サトライザーを変態銃でいじめるBOB (創作家ZERO零)
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サトライザーを変態銃でいじめるBOB
銃で撃たれると現実のプレイヤーまでも死ぬ凶悪犯罪事件、《死銃事件》が解決し、再び平和が戻ったGGO。プレイヤー達は死銃の事など忘れ、純粋にGGOを楽しみ始めていた。
そして、そのGGOの最強プレイヤーを決める大会、
しかし、そのBOBの予選大会に思わぬ来客が来ていた。ナイフどころか素手で、何も装備せずに戦い、相手の動きを先読みして回り込んで極近接戦に持ち込んでキルをする。そんな強烈な強さを持つプレイヤーがいきなり登場したのだ。
「
彼は勝利の際にこのような決め台詞を必ず言う。それは、かつての第一回BOBにて日本人プレイヤーをナイフとハンドガンだけで無双して皆殺しにし、運営から出禁を食らうほどの大暴れをした伝説のプレイヤー。
サトライザーの再降臨だと、誰もが思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
朝田詩乃こと、GGOをプレイする女性プレイヤー《シノン》は、BOBの予選大会が終わってからしばらくしてもログアウトしていなかった。
それどころか、シノンは自分のプレイヤーハウス内で一つのチャットをしきりに眺めては、たまにキーボードを打ち込んでは頭を悩ませている。
かれこれ夜の11時を回っており、いくら朝田が一人暮らしでも、寝不足は明日のBOBの決勝大会に響く。しかしそれでも、彼女にはこのチャットから離れるわけにはいかなかった。
チャットのタイトルは……
『BOB決勝戦のサトライザー対策の会』
第二回BOBで2位になったトッププレイヤー、《闇風》が立ち上げた特別チャットで、メンバーは29人。その全員が、このBOBのトーナメントを勝ち上がり、決勝にまで進んだトッププレイヤー達である。
このチャットはサトライザーの再降臨を警戒した闇風が、厳重なセキュリティの下で特別に立ち上げた意見交換会だ。闇風は第一BOBでサトライザーに手も足も出せずにやられたプレイヤーの一人、警戒するのも頷ける。
そして、このチャットの中には他にも第一BOBでサトライザーに一方的にやられた経験のあるプレイヤーも多数いる。そんな彼らが口コミやメール、予選が終わった会場で直接声をかけて集め、ようやくサトライザー以外の29人が集まったところだった。
シノンも今回のBOBのトーナメントを勝ち上がり決勝にまで進んだ為、このチャットに呼ばれていた。シノンにとっては参加する気は初めはなかったが、トッププレイヤーである闇風が直接打診してきたのと、サトライザーの実力を噂程度で知っていたシノンにとっては興味深い集まりだった。
闇風『とまあ……こんな感じでサトライザーはナイフとハンドガンのみで無双ゲームをしていた。その強さは計り知れないくらいで、俺を含めたJPサーバーの出場者の全員がやつに弾丸を当てることなく一方的な試合をされたんだ』
闇風が当時の様子を悔しそうに語る。かつてのゼクシードに比べてまだ人のいい闇風は、当時の様子を悔しいながらに話してくれた。経験者の言葉は重みが違くて、他のプレイヤー達も押し黙ってしまう。
ダイン『改めて聞くととんでもねぇ野郎だな……銃が主体のGGOで、ナイフとハンドガンのみで近接戦闘仕掛けるなんて、只者じゃないぜ……』
獅子王リッチー『ああ、しかもほとんどのプレイヤーが行動を先読みされて回り込まれたと言うのも恐ろしい話だな』
前回に引き続き決勝戦に出場しているダインとリッチーが口々に言う。闇風の用意した資料では、倒されたプレイヤー達は全員弾丸を当てるどころかその前に倒されたプレイヤーが多かったと言う。
銃士X『海外ならともかく、JPサーバーでは近接戦闘の経験があるプレイヤーはほとんどいないからねー
Keith『……あの光剣使いのキリトちゃんは除いてだけどな』
と、プレイヤーの一人がからかい気味に言う。チャットはすぐに笑いの渦に呑まれ、重苦しい雰囲気が少し改善する。事情を知っているシノンもそれには苦笑いで答えるしかなかった。
闇風『あーあの光剣使いのキリトね。彼女、決勝大会どころか予選にすら出ていなかったな、前回優勝者だった筈だが……』
ダイン『シノン、お前コンビ組んでいたから何か知っていないか?』
ダインに質問され一瞬事実を言っていいのか血迷うが、ここは素直に話したほうが良さそうだと思いコメントする。
シノン『あいつは別のゲームからコンバートして来ていたから、今は元のゲームに帰っているわよ。今回は出場しないって』
闇風『そうか……それは残念だな。彼女が居れば近距離戦タイプのサトライザーが相手でも勝てるかと思ったんだが……』
たしかにキリトがいれば、極接近戦を仕掛けてくるサトライザー相手には相性がいいかもしれない。しかし、映像を見るにあの圧倒的な強さの前ではキリトでも勝てるかどうかは分からないとシノンは思う。
それほどまでにサトライザーは強いのだ。しかし、キリトのようにフォトンソードの一つでもあれば一矢……いや、一刃サトライザーに報いることができるかもしれない。
夏候惇『とかなんとか言っちゃって、本当はキリトちゃんに会いたいだけじゃないのか?(笑)』
闇風『そんなわけないだろ……まあ、居ない人ねだりをしても仕方がない、話を戻そう』
チャット主となっている闇風が、話の路線を元に戻す。
Korean_11『とにかく、そのサトライザーって奴は馬鹿みたいに強いってことだな?』
今回BOB決勝戦初出場となる女性プレイヤー、《コリアン11》が闇風に質問する。彼女は実装されたばかりのレア武器、『K11複合小銃』という現実世界でも非常に珍しい銃を使う新参のトッププレイヤーだ。
闇風『まあ、そういうことだ。それも桁外れに強い』
Korean_11『なるほどな。しかも、倒した相手の武器を鹵獲して使っているんだよな確か』
闇風『ああ、俺のキャリコも奪われてゼクシード相手に使われたからな……どんな武器でも使えるスキルがあるんだろう』
Korean_11『じゃあさ、そいつが使ったことのないようなレア武器を鹵獲させるってのはどうだ?』
闇風『レア武器?』
コリアン11はそう言って自慢げに話を続ける。シノンもやっとまともな意見がで始めたのかと、話に注目する。
Korean_11『そうだ、例えば実装されたばかりのレア銃……私のK11みたいな武器を使用すれば、鹵獲されても使い方がわからずパァだ。それに、K11はGGOではグレネードランチャーが標準でくっ付いた銃だから、サトライザー相手にも戦えるはずだぞ!』
Price『無理だな、あいつは第一回の時当時実装されたばかりのレア銃であるファマスをも使いこなしていた。その戦法は効かないだろう』
と、これまたBOB決勝戦初参加の《プライス》というプレイヤーが口を挟む。
Korean_11『いやいやいや、K11はかなり重いからそれだけで重石になる。鹵獲した状態で近接戦闘はできないだろうし……』
Price『それ、お前がやられる前提になっていないか?』
Korean_11『あ……アハハハハ……』
Price『笑って誤魔化すな、これは重大な案件なんだぞ……』
冷静沈着なプライスは、コリアンを宥める。彼は英語訛りの日本語を喋り、手にしたL85A1でしたたかに立ち回るプレイヤーだ。
夏候惇『そうそう、重い武器でもどっかの英国産アサルトライフルみたいに鈍器になる可能性もあるからな〜』
Keith『確か……鈍器の名前はL85A1とか言いましたよね?(笑)』
Price『よしお前ら、本戦で覚悟しておけ』
夏候惇『ヒェ……』
Keith『ヒェ……』
そんなやりとりを見ながら、シノンはサトライザーへの対策を考えていた。彼は行動を先読みして攻撃を仕掛けてくるのなら、それをなんとか潰すか、それを逆手に取るかの二つが考えられる。しかしそのどちらとも、サトライザーを上回るとは考えられなかった。非現実的だ、頭を振るってそれを追い出す。
リッチー『それにしても、コリアンさんのK11はすごいよな。よくあんな……言っちゃ悪いがゲテモノ武器を使いこなせるものだ』
ダイン『確か……コリアンさんって日本に住んでいる韓国の方でしたよね? 韓国にいた頃に軍とかでK11を触ったことあるんですか?』
と、ダインがリアルの事をデリカシーなく聞くので、注意しようとしたがコリアンは気安く答えてくれた。
Korean_11『ん? そうだぞ、20になった年から2年間軍に勤めてた。徴兵制でな』
韓国では2022年から女性も徴兵されるようになったと聞く。どうやらコリアンはGGOの武器の扱いを、軍で学んだようだった。
ダイン『なるほど……通りで強いわけだ』
闇風『そこでもK11を使わされていたんですか?』
Korean_11『そうそう、K11は重くってさ……あれを抱えて走るの辛かったなぁ……まあ、それでもそのおかげでGGOで活躍しているんだけどな!』
Price『まあ、GGOで実際に銃を使った事のある人間が強いのは自明の理だな』
リッチー『一昔前のFPSゲームならまだしも、体の経験がモノを言うVRゲームでは、徴兵制や銃社会のある海外とそれらが無い日本とじゃ、プレイスキルに歴然とした差があるのは仕方のない事だからな』
銃士X『それなのに、なんなのあのサトライザーって奴……銃社会の海外から来ては日本人相手に無双して……マジムカつく……』
シノンも銃士Xの意見に賛同だった。
シノン『そうそう。まあ、言っちゃ悪いけど、サトライザーのやっている事は、格下相手に無双して俺TUEEEEで喜んでいるお子ちゃまそのものよ』
闇風『違いないな!』
ダイン『その言葉、直接サトライザーに言ってやりたいぜ!』
たしかに言ってやりたいが、その前にねじ伏せられてあの決め台詞を言われるのがオチだろう。その前に、なんとか奴を倒すことができれば……あるいは……
ダイン『そう言えば気になったんですけど、K11って現実ではかなりのポンコツじゃ無いですか。暴発とか、動作不良とか無いんですか?』
と、ダインがまた話の流れを変える。
Korean_11『ああ、それなら知り合いのガンスミスに頼んで調節してもらっているんだ』
ダイン『ちょ、調節?』
Korean_11『そ、銃の整備スキルを上げて調節をすれば、例え動作不良が起きやすい銃でも完璧に動くように直せるんだ』
Price『ああ、それなら俺もガンスミスにL85を調節してもらっているぞ』
と、案外意外な答えが返ってきた。シノンはガンスミスの知り合いはいなかったが、それでも銃の整備スキルについてのシステムは知っている。デフォルトでは動作不良の多い銃でも、きちんと直せば使えなくは無いのがGGOなのだ。
? 待てよ。となれば素の状態では動作不良を起こす銃も存在すると言うことだ。さらに言えばK11はグレネードランチャーが標準で付いた複合小銃、扱いづらいことこの上ない。というか、それはもはや変態銃の類にも入る。ならば、その動作不良の多い銃や扱い辛い銃をサトライザーが鹵獲したら、どうなるだろか?
シノン『ねぇ、一つ思いついた事があるんだけど……』
闇風『お、なんだ? いいアイデアでも思いついたのか?』
闇風が食いついてきたのを皮切りに、今思いついた事を全て明かす。
シノン『サトライザーって、確か倒したプレイヤーの武器も鹵獲して使うのよね?』
闇風『ああ、さっき言った通りだ』
シノン『なら、サトライザーが扱いに困る銃を与えたら、どうなるのかしら?』
闇風『……というと?』
シノン『ほら、コリアンさんのK11やデフォルトのL85みたいに、動作不良の多い銃……所謂クソ銃ってあるじゃない? それをサトライザーに与えたら、どうなるのかしらと思って』
とは言ってみたものの、これは半分ふざけた回答のつもりだった。単に、サトライザーのプレイスタイルが気に入らないため、嫌がらせの意味を込めて言ってみただけである。
シノン『他にもGGOにはいろんな銃があるけど、なんの用途に使うのかわからない銃とか、おかしな銃とか、馬鹿みたいな銃とか、所謂……変態銃? を全員で装備して、サトライザーを困らせるのよ』
すると、チャット内のプレイヤー達が一斉に入力を開始してシノンは焦る。少し的外れな事を言ってしまったかと思い、考え込むが……
闇風『そ……』
シノン『そ?』
『『『『『『『それだ!!!!!!!』』』』』』』
途端、チャット内のプレイヤー全員が一斉に賛同した。
シノン『え?』
闇風『それだそれそれ!! 奴が武器を鹵獲して使うなら、扱いに困る変態銃を全員で装備して決勝戦で戦えば、戦うサトライザーも激しく困惑する筈だ!!』
ダイン『さらに言えば、例え誰がやられて武器を鹵獲されたとしても、サトライザーの手元には扱い辛いクソ銃しか残らない! シノン! お前天才かよ!!』
と、あまりに周りが褒め称えるので、シノンは逆に焦って困惑する。
シノン『ま、待って待って!本気にしないでよ! 第一この作戦はそんな変態銃がGGOに実装されているか、そもそもどうやって1日以内でそんな武器を手に入れるかが解決していないわ……』
Korean_11『いや、さっき言った私の知り合いのガンスミスプレイヤーが、GGOの武器を大量にコレクションしているんだ! 多分、その変態銃とやらもあると思うぞ!』
Price『なんなら私の知り合いのガンスミスもそうだ、変態武器の調達源なら幾らでもあるぞ!』
シノン『えぇ……』
シノンは話がとんとん拍子に進んでいくとこに、少しばかり引いていた。初めはほんの出来心と嫌がらせのつもりだったのだが、ここにいるトッププレイヤー達は本気にしているらしい。
銃士X『となると、他にも動作不良の多いクソ銃でもいいかも……!』
Korean_11『それなら、私はK11の状態を悪くして動作不良が起き易いようにするぞ!』
Price『なら私は、最高に状態の悪いL85を用意しよう!』
Korean_11『グレネードも暴発しやすい危ないものに変えて……そんでそんで……ぐへへ……』
闇風『シノンさんはどうする?』
と、シノンの静止虚しく、チャット内は変態銃やクソ銃で武装する流れになってしまった。本当は正々堂々真っ正面から戦いたかったシノンだが、ここまで言われたら逆に合わせない方が卑怯である。
シノン『わ、分かったわ……私もやる!』
闇風『よし! そうと決まれば今夜は徹夜で武器集めだ! 早速そのガンスミスの元に突撃して、変態銃やクソ銃を手に入れよう! コリアンさん、頼めるか?』
Korean_11『任せてくれ! そいつは深夜までログインしているから、アポはいつでも取れるぞ! 場所はここだ!』
闇風『よし確認した、では善は急げだ! 対サトライザー対策作戦、決行だ!!』
『『『『『『『おう!!』』』』』』』
こうして、BOB決勝戦は対サトライザー対策として、出場者全員が変態銃やクソ銃で武装するという、かつて例を見ない可笑しな大会となったのであった……
コリアンさんの外見はドルフロのK11さんです。
GGOにK11みたいなクソ銃って実装されているのやら……
それと、作中に出して欲しい変態銃を募集しております。
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BOB初戦
いよいよBOB決勝大会当日となった。GGOで最も強いプレイヤーを決めるこの大会、その注目度は他のゲームからも厚い。各種ネット媒体から動画配信サイト、そしてVRMMOをテレビやインターネットで繋いでいる番組『MMOストリーム』でもその模様が中継され、最強のプレイヤーが決まるその瞬間を観戦できる。
『さあ! まもなくBOB決勝大会が始まります! MMO史上最もハードなGGOの最強を決めるこの一戦! 皆さん! 準備はよろしいですか!!』
「「「「「「「「「「おおおお!!!!」」」」」」」」」」
『それではカウントダウン! スタート!!』
その様子をGGOにいる仲間と共に見ていたサトライザーは、待機室でそっと準備をする。手には何も持たない、素手で戦い、相手の武器を奪って戦うスタイルで行く。銃社会でも何でもない日本人プレイヤー相手には、これだけでも十分対処できるだろう。
『10! 9!』
この大会に出場してくる日本人プレイヤーでも、彼らは実銃を触れた事のない者ばかり。本物の傭兵であるサトライザーの敵ではない。余裕である。
『8! 7!』
このゲームで合法的にプレイヤーをキルすれば、いずれまた触れることができるだろう。
『6! 5!』
あの時、あの日、自分の手で殺したあの少女の魂に、いずれまた触れられる。
『4! 3!』
その時まで、サトライザーは狩りを続ける。
『2! 1!』
「始めよう」
『0!!』
第四回BOB、開幕である。
◇◆◇◆◇◆◇◆
サトライザーが最初に降り立ったのは、岩場フィールドであった。ここは良いところだ、サトライザーが隠れて敵を待ち伏せするにはちょうど良いし、遮蔽物も多い。
とりあえずは、最初のサテライト・スキャンの前に一人くらいは殺したいところだ。制限時間は15分となるが、サトライザーにとっては余裕だ。
まずは隣の森林エリアに入り、敵をサーチ&デストロイする。敵の動きは心理戦が得意なサトライザーなら先読みできる。素早い動きで移動し始め、森を素手で駆け抜けると、そんなに立たないうちに御目当ての獲物を見つけた。
木の上から見えるプレイヤー名は『Keith』、サブマシンガン使い手で素早いAIG型のプレイヤーである。遠くなので手にしたサブマシンガンがどんな種類か見分けがつかないが、接近戦主体のサトライザーにとってはサブマシンガンは欲しい得物だ。
サトライザーは獲物が木の影に隠れ、こちらに気付いていないのを見計らって突撃した。木という木を掻き分け、枝を飛び越えてほんの数秒で背後に回り込む。
「な!?」
振り向き様にサブマシンガンが放たれようとするが、膝蹴りでKeithを蹴飛ばす。相手がサブアームのハンドガンに変えとうとした瞬間、それを蹴り上げて弾く。そして軍隊式体術で怯ませ、後ろから首を締める。
「ぐ……あが……」
Keithが苦しむ声が聞こえるが、手を緩めるどころかむしろ強める。そうしていくうちにHPバーが減り、あっという間に0になる。そして、DEADのアイコンと共に死体になり、その場に崩れ落ちた。
まずは一人目、サトライザーは喉の渇きのようなものを感じながら決め台詞を言う。
「
そして、素手のこちらの戦力を補うために相手の武器を鹵獲……しようとした時、サトライザーは驚かされる。
「何だこれは……?」
サトライザーはKeithが持っていた武器に対して驚く。西側、東側、ヨーロッパやアジアのありとあらゆる銃器の扱いをマスターしているサトライザーでも、この銃は存在は情報くらいでしか知らなかった。
『RSC 1918SMG』
正式名称はショーシャ-リベイロールス1918サブマシンガン。名前の最初の時点でもう嫌な予感しかしない。
その名の通りあのショーシャ軽機関銃をサブマシンガン化した短機関銃……ではなく、そのベースとなった第一次世界大戦中にフランスで試験的に開発・生産されたセミオート式ライフル「RSC 1917」を同じくベースとした別系統の銃。
……そう、セミオート式ライフルのサブマシンガン化である。作動方式をフルオートにして軽量化しているが、その弾薬はフルサイズライフル弾である。
そんな弾をバイポッド等の補助も無しにコンパクトな銃身でフルオート射撃なんかしたせいで、当然反動が凄まじ過ぎる事になった。狙った所にはまず飛ばない暴れ馬である。
当然ながらテスターになった兵士達からはその凄まじ過ぎる反動を含めて大不評であり、結局は試作品が数丁作られただけで終わっている。
「こんな物を何故……?」
GGOに実装されていたとは知らなかったが、こんな暴れ馬な銃は少なくともBOB大会で使うような銃じゃない。対人戦どころかモブ狩りにも使えないポンコツだ。一体なぜ、決勝大会に出るようなトッププレイヤーがこんなポンコツ品を所持していたのだろうか?
「まあいい」
例えポンコツでも、使い方次第では使えなくはない。マガジン内の弾が9発しかないのが不安だが、サトライザーからしたら当てられなくはない。サブマシンガンにしては威力も高いため、反動を制御できれば使えるかもしれない。
そんな淡い希望を持ってサトライザーは次の獲物を探して岩場フィールドに戻って行った。待機している間にまもなく15分が経つ、まもなくサテライトスキャンの時間だ。いくらサトライザーでも、遠く離れた敵を把握して作戦を立てるにはサテライトは必須だ。
端末の電源を入れ、ホログラムで描かれた全体マップを見遣る。いくつもの光点が移動しながら描かれており、それぞれの光点をタップすると名前が出る。
近くの敵の名前を素早く覚え、次に遠くの名前を見る。闇風やシノンなどはまだ生き残ったおり、二人共5キロ以上離れた場所を移動している。闇風は砂漠フィールドを走っており、シノンは都市フィールドに居るようだ。
「まずはこいつか」
サトライザーは次の獲物を見定め、最も近くにいる一キロ先のプレイヤーに標的を絞る。事前情報は少ないが、それでもサトライザーの敵ではない。
スキャンが終わると同時に駆け出し、手にしたRSC 1918SMGを抱えて走り出す。サトライザーの戦闘の基本はサーチ&デストロイだ。敵を索敵し、見つけ次第倒す。それがモットーである。
そして、岩場フィールドにそいつは存在していた。手持ちのショットガンらしい物体が目を引くプレイヤーで、ショットガンは接近戦タイプのサトライザーにとっては天敵に等しい。
「フッ」
しかし、サトライザーにとっては容易い相手だ。岩陰から回り込み、相手の後ろに立つと気付く前に体術を仕掛ける。
「な!? 後ろか!?」
上からかかと落としをかけ、空中で回し蹴りをして吹き飛ばすと、そのまま反撃の隙を与えずにRSC 1918SMGを放つ。が……
「な、何だこれは!?」
その銃の反動はかなり高く、あっという間に跳ね上がった。弾倉内の9つの弾丸は、しっかり構えて撃ったのにも関わらずあらぬ方向に飛んでいき、敵プレイヤーには1発しか当たらなかった。
「くっ!!」
相手が反撃としてショットガンを片手で何発か放つが、その散弾は全てサトライザーの反射神経で容易く避けられる。そして姿勢を低くしたまま近づき、武器を蹴りで弾き飛ばして無力化。
そして後ろに回り込んで首を締める。力強く締め上げ、相手が抵抗できない体制でHPバーを全て削り切る。そして、DEADのアイコンが出たところで先程のポンコツとおさらばして新しいマトモな銃を鹵獲する……筈だった。
「こいつもだと……?」
サトライザーが拾った銃は、ショットガンにしてはかなり珍しい方式の……只の変態銃であった。
『メタルストーム MAUL』
オーストラリアのメタルストーム社が開発したセミオート式ショットガン。MAULはMulti-shot Accessory Underbarrel Launcherの略で、文字通りライフル等の銃身下に懸下する所謂アドオン式ショットガンである。ピストルグリップと専用のストックを取り付けて単独で用いることも可能。このプレイヤーの場合は単独で用いていた。
さて、この銃がどんな変態銃なのかというとまず弾倉がない。ではどうやって装填するのかと言うとこの銃、バレルの中に直接ケースレスタイプの弾薬が複数装填されており、リロードの際は弾薬が詰まったバレルをまるごと取り外して交換するというとんでもない構造になっている。
そんなバレルでどうやって撃つんだ? と思うかもしれないが、実は電気信号を炸薬に取り付けられたセンサーに送って着火し、バレル先端に込められた弾から順番に発射するという変態機構を使ってそれを解決しているのだ。着火用の電源はトリガーガード前方に収められた乾電池から供給している。
GGO内ではその弾薬のせいで弾代が馬鹿みたいに高く、ケースレス弾のため熱や湿気に弱いという欠点のおまけ付き。暴発の危険性だってある、非常に扱いづらい銃である。
しかも……
「弾が2発しかない……」
本来ならば5発入るが、この特殊な弾倉の内部には2発しか装填されていなかった。先ほどの戦闘で使ったのだろう。相手から拾った武器はサトライザーにはリロードはできないため、我慢するしかない。
「一体なんなんだ……この大会は……?」
サトライザーは疑問を呈する。二人もこんな変態チックな銃を持っているのは一体なぜなのだろうか?そう、今回のBOBはサトライザーが知らない内に変態銃のオンパレードになっていたのだった。
作中に登場する変態銃のアイデアを募集しております。
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ジャイロジェット
サトライザーはあの後、2発しかないメタルストーム MAULショットガンを持ってBOBに出場しているプレイヤー達を追い詰めていくことにした。まずは近い相手から順々にサーチ&デストロイ、サトライザーの戦いはそれが基本だ。
しかし、2度もおかしな変態銃を拾わされたせいか、サトライザーの機嫌は悪かった。ここのプレイヤーは勝つ気がないのか? 日本人プレイヤーはこのBOBでふざけているのか? と内心の呆れも含まれている。
……と言っても、サトライザーもナイフどころか何も持たないで格闘戦を行うのはあまりにも日本人プレイヤーを舐めているとしか思えないのだが、それは言わない約束だ。
「いた」
三人目の獲物を発見した。彼は木製ののっぺりとしたライフルを携えており、腰にはハンドガンも携えている。まだこちらには気付いてない、絶好の獲物だ。
サトライザーは一気に駆け出し、木々を伝って上から仕掛ける。ツタを掴み、音もなく静かに後ろから激しい蹴りを入れる。
「ぐわっ!!」
相手はライフルを落とし、激しく蹴り飛ばされて近くの木に背中から突っ込む。着地する前に宙を舞ったライフルを拾い、転がったプレイヤーに向けてキャリングハンドルから覗く標準からフルオートで放つ。
しかし、銃声がならない。それでも弾は何発も着弾し、プレイヤーを襲う。そして、すべての弾丸を撃ち切ったところで弾が切れ、ライフルを捨てた。
「銃声が鳴らなかっただと?」
何かあったのか意味不明だが、これでこのプレイヤーは死亡したであろう。木に打ち付けられて、まもなくDEADのアイコンが……出なかった。
「!?」
そして、至近距離まで近づいたサトライザーに向け、一つの拳銃が向けられる。リボルバーであった、しかしその銃のシリンダーには謎の溝が彫られており、ただのリボルバーではない事は明白だった。
『ウェブリー・フォズベリー』
こいつはオートマチックのリボルバーという意味不明な銃だ。オートマチック拳銃が出始めたばかりの頃に誕生した銃で、リボルバーの利点とオートマチックの利点を吸収しようという魂胆で作られた。
要は射撃の反動を利用してシリンダーの回転とハンマーのコッキングを行うというトンデモ拳銃。射撃を行うとその反動で銃の一部が後退し、シリンダーに彫られた溝に沿ってシリンダーの回転とハンマーのコッキングが行われるのだ。
しかし、構造が複雑でリボルバーの利点である「構造が簡単」という点を殺してしまった上、オートマチック拳銃として見ても装弾数が少ないなど中途半端。しかも、肝心の溝に汚れがつくと動作不良を起こすという欠陥だらけの銃だった。
しかし、その銃は今回ばかりはきちんと作動した。それも、サトライザーの不意をついてきっちりと頭を狙って弾丸が放たれる。
「くっ!!」
それを横に転がるように避け、再びそのプレイヤーに近づく。相手はそのまま6発全てを打ち込むようで、ウェブリーを連射してくる。それを避け、木々を蹴って上に飛び上がる。
そして、手に持ったメタルストームMAULショットガンの2発中1発の散弾を、着地と同時にプレイヤーの顔面に撃ち込む。ヘッドショット判定で大ダメージを喰らい、相手プレイヤーに今度こそ DEADの印がつく。
「ハァ……」
まさか、あれだけライフル銃の弾丸を受けたにもかかわらず死んでいなかったとは。あれは初めからやられたフリをして、こちらを不意打ちする流れだったのだろう。してやられた。
そして、先ほどのプレイヤーが持っていた木製のライフル銃を見ると、先ほどの乱射で倒せなかった理由が分かった。
『ジャイロジェット・ピストル』
世界初、そして世界唯一最初で最後であろうロケット式ピストル。その名の通りロケットの弾丸を発射する拳銃である。
銃弾をロケット化することのメリットとしては2つある。射程延伸と静音化だ。 前者は言うまでもない。爆圧で放り出すのと違い、銃弾自らが推進器を兼ねるのであれば、飛翔中も加速できる。 もうひとつの静音化だが、装薬の爆発音がしなくなるので、銃声がだいぶ小さくなるのだ。先ほど銃声がしなかったのはこれのせいである。
とまあ、ロケット弾丸はかなり聞こえはいいが、実際は大失敗した。
まずテストでは至近距離で鉄帽を撃ち抜けなかった。これはロケット式の弾丸のため加速するまで時間がかかり、至近距離だと初速が遅すぎて意味をなさないからである。先ほどこの銃を撃ちまくっても相手プレイヤーが死ななかったのは、これのせいである。
おまけにロケット弾丸は14メートルも飛べば推進剤を使い切り、300メートル程度で落下してしまう。 有効射程に至っては驚愕の50メートル程しかない。
いや、厳密に言えば近すぎても意味ないため、有効射程は「何メートル以上、何メートル以内」というシビアすぎて使い辛い代物。そして、何より精度も悪い。
ちなみに、この銃はセールスの仕方も酷く、こいつを購入して蓋を開けると、出てくるのはバラけた部品である。
要は「今月号の付録はSFチックなハンドガンの組み立てキットです!さあ組み立てましょう!」である。それが市販のガバメントとほぼ同じ値段で買わされるのだ。誰も買わない。
さらに言えば、ピストル本体はプレス成形の左右貼り合わせ式モナカ割りで、各種部品を組み込んだ後にはめ合わせ、ネジ止めして完成。 夜店の景品でもお目にかかれない低レベルさである。
そして、この銃は開発者の二人の男による「現用の銃弾を全てロケット弾丸に変えて利権でウハウハするぜ!」という野望に則り、ライフルモデルも作られている。それが、先ほどサトライザーが撃った木製ののっぺりとしたライフルであった。
「また変な銃を……」
存在は知っていたが、まさかゲーム内でこんなポンコツを使う奴がいるとは思っていなかった。それどころか、GGOに実装されていることすら今日まで知らなかった。
そのあとは、いつも通りその武器も鹵獲しようとしたが、サトライザーは止めた。ウェブリーにジャイロジェット、あまりに使いづらくポンコツすぎる銃のため鹵獲したら足かせになる。
いや、むしろ日本人プレイヤー達はこうやってサトライザーを邪魔するためにこんな装備にしたのでは? と疑うレベルである。あんな扱いづらい銃、2度と使いたくない。
幸いにもメタルストームMAULショットガンの弾はまだ1発分残っているため、これだけでもう一人を殺す事は可能だ。
サトライザーはそう心を入れ替え、新たに走り出した。
作中に登場する変態銃のアイデアを募集しております。
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ビラール・ペロサ
サトライザーは三人目を殺し、1キロ先にいる別のプレイヤーを狙う。メタルストームMAULショットガンの弾薬は残り1、それが切れたら体術で殺すしかない。
「あいつは……」
しかし、今度の相手はその体術ではうまく行かなそうだった。名前は《シシガネ》、ステータスをVITに極振りしているプレイヤーで、強力な対実弾ボディーアーマーを着込んでいる。体術で殺すのは、首元が固くて無理そうだ。
「なら……」
至近距離に近づき、ボディーアーマーを避けて隙間にショットガンの弾を浴びせる。それが一番だろう。サトライザーは作戦を立ててシシガネの後ろから飛び出す。
「シッ!!」
一気に距離を詰め、後ろから首元の薄い場所目掛けてショットガンを向ける。しかし、まだ撃たない。確実に仕留めるためにゼロ距離から放つつもりだ。
「!!」
と、シシガネが至近距離に近づかれたところでサトライザーに気が付いた。しかし、もう遅い。この距離はサトライザーにとっては必殺の距離で、とんでもないレートで弾幕を張られない限り近づくことは容易だ。
シシガネに向かって走るサトライザー、その口元には勝利を確信していた。しかし、シシガネは手に持ったサブマシンガンを……とんでもないレートで連射してきた。
「!?」
バレットラインが無数に伸びていき、サトライザーを捕まえる。そして、
脅威だと感じたサトライザーは一旦距離を取り、手を地面に着いた横ステップで弾幕を躱していく。そして、大きめの岩に隠れたが、サトライザーのいる岩に向けて無数の弾幕が放たれ……なかった。相手はリロードに入ったようだ。
「あれは……?」
サトライザーは岩陰からそのヘンテコ銃を見遣る。そこには、シシガネの装備重量ギリギリの短機関銃が、しっかりと握れていた。
『ビラール・ペロサM1915』
当初は航空機用機関銃として設計されていた、世界初の拳銃弾を用いるイタリア製の機関銃。特異なのはその見た目で、上向きにマガジンが刺さった銃身を2つ連結したような見た目となっている。
つまりは、銃身が2つなら火力も2倍だぜヒャッハー!!である。馬鹿じゃねぇの?
発射レートは驚愕の毎分1200~1500発。マシンピストル並であり、左右を合わせると毎分3000発相当となる。
しかし、拳銃弾のため航空機に対しては威力でも射程でも十分ではなく、逆に地上では銃床とグリップがなく、発射レートも過剰であった為に問題だらけであった。
しかし、拳銃弾を使う機関銃は後の短機関銃につながり、この銃は後に分解されて「ベレッタM1918」という短機関銃に転用されることになった。
「くそっ……あんなゲテモノ……! 装備重量的に無理だろ……!」
二本束ねた銃の為、結構重い。シシガネにとっては装備重量がギリギリだが、いつも付けていた高出力の防護フィールドを装備しない事で解決させていた。サトライザーは武器を鹵獲して使う、となれば光学銃を持っているプレイヤーはいないため光学銃は使わない。という事で、今回のプレイヤー達は皆防護フィールドは付けていない。
「こちらに来るか……」
シシガネはサトライザーがまだ隠れていると見計らっているのか、こちらに段々と近づいていっている。それに対し、この岩はかなり大きな一枚岩でこのままいけばシシガネの後ろに回り込める可能性もある。
「裏を取ってやる……!」
サトライザーは岩陰を伝ってシシガネの上の大きな岩に回り込む。全て一枚で繋がっている岩なので、バレずに簡単に移動できた。相手のシシガネはまだサトライザーが先ほどの岩陰にいると思っている。
「シッ!!」
サトライザーは上から仕掛ける。両足で首元を挟み込み、回して転ばせる。するとシシガネは転んでゲテモノ銃であるビラール・ペロサを落としてしまう。なんとかもがこうと、拘束されても暴れ続けるシシガネ。その首元に、最後のメタルストームショットガンの弾丸を向ける。
「ゼロ距離なら……!」
サトライザーはショットガンの引き金を引く。シシガネは急所に散弾が当たった事でHPを全損し、糸が切れた人形のようにブッツリと動かなくなった。
「ハァ……ハァ……」
これで四人目、先ほどからやはり変な銃を持ったプレイヤーにしか会わない。サトライザーは弾が切れたショットガンを捨て、シシガネが落としたビラール・ペロサを拾う。弾はフル装填されているので、この銃は重要な戦力になるだろう。
「重い……」
……唯一、重いのが欠点だが。しかし、発射レートにモノを言わせて至近距離から弾幕を張ったり、牽制目的に使うのも良さそうだ。
さて、そんなことしている間に二回目のサテライトスキャンが間も無く始まる。サトライザーは気を背もたれにして腰掛け、サテライト端末を開いていた。ホログラムで表示されるマップに、間も無くサテライトスキャンが始まるカウントダウンが鳴っている。
決勝戦開始からすでに30分が経過している。そろそろ他の場所でも戦闘が起こって数が減っていることであろう。その合間を縫ってサトライザーはここのプレイヤー達を全滅させる。それだけである。
そして、いよいよサテライトスキャンが開始された。マップに光点としてプレイヤー達が表示される。その数……サトライザーを含めて26人である。
「は?」
いや待て、思わずそんな声が出てしまう。大会開始から30分が経っているのに、まだ4人しか減っていないではないか。それも、おそらくは先ほどサトライザーが倒した変態銃持ちのプレイヤーだろう。
となると、ここのプレイヤー達はまだ一人として殺し合っていないということだ。いや待て、絶対おかしい。30分掛かってサトライザー以外がプレイヤーをキルしていないなんて
点が重なっているプレイヤーも多数いる。特に、「立てこもリッチー」こと獅子王リッチーの場所には、四人も固まっているではないか。それなのに、殺し合いが起きていないという事は……
「まさか……」
まさか、サトライザーを倒すために全員が結託したのか? まさか、サトライザーを困らせてBOBでサトライザーだけを倒すために結託したのか? それなら、今までの4人がおかしな銃を持っていたのも頷ける。
「まずい!」
サトライザーはサテライトスキャンが終わる前に端末をしまい、とにかく駆け出した。先ほどのスキャンで、プレイヤーが6人ほどサトライザーに向かって移動し始めたのを見たからだ。
「日本人め……! そこまで第一回がトラウマなのか……!」
たしかにサトライザー自身でも、第一回はやり過ぎた気がする。あまりに無双し過ぎたせいで、運営から出禁を食らったくらいである。
「面白い……全員殺す!」
全員が手を組んで敵になったのなら、サトライザーはここのプレイヤーを全員殺すだけである。闘士が燃える、このいじめのような環境でサトライザーはむしろ燃えていた。
……と威勢よく言ったものの、もし仮にここにいるプレイヤー全員がおかしな銃を持っていたら、流石のサトライザーでも勝てるかどうかは怪しい。
サトライザーが現実で使ったことのないような、馬鹿みたいな銃やゲテモノ銃、そして使えないポンコツ品ばかりだった場合、果たして勝てるかどうかである……
作中に登場する変態銃のアイデアを募集しております。
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頭のおかしな拳銃達
サトライザーは周りに六人のプレイヤーが集まってきている事をサテライトスキャンで知り、とっさに鉄橋を渡って森林エリアに舞い戻った。
ここなら遮蔽物が多くて、ゲテモノ銃でもそうそうたやすくは撃たれない。たとえ近づかれたとしても、手に持ったビラール・ペロサで蜂の巣である。
「来たな……」
いよいよ、一人目のプレイヤーがやって来た。冴えない顔立ちの、迷彩服の上にコートを羽織った灰色のプレイヤーで、みたところ武器は見えない。
しかし、だからといって油断はできない。ここまで変な銃ばかり出てくるとなると、どんな武器を隠し持っているかわかったモノじゃない。もしかしたら、隠密性に優れた拳銃を隠し持っている可能性もある。
しかし、そのプレイヤーはサトライザーに気付いておらず、だんだんと近づいていっている。これはチャンスだ、武器を持たれる前に一瞬で殺す。
「ッ!!」
サトライザーはビラール・ペロサをその場に置いて、素早く飛び出す。その音に気づいたのか、そのプレイヤーもやっとの事で武器を取り出した。
「は?」
思わず、そんな声がサトライザーから出てしまうほど、その銃は狂気に満ちていた。二丁拳銃かと思いきや、それは連結されていたのだった。
『ドッペルグロック』
銃を二丁繋げれば火力も二倍だぜヒャッハァ!!!!!(二度目)
なんとグロック拳銃二丁を向かい合わせに繋ぎ合わせただけの狂気の変態銃。映画やアニメ等で二丁拳銃を撃つ際、グリップを外側に向けつつ水平に構えるお洒落なスタイルで銃を撃ちまくるシーンを一度は目にしたことがある人は多いだろう。が、この銃はそれ以外の構え方を許さない。
なんでも、2丁のグロックを同時に撃てばスライドの反動が相殺し合って高精度の射撃ができる……という理屈らしい。連結のための金具の上には20ミリピカティニーレールが設置されており、ここにダットサイトを取り付けられる。
そのドッペルゲンガーが二丁同時に放たれ、サトライザーを襲おうとしてくる。奴も拳銃の使い方に関しては上手いようで、照準器を介して放たれるバレットラインはサトライザーを上手く捉えていた。
「くっ!!」
バレットラインを頼りに横に跳び除け、最後に3回転ジャンプで飛んで避ける。着地する頃には相手の後ろに回り込んでおり、そのまま首を折る。
「ぐへっ!」
急所を折られたせいでHPが全損し、そのプレイヤーは死亡した。バタリとドッペルゲンガー持ちは倒れる。
「そういえば……」
一つ言っていないことがあった。先ほどまでの戦いでは変態銃に気を取られて言うべきことを忘れていたので、改めて言い直す。
「
と、最後まで言おうとしたその時、サトライザーの顔の横に弾丸が放たれた。それに気づいた一瞬、サトライザーは顔を後ろに倒してその弾を避ける。そして、後ろに一気に倒れ、横にゴロゴロと転がる。
「消音銃か……!」
サトライザーはどこから放たれたか分からない弾丸から身を隠し、とにかく危機から逃れる。サトライザーは彼の姿を見ておらず、何処にいるかの検討はついているが正確な位置まではわからない。
そんな彼を狙撃したのは、緑色の迷彩服に身を包んだプレイヤーが持つ、暗殺業に向いた消音拳銃であった。
『ウェルロッド』
サイレンサーと一体化した消音ボルトアクション式拳銃。製造したのはあのイギリス。いつもの英国面。
静粛性の高い隠密用拳銃を作ろうとした結果、スライドの作動音が問題になり、ボルトアクションで一発一発手動で装填と排筴を行う方式になった。グリップは弾倉も兼ねていて、携帯時は取り外すことでコンパクトに収めることができ秘匿性を高めるとされた。
銃身には複雑な構造のサプレッサーが内蔵されており、発射ガスを受け止めるだけでなく弾丸を亜音速まで減速させることで衝撃波の発生を抑えて極限まで発砲音を消す事ができる銃だ。
GGOでは狙撃銃と同じく、初弾のみバレットラインが出ないで撃つことができるユニークな拳銃として使える。しかし、そのボルトアクション式の為連射が効かず、拳銃なので至近距離でないと当たらないという欠点もある。
「くそっ! 外した!!」
相手のプレイヤーは冷静になってヴェルロッドのボルトアクションを引く。そして再び木の上からヴェルロッドを構える。
「いない? どこだ!?」
と、そうしているうちにサトライザーは相手プレイヤーの下側から回り込み、ジャンプで木にぶら下がる。相手プレイヤーがサトライザーの存在に気づいた時には木の上の袖を引き、高い木の上から地面に叩き落とした。
「ぐわぁっ!」
地面に勢いよく叩きつけられる相手プレイヤー、サトライザーは先ほど捨てたビラール・ペロサを拾って持ち直し、片方のトリガーだけを引いて至近距離で撃ちまくる。
「嘘だろ!?」
しかし、相手はBOB決勝にまで勝ち進んできた凄腕プレイヤー。すぐさま横ステップで弾幕を避け、サトライザーにむしろ近づく。
「こっのぉ!!」
相手プレイヤーは金色のナックルダスターを取り出して構え、サトライザーに殴りかかる。しかしそれは、普通の近接武器としてのナックルダスターではない。
『アパッチ・ピストル』
拳銃+ナックルダスター+ナイフの機能を合わせ持つ拳銃版万能ナイフ。銃として使う際にはナックルダスター部がグリップになる。
携行性に特化させた為銃身が存在せず、有効射程が異様に短いという銃として見れば致命的な欠陥を抱えているが、ナイフにもナックルダスターにも出来て携帯も隠蔽もしやすい造りがウケ、兵隊や警察には向かない一方で、悪い大人達(要はギャングやゴロツキ)には大人気になってしまった。
喧嘩しながらいざという時は至近距離でバーン!だの、すれ違いざまにバーン!だの、悪い大人達による悪い扱い方のせいで悪い意味で有名になった。
今回のプレイヤーはナックルダスターとしてそのまま殴って来た。普通に銃として使うよりも、近接攻撃にアドバンテージが掛かるナックル形態の方がいいと判断したのだろう。
しかし、相手はあのサトライザー。拳を避け、重たいビラール・ペロサを捨て、相手プレイヤーの腕を掴むと軍隊式格闘術の要領で思いっきり投げ飛ばした。
「グヘェッ!!」
そして、こいつが持っていたアパッチを奪うと一瞬で銃に変形させて、頭めがけて弾丸を発射する。相手プレイヤーはHPを全損し、沈黙した。
しかしまだ油断はできない、半分ほど弾の残ったビラール・ペロサを拾って逃げ出す。その道中を、幾つものバレットラインと弾丸達が通り過ぎていった。
三人目のお出ましだ。相手はマシンピストルを持っており、それを両手で二丁拳銃スタイルで持ってサトライザーに当てようとする。しかも、相手の銃からは薬莢が出ていない。
『VAG-72/73』
1970年代のソ連で開発された試作型拳銃。この頃のソ連は来る冷戦を見据えてか、よく言えば先進的で独創的、悪く言えば頭のおかしい兵器武器を大量に研究開発していた。
その状態は正に闇鍋状態であり、これは後のAN-94アバカンが出てくる『アバカンプロジェクト』まで続く事になる。
さてこの銃の実態は、ケースレス弾を使った拳銃である。かの有名なケースレス弾を使う小銃『G11』が出る前なので、恐らくケースレス弾を使用する銃器としては世界最古。
ケースレス弾だがG11のように炸薬で撃ち出すのではなく、何を考えたのかあのジャイロジェットピストルでも散々な結果に終わったロケット式弾薬を使用。しかも装弾数を増やすために複列弾倉にしたのは分かるが、何を思ったか左右2列ではなく前後二列。そして仕舞いには安全装置無し。
これだけでも狂気の産物と言う他無いが、このプレイヤーが持っていたのは改良型のVAG-73。なんと、フルオート射撃機構が備わっている。
「食いやがれ!!」
相手プレイヤーは立ち止まって二丁のVAG-73をフルオートで連射する。バレットサークルが大変な事になっているが、それも気にせずにサトライザーを仕留めるために撃ちまくる。
その合間を縫い、サトライザーはビラール・ペロサで牽制し、相手に弾丸を当てる。そして、怯んだ隙に素早い動きでそのマシンピストルの射程の間に入った。照準が追いつかず、弾はサトライザーのいた場所を通過していく。
そして、弾が切れたと同時に首根っこを掴み、思いっきり膝蹴りを喰らわせる。大きく吹っ飛んだプレイヤーが、再び立ち上がろうとする隙を与えずに腕を掴んで投げ飛ばす。
「!!」
そして、同時にある事に気づいた。それと同時にサトライザーは投げ飛ばしたプレイヤーを首を掴んで持ち上げ、即座に盾にした。
プレイヤーは胸に弾丸が当たり、そのたったの一撃でHPが粉砕された。それと同時に一人の大きな銃を抱えたプレイヤーが突撃してくる。
「なんだあれは!?」
思わずサトライザーも驚くほど、そのプレイヤーが構える銃は巨大で狂気に満ちていた。
『パイファー・ツェリスカ』
全長550ミリ、重さ6.0キロのクソでかい鉄塊。
もはや拳銃と言っていいのかどうかわからないブツだが形だけなら曲がりなりにも拳銃。現実での価格は1丁200万円ほど。GGO内でも高く、値段は対物ライフルの3分の2。
世界最強の拳銃として認知された本銃だが、本銃で使う.600.N.E.弾のエネルギー自体は12.7ミリ弾の半分ほどに収まっているため、単発の威力では劣っている。しかし、これは装弾数5発のリボルバー。総合的な火力ではやはり最強の拳銃である。こんなモノをまともに撃てるならの話だが……
このプレイヤーはサトライザー対策の会でガンスミスの下、様々な変態銃から自分の銃を選ぶ時にこれに一目惚れした。デカイ銃、デカイ弾、そしてデカすぎる反動。筋肉モリモリマッチョマンがプレイスタイルのこのプレイヤーには、これ以上無いくらいぴったりの代物であった。
それ以来今まで鍛えたSTR値とVIT値にものを言わせ、これ以外の武器を装備せずにサトライザーと戦う事にした。6キロという重量だが、もっと重い銃はいくらでもある。拳銃とはいえない代物だが、GGOでは持って走れなくは無い。
「喰らえ!!」
そして、そのプレイヤーは両手で持ったパイファー・ツェリスカの引き金を引いた。巨大な爆炎と強烈すぎる反動が彼を襲うが、必殺の弾丸はサトライザーに向かって放たれる。
それを、ギリギリのタイミングで避けたサトライザー。外れた弾丸は後ろの木の幹を根元から粉砕し、強烈なソニックブームがサトライザーの顔を伝う。
「くそっ!!」
あまりに規格外の銃を使う相手に舌打ちしながら、2発目のバレットラインを避けようとするが、相手は正確に照準を定めてくる。避ける暇はない、なら──
「うわっ!!」
その銃口を掴み、無理矢理に射線をずらす。強烈な弾丸が暴発気味に放たれ、仮想の耳と目を揺さぶる。その弾丸は、それを持っていたプレイヤーに放たれて頭をポリゴンの塊として粉砕した。あまりにオーバーキルなDEADがつくと同時に、サトライザーは一息つく。
「くそっ……なんなんだこいつらは!?」
こんな変態銃を使いこなして襲ってくるなんて想像つかなかった。BOBに出場出来るとはいえ、相手は実銃を触ったことのない日本人。サトライザーの敵とは思っていなかった。日本人プレイヤー達が、サトライザーにとって扱いに困る変態銃でしか武装していないなんて、完全に想定外だ。
にしても、相手が結託している事はさっき知ったが、それでも一体誰がこんな変な銃を集めて俺をいじめるアイデアを思いついたんだ? と、サトライザーはこのアイデアを思いついたプレイヤーに対して、かなり恨み気味だった。
最も、サトライザーはこの状況が、これから相手にするとある氷の狙撃手のアイデアのせいだとは、全く勿論知る由もない。
サトライザーはひとまずこの
さて、このパイファー・ツェリスカの話に戻るが、気づいた読者の方もいるかもしれない。この拳銃はとんでもない代物だが、ここまで一言も世界最大とは言ってないことに。
「?」
と、サトライザーの超人的な感覚が何かを感じ取った。それは殺意か、はたまたこちらを見定める狩人の目か。そして、遠くの岩場でマズルフラッシュが見えたかと思うと、サトライザーは駆け出した。そして、そのサトライザーがいた場所を、強烈すぎる弾丸が地面ごと抉った。
「ぐわっ!!」
この大会で初めてそんな声を出した。サトライザーは地面をゴロゴロと転がり、体を打ち付けられる。
「なんだ今のは!?」
サトライザーは伏せながら思わずそう呟く。その元凶は、相手のプレイヤー二人が遠くの岩場で対物狙撃銃として運用している
頭のおかしい拳銃達は、サトライザーに猛威を奮い続ける。
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拳銃はパワー!
「外した!」
「焦るな、撃発を引いて次弾を装填しろ!」
岩場の影で
『トビーレミントン』
とあるガンスミスが作ってしまった世界最大の拳銃。ベースは南北戦争頃に開発されたシングルアクション式リボルバーのレミントンM1859。
その大きさはなんと全長1260ミリ、口径は28ミリ、弾頭重量は136グラム、総重量は約45キロという、もはや「拳銃」と呼んで良いのか怪しいほどの代物。ちなみにこの銃の名前は製作者の名前から取られている。
GGO内ではあまりの威力と射程距離から対物ライフルの一つとして実装されているが、重量が大き過ぎるため使うプレイヤーはおらず、オークションでも安値で取引されていた。この二人のプレイヤーは、それを拝借したのだった。
重量が大き過ぎる為、この二人のプレイヤー達は二人でパーツを一個一個分けて運んで来た。ランダム配置の中、二人が合流できるかどうかは賭けであったが、サトライザーにとっては運悪く成功してしまった。
そして、先ほどのサテライトスキャンで位置を割り出して森に突撃、他の四人のプレイヤーが戦っている隙に組み立てたのだ。ご丁寧に、狙撃銃として運用するために双眼鏡を取り付けて即席のスコープとしている。
その姿を陰から双眼鏡で確認したサトライザーは、想定していた戦術が完璧に崩れたことを悟った。あの
「やるしかないか……!」
サトライザーは狙撃手対策の訓練をリアルでした事がある。しかし、そのセオリーのほとんどは『カウンタースナイプ』と呼ばれる狙撃返しであることを見れば、今からサトライザーがやろうとしていることは無謀に近い。
サトライザーは背負ったパイファー・ツェリスカをベルトで背中に抱え、腰から切り札のスモークグレネードを置いた。スモークが炊かれ、相手の狙撃手から見えなくなったのを見計らい、今度は普通のグレネードを後ろに思いっきり投げる。
「行け!」
相手の狙撃手もそれに気づいたのか、グレネードに向かって照準を合わせる。彼は狙撃スキルが案外高く、巨大過ぎる銃であってもその照準を合わせるのに時間は掛からなかった。
「!!」
自分に向かってきたグレネードを1発で粉砕し、巨大な爆発が目の前を覆う。慌ててスコープ代わりの双眼鏡を暗視モードに切り替えるが、その頃にはサトライザーの姿はどこにも居なかった。
「やられた! レンジに入られるぞ!」
「任せろ! 必ず仕留めてやる!」
狙撃手『雷電』の観測手を務めていたプレイヤー『リココ』は、こう言う時のためにサブの武器も用意していた。腰から取り出したるは、グリップが完全に手にフィットする形をした……銃が逆さまに突いている拳銃である。
『MC-3』
この銃の特徴は、なんといっても銃が上下逆である事だ。これだけではなんのことか分かりにくいが、ソ連で作られた射撃競技特化拳銃、それがMC-3である。
モデルとなったマーゴリン社の競技用ピストルのフレームを切断、上下を逆にして新しくグリップを取り付けるという奇妙な設計の銃を生み出した拳銃である。
そもそも銃口の跳ね上がりとは銃身の延長線が重心を通っていない為に発生するものであり、銃身と腕が一直線上にあれば跳ね上がりを大きく抑えることが出来るのだ。
この銃の場合、構えると銃身が人差し指より下に来るため、理論上は跳ね上がりをゼロに抑えることが出来る。
その目論見は見事に成功して、なんと1956年のメルボルン夏季オリンピックにてこの本銃を使用したソ連チームが銀メダルを獲得、その他国内外の様々な競技会で記録を塗り替える大活躍を遂げた。
しかし、その後は「銃身の軸は手首上部より下に来てはならない」という、こいつを狙い撃ちしたルール改正によって短い天下となった。
GGOでもその反動の少なさは再現されており、さらに競技用拳銃である事から命中精度も高い。幸い、ここの岩場は森から露出しているため、サトライザーは遮蔽物の少ないこの場所を通って近づかなければいけない。
それまでに、二人の使っているサブアームで仕留めるしか方法はないだろう。しかし、サトライザーは必ず後ろから来る。そう読んでいたからこそ、勝機は見えていた。だが──
「!?」
リココの後ろにいた雷電が、いきなり足元を掴まれる感覚を覚えた。それが、後ろからではなく真正面から壁を登ってきたサトライザーだと知る間も無く、足を引かれて岩場から落とされる。
「うわぁっ!」
「おい!」
リココも気付いたが、もう遅い。雷電は足元を掬われて20メートルはあろうかと言う岩場から落とされていた。そして、サトライザーは撃鉄の引かれたトビーレミントンの引き金を、雷電が銃口に重なる瞬間に引いた。
「ぐえっ!!」
必殺の大口径拳銃弾は、雷電の上半身と下半身をおさらばさせ、遙か後方に吹き飛ばす。ついでにサトライザーは、残った雷電の下半身から飛び出した一つの銃を掴み、崖に駆け上がる。ここまで僅かコンマ一秒の出来事だ。
「こいつ!」
リココがMC-3を放つが、中距離用にカスタマイズされた競技用拳銃は至近距離にいるサトライザーには不利であった。
限界レンジまで近づかれたリココは、なんとかサトライザーに弾丸を当てようとするが、その前にサトライザーは上に飛び上がる。そして、銃を持った左手に向かって先ほど雷電から奪った
『サンダー.50BMG』
Triple Action社が技術デモンストレーション目的で開発した試作拳銃。
この銃が放つ弾は50口径弾。つまりは、バレットM82やヘカートⅡ等の対物狙撃銃や、M2といった重機関銃に使用される12.7ミリ超大口径実包だ。つまりこの銃は対物ライフル用の弾を拳銃で発射しようという狂気の発想で作られたゲテモノ銃なのだ。
そのためマガジンは無く、銃後部の蓋を開いてチャンバーに直接弾を込める。つまりは、かのトンプソンコンテンダーのように一発一発装填と排筴を手動で行わなければならないという超時代錯誤な銃である。
雷電がその名に肖ったこのゲテモノ銃を持っていたとは予想もつかなかったが、サトライザーはこの銃のことを存在だけ知っていた。あまりに強い反動で、よく訓練された屈強な兵士でも、油断すれば凄まじい勢いで跳ね上がった銃身が射手の顔に激突する事態になるという。
しかし、今回サトライザーは空中でそれを撃った。それも横向きに。するとどうなるか? 反動で跳ね上がった銃口が、サトライザーの空中回転をサポートしたのだ。
「ぐわぁっ!」
左腕を吹き飛ばされたリココは、そのままトビーレミントンの方向に倒れる。が、そこは伊達にBOB本線に出場したプレイヤーだ。すぐさま受け身を取って、右手であるものを掴んでサトライザーに向かって振り回す。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
着地したサトライザーは、それに気づいて慌てて背中に回したパイファー・ツェリスカを盾にする。大きな質量を持った鈍器を、その硬い銃で受け止める。
「トビーレミントンをハンマー代わりに!?」
その鈍器の正体は、先ほど狙撃をしていたトビーレミントンであった。その重量は45キロ越えであり、フルスイングをまともに食らったら内臓が飛び出そうだ。
「くっ!!」
いくらパイファー・ツェリスカが、巨大な弾を打つために頑丈になっているとはいえ、さすがにトビーレミントンの重量には耐えきれない。このままでは押し切られる。
そこで、サトライザーはツェリスカを剣術の受け流しの要領で滑らせる。重いトビーレミントンはそのままするりと抜けていき、リココの目の前にはツェリスカの銃口が……
「
強烈な一撃が、重さ6キロの鉄塊から放たれる。爆発音にも似た銃声は、リココを丸ごと吹き飛ばし、ポリゴンと化して殺した。爆圧から出てくる煙と熱に耐えながら、目眩がする視界を持ち直す。
やっと、この森に集まっていたプレイヤーを全員倒し切れたようだ。サトライザーは疲れた体で腰を下ろし、一息つく。
この戦場は、サトライザーの軍人としての知識がほとんど役に立たない場だ。サトライザーが使ったこともないような変態銃たちが、こぞって集まってきている。次また変な変化球を喰らったら、いよいよ勝てるかどうか怪しい。
「とにかく生き残って全員殺す……」
サトライザーは新たな決心を心に秘め、近くにいるプレイヤーから倒すことに決めた。必ず生き残る、今度はどんな変態銃を使っているか見当もつかないが、恐怖を押し殺して勝ち残る。
全ては、このイカレた大会を終わらせる為に……
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番外編:変態銃の反応
『BOB開催まで後わずかとなりました! さあ、GGO最強プレイヤーの称号はだれの手に!?』
BOBが始まる少し前、総督府の一角のカフェにて多くのプレイヤーが集まってBOB決勝戦の開催を楽しみにしていた。カフェではプレイヤー達の名前がずらりと並び、誰が勝つかの賭け事が行われている。
「なあ、聞いたかあの噂?」
「ああ、知ってるぞ。あのMMOストリームの猫耳司会、実は男なんだってな?」
「ちげーよ! そんな話してないわ! てか、どこ情報だよ!?」
「大丈夫大丈夫、俺は男の娘でもイケる派だから」
「オメーの性癖なんか知らねぇよ! そうじゃなくてBOB決勝戦の事だよ!」
あまりに突拍子もない事を友達プレイヤーが言うので、噂好きのプレイヤーは話の路線を戻す。
「掲示板でこんな噂があったんだ。あくまで釣りレスかも知れねぇけど、なんでも今回のBOBにはあの《サトライザー》が出場しているらしいぜ?」
「サトライザー……ってあのサトライザー?」
「ああ、第一回BOBをナイフとハンドガンだけで無双した、伝説のプレイヤーだ。海外からの参加者みたいで、極近接戦や軍隊式格闘術で日本人プレイヤー皆殺しにして出禁食らった奴だよ」
サトライザーの事は、GGOの日本人プレイヤーからは『舐めプをした害人』扱いされると同時に、半端伝説となっていた。
「なんでまた? サーバーは
「そこは謎なんだが……ま、日本に来てログインしているとかだろうな。とにかく、そのサトライザーって奴は、また参加している。それも、昨日のBOB予選大会ではナイフも一切持たずに素手だけで勝ち上がってきたそうだ」
「素手だけで!? なんて舐めプだよ……」
BOB予選大会の事はすでにネット上で話題になっており、誰もがサトライザーの再降臨だとしきりにもてはやしていた。スレッドや動画投稿サイトは議論で荒れに荒れ、来るBOB決勝戦がどうなるのか期待されていた。
「時には、相手の武器を奪って撃ちまくる、なんて事もあったそうだ」
「えげつねぇ……」
「ま、参加者にとっては願ってもない来客だろ。あの伝説のサトライザーにリベンジ出来るんだからな」
「ああ、FPSの本場はアメリカでも、《ザ・シード》を生み出したのは日本人だからな! 頑張ってほしいぜ!」
男の娘好きのプレイヤーは、そう言ってBOB決勝戦出場者達にエールを送る。届いたかどうかは知らないが、彼らならなんとかなるであろう。
「あ、噂といえば……」
「ん? どうした?」
男の娘好きのプレイヤーは、思い出したかのように話し始める。
「なんか……あくまで噂なんだが、昨日の深夜に優勝候補の《闇風》や《シノン》が、変なガンショップに行っているのを見たって……」
「は? 闇風とシノンが二人で?」
「いや、それどころか30人くらいのプレイヤーが集まってそのガンショップに入っていったんだ。そいつら全員、今回のBOB決勝戦の参加者なんだよ」
「なんでまた……今更装備調達か?」
「いや……実はその店はいわく付きでな……」
新たな噂を開始したプレイヤーは話を続ける。
「なんでも、普通の銃も売ってるんだが……店主のプレイヤーのコレクションなのか知らねぇけど、変態銃が大量に置いてあるんだ」
「変態銃?」
「あー、変態銃ってのは……要はアレだ、ヘンテコな銃だ」
「余計分かんねぇよ……」
「新しい銃を開発したが、様々な点で失敗してしまった銃の俗称だ。理想的な銃を追求しまくったり、バカみたいに多機能化したり、変な新技術を導入したり、完全な趣味で開発されたりしたゲテモノ達だ」
「なんでそんなヘンテコな武器を売ってるところに、BOB決勝戦の出場者が?」
噂の真意が分からないのか、噂好きのプレイヤーが質問してくる。
「……こっからが噂なんだが、BOB決勝戦の出場者は全員その店に売っていた変態銃で武装するんじゃないかと一部で言われていてな」
「はぁ!? 変態銃だけでBOBに挑むのかよ!?」
BOBとはGGOで一番の猛者を決めるための重要な大会だ。そんな所に、実用性のない武器を持っていく方がおかしい。
「あくまで噂だ。だが……一説にはあのサトライザーってプレイヤーを困らせるためらしい」
「困らせる?」
「要は嫌がらせだよ。サトライザーは第一回の時も、相手の使える武器を拾って使ったりしていたからな。だから、サトライザーに変態銃を与えて妨害をするんだ」
「確かに理に適ってはいるが……ほんとに通用するのか? そもそも、BOBでそんなふざけた銃を使うか普通?」
「分からねぇぜ……ともかく、今回のBOBは絶対に普通じゃない。これだけは言えるな」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「いよいよ始まったね、シノのんの晴れ舞台!」
青い髪色をした女性プレイヤー《アスナ》が、ついに始まった友人の晴れ舞台を祝っていた。
「ああ、BOBも今回で第四回だ。今回はかなりの猛者達が集まっているだろうから、シノンには頑張って欲しいな」
その言葉を呟いたのは黒い短髪を携えた少年、《キリト》だ。彼は端っこに座るアスナの隣で彼女と談笑している。彼女だけではない、ここには他にもプレイヤーがいる。
「しっかし、キリの字よぉ。なんで今回はGGOに再コンバートしなかったんだ? 死銃がいない今回に参加すりゃあ、今度こそは優勝狙えたのによぉ」
と、おちゃらけた様子で喋るのはサムライ風のプレイヤー、《クライン》である。
「あぁ……いやー、前回は光剣で戦ってたけど、アレは周りのプレイヤーが全員光剣に不慣れだった事が原因だから……今回は勝てるかどうか自信なくってさ」
と、キリトはとっさに言い訳をしてみるが、本当は違った。
「えー、でもお兄ちゃんの性格からしてそれでもベストを尽くしそうだけどな〜?」
「ギクっ」
と、金色のポニーテールを携えたシルフの少女《リーファ》が、現実世界では実の兄であるキリトの痛い所を突く。
「そうよそうそう、アンタなら剣でまた無双しまくりでしょ?」
レプラコーンであり、鍛冶屋を営んでいる《リズベッド》もキリトを見る
「そうですよ! なんで参加しなかったんですか?」
頭に猫耳を携えたケットシーの少女、《シリカ》も尋ねる。
「あーあはは……実はやっぱり剣で銃相手はキツくてな……一人相手にするたびに頭が痛かったんだ……」
キリトは女性陣たちの追求についに折れて、本音を出した。彼は前回の第三回BOBにて、《死銃事件》を追ってGGOにコンバートして参加していた。事件はシノンとの協力で解決したため、その後はGGOへのログインはほとんどしていない。
「それもそうだよねー。私もシノのんの協力の元でGGOにログインして光剣使ってみたけど、毎回剣で銃弾を弾くのは大変だったし……」
と、アスナもこれには思わず同感した。彼女はシノンとの友達になった後、何回かGGOにコンバートして遊んでいたことがある。というか、ここにいる全員がGGOに一度コンバートし、それぞれに合ったスタイルで戦ったことがある。
久しぶりに集まった7人と一匹が集まったのは、皆でプレイしているVRMMO、《
今回は、大型スクリーンにGGOの様子が映し出されていた。ネット放送局《MMOストリーム》が生中継している第四回BOBのライブ映像である。見ている理由はもちろん、BOB決勝戦に出ているシノンの応援だ。
「ま、まあ、そろそろ戦闘が始まる頃だろ? シノンを探そうぜ。ユイ、シノンを探せるか?」
「はいパパ! ライブ中継の中でシノンさんは……」
と、アスナの手のひらに載っている人工知能《ユイ》が、妖精としての小さい手から画面を操作する。
「あ、いました! まだ生きていますよ!」
中継画面に、シノンの様子が映る。
「おー、走ってる走ってるー」
「今は移動中ですね」
リズベットとシリカが、画面に映るシノンの様子を見てそう呟く。
「シノのん……優勝できるかな?」
「大丈夫ですよ! きっとシノンさんなら、敵にバレない位置からスナイパーでフイウチしまくりです!」
「フフッ、それもそうね」
おおよそ人工知能らしくない、人を笑わせるための冗談でみんなが笑い、シノンの活躍を期待していた。
「ん?」
「? どうしたんですかリーファさん?」
「いや……シノンさんの使っている狙撃銃って、あんな形だっけ? って思って……」
「え?」
と、リーファがそういうので、キリトは画面を拡大してゆっくりと観察する。
「あ、確かにそうだな……シノンがいつも使っているヘカートⅡとは全然違う……」
「え? なんで? シノのんにとって、ヘカートⅡってメインアームでしょ?」
アスナの疑問は、ここにいる全員の疑問であった。
「なんでだ? フィールドでロストしたとか?」
「いや、予選大会ではシノンはヘカートⅡを使ってた……直前になって武器を変えた……?」
ヘカートⅡを「自分の分身」というくらい大切にしている銃を早々に変えるとは思えない。ロストもしていない筈。となれば、何か別の理由があったのだろうか?
「にしてもこの銃何? なんか、昔のライフル銃をそのまんま大きくしたような見た目してるけど……」
「うーん、分からないな……あ、そろそろ戦闘が始まったみたいだ」
キリトが画面を切り替え、一人のプレイヤーの画面に切り替わる。そこでは、一人の金髪のプレイヤーが敵プレイヤーを体術のみで倒した様子が映し出されていた。
「うわぁ……強い……」
リーファが思わずそう言う。
「アレが噂のサトライザーか……」
「サトライザー?」
「ああ、第一回BOBの優勝者だ。また参加したってネットで話題になっていたけど、本当にいるとな……」
キリトもアスナの疑問符に答えながら、解説をする。
「シノンによると、第一回BOBでナイフとハンドガンのみで挑んで、日本人プレイヤーを皆殺しにしまくった伝説のプレイヤーらしい……」
「なにそれ!? ナイフとハンドガンのみで!?」
リズベットが思わず驚く。
「ああ、しかも敵の武器を奪って戦う事もあったらしいんだ。今回は……素手……だけ?」
キリトが画面を確認しながら呟くので、全員もその画面に食い入る。確かにサトライザーと名のつく金髪プレイヤーは、なにも武器を持たずに体術のみで敵プレイヤーを倒していた。
「素手だけで戦えるなんて……相当な実力者だね……」
「けどよ、こんなの舐めプもいい所じゃないか?」
クラインがアスナにそう言う。
「まあ、不利な事は変わらないけどルール違反じゃないからな。それで勝ったら伝説だし……」
「にしても一瞬でした……早すぎて見えません……」
「アレが……今回の優勝候補……」
キリトの説明、そしてシリカとリーファの関心を他所に、リズベットは目を凝らす。その目線は、サトライザーの持っている武器に当たっていた。
「ねぇ? あの武器なに?」
「え?」
「ほら、サトライザーに倒されたプレイヤーが持っていたあの武器よ。あ、今サトライザーが拾ったやつ」
と、リズベットが興味津々に言うので、キリトは拡大してみる。
「あの……ストックも何も付いていないやつか?」
「うん、そう」
「えっと……少し待っててくださいね……画像検索をかけてみす」
と、キリトとリズベットの興味がその武器を集まるので、ユイが検索をかける。人工知能らしく、膨大なインターネットデータから情報を抜き出すスピードは、どんな検索達人でも敵わない。
「あ、出ました! アレはRSC 1918SMGというサブマシンガンです!」
「RSC……何?」
「正式名称は《ショーシャ-リベイロールス1918サブマシンガン》、フランスの銃で第一次世界大戦期に生まれた銃です」
「へぇ、結構古いのねー」
「はい。ですが……この銃は試作が数個作られただけのはずですが、GGOでは実装されているのですね……」
「試作だけ?」
と、キリトが「試作だけ」という言葉に引っ掛かったのか、ユイに質問する。
「はい、色々失敗しちゃったみたいで、採用されなかったそうです」
「失敗って……何がいけなかったの?」
シノンとの話で、GGOには現実世界では試作や失敗に終わった銃までもが実装されている事は知っていた。が、アスナは名前すら知らなかったその銃の、何がいけなかったのかが気になった。
「えっと……まずこの銃なんですが、使う弾薬はフルサイズライフル弾です」
「「「「「「は?」」」」」」
思わず、部屋にいる全員の声が重なった。
「え? ちょ、ちょっと待ってくれ、サブマシンガンって拳銃弾を使うんじゃないのか?」
「はい、本来ならそのはずなんです。もちろん、PDWなどの例外はありますが、基本的には拳銃弾です。ですが、あの銃はセミオートライフルを短くしてサブマシンガン化しているので、弾薬もそのままなのですよ」
「それって……反動がヤバいんじゃ……」
リーファの憶測は完全に当たっていた。
「はい、そんな物ですから反動が凄まじく、狙ったところにはまず飛ばない暴れ馬です」
「ダメじゃん!」
「当然、テストをした現場の兵士には大不評で、試作だけになりました」
ユイの検索した口から語られるあまりのポンコツさに、一同は苦笑いである。
「? でもなんで、BOB決勝戦に出るようなプレイヤーが、そんなポンコツ品を持っていたんだ? 普通ならレアな武器を持って行くだろ?」
「あー確かにそれ私も思った。日本一のGGOプレイヤーを決める大会だから、普通は強い装備を持って行くよね? なんであんなポンコツ品を持って行ったんだろう……?」
キリトとリーファーが疑問を呈する。
「どうせふざけてたんでしょ? ほら、そうしている間にサトライザーが次のプレイヤーを狙ってるわよ」
リズベットがそう言っている間に、相手プレイヤーの後ろから不意打ちをしたサトライザーが相手を吹き飛ばし、先程のRSC 1918SMGを撃ちまくる。
しかし、最初の1発以外はすべて外れた。あまりに反動が強すぎるため、制御しきれなかったのだ。そして相手にショットガンを撃ち返され、慌てて避ける。そして、至近距離に近づいて体術を喰らわせ、首を締める。
「あらら……やっぱり制御できなかったか……」
「あ、新しい銃に切り替えた」
と、サトライザーが銃を切り替えるのを見て、キリトにまたも疑問が生じる。
「? あの銃も変じゃないか?」
「え?」
「ユイ、あの銃はなんだ?」
ユイがまたも検索を掛かる。
「あ、出ました。アレは《メタルストームMAUL》というショットガンです」
「あの銃……弾倉がないんだけど……」
「アレですか? そういう銃なんです」
「「「「「「え?」」」」」」」
銃として弾倉があるのは当然だ。しかし、それが無いとは一体どう言う事だろうか?
「あの銃は、銃身の中に直接弾が5発装填されているんです」
「銃身の中に直接!?」
「オイオイ、そんなのどうやって撃つんだ?」
クラインの疑問にも、ユイはすぐさま答える。
「あれはケースレス弾という、薬莢がない弾を使ってます。電気信号を炸薬に取り付けられたセンサーに送って着火し、バレル先端に込められた弾から順番に発射しているんです」
「え!? 弾丸にセンサーがあるの!?」
「なんでまたそんな面倒臭い事を……?」
「この銃はライフル銃などの下に付けるアドオンタイプなので、コンパクトにしたかったんでしょう」
「よ、世の中には色んな銃があるなぁ……」
と、キリトはその解説の中で頭の思考を巡らせていた。なぜ、こうもおかしな銃が二連続で出てくるのだろうか?なにか、このBOBには裏があるのでは? と。
そうしているサトライザーは3人目のプレイヤーと森で戦っていた。相手のプレイヤーの武器を奪い、何発も連射をする。
「あーあ、ありゃ死んだな」
「うん、至近距離からの連射だからね……」
「にしても……あのサトライザーって人、やっぱり強いね……」
それぞれが感心するが、やられた筈のプレイヤーが不意打ちで銃を構えた。
「「「「「「な!?」」」」」」
ピストルが放たれ、サトライザーを仕留めようとするがその直前で避けられる。
「ユイちゃん、あのピストルは何!?」
「あれは《ウェブリー・フォズベリー》、オートマチックのリボルバーですね」
「「「「「「「は?」」」」」」」
と、思わずユイのエラーを連想してしまう回答に、全員が聞き返す。
「えっと……オートマチックとリボルバーって全くの別物じゃ……」
「はい、ですからあれは、オートマチックとリボルバーのハイブリットなんです」
「ハイブリット?」
「つまりは、射撃の反動を利用してシリンダーの回転とハンマーのコッキングを行うという拳銃です。射撃を行うとその反動で銃の一部が後退し、シリンダーに彫られた溝に沿ってシリンダーが回転、ハンマーのコッキングが行われるという仕組みです」
「へ、へぇ……面白い銃ね……」
それは意味あるのか? と思ったが、一同は着いて行けなくなり、試合観戦に集中する事にした。
「あの銃は? えらくのっぺりとしていますが……」
サトライザーが拾うのを諦めた、木製の銃をリーファーが見る。
「あれは……《ジャイロジェット・ピストル》ですね」
「どんな銃なの?」
「あれは、世界初のロケット式ピストルです」
「「「「「「「は?」」」」」」」
今度もまた、声が重なった。
「ロ、ロケット式ピストル?」
「はい、炸薬ではなくロケットの弾丸を発射します。そうすると発砲音もしないですし、飛距離も稼げるんです」
「へぇ……意外に強そう……」
「いえ、あれは使い物にならない失敗作ですよ?」
「え?」
リーファの憶測を、ユイは完全に否定した。
「まず、至近距離で鉄の帽子を撃ち抜けませんでした」
「拳銃なのに!?」
「これはロケット式なので、加速するまで時間がかかって初速が遅いんです」
「なるほど……さっきのプレイヤーは近すぎて殺せなかったんだ……」
「おまけに、飛距離もそこまで延びなくてたったの50メートルです」
「ダメダメじゃん!」
「はい、しかも近すぎてもダメ、遠すぎてもダメで、シビアすぎる代物だったんです。当然、どこにも採用されませんでした」
あまりにもポンコツ過ぎて、使い物にならなかった銃であった。
「なんでそんな使い辛い物を持ってたんだろう……?」
「さ、さぁ……?」
アスナの疑問に、キリトは答えられなかった。その後も中継は続く。サトライザーはゴテゴテとした分厚いボディーアーマーを着込んだプレイヤーと対峙する。
「な、何あの銃……?」
アスナが指さしたのは、二つの銃身が繋ぎ合わされた様な、奇怪な見た目をした銃であった。その銃はとんでもない連射速度でサトライザーに弾幕を張る。
「あれは《ビラール・ペロサM1915》、サブマシンガンの元祖とも言える銃ですね」
「な、なんで銃身が二つ繋がってるの……?」
「あれは元々航空機用機関銃で、とにかく弾幕を張るために手数を増やしたんです。つまりは、銃身が2つなら火力も2倍だぜ!!……です」
「馬鹿じゃないの……?」
リズベットの呟きはあまりに辛辣だったが、この場にいる全員の気持ちを代弁していた。
「ねぇ、キリトくん……この大会何かおかしくない?」
「ああ、参加者たちがこうもこぞってヘンテコ武器を使うのは、普通ならありえないからな」
キリトはウィンドウを操作し、観戦者だけが見えるマップとプレイヤーの位置を表示する。
「……なるほどな」
「? 何か分かったの?」
「ああ、この大会の残り人数を見てくれ」
アスナ達は全プレイヤーのDEADとARRIVEが表示された中継画面の左側を見る。
「残りは26人……あれ?」
「四人しか減ってないね……」
「そう、しかもサトライザーの近くのプレイヤーが一斉に森に向かっている。そしてさっきからヘンテコな武器しかプレイヤー達は持っていない。つまりこれは……」
「サトライザーを倒すためだけに、結託をしたの!?」
リーファの予測は当たっていた。
「ああ、そういう事だ。ついでに言えば、あのヘンテコな銃達は、例え鹵獲されてもいいようにするためだな」
「例え鹵獲されても、ヘンテコな銃ならむしろ邪魔になる……と言うわけね!」
アスナの憶測に、キリトは頷いた。
「でも……それってチーミングじゃないんですか?」
「いや、それが問題なら運営は今すぐこのBOBを中止するだろ? それに、本来ならサトライザーも第一回で大暴れしたせいで出禁を食らっているんだ。そんな奴が、ブロックをすり抜けて無双舐めプをしようとしている。しかし、出場者達はヘンテコな武器でしか武装していない。なら、サトライザーを懲らしめるのに丁度いい、とザ・スカーは思ったんだろうな」
「ああ、それなら納得するわね……」
「たしかによぉ、あのサトライザーって奴は銃ゲーで素手って言う舐めプを平気でやる奴だから、これを機に懲らしめるのもいいかもしれないしな!」
リズベットとクラインの納得の声に、キリトは肯く。
「そう言う事だ、今回のBOBはかなり面白くなるぞ」
もちろん、変な意味でだが。
さて、舞台は森に移る。サトライザーは地面に隠れて潜伏し、丸腰に見える相手に向かって駆け出した。しかし、その足はヘンテコな銃によって止められる。
「な、何あれ!?」
「け、拳銃が二丁くっ付いている……?」
「あれは《ドッペルグロック》ですね。二丁の拳銃を同時に撃てば反動も相殺できる!……と思ってくっ付けたらしいです」
「馬鹿じゃないの……」
サトライザーはそいつを倒し、森の中で何かの決め台詞を言おうとする。が、次に出ていたのは、木の上に居座る迷彩服の男だ。
「あれは?」
「《ウェルロッド》です。サイレンサーと一体化した消音拳銃で、一発撃つごとにボルトを引かなくてはなりません」
「拳銃なのにボルトアクションかよ!?」
木の上に居座る迷彩服のプレイヤーを、サトライザーは引き摺り下ろして地面に叩きつける。先ほど奪ったビラール・ペロサを撃ちまくる。が、相手のプレイヤーはそれを巧みに避け、むしろナックルダスターで殴りかかる。
「ナックルダスター?」
「あれはアパッチ・ピストルですね。拳銃とナックルダスターとナイフの機能を合わせ持っていて、変形させる事で使用できます」
「あれ……GGOで不意打ちに使われたら困るなぁ……」
そして森の中では3人目、今度は薬莢を排出しない銃をフルオートで撃ちまくっている。
「《VAG-73》ですね。ケースレス弾と言う、先程のショットガンにもあった薬莢がない拳銃弾を使います。しかも、ロケット式弾薬です」
「え? ジャイロジェットで失敗したのに……?」
「はい、欠点もそっくりそのままです。しかも、マガジンの弾丸は前後二列配置で、おまけに安全装置もありません」
「く、狂ってるわね……」
「この銃はソ連の銃で、冷戦期のソ連はアメリカに対抗するためにヘンテコな武器や兵器をたくさん作っていたそうです」
「いやこんなんじゃ対抗できねえだろ……」
と、サトライザーはそのVAG-73持ちをとっさに盾にした。すると向こうから、巨大な銃を携えたプレイヤーが突撃してくる。
「何あれ!? 銃!?」
「デカ過ぎんだろ……」
「《パイファー・ツェリスカ》ですね。全長は550ミリ、重さは6.0キロにもなります。文字通り、世界最強の拳銃です」
「なんであんなに大きくしたのよ……」
「象を撃つための弾丸を、拳銃の形で撃ちたかったんだと思います」
「あんなの頭おかしいわ……」
それは使うやつも大概だが……とキリトは思ったが口には出さなかった。と、そのゲテモノ持ちに勝利したサトライザーであったが、その直後彼のいた場所を巨大な弾丸が抉った。
「え? は? あれ何……?」
リズベットが指差すのは、岩の上で拳銃の形をした物体を構える二人のプレイヤー。
「あれは《トビーレミントン》です。なんでも、世界最大の拳銃だそうです」
「え!? さっきのツェリスカっていう拳銃が最大じゃないの!?」
「いえママ、あっちが最大です。大きさは全長1260ミリ、口径28ミリ、弾頭重量136グラム、総重量は約45キロにもなります」
「なんでそんなの作ったのよ……」
「多分、作ったガンスミスさんの趣味ですね。大きいのが好きだったんでしょう」
が、それすらもサトライザーには通用せずに真っ直ぐ近づかれる。一方の相手のプレイヤー二人は後ろを向いている。
「あの逆さまの拳銃は?」
「《MC-3》です。反動を打ち消すために上下逆さまにした競技用拳銃です」
「あ……後ろ……」
『雷電』という名前のプレイヤーが引き摺り下ろされ、サトライザーが引き金を引いたトビーレミントンで吹き飛ばされる。
「うわっ。って、あの大きな拳銃は何?」
「《サンダー.50BMG》ですね。あれは、対物ライフルとかに使われる大きな弾丸を拳銃で発射することのできる銃です」
「つまり……ヘカートⅡとかの弾丸が……そのまま撃てるのか?」
「はいパパ、そういう事です」
「シノンのサブアームには丁度いいかもな……」
と、そんなことを言っている隙に、ツェリスカをゼロ距離で発射したサトライザーが、森の中での勝者となった。
「……………………」
「なんかもう……付いてけ行けねぇ……」
呆れるクラインに、全員が賛同した。
「でも、あのサトライザーってプレイヤー、確かに強い。こんなヘンテコな銃しか出てこないのに、一つづつ使いこなしている……」
「多分、本人は相当困惑していると思うけどね……」
キリトの関心に、アスナが答える。
「これ……サトライザーさん勝てるのでしょうか……?」
シリカの純粋な問いに、答えられる人はいなかった……
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