俺の幼馴染は俺の存在をなかったことにする。 (胡椒こしょこしょ)
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俺の幼馴染はつれないけど、おっぱい大きいし、世界一可愛い。

なんとなく束や千冬の幼馴染モノを書きたくなったので書きました。



世紀の大天災、篠ノ之束によって開発された女しか扱えない兵器、インフィニットストラトス。

通称IS。

その兵器の出現によって世界の情勢は大きく変わり、世の中には女尊男卑の風潮が広がった。

 

しかしある日ISを唯一扱うことが出来る男性、織斑一夏の出現により全国一斉検査が行われた。

しかし織斑一夏自体がIS操縦者の中でも最強と呼び声の高い織斑千冬の弟ということもあり、一般の男どもの中でISを扱うことが出来る人間なんているわけないと女性権利主義者たちはその検査自体を鼻で笑うのだった。

 

・・・しかし、織斑一夏以外にもISを操縦する適正のある男性が一人出現した。

その名前は加坂部湊。

成人済みの男性である。

 

彼はIS学園に連れていかれることになり、他の学生とレベルを合わせ、なんの後ろ盾もない男性操縦者という複雑な立場の為、安全も考慮した上で監視のついたホテルの中でタウンページのような厚さの参考書で勉強をやらされていた。

 

仰々しい黒服の存在など自身の立場の複雑さ故にこれからの自分の行く末に不安を募らせるのが普通であるがその男はそんなことはなく、なんなら余裕そうな表情をしていた。

彼にはこの事態を引き起こした人間が誰か心当たりがあったのだ。

 

「・・・もう結構遅いなぁ・・・・寝るか。」

 

湊は参考書から視線を外して、寝ようとした。

 

その瞬間・・・・・・

窓が音を立てて割れた。

 

「きゃあああああ!!!なにっ!なんなのっ!!」

 

湊はまるでオカマのような驚き方で驚く。

 

そこにはヘルメットを被った人物が立っていた。

そしてその人物はゆっくりとヘルメットを外すと。そこから桃色の長い髪とどこに仕舞ってあるんだと聞きたくなるような機械的なうさ耳が出てくる。

 

「へぇ~、君がいっくんと同じ男性操縦者か・・・・ふ~ん、まぁいっくんの邪魔にならなければどうでもいいよ。あんまり私の視界に入ってこないでよね。目障りだから。」

 

湊と目が合うといきなりそのような罵倒を吐きかけてくる女性。

もはやだれが見ても誰か分かるだろう。

そのくらいの有名人である。

ISを開発した張本人、天災と呼び名の高い篠ノ之束。

いきなり窓を突き破ってそんな有名人が入ってくればどんな人でも驚くことは請け合いだ。

しかし湊は束を視認すると同時に笑顔を浮かべて立ち上がる。

 

「お、束!!久しぶりだな!やっぱりお前だったのか!!」

 

湊が束の手を取ると、一瞬束の動きがフリーズした後、その手をはたく。

 

「誰だい君は。私には君みたいな間抜け面は知り合いにはいない。」

 

そう断言するもどこか顔の青い束。

こんな表情の彼女は誰も見たことはないだろう。

そう束に突き放されるも、湊は挫けない。

まるでもう慣れっこと言ったかの様子だ。 

 

「何言ってんだお前、幼稚園の頃からの幼馴染だろ。なんなら前メールくれたじゃん。」

 

そう言うと束は目を細める。

 

「知らないって言っているだろ!!私が言っているのはいっくんが第一でお前なんておまけみたいなもんなんだから出しゃばるなよって言ってるの!!」

 

そう言うと湊も食いつく。

 

「やっぱりお前の仕業か!!前の日にお前の名前のメールで9日の一斉検査には必ず行けとか書いてたから行ったらISの適正あるって言われたし束なんかしたんだろ!?」

 

そう言うと束が鼻で笑う。

 

「はぁ?なんで私がわざわざそんなことしなくちゃいけないんだよ。そもそも君なんか知らないって何度も言ってるんだけど。」

 

そう言うと湊は束にべたべたとくっついていく。

 

「知らないとか悲しいこと言うなよぉ・・・。ずっと青春時代に仲良くしてきたじゃないかよぉ・・・・。」

 

「誰がお前なんかと仲良くしたか!!一方的にいつもお前が話しかけてきただけだろ!勝手に記憶を捏造するな!!・・・・あっ。」

 

束がまるでしまったと言わんばかりな表情に変わる。

そんな表情を見て、湊はニヤリと笑う。

 

「記憶を捏造するなっ・・・て、ようするに覚えているってことじゃないか。なんだよぉもぉ~照れ屋なんだからぁ~~。」

 

束の言葉尻を掴んだ湊はまるで飼い主を見つけた子犬のように嬉しそうに束に纏わりつく。

 

「ううぅ・・・がぁあああああ!!!本当にムカつく!だからお前なんかと話したくなかったんだよ!!纏わりついてくるな!!気持ち悪い!!昔から気に食わないんだよお前!!」

 

束はそれを癇癪を起したかのように湊を引き剥がそうとする。

もはや昔からと言っているところから分かるように、湊は束と幼馴染である。

いつも湊から束に話しかけていき、束が鬱陶しがるというある意味ルーティーン的やりとりを束がISを発表して行方を眩ませるまで続けてきた仲である。

 

「俺は束の事すきだぞ?おっぱい大きいし。」

 

「死ねよ!なんだその理由!!言うならもっとマシな理由を言えよ!!!」 

 

湊の言うことに発狂したかのように喚き散らす束。

その剣幕をニコニコと受け止める湊。

 

「・・・・なに笑ってんだよ。気持ち悪い。」

 

怪訝な顔で湊を見つめる束。

 

「いや、ただ束は本当に久しぶりだからさ。うれしくて。」

 

そう言うと束は目を逸らす。

 

「そんなことで喜べるなんてさぞかし生きていて楽しいことばかりだろうね。・・・なに私は君とまともに会話してやってるんだろ。あほらし。とりあえずこれ受け取れ。」

 

束に渡されたのはなにかの証明書と指輪だ。

すると湊は顔を紅くする。

 

「そ、そんな・・・結婚だなんて。やっぱり束も俺のこと好きだったのか。不束者ですがよろしくおねが・・・・・」

 

「なに勘違いしてんだ。それは社員証とお前のISだ。今日からその身分名乗れよ。あとそのISは余り物だから!余ったパーツで作っただけだから断じてお前の為だけに作ったわけじゃないからな!お前にはそんなもんで十分だ!だから調子に乗って箒ちゃんに手を出したり、いっくんより目立ったりすんなよ!!」

 

束はジト目で湊の言うことを否定しつつ、畳み掛けるように話を進める。

 

「お、おう。ありがとな。なんであれ束のプレゼントなんて嬉しいよ。」

 

湊は困惑しつつも礼を述べる。

すると束は呆れた顔をして

 

「・・・本当に気持ち悪い。帰るから。」

 

束はそう言って窓から飛び降りた。

そしてなにかのシャトルのようなものが打ち上がる。

多分束が乗っているのだろう。

幼馴染である湊にはそれが予測ではあるが分かっていた。

 

「そういえばなんで、どうやって俺を適合者に仕立て上げたのか聞いてなかったな。」

 

湊自身、自分が一夏のような凄い才能溢れる人間ではないと分かっているので少なくとも今回の適正も誰かの仕込みがあったからで、断じて自分の才能や実力などではないと分かる。

 

通常自分のような凡人男がISに乗ることを可能にすることなど出来ない。

ただ一人開発者である束を除けば。

知り合いであるからこそ考えが及んだ。

実際はどうかは知らないが開発者であればISの設定も弄ることが可能だと思う。

だからこそなぜ自分を適正者にしたのか、どうやって仕立て上げたのか知りたかったが、まぁ聞き損ねたことは仕方ない。

 

今もっと重要なことは手のなかにある束からのプレゼントだろう。

手元にある社員証を見る。

そこには株式会社アリス・イン・ワンダーランド所属になっている。

IS関連の会社だろうか?

 

「なんの後ろ盾もない俺の為に所属の斡旋でもしてくれたのかな?やっぱり優しいな束。」

 

そして指輪も着けてみる。

綺麗な装飾で透き通るかのような宝石。

・・・・これマジで結婚指輪みたいだな。

 

束に対する感謝を抱きつつ、別のことに思いを巡らせる。

これからIS学園に向かうことになる。

そうなればそこで教師をしているもう一人の幼馴染に会うことが出来るのだ。

 

となればあの形の良く、プリンッとしていて服越しからでも劣情を煽る彼女のお尻をまた拝むことが出来る。

しかも生徒として入ると言うことは要するに千冬との女教師プレイを3年間も行えるということに他ならないのでは?

 

いやーまだ素人のぺーぺーだからとかいう理由で一年からで良かったー、マジでよかったー!

これからの学校生活が楽しみだぜ!

 

そう思いつつ、壊れた窓と吹き込む風を無視しつつ、眠りについた。

 

 

 

 

「束様、なにやってるんですか?」

 

銀髪の少女に正座させられている束。

 

「い、いやクーちゃんに言ったことはちゃんとやったつもりだよ?」

 

束は悪戯がバレた子供のように目を泳がす。

しかしそんな束をジト目で見つめるクーちゃんなる少女

 

「いやそもそも気づかれたくないとか言った本人がなんで脱いだんですか?おかしいじゃないですか。もともとの束様の作戦がのっけからダメになってます。」

 

それを指摘されると束は汗を流しだす。

 

「そ、それはほら、ヘルメットしたままだと話しづらいし・・・アイツの顔よく見たいし・・・それに顔がバレても計画には支障はないはずだよっ!」

 

そんな束の弁明に溜息を吐くクーちゃん。

 

「作戦は顔のよく分からない相手から後ろ盾とISをもらって誰なんだ感謝を伝えたいとなったところでIS学園にて束様登場、からの一緒に高校生として学園生活を過ごし最終的には伝説の樹の下で告白してゴールインが目的でしょう?もう第一段階で頓挫してますよ。もう初めから束様のお陰と分かっていたら意外性もなにもあったものではないじゃないですか。それに顔を晒した後もあんなに罵倒してきたりなんかして・・・・あんなのじゃ到底好感を抱いてはもらえませんよ。」

 

クーちゃんの的確な指摘に段々と項垂れていく束。

そんな束を見て溜息をまた吐いた。

 

「いい加減にしてください。もう既に手に入れてあった束様の制服も使い道がなくなったじゃないですか!あの人のこと好きなんでしょ!?もっと素直にならないと!」

 

「ち、ちがうよ?す、好きじゃないもんあんな奴。話しているとムカムカするし、その癖たまに私をフワフワさせてくるし、よく話しかけてくるし、簡単に好きとか言ってきて気持ち悪いし、とにかくあんな奴だいっきらい!!」

 

吐き捨てるかのように叫ぶ束。

 

「だったらどこの監視カメラにアクセスしたのか分からないあの人の映像を眺めるのを止めてください!見るに堪えません!好きじゃないならなんであんなことするんですか!?」

 

「そ、それは・・・・気に食わないからいつでも殺せるように見ているだけだよっ!!」 

 

「そんなわけないでしょ!!??」

 

そして続いてく言い合いの応酬。

もはや段々と売り言葉に買い言葉のような言動へとお互いシフトしていき、そして最終的には・・・・

 

「もういいっ!クーちゃんなんか知らない!!」

 

まるで癇癪を起こした思春期の子供のように自室の鍵を閉めて、部屋に籠もる。

 

「束様!?ちょっと部屋から出てきてくださいよ!束様ぁ!!」

 

クーちゃんことクロエ・クロニクルは大人気なくも自室に籠もった束の名前を呼び、ずっと扉を叩き続ける。

 

 

ベッドで横になり、枕を抱くと顔を埋めて呟く。

 

「お前なんか・・・お前なんか大嫌いだ。ばーか・・・・・」

 

呟きは空気に消えて無くなり、いつの間にかクロエの束を呼ぶ声とドアを叩く音は止んだ。

中々素直になれない束にほとほと呆れ果てたのだろう。

 

篠ノ之束は加坂部湊が好きである。

 

しかし血は争えないのか妹のように素直になれないのだ。

よって彼女は今日も思いを抱いて眠りにつく。




加坂部湊:ウザポジティブ男、暑苦しい。
幼馴染が好き。
好みのタイプは束の乳と千冬の尻超融合した優しい女性。
そんな完璧超人は存在しないので是非とも理想に溺れて溺死してほしい。

篠ノ之束:腹黒ウサギ、エボルラビット、かわいい、おっぱいおおきい、逆バニーしてほしい。
なんていうか幼馴染に恋してる設定にしたら結構ヤバい要素が薄れて見える不思議。
でもこれ正直他人に対するスタンスは変わってない可能性が、濃いすか?
湊は昔から話しかけてくれるし、好きって言ってくるし、自分を化け物的な感じで恐れないし、自分のISに託した宇宙への思いも分からないなりにも理解を示してくれるから的な感じ。

まぁ正直、対魔忍書かないといけないんで続きは多分きっとおそらく書きません。


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俺の幼馴染は、怖いけど、お尻がエッチで、世界一綺麗。

なんとなく千冬姉くらいは出した方が良いと思って、続きを書きました。
対魔忍も最新話を投稿したので、気分転換です。
それにしてもこの小説自体、ボーッとしている時に思いついたものなのでどんなタグをつけるべきか・・んにゃぴ・・・よくわかんないですね。
取り敢えず今回から本編に入りました。
まぁ続き書くかは気分次第なんですけど。


ホテルからIS学園へと移された湊。

学園生活初日ということもあり、1-1にて湊は数多いる女子の中で、朝礼的なのが始まるのを待っていた。

 

周りは女子だらけであり、この子達全員がISの腕を磨くためにここにいると思うと、1クラスだとはいえ壮観である。

 

そしてそんな女の花園に紛れる異物が二人。

一番最初に現れた男性操縦者である織斑一夏。

そしてその後現れた男、加坂部湊である。

 

周りの女子は二人についてザワザワと何かを囁き合っている。

まるで一挙手一投足を見つめられるかのような彼女たちの視線に一夏は息苦しさを覚える。

 

しかし、一夏の真後ろの男、湊はまったくと言っていいほど動じていなかった。

むしろ目が輝いていると言ってもいいだろう。

それも当然、彼にとってはこんな時間などある女性をお目にかかる為の前座でしかないのだから。 

 

「ねぇ、湊兄。なんで俺たちこんな注目されてんの?」

 

一夏がこちらを振り向いて聞いてくる。

 

「結構珍しい男性操縦者だからだろ?ほらよくあるじゃん。集団で一人だけ浮いてるやつをガン見する感じ。そういうことだろ?」

 

湊がそう言うと一夏がうなだれる。

 

「マジかぁ・・・・俺もうやっていける気がしねぇよ・・・・・」

 

そんなうなだれる弟分を見て笑う。

 

「大丈夫だって!お前千冬の弟だろ?弟のお前がシャンとしないと、アイツが恥かくぞ。」

 

そう言うとゆっくりと一夏が顔を上げる。

 

「それは・・・・嫌だ。」

 

「だろぉ?それにお前は明るいし大丈夫だよ!」

 

そう言って肩を叩くと一夏は笑う。

 

「ありがとう湊兄、ちょっと元気出た。」

 

「おう。」

 

湊は一夏にとっては兄のような存在だ。

物心つく前から度々世話をしに来てくれて、いつも遊んでくれていた。

 

しかし一夏が項垂れていた理由は馴染めないからだけではなく、昔からの付き合いである分、この後の展開が分かるのだ。

言っちゃぁなんだが、自分の姉と湊兄はあまり積極的に会わせたくないのだ。

それは長い間、一緒にいて自分の姉と湊兄の性格などを理解した上で思っていた。

 

(え、なんで二人でイチャコラしてるんだろ・・・)

(薔薇の匂いキタァーーー!!!)

(ほう、BLですか。大したものですね。)

 

周りの女性とからは頼りになる年上に笑顔を浮かべる高校男子という構図になり、腐ったお姉さまがたの格好の妄想材料になっていることなど知る由もない。

 

(・・・なんか教室が湿っぽいな。)

 

湊がなんとなく湿っぽい視線を感じるだけだった。

 

すると始業のベルが鳴って、みんな前を向く。

すると前方の教室の戸が開き、女性が一人入ってきた。

緑の髪にメガネ越しから見える優しそうな目つきの目。

全体的にほにゃほにゃとした雰囲気を感じる。

 

しかしそれでもなお一番目を引くのは。

 

(すげぇ・・・・でけえ。)

 

一夏は心の中でそう呟くと、後ろからボソリと呟く。

 

何食ったらあんなバカ乳になれるんだ・・・でっかいんだ、ボヨヨ〜ンだ!

 

湊だ。

一夏にしか聞こえないぐらいのか細い声でそう呟くと、一夏は俄に肩を震わせる。

 

(クッ・・・・ダメだ、笑うな・・・湊兄の策略だ・・・・・)

 

こんなところでいきなり笑いだせば変な奴と見られることは間違いない。

ここで死ぬわけにはいかない・・・・。

ていうかさっきお前ならしっかりやっていける的なこと言っていた人がさっそく足引っ張ってくるのは何故だろう?

 

「全員揃ってますねー。それじゃあ朝のホームルームをはじめますよー。」

 

自身の名前を目の前の生徒に言った後に、ホームルームの開始を宣言する副担任の山田先生。

動き一つ一つに乳まで付いてくる服の上からでもわかるような爆乳の持ち主だ。

 

「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね。」

 

「「「………………」」」

 

「よろしくおねがいしま・・・・えっ?」

 

山田先生の挨拶に挨拶を返そうとするも、周りの静まり具合に戸惑いを隠せない湊。

そんな湊の様子が愉快で堪らず、吹き出してしまう。

 

「お前・・・・今、俺を笑ったか?」

 

湊はすごい勢いで肩を揺らして、笑いを噛み殺そうとする一夏をジト目で見る。

 

「はい!湊君よろしくお願いしますね!!」

 

山田先生は返事をしてもらったことが嬉しいのか、唯一反応した湊に可愛らしく笑顔を見せる。

しかし湊は年下であるはずの山田先生に教え子として接してもらうことにちょっとゾクゾクしていた。

 

(・・・・年下の子に湊君って呼ばれるの、結構悪くないかも・・・・・)

 

さっきまでの戸惑いはどこへやら、モジモジとしている。

 

 

「じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順にいきましょう」

 

出席番号の順番。

学期初めだからか、席順も出席番号の順番になっている。

前の一夏はお、そして俺はかなので俺は一夏の真後ろの席に座ることになったのだ。

 

あまり周りの視線は気にしていないが、やはり顔見知りの一夏と近いのは運が良かったと言えるだろう。

しかし自己紹介なんて何を言えばいいのか。

正直言いたいことなんて一つしかない。

 

すると一夏の番になる。

 

「・・・え、えっーと・・・・・」

 

一夏はなにを言っていいのか困っている。

周りの空気も、女子達が一夏に視線を向けて、この男は何を言うのかと見定めているかのような雰囲気である。

 

(そんないきなり自己紹介しろだなんて言われても、すぐには思いつかねぇよ!・・・・ん、後ろで湊兄が何か言っている・・・!?まさか俺の為に!?)

 

後ろでボソボソと言っている湊の言動に耳を向ける。

湊は目が合うと、頷き口を開く。

 

俺は170*60*43 ケツマン不可・坊主・超敏感乳首野郎だ。多少毛深の年下ガチムチ野郎に鍵を外した俺のアパートに勝手に上がり込まれ・・・・

 

(ダメだ!こういう時湊兄はふざけるから当てにならない!・・・ええい、ままよ!!)

 

後ろで突然六尺コピペの自己紹介を読みだした湊を脳内の選択肢から排除するとそろそろ自己紹介せねばやばい雰囲気になってくる。

 

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

そう言って頭を下げる。

しかし女子たちは次に何を話すのか、もっと色々聞かせろと言わんばかりに視線を集中させる。

 

(ふぇぇ・・・も、もう何も浮かばねぇよお・・・・・)

 

一夏は更に求められていることに内心、頭を抱える。

そして・・・・・

 

「・・・・以上です!!」

 

クラスの女子のほぼ全員がずっこけたかのような動きをする。

このクラスの人はノリがいいねぇ!

割とそういうのお兄さん嫌いじゃないと内心思う湊。

 

そして・・・・・

 

「碌に挨拶も出来んのか馬鹿者。」

 

「イデッ……!?」

 

後頭部を叩かれ、頭を抑えて唸る一夏。

後ろに天使か女神が立ってるぞと言おうと思ったが、ジロッと睨まれたので止めた。

 

「あっ、織斑先生、もう会議終わられたのですか?」

 

「ああ、山田先生。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 

山田先生と入れ替わるように教壇に立つ。

ていうかもう立ち振る舞いからして王子様みたいにカッコイイよね。

その癖、お尻はエッチなんだから俺、どうにかなっちゃいそう。

 

湊は千冬に熱視線を送る。

一瞬目が合うが呆れた顔をして目を逸らす。

 

「諸君、私がこのクラスの担任である織斑千冬だ。1年という短い期間だが、君たちにはしっかり励んでもらうつもりだ。よろしく頼む」

 

なんともまぁ男前な挨拶である。

すると周囲の女子たちのボルテージが数段階上がるのを肌で感じる。

 

(・・・・乗るしかない、このビッグウェーブに!!)

 

湊も身構える。

ここで他の有象無象に負けてはダメだ。

幼馴染として一番自分が千冬のことが好きであると証明しなければ。

そんな訳のわからない行動理念から声を張り上げた。

 

「きゃああああ!!!千冬様ぁぁぁあ!!!」

「私、千冬様に会うためだけに北海道から来ましたぁぁぁぁああああ!!!」

「しゅごい!!カッコイイ!!イックゥぅぅうううう!!!!」

「俺だ!千冬!!幼馴染からワンランクアップで結婚し、ガペッ!!」

 

湊が立ち上がり、大きな声で結婚と言い出した瞬間、千冬は目にも止まらぬ速さで出席簿を投げつけて、湊の眉間を捉える。

湊は糸が切れた人形のようにがくんと項垂れて力なく椅子に座り込む。

 

「そ、そんな・・・湊兄!湊兄ぃぃぃいいいい!!!」

 

一夏はもはや身じろぎ一つしない湊を見て、肩を揺さぶりながら名前を呼び続ける。

急に人死に?が出たことであれだけ千冬が来て湧いていたクラスがシーンと凪いだ湖畔のように静寂に包まれる。

 

 

「あ、あのー・・・織斑先生、次・・・湊君の番なんですけど・・・・・」

 

山田先生が千冬の顔色を伺いながらそう言うと、千冬は表情を変えずに答える。

 

「そうですか。なら私が代わりにやっておきます。

こいつの名前は加坂部湊。

さっきこいつ自身が言っていた通り、私の幼馴染だ。

話しやすい奴ではあるから話しかけてやったらコイツも喜ぶだろう。

よろしく頼む。」

 

千冬は湊の席まで行くと、湊の髪を持って、持ち上げてペコリとお辞儀させる。

白目剥いて気絶した状態でお辞儀させられているので、ホラー感は一際高い。

クラスメイトの何人かは息を詰まらせていた。

 

そんな姉の所業をまるで昔から見ていたかのようにあちゃ〜と言わんばかりの表情で見ていた。

 

 

「篠ノ之箒、以上です。」

 

箒も挨拶を無難に終わらせる。

そして一夏に視線を向ける。

一夏は目が合うと箒が幼馴染の箒であると理解したのか手を小さく振ってくる。

どこか照れくさくなって窓に目を向けた後に、自分の姉に思いを馳せる。

 

彼女が原因で一家は離れ離れになり、一夏とも離れることになったが、それでも完全に嫌いというわけでもない。

人間離れしたあの人にも人らしい面はある。

それは今まさに気絶している湊に関連している。

 

(姉さん・・・湊さんがIS学園なんか入ってしまったら千冬さんに取られるかもしれないのに・・・・なぜなにもしない?何を考えているんだ。)

 

箒自身も姉の思いに気づいていたのだ。

しかしそれは千冬も同じ。

ここで教師という立場を利用して一気に距離を詰めるだろう。

その証拠に大勢のクラスメイトの前で自分の幼馴染と堂々と認めている。

 

これは牽制だ。

 

小娘共・・・・こいつは私の獲物だから手を出すなという意志の現れ!

 

このままでは姉さんが負けるのは目に見えている。

・・・・だが姉さんのことだ。

なにか手を打っているに違いない。

 

(まぁ・・・私は一夏と同じクラスになれたし、そこら辺はどうでもいいか。)

 

姉の恋路について考えていたが、考えるのをやめる。

姉には姉の、私には私の恋路がある。

絶対に一夏と・・・・・・

箒はまた湊の方へ心配そうな目線を向けている一夏に視線を向ける。

それは野獣の眼光と言ってもいいほどの鋭く、獲物を狙う獣の目だった。

 

このように、自己紹介という今後の学園生活においてのスタートダッシュとも言えるイベントは一人の犠牲者を出して、つつがなく終わったのだった。

 

 

《前日》

 

「先輩!コーヒー、飲みますか?」

 

 

「あ、ああ。もらおうか。」

 

書類仕事も終わり、一息ついていると真耶がコーヒーを手渡してくる。

飲んでいると真耶が話を切り出す。

 

「それにしても今年の1-1のクラスは大変でしょうね。男子が二人も来ますから、色めき立つ子もいるでしょう。」

 

「・・・ここは女子校だったからな。ですがそれと同時にISの操縦技術を上げることが第一の学園ですからね。浮足立つ生徒を諌めるのも私達の仕事だろう。」

 

「ふふっ、私には先輩が浮足立っているようにも見えますけどね。」

 

真耶が笑うのを不思議そうな顔で見る千冬。

 

「私が?なぜだ?」

 

すると悪戯っ子のような笑顔で真耶は続ける。

 

「弟さんも来ますし、・・・好きな人、も来るんですよね?」

 

「ブフゥォハァ!!!」

 

千冬はまるで先を絞ったホースのように勢いよくコーヒーを机にぶちまける。

書類を片付けた後で本当に良かった。

 

「せ、先輩!?大丈夫ですか!?」

 

真耶は驚きながらも給湯室から布巾を持ってきて机を拭く。

 

「・・・べ、別にアイツは好きな人などではない。」

 

息も絶え絶えになりながら否定する千冬。

しかし真耶は机を拭きながら、目を丸くする。

 

「え?でもお酒を飲んで酔っ払ったときとかずっとその人の話してたじゃないですか。」

 

「・・・・・」

 

千冬はその時の自分を殴りたくなってくる。

なぜ酒を飲んだとはいえ不用意にそんなことを漏らしたのか。

 

「ふふ、良かったですね先輩。同じ学校でしかも教師なら禁断の

恋みたいな感じで燃え上がること間違いないですよ!!」

 

目を輝かしながらそう言ってくる真耶。

 

「そうか、山田先生はまだ元気そうだな。ならこれをやっておいてくれ。」

 

「え。せ、先輩、これって今からやる量じゃ・・・・」

 

「なにか言ったかな?」

 

「い、いえ・・・」

 

真耶はとぼとぼと自分の席に戻り、悲鳴を上げながら書類に手を付けていく。

別にアイツについて踏み込んだ質問や話をしたから黙らせたわけではない、ただまだ山田先生は仕事できるなと思っただけだ。

 

うん、断じて私情じゃない。

 

それにしても一夏が来るのであれば姉としてカッコ悪い所は見せられない。

これまで以上に気を引き締めないとな。

 

それと同時にアイツも来るのだ。

それ自体は確かにうれしい。

ただアイツはなんというかかなり常識外れな面もある。

それに私にも簡単に好きと言ってくる。

・・・束にも言ってるが。

 

私はアイツを前にして平静を保てるだろうか。

かなりの期間会っていなかったのだ。

やっと会えたにも関わらず、教師として毅然としていないといけないのは結構キツイ。

 

それに・・・気になることもある。

アイツがISの適正があったのは初耳だ。

つまりはあのウサギが関わっている可能性が高い。

では奴はなにを考えてアイツをISに関わらせた。

もしよからぬ事を考えているのであれば・・・・

 

「私が守らなくてはな。一夏とアイツ、二人を。」

 

予期せずにISという世界の思惑の渦中に放り込まれた二人。

例えなにがあろうと自分が守って見せる。

その相手が自身の幼馴染の一人である束が相手だとしても・・・・。

 

それに・・・・束には別の意味で負けたくない。

自分の勘が間違いでなければ、きっと彼女も・・・・・・

 

うわあああああ!!書類が!書類が迫ってきますぅぅう!!!

 

千冬の八つ当たりによって大量の書類と格闘していた真耶が目を回しながら悲痛な叫びをあげる。

 

「やれやれ・・・・手伝ってやるか。」

 

苦しめた張本人こと千冬はそんな真耶を見かねて書類仕事を手伝おうと真耶の方へと歩いていく。

今までの思考は全てどこかへやって、書類に目を向け始めた。




加坂部湊:一夏や箒の兄みたいな立ち位置の人。まぁ束や千冬の幼馴染なんで多少はね?
千冬に結婚を冗談で持ちかけようとして気絶した。ざまぁ。
好きな人には簡単に好きという。もしやこの男は雛菜と同類だった?
男がやは~とか言い出したら地獄なんですがそれは・・・・

織斑一夏:原作主人公、つおい。かっこいい。シスコン
湊は慕ってはいるが、ふざけたりするのでまぁ親しみやすいお兄ちゃん的距離感。
鈍感なのは変わらず。

織斑千冬:かわいい。さいきょう。ブラコン。
原作と違い、一夏に加えて守るべき人が増えた苦労人。
昔から束と湊に苦労させられてきた。
束には負けられない系ヒロイン。

篠ノ之箒:おっぱい モッピー 剣道 
原作とぶっちゃけ変わんない。
すこし違うのは束と違って自分は素直になることで一夏をモノにしようとしているくらい。
しかしそんな簡単に素直になれたら苦労しない。


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俺の幼馴染は、世界一綺麗だが、話を聞かない。

千冬を出しただけでは不十分かと思って束や千冬を掘り下げる形になりました。
また一夏や箒の描写もあります。
未だにどんなタグを付けるべきかわかりません。
どうすべきか・・・んにゃぴ、よくわかんないですね。


また対魔忍を更新したら続きを書くと思います。


「・・・・終わってた。」

 

千冬に気絶させられて起きると既にHRは終わっていた。

湊は起き上がる。

 

「お、起きたのか!湊兄!よかった・・・死んだかと思った・・・・。」

 

一夏は起き上がった湊を見て、本当に安堵した顔をする。

その顔を見て、周りの生徒は千冬お姉さまはこの弟にどう思われているか首を傾げるのだった。

 

「あ、ああ・・・・おはよう一夏。聞いてくれよさっきお爺ちゃんが来てさ・・・・夢に向かって跳べ、湊って。」 

 

「湊兄のお爺ちゃんは既に死んでるだろ!しっかりしてくれ!!」

 

虚ろな目で自身の死んだ祖父の話をし始める湊の肩を揺らす一夏。

 

そんな中、湊が教室の外にこれまた虚ろな目を向ける。

 

「おお・・・・これすげぇな。全部お迎えか?」

 

一夏はこれまた肩を揺する力を強めて声を掛ける。

 

「しっかりしてくれ!他のクラスか学年から来た人達だよ!!」

 

1-1は異例の男子生徒が二人いることもあってか、他のクラス、学年から女子生徒が噂の男子生徒を見ようと集まってきて、廊下の人口密度が半端ないことになっている。

 

そして教室の外に居るうら若き少女達は噂の男子候補生がこれまた年上の男子候補生の方を強く掴んで見つめ合っている状況に色めき立つ。

 

(ファッ!?なんだこのBL的展開たまげたなぁ・・・・)

(ここにキマシタワーできるんすか?建設予定地なんすか?やったぁぁぁぁ!!)

(生んでくれてありがとうお母さん!今度から母の日に道端のタンポポでも摘んで来てあげるからねっ!!)

 

噂の男子操縦者が戯れる様は、学校中のお姉様方にこれからの学校生活における生きがいの出現を予感させたのだった。

 

そして・・・・・

 

(一夏にいつ話しかければ良いんだ・・・・今は湊さんと話しているし、邪魔しちゃ悪いだろう・・・いや湊さんも幼馴染というか昔馴染みではあるのだから別に話しても問題ないのか?でも・・・・)

 

箒は教室の外の生徒たちと同じく一夏と湊を眺めて、いつ一夏に話しかけるか機会を窺っていた。

 

 

1時限目は今後の一年の流れや学園の規則などこの先IS学園で過ごしていくのに必要なことを教えられる。

2時限目からは普通に授業が始まるそうだ。

通常の高校のカリキュラムにISについても入ってるからか進度が早くなるのは致し方ない。

 

どちらにせよ教鞭を振るう千冬が眺められるのだから好都合だ。

 

湊はそう思いながらも授業中もずっと千冬を目で追っていた。

千冬は目が合うとどこか迷惑そうにしながらも、呆れた顔で目を逸らして湊を咎めることはなかった。

 

「・・・久しぶりだな。一夏。・・・湊さんも、どうも。」

 

一時限目の後の休憩時間。

箒が一夏に話しかけてくる。

 

「ああ、久しぶり、箒!俺と箒が会うのは六年ぶりかぁ・・・、元気にしてたか?」

 

「ま、まぁ・・・・ぼちぼちだな。その・・・・・・。」

箒はもじもじとしている。

 

その様子を見て湊ははっとした。

 

(なるほど、箒。俺が邪魔だということだな。それもそうだ。箒はずっと一夏の事が好きだったからな。気の利かないお兄さんでごめんな・・・・・それにしても六年前から変わらず好きっぽいのってちょっと一途のレベル超えてないか・・・?)

 

湊は若干箒の一途さに疑問や心配など複雑な感情を抱くも、箒の意図を理解する。

正直、幼稚園から束や千冬に付きまとっている湊は箒のことを言えないし、なんなら箒よりも年月が長い分、異常であると言える。

 

「・・・お腹痛くなってきたわ。ちょっとトイレに行く。」

 

「大丈夫か、湊兄?」

 

急に腹を抑えて、立ち上がった湊を心配そうに見つめる一夏。

そんな一夏に笑いかける湊。

 

「気にすんな俺の問題だ。とにかくお前は箒ちゃんと話してろ。いいな?」

 

「い、いや・・・言われなくてもそうするけど・・・・・・」

 

一夏がなぜそこで箒の名前を態々出すのだろうと不思議に思っているのを尻目に、湊は教室の外に走り出した。

 

(頑張れ箒ちゃん・・・・・俺は応援しとるぞ。・・・・・・・鈴ちゃんも応援してるけど。)

 

走りながら箒と、彼女と入れ替わりで一夏の学校に来た二番目に一夏と付き合いの長い女の子を思い浮かべる。

 

いやー一夏はモテモテで羨ましいなぁと思いながらも、教室に出て、行く手を遮る女子生徒たちに君たちトイレにいっても良いですか!と大声で叫び、モーゼの如く開けられた道を全速力で走っていく。

 

そんな湊を見ながら、箒は湊に感謝の念を心中で伝える。

 

(湊さん・・・私の為に。・・・・・・・・・・ありがとうございます。)

 

 

そうして一夏と箒はやれ新聞で箒が優勝したの見ただの色々を話す・・・が、肝心の一夏に対してアプローチをすることが出来ない。

 

(ま、まずい・・・・話が続かないぞ。このままでは急に姉さんから送られてきたツンデレは負けのヒロインの法則みたいな啓発本の通りになってしまうぞ・・・・・・。)

 

箒は思うように距離が縮まらないことに焦る。

しかしぶっちゃけ六年間も離れていたら、話すことなどあまりないもの。

距離が縮まらないのも普通である。

なんなら剣道の大会優勝などの話題で話は持っている方だろう。

 

しかし箒にとってみれば最愛の男性との6年越しの再会。

なんというかもっとこう、ロマンチックになるかもしれないと淡く期待していただけあってこの状況に対して過剰に反応してしまう。

 

(こ、このままでは・・・・そうだ!幸い休みはすぐ来る。その日にショッピングに付き合ってくれないかと誘えば更に距離も縮まるはず!)

 

「そ、その一夏?」

 

「ん?なんだよ箒?」

 

一夏は急に顔を赤くしてモジモジしだす箒を見て首を傾げる。

 

「そ、そのだな・・・つ、次の休みの日・・・」

 

(誘えっ!誘えっ!!後は言うだけだぞ何を戸惑う必要がある!!ここで誘わなくていつ誘うと言うんだ!!)

 

箒は心中で自分に発破をかける。

 

「そ、そのっ・・・あのだな・・・・・」

 

「?おう。」

 

箒はモジモジとするどころか、顔を伏せてしまう。

 

(言うんだ!!口にしない言葉はないのと同じ!このまま言えなければいずれ姉さんのようになってしまうぞ!!)

 

未だに自身の思い人にツンケンしている姉さんを頭に思い浮かべる。

あんな風にはならないと一夏がこの学園に来ることを知ってから思い、必死に恋愛本を読み漁った日々。

 

今こそその日々を実らせる!!

 

一夏は優しいしカッコいい。

このまま年月が経てば、必ず一夏の良さに気づく女も居るはず。

 

だからこそ幼馴染のアドバンテージを活かしつつ、この初めの時期に周りと差を付けるんだ!!

 

「次の休みにっ!私のっ!・・か、かいも『キーンコーンカーンコーン』あっ・・・・」

 

「お、もう授業始まるな。千冬姉厳しいだろうし、一応念の為に席についておこうぜ!その話は授業が終わった後でいいか?」

 

「・・・・もういい。(わ、私は今この時に覚悟を決めて言おうとしてたんだぞっ!?このタイミングを逃してもう一度言えるわけないだろっ一夏のバカ!!)」

 

箒はどこか不機嫌になりながらも自分の席に戻る。

 

「・・・?どうしたんだ箒の奴。」

 

「いやーわりぃわりぃ。結構デカいブツがゲートオブバビロン(隠喩)しちゃってさぁ~」

 

へらへらと笑いながら席に戻る湊。

箒のアプローチが成功している物と思い込んでいるのでお気楽な物である。

 

「お、おう・・・なんか湊兄はテンション高いなぁ。」

 

何も事情を知らない一夏はそんな湊を見て、ただ茫然とそう呟くだけであった。

 

 

「―――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり・・・・」

 

ほんわかとした見た目に反して、教師らしくすらすらと教科書を読んでいく山田先生。

 

ISの話は束に作る前からちょいちょい聞いていたがやはり難しい。

正直、自分はあまり頭がよくないので分からない。

昔、束にもわからないなら分かった振りすんな、私は君に理解を求めているわけじゃないって一度怒られたっけ?

 

あの時のジト目は格別だった。

正直あのままパンツの匂いを嗅がせてもらうことが出来れば最高だっただろう。

まぁ不可能なんだが。

 

まあでも山田先生が言っているのはまぁ世界的なISの原則だろう。

監視員付きで予習用のテキストを無理やり解かされたのもあって理解はできた。

 

「織斑君、加坂部君、どこか分からないところはありますか?」

 

山田先生が教科書を読み終えると、俺たちに笑顔で聞いてくる。

なるほど、男性操縦者である分、俺たちが遅れないように配慮し

てくれているのか。

 

山田先生は良い教師だなぁ。

 

「先生!」

 

一夏が手を上げる。

まぁ予習テキストをやっていたとは言え、分からないところくらいは出てくる。

聞くことは恥ずかしいことじゃ決してない。

 

「はい!織斑君どうぞ!」

 

山田先生が笑顔で一夏を当てる

すると一夏が息を吸って、覚悟を決めて目をする。

 

「先生・・・・全部わかりません!!」

 

「えっ・・・・」

 

一夏の発言に山田先生が固まる、・・いや山田先生だけでなく、クラスメイト、そして果ては俺まで固まった。

なんで予習テキスト読んだのに全部分かんないの?

流石に全部分かんないことはないよ。

なにか一つくらいわかるだろ。

 

まさか・・・あれか!?ネタで言ってるのか!!??

そうだよね一夏!俺は嫌だぞ!片割れがガガイのガイは流石にこの先の学園生活思い悩まれるぞ!!

千冬は呆れた顔をすると、一夏の頭を出席簿で叩く。

殺気のトラウマか、出席簿を見ると身構えてしまう。

 

「いったぁ~痛ぇよ千冬姉!!」

 

「織斑先生だ。・・・・織斑、お前にも加坂部と同じようにテキストが配れていたはずだ。それはどうした。」

すると目の前で一夏が頭を抱える。

 

「テキスト・・・・?・・・・あっ!間違えて捨てちゃいました!!」

 

再度千冬に殴られる一夏。

いやーよかった。

予習テキスト見てて。

ていうかアレタウンページくらいの厚さあったよね?

間違えて捨てるなんてないと思うんだが・・・・・。

 

「まったく・・・お前には追加の教材を出す。明日までにやってこい。・・・・まさか、お前は分からないなんてことはないよな。」

 

千冬が一夏に対して嘆息すると、今度は矛先がこちらに向く。

だが、なにも心配はいらない。

俺は予習を終わらせているので分かっている。

湊は胸を張って答える。

 

「もちろん予習は終わらせているんでわか「なるほど、分からないか。」ファッ!?」

 

分かると言おうとしたのにも関わらず千冬は話を聞かずに分からないと言い切る。

 

「い、いや予習してるって言ってるじゃないか、ちゃんと分かって「そうだな分からないな。」は?だから分かるって言ってんじゃん。」

 

言葉を被せられて若干不機嫌になる湊。

 

「強がるな。分からないことは恥ずかしいことじゃない。織斑先生にマンツーマンで教えてほしいって顔しているぞ。」

 

千冬はそう言いながら肩に手を置く。

 

「あのさ、分かるって言ってるのになんで分からないって「可哀相に・・・分からないところがわからないのか。一夏よりも深刻だな。」そうじゃなくて!!」

 

可哀相なものを見る目で見てくる千冬に声を張り上げると、急に肩を万力のような強い力で握られる。

 

「・・・これで最後だ。分からない・・・・よな?」

 

目の据わった千冬。

 

言外に同意しないとどうなるか分かるな?とでも言いたげな顔。

そんな顔で見られるので、湊は縮み上がり、

 

「は、はい・・・わかりま、せん。」

 

ゆっくりたどたどしく同意した。

 

「ふっ、ふふ・・・しょうがないやつだな。貴様のわからないところを分かるのは私だけのようだし、放課後に私が教えてやろう。本当にしょうがない奴だ。」

 

ご満悦そうな顔でそう言うと湊の肩をポンポンと軽く叩き、持ち場に戻る。

周りの生徒は急に様子が豹変した千冬に対して恐れの念を籠めた視線を送り、湊をまるで肉食獣に捕らえられた哀れな草食獣を見るかのような目で見ていた。

 

そして教壇では真耶が先輩である千冬の奇行に顔を青くしている。

 

(な、ど、どうして・・・先輩、いきなりどうしちゃったんでしょう・・・・・・・まさか!!)

 

真耶の頭に電流が走る。

思い出すのは湊たちが来る前に話したこと。

 

『同じ学校でしかも教師なら禁断の恋みたいな感じで燃え上がること間違いないですよ!!』

 

『教師なら・・・』

 

(まさか先輩は教師というアイデンティティを活かし、個人レッスンというまるで心躍るようなシチュエーションで加坂部君にアプローチを掛けようとしている!?でもそうだとすれば持っていく過程が強引すぎます!加坂部君怯えてますよ!これじゃただのパワハラです!!どんだけ不器用なんですか!!)

 

真耶は自身のアドバイスを活かそうとして、却って自分の首を絞め、それに気づかず意気揚々と持ち場に戻る千冬を見やる。

 

(長い間話を聞くのになんでくっつかないんだろうって思ってたけど、先輩が不器用すぎるだけだったんですね。) 

 

真耶は千冬に哀れみの目線を送る。

しかし千冬はそんな視線に気づくことはない。

 

(授業中に強引すぎたか?・・・いや多少強引なくらいがいいだろう。そう恋愛書にも書いてあったしな。ふふ・・・放課後の個人レッスン。女教師を前にそんなイベントが待っていたら流石のアイツも私に手を出してくるに違いない・・・・ふっ、私の勝ちだな。束。おっといけない、今は授業中、にやけていては不審がられるかもしれないからな。) 

 

千冬はこの先の展開と結果に妄想を膨らませて、束に心中で勝利宣言をする。

そしてにやけないよう取り繕おうとしている。

・・・だが、正直さっきの湊に対する詰め寄りは十分周りの生徒に不審がられており、もはや手遅れであると言ってもよい。

 

目先の欲求に目を奪われて、もっと重要なことを見落とすのだった。

 

《目覚め》

かなり昔、小学生くらいの時に私はアイツの用事に付き合って片田舎のアイツのお爺ちゃんとやらの家に遊びに行ったことがある。

 

その頃には既になんというかアイツと仲良く?いや、今のような腐れ縁が作られており、またちーちゃんが夏休みの間は家の都合で家に居ることが少なく、アイツがいないとどことなく退屈なので渋々ついて行った。

 

まぁ親に着させられたワンピースや麦わら帽子を褒められた時は、なんというかこの馬鹿にも見る目はあるんだなって思ったけどさ。

 

アイツの祖父はコメ農家をやっていて、アイツはその手伝い。

私は手伝わせるのは悪いということでアイツをずっと見ていた。

気まぐれに水を差しだしてやると笑顔でお礼を言ってくる。

 

なんかむかつく。

 

 

仕事が終わった後、アイツの祖父にスイカを差し出されてアイツと一緒に食べる。

 

アイツはスイカが好物なのでとても喜んでた。

 

「じいちゃん、またイナゴ居たよ。」

 

アイツは何を思ったかイナゴが居たと祖父に言い出す。

するとアイツの祖父は笑う。

 

「なんだ湊はイナゴが嫌いだなぁ~。」

 

祖父が答えると、アイツは返答が納得できないのか膨れ面で前を向く。

私の前ではただ笑っているだけなので、私にとっては目新しい表情だ。

 

「当たり前じゃん・・・じいちゃんの米食べるんだ。嫌い。」

 

思えばアイツがなにかを嫌いと言うのを聞くのは、その時が初めてかもしれない。

アイツの祖父はそんなアイツを笑顔で見ていた。

 

「なんだよ。じいちゃんは嫌いじゃないのかよ。」

 

アイツがそう言うと、アイツの祖父は笑う。

 

「確かにイナゴはわしの米を食う、だがな、ワシは嫌いになれんのだよ。」

 

「なんでだよ。」

 

「イナゴはな、たくさんのイナゴが群れになって飛ぶ。・・・ワシは昔、誰とも、婆さんとすら一緒にいることが出来なかった。だからこそ今はこんな田舎で米を作っておるんじゃ。・・・まぁそのおかげか、子供やその家族とようやくまともに向き合えるようになってきたのじゃが。」

 

アイツの祖父はどこか遠くを見ていた。

まるで苦い思い出を噛みしめて泣き笑いしてるかのような表情だった。

 

「じいちゃん・・・・」

 

アイツはそんな祖父の顔を窺い、表情を曇らせる。

私にとってはアイツの祖父がなんだろうがどうだっていい。

でもこの人の元気がないと、アイツの顔も曇ってしまう。

だから時々、こんなふうになにかを思い出してアイツを心配させるジジイを煩わしく思った。

 

「だからワシは次生まれ変わるなら最初からあんなふうに生きたいもんじゃ。・・・願わくばお前は、誰か大切な人、みんな連れて一緒にいられるような、そんな男になれ。いいな。」

 

「・・・・うんっ!じいちゃんが言うような男になれるように頑張るよ!!」

 

目をキラキラと輝かせて自分の祖父を見上げるアイツ。

なんとなく気に食わない。

 

「でもイナゴって群れている他のイナゴと共食いしたりする野蛮な虫じゃん。訳わかんない。」

 

私はボソリと水を差すように呟く。

するとアイツはすぐ私の方へ向き直り、えっマジで!と驚いている。

口元にスイカの種が付いていて滑稽だったので取ってやった。

するとアイツの祖父は目を丸くした後、笑う。

 

「ふ・・・あっははは!賢いお嬢さんじゃないか!いい嫁さん連れてきたな湊!」

 

笑いながらとんでもないことを口走るジジイ。

私がコイツの嫁・・・・?

 

「は、はぁ!?!?私とコイツはそういうのじゃない!お前も笑ってないでなんとか言えよ!!」

 

束は激昂して笑う爺さんと、隣にいる笑顔の湊に食ってかかる。

 

日差しが沈み、辺りは暗くなってくる・・・・・。

 

 

 

アイツの祖父が死んだ。

 

夏休みらへんに私は一度会っただけだが、その後もアイツは会っていたらしい。

 

死因は脳梗塞。

 

一人で暮らしていたので発見が遅れて、見つかったころには既に死んでいたらしい。

 

その法事に居る。

 

唯一の血縁がアイツの家族だけだったらしく、アイツと爺さんの知り合いを招いて葬式を行うそうだ。

・・・一応私も大好きな爺さんが死んだアイツが心配だったから付いてきた。

私自身一度爺さんにアイツと一緒に会ったことがあるので、参加してもいいらしい。

 

アイツの隣で手を合わせる。

横目でアイツを見ると、アイツは無表情だった。

笑っても泣いてもいない顔。

アイツは自分の祖父が死んだのを理解していないと言われたらそうだと納得できるほど無の表情。

 

私は、初めてアイツを見ていて怖いと思った。

 

そして骨を燃やして、遺骨を骨壺に収める。

そして葬式がひと段落したところで食事を知り合いに振る舞っていた。

 

宴会みたいな物。

 

大人たちは、やれあの人はこんな人だったなど思い出話に花を咲かせて、酒を飲み、泣いたり笑ったりしていた。

正直死んだ人間は死んだのだからいくら追いすがるかのように思い出を語ったところで無意味だと思う。

・・・私がまだ身近な大事な人を失っていないからかもしれないが。

 

ご飯をあらかた食べたアイツは席を外してどこかに行ったので、私も追うように食事を終わらせる。

 

付いていくと縁側に居た。

ただ茫然と縁側を眺めていた。

声を掛けようとした。

 

その時・・・・・・・

 

「・・・いつも夜はここで一緒に話をしてた。」

 

まるで独り言のような声の大きさでぼそりとアイツは呟く。

それは自分自身に言っているかのようだ。

 

「いつもここで色んなことを教えてくれた。・・・色んなこと。もっと教えて欲しい事がたくさんあって、話したいことだって・・・・・でも、もう・・・・・・・・。」

 

拳を握りしめて歯を食いしばる。

瞳に涙が溜まる。

 

「俺は泣いちゃダメなんだ。・・・最後に約束したことが男なら簡単に泣くなって。だけど・・・・・・そんなの、無理だよぉ・・・・・。」

 

こらえきれずに泣き出すアイツ。

その言葉を聞いて初めて私は理解する。

 

アイツは葬式の時から無表情だったんじゃなくて、無表情“であろう”としたのだ。

最後に教えられたことを律儀に守ろうとして、必死に泣くのを我慢していた。

それでもアイツは今、こらえきれずに涙を流している。

 

私の傍にいるアイツはいつも笑っていて、泣いている表情なんて見たことなかった。

そんな私が見たこともない表情のアイツを見た時に、私はふと思ったのだ。

 

 

_____もっと私の知らない顔が見たいと。

 

 

だからこそ、自然と体が動いていた。

 

「なに我慢してんの・・・良いんだよ泣いても。」

 

いつもはそんなこと決してしないのに私は奴を抱いて耳元で囁く。

 

「で、でも・・・・・・」 

 

「あの爺さんはお前が自分の言ったことを気にして苦しんでいる方が、悲しむんじゃないの?」

 

知らないけど、と心の中で付け加える。

本当にあの爺さんがどうとかは毛ほども興味がない。

今言った言葉も親が見ていたどっかの名前も覚えていないようなドラマとかの受け売りだ。

 

しかし、アイツは顔を大きく歪ませる。

 

「うぅぅ・・・うううぅうぅ束!束!」

 

アイツは情けない程にぐちゃぐちゃの顔で私に縋りつく、大きな声を上げて泣き出す。

 

コイツは好きだった祖父が死んで誰かに縋りついてこんな風に泣くのだと、それを知っているのは今目の前で縋りつかれている自分しか知らないのだ。

 

そう感じると、ゾクゾクと背筋に快楽が走るのを感じる。

不思議と口元に笑みが浮かぶ。

 

もっと私の知らない顔を見せろ。

 

もっと私の知らない顔を晒せ。 

 

止まぬ欲求が心中を渦巻く。 

 

もはや涙や鼻水で服が汚れることすら微塵も気にならなかった。

 

 

そう思うのと同じく、私は自分が目の前のコイツの爺さんとの泣かないという誓いを悲しみに付け込み、ぐちゃぐちゃに絆した挙句に踏みつけにしたのと同義だ。

 

対して悲しみを共有しても居ないくせに、自分の知的欲求の為にコイツを欺き、約束を完全に放棄させた。

本当に怖いのは欲求の為に躊躇なく目の前の人間に付け込める自分自身だった。

これでは・・・ただの化け物だと自嘲する。

 

「お、俺、頑張る!絶対!・・・じいちゃんの言ってた人みたいになれるように頑張るからっ!母さんや父さん、束や千冬・・・みんな一緒に笑わせられるように、頑張るからっ!!」

 

自嘲する束をよそに湊が決意を新たにする。

夜は深まり、されど綺麗に満月が出て、周囲を朧げに照らしていた。

 

 

そして今、束はそんな在りし日の頃を思い出しながら、アイツに渡したISのデータをディスプレイで見ていた。

 

寸分たがわずアイツに相応しい機体を作った、その自負が自分にはある。

アイツに察されないように身体データを集めるなどかなり苦労したが、その完成度は高いと言える。

 

変わってて捉えどころのない彼。

それに合う機体といえばその機体自体もアイツに合わせて成長しなくてはいけない。

 

アイツはみんなを連れて一緒に居たい。

 

でもちーちゃんやいっくん、箒ちゃんや自分と一緒に居るならISと関わるしかない。

 

だからこそそのための翼を渡したつもりだ。

 

「お前は、・・・・その翼を持って、どんな表情をするんだ。」

 

その表情を・・・感情を私に見せてほしい。

 

束はディスプレイ越しに湊を星を眺めるかの如く、ずっと眺めているのだった。




今回は千冬さんに焦点を絞った分、束さんについては過去編で視点を書くことで束さん成分を補填しました。
湊が気絶した後、じいちゃんがどうのこうの言っていたのはこの過去編を書くためでした。

湊のISは一夏や箒ちゃんよりも弱くします。
二人は3.5世代や4世代を使いますが、湊には第3世代以下しか使わせる気はありません。
ただ渡す際に寄せ集めだの言っていたのはただの照れ隠しです。
ばりばり前もって準備して設計してます。

束さんは小学生時代からちょっと新しい扉に目覚めつつあります。
まぁ気になる子についてもっと知りたいって思うのは普通だから、多少はね?



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金髪少女は、優秀らしいが、傲慢不遜。

ある程度付けるタグを絞れてきました。
他作品ネタや淫夢語録は苦手な人も多くいるでしょうし、付けておいた方が良いでしょうからね。
こちらの作品ではタグにシリアスもやりたいとは書きましたが、大体ギャグにしたいと思います。


チャイムが鳴り、授業が終わる。

 

湊はなぜか分かるにも関わらず、千冬とのマンツーマンレッスンを放課後に受けなければいけなくなり、憂鬱な気分で机に突っ伏した。

 

確かに千冬と放課後、二人きりで個人授業なんてそういうビデオの導入みたいでドキドキはする。

密室で男女二人だけ、なにも起きないはずもなく・・・・・って奴だ。

 

だがそれも過程が良ければの話だ。

授業中にあんな風に脅迫紛いに迫られれば、この後の個人レッスンは体育会系のノリでいう可愛がり(意味深)であることは容易に想像できる。

 

どうしたんだ千冬、なにか嫌なことでもあったのかな・・・・?

 

湊が千冬を心配していると、授業が終わったことから一夏が背中を伸ばした後、席を立つ。

 

「どうした一夏。トイレか、俺も付いていく。」

 

「え、い、いやただちょっと視線が気になるから屋上とか行こうかなって。・・・ていうか湊兄はさっきトイレ行ってなかったっけ?」

 

確かに行ったし、めっちゃうんこした。

だがそれとこれとは話が別だ。

 

女子たちがまるで俺たち男性操縦者を某上野の動物園のパンダ並みにずっと注目しているのだ。

そんな中に一人で残されてみろ。

一瞬でメンタルが削り切れる自信が俺にはある。

見るくらいなら話しかけてきて欲しいものである。

 

ん?さっきの休み時間一夏を置いて、教室を離れたじゃないかって?

あれは箒ちゃんを支援したみたいなもんだし、なんなら一夏も異性とはいえ年齢の近い幼馴染と話せたのだから本望だろうし、ノーカンだ。

 

年の近い幼馴染というのは良い。

この世界でそれ以上に大切な存在が親を除いて居るだろうか?

いや、居ない。

そのくらい幼馴染というのは尊い存在だ。

どのくらい尊いかと言えば、今さっき授業中に脅迫?されたにも関わらず、なにか嫌なことがあったのかと心配してしまう程だ。

 

「じゃあ俺も混ぜろよ。こんなところに俺を置いていくのか・・・?俺はそんな薄情な男に育てた覚えはないぞ・・・・。」

 

「わかったよ!だからそんな目で見ないでくれ!湊兄も一緒に行こうぜ!!」

 

一夏が堪忍したかのように声を上げて、湊を誘う。

 

「そうだ・・・それでいい。」

 

湊は満足げに頷く。

すると視界の隅で箒がもじもじしているのを目にとめる。

しょうがねぇなぁ~。

 

「どうした箒ちゃん、お前も来いよ。」

 

「い、良いんですか?二人だけでなにか話でもあるんじゃ・・・?」

 

箒ちゃんに声を掛けると、箒はあたふたと慌てながら答える。

そんな箒を見て、一夏は笑う。

 

「別に元々は一人で行くつもりだったし、人数が増えたほうが楽しいだろうしな。お前も来いよ箒!」

 

「わ、わかった!」

 

一夏に同行を許可されて箒は嬉しそうな表情をする。

その顔を見て、湊はご満悦層に頷く。

そうだ。いいぞ箒ちゃん。

一緒に居る時間が増えるほど、親密度は上がる。

絶対に一夏とのイベントを逃してはダメだ。

 

そう箒に対して思っていると後ろから予期せぬ人から話しかけられる。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

振り返るとそこには金髪美少女。

束ほどではないが可愛いと思う。

ま、束に可愛さで勝てる人間なんていないんですけどねっ!

確かセシリア・オルコットさんと自己紹介の時に言っていたか?

 

「へ?」

 

一夏も突然声を掛けられて困惑する。

なんかどことなく高貴な感じがする。

そういう雰囲気は一朝一夕では手に入るものではないし、きっとどこかの貴族的な、そうでなくてもいい家の生まれの子なのだろう。

 

「聞いてます?ご返事?」

 

「あ、ああ。いやすまんな。ちょっといきなり声かけられてびっくりして・・・・」

 

湊は返事を求められて、言い訳のようにそう続けた。

しかしオルコットは口元に手を当てて、まるであり得ないと言わんばかりに大仰に驚く。

 

「まぁ!なんですの、そのお返事は!わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度という物があるではないかしら?」

 

「「「・・・・・」」」

 

それ相応の態度とはどういうことなのだろうか?

なにかまずいことでもしてしまったか?

いや、でもこの子とは初めて話したしな~

 

湊が首を捻って考えているとオルコットはずっと黙っている湊に噛み付くように話しかける。

 

「わたくしあなたに言っていますのよ!黙ってないでなにか言ったらどうですの!?」

 

ぴゃっ!?なんかすごい怒ってんだけど・・・・

もうなんかわかんなくなってきた・・・どうすりゃいいんだ????

 

湊が受け答えに窮していると一夏がセシリアに言う。

 

「悪いな、湊兄も俺も君が誰かを知らないんだ。」

 

いや、俺は誰かは知っているけどね?

 

するとこれまたオルコットさんは釣り目でまるで俺たちを見下すかのような口調で続けた。

 

「わたくしを知らない…? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして! 入試主席の! このわたくしを!?」

 

なんだこの子。

そんなに自分を知らないことが驚きなのだろうか?

・・・・いや、入試主席というし、優秀な子にありがちな自意識過剰という奴だろうか?

 

自分自身そんなに優秀な子ではなかったし、隣にいつもクッソ優秀な束や千冬が居たし、そんなに自慢げに自分を誇示することなんてなかったしなぁ。

でもそういう態度を取る子はあんまり周囲に馴染めなくなっちゃうしなぁ~。

オルコットさんはそこらへん気づいてないのかなぁ?

 

その言葉を聞いて一夏が神妙な顔をする。

 

「代表候補生・・・・ってなんだ?」

 

その言葉を聞いた瞬間、目の前のオルコットや箒、俺だけでなく密かに聞き耳を立てていたクラスメイト達もずっこける。

ていうか聞いてたのかよ、油断も隙も無いな。

ただ一夏に関してはしょうがない気がする。

だって予習してないもん。

 

「代表候補生ってのはなんか国家代表未満みたいな感じの選ばれた人達のことだぞ。」

 

「ほえ~、エリート様って奴か。」

 

なんだその感心の仕方。

馬鹿っぽく見えるからやめた方がいいぞ。

 

するとオルコットの声も一際大きくなる。

 

「そうなのですわ!!わたくし、エリィィイイトなのですわ!!」

 

なんだこの子うるさっ!

歩くスピーカかよ、話している途中で急に大きな声を出すなよびっくりするだろ。

 

そう思った瞬間、はっとする。

もしやこの子は友達がいなくて俺たちに話しかけてきたのではないか?

 

優秀な子にありがちな自分を自慢ばかりする自分語りモード入ってるし、それに話している途中で急に大きな声上げているしコミュ障なのだろう。

 

しかしこのままの態度ではいずれクラスメイトと衝突してしまうだろう。

ならば俺が仲を取り持ってやらねば・・・・。

千冬が取り持っているクラスで不和なんか起こさせるわけにはいかないからな。

そう決心を新たにする湊。

 

しかしそんな決意を露知らず、オルコットは口を開く。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた存在とは、クラスを同じくする事だけでも奇跡…! まさに奇跡! そしてなんたる幸運! その素晴らしさをもう少し理解していただけるかしら?」

 

傲慢不遜にもそう言い放つオルコット。

クラスメイトは呆れた顔でオルコットを見つめる。

 

そりゃそうだ。

確かにオルコットは優秀で国の中でも代表候補生に選ばれた凄い生徒なのかもしれない。

だが同じクラスになれたことが奇跡と言っても、目の前に男性適合者という更にレアケースがいるのでは彼女のような代表候補生と一緒になれることが奇跡や幸運といった図式は成り立たないだろう。

 

一夏が口を開こうとする。

しかし、一夏に発言させるわけにはいかない。

一夏は鈍感ななので、こんな風にいい気になっている女の子の逆鱗に触れてしまいかねない。

一夏よりも先に口を開いた。

 

「さすがだぞ!自分の価値をばっちりわかっているんだな!」

 

「・・・・バカにしてますの?」

 

あっるぇぇ~?

なんでキレられているんだ?

普通に褒めたつもりなんだが・・・・・。

 

「湊兄が人を馬鹿にするわけないだろっ!いい加減にしろっ!!」

 

一夏が湊を睨み付けるオルコットを睨む。

自分にとっては親しみ深い兄のような存在がよく知らない女の子に噛み付かれて困っていれば、湊の援護をしようとするのは当然だろう。

 

しかしその行動は湊にとっては不都合である。

湊はあくまでオルコットと仲良くなり、ひいては一夏とも仲良くしてほしいのだ。

しかしこれでは男性適合者二人とオルコットという対立構造が出来上がってしまう。

 

「なんですのその態度は・・・これだから男は・・・・。」

 

オルコットは呆れたような態度でやれやれと肩をすくめる。

 

「・・・男だなんだと性別で人を判断するような人間が上等であるなどといい気になっていることの方がお笑い草だと私は思うがな。」

 

箒がぼそりと呟く。

 

「・・・なんですの?そこのあなた。」

 

オルコットが箒ちゃんを睨み付ける。

しかし箒もオルコットを睨み返す。

ふえぇ・・・俺たちの時とは比べ物にならないくらい空気が重いよぉ・・・・・

箒ちゃんまで・・・これじゃオルコットの仲を取り持つなんて無理だろ・・・・。

女子同士の対立とやらは結構えぐいものだと言う。

そうなる前になんとか俺がしようと思ったんだが・・・・。

 

オルコットは箒から目を外して、一夏と俺を見る。

 

「ふ、ふん!ま、まぁ?わたくしはとても慈悲深いですから。泣いて頼めばISのことを教えて差し上げてもよくってよ?なにせわたくしは入試で唯一教官を倒した正真正銘のエリートですから!!」

 

胸を張って誇らしげに言うオルコット。

 

まぁ代表候補生なわけだし、それもそうかと納得できる。

そもそも選ばれる時点でその国の中での試験に合格したようなもんだろうし。

 

・・俺?

 

俺は普通に負けましたよ。

使ったこともないような物に乗っても勝てるわけないってそれ一番言われてるからな。

 

すると何を思ったのか一夏が口を開く。

 

「入試ってもしかしてISを動かして戦った奴か?」

 

「それ以外ありませんわ。」

 

オルコットがそう答えると一夏が首を傾げる。

 

「え、でも俺も教官を倒したぞ?」

 

え・・・。

 

えぇぇぇぇええええええええぇええええ!!!?????

 

俺は驚きの余り目を見開き一夏を見つめる。

 

周りの生徒たちも「なんだこれはたまげたなぁ・・・」や、「ファッ!?」など思い思いの反応で驚愕している。

なんか全体的に反応が汚いなぁ。

 

「マジかぁぁ!?マジなら本当すげぇよ一夏!流石千冬の弟だわぁぁぁあああ!!」

 

「ちょっ、ちょっとそんなに褒められると照れるな・・・。」

 

湊はすごいテンションで一夏の肩を掴んで揺らす。

一夏は甘んじて揺らされながらもどこか嬉しそうだ。

 

「すごいな一夏。さすがだ。」

 

箒は湊に褒められている一夏を自分も嬉しそうな表情で見る。

 

しかしそんな中、理解不能といった顔をしているオルコット。

 

「そ、そんな・・・わたくしだけと聞きましたが?」

 

「女子だけではってことじゃないか?現に一夏は勝ったって言ってるし。」

 

正直もうオルコットよりも一夏が教官に勝ったという偉業を成し遂げたことに意識が向いているので、どこかどうでもよさげに答える。

 

「あ、あなた・・・わたくしに嘘を『キーンコーンカーンコーン』ッ!!また来ますわ!逃げないことですわねっ!よろしくて!!」

 

そう言い捨てて、オルコットは自分の席に戻っていった。

それにしてもアイツ今、一夏が嘘を吐いていると言おうとしやがったな・・・。

それは看過できない。

一夏はすごく素直ないい子だ。

それに千冬の弟だぞ、そんなことするわけないだろ。

 

オルコットに少しイラつきを覚えていると、席に着いた瞬間、一夏が湊に思いついたかのように質問する。

 

「あっ。そういえば湊兄はどうだった?入試、勝ったのか?」

 

一夏の問いに動きを急停止させて、そしてゆっくりと答える。

 

「・・・・負けたよ。普通にな。」

 

「・・あっ、ご、ごめん湊兄。」

 

一夏は哀愁漂わせて答える湊を見て、申し訳なさげに謝る。 

 

笑え・・・笑えよ。

笑ってくれ・・・・。

自身の情けなさに内心少し凹みつつ、席について大人しく授業を受けるのだった。

 

《私の幼馴染は頼りになる。》

 

昼下がり

 

私達姉弟の親と呼べる人達は未だに帰ってこない。

・・・というより帰って来ることの方が稀だ。

私には幼い弟がいる。

だからこそ私が家の家事やら弟である一夏の世話やらを一人でしなければいけない。

 

だが、私は家事が得意ではない。

親は自分にやってくれたこともなく、やり方も教わっていない。

だからいつも、失敗して依然散らかったままの部屋や、味のないご飯を見てなぜ自分には一夏にしてやれないのか。

いつもそう自責していたと思う。

 

だが、今日はいつもとは真逆で楽しい。

それは私の幼馴染である加坂部湊が居るからだろう。

何も彼には言っていないにも関わらず、偶に家に来ては基本的な家事すらができていなかった私を見兼ねて教えてくれる。

 

「一夏くん、今日はこんなものも持ってきたよー。」

 

そう言って絵本やらなにやらを持ってくる。

一夏の御守すら彼に任せてしまっている現状に情けなさを感じる。

彼と話している時から、一夏は驚くほど活発な子供になっていった。

 

彼はこの家に初めて来たときから、幼児が居るのに絵本とかおもちゃはないんだなっと珍しいそうに眺めていた。

私からしてみればそれが普通だったのだが、普通はそうではないのだろうか?

 

彼は束とは違い、難しいことは知らないが、私が知らない社会の常識とやらを教えてくれる。

私の知らない世界を見せてくれる。

それが私には堪らなく楽しかった。

 

「・・ああ!!千冬焦げてるって!!」

 

一夏と遊んでいた湊が不審そうに周りを見渡した後、慌てた様子でこちらに走ってくる。

手元に目線をやると野菜炒めが本来の色とは程遠い黒炭のような色をしていた。

 

「火を消して・・・」

 

湊がこちらにやってきてコンロの火を消す。

後に残るのは私自体の不注意でダメになってしまった野菜炒め。

 

「す、すまない・・・せっかく教えてくれたのに・・・・。」

 

咄嗟に湊に謝る。

せっかく教えてくれたのに、失敗してしまった。

私のことを嫌いになったかもしれない。

私は生まれながらに失敗は許されない。

だから・・・・・

 

恐れつつも顔を上げると、湊は首を傾げていた。

 

「い、いやそこまで真剣に謝らなくても・・・もう一回作り直せばいいし、大丈夫だよ。それに・・・こっちこそごめんな?一回教えただけじゃわからないかもしれないのにキッチンに一人にしちゃって。」

 

「・・お、怒らないのか?なぜできないのかって。」

 

私がそう問うと湊が殊更おかしそうに笑う。

 

「え?そりゃやったことないなら完璧にできなくて普通だし。なんなら教えるとか言って途中で一夏くんにつきっきりになっちゃって目を離した俺も悪いだろうし。・・・だから一緒に作ろう?」

 

湊はそう言う。

コイツはこれだ。

 

私は今まで勉強、スポーツなど大体のことは人には負けてはいけない。

完璧でなければ価値がないと教えられてきた。

・・だが、コイツは失敗しようがしまいが私を肯定する。

それに・・・私は甘えてしまう。

 

「・・・そうだ、これはちゃんと見ないお前にも責任がある。・・・だから責任を取れ。」

 

そう言うと湊は当然と言わんばかりに答える。

 

「分かってるよ。じゃあ作りながら教えるからね。」

 

そう言って冷蔵庫を漁る。

そんな彼の袖を何故か後ろからちょっと摘まむ。

 

「?なに?」

 

湊は急に袖を掴まれて、振り返り首を傾げる

 

「・・・バーカ。なんでもない。」

 

そう答えると湊は一層首を傾げて、材料を出す。

 

 

料理に関しては湊が居たからか、普通に上手く出来上がった。

彼と共に囲む食卓は美味しい。

途中彼は青い顔をしながら、「夕食入るかな・・・・」と言っていた。

 

そして奴が家に帰る時間になる。

 

「すまないな。いつもお前に迷惑を掛けてしまって・・・」

 

湊は笑う。

 

「別に迷惑とか思ってないよ。また来るわ。」

 

「みなとにぃ!またね!」

 

一夏が湊に手を振って見送る。

そんな一夏を見て、笑う。

 

「おぉ、一夏くん。次はガンダムかライダーでも持ってきてやるからな。じゃ、そゆことでじゃあな。」

 

「ああ。また明日。」

 

私も手を振った。

 

こんな日々が、ずっと続けばいいな・・・

そう思わずにはいられなかった。

 




というわけで湊の思惑も虚しく、原作通り一夏とオルコットが険悪になりました。
違う点と言えば、箒ちゃんもオルコットになんか言ってる点ですね。
好きな人や兄代わりが悪く言われて黙っていられなかったんですかね?

それと織斑さん所の闇が深い家庭事情はあまり大っぴらには出しません。
あくまで基本ギャグ作品の体で行くつもりなので。
ただ千冬のなにもかも完璧な中で唯一家庭に関連する家事が苦手であるとか、幼い一夏が居るのに玩具や本の類が全くないとこなどそれらしき匂わせはしてるんですけどね。


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俺は確かに企業所属だが、幼馴染のコネに過ぎない。

なんとなく主人公の機体が決まりました。
なので初投稿です。


予期せぬ金髪ちゃんの来襲もあったものの、俺たちは3時間目の授業を受けようとしていた。

教壇には千冬が立っている。

 

千冬が授業をするなんてお尻に目が行って授業に集中できなくなっちまうぜ!!

Hな授業してくだたいっ!!!

俺が教壇に立っている千冬を爪先から頭の先まで嘗め回すように見ていると千冬が口を開く。

 

「授業に入る前に再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表を決めなくてはならない。」

 

教室が騒めく。

まぁいきなりの話だし、驚きはするだろう。

千冬は騒めきを手の動きだけで制すると話を続ける。

....かっこいいな、それ。

 

「他校でいうところのクラスの委員長といったようなものだ。それならイメージもしやすいだろう。ちなみに一度決まれば一年間は変更できないと思え。」

 

委員長かぁ。

思えば俺も何回か委員長したものだ。

そういえば中学とかでは途中から篠ノ之さん係って言われたことがあったなぁ。

まぁ幼馴染の俺が毎回束が学校行事に参加するように説得していたからそういう意味だったんだろうなぁ。

束係...良い言葉の響きだ。

 

俺が昔を思い出して悦に浸っている間も話は続いていく。

 

「クラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。簡単に言うと各クラスの代表者が模擬戦をすることになる。」

 

なるほど....であれば代表者は慎重に決める必要があるな。

代表者一人の実力がそのままクラスの実力と見なされる。

もし、言い方が悪いがへっぽこを選んでしまったら最悪どっかの文なんちゃら学園のFクラス的な扱いを受けるのだろうか?

クラスとしては一番ISに習熟している人を出そうと思うに違いにない。

 

そうなるとやっぱりイギリス代表候補生のあの子が一番選ばれる可能性が高いな。

なんかちょっとアレな子だけど代表候補生になれるということは強いってことなんだろう。

 

「自薦・他薦は問わない、誰かいないか?」

 

へぇ自薦・他薦で決めるのか。

しかし学校初日でみんな周りの子がどんな子か分かっていないんだから自薦・他薦はあまり合っている選出方法ではないんじゃないか?

いや、千冬の言うことにケチつける気はないが....。

もしかすれば最近の高校生はお兄さんが知らないだけでこの短時間で既にみんなの情報を得て仲良くするほどコミュ力が発達しているのか...?

 

「はい!」

 

すると一人の女子が手を高らかに上げた。

そしてその子は立ち上がると口を開く。

 

「織斑君を推薦しますっ!!」

 

「へっ!?お、俺!?」

 

一夏が困惑した声を上げる。

しかし周りの女子生徒は案外乗り気であり、

 

 

「あっそれ良いかも!」

 

「私も織斑君を推薦しますねぇ!!」

 

「せっかく男性操縦者で千冬様の弟さんが居るんだからそれを全面に押し出してクラスの顔としてアピールしないとね~。」

 

3人目の発言で思わず頷いてしまった。

確かにクラス対抗戦は実力を測る場であるが、それと同時に代表者はそのクラスの代表者としてクラスを表すのである。

そして一夏は男性操縦者であり、別にISが下手でも言い訳がつく。

....まぁ試験官を倒すほどの腕を持っているんだが。

そしてなによりも一夏はイケメンかつ千冬の弟なのである。

もうこの時点でPR力ではビキビキビキニ1・2・3なのである。

 

「ど、どうしよ湊兄ぃ....お、俺代表なんか無理だよ.....」

 

おろおろしながら俺を見る一夏。

何言ってんだよ。

 

「お前なら出来る。俺は信じてるぞ....バナージ。」

 

「誰がバナージだよ。まったく俺は困っていると言うのにふざけて.....」

 

一夏にサムズアップを見せると呆れた顔をして前を向いた。

しかし心なし顔からは困惑の色が消えていた。

 

しかし一夏だけで決まりというわけではあるまい。

具体的に行ったらオルコットさんがそんな結末を許容するはずがない。

後ろを振り返り、オルコットさんを見る。

 

「......」

 

オルコットさんはそわそわと落ち着かない様子で周りをチラチラと見ていた。

....もしかして、他薦してほしいのか?

えっ、でも代表の候補になりたいなら自薦すればいいだけじゃ....。

 

そう考えていると不意に頭に電流が走る。

分かったぞ。

あの子は他の人に推薦されて出たいんだ!

ちょっと自己承認欲求がでか枕な女の子なのだと見た。

そうするとさっきの時間に俺たち男性操縦者に噛み付いてきたのも頷ける。

わざと俺たちレアケースである男性操縦者に噛み付くことで存在感を周りにアッピルしようとしていたのか!

であれば年上のお兄さんとして一肌脱がないわけにはいかない。

 

俺は手を挙げた。

そして立ち上がると、オルコットの方を向く。

 

「おい、オルコット。」

 

「ぴゃっ!?な、な、なんですの!?」

 

急に立ち上がった男に声を掛けられて驚くオルコット。

....ていうかぴゃっ!ってなんだ、ぴゃって。

ちょっと可愛いと思っちゃったじゃないか。

まぁ束や千冬の方が遥かに可愛いのは変わらないけどねっ!!

 

「お前さ、オルコットさぁ....さっき一夏が推薦された時、周りをチラチラ見てたよなぁ?」

 

俺がオルコットにそう尋ねる。

するとオルコットは目に見えてうろたえる。

 

「な、なんで見る必要がありますの?..あなたの勘違いではなくて?」

 

クソ....なに取り繕ってんだ。

他薦されたいんだろ。

俺が他薦してやるって分かんねぇのか。

まぁいい。

 

「絶対嘘だゾ。出たけりゃ出してやるよ、しょうがねぇなぁ~。というわけで俺はオルコットを推薦する。」

 

俺が言うとクラスが若干騒めく。

ん?なんでだろう?

 

そしてオルコットは俺を怪訝な表情で見る。

 

「...なんのつもりですの?」

 

なんのつもりってそりゃ出たがってたし、出してあげようかなと。

でもそれをそのまま言うつもりはない。

こういう子は自尊心が高いからな。

だからこそそのまま言ったら同情するなと烈火のごとく怒りだすかもしれない。

だからこそちょっとおだてることにしよう。

 

「イギリス代表候補生なんだろ?そのISの腕前でなんとかしてくださいよォーー!!」

 

そう言うとオルコットは俺から視線を外す...がどこか笑みを隠そうとしているようにも見える。

 

「そ、そこまで言うなら仕方ありませんわね....私を推薦するなど中々見る目がありますのね!

少し、少しだけですが男を見直しましたわっ!!」

 

 

コイツちょろいわぁwww

まぁでもこれで全部丸く収まるな。

オルコットも嬉しそうだし、俺結構良い事したんじゃない?

自身の行動に五万エルになる俺。

しかし.....

 

「ほう....随分とオルコットを買うんだな、加坂部。」

 

千冬がなぜか俺に冷たい目で見てくる。

もしかして....嫉妬してる!?

幼馴染にオルコットが推薦されて嫉妬してるのか!?

いやー困るなぁ。

俺は千冬と束しか眼中にないから安心しろってぇ!

....そうだったら良いな。

だって怖いもん。

 

俺は急に千冬に睨まれて怯えていた。

するとある少女が一人手を挙げる。

 

「はーい!私は加坂部さんを推薦しまぁ~~す!」

 

佇む雰囲気がほんわかしており、袖が余った萌え袖から小動物のような印象を見ていて受ける。

確か布仏さんだったかな。

まぁそんなことはどうでもいい。

それよりも重要なことは.....

 

「えっ、俺!?マジで!!??」

 

俺試験官に負けるし、今持っているISも乗ったことないんだよ?

そんな俺が代表なんて無理だよ。

公開処刑以外の何者でもなくなっちゃうよ?

君たちは成人男性が高校生にボコボコにされるところが見たいのだろうか?

IS学園の女生徒はドSしかいなかった!?

というかそもそも他の人が賛成しないってそれ一番言われ.....

 

「いいね!それある!!」

 

「加坂部さん、確か企業所属なんでしょ?てことはISにもそこそこ習熟してるだろうしね!」

 

「能ある鷹は爪を隠す。他の人を推薦して逃れようともしても無駄なんだよな~。」

 

「企業所属の選考で入選したこの素敵なISの腕前を見せてお。」

 

どうやら束の気遣いが裏目に出たようだ。

なんで俺が企業所属だって知ってるんだろう?

俺が困惑していると立っている一夏が口を開く。

 

「わるい湊兄ぃ....湊兄ぃが気絶している間に、俺....しゃべっちゃった。」

 

お前かぁ一夏ぁああああああ!!!!!

まさかこんなところに伏兵が居たなんて...。

俺はな!ただ幼馴染のコネだけで企業所属になったんだよ!

選考なんか受けちゃいないんだよ!!いい加減にしろっ!!!

そう言おうとして立ち上がると千冬さんが口を開く。

 

「....とにかく時間が押している。候補は三人ということで良いな。では3人で模擬戦を行ってその結果でクラス代表を決める。いいな?」

 

いやちょっと待って速い速い!

 

「あ、あの!俺の推薦について....」

 

「なんだ加坂部。言っておくが推薦を受けた以上辞退することは出来ないぞ。それを踏まえた上でなにか言いたいことがあるか?」

 

なんで推薦されたら辞退できないんですかねぇ....。

千冬の目がどこかまだ冷たく感じる。

どうしたのだろうか?

今日はやっぱり機嫌が悪い気がする。

なにかあったのか....?俺は心配だよ。

 

(ふんっ、小娘なんぞに媚びを売りおって....まぁいい。

都合が良い事に湊が推薦されたからな。

アイツはISの経験がない。

そうなれば私に泣きついてくることは確定だ。

ふふふ....なんて言っても私はIS操縦者最強と呼ばれているからな。

そこでじっくりと教えてやれば.....ふふふふ........)

 

(うわぁ....千冬姉なんかにやついてるよぉ.......。)

 

湊の心配など知るよりもない千冬は、さらに湊と距離を詰める口実を得ることが出来ると笑みが出そうになるのを必死に噛み殺す。

そんな姉を眺めつつ、内心少し引く一夏であった。

 




原作のようにオルコットが暴言を吐くのを事前に防いだ主人公。
しかし企業所属という肩書からか、クラス代表候補に推薦されてしまう。
幼馴染のコネで企業所属になった湊に対し、
IS学園教員の千冬が言い渡した示談の条件とは・・・。


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