぞ。



 

 

 

「おはよう。友奈、東郷さん」

 

「おはよう!翔ちゃん!」

 

「おはよう。翔太君」

 

 

入学式から数日が経ち、二人との挨拶も恒例化してきた。

だからといって飽きたりなんてしていない…むしろ心地いいくらいだ。

 

「そうだ、二人共…今日あった宿題の答えってわかった、、?」

 

「・・友奈ちゃん?」

 

「な、なに?東郷さん?」

 

「…見せないからね?宿題は自分で解かないと意味が無いんだから」

 

「ううっ。そこを何とか…」

 

「駄目です!」

 

・・仲いいなぁ、この二人。

 

友奈も頭悪いわけじゃないんだけどな…むしろ良いほうだと思うけど。

 

まぁ、でも…今回の宿題は確かに難しめだったから、同情はできる。

 

 

「翔ちゃん~」

 

「友奈、僕も答えは見せられないからね?そんな上目遣いしても駄目だよ」

 

「翔ちゃんまで!?そんなぁ…」

 

僕の机に突っ伏す友奈に苦笑する

さすがに答えは見せれないよ。

 

…答え『は』ね。

 

 

「落ち込まないの友奈。ほら、宿題のプリント見せてごらん?」

 

「え、それって…」

 

「まだ朝の時間はあるからね。幸い宿題も多くないし、教えてあげるよ」

 

「翔ちゃん…!」

 

「はいはい。喋ってないで早くプリント持ってきな?時間は有限だよ?」

 

「はい!翔ちゃん先生!」

 

そう言いながら自分の席に向かう友奈を見送っていると、隣の車椅子からため息が聞こえてきた。

 

「もう、翔太君ったら…友奈ちゃんをあまり甘やかしちゃ駄目よ?」

 

「答えは見せないよ。解き方とかを教えるだけだから…ね?」

 

「・・はぁ、わかったわ」

 

「ありがとうね、東郷さん」

 

「翔太君だけじゃ大変でしょう?それなら私も手伝うわ」

 

そんなありがたい提案をしてくれる美森ちゃんに、思わず笑みがこぼれる

 

何だかんだで友奈に優しいんだよね~美森ちゃんって。

 

 

「翔太君?何で笑ってるのかしら?」

 

「別に?何でもないよ~?」

 

「翔ちゃん!持ってきたよ…って、何かあったの?二人とも見つめ合って」

 

 

 

―そんなにぎやかな朝の会話から、1日の始まりを噛みしめるのだった

 

 

 

 

 

 

 

放課後ーーーーー

 

 

「え?部活を見てみたい?」

 

「うん!駄目かな?」

 

「別にいいけど…どこに?」

 

美森ちゃんが乗っている車椅子を押しながら歩く友奈に訪ねる。

 

部活を見てみたいなんて言うことは、おおよそ行きたい部活の目星とか決めてるのだろうか?

 

 

・・友奈は僕と違って運動神経抜群だから、どこに行っても問題ないだろうけどねー……羨ましい。

 

「実はまだ決めてないんだ~。どんな部活があるのかも詳しく知らなくて…だから色々見てみたいな~って」

 

「あっ、そうなんだ…ちなみにどんな部活がいいとか希望はあるの?運動部がいい!とかそんな感じの」

 

「そういうのは特にないかなー」

 

無いのか…まぁ、いいんだけどさ

友奈らしいと言えば友奈らしいしね。

 

「東郷さんも部活に興味が?」

 

「私も翔太君と同じで友奈ちゃんの付き添いよ。私はほら、車椅子だから…」

 

「僕も松葉杖だけど、インドアな部活とかだったらやれるんじゃないかな?東郷さんも入れて三人で」

 

「私もできれば二人と一緒の部活がいいな!三人で楽しくやりたいもん!」

 

「二人とも……そうね、私もこの三人でやりたいわ」

 

少し暗くなっていた美森ちゃんだったが、僕らの言葉で明るさを取り戻したようで良かったよ。

 

 

しかし、、インドアな部活か…この学校にはどんなのがあるんだろう?

思いつくのは将棋や囲碁、百人一首とかだけど…他にもあったりするかな?

 

 

「うーん。どうしようかな…」

 

「とりあえず適当に見に行ってみる?迷ってても時間が勿体ないだけだよ」

 

「翔太君の言うとおりね。まずは行ってみましょう?友奈ちゃん」

 

いざ見に行くとなると、どこへ行こうか悩むのは分かるが…悩んで時間を使い、帰るのが遅くなるのは避けたい

 

 

 

「そうだね!よーし!じゃあ、野球部から行ってみ―「ちょーっといいかしら?そこのお三方?」…ふぇ?」

 

友奈が意気揚々と声をあげようとするが、突如として現れた金髪の女性によってそれは遮られた。

 

 

「部活の勧誘ですか?失礼ですがどなたでしょうか?先輩の方だというのは分かるのですが…」

 

いきなり現れた女性に驚いて口を開けている二人に代わって訪ねる。

 

おそらく部活の勧誘だと思うので、先輩の人だというのは分かるのだが…

 

 

 

「あぁ、自己紹介がまだだったわね…あたしは二年の犬吠埼風(いぬぼうざきふう)、、『勇者部』の部長よ!」

 

「『勇者部』…!それっていったいどんな部活なんですか!」

 

「よく聞いてくれました…勇者部は世のため人のために、他の人がやりたくないようなことを『勇んで』行う部活よ!」

 

「・・要するに、、ボランティア活動をする部活ってことですか?」

 

「まぁ、、そうとも言うわ」

 

【勇者】という言葉に目を輝かせる友奈と、冷静にどんな部活か先輩に訪ねる美森ちゃん。

 

二人がそれぞれ先輩と話している間、僕は正直気が気じゃなかった

 

 

 

―まさか…新しい勇者に友奈が?

 

 

自分で動かすことができなくなった足に目をやり、顔をしかめる。

 

大赦さんから詳しい話は一切教えらなかったため、あくまで推測でしかないが…『勇者部』だろ…?

 

 

「……ちゃん!翔ちゃん!」

 

「…はい?どうしたの友奈?」

 

「どうしたじゃないよ~!さっきから呼んでるのに何で無視するのー?」

 

「翔太君はどう思う?私と友奈ちゃんは勇者部に入ろうと思うのだけど」

 

どうやら思考に没頭している間に二人は入部することにしたらしい。

 

…無視したわけじゃないんだよ、友奈

 

 

「できればあたしは君にも入って欲しいのだけど…どうかしら?」

 

「二人が入るのなら僕も入ります。よろしくお願いしますね、犬吠埼部長」

 

「入ってくれるようでうれしいわ!じゃあこの入部届けに記入してね。先生に持っていかないと駄目だから」

 

「わかりました!」

 

 

・・二人が楽しそうなら…いいかな?

 

 

意気揚々と紙に書く友奈と、微笑みを浮かべながらうれしそうに紙を書き進める美森ちゃんを見て、ひとまず僕は考えるのをやめた。

 

僕の早とちりかもしれないし…。

 

 

「はい、ありがとう。それじゃあこれからよろしくね!三人とも!」

 

「「はい!」」

 

「・・よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またね。友奈ちゃん、翔太君」

 

「うん!また明日ね、東郷さん!」

 

「バイバイ。また明日」

 

勇者部への入部が決まって美森ちゃんもうれしいのか、いつもより別れを告げる声が弾んでいる。

美森ちゃんがうれしそうで何よりだよ

 

 

「翔ちゃんうれしそうだね~?」

 

「現在進行形で100%スマイルを浮かべている君に言われたくないよ?」

「勇者部の活動が楽しみだからね!」

 

「友奈も人のこと言えないじゃん…」

 

楽しみなのは分かるが、満面の笑顔で帰路についている姿を見て不審がられそうだからやめていただきたい。

 

…そんな水を差すようなこと、絶対に言えないけど。

 

 

「それじゃあね、友奈」

 

「え?あ、うん…」

 

友奈に一言別れの挨拶をしてから家のドアノブに手を掛ける。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 

今まさにドアを開けて中に入ろうとしていると、後ろからそんな友奈の声が聞こえてきた。

 

 

「うん?どうかしたの友奈?」

 

「えっと……久しぶりにさ?私の家に上がっていかない…?」

 

「・・はい?」

 

いや、うん・・確かに昔はよく結城家にお邪魔してたけどさ…?

 

それにこんな時間に上がったら、友奈のお母さんにも迷惑がかかるし…

 

「友奈、さすがにそれは―」

 

「晩御飯だけでいいから……駄目?」

 

 

・・目を潤ませて上目遣いはずるいよ…これを天然でやってのけるから友奈は油断できない。

 

「・・・わかったよ。友奈のお母さんにも挨拶したかったし、、お邪魔させてもらうね?」

 

「!良かったー!それじゃあさっそく中に入って入って!」

 

「おっとっと…」

 

友奈に手を引っ張られて、家の中へと強引に引き寄せられる。

 

友奈ってこんなに強引だったっけ…?

 

 

「ただいまー!」

 

「お帰りなさい友奈……って、あら?翔太君…翔太君よね?お久しぶりね~!」

 

「お久しぶりです、友奈のお母さん」

 

友奈のお母さんも変わっているんじゃないかなと少し心配していたのだが、全然変わってなくてホッとしたよ。

 

「小学生以来ね~。今日はどうしたの?何か家に用でも?」

 

「あぁ、いえ。少し友奈に晩御飯を一緒に食べようと誘われまして……ご迷惑でしたかね?」

 

「久しぶりに翔ちゃんと一緒に晩御飯食べたくて…お母さん!お願い!」

 

「なるほどなるほど…そういうことなら大歓迎よ!私も翔太君と久しぶりにご飯食べたいしね!」

 

友奈のお母さん、うれしいですけどそこは断ってくれても良かったんですよ?

むしろ断ってほしかった…

 

「本当に!?」

 

「えぇ、女に二言は無いわ!…でも翔太君のお家は大丈夫なの?突然他所の家で晩御飯を食べちゃって」

 

「・・大丈夫ですよ、どうせお父さんとお母さんは遅くまで仕事しているので。むしろ友奈のお母さんが作ってくれるならありがたいぐらいかと」

 

「そうなの?それは大変ね…なら今日はゆっくりしていってね?」

 

「あはは、ありがとうございます…」

 

 

あぁ、何一つ問題なんてないさ。

 

 

・・どうせ家に帰っても、大赦さんが作ってくれた料理が広い家にぽつんと一つ置いてあるだけなんだから

 

実質一人暮らしみたいなものなので、いくら帰るのが遅くなっても問題ないんだけど…わざわざ言う必要ないよな

 

 

 

「そうだ…なんならお泊まりしていく?」

 

 

「・・・はぇ?」

 

 

・・・今、、何て言いました…?

 

 

「遅くまで一人だと寂しいでしょ?それにその体だと色々と不便でしょうし…毎日とは言わないから、今日だけでも泊まっていかない?」

 

「・・・・」

 

 

 

 

‥( ・◇・)? ⬅️ ※僕です

 

⬇️

 

‥( -_・)? ⬅️※僕で(以下略

 

⬇️

 

‥Σ(゜Д゜)!? ⬅️※(以下略)

 

 

いや落ち着け・・友奈のお母さんは僕に気をつかってくれて言っているだけだ。

 

 

だからここは丁重にお断りを入れるべきだろう。よし…ではさっそく―

 

 

「私もそのほうがいいと思う!」

 

「!?ゆ、友奈!?」

 

「翔ちゃん一人だと心配だよ!今日だけでいいから、、泊まっていって?」

 

おそらく僕の身を信頼+心配してくれてるがゆえにそう言ってくれてるだろうが…もっと男である僕に危機感を持って欲しい。

 

「友奈もこう言ってることだし、ここは泊まっていかない?翔太君?」

 

 

断りたい・・だが、お二人の善意を無駄にするわけにも……仕方ない。

 

 

「・・・・すみません。ご厚意に甘えて、泊まらせていただきます」

 

「!!」

 

「いえいえ、気にしなくていいのよ。困った時はお互い様だからね」

 

「ははっ…感謝の極みです…」

 

「ならとりあえず晩御飯にしましょう!今日はうどんよ~二人とも、いっぱい食べてね?」

 

「はーい!!行こう!翔ちゃん!」

 

「うん。行こっか…」

 

目を眩しいくらいキラキラ輝かせている友奈に引っ張られる

 

 

二人の善意に罪はない

とどのつまり、僕が意識しなきゃいいんだから…実際ありがたいし。

 

お父さんお母さん…この市村翔太、、腹をくくります。

 

 

 

 

 

 

 

「ところでどうだった翔太君?家のうどんはお口に合ったかしら?」

 

「はい、とてもおいしかったですよ。ごちそうさまです」

 

僕が上がった後の湯に友奈が入っている間、友奈のお母さんと話していると、作ってくれたうどんについての感想を聞かれた。

 

 

「少し家のうどんは味が濃いめだったから心配だったのだけど…翔太君って濃いめが好きなのかしら?」

 

「・・え?あぁ、そうですね…少し濃いめのほうが好きなんですよ、僕」

 

「そうなのね、なら良かったわ」

 

 

・・あのうどん、濃いめだったんだ…『全然わからなかったよ』

 

わかってはいたけど、、やっぱり食事が楽しめなくなるのは辛いな…

 

 

「できればもうちょっと話していたいんだけど、、そろそろ友奈が上がってきちゃうし、私は失礼するわね?」

 

「え?…あの、僕ってどこで寝ればいいんですかね…?」

 

「あ……そういえば、空いてる部屋がなかったのを忘れてたわ…翔太君、申し訳ないのだけど…」

 

 

 

 

「友奈の部屋で寝泊まりしてもらっていいかしら?」

 

 

「・・へ?」

 

 

 





いかがでしょうか?

前書きでも語ったとおり、終わり方が少しキリ良くないです。

気持ち悪く感じた方がいましたら申し訳ないです…次回の投稿は早めにいたしますので、お待ちくださると幸いです

他キャラ視点もありませんが、それも次回にお預けです。楽しみにしてくださっていた方がいましたらすみませんm(__)m


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たった一人の幼馴染

@taroさん、青と緑のメガネくんさん、タイプ・ネプチューンさん、貴重な評価をありがとうございますm(__)m

今回は前回の続き…つまり友奈ちゃんの部屋からの話です。

今回、色々な方々が書いているヤンデレ小説を読み漁ったりして、自分なりに頑張って書いてみたのですが…キャラ崩壊とかがすごく心配です。

何かありましたら、気兼ねなく感想等でお申し付けくださいm(__)m
文の構成とかも不安ですので、その点でもありましたらお待ちしております。

とりあえず…どうぞ。



友奈の部屋にてーーーーーー

 

 

「久しぶりだね…こうやって翔ちゃんが家に泊まっていくなんて」

 

「・・小学校低学年以来だよ、お泊まりなんてさ…」

 

「またこうして翔ちゃんとお泊まりできるなんて、思ってもなかったよ~」

 

「いや、むしろあっちゃ駄目なんだよ?僕達はもう中学生なんだからね?友奈、そこのところわかってる?」

 

「えへへ~♪寝るまでまだ時間あるし、お話しようよ翔ちゃん!」

 

「・・・うん、、いいよ」

 

絶対僕の言葉聞いてないだろうけど……もういいや。

 

ベッド上で幸せそうな笑みを浮かべながら隣をポンポン叩く友奈に苦笑する

 

 

「…はぁ。少しぐらいは警戒してほしいんだけど、、っと」

 

「?何で私が翔ちゃんに警戒しないといけないの?」

 

ため息と共にベッドに座ると、僕の言葉の意味が心底わからないといったふうに、友奈が首をこてんと傾げた。

 

それを見たのち、もう一度先ほどよりも長いため息をはく

 

 

―まったく・・この幼馴染は…

 

 

純真無垢なのは友奈のいいところなのだけど、、さすがにこのままだと友奈の将来が心配だ。

 

さすがに少しは男という生き物について知ってもらわないと…

 

 

「あのね、友奈。男は狼なんだよ?」

 

「お、狼?」

 

「そう。だから友奈みたいに可愛い女の子は絶好の標的なんだ」

 

「えっ!?私なんてそんな…」

 

僕の『可愛い』という言葉に反応して、頬をほんのりと赤く染める友奈

 

 

…いや、友奈は身内の贔屓とか無しに可愛いと思うんだけど?

 

「いやいや、じゅうぶん友奈は魅力的な女の子だと思うよ?」

 

「・・不意打ちはずるいよ…」ボソッ

 

「え?何か言った?」

 

「何でもないよー!ただの一人言!」

 

「それはそれでどうなの?」

 

何もないのに顔が赤くなるんだったら、むしろその方が心配だよ…

 

 

「それよりも…翔ちゃんが狼か~」

 

「・・何その目」

 

友奈から疑惑の眼差しを向けられる

 

…何だよその「本当に~?」とでも言いたそうな目は?

 

「いや~翔ちゃんが狼とはちょっと思えないよー?」

 

「むっ…」

 

「翔ちゃんは狼というよりも…ウサギさんのイメージだなぁ、私は」

 

「・・随分と言ってくれるねー?」

 

自分でも分かってるけど…だからこそ人に言われるとムッとなる。

 

 

・・そこまで言われたらさ、男として……黙っておけないなぁ?

 

友奈には話して伝えるよりも、実際に体験してもらったほうが危機感を持ってくれそうだし…一回痛い目にあってもらおう

 

 

トンッ

 

 

「・・え?翔ちゃん…?」

 

「友奈?さすがの僕でもその発言は…ちょーっと許せないな?」

 

友奈をベッドに横たわるように押し倒す

 

もちろん友奈に危機感を持ってもらうための演技なので、友奈が怪我などしないように押す力は優しくしてある

 

「口で言ってもわからないんだったら、、その身に教えてあげるよ…」

 

 

友奈の腕をベッドに押さえつける

 

 

「翔ちゃん…」

 

 

そのまま上に跨がり、顔の距離をだんだんと近付けていく。

 

そして……

 

 

 

 

 

「えいっ」ペシッ

 

「あいたっ!」

 

友奈のおでこにでこぴんを一発当てた

 

 

「…え?何?」

 

「どう?これで少しぐらいは危機感を持ってくれた?」

 

自分でも分かる

今の僕はさぞかし意地悪な笑みを浮かべていることだろう。

 

 

・・友奈に危機感を持ってもらうというより、ただ見返してやりたくてやったのは内緒だ。

 

…反省はしてる。だが後悔はしてない

 

「僕が幼馴染にそんな酷いことするわけないだろ?ただの演技だよ」

 

「え、演技?」

 

「もちろん。友奈だって知ってたんだろ?僕が草食系男子ってこと」

 

「あいにく僕にはそこまでできる勇気も、力も、度胸もないよ~」

 

自分で言った自虐ネタに自分で笑いつつ、友奈の上から避けてベッド端に座る

 

 

「これで少しは僕のことも狼として見てくれたかな?友……友奈?」

 

「・・・・」

 

チラッと友奈の方を見ると、何故か顔を俯かせて細かく震えていた。

 

 

・・もしかして、、怖くて震えてる?

 

調子に乗ってやり過ぎたかもしれない…まさかそこまで響くなんて…

 

「あ、あはは…友奈?大丈夫?」

 

「・・・ねぇ、翔ちゃん…親しき仲にも礼儀ありって知ってる?」

 

「へ?あ、うん。知ってるよ…」

 

「…翔ちゃん。幼馴染の私だって、されたら嫌なこととかあるんだよ?」

 

…友奈の言うとおりだ

 

『親しき仲にも礼儀あり』

比較的付き合いの長い友奈が相手だろうと、何でもしていいわけじゃない

 

お互いの仲がどれだけ良かろうと、されたら嫌なことは必ずある。

 

 

さすがにやり過ぎた僕が悪い…だからここは素直に謝って―

 

 

 

 

ドンッ!

 

 

・・・・え?

 

 

友奈にいきなり引き寄せられたと思ったら、僕がたったさっきやったように押し倒される。

 

 

 

 

「・・翔ちゃんが悪いんだよ?」

 

「私はずっと抑えてたのに…翔ちゃんからそんなことしてくるなら……」

 

 

 

 

 

「少しぐらい、、いいよね?」

 

 

そんな言葉と共に僕の上へと股がる友奈

 

 

・・・赤色の瞳をとろんとさせて…

 

 

「ゆ、友奈?もしかして…僕に対する仕返し?ちょっと冗談キツイよ…?」

 

「…冗談だと思う…?」

 

「ちょっ、友奈!本当に近いって!」

 

ただでさえ近かった距離をますます詰める友奈に、じたばたして抵抗する

 

…しかし運動神経皆無の僕と運動神経抜群の友奈とでは力の差は明確。

僕の抵抗は友奈によって簡単に押さえ込まれてしまった。

 

 

「っ…びくともしない…」

 

「・・翔ちゃんって本当にうさぎさんみたいだよね…可愛い♪」

 

そんな僕を見て友奈がうれしそうに口元を三日月状に歪ませ、そう呟く。

 

 

 

 

1cm、また1cmと距離が縮まっていく…

 

 

そうして気付いたころにはもう、友奈の顔が目の前にまで迫ってきていた

 

 

「…こんな近くで翔ちゃんの顔を見たことなかったから、すごく新鮮な気分だよ~」

 

「くすぐったいから喋らないで…。友奈、いくらなんでもこの距離は…」

 

目の前に友奈の顔があるため、当然友奈が喋れば吐息が僕にかかってくすぐったい…ぞわってする。

 

 

―いくら幼馴染とはいえ、、この距離はさすがにやり過ぎだ。止めないと…

 

 

「お願いだから退いてくれ…大丈夫。誰にもこのことは言わないから」

 

「・・・・」

 

「だから早く―」

 

退いてくれ

 

そう続いて言おうとしたが、それは叶わぬこととなった。

 

 

 

 

なぜなら、、

 

 

 

 

「むぐっ!?」

 

「・・・・♪」

 

 

 

光を失った瞳の友奈に文字通り、口を塞がれたからだ

 

 

突然のことに驚いて一瞬状況を把握するのが遅くなってしまったが、すぐ我に返って友奈から距離を取る。

 

「ぷはっ!友奈、何し…んぐっ!?」

 

「・・途中で離れちゃ駄目だよ」

 

「や、やめ…んんっ~!!」

 

だがやっと離れられたというところで、友奈が僕の首の後ろへ腕を回し、強引に引き寄せられて強制的に口付けを再開させられる。

 

 

 

 

数分程経ってやっと満足したらしく、回されていた腕がほどかれ解放される

 

一筋の銀色の糸が伸び、ぶつりと切れたところを見て、先ほどまで自分達はどんなことをしていたのか嫌というほど認識させられる。

 

 

 

友奈と・・・『キス』…しちゃった…

 

 

「ぷはっ。えへへ…私のファーストキス、翔ちゃんにあげちゃった~」

 

「・・・友奈…何で……」

 

「え?理由なんて特にないよ?ただしたくなったからした…それだけだよ?」

 

 

…『したくなったからした』?

キスなんていう大事なことを?

 

 

・・わからない…どういうことだ…?

全然、わけがわからないよ…友奈…

 

 

「あっ、もういい時間だね…そろそろ寝よっか、翔ちゃん」

 

そう頭の中で一人困惑していると、友奈に現実へと引き戻される

 

近くの目覚まし時計を確認すると、確かに良い子はもうそろそろ寝る時間を指してあった。

 

 

「一緒に寝ようよ!翔ちゃん!」

 

キスをしていた時の黒く濁っていた目はどこへやら…むしろキラキラした目でこちらへ訪ねてくる友奈。

 

 

「・・あぁ、いいよ」

 

「やった!なら早く布団の中に入って入って!すぐ電気消しちゃうから!」

 

「・・うん」

 

いそいそと友奈の横に入る

 

 

あんなことをした後のせいか、一緒に寝るのなんか気にならない。

 

 

 

 

むしろ気になるのは……

 

 

「それじゃあ、消すね?」

 

「わかった…おやすみ、友奈」

 

「うん。また明日ね!」

 

 

あんなことがあったのにも関わらず、『いつも通り』に振る舞える友奈のことだ

 

 

さっきまでの光がない、濁った目の君はいったい何だったんだ?

 

 

 

―そんな僕の疑問は誰にも届かず、眠気と共に闇へと消えた…

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「・・・もう寝たかな?翔ちゃん」

 

スゥスゥと静かに寝息をたてる翔ちゃんの方向に、ゆっくりと体を向ける

 

 

無防備で柔らかい表情を浮かべている幼馴染の姿を見て、少し胸が熱くなる

 

「翔ちゃんに狼なんて似合わないよ。むしろ狼はどっちかというと…」

 

今日の出来事を思い出し、自分でもだらしなくにやけているのが分かる。

 

 

 

―優しくて、心強くて、暖かくて、物知りで…たった一人の大好きな幼馴染

 

 

そんな彼と今日…初めてのキスをした

 

 

 

静かに隣で眠りにつく彼に近づき、

 

 

「ずーっと会えなくて、やっと会えたと思ったら今度は心配かけて…」

 

「だから……少しぐらいは私のわがままも聞いてくれていいよね?」

 

 

そっと抱きしめる。

彼が起きないように優しく、優しく…

 

 

 

「もう何回目かわからないけど…」

 

 

 

 

「大、大、大好きだよ。翔ちゃん」

 

 

今日のキスも、翔ちゃんのファーストキスが誰かに取られたりする前の先手を打っての行動だったんだけど…翔ちゃんには絶対にそんなこと言えないよ。

 

 

 

―ねぇ、翔ちゃん?

 

 

 

―花は一人で咲けないんだよ?

 

 

 




いかがでしょうか…?

友奈ちゃんのキャラを個人的にはなるべく保ちつつ、攻めて書いたのですが…どこか違和感とかありますかね?


まだまだ拙い本小説ですが、今後も読んでいただけるとありがたいです。


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活動

やみかぜさん、肴島さん、幽牙さん、
評価ありがとうございますm(__)m

少々リアルの方で一悶着ありまして、、投稿が遅くなりました……申し訳ないです

日を空けて小説を書いたので、いつも以上に至らない部分があると思いますが…とりあえず本編に入ります。

前回がヤンデレ成分多めだったため、今回はヤンデレ無しです…多分。

とりあえず、、どうぞ。



 

「行ってらっしゃい。気を付けてね」

 

「行ってきます!」「行ってきます」

 

そう友奈のお母さんに挨拶をして家を出るやいなや友奈が僕の手を取り、美森ちゃん宅まで駆け出す。

 

 

「早い早い…僕がどれほど体力が無いか知ってるだろ?友奈さんや?」

 

「だって東郷さんが待ってるんだよ?もうすでに少し待たせちゃってるし…少しでも早く行かないと!」

 

「誰かさんが中々起きなかったからね」

 

友奈が朝に弱いのは知っているため、そこについては責める気はない

 

 

だが……僕へ抱きつきという名の拘束行為をしてきたため、今回は別だ。

 

友奈は起きないわ、僕は動けないわ、、そのせいでいつもより時間が押してるんだよなぁ?

 

 

 

・・寝言で、僕の名前を呼ぶたんびに友奈の抱き付いてくる力が強くなってて、蛇かなんかかと思ったのは内緒だ

 

 

「・・と、とりあえず!早く行こ!」

 

「…はぁ。何言ってんの、もう東郷さんの家の前まで来てるじゃん」

 

少々美森ちゃんの家に無礼だが、松葉杖で『東郷』と書かれた表札を指す。

 

「へ?あ、本当だ…」

 

「・・別にもう気にしてないよ。だから早く東郷さんを迎えに行こう?」

 

「うん、、そうだね」

 

「僕はちょっとチャイム押しにくいから、任せていい?」

 

「もちろん!任せて!」

 

「…そんな胸を張って言うほどのことじゃないだろう?」

 

というか僕に胸を張っている暇があったら、さっさとチャイム押してくれ…

 

 

 

 

ガチャ!

 

 

「・・・・」

 

「「あっ…」」

 

友奈とそんなやり取りをしていると、美森ちゃん宅の扉が勢いよく開き、住人の東郷美森様が姿を現した。

 

 

 

・・彼女の後ろに般若の姿が見えるのだが、、気のせいだろう

 

 

「いつもよりちょーっと、ちょーっと遅いんじゃないかしら?二人共?」

 

「あ、いや、えっと、その…」

 

「言い訳無用よ?友奈ちゃん?」

 

「・・はい…」

 

 

顔は満面の笑顔なのに…すごい圧だ

 

しゅんとしてしまった友奈を尻目に美森ちゃんを眺めながら考えていると、今度はこちらに振り向いてきた。

 

 

「翔太君も翔太君よ?」

 

「ごめん東郷さん。ちょっと朝に友奈と昔話で盛り上がっちゃって…ね?」

 

「え?あ、うん」

 

アイコンタクトで友奈を僕の話に乗るよう合図を出す。

 

…自分の行動で相手を怒らせてしまった時のベストな行動はただ一つ

 

 

「とにかく、、ごめんなさい」

 

 

『誠心誠意を込めて謝る』

それ以外にないだろう。

 

 

「・・はぁ…分かりました、今回は許します。その代わりに今度からはちゃんと気を付けてね?」

 

「ありがとう。東郷さん」

 

「さぁ、早く行きましょう」

 

「そうだね、、行こうよ友奈」

 

「翔ちゃん…!」

 

救世主を見るような目でこちらを見てくる友奈にウィンクで返す。

 

…男のウィンクに需要は無いだろうが

 

 

「それじゃあ…押すね?東郷さん」

 

「えぇ、ありがとう友奈ちゃん」

 

「よいしょ。良い天気だね~今日も」

 

「そうね…小鳥の声も聞こえて、とても風情のある良い日だわ」

 

「(ここだけ聞いたら、ご老人方の会話だと思っちゃいそうだな…絶対そんなこと二人に言えないけど)」

 

通行人の邪魔にならないよう、二人の横に並ばず、後ろに連なって歩く

松葉杖は幅を取るからね…三人横並びだと道を塞いじゃって良くない。

 

 

二人が会話しているところを眺めていると、昨日あんなことがあったせいか友奈の方に目線がいってしまう。

 

 

「勇者部楽しみだね~!」

 

「部活動もいいけど、授業もちゃんと真面目に受けないと駄目よ?」

 

「わ、わかってるよー!」

 

「本当かしら…」

 

 

・・とても、あんなことがあった後とは思えないほど、いつも通りの友奈だ

 

まったく、どこにも変わった点は見受けられない『結城友奈』そのものだ。

 

 

―なら…あの日といい、昨日といい、、あの目の友奈はいったい…?

 

 

「?翔ちゃん、私に何かついてる?」

 

「え?いや、別に…何で?」

 

「後ろから翔ちゃんの視線をすごく感じたから、何かおかしなところでもあるのかなって思ったんだけど…」

 

…いくらなんでも露骨に見すぎたか

 

「特に変なところは無いよ。大丈夫」

 

「なら良かったよ~。寝癖でもあったら恥ずかしいからね~」

 

「あはは…」

 

 

 

・・よく分からない、よく分からないけど……友奈はいつも通り接してくるんだから、僕もいつも通り接してあげないと

 

もしかしたら何か嫌なことがあって、あぁなったのかもしれないし…うん。

 

 

 

そんなことを心に決めつつ、前を歩く二人について行くのだった

 

 

 

 

 

 

 

放課後ーーーーーー

 

 

「さーて!みんな揃ったわね?」

 

「はい!ところで風先輩…今日はいったい何をするんですか?」

 

「今日は…捜索願いが届いている子猫ちゃん達を探しに行くわ!」

 

放課後になり、勇者部の活動が始まる

どうやら今日は迷子の猫探しらしいが…三件もあるのか。

 

「ちょうどここには四人いるから、二人ずつペアで探しましょう」

 

「なら友奈と東郷さん、僕と風先輩でいいですかね?風先輩?」

 

「そうね、そうしましょうか。ちゃんと車椅子、松葉杖の二人も分かれてることだし…二人もそれでいいかしら?」

 

「了解です!よろしくね!東郷さん」

 

「ええ、よろしくね。友奈ちゃん」

 

美森ちゃんと風先輩で組むのもありなのだが、車椅子のサポートは友奈の方が慣れているだろうし、美森ちゃん的にもいつも一緒にいる友奈の方が安心できるだろう。

 

「それじゃあ、五時半までに部室へ戻ってきてくれればいいからね」

 

「分かりました!よーし、さっそく行こう!東郷さん!」

 

「そうね。それじゃあ翔太君、風先輩、お先に失礼しますね」

 

 

そう言いながら部室の扉を開けて出ていく二人を風先輩と一緒に見送る。

 

「友奈は元気いっぱいで活発なのに、東郷はすごく落ち着いておしとやかねぇ…さしずめ、大和撫子かしら?」

 

「友奈にはもう少し落ちつきを持ってほしいですけどね。あのやる気が空回りしなければいいんですけど…」

 

「まぁまぁ、アタシ達もとりあえず行きましょう?二人に任せっぱなしじゃ申し訳ないわ…一人で立てる?」

 

「あはは、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ?こう見えても案外一人で動けますから…っと」

 

 

幸い両腕とも自由に動かせるし、見た目以上に不便はないんだよな

 

こちらを気遣ってくれた風先輩の優しさに苦笑しつつ、壁に掛けておいた松葉杖を使って椅子から立ち上がる。

 

「・・その…ごめん」

 

「?別に嫌なんて思ってませんよ?ただ…まだ会って日の浅い先輩にまで心配かけてる自分が恥ずかしいって思っただけです」

 

部室の扉を開けたのち、風先輩の方に振り向いてそう話す。

僕が苦笑してたのを見て勘違いしちゃったのだろう。申し訳ない…

 

「…本当?」

 

「逆にこの状況で嘘つくと思います?それよりも早く行きましょう。少しでも子猫ちゃん達を見つけて、飼い主さんを安心させたいです」

 

「そ、そうよね!善は急げ、飼い主さんのためにも早く行きましょう!」

 

「頼りにさせてもらいます、風部長」

 

「まっかせなさい!」

 

 

 

 

・・・・・・

 

・・・・

 

・・

 

 

 

 

「全然見つからない…」

 

「大丈夫です、そういう日もありますよ。だから落ち込まないでください」

 

「あんなに見栄張って、部長としての威厳が…穴があったら入りたいわ…」

 

「・・『女子力』でしたっけ?」

 

「やめて…」

 

僕の言葉で両手で顔を隠し、風先輩がいよいよその場に座り込んでしまった

 

 

確かに『アタシの女子力に任せなさい!』と大見得切ってこの結果じゃあ恥ずかしいだろうね…

 

 

 

かける言葉が見当たらず、ただただ苦笑いを浮かべていると、ふいに近くにある草むらが少し揺れ動いた。

 

 

・・ん?あれって…もしかして?

 

 

「そーっと、、そーっと…」

 

「どうしたの翔太…って!その子猫はもしかして!」

 

「よしよし…捜索願いが来てた子ですね。首輪もしっかりついてます」

 

猫の首もとには確かに飼い猫の証である、黄金色の首輪が装着してあった。

 

『エリザベス二世』…すごい名前だな。二世がいるなら一世もいるのかな?

 

「ナイスよ翔太!よーしよし、怖くないからねー…あいたっ!?」

 

「…初めてネコパンチというものを生で見ましたよ、僕」

 

「んなこと言ってないで猫を抑えるの手伝って!!あいたっ!!」

 

「あぁ、すみません。すぐ行きます」

 

 

 

そのあと最終的に僕の頭に乗せることで猫はおとなしくなり、そのまま飼い主さんのもとに無事送りとどけられた

 

・・風先輩がぐったりしているのに、『無事』とはこれいかに。

 

 

本日何度目かの苦笑をしたのち、右腕に着けている腕時計に目をやる。

 

 

「そろそろいい時間ですよ、風先輩」

 

「…あっ、もうそんな時間?なら学校に戻って、二人と合流しましょう」

 

「了解です」

 

そんなやり取りを皮切りに、風先輩との間に静寂が訪れる

お互いに疲れているのもあるため、そのような静な時間が訪れるのも仕方ないと言えるだろう。

 

 

風先輩の足音と松葉杖が地面をつつく音が静寂な空間に響く

 

 

 

―しかしその空間は不意に風先輩が放った呟きによって崩れ去った

 

 

「あのさ……少し気になったんだけど、翔太って兄弟とかいたりする?」

 

「えっ、兄弟ですか?」

 

「姉とか兄とか弟とか…妹、みたいな兄弟って翔太はいる?」

 

『兄弟』?

いたら良さそうだなって、幼いころに考えたことなら何回かあったけど、、

 

「いませんよ?」

 

「・・そうなんだ、、意外ね。翔太って何人か兄弟を持っててもおかしくないぐらいしっかりしてるけど…」

 

「僕ってそんな風に見えますかね?」

 

「えぇ。面倒見のいい兄って感じね」

 

 

言葉だけ聞くと何の違和感もない、ごくごく一般的な雑談に見えるかもしれないだろうが…

 

 

「風先輩、余計なお節介かもしれませんが…何か兄弟関係で困ったことでもありましたか?」

 

「・・え?」

 

あまりにも風先輩の笑みが辛そうで、思わずそう訪ねてしまった。

 

 

…昔の友奈以来だ、そんな悲哀が込められた笑顔を見たのは

 

 

「僕に兄弟のことを聞いた際、妹がいるかどうかの所だけ少し強調されてましたよね…ということは妹さんのことで何か?」

 

「!…鋭いわね、翔太って」

 

「風先輩の表情と声色を聞いていたら大体分かりますよ?」

 

「そう?これでも隠してたつもりだったんだけど…バレバレだったのね」

 

表情はともかく、声色は意識しないと気づかないぐらい僅かな変化だったから、バレバレだった訳ではないんだけどね。

 

 

「僕は風先輩とそこまで仲がいいわけではありませんが…だからこそ言えることもあると思いますよ?」

 

「確かにそうだけど…」

 

「無理強いはしません。今言うのが嫌なら、気が向いた時にでも声かけてくだされば相談に乗ります」

 

 

 

 

「『悩んだら相談』ですよ、風部長。いつでも受けますからね?」

 

 

抱えこむのは一番良くないからね…

ちなみにソースは僕の幼馴染です。

 

 

「・・・・」

 

「さっ、行きましょう。少しここから学校までは距離がありますけど、、時間内には間に合うと思います」

 

話交じりに歩きながらでも…ね

 

 

「・・なら…ちょっとお話しない?」

 

「・・もちろん。喜んで受けますよ」

 

 

・・・『鳴かぬなら、鳴くまで待とう、ホトトギス』ってね。

 

無理強いはむしろ逆効果になっちゃう可能性があるし…そもそも無理やり聞き出すのが好きじゃないってのもあるんだけど

 

 

 

 

 

 

風先輩の相談内容は予想通り、先輩の妹さんのことについてだった。

 

 

内容を要約して言うと、妹さんを危険なことに巻き込みそうになっているらしく、そのことに関してどうすればいいか悩んでいる…とのことだ。

 

 

 

「風先輩は妹さんをどうしたいんですか?やっぱり止めたいんですか?」

 

「…できれば止めたいわ。世界で一人だけの大事な妹なんだもの。当然巻き込みたくないわよ」

 

 

・・妹思いなのはいいことなのだが…先ほどから一つ気になる言葉がある。

 

 

「・・あの…風先輩?『巻き込む』っていったいどういうことです…?」

 

「え?…あっ……いや、その…」

 

少し口ごもる風先輩を見るに、わざとではなくうっかり言っちゃったようだ

出会ってから日が浅いとはいえ、所属している部の先輩が危険な事に首を突っ込んでいるなんて聞き捨てならない

 

 

口を開けて言葉を紡ごうとしては、ためらうように口を閉ざす風先輩。

 

 

 

 

―嫌な予感がした

 

 

 

「…一つ、、聞いていいかしら」

 

 

 

―予想できていたことだった

 

 

 

「・・何でしょうか」

 

 

 

―『二人が楽しそうだったから』…何てやっぱり甘い

 

 

 

 

「・・・『勇者』…この言葉にどこか聞き覚えないかしら?」

 

 

 

 

―風先輩その一言は、僕の今までの『もしかしたら…』を容易に切り伏せた

 

 

「・・・ありますよ…嫌なほどに」

 

 

 

 

―静かに、残酷な、【現実】を残して

 

 

 

 

『知らぬが仏』、『無知は罪』

 

 

 

どっちが正しいのでしょうか?

 

 




いかがでしょうか?

翔太君と風先輩の打ち解けスピードの早さは、互いに会話力があるからです
…どちらともいい子ですからね。

今回は投稿だけでなく、感想等も読んだりできていなかったのですが…感想をくださるとうれしく思います。

時にはニヤニヤしたりしながら読ませてもらっていますが…どうか気にせず、お気軽にお書きください。

・・間が空いたので、うまく書けたかすごく心配です…文才欲しいなぁ(切実)



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光に影は憑き物

あべんじゃーさん、オーマノイズA(旧ノイズスピリッツ)さん、勝石さん、貴重なご評価をわざわざありがとうございますm(__)m

リアルの事情に加え、スランプ気味になりまして…投稿が遅れました。

そんな僕のことはさて置き、さっさと本編に入ります。

…ちなみにですが、今回は友奈ちゃん視点オンリーとなっております。
翔太君視点は無しです、、どうぞ



ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おはよう!東郷さん!」

 

「おはよう、友奈ちゃん」

 

いつも通り朝の挨拶を東郷さんとする

 

今日はとってもいい天気で、いつもより少しわくわくした気分になる。

 

「友奈ちゃん、どこかいつもより元気なように見えるのだけど…何かいいことでもあったの?」

 

「いい天気だからねー。だから今日はいつもより元気100倍だよ!」

 

「なるほど。一人で起きれたのもいい天気のおかげなのね…これからもそうしてくれるとうれしいのだけど?」

 

…いつもご迷惑をおかけして、大変申し訳ありません。

 

「…最近は自分で起きれてるから!」

 

「『継続は力なり』よ?最近だけじゃ、駄目なんだからね?」

 

「はい…ごめんなさい」

 

東郷さんから厳しい一言を貰い、自分の笑みが苦笑に変わるのを感じる。

やっぱり手厳しいなぁ…東郷さんは。

 

 

私のことを思って言ってくれているのがわかっているから、辛さよりもうれしさの方が大きいんだけどね~

 

 

・・時々怖い時もあるけど…

 

 

「友奈ちゃん?変なこと考えてない?」

 

「べ、別に?何にも考えてないよ!」

 

「それはそれでどうなのかしら…」

 

鋭い!…油断できないよ、東郷さん…

 

 

いい天気に似合わず流れた冷や汗をこっそりと拭っていると、東郷さんが「そういえば」と口を開いた。

 

 

「また翔太君は寝坊なの?」

 

「・・うん。多分そうだと思うよ」

 

噂をすれば何とやら。鞄に入れておいた携帯から小さめの通知音が鳴り響く

 

携帯を取り出し、さっそく開いてトークアプリを見てみると、そこには東郷さんが予想した通りの文が書かれていた。

 

 

『ごめん。また寝坊しちゃって…今日も先に行っててくれないかな?』

 

 

 

「・・最近になってから、翔太君寝坊しすぎじゃないかしら?」

 

そんな言葉をため息交じりにつきながら、携帯のメッセージを見る東郷さん

 

 

 

 

・・・東郷さんの言う寝坊を含め、ここ最近翔ちゃんの挙動がおかしい

 

 

ここ二週間になってから寝坊はほぼ当たり前になり、学校ではどこか上の空気味になっていたりと…他にも私が気付いていないだけで、まだありそうなぐらい。

 

 

「寝坊だけならまだいいのだけど、あの優等生に近い翔太君が、授業に集中して取り組めてないなんて…心配だわ」

 

「こないだは問題を当てられたのに答えられなくて、先生に注意されてたね」

 

「えぇ。あの問題、いつもの翔太君だったら簡単に解けるはずなんだけど…」

 

東郷さんの言うとおり、私でも解けるような問題だったのにあの翔ちゃんが解けないわけがない。

 

 

 

 

 

「・・・時間があったら、学校で翔ちゃんに聞いてみるね」

 

 

・・何か訳があったら別だけど

 

 

 

 

 

 

放課後になり、勇者部の活動が始まる

 

勇者部としての活動も数週間ほどやっているおかげで慣れてきた。

長時間のゴミ拾いでも腰が痛くならなくなって…自分の成長を感じるよ。

 

 

「さーて!それじゃあ今日も勇者部の活動を始めるわよ!」

 

「風先輩、今日はいったい何を?」

 

「今日は川原に行ってゴミ拾いをするわ…はい。先生からゴミ袋貰ってきたから、ゴミはこれに入れてちょうだい」

 

「またゴミ拾いですか…そんなにゴミって捨てられてましたっけ?」

 

「それは…気にしたら負けよ!というか男なら細かいこと気にしないの!」

 

「分かりましたよ、すみません」

 

苦笑しつつ風先輩と会話する翔ちゃん

…苦笑こそしているけど、翔ちゃんから嫌がっている雰囲気は感じられない

 

 

・・むしろ……生き生きしてる

 

ここ最近、こころなしか風先輩と翔ちゃんが部活動中に仲良く話しているところをよく見る。

 

仲が良いことはいいんだけど…

 

 

ゴミをひとしきり拾い終わったところで、一人でいる翔ちゃんに話しかける

 

 

「・・ちょっといいかな、翔ちゃん」

 

「……ん?どうかした?」

 

「今日は一緒に帰れないかなって思って声を掛けたんだけど…どうかな?」

 

話も聞きたいし、できれば翔ちゃんと一緒に帰りたいな~。

…東郷さんも同じ意見のようで、静かに私と翔ちゃんの会話を見守っている

 

 

「・・ごめん。今日もちょっと用事があるから、一緒には帰れないかな」

 

 

―うん。翔ちゃんがそう言うのは大体予想できてたよ。

 

 

「その用事って長いの?そこまで長くないなら、終わるまで東郷さんと一緒に待ってるよ?」

 

「いや、、結構時間かかっちゃうから、できれば先に帰ってほしいな」

 

「・・その用事って何なのか聞いてもいいかしら?最近忙しいみたいだけど」

 

「…申し訳ないけど、それはちょっと二人が相手でもできないかな…」

 

話せないし、待たないでほしい。

 

 

それなら―

 

 

 

「翔ちゃんの家…行ってていい?」

 

 

「・・・え?」

 

 

「・・・ゆ、友奈ちゃん?」

 

 

「翔ちゃん、帰るの遅くなっちゃうんだよね?だったら私と東郷さんである程度の家事とかやっておくよ!」

 

「いや、友「その体じゃ家事とかできないでしょ?その分ゴミとかたまってるんじゃないかな?」…少しだけなら」

 

「…でもそれぐらいなら自分で―」

 

翔ちゃんが口を開いて何か言葉を発する前に、一言紡ぐ。

 

 

「私達じゃ信頼できないかな…?」

 

「・・そういうわけじゃないんだけど……ならわかったよ。はい、家の鍵。どうかよろしくお願いしますよ?」

 

「お任せを!ねっ、東郷さん?」

 

「・・殿方の家…しかも翔太君の…」

 

「…本当に大丈夫なの?」

 

「あはは…」

 

 

翔ちゃんの優しさを利用したようで、少し胸が痛む、、ごめんね?翔ちゃん

 

 

 

 

 

「ここだね、翔ちゃんの家は」

 

「中学生が独り暮らしをするには充分すぎるほど、大きくて立派な家ね」

 

翔ちゃん家の感想を東郷さんと述べ合いながら、中に入る。

中は外装に反して以外と狭くなっていて、そこには家具も最低限の物しか置いていないせいか、より質素に見える。

 

失礼だけど…翔ちゃんらしい家だ

 

 

「ホコリとゴミは…ほとんど出てないみたい。本当にすごく片付いてるわ」

 

車椅子を動かして東郷さんと一緒に家の中を探索した結果は東郷さんの言葉通り、ほとんどがきれいに片付いていた。

 

 

……それこそ、違和感のあるくらいに

 

翔ちゃんはあの体でどうやってここまで掃除したのだろうか?

ほうきでゴミを掃くぐらいなら確かにできるかもしれないけど…雑巾がけまではさすがに厳しいはず。それこそ、【誰かにやってもらったりしないと】

 

 

「…あら?友奈ちゃん、もう冷蔵庫内に料理が入れられてるわ」

 

「え?……本当だ。オムライスだね」

 

東郷さんに言われて冷蔵庫を覗いてみると、確かに誰かが作ったであろうオムライスがラップに包まれて置かれていた

 

「翔太君が作ったのかしら?これは」

 

「うーん、どうだろう…?」

 

冷蔵庫からオムライスを取り出そうと持ち上げた時、パサリと白い一切れの紙が皿から床に落ちた。

 

 

「紙?えっと……『食欲が無いことと存じ上げますが、食事はちゃんと取ってください』?」

 

おもむろに紙を広げて読んでみるとそこには女性が書いたかのような綺麗な黒い字で『食欲が無くても食事はちゃんと取ってください』と、一言書いてあった。

 

 

 

―翔ちゃんに食欲がない…?

 

 

「この紙から察するに、料理はお母さんが作ってくれたのかしら?…それにしても食欲がないなんて…何か嫌なことでもあったのかしら、、翔太君」

 

文字だけを見たら東郷さんの言うとおり、何か嫌なことがあったのかな?と心配するところなのだろう。

 

 

 

 

・・・しかし、何故か私はそうじゃないような気がした。

 

 

 

―もっと…何か【根本が違うような】

 

 

 

もちろん、ただそんな気がしただけだ

確証は何もなく、根拠すらない。

 

…何か、『確証を得られるような物』でもあれば、、

 

 

「心配ね…何か手がかりでもあったらいいのだけど…」

 

「手がかり……!そうだ!」

 

「え?ちょ、ちょっと友奈ちゃん?」

 

東郷さんの車椅子を急いで動かして、『僕の部屋』と木製のネームプレートが掛かっているドアの前にたどり着く。

 

 

「友奈ちゃん、、さすがにこれ以上は翔太君のプライバシーの侵害に…」

 

「だけど…やっぱり放っておけないよ!大切な幼馴染の事なんだもん!」

 

「・・友奈ちゃん……」

 

翔ちゃんにもしも何かあったら…私は耐えられる自信がないよ…

翔ちゃんは何かしら悩みがあっても一人で溜めるところがあるので、尚更だ

 

そんな私の不安げな考えを汲み取ってくれたのか、東郷さんが静かに私を見て首を頷かせてくれた。

 

 

 

 

―ガチャリ

 

 

扉を開けた音が広すぎず、狭すぎない静かな部屋に響く

 

部屋の中は翔ちゃんの性格上、やはり整理整頓はきっちりされているようで、教科書といった教材は綺麗に勉強机へと並べられていた。

 

 

 

・・・一つの、ある引き出しを除いて

 

 

「・・空いてる…?ノート?」

 

 

一つだけ開きっぱなしの引きだしへと近づき中身を確認すると、そこには一冊の新品に近いノートが置いてあった。

 

…理科や国語といった教科の名前は書いていないから、、自由帳なのかな?

 

 

「『読むな』…って書いてあるわね」

 

「翔ちゃんこんなノート学校に持ってきてなかったよね…家に置いてあるのに誰が読むんだろう?」

 

そもそも家に置いてあったら誰も読む機会すら無いと思うけど…

 

緑色のノート上にでかでかと赤ペンで書かれている文字に首を傾げるが、どうせいくら考えても答えは出ない。

 

 

「・・・開くしか無いよ、東郷さん」

 

「・・・本来なら良くないことなのだけど…致し方ないわね」

 

 

―そっとノートを開く

 

 

そして中をゆっくりと確認すると……

 

 

 

_○月○日_

[今日から中学校に通うことになった。天気もいいし、絶好の入学日和だと言える…日頃の行いが良いおかげかな?]

 

 

 

「・・日記?」

 

そこには月日と共に今日あったことが書かれている、1日日記のようなものが書き記されてあった。

 

 

…これが秘密?

 

「かなり綺麗だから、まだそんなに使ってないんじゃないかしら?」

 

「…そうみたいだね。ざっと見てみたけど、5・6ページぐらいしか書いてなかったよ」

 

3日坊主に近いぐらいしか使ってないなんて…翔ちゃんにしては珍しいなぁ

それに…日付もバラバラ。

 

 

 

そう内心首を傾げてページをめくる

 

すると、あることに気付いた。

 

 

「あれ?、、後ろの方にも何ページか書かれてる…?」

 

しかし、その日記は最初方にあったものとは雰囲気がうってかわっており、どことなく悲しそうに感じた

 

 

 

 

_○月○日_

[自分の写真をアルバムから引っ張りだして眺めてみたが、、ため息しかでない。やっぱり…『変わってない』]

 

 

_○月○日_

[たまにはいいかと思い、外に運動しに行ってみたが…数分で息が詰まった。

やっぱり、、『肺』だろうか]

 

 

_○月○日_

[今日も大赦さんの料理を食べる。

『味も匂いもない』質素な料理を。

…どうせ『食欲も無いんだ』、、なら、もう食べなくてもいいだろう]

 

 

_○月○日_

[風先輩と話をした。

……案の定だった]

 

 

 

_○月○日_

[巻き込みたくなかった、二人を]

 

 

 

_○月○日_

[お父さん、お母さん。

・・甘えてたのかな、僕は。

僕のどこが××なんだろうか。

なぜ二人を××に選んだのだろう]

 

 

 

 

_○月×日_

[・・責任は取る。覚悟も決めた。

 

『その時』が来ても必ず…誰も―]

 

 

 

 

「・・東郷さん…」

 

「・・ごめんなさい、友奈ちゃん。私もよく分からないわ。この日記を翔太君がどういう意図で書いたのか……でも―」

 

「…うん。私も同じだよ」

 

そっと日記を引き出しの中に戻す

 

 

―私には翔ちゃんがどんな事情を持って、どんな気持ちでいるのかなんてわからないよ。…だけど

 

 

 

「・・無茶してるんだってことくらいならわかるよ?翔ちゃん」

 

 

「・・とりあえず、この事は二人だけの秘密にしておきましょう」

 

「うん。絶対に言わないよ」

 

 

 

 

《一番大事な友達が傷ついているのを見て楽しいわけないでしょ?》

 

 

 

 

―本当に…楽しくないよ。翔ちゃん

 

 




本小説初めての友奈ちゃん視点オンリーでしたが…どうですかね?

誤字報告、誠にありがとうございます
今回も誤字などがありましたら、作者に教えていただけると幸いです。
…ちゃんと、自分でも読み返したりしてるんですけどね、、?


・・ゆゆゆのヤンデレ小説増えないかなーと、ひそかに期待してるんですけど…どうですかね?



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前へ、前へ…

比翼の羽根さん、貴重な評価をありがとうございますm(__)m


ついに、10話まで来ました…

そこで一度、自分の作品を読みなおしてみたのですけど…後半からシリアス風味が強くなってました。

ゆゆゆ小説を書いている中で、どうしてもそこは避けれません、、シリアス嫌いの方がいらっしゃいましたら申し訳ないです。


・・最近、本作品を書いてると、うまく書けてるか不安になってて…よろしければ、ご感想等でどのような感じか教えてくださるとうれしいです(--;)


最後、タグに『シリアス』も付け加えておきますね…すぐ本編入ります。



 

「・・体が重い…物理的に」

 

 

今日は本来、普通の学生にとってはうれしいであろう日曜日なのだが…僕にとってはうれしくない日となっている。

 

今日は勇者部の活動もないうえ、美森ちゃんも友奈も用事が入っていて、一緒に遊ぶことができない。

 

・・要するに、、暇なのだ。

 

 

「少しでいいから、リハビリして使えるようにならないかな~」

 

使えない方の足と目を擦る

あり得ないことだとわかってはいるが、そう希望を言ってみたくなる。

 

しかし、勇者なんて摩訶不思議なものがあるくらいなんだから、魔法のような奇跡があってもいいと思うけど…

 

「…そんなの、都合良すぎるか」

 

そんな都合の良い展開があるのなんて、クラスの男友達君に見せてもらったアニメだけだろう。

彼が言っていた「二次元こそ至高!」って、こういうことなのかな?

 

…クラスの女の子からは冷ややかな目線を向けられていたが、君のアニメに対しての情熱、よくわかったよ。

 

専門用語が多すぎて、正直内容は全然わからなかったんだけどね。

 

 

・・って、こんなこと考えてても時間がもったないだけだ。せっかくの休日をこんなことに費やしていては勿体無い。

 

 

掃除でも…だめだ、埃一つない。

宿題でも…あ、昨日全部やってたか。

読書でも…ある本はもう全部読んだ。

 

他にやることは…特にないな。

あれ、もしかして僕って……悲しい?

 

 

「・・散歩にでも行こうかな」

 

 

ベッドから降りて、机に掛けておいた松葉杖を引き寄せる。

 

「あっ、、やっちゃったよ…」

 

片方の目が使えないせいで距離感がうまくつかめず、松葉杖と一緒に近くに置いてあった日記帳を弾き飛ばしてしまう

リハビリこそしたけど、いまだに何回かやってしまうんだよな…戻さないと

 

「あれ?こんなに後ろのページだけシワついてたっけ…?」

 

強く握ったようなシワがついている日記帳の中身じっと眺める。

いや、でも、、

 

 

「…書いた時期が時期だからなぁ」

 

この日記は僕にとって心のよりどころだった、とっても大事な物だ。

日記などに書き記している時点で、かなり心が荒んでいたであろうことがわかると思う。

 

もっとも、ポーカーフェイスが得意なおかげでみんなに悟られたりしなかったから、そこは良かったけど―

 

 

 

 

 

_×月×日_

[××××と××××が亡くなっ―]

 

 

 

 

「っ!!」バタン!

 

 

ゆっくりとページをめくっていた手を止めて、勢いよく日記帳を閉じる

 

 

―見たくない、認知したくない

 

 

額に流れる嫌な汗と袖で拭い、乱れた気持ちをごまかすために部屋を出る

 

 

「・・早く外に…散歩に行こう」

 

 

―ここにいたら、、苦しくなる

 

 

不思議と、そう感じた

 

そのまま日記帳を急いで机の中にしまったのち、日記から逃げるように玄関へと向かい、扉を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は暖かく、時おり吹く風がちょうどいいぐらいに気持ちいい。

こんな日に散歩なんてすれば、さぞかし清々しい気分になれることだろう

 

 

「…懐かしいな~」

 

道沿いを歩きながら、しみじみと呟く

 

小鳥のさえずり、小さな生き物達の行進、そして時々姿を現す野良猫達。それら全部が全部懐かしく感じる。

 

 

ニャー!

 

擦りよってくる白い子猫をひとしきり優しく撫でてあげる。

 

「ちょ、、くすぐったいよ~!」

 

僕の撫で方でお気に召したならうれしいが、もぞもぞされるとくすぐったい

子猫と遊ぶのもいいが、ここは公園で他の子供達もいる…少々名残惜しいけど、場所を変えよう。視線が痛い。

 

 

 

「・・まさか土手にまでついてくるなんて誰が予想できようか」

 

うーん、少し遊んだだけなんだけど…やけになつかれちゃったな~。

 

子猫のなつきよさに苦笑しつつ、土手特有の芝生カーペットに横になる。

僕が横になるやいなや、いそいそと子猫が僕のお腹の上に乗って、くるっと丸まってしまった。

 

 

・・・可愛いからいいや

 

とりあえずそのままにしてあげよう…何だか気持ちよさそうだし。

 

 

改めて芝生のカーペットに身を委ねる

 

芝生ならではの優しい草の香りと、おっとりとした風が絶妙に噛み合っており、このまま目をつむればすぐに夢の世界へと旅立ってしまいそうだ。

 

 

ふと空を見上げる

 

 

見上げた先の空には雲一つなく、視界にはただただどこまでも果てしなく続いていそうな、青い青い景色が広がっていた

 

 

 

―あの空に比べたら僕の悩みや悲しみ、あげくは存在も、すごくちっぽけな物なんだろうな

 

 

仮に僕がいなくなったとしても、所詮は数ある人類のうちの一人が消えただけにすぎない…なんて考えてしまう。

…我ながら病んでいるのかというぐらいのネガティブ思考だ。

 

そんな自分の自虐ネタを鼻で笑いながら、片方の腕で小猫を優しく撫でる。

ゴロゴロと気持ちよさそうに声をあげる猫に微笑みつつ、もう片方の腕を空へと可能な限り伸ばしてみる

 

「ちっちゃかった頃、何回もこうやって空に手を伸ばしてたな~」

 

そのうち天に届くようになる…なんて本気で信じてたもんな~僕。

 

友奈とよく言ってたっけ、、確か…

 

 

 

「『成せば大抵なんとかなる!』だったかな?言わばただの根性論だけど」

 

 

…しかしまぁ、世の中には『言霊』というものがあるから、あながち間違ってはいないのかもしれない。

 

魔法のような奇跡はなくとも、言霊ぐらいはあってもいいんじゃないかな

 

 

「ニャー!」

 

「ん?どうしたの…あいたっ!」

 

突如丸くなって微動だにしていなかった猫がやっと動き始めたかと思いきや、いきなり猫パンチを繰り出してきた。

 

顔の近くでやられたため、その衝撃でつけていた眼帯が芝生へと舞い落ちる

どうやら奇跡的にどこも破けたり汚れたりしてはいないようだ。

 

「ニャー」

 

「眼帯はどこも汚れてないな、良かった…もう!何するんだ…い?」

 

少々おいたが過ぎるので、さすがにしかりつけようと子猫の方を向くが…その猫にある違和感を感じた

 

 

「気のせいかな?君の尻尾が一瞬『2つ』あったように見えたんだけど…」

 

「ニャー」

 

「…気のせいだよね」

 

眼帯が外れたことによって何か誤差でも生じたのだろう。

腕時計の時刻を確認すると、そろそろいい時間だったので、すぐにでも帰れるように身支度を整える。

 

眼帯をつけ直し、傍に置いておいた松葉杖を持ってのそのそと立ち上がる

 

 

「ごめんね子猫ちゃん。さすがにもうお別れだよ。この後文房具を買いに行かないといけないからさ」

 

さすがに文房具屋にまでこの子は連れていけないからね…許してほしい。

 

心なしか悲しげな表情になった子猫を最後に優しく撫で、目的地へと駆ける

 

 

また、いつか会えたらいいな

 

 

 

 

 

 

「シャーペンの芯と、のりと、消しゴムと、あとは…うん。特に無いな」

 

あらかじめメモしておいた必要な物リスト内の物で買い忘れがないかどうかチェックし、ないことを確認した上でレジに向かう

 

 

「あら?翔太じゃない」

 

「え?あっ、風先輩ですか」

 

まさかここで風先輩に会うとは

やけに見覚えのある金髪女性がいるなとは思っていたけど、風先輩だったのなんて予想外だったよ。

 

「なんか、翔太が文房具屋にいるってすごいしっくりくるわね」

 

「そんな真面目そうに見えます?僕」

 

「東郷とまでは言わないけど、あんたも結構真面目君に見えるわよ。少なくともあたしには」

 

「…実は僕、同級生の間で不良って言われてるん「それはない」…せめて最後まで言わせてくださいよ」

 

真面目君か…うれしいような、どこかうれしくないような。

 

 

苦笑いを浮かべながら風先輩と雑談していると、とたとたと奥から金髪の女の子がこちらに走ってくるのが見えた

 

 

「お姉ちゃんー!明日学校で使うコンパス持ってきたよ…あっ、翔太さん」

 

「こんにちは、樹ちゃん」

 

「こ、こんにちは」

 

彼女の名前は『犬吠埼樹』。

名前の通り、風先輩の妹さんだ。

彼女は男性に対して少々怯えの感情が強く、彼女自身もそこをどうにか治したいと思っているらしい。

 

樹ちゃんとは風先輩さら相談を受けている上で何回かお話したことがあり、そのおかげで今はある程度の会話ならできるようになった。

 

もっとも、本当にある程度だけだが…最初の頃に比べればだいぶ良くなった

 

最初の頃は会話もままならず、目もそらされと酷かった…目をそらされた時はさすがに心にきたなぁ。

 

「いつまでおどおどしてるのよ樹、もう初対面じゃないんだから…」

 

「ううっ…ごめんなさい…」

 

別に謝らなくてもいいのに…きちんとしてるなぁ、樹ちゃんは。

 

むしろ僕のことなんか未来へ続く道の踏み台って思ってくれていいけど…

 

「僕は大丈夫…苦手なことなんて誰にでもあるよ。だからゆっくり僕で慣れていってくれればうれしいな、樹ちゃん」

 

「すいません…善処します」

 

「ほんとにありがとうね、翔太」

 

「いえいえ。それよりお互い早く会計済ませたほうが良くないですか?他に買う物が無いならですけど」

 

「えぇ、そうね。樹はもう何か買う物とかない?」

 

「うん、大丈夫」

 

「そっか。ならいきましょう!」

 

そんな張り切って言う程のことでもないと思うが…口には出さないでおこう

口は災いのもとって言うからね。

 

 

 

 

 

 

「ところで、このあと翔太は何を?」

 

「そうですね…少し飲み物でもお店から買っていこうかなって思ってます。少し散歩してたら喉かわいちゃって」

 

「その後は?」

 

「もちろん、家に帰ります」

 

「何か他に予定は?」

 

「?無いですよ?」

 

むしろ他にやることってあるかな?

友達と遊ぶ?時間が時間なだけにそれも無理だろうし、僕にとって他の選択肢はないんだけど…

 

 

 

「それなら…ちょっと提案なんだけどさ、あたし達の家に来ない?」

 

「…え?先輩方の家に?」

 

「えっ、、お姉ちゃん?」

 

「今までの件についてのお礼に夕食でもと思ってね。翔太が迷惑なら無理にとは言わないけど…」

 

 

…気にしなくていいのに。

風先輩らしいと言えばらしいけどね

 

相手の善意を無下にするなと親から教えられた僕にとって、NOの二文字は決してありえない。

 

だけど…

 

 

「決して迷惑なんて思ってませんけど…樹ちゃんは大丈夫なんですか?」

 

風先輩と僕が良くても、樹ちゃんが…

 

「わ、私も大丈夫ですよ!私もお姉ちゃんと同じで、何か翔太さんにお礼したいなって思ってましたから!」

 

「…そうなんだ、、ありがとうね」

 

「樹もこう言ってるし、気軽な気持ちで我が家にいらっしゃいな」

 

 

・・ほんと、、いい人達だよ。

 

 

「…詐欺とか、悪い人達にはくれぐれも気を付けてくださいね?」

 

「いや、いきなり何言ってるのよ?もちろん気を付けるけど…」

 

「いえ、特に深い意味は無いですから忘れてもらって大丈夫です…大変不束者ですが、よろしくお願いします」

 

例え相手が仲のいい先輩相手でも、礼儀はしっかりと忘れない。

親しき仲にも礼儀ありって言うからね

 

 

「こ、こちらこそ!」

 

「なんならあたし達のこと、【家族】だと思ってくつろいでいいわよ?」

 

 

 

 

 

―家族

 

 

 

《翔太はすごいな~…運動以外》

 

《一言余計だよ!お父さん!》

 

《そうよ、あなた。翔太も運動が『全然』できないこと気にしてるんだから…あまりいじっちゃ駄目よ?》

 

《全然を強調してる時点でお母さんもそっちだよね?絶対わざとだよね?》

 

 

 

―家族…

 

 

 

《誕生日おめでとう翔太!》

 

《はい!誕生日プレゼント!》

 

 

 

―家族……

 

 

 

《わー!きれいなボールペンと……少し小さめのノート?》

 

《お前、文字書くの好きだろ?だからすごい書きやすくて使いやすい、やや高めのノートを買ってきたんだ》

 

《ちなみにボールペンもだいぶいいやつだから、気持ちよく書けるわよ》

 

《二冊あるから、片方は授業用のノートにして…もう片方は日記にでも使ってみたらどうだ?》

 

《あはは…僕が日記書かないこと知ってるくせに、言うよね~お父さん》

 

 

 

―家族………

 

 

 

《案外面白いかもしれないぞ?百聞は一見にしかず、書いてみたらどうだ》

 

《普通に授業用ノートにするよ…》

 

《は~?我が子ながらつまらんなー》

 

《なっ!失礼な!》

 

《あらあら…》

 

 

 

―毎日が賑やかで、とても楽しかった

 

 

―勇者としての活動にもやっと一区切りがついて、またあの暖かい日常が帰ってくるものだと思っていた

 

 

 

―そんなの、夢のまた夢で…

 

 

 

 

 

《・・申し上げにくいですが》

 

《市村様ご夫妻は、、》

 

 

 

 

 

 

《ある日、事故にあわれて…お亡くなりになられました》

 

 

 

 

―待っていたのは悲しく、非情な、現実だけだった。

 

 

 

 

「翔太?だ、大丈夫?少し顔色が悪いみたいだけど…どこか具合でも…」

 

「!あぁ、大丈夫です。少々散歩疲れで眠くなっただけですから」

 

「そうなの?なら早く家に向かって、少し休んだほうがいいわね。少し急ぎめで行きましょう、樹」

 

「うん!行きましょう、翔太さん」

 

「…そうだね。ありがとう」

 

「よーし!レッツゴー!」

 

 

 

 

 

 

 

「・・ただいまー」

 

 

帰宅後、風先輩の家で夕食をごちそうになったことによって満腹になったお腹でベッド上に横になる。

風先輩方の家に行くのは初めてだったが、本当に一人の【家族】のように接してくれて、とても楽しい食事だった。

 

久しぶりの食事が、余所の家での食事となるなんて…これもある意味外食?

 

 

そんなくだらないことを考えながら、部屋を出て家の中を眺める

 

家族みんなで撮った写真が入っているアルバムを片手に持ちながら、そういえばとぽつりと呟く

 

 

 

「・・模様替えが好きなお母さんがこの質素な家を見たら…それはそれは怒られるんだろうね」

 

「年頃の男としての自覚をもっと持ちなさい!」…って感じだろう。

 

外出用の服も僕の部屋の模様替えも、全部お母さんがやっていたので、本当にありがたかった。

 

「翔太の服装はださすぎる!」って、よく怒られてたっけ…

 

 

 

 

 

《お亡くなりに―》

 

 

 

 

 

「・・中学生に…なったのになぁ…」

 

 

 

自分でも声が震えているのがわかる

 

瞳の奥が少し熱くなるのを感じるが、ぐっと必死にこらえる。

 

 

 

今泣いたら、、きっと崩れてしまう

 

 

 

「少し大人になった制服姿…二人に見せたかったなぁ…」

 

 

ハンガーに掛けておいた制服を着て、鏡に写っている自分を見る

 

…例え、顔立ちも身長も『変わってなくとも』、制服を着ればらしくなる。

 

 

しかし、この姿を一番に見せたかった相手はもういない。

 

 

「・・・挫けるもんか…絶対に」

 

 

―あの日以降、色々な物を失った

 

 

新しくできた仲のいい友達三人を、

 

平和な生活をおくるための体を、

 

暖かく、心地よくて安心できた家族を

 

 

 

「…これ以上、、大切な物ををまた失うなんて…二度とごめんだ」

 

 

大切な人を守れないで、何が勇者だ。

 

今度は…絶対に守ってみせる。

 

そのためなら……代償なんて怖くない

 

 

 

 

今はこうして風先輩達と平和に暮らせているが…そんな平和は長続きしない

 

いずれ、『お役目』の時は訪れる

 

大赦さんからも詳しくは聞いていないが…もし、その時が来ても―

 

 

 

「守ってみせるよ、お父さん、お母さん。今度は…必ず…!」

 

 

 

 

―例えどれだけ花弁が散ろうとも、

 

 

 

 

 

―【花】は変わらず『花』のままだ―

 

 

 




いかがでしょうか?

犬吠埼家にての描写がない件については…また今度にお預けということで

前回の日記にもあったとおり、現在の翔太君はすでに覚悟を決めてます。
周りには何とか着飾って、バレてないみたいですが…?

子猫について、今は特に語りません

今『は』…ね。


『覚悟を決める』……一見かっこよくて聞こえがいいかもしれませんが、、その覚悟の結果が+、-に働くかどうかはまったく別の話です。

…例え-に傾こうがどうなろうが、今の翔太君の思いは変わらなさそうです




・・あれ?何か、、【大事な事】を忘れているような…?



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喪失少女は繊細

たらしぃさん、超高校級の怠惰さん、貴重なご評価をありがとうございます…m(__)m

ご感想、ご評価、誤字報告、いつもありがとうございます。

なのに・・遅れて申し訳ないです…(--;)

リアルが忙しくて、ちょくちょく合間の時間に書いた物ですが、見てくださるとうれしいですm(__)m


Q.今回は誰目線でしょうか?

タイトルでもうお分かりな方もいると思われますが…とりあえず本編入ります。どうぞ。



 

―私こと『東郷美森』は、過去の記憶が無い…俗に言う記憶喪失者だ。

 

 

一見、記憶喪失者と言葉で表すだけだと大したことが無さそうに見えるかもしれないが…私としては死活問題だ。

 

 

どんな友達がいたのか、はたまた友達は作れていなかったのか…そして、自分がどんな人生を歩んできたのか

 

 

「でも、まだ一般常識が残っているだけ幸運……だったのかしら」

 

 

事故によって記憶喪失と車椅子生活になったと周りからは聞かされているのだが、真義が定かどうかわからないため、信用しきれない所がある。

 

 

そのため、車椅子生活の私に対して同学年の子から「大丈夫?」というように気遣いの声をよく貰う。

 

…しかし、それはそれ、これはこれだ

 

 

あくまでも心配されるだけの『クラスメイト』、、それだけだ。

 

もっとも、気持ちはわかる

 

足が不自由なだけならまだしも、そこに記憶喪失もとなったら話しかけずらいのも当たり前だろう。

 

 

・・気味悪がられて当然よね…友達が全然できないのも頷けるわ…

 

 

 

―だが、そんな私にも二人友達がいる

 

 

 

「それじゃあ、ここを…結城さん!答えてください」

 

「へっ!?あ、えっと、そこは…」

 

「少し難しいですかね?」

 

「い、いえ!そんなこと…」

 

「・・友奈ちゃん…」

 

 

近くであたふたしている友達の友奈ちゃんを見て、ため息をはく。

 

友奈ちゃんが答えられないのは、確かに問題が難しいのもあるのかもしれないが…私は見逃していない。半分眠りの世界へと足を踏み入れていた友奈ちゃんの姿を。

 

 

・・後でお説教ね

 

 

「・・・友奈」ボソッ

 

「…!31です!」

 

「あら、正解です。よく頑張りましたね、ここは結構難問なのですが」

 

「あはは…翔ちゃん、ありがとう…」

 

「・・翔太君も…まったく」

 

どうやら翔太君に答えをこっそりと見せてもらったらしい。

この前の席替えで翔太君と近くなって喜んでいたのは、まさかこれ…?

 

 

・・・翔太君も追加しようかしら?

 

 

「はぁ…ん?」

 

二回目のため息をそうつきながら黒板へと目を向けると、小さい紙飛行機がこちらに飛んできていた。

 

フワリフワリと着地した紙飛行機を丁寧に広げてみる。

 

 

 

[見逃してくれないかな?(--;)]

 

 

・・本当に甘いんだから…

 

 

苦笑しながら紙飛行機を畳む。

 

 

…でもまぁ、お説教は友奈ちゃんだけにしようって考えてる私も大概かしらね?

 

 

 

 

―二人とも、とってもいい子だ。私なんかにはもったいないぐらいに

 

 

 

―友奈ちゃんも翔太君も大事な友達だ

 

 

 

 

 

―だから、

 

 

 

「あの…大丈夫?翔太君?」

 

「うん?大丈夫だよ、少し寝るのが遅くなって眠いだけだから」

 

「…でも、、さっきも数学の時間にうとうとしてたわよね?」

 

「…あはは…見てたんだ?」

 

私の言葉に苦笑いを浮かべてそう返しながら目をごしごしと拭う翔太君。

 

 

・・前までならお説教!って茶化せたけど…今はもうそんなことできない。

 

 

 

 

「何か…悩みでもあるの?」

 

 

「・・別に無いよ?ほら、男の子あるあるのゲームのしすぎで…」

 

 

 

―隠さないで

 

 

 

「・・ゲーム、滅多にしないのに?」

 

 

少し声が震えたが、翔太君はそれに気付いた様子はない。

 

 

「…いや、それがさ?男の子の友達にオススメされたゲームが僕好みで、はまっちゃったんだ~」

 

 

嘘だ。

 

かれこれ翔太君との付き合いは数ヶ月ほどになるのだ、それぐらいはわかる。

 

 

・・でも、、どうせ答えてくれないんでしょうね、翔太君は。

 

 

「そう…なのね。駄目じゃない、ちゃんと睡眠時間を取らないと」

 

「勉強もしてるから、、多少はね?」

 

「授業中に居眠りでもしたら意味無いでしょう?もし居眠りしたら、友奈ちゃんと一緒にお説教だからね」

 

といっても、友奈ちゃんは居眠りなんか最近してないのだけど。

 

 

「・・それは嫌だね…よいしょっと。それじゃあ、先に部室で待ってるよ」

 

「・・えぇ。すぐ行くわね」

 

「うん。それじゃあね」

 

松葉杖を上手く扱いながら教室を出ていく翔太君に手をふる。

 

 

完全に教室を出ていったのを確認すると、自分の顔が険しくなるのを感じる

 

やがて、自分でも無意識のうちに口から言葉が漏れていく。

 

 

「・・・私達って、そんなに頼りないの?そんなに信用できないの?」

 

叫ぶのではなく、ただただ静かに嘆く

 

血が滲んでくるのではないかというぐらいに強く拳を握りしめて

 

 

 

 

ひとしきり時間が経ち、気持ちを切り替えて教室を出ようとした時だった。

 

 

バタン!

 

 

「…何か、、落ちた?」

 

そこそこ大きい音だったが、おそらく誰かが忘れ物でもしてそれがロッカーから落ちたりでもしたのだろう。

 

しかし、そう思って車椅子を動かしてあたりをキョロキョロ見渡してみるも、それらしき物は見当たらない

 

 

「気のせい?…いや、でもそれにしては音も大きめだったわよね…」

 

首を傾げながら少し身のまわりを探してみるが、見つからない。

 

そろそろ部活に行かないと…

 

 

そう思い、教室を出ようと教室内にあるドアに目を向ける

 

 

「あっ、やっと見つけたわ…」

 

すると音の正体であろう物が床に落ちているのを確認することができた。

 

キラキラとかがやいているところを見るに…誰かの貴重品だろうか?

 

車椅子を動かして、踏まない程度に落とし物へ近寄ってみる

 

 

 

「・・・押し花…?」

 

 

キランと強く輝く四つ葉のクローバーの押し花をゆっくりと拾い上げる

 

 

 

―この押し花、、どこかで…

 

 

 

 

《僕の大事な―――なんだ~》

 

 

 

脳裏に幼い男の子の声が小さく響く

 

 

―妙に聞いたことのある優しい声…

 

 

「・・・この押し花の持ち主は…?」

 

やけに既視感のある押し花に疑問を抱き、持ち主を特定しようと名前が書いていないか確認する。

 

…さっきまではただの落とし物だと思っていただけなのに、今ではなぜか持っているだけで不思議と安心できる…

 

 

優しく押し花を回しながら確認していると、小さい名前シールが貼ってあることに気付いた。

 

しかし、その名前シールを見た時、驚きで思わず目を見開く

 

 

「・・『倉橋翔太』…この押し花の持ち主が翔太君…」

 

 

・・あの日記といい、この不思議な押し花といい……

 

 

あなたはいったい何に苦しんでるの?

 

あなたはいったい何を隠しているの?

 

 

…いいえ、この際詳細はもうどうだっていいわ。小さくても大きくても。

 

ただ、、

 

 

 

 

―何で私達に相談してくれないの?

 

 

 

「おーい!東郷さんー?」

 

 

噂をすれば影が射す

 

突如として聞こえてきた聞き覚えのある男の子の声の方向に振り向く。

 

「あっ、ここにいたんだね。やけに遅いから少し様子を見にきたんだけど…何かトラブルでもあったりしたのかい?」

 

 

トラブル…

あったにはあった。

 

「…えぇ。少しだけなんだけどね」

 

「えっ、、大丈夫?具体的内容は?」

 

翔太君のその言葉を聞いてすぐさま押し花を持って隠しておいた右手を前に出し、翔太君に見えやすいように持つ

 

「少し教室内に誰かの忘れ物があってね。それを届けるようか迷ってて…」

 

「え?忘れ物?どれど…れ」

 

私の手に持っている押し花を見た瞬間、翔太君の表情が驚きで固まる

 

「これ、翔太君のよね?」

 

「う、うん。すっかり忘れちゃってたみたいだね…ありがとう。東郷さん」

 

 

 

・・お礼なんていいから…

 

 

「あの、、翔太君?」

 

「ん?どうしたの?」

 

あたかも、何もおかしいところはないように振る舞う翔太君。

 

その姿を見て、ぎゅっと胸がしめつけられるように苦しくなった。

 

…少なくとも、表情に出るほどには苦しんでいたらしい

 

 

「どうしたの?もしや…何か嫌なことでも?良ければ、相談に乗るよ?」

 

 

「っ……」

 

 

違うの…そうじゃない。

 

 

「無理しちゃ駄目だよ?」

 

 

無理なんかしてない。

だって、無理してるのは…

 

 

「大事な友達が傷ついてるところなんて見たくないからね?僕は」

 

 

 

翔太君。あなただもの。

 

 

 

「・・いいえ。私は大丈夫よ」

 

「そうかい?ならいいんだけど…」

 

「大丈夫よ。それよりも早く行きましょう?二人共待たせてるんだから…はい。押し花返すわね」

 

「ありがとう。そうだね、それじゃあ……行こっか、東郷さん」

 

翔太君は本当にお人好しなのだろう

他人に優しすぎて、自分のことへ目を向けることができないほどに。

『灯台もと暗し』。まさにその通りだ

 

なるべく平穏を装おって、松葉杖を使って歩みを進める翔太君の隣を進む。

静かな廊下に、松葉杖と車椅子の小さな音が響きわたる。

 

一歩、二歩と進むたびに鳴る松葉杖。

前へ、前へと進むたびに車両をゆっくりと回すたびに車椅子の音が響く。

 

そんな静かな音を背景に、前を歩く翔太君へと目を向ける

 

平均より少し痩せていて、小さい背中

 

だけどなぜか、彼の背中は父親のように大きく、心強く感じて―

 

 

 

―どこか、危うく見えた

 

 

そう思ったころにはすでに、体が考えるより先に動いていた

 

ぎゅっと、翔太君の袖を強く掴む

 

「東郷さん?どうしたの?…やっぱり何か悩みごとでもあるのかい?」

 

あるとも。

それはそれは大きな悩みが…ね。

 

「そうなの。一つだけなんだけどね」

 

「やっぱりあったんだね…まったく、『悩んだ時は相談』だよ?勇者部五ヶ条にもあるんだからね?」

 

…よく言うわよ、翔太君。

 

 

「そうね、『悩んだ時は相談』…だったわね。なら一つ聞いてみたいことがあるのだけど、いいかしら?翔太君?」

 

「もちろん」

 

「そう……なら聞くけど」

 

 

秘密に関しては聞かないわ、翔太君

 

その代わり、これだけ聞かせてほしい

 

 

 

「もし…『勇者部』のみんなが何かしらの事態でピンチに陥ったら、、翔太君ならどうするかしら?」

 

 

「・・そうなったら、かならずみんな無事にピンチから脱出させてみせるさ…僕の全身全霊の力を込めて、そうなるように尽くすよ」

 

 

一見、意図が何なのかわからない、意味不明な例え話の問いだが…翔太君はまったく迷わずに答えてくれた。

 

…『まったく迷わずに』、、だ。

まるで、【最初からすでにそうすると決めていた】ように。

 

 

・・心なしか、チラリと見えた翔太君の横顔が、戦場に行くことが決まっている兵士のように、何かに対して【覚悟】を決めてるように感じた。

 

 

「…これでいいのかい?」

 

「・・えぇ。良くわかったわ」

 

「こんな僕の考えが何に役立つのかわからないけど…東郷さんの力になれたならよかったよ」

 

 

―きっと…もしそうなったら、翔太君は本当にそうしてくれるのだろう

 

 

「ごめんなさいね、時間を取らせて」

 

「ううん。困った時はお互い様だからね、全然気にしてないよ」

 

「…ありがとう」

 

 

―それは無論、うれしい

 

 

 

―でも…

 

 

 

「もう…礼なんかいらないよ?大事な友達のためにやっただけの事だろ?」

 

「大事な人のためなら、例えそこがどこであろうとも助けに行く…それが男ってものなんだからさ」

 

 

 

 

―はたしてその時、翔太君は私達をちゃんと頼ってくれるのだろうか?

 

 

 

 

「えっと…東郷さん?そろそろ手を離してもらえないかな?」

 

「・・その前に一つ…約束してほしいことがあるの、翔太君」

 

袖を握る力に少しばかり力が入ってしまうが、翔太君は気づかない。

 

「…へ?約束?」

 

「駄目かしら…?」

 

「いや、別にいいけど…あまりきつくないことで頼むよ?」

 

「大丈夫よ。全然たいしたことない、簡単なものだから」

 

「それなら…まぁ、言ってみてよ」

 

約束とは言っても、簡単なものだ

 

誰にでもできる、簡単なこと。

 

 

 

「もし、何か大変なことが起きたら…私達を必ず頼って?絶対に一人で解決しようとしないでほしいの」

 

 

「・・・わかった。約束するよ」

 

 

所詮は言葉だけの口約束

破ろうと思えば破れる。

 

答えるのに間があった所からみて、きっと翔太君は守ってくれないだろう

 

 

「本当に、約束してくれる?」

 

「うん。僕にできることだからね」

 

「…絶対に破らない?」

 

「…もちろん。男に二言はないよ」

 

 

 

 

 

・・そんなの駄目よ

 

約束は絶対に守らなくちゃ

 

 

 

ギュッ

 

 

「えっ?…東郷さん!?何で抱きしめて…と、とりあえず離れて!体勢を崩して倒れたりでもしたら二人とも危な―」

 

「絶対よ?」

 

「・・・え?」

 

 

抱きついたことによって距離が近くなり、囁くように翔太君へと喋りかける

 

 

「約束、、破ったりしたら嫌よ?」

 

「それはもうわかったから!とりあえず、早く離れて……ひっ!」

 

こちらを見て小さく悲鳴あげる翔太君

 

なんで悲鳴をあげたのか気になるけど…話はまだ終わっていないのよ?

 

 

「もし破ったりしたら…ね?」

 

そう言っていると、自然とさっきよりも抱きしめる力が強くなる

 

 

「守る!守るから!絶対に守るよ!」

 

「本当に?」

 

「本当に!だから離れて…!」

 

 

・・そこまで言うなら、信じましょう

 

 

「・・わかったわ…ごめんなさいね、急に抱きついたりして」

 

「だ、大丈夫だよ。少しびっくりしたけど…危ないから急にはやめてね?」

 

「あら。急じゃなければいいの?」

 

「へ?・・いや、まぁ…うん」

 

二、三回ほどこちらをちらちら見たあとに顔を俯かせる翔太君。

俯く際に少し頬が赤くなっていたのは、見間違いかしら?

 

「なら今度お願いしてもいいの?」

 

「いいけど…ほどほどに頼みます」

 

「?ほどほどって?」

 

「気にしなくていいよ…そんなことより、早くいかないと二人とも痺れをきらして怒っちゃうよ?」

 

そう言いながら自分の手首につけた腕時計を見せてくる。

 

・・友奈ちゃんは何があったか察してくれるから大丈夫だけど、、風先輩は確かに怒ってもおかしくない時間ね…

 

 

「本当ね…少し急ぎめで行きましょう。風先輩がイライラしてるかもしれないわ」

 

「あはは、、そうだね。急ごう」

 

先ほどまでのスピードよりひとまわりほど早いペースで廊下を進む。

 

 

 

 

―言質…とったわよ?翔太君?

 

 

 

 

窓ガラスに反射して映った自分の瞳に、光が灯っていなかったのは、きっと何かの見間違いだろう

 

 

 




いかがでしょうか?

サブタイトルにも書いてあるのですが、、個人的にゆゆゆで一番繊細なのって東郷さんだと思うんですよね。

あくまで個人の意見なのですが…一番中学女子っぽいって思ってます。
…友奈ちゃん達の覚悟強さが中学生離れしてるってのもありますが…皆様はどう思われますかね?

ヤンデレ成分が足りないとの声が感想欄に多くて、、申し訳ないです(^_^;)

作者は今までヤンデレ小説を書く側ではなく、読み専だったもので…。
ご期待に答えられずすみませんm(__)m

だけど書いていて難しいと感じる反面、面白いと感じる部分が多いんですよね…私がヤンデレ好きなせいかもしれませんが。


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姉思いの少女と

前書きは…省略しますね。

あまりダラダラと文章を書いて本編に入るのが遅くなる…なんてことは避けたいので。(ただでさえ、更新速度が遅いから)

では、どうぞ。




 

「…あれ?もうこんな時間…?」

 

幼稚園で園児の子達と戯れているなか、ふと時間が気になって確認してみると、いつの間にか腕時計の短針が部活終了時間を指していた。

 

 

ちなみに今日は勇者部の活動で幼稚園にお邪魔している。

いつもなら友奈や東郷さん、風先輩などが一緒のため、時間を忘れたりすることなんてなかったんだけど…あいにく今日はみんなそれぞれ違う仕事を担当しているため、タイムキーパー役がいない。

 

そのせいで園児の子達の要望に答えまくってしまい…気付けばこんな時間。

 

 

「えー!しょうおにいちゃん、もっとえほんよんでよんでー!」

 

「かいじゅうごっこしようよー!」

 

「おままごともー!」

 

 

・・もっとも、僕が園児の子達を可愛く思って要望を聞き入れてしまうのも悪いのだけれどね…。

みんな、「翔お兄ちゃん」って言ってなついてくれてるのに……そんな子達を可愛く思うなってほうが無理だと思う。

 

そんなつまらないことを考えている間にも時間は進み続ける。

 

 

「ごめんね。僕も遊びたいのはやまやまなんだけど…お遊びはまた今度で許してくれないかな?さすがに戻らないと、みんなに心配かけちゃうから…ね?」

 

両手を合わせて園児達にそう頼みこむ

勇者部のみんなにいらぬ心配をかけるわけにはいかないから、どうかこれで手をうっていただきたいんだけど…?

 

 

「それなら…いいよ!」

 

「しょうおにいちゃんとまたあそべるときまで、わたしがまんする!」

 

「ありがとうね~。今度は友奈お姉ちゃん達も連れてこられると思うから」

 

「ほんとう?やったー!」

 

一部の男の子がやや赤面しながらも喜んでいるのを見て、微笑ましく感じる

 

近くにいる園児君達の頭を優しく一撫でしたのちに、長机に置いておいた松葉杖を使って立ち上がる。

…少々園児達が遊びに使ったのであろう傷が持ち手についているが、移動の際に支障等は無いため気にしない。

 

「あはは、喜んでくれてうれしいよ。それじゃあ、、さようならー」

 

「「「はーい!さようならー!」」」

 

 

 

園を出たのち、ほんの少しだけいつもより早めに学校へと松葉杖を動かす。

 

三人とも僕が園児になつかれていることはよく知っているため、多少の遅刻はわかってくれると思うが…女性を待たせるのは男としてしのびない。

 

男らしさがあまりない僕だから、せめてそれぐらいは嗜んでおきたい…。

 

「それに、遅れたのは僕のせいでもあるんだ。なるべく急がないと…」

 

そう口に出しながら、徐々に徐々に歩くスピードをあげていく。

 

 

 

しかし、世の中には『急がば回れ』ということわざがある。

昔の人はまったく、うまいことを言うものだと常々思うよ…

 

 

「…!わっ…!」

 

「…えっ?おっとっと…!」

 

急いで歩いていたおかげで、片目の視力を失っているほうからやってきていた人に気づかず、肩がややではあるがぶつかってしまった。

 

そのせいで体がよろけ、僕はきれいなフォームでしりもちを一つつく。

 

 

・・時間のことしか考えないで、早歩きをした結果がこれです。

『自業自得』とはまさにこの事だよ…

 

 

「あいてて、、」

 

「あっ!すみません!大丈夫ですか……って、あれ?翔太さん?」

 

「え?何で僕の名前を……」

 

やけに聞き覚えのある声…

それに、何も名乗ったりしていないのになぜ僕の名前を…?

 

 

不思議に思い、ぶつかってしまった人の方を向いてみると、いったいなぜなのか答えはすぐにわかった。

 

 

「って、樹ちゃん?」

 

「はい…いつも何かとお世話になってるだけでなく、翔太さんにぶつかってご迷惑を…本当に申し訳ないです…」

 

「いやいや、とりあえず一旦落ち着いて?悪いのは僕なんだから、樹ちゃんが謝る必要ないよ?」

 

さっきの衝突事故は、誰がどう見ても僕が悪いと言われるだろう。

周りに目を配っていなかった僕の責任だから、むしろ樹ちゃんは文句を言う側の筈なんだけどな…

 

「・・そうですか?でも…」

 

「でもも、へちまもないよ?それが紛れもない事実なんだから…それよりも!怪我とかはしてないかい?」

 

「はい。特に怪我とかは無いで……あれ?メモ紙がどこにも無い…」

 

?メモ紙?

 

「メモ紙って?」

 

「お姉ちゃんから夜ご飯の材料を書かれたメモ用紙をもらってたんです…」

 

「・・本当にごめん!すぐ探そう!」

 

怪我こそ無いものの、買い出しする食材が書かれているメモ用紙を無くしてしまっては大問題に変わりない。

 

今夜の犬吠埼家の晩御飯を僕のせいでめちゃくちゃにするわけにはいかん…!どこにあるんだメモ用紙…!

 

 

そう必死に松葉杖をつきながらメモ用紙を探していると、付近にあった電信柱から白い紙がひらひら舞っているのを見つけた

 

 

「にんじん、にら、豚のひき肉…あったよ!樹ちゃん!」

 

「本当ですか!…これです!ありがとうございます!」

 

・・まったくお礼を言われる立場じゃないんだけどね、僕。

余所見して、ぶつかって、メモ紙を紛失させて……害悪すぎないか?僕?

 

「良かった、、もし紙が見つからなかったらどうしようかと…」

 

「?どうかしましたか?」

 

「…ううん、何でもないよ。ただちょっとホッとしてただけだから」

 

「は、はぁ。…とりあえず、何でもないのなら良かったです」

 

そう言いながら困惑混じりではあるが、にこりと微笑んでくれる樹ちゃん。

 

…いい子だなぁ

なおさら罪悪感がこみ上げてくるのを感じてくるのを感じるよ。

 

 

「あっ、そろそろ行きますね」

 

「あぁ、お買い物の途中だったもんね…って、そういえば僕も部室に戻らないと駄目なんだった」

 

「そうなんですね。なら、ここでお別れになりますね」

 

「うん、そうなる―」

 

 

・・待て、、ここで別れていいのか?

今のところ僕が樹ちゃんにやった酷いことと、良いことの比率は3:1

 

樹ちゃんは許してくれていたとしても、このままでは僕の良心が……

 

 

よし、、ならば…

 

 

 

「いや、迷惑じゃなければ買い物に付いていかせてもらってもいいかな?」

 

「え?でも、部室に戻らないと駄目なんじゃ…?」

 

「…実は水曜日だけ部活動の時間が短めになってるのを忘れててさ。今日の部活はもうとっくに終わってるよ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「うん。だからもう大丈夫なんだ」

 

「いやでも、翔太さんをわざわざ私の買い物に付き合わせるには…」

 

「今の見た目からは想像できないかもしれないけど、僕料理得意なんだ。食材の目利きとかもできるから、少しは役にたつと思うよ?」

 

5,6年生の時は毎日僕が倉橋さんに料理をふるまってたし、味も倉橋さんから「料理人になれるんじゃないかな?」とお墨付きをもらっている。

 

「それに、今日は樹ちゃんに散々迷惑かけちゃったからね。このままだと僕の気がおさまらないから、少しでも罪滅ぼしをさせてほしいんだけど…どうかな?」

 

「・・そんなにおっしゃるのなら、、すみません。お願いします」

 

「お任せあれ…あ、そういえばもうそろそろタイムセールの時間だよ?豚のひき肉はタイムセールで買うってメモには書いてあったような?」

 

「へ?・・あ…」

 

「あはは、、まだ間に合うと思うし…少しだけ急ぎ目で行こっか?」

 

「はい…」

 

落ち込んだ様子で前をとぼとぼと歩く樹ちゃんを横目でチラリと一瞬見たのち、すぐさま携帯を操作して、勇者部部長にメッセージを送る。

 

 

 

『少々用事ができてしまったので、現地解散させてもらいます。だいぶ自分勝手ですが、すみませんm(__)m』

 

『これまた急ね…まぁ、わかったわ。あたしから二人にも伝えておくわね』

 

『ありがとうございます!』

 

『はいはい。あんたはいろんなことにだいぶ巻き込まれやすいんだから、気をつけなさいよ~?』

 

 

 

…風先輩から見た僕って、そんな色々なことに巻き込まれて見えるのか…?

 

特に心当たりがないからわからないけど、さすがにあの三ノ輪銀ちゃんほどではないと信じよう。

 

 

「翔太さん?」

 

「あっ、ごめんね。すぐ行くよ」

 

急いで携帯をポケットにしまって、代わりに松葉杖を手に握る。

 

 

・・普通の中学生にとって携帯は馴染みやすい、相棒のような物のはずなのに、僕の場合はこの松葉杖のほうが手に握った際に馴染むんだよなぁ。

 

すっかりと己の体の一部になってしまった杖に苦笑しつつ、樹ちゃんの横に並んで歩く。

 

 

しかし、目的地までの道中、

 

 

「学校生活はどうだい?男の子とも少しは会話できるようになったかな?」

 

「は、はい!翔太さんのおかげで、前に比べて、少しだけなら会話できるようになりました!」

 

「そ、そっか」

 

「はい…」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

話が続かない…。

 

よく考えたら樹ちゃんと二人だけで話したことなかったな…いつも間に風先輩がいたから。

 

世間話をしようにも、風先輩混じりで話しをする時に世間話ばっかりしているせいで、ネタがもう尽きてしまった。

 

 

 

そうして、何か話しのネタはないかと思考を巡らせるも、その思考は他ならぬ樹ちゃんの言葉で中断された。

 

 

「あの…せっかくこうしてお姉ちゃん無しで会話する機会が設けられているので、一つ聞きたいことがあるのですが…」

 

「え?聞きたいこと?」

 

「はい。お姉ちゃん無しでお聞きしたいこことがあるんです…もしかして、駄目ですか?」

 

「いや!全然そんなことないよ!」

 

「本当ですか?良かった…」

 

樹ちゃんがあまりにも悲しげに瞳をうるわせるため、思わず声を少し大きくしてまで否定しちゃったけど…何だろう?

 

「ところで、聞きたいことって?」

 

「あっ、はい。えっと…お姉ちゃんと翔太さんが所属している部活のことなんですけど…」

 

「?勇者部について?」

 

「はい。近々、私もそろそろ中学一年生になるわけなんですけど、、入学した際にはその、『勇者部』に入りたいなと思っていて…」

 

 

・・樹ちゃんが勇者部に?

 

「…なるほど。でも、何でその話を僕なんかにしようと?」

 

「実は、お姉ちゃんが率いている部活がどんな風なのか気になってて…でもお姉ちゃんに直接聞くのは何だかちょっと恥ずかしくて…」

 

確かに、血のつながった家族より、僕のほうが聞くには適しているかもね。

それなら僕にたずねるのも納得だ。

 

「ということは、勇者部に入りたいことを風先輩にはまだ言ってないの?」

 

「はい。まだ言ってません」

 

「・・そうなんだ」

 

 

―妹思いの風先輩がこのことを知ったら…いったいどう思うのだろう

 

 

「…勇者部はいい部活だよ。何しろ、風先輩が部長だからね。部員も全員いい人達ばかりで、、僕は大好きだよ、勇者部」

 

「そうなんですね…何か、翔太さんがそう楽しそうに話しているのを見ると、、自分ごとのようにうれしくなります」

 

「それはお姉ちゃんのことをしっかりと思ってる証拠だよ、樹ちゃん」

 

「そ、そうですか?」

 

「うん。少なくとも風先輩と樹ちゃんのやり取りを見た僕はそう思うよ?」

 

「・・人からそう言われると、何だかちょっとむず痒く感じちゃいます」

 

「あはは、ごめんね?」

 

「いえ、大丈夫です…」

 

樹ちゃんと風先輩の家族仲は、見ているだけで心が暖かくなる

 

姉思いの優しい妹、妹思いの優しい姉

 

お互いがお互いを支えあっている。

二人の関係こそが、まさしく『家族愛』というのだろう。

 

 

 

・・そんな二人を見ていると…少し、『羨ましいな』なんて思ってしまう

 

もし、自分に兄弟がいたら、、

 

そんなありもしない空想をしてみたりするほどに、二人が羨ましく見えた。

 

「風先輩のこと、本当に大事に思ってるんだね、樹ちゃんは」

 

「…はい。たった一人の、心強い、大切なお姉ちゃんです」

 

「そっかそっか…こんなに思ってくれてる妹さんがいて、風先輩は幸せものだね。少し羨ましいよ」

 

女神のような微笑みを浮かべて話す樹ちゃんに、同じく笑みを浮かべて話す。

 

…笑みは笑みでも、僕の場合はにへらとした、汚い微笑み方なんだろうけど

 

 

「そんなことないです…それに、私はもう『思うだけ』じゃ嫌なんです」

 

「・・『思うだけ』は嫌…って?」

 

「実はお姉ちゃん、最近難しそうな顔をしていることが増えてるんです。それに、、何だか誰かと電話で話していることも増えてて…」

 

・・よく見てるなぁ

 

そう感嘆の声をあげそうになるのを寸でせき止め、静かに頷くことで話の続きを言うよう促す。

 

「何だか、最近少し疲れてるように見えることが多いんです。だから…」

 

 

「たとえほんの少しでも、私はお姉ちゃんの力になりたいんです!」

 

 

・・今まで、樹ちゃんは少し気弱な、優しい女の子だと思ってたけど…大間違いだったんだね

 

だって、

 

 

ただの気弱な女の子は、こんな『覚悟』に満ちた目をしないはずだ。

 

 

 

「あ…す、すみません!勝手に熱くなっちゃって、、恥ずかしい「恥ずかしくなんかないと思うよ」…え?」

 

「少なくとも、僕はそう思うな。大切な家族の力になりたいなんて、むしろどこに恥じるところがある?」

 

僕だけじゃなく、100人に聞いてもみんな僕と同じ意見だと思うよ。

 

 

「・・翔太さん…」

 

「頑張ってね、樹ちゃん。大して力になれないだろうけど、何かあったら相談でも何でものるからさ」

 

「…はい!ありがとうございま「でも、一つだけ気を付けてほしい」え?」

 

「一人だけで突っ走らないでね?」

 

どこぞの赤髪幼馴染みたいに

 

 




―ピンと張った糸ほど切れやすく、切れる勢いも強くなる。

相変わらずの駄文なだけでなく、ヤンデレが今回0となっておりますが、時系列的にそろそろ畳み掛けれそうかなと思います。

もうすぐ、風先輩が三年生、友奈・東郷・翔太が二年生、そして樹ちゃんが入学いたします。

・・つまり……後は察してくださるとうれしいです(^_^;)

誤字報告・感想等ありましたら、気兼ねなくお申し付けくださると幸いですm(__)m



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今と昔

・・とっても期間が空きましたね…前投稿から何日経ったのでしょうか。

もし楽しみにしてくださっている方がございましたら申し訳ないです、、お詫びといってはなんですが、今回の文字数はいつもよりマシマシになっています。

感想等も見れていなかったので、空き時間ができ次第、じっくりと読ませていただこうかなと思います。


前書きで色々語っても仕方ないので、本文に入ります。どうぞ…




―キーンコーンカーンコーン―

 

 

「よっしゃ!今日は部活も休みだし、放課後に皆でアニメ観賞しようぜ!」

 

「いいなそれ!同志みんなで集まって、親睦を深めようぞ!」

 

「・・またアニメの話かい?」

 

意気揚々とカバンを持って声を高らかにあげ、そう話す二人の男友達にため息をつきながら尋ねる。

 

何でこの二人は気づかないのだろうか、、女子の目線が冷ややかなことに

 

「「もちのろんですたい!」」

 

「…なら、もう少し声のボリュームを下げたほうがよろしいかと。女子に向けられている視線はご存じだろう?」

 

「うん。でもそれがどうかした?」

 

「へ?」

 

「人の目線を気にして趣味に没頭できるかってんだい!俺は他人になんと言われようが、見られようが、まったく痛くも痒くもないわ!」

 

「よく言ったぞ同志田中よ!人の趣味も十人十色なんだから、冷ややかな視線を向けられる筋合いなんかそもそもないんだよ!違うか!?」

 

 

・・うん。確かに山口君の言うことはその通りなんだよ?

でも…R18の作品をちらほら見てるのに、その話を公衆の面前でするのはいかがなものかと思う。

恥らいというものはないのかな?

 

 

「まぁ…違わないんじゃないかな?」

 

「そうだろう?さすがは我が友だ!」

 

「そうだ、せっかくなんだから翔太も一緒に見ないか?R指定入ってないやつだから、翔太も見れると思うぞ」

 

堂々とそんな言葉を口にしないで頂きたいなぁ…友達として恥ずかしいよ。

 

田中君と山口君に対して苦笑いを浮かべていると、教室のドア付近にてこちらに手を振っている友奈と美森ちゃんが見えた

 

「お誘いはうれしいんだけど、勇者部があるから無理なんだ。ごめんよ」

 

「ありゃ、そうなのか~。残念だけど、部活なら仕方ないな」

 

「勇者部ねぇ…いつ聞いても変わった名前だな…確かうちのクラスの結城さんと東郷さんも勇者部だったっけ?」

 

「うん。というか知ってたんだね」

 

いつも「二次元こそ至高!」って言ってるような、アニメのことしかほぼ興味を示さない山口君が二人に関心を持っているなんて…珍しいな。

 

「そりゃあ、あの二人は男子人気高いからな。結城さんはすごい優しいし、、ほんと良い子だよなぁ」

 

「キモオタである俺達にも平等に優しく接してくれるのに、そんな相手のことを知らないわけないだろう?東郷さんは…ほら、結城さんの守護神で有名だから…」

 

……初耳なんだが?

 

「・・そうなの?」

 

「知らないのか?東郷さんに彼氏でもできない限り、結城さんと付き合うのは無理に等しいって」

 

「…ごめん。全然知らない」

 

「…まぁ、翔太の場合は例外なのかもしれないな。東郷さんと一緒にいるところもよく見るし、、まさか―」

 

「彼氏とかじゃないよ?仲のいい友達ってだけだよ、東郷さんとは」

 

「本当かねぇ?なら、結城さんとはどんな関係なんだよ?」

 

「ちなみにこっちは手をつないでるところも見てるんだからな?まさか仲のいい友達とは言わないよな?」

 

そう言いながら負のオーラを後ろに漂わせながらにじりよってくる二人。

…若干目が血眼になってるし、、妙に圧があって怖いんだけど?

 

 

「落ちつきなよ二人とも―「翔ちゃんー!早く行こうよー!」…」

 

「ほれ!仲のいいだけの友達にしては『~ちゃん』呼びは距離が近すぎるだろうが!とっとと白状しろ!」

 

「どんな関係なんだー?」

 

「・・ただの幼馴染です!それじゃあ僕は部活に行ってくるね~!」

 

『三十六計逃げるに如かず!』

 

早々と鞄を抱え、友奈達のところに急いで松葉杖をついて向かう

後ろから呪詛のような声が聞こえてきたけど…きっとただの空耳だろう。

 

 

 

「やぁ、、お待たせ…」

 

「…し、翔ちゃん大丈夫?片足が使えないとは思えないほどの速さで歩いてたけど…よく転ばなかったね?」

 

「何か友達と話をしていた様子だったけれど、、いったい何を?」

 

「気にしなくて…いいよ…ふぅ。そんなことより早く行こう?」

 

「そうだね!それじゃあ、急いで勇者部にレッツゴー!」

 

君たち二人の話をしてたんだよなんて、さすがに恥ずかしくて言えないよ…内容が内容だし。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

ーーーー

 

 

ーー

 

 

 

 

ガチャ

 

 

「勇者部部員、結城友奈です!ただいま参りました!」

 

「同じく倉橋翔太、参りました」

 

「同じく東郷美森です。失礼します」

 

「おっ。みんな来たわね~」

 

「みなさん、こんにちは」

 

部室に入るといつも通り、『二人』の黄金色の頭髪をした、先輩・後輩が迎えてくれた。

 

中学校に入学してからついに一年がたち、こんな僕にも一人のかわいい後輩というものが初めてできた。

 

「こんにちは、樹ちゃん。今日もお互い一緒に頑張ろうね」

 

「はい!頑張ります!」

 

ニコリと太陽のごとき明るい笑みを浮かべる樹ちゃんを見て、こちらもついつい笑みを浮かべてしまう

 

「我が妹は健気ねぇ。見てるとこっちまで元気になってくるわ~」

 

「最初は少しぎこちなかったのに、今では完全に溶け込んでますからね…かくいう私も風先輩と同意見です」

 

「樹ちゃんが翔ちゃんと打ち解けてるのを見てると、私もうれしいなー!」

 

うーん…外野が少しうるさいな?

 

もっとも、美森ちゃんの言っていることは紛れもない事実で、最初こそ樹ちゃんガッチガッチだったんだけどね。

とは言っても相手が僕のような男じゃないため、すぐに友奈・美森ちゃんと仲良くなれていた。

 

…それに、樹ちゃんもだんだん僕と普通に話すことができるようになってきたし…男子苦手克服の日も目前かもね?

 

「わわっ、みなさん揃って生暖かい視線を私に向けないでください!翔太さんからも何かおっしゃってくださいよ!」

 

「・・あはは…」

 

「・・否定して欲しかったです…」

 

ごめんね、樹ちゃん。こればっかりは肯定も否定もできないよ。

 

視線を樹ちゃんから風先輩に変え、話を進めてもらうよう促すと、苦笑いを浮かべながらも小さく頷いてくれた。

察しのいい先輩で助かります…

 

 

「はーい。そろそろいい時間だし、今日の勇者部の活動を始めるわよー?」

 

「むぅ…わかったよ、お姉ちゃん」

 

樹ちゃんから見えない角度から風先輩がグッジョブサインをする。

さすがのナイスフォローです、、

 

「風先輩!今日も園の子達に見せる人形劇の練習ですよね?」

 

「そうよ、友奈。園の子達にお粗末な劇を見せないようにするためには、練習あるのみだからね…頑張りましょう!」

 

「そうですね、千里の道も一歩からと言いますし、、子供達に少しでもいい劇を見せられるよう、私も頑張ります」

 

「私も東郷さんと同じ気持ちです!その証拠に…家でセリフをきっちりと覚えてきました!」

 

「さすが友奈ね!勇者部の部員として恥じない、見事な心構えよ!」

 

杖で体を支えながら、お三方の会話に耳を澄ませて聞き取る

 

僕はあいにく裏方中の裏方で、表舞台に立つようなことはない。理由は言わずもがなだと思うが、この体だ。

その代わりといってはなんだけど、人形の製作や舞台となるセットの作成には力を入れさせてもらった。

 

・・もっとも、先生やクラスの友達に教えてもらいながら作ったものなので、僕一人の作品ではないのだが…

 

 

そんなことをしみじみと思い出し、目を細めていると、友奈にぎゅっと優しく左腕をつかまれる。

 

「その顔…さては翔ちゃん、自分は何もできてなくて申し訳ないな~…なんて思ってたでしょ?」

 

「・・・敵わないな、友奈には」

 

ほんと、何で分かるんだか…友奈ってエスパーか何かなのでは?

 

「大切な幼馴染の翔ちゃんのことだもん、そんなのすぐわかるよ、、翔ちゃんがわかりやすいのもあるけど…」

 

「え、、そうなの?」

 

「えぇ。私も友奈ちゃんほど付き合いが長いわけじゃないけど、翔太君が何を考えてたのかすぐわかったわ」

 

「翔太にポーカーフェイスの才能がないことは確かね~。顔に悲しそうな気持ちが出ちゃってたわよ?」

 

…確かに自分のことにはあんがい自分だと気付きにくいって言うけど、、

 

「…樹ちゃんはどう思う?」

 

「…ノーコメントでお願いします」

 

「うん・・否定してほしかったな…」

 

わかってた、わかってたけどね。

流れ的に予想してたよ…。

 

 

「そんなことより!翔ちゃん!」

 

「は、はい!何でしょうか!」

 

から笑いをしている最中に友奈が突如として大きめの声をあげるので、思わず驚いてびくっと反応してしまう

 

「翔ちゃんだって人形劇に貢献してくれてるよ!だから翔ちゃんは胸を張って堂々としてくれればいいの!」

 

「そうよ翔太君。ステージも人形も、全部翔太君が作ってくれたじゃない」

 

東郷さんの言葉にひとしきり大きく頷いたのち、「ほら!」と言いながら勇者の人形をこちらに見せてくる友奈。

 

「でも、、それは他の人にも手伝ってもらって作った物だから、結局僕一人では何にも貢献できてないよ…」

 

本当は一人で作ろうと思ったのだが、あいにく僕は器用な方ではない。

腕にはめる程度の人形なら僕にもできるかと思ったんだけどなぁ…

 

 

「はぁ…なーに言ってんのよ。何にも貢献してないやつが、右手にそんな絆創膏つけるわけないでしょう?」

 

ビシッっと、僕の親指に貼ってある絆創膏を呆れ混じりに指さす風先輩。

急いで指された絆創膏を隠すと、風先輩はそれを見て、まるで仕方ない子を見る親のように苦笑いを浮かべた。

 

「・・この絆創膏は何にも良いものじゃないですよ。ただ僕が不器用だったゆえに負った物なんですから」

 

「そんな言い方するんじゃないの。現に、あたしは全然いいと思うわよ」

 

「…何でですか?」

 

「だって、けがをしたってことはそれだけ部のために何かしようと頑張ってくれた証拠でしょう?」

 

『頑張った証拠』…この絆創膏が…

 

 

「例えあんた一人でやったことじゃなくても、十分あたし達は助かってるのよ?だから友奈が言ってたとおり、胸を張って堂々としてなさい!」

 

「風先輩…いや、風部長…!」

 

これからは犬吠埼家のある方角に足を向けて寝られないな……もともと向けてなかったけど

 

「よーし、そんじゃ友奈!翔太をとりあえずそこの観客側に座らせて?翔太には観客をやってもらうから…ってそうだ、椅子が無いのよね…」

 

「私が持ってくる?お姉ちゃん?」

 

「いや、樹ちゃん、それなら椅子は私の車椅子を使ってくれていいわよ。私はパイプ椅子があるから」

 

「助かるわ~東郷。それじゃあ友奈、東郷の椅子使っていいらしいから、あとはお願いね」

 

「了解です!それじゃあ翔ちゃん、ちょっとお手を拝借するよー?」

 

…待って、僕の知らない間にいつのまにかお話が進んでる!

 

「えっ、ちょっ、風先輩?そんなこと聞いてないんですけど?」

 

「今までずっと暗い顔してたんだから、その罰ゲームみたいなもんだと思いなさい?拒否権はもちろん無し!」

 

「私頑張るから、終わったら感想とかアドバイスお願いね!翔ちゃん!」

 

「・・うん、わかったよ…」

 

 

前言撤回ってまだ間に合うかな?

 

キラキラと目が輝いている友奈に椅子まで引っ張られている間、そんな少しの後悔を胸に抱いた。

 

 

・・まぁ、心が軽くなったのは事実なのだけどね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「翔ちゃん!一緒に帰ろうー!」

 

「そろそろ劇の発表も近いし、帰路につきながら劇について話しましょう」

 

帰る準備を済ませ、トイレに入って用を足し終わったところを二人にちょうど話かけられる。

 

 

タイミングの良さを見るに、僕がトイレから出るのをわざわざ待っててくれたのだろうけど…今日はある『用事』があるんだよな…。

 

心苦しいが、、かといって大切な『用事』をすっぽかすわけにはいかない

 

「あ~、、ごめん二人とも!今日はどうしても外せない用事があるんだ」

 

「・・『用事』?」

 

「……ちなみにそれってどんな用事なのか言えたりするかしら?」

 

「え?う、うん。言えるけど…実はちょっと行きたいところがあるんだ」

 

 

一瞬、二人の声のトーンが下がったような気がしたが…気のせいだろうか?

 

 

「それなら私達も付き合うのに…」

 

「いやそれが、その行きたい場所が少し遠いところにあってね。だから【親戚】に車で迎えに来てもらう予定なんだ」

 

「なるほど。それなら確かに一緒に帰れないわね…」

 

本当なら誰かに迷惑をかけるようなことはしたくないから、自分の足で行きたいんだけど…この体だとさすがにね…

 

 

「できれば翔ちゃんとも一緒に帰りたいんだけど…最近はずっと一緒に帰ってくれてたもんね!わかったよ!」

 

「私も少し寂しいけれど、、我が儘言っちゃいけないわよね。怪我とかしないように気をつけてね?」

 

「ありがとうね、二人とも」

 

待ってまでして一緒に帰ろうとしてくれていた二人を思うと、少しきゅっと心が痛くなるが、大切な用事のためだと痛みを心の奥へと押し殺す

 

 

「バイバイー!翔ちゃん!」

 

「また明日ね、翔太君」

 

「うん。また明日ー!」

 

 

笑顔で手をふってくれる二人にこちらも優しく手をふりかえす。

 

 

 

やがて二人の姿が見えなくなったのを完全に確認し、ポケットに入れていた携帯に手を伸ばして、、ある【親戚】に電話をかける。

 

 

 

ピッ

 

 

「もしもし…大赦さんですか。ただいま準備ができたので、あそこまで送迎をお願いします」

 

『はい。先ほどから近くまで向かっていましたので、まもなく到着します』

 

「すみません、助かります」

 

『いえ。では失礼いたします』

 

どうやら本当に近くまで来てくれていたらしく、電話を切って数秒後、大赦印の黒塗り高級車が目の前に停車した。

 

停車してすぐさま車から一人の大赦さんが降り、わざわざ肩を貸してくれる

 

 

「お足もとにお気をつけください」

 

「よいしょ…ありがとうございます。だけど重くないですか?」

 

「はい。お気にさわったら申し訳ないのですが、倉橋翔太様は大変お軽いので、私めでも軽々お持ちできます」

 

「…そんなに軽いですか?」

 

「えぇ。まるで、『何ヵ月もあまりご飯を食べていない方のようです』」

 

「・・・あはは…」

 

大赦さんの言葉へ苦笑いで曖昧に返したのち、車へと乗り込む。

 

 

 

数分ほど車内での長い静寂を経て、ついに目的地に着いた

 

目的地に着いたとたん先頭の大赦さんを筆頭に、待ち構えてくれていた何人もの大赦さんが頭を地につける。

 

 

―【異質】

この状況をそう呼んだとしてもどこもおかしくないだろう。

 

 

「ようこそおこしくださいました…翔太様がきてくださり、【お二方】も大変お喜びになられています」

 

先頭の大赦さんが頭を下げたまま、静かに淡々と言葉を僕に告げる

 

…まるで、神にでもなった気分だ

中学生である自分より頭が低い大赦さんを見渡し、そんな馬鹿みたいなことを思ってしまう。

 

「それなら良かったです…では、僕は失礼しますね。病室で二人が待っていると思いますので」

 

地へと平伏す大赦さんの間を通り、不気味な雰囲気を醸し出している病室のドアをゆっくりと開ける

 

 

 

 

 

 

「よっ。久しぶりだな、、翔太」

 

「いっしー、ようこそ~」

 

 

扉を開いた先には、包帯を顔…もしくは体に巻いた、すっかり変わり果てた戦友の姿があった

 

…まぁ、そんな変わってしまった二人の姿を見るのは今回が初めてじゃないので、驚いたりはしない。

 

 

・・僕も他人のこと言えないが…二人の姿はいつ見ても痛々しい。

 

そんな痛々しい姿になってもなお、昔のように明るく振る舞っているところ見ていると、どこかうれしく思う反面、少し悲しくなる

 

 

どうしても、無理やり元気を絞り出しているかのように脆くて儚げな…ただの空元気に見えてしまうよ

 

 

「久しぶり、二人とも。元気かい?」

 

 

…そんなこと、二人には言えないけど

 

 

「んー…アタシはぼちぼちだな~」

 

「私もみのさんと同じ~。体調面では特に問題ナッシングだよ~」

 

「それは良かった。人間はやっぱり健康が第一だからね」

 

「そう言う翔太はどうなんだ?…確か翔太が奪われた物って…」

 

…鋭いなぁ。

 

見事なカウンターパンチを銀ちゃんから受けたことに苦笑いを浮かべると、それだけで察したのか、とたんに銀ちゃんが悲しそうな表情を浮かべる。

 

「いちおう聞くけど、、食事は?」

 

「平日は1日一食。休日は…とらない日の方が多いかな。それでも健康なんだから、便利なもんだよ」

 

「食欲…やっぱりないんだね」

 

「あはは…まぁ、仮に食事をとったとしても無味なんだけどね」

 

三大欲求の一つが無くなったと言っても、そこまで困ることはない。

何も食べなくても生きていられて、体も普通に動かせれる…言ってしまえば何の差し支えもない。

 

とても便利な体だ

とても万能な体だ

そう羨ましがる人もいるかもしれない

 

でも…

 

 

 

―人として大事な何かを失ったような、妙な喪失感をどこか感じるのだ―

 

 

僕は二人に比べて、目に見えてわかるような失った器官は少ない。

しかしその分、他の何か大切な物を失っているため、感じる虚無感はどことなく大きくなってしまう。

 

 

「そんな悲しそうな顔しないでよ?僕は全然平気なんだから…どちらかと言うと、二人の方が僕は心配だな?」

 

「…まぁ、暇の一言に尽きるなー。でも勉強の息苦しさ比べればマシだから、アタシは問題ナッシングだぞ!」

 

「私も昔からボーッとしたりするのが好きだったから、大丈夫だよ~」

 

「…そっか」

 

 

 

―だが、二人に比べればそれも小さな、生ぬるい物だ

 

自由に出歩けない体になったあげく、一人の人間としてではなく一つの『御神体』として崇められる

 

 

 

――はたしてそれは、【大丈夫】と言えるような軽いことなのだろうか?

 

 

そう一人で苦い顔をしながら考えるも、園子ちゃんの声でそれは遮られる

 

「・・ねぇいっしー、一つ聞きたいことがあるんだけど…」

 

「いや、言わなくても大丈夫だよ。…美森ちゃんのことだよね?」

 

「!須…美森はどうなんだ?記憶が無くなっても、元気でやれてるか…?」

 

本当に心から美森ちゃんの身を想っているのだろう。

緊迫した表情でこちらに視線を向けてくる二人に対して優しく微笑みながら静かに頷くと、二人とも心から安心・うれしそうな表情を浮かべていた。

 

「ちゃんと女子中学生としての生活を送れてるよ、東郷美森さんは。…記憶が無くても立派にね」

 

「私達のこと、忘れられてるのは少し寂しいけど…わっしーが普通の生活を送れてるなら、うれしいな~」

 

「できるならもう、須…美森にはお役目なんて背負わないで、平和に過ごして生きていてほしいんだけどな…」

 

 

―僕は二人も、勇者部のみんなも、、全員平和に過ごしてほしいんだけどね

 

交際して、婚約して、家庭を築いて、やがて子に囲まれて、

 

そんな幸せに満ち溢れた人生をみんなには是非とも送ってほしいよ、僕は

 

 

「僕も同じ気持ちだけど…二人も人として平和な生活を営む権利があることを忘れないでよ?」

 

「ははっ…アタシはほら、こんな姿になっちゃったからさ、、自由に歩くことすらままならないし?」

 

「私もみのさんと同じだな~。この身体になってから、自分が自分じゃないような…不思議な感覚なんよ」

 

話ながらそれぞれ己の身体を見渡す二人の目は、どこか遠くを見ているような、悲しげな様相を浮かべていた

 

 

「事実は小説より奇なりって聞いたことあったけど…本当なんだね~。今の私みたいな姿をした人物なんて、、小説でも滅多に見られないもん」

 

そんなことを呟くように話ながら、自虐的な笑みを浮かべる園子ちゃん

 

隣のベッドに横になっている銀ちゃんも園子ちゃんの言葉にどこか思うところがあるのか、視線を下に向けたままその場に静かに佇んでいる

 

 

 

―もう……見てられないよ

 

 

 

 

…ポスン

 

 

「・・え?い、いっしー?」

 

「・・へ?ど、どうしたいきなり?」

 

松葉杖を壁にかけ、そっと二人の頭上に手を優しく置く。

いきなりの僕の奇行に二人は目を丸くして一瞬固まったが、やがてそれぞれ目に見えて分かる困惑の色を浮かべた。

 

そんな二人に笑みで返し、置いた手をゆっくりと動かす。

 

…これ以上どこか痛んだりしないよう、割れ物を扱うかのように丁寧に。

 

「あっ…懐かしいな、これ…やっぱり何だか落ちつくなぁ…」

 

「うん…何でだろうね?すごく、どこか暖かいんよ~…」

 

撫でてあげていると次第に困惑していた二人もリラックスしてくれたのか、目を細めて僕に身を委ねてくれる

 

 

「…大丈夫。きっと、大丈夫だよ」

 

そこで二人を宥めるよう、穏やかに話すことを心がけて言葉を紡ぐ。

 

「例え今が辛くっても、きっと最後には苦しんだ分のつけが回ってきて…いいようになるんじゃないかな」

 

二人みたいに良い子達がひどい未来を掴むなんて、そんなことあるわけない

 

 

正直者が馬鹿をみる?

 

 

 

―そんなこと、あっていい訳ない

 

 

 

「そう…かな?」

 

「…別に、これといった根拠も確証もないけれど、、僕はきっとそうだって信じてる」

 

都合のいい、もはや自己暗示の一種だってことは自分でもわかってる。

でも、だからといって全部が全部間違っているわけではないと思う。

 

…友奈と再開できたのが良い例かな

 

 

「・・翔太の言うこともわからなくはないぞ?…でもな…」

 

信じられなくて当然だ、だって僕の言葉には何の根拠もないんだから。

 

 

・・・なら、、

 

 

「それなら…僕が保証するよ、銀ちゃん。もちろん、園子ちゃんも」

 

「…保証?」

 

「そう。僕が保証…いや、なんならいい結果になるように、全力で手を尽くすことを約束するよ」

 

もし僕が言ったとおりにならなくても、怒りの矛先を向けれる先があるなら信じてくれるんじゃないかな?

発表の場で責任転嫁先があるとわかったとたん、少し気が楽になるように。

 

 

「んー・・わかったんよ~。そこまで言うのなら…信じるね?いっしー?」

 

「右に同じく、アタシも信じさせてもらうよ。信頼できる戦友のお墨付きなら安心して信用できるからな~」

 

「ありがとう。二人をがっかりさせないよう、この倉橋翔太頑張ります!」

 

二人を撫でていた手をさっと引き戻して、力こぶをつくるように腕でポーズをとって二人に見せつける。

力こぶがあれば少しは様になるのだが…残念ながら僕のへなちょこ腕にお山さんは見当たらない。

 

…二人の微笑みが虚しいなぁ、、

 

 

「ははっ…って、そういえばずっと片足立ちだけど、、辛くないか翔太?」

 

言い忘れていたが、二人の頭を撫でる際に松葉杖は邪魔だと思って今は壁にかけているため、僕は今片足だけで立っている状態だ。

 

先ほどまでは痛みより二人のことを優先的に考えていたため、そのせいで痛みなんて感じていなかったが…いざ銀ちゃんに言われて意識すると、そこそこ痛くなっていることに気がついた。

 

「あはは…ごめん、少し辛いかもしれない…結構疲労してたみたい…」

 

「みたいって…おいおい大丈夫か?早く松葉杖を使わないと…」

 

「…それが、壁にかけちゃってて…そこまで歩けそうにないんだよね…」

 

「面目ない…あいてて」

 

ケンケン跳ねて移動なんてできる体力がもう足に残ってないよ…見栄をはった直後にさっそくこれか…

 

「それなら、一回私のベッドで足を休めてきなよ~?楽になりやすいよう、横になってくれていいから~」

 

「え、いやそんな悪いよ…」

 

「大丈夫大丈夫。ベッドのサイズが大きめなおかげで、いっしーが横になってもそこまで問題ないから~。ずっとそのままじゃ大変でしょ?」

 

「・・問題はそれだけじゃないんだけど…仕方ないか。失礼します…」

 

「…うん。どうぞ~」

 

情けなさと申し訳なさを背に感じつつも、足の痛みには逆らえないため園子ちゃんのベッドにいそいそと入り込む

こんなこと僕がしてるなんてことがもしクラスの子に知れたら…社会的に終わるだろうな、僕。

 

そんなことを考えていても、すぐとなりにいる園子ちゃんからふんわりと漂ってくる女の子のにおいを感知してしまうのは、男の性だろうか。

…うん。我ながら気持ち悪いな…

 

「…ねぇ、いっしー?いっしーは私達が良い結果を迎えられるよう、手を尽くしてくれるんだよね?」

 

「?うん。さっきも言ったけど、僕なりに全力で手を貸すよ」

 

「なら…一つ、お願いしてもいい?」

 

「お願い?」

 

前から園子ちゃんの要望はよく聞いてあげてたけど…こう園子ちゃんが折り入って頼みこんできたことなかったな…。

 

そう珍しい行動をとる友達に答えるために身体の向きを園子ちゃんへと向けた際、あることに気付き…目を見開く

 

 

「少しだけでいいから…ぎゅって抱き締めてほしいの……」

 

 

―園子ちゃん、、震えてる…?

 

 

僅か、ほんとうに僅かだ

よく目を凝らさないと見えないぐらいに小さな震えだが、この至近距離もあいまって気付くことができた

 

いかなる状況でも場を見渡すことのできるような鋼の精神力を持つ園子ちゃんが身を震わすなど…『あの日』以来だ

 

 

「…なんてね。今のはいっしーをからかっただけだよ~」

 

その震えを己で知ってか知らずか、平静を装おっていつもの間延びした口調でおちゃらける園子ちゃん

 

 

「どうー?私の演技力は~?もし上手かったら、役者さんでも目指そう―」

 

 

ギュッ

 

 

「!…いっしー、、」

 

「何も言わなくていいよ…しばらくこのままでいてあげるから」

 

「・・・ありがとう」

 

本当は顔から火が出るんじゃないかってぐらい恥ずかしいんだけど…少しでも彼女の癒しになれるのなら我慢できる

 

しばらく経って「もういいよ。ありがとう~」と感謝を述べる園子ちゃんは、いつもの彼女に少し戻っていた。

 

「良かったな、園子」

 

「うん…みのさんは大丈夫?」

 

「アタシはいいよ。そんなことしてたら、弟達に示しがつかないからな~」

 

「おー。かっこいい~」

 

 

・・もう、大丈夫そうだね。

 

二人で仲良く談笑しているところを横から眺めて、小さくうんうんと頷く。

すると、後ろの病室の扉がゆっくりと開いていって、一人の大赦さんが姿をあらわした。

 

「翔太様、お時間の方がもうすぐでございます。帰りの車は手配してありますので、お帰りのご準備を」

 

「あっ、もうそんな時間ですか」

 

慌てて腕時計を確認すると、確かにもうそろそろいい時間になっていた

…楽しい時間は本当に一瞬で過ぎ去る

 

「・・いっしー、帰っちゃうんだね」

 

「・・寂しくなるな…」

 

「…また来るから大丈夫だよ。期間は空くだろうけど、、その時まで待っててくれるとうれしいな」

 

「…あぁ、なら楽しみにしてるぞ?」

 

「私もー。待ってるね?いっしー?」

 

「うん。…バイバイ」

 

 

今と過去、

 

時は違えど、大切で大好きな仲間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

---------

 

 

「…帰っちゃったね、みのさん」

 

「翔太は明日も学校があるだろうからな、仕方ないさ。早寝、早起き、朝ごはんは大切だろ?」

 

「早寝だったら自信あるよ~。私~」

 

「・・変わんないなぁ、園子は」

 

?早寝は大事なんじゃないの?

 

やれやれと肩をすぼめるみのさんに首を傾げつつ、さっきまで来てくれていた友達…いっしーのことについて考える

 

 

《何も言わなくていいよ…しばらくこのままでいてあげるから》

 

 

・・暖かかったなぁ、いっしー…

 

昔から彼は、察するのが上手かった

そのおかげかな。転校してきたばっかりのはずなのに、友達もたくさんいて、さらには先生からも信頼されていた

休み時間中に同級生の子の悩み相談を受けているところを見るのも、大して珍しくはなかった。

 

しかし、そのことを本人に言っても、

 

《幼馴染にはかなわないんだけどね》

 

なんて言葉と共に笑みが返ってくる

 

運動以外は本当に何でもといっていいほどできる彼は、一人の友達として正直少し鼻が高かった。

彼には友達が何人もいたけど…その中で1番一緒にいる時間が長いのは私達三人だろう。だから尚更だ。

 

休み時間とかは私達以外の子と遊んでいるときもあったが、、基本的には一緒にいたと思う。

 

休みの日の時も、訓練の時も、

 

 

 

―そして、、『お役目』の時も

 

 

「どうした園子?苦い顔なんかして」

 

「・・あはは…【あの日】のことを思い出しちゃって…」

 

「・・忘れられないんだな……まぁ、アタシも忘れられてないんだけど…」

 

「…考えちゃうんだ。もしあの時私が気を失わなければ、いっしーも危険な目に会わなかったんじゃないかって「・・園子」…ごめんね」

 

「…それならアタシも、須美も、何回も考えたことがあるよ。だから、この事についてみんなで言いいっこなしって決めただろ?」

 

「うん…わかってはいるんだけど…」

 

どうしても、割り切れない

【あの日】のことだけは…

 

 

 

 

 

 

《二人とも!無事だったのね…!》

 

《いっしー!みのさん!無事で良かった…すごいよ、二人だけで三匹も追い払うなんて…!》

 

少し血が出てるけど、、そんな傷よりみのさんといっしーの方が大事だ…!

痛む体を無視して二人の元に駆け寄る

 

《そのっちの言うとおりよ…ほら、早くみんなで家に帰りましょう?》

 

《…みのさん?いっしー?》

 

わっしーと二人で話しかけているのにも関わらず、一向に返事が返ってこないことに疑問を抱く。

…こんな時に無視?いくら二人でも、さすがに酷いよ…?

 

 

そんな私の考えはすぐに打ち破られる

 

……最悪の方向で

 

 

《・・須美ぃ、、園子ぉ、、!》

 

《み、みのさん?どうし―》

 

《翔太が、、翔太が…!!》

 

 

―そこには小さな血だまりを作って横たわる、見慣れた彼の、見慣れない…無惨な姿があった

 

 

 

 

 

「…まぁ、引きずるのも無理ないか、、よくあんなにボロボロだったのに後遺症無く完治できたよな。翔太」

 

「お医者さんもびっくりしてたね~」

 

結果からすれば、急いで大赦さんに連絡したおかげでいっしーはギリギリではあったものの、助かった。

お医者さんが言うには、あと数分遅かったら間に合わなかったらしい…

 

「・・何とか助かったから良かったけど…もう翔太のあんな姿は、二度と見たくないぞ…絶対にな」

 

「いっしーのことだから、私すごく心配なんだ…またあの日みたいな無茶をするんじゃないかって…」

 

「次の勇者の人達にそこはなんとかフォローしてもらうしかないな…アタシ達はこんなんで、身動きできないし」

 

心配だけど…現状が現状だから、みのさんの言う通り次の代の勇者さん達にお願いするしかない。

 

「・・なんならもういっそのこと、いっしーも御神体になれば心配する必要なんて無いんだけどね…」

 

「あの大赦が戦える翔太を見逃すわけないだろ?翔太も須美のことが心配で行きたがってたし、、それは無理だな」

 

「大赦に関しては、無理やりでも圧力を掛ければできなくはないよ?私は乃木さん家の園子さんだからね~」

 

「…まぁ、それは本当に最終手段だろ。翔太のことが大好きなのはわかるけど、、やめてやれよ?」

 

大好きだよ、いっしーのことは。

その好きは親愛ではなく、男女の好きなことも自分でよくわかってる。

 

 

私が独占欲強めなのも、自分自身のことだから誰かに言われなくても自分でよ~くわかってるんよ。

 

 

…でも、みのさんには言われたくない

 

 

「…みのさんだって好きでしょ~?」

 

「・・自分の身を犠牲にしてまでアタシ達のことを支えてくれたやつを……好きにならないほうがおかしいだろ…」

 

包帯が巻かれているせいでよく見えないけど、、おそらくみのさんの顔は赤くなっていることだろう。

その証拠にみのさん、後半からだんだん声が小さくなっていってたし

 

「って!何言わすんだよ園子!」

 

「恥ずかしがらなくてもいいよ~?大丈夫~、わっしーも同じだから~!」

 

「知ってるよ…そもそも三人が同じ思いだったから、同盟組んだんだし」

 

「『他の女子にいっしーを渡したくない』って気持ちも同じだったよね~」

 

ちなみに、同盟発案者は私だ。

 

…みんなで、幸せになりたいからね

 

・・他の女の子に取られる前に…!って思いで二人に話を持ちかけたのだが、二人とも同じ考えだったようで、すぐに同盟設立に首を頷かせてくれた

 

「…独占欲が強い、めんどくさい女って自覚は自分でもあるさ。でも、、自分の気持ちに嘘はつけないんだ」

 

「大して付き合いも長くない女子が翔太とすごく仲良さげにしてるのを見ると…黒い感情が湧き出てくる」

 

「・・私も同じだなー。何にもいっしーのこと知らないくせに…なんて思っちゃうんよ」

 

女の嫉妬は醜いなんて言葉があるけど…この際、醜くてもいい。

どうせ身なりはもうこんな化け物のようになっちゃったんだから、これ以上醜くなったって…大して変わらないだろう

 

「私達をこんな風にした責任、いつかはちゃんと取りたいね~」

 

「あぁ、それはアタシもそうだ…だけど、今じゃないだろ?我慢だ、我慢」

 

「そうだね…もっとも、こんな体のままだったら、叶いそうにないけど…」

 

「・・・戻りたいな、あの頃に」

 

「・・・うん。私も戻りたいよ」

 

 

戻れるなら戻りたい。

あの四人で送る、楽しくて暖かな日々に戻れるなら。

 

 

 

 

―いっしーと違って、今日も病室は静かで冷たいな…

 

 

 

 

―病室は今日も二人の少女を閉じ込めたまま無機質で、不気味なほどの静けさを保っていた―

 

 

 




久しぶりです…いかがでしょうか?

今回は長めだったのですが、次回からはいつも通りの文量でやっていきます
誤字脱字、感想等ありましたら、お気軽にお願いいたしますm(__)m

皆さんはゆゆゆ・わすゆの生放送をご視聴なさいましたか?
私は一人で寂しく見ました…

・・友達にゆゆゆ好きな人がいれば仲良く盛り上がれたのですが、、あいにく知っている人すらいないんですよね…ゆゆゆ好きの友達が欲しくなりました…

(アニメはとても面白かったです)


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始動



待ってくれていた人はいるのかと、もはや疑問のblack historyです。

とりあえず本編入ります…どうぞ


 

―むかし、むかし、あるところに勇者がいました―

 

 

 

―勇者は人々に嫌がらせを続ける魔王を説得するために旅を続けています―

 

 

 

―そしてついに、勇者は魔王の城にたどり着くことができたのです!―

 

 

 

 

 

 

「やっとここまでたどり着いたぞ魔王!もう悪いことはやめるんだ!」

 

「私を怖がって悪い者扱いしたのは、村人達の方ではないか!」

 

 

舞台にて人形を動かしながら劇を繰り広げる友奈と風先輩。

今までの練習の甲斐あって中々のクオリティに仕上がっているため、園児達の目もキラキラと輝いている…のだと思う。

あいにく僕は舞台の中にいるので園児の子達の反応を見ることはできないが、ざわざわ声が聞こえるところから見るに、そこそこ盛り上がってはくれているのだろう。

 

紙芝居の要領で背景を入れ替え、炎の演出がくくりつけられた棒を人力でそれらしく見えるように動かす。

当たり前だが、裏方だからといって仕事がないわけではない。音響は樹ちゃんと美森ちゃんの二人がやってくれているが、それ以外の人力でできる演出は僕が担当だ。

 

 

 

 

 

「だからって嫌がらせはよくない!話し合えばわかるよ!」

 

「話し会えばまた悪者にされる!」

 

さすがの演技力だ。やっているうちに二人も役に入りこんできているのか、演技にもだんだん熱が入ってきている。

無論、役に入りこんで熱が増すのは悪いことではない。

むしろ、そっちの方がいいのだが…熱が入りすぎると逆効果になりかねない

 

そして、その熱が入りやすい人物に一人だけ心当たりがある

 

 

・・嫌な予感が…

 

 

 

「君を悪者になんかしない!」バンッ!

 

 

 

そしてその予感はみごと的中し、案の定熱が入った友奈がステージを強く叩いてしまったようで、その衝撃によって舞台が今にも倒れようとしていた。

 

我にかえってハッとした様子の友奈だったが、残念ながら時すでに遅し

 

 

 

「あっ…!」

 

 

「・・・はぁ……友奈…」

 

 

 

・・ほんと、予想を裏切らないな…

 

 

バタン。と、情けない音をたてながら舞台が虚しくも倒れる。

幸いなことにも舞台は園児達よりも前の方で倒れてくれたため、園児の子達に当たったりしてケガを負うなどという最悪な事態にまでは陥らなかった。

 

 

…もっとも、だからといって問題ないのかと言われれば勿論NOだが

 

舞台の裏側がむき出しとなり、情けなく銅像のように固まって動かなくなる風先輩と友奈(諸悪の根源)の姿がよく分かる

 

 

「しょうおにいちゃん、なにかたおれてきたけど……なにがおこったの?」

 

 

膝に座っている男の子が純粋無垢の目でそう困惑したように訪ねてくる

他の園児の子達も突然の演出に困惑しているようで、ざわざわとほんの少し騒ぎ始める声が聞こえてきた。

 

 

・・打開策は一応ある

このままだと劇が崩壊する…しかし、穢れを知らない良い子達に嘘を教えてもよいものか?

 

あーだこーだ数秒間もの間葛藤したが、結局一演技打つことにした。

これも結局は園児の子達のため。許してください。

 

 

 

「…ぐ、ぐわー。魔王の攻撃だー!」

 

 

うん…我ながら酷い棒読みだ

才能のさの文字すらない演技ではあるが、そんな大根役者でも自分なりに必死に苦しんでいるように演じる。

園児の子達の無垢な視線が痛いが、劇が台無しになるよりはマシだと自身に言い聞かせて、魔王から攻撃を受けてもがき苦しむ人間の演技を続行する。

 

 

「おにいちゃん!だいじょうぶ!?」

 

「おにいちゃん!おにいちゃん!」

 

 

僕が本当に苦しんでいると思って心配してくれたのか、さっきまで膝に乗っていた男の子や近くの女の子が焦って近よってくる。女の子にいたっては少し涙目にすらなっているため、本気で心配してくれているようだ……正直、罪悪感がえげつない。

しかし、これも結局は園児の子達のためだ。許しておくれ、みんな。

 

 

呆けた様子の二人にそっとアイコンタクトで上手く劇を繋げるよう伝える

もちろん、子供達にはバレないように細心の注意をはらって。

 

 

「!よ、よくも翔ちゃ…翔お兄さんを!魔王め、許さないぞ!」

 

「・・えっ、ちょっ…いや、さっきまで仲直りする流れじゃ―」

 

 

 

 

「勇者キーック!!」

 

「ぐえっ!?……わかった、そちらがその気ならいいだろう…勇者よ、ここが貴様の墓場だ!樹、ミュージック!」

 

 

・・散々やっといて何だけど…最初の穏便に解決しようとしていたのはいったいどこへ消えたのだろうか?

樹ちゃんが流した魔王のテーマも相まって、劇がもはや完全なるRPGの勇者VS魔王の最終決戦となってしまった。

話し合い(物理)をする勇者…嫌だな。しかもやってることキックじゃなくてパンチだし。中々ダメージ入ったらしいし。主にキャスト本体に。

 

 

 

「みんな!勇者を応援して!一緒にグーで勇者にパワーを送ろう!」

 

 

予定とは違う方向に進みつつある劇だが、さすがは美森ちゃん。さながらレンジャーショーのように、観客の園児達に勇者へのパワーの提供を促すアドリブを入れてくれた。

すぐに手のひらを返して武力交渉に出る、勇者とは名ばかりの畜生に園児の子達が力を送ろうとしてくれるかは危ういが、、もし僕だったら送らない。

 

 

「翔お兄さんの無念も込めて!頑張れ!頑張れ!」

 

「ゆうしゃさんがんばれー!」

 

「がんばれー!!」

 

 

…いや、生きてますよ美森さん?勝手に亡きものにしないで?

 

 

「ぐおおっ…!みんなの声援が私を弱らせる…!」

 

「お姉ちゃんナイスアドリブ!」

 

アドリブにアドリブを重ねる高等演技を成し遂げる風先輩もさすがだ。

臨機応変に劇を行う部長に内心拍手を送りつつも、魔王の弱さに苦笑いする。

 

 

園児達の声援に苦しむ魔王、ついに劇も終わりを迎えた。

悪が劣勢に傾き、それに伴って正義が優勢に傾く。そんな状況に、園児達の盛り上がりは最骨頂となっている。

 

 

そんな状況の中で劇を締めくくるのは

 

 

 

「よーし!今だ!ゆうしゃ……パーンチッ!!」

 

 

 

正義のヒーローの決め台詞

 

 

 

……ではなく

 

 

 

 

「痛ってぇぇ!?!?」

 

 

 

 

・・・魔王(中身)の痛切な悲鳴だった

 

 

 

 

「これで魔王もわかってくれたよね?もう友達だよ!」

 

 

 

勇者さん、勇者さん…脅迫ってご存知?

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「翔ちゃん、早く行こうー!」

 

「ちょっと待ってね…よし。二人共ごめんよ、待たせちゃって」

 

「そんな謝るほど何分も待たされてないから、全然大丈夫よ?」

 

「そうそう。準備の時間なんて人それぞれだもん、仕方ないよ。それよりも、みんな準備できたんだから、風先輩達が待ってる部室にレッツゴー!」

 

美森ちゃんの車椅子を引っ張りながら、握りこぶしを作ってそう話す友奈。

そんな明るく健気な姿に美森ちゃんと二人揃って笑みを浮かべる。

 

ほんと…昔から変わらないよなぁ。

 

 

部室までの道中で二人と昨日の劇のことについて雑談していると、勇者部の部室までへなんてあっという間だ。気付けば部室のドアが目の前にある…なんてことはそうそう珍しくない。

現に今も美森ちゃんに言われなかったらドアにぶつかってたしね…友奈が。これで何度目だい?ぶつかりそうになったの。

 

美森ちゃんに注意されたのが恥ずかしかったのだろう。顔をほんのりと赤く染めながら、部室のドアを友奈が開く。

 

 

「こんにちはー!友奈、東郷、翔太!入りまーす!」

 

「こんにちはー」

 

「失礼しまーす」

 

「お疲れ様です」

 

部室に入ると早々に、樹ちゃんが優しい労いの言葉をかけてくれる。

そんな彼女の手には何枚かのタロットカードが握られており、同じく机の上にも数枚程が並べられている。

 

「タロット占いかい?」

 

「あっ、はい!いつでも占いができるように、やり方を復習してたんです」

 

「なるほど…占いかぁ」

 

テレビとかではたまに見るが、実際に映像ではなく日常の中で占いというものを目にする機会は少ない。

当然僕も例外ではないため、樹ちゃんが並べた机の上にあるタロットカードを奇異の目でじっと眺める。

 

「よかったら、翔太先輩もやってみませんか?お貸ししますよ?」

 

「…いや、僕はいいかな。昔からそういうのはすごく疎くてね…それに不器用すぎて、成功した試しがないんだ」

 

「翔ちゃん私より不器用だもんね~」

 

「・・友奈?お静かにね?」

 

「はーい」

 

気をつかわせてしまったことによる申し訳なさで、苦笑いがこぼれる。

気になりはするけど…見ているほうがいいかな。プラモデルとかも自分で作るより、友達が作っているのを眺める方が好きだったから。

 

「でも、見た目以上にタロット占いって難しくないんですよ」

 

「あはは…僕は自分でやるより、人のを見る方が性にあってるから大丈夫。その気持ちだけ受け取らせてもらうよ」

 

「そうですか、、残念です…」

 

申し訳ないことしちゃったかな…

少々罪悪感を感じてしまうが、変に僕が扱って樹ちゃんのカードをボロボロにするよりはマシだと自分に言い聞かせる

 

「おっ、来たわね~三人とも…って、何で樹はしょんぼりしてるのよ?」

 

「…何でもないよ、お姉ちゃん…」

 

「いや…全然何でもなくなさそうだけど?いったい何があったのよ?」

 

「ううん、本当に大丈夫…ちょっと仲間が増えるかなって勝手に期待して、勝手に落ち込んでるだけだから…」

 

・・・なるほど。自分の善意による提案が断られたからしょんぼりしてたんじゃなくて、占い仲間が増えると思ってたから、断られてしょんぼりしてたんだ…

…なおさら悪いことしちゃったな。

 

「・・よくわかんないけど…まぁ、樹が大丈夫って言ってるなら信じましょう」

 

頭上に疑問符を浮かべながらも渋々頷いている風先輩から視線を外す。

しかし、外した先にジト目でこちらを見てくる二人がいたため、僕はそっと視線を風先輩の方へと戻した。

…うん。完全に僕の自業自得とはいえ、やっぱり二人の視線が痛いな…

 

「?どうしたのよ、翔太まで苦い顔して?翔太も何かあったの?」

 

「…いえ、朝飲んだブラックコーヒーの味を思い出してただけですので、お気になさらないでください」

 

「なるほど。そりゃあ、苦い顔の一つやふたつもするか……いや、だからって今そんなこと思い出す?」

 

「いやぁ、、あまりにも苦くて印象に残っちゃってて…つい」

 

我ながら滅茶苦茶なでまかせだな…

嘘をつく才能が自分にないことはよくわかっていたが、こうして人と会話してみると嫌でも痛感する。

 

「…何でそんなの飲んだのよ?コーヒーはいいけど、苦味はほどほどにしときなさいよ?」

 

いや…信じてくれるんですか、、

どう考えても無理のある理由だったけど…さすが、お人好しの風先輩。

これにはさすがにでたらめを喋った張本人である僕も苦笑いを浮かべる。

信用してもらってるから…なのかな?

 

「はい、気をつけます」

 

「よし。…それじゃあ、今日も勇者部の活動をはじめていきましょうか」

 

「はーい!昨日の劇みたいに、今日の活動も大成功させましょう!」

 

「・・えぇ…?だいぶ無理があるところあったと思うわよ…?」

 

「あはは…でもでも、終わり良ければ全て良し!ですよ!」

 

「強引じゃない~?」

 

風先輩と友奈が昨日の劇について話しはじめたので、ゆっくりと身近なパイプ椅子を引き寄せて腰掛ける。

松葉杖を壁にかけ、手持ちぶさたになったところで、いつの間にか横まで移動してきていた美森ちゃんに肩をポンッっと叩かれた。

 

「よく誤魔化したわね、翔太君?」

 

「…どうかあのことは内密にお願いいたします。東郷さん」

 

「んー、、どうしようかしら?」

 

小悪魔のような笑みを浮かべ、こちらへと挑発的に顔を向ける美森ちゃん。

こうして普通の人には見せない、いたずらっ子のように意地悪な一面を見せてくれるのはうれしいんだけど…今ですか。

いつもは厳しいお母さんのような美森ちゃんのお茶目な姿は、正直かなり可愛らしいのだが……今ですか。

 

わりと本気で秘密にしておいて欲しいのだけど…もし風先輩にバレたら、いったい何をされるかわからないから。

 

…もっとも、それを美森ちゃんも知ってるからこそ、あんな小悪魔の笑みを浮かべているのだろうけど

 

「・・東郷さんの意地悪」

 

「ふふっ、冗談よ。ちゃんと風先輩には秘密にしておくから、安心して?」

 

「そうしてくれるならうれしいんだけど…何で少し回答を匂わせたの?」

 

「それは…翔太君のからかった時のリアクションが面白いから、つい…ね」

 

「・・・やっぱり小悪魔だ」

 

「?何か言った?」

 

「何でもないです」

 

小悪魔の笑みではなく、いつもの微笑みを浮かべてそう話す美森ちゃん。だが内容が内容なだけに、その微笑みすら小悪魔に見えてしまう。

リアクション芸人さんになった覚えはないんだけどなぁ…

 

「へーい、待たせたわね二人とも。恨むなら友奈を恨んでちょうだい」

 

「てへへ…昨日、園児の子達の喜びようが嬉しくて、ついつい話し込んじゃって…」

 

「いえいえ。翔太君と楽しくお話をしていたので、私は気にしてませんよ?」

 

「…右に同じくです。友奈の悪い癖は大体把握してますから、僕も全然気にしてませんよ」

 

同意を得るようにこちらへと車椅子ごとふりかえってくる東郷さんに苦笑いで返しながら風先輩に応答する。

楽しくお話…からかわれこそしたけど、別にそこまで間違ってはいない…かな?

 

 

「あら、そうなの?そう言ってくれるならこちらとしても助かるわ…東郷からは小言をもらうと思ってたから」

 

「私の悪い癖って…?」

 

「友奈が気になるなら、例にいくつかあげてみようか?」

 

「…え、遠慮します!」

 

…自覚はやっぱりあるんだね、友奈

 

 

「雑談してるとキリないから、また無駄に時間を使っちゃう前に今日のミーティングしちゃうわよー」

 

内心そう呆れていると、風部長から集合の号令がかかった。さすがにこれ以上時間を無駄に使うわけにはいかないため、当然だろう。時は金なりなんて、昔の人は上手く言ったものだ。

 

「「はーい!」」

 

「はーい…」

 

意気揚々と返事を返す二人を尻目に、二人とは対照的に元気の少ない返事を返していた樹ちゃんに駆け寄る

 

責任は取らないと…ね

 

「樹ちゃん、ちょっといいかな?」

 

「…大丈夫ですけど、、どうしました?」

 

「やっぱり少し気になっちゃって…迷惑にならない範囲でいいから教えて欲しいな~って、、嫌ならもちろん断ってくれていいから―「いいですよ!!」…いいの?」

 

「はい!私で良ければ!」

 

「ううん、十分だよ。よろしくお願いしますね?樹先生」

 

「先生……!こ、こちらこそよろしくお願いします!」

 

まさか食い気味に答えてくれるとは…

珍しく積極的な樹ちゃんに最初こそ驚いたけど、元気になってくれたようでうれしいよ。

 

 

「よし、それじゃあ……樹?今度は何かいいことでもあった?」

 

「別に何にもないよ?お姉ちゃん?」

 

「…にしてはいつものテンションに戻ってるし、目にいたってはいつもより輝いてるような…気のせいかしら?」

 

大丈夫ですよ風先輩。僕も樹ちゃんの目が輝いて見えてますから。比喩とか無しで、本当に輝いて見えます。

 

 

「・・まぁいいわ。それじゃあ、このボードに貼られてる写真の子達を見てちょうだい」

 

気になりこそしても渋々ではあるが話を進める風先輩に心の中で拍手を送りつつ、マグネットでボードに貼りつけられている猫達の写真へと視線を向ける。

 

「わぁ~!可愛い!」

 

「こんなにも、まだ未解決の依頼は残っているのよ」

 

「これはこれは…随分とたくさんきましたね。子猫の飼い主探しの依頼が」

 

黒オンリーな色の子もいれば、白と黒が混ざっている子、はたまた茶色の子と、これらの写真からだけでも色々な配色の猫ちゃんがいることがわかる。十人十色なんて言うぐらいなのだから、猫もやはりそれぞれ違う配色や個性があるのだろう。

 

 

「そうなのよ……なので!今日からは強化月間!学校を巻き込んだキャンペーンにして、この子達の飼い主を探すわ!」

 

 

キャンペーンとは…学校を巻き込むなんて、中々思い切った発想に出る。

子猫の飼い主を探すといった点では確かにいい案だと思う。それに中学生ぐらいの女の子なら子猫といった小動物に可愛げを感じことも多いだろうし、世話もしっかりと責任をもってやって、十分に可愛いがってくれそうだ。

 

「お~!」

 

「学校を巻きこむという政治的発想は、さすが一年先輩です!」

 

「あはは…ありがとう」

 

「政治的発想もそうですけど…素晴らしい行動力ですね。さすが部長です」

 

「おかしいわね…ほめられてるのは二人とも変わらないはずなのに、うれしさが全然違うわ…」

 

薄く苦笑いを浮かべて困惑したようにつぶやく風先輩。

美森ちゃんは一つの表現が独特な時が多々あるからね…お気持ちはお察ししますよ、風先輩。

 

「…まぁ、学校への対応は私がやるとして。まずはホームページの強化準備ね…東郷、任せた!」

 

「はい!携帯からもアクセスできるようにモバイル版も作ります」

 

「さすがー!詳しいね!」

 

「僕も手伝おうか?」

 

「ありがとう。でも、パソコンとかに関しては私に任せてほしいわ。他の体を動かすことでは何も貢献できてないから」

 

「そんなことないと思うけど…でも、東郷さんがそう言うなら任せるよ」

 

「ごめんなさいね。翔太君の手伝おうって気持ちだけで十分うれしいわ」

 

僕にそうやんわりと微笑んで、美森ちゃんがパソコンのある机へと向き合う。

パソコンに関しての知識は美森ちゃんほど詳しくは無いが、それでもある程度のことは心得ているので少しぐらいなら力になれると思ったのだが…本人がいいと言うのなら仕方ない。

 

僕も体を動かすことでは活躍できてないんだけどね…今も、、昔も

 

 

「お姉ちゃん、私達は?」

 

「え?えっと…今まで通りに、そして今まで以上に頑張れ!」

 

「アバウトだよお姉ちゃん…」

 

「…ブラック企業の社訓ですか?」

 

あまりにも大雑把で無茶な要求のため、こちらは困惑しかできない。

いったい、何をどう頑張ればいいというのだろうか…。

 

「それだったらさ、海岸の掃除に行く時にも人に当たってみようよ!」

 

「あ!なるほど!それいいです!」

 

「なるほど…いいね。さすが友奈」

 

「えへへ、それほどでも~」

 

まるで漫画やアニメのワンシーンのように、分かりやすく手でポリポリと頬を掻いて照れる友奈に笑みを溢す。

座り方が女の子として少し品を欠けてしまっていること以外はさすがだ。こういう時に頭の回転が早いところは昔から変わっていない。

 

 

 

「…ふぅ。ホームページの強化、ただいま完了しました」

 

 

「「「「えっ!?早っ!?」」」」

 

 

「・・しかもよくできてる…」

 

「・・すごっ…」

 

 

みんなで文字通り目を丸くしてパソコン内のホームページを眺め、あまりの完成度の高さに間抜けにも口を開けてしまう。

もはやプロの仕事レベルの完成度のため、美森ちゃんは中学校を卒業した瞬間にそっちの仕事に就いても問題なさそうだ

 

 

・・あれ…中学生って何だっけ…?

 

 

そう僕が敬礼をしている美森ちゃんに対して恐れに似た若干の畏敬の年を抱くのも、無理はないことだと思う…

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「…今日、東郷美森という女の子の凄さを改めて痛感したよ」

 

 

『かめや』さんにて、ふと箸を置いて美森ちゃんについて話す。

 

お客さんで賑わっていても決してうるさくない、ほどよいガヤガヤ度でマナー等がしっかりしているため、かめやさんはかなり居心地がいい場所だ。勇者部でここに来ることが多いこともあり、もはや今ではおなじみの場所となっている。

 

 

「ホームページ強化凄かったです!」

 

「ほんと、まさかあんな短時間であのクオリティを仕上げるとは…」

 

「プロだ~!」

 

「ありがとうございます。先輩、天ぷらをどうぞ」

 

「おっ!気が利くね~!君、次期部長は遠くないよ~?」

 

「いえ、先輩を見ているだけでお腹がいっぱいに…」

 

苦い笑みを浮かべながら、嬉々として天ぷらを食べる風先輩を見てそう話す美森ちゃん。…それに関しては僕も同じ意見のため、静かに首を頷かせて同意を示す。

 

うどん三杯目にも関わらず、ケロリとした様子で汁まで平らげる風先輩…何も知らない人が見たら大食い選手か何かかと勘違いしてもおかしくない食べっぷりだ。

女性に対しては禁句なので、死んでも口には出さないが…カロリーは大丈夫なのだろうか?汁も含めると……うん、やめよう。知らぬが仏だ。

 

 

「あっ。そういえば先輩、話って?」

 

「うん?…あっ、そうそう。すっかり忘れてたわ、、文化祭の出し物の相談をしようと思ってたのよ」

 

「文化祭ですか?」

 

「えっ、まだ4月なのに?」

 

「夏休みに入る前に色々決めておきたくてね~。後回しにしてもいいんだけど、なるべく早い方がいいかなって」

 

樹ちゃんの問いに答える形でそう話す風先輩。なるほど…ごもっともだ。備えあれば憂いなしとも言うからね。

 

「なるほど。確かに、先手で有事に備えることは大切ですね」

 

「今年こそは!ですね!」

 

「去年は準備が間に合わなくて、何もできませんでしたからね…」

 

「去年の反省も踏まえての話し合いとは、さすがは我らの部長です」

 

美森ちゃんが言ったとおり、あれやこれやと去年は案こそ出たものの、実行に移すための準備時間が足りなくての言うとおり何もできなかった。

案自体は良かったので、もう少し早く決めれていれば…なんて後悔が積もったのだが、しっかりとその後悔から得た反省を活かすとは、あっぱれだ。

 

「うんうん、そうでしょう?…それにー?今年は幸いなことにも猫の手も入ったから百人力よ~!」

 

「わ、わたしー!?」

 

おちゃらけた様子で、ワシワシと妹である樹ちゃんを撫でまわす風先輩

姉妹仲の良さが表れて見える微笑ましい光景に、思わず笑みを溢す。うん、相変わらず暖かいな。

 

 

「ほれほれ~……ん?あら、うどん残しちゃうの?翔太?」

 

「え?…あはは、、もうお腹いっぱいになっちゃって…」

 

「我が部雄一の男子なのにだらしないわよー?男たるもの、もっと私に負けないぐらいがつがつ食べないと」

 

「お姉ちゃんと比べちゃうのはちょっと……でも、確かにあんまり食べてないですね。これって確か普通のより量少ないやつですよね…?」

 

自分の器と僕の器を比べて心配そうに訪ねてくる樹ちゃん。みんなの器と比べて僕のうどんが入っている器は一回り小さく、彼女の言うとおり、それに伴って量も少なくなっている。

 

「キッズサイズ、、では流石にないか。それでもそこそこ残してるわね…もしかして風邪でも引いた?」

 

「いえ、今日はたまたま食欲がなかっただけです。風邪なんて引いてませんから、安心してください」

 

「そう?それならいいんだけど…何かあったらちゃんと言いなさいよ?」

 

「我慢は良くないですからね?」

 

「はい。ありがとうございます…」

 

 

 

『風邪』…か

 

心配をかけてしまったことの申し訳なさで苦笑いをしつつ、ぺこりと頭を下げてありがたい注意を受け入れる

 

 

 

 

「・・・・・」

 

 

「・・・・・」

 

 

 

 

―その際、友奈と美森ちゃんの視線がどこかいつもと違う気がしたが…気のせいだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の勇者部も楽しかったねー!」

 

「えぇ、そうね。文化祭の話し合いも少しだけだったけどできたし、とても有意義だったわ」

 

「まだ時間はあるんだし、そこはじっくりと話し合っていけばいいんじゃないかな?急がば回れとも言うしさ」

 

あの後いくつか文化祭について話し合った後、かめやで犬吠埼姉妹と僕たち三人とで、それぞれ解散となった

ただいま現在帰宅中で、友奈&美森ちゃんと車内で雑談タイムだ。内容はもちろん、勇者部のこと。

 

「そうね…結果を急いで求めてしまっては、得られる物も得られなくなってしまう。翔太君の言うとおりだわ」

 

「じっくりと、深く話し合うのが一番だよ。文化祭は記憶に残るような良い思い出にしたいし!」

 

「おっ、いいこというね友奈~」

 

「えへへ~。それほどでもー」

 

はにかみながらもそう謙遜する友奈の姿が面白く、美森ちゃんと二人でクスクスと笑い合うと、釣られて本人の友奈も笑い出す。

笑う門に福来ると言うが、もしそれが本当ならさぞかしたくさんの福が訪れることだろう

 

 

「明日の勇者部も楽しみだなー」

 

「気が早すぎないかしら友奈ちゃん…今日は宿題も出てるわよ?まさかもう忘れたりしてないわよね?」

 

「えっと、、英語だったっけ?」

 

「理科と社会だよ友奈。授業終わりにプリント配られたでしょ?」

 

「・・友奈ちゃん…」

 

「…すみません」

 

 

いや、もう訪れてるのかもしれない

 

呆れたようにため息をついている美森ちゃんだが、その視線は仕方ない子供を見るような物で暖かみがある。…まぁ、今は割合で言うと呆れが4、暖かみが2ぐらいだろうが。

何も知らない第三者から見るとただの雑談に見えるようなことでも、確かにそこには幸せがある。

 

仲の良い友達と仲良く話せる…それが幸せなことだとわからないほど、僕は平和ボケしていないから

 

 

「メモ紙でもあげようか?メモしてポケットにでも入れたら忘れな―ん?」

 

 

幼馴染みが先生に怒られるところなど見たくないため、善意による提案をしようと鞄に手を入れて、気付く。

 

「?どうかしたの翔ちゃん?」

 

「いや、ちょっと携帯が震えてることに気付いただけだよ。たぶんメッセージアプリの通知かな、男友達の」

 

彼らからメッセージが送られてくることなどしょっちゅうだ。きっとまた何か新アニメのレビューとか感想文を送り付けてきてるのだろう…文量がエグすぎて全部読んだことないけど。

 

「一応確認したらどう?何か大事な用があってという可能性もあるわ」

 

「うん、見てみるね…」

 

「翔ちゃん翔ちゃん。いつも男の子達と、どんな話をしてるのですかな?」

 

「んー…内緒。知らぬが仏です」

 

ひょっこりと、僕の肩に手を置いて僕の携帯をさりげなく覗き込む友奈に苦笑しながらそう返答を濁し、携帯をそっとずらす。

僕の拒絶行為に少しぶーたれる友奈の対応を美森ちゃんに任せて、いつも通りに六桁のパスワードを入力する。

画面を一瞬闇が覆ったのち、いつもの慣れ親しんだホーム画面が広がる。壁紙は変えていない。初期の無機質な背景を背に、メッセージアプリを開く。

 

 

「…?あれ?いつもの二人からかと思ったけど、、来てない?」

 

目を凝らして見ても、未読メッセージがあることを知らせるフキダシは一つも表示されていない。彼らとのライングループを見ても、そこには自分が最後に打ったおやすみメールがただポツリとあるだけ。

 

おかしい。さっき確かに携帯が揺れた感触を感じとったはず…。

不思議に思ったため、メールアプリを下へ下へとスクロールしていく。

 

 

「・・!……これって…」

 

 

…あった。

登録だけした会話もしたことのない友達のトークアイコンの下に、疑問の正体であるメッセージは確かにあった。

 

「…どうしたの翔ちゃん?」

 

「…翔太君?」

 

「・・・っ!い…いや?何でもないよ?いつものしょうもないメールが送られてきてだけだった」

 

 

二人の問いかけに冷や汗が背を伝う

…あぁ、ひどい気分だ。今すぐ家に帰って、お風呂で体を流したい。できるものなら文字通り、見も心も全て。

 

 

「にしては顔色が優れないようだけど…本当に大丈夫?」

 

「我慢は駄目だよ?」

 

「…うん。大丈夫、ありがとう…そろそろ着くみたいだよ」

 

「あ、本当だー。できるなら、もうちょっと話していたかったな~」

 

「我が儘言わないの、友奈ちゃん」

 

 

車が停止したのと同時にドアを開く。いつもならしばしの別れを惜しむところだが、今は早く一人になりたかった。一分一秒が、今は惜しい。

 

 

「またね、二人とも」

 

「え、えぇ。またね翔太君」

 

「…またねー!翔ちゃんー!」

 

 

困惑しつつも挨拶を返してくれる二人を尻目に、そそくさと自分の家に入る

玄関にある四つ葉のクローバーをそっと一撫でし、鞄から携帯を取り出して無造作に放り出す。

 

 

 

何度見ても、何度目を擦って見ても、メールの内容は一ミリたりとも変わらずにそのままだった

 

 

 

 

 

―あぁ…本当に、、

 

 

 

 

 

 

 

 

[翔太。あたし達……アタリだった]

 

 

 

 

 

 

 

 

―ついてない

 

 

 

 

 

 





いかがでしたでしょうか?

更新についてですが、まことに申し訳ございませんm(__)m
諸事情等が重なり、これからも不定期になるかも知れません。コロナ間の付けが今更回ってきたのかはわかりませんが…前の話等の小さな修正ぐらいしかできていませんでした。

久しぶりに書いたので少し文に不安が残りますが、少しでも皆様のお暇つぶしになれたら幸いです。



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