盲目きりたんの受難 (ドキドキアーモンド)
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試作で書きました。文字数も少ないですがどうぞよしなに。


震える空気に身を委ね、私は今日も歩み続ける。

この視界には()()()()()()けれど、それでも私は歩み続けなければいけない。

 

────それは彼女の為でもあり、こうして醜く浅ましく生きる私の主命なのだから。

 

 

遠くで喧騒が聞こえ、鳥の囀りがそれを書き消していく。

カランカランと杖で地面を叩き、周囲の光景を音の反響のみで判断し、想像する。

 

「おはよっ!東北!」

「おはようございます。ウナちゃん。今日の空は何色ですか?」

「青色!めっちゃ晴れてるの!」

 

無邪気にどうやらこの声色からして微笑んでいるようだった。

私は杖を腕に掛けて両手を彼女の方へと向ける。

 

「ん」

 

彼女は静かに私に顔を差し出したようで、伸ばした両手が彼女の肌に触れる。

 

「今日も元気そうですね。最近はお仕事も忙しいみたいで、会うことが少なくなってましたから少し安心しました。」

「ごめんね、東北。」

「いえ、貴女が謝る必要はありません。」

 

触れる彼女の頬がピクリと動く。触れているのだから相手の表情ぐらいはわかる。

私は静かに優しく両手で頬を撫で、そうして私は両手を離し、そのまま彼女の腕に腕を絡めた。

 

「学校まで、お願いします。」

「ん。」

 

私の言葉に彼女はポツリと返し、そのまま歩みはじめる。

 

「最近はウナちゃんの話題を聞きます。私としてはとても尊敬しています。」

「んーそんな事ないよ?私は東北がくれた奇跡を恩返しの為に使ってるだけ。」

 

他愛ない話、面白い話。最近の愚痴、どれも私にとっては退屈にならない大切な一時。

こんな醜い顔に成ったって彼女は私から目を背けず私に歩み寄ってきた。こうして仮面で隠しているが、彼女が外して欲しいと言えばどんな場所でも外すつもりでいる。

 

「そこ、段差あるから気をつけて。」

「あぁ、ありがとう。ウナちゃん。」

 

どうやら学校の校門にたどり着いたようだ。

私とウナちゃんは別クラス。隣通しでも私は特別クラスでないと授業を受けられない。

 

「.......ちょっとだけこの目が見えない事を後悔する事があるんです。」

 

私は歩き去ろうとする彼女を引き止めるように話し始める。内容はそこまで多いものでもなかった。たった一分。私のわがままが罷り通るならと私はただただ毎日の様に言ってしまうのだ。

 

────それが例え人の命と引き換えに失ったものであったとしても。

 

「うわ、仮面女!」

「こらっ!竜太!」

 

廊下を歩く時は少し苦痛だった。周りの女子達が庇ってくれるが、相手は小学生。

言いたくなる気持ちも、そうやってからかいたくなる少年のジレンマも私は少しわかってしまう。

けれど、どうしてもこの顔を隠さねば、この醜い顔を晒す訳には行けなかった。

それは男子達や友人との距離を感じたからであり、これは仕方のない事なのだと諦めている。

 

「やぁ、きりたん君。」

「おはようございます。水奈瀬先生。私は女です。」

 

教室に入ればこじんまりとした個室だと空間に流れる風が教えてくれる。反響音は割と小さめであり、私のわがままでここを防音の私の授業の為の場所として確保してもらった。

 

「今日の時間割だ。一応口頭で言っておく」

 

点字で書かれた時間割を読みながら先生の言葉に耳を傾ける。

みんなと授業がしたいが、そんなわがままは罷り通らない。

こんな顔にしたのは私だ。こんな目にしたのは私自身だ。

 

「────以上だ。音楽は大塚先生が来る筈だ。成績は余り考えるな。夜見さんがどうにかしてくれる。」

「そこは余り心配してません。夜見さんならどうにでもなるでしょう。あの人の事なので。」

 

椅子を引きランドセルを椅子の隣に掛けて座る。

目が見えないのだから無闇に出歩ける訳でも四階から外の景色を眺める事も叶わない。

 

「それじゃ、俺は行くよ。」

「はい。毎日ありがとうございます。」

 

ランドセルから網掛けのセーターを取り出してじ授業まで黙々と作る。

マフラーは完成しているのだが、彼女に渡しそびれてしまっている。

 

ガラガラと背後から音が聞こえ、扉が開かれた事に気づく。

音が曖昧にならないように防音にした事で外の状況が分からない事が最近の悩みでもある。

 

「んじゃ、数学始めるぞ。」

「はい。先生。」

 

私は急いで編み物をランドセルに仕舞う。

 

時間はゆったりとではなく、駆け足で過ぎていく。私にとってとても、とても。時間の流れは早かった。

 

 



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