真剣で玲綺に恋しなさい! (アイン会長)
しおりを挟む
転生無双編
第一話 『孤独』
曹操軍によって軍は壊滅され父も亡くした彼女だったが、いつしか『まじこい』の世界へと来てしまう。
その際の影響か記憶も自身の名前が玲綺という名前以外を思い出さない。
果たして、彼女の今後はどうなるのか?
目の前で父親や仲間達が捕まった。
助けられるのは自分のみ、ならばと彼女に迷いなどなかった。
「はっ!」
自分の愛刀である十字戟の刃で周りの兵士を確実に刈り取りつつ、父を助けようと走り出す。あと少し、あと少しで助けられる。そう確信した。
しかし、現実は甘くない。他の兵士が彼女へと矢を構えた。
「!!」
父親はそれに気づくと、渾身の力で取り押さえていた兵士を振り払った。だが、拘束されているために両手は使えない状況。ならばと、足で武器を蹴り飛ばして彼女に構える兵士を殺す。しかし、抵抗は虚しく再び捕まってしまった。
・・・もうどうすることも出来ない。
そう確信した彼女の父親は叫んだ。
「生きろ、玲綺!」
「!?」
彼女は足を止めた。
その意味はどういう意味か。戦場に生きる彼女にとって、理解ある言葉であり一番理解したくなかった言葉だった。
「・・・」
彼女は唇を噛み締め、そして父親とは逆の方向へと走った。
誰もいない荒野。
たった一人だけ生き残ってしまった彼女。支えとなっていた国も父も仲間も失った。
おそらく父はもう、この世にいないだろう。敵は父を一番に殺したいと認識しており、自身が父を敵として捉えて考えたとしてもそれほど強い人間を生かしておくとは思えない。
「・・・」
孤独が彼女を襲う。
「・・・・・・っ」
過去の記憶が蘇る。今まで、戦場に立っていた理由はこの恐怖を拭うために立っていた。自分が戦えばこの孤独感をなくせると信じて戦っていた。それなのに結局はこのざまだ。
「私は・・・私は・・・これからどうすればいいのです、父上」
生きろと言われた最後の父親の言葉。
でも、ただ生きているだけでは屍と何も変わらない。それがこの世界の残酷であり基本。
「・・・」
十字戟の刃を首元に近づける。
”一人になるくらいなら、私は・・・!”
一粒の涙が流れた。戦うと決めていた日から泣いたことはなかったというのに。
やはり、どんなに鬼神に振舞ってもこういう状況になれば自身の弱さが現れてしまうということか?
でも、その悲しみはそれもここで終わる。
「お許し下さい。父上・・・」
そして、彼女は喉元に刃を突き刺した。
「っ!?」
意識が戻る。目覚めると自分は雨に打たれていることに気づく。上はずぶ濡れ下は泥だらけ状態だ。
いや、そもそもなぜこのような状態なのだろうか?
自分は確かに喉を切ったはずだ、死ぬために。なのになぜ生きている?
それともここは噂に聞くあの世という世界なのだろうか?
彼女は胸元に触れる。
ドックン、ドックン。
心臓はなんの問題なく動いていた。
「・・・」
彼女は次に喉を触る。しかし、喉にも血どころか傷も穴も空いていない。
「・・・っ!?」
そして、あることに気づく。
「・・・私は・・・誰だ?」
――――自分が玲綺という名前以外、記憶がないことに。
第一話ですので、こんな感じです。
とりあえず、まだ投稿2個目でまだまだ様子見ですので、お許し下さい。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第二話 『情報』
びしょびしょになりながら、アテもなく歩く玲綺。目的地などないが、あそこで留まる理由もなく、とにかく玲綺は『自分が誰か』ということを求めていた。
びしょびしょになりながら、アテもなく歩く玲綺。目的地などないが、あそこで留まる理由もなく、とにかく玲綺は『自分が誰か』ということを求めた。
「・・・?」
ずぶ濡れの顔を見上げると、大きな建物が遠くから見えた。あそこにいけば何かしらの情報を得られるかもしれない。
玲綺の思考はそこに行くしかないという一点しかなかった。その理由としては、玲綺の体は数時間も雨を浴びたせいで、体が冷えてしまった影響で、体の本能が救いを求めていたのだ。
一歩、また一歩とその建物へと歩く玲綺。
「・・・止まれ」
背後から声が聞こえた。見えないが殺気をこちらに向けている。間違えれば、怪我だけではすまないかもしれない。
「・・・あの」
「よーし・・・そのままこっちを向け」
相手側は会話をさせてくれないようだ。玲綺はゆっくりと振り向くと、相手は布切れようなテカテカとした服装を着た女性だった。
「ここは九鬼の領域で、関係者以外立ち入り禁止だ。それなのになぜここに来た?」
「九鬼・・・?」
玲綺は九鬼という名前には聞き覚えはなかったが、その者の土地だということは理解出来た。すなわち現時点においては、ルールや取り決めといった概要語などの意味を知っていることを意味する。そして、仮の予測としてそこまでの複雑な意味用語がわかっているということは日常面での、食事方法や排泄方法などの基本的動作は覚えている可能性が高いとも理解した。
では、次の問題は自分が何者かということだ。
「名前をいいな・・・?」
「・・・玲綺」
玲綺という名前に、彼女は眉を潜める。あれは聞き覚えない名前を聞いた場合に、よくする表情だ。
「聞いたことない名前だな。お前、川神の住人じゃないな?」
「川神・・・」
新しい情報を仕入れた。ここは川神という国らしい。しかし、玲綺は国の名前を聞いてもピンとしなかった。反応しないもしくは忘れているかのどちらかだろう。
「・・・ちょっと待ってな」
女性は懐から四角い鉄の塊を取り出す。よく見れば、中心部には光が灯っていた。
「B地区で侵入者を発見。名前は玲綺・・・」
四角い鉄の塊を持ちながら、女性は誰かと会話しているらしい。口調や部分的な内容で、自分の身元を探してくれているのだろう。
「・・・」
玲綺はそれを黙って見ていた。とにかく彼女は、自身のことを知りたかったために、方法などどうでもよかったのだ。
だが、しばらくして女性の顔が険しくなる。この意味は・・・。
「・・・悪いな。ちょっと拘束させてもらうぜ?」
瞬間、女性の姿が消えた・・・いや、回り込まれたのだ。
「っ!?」
両手が後ろに回されて身動き出来ない状況となる。さらに、追い打ちをかけるかのように両膝を蹴飛ばされて地面に叩きつけられた。
「うっ!」
強い衝撃が体全体に響く。
「・・・悪いな。ちょっと、手荒い行動をさせてもらうよ」
女性は玲綺の両腕を片手で抑えつつ、もう片方の手で二つの輪になった鉄の紐らしき物を取り出した。きっと、それで完全拘束する気だ。
「・・・うう」
危機感を覚えた。いや、これは思い出したと玲綺は気づく。それはつまり以前にも、似たようなことがあったということだ。
では、一体それはいつなのか?
『生きろ、玲綺!』
プツンと頭の糸が切れたのを玲綺は・・・確かに感じ取った。
第二話です。
最初は、基盤である玲綺の居場所を見つけるためや頼れる仲間と出会うため、内容はつまらないかもしれませんね。
彼女の設定を公開します。
主人公:呂玲綺
三国無双7の猛将伝の住人。
曹操軍によって軍は壊滅され父も亡くした彼女は、途方に暮れて自害したはずが『まじこい』の世界へときてしまう。
異世界に入った影響で、記憶もなくし服装も現代服装に変わっている。
自分:『私』。性格:普段は勝気な性格で父譲りの武芸を発揮し、非常に勇敢で自ら率先して前線に立つ女性。困難へ立ち向かう芯の強さを持っているが、過去の経験から孤独を怖がるところがある。また、この世界の影響なのか観察力がついた。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第三話 『玲綺』
基本的に、マジ恋キャラ達の詳細はカットします。
どんっと女性は吹き飛ばされた。
「なっ!?」
女性は少し油断していた。先ほどまでは抵抗を一切しなかっために、心に油断を生じていたのだ。
「・・・」
玲綺の表情が変わっていた。
さっきまでは何も考えていないような顔が、今は狐のような鋭い目つきをして相手を殺すような殺気で女性を見ている。
「・・・これは」
女性は一目に、玲綺が強い人間だと理解した。そして、先ほどの鉄の塊を取り出して、仲間に連絡を取ろうとした瞬間。
「・・・遅い」
玲綺がぼそりと口を開いた。
「・・・ぐっ!?」
気がつけば女性は、雨の中でありながら宙に舞っていることに気づき、次の瞬間に体の防具服が裂けて、自身の血も舞っていることに気づいた。
「奥義・・・”天翔刃”・・・」
どさりと女性は地面に叩きつけられた。
「・・・き、貴様は・・・一体?」
痛みと戦いながらも彼女は玲綺を見た。そこにいたのは確かに先ほどの彼女だったが、服装が黒い鎧と被り物を着て、手には二本の長い槍十字にした武器を所持した玲綺がいた。
「・・・っ」
変身したという意味が一番しっくりくるだろう。恐らくは、普段は隠していて戦闘時になった時に、出現するタイプだ。
問題は彼女の目的だ。一体なぜ、彼女はこの九鬼に来たのか。侵入にしても堂々しすぎている。なら、陽動という可能性も考えられる。
彼女は痛みと戦いながらも、九鬼に対する脅威である玲綺がどのような人間であり、どうしたらいいのかを賢明に考えるが、一方の玲綺はゆっくりと彼女へと歩いて来た。
止めを刺す気だ。
「・・・っち!」
体が全く動かない。女性も命の収めどきだなと確信しつつも目だけは、玲綺を睨みつけた。
「・・・」
玲綺は冷酷な目をしながら彼女を見つめていた。
そして、刃を上げた。
「チェーンカッター!!!」
ズバリと鈍い音が玲綺にくい込む。だが、くい込んだ『物』はそれだけでは終わらずに、玲綺そのものを吹き飛ばした。
「・・・・!!???」
一体何が起きたのか理解が追いつかない玲綺。さらに吹き飛ばされた体は、いつの間にか宙吊りになって拘束されていることに気づいた。
「・・・あ、ぐっ!」
異物が出る。先ほどの攻撃が今頃になって辿りついたようだ。しかも鎧類が消えていた。消えるということはあれらは『気』で構築された武装なのかもしれない。でも、今はそれどころではない。早く逃げないともっと酷い目に合う。
しかし、どういうわけか拘束以上に力が入らないことに玲綺は気づいた。さらに睡魔も襲ってくる。もはや・・・これでは。
「・・・ここで・・・終わりか」
玲綺はゆっくりと目を閉じた。
―――こうして、玲綺は九鬼に拘束されるのだった。
この呂玲綺と対決した従者はオリジナルです。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第四話 『尋問』
彼女の運命は・・・どうなる?
尋問という表現は難しいです。
玲綺は目を覚ました。
視野に映ったのは、二人の老人。しかし、玲綺は見た目に反して二人の圧倒的な自身との実力の違いを見せらつけられるほどのオーラを感じ取り、抵抗をするという思考を諦めた。
幸い拘束はされていない。ただ少し狭い部屋で椅子に座って、二人の真ん中にいるというだけの状況だ。だが、拘束されていないということだけでも心に安心感を抱く自身がいた。
玲綺はどうやら拘束されることが嫌いらしい。それがあの戦いの原因の引き金ということなのか。その導きに、玲綺はまた自身の性格を把握したことに喜びを覚えた。
「・・・おはようございます」
白髪でメガネをかけた老人が挨拶をした。玲綺もまた、抵抗するという考えを捨てた瞬間、次に考えが浮かんだのは『自身の存在』という思考に至る。そして、その記憶を手に入れるために浮かんだのは、素直でいるという冷静な判断であった。
「おはようございます・・・」
玲綺も挨拶をする。二人の表情に変化は見られないが、その思想の中では既に玲綺の分析を開始していた。
「お目覚めのところを恐縮ですが、いくつか質問したいので答えて頂けますでしょうか?」
「答えられることなら・・・」
「結構です」
老人の微笑み。玲綺にとっては、ただの悪魔の微笑みしか見えない。
「貴方のお名前は?」
「玲綺です」
「どこから来たのですか?」
「わかりません・・・。気がついたら、ここにいました」
「では、なぜ九鬼に近づいたのですかな? 従者の一人が警告したはずですよ」
「いきなり、拘束されてたので抵抗しました。・・・体を拘束されることが嫌いみたいだから・・・」
「嫌いみたいですか・・・? まるで、他人ごとのような口ぶりですね」
「私・・・自身の記憶がないからよくわからないです。自分のことが特に」
「ふむ・・・」
老人は黙まり、もう片側の老人が再び玲綺に尋問を開始する。
「まず、いきなり拘束したことは詫びよう。あれは人を生きたまま捕られる行為をまだ慣れてなくてな」
言葉を一つ一つ聞き漏らさない玲綺。
『人を生きたまま』つまり元はあの女性は人を殺すことに特化された人間だったという表現にも繋がる。もちろん、この老人の脅しかもしれないがどちらにしても、この九鬼という組織は危険な所だ。
「あの鎧や槍はどうやって学んだ?」
「鎧? 槍?」
「貴様が部下を傷つけた時の能力だ。俺が攻撃した瞬間に、解いたようだが・・・」
その言葉であの戦いの記憶を思い返す。確かに強い怒りを覚えた時に、なぜか生まれた。いや、あれは元々備わっていた鎧類を装着したという感じだった。それは武器も同じだ。
「どうやら、まだ力の使い方を上手く出来ないようだな」
その判断は正しいだろう。現に今こうして危機的状況だというのに先ほどの力が全く発動しないことを玲綺はなんとなく理解していた。理屈ではないが。
「私はどうなるのでしょうか?」
玲綺は答えを求める。
「こちらが聞いているんだ。貴様はただ黙って機械のように話せばいい・・・」
憎悪を言える程の殺気が、二人目の老人から玲綺へと流れ込む。正に虫の息寸前という状況だろう玲綺の運命は。
「まぁまぁ・・・落ち着いて下さい。ヒューム」
しかし、もう一人の老人がそれを静止する。ヒュームと呼ばれた老人は、殺気を納めて無言になる。
「どうするかは貴方次第ですね。貴方はどうしたいですかな?」
「・・・私は」
どうしたいという返答に言葉を濁らせた。記憶がない人間に対して一番答えを導いてなお、次の発言で玲綺の処遇も決まるという表現でもある。
「自分が知りたいです」
答えは自分探しだった。
「なるほど・・・」
老人もそれ以上は、何も言わない。
「・・・とりあえず、しばらくはここにいてもらいます。少なくとも九鬼に対する侵入者ではないようですしね・・・」
そう言い残すと、二人は部屋から出ていった。
「・・・」
残された玲綺は考える。
自身の存在とあの武装や武器のこと。
―――自身の存在理由を。
ネタバレすると、もう完結イメージはできています。
後は、そこまでの自分が行けるかどうかですかね・・・。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第五話 『把握』
果たして、九鬼が出した答えは?
1000字きついです・・・。
数時間後、再び部屋に誰かが入って来た。
相手は玲綺と歳がほとんど変わらないくらいの女性で、服装も可愛いいのだが、その懐には武器を隠しているというのが一目でわかった。
ただし、玲綺自身はどうしてそれがわかったかは理解はしていない。
「初めまして、李静初と申します。本日からしばらく玲綺様のお世話をさせていただきます」
監視。それが一番に当てはまるだろう。それでも相手が女性であるのなら、それなりに落ち着くことができる。
「こちらこそ、よろしく・・・」
玲綺は少しだけ頭を下げて、挨拶をした。
―――時は進み、玲綺が九鬼に拘束されて三日間が過ぎた。
この三日間は玲綺は徹底的に調べられた。
血を抜かれたり、写真を撮られたり、謎の機械で質問攻めされたりと徹底的に。
理屈上は、自身の存在を知るためにも必要なことであるのは理解はしていたが、精神的に少し参っていた。
「お疲れのようですね。玲綺様」
李が疲れた彼女を癒すためのお茶を入れる。
「感謝いたします。李殿・・・」
それを玲綺はゆっくりと飲む。お茶は丁度良い温度加減であり、何より美味しかった。そして、あることに気付く。
「すまない・・・。どうもそれなりに親しみを覚えた人達には最後に殿を付けてしまう癖が、私はあるらしい」
玲綺は少しだけ頭を下げる。すると李は目を閉じたまま口を開いた。
「いえ、構いません。どうぞ、玲綺様が呼びやすようにお呼び下さい」
「ありがとう、感謝する李殿」
玲綺もこの三日間に色々と学んだ。口調、癖、自身の性格、振る舞いを知り、見知らぬ機械類や食べ物、この世界の規則や川神や九鬼ついて。
とにかく疑問を浮かんだことは李に聞いて、なんでも玲綺は頭にいれた。そうすることで、自分を知ることもできて、何よりも孤独感から逃げることができるからだ。理由としては今だに『一人でいる』いるというこの孤独感だろう。
玲綺はまだ、それを消すことができていない。
「李殿。それで貴方に教えてもらった死んだふりというのを、私なりにやってみたいのだが・・・見てくれるか?」
その願いに李は微笑んでこう言う。
「喜んで♪」
だからこそかもしれない、こんな監視人相手であっても傍にいてほしいという想いでの行動なのか。
―――数分後。
ステイシーという李と同じ九鬼の従者が部屋に入ってきた。
「よー、李! 玲綺様を揚羽様の元・・・に・・・?」
ステイシーは唖然した。
「・・・」
「・・・」
「何してるの? 二人とも・・・」
この日、ステイシーはしばらくは李の弱みを掴むことが出来たなぁ~と心から、喜ぶのであった。
サイトに呂玲綺の詳細情報が乗っており、そこでの台詞集などを参考にしています。
ここでふと、思ったのは・・・。
『あれ? ヤンデレ要素』できるのこの子?
です・・・。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第六話 『正体』
玲綺の知らぬ話。つまり、裏側の話だ。
九鬼は玲綺から採取したデータを元に彼女の身元を割り出した。その結果は人間にとっては、目を疑うような内容だった。
「呂玲綺・・・それが、彼女の正体でございます」
玲綺を最初に尋問した九鬼家従者で序列3位のクラウディオ・ネエロのメガネが光った。
「・・・呂玲綺? 呂がついているから、彼女は呂布の娘のクローンか何か?」
彼は興味深々に尋ねた。
彼の名は九鬼帝。クラウディオの上司であり九鬼家の総帥つまりトップの男である。
特にクローンに関しては、数十年前に手を出して、四名のクローン人間の誕生に成功したこともあって、複製人間に関しては興味があったのだ。
「いえ、クローンではなく・・・正真正銘の呂布の娘でございます」
「意味がわからんな。もう少しわかりやすく話してくれよ?」
―――クラウディオの話はこうだ。
彼女から採取した血液から、クローン人間を作成する時に集めていたある遺伝子が合致した。それが呂布奉先の遺伝子である。
最初、彼女は呂布のクローンか子孫かのどちらかと認識していた。クローンならクローン特有の遺伝子が混ざっているはずだし、子孫なら呂布の歴史についてより知ることができると期待をしていた。
しかし、詳細に調べていくとそのどちらにも当てはまらないことが判明する。クローン特有の遺伝子はなく、子孫についてもあまりにも呂布の遺伝子が多すぎたのだ。まるで子供だろと言わざるほどの遺伝子が多く存在していた。
当然ながらそんなことはありえないとなり、彼女は一種の突然変異でそうなった人間と考え始めた頃に、ある情報を手に入れた。
歴史では娘がいると書かれているだけで、名前も歴史も書かれていない呂布の娘。しかし、もしも仮にあの鬼神と言われる呂布の娘が、同じように武芸を学んで戦場を駆けていたらどうだろうという人々の『妄想』として生まれた人間。
それが『呂玲綺』だ。
「・・・つまり、彼女は空想から生まれた呂布の娘ということか?」
帝は今までの説明を聞いて、再度確認する。
「はい。彼女の名前は玲綺・・・少し付け加えると呂玲綺になります」
さらにとクラウディオはある映像を見せる。その映像は、玲綺が九鬼の従者と戦った時のもの。
「拘束した時に、逃れるために正当防衛として発動した能力の一部である彼女の武器が改造された方天画戟だも判明しました」
人々の妄想によって生み出された武器と人間。
しかし、それは紛い物ではなく今は自分たちと同じ人してここに生きている。
「ふーん・・・」
帝は一度考え込んで、こう言った。
「んじゃ、彼女も武士道プランに組み込んじゃえ。そうしたら今後も彼女の監視も研究も出来るだろう?」
武士道プラン。
九鬼帝が歴史上に名を残す人間達のクローン達がいることで、世界の刺激として変革を変えるために生み出された人間達。そして本心は川神の武道家達を倒す目的で生み出された者達。
「また、リスクも考えないで・・・帝様は」
クラウディオは、その意味がどういうことかを全く理解出来ていないのではと思い、ため息をつく。しかし、帝はそれを鼻で笑いつつ言葉を続けた。
「おもしれーじゃんよ? 理由はどうあれ本物を手入れたわけだし、それになんかあってもお前らがなんとかしてくれるだろう?」
傍から見たり、聞いたりすれば九鬼帝の考えや行動はきっと悪といってもいいだろう。もちろん本人自身もそれは自覚はしている。彼にとって悪や善などの基準などは人が定めたものである以上、気にする必要はないと考えていた。仮にそれで殺されるなら仕方がないことだと開き直っているのだ。
しかし、結果的には彼の行動は多くの人々を救い、救済していることも多いも事実である。もちろん逆も然りだが・・・。
そして、今回も彼は彼女に賭けた。
――『敵』か『味方』の運命を――
私は個人的に九鬼帝は大嫌いです。
理由は、九鬼紋白を苦しめているから。理屈ではなく性格ですね。
まぁ・・・それが原因で、九鬼の子供はあんな感じなんでしょうが・・・。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第七話 『九鬼帝』
彼女の正体は、人々の妄想によって生み出された呂布の娘だった。
しかし、九鬼帝はそれさえも構わずに九鬼に取り込もうと考える。
通された部屋に三人の男性がいた。
二人は知っている。ヒュームとクラウディオだ。しかし、中央の銀髪の男は知らない。
「よー来たな。初めましてだ。俺は九鬼帝、よろしくな」
九鬼帝。つまりこの男は九鬼家の総帥ということだ。
「初めまして・・・。玲綺です」
しかし、トップ自ら一体何の用だろうかと思う玲綺。李の話ではこの帝という男は、大変忙しくて、ここにはほどんど帰って来ないと聞く。それに、仮にも九鬼の侵入者だったいわば敵なのに一体何のようか?
「ふーん・・・」
ジロジロと見る帝。その目は何を見定めるような目だ。
「玲綺様。以前、お話されていましたご自分についてですが・・・判明いたしました」
そんな中、クラウディオは玲綺に自らの正体がわかったと口を開く。
「!?・・・わかったのですか!」
玲綺は喜んだ。これで、自身がどんな人間で、どんな所で住んで、どうしてここにいるのかが判明する。正直、玲綺はこのまま謎を謎のままで時を過ごすというのはとても辛かった。
「それで・・・私は一体――」
「まぁ・・・待ちなよ、お嬢さん」
ワクワクする玲綺を他所に帝が片手を上げた。
「その前に、アンタには色々と罪を償ってもらわないといけないのよ」
「罪・・・?」
一体、なんの罪だろうか?
「簡単に言えば、アンタが九鬼に襲撃した被害額と身分を判明するために使った費用やここの宿泊代の請求だな」
「・・・っ!」
確かに。何事にも金がかかる。それは玲綺も自覚していた。この世には金、力、知能、信頼。この四つの神器が必要だ。
「・・・いくらですか」
払えないのはわかっていた。しかし、ちゃんと聞かないと怖い。
「まぁ・・・十億かね」
「!!!!!」
玲綺は凍った。十億である。普通の人間が逆立ちしても稼げない金額ではないだろうか?
ぼったくりの可能性が高い。これは。
「なんなら、請求書を見せてやってもいいぜ?」
帝の不敵な笑みが玲綺をひるませる。まさか、この帝という男はここまで人を追い込むのが得意なのか。
いや・・・と玲綺は思う。『これくらい』の非道人間でなればここまで大きな財団になるはずがない。もしかするともっと、この男は非道なのかもしれない。
「・・・一体、何が望みですか?」
玲綺は観念する。もともと九鬼に捕まっている時点で、こちらの命はあちらのだ。だと、すればこれから先、何を言われようと逆らってはいけない。
「・・・ふーん」
帝は少しつまらんそうな顔をした。
「・・・なんですか?」
「いや、伝説の鬼神の血をひいているからどんな風に反応するかと思ったが、そんなものかぁ~ってな」
「伝説の鬼神の血?」
伝説とはなんだろうか、それに鬼神の血とは。
「貴方は、かつて三国志という時代において武神と名を駆け巡った呂布奉先の子孫です」
「!!!」
クラウディオから語られた自身の正体。その言葉に玲綺に衝撃が走った。
「・・・」
が、すぐになんとなく違うようなという気持ちが走った。
「子孫・・・ですか?」
「ええ」
「・・・」
こうやって調べたのだから本当なんだろう。きっと、このモヤモヤ感は記憶がないせいだろうと玲綺は納得する。
「で・・・だ。借金返済という名目の元で、アンタにはある四名の武人達を強くしてほしい」
帝はクラウディオに視線で、合図を送ると彼は玲綺に四枚の紙を渡した。
「・・・っ!?」
その内容に目を疑った。
「これ・・・本当ですか?」
審議を確信してしまう内容。嘘だろうと帝に尋ねると・・・。
「ん? 本当だぜ、そいつらはクローン人間だ」
吐き捨てるようにごく自然に言った。
「・・・っ!」
次に玲綺が気がついた時、自身は九鬼襲撃の時のように鎧と武器を召喚して帝の喉元に刃を向けていた。しかし、その刃はクラウディオの糸とヒュームが自身の首に爪をたてる形で停止していた。
「ふーん・・・やっぱ、英雄さんから見たら俺は非道かね?」
「非道? 貴様は人としてやってはいけないことをした・・・」
意識がおかしいと感じる玲綺。でも、気持ちと裏腹に言葉は続く。
「まさか・・・呂布のクローンもいるというのか?」
「いや・・・あれは失敗して死んだ」
一歩動く。
「おい、小娘。次に動けば首が飛ぶぞ?」
ヒュームの殺気の入った声が耳に玲綺に響く。そして、死ぬことに対してなんの怖くない玲綺は刃にさらに力がはいる。
「一体何が気に入らないのかな? 英雄の娘」
娘・・・そこは子孫ではないのか?
しかし、今はこの質問に答えるのが先だと玲綺は思う。
「人の命をなんだと思っている?」
「宝だな」
嘘だな・・・とならそんな複製に手をかける必要があったのか。
「時代が変わったといったら、納得できるかな英雄の娘」
「時代だ、と?」
「時代は常に進化しているのさ。昔のルールがあるから自らの首を絞めることにもなることだってある」
それは一理ある。
李との会話の中で、三国志やこの日本という戦国時代や世界大戦も時代と流れと共に戦い方は変わって、人は学んで勝利を手に入れている歴史がある。
「つまりは・・・クローンを手にかけないと勝利が手に入らないことがあると?」
「ああ。そうだ・・・」
この帝という男の思考は一体何を見ているのだろうか。きっと、玲綺の見る世界とはまた違ったのを見ているに違いない。そして、それについていくこの大勢の部下達。
「・・・貴方は曹操という男に似ている」
「曹操か・・・確か、自分の目的のために沢山の人材は引き抜いているらしいな。まぁ・・・従わない奴とか意思合わない奴は殺しているけど・・・」
自分もなぜかだが、曹操は嫌いだ。だから帝の考え方に抵抗したのかもしれない。
「ん、で? 俺は曹操みたいな人間だから従わないと?」
「・・・ここは三国志ではないし、貴様は曹操ではない。それに、借金を返すなら私をただの部下として言えばいいのに、強くして欲しいというのが気になった」
帝は微笑む。
「川神百代。世界で一番強い女であり、武神とも評されている」
武神という名に玲綺の眉が動く。当然、それは帝は見逃さない。
「その武神というが、あまりに強くてな。こっちはヒュームがいるだが何より歳だ。すぐに世代交代しちまう」
「貴方の子供とかいないのか? それに継がせば・・・」
「いや、そこまでいかなかったよ。だから、悔しくてクローンに頼っちまった」
つまりはその武神を倒すためだけに、クローンを生み出したということだ。なんとも勝手な理由だろうか。逆にクローンとして生まれた彼らはカゴの中の雛鳥か。
「でもな。クローンを作った理由は他にもあるのさ」
「?」
「変革だよ。世界の」
「・・・」
玲綺はこの男の目が輝いているのことに気づく。李から一応聞いてはいたが、彼はある本当に世界を変えようと考えているらしい。その支配を九鬼に。
「世界征服・・・か?」
「まぁ・・・言葉を変えたらな」
「・・・」
玲綺は刃を下ろした。すると帝も片手を上げ玲綺に対する刃を二人もやめる。
「・・・」
征服。なんとなく、それは懐かしさを覚える。呂布の子孫だからそのような血を求めるのだろうか。
「わかった。その四人の指導の件引き受けよう」
「ん? 俺が嫌いだから断ると思っていたんだが?」
玲綺は微笑みながら首を横にする。
「申し訳なかった帝殿。元々、断われるはずもないのに失礼なことをした」
「・・・」
帝は玲綺の微笑みに何かを気づく。
「いや、いいさ。・・・なら、今後は四人の先生として指導してくれ。それで、チャラにするからよ」
「了解した。その任務を心から引き受けよう」
空気の糸が和やかになる。そして、その後は事務的に契約や内容を聞いてサインしてもう一度玲綺は帝に頭を下げて、その場を出ていった。
「・・・」
帝はしばらく沈黙してから呟く。
「呂布にはもう一つの通り名がある・・・」
『裏切りの呂布奉先』
・・・玲綺の心はいかに?
どうなんでしょうね、この流れとか動機とか・・・?
とりあえず、これにて第一部『玲綺の誕生』は終了。
次回から、第二部『学園生活』です。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第八話 『見えざる闇』
果たして、川神百代よりも強くなることができるであろうか?
受け取った紙を読み終わると、老婆はその紙を燃やした。
「了解したよ。帝様に、ご助力感謝すると申し上げておいてくれ」
九鬼の従者は頷き、その場を去った。後に残された老婆は玲綺を見る。
「さて・・・初めまして。私は九鬼家従者の序列2位マープルだよ。今後はアタシの要望通りにあの四人を強くしておくれ」
このマープルという老婆からは、多少の覇気は感じるがクラウディオやヒュームほどではない。おそらく知力面で長けているのだろう。
「待って下さい」
玲綺はマープルの口を閉じさせた。
「なんだい? まさか今さら契約を破棄するって気かい?」
「いえ、お約束通り。『私なり』の流儀でその四人を強くしようと思っています・・・ただ・・・」
玲綺は一度目を閉じると、鎧類が現れて装着する。
「まずは、その四人の強さをみせてください。弱い者には興味ありません」
「・・・ほう」
マープルはニヤリと微笑んだ。
裏の話である。
数時間後、マープルは自室に戻ると備え付けてある呼びベルを鳴らした。
「はい、お呼びですかマープル」
現れたのは九鬼家の従者部隊序列42位桐山。彼はマープルにとって良い便利屋である。もちろん従者だからという理由だが、他にもあるだが・・・それはこの世界には関係ないので省こう。
マープルは椅子に座ると、ため息をついた。
「呂玲綺だったけ? あの子・・・危険すぎるね」
「危険とは? 報告では、記憶以外の欠落において武力や指導など申し分はないと聞いていますが?」
「あの子のは死を望んでいるのさ」
「死ですか」
別に珍しくはない話だが、なぜそんな自暴行為を?
「さてね。さっき義経達と戦いたいと言ってワザとボコボコにされていたよ」
「おやおや・・・それは物騒ですね」
九鬼は殺人集団ではない。そして、それは民を宝と唱える彼の思想でもない。だから、絶対に玲綺が殺されることはない。
「でも、帝様はこう言うだよ”彼女の思う通りにしてみろ”と、なぜなら英雄の娘なんだからと」
「・・・ふむ。つまりは義経達の実権を彼女に渡せと?」
マープルは再びため息をついた。
そもそもこのクローン計画は自身が始めたことだ。帝はそれを容認してくれただけだ。だから、彼女の矛先をこちらに向けさせればいいのに、なぜか帝は自分へと向けさせた。わざわざ彼女の怒りを買うような発言をして、一種の嘘をついてまで。
「私には帝様のお考えが、全然わからないよ・・・」
それが九鬼帝。
相手の考えなんぞ知らず、奔放に突っ走る自由人だ。
「・・・ま、とにかく今は様子見だ。彼女のお手並み拝見といこうじゃないか」
話は玲綺に戻る。
彼女の鍛錬は・・・地獄だ。
その一、義経の足を折る。
その二、弁慶の腕を折る
その三、与一を気を失わせる。
彼女の鍛錬は、鍛錬というのだろうか?
「・・・手加減は一切しない。貴様達も本気を見せてみろ!」
刃が与一の首に当たる。そして、この殺気は殺意だ。
「与一!・・・このっ!」
義経は自分の愛刀を再び握り、彼女へと飛び出す。すでに片足を折られている状態では、勝負などはない。
「はあっ!」
「あっ!?」
ガキンと義経の刀が宙を舞う。
そして、剣が地面に突き刺さった瞬間、義経は倒れた。
「義経っ!」
弁慶の目つきが変わる。怒りと憎しみの表情だ。
「・・・そう、その殺意を。それを私を殺すつもりで!」
「はぁぁぁ―――!!」
弁慶の咆哮が風をも切り裂き、玲綺に走った。
だが。
「遅い!」
ぐちゃと何か生ものを落としたような音がした。
彼女は弁慶を殺した。その後、義経を殺した。
与一も。
「はっ!?」
目が覚めた。気がつけば全身が包帯まみれ。
「よかった、ようやく気がついた。義経はすごく嬉しいぞ」
そこにいたのは義経、弁慶、与一が心配そうな顔で玲綺を見ていた。
「私は・・・?」
どうやら玲綺は夢を見ていたらしい。その証拠に三人は全くの無傷だった。
三人から話をきく。
玲綺はマープルに頼んで、四人と戦うことを望んだけど清楚は遠慮して三人と戦ってボロボロに負けて、気を失ってしまったので寝室で寝ていたという流れ。包帯は義経達がしてくれたようだ。
「全く、これじゃ・・・どっちが先生かわかんないね」
弁慶は呆れた顔で、玲綺を見た。
「・・・すまない。どうやら情けないところを見せてしまったようだ」
玲綺は頭を下げた。
「そ、そんな・・・私達がいけなかったんだ。あんな状態になってまでも・・・戦って」
「いや・・・しかし」
「おい」
その時、今まで黙っていた与一が二人の間を割って話かけてきた。
「あんた、本当に玲綺か?」
何を言っているだろうか?
「・・・?」
「いや、さっきまでと全然雰囲気が違うから」
雰囲気?
「雰囲気って、どういうこと?」
与一は頭をかきながら話す。
「さっきまでのあんたは、まるで別人格だったんだ」
別人格。
それはおかしいと玲綺思った。別人格なら、きっと義経達とはここでの初対面のような感覚のはずだ。だけど、初対面は戦う前であり・・・その時の記憶も。
「・・・っ!」
あるがない。
どうやって戦ったのか全然覚えていないことに気づいた。どうしてだろうか。
「それに・・・なんかさっきまでのアンタは、なんかこう本能的に・・・」
与一の口が閉じた。
「え?」
しかし、改めて与一はこう言った。
「なんか、殺意が出てくるんだよ。こう・・本当に・・・その」
―――この意味は一体?
そして、玲綺の記憶に一部ない理由は?
さてさて、いよいよ学園編突入です。
・・・え? 全然学園編じゃないって。
ソウデスネ。
一応、自分なりの解釈で呂玲綺をある一定から可愛くする設定ですが、モデル性格は西楚みたいな感じになるみたいだと思ってください。ちょくちょく原作のセリフは入れますが・・・。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第九話 『影の人』
果たして、その意味は・・・?
計画に支障するものは排除する。
それは人間だれしも考えることであり、会社も九鬼も同じであった。九鬼の武士道プランも同じく、計画を実行するために悪意の根は徹底的に潰された。街中で不良をしてる人間達も例外はない。
そんな九鬼の粛清になる中で、一人の不良は九鬼の排除対象から逃れて誰もいない工場で煙草を吸いながら、今後のことを考えていた。
「あーだりぃ・・・。九鬼の奴らが暴れるからこっちの居場所がねーよ」
彼は川神学園の生徒でもあるが、何の偏屈のない日常に退屈していた。ただし、それは彼の思考と行動がそうさせただけであって、実際に他人から見ればただの自業自得の行動だと言わざる日々を送っていた。
しかし、誰もそれを指摘も注意する人もなく、今日まで過ごしていたのだが、それも限界のようだ。これ以上、川神で不良をしていれば九鬼に排除されるのは時間の問題だ。
「帰ろうかな・・・家に・・・」
久しく家に帰っていない。久しぶりに親の顔でも見て今後のことを考えるかなどと考えていた矢先。
ぴとりと一枚の紙が彼のおでこに張り付いた。
「?」
風で飛ばされて、ついたか・・・と男はその紙を剥がそうと手を触れる。
「・・・あれ?」
しかし、紙は剥がせない。まるで密接したセロテープを剥がす際に、苦戦しているように。
何度剥がそうとも全く剥がせない。
「あれ? あれ!? あれ!??」
ガリガリとおでこの部分から血が流れだし、顔が血まみれになっていく。
でも、それでも剥がれない。
「なんで? なんで!?!?」
そして、男の思考は真っ白いとなりそのまま倒れてしまった。
しばらくすると男はゆっくりと起き上がる。周囲を見渡して自身の両手を見た。
「・・・ほぉ。これは」
男は微笑む。
「おーい!」
そこへ彼の友人が声が、自身を呼ぶでいることに気づく。男は無言のまま彼は、男の前に近づいた。
「何してるんだよ? ここに、いたら九鬼の奴らに見つかってしまうぞ!」
「・・・」
男は無言だ。何も言おうとしない。
「お、おい?」
さすがに無言の返答はおかしいと彼は男の名を呼ぶ。
すると。
「・・・私は、そんな名前じゃないですよ?」
男は彼に先ほどと同じように紙を貼っつけた。
「!?・・・・ぎゃあああああ――――!!!!」
彼は抵抗するまもなく奇声を上げて倒れる。
「ふふふ・・・なるほど・・・」
それを男は何か気きつつ、彼を引きずりながら闇へと消えていった。
―――その数日後、二人は川神市郊外で発見される。
発見された彼らはこう言った。
『もうすぐ、川神は消えてなくなる』
と・・・。
A-3終了。
李さんメインでしたね~。そして、これで九鬼内部関連は終了かな?
残りはあと2作品です。
MさんはA-5の義経ルートだろうなぁ~。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第十話 『共犯者』
世界には強いやつらが沢山いるというが、彼らは川神市の前では弱者だ。
圧倒的な力を持った川神百代。最強世代と言われている川神学年の生達。そして、その学園に組み込まれれるクローン武士。
学園を出れば九鬼の従者、川神院を含めての手強い猛者。
おそらくこれほど、おそろしくて頼もしい都市は世界を見渡してもそういないだろう。
玲綺は考える。それらを統一させるほどの川神百代とはどんな人間なのか。
そう考えた玲綺は、川神百代の強さを視察して驚愕した。その圧倒的な強さは常識をはるかに超えた存在者であったからだ。
人々の認識は彼女を自然現象の一つと考え、一種の恐怖のトラウマを植え付けるレベル。
その姿にあるイメージを浮ぶ。
三国志の呂布奉先。武においての最強と言われた英雄であり、自身の祖先。もちろんそれは三国志時代においての最強伝説に過ぎないし、呂布は曹操に負けて殺されている。だから最強なのかといえばそうでもないかもしれない。
そして、それは川神百代も同じこと。いや、人としての個体で生きているなら必ず人には弱点がある。
つまりは、思考を巡れば川神百代を倒す方法は必ずあるということだ。
玲綺の結論がそう導いたとき、九鬼側からある話を持ちかけられた。クローン達を川神学園へと入学する話だ。
玲綺はその話に乗って、川神学園へ3年F組として入学した。自分には記憶がないため、苗字は不明のため入学の際には九鬼と相談して呂玲綺という名前になった。
最初の頃は色々とみんなに聞かれたりしたが、幸いすぐに視線はクローン達に目が向いたり、同じように転校してきた松永燕に目が向いて自身の存在は目立つことはそれほどなかった。
そんなある日、転校して来て数日後の放課後にて松永燕が玲綺と二人で話したいことがあると誘われる。玲綺はそれを同意して屋上へ。
「・・・お話とはなんでしょうか? 松永殿」
「うん。実は玲ちゃんにききたいことがあるの」
この玲ちゃんとは、燕が友達という証としての呼び名である。ちなみに玲綺はいつものように殿を最後に残している。これが影響してかなんとなく矢場さんと仲良くなったのだが、それは別の話。
「玲ちゃんって、もしかしてモモちゃんを倒すこと真剣に考えているの?」
別に珍しくもない質問である。武道家なら誰しも一度は戦ってみたいと思う考えることだ。
「ああ。私もそれなりに武道の心があるからな。百代殿と戦ってみたいというのはある」
「でも、モモちゃんに勝てる算段とかあるの?」
燕は何が言いたいのだろうか。とりあえず、玲綺はあえて本当のことをいう事にした。彼に川神百代にバレてもまだ、準備中ですと言えばいいだけの話。
「ある。後はその計画を実行するだけの話だけだ」
「ほうほう。それってどんな計画なの?」
燕も武道家であり、川神百代と同等の力を持っているからだろう。少しでも真剣に勝負した時に、勝つ確率を上げるためと玲綺は思った。
「・・・」
燕の目もその思考に対して、読まれてもお構いなしらしい。
「調べたら簡単だった。川神百代の弱点を一番知る人達。2年F組の直江大和・・・」
「ん? それって・・・」
「本当に敵を倒すためには内部から情報が必要。そしてそれを一番よく知っているのは直江という生徒で、彼が一番に川神百代を知っていると思った」
確証は川神百代は直江大和に対して一番誰よりも心を許していること。そして、彼は自身を知略家として存在をアピールしていること。この二つを重ねた時に『そんな知略をアピールしている人間が川神百代の弱点を知らないわけがない』のだ。
「でも、大和くんってなかなか弱点を教えてくれないさそうだよ?」
ここで燕が『大和くん』といったことを玲綺は見逃さない。この話から察するに彼女も自身と同じ考えを持っているが、上手くいっていないという事実が得られたからだ。
「・・・心の底から倒したいって思っていないからじゃないの?」
「む・・・」
数日間だが、燕のことを少しだけ観察した玲綺は思う――甘いと。
おそらく恋愛感情でもその直江に抱いていることもあるのだろう。本でもよくある話だ。
「それに、私自身が倒す必要はないのよ。私の目的は『川神殿』を完全に敗北させることが目的。そう考えたら、手なんていくらでもある」
「・・・まぁ。そうだね」
彼女自身も『倒す』だけの算段ならどうやらある口ぶりだ。しかし、彼女の場合は『松永』という名で挑むために、その悪手が使えないらしい。
「でも、収穫は出来たよ。色々と」
「そうね」
本当に何気ない出会いで、何気ない会話から暗躍話。二人の心に『川神百代』を倒すという共感が得られていた。それは何気ない『同士』の証。
――きっかけなどいつ起こるかわからない。どこで友達が生まれるかも。
しかし、こうして玲綺に学園で二人目の信頼者が出来たともいえるのだった。
九鬼従者の大和ってかっこいいと私は思います。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
無双大戦編
第十一話『日常①』
玲綺の川神学園での日課は毎日図書室に行くことだった。
そこで、玲綺は三国志の呂布について歴史を調べている。キッカケとしては、自分が呂布の血を継いでいるからという理由だから。
記憶のない彼女にとって、祖先の情報だけでも知ることはとても嬉しい限り。ただ、強いて言えば呂布の歴史は他の英雄達に比べればあまり良き歴史ではなかった。
『裏切りの呂布』
力あるものに従い殺し、そして君主へ。
有名的な英雄ならば通り名は永遠と続く。恐らく自分に名を与えた者たちも玲綺をどこかしら裏切り性格だと思っているはず。
だが、裏切り行為など三国志時代どころかこの現代までも普通にしていること。そこまで問題視する必要はないが、過去の祖先が犯した罪が孫の代でも続くのはよくある話であり、それが世の中だ。
だからこの汚名を晴らすためにはその通り名を消すほどの偉業を成し遂げなければいけない。
そしてそのチャンスが川神百代の打倒。それが呂布の血を受け継ぐ玲綺は川神百代を打倒するべき理由・・・そう思っていた。
しかし、実際はそう上手くはいかない。
自分も駄目、義経達も駄目、直江も駄目となかなか思うように事が運ぶことができなかった。
「・・・」
玲綺は読んでいた本を閉じた。
「今日もここにいたんだ玲綺ちゃん?」
声を主は松永燕。先週の出会いからよく一緒にいるようになった。どうしてそうなったといえばお互いに川神百代打倒の情報交換目的なのだが、最近ではそんな話などなくて、たわいのない雑談話が多く、お互いもそれに気づいているが気にすることはなくったっていた。
「燕殿か。今日は一体どんな情報を教えてくれるのだ?」
「じゃーん!新作の松永納豆のお知らせだよ♪」
「・・・それが彼女を倒す秘策?」
「うん。モモちゃんに松永納豆を大好きにしてもうそれしか生きていけないほどの体質にしちゃうんだよ?」
「・・・中毒か?」
もちろんそんなことはありえないし、まったくの無駄話だ。
しかし、いつしかこういうたわいのない話はとても楽しいと思える自分がいた。
「面白いなそれは・・・」
だから彼女はつい乗ってしまうこともある。
「・・・」
燕は微笑んだ。
「・・・? どうした燕殿」
「いや、ようやく玲綺ちゃん笑ったなーって思ったの」
「・・・そうなのか?」
「うん♪ 鏡見てごらんよ。いい笑顔だよ?」
玲綺が懐から手鏡を取り出す。
「・・・」
笑顔の自分がいた。
「・・・」
―――と同時に血まみれの自分が微笑んでいた。
まるで過去の自分を写すように。
まじこいPしてます。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第十二話『影①』
足りない。
全くもって足りない。
これだけの人間を集め、これだけの素材を集めたというに全くもって足りない。それだけ大きい物事を成すには準備が大切だということ。
『影』は一度ため息を吐く。
それは可能ならしたくなった手。一度使えばもうバレてしまい今後に影響してしまう。
しかし、予想よりもこれだけ足りないのならば仕方がない。
「・・・だから、まずは貴方方で試させてもらう」
影は懐から数枚の札を取り出した。
相手は目の前の二人の男女。この二人はつい先日川神に息子を見に来た夫婦らしい。
――貴方は中身を――
――貴方は肉体を――
――そして、私は支配を――
周囲が光輝き、一瞬だけ視野が暗くなった。
舞台は変わる。
彼は呼び出された。別にそこに疑問も不信もなかった。
「父さん」
呼び出したのは彼の父親。しかも彼は父親を尊敬していた。だからこそかもしれない。
「大和」
父親は一度だけ微笑み、彼に近づく。
「・・・?」
一瞬だけ、彼は違和感を感じた。でもそれでは遅すぎた。
一枚の札が彼に貼り付けられた。
「・・・!?」
気づいた時には、もう遅い。
激しい頭痛共に彼の自我が消えていくのを―――。
舞台と時間が変わる。
一人の少女が呼び出された。
「・・・!」
彼女はすぐに異変に気づく。目の前の相手が知り合いでも。
「京。俺と仲間を天秤にかけるならどっちを取る?」
彼は『男』としての風格を備わり、以前のように弱々しい覇気ではなく、完全に性格が変貌していた。
「・・・本当に大和?」
彼女は突然の変貌に偽物なのかと疑うが、彼を愛するゆえなのか肉体面では本物だとすぐに見破った。
しかし、あくまでもそれは肉体面であり精神面は全くの偽物の可能性が高い。そもそも仲間と自分を天秤にかける考え方など以前の彼には全く考えなかった思考だ。
「本物だよ?・・・でも、確かに以前の俺だと考えられない質問だもんな」
彼は懐からナイフを取り出して、首元に寄せる。
「大和!?」
彼は微笑えんだ。
「でも、俺は本気だぜ京。お前が今の俺を受け入れてくれないなら俺はこのまま首を斬って自害するよ」
「・・・!??」
彼女の思考が止まった。いや、それなりの知を持つものなら彼の行動に対して冷静に対処して思考も保つことはできた。
だが、彼女は違う。彼を愛しすぎたために彼を想いすぎたためにこの一瞬の想定外行動に対して思考が止まってしまった。
それが彼女の『油断』だ。
気づいた時には、もう遅い。
彼女も激しい頭痛共に自我が消えていくことを―――。
表と裏。
戦いは始まっている―――。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第十三話『日常②』
強さには色々な種類がある。
では、自身が目的とする強さはなんだろうか?
自身の一人の力では決して川神百代を倒すことは出来ない。それはすでに立証済みだし、ただ勝利を求めるならばいくらでも勝敗方法はある。
その一つは残酷な話だが、一度勝った時に『殺す』ことだ。殺す=消滅の意味であり再戦も再来もない安全な策。
でも、それは良い策ではない。危険だから殺すでは百代以外の他の人間、例えばクローンやそれらを生み出した九鬼家も危険分子だし、自身も人を恐怖に脅かすほどの『力』は所持している。
要するに世の中は『支配者』という名の安全な鎖を手に入れたいということだ。
それに川神百代も『武道』においては『最強』と称号されているが世の中の鎖の前では『弱者』に過ぎないし、恐らくは本当の『最強』は川神百代ではない。
・・・そう考えると、自身の目的とは一体なんだろうか?
「恩返し・・・?」
ふと、過去を振り返ると記憶がない自分を保護してくれた九鬼への恩を返すことが第一では思い描く。九鬼に川神百代を倒せたのは九鬼のおかげと大アピールすることで九鬼への恩も信頼も後の自分にもためにもなる。
「・・・・」
――彼女の思考は徐々に結びつつあった。
川神学園屋上。
「意外だな。レイちゃんが私に話があるなんて・・・」
呂玲綺は屋上に川神百代を呼び出した。玲綺は彼女に聞きたいことがあった。ちなみに玲綺は百代にはレイちゃんと呼ばれている。
「川神百代。貴様に訪ねたいことがある」
「なんだ、私のスリーサイズか?」
百代は少し緩んだ顔で対応をしているが、その裏では明らかに戦う覇気のオーラが溢れているのがわかり、それは玲綺も同じく、気の武装はしていなくても覇気のオーラは放っていた。
お互いは裏ではすでに闘っている。
二人が出会った時から、始まっており今まで平常で会話したこともない。もとより玲綺自身が川神百代と仲良くするつもりが全くなかったためでもある。当の本人はそれを知っていて、なお自身に多少なりとも接しようとしていたのである意味で尊敬にするが目の前に倒すべき相手がいるとなるとどうしても仲良くすることは玲綺には出来なかった。
「違う。お前に決闘を申し込む」
「・・・ほぉ」
瞬間、川神百夜の覇気が一気に上昇する。
「するのか、しないのかどっちだ? 川神百代」
「・・・当然――」
百夜の覇気がさらに上がり、彼女の口が開こうとした瞬間。
「駄目だ」
ヒュームがお互いの間に入り込んだ。
「!!」
気がつけばヒューム、鉄心、ルー、クラウディオの四名が屋上に集結していた。恐らく百代の覇気が一気に上昇したことに気づき、駆けつけたのだろう。
「ヒューム殿、どうして邪魔をする? 私は百代を倒すために九鬼と契約したはずだが?」
ヒュームはネクタイを結び直しつつ口を開く。
「そうだな。貴様が百代と決闘すること自体は問題はない。」
「だったら・・・」
「ただし・・・この川神学園のルールとして決闘するならば『今』は駄目だ」
「・・・!」
玲綺はヒュームのその言葉を聞き逃さなかった。
「・・・今だと? なら、いつだったいいですかね?」
一方の百夜も聞き逃さなかったらしいが、彼女自身は今ここで勝負する気満々だったために、少し感情に暴虐の覇気が混じっている。
「そう怒るなモモ。さっき九鬼と話し合ってある決闘が決定したので、それまでは武による決闘は休みにしたんじゃ」
鉄心が荒くる百夜に落ち着かせるように優しく声かけしているつつも、その裏では先ほどの二人のようにオーラを纏っている。いや、それは他の四人も同じだ。
どうやらこのまま百代が承諾しなければ説得バトルが展開されようとしているらしい。
「・・・」
一方の玲綺は、何の意義はなく黙って話をきく。
「・・・それで、九鬼とどんな決闘にするって決めたんですか?」
百夜は呆れ顔をしながら早くも決闘内容の詳細を訪ねた。というよりも、ここで駄々をこねて四人とバトルして今後の闘いに影響を受けるのは無意味だと判断したからだと解釈をしてもいいだろう。
「内容は・・・」
鉄心から言われた決闘。
その内容に驚愕する二人だったが、すぐに承諾されて闘いが始まった。
・・・だが。
――この闘いの火蓋により、武の無双乱舞時代へと発展してしまうことを二人は元より川神市全域はまだ知る由もなかった。
武の無双乱舞時代へ・・・。
目次 感想へのリンク しおりを挟む